1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:32:53.90 ID:CIVWe5QIO
突然大きく息を吸い込んだかと思ったらそう叫んだ彼女。
そしてその海を眺めながら冷静に言う私。
「……見ればわかる」
誰がどうみても海だ。Seaだ。
言い返してきた彼女。
「だって澪!海だぞ海!海を見たら叫びたくなるだろ!?」
「いや、別に」
…でもそう言われるとちょっと叫んでみたいかもしれない。
引用元: ・律「海だぁぁあああ!!」
figma けいおん! 田井中律 制服ver.
posted with amazlet at 18.08.13
Max Factory (2010-05-29)
売り上げランキング: 55,087
売り上げランキング: 55,087
2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:34:09.80 ID:CIVWe5QIO
「なんだよー、みーおー、一緒に叫ぼうよー」
潮の香りがする風が私と彼女の髪を揺らした。
「…私はいい」
ちぇっ。じゃあいいよ、私一人でもっかいやるから
そう言って彼女はまた息を大きく吸い込んだ。
スゥーー…
潮の香りがする風が私と彼女の髪を揺らした。
「…私はいい」
ちぇっ。じゃあいいよ、私一人でもっかいやるから
そう言って彼女はまた息を大きく吸い込んだ。
スゥーー…
3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:35:52.14 ID:CIVWe5QIO
「「海だぁぁあああ!!」」
つい私もやってしまった。
ああ、やっぱり。
数秒の驚きの表情の後、彼女の顔にはニターッとした人を小馬鹿にした笑みが張り付いていた。
「あ~れ~?澪しゃんは別にやりたくなかったんじゃなかったっけ~?」
「…気が変わった」
「またまた~強がっちゃって~!
なんだよやりたいならやりたいって言~え~よ~。私寂しかったぞ?」
つい私もやってしまった。
ああ、やっぱり。
数秒の驚きの表情の後、彼女の顔にはニターッとした人を小馬鹿にした笑みが張り付いていた。
「あ~れ~?澪しゃんは別にやりたくなかったんじゃなかったっけ~?」
「…気が変わった」
「またまた~強がっちゃって~!
なんだよやりたいならやりたいって言~え~よ~。私寂しかったぞ?」
4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:37:01.18 ID:CIVWe5QIO
「う、うるさい!というか何で海なんだ!まだ五月だろ!?」
喋り方と表情にイラッとした私は話を逸らし、今日は何故こんなとこに連れてきたのかという理由を聞こうとした。
彼女には何も聞かされず家から引っ張り出され、切符を買わされ、電車に乗せられ、駅からここまで歩かせられた。
彼女は真面目な表情になり海に来た理由ではなく質問を私に返してきた。
「…澪、今日が何の日か知ってるか…?」
今日…?五月八日か…確か朝、テレビで観たのは…
喋り方と表情にイラッとした私は話を逸らし、今日は何故こんなとこに連れてきたのかという理由を聞こうとした。
彼女には何も聞かされず家から引っ張り出され、切符を買わされ、電車に乗せられ、駅からここまで歩かせられた。
彼女は真面目な表情になり海に来た理由ではなく質問を私に返してきた。
「…澪、今日が何の日か知ってるか…?」
今日…?五月八日か…確か朝、テレビで観たのは…
5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:38:24.02 ID:CIVWe5QIO
「世界赤十字デー?」
「ちがーう!んなわけあるか!何の日なんだよ!」
こっちが聞きたい。今日は何の日なんだ。
私も彼女も誕生日は五月とは無縁だ。
他に思い当たる人物もいない。
答えの見当もつかない私に彼女は溜息をついた。
「…ハァ…今日はゴールデンウイークの最終日だろ?」
「ちがーう!んなわけあるか!何の日なんだよ!」
こっちが聞きたい。今日は何の日なんだ。
私も彼女も誕生日は五月とは無縁だ。
他に思い当たる人物もいない。
答えの見当もつかない私に彼女は溜息をついた。
「…ハァ…今日はゴールデンウイークの最終日だろ?」
