1: 暗黒史作者 ◆FPyFXa6O.Q 2017/04/02(日) 02:21:47.23 ID:9L/CZpKL0
お断り

本作では、まど☆マギ側の原作設定に就いて
こちらの都合で一つ意図的に変更した部分があります。

かなりの部分、特に前半は原作知識前提の内容になります。

それでは、スタートです

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491067306

引用元: 見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!) 



UQ HOLDER!(17) (講談社コミックス)
赤松 健
講談社 (2018-06-08)
売り上げランキング: 4,394
2: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 02:26:55.80 ID:9L/CZpKL0
==============================







何故






彼女なのか?







何故






彼女は微笑むのか?













3: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 02:32:52.32 ID:9L/CZpKL0








心から









そう思うのなら









魔法少女に









なりなさい





4: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 02:38:26.01 ID:9L/CZpKL0

 ×     ×

「………夢オチ?」

鹿目まどかは、眠たい声で確認していた。
お気に入りのぬいぐるみがあって、
朝の太陽が花柄のカーテンを透かしているいつもの寝室。

ひどく、殺伐とした夢を見たと思った。
廃墟の中で痛々しく、余りにも痛々しく戦い、傷付く少女。
どちらかと言うと子どもっぽいと自覚しているまどかから見て、
長い黒髪の、華奢にも見えるけど何処か大人びて、
そして言い知れぬ悲壮感が突き刺さる少女がいた、そんな夢。

いつもの寝室、いつもの日常の光景を寝ぼけ眼にとらえるだけで、
それは優しい日常の片隅へと遠ざかる。

ーーーーーーーー

「あーさ、あーさっ」

両親の寝室では、三歳になる鹿目タツヤが、
ベッドの布団をぽかぽか叩いて楽し気に叫んでいた。
飛び跳ねヘアーのパジャマ姿で家庭菜園の父への挨拶を済ませたまどかは、
その寝室の引き戸を気持ちよくすぱーんっと開く。

「おっきろぉーっ!!」
「うっひゃあぁーっ!!!」

そのまますぱーんっとカーテンを開き、陽光と共に布団を引っぺがすまどか。
ベッドの上で悶絶する鹿目詢子、まどかとタツヤの母。

「おきたねー」

鹿目家の朝は愉快に始まる。

5: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 02:43:45.36 ID:9L/CZpKL0

ーーーーーーーー

「最近どんなよ?」

洗面台で並んで歯磨きをしながら、詢子は娘に尋ねた。

「仁美ちゃんに又ラブレターが届いたよ、
今月になってもう二通目」
「直かにコクるだけの根性もねぇ男は駄目だ」

母と娘の女子トーク。

志筑仁美は小学校以来のまどかの友人、詢子とも知らない仲じゃない。
ちょくちょく頂くラブレターへの対応に困っている、と言うのも分かる、
ふんわりと気立てのいい可愛らしい本当の意味でのお嬢様。

まどかの担任の早乙女和子は詢子の個人的な友人だったりする。
まどか曰く、何でも和子先生は昨日現在で彼氏の事をのろけまくりなので
ぼちぼち継続期間が新記録、との事だが、世の中そんなに甘くはない。
と、付き合いの長い親友鹿目詢子の直感が囁く。

でもって、問われるままにそんな面々の恋愛模様をお話ししているまどかは
そっちの方には全く以て疎かったりする。
姉御肌の詢子としては、それが歯痒かったり微笑ましかったり。

1、2、3、4、5、6、7、8、9、10

つい先ほどまでの寝坊助が何処に出しても恥ずかしくない、
大人に言わせれば、とてもこれだけの子持ちには見えない
バリキャリ美女にメタモルフォーゼする。
毎朝の事ながら、そんな母の、一人の格好いい女性の姿に、
鹿目まどかは惜しみなく憧憬の眼差しを送る。

6: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 02:47:07.06 ID:9L/CZpKL0

ーーーーーーーー

「どうかな?」
「ああ、いい感じ」
「うん、美味しい」

しっとりとしながら心地よい歯ざわりも残る。
家庭菜園発の茄子の浅漬けは、好評を以て朝食のお供に迎えられた。

まどかの父、鹿目知久は、まどか曰く家事の天才であり、
素晴らしい菜園の主でもあった。
それはそのまま、こうやって白いご飯が美味しい浅漬けに直結している。

まどかの知る限りパン食の時期も長かったと思うが、
何かのきっかけでこうなっている。
どっちにしろ、父の天才っぷりが微動だにしていない事を実感しながら、
まどかはいつも通り美味しい朝食を堪能する。

インゲンの味噌汁にオクラの和え物。
まどかはそのどれもこれも大半が自家製である事に今更ながら感心しつつ、
野菜多めのメニューでもネバネバオクラは元気の素だと
何時ぞや詢子が笑ってウインクしたのを思い出す。

「コーヒー、お代わりは?」
「おー、いいや」

知久の誘いに、時間を確認した詢子がぐーっとコーヒーを飲み干し、
家族とのスキンシップを交わして出勤に就く。
まどかに残された時間も、決して長いものではなかった。

7: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 02:51:06.75 ID:9L/CZpKL0

ーーーーーーーー

朝の通学路で、友人の志筑仁美に母からのアドバイスを伝えたり、
自分には少々派手だ、と思いつつ
気合いの入った母に押し切られる様に装着したリボンを
友人の美樹さやかに手荒く褒められたり。
何時もの様に姦しく、
鹿目まどかは見滝原中学校の自分の教室に到着する。

朝のHRでは、担任の早乙女和子先生が
彼氏に振られて爆発すると言うまどか達にとっては割とよくある光景を経て、
転校生紹介と言うイベントが開始される。

一日の授業を終えて放課後、
まどか達が行きつけのフードコートで一服していた時には、
美樹さやかは快活に大笑いしていた。

確かに、まどかの知る限り今朝初対面の筈の転校生が
夢の中で出会った様な気がしたり、
その転校生が自分に対して何やら意味深に運命的な発言をしたり、
実際たった今まどかがそうした様に、
それをさやかに伝えれば、それはさやかなら裏表なく笑うだろう。

その事はまどかにもよく分かる。
しかも、その転校生がストレートの黒髪も見事な美少女で、
勉強OKスポーツOKのハイスペック万能選手と来たら尚の事。

もう一人、同伴している志筑仁美は、くすくすと可愛らしく笑いながらも、
或は本当に何所かで会った事があるのでは、と、
落ち着いた分析を披露する。

かくして、お嬢様らしくお稽古事に向かった仁美と分かれ、
まどかとさやかは行き着けのCDショップへと足を運んだ。
さやかは、級友である上条恭介へのお見舞いを選ぶのだと言う。

まどかにとってさやかが小学校からの幼馴染なら、
上条恭介とさやかは幼稚園以来の幼馴染。
実際、割と長い付き合いのまどかともそうであるが、
特にさやかとは、男女にしては気の置けない間柄、
それがまどかの知る上条恭介。

8: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 02:54:25.98 ID:9L/CZpKL0

だけどまどかは知っている。
男勝り、お転婆、そう言って、周囲も本人すら、
何処からも否定する声は出ないだろう。

そんなさやかが、何時しか恭介の話をする時に見せる様になった、
それは紛れもなく女の子の顔。
そちら方面には疎い、と自認しているまどかでも
見ているだけで胸の高鳴りを覚える、そんなさやかの表情。

そして今、その表情は些か陰りを帯びている。
それは、別に失恋した訳ではなく、
当の上条恭介が入院してしまったから。

それも、将来を嘱望されたヴァイオリニストの卵である恭介が、
交通事故でまともに動かせない程に左手を痛めた。
その事にさやかは心を痛め、回復を祈っている。
まどかも又、二人の友人として

「………助けて………」

まどかは、CDの試聴を止める。

「………助けて………」
「?、?、?」

聞こえる。
余りのダイレクトさに、当初は試聴していたCDの音声かとも思ったが、
まどかは確かに聞いていた。
それも、頭の中に直接響く様な未体験の救援要請。
戸惑うのも当然だった。

9: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 02:57:59.34 ID:9L/CZpKL0

ーーーーーーーー

「まどか、こっちっ!!」
「さやかちゃんっ!」

まどかは、白煙と共に親友美樹さやかの叫びを聞いていた。
謎の声に誘われる様にショッピングモールからその改築エリアに侵入し、
そこで、半ばボロ雑巾と化した謎生物と、
それを追跡していたらしい謎の転校生暁美ほむらと遭遇した。

今朝、転校生として同じ教室で遭遇したばかりで
少々言葉も交わしているので謎と言う程でもない筈なのだが、

少なくとも今朝彼女が着用していた見滝原中学校のものとは違う学生服、
どう見てもコスチュームプレイの類に見える服装で
狐だか猫だかなんだかよく分からない謎の小動物を追跡している、
でもって虐待している疑いが濃厚なのだから
謎の転校生と言っても差し支えは無いだろう。

しかも、同級生として言葉を交わしたら
尚の事謎が深まるのが暁美ほむらだったりする。

少なくとも美樹さやかはそう受け取ったらしいが、
それでこちらに向けて消火器を噴射すると言う
相変わらずの有り余る行動力決断力にまどかは改めて感心する。
そして、さやかと共に文字通り逃走しながら、まどかは異変に気付いた。

「あれっ? 非常口は? どこよここっ?」

さやかも気付いたらしい、気付かない方がおかしい。

「変だよ、ここ。どんどん道が変わって行く」

10: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 03:01:19.76 ID:9L/CZpKL0

まどかもさやかも、彼女達、中学生に限らず、
実体験としてこの状況を言語化する事は簡単ではないだろう。
強いて言うならば、改装中の殺風景なビルディングを走っていた二人は、
いつの間にか、何やら不気味な絵画の中を思わせる、
そんな得体の知れない奥行き不明の空間の只中に存在していた。

そんな不気味な空間の中で、
まどかとさやかは更に不気味に何かに包囲されていた。
一見すると蝶々の様な。

但し、その大きさは少なくとも人間の子どもに匹敵するバカでかさ、
羽を使って歩行し髭の様な変な飾りがあり。

更に、その化け物蝶に加えて
自律行動するハサミやら鉄条網やらがうじゃうじゃと現れて二人に迫る。
まどかもさやかも、これが自分に対して友好的なファンタジーである、
と受け取る事は出来なかった。

「冗談だよね?
あたし、悪い夢でも見てるんだよねっ?
まどかっ!?」
「?」

叫ぶさやかの横で、まどかは何かを目で追っていた。
何かが二人の側を飛んで、ひゅんっ、と通り過ぎる。

「何、これ?」

さやかが発した問いへの直截な答えは独鈷、と言う事になるが、
生憎、それはさやかの語彙には含まれていなかった。
三口の独鈷が二人を囲み、一口が二人の真上に向かう。
次の瞬間、二人の周囲は衝撃波に飲み込まれたが、
二人は直接的な打撃を感じなかった。

11: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 03:04:50.24 ID:9L/CZpKL0

ーーーーーーーー

「何、これ?」

巴マミも又、問いを発した。
パトロール中、魔女の痕跡を察知して
改装中のエリアに侵入、魔女の結界に突入した。
そして、どうもまずい事になっているらしい、
と察知して救助を急いだ。

そこまでは割とよくある流れだった。
しかし、その地点に到着する少し前に強烈な攻撃が行われた。
そして、到着した時には、
桜花の余燼を僅かに残し、
獲物に群がっていた少なからぬ使い魔は見事に一掃されていた。

「危ない所だったわね」

抱き合って震えていた二人の後輩に、マミは声を掛けた。

「その制服、あなた達も見滝原の生徒なのね。二年生?」
「あなたは?」
「自己紹介したい所だけど、今はそれどころじゃないわね。
使い魔は魔女と一緒に引っ込んだ? 確かめなきゃいけない事がある」

ぶつぶつ呟く先輩を、まどかとさやかは怪訝そうに眺める。

「弱まってる今なら、あっちに逃げたら逃げられるから。
後でお話ししましょう」

そのまま、マミは結界の奥へと走り去った。

(新手の魔法少女? 確かめないと………)

「うひゃあっ!!」
「さやかちゃんっ!?」

まどかがさやかの視線を追うと、そちらでは長く艶やかな黒髪が翻っていた。
まどかは何かを言おうとしたが、
取り敢えず、たった今告げられた先輩からの助言を
正反対に無視して突っ走るさやかを追跡するのが先だった。

12: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 03:08:20.23 ID:9L/CZpKL0

ーーーーーーーー

「どうしてここにいるのかしら?」

後輩にたった今言われた事を真正面から無視されては、
マミの声に怒りがこもるのも無理からぬ所だった。
さやかもまどかも、それはよく分かる。

「い、いや、その、あっちに敵がいた、と言いますか………」
「そう。じゃあ、ここを動かないで」

マミはすっぱり会話を切り上げ、正面を見る。

「見て、あれが魔女よ。
さっき、あなた達を襲っていたのは使い魔。
魔女を倒せば使い魔も消える」
「倒す、って………」

三人がいるのは、得体の知れない空間の中で、
ホールの中二階に繋がる通路、
そのホール入口周辺、の様な場所だった。
そして、そのホールのど真ん中に巨大な怪物がいる。
その形状は辛うじて蝶々と何か、と呼べる意味不明な代物で、
少なくとも一人の少女が「倒せる」相手には見えない。

「下がってて」

マスケット銃で床を突き、二人の後輩をバリアで守ったマミは、
そのまま人間離れした跳躍でホールの真ん中に降下した。

(いる………)


真正面に薔薇園の魔女、周囲に使い魔、それはいい。
問題は、

13: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 03:11:45.09 ID:9L/CZpKL0

(もう一人、いる)

マミは、その事を察知していた。
魔女や使い魔ではない、恐らく自分達と近い存在。
それがこの近く、このホール内にいる筈だが、
現時点では視界に入らない、敵か、味方か?

マミは少々の苛立ちを交えて小さな使い魔を踏み潰し、
憤激した魔女の椅子アタックを交わし砲火を交えて
戦いの火蓋は気って落とされた。
使い捨てのマスケットが次々と火を噴き、
マミにとっては順当に魔女を追い込んでいく。

「ああっ!!」

美樹さやかが叫び声を上げた。
状況的に言って自分達を助けてくれた、
そして、魔女と言うらしい化け物相手にも
不思議な技で丁々発止対抗していた謎の先輩。

そんな先輩に使い魔なるものが群がり、
その使い魔の群れはぶっとい蔓と化して先輩をぶうんと持ち上げ、
ホールの壁に叩き付けていた。

実の所、これもマミにとっては想定内の出来事だったが、
次の瞬間に異変は起きた。

「?」

自分を締め付ける力が緩み、マミは訝しむ。
見ると、蔓は根本から切断され、
そのままバラバラの使い魔の死体と化して消滅していった。

14: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 03:14:48.68 ID:9L/CZpKL0

(見つけた)

マミが、心の中でひとりごちる。

どちらかと言うと小柄な少女、
背負っている筈が背負われている様な馬鹿でかい刀、
見る人が見れば野太刀と分かる代物を携えている事が、
彼女をより小柄に見せる。

そんな少女が不意にマミの視界に現れ、魔女に一撃加えていた。

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!」

距離を取った魔女に瞬時に追いつき、
野太刀の一撃で巨大な魔女を揺るがす。
少なくとも、人間業ではない。

「凄い………」

最初から想像の埒外とは言え、更なる展開に
まどかもさやかも見入っていた。
小柄な少女の背丈程もある巨大な刀。
その一振り一振りが又、
常識外れな衝撃を放って巨大な魔女をぶん殴っている。

「神鳴流奥義・百烈桜華斬っ!!」

舞い散る桜華と共に、強烈な斬撃が魔女を押す。
そして、魔女がホール内の一点に追い込まれている事をマミは見逃さない。
果たして、野太刀少女が大きく飛び退いたそのすぐ後に、
魔女は地面から噴出したリボンによって雁字搦めに拘束されていた。

15: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 03:18:29.30 ID:9L/CZpKL0

ーーーーーーーー

「ティロ・フィナーレッ!!」
「やった………」

到底抱え切れていない巨大な抱え筒が魔女とやらに致命傷を与えるのを見て、
美樹さやかは脱力しながら呟いた。

「さやかちゃんっ」

そして、親友鹿目まどかの声に、さやかは我に返る。

通路にいるまどかとさやかに、ホール側からざしざしと接近して来る者がいる。
それは、たった今までホールにいた筈の、
背丈程もある野太刀を担いだ一人の少女。

さやかと同年代にも思える華奢な少女がそんな野太刀を正確に振るっていた、
その事からして尋常ではないのだが、
今、さやかが感じている彼女の佇まいは戦場の軍人か侍か。
ピン、と張り詰めたものがさやかを震わせる。
こうして見ると色白で端正な顔立ちである事が、
より鋭く、清冽なイメージをさやか達に突き付ける。

まどかとさやかが息を飲んでいる間に、
バリアの境界真ん前で足音は止まった。

16: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/02(日) 03:22:10.91 ID:9L/CZpKL0

「………ケガはありませんか?」

さやかは、目をぱちくりさせてその問いを聞いていた。

「………あ、あのっ………
大丈夫です、有難うございましたっ!!」

ぱたん、と、体を折り、まどかは叫んでいた。

「………良かった………」

顔を上げたまどかは、優しい微笑みを見た。
まどかがそう思った時、小さく礼を返された。
真面目で、そして、少し寂し気な表情をまどかは見ていた。

「あ、えっと、はい大丈夫です、ありがとうございました」

さやかも慌てて頭を下げる。

「あなた、何者?」

背後からの詰問に対しても、
彼女は静かな微笑みと共に振り返った。
振り返りながら何かを摘み上げ、
マスケットの銃口を向けている相手に向けて放り出す。

「見つけておきました、差し上げます。
そちらの邪魔をするつもりはありませんので」
「有難う。他所の魔法少女なのかしら?」
「申し遅れました」

巴マミが真正面から見たその眼差しは、
自分が向けている銃口にも何に対しても余りにも静かで、
マミが息を飲む程に落ち着き払っていた。

「桜咲刹那、退魔師です。
そちらのあなたも、そろそろこちらに加わりますか?」

19: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 01:34:23.22 ID:bWoO1rCm0
==============================

「………あ………」

さやかが周囲を見回す。
得体の知れない空間は現実的な改築中のビルに姿を戻していた。
そして、桜咲刹那の言葉に応じる様に、暁美ほむらが姿を現す。

そして、まどかが気づいた事がある。
今日転校して来たほむらとはその朝のHRが初対面の筈で、
幾度か直接顔を合わせてもいるが、
まどかが知っていたほむらの表情は鉄面皮そのもの。
それ以外の表情は知らなかった。

だが、今のほむらは戸惑っている。それを隠し切れていない。

「まどかぁ」

そして、さやかが小さな声で危険を促す。

「あなた、この子、キュゥべえの事が見えるのね?」

マミは、ほむらを無視する様にまどかに声を掛ける。

「助けてくれてありがとう。この子は私の大切な友達なの」
「は、はい。私、呼ばれたんです。助けて、って、直接頭の中に」
「ふうん、そういう事」

そして、マミは改めてまどか、さやかとほむらを見比べる。

「生憎だったわね、魔女はもう片付いたわよ」
「私が用があるのは………」
「呑み込みが悪いのね、見逃してあげるって言ってるの」

マミが放った威嚇の言葉に、場の空気は再び張り詰めた。

20: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 01:39:47.43 ID:bWoO1rCm0

「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」
「………後悔するわよ」
「次は、お友達になれそうなタイミングで会いたいわ。
お互いのためにも」

微笑みと共に告げたマミに、ほむらは無言のままで踵を返した。

「あなたは………タイマシ、って言ったわね。
魔法少女じゃないのかしら?」
「違うね。僕は彼女と契約した覚えは無いし、
魔法少女とは違う様だ」

マミの問いに答えたのはキュゥべえだった。

「はい、私は退魔師。
あなた達マギカ、魔法少女とは少々別の存在です。
そして、彼女達は救兵衛に見込まれた様ですが、
少し、話をすり合わせた方がいいのでは?」
「そうみたいね」

頭の回転が速い。
桜咲刹那と名乗った少女にその事を感じながら、
マミも最初からそのつもりだった提案に同意する。
そして、まどかに抱かれたキュゥべえに治癒の魔力を施術する。

「助かったよ、マミ」
「お礼はこの子たちに、私は通りがかっただけだから」
「どうもありがとう。僕の名前はキュゥべえ」

キュゥべえはマミとの問答通り、まどかに礼を言った訳だが、
言われたまどかにして見ると、
ぬいぐるみの様な謎の生物が人語を喋っている時点で
その奇怪さに一歩退いてしまう。

「あなたが、私を呼んだの?」
「そうだよ。鹿目まどか、それと美樹さやか」
「何で、私達の名前を?」

名前を呼ばれ、怯みを見せながらさやかが尋ねる。

21: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 01:45:31.19 ID:bWoO1rCm0

「僕、君達にお願いがあって来たんだ」
「お、お願い?」

まどかがやや怖々と聞き返す。

「僕と契約して、魔法少女になってよ」

愛らしく頷き、告げるキュゥべえを
桜咲刹那は涼し気な眼差しで眺めていた。

ーーーーーーーー

「美味しい、マミさんこれ美味しいです」
「これめちゃうまっすよ」
「美味しいです」

マミが一人暮らしをしているマンションのフラットで、
彼女が差し出したシフォンケーキとハーブティーは
三人の訪問者から惜しみない賞賛を以て迎えられた。

キュゥべえに選ばれた以上他人事ではない、
と言う事で、マミはまどかとさやかに
魔法少女に関する基本的な知識を教える。

ソウルジェムから魔法少女、魔法少女から魔女、
願いの対価としてソウルジェムを得て結界に潜む魔女と戦う。
マミとキュゥべえの口から、
世界の秘密の一端がその様に語られる。

22: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 01:51:13.28 ID:bWoO1rCm0

「あの転校生も、えっと、その、魔法少女なの?
マミさんと同じ?」
「そうね、間違いないわ。かなり強い魔力を持っているみたい」

話は進むが、魔法少女同士、正確には魔法少女であるほむらが
契約を司るキュゥべえを襲撃した事に就いて、
まどかとさやかはなかなか理解が出来ない。

「これがグリーフシード、魔女の卵よ」
「た、卵………」
「運が良ければ魔女が何個か持ち歩いている事があるの」

マミが取り出したグリーフシードを、
まどかとさやかは怖々と眺める。

「大丈夫、その状態では安全だよ。
むしろ役に立つ貴重なモノだ」

キュゥべえがそういう中、
マミは再び自分のソウルジェムを取り出し、グリーフシードを近づける。

「見てて」
「あ、綺麗になった」

「こうやって、消耗した魔力を元通りにする。
それが、魔女退治の見返り。
だから、同じエリアに魔法少女が増え過ぎると、
魔女、グリーフシードの奪い合いなんて事も起こる。
それを避けるために、鹿目さんの契約を阻止しようとして………」

「それで、あんな風にキュゥべえを?」

ここまでの行きがかりで、
ほむらに対して余り虫が好かないさやかが非難を込めて言った。

「多分、そういう事でしょうね。ところで………」

その辺りまで黙って聞いていた刹那にマミが声を掛けた。

23: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 01:57:02.05 ID:bWoO1rCm0

「あなたは一体どういう人なのかしら?
助けてくれた事は感謝するけど、退魔師、って」

マミの問いに、刹那が向き直る。

「夕凪」の銘を持つ野太刀を前から肩に掛け、
目を閉じてじっと聞くだけの刹那は眠っている様にも見えたが、
それにしては独特の緊張感を漂わせていたのも確か。

制服と銃士の様な魔法少女スタイルを忙しく行き来していたマミに対して
刹那はカジュアルなパンツにシャツのスタイル。

ロングとまではいかなそうな綺麗な黒髪を
サイドポニーに束ねているのはやや個性的とも言えるが、
それだけに背丈に余りそうな夕凪の、
そしてその普通の格好で魔女を半ばぶちのめした行動の違和感は只事ではない。

「大きく言えば、魔法使いと言う事になります」
「………」

その言葉を聞いた三人が三人、反応に困っていた。

「救兵衛との契約で魔法の力を得るあなた達魔法少女、
こちらでは主にマギカと呼びますが、
そのマギカに対して、私達は言わば土着の存在です。

古今東西の物語に出て来る魔術師、魔法使い。
その伝承の中には過去に存在したマギカに就いて語ったものもある様ですが、
そうでないものもかなりの数に上る。

その、そうではないもの、
マギカとは別の所で科学とも違う力を発展させて来た。
それが我々であると理解して下さい」

「………」
「ええっと、その………」

マミとさやかが言葉を探している中、まどかが怖々口を開く。

24: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 02:03:09.93 ID:bWoO1rCm0

「その、絵本の中の魔法使いって事ですか?」
「そういう事になります」

真面目に答える刹那だったが、
ふっ、と、優しい先生の様な笑みを浮かべていた。

「もちろん大雑把な答えですが、
あなた達マギカと比較するならちょうどいい定義です」
「なるほど」

さやかも、なんとなく理解した様だった。

「魔法少女がいるなら魔法使いがいてもおかしくない、
そういう事ね?」
「そんな所ですね」

マミの理解に刹那が答える。

「中でも退魔師は、それもあなた達の魔女とは別の
土着の魔物、悪霊を退治する事が本来の仕事です」

「い、いるの、そういうの?」
「ええ。まあ、大概のものは
目立った害が出る前に我々が対処していますが」
「そうなんだ………」

質問したさやかが引きつった反応をする。

25: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 02:07:00.18 ID:bWoO1rCm0

「さっきも言ったけど、魔女の存在も普通の人には分からないわ。
結界の奥に潜んで普通の人には見えない。
そして、人を誘い込んで命を奪う。
一般には原因不明の自殺や行方不明として処理されてる」

マミの改めての説明に、
まどかもさやかも改めて先程の自分達の危険に息を飲む。

「そういう訳で、本来私達魔法使いとあなた達マギカは交わらない存在。
伝承上、両者が交わった事や技術的に交流した事もあった様ですが、
現状では我々はそちらには関わらない、原則としてそういう事になっています。

あなた達にはあなた達の利害がある。
只でさえ双方ともに世間に隠れた力のある存在。
それが、二つの別々の勢力が関わり合っても
トラブルの懸念の方が大きいですから」

「そうね。私達としては契約した以上、
妙な人達に邪魔されずに魔女を退治させてもらいたい所ね」

「それはこちらでも理解しています。
只、一方で我々、私達が属している組織ですが、
こちらは公益目的の活動も行っています。
ですから、最近この見滝原近辺の魔女の発生件数に就いて
懸念されるものがあるとして、実態調査のために私が派遣されました」

「組織?」
「現在は関東魔法協会と言う組織に所属しています」

マミの問いに刹那が答え、
急に、変に現実的になった事をさやかは感じ取る。

26: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 02:11:44.32 ID:bWoO1rCm0

「その、関東魔法協会?」

少々戸惑っているのはマミも同じらしい。

「はい。私達の管轄する裏側の秩序を司る魔法使いの組織です。
当面の所、直接あなた達と接触するのは私だけになると思いますが。
もちろん、あなた達の縄張りを荒らすつもりはありません。
そもそも、私がグリーフシードを得ても仕方がないですから。
そういう訳ですので、
当面はあなたと協力して活動したいのですが」

「話は分かりました」

刹那の説明に、紅茶を傾けていたマミが答えた。

「助けてもらった恩もある。こちらの邪魔はしない、
と、約束してくれるなら、むしろ歓迎よ」
「助かります」

マミの言葉に、刹那はふうっと息を吐く。

「そして、鹿目さん、美樹さん」

マミが二人に向き直った。

「キュゥべえに選ばれたあなた達には、
どんな願いでも叶えられるチャンスがある。
でもそれは死と隣り合わせなの」
「ううう………」
「うわぁ、悩むなぁ………」

そして、改めてマミの魔女退治に同行して魔女退治がどういうものか、
命懸けで叶えるべき願いはあるか、
それを見定めようと言うマミの提案、それを二人が受け容れるのを、
再び眠った様な桜咲刹那は片目を開いて聞いていた。

27: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 02:15:04.10 ID:bWoO1rCm0

ーーーーーーーー

「なんか、サムライって感じだったよねー」

とうに陽の沈んだ帰り道、さやかが隣を歩くまどかに言った。

「あの、桜咲刹那って人。
刀持ってたのもそうだけど、無口で礼儀正しくてとにかく固い感じで、
侍って言うか、用心棒の先生って感じ」
「ウェヒヒ………」

さやかの的確な例えにまどかは苦笑する。
しかし、まどかの印象は少々違っていた。
大体の所、一見した所は、
まどかもさやかと同じ印象は持っている。

「………でも………」
「ん?」
「桜咲さん、優しい人なんじゃないかな?」

「そうかな? うん、助けてくれた訳だし、
悪い人じゃないかも知れないけど。
悪い人って言ったら、あの転校生?
キュゥべえを襲ったりして、マミさんが追っ払ってくれたけど」

「悪い子、なのかなぁ?」
「じゃないの? それじゃあまどか、又明日」
「うん」

28: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 02:18:32.57 ID:bWoO1rCm0

ーーーーーーーー

「ただ今………」
「お帰り、まどか」

普段より随分遅い帰宅のまどかだったが、
それを迎えた知久はいつも通り穏やかだった。

「ママは?」
「ああ、まだかかるみたいだね」
「そう」

知久は、先輩からお呼ばれして遅くなると言う
電話連絡をまどかから受けていた。
話している内に用意が出来て、まどかは食器をテーブルに運ぶ。

「いただきます」

まどかは少し遅い、温かな夕食を口に運ぶ。

「ご馳走様」
「お粗末様でした」

いつも通り美味しい夕食、穏やかで優しい父。
現実に戻って来た感じ、と言うものをまどかは実感していた。
それと共に、どっと疲れを感じる。
とんでもなく非常識な事が色々あり過ぎて、疲れを忘れていた感じだ。

今夜はお風呂に入って早く休もう。
その誘惑が力一杯に今のまどかを引き寄せる。
もしかしたら、今日の非常識全部が夢オチになってるかも、
なんて事まで考えたくなる、まどかにとってはそんな一日だった。

29: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 02:28:16.13 ID:bWoO1rCm0

ーーーーーーーー

「………」

桜咲刹那の視線の先には、四角い一軒家が存在していた。
土地と金に余裕がある郊外の内に思い切って建てて買った、
と言う感じで細々としていない。
庭付き一戸建て二階建てとしては、
表向きガラス戸の多いどっしりとした建物に、畑の一つも出来そうな、
と言うか実際出来ている広々とした庭も魅力的だ。

「動かないで」

背後からの声に、刹那は素直に両手を上げる。

「桜咲刹那、退魔師とやらがここで何をしている?」
「暁美ほむらさん、と言いましたか?」
「質問に答えてくれるかしら?」
「帰宅する途中ですけど」
「死にたい訳?」
「そのつもりなら一つ忠告しておきましょう」
「!?」

ほむらが構えていたM9拳銃。その銃口の先が、ぶれた。
銃口の先が刹那の頭をとらえていた筈が、
とらえていたと言う事実が不意に、揺らいだ。
と、思った次の瞬間には、
刹那の肘を腹に叩き込まれたほむらの体が大々的に路上を滑っていた。

「か、はっ………」
「神鳴流に飛び道具は効きません………?」

びゅうっと風の様な勢いで移動した刹那は、
吹っ飛んだほむらを捕獲しようとした。
しようとしたその時には、
ほむらの姿は刹那の視界から消えていた。

30: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 02:32:20.33 ID:bWoO1rCm0

「だからと言って」

ほむらの振り下ろした
4番アイアンのヘッドの下にあった筈の刹那の頭部は、
すぐ近くの地点にすいっと移動し、
その時には、ほむらが水月に拳を叩き込まれて体をくの字に折っていた。

「こちらで私に挑むと言うのは、もっと無謀でしょうね」

いかにもつまらなそうな刹那の言動に、ほむらは戦慄を覚える。
元々特殊能力の一点を除けば直接戦闘向きではないほむらだが、
魔法少女単位で考えても桜咲刹那、生半可な相手ではない。

(つっ、痛覚遮断っ!)

