2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:11:50.96 ID:6h6rrz7io


"かきね相談事務所"
縦長の看板にはそう書かれていた。


俺は雪が降っているくそ寒い日だったというのに、外に出て、その看板を満足そうに見上げていた。
看板は建物の二階に取り付けられており、前にある歩道側に突き出る形になってくっついている。


スクール解体したしな。
何かやろうとは思っていたけど、やっぱ俺の実力と経験だとここら辺が妥当だろ。


第七学区にあるこの場所に俺は事務所を構えた。
事務所が入っている建物は四階建てで、茶色の壁をしていた。
今日からここが俺の新しい仕事場になる。
吐き出される息が興奮しているせいか、さらに白くなった。

引用元: 垣根「かきね相談事務所へようこそ!」 



新約 とある魔術の禁書目録(20) (電撃文庫)
鎌池 和馬
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3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:12:26.90 ID:6h6rrz7io
『序章 事務所』




「グ~」という腹の音が鳴った。


すでに新しい仕事場になってから、一週間が過ぎていた。
まだ仕事が来ない。
事務所を構えたのはいいが、客が来ない。
俺は少し考えた。


おかしいだろ。
看板には"かきね"って書かれてるんだぜ。
あの、学園都市第二位の垣根帝督様の名前が刻まれてるんだぜ。ペンキだけど。
普通来るだろ。「待ってました!」と言わんばかりに来るだろ。

なぜなんだ?
なぜ、来ないんだ。
わからない。この状況の意味がわからない。

いや、まさか!

もうこの学園都市に悩みなんて存在しないのか!?
"科学の力で全部解決!" とかそういうノリなのか!?

しまった。自分の能力のことばかり考えていたせいか世間のニーズを考えていなかった。


ど……
どうすんだよ! 俺ぇぇ!!
事務所立てるのに借金までしたのに!
え! 何これ!?
この話終わり!? バッドエンドまっしぐらか!


4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:13:07.27 ID:6h6rrz7io
俺が頭を抱えて悩んでいると、「チリンチリン」という音が事務所に響く。
これは入口にセットしておいたドアベルの音だ。
客が来た時に、すぐわかるようにつけておいたのだが、
これが鳴ったということは、誰かがこの事務所のドアを開けたということだ。


客か!
俺は座っていた椅子から離れ、すぐ入り口に向かう。
ドアはゆっくりと動いている。
俺は開きかけている扉に向かってこう言った。


垣根「いらっしゃいませ! かきね相談事務所へようこそ!」

俺は女が見たら、一発で落とせる程の営業スマイル&爽やかな声を発していた。


完璧だ。完璧すぎる。
なぜなら、この一週間やることがなかったから、こればっかり練習していたのだ。
だが、もうそんなことはどうでもいい。
この爽やかスマイルがもとになり、この事務所が繁盛することは間違いない。
そう、この一週間は決して無駄ではなかったんだ。


しかし、そんな俺の努力も空しく、そこにいたのは客ではなく、俺のよく知っている女だった。

心理定規「ぷぷ……」

その女はドレスを着ていた。
寒いからだろう、ドレスの上にはコートを羽織っており、後ろで結んでいる金髪を揺らしながら笑っていた。

俺はただそいつの顔を見ていた。
初めての客だと思って、この一週間磨き上げてきた最高の営業スマイルをしたところに、よりにもよってこいつが出てくるとは。
何だこれは? 冗談のつもりか?


5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:13:58.10 ID:6h6rrz7io

心理定規「ぷぷぷ、あははは……」

そんな俺のことはお構い無しに心理定規は笑い続けていた。
俺はがっかり感と明らかに冷やかしに来たこいつのせいで気分が悪くなる。


垣根「……何しに来た?」

心理定規「あはは……え?」

垣根「何しにここへ来た?」

心理定規「冷やかしにかしら」


心理定規はそういうと舌をぺろっと出した。
予想通りの回答とそのしぐさに俺の怒りのボルテージはマックスになっていた。

ただ、勘違いしないで欲しいことがある。
普段の俺はジェントルメン垣根と呼ばれているくらい人には優しく、どんな状況にも冷静さを失わない男だ。
だが、今日はあれなんだ、腹が減っていていらいらしてるんだ。
だから、今から言う言動も紳士といえどしょうがないことだと俺は思う。


垣根「帰れ」

俺は一切の無駄なく、端的に自分の要求を言った。
正直、体力がないせいか、相手にするのがしんどくなっていた。

しかし、心理定規は俺の言葉に顔色一つ変えずに、手に持っていたコンビニの袋を俺の前に出した。
ガサっと袋の揺れる音がした。


心理定規「冗談よ。はい、これ」

垣根「何だこれは?」

心理定規「開業祝いに食べ物やら飲み物やら持って来たんだけど」

垣根「……」

心理定規「いらなかったかしら?」

垣根「……座れよ」


ふっ。
やはり、俺はなんだかんだ言ってもジェントルメンだった。
わざわざ来てくれたレディをそのまま追い帰すことはできなかったようだ。
全く、この性格が憎いぜ。

6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 19:15:54.73 ID:6h6rrz7io
すいません。
ちょっと一時間くらい止めます。


10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:27:03.33 ID:6h6rrz7io
俺と心理定規は客と相談するために用意していたソファーに座っている。
テーブルが真ん中にあり、向き合うように座っていた。
心理定規は俺が用意してやった紅茶を飲んでいた。
その間、俺は心理定規の持って来た弁当を食べていた。
弁当の中身が次々と俺の口の中に運ばれていく。

心理定規「思ってたより綺麗な事務所ね」

やはり、一週間というのは厳しかったな。こんなに飯をうまく感じたのは久しぶりだ。

心理定規「第七学区だと立地条件も悪くないでしょ? お金はどうしたの?」

コンビニ弁当といえど、侮れないな。

心理定規「借金?」

いかん。喉に詰まった。お茶を飲もう。

心理定規「……」

このおにぎりもうまそうだな。宮崎産の鳥五目か。

心理定規「没収するわよ」

垣根「聞いてるっつーの」

心理定規は手を止めずひたすら食べ続けている俺を呆れた顔で見ている。
飯をもらったし、話の相手くらいしてやるか。
俺は自分の優しさに涙が出そうになった。

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:27:55.35 ID:6h6rrz7io

垣根「金は借金だ」

心理定規「暗部の時に稼いだお金は?」

垣根「前言っただろ? なくなってた」

心理定規「そうなの。じゃあ、体が元に戻った時は、本当に一円もなかったのね」

垣根「ああ、口座の中はすっからかんどころか、口座すら解約されてた」

心理定規「ふ~ん」

垣根「……」

心理定規「でも、よかったね」

垣根「よくねーよ! どこがいいんだよ!」

心理定規「いや、そういう意味じゃなくて。体が元に戻って」

垣根「そっちのことか。まあ、な」

心理定規「もう冷蔵庫はつけなくていいでしょ?」

垣根「……」

垣根「それは言うんじゃねぇ」

心理定規「はいはい」

心理定規は笑いながら言った。

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:28:44.31 ID:6h6rrz7io
垣根「いや~、食った食った~」

ほぼ休憩なし状態で食べ続けていたので、俺はようやく一息ついた。
腹が満たされたせいか、これ以上にない満足感があった。


心理定規「何か私に言うことあるんじゃない?」

心理定規が微笑みながら言う。
何か言うこと?
ああ、そうか。言い忘れてた。

垣根「俺はファミリーマートよりもセブンイレブンの弁当の方が好きだ」

それを聞いた心理定規が一瞬にして、顔をひきつらせた。

ん? なんだこいつは?
あ、まてよ。こいつはファミリーマート派だったのか。
そうなると、ちょっとわりぃことをしたな。
数あるコンビニから俺の為においしいと思う場所を選んだのに。


心理定規「人がせっかく……お礼もないなんて……」

心理定規は頭を抱えている。
小声で言っているので、いまいち聞き取りにくい。

13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:29:41.12 ID:6h6rrz7io
心理定規「まあ、いいわ。もう持って来ないし」

心理定規がとんでもないことを言い出した。
まさか、ここまでファミマ信者だったとは。

垣根「冗談だ、冗談。コンビニっていったら、ファミマだよな!」

心理定規「そうじゃないし」

垣根「は?」

違うの?

心理定規「それより、あなた。かなりがっついてたけど、どんだけ飢えてたのよ?」

垣根「一週間くらい水だけの生活だった」

心理定規「はぁ?」

垣根「危うく餓死するところだったな」

心理定規「……」

垣根「未元物質(ダークマター)でも食おうかと思ってたところだ」

心理定規はさっきとは比べ物にならない程の顔をひきつらせていた。
なぜか、ドレスが少し肩からずり落ちていた。
はて、俺は何か変なことを言ったのだろうか?


垣根「何か?」

心理定規「何でもない」

垣根「けど、おかしいんだよな。誰も来ないんだ。看板まで出してるのによ。
   普通なら来るだろ。第二位の事務所だぜ」

心理定規「他は?」

垣根「あ?」

心理定規「他はどんな宣伝してるの?」

垣根「いや、特には」

心理定規「……」

垣根「だって、ほら。第二位だぜ……」

心理定規「来るはずないじゃない」

垣根「何?」

それは一体どういう意味だ。
俺は心理定規の顔を見る。
心理定規はやれやれといった表情で俺を見ていた。

14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:30:09.37 ID:6h6rrz7io

心理定規「もっとわかりやすい宣伝しないと駄目に決まってるじゃない」

垣根「わかりやすく?」

心理定規「そうよ」

垣根「まじでか?」

心理定規「まじよ。あなた大丈夫」

垣根「そうか。おかしいと思ったら、宣伝の仕方が駄目だったのか」

心理定規「……」

垣根「そうだよな。でなきゃあ、俺の事務所が繁盛しないわけがない」

心理定規「……」

垣根「じゃあ、さっそくHPから作って……」

心理定規「HPすら作っていなかったとは……」

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:30:55.53 ID:6h6rrz7io

それから、一時間くらい心理定規と話していた。
内容はそう大したものでもなく、単なる世間話だ。

心理定規「そろそろ行くわ」

そう言って、心理定規は入り口に向かうと、ハンガーにかけてあったコートを羽織った。
時計はもうすぐ十四時に変わりそうだった。


心理定規「あなたの事務所のことは暗部の間にも、情報として流しておいてあげるわ」

垣根「まじでか!」

心理定規「感謝しなさい」

垣根「ああ」

心理定規「何か言うことは?」

心理定規は子供をからかうような笑みを浮かべた。
言うこと?
ああ、そうだな。
大切なことを言い忘れてたぜ。


垣根「できれば、仕事をもらえると嬉しいんだが」

俺の言葉に心理定規は何も言わなかった。
本当に何も言わなかった。

ん? 違ったか?
少し期待していってみたが、こいつも仕事がないんだろうか?
暗部は不景気とは無縁だと思っていたが、そうでもないのか?
俺はこの気まずい雰囲気を何とかするため、話題を変えることにした。
こういう重たい空気を読んで瞬時に方向転換する技術は、さすが俺だと思う。