6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:40:39.12 ID:CIVWe5QIO
「なんだそんなことか…」
もっとちゃんとした答えを期待していた。
「そんなことってなんだよ!連休今日で終わっちゃうんだぞ!?」
「だからそれがどうしたんだ。連休最終日と海になんの関係がある」
私がそういうと彼女は顔を下に向けて黙ってしまった。
ちょっと今の言い方はキツかっただろうか…
もっとちゃんとした答えを期待していた。
「そんなことってなんだよ!連休今日で終わっちゃうんだぞ!?」
「だからそれがどうしたんだ。連休最終日と海になんの関係がある」
私がそういうと彼女は顔を下に向けて黙ってしまった。
ちょっと今の言い方はキツかっただろうか…
7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:41:44.41 ID:CIVWe5QIO
「………思い出作りだよ」
「思い出作り?」
ちょっと拗ねた声で海に来た理由をやっと明かした彼女。そして聞き返す私。
「…だ、だって今年はあんまりみんなと遊びに行けなかっただろ?」
「練習もしてないな」
「と、とにかく!高校生活は今年で最後なんだぞ!」
「まあ確かにそうだな…」
思い出作りなんて事を彼女が考えていたなんてちょっと意外だ。
「思い出作り?」
ちょっと拗ねた声で海に来た理由をやっと明かした彼女。そして聞き返す私。
「…だ、だって今年はあんまりみんなと遊びに行けなかっただろ?」
「練習もしてないな」
「と、とにかく!高校生活は今年で最後なんだぞ!」
「まあ確かにそうだな…」
思い出作りなんて事を彼女が考えていたなんてちょっと意外だ。
8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:42:53.86 ID:CIVWe5QIO
彼女の言う通り私たちの高校生活は今年で最後。
運動部の子たちは夏頃にはみんな引退だし、私たちだって文化祭が終わったら引退なんだろう。
「でも思い出作りなら今日は他の皆も誘えば良かったんじゃないか?」
「ま、まあそうなんだけど…
今日は澪と二人で来たかったの!」
……今日の彼女は何を考えているのかいつも以上によくわからない。
私と来たかった…?
運動部の子たちは夏頃にはみんな引退だし、私たちだって文化祭が終わったら引退なんだろう。
「でも思い出作りなら今日は他の皆も誘えば良かったんじゃないか?」
「ま、まあそうなんだけど…
今日は澪と二人で来たかったの!」
……今日の彼女は何を考えているのかいつも以上によくわからない。
私と来たかった…?
9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:44:53.65 ID:CIVWe5QIO
「でもやっぱりみんなと来た方が良かったろ」
「いいのっ!今年はやっと澪とおんなじクラスになれたわけだし。
それに他のみんなとはどうせ夏合宿でまた海に行くからさ!」
「それでいいのか?」
考えているんだか何も考えていないんだか…
「いいんだよ!ほら澪!あの夕日に向かってダッシュだ!」
彼女はそう言って私の肩を叩き、まだまだ空高く昇っている太陽に向けて指を指した。
今日も彼女は元気なようだ。
「いいのっ!今年はやっと澪とおんなじクラスになれたわけだし。
それに他のみんなとはどうせ夏合宿でまた海に行くからさ!」
「それでいいのか?」
考えているんだか何も考えていないんだか…
「いいんだよ!ほら澪!あの夕日に向かってダッシュだ!」
彼女はそう言って私の肩を叩き、まだまだ空高く昇っている太陽に向けて指を指した。
今日も彼女は元気なようだ。
10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:46:49.67 ID:CIVWe5QIO
「まだ夕日じゃないぞ」
「行くぞ澪!」
そう言うと本当に走り出した。
私の言葉は聞いていないようだ。
私も砂浜の上の彼女の後ろ姿を追いかけようとする。
って、あれ?もうあんな遠くにいる。
「ま、待って!置いてくな!り~つ~!!」
「行くぞ澪!」
そう言うと本当に走り出した。
私の言葉は聞いていないようだ。
私も砂浜の上の彼女の後ろ姿を追いかけようとする。
って、あれ?もうあんな遠くにいる。
