見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!) 前編

245: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/29(金) 22:50:45.70 ID:qyqyKnwr0
それでは今回の投下、入ります。

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>>243 >>244

ーーーーーーーー

オハヨー
オハヨー

「さやかちゃん、おはよ!」
「おはようございます、さやかさん」
「あ、ああ。おはよっ」

朝、せせらぎ流れる通学路で、
何時もの三人が合流し、挨拶を交わす。

「んー、ちょっとばかり風邪っぽくてね」
「さやかちゃん………」
(ふむ………)

並木、と言うか林に近い木々の中で、
桜咲刹那はそんな三人の姿を捕らえ心の中で呟く。

(空元気、ですか………視線?)

そして、改めてさやかの視線を追う。

(松葉杖の少年………成程………
………あの様子は少し厄介………彼女も?)

どちらかと言うと自分に不向きな方面の懸念に、
刹那は小さく嘆息する。

引用元: 見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!) 



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246: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/29(金) 22:54:08.39 ID:qyqyKnwr0

ーーーーーーーー

「?」
「どうしましたの、さやかさん?」

帰りのHRを終えた教室で、
つと視線を上に向けたさやかに志筑仁美が尋ねた。

「ん、いや、鼠かなって。気のせいかな?」
「嫌ですわね」

少し眉を潜めた仁美は、気を取り直して
きりっとした眼差しを親友に向ける。

ーーーーーーーー

「あら」

教室で帰り支度をしていた巴マミは、
スマホを取り出して小さく声を上げる。

「どうかしましたか?」

そんなマミに、最近クラスメイトになった桜咲刹那が声をかけた。

「ええ。美樹さん、風邪は治ったんだけど
用事が出来たので今日は先に行っててくれって」
「そうですか。私もこれから用事がありまして」
「桜咲さんも?」
「ええ、すいません」
「謝る事は無いわ。元々私の側の仕事なんだから」
「では、失礼します」

相変わらず折り目正しいクラスメイトをマミは見送る。
多分、友達と言ってもいいと思うのだが、
一方で他人行儀に見えるのは、
最近はちょっと崩れた所が見えても折り目正し過ぎるからだろうか。

247: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/29(金) 22:58:01.97 ID:qyqyKnwr0

ーーーーーーーー

(わあー)

何時ものファーストフード店で着席した美樹さやかは、
少し後に入って来た女性客を見て、少々見惚れていた。

それは、同席した友人志筑仁美も同じ、
或は、もっとお熱かも知れないと、
仁美と付き合いの長いさやかは察知していた。

さやかから見て、その女性客はよく見ると少女なのは分かるのだが、
年齢は少し年上と言った所か。
ロングと言う程ではない黒髪をポニーテールに束ね、
サングラスをかけていても美人の部類に入るのは分かる。

何より、取り立てて逞しくも見えないむしろ小柄な体格の筈が、
SPか、と言いたくなる黒いパンツスーツが何故かドハマリして見える。
そんな、年頃の女の子がふと見惚れる凛々しい雰囲気を身にまとっている。

こほん、と、仁美が咳払いをして、さやかがそちらを見る。
その一瞬に、黒スーツの少女は、
さやかの背後の背もたれの裏側にすっと触れていた。

「………それで、話って何?」

気を取り直して、さやかが仁美に尋ねる。
その頃には、二人の意識を外れた黒スーツは少し離れた席に着席し、
ジャケットの内側から伸ばしたイヤホンを耳に差していた。

248: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/29(金) 23:01:37.04 ID:qyqyKnwr0

ーーーーーーーー

さやかが帰宅して、改めて外出した時には、既に陽は沈んでいた。
これから、闇に潜む怪物を退治に行く正義の味方。
と、心を奮い立たせようとするだけで、鼻の奥が辛くなる。
そして、街灯の下に立つ大事な友達の存在に気付き、
又、胸に来る。

「まどか」

さやかが声をかける。
それでも、付いて来てくれる、付いて行きたい、と、
心からさやかを気遣ってくれる。
付き合いの長いさやかにはその真情がよく分かる。
だからこそ、その綺麗な心に触れて、
さやかはとうとう泣き崩れる。

「あんた、何で……何でそんなに、優しいかなぁ……
あたしには、そんな価値なんてないのに……」

ーーーーーーーー

影の魔女の結界内。
おぞましく、悲しい光景を前に、
目を見開き立ち尽くしていた佐倉杏子の横を、
ばびゅんっ、と、何かが突き抜けて通り過ぎた。

「ア、ハハ?」

自分を縛り上げ、持ち上げていた触手が消し飛んだ、
と、思った時には、
そう思ったさやか自身も強烈な打撃で弾き飛ばされていた。

249: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/29(金) 23:05:51.16 ID:qyqyKnwr0

「やばっ!」

前方の光景に尋常ならざるものを察知した杏子が、
まどかの元に走った。

「神鳴流決戦奥義、真・雷光剣っ!!!」

杏子がまどかをかばう中、
結界そのものを揺るがす様な大爆発が巻き起こる。

「おいっ、大丈夫か!?」
「まどかっ!!」
「う、うん、大丈夫」
「桜咲刹那っ!」
「いや………」

怒りの形相で顔を上げるほむらを杏子が制する。

「信じらんねぇけど、安全だった。
こっち飛ばさない様にあの威力コントロールするって、
どんだけなんだよあいつ」

杏子がごくりと息を飲む前で、
爆風にその身を転がしていたさやかがゆらりと立ち上がった。
そのさやかに、刹那は「白き翼の剣」の切っ先を向けていた。

250: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/09/29(金) 23:11:29.97 ID:qyqyKnwr0

「じゃま………するなあっ!!………」
「………はは………」

杏子が、乾いた笑いを漏らす。
馬鹿でかい建御雷の一振りと共に、さやかが血迷って振るった刀身は
鍔元からへし折れてどこかに吹っ飛んでいた。

「おふっ!」

そして、「白き翼の剣」の柄の底がさやかの腹に叩き込まれる。

「この………」

さやかが顔を上げた瞬間、刹那の裏拳がさやかの頬を捕らえる。

「こ、の………」
「痛くないですか?」

その声は、静かに響いた。

(なみ、だ?)
「私は、痛いです」

そして、刹那はどん、と、掌でさやかの胸を押した。

「これは、あなたの体と心が血を流して得たものです。
返却する事は私を侮辱する事と心得て下さい」

杏子は、さやかに背を向けて立ち去る刹那を見送り、
グリーフシードを手にすとんと両膝をついた
さやかの肩をぽんと叩く。

「いい先輩じゃん。あんまし独りで意地張んなよ。
何せアレだからな、
力ずくでも独りにさせてくんねーんじゃね?」

==============================

今回はここまでです>>245-1000
続きは折を見て。

251: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/05(木) 01:37:36.66 ID:zmSPctAJ0
始まったか………

原作プロローグは余韻だったけど、
13巻冒頭から繋げて来たか。

それでは今回の投下、入ります。

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>>250

ーーーーーーーー

「何やってんだ?」

佐倉杏子は、魔女の結界を出た所で、
そこに突っ立っている桜咲刹那に尋ねる。

その刹那は、ネコミミ和風メイド服と言う
堅物な刹那にしてはキテレツな姿で、
建御雷の切っ先を体の正面の地面にドン、と、突き立て、
杏子から見て薄気味悪い笑みを浮かべて立っている辺り、
悪い予感しかしなかった。

「皆さんには、
これからちょっと
ミーティングに参加していただきます」

「ミーティング?」

行きがかり上、杏子と一緒に結界を出た美樹さやかが尋ねる。

「ええ、巴マミさんを交えて、
ソウルジェムの事等々に就いてすり合わせを行います」
「どうしてあなたが仕切ってるのかしら?」
「私の事情です」

暁美ほむらの問いに、刹那はにっこり返答した。

252: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/05(木) 01:41:13.84 ID:zmSPctAJ0

「このパーティー、あなた達は否定するでしょうが、
私から見たこのパーティーはこのまま行けば早晩瓦解します。
余所者だからこそ見える事もありますから。
そうなると、こちらとしても色々困るものでして」

「お断り、って雰囲気じゃなさそうだなぁ」

槍を肩で担いだ杏子と刹那が笑みを交わす。
そして、その一瞬の壮絶なやり取りに、
美樹さやかは目を見張った。

「今の、見切れるのかよ」

大槍を手槍のサイズに戻した杏子が、
「白き翼の剣」を八双に構えた刹那に言う。
なお、この場合の手槍とは槍術用語であり、
二分割してはめ直す様な携帯用ではない。

「身近に如意棒使いがいますので」
「やるじゃん」

次の瞬間、高速の剣と槍が再び打ち合い、弾ける。

「!? 百烈桜華斬っ!」

馬鹿長くなった槍の柄がゴム化し、
柄のしなりと共に刹那を狙った槍の穂先が
刹那の斬撃に乗せた「気」のカーテンに弾き飛ばされる。

その時には、杏子はそこに踏み込み斬り付けた刹那の一撃を交わしていた。
刹那が振り下ろした「白き翼の剣」が持ち上がる前に、
本来の機能に戻った槍の柄が上から剣を押さえつける。

「す、ごい………」

その激突に、さやかが息を飲む。
魔法少女だからこそ分かる、
やはり杏子はヴェテランの魔法少女であり、刹那は強者の剣士。
到底今の自分が及ぶ実力ではない、と。

253: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/05(木) 01:45:23.51 ID:zmSPctAJ0

ぎゃりっ、と、槍と剣が一回転し、横殴りの槍の柄を跳び越えた刹那が
タタッ、と動いて袈裟斬りに斬り付ける。
そして、空を切った「白き翼の剣」に、
上から槍の柄が叩き付けられた。

「アデアット!」

「白き翼の剣」が地面に叩き落され、刹那の新たな得物を杏子は鼻で笑う。

「どうしたどうしたあっ!?
そんなちっこいのであたしの首の届くのかよおっ!?」

叫んだ杏子が、手槍サイズの槍で幾度も突き、払いを繰り出すが、
刹那も流石にしぶとく交わし続ける。
ニッ、と、笑った杏子の目の前で、杏子の槍が多節棍に化け、
膨大な節の連結棍が、範囲攻撃と言うべき規模で浮遊を始めた。

「匕首・十六串呂、稲交尾籠っ!!」
「!?」

次の瞬間、そのまま刹那を縛り上げようと高々と動いた連結棍が、
その直前に刹那の結界術式の雷帯に絡め取られた。

「くっ!」

杏子が、自分が絡め取られる前に一度多節棍を消滅させる。
その時には、刹那の手からも得物が消え、
杏子は刹那の当て身をすれすれで交わしていた。

(まっ、ずいっ………)

もちろん、魔法少女は基本スペックが人間離れして強い。
しかし、それは現状退魔師である刹那もやり様によっては似た様なものだ。
そして、魔法少女同士で争う事はあっても、
魔法少女の仕様は魔女と戦う事を基本としている。

254: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/05(木) 01:49:24.16 ID:zmSPctAJ0

「あんた、素手もイケる口かよっ!?」
「神鳴流は武器を選ばずです」
「くそっ!」

ハメられた、と、杏子は腹の中で吐き捨てる。

自分は実戦経験はあるし、汚い事だって平気だ、と、杏子は思っていたが、
この清廉誠実を絵に描いた様な桜咲刹那こそ、実戦にも誠実と言う事だった。
気に入った、と言いたい所だが、
目下その的が自分だと言う所が最大の問題だった。

我流の素手喧嘩が魔法少女基準でも決して弱くない杏子だからこそ、
鍛錬に鍛錬を重ねた洗練された動きのキレ。
その鍛え抜いた芯があるからこそ、そこからあらゆるパターンに
応用と自信で応じる事が出来る刹那の桁違いな技量が分かる。

仕切り直そうにも、明らかに杏子の基礎を読み切っている刹那は、
杏子が槍を作り出す前に素手の間合いからの攻撃を途切れさせない。

「そらっ!」

一瞬の隙を突き、復活させた槍で突きの一撃を繰り出す。
そして、この時も、杏子の勘はハメられた、と警報を響かせた。
果たして、杏子は頭上に刹那の気配をとらえる。
つまり、跳び越えられた。
杏子が振り返るが、槍の重みに引きずられた体がワンテンポ遅れる。

「浮雲・桜散華」

ずっがぁーんっ、と、迫力の投げ技一閃。
只の倉庫街と言う場所柄、
まともな人間ならばトマト的な何かになりかねない馬鹿げた地響き。

「つーっ………」

「白き翼の剣」を回収しつつ接近する刹那の前で、
杏子は半身を起こしてぶんぶん頭を振る。

255: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/05(木) 01:53:24.58 ID:zmSPctAJ0

「つえぇなぁ、せっちゃんは」

その瞬間、ここにいる大半の者が異変に気付く。
「白き翼の剣」の刃を杏子の首筋に向けた辺りで、
刹那はぱちくりと瞬きをしていた。

「らあっ!」
「!?」

次の瞬間、杏子の頭頂部が刹那の鼻を一撃していた。

「おふっ!」

そして、杏子の拳が刹那のリバーをとらえる。

「おら、あっ………?」

距離を取った杏子が、刹那の頭に槍の柄を振り下ろす。
それは、建御雷に受け止められた訳だが、
そこで、ここにいる全員が、
何かゴゴゴゴゴゴゴゴと聞こえそうな異変に気付く。

「え、ええと、どうかした? せっちゃん?」

思わずあは、は、と笑って尋ねた佐倉杏子の記憶は、
ピキッ、と言う幻聴と共に
白黒反転した恐怖の目を見た辺りで一時中断されていた。

256: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/05(木) 01:56:46.61 ID:zmSPctAJ0

「神鳴流決戦奥義、真・雷光剣」

建御雷を一振りした後、桜咲刹那は、
「白き翼の剣」を肩に掛けて美樹さやかに向けてにっこり微笑んだ。

「棟打ちですのでじきに目を覚ますでしょう。
ちょっと予定を変更して
DEAD OR ALIVE
と言う事になりましたが、
ミーティングに参加すると言う事に異存は?」

暁美ほむらの足首に繋がる稲交尾籠の一帯を握って
とてもとても可愛らしく微笑む刹那の目の前で、
ゆっくり首を横に振る
美樹さやかの瞳のハイライトは節電モードに入っていた。

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今回はここまでです>>251-1000
続きは折を見て。

258: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:14:14.41 ID:8Yz3Yo/y0

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>>256

ーーーーーーーー

「こんな時間にすいません」

見滝原の夜景を望む丘の上のお花畑で、
マミに対した刹那がぺこりと頭を下げた。

「いいわ、ちょうど一仕事終えて帰る所だったから。
それでも桜咲さんからのお願いって
それだけの事があるんでしょうから」

そう言って、巴マミはちろりと刹那の周囲を見回した。

「………それで、佐倉さんに暁美さん?
確かに、この面子での話し合いだと聞いてはいたけど」
「この面子で良かったのか?」
「ええ。桜咲さんの誘いなら考えがあっての事でしょうしね」

杏子の問いに、マミが応じる。

「信用あるんだな」
「誠実な人だとは思うわ。
理由があるとは言え、魔女とも何度か一緒に戦った」

「戦場の絆、って言いたいの?」
「取り敢えず、今の所は心強い味方。
そう思わない理由は無いわ」

まず間違いなくかつての戦友。
言葉を交わすマミと杏子を見て、
さやかにもその辺りの見当はついていた。

「まず、先日少々ハプニングがありまして、
そこでここにいるメンバーが知ったある情報を共有すべき、
と言う結論に達しました」
「共有すべき、情報?」

259: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:18:01.71 ID:8Yz3Yo/y0

そこで、マミは改めて周囲を伺う。
刹那は真顔でほむらも相変わらず表情を消している。
だが、最近は、この後輩暁美ほむらも
何か無理をしていそうだと段々分かって来た。
そして、さやかと杏子は間違いなく気まずそう。

「最初に断っておきたいのですが、
俗に霊魂とか幽霊とか言われるものは、
間違いなくこの世に実在します」

刹那の言葉を聞き、正面に立つマミが目をぱちくりさせた。
周囲の面々も、刹那の切り出し方に半分は同じ気持ちだったが、
それでも、理屈として繋がる事は理解している。

「何を、言っているの?」
「すいません、おかしな話にしか聞こえないのは理解していますが、
話の順序としてここから始めるべき事でして」
「それは、退魔師として真面目に言っているの?」
「はい」

マミの問いに、刹那は真面目に返答する。

「………それなら、一度ぐらい会いたいものね、父と母に」
「既に極楽浄土より見守ってくれているものと推察します」
「有難う」
「うちは、あの死に様じゃそれ無理っぽいんだけどさー。
来るなら来いって感じだけど、まだ会った事ねーや」
「ごめんなさい、変な事言って」
「いや、いいよ今更」
「えーと、じゃあ刹那さんも悪霊退散とかやってるの?」

マミと杏子がいわゆる湿っぽい会話を交わす中で、
さやかが話を進める。

「ええ、どちらかと言うと私の同僚の方が専門ですが。
教室に取り憑いた幽霊を剣と拳銃で追いかけ回した事もありますし」
「アハハハハ(ナイスジョーク)」
「そういう訳で」

一片たりとも嘘偽りを言ったつもりの無い刹那は、
近くのさやかの乾いた笑いを意に介さず話を進める。

260: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:21:37.34 ID:8Yz3Yo/y0

「まず、大方のイメージに近い形でそうしたものが存在する。
その事は理解して下さい。
この際、直ぐに信じられなくても、
まずはその概念を前提に話を聞いて下さい」
「分かったわ」

何時も通りの真面目な口調に、
マミもお仕事モードで真面目に返答した。

「まず、通常の状態ですと、霊魂は肉体とセットになっています。
霊魂と肉体は頭と臍の緒の魂の尾で肉体とケーブル接続された状態で、
普段は肉体に吸収されて収納されています」

「そのケーブルが繋がったまま肉体と霊魂が分離すると、
幽体離脱、って言うのよね。
そして、死神がケーブルを切断する事で人は死ぬ。
漫画なんかだとこういう話になるのかしら?」

「それで合っています。
そして、一連の霊魂と肉体のシステムに関して、
少々特殊に改造している存在があります」

「………魔法少女ね」
「その通りです」
「この集まりで、只でさえオカルトな話。
忘れそうになるけど、魔法少女だって普通から見たら特殊過ぎる存在。
魔法使いじゃなければ魔法少女、そう考えるのが自然でしょう」

回答の速さに刹那がやや目を見張り、マミが応じた。
刹那がチラッと視線を送った杏子が、ふっと不敵に笑みを見せる。
成程マミがボンクラであれば魔法少女としてここまで生きていられる訳がない。

「そこまで理解して下さるなら、
これから言う事を気をしっかり持って聞いて下さい」
「ええ」

261: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:25:06.25 ID:8Yz3Yo/y0

「あなた達魔法少女の魂はソウルジェムになっています」
「ソウルジェムに?」

「はい。救兵衛は魔法少女の契約に当たり、
少女の霊魂を抜き取って固形化している、それがソウルジェムです。
但し、抜き取った上で魂を肉体を電波接続している様な状態にしているために、
ソウルジェムを所持している限りは精神が肉体を動かす事に支障はない。
そういう仕組みになっている様です」

マミが改めて周囲を伺う。
まずさやかと杏子の表情に隠せない憤りが浮かんでいる。
もちろん刹那が言っていると言う事も含め、
冗談の類の話ではない事は確かな様だ。

「そう………」

マミが、黄色いソウルジェムを掌に乗せた。

「これが私の魂。
どうしてそういう事になっているのかしら?」

「魔法少女として効率的に戦闘を行うため、だそうです。
肉体と精神が不可分である場合、肉体の損傷は死に直結する。
精神を魂と言う形で分離してしまえば、
理論上はこのソウルジェムが破壊されない限り、
幾ら肉体を破壊しても生き続ける事が出来る。
只、実際には完全に別物と言う訳にはいかないので、
肉体のストレスは濁りと言う形でソウルジェムにも反映される事になります」

「………少し、付いて行けないんだけど。
ええ、桜咲さんの説明は真面目で丁寧だった。
だから、多分理屈としては理解しているんだと思う」

「そうですね。今、初めて聞いたと言うのなら突拍子もない事ですね。
今の話には続きがあります。
肉体と魂の電波接続、その距離は百メートルが限度。
それを超えると、接続が切れて肉体は死亡した状態になる。
実の所、美樹さんのソウルジェムが事故で体から離れて、
それで、ここにいる面々はその事実を知った、と言う状態です」

262: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:28:36.43 ID:8Yz3Yo/y0

「じゃあ、その現場を見たのね?」
「ああ」

最初に聞かれた杏子が、そっぽを向いて答える。

「美樹、さん? 死に至る、って今………」
「うん、少しの間意識失ってたみたい」

「すぐにソウルジェムを取り戻して
距離を近づけたから復帰する事が出来た。
そうじゃなかったら、
肉体そのものが死亡した状態で時間が経過したら危ない所だった。
死亡に伴う肉体の損傷が進行したら、肉体も魂も完全に死んでしまうから」

さやかに続き、ほむらが説明した。

「救兵衛はいますか?」
「何だい?」
「キュゥべえ」

刹那に呼ばれ、現れたキュゥべえにマミが声をかけた。

「今の話、本当なの?」
「そうだよ」
「どうして、そんな事を?」

「彼女も言った通り、魔法少女として、効率的に戦うためさ。
生命そのものである魂を、肉体と言う脆弱な器に入れたまま
魔女との戦いをさせる訳にはいかないからね」

「そう、言ってたね」

キュゥべえの言葉に、さやかが続いた。

263: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:34:19.78 ID:8Yz3Yo/y0

「直接攻撃を受けたら、人間の肉体なんて簡単に壊れてしまう。
本当ならとても耐えられない痛みだから、
魂さえ分離しておけば、肉体は魔法で治す事が、出来る、って」

「………そう………」
「巴マミ、大丈夫?」
「心配してくれるの?」

ほむらの言葉に、マミが笑みを浮かべた。

「ごめん、なさい。美樹さん」

マミが、深々と頭を下げた。

「私はいい、契約しなければ死んでただけの事だから。
だけど、美樹さんは、
私が魔法少女の道を教えて、そして、契約を結んだ。
こんな事になるなんて知らなかった、
だから教える事が出来なかった私が、美樹さんを………」

「いい、ですよ。キュゥべえに騙されてたんですから。
マミさんも、あたしも」
「騙すなんてひどいなぁ。ちゃんと聞いた筈だよ。
魂を差し出すに足る願いはあるのか、って」
「ああ、そうだね」

さやかが天を仰いだ。

「確かに、医学の限界。本当だったらこうでもしなきゃ、
あたしの人生と引き換えにしても絶対に出来ない事をしてもらった。
それは本当の事だからね」

「少し、外してもらえますか?
あなたがここにいると、悪い予感しかしません」
「君に呼ばれて出て来たんだけどね」

既に殺意の籠る眼差しを丸で意に介さず、
キュゥべえはその場を離れる。

264: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:37:22.93 ID:8Yz3Yo/y0

「そこで、もう一つ問題があります」

刹那が話を続けた。

「むしろ、こちらの方が本題です」

刹那の言葉を聞きながら、マミとさやかは少々訝しんだ。
刹那が言ったその時、
ほむらの表情がこわばったのを二人は見ていた。

「それは、美樹さんの事です」
「あたし?」

刹那の言葉に、さやかは自分を指さし
ほむらは少々意外そうにさやかに視線を向けていた。

「色々断片的に情報を得ています、
それは、ここにいる皆も同じです。
ですから、まず、周知の事実から確認します。
美樹さやかさん」

「何?」

「あなたが契約した理由、契約の対価は、
幼馴染でクラスメイトの上条恭介の左腕のケガを治す事、
それで間違いはないですね?」
「うん。間違い、ないよ」

「不十分な説明だったとは言え、
現代医学の限界を超えた願いを、
己の命を懸ける事になってもかなえる必要があった。
そこには、それだけの個人的な想いがあった。
この、誰でも行き着く当然の推測に誤りはありますか?」

「………ない、よ。うん。
これで否定したら馬鹿みたいだよね今更」

さやかが、ははっ、と笑って答えた。

265: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:40:46.86 ID:8Yz3Yo/y0

「その想い、伝える心算は、あるんですか?」
「ないよ。無理でしょそれは。
だって、あたしもう、ゾンビなんだしさ………」

そこまで言って、さやかは息を飲んだ。
その鼻先に、長匕首の切っ先が向いている。

「巴マミさん、佐倉杏子さん、暁美ほむらさん、そしてあなた。
事情はどうあれ、命懸けの魔女との戦いを共にした。
私の大事な人の恩人、最近出来た学友。
私自身、大事な人への侮辱を聞き流す程人間は出来ていませんが、
あなたは、皆の前で今の言葉をもう一度言えますか?」

ぽろり、と、大粒の涙がさやかの頬を伝い、
さやかはそのまま座り込み泣き崩れた。

「泣きたい時は泣いて下さい。魂の濁りもまとめて洗い流して。
怖いのも、悲しいのも死にたくないと言うのも
愛しく思うのもそのために醜くあがくのも、それは、人間だからです」

「仁美に、仁美に恭介、恭介を取られちゃう、
取られちゃうよぉ………」

ーーーーーーーー

タイミングを見てマミがさやかにハンカチを渡し、
さやかが顔を拭って立ち上がった。

「少し、現実的な話をしましょう」

それを見て、刹那が口を開く。

「その事での負い目がなくなったとしても、
あなたが上条君に告白をする、と言う事には
極めて大きな問題が生じています」

刹那の言葉に、さやかがぐっと正面から刹那を見据える。

266: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:44:46.82 ID:8Yz3Yo/y0

「あなたは、己の魂を賭して上条君の左腕を治した。
言い替えるなら、それは、大き過ぎる恩義であり負い目です。
到底、対等な恋愛が成立しない程に」

さやかは、ぐっと目を見開きながら頷いた。

「私は、あなたの事を聡明な人物だと思っています」

「は? いや、だって、
可愛いかも知れないけど賢い、って事はないんじゃないかな?
だって、今だってそう。契約しちゃってからさ、
心の中こんなぐちゃぐちゃで自分が何したかったのかも本当は分からない」

「本当に大切な、守るべきものは何か?
あなたは、直感でそれを見抜く目とそれに従う行動力を持っています。
それは、最初に只の人としてあの異常な結界で鹿目さんと共にいた時から。
時に馬鹿みたいに見えるのは、小賢しさに負けないからです」

そう言って、刹那はふと天を仰いだ。

「時に台所的な俗称でも呼ばれる私達の年頃、
それも誰もが経験を持たない命懸けの魔法少女が絡めば
経験不足の未熟さ、間違いが生ずるのは当然の事です」
「刹那さんにそう言ってもらえるのは嬉しい、嬉しいよ。
でも、あたしって、そんな綺麗じゃない、と思う」

「見返りを求める気持ちですか。それはそうでしょうね。
犠牲を払う以上、それを求めるのは自然な欲求です。
それでも、救兵衛の説明に欠ける所があったとしても、
今までの命懸けの戦いを見て、それでも選択したのはあなたです。
今、守らなければならない、救わなければならないと。
己の勝手な願いだと理解して、美しくないと自覚し、
己を押し留め相手を思いやる理性を持っている。それで十分です」

「………有難う」

小さく頭を下げるさやかに、刹那が小さく頷く。

267: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:48:22.49 ID:8Yz3Yo/y0

「時に美樹さん」
「うん」
「仁美、と言うのは、先日廃工場で救出したお友達の事ですか?」
「うん」

答えたさやかは、少し辛そうに下を向いた。

「鹿目さん。その仁美さん、育ちのいいお嬢さんとお見受けしましたが」

「はい、志筑仁美ちゃん。
えっと、この辺りだと名門のお嬢様、って言われてる。
だからお稽古事とかも凄く大変で。
小学校からのお友達なんですけど、凄く優しくて、いい娘で………」

「うん、いい娘だよ仁美。
優しくて上品で美人で、恭介とも、お似合い、だよ」

はあっと息を吐く刹那。
そこは、さやかの言葉を聞いた全員が共感する。

「なるほど、仁美さんと恭介君は、
そういう事になっていると」

「明日、告白するって。
あたしが幼馴染だから一日だけ待つ、って言ってくれたんだけど、
それでも、あたし、言えなかったから、だから」

「では、三日待ってもらいましょう」

間髪入れない刹那の言葉に、さやかがぽかんと目を見開く。

「向こうが勝手に設定したタイムリミットです。
その程度の申し入れがあっても然るべきでしょう」

「い、いや、ちょっと待って刹那さんっ」
「想いを告げる、と言う事は、本当に勇気が要る事です。
魔女と戦う勇気なんか問題にならない、って言うぐらい」
「そうね」

刹那の物言いにマミがくすっと応じて、
その時のさやかの狼狽に杏子も苦笑する。

268: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 03:56:55.33 ID:8Yz3Yo/y0

「ですから、その三日でどちらの選択をしたとしても、
それは、あなたが精一杯、真摯に考えた末の結論。
誰がみっともないと言おうが、尊いものです」

「と、この人はいい人だから。
その分あたしが思いっ切り大爆笑して残念会してやるよ」
「はあっ!?」

叫んださやかは天を仰ぎ、狂った様に笑い出すさやかの姿に、
周囲がやや引き気味となった辺りでさやかは前を向く。

「あー、なんか、色々真面目に話して
思いっ切り笑って泣いて、少しすっきりしたかも」
「美樹さん」
「はい」

ふうっと一息ついたさやかに刹那が声をかけた。

「魔法を知っていますか?」
「刹那さん達、魔法使いなんでしょう?」

「ええ。只、これは魔法使い、或はそれ以外の者たちにとっても、
本当に初歩的で、そして最も尊い魔法です」

「何、それ? この流れって恋の魔法とか教えてくれる訳?」
「そんな魔法があるの、桜咲さん?」
「マミ………」

さやかを押し退ける勢いで、
瞳から大量の星を飛ばしながら食い気味に尋ねている
年上の少女の名を杏子が呟く。

「ええ、ありますよ」
「「何それっ!?」」

ずいっと迫るボーイッシュなショートカット少女と
ツインドリルなグラマーガールに
桜咲刹那は優しい微笑みを見せた。

269: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/10/10(火) 04:00:48.85 ID:8Yz3Yo/y0








わずかな勇気が



本当の魔法







ーーーーーーーー

山中の高木の枝で、龍宮真名は望遠鏡を覗いていた。

「取り敢えず平和に終わった、か」

望遠鏡の視界には、木陰から木陰へと林道に沿って移動する
暁美ほむらの姿がとらえられている。

(仮に敵意があったとしても、あの距離から刹那を討ち取る等)

鼻で笑い、一応視界が続く限り、異変危険の検索を継続する。

==============================

今回はここまでです>>257-1000
続きは折を見て。

271: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/09(木) 03:40:15.95 ID:CfIgk/oW0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>269