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:31:44.60 ID:6h6rrz7io

垣根「そういえばよ」

心理定規「何?」

垣根「俺の事務所ってわかりにくいんだよな?」

心理定規「ええ、そうよ」

垣根「お前は何でわかったんだ?」

心理定規「え?」

垣根「別にお前に事務所のこと連絡してないよな」

心理定規「そ、それは」

心理定規が俺から視線を外す。
気のせいだろうが、少し頬が赤くなっているように見える。

心理定規はなかなか、答えを返してこない。
こんなの悩むような質問だろうか?
俺が待っていると、やっとの思いで口を開くように心理定規は答えた。


心理定規「なんとなくかしら」

垣根「なんだそりゃあ?」

理由になってねぇぞ。

心理定規「別にいいじゃない、そんなことは」

垣根「確かにどうでもいいな」

心理定規「どうでもって……」

心理定規の顔が少し怒っているように見えた。

18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:32:23.88 ID:6h6rrz7io

垣根「どうした?」

心理定規「少しは気にかけなさいよ」

垣根「ん?」

心理定規「いえ、帰るわ」

心理定規は表情を崩さなかった。

垣根「何か怒ってないか?」

心理定規「怒ってないわ」

本当かよ。

心理定規「またね」

垣根「ああ」




心理定規はドアを閉めて、事務所を出て行った。俺は一人だけになった。
ゴミ箱の中には俺の食べ終わったコンビニ弁当の容器が捨てられていた。

しかし、今回は心理定規に助けられたな。
餓死寸前だったからな。
そういえば、あいつ。
「またね」と言ってたな。
また来るのか?
暇なんだな。やっぱ、暗部も仕事がないのか?
ま、いいか。今度来る時は寿司くらい持ってきてくれねぇかな。


19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:33:20.67 ID:6h6rrz7io

『第一章 初依頼』




「グ~」と腹の音が鳴った。
心理定規が来てから、さらに三日が過ぎていた。
まだ仕事が来ない。

腹が減った。
早く仕事が来ないだろうか。
この際、心理定規でもいいが。

そういえば、心理定規の奴。ちゃんと情報流したんだろうな?
一応、HPも作ったが、やはり宣伝手段は多い方がいいからな。
暗部だと結構な金額の依頼が多いよな。
もし、金が入ったら、まず何食おうかな。
寿司? ステーキ?
いやいや、何でも食いたいもの食えばいいんだ!


「グ~」と腹が鳴った。
食い物のことばっかり考えているからだ。
しょうがない。意識を他のところに持っていこう。

俺はデスクに腰を掛けながら思った。
デスクとは、所長である俺が事務処理などで使うためのデスクだ。
学校の校長室にある重たそうで、いかにも偉そうな奴が座っているものと一緒だ。
そこにパソコンや書類などが置いてある。


デスクの前には相談するためのスペースがあり、そこで依頼人と話しをする予定だ。
スペースには木でできた机があり、向かい合って二人掛けの黒いソファーが置いてある。
座り心地は抜群だ。ついでに寝心地も。

20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:34:02.05 ID:6h6rrz7io

入口には白い下駄箱とスリッパが用意されている。
下駄箱の上には、"こちらでスリッパに履き替えて下さい"というプレートも置いた。

床は青いカーペットになっていて、これは足音を吸収するのと装飾的な意味がある。
周りには観葉植物もあり、下駄箱に一つ、ソファーの横に一つ、デスクの横に一つあった。


ん? 観葉植物?
今思ったが、観葉ではなく、食用にしておけばよかったか。
鉢で栽培するとなれば、トマトとかキュウリとかサニーレタスとかか?
野菜だけじゃなく、イチゴやブドウもいいな。
他にも鉢で栽培できそうな植物を想像する。


って、そうじゃないだろ!
せっかく意識を食い物から他に移したというのに、また戻してしまったじゃねぇか!

そういえば。
未元物質ってうまいんかな? 生でも食えるのか?
やっぱり、最初は火を通して食うべきか?

俺は未元物質を思い出してみた。
白い羽に覆われた翼は柔らかそうで、焼くとジューシーな匂いが漂ってきそうだった。
手羽先の味がしたりして。
俺は思わず生唾を飲み込んだ。

未元物質が甘いタレにゴマがかかったところまで妄想した時だった、入り口でチリンチリンとドアベルの音がした。
俺はその音によって、急に現実に戻された。

来た! 俺はすぐさま椅子から降りて、入り口に向かう。

21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:34:28.05 ID:6h6rrz7io

御坂「あの~」

少し戸惑いながら、入ってくる女がいた。
心理定規じゃない。ということは客だ!


垣根「いらっしゃいませ! かきね相談事務所へようこそ!」

御坂「あの、相談があるんだけど、こういうところ初めてで」

垣根「あ、はい。大歓迎です! さあ、中へどうぞ~」

御坂「は、はい」

俺は相談用のためのスペースにその女を通した。

22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:34:54.20 ID:6h6rrz7io

外は日が落ち始めていた。
俺はその女をソファーに座らせると、もてなしとして暖かいお茶を出した。
女はそのお茶を見て「あ、ありがとう」と一礼した。


垣根「あ、荷物はソファーの横に置いといて」

御坂「あ、はい」

垣根「今日は冷えるね」

御坂「ええ」

垣根「その制服は常盤台の生徒かな?」

御坂客「はい」

垣根「凄ぇな。あそこは世界でも有数のお嬢様学校……」

御坂「あの!」

その女は急に大きな声を出し、身を乗り出した。
俺は驚いて、女の方を見ると、女は真剣な顔をしてこっちを見ている。
どうやら、すぐ本題にいきたかったらしい。
緊張をほぐそうとしたのが、裏目に出たか。

23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 20:37:16.34 ID:6h6rrz7io

俺は向かい合ってソファーに座ると、簡単なプロフィールを書く書類を渡した。
その書類には、氏名、性別、住所、電話番号、生年月日、職業を記載する欄があった。
女が書き終わると、俺はそれに目を通した。
その間、女には契約書や重要事項が書いてある書類に目を通してもらう。


垣根「御坂さんでいいか?」

御坂「はい」

垣根「今日はどういった用件でうちの事務所に来た?」

御坂「えっと……」

垣根「うん」

御坂「うんと……」

垣根「うん」

御坂は黙ってしまった。
ま、無理もないか。言いにくいことがあって、ここに来てるんだし。
俺は少しの間、何も言わずに御坂を見ていたが、御坂は一向に話し出そうとする気配がない。
仕方なく、俺は話を進めるために口を開いた。


垣根「話にくいと思うが、ここは思い切って……」

御坂「はい。あのね、その、む、◯を……」

後のほうが聞き取れない。
俺は首を傾げ、わからないというジェスチャーを御坂にして見せた。
御坂もそれを理解したのか、さっきよりも大きな声でもう一度言い直した。

31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 23:52:35.30 ID:6h6rrz7io

御坂「◯を、大きくできるところを紹介して欲しくて……」

垣根「◯を大きく?」

御坂「はい」

御坂の顔は真っ赤になっていた。それは耳まで到達していた。
確かに言いにくいことだと思った。
特に俺の場合は、男だからなおさらだろう。
しかし、俺は別に気にすることなく、話を続ける。


垣根「それは今の◯を自然に大きくするってことか? それともシリコンとか入れてか?」

御坂「あ、いや、できれば自然に」

垣根「ふむ」

御坂「それも、できるだけ早く大きくなりたいから」

垣根「ふむ。わかった」

御坂「どうですか?」

垣根「例えば、シリコンみたいに何か入れるが、元に戻すことも可能というのは?」

御坂「それは、手術とかするんですか?」

垣根「いや、しないで」

御坂「だったら、それもありで」

垣根「わかった。それだったら、すぐできるよ」

御坂「本当ですか」

その言葉を聞いて、御坂は嬉しそうな顔をした。
さっきまで曇っていた表情が一瞬で晴れていくのがわかった。

32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 23:54:04.93 ID:6h6rrz7io

御坂「あの、期間はいつごろ? どのくらいで大きくなりそう?」

垣根「今、大きくしてやるよ」

御坂「え?」

垣根「俺は超能力者でな、◯を大きくできるんだ」

御坂「え、本当に!?」

垣根「ああ。だから、上半身裸になりな」

俺の言葉に御坂の動きが止まる。
表情は変わっていなかったが、言葉を理解するのに脳みそがいっているようで、
表情をどう変化させるか迷っているようだ。


御坂「え?」

約三秒後に御坂はそう言ってきた。
俺に確認を取るかのように聞き返してきたのだ。

33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/11(金) 23:56:33.60 ID:6h6rrz7io

それはそうだろう。いきなり脱げと言ったのだから。
しかし、だからといって他に言いようもないし。
俺はもう一回さっきの言葉を繰り返した。


垣根「いや、上半身裸にならないとできないんだよ」

御坂「本気?」

垣根「本気」

御坂は黙り込んだ。
きっと迷っているのだろう。
そして、俺の顔を疑うような目で見た後、服を脱ぎ始めた。


ボタンを外して制服を脱いだ後、首に締めているリボンをとった。
それから、カッターシャツのボタンを上から順に外していく。
その間、俺の顔を何度か見て、手を止めていたが、俺が変わらない表情で見ているのに気づくと
またボタンを外していく。
ボタンを腹のところまで外し終えたところで、シャツの隙間からブラが見えた。
中学生にしては、お子様のデザインだった。
ボタンを外し終えると、肩からゆっくりとシャツを脱いでいく。
やはり、中学生だ。体はまだ華奢だった。

シャツを脱ぎ終わると、御坂はそれを自分の横に置き、背中に両手をまわして、ブラのホックを取る。
ブラ越しでもわかるが、確かにぺったんこだ。

35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:03:58.39 ID:Wpvz2dhCo

脱ぎ終わった御坂は俺から目を逸らし、アルコールでも入っているのかと思うほど顔を真っ赤にして、
両手をクロスにして自分の◯を覆っていた。
しかし、両手で◯を覆われてはできない。

俺は御坂の手を◯からどけようと、手に触れた。
御坂は目を逸らしたまま、びくりと体を強張らせる。
それと同時に頭の上で電撃が走った。
どうやら、彼女は電撃使い(エレクトロマスター)のようだ。
俺は御坂の両手を体からはがす。
あらわになった御坂の体には小さいふくらみがあった。


垣根「よし、いくぞ」

俺はそう言って、御坂に合図を送ると、未元物質を発動させた。
俺の背中から翼が出現する。マックスパワーでやると、その大きさに事務所自体が壊れちまうから、
力は抑制している。


御坂「羽!?」

垣根「俺の未元物質に、常識は通用しねえ!」

未元物質が御坂の◯に触れる。
御坂は「ひっ!」という声ともに両手を◯に戻そうとした。
だが、俺の両手がそれを阻んだ。

41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:13:54.46 ID:Wpvz2dhCo
時間にすると、五秒くらいだろうか。
御坂の◯は大きくなった。
サイズの指定がなかったからわからなかったが、適当な大きさにしておいた。
Dカップくらい。中学ではあり得んかな?
能力を解除し、両手を放したが、御坂は自分の◯を信じられないような目で見ていた。


垣根「終~了~」

その声に反応して、御坂は一度俺の顔を見たが、すぐに衣類で自分の◯を隠した。
再び、御坂は睨むような目でこっちを見ている。

別に悪いことはしてないんだから睨むな。
しかも、涙になりながら、上目遣いで見るな。


垣根「俺の未元物質で膨らませといた。
   また、元に戻したくなったら、ここに来な。戻せるからよ」

俺が事務的に話をすると、御坂も納得したのか。
ソファーから降りて体を反転し、背中をこっちに向けると、制服を着始める。

着終わった後、御坂がわずかに苦しそうな表情をしていた。
きっと制服のサイズが合ってないのだろう。
御坂が鞄の中に自分のブラを入れている間、俺はやっと収入が得られると思った。

42: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:14:56.36 ID:Wpvz2dhCo
あれから御坂には、契約書と確認同意書を書いてもらった。
御坂が帰った後、俺は一人、事務所にいた。


ふふふ。
金が入ってきたぜ!
やっぱ、俺ともなれば当たり前だよな。
さて、この金はどうしようか?
とりあえず、今日はごちそうだな!