刹那がほむらと少し距離をとった瞬間、
ほむらは消耗を覚悟しつつ刹那から離れる。。
そうしながら、刹那の手が光を帯びているのを歪む視界にとらえる。

「匕首・十六串」
「!?」

距離を取ったほむらに、何口もの匕首が飛翔して迫って来る。

(これはっ!?)

銃器を用意しようとするが、間に合わない。
それ以前に、そういう対処が出来る代物なのか、

「稲交尾籠………」

バシュウッ、と、周囲が一瞬強い光に包まれた。

「………」

刹那が正常な視界を取り戻し、
自らが展開した捕縛結界を確認する。
果たして、その中は空だった。

31: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 02:36:37.07 ID:bWoO1rCm0

ーーーーーーーー

「秘剣・百花繚乱っ!!!」

暁美ほむらを見失い、夜の住宅街で歩みを進めていた桜咲刹那は、
大きめの公園にざしざしと立ち入り、振り返り様に夕凪を振るっていた。
衝撃波が土煙を起こし、刹那は術の影響で舞い散る桜華に目を凝らす。

ぶうんっ、と、一見すると野太刀離れした非常識な勢いで、
刹那は夕凪を斬り上げる。
ギインッ、と、何か鉄棒とでも打ち合った様な手応えはあった。
刹那は夕凪の棟を肩に掛け、鋭い眼差しで気配を伺う。

「斬鉄閃っ!!」

夕凪の斬撃から強力な「気」を放った時には、
刹那は身を交わしていた。

「アデアット」

それでも執拗にまとわりつく鋭い斬撃を、
刹那は左手の「白い翼の剣」で辛うじて受け流す。

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!!」

そして、刹那は力一杯の一撃を叩き込む、が、
やったか、とは思わない。
手応えが無いのは最初から分かっていた。
取り敢えず、脅威は去った様だ。

32: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/05(水) 02:40:25.14 ID:bWoO1rCm0

ーーーーーーーー

「どうだった?」

住宅街、夜の路上で問いが発せられる。

「強いね、並の魔法少女じゃ叶わないんじゃないかな?」
「キリカでも?」
「こちらの術で作ったズルを正攻法でぶち破りかねない、
それ程の実力だったよ。
だけど織莉子がやれと言うなら、それは些細な事さ」
「そう」

美国織莉子は、ひゅっ、と、小さな水晶球を二つ放った。
一つ目の球が空に消え、少し遅れて二つ目が飛翔する。

「折り紙?」

ひらひらと降って来たものを見て、呉キリカが言った。

「かみにんぎょう、かしらね?」

それを掴んだ美国織莉子が言い、ぽいと放り出す。
その折り目のついた紙片は、
空中で、ぼっ、と紅蓮の炎に包まれた。

==============================

今回はここまでです>>19-1000
続きは折を見て。

33: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 03:35:10.58 ID:GfExdfTJ0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>32

 ×     ×

「ええええっ!?」
「どうしましたのっ!?」
「い、いや、なんでもないなんでもないあはははは」

朝のHR終了後、最初の休み時間にガタンと立ち上がって絶叫した美樹さやかに
友人の志筑仁美が目を丸くして声を掛け、
さやかは頭を搔いてごまかしてみせる。

「そ、そうですの」
「ウェヒヒヒ」

その側で鹿目まどかも苦笑いしているが、
さやかとまどかは目と目で通じ合っていた。

魔女やら魔法少女やらの騒動に巻き込まれた翌日。
或は夢オチでは、と言うまどかの現実逃避は、
まどかの寝室でぬいぐるみに紛れて
朗らかに朝の挨拶を決めたキュゥべえが簡単に打ち破ってくれた。

魔法少女の素質が無ければ
キュゥべえの存在を認知する事は出来ないと言う事で、
見える者には得体の知れない、でも可愛らしい小動物であるキュゥべえは
登校するまどかにまとわりついてそれを見たさやかを驚かせたり、
そんな二人を見た仁美を驚かせたりもした訳だが、
その辺りの事は割愛としておく。

34: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 03:40:31.84 ID:GfExdfTJ0

実用的な面では、まどかとさやかはキュゥべえを介する形で
三年生の先輩である魔法少女巴マミと
テレパシーのチャンネルを繋ぐ事に成功した。

昨日キュゥべえを襲撃したと言う暁美ほむらも
まどか、さやかと同じ教室にいる訳だが、
学校で滅多な行動はとらないだろう、と言う予測で話を止めていた。

そして、今、もう一度マミとのテレパシーを繋いだ所、
伝わって来た話はなかなかの急展開だった。

「桜咲、さんが転校して来た、って」
「三年生だったんだ………」

ひそひそ話していたつもりのまどかとさやかは、ガタッ、
と言う物音に視線を走らせる。
そこでは、暁美ほむらが目を見開いて立ち尽くしていた。

ーーーーーーーー

昼休みに屋上で改めて鹿目まどかと美樹さやかに釘を刺したり、
その際に別の校舎の屋上から巴マミに無言の威嚇を受けたり
帰りのHRの後に同級生からのお茶のお誘いを丁重に断ったりしながら、
暁美ほむらの本日の学校生活は終わりを迎える。

(これって、本当は佐倉杏子辺りのやり方じゃないのかしら?)

そして、時間停止を使いながら
近隣の高層ポイントに移動して双眼鏡を覗く。

35: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 03:47:00.89 ID:GfExdfTJ0

ーーーーーーーー

(ここは………)

地上に戻ったほむらがしばらく歩き続け、到着した先には
解体も先延ばしにされている廃墟と化したビルが存在していた。

「何か、御用でしょうか?」

屋内に入り、エントランスで周囲を見回していたほむらは、
不意に背後から声を掛けられる。
しかし、これはほむらのシミュレーションの一つでもあった。
ほむらが、振り返り様に大振りの軍用ナイフを振り抜く。

「!?」

しかし、次の瞬間、ほむらの表情を占めていたのは狼狽そのものだった。

「それが、時間停止の絡繰りですか」

桜咲刹那が右手に握る「白き翼の剣」の切っ先は、
ほむらが左腕に装着した盾に突き立てられていた。
その盾で動き出した絡繰りが、
歯車に剣の切っ先を噛んで強制停止する。

歯車から刃が抜ける、が、ほむらはとっさに地面を転がる。
この様子では、刹那が発動を逃す事は絶対に無いだろう。

ほむらが腿に装着しておいたスローイングナイフを放った。
その瞬間、刹那がほむらの視界から消え、
ほむらはバッと振り返る。

(間に合わ………)

そもそも銃弾が効く相手なのかどうかはとにかく、
ぐわっと目の前に迫っていた刹那にM9拳銃を向けながら、
ほむらの頭はどの程度のダメージを許容すべきか、
と言う損切りを考えていた。

36: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 03:52:52.98 ID:GfExdfTJ0

その、刹那がぐいっと後退し、
飛んで来た一本の棒が二人の間を槍の様に突き抜ける。

「アベアット」

次の瞬間、「白き翼の剣」はカードに戻り、
振り返った刹那が
自分に打ち下ろされた一撃を鞘のままの夕凪で受け太刀する。
タンタンターンッとエントランス中央階段に足音が弾け、
踊り場でガン、ギン、ガンッ、と打撃が衝突する。

(銃剣術、我流ですね)

相手の流儀を冷静に把握しながら、
刹那が居合抜きを一閃する。

本来、野太刀である夕凪は居合には決定的に不向き、
と言うより物理法則そのものに抵触するものであるが、
その辺りは神鳴流剣士だから、と言う事になる。

刹那が回避している巴マミの攻撃は、
無から有、空中に次々とマスケット銃を発生させて
その神出鬼没な武器でぶん殴って来ると言うトリッキーさもあるが、
その殴り合いの技量自体、決して侮れるものではなかった。

刹那は再び跳躍して階段を下り、
その後をマミが放つ銃弾が追跡する。

(敷地も含めてそこそこ広い、
騒音も含めて多少の銃声も目立たない、か)

ババンッ、と、先回りする様にエントランスの床に銃弾が弾け、
ちょっと遅れて刹那が着地する。
普通であれば、上から狙い撃ちされる方が不利。
但し、刹那は神鳴流剣士。
但し、

37: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 04:00:35.68 ID:GfExdfTJ0

「神鳴流奥義・百烈桜華斬っ!」

夕凪の一閃と共に、
床からぶわっと噴き出したリボンが散り散りに刻まれた。

「アデアット………?」

そして、刹那は振り返り様に仮契約カードから匕首を呼び出し、
ほんの一瞬、心の中で小首を傾げる。
そして、目の前に現れた巴マミの姿に向けて、
その胸の真ん中に手裏剣として匕首を打ち込む。

「斬鉄閃っ!!」

次の瞬間、前方からぶわっと迫っていたリボンの群れが
刹那の斬撃が巻き起こす「気」によって細切れに粉砕される。
エントランスから見下ろしていた巴マミが、
手にしたリボンを放り出して地面を蹴る。
そのリボンの先では、
絡め取られた二体のちびせつながもがいていた。

「神鳴流秘剣・百花繚乱っ!!」

渦巻く強風、衝撃波に、ほむらは思わず腕で目を抑えていた。

「続ける?」

恐らく頸動脈のすぐ上に夕凪の刃を向けられ、
つーっと汗を浮かべながら荒い息と共にマミが尋ねた。

「魔力の塊の零距離銃撃は、厳しいかも知れませんね」

胸の真ん中にマスケットの銃口を押し付けられ、
つーっと汗を浮かべながら荒い息と共に刹那が答える。

38: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 04:04:00.73 ID:GfExdfTJ0

ーーーーーーーー

「一体、どういう事なのかしら?」

双方武器を引きながらマミが尋ねた。

「仮にも見滝原の魔法少女と事を構えると言うのなら、
昨日の協力の話どころか、私と戦う羽目になるわよ」
「私も、そのつもりは全くないのですが」
「じゃあ、私の体に残る記憶はなんなのかしらね?」

しれっと言う刹那に思わずほむらが口を挟む。

「昨日から背後から拳銃を向けられたり
つけ回されてナイフで斬り付けられたり
と言った事が続いていましたので、少々手荒な対処をしましたが」
「暁美さん?」
「否定する程間違ってはいないわ」

マミにじとっとした視線を向けられ、
ほむらはファサァと黒髪を払って答える。

「その点は、お互い裏で動いている者同士。
あなた方にとって得体の知れない私が
こちらをうろついている訳ですので、
私がそちらの立場でも分からないではありません」

40: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 04:07:32.55 ID:GfExdfTJ0

「じゃあ、こちらが余計な事をしなければ
あなたもこちらの邪魔はしない、
これは再確認させてもらっていいのね?」

「はい」

「改めて言うわ、この人は桜咲刹那さん、
普段は魔女ではない魔物を退治する退魔師。

魔法少女とは違う、
キュゥべえの契約ではない魔法使いと言うカテゴリーに入る人で、
今は、こちらでの魔女発生に就いて調査をしているそうよ。

魔法使いだからグリーフシードも必要ない。
私はこの人に協力する事に決めた。
その意味は、分かるわね暁美さん」

じっ、と、マミとほむらが目と目で押し合う。

「マミさぁーんっ!!!」

その時、表から素っ頓狂な叫びが聞こえた。

「美樹さんっ!?」
「どういう事よっ!?」

意外な展開に、ほむらも又叫び声を上げる。

「元々、鹿目さんと美樹さんを連れて
魔法少女体験コースの最中だったのよっ」
(又、っ)ギリッ

41: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 04:11:02.24 ID:GfExdfTJ0

ーーーーーーーー

三人が表に飛び出すと、
美樹さやかが斜め上に指さしてわわわわと声を上げていた。

「おおおおっ!!!」

刹那が夕凪を居合抜きし、
周辺の地上にいる一同が刹那を除き腕で目を抑える。
果たして、刹那の斬撃と共に巻き上がった強風が
屋上から落下して来たOL風の女性をとらえ、空中に巻き上げる。

「やった、っ」

鹿目まどかに縋りつかれながらさやかが声に出した。

「!?」

次の瞬間、自然の強風が空中のOLの軌道を大きく狂わせた。

「くっ!」

刹那が両腕を×字に組み、指をバキッと内側に折る。
そんな刹那を、マミが風の様に追い越した。
マミが放った大量のリボンが面積をとって
OLを下からとらえ、地面に軟着陸させる。

「巴さん、彼女を頼みます」
「分かったっ!」

刹那が建物の外周を回り始め、ほむらがその後を追う。

「気づいてる?」

ほむらが尋ねた。

「ええ。確かに、波長が普通の魔物とは少し違いますが」
(と、すると、他所の魔女が移動して来たのか)

二人が非常口の螺旋階段にたどり着く。
刹那が刀印を組み印を切って符を放つ。
そして、空間の歪みに飛び込んだ。

42: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 04:14:36.87 ID:GfExdfTJ0

ーーーーーーーー

結界の中は、抜ける様な青空だった。
青空のど真ん中に、大量の洗濯紐が縦横無尽に張られている。
本当はもう少し太い紐なのだが、
その紐が大量のセーラー服の袖から袖に貫通している図は
洗濯紐にしか見えない。

(こいつが来たの)
「秘剣・斬空閃っ!」

その、空中を走る紐の一つを踏みしめて暗い笑みを浮かべるほむらの側、
別の紐の上で刹那は早速に夕凪を一閃。
空から降って来た一見して教室用の机が刹那を避けて四散する。
広々とした屋外空間に騒音が響き、
結界でなければ通報殺到だろう、と刹那は思う。
かくして、機関銃の掃射を受けた使い魔が一掃される。

(天狗之隠蓑の類か)

ほむらが掃射したM249を目にして、刹那が見当を付ける。
一旦銃撃が止まったタイミングで刹那が動き出す。
降り注ぐ使い魔もざざざっと斬り伏せ、そのまま大きく跳躍する。

「(こいつが本体、魔女)斬岩剣っ!」

空中で遭遇した「委員長の魔女」、
黒いセーラー服から計六本の腕、四本の袖にスカートから二本、
を突き出した巨大で奇怪な怪物に刹那が一撃を加え、
近くの紐に着地するが致命傷とまではいかない。

「斬鉄閃っ!!」

委員長の魔女がスカートからばばはばっと吐き出した使い魔は
刹那が夕凪の斬撃から放った「気」に飲み込まれて一掃される。

43: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 04:17:50.61 ID:GfExdfTJ0

(この程度なら、多少時間をかければ)

そうしながら、刹那は目算していた。
多少面倒だが経験から言って無理な相手ではない。
取り敢えず、自分が直接「飛ぶ」までの事はないと。


その時、刹那はこれまで空中に張られていた洗濯紐とは
別のものが空中をよぎるのを見た。

洗濯紐を捉えて張られたのは、細長い黄色い絨毯だった。
はっきり言って穴だらけだが、元がリボンと考えると上等。
それに、どうも見た目は穴だらけでも簡単に踏み抜けない絨毯らしい。

「桜咲さんっ!」

絨毯の出所からマミが叫ぶ。
刹那がその絨毯に飛び乗り、
そのまま委員長の魔女の真下へと走る。

「………」

刹那の足が、「空を蹴った」。

「神鳴流奥義・百烈桜華斬っ!!」

委員長の魔女を飛び越した刹那が、落下しながら放った一撃。

44: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 04:21:16.14 ID:GfExdfTJ0

「え?」

委員長の魔女は、弾き飛ばされる様にある方向に斜めに落下していた。

(くっ!)
「暁美さんっ!?」

マミが新たなリボンを撒き始めた頃には、
適当な紐の上に移動して時間停止を解除したほむらが
魔女のスカートの中めがけてRPG-7の引き金を引いていた。

ーーーーーーーー

「拾ったから使わせてもらったけど、受け取るわよね」

結界の解けた非常階段周辺で、
マミがほむらにグリーフシードを手渡す。

「ええ………有難う」
「どういたしまして」

二人が、些かぎこちなく言葉を交わすのを刹那は眺めている。
儀礼的と言えば儀礼的、
三人が戦闘に関わりグリーフシードが絡む以上、
「受け取らない」事を含めて筋を通さない事の許されない状況。

刹那は、少なくとも突っ張っているほむらの方が何処か気後れしている。
そんなほむらの一端を察していた。

45: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 04:24:44.59 ID:GfExdfTJ0

「巴マミ………巴さん」

じゃりっ、と、地を踏みしめてほむらが言葉を発した。

「何かしら?」
「今、協力した事にはお礼を言わせてもらう。
だけど、あの娘達を連れ回すのは反対よ。
私達の危険に付き合わせるべきではない、
それだけは言って、おきます」

「そう、あなたの考えは分かった」

ほむらの言葉にマミも真面目に応じ、
ほむらは一礼すると踵を返して裏側から敷地を離れた。

ーーーーーーーー

「ここは?」

廃ビルの入口側、待機していたさやかと交代で
マミの介抱を受けていたOLが意識を取り戻した。

「や、やだっ、私、どうしてあんなこと、っ!?」
「大丈夫、もう大丈夫です」

少しの間朦朧としていたが、その後でパニックを引き起こしたOLを
マミは優しく抱き締めていた。

「大丈夫、悪い夢を見ただけです」
「一件落着、って感じかな」

泣き崩れるOLを宥め、落ち着かせるマミ、
それを見てさやかが言う。

46: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/10(月) 04:28:27.70 ID:GfExdfTJ0

確かに、今回は申し分のないハッピーエンド。
そう思って、刹那はマミを見ていた。

弱っているとは言え年上の女性を相手に、
マミはそれなりに慣れているのだろう、とも思うが、
やはり、本当に優しく、責任感の強い娘。
刹那はマミの事をそう把握し、そして、好ましく思う。

「まどか?」
「………」

一見すると少し怖い感じで、話しかけ難い雰囲気もある。
あの、持っている日本刀みたいだ、とも思う。

だけど、もしかしたらこれが本当の顔の様な気もする。

今こうして無事解決した二人、
マミとOLの二人を見ている刹那の穏やかな、
優しくすら見える横顔を見て、
鹿目まどかはふと、そんな事を感じていた。

==============================

今回はここまでです>>33-1000
続きは折を見て。

47: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/16(日) 03:22:51.02 ID:oLGWECTk0
==============================

>>46

 ×     ×

学校が終わり、夕暮れ。
巴マミを先頭に鹿目まどか、美樹さやかが道を歩いていると、
前方に見知った顔が見えた。

「桜咲さん」

まどかか声を上げ、桜咲刹那が小さく頭を下げる。
マミがメールで刹那に通り道を知らせて、
都合が合えば合流する。そういう話だったが、
基本、ここ何日かの「体験ツアー」に刹那は黙って同行していた。

「マミさんも凄いけど桜咲さんも強いから、百人力ですよー」

さやかの言葉に刹那は小さく頭を下げ、
さやかはにししと笑うがまどかはちょっとした違和感を覚える。
こういう時、マミはたしなめる事はあってもくすぐったそうな感じを見せる。
だが、恐らく刹那は基本が真面目なのだろう、
この人相手に、余り調子に乗らない方がいい様にも感じていた。

48: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/16(日) 03:28:28.62 ID:oLGWECTk0


ーーーーーーーー

「いますね」

とっぷりと陽が暮れてから、刹那がぽつっと言った。

「自分で察知する事が出来るのね」

ソウルジェムを手にしたマミが言う。

「私達が扱うものとは似て非なるものですが、
多少の経験があれば応用が利きます」

刹那がさり気なくまどかとさやかの前に立つのを後目に、
マミがソウルジェムを掌に乗せて夜の公園にザシザシと前進する。

ーーーーーーーー

この日の「体験ツアー」の結果は使い魔一匹、
さやか曰くここ数日は外れ続け、と言う事になる。

結界によって異界化した公園の中で、
マミは人間大の大きさの、
銃身が人間の背丈に匹敵するアンティーク拳銃を発砲して
危なげなく使い魔を仕留めていた。

そのまま、帰り道の石橋を歩きながら、
巴マミの身の上話や美樹さやかの願いへの少々の苦言、等も交わされたが、
桜咲刹那は一行に影の様に寄り添い、黙って歩いている。

「それでは、私が送って行きますので」
「お願いするわ」

かくして、巴マミと別れて刹那とまどか、さやかが帰路に就く。

49: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/16(日) 03:33:57.22 ID:oLGWECTk0

ーーーーーーーー

「じゃ、まどか」
「うん」
「それでは」

無言の帰路。
さやかと別れ、まどかと刹那が二人並んで歩いている。

「鹿目さん」
「はい」
「先程、話に出た上条君、と言うのは?」

丁寧だが、まどかにとって意外な問いだった。

「………クラスメイトです。
私とは小学生の時から、さやかちゃんとは幼稚園の時からの幼馴染で」

「あの話の様子では、何かあったんですか?」

「はい。小さい頃からヴァイオリンを弾いてて、
詳しく知らない私が聞いても凄く綺麗で、何度も表彰されて。
でも、交通事故で左手に大怪我をして、それで………」

「そうですか。大怪我をして、見込み等は?」

真摯な刹那の問いに、まどかは首を横に振る。

「凄い大怪我だった、って事は分かってるけど、
それ以上の詳しい事は」
「その、ケガをしたと言うのは、何時の話ですか?」

50: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/16(日) 03:39:47.13 ID:oLGWECTk0

「×月×日です」


………………

…………そう、ですか…………

………………


答えた刹那は、天を仰いでいた。

「さやかちゃん、魔法少女になるのかな………」
「魔法少女の願い、救兵衛との契約でその上条君のケガを治す、
そういう事ですか?」

刹那の問いに、まどかが頷いた。

「上条………名前を伺えますか?」
「上条、恭介君です」
「上条恭介君ですか。
その様子ですと、美樹さやかさんは彼にそうした、
幼馴染と言う以上の想いがある様に聞こえましたが」

刹那の言葉に、まどかは小さく頷く。

「上条君の話をする時のさやかちゃん、
凄く綺麗で、いつもはあんな風なのに凄く女の子で、
それで………」
「少し、危険ですね」

今まで我関せずだった刹那の言葉に、まどかが刹那を見た。
相変わらず真面目な、やや険しい表情だった。

「巴さんも口を酸っぱくして言っていますが、
元来魔法少女の在り方は命に関わる危険なものです。
契約自体がそういうものとは言え、
私情で、特に彼女の様な性格で突っ走るのはかなりリスキーです。
巴さんも釘を刺していましたが、全否定はしませんが早まらない様に、
巴さんとも相談して少し目を配りましょう」

淡々と、だが真摯に言う刹那に、まどかは小さく頭を下げた。

51: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/16(日) 03:44:31.04 ID:oLGWECTk0

「有難うございます、桜、咲さん」
「呼び難いですか?」
「え、あ、ごめんなさい」
「いいですよ、刹那と呼んで下さっても。
平均的に呼び難い名字の様ですから」
「は、はい、刹那、さん」

まどかの呼びかけに、
刹那は静かな微笑みで応じていた。

「あの、刹那さん?」
「ああ、いえ」

その後で、ふっ、と斜め下を見た刹那にまどかが声をかけ、
刹那が向き直って応じた。

「そろそろですね。
それでは、お休みなさい」
「お休みなさい」

礼儀正しく応じるまどかを、
刹那は好ましい眼差しで見送った。

ーーーーーーーー

住宅街の無人の路上で、桜咲刹那は大きく、
魔法少女基準と言ってもいい大きさで大きく跳躍していた。

「あなたも、なかなか凝りませんね」

そして、気が付いた時には、
目を見開いた暁美ほむらの真ん前に立った桜咲刹那は
左手でほむらの右腕を掴みながら
匕首の切っ先を限りなく零距離に近い距離感でほむらの脇腹に向けていた。

「あれだけ凄まじい殺気を放っていては、素人でも気が付きます」

そう言って、刹那はほむらから手を離す。

52: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/16(日) 03:49:02.51 ID:oLGWECTk0

「あなたの目的は何?」

「先にも言いましたが、魔法協会の退魔師として、
最近増加傾向にある見滝原近辺の魔女の動向を
公益目的で調査しています。
そのために、魔法少女である巴マミさんに同行しているところです」

「………他の二人、
鹿目まどか、美樹さやかに就いては?」

「あの二人は巴マミさんに同行していますね」
「つまり、あなたとは関係ないと?」

「現時点では、私にとっては関わりを持った民間人と言う立場です。
その場合、私の目の届く範囲では人道上の対応はしますが、
基本的にはそちら側、マギカの側で対応すべき事でしょう」

「筋論ね」

「それで、あなたの目的はなんなのですか?」
「あの二人………特に、鹿目まどかの契約を阻止する事。
それが私の目的よ」
「そうですか。
それは、今の所そちら側の問題ですね」
「ええ。無駄に争うつもりはないわ」

双方、踵を返して歩き出す。

刹那の言う通り、現時点の大元である巴マミと話を付けるしかない。
しかし、余り上手く行った試しがないので気が重い。
心の中でその様に嘆息しながら、ほむらは目的地に歩みを進めていた。

==============================

今回はここまでです>>47-1000
続きは折を見て。

53: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/18(火) 03:25:35.50 ID:YV/+TrQr0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>52

見滝原市内、夜の住宅街。
コッコッと歩みを進めていた呉キリカは、
スマホを取り出して無限にして有限なる愛のメッセージを受け取る。
そして、掌にソウルジェムを乗せて少々黙考。

「ステッピング・ファングッ!」

変身早々、夜の路上で飛び道具を射出する。
次の瞬間には、月に届けとばかりに跳躍していた。
着地したキリカが、さささっと近くの曲がり角を曲がり、塀に張り付く。

(ヴァンパイア………)

ーーーーーーーー

暁美ほむらと分かれた桜咲刹那は、途中、ぴたりと足を止めた。
そして、指を額に当てて少し黙考すると、
迂回路を経ながら元来た方向へと猛スピードで移動を開始していた。
目立たぬ事を確認してタンターンッと跳躍で距離を縮め、
無人の歩道に着地する。