 ×     ×

「状況は?」

昼休みの廊下で、風の様に現れた桜咲刹那が鹿目まどかに耳打ちし、
まどかが小さく首を横に振る。
まどかが振り返った時には、既に刹那の姿はそこにはなかった。

ーーーーーーーー

「巴さん、転校生と仲いいよね」
「桜咲さん、ちょっと怖い感じだけど」
「でも、二人とも何話してるんだろ?」
「なんか、すっごい真面目な怖い顔してるんだけど………」

ーーーーーーーー

放課後、混雑を始めた廊下で、
巴マミと桜咲刹那にたたたっと駆け寄る者がいた。

「さやかちゃん、いなくなっちゃった」

まどかの言葉に、マミが額を抑え刹那が斜め下を見る。

「それで、例の件、美樹さんはまだ切り出していないんですね?」
「うん、まだ話してないと思う」
「そうですか………巴さん」

刹那の言葉に、マミは小さく頷いた。

272: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/09(木) 03:43:36.88 ID:CfIgk/oW0

ーーーーーーーー

「ん?」

見滝原中学校周辺の路上で、
刹那がたたっと風の様に近くの物陰に移動した。

「何をしているんですかこんな所で?」
「散歩だよ散歩、食うかい?」
「あら、風見野の魔法少女がこんな所でお散歩?」

刹那が貰い物のアンパンを食している隣で、
マミが杏子に質問を重ねた。

「で、いちおー言っとくが見失うんじゃねーのか?」

ーーーーーーーー

静かに移動しながら、刹那は自分のスマホを取り出した。

「もしもし、状況は?」
「私のGPSに合わせてついて来てくれ」
「分かった。学園祭で使った残りを用意したが」

「私がOKを出すまでは待ってくれ。
相手は志筑家だ、大事は出来るだけ避けたい。
それから、MSを見かけたら連絡をくれ」

「ロストしたのか?」
「そういう事だ、オーバー」

「どうしたの?」
「ええ、ちょっと仕事仲間と」

電話を切った刹那にマミが声をかけ、刹那が答える。

「この進路ですと、行先は公園ですかね?」

杖を突いている上条恭介に合わせて
前方をゆっくり進む恭介と志筑仁美を見て、刹那が言った。

273: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/09(木) 03:47:05.45 ID:CfIgk/oW0

ーーーーーーーー

「これって………」

マミの呟きに、刹那が頷く。

「緊張感が伝わって来ます。
これは、決めるつもりですね」
「あっちの坊やの方は?」
「気づいている様に見えますか?」
「ありゃ全然気づいてないな」

大きな緑地公園に入り、物陰を移動しながら、
刹那とマミ、杏子は
遊歩道を進む恭介と仁美の状況に就いて一応の結論を出す。
その時、刹那のスマホが振動した。

「ポジションはとった、
事態は危険水域と見るが、どうする?」
「そこから狙えるか?」
「ああ………いや」
「どうした?」

マイクから聞こえた舌打ちに刹那が尋ねる。

「タイミングが悪いな、西日の反射が酷い」
「人口の滝か………ちょっと待ってくれ」

スマホをしまい、刹那がさっと周囲を見回す。

「どうした?」

杏子が声をかけるが、その時には、
おおよその見当はつけていた。

「マジか?」
「巴さん、美樹さんを探して下さい、恐らくこの近辺にいます。
佐倉さんは」
「分かった」

274: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/09(木) 03:50:21.99 ID:CfIgk/oW0

ーーーーーーーー

入口は、遊歩道の構造物の一角にあった。

「おらあっ!!」

ブラッドオレンジに渦巻く空を背景に、
絵画模様の地面に立つ佐倉杏子の大槍一閃。
魔女の結界に突入した杏子に
ゾンビの如き動きでぎくしゃくと群がって来た人型の使い魔達が
ひとまとめに蹴散らされる。

「ここはお任せします。私は魔女を」
「ああっ!」

その間に、杏子が声を聞いたと思った時には
刹那はひとっ跳びの勢いで魔女の気配へと突き進む。

「出たな。神鳴流奥義・斬岩剣、斬鉄閃っ!!」

刹那は、魔女の本体を見つけるや、
そちらから群がって来た使い魔を一蹴する。

「すまないが先を急ぐ、一度に決めさせてもらうぞ。
神鳴流秘剣・百花繚乱………」

275: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/09(木) 03:54:23.10 ID:CfIgk/oW0

ーーーーーーーー

「うらんんんんんっっっっっっっっっ!!!!!???」
「!?」

使い魔相手にもうひと暴れしていた杏子が衝撃に目を向けると、
大量の桜華と共に桜咲刹那が全身吹っ飛ばされて戻って来た所だった。

「なん、だあっ!?」

そして、杏子は舌打ちして上の方に槍をふるう。

「ミサイルだあっ!? うぜえっ!!!」

まず自分に向けられた飛翔物を弾き飛ばしてから、
数を増す使い魔を切り裂いていく。

「ぐ、っ………」

ずしゃあっと、辛うじて受け身を取りながらも
白黒絵画な地面を全身で滑り終えた刹那が立ち上がろうとする。

「ぐ、っ………(あばら? こんな、時にっ)」

一旦しりもちをついた刹那が、手の甲で唇を拭う。

276: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/09(木) 03:58:03.87 ID:CfIgk/oW0

「な、何!?」
「が、せん、もん………」

背後からの声に、刹那がとっさに声を出す。

「魔女!? 大丈夫っ!?」
「え、ええ………」
「いや、脂汗酷いって、今治すから」

本当に敵だったら即斬していた所だが、
それでも断る間もなく、
当てられた掌からの感触に刹那が一息ついたと言うのも本当の所だった。

「助かりました、っ(脚も少し、か)」
「魔女はあっちだね。あんまり無理しないで、
たまには弟子もどきの活躍でも見ててよ師匠っ」

==============================

今回はここまでです>>271-1000
間が空いてすいません。
続きは折を見て。

278: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/27(月) 03:41:35.75 ID:zgiCmC+l0

==============================

>>276

「このおっ!!」

わらわらと群がる使い魔を斬り伏せ、美樹さやかは魔女を探す。

(なんか、美術の教科書って感じ?
でも、あの刹那さんがやられそうになったって相当………)

周囲を伺い、
自分のいる結界の状況を把握しながらさやかが心の中で呟く。

(魔力、こっちかっ)

サイズの大きな魔力をさっちし、さやかは駆け出す。

(もしかして、あれ? ………)

魔力の出所に走ったさやかが、
使い魔を片付けながらそれらしいものに見当をつける。

「どけえっ!!」

そして、さやかは行先から一斉に群がって来た使い魔を二刀流で片付け、
跳躍していた。

279: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/27(月) 03:45:02.86 ID:zgiCmC+l0

「これで………!?」

跳躍したさやかか、一見すると建物にしか見えない魔女に
渾身の二刀を叩き込もうとマントを翻す。
次の瞬間、さやかの体は弾き飛ばされていた。

「(これ、って………?)このおおおっ!!………?」

空中で魔女を睨み付けたさやかが、
魔力を練って空中に何振りもの剣を発生させる。
後方に弾き飛ばされていたさやかか、
遠ざかる魔女の正面に向けてその剣を一斉に飛翔させた。

「………え、っ?」

違和感、次に痛み。
さやかはとっさに痛覚を遮断する。

(や、ばい?
あんときはヤケだったけど、覚えてて、良かっ、た?)

地面に叩き付けられたさやかは、
左の腿を剣に射抜かれた左脚を引きずり、
胸のど真ん中を貫通して突き刺さり、
墜落の弾みでもう少々肉を抉った別の剣をどうしようか少々思案する。

「!? (ミサイル、って………)」
「さやかあっ!!!」

侮れない雄叫び攻撃で苦しめて来た使い魔を片付け、
佐倉杏子が爆炎上がる戦場に駆け付けた。

280: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/27(月) 03:48:11.10 ID:zgiCmC+l0

「た、たた………」
「おらあっ!!!」

直撃に近いミサイル攻撃を受け、
立ち上がろうとするさやかの側で、杏子の槍が使い魔を一蹴する。

「サン、キュー。」
「おっ」

杏子が魔女を見た時、魔女には大量の黄色い紐が巻き付いた所だった。

「ティロ・フィナーレッ!!」

魔女の背後からの爆発音と共に、魔女はその姿を消した。

ーーーーーーーー

「た、たたた………」

魔女の消滅を確認したさやかが、取り敢えず身を起こし立ち上がる。

「おいおい、ひどい有様だって」
「あ、ホント。
ちょっとヤバかったんで痛覚切ってたから」

そして、さやかはずぼっずぼっと体から剣を抜き、
空いた穴やら折れた骨やらを魔法で修復する。

「ん?」

そして、気配に気づきそちらを見る。

281: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/27(月) 03:51:31.99 ID:zgiCmC+l0

「あ………」
「さ、やか?」
「あ、きょうす………」
「く、来るな」
「え?」
「来るな、来るな化け物っ!
さやかに化けて僕らを騙すつもりかっ!?」
「ち、ちょっと恭介? 仁美っ………」
「騙されませんわっ、
さやかさんに化けてわたくしたちを騙すつもりですのっ!?」
「おいっ、お前ら………」

杏子が剣呑な眼差しと共に動き出そうとした時に、
さやかは踵を返していた。

「匕首・十六串呂」
「へっ?」

青春の逃避行へと駆け出した美樹さやかは、
気が付いた時には幾筋もの帯の中に絡め取られていた。

「稲光尾籠」
「へ? えええええっ!?!?!?」
「………」

稲光と共に帯が消え、
その場にぱったり倒れたさやかを杏子は少々不思議そうに見下ろしていた。

「さて、あなた達」

百戦錬磨の杏子からしてそうであるからして、
目が点になっていた上条恭介と志筑仁美が振り返ると、
そこでは見覚えのない少女が優しく微笑んで声をかけて来た。

「取り敢えず、逃げたら無事は保障しませんよ」

目の前で野太刀夕凪をすとん、と、地面に突き刺され、
微笑む刹那の前で恭介は左腕の杖を手放し仁美に支えられた。

282: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/27(月) 03:55:02.03 ID:zgiCmC+l0

「初めまして、私は桜咲刹那、
最近転校して来た見滝原中学校の三年生です」
「それはご丁寧に、
見滝原中学校二年生志筑仁美です」
「あ、二年生、上条恭介です」

刹那に合わせて丁寧に一礼する仁美を見て、
恭介もそれに倣っていた。
この時仁美は察していた。
この桜咲刹那と言う自称先輩、
少なくとも余所行きの立ち居振る舞いを叩き込まれた人物であると。

「既に、この空間が
あなた達の常識が通じない状況であるとご理解いただけると思いますが」
「それは、確かに」

刹那の言葉に仁美が応じる。

「それを前提に論より証拠から始めましょう」
「?」

言葉と共に刹那が腕を×字に組み、
二人はそれを不思議そうに眺める。

「!?!?!?」

ここにいるほぼ全員、
行きがかり上少し遠くで成り行きを見守っていたマミを含めて目を見張る。

「暴れたら危ないですよ」

そして、気が付いた時には、
距離を飛ばす様に接近していた刹那の両腕に抱えられる形で、
恭介と仁美は空中に浮遊していた。

「非常識な話である事を、実感いただけましたか?」
「はい」

コクコクコクコク首を縦に振る恭介の側で、
刹那の問いに仁美が応じていた。

283: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/27(月) 03:58:29.01 ID:zgiCmC+l0

「簡単に言いましょう。
この世界には、あなた達が知らない所で人間を食らう魔物がいる。
そして、それを退治する側の者もいる。
私もそうですし、美樹さやかさんもしかりです」
「さやかが!?」

恭介が驚きの声を上げる隣で、
仁美が力強くこちらを見るのを刹那は見ていた。

「そうです。詳しい事情は申し上げられませんが、
事情により彼女はテレビのヒーローの様な使命、能力を持つ身となっています。
つまり、あの様な魔物を狩る立場です。
ですから、先ほどあなた達が見た様に、
身体や回復の機能が人間離れして強化されている所もありますが、
中身、少なくとも頭の中身は
間違いなくあなた達の知っている美樹さやかさんです」
「………謝らなくては………」

ぽつりと言った仁美に、刹那が小さく頷く。

「そ、そうだ、さっきさやかに、っ………」

恭介が気が付いた時には、その鼻先に夕凪の鞘の底が向けられ、
恭介は腰を抜かしそうになった。

「もちろん人に知られてはならないミッションであり、
今回はその無知と言う事で、むしろこちらの不手際と言う事で聞き流しますが、
私としても、
大切な仲間を侮辱された時為すべき事は心得ているつもりです」
「はい」

一瞬、杏子ですらひやりとする眼差しが向けられたが、
それでも、恭介は精一杯の返答を返す。
刹那は静かに微笑んでいた。

「では、先ほどの私の説明を聞いたと、
美樹さんにはそう伝えて、後は今まで通り接してあげて下さい。
今後、この件に関しては深く関わらず、もちろん他言無用で」
「はい」
「分かりました」

284: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/27(月) 04:01:38.48 ID:zgiCmC+l0

「只、少々よろしいですか?」
「はい」

ついっと目で促され、仁美がちょっと恭介を離れて、
歩き出した刹那に接近する。

「そういう訳で、実の所さやかさんがこの役についたのはごく最近の事でして、
あなたに悪気が無いのは重々理解しているのですが、
その事でここ数日些か精神的な負担が大きかったと言う事情がありましてですね。
長くは言いません、私がさやかさんから無理に聞き出した例の案件を
せめて三日だけでも延長していただけないかと。
これは、あくまでお節介な先輩からの勝手なお願いとして、
嫌なら聞き流していただきたいと」

「分かりました。
魔物とやらから助けていただいた事、侮辱してしまった事は本当ですから、
こうした貸し借りを放置するのは余り好きではありませんので」

「ありがとうございます」

「………愛されているのですのね、さやかさん」
「少々面倒ですが、むしろだからこそ好ましい気性だと」
「ですわ」

思わずほおほおほおーっと呼吸する刹那に、
仁美は実に魅力的な微笑みを返し、
刹那の優しい微笑みに見送られて仁美は秘かな想い人の元に戻る。

285: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/27(月) 04:05:05.09 ID:zgiCmC+l0

ーーーーーーーー

「さやかっ!」
「さやかさんっ!!」
「ん、んーっ………」

薄目を開き、見覚えのある顔を認識したさやかがガバッと跳ね起きた。

「ここ、って………」
「良かった、気が付いた」

恭介がほっと胸を撫で下ろし、さやかが周囲を見回す。
さやかが横たわっていたのは、公園のベンチだった。

「あ、あの、さやか………」
「桜咲先輩から伺いました」

毅然とした態度で言う仁美に、さやかが目を見開いた。

「詳しい事情は教えていただけませんでしたが、
何やら人を害する魔物を狩る特別なお仕事をなさっていると。
先程は事情も分からず酷い事を言ってしまい、
本当に申し訳ありませんでした」
「ごめん、さやか」

仁美に続き、恭介も深々と頭を下げるのを見て、
茫然としていたさやかもくしゃっと笑った。

「うん、いいよ、分かってくれたんだったら」
「良かった」

「いやー、そりゃあんなのびっくりするよねー」

「うん。よく分からないけど、有難うさやか。
それに、ごめんね」
「有難うございます」
「どういたしまして」

286: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/27(月) 04:08:43.32 ID:zgiCmC+l0

「さやかさん、少々女同士のお話を」
「………分かった」

仁美に促され、さやかと仁美が石造りの柱の陰に移動する。

「この様な騒ぎがありましたから、
今日の所は保留させていただきます。
ここは一度、休戦と言う事に致しましょう。
近い内にリミットをお話合い出来ましたら」
「………分かった、仁美がそう言うなら」
「それでは」

魔女退治の作戦会議に匹敵する眼差しで応じたさやかの前で、
仁美がにこっと笑って大きな声を出す。

「そういう訳で、今後もさやかさんはさやかさん、
その事に変わりはないと言う事を」
「うん、そうしてくれるんなら」

仁美の言葉にさやかが言い、恭介も頷いていた。


「いい先輩ですわね」
「うん」
「………白き翼のナイト様………
いえ、サムライですか」
「ん?」

仁美の呟きをさやかが聞き返し、
仁美は可愛らしく微笑んだ。

287: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/11/27(月) 04:13:06.39 ID:zgiCmC+l0

ーーーーーーーー

「余り無理しちゃ駄目よ。桜咲さんは魔法少女ではないし、
私も美樹さんや近衛さん程得意なタイプじゃないんだから。
悪くすると後遺症が残るわよ」
「面目ない」

公園の構造物の陰で、刹那の脚を手で包み込みながらマミが言い、
脂汗を浮かべていた刹那がぺこりと頭を下げる。

「おーおー、無理しないでさやかに頼んどきゃ良かっただろうに」
「………先輩の矜持、ですかね」
「だわな」

佐倉杏子と桜咲刹那が苦笑を交わし、杏子が紙箱を差し出す。

「食うかい?」

==============================

今回はここまでです>>278-1000
続きは折を見て。

288: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/02(土) 03:41:26.71 ID:Yt6D+SED0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>288

 ×     ×

「大きいねー」
「芸術ね」
「芸術、ねぇ………」

巨大なダビデ像を見上げ、
素直な感想を漏らした鹿目まどかに暁美ほむらが続く。
その側にいるまどかの幼馴染美樹さやかは、と言えば、
巨大な芸術には少々思う所があるのか
やや複雑な感慨を漏らす。

「近衛さん」
「こんにちは」

その側で巴マミと近衛木乃香が挨拶を交わす。

「遠路はるばるおおきに」
「こちらこそ、お招きいただいて」
「有難うございます」

丁重に頭を下げる木乃香にマミも礼を返し、
まどかもそれに倣った。

「来てくれたんやなぁ」
「ああ、ご馳走してくれるって言うからな、
作法は期待するなよ」
「おおきに」

不敵に笑って言う佐倉杏子に木乃香がにっこり応じ、
どうにも叶わない、と杏子は苦笑する。
マミの側にいたまどかは木乃香の隣に視線を移す。

289: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/02(土) 03:44:37.68 ID:Yt6D+SED0

「いらっしゃい、麻帆良にようこそ」
「有難うございます」

ふっ、と、まどかと目が合った桜咲刹那が優しく微笑み、
双方丁寧に礼儀を交わす。

(桜咲刹那………)

その様子をほむらが伺う。

「転校生、二つばかり言いたいんだけど」
「何かしら?」
「やっぱり、刹那さんこっちがホームだよね、
特にこのかさんの隣。
の、割には、まどかと目と目で通じ合ってる。
やっぱ、保護欲誘うのかなまどかって」

どうも聞こえそうな声でひそひそ問いかけるさやかの声を聞き、
ほむらとしては変に鋭い青魚の顎の下に銃口を突っ込む事を
一瞬の妄想で済ませて素知らぬ顔を作る。

取り敢えず、週末を利用しての木乃香からのお茶会の誘いが
多少の伝言を経てこのメンバーに齎され、
こうして麻帆良学園都市女子校エリア
ダビデ広場に集合して今に至っていた。

それに合わせて、
見滝原に滞在していた桜咲刹那も一度麻帆良に戻っていたらしい。

「ほな、行こか」
「え、ええ」

木乃香の声に、つと周囲に視線を走らせていたマミが応じた。

290: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/02(土) 03:47:49.86 ID:Yt6D+SED0

ーーーーーーーー

「わあー」

今度こそ、まどかとさやかが感嘆の声を上げた。

「近衛さん素敵」
「おおきに」

マミの言葉に、振袖姿の木乃香が素直に応じた。

「うんうん、マジ可愛いっすよ、
なんか舞妓さんみたいと言うか」
「おおきに」

さやかの言葉に木乃香がにっこり微笑み、
さやかは脇腹に鈍い痛みを覚える。

「何? 転校生?」
「この場合、舞妓さんって言うとちょっと失礼なのよ
京都のお嬢様には」

さやかの囁きに、
肘鉄を打ち込んだほむらに代わりマミが渋い顔で囁く。

「あ、いや、あはは、流石は京都のお姫様、
でもホントに可愛いですよ」
「はい、お人形さんみたいです」
「おおきにな」

そんな挨拶を交わしながら、まどかが視線を動かす。

「て言うか、刹那さんも格好いいですよ」

さやかの言葉に、白小袖緋袴の刹那が小さく頭を下げた。

「そろそろ、始めましょう」

かくして、一同毛氈に移動する。

291: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/02(土) 03:51:23.63 ID:Yt6D+SED0

「でも、学校の敷地にこんな所あるんですね」
「普段は茶道部で使こてるけど、空きがあって申請通ったさかい」

周囲の日本庭園を見回すさやかに木乃香が言った。

取り敢えず、事前にマミから一応の注意を受けていたとは言え、
この庭園で実際がさつ者の自分が見ても溢れる気品が眩しい
振袖姿の木乃香を前にして、
自分の格好を見て上条恭介のコンサートを経験していて良かった、
と美樹さやかは思う。

付け加えると、その点はまどかもおよそご同様、
マミも一応のドレスコードを把握し、ほむらは制服姿で
杏子も、まあ見苦しくはないと言う辺り。
木乃香の一番側に正座したマミと木乃香が言葉を交わし、
マミに合わせて一同もお辞儀をする。

「お先に」
「頂戴します」

まずはお菓子の羊羹が回される。
実際にはマミも丸暗記に近かったが、
それでも、他の面々はこちらで用意されていた懐紙を使い
マミに倣って菓子を食する。
平均的に言って、上品な甘さ、取り敢えず美味しいのは確か、
と言うのがここの面々に辛うじて分かる評論だった。

ここまでの手順も、そして、茶を点てる手前も淀みなく、
木乃香からマミに茶碗が回される。
マミが口をつけ、杏子に続きさやかに。

「………曜変天目………」

ぼそっ、とした杏子の囁きに、さやかの手が止まる。
ダラダラダラと汗を流しながら、
さやかがガチガチガチと主人席に顔を向ける。
そちらでは、木乃香は相変わらず
天然なんだか京女なんだかと言う微笑みを返す。

292: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/02(土) 03:54:53.88 ID:Yt6D+SED0

「悪い冗談よ」

少し叱責する様なマミの囁きが聞こえ、
さやかがようやく茶碗に手を伸ばす。
さやかからまどか、ほむら、最後に刹那。

「結構なお点前でした」
「おおきに」
「有難うございました」

まあ、平均的には、
真面目な素人中学生はこんなものだろう、と言う茶席だった。

「はぁー」
「ウェヒヒヒ」

脱力するさやかにまどかが苦笑いするが、
にこにこ微笑みを向ける木乃香を含め
お互い不快なものではない。
心地よい緊張感と敬意。さやかは、又あの演奏を聞きたい、と思った。

293: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/02(土) 03:58:07.50 ID:Yt6D+SED0

ーーーーーーーー

「ほな、続きは………」
「ごめんなさい」
「え?」

めいめい動き出した辺りで、言葉を遮るマミに木乃香が聞き返す。

「ちょっと、お友達から急ぎの連絡で、先に行っててくれるかしら?
用事が済んだら連絡するから」

片手で謝るマミに、ちょっと困惑しつつも木乃香が頷き一同が動き出した。
一度東屋の陰に入ったマミが、先行した面々を追う様に動き出す。

ーーーーーーーー

(見滝原にもそこそこあるけど………)

日本庭園を出た巴マミは、
女子校エリアの路上で周囲の光景に少々心を奪われる。

(こういう西洋意匠、私は好きだけど………)

次の瞬間には、マミは駆け出していた。

294: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/02(土) 04:01:58.99 ID:Yt6D+SED0

ーーーーーーーー

ヨーロッパ風の建物と建物の間、
黄金に近い黄色の輝きと共にそこに駆け込んだマミは、
耳で追って斜め上を見る。
そちらでは、人影がタンタンターンッと壁を蹴って別の壁へ、と言う形で、
上へ上へと跳躍している。
その時には、マミの肩にはバズーカ的なものが担がれていた。

「!?」

砲弾は跳躍する人影をすり抜けて追い抜き、
上空で弾けて幾筋ものリボンを降らせる。
人影は、跳躍から落下に転じ、地面をジグザグに動き始める。

一瞬、相手がマミを狙った一瞬をとらえ、
マミが右手に握ったアンティーク拳銃を発砲する。
その銃弾は鋭く交わされ、マミの目の前で、
動きにデタラメさが加わったゴム鞠の様な跳躍が弾ける。

ざっ、と、振り返ったマミが左手の拳銃を発砲した時には、
マミは腹の下に気配を感じていた。
路地裏に、ごうっと旋風が一回りした。

「バスケットかしら?
得意のアクロバティックを少し過信したわね」

マミの右手に握られたリボンが、
目の前で魔法拳銃を握る相手の右手を引きつりながら白い首に絡みつく。

「降参して付け回す理由を話すなら綺麗に治癒してあげる。
暴れるなら、死ぬわよ」

魔法アンティーク拳銃を左手に握り見下ろすマミから見えるのは、
ざっとくくった黒髪、地面に赤い血を吸わせている撃ち抜かれた左足の甲。
ビスチェタイプの黒い衣装から
半ばはみ出した白い膨らみその豊かさを示す深い谷間。

==============================

今回はここまでです>>288-1000
続きは折を見て。

295: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 03:50:11.63 ID:70vzDXqZ0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>294

「!?」

捕獲した尾行者の右腕と首に絡み付いていたリボンが切断され、
巴マミはざっと飛び退く。
リボンを切断した銃弾が近くの壁にぴしっと着弾したかと思うと、
マミは両手持ちしたマスケット銃を斜め上の空に発砲していた。

「く、っ」
「ちっ!」

その間に、リボンを逃れた尾行者明石裕奈が左足を引きずってその場を逃れ、
マミは飛来する銃弾を避けて裕奈と距離をとる。

(あの隙間から狙い撃ち、っ!?)

魔法でばばっと生成するマスケット銃で反撃を行いながら、
立ち並ぶ建物の隙間を抜ける敵方の銃弾にマミが舌を巻いた。
無論、魔法の力により、
その銃弾は本来のマスケット銃の威力よりも遥か遠くの空を貫く。

「ゆーなっ!?」
「あ、ああ」

表通りに出た所で、裕奈は無理に笑顔を作る。

「どうしたん!? 今治すなっ!」

路地裏では、たんっ、と、後ろに跳躍しながら、
マミが両手のマスケットを発砲する。
その銃弾は地面に突き刺さっていた。
地面に突き刺さった銃弾からぶわっ、と、膨大なリボンが下から上に噴出し、
巴マミはリボンの壁を前にしながら建物の壁から壁へ、
手に持ったリボンをアンテナや鉄柵に絡めながら上へ上へと跳躍していた。

296: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 03:53:41.53 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「!?」

すたんっ、と、巴マミが建物の屋根に着地した所で、
次の瞬間にはスリップして屋根に手をついていた。
マミが、右手に生じさせたアンティーク拳銃で、
自分の右足首に絡み付き引っ張られたピンク色のリボンを銃撃する。

その次の瞬間には、
とんとんーっと弾む動きで急接近して来た相手を認識し、
びゅびゅっ、と、振られた棍棒を交わし、マスケット銃の打撃で弾き飛ばす。
相手が距離をとったためマスケットで発砲したが、
その相手は見事な跳躍で横に交わす。

(バスケットの次は新体操?
魔力も感じるしレオタードって間違いなく魔法で変身の類。
動き自体、跳躍に柔らかさも少し、いや………)

ガンガンガンッ、と、棍棒とマスケット銃が叩き合い、
ぱあーんっ、と、発砲したがその銃弾は彼方へと無為に飛び去る。

(かなり、厄介ね)

空中で、ピンクと黄色のリボンが絡み合い、引っ張り合う。
マミが手を放し、
ピンクのリボンを引く佐々木まき絵が姿勢を崩した瞬間、
マミはばばばんっと屋根に発砲して後ろに跳ぶ。

「わっ!」

屋根に埋まった銃弾からぶわっと黄色いリボンが噴き出し、
たたたっと接近して間一髪リボンに飲まれそうになりながらも
まき絵は一度後ろに跳躍し、迂回していた。

297: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 03:56:54.36 ID:70vzDXqZ0

(もらった、あっ? ………)

>字型のステップ跳躍でリボンを避け、
そのまま斜め前方にいるマミに跳躍したまき絵は、
華麗な捻りと共に目の前のマミのベレー帽を棍棒で一撃し、
ぼこんっ、と言う感触がまき絵の手に伝わる。

その瞬間、たんっ、と後ろに跳躍しながらまき絵がリボンを放った。
次の瞬間には、マミの形をしていたリボンがぶわっと解けて膨張し、
ごうと渦巻きまき絵を飲み込まんとした大量の黄色いリボンに
まき絵が放ったピンクのリボンが絡み付き、縛り上げていた。

膨張したリボンがまき絵の手で締め上げられ、
まき絵はその向こうに一瞬、マスケットを構えたマミの姿を見る。
マスケットから放たれた銃弾が、
まき絵の左手から放たれた棍棒を弾き飛ばす。
その時には、まき絵は高々と跳躍していた。

ざざっ、と、双方向き直して対峙する。
まき絵が棍棒を、マミがマスケットを構え直そうとした所で、
マミは一瞬視線を横に向けた。
きらっ、と、遠くの銀の光を目に感じたマミがたんっ、と、飛び退く。

そちらからの銃弾が屋根の上を突き抜け、
マミが両手持ちしたマスケットをだだだんっと屋上に撃ち込みながら、
その銃弾から噴出するリボンの壁に足を止めるまき絵を後目に
マミは屋根から別の屋根へと跳躍した。

298: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 04:00:51.59 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「!?」

麻帆良学園都市女子校エリア内にある取り壊し予定の店舗ビルの屋上で、
龍宮真名は愛銃レミントンM700を置く。

そして、背後に颯爽と現れた巴マミの姿を二挺拳銃で容赦なく撃ち抜き、
その巴マミに化けていた大量のリボンが渦巻いて真名を襲撃するのを
少々高価な爆符で吹き飛ばす。

真名がその身を翻し二挺拳銃を発砲する。
マミは、それを横っ飛びに交わしながら両手のマスケットを発砲する。

「!?」
(今回はコスト割れだな)

高く跳躍していた真名は、
爆符の爆発と共に真名は床に空いた穴へと消える。

「!?」

着地した真実は、
前方の天井が爆発して何かがぶち抜けるのを目の当たりにする。
その天井から瓦礫と共に落下して来た巴マミは、
ぱん、と、柏手を打つ。
外側に開く両手の動きに合わせ、何挺ものマスケット銃が空中に浮遊した。

(威力はある、大量に発生させる事も出来るが
マスケットはマスケット、足利義輝タイプか)