「ま、待って!置いてくな!り~つ~!!」
11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:47:47.60 ID:CIVWe5QIO
***
突然走り出した時と同じように、彼女は突然立ち止まって私を待っていた。
横髪が汗で顔にくっついている。
「ハァ…ハァ…ったく…なんでいきなり走り出すんだよ……」
私たち以外誰もいない砂浜。
そしてそこで肩で息をしている私。
「だってさ夕日を見たら走りたくなるだろ?」
海を見たら叫びたくなるの次はこれか。
突然走り出した時と同じように、彼女は突然立ち止まって私を待っていた。
横髪が汗で顔にくっついている。
「ハァ…ハァ…ったく…なんでいきなり走り出すんだよ……」
私たち以外誰もいない砂浜。
そしてそこで肩で息をしている私。
「だってさ夕日を見たら走りたくなるだろ?」
海を見たら叫びたくなるの次はこれか。
12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:48:56.14 ID:CIVWe5QIO
「別にならない!っていうかまだ夕日じゃない!」
「怒るなよ澪」
「べ、別に怒ってるわけじゃ…」
つい怒鳴ってしまったが怒っているわけじゃない。本当だ。
彼女だけにはどうも強くでてしまう。
「本当かぁ?溜め込むのはお肌に悪いぞ澪」
言いながら彼女は履いていた靴と靴下を脱いでいた。
「ほら、澪も脱げよ。海入ろうぜ」
「いや、私もお前も水着持ってきてないだろ?」
それに五月の海は泳ぐにはむいていないだろう。
「怒るなよ澪」
「べ、別に怒ってるわけじゃ…」
つい怒鳴ってしまったが怒っているわけじゃない。本当だ。
彼女だけにはどうも強くでてしまう。
「本当かぁ?溜め込むのはお肌に悪いぞ澪」
言いながら彼女は履いていた靴と靴下を脱いでいた。
「ほら、澪も脱げよ。海入ろうぜ」
「いや、私もお前も水着持ってきてないだろ?」
それに五月の海は泳ぐにはむいていないだろう。
13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:55:28.48 ID:CIVWe5QIO
「誰も泳ごうだなんて言ってないだろ。歩くだけだよ」
ズボンの裾を捲り上げつつ彼女はそう言った。
「なんだ、そういうことか」
私も彼女に倣って裸足になった。
ズボンの裾を捲り上げつつ彼女はそう言った。
「なんだ、そういうことか」
私も彼女に倣って裸足になった。
15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:56:29.26 ID:CIVWe5QIO
***
砂を踏みしめる感触が気持ちいい。
最近元気になってきた太陽の暑さと走った時に身体に溜まった熱が足下から五月の海に流れ出す。
海面は太陽の光が反射してキラキラしている。
素敵な景色だなと思っていると彼女が声をかけてきた。
「なあ、最近どう?」
「まあぼちぼち…かな」
こういう問いかけにはなんて答えるのがいいのだろう。
新学期になって一ヶ月程度。
別段変わったことはないのでとりあえずこう答える。
「そうか…なら良かった」
何が良かったんだろう。
砂を踏みしめる感触が気持ちいい。
最近元気になってきた太陽の暑さと走った時に身体に溜まった熱が足下から五月の海に流れ出す。
海面は太陽の光が反射してキラキラしている。
素敵な景色だなと思っていると彼女が声をかけてきた。
「なあ、最近どう?」
「まあぼちぼち…かな」
こういう問いかけにはなんて答えるのがいいのだろう。
新学期になって一ヶ月程度。
別段変わったことはないのでとりあえずこう答える。
「そうか…なら良かった」
何が良かったんだろう。
16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 02:58:35.92 ID:CIVWe5QIO
脱いだ靴を手に持って彼女と二人で海岸沿いを歩く。
歩きながら波の音に耳をすませていると前を歩く彼女が私の方を振り返らずに言った。
「私達って今年三年生じゃん?」
「まあそうだな」
「だから私らもうすぐ卒業じゃん?」
「…そうだな」
今まであまり卒業のことなんて考えないようにしていたが彼女の方からこの話題を出してくるとは。