俺が金を見ながらニヤニヤしていると、入り口のドアベルの音が聞こえた。
また、来たか? 今日は大忙しだな。


垣根「いらっしゃいませ! かきね相談事務所へようこそ!」

黒子「あのですの」

垣根「さあ、中へどうぞ」

俺は客を事務所の中へ通した。

43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:16:09.64 ID:Wpvz2dhCo

垣根「荷物は横の椅子に置いて……」

黒子「ここでは情報も取り扱ってますの?」

その女は椅子に座ると、書類を書きながら、すぐに依頼のことについて話し出した。
俺はお茶を出すのを止め、そのままソファーに座る。
なかなかせっかちな客なのだろうか?
ま、そっちのほうが面倒臭くなくていいんだがな。


垣根「ええ、まあ」

黒子「実は私、オーダーメイドで◯◯◯◯◯を作ってくれるところを探していますの」

垣根「◯◯◯◯◯?」

黒子「ええ、探せますでしょうか?」

垣根「探せるが」

黒子「そうですの。できれば質のいいのを作ってくれるところがいいのですけど」

垣根「質ね」

黒子「さらに欲を言うなら国産で」

俺は少し考えた。

47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:18:54.10 ID:Wpvz2dhCo
◯◯◯◯◯を作ってくれる。業者を探すのは別に難しくない。
しかし、俺の場合はそんな面倒なことをしなくても、能力がある。
これを使えば、最速かつ低コストでいけるな!


垣根「よし、わかった。俺に任せろ!」

黒子「本当ですの! 情報が入ってくるのはいつ頃になりますの?」

垣根「今すぐだ」

黒子「すでに心当たりがあると!」

垣根「いや、そうじゃねぇが」

黒子「???」

垣根「ところで、オーダーメイドするとして、大体どういうのを作りたいかってのは決まってるのか?」

黒子「というと?」

垣根「大きさとか、あるだろ」

黒子「ああ、それでしたら大丈夫ですわ。ちゃんとメモしてますの」

垣根「どれ見せてくれ」

俺はノートの切れ端に書いてあるメモを渡された。
そこには身長からスリーサイズ、足の大きさ、肌の柔らかさなど細かく書かれていた。

48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:19:44.66 ID:Wpvz2dhCo

これはこだわりを感じるな。
確かにかなり質のいいところじゃないとここまで再現できねぇな。
俺はメモから目を放した。


垣根「細かく書かれてるな」

黒子「当たり前ですの。ちなみに顔はこれでお願いしますわ」

垣根「写真、実際いる人物か?」

黒子「ええ、まあ」

垣根「ん? こいつは……」

その写真には御坂の顔をがあった。


さっきの女じゃねぇか。
偶然って言うのもあるんだな。
知り合いなのか?
そこまで考えて、俺は写真の違和感に気づく。

御坂が写真に対して、カメラ目線ではない。
しかも、アングルも斜め上から撮られている。
つまりは盗撮したということだ。


黒子「どうかしまして?」

垣根「いや、何でもねぇ。こいつでいいのか?」

黒子「はいですの」

こんなところに来るくらいだ。
普通じゃない依頼はいくらでも来る。
俺の仕事はそういうところは聞かないってのも、含まれるからな。

49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:20:29.81 ID:Wpvz2dhCo

垣根「わかった。じゃあ、少し待ってな」

黒子「はあ?」

垣根「俺の未元物質に、常識は通用しねえ!」

俺は未元物質を発動させる。
背中から光の羽が開かれた。
未元物質は六枚の羽があるが、そのうちの一つを俺は自分の目の前に出す。
すると、その羽の先から依頼のあった◯◯◯◯◯の形が構成されていった。

初めは雫のような形をしていたが、それはやがて細長くなり、人型へと窪んでいった。
まるで見えない手があり、その手が粘土をこねているようだった。
◯◯◯◯◯の形が完全に構成されたのを確認すると、俺はその◯◯◯◯◯を羽から切り離した。


垣根「ほらよ。◯◯◯◯◯の完成だ」

黒子「凄い能力ですわね。◯◯◯◯◯を作る能力なんて」

白井は目を見開きながら言った。


垣根「いや、別に◯◯◯◯◯に限定してるわけじゃないんだけどな。
   つーか、◯◯◯◯◯作る能力って、何気に嫌だろ」

しかし、白井は俺の言葉に反応はぜず、すぐに◯◯◯◯◯を触り始めた。
その手つきは触るというよりも、まさぐるという表現のほうが合っていた。

51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:21:35.15 ID:Wpvz2dhCo

白井の手は顔を触っていたかと思ったら、次の瞬間には◯にいき、そうかと思えば足を触っていた。
両手ともまるで別々の意思があるかのように複雑かつスピーディーな動きを見せ、
指先は一流のピアニストのような滑らかさをもっていた。

こいつプロか?
なんていうか、変態の。


黒子「むむ! 何て触り心地! まるで本物のようですわ!」

垣根「当たり前だ」

黒子「特にこの◯なんて、まるで本物であるかのような再現力!」

垣根「さっき触ったばっかりだからな」

黒子「え?」

垣根「いや、何でもねぇ」

黒子「気に入りましたわ」

黒子「料金はこのくらいでいいですの?」

垣根「どれどれ」

俺は白井が渡してきた封筒の中身を見る。
俺が設定していた料金よりもかなり多かった。

53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:23:24.25 ID:Wpvz2dhCo


垣根「おい、こんなにもらえるのか」

黒子「いい物にはそれ相応の値段がついて当然ですの」

垣根「わかった。毎度~」

黒子「あ、そうですわ」

垣根「何だ?」

黒子「できれば、名刺をもらいたいですの。今後、また頼みに来るかもしれませんし」

垣根「ああ、すまない。忘れてた」

俺は白井に名刺を渡した。


黒子「どうもですの」

垣根「それでは、ありがとうございます」

黒子「ぐへへ、今夜が楽しみですわ」

白井は目を光らせながら、舌なめずりをして事務所を出て行った。
この金額を躊躇せずに出すあの考え方、そしてあの言動、盗撮行為。
やはり、プロのようだ(変態の)。

54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:27:25.59 ID:Wpvz2dhCo

……。
………。

あれから、仕事がまた来なくなったな。
蓄えはあるからいいんだけどよ。
暇だな。

結局、一週間前に二人の依頼人が来ただけで、それからはまた客が途絶えてしまった。
俺はやることもないのでごろごろしていた。
すると、事務所の電話が鳴った。


依頼の電話か?
俺は受話器を取った。


垣根「ありがとうございます~。こちら、かきね相談事務所で~す」

黒子《もしもし、私白井と申しますけど》

垣根「はい」

黒子《一週間前にお世話になりました》

55: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:28:13.95 ID:Wpvz2dhCo

一週間前?
一週間前という依頼があった日だが。
確かその依頼人の中に白井というやつがいたな。


垣根「ああ、あの、◯◯◯◯◯のか」

黒子《そうですわ》

垣根「何かあったのか?」

黒子《実はあの◯◯◯◯◯に関してですが》

垣根「ふむ」

黒子《壊れてしまいましたの》

垣根「は?」

黒子《色んな所がぼろぼろになってしまいまして》


なんだと。
白井に作ってやったのは一週間前だぞ。
そんなに脆く作った覚えはないがな。
まさか未元物質に不具合があったのか?
いや、それはない。俺の能力に限ってそんなことはない。
でも、一応聞いてみるか。

56: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:28:45.29 ID:Wpvz2dhCo

垣根「どこか不具合があったか?」

黒子《いえ、商品の問題ではなく》

垣根「???」

黒子《使いすぎましたの》

垣根「使いすぎって、そこまで耐久度は低くないはずだが」

黒子《ええ》

垣根「一週間でって、かなり激しく使わんとぼろぼろには……」

黒子《……》

垣根「……」

垣根「激しく使ったんだな」

黒子《そうですの》

何故か受話器の向こうで白井が照れている様子が浮かんだ。

垣根「それで?」

黒子《また作って欲しいですの。今度は少し耐久度をアップしたのを》

垣根「わかった。すぐにできるからいつでも取りにきな」

黒子《わかりましたの。では、十六時くらいに取り行きますわ》

俺は受話器を戻すと、◯◯◯◯◯の製作にとりかかった。

57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:29:15.67 ID:Wpvz2dhCo

◯◯◯◯◯は完成している。
今は俺のデスクの横に置いてある。
俺が自分のデスクでコーヒーを飲んでいると、ドアベルの音がした。
時計を見ると、十六時になっていた。
どうやら、白井が来たらしい。
俺はゆっくりと椅子から腰を上げると、入り口に向かって話しかけた。


垣根「お、来たか」

御坂「ちょっと!」

垣根「あれ?」

そこにいたのは、白井ではなくもう一人の依頼者の御坂だった。
御坂は息を切らしながら、かなり怒っていて、体中に電気を帯びていた。

58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:41:52.15 ID:Wpvz2dhCo

御坂「あんた! これは一体どういうことよ!」

垣根「ん? 何を言ってるのかよくわからんが?」

御坂「騙したわね!」

垣根「おいおい、いきなり来て、騙したとは何だ」

御坂「うるさい!」

垣根「とにかく座れよ」

俺は御坂をテーブルまで案内する。


俺は御坂と向かい合って座っている。
御坂は相変わらず怒ったままだ。
なぜこうなっているか、心当たりが全くない。

59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:42:32.58 ID:Wpvz2dhCo

垣根「で、騙したとは何だ?」

御坂「これよ!」

御坂が自分の◯を指して言った。

垣根「◯がどうした?」

御坂「しぼんだのよ!」

垣根「はあ? そんなはずはないぞ」

御坂「あるわよ! 実際しぼんだんだから!」

垣根「どれ、見せてみな」

御坂「な、見せ……」

御坂の顔が一瞬で赤くなる。

垣根「どうした?」

御坂「変態! 別に服の上からでもわかるでしょ!」

垣根「まあ、しぼんだくらいならな。けど、原因はわからんぞ」

御坂「ぐぐぐ」

垣根「ほら、どうする?」

御坂「もういいわよ。原因は!」

60: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:43:08.60 ID:Wpvz2dhCo

垣根「そうか。しかし、信じられんな。どんなふうにしてしぼんだんだ?」

御坂「はあ? 触られたら"バキ!"って音がして、しぼむというよりなくなった」

垣根「触られた? 触られたというと誰かにってことか?」

御坂「そ、そうよ」

御坂は体をもじもじさせながら、恥ずかしそうに言った。

垣根「誰に触られた?」

御坂「だ、誰って……」

垣根「能力者か?」

御坂「違うと思うけど」

垣根「どんな状況でだ? どういう風に?」

それを言うと、御坂が顔真っ赤にした。

御坂「そ、そんなのどうだっていいでしょ! 変態!」

垣根「いや、ま、いいんだが」

大体予想はつく。
どうせ彼氏とちちくりあってたんだろうが。

61: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 00:43:44.40 ID:Wpvz2dhCo