廊下を低く跳躍し、頭上を突き抜ける銃弾を感じながら、
真名は二挺拳銃を発砲する。
双方の銃弾が交わされ、たんっ、と、双方が前に跳んだ。
どんどんっ、と、双方が手にした拳銃、マスケットを発砲し、
双方が身を反らしたそのすぐ前の空中を銃弾が飛び去った。

299: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 04:04:08.22 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「ほら、埒が明かないわ」

取り壊し予定の店舗ビルだった瓦礫地帯で、
一歩程度の距離の龍宮真名にマスケット銃を向けた巴マミが言った。

「ああ、そうだな」

片手拳銃の龍宮真名が、
右手に握るデザートイーグルの銃口をマミに向けたまま低く呟く。
次の瞬間、マミの左手が彼女の首元からリボンを引き抜き、
猛スピードでマミに迫る五百円玉を弾き飛ばす。
たたんっ、と、瓦礫の上で双方距離を取り、
びゅう、と、マミが振り下ろしたリボンの房が
飛来する五百円玉を叩き落とす。

「!?」

そして、双方が銃口を向け直そうとした瞬間、
その足元で衝撃が弾けた。

「どうもー」
「あなたはっ!?」

そこに現れた明石裕奈が二挺の魔法拳銃を手ににへらっと笑い、
それを見たマミが声を上げる。

「うん、色々有耶無耶にして欲しいって言う
ここまでの努力は非常にありがたいんだけど、
ここは一つ私に預けてくれないかな?」

「それは、学園警備からの要請と受け取っていいのか?」
「その辺は、さ。話通しとくから頼むわ龍宮さん」

「………いいだろう」

「って、事で、それぞれみんなここ離れて、
あなたは私に付いて来て。
そうした方がいいと思うよ、この状況見ても」
「そうね、是非納得のいく説明をいただきたいものね」

300: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 04:07:20.74 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「派手にやったねー、
近づいただけでも口ん中じゃりじゃりしてる」

第二体育館のシャワー室で、
土埃を洗い流しながら裕奈が言った。

「シャワーを浴びて、と言うかそれ以前に、
ケガは大丈夫なの?」

その裕奈に案内され、
裕奈の隣のシャワーブースでシャワーを浴びながらマミが尋ねる。

「うん、大丈夫。
身近に治癒魔法使える仲間がいるから」
「近衛さんの事?」
「あれは特別、
あれ程じゃなくてもまあ筋はいいって言われてる私の仲間」

拭いた体を着替え筒に包み、
黒髪をバスタオルで拭いながら裕奈がブースを出る。

「そっちこそ、ケガない?」

同様に、ブースから出て来たマミに裕奈が声をかけた。

301: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 04:10:30.72 ID:70vzDXqZ0

「ええ、これからお友達と合流するから、
シャワーを借りて正直助かった」
「どういたしまして」

「もっとも、元はと言えばあなたのせいなんだけど、
一体あなたは何者でどういうつもりなの?
あなたも魔法使いでいいのかしら?」

「最後の質問に就いてはYes、
魔法使いの明石裕奈、よろしく凄腕のマギカさん」
「巴マミよ、魔法使いが私達魔法少女に敵対するつもりなのか、
きちんと説明して頂戴」
「分かった」

真面目に釘を刺すマミに、
少々軽薄にも見えた裕奈も真面目に応じた。

ーーーーーーーー

「マミさん、遅いね」
「何やってんだろ?」

麻帆良学園女子中等部寮643号室で、
テーブルの前に座ったまどかとさやかがひそひそ話をする。

「お待たせ」

そして、台所から木乃香がお盆を持って現れた。

「美味しい」

木乃香が入れた紅茶に、さやかが声を上げる。

「やっぱり、このかさんの紅茶って美味しいわ、
マミさんもそうだけど、
あたしなんかがやるのとは段違いだもんね」
「美味しいです」
「おおきに」

さやか、まどかと木乃香が言葉を交わす中で、
ほむら、杏子と刹那もめいめい紅茶を楽しむ。

302: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 04:13:54.84 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

マミは、肩の上からこちらを見る子どもと目が合い、
くすっと微笑んでいた。

裕奈はマミを案内して教会に入り、
ちびっこシスターをおんぶした同年代のシスターと言葉を交わす。

小さなシスターはすとんと着地して、
おんぶしてくれたシスターと共にその場を離れる。
その仲の良さそうな二人をマミは微笑ましく見送っていた。

「そうだね、何処から話そうかね?
取り敢えず、折角麻帆良に来たのに
不快な思いをさせたのは謝る、この通り」
「それは、ここからの説明次第ね」
「そうだね」

裕奈とマミが、中央近くの長椅子に並んで座る。
もちろん油断なく目を配っていたつもりだが、
この時点で、マミはもう余り悪い印象を持ってはいなかった。

この明石裕奈、さっぱりとして見える気性はさやかにも似ていて
憎めない明るさと芯の強い真摯さが見える。

確かに割と本気の攻防はあった訳だが、
利害の衝突で刃物沙汰になりかねない、
そういう日常を送っているのはマミも同じだ。
大体、ダメージ自体は裕奈の方が大きいもので、
譲れないものがあっても、それが常に個人的な好悪に直結するとも限らない。
先程は、湯殿に通せば丸腰の所を襲撃出来る、
と思っているなら魔法少女相手にむしろ好都合だと誘いに乗ったが、
全くそんな事もない善意のお誘いだった。

「さっき、学園警備とか言ってたわね」
「うん、まあー、私の所属、かな?
魔法使いの事は知ってるんだよね?」
「ええ、一応の事は桜咲刹那さんから聞いてる」

303: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 04:17:19.01 ID:70vzDXqZ0

「そ。この麻帆良学園そのものが関東の魔法の一大拠点であり
関東魔法協会の中枢って事になるんだけど、
関東魔法協会の正式な組織として麻帆良学園の警備に当たるのが学園警備。
私はそこでエージェントの見習いをしている。
もう少し言っちゃえば、学園警備と3Aの二重スパイってとこかな?」

「二重スパイ、ってそんな事言っちゃっていいの?」

「それじゃあ、パイプ役って事にしとく?
3年A組が独自にあなた達マギカ、
魔法少女と接触して動いているみたいだから、
そっち関係で何かあったら報せる様にって先輩から言われててさ。
そしたら、このかちゃんがあんたらこっちに呼ぶって小耳に入ったから
探り入れてたらこんな感じになったって事で」

ーーーーーーーー

「でも、凄いっスねーこのかさん」
「ん?」

「だって、あんなばっちり野点して、
それで紅茶もこんなに美味しいって。
正に和洋折衷流石はお嬢様」

「ややわー」
「ま、旨いモンは旨い」

さやかの誉め言葉に木乃香がころころ笑い、
楽な姿勢でクッキーを口にしながら杏子が言った。

「ふふっ、うちも知ってたけど教えてもろたからなぁ」

暁美ほむらが一人静かに紅茶を傾け、ちらっと視線を走らせる。

「それはもしかして、この子が関わりあるのかしら?」
「えっ?」

304: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 04:20:38.27 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「3年A組、って、学校のクラスみたいに聞こえるんだけど」
「そうだよ」

マミの問いに、裕奈はあっさり応じる。

「ええと、ごめんなさい。
学園警備が魔法協会の正規の組織なのはいいとして、
学校のクラスとの二重スパイ?
そう言えば、この学校自体が………」

「うん、麻帆良学園と関東魔法協会がイコール、
現実問題としてこう説明しても否定するほど間違っていない」

「それじゃあ、あなた達のクラス、ここの学校は魔法使いの学校か何かなの?
あの、えーと例えばホg………」

「あーごめんちょっと違う。
確かにそれこそイギリスにはガチでそういう学校もあるみたいだけど、
麻帆良学園に関しては微妙に違うんだわ」
「訳が分からないわ」
「そうだね」

微笑み、同意しながら裕奈はスマホを操作する。

「どっから説明したらいいかなーって思ったけど、
やっぱりここからかな?」
「………この子? ………」

305: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 04:24:07.16 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー

「図書館?」

ほむらが目で指した先、写真立ての写真を見てさやかが言う。

「ではないわね、個人の書庫かしら?」
「うん、ちょっと高い所にあるねこの本棚」
「それに、さっきからよく見かける制服だから、
ここの学校の行事、或いは調べもの」
「ああ、さっきからよく見かける顔が二つ程写ってるな」

ほむらの推測に続き、
杏子が視線を走らせた先で刹那はポーカーフェイス、
このかがにっこり微笑んだ。

(近衛木乃香はとにかく、
桜咲刹那のこの柔らかい笑顔。そして………)

「可愛い」

さやかが、ぽつりと言った。

「何て言うか、国際色豊かなの?
金髪の女の子とか白人の男の子とか」
「いや、ちょっと待て」

そこで杏子が言う。

「子ども、だよなこれ?」
「そうね、明らかに子どもなのに同じ制服を着てる。
男の子の格好も、ちょっと珍しいと言うか」
「あれ? もしかしてこのかさんの紅茶って?」

話を元に戻したさやかに、木乃香がにっこり微笑んだ。

「そうや、一緒によう勉強したなぁ」
「この子って………」

306: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/04(月) 04:27:21.71 ID:70vzDXqZ0

ーーーーーーーー


















ネギ・スプリングフィールド


















==============================

今回はここまでです>>295-1000
続きは折を見て。

308: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 16:45:04.55 ID:wCTSvUcm0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

ーーーーーーーー

>>306

「白人? 可愛い男の子ね」
「でっしょー」

スマホを手ににへらっと笑った明石裕奈の横顔を、
巴マミは微笑ましく見ていた。
まるで、自慢の弟を誉められた様だと。
そして、裕奈がすっすっとスマホを操作する。

「これが、3年A組、私達のクラス」
「………見知った顔が何人もいるけど………
この子、さっきの男の子よね?」
「うん。ネギ・スプリングフィールド、
私達の担任の先生」

ーーーーーーーー

「これが、うち達のクラス3年A組や」

女子寮643号室で、
近衛木乃香がミニアルバムの集合写真を見せていた。

「あ、このかさんに刹那さん………
さっきの男の子?」
「ますますおかしいわね」

美樹さやかの言葉に暁美ほむらが続いた。

「その辺りの事は、私から」

口を開いたのは、桜咲刹那だった。

309: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 16:49:39.57 ID:wCTSvUcm0

「最初に、今私達がいる麻帆良学園。
この学園自体が、関東魔法協会とイコールに近い関係にあります。
表向き普通の学校で、
実際に普通の生徒や教師も少なからず在籍していますが、
その中枢は魔法組織である、そう思っていただいて結構です」

「そういう学校あるんだ」
「丸で秘密結社ね」
「そう考えていただいても構いません」

さやかに続いたほむらの言葉に、刹那が同意を示す。

「そして、この少年、ネギ・スプリングフィールドは、
私達3年A組の担任の先生です。
イギリスの魔法学校を首席で卒業し、
学業成績と形式の上では大学卒業相当の飛び級が認められています。
そして、魔法学校の卒業実習を兼ねて
この学校の私達のクラスに担任教師として着任した」

「子ども、ですよね」
「弱冠十歳です」

やや怖々と尋ねたまどかに刹那が答えた。

「いやいや、幾らお勉強が出来たって………
まさか、魔法で支配してるとか?」
「そんな事は出来ませんよ」

さやかの言葉に、刹那はふふっと笑って言った。

「第一に、そういう魔法の濫用は禁止されています。
第二に、学校自体が魔法組織で、
教室内にはネギ先生を超える実力者がいるぐらいです。
かく言う私も、少なくとも当初の時点ではその中にいました」
「魔法使いの学校、ねぇ」

刹那の説明に佐倉杏子がお手上げした。

310: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 16:52:44.20 ID:wCTSvUcm0

「答えを言えば、ネギ先生が才能に恵まれた誠実な努力家だった。
確かに大変な事も多くありましたが、
それを乗り越えるだけの力量も持ち合わせていました」

「………それに、形の上で私立みたいだから、
余り目に余るケースは正式に排除も出来る」
「それも無いとは言いません。
言わば、前提ですね」

ほむらの言葉に刹那が応じた。

「十歳の、先生ねぇ」

「ええ。ですから、少なくとも最初の段階では、
今でも少なからず、クラスの生徒からは可愛い弟扱いもされていますが、
それでも、一生懸命先生としての役目を果たすネギ先生に、
私達もそれに応じて来たと言う事です」

「ふうん」

そんな、さやかと刹那のやり取りをほむらは横目で見ていた。

「あなた達は、その中でも親しかったと言う事かしら?」
「否定はしません」

ほむらの問いに刹那が答える。

「色々あったからなぁ」

木乃香が、そう言って天を仰いだ。

「うん、色々あってな、
ネギ君この部屋に住んでるん」
「は?」

木乃香の言葉に、さやかがぽかんと応じた。

311: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 16:56:07.11 ID:wCTSvUcm0

「最初にこの学校に来た時、ネギ君の住む所が決まってのうて、
それでうち達の部屋に住めばいいってお爺ちゃんが」
「このかお嬢様の祖父は麻帆良学園学園長であり、
関東魔法協会の長でもあります」
「魔法世界のザ・お嬢様がここにいる」

刹那の説明にさやかが乾いた笑いと共に言い、
木乃香はにこにこ受け流す。

「ネギ先生は優れた魔法使いであり、この麻帆良は魔法の拠点。
木乃香お嬢様も、本来は一般人としての生活が家の意向でしたが
最終的には魔法に関わる事となりました。
そこで、魔法に関わる様々な事件、出来事があり、
私達、私やお嬢様、ネギ先生、アスナさん、
他の皆さんが関わっていく事になったのです」

「アスナさん?」
「それは、もう一人のルームメイト、と言う事かしら?」

鹿目まどかが聞き返し、すっと周囲を見たほむらが続いた。

「そう、この部屋は今、
うちとアスナ、ネギ君の部屋として使こてるさかい」

そう言って、木乃香はふふっと少し寂し気に微笑む。

「でも、そんな可愛い子で凄い魔法使いって会ってみたいかな?」
「それは、少し難しいですね」

さやかの言葉に刹那が苦笑する。

「魔法の世界で少々大きな出来事がありまして、
ネギ先生とアスナさんはそちらの関係でここを離れる事が多くなりましたから」

刹那の言葉と共に、まどかはちらっと木乃香の顔を見る。
何処か寂し気なのはそのせいか、と。

312: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 16:59:18.81 ID:wCTSvUcm0

「ネギ先生が凄いのは聞いたけど、
アスナさんもそれ程の人物なの?」
「そういう事になります」
「………ちょっと、寂しいなぁ」

ほむらの問いに応じた後に刹那が言い、
木乃香がぽつっと口にした。

「京都からこっちに来て、うちがちょっと馴染めんかった時に
最初に友達になったのがアスナやったから。
今言うたみたいに私立の学校で人の異動も少ないさかい、
ずっと一緒やったから、いない事が多くなると寂しいわ。
うちの事もネギ君の事も力一杯引っ張ってくれて。
ネギ君も、ここで一緒になって、弟が出来たみたいで楽しかったからなぁ」

「そうですね」

はんなりと言葉を紡ぐ木乃香と優しい口調の刹那を、
ほむらは静かに見ていた。

ーーーーーーーー

「ごめんなさい、担任の、先生?」
「うん。まあ、付いて行けないのは当然だと思うけど」

教会で、聞き返したマミに裕奈が言った。

「ネギ先生、ネギ・スプリングフィールド。
イギリスの魔法学校を首席で卒業した天才魔法少年。
形の上では飛び級の大学卒業扱いだとかで、
魔法学校の卒業実習もかねてこの学校の先生になったって事。
この学校、麻帆良学園は実質的に魔法使いが作って
裏から仕切ってる学校だからね」

「そういう学校、だったわね」

「そ、関東魔法協会の長が学園の学園長ってぐらいで、
生徒にも教師にもその筋の人間が大勢いるからね。
まあー、私も知ったのはつい最近、
ってぐらい普通の生徒も結構いる訳だけど」

313: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 17:03:00.62 ID:wCTSvUcm0

「ちょっと、集合写真をもう一度見せてもらえるかしら?」
「どうぞ」

裕奈が差し出したスマホを、マミは改めて見直す。

「あなたと桜咲さん、近衛さんね。
それから、さっきのスナイパーと新体操の娘もいるわね」

「こっちは佐々木まき絵。
私と同じ時期にこっちの世界に首突っ込んだんだけどさ、
私の親友だから、私が大怪我したの見て
反射的に巴さんに突っ掛かって行ったんだね。
それは私が悪かったし私からもよく話しておくから許してあげて」

「それで、こっちのスナイパーは?
佐々木さんは新体操の技量はとにかく実戦は素人っぽい粗があった。
だけど、スナイパーは尋常な使い手じゃない」

「龍宮真名、巴さんの言う通り魔法使いの凄腕スナイパー。
この人の事は、正直言って私にもよく分からない。
3年A組でも話す機会は少ないし、
依頼で動くタイプだから魔法協会とのパイプはあるんだろうけど、
どういう筋で動いているのかまでは把握出来ないんだ。
さっきのは多分行き掛り上私を助けようとした訳で、
これはどっちかって言うと私のドジで
龍宮さん自身は筋の通らない事はやらないと思う。
それで、こっちから聞くけど、
巴さんはどうして魔法使いの事を知ったの?」

「桜咲さんの方から接触して来た。魔女の結界でね。
あなた達魔法使いは本来私達魔法少女には関わらないとも聞いてるけど、
見滝原の魔女の発生率が高くなってるとかで、
そちらの魔法協会の内内の指示で調査しているって」

「成程ねぇ。それでここに来たのは?」

「近衛さんに招待されたから。
以前に見滝原でも紅茶のお茶会を開いた事があって、
それで、今度は麻帆良で野点に招待したいと」

314: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 17:07:10.08 ID:wCTSvUcm0

「ちょっと待って、刹那さんが魔法少女の調査をしていたって?
魔女、って、そっちで狩ってるモンスターの事だよね?」
「ええ、魔女を狩るのが私達魔法少女の使命。
桜咲さんが関わって来る迄は、そこに魔法使いが関わる事は無かった」
「それは、刹那さんとこのかちゃんが?」

裕奈の問いに、マミが首を横に振った。

「近衛さんは桜咲さんを勝手に追いかけて来たみたいね、
桜咲さんも驚いていたみたいだから。
桜咲さん、近衛さんも明石さんのクラスメイト、でいいのよね?」

「うん、3Aのクラスメイト。
只、特に刹那さんに関しては詳しいって程詳しい間柄でもないけどね」

「やっぱり、魔法協会の魔法使いなの?」
「と、言うか、ネギ・パーティーのコア・メンバーだね」
「ネギ・パーティー?」

マミの問いに、裕奈は椅子に指で同心円を描き始める。

「色々あって、特に夏休みにね、
それで3年A組は私も含めてかなりの部分魔法関係に染まっちゃったんだけど、
魔法関係、それ以外含めてネギ先生を中心としたパーティーが出来てるんだ。
参加した時期が幾つかに分かれるんだけど、
はっきりコア・メンバーなのは」

裕奈がスマホの集合写真を指す。

「ネギ君、神楽坂明日菜、近衛木乃香、桜咲刹那。
この四人で間違いないと思う。
元々刹那さんを除く三人は女子寮の同じ部屋に住んでるし」

「ネギ先生も?」

315: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 17:12:18.91 ID:wCTSvUcm0

「うん。まだ子どもだからって事で、
成り行きでそういう事になった流れだけどね。
でも、魔法関係の事でもかなり早い段階でこの三人はつるんでたって聞いた。
そして、刹那さんとこのかちゃんは故郷の京都で大親友。
その縁でアスナの剣の師匠で、
刹那さん普段はちょっと冷徹で怖い人に見えるんだけど
特にこの三人には心開いてる感じかな。
それで、ネギ先生からの信望も厚い」

「ええ、私も桜咲さんは信頼に値する人だと思う。
命がけの魔女退治に何度も同行しているから間違いない」
「その辺は間違いないと私も思うよ。
只、こっちの仕事始めて分かったんだけど、
刹那さんって所属が結構複雑でね」

「魔法協会じゃないの?」

「と言うか、近衛家の直属なのかな?
刹那さんが使う剣術は京都神鳴流、
この流派は京都で陰陽師とかと一緒に魔物退治してたそういう流派。
フィクションだとあの狂言の人がやってた映画とかの怨霊退治の裏側に、
って言ったらもっと分からなくなるか」

「大丈夫、ゴ○ラの人がやってたあの映画ね?」

「それで合ってる。
近衛家はその時代からの京都の超大物で、
今でも格式、能力ともに
日本の魔法、呪術のトップに君臨していると思っていい。
だから、青山家を宗家とする神鳴流も近衛家とは密接な関りがあった。
歴史の教科書的に言うと、京都の朝廷の下で魔物を退治していたのが神鳴流で、
その京都の朝廷の権力者で
今でも魔法、呪術の裏側に君臨しているのが近衛家って事になるから」

「やっぱり、エージェントってそういう事を調べるの?」

「まあ、それも仕事ではあるんだけど、
実際これ分かり易く調べて来たのはまき絵。
文字通りの新体操バカで勉強とかさっぱりだったんだけど、
こっちに関わってから、やたらこっち側の歴史とかにドハマリしてね。
まあ、関わったものは仕方がないって事で、
知り合った関係者も支障の無い限りの事は教えてくれてるみたいで」

316: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 17:15:57.95 ID:wCTSvUcm0

「つまり、桜咲さんは京都の近衛家と?」

「そっちの影響が強いんじゃないかな?
今の近衛家は、当主の近衛近右衛門が関東魔法協会の長で麻帆良学園の学園長。
近衛近右衛門の娘婿の近衛詠春が京都在住で
関西呪術協会の長で近衛の義理の親子が東西の魔法・呪術の長を務めてる。
近衛詠春の前の名前は青山詠春、
つまり神鳴流宗家青山家の出身で実際めちゃ強い剣の達人。
近衛近右衛門の娘と近衛詠春の間に生まれた娘が」

「近衛木乃香」

マミの言葉に、裕奈が頷いた。

「つまり、今の近衛家は近衛と青山、
西と東、魔法と剣ががっちり絡んだ上に君臨してる状態になってる。
神鳴流の剣士として関東協会に属してる刹那さんが
実質的な直属なのもまあ当然だね。
学園警備から見ても独自の指揮系統で動いてる節があるし、
このかちゃんの護衛でもある訳だし」

「やっぱり」
「そう見えた?」

「ええ、漫画や時代劇でよく見る関係に見えた。
幼い頃からのお付きの者で、お嬢様は友達として心から慕ってる。
お付きは形の上では遠慮してるけど、本当は大切な友達だと思ってて、
お互いにその気持ちは通じ合ってる。
これが執事だったらちょっとしたラブストーリーな関係よ」

「まあねー」

くすっと笑って言うマミに、裕奈がくくくっと笑って答えた。

317: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 17:19:02.01 ID:wCTSvUcm0

「そういう事、見りゃ分かるよね。
西と東、魔法と呪術、剣術まで加わって頂点に君臨している、
裏の魔法のスーパーサラブレッド、って、家柄だけじゃなくて、
潜在的な能力も桁違いに高いのがこのかお嬢様」

「知ってるわ、
それは私達から見てもとんでもない魔力を持っているから」

「うん。そして、そのこのかお嬢様が京都にいた時、
護衛としてつけられたのが刹那さん。
いわゆるご学友って奴だね。

流派的にも、この時は関西呪術協会の所属だったのかな?
このかちゃんがこっちの学校に来たのに合わせて
刹那さんもこっちに来て、
それに合わせて関東魔法協会に移籍したみたいだけど、
今の東と西は上で繋がってるからね。

なーんか今から思えばこっち来たばっかの頃は
このかちゃんが色々声をかけても刹那さんの方で素っ気なくしてて
このかちゃんが落ち込んでたみたいな事もあったみたいだけどさ」

「それは、多分護衛の任務を優先したから。
だから物理的にも精神的にも客観的な視座を得るために、
大切だからこそ敢えて距離をおいた。
彼女はそういう人じゃないかしら?」

「ご名答。でも、中等部の修学旅行以来かな、
なんか打ち解ける事があったみたいで、
そっからはもうじゃれつくこのかちゃんを
刹那さんとしても内心嬉しい熱々の幼馴染っぷり。
なんか、その頃に魔法絡みで色々あったみたいで、
それでアスナとも繋がって、
学校ではアスナとこのかちゃんが親友だったからね。
それでこの四人がコアな関係で結びついたって事」

「アスナさん、ね」

318: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 17:23:10.82 ID:wCTSvUcm0

「うん、まあ、私立って事で長い事クラスメイトしてるけどいい娘だよ。
自分ではがさつ者って言ってるけど、
なんか馬鹿みたいに楽天的で情に厚くて。

ネギ君とか刹那さんとか、実の所このかちゃんも、
ちょっと重く考え過ぎる真面目なタイプだからさ、
アスナがいて丁度いいバランスになってる。
ネギ君の事とか、正面から止められるのアスナか千雨ちゃんぐらいだし。

ああ、千雨ちゃんってこの娘ね。
普段はちょっと距離取った感じだけど、実は頭もハートもいい奴で。
真面目過ぎて優秀過ぎて、可愛いお子ちゃまなのに一人で抱えすぎなネギ君に、
真正面から向き合っていい感じにブレーキ役になってるのかな。
だから、ネギ君からも相当信頼されてって言うか心が通じ合ってるみたいでさ」

「いい仲間、お友達なのね」

「まあー、この四人は特別かな?
ネギ君がこの学校に来てから、
私達が知らない間にも随分色々あったみたいだけど、
その辺の事をこのメンバー中心で解決してたって言うし、
それで付き合い長かったり同居してたり、
もうファミリーって言ってもいいレベルだわ」

裕奈があははっと笑うのを、マミも微笑ましく眺めていた。

ーーーーーーーー

「マミさん、まだかな?」

643号室でアルバムを見ながらわいわいしている中、
まどかがぽつりと言った。

「折角こちらに来たんですから、一度外に出ますか。
散歩がてらカフェにでも。
巴さんには連絡を入れておきましょう」

刹那が言い、めいめいそれに同意を示す。

319: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/09(土) 17:26:38.72 ID:wCTSvUcm0

「あの、刹那さん」
「はい」

そこで、さやかが刹那に声をかけた。

「仁美や恭介に説明してくれたって。
有難うございました。
お礼、言いそびれてすいません」
「いえ、私も急にこちらに戻って来ましたから。
それで、その後の進展は?」

真面目な顔で尋ねる刹那にさやかは笑って首を横に振る。

「色々あったから一時休戦だって。
いい友達持ったよあたし。
本当に、いい友達、いい仲間を持った、ね、まどか」
「ウェヒヒヒ」
「気ぃ付けろよ」

そこに杏子が口を挟む。

「そういう事に女の友情は無いって言うからな、
案外そう言っといて」
「あー、そう言えばアーニャちゃんもいつぞや言うてたなぁ、
向こうにはちょうどいい諺があるて」
「うん、分かってる」

さやかがにこっと笑い、紅茶の残りを口にした。

==============================

今回はここまでです>>308-1000
続きは折を見て。

320: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 01:41:57.76 ID:zUxBw6DX0
それでは今回の投下、入ります。

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>>319

ーーーーーーーー

「なんか、歴史的って言うか」
「うんうん、歴史の重みを感じるね」

麻帆良の西洋風の街並みを歩きながら、
鹿目まどかと美樹さやかが改めて言葉を交わす。

「………おい」
「気が付きましたか?」

佐倉杏子の言葉に桜咲刹那が応じた。

「ねぇ、まどか………」
「何?」

ちょっと口調が変わったさやかにまどかが聞き返す。

「結界?」
「えっ?」

暁美ほむらが発した聞き慣れた単語にまどかが聞き返した。

「まさか、でも、これって………」
「さやかちゃん?」
「だって、人が、他にいない」

さやかの言葉に、まどかがハッとして周囲を見回した。
車が通らないのはとにかく、他の歩行者の姿すら見えない。

321: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 01:45:47.92 ID:zUxBw6DX0

「脱出します。佐倉さん、しんがりをお願い出来ますか?」
「おう」

刹那の冷静な言葉に、杏子が不敵に笑って答えた。

「では、他の人は私について来て下さいっ!」

刹那が建物に向けてダッと走り出し、杏子を除く面々がそれに続いた。

次の瞬間、路地から飛来して来た幾つかの光の塊を
杏子の槍が弾き飛ばす。

(光の矢? 一つ一つがちょっとした打撃攻撃ってか)

そして、杏子は、路地からざざざっと姿を現した
黒いローブ姿の相手を見据える。

「なんだ、てめぇ?」

返答代わりに、又、幾つもの「光の矢」が杏子を襲い、
杏子はそれを苦も無く叩き伏せる。
更に、不意の突風が一瞬杏子の視界を妨げる間に、
黒ローブは杏子との距離を詰めていた。

「おらっ!」

黒ローブが、杏子の横殴りの槍を交わす。

「の、野郎っ!」

二度、三度と槍の打撃、そして突きを交わされ、
いらっ、と来た杏子が、馬鹿長く変化した槍を振り上げた。
そして、杏子の一振りと共に、馬鹿長い多節棍が
杏子の前方の空間を範囲攻撃でもする様に展開した。

322: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 01:50:24.17 ID:zUxBw6DX0

「(これで)どうだ、っ!?」

百戦錬磨の魔法少女佐倉杏子が、締め上げた、
と、その感触まで妄想した瞬間、
黒ローブは集中して巻き付いた多節棍のすぐ横にいた。

(なん、だぁ? 確かに普通じゃねぇがこっちの基準で特別速い訳じゃねぇ、
テレポートや幻術でもない、只、交わしただけに間違いない。
なのにここまで一発も?)

杏子が、再び飛んで来た光の矢を、体を開いてやり過ごす。

「うぜぇうぜぇうぜえっ!!!」

杏子が槍を手元に戻し、
黒ローブを狙って突き、払い、そのどちらもするする交わされる。

(しま、っ!?)