歩きながら波の音に耳をすませていると前を歩く彼女が私の方を振り返らずに言った。
「私達って今年三年生じゃん?」
「まあそうだな」
「だから私らもうすぐ卒業じゃん?」
「…そうだな」
今まであまり卒業のことなんて考えないようにしていたが彼女の方からこの話題を出してくるとは。
17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:00:33.98 ID:CIVWe5QIO
「…私らが引退して卒業したら梓は一人になっちゃうんだよな」
………
私は黙ってしまった。
私だって来年の軽音部の事を考えた事がないわけじゃない。
三年生の私たちがいなくなったらあの部室に一人になってしまう後輩。
「梓のために私たち何ができるんだろうって、最近ずっと悩んでてさ」
そう言って彼女は水平線の方を見た。
その横顔は弱々しくて、なんだかとっても彼女らしくない。
彼女がそんな事を悩んでいたなんて。
一番近くにいるつもりだったが気がつかなかった。
ここは私が何か言わなくちゃいけない。
一人で悩んでいた彼女の力になりたい。
私は立ち止まって彼女の背中に向かって言った。
………
私は黙ってしまった。
私だって来年の軽音部の事を考えた事がないわけじゃない。
三年生の私たちがいなくなったらあの部室に一人になってしまう後輩。
「梓のために私たち何ができるんだろうって、最近ずっと悩んでてさ」
そう言って彼女は水平線の方を見た。
その横顔は弱々しくて、なんだかとっても彼女らしくない。
彼女がそんな事を悩んでいたなんて。
一番近くにいるつもりだったが気がつかなかった。
ここは私が何か言わなくちゃいけない。
一人で悩んでいた彼女の力になりたい。
私は立ち止まって彼女の背中に向かって言った。
18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:02:56.85 ID:CIVWe5QIO
「まだ時間はあるさ!!」
つい声が大きくなった。
「え?」
突然大声を上げた私に、驚いた表情で振り向いた彼女。
「そうだよ…まだ時間はあるじゃないか…だからさ、ゆっくり考えよう?私たちみんなでさ!」
前半部分は彼女というよりは自分に言いきかせているような言葉だ。
彼女はそれに少し考えるような表情をしてから彼女も大声で私に言い返した。
「……ああ、そうだな!!」
つい声が大きくなった。
「え?」
突然大声を上げた私に、驚いた表情で振り向いた彼女。
「そうだよ…まだ時間はあるじゃないか…だからさ、ゆっくり考えよう?私たちみんなでさ!」
前半部分は彼女というよりは自分に言いきかせているような言葉だ。
彼女はそれに少し考えるような表情をしてから彼女も大声で私に言い返した。
「……ああ、そうだな!!」
19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:11:00.13 ID:CIVWe5QIO
負けじとより大きな声で叫ぶ私。
「絶対成功させよう!!文化祭!!」
とにかく梓の為にも私たちの為にも…
「ああ、そうだな!!」
そう言った彼女の顔は明るかった。
やっぱり彼女に悩み事は似合わない。
そう思いながら彼女に歩み寄る。
「いきなりどうしたんだよ、澪らしくない」
彼女に追いついたところで彼女が言う。
私にもよくわからない。なんでだろう。
「絶対成功させよう!!文化祭!!」
とにかく梓の為にも私たちの為にも…
「ああ、そうだな!!」
そう言った彼女の顔は明るかった。
やっぱり彼女に悩み事は似合わない。
そう思いながら彼女に歩み寄る。
「いきなりどうしたんだよ、澪らしくない」
彼女に追いついたところで彼女が言う。
私にもよくわからない。なんでだろう。
20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:13:22.27 ID:CIVWe5QIO
「海だから……かな?」
「どういう事だよそれ」
そう言って彼女はケラケラと笑った。
私もつられて笑う。
その後も海岸沿いを裸足で歩きながらいろんな話をした。
後輩の事、部活の事、受験の事、連休中の事、音楽の事、最近夢中になっている事。
二人でこんなに話したのはいつ以来だろう。
いつも一緒にいた気がしたけど私が思っていた以上に私は彼女の事について知らなかった。
