1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:18:16.65 ID:L16NlBrCo
--------------------------------------------------
昼 トルキア商人ガレー船甲板
ギーコっ、ギーコっ
少女(暑いな……。体中が軋んで、もう、動けない……)
少女「神様、何でもします、だから、たすけ……」ボソ
少女 ふらぁっ
奴隷頭「おい、そこの奴隷!
誰がオールを使う手を休めていいと言った?」
少女 ビクゥッ
ヒュパッ、パシーンッ!!
青年奴隷「ぐあぁっ!」
奴隷頭「ったく、怠けることだけ憶えやがって。
海の底で魚のエサになりてえかぁ? あぁっ?!」
青年奴隷「ゆ、許してください」
奴隷頭「だったら体を動かせ、よぉっ」バシーン!
青年奴隷「ぐぅううっ」
奴隷頭「いいか! ムチが怖けりゃしっかり働けよ!!」
奴隷達全員「はいッッ!!」
ギーコっ、ギーコっ
少女(ムチは、怖い……
痛くて、熱くて、血がずっとにじんでくるから。
ずっと、オールで漕いでるせいで、
もう手の皮もボロボロになっちゃったよ……)
昼 トルキア商人ガレー船甲板
ギーコっ、ギーコっ
少女(暑いな……。体中が軋んで、もう、動けない……)
少女「神様、何でもします、だから、たすけ……」ボソ
少女 ふらぁっ
奴隷頭「おい、そこの奴隷!
誰がオールを使う手を休めていいと言った?」
少女 ビクゥッ
ヒュパッ、パシーンッ!!
青年奴隷「ぐあぁっ!」
奴隷頭「ったく、怠けることだけ憶えやがって。
海の底で魚のエサになりてえかぁ? あぁっ?!」
青年奴隷「ゆ、許してください」
奴隷頭「だったら体を動かせ、よぉっ」バシーン!
青年奴隷「ぐぅううっ」
奴隷頭「いいか! ムチが怖けりゃしっかり働けよ!!」
奴隷達全員「はいッッ!!」
ギーコっ、ギーコっ
少女(ムチは、怖い……
痛くて、熱くて、血がずっとにじんでくるから。
ずっと、オールで漕いでるせいで、
もう手の皮もボロボロになっちゃったよ……)
引用元: ・少女「奴隷はもうやだよ……」
ヴィンランド・サガ(21) (アフタヌーンコミックス)
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2: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:19:25.12 ID:L16NlBrCo
少女(商人の人たちは商品を運ぶためのガレー船に、
人を捕まえて奴隷として鎖につないで働かせるって、
本当だったんだ……)
ギーコっ、ギーコっ
少女(ずっと、そんなのはただ、
言うことを聞かない子供を怖がらせるために、
大人が大げさな事を言ってるんだって、
そう思ってた……)
青年奴隷「…………ぐ、は、っ」
少女「……大丈夫?」ぼそっ
青年奴隷 ぎろっ
少女「ひ……っ」
青年奴隷「喋る……ぜ、余裕……は、有るならッ。
力、入れろッ……ぜはっ」
少女 こくん
ギーコっ、ギーコっ
少女(ムチで叩かれた後から血が滴って、
汗でぐっしょり濡れた服に、血が広がって……
叩かれてたのは、私だったかも)
奴隷頭「右側遅れてるぞ!
もっと気合入れてヤレっ!!」ヒュパンッ!
奴隷達「はいッッ!」
ギーコっ、ギーコっ
少女(奴隷……)
人を捕まえて奴隷として鎖につないで働かせるって、
本当だったんだ……)
ギーコっ、ギーコっ
少女(ずっと、そんなのはただ、
言うことを聞かない子供を怖がらせるために、
大人が大げさな事を言ってるんだって、
そう思ってた……)
青年奴隷「…………ぐ、は、っ」
少女「……大丈夫?」ぼそっ
青年奴隷 ぎろっ
少女「ひ……っ」
青年奴隷「喋る……ぜ、余裕……は、有るならッ。
力、入れろッ……ぜはっ」
少女 こくん
ギーコっ、ギーコっ
少女(ムチで叩かれた後から血が滴って、
汗でぐっしょり濡れた服に、血が広がって……
叩かれてたのは、私だったかも)
奴隷頭「右側遅れてるぞ!
もっと気合入れてヤレっ!!」ヒュパンッ!
奴隷達「はいッッ!」
ギーコっ、ギーコっ
少女(奴隷……)
3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:20:21.45 ID:L16NlBrCo
船員 たたっ
少女(どうせ痛い思いするなら、
ムチで叩かれないで済む分だけ、
辛くてもがんばったほうが、痛みは少なくて……)
船員「奴隷頭よぉ、二時間経ったぜ」ぼそぼそっ
奴隷頭「お、そうか。
よぉーし、お前ら、交代の時間だぞ!
休んでいるヤツを起こして、代わらせろ。
今までオールを使ってたヤツはしっかり休めよ!」
奴隷達全員「はいッッ!!」
ごそごそ
少女(やっと、休める……)
青年奴隷「……なぁ、あんた」ぼそぼそっ
少女「……はい?」ぼそっ
青年奴隷「間違っても、連中の耳に入るようには
祈りじみた言葉は口にするな……特に聖句は絶対にだ」
少女「さっきの、助けて、ですか?」
青年奴隷「それだよ。トルキオのやつらと来たら、
以前からそうだったが、一神教の人間に対しては、
何倍も敵意を見せるようになってやがる……」
少女「忠告、ありがとうございます」
青年奴隷「……巻き込まれたくないだけさ」
奴隷頭「おいそこっ! 会話するなら堂々としろ!」
青年奴隷・少女「はいッ、わかりました!!」
少女(どうせ痛い思いするなら、
ムチで叩かれないで済む分だけ、
辛くてもがんばったほうが、痛みは少なくて……)
船員「奴隷頭よぉ、二時間経ったぜ」ぼそぼそっ
奴隷頭「お、そうか。
よぉーし、お前ら、交代の時間だぞ!
休んでいるヤツを起こして、代わらせろ。
今までオールを使ってたヤツはしっかり休めよ!」
奴隷達全員「はいッッ!!」
ごそごそ
少女(やっと、休める……)
青年奴隷「……なぁ、あんた」ぼそぼそっ
少女「……はい?」ぼそっ
青年奴隷「間違っても、連中の耳に入るようには
祈りじみた言葉は口にするな……特に聖句は絶対にだ」
少女「さっきの、助けて、ですか?」
青年奴隷「それだよ。トルキオのやつらと来たら、
以前からそうだったが、一神教の人間に対しては、
何倍も敵意を見せるようになってやがる……」
少女「忠告、ありがとうございます」
青年奴隷「……巻き込まれたくないだけさ」
奴隷頭「おいそこっ! 会話するなら堂々としろ!」
青年奴隷・少女「はいッ、わかりました!!」
4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:21:06.82 ID:L16NlBrCo
ギーコっ、ギーコっ
少女(みんな、疲れきった顔……)
少女「……っ」ほろり、ほろり
少女(汗を流したいな……
冷たい川に入って、水浴びしたい。
ビスケットとラム酒だけの食事も、もうヤだ……
せめて、水の一杯だけでも、欲しいよ……)
少女「……っぐ、……ひっく」
奴隷頭「……おい、そこの」
少女 ビクッ
奴隷頭「水が勿体ねえ。泣くな」
少女「……は、はぃ」ぐっ
少女(涙を流す自由さえなくて……
ただ、あの島の外を見たかっただけなのに、
どうしてこんな事になっちゃったのかな……)
ギーコっ、ギーコっ
少女 ぼーっ……
少女(……あれ、あの水平線のって、
船、かなぁ?)うとうと
少女(祈りが神様に届いて、
助けに来てくれた人だったり……
なんて事は、ないよね)すぅ、すぅ
少女(みんな、疲れきった顔……)
少女「……っ」ほろり、ほろり
少女(汗を流したいな……
冷たい川に入って、水浴びしたい。
ビスケットとラム酒だけの食事も、もうヤだ……
せめて、水の一杯だけでも、欲しいよ……)
少女「……っぐ、……ひっく」
奴隷頭「……おい、そこの」
少女 ビクッ
奴隷頭「水が勿体ねえ。泣くな」
少女「……は、はぃ」ぐっ
少女(涙を流す自由さえなくて……
ただ、あの島の外を見たかっただけなのに、
どうしてこんな事になっちゃったのかな……)
ギーコっ、ギーコっ
少女 ぼーっ……
少女(……あれ、あの水平線のって、
船、かなぁ?)うとうと
少女(祈りが神様に届いて、
助けに来てくれた人だったり……
なんて事は、ないよね)すぅ、すぅ
5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:22:00.97 ID:L16NlBrCo
ずだぁあああんっ!!
少女 ばっ
奴隷頭「やりやがったな、連中!」
少女(襲撃っ! さっきの船が?!)
奴隷頭「奴隷共っ! 隣でまだ眠りこけてるやつを、
ケツに火ぃ付けてでも目を覚まさせてやれ!
でもって全力で進めぇ!」
奴隷達 ざわざわ
ヒュパッ、パシーンッ!!
奴隷頭「さっさとしねえと、あの船が来るより先に
俺のムチが手前らを海のモクズに変えるからな!」
奴隷達「はいッッ!」
ギーコっ、ギーコっ
奴隷頭「ったく、見張りの野郎……
仕事中に寝るとか何を考えてやがるッ」
見張り「すいやせん、へへっ」
どたどた
船長「おい、何があったんだ?!」
奴隷頭「九時方向に敵影が一つ、
距離……1マイル半(2.4キロ)ってトコです」
船員「近いな……おい見張り、相手は何だ!」
見張り「ジョリー・ロジャー(海賊傍)があるから
相手は海賊だぁ!
っと、敵船が手旗でなんか言ってるぜ!
撃たれたくなけりゃ、帆を揚げて漕ぐのをやめろと」
少女 ばっ
奴隷頭「やりやがったな、連中!」
少女(襲撃っ! さっきの船が?!)
奴隷頭「奴隷共っ! 隣でまだ眠りこけてるやつを、
ケツに火ぃ付けてでも目を覚まさせてやれ!
でもって全力で進めぇ!」
奴隷達 ざわざわ
ヒュパッ、パシーンッ!!
奴隷頭「さっさとしねえと、あの船が来るより先に
俺のムチが手前らを海のモクズに変えるからな!」
奴隷達「はいッッ!」
ギーコっ、ギーコっ
奴隷頭「ったく、見張りの野郎……
仕事中に寝るとか何を考えてやがるッ」
見張り「すいやせん、へへっ」
どたどた
船長「おい、何があったんだ?!」
奴隷頭「九時方向に敵影が一つ、
距離……1マイル半(2.4キロ)ってトコです」
船員「近いな……おい見張り、相手は何だ!」
見張り「ジョリー・ロジャー(海賊傍)があるから
相手は海賊だぁ!
っと、敵船が手旗でなんか言ってるぜ!
撃たれたくなけりゃ、帆を揚げて漕ぐのをやめろと」
6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:22:56.78 ID:L16NlBrCo
船長「あぁん、なに言ってやがる。
『ふざけんな』って返してやれ!
あんな外洋型のなりそこないみてぇな、
デケェ船で追いつくわけネェだろぉよ!」
奴隷頭「……いや、待ってくれ。
おい、見張り! 傍には何が書いてある」
見張り「交差したマスケットに
タコがからみついたドクロのマークだ!」
奴隷頭「ちくしょうっ、やっぱりか……っ」
船長「おい、どうした?」
奴隷頭「こないだ寄った港の安酒場で聞いた噂です。
たった一隻、それも外洋型のデカイ船だけの
おかしな海賊がいるって噂ですよ。
もし、マスケットとタコの旗を見かけたら、
商船だったら迷わず白旗を揚げろと」
船長「ほう? どうしてだ?」
奴隷頭「どうしてってそりゃぁ……」
ずだぁあああんっ!!
ぐらぐらぐらっ
奴隷頭「こういう事ですよぉっ、船長!
連中の船ときたら足も速いし手も早いって、
もっぱら評判なんでさ!」
船長「んなバカな……まだ距離が1マイルはある!
そんな距離で大砲が当たるワケねぇだろ!」
ずだぁあああんっ!!
ぐらぐらぐらっ
『ふざけんな』って返してやれ!
あんな外洋型のなりそこないみてぇな、
デケェ船で追いつくわけネェだろぉよ!」
奴隷頭「……いや、待ってくれ。
おい、見張り! 傍には何が書いてある」
見張り「交差したマスケットに
タコがからみついたドクロのマークだ!」
奴隷頭「ちくしょうっ、やっぱりか……っ」
船長「おい、どうした?」
奴隷頭「こないだ寄った港の安酒場で聞いた噂です。
たった一隻、それも外洋型のデカイ船だけの
おかしな海賊がいるって噂ですよ。
もし、マスケットとタコの旗を見かけたら、
商船だったら迷わず白旗を揚げろと」
船長「ほう? どうしてだ?」
奴隷頭「どうしてってそりゃぁ……」
ずだぁあああんっ!!
ぐらぐらぐらっ
奴隷頭「こういう事ですよぉっ、船長!
連中の船ときたら足も速いし手も早いって、
もっぱら評判なんでさ!」
船長「んなバカな……まだ距離が1マイルはある!
そんな距離で大砲が当たるワケねぇだろ!」
ずだぁあああんっ!!
ぐらぐらぐらっ
7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:23:56.28 ID:L16NlBrCo
見張り「船長、連中とんでもなく早ぇ!
このままじゃ十分くらいで追いつかれちまうっ。
しかも……」
船長「しかも、なんだっ!」
見張り「さっきから飛んでくる砲弾なんだが、
オモテ(船の先頭)の少し先に
ほとんど同じ位の距離で砲弾を沈めてやがる!
いつでもあてられるんだって言うみてえに……」
船長 ぞくり
奴隷頭「……どうしやすか?
白旗を揚げれば、命は助かるらしいが……」
船長「……くっ、仕方ねえ。
船と命さえ残れば、何とかなるか」
船長「奴隷共ぉ! 手を止めろ!!
おい、見張り! オマエは信号送れ」
見張り「『ふざけんな』じゃねえよな?」
船長「バッきゃろぅ『船員の命は保障しろ』だ!」
見張り「アイアイサー」
船長「クソ、クソッ。
せっかく商売が調子に乗ってきたってのによ」
奴隷頭「仕方ないでしょうよ。
最悪、こないだの『商売』で手に入れた、
この奴隷達を売れば多少は赤も埋まります」
少女(いったい、どうなるの、かな?
……少なくとも、悪くはならないよね。
今より辛くは、ならないくらい……今が辛いし)
このままじゃ十分くらいで追いつかれちまうっ。
しかも……」
船長「しかも、なんだっ!」
見張り「さっきから飛んでくる砲弾なんだが、
オモテ(船の先頭)の少し先に
ほとんど同じ位の距離で砲弾を沈めてやがる!
いつでもあてられるんだって言うみてえに……」
船長 ぞくり
奴隷頭「……どうしやすか?
白旗を揚げれば、命は助かるらしいが……」
船長「……くっ、仕方ねえ。
船と命さえ残れば、何とかなるか」
船長「奴隷共ぉ! 手を止めろ!!
おい、見張り! オマエは信号送れ」
見張り「『ふざけんな』じゃねえよな?」
船長「バッきゃろぅ『船員の命は保障しろ』だ!」
見張り「アイアイサー」
船長「クソ、クソッ。
せっかく商売が調子に乗ってきたってのによ」
奴隷頭「仕方ないでしょうよ。
最悪、こないだの『商売』で手に入れた、
この奴隷達を売れば多少は赤も埋まります」
少女(いったい、どうなるの、かな?
……少なくとも、悪くはならないよね。
今より辛くは、ならないくらい……今が辛いし)
8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:25:07.86 ID:L16NlBrCo
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
どたどたどた
白髪「よぉし、手を上げろっ!
ワシの引き金はオマエさん達の命よりなお軽いぞ。
死にたくなければ大人しくしやがれっ」カチャッ
?「言うとおりにすれば、手加減はする」チャキッ
包帯男「……」カチャッ
とこ、とこ
男「……あんたが、船長か」ユラリ
船長「あ、ああ……」
男「これからこの船から物資を奪う。
抵抗をしなければ、船員の命と船の無事は
守られる事だろう」
船長「くっ、わかってる。
さっさと持って行きやがれ」
男 こくり……
どたどたどた
少女(たったの、四人? 一人は、黒いフード……
でも、全員が島で見た兵の人たちよりもずっと、
洗練された兵士みたい……)
男「……」
少女(船長に銃を突きつけてるのが、
きっと海賊の人たちの頭領、なんだよね。
鷹みたいな目つきの、怖そうな人)じーっ
男 ちらっ
少女 どきっ
どたどたどた
白髪「よぉし、手を上げろっ!
ワシの引き金はオマエさん達の命よりなお軽いぞ。
死にたくなければ大人しくしやがれっ」カチャッ
?「言うとおりにすれば、手加減はする」チャキッ
包帯男「……」カチャッ
とこ、とこ
男「……あんたが、船長か」ユラリ
船長「あ、ああ……」
男「これからこの船から物資を奪う。
抵抗をしなければ、船員の命と船の無事は
守られる事だろう」
船長「くっ、わかってる。
さっさと持って行きやがれ」
男 こくり……
どたどたどた
少女(たったの、四人? 一人は、黒いフード……
でも、全員が島で見た兵の人たちよりもずっと、
洗練された兵士みたい……)
男「……」
少女(船長に銃を突きつけてるのが、
きっと海賊の人たちの頭領、なんだよね。
鷹みたいな目つきの、怖そうな人)じーっ
男 ちらっ
少女 どきっ
9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:29:55.07 ID:L16NlBrCo
男「……」
少女(見られて……なんでかな、眉を寄せて。
私の事、睨んでる?)びくびく
男 ついっ
少女(そういうわけじゃ、無かったのかな)ほっ
どたどたどた
白髪「火薬と銃弾、ワイン、塩漬け肉と塩漬け野菜、
貴金属に薬、と――大体持ってきたぞ」
包帯「……完了」
?「後は運ぶだけ」
男「ご苦労。ワゴン(海図)は有ったか?」
白髪「有ったには有ったが、
精度も位置も、あえて取らんでもいいような物だ」
男「……そうか。双子姉も呼んで船に積み込んでくれ」
白髪「了解した」
どたどた
男「……さて船長、この後の事だが」
船長「……」
男「部下には、港に着くまでに必要な水と食料と、
港について一杯飲む分の金を残せと、
そう命じてあるが、問題はあるか?」
少女(案外、あっさり終わるのかな……
抵抗、してないから。
海賊の人たちの積み込みも、もう済むし。
それで一安心……一安心、なのかな?)
少女(見られて……なんでかな、眉を寄せて。
私の事、睨んでる?)びくびく
男 ついっ
少女(そういうわけじゃ、無かったのかな)ほっ
どたどたどた
白髪「火薬と銃弾、ワイン、塩漬け肉と塩漬け野菜、
貴金属に薬、と――大体持ってきたぞ」
包帯「……完了」
?「後は運ぶだけ」
男「ご苦労。ワゴン(海図)は有ったか?」
白髪「有ったには有ったが、
精度も位置も、あえて取らんでもいいような物だ」
男「……そうか。双子姉も呼んで船に積み込んでくれ」
白髪「了解した」
どたどた
男「……さて船長、この後の事だが」
船長「……」
男「部下には、港に着くまでに必要な水と食料と、
港について一杯飲む分の金を残せと、
そう命じてあるが、問題はあるか?」
少女(案外、あっさり終わるのかな……
抵抗、してないから。
海賊の人たちの積み込みも、もう済むし。
それで一安心……一安心、なのかな?)
10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:31:22.26 ID:L16NlBrCo
船長「……ねぇよ。
有ったところで、銃口の前で何を言えってんだ」
男「至言だな」苦笑
少女 どきっ
少女「あ、あの!」
男 じっ
少女(え、えええっ! 私なんで……)
男「なんだ?」
船長「(口パク)だまってろーっ、怒らすなーっ!」
少女(なんで、なんで私、
こんなタイミング、で、呼びかけるなんて)
男「……用が無いなら、いくぞ」
少女「待って!」
男「……」
少女「私を――連れて、行って。
お願いです、何でもするから、ここから助けて!!」
男「……」
白髪「おう? ……ふむ。
おい、お嬢ちゃん、名前はなんてんだ?」
男「おい、白髪……」
少女「少女です!」
白髪「ほっほーう……可愛い名前じゃねえか」にやり
少女「え、えっと、ありがとうございます……?」
男「……」
有ったところで、銃口の前で何を言えってんだ」
男「至言だな」苦笑
少女 どきっ
少女「あ、あの!」
男 じっ
少女(え、えええっ! 私なんで……)
男「なんだ?」
船長「(口パク)だまってろーっ、怒らすなーっ!」
少女(なんで、なんで私、
こんなタイミング、で、呼びかけるなんて)
男「……用が無いなら、いくぞ」
少女「待って!」
男「……」
少女「私を――連れて、行って。
お願いです、何でもするから、ここから助けて!!」
男「……」
白髪「おう? ……ふむ。
おい、お嬢ちゃん、名前はなんてんだ?」
男「おい、白髪……」
少女「少女です!」
白髪「ほっほーう……可愛い名前じゃねえか」にやり
少女「え、えっと、ありがとうございます……?」
男「……」
11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:32:46.61 ID:L16NlBrCo
白髪「よし、船長さんよ。
そこの奴隷、一人もらっていくが、良いな」
男「白髪、そういうのは……」
ざわざわ
青年奴隷「お、俺も! 俺も連れて行ってくれ!!」
他の奴隷達「おれも」「いや俺だ」「よりも俺のが」
男 パァーンッ
シーン……
男「騒ぐな」
船長「……耳、耳、がぁ」ピクピク
白髪「あー、すまんな。後で医者に見てもらえ?」
男「……」
白髪「なあ、男よ。
この子はワシが連れて行きたい。良いな?」
男「……白髪の責任でならば」
白髪「よし。なら少女ちゃんよ、コッチに来い。
あー、ただ、他のオマエさんらはダメだ」
青年奴隷「……な、何でだよ」ジリッ
白髪「自分で運命を掴み取るヤツが好みってだけさ。
……文句あっか?」ギロッ
青年奴隷「…………い、いや」
少女 とことこ
白髪「よし、ちょっとすまんが、鎖を解いちゃくれないか?」
奴隷頭「……わかったよ」がちゃ
そこの奴隷、一人もらっていくが、良いな」
男「白髪、そういうのは……」
ざわざわ
青年奴隷「お、俺も! 俺も連れて行ってくれ!!」
他の奴隷達「おれも」「いや俺だ」「よりも俺のが」
男 パァーンッ
シーン……
男「騒ぐな」
船長「……耳、耳、がぁ」ピクピク
白髪「あー、すまんな。後で医者に見てもらえ?」
男「……」
白髪「なあ、男よ。
この子はワシが連れて行きたい。良いな?」
男「……白髪の責任でならば」
白髪「よし。なら少女ちゃんよ、コッチに来い。
あー、ただ、他のオマエさんらはダメだ」
青年奴隷「……な、何でだよ」ジリッ
白髪「自分で運命を掴み取るヤツが好みってだけさ。
……文句あっか?」ギロッ
青年奴隷「…………い、いや」
少女 とことこ
白髪「よし、ちょっとすまんが、鎖を解いちゃくれないか?」
奴隷頭「……わかったよ」がちゃ
12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:34:01.33 ID:L16NlBrCo
少女「……」
白髪「ふむ、うれしくないか?」
少女「い、いえ! 嬉しいです!」
白髪「よし、それならホレ、
そこの梯子を渡って、ウチの船に乗移れ。
落ちるなよ、さすがのワシても
わざわざ拾いにいく気はないからなっ」ニヤリ
少女(海賊の人たちが、
船を横付けして乗り込んでくるときにかけた
端の代わりの梯子……
荷物の移動でひょいひょい渡ってたから、
怖くないようにみえたのに、
波で揺れる船にかけられた梯子って、
ずっと下に海が見えてすごく怖い……)
白髪「む? どうした?
やはり奴隷でいたいというなら、
ワシは無理強いはせん。
キャプテンも睨んでいるしのぅ」ニヤリ
男「…………」ジロリ
少女「い、行きます」よた、よた
少女(大丈夫、下を見なければ、怖く、ない)
少女 よた、よた
ひゅぉおお
少女「ひっ……!!」ぐらぁっ
白髪「ふむ、うれしくないか?」
少女「い、いえ! 嬉しいです!」
白髪「よし、それならホレ、
そこの梯子を渡って、ウチの船に乗移れ。
落ちるなよ、さすがのワシても
わざわざ拾いにいく気はないからなっ」ニヤリ
少女(海賊の人たちが、
船を横付けして乗り込んでくるときにかけた
端の代わりの梯子……
荷物の移動でひょいひょい渡ってたから、
怖くないようにみえたのに、
波で揺れる船にかけられた梯子って、
ずっと下に海が見えてすごく怖い……)
白髪「む? どうした?
やはり奴隷でいたいというなら、
ワシは無理強いはせん。
キャプテンも睨んでいるしのぅ」ニヤリ
男「…………」ジロリ
少女「い、行きます」よた、よた
少女(大丈夫、下を見なければ、怖く、ない)
少女 よた、よた
ひゅぉおお
少女「ひっ……!!」ぐらぁっ
13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:35:17.45 ID:L16NlBrCo
少女 ギュウッ
白髪「ああ、一度梯子にしがみついたら
動けなくなるぞ……」
少女 ぶるぶる
男「チッ…………手を掴め」ギシッ
少女 ソッ
男 ガシッ
少女「……ッ、あ、ありがとうございます」
男「さっさと渡れ」
少女 よろよろ、とたっ
白髪「がははっ、見てるほうが怖くなるわい。
まったく、肝が冷えたな!」どかどか
少女(うわ、すごく余裕で渡ってる)
男「白髪、梯子を回収だ。おい、双子妹!」
双子姉「はい。位置にいるでありますっ」
男「よし」
少女(マストの上に、人?)
男「金品他、確かに譲り受けた!
以後、船影が見えなくなるまで動くなよ」
奴隷頭「わ、わかった」
船長「耳、耳が……」
奴隷頭「大丈夫ですよ、これくらい……」
男「よし、全速離脱! 方向300!」
全員「アイアイサー!」ダダーッ
白髪「ああ、一度梯子にしがみついたら
動けなくなるぞ……」
少女 ぶるぶる
男「チッ…………手を掴め」ギシッ
少女 ソッ
男 ガシッ
少女「……ッ、あ、ありがとうございます」
男「さっさと渡れ」
少女 よろよろ、とたっ
白髪「がははっ、見てるほうが怖くなるわい。
まったく、肝が冷えたな!」どかどか
少女(うわ、すごく余裕で渡ってる)
男「白髪、梯子を回収だ。おい、双子妹!」
双子姉「はい。位置にいるでありますっ」
男「よし」
少女(マストの上に、人?)
男「金品他、確かに譲り受けた!
以後、船影が見えなくなるまで動くなよ」
奴隷頭「わ、わかった」
船長「耳、耳が……」
奴隷頭「大丈夫ですよ、これくらい……」
男「よし、全速離脱! 方向300!」
全員「アイアイサー!」ダダーッ
14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:36:08.82 ID:L16NlBrCo
------------------------------------------------
昼 海賊船甲板
双子妹「……敵影消失後三百秒を確認完了。
周辺視界内に以上無し。
警戒態勢から準警戒態勢へ移行であります。
みなさん、お疲れ様でありますよ!」
双子姉「お疲れ様だよー♪」ばたばた
白髪「ふーぅ、やれやれ。戦闘行動はしんどいわい」
包帯「お疲れ様です。僕でよろしければ
肩でもおもみしましょうか」にこっ
?「そうやって包帯が年寄り扱いするから、
今みたいにワザとらしく年寄り風吹かすのよ。
いいから放っておきなさい」
白髪「がははっ、かなわんなぁ!」
双子姉「包帯のお兄ちゃんってマメだよねー
見た目はすんごい怖いのに」
包帯「ははっ、確かにね。
自分でも時々鏡を見て、
なんだ、ミイラが出てきたのかって、
びっくりするくらいだし」
?「いや、笑えないわよソレ」
白髪「ソレを笑ってこその人生だろうさ、
善哉善哉」ニヤリ
昼 海賊船甲板
双子妹「……敵影消失後三百秒を確認完了。
周辺視界内に以上無し。
警戒態勢から準警戒態勢へ移行であります。
みなさん、お疲れ様でありますよ!」
双子姉「お疲れ様だよー♪」ばたばた
白髪「ふーぅ、やれやれ。戦闘行動はしんどいわい」
包帯「お疲れ様です。僕でよろしければ
肩でもおもみしましょうか」にこっ
?「そうやって包帯が年寄り扱いするから、
今みたいにワザとらしく年寄り風吹かすのよ。
いいから放っておきなさい」
白髪「がははっ、かなわんなぁ!」
双子姉「包帯のお兄ちゃんってマメだよねー
見た目はすんごい怖いのに」
包帯「ははっ、確かにね。
自分でも時々鏡を見て、
なんだ、ミイラが出てきたのかって、
びっくりするくらいだし」
?「いや、笑えないわよソレ」
白髪「ソレを笑ってこその人生だろうさ、
善哉善哉」ニヤリ
15: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:37:48.22 ID:L16NlBrCo
白髪「トコロでオマエさん、
いつまで戦闘用のマントなんぞ着けてるんだ?」
?「……別にいいでしょ」
白髪「こんな日にいつまでもその格好、
汗もかくだろうよ。ほれ、ワシのとともに、
物干しに吊るしてきてやろう」
?「……関係ないでしょ。自分でやるからいいわよ」
白髪「いいや関係がある。大有りじゃよ!
ワシはお主のその豊満な胸が!
無粋な戦闘用の厚いマントなんかで隠されて、
谷間に伝う汗すら伺えぬというだけで、
ワシのたけり狂う欲ぼ――ぐべっ! ぶびょっ!」
?「だ、だからッ、白髪とは面と向かって!
話したくないのよ!!」ゲシッ、ボカッ
双子姉「ねえ、あれ止めないの?」
包帯「まあ、ああした触れあいも含めて、
お二人は楽しんでいらっしゃるものと、
僕は曲解していますからね」ニコッ
?「曲解しないで私を助けてよッ」ゲシッ
白髪「むぎゅぅ……
ワシとしては、あまり曲解でもないがな」
?「……」じりっ
双子姉「……あの言葉には、
近くにいるだけの私も逃げたくなるかも」
包帯あはは、「まあ、彼なりの下手な冗談と、
そう思っておくのが得策でしょう」
いつまで戦闘用のマントなんぞ着けてるんだ?」
?「……別にいいでしょ」
白髪「こんな日にいつまでもその格好、
汗もかくだろうよ。ほれ、ワシのとともに、
物干しに吊るしてきてやろう」
?「……関係ないでしょ。自分でやるからいいわよ」
白髪「いいや関係がある。大有りじゃよ!
ワシはお主のその豊満な胸が!
無粋な戦闘用の厚いマントなんかで隠されて、
谷間に伝う汗すら伺えぬというだけで、
ワシのたけり狂う欲ぼ――ぐべっ! ぶびょっ!」
?「だ、だからッ、白髪とは面と向かって!
