1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 22:27:59.83 ID:O3UsKtsi0
黒猫「……もしかして、泣いていたの?」

下妹「……」

黒猫「どうしたというの。黙っていたのでは、分からないわ」

下妹「なんでもないです……」

黒猫「何でもないという事はないでしょう。目が、真っ赤よ」

下妹「……」

黒猫「私にも、話したくないことなの?」

下妹「……めるる」

黒猫「えっ?」

下妹「なんでもないです!」
ピューッ

黒猫「あっ……。ちょっと、待ちなさい」
(全く……。いったい何だと言うのかしら)

上妹「メルルのおもちゃ、ですよ」

黒猫「あら、話を聞いていたのね。メルルがどうしたと言うの」

上妹「近所の子たちはみんなメルルのおもちゃを持っているのに、あの子だけ持ってないのです。だから仲間に入れないんだって……」

黒猫「そうだったの……」
(そういえば、こめっとくんのぬいぐるみを随分と欲しがっていたわね、あの子……。明日にでも玩具屋に見に行ってみようかしら)

引用元: 黒猫「……もしかして、泣いていたの?」 



2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 22:29:10.11 ID:O3UsKtsi0
翌日。

黒猫「馬……馬鹿な。仮にも児童向けという触れ込みのアニメだと言うのに……。よくもまあ、こんな価格設定をしたものね。クッ、金に餓えた亡者どもが……。百遍呪われるがいいわ」

黒猫「はあ……。これではとても、買い与えるという訳にはいかないわね。どうしたものかしら」
ションボリ

(でも、それほど複雑な造型というわけでもなさそうね。これならば、私でも作れるかも)

3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 22:30:47.09 ID:O3UsKtsi0
その夜。

カタカタカタ……カタカタカタ

下妹「ねえさま。……ねえさま」

黒猫「あら。起こしてしまったかしら」

下妹「なにをしてるです?」

黒猫「……子供には、関係のないことよ。もう遅いのだから、早くお休みなさい」

下妹「みしんで、なにかつくってるですか?。みせてほしいです」

黒猫「駄目よ。資格のない者が目にすると、永遠の闇に閉ざされてしまうわ」

下妹「なにをいってるです?」

黒猫「……これを見てしまったら、夢にお化けが出てくるわよ」

下妹「ひいい」

黒猫「分かったら、早く寝る事よ」

下妹「はいぃ」

トコトコトコ

(ふう、行ってくれたようね)
(今見せて、もし上手く出来なかったら、とてもがっかりさせてしまうだろうし……。それにしても思った以上に複雑な造りをしているわね、この生命体は……。今夜は徹夜かしら)

カタカタカタ……カタカタカタ……

4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 22:32:21.08 ID:O3UsKtsi0
数日後。

トゥルル……トゥルル……ガチャ

桐乃「もしもし?あたしだけど」

黒猫「……ごきげんよう」

桐乃「どうしたってのよ。いつもにも増して声が暗いじゃん」

黒猫「何でもないわ……疲れているだけよ。あなたと違って、私は忙しいの」

桐乃「ふーん。ま、何だっていいけどさ。ところでアンタ、週末のイベントどうすんの」

黒猫「……イベント?」

桐乃「ちょっと。忘れたっての?一緒に行くって約束したじゃん。沙織も行くって言ってるし」

(私としたことがうっかりしていたわ。でも、その日は妹たちを遊びに連れて行く約束をしてしまったし……)
黒猫「私は行かないわ」

桐乃「は?ちょっとアンタ何言ってんの」

黒猫「そういつもいつもあなた達のレベルに合わせて行動するという訳には行かないの。私の強大な魔翌力を、あなた達一般人が耐え得るレベルにまで抑制するということがどれほど大変か、想像してみるがいいわ」

桐乃「言ってるイミが分かんないんですけど。要するに来ないってこと?」

黒猫「……何度も同じことを言わせないで欲しいわね」
ガチャ ツーツーツー…

桐乃「はぁ?……何なのよアイツ。アッタマきた……!あのクソ電波猫、もう二度と誘ってやんないんだから」

5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 22:33:54.11 ID:O3UsKtsi0
(ふぅ……)

下妹「ねえさま。けんかしたですか」

黒猫「!!……何でもないのよ」

上妹「最近の姉様、何だかいつも眠たそう」

黒猫「何でもないと言っているでしょう。さあ、今から食事の支度をするのだから、あっちへ行って頂戴」

上妹・下妹「はぃい……」

(妹たちに見られないように深夜まで作業をするのが、さすがにこたえて来たようね……。でも、あと数日もあれば何とか……)