御坂「どうなのよ?」

垣根「わけわからんな」

御坂「自分の能力でしょ」

垣根「そんなこと言われても、今までにないしな」

御坂「……」

垣根「しょうがねぇ。サービスでもう一度大きくしてやるよ」

御坂「もういいわよ!」

垣根「いいの?」

御坂「全くあんたのおかげであいつの前で恥かいちゃったじゃない。しかも、途中で逃げ出してきたし」

垣根「は?」

御坂「これじゃあ、あいつと会えないじゃない」

御坂がぶつぶつと独り言のように何か言っている。

垣根「あいつって?」

御坂「あ、あんたには関係ない!」

垣根「そうか」

御坂「全く……」


御坂は一通り文句を言い終わったのだろうか俺の出したお茶を一口飲んだ。
俺は御坂が言ったことを思い出してみる。

73: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:00:15.03 ID:Wpvz2dhCo

触られたら、しぼんだ?
そんなことがあるのだろうか。
俺の未元物質は破壊できないものではないが、今回の件に関しては奴の体内に埋め込んであるから、
そういうのとは違うだろうな。
しかも、聞いた様子だと破壊よりも消えたという感じに思える。
そんなことがあるんだろうか。
テレポートしたとかそういうことか?
確かにテレポートならできなくもないが。

もう少し御坂に聞いてみるか。
でも、こいつ恥ずかしがって喋らないかもな。


俺が御坂に再び話しかけようとした時だった。
御坂の目が俺の後ろに集中する。
何だ? 俺の後ろ? デスクくらいしかないはずだが?


垣根「どうした?」

御坂「あんたの後ろにある人形みたいのなんだけど」

垣根「ああ、それがどうかしたか?」

そういえば、◯◯◯◯◯置いといたな。

御坂「あれって、私じゃない?」

御坂のその言葉に意識が止まった。

74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:03:10.70 ID:Wpvz2dhCo

まずい。俺は思った。
そうだった。つい白井だと思って、出したままだった。
そりゃあ、気づくよな。特に本人なら。
けど、これは大事な売り物であって、ここでこいつに何か言われるわけにはいかねぇな。

俺はとりあえずごまかすために口を開いた。


垣根「そ、そんなわけ……」

御坂「あるわよね。どこからどう見ても私よね」

ごまかせなかった。

御坂「ちょっと、あんた。あんな物作って何しようとしてるの?」

垣根「いや、これには深いわけが……」

御坂「何よわけって……え、まさか!」

御坂の顔が蒼くなる。
おいおい、ちょっと待てよ! 何想像してるんだ!
何だ、その変質者を見るような目は!
まさか、俺があれを使って、変態行為をしてると思っているのか!?

75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:03:56.88 ID:Wpvz2dhCo

垣根「言っとくけど、お前の想像してるようなことはないぞ」

御坂「何よ! じゃあ、どうするのよ。あれは!」

垣根「だから、深いわけがだな……」

御坂「……」

御坂「……壊すわ」

垣根「おい! それは商品なんだから壊すな!」

御坂「商品?」

あ、しまった。
ついうっかり、口を滑らせちまった。


御坂「商品って何?」

垣根「……」

御坂「誰の依頼よ?」

垣根「……」

御坂「ねぇ?」

垣根「……」

俺が御坂から迫られていると、ドアベルの音がした。
そこにはその商品の依頼者である白井がいた。

77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:04:38.70 ID:Wpvz2dhCo

黒子「こんにちはですの!」

垣根「あ……」

黒子「垣根さん、例の物は……」

御坂「……」

黒子「うひょひょ! ありましたの!」


言うなり、白井は御坂(本物)に飛びついた。そして、次には御坂の体をまさぐり始める。
やはり、その手つきは変態で、ゴキブリがかさかさと動いているようだった。
俺は早く事実を知らせようと口を開いた。もう手遅れかもしれないと思いつつも。


垣根「白井さんよ。それは……」

黒子「さすが垣根さんですわ! この触り心地まるで本物見たいですわ!」

御坂「……」

黒子「しかも、今回のは耐久性もありそうですの」

黒子「どれ、ちょっと試してみますの」

白井は御坂を舐めまわし始めた。 。

81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:22:47.23 ID:Wpvz2dhCo


黒子「最高ですわ!」

垣根「白井さん……」

御坂「……」

御坂「おい、黒子」

黒子「え?」

垣根「……」

黒子「垣根さん。これはまさか……」

垣根「ああ」

黒子「レスポンス機能まで搭載されてますの!」


なんでそんな解釈になるんだ!
俺は心の中でツッコミを入れた。

83: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:24:28.74 ID:Wpvz2dhCo

黒子「凄いですわ! 注文以上の出来ですわ!」

御坂「……」

黒子「では、さっそくお姉様の◯を触ってみて、どんな反応をするのか試してみて……」

御坂「おい」

御坂が白井の頭を正面から掴む。
その手にはかなりの力はいっていて、白井の頭からメキメキと骨にひびが入るような音が聞こえた。


黒子「あら~。なぜか、アイアンクローをされてしまいましたの」

御坂の体から電気が発生する。

黒子「しかも、電気が漏れていますわ」

御坂「お前だったのか。私の人形作らせたのは~」

84: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:25:18.55 ID:Wpvz2dhCo

黒子「……」

黒子「垣根さん」

垣根「何だ?」

黒子「一つお聞きしてよろしいでしょうか?」

垣根「どうぞ」

黒子「私はこれからどうなるのでしょうか?」

垣根「どうなるんだろうな」

御坂「お・し・お・き・よ」

御坂「あんたは毎回何やってるのよ!」

黒子「ぎゃあああああ!」

垣根「おい! 事務所で電撃飛ばすんじゃねぇぇぇ!!」

御坂が放った電撃は白井だけでなく、事務所の一部を壊した。

85: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:26:00.71 ID:Wpvz2dhCo

俺は今、一部破壊された事務所にいる。
横には犯人の御坂も立っている。
白井に至ってはその名前の通り黒い子になって、横たわっていた。


垣根「おい」

御坂「何よ」

垣根「どうしてくれんだよ」

御坂「しょうがないでしょ」

垣根「しょうがなくねぇよ! 別のところでやれよ!」

御坂「いいじゃない。あんたの能力で直せるんでしょ」

垣根「そういう問題じゃねぇ!!」

御坂「それよりも」

垣根「何だよ」

御坂「お金返しなさいよ」

垣根「はぁ?」

御坂「◯のやつよ。結局、しぼんだら意味ないじゃない」

垣根「知らねぇよ」

御坂「返しなさいよ。これで返さなかったら、詐欺よ」

垣根「何だそりゃ」

御坂「ほら」

垣根「たく、しょうがねぇから、この事務所の修理代をチャラにしてやるよ。それでいいだろ」

御坂「よくないわよ。こっちは名誉が傷つけられたのよ!」

垣根「知るか!」

事務所を構えてから、まだ一ヶ月も経っていないのに、すでにこの有様。
俺の今後は大丈夫なのだろうか。
冬の寒空の中、俺は思った。

88: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:28:20.25 ID:Wpvz2dhCo

『第二章 浮気調査』




客が来ねぇ~な。

俺は一部、未元物質になっている事務所を見ながら思った。
とある事情により事務所の一部が吹っ飛んでしまった。
吹っ飛んだ場所には、ぽっかりと穴が開いており、とりあえず未元物質で塞いでおいた。
今は業者が来るまで、待っている状態だ。
だが、それとは関係なく客が来ない。


あ、間違えた
まともな客が来ない。

代わりに来るのは、毎日と言っていいほど、常盤台中学の某お嬢様が俺の仕事を邪魔しに来ていた。
全く、これじゃあ集中して仕事ができないぜ。
まあ、仕事は今のところ入ってないんだけど。


俺は頬杖をつきながらデスクに座っていた。
すると、ドアベルの音がした。

客か!
今度はまともな客であることを心の底から願いつつ、俺は入口に向かう。

89: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:45:32.23 ID:Wpvz2dhCo

垣根「いらっしゃいませ! かきね相談事務所へようこそ!」

垣根「バストアップから◯◯◯◯◯まで何でも承りまーす!」

インデックス「あのなんだよ」

垣根「さあ、まずは中へどう……」

そこで俺の言葉は止まった。
俺の目の前にいる女は真っ白の修道服を着ていたからだ。

これはもしかして、宗教の勧誘か何か?
とりあえず、まともとは言いにくい客であることは確かだ。
その修道服の女は俺が言葉を途中で切ったのを不思議に思ったのか、きょとんした顔でこっちを見ていた。


垣根「悪いが、宗教の勧誘なら間に合ってるんで」

インデックス「え?」

垣根「そのまま回れ右して帰りな」

インデックス「な、何言ってるかわからないんだよ」

垣根「その恰好はキリスト教か? 宗教には入らねーよ」

インデックス「格好って……違うんだよ!」

インデックス「私はお客さんでここに来たんだよ」

垣根「は? そんなこと言って、最終的に勧誘するんだろ。ネタはばれてんだよ」

インデックス「こんないかにもって格好の勧誘なんていないんだよ。やるならわからないように少しづつ興味を持たせるんだよ」


修道服の女はこちらをじっと見ながら言った。その目には嘘はないように思える。

90: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:46:00.00 ID:Wpvz2dhCo

確かに言われてみればそうか。
露骨すぎるしな。
第一、個人的ならともかく、事務所に直接宗教を勧誘するのなんか聞かないしな。
俺はその修道服の女を見た。女の目はさっきからずっと変わっていない。

どうやら、勧誘ではなさそうだな、だったら。
俺は営業モードに頭を切り替えて、修道服の女にこう言った。


垣根「さあ、寒いですし、中へどうぞ~」

俺は修道服の女を中に招いた。

91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:46:48.15 ID:Wpvz2dhCo

インデックス「それで、今日来たことなんだけど」

俺はインデックスが書き終えた書類を見ながら聞いていた。


インデックス。


明らかな偽名。
念の為、写真付きの身分証明となる物の提出を求めたが、持っていないという。
どうやら、この人物はわけありということになる。
心理定規が暗部に情報を流すと言っていたが、その情報を聞いた人物なのかもしれない。
だとすると、こいつからの依頼はまっとうな件である確率が減る。
俺が書類とインデックスを交互に見比べていると、インデックスは不安な顔をこっちに向けていた。
少し警戒し過ぎかな。


垣根「すまない。続けてくれ」

インデックス「うん」

すると、インデックスは一枚の写真を机の上に置いた。


写真? ツンツン頭の男だが。
この男をどうかするのか?