話したくないのよ!!」ゲシッ、ボカッ
双子姉「ねえ、あれ止めないの?」
包帯「まあ、ああした触れあいも含めて、
お二人は楽しんでいらっしゃるものと、
僕は曲解していますからね」ニコッ
?「曲解しないで私を助けてよッ」ゲシッ
白髪「むぎゅぅ……
ワシとしては、あまり曲解でもないがな」
?「……」じりっ
双子姉「……あの言葉には、
近くにいるだけの私も逃げたくなるかも」
包帯あはは、「まあ、彼なりの下手な冗談と、
そう思っておくのが得策でしょう」
16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:39:05.67 ID:L16NlBrCo
双子妹「……白髪の兄さま」
白髪「うむ、なんだ?」
双子妹「先ほどの誘拐された人はドコでありますか?」
双子姉「いや、誘拐じゃないでしょ」
双子妹「身体を欲されたでありますか」
双子姉「……えっと、間違っていないような?」
?「微妙なトコロね……」
白髪「むぅ、ワシのひぃこら云ってる身体より、
あの娘に興味があるのか」
双子「「そりゃーもちろん!」であります!」
白髪「最近は双子までこの態度。
もうちょい年寄りをいたわらんか貴様ら……」
?「……いっそ死ねばいいのに」
双子姉「ねーねー、そんな事より、あの子!」
白髪「そんな事より、と……」ガクッ
包帯「わざとらしく拗ねて見せる
白髪さんは置いておくとして……
二人は船長室で面談中ですよ」
双子妹「二人きりでお互いの深くを知るため、
つきあっているでありますか」
包帯「顔を突き合わせている、の間違いだね。
白髪さんが勢いで連れてきたけど、
普通の人じゃ、僕達とは行動できないからね。
場合によっては、無用に騒がれる前に、
店長が口封じをするんじゃないかな?」
白髪「うむ、なんだ?」
双子妹「先ほどの誘拐された人はドコでありますか?」
双子姉「いや、誘拐じゃないでしょ」
双子妹「身体を欲されたでありますか」
双子姉「……えっと、間違っていないような?」
?「微妙なトコロね……」
白髪「むぅ、ワシのひぃこら云ってる身体より、
あの娘に興味があるのか」
双子「「そりゃーもちろん!」であります!」
白髪「最近は双子までこの態度。
もうちょい年寄りをいたわらんか貴様ら……」
?「……いっそ死ねばいいのに」
双子姉「ねーねー、そんな事より、あの子!」
白髪「そんな事より、と……」ガクッ
包帯「わざとらしく拗ねて見せる
白髪さんは置いておくとして……
二人は船長室で面談中ですよ」
双子妹「二人きりでお互いの深くを知るため、
つきあっているでありますか」
包帯「顔を突き合わせている、の間違いだね。
白髪さんが勢いで連れてきたけど、
普通の人じゃ、僕達とは行動できないからね。
場合によっては、無用に騒がれる前に、
店長が口封じをするんじゃないかな?」
17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:40:14.38 ID:L16NlBrCo
?「…………」
双子姉「口封じって、穏やかじゃないね」
白髪「仕方ねえよ。
俺たちは、どうしたって『普通』じゃねえ。
その事自体は問題にはならんが、
それを騒ぎ立てる奴らがいれば、
安穏とはしていられなくなるからな」
包帯「できれば僕としても、
友達になってもらえたら嬉しいですがね」
白髪「それができないって云うなら、
喋る可能性をなくすのが最良さ」
?「……それがわかってて、なんで、
男の命令に逆らってまで、
白髪はあの子を連れてきたの?」
白髪「それはな――」
双子「「それは……っ」」
?「……」
白髪「面白そうだったか……ウボァ! ギャァ!」
?「アンタって! そういう!
ヤツよね!!」ドスッ、ゲシッ、バコンッ
包帯(面白そう……それは、ドコまで)
白髪 チラ、ニヤッ
包帯「……ですよね」苦笑
双子姉「口封じって、穏やかじゃないね」
白髪「仕方ねえよ。
俺たちは、どうしたって『普通』じゃねえ。
その事自体は問題にはならんが、
それを騒ぎ立てる奴らがいれば、
安穏とはしていられなくなるからな」
包帯「できれば僕としても、
友達になってもらえたら嬉しいですがね」
白髪「それができないって云うなら、
喋る可能性をなくすのが最良さ」
?「……それがわかってて、なんで、
男の命令に逆らってまで、
白髪はあの子を連れてきたの?」
白髪「それはな――」
双子「「それは……っ」」
?「……」
白髪「面白そうだったか……ウボァ! ギャァ!」
?「アンタって! そういう!
ヤツよね!!」ドスッ、ゲシッ、バコンッ
包帯(面白そう……それは、ドコまで)
白髪 チラ、ニヤッ
包帯「……ですよね」苦笑
18: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:41:23.30 ID:L16NlBrCo
------------------------------------------------
昼 海賊船船長室
とことこ、がちゃ
男「入れ」
少女「お、お邪魔します」びくびくっ
男 がたがた
少女(広い部屋……
いや、普通の家に比べたら全然狭いけど、
この大きさの船にしては、
かなり広めの空間がある部屋みたい……
もっとも、なんだかよくわからないものとか、
本棚で圧迫されてるけど……)
男「そこに座っていろ」
少女(そこって、この、ベッド、だよね……)ギシッ
男「……そこの椅子だ。
それとも誘っているのか?」
少女「え、ひゃ、そんな事ないですっ!!」
男 かたかた
少女(これって、船長用の椅子だよね……
どう見ても来客とか奴隷用じゃないって!
はわわわ……)
男「……どうした。座り心地が悪かったか?」
少女「い、いえ……」ぽふっ
昼 海賊船船長室
とことこ、がちゃ
男「入れ」
少女「お、お邪魔します」びくびくっ
男 がたがた
少女(広い部屋……
いや、普通の家に比べたら全然狭いけど、
この大きさの船にしては、
かなり広めの空間がある部屋みたい……
もっとも、なんだかよくわからないものとか、
本棚で圧迫されてるけど……)
男「そこに座っていろ」
少女(そこって、この、ベッド、だよね……)ギシッ
男「……そこの椅子だ。
それとも誘っているのか?」
少女「え、ひゃ、そんな事ないですっ!!」
男 かたかた
少女(これって、船長用の椅子だよね……
どう見ても来客とか奴隷用じゃないって!
はわわわ……)
男「……どうした。座り心地が悪かったか?」
少女「い、いえ……」ぽふっ
19: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:42:09.24 ID:L16NlBrCo
男 かちゃっ
少女「……これって」
男「紅茶だ。ラムやぶどう酒のほうが良かったか?」
少女「い、いいえ! 全然!!」
男「そうか」こくり
少女(嘘みたい! 船の上で紅茶が飲めるなんて……)
男「……」
少女「香りもいいし、とっても美味しいですっ!」
男 こくり
少女「……」
男「……」
少女「……」
男「……」
少女(ど、どうしよう!
会話が全然続かないというか!
なんで私が船長の部屋まで
連れてこられたのかもわからない……っ)
男「……」
少女(物静かっていうか、覇気がない人……?
目だけは鋭いのに、光はなくて。
海賊船の船長なんて、知らなければ嘘みたい。
どんな人で、何が似合うかはわからないけど。
乱暴者をまとめる一番の荒くれ者には、
どう間違っても見えないかな)
少女「……これって」
男「紅茶だ。ラムやぶどう酒のほうが良かったか?」
少女「い、いいえ! 全然!!」
男「そうか」こくり
少女(嘘みたい! 船の上で紅茶が飲めるなんて……)
男「……」
少女「香りもいいし、とっても美味しいですっ!」
男 こくり
少女「……」
男「……」
少女「……」
男「……」
少女(ど、どうしよう!
会話が全然続かないというか!
なんで私が船長の部屋まで
連れてこられたのかもわからない……っ)
男「……」
少女(物静かっていうか、覇気がない人……?
目だけは鋭いのに、光はなくて。
海賊船の船長なんて、知らなければ嘘みたい。
どんな人で、何が似合うかはわからないけど。
乱暴者をまとめる一番の荒くれ者には、
どう間違っても見えないかな)
20: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:43:14.00 ID:L16NlBrCo
男「……オマエは」
少女「っ、はい」
男「どうしてあの場にいて、ここに来たんだ?」
少女「えっと、それはその、
どうして奴隷として使われていて、
あの場でつれていって欲しいって言ったか、
っていう事ですか?」
男 こくり
少女「その、ドコから話せばいいのか」
男「…………」ジロッ
少女「す、全て! 長くなっても大丈夫なら、
最初から最後までつまびらかに全部を!」
男「構わん。唐突な嵐でも無い限り、
しばらくは退屈だ」
少女「で、ですよねー、あはは」
男「……」
少女(話しにくい、話しにくいよぉっ!
……せめて、こっちを向いてくれたらいいのに。
覗き窓の向こうばっかり見つめて、
本当に聞く気はあるのかな?)
男「むしろ……」
少女「はい?」
男「………………いや、さっさと話せ」
少女「は、はいっ!」
少女「っ、はい」
男「どうしてあの場にいて、ここに来たんだ?」
少女「えっと、それはその、
どうして奴隷として使われていて、
あの場でつれていって欲しいって言ったか、
っていう事ですか?」
男 こくり
少女「その、ドコから話せばいいのか」
男「…………」ジロッ
少女「す、全て! 長くなっても大丈夫なら、
最初から最後までつまびらかに全部を!」
男「構わん。唐突な嵐でも無い限り、
しばらくは退屈だ」
少女「で、ですよねー、あはは」
男「……」
少女(話しにくい、話しにくいよぉっ!
……せめて、こっちを向いてくれたらいいのに。
覗き窓の向こうばっかり見つめて、
本当に聞く気はあるのかな?)
男「むしろ……」
少女「はい?」
男「………………いや、さっさと話せ」
少女「は、はいっ!」
21: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:44:34.85 ID:L16NlBrCo
少女「えっと、そうですね……
一応先に説明させて貰うと、
私は一部の奴隷さんみたいに、
町を襲われて連れてこられたとかじゃないんです」
男 こくり
少女「船で旅行をしていたら、その船がさっきの、
商人さんの船に襲われて、
奴隷としてつかまったんです」
男「……よくあることだ。
ガレーの漕ぎ手は消耗品だからな。
トルキアの商人が一神教徒の船を見つけたら、
ほとんどの場合はそうなる」
少女「……それで、奴隷としてつかまったけど、
その、見た目のせいで男の子と思われたみたいで、
他の女の子みたいに、その……
『そういう』檻にいれられる事も無くて、
働かされてたんです」
男「……たしかに、絶壁だな」
少女「ぜ、絶壁って!!」
男「御幣も他意もない。顔つきも直線的だしな。
せめて胸に膨らみがあればそれとわかるが。
ソレは胸のふくらみと云えば嘘にはならないが、
実際は胸筋のふくらみだろう。
むしろ白髪がよくオマエを女だとわかったものだ」
一応先に説明させて貰うと、
私は一部の奴隷さんみたいに、
町を襲われて連れてこられたとかじゃないんです」
男 こくり
少女「船で旅行をしていたら、その船がさっきの、
商人さんの船に襲われて、
奴隷としてつかまったんです」
男「……よくあることだ。
ガレーの漕ぎ手は消耗品だからな。
トルキアの商人が一神教徒の船を見つけたら、
ほとんどの場合はそうなる」
少女「……それで、奴隷としてつかまったけど、
その、見た目のせいで男の子と思われたみたいで、
他の女の子みたいに、その……
『そういう』檻にいれられる事も無くて、
働かされてたんです」
男「……たしかに、絶壁だな」
少女「ぜ、絶壁って!!」
男「御幣も他意もない。顔つきも直線的だしな。
せめて胸に膨らみがあればそれとわかるが。
ソレは胸のふくらみと云えば嘘にはならないが、
実際は胸筋のふくらみだろう。
むしろ白髪がよくオマエを女だとわかったものだ」
22: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:45:34.20 ID:L16NlBrCo
少女「そこまで言われると、
怒るを通り越して泣けてくるかも……」
男「なぜだ? よく鍛えられ体だと褒めている」
少女「褒め言葉じゃないです!
いや、たしかにそりゃね、
ちょっとは鍛えてるけど」ぶつぶつ
男「……脱線したな。話の続きだ」
少女「あ、はい。
あの場で声をかけた理由、ですよね」
男 こくり
少女「……それは、その、外を見たかったからです」
男「……」
少女「私はリベルタっていう島の出身なんですけど、
父親がちょっと難しい人で、
私は外の世界を見たいって思ってたのに、
ずっと反対され続けていたんですよ」
少女「島は中継地点としてとても立地が良くて、
トルキアとベネッタ、スピエナが交易する船は、
殆どが停泊していくような場所にあります」
男「……何度か行ったことがある」
少女「ホントですか!」
男「随分と昔だがな。
島も港もあまり大きくなかったが、
それでもかなり賑わっていたと記憶している」
怒るを通り越して泣けてくるかも……」
男「なぜだ? よく鍛えられ体だと褒めている」
少女「褒め言葉じゃないです!
いや、たしかにそりゃね、
ちょっとは鍛えてるけど」ぶつぶつ
男「……脱線したな。話の続きだ」
少女「あ、はい。
あの場で声をかけた理由、ですよね」
男 こくり
少女「……それは、その、外を見たかったからです」
男「……」
少女「私はリベルタっていう島の出身なんですけど、
父親がちょっと難しい人で、
私は外の世界を見たいって思ってたのに、
ずっと反対され続けていたんですよ」
少女「島は中継地点としてとても立地が良くて、
トルキアとベネッタ、スピエナが交易する船は、
殆どが停泊していくような場所にあります」
男「……何度か行ったことがある」
少女「ホントですか!」
男「随分と昔だがな。
島も港もあまり大きくなかったが、
それでもかなり賑わっていたと記憶している」
23: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:46:34.07 ID:L16NlBrCo
少女「比較する対象がないから、
大きさについてはわからないけど……
確かに、済みやすいとか賑やかとか聞くかな?」
男「そして、あいまいな記憶だが、
島の領主の名前がお前と同じだったか」
少女「…………それは父ですから」
男「そうか」
少女「もしかして、最初からわかっていて?」
男「いや。名前を聞いて疑問に思っただけだ。
だからこうして部屋に呼んだ」
少女「……」
男「それで、そんな恵みあふれる島で、
不自由のない暮らしをしていたはずの、
次期領主とやらが、
なぜ奴隷などになっていた」
少女「本当は私じゃなくて、領主になるべき人が……
兄が、いたんですけどね。
事故で死んじゃって……
それ以来、父は私を屋敷から出す事すら
嫌がるようになってしまったんです」
男「……」
少女「それまでは普通に島民の男の子達と、
チャンバラとかして遊んでたんですけどね!
本を読んだりレースを編んだり、
そういう事よりは体を動かすほうが楽しくて」
大きさについてはわからないけど……
確かに、済みやすいとか賑やかとか聞くかな?」
男「そして、あいまいな記憶だが、
島の領主の名前がお前と同じだったか」
少女「…………それは父ですから」
男「そうか」
少女「もしかして、最初からわかっていて?」
男「いや。名前を聞いて疑問に思っただけだ。
だからこうして部屋に呼んだ」
少女「……」
男「それで、そんな恵みあふれる島で、
不自由のない暮らしをしていたはずの、
次期領主とやらが、
なぜ奴隷などになっていた」
少女「本当は私じゃなくて、領主になるべき人が……
兄が、いたんですけどね。
事故で死んじゃって……
それ以来、父は私を屋敷から出す事すら
嫌がるようになってしまったんです」
男「……」
少女「それまでは普通に島民の男の子達と、
チャンバラとかして遊んでたんですけどね!
本を読んだりレースを編んだり、
そういう事よりは体を動かすほうが楽しくて」
24: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:47:27.56 ID:L16NlBrCo
男「随分なお転婆だな」
少女「あはは……」
男「だが確か、リベルタは領主制の植民地ではなく
神聖リオーマの頃に独立して、
今は公国として、一つの国になっていたな」
少女「そうなんですよ、
だから私、コレでも一応は公女様なんです!」
男「……胸は無いがな」
少女「な、ちょ……っ!」
男「話を続けろ、奴隷」
少女「あ、はい、すみません…
で、立場は国って事になってますから、
そこそこ自由に政策とかを決められるんですよ。
もちろん独断はできなくて、
島のじいさんたちと相談して、ですけど。
それでも自治権はあるわけです」
男「国というなら、基本的にはそうだろう」
少女「そうですよね!
でも祖父の代より前から、リベルタは永世中立、
自由な貿易の仲介港って立場を貫いているのに、
周りの国がこぞって、
自分にだけ有利になるようにしろって、
しつこいくらいに圧力をかけてきて」
男「そうした圧力はしつこくかけなくては無意味だ」
少女「そうですけど……
そのせいで、領主の父も病床に伏して」
少女「あはは……」
男「だが確か、リベルタは領主制の植民地ではなく
神聖リオーマの頃に独立して、
今は公国として、一つの国になっていたな」
少女「そうなんですよ、
だから私、コレでも一応は公女様なんです!」
男「……胸は無いがな」
少女「な、ちょ……っ!」
男「話を続けろ、奴隷」
少女「あ、はい、すみません…
で、立場は国って事になってますから、
そこそこ自由に政策とかを決められるんですよ。
もちろん独断はできなくて、
島のじいさんたちと相談して、ですけど。
それでも自治権はあるわけです」
男「国というなら、基本的にはそうだろう」
少女「そうですよね!
でも祖父の代より前から、リベルタは永世中立、
自由な貿易の仲介港って立場を貫いているのに、
周りの国がこぞって、
自分にだけ有利になるようにしろって、
しつこいくらいに圧力をかけてきて」
男「そうした圧力はしつこくかけなくては無意味だ」
少女「そうですけど……
そのせいで、領主の父も病床に伏して」
25: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:48:26.87 ID:L16NlBrCo
少女「さらに、そういう国なので、
少なくとも直系の血を引いている私がいるなら、
私を次の領主にすることで、
おじい様方が決めて動いて……」
男「ふむ」
少女「だから私は突貫工事で、
次の領主になれるようにって、
帝王学の勉強をしたり、交渉術の稽古をして……
まだ殆ど身についてないですけどね」
男「調教されていたわけだな」
少女「……まあ、そうです」
男「……」
少女「そんなある日、窓の外をぼんやり眺めていて、
唐突に思ったんですよ。
このままでいいのかなって。
私には、この窓の景色だけが外でいいのかって」
男「……領主になることが嫌なのか?」
少女「たぶん、イヤだとか、そういう事じゃなくて
それはもう、私が背負うしかないものなので、
仕方ないというか」
男「……」
少女「あの有名なミエディッチ家の財宝を見たり、
ゴンドラの行きかうベネッタを町を歩いたり、
不思議な形の寺院が並ぶトルキア文化に触れたり、
黄金であふれてるって新世界に行ったり……」
少なくとも直系の血を引いている私がいるなら、
私を次の領主にすることで、
おじい様方が決めて動いて……」
男「ふむ」
少女「だから私は突貫工事で、
次の領主になれるようにって、
帝王学の勉強をしたり、交渉術の稽古をして……
まだ殆ど身についてないですけどね」
男「調教されていたわけだな」
少女「……まあ、そうです」
男「……」
少女「そんなある日、窓の外をぼんやり眺めていて、
唐突に思ったんですよ。
このままでいいのかなって。
私には、この窓の景色だけが外でいいのかって」
男「……領主になることが嫌なのか?」
少女「たぶん、イヤだとか、そういう事じゃなくて
それはもう、私が背負うしかないものなので、
仕方ないというか」
男「……」
少女「あの有名なミエディッチ家の財宝を見たり、
ゴンドラの行きかうベネッタを町を歩いたり、
不思議な形の寺院が並ぶトルキア文化に触れたり、
黄金であふれてるって新世界に行ったり……」
26: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:50:01.60 ID:L16NlBrCo
少女「そういう事をしてみたいって、
夢を見てたんです。
港町ですからね、波にのってたくさんのステキな
『世界の欠片』が流れてくる。
でも私は何一つとして、本物を知らないんです。
だから、見たり、触れたり、食べたりしたかった」
男「夢物語だな」
少女「……領主になったら、よほどの事が無い限り、
島から出る事はできなくなります。
その前にせめて自分の目で、
島の外を――あまり遠くない場所だけでも、
どんな世界なのか見てみたいなって。夢物語です」
男「……そうか」
少女「でも、港を出て少ししたところで、
あのトルキアの商人の人たちに捕まって
奴隷にされちゃいましたけどね。
外を見る旅だけじゃなくて、
人生も終わっちゃうところでした、あはは……は」
ギリッ……
少女(今の音……、この人の、歯軋り?)
男「……続けろ」
少女「まあ、そんな感じで、
どうせ人生が終わりかもしれないって事態なら、
思い切った事をしよう! なんて。
それが、海賊さんに声をかけた理由です」
男「……」
夢を見てたんです。
港町ですからね、波にのってたくさんのステキな
『世界の欠片』が流れてくる。
でも私は何一つとして、本物を知らないんです。
だから、見たり、触れたり、食べたりしたかった」
男「夢物語だな」
少女「……領主になったら、よほどの事が無い限り、
島から出る事はできなくなります。
その前にせめて自分の目で、
島の外を――あまり遠くない場所だけでも、
どんな世界なのか見てみたいなって。夢物語です」
男「……そうか」
少女「でも、港を出て少ししたところで、
あのトルキアの商人の人たちに捕まって
奴隷にされちゃいましたけどね。
外を見る旅だけじゃなくて、
人生も終わっちゃうところでした、あはは……は」
ギリッ……
少女(今の音……、この人の、歯軋り?)
男「……続けろ」
少女「まあ、そんな感じで、
どうせ人生が終わりかもしれないって事態なら、
思い切った事をしよう! なんて。
それが、海賊さんに声をかけた理由です」
男「……」
27: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:50:56.56 ID:L16NlBrCo
少女(……嘘は、ついてない。
それは、声をかけた後に、
それでも良いや、って開き直った理由だから。
でもあの瞬間に、つい声をかけたのは――)
男「たしかに、奴隷のままでは、
外を見る余裕などは無いな。
……この船はお前にとって、
相応しい場所かも知れん」
少女「はい?」
男「いや、なんでもない。
お前を船員として迎えいれるかどうかは、
すぐには判断できん。
他の船員との相談もある」
少女「……そうですよね」
男「相談の結果は追って伝えさせる。
いま案内役を呼ぶ。
今は一度退室しろ」
少女「……はい」
男 とことこ、パコッ
少女(あ、あの壁の飾りって、
ただの彫刻じゃなくて伝声管なんだ)
男『包帯、白髪。船長室へ。
包帯は作業をしていたなら中断してもかまわん』
それは、声をかけた後に、
それでも良いや、って開き直った理由だから。
でもあの瞬間に、つい声をかけたのは――)
男「たしかに、奴隷のままでは、
外を見る余裕などは無いな。
……この船はお前にとって、
相応しい場所かも知れん」
少女「はい?」
男「いや、なんでもない。
お前を船員として迎えいれるかどうかは、
すぐには判断できん。
他の船員との相談もある」
少女「……そうですよね」
男「相談の結果は追って伝えさせる。
いま案内役を呼ぶ。
今は一度退室しろ」
少女「……はい」
男 とことこ、パコッ
少女(あ、あの壁の飾りって、
ただの彫刻じゃなくて伝声管なんだ)
男『包帯、白髪。船長室へ。
包帯は作業をしていたなら中断してもかまわん』
28: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:52:01.25 ID:L16NlBrCo
------------------------------------------------
夕刻 海賊船船長室
白髪「んで、どうだったよ」
男「……」
白髪「おいおい、黙ってたら何もわからんぜ」
男「……わかっているんじゃないか?」
白髪「わからんな。こちとら、神ならぬ身だ。
……ま、アタリは付く」
男「……」
白髪「リベルタの公女様、だったんだな?」
男「……ああ」
白髪「がはは、奇縁だなぁ!
まさかこんなところで会うとは」
男「俺の言葉を取るな」
白髪「地中海に浮かぶ島としては、
一般的な大きさだが……
それでもその要所に位置することから、
幾度となく戦火に晒されてきた島……
今代の治世にあっては、
穏やからしいがな」
夕刻 海賊船船長室
白髪「んで、どうだったよ」
男「……」
白髪「おいおい、黙ってたら何もわからんぜ」
男「……わかっているんじゃないか?」
白髪「わからんな。こちとら、神ならぬ身だ。
……ま、アタリは付く」
男「……」
白髪「リベルタの公女様、だったんだな?」
男「……ああ」
白髪「がはは、奇縁だなぁ!
まさかこんなところで会うとは」
男「俺の言葉を取るな」
白髪「地中海に浮かぶ島としては、
一般的な大きさだが……
それでもその要所に位置することから、
幾度となく戦火に晒されてきた島……
今代の治世にあっては、
穏やからしいがな」
29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:52:41.53 ID:L16NlBrCo
男「ベネッタとトルキアの戦争は、
ここ三十年ばかり休戦状態だ。
そしてその戦争を望む一神教側も、
宗教改革の波に飲まれて身動きができず……」
白髪「トルキアにしたところで、
跡目争いだのなんだのと、
たしか騒がしくしていたか。
お陰で俺達の海は実に穏やかだった」
男「……穏やかだったか?」
白髪「トルキアの海賊はうるさかったがなぁ。
マータ騎士団は結局、
あの島に移ってからは何もしとらんし。
戦争って意味から見れば、
スピエナ意外は案外平穏だった……
違うか?」
男「否定はしない。
俺達が穏やかではなかっただけか」
白髪「そうだな。
こうしてそれなりに名前が売れて、
あの旗を見れば武器を置けと、
そういわれるようになるまでには、
それなりの代償も払ったな……」
男「……」
白髪「……」
ここ三十年ばかり休戦状態だ。
そしてその戦争を望む一神教側も、
宗教改革の波に飲まれて身動きができず……」
白髪「トルキアにしたところで、
跡目争いだのなんだのと、
たしか騒がしくしていたか。
お陰で俺達の海は実に穏やかだった」
男「……穏やかだったか?」
白髪「トルキアの海賊はうるさかったがなぁ。
マータ騎士団は結局、
あの島に移ってからは何もしとらんし。
戦争って意味から見れば、
スピエナ意外は案外平穏だった……
違うか?」
男「否定はしない。
俺達が穏やかではなかっただけか」
白髪「そうだな。
こうしてそれなりに名前が売れて、
あの旗を見れば武器を置けと、
そういわれるようになるまでには、
それなりの代償も払ったな……」
男「……」
白髪「……」
31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:53:32.82 ID:L16NlBrCo
白髪「それでだ。
ワシをよんだのは、こんな風に辛気臭く、
昔話をするためではあるまい」
男「あの娘の事だ。
本当に船に乗せるのか?」
白髪「乗せねえって選択肢はあるのかよ」
男「……」
白髪「少なくとも殺す手はねえだろうがよ。
なんたってアイツは――」
男 チャキッ
白髪「……早とちりするな。
公国の支配者の娘だと、言おうとしたんだ」
男「……」スチャッ
白髪「ったく、ピリピリしすぎだ」
男「誰のせいだ」
白髪「知らんな。
まあそんな立場に有る娘だ。
多少怪我はしてるようだが、
人質と思えば上玉じゃねえか。
『海賊』としては、
あの娘の親に身代金を要求するってのも、
一つの手じゃあねえかと思うぜ」
男「……」
ワシをよんだのは、こんな風に辛気臭く、
昔話をするためではあるまい」
男「あの娘の事だ。
本当に船に乗せるのか?」
白髪「乗せねえって選択肢はあるのかよ」
男「……」
白髪「少なくとも殺す手はねえだろうがよ。
なんたってアイツは――」
男 チャキッ
白髪「……早とちりするな。
公国の支配者の娘だと、言おうとしたんだ」
男「……」スチャッ
白髪「ったく、ピリピリしすぎだ」
男「誰のせいだ」
白髪「知らんな。
まあそんな立場に有る娘だ。
多少怪我はしてるようだが、
人質と思えば上玉じゃねえか。
『海賊』としては、
あの娘の親に身代金を要求するってのも、
一つの手じゃあねえかと思うぜ」
男「……」
32: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:54:10.75 ID:L16NlBrCo
白髪「ところでよ。
あの嬢ちゃんはいったいなんだって、
トルキアのガレー船なんかに居たんだ?
聞いたんだろ、そのアタリ」
男「……跡目を継ぐはずだった兄が居なくなり、
急に公女として締め付けられるようになったが、
それがわずらわしくなっての逃亡らしい。
病状の思わしくない領主が逝ってしまえば、
後は島の外に出ることの無い、
窓の内側しか知らない生き方になってしまうとな」
白髪「ほう、なるほどな。で、どうだ」
男「何がだ」
白髪「その話を聞いてどう思ったかって、
聞いてるんじゃねえか」
男「どうとも思わん」
白髪「かわいくねえなぁ」
男「……それで、どうする」
白髪「どうしてえよ」
男「……」
白髪「おいおい、まさかとは思うが、
俺に判断を任せようだなんて事は、
考えちゃいねえだろうな?」
あの嬢ちゃんはいったいなんだって、
トルキアのガレー船なんかに居たんだ?
聞いたんだろ、そのアタリ」
男「……跡目を継ぐはずだった兄が居なくなり、
急に公女として締め付けられるようになったが、
それがわずらわしくなっての逃亡らしい。
病状の思わしくない領主が逝ってしまえば、
後は島の外に出ることの無い、
窓の内側しか知らない生き方になってしまうとな」
白髪「ほう、なるほどな。で、どうだ」
男「何がだ」
白髪「その話を聞いてどう思ったかって、
聞いてるんじゃねえか」
男「どうとも思わん」
白髪「かわいくねえなぁ」
男「……それで、どうする」
白髪「どうしてえよ」
男「……」
白髪「おいおい、まさかとは思うが、
俺に判断を任せようだなんて事は、
考えちゃいねえだろうな?」
33: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:55:04.74 ID:L16NlBrCo
俺「そのつもりだが」
白髪「……冗談言うなよ」
男「冗談ではない。
アレは、オマエが責任を持つという条件で
拾ったものだ」
白髪「そういやそうだったか」
男「反対すべきである提案に対しては文句を言う。
だが、そうでなければ、
労働力として使うとしても、
魚のエサにするとしても、
夜の慰みに――は、イロイロと不足だと思うが、
どのようにしようと、感知はせん」
白髪「おいおい、わかってねえなぁ。
胸だのケツだってのは、
あるならば有ることを楽しみ、
無いならば無いことを愛するのが男ってもんだ」
男「特にわかりたいとは思わん」
白髪「つまらねえヤツだ。
今はあの船でひどく扱われたせいで
薄汚れちまってるがな、
ありゃ、きちんと磨けばそれなりになるぜ。
顔は並だが、よく鍛えられた身体だ。
しっかりしてる分、夜に愉しむ相手としちゃ、
むしろ下手な女よりよほど……」
ギリッ
白髪「……冗談言うなよ」
男「冗談ではない。
アレは、オマエが責任を持つという条件で
拾ったものだ」
白髪「そういやそうだったか」
男「反対すべきである提案に対しては文句を言う。
だが、そうでなければ、
労働力として使うとしても、
魚のエサにするとしても、
夜の慰みに――は、イロイロと不足だと思うが、
どのようにしようと、感知はせん」
白髪「おいおい、わかってねえなぁ。
胸だのケツだってのは、
あるならば有ることを楽しみ、
無いならば無いことを愛するのが男ってもんだ」
男「特にわかりたいとは思わん」
白髪「つまらねえヤツだ。
今はあの船でひどく扱われたせいで
薄汚れちまってるがな、
ありゃ、きちんと磨けばそれなりになるぜ。
顔は並だが、よく鍛えられた身体だ。
しっかりしてる分、夜に愉しむ相手としちゃ、
むしろ下手な女よりよほど……」
ギリッ
34: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:55:49.93 ID:L16NlBrCo
白髪「がはは、昔から男はそうだな。
気に食わねえと、そうやって、
両手握って歯軋りしてよ……
口があるんだ、言葉にするがいいだろ」
男「不満などない」
白髪「あーそうかい。
まあ、航海中の船内じゃ、
そういう事は御法度だしな。
俺は『本当の』無理強いは好みじゃあねえんだ」
男「白髪の趣味など、どうでもいい」
白髪「……ふっ。
とりあえず俺としちゃぁ、
面白そうだ、放し飼いを提案させて貰うぜ。
船の一員として、出来る事をやらせよう。
幸いそれなりのたくわえもできてるだろ?」
男「まあな。
だが、他の船員に対しての説明は、
白髪の方で済ませて置いてくれ」
白髪「大した説明なんざいらないと思うがなぁ」
男「公私のケジメはとつけるようにしろ、副船長。
船長命令だ」
白髪「アイアイサー。ったく、堅い奴め……」
気に食わねえと、そうやって、
両手握って歯軋りしてよ……
口があるんだ、言葉にするがいいだろ」
男「不満などない」
白髪「あーそうかい。
まあ、航海中の船内じゃ、
そういう事は御法度だしな。
俺は『本当の』無理強いは好みじゃあねえんだ」
男「白髪の趣味など、どうでもいい」
白髪「……ふっ。
とりあえず俺としちゃぁ、
面白そうだ、放し飼いを提案させて貰うぜ。
船の一員として、出来る事をやらせよう。
幸いそれなりのたくわえもできてるだろ?」
男「まあな。
だが、他の船員に対しての説明は、
白髪の方で済ませて置いてくれ」
白髪「大した説明なんざいらないと思うがなぁ」
男「公私のケジメはとつけるようにしろ、副船長。
船長命令だ」
白髪「アイアイサー。ったく、堅い奴め……」
35: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:56:26.80 ID:L16NlBrCo
男「……あの娘より先に海に浮かびたいか?」
白髪「遠慮するぜ。そんじゃあな」ひらひらー
ばたん
男「……」
男「……くそ。なぜ今になって、縁が絡む」
男 よた、よた
男 ごそごそ
男(このペンダントは、
こんなにも小さかったか……?)