6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 22:37:04.28 ID:O3UsKtsi0
約束のあった日。

黒猫「……今日は、楽しかった?」

上妹・下妹「はぃい!!」

黒猫「そう。よかった……」
(そう言えば、桐乃たちと行く事にしていたイベントの会場もこの近くね。もうそろそろ終わった頃かしら……)

下妹「!!めるる、めるる~!」
タタタッ

(!ここはあの玩具屋……目に毒だったわね。他の道を通れば良かった……)

沙織「おや?黒猫氏ではござらんか。これは奇遇でござるな」

黒猫「!!あ、あなた達……」

桐乃「クソ猫……!アンタ何やってんのよ、こんなとこで」

黒猫「何って……ふ、ふ。人間風情の知る必要もないことよ、そんなことは。あ、あなた達こそどうしたというの」

桐乃「アンタ、頭大丈夫?イベント帰りに決まってんじゃん」

黒猫「そ、そう言えば今日だったかしらね」

沙織「むむ?あれなる御婦人がたは、ひょっとして黒猫氏の妹御でござるか?」

黒猫「!!」

桐乃「え?どれどれ……わ!アンタそっくり!そしてアンタなんかより全然可愛い!!」

沙織「なるほどなるほど。拙者たちとの約束を反故にしたのには、こういう理由がござったか」

黒猫「ち、違うのよ。私はただ……」

トコトコトコ
下妹「ねえさま、ねえさま。こめっとくん……」

桐乃「ちょ、この子メルル好きなの?アンタと違って見る目あんじゃん!」

下妹「……ねえさま、このひとたちはだれです?やみのじゅうにんですか?」

黒猫「い、良い子だから黙って居なさいな、この子は……」

桐乃「……ちょっとアンタ、いったいこのいたいけな妹達に何吹き込んでんのよ」

黒猫「と、とにかく私達は先を急ぐから、今日のところはこの辺で……」
ソソクサ

7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 22:44:34.36 ID:O3UsKtsi0
沙織「行ってしまわれましたな」

桐乃「相変わらずよくわかんないヤツ。でも、あんな可愛い妹たちがいたとはね~。正直羨ましいわ」

沙織「下の妹御は、こめっとくんに御執心のようでござったな」

桐乃「え?ああ、そういえばずっと見てたわね。あんなに欲しがってんだから買ってあげりゃいいのに。マスケラのDVDなんか買ってるヒマがあるんだったらさ」

沙織「まあまあ。このこめっとくん人形は出来もよいですが、値段の方もそれ相応ですからな。色々と事情もあるのでござろう」

桐乃「……アタシ、いい事思いついたんだけど」

沙織「?」

桐乃「アタシ達でさ、あの子にプレゼントしたげようよ。きっと喜ぶよ~」

沙織「む?それはしかし、まず黒猫氏に断るべきではござらんか?」

桐乃「いいっていいってあんなヤツ。放っといても。でさ、アタシがプレゼントしてあげたらさ、アタシが本当のお姉ちゃんだったらいいのに?なんて、なつかれちゃったりしてさ~!」

沙織「ふむむ」

桐乃「あ~、そしたらアタシあの子ギュッと抱きしめてやるんだ~!すいませーん、あのショーケースに飾ってあるこめっとくんくださーい」

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 22:55:05.61 ID:O3UsKtsi0
翌日。

黒猫「ふぅ……。ようやく完成したわ。我ながら、それなりにいい出来だと思うのだけれど。後は今晩、これをあの子の枕元に……」

ピンポーン

(あら?誰かしら)
黒猫「はい」

宅配便でーす

(いったい何かしら。宛先は五更瑠璃……の、妹さまへ、ですって?差出人は……桐乃と沙織じゃないの。何のつもりだと言うの……)

下妹「ねえさま。だれかきたです~?」

黒猫「あ、あなたに、届け物のようよ」

下妹「とどけもの?」

黒猫「……とにかく、開けてみるわね」
ビリビリビリ

黒猫「!」

下妹「!!めるる!めるる~!!」

(こ、これは、あのこめっとくん人形じゃないの……。どういうこと?)

