2: ◆ukgSfceGys 2018/08/16(木) 21:22:57.26 ID:dMSTkW/G0

最初は何とも思っていなかった。


家出して途方にくれる中に出会った時も。
その流れでアイドルにスカウトされた時も。
実情を話しその日の宿がないと言った時も。
『ホテルがどこも空いてないから』という理由で家に泊めてもらった時も。


そして本当にアイドルになれた時も。
『スカウトしたから』という単純な理由であたしのプロデューサーになってくれた時も。
無事にデビューが出来て褒めてくれた時も。
お礼を言ったら「周子は元が良いからな、流石だよ」と褒めてくれた時も。


別に何とも思っていなかった。

引用元: 塩見周子「何かが始まる予感」 



3: ◆ukgSfceGys 2018/08/16(木) 21:23:38.93 ID:dMSTkW/G0

家出娘と社会人。
アイドルとプロデューサー。
仲の良いビジネスパートナー。


お互いの関係をそんな風に思ってた。

4: ◆ukgSfceGys 2018/08/16(木) 21:24:32.46 ID:dMSTkW/G0

でもいつからだろう?
そんな関係じゃ嫌だと思い始めてきたのは。
『何とも思っていなかった』なんて言いたくなくなってきたのは。


貴方がくれたお仕事が徐々に増えていって。
貴方といる時間が徐々に増えていって。
貴方との思い出が徐々に増えていって。


その『徐々に』が積もり積もって、いつの間にか、一日中貴方の事ばかり考えるようになってしまった。

5: ◆ukgSfceGys 2018/08/16(木) 21:25:20.99 ID:dMSTkW/G0

今日会ったらまず何を話そう。
今日はいつ一緒に居られるかな?
ふと気づくと貴方の事を目で追ってる。
他の誰よりも貴方と一緒の時間が嬉しい。


ある感情がこんなあたしにさせたのだ。
だけどあたしと貴方は、アイドルとプロデューサー。
今は結ばれない、結ばれちゃいけない。
そんな事は浮かれた自分でも分かってた。

6: ◆ukgSfceGys 2018/08/16(木) 21:26:28.87 ID:dMSTkW/G0

だからずっと我慢した。


先人達と肩を並べる程の大きなライブが成功した時も。
2人の努力が実って栄えあるシンデレラガールに選ばれた時も。
貴方がこっそり誕生日を祝ってくれた時も。


ずっとずっと、ずっーと我慢した。

7: ◆ukgSfceGys 2018/08/16(木) 21:27:16.27 ID:dMSTkW/G0

でも今日はあたしの引退ライブ。
これが終ればアイドルのあたしは終わり。
明日からはただの一般人。
どこにでもいる、恋する1人の女の子。


そしたらあたしと貴方は、アイドルとプロデューサーじゃない。
1人の女の子と1人の男。


ずっとずっと我慢してきたんだからね?
その分、本気を出して一気にいくよ。
覚悟しててよねPさん?

8: ◆ukgSfceGys 2018/08/16(木) 21:28:11.36 ID:dMSTkW/G0

「そろそろ引退ライブ始まるぞ。大丈夫か?」

「任せといてよ!あたしを誰だと思ってるの?」

「そうだったな、信頼してるよ周子」

「信頼に絶対答えてみせるからさ……だから一番近くで見守っててよ」

「あぁ……見守ってるよ。今まで通りな」


貴方が傍にいるならあたしは大丈夫。
今までは大丈夫だった。
今日もきっと大丈夫だろう。
出来れば明日からもそうであってほしいな。

9: ◆ukgSfceGys 2018/08/16(木) 21:28:50.89 ID:dMSTkW/G0

そんな事を思ってると出番が間近になった。
その残り少ない貴重な時間を未来のために使わせてもらう。

「そういやPさん、明日の予定空けといてね。大事な話があるからさ」

「奇遇だな、俺も周子に話したい事があったんだ」

「奇遇やね。以心伝心やん」

「長ーい付き合いだからな。でもやっぱり口にして話したい事だっていくらでもあるさ」

「あたしも沢山話したい事があるんだ。これからもいっぱい話していこうよ」

「そうだな。でも、まずは今日のことを終わらせてからだな」

「そうだね。それじゃあ、バシッと一つ決めてきますか!」

10: ◆ukgSfceGys 2018/08/16(木) 21:29:47.91 ID:dMSTkW/G0

そうしてあたしは舞台に向かっていく。

これから何かが始まる予感がした。

11: ◆ukgSfceGys 2018/08/16(木) 21:30:31.82 ID:dMSTkW/G0
おわり