男(もっと、重く、冷たく、
強いものであるように思っていたが)
男「……リベルタか」
男「俺にとっての、終わりの島……」
男「俺は、なぜここに居る。
俺はなぜ、まだ息を吸っている……」
男「…………」
白髪「遠慮するぜ。そんじゃあな」ひらひらー
ばたん
男「……」
男「……くそ。なぜ今になって、縁が絡む」
男 よた、よた
男 ごそごそ
男(このペンダントは、
こんなにも小さかったか……?)
男(もっと、重く、冷たく、
強いものであるように思っていたが)
男「……リベルタか」
男「俺にとっての、終わりの島……」
男「俺は、なぜここに居る。
俺はなぜ、まだ息を吸っている……」
男「…………」
36: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:57:16.01 ID:L16NlBrCo
------------------------------------------------
夕刻 海賊船廊下
どかどか
白髪「……ったくよう。
なんなんだかなー」がしがし
白髪「昔っから、人に頼らない奴ではあったが」
双子姉「そうなの?」
白髪「何でも自分ひとりでできなねえと、
気がすまねえとでも云うような、
そんな傲慢なヤツでなぁ――っておい、
いつからそこに居た?」
双子姉「ん? 私のこと?」
白髪「他に誰が居るんだよ」
双子姉「たぶん、白髪のおっちゃんが、
廊下に出た時から?」
白髪「……盗み聞きしてやがったなぁ」苦笑
双子姉「ごめんなさーい」
白髪「反省してねえだろ」
双子姉「何も聞こえなかったからね!」
白髪「ったく、こいつは。
命拾いしたことも気付いてねえな?」
双子姉「命拾い?」
夕刻 海賊船廊下
どかどか
白髪「……ったくよう。
なんなんだかなー」がしがし
白髪「昔っから、人に頼らない奴ではあったが」
双子姉「そうなの?」
白髪「何でも自分ひとりでできなねえと、
気がすまねえとでも云うような、
そんな傲慢なヤツでなぁ――っておい、
いつからそこに居た?」
双子姉「ん? 私のこと?」
白髪「他に誰が居るんだよ」
双子姉「たぶん、白髪のおっちゃんが、
廊下に出た時から?」
白髪「……盗み聞きしてやがったなぁ」苦笑
双子姉「ごめんなさーい」
白髪「反省してねえだろ」
双子姉「何も聞こえなかったからね!」
白髪「ったく、こいつは。
命拾いしたことも気付いてねえな?」
双子姉「命拾い?」
37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:58:08.15 ID:L16NlBrCo
白髪「俺達は基本的に、
この船に乗る前にそれぞれああやって、
男の面接を受けてきただろ?」
双子姉「うんうん。いろいろ聞かれた」
白髪「だが、この船に乗っている中で今、
男の過去について知ってるのは、俺だけだよな」
双子姉「……知られたくない事があるの?」
白髪「まあそれなりにな。
俺も男も、自分達の金でもって、
こんなでっかい船を買って乗り回してる。
そんな金がドコから出たのかとかなー。
知られちまったらそれこそ、
たとえ双子姉でも海へ落とすしかないな」
双子姉「……マジでなの?」
白髪「本気も本気よぉ」ニヤリ
双子姉「盗み聞きも命がけなんだね」
白髪「まあだが、要するにバレなきゃいい。
さっきの聞き耳は良かったぞ。
俺も男も気を抜いていたつもりはないが、
よくもまあ気付かせなかったもんだよな」
双子姉「へへーん。これぞ双子姉が得意とする、
七つの必殺特技の一つなのだ!」
白髪「がはは、そりゃぁ格好良いな。
よし、その調子で特技を磨いて、
さらに引き出しを増やすがいい」
この船に乗る前にそれぞれああやって、
男の面接を受けてきただろ?」
双子姉「うんうん。いろいろ聞かれた」
白髪「だが、この船に乗っている中で今、
男の過去について知ってるのは、俺だけだよな」
双子姉「……知られたくない事があるの?」
白髪「まあそれなりにな。
俺も男も、自分達の金でもって、
こんなでっかい船を買って乗り回してる。
そんな金がドコから出たのかとかなー。
知られちまったらそれこそ、
たとえ双子姉でも海へ落とすしかないな」
双子姉「……マジでなの?」
白髪「本気も本気よぉ」ニヤリ
双子姉「盗み聞きも命がけなんだね」
白髪「まあだが、要するにバレなきゃいい。
さっきの聞き耳は良かったぞ。
俺も男も気を抜いていたつもりはないが、
よくもまあ気付かせなかったもんだよな」
双子姉「へへーん。これぞ双子姉が得意とする、
七つの必殺特技の一つなのだ!」
白髪「がはは、そりゃぁ格好良いな。
よし、その調子で特技を磨いて、
さらに引き出しを増やすがいい」
38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/13(金) 23:59:02.96 ID:L16NlBrCo
双子姉「……でもね、白髪のおっちゃん」
白髪「なんだ、チビっこ双子姉」
双子姉「こんな特技なくてもいられるのが、
一番だと思うのよ?」じっ
白髪「…………そうだな。
だが、どうしたってこの船に乗ってる以上、
俺達は『フリークス』なのさ」
双子姉「……」
白髪「まあ、こうやってツルんでる限り、
そんな事ぁ忘れていいし、
必殺技なんてモンも基本的には忘れとけ。
いいな? 副船長命令だ!」
双子姉「はっ、アイアイサー」ビシッ
白髪「……なんで双子姉の敬礼はそう、
小指を曲げて……
ほれ、しっかり伸ばせ。
足はかかとをしっかり合わせろよ」
双子姉「あうー」
白髪「……ったく、孫の世話してんじゃねえぞ」
双子姉「……おじいちゃん?」
白髪「次にそう呼んだら承知しねぇぞ!」
双子姉「えっへへー、おじーちゃーん♪」だだっ
白髪「あ、くそ、待ちやがれ!」だだーっ
白髪「なんだ、チビっこ双子姉」
双子姉「こんな特技なくてもいられるのが、
一番だと思うのよ?」じっ
白髪「…………そうだな。
だが、どうしたってこの船に乗ってる以上、
俺達は『フリークス』なのさ」
双子姉「……」
白髪「まあ、こうやってツルんでる限り、
そんな事ぁ忘れていいし、
必殺技なんてモンも基本的には忘れとけ。
いいな? 副船長命令だ!」
双子姉「はっ、アイアイサー」ビシッ
白髪「……なんで双子姉の敬礼はそう、
小指を曲げて……
ほれ、しっかり伸ばせ。
足はかかとをしっかり合わせろよ」
双子姉「あうー」
白髪「……ったく、孫の世話してんじゃねえぞ」
双子姉「……おじいちゃん?」
白髪「次にそう呼んだら承知しねぇぞ!」
双子姉「えっへへー、おじーちゃーん♪」だだっ
白髪「あ、くそ、待ちやがれ!」だだーっ
39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:00:12.90 ID:CKksknvCo
------------------------------------------------
夕刻 海賊船甲板
ひゅおおおおお
?「……風がうるさい」
双子妹「あ、ここに居たでありますか」
?「なにか、用?」
双子妹「えっとですね、白髪の兄さまから
伝令役を申し付けられたでありますよ」
?「……そう。内容は?」
双子妹「では繰り返すであります。
『日が昇るたびに天を見上げては、
その太陽の暑きところに怨嗟の声を
あげざるをえないほどの気候の昨今、
如何お過ごしでございましょうか。
私においては』……」
?「ストップ」
双子妹「は、とまるであります」
?「なに、その頭の悪い伝言。
なんで時候の挨拶から始まるのよ」
双子妹「自分からの進言であります。
まずそのような緩衝材の後にするべきと!」
夕刻 海賊船甲板
ひゅおおおおお
?「……風がうるさい」
双子妹「あ、ここに居たでありますか」
?「なにか、用?」
双子妹「えっとですね、白髪の兄さまから
伝令役を申し付けられたでありますよ」
?「……そう。内容は?」
双子妹「では繰り返すであります。
『日が昇るたびに天を見上げては、
その太陽の暑きところに怨嗟の声を
あげざるをえないほどの気候の昨今、
如何お過ごしでございましょうか。
私においては』……」
?「ストップ」
双子妹「は、とまるであります」
?「なに、その頭の悪い伝言。
なんで時候の挨拶から始まるのよ」
双子妹「自分からの進言であります。
まずそのような緩衝材の後にするべきと!」
40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:01:04.05 ID:CKksknvCo
?「……要件のまとめだけ聞かせて」
双子妹「はい!
『例の奴隷だった少女って女の子は、
さすがに男部屋には置いておけねえから、
オマエのベッドで寝かせてやってくれ』
という内容であります!」
?「……アタシのベッドで?」
双子妹「さっきの商船からの強奪で、
思った以上に収入があったという事で、
いまは倉庫だけじゃなくて、
予備の部屋まで埋まってしまったのであります。
なので、ベッドが足りないのが
忌憚のない現状の報告であります」
?「……」
双子妹「なお、白髪の兄さまいわく、
副船長命令だそうです」
?「…………わかったわ」
双子妹「では伝令は命令伝達の完了を確認し、
白髪の兄さまへの報告が済み次第、
待機任務に戻るであります!」だだっ
?「……結局私に災難がかかるんじゃない」
?「白髪なんて、キライ」
双子妹「はい!
『例の奴隷だった少女って女の子は、
さすがに男部屋には置いておけねえから、
オマエのベッドで寝かせてやってくれ』
という内容であります!」
?「……アタシのベッドで?」
双子妹「さっきの商船からの強奪で、
思った以上に収入があったという事で、
いまは倉庫だけじゃなくて、
予備の部屋まで埋まってしまったのであります。
なので、ベッドが足りないのが
忌憚のない現状の報告であります」
?「……」
双子妹「なお、白髪の兄さまいわく、
副船長命令だそうです」
?「…………わかったわ」
双子妹「では伝令は命令伝達の完了を確認し、
白髪の兄さまへの報告が済み次第、
待機任務に戻るであります!」だだっ
?「……結局私に災難がかかるんじゃない」
?「白髪なんて、キライ」
41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:06:19.09 ID:CKksknvCo
------------------------------------------------
夕刻 廊下
とことこ
包帯「それで、こっちがお手洗いで……
ここをまっすぐ行くと階段があって……」
少女「あ、あの」
包帯「なにかな」にこっ
少女(こ、怖い!
悲鳴を上げないようにするだけで、精一杯!
喋り方だけはとっても優しくて、
安心できそうな人なのに、
すっごいしゃがれた声で、
しかもこの外見は……!)
包帯「ああ、ごめんね。
ちょっと離れておこうか?」
少女「……い、いえ。大丈夫です」
包帯「ムリしなくていいよ?
なれないと不気味なのはわかるしねー。あはは」
少女「い、痛く、ないんですか?
その顔中の火傷……」
夕刻 廊下
とことこ
包帯「それで、こっちがお手洗いで……
ここをまっすぐ行くと階段があって……」
少女「あ、あの」
包帯「なにかな」にこっ
少女(こ、怖い!
悲鳴を上げないようにするだけで、精一杯!
喋り方だけはとっても優しくて、
安心できそうな人なのに、
すっごいしゃがれた声で、
しかもこの外見は……!)
包帯「ああ、ごめんね。
ちょっと離れておこうか?」
少女「……い、いえ。大丈夫です」
包帯「ムリしなくていいよ?
なれないと不気味なのはわかるしねー。あはは」
少女「い、痛く、ないんですか?
その顔中の火傷……」
43: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:10:55.81 ID:CKksknvCo
包帯「ん、もう全然痛くはないよ。
まあ、ちょっと引き連れたりするけどね。
食事の時にちょっと気になるくらい?
それ以外は殆ど意識もしないよ」にこっ
少女「えっと、いきなり踏み込んだことを聞いて、
ごめんなさい」
包帯「気にしないでいいって。
むしろ心配してくれたんだったら、
僕がお礼をいうところだね。ありがとう」
少女「あ、その。どういたしまして」
包帯「……まあ、僕に関してはいいんだけどね。
えっと確か君は……」
少女「あ、少女です」
包帯「少女くんは、船長からこの船について、
何かきいているかな?」
少女「いえ、その全く……」
包帯「……うーん、相変わらず。
気が回るようでいて、気を回さないからね……」
少女「えっと、そのそれは、
私がこの船に乗るかどうかが、
まだ決まってないからで……」
まあ、ちょっと引き連れたりするけどね。
食事の時にちょっと気になるくらい?
それ以外は殆ど意識もしないよ」にこっ
少女「えっと、いきなり踏み込んだことを聞いて、
ごめんなさい」
包帯「気にしないでいいって。
むしろ心配してくれたんだったら、
僕がお礼をいうところだね。ありがとう」
少女「あ、その。どういたしまして」
包帯「……まあ、僕に関してはいいんだけどね。
えっと確か君は……」
少女「あ、少女です」
包帯「少女くんは、船長からこの船について、
何かきいているかな?」
少女「いえ、その全く……」
包帯「……うーん、相変わらず。
気が回るようでいて、気を回さないからね……」
少女「えっと、そのそれは、
私がこの船に乗るかどうかが、
まだ決まってないからで……」
44: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:15:04.33 ID:CKksknvCo
包帯「……それは無いね」
少女「え?」
包帯「キミ、生きて男さんの部屋から出てきたし」
少女「……もしかして、実は」
包帯「気に入らなかったり、
そもそも害になりそうだと判断したら、
扉から出る前に撃っちゃう人だよ、男さんは」
少女 ぞくっ
包帯「ああでも、
よく考えたら、掃除の手間を考えて、
甲板の上で撃つ人かも?」
少女「……え、えと、それじゃ、私まだ命の危険?」
包帯「ま、大丈夫じゃないかなー。
なにせ白髪さんが連れてきたわけだし。
そういう面に関しては、
男さんは白髪さんにかなり頼ってるところが
実はあるからね」
少女「……」
包帯「ああ、すまないね。こんな話をしても、
まだキミにはわからないよね」
少女「すみません。せっかくなのに」
少女「え?」
包帯「キミ、生きて男さんの部屋から出てきたし」
少女「……もしかして、実は」
包帯「気に入らなかったり、
そもそも害になりそうだと判断したら、
扉から出る前に撃っちゃう人だよ、男さんは」
少女 ぞくっ
包帯「ああでも、
よく考えたら、掃除の手間を考えて、
甲板の上で撃つ人かも?」
少女「……え、えと、それじゃ、私まだ命の危険?」
包帯「ま、大丈夫じゃないかなー。
なにせ白髪さんが連れてきたわけだし。
そういう面に関しては、
男さんは白髪さんにかなり頼ってるところが
実はあるからね」
少女「……」
包帯「ああ、すまないね。こんな話をしても、
まだキミにはわからないよね」
少女「すみません。せっかくなのに」
45: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:21:12.53 ID:CKksknvCo
包帯「まあとりあえず、僕はキミが殺される事は
無いと判断しているんだよ。
イロイロあってね」にこっ
少女「そ、それなら、いいんですけど」
包帯「という訳で、この船の事についてとか、
今後の生活についての事で、
何か疑問点があれば答えようと思うけど、
今は何かあるかな?」
少女「……えっと、その。
今後の生活についてとかは次第に。
ただ、一つどうしても聞きたいことが
あるんです」
包帯「何かな?」
少女「あ、でもその前に、一つお願いしても
いいですか?
えっと、その、自己紹介とか……」
包帯「ああ、そうだった、そうだった。
すまないね。
ついついこうした狭いコミュニティにいると、
そういうのが必要なくて、
忘れちゃうんだよね。
外部の人と会っても、襲う側と襲われる側で、
自己紹介なんてしないし」
無いと判断しているんだよ。
イロイロあってね」にこっ
少女「そ、それなら、いいんですけど」
包帯「という訳で、この船の事についてとか、
今後の生活についての事で、
何か疑問点があれば答えようと思うけど、
今は何かあるかな?」
少女「……えっと、その。
今後の生活についてとかは次第に。
ただ、一つどうしても聞きたいことが
あるんです」
包帯「何かな?」
少女「あ、でもその前に、一つお願いしても
いいですか?
えっと、その、自己紹介とか……」
包帯「ああ、そうだった、そうだった。
すまないね。
ついついこうした狭いコミュニティにいると、
そういうのが必要なくて、
忘れちゃうんだよね。
外部の人と会っても、襲う側と襲われる側で、
自己紹介なんてしないし」
47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:26:35.05 ID:CKksknvCo
包帯「はじめまして、包帯っていいます。
この船の中じゃ、まあ中堅かな?
とは云っても実はこの船って、
殆ど人がいないんだけどね」
少女「そうなんですか?」
包帯「うん。たとえばこの船の外見、
たぶん乗るときに少しは見たよね?」
少女「……梯子から落ちそうになって、
けっこう見た気がします」
包帯「あはは、じゃあわかるかな。
この船って、マスト三本のほかに、
船の側面の壁から、オールが出てたよね?」
少女「はい、めずらしいなーって思って、
ちょっと憶えてます。
普通のオールで漕ぐような船……
ガレー船って、オールを漕ぐ場所が、
甲板の上にありますよね」
包帯「キミの乗ってたあの……
野蛮人の人たちの船もそうだったね」
少女(わざわざ、野蛮人って言葉……?)
この船の中じゃ、まあ中堅かな?
とは云っても実はこの船って、
殆ど人がいないんだけどね」
少女「そうなんですか?」
包帯「うん。たとえばこの船の外見、
たぶん乗るときに少しは見たよね?」
少女「……梯子から落ちそうになって、
けっこう見た気がします」
包帯「あはは、じゃあわかるかな。
この船って、マスト三本のほかに、
船の側面の壁から、オールが出てたよね?」
少女「はい、めずらしいなーって思って、
ちょっと憶えてます。
普通のオールで漕ぐような船……
ガレー船って、オールを漕ぐ場所が、
甲板の上にありますよね」
包帯「キミの乗ってたあの……
野蛮人の人たちの船もそうだったね」
少女(わざわざ、野蛮人って言葉……?)
48: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:31:18.98 ID:CKksknvCo
包帯「で、普通はそのオールを漕ぐ為に、
百人から二百人くらいの奴隷を働かせるから、
大人数になるわけだけど……
実はウチにはすごい船員がいてね」
少女「す、すごいんですか?」
包帯「なんと、十六本のオールを、
一人で使える力持ち!」
少女(普通のオールって、
一本に四人とか五人がついて、
それでようやく動く、よね)
包帯「あはは、まあ、その、
信じられないって顔もわかるけどね」
少女「そ、そんな顔は……」
包帯「いいって、いいって。
まあ、そんな船員が居るお陰で、
僕達はそれ以外に専念できてね。
人数が少ないほうが狭い船は動きやすいし、
何より食料なんかの量も少なくてすむよね。
そんな実利面と――」
少女「ほ、他にも理由があるんですか?」
包帯「僕達が『フリークス』だから、だね」
百人から二百人くらいの奴隷を働かせるから、
大人数になるわけだけど……
実はウチにはすごい船員がいてね」
少女「す、すごいんですか?」
包帯「なんと、十六本のオールを、
一人で使える力持ち!」
少女(普通のオールって、
一本に四人とか五人がついて、
それでようやく動く、よね)
包帯「あはは、まあ、その、
信じられないって顔もわかるけどね」
少女「そ、そんな顔は……」
包帯「いいって、いいって。
まあ、そんな船員が居るお陰で、
僕達はそれ以外に専念できてね。
人数が少ないほうが狭い船は動きやすいし、
何より食料なんかの量も少なくてすむよね。
そんな実利面と――」
少女「ほ、他にも理由があるんですか?」
包帯「僕達が『フリークス』だから、だね」
49: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:37:17.47 ID:CKksknvCo
少女「えっと、『フリークス』ですか?」
包帯「この船に乗ってるのはね、
全員何かしらの理由があって、
陸に居ることができないメンバーなんだ。
たとえば、包帯だらけの僕みたいに」
少女(陸に戻れない……
それは、陸で生活ができないって事で、
ああ、そっか、『フリークス(化け物)』って)
包帯「たとえば陸に上がって、
僕は料理が得意だからパン屋を始めよう。
でも、全身にこんなケロイドが有って、
いかにも恐ろしげな声で喋る僕のお店に、
誰が好き好んで買いにくるか……」
少女「そ、そんな事は……」
包帯「たとえば農村に行っても、
村の仲間には、間違っても入れないよ。
この見た目にはそれだけの、
『人にとって嫌なもの』の象徴としての
力があるからね。
まあ、実体験としての言葉だから、
例外もあるとは思うけれどね」
少女「…………」
包帯「この船に乗ってるのはね、
全員何かしらの理由があって、
陸に居ることができないメンバーなんだ。
たとえば、包帯だらけの僕みたいに」
少女(陸に戻れない……
それは、陸で生活ができないって事で、
ああ、そっか、『フリークス(化け物)』って)
包帯「たとえば陸に上がって、
僕は料理が得意だからパン屋を始めよう。
でも、全身にこんなケロイドが有って、
いかにも恐ろしげな声で喋る僕のお店に、
誰が好き好んで買いにくるか……」
少女「そ、そんな事は……」
包帯「たとえば農村に行っても、
村の仲間には、間違っても入れないよ。
この見た目にはそれだけの、
『人にとって嫌なもの』の象徴としての
力があるからね。
まあ、実体験としての言葉だから、
例外もあるとは思うけれどね」
少女「…………」
50: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:44:36.63 ID:CKksknvCo
包帯「まあ、そこでこの船ってわけだね。
この船には、僕みたいなのがのってるわけさ。
人として暮らしたいって気持ちは、
多少なりとも持っているけれど、
人と交わって暮らす事はできない。
そんな僕達がさまよった果てに、
迎え入れてくれる場所として見つかったのが」
少女「……この船」
包帯「そういう事だね。
だからこの船には、
他の人にはできないことができる人とか、
他の人にはない特徴的な外見の持ち主がいて、
こっそりひっそり、
最低限暮らせる分を、
密輸しているような人たちから貰い受けて、
生き延びさせて貰っているのさ」
少女「……なんだか、
悔しいような、そんな気持ちです」
包帯「ははっ、悔しいか。
それはいい答えだ。
僕は気に入ったよ」にこっ
少女「……」
この船には、僕みたいなのがのってるわけさ。
人として暮らしたいって気持ちは、
多少なりとも持っているけれど、
人と交わって暮らす事はできない。
そんな僕達がさまよった果てに、
迎え入れてくれる場所として見つかったのが」
少女「……この船」
包帯「そういう事だね。
だからこの船には、
他の人にはできないことができる人とか、
他の人にはない特徴的な外見の持ち主がいて、
こっそりひっそり、
最低限暮らせる分を、
密輸しているような人たちから貰い受けて、
生き延びさせて貰っているのさ」
少女「……なんだか、
悔しいような、そんな気持ちです」
包帯「ははっ、悔しいか。
それはいい答えだ。
僕は気に入ったよ」にこっ
少女「……」
51: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:51:02.58 ID:CKksknvCo
包帯「……ただ、まあそれだけじゃ、つまらない」
少女「つまらない?」
包帯「うん。
世界のすみっこで誰にも見られる事無く、
忘れ去られたようにひっそりこっそり、
海の底で息をつなぐようにしているっていうのは、
あんまり面白くは無いよね」
少女「……はい」
包帯「だからまあ、
余裕がある時には、ある意味旅行をするのさ。
僕達でも遠慮せずに居られる場所を探してね」
少女「……そっか」
包帯「とりあえずそれが僕と、
そしてこの船『フリークス・パイレーツ』の
大雑把な説明なんだけど、
どうかな?」
少女「ありがとうございます、
お陰でイロイロ、わかったような気がします」
包帯「ソレはよかった」にこっ
少女「つまらない?」
包帯「うん。
世界のすみっこで誰にも見られる事無く、
忘れ去られたようにひっそりこっそり、
海の底で息をつなぐようにしているっていうのは、
あんまり面白くは無いよね」
少女「……はい」
包帯「だからまあ、
余裕がある時には、ある意味旅行をするのさ。
僕達でも遠慮せずに居られる場所を探してね」
少女「……そっか」
包帯「とりあえずそれが僕と、
そしてこの船『フリークス・パイレーツ』の
大雑把な説明なんだけど、
どうかな?」
少女「ありがとうございます、
お陰でイロイロ、わかったような気がします」
包帯「ソレはよかった」にこっ
52: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 00:56:47.11 ID:CKksknvCo
包帯「で、さっき云っていた、
どうしても聞きたい事っていうのはなにかな?」
少女「えっとその……
それはたぶん、今の説明でわかったんですけど、
さっきこの船の船長さん……男さん?
あの人と話したときに、
『この船はお前に相応しいかもしれない』って、
そう云われた事が気になって」
包帯「……どうやらキミもなにか、
事情を抱えているみたいだね」
少女「……」
包帯「ああ、別に僕に教える必要はないよ。
実を言うとこの船の中で、
本当の事情を全員分知っているのなんて、
船長くらいだと思うんだ」
少女「そうなんですか?」
包帯「まあ、いろいろ有ってね。
宗教についてとか、母国についてとか……
みんなはココが、居心地の良い場所だから、
ここにいるわけだけど、
昔話を持ち出すときな臭くなることもあってね」
どうしても聞きたい事っていうのはなにかな?」
少女「えっとその……
それはたぶん、今の説明でわかったんですけど、
さっきこの船の船長さん……男さん?
あの人と話したときに、
『この船はお前に相応しいかもしれない』って、
そう云われた事が気になって」
包帯「……どうやらキミもなにか、
事情を抱えているみたいだね」
少女「……」
包帯「ああ、別に僕に教える必要はないよ。
実を言うとこの船の中で、
本当の事情を全員分知っているのなんて、
船長くらいだと思うんだ」
少女「そうなんですか?」
包帯「まあ、いろいろ有ってね。
宗教についてとか、母国についてとか……
みんなはココが、居心地の良い場所だから、
ここにいるわけだけど、
昔話を持ち出すときな臭くなることもあってね」
53: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 01:07:47.38 ID:CKksknvCo
包帯「ま、そういうわけだから、
むしろみんな、あえて触れないっていう、
そんな感じなのかなと、僕は思っているよ。
もちろんコレは僕の個人的な意見。
だから、きっと、白髪さんなんかは違うし、
船長は何考えてるか判らないし。ふふっ」
少女「でも、みんなにとって、
この場所が大切なんですよね」
包帯「うん。大切だね。ものすごく。
僕達がいま生きていられるのはココのお陰。
そしてこれから生きていく為にも、
少なくとも僕にとっては、
ココは必要な場所なんだ」
少女「……イロイロ話してくれて、
とっても助かりました」
包帯「こんな事しか話せなくて悪いね。
だからモテないんだって、
白髪さんにからかわれそうだよ」
少女「あはは、そんな事はないですよ。
優しい声で落ち着いて話してくれる人って、
一緒にいて安心できるから、
私は好きですよ?」にこっ
むしろみんな、あえて触れないっていう、
そんな感じなのかなと、僕は思っているよ。
もちろんコレは僕の個人的な意見。
だから、きっと、白髪さんなんかは違うし、
船長は何考えてるか判らないし。ふふっ」
少女「でも、みんなにとって、
この場所が大切なんですよね」
包帯「うん。大切だね。ものすごく。
僕達がいま生きていられるのはココのお陰。
そしてこれから生きていく為にも、
少なくとも僕にとっては、
ココは必要な場所なんだ」
少女「……イロイロ話してくれて、
とっても助かりました」
包帯「こんな事しか話せなくて悪いね。
だからモテないんだって、
白髪さんにからかわれそうだよ」
少女「あはは、そんな事はないですよ。
優しい声で落ち着いて話してくれる人って、
一緒にいて安心できるから、
私は好きですよ?」にこっ
54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/14(土) 01:09:27.35 ID:CKksknvCo
包帯「じゃあ、第一印象は合格かな。
ふふ、それじゃこの後、
せいぜい嫌われないように頑張るとするよ」
少女「その、私はまだ、船のたびについてとか、
よくわからない所があって、
足手まといになると思うんですけど、
仲良くして貰えたら助かります」へこっ
包帯「うん。任された。
僕にできる程度の事であれば、
なんなりと引き受けさせて貰うよ」
少女「私もがんばります!」
包帯「……さて、実はさっきから、
ずっと立ち止まっていたココ。
この部屋が今日からキミと、
ルームメイトたちの部屋だから。
女の子ばかりの部屋だから、
あんまり心配はしないでいい、のかな?」
少女「その、なにから何まで
ありがとうございます」へこっ
包帯「それは男さんに言ってあげるといいよ。
それじゃ、僕は自分の作業があるから」ひらひら
少女「……とりあえず、同室の人と仲良くから!」
がちゃっ
ふふ、それじゃこの後、
せいぜい嫌われないように頑張るとするよ」
少女「その、私はまだ、船のたびについてとか、
よくわからない所があって、
足手まといになると思うんですけど、
仲良くして貰えたら助かります」へこっ
包帯「うん。任された。
僕にできる程度の事であれば、
なんなりと引き受けさせて貰うよ」
少女「私もがんばります!」
包帯「……さて、実はさっきから、
ずっと立ち止まっていたココ。
この部屋が今日からキミと、
ルームメイトたちの部屋だから。
女の子ばかりの部屋だから、
あんまり心配はしないでいい、のかな?」
少女「その、なにから何まで
ありがとうございます」へこっ
包帯「それは男さんに言ってあげるといいよ。
それじゃ、僕は自分の作業があるから」ひらひら
少女「……とりあえず、同室の人と仲良くから!」
がちゃっ
79: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:05:37.64 ID:W65KwyCXo
------------------------------------------------
夕刻 海賊船女子部屋
こんこん、かちゃ
少女「おじゃましまーす……」ひょこっ
?「……」
少女「えっと、あの、この部屋で……」
?「話は聞いてるから、説明はいいわ」
少女「あ、うん」ほっ
?「船長はどうするかは判らないけど、
今夜はこの部屋で寝ることになると思う。
……とりあえず入れば?」
少女(けっこう豪華な部屋なんだ。
島を出るときに乗せて貰った船の船室だと、
狭くて細長い部屋に、二段とか三段のベッドが、
座れれないくらいの高さで作られてたけど、
それなりに広めの部屋に二段ベッドが一つだけ。
他にも『寝る場所』じゃなくて、
『部屋』らしいものがいくつも置かれてる……
本当に生活するための空間なんだ)
?「……何を観察してるのよ」
少女「え、あ、ごめんなさい。
ちょっと珍しい構造だなって」
夕刻 海賊船女子部屋
こんこん、かちゃ
少女「おじゃましまーす……」ひょこっ
?「……」
少女「えっと、あの、この部屋で……」
?「話は聞いてるから、説明はいいわ」
少女「あ、うん」ほっ
?「船長はどうするかは判らないけど、
今夜はこの部屋で寝ることになると思う。
……とりあえず入れば?」
少女(けっこう豪華な部屋なんだ。
島を出るときに乗せて貰った船の船室だと、
狭くて細長い部屋に、二段とか三段のベッドが、
座れれないくらいの高さで作られてたけど、
それなりに広めの部屋に二段ベッドが一つだけ。
他にも『寝る場所』じゃなくて、
『部屋』らしいものがいくつも置かれてる……
本当に生活するための空間なんだ)
?「……何を観察してるのよ」
少女「え、あ、ごめんなさい。
ちょっと珍しい構造だなって」
80: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:06:44.94 ID:W65KwyCXo
少女「そういえば、あの、
お昼の時もたしかそのマント、着てましたよね」
?「憶えてたの?」
少女「みんな同じマントだったけど、
一人だけ暑いのにフードまでかぶっていたから、
ちょっと目立っていたし」
?「どうしてフードまでかぶってるか知りたい?