下妹「ねえさま、ありがとうです!うれしいです~」

黒猫「え、ええと、それは私ではなくて……」

下妹「?」

黒猫「だからそれは、私があげるものではないのだけれど」

下妹「これ、もらっちゃいけないですか……?」

黒猫「!……いえ、そんなことはないのよ。それはもう、あなたのものよ」

下妹「わぁぁい!」

(ど、どうなっているというの)

下妹「めるる、めるる~」

(あんなに喜んで……。これで、良かった……のよね……)

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 23:09:46.87 ID:O3UsKtsi0
黒猫の部屋。

(どうやら、あなたは用済みになってしまったようね……)

(ふ、ふ。さっきまでは我ながら上手く出来たと思っていたのに、こうしてみるといかにも不格好……。それなのに私と来たら……全く滑稽だわ。あの子もこんな不格好なニセモノをプレゼントされていたら、きっと悲しかったでしょうね……)

(これで、これで良かったのよ)
ションボリ

(!!そうだわ。こうしてはいられない……。これがあの子たちに見つかったら、話がややこしくなってしまうもの。見つからないように、どこかへこっそり捨ててこないと……)

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 23:13:35.88 ID:O3UsKtsi0
近所の公園。

黒猫「この辺りなら、大丈夫そうね……」

ガサガサ
(さようなら。こんなところで朽ち果てるなんて、お前も可哀想……。私のことなら、いくらでも呪ってくれて結構よ)

京介「あれ?黒猫じゃねーか。こんなとこで何やってんだ?」

黒猫「!!」
ガサッ

京介「そういやお前ん家ってこの辺だっけ。……って、今その紙袋に何隠したんだ?」

黒猫「……な、なんという不躾な人間なのかしら、あなたは。私が何を持っていようと、何の関係も……何の関係もないでしょう」

京介「いや、そりゃそうなんだけどさ。様子が尋常じゃあなかったしよ……。何かあったのか?俺でよけりゃ、相談に乗るぜ」

黒猫「関係ないと、言っているでしょう!」

京介「!お、おい。待てよ。待てって……」
ガッ ビリッ

黒猫「!!」

京介「わっ、悪い。紙袋破いちまった」

黒猫「離して」

京介「?……おい、これって確かメルルの……」

黒猫「……」

京介「何でお前がこんなもの……」

黒猫「だから、あなたには、か、かんけい……」

京介「?……お前」

黒猫「……」

京介「もしかして、泣いてるのか?」

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 23:21:46.11 ID:O3UsKtsi0
30分後。

京介「そうか。なるほどなー、そういう訳だったのか」

黒猫「……つまらない話を、聞かせてしまったわね」

京介「いや。そうか……。黒猫」

黒猫「な、何」

京介「すまなかったな」
ペコリ

黒猫「?……どうしてあなたが、謝るの」

京介「いや、ま、俺の妹がやらかしたことだからさ……。でも、今回の事に関しちゃアイツも悪気があったわけじゃないからさ。許してやってくれないか」

黒猫「分かっているわよ、そんな事。大体、許すも何も、誰一人悪い訳ではないのだもの」

京介「だからこそどこにも気持ちの持って行きようがなくて、つい泣いちまったってわけか」

黒猫「下世話な詮索は無用というものよ。さあ、もう話は終わったのだから、その人形を返して頂戴」

京介「ふふ」

黒猫「……何を笑っているの?」

京介「お前ってほんとに優しいんだな」

黒猫「な、何をたわけたことを。人間風情に、何が分かるというの」

京介「手先が器用だってのは前から知ってたけどよ。それだけじゃこんな丁寧な仕事、できねーよなー…。ひと針ひと針、妹のこと思いながら作ったんだろ?これ。そういうのって分かるもんなんだよな」

黒猫「……でも、その子は要らない子よ。私と同じ……」

京介「お前、今なんつった?」

黒猫「何でもないわ。さあ、その子を返して頂戴。これから闇に還すのだから…」

京介「返せねーよ。お前、一生懸命作ったんだろ?妹を喜ばせたくて、徹夜で頑張ったんだろ?なのに、捨てちまっていいのかよ!」

黒猫「返して!」
ガッ

京介「黒猫……」

黒猫「あなたの言うとおり、私は一生懸命やったわ。でも、そんなことには何の意味もないのよ。結果的に私の妹を喜ばせることができたのは、あの女……可愛い可愛いあなたの妹。どんなに化粧をしても、ニセモノは本物に敵わない。あなたがどんなに努力をしたところで、あなたの妹に敵わなかったように」