彼女と一緒にいることが多いというよりも部活の皆と一緒にいるという方が正しいのかもしれない。
「どういう事だよそれ」
そう言って彼女はケラケラと笑った。
私もつられて笑う。
その後も海岸沿いを裸足で歩きながらいろんな話をした。
後輩の事、部活の事、受験の事、連休中の事、音楽の事、最近夢中になっている事。
二人でこんなに話したのはいつ以来だろう。
いつも一緒にいた気がしたけど私が思っていた以上に私は彼女の事について知らなかった。
彼女と一緒にいることが多いというよりも部活の皆と一緒にいるという方が正しいのかもしれない。
21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:17:27.42 ID:CIVWe5QIO
「あっ!澪、サメだ!」
唐突に彼女が言った。
「ひぃ!どっ、どこ!?」
慌てて浜に逃げる私。
「嘘だよ、サメなんているわけないだろ」
そう言って彼女はまたケラケラと笑った。
むぅーと頬を膨らませて彼女を睨む。
いじけた私はその場にしゃがみ込んでもう疲れた歩けないと主張した。
彼女は辺りを見渡すと、上の道路から海岸へ下るコンクリートの階段を指差して言った
「あそこにちょっと座るか」
唐突に彼女が言った。
「ひぃ!どっ、どこ!?」
慌てて浜に逃げる私。
「嘘だよ、サメなんているわけないだろ」
そう言って彼女はまたケラケラと笑った。
むぅーと頬を膨らませて彼女を睨む。
いじけた私はその場にしゃがみ込んでもう疲れた歩けないと主張した。
彼女は辺りを見渡すと、上の道路から海岸へ下るコンクリートの階段を指差して言った
「あそこにちょっと座るか」
22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:18:48.03 ID:CIVWe5QIO
***
下から三段目に私は腰を下ろした。
彼女は私より一段下、左側に座ろうとした。
「へぇぇどっこいしょっと」
彼女の口から自然にそんな言葉が出てきて、それがおかしくて思わず笑ってしまう。
「どっこいしょってお前おばちゃんみたいだぞ」
「う、うるさい!私がおばちゃんなら澪もおばちゃんだろ!」
そうか、確かにそうだ。
「うん、私もおばちゃんだな」
二人で一緒に歳をとっていけるならおばちゃんになるのもいいかもしれない。
下から三段目に私は腰を下ろした。
彼女は私より一段下、左側に座ろうとした。
「へぇぇどっこいしょっと」
彼女の口から自然にそんな言葉が出てきて、それがおかしくて思わず笑ってしまう。
「どっこいしょってお前おばちゃんみたいだぞ」
「う、うるさい!私がおばちゃんなら澪もおばちゃんだろ!」
そうか、確かにそうだ。
「うん、私もおばちゃんだな」
二人で一緒に歳をとっていけるならおばちゃんになるのもいいかもしれない。
23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:20:43.38 ID:CIVWe5QIO
足についた砂を落としてハンカチでふく。
あんまり綺麗にならないな…
「ほらよ」
そう言って差し出された彼女の手にはウェットティッシュ。
「ありがとう。用意がいいな」
「まあ私が連れてきたわけだしな!当然だろ!」
「…そうか…見直した」
「見直したってお前…澪の中の私の評価はどうなってるんだよ!」
「安心しろ。さっきのサメの嘘の分が帳消しになっただけだから」
「そうか、なら良かった。
…って良かったのか?」
「さあ?」
あんまり綺麗にならないな…
「ほらよ」
そう言って差し出された彼女の手にはウェットティッシュ。
「ありがとう。用意がいいな」
「まあ私が連れてきたわけだしな!当然だろ!」
「…そうか…見直した」
「見直したってお前…澪の中の私の評価はどうなってるんだよ!」
「安心しろ。さっきのサメの嘘の分が帳消しになっただけだから」
「そうか、なら良かった。
…って良かったのか?」
「さあ?」
24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:27:31.48 ID:CIVWe5QIO
「なんだよ澪、怒ってる?」
「別に怒ってない」
「本当か?」
「本当だよ」
「いやさ、私もな、澪があんな簡単に引っかかるなんて思わなかったからさ~」
「…私はどうせ簡単な女だよ」
「そこまで言ってないだろ!