まさか!
なるほどな。今回の依頼は殺しか。
だったら、こいつが偽名を使っているのも分かる。
殺しは足がつくと厄介だからな。
例え、依頼した側にであっても、自分の後を追わせられないように気を使う必要がある。

93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:47:21.88 ID:Wpvz2dhCo


インデックス「とーまの浮気調査をして欲しいんだよ」


やっぱりな。浮気調査ね……ん?
俺の思考が止まった。

とーま? この男の名前か?
いや、それよりももっと気になることがある。


垣根「浮気調査?」

インデックス「そうなんだよ。とーまが浮気してるんだよ」

どうやら、俺の勘は外れたらしい。
だが、そうなると変だ。
単なる浮気調査に偽名を使うか?
しかし、インデックスは俺のことなどお構いなしに話を進める。
俺もとりあえず、偽名のことは置いておき、インデックスの話に耳を傾けた。

94: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:49:08.46 ID:Wpvz2dhCo

インデックス「とーまはね、フラグ建築士なんだよ」

垣根「ふむ。フラグ建築士というのは?」

インデックス「行く先々でフラグ立ててくる女の敵なんだよ」

垣根「そうか、安心しろ。そいつは男の敵でもある」

インデックス「それで、最近またフラグを立てたらしくて」

垣根「相手を調べろということか?」

インデックス「ううん、違うよ。相手はわかってるんだよ」

垣根「相手はわかってる?」

インデックス「そう。あなたには浮気の証拠をとってきてもらいたいんだよ」

垣根「なるほどな。それで相手というのは?」

インデックス「この女なんだよ」

インデックスはもう一枚、写真を出した。


ん? 常盤台の制服を着ているが。
俺はその写真に写っている人物を知っていた。

御坂じゃねぇか!?
そうか。あいつの◯を触ったのは、このとーまとかいうやつだったのか。
インデックスが浮気とか言ってるんだが。
御坂は浮気前提でこのとーまと付き合ってるのか?
俺は考えてみたが、結論など出るわけもなく、このことは無視することにした。

95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:51:39.95 ID:Wpvz2dhCo
クレーマーとかは、そこらへんはただの厨二SSなんで勘弁してください



俺の依頼は証拠を掴むことだ。
だが、確かあいつは会ってないとか言ってなかったっけ?


インデックス「この短髪ととーまが関係を持っているという証拠を押さえて欲しいんだよ」

垣根「……」

インデックス「どうしたんだよ?」

垣根「たぶんだが、こいつとの関係は終わってると思うぞ」

インデックス「何で?」

垣根「何となく」

インデックス「いや、それはないんだよ。
       とーまの場合、終わったと思った関係を修復するくらい朝飯前なんだよ」

垣根「そうなのか?」

インデックス「そうなんだよ。だから、頼むんだよ」

垣根「わかった。じゃあ、証拠を押さえ次第、連絡するということでいいか?」

インデックス「それでいいんだよ。情報はどんな些細なことで連絡が欲しいかも」

垣根「了解」

96: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:53:21.52 ID:Wpvz2dhCo

――――――――――――


翌日、御坂は事務所に来た。


御坂「さ、お金返してもらいに来たわよ」

借金取りか、お前は。
けど、まあいい。今はここでそんなこと言ってもしょうがない。


垣根「おお、御坂か。お前を待ってたんだ」

御坂「は?」

垣根「昨日からお前と話したくてよ。ま、座れや」

御坂「な、そ、それどういう意味よ」

御坂の頬が赤く染まっていた。


確かに、寒いところから急に暖かい場所にくると顔が赤くなるよな。
つーか、今日も外は寒いのか。
こいつはよくそんな中、この事務所に来るよな。
俺は金を返す気ないのに。


垣根「は? そのままの意味だが」

御坂「そのままって、意味わかんないじゃない!」

垣根「わけわからんな。とりあえず、話してもいいか?」

御坂「別にいいけど……」

97: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 01:54:07.58 ID:Wpvz2dhCo

よし、ここからだな。嘘話で何とか情報を聞き出すか。

俺と御坂はテーブルの前で向かい合った。
今日は特別サービスでお茶を用意してやった。

もちろん、客用の茶葉じゃなくて、スーパーの特売で買った一番安いやつだ。
しかも、安い理由が賞味期限ぎりぎりだったな。たぶんもう切れてる。
賞味期限が切れると、風味が落ちるとか聞いたことがあるが。
まあ、いいだろ。こいつはお茶の味なんてわからなそうな性格っぽいし。


御坂「あれ、このお茶薄いわね」

さすがお嬢様なのか、これは。

垣根「それは、あれだ。学園都市が作った薄味のお茶なんだよ」

御坂「へー、そうなんだ。でも、風味も全然ないけど」

うるせーな。黙って飲めよ。
俺は面倒くさいので話題を早々に変えることにした。

113: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:53:48.25 ID:Wpvz2dhCo

垣根「お前よ。彼氏いるだろ」

御坂「ぶっ!」

御坂「な、何よいきなり!」

垣根「いないの?」

御坂「……」

御坂「……いるけど」

垣根「最近どうよ?」

御坂「どうって?」

垣根「最近は会ってるか?」

御坂「会ってないわよ」

垣根「何で?」

御坂「あんたのせいでしょうが! あんたが変な◯くっつけるから!」

垣根「ああ、そうか。会いにくいわけな」

御坂「むかつくわね」

垣根「ところでよ」

御坂「何よ」

垣根「実は昨日、お前の彼氏と名乗る男が事務所に来てよ」

嘘だけどな。
俺はここから嘘情報で御坂を探ることにした。

114: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 19:54:23.06 ID:Wpvz2dhCo

御坂「はあ? 何それ?」

垣根「そいつがお前のこと聞きたがるんだよ」

御坂「そんなの嘘ね。あんたのでまかせでしょ」

垣根「いや、本当だよ」

御坂「何よそれ、何でここに来るのよ」

垣根「お前がここに出入りするのを偶然見たんだとよ」

御坂「はあ? 嘘でしょ?」

垣根「そいつ"上条当麻"って言うらしいんだがよ」

御坂の表情が固まった。
上条当麻のことはある程度インデックスから聞いている。
情報さえあれば、はったりなんていくらでもかませるしな。

115: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:02:44.62 ID:Wpvz2dhCo

御坂「な、何であいつが……」

垣根「彼氏なのか?」

御坂「まあ、一応は」

垣根「そうか」

御坂「何であいつが私のことを……」

垣根「お前、最近会ってないって言ってたじゃねぇか。
   そのことが不安らしく、お前の出入りしてたここに来たらしい」

御坂「そんな、でも、あいつに限って」

垣根「しかも、伝言を頼まれた」

御坂「え、な、何よそれ!? 何て言ってたの!!」

垣根「うるせぇな、落ち着けよ」

御坂「え、ええ」

御坂はまんまと俺の嘘情報を信じているようだ。
本当はもうちょっと疑ってくるかと思ったが、案外単純なんだな。
いや、ここは俺のナイスな演技力だと思っておこう。

116: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:17:12.73 ID:Wpvz2dhCo

垣根「えーとだな……」

御坂「は、早く言いなさいよ」

垣根「あ、さっきお前が大声出したせいで忘れた」

御坂「ふざけんじゃないわよ! 思い出せ!」

垣根「なんだったっけか? そうだ、今日どこかで会おうということだったな」

御坂「どこよ、そこ!」

垣根「お前が、ほら、◯を触られたホテルの名前なんだが……」

御坂「……ホテルには行ってないけど」

垣根「そうそう、ホテルじゃなくて、違う場所だったな~。どこだったかな……」

御坂「……」

御坂「……彼の部屋?」

垣根「そうだ! そこだよ!」

御坂「そこで待ってるっていうの?」

垣根「そう、十七時になったら来てくれだとよ」

御坂「そ、そうなの……」

御坂が事務所の壁にかけてある時計を見た。

垣根「行くのか?」

御坂「え?」

垣根「行くのかって聞いたんだが?」

御坂が黙る。
きっと迷っているのだ。
実を言うと、俺のほうはこいつにその彼の部屋に行ってもらわないと困るわけだ。

117: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:24:44.90 ID:Wpvz2dhCo

垣根「行った方がいいと思うぞ」

御坂「……」

垣根「あいつ自身も、お前の◯のことでお前を傷つけたと思ってたしな」

嘘だけど。

御坂「何で? あいつは悪くないじゃない」

垣根「いや、知らんが、そう言ってた」

御坂「他にも何か言ってた?」

垣根「言ってたが、意味がわからんかった」

御坂「そう」

垣根「自分で確かめてみたらどうだ」

御坂は何かを考えていたのか黙っていた。
しかし、すぐに立ち上がると「そうね。そうするわ」と言って事務所を出て行った。
俺は御坂の背中を見送ると、次の段階に進むことにした。