部屋の中に入った今でも」じいっ
少女(包帯さんは、あまり人の事情とか、
首を突っ込まないようにって言ってたけど、
自分から話してくれるのを聞くのは、いいよね?)
?「……」
少女「うん、教えてください」
?「血がついても目立たないように、よ」ユラリ
少女(え、ナイフ……?) ゾクリ
?「こんな風に、ね」ズバシュ
少女「……ッ」(肩、ちょっと切られた!)ザッ
?「思ったより早いわね」ヒュヒュン
少女「ちょ、ちょっと待って!
なんでいきなり!」 ガタタッ
?「……死んで」じりじり
少女「イヤですッ!」じりじり
お昼の時もたしかそのマント、着てましたよね」
?「憶えてたの?」
少女「みんな同じマントだったけど、
一人だけ暑いのにフードまでかぶっていたから、
ちょっと目立っていたし」
?「どうしてフードまでかぶってるか知りたい?
部屋の中に入った今でも」じいっ
少女(包帯さんは、あまり人の事情とか、
首を突っ込まないようにって言ってたけど、
自分から話してくれるのを聞くのは、いいよね?)
?「……」
少女「うん、教えてください」
?「血がついても目立たないように、よ」ユラリ
少女(え、ナイフ……?) ゾクリ
?「こんな風に、ね」ズバシュ
少女「……ッ」(肩、ちょっと切られた!)ザッ
?「思ったより早いわね」ヒュヒュン
少女「ちょ、ちょっと待って!
なんでいきなり!」 ガタタッ
?「……死んで」じりじり
少女「イヤですッ!」じりじり
81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:07:42.59 ID:W65KwyCXo
少女(くっ、少し広めの室内って言っても、
逃げまわるなんてできる広さじゃないし!
唯一脱出できそうな場所は彼女の向こう。
しかも、小柄な身体を活かした一撃が早いから
避けた瞬間に駆け抜けるわけにもいかない)
?「……もう、後ろは無いわよ」
少女「いきなり命を狙われるとか意味わかんない!」
?「そんな事はあの世でゆっくり考えて」
少女 (……女の子相手に乱暴するのは
心の底から気に食わないけどッ!)ザッ
?「コレで終わ……」 ズバ……
少女(油断するから手をつかまれるのよッ!)グイッ
?「くッ!」バッ
少女(腕を引かれて振りほどこうと身体を引いたら、
その動きに合わせて腕を掴んだまま相手のお腹に
肩から飛び込むッッ!!)
ドッタァァアアン!!
?「ッッ……ク、ハッ。ゲホッ、ッ」
少女(今の内に腕をねじりながらうつぶせにして、
間接を極めれば……よし、武器も確保)ギシィッ
?「……ッ、イタッ」
少女「……フゥ、これで、動けないですよね」ギシ
逃げまわるなんてできる広さじゃないし!
唯一脱出できそうな場所は彼女の向こう。
しかも、小柄な身体を活かした一撃が早いから
避けた瞬間に駆け抜けるわけにもいかない)
?「……もう、後ろは無いわよ」
少女「いきなり命を狙われるとか意味わかんない!」
?「そんな事はあの世でゆっくり考えて」
少女 (……女の子相手に乱暴するのは
心の底から気に食わないけどッ!)ザッ
?「コレで終わ……」 ズバ……
少女(油断するから手をつかまれるのよッ!)グイッ
?「くッ!」バッ
少女(腕を引かれて振りほどこうと身体を引いたら、
その動きに合わせて腕を掴んだまま相手のお腹に
肩から飛び込むッッ!!)
ドッタァァアアン!!
?「ッッ……ク、ハッ。ゲホッ、ッ」
少女(今の内に腕をねじりながらうつぶせにして、
間接を極めれば……よし、武器も確保)ギシィッ
?「……ッ、イタッ」
少女「……フゥ、これで、動けないですよね」ギシ
82: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:08:25.43 ID:W65KwyCXo
?「ッく。ハァッ……ハァ」ギロッ
少女「暴れないでくださいね。
無理したら間接が砕けますよ」
?「…………わかったわ。もう乱暴しない」
少女「本当ですか?」
?「ホントよ」
少女「……じゃ、どうぞ」パッ
?「……ただの奴隷だと思ったのに」ふらふら
少女「あはは、ちょっとヤンチャで、
男の子たちに混じってチャンバラやってたから、
それなりには、できるようになったんですよ」
?「……」じいっ
少女(島の兵隊の人たちに混じらせてもらって、
何年も一緒に訓練してたけど……
まさか実践するとは思わなかった)ドキドキ
?「……とりあえず、ありがと」
少女「へ、何がです?」
?「私は殺そうとしたのに。すぐ解放してくれた」
少女「……まあ、何かしら事情が有るんですよね」
?「……」
少女「え、まさか、なんとなくで?!」
少女「暴れないでくださいね。
無理したら間接が砕けますよ」
?「…………わかったわ。もう乱暴しない」
少女「本当ですか?」
?「ホントよ」
少女「……じゃ、どうぞ」パッ
?「……ただの奴隷だと思ったのに」ふらふら
少女「あはは、ちょっとヤンチャで、
男の子たちに混じってチャンバラやってたから、
それなりには、できるようになったんですよ」
?「……」じいっ
少女(島の兵隊の人たちに混じらせてもらって、
何年も一緒に訓練してたけど……
まさか実践するとは思わなかった)ドキドキ
?「……とりあえず、ありがと」
少女「へ、何がです?」
?「私は殺そうとしたのに。すぐ解放してくれた」
少女「……まあ、何かしら事情が有るんですよね」
?「……」
少女「え、まさか、なんとなくで?!」
83: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:09:05.24 ID:W65KwyCXo
?「……普通だから」
少女「へ?」
?「アンタみたいな『普通』はこの船にいらない……
でも船長が気まぐれで許可を出したら、
仲間として扱わないといけないし」
少女「だから、まだ船長が迷ってるうちに、
とりあえず殺しておこう……って事?」
? こくり
少女「あー、まあ、ソレくらいだよね、理由。
よかったぁ……」どたん
?「……」じいっ
少女「腰が抜けちゃって……あはは」
?「何が、よかった、なの?」
少女「だって、そういう理由だったら、
この後、仲良くなることもできそうだよね。」
?「そんなのは……」
少女「たとえば私が、何かすごく……
怒らせるような事とか、失礼な事をしたとか
そういう理由よりは、まだ救いがあるじゃない。
とりあえずって理由で殺されたら、笑えないけど」
?「……」
少女「へ?」
?「アンタみたいな『普通』はこの船にいらない……
でも船長が気まぐれで許可を出したら、
仲間として扱わないといけないし」
少女「だから、まだ船長が迷ってるうちに、
とりあえず殺しておこう……って事?」
? こくり
少女「あー、まあ、ソレくらいだよね、理由。
よかったぁ……」どたん
?「……」じいっ
少女「腰が抜けちゃって……あはは」
?「何が、よかった、なの?」
少女「だって、そういう理由だったら、
この後、仲良くなることもできそうだよね。」
?「そんなのは……」
少女「たとえば私が、何かすごく……
怒らせるような事とか、失礼な事をしたとか
そういう理由よりは、まだ救いがあるじゃない。
とりあえずって理由で殺されたら、笑えないけど」
?「……」
84: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:09:48.59 ID:W65KwyCXo
少女「とりあえず、そのさ。
一回殺すの失敗したワケだよね」
? ……こくり
少女「私としてはできれば、
しばらくこの船に乗せてもらいたいと思ってるの。
だからそのためにちょっとだけ、
チャンスをもらえたら嬉しいんだけど、
それもさせてもらえない?」
?「……好きにすれば。私じゃ、殺せなかったし」
少女「よかった」にぱっ
?「底抜けのお人よし?」ボソッ
少女「ん、なに?」
?「なんでもないわ」ばさっ
少女(……やっと外したフードとマント。
血が目立たないようにって言ってたから、
もう攻撃するつもりは無いって、
そういう意思表示なんだろうけど……
なんで、頭に、動物の耳? 狼?)じいっ
狼「……何見てるのよ」ピクン
少女「動いたっ!」
狼「ああ、耳の事ね……気持ち悪いでしょ」
少女(悲しそうな……寂しそうな顔。
なんだか耳も少しだけしょげてるみたいな……)
一回殺すの失敗したワケだよね」
? ……こくり
少女「私としてはできれば、
しばらくこの船に乗せてもらいたいと思ってるの。
だからそのためにちょっとだけ、
チャンスをもらえたら嬉しいんだけど、
それもさせてもらえない?」
?「……好きにすれば。私じゃ、殺せなかったし」
少女「よかった」にぱっ
?「底抜けのお人よし?」ボソッ
少女「ん、なに?」
?「なんでもないわ」ばさっ
少女(……やっと外したフードとマント。
血が目立たないようにって言ってたから、
もう攻撃するつもりは無いって、
そういう意思表示なんだろうけど……
なんで、頭に、動物の耳? 狼?)じいっ
狼「……何見てるのよ」ピクン
少女「動いたっ!」
狼「ああ、耳の事ね……気持ち悪いでしょ」
少女(悲しそうな……寂しそうな顔。
なんだか耳も少しだけしょげてるみたいな……)
85: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:10:55.38 ID:W65KwyCXo
少女「か、」
狼「か?」
少女「カワイイーッッ!!!!」バッ、むぎゅーっ
狼「ッッ?!!!」
少女「うわー、身体小さいし、なのに胸大きいし!
抱き心地よくて、さらになんかかわいい耳だし!
よく見たら顔も整ってて美人さんって!
うわぁぁぁ!」ぎゅうう
狼「ちょ、ちょっとっ、ほどいて。
そんなに抱きしめられると、痛いから」
少女「え、あ、ごめんなさい」しゅん
狼「アタシ、あんまりそうやって触られるのは、
好きじゃないから」
少女「……ごめんなさい」
狼「まったく、マントを取っただけで、
急に飛び掛ってくるなんて……」
少女「あはは。そうだ、遅れたけど、
少女っていいます、よろしく」
狼「…………狼よ」
少女「狼さん、狼ちゃん……おーちゃん?」
狼 むっ
少女「狼さんかな」
狼 ほっ
少女 にこっ
狼「か?」
少女「カワイイーッッ!!!!」バッ、むぎゅーっ
狼「ッッ?!!!」
少女「うわー、身体小さいし、なのに胸大きいし!
抱き心地よくて、さらになんかかわいい耳だし!
よく見たら顔も整ってて美人さんって!
うわぁぁぁ!」ぎゅうう
狼「ちょ、ちょっとっ、ほどいて。
そんなに抱きしめられると、痛いから」
少女「え、あ、ごめんなさい」しゅん
狼「アタシ、あんまりそうやって触られるのは、
好きじゃないから」
少女「……ごめんなさい」
狼「まったく、マントを取っただけで、
急に飛び掛ってくるなんて……」
少女「あはは。そうだ、遅れたけど、
少女っていいます、よろしく」
狼「…………狼よ」
少女「狼さん、狼ちゃん……おーちゃん?」
狼 むっ
少女「狼さんかな」
狼 ほっ
少女 にこっ
87: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:11:28.85 ID:W65KwyCXo
少女「それにしてもその耳、
さっきは気持ち悪いでしょ、とか言ってたけど、
全然そんな事無いと思う。
むしろすごくかっこよくて可愛いかも」
狼「……そう」
少女「それで、さっきはつい抱きついちゃったけど
改めてちょっと、触らせてもらえない?」じいっ
狼「それはイヤ。
変態オヤジみたいなのに触られるよりはマシだけど
それでも、不快だから」
少女「そっか……」
狼「さらに言わせてもらうとかなり体臭が……」じっ
少女「うっ!!」
狼「……」
少女(だって、島を出てから一度も水浴びしてないし、
ガレー船じゃ、太陽の照りつける甲板でずっと労働
してたから……うん、自分でも臭い)しゅーん
狼「服も汚れてるし、ちょっと顔も黒いし」
少女「心に、瀕死の重傷……げふっ」
狼「……ちょっと、来なさい」とことこ
少女「うう、どこに行くの?」
狼 すたすた
少女 よたよた
さっきは気持ち悪いでしょ、とか言ってたけど、
全然そんな事無いと思う。
むしろすごくかっこよくて可愛いかも」
狼「……そう」
少女「それで、さっきはつい抱きついちゃったけど
改めてちょっと、触らせてもらえない?」じいっ
狼「それはイヤ。
変態オヤジみたいなのに触られるよりはマシだけど
それでも、不快だから」
少女「そっか……」
狼「さらに言わせてもらうとかなり体臭が……」じっ
少女「うっ!!」
狼「……」
少女(だって、島を出てから一度も水浴びしてないし、
ガレー船じゃ、太陽の照りつける甲板でずっと労働
してたから……うん、自分でも臭い)しゅーん
狼「服も汚れてるし、ちょっと顔も黒いし」
少女「心に、瀕死の重傷……げふっ」
狼「……ちょっと、来なさい」とことこ
少女「うう、どこに行くの?」
狼 すたすた
少女 よたよた
88: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:12:26.39 ID:W65KwyCXo
------------------------------------------------
夜 海賊船談話室
とことこ
狼「包帯、いる?」
包帯「ん、何かな?」
狼「水をちょっと使っていい?
できればお湯も沸かしたいんだけど」
包帯「……うん、わかった許可出すよ。
水はあの洗濯用の大タライ一つ分まで。
そこの火の中に熱した石があるから、使って良いよ」
大「助かるわ」
包帯「それから、聞きに行こうと思ってたんだけど、
少女くんの今日食べたのもはどれくらいかな?」
少女「えっと、食べたのは……
指が三本くらいの大きさのビスケットが、
朝とお昼に一枚ずつ、後はワインを多少かな。
夜はいつもないから、今日の分は食べた後です」
包帯「へえ、あの船の連中は案外、
それなりに食べさせてくれてたわけか」
少女「そうなんですかね……
一日中力仕事だから、そんなのじゃぜんぜん
お腹に足りた気はしないんですけど」
夜 海賊船談話室
とことこ
狼「包帯、いる?」
包帯「ん、何かな?」
狼「水をちょっと使っていい?
できればお湯も沸かしたいんだけど」
包帯「……うん、わかった許可出すよ。
水はあの洗濯用の大タライ一つ分まで。
そこの火の中に熱した石があるから、使って良いよ」
大「助かるわ」
包帯「それから、聞きに行こうと思ってたんだけど、
少女くんの今日食べたのもはどれくらいかな?」
少女「えっと、食べたのは……
指が三本くらいの大きさのビスケットが、
朝とお昼に一枚ずつ、後はワインを多少かな。
夜はいつもないから、今日の分は食べた後です」
包帯「へえ、あの船の連中は案外、
それなりに食べさせてくれてたわけか」
少女「そうなんですかね……
一日中力仕事だから、そんなのじゃぜんぜん
お腹に足りた気はしないんですけど」
89: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:13:01.39 ID:W65KwyCXo
包帯「まあ、あえてコメントはしないよ。
でも、よかったら一足先に晩御飯たべないかい?
たぶん今日は早めに休みたいだろうと思って、
早めに少女くんの分を用意させてもらったんだ」
少女「わ、ぜひ食べたいです!」
狼「もうできてるの?」
包帯「いや、手早くできるから、
食べるか聞いてからにするつもりだったけど」
狼「それなら先に、コッチの用事を済ませていい?」
包帯「了解……って、少女くん、よだれ」
少女「あっ、つい良い匂いに気を取られて」ごしごし
狼「ご飯は後よ。少女、そのバケツに
包帯から水を入れてもらって、こっち来なさい」
とことこ
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
少女「水持って来たわよー……って、うわ!
ここ、いったいなに?」
狼「双子妹が男と相談して作った、
『実験農場』らしいわよ。
とはいっても、室内に栽培用の容器を並べただけ。
ほら、ぼーっとしてないでそのバケツ置いて」
少女「あ、はい」
でも、よかったら一足先に晩御飯たべないかい?
たぶん今日は早めに休みたいだろうと思って、
早めに少女くんの分を用意させてもらったんだ」
少女「わ、ぜひ食べたいです!」
狼「もうできてるの?」
包帯「いや、手早くできるから、
食べるか聞いてからにするつもりだったけど」
狼「それなら先に、コッチの用事を済ませていい?」
包帯「了解……って、少女くん、よだれ」
少女「あっ、つい良い匂いに気を取られて」ごしごし
狼「ご飯は後よ。少女、そのバケツに
包帯から水を入れてもらって、こっち来なさい」
とことこ
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
少女「水持って来たわよー……って、うわ!
ここ、いったいなに?」
狼「双子妹が男と相談して作った、
『実験農場』らしいわよ。
とはいっても、室内に栽培用の容器を並べただけ。
ほら、ぼーっとしてないでそのバケツ置いて」
少女「あ、はい」
90: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:13:42.87 ID:W65KwyCXo
少女「ほへー……船の中で植物を育てるとか、
とんでもない事しますね」
狼「あくまで、枯らしても諦めるっていう、
ホントの実験らしいけど。
もう一年半くらいやってるのかしら……
私は詳しくわからないから、
機会があったら双子妹に聞いてみれば」
少女「はい、そうします」
狼 ちゃぷっ、くるくる
少女(バケツの水の中に手を入れて、
んん? 湯気が出てるから、お湯?)
狼「ちょうどいいくらいね。
このお湯と布を使っていいから、
拭いて身体をきれいにしなさい」
少女「え、でも、貴重な真水を
まさかそんな事になんか使えませんよ」
狼「べつに、この船でなら、そこまでじゃないわよ。
……普通、この大きさの船だったら、
この近辺だとどれくらい人が乗ると思う?」
少女「えっと、ガレー船だったら、百人くらい?」
狼「奴隷も含めるとそれくらいか。
でも、この船に乗ってるのは、
少女が来るまではたったの七人……」
とんでもない事しますね」
狼「あくまで、枯らしても諦めるっていう、
ホントの実験らしいけど。
もう一年半くらいやってるのかしら……
私は詳しくわからないから、
機会があったら双子妹に聞いてみれば」
少女「はい、そうします」
狼 ちゃぷっ、くるくる
少女(バケツの水の中に手を入れて、
んん? 湯気が出てるから、お湯?)
狼「ちょうどいいくらいね。
このお湯と布を使っていいから、
拭いて身体をきれいにしなさい」
少女「え、でも、貴重な真水を
まさかそんな事になんか使えませんよ」
狼「べつに、この船でなら、そこまでじゃないわよ。
……普通、この大きさの船だったら、
この近辺だとどれくらい人が乗ると思う?」
少女「えっと、ガレー船だったら、百人くらい?」
狼「奴隷も含めるとそれくらいか。
でも、この船に乗ってるのは、
少女が来るまではたったの七人……」
91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:14:29.85 ID:W65KwyCXo
少女「あ、そういえば、
部屋に案内してもらうときに、
包帯さんがそういう事も言ってたような……」
狼「そう。ならわかるでしょ。
水も食料も、それなりに余裕があっての事よ。
まあ、さすがにこんな使い方は贅沢だから、
たぶん包帯も少女を気遣って、
特別に許可してくれたんだと思うけど」
少女「や、やっぱり、におうかな……」
狼「まあ、アタシは人よりかなり強く匂いを
感じるからそのせいもあると思うけど、
そこまでいくと普通の人でもわかるんじゃない」
少女「う、うううう……」
狼「それじゃ、アタシは部屋の外で見張ってるから。
終わったら、中身はその植物にあげて」
少女「……はい」
ぱたん
少女「……温かい」
少女(手ぬぐいを濡らして、ぎゅっと絞って……
ううっ、びっくりするくらい真っ黒になる。
せっかくのきれいな水なのに、申し訳ない気持ちで
心苦しいなぁ……身体拭けるのは気持ちいいけど)
部屋に案内してもらうときに、
包帯さんがそういう事も言ってたような……」
狼「そう。ならわかるでしょ。
水も食料も、それなりに余裕があっての事よ。
まあ、さすがにこんな使い方は贅沢だから、
たぶん包帯も少女を気遣って、
特別に許可してくれたんだと思うけど」
少女「や、やっぱり、におうかな……」
狼「まあ、アタシは人よりかなり強く匂いを
感じるからそのせいもあると思うけど、
そこまでいくと普通の人でもわかるんじゃない」
少女「う、うううう……」
狼「それじゃ、アタシは部屋の外で見張ってるから。
終わったら、中身はその植物にあげて」
少女「……はい」
ぱたん
少女「……温かい」
少女(手ぬぐいを濡らして、ぎゅっと絞って……
ううっ、びっくりするくらい真っ黒になる。
せっかくのきれいな水なのに、申し訳ない気持ちで
心苦しいなぁ……身体拭けるのは気持ちいいけど)
92: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:15:02.17 ID:W65KwyCXo
少女(狼さんも、いきなり襲い掛かってきたから、
かなり怖い人だと思ったけど……
実はそこまで怖い人じゃない?
愛想はあんまりないけど)
少女「痛っ……。
やっぱりムチで叩かれた箇所は沁みる……」
少女(でも、生きてるから、痛いんだよね……
とはいっても、痛いものは痛いけど!)
少女「……」
少女(なんで、こんな事になったのかなぁ……
最初は、家からちょっとだけ持ち出したお金と、
騎士団のお仕事のお手伝いでもらったお金で、
こっそりベネッタに行って……
少し観光して帰るだけのつもりだったのに)
少女「あーあ、これ絶対痕になるなぁ……」
少女(でも、面白そうな人たちに出会えたし、
こうして奴隷じゃない扱いをしてもらえるから、
まだ幸せだよね。普通は奴隷になったら、
基本的には死ぬまでそのままって聞くし……)
少女「……よし、なんとかきれいになったかな。
もう水っていうかドロみたいだい。
こんなに汚かったら臭うよ……」
かなり怖い人だと思ったけど……
実はそこまで怖い人じゃない?
愛想はあんまりないけど)
少女「痛っ……。
やっぱりムチで叩かれた箇所は沁みる……」
少女(でも、生きてるから、痛いんだよね……
とはいっても、痛いものは痛いけど!)
少女「……」
少女(なんで、こんな事になったのかなぁ……
最初は、家からちょっとだけ持ち出したお金と、
騎士団のお仕事のお手伝いでもらったお金で、
こっそりベネッタに行って……
少し観光して帰るだけのつもりだったのに)
少女「あーあ、これ絶対痕になるなぁ……」
少女(でも、面白そうな人たちに出会えたし、
こうして奴隷じゃない扱いをしてもらえるから、
まだ幸せだよね。普通は奴隷になったら、
基本的には死ぬまでそのままって聞くし……)
少女「……よし、なんとかきれいになったかな。
もう水っていうかドロみたいだい。
こんなに汚かったら臭うよ……」
93: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:15:48.87 ID:W65KwyCXo
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
少女「おおーっ、美味しい♪
まさか船で、こんなすごい食事ができるなんて……
実はもしかして、私って天国にいる?」うるうる
包帯「あはは、大丈夫、まだ生きてるはずだよ。
それに、すごいっていっても、
スープパスタなんて簡単なものでごめんね」
少女「でも、このちょっとトロっとしたスープが、
口に含んだ瞬間、魚と野菜の風味で一杯になって、
スパゲッティに絡ませて食べると、もう……!」
包帯「気に入って貰えたなら嬉しいね」にこっ
狼「どうせ野菜って言っても、いつもと同じように、
キャベツと芋とチャイプでしょ……」
包帯「狼くんはあんまり好きじゃないだろうけど、
船の上で栽培ができたのは、
今の時期だとコレくらいだからさ。
他はさすがに環境が悪くてできないらしいね」
少女「コレくらいって言ったらバチが当たります!
それなりの客船だったとしても、三日も経ったら
固くなったパンに塩漬けした干し肉だけ。
よほど良くても追加でザワークラフトですよ。
水だってこの時期は腐っちゃうし……」
包帯「腐るのはどうしようもないからね……」
少女「おおーっ、美味しい♪
まさか船で、こんなすごい食事ができるなんて……
実はもしかして、私って天国にいる?」うるうる
包帯「あはは、大丈夫、まだ生きてるはずだよ。
それに、すごいっていっても、
スープパスタなんて簡単なものでごめんね」
少女「でも、このちょっとトロっとしたスープが、
口に含んだ瞬間、魚と野菜の風味で一杯になって、
スパゲッティに絡ませて食べると、もう……!」
包帯「気に入って貰えたなら嬉しいね」にこっ
狼「どうせ野菜って言っても、いつもと同じように、
キャベツと芋とチャイプでしょ……」
包帯「狼くんはあんまり好きじゃないだろうけど、
船の上で栽培ができたのは、
今の時期だとコレくらいだからさ。
他はさすがに環境が悪くてできないらしいね」
少女「コレくらいって言ったらバチが当たります!
それなりの客船だったとしても、三日も経ったら
固くなったパンに塩漬けした干し肉だけ。
よほど良くても追加でザワークラフトですよ。
水だってこの時期は腐っちゃうし……」
包帯「腐るのはどうしようもないからね……」
94: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:16:20.49 ID:W65KwyCXo
少女「だから、こんな海の真ん中なのに
新鮮な野菜が食べられるって
私はすごい幸せですよ♪」
包帯「そこまで喜ばれると、がんばった甲斐が
あるってものだね」にこっ
狼「アタシだってベツに、
そもそも野菜がそこまで好きじゃないだけで
包帯が努力して作ってるのは……」ぼそっ
包帯「認めてくれてありがと」にこっ
狼 ぷいっ
包帯「で、少女くん、おかわりはいるかな?」
少女「あ、迷惑じゃなかったら……」
狼「……やめときなよ。
いきなり大量に食べると、お腹が痛くなるから」
少女「そっか。こういう時はよくかんで、
ゆっくりと、回数を分けてだっけ」
狼「うん。その方が身体にはいいと思う」
少女(狼さんが、ちょっとだけ優しい顔……?)
包帯「それにしても、二人はすぐに
仲良くなれたみたいだね」にこっ
狼「別に、仲良くなんて」
新鮮な野菜が食べられるって
私はすごい幸せですよ♪」
包帯「そこまで喜ばれると、がんばった甲斐が
あるってものだね」にこっ
狼「アタシだってベツに、
そもそも野菜がそこまで好きじゃないだけで
包帯が努力して作ってるのは……」ぼそっ
包帯「認めてくれてありがと」にこっ
狼 ぷいっ
包帯「で、少女くん、おかわりはいるかな?」
少女「あ、迷惑じゃなかったら……」
狼「……やめときなよ。
いきなり大量に食べると、お腹が痛くなるから」
少女「そっか。こういう時はよくかんで、
ゆっくりと、回数を分けてだっけ」
狼「うん。その方が身体にはいいと思う」
少女(狼さんが、ちょっとだけ優しい顔……?)
包帯「それにしても、二人はすぐに
仲良くなれたみたいだね」にこっ
狼「別に、仲良くなんて」
95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:17:01.28 ID:W65KwyCXo
包帯「でも、少女くんの口調、
僕よりも狼くんの方が親しそうだよ?」
狼 じろっ
少女「や、やっぱり、同じ部屋を使わせてもらうから
できる限り親しめるようにがんばろーかなー、
なんて思っただけで」
狼「それだけの事よ」
少女(殺されかけたら、
なんだか丁寧にしゃべるのが面倒になったなんて
さすがに言えないし……)
包帯「ふむ? まあ、いいか。
食後に甘いものはどうかな?
リンゴの乾燥させたのがあるんだけど」
少女「やったー♪」
狼「……私も、一かけちょうだい。
上で食べるから」
包帯「はい、どうぞ、二人とも」
少女「ありがとうございます。
……ところで、上って何です?」
狼「上っていうのはマストの上の見張りの事よ。
で、夜の見張りは大抵アタシに任されるの」
僕よりも狼くんの方が親しそうだよ?」
狼 じろっ
少女「や、やっぱり、同じ部屋を使わせてもらうから
できる限り親しめるようにがんばろーかなー、
なんて思っただけで」
狼「それだけの事よ」
少女(殺されかけたら、
なんだか丁寧にしゃべるのが面倒になったなんて
さすがに言えないし……)
包帯「ふむ? まあ、いいか。
食後に甘いものはどうかな?
リンゴの乾燥させたのがあるんだけど」
少女「やったー♪」
狼「……私も、一かけちょうだい。
上で食べるから」
包帯「はい、どうぞ、二人とも」
少女「ありがとうございます。
……ところで、上って何です?」
狼「上っていうのはマストの上の見張りの事よ。
で、夜の見張りは大抵アタシに任されるの」
96: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:17:59.20 ID:W65KwyCXo
包帯「夜は風も冷たくなるし、
できるなら代わってあげたいんだけどね」
狼「夜の闇の中だったら、
アタシの方が他のみんなよりも何倍も見えるから」
少女「すごいなぁ……
一人でも船が動くくらいオールが使える人に、
他の人の何倍も夜目が利く狼さん。
この船の人って、みんなすごいんだ」
包帯「そうでもないよ。
僕なんかはむしろお荷物な方だからね」
少女「そうなんですか?」
包帯「この船に乗るまでは武器なんてせいぜい、
包丁くらいしか触った事がなかったからね。
練習はしてるけど、まだまだ弱くて。
視力も悪いから見張りも引き受けられないし」
狼「……その分はこうやって、
料理とかで貢献してもらってるから。
少女も、ここに居場所がほしいなら、
包帯によく習うといいわよ」
少女「は、はい……」
狼「それじゃ、アタシは見張りに行くから。
少女も早く部屋に帰って寝なさい。ベッドは下ね」
ぱたん
できるなら代わってあげたいんだけどね」
狼「夜の闇の中だったら、
アタシの方が他のみんなよりも何倍も見えるから」
少女「すごいなぁ……
一人でも船が動くくらいオールが使える人に、
他の人の何倍も夜目が利く狼さん。
この船の人って、みんなすごいんだ」
包帯「そうでもないよ。
僕なんかはむしろお荷物な方だからね」
少女「そうなんですか?」
包帯「この船に乗るまでは武器なんてせいぜい、
包丁くらいしか触った事がなかったからね。
練習はしてるけど、まだまだ弱くて。
視力も悪いから見張りも引き受けられないし」
狼「……その分はこうやって、
料理とかで貢献してもらってるから。
少女も、ここに居場所がほしいなら、
包帯によく習うといいわよ」
少女「は、はい……」
狼「それじゃ、アタシは見張りに行くから。
少女も早く部屋に帰って寝なさい。ベッドは下ね」
ぱたん
97: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:18:53.99 ID:W65KwyCXo
少女「それじゃ、私も失礼して、
眠らせてもらいますね」
包帯「うん、おやすみ。良い夢を見てね」にこっ
少女「はい、包帯さんも、良い夜を」
ぱたん
とことこ
少女「ふあぁあ……
おなかがいっぱいになった途端に、
一気に眠くなるとか、私もまだまだ子供かなぁ」
少女(……居場所、かぁ。
狼さんは何気なく言ったみたいだけど、
この船にのって、長い期間にはならなくても、
一緒に生活をさせてもらうなら、
みんなに認められる事をしての居場所作りって、
重要なことだよね)
少女「ガレー船が襲われて、
襲ってきた海賊さんについて来させてもらって、
面接みたいな話し合いが終わったと思ったら、
案内された部屋で殺されかけて、
海の真ん中でおいしいご飯を食べて……
いろいろ有ったけど、悪くない、よね」
眠らせてもらいますね」
包帯「うん、おやすみ。良い夢を見てね」にこっ
少女「はい、包帯さんも、良い夜を」
ぱたん
とことこ
少女「ふあぁあ……
おなかがいっぱいになった途端に、
一気に眠くなるとか、私もまだまだ子供かなぁ」
少女(……居場所、かぁ。
狼さんは何気なく言ったみたいだけど、
この船にのって、長い期間にはならなくても、
一緒に生活をさせてもらうなら、
みんなに認められる事をしての居場所作りって、
重要なことだよね)
少女「ガレー船が襲われて、
襲ってきた海賊さんについて来させてもらって、
面接みたいな話し合いが終わったと思ったら、
案内された部屋で殺されかけて、
海の真ん中でおいしいご飯を食べて……
いろいろ有ったけど、悪くない、よね」
98: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:19:20.48 ID:W65KwyCXo
少女(すくなくても、ここ一週間近く、
ほとんど変わらないような景色の中で、
ただひたすら奴隷頭さんにおびえながら、
空を見上げながら無力を嘆いてるよりかは)
少女「全然良いよね」こくこく
少女(あの窓の向こうの世界が見たい。
そんな思いで島を飛び出したんだから、
これはもう文句の付けようもない『前進』だよね)
少女「よぉーしっ!