「………」

刹那の手は、真っ二つに切り裂かれた紙人形を拾い上げていた。
刹那はその場で片膝をつき、左手で夕凪の鯉口を切る。
刹那の耳がひくりと動き、
刹那は鯉口を戻してすっと立ち上がる。

ありふれたタクシーがロロロロと現れ、刹那を僅かに照らして通り過ぎる。
その時には、既に刹那の感知する所から脅威らしきものは消失していた。
背中に少々の喚き声を聞きながら、刹那は踵を返してその場を後にする。

「おぉーい、帰ったぞおぉーっ。
やぁーったれっかぁスダレハゲェェェ………」

54: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/18(火) 03:30:40.55 ID:YV/+TrQr0

ーーーーーーーー

「近いな」

風見野市内でパトロールを行っていた佐倉杏子は、
ソウルジェムの反応に薄い笑みを浮かべる。
そして、到着した先は一軒の廃屋だった。
杏子はその中をソウルジェムで照らし、結界の入口を暴き出す。

ーーーーーーーー

「シッ!」

まだ私服のまま、杏子は槍を払い使い魔を追い払う
最近、少々稼ぎが悪い。
燃費を考えなければならない。

「?」

そして、ソウルジェムを確かめながら杏子は首を傾げる。

(なんだ、この反応?
魔女が二匹? ってのも違うみたいだけど………)

結界の最深部が見えて来る。
杏子は、紅の魔法少女姿に変身してその入口へと歩みを進める。

55: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/18(火) 03:36:15.98 ID:YV/+TrQr0

ーーーーーーーー

「………」

相変わらず薄気味の悪い魔女結界の最深部。
佐倉杏子は、そこで、舞を見ていた。

白と紅の和装。
白い水干の広い袖がふわりふわりと宙を舞い、
紅袴の足さばきも不自由なく流れる。
それと共に、両手の白扇も開き、閉じ、
何かのメッセージを伝える。

素晴らしく長い黒髪が、
時にさああっと広がり時にゆらりと流れ二つに割れ三つに割れ、
それでも艶やかな美しさを損なわない。
艶やかな黒髪に色白な肌、墨絵に描いた様な目鼻立ちは、
お上品な日本人形を思わせる。

だが、時に激しい程に躍動する舞姫は、
お人形さんと言うには活動的に過ぎる。
活動的に過ぎる。
佐倉杏子の唇は、不敵に歪んだ。

==============================

今回はここまでです>>53-1000
続きは折を見て。

56: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/19(水) 03:20:04.33 ID:6b1Zx9Kd0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>55

佐倉杏子から見て、舞姫の動きは馬鹿速い訳ではない。
だが、ふわりふわりと使い魔を交わし、
時には白扇が魔女の攻撃を反らし、受け流している。

(魔力、だよな)

それは、杏子も感じる。
だが、魔女を力押しで退けるタイプの動きではない。
パワーの量以上に、流れる様に優美な動きが
確実に魔女を翻弄している。

それは、計算し尽くされたものなのか、
或は、それ以上の何かか。
少なくとも、素人がこの速度で魔女と対したら五秒で終わる。

思わず見惚れていた、等と言う事を杏子本人は決して認めないだろうが、
そんな杏子が半歩前に出る。
舞姫が、とーん、と一息に魔女に向けて間合いを詰めていた。

「!?」

次の瞬間には、右手の白扇が化けたゆらめくビームの様なものが、
魔女をぶち抜き爆発させていた。
杏子が、不敵な笑みを浮かべる。

(隠して、やがった? この魔力の量………)

57: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/19(水) 03:25:29.82 ID:6b1Zx9Kd0

ーーーーーーーー

「おいっ」

跳躍し、着地し振り返った杏子は、
改めて不敵に笑みを浮かべた。

真正面から見た舞姫は杏子と同年代だろう、
やはり色白の、素晴らしい黒髪ロングがよく似合う
日本人形の様に可愛らしい女の子だった。

それが、振り返り様に喉元に突き付けた筈の杏子の槍の穂先を、
その時にはすすすっと右にずれて交わしていた。
舞姫が、たーんっと後ろに跳躍する。
鼻で笑った杏子が、だっ、と距離を詰めながら槍を変化させた多節棍を放つ。

「もらっ、!?」

絡められたのは、杏子も同じだった。

(ビームはこれかっ)

多節棍に絡み付いていたのは、白扇が化けて伸ばされた南京玉簾だった。
僅かな魔力を帯びてほんのり光っている。
恐らく、杏子の力に合わせて魔力で強化しているのだろうが、
いざとなったら魔女を瞬殺する所まで魔力を乗せられる。
その魔力量自体只事ではない。
簾が白扇に戻り、双方後ろに跳躍して距離を取る。

(こいつ………)

杏子が前を見た瞬間、目にしたのは微笑みだった。
ふうわりと柔らかく、とろける様な笑顔。
欠片も見えない敵意、或はそれが底無しの何かを邪推させる。

「こっちで反応がありましたっ!!」

遠くから聞こえる声に、杏子が舌打ちをする。

「又、うぜぇのが来やがったっ!!」

58: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/19(水) 03:31:32.77 ID:6b1Zx9Kd0

ーーーーーーーー

「あっ、あなたっ!」
「佐倉杏子っ!!」
「あばよっ!!」

魔女結界内を進む人見リナ一行。
そこに、奥から佐倉杏子が駆け付け、
リナ達の叫びを無視してすれ違い走り去って行く。

「反応が消えた」

リナの隣で、ソウルジェムを掌に乗せた佐木京が言った。

「先を越されたか………」

リナが後ろを振り返りながら応じる。

「人がいるぞっ!!」

それは、結界の奥へと先行した朱音麻衣の叫び声だった。
リナ達が魔女エリアらしき最深部に入ると、
そこには、髪の長い私服姿の少女が佇んでいた。

「見ない顔ですが、どうしてここに?」
「いつの間にかと言いますか」

リナの問いに、
同年代ぐらいの少女がはんなりした口調で応じた。

(魔女はいない、佐倉杏子に退治されたか………)
(あーあ、無駄足。
いい加減あいつと縄張り分けとかしない?)

リナチームがテレパシーで状況を確認する。

「それでは、この状況はもうすぐ収まりますから、
この辺りは物騒ですから早く帰る事です」
「おおきに」

いかにも育ちの良さそうな黒髪の少女から丁寧な一礼を受け、
リナチームも撤収の支度に入った。

59: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/19(水) 03:36:57.92 ID:6b1Zx9Kd0

 ×     ×

「刹那さんっ!」

放課後の見滝原市立病院正門付近で、
病院から出て来たまどかが桜咲刹那と遭遇した。

「どうしました?」
「ま、ま、魔女っ」
「何ですって?」

まどかの言葉に、刹那の目が鋭くなる。

「魔女の卵が、駐輪場に。
今、さやかちゃんが見張ってて、わたしはマミさんを呼びに」
「分かりました。私が美樹さんの護衛につきますから
すぐに巴さんに連絡を」
「はいっ」

ーーーーーーーー

「桜咲さん?」
「何をしているんですか?」

結界内部で、振り返ったさやかは押し殺す様な刹那の声を聴いた。

「自分がどれだけ危険な事をしているか、分かっているんですか?
ここで卵が孵化したら命の危険があるんですよ」
「最悪、契約する事も………」

言いかけた所で、さやかは刹那に胸倉を掴まれていた。

「実戦経験も無しに安全を確保出来ると思っているんですか?」
「………ごめん」

さやかが言い、刹那が手を離す。

60: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/19(水) 03:40:39.19 ID:6b1Zx9Kd0

「どうしても、放っておけなかったから。
この病院でグリーフシードが魔女になったら、
居場所が分からない内に弱ってる人が犠牲になる、って」

「そうですね、確かに、そういう事はあります」

ようやく、刹那が肯定的な事を言った。

「うん」
「何か、ここに特別な事情でもあるんですか?」
「………」

刹那の問いに、さやかが頷いた。

「まず、自分の身を守る事を考えて下さい。
魔女退治は命懸けです。
守る側が自分を守れないでは話になりません」
「うん………」
「………」

さやかが、刹那の言葉が途切れた事に気づく。
刹那は、鋭い眼差しであらぬ方向を見ている。

「………何をしているんですか………」
「ご、ごめんなさい」
「いえ、あなたの事ではありません」

押し殺す様に呟く刹那にさやかが頭を下げるが、
刹那ははっとした様にさやかに答える。
そして、刹那は夕凪の鯉口を切り、目を閉じて片膝をつく。

61: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/19(水) 03:44:44.85 ID:6b1Zx9Kd0

「………動き出した、様ですね」
「う、うん」

「巴さん、近くまで来ていますね救兵衛」
「そうだね、孵化が確定して魔力をセーブする必要がなくなった。
僕がテレパシーで案内しているからすぐに到着する筈だよ」

「では、私は急用が出来ましたので失礼します」
「へ?」
「もうすぐ巴さんが到着しますが、
くれぐれも油断の無い様に。
救兵衛、巴さんにもそう伝えて下さい」

「分かった」

キュゥべえが答え、さやかが言葉の意味を理解した頃には、
刹那はばびゅうんっとばかりにその場から姿を消していた。

ーーーーーーーー

「な、何?」

キュゥべえからの事前連絡を受け、
猛スピードの刹那を見送りながら巴マミが目をぱちくりさせる。
刹那はそのまま、夕凪で使い魔を蹴散らし
マミとまどかが元来た方向へと吹っ飛ぶ様に姿を消す。
マミも又、魔力をセーブする必要がなくなった事で
魔法少女に変身して使い魔を一蹴しながら
まどかと共に最深部へと駆け抜ける。

「お待たせ」
「間に合ったぁ」

ドアを開き、結界の最深部に踏み込んだマミと
でっかいケーキの様な物陰に隠れたさやかが言葉を交わす。

62: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/19(水) 03:48:05.11 ID:6b1Zx9Kd0

「桜咲さんは?」
「結界の入口の方に走って行ったけど」

さやかの問いに、マミが答える。

「まさか、逃げた?」
「まさか………」
「元々、魔女退治は魔法少女の仕事、そのための見返りもある。
今まで美樹さんを守ってもらっただけでも御の字よ」

さやかの言葉にまどかは疑問を覚えるが、
マミは筋論で話を進める。

「気を付けて、出て来るよ!」

キュゥべえの叫びと共に、グリーフシードが孵化して魔女が姿を現した。

「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!」

一見するとちょこんと座った小さなぬいぐるみの様な魔女、シャルロッテを、
マミはマスケットでぶん殴り銃撃しリボンで浮上させて、

「ティロ・フィナーレッ!!」

一際でっかい設置型大砲の直撃弾を食らわせた。

「やったあっ!!」

見事な手際からの鮮やかな一撃に、
マミの展開したバリアで守られながらまどかとさやかが歓喜の声を上げる。

「おおおおお………」
「え?」

マミが一瞬戸惑ったのは、聞こえて来た雄叫びと自分を覆う黒い影。

63: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/19(水) 03:51:48.57 ID:6b1Zx9Kd0

「神鳴流秘剣・百花繚乱っ!!!」
「え………えあららあっ!!!!!」
「マミ、さん?」

まどかとさやかが、
桜華と共に突き抜ける強烈な衝撃波に吹っ飛ばされるマミの様を、
動きに沿って首を動かし眺めている。

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!!」

次の瞬間には、マミのいた辺りに立った刹那が
すぐ側に迫っていたぬいぐるみから空飛ぶ人食い怪物に変化した
シャルロッテに一撃を食らわせていた。

「匕首・十六串、稲交尾籠っ!!」

複数の匕首と共に封印術が発動し、
匕首と共に放たれた幾つもの封印の帯がシャルロッテを縛り上げる

「一体何をしているんですかっ!?」
「た、助かったわ。
それにしても、容赦なく吹っ飛ばしてくれたものね」

刹那の怒声に、ようやく立ち上がったマミが答えた。

「ええ、達人なら一日一発や二発程度では死なないと
師匠からも教わりましたから。
それぐらい危険な………」
「ティロ・フィナーレッ!!」

刹那が本格的に何かを言おうとした刹那、
その横を、マミが発砲した
大砲レベルのデリンジャーの砲弾が通り過ぎた。

「斬鉄閃っ!!」

そして、身近に迫っていたシャルロッテを刹那が一撃する。

64: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/19(水) 03:55:07.36 ID:6b1Zx9Kd0

「あの、捕縛結界を?」
「ええ、私もそれでやられかけた」

驚きを示した刹那にマミが言った。

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!」
「ティロ・フィナーレッ!!!」

二弾攻撃の結果、刹那は分析を完了した。

「つまり………脱皮型の魔女で外側は想像以上に頑丈」
「そういう事、みたいね」

肩で息をする刹那とマミが見解を一致させている間にも、
シャルロッテは結界を飛び回り貪欲に獲物を狙う。
刹那が跳躍して一撃を加え、マミも砲撃に出るが決定打が出ない。

「何を、しているんですか?」
「えっ?」

刹那がぽつっと呟いた怒りの籠った言葉に、
マミが聞き返した。

「何をしていると聞いている。
何をしているんですかあなたはっ!?
あなたは、守るためにいるんでしょう、
今は、影ながらに拘る時ですか?
そこで指を咥えて見ている心算ですかっ!?」

==============================

今回はここまでです>>56-1000
続きは折を見て。

67: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/29(土) 02:30:49.55 ID:iSeDpulU0
感想どうもです。

今の名探偵コナンの監督って、昔ネギま! も撮ってたんですなぁ

ほな、今回の投下、入ります。

==============================

>>64

「斬鉄閃っ!!」

叫ぶや否や、桜咲刹那はすぐ側に迫っていたシャルロッテに夕凪を振るう。
その時には、巨体に似合わぬ俊敏さで
「気」の衝撃波を交わしたシャルロッテが結界の空高く飛び上がっていた。

「ひっ!?」

ぐわっ、と、自分達に向かって来たシャルロッテを見て、
鹿目まどかと美樹さやかが抱き合い震え上がる。

「!?」

その爆発音に、巴マミは目を見張った。

「ほむら、ちゃん?」

バリアに囲まれたまどか、さやかの前方に立っていたのは、
魔法少女姿の暁美ほむら。
そして、素早く迫撃砲を構えたほむらが、
狙いをほむらに変えたシャルロッテを砲撃する。
見ると、ほむらの周囲、まどかとさやか、ほむらがいる
台地の様な一角には大量の迫撃砲が林立していた。

「どうしてあの娘が?」
「斬岩剣っ!!」

目を見張ったマミの前で、
刹那の夕凪がシャルロッテを一撃していた。

68: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/29(土) 02:35:55.13 ID:iSeDpulU0

「詮索は後っ!
暁美さん、その二人の防御頼んでいいですねっ!?」
「そうさせてもらうわっ!」

刹那の問いにほむらが怒鳴り返した。

「巴さん、そろそろキメますよっ!」
「分かったっ!」
「神鳴流奥義、雷鳴剣っ!!」

同意が取れるが早いか、
刹那の夕凪がシャルロッテに雷撃を伴う強烈に一撃を繰り出す。
逃れようとして台地に向かったシャルロッテを、
ほむらが迫撃砲で迎え撃つ。

「巴さん、いいと言うまでそこを動かないで下さいいいですねっ!」
「え、ええ。ティロフィナーレッ!!!」

言ってる先から急接近して来たシャルロッテに
マミが抱え筒の一撃を食らわせるが、
やはり決定打にはならない。

「匕首・十六串………」
「その技はっ………!?」

刹那を援護しようとしたマミが、刹那に手で制せられて出遅れる。
台地のほむらも目を細めた。

(まさか、桜咲刹那………)

「攻略法」を知っているほむらの勘が働く。

69: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/29(土) 02:41:41.96 ID:iSeDpulU0

「刹那さんっ!」
「さっ、さささささっ」

バリアの中の二人が卒倒寸前に陥る。
ばくんっ、と、シャルロッテの口が動いた時には、
刹那は目にも止まらぬ速さで横っ飛びしていた。

「稲交尾籠っ!!!」

次の瞬間、シャルロッテの全身がぴんっ、と、直立していた。
その口からは、本来封印に使う稲妻の帯が
大量にはみ出して稲光を帯びていた。

「やらせてもらうわよっ!!」

マミの叫びに刹那は小さく頷きマミは跳躍していた。
バンバンバンッ、と、側面を銃撃され、
封印帯をぶはっと吐き出したシャルロッテはそちらを向く。

「ティロ………」

マミは、シャルロッテがぐわっと大口を開くのを見据えていた、
リボンを手にしたマミが、後方に跳躍した。

「フィナーレッ!!」

魔砲弾が、真っ直ぐシャルロッテの大口の中へと吸い込まれる。

70: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/29(土) 02:46:51.79 ID:iSeDpulU0

ーーーーーーーー

「助かったぁ………」

バリアが解除され、さやかは腰を抜かして荒い息を吐いた。

「どれだけ危険な事か、少しは骨身に染みたかしら?」

一瞥したほむらに、さやかは小さく頷いた。

「あ、あの、有難うほむらちゃん」

怖々と口を開いたまどかに、ほむらはふんっと背を向けた。

「………暁美さん、グリーフシード」

ほむらが、マミに差し出されたグリーフシードを奪い取った。

「大口叩いて私を拘束した割には随分な苦戦だったわね、
一般人二人連れ歩いておいて」
「このっ………」
「それに就いては言い訳の仕様も無いわ」

マミがさやかを制し、素直に応じた。

「桜咲さんがいなければ私の命はなかった」
「その場合、二人の命も無かった………
って、分かってるのかしら、巴マミ、っ」
「身に染みて」
「確かに、その点は考えた方がいいですね」

マミの背後から現れた刹那が付け加えた。

「私がいる時は最悪でも二人を逃がしますが、
それ以外の時は本気で考えた方がいいです」
「そうさせてもらうわ。
二人にも怖い思いをさせて、本当にごめんなさい」
「い、いえ」
「あたし達が付いて来たんですから」

頭を下げるマミを、まどかとさやかが取り成す様に言う。

71: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/29(土) 02:50:12.80 ID:iSeDpulU0

「それはそれとして、どうやってあの拘束を?
まさか、そこまでの魔法を?」
「私が破壊しました」

マミの言葉に、刹那がしれっと言った。

「桜咲、さん?」

「先程引き返した時に、暁美さんを封じていた封印の鍵を一撃して、
それからこちらに戻って来ました。
かなり頑丈な術式でしたので、完全な破壊は無理でしたが、
あれだけ傷がつけばこじ開けるのは時間の問題で」

「どうしてそんな事を?」

「私がそれがいいと判断しました。
実際、今回も助力が得られた訳ですし、
彼女の行動パターンから見て無暗に敵対するのは得策ではない、
少なくとも魔女退治に於いて直接対立した事はない。
私はそう見ましたが」

刹那の言葉に、マミは顎を摘んで黙考する。

「私は帰らせてもらう」
「助かりました」

ファサァと黒髪を払って踵を返すほむらに、刹那は丁重に声をかける。

「分かったわね」

すれ違い様に、ほむらがまどかに声をかけた。

「桜咲刹那は元々よそ者、魔女と戦う魔法少女ですらない。
巴マミがどれだけ強くても何が起きるか分からないのが魔女との戦い。
次に何かあったら、今度こそ命は無いわよ。
それが分かったら、これ以上関わるのはやめなさい」

押し黙ってしまったまどかとさやかをしり目に、
ほむらはその場を後にしていた。

72: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/29(土) 02:53:50.17 ID:iSeDpulU0

ーーーーーーーー

「お待ちどう様」

今日は何となく大人しいマミルームのリビングで、
マミが紅茶とケーキを用意して来た。

「いただきます」
「いただきまぁす。
なんか、ほっとしたらお腹すいちゃった」
「そうだねウェヒヒヒ………」

さやかの感想は、まどかの実感でもあった。

「………少し、浮かれすぎてたかも知れない。
もう、ひとりぼっちじゃないんだって。
だから鹿目さん、さっきの話は一度保留と言う事で、
お互い、少し頭を冷やして考えた方がいいわ」

「………分かりました」
「さっきの話?」

マミとまどかの会話に、刹那が反応を示した。

「………はい、私も魔法少女になろうかな、って思ったんですけど」
「願い事が決まったんですか?」
「いえ」
「よく、分かりませんね」

73: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/29(土) 02:57:14.69 ID:iSeDpulU0

「私………昔から、得意な学科とか、人に自慢出来る才能とか、何にもなくて。
これから先、ずっと、人に迷惑をかけていくのかなって。
それが嫌でしようがなかったんです。
でも、マミさんと会って、誰かを助けるために戦っているのを見せてもらって、
同じ事が私にも出来るかも知れないって言われて、
何よりも嬉しかったのはその事で」

「………」

「だから私、魔法少女になれたら、それで願い事は叶っちゃうんです。
こんな自分でも、誰かの役に立てるんだって、
胸を張って生きて行けたら………それが一番の夢だから………」

「何を、焦っているんですか?」

まどかの話を聞き、紅茶を傾けた刹那が口を開いた。

「私達は、まだ中学生です。
魔法少女はかなり突発的な契約を行っていますが、
大部分の人間と言うものは、
人間としての力で努力して未来に向けて生きています。
そこで、地味でも派手でも大きくても小さくても某かを成し遂げています。

確かに、魔法少女の契約は期間限定。
そして大きな素質を持っているあなたであれば
大きく人間離れした一つの成果を上げる事が出来るかも知れません。

しかしです、率直に言います、
少なくとも今、あなたが命懸けの賭けをすると言う理由が、
理屈で言えば理解に苦しむ。
リスクとメリットのバランスが滅茶苦茶ですから。
感情としては分からないではありません」

74: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/29(土) 03:01:40.92 ID:iSeDpulU0

「あたしもそう思う」

同意したのはさやかだった。

「うん、今のまどかがわざわざ命懸けの契約をする理由が分からない、
って、そう思うのが当たり前だと思う。
今日みたいなの見たら特に。

なんかその、もやもやするのって分からないでもないけどさ、
こないだも言ったでしょ、幸せ馬鹿で何が悪いって。

何て言うか、大した願いがないんだったらそれでいいじゃん、
それだけ幸せだって事だし、少なくとも死ぬよりはさ………
あ、マミさんには申し訳ないかも知れないけど」

「ううん、美樹さんの言う通りよ。
改めて実感した、これは命を懸けた契約だって。
それに見合うもの、その覚悟を求めるのはむしろ当然よ」

「大体、迷惑なんてあたしだってかけっぱなしよ。
まどかにだって色々無茶付き合わせたしさ。
でも、魔法少女じゃなくたって、
まどかはあたしの嫁になるのだー」

「ウェヒヒヒッ!?」
「だから、今回はこうやって、生きてて良かったって事で、
急ぐ事ないよまどか」
「う、うん」

さやかに抱きすくめられ、苦笑いを浮かべながらもまどかは頷いた。

「私もそう思います」
「正直ちょっと惜しい、けど、
私自身揺れてると先輩として責任持てないってのもあるし」
「はい、もう少し、考えてみます」

みんなが真摯なのが分かった。
自分でも幼いと思った思いを、決して馬鹿にしたり無碍にしたりはしなかった。
返答したまどかには、今はそれで十分だった。

75: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/29(土) 03:05:01.04 ID:iSeDpulU0

ーーーーーーーー

「さて」

とうに陽も暮れた見滝原市内の路上で、
暁美ほむらは曲がり角の先にいた桜咲刹那に声をかけられた。

「今度はあなたが追いかけて来たのかしら?」
「そういう事になりますね」

ほむらの問いに、刹那が応じる。

「ここを通るであろう事も分かっていましたから」
「何故?」
「それが、あなたの行動パターンだからです」

ほむらは、落ち着き払った刹那と対峙していた。

「あなたは守るために行動している、そういう事ですね?」
「何の話かしら?」

刹那が年上だから、と言う事もあるのだろうか、
刹那の言葉、眼差しは丸で全てを見透かす様で、
ほむらは口先でとぼけながらも心は半ば以上圧倒される。

「あなたの行動パターンから、大体の推測は出来ます。
陰ながら見守る、そしていざとなったら手も出す。
それがここまでのあなたの行動パターンです。
あなたは、一貫して守るために行動している」
「あなたには関わりの無い事よ」

そう言いながらも、意思の力でじっ、と、刹那の目を見据えながらも、
ほむらの足は意思が無理に留めなければ後退しそうになる。

「あなたの推論が正しいかどうか、その返答も拒否する。
邪魔をすると言うのなら容赦はしない」
「あくまで私と争いますか?」
「あなたが割り込んで来ると言うのなら」
「そうですか」
「もういいかしら?」

返答も聞かず、ほむらは歩き出す。

76: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/04/29(土) 03:08:18.38 ID:iSeDpulU0

「一つ、忠告します」

すれ違うほむらに刹那が声をかける。

「守る場合、距離感が大事だと言う事はあります。
しかし、陰ながらに拘り過ぎると、
却って見えなくなる事もあります」

ほむらが足を止める。

「………結界で助けてもらったお礼、言ってなかったわね。
………ありがとう」

振り返り、頭を下げるほむらの前で刹那も小さく礼を返す。
踵を返してほむらが立ち去るのを、刹那は黙って見送る。

ーーーーーーーー

見滝原市内、とあるビルの屋上で狙いを定めるレミントンM700。
そのスコープの中心には、
マンション建築現場側を歩く桜咲刹那がとらえられていた。

ーーーーーーーー

風見野市内、公園付近。
ソウルジェムを掌に乗せた佐倉杏子がニッと犬歯を見せる。
夜の公園に踏み込み、変身しながら結界に飛び込んだ。

「そらっ!」

槍を一閃、まずは使い魔を蹴散らす。

「昨日は妙な邪魔が入ったからな。
いい加減、狩らせてもらうぜっ」

「………アぁ…亜………イ…ぃ異………ウぅ右………
………エ…ぇ…餌………オ…ぉ於………」

==============================

今回はここまでです>>67-1000
続きは折を見て。

79: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/05/14(日) 03:47:12.28 ID:yUE7Pls80
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>76

ーーーーーーーー

龍宮真名は、レミントンM700を置いて床ギリギリに横っ飛びしていた。

「!?」

美国織莉子は、自分と真名との間で空中に展開した水晶球が
次々とあらぬ方向に弾け飛ぶのを見ながら、
自らも横に跳躍し、新たな水晶球を飛ばす。

「?」

真名を狙って飛んだそれは、何かが弾けて微妙に軌道が反れる。
その時には、真名が向けた銃口が織莉子を捉えていた。

「オラクルレイッ!!」

ドドドッ、と、発砲された自称モデルガンデザートイーグルの弾丸を
魔法少女出力で跳躍した織莉子が交わし、
織莉子が放った水晶球が身を交わした真名の側を通り
今二人がいるビル屋上の鉄柵に抉り込まれた。

(特別速い訳ではない。こちらの攻撃をかなり際どく回避して
こちらに吸い付く様な攻撃。
勘がいい? いや、マギカであれば………)

デザートイーグルの銃口を上に向けた真名と
周囲に水晶球を浮遊させる織莉子がじりっ、じりっ、と油断なく向き合う。

「美国、織莉子か?」

口に出した瞬間、真名を伝う汗が、つーっと一筋追加された。

80: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/05/14(日) 03:52:26.54 ID:yUE7Pls80

「私の事をご存じで?」
「一応、現地情勢は頭に入れる事にしている。
マギカ、魔法少女か?」
「あなたは魔法少女ではない。
しかし、一般人と言うには無理があり過ぎる」

すっ、と、一度両膝を曲げ伸ばし直した織莉子が言った。
ピン、と、織莉子が指を弾き、
返却のために飛来した五百円玉を真名が左手で受け取る。

「まして、ここからこちらの駒を狙い撃ちしよう等と言うのであれば、
それは、宣戦布告以外のなんなのですか?」
「お見通しか」

織莉子の言葉に、真名はふっと息を吐いて言った。

「そちらが仕掛けて来た事情は何だ?」
「魔法少女の事から手を引きなさい、
私達は救世を成し遂げる」
「後は剣と銃で語る所か?」
「この辺りにしておきましょう。
余りここに長居はしない方がいい。但し」

真顔で見据えられた瞬間、
真名は織莉子を撃ち抜こうとした我が手を心で制していた。

「警告は今回だけです」

81: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/05/14(日) 03:58:28.51 ID:yUE7Pls80

ーーーーーーーー

「美国織莉子?」

見滝原市内のアパートの一室で、桜咲刹那はスマホに向けて問い直した。

「ああ、最近自殺した見滝原市議会議員の娘だ」
「それが、マギカだと?」

刹那が、再び問いを発する。

「お前が言っていた長爪のマギカの仲間、
彼女は駒だと言っていたがな」

「その、美国織莉子がそっちに行ったと言うのか?」

「ああ、その事実と彼女の戦闘スタイルから言って、
マギカとしての能力は恐らく予知の類、
程度は分からないが厄介だぞ」
「まあ、そうだろうな」

そう言いながら、刹那の口調は落ち着いていた。

82: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/05/14(日) 04:01:51.71 ID:yUE7Pls80

「マギカは強い、
少なくとも力だけで言えば私達でも生半可に戦える相手ではない」

「その様子だと、他にもやり合ったのか?」

「ああ、流石に地元の主となると実力も相当なものだ。
しかも、今のこちらの魔法を超えたものも素質次第願い次第と言った所か。
長爪とその主人との衝突は不可避だろうが、
まあ、上手くやるさ。手伝い感謝する」

「何、その辺りの話はついてるからな。
只、気を付けろ」

「ああ」

「美国織莉子、あいつは強いぞ。
戦闘力も侮れないが、
人を引き付け、呑み込む何かを持っている。
何処か脆さが見えるが、だからこそ強い。
出会いによっては向こうに従っていたかも知れないな」

「覚えておこう」

83: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/05/14(日) 04:05:27.63 ID:yUE7Pls80

ーーーーーーーー

「尾ッほ頬ぉー、肺ホー
蘭・卵・覧♪乱♪」

風見野市内の結界内で、
佐倉杏子は魔女退治の真っ最中だった。

そこそこヴェテランである杏子だったが、
今回は、彼女に言わせればなかなかにウザイ相手だった。

巨大な顔から手足や別の首が伸びるゾンビの様な外見だが、
倒された振りをして復活する、
伸びる首が多方向から噛みついて来る、と、実に鬱陶しい。

対して、杏子もヴェテランらしく、
相手に合わせて多節棍に変化させた槍を広く展開し、
多面展開する相手に範囲攻撃で反撃する。

「ウぐ虞、ヒ魏ぎぎ………」

かくして、魔女は目の前で赤い体液を垂れ流して呻いている。
杏子も少々疲れを感じる。
勝利は間近、後はこの働きに見合うグリーフシードが落ちるかどうか。
頭の片隅でそれを思いながら、
槍を構えた杏子はタッ、と、地を蹴った。

==============================

今回はここまでです>>79-1000
続きは折を見て。

84: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/05/22(月) 01:43:49.89 ID:ghfpEpVF0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>83

「血?」

杏子は、魔女から流れ出した体液の奇妙な動きに気付く。

「目くらましか? しゃらくさいな」

杏子が、こちらに向かって来た液体を槍で払う。

「!?」

薙ぎ払った、そう思った血は一瞬で枝分かれして、
何本もの太い触手と化して杏子の両腕両脚に絡み付きながら
強力な溶解力を展開する。

(まいったな、これ死ぬじゃん………)

両腕両脚をまともに切断され、走馬燈も浮かばない。
シケた諦めが杏子の心をよぎったその時、
杏子に迫っていた魔女本体が、飛来した光る帯に巻き取られた。

(な、っ?)