あれ、やっぱり怒ってる?」
「だから怒ってない」
「本当?」
「本当だよ
ってこのやりとり何回する気だ」
「別に怒ってない」
「本当か?」
「本当だよ」
「いやさ、私もな、澪があんな簡単に引っかかるなんて思わなかったからさ~」
「…私はどうせ簡単な女だよ」
「そこまで言ってないだろ!
あれ、やっぱり怒ってる?」
「だから怒ってない」
「本当?」
「本当だよ
ってこのやりとり何回する気だ」
25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:28:49.77 ID:CIVWe5QIO
ぷっ
私より一つ下の段に腰掛けていた彼女が噴き出した。
そんなに今のが面白かっただろうか。
まあ彼女が面白いと思ったならそれでいいや。
足を拭きなおして靴を履く。
履き終わったところで彼女の方を伺うと既に彼女も履き終わっていた。
「なあ律」
「んー?」
私が声をかけると彼女は海の方を向いたまま返事を返した。
私より一つ下の段に腰掛けていた彼女が噴き出した。
そんなに今のが面白かっただろうか。
まあ彼女が面白いと思ったならそれでいいや。
足を拭きなおして靴を履く。
履き終わったところで彼女の方を伺うと既に彼女も履き終わっていた。
「なあ律」
「んー?」
私が声をかけると彼女は海の方を向いたまま返事を返した。
26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:33:21.37 ID:CIVWe5QIO
「卒業したらさ、どうなるんだろう?」
「さあな」
彼女が知っているわけはないか。
もう一つ質問をする。
「また海、来れるかな…?」
「当たり前だろ、今年も合宿で海行くじゃん」
「…そうじゃなくて、私と律の二人でだよ」
「それだとどうだろうなー
…わかんないや」
彼女にはまた一緒に来れるとはっきりと言ってもらいたかった。
彼女が言えば本当にそうなる気がするから…
「さあな」
彼女が知っているわけはないか。
もう一つ質問をする。
「また海、来れるかな…?」
「当たり前だろ、今年も合宿で海行くじゃん」
「…そうじゃなくて、私と律の二人でだよ」
「それだとどうだろうなー
…わかんないや」
彼女にはまた一緒に来れるとはっきりと言ってもらいたかった。
彼女が言えば本当にそうなる気がするから…
27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:34:11.52 ID:CIVWe5QIO
ふと卒業後に別々の道を歩む私達の事考えてしまった。
「…私、律と離れたくない」
やばい、涙が出そう。
「…澪、私だってそうだよ。
澪だけじゃない、みんな離れるのは嫌に決まってる」
彼女も私と離れたくないと思ってくれていることが嬉しかった。
ただ今何かを言うと本当に泣いてしまいそうで頷くだけしかできなかった。
彼女は相変わらず海を見ている。
「…私、律と離れたくない」
やばい、涙が出そう。
「…澪、私だってそうだよ。
澪だけじゃない、みんな離れるのは嫌に決まってる」
彼女も私と離れたくないと思ってくれていることが嬉しかった。
ただ今何かを言うと本当に泣いてしまいそうで頷くだけしかできなかった。
彼女は相変わらず海を見ている。
28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:36:34.60 ID:CIVWe5QIO
「でもさ、さっき澪が言ったじゃんか。
まだ時間はあるってさ。
だからいっぱい思い出作ろうよ」
そういえば今日ここに来た理由は思い出作りだったか。
「それに卒業しても死ぬわけじゃないだろ。会いたい時は会えるし、メールだって電話だってあるじゃん」
「…そう、だよな」
彼女の言う通り私たちは永遠に会えなくなるわけじゃないんだ。
出そうになった涙はいつのまにか帰っていた。
やっぱり私には彼女が必要かも。でも…
まだ時間はあるってさ。
だからいっぱい思い出作ろうよ」
そういえば今日ここに来た理由は思い出作りだったか。
「それに卒業しても死ぬわけじゃないだろ。会いたい時は会えるし、メールだって電話だってあるじゃん」
「…そう、だよな」
彼女の言う通り私たちは永遠に会えなくなるわけじゃないんだ。
出そうになった涙はいつのまにか帰っていた。
やっぱり私には彼女が必要かも。でも…
29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:39:08.68 ID:CIVWe5QIO
「…思い出作りなんて言い方はやめよう?