なんか頑張れる気がしてきた」フンスッ
少女(とはいっても、
やっぱり寝るのが先かな……
ずっと、まとまった睡眠も許されてなかったし)
少女「今日はべっどで眠れるぞー♪」るんたるんた
少女 くるくるー
ぐらっ
少女「あてっ」ごつんっ
少女「……そうだよね、船だから揺れるよ。
ベッドから落ちないように、
なんとか気をつけて寝ないと」いそいそ
ほとんど変わらないような景色の中で、
ただひたすら奴隷頭さんにおびえながら、
空を見上げながら無力を嘆いてるよりかは)
少女「全然良いよね」こくこく
少女(あの窓の向こうの世界が見たい。
そんな思いで島を飛び出したんだから、
これはもう文句の付けようもない『前進』だよね)
少女「よぉーしっ!
なんか頑張れる気がしてきた」フンスッ
少女(とはいっても、
やっぱり寝るのが先かな……
ずっと、まとまった睡眠も許されてなかったし)
少女「今日はべっどで眠れるぞー♪」るんたるんた
少女 くるくるー
ぐらっ
少女「あてっ」ごつんっ
少女「……そうだよね、船だから揺れるよ。
ベッドから落ちないように、
なんとか気をつけて寝ないと」いそいそ
99: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:20:03.09 ID:W65KwyCXo
------------------------------------------------
朝 海賊女子部屋
少女(ここ、ゆれて。なんだっけ)
少女「ん、むにゅ……」すぅすぅ
少女(ああ、そっか。
ガレー船からは助け出されて、
今は海賊の船に乗せてもらって)
少女「ふにゃぁ……。んん?」のびー……
狼 すぅすぅ
少女「…………なんで、抱きついてるの?」
狼 すぅすぅ
少女(まあ、元は彼女のベッドみたいだから、
狼さんが寝ててもおかしくないんだけど。
抱きつき癖でもあるのかな……)
狼 ぎゅっ
少女(焦がした灰色みたいな耳と、同じ色の細い髪が
窓から差し込む明かりに照らされて、
きらきら、銀粉をまぶしたみたい)
朝 海賊女子部屋
少女(ここ、ゆれて。なんだっけ)
少女「ん、むにゅ……」すぅすぅ
少女(ああ、そっか。
ガレー船からは助け出されて、
今は海賊の船に乗せてもらって)
少女「ふにゃぁ……。んん?」のびー……
狼 すぅすぅ
少女「…………なんで、抱きついてるの?」
狼 すぅすぅ
少女(まあ、元は彼女のベッドみたいだから、
狼さんが寝ててもおかしくないんだけど。
抱きつき癖でもあるのかな……)
狼 ぎゅっ
少女(焦がした灰色みたいな耳と、同じ色の細い髪が
窓から差し込む明かりに照らされて、
きらきら、銀粉をまぶしたみたい)
100: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:20:35.73 ID:W65KwyCXo
狼 すぅすぅ
少女「……さすがに、寝てるときに触るのは、
無意識じゃなかったら反則だよね」
狼 ぴく
少女「ああでも、ときどき動く耳を見てると、
なんかねこじゃらしを前にした猫みたいな
触りたい衝動はきっとわかってもらえるはず!」
双子姉「あー、たしかに、それはわかるかもね」
少女 びくうっ
狼「ん……むぅ……」すぅすぅ
少女「あ、あの」
双子姉「えへへ、驚かせてごめんね。
よーいせっ……着地成功!」すたん
少女「二段ベッドの上から飛び降りるなんて、
危ないないからやめた方がいいよ?」
双子姉「大丈夫だよー。
失敗なんて十回にいっぱいくらいだし」
少女「いやそれダメじゃんっ!」ビシッ
少女「……さすがに、寝てるときに触るのは、
無意識じゃなかったら反則だよね」
狼 ぴく
少女「ああでも、ときどき動く耳を見てると、
なんかねこじゃらしを前にした猫みたいな
触りたい衝動はきっとわかってもらえるはず!」
双子姉「あー、たしかに、それはわかるかもね」
少女 びくうっ
狼「ん……むぅ……」すぅすぅ
少女「あ、あの」
双子姉「えへへ、驚かせてごめんね。
よーいせっ……着地成功!」すたん
少女「二段ベッドの上から飛び降りるなんて、
危ないないからやめた方がいいよ?」
双子姉「大丈夫だよー。
失敗なんて十回にいっぱいくらいだし」
少女「いやそれダメじゃんっ!」ビシッ
101: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:21:03.36 ID:W65KwyCXo
双子姉「あはは、お姉さんノリがいいねー♪
でも、寝てる狼姉さんへの悪戯はやめた方が
たぶん良いと思うよ。
触られるのは好きじゃないって言ってたからね」
少女「あ、そういえばそうだよね。
とりあえず、抱きついてる腕を、外して……
よし、おはよう」ごそごそ、にこっ
双子姉「おっはー♪
とりあえず、部屋を出ようか。
いつも通りなら狼姉さんは夜が明けるまで
ずっと見張りしてはずだし、
双子妹はまだ活動時間じゃないからね」
少女「うん、まあ、散々騒いだ気はするんだけど」
とことこ、ぱたん
双子姉「ちっちっちー。
わかってないねお姉ちゃんは。
こういう時はきちんと、事前に対処はしましたよ
なんていうポーズこそ重要なんだよ」
少女「あー、何となくわかるかも。
お勉強はしたけど身につきませんでしたみたいな」
双子姉「え、お勉強って、したら身につくよね?」
でも、寝てる狼姉さんへの悪戯はやめた方が
たぶん良いと思うよ。
触られるのは好きじゃないって言ってたからね」
少女「あ、そういえばそうだよね。
とりあえず、抱きついてる腕を、外して……
よし、おはよう」ごそごそ、にこっ
双子姉「おっはー♪
とりあえず、部屋を出ようか。
いつも通りなら狼姉さんは夜が明けるまで
ずっと見張りしてはずだし、
双子妹はまだ活動時間じゃないからね」
少女「うん、まあ、散々騒いだ気はするんだけど」
とことこ、ぱたん
双子姉「ちっちっちー。
わかってないねお姉ちゃんは。
こういう時はきちんと、事前に対処はしましたよ
なんていうポーズこそ重要なんだよ」
少女「あー、何となくわかるかも。
お勉強はしたけど身につきませんでしたみたいな」
双子姉「え、お勉強って、したら身につくよね?」
102: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:22:25.02 ID:W65KwyCXo
少女「う、ぐ」
双子姉「あ、ごめん。もしかしてその……
お勉強しても身につかない人?」ニヤッ
少女「そう、だけど……」
双子姉「ふふーん。私だって身につくのにー」
少女「むうー。ずいぶん胸を張ってるけどさ
そんなに言うなら何ができるの?」
双子姉「足し算ができる!」じゃーん
少女「……く、くやしい」
双子姉「へへーん」
少女(だ、大丈夫だよね、拍子抜けしたのとか
バレてないよね……?
さすがに勉強嫌いの私でも、
足し算ができるできないって相手に、
道を譲らないほどじゃないし)
少女「そういえば、自己紹介がまだだったけど、
改めて始めまして、少女って言うんだ」
双子姉「双子姉だよ、よろしくっ」にぱっ
双子姉「あ、ごめん。もしかしてその……
お勉強しても身につかない人?」ニヤッ
少女「そう、だけど……」
双子姉「ふふーん。私だって身につくのにー」
少女「むうー。ずいぶん胸を張ってるけどさ
そんなに言うなら何ができるの?」
双子姉「足し算ができる!」じゃーん
少女「……く、くやしい」
双子姉「へへーん」
少女(だ、大丈夫だよね、拍子抜けしたのとか
バレてないよね……?
さすがに勉強嫌いの私でも、
足し算ができるできないって相手に、
道を譲らないほどじゃないし)
少女「そういえば、自己紹介がまだだったけど、
改めて始めまして、少女って言うんだ」
双子姉「双子姉だよ、よろしくっ」にぱっ
103: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:24:18.24 ID:W65KwyCXo
少女「……ところでその、双子姉ちゃんは、
年齢って、いくつ?」
少女(見た目からしたら、
足し算引き算で困るような、
そんな年齢じゃないと思うんだけど……)
双子姉「年齢……それは乙女の秘密」きりっ
少女「いや、乙女って」
双子姉「正直なところを言っちゃうと、
実は年齢ってちゃんとわからないんだよね。
たぶん、えーっと、
いち、に、さん、しー」
少女(ゆ、指折って数えるところから……)
双子姉「きっとたぶん間違ってなければ、
今年で十二歳くらいになるかな?」
少女「……ちょっと、かさましとかしてない?」
双子姉「んー、本当にわからないからさ。
私も妹も、誕生日って言葉を初めて聞いたのも、
くろちゃんに頼まれてこの船に乗ってからだし」
少女「くろちゃん?」
双子姉「この船のせんちょーのおっちゃんのこと。
今はちょっと白くなってきてるけど、
私と妹が出会ったばっかりの頃は、
顔とか真っ黒に日焼けしてたんだよね。
喪服みたいな真っ黒なマントだったから、
まっくろのおっちゃんって呼んでたんだけど」
少女(真っ黒いマントなんて、珍しい……
普通の海賊って、みんなド派手なのに)
年齢って、いくつ?」
少女(見た目からしたら、
足し算引き算で困るような、
そんな年齢じゃないと思うんだけど……)
双子姉「年齢……それは乙女の秘密」きりっ
少女「いや、乙女って」
双子姉「正直なところを言っちゃうと、
実は年齢ってちゃんとわからないんだよね。
たぶん、えーっと、
いち、に、さん、しー」
少女(ゆ、指折って数えるところから……)
双子姉「きっとたぶん間違ってなければ、
今年で十二歳くらいになるかな?」
少女「……ちょっと、かさましとかしてない?」
双子姉「んー、本当にわからないからさ。
私も妹も、誕生日って言葉を初めて聞いたのも、
くろちゃんに頼まれてこの船に乗ってからだし」
少女「くろちゃん?」
双子姉「この船のせんちょーのおっちゃんのこと。
今はちょっと白くなってきてるけど、
私と妹が出会ったばっかりの頃は、
顔とか真っ黒に日焼けしてたんだよね。
喪服みたいな真っ黒なマントだったから、
まっくろのおっちゃんって呼んでたんだけど」
少女(真っ黒いマントなんて、珍しい……
普通の海賊って、みんなド派手なのに)
104: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:26:07.80 ID:W65KwyCXo
双子姉「おっちゃんって言うと嫌な顔するから、
『しょーがねーなー、どんな名前がいいのか、
いっそ自分でしゅちょーしてみやがれ』って
私が親切にも聞いてあげたのよ」
少女「ほほう」
双子姉「まあ、結局それでもあの無表情のままで、
名前なんて好きに呼べとか格好つけるから、
いくつか呼んで一番いやーな顔をしたくろちゃんで
私は呼んでるってわけ。ふぅ」
少女「あはは、面白い話聞かせてくれてありがと。
もし機会があったら、私もそんな名前で
呼んでみようかなー」
双子姉「うんうん、それできっとしばらくすると、
みんなであの無表情さんに、
くろちゃーんって呼びかけるようになるんだね」
少女「なんとなく、その時にみせてくれる、
嫌な顔って言うか、嫌な気分をにじませた、
不自然なくらい無表情な顔が想像できて
もう今からちょっと笑えてくるね」
双子「ふふ、おぬし、趣味がよいのぅ」
少女「いやいや、あなたほどでは」
二人「はーっはっは!」
『しょーがねーなー、どんな名前がいいのか、
いっそ自分でしゅちょーしてみやがれ』って
私が親切にも聞いてあげたのよ」
少女「ほほう」
双子姉「まあ、結局それでもあの無表情のままで、
名前なんて好きに呼べとか格好つけるから、
いくつか呼んで一番いやーな顔をしたくろちゃんで
私は呼んでるってわけ。ふぅ」
少女「あはは、面白い話聞かせてくれてありがと。
もし機会があったら、私もそんな名前で
呼んでみようかなー」
双子姉「うんうん、それできっとしばらくすると、
みんなであの無表情さんに、
くろちゃーんって呼びかけるようになるんだね」
少女「なんとなく、その時にみせてくれる、
嫌な顔って言うか、嫌な気分をにじませた、
不自然なくらい無表情な顔が想像できて
もう今からちょっと笑えてくるね」
双子「ふふ、おぬし、趣味がよいのぅ」
少女「いやいや、あなたほどでは」
二人「はーっはっは!」
105: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:26:40.91 ID:W65KwyCXo
双子姉「ところで質問なんだけど、
お姉ちゃんって、もしかして白髪のおっちゃんと
知り合いだったりするの?」
少女「え、そんな事はないと思うけど……」
双子姉「でも、この船に来たって事は、
なにか『普通じゃない』っていうのが、
あるんじゃないの?」
少女「うーん、普通かそうじゃないかっていうと
狼さんとくらべたりしたら、
かなり普通だと思うけど……」
双子姉「じゃあ、空を飛んだり、
目が光ったり、壁をすりぬけられたり、
ええっとええっと、
そういう何かスゴい事とかできないの?」
少女「あはは、ごめんね、
そういうのはぜんぜん無いって。
せいぜい普通に暮らしてる人よりも、
ほんのちょっと剣とかを使えるくらいかな?」
双子姉 じーっ
少女(昨日はそれのおかげで、
狼さんから殺されなくてすんだからなぁ。
まさかあんな初実践になるなんて、
世の中ほんとにわからないよ)
お姉ちゃんって、もしかして白髪のおっちゃんと
知り合いだったりするの?」
少女「え、そんな事はないと思うけど……」
双子姉「でも、この船に来たって事は、
なにか『普通じゃない』っていうのが、
あるんじゃないの?」
少女「うーん、普通かそうじゃないかっていうと
狼さんとくらべたりしたら、
かなり普通だと思うけど……」
双子姉「じゃあ、空を飛んだり、
目が光ったり、壁をすりぬけられたり、
ええっとええっと、
そういう何かスゴい事とかできないの?」
少女「あはは、ごめんね、
そういうのはぜんぜん無いって。
せいぜい普通に暮らしてる人よりも、
ほんのちょっと剣とかを使えるくらいかな?」
双子姉 じーっ
少女(昨日はそれのおかげで、
狼さんから殺されなくてすんだからなぁ。
まさかあんな初実践になるなんて、
世の中ほんとにわからないよ)
106: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:27:44.14 ID:W65KwyCXo
少女「私の事よりもさ、
この船には狼さんの他に、
さっき言ったみたいな事ができる人もいるの?」
双子姉「え、うーん……
その質問には答えても良いんだけどね」
少女「?」
双子姉「その、お姉ちゃんはさ、
気持ち悪いとか思わないの?」
少女「気持ち悪い?」
双子姉「気持ち悪いじゃなかったら、
怖いとか、嫌だとか、そんな感じを、
狼姉ちゃんからを見ていて、感じない?」
少女「えっと……
どうなのかな、とりあえず狼さんに対しては、
特にそういう事は思わないけど」
双子姉「そっか、それなら良かった」にぱっ
少女(どうして)
双子姉「前にもね、普通の人を入れようって話が
出た事もあったんだ。
さすがにこの大きさの船にこの人数だと、
どうしても不便な点はあるから」
この船には狼さんの他に、
さっき言ったみたいな事ができる人もいるの?」
双子姉「え、うーん……
その質問には答えても良いんだけどね」
少女「?」
双子姉「その、お姉ちゃんはさ、
気持ち悪いとか思わないの?」
少女「気持ち悪い?」
双子姉「気持ち悪いじゃなかったら、
怖いとか、嫌だとか、そんな感じを、
狼姉ちゃんからを見ていて、感じない?」
少女「えっと……
どうなのかな、とりあえず狼さんに対しては、
特にそういう事は思わないけど」
双子姉「そっか、それなら良かった」にぱっ
少女(どうして)
双子姉「前にもね、普通の人を入れようって話が
出た事もあったんだ。
さすがにこの大きさの船にこの人数だと、
どうしても不便な点はあるから」
107: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:28:17.69 ID:W65KwyCXo
少女「うん、たしかにすごく少ないと思う」
双子姉「でね、誰かが体調崩した時には、
一人で受け持っている事も多いから、
うまく回らなくなっちゃう部分が大きくて、
何度か『普通の人』を雇ってみたけど、
どうしても、長持ちしなくて」
少女「それは……」
双子姉「あのね、この船の名前知ってる?」
少女「えっと、『フリークス・パイレーツ』って
聞いた気がするけど」
双子姉「そう、それともう一つ。
『悪魔と魔女の船』って名前も有ってね」
少女「それって、すごく危なくない?
さすがに大規模な魔女狩りは減ってきたけど、
悪魔と魔女なんて二つがそろってたら、
間違っても一神教の人たちが見逃さない……」
双子姉「まあ、事実だから仕方ないんだけどね。
一神教の剣を自称してるマータ騎士団の人たちは
本気でこの船を異端審問するって、
張り切って追ってきてるし、
トルキアのスルチアン(宗教的指導者)も、
さすがに見逃せないって口にしたみたいでね……」
双子姉「でね、誰かが体調崩した時には、
一人で受け持っている事も多いから、
うまく回らなくなっちゃう部分が大きくて、
何度か『普通の人』を雇ってみたけど、
どうしても、長持ちしなくて」
少女「それは……」
双子姉「あのね、この船の名前知ってる?」
少女「えっと、『フリークス・パイレーツ』って
聞いた気がするけど」
双子姉「そう、それともう一つ。
『悪魔と魔女の船』って名前も有ってね」
少女「それって、すごく危なくない?
さすがに大規模な魔女狩りは減ってきたけど、
悪魔と魔女なんて二つがそろってたら、
間違っても一神教の人たちが見逃さない……」
双子姉「まあ、事実だから仕方ないんだけどね。
一神教の剣を自称してるマータ騎士団の人たちは
本気でこの船を異端審問するって、
張り切って追ってきてるし、
トルキアのスルチアン(宗教的指導者)も、
さすがに見逃せないって口にしたみたいでね……」
108: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:29:11.00 ID:W65KwyCXo
少女「それってもう、この地中海の周りの国が、
全部まとめて敵になってるような状態じゃない……
なんでそんな」
双子姉「なんでっていうか、
さっきも言ったけど、それは一つの事実だからね。
だから、この船以外にはいられる場所がないような
『フリークス』とは違って、
他の場所でも生きられる『普通』の人は、
すぐに逃げて言っちゃうんだ」
少女「でも、事実なんかじゃないでしょ?
まだ包帯さんと、白髪さんと、
男さんと、狼さん、それから双子姉ちゃんしか、
自己紹介もしてもらってないけどさ。
でも、悪魔とか魔女とかみたいな、
おどろおどろしいのとは、
みんなむしろ逆じゃないかなって感じてるよ?」
双子姉「うん、まあみんなの性格からいうと、
そんなものに頼るくらいなら、
大砲でも使った方が早くて安くて確実っていう、
さっぱりしたところが有るけどね。
やっぱりそれだけじゃ、ないみたい」
少女「……」
全部まとめて敵になってるような状態じゃない……
なんでそんな」
双子姉「なんでっていうか、
さっきも言ったけど、それは一つの事実だからね。
だから、この船以外にはいられる場所がないような
『フリークス』とは違って、
他の場所でも生きられる『普通』の人は、
すぐに逃げて言っちゃうんだ」
少女「でも、事実なんかじゃないでしょ?
まだ包帯さんと、白髪さんと、
男さんと、狼さん、それから双子姉ちゃんしか、
自己紹介もしてもらってないけどさ。
でも、悪魔とか魔女とかみたいな、
おどろおどろしいのとは、
みんなむしろ逆じゃないかなって感じてるよ?」
双子姉「うん、まあみんなの性格からいうと、
そんなものに頼るくらいなら、
大砲でも使った方が早くて安くて確実っていう、
さっぱりしたところが有るけどね。
やっぱりそれだけじゃ、ないみたい」
少女「……」
109: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:29:40.73 ID:W65KwyCXo
双子姉「私はまだ詳しいことなんて分らないから、
詳しく知りたかったら別の機会にでも、
白髪のおっちゃんとか、くろちゃんにでも、
ちゃんと聞いてね。
私にでも分るのは、もしこの船の海賊として
どこかに捕まっちゃっうような事があったら……」
少女 ごくり
双子姉「まあ、死んだ方が幸せって事に
なっちゃうみたいだよ」
少女(本当なら、まだ両親と一緒の家にいて、
毎日を楽しく笑いながらすごしているような、
十二歳の子のはずなのに、
暗くて、その奥の読めなくなるような瞳……)
双子姉「まあとにかくそういう意味でも、
改めてお姉ちゃんは考えた方がいいと思うよ」
少女「……ありがと」
双子姉「こうやって船にのって、
のんびり海を漂ってると、
忘れちゃいそうになるけれどさ、
この船のみんなは『フリークス』だからね。
誰に対しても、生きててごめんなさいって
そう言いながら、こっそりしてるしかないの」
少女 ギリッ
詳しく知りたかったら別の機会にでも、
白髪のおっちゃんとか、くろちゃんにでも、
ちゃんと聞いてね。
私にでも分るのは、もしこの船の海賊として
どこかに捕まっちゃっうような事があったら……」
少女 ごくり
双子姉「まあ、死んだ方が幸せって事に
なっちゃうみたいだよ」
少女(本当なら、まだ両親と一緒の家にいて、
毎日を楽しく笑いながらすごしているような、
十二歳の子のはずなのに、
暗くて、その奥の読めなくなるような瞳……)
双子姉「まあとにかくそういう意味でも、
改めてお姉ちゃんは考えた方がいいと思うよ」
少女「……ありがと」
双子姉「こうやって船にのって、
のんびり海を漂ってると、
忘れちゃいそうになるけれどさ、
この船のみんなは『フリークス』だからね。
誰に対しても、生きててごめんなさいって
そう言いながら、こっそりしてるしかないの」
少女 ギリッ
110: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:30:08.71 ID:W65KwyCXo
双子姉「……お姉ちゃん」
少女「そんなの……
私には難しいことはよくわかんないけどさ、
なんか、なんだかなぁ……っ」はたり、はたり
双子姉「…………泣いてるの?」
少女「だって、悔しいよ。
なんで双子姉ちゃんみたいな子が、
そんな悲しい事言わないといけないのか」
双子姉「……私はいいんだけどね。
私が選んだ事だから」
少女「っ、でも……」
双子姉「たしかにみんなが笑顔で、
仲良くのんびり暮らせると良いなーって思うけど、
世界はきっと、そんなに広くないんだよ」
少女「そんなの……」
双子姉「でね、もしお姉ちゃんが、
私たちの事が怖いって言うんだったら、
みんなの事を『こんな怖いんだぞー』って言って
脅かすつもりだったんだけど、
怖くないみたいだから、やめちゃうのだっ。
どうやらお姉ちゃんって、
おどかしてもつまらないみたいだからね」にこっ
少女「そんなの……
私には難しいことはよくわかんないけどさ、
なんか、なんだかなぁ……っ」はたり、はたり
双子姉「…………泣いてるの?」
少女「だって、悔しいよ。
なんで双子姉ちゃんみたいな子が、
そんな悲しい事言わないといけないのか」
双子姉「……私はいいんだけどね。
私が選んだ事だから」
少女「っ、でも……」
双子姉「たしかにみんなが笑顔で、
仲良くのんびり暮らせると良いなーって思うけど、
世界はきっと、そんなに広くないんだよ」
少女「そんなの……」
双子姉「でね、もしお姉ちゃんが、
私たちの事が怖いって言うんだったら、
みんなの事を『こんな怖いんだぞー』って言って
脅かすつもりだったんだけど、
怖くないみたいだから、やめちゃうのだっ。
どうやらお姉ちゃんって、
おどかしてもつまらないみたいだからね」にこっ
111: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:30:45.97 ID:W65KwyCXo
少女(なんで、年下の子に、
こんな悲しい話を諭されないと、いけないんだろ)
双子姉「あのね、私たちの事が知りたかったら、
時間がかかるかもしれないけど、
最初は向き合ってくれると、いいと思うよー?
楽して聞こうなんてダメなんだよ」にぱっ
少女「……そっか、そうだよね」
双子姉「うむうむ」
少女(『悪魔と魔女の船』なんて、
この船をみてると、
あの奴隷として使われてたガレー船よりも、
よっぽど明るくて楽しそうなのに)
双子姉「それじゃ、私は今日のお仕事、
頑張ってやってくるからね!
お姉ちゃんは一度、
白髪のおっちゃんに会いに行くといいよー」
少女「あ、うん、ありがと。
いろいろと」
双子姉「ふふん、えらい?」
少女「偉い、偉い」なでなで
双子「ひゃっほー♪ じゃ、行ってくるねー」だだっ
少女「………………」
112: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/15(日) 13:38:17.76 ID:W65KwyCXo
少女「ほんと、次から次に、
なんだか分からないのが飛び出してきて……」
少女(魔女に、悪魔……
世界に見捨てられたような、そんな人たちばかり。
でも、今のところまだほんの数時間だけど、
はなしたらみんな、普通だったり、
むしろイイ人で……)
少女「広い世界がみられるかもしれないって、
そう思ってちょっと期待してたのに、
載っている双子姉ちゃんは、
世界は狭いって……」
少女(なんで、そんな言葉が出るのかな)
少女「…………あぁもう!
私じゃ悩んだって分からないのに」
少女(むかしから、そういう頭を使う事よりも、
体を動かして解決するようにしてたから、
いきなりそんな事考え始めても、
もうこんがらがってわかんなくなるよ!)
少女「とりあえず動く!
白髪さんの部屋に突撃だね!」
だだーっ!
なんだか分からないのが飛び出してきて……」
少女(魔女に、悪魔……
世界に見捨てられたような、そんな人たちばかり。
でも、今のところまだほんの数時間だけど、
はなしたらみんな、普通だったり、
むしろイイ人で……)
少女「広い世界がみられるかもしれないって、
そう思ってちょっと期待してたのに、
載っている双子姉ちゃんは、
世界は狭いって……」
少女(なんで、そんな言葉が出るのかな)
少女「…………あぁもう!
私じゃ悩んだって分からないのに」
少女(むかしから、そういう頭を使う事よりも、
体を動かして解決するようにしてたから、
いきなりそんな事考え始めても、
もうこんがらがってわかんなくなるよ!)
少女「とりあえず動く!
白髪さんの部屋に突撃だね!」
だだーっ!
118: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:30:44.21 ID:wWEnenAjo
------------------------------------------------
朝 海賊船男部屋
こんこん
白髪「開いてるぜ」
少女「おはようございますー」ひょこ
白髪「おはようさん。ちょうど呼びに行こうかって
思ってたところだ。
昨日の今日でちゃんと起きてくるたぁ、関心だな」
少女「そうなんですか?」
白髪「おう。今までにも嬢ちゃんみてえに、
奴隷をしていたのを助けて連れてきた事があるが、
さすがに暫くはぐったりしてたもんだ」
少女「私は奴隷として働いてた期間が、
それほど長くなかったからですからね。
体の方も、よく寝たらしっかり回復したし!」ふんす
白髪「がはは、そりゃ頼もしいな。
そうだ嬢ちゃんよ。
俺に対しては堅っ苦しい言い方はしねぇでいいぜ。
あんまり丁寧に扱われると、
本気で年を取った気になっちまうからな」
少女(本気でって、見た目は六十歳くらいだよね……)
朝 海賊船男部屋
こんこん
白髪「開いてるぜ」
少女「おはようございますー」ひょこ
白髪「おはようさん。ちょうど呼びに行こうかって
思ってたところだ。
昨日の今日でちゃんと起きてくるたぁ、関心だな」
少女「そうなんですか?」
白髪「おう。今までにも嬢ちゃんみてえに、
奴隷をしていたのを助けて連れてきた事があるが、
さすがに暫くはぐったりしてたもんだ」
少女「私は奴隷として働いてた期間が、
それほど長くなかったからですからね。
体の方も、よく寝たらしっかり回復したし!」ふんす
白髪「がはは、そりゃ頼もしいな。
そうだ嬢ちゃんよ。
俺に対しては堅っ苦しい言い方はしねぇでいいぜ。
あんまり丁寧に扱われると、
本気で年を取った気になっちまうからな」
少女(本気でって、見た目は六十歳くらいだよね……)
119: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:31:12.57 ID:wWEnenAjo
白髪「ん? ああそうか、嬢ちゃんとまともに
こうやって差し向かいで話すのは初めてか。
そりゃ自己紹介しなくちゃわからねえよな。
俺の名前は白髪、年齢は三十手前だぜ?」
少女「へ?」
白髪「まあ、この外見を前に、
見ただけで年齢を分れっつうのは、
確かに酷な話だが、顎が外れねぇようにな」
少女「い、いやいや、まっさかー。
あ、気分はいつでも若者だって事ですか?」
白髪「ばっきゃろう、んな小賢しい事を言うかよ。
いや、間違っていねぇのか?
紛らわしいが、俺の生きてきた時間は、
間違いなく三十年弱程度なのさ」
少女「でも、その、えっと……」
白髪「ま、言いたいことも分るぜ?
俺の見た目の年齢は明らかに倍以上だってな。
コレが俺の『普通じゃない部分』ってやつさ。
全然面白くもねえがな」
少女「狼さんに耳とか尻尾が有るみたいに、
白髪さんは、倍以上老けて見えるって事ですか?」
白髪「まあそう云うわけだ」
こうやって差し向かいで話すのは初めてか。
そりゃ自己紹介しなくちゃわからねえよな。
俺の名前は白髪、年齢は三十手前だぜ?」
少女「へ?」
白髪「まあ、この外見を前に、
見ただけで年齢を分れっつうのは、
確かに酷な話だが、顎が外れねぇようにな」
少女「い、いやいや、まっさかー。
あ、気分はいつでも若者だって事ですか?」
白髪「ばっきゃろう、んな小賢しい事を言うかよ。
いや、間違っていねぇのか?
紛らわしいが、俺の生きてきた時間は、
間違いなく三十年弱程度なのさ」
少女「でも、その、えっと……」
白髪「ま、言いたいことも分るぜ?