バシイッ! と、高圧電流の様に強力な魔力が
光る帯から魔女を一撃する。
それと共に、何処からともなく澄んだ、独特の歌声が聞こえて来る。

杏子の場合育ちの関係から特に縁遠かった訳だが、
聞こえて来たのは御詠歌だった。
魔女を締め上げていた帯の光が強まり、
反比例する様に、魔女はぐずぐずと腐れ落ちて、消滅した。

「………いぶきどのおおはらへ………」

85: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/05/22(月) 01:49:31.25 ID:ghfpEpVF0

ーーーーーーーー

「ん、んー………」

むずかっていた近衛木乃香が目を開く。

「気が付いたか?」
「ああ、あなた」

自分を見下ろす佐倉杏子の顔を確認し、
木乃香は杏子の腿の上に乗せていた頭を上げる。
そして、周囲を確認する。
廃屋、教会だろう。
教会の廃屋の長椅子に横たわって眠っていたらしい。

「ここは?」
「見ての通りの空き家だよ。
あたしの事を助けてくれたみたいだけど、
そのままぶっ倒れて寝込んじまったから、そのまま連れて来た」
「それはおおきに」
「いや、礼を言うのはこっちの方だよな………」

座り直してにっこり頭を下げる木乃香に、
ペースを崩された思いの杏子が応じる。

「で、あんた一体何なんだ?
どうも魔法少女じゃないみたいだけど、
普通の人間ってだけでもないよな」
「そやなぁ………敢えて言うなら魔法使い、やな」

「魔法使いだ? いや、まあ、確かにそう言われても否定は出来ないな。
取り敢えず、分かる様に説明してもらおうか?」

「んー、まあ、つまり、魔法使いはあなた達マギカ、魔法少女と比べるなら、
元々の才能と特殊な修行で魔法を身に着けて
影で活動している人達、とでも言うんかな。
うち、あんまり攻撃魔法は得意やないんですけど、
さっきは急ぎで全部終わらせなあかんて、少し無理してもうて」

86: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/05/22(月) 01:54:47.13 ID:ghfpEpVF0


「いや、無理ってレベルじゃねーよ。
魔法使いがどれぐらいかは知らないけど、
見た感じ魔女を魔力のごり押しだけでぶっ潰して、
それであの大怪我治してくれたんだからさ。
それはホント感謝する」

「おおきに。ほんまやったらそちらさんとは余り関わる事はないんやけど、
少し事情がありまして」
「事情?」

「はいな。人を探すのに見滝原の魔法少女と接触するつもりやったけど、
電車乗り過ごしてしもて。
それで、この辺りでも少し情報を集めようと思ってな。
それで先日、公園で母子連れを狙っている使い魔を見かけて、
取り敢えずこっそり追い払って、
後は地元のマギカに任せよ思うて見張ってたんやけど、
途中で魔女に気付かれてもうて」

そう言って、木乃香はごそごそとポケットを探る。

「これ、その時のグリーフシード。
うちには必要ないものやし、地元の人が使うのが筋やから」
「ああ、それなら遠慮なく」
「それで、佐倉さんの事を探してたら魔女らしき魔力を感じて、
それで、さっきの現場に行き合わせた訳で」
「じゃあ、これ返すためにわざわざ」
「はいな。マギカの人達にとっては大事な事や聞いてますから」

「へっ、律儀だねぇ………人を探して見滝原に?」
「はいな、恐らくあちらの魔法少女に関わっているだろうと」
「そいつも、魔法使い?」
「うちの大切な仲間、友達です」

87: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/05/22(月) 02:01:10.08 ID:ghfpEpVF0

「なるほどねぇ………
そう言や、あたしの名前知ってるのか?」
「あの時、後から来たマギカの人が言うてました、
佐倉杏子さん、で合ってます?」
「ああ」
「うちは近衛木乃香、言います」

「このか、ね。
なんか、妙な連中にうろつかれたくはないんだけど、
あたしの命の恩人ではあるからな。
見滝原の魔法少女、それならどの辺を当たればいいか、
大体見当もつく。後で教えるよ」

そう言って、杏子はごそごそと何かを探り始めた。

「くうかい?」
「おおきに」

88: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/05/22(月) 02:04:45.25 ID:ghfpEpVF0

ーーーーーーーー

「きゅっぷい」
「少し、外してくれるかしら?」

美国邸で、
漆黒に近づいたグリーフシードを飲み込んだキュゥべえに織莉子が告げた。

「織莉子っ! 駄目だよ無理したら。
戦うんだったら私が………」
「ごめんなさい、今回はそれだと意味が無かったから」

「ああー、狙撃、だったっけ?」
「ええ、あの刀使いをあなたが狙う、
そこを狙ってスナイパーが狙撃する」
「それを先読みして織莉子が………で、そのスナイパーは?」

キリカの問いに、織莉子が首を横に振る。

「一流のスナイパーは戦うためのあらゆる能力を身に着けている、
これは本当みたいね。それとも、彼女が別格なのかしら?」
「女だったのかい?」
「ええ、一見凄く大人びても見えるけど、私達と同年代ね」

「そいつ、魔法少女?」
「魔法少女ではない、だけど、普通の人間でもない。
刀使いと同類と思っていい。
あの場では、警告して引かせるのがやっとだった」

「とにかくっ! 織莉子はもうこれ以上危ない事をしたら駄目だからねっ!!
刀使いだろうがスナイパーだろうが、織莉子がやれと言うなら私が刻むよ」
「ありがとう、キリカ。
今回も、グリーフシードを集めてくれただけでも」
「私は織莉子の矛であり盾なんだから」

==============================

今回はここまでです>>84-1000
続きは折を見て。

89: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/14(水) 02:00:34.20 ID:CQn3FTMh0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>88

 ×     ×

「お邪魔しまーす」
「いらっしゃい」

放課後、帰宅した巴マミは、
自宅を訪れた後輩を快く迎えていた。

「あら、今日は一人?」
「はい、もしかしたら後で来るかも知れないって」
「そう」

玄関先で言葉を交わし、
鹿目まどかはリビングへと足を進める。

「刹那さん」

まどかに声をかけられ、
リビングで正座していた桜咲刹那が小さく頭を下げる。

「美樹さんは?」

マミが台所に立っている間に、刹那が尋ねる。

「上条君の所。
いいCDが手に入ったって言ってたから。
だから、一人で………」ウェヒヒヒ
「そうでしたか」

意味ありげな笑みと事情を話すまどかに、
刹那もふっと微笑みを返す。

「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」

90: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/14(水) 02:05:41.64 ID:CQn3FTMh0

ーーーーーーーー

「空振りだったわね」
「そういう日もあります」

逢魔が時の魔女探索で一通り歩き付くし、
繁華街近くの歩道でマミと刹那が言葉を交わした。

「昨日、あれだけの激戦でしたし」
「そうね、たまには早く帰って休ませてもらおうかしら」

刹那の言葉に、マミが応じる。

「鹿目さんは?」
「はい、ちょっと買い物を」
「そう、それじゃあ」

まどかの返答を聞いてマミがにっこり笑い、
刹那が小さく頭を下げて取り敢えず解散となった。

ーーーーーーーー

「?」

ちょっとした買い物を終え、
駅前通りから帰路に就こうとしていたまどかは、
そこで少々不思議な光景を目にしていた。

「仁美ちゃん」

目の前を歩いているのは志筑仁美。
まどかのクラスメイトで小学校時代から仲のいい友達。
だが、ここにいると言うのは、少々不思議な光景。

91: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/14(水) 02:10:55.50 ID:CQn3FTMh0

「お稽古事は? ………」

地元でも名士の娘で立場も物腰もお嬢様そのもの。
こんな所にいる筈が無いぐらい多忙な筈ではあるのだが、
まどかは、たった今、思い当たる節を見つけてしまった。

「あぁら、鹿目さん、ご機嫌よぉ」

一見普通でも、長い付き合いのまどかには分かる。
微かに酔っている様な、覚束ない口調。
そして、首筋に「魔女の口づけ」。

「仁美ちゃん、何処に行くの?」
「とても素晴らしい所ですわ。
そうだ、鹿目さんもご一緒に」

そう見えるのか実際そうなのか、
動き出した仁美の動きは、ぎくしゃくと、
まどかには何処か人形染みたものにしか見えなかった。
進行方向を同じくする人が徐々に増加する。

ーーーーーーーー

仁美の後を追う内に、まどかは廃工場の中に入り込んでいた。
工場の作業場らしきスペースには、
仁美を含め相当な人数が集まっているが、
明らかに精気を欠き、それでいて、
得体の知れない希望にその目を輝かせている。

「俺は駄目なんだ………
こんな小さな町工場一つ切り盛りできなかった。
今の時代に俺の居場所なんて、あるわけねぇんだ」

この工場の経営者らしき中年男性が椅子に掛けたままぶつぶつと言い、
その妻らしき女性がバケツを用意する。
女性の行動が、塩素系洗剤と酸性洗剤の混合である事に気づいたまどかは、
本格的に意味不明な供述と共にまどかを制止する仁美を振り切り、
今正に殺人瓦斯を放とうとしていた
バケツを奪い取り、窓へと投げ捨てた。

92: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/14(水) 02:14:07.55 ID:CQn3FTMh0

「ひっ!?」

肩で息をしながらほっとしたのもつかの間、
未だ以て正気を失い、ゾンビ的な挙動と化した志筑仁美以下の集団が
今正にまどかをどうにかしようと迫っていた。
とっさに、逃げ出せない程に足がすくんだまどかは、
もう一度、ガラスが割れる音を聞いた。

「失礼」

集団の先頭にいた志筑仁美が、当身を受けてくずおれた。
気付いた時には、まどかは、
下から太ももと背中を支えられる形で宙を舞っていた。

「刹那さんっ!?」
「ご無事でしたか」

まどかを抱きかかえたまま、
集団から離れた場所に着地した桜咲刹那が小さく頷いて言った。

「あ、ありがとうございます」
「これは、魔女ですか?」
「は、はい、魔女の口づけが」
「そうですか」
「刹那さんっ!」

野太刀夕凪の鯉口を切った刹那にまどかが叫ぶ。

「大丈夫、無傷は難しいかも知れませんが、
出来る限り無事に終わらせます。
秘剣・斬空閃っ!!!」

早速に、「気」の螺旋があらぬ方向へと吹き飛ぶ。

93: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/14(水) 02:17:38.52 ID:CQn3FTMh0

「逃げて下さい、ここは私が」

「気」の一撃を受け、吹き飛ばされた入口シャッターを見て刹那が言った。

「えっ、あ、あのっ………」
「魔女は奥ですね。この程度の一般人、なんとでもなります。
………足手まといです」
「は、はいっ!」

刹那の言葉を聞き、まどかがたたたっと入口に向かう。

「斬岩剣っ!!」

早速に、集団が寄って来る前に刹那が「気」を一撃し、
精神的ゾンビ集団を牽制する。

ーーーーーーーー

「?」

昨日は激戦、
今日は割と埃っぽく探し回った割には空振り。
帰宅して、夕食後一風呂浴びた巴マミは、
リビングの鏡台に向かう途中でスマホの着信に気付いた。

「メール? 鹿目さん?」

==============================

今回はここまでです>>89-1000
続きは折を見て。

94: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/18(日) 03:43:54.11 ID:pJ6Kx2c60
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>93

巴マミは一度鏡台前の椅子に掛け、
スマホのメールを確認する。
パチンと指を鳴らし、
後ろ髪に魔法少女カールを展開しながら立ち上がった。
そして、その場にバスタオルを打ち捨てたマミは、
ちょっと嘆息して明日の用意の制服他一式に手を伸ばす。

ーーーーーーーー

「暁美さんっ」

その瞬間の、暁美ほむらが見せた嫌そうな顔は、
先輩の度量として見なかった事にする。
取り敢えず、時間節約のために
途中途中屋根を飛び飛びショートカットしながら駅前近辺に到着した巴マミは、
そこで目についた暁美ほむらに向けて叫んでいた。

「何処に行くの?」
「関係ないわ」
「奇遇ね」

ダッと走り出したほむらと並走しながらマミが言った。

「鹿目さんからメールが入った。
魔女らしきものがこっちの方向に誘導してる、ってね」

「!? まどかはっ!?」

「魔女に口づけされた友達を放っておけないと、
こっちの方向に向かった。それ以上の事は分からない」
「………この先に、おあつらえ向きの廃工場があります」
「オッケー」

95: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/18(日) 03:49:06.04 ID:pJ6Kx2c60

ーーーーーーーー

「これは………」

廃工場に入ったマミは、死屍累々の有様に目を凝らす。

「………全員、気を失ってるだけみたいね………」

次の瞬間、マミの背後から一続きの銃声が響く。

「使い魔」

頭上で撃ち抜かれたものを把握し、マミが呟く。

「発砲した以上長居は出来ない、速く片付けましょう」

マミがその言葉に頷いた頃には、
M16を抱えたほむらが壁沿いに走り出していた。

ーーーーーーーー




ほろ



ほろほろ



ソウルジェムで魔力を感知し、
ドアの一つを空けてその奥の魔女の結界に飛び込んだ暁美ほむらは、
一瞬、目の前の光景に立ち尽くした。

96: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/18(日) 03:55:03.65 ID:pJ6Kx2c60

ほろ



ほろほろ



ブチッ


ブチッ ブチッ



「くっ!」

とにかく、ふわふわと降下して来る、
薄気味悪い天使ギミックの様な使い魔をM16で追い散らす。

「ティロ・フィナーレッ!!」

そんなほむらの背後から、
接近していた魔女を狙ってマミが砲撃をかけたが
魔女は間一髪、使い魔を巻き込みながらもその一撃を回避する。



ほろ



ほろほろ


ブチッ



ブチッ ブチッ



97: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/18(日) 04:00:19.96 ID:pJ6Kx2c60

ドン、ドンドンッ、と、迫る使い魔を使い捨てマスケットで片づけながら、
マミはじろっと周囲を見回す。

「あっちねっ」
「気を付けてっ! この魔女は」

何処かサイケデリックで視界の良くない結界の中、
魔女本体の気配を察知してマミが飛び出す。

「このっ!」

一旦M16を放り出したほむらが、ゴルフ用アイアンを振るう。
ここの使い魔は案外面倒くさい。
浮遊しながらゆらゆらと接近していた魔女を一度牽制し、
さっと米軍仕様M9拳銃を抜いて使い魔を撃ち抜く。



ほろ



ほろほろ



ブチッ


ブチッ ブチッ


ほむらが少々使い魔のペースにはまっている間にも、
マミは空飛ぶモニターとでも言うべき魔女本体を追って
空中に次々と生じせしめたマスケットを拾っては撃ち拾っては撃ち、
ドン、ドンドンッ、と着実に追い込みをかけていた。

すとーんっ、と、体勢を整え、片手持ちしたマスケットを真正面に、
その射線に魔女を捕らえてタイミングオッケー。
ここでど真ん中撃ち抜いて、一気にティロ・フィナーレと、
マミの脳裏にはその道筋が一直線に描かれていた。

98: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/18(日) 04:03:34.05 ID:pJ6Kx2c60

ほろ


ほろほろ


巴マミが、ぱちくりと瞬きをした。

「お父、さん」



ブチッ



ブチッ ブチッ



「お父、さん、お母さん………」

「私、一人だけ、願った………」

「あの子、助けられなかった………」



ほろ



ほろほろ



ブチッ



ブチッ ブチッ


99: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/18(日) 04:06:39.44 ID:pJ6Kx2c60

「巴マミ、桜咲刹那、何を………」

苦り切った暁美ほむらが、
気配に気づいてハッとそちらを見る。
その時には、
魔女はほむらのド真ん前に存在していた。

ヤバイヨネー


シンジャエバ


イッテクルネ


ハンタイダワ


ミンナシヌシカ


バカナワタシヲ


「こ、のっ………」

ほむらが、意思の力を振り絞り拳銃を構え直す。


ウレシイ、ナ



「あああああーーーーーーーーーっっっっっ!!!」

ほむらが、絶叫と共に、斜め下の床?に向けて拳銃を発砲する。
その、無意味な行動と共に、すとん、と、両膝から力が抜けた。
ぶんぶんっ、と、ほむらが頭を振る。
だが、その時には、禍々しい気配は肌に感じそうな、
そんな所まで接近していた。

100: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/18(日) 04:10:34.45 ID:pJ6Kx2c60

「!?」

光を、見た。
眩しいものを感じたほむらが顔を上げると、
小型のオーロラ、光る帯の様なものが、
獲物に迫っていた使い魔達を一掃していた。

「なぁ………何してるん?」

他人から言われる事もあって、最近の暁美ほむらは、
己の黒髪には少々自信を持っている。
しかし、ころころと穏やかな声に振り返ったほむらが
そちらに見たのも又、実に見事な長い黒髪だった。

「何してくれたんやろなぁ」

ひゅんっ、と、
巨大な槍の様に突き出された光る帯を魔女が辛うじて交わした時、
ほむらが聞いていたのは、のんびり、はんなりと、
トゲ一つ見えないからこそ底の見えない声だった。
そして、ほむらはもう一つの気配に気づく。

「佐倉、杏子?」

101: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/18(日) 04:14:00.09 ID:pJ6Kx2c60

佐倉杏子は、それなりに百戦錬磨の魔法少女である。

実戦経験も豊富、魔女相手にも、
頭と能力のある魔法少女が相手であっても、
それなりの強者として通して来た。

何よりも魔女狩り、グリーフシードを欲する強欲な合理主義者。

その強欲な強者佐倉杏子は今、結界の入口近くで
コメカミに汗を伝わせて苦笑いを浮かべていた。



うちの

大事な大事な大事な大事な大事な(以下略

せっちゃんに、



してくれはったんやろなぁ?



==============================

今回はここまでです>>94-1000
続きは折を見て。

103: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/22(木) 03:09:14.63 ID:Jz5f4gbv0
コメントどうもです。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>101

水干紅袴の近衛木乃香が、するりと周囲を伺う。
伏せたその目は、墨絵に描いた様だった。
それと共に、ミニオーロラの様な光の帯が
しゅるるっと木乃香の手に引き戻される。

(魔力、そのものっ?)

引き戻された光る帯は、光を失い南京玉簾、そして扇へと姿を変える。
光る帯の正体を知ったほむらは戦慄した。

要は、これも非常識に巨大化出来る南京玉簾に魔力を乗せた
半・ビーム兵器みたいなもの。
魔法少女から見てそれ自体に不思議はない。

だが、光と化した魔力そのものの威力、出力が只事ではない。
そして、それを十分コントロールしていると言う技量も。
一差しの舞と共に、爽やかな南風が結界を吹き抜けた。

「くっ!」

頭の中を強制的にかき回していた悪夢が雲散霧消し、
それを感謝する暇もなくほむらは魔女に拳銃を向ける。
木乃香が南風を放ったその隙に、
モニター型のハコの魔女
H.N.Elly(Kirsten)がすうっと木乃香に接近する。

「………アデアット………いでよ、建御雷………」

ほむらの斜め後ろでバズーカ的なものを構えた巴マミは、
一瞬、その視線の先に「鬼」を見ていた。

104: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/22(木) 03:14:51.73 ID:Jz5f4gbv0

「神鳴流奥義・百烈桜華斬っ!
秘剣・百花繚乱っ!!!」

ほむらとマミと杏子と木乃香は、首を右から左に、
結界の端から端までハコの魔女の行き先を目で追っていた。



神鳴流奥義・斬岩剣!!

雷鳴剣っ!!!

極大・雷鳴剣っ!!!!

神鳴流決戦奥義っ、



雷光剣っっっっっ!!!!!



「えーっと、終わった?」

佐倉杏子がグリーフシードが物理的に存在しているかを懸念していた頃、
結界の入口近くで、
突入早々遠くに輝く汚ねぇ花火を眺めていたさやか☆マギカが呟いた。

105: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/22(木) 03:21:24.42 ID:Jz5f4gbv0

ーーーーーーーー

人数だけでもカオスとしか言い様の無い状況を悪化させないために、
間違いなく警察沙汰になりそうな廃工場から撤収。
一同は夜の河川敷広場へと移動していた。

「どうしてここにっ!?」
「お知り合い?」

とにもかくにも叫び声を上げた桜咲刹那に巴マミが問いかけた。

「古くからの友人です」
「魔法使いね」

刹那の紹介と共にほむらが言った。

「どうも、近衛木乃香言います」
「ご丁寧に」

言葉通り、はんなり丁寧に頭を下げる木乃香にマミも礼を返す。

「とにかくお嬢様、どうしてこの様な場所に?」
「んー、それがなー」

106: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/22(木) 03:26:30.94 ID:Jz5f4gbv0

ーーーーーーーー

「おーい近衛ーっ」
「はいな」

数日前の放課後、近衛木乃香は学校の廊下で
クラスメイトの朝倉和美に呼び止められていた。

「あんた、桜咲と一緒じゃなかったの?」
「んー、せっちゃんも最近色々忙しいみたいでなぁ」

ころころと笑って答える木乃香だったが、
何処か不思議そうな和美の表情が僅かな不安を呼んでいた。

ーーーーーーーー

「ちょっとこっちの情報網に引っ掛かったんだけど、
最近、見滝原に行ってるみたいなんだよね桜咲」
「見滝原?」

誘われるままに女子寮の和美の部屋を訪れた木乃香は、
そこで思わぬ情報を聞かされた。

「しかも、そっちの学校に転校してるし」
「てんこう?」

取り敢えず、意味が分からなかった。

「書類上は短期の国内留学かな?
取り敢えず、今ん所はあっちの学校に在籍してるって事なってるね」
「はやー、そんな事もあるんやな」
「驚いた?」

和美が、いつものキツネ目で言った。

107: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/22(木) 03:30:14.77 ID:Jz5f4gbv0

「まあ、何か事情でもあるんやろ」
「まあー、そんなトコだろねー。
最近、連絡とかは?」
「それがなぁ、仕事関連で少し麻帆良を留守にする、
携帯も出られなくなると思うてそれっきりやから。
うちも邪魔したら悪いてそのままにしてたんやけど」

「んー、防犯関係のデータ、動画解析とかしてみても、
桜咲の行動範囲はその短期留学に合わせて
見滝原市内を割とあっちこっち動き回ってるみたいだね」

「物の怪でも出たんかなぁ、
ネギ君のプランとはちょっと関係無さそうやし」

小首を傾げる木乃香を、
キツネ目の和美は相変わらずおとぼけ可愛いと眺める。

「只、その辺りの事で、ちょっと気になる事があるんだわ」
「気になる事?」

口調もそうだが、木乃香に聞き返された和美は真面目な顔で頷いていた。

「マギカ、魔法少女、って知ってる?」
「サギタ・マギカ?」
「マギカだと、私らならそうなるか」

そう言って、和美はテーブルにコピー用紙を広げてペンを走らせ始める。

「いちおー私もだけど、私達魔法使い、
それとはちょっと違う魔法少女、ってカテゴリーがある訳。
その魔法少女の事を魔法使いと区別してマギカ、って呼ぶ呼び方があるって事」

「魔法少女なー」

「そ、魔法少女。どっちかってとフィクションならビブリオンとか、
そっちの方面が近いかな?
魔法使いとは別に、そういう娘らが実在してるってんだよねこれが」

108: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/22(木) 03:33:49.33 ID:Jz5f4gbv0

「はー、そんなんほんまにいるんや」

「うん、私もこっちに関わって裏情報収集してる内に引っ掛かったんだけどね。
で、桜咲、そのマギカ、魔法少女に関わってる節があるんだな」

「せっちゃんが?」

「そ、この見滝原って所がさ、
どうもその魔法少女管轄の事件が増加してるんだわ。
本来、魔法使いはマギカ、魔法少女の事には関わらない筈なんだけど、
どうもこのタイミングが気になるんだよね」

「魔法少女管轄の事件?」

「魔法少女は魔法少女で、
彼女達が専門で退治するモンスターがいるみたいだね。
それがかなりヤバ目な怪物みたいでさ、
こっち側で関わる物の怪はある程度共存出来るけど、
魔法少女の方は、基本、人的被害、はっきり言って人を食う。
しかも市街地に発生するから放っておくとどんどん死人が出るって
物騒な連中らしいんだよねこれが」

「そんな事にせっちゃんが?」

「桜咲って人選に、この時期に長期に見滝原に出向いてるって、
可能性は低くないんじゃないかな。
近衛に伝わってないって事も含めてね」

「うちが? どういう事?」

109: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/22(木) 03:37:31.99 ID:Jz5f4gbv0

「さっきも言ったけど、
私達魔法使いと魔法少女は基本、不干渉の立場を取ってる。
実際、今まで関わって来なかった。

なんか、色々利害関係があって、
迂闊に関わるとトラブルになるって事みたいだね。

だけど、見滝原関連の裏情報見てると、
本来魔法少女マターで対処する被害がちょっと洒落にならなくなってる。
だから、こっちから桜咲が派遣された。
仮説を立てるならこの辺りかな?」

「人を食うモンスター………せっちゃんなら………」

「まあ、桜咲なら大概大丈夫だとは思うけどね」
「当然や」
「だけど………」

話を続ける和美は、真面目な顔をしていた。

「魔法少女、って、相当なものらしいよ。
イメージだけど、実際ビブリオンとかそっち方面の魔法少女、
あれが本当にいたら現実的な戦闘力はどうなるかってね」

「んー、かわええ感じで結構わやな事になりそうやなぁ」

「そんなんが対処する怪物が相手だからね。
ま、桜咲なら問題ないとは思うけどさ。
只、見てる限り一人で行ってるのかな桜咲。
こっち側の業界関係者の情報にも引っ掛かりがないって事は」

「そやなぁ………ネギ君やアスナも最近はご無沙汰やし、
うちも聞いてへんかったさかい」

110: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/22(木) 03:40:55.97 ID:Jz5f4gbv0

ーーーーーーーー

木乃香から経緯を聞いていた刹那は、手で額を抑えていた。

「それで、相談しようにもネギ君もアスナもいぃひんし、
何か危ない事になってへんかケガしてへんかて」
「そうでしたか。ご心配をおかけしましたお嬢様」

刹那は、嘆息してから深く頭を下げた。

「お嬢様?」

周囲から不審の声が上がった。

「はい、こちらにおわす近衛木乃香、
このかお嬢様は魔法協会トップであり京都の呪術世界を司って来た
近衛家の直系の御令嬢です。
私、桜咲刹那は近衛に仕える桜咲家、協会に属する神鳴流剣士として
このかお嬢様の側近くに仕えるものとしてもがもがもがっ!!!」

「だからー、お嬢様やなくてこのちゃん呼んでぇなて
言うてるんですけどなぁ」

ここの魔法少女達の中でも遜色ないどころか
普通にぶちのめしかねない桜咲刹那が、
口に指を突っ込まれて頬っぺたを広げられている前で、
刹那の頬っぺたを内側から広げる木乃香は京娘の微笑みで応じている。
取り敢えず、かなり「いい性格」のお嬢様であろう事は、
暁美ほむらも理解した。

「それで佐倉さん、あなたはどうして?」

「ああ、その、このかお嬢様にちょっと借りが出来ちまってな。
なんだかんだで、そっちの桜咲さんの所に案内する事になったって事。
見滝原の魔法少女と合流してるんじゃないかって言うからさ。
縄張り荒らすつもりはないから心配すんなよ」

「ええ、分かったわ」

マミと杏子が、適当な距離感で言葉を交わしていた。

111: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/06/22(木) 03:44:49.17 ID:Jz5f4gbv0

「おおきに、有難うございます」

木乃香に丁寧に頭を下げられ、杏子も小さく頭を下げた。

「近衛さんの事情は呑み込めたけど、
美樹さん、あなた魔法少女の契約したの?」
「はい」

マミの質問にさやかが応じた。

「それで、早速魔女探してる内にまどかが走って来て、
魔女見つけたらマミさんにも連絡する予定だったんですけど、
もうマミさんには連絡して仁美も関わってるって言うから
放っておけなくて突入したらあんな感じで。
デビュー戦は又今度、って所ですなー」

「………」

後頭部で手を組んでカラカラ笑うさやかを、
言葉程ふざけてはいないとは分かりつつ刹那は静かに見ていた。

「美樹さん」
「はい」

刹那に声をかけられ、さやかも少々緊張する。

「では、ちょっと変身していただけますか?」
「ん? いいですよ」

さやかがソウルジェムを掌に乗せる。
杏子が怪訝な顔でマミを見る。
どうやら、マミも気付いているらしい。
刹那が左手の夕凪の鯉口を切った事に。

==============================

今回はここまでです>>103-1000
続きは折を見て。

112: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/06(木) 02:37:05.72 ID:TgFRLh/20
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>111

美樹さやかの体が光に包まれ、
その姿、衣服は魔法少女と呼ぶに相応しいものへと変化する。
胸元の青を基調とした肩出しビスチェタイプのトップスと
白いミニスカートのボトムは、
実用性と言うよりもゲームの女剣士を思わせる。

「美樹さん」

変身したさやかに桜咲刹那が声をかけ、
さやかがそちらを見ると、
刹那は左手に握った野太刀「夕凪」をすうっと持ち上げていた。

「美樹さやかっ!」

暁美ほむらが叫んだ、その時には、
刹那はさやかの前方ですらりと夕凪を抜き、
さやかの目には八双に構える刹那の姿が映っていた。

(あたしっ!?)