なんていうか…後ろ向きだから」
何だろう、上手く言えないけど。
「思い出を作る為に何かするなんて寂しい気がする…
それこそ律、お前死ぬみたいだぞ?」
「なんだとー!?りっちゃんは不死身だぞー!」
彼女は振りかえってそう言った。久々に彼女の顔を見たかもしれない。
なんていうか…後ろ向きだから」
何だろう、上手く言えないけど。
「思い出を作る為に何かするなんて寂しい気がする…
それこそ律、お前死ぬみたいだぞ?」
「なんだとー!?りっちゃんは不死身だぞー!」
彼女は振りかえってそう言った。久々に彼女の顔を見たかもしれない。
30: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:39:55.64 ID:CIVWe5QIO
「そうか、じゃあ私の分もしっかり生きてくれよな」
「…え、澪死ぬの?」
「ああ、実は不治の病を抱えていて…余命あと2ヶ月なんだ」
もちろん嘘だ。しかし彼女は割と本気で受け止めてしまったらしい。俯いている。
「…嘘に決まってるだろ?私だって不死身だよ。だからそんな顔するな」
騙している方が少々辛くなったのではやめに嘘だと教えてやる。
「…え、澪死ぬの?」
「ああ、実は不治の病を抱えていて…余命あと2ヶ月なんだ」
もちろん嘘だ。しかし彼女は割と本気で受け止めてしまったらしい。俯いている。
「…嘘に決まってるだろ?私だって不死身だよ。だからそんな顔するな」
騙している方が少々辛くなったのではやめに嘘だと教えてやる。
31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:42:06.66 ID:CIVWe5QIO
「な、なんだよ!本気にしちゃったじゃんか!」
あんな見え見えの嘘に引っかかるとは、可愛い奴め。
「まさかこんな簡単に引っかかるなんて思わなくてな
私、演技の才能あるかも」
「…よく考えたら顔がにやけてたもんな、お前。ああどうせ私は簡単な女だよ…」
「そこまで言ってない」
どこかで聞いたやりとりだった。
あんな見え見えの嘘に引っかかるとは、可愛い奴め。
「まさかこんな簡単に引っかかるなんて思わなくてな
私、演技の才能あるかも」
「…よく考えたら顔がにやけてたもんな、お前。ああどうせ私は簡単な女だよ…」
「そこまで言ってない」
どこかで聞いたやりとりだった。
32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:47:21.86 ID:CIVWe5QIO
どちらからともなく笑い出す私達。
いつまでもこんな時間が続くといいな。
ひとしきり笑ってふと海の方を見やると太陽の光はオレンジになり沈みかけていた。
思わず見たままの事を私は口にしてしまう
「…夕日だ」
「みればわかる」
またどこかで聞いたことのある台詞だった。
でも今度は私が言われることになるとは。
いつまでもこんな時間が続くといいな。
ひとしきり笑ってふと海の方を見やると太陽の光はオレンジになり沈みかけていた。
思わず見たままの事を私は口にしてしまう
「…夕日だ」
「みればわかる」
またどこかで聞いたことのある台詞だった。
でも今度は私が言われることになるとは。
33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:49:41.77 ID:CIVWe5QIO
水平線にゆっくりと沈む夕日。
「夕日は見ても叫びたくならないのか?」
「夕日は走り出したくなるんだよ」
「ああそうだったか。で、走らないの?」
「いいや、疲れたし。それに…」
彼女は携帯を取り出した。
「…眺めてる方がいいな」
カシャ。
どうやら携帯のカメラで撮ったようだ。
「夕日は見ても叫びたくならないのか?」
「夕日は走り出したくなるんだよ」
「ああそうだったか。で、走らないの?」
「いいや、疲れたし。それに…」
彼女は携帯を取り出した。
「…眺めてる方がいいな」
カシャ。
どうやら携帯のカメラで撮ったようだ。
34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:50:38.80 ID:CIVWe5QIO
「うん、そうだな」
私も彼女の言葉に同意する。
指で四角を作って夕日をその中に入れる。