俺の見た目の年齢は明らかに倍以上だってな。
コレが俺の『普通じゃない部分』ってやつさ。
全然面白くもねえがな」
少女「狼さんに耳とか尻尾が有るみたいに、
白髪さんは、倍以上老けて見えるって事ですか?」
白髪「まあそう云うわけだ」
120: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:31:42.45 ID:wWEnenAjo
少女(年齢はもちろん顔でも分る。
でも、むしろその老いが相応に見えるのは、
首とか手の甲、指先だって聞くけど、
やっぱり、その年齢には見えないかな……)
白髪「信じらんねえってツラだな」苦笑
少女「いやぁ、やっぱり、
狼さんみたいに分かり易い形じゃないし、
なんていうか、しゃべり方とかもその年齢っぽいし、
どうしても先入観が」
白髪「まあ、信じられねえって云うんだったら、
ソレはソレでいいんだがな。
見た目の年齢通りに、
どうしたって体は衰えちまってるからよ。
最近は膝が痛くてかなわねえよ。がはは」
少女「あははーって、そんなんで大丈夫なんですか?」
白髪「あん、なにがだよ」
少女「何がって、膝が痛いとか云ってるのに、
昨日の強襲の時には先頭切って乗り込んでましたよ!
危ないじゃないですか」
白髪「そんな事ぁわかってんだよ。
だからっつって、後ろで尻込みしても仕方ねえ。
女子供を前に出して引っ込んでるなんざ、
粋じゃぁねえだろ」
でも、むしろその老いが相応に見えるのは、
首とか手の甲、指先だって聞くけど、
やっぱり、その年齢には見えないかな……)
白髪「信じらんねえってツラだな」苦笑
少女「いやぁ、やっぱり、
狼さんみたいに分かり易い形じゃないし、
なんていうか、しゃべり方とかもその年齢っぽいし、
どうしても先入観が」
白髪「まあ、信じられねえって云うんだったら、
ソレはソレでいいんだがな。
見た目の年齢通りに、
どうしたって体は衰えちまってるからよ。
最近は膝が痛くてかなわねえよ。がはは」
少女「あははーって、そんなんで大丈夫なんですか?」
白髪「あん、なにがだよ」
少女「何がって、膝が痛いとか云ってるのに、
昨日の強襲の時には先頭切って乗り込んでましたよ!
危ないじゃないですか」
白髪「そんな事ぁわかってんだよ。
だからっつって、後ろで尻込みしても仕方ねえ。
女子供を前に出して引っ込んでるなんざ、
粋じゃぁねえだろ」
121: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:32:10.57 ID:wWEnenAjo
少女「そ、そういうものですかね?」
白髪「男はそういうものであるべきなのさ。
まあ、そんな話は置いてこくとしてよ、
中身がどうだとかはもうどうでもいい。
とりあえず堅苦しいの禁止だ、以上!」
少女「お、おっす……おら少女、よろしく?」
白髪「なんでそんなんになる」
少女「いやぁ、どうしても見た目は六十代で、
たとえ中身が三十代だったとしても、
私から見たらやっぱり年上だし」
白髪「ったく、仲間になるんだから気にすんなよ
……っとそうだ。嬢ちゃん、今日から仲間だからな。
男のヤツが、入れるも入れないも好きにしろ、
なんて俺に投げたから、入れることにした」
少女「そんないい加減なので、良いんですか……」
白髪「別にそこまでいい加減じゃねえって。
今日は夕方には一度陸に上がって、
その後はまたしばらく海の上だ。
仲間って事にしておかねえと、
嬢ちゃんの航海中の服とかについて、
男が金を動かせねえからな」
少女「う、なんだかお手間をかけさせたみたいで」
白髪「男はそういうものであるべきなのさ。
まあ、そんな話は置いてこくとしてよ、
中身がどうだとかはもうどうでもいい。
とりあえず堅苦しいの禁止だ、以上!」
少女「お、おっす……おら少女、よろしく?」
白髪「なんでそんなんになる」
少女「いやぁ、どうしても見た目は六十代で、
たとえ中身が三十代だったとしても、
私から見たらやっぱり年上だし」
白髪「ったく、仲間になるんだから気にすんなよ
……っとそうだ。嬢ちゃん、今日から仲間だからな。
男のヤツが、入れるも入れないも好きにしろ、
なんて俺に投げたから、入れることにした」
少女「そんないい加減なので、良いんですか……」
白髪「別にそこまでいい加減じゃねえって。
今日は夕方には一度陸に上がって、
その後はまたしばらく海の上だ。
仲間って事にしておかねえと、
嬢ちゃんの航海中の服とかについて、
男が金を動かせねえからな」
少女「う、なんだかお手間をかけさせたみたいで」
122: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:32:41.95 ID:wWEnenAjo
白髪「気にすんなよ。若いウチは世話されておけ」
少女(若いって言ってるけど、言葉はやっぱり
どこかお年寄りじみてるんだよなー)
白髪「どうした?」
少女「いえ、なんでもないです!
……その、以前からよく話しに出てくるけど、
双子妹ちゃんって、どんな子なんです?」
白髪「そうだな、嬢ちゃんが俺に対して、
もっと仲間らしい楽な口調になったら、
紹介してやってもいいぜ?」
少女「う」
白髪「どうせ猫かぶってるのはわかってんだよ。
昨日の晩飯時に、包帯がヘラヘラ話してたからな」
少女「別に、猫かぶってるわけじゃ……
まあ、いいや。うん、白髪さん、よろしくね」ぐっ
白髪「おう。よろしく頼まぁ」ぐっ
少女(すごい、握手してわかったけど、
剣を握って訓練してる人のごつごつの手だ……)
白髪「なんだ、俺の手の感触が気に入ったか?」
少女(若いって言ってるけど、言葉はやっぱり
どこかお年寄りじみてるんだよなー)
白髪「どうした?」
少女「いえ、なんでもないです!
……その、以前からよく話しに出てくるけど、
双子妹ちゃんって、どんな子なんです?」
白髪「そうだな、嬢ちゃんが俺に対して、
もっと仲間らしい楽な口調になったら、
紹介してやってもいいぜ?」
少女「う」
白髪「どうせ猫かぶってるのはわかってんだよ。
昨日の晩飯時に、包帯がヘラヘラ話してたからな」
少女「別に、猫かぶってるわけじゃ……
まあ、いいや。うん、白髪さん、よろしくね」ぐっ
白髪「おう。よろしく頼まぁ」ぐっ
少女(すごい、握手してわかったけど、
剣を握って訓練してる人のごつごつの手だ……)
白髪「なんだ、俺の手の感触が気に入ったか?」
123: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:33:16.02 ID:wWEnenAjo
少女「うん、どっちかと云えば好きな感触かも?
こう、頼れそうな手って感じで」もみもみ
白髪「がはは、この手の良さが分かるたぁ、いいな。
嬢ちゃんも、箱入りのクセにずいぶんとまた、
ヤレテル手じゃねえか」
少女「もしかして、私の過去についてとかは」
白髪「おおまかにだが、男に聞いてるぜ。
とはいっても、主に忠告のためだろうな」
少女「忠告って、なんの?」
白髪「一応、嬢ちゃんってのは
権力者側の人間だろ。
しかも元は公爵家で、それが独立して国の王だな」
少女「まあ、大まかに言えばそうだけど、
兄がいたおかげで比較的自由にできたし、
別に数年前までは箱入りでも無かったから」
白髪「そこら辺はいいんだがな、
誰とは俺が口にすべき事じゃねえが、
ウチも海賊船だ。
貴族って生き物に対して偏見と嫌悪感を持つ奴も
いるっていう話さ」
少女「……」
こう、頼れそうな手って感じで」もみもみ
白髪「がはは、この手の良さが分かるたぁ、いいな。
嬢ちゃんも、箱入りのクセにずいぶんとまた、
ヤレテル手じゃねえか」
少女「もしかして、私の過去についてとかは」
白髪「おおまかにだが、男に聞いてるぜ。
とはいっても、主に忠告のためだろうな」
少女「忠告って、なんの?」
白髪「一応、嬢ちゃんってのは
権力者側の人間だろ。
しかも元は公爵家で、それが独立して国の王だな」
少女「まあ、大まかに言えばそうだけど、
兄がいたおかげで比較的自由にできたし、
別に数年前までは箱入りでも無かったから」
白髪「そこら辺はいいんだがな、
誰とは俺が口にすべき事じゃねえが、
ウチも海賊船だ。
貴族って生き物に対して偏見と嫌悪感を持つ奴も
いるっていう話さ」
少女「……」
124: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:33:58.91 ID:wWEnenAjo
白髪「まあ、そんな目で見る奴はほとんどいないが、
それでもできりゃ、
嬢ちゃん個人を見て納得するまで、
わざわざ火種をたてなくてもいいだろうさ」
少女「……なんか、だましてるみたいで、
それがちょっとイヤだけど」
白髪「別にだましてるわけじゃねえだろ。
ここにいるのは、何とか貴族の何とか様じゃねえ。
家出してまで世界が見たいなんて言う、
これ以上ない大馬鹿な小娘じゃねえか」
少女「ヒドっ! わざわざそんな言葉選ばなくても!」
白髪「がはは、家出して観光しようとしたら、
トルキアに捕まって奴隷にされるだなんて、
馬鹿な小娘以外のなんだっつーんだよ」
少女「むぐっ」
白髪「だいたいな、推測に過ぎねえが、
親父さんが嬢ちゃんの事を家の外に出ないように
取りはからったって話だって、
俺はただの執着だって思ってねえぜ。
最近の海は物騒だからな」
少女「それ、どういう事なの?」
それでもできりゃ、
嬢ちゃん個人を見て納得するまで、
わざわざ火種をたてなくてもいいだろうさ」
少女「……なんか、だましてるみたいで、
それがちょっとイヤだけど」
白髪「別にだましてるわけじゃねえだろ。
ここにいるのは、何とか貴族の何とか様じゃねえ。
家出してまで世界が見たいなんて言う、
これ以上ない大馬鹿な小娘じゃねえか」
少女「ヒドっ! わざわざそんな言葉選ばなくても!」
白髪「がはは、家出して観光しようとしたら、
トルキアに捕まって奴隷にされるだなんて、
馬鹿な小娘以外のなんだっつーんだよ」
少女「むぐっ」
白髪「だいたいな、推測に過ぎねえが、
親父さんが嬢ちゃんの事を家の外に出ないように
取りはからったって話だって、
俺はただの執着だって思ってねえぜ。
最近の海は物騒だからな」
少女「それ、どういう事なの?」
125: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:34:31.93 ID:wWEnenAjo
白髪「トルキアのスルチアンが代替わりして以降は、
先代が穏健派だった反動か、
それとも単純に若さ故か、
連中の『自国商船』に対する優遇っぷりが少しずつ、
目立つようになってきたわけだ」
少女「う、う」
白髪「おいなんだ、もしかして話についていけてない
なんて事はねぇよな?」
少女「その、トルキアって名前くらいは分かるけど」
白髪「……今までの人生で何を学んできたんだ?」
少女「剣の使い方とか、銃の使い方とか……」
白髪「為政者にはいらんモンだろ……。
普通とは方向性が真逆だが、
ホントに甘やかされてそだったんだな。
こりゃ、嬢ちゃんの身を守りたいから、
屋敷に閉じ込めたってだけの話じゃなさそうだな」
少女「というと」
白髪「嬢ちゃんがバカ過ぎて放っておけなくなった、
って意味だよ」
少女「ぐ、ぐぅ……」
先代が穏健派だった反動か、
それとも単純に若さ故か、
連中の『自国商船』に対する優遇っぷりが少しずつ、
目立つようになってきたわけだ」
少女「う、う」
白髪「おいなんだ、もしかして話についていけてない
なんて事はねぇよな?」
少女「その、トルキアって名前くらいは分かるけど」
白髪「……今までの人生で何を学んできたんだ?」
少女「剣の使い方とか、銃の使い方とか……」
白髪「為政者にはいらんモンだろ……。
普通とは方向性が真逆だが、
ホントに甘やかされてそだったんだな。
こりゃ、嬢ちゃんの身を守りたいから、
屋敷に閉じ込めたってだけの話じゃなさそうだな」
少女「というと」
白髪「嬢ちゃんがバカ過ぎて放っておけなくなった、
って意味だよ」
少女「ぐ、ぐぅ……」
126: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:35:05.87 ID:wWEnenAjo
白髪「まあ、あれだ。追々細かい事も教えてやるよ。
とりあえず先に、この船のメンバー紹介してから、
その話はまたいずれだな」
少女「あー、いや、やっぱり勉強は……」
白髪「そんな事言ってると後悔することになる、
なんて言っても仕方ねえか」
少女「な、なんでですか!」
白髪「後悔することになるぞなんて言って、
本当に勉強するようになるんだったら、
最初からやってるだろうって話だ」
少女「それはまあ、確かに……」
白髪「肯定するんじゃねえよ……
まあ、双子姉にでもバカにされてから、
せいぜい頑張るがいいさ」
少女「そ、それは悔しいかも!
まあ、それなりにやるようにするって云う事で」
白髪「やれやれ……
さすがにこりゃ心配にもなるぜ。
リベルタの明日には嵐と高波の警報が必要だな」
とりあえず先に、この船のメンバー紹介してから、
その話はまたいずれだな」
少女「あー、いや、やっぱり勉強は……」
白髪「そんな事言ってると後悔することになる、
なんて言っても仕方ねえか」
少女「な、なんでですか!」
白髪「後悔することになるぞなんて言って、
本当に勉強するようになるんだったら、
最初からやってるだろうって話だ」
少女「それはまあ、確かに……」
白髪「肯定するんじゃねえよ……
まあ、双子姉にでもバカにされてから、
せいぜい頑張るがいいさ」
少女「そ、それは悔しいかも!
まあ、それなりにやるようにするって云う事で」
白髪「やれやれ……
さすがにこりゃ心配にもなるぜ。
リベルタの明日には嵐と高波の警報が必要だな」
127: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:35:30.16 ID:wWEnenAjo
------------------------------------------------
朝 海賊船談話室
白髪「お、ちょうどいい。
さっそく一匹目を捕獲だな」
双子妹「もきゅい?」もぐもぐ
白髪「コレ、昨日連れてきたお嬢ちゃんだ。
名前は少女。中身はバカだ」
少女「ば、バカってなんですか!
しかもコレって、モノ扱いだし!」
白髪「んで、パンをほおばってるのが双子妹だ。
食いしん坊で、年中眠ってる上に、
若干――いや、けっこう言葉に不自由しているが、
いわゆる一つの天才って奴だ」
少女(見逃しようの無い大きな入れ墨で
顔に魔女っていう言葉が彫られてる……
双子姉ちゃんと、双子なんだよね?
っていうことは十二歳のはずなのに、
こんな、顔に大きく……ひどい)
双子妹「おはようございますであります!
自分、双子妹と申すであります」びしっ
少女「よろしくね」にこっ
朝 海賊船談話室
白髪「お、ちょうどいい。
さっそく一匹目を捕獲だな」
双子妹「もきゅい?」もぐもぐ
白髪「コレ、昨日連れてきたお嬢ちゃんだ。
名前は少女。中身はバカだ」
少女「ば、バカってなんですか!
しかもコレって、モノ扱いだし!」
白髪「んで、パンをほおばってるのが双子妹だ。
食いしん坊で、年中眠ってる上に、
若干――いや、けっこう言葉に不自由しているが、
いわゆる一つの天才って奴だ」
少女(見逃しようの無い大きな入れ墨で
顔に魔女っていう言葉が彫られてる……
双子姉ちゃんと、双子なんだよね?
っていうことは十二歳のはずなのに、
こんな、顔に大きく……ひどい)
双子妹「おはようございますであります!
自分、双子妹と申すであります」びしっ
少女「よろしくね」にこっ
128: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:36:09.31 ID:wWEnenAjo
白髪「俺たちも一緒に朝飯食っていいか?」
双子妹「は、目上の方に気を遣わせてしまうとは不覚
自分が先に確認するべきで有りました」ささっ
少女「ありがとー♪」
白髪「ありがとよ。
まあ、この船じゃ朝はけっこう適当に食ってるな。
狼のヤツはいつも夜の見張りを任せてるから、
アイツは朝から昼過ぎまで寝てるし、
双子妹は年中寝坊だしな」
双子妹「寝坊ではないでありますよ。
ちょっとばかり人よりも睡眠が多く必要な体質
というだけであります」もっきゅもっきゅ
白髪「ちょっとって量かよ。
まあ、話を朝飯に戻すと、
だいたい夜が明ける位に包帯が起き出して、
こうしてパンを焼いてこの部屋のテーブルに
置いていくから、それを勝手に食って、
みんな勝手にそれぞれの仕事をするわけだ」
少女「へー、なるほど……って、え、パンを焼く?!」
白髪「がはは、そりゃぁ驚くよな。
俺はいくつか船を渡り歩いてきたんだが、
まさか船内でパンを焼くバカがいるとは
夢にも思わなかったぜ」ぱくぱく
双子妹「は、目上の方に気を遣わせてしまうとは不覚
自分が先に確認するべきで有りました」ささっ
少女「ありがとー♪」
白髪「ありがとよ。
まあ、この船じゃ朝はけっこう適当に食ってるな。
狼のヤツはいつも夜の見張りを任せてるから、
アイツは朝から昼過ぎまで寝てるし、
双子妹は年中寝坊だしな」
双子妹「寝坊ではないでありますよ。
ちょっとばかり人よりも睡眠が多く必要な体質
というだけであります」もっきゅもっきゅ
白髪「ちょっとって量かよ。
まあ、話を朝飯に戻すと、
だいたい夜が明ける位に包帯が起き出して、
こうしてパンを焼いてこの部屋のテーブルに
置いていくから、それを勝手に食って、
みんな勝手にそれぞれの仕事をするわけだ」
少女「へー、なるほど……って、え、パンを焼く?!」
白髪「がはは、そりゃぁ驚くよな。
俺はいくつか船を渡り歩いてきたんだが、
まさか船内でパンを焼くバカがいるとは
夢にも思わなかったぜ」ぱくぱく
129: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:37:09.17 ID:wWEnenAjo
双子妹「バカとは失礼であります。
様々な面から考慮して、この船にあっては、
調理設備がある事が必須と判断したのであります」
白髪「すまんすまん。別に文句じゃねえからよ。
ちなみに嬢ちゃん、この船の設計なんだがな、
船長の男とこの双子妹でだいたいやったんだぜ?」
少女「たしかに他では見ないような船だけど、
完全に特注なんだ……
しかも、ほんとにこんなに小さいのに、設計を?」
双子妹「自分が、船長殿の意向をくみ取って、
実現可能な形にしたのでありますよ」
白髪「まあ、ちょっと細かい事情を説明するか。
いいか? 双子妹」
双子妹「大丈夫でありますよー。
むしろ、きちんと知ってもらう事、
すなわち知と見地の共有こそが無用な争いに対し
有効な手段であると愚行するところであります!」
少女「……難しい言葉使うね」もぐもぐ
白髪「いったろ? 言葉に不便があるってよ。
まあ、顔の入れ墨を見りゃわかるだろうが、
コイツは魔女として、一神教に処刑をされる
はずだったのさ。
……嬢ちゃんはさらし刑って知ってるか?」
様々な面から考慮して、この船にあっては、
調理設備がある事が必須と判断したのであります」
白髪「すまんすまん。別に文句じゃねえからよ。
ちなみに嬢ちゃん、この船の設計なんだがな、
船長の男とこの双子妹でだいたいやったんだぜ?」
少女「たしかに他では見ないような船だけど、
完全に特注なんだ……
しかも、ほんとにこんなに小さいのに、設計を?」
双子妹「自分が、船長殿の意向をくみ取って、
実現可能な形にしたのでありますよ」
白髪「まあ、ちょっと細かい事情を説明するか。
いいか? 双子妹」
双子妹「大丈夫でありますよー。
むしろ、きちんと知ってもらう事、
すなわち知と見地の共有こそが無用な争いに対し
有効な手段であると愚行するところであります!」
少女「……難しい言葉使うね」もぐもぐ
白髪「いったろ? 言葉に不便があるってよ。
まあ、顔の入れ墨を見りゃわかるだろうが、
コイツは魔女として、一神教に処刑をされる
はずだったのさ。
……嬢ちゃんはさらし刑って知ってるか?」
130: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:37:36.92 ID:wWEnenAjo
少女「その、島ではあんまり見ないけど名前は」
白髪「罪状の書かれた板を首にかけさせ、
広場の真ん中とかに拘束して放置する事で、
罪人だって事を知らしめる刑だな。
で、その刑の間は、受刑者に石を投げつけようが、
棒で叩こうが何をしてもいい」
少女「確か、酔っぱらいの人にも、
そういう刑があったよね」
白髪「ああ、飲んだくれの樽だな。
酒を飲み過ぎたヤツを戒めるために、
酒樽に穴を開けて両手と首を出させる形で詰めて、
数日間放置するわけだ。
見てる方は滑稽だっていうが、
樽の中じゃ相当悲惨な事になる刑だ」
双子妹「食事時にはやめてほしい話題であります」むぅ
白髪「話を振ったのは少女だっての。
それでだがな、双子妹の場合は恨み辛みか、
顔に入れ墨なんていう
反吐の出るような目印が付けられたのさ。
まあソレを見かけた俺達が、
紆余曲折あって、処刑寸前に誘拐してのけたがな」
双子妹「誘拐していただいたおかげで、
こうしてのんびり暮らせているのであります」
白髪「罪状の書かれた板を首にかけさせ、
広場の真ん中とかに拘束して放置する事で、
罪人だって事を知らしめる刑だな。
で、その刑の間は、受刑者に石を投げつけようが、
棒で叩こうが何をしてもいい」
少女「確か、酔っぱらいの人にも、
そういう刑があったよね」
白髪「ああ、飲んだくれの樽だな。
酒を飲み過ぎたヤツを戒めるために、
酒樽に穴を開けて両手と首を出させる形で詰めて、
数日間放置するわけだ。
見てる方は滑稽だっていうが、
樽の中じゃ相当悲惨な事になる刑だ」
双子妹「食事時にはやめてほしい話題であります」むぅ
白髪「話を振ったのは少女だっての。
それでだがな、双子妹の場合は恨み辛みか、
顔に入れ墨なんていう
反吐の出るような目印が付けられたのさ。
まあソレを見かけた俺達が、
紆余曲折あって、処刑寸前に誘拐してのけたがな」
双子妹「誘拐していただいたおかげで、
こうしてのんびり暮らせているのであります」
131: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:38:04.01 ID:wWEnenAjo
少女「でも、どうして魔女裁判なんて
危険なものに追い詰められたの?」
白髪「さっきも云ったが、コイツは一種の天才でな、
普通の奴の何倍も知恵が回る。
で、その知恵で、何度も川の氾濫で困っていた村を
救ってやったらしい」
少女「おおー、とっても良いことじゃない!」
白髪「だが、それが原因で、
神の使いだ聖女様だとあがめられてな。
面白くないと憤った一神教の連中、
悪魔の知恵を使って人々をたぶらかしたとか云って、
魔女裁判にかこつけてコイツをおとしめ、
体よく手柄だけかすめ取ろうとしたわけだ」
少女「うう、とたんに生臭なって。
がんばって人を助けようとしたのに、
どうしてそんなヒドイ目に……」
白髪「俺に言われたってしょうがねえ。
宗教ってのは最終的に、
信じてもらうための実績が問われる事になるから、
そこに水を差すようなヤツは許せねえって腹か」
双子妹「聖女にならないかってスカウトは、
たしかにあったでありますよ」
少女「それなら、どうしてそうならなかったの?」
危険なものに追い詰められたの?」
白髪「さっきも云ったが、コイツは一種の天才でな、
普通の奴の何倍も知恵が回る。
で、その知恵で、何度も川の氾濫で困っていた村を
救ってやったらしい」
少女「おおー、とっても良いことじゃない!」
白髪「だが、それが原因で、
神の使いだ聖女様だとあがめられてな。
面白くないと憤った一神教の連中、
悪魔の知恵を使って人々をたぶらかしたとか云って、
魔女裁判にかこつけてコイツをおとしめ、
体よく手柄だけかすめ取ろうとしたわけだ」
少女「うう、とたんに生臭なって。
がんばって人を助けようとしたのに、
どうしてそんなヒドイ目に……」
白髪「俺に言われたってしょうがねえ。
宗教ってのは最終的に、
信じてもらうための実績が問われる事になるから、
そこに水を差すようなヤツは許せねえって腹か」
双子妹「聖女にならないかってスカウトは、
たしかにあったでありますよ」
少女「それなら、どうしてそうならなかったの?」
132: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:39:07.73 ID:wWEnenAjo
双子妹「自分は一神教そのものにはこだわりは無い故、
面倒が起きなければ関わっても良いかと、
そう思ったのでありますよ。
でも、双子姉に対して乱暴な態度を取ったので、
ついカッとしてイロイロやってしまったであります」
白髪「がはは、カッとしてであんな目に遭わされちゃ
連中もかなわねぇよなぁ」
双子妹「いやいや、お恥ずかしいでありますよ」
少女(な、なんだか聞きたいけど、
聞いたらまた疲れそうな……)
双子妹「そんな訳で魔女扱いされて、
この海賊さん達に助けてもらい、
いまに至っているのであります」
白髪「今となっちゃ、
助けたはずが助けられ、
なんて事態になってるがな」
少女「それがもしかして、
その調理場とかを作ったって話につながるの?」
白髪「そういう事だな」
双子妹「でも自分はなにも、
たいそうな事をしたという訳ではないでありますよ。
もともと人数が少ないこの船だから、の工夫程度」
面倒が起きなければ関わっても良いかと、
そう思ったのでありますよ。
でも、双子姉に対して乱暴な態度を取ったので、
ついカッとしてイロイロやってしまったであります」
白髪「がはは、カッとしてであんな目に遭わされちゃ
連中もかなわねぇよなぁ」
双子妹「いやいや、お恥ずかしいでありますよ」
少女(な、なんだか聞きたいけど、
聞いたらまた疲れそうな……)
双子妹「そんな訳で魔女扱いされて、
この海賊さん達に助けてもらい、
いまに至っているのであります」
白髪「今となっちゃ、
助けたはずが助けられ、
なんて事態になってるがな」
少女「それがもしかして、
その調理場とかを作ったって話につながるの?」
白髪「そういう事だな」
双子妹「でも自分はなにも、
たいそうな事をしたという訳ではないでありますよ。
もともと人数が少ないこの船だから、の工夫程度」
133: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:39:46.14 ID:wWEnenAjo
白髪「その工夫が役にたって、
こうして毎日のように焼きたてのパンが食えるなら
十分賞賛されるべき事だぜ?」
双子妹「そう言われると嬉しいでありますな」(///
少女「うんうん、ご飯がおいしいのは幸せだからね」
双子妹「そう、その通りなのでありますよ!
ご飯は大事、これはもう人類の標語であります。
湯気の立つパンやスープを食べる。
ただそれだけで幸せになれるなら、
払うべき対価としては世のあらゆるものより、
安いのでありますよ」
白髪「ったく、そろいもそろって、
食い意地ばっかり張りやがって」
双子妹「きゅぴーん、ご飯の大事さを認めぬなら、
認めさせねばならないであります」しゅばっ
白髪「あ、それは俺が残してたベーコンパン!」
双子妹「ほははは、ほーはひはんほほへーほんはんは
ひふひひひはほへはひはふ!」
白髪「く、良いから、飲み込んでから喋れよ」
双子妹「ごくごくっ、ぷはー!
では、ごちそうさまでありました」
こうして毎日のように焼きたてのパンが食えるなら
十分賞賛されるべき事だぜ?」
双子妹「そう言われると嬉しいでありますな」(///
少女「うんうん、ご飯がおいしいのは幸せだからね」
双子妹「そう、その通りなのでありますよ!
ご飯は大事、これはもう人類の標語であります。
湯気の立つパンやスープを食べる。
ただそれだけで幸せになれるなら、
払うべき対価としては世のあらゆるものより、
安いのでありますよ」
白髪「ったく、そろいもそろって、
食い意地ばっかり張りやがって」
双子妹「きゅぴーん、ご飯の大事さを認めぬなら、
認めさせねばならないであります」しゅばっ
白髪「あ、それは俺が残してたベーコンパン!」
双子妹「ほははは、ほーはひはんほほへーほんはんは
ひふひひひはほへはひはふ!」
白髪「く、良いから、飲み込んでから喋れよ」
双子妹「ごくごくっ、ぷはー!
では、ごちそうさまでありました」
134: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:41:39.07 ID:wWEnenAjo
白髪「ったく。この後は植物の手入れか?」
双子妹「はい、その通りでありますよ。
日が高くなる前に窓を開けて、
一枚ずつ葉っぱの塩を拭き取るのであります」
白髪「そこまでして本当に、
海の上で野菜を作る必要があるのか?」
双子妹「まあ、目的を考えると、
多少迂遠な手段ではありますが、
有用性は高いと愚考するであります」
少女「目的、ですか?」
白髪「ああ。俺たちにとってこの船ってのは
二代目にあたるんだがな、
元は他の海賊と同じようにガレーを使ってたけど、
誰からともなく新大陸に向かおうって
そんな話になったんだよな」
双子妹「たしか白髪の兄様であります」
白髪「そうだっけか?
まあどうでもいい。
それならしっかり対策をして、
誰一人欠けないで到着できるようにしようって事で
いまのこの船は遠洋航行の試験中なんだ」
少女「ああ、だからわざわざ船の上で植物を育てて」
双子妹「はい、その通りでありますよ。
日が高くなる前に窓を開けて、
一枚ずつ葉っぱの塩を拭き取るのであります」
白髪「そこまでして本当に、
海の上で野菜を作る必要があるのか?」
双子妹「まあ、目的を考えると、
多少迂遠な手段ではありますが、
有用性は高いと愚考するであります」
少女「目的、ですか?」
白髪「ああ。俺たちにとってこの船ってのは
二代目にあたるんだがな、
元は他の海賊と同じようにガレーを使ってたけど、
誰からともなく新大陸に向かおうって
そんな話になったんだよな」
双子妹「たしか白髪の兄様であります」
白髪「そうだっけか?