さやかはとっさに飛び退き、
振り下ろされた夕凪がごうっと唸る勢いで空を切る。
その刃が誰に向けられたか?
その、さやかにとって些か非常識な結論は、
刹那の二刀目で確信に変わる。

「さやかちゃんっ! 刹那さんっ!?」
「近づかないでっ!」

その事態に悲鳴を上げたまどかの腕を、
叫び声と共に暁美ほむらが掴み巴マミがまどかの前に立つ。

113: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/06(木) 02:42:17.60 ID:TgFRLh/20

「何すんだ、よっ!?」

胴突きからの薙ぎを交わしたさやかは、
魔法で生み出した刀の様なサーベルと言うかサーベルの様な刀の様な剣で
刹那の袈裟斬りをギリギリと受け太刀していた。

横目を使ったまどかはぎょっとした。
まどかが視線を向けた佐倉と言う少女は、
そんな「真剣勝負」を不敵な笑みと共に眺めていた。
ガン、ギン、ガンッ、と、夕凪と剣が打ち合い
さやかが荒い息を吐いて飛び退く。

「なっ!?」

さやかは、驚愕した。
少なくともダースに近い剣が一斉にミサイル化して襲撃する。
流石に刹那なら死にはしないだろうが、
と、思ってその攻撃を仕掛けた。

さやかがその攻撃を放った、と、思った時には、
刹那の姿はもうさやかの目の前にあった。

まどかから見て、さやかはぎゅん、ぎゅん、ぎゅんっ、と、
白い独楽の様にマントに身を包んで回転しながら
河川敷のあっちこっちへと瞬間移動している。

それは、佐倉杏子から見たら、
刹那の一撃一撃を辛うじて交わして
這う這うの体で逃げ回っている様にしか見えない。

「ああああっ!!」

刹那に向けて跳躍したさやかの両手に、剣が握られていた。
振り下ろした右手の剣が、夕凪に受け流される。

「く、っ!」

さやかが突き出した左手の剣の突きがぎゃりぎゃりぎゃりっと反らされる。

114: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/06(木) 02:47:41.25 ID:TgFRLh/20

「かはっ!」
「さやかちゃんっ!」

左の剣に何が当たった? と、さやかが思った時には、
その剣を反らしていた夕凪の鞘の先がさやかの腹に叩き込まれていた。
さやかの体が魔法少女単位で大きく吹き飛ぶ。
ずしゃあっと全身で河川敷に着地したさやかに刹那はすぐに追いついていた。

「こ、のっ!」

立ち上がったさやかの前で、刹那は右手と左手を持ち換えていた。
さやかの顔面を狙った横殴りの鞘を、さやかは瞬時にしゃがんで交わす。
刹那の背面宙返りと共に、さやかが振り抜いた剣が空を切る。
刹那が着地した時、夕凪の刀身は鞘の内にあった。

「斬鉄閃っ!」
「くっ!」

刹那が居合抜きと共に放った「気」を
さやかは横っ飛びに交わす。
体勢を立て直したさやかの目の前で、
刹那は左手にカードが握っていた。

「アデアット」

刹那がぼそっと呟いた時には跳躍したさやかが二刀を振り下ろし、
その斬撃は虚空を切っていた。

「匕首・十六串」
「ああっ!?」

気が付いた時には、
さやかの周囲には匕首に結ばれた捕縛魔法が展開していた。

115: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/06(木) 02:53:11.46 ID:TgFRLh/20

「くっ、この………」
「稲交尾籠」
「あああああっ!!!!!」
「さやかちゃんっ!!」

封印の帯に縛り上げられ、足掻いていたさやかだったが
帯を走る雷の一撃に悲鳴を上げてばったり倒れた。
封印が解かれる。立ち上がろうとするが、体が言う事を聞かない。
そして、目の前に夕凪の切っ先が向けられていた。

「何、を………」
「あなたは、私の術を見た事がある筈です」

地を這いながら殺意すら籠った眼差しを向けるさやかを、
刹那は冷ややかに見下ろしていた。

「魔女は戦闘力が高い上に悪知恵がある、
人を食うために恐ろしく狡猾に魔術を用います。
その様では、死にますよ」
「だよなー」

淡々と言う刹那に、頭の後ろで両手を組んだ佐倉杏子が続いた。

「わざわざ声かけて刀見せつけてから斬り付ける
アホな殺し屋がいるかっつーの」

「な、何?
じゃあ、あたしに教えてくれた、って言うの刹那、さん?」

「そこのマミ先輩、甘いトコあるからなー」
「その辺りの事は保留にしておきましょう。
今の桜咲さんが正しいかどうかはとにかく、
桜咲さんの言葉は否定出来ないわ」
「………じょーだんっ、今まで味方ヅラして不意打ちだよ」

拘束を解かれたさやかは、荒い息を吐いて座り込む。

116: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/06(木) 02:56:42.57 ID:TgFRLh/20

「では、改めて真剣勝負をしたら私に勝てると?」
「………ごめん、無理」
「それに、チーム戦では善意悪意に関わらず、
特にあなたでは味方の射線に立って共倒れしかねない。
実戦とはそういうものです」
「………そう………」

「全体的には丸っ切り素人ですが、体はよく動かしている様ですね、
恐らく女子にしては拳の喧嘩も心得ている。目と勘は悪くない。
なってしまったものは仕方がありません、
あなたの性格です、あなたとしては大真面目に考えた結果なのでしょう。
あなたを心配している友のためにも、死にたくなければ精進する事です」

「魔法少女の事を教えた私にも責任はある。
出来るだけの事はするから」
「ありがとう、マミさん」

手を引こうとするマミを制する様に、さやかが一人で立ち上がった。

「つつつ………」
「さやかちゃん、大丈夫?」
「結構、大丈夫じゃねーって………ちょっと待って」

立ち上がったさやかは、一度光に包まれてから変身を解除した。

「さやかさん、言いました?」

そんなさやかに声をかけたのは木乃香だった。

「さやかさん、回復の魔法使うんやなぁ」
「ああ、うん、願い事もそうだったからかな?
ケガとかなら結構治せるみたい」
「良かったぁ」
「だってさ、出番なしだな」
「せやな」

口を挟んで来た杏子に、木乃香は邪気の無い笑顔で応じる。

117: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/06(木) 03:00:53.21 ID:TgFRLh/20

「?」
「近衛さん、もしかして回復魔法を?」

尋ねたマミに、木乃香がにっこり応じる。

「いやー、すげぇすげぇって、
このお嬢様の回復魔法、今みたいにちゃっちいのじゃねーっつーか、
魔法少女でもあんだけ出来るのはいないんじゃねーの?」
「魔法使いの中でも例外です」

杏子の言葉に、刹那が続く。

「そもそも、このかお嬢様の本来の魔法は治癒、
それも体質的な素質が桁違いです。
だから、攻撃魔法は技術的には中ぐらいも知っているかどうか、なのですが」
「ああー、物理、魔力の多さでごり押しの力押しだったよな。
それで通っちまうぐらい圧倒的って事かよ」

杏子の言葉に、刹那が頷いた。

「えーと、桜咲さんって近衛さんの友達なの?」

さやかが、改めて尋ねる。

「はいな、どうもせっちゃんが無茶してもうて」
「いや、いいっすよ。
あの人とかから見たらあたしの方が無茶だってのはその通りなんだろうし。
あんな強い人でもやられそうになるんだから、
本当にこのザマのあたしなんか幸せバカの甘ちゃんなんだろうね」

「さやかちゃん………」
「でもさまどか、なっちゃったもんは仕方がないってのも本当だから、
精々頑張る、頑張って強くなって、死んだりなんかしないから」
「うん………」
「その意気や」
「ありがとうございます」

そして、ぺこりと頭を下げたさやかから一度離れて、
木乃香は刹那に合流する。

118: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/06(木) 03:04:45.87 ID:TgFRLh/20

「厳しいなぁせっちゃんは」
「今後は本当に命のやり取りになりますから」
「せやな。それでせっちゃん、
せっちゃんはどうしてここに?」

「およその所は朝倉さんが推察した通りです。
協会からの要請で、見滝原を中心に
魔女発生率が妙に上がっている地域の調査に。
只、本来魔女は魔法少女と言う独自勢力が対処しています。
通常不干渉である魔法使いと魔法少女が大っぴらに関わり合いになるのは
色々不都合がありますので、内部的にも秘密裡の調査で、
お嬢様にはご心配をおかけしました」

「そう。うちも勝手に追いかけて来てごめんなぁ」
「いえ、私が至らぬばかりで。
そういう訳で、私はもう少しこちらに留まります。
今のケースが落ち着いたら連絡します」
「ん、きっとやで」

刹那と木乃香はお互いぺこぺこ頭を下げていたが、
最終的には生真面目に答える刹那に木乃香がにっこり微笑んでいた。

「んじゃー、あたしもこれで帰るわ。
他所の縄張りでマミ先輩に加えてこんな凄腕でおっかねーのがいるんじゃ
獲物掠めるどころじゃねーって」
「あらそう」

やれやれな態度の杏子にマミが素っ気なく言い、
杏子が不敵な笑みを返す。
どうも、ほわほわな木乃香と背筋が冷たくなる「本物」の刹那に当てられ、
杏子からも毒気が抜けた所があるらしい。

「それでは、私も今日は少し仕事がありますから」
「あたしも、ホントは話したい事もあるけど、
今日は休みたい」

刹那に続き、さやかも離脱を告げた。

「そう、お茶をしながら今後の事も、って思ったんだけど」
「はい、それは明日から、って事にしてくれたら」
「ええ、待ってる」

119: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/06(木) 03:09:17.26 ID:TgFRLh/20


ーーーーーーーー

「つ、っ………」
「ほらぁ」

夜道で膝をついた刹那に、
前から現れた木乃香が呆れた様に声をかけた。

「お嬢様っ?」
「だからこのちゃん言うてぇな。
大丈夫、せっちゃん?」
「ええ、ちょっと、脚に来ましたね」

そう言って、刹那は僅かに自嘲の笑みを浮かべる。
素人にいきなりテレポート紛いの移動を連発されて勘が狂った。
本気であれば瞬動で容易に対応出来る程度のスピードではあったが、
その、モードの切り替え時を僅かながら見誤った。

「ほらぁ、お腹から血ぃ出てる。
無理に血止めしてたやろ」

「皮一枚かすめただけです。
先輩ヅラして、私の方が調子に乗り過ぎましたかね?
どうでしょうか? 暁美ほむらさん?」

「あの青魚にはあれぐらいでちょうどいい。
幸い、あなたは実力も人間的にも彼女から信頼され、認められている。
あなたは正しいわ桜咲刹那」
「そうですか、それはどうも」

木乃香がくるくる舞っている側で、
すいっと現れたほむらと刹那が互いに小さく頭を下げる。

120: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/06(木) 03:12:55.98 ID:TgFRLh/20

「………近衛木乃香、さん」
「はいな」
「もしかして、桜咲刹那はあなたのボディーガード?」
「大切な友達」

刹那が何かを言う前に、
木乃香はにっこりと、きっぱりと答えた。

「だから、せっちゃんに何かあるなら、
うちはせっちゃんを守りたい」

真っ直ぐと、真摯に。
そんな木乃香の言葉にほむらは何も言えない。
刹那は目を閉じ、ふっと、静かに微笑んでいた。

==============================

今回はここまでです>>112-1000
続きは折を見て。

121: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/17(月) 02:56:00.85 ID:Z3g3Pefz0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>120

 ×     ×

「………時にお嬢様」
「はいな」

マミルームのリビングで、桜咲刹那は近衛木乃香に尋ねた。
刹那が木乃香と再会したり美樹さやかが魔法少女の契約を交わしたり、
前の日の夜にそんなこんながあったため、
その時に積み残した話題も含めて、
放課後に改めてこうしてマミの部屋に集まっている訳ではあるが、

「何故お嬢様がここにおられるのでしょうか?」
「マミさんがお茶に誘ってくれてなぁ」
「………巴さん?」
「近衛さんと意気投合して連絡先交換してたの」
「美味しいお菓子ご馳走してくれる言うさかい。
お愛想言うてるみたいにも聞こえなかったし、
せっちゃんとも知らない仲やないみたいやし」
「そうですか」

そう言って、刹那は小さく息を吐く。

「でも、ほんまに美味しそうな匂い………」
「それは期待していいっすよ」

口を挟んだのは美樹さやかだった。

「マミさんのケーキ、めちゃうまっすから。
それに、このかさんの言う通り、
マミさんお菓子作りすっごく楽しんでますから」
「それは楽しみやなぁ」

さやかの言葉に、木乃香はころころと笑って応じた。

122: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/17(月) 03:01:15.42 ID:Z3g3Pefz0

ーーーーーーーー

「美味しい」
「有難う」

紅茶を傾け、素直に賞賛する木乃香にマミも喜びを露にする。

「こんな美味しいお紅茶、久しぶりや」
「ホントに、紅茶の味とか、
このダージリンの香りなんてホントにあるんだなあって
ここで初めて知った感じで。
やっぱりお嬢様? こんな美味しい紅茶飲んでたの?」
「せやなぁ」

這い寄りそうなさやかの言葉を、
木乃香はふわりと微笑んで交わしていた。

「アッサムもええ塩梅で」
「有難う」

ストレートティーを楽しんでいた木乃香が
つつ、と、カップにミルクを加えながら言う言葉を聞きながら、
マカロンを並べていたマミが目を細めて応じた。

「それで、昨日からの話が色々と………」

皆が程よくお菓子を楽しんだ頃合いを見てマミが言いかけるが、
そんなマミを刹那は掌で制していた。

「?」

皆が不思議そうな視線を向ける中、
スマホを手にした刹那の表情は鋭かった。

123: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/17(月) 03:06:38.29 ID:Z3g3Pefz0

ーーーーーーーー

「このお店、潰れてたのね」

マミのマンションから歩いて十五分以内の所で、
廃墟を見上げたマミが言った。

「中、なのかな?」

ソウルジェムを手にしたさやかが言う。

「一時的に人払いをかけました、突入出来ます」
「助かるわ」

近くの道から戻って来た刹那が言い、
マミが真面目な口調で応じた。

「刹那さん、でいいかな?」
「ええ」

建物に侵入しながら刹那とさやかが言葉を交わしていた。

「刹那さんの仲間が見つけたっての?」
「はい、たまたま奇妙な魔力を察知したと」
「見つけた」

マミのソウルジェムの光が廃墟の空間に扉を映し出し、
変身したマミを先頭に
刹那、木乃香、さやか、まどかが結界の中に侵入する。

124: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/17(月) 03:12:03.98 ID:Z3g3Pefz0

ーーーーーーーー

「ま、ざっとこんなモンだぁね」
「そうですね」

夕暮れの路上で、そっくり返るさやかに刹那があっさりと応じた。

「あ、はは………」
「人数から言ってもオーバーキルに近い状態でしたから。
実質的なデビュー戦には丁度良かったのでは」
「うん、手ごたえはあったよ、
思い切り手伝ってもらったけど、
あたしがこの手で魔女を狩ったんだ、って」

乾いた愛想笑いを浮かべたさやかだったが、
刹那の真面目な言葉にさやかも真面目に応じていた。

「桜咲さんも言ってたけど、今日のを見たら筋はいいと思う。
だけど、今日はちょっと上手く行き過ぎだから。
明日はお休みだし、これから色々教えるわよ」
「お願いします、マミ先輩」

マミの言葉に、さやかがぺこりと頭を下げた。

ーーーーーーーー

「わぁー、かわええなぁ」
「お気に入りなんです。
この歳でちょっと恥ずかしいけど」
「そんなんあらへんて」

なんとなくノルマ達成気分の解散の後、
夜闇が迫る前の時間、
鹿目まどかの寝室はちょっとばかり盛り上がっていた。

河童のぬいぐるみを抱いてご満悦の木乃香の後ろで、
桜咲刹那は優しく微笑んでいる。

何故にこういう事になっているのかと言えば、
先程のお茶会のちょっとした話題で、
さやかがからかったまどかのぬいぐるみ、
その話題に木乃香が食い付いた結果だった。

125: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/17(月) 03:17:43.90 ID:Z3g3Pefz0

ーーーーーーーー

「お帰りかい?」
「お邪魔しました」

一階リビングで、訪問時にも出会った鹿目知久に
木乃香と刹那も礼儀正しく一礼する。

「………そこにお庭で?」
「そう、父が作ってるんです」
「いっぱいや、それによう熟れてるなあ」
「でしょう」

今度は知久が運んで来た笊に木乃香の目は引き付けられ、
まどかも誇らし気に後に続く。

「赤いトマトに、胡瓜も瑞々しゅうて。
これサラダもええけどお漬物なんか………」
「そう、ぬか漬けもピクルスも美味しいんですよ」
「?」

刹那は、ちょっとしたズレを察知していた。
まどかの言葉をよそに、つと床に座った木乃香は、
少し考えてにんまり微笑んでいた。
そして、木乃香は立ち上がりスマホを使う。

「もしもしマミさん? うち、うん、明日の事やけど………」
「お嬢様?」

通話を終えた木乃香は向き直り、
微笑んで知久を見る。

「あのー、すいませんけど………」

126: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/17(月) 03:21:24.96 ID:Z3g3Pefz0

ーーーーーーーー

「で、一体あなた方は何をしているんですか?」

一旦麻帆良に戻る木乃香を送って駅に向かっていた筈が、
きな臭い気配を追跡して路地裏に入った結果、
刹那の右手の夕凪と左手の白き翼の剣は
さやかの剣と佐倉杏子の槍をギリギリと反らしていた。

「この馬鹿が使い魔を狩るって言うからちょっと教育してやってたんだよ」
「んだとぉ………」

杏子が吐き捨てる様に言い、
ぐわっ、と、戦闘を再開しようとしたさやかは、
目の前に夕凪の切っ先を見ていた。

「使い魔だって人を襲うんでしょ、放っとけないでしょ」
「卵産む前の鶏絞めてどうすんの?
人を何人か食ったら魔女になってグリーフシード孕むんだからさ。
悪りぃけど、あたしってそういう奴だからお嬢様」

「魔女を狩ってくれる分、いないよりはマシやなぁ」
「おっ、お嬢様の方が話が分かるってか」

「魔法少女は、グリーフシードが無ければ現実問題として困るのでしょう。
魔法少女であれなんであれ、出来る事と出来ない事があります。
己の技量を弁えて出来る事をするしかありません。
その上で佐倉さん、ここはまだ見滝原です。
ここで狼藉を続けると言うのであれば、
巴さんの友人、協力者として私が一仕事する事になりますが」

「ああー、そうだな。
なんか見かけちまったんで手ぇ出しちまったけど、
今日ん所は帰らせてもらうわ」
「こんの………」

夕凪の棟で脛を払われ、宙を飛んで突っ込んで来た美樹さやかを、
佐倉杏子は振り返りもせずすいっと交わしていた。
そして、そのままトントーンッと建物の屋根に跳躍して姿を消す。

127: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/17(月) 03:25:33.49 ID:Z3g3Pefz0

「刹那さん、っ………」
「もう一度聞きますが、
自殺願望でもあるのですかあなたは?」

白き翼の剣の切っ先を見ながら、
さやかはゆっくり立ち上がる。

「魔法少女と言えど綺麗事だけではない、
自分の利益を考えなければならない、と言う事ぐらいは聞いている筈です。
それに、魔女を狩っている以上、
ヴェテランの魔法少女にあなたが勝てる道理が無い。
それぞれに自分と使命の間を命懸けで生き抜いている相手に、
昨日今日で安易に何かが出来ると思いますか ?」

「ん………このかさんはどう思うのよ?」

「せやなぁ、難しいけど、
魔法の世界で色々難しい事見て来たさかい。
分かるのは、あんまり他人様に無理は言えへん言う事や」

「分かった、分かりました。
正直、ちょっと納得いかないけど、
何て言うか、理屈でもなんでも、勝てると思える要素ないし」

「勘違いしないで下さい。
世の中は強ければ正義、と言う事はありません。
それに、あなたの義憤は、自分が銃を持っていて
目の前の市街地を猛獣が歩いている以上当たり前の感情です。
只、つい先日まで一般人だったあなたと
魔法少女の常識は必ずしも一致しない、
そこを見誤ると結局何も守れない、そういう事です」

「少し、考えてみる。面倒かけてすいません」

128: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/17(月) 03:29:09.19 ID:Z3g3Pefz0

ーーーーーーーー

木乃香を見送り、
一度見滝原市内のアパートに帰宅した桜咲刹那は、
夜道を進み再度外出していた。

「又、会いましたね」
「そうね」

テクテクと遅い帰路についていた暁美ほむらは、
正面から登場した桜咲刹那と淡々とした挨拶を交わしていた。

「昨日は、なかなか手強い魔女でした」

ほむらの歩みに合わせながら、刹那が言った。

「あなたの言う通り、魔女の能力は単純な力押しだけじゃない。
特殊な魔術を使うし悪知恵も働く。
そこを読み違えると、あなたや巴マミでも面倒な事になる」
「おっしゃる通りです」

ほむらの言葉に、刹那が素直に応じた。

「まして、美樹さやか」
「心配ですか?」

ギリッと歯噛みするほむらに刹那が尋ねた。

「厄介事は面倒なだけよ」
「そうですか」

ファサァと黒髪を払うほむらに刹那が応じた。

「嫌なものを見ました」
「昨日の魔女の事?」
「ええ、そういう能力の魔女なんでしょうね」
「ええ、嫌な能力よ」

ほむらが言い、ふと言葉が途切れる。

129: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/07/17(月) 03:32:49.27 ID:Z3g3Pefz0

「桜咲刹那」
「はい」

「正直、私にはよく分からなかった。
只、誰しも自分の中に蓋をして自分でも見たくないもの、
隠しておきたい事の一つや二つはある。
それは理解している」

「………助かります………
受け容れてくれた人がいる」
「?」
「このかお嬢様もそうです」
「改めて聞くけど、守るべき人なのかしら?」
「ええ、その事だけは、決して譲れません」

そう言った刹那は、
半ば無意識に左手で夕凪を持ち上げていた。

「今日もなかなか疲れました。
そろそろ明日に備えるとしましょう」
「そうね」

二人は、静かに言葉を交わし、分かれた。

==============================

今回はここまでです>>121-1000
続きは折を見て。

130: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/02(水) 02:41:31.52 ID:iMwdCcsG0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>129

 ×     ×

「こんにちはー」
「お邪魔します」

休日の昼下がり、新米魔法少女美樹さやかとその親友鹿目まどかは、
予定通り学校と魔法少女の先輩である巴マミの自宅を訪れていた。

「ああ、いらっしゃい」
「あ、このかさん」

フラットの玄関で出迎えたのは近衛木乃香、
マミと同じ学年のこの先輩との間では、
ごく最近の会話の中で名前呼びに馴染んでいる。
たおやかな木乃香にはそういう柔らかさがあった。

「あれ? マミさんお風呂?
って言うかこのかさんも洗い髪」

部屋に入りながら、水音を耳にしたさやかが尋ねた。

「うん。台所で手伝どうてくれてたんやけど、
ちょっとドジ踏んでもうてなぁ、
二人で粉の入れ物爆発させてもうた」
「あははは………」
「ウェヒヒヒ………」

木乃香の語る武勇伝に乾いた笑いを漏らしながら、
まどかはリビングに視線を向ける。
そこでは、やはりマミと同学年、最近転校して来た桜咲刹那が
相変わらず用心棒の先生よろしく夕凪を抱えて座っている。
双方目が合って、ぺこりと頭を下げた。

131: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/02(水) 02:46:38.21 ID:iMwdCcsG0

「お待ちどうさん」

文字通りお手並み拝見していたさやかは、
あの魔法装束に黒髪の大和撫子京女だからもしかしたら日本茶?
とも思ったが、木乃香が運んで来たのはまごう事無き紅茶、
それも薫り高い逸品だった。

さやかが知っているのはマミの手並みぐらいだが、
沸いた瞬間の熱湯をティーポットに注ぎ、
さらりとタイミングを見極める木乃香の手際は
確かにマミに通じるものがあり、
そして、素人目にも手馴れていた。

「いただきます」

唱和と共に始まるお茶会。

「美味しいです」
「うん、美味しい」
「ありがとう」

まどかとさやかが声を上げ、木乃香がにっこりそれに応じる。

「いい香り」

さやかが改めて香りを味わう。
マミのものとは微妙に違う、それぐらいは分かる。
だが、どちらが上とか下とかはさやかには分からない、
つまり、どちらも美味しい。

「ダージリンのオレンジペコ、
バランスのいいディンブラにキームン。
香り高さとアフタヌーン向けのパンチが絶妙。
私の手持ちと近衛さんが用意したものをブレンドしたものだけど、
塩梅、って本当に深い意味がある言葉ね」
「おおきに、マミさんにそう言うてもらえたら」

ミルクを足した紅茶を傾けてからころころと鈴を転がす様に言い、
ぺこりと頭を下げた木乃香はそのまま台所に向かう。
確かに、そう言われると、くっきり見える個性を上手くまとめた木乃香に対し、
マミの紅茶は全体に柔らかく包み込む様な、それがさやかにも解りかけていた。

132: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/02(水) 02:51:42.21 ID:iMwdCcsG0

「サンドイッチ」

木乃香が運んで来たそのものの名前を、さやかが告げる。

「お昼にお腹空けておいて、って言われてはいたけど、
なんか、可愛いサンドイッチですね、
お茶会にぴったり、って言うか」
「ええ、お茶会用のフィンガーサンドイッチね」
「いただきます」

さやかとマミが言葉を交わす側でまどかが手を合わせ、
他の者もそれに倣った。

「美味しい。ビーフとかサーモンとか、
こんな美味しくって可愛いサンドイッチになるんだ」
「おおきに」

さやかの賞賛に木乃香がにっこり応じる。

「これって、胡瓜?」
「そうなの」

さやかの言葉にまどかが言った。

「このかさん、家の朝もぎ胡瓜を分けてくれって」
「へえー、まどかパパの、美味しいもんねー。
そりゃ楽しみ。美味しいっ。この味付けって」

「少ししっとり時間を置いた薄切りパンのサンドイッチ。
スモークサーモン、ローストビーフと胡瓜のサンドが三種類。
スタンダードにワインビネガーの胡瓜サンド、
チェダーチーズに胡瓜のサンド、これって………」