とっさに自分の顔の前で槍を振るった杏子が、その迂闊さを呪う。
杏子の目の前で槍の柄に破砕されたのは、複数の試験管だった。
かくんと膝をついた杏子の瞼が、急速な睡魔に屈する。

ーーーーーーーー

「桜咲刹那、これはどういう事っ!?」
「詮索よりも安全を確保します」
「ああもうっ、雨とか降ったっけっ!?」

路地裏を走りながらほむらの問いを刹那が流し、
さやかが悪路に悪態をつく。

「!?」

ほむらが気配に振り返った次の瞬間には、
そこに存在していた黒いローブの「敵」にほむらは一撃され、
吹っ飛ばされたほむらの背中が近くの建物の壁に叩き付けられていた。

323: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 01:53:55.51 ID:zUxBw6DX0

「ほむらちゃんっ!」
「お嬢様鹿目さん私の後ろにっ!!」
「こ、んの野郎っ!!!」

瞬時に変身して飛び掛かったさやかの一刀を、
黒ローブはすいと交わしてさやかの後ろ首に手刀の一撃を加える。

「さやかちゃん!!」

どうと地面に倒れ込んだ親友の姿にまどかが今度こそ悲鳴を上げた。

「だい、じょうぶ………」
「まどかっ!! ………!?」

さやかが呻きながら身を起こそうとし、
頭を振り、ざっと前に踏み出したほむらは強制的に足を止めた。

「なっ!?」
「なに、これ?」

地面から噴き出した、
大量の紐の様な水に雁字搦めにされているほむらを見て
ようやく身を起こしたさやかが目を見開く。
たっ、と、刹那が一瞬で間合いを詰め、野太刀「夕凪」を抜き放った。
野太刀で居合、と言う物理法則に挑戦する神鳴流剣士ならではの一撃を、
黒ローブはするりと交わして地に潜る様に姿を消す。

「な、何よこれっ!?」
「捕縛結界です」

ほむらの問いに刹那が答える。

324: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 01:58:00.94 ID:zUxBw6DX0

「学園警備とこちらの仲間に救援要請を出します。
美樹さん、それまで暁美さんのガードを、
任せて大丈夫ですか?」

「おーけーおーけー、
杏子や刹那さんに結構ボコられてるからね、
この程度なんて事ないって、ててて」
「冗談じゃないわっ! まどか、っ」

「見た所、直ぐに解除するのも力ずくで突破するのも無理です、
私が安全な所まで誘導しますから大人しくしていて下さい。
ここで無理をしても消耗するか最悪大怪我です」

「って、事だからここはあたしに任せといて。
今度来たらぶった斬る」

コメカミに汗を伝わせながら、
大股開きで正眼に構えたさやかが宣言する。

「それでは、お嬢様はしんがりをお願いします」

刹那の言葉に、近衛木乃香は力強く頷く。

「分かった。まどかちゃん、うちとせっちゃんから離れんといてなっ」
「はいっ」
「大丈夫や、せっちゃん強いんやから!」

325: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 02:02:22.97 ID:zUxBw6DX0

ーーーーーーーー

「もしもし? うん、こっちで確保して………
何、それ?」
「?」

教会で、着信したスマホの通話を終えた裕奈の目が見開かれていた。

「どうしたの?」
「襲撃、された」
「!?」
「こっちに来てる巴さんのお仲間が襲撃されてるっ!」
「襲撃、って、魔法使いなのっ!?」

「質問の答えはイエス、
そうとしか思えないけど誰がやってるのか分からない。
今、刹那さんがガードして安全な所に避難中、私も出るっ!!」

「置いて行くとか言わないでしょうねっ!?」

ーーーーーーーー

路地裏を抜け、行き着いた先は世界樹前広場だった。

「「アデアット!」」

巨大な神木「蟠桃」に向かう巨大な上り階段の幾つもの踊り場。
簡単に言えばそういう作りの「世界樹前広場」にたどり着いた桜咲刹那は、
夕凪と長匕首の二刀で上段から突っ込んで来た斬撃を弾き飛ばした。

「下がってっ!」

まどかを背に隠した水干緋袴姿の木乃香が、
飛来した水晶球を魔法障壁を込めた白扇からの強風で吹き飛ばす。

326: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 02:05:27.11 ID:zUxBw6DX0

「あなた達、ここで、
麻帆良で私達を手に掛けると言う事の意味を理解していますか?」
「何者を敵に回そうが、私の救世を成し遂げる」

呉キリカを前衛に従え、
広場の上段に現れた美国織莉子の宣言だった。

「匕首・十六串呂!」
「とっ!」

ドドドドッとまとめて打ち込まれた匕首手裏剣を
キリカが横っ飛びに交わした。

「アデアット! お嬢様っ!!」
「はいなっ!」

みょんみょんみょん

「おおおっ!!!」

刹那の手で文字通りぶった斬る勢いで振るわれた建御雷を、
キリカが這う這うの体で交わす。
本当の所を言えば、木乃香の魔力供給を受けた建御雷の一撃は、
キリカとしてもチビらなったのを自慢したくなるぐらいの
とんでもない威力の上にスピードだった。

「!?」

織莉子が放った水晶球が、遠くからの銃弾を受けて砕け散った。
織莉子がたたたっと階段を下りながら水晶球を放ち、
銃弾が水晶球や地面に弾ける。

「上ってっ!!」
「はいなっ、まどかちゃんっ!」
「はいっ!!」

刹那が叫び、牽制されている織莉子、キリカを後目に
木乃香とまどかが階段を上り
刹那がしんがりについて二人の敵を牽制する。

327: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 02:09:46.80 ID:zUxBw6DX0

ーーーーーーーー

「正義の使徒、高音・D・グッドマン、見参っ!!!」
「おー」パチパチパチ
「魔法使い? 早速だけどこれ、解いてくれないかしら?」

路地裏で、捕縛結界に拘束されたほむらが
颯爽登場した高音に要請した。

「メイ」
「はい………これは………メイプル・ネイプル・アラモード………
………きゃあっ!!」
「メイっ!?」

ほむらの足元の魔法陣を確認しながら呪文を詠唱していた佐倉愛衣が
すってーんっと転倒した。

「大丈夫、です」
「何やってるのよ」
「いや転校生ちょっと偉そうだから」
「これは、魔法陣で人をとらえる捕縛結界ですね」
「ええ、丸で地雷ね」

「その通りです。基本を踏まえながら幾つか嫌なトラップが仕掛けてある、
手作業でこれを外すのはちょっと、骨ですね」
「今、携帯用の破砕装置を手配してはいますが、それ程のものですか」
「そこそこ手間がかかってますし、よく勉強していると思います」

「あれは魔法使いよね?
まどかが魔法使いに追われて逃げているってどういう事なのかしら?
急がないとまどかが………」

「この結界の中で焦ってもケガするだけです、少しだけ時間を下さい。
桜咲さんと近衛さんが一緒であれば安全な筈です」

「ええ、ここでマギカ、魔法少女を襲撃する魔法使い、
その意味は分かりません、至急究明する必要がありますが、
あの二人が一緒なら大丈夫でしょう」

328: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 02:13:47.98 ID:zUxBw6DX0

ーーーーーーーー

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!」
「くっ!!」

建御雷の一閃と共にすごいばくはつが巻き起こり、
下段から刹那に迫るキリカも後退を余儀なくされる。

「織莉子っ!」
「釘付け、みたいね」

動こうとする先に銃弾が弾けている状態の美国織莉子も苦い口調で言った。

ーーーーーーーー

「ちょっと待って」

裕奈と共に現場に急ぐマミが、
裕奈を引き留めて指輪から変化させたソウルジェムを取り出した。
そして、掌に乗せたソウルジェムの感触を頼りに移動を始める。

「な、何?」
「気づかなかった? 私達は本当に目的地に向かっていた?」

言葉と共に、変身したマミが走り出し、
マミの髪飾りの黄色い輝きが空中に壁の様に広がった。

「オッケー行くわよ」

駆け出したマミが突き抜ける様に到着したのは、
世界樹広場だった。

「マミさんっ!!」
「鹿目さんっ、もう大丈夫っ!!」

広場の最上段近くから叫ぶまどかとマミが言葉を交わした。

329: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 02:17:21.20 ID:zUxBw6DX0

「これって………」
「ちょっとだけ中和したけど、
根本の発生源があるみたいね」
「もしもし、こちら世界樹広場、保護対象者発見、
エリアが人払いの結界に飲まれてる、発生源の特定と排除お願いします」
「お邪魔は嫌われるわよ」

スマホを使う裕奈の前で、マミが両手に持つマスケット銃が
飛び掛かって来た呉キリカの刃爪をギリギリ抑える。

「ちいっ!」

通話を終えた裕奈がどんどんどんっと魔法拳銃を発砲し、
キリカが飛び退いた。

「なんとか、なりそうですね」

上へ上へと進んでいた刹那が、ふうっと一息つく。

「………せっちゃん?」

木乃香の言葉と共に刹那が天を仰ぎ、
裕奈の目も見開かれた。

ーーーーーーーー


「正義の使徒、高音・D・グッドマン、見参っ!!!!!
………馬鹿なっ!?」

「世界樹広場」に飛び込んだ高音が叫び声を上げた。

「どう、して?」
「な、何?」

高音、愛衣、魔法使い二人の反応にさやかが聞き返す。

330: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/10(日) 02:21:26.49 ID:zUxBw6DX0

「手間をかけ過ぎたライトアップイベント、
じゃなければ魔法的な何か、みたいねその反応」

ほむらが言い、前を見たさやかもようやく異常に気付く。

「さやかちゃんっ、ほむらちゃんっ!!」

その瞬間、視界が真っ白になった。

「まどかあっ!!!」

その場に呆然と突っ立っていたほむらが、肩を叩く感触に我に返る。

「あそこに、いたよね?」

ほむらに尋ねるさやかの声は、震えていた。

「ねえ、さっき、たった今まどかあそこにいたよね、
刹那さんとこのかさんと一緒に?」

「まどか?
まどかああああっっっっっ!!!!!」

==============================

今回はここまでです>>320-1000
続きは折を見て。

331: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/12(火) 03:48:08.07 ID:QrZnS/zy0
時刻もよろしい頃合いでしょうか。

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>330

「まど、か? ………」
「なんだよ、これ………
まどか? まどかっ!? 刹那さんこのかさんっ!!!」

麻帆良学園都市世界樹前広場では、呆然と突っ立っていた暁美ほむらの横で
美樹さやかが階段を途中まで駆け上って叫び、スマホを取り出した。

「駄目だ、携帯も繋がらなくなってる。
いたよね、さっき絶対いたよね………」
「だ………」
「まどか、まどかどこまどかっ!?」
「黙りなさいっ!!!」

広場を震わす様な一喝に、
一同が肩で息をするほむらに視線を向ける。

「間違いなく魔法、魔法使いの領分の話よね?
説明出来るのは誰っ!?」
「明石さん」

ほむらが叩き付ける様に尋ね、マミが促した。

「魔法、世界だと思う」

裕奈がぽつっと言い、
マミは、苦い顔で小さく首を横に振る高音・D・グッドマンに気づく。
そこに、新たに数人の集団が駆け込んで来る。
今度はスーツ姿の大人が中心だ。

「初めまして、麻帆良学園教師葛葉刀子と申します。
マギカの方々ですか?」
「はい」

その中の一人、魔法少女達も見覚えのある馬鹿でかい棒を手にした
長身の美女が挨拶し、マミが応答する。

332: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/12(火) 03:51:46.78 ID:QrZnS/zy0

「魔法使い………もしかして神鳴流の方ですか?」
「はい」

マミの問いに刀子が答える。

「学園の魔法教師として、この事態の収拾に参りました」
「まどかは何処? 魔法世界って!?」

噛みつく様に尋ねるさやかに刀子は小さく頷いた。

「不安はもっともです。
魔法に関わる者が住まう別の空間、それが魔法世界です。
まどかさんは出入り口のトラブルでそちらに転移したものと思われます。
只、有能な魔法使い二人が同行していますし世界自体も安定しています。
マギカの皆さんとは言え、
こちらの魔法の世界の事はまだ機密と言ってもいい存在。
こちらで無事に送り届けますので、今日の所はお引き取りいただきたい」

刀子の丁寧な一礼に、
今度こそ噛み付きそうに動いたさやかをほむらが腕で制する。

「分かりました」

ほむらが淡々とした口調で言う。

「まどか、鹿目まどかはあなた達で送り届けてくれるんですね?」
「約束します」
「分かったわ」
「おいっ」

ほむらに続いて同意を示したマミに杏子が声を尖らせる。

「分かりました、それでは必ずお願いします」
「承りました、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

マミと刀子が双方丁寧に頭を下げる。

333: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/12(火) 03:55:03.93 ID:QrZnS/zy0

ーーーーーーーー

「なーに、まき絵?
見せたいものがあるって………」

その夜、自分も住まう麻帆良学園女子中等部寮に戻っていた明石裕奈は、
自室とは別の部屋を訪れていた。

「!?」

ダッ、と、室内に飛び込み仮契約カードを抜き出す裕奈。
そのカードを持った右手がきつい締め付けと共に引っ張られ、
裕奈は体勢を立て直す間もなく、
ぐにゅっ、と、胸に硬いものが押し付けられていた。

「まき絵、亜子っ!!」

同時並行で、裕奈に同行していた
大柄な少女大河内アキラも玄関からリビングに飛び込む。

「おっと、手を上げな」

すっ、と、無造作なぐらいに槍の穂先を向けられ、
アキラは足こそ止めたが、その目の力はむしろ倍増しになっていた。

334: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/12(火) 03:58:16.65 ID:QrZnS/zy0

「お、っ」
「何をしている?」

槍の柄を手掴みにしてアキラが低く問う。
槍を向けた佐倉杏子は奪い返そうとしたが、
取り敢えず相手が人間である事を標準に力を込めた槍が動かない。

成程、アキラはこの年頃の女子にしては明らかに長身で
一見するとモデルの様にスタイルがいい。
だが、モデルにしては全体に力強過ぎる。

それは、十分な肉付きを見せるスタイルもそうだし、
豊かな黒髪の美少女と言ってもいい顔立ちは、今は侍の様に凛々しい。
まあ、それにしたって尋常ではない馬鹿力だが。

「!?」

杏子が鼻で笑った、かと思った時には、
槍が尋常ではない長さに変化し、更に多節棍に変化してアキラを縛り上げる。

「降参っ! 他の子は関係ないから手ぇ出さないでっ!」

リボンで縛り上げられリビングに転がされているこの部屋の本来の住人、
佐々木まき絵と和泉亜子を横目に、
右手をリボンで引かれ
アンティーク拳銃の銃口を胸に押し付けられた裕奈が叫ぶ。

ーーーーーーーー

麻帆良学園女子中等部寮大浴場「涼風」では、
忙しい一日も終わりに近づき、
佐倉愛衣が掛け湯代わりにシャワーブースに入っていた。

「!?」

心地よく汗を流していた愛衣が、不意に、
左腕を掴まれ右の脇腹に硬い感触を覚える。
背後から促されるまま回れ右をした愛衣は、
その鼻先に刀の切っ先を見た。

「ちょっと、顔貸してもらえる?」

335: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/12(火) 04:01:43.99 ID:QrZnS/zy0

ーーーーーーーー

「!?」

女子寮の一室で巴マミ、佐倉杏子に監視されていた明石裕奈は、
突如として増えたキャストに目を丸くする。

「メイちゃんっ!?」
「明石さんも、ですか」

得物を手にした暁美ほむら、美樹さやかの手で
裕奈の側に座らされた愛衣に裕奈が声をかけ、言葉を交わす。

「グリーフシード、あるかしら?
お風呂からここまでだと流石に」

ほむらがマミに囁き、グリーフシードを受け取る。

ーーーー(回想)ーーーー

(引き返すつもり?)
「魔法使いの性質上、テレパシーはむしろ危ない」

世界樹広場を出てから、ほむらが小声でマミに言う。
そして、一同は一度、「図書館島」裏手に移動していた。

「よく、こんな所見つけたわね」
「街の死角を見つけるのはあたしらの日常だからな」

ほむらの言葉に、一度先行して潜伏先を探した杏子が言う。

「大体分かった、情報提供感謝する」
「私が連れて来たんだもの、他人事じゃないわ」

マミから分かる限りの事を聞いたほむらが取り出したのは
複数の小型カメラだった。

336: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/12(火) 04:05:33.68 ID:QrZnS/zy0

「本来は魔女関係のために用意していたものだけど、
動画をスマホで遠隔視聴できる。
一台は今言った佐々木まき絵の部屋、もう一台は女子寮の大浴場近く、
廊下の天井に設置しましょう」
「お風呂?」

ほむらの言葉にさやかが聞き返す。

「メイ、と呼ばれていた魔法使いを押さえる。
タイプ的に見て金髪の先輩は捕獲しても骨が折れそうだから」
「佐々木まき絵さん、明石裕奈さんの大事な友達みたいね」
「嫌かしら?」

ほむらの問いにマミが首を横に振る。

「状況が状況だから、部屋のドアが開いた瞬間に、でいいわね。
暁美さん、かなりの魔力を使う事になるけど」
「一応グリーフシードのストックは用意して来た」

ーーーー(回想終わり)ーーーー

「!?」

リビングで拘束され転がされていた佐々木まき絵が、
自分の魔法練習杖をしゅっと床に滑らせた。
愛衣がそれを手に立ち上がった瞬間、
マミが首元から抜いたリボンが鞭と化して愛衣の右手を叩き、
そのまま愛衣に絡み付いた。

「手荒な真似をしてごめんなさい」

結論として、体に複雑に巻き付いたリボンで
腕を胴体に縛り付けられた愛衣を前にマミが口を開いた。

「だけど、このままはいそうですか、と帰る訳にはいかないの」

マミの声は、丁寧だからこそ凄味があった。

337: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/12(火) 04:09:22.02 ID:QrZnS/zy0

「今すぐ私達を解放して下さい。
ここで誰かが大声を出せば、
あなた達は3年A組と関東魔法協会を直接敵に回す事になる。
マギカであっても五人やそこらでどうにかなる体制ではありません。
今なら穏便に、鹿目まどかさんの無事はお約束します」
「巴マミ、ちょっと全員にリボンを」

ほむらの言葉に、マミが小さく頷く。
ほむらに耳打ちされたさやかが、
リビングの一角で床に向けてするりと剣を落とす。

「今、あなた達は止まった時の間にいる。
私達の言う事を聞かないと言うのなら、
この学校の人間はここにいる全員の
両腕両脚を砕かれた白骨死体を見る事になる」
「嘘ですね」

空中で静止する剣を前に、
ほむらの言葉に愛衣が応じた。

「マギカの仕組みを正確には知りませんが、
魔力を使っているのは間違いない。
で、あれば、そんな長時間の時間停止が出来る筈がない、
魔力が持たない」
「ああそう」

ほむらは、敢えて苛立った口調を作り、
青髪ショートカットの少女にざしざしと接近する。

「亜子っ!」

生来色素が薄くショートカットの髪が青っぽく見える和泉亜子が、
米軍制式M9拳銃を手にした
ほむらの急接近にぶるりと震え、裕奈が声を上げる。

338: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/12(火) 04:13:01.84 ID:QrZnS/zy0

「取り敢えず両腕両脚に一発ずつ、でいいかしら?
他の全員分を見せつけてから直接体験してもらう、
取り敢えずその程度の時間はあるわ」

「分かった、分かってる事は全部話す。
元々、私がそっちの立場だったとしても、
あれで友達がいなくなって納得して帰れとか言える話じゃないから」
「分かりました」

裕奈に続き、愛衣も折れた。

「有難う、そしてごめんなさい。
全部私達が悪いって事でいい。
だから教えて頂戴」

二人の返答にマミが頭を下げた。

==============================

今回はここまでです>>331-1000
続きは折を見て。

339: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 03:43:30.41 ID:NVh912BJ0
==============================

>>338

「そちらの和泉亜子さん?」
「はいっ」

ツインドリルヘアーの少女に名前を呼ばれ、和泉亜子の声が跳ねる。

麻帆良学園女子中等部寮、
その自分の部屋にいた所を二人組のコスプレ少女に襲撃され、
あっと言う間に拘束された。

実の所、亜子も同居人の佐々木まき絵も、
この手のトラブルには多少の免疫がある。

そして、コスプレが只のコスプレではない、と言う事も理解出来る。
その亜子から見ても、二人組のコスプレイヤーは相当な実力者だ。
亜子達の知るトップクラスには及ばないだろうが、その道の素人ではない。

「今、リボンを解くから
バスタオルと着る物とバスルームを借りられるかしら?」
「分かった」

自分が手にしたリボンの震えに気づいたツインドリル少女巴マミが言い、
その事に気付いた亜子もしっかりした声で応じる。

340: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 03:46:32.02 ID:NVh912BJ0

亜子としても状況が状況であり、怖いものは怖い。
だが、夏休みの経験により、
その前とは比べ物にならないぐらいには腹が座っていた。
少なくとも、誰かが傷つこうと言う時に
僅かばかりの覚悟を決められるぐらいには。

もう一つ、これもその時の、絶対的な善悪とは別の
筋の通った者、通らない者、些かの暴力的な世界に触れた経験則として、
既に四人に増えたこの襲撃者達、
多分、対応を間違えなければ余り理不尽な事はしない。
そう亜子は直感した。

「大丈夫? 風邪引いてへん?」
「大丈夫、です」

和泉亜子と佐倉愛衣の拘束が解かれ、
亜子は、マミに横目で見られながら、
マスケット銃の銃口を向けられてその場に座り込んだ愛衣を
バスタオルで包み込む。

ーーーーーーーー

佐倉愛衣の着替えが終わり、
亜子とマミが飲み物を用意してから全員の拘束が解除された。

「乱暴の上に恥ずかしい思いまでさせて、本当にごめんなさい」
「慣れてますからモトイ
全部は肯定出来ませんが、
明石さんの言う通り状況から言ってお気持ちは分かります」

マミが頭を下げ、テーブルの前に座る愛衣が、
亜子から渡されたドクダミ茶のカップを
両手持ちにして啜りながら答える。

「それはごめん、本当に」
「申し訳ないと思ってる」

さやかとほむらが頭を下げ、明石裕奈が頷いた。
その背景では「悪かった」と言っている佐倉杏子に
大河内アキラが小さく頷いている。

341: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 03:52:31.96 ID:NVh912BJ0

「佐々木まき絵さん?
昼間にも会ったわね。巴マミです」

マミがまき絵に声をかけ、
マミに目で促されて他の面々も名乗りを行うが、
まき絵はじっと伺うだけだった。

「この人達は魔法少女、マギカ、って言って、
私達とはちょっと違う魔法を使う人達なんだ。
ちょっと色々あって正直トラブルになってるんだけど、
本当なら私達の敵じゃない。このかちゃんや刹那さんの友達でもあるから」

「そうなん?」

明石裕奈が説明を行い、亜子の言葉にマミが頷く。

「こちらに、魔法使いに何か非があったと言うのか?」

「それに就いては、特にあなた達を巻き込んだ事は本意じゃなくて
重ねて申し訳ない事をしたと思ってる。
だけど、私達の仲間、友達が、魔法に関わって姿を消してる。
だから、こんな形で魔法協会に関わる人達を秘かに引っ張り出して
どうしても事情を聴きたかった」

アキラの言葉にマミが答えて何度でも頭を下げる。

「この子達も、半分行き掛りだけど魔法は使える、
こっち側に関わってて守るべき秘密は守るから」
「それが本当ならきちんと事情を話して欲しい」

裕奈に続き、アキラが言う。

「まどかが、鹿目まどかと言う、
私達と一緒にここに来た同級生がいなくなったのよ。
あの世界樹とか言う大きな木が光って、
そこにいた筈のまどかが姿を消した。
言っておくけど、まどかは私達と行動を共にしていても魔法少女じゃない、
能力的には只の一般人だった」

「それ見た」

ほむらの言葉にまき絵が続き、亜子が頷いた。

342: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 04:00:14.43 ID:NVh912BJ0

「世界樹が光ってるから又、なんかあったのかって」
「又、って何っ!?」
「落ち着いて暁美さんっ」

勢い込んでまき絵を引かせるほむらをマミが嗜める。

「ええ、そうね。
ここからは穏やかに教えていただけるかしら?」
「ええと、鹿目まどかさん? あなた達の仲間の。
彼女は多分魔法世界にいる」

ほむらの言葉に、裕奈が説明を始めた。

「それはさっき聞いた、魔法世界と言うのは何処にあるの?」

「火星」

「オーケー美樹さやか、適当に腕と脚を十本ばかし斬り落として。
あなたなら後で繋げられるでしょう」

「魔法使いと言うのは、宇宙人か何かなのかしら?」
「それに近いのもいる、だから少しだけ真面目に聞いてくれるかな?」

ほむらとマミの反応に、裕奈が応じた。

「位相って言うんだけど、異次元空間って言えば分かるかな?
火星にある異次元空間、別の世界別の次元。
そこが魔法の世界。
その魔法の世界と繋がるゲートがこの麻帆良学園にあって、
ゲートが作動したら地球のこっちの世界から
火星にあるあっちの世界に一瞬で移動出来るんだ」

「じゃあ、まどかはその、火星にある異次元空間にいる、
そう言いたい訳?」

今度は自主的に腕の一本も居合抜きしそうなさやかに、
裕奈は小さく頷いた。

343: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 04:07:46.15 ID:NVh912BJ0

「火星とか異次元とか魔法の国とか言っても、
こちらの世界同様に普通の人間の秩序はあります。
現在は治安やインフラも安定していて、
こちらの世界との通信や交通も整備されています。
一緒に転移したのがあの二人ですから、
あの二人は実力もあってあちらの世界にも明るいですから
滅多な事にはならない筈です」

「それを信じろと?」
「お願いします」

ほむらの言葉に愛衣が頭を下げ、さやかも浮かした腰を下ろす。

「丸で神隠しね」

マミが嘆息して言った。

「鹿目さん達が魔法の世界に、って、
どうしてこんな事になったのかしら?」
「答えなさい」

マミが問い、沈黙する愛衣にほむらが言葉を重ねる。

「分かり、ません」
「分かる事を話して」

苦し気に言う愛衣にほむらが迫る。

「元々、ゲート自体はこの学園の図書館島地下にあるものですが、
今年の夏休みまでは休止、閉鎖状態でした」
「図書館、島?」
「図書館の島」

さやかの言葉に裕奈が応じる。

344: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 04:11:27.76 ID:NVh912BJ0

「湖の中の島が丸ごと図書館になってるんだ、
あれは一種の古代遺跡だね。
実際の所は大昔の魔法使いが作った重要ポイントとかでさ」

「そこにその、ゲートがあると言うのね?
休止中だった、と言ってたけど、今は違うの?」
「半分は」

マミの問いに、愛衣が答える。

「夏休み中の情勢の変化でゲートの再稼働実験はスタートしていました。
その実験中の事故による稼働、それが関東魔法協会の暫定的な見解です」
「物凄く歯切れが悪いわね」

ほむらの言葉の愛衣は頷く。

「あり得ないんです」
「あり得ない?」
「はい、麻帆良、関東魔法協会の魔法は、
科学技術と高度に融合しながら開発が進められています」
「ふーん、科学と魔術とか絶対に交差させちゃいけない
みたいなイメージもあるけど、違うんだ」
「はい」

さやかの言葉に愛衣が答える。

「ですから、備蓄していた魔力エネルギーの流通制御の一部に
コンピューターを取り入れる。
そこで何等かの誤作動が生じて暴発する程の魔力エネルギーが流出する。
その可能性はなんとか理解できます」

「うん」
「只、それでゲートを作動させるとなると、話は別です。
これは、「魔法」なんです」
「魔法?」

愛衣のどこか抽象的、概念的な話にマミが聞き返した。

345: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 04:14:58.55 ID:NVh912BJ0

「術式を組み魔法を発動させる事は、
ゴーストの無い機械には出来ません。
今回の出来事はどう見ても只の魔力漏れじゃない。
そのタイプの暴発であれば
もっと無秩序に物理的な損害、よしんばゲート現象に限定しても
人間三人の消失程度では済まない筈ですから」

「仕掛けた人間がいる、と言う事ね。
その心当たりは?」

ほむらの言葉に愛衣が首を横に振り、
ほむらが米軍M9拳銃を向けても愛衣はその銃口を見据える。

「分かってた事だろ」

リビングの床で体勢を崩していた佐倉杏子が口を挟んだ。

==============================

今回はここまでです>>339-1000
続きは折を見て。

347: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 22:15:08.78 ID:NVh912BJ0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>345

「あたし等を襲撃した魔法使いがいるんだ、
そいつらじゃねーの?」
「その正体が分からないんです」

杏子の言葉に愛衣が応じた。

「私達は魔法生徒であり学園の魔法秩序を司る学園警備です。
だからお姉様………
私の先輩の高音先輩は、あの後あなた達を追って事情聴取を、
と言う意見でしたが上から止められました。
魔法世界に関わる事である以上、
これ以上外部の、それも魔法使いでも容易に対処出来ない
あなた達マギカが関わる事は物理的にも情報的にも避けたい、
それが学園の魔法先生魔法教師の方針であると」

「隠蔽かよ」
「もちろん、事件の調査は行いしかるべき対応はする筈でした」

吐き捨てるさやかに愛衣が言った。

「只、あの場では機密保持が優先されて
襲撃事件に関する初動の対応が手薄になった。それも事実です。
だから改めて伺います。
あなた達は一体どういう行動をしていたんですか?
そもそもどういう理由で麻帆良にいたのか?
明石さんからある程度の事を聞いてはいますが」

「私達は近衛木乃香さんのお招きでこちらにお茶会に来た、
それだけの事よ。
桜咲さんとの関係はそちらの明石さんにも説明したからいいかしら?」

愛衣の問いに、まずはマミが説明した。

348: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 22:18:16.01 ID:NVh912BJ0

「はい、およその事は伺っています。
付け加えますと、今回の事件後、
学園長から学園警備に情報提供がありましたから」

「学園長、って言うと」
「近衛木乃香さんの祖父に当たります」

さやかの言葉に愛衣が応じる。

「桜咲刹那さんによる見滝原での調査に就いては、
学園長マターの予備調査と言う事で、
あなた達の事も含めて学園長に情報が上がっていました。
加えて、今日のお茶会に就いても、
近衛木乃香さん、桜咲刹那さんから学園長に上がっていた情報が、
今回の事件の発生を受けて学園長からこちらに降りてきました。
元々は他意の無い私的な会合、友人関係と言う位置づけでしたから」

「あなた達が把握していた訳ではないと?」

「私達は独自に桜咲さんが見滝原でマギカに関わっていた事を把握しました。
しかし、それはほとんど偶然みたいなもので、
その事に就いて公式な事前連絡はありませんでした」

マミの問いに愛衣が答える。

「それで、野点の後であなた達は巴さんと別れたんですよね?」
「うん」

愛衣の問いにさやかが答えた。

「私は、そちらの明石裕奈さんが私達の事を付け回していたのに気が付いて、
状況を把握するために一度離脱して、後はご存知の通りよ」
「あたし達は野点の後で寮のこのかさんの部屋にいたんだけど、
途中で離れたマミさんからの連絡もないしカフェで待とうって事になって。
それで、表に出て歩いてたらいつの間にか人通りがなくなって」

「………人払い?」

さやかの言葉に、愛衣がぽつりと言う。

349: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 22:22:14.03 ID:NVh912BJ0

「私達は佐倉杏子にしんがりを任せて、
桜咲刹那の先導で路地裏に逃げ込んだんだけど、
そこでも魔法使いに襲撃されたわ」
「ああ、任されたはいいけど、
そこで襲撃受けて不覚を取って気が付いたら眠り込んでたって事」