まあどうでもいい。
それならしっかり対策をして、
誰一人欠けないで到着できるようにしようって事で
いまのこの船は遠洋航行の試験中なんだ」
少女「ああ、だからわざわざ船の上で植物を育てて」
135: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:42:32.15 ID:wWEnenAjo
双子妹「長い船旅を経ると、
壊血病という恐ろしい病気になるのでありますよ」
少女「ああ、なんか聞いたことがあるかも。
それなりに食事はとってるのに、
次第にやせていって、
歯が抜けたり、古傷が開いたり、
突然立ちくらみがして倒れて海に落ちたり……
海の上じゃ、警戒できる海賊よりも怖いって」
双子妹「その通りであります」
白髪「嬢ちゃんの脳みそに入ってるって事は、
やっぱり島でも問題になったか」
少女「ちょっと、それどういう意味よ!」
白髪「がはは、怒るなよ、単なる冗談だ。
だがまあ、原因不明の奇病、
悪魔の仕業かそれとも天罰かって、
恐れられてるからな」
双子妹「でも、船に乗らない人間では、
そのような症状は見受けられないのであります」
少女「確かにそうだけど、
それだけじゃどうしようもないでしょ?」
白髪「だからっつって、遠洋するなら
気にしないワケにもいかねえからな」
壊血病という恐ろしい病気になるのでありますよ」
少女「ああ、なんか聞いたことがあるかも。
それなりに食事はとってるのに、
次第にやせていって、
歯が抜けたり、古傷が開いたり、
突然立ちくらみがして倒れて海に落ちたり……
海の上じゃ、警戒できる海賊よりも怖いって」
双子妹「その通りであります」
白髪「嬢ちゃんの脳みそに入ってるって事は、
やっぱり島でも問題になったか」
少女「ちょっと、それどういう意味よ!」
白髪「がはは、怒るなよ、単なる冗談だ。
だがまあ、原因不明の奇病、
悪魔の仕業かそれとも天罰かって、
恐れられてるからな」
双子妹「でも、船に乗らない人間では、
そのような症状は見受けられないのであります」
少女「確かにそうだけど、
それだけじゃどうしようもないでしょ?」
白髪「だからっつって、遠洋するなら
気にしないワケにもいかねえからな」
136: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:43:32.72 ID:wWEnenAjo
双子妹「そこで、海の上にいることで、
『何かが起る』のか『何かが無くなる』のでは、
という推測を立てて、とりあえず、
できる限り陸上の環境を持ち込むようにと、
工夫をしているのでありますよ」
少女「おおー。よく分からないけど、すごそうだね。
じゃあ、いつでも新大陸にいけるわけなんだ!」
双子妹「たしかに現状、この船では壊血病の発生は
確認されていないであります。
しかし、それは悪魔の証明と同じ事なのであります」
少女「……悪魔の証明って?」
双子妹「うーんたとえば、
『この世に黒い色の鳥がいる』という証明は、
黒い鳥を一匹捕まえて来れば、
それが証明できるわけであります」
少女「うんうん」
双子妹「しかし、『この世に金色の鳥はいない』という
証明をしようとするならば、
世界中を飛び交うあの鳥をすべて捕まえて
ようやくいないという事が云えるのであります
つまり事実上云えないわけであります」
少女「なんとなく、わかるような」
『何かが起る』のか『何かが無くなる』のでは、
という推測を立てて、とりあえず、
できる限り陸上の環境を持ち込むようにと、
工夫をしているのでありますよ」
少女「おおー。よく分からないけど、すごそうだね。
じゃあ、いつでも新大陸にいけるわけなんだ!」
双子妹「たしかに現状、この船では壊血病の発生は
確認されていないであります。
しかし、それは悪魔の証明と同じ事なのであります」
少女「……悪魔の証明って?」
双子妹「うーんたとえば、
『この世に黒い色の鳥がいる』という証明は、
黒い鳥を一匹捕まえて来れば、
それが証明できるわけであります」
少女「うんうん」
双子妹「しかし、『この世に金色の鳥はいない』という
証明をしようとするならば、
世界中を飛び交うあの鳥をすべて捕まえて
ようやくいないという事が云えるのであります
つまり事実上云えないわけであります」
少女「なんとなく、わかるような」
138: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:44:12.79 ID:wWEnenAjo
双子妹「要するに、今日はまだ平気だから、
明日も大丈夫とは限らないという事であります。
一人が発症すると、比較的連続して発生するため、
発症しない事が肝要なのであります」
少女「でもそうなると、いつまで経っても、
新大陸には向かえないよね」
双子妹「おおよそ半年程度、
陸に上がる人間と、陸に上がらず生活する人間で、
検証のために比較実験をするのであります。
自分と双子姉、そして包帯のお兄さんは、
すでに四ヶ月一度も陸に上がっていないであります」
少女「じゃ、あと二ヶ月くらいしたら、
実験完了って事で新大陸に向かうのかな?」
双子妹「おそらくは。
その点については船長殿とよく相談するであります」
少女「そっか、分かり易い説明ありがとね」
双子妹「お役に立てたなら嬉しいでありますよ」にぱっ
白髪「それじゃ、俺たちはそろそろ、
アイツのところに挨拶に行くことにするわ」
双子妹「了解であります。自分もお仕事頑張ります」
たったかたー
明日も大丈夫とは限らないという事であります。
一人が発症すると、比較的連続して発生するため、
発症しない事が肝要なのであります」
少女「でもそうなると、いつまで経っても、
新大陸には向かえないよね」
双子妹「おおよそ半年程度、
陸に上がる人間と、陸に上がらず生活する人間で、
検証のために比較実験をするのであります。
自分と双子姉、そして包帯のお兄さんは、
すでに四ヶ月一度も陸に上がっていないであります」
少女「じゃ、あと二ヶ月くらいしたら、
実験完了って事で新大陸に向かうのかな?」
双子妹「おそらくは。
その点については船長殿とよく相談するであります」
少女「そっか、分かり易い説明ありがとね」
双子妹「お役に立てたなら嬉しいでありますよ」にぱっ
白髪「それじゃ、俺たちはそろそろ、
アイツのところに挨拶に行くことにするわ」
双子妹「了解であります。自分もお仕事頑張ります」
たったかたー
139: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:44:54.81 ID:wWEnenAjo
白髪「そんじゃ、俺たちも行くか」
少女「えっと、次はどんな人なんです」
白髪「……まあ、きのいいヤツだな。
ちょっと恥ずかしがり屋だが、
案外健気なところがある」ついーっ
少女(なんで目をそらしているのかは気になるけど、
まあ、いいのかな)
白髪「とりあえず、包帯と男と狼については、
説明はいらないだろうな」
少女「あと双子姉ちゃんとも、
一応自己紹介したから、大丈夫だと思う」
白髪「そうか。そんじゃ、先に他の連中を、
とはも言えねぇわけだな……」ぼそっ
少女「なにかいいました?」
白髪「いや、なんでもねえよ。
そんじゃ、挨拶しに行こうぜ」
少女「はい!」
とことこ
少女「えっと、次はどんな人なんです」
白髪「……まあ、きのいいヤツだな。
ちょっと恥ずかしがり屋だが、
案外健気なところがある」ついーっ
少女(なんで目をそらしているのかは気になるけど、
まあ、いいのかな)
白髪「とりあえず、包帯と男と狼については、
説明はいらないだろうな」
少女「あと双子姉ちゃんとも、
一応自己紹介したから、大丈夫だと思う」
白髪「そうか。そんじゃ、先に他の連中を、
とはも言えねぇわけだな……」ぼそっ
少女「なにかいいました?」
白髪「いや、なんでもねえよ。
そんじゃ、挨拶しに行こうぜ」
少女「はい!」
とことこ
140: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:45:30.54 ID:wWEnenAjo
------------------------------------------------
昼前 三階船室前
白髪「あー、先に言うが、とってもシャイな奴でな。
できるならこう、
優しい目で、見てやってくれ」
少女「わ、わかった」ごくり
とんとんとん
■「ドー、……ゾ……」
少女 ぞくり
白髪「いや、部屋に入りたいわけじゃねぇんだ。
今日から新しく仲間になる奴がいてな、
ちょっとオマエの事も紹介しようと思ってな」
■「ヴ……オ、デ。…………コワ……GAラセ」
少女(す、すごい、歪な声……
数万匹のハエが耳元で鳴っているようで、
台風の夜に吹きすさぶ風で悪霊みちたいに
ごうごうとなる木々の枝のような、
もしくはすぐ耳元で、手の甲を爪で思い切り
ひっかいている音にも似ていて……
とにかく、聞いてるだけで、すごく不安定になる)
昼前 三階船室前
白髪「あー、先に言うが、とってもシャイな奴でな。
できるならこう、
優しい目で、見てやってくれ」
少女「わ、わかった」ごくり
とんとんとん
■「ドー、……ゾ……」
少女 ぞくり
白髪「いや、部屋に入りたいわけじゃねぇんだ。
今日から新しく仲間になる奴がいてな、
ちょっとオマエの事も紹介しようと思ってな」
■「ヴ……オ、デ。…………コワ……GAラセ」
少女(す、すごい、歪な声……
数万匹のハエが耳元で鳴っているようで、
台風の夜に吹きすさぶ風で悪霊みちたいに
ごうごうとなる木々の枝のような、
もしくはすぐ耳元で、手の甲を爪で思い切り
ひっかいている音にも似ていて……
とにかく、聞いてるだけで、すごく不安定になる)
141: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:46:00.63 ID:wWEnenAjo
白髪「大丈夫だっての。
むしろ仲間になるんだから、何度か会って、
それなりに親しくなっておいた方がいいぜ?」
少女(うううう、怖い、この声の主がどんな姿かって、
もうどう考えても不吉で不気味な何か以外、
絶対に思いつかないんだけど、
でもその恐怖の正体を見極めたら、
実は案外たいした事はないんじゃないかって、
ほのかな期待もあって、目にしたいような……!)
■「ダッタ……RA。オデ、ワダヅ……」
ぎぃいいいい
少女(扉の中は、思ってたより全然くらい?
わずかな明かりって、狭い視界からだと、
甲板から漏れ入ってくる太陽の明かりと、
それからオール用の穴からの光くらい……)
包帯『で、普通はそのオールを漕ぐ為に、
百人から二百人くらいの奴隷を働かせるから、
大人数になるわけだけど……
実はウチにはすごい船員がいてね』
少女『す、すごいんですか?』
包帯『なんと、十六本のオールを、
一人で使える力持ち!』
むしろ仲間になるんだから、何度か会って、
それなりに親しくなっておいた方がいいぜ?」
少女(うううう、怖い、この声の主がどんな姿かって、
もうどう考えても不吉で不気味な何か以外、
絶対に思いつかないんだけど、
でもその恐怖の正体を見極めたら、
実は案外たいした事はないんじゃないかって、
ほのかな期待もあって、目にしたいような……!)
■「ダッタ……RA。オデ、ワダヅ……」
ぎぃいいいい
少女(扉の中は、思ってたより全然くらい?
わずかな明かりって、狭い視界からだと、
甲板から漏れ入ってくる太陽の明かりと、
それからオール用の穴からの光くらい……)
包帯『で、普通はそのオールを漕ぐ為に、
百人から二百人くらいの奴隷を働かせるから、
大人数になるわけだけど……
実はウチにはすごい船員がいてね』
少女『す、すごいんですか?』
包帯『なんと、十六本のオールを、
一人で使える力持ち!』
142: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:46:29.03 ID:wWEnenAjo
少女(ああ、中にいるのって、)
ずる、ぬるぅぁあ……
少女「――ッッッ!!」
白髪「……」
少女(手、確かに、人っぽい手なんだけど!
肉と皮を残して中から骨を抜いたような形状と
気持ち悪さに目がそらせないほどの奇妙な手!)
ぴちょん、ぴちょん
少女(先が妙に細長くなりつつ、
フジツボみたいなデキモノが全面にあって、
そこから所々に薄い体毛が生えていたり、
青白い血管がどろどろと脈打ってたり……
そこから何かがぬったりと滴って……)ガクガク
■「オデ……や……る、GOレびづ、げた」
少女「……これ、貝殻?」
■「きでI……キラ、KIら」そっ
少女「あ、ありが、とう」にこっ……
しゅるん
ずる、ぬるぅぁあ……
少女「――ッッッ!!」
白髪「……」
少女(手、確かに、人っぽい手なんだけど!
肉と皮を残して中から骨を抜いたような形状と
気持ち悪さに目がそらせないほどの奇妙な手!)
ぴちょん、ぴちょん
少女(先が妙に細長くなりつつ、
フジツボみたいなデキモノが全面にあって、
そこから所々に薄い体毛が生えていたり、
青白い血管がどろどろと脈打ってたり……
そこから何かがぬったりと滴って……)ガクガク
■「オデ……や……る、GOレびづ、げた」
少女「……これ、貝殻?」
■「きでI……キラ、KIら」そっ
少女「あ、ありが、とう」にこっ……
しゅるん
143: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:46:56.79 ID:wWEnenAjo
白髪「綺麗なモンをくれてありがとな、
女の子にプレゼントなんざ、やるなぁ、おまえも」
■ ずさずさ
少女(とびらの向こうで、よじれるような、
こすれるような音がしてて……
もじもじしてる?)
白髪「また、飯持ってくるからよ。
待っててくれや」
■「WAGA……っっっタ」
白髪「……ほれ、行くぜ」そっ
少女「あ、その」
白髪「どうした?」
少女「えっと、キミ!
この貝殻、ありがとっ」
■ ずさずさ
白髪「……」
少女「それじゃ、行こうか。
また会いにくるからねー」ひらひら
女の子にプレゼントなんざ、やるなぁ、おまえも」
■ ずさずさ
少女(とびらの向こうで、よじれるような、
こすれるような音がしてて……
もじもじしてる?)
白髪「また、飯持ってくるからよ。
待っててくれや」
■「WAGA……っっっタ」
白髪「……ほれ、行くぜ」そっ
少女「あ、その」
白髪「どうした?」
少女「えっと、キミ!
この貝殻、ありがとっ」
■ ずさずさ
白髪「……」
少女「それじゃ、行こうか。
また会いにくるからねー」ひらひら
144: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:47:27.87 ID:wWEnenAjo
------------------------------------------------
昼 海賊船談話室
白髪「ふ、はぁあああ……ぜはぁ……」
少女「う、ううう」
白髪「悪いヤツじゃぁねえんだがなぁ。
アイツに会うだけで、寿命が縮む気がするぜ」
少女「なんていうのか、
理解したら終わってしまうものを前にしているような
そんな気がするかも」
白髪「ああ、なんとなく言いたい事はわかるぜ。
俺たちの信じてる現実とか、
そう云ったものを根こそぎ否定してよ、
ちっぽけでどうしようもないものだって思わせて、
ぶち壊しちまうようなモノを感じるんだよなぁ」
少女「確かにこの船って、
『悪魔と魔女の船』なんだってわかった……」
白髪「人を救って『魔女』って呼ばれる双子に、
『悪魔の魚』(タコ)のような外見を持ったアイツ。
まあ異端視されたって、しょうがねえわな」
少女「……そういえば、さっきからあの部屋にいた、
彼? 彼女? の事を、アイツって呼んでるけど、
なんて名前なの?」
昼 海賊船談話室
白髪「ふ、はぁあああ……ぜはぁ……」
少女「う、ううう」
白髪「悪いヤツじゃぁねえんだがなぁ。
アイツに会うだけで、寿命が縮む気がするぜ」
少女「なんていうのか、
理解したら終わってしまうものを前にしているような
そんな気がするかも」
白髪「ああ、なんとなく言いたい事はわかるぜ。
俺たちの信じてる現実とか、
そう云ったものを根こそぎ否定してよ、
ちっぽけでどうしようもないものだって思わせて、
ぶち壊しちまうようなモノを感じるんだよなぁ」
少女「確かにこの船って、
『悪魔と魔女の船』なんだってわかった……」
白髪「人を救って『魔女』って呼ばれる双子に、
『悪魔の魚』(タコ)のような外見を持ったアイツ。
まあ異端視されたって、しょうがねえわな」
少女「……そういえば、さっきからあの部屋にいた、
彼? 彼女? の事を、アイツって呼んでるけど、
なんて名前なの?」
145: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:50:16.30 ID:wWEnenAjo
白髪「アイツの名前なんだがな、
今のところまだねぇんだわ。
これは俺達の出会いの話でもあるんだが……
聞くか?」
少女「うん、時間はまだ少し有ると思うし、
白髪さんが大丈夫なら」
白髪「あー、まあ、平気だろ。
俺がこの船で責任を預けられてるのは、
釣りでの食料調達と、軍事教練だけだからな。
昨日は襲撃をかけた事もあって、
それぞれの仕事が若干滞ったからな。
今日は訓練はなしだ」
少女「軍事教練とか、訓練って?」
白髪「まあ、それもこれから話す内容につながるが、
そもそも俺と男は、マータ騎士団で出会ったんだ」
少女「マータ騎士団って確か、
一神教がトルキアから聖地を奪い返そうとした、
あの『聖戦』の時に先遣隊を勤めた忠神の騎士たち
の集まりが、ローディアス騎士団って形になって。
で、一神教の防衛に専念するために移動して名前を
変えたのがマータ騎士団だよね」
白髪「……今時そんなのを信じてるヤツなんざ、
よほど探したって見つからないがな。
その移動の実態ってのは、ただの敗走だ」
今のところまだねぇんだわ。
これは俺達の出会いの話でもあるんだが……
聞くか?」
少女「うん、時間はまだ少し有ると思うし、
白髪さんが大丈夫なら」
白髪「あー、まあ、平気だろ。
俺がこの船で責任を預けられてるのは、
釣りでの食料調達と、軍事教練だけだからな。
昨日は襲撃をかけた事もあって、
それぞれの仕事が若干滞ったからな。
今日は訓練はなしだ」
少女「軍事教練とか、訓練って?」
白髪「まあ、それもこれから話す内容につながるが、
そもそも俺と男は、マータ騎士団で出会ったんだ」
少女「マータ騎士団って確か、
一神教がトルキアから聖地を奪い返そうとした、
あの『聖戦』の時に先遣隊を勤めた忠神の騎士たち
の集まりが、ローディアス騎士団って形になって。
で、一神教の防衛に専念するために移動して名前を
変えたのがマータ騎士団だよね」
白髪「……今時そんなのを信じてるヤツなんざ、
よほど探したって見つからないがな。
その移動の実態ってのは、ただの敗走だ」
146: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:50:48.21 ID:wWEnenAjo
少女「うぐ、また間接的にバカにされたような」
白髪「がはは、いいんじゃねぇのか?
下手に小賢しいよりは愚かな方が生き易いってな。
で、そのマータ騎士団で出会った俺たち二人だが、
ある時任務で、悪魔狩りを言い渡されたんだ」
少女「それって」
白髪「そうともよ。もちろんいま下の階にいる
アイツの事だったわけだ。
上陸の難しい絶壁に囲まれた小さな無人島でな、
俺たちが上陸して作った探索基地から、
あまり離れていない洞窟の中で隠れ住んでたらしい。
それを男が見つけて会話して、
この体質のせいで騎士団でも浮いていた俺と、
人の中に居場所がないアイツを重ねちまったらしい」
少女「……それで、海賊を結成したの?」
白髪「おう。何人か賛同するバカを集めて、
一緒になって船を盗んで、アイツと一緒に逃走した。
なんでも男と会話をしている間に、
アイツは『親』ってのに興味を持ったらしいな」
少女「親ってその、あの彼を産んだって事?」
白髪「まあ、木の股からうまれたんじゃなけりゃな。
んで、名前は親からもらうモノだって聞いて、
アイツには名前を付けてもらうための旅ってワケだ」
白髪「がはは、いいんじゃねぇのか?
下手に小賢しいよりは愚かな方が生き易いってな。
で、そのマータ騎士団で出会った俺たち二人だが、
ある時任務で、悪魔狩りを言い渡されたんだ」
少女「それって」
白髪「そうともよ。もちろんいま下の階にいる
アイツの事だったわけだ。
上陸の難しい絶壁に囲まれた小さな無人島でな、
俺たちが上陸して作った探索基地から、
あまり離れていない洞窟の中で隠れ住んでたらしい。
それを男が見つけて会話して、
この体質のせいで騎士団でも浮いていた俺と、
人の中に居場所がないアイツを重ねちまったらしい」
少女「……それで、海賊を結成したの?」
白髪「おう。何人か賛同するバカを集めて、
一緒になって船を盗んで、アイツと一緒に逃走した。
なんでも男と会話をしている間に、
アイツは『親』ってのに興味を持ったらしいな」
少女「親ってその、あの彼を産んだって事?」
白髪「まあ、木の股からうまれたんじゃなけりゃな。
んで、名前は親からもらうモノだって聞いて、
アイツには名前を付けてもらうための旅ってワケだ」
147: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:51:27.07 ID:wWEnenAjo
少女「そっか、だから名前がなくて……」
白髪「そういうわけだ。
だから別に、粗雑に扱ってるとか仲間はずれとか、
そういうわけじゃねぇんだぜ」
少女「それは思って無かったからね」
白髪「がはは、重畳だな。
そんで、いきなり俺たちは指名手配されてな。
アイツはいちど身を隠せる場所において、
船は金貨に変えて、陸路で逃げ回ったモンだ」
少女「そりゃ、悪魔を狩りにいったはずの、
一神教の騎士達が、
いきなり船を奪って悪魔と旅立ったなんて、
明らかにすっごい醜聞でしょ。指名手配もするよ」
白髪「がはは、確かにすさまじい勢いで追っ手が来たぜ。
だが、当時は仲が悪かったスピエナ領に逃げ込んで
その後はそれなりに平穏だったな」
少女「スピエナがかくまってくれたの?」
白髪「いや、さっきの『醜聞』を隠したせいで、
スピエナが追っ手すら出さない程度の
意識でいてくれたって程度さ」
少女「……実はそこまで計算して?」
白髪「そういうわけだ。
だから別に、粗雑に扱ってるとか仲間はずれとか、
そういうわけじゃねぇんだぜ」
少女「それは思って無かったからね」
白髪「がはは、重畳だな。
そんで、いきなり俺たちは指名手配されてな。
アイツはいちど身を隠せる場所において、
船は金貨に変えて、陸路で逃げ回ったモンだ」
少女「そりゃ、悪魔を狩りにいったはずの、
一神教の騎士達が、
いきなり船を奪って悪魔と旅立ったなんて、
明らかにすっごい醜聞でしょ。指名手配もするよ」
白髪「がはは、確かにすさまじい勢いで追っ手が来たぜ。
だが、当時は仲が悪かったスピエナ領に逃げ込んで
その後はそれなりに平穏だったな」
少女「スピエナがかくまってくれたの?」
白髪「いや、さっきの『醜聞』を隠したせいで、
スピエナが追っ手すら出さない程度の
意識でいてくれたって程度さ」
少女「……実はそこまで計算して?」
148: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:52:09.78 ID:wWEnenAjo
白髪「俺はともかく、男はそうだろうな。
そうやって落ち着いたのはいいが、
アイツを連れて動くなら船が必須になるだろ
少女「まあ、あの大きな体じゃ、
陸路で世界をなんてできないし……」
白髪「海でなら、アイツは普通の人間以上に
よく泳げるっていうのもあってな。
なら、スピエナの航海術は学んで損はないと、
男がスピエナの海軍に入ってよ。
俺も遊んでるわけにはいかねえから、
一緒になってスピエナでも暴れたモンだ」
少女「たしか、新大陸にいくような、
岸から大きく離れての航行技術があるのって、
スピエナとオリアンダくらいだっけ……」
白髪「おお、珍しいな、優等生的回答だぜ。
今は他の国ももうちょっと進歩したがな」
少女「まあ、最低限の操船術を学ばないと、
男の子達に混じっていられなかったし。
でも、海軍ってそんなに簡単に入れたの?」
白髪「俺も男もマータ騎士団で仕込まれた
航海術の基礎が役に立ったのさ。
操船知識を持つ人間に余裕がなかったスピエナは、
多少の身分の不確かさよりも、
その技術が有ることの実利を取ったんだろうよ」
そうやって落ち着いたのはいいが、
アイツを連れて動くなら船が必須になるだろ
少女「まあ、あの大きな体じゃ、
陸路で世界をなんてできないし……」
白髪「海でなら、アイツは普通の人間以上に
よく泳げるっていうのもあってな。
なら、スピエナの航海術は学んで損はないと、
男がスピエナの海軍に入ってよ。
俺も遊んでるわけにはいかねえから、
一緒になってスピエナでも暴れたモンだ」
少女「たしか、新大陸にいくような、
岸から大きく離れての航行技術があるのって、
スピエナとオリアンダくらいだっけ……」
白髪「おお、珍しいな、優等生的回答だぜ。
今は他の国ももうちょっと進歩したがな」
少女「まあ、最低限の操船術を学ばないと、
男の子達に混じっていられなかったし。
でも、海軍ってそんなに簡単に入れたの?」
白髪「俺も男もマータ騎士団で仕込まれた
航海術の基礎が役に立ったのさ。
操船知識を持つ人間に余裕がなかったスピエナは、
多少の身分の不確かさよりも、
その技術が有ることの実利を取ったんだろうよ」
149: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:52:51.35 ID:wWEnenAjo
少女「それでその後に軍を出てから海賊になって、
だんだんと人が増えたり減ったりして、
今のこのメンバーになるんだ」
白髪「そういうわけだな。
んで、嬢ちゃんも今日からこの船の一員になるが……
正直なところ、何ができるよ」
少女「何ができるっていうと……」
白髪「働かざる者食うべからずって言うだろ。
さすがに七人じゃ少なすぎて、
年寄りの俺以外はみんな忙しくしてるわけだ。
俺だってちゃんとやることはある。
若い嬢ちゃんは、何だったら仕事を引き受けられる
のか、そこら辺が知りたいんだが」
少女「えっと……」
白髪「戦闘には強制参加だからな、
それなりにやれるのは手をみりゃ判るが、
それだけじゃダメだって先に言うぜ」
少女「うぐ……それ以外っていうと、
せいぜい、あ、多少なら料理ができるかな。
後は洗い物と掃除!」
白髪「……意外だな、かなり家庭的じゃねえか」
だんだんと人が増えたり減ったりして、
今のこのメンバーになるんだ」
白髪「そういうわけだな。
んで、嬢ちゃんも今日からこの船の一員になるが……
正直なところ、何ができるよ」
少女「何ができるっていうと……」
白髪「働かざる者食うべからずって言うだろ。
さすがに七人じゃ少なすぎて、
年寄りの俺以外はみんな忙しくしてるわけだ。
俺だってちゃんとやることはある。
若い嬢ちゃんは、何だったら仕事を引き受けられる
のか、そこら辺が知りたいんだが」
少女「えっと……」
白髪「戦闘には強制参加だからな、
それなりにやれるのは手をみりゃ判るが、
それだけじゃダメだって先に言うぜ」
少女「うぐ……それ以外っていうと、
せいぜい、あ、多少なら料理ができるかな。
後は洗い物と掃除!」
白髪「……意外だな、かなり家庭的じゃねえか」
150: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:53:41.54 ID:wWEnenAjo
少女「えへへ、それほどでも無いけどね。
島の兵士さん達に頼んで、こっそり一緒に訓練に参加
してたからね」
白髪「おいおい……」
少女「だけど、単独で長距離行軍をするときは、
糧食が作れないと命に関わる大惨事だからさ。
最低限食べられるものは作れるようにって、
事前に料理の訓練もしたし……
兵舎でもそれなりに料理はさせられたし」
白髪「嬢ちゃんの中身は半分兵士なんだな……
箱入りのくせに」
少女「む、後半は余計だって。
それに、しっかり入隊してたから、
半分ってわけでもないかも。
あと、洗い物とか洗濯については
当番制で大量にやってたから得意かな」
白髪「……それは、荒っぽいだけだな」
少女「え、洗えれば全部一緒でしょ?
洗濯じゃさすがに自分の下着は丁寧に洗うけど」
白髪「おまえ、ドレスみたいに繊細な布のモノは
きなかったのかよ」
島の兵士さん達に頼んで、こっそり一緒に訓練に参加
してたからね」
白髪「おいおい……」
少女「だけど、単独で長距離行軍をするときは、
糧食が作れないと命に関わる大惨事だからさ。
最低限食べられるものは作れるようにって、
事前に料理の訓練もしたし……
兵舎でもそれなりに料理はさせられたし」
白髪「嬢ちゃんの中身は半分兵士なんだな……
箱入りのくせに」
少女「む、後半は余計だって。
それに、しっかり入隊してたから、
半分ってわけでもないかも。
あと、洗い物とか洗濯については
当番制で大量にやってたから得意かな」
白髪「……それは、荒っぽいだけだな」
少女「え、洗えれば全部一緒でしょ?
洗濯じゃさすがに自分の下着は丁寧に洗うけど」
白髪「おまえ、ドレスみたいに繊細な布のモノは
きなかったのかよ」
151: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:54:35.97 ID:wWEnenAjo
少女「入隊する前は着たけど……
私にはどうせ似合わないからさ、あはは」
白髪「その洗濯板みたいな胸をはって言うんじゃねぇよ。
デザインを選べば似合うモノだって有るだろうが、
……まあいいか。それなら、明日からは包帯の配下で、
この船の流儀ってのを学んでくれや。
基礎体力も技術もあるなら、まあ何任せても平気だろ」
少女「はっ、任務受領しました。
少女伍長勤務上等兵、
明朝夜明け前より、先任軍曹の指揮下に入り、
輜重任務に従事いたします」ザッ
白髪「よし任せた。輜重は兵運用の中枢だ、励めよ。
……って、やりたかっただけだろ」
少女「あははー」
白髪「だけど嬢ちゃん、上等兵だったのか?」
少女「訓練には脱落せずに参加できていたからね。
実戦はさすがに、
島の領主の娘って立場があるから
頼むからやめてくれって止められたけどね」
白髪「いくら親の七光りが有るからって、
小さい女の体で、兵卒で一番上の階級って無茶だろ。
実は男だとか、年を偽ってるとかねえのかよ」
私にはどうせ似合わないからさ、あはは」
白髪「その洗濯板みたいな胸をはって言うんじゃねぇよ。
デザインを選べば似合うモノだって有るだろうが、
……まあいいか。それなら、明日からは包帯の配下で、
この船の流儀ってのを学んでくれや。
基礎体力も技術もあるなら、まあ何任せても平気だろ」
少女「はっ、任務受領しました。
少女伍長勤務上等兵、
明朝夜明け前より、先任軍曹の指揮下に入り、
輜重任務に従事いたします」ザッ
白髪「よし任せた。輜重は兵運用の中枢だ、励めよ。
……って、やりたかっただけだろ」
少女「あははー」
白髪「だけど嬢ちゃん、上等兵だったのか?」
少女「訓練には脱落せずに参加できていたからね。
実戦はさすがに、
島の領主の娘って立場があるから
頼むからやめてくれって止められたけどね」
白髪「いくら親の七光りが有るからって、
小さい女の体で、兵卒で一番上の階級って無茶だろ。
実は男だとか、年を偽ってるとかねえのかよ」
152: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:55:08.10 ID:wWEnenAjo
少女「む、正真正銘、十八歳の女子ですー。
兵役は十五から十七までやってたけどね。
うちの島の男の子は、
それくらいの年齢になるとみんな志願して、
とりあえず従軍経験を積むから、私もあわせて」
白髪「流行り廃りじゃねぇんだから……」
少女「まあ、たしかに親の七光りは有ったみたいで、
二等兵で一年過ごして、一等兵は飛ばして、
その後に上等兵を一年。
やめる時になんかごちゃごちゃ有ったみたいで、
一階級特進して伍長勤務をもらってね」
白髪「昇進が二年前か……
ちょうどその頃、海賊が頻繁に来てなかったか?」
少女「あ、うんうん。そんな気がする」
白髪「だったらそりゃ、親の七光りって言っても、
逆の方だろ。
さすがに伍長勤務を戦場に出さないって、
ワケにはいかないからな。
上等兵でもどうかと思うが、まだ影響は少ない。
将来の司令官に、前線で突撃しろとは言えねぇし」
少女「ああ、たしかにそれはちょっと怖かったかな。
痛いのとかつらいのは訓練でなれてたけど、
お兄ちゃんがいなくなってからは、
私だけがお父さんの支えだったみたいだし」
兵役は十五から十七までやってたけどね。
うちの島の男の子は、
それくらいの年齢になるとみんな志願して、
とりあえず従軍経験を積むから、私もあわせて」
白髪「流行り廃りじゃねぇんだから……」
少女「まあ、たしかに親の七光りは有ったみたいで、
二等兵で一年過ごして、一等兵は飛ばして、
その後に上等兵を一年。
やめる時になんかごちゃごちゃ有ったみたいで、
一階級特進して伍長勤務をもらってね」
白髪「昇進が二年前か……
ちょうどその頃、海賊が頻繁に来てなかったか?」
少女「あ、うんうん。そんな気がする」
白髪「だったらそりゃ、親の七光りって言っても、
逆の方だろ。
さすがに伍長勤務を戦場に出さないって、
ワケにはいかないからな。
上等兵でもどうかと思うが、まだ影響は少ない。
将来の司令官に、前線で突撃しろとは言えねぇし」
少女「ああ、たしかにそれはちょっと怖かったかな。
痛いのとかつらいのは訓練でなれてたけど、
お兄ちゃんがいなくなってからは、
私だけがお父さんの支えだったみたいだし」
153: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:55:56.24 ID:wWEnenAjo
白髪「だったら家出もするなよ」
少女「それとこれとは別なんですー。
そもそも一月で戻るつもりだったし……
まあ、こうして海賊船に乗らせてもらってるから、
もうちょっとだけ延長してもいいかなって、
いまはそう思ってるけど」
白髪「ったく、半端ねぇ順応性だな。
上層部も、面倒なモノに押しかけられた
なんてボヤいてただろうぜ」
少女「……実感こもってない?」
白髪「ウチにも一人そういうのがいてなぁ。
身分を隠していたんだろうが、
スピエナの中でもそれなりの地位の貴族だってのは
周りじゃ知らない奴がいなかったぜ」
少女「最初の時の自分みたいで笑えないかも……」
白髪「だから士官じゃなく、兵卒からだったのか」
少女「あはは……、まあね。
見た目がコレだから、親しい男の子の古着だけで、
男の子にしか見えないって周りにいわれた事で、
バレてない気になってね」
少女「それとこれとは別なんですー。
そもそも一月で戻るつもりだったし……
まあ、こうして海賊船に乗らせてもらってるから、
もうちょっとだけ延長してもいいかなって、
いまはそう思ってるけど」
白髪「ったく、半端ねぇ順応性だな。
上層部も、面倒なモノに押しかけられた
なんてボヤいてただろうぜ」
少女「……実感こもってない?」
白髪「ウチにも一人そういうのがいてなぁ。
身分を隠していたんだろうが、
スピエナの中でもそれなりの地位の貴族だってのは
周りじゃ知らない奴がいなかったぜ」
少女「最初の時の自分みたいで笑えないかも……」
白髪「だから士官じゃなく、兵卒からだったのか」
少女「あはは……、まあね。
見た目がコレだから、親しい男の子の古着だけで、
男の子にしか見えないって周りにいわれた事で、
バレてない気になってね」
154: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:56:41.07 ID:wWEnenAjo
白髪「……入隊試験の前でバレるっての、その展開。
絶対にいくつかの試験項目が、
嬢ちゃんだからって理由で免除されてるぜ?」
少女「うん、私も二年兵になる時にはさすがに、
あの時から気を遣われてたんだなーってわかったし」
白髪「っていうか、今更だが、兵舎にいたのか?