118: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:25:42.27 ID:Wpvz2dhCo

御坂が帰った後、俺は事務所を出て、近くの公衆電話の横にいた。
インデックスから事前に聞いていた、上条家の電話番号のメモを見る。

次に俺は未元物質を発動させた。
未元物質によって、空気の振動を変化させ、声を変えるためだ。

御坂の声は……。
俺は声を出した。すると、それがさまざまな声色となって、俺の口から出てくる。
俺は御坂の声色に調節した。


垣根「あーー、アーー、あ"ーー」

垣根「あーー、あーー」

垣根「これかな?」

垣根「私の未元物質に、常識は通用しないわ!」

御坂の声と瓜二つだった。
完璧だ。
俺は思わず口を緩めた。

119: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:26:42.67 ID:Wpvz2dhCo

それから、俺はすぐに公衆電話から上条の家に電話をする。
五回目のコール音の後、受話器のとられる音がした。


上条《はい、上条ですが》

垣根「あ、私なんだけど」

俺は御坂ボイスで話す。

上条《……御坂か?》

垣根「うん、あのさ、急な話なんだけど、今日会えないかな」

上条《今日か?》

垣根「うん、この前から会ってないじゃない。そのことについて話したいんだけど」

上条《そうか。わかった》

垣根「大丈夫?」

上条《ああ、どこで会う?》

垣根「できれば、あんたの部屋がいい……」

上条《俺のか?》

垣根「駄目……かな」

上条《……》

121: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:40:57.35 ID:Wpvz2dhCo

上条《……いや、大丈夫だ。インデックスをどこかにやるから、ちょっと待っててくれないか?》

垣根「うん、十七時くらいに行くよ」

上条《ああ》

垣根「……」

上条《それじゃあ……》

垣根「あ、待って!」

上条《何だ?》

垣根「あのね、言いにくいんだけど」

上条《???》

垣根「会ったらまず、私を抱きしめて欲しいの」

上条《な、何で!?》

垣根「前みたいに逃げ出しちゃうかもしれないから」

上条《……わかった》

垣根「ありがとう。それじゃあ、また後で」

俺は受話器を置くと、次の段階に進んだ。

122: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:44:45.93 ID:Wpvz2dhCo

十七時になる十分前に御坂は上条の家に来ていた。
戸惑っているのが、容易にわかる。
御坂は一度、深呼吸をすると、呼び鈴を押した。
ドアはすぐに開いた。


御坂「あ、当麻……」

御坂がそう言ったきり、二人の間に無言の空気ができた。
しかし、次には上条が御坂を抱きしめる。

俺はこの瞬間を逃すまいとカメラのシャッターを切る。
音は小さいながらも、シャッターの連続音が俺の耳を刺激する。


御坂「ちょ、ちょっと! 当麻!」

御坂は突然の出来事に動揺しているようだ。
それはそうだろう。
俺が勝手に言ったことだし。


上条「もう逃げるなよ」

御坂「……」

御坂「うん!」

上条「中に入れよ」

その言葉に御坂は首だけで頷いた。

123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:45:12.43 ID:Wpvz2dhCo

二人が完全に入って行ったのを確認すると、俺は未元物質を解除する。
さっきまでの俺は未元物質をマンションの壁と同じにして、隠れながら盗撮をしていたのだ。

ふ~。作戦大成功だ。
後はベランダ側にまわって、中の写真も撮っておくか。
俺は未元物質をはばたかせ空中に浮くと、ベランダに回り込んだ。

124: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:46:23.72 ID:Wpvz2dhCo

俺は写真が撮り終ると、事務所に戻り、写真を現像する。
そして、インデックスに電話をして、事務所に呼び出した。


インデックス「もう証拠を掴むなんて仕事が早いんだよ」

垣根「ああ、わが社はできるだけ早くがモットーだからな」

そんなモットーはない。
本当は他に仕事がないから、集中してできたのだが、そのことは内緒だ。
なんかプライド的に。


インデックス「それで、証拠の物は?」

垣根「この写真だ」

インデックス「こ、これは」

垣根「ちなみに今日の写真だな」

インデックス「今日!?」

垣根「お前、上条に部屋追い出されただろ」

インデックス「うん……まさか、その隙に!」

垣根「そう、会っていたんだ」

インデックス「く~、なんてことなんだよ」

垣根「しかも、今回と合わせて、最低二回は連れ込んでる」

インデックス「二回も!」

垣根「他は知らないが」

インデックス「他に証拠は? この玄関前で抱き合っている以外は?」

垣根「一応、ベランダから中を撮ったが、特にこれと言ったことはなかったな」

本当は絡みシーンも撮りたくて、この前と同じシチュエーションにしたのに続きをやらなかったな。
それとも、まだそこまで進んでないのか?

125: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:51:08.51 ID:Wpvz2dhCo

インデックス「なるほどなんだよ。とーまは手を出してないってことなんだね」

垣根「ああ、部屋の中の写真も撮ったけどいるか?」

インデックス「もらっとくんだよ」

インデックスは写真をとっていった。

垣根「これからどうするんだ?」

インデックス「決まってるんだよ。
       あの短髪にこの写真を突き付けて、とーまから引き剥がすんだよ」

垣根「怖ぇ~」

インデックス「じゃあ、私これで行くんだよ」

垣根「ああ、金は指定の口座に頼むぞ」

インデックス「わかってるんだよ」

インデックスはそう言って、事務所から出て行った。


フラグ野郎も大変だ。
浮気はするほうが悪いが、男としてはこの上条という男の気持ちも分かる。
男ならつまみぐいの一つや二つあるだろ。
ま、同情したところで仕事は仕事だしな。

それにしても、今回はまともな依頼だったな。
あくまで前と比べてだが。

時計を見ると、すでに二十時を過ぎていた。
もう客は来ないだろうな。
さて、今日は閉店にするか。
帰りにビールでも買っていこ。

126: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:51:52.74 ID:Wpvz2dhCo


『第三章 修羅場』




浮気調査から三日後。
俺は日曜日の午前を楽しんでいた。
相変わらず事務所にはいるものの、外からの光が眩しいほど当たり、何とも陽気な気分になる。
俺は片手に持ったコーヒーに口をつけると、それをデスクの上に置き、一息つく。
事務所には俺だけだったが、外から聞こえる人の声や車の走る音が街の活気を知らせた。
さあ、ここから俺の一日が始まるんだ!

127: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 20:52:23.65 ID:Wpvz2dhCo

と、なるはずだったんだ。

しかし、現実は残酷で、事務所にはなぜか俺の他に三人。
御坂、インデックス、上条がテーブルを囲んでいた。
どうも、この前の浮気の件で俺の事務所に来たらしい。
なぜ、ここに来る?
俺はそいつらを見る。誰も口を開いていない。
さっきからずっとこんな感じだ。


垣根「おい、御坂。何だこれは?」

御坂「何が?」

垣根「何がじゃない。何でここにお前らがいるんだ?」

インデックス「いたら悪いの?」

垣根「悪いだろ。客でもねぇのにくるんじゃねぇよ」

御坂「うるさいわね。今それどころじゃないのよ」

御坂が腕を組んで言った。

俺は今、テーブルの横に立っている。
ソファーには、上条とインデックスが隣同士で座っている。
御坂はその前に向かい合って座っていた。

俺が三人を見ていると、上条が恐る恐る俺の表情を見る。
さっきの会話で俺が今の状況を、本当に邪魔であると気づいたらしい。

128: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 21:04:25.47 ID:Wpvz2dhCo

上条「あー。やはり、ここはご迷惑になるから私めの家で……」

御坂&インデックス「「 黙ってなさい! 」」

上条「はい!」

「はい」じゃねぇよ!
そこは押し切れよ! 立場よえーな!


御坂「それに垣根。あんただって関係してるんだからね」

垣根「おいおい、そりゃあまた、愉快な冗談だな。
   言っとくが、俺は仕事でやったんだぜ。もめごととは関係ねぇよ」

御坂「あれだけ、嘘ついておいてよく言うわよ。何が"当麻がここに来て、私に伝言"よ。大嘘じゃない」

垣根「プロは手段を選ばねぇんだよ」

俺はどや顔する。
御坂はその顔を睨みつけていた。


インデックス「それでとーまは結局どっちを選ぶの?」

上条「え?」

御坂「どっちを選ぶかって、聞いてんのよぉ!!」

御坂がテーブルを叩く。
それに反応して、上条の体がびくりと動いた。

129: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 21:05:08.86 ID:Wpvz2dhCo

垣根「おい! テーブル壊すなよ!」

上条「……」

上条「……」

上条「ごめんなさい」

御坂「謝れてなんて言ってないでしょ!」

御坂の体から電気が発生した。

垣根「電撃はやめろよ」

頼むから。

インデックス「とーま、別に私たちは謝って欲しくないんだよ。ただ、選んで欲しいだけなんだよ」

上条「……」

上条「……上条さんの意見を聞いてもらっていいでしょうか」

御坂とインデックスは無言で上条を見ている。
話をしろという合図だ。

142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:30:41.52 ID:Wpvz2dhCo
アップし過ぎwww



上条「三本の矢というお話なんですが」

上条「一本の矢だと簡単に折れてしまうが、三本の矢だとなかなか折れないんですよ」

上条「つまり、上条さんが言いたいことはですね」

御坂「言いたいこと、何かしらね?」

インデックス「凄く気になるんだよ。とーまがこの先どんな戯言を言い出すか、すごーく気になるんだよ」

上条「……」

上条「……何でもありません」

え? 三人仲良くしようとでも言うつもりだったのか?
その言い訳はかなり無理だろ。

あれ? ていうか、上条がさっきから丸く収めようとしているが、この上条が選べない理由って。
俺に一つの可能性が思い浮かんだ。

143: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:32:40.53 ID:Wpvz2dhCo

御坂「あーん、もう! 早く選びなさいよ!」

垣根「ちょっと待てよ」

御坂「何よ」

垣根「お前らそろいもそろって馬鹿なのか?」

インデックス「どういう意味なんだよ?」

垣根「こいつが選べない理由は他にあるんじゃないのか?」

御坂「は?」

垣根「よく考えろよ。こいつはフラグ建築士なんだぜ」

垣根「お前ら二人以外にもフラグ立たせてるんじゃないのか?」

御坂とインデックスが意表を突かれたような顔する。
いや、こんなことこいつの行動からしたら、十分考えつくことなんだが。

垣根「だろ?」

垣根「つまり、お前ら両方とも本命じゃないんだよ」

御坂「……」

インデックス「……」

垣根「こいつは笑えるな。実は本命はここにいない第三者だった……」

俺が言い終わる前に御坂がボディブロー、インデックスが顔面にパンチをしてくる。
俺は耐えることもできず、そのまま床に沈んでいった。
床でのた打ち回るっていると、上条が体をがたがたと震わせながら御坂たちを見ていた。

146: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:34:59.14 ID:Wpvz2dhCo

くそ、なんで俺が殴られなきゃいけねぇんだ!
本来なら上条がこうなるはずだろうが!
いや、こいつは今からか。


インデックス「とーま、今の話本当なのかな?」

御坂「あんた、いったい何人とちちくり合ってるのよ」

上条「いや! それは誤解だ! 他の人とは一切ありませんよ!」

御坂「……」

インデックス「……」

上条「……」

御坂「ま、いいわ。ここであんたが選べばいいことだし」

上条「ひっ!」


それから、上条は何も答えない。
きっと慎重に答えを選んでいるんだ。
ここで間違えれば、死亡確定。
頼むから、うちの事務所じゃないところで殺しはやってくれよ。

御坂とインデックスは待っている。
上条はまだ黙っている。沈黙は続いていた。
上条、あんまり沈黙が長いといらない誤解を招くぞ。
しかし、沈黙破ったのは上条ではなかった。

147: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:36:08.78 ID:Wpvz2dhCo

インデックス「……わかったんだよ」

インデックスは力のない声で言った。
さっきまでの怒りは嘘のような声だった。
表情もどこか安らかになっている。


御坂「何がよ?」

インデックス「とーまが苦しがってるのがよくわかったんだよ」

上条「……インデックス?」

上条の表情が変わる。
インデックスの言っている意味がわからないといった様子だ。
だが、さっきまでとは雰囲気が違うことはわかったようだ。
実際、俺もそれだけしかわからない。ここにきて、なぜそんな言葉を言ったのかが。
御坂も何か考えている顔だ。


インデックス「結局、私はとーまの重荷にしかならないんだよ。
       とーまは短髪と幸せになってね。私はイギリスに帰るから」

上条「おい、お前、何言ってるんだ?」

インデックス「さよなら」

インデックスはそれだけ言うと、振り向かずに事務所を出て行った。
上条は表情が引き締まる。
御坂は相変わらず考えた顔していたが、急に「あっ!」と何かがわかったらしく、声をあげた。


上条「待てよ! インデックス!」

御坂「当麻!」

御坂が駆け出した上条を止める。
上条は事務所の入り口で足を止めた。

上条「……ごめん、御坂。やっぱり俺、インデックスを見捨てられない」

上条は事務所から出て行った。一度も振り向かずにそう言い残して。

151: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:45:01.33 ID:Wpvz2dhCo


元気のない御坂がソファーに座っていた。
俺は御坂の前に座った。


垣根「お前の負けだよ」

垣根「昔の話にあっただろ」

垣根「二人の母親が子どもを引っ張りあって、引き勝った方が母親であると言われた」

垣根「でも、それは間違いで、苦しがる子どもに対して、先に手を放した方が本当の愛情であるってやつさ」

御坂「……負けたわ」

垣根「わかったか」

御坂「あの子はそのことを知っていて、わざと手を放したのよ」

初め、御坂の言葉の意味がわからなかった。
え? なんだって?
俺はもう一度頭の中で御坂の言葉を繰り返してみた。
つまり……え? まさか。

152: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:46:06.50 ID:Wpvz2dhCo

御坂「放した方が勝ちって知っていたのよ、あの子は」

垣根「……計算だったのか?」

御坂「当たり前じゃない」

この時、俺はインデックスが出て行った後、御坂が何に対して声をあげたかを理解した。


御坂「しかも、その場に留まらず、イギリスに帰るとまで言ってるし」

御坂「あいつは……上条当麻は、困った女の子にほどつられてしまうという性質を持っているわ。そこも巧み利用している」

垣根「……」

御坂「しまった。押せば、倒れると思っていたのが単純すぎだった」

御坂は本当に悔しそうな顔した。
だが、俺はどうしてもその御坂に同情できなかった。
お前らはもうちょっとピュアな恋愛ができないのか?