ほむらと杏子が状況を説明する。

「その辺だね、連絡入ったの」
「連絡? 誰から?」

裕奈の言葉に、ほむらが質問した。

「刹那さん。元々同じクラスでもそんなに仲いいとかじゃなかったんだけど、
私が学園警備のエージェント始めたから、
その時に仕事用のアドレスとか交換した方がいいって言われてね」

ーーーー(回想)ーーーー

「あなたが動いていたのは分かっています。巴マミさんはそちらですか?」

「今、魔法使いからの襲撃を受けています。
ちびせつなを待機させますから、××丁目の屋上に学園警備を寄越して下さい。
私は保護対象者を連れて世界樹前広場に向かいます」

ーーーー(回想終わり)ーーーー

「それで、明石さんからの要請で
私達が暁美さん、美樹さんを発見したと言う事ですね」

愛衣の言葉に裕奈が頷いた。

「それで、魔法使いからの襲撃を受けたんですね?」
「ああ、魔法少女じゃなけりゃ魔法使いだろうけど、
多分魔法使いだな」
「そうね、なんとなく私達とは違うと思う」

杏子とほむらが愛衣に答える。

350: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 22:26:13.27 ID:NVh912BJ0

「どんな相手でしたか?」
「黒いローブにフードで顔はよく見えなかったな。
なん、って言うか薄気味悪い」

「薄気味悪い?」

「ああ、スピードはあたしらから見たらそこそこ、
幻術とかテレポートとかそんな感じでもないのに、
なんか上手く攻撃が当たらない。
その内に不覚を取って眠らされたって感じでさ」

「こちらのは単純な強さが尋常じゃなかったわ」

杏子に続き、ほむらが言った。

「テレポートらしき技術を使うけど、
何より単純な実力がかなり強い筈よ」
「あたしもそう思う」

ほむらに続いてさやかが言う。

「刹那さんとかマミさんとか杏子とか見て来たけど、
匹敵するかそれ以上の使い手だと思う。
あたしは全然叶わなかった」
「どんな攻撃を?」
「光だな、曲がって飛ぶ光、殴られるぐらい痛い光か」
「サギタ・マギカ」

杏子の言葉に、愛衣が呟いた。

「それから、理科に使う試験管、
そいつを割ったら睡眠ガスが出たって感じで」
「こっちは体術ね」

杏子に続いてほむらが言う。

「とにかく目にも止まらぬ速さで殴られるわ交わされるわ、
他に言い様がないわ」

ほむらの言葉にさやかも頷いた。

351: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 22:30:06.92 ID:NVh912BJ0

「もしかして、魔法使いって基本そんなに強いとか?」
「それは無い」

さやかの言葉に裕奈が言った。

「巴さんの強さは私も身を持って味わったけど、
私はとにかく龍宮さんとガチバトルする巴さんレベルが普通とか
それは流石にないわ」

「そう思います。
マギカの強さに関してはさっきのとは別に私も少々体験しました。
むしろマギカの側が反則的に強い部分があるぐらいです。
基本的な考えとして、マギカを簡単に圧倒する魔法使いがいるなら
それは相当強い部類に入る筈です」

裕奈の答えに愛衣も続いた。

「あの、私が縛られた捕縛結界、あれも魔法よね?」

「ええ、あれは風の捕縛結界ですね。
魔法陣を踏んだら発動するタイプの。
基本を踏まえた上で嫌な仕掛けが幾つもしてあって、
解除するのに骨が折れました」

愛衣の言葉に、ほむらが顎を指で撫でて黙考する。

「後、世界樹広場にもなんかいたけど、
あっちこそマギカっぽくなかった?」
「そうね、どちらかと言うと私達に近いものに感じた」
「一応報告は聞いていますが、詳しくお願いします」

裕奈とマミの言葉に、愛衣が要請する。

「白バケツ」

裕奈の言葉に、ほむらが目を見開く。

352: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 22:33:40.64 ID:NVh912BJ0

「白いふわふわの衣装を着た女、多分あれがメインだね。
白くてふわふわでバケツみたいにでっかい帽子被って。
前衛で黒っぽい、腕に直接刃物を装着したみたいな
やったら速い切り裂き魔がセットで。
多分あれ、白いのが後詰の指揮で黒いのが前衛、
私達魔法使いにとっては典型的なコンビネーションだから」

「暁美さん?」

裕奈の説明の後、マミがほむらに声をかけた。

「魔法少女、間違いないわ」
「知り合いなの?」

ほむらの言葉にマミが尋ねた。

「直接の知り合いではない。
見た事がある、と言う程度かしら。
その、白黒コンビの事で何か分かった事は?」
「それなんですが、少しおかしいんです」

ほむらの言葉に、愛衣が言う。

「ナツメグさん………こちらの仲間が
街の防犯ツールから追跡したんですけど、結論を言えば逃げられました。
世界樹のフラッシュが最も強くなった隙に監視の目を免れて逃走し、
世界樹前広場から逃走するあの二人の姿を
後から街頭の防犯カメラ等から把握しようとしたんですけど、
どういう訳かぷっつりと消えているんです」

「消えた?」

聞き返したマミに愛衣が頷く。

「はい、念のため機材やデータの確認も行われましたが
異常はありませんでした。
ですから、考えられるのはカメラの無い裏道中心のルートを
完全に選択して逃走した、それが偶然なのか必然なのか」

ほむらは、あり得る、と言う言葉を心の中に留める。

353: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 22:36:59.99 ID:NVh912BJ0

「その、図書館島地下のゲートはどうなってるの?
誰かが魔法を使って動かした、って話だったわよね?」
「理論的にはそういう事になる筈です」

マミの言葉に愛衣が応じる。

「只、あそこは危険過ぎて
その辺の魔法使いでも近づく事すら容易ではありません」
「図書館が危険、って」

言いかけたさやかが、真面目な表情の愛衣を前に言葉を飲み込む。

「先程明石さんも言いましたが、
図書館島は古の魔法使いが作った重要ポイントです」
「それって、呪いの本とかどっかの官能小説家が聞いた天使のお言葉とか
文字が目に入っただけで全身から血が噴き出して死ぬ本とかがあるとか?」

「そう思っていただいて構いません」

さやかの問いに、愛衣が真面目に応じる。

「幸いにしてそんなものに直接触れた事はありませんが、
あっても不思議ではありません。
地上部分を中心に、大半は普通の図書館です。
図書委員とは別に、
図書館探検部と言う大学を本部とする部活動があるぐらいです」

「図書館、探検部?」

マミの問いに愛衣が頷く。

354: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 22:41:14.93 ID:NVh912BJ0

「図書館を中心とした図書館島自体が一種のラビリンス、迷宮ですから、
その解明を行い図書館島内の探検、研究を行うための部活動です。
それでも、一般生徒が立ち入る事が出来るエリアは
魔法使いによって確実に限定されています。
図書館島で本当の立ち入り制限エリアに無闇に立ち入ったりしたら、
魔法使いでも命はありません」

「どういう図書館なのよ………」

愛衣の説明にほむらが呆れる。

「報告によると、今回の事件に際して、
地上にいた宮崎のどかさんが、
綾瀬夕映さんに世界樹が異常発光していると携帯で連絡して、
図書館島地下で調べ物をしていた綾瀬さんが
直ちにゲート近辺の調査を行っています。
この宮崎さん、綾瀬さんは共に図書館探検部の部員であり、
同時に、3年A組の生徒、魔法使いでもあります」

「ネギ・パーティーの中でも古参だね」

愛衣の言葉に裕奈が付け加え、スマホを操作する。

「かなり早い段階、少なくとも私よりも前から
ネギ君の近くで魔法に関わって、色々修羅場も潜ったって聞いてるよ。
特に本屋ちゃん、この前髪ちゃんね。
この娘が宮崎のどかなんだけど、
前はあんな大人しかったのに愛の力だねー」

あははっと笑う裕奈の側で、魔法少女達は首を傾げていた。

355: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/19(火) 22:44:44.56 ID:NVh912BJ0

「で、このでこっぱちが綾瀬夕映。
見た目ちっちゃいけど実際小回りが利いて、
魔法関係でもかなり研究してるって切れ者だよ」

「只、綾瀬さんとしても、ゲート周辺は危険過ぎて
その時も直接は接近出来なかった。
確かに図書館島地下まで伸びる世界樹の根に
魔力の異常流入の形跡を見たが、それ以上の事は把握出来なかった。
そう証言していたと学園警備には報告が上がっています。
実際、学園警備としても迂闊に近づけないので
ゲートの直接調査は後回しになっています」

「そんなに、ヤバイの?」
「そういう事になります」

さやかの問いに愛衣が答える。
その時、一同はノックの音を聞いた。

「明石、こっちにいるか?」

==============================

今回はここまでです>>347-1000
続きは折を見て。

356: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/22(金) 02:20:48.62 ID:SQ9kiaXf0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>355

「入れた方がいいと思う、そっちのためにも」
「任せる」

明石裕奈と巴マミが言葉を交わし、裕奈が玄関に向かった。

「どうやら、当たりみたいだな」
「この人………」

新たに入って来たのは三人。
その先頭の、眼鏡の少女を見てマミが呟く。

「そ、長谷川千雨、綾瀬夕映、宮崎のどか。
ま、ネギ・パーティーの中でも結構コアな面子だね」
「誰だ、こいつら?」

紹介する裕奈に、先頭の眼鏡少女長谷川千雨が尋ねた。

「用件は? 今日の世界樹の件?」
「ああ」
「じゃあ、それも含めて説明するから取り敢えず座ってよ」
「うち達の部屋………」

和泉亜子の呟きをよそに裕奈が言い、
女子寮二人部屋の人口密度がいよいよ危機的状態になるが、
その事以外は当面平和に事が進む。

「まず、この人達だけど、
巴マミさん以下、魔法少女、マギカ、そう呼ばれている人達」
「存在は知っているです」
「ああ、裏の情報収集してたら多少はな」

裕奈の言葉に、夕映と千雨が応じる。

357: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/22(金) 02:24:49.69 ID:SQ9kiaXf0

「本屋ちゃんとゆえちゃんの事はさっき話したよね、
図書館探検部にしてネギ・パーティーのコアメンバーな
ネギ先生ラブラブコンビ。
それから、ネギ・パーティーの裏番長の千雨ちゃん」
「なんじゃあそりゃあぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」

ぽーっと赤い顔で顔を見合わせるのどかと夕映の側で千雨が絶叫した。

「おい、どういう紹介だよっ!?」

「だってさー、実際問題最初のガチパートナーな
アスナは完全お姉ちゃんモードで
このかもどっちかって言うと甘々お姉ちゃん、
刹那さんは良くも悪くも師匠ポジで図書館二人はこの様。
バランサー的にネギ君にガツンて直言出来るのって千雨ちゃんでしょ」

「だからってなぁ………」
「それで、問題はここからなんだけど………」
「おいっ!?」

身を乗り出した千雨が、裕奈の目を見て浮かせた腰を下ろした。

「千雨ちゃんはどうしてここに?」

「ありゃ、見るからに魔法関係の異常事態だろ。
あんだけ世界樹が光ってて最近学校にいないネギ先生や神楽坂はもちろん、
近衛や桜咲とも音信不通。
いっそ学園警備と繋がってる明石を探してたんだけど、
佐倉がここにいるって事はビンゴって事だな」

「はい」

千雨の言葉に佐倉愛衣が応じた。

358: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/22(金) 02:30:55.65 ID:SQ9kiaXf0

ーーーーーーーー

「マギカに絡んだ一般人が目の前で消えた、ってか。
それこそなんだそりゃだ」

裕奈と愛衣から一通りの説明が終わり、
千雨はバリバリ頭を掻いた。

「ナツメグさんを通じて調べましたが、
鹿目まどか、桜咲刹那、近衛木乃香、三人の携帯電話の電波も
ほぼあの時点に合わせて現在に至る迄消失しています」

「つーと、ますます推測通りだろうな」

愛衣の言葉に千雨が言った。

「ゆえちゃんと本屋ちゃんもその用件で?」
「だろうな、私とはそこの廊下で会ったんだけど」

裕奈の言葉に千雨が言った。

「発想はおよそ千雨さんと同じです。
何か分かっている事、出来る事が無いか、
それを確認に来ました」

夕映の言葉にのどかも頷いた。

「ゲートが図書館島の地下にある、と言ったわね?」
「ええ、そうです」

暁美ほむらの問いに夕映が応じた。

359: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/22(金) 02:38:25.75 ID:SQ9kiaXf0

「そこまで案内しなさい。
この人達の話を聞く限り、ゲートとやらが発動して
まどか達が火星の異次元の魔法世界に飛ばされた事は確実。
何か分かる事があるかも知れない」

「お勧め出来ないですよ」
「危険だから?」

夕映の言葉に、マミが問いかける。

「その通りです」
「それに、ゲートは魔法使いにとっての重要機密、
部外者、それもマギカの方を無断で案内したと言う事になりますと………」
「部外者?」

愛衣の言葉に、美樹さやかの言葉が剣呑に尖った。

「そういう事よ」

ほむらが続ける。

「その部外者を魔法の国とか言うファンタジーに飛ばしてくれたのは
一体何処の誰なのかしらね?」

「悪いがこっちの方が筋通ってるだろ。
勝手に巻き込んどいて部外者扱いとかさ」

ほむらの言葉に千雨が続いた。

「でも、本当に危険ですよ」
「魔法少女ナメるなってーの」
「調子にのんなよヒヨッコ」
「それでも、美樹さんの言う通り、
私達はかなり危険な状況でも自分の身は自分で守って来たわ。
手がかりがあるなら見逃せない」

のどかの忠告に、最後はマミが言った。

360: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/22(金) 02:43:18.73 ID:SQ9kiaXf0

「分かりました。図書館探検部員二名の一存としてご案内します。
可能な限りの事はしますが、
自分の身は自分で守って下さい」

夕映の言葉に、魔法少女達が頷く。

「と、言う事は、私達がついてくのはちょっとまずいんだけど、
千雨ちゃんは?」
「私はパスだ、図書館島の地下とか冗談じゃない」

裕奈の言葉に千雨が身震いして言った。

「言っとくが、その辺のからくり屋敷程度に思ってたらマジで死ぬぞ」
「ええ、気を付けるわ」
「巨大怪獣とかマジでいるからな」
「そういうのあたし達の仕事だし」

マミとさやかの返答に、
千雨は嘆息して手で追い払う。

ーーーーーーーー

「なんだ、こっから入るのか?」

図書館島の図書館裏遺跡群に到着し、佐倉杏子が言った。
他でもない、杏子達がつい先程まで合流場所に使っていた所だ。
そして、夕映、のどかを先頭に魔法少女達が扉の中に入る。

「なかなか、やるですね」

リボンを次々と繰り出して
階段に絡めたリボンにぶら下がりながら降下する巴マミを先頭に、
地下に向かう巨大な螺旋階段を軽々と降下していく魔法少女達に
夕映が感想を漏らす。

361: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/22(金) 02:48:57.95 ID:SQ9kiaXf0

「結構、って言うかすっごい深かったねー」

地下通路で、腕で汗を拭いながらさやかが言う。

「気を付けて下さい、この先の通路には侵入者対策の………」

夕映が説明を続けている頃、
さやかの足元ではカチッと音を立てて石畳がへこみを見せていた。

ーーーーーーーー

「広い」
「この先なのかしら?」
「まあ、そういう事になりますが………」

阿鼻叫喚の末に辿り着いた地下の巨大空洞で、
さやかに続いてマミが尋ね、夕映が答える。

「あれって、サイズから言っても世界樹の根っこなのかしら?」
「改めて非常識な大きさね」

壁や天井から突き出している
植物性のオブジェっぽくも見えるものを指して、
マミとほむらが言葉を交わした。

「雨?」

さやかが呟いた次の瞬間には、
さやかと、さやかに飛びついた杏子は岩の地面を転がっていた。

「つーっ、なんだ、よ?」
「は、はは、マジで怪獣? ………!?」

さやかと杏子が見上げた先で、
西洋風のドラゴンが翼で羽ばたきながらガバッと口を開き、
間一髪杏子の張ったバリアが火炎放射の直撃を防いだ。

362: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/22(金) 02:52:43.34 ID:SQ9kiaXf0

「ティロ・フィナーレッ!!!」

気が付いた時には、
魔法少女四人組はリボンで繋がれて止まった時の中にいた。

「どう見る?」

ほむらがマミを見て言う。

「硬いわね」

マミが答えた。

「効いてる手応えが全然ない。
硬さ、速さ、攻撃力、
私達四人がかりでも勝てるビジョンが見えないわ」
「同感だ」

マミの言葉に杏子も吐き捨てる様に言った。

「どうするですかっ!?」
「撤収だっ!!」

時間停止が解除され、夕映の叫びに杏子が応じる。
その時には、大量の迫撃砲の砲弾が空中で爆発し、
マミが大量のマスケットを地面に撃ち込みながら後退していた。

「わああっ! もう動いてるっ!!!」

地面から伸びて一時はドラゴンを埋め尽くす様に絡み付いた
大量の黄色いリボンがブチブチブチと容易くちぎられるのを見て、
撤退中のさやかが叫んだ。

363: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/22(金) 02:56:28.16 ID:SQ9kiaXf0

ーーーーーーーー

「お帰り」

麻帆良学園女子中等部寮佐々木まき絵・和泉亜子の居室で、
飛び込むなり寝っ転がったり両手を床について
総員荒い息を吐いている面々を見て裕奈が言い、愛衣が大汗を浮かべる。

「はーい、元気が出るお茶入ったよー」
「ああ、サンキュー」
「って、効き過ぎじゃないこれ?」
「なんか、危ないお茶じゃないでしょうね」

亜子が運んで来たお茶を、まず杏子が有難く受け取り、
その強烈な威力にさやか、ほむらが声を上げた。

「で、どうだった?」
「簡単に出入り出来ない場所だと言う事は理解したわ」
「だろうな」

裕奈の問いにマミが答え、千雨が嘆息しながら支度を続ける。

「こっちは、ちょっと分かった事がある」

千雨の言葉に、一同が注目した。

「アメリカ帰りのアニメ監督がいてな」

言いながら、千雨がノーパソを操作する。

364: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/22(金) 03:01:48.33 ID:SQ9kiaXf0

「こっちで魔法と拳と剣と萌えなOVAなんかを監督してから、
長年続いてるミステリーアクションの劇場版監督に抜擢されて、
結果、ミステリー・アクション・ボンバーが
ミステリー・アクション・アクション・アクション・
ボンバー・ボンバー・ボンバー・ボンバー・ボンバー・ボンバー・
ボンバー・ボンバー・ボム・ボンバー・ボンベスト
ぐらいに進化したとも言われている訳だが。
で、そのボンバーマン監督に少し遅れてそっちの映画に合流した脚本家が
十八番にしてるギミックがあってだな。
元々実写の刑事ドラマなんかを長くやってた人だが、
今やこれが出たらこの人だと分かる、ってぐらいの大好物な使い方さ」

千雨の操作がそれまでのせわしない動きから、
カチッ、と、短いクリックが終わり、或いは始まりを告げた事が
素人目にも分かった。
ノーパソに表示されているのは、
裕奈達には見覚えのある地図と大量の顔写真だった。

「たった今あんたらが調べに行った通り、
世界樹と図書館島には密接な繋がりがある。
世界樹が光ってゲートが起動した、って事だからな。
だから、あの時間、図書館島出入り口を中心に、
保存されてた防犯カメラの映像データから
取り出せるだけの人間識別データを取り出して分析に掛けた」

「あー、ホントこういうの科学捜査のドラマとかに出て来そう」
「京都辺りの奴か」

画面の中でパパパパパッと取捨選択される光景に、さやかと杏子が言った。

365: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/22(金) 03:05:52.87 ID:SQ9kiaXf0

「で、そいつを
他の可能な限りのデータベースとも連動させて分析した結果」

千雨の操作と共に、
画面の中で膨大な顔写真がどんどん減少し、一人に絞り込まれる。

「あすなろ市?」
「あすなろ市の御崎海香」

画面に大きく表示された写真とデータを前に、
マミと千雨が結論を口にした。

==============================

今回はここまでです>>356-1000
続きは折を見て。

366: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/23(土) 15:37:38.39 ID:3X0wuEGD0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>365

「簡単に言えば、麻帆良、特に図書館島周辺の防犯カメラデータを核に、
アクセス出来るありとあらゆるデータをクロスチェック演算して、
今回の事件に関連して怪しい要素が濃い奴を割り出す。
私がやったのはこういう事だ。
問題なのは、何をもって怪しいと言うべきなのか、だけど、
まあ、その辺りの事は話せば長くなる。
で、怪しいと言うべき要素が見過ごせないぐらいに集結してるのが」

「御崎海香、あすなろ市の中学生ね」

長谷川千雨の説明に、巴マミが続けた。

「まず、事件の後で、
図書館島裏口の比較的近くにいた事が防犯カメラで確認されてる。
そして、麻帆良の外の人間。
しかも、ベストセラー作家と来た」

「ベストセラー作家?」

千雨の言葉に暁美ほむらが聞き返す。

「ああ、一応こんな事になってる」

千雨が差し出したのはウェブ辞書のプリントアウトだった。

「現役中学生って事で本人は表立って目立つ事は控えてるらしいが、
こいつらが電子の海で八方手を尽くして一晩かからずやってくれた」

「イエス、ちう様!」

「は? 空飛ぶネズミ?」
「あら、可愛いわね」
「光栄であります」

ふわふわ姿を現した電子精霊に美樹さやかとマミが反応し、
精霊も律儀に返答する。

367: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/23(土) 15:41:16.45 ID:3X0wuEGD0

「これ、千雨ちゃんが使役する電子精霊ね」
「インターネット、電子的な通信、データに関わる事なら
大概なんとかしてくれるです」
「すげー」
「いやー、それほどでも」

明石裕奈と綾瀬夕映の説明にさやかが感心し、
電子精霊が実に嬉しそうに反応した。

「このタイミングで他所から図書館島に、
ってだけでも結構高得点で怪しい上に、
あんたらも関わって来たからな。
あすなろと見滝原は目と鼻の先だ」

「こっち側に関わりがあるってのか?」

千雨の言葉に、佐倉杏子が鋭い声で呟く。

「かもな。その御崎海香先生のあすなろ市での行動パターンを
防犯カメラデータ等から割り出した結果、なんだが」
「魔法少女」

千雨が画面に表示させた地図を見て、マミが呟いた。

「根拠は?」

千雨が尋ねる。

「時刻と場所よ」
「だな」

マミに続いて杏子が言った。

368: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/23(土) 15:48:01.84 ID:3X0wuEGD0

「あー、確かにね。只の夜遊びにしては意味が分からない。
この件の関係抜きにしても
あたしらならそう推測するわこれ」

「ええ、これなら美樹さやかでも分かるわね」

「成程」

背景であたしの動きについてこれる? 根競べなら負けないわドガガガガと
大汗を浮かべる亜子の前で展開する壮絶バトルをおいておいて
千雨が納得した口調でカチカチ操作を進める。

「で、今度は逆にあすなろ市でのデータを収集した。
御崎海香の自宅は夢の印税生活でぶっ建てた御崎海香御殿」

「おおーっ」

画面に表示された豪邸にさやかが声を上げる。

「その周辺にある防犯カメラの映像と
今回の事件前後の麻帆良の防犯カメラ映像、
まずはそいつをクロスチェックすると」

画面に、ぱぱぱぱぱっと複数の顔写真が
防犯カメラ映像とセットで表示される。
何れも、女子中学生と言って矛盾の無い外見だ。

「あすなろ市の御崎海香御殿周辺に常時出没してるこいつら、
今日は近い時刻に図書館島周辺に出入りしてる。
で、このグループのあすなろ市での行動範囲」

「だろうな」

画面に表示された地図の画像に、杏子が言った。

「こん中に一人、見知った奴がいる」
「魔法少女?」

さやかの問いに、杏子が頷いた。

369: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/23(土) 15:51:35.85 ID:3X0wuEGD0

「和紗ミチル、魔法少女だ」

「今の行動範囲と時刻を見る限り、
今のメンバーは御崎海香さんを含めて
一つの魔法少女チームと見るのが自然ね」

杏子の回答に続けてマミも結論を導き出した。

「………転校生?」

そこで、さやかはほむらの様子に気付いた。

「………まどか………
まどかは、魔法の世界にいる、のよね?」
「状況から見てそう考えるのが自然です」

ほむらの問いに、愛衣が答える。

「それは、今から図書館島の地下から行ける所なの?」
「今は無理です」

続けての質問に愛衣が答えた。

「元々、図書館島地下のゲート再稼働作業は
協会内でもトップシークレットの扱いで進められてきました。
何故こんな事になったのか、正確な情報は降りてきていません。
そもそも、ゲートと言うもの自体、その起動には魔力の蓄積が必要ですから
仮に図書館島のゲートが実用化されていても今は難しい筈です」

「冗談じゃ、ない」

愛衣の答えに、ほむらは震える声で言った。

「こんな、訳の分からない状況で、まどかは」
「そうね」

続けたマミの言葉も、明らかに厳しいものだった。

370: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/23(土) 15:55:24.14 ID:3X0wuEGD0

「正体不明の魔法使いに魔法少女のグループまで関わってる。
そんな状況で私達と一緒だった鹿目さんがいなくなった。
とても安心なんて出来ないわ」

「あんたら、魔法の世界に行くつもりか?」
「ええ」

千雨の問いに、ほむらが即答した。

「まどかがそこにいると言うのなら」

「行くに決まってるでしょ、まどかは魔法少女ですらないんだからね。
そんな魔法の国とかに勝手に連れて行かれたって言うんなら、
まどかのお友達、魔法少女さやかちゃんとしては絶対に見過ごせない」

「しかし、稼働したばかりの図書館島のゲートをすぐに動かす事は出来ません」

「かなり突発的な事だったみたいですね。
既に周辺の魔力反応は消失していて、
再稼働のための魔力補給には相当な時間がかかるです」

ほむらとさやかの言葉に、愛衣と夕映が答えた。

「図書館島以外のゲートは? あるんでしょう?」

マミが千雨を見て、千雨がノーパソを操作した。

「ここじゃないとすると、次はウェールズか」

ノーパソを操作する千雨に注目が集まる。

「次にゲートが開くのはウェールズ」
「ウェールズ、って、イギリスの?」
「ああ、大体の時刻は………」

マミの問いに千雨が答え、画面にデータを表示する。

371: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/23(土) 15:59:08.71 ID:3X0wuEGD0

「………無理ね」

マミが言った。

「とてもじゃないけど、今から行ける時間じゃない」

「仮に物理的に可能だったとしても、手続きが間に合いません。
魔法協会内の手続きで許可が出ない限り、
魔法的なセキュリティーに阻まれてゲートには接近できません」

マミに続いて、愛衣が言う。

「無理を、通すか」

千雨か、ぽつりと言ってスマホを取り出した。

「私だ、ああ、こんな時間に悪いな………」

==============================

今回はここまでです>>366-1000
続きは折を見て。

372: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 03:24:37.33 ID:lDycOOgF0
Happy Merry Xmas!

それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>371

ーーーーーーーー

「わあ」

美樹さやかが思わず感嘆の声を漏らした。
さやか達のいる部屋に現れたのは、
同年代の同性が一目でそう感嘆するぐらい、
金髪白人の血縁がありそうなスタイル抜群美少女、
と言う表現がぴたりと当てはまる雪広あやかだった。

「何か、容易ならざる事態が出来したと伺いましたが?」

雪広あやかはきりっとした態勢で長谷川千雨に質問する。
身なりも姿勢も、上品でいて力強い、そういう印象だった。

「ああ、こいつは雪広あやか、3年A組のクラス委員長で、
魔法の関係にもある程度通じてる。
魔法少女、マギカ、って知ってるか?」
「多少の事は。それに、世界樹が光った事も関係が?」
「大ありだ、かいつまんで説明する」

正規に関東魔法協会所属の任務に当たっている佐倉愛衣としては、
本来秘匿事項となっている今回の事件の関係者を勝手に増やされて
正直頭を抱えたい所だった。

しかし、雪広あやかは魔法協会、どちらかと言うと
「英雄」ネギ・スプリングフィールドが進める
巨大プロジェクトに大きく関わるVIP的外部協力者。
本来3Aでもストッパー役の千雨が
予想外のスピードで歩を進める事に飲まれているのも実際だった。

373: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 03:28:17.23 ID:lDycOOgF0

「その様な事が………」

千雨にマミが加わって、魔法少女の事から今回の事件の経緯まで、
あやかにおよそのあらましを説明した。
その時、電子精霊が千雨に接近し何やら耳打ちする。

「………ヤバイかもな」

改めてノーパソを操作した千雨がぽつりと漏らす。

「これ以上、何が?」
「あすなろ市の件だ」

マミの問いに千雨が言う。

「今まで聞いた話をコアにして、
あすなろ市中心に関連情報をクロスチェック再演算した。
防犯カメラ、学校、携帯電話、
インターネット接続等等の情報をかき集めてな。
佐倉杏子さん?」

「ああ」
「これは、あんたの知り合いか?」
「ああ」

千雨が表示したのは、和紗ミチルのデータだった。

「彼女の特異点は二つ。
まず、御崎海香邸に出入りしている
魔法少女のグループと見てまず間違いないが、
同じ条件のグループの中で彼女だけ麻帆良に入ったデータが無い」

「魔法少女じゃ、ない?」
「あり得るかも」

マミの言葉にさやかが続く。

384: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 13:31:16.73 ID:lDycOOgF0
すいません
>>374差し替えます。

==============================

「まどかみたいに
魔法少女以外で魔法少女に同行してるケースもあるから」

「いや、だからミチルは間違いなく魔法少女だって。
あたしはいっぺん会ってるんだから」

「だったら、事情があって今回はパスした?」

杏子の言葉に、思案顔のマミが続ける。

「そしてもう一つ、和紗ミチルはここ最近学校を欠席し続けてる」
「あたしがあいつに会ったすぐ後からだ」

千雨が表示したデータを見て杏子が言った。

「もう一つ、本格的にヤバイ話がある」
「勿体ぶらないで」

ほむらの鋭い言葉に、千雨が頷いた。

「時期だけで言えば、
この和紗ミチルの不登校の直後から、あすなろ市を中心に、
私らと同年代の少女の失踪事件が続出してるって事さ」
「なん、ですって?」

マミの言葉を聞きながら、千雨がノーパソを操作する。

「まず、さっきの魔法少女の説明にも出て来たが、
正体不明の少女の失踪は、魔女に食われた魔法少女である可能性がある。
そういう話だったな?」
「ええ」

千雨の問いにマミが答える。

==============================

差し替えは以上です。
続きは折を見て。

375: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 03:35:10.46 ID:lDycOOgF0

「だとしても、統計的におかしい。
警察が事件性を認知しているケースすら目立ってるから
そこから本格的に警察その他の情報にアクセスして
統計の再演算を実行した訳だけど、
今に至る迄この期間のあすなろ及びその周辺の
同年代の少女の家出、失踪、それも事件性を疑われるレベルのもの、
その発生率が明らかに跳ね上がってる。
そして、やっぱりその事を疑ってる刑事がいた」

「特○係の登場って奴?」
「警察全体の取り組みから見て、そんな所みたいだな」

字面だけは軽口めいたさやかの言葉に千雨が言う。

「関連情報にやたらアクセスしてる刑事のPCをこっちで逆に把握した。
彼女は、この流れを一連の失踪事件と見てリストアップしてる。
もっとも、その刑事は和紗ミチルの不登校の前から追跡していたらしいが、
やはりここ最近で跳ね上がってるらしい」

「………その、失踪者のリストとかって?」
「ああ、今んトコ警察では一連の事件と言う見方をとっていない。
だが、その刑事が独自にリストアップしてたのがこれだ」
「………いた………」

マウスを操作していた杏子が呟いた。

「飛鳥ユウリ、あすなろの魔法少女だ」
「失踪したのは、和紗ミチルさんの不登校の少し前ね」

杏子の答えに、マミが続ける。

376: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 03:38:52.53 ID:lDycOOgF0

「いいんちょ」

そして、千雨は改めてあやかに向き直る。

「はっきり言って、状況はかなりまずいぞ。
魔法使いに魔法少女、得体の知れない事件が絡んで底が見えない。
今回のテロリストの正体は分からないが、
形の上では魔法使いが魔法少女に宣戦布告した形になっちまった」

「長谷川さんっ!」

千雨の尋常ならざる表現に、愛衣が悲鳴を上げた。

「そうね」

それに続いたのは厳しい口調の巴マミだった。

「この事に就いて納得できない状況が続くなら、
魔法使いから魔法少女に対する敵対の意思ありとして、
この事を私の知る限りの魔法少女に通達する事も考えてる」
「待って下さいっ!」

マミの通告に、愛衣の声が縋り付いた。

「確かに不穏な事は否めませんが、
鹿目まどかさんの事は桜咲さん達に任せて下さい。
あの二人が一緒なら、
一般人である鹿目まどかさんの安全を第一に行動する筈です。
あの人達がガードしている一般人をどうこうするなんて、
魔法使いだろうが魔法少女だろうがまず無理です。
遅くともお二人がガードしている間に
協会で保護して無事送り届けると約束しますから」

戦闘モードに近い眼差しの巴マミに、愛衣は懸命に頭を下げる。

「個人的にはあなた達を信じたいと思ってる」

それが、マミの返答だった。

377: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 03:42:22.46 ID:lDycOOgF0

「だけど、魔法少女同士ですら常に平和とは言えないのが現実なの。
まして、実際に事が起きてる時に、
あなた達を信じて任せろ、と言われるだけでは
時間も短過ぎて知らない事が多すぎる。
そんな状況で私達のお友達、
それも一般人をそのままにしてはおけない」

「それで、あなた達が魔法世界に行くの?」

そこで、宮崎のどかが口を挟む。

「行くよ、行き方さえ分かれば」

答えたのは美樹さやかだった。

「それに、意味があるとは思えない」
「は?」

さやかが聞き返そうとするが、
むしろ穏やかにさやかを見ているのどかの綺麗な瞳が
さやかの言葉を封じる。

「鹿目まどかさんには、このかと桜咲さんがついてる。
二人はあの世界にも通じてるし実力もトップクラス。
あなた達は、実力があるとは言え魔法の事情をほとんど知らない。
あちらの世界は市街地は整備されてるけど、
迂闊にそこから出たらモンスターの森や砂漠が普通にある、
そこにはあんなドラゴンもいるし現地の人達の習慣もある。
私はそこでトレジャーハンターもしてたけど、
何も知らないあなた達が勝手に人を探しに行って、
それに意味があるとは思えない」

この年頃は小さな年の差が敏感に分かる。
一見大人しそうに見えるのどかだが、実年齢はさやかの一つ上。
今本人も言っている経験のためか、
やんちゃ者のさやかをちょっと圧するぐらいには腹が座っているらしい。

378: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 03:45:52.32 ID:lDycOOgF0


「それでも行くさ。こんな言葉もあるからね。
やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい」

「一時代を築いたライトノベルに出て来る台詞ですね。
もっとも、それは負けフラグの様ですが」

「さやかちゃんはしぶといからね。
それなら映画だろうがスピンオフだろうが
何度でも復活してやり遂げるよ最後まで」

そっと口を挟んだ綾瀬夕映にさやかが言い返す。

「あたしは、ずっとあがいて、後悔しそうになって、
それでも選んで、あたしの事を待っててくれて………
まどかがいなくなって、後悔なんてしたくない」

「そちらさんは?」
「決まってるわ」

千雨に促され、暁美ほむらが答えた。

「私は、私の手でまどかを守る。
私のすべき事はそれだけよ。
魔法使いやドラゴンが跋扈している異常な状況で、
意味も分からず放り出されたまどかを
得体の知れない他人に任せ切りになんかしない」

長谷川千雨は、一つ年下の少女、
暁美ほむらの殺意の籠った眼差しを頷いて見返した。

「明石、佐倉」

そして、千雨はその二人を見た。

「腹、くくるしかないみたいだな」
「長谷川さん?」

千雨の言葉に愛衣が聞き返す。

379: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 03:49:51.78 ID:lDycOOgF0

「私らだって、行き掛り上協会と衝突した事もある。
他人に実害が出てる時に、
そうそうこっちの都合よくばかりは行かないさ」

「それは、あなた達はネギ先生達と一緒で………」

「外部の、それも簡単にはねじ伏せられない魔法少女って
敵に回したらもっと厄介だと思わないか?」
「ええ、事に及んでは只でやられるつもりは毛頭ないし、
鹿目さんの事で納得出来なければ退くつもりもない」

千雨の言葉に、マミが真面目に続いた。

「まあな」

続いたのは佐倉杏子だった。

「こっちが魔法少女って知った上で招待されて、
それで、魔法使いと魔法少女に襲撃されてこの様、ってなると、
ちょっとそれ面倒くさいで済ませるには限度があるじゃん」

「それは、無益な争いです。
私達は鹿目まどかさんに危害を加えるつもりなんて毛頭ありません。
危険を避けるなら、こちらを信じて救助を待って下さい」

それでも、愛衣は精一杯声を押し殺して告げた。

「いいんちょ」
「はい」

千雨の呼びかけに、あやかは真面目な顔で応じる。

「ちょっと、試しに考えてみてくれないか」

380: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 03:53:13.98 ID:lDycOOgF0

ーーーーーーーー

ノーパソに向かっていた長谷川千雨は、
短い打鍵と共にふうっと息を吐いた。

「じゃあ、お二人さんはこの手筈で。
ギリギリの所だけど、ゼロじゃない」

千雨の言葉に、ほむらとさやかが頷く。

「あすなろ市の魔法少女グループは残りの二人で当たるのか?」
「そうね」
「ま、そういう事になるな」

千雨の問いに、マミと杏子が返答した。

「図書館島関係の事、頼めるか?」
「分かった」
「了解です」
「って事だ」

のどかと夕映の返答を受け、千雨が向き直る。

「明石、佐倉、学園警備は一旦引いてくれ。
こっからは3Aと魔法少女で進める」
「はいそうですか、と言う事になると思っているんですか?」
「時間が無いんだ」

怒りを秘めた声で聞き返す愛衣に、千雨が押し被せる様に言った。

381: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 03:56:34.37 ID:lDycOOgF0

「元々、不干渉の関係だった魔法使いと魔法少女が両方絡んだ事件、
ってだけでも対処は難しいんだろ。
魔法少女は魔法少女で勝手にやる気だし、
魔法使いには魔法使いの秩序があるんだろ」

「ええ、ですから………」

「魔法少女は、身内が消えてまともに説明も出来ない事態に本気でキレてる。
これでこっちが邪魔に見える動きをしてみろ、最悪殺し合いだ。
ネギ先生以下の四人組が留守で、
上の方に直に話を通せるパイプが無い。
あんた達だけが灯篭の斧で中途半端に協力するってのはリスクが高過ぎる。
それなら、今ここでの事は見なかった事にした方がお互い話が早い。佐倉」

前を見続ける愛衣に向かい、千雨はほんの僅か前に動いた。

「戦争の引き金を引く心算か?」

明石裕奈から見て、普段は礼儀正しく、
年相応に可愛らしい年齢後輩キャリア先輩な佐倉愛衣は、
魔法使い、魔法協会でのキャリアでは裕奈の先輩。
実際は同年代でも指折りの俊才である努力家らしく、
根っこの所は強い芯と負けん気を持っている。

それが、千雨から、自分達が関わっている事件の事で、
確かに理屈は通っているが一蹴に近い形での撤退を求められて、
一瞬それでも食い下がろうと言う表情を見せてから、
歯噛みが聞こえそうな動きで斜め下を向いていた。

そんな愛衣と、
クラスメイトでもある千雨の顔を見比べた明石裕奈は、
訝し気にちょっと首を傾げていた。

「明石、どうだ?」
「仕事に関してはメイちゃんの方が先輩だから、
私は指示で動くだけ」

千雨の問いに、裕奈はふっとごまかしの笑みを交えて答えた。

382: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 04:00:54.23 ID:lDycOOgF0

「勝手に、して下さい。
私達は何も知らなかった、それでいいんですね?」
「恩に着る」
「感謝するわ」

愛衣の言葉に千雨とマミが言い、
裕奈の眉は益々訝しく動いていた。

裕奈が見習いでも魔法協会に属して改めて分かった事として、
今の3年A組、その中のネギ・パーティーはかなり独特な存在だった。

元々千雨は愛衣の一つ年上であり、何より、あの夏休みの実績がある。
裕奈は千雨を裏番長、と呼んだが、
裕奈が後で聞いた所では、夏休み以前の学園祭からも
今や「英雄」であるネギの側でコアな活躍をしていた。

そして、それが出来るぐらいに頭も回る。
そんな千雨に理屈と現実的なパワーバランスで圧倒されて、
愛衣は自分の正規の持ち場で黙らされる。

今は「こちら側」でもある裕奈としては、
色々な意味での自分の中途半端がもどかしくなる。

「明石裕奈」

その呼びかけに、裕奈は思考を止めた。

「一つ、確かめたい事がある」

それを言ったのは、暁美ほむらだった。

「何?」

「今、まどかの側で彼女を守る桜咲刹那、
クラスメイトでもあるあなたから見て、
一体どういう人物なのかしら?」

ほむらの問いに、裕奈は指先で顎を押し上げながら少しだけ考える。

「誠実な人」

それが、裕奈の答えだった。

383: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/25(月) 04:04:39.04 ID:lDycOOgF0

「うん、クラスメイトで、
魔法協会の関係で関わる事もあるけど、誠実な人だね。
誠実で寡黙なサムライ」
「見たままね」

マミがくすっと笑い、裕奈がニカッと笑みを返した。

「でも、中身は結構普通な女の子の所もあってさ、
それが又かわいーんだ」
「分かる」

ふふっと笑って言ったのは、美樹さやかだった。

「でも、凄く真面目だから、
このかの事だって、今見たら心の底から大好きなのに、
このかに悲しい顔させても昔は距離をおいた護衛に徹してた。
本当は自分が一番友達でいたいのに、
守るためにそうするべきならそうし続けてた。そういう娘だよ。
色々厳しいけどそれも優しいからで、凄くいい娘だから」

裕奈の真面目な言葉に、さやかは真面目な顔で下を向いた。

「今はこのかともアスナとも、ネギ君ともすっごくいい関係で、
誰よりも強いサムライしながらすっごく可愛い女の子になってる。
それでも、何より守るべきものは絶対、命懸けで守り抜く。
だからさ」

そう言って、裕奈は自分を見据えるほむらをしっかと見返す。

「だから、鹿目まどかちゃん、
あんた達の大切な友達の事も、刹那さんなら必ず、
それこそ命を懸けてでも守り抜く筈だよ。
まー、今の魔法世界に、
あの二人を本気にさせる程の脅威があるとも思えないけどね」

==============================

今回はここまでです>>372-1000
続きは折を見て。

385: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/27(水) 03:05:43.83 ID:UojWe8dL0
それでは今回の投下、入ります。

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>>383
>>384

ーーーーーーーー

「取り敢えず、お茶でも飲んで考える?
私の部屋すぐ近くだから」
「いえ、取り敢えず………」

麻帆良学園女子中等部寮、
佐々木まき絵、和泉亜子の部屋を出て少し歩いた所で
明石裕奈はスマホを取り出した。
側を歩く佐倉愛衣、大河内アキラの注目が集まる。

ーーーーーーーー

「色々言いたい事はありますが」

裕奈と愛衣は、女子中等部エリアダビデ像前の広場で、
腕組みする高音・D・グッドマンの眉がひくひく動くのを見ていた。

「まずはメイ、着衣一式携帯電話ごと
お風呂場に置いたまま何処かに出歩く、と言うのは
如何に女子寮でもはしたない、では済まない事だと思いますが」

そう言って、高音はビニール袋に入った一式を愛衣に押し付ける。

「メイと連絡がつかない上に、
事件性すら疑われるレベルの忘れ物が寮からこちらに連絡があったので
明石さんに電話してみた訳ですが、
一体何事か、当然説明いただけますね? メイ?」

386: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/27(水) 03:08:50.40 ID:UojWe8dL0

そこで、ようやく高音は愛衣の様子に気付く。
高音にとって愛衣は、長いか短いかはとにかく、
魔法の鍛錬からちょっとした戦場気分も含めて
そこそこ濃い付き合いをして来た相手だ。

その高音から見て、愛衣は明らかに憔悴していた。
それも精神的なものだ。
確かに疲れる一日ではあったが、
何時間か前に分かれた時の事を考えると、
何も無しにここまで憔悴するとはちょっと考えられない。

「何が、あったのですか?」
「ああ、うん」

目を閉じて後頭部を撫でていた裕奈が、
左目を開いて高音を見る。
恐らく厄介事だろう、と、高音は覚悟を決めようとする。

ーーーーーーーー

「何と言う………」

裕奈からのおおよその説明を聞き、
高音は絶句し愛衣は下を向いていた。

「あなた達は、それを看過したと言うんですか?」
「あの場で止めようとしたら、本気で殺し合いになってた」

ビクッ、と肩を震わせる愛衣の隣で、
裕奈はむしろ高音の目を見据えて言った。

「ええ、今のは只の質問です。
魔法少女の火力は私も知らない訳ではありませんから、
その判断を責めるものではありません。
こちらで加担したのは長谷川千雨、雪広あやか、
綾瀬夕映、宮崎のどか、これでいいですね?」

「はい」

高音の問いに、裕奈は迷わず答えていた。

387: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/27(水) 03:12:39.52 ID:UojWe8dL0

「ふざけた真似を………」

裕奈は息を飲んだ。
高音は麻帆良学園系列の聖ウルスラ女子高等学校の生徒、
性格は悪く言えば頑固で指導も厳しい。
その分真面目で育ちの良さが見える礼儀正しい先輩。
それだけに、口調に呪詛の籠った呟きは尋常ではなかった。

「ネギ先生の下で、
強大な魔法の実力を持って学園や魔法世界を救う中心にいた。
だから今回もそれを押し通そうと言うのですか。メイ」
「はい」

そこで、ようやく愛衣は怖々と顔を上げた。

「3Aと魔法少女が結託して横車を押そうとしている。
その事に就いては、これからフェイト先生に報告して対処を求めます。
ええ、学園内の魔法関連事件、その調査に関わる学園警備への暴挙として、
私からフェイト先生、魔法先生に厳重に抗議します。
………ふざけるな………」

高音の最後の言葉は、僅かに震えていた。
最近こちらの世界に関わった裕奈は、
お祭り娘の地はなかなか変わらず、高音からもしばしば雷を落とされている。
だからこそ、この事態が高音の心の何に触れたのか、
それぐらいは分かる心算だった。

「高音さん」

だからこそ、裕奈はごくりと喉を動かし、拳を握り、
それでも、口に出した。

「何ですか?」

高音が聞き返す。高音は確かに頑固だが、
責任感が強く、頑迷ではない。
後は、自分次第と裕奈は一度深呼吸をする。

388: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/27(水) 03:16:18.87 ID:UojWe8dL0

「私も、彼女達を追って今回の事件の調査続行を」

そこまで言って、裕奈はぐっと踏みとどまる。
そして、本当にチビりそうな高音の目をしっかりと見返す。

「本気で言っているんですか?」

「本気です。これは、麻帆良学園の中の魔法の事件です。
人が三人消えてて正直何が起きてるのかも分からない。
手がかりは、動き出したグループの後を追う、
今はもうそれ以外には、現実問題として、ない、んじゃないかと、
そう思いますっ!」

「だから、あなたのクラスの暴挙に追随しろと?」

「私も、っ、今回の事はやり過ぎと言うか
やっていい事じゃない。私も、そう思う」

「あなたがそう言うのでしたら、間違いなくそうでしょうね」

「だけど、その事と調査とは別です、
目の前に手がかりがあるんですから」

「そうやって、又、済し崩しに3Aが事件を解決して
私達がそれを手伝って目出度し目出度し、
と言う事にする心算ですか?」

「高音さんっ」

裕奈は踏み留まって前を見て、
高音も決して退かない眼差しでそれを見返した。

「私は、高音先輩を尊敬しています」

裕奈の言葉を聞きながら、高音は裕奈をじっと見据えた。

389: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/27(水) 03:19:45.94 ID:UojWe8dL0

「力だけを持って魔法協会に入った私に、
高音先輩、メイ先輩は魔法使いの事を一つ一つ教えてくれた。
私が調子に乗って、高音さんから雷を落とされた事も一度や二度じゃなかった。
魔法なんて力、好き勝手に使ったらいけないって私にも分かる。
力があるからこそ、何かあったらフォローしなきゃいけない事もいっぱいある。
高音さんもメイちゃんも、
その事にずっと誠実に向き合って努力して積み重ねて、私にも教えてくれた。
魔法協会で高音さんの下について、少しは教えてもらったつもりです」

「それでもあなたは3Aにつくと言うのですか?」

「それでも、高音さんも分かってますよね?
これが只事じゃない、只の魔法のトラブルじゃないって。
襲撃に関わった魔法使いの正体は不明、
魔法少女のグループの関与まで浮上してる。
協会の具体的な動きも見えないで、こっちに手がかりが見えてる。
そんな状態で、一般人が巻き込まれて安否が分からないんです。
だったら、魔法使いとして………」

「私は、あなたよりもずっと長く魔法使いをしています。
身の程を弁えず藪を突く事の怖さもあなたよりは知っています。
いいえ、あなたはその意味では、
3A、ネギ先生と言うとてつもない素質揃いの身近で、
あなた自身が並み以上の素質の持ち主として
魔法に覚醒したと言う環境はむしろ悪かった。
あなたは、お母様の遺志を継ぐと言って魔法使いを志願した。
優秀な魔法使い優秀なエージェントであった
あなたのお母様ですら、任務中に落命した。
見習いが軽々しい事は言わないものです」

「私は………」

裕奈は、ぶら下げた手で改めて拳を握った。

「私は、何も知らなかった、母さんの事を」
「明るくて優しい、強い母だった。
あなたにとっては、
娘の母親としてそれで十分だった。違いますか?」

高音の言葉に、裕奈は小さく頷いた。

390: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/27(水) 03:23:41.65 ID:UojWe8dL0

「それは、明石教授の意思でした。
それを押してあなたに教えたあの時の判断が正しかったか、
今でも私は自問自答します」

「私は高音さんに感謝してる」

「それならば、あなたが知った先人の犠牲に学ぶ事です。
事は、魔法使いに魔法少女まで関わっている。
私も最近関わりましたが、
彼女達は侮れないどころか敵に回したら本気で危険です。
魔法使いとして、ヒヨコとも言えるかどうか分からない雛鳥が。
これは、表向きのスキルや火力の問題じゃない、あり方の事です」

「怒ってたんだ」
「?」

「魔法少女のみんな、本気で怒ってたよ。
大事な仲間、友達がこんな事になって、
魔法使いの範囲でこんな事になって、それで何も分からないって。
刹那さん達と付き合ってたなら、魔法使いの強さだって分かってた筈。
それでも、一般人の友達のために衝突、戦争覚悟で戻って来て
躊躇なく最短ルートのやり方でこっちに迫って来た。
あの娘達、それぐらい本気で怒って、本気で心配してた。
大事な人がいなくなるって、そういう事じゃないの?
私達のテリトリーで私達にもよく分からない事態が進行してる。
それに、もっと、嫌な予感がする」

「まだ何かあるんですか?」
「千雨ちゃん、長谷川千雨」
「ああ、3A側の今回の首謀者だと言っていましたね」
「それがおかしい、おかし過ぎるんだ」

裕奈の絞り出す様な声に、高音は訝し気に眉を動かす。

「確かに、千雨ちゃんは本当の所を言えば
情に厚くて優しくて、だからネギ先生からも信頼されてて。
だから、魔法少女の側につく、ってのも分からないでもない。
それでも、それでもあの千雨ちゃんはおかしかった」

「私も、そう、思います」

そこで、愛衣が口を開く。

391: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/27(水) 03:27:18.99 ID:UojWe8dL0

「あの夏休みの時も割と側にいる事がありましたけど、
あの人、何と言うか、あんな話し方をするとは………」

愛衣の言葉に、裕奈が頷いた。

「千雨ちゃん、長谷川千雨は、能天気な3Aの中では、
どっちかって言うとスカしてる、ノリが悪い、
そっちに近い態度をとってる。
それだけ慎重な娘で、
それに、魔法じゃない日常を大切にする娘でもあるんです。
少なくとも、こっちの世界の事に関して
やたらと無理押しするタイプの娘じゃない」

「確かに、私もそういう印象を持っています」

とうとう高音も思案して同意を示す。

「千雨ちゃんが怒るって言ったら、
むしろ常識とか安全圏が崩れる時。
そうじゃなかったら、慎重派だから
自分からごり押ししてリスクを負う様なタイプじゃない。
率先して魔法の事に関わって仕切りたがるタイプでもないし、
こんなやり方してたら、明日にでも
フェイト先生からのチョーク責めじゃ済まないって事も分かってる筈。
何より、人を踏み付けて押し除けるみたいな言い方、
根が優しいからちょっと距離取ってる千雨ちゃんが好き好んでやる筈がない。
何て言うか、千雨ちゃんから自分の事みたいな
嫌な危機感がひしひしと伝わって来てたって言うか
………焦ってる………」

「彼女が、何かを知っている、とでも言うのですか?」
「それもあり得る」

やや青ざめた高音の問いに、裕奈が答えた。

392: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/27(水) 03:31:12.58 ID:UojWe8dL0

「だから、このまま訳も分からない状態が続けば、
何か凄く嫌な予感がするんです。
分からないままじゃ済ませられない。高音さん………
高音先輩、私に、僅かな勇気を使わせて下さい」

深々と頭を下げる裕奈の前で、高音がはあっと嘆息する。
高音から見て、裕奈は頭の痛い後輩だった。
高音の下につけられた、あの3A出身のお祭り娘。
力だけはやたらと持っていて、
羽目を外して高音から雷を落とされた事も一度や二度じゃない。
気が付いた時には、裕奈は宙に浮いていた。

「メイは念のためです。
夜は長い、少し頭を冷やしなさい」
「ちょっ、高音さんっ!!」

裕奈と愛衣は背後に現れた巨大な黒衣の触手に持ち上げられ、
高音は裕奈の叫びを背にカツカツとその場を後にしていた。

ーーーーーーーー

「高音さん?」

長い様な短い様な時間の後、高音がダビデ像前の広場に戻って来て、
僅かに浮いた裕奈と愛衣の足がすとんと着地した。
そして、高音は裕奈に資料を押し付ける。

「今回の事件に就いて、ナツメグが調査を行いました。
結果、ゲートのある図書館島周辺の防犯カメラの映像から、
麻帆良の外部の人物が割り出されました」

裕奈は、何処かで聞いた話を聞きながらちょっと首を傾げる。

「御崎海香、撮影された顔面と各種データベースを照合した結果、
あすなろ市の女子中学生作家、なのだそうです。
この、御崎海香と言う少女の周辺調査と接触を行い、
事件に関して何か見聞きした事でもないかを確認して下さい。
エージェント明石裕奈………返事は?」

「は、はいっ!」

393: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/27(水) 03:34:24.53 ID:UojWe8dL0

「………ナツメグが言っていました………」
「?」

「こういう場合、学園警備が防犯カメラ映像を調査するためには、
閲覧許可を申請した上で、防犯目的で防犯カメラデータを提供されている
ミラーサーバにアクセスするのが通常手順です。
しかし、今回は、事件直後から提出されていた許可申請は棚ざらしにされ、
調査のために正規にアクセスした痕跡も無い。
それなのに、何かアクセスした形跡はある。
きな臭いものを感じたナツメグは、
学園警備のダミー活動で顔を繋いでいたルートから、
店舗等の防犯映像の生データを直接確保しておいて
今回分析に用いたと言う事です」

「やるね………」
「跳ね返りも地道にやるものです」

裕奈の言葉に高音が答える。

「この御崎海香と言う人物に就いて、私はそれ以上の事は知りません。
出張先での聞き込み調査である以上、
現場の判断で臨機応変に対応するのはエージェントの務めです。
メイは、魔法使いとして経験の浅い明石裕奈のバックアップを。
私自身、緊急時としてこの指示を出していますが、
軽率の疑いがある事も否定はしません。
あくまで魔法先生の指示を待つと言うのなら指示を留保しますが、
あなた達の判断は?」

「エージェント明石裕奈、
只今の高音・D・グッドマン先輩の指示、了解しました」
「佐倉愛衣、同じく了解しました」

394: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/27(水) 03:37:58.37 ID:UojWe8dL0

「明石裕奈、佐倉愛衣」
「「はい」」
「魔法使いの誇りにかけて、
あなた達の本当の魔法と言うものを見せてみなさい」
「「はいっ!」」

高音から見て、裕奈は頭の痛い後輩だった。
それでも、弱小でもバスケットボール部員で、
からりと明るく笑いながら、先輩に対して真っ直ぐな眼差しを向けて来る。
そして、お調子者に見えて、存外聡い。
頭の回転も速く、よく見ている。根っこの所で大事な所を把握している。

「硬い」と言われている高音だからこそ、
チームとして欠落を埋め合わせる必要が分からない程愚かでもない。

愛衣は優秀な魔法使いで可愛い妹分。
姉貴分である高音共々、誇り高き魔法使いは
面を張られて張られっぱなしのタマではない。

==============================

今回はここまでです>>385-1000
続きは折を見て。

395: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/30(土) 02:45:35.36 ID:abUgDWIv0

==============================

ーーーーーーーー

>>394

「………ウェヒヒヒ?」

光に包まれた、と思った後の鹿目まどかの視界に広がる光景は、
彼女の脳内処理能力を相当大幅にオーバーしていた。

どこから記憶を辿ればいいのか、
確か、自分は見滝原に住んでいて、

強くてたくましい母、優しくて頼りになる父、
夢いっぱいの可能性をもつ弟
がいて、見滝原に引っ越してから美樹さやかと、志筑仁美と友達になって。
見滝原中学校に入った。

魔法少女なるものと魔法使いなるものと魔女なるものにほぼ同時遭遇した。
魔法少女の巴マミ先輩、その日に転校して来た、
やっぱり魔法少女だった暁美ほむら、
そして、魔法使い、退魔師だと言う桜咲刹那と関わる事になった。

396: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/30(土) 02:49:15.52 ID:abUgDWIv0

そこに、魔法少女の佐倉杏子、
刹那の親友だと言う魔法使いの近衛木乃香も加わり、
魔法少女とか魔女とか魔法使いと言う時点で、
時々命が危なくなる程度には色々なんやかんやがあった。

そして、魔法使いの実力者だと言う近衛木乃香の招きに応じて
麻帆良学園都市でお茶会に参加して、
楽しい時間を過ごしていた。
ところが、そこから外出した途端に何者かの襲撃を受け、
逃げ回っている内に、大きな木のある広場で光に包まれた。

理屈で言えば、大体こんな感じで脳内プレイバックする。

そこまで筋道を立てて、
突っ立っていたまどかは改めて周囲の景色を確認する。
一言で言えば荒野。
その中に、巨大な石造りの何かが見える。
少なくとも、自分がいた筈の麻帆良の街中ではない。

そこで、まどかは思案する。
魔法少女、魔法使い、と来たからには何が来ても余り不思議ではない。

では、今度は、近年本屋にもWeb小説辺りにも
溢れ返っている異世界転生とやらか。
その場合、もしかしたら半々ぐらいで
輪廻転生と言う事になるが、それはちょっと洒落にならない。

まだまだパパとママにはいっぱいいっぱい甘えて
タツヤの彼女のツラぐらいはおがんでやりたい。

取り敢えず、わたくしこと鹿目まどかといたしましては、
不意打ちに後ろから突き落とされる程恨まれた覚えもなければ、
お盆もお正月もクリスマスも家族向けバレンタインデーも
日本西洋どっちのカボチャ祭りも等価に楽しむ程度の
平均的日本産女子中学生であり、
別に信心そのものに喧嘩を売るつもりはないので、
辛辣なジョークを交えた気合の入った演説で
戦場を飛ぶ来世を迎える等と言った展開は御免こうむりたい。

397: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/30(土) 02:52:38.66 ID:abUgDWIv0

その思考の理屈の趣旨を少々分かり易い例示を交えて意訳したが、
およそそんな事を思案していた鹿目まどかは、
であるからして、今、目の前で
見事な翼の巨大なトカゲが素晴らしくギザギザな歯を見せて
風を切ってこちらに突っ込んで来る、
等と言う展開もさもありなん、と、思考的には結論付けつつあった。

「神鳴流奥義・斬岩剣っ!!!」

その轟音が、まどかの意識を「こっち側」に引き戻した。

「ごめんなー、痛かったやろ。
でも、ちょっとあの娘にオイタは堪忍や。
ほな、あっち行ってなー」
「ご無事でしたかっ!」

目の前に、桜咲刹那の安堵の顔を見たまどかは、
近衛木乃香の声を聞きながらその場にへなへなと頽れた。

ーーーーーーーー

「あの、刹那さん………」
「この状況の説明、ですよね」

話の早い刹那に、立ち上がったまどかがこくんと頷く。

「まず、ここは魔法の国、魔法世界です」
「魔法世界?」
「はい、その通りです」
「魔法の世界、って、つまり、
えーと漫画やアニメに出て来るみたいな魔法の世界で
別の世界って言うか………」

「そう思っていただけるなら、話は早いです。
場所としては、火星の異次元空間にある様です」

398: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/30(土) 02:55:56.39 ID:abUgDWIv0

「あーまどかちゃん、大丈夫やから瞳のハイライトオンしてな」

「あ、はい、カセイノイジゲンなんですね」
「ええ、理屈としてはそういう事になりますが、
元の世界に無事戻る方法は確立されていますので
その辺りの事はご安心下さい、失礼」