…カメラを持ってくるべきだったな。
いい絵だ。
やっぱり夕日には人の感性を刺激する何かがある。
うん、なんだかいい詞が、
「書けそうだろ?」
私の心が読まれた。
私も彼女の言葉に同意する。
指で四角を作って夕日をその中に入れる。
…カメラを持ってくるべきだったな。
いい絵だ。
やっぱり夕日には人の感性を刺激する何かがある。
うん、なんだかいい詞が、
「書けそうだろ?」
私の心が読まれた。
35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:52:43.03 ID:CIVWe5QIO
携帯をパタンと閉じた彼女に続きを言われてしまった。
そして振りかえって彼女は私の顔を見るとニッコリと笑った。
「いい詞がさ!」
「…私も今そう思ってたよ」
私がそういうと彼女は嬉しそうに言う。
「お!?やっぱり私と澪は以心伝心か!」
そうこうしているうちに太陽は水平線の下に行ってしまった。
「ああ、そうかもな」
そう言って私は立ち上がる。
「そろそろ帰ろう、律」
隣にいる彼女を見下ろす。意外と彼女は小さい。
そして振りかえって彼女は私の顔を見るとニッコリと笑った。
「いい詞がさ!」
「…私も今そう思ってたよ」
私がそういうと彼女は嬉しそうに言う。
「お!?やっぱり私と澪は以心伝心か!」
そうこうしているうちに太陽は水平線の下に行ってしまった。
「ああ、そうかもな」
そう言って私は立ち上がる。
「そろそろ帰ろう、律」
隣にいる彼女を見下ろす。意外と彼女は小さい。
36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 03:54:16.61 ID:CIVWe5QIO
「じゃあそろそろ帰るか…っておい!」
立ち上がろうとする彼女の頭にひょいと手を伸ばしてカチューシャを外す。
「か、返せよ澪!」
「たまには良いだろ?帰るまでだよ」
そう言って彼女を待たず私は駅に向かって歩き出した。
「まあ別にいいけどさ…」
後ろからついてきた彼女はそう言うもののやはり不満そうだ。
私は奪い取ったカチューシャを指で弄びながら歩く。
立ち上がろうとする彼女の頭にひょいと手を伸ばしてカチューシャを外す。
「か、返せよ澪!」
「たまには良いだろ?帰るまでだよ」
そう言って彼女を待たず私は駅に向かって歩き出した。
「まあ別にいいけどさ…」
後ろからついてきた彼女はそう言うもののやはり不満そうだ。
私は奪い取ったカチューシャを指で弄びながら歩く。
37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/05/09(月) 04:04:53.84 ID:CIVWe5QIO
「そういえば明日から学校だな」
「うわー!思い出させるなよ澪!」
「悪い悪い。ところで数学のあの課題明日までだよな。終わったか?」
「…え?数学…?……やっべえ澪!私それ終わってない!頼む見してくれ!」
「…しょうがないな。家についたらノート貸してやるから」
「ホント助かる!」
「はぁ…そんな調子で今度の中間テスト大丈夫か?」
「ハハ……大丈夫じゃないかも…」
「ったく…わからないところは私が教えてやるから。そうだ、またみんなで勉強会開くか」
「うんそうだな、四人でまた一緒にやろうぜ!」
「ああ、そうしよう!」
私は頷いた。
まだ時間はある。
彼女の笑顔を見ていると今はとにかく前だけを見ていればそれでいい気がしてきた。
ふぃん
「うわー!思い出させるなよ澪!」
「悪い悪い。ところで数学のあの課題明日までだよな。終わったか?」
「…え?数学…?……やっべえ澪!私それ終わってない!頼む見してくれ!」
「…しょうがないな。家についたらノート貸してやるから」
「ホント助かる!」
「はぁ…そんな調子で今度の中間テスト大丈夫か?」
「ハハ……大丈夫じゃないかも…」
「ったく…わからないところは私が教えてやるから。そうだ、またみんなで勉強会開くか」
「うんそうだな、四人でまた一緒にやろうぜ!」
「ああ、そうしよう!」
私は頷いた。
まだ時間はある。
彼女の笑顔を見ていると今はとにかく前だけを見ていればそれでいい気がしてきた。
ふぃん
コメントする
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。