いや、というよりも、なにこれ?
そもそもここでやる必要ないじゃん。付き合わされた俺が一番かわいそうじゃん。

153: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/12(土) 23:48:54.06 ID:Wpvz2dhCo

垣根「そうか。お前らのことはよくわかったから、もう帰れ」

御坂「は? 冗談? 失恋少女がいるんだから紅茶の一杯ぐらい出しなさいよ」

垣根「失恋した割には元気だな、おい」

御坂「早く」

垣根「なんてわがままな」

御坂「濃いのでお願い。十分くらい置いといて」

156: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:00:26.65 ID:9DbYP291o

今俺は給湯室にいる。
何で俺が。
そう思いながら、俺はお湯を沸騰させて、紅茶のティーパックをカップの中に入れた。

リプトンでいいだろ。贅沢は言わせない。
十分くらい置いとけって言ってたけど、かなり濃くなるだろ。
というより、冷めるぞ。温いのが好きなのか?

十分後……ではないが、大体十分後にティーパックを取ると、俺はソファーに戻る。
御坂は相変わらず、元気がないようだった。
頭がうなだれている。だが、よく見ると、それだけではなかった。
目が少しだけ赤くなっていた。

泣いてたのか?
よくわからんが、目も潤んでいるような気がするな。
そこで俺は紅茶を濃くしてくれという意味がわかった。

時間が欲しかったのか。
俺は御坂の横に来ると、紅茶を渡した。


垣根「おらよ」

御坂「あ、ありがとう」

御坂は紅茶を一口飲む。
すると、額に皺を作り、表情を歪める。
本当は濃い紅茶なんか飲まないんだろう。
御坂は何も言わない。ただ、無表情にカップの中の紅茶を見ていた。

159: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:02:00.45 ID:9DbYP291o

垣根「あれだよ」

俺の声に御坂が反応する。

垣根「恋は一度っきりとは思うなってことだよ」

御坂「……」

垣根「また、いつかするんじゃねぇの」

御坂は俺の顔を見て、意外そうな顔した。
そして、少しだけ笑って言った。

御坂「……似合わない」

垣根「おい、人がせっかく慰めてあげてるのにだな」

御坂「全然、慰めの言葉になってない」

垣根「うるせーな」

御坂「でも……」

垣根「何だ?」

御坂「別に」

それから、御坂はまた黙った。
俺も何も言わなかった。別に言うことがなかっただけだが。
俺はそろそろ自分のデスクにでもついて、仕事をしようかと御坂から目を離した時だった。
御坂が話しかけてきた。

162: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:08:37.36 ID:9DbYP291o

御坂「ねぇ」

垣根「何だ」

御坂「たまに、ここに来ていい?」

御坂は両手でカップを転がしながら言った。
こいつの性格からして、この言葉を言うのはかなり恥ずかしかったんではないだろうか。
それでも、言ったということは。

こいつとしては、失恋して寂しいんだろうな。
そんな気がした。
俺は御坂に言葉をかけてやった。
俺の今の思っていることを素直に。


垣根「駄目。お前は仕事の邪魔」

まあ、当たり前だ。
だって、本当に邪魔なんだからな。

168: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:15:05.55 ID:9DbYP291o


御坂「な! ちょっとここは"いつでも来い"とか言うのが常識でしょ!」

なぜこいつはこんなに図々しいのだろうか。
つーか、落ち込んでたんじゃないのか。

垣根「何だそりゃ。知らんよ、そんな常識」

御坂「むかつく。やっぱむかつくは、あんた」

垣根「それ飲んだら、とっとと出ていきな」

御坂「くそ~」

御坂「……」

御坂「……わかったわ」

御坂「でも、忘れないでよね。お金はまだ、返してもらってないんだから」

垣根「は? だから、あれは修理代でチャラだろ」

御坂「ならないに決まってるでしょ! とにかく、返してくれるまで毎日でも来てやるわ!」


御坂が勢いよく紅茶を飲んだ。
その後、なんかむせてた。

しかし、俺は。
とんだ奴に目をつけられたな。

175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:29:38.08 ID:9DbYP291o


『最終章 新入り』




とある晴れた午後。
俺はコーヒーを飲みながら、事務所の椅子に腰を掛け、窓からこの学園都市を見ていた。
学校が終わったのだろうか、人通りが多くなっている。
それぞれが授業というものから解放されて、どこかテンションが高そうだ。


御坂「ねぇ」


俺はまたコーヒーを一口飲む。
窓から走っている女生徒が見えた。
白い息を吐きながら、通行人の間を抜けて行く。
何をそんなに急いでんだ。
もっとゆっくり歩いて、周りを見てみろ。
世の中、走るだけだと大切なものを見過ごすぜ。

俺は事務所の壁を見た。
少し前までは未元物質によって塞がれていた壁が直っていた。
これでやっと元通りだ。


御坂「ねぇってば」


さっきからうるせぇな。

垣根「何だよ」

御坂「案外、暇ね」

御坂は真顔で言った。
なぜこいつは人の気にしていることをズバリ言うんだ。

178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:38:37.04 ID:9DbYP291o



御坂「あんた、暇な時、何やってるの?」

垣根「……」

御坂「ねぇってば」

垣根「うるせぇな。何でお前が普通にいるんだよ」

御坂「いいじゃない。暇なんでしょ」

垣根「アホ言うな。こう見えても俺は暇じゃないんだよ」

御坂「どこが? どういう風に?」

垣根「……」

御坂「暇じゃん」

垣根「とにかく、ここは仕事場なんだ。ガキが遊びに来ていい場所じゃねんだよ!」

御坂「な、ガキじゃないわよ!」

181: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:44:00.99 ID:9DbYP291o

御坂とそんなやり取りをやっていると、ドアベルの鳴る音が聞こえた。

垣根「お、客が来たな! ほら、お前はもう帰れ」

固法「あの~」

垣根「いらっしゃいませ! かきね相談事務所へようこそ!」

御坂「変わり身早いわね」

固法「あの、相談があるんだけど」

垣根「はいはい、まずは中へどうぞ~」

固法「ええ」

183: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:48:52.44 ID:9DbYP291o
俺は依頼人を中に通し、お茶を出した。

垣根「まずはお茶でもどうぞ~」

固法「ありがとう」


その女はソファーに腰を掛けた。
眼鏡をかけて、なかなか鋭い目つきをしている。
クールビューティーというやつだろう。
髪の長さは御坂よりも少し長めだったが、御坂と違い、
落ち着いて椅子に座っている様子は間違いなく、高校生といった感じだ。
何より上半身の制服から盛り上がった部分が、中学生だとするとありえない大きさだった。


御坂「固法先輩!」

固法「あら、御坂さん」

垣根「ん? 知り合いか?」

御坂「そうよ」

固法「何で御坂さんがここに?」

御坂「実はこいつにここの事務所を手伝うように言われて」

垣根「おい」

こいつはまた、とんでもないことを口走ってるな。

184: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:50:41.26 ID:9DbYP291o


固法「そうだったの」

垣根「……」

御坂「それで固法先輩は、今日なんで来たんですか?」

固法「ええ、実は……」

垣根「ちょっと待て。勝手に話を進めるな!」

さすがにそれ以上は俺も黙ってられない。
何で、俺を差し置いて、こいつは話を進めているんだ。

御坂「いいじゃない」

垣根「よくねぇよ。おら、あっち行ってろ」

俺は口で「しっしっ」と言いながら、片手を御坂に向けて払った。

御坂「ちょっと、犬を追い払うみたいにしないでよ」

固法「……」

垣根「悪いな。ちょっとおかしいんだ、こいつ」

御坂「何よそれ」

垣根「うるせぇな。だったら、俺にもお茶をくれ」

御坂「はぁ? 何で私があんたにそんなことしなくちゃいけないのよ」

垣根「手伝いに来たんだろ?」

御坂「……」

御坂「……ちっ」

185: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:51:26.69 ID:9DbYP291o

観念したのか御坂は割と素直にお茶を入れに行った。
こうでもしないと、あいつが邪魔で話が進まないからな。
ていうか、あいつはお茶のある場所とか知っているんだろうか。
ま、知らなくても探すだろう。むしろ、たくさん時間をかけて探してくれ。
俺はようやく仕事を開始できた。

俺は固法(と御坂は呼んでいたが)に顔を向けた。
固法は少し引いた表情でこっちを見ている。

もしかして、さっきのやりとりを変に思われたか?
やっぱり、あいつは仕事の邪魔だな。


垣根「悪いな。それで相談というのは何だ?」

固法「ええ、実はこれを見て欲しいんだけど」

そう言って、固法は一つのバッグをテーブルに置いた。
女が使うハンドバッグのようだが。

垣根「これは、バッグか?」

固法「ええ」

垣根「ヴィトンのバッグだが……」

俺はそこまで言って、このバッグを出した意味がわかった。

垣根「なるほどな」

固法「わかった?」

垣根「パチモンだな、これは」

固法「そうなのよ」

垣根「よく作られてるが、やはり雑だな」

固法「ええ」

186: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:51:53.26 ID:9DbYP291o

垣根「これはどこで手に入れた?」

固法「ネット通販よ」

垣根「ほう」

固法「少し安い値段で売っていたから、買ったの」

垣根「そうしたら、偽者だったってわけか」

固法「そういうことね」

垣根「それで依頼はどうするんだ? 何をして欲しいんだ?」

固法「ここの会社の場所を見つけて欲しい」

垣根「見つけて欲しいか……通販したHPはないのか?」

固法「ないわ。それにHPがあったところでネットの住所はでたらめよ」

垣根「なるほどな。オーケー、探してみるか」

固法「できそう?」

垣根「何とかなると思うぜ。とりあえず、その会社の名前と細かい情報をこの紙に書いてくれ」

固法「わかったわ」

固法は細かい情報を書き始めた。
俺がそれを見ていると、横から急に声がした。

187: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:52:18.17 ID:9DbYP291o

御坂「今回の依頼は、詐欺集団を見つけるのね」

垣根「安心しろ。お前には関係ない」

俺は即答する。

御坂「冷たいわね」

当たり前だ。本当に関係がない。

固法「書いたわ」


俺はその紙をもらった。
紙には会社の消えたHPのアドレスといつ、いくらの金額で、どういったやり方でこのバッグを手に入れたかが書かれていた。
俺は紙を見ながら、一つ気になることを聞いた。