鹿目まどかは、一礼して跳躍した桜咲刹那が、
斜め上結構上空でプテラノドンの魔改造か何かみたいなの一撃して
まどかの隣に戻って来て一礼するその間、億のつかない35秒を
大汗を浮かべて眺めていた。

ーーーーーーーー

「少し、手間取りましたね」
「ごめんなさい、私が足手まといで」
「とんでもないっ!」

陽の沈んだ後、荒野の中の焚火の前で、
頭を下げるまどかを刹那が両手で制した。

「そもそも、魔法少女に関わっているとは言え、
一般人を勝手に魔法の世界に連れて来てしまった事自体、
身近にいた魔法使いとして大変な責任ですから」

「さっきも言ってましたけど、理由は分からないんですか?」

「両方の世界を繋ぐゲートが暴走した、
それは確実なんですが、事態は明らかにイレギュラー。
現在使われていなかったゲートが急に稼働した結果です」
「焼けたえー」

そこで、にこにこ笑った木乃香がマンガ肉を二人に差し出す。

399: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/30(土) 03:00:10.61 ID:abUgDWIv0

「いただきます」
「………どうですか?」

「はい、ええと普通に美味しいって言うか、
本当に普通のお肉みたいだし、
刹那さんが一生懸命戦ってくれてたのも分かりますから」

「そうですか。では、食べたら休んで下さい。
明日には市街地に到着します。
そこで普通の食事と寝床も用意できます、
そこから帰りの算段もすぐにつけます。
ですから今夜だけはご辛抱を。
安全だけは私が必ず」

「はい………あの」
「?」
「刹那さんも寝ないと」
「大丈夫」

そこで、木乃香が口を挟む。

「うちが交代するさかい、
うちでも見張りぐらいは出来るえ。
心配してくれてありがとな」

木乃香がにっこり笑い、
まどかが、何とか材料をかき集めた寝床に身を横たえた。

400: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/30(土) 03:03:52.40 ID:abUgDWIv0

ーーーーーーーー

オ オ オ オ オ オ オ…………

英国、某基地内。
長谷川千雨と雪広あやかのアーティファクトとコネを総動員して、
日本国内某基地からこの基地迄を
地球上で科学的に最も速いであろう乗り物で直行した結果として、
暁美ほむらと美樹さやかはバケツに顔を突っ込んでいた。

「はいはーい、乗り物酔いは収まりましたですわねー」

顔を上げた二人が見たのは、
どうも十代後半ぐらいであろう快活そうな女性であった。

「雪広のお嬢様からあなた達の事を最高スピードで、
とのオーダーによりわたくしが選ばれた訳でございますから、
それでは早速参りますわよ」

かくして、二人はあれよあれよで
ジャガーEタイプの座席にふらふらと到達する。

「シートベルトオッケー歯の食いしばりオッケーですわね。
信号機オール進めの根回しオッケー、
それではエンジン全開出発進行でございますわよおっ!!!!!」

401: mita刹 ◆JEc8QismHg 2017/12/30(土) 03:07:52.51 ID:abUgDWIv0

ーーーーーーーー

「………ウェヒヒヒ?」

夜も明け、程なくして新・オスティア都市部に到達した鹿目まどかは、
脳内での過密処理に難渋しながら通りに突っ立っていた。

「あー、やっぱりそうなるわなー」
「大丈夫ですよ」

目の前で、にっこり微笑む刹那の顔を見て、
まどかの脳内ではようやくカシャンと噛み合った。

「見ての通り、獣やら魔物やらに見える人達も色々いますが、
ええ、彼らは人と言って差し支えの無い存在です。
我々と同様の感情も頭脳も意思疎通もあります。
そして、このオスティアの都市部は相応の秩序も保たれています。
私達がついていますから、海外旅行程度に気を付けていれば大丈夫です」

「まあー、今回は逃げ隠れする必要もないしなー」
「は、はい、有難うございます」
「それでは早速、寄りたい所がありますので」
「はい」

かくして、刹那を先頭にした三人組が到着したのは、
巨大な扉の前だった。

==============================

今回はここまでです>>395-1000

本年最後の投下の可能性が大ですので
一言ご挨拶を。

よいお年を。

続きは折を見て。

402: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/16(火) 02:52:43.93 ID:poFWmeVh0

==============================

>>401

 ×     ×

連合王国ウェールズ国内

「はーい、お車はここまででございますわよーっ」

運転手が陽気に声をかけた時、ジャガーEタイプの各席では
辛うじてマウス・ピースを吐き出した美樹さやかと暁美ほむらが
べろんと舌を出して脱力していた。

「出発の前に、お食事のご用意がありますわ」
「「いただきます…………」」

人里離れた緑豊か過ぎる一帯で、
少しばかり車を離れていた運転手が用意した食事に、
二人の魔法少女はふらふらと両手を合わせる。

「………それでもその有様で食が進むのは、
なかなかの根性でございますわね」

「うん、さっきの基地で出すもん全部出しちゃったし」ガツガツガツ
「作りだけは頑丈に出来てるから」モシャモシャモシャ

「ふふっ、気に入りましたわ」

403: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/16(火) 02:59:57.69 ID:poFWmeVh0

「でも、今度はもっと穏便に、
折角のイギリスだから優雅にティータイムとか洒落込みたいわー」
「なかなか、簡単にお似合いとは言えない事ですわよ」
「お互いにね」

\アハハハハハハ/

「それではどうも」
「ご馳走様でした」
「それでは、お気を付けになって」

スターゲイジーパイとハギスをお腹いっぱいご馳走になり、
さやかとほむらがぺこりと頭を下げて運転手も陽気に見送った。

「いやー、なんか凄い人だったね」
「確かに、凄い運転だった。魔法少女じゃなかったら心臓止まってたかも」
「言えてる。まあ、流石に今回だけの付き合いだろうけど」
「そう願いたいものね、少なくとも同乗者としては」

ーーーーーーーー

さやかとほむらがジャガーから離れてどれぐらい経過したか、
二人は霧の中にいた。

「駄目ね」

ほむらが携帯機器を見て言った。

「スマホと軍用のGPS、
用意はしておいたけど、完全に妨害されてるわ。
この分だと方位磁針も当てにならないと思った方がいい」

「で、気が付いてるよね」
「誰に言っているのかしら美樹さやか?」

自分のソウルジェムを掴んださやかの側で、
ほむらが手だけファサァと架空の黒髪を払う。
二人共麻帆良で用意されたフードつきのローブ姿だった。

404: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/16(火) 03:03:59.08 ID:poFWmeVh0

「この空間、結界の類よ」
「だったら………」
「ええ、私達が知っているものとは異質な部分はあるけど、
魔力を辿って行けば辿り着ける………その前に………」
「!?」

最近まで疎遠、と言うか避けていた部分のある「転校生」に
バッと手を握られ、やはり慣れない感情を抱きながらも、
さやかはほむらと共に走り出していた。

「引っ張らない様に気を付けて」
「オッケー」

ほむらが注意しているのは空中に浮いている紐であり、
その先にはゴムボールが縛り付けられていた。

「霧の中からこっち囲んでた?」
「ええ、だから、
迷う前に時間停止を解除して又方角を確認するわよ」

 ×     ×

「あの、ここって………」

魔法世界新・オスティアの一角で、
鹿目まどかは巨大な門を見上げて問いを口にした。

「温泉です。このオスティアは現在は観光都市、
中でもこの巨大温泉は魔法世界の中でも
極めて高い知名度を誇っています」
「これが、温泉………」

桜咲刹那の回答を受けて、
自分の知識がどれぐらいだろうか、と思いながらも、
それでも桁違いに大規模そうな建物を前にまどかは瞬きをする。

405: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/16(火) 03:08:41.48 ID:poFWmeVh0

「この温泉は魔法世界でも一種の聖域、
ですからここで少々確かめたい事もあります。
只、鹿目さんがこうした所が苦手だと言うのでしたら………」
「いえ」

真摯な態度の刹那の言葉に、
まどかはにこりと笑顔で応じた。

「今、お風呂に入れるんだったらそれはとっても嬉しいなって。
魔法世界の温泉ってちょっと興味あるしウェヒヒヒ」
「そうですか」
「せやせや、こんなんなる迄お風呂無しって、
女の子には辛いとこやなー」

もちろん作為的に言った部分はあっても、
およそ正直な事を言ったまどかに近衛木乃香が気さくに声をかけ、
刹那もほっとして返答する。

ーーーーーーーー

「ウェヒヒヒヒヒ」

まどかが知る温泉、入浴施設、温泉レジャー云々を
まとめてぶち込んで桁を一つ二つ外した様な光景の中、
鹿目まどかは借り物のタオルをぶら下げて突っ立っていた。

「相変わらず凄いなぁ」
「はい、凄いですウェヒヒヒ」
「気に入ってもらえて何よりです」

隣からまどかに声を掛ける木乃香にまどかも素直に目を輝かせた。
そして、きょろきょろ辺りを見回していたまどかが、
つーっと視線で半円を描く。

406: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/16(火) 03:12:37.10 ID:poFWmeVh0

「相変わらず、こっちの人はスタイルええなぁ」
「そうなんですねウェヒヒヒ」

すらりと背が高くそれでいてボンキュボンで
生物学的レベルで異国情緒過ぎる美女二人組が通り過ぎるのを
つーっと目で追っていたまどかに木乃香がにこにこ声を掛けた。
改めて、いよいよどの温泉に、と、まどかが思った刹那、
手近な湯舟からどっぱーんっと水柱が上がる。

「彼女は狼藉には不慣れなあちらの世界の一般人ですので、
オイタはご遠慮いただけますかね?」ギリギリギリ

「いやいや、背丈こそおちびさんでも、
あの全体のふわふわ感は愛情に包まれてすくすく育ったもの。
故に、ちょっと見の大きさだけでは測れぬ
健康に育ったそのぷにぷに感こそがモフフフフ
その上であの至高の白絹の肌に包まれた慎ましき………」メキメキメキ

「それが遺言ですか?」ギリギリギリギリ

「えーとウェヒヒヒ」
「気にしない気にしない、気にしたら負けや、さ、お風呂入ろ」
「はい」

最近知り合った美少女剣士とこの辺では割と見かけるタイプの褐色の女の子が
普通に硬そうなお風呂の床で寝技の応酬をおっ始めたのを横目に、
鹿目まどかは大汗を浮かべながら未知の入浴に心躍らせた。

407: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/16(火) 03:16:08.48 ID:poFWmeVh0

ーーーーーーーー

「ふぅーっ」

とにもかくにも、とてつもない数の湯舟から
木乃香に手を引かれるままに温泉を堪能し、
少々体が茹った所でまどかは湯を上がる。

「んー」
「?」

床に立ち、タオルでまとめた髪の毛を解いたまどかに
湯舟の中から木乃香が微笑みかける。

「髪解くと感じ変わるなぁ。
その、ちょっとうぇーぶしたのが可愛ええわ」
「私はこのかさんのすっごく綺麗な長い黒髪が羨ましいですけど」
「ややわー」

木乃香がころころ笑いながら湯を上がり、
まどかが羨む黒髪をタオルから背中にさらりと流す。

「あの、暁美ほむらちゃんも」
「はい、さらさらの綺麗な黒髪で美人で」

「まどかちゃんも可愛ぇよ。可愛い小動物系と言うか、
隠れファンとかクラスに一杯いるんと違う?」

「ウェヒッ、ママみたいな………
あ、ごめんなさ、い………」

調子に乗って人込みでおしゃべりが過ぎた上での感触に、
頭を下げようとしたまどかが目をぱちくりさせる。
確かに、体に当たった時点で、肌に触れた感触がちょっと変わっていた。

408: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/16(火) 03:20:12.10 ID:poFWmeVh0

「ぬい、ぐるみ?」

最初、キュゥべえの事をぬいぐるみだと思った。
確かに、今見ているのも、形状自体はぬいぐるみに見えない事もない、
只、問題はそのサイズだった。

ここにいる時点で着ぐるみではなさそうだ、
確かに、今まで見ていてこの手の人がいても不思議ではない。
それはその通りであるのだが、それでもやはり見た目微妙に可愛くても
サイズが多分ヒグマ越えでそのままの姿の生き物で、

「もしかしてあっちの世界の娘かい?」
「ウェヒッ?」

そして、まどかは気さくな中年女性に声を掛けられていた。

「こっちの世界でも北の方だと私らの同類は少ないからね」
「あ、あのっ、私達の世界の事をっ?」

「ああー、ちょっとだけ知ってるよ。
昔、こっちに来た娘達を世話した事があってる。
アンタ、ちょっとあの娘に似てるかね。
ほら、そんな風に可愛らしく笑う所も」

「ウェヒヒヒ」

気さくに笑う、どうやらかなり懐の深い女性らしい
でっかく温かそうな熊のぬいぐるみに優しく話しかけられ、
まどかもほっと笑みをこぼしていた。

409: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/16(火) 03:23:57.35 ID:poFWmeVh0

ーーーーーーーー

「あら」
「おや」

木乃香とまどかを追っていた刹那は、
ふと近くの浴槽に視線を向け、声を掛ける。
そちらでは、浴槽の中の岩の島で刹那と同年代の少女の一団が寛いでいた。

それぞれタオルを手にしているが、元々ここは女湯、
それも彼女達が女子校育ちと言う事もあってか、タオルの身に着け方もまちまち。

集団の中心となっているのは、
ツインテールの金髪から「角」が覗いている褐色肌の少女。

彼女を中心とした一団の大半は、
この風呂場にはよくいる人間と獣、或いは幻想獣の特徴を備えているが、
角ツインテールの隣のきちっとした黒髪ショートカットの少女達だけは
人間以外の外見上の特徴は見当たらない。

==============================

今回はここまでです>>402-1000
続きは折を見て。

411: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/19(金) 02:37:09.05 ID:IOxANT5I0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>409

「ユエの友達の?」
「はい、桜咲刹那です」

岩の島から声を掛けられ、刹那はぺこりと頭を下げる。

相手は、魔法世界の独立学術都市
アリアドネーの騎士団の騎士団候補生グループ。
その中でも、綾瀬夕映が一時所属していたために、
刹那とも面識のあるグループだった。

そうすると、声を掛けて来た少女、
褐色肌に頭から垂れる耳を持ったコレット・ファランドールは
島から湯に入りざばざばと刹那に近づいて来た。

「やっぱり! ユエは元気?」
「はい、とても。あなた達との再会を心待ちにしています」

可能なら手を取らんばかりに食いついたコレットの質問に、
刹那も優しい微笑みで返答する。
コレットが動作からしてぱあっと明るくなり、岩の島にも喜色が広がる。

「それはそうと」

刹那が言葉を続けた。

「アリアドネーの騎士団候補が集団でこちらに?」
「あら?」

いつの間にか湯に入り、そそそと接近していた
角ツインテールの少女が口を挟む。
この集団のリーダー格、エミリィ・セブンシープだ。

「あなたもその用事でなくて?」

412: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/19(金) 02:40:09.16 ID:IOxANT5I0

ーーーーーーーー

「チーフさん」
「おや、確かコノカだったかい?」
「はいな」
「知り合い、なんですか?」

するりとまどかの隣に立って
熊のぬいぐるみな外見の多分中年女性と言葉を交わす
近衛木乃香にまどかが尋ねた。

「うん、前に友達が世話なって」
「アコ達は元気かい?」
「はいな。チーフはこっちに?」
「ああ、仕事にね。あんた達もその用事じゃなかったのかい?」

ーーーーーーーー

「せっちゃんせっちゃんせっちゃん!」
「お風呂で走ると危ないですよ」

ぱたぱたと急接近して来た木乃香に刹那が優しく言うが、
きらきら輝く瞳で刹那に縋り付く木乃香を、
後を追ったまどかは大汗を浮かべて眺めていた。

ーーーーーーーー

「凄い………」

いただいたばかりの温泉をあっさり無効化しそうな熱気。
建物に入る前からの尋常ならざる盛り上がりの中、
きゅっと手を握られる感触を確かめる。

「私から離れないで下さい」

刹那の言葉にまどかが頷く。

413: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/19(金) 02:43:59.00 ID:IOxANT5I0

「でも、なんか大変な事みたいなのに私までいいんですか?」
「大丈夫大丈夫」

まどかの隣で、木乃香がにっこり笑う。

「まあー、確かにコネそのものやけど、
向こうさんも二つ返事で入れてくれたさかい」
「確かに、濫用は控えるべきですが、
そのぐらいの事はしましたからね。こちらです」

そして、刹那を先頭に三人は長蛇の列とは別の入口へと移動する。

ーーーーーーーー

どういう状況か、まどかにも朧気に把握出来た。

スタジアムの中を、一般の混雑を他所に
スタッフが案内するVIP待遇で通路を進み、
そして観覧席へと到着した。

まどか達の前方には、如何にも高貴な椅子に掛けた、
やはり褐色で少々変わった耳の形の女性が腰かけている。
まどかの見た所では高校生ぐらいの年齢、民族衣装か何かなのだろう。

その側には矍鑠としたスーツ姿の年配の女性、
こちらは色白で豊かな白い髪の毛から生物学的な角が見える、
そんな女性が椅子の側に起立して控えている。

「おお」

前方の二人がこちらを見て、褐色の女性が立ち上がり声を掛ける。
刹那がざざっと片膝をついた。

「この度は、この様な席までお招きいただき感謝いたします。
姫様、グランドマスター(総長)」
「お招きいただき、おおきに」
「あ、有難うございます」

木乃香がぺこりと頭を下げ、
勢いで土下座一歩手前だったまどかもそれに倣う。

414: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/19(金) 02:47:09.13 ID:IOxANT5I0

「おお、久しぶりじゃの。
その娘か? 旧世界の知り合いと言うのは?」
「はい、鹿目まどか、と申します。
行き掛りで私達と同行する事となりまして、
無理をお願いしました」
「あ、あの、鹿目まどかです。有難うございます」

刹那の言葉に続き、まどかがもう一度頭を下げる。
まどかの見た所、褐色の女性の方が偉い、それも尋常じゃなく。
側に控えるスーツのご婦人も気品があり、只者ではなさそうだ。

「うん。私はテオドラ、ヘラス帝国の第三皇女である。
この魔法世界において、南北二つの大きな国の一つ、
ヘラス帝国の三番目のお姫様、易しく言えばそういう事じゃな」

「アリアドネー騎士団総長のセラスです」
「は、はいっ」

「良い、頭を上げよ。いい娘の様だ。
名乗る以上説明はしたが、この者達には返し切れぬ恩義がある。
まして、この者の言う事であれば信ずるに値する」

「「有難うございます」」

刹那とまどかが同時に言った。
こちらに来てからはよく見かける褐色肌にちょっと別の生物っぽい、
それでも、素人のまどかが見ても分かる高貴な美人。
まどかが何の事情も分からなくても平伏してしまいそうなオーラと、
それでいて懐の深い優しさがそのまま感じられる相手だった。

「ほら、そろそろ始まるぞ」

テオドラの言葉に、三人はスタジアムの試合場に視線を向けた。

415: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/19(金) 02:50:35.78 ID:IOxANT5I0

「あれが………」
「はい、私達の担任、ネギ・スプリングフィールド先生です」
「本当に、十歳の子どもなんだ………」

スタジアムに現れた男の子を見て、まどかは感心を口にする。
まどか達は明らかにVIP待遇の観覧席にいるが、
スタジアムの観客、熱気はとんでもない事になっている。
そんな中を、まどかよりも年下の少年が堂々と、
それも虚勢には見えない品のいい仕草でスタジアム中央へと進んでいる。

「ラカンさん」

木乃香の言葉に、ネギとは逆側に視線を向けたまどかは目を見張った。
一言で言えばマッチョマン、
確かテレビの映画で聞いた、筋肉モリモリマッチョのなんとか。

「あ、あの………」
「ん?」

掠れる声で尋ねるまどかに、木乃香がにこーっと応じる。

「えーっと、その、この、スタジアムって、
なんか、戦う、みたいなそういう事確か来る前に
そんな事と言いますか………」
「案ずるな」

答えたのは、くすっと笑ったテオドラだった。

「優しい、いい娘の様じゃの。
たまにはなかなか刺激的なものが見られるぞ」

416: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/19(金) 02:53:59.24 ID:IOxANT5I0

ーーーーーーーー

鹿目まどかが呆然としている間にそれは始まり、終わった。
ここ最近、見るだけであれば、
まどかも非常識な戦いと言うものをそれなりに経験している。
先輩の巴マミの魔砲力等は兵器と言ってもいいだろう。
だが、今見ていたものは、桁が二つ三つ違った。

「あー、負けてもうたなぁ」
「残念でしたね」

首をつーっと動かして、会話をする木乃香と刹那に視線を動かしながら、
まどかはようやく口を閉じる。
取り敢えず、スタジアム中央で握手をしている
ネギが負けてラカンが勝ったらしい。

まどかに言わせればそれはまあ、
ちょっと服装をいじれば可愛い女の子にすら見えそうな
確かにここでは精悍な雰囲気でもまどかより年下の少年、小さな男の子と
見た目からして魔女の一つや二つ捻る事が出来そうな
筋肉モリモリマッチョのなんとかが正面対決すればそれはそうなるだろうと。

魔法を駆使していい勝負をしていた、
と言うのは一応まどかにも理解は出来たが、
とにかく壮絶、の一言だった。

「さあ、お待ちかねじゃぞ」

==============================

今回はここまでです>>411-1000
続きは折を見て。

417: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/20(土) 03:17:36.58 ID:X0NSnIeo0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>416

ーーーーーーーー

「セブンシープ分隊、お召により参上しました」
「有難う」

試合の余韻も冷めやらぬスタジアム。
その貴賓室で、片膝をつくエミリィ・セブンシープ以下に
セラス総長が声を掛ける。

「事情は先に伝えた通りです。
イレギュラーな任務、いえ、お願いと言うべき事で申し訳ありませんが」
「大切なゲストの案内、光栄です」

セラスの言葉に、エミリィが改めて一礼する。

「鹿目まどかさん」
「はい」

セラスの言葉に、格好いい黒制服の一団を眺めていた
鹿目まどかが小さく飛び跳ねそうに返答する。

「今から少し、彼女達と行動を共にして下さい。
こちらの二人も一緒です」
「分かりました、有難うございます」

刹那と木乃香が小さく頷くのを見て、
まどかが頭を下げた。

「この人達は、私達とも存じよりです。
ご配慮感謝いたします」

刹那が言い、刹那と木乃香も頭を下げた。

418: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/20(土) 03:21:38.93 ID:X0NSnIeo0

ーーーーーーーー

「箒は初めて? 命綱は付けた?」
「はい」

スタジアムの外でコレットに問われるまままどかが答え、
詳しい説明がなくとも今ここがどういう場所で
コレットが跨っているものが何か、と言う所から
今更ながらむしろ簡単過ぎて信じたくない予想もつく。

「うわぁー」
「ま、魔法の力で転落はしないけど、手は離さないでね」
「はい」

絵本そのままのシチュエーションで、
箒に跨ったコレット・ファランドールにしがみつく形で
建物よりも高く浮遊し、まどかは歓声を上げた。
周囲では、刹那と木乃香も他の面々の箒で飛行を始めていた。

「確か、アリアドネー騎士団、でしたっけ?」
「はい」

まどかの声に、隣を飛ぶエミリィが応じた。

「あなたの事は、旧世界からの迷い人であり
こちらのコノエコノカ、サクラザキセツナの同行者と伺っています。
我々はオスティア総督府での夜会までの案内とガードを仰せつかりました」

「ヤカイ?」
「パーティーや」

「色々引っ張り回して申し訳ありませんが、
向こうの世界に戻るための根回しだと思って下さい。
無論、鹿目さんに何かをしてもらうと言うつもりはありません」

「美味しいお食事ぐらいに思っててええさかい」
「はい。皆さんも有難うございます」
「だーいじょうぶ大丈夫」

まどかの言葉にコレットが口を挟んだ。

419: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/20(土) 03:25:18.37 ID:X0NSnIeo0

「私達もユエの事とか色々聞きたかったしね。
それに、そのまま夜会で自由行動って聞いたら委員長が真っ先に」

コレットの言葉に、エミリィが大きく咳払いをした。

「ユエ?」
「綾瀬夕映、麻帆良学園における私達のクラスメイトです」

ーーーーーーーー

まどか達が到着した先は、飛行船だった。
確かに、ゲートのある廃都からこちらの新・オスティア市街地に行き着く迄にも
なんとか危険区域を脱出した後でヒッチハイクの飛行船のお世話になった訳だが、
今乗り込んでいる飛行艇は、まどかの素人目にも立派に思える代物だった。

「よう」
「どうも」

飛行船に到着した面々を待っていたのは、
まどかから見たら
古い映画でトレーラーでも運転してそうな精悍なおじさんだった。

「ジョニーさん、お久しぶりです」
「協力感謝致します」

「おう、あいつら、ユーナちゃんやマキエちゃんは?」

「はい、元気にしています」
「そりゃあ何より。あんたらの事だし貰うモン貰ってるからな。
出来る事ならなんでも持って来いだ」
「有難うございます」

ドンと胸を叩くジョニーおじさんに刹那以下三人組が頭を下げる。

420: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/20(土) 03:29:00.46 ID:X0NSnIeo0

「この娘は?」
「はい、少々事情がありまして」
「やっぱり、旧世界の?」
「ええ。こちらはジョニーさん、以前こちらの世界で一方ならぬ協力を」
「いやー、そんな大層な事じゃねーって」

「どうも、鹿目まどかです」
「ははっ、素直でお嬢ちゃんだな。あいつらの事思い出すよ。
ま、ここじゃあ大船にいるつもりでいてくんな」
「有難うございます」

ジョニーの言葉に、まどかがもう一度頭を下げる。

ーーーーーーーー

「まどかちゃん」

飛行船のリビングで、木乃香がまどかにスマホを差し出す。

「この娘、この娘がゆえや」
「へえー………ウェヒヒヒ………」

まどかがそれを目にした瞬間、一挙に高まった背後の密度に
まどかが乾いた笑いを漏らす。

「夕映さんは一時期彼女達、アリアドネー騎士団で
共に候補生として参加していた事があります」
「アリアドネー騎士団」

刹那の説明を聞き、先程も聞いた単語をまどかは聞き返す。

「アリアドネーはこの魔法世界の都市の名前です。
極めて高い独立性と学術水準を持つ独立学術都市だからこそ、
その中立かつ高度な技術のアリアドネーに属する魔法騎士団の意義があります」
「その通りですわ」

刹那の説明に、エミリィが腕組みしてうんうん頷く。

421: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/20(土) 03:32:27.77 ID:X0NSnIeo0

「夕映さんは私達の同級生ですが、
事情によりそのアリアドネー騎士団候補生としてに参加し、
今でもその身分を持っている筈です」

「ま、まあ、そういう事もありましたわね。
それで、そのお話に出て来た旧世界に戻った候補生は
その後如何です事?」

「はい、すこぶる元気に、
あなた方との再会を心待ちに勉学、修行に励んでいます」
「それは結構」

刹那の言葉にエミリィが頷くが、
既に周囲もくすくす笑いが我慢出来ないエミリィの顔の緩みが、
まどかにも何となく関係性を察知させる。

「でもさ、凄かったんだよユエ」

笑いを噛み殺しながら、コレットが話に加わった。

「最初は全然だったけどメキメキ上達して
あの時の選抜チームにも実力で選ばれて」
「ま、まあ、向上心と努力は立派なものでしたわね」
「凄かったんだ」
「ん」

呟くまどかに、木乃香が声を掛けた。

422: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/20(土) 03:35:43.43 ID:X0NSnIeo0

「ゆえはな、うちのクラスメイトで学校の図書館探検部でも一緒、
それで、おんなじぐらいに魔法に関わったけど、
頭が良くて一杯勉強してなぁ、ほんまに凄い娘や」

「それは、お嬢様も同じです。
溢れる程の才に驕らず、幾度となく地獄の特訓を繰り返して」

刹那の言葉に、木乃香ははにかんで小さく頷く。

綾瀬夕映、まどかも、女子寮に行った時も含め
ちょいちょい写真を見せてもらったが、
もっさりなぐらいたっぷりとした黒髪でまどかよりも更に小柄な女の子。

何時も一緒の娘とは対照的におでこが光り、
そして、ちょっと冷静に見えながら
みんなと一緒にいい笑顔で撮影されている少女。

「さあさ」

エミリィがぱんぱん手を叩く。

「そろそろ支度の時間でなくて?」
「そうだね、マドカ」
「はい?」

にっこり笑うコレットにまどかが聞き返す。

「こちらへ」
「よろしく頼みますわよ、ビー」
「かしこまりましたお嬢様。
ベアトリクス・モンローと申します」

案内の分隊メンバーの中から、この中では珍しく
生物学的に人間の少女にしか見えない黒髪の娘がまどかに一礼した。

423: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/20(土) 03:39:02.11 ID:X0NSnIeo0

ーーーーーーーー

「上がりました」
「それではこちらに」

VIP待遇とは言え大混雑のスタジアム帰のまどかが、
高級飛行船らしくシャワーでさっと汗を流してバスローブ姿で戻った所で、
ビーことベアトリクス・モンローが飛行船内を先導する。

ベアトリクスは、生物学的にやや人間離れした面々の多い中、
余り長くないかちっとした黒髪の、
元の世界でまどか達の側にいてもおかしくない少女だった。

そして、ビーに連れられた飛行船の奥で扉が開くのを見て、
まどかはわあっと声を上げた。

「パーティー会場になりますので、お好きなものをお選び下さい」
「え、ええーっと、ウェヒヒヒ………」

素人目にも分かるゴージャスな臨時クローゼットのラインナップに、
まどかは乾いた笑いを漏らす。
だが、それでも、中の上以上の家庭に育ち、
友達付き合いで上条恭介のコンサートにも出入りしていた。
そんな経験があって本当に良かったとまどかは有難く思う。

「こちらですね? 社交場の嗜みも騎士の任務の内、
万全に淑女を完成させていただきます」
「うらー、良いではないか良いではないかー」
「ウェ、ヒヒヒ、ヒヒヒヒ」

閉ざされた扉の向こうからの声を、
残された一同は大汗を浮かべて聞いていた。

==============================

今回はここまでです>>417-1000
続きは折を見て。

424: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 02:48:04.20 ID:l+RyK1Mr0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>423

ーーーーーーーー

「ウェ、ヒヒヒヒ………」

陽もとっぷり落ちて、まず、坂の上に見える建物、
到底お役所等と言う規模ではないオスティア総督府の
宮殿そのものの威容にまどかの口から乾いた笑いが漏れる。
あんな所で開かれるパーティーと言ったら、
それこそガラスの靴を履いていく世界にしか見えない。