「塩麹ですか?」
「当たりや」

まどかの答えに、木乃香がにっこり応じた。

133: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/02(水) 02:57:14.04 ID:iMwdCcsG0

「色々よく合うとは聞いてたけど、こういう使い方もあるのね。
味付けも組み合わせも、絶妙のバランスでとても美味しい」

最近の流行りではあるが、
バランスの取れた和洋折衷をマミも素直に賞賛する。

「おおきに、有難うございます。
まどかさんのお庭の胡瓜が見事でしたから
無理言うて分けてもらいまして」
「パ、父も喜んでいました」
「こんな美味しいお野菜、本当にありがとう」

まどかの言葉に、木乃香が改めて礼を述べた。

ーーーーーーーー

「どれぐらいがいいん?」
「それじゃあ、このぐらい」

サンドイッチ、スコーンに続き、
ヴィクトリア・サンドを木乃香が切り分けて回る。

「美味しかったです、ご馳走様でした」

一通りのメニューが終わり、まどかが丁寧に礼を述べた。

「おおきに」
「すっごいなーこのかさん」

割りとボリュームのあるティーメニューに、
ふーっと満足の息を吐いてさやかが続く。

134: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/02(水) 03:01:06.40 ID:iMwdCcsG0

「見た目すっごい大和撫子なのに、
前に見たあの魔法の衣装、あれ、白拍子ですよね?」
「そういう事になるなぁ」

さやかの問いに木乃香が応じる。

「ちょっとネットとかで調べたけど、本当にあんな感じなんですね。
昔のお姫様なんかは十二単だったけど」

「あれ、ちょっと動けへんから少なくとも戦いには不向きみたいやな」

「あー、なんか歌番組でも階段下りられないとか言ってたっけ。
その大和撫子の木乃香さんが、
こんなティータイムまで仕切っちゃうんだから」

「ええ、見事なものよ。
どなたかジェントルマンから教わったのかしら?」

「そやなぁ」

ふふっと笑って口を挟むマミに、
木乃香も柔らかく笑って応じる。

「お茶って、このかさんもしかして日本のお茶も出来るんですか?」
「んー、少しは出来るかな」
「ひゃー、仁美もそうだけどいるもんだ」

木乃香の答えに、さやかが如何にも大袈裟な態度で笑いを誘う。

135: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/02(水) 03:04:34.16 ID:iMwdCcsG0

「………」
「?」

先程まで、後で考えるなら
やや不自然なぐらいに朗らかに振舞っていたさやかが、
その勢いをふと途切れさせて、刹那と目が合った。

「刹那さん」
「はい」

刹那の返事と共に、さやかが座ったまま深々と頭を下げた。

「刹那さん、あたしに剣を教えて、下さい」
「………」

さやかの願いに、刹那は沈黙で応じた。

「あたしも魔法少女になって、剣が武器で、
刹那さん強いし、それに、凄く厳しいけど、
それだけ正しい事言って、あたしの事心配してくれた。
だから、これからも刹那さんに………」

「………私に、その資格はありません」

途中で静かに遮る刹那の返答を聞き、さやかは顔を上げる。
ふっ、と、微笑む刹那の顔を見た。

「買い被りにも思える私への評価、嬉しく思います。

しかし、私自身も修行中の身。
神鳴流は一朝一夕に習得出来る剣ではありません。
まして、あなたは魔法少女としての力を持ち、これから魔女と戦う。
だからこそ、中途半端な技術を与える訳にはいきません。

私は、何時までここにいる事が出来るか分からない。
出来る事なら、巴さんにお願いしたい。
何よりも魔女退治に習熟していて、
飛び道具も、近接戦闘の能力も極めて高いですから」

136: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/02(水) 03:07:43.86 ID:iMwdCcsG0

「ええ、元々私が勧めた事でもあるから、
美樹さんの事は私が引き受ける。私では不足かしら?」
「い、いえ、とんでもないです。
マミさんに教えてもらえるなら」

「あなたの誠実な申し出に応じる事が出来ず、申し訳ない」
「いえ、こちらこそ、
色々面倒かけて、無理言ってすいませんでした」

「ほな、もう一杯如何?」
「ええ、いただくわ」

固い話が一段落したのを見計らい、
木乃香の誘いにマミが応じた。

==============================

今回はここまでです>>130-1000
続きは折を見て。

137: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/03(木) 21:59:11.68 ID:3ml88oDw0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>136

ーーーーーーーー

「蜂の魔女、って感じかな?」

和やかなティータイムも終わった夕方、
パトロール先で発見した魔女結界の中で、
ぶんぶん飛び交って襲い掛かって来る蜂の様な使い魔を斬り伏せながら
美樹さやかが言った。

「ええ、あれが本体みたいね」

確かに、巨大な蜂を思わせる浮遊体を目で示し、巴マミが言う。
蜂の巣を思わせる結界の中には、ハニカム状の空洞が空いた大きな壁があり、
その空洞の一つに鹿目まどかと近衛木乃香が待機している。
その側で、何匹もの使い魔が一刀両断され、
その時には、桜咲刹那が野太刀夕凪を鞘に納めていた。

「数が減らない………」

マミが、うじゃうじゃと襲い掛かる使い魔を撃ち落としながら呟く。

「………大本を叩かなくちゃ駄目ね。
美樹さん、使い魔より魔女の方を集中して狙いましょう。
相手の動きを止めるの手伝ってもらえる?」
「うん」

マミの求めに応じて、さやかが跳躍した。
マミのリボンが空中の一際大きい蜂型魔女を縛り上げ、
さやかが投擲した剣が更に魔女を釘付けする。

「美樹さん、こっちに戻って下さい!
巴さんはそのまま魔女をっ!」
「えっ?」
「え? 分かったっ!!」

138: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/03(木) 22:04:15.36 ID:3ml88oDw0

突然の刹那の言葉に、
二人とも若干戸惑いながらも言う事を聞いていた。

「美樹さん、巴さんを、そして周囲をよく見ていて下さい。
その上で、必要な事を行って下さい」
「分かりました」

さやかの理解力から言って抽象的過ぎる刹那の指示だったが、
それでも、さやかはそれに従う姿勢を見せる。

「…よし! 見掛け倒しのトロイ子ね」

一方のマミは、不可解と言うべき突然の介入に
ヴェテラン魔法少女として引っかかるものを覚えたものの、
凄腕の退魔師である刹那の手並みと誠意はここまで見せて貰っている。
それに、勝利の手ごたえがマミを些か鷹揚にしていた。

「ティロ………!?」

かくして、リボンで拘束した魔女に向けて、
マミが巨大マスケットを向けた。
その瞬間、マミは体勢を崩していた。

「百烈桜華斬っ!」
「!?」

地面が波打ち体が投げ出された、マミがそう思った次の瞬間には、
急接近していた刹那が豪剣を振るっていた。
生々しい植物質の破片が飛び散り、マミは何かに気付く。

139: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/03(木) 22:09:32.67 ID:3ml88oDw0

「マミさんっ!!」

一瞬遅れて接近して来たさやかも、二刀を振るって、
マミに向かっていた巨大な蔓を切り刻む。
そのバックアップを受けて、
体勢を立て直したマミも再び砲口を上空の魔女に向け直した。

「こいつかあっ!!!」

マジカルな火薬の轟音が響く中、
蜂型魔女の結界の一部、と思わせながら潜伏していた植物型の魔女。
その中心部と思われる花に、さやかの一刀が振り抜かれる。

(浅いっ!)

刹那が心の中で舌打ちして、一度鞘に納めた夕凪の鯉口を切る。
瀕死の植物魔女の巨大な蔓が、頭上からさやかを狙う。

「神鳴流………」
「ティロ・フィナーレッ!!!」

その攻撃が振り下ろされる前に、
花の中心をマミの破壊的な一撃が貫いていた。

140: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/03(木) 22:15:02.93 ID:3ml88oDw0

ーーーーーーーー

「分かってたの?」

魔女結界を出た後で、マミが刹那に尋ねた。

「結界内で放たれていた魔力の波長、
基本が同一特徴の筈の魔女と結界に奇妙なズレを感じました。
魔女退治に慣れている魔法少女では却って分からないかも知れません」
「ええ、一つの結界に二体の魔女、私も初めて経験したわ」

「あっぶなかったー。
あたしなんて、刹那さんにヒント貰っても出遅れてたから、
これで戦ってたの二人だけだったら………」
「確かに、危なかったわね。
貴重な体験だったわ。美樹さんにとっても」

「ああやって、マミさんに見えない所を助けなきゃいけない、
それが一緒に戦う事なんだって」
「魔女と言うのは想像以上にトリッキーな存在です。
だからこそ、パートナーがいるなら、
一人では守り切れない所を補う重要な役割になります」
「はい」

むしろ進んで刹那の言う事を聞く、そんなさやかをまどかは見ていた。
さやかは、思い込みが強い所がある一方で勘はいい。
喧嘩っ早い所がある一方で信義に厚い清々しさも持ち合わせている。
厳しいが、圧倒的な程の強さと戦いの現実を
目の当たりに見せて筋を通す刹那の言葉は、さやかにも届いている様だ。

141: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/03(木) 22:19:04.87 ID:3ml88oDw0

ーーーーーーーー

「ほな、うちはこれで」
「はい」
「ご馳走様でしたー」

魔女退治も終わり、
見滝原の仮の自宅に戻る刹那と木乃香が分かれる。

「こんにちはー」
「よう」

そんな日暮れ過ぎの路上で、ひょいと目の前に現れた木乃香に、
佐倉杏子が些か不機嫌そうに応答する。
そして、二人は近くの公園のベンチに座っていた。

「さっきも魔女結界で見かけましたなぁ」

「偵察だよてーさつ、風見野も魔法少女が増えてるからなぁ。
けど、マミとあのヒヨッコ、
それにサムライ女まで一緒じゃ出る幕ねーよ」

「さいですか」

「しかし、あの桜咲刹那、おっそろしく強いな。
強いってだけじゃない、とにかく実戦を知ってる。
ヴェテランのマミよりも上かもな。
あいつも、誰かに教えてたのか?」

「んー、そう見えますか?」

「ああ、あいつ、目配りも教え方も、
まあ、素人じゃねーよ」
「それはどうも」

そう言って、木乃香が差し出したのはバスケットだった。

142: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/03(木) 22:22:15.60 ID:3ml88oDw0

「昼間、マミさん達とお茶会だったんですけど、
元々、アフタヌーンティーは余る程作る、て習慣がありましてなぁ」

「いけすかねぇ」
「要らへんかった?」
「食い物を粗末にする訳ねーだろ。
………旨い」

「おおきに」
「?」

木乃香が、つと、近くの木陰に視線を向ける。

「あら、あなた」
「ゆまっ!」

そこから現れた人影を見て、木乃香の呟きと共に杏子が声を上げる。

「あたしんトコには来るなっつっただろ」
「きょーこ………」

姿を現した幼女、千歳ゆまを杏子が睨みつけ、
ゆまはそれでも杏子を見つめている。

「………食うかい?」

杏子が諦めた様に差し出したサンドイッチに、
ゆまががぶりと食らい付いた。

「美味しい」
「有難う」

ゆまの言葉に木乃香が応じて、二人はにっこり笑い合う。
木乃香の見る所、本当は杏子も満更ではないらしい。

143: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/03(木) 22:25:27.59 ID:3ml88oDw0

杏子が自販機に立ち、言葉こそ少なくても充実した短いティータイムが終わる。

「ありがとー」

その場を離れるゆまに、木乃香も手を振り返す。

「………知り合いか?」

ゆまの姿が消えるのを待つ様に、杏子が口を開いた。

「最初にこっちに来た時、使い魔に尾行されててなぁ、
知らない内に追い払ろうたからうちの事は知らんと思うけど」
「ああ、あたしもあいつの事を魔女から助けてさ、
それで懐かれたんだ。ウザイったらねーよ」
「そう」

横を向く杏子に、木乃香はにっこり微笑みかけた。

「………あいつ、千歳ゆまって言うんだけど、親に痛めつけられてる」
「何?」

「勝手言うけどさ、お嬢様。
あたしはこんなだ、警察なんかに出入りはし難い。
もし、ちょっとお人好しをしたいって思うなら、
あいつの事、役所にでも伝えてくれないか?」

「………覚えておく」
「サンキュー。飯、旨かったぜ」
「おおきに」

144: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/03(木) 22:28:33.31 ID:3ml88oDw0

ーーーーーーーー

「遅うなった………」

途中での買い物が意外と長引き、
小走りに駅に向かう木乃香の耳に会話が引っかかった。

「大変大変」
「どうしたんだい?」
「あっちの公園で、小さい女の子が大怪我してるの」
「なんだって?」
「私、スマホ忘れちゃって、あなた持ってない?」
「ごめん、私も忘れたんだ」

恐らく二人共自分と同年代だろうと、木乃香は見て取る。
背が高くスタイルのいい、何処かふわっと上品な少女と、
対照的にボーイッシュで
ちょっと気取った感じにも見える少女の会話を小耳に挟み、
木乃香は駆け出していた。

145: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/03(木) 22:31:53.57 ID:3ml88oDw0

ーーーーーーーー

「ゆま、ちゃん」
「………」

木乃香が到着した時、
公園の一角に倒れていた千歳ゆまは明らかに危険な状態だった。

「ゆまちゃん、しっかりしてゆまちゃん」
「ん、ん………」
「ケガしてるな、待っててな、すぐに………」
「だめ、なの、おいしゃ………」
「え? ………(この傷)」

ゆまの話を聞きながら、
木乃香は学んだ手順で大怪我をしているゆまの傷を確認する。

「おいしゃさん行くと………
「民生委員」てひとがうちにくるの
ママ…すごくおこるの…だからおいしゃ………」

「分かった、もう少し我慢してな。
ごめんなぁ………」

(これ、すぐに治したらあかんのや。
生命維持確保しながら警察から救急車と児童相談所に………)

蹲る様にゆまを診ていた木乃香が、
スマホを取り出そうとしたその時、後ろ首に衝撃を感じていた。

146: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/03(木) 22:35:16.38 ID:3ml88oDw0

ーーーーーーーー

見滝原市内、夜の住宅街。

街灯の照らす夜の生活道路で暁美ほむらと桜咲刹那がすれ違い、
刹那が小さく一礼するのに合わせてほむらも小さく頭を下げる。

刹那がぴたりと足を止め、スマホを取り出した。
それに気づいたほむらが振り返り、ぎくりとする。

刹那が一瞬浮かべた壊れた笑みは、
それを見たほむらの心中でほむらの血を凍らせた。

刹那が目を通したメールの本文には、

このスマホの持ち主を預かっています。
………駐車場跡地でお待ちしています

と、書かれていた。

==============================

今回はここまでです>>137-1000
続きは折を見て。

147: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/21(月) 01:50:42.45 ID:cd/dnoMs0
それでは今回の投下、入ります。

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>>146

ーーーーーーーー

「119番に繋がって放置された電話ボックスの側に倒れていました」
「診察の結果、可能性は高いと」
「既に児童委員も接触を始めています、病院から通告を入れてもらえれば」
「一時保護は措置出来ますか? それまで入院の説得はしますが強制力は」
「………お願いします………先生」

見滝原市立病院救命病棟の一角で関係者が協議を続ける中、
観察室のベッドで、幼い急患はぱちりと目を覚ます。

「きょー、こ………」

ーーーーーーーー

「美国織莉子、呉キリカ、近衛木乃香」

麻帆良大学工学部で自分に任された研究室で、
葉加瀬聡美はPCを操作しながらスマホで通話する。

「この三名の携帯位置情報がその工場跡に集まっています。
もっと言うと、………の公園からほぼ一緒です」

ーーーーーーーー

「と、言う事だ。
あからさまに過ぎる、とも言える訳だが」

聡美からの情報と共に、龍宮真名はそうスマホに告げた。

「だが、接点である事に違いはない。
今、他に接点はない」

相変わらずの生真面目な声、返答だった。

148: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/21(月) 01:54:20.03 ID:cd/dnoMs0

ーーーーーーーー

真名との通話を終えた桜咲刹那は、
夜の見滝原の街を猛スピードで動いていた。
それも、街の裏から裏へ。
街の闇に潜む魔を秘かに狩る、
それは退魔師である刹那の元々の在り方。
故に、その闇の内に潜む者あらば………

チリ、ン………

刹那は路地裏で足を止め、野太刀「夕凪」の鯉口を切った。

「貴方の…」

刹那が振り返り様に振るった一刀は、
大振りの刃に受け太刀されていた。

「名前、教えて…」
「京都神鳴流、桜咲刹那」

刃が弾け、双方飛び退く。

「後は、司命神にでも尋ねる事だ」

ーーーーーーーー

呉キリカは、美国織莉子の矛にして盾として、
織莉子の側に控えていた。

織莉子は、駐車場跡地の中心近くに目を閉じて立っている。
キリカはその周辺を警戒する。

全くの空き地である。加えて、近辺に設定したキリカの魔法もある。
今までのあの女のパターンから言っても、
それだけなら初動で不利は無い、キリカはそう踏んでいた。

キリカがそんな、僅かな余裕を思い浮かべた瞬間、織莉子が目を見開く。
そして、織莉子はバッと腕を動かし、
キリカから見て全く明後日の方向に水晶球の群れを放っていた。

149: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/21(月) 01:58:14.25 ID:cd/dnoMs0

(へっ?)

ほんの一瞬、自分の間が抜けた事をキリカは否めなかった。

織莉子が放った水晶球は、何かの力の塊、
漫画的に言えば「気」の様なものの直撃を受けて砕け散り、
そして、水晶球が向かっていた方向から、突如現れた黒い影が跳躍していた。

「こ、のっ!」

しかし、そこはキリカ、即座に自分の存在意義を思い出し、跳躍する。
ずしゃあっ、と、着地したキリカが脇腹を抑える。
受けた一撃がもう少し深ければ、肋骨は確実だっただろう。

「やるやんか」

黒い影は、そのまま黒い学ランだった。
鋭く裂けた学ランの袖に視線を走らせ、ニット帽の小僧が不敵な笑みを見せる。
その時には、織莉子は更に水晶球を放っていた。

(なんで?)

一瞬キリカがそう思う、無の空間に放たれた筈の水晶球は、
直径が広げた腕程もある馬鹿でかく平べったい鉄の塊の飛来で砕け散る。


「!?」

織莉子がザッと飛び退く。
織莉子のいた辺りに、
上空からじゃららっと鎖が降り注ぎ、虚空を拘束する。

「な、に、を、しているっ!!」

ターンッと跳んだキリカの怒号と共に、
織莉子の側でキリカの鈎爪と二刀流の苦無が激突する。

150: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/21(月) 02:02:05.67 ID:cd/dnoMs0

(こんなデカイの、どこにっ!?)

ギリギリと押し合いながら、キリカの心中に混乱が生ずる。

今のキリカの相手は恐らく女だが、それにしてはバレー選手向きの大柄。
それが、たった今まであの学ラン小僧共々影も形も見えなかった。

女、それも多分同年代、
しかも一見してコスプレ忍者と言う格好と今現在の強さから言って
「同業者」と言う目もある、その特殊能力かも知れないが、
テレポートなのかなんなのか、
そこが分からないと、ちょっとまずいかも知れないと、
僅かばかりの焦りがキリカの頭をよぎる。

ギインッと、キリカの爪が苦無を力で押し退け、
更にびゅうんっと一振りされて接近していた学ラン小僧を牽制する。
学ラン小僧は、不敵に笑い身軽に後退する。

(キリカ)

キリカの頭に愛する織莉子の声が響く。

(ステッピング・ファング、全方位に)
(分かった)

キリカがざっと身構え、その目が狙いをつける。

「させるかあっ!!」

=============================

今回はここまでです>>147-1000
続きは折を見て。

153: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/25(金) 03:02:47.80 ID:oXP+mCo20
感想どうもです。

それでは今回の投下、入ります。

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>>150

ーーーーーーーー

「炎舞っ!」
「斬岩剣っ!!」

見滝原の路地裏で、
大量に飛来する炎の剣を「夕凪」の一閃が放つ気が弾き飛ばす。
その時には、桜咲刹那の振るう野太刀「夕凪」は
襲い来る大剣を受け太刀し、弾き返していた。

「剣術は自己流。しかし、斬る事には慣れていますね。
魔女も、人も」
「………人間を斬った事は一度も無い。
恐らく今回が………」

ぼそっ、と、漏れた一言に刹那の唇が微かに緩み、
目にも止まらぬ勢いで距離が詰められる。

ふわっ、と、セーラー服状の上着が翻り、
相変わらず野太刀の物理的限界を無視した刹那の居合抜きが交わされる。
すとんっ、と、刹那の前方に敵が着地する。

一瞬ショートカットにも見える様に長い髪の毛を首の辺りで束ね、
見たまま似たもので例えるなら、黒いショートパンツ・セパレーツ水着の上に
前の開く改造セーラー服の上着の袖だけ通して
カッターナイフ状の大剣を構えている。と言う時点でもちろん非常識な存在。

そして、そのセーラー剣士天乃鈴音は、
もう一つの武器を発動すべくその手を差し出す。

154: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/25(金) 03:06:10.14 ID:oXP+mCo20

「桜火!」
「秘剣、百花繚乱っ!!」

流石にこの場では、交わすだけでは騒ぎが大きくなり過ぎる。
瞬時に判断した刹那は、
自分に向かって来る猛火を更に大きな「気」で一息に飲み込んだ。

「!?」

一瞬爆発に眩んだ視界の中で、刹那は鈴音に斬り付ける。

「アデアット!」

そして、次の瞬間には、
左逆手に握った匕首で鈴音の大剣の刃を辛うじて滑らせていた。
たんっ、と、刹那が距離を取る。

「匕首・十六串………」

刹那の呪文と共に幾つもの匕首が飛び、
匕首が尾を引く捕縛結界が鈴音を捕らえた、筈だった。
その時には、中に誰もいない捕縛結界を無視した刹那が
振り返り様に夕凪を振り下ろし、その兜割りの一刀を鈴音が受け太刀していた。
ぎいんっ、と、鈴音が弾き返し、後ろに跳ぶ。
そして、刹那の視界からふっと姿を消した。

(やはり視覚効果の魔法を使う、か。
何とか気配は追っているが………!?)

そこに、乱入して来た「もの」があった。
乱入して来たものは複数、それは炎の塊。
よく見ると、箒にまたがった魔法使いの形の炎が
何処からともなく飛来して二人の戦場に割り込んでいた。

(これは、西洋魔法の精霊術っ?)

そして、炎の精霊が四散した戦場に、
額を腕で押した天乃鈴音が僅かばかり苦い顔で照らし出された。

155: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/25(金) 03:09:32.22 ID:oXP+mCo20

「!?炎舞っ!!」

鈴音が放った大量の炎の剣が飛来する大量の火炎弾と激突し、
火炎弾をすり抜けた剣は炎の壁に遮断される。

「チッ!」

自分に向けて飛来した紐を思わせる炎を、
鈴音が大剣で弾き飛ばす。
そして、自分の側に着地していた新たな敵に向けて駆け出していた。

「!?」

相手は、ゴシック調の黒衣に身を包み、
後ろ髪を一度両サイドにアップで巻いて垂らした同年代の少女。
それを一刀両断しようとした刹那、
鈴音の視界の中で相手の像が揺らいだ。

「炎楯」

そして、振り下ろした刃は相手の掌から現れた炎の壁に妨げられていた。

「陽炎を、炎を扱えるのは貴方だけじゃない」

飛び退いた鈴音がざっと振り返る。

「桜火っ!!」

そして、鈴音の火炎砲が鈴音に迫っていた水の戒矢と激突し、
周囲が即席の霧に包まれた。
その時には、鈴音は、二体、三体、と、
鈴音に迫っていた得体の知れない黒マントの敵を斬り伏せていた。

(………この手応え、魔力で作られた使い魔?)

156: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/25(金) 03:12:41.86 ID:oXP+mCo20

ーーーーーーーー

「ヴァンパイア・ファングッ!!」
「とっ!」

工場跡の駐車場跡地では、呉キリカが鈎爪を更に連結された長爪を振るい、
キリカに迫っていた学ラン小僧犬上小太郎が危うく飛び退く。
その時には、ぎゅるると迫っていた
巨大手裏剣の軌道をキリカの長爪が何とか反らす。

(キリカッ!)

美国織莉子がキリカにテレパシーを飛ばし、キリカが織莉子の側に戻る。
そこに迫ろうとした小太郎が危うく足を止める。
その時には、織莉子の周囲にはいくつもの水晶球が発生していた。
小太郎と、長身忍者長瀬楓が身構えた時には、
水晶球は織莉子の周囲で一斉に爆発していた。

「通さないよっ!」
「チッ!」

周囲が白煙に包まれ、
織莉子が窓から背後の建物に逃げ込んだと察知した小太郎が後を追うが、
キリカの爪が危うく小太郎の体をかすめる。

「えっ? つっ!」
「相手は俺やろ、姉ちゃんっ!」

キリカが驚いた僅かな隙に、
小太郎の手からいきなり叩きつけて来た強風に煽られて
キリカの背中が建物の壁に激突した。

157: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/25(金) 03:16:22.66 ID:oXP+mCo20

(消え、た? 気配も無しに?)