189: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:52:44.22 ID:9DbYP291o

垣根「ところで、こういうのもなんだが」

固法「何かしら?」

垣根「うちの依頼料は安くない。固法さんが詐欺集団を見つけてどうするかは知らんが、
   そのバッグ代を返金してもらう金額より明らかに高いぞ」

固法「どうも。でも、大丈夫。
   今回のことは風紀委員(ジャッジメント)の仕事としてやるから、経費は全額下りるわ」

御坂「あれ、そういうのは警備員(アンチスキル)の仕事なんじゃ?」

固法「確かにそうだけど、それだと私のこの怒りは誰にぶつけるわけ?」

御坂「……」

固法「そういうことで、この件は風紀委員で片付けるわ。
   私に偽ブランド買わせたことを後悔させてやる」

つまりは私怨もあるわけね

固法「それじゃあ、宜しくね」

垣根「ああ」

191: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:55:01.44 ID:9DbYP291o


俺は一通り、固法の資料に目を通し終ると、それをバインダーに収め、デスクから立ち上がった。
今から外へ行き、依頼の犯人どもの情報を集めに行く。


垣根「さてと、そろそろ行くか」

御坂「どこに?」

垣根「情報を集めにだ。ということで、お前は帰れ。ここも空けるから」

御坂「パソコン使えばいいじゃない」

垣根「はぁ?」

御坂「ネット通販なら逆探知すればいいだけじゃない」

垣根「そんな簡単に言うけどそんなこと……」

御坂が不思議そうな顔をしている。
まるで、逆探知なんてできて当たり前だという顔だ。
そういえば、こいつは電撃使いだったな。


垣根「簡単にできるのか?」

御坂「十分くらい時間があれば」

192: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:56:20.20 ID:9DbYP291o

御坂は笑顔で答えた。
何の含みもない可愛い笑顔だった。
こいつは普段からこういう素直な顔をしていればいいものを、残念な奴だ。
俺は御坂を見て思った。

いや、そうじゃなかった。
今はこいつの顔はどうでもいい。
俺は再びこいつの提案を考えたが、仕事をこいつに手伝わせるのは何か嫌な予感がした。


垣根「やっぱりいい。お前は帰れ。俺は自分でする」

御坂「いいじゃん、別に。歩き回ってると時間使うわよ」

垣根「別にいい」

御坂「……」

御坂「わかったわ」

ん、意外に簡単に納得したな。
もっと粘ると思ったんだが。

193: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:56:56.82 ID:9DbYP291o

垣根「わかったか。じゃあ、帰りな」

御坂「私が情報を調べて、それを固法先輩にただで教える」

垣根「……はぁ?」

御坂「別にいいでしょ。私が勝手にやるんだから」

垣根「よくねぇよ! 全然よくねぇぇぇよ!!」

御坂「何で?」

垣根「何で、じゃねぇ! これは俺の依頼だ!」

御坂「あんたの依頼でも、選ぶのは固法先輩だもん」

垣根「……」

御坂「情報管理を怠るほうが悪い」

なんて奴だ。
どこのどいつだ。こいつを可愛いなんて言った奴は。

御坂「どうする? 私はあんたを手伝うのも固法先輩を手伝うのも、どっちでもいいんだけど~」

垣根「……くそ、しょうがねぇ。今回は特別だ」

御坂「そうこなきゃね」

垣根「……」

御坂「じゃあ、パソコン借りるわよ」

垣根「どうぞ、ご勝手に」

御坂「へ~、結構スペック高いのね」

194: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:57:30.43 ID:9DbYP291o

張り切って仕事をしようとする御坂を見て、不思議に思った。
何でこいつは俺の仕事を手伝うんだ?
正直、手伝うことに何のメリットもない。
確かに十分程度の時間はそう大したことではないが、それでも俺が断ってるのにここまでやるか?
だとすると、こいつがやる理由はどこにあるんだ?

そういえば、たまにレベルの高い能力者でこういう奴いるよな。
自分の能力を試してみたい奴。
俺は御坂に尋ねてみることにした。


垣根「お前、何で俺の仕事を手伝う?」

御坂「え?」

垣根「当ててやろうか。お前こういう普段の生活にはないリスクの高いこと好きだろ」

御坂「え、な、何のこと」

御坂の声が明らかに動揺する。

垣根「暇な日常に刺激が欲しいとか、そんな感じのノリだろ」

御坂「そ、そんなわけ……」

垣根「……」

御坂「……」

御坂「少しは……」

垣根「おい! いいか、これは仕事だぞ! 真剣にやらないならやるな! やるなら真剣にやれ!」

御坂「大丈夫よ! やるからには絶対うまくやるのが私だし。負けるの嫌いだし」

垣根「大丈夫かよ」

195: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:58:29.77 ID:9DbYP291o
俺はとりあえず、御坂を待つことにした。
それから、十分もしないうちに御坂から声がした。


御坂「終わったわよ」

垣根「本当か! まじで早いな!」

御坂「一応、電撃使い(エレクトロマスター)だからね」

垣根「さすが、超電磁砲(レールガン)ってところだな」

御坂「え? 知ってたの?」

垣根「まあな」

当たり前だ。
出入りしている奴くらいは調べる。そこまで平和ボケしてねぇよ。

御坂「ふーん」

垣根「けど、大したもんだな。こんな短時間でできるなんてよ」

御坂「そ、そう?」

垣根「俺が知ってる中でも、ここまでできる奴はそうはいないぜ」

御坂「そ、そう……なのかな」

垣根「どうした?」

御坂「な、何でもない!」

御坂が恥ずかしそうに頬を掻いている。
意味わからんな。

垣根「よし! 後は俺がこの場所にちゃんと詐欺集団がいるかどうか確認してくる」

御坂「わかった」

垣根「それが終わり次第、◯◯のねーちゃんに連絡だ!」

御坂「◯◯って」

196: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:59:09.58 ID:9DbYP291o

次の日、俺はアジトを見つけ、固法に電話をした。
固法は五分程度で俺の事務所に来た。
どうやら、風紀委員の支部がこの近くにあるらしく、固法は風紀委員の仕事をしている途中だったそうだ。


垣根「これが奴らのアジトだ」

俺は詐欺集団のアジトが書かれた紙を渡す。

固法「早かったわね。ありがとう」

垣根「まあな、金は指定した口座によろしく」

固法「わかってるわ」

御坂「固法先輩。このことは黒子たちは知ってるんですか?」

固法「いいえ、この件については、一七七支部の行動範囲外になるかもしれないから、誰にも言ってないわ」

御坂「そうなんですか」

固法「それに私の個人的なこともあるしね」

垣根「今からどうするんだ? 一人で行くのか?」

固法「まさか、警備員に連絡するわよ」

垣根「ま、そうだな」

固法「さすがにそこまで単独行動はしないわ。
   それに私はこの集団が捕まればいいだけだし」

固法はそれからその紙を持って事務所を出て行った。

197: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 00:59:50.90 ID:9DbYP291o

固法を呼んだ時間が遅いということもあって、そこからは客が来ずに事務所を閉めることになった。
御坂はいつもこの時間まではいないのだが、珍しくいた。
今回はこいつのおかげで早く解決したし、何かしてやるか。


垣根「今回はお前のおかげで楽だったし、飯でも食うか? 奢るぜ」

御坂「え、いいの!」

垣根「ああ」

俺は事務所の鍵を持って、出口に向かう。

御坂「ところでさ、今後のことなんだけど~」

御坂が控えめな声で俺に話しかけた。
俺は御坂の言いたいことがわかっていた。


垣根「駄目だ」

御坂「まだ何も言ってないじゃん」

垣根「大体わかる。手伝いたいんだろ」

御坂が黙る。
つまりは当たりということだ。

198: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 01:00:29.47 ID:9DbYP291o

垣根「駄目だな。さっきも言ったが、遊びじゃないんだ」

御坂「でも、戦力としては十分だったでしょ」

ま、それは否定しないがな。

御坂「今後もああいう能力いると思うな~」

垣根「……」

御坂「あとね、HPだけど。あれじゃあ、人来ないよ」

垣根「何!?」

御坂の意外な言葉に俺は動揺した。
あのHPだと、人が来ない? どういう意味だ?

御坂「……それ、まじで言ってる」

垣根「……」

御坂「だとしたら、やばいよ。何で相談事務所なのにあんなにメルヘンチックなの?」

何だそのことか。
だったら、ちゃんと理由があるのさ

199: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 01:01:00.18 ID:9DbYP291o

垣根「あれはだな、女でも来やすいように工夫してあるんだよ」

御坂「いや、見にくいだけだし。HPってまず見やすくないといけないよね
   それにメルヘンにしたら相談事務所ってことがわかりにくくて、宣伝にならないよ」

俺は自分の事務所のHPを思い出してみる。
確かに言われてみればそうだ。
俺の事務所のHPはどちらかというと保育園のHPっぽいしな。


御坂「どうやら、駄目だってことはわかったようね」

垣根「……」

御坂「わかる? 私なら改善できるんだよ」

垣根「……」

御坂「ふふーん」

御坂が得意気な顔をしてこっち見ている。
何かムカツクがあいつが言っていることは正しい部分もある。


スタッフか……。俺は考える。
こいつの言うように、戦力としては悪くない。
性格は置いといて。

ま、安月給で使ってやるか。
この先繁盛したら、スタッフはいるからな。

200: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 01:01:38.91 ID:9DbYP291o

垣根「しょうがねぇな。バイトか研修ってことで雇ってやる」

御坂「やった! じゃあ、早速だけど、今回の報酬は五対五ね」

垣根「何でだ!」

とんでもない発言に俺は思わずツッコんでしまった。

御坂「え? 何が?」

この顔は報酬を当たり前に思ってやがる。駄目だこいつは。

御坂「だって、仕事したのほとんど私じゃん」

垣根「そうじゃねぇ! ここは俺の事務所で所長は俺だ」

御坂「で?」

垣根「分け前は俺が決める。っていうより、お前は月払いの給料制だ」

御坂「何よそれ。じゃあ、頑張っても意味ないじゃん」

垣根「頑張った月にはそれなりに上乗せしてやるよ」

御坂は納得いかない顔をしていたが、「ま、いいか」と言ってあきらめた。

201: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 01:05:19.23 ID:9DbYP291o

垣根「全く」

御坂「ところで気になってることがあるんだけどさ」

垣根「何だ?」

御坂「何でわざわざ事務所の修理は業者に任せてるの? 未元物質で直せないの?」

垣根「ああ、それはな。未元物質で直すと自給自足してるみたいでプライド的に嫌なんだよ」

御坂「何それ」

垣根「この垣根様がそんな情けないことできるかっての」

御坂「ただ、格好つけてるだけじゃん」

垣根「そういうわけだ。もう事務所壊すなよ」

御坂「うん」





    垣根「かきね相談事務所へようこそ!」   完