「あ、あの、刹那さん、このかさん」
「はい」
「変、じゃないかな?」
「よく、お似合いです」
「可愛えぇなぁ」
「ウェ、ヒヒヒヒ………」

刹那と木乃香は褒めてくれるが、
まどかはそれに対して乾いた笑みを返すばかり。

「我々は伝統と栄誉ある騎士団。
まして、ビーは幼少時より私の側にいた者。
公の場における嗜みも身に着けています」
「あ、すいません」

エミリィの言葉に、まどかが小さく頭を下げる。

425: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 02:51:32.68 ID:l+RyK1Mr0

「とても、よくお似合いです」
「うんうん」

コレットはとにかく、と言っては何だが、
如何にも真面目そうなベアトリクスの言葉は文言によらず
何となくまどかを安心させてくれる。
そうすると、コレットの誉め言葉も素直に聞こえる。

まどかとしても、多少の余所行きの経験はあるが、
本格的なパーティードレスは初めて。
それでも、微かな鴇色を流したふわふわの白いドレス、
両サイドをリボンでくくりながらも長めに垂らした後ろ髪。
飛行船の姿見で見た自分の姿がちょっとだけ誇らしくなる。
そして、改めて元々の同行者である二人を見る。

今回の木乃香の服装は白いドレス姿。
前の茶会の振袖も見事なものだったが、
白を基調としたパーティードレスも木乃香の違った魅力を引き出す。

素晴らしい黒髪の美少女の、日本人形の様に清楚な魅力と共に、
やや大人びたパーティードレスは、
一つ年上の先輩の綻ぶ様な色気すら匂わせてまどかを魅了する。

先に記した事情で、
まどか自身にクラシックコンサートに行く機会があった事も、
まどかに木乃香の魅力をより感じさせる。

そんな木乃香の隣に控える刹那は、格好良すぎる。
ボディーガードそのものの黒服パンツスーツ姿。
それは、凛々しいと言う言葉がぴったりであり、
それでいて、その凛々しさは同時に美しい女性、
と言う評価を邪魔しない。

426: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 02:55:38.83 ID:l+RyK1Mr0

「手間のかかる事で申し訳ない」

そこで、又、刹那が一つ頭を下げた。

「本来であれば勝手に巻き込んだ鹿目さんを
一刻も早くお返ししなければならない所。
只でさえ気苦労の事を異国で強いる事となってしまい。
今はこのルートから通した方が話が速いものでして」
「こちらこそ色々していただいて有難うございます」

刹那の真摯な態度に、まどかもぺこりと頭を下げた。

ーーーーーーーー

「それでは、私達はこれで」
「有難うございました」

宮殿の門番は騎士団が書面を示して交渉すると易々と道を開け、
途方もなく広い宮殿の一角のエントランスで、
まどか達から離れる騎士団の面々にまどか達は頭を下げた。

「えっ、と、綺麗なお料理もあるけど………」
「肉、やな」
「肉、ですねウェヒヒヒ」
「飛行船のサンドウィッチは美味しかったけど、
色々あってお腹ペコペコやな」

立食パーティーに潜入したまどかは、
目の前の木乃香の豪快な、それでいて汚さを感じさせない動きを
早々にトレースして実行を開始する。

「チキンも美味しいけど、
あれ、子豚の丸焼き、美味しい所切ってもらおな」
「はいっ」

まどかとしては、年頃の女の子として、
ここを出る迄にドレスのお腹周りは、等と思わないでもないが、
一方で、まだまだ色気より食い気の精神年齢。
正直知らない世界を動き回って、その上こんなに美味しければ尚の事。
普段から豪快美人が身近にいる可愛い女の子の鹿目まどかとしては、
既に鳴り始めたお腹、それが最優先だった。

427: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 02:59:05.69 ID:l+RyK1Mr0

「あ、これも美味しそう」

木乃香を追跡していたまどかが、途中で視界に入ったテーブルに進路を変える。

「こっちも美味しそうだけど、このお皿で一緒だと、
えーと、やっぱりこっちを………」
「おい」

やけにドスの利いた声にまどかが振り返ると、
やけにガタイのいい給仕の男性が
両腕に大量の皿を携えて眉をひくひく動かしていた。

「ご、ごめんなさいっ!」
「人の行く先行く先のたのたしやがって」
「す、すいませんでしたっ!!」

そう言えばテーブルの上もかなり隙間が開いている。
まどかが青い顔で頭を下げながらざざっと横に移動し、
給仕はざざざっと料理を並べ直す。

「ちょいと」

聞き覚えのある声を耳にしてまどかが顔を上げると、
ガタイのいい給仕がボロボロになる迄
でっかい熊のぬいぐるみにじゃれつかれている所だった。

「ウェ、ヒヒヒヒ………」
「すいませんねぇ、お客様に失礼な態度を」

そして、ぬいぐるみは、
大汗を浮かべて突っ立っているまどかに声を掛ける。

428: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 03:02:31.75 ID:l+RyK1Mr0

「い、いえ、私も不注意でしたから。
クママさんですよね」
「ああー、マドカちゃん。コノカ達と一緒かい?」
「はい。クママさんはここで?」

「ああ、私は仕事でね。あっちに活きのいい魚が届いてるよ、
ニホンの子って好きなんだろ?」

「はい、有難うございます」
「うん、そのドレスと髪型も、よく似合ってるよ」
「有難うございますっ」

まどかがぱたんと体を折り、
クママチーフはのしのしとその場を後にする。

「よう」
「あ、ごめんなさいっ」
「いや、俺が悪かった、いや、申し訳ありませんでした」
「アウウ………」

凄味駄々洩れな給仕の男に給仕に丁寧に頭を下げられ、
まどかは対応に困る。

「ったくっ」
「ひっ」

顔を上げた給仕の呟きに、まどかがたじっと足を引く。

429: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 03:06:21.43 ID:l+RyK1Mr0

「もしかして、例の旧世界の迷子ってお前か?
コノカって言ってたからな」
「は、はい、鹿目まどかです」

「そうかい、俺はトサカ。コノカ達とは知らねー仲じゃない」
「そう、なんですね。クママさんも」

「まあな。まあ、なんつーかあれだ、
いい加減おどおどしてないでもうちょっとしゃんとしとけ。
そっちじゃ馬子にも衣装って言うのか?
見栄えがしないでもないんだからよ」

「あ………有難うございます」

ふんっ、と、もう一度鼻を鳴らしたトサカが、
近くの柱の陰で顔を見合わせくすくす笑っていた給仕二名への
鉄拳的教育的指導を実行するのを
まどかは大汗を浮かべて眺めていた。

ーーーーーーーー

ちょっとはぐれたものの無事木乃香と合流し、
お腹いっぱい夕食をいただいたまどか、
そこに刹那も加わって宮殿の廊下を移動していた。

「刹那さんっ!」

その声を聞いた瞬間、まどかは、
刹那の顔がぱあっと明るくなるのを見た。

「刹那さん、こっち来てたんだ」
「お久しぶりですっ」
「もぉーっ、やめてよ。友達だって言ったでしょっ」

そうやって、頭を下げた刹那と言葉を交わしたのは、
恐らく刹那と同い年と直感出来る。
まどかから見るとすっきりとしながら出る所はそこそこ出ている、
盛装の夜会ドレスがスタイルの良さを引き立てている
中身は快活な少女だった。

430: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 03:09:28.88 ID:l+RyK1Mr0

「アースナっ」
「このか、しばらくっ。
そっちの娘ね、あっちの世界から来たって」
「あ、あの、鹿目まどかです」
「私は神楽坂明日菜、よろしく」

ぺこりと頭を下げるまどかに、明日菜がにかっと笑って答える。
長い髪の毛を鈴つきの髪飾りでツインテールに束ねた、
少なくとも美少女の部類には入る年上の少女。
確かに、先に見せてもらった写真の中にも彼女はいた。
だとすると、相当親しい間柄だと言う事も頷ける。
何しろ、木乃香が迷いなく明日菜の首っ玉にしがみつき、
明日菜がそれを軽く振り回しながら、それを見ている刹那共々
とってもいい笑顔なのだから。

「刹那さんっ」
「ネギ君」
「ネギ先生」

そして、近くの曲がり角の向こうに、
ひょんなきっかけで指先にキスを受けて真っ赤な顔でぐるぐる目を回した
褐色角つき騎士団候補生とそれを介抱する仲間達を残して
ぱたぱたとこちらに近づいて来たのは、
つい何時間か前にスタジアムでとんでもない激闘を見せてくれた、
刹那達の担任教師、弱冠十歳のネギ・スプリングフィールドだった。

「鹿目まどかさんですか?」
「はい、鹿目まどかです」
「騎士団から総長経由で刹那さんからの報告は届いています。
今回は大変な事に巻き込んでしまいました」
「い、いえ、あの、珍しい世界も見れましたし、
刹那さんもこのかさんの良くしてくれましたから」
「そう言っていただけると」

白人の少年だが日本語ぺらぺら、何よりも優しく礼儀正しい。
あれだけ勇壮な戦士が今は小さな紳士。
まどかにも、彼が慕われるのが分かり過ぎる程に分かる気がしていた。

「しかし、丁度本日がこちらでのイベントだったんですね」
「そぉーなの」

刹那の言葉に、明日菜が苦笑を見せた。

431: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 03:10:51.27 ID:l+RyK1Mr0

「外交日程って奴でさ、ネギ共々ね。
歓迎イベントで、その中でネギとラカンさんのエキシビジョンとか、
引き受けるネギもネギなんだからねっ!」
「ほへんははいっ」

あの勇壮で桁外れに途方もなく強い
ネギ・スプリングフィールドの口に明日菜の指が突っ込まれ、
唇が左右に広げられるのをまどかはくすくす笑って見ていた。

「な、お姉ちゃんみたいやろ」
「はい」

木乃香の言葉にまどかが快活に答える。
その辺、まどかの本音としては、きょうだいネタによくある
実物はこんなに可愛いもんでもないよな感情も無いではなかったが、
それは逆に実物も遠慮が無いぐらいに可愛いと言う事でもあり、
それでも微笑ましいと素直に思った。

「それでは」

刹那が、尽きない話を一旦引き取った。

「私と鹿目さんは明日一番にメガロメセンブリアに向かい、
政府と折衝の上であちらのゲートから鹿目さんを送り届けます」
「せっちゃんと二人で?」

木乃香が、ちょっと不思議そうに尋ねた。

「はい。今は鹿目さんの帰還が優先になりますから。
お嬢様はこの機会です、お二人と旧交を温めて下さい。
ネギ先生、ご多忙の所すいませんが、
お嬢様の帰還の手配を願えますか?」

「分かりました」
「まあ、そういう事情ならね」

刹那の言葉に、ネギと明日菜も名残惜しそうに承諾した。

432: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 03:14:04.26 ID:l+RyK1Mr0

「あ、あの、ごめんなさい。何か、凄くお邪魔と言うか………」
「いい娘ね」

まどかの言葉に、明日菜がくすっと笑って言った。

「でも、まどかちゃん? あなたが悪い所なんて一つもないでしょ、
事情はよく分からないけど
本当なら私達魔法使いが思い切り文句言われる所なんだから。
優しいのはいいけど、あんまり卑屈にならないの」
「有難うございます」

明日菜の優しさに、まどかはもう一度頭を下げた。

ーーーーーーーー

「はあーっ」

新・オスティア観光エリア、リゾートホテルの客室で、
浴衣姿のまどかが、ベッドの上にうつ伏せに体を投げ出した。

「気持ち良かったですね」

隣のベッドに座った刹那が、にっこり笑って声を掛ける。

「はい。なんか体の中から
悪いものがぜーんぶどばどば出て行ったみたいで、
すっごく疲れてたんですねー」

岩盤浴マッサージつきの入浴を終えて、
このツインルームに戻って来ていたまどかが長く息を吐く。

433: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 03:17:30.90 ID:l+RyK1Mr0

「流石に、一般人の立場では
ここまで肉体的な負担だけでも甚だしいものでしたし、
まして、普通の外国ですらない未知の世界でしたから
精神的な緊張も大変なものだったと」

「それでも、そんな所で私の負担が最小限になる様に
色々手を尽くしてくれて、本当に有難うございました」

「いえ、魔法の立場で巻き込んだ以上当然の事です」

「ここでも、普通に見ても人が一杯来てる時に、
こんないい部屋とってもらって、それに、浴衣ってウェヒヒヒ………」

「確かに、こちらから見たら異文化ですが、
なんと言いますかこちらでは我々は少々顔が利きます。
それに、こちらには立派な温泉もありますからね。
簡単に用意出来る良き風呂文化は導入も速いです」

「やっぱりドレスのパーティー緊張したから、凄く楽になりました」
「お似合いでしたよ」
「刹那さんもティヒヒヒヒ」
「有難うございます」

隣り合ったベッドで互いにうつ伏せになり、
まどかの言葉に刹那もにこっと笑って応じた。
その後で、刹那はよいしょとベッドの上に座り直す。

「鹿目まどかさん」
「はい」

改まった呼びかけに、少々砕けていたまどかも口調を切り替えた。

「あなたに一つ、お伺いしたい事があります」
「はい」

まどかの返答を聞き、刹那はベッドを降りてまどかの方に歩き出した。

434: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 03:21:09.90 ID:l+RyK1Mr0

「鹿目まどかさん」

ベッドの上に座り直したまどかは、
ベッドサイドから声を掛ける刹那を見ていた。

「あなたは、自分の人生が貴いと思いますか?
家族や友達を、大切にしていますか?」

まどかは、既視感を覚えながらも顔を上げた。
刹那は、まどかを静かに見下ろしていた。

「私、は」

まどかは、立ち上がっていた。

「大切に、思っています。
家族も、友達のみんなも、大好きで、
とっても大切な人たちです」
「そうですか」

言葉を選びながらも言い切ったまどかに、
刹那は静かに微笑みかけた。

「そうですね。わた………」
「?」

まどかが、異変に気付いた。
何かを言いかけた刹那がぱちぱちと瞬きをしている。
目を見開き、口をぱくぱくさせている。

「刹那、さん?」

まどかに問いかけられ、顔を上げた刹那は、
ごくりと息を飲んだがぱくぱく動く口から声は出ない。
その代わり、ぽろりと一筋、刹那の頬に涙が伝っていた。

「あ、鹿目、さん………」
「はい」

刹那がようやく声を絞り出し、まどかが応じる。
だが、その後に刹那の口から漏れるのは小さな呼吸音だった。

435: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/22(月) 03:25:22.10 ID:l+RyK1Mr0

「刹那さん? あの、大丈夫ですかっ?」

まどかの問いかけに、刹那は小さくうんうん頷く。
丸で、強力な腹の差し込みでも耐えている様な顔で。

「刹那さん、刹那、さん」

自分でも気が付いた時には、まどかは刹那に抱き着いていた。

「あの、何処か痛いんですか? 刹那さん?」

刹那に抱き着き、背中を撫でながら問いかけるが、
まどかの頭の上から刹那が発するのは、言葉にならない嗚咽だった。
刹那が、きゅっとまどかに抱き着き、
刹那が静かに呼吸を整えるのをまどかも感じる。
刹那の手が離れる。
まどかから離れた刹那が、ゆっくりと息を吐く。

「醜態を失礼しました」
「う、ううん」

馬鹿丁寧に一礼する刹那に、まどかが小さく首を横に振る。

「あ、あの………」
「ええ、大丈夫です。やはり少々疲れた様です。
休みましょう、明日は早くから遠出になりますので」
「はい」

まどかが見たのは、完璧なスマイルだった。
そこには、首を縦に振る以外の選択を即座に失わせる力が込められていた。

==============================

今回はここまでです>>424-1000
続きは折を見て。

436: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/23(火) 03:51:28.53 ID:lWROmukU0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>435

 ×     ×

大切、だよ。

家族も、友達のみんなも、

大好きで、とっても大切な人たちだよ

ーーーーーーーー

鹿目まどかは、自分の声を聞いた様な気がした。
そんな気がしながら、温かなベッドの中で薄目を開く。

(雨?)

耳からの情報で、なんとなくそんな事を考える。
見知らぬ天井。まどかはそのまま記憶を整理する。

魔法の世界に来て、
色々あってホテルのツインルームに宿泊して朝を迎えたらしい。

その辺りの諸々の事情を、
何とか頭の中で論理化しながらベッドの上で身を起こす。
口に手を当てながらふぁーっと大口を開けた辺りで、
視線の先のドアがガチャリと開いた。

「ああ、お目覚めでしたか?」
「あ、はい」

そこから現れたのは、桜咲刹那だった。
先程までの水音も今はやみ、
浴衣姿の刹那はバスタオルで黒髪を挟みながら
ツインルームのベッドサイドに戻って来た。

437: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/23(火) 03:57:45.10 ID:lWROmukU0

「鹿目さんも先にシャワーを使いますか?」
「あ、はい、そうします」

んーっと伸びをして、
そこで気が付いてベッドに垂れた浴衣を右肩に掛け直してから、
まどかは帯を締め直して立ち上がる。

その間に、刹那は着替えを用意している。
下着はドレス合わせのついでの様に簡素なものを用意してもらえたが、
それ以外は旧世界で着ていたものをクリーニングしたものだ。
まどかがふいっと刹那を見ると、
まどかと目が合った刹那がふふっと微笑み、まどかはバスルームに向かう。

まどかはシャワーを浴びながら考える。
あれは、自分の知っている桜咲刹那。
頼もしくて、誠実で優しい先輩。
さ程長い付き合いでもないが、
まどかが知る限りの今迄の桜咲刹那像と合致すると。

シャワーが朝の眠気を払っている事を自覚しながら、
まどかはそんな感じで自分の記憶と感覚を整理する。
眠気と寝汗をシャワーに流し、まどかは浴衣姿でベッドに戻る。
そこで着替えを終えると、洗面台に立った。

438: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/23(火) 04:04:56.38 ID:lWROmukU0

「あの………」
「はい」

洗面台から戻ったまどかが、刹那に声を掛けた。

「あの、このリボンって似合ってますか?」
「え? あ、はい。とてもよく」

刹那は、優しく微笑んだ。
常識的に考えるなら、今の状況の常識人なら誰でもそう答えるだろう。
そんな思いもあったが、それでも、まどかは異郷で鏡の前に立って、
ふとこの先輩に尋ねてみたくなった。

「良かった。このリボン、マ………母が選んでくれたんです。
私の隠れファンもメロメロだとか」
「そうですね」

刹那が、又、にっこり笑った。
そして、つかつかとまどかに近づく。

「戦術的観点から申し上げますと、
性格も体格も大人し目で優しい、小動物的に可愛らしい。
同じ教室にいれば引かれる異性も一定数してもおかしくないでしょうね。
そんなあなたの派手過ぎない、強めの色のリボンはさり気なく目を引く
いいインパクトになります」

「ウェ、ヒヒヒ」

大真面目に語る刹那にまどかが大汗を浮かべ、
その様子に刹那はふっと破顔した。

439: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/23(火) 04:08:29.71 ID:lWROmukU0

「一応、女性として一年程先に生まれていますのでこのぐらいは。
私から見てその様にとても魅力的です。
もっとも、専らこちらの武骨者で通っているのが女子校ですから
当てにして頂いても困りますが」

夕凪を手に大真面目に説明する刹那を前に、
まどかはとうとうくくくくと腹を抱えてしまった。

「あ、有難うございます。
刹那さんみたいに格好いい人にそう言ってもらえて
とても嬉しいですウェヒヒヒ」

「こちらこそ、光栄です。
それではそろそろ。やはり文化交流でしょうか、
ここはイギリス風の朝食が美味しい様です」

「はい、なんか、お腹がすきました」

優しく微笑む刹那に、まどかも元気よく答えていた。

==============================

今回はここまでです>>436-1000
続きは折を見て。

440: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/24(水) 03:26:28.73 ID:usJB+thL0
それでは今回の投下、入ります。

==============================

>>439

ーーーーーーーー

「それでは、お嬢様をお願いします」
「分かりました」
「ほなな、まどかちゃん」
「はい」

新オスティアの飛行船港で、桜咲刹那がネギに後を託し、
にこにこ微笑む近衛木乃香がまどかと挨拶を交わしていた。
そんな様子を、神楽坂明日菜は人差し指の背で顎を撫でながら眺めている。

「刹那さん」
「はい」
「帰ったらゆっくりお茶しよう。
最近ちょっと忙しかったから、みんなで原宿とかお出かけして」
「そうですね」

明日菜の言葉に、刹那はにこっと笑って即答した。
そんな刹那の笑顔を見ながら
人差し指の背で顎を撫でていた明日菜は、破顔して小さく頷いた。

「それでは」

刹那に促したのは、一見して彼女よりも年下の執事風の少年だった。
かくして、刹那とまどかは用意された飛行船に搭乗する。

ーーーーーーーー

「うわぁー………」

飛行船の窓から景色を眺めていたまどかが、声を上げた。
前例をほとんど知らないまどかであっても、
これがかなり高級な飛行船である事は分かる。
何時間かの飛行の間、乗り心地も上々の船内で、
まどかは雲を眺めたり軽く昼寝をしたりお菓子を摘まんだりと
いい加減異常事態にも慣れつつある移動時間を満喫していた。

441: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/24(水) 03:30:09.26 ID:usJB+thL0

「メガロメセンブリアですね」
「あれが………」

刹那にそれが目的地である事を告げられ、まどかが呟く。
程なく、魔法世界内の大都市メガロメセンブリアに到着した刹那とまどかは、
執事風少年の案内で徒歩での移動を開始していた。

「刹那さん」
「はい」
「魔法世界でもちょっと、感じが違うって言うか」
「そうですね」

まどかの言葉に刹那が頷いた。

「あちら、と言うよりもこの世界の南側はいわゆる亜人、
獣とか魔族に繋がる人達が多く、オスティアはいわば中間点です。
対して、北側の政治的中心に当たるこのメガロメセンブリアは、
私達にとっての元の世界に近い世界で、
魔法こそポピュラーでも住人もそういう事になっています」

刹那が噛み砕いて説明を行う。
確かに、飛行船から見た景色も今の道行きも、
丸で未来都市を思わせる、それでいて魔法らしさも全開の摩天楼。
そこに、いかにも魔法らしい色々なものが空中を飛び交っている。
行き交う人々も刹那の説明通りに見えた。
そして、一同が行き着いた先は、
見た目からして壮大にして由緒正しきホテルだった

「こちらです」

少年が案内した先は、
そこに至る過程と扉だけでも特別さが理解出来る程の、ホテルの特別室だった。

442: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/24(水) 03:37:12.17 ID:usJB+thL0

ーーーーーーーー

「初めまして」

特別室に入ったまどか達を出迎えたのは、
眼鏡をかけた、背の高いスーツ姿の男性だった。

「鹿目まどかさんですね?」
「はい」

ちらっ、と、このだだっ広い部屋の
さり気なくも高級な調度品を気にかけていたまどかに、
男性は歩み寄り声を掛けた。

「メガロメセンブリア元老院議員、クルト・ゲーデルです」
「あ、鹿目まどかです」

求められるまま、まどかはゲーデルと握手を交わす。

「報せは受けています、この度は思わぬ事態となった様で。
帰国の事はこちらで準備させていただきます」
「有難うございます」

肩書も本人の雰囲気も間違いなく偉い人らしいゲーテル相手に、
手を離されたまどかがぱたんと頭を下げる。

「サクラザキセツナ君」
「はい」
「お嬢様共々元気そうで何よりだ」
「はい、有難うございます」

「………お知合い、ですか?」
「神鳴流門下として親類筋に当たります。
少々込み入った経緯があるのですが、
私等は到底及ばないお方です」
「そういう事ですから、妹弟子の大切なゲスト、無碍にはしませんよ」
「は、はい、ありがとうございますウェヒヒヒ」

まどかににっこり語り掛けるゲーデルにまどかは頭を下げるが、
まどかの本能は彼の微笑みに微かなアラームを鳴らしていた。

444: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/24(水) 03:40:44.74 ID:usJB+thL0
すいません>>443差し替えます。

==============================

「それでは、こちらに」

かくして、ゲーデルの案内でゲーデルと刹那、まどかがテーブルに就く。
執事少年の差配で、そのテーブルに色々と運ばれて来た。

「………お粥? それに………味噌汁?」

「粥は好みで梅干しか鰹節の餡を。
豆腐と菜の味噌汁に里芋の煮物、鯵の開き。一夜漬け。ほうじ茶
一部はこちらの食材でそれらしいものを代用しましたが、
特に鹿目さんはそろそろ胃もたれする頃かと思いましてね」

「はいっ、有難うございますっ!」
「では、いただきましょうか」

ゲーデルの言葉に、ここまでやや儀礼的になりつつあったまどかは
本心から声を上げてぱたんと頭を下げ、
ゲーデルの言葉と共に三人は合掌した。

==============================

今回はここまでです>>440-1000
続きは折を見て。

445: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/30(火) 12:53:41.70 ID:+EHgy1Jh0
それでは今回の投下、入ります。

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>>444

「お口に合いましたか?」
「はい、何日も経ってないのに和食がこんなに美味しくて、
有難うございました」
「そう言っていただけると」

一見素朴にして十分な仕事の為された昼食を前に、
ぱたんと頭を下げた鹿目まどかにクルト・ゲーデルが紳士のスマイルを返す。
お粥と汁、お菜の食事が終わった辺りで、緑茶が出される。

「これ、お味噌?」
「いかがですか?」
「美味しいです」

お茶請けに出されたのは、
味噌を付け焼きにした小麦粉や蕎麦粉の和風クレープだった。

446: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/30(火) 12:56:50.90 ID:+EHgy1Jh0

「私はオスティア総督でもありまして」
「オスティア? じゃあ、あのパーティーに?」

「ええ、会場にはいました。
しかしああいう日だからこそ公務が立て込んでいまして。
ゲートのあるこちら側で一度に話を済ませた方がいいと言う事になりまして」

「そうだったんですか」

「ええ。色々と支度は整っていますので、
鹿目さんの旧世界への帰還とそれまでの安全は保障します。
そこに至る迄、留守にした事の辻褄合わせに就いても
あちらの魔法協会の方で根回しが行われている筈です。
特に旧世界における魔法と言う性質上、
何かあった時の隠蔽工作には習熟していますからね」

「ウェヒヒヒ………」

にこにこ微笑んで語るゲーデルのやや人聞きの悪い言葉に、
まどかは汗を浮かべて笑みを返す。

「しかし、それまで時間もあります。
手始めに、映画等如何ですか?」

まどかの目の前で、ゲーデル総督は両手を広げて微笑んだ。

447: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/30(火) 12:57:59.94 ID:+EHgy1Jh0

 ×     ×

明石裕奈は、振動するスマホを取り出し通話状態にする。

「もしもし?」
「もしもし、明石だな?」
「そうだけど、千雨ちゃんだよね?」
「ああ」

取り敢えず、互いにスマホの画面表示通りの相手である事を確認する。

「その後、例の件どうなった?」
「現在調査中。千雨ちゃんには悪いけど、私達も動いてるからね」

「今何処だ?」
「あすなろ駅」
「一人か?」
「メイちゃんも一緒」

「だったら、学園警備、少なくとも高音さんは知ってるって事だな?」

「ま、そういう事。今回の千雨ちゃんの仕切り、
高音さん相当キテたから、覚悟しといた方がいいよ」
「だろうな、分かってる。
二人であすなろに来てるってんなら、
ちょっとセッティングさせてもらっていいか?」

448: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/30(火) 12:59:56.07 ID:+EHgy1Jh0

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あすなろ市内のカラオケボックスの一室に集合したのは、
明石裕奈、佐倉愛衣、巴マミ、佐倉杏子の四名だった。
尚、彼女達の家族構成に就いて少々触れると、
明石裕奈は母を亡くして父一人娘一人、
巴マミは両親、佐倉杏子は両親と妹を亡くして他に家族はおらず、
佐倉愛衣はステップファミリーで実父と義母、義姉の家族構成だった。

「もしもし」
「はい、もしもし」

そして、現在裕奈のスマホにテレビ電話で繋がっているのが長谷川千雨だった。

「取り敢えず、その面子で協力する、って事でいいのか?」
「ええ、構わないわ」

千雨の問いに、答えたのはマミだった。

「私は、明石さんにも魔法使い一般にも、
正直悪い感情は持っていない。
もちろん魔法の関係で鹿目さんが行方不明になっているのはその通りだけど、
その事ではあすなろの魔法少女も疑わしい。協力出来るものなら協力したい。
こっちで繋いでくれてあなたには感謝する」

「まあ、エージェントって言うには単純そうだからな」

真面目に言うマミの横で、早速お摘みに手を伸ばしながら杏子が笑った。

「まあ、そうだね。正直私、騙しとか腹芸とか無理っぽい」
「私もそう思います」
「言ってくれるよ魔法使いの先輩」

自分で認めた裕奈に愛衣が続き、笑い合った。

「それじゃあ、本題に行くか」

千雨が話を切り替える。

449: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/30(火) 13:01:14.90 ID:+EHgy1Jh0

「現時点で、あすなろ市での第一ターゲットは御崎海香。
データから言って、彼女の豪邸を拠点とする
魔法少女グループが関わっている可能性は小さくない」
「だから、これから探りに行こうって途中でそっちから連絡があったんだけど」
「そりゃ良かった」

杏子の言葉に千雨が応じた。

「情報を総合すると、御崎邸には現在中学生だけで生活している。
それだけにセキュリティーは万全だ、
下手打ったら一発で近所中に鳴り響いた上に
警備会社に直通でそのまま警察沙汰だ」

「機械的、電子的な防壁は魔法使いにとっても侮れない。
街中で、社会的な地位もある相手では特にそうです」

千雨の指摘に、愛衣が言った。

「しかも、グループの全員が魔法少女だとすると、
科学と魔法、両方を相手にする事になるわ」

マミが言葉を続けた。

「そこで、狙い目になるのが、御崎海香グループのイレギュラー………」
「和紗ミチルか」
「ああ」

答えた杏子に千雨が言う。

450: mita刹 ◆JEc8QismHg 2018/01/30(火) 13:02:18.87 ID:+EHgy1Jh0

「彼女を中心に、防犯カメラや携帯電話の位置情報を洗い直した。
電話会社側の全データから合致するものを特定する感じの荒業だったがな。
ミチルの行動パターンは、
確かにグループの一員ではあっても独自の部分も目立つ」

そして、一同はマミのスマホを見た。

「鍵になるのはここ、ビストロ「レパ・マチュカ」だ。
確定は出来ないが、関連情報が集まっている地理的に言って
ポイントは多分ここだ。
ずっとは無理だが、後何時間か、私はこの近辺に電子情報の網を張る。
あんたらは周辺に配置して、引っかかったら動く。
こういう作戦でどうだ?」

マミのスマホに地図情報を送った千雨が裕奈のスマホ越しに言い、
個室にいる一同は小さく頷いていた。

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今回はここまでです>>445-1000
続きは折を見て。


次回  見滝原に微笑む刹那(まど☆マギ×ネギま!) 後編