京介「お前……」

黒猫「傷つけてしまったのなら、謝るわ。でも本当のことよ。私たちがどんなに努力したところで、所詮手が届くのは不格好なニセモノ。優しさだの愛情だの、そんな美名で出来損ないを押し付けられたのでは、貰った方も迷惑というものよ。だからこの子は、この子は……誰にも知られることなく、闇の片隅で、その命を終えるしかないの」
ブンッ

京介「!!」

黒猫「ふ……ふ。あの薮の中なら、見つけられることもないでしょう。これで……これで、良かったのよ」

ダダッ

黒猫「!?な、何をしようというの」

京介「決まってんだろうが。探してくるんだよ!」

黒猫「ば、馬鹿なことを。もう辺りは真っ暗よ。大体、そんなことをしても誰も喜びはしないわ……」

京介「このままだったら、俺が悲しいんだよ!いいからそこで待ってろ!」
ガサガサガサ

黒猫「……余計なことを……」

13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 23:27:20.89 ID:O3UsKtsi0
30分後

(遅いわね……。まだ探しているのかしら)

(随分と力を込めて投げたから、どこまで飛んでいったものやら……。おまけにこの暗さでは、見つからなくて当然だというのに)

(……そういえば、あの薮の奥には確か、沼があったはず。だから子供が近づかないように金網が張ってあるのだと……)

(まさか……)

黒猫「ちょっと……いつまで探すつもり?あきらめの悪い人間ね……。聞こえているのかしら?」

シーン

黒猫「聞こえているのなら、へ、返事をなさい。どこなの?どこにいるの?聞こえているなら、聞こえているのなら…」

ポフッ

黒猫「!!」

京介「へへッ……。見つけちまったぜ」

黒猫「馬、馬鹿……なんて……」

京介「拾ったんだから、これは俺のものだよな」

黒猫「勝手に……勝手になさい」

スタスタスタ……ピタ

黒猫「……一応」

京介「?」

黒猫「一応、訊いておくのだけれど。この事を、あの女に話すつもり?」

京介「桐乃のことか?いや……ていうか、何でそんなこと訊くんだ?」

黒猫「べ、別に……。ただ、あの女は何も知らずに善行を行ったつもりでいるのでしょうし、真実を知ってしまったら気に病むかもと……。あの女に、そんな人間らしい心性が僅かでもあるとは思えないのだけれども」

京介「ふっ」

黒猫「な、何よ…」

京介「お前って、ほんとに、優しいんだな」

黒猫「あなたに、何が分かると言うの……」

15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 23:41:00.39 ID:O3UsKtsi0
高坂家。

桐乃「ちょっとアンタ。これ、どうしたのよ」

京介「ああ?」

桐乃「こめっとくんよ。アンタが持って帰ってきたんじゃないの」

京介「ああ、それね。拾ったんだよ」

桐乃「は?何ワケわかんないこと言ってんの。これ、どこのメーカーなんだろ……。恐ろしいくらい手が込んでるわ」

京介「へ。お前もそう思うのか。今の台詞、アイツに聞かせてやりてーよ」

桐乃「あーもう、何言ってるか分かんない。まあいいわ。これ、アタシにちょーだい」

京介「……駄目だ」

桐乃「なんでよ。アンタ、メルルに興味ないでしょ」

京介「なんでも駄目だ。その人形だけは誰にもやれねーよ」

桐乃「……キモ。何それ。抱いて寝るつもり?もういいわ、じゃあ勝手にしろっての」

京介「ああ、そうさせてもらうぜ。……ああ、そう言えば桐乃」

桐乃「何。まだ何かあんの」

京介「お前、黒猫の妹にこめっとくんプレゼントしてやったんだってな。黒猫が、ありがとうってさ」

桐乃「ふ、ふん。別にクソ猫のためにやったんじゃないわよ……」

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/02/13(日) 23:45:38.59 ID:O3UsKtsi0
黒猫の家。

下妹「ねえさま。ねえさま……?」

スヤスヤ

下妹「こたつでねてしまったら、かぜひくです」

スヤスヤ

下妹「……となりでねても、いいです……?」
ゴソゴソ
(あったかいです……)

黒猫「……ん……」

下妹「おこしてしまったです?」

黒猫「あら……もうこんな時間なのね……。さ、お布団で寝ましょう」

下妹「もうすこし、こうしていたいです」

黒猫「?」

(ねえさまのとなりでこうしているのが……いちばんしあわせです……)

黒猫「おかしな子……」

(やさしいねえさま……ずっとずっと、こうしていたいです……)

スヤスヤ

黒猫「幸せそうな寝顔……。子供というのは、本当に、無邪気なものね……」

―おしまい―