キリカは未だ驚きを禁じ得なかった。
この辺にいた筈の長瀬楓がかき消す様に姿を消して気配も感じられない。

確かに、キリカともまともに戦える程に素早い相手ではあったが、
それでもバスケかバレーでもやって欲しいタイプの、
見た目の忍者とは不釣り合いな程のタッパの持ち主。

まだ白煙の残る中とは言え、
キリカが全神経を尖らせていた建物側に突っ込んだなら
幾らなんでも分からない筈が無い。

「続けるんか、姉ちゃん?」
「………とーぜんっ!!」

キリカの優先順位ははっきりしていた。
そんな奴が建物に入ったのなら、一刻も早く後を追う必要がある。

ーーーーーーーー

美国織莉子は、工場の事務所棟の階段を上り、
廊下を走りながら心の中で舌打ちした。

「あんたの用はこのお嬢さんか?」

軽口の様だが、全然笑っていない。
織莉子の視線の先では、
槍を小脇に抱えた佐倉杏子が近衛木乃香を連れて織莉子に殺意を示していた。

「このか殿」

そして、織莉子の背後から現れた楓が木乃香を呼ぶ。

158: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/25(金) 03:20:26.72 ID:oXP+mCo20

「お仲間か?」

杏子の問いに木乃香が頷く。

「あなたは?」

織莉子の質問には、厳かさすら感じられた。

「ああー、あたしは佐倉杏子。
今は風見野だけど、この辺の鼠の穴にはちょっと土地勘があるからな。
なんでかなー、ゆまと言いお嬢と言い、
どうして、あたしの知り合いばっか手ぇ出してくれたかね?」

ようやく、笑みを見せた杏子は穂先を前に向けた。
次の瞬間、ふわっ、と、織莉子の周囲に水晶球が浮遊した。

「くっ!」

廊下が白煙に包まれ、側の窓ガラスが割れる。
割れた窓から一つだけ水晶球が飛び込んできた。

「逃げやがったか」

窓から下を見て、杏子が吐き捨てる。
楓は、水晶球に潰された紙人形を拾っていた。

=============================

今回はここまでです>>153-1000
続きは折を見て。

162: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/26(土) 14:08:02.72 ID:hOe04APA0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>158

ーーーーーーーー

時計の針を少々巻き戻す。

「………」

がらんとした事務室跡の一角で、
近衛木乃香は小さく嘆息していた。
足首近くに巻かれた鎖は二つの鉄アレイと繋がれ、
連結部を南京錠で止められている。
そして、パクティオーカードは鍵と一緒に部屋の隅の机に置かれていた。

「カードも、って事は知ってるんかなぁ………」

ガンッ、と、不穏な音と共に、入口のドアが開く。

「わざわざ外付けで鍵つけてるんだからなー」
「杏子ちゃん?」
「よっ」

そちらを見た木乃香に、杏子は気さくに声をかけた。

「どうしてここに?」
「ああ、ゆまの奴が報せに来てさ。
ここらの裏道にはちょっとばかし土地勘もある」
「ゆまちゃんが?」
「ああ、助けようとしてくれたんだって? ありがとな」

言いながら、杏子はいとも簡単に鎖を破壊する。

163: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/26(土) 14:15:08.26 ID:hOe04APA0

「立てるか?」
「大丈夫」
「食うかい?」
(なんか食べてばかりやなぁ)

杏子の問いに、木乃香は微笑みを張り付かせて応じる。

「あんたさらったの、どういう奴だった?」
「すぐに意識飛ばされてもうてなぁ、何となく覚えてるのは白と黒」
「間違いない、おりことキリカ、ゆまはそう言ってた。
格好から言っても、そっちの人間じゃなきゃ魔法少女だろうよ」
「今、うちに手出してる以上、魔法使いは無いと思う」
「じゃあ魔法少女か」

杏子の問いに木乃香は小さく頷いた。

「これから、ケジメつけるんどすか?」

「ああ、あんたと前の件は貸し借り無しっつっても、
ゆまといいあんたと言い、
あたしの知り合いばっか絡んでるのは魔法少女としてちょっとな。
只魔女を狩ってるだけならとにかく、
近所で薄気味悪い動きされるのも気に食わねぇ」

「ほな、行きますか」
「乗り気だな」

カードを回収し、しゃきっと動き出した木乃香に杏子が言う。

「出来ればそちらさん、マギカで片を付けて欲しい話ですので」
「いいのか?」
「急がないと、血の雨降るかも知れません」
「あー………」

耳障りだけは軽やかに聞こえる木乃香の言葉に、
杏子は記憶を辿り天を仰ぐ。

164: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/26(土) 14:19:03.72 ID:hOe04APA0

==============================

今回はここまでです>>162-1000

タイミング的に勝手な縁でお祝い即興してみました。
おめでとうございます。

続きは折を見て。

166: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/08/26(土) 20:23:12.68 ID:hOe04APA0
>>165
自分もそう思う、多分木乃香の台詞には無いなと。

原作にあんまりない人間関係で京都弁書こうとしたら
どの辺を標準にしようか迷走しましたですはい

167: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/01(金) 02:01:50.71 ID:SxJkVmpp0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>164

ーーーーーーーー

しゅるるっ、と、自分に接近していた黒い触手を斬り払い、
天乃鈴音はその源へと跳躍した。

「!?」

霧の残る中、標的を見定め、隙だらけ、と踏んで斬り付ける。
次の瞬間、鈴音の手に硬い手ごたえが響く。

「かはっ!」

腹にいいパンチの感触を覚え、鈴音の足がずしゃあっと後ろに滑る。
前方にいるのは、ゴシック調の黒衣に身を固めた
金髪のお姉さん系美少女。

どうも鈴音が知る魔法少女と言うにはおかしいが、
だからと言って「普通」の範疇ではない。
取り敢えず、触手でパンチされた事は理解出来た。

「陽、ろ………」

とにかく視覚をごまかさなければまずい、何時もやっている事だ、
そう思って実行した鈴音だが、何時も通りにならない。
感覚で察したのだが、
術の基となる炎と水分のバランスが意図的に狂わされている。

168: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/01(金) 02:05:13.86 ID:SxJkVmpp0

「ちっ!」

斜め後方に気配を感じ、鈴音は跳躍する。
やはり黒衣姿の三つ編み黒髪に眼鏡の少女が、
鈴音に向けて拘束性の水魔法を放っていた。

そして、跳躍した鈴音の目の前では、桜咲刹那が
野太刀「夕凪」を八双に構えていた。
鈴音の剣と刹那の夕凪が衝突し、弾け、鈴音は着地する。

「おおおおっ!!!」

迫っていた触手の群れを斬り払った鈴音は、
そのまま一挙に距離を詰め、
触手の源である金髪少女の黒衣の隙間、
その白い肌に魔法で精製した短剣を突き立てた。
その時には、鈴音の右腕には鈍い痺れた痛みと共に触手が這い上っていた。

「これは一体どういう事ですか?」

何本もの触手で鈴音を縛り上げた金髪美少女
高音・D・グッドマンが、首を傾げて刹那に尋ねる。

「キリサキさん」
「何ですって?」

刹那の答えに高音が聞き返す。

「ホオズキ市を中心に何人もの少女を惨殺している連続殺害事件です」
「その犯人が彼女だと?」
「武器、太刀筋から言ってまず間違いないと」
「そうですか。まだよく分かりませんけど放置も出来ませんね。
拘束の上で協会の指示を仰ぎます………」

169: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/01(金) 02:08:50.25 ID:SxJkVmpp0

「!?」

高音が言いかけた時、刹那が手から気弾を放つ。
次の瞬間、飛び込んで来た円盤の様なものが
鈴音を拘束していた触手を切断していた。

「!? 神鳴流奥義、斬岩剣っ!!」

刹那が、自分に迫っていた触手を斬り払い、
間に合わないと見るや触手の群れに向けて奥義を放った。

「きゃああっ!!」

爆発音と共に、もう二人の黒衣の少女、
巻き髪の佐倉愛衣と三つ編み眼鏡の夏目萌が引っ繰り返っている。

(今、一瞬見えたのは、水蒸気爆発?)

「おおおぉーっ!!!」
「何をしているんですかっ!?」

高音の叫びが響き、刹那が気が付いた時には、
刹那が振るった夕凪は高音の黒衣から生じた影のヒレによって
ギリギリと防御されていた。

「いない。メイ、ナツメグッ、キリサキさんの探索をっ!」
「敵はもう一人、恐らく幻術使いです。
深追いは避けて下さい!!」
「分かりましたっ!」

愛衣と夏目萌がそれぞれの魔法で飛翔する。

170: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/01(金) 02:12:28.82 ID:SxJkVmpp0

「高音さん、麻帆良の学園警備が何故ここに?」
「とぼけているのですか? 3Aです」

「3A?」

「ええ、そちらの3年A組が妙な動きを見せたから追跡して来たんです。
この見滝原に入った事は確かなのですが、それ以降は不明。
学園祭、魔法世界………あのクラスが裏で動いている時は、
往々にしてとんでもない事が起きていますから。
それで、あなたは?」

「私は協会の内密の命令で、この辺の不可解事件に就いて
こちらで関わるべきものか予備調査を行っていた所ですが」

「それで、出て来たのがキリサキさんですか」

「キリサキさん一人ならとにかく、
バックアップを考えると追跡した二人が気がかりです。
私は別行動をとりますので高音さんはあの二人を追って下さい」
「分かりました。後でもっと詳しい話を」

ーーーーーーーー

「しっ!」
「とっ!!」

犬上小太郎が呉キリカの剣とも言えるサイズの鈎爪を交わし、
その次の瞬間全身を地面スレスレにした小太郎の足払いをキリカが交わす。
たんっ、と、小太郎が後方に跳躍して距離を取り、
地面から沸いた何頭もの黒狗をキリカが手も無く斬り伏せる。

「この感触、使い魔かい?」
「まあー、そんなモンやなっ!」

そう言った時には、
小太郎は猛スピードで迫っていたキリカの爪を間一髪で交わしていた。

171: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/01(金) 02:16:18.47 ID:SxJkVmpp0

「幾らなんでも速すぎや、
この妙な感触、なんぞズルしてるな」

学ランの首筋に新たな隙間を感じ、
つーっと汗を感じながら小太郎が呻く。
どうも、そのトリック、種が割れない事には、
獣化モードを使う事も躊躇された。

「おっ………」
「神鳴流奥義・雷鳴剣っ!!」

小太郎が到着を察するや否や、駐車場跡地が大爆発した。

「斬岩剣っ! 百烈桜華斬っ!!!」
「いきなり全開やな………」

小太郎がつーっと汗を流して呟いた通り、
キリカは早速にドカンドカンと叩き込まれる壮絶な斬撃を
ガンギンガンッと辛うじて受け流し後退していた。

「ヴァンパイア・ファングッ!!」

キリカが後ろに跳びながら放った、
長く連結された大量の爪が重い一撃を地面に穿ち、
二人がそれを交わした隙にキリカは屋根へと跳躍する。
その追跡に動いた小太郎を、刹那が左腕で制した。

172: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/01(金) 02:19:58.27 ID:SxJkVmpp0

「お嬢様は楓が保護しました」
「おう、そうか」

刹那の言葉に、小太郎がふうっと息を吐く。

「それで、どうしてここに?」
「朝倉さんや」
「朝倉さん、ですか」

又、と言う言葉を飲み込み刹那が応じる。

「ああ、なんか刹那姉ちゃんが色々調べてる関係で、
コノカ姉ちゃんもマギカやらの絡んでるこの街に
ちょっと出入りしてるて聞いてな。

それで、一応俺らもこっちに来てたんやけど、
そしたら、朝倉さんから遅うなっても
コノカ姉ちゃんと連絡がとれんて言うて来て。

それで匂いを辿ったりなんだりかんだりで
あの白黒コンビが最後に絡んでたのは確実て事で」

「ああ、それで合ってる。
そういう事だから楓と合流して麻帆良に戻ってくれ。
お嬢様には、当分こちらに出入りしない様に。
それから、間違っても、

「白き翼」や3Aで秘密部隊を編成してこちらに乗り込んで来る、
等と言う事が行われない様に楓に釘を刺しておいて下さい」

「それで、刹那姉ちゃんは?」

「もう一仕事残っているからな。折を見て連絡する」

過去には割と色々修羅場をくぐって来た犬上小太郎は、
その事務的な言葉を、奥歯ガタガタ言い出しそうな心地で聞いていた。

==============================

今回はここまでです>>167-1000
続きは折を見て。

175: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/09(土) 02:24:34.30 ID:TKRTkcPQ0

==============================

>>172

ーーーーーーーー

薔薇の花咲く夜の庭園。
麻帆良学園の夏服制服姿で無言で歩みを進める桜咲刹那は、
今、彼女が手にしている野太刀「夕凪」の
鞘の内にも等しく隠し切れぬ冷たい切れ味を漂わせる。
そんな刹那の周囲で、景色が急変する。

(これは………魔女の結界か)

「神鳴流秘剣・百花繚乱っ! 奥義・斬岩剣っ!!」

刹那が夕凪の鯉口を切ってから、
再び鞘に納め周囲に薔薇の花を見るまで。
刹那にとっても客観的にも、
それはするりと通り過ぎた一つの流れにしか見えないものだった。

176: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/09(土) 02:28:04.65 ID:TKRTkcPQ0

「あら、片づけてくれたの?」
「匕首・十六串呂」

余りの勢いに結界を飛び出して
庭園のテーブルに落下した鉄の塊を思わせる魔女の破片を眺めて
庭園の主が声をかけた時には、
複数の匕首が猛然と空を切っていた。

自分達へと飛来する何振りもの匕首を前に、
美国織莉子はタッ、と横っ飛びし、
呉キリカは剣にも等しき大きさの鈎爪で弾き飛ばす。

その時には、庭園内の別の場所が爆発と共に白い煙に包まれ、
更に違う場所で、刹那は夕凪の刃を大きな水晶球に兜割りに叩きつけていた。

「な、に、を、しているっ!!!」

刹那は振り返り様、
猛然と自分に迫っていたキリカの爪の斬撃を夕凪で受け流す。

(下がってっ!!)

織莉子の脳に、叩き付ける様なテレパシーが流れ込む。

(こいつは、ヤバイ)

夕凪と鈎爪がチャンバラを展開する。

「私には、分かる………」

キリカがぼそっと呟く。

(だから、ここは私に任せて)

ガン、ギン、ガンッ、と、
夕凪と鈎爪がぶつかりながら相手を追跡し、詰め、それを交わしての攻防は、
丸で庭園内を竜巻が吹き千切る様だった。

177: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/09(土) 02:33:05.09 ID:TKRTkcPQ0

「神鳴流奥義、斬岩剣っ!」
「うわっ!」

刹那に迫ったキリカが、刹那の剣が巻き起こす「気」の、
それに伴う地面の爆発に足を止める。

「斬岩剣! 斬岩剣っ!」
「とっ、わっ!」

その後も、キリカが迫る度に二人の間を爆発が塞ぎ、
それは丸で、キリカの目の前に土の壁が次々と現れているかの様だった。

「神鳴流秘剣・百花繚乱!
斬岩剣、斬鉄閃っ!」

キリカが桜華と共に突き抜ける「気」を交わした時には、
刹那は既に目の前に迫っていた。
ドドンッ、と、庭園を揺るがす勢いで、
幾つもの気の塊がそこここで爆発し、
アクロバティックに交わし続けるキリカだったが、

「お前」

低い声の方向に刹那が一刀を振るうが、それは鋭く空を切る。

「どこで、何をしている?」
「くっ!」

刹那が斜め後方に刀を振るう。
そして、刹那はブラウスの袖に鋭い裂け目を見た。

「織莉子に殺意の刃を向け、
織莉子が愛する父親の薔薇をここまで踏み躙った」

刹那の目の前で、キリカは伏せていた顔をすうっと上げて、
一筋の流血と共に頬に走る紅い傷を露にする。

178: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/09(土) 02:37:09.95 ID:TKRTkcPQ0

「お前、もう、許されないよ」
「アデアット!」

次の瞬間、キリカの両手首辺りから延びる、
柄まで刃の鎌型武器とでも言うべき鈎爪が
刹那の右手の夕凪と左手の匕首に受け止められる。

「次、次次次次い、っ………」

興に乗って攻撃を展開していたキリカが、たっ、と飛び退く。
匕首を分裂させて放った捕縛結界がボウズに終わった、
と、悟った瞬間には、刹那は匕首を仮契約カードに戻していた。

「斬岩剣っ! 百烈桜華斬っ!!!」
「人が変わったのかな、刀使い?」

その場から飛び退き、荒い息と共にキリカが言った時には、
キリカは既に横殴りの斬撃を交わしていた。

「技のキレ、何よりも殺意が尋常じゃないね」

そう言ったキリカは更に飛び退き、
流血する左腕を右手で掴む。

「元々、私の任務はお嬢様の護衛。
意図してお嬢様に手を出そう、等と言う事は、
発想から根絶やしにする必要がある」

チャッ、と、切っ先を前方に向けた刹那は、
次の瞬間には斬り付けた一撃を
×字に組んだ両手の鈎爪に受け止められていた。

「君は、人を斬る事が出来るのかい?」
「先程、キリサキさんとやらに遭遇した」

刃が弾け、双方の間合いが開く。

「彼女は言っていたよ。
自分は人間を斬った事は一度もない、とな」
「ふうん」

179: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/09(土) 02:41:14.23 ID:TKRTkcPQ0

にまっと笑ったキリカは、
普通に見たら容易に膀胱から尿道までがフルオープンになりかねない
刹那の眼差しを視界にとらえながら、
自分をかすめる野太刀の突きをすれすれに回避する。

「それなら私のやるべき事もはっきりしてる。
この身に代えて、ここから先には
永久に一歩も進ませない、とねっ!!」

ダッ、と、間合いを詰めたキリカを刹那が間一髪で交わし、
キリカの鈎爪が目の前の薔薇の茂みを一撃する。

「神鳴流奥義・百烈桜華斬っ!!」

キリカは後ろに跳びながら、
空中に大量の桜と薔薇が舞い散るのを目の当たりにする。

「又、君の罪が増えたみたいだね刀使いっ」
「斬鉄閃っ!!」
「ああぁあーっ!!! もう、っ、許、さないっ!!!」

一段とスピードを増したキリカの攻撃を、
刹那は夕凪を振るい交わし続ける。

「こ、のおっ!!!」

キリカの爪が薔薇の茂みを払い、
とっさに身を低くして交わした刹那がそのまま横っ飛びに逃げる。

「(バランス崩した?)もらったっ!!!」

跳躍して一撃したキリカの鈎爪を刹那は地面を転がって交わし、
振るわれた鈎爪が地面を抉る。
そして、キリカは、目を見開いた。

180: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/09(土) 02:46:16.42 ID:TKRTkcPQ0

「い、っ、な、に? ………」

キリカの両足の裏、片膝をついた右の脛に、激痛が走っていた。

「薔薇、の、棘? まさ、か? あああっ!!!」

地面に散乱する残骸と左前方に低くにじり寄っていた刹那を発見し、
振るった爪を交わされたキリカは叫び声を上げていた。
そのキリカの左の腿には、薔薇の枝が束で突き刺さっている。

「この、威力、武器強化の、魔法?」
「只の「気」だ」
「漫、画みたい、薔薇の棘も、それで………」

キリカは飛び退いて距離を取るが、何時も通りとはいかない。

「神鳴流秘剣、風塵乱舞」
「くそっ!!」

痛みもあり、対処する間もなく、
ほぼ目の前から容赦なくキリカの顔を狙った大量の薔薇の枝は
顔の前で×字に交差したキリカの腕に突き刺さる。

「くそっ、おおおお、っっっ!!!」

その時には、キリカの右足を夕凪の鞘が払い、
その鞘はそのままキリカの右の脛を一撃していた。
そして、立ち上がろうとしたキリカは目の前に夕凪の切っ先を見る。

「薔薇の棘で全身バラバラって、悪趣味だね。
そんなに、君を怒らせたかな刀使い?」

次の瞬間、夕凪の鞘がキリカの横っ面を直撃した。

181: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/09(土) 02:49:36.51 ID:TKRTkcPQ0



………このちゃ………私への人質として、

このかお嬢様の身に危害を加えた。

………貴様………

楽 に 死 ね る と で も 思 っ た か ? 




にいっと笑ったキリカの腹に、鞘の底が叩き込まれる。

「と、言いたい所だが、私も急ぐ身だ。
貴様の飼い主美国織莉子の居所を吐くか
ここで本当にバラバラにされるか、今すぐ………!?」

次の瞬間、キリカの姿を見失いタンッと後ろに跳躍した刹那は、
流血する左腕を握っていた。

「くっ!」

辛うじて振るった一刀が、ガキンと攻撃を弾き飛ばす。

「(スピードが上がってる、だとっ!?)
斬空掌・散っ!」
「無駄無駄無駄あっ!!!」

周囲に気弾を放った刹那は息詰まる感覚と冷汗を感じながら、
周囲の激しい動きに対して自らの動揺を鎮め、
一刀両断に刀を振り下ろす。

「惜しい」

刹那の眼前で、キリカがにまあっと笑う。

182: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/09(土) 02:59:52.54 ID:TKRTkcPQ0

「まさに、チャンスは前髪、だね。
さあもっと、もっともっと私に見せてくれよ。
君の、愛の形を。君は、私の魂の姉妹なのか!!」

額から流れる血を腕でぐいっと拭うキリカの前で、
刹那は紐の切れたサイドポニーから流れる自らの黒髪に
僅かばかりの鬱陶しさと恐怖を覚える。

「そのケガにそのペースだと、何分、いや、もう何秒も身が持たない。
だからと言って、スピードを緩めたら私の剣の餌食。
どちらにしろ貴様は詰んでいる」
「結構」

刹那の警告に、キリカは目を見開いた。

(更にスピードをっ!?)

野太刀の長い刃が、
キリカの攻撃を見切って複数の鈎爪をギリギリと防御する。

「がああっ!!」

刹那が鈎爪をキリカごと力任せに弾き飛ばす。
それだけでも、想像もしたくない激痛の筈だ、と、刹那は察する。

183: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/09(土) 03:03:26.83 ID:TKRTkcPQ0




結構だ!

たかだか私が死ぬ程度で私のすべてが守れるなら

大いに結構!



一際速い一撃を、刹那が夕凪で受け流す。

「お、おお………」

「もう一度だけ聞く………」

「質問は受け付けない。
私に対するすべての要求を完全に拒否する!」

「(あの痛みの中、最早壊れている、か)
………残念だ………」

刃が、交わる。

ぎゅるんっ、と、鈎爪に絡まれた夕凪が宙を舞った。

「(もらった)あ、ああ………」

そして、気が付いた時には、
刹那に渾身の一撃を斬り付けたキリカは低く空を飛んでいた。

「あああっ!!!」

そして、コントロール不能のまま薔薇の茂みに全身突っ込む。

184: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/09(土) 03:06:58.49 ID:TKRTkcPQ0

(合気道か何か? 自分の力をそのまま流された。
刀を囮にそれを待っていた。
剣だけじゃないとは思ったけどここまで………)

キリカが体勢を立て直そうとした時には、
刹那は目の前まで迫っていた。

(空手?)

武術の、ではなく、キリカの目には武器が見えなかった。

「アデアット」

ガサッ、と茂みが鳴り、
刹那の右手から突如現れた匕首は、
次の瞬間刹那の手に肉を抉る鈍い感触を伝えていてた。

==============================

今回はここまでです>>175-1000
続きは折を見て。

213: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/11(月) 02:12:19.84 ID:OZBPouv30
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>184

実戦居合で狙うのは血脈。
抜き打ちの長匕首を
闇雲に相手の胴体に刃を叩き込んでしまったと察した時点で、
桜咲刹那はそのまま相手の血肉を切り裂き刃を振り抜いた。

「あ、あ………あぁあーっ!!!!!」

既に衣装の純白を見た目の半ばも赤く染め、
よろりと後退した美国織莉子の背後から絶叫が聞こえた。

「匕首・十六串呂っ!!!」

仕留めた、と、思った所からの齟齬は僅かにでも焦りを産む。
ここしかない、と言う一撃必殺であれば尚の事。
大きく跳躍した呉キリカが、織莉子と刹那を飛び越え着地する。
その時には、振り返った刹那の周囲を分裂した匕首が舞い、

「………あ………」

完璧なタイミングで刹那とキリカの間に滑り込んだ織莉子の全身に、
一斉に飛翔した匕首が突き刺さった。

「お、りこ………」

キリカの呻きを聞きながら、刹那も血の気が引く心地だった。
アーティファクトの長匕首本体、
その刀身は織莉子の胸に深々と吸い込まれ、
匕首を握る刹那の右腕は織莉子の両手にがしっと掴まれていた。

「キリカ………早く………キリカッ!!!」

刹那は、既に負わせたキリカの重傷の効果を僅かばかり祈ったが、
文字通り血反吐を吐いた織莉子の叫びの前にそれが無駄である事も悟っていた。

214: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/11(月) 02:16:50.18 ID:OZBPouv30

「!?」

上空から、予想外の金属音が響いた。
刹那がそちらを見ると、大跳躍したキリカが、
巨大な手裏剣を鈎爪で弾き飛ばしている所だった。
着地したキリカが、ガン、ギンガンッ、と、何者かと素早く攻撃を打ち合う。

「楓かっ!?」

刹那の叫びに、両手に大型苦無を握った長瀬楓が糸目を軽く笑わせる。
着地したキリカがテレパシーを受信して、目を見開いた。

「は、やく………早くっ!!!」

織莉子の叫びと共に、キリカが走り出した。
先程、魔女の破片に破壊されたテーブルに走り、
ぱしっ、と、グリーフシードを拾うと、その場を一目散に逃げ出す。
楓がその後を追跡した。

ーーーーーーーー

到底瀕死とは思えなかった手の力が緩み、
刹那は織莉子の胸板を思い切り蹴り付け匕首を引っこ抜いた。

「美国織莉子」

血塗られた切っ先を向けながら、
その場に両膝を着いた織莉子に声をかける。

「何故、この様な事をした?」

刹那の怜悧な問いに、織莉子は静かに微笑んだ。

「わたしの世界をまもるためよ」

「そうか………」

すっ、と、切っ先を前に右腕を脇に引いた刹那は、
茂みの音に振り替える。

215: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/11(月) 02:21:01.17 ID:OZBPouv30

「お、俺や俺」

割と本気で命が危ない事を予感しながら、
引きつりを隠した声で小太郎が言った。

「どういう事だ? お嬢様はっ?」
「だ、大丈夫やっ!」

今度こそ本気でチビリそうな叫びを聞きながら、
小太郎は慌てて返答する。

「大丈夫、ちゃんと安全な場所にいる。
それより、ちょっとまずい」
「ん?」
「少し派手に暴れ過ぎた、警察が本気出してる。
近場でもかなりしつこく動いてるらしいわ。
急いでここ離れないとまずいて」
「分かった」

返答した刹那は、既に仰向けに倒れ込んだ織莉子を一瞥すると、
アーティファクトで助かったと思いつつも
一度血振りをしてから匕首をカードに戻す。

「………悔、しい………なぁ………」

ーーーーーーーー

(魔女魔女魔女魔女魔法少女でもいいどこかにいないかいないかいないか
魔女よ魔法少女よ私の愛のため私の無限に有限な愛のため
グリーフシード寄越せえぇぇぇぇぇっっっっっっっっっ!!!)

このハイペースでは気休めにしかならない浄化を根性で繋ぎ、
呉キリカは疾走する。
とある公園にたどり着き、魔女の結界に滑り込む。

「邪魔あっ!!!」

そこで、魔女が作った袋に全身呑み込まれるも、
その袋を鈎爪で一撃で切り裂き、転倒する。

216: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/11(月) 02:24:47.24 ID:OZBPouv30

(自分の、血。あー、かなり、キテ、る………)

いかに魔法少女でも、自分の流血に滑って転倒して、
認識が現実に追いついたのが精神的に響いて来る。
そんなキリカの上空を、どう見ても手で投げるサイズではない
でっかい手裏剣が飛行し、目の前の魔女をぶった斬った。

「これが、魔女でござるか」

背後の声も気になるが、今はとにかくグリーフシードを回収し、
自分のジェムに当てる誘惑を壮絶な意志力で振り切ってしまい込む。

「あの、刀、使いの、仲間だな………」
「で、ござるな」
「!?」

キリカの目の前で、ぶわっ、と、人数が倍々ゲームに増加した楓が
一斉にキリカに襲い掛かった。

「い、いやいや、分身の、術?」

辛うじてその第一陣を凌いだキリカが息を切らせて言う。

「効いてるで、ござるかな?」

そう言いながら、印を組んだ楓は又、
横に分身を始める。

「ふぅー、ん………面白バカみたいっ!」

叫びと共に、キリカの両腕からは今までに増して、
何本もの鈎爪が鋭く飛び出した。

「………一手で十手だ………」

次の瞬間、両腕から大量の鈎爪を伸ばしたキリカの前で、
どおんと煙玉が爆発した。

「小細工を………」

キリカが、自分に迫る何人もの楓の気配を捕らえた。

217: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/11(月) 02:29:43.65 ID:OZBPouv30

「さあ、散ねっ!」

キリカが生やした大量の爪が、
一斉に襲撃を掛けた楓の姿をまとめて切り裂く。

(この、手応え、って事は………)

とん、と、背中を押す感触がキリカの心に戦慄を呼ぶ。

「本体、って、奴? ………」
「で、ござるな」

背後から重い「気」を振動的に撃ち抜かれ、
前のめりに倒れ込んだキリカの手は、
その身を起そうとして血だまりに滑る。
自分の瞼の重さを、キリカの最後の理性が叱咤していた。

「(………私は、まだ………絶、対に………)
………織、莉子………」

==============================

今回はここまでです>>213-1000
続きは折を見て。

218: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/13(水) 02:12:45.19 ID:hov1LVWT0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>217

ーーーーーーーー

「織莉子っ!!!」
「気が付いたでござるかな?」

ガバッと跳ね起きた呉キリカが感じたのは、
穏やかな声と畳の香りだった。

「お、前っ!」
「ニンッ!!」

ーーーーーーーー

「取り敢えず、穏やかに話をするつもりになったでござるかな?」
「うん、と言ったら解いてくれるのかい?」
「そうでござるな。多少の痛み止めはしたとは言え、
その傷で今動けば手足が物理的にバラバラになるでござるよ」
「ああ、手当をしてくれたんだね。ありがとう。
ソウルジェムも無い真っ裸じゃ仕方がないか」

鎖を解かれたキリカが首を鳴らして言った。
和室に敷かれた布団でしっかり休んでいた自分。
今までの記憶と照合すると、頭が不具合を起こして馬鹿笑いしたくなる。

「ソウルジェムとやらはあちらにあるあれでござるな。
出血がひどかった故、元の服は今洗濯して乾燥中でござる」

「そう………恩人は、あいつ、桜咲刹那の仲間なんだろう?」
「そういう事になるでござるな」
「あいつに引き渡す?」
「いいや」

219: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/13(水) 02:16:03.65 ID:hov1LVWT0

「じゃあ、着るものが欲しい。今すぐに。
すぐに織莉子の所に、急がないと、愛が、死んでしまう………」

「それは、大丈夫でござる」
「なんだって?」
「大丈夫でござる」

目の前の糸目ののっぽは大柄な事もあって雰囲気に頼りがいがある。
本当ならばパニックになっている自分を容易に想像出来る状況で、
キリカは妙な安心感を覚えていた。

「ねえ、私に何か変な薬でも飲ませた?」

「即座にショック死してもおかしくない状況でござったからな。
鎮痛剤に当たる薬湯を少し強めに含ませたでござるが」

「その、せいかなぁ。
君は敵で私の愛が死にかけている筈なのに、
言葉一つを何故か信じてもいい気がする」

「光栄にござる」

穏やかに微笑む楓を前に、
キリカはふうっと息を吐く。

220: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/13(水) 02:20:13.32 ID:hov1LVWT0

「桜咲刹那………見抜いてたのかな」
「ん?」

「薔薇の棘、合気、隠れ居合抜き。

あれだけの剣の使い手、
何て言うか、凄い正統派の武術をやってるって私にも分かる。

それが、ギリギリまで手の内が分からない、
凄くトリッキーで卑怯なぐらいの攻撃を連発して来た。
私が言うのもなんだけど、プライドはないのか、ってぐらい」

「刹那は誇り高き剣士でござる」
「だろう!」

「そして、その剣を何のために使うか、
何が大切なものであるかを知り、
それを守るためには、己すらも只一振りの剣と化す。
剣はそのための道具に過ぎない。
それが刹那でござる」

「………………」

キリカは天を仰ぎ、布団に背を着けた。

「明日には一応の決着がつく。
それまで少し、身を隠すでござるよ」

221: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/13(水) 02:23:34.26 ID:hov1LVWT0

ーーーーーーーー

「生き、てる?」

薔薇の庭園で、半身を起こした美国織莉子に
水干姿でしゃがみ込んだ近衛木乃香が小さく頷いた。

「あなたが、私を助けたと言う事?」
「そういう事になりますなぁ」

白扇で口元を覆い、木乃香は答えた。

「どうして?」

「せっちゃんに人殺しさす訳いかんからなぁ。

だから



木乃香は、閉じた扇の先を織莉子に向け、
すっと立ち上がる。

「せっちゃんはあんたらには絶対負けへんし、
だからと言うて、次にうちに手ぇ出したら、
うちに関わる勢力が総力挙げて
草の根分けても探し出して八つ裂き言う事になりますえ」

木乃香の言葉に、織莉子はくすっと笑みを漏らした

「ごめんなさい、真面目に聞いてるけど、
お上品な素振りで臆面もなくバックを出して来たわね」
「守らなあかんものがありますよって。
そのためなら、使えるものは何でも使います」
「そう」

ふっ、と、力を抜き、織莉子は静かに立ち上がる。

222: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/13(水) 02:27:22.32 ID:hov1LVWT0

「桜咲刹那、あなたにとってそれほど大事な存在なのね。
あなたは恐らく生粋のお嬢様。
本来、それを誇示し振り翳す事を潔しとしない程に。
そして、そんなプライドを些細と切り捨てられるぐらい、
彼女はあなたにとって大切な存在」

そう言って、織莉子はふっと笑った。
その目の前で、木乃香はとろける様にはんなり微笑み頷いていた。

「肝心な事がまだだったわね」
「肝心な事?」
「命を助けてくれて、ありがとう」
「どういたしまして」

「まして、あなたを攫った私を」
「おおきに、それもうちのためですよって。
もう一度言いますけど、次はありまへんえ」
「それならば、灯しなさい」

二人は、真顔で向き合っていた。

「あなたの、その光で、桜咲刹那の道に陽を灯しなさい。
キリカを探さないと、絶対に無茶してる。
急ぐのに、体は治っても今、精度の高い………」

焦りを見せる織莉子の前で、木乃香はにこにこ微笑んでいた。

223: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/13(水) 02:30:59.28 ID:hov1LVWT0

 ×     ×

「夜が明ける………」

佐倉愛衣が、ホオズキ市の住宅街の一角で呟く。

「完全に見失った………一度お姉様達と合流して………」

ドンッ

「あ、ごめんなさい」
「………大丈夫………」

曲がり角を曲がろうとして人対人の衝突事故を起こした愛衣が、
身を起こしてすーっと首を動かす。

「ちょっと待って!」

愛衣の叫びに、天乃鈴音が足を止めてくるーりと後ろを向く。
そんな鈴音の前に、愛衣がさささっと回り込んだ。

「待ちなさいっ! キリサキさん、見つけました………」
「邪魔」
「え?」
「仕事中、みんな待ってる」
「あ、ああ、ごめんなさい………じゃ、なくってっ!!」

愛衣が、新聞の束を抱えてタッタッタッと走り去る鈴音の後を追う。
曲がり角を曲がった所で、
タッタッタッと通り過ぎる鈴音の側で
愛衣はきょろきょろ周囲を見回していたが、
その唇は薄く笑っていた。

「アデアット」

鈴音の姿が見えなくなった辺りで、
愛衣は魔法具であるオソウジダイスキ、
簡単に言えば空飛ぶ箒を取り出してその場でふわりと浮遊した。

224: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/13(水) 02:36:13.90 ID:hov1LVWT0

ーーーーーーーー

見滝原の仮住まいであるアパートに戻った刹那は、
浴室でシャワーを浴び、ぐっ、ぐっとその手を拭っていた。
ふうっと嘆息してから浴室を出て、
体を拭った辺りで音に気が付く。
それは、「最重要」を示すものだった。

「こ、これは学園長、この様な時間にっ!!」

スマホで電話を受けた刹那は、
その場で深々と頭を下げる。

「こ、この度はこのかお嬢様を、私がいながら、
何と申し上げて………」

「うむ、その事も関連してじゃが………」

「………積極的攻撃をやめろ、と?」

「色々と事情は聴いたが、
元々はこちらが魔法少女のテリトリーに割り込んでの事。
このかには当分そちらに近づかない様にその辺りの事も注意しておいた。
無論、この件に就いては刹那の非ではないと、重々理解した上の事じゃ。
故に、そのままそちらで元の任務に戻る様に」

「ご温情、感謝いたします。
美国織莉子、呉キリカをこちらから攻撃する事はやめて
見滝原での元の任務に戻る様に、と言うご指示ですね?」
「そういう事じゃ、引き続きよろしく頼む」

==============================

今回はここまでです>>218-1000
続きは折を見て。

225: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/17(日) 02:54:22.86 ID:4iqOK/Pc0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>224

ーーーーーーーー

「間違いないのですね?」

ホオズキ市内で佐倉愛衣に合流した高音・D・グッドマンが確認する。

「はい、あの新聞販売店に。どうやら住み込みの様です」
「そうですか。キリサキさんの動きは夜間、それを待ちましょう」

高音の言葉に愛衣と夏目萌が頷き、踵を返す。

「夕凪新聞、ですか………」

こうして場所を把握した後、愛衣と高音、夏目萌は、
近場のファミレスでモーニングを頼んでいた。

「配達中を見つかったって事は、逃げ出さないですかね?」
「多分………ないと思う」

萌の言葉に、愛衣が言う。

「根拠は?」

高音が尋ねる。

「彼女は、私に見つかってからも淡々と新聞配達を続けていました。
もっと言うと、桜咲さんや私達に面が割れても平然としています。

念のため、認識阻害を張った上空から彼女の帰りを待っていましたが、
取り敢えず普通に戻って来ています。

とにかく、ネットなんかで確認したキリサキさんだとするなら、
彼女、普通じゃないです」

226: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/17(日) 02:59:24.44 ID:4iqOK/Pc0

「キリサキさんが普通だったら困るけど」
「普通だから普通じゃない」

萌の言葉に愛衣が真面目に答える。

「つまり、キリサキさんが全く普通に新聞配達の勤労少女をしている、
と言う事ですね」
「そうです」

高音の答えに愛衣が頷く。

「だから、印象ですけど、
これから「普通」を捨てて逃げ出すとは考えにくい」

「そうですか………メイ」
「はい」

「あのキリサキさんの実力、どう見ましたか?」

「魔法のスペックは高い。
だけど、術師の練度が何処か追い付いていない。
剣士が外付けの魔法具で強力な魔法を使っている、
そういう印象でもあります」

愛衣の言葉を、高音は黙考して聞いていた。

「協会には?」
「少し待ちます」

萌の問いに対する高音の答えは、
二人にとって少々意外なものだった。

「何か、嫌な感じがします。
3Aや桜咲刹那も、私達が全く預かり知らない所で動いていた。
思い過ごしならいいのですが、キリサキさんの被害は看過出来ない。
この一日二日に限っては、私達は個人的に行動します。
そして、偶発的にキリサキさんを確保して、
それから協会の指示を仰ぎます」

227: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/17(日) 03:03:41.52 ID:4iqOK/Pc0

ーーーーーーーー

魔法使い、魔法少女、結構な激動の夜が終わり朝が来て、
一部に例外はあったものの、
その後に続いたのは至って平凡な学校生活だった。

「美樹さんですか?」
「ええ」

放課後、夕暮れ過ぎに、
スマホを使っていた巴マミと桜咲刹那が言葉を交わす。

「元々、上条君のお見舞いの後で合流の予定だったけど、
ちょっと予定が変わってこっちには来られないって」
「そうですか」

かくして、この日は二人で魔女退治の散策を開始する。

ーーーーーーーー

「おや」
「あっ!」

夜、自宅を飛び出しそのまま走り出した鹿目まどかは、
それから程なく桜咲刹那と遭遇していた。

「どうしました?」
「さ、さやかちゃんがっ!!」

228: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/17(日) 03:16:14.26 ID:4iqOK/Pc0

ーーーーーーーー

「一体何をしているんですかっ!!」

高速道路上の跨道橋に、
下の走行音にも負けない大喝が響き渡る。

「救兵衛におよその事は聞きました。
それが、一度は私に剣を教わろうとした者の行動ですかっ!?」
「刹那さん、ごめん………」

既に魔法少女姿で槍を担いでいる佐倉杏子の側で、
制服姿の美樹さやかが目を反らす。

「駄目だよさやかちゃんっ」

「いいでしょう」

まどかが先にさやかに駆け寄る中、
刹那は、野太刀「夕凪」を無造作な程に抜き放ち、
切っ先を前に向けて歩き出す。

「荒稽古を付けましょう。
あなたには過ぎた玩具を弄ぶその性根、叩き直します。
五体満足で帰れるとは思わないで下さい」
「ヒュウッ」
「さやかちゃん謝ってっ!!」

大真面目にザシザシと迫る刹那の姿に、
杏子が口笛を吹きまどかが悲鳴を上げる。
まどかも知っている、刹那の剣には嘘も冗談も無い事を。
しかも、今の刹那には大真面目に加えて何処か不機嫌な気配がある。
そして、さやかの気性もまどかにはよくよく分かっている。

「ごめん、まどか。
刹那さん、これだけは譲れないんだ。
止めたいなら………」
「さやかちゃん、ごめん!」

まどかが、光り出したソウルジェムをさやかの手から奪い取る。
そして、跨道橋から下の高速道路へと投げ捨てた。

229: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/17(日) 03:20:16.70 ID:4iqOK/Pc0


「チッ!!」

即座に刹那が駆け出し、高速道路へと飛び降りる。

「任せて」

そこで、刹那は一瞬だけ、真横に暁美ほむらの姿を見た。

「………あれ? ………」

刹那が戻った時には、
跨道橋の床に横たわっていた美樹さやかが、
鹿目まどか、佐倉杏子、暁美ほむらに囲まれて
目を覚まし身を起こしている所だった。

「………つまり、ソウルジェムは魂の器で、
百メートル以上離れたら肉体から魂が離脱して死亡した状態になる。
そういう話をしていた、と言う事ですか?」
「そういう事になるね」
「あんた、冷静だな」
「多少、場数を踏んでいると言うだけです」

杏子の言葉に、刹那が応じた。

「とにかく………」

コメカミに指を押し付けたほむらが口を挟む。

「この事を巴マミに話すのは少し待ちましょう」
「そうですね。
今のこの状況を見ても、彼女にしても相応のショックはある筈です」
「そうだね、正直ショックと言うかなんと言うか」

刹那の言葉に、さやかが乾いた笑いと共に言って立ち上がる。

230: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/17(日) 03:24:12.22 ID:4iqOK/Pc0

「あなたも、落ち着くのは難しくてもこれ以上短気を起こさないで下さい。
あなたが、得た力で人を助け、
様々なものをもたらした事は確かなのですから。
折を見て少し話しましょう」

「うん。今はちょっと、帰らせてもらうわ」

さやかが、ぎこちなく笑みを浮かべながらぎくしゃくと動き出す。

「まどかさん、彼女をお願いします」
「うん。一緒に帰ろう」
「うん………」
「あー、あたしも帰るわ」

かくして、三々五々解散して行く。
最後に残った刹那が、ぽつりとつぶやく。

「………それでも、終わる道がまだ残っている」

ーーーーーーーー

チリ、ン………

「貴方の名前…教えて?」

夜のホオズキ市内。何時もの魔女探索のパトロール中、
魔法少女詩音千里は路地裏でその声を聞いた。

「教えて…貴方の名前」
「…答える義務はないわ」
「そう…残念ね」
「伏せてっ!!」

千里は、突如割り込んだ怒号に従った。

「くっ!」

ぶおっ、と、周囲の地面に一瞬燃え立つ火線が走り、
そのまま蛙飛びした千里は、振り返り様に魔法拳銃を発砲する。

231: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/17(日) 03:28:17.54 ID:4iqOK/Pc0

「紫炎の捕らえ手っ!」
「桜火っ!」

横を向いた鈴音は、飛んで来た炎の捕縛魔法を
剣から放った炎で呑み込む。

「火の9矢!」
「炎舞」
「風楯っ!(手数が多過ぎるっ!)」

上空から監視していた箒から飛び降り、介入した愛衣は
鈴音が放った大量の炎の剣に攻撃魔法を相殺され、
更に斜めに降り注ぐ炎剣に対して防御を張る。

「エルサルマ………風楯っ!!!」

愛衣が次の魔法を放とうとした時には
鈴音はごうっと迫っており、
鈴音が振るう大剣を愛衣は防御魔法で、
更に魔法の箒オソウジダイスキで受け流す。
鈴音がぶうんっ、と、剣を大きく横薙ぎし、
大きく飛び退いた愛衣が胸元を抑えた。

(かなり、硬い………)
(黒衣でなければ真っ二つね)

詩音千里は、
肌面積の大きな水着にセーラー服マントと言うのが近い大剣の少女と
巻き髪に黒衣姿で箒を振るっている少女の争いを油断なく見ていた。

当初は割り込んだ黒衣をセーラーマントが凌ぐ形で、
今は灰色のセーラーマントが押している。

千里の見た所、黒衣の攻撃距離は遠距離、
対して、セーラーは遠距離も使えるが基本が剣士タイプ。
黒衣はセーラーマントの距離に捕まってしまい防戦一方。
そうなると、こちらも遠距離タイプの千里も迂闊に介入出来ない。

どうもあの黒衣が異常に堅牢らしく、
そうでなければ一度や二度はグロ画像を見ていた頃だ。

232: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/17(日) 03:31:48.55 ID:4iqOK/Pc0

「チサト、大丈夫っ!?」
「良かったっ!」

望んでいた近距離の到着に千里が叫んだ。

「あっちの灰色が多分、キリサキさん。
かなりの剣の使い手で遠距離の炎も使うから、
第一は捕獲、手に余るならって事でお願い」

「オッケーッ! 行くわよこの変態キリサキ魔っ!!」

鈴音の視線が動いた一瞬で、愛衣はタンッと飛び退き、
突入した千里の魔法少女パートナー
成見亜里紗の大鎌の柄が鈴音の剣と激突する。

「えっ?」
「紫炎の捕らえ手っ!」
「チッ!」

亜里紗が鈴音をぶち抜いた、と思った鎌が空を切り、
その側で、正確に鈴音を狙った捕縛魔法を
炎をまとった鈴音の剣が叩き落す

(キリサキさんは幻術の様なものを使ってる?
だけど、黒い少女は恐らくそれを見抜いてる)

千里が推測する間にも、亜里紗と愛衣の即席コンビは、
特に打ち合わせるでもないまま割と効果的に動いていた。

「メイプル・ネイプル・アラモード………」
「炎舞………」
「紅き焔っ!!」
「よっしゃあっ!!

鈴音が放った大量の炎剣を空を舐める火炎が呑み込み、
その後から亜里紗が突撃して剣と鎌の柄が衝突する。
その間に、地面に幾筋かの火線が走り、周囲を照らす。

233: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/17(日) 03:35:37.09 ID:4iqOK/Pc0

(今度こそ………)
「かはっ!!」

一瞬不愉快気に眉を動かした鈴音は、
下から振られた鎌の柄を腹に打ち込まれ、
咳き込みながら足を後ろに滑らせた。

「もらったあっ………」
「桜火っ!!」
「のわっ!!」

トドメとばかりに大振りに振り被った亜里紗を強力な火炎魔法が襲い、
亜里紗は慌てて身を交わす。

「くっ!」

そのまま愛衣に駆け寄ろうとした鈴音が、ステップを始めた。
鈴音の前方では、愛衣がステップを踏みながら
鈴音の足元を狙って次々と速射の火炎弾を撃ち込んでいる。

「狙いは分かるけど、ちょこまかウザイ………」

今すぐにでも背中に鎌を叩き付けたい亜里紗が
的を絞れない苛立ちを口にする。

「桜火っ!」
「風楯っ!!」

それでも鈴音が発動した巨大な炎を愛衣が防御し、
その間に迫っていた鈴音の一刀を、
愛衣がバーベル持ちした箒で受ける。

「らあああっ!!」

その間に背後から亜里紗が迫っていたが、
一瞬早く動いた鈴音の剣が
ぶうんと横薙ぎに亜里紗を牽制する。

234: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/17(日) 03:39:30.73 ID:4iqOK/Pc0

(いけるっ!!)

詩音千里が、魔法拳銃を構えた。

「正義の使徒、高音・D・グッドマンここに見参!!!」

さっ、と、そちらに視線を向けた成見亜里紗は、
目が点になった。
その視線の先の空中には、馬鹿でかい黒いエイリアン、
とでも呼ぶしかない代物が浮遊している。

「メイ、よく時間を稼ぎました、

私が来たからには決まったも同然。

さあキリサキさん、神妙に縛につきなさいっ!!」

千里が放った魔法解除弾は、

黒衣姿の夏目萌を引き連れ、
その背景に巨大な触手影人形を浮遊させながら
この戦場に勇躍踊り込んだ、

黒衣姿の高音・D・グッドマンの

颯爽たる勇姿へと真っ直ぐ吸い込まれて行った。

「………えーと………私、まだ何もしてなかったよね………」

==============================

今回はここまでです>>225-1000
続きは折を見て。

235: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/24(日) 02:30:10.63 ID:khg1YZwz0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>234

「紫炎の捕らえ手っ!」
「流水の縛り手!」

ものを言ったのは、踏んだ場数の差、
その突発的な異常事態に対する耐性、経験値だった。

「くっ」
「しまっ!? 私が、こんな精神攻撃にっ!!」

一瞬の静寂の後、佐倉愛衣と夏目萌が放った捕縛魔法は、
物陰から現れて半ばショートした思考で事態を把握しようとした日向華々莉と
大剣の切っ先を斜め下に向けて棒立ちで瞬きしていた天乃鈴音を直撃していた。

「あれが、キリサキさんですか?」
「はい、恐らくキリサキさんとその仲間です」

高音・D・グッドマンが愛衣に確認をとる。

「それでは、改めて………」

そして、高音とその仲間が円陣の形で仮契約カードを用意する。

「「「アデアット!!!(((変身フォーム)))」」」
「終わった?」
「何が、どうなってんの、これ?」

改めて、成見亜里紗が詩音千里に尋ねる。

「さっきも言ったけど、
多分、あの水で縛られてる剣使いがキリサキさん、だと思う」
「ふーん、で、あっちは………ん?」

そこで、亜里紗が何かに気付いてツカツカ動き出す。

236: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/24(日) 02:33:42.94 ID:khg1YZwz0

「ちょっと、あんたマツリ? 何やってんのこんな………」
「アリサ? ………危ないっ!!」
「!?」
「お姉さまっ!?」

次の瞬間、高音が腕から伸ばした影の鞭が
間一髪で亜里紗の大鎌を絡め取り、刃を地面に突き刺していた。

「くっ!」

亜里紗は馬鹿力で地面から刃を抜き、高音が鞭を消滅させる。

「アリサ、そっちは敵じゃないっ!!」
「メイ、彼女がキリサキさんではっ!?」
「違うっ! お姉さまは彼女を止めて、
あなた、彼女に魔法解除をっ!!」

愛衣がさささっとその場を仕切り、隙を突いて駆け出す。
高音が呼び出した影法師を亜里紗が切り裂いている間に、
千里が亜里紗を銃撃する。

「あれ?」
「わっ!」

亜里紗がきょとんとしながら影法師に押し囲まれ、
華々莉は背後から頭にバケツを被せられて声を上げる。

「あなた、幻術か催眠術を使いますね、
それも魔力を込めた高度なものを。
この人の目を見たら駄目です」

愛衣の言葉に、華々莉が鼻を鳴らす。

「大丈夫っ!?」
「ハルカ先輩っ」

そこに駆け込んで来たのは、奏遥香と日向茉莉だった。

237: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/24(日) 02:39:48.90 ID:khg1YZwz0

「キリサキさん一味の身柄を確保しました、魔法少女です」
「キリサキさんの?」
「スズネちゃんっ!?」

鈴音の顔を見た茉莉が声を上げた。

「知り合い?」
「同じクラスに転校して来た天乃スズネちゃん」

遥香の問いに茉莉が答えた。

「あれ、双子の姉妹かなんか?」

亜里紗がくいっと顎を動かす。

「ちょっと待って、彼女は魔法の催眠術を使う、
目を見たら危ない」

千里が茉莉を制した。

「じゃあ、十数える間に一度変身を解除して
ソウルジェムをこちらに渡しなさい。
事が事です、キリサキさん相手に選択の余地はありません、
従うか、自分が同じ目に遭うか選んで下さい」

遥香が槍先を向けて二人に命令し、二人がそれに従うのを確認する。
それを見て、拘束魔法が解除された。

「えー、っ、と………つっ………」

華々莉に接近した茉莉は首を傾げていたが、
その内、地面に膝をついて呻き始めた。

「ちょっ?」
「大丈夫?」

軽く狼狽する亜里紗の側で遥香が駆け出す。

238: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/24(日) 02:42:54.34 ID:khg1YZwz0

「呪い、の様な痕跡が感じられます」

茉莉の頭に手を乗せた愛衣が言い、
それを聞いた千里が茉莉を銃撃した。

「お姉、ちゃん?」
「催眠術で存在を忘れさせてた?」

茉莉の反応を見て、高音が呟いた。

「お姉ちゃん? これって何? どういう事なのっ!?」

茉莉が華々莉の肩を揺さぶり、華々莉が鼻で笑った。

「どうですか、メイ?」
「医術は専門外ですが、こちらも魔力が感じられます」
「つまり、彼女も何等かの洗脳を」

鈴音の頭に掌を当てていた愛衣に千里が訪ね、愛衣が頷く。

「う、あ………あぁあああーーーーーーーーーっっっっっ!!!」

千里が鈴音の魔法を解除した後、鈴音は少しの間きょとんとしていたが、
次の瞬間、周囲を絶叫が貫いた。

「あ、あああ、ああ………」
「あーあ、やっちゃったぁー」

華々莉の唇が、にまあっと歪んだ。

「あなた、何をしたのっ!?」

怒鳴り付ける遥香を、華々莉は鼻であしらった。

244: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/26(火) 01:29:13.87 ID:66NF0Ngw0

>>239差し替えです

==============================

「私は、スズネちゃんを助けてあげてたんだよ。
ニセモノの記憶で蓋をしてっ!
辛いでしょ? 痛いでしょ?
やっちゃったのはあいつら、あんたのお仲間。
終わるよ、みんな、あんた達が地獄の窯の蓋を開けたせいでね。
アーッ、ハッハッハッハッ!!」
「このっ!」

亜里紗が振り上げた拳を千里が抑えた。

「ソウルジェムが急激にっ、私の手持ちで………」
「あ、ああ、あ………つ、ばき………」
「!?」
「ああ………ツバキ………」
「!?」

頭を抱え蹲る鈴音に駆け寄ったのは茉莉だった。

「スズネちゃん、私、覚えてるマツリの事っ!」
「………」
「マツリだよっ。お話ししたよね、ツバキの事も」
「マツ、リ………」
「ずっと、ずっと探してた、ツバキの事も、スズネちゃんの事も。
スズネちゃんの事は忘れてたけど、でも、ずっと、ずっとずっと会いたかった、
ツバキと一緒にいたスズネちゃんにっ!!」

茉莉が鈴音の手を取り、焦点の合わなかった鈴音の目が
茉莉の前向きな目を捕らえた。

「………又、話がしたい。
後で………少し、長い話になる」

鈴音の返答に、茉莉が小さく頷いた。

==============================
差し替えは以上です。
一言で言って読み込み不足による修正、ごめんなさい。
今回はここまでです、続きは折を見て。

240: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/24(日) 02:50:01.78 ID:khg1YZwz0

「で、あんた達って結局なんなの?」
「あなた達は恐らく魔法少女、マギカ、ですね?」

亜里紗の言葉に、愛衣が質問を質問で返す。

「マギカ? あの魔法少女のマギカですか」

高音の言葉に愛衣が頷いた。

「マギカであれば、契約の使い魔がいる筈ですが」
「僕の事かい?」

高音の言葉に、物陰からキュゥべえがひょこっと姿を現す。

「彼女たちはマギカ、魔法少女なのですか?」
「そうだね」
「キュゥべえ、彼女達は魔法少女じゃないの?」
「違うね、魔法少女とはちょっと違う」

遥香の問いに、キュゥべえが言う。

「私達は魔法使いです。
簡単に言えば、ある程度の隠れた素質を持つ人間が、
自分で修行をして魔法を身に着ける。
そういうカテゴリーの存在がある、と、理解して下さい」

「私達魔法使いは世の中の裏側で世の中のお手伝いをする存在。
本来、あなた達魔法少女には干渉しない立場を取っているのですが、
今回は行きがかりでこの様に関わる事になりました」

「はぁー、そんなのがいるんだ」

愛衣と高音の説明に、亜里紗が言った。

「何にせよ、私達のチームを助けていただいた事、
有難うございました。

遥香が頭を下げ、他のチームメイトもそれに倣い
高音以下も礼を返す。

241: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/24(日) 02:53:32.92 ID:khg1YZwz0

ーーーーーーーー

「分かりました」

高音がスマホの通話を切る。

「魔法協会としては、キリサキさん事件は
非のある無しに関わらず魔法少女内部の抗争事件、と言う事で、
犯人も確保出来た事ですし、
これ以上関与せずにあなた達に一任すると言う事です」

「分かりました」

高音の言葉を遥香が引き受ける。

「ねえ」

千里と亜里紗に引き立てられながら、華々莉が言葉を発した。

「魔法使い? あんた達、魔法少女にちょっかい出して何やってんの?」

「行きがかりで正体不明の連続殺人事件に遭遇しましたが、
私達には帰還命令が出ています」

「見滝原の刀使いは? なんかさ、素直なスズネちゃんに、
あいつが魔法少女の守護者だー、とか吹き込んだ奴がいたみたいでね。
お陰でノルマなんか全っ然こなせなかったの。
他に魔法少女から狙われる様な事やってんの?」

「地元と協力して節度を持って動いているとは聞いています。
それ以上の事は分かりません」
「あ、そ」
「ほら、行くわよっ」

鼻で笑って引き立てられる華々莉を見送りながら、
高音は指で顎を撫でて黙考していた。

242: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/24(日) 02:57:42.16 ID:khg1YZwz0

 ×     ×

「おはよー」
「おはよー」
(鹿目さん)

見滝原中学校の校門から玄関に向かう途中、
鹿目まどかは脳内に響く声に背筋を伸ばす。

(マミさん)
(お早う、鹿目さん。美樹さんは?)
(あ、あの、今朝は風邪でお休みするって)
(そう)
「どうかしましたか?」

まどかと並んで歩いていた志筑仁美が、
ふと上の空な姿を見せたまどかに声をかける。

「あ、うん、風邪、さやかちゃん大丈夫かな?」
「そうですわね。
さやかさんが風邪でお休みなんて、珍しいですから」

ーーーーーーーー

「あたしはね、高すぎるものを支払ったなんて思ってない。
この力は、使い方次第で、
いくらでも素晴らしいモノにできるはずだから」

風見野市内の一角で、決意を込めた言葉が放たれる。

「この分なら、持ち直すか」

桜咲刹那は、廃教会の屋根の上で、
建物の中から聞こえるその青い言葉を耳にしながら呟いた。

「そろそろ、戻るか………」

身を起こしながらも、
刹那は一応顛末を聞き届けようと耳を澄ませる。

「バカヤロウ! ………」

243: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/24(日) 03:04:48.90 ID:khg1YZwz0

ーーーーーーーー

「何が、起きているの?」

昼休み、二年生校舎の屋上と三年生校舎の屋上入口近くで、
それぞれ暁美ほむらと巴マミが、
前方で翻る黒いサイドポニーを眺めながら棒立ちで呟く。

「わーっ」
「すっごーいっ」

三年生校舎の屋上では、巴マミと同じクラスの女子生徒数人が
黄色い歓声を上げていた。

彼女達のクラスには最近同性の転校生が転入して来ており、
普段はむっつり不愛想な転校生が何となく興味を示したので
スマホでこっそり見ていた洋楽動画をそのまま見せたところ、
一分以内の謎の挙動を経て今に至っていた。

「ウ、ウェ、ヒヒヒ………」

ほむらの隣では、
ほむらと少々込み入ったお話しをする予定だった鹿目まどかが
思わぬ成り行きと素晴らしくハイスペックな完コピダンシングに
取り敢えず笑うしかなかったので乾いた笑いを漏らす。

その間にも、まどかの前方では、
アニメの中のアイドルダンスが、
投げキッスと共にハイクオリティで再現されていた。

==============================

今回はここまでです>>235-1000
続きは折を見て。


次回 見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!) 中編