家とかどうしてたよ」
少女「そこは……実は、留学してるって事にして、
こっそり郵便物の中に自分の手紙紛れ込ませて、
たしかフリアンスにいた事になってたかな?」
白髪「その機会に外にでてりゃ、良かったのによ」
少女「だってまさか、
こんなに急に父さんが倒れて私が領主にとか、
そんな話になるとは、思って無かったから」
白髪「ま、身内の不幸ってのは、そんなモンだ」
少女「……」
白髪「……」
少女「……とりあえず私は包帯さん探して、
旗下に入る事を伝えてくるよ」
たったった……
白髪「……俺は釣りでもするかな」どかどか
絶対にいくつかの試験項目が、
嬢ちゃんだからって理由で免除されてるぜ?」
少女「うん、私も二年兵になる時にはさすがに、
あの時から気を遣われてたんだなーってわかったし」
白髪「っていうか、今更だが、兵舎にいたのか?
家とかどうしてたよ」
少女「そこは……実は、留学してるって事にして、
こっそり郵便物の中に自分の手紙紛れ込ませて、
たしかフリアンスにいた事になってたかな?」
白髪「その機会に外にでてりゃ、良かったのによ」
少女「だってまさか、
こんなに急に父さんが倒れて私が領主にとか、
そんな話になるとは、思って無かったから」
白髪「ま、身内の不幸ってのは、そんなモンだ」
少女「……」
白髪「……」
少女「……とりあえず私は包帯さん探して、
旗下に入る事を伝えてくるよ」
たったった……
白髪「……俺は釣りでもするかな」どかどか
155: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:57:12.24 ID:wWEnenAjo
------------------------------------------------
夜 隠れ港の大通り市場
ざわざわ、ざわざわ
少女「ほえー……すごい活気。
それに、とっても綺麗」
男「はぐれるなよ」
白髪「がはは、確かに嬢ちゃんはこういう時には、
迷子になるような性格だな」
少女「え、そんな事ないし!
……でも、目を奪われる場所かも。
色とりどりの派手なマントの人たちとか、
見たこともない商品の露店がいっぱい……」
白髪「ココは海賊共の隠れ港だからな。
利用料は多少高いが、
ここでなら官警なんかの目を気にしなくて済む。
世界でも数少ない、海賊や船乗りだけの港町だ」
少女「さっきまとめて商人の人に売ってきた戦利品
もいつかは、ここで並ぶのかな?」
男「今回はエジピウトの砂糖や硝石が多かったが、
武器類も少なからず手に入ったからな。
貴金属と薬の一部もあわせて、並ぶだろう」
夜 隠れ港の大通り市場
ざわざわ、ざわざわ
少女「ほえー……すごい活気。
それに、とっても綺麗」
男「はぐれるなよ」
白髪「がはは、確かに嬢ちゃんはこういう時には、
迷子になるような性格だな」
少女「え、そんな事ないし!
……でも、目を奪われる場所かも。
色とりどりの派手なマントの人たちとか、
見たこともない商品の露店がいっぱい……」
白髪「ココは海賊共の隠れ港だからな。
利用料は多少高いが、
ここでなら官警なんかの目を気にしなくて済む。
世界でも数少ない、海賊や船乗りだけの港町だ」
少女「さっきまとめて商人の人に売ってきた戦利品
もいつかは、ここで並ぶのかな?」
男「今回はエジピウトの砂糖や硝石が多かったが、
武器類も少なからず手に入ったからな。
貴金属と薬の一部もあわせて、並ぶだろう」
156: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:58:06.72 ID:wWEnenAjo
白髪「ああ、こないだの船は多かったからな。
とくに硝石が多いのは助かった。
ウチの船はどうにも消費が早いからな」
男「双子妹の改良した武器で遠距離から削る。
人数が少ないのを補うためには、
そうしなければ効率が悪いからな。
必然的に火薬の使用量も増える」
白髪「文句つけてるわけじゃねえよ。
ま、アレだよな。
ウチの船の連中ときたら、
良くも悪くも欲がないっつーか、
ほとんど現金をつかわんからな……
硝石くらいどんどん使っても問題ねぇ」
少女「そうえいば、そんなに儲かるんですか?」
白髪「往来で滅多な事は言えねぇが、
たしか嬢ちゃんは上等兵だったよな。
給料はどれくらいだった?」
少女「月に四デュカートでしたけど……」
白髪「上等兵なら、まあそんなもんか。
普通の市民で月に二デュカートくらいかな。
それに対して一応、ウチの船は……たしか……」
少女「え、いくらもらってるか把握して……」
とくに硝石が多いのは助かった。
ウチの船はどうにも消費が早いからな」
男「双子妹の改良した武器で遠距離から削る。
人数が少ないのを補うためには、
そうしなければ効率が悪いからな。
必然的に火薬の使用量も増える」
白髪「文句つけてるわけじゃねえよ。
ま、アレだよな。
ウチの船の連中ときたら、
良くも悪くも欲がないっつーか、
ほとんど現金をつかわんからな……
硝石くらいどんどん使っても問題ねぇ」
少女「そうえいば、そんなに儲かるんですか?」
白髪「往来で滅多な事は言えねぇが、
たしか嬢ちゃんは上等兵だったよな。
給料はどれくらいだった?」
少女「月に四デュカートでしたけど……」
白髪「上等兵なら、まあそんなもんか。
普通の市民で月に二デュカートくらいかな。
それに対して一応、ウチの船は……たしか……」
少女「え、いくらもらってるか把握して……」
157: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:59:27.00 ID:wWEnenAjo
白髪「いやぁ、金銭に関しちゃ、
無駄遣いしないように男が管理しててな」
男「誰も聞きに来ないあたりが、
ウチの船らしくて泣けてくるがな。
必要経費や共益費、船の維持費なんかを除いて、
ウチの船では月に十デュカートを一人に、
渡している扱いになっている」
白髪「陸に上がらんから使わんしなぁ」
少女「十五デュカートもあれば、
つつましやかな普通の家じゃ一年間は
暮らせるっていうのに……」
男「コレでもウチの船の船員への報酬は、
海賊船としての活動頻度を考えると、
決して高くない部類だ。
乗組員を殺して新品に乗り換えていくのが主流だが、
それができないからな。
年に二千デュカット程度は、船の維持費だ」
少女「うわぁ……もうそこまで行くと、
金額の把握ができない……
二千デュカットってキャベツ何個分?」
男「おおよそ一デュカットで百三十個分だから、
その二千倍、二十六万個になるな」
少女「……よけいわからなくなった」うるうる
無駄遣いしないように男が管理しててな」
男「誰も聞きに来ないあたりが、
ウチの船らしくて泣けてくるがな。
必要経費や共益費、船の維持費なんかを除いて、
ウチの船では月に十デュカートを一人に、
渡している扱いになっている」
白髪「陸に上がらんから使わんしなぁ」
少女「十五デュカートもあれば、
つつましやかな普通の家じゃ一年間は
暮らせるっていうのに……」
男「コレでもウチの船の船員への報酬は、
海賊船としての活動頻度を考えると、
決して高くない部類だ。
乗組員を殺して新品に乗り換えていくのが主流だが、
それができないからな。
年に二千デュカット程度は、船の維持費だ」
少女「うわぁ……もうそこまで行くと、
金額の把握ができない……
二千デュカットってキャベツ何個分?」
男「おおよそ一デュカットで百三十個分だから、
その二千倍、二十六万個になるな」
少女「……よけいわからなくなった」うるうる
158: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/17(火) 23:59:52.80 ID:wWEnenAjo
男「もういい。……白髪、例の情報屋との連絡は」
白髪「おう、そろそろ時間だな。
俺が接触してくるから、いつもの酒場で落ち合おう。
少女は男と一緒にいてくれや」とことこ
少女「すごい、あの岩から削った見たいな体で、
人混みの中をするする……」
男「昔から、器用な奴だった」
とことこ
少女「……」
男「……」
少女「あ、あの、船長さんは」
男「……男でいいぞ」
少女「男さんは、どうしてそのマントなんです?」
男「何か問題か?」
少女「いえ、その。
まわりで派手なマントの人って、
だいたい海賊の船長さんとか船員さんとか、
そういう偉い人たちですよね。
俺たちこんな高いモノを使えるくらい、
スゴイ海賊なんだぞーっていう威嚇みたいな」
白髪「おう、そろそろ時間だな。
俺が接触してくるから、いつもの酒場で落ち合おう。
少女は男と一緒にいてくれや」とことこ
少女「すごい、あの岩から削った見たいな体で、
人混みの中をするする……」
男「昔から、器用な奴だった」
とことこ
少女「……」
男「……」
少女「あ、あの、船長さんは」
男「……男でいいぞ」
少女「男さんは、どうしてそのマントなんです?」
男「何か問題か?」
少女「いえ、その。
まわりで派手なマントの人って、
だいたい海賊の船長さんとか船員さんとか、
そういう偉い人たちですよね。
俺たちこんな高いモノを使えるくらい、
スゴイ海賊なんだぞーっていう威嚇みたいな」
159: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/18(水) 00:00:19.98 ID:fwWYs8oio
男「そうだな」
少女「なのに、男さんはその黒いだけの、
いつもの戦闘用マントじゃないですか」
男「丈夫だからな」
少女「うう、話が通じているようで通じてない……」
男「冗談だ」むすっ
少女「え?」
男「たしかに他の海賊なら、
目立つことにも意味があるだろう。
特徴的なマントは、海賊旗のようなものだからな、
乗員になりたいと言う人間を集める印になる」
少女(……この人でも冗談なんていうんだ。
まったく笑えなかったけど)
男「だが、うちの船にはこれ以上の船員はいらん。
むしろ目立つ方が問題だ」
少女「……その、地味すぎて逆に目立ってるような」
男「……そうか?」
少女「そうですよ」
少女「なのに、男さんはその黒いだけの、
いつもの戦闘用マントじゃないですか」
男「丈夫だからな」
少女「うう、話が通じているようで通じてない……」
男「冗談だ」むすっ
少女「え?」
男「たしかに他の海賊なら、
目立つことにも意味があるだろう。
特徴的なマントは、海賊旗のようなものだからな、
乗員になりたいと言う人間を集める印になる」
少女(……この人でも冗談なんていうんだ。
まったく笑えなかったけど)
男「だが、うちの船にはこれ以上の船員はいらん。
むしろ目立つ方が問題だ」
少女「……その、地味すぎて逆に目立ってるような」
男「……そうか?」
少女「そうですよ」
160: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/18(水) 00:00:53.42 ID:fwWYs8oio
男「……次回から少し検討するか」
少女「ぷっ……くくく」
男「何がおかしい」
少女「いえ、なんとなく、
男さんも人間なんだなーみたいな」
男「どういう意味だ」
少女「深い意味はないですよ。
ただ、昨日話した限りだと、
金属でできている人みたいに見えちゃって」
男「…………」
少女「でもこうやって話したら、
冗談も言うし、ちょっとズレてるところもあって、
そんな所が人間っぽいなーって」
男「おまえが緊張しているようだったからな」ぼそっ
少女「え?」
男「……なんでもない。いくぞ」
少女(気をつかってくれた、って事なのかな?
似合わないし、ちょっとズレてる気はするけど、
でも、悪い人じゃない?)
少女「ぷっ……くくく」
男「何がおかしい」
少女「いえ、なんとなく、
男さんも人間なんだなーみたいな」
男「どういう意味だ」
少女「深い意味はないですよ。
ただ、昨日話した限りだと、
金属でできている人みたいに見えちゃって」
男「…………」
少女「でもこうやって話したら、
冗談も言うし、ちょっとズレてるところもあって、
そんな所が人間っぽいなーって」
男「おまえが緊張しているようだったからな」ぼそっ
少女「え?」
男「……なんでもない。いくぞ」
少女(気をつかってくれた、って事なのかな?
似合わないし、ちょっとズレてる気はするけど、
でも、悪い人じゃない?)
161: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/18(水) 00:01:28.97 ID:fwWYs8oio
少女「ドコにいくんですか?」
男「酒場だ。今夜の食事はそこで取る。
双子妹からの指示もあるし、
顔なじみへの挨拶もしなくてはな」
少女「乗り気じゃないみたいですね」
男「面倒だからな。
だが、船長という立場を預かっている以上、
他の船員達のためにも、
知己を増やす事は損にはならん」
少女「その、ぱーっとおいしいお酒で騒ごうとか」
男「一つの酒場を貸し切りにして騒ぐなら、
問題はないかもしれんがな。
これから行くような場所でそんなまねをすれば、
すぐに首をはねられるぞ」
少女「……ど、どんな場所なんですか」
男「荒くれ男共が、声を低くして語るような場所だ。
まあ、暖かい雰囲気で賑やかにとはいかんが、
海の上では貴重な肉や野菜を使った、
贅沢な煮込み料理なんかを出してくれる店だ。
おまえはソレを愉しんでいればいい」
少女「あ、はい」
とことことこ
男「酒場だ。今夜の食事はそこで取る。
双子妹からの指示もあるし、
顔なじみへの挨拶もしなくてはな」
少女「乗り気じゃないみたいですね」
男「面倒だからな。
だが、船長という立場を預かっている以上、
他の船員達のためにも、
知己を増やす事は損にはならん」
少女「その、ぱーっとおいしいお酒で騒ごうとか」
男「一つの酒場を貸し切りにして騒ぐなら、
問題はないかもしれんがな。
これから行くような場所でそんなまねをすれば、
すぐに首をはねられるぞ」
少女「……ど、どんな場所なんですか」
男「荒くれ男共が、声を低くして語るような場所だ。
まあ、暖かい雰囲気で賑やかにとはいかんが、
海の上では貴重な肉や野菜を使った、
贅沢な煮込み料理なんかを出してくれる店だ。
おまえはソレを愉しんでいればいい」
少女「あ、はい」
とことことこ
174: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:16:44.11 ID:9uHKtYo9o
------------------------------------------------
昼 隠れ港の酒場・錨亭
男「ココが酒場の入り口だ」
がちゃっ
男「……邪魔をする」
少女(ぎゅっと心臓が縮むような、
いかめしい男の人たちの強い視線が向けられて、
次の瞬間にはすこしだけソレが和らいだ?)
女将「久しぶりだねぇ、男。
ほれ、ココにすわんなさいな」
男「いいのか? 先客を横にどかすようなマネを……」
客1「ああ、かまわんよ。なんせ相手はあの海賊だ」
客2「あんたにだったら、なに、
席の一つや二つは譲るともさ」
男「……失礼する」
少女「え、えっと、失礼します」
昼 隠れ港の酒場・錨亭
男「ココが酒場の入り口だ」
がちゃっ
男「……邪魔をする」
少女(ぎゅっと心臓が縮むような、
いかめしい男の人たちの強い視線が向けられて、
次の瞬間にはすこしだけソレが和らいだ?)
女将「久しぶりだねぇ、男。
ほれ、ココにすわんなさいな」
男「いいのか? 先客を横にどかすようなマネを……」
客1「ああ、かまわんよ。なんせ相手はあの海賊だ」
客2「あんたにだったら、なに、
席の一つや二つは譲るともさ」
男「……失礼する」
少女「え、えっと、失礼します」
175: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:17:11.84 ID:9uHKtYo9o
女将「おんや、オマエさんは」
男「俺の連れだ」
女将「ほーう、あのガキンチョに奥さんができるたぁ
めでたいねぇ」
少女「お、奥さん?!」
ざわざわ……
少女「ち、違います違います!」
女将「ん? そういう意味じゃないのかい」
男「どう聞き違えたらそうなる。
コイツはただの船員だ」
少女(偽りない事実なんだけど、
まったく動揺してないし……
ここまでハッキリと否定されたら、
それはそれでなんか、プライドとか傷つくなぁ)
女将「ただの船員ってアンタ、
今まで白髪以外の船員なんて、
連れてきた事なんかないじゃないのさ。
それともアレかい?
白髪はポックリ逝っちまって、その後任かい」
176: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:17:45.93 ID:9uHKtYo9o
男「……殺したって死にそうにないな。
今まで連れてこなかったのは、
連れてきて騒ぎにならんヤツがいなかったからだ。
それ以外のなにものでもない」
女将「そーかい、そりゃあ良かった。
ところで、今回は二人分のエールでいいんだね?」
男「ああ。幸い今回は誰も死んでないからな。
弔い酒はいらん」
少女 じーっ
女将「どうしたんだい?」
少女「いえ、その、お二人は親しいみたいだなーって」
女将「親しいっちゃぁ、親しいね。
男がこーんな小さな時に出会ったのが最初だからさ。
あんときゃ確か、親御さんと一緒に乗ってた船が、
海賊に襲われて……」
男「女将」
女将「なんだいケチくさいね。
せっかく女連れなのに、ツマミの一つも頼まない
アンタに代わって、アタシがこの子にサービス
してやってるだけじゃないか」
今まで連れてこなかったのは、
連れてきて騒ぎにならんヤツがいなかったからだ。
それ以外のなにものでもない」
女将「そーかい、そりゃあ良かった。
ところで、今回は二人分のエールでいいんだね?」
男「ああ。幸い今回は誰も死んでないからな。
弔い酒はいらん」
少女 じーっ
女将「どうしたんだい?」
少女「いえ、その、お二人は親しいみたいだなーって」
女将「親しいっちゃぁ、親しいね。
男がこーんな小さな時に出会ったのが最初だからさ。
あんときゃ確か、親御さんと一緒に乗ってた船が、
海賊に襲われて……」
男「女将」
女将「なんだいケチくさいね。
せっかく女連れなのに、ツマミの一つも頼まない
アンタに代わって、アタシがこの子にサービス
してやってるだけじゃないか」
177: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:18:21.79 ID:9uHKtYo9o
男「……シチューと、腸詰め肉の香草焼きを一皿だ」
女将「シチューはともかく、腸詰め肉は
白髪が来てから頼むんじゃないのかい」
男「……判っているなら無駄話はするな」じろり
女将「まったく、図体はでかくなったってぇのに、
○○の○は小さくなったんじゃないかい?」
男「仮にも料理を扱うなら、
そういう言葉は口にするな。マズくなるぞ」
女将「はっ、それ込みでも美味く感じるように
作ってあるから心配なさんな。
ほいよ、エールとシチューね。
それからカボチャとジャガイモのチーズ焼きだよ」
少女「でも頼んだのって」
女将「いいんだよ、海賊の所の船員だってんなら、
多少のサービスくらいさせな」どんっ
少女「あ、ありがとうございます
……って、うわ、すごくおいしいですっ!」
178: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:19:11.68 ID:9uHKtYo9o
女将「堅苦しいねぇ、いいかい、女は度胸と勢いだよ!
蓮っ葉なくらいで丁度イイのさっ。
おいしいじゃなくて、ウマイって云ってみな。
もっと良く感じるからね」
客1「女将のそりゃー、行き過ぎだがな」
女将「いいのかい、アンタら。そんな事言ってると、
アンタらのシチューから具を全部抜いちまうよ!」
客2「おっかないのう、かかか」
少女「えっと、疑問なんだけど、聞いてもいい?」
女将「よし、いいねえ、
もうちょっと元気がよければなおいいけどね。
で、疑問ってなんだい」
少女「その、さっきから男さんの事を、
海賊って呼んでるみたいだけど、
でもココの人ってだいたい、海賊じゃないの?」
179: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:19:39.69 ID:9uHKtYo9o
女将「そうだねえ。たとえばそこにいる男、
客1ってんだけどね、
コレでもビスケーから北海じゃその名を響かせて、
十隻の艦隊でもって暴れ回った海賊だね」
客1「おいおい、やめてくれよ。
いったい何十年まえの話だよ」
女将「二十年はたってないだろ!
ったく、引退した気で、もうボケちまったのかい」
客2「まあ客1ならマジボケもありかのぅ」
客1「何言ってやがる、自分のがよほど、
引退気分でボケたんじゃないのか?
アンタの名前を聞いて震えねぇスピエナ海兵は、
ケツの青い新米にすらいねえって話じゃねえか」
客2「んむ、すまん、耳が遠くてよく聞こえんのぅ」
客1「ったく、トボけやがって」
客1ってんだけどね、
コレでもビスケーから北海じゃその名を響かせて、
十隻の艦隊でもって暴れ回った海賊だね」
客1「おいおい、やめてくれよ。
いったい何十年まえの話だよ」
女将「二十年はたってないだろ!
ったく、引退した気で、もうボケちまったのかい」
客2「まあ客1ならマジボケもありかのぅ」
客1「何言ってやがる、自分のがよほど、
引退気分でボケたんじゃないのか?
アンタの名前を聞いて震えねぇスピエナ海兵は、
ケツの青い新米にすらいねえって話じゃねえか」
客2「んむ、すまん、耳が遠くてよく聞こえんのぅ」
客1「ったく、トボけやがって」
180: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:20:07.05 ID:9uHKtYo9o
女将「この港で余生を暮らしている海賊もいれば、
あっちのテーブルでワゴンを交換中の奴らみたいに、
今も現役で海を渡ってまわるようなのもいるよ」
少女「でも、なんで男さんはさっきから、
海賊ってよばれてるのかなーと。
みんな海賊なら、区別がつかないと思うけど、
男さんに対する海賊って言葉に、
なにか意味があるみたいで」
女将「ああ、そんな事かい。
そりゃあ男が、海賊らしくない海賊だからさ」
客1「ある意味で、尊敬と皮肉ってやつだな」
少女「尊敬と皮肉って、同居するの?」
女将「それなりにね。
……普通の海賊ってのは海を経路に使うものの、
基本的には町を襲うもんなのさ」
客1「小さな村なら武装もたいした事が無いからな、
船と違って動くこともないし、
何発か大砲をブチこんだら乗り上げるのさ。
で、金目のものを集めてから年寄りと子供は殺して、
女と働き手になる男を奴隷として詰め込んで、
一仕事完了ってな」
少女「……」
あっちのテーブルでワゴンを交換中の奴らみたいに、
今も現役で海を渡ってまわるようなのもいるよ」
少女「でも、なんで男さんはさっきから、
海賊ってよばれてるのかなーと。
みんな海賊なら、区別がつかないと思うけど、
男さんに対する海賊って言葉に、
なにか意味があるみたいで」
女将「ああ、そんな事かい。
そりゃあ男が、海賊らしくない海賊だからさ」
客1「ある意味で、尊敬と皮肉ってやつだな」
少女「尊敬と皮肉って、同居するの?」
女将「それなりにね。
……普通の海賊ってのは海を経路に使うものの、
基本的には町を襲うもんなのさ」
客1「小さな村なら武装もたいした事が無いからな、
船と違って動くこともないし、
何発か大砲をブチこんだら乗り上げるのさ。
で、金目のものを集めてから年寄りと子供は殺して、
女と働き手になる男を奴隷として詰め込んで、
一仕事完了ってな」
少女「……」
181: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:20:56.00 ID:9uHKtYo9o
客2「山賊と違って、海賊の居場所は広い海じゃ。
いつ現れるかも知れんような船のために、
海辺すべてに船を配置するわけにもいかんからの。
船さえあれば、そこそこ安全に稼げる仕事よ。
もっとも、良心の咎めさえなければの話じゃが」
女将「陸での『はたらき』をする連中が多い中で、
古い連中はそいつらに対して、やれ粋じゃないだ、
やれ行儀がなっていないだと、
酒場で文句を付けてたんだよ」
客1「まあなぁ、俺たち海賊がいるのもほれ、
陸でなんだかんだ頑張ってる奴らがいてこそだって
俺たちゃ忘れなかったのさ。
だが、いまの連中ときたら、まったく……」
女将「はいはい、アンタの愚痴なんか聞き飽きたよ。
そこで、陸を襲わない男の噂が広がるにつれて、
尊敬と皮肉を込めて『海賊』って、
殊更この男をそう呼ぶようになったのさ」
男「……構成人数の関係で、
襲撃範囲が広いと覆えなくなるだけだがな」
女将「そんな事云ったって、
あんたの船に乗りたいってヤツは、
少なくなかったじゃないか。
それを片っ端から切り捨てちまって……
まあ今でこそ、おかしな噂があるから
敬遠されてるみたいだけどね」
いつ現れるかも知れんような船のために、
海辺すべてに船を配置するわけにもいかんからの。
船さえあれば、そこそこ安全に稼げる仕事よ。
もっとも、良心の咎めさえなければの話じゃが」
女将「陸での『はたらき』をする連中が多い中で、
古い連中はそいつらに対して、やれ粋じゃないだ、
やれ行儀がなっていないだと、
酒場で文句を付けてたんだよ」
客1「まあなぁ、俺たち海賊がいるのもほれ、
陸でなんだかんだ頑張ってる奴らがいてこそだって
俺たちゃ忘れなかったのさ。
だが、いまの連中ときたら、まったく……」
女将「はいはい、アンタの愚痴なんか聞き飽きたよ。
そこで、陸を襲わない男の噂が広がるにつれて、
尊敬と皮肉を込めて『海賊』って、
殊更この男をそう呼ぶようになったのさ」
男「……構成人数の関係で、
襲撃範囲が広いと覆えなくなるだけだがな」
女将「そんな事云ったって、
あんたの船に乗りたいってヤツは、
少なくなかったじゃないか。
それを片っ端から切り捨てちまって……
まあ今でこそ、おかしな噂があるから
敬遠されてるみたいだけどね」
182: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:21:24.94 ID:9uHKtYo9o
男「……」
女将「だからオマエさんは実に幸運なのさ」
少女「幸運なんです?」
女将「愛想もなけりゃ覇気もない男の船だけど、
気分の悪い事はしないでいいからね。
周りの人間に対して心置きなく粋を誇れる船だよ」
少女「……はい」にこっ
女将「まあ、なんだかんだ云ったけど、
男は私の息子みたいなもんさ。
良くしてやってくんな」
少女「いやいや、私の方が良くしてもらってて!」
女将「へーえ、男もすてたもんじゃないかい」にやにや
男「……」
少女「男さん?」
男「どうやら厄介事になりそうだ」ちゃきっ
ざわざわ
女将「だからオマエさんは実に幸運なのさ」
少女「幸運なんです?」
女将「愛想もなけりゃ覇気もない男の船だけど、
気分の悪い事はしないでいいからね。
周りの人間に対して心置きなく粋を誇れる船だよ」
少女「……はい」にこっ
女将「まあ、なんだかんだ云ったけど、
男は私の息子みたいなもんさ。
良くしてやってくんな」
少女「いやいや、私の方が良くしてもらってて!」
女将「へーえ、男もすてたもんじゃないかい」にやにや
男「……」
少女「男さん?」
男「どうやら厄介事になりそうだ」ちゃきっ
ざわざわ
183: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:21:58.65 ID:9uHKtYo9o
がたーんっ
賊「おーう、錨亭ってのはココか?」
女将「なんだいアンタ、藪から棒に。
ここは広い店じゃないんだ、
十人近くぞろぞろと金魚のフンなんか
つけてくるんじゃないよ」
配下「なっ、旦那になんて口効いてやがる、
このババアっ!」
女将「ババアだってえ?
もういっぺん言ってみな、なますにしてやるよ!」
賊「やめねぇか、配下っ。
女将さんよ、オレはただ男ってヤツを、
ここに探しに来ただけなんだ」
少女(薄暗い墨色の目が店内を一巡してから、
狼さんに借りた服で女っぽく見える私にむけてきた
肌をなめ回すような視線が、心底気持ち悪い……)
男「……オレだが」ずいっ
少女(その視線を遮るように、前に立って……
守ってくれてる……?)
賊「アンタがあの、マスケットの旗の船長だったか」
賊「おーう、錨亭ってのはココか?」
女将「なんだいアンタ、藪から棒に。
ここは広い店じゃないんだ、
十人近くぞろぞろと金魚のフンなんか
つけてくるんじゃないよ」
配下「なっ、旦那になんて口効いてやがる、
このババアっ!」
女将「ババアだってえ?
もういっぺん言ってみな、なますにしてやるよ!」
賊「やめねぇか、配下っ。
女将さんよ、オレはただ男ってヤツを、
ここに探しに来ただけなんだ」
少女(薄暗い墨色の目が店内を一巡してから、
狼さんに借りた服で女っぽく見える私にむけてきた
肌をなめ回すような視線が、心底気持ち悪い……)
男「……オレだが」ずいっ
少女(その視線を遮るように、前に立って……
守ってくれてる……?)
賊「アンタがあの、マスケットの旗の船長だったか」
184: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:22:29.64 ID:9uHKtYo9o
男「そうだ」
賊「アンタ、港に入る時にオレの船の前に
横入りしやがったろ!」
男「……知らんが」
賊「ふっざけんじゃねぇ、
アンタの船がウチの船団の横を通る時にな、
オレはアンタの顔を見てんだよ」
少女(そういえば、小舟の誘導で港に入る時、
優先的に通されていたような気がしたけど、
やっぱり他の人よりも先に通されてたんだ……)
配下「大海賊たる旦那の船が港に入るのに、
横入りするってのはどういう考えだって、
わざわざ言わなくちゃわかんねえのかよっ!」
客1「あー、おい、あんたら」
配下「なんだっ!」
客1「横入りだなんだ、言ってるがよ、
男はこの港の維持出資者の一人だ。
利用者にすぎねえアンタらが待たされるのは
当然のこったろ。
いいからおとなしく酒を愉しめ、ここは酒場だ」
賊「アンタ、港に入る時にオレの船の前に
横入りしやがったろ!」
男「……知らんが」
賊「ふっざけんじゃねぇ、
アンタの船がウチの船団の横を通る時にな、
オレはアンタの顔を見てんだよ」
少女(そういえば、小舟の誘導で港に入る時、
優先的に通されていたような気がしたけど、
やっぱり他の人よりも先に通されてたんだ……)
配下「大海賊たる旦那の船が港に入るのに、
横入りするってのはどういう考えだって、
わざわざ言わなくちゃわかんねえのかよっ!」
客1「あー、おい、あんたら」
配下「なんだっ!」
客1「横入りだなんだ、言ってるがよ、
男はこの港の維持出資者の一人だ。
利用者にすぎねえアンタらが待たされるのは
当然のこったろ。
いいからおとなしく酒を愉しめ、ここは酒場だ」
185: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:23:00.76 ID:9uHKtYo9o
賊「知ったこっちゃねえ!
この俺様の船の横を素通りするなんざ、
どこの誰だろうが許しはできねえんだよ!」
女将「まぁた、この手合いかい……」ぼそっ
配下「おうおう、びびっちまって声もでねえか?」
男「……」
賊「はっ、俺みてえな大海賊の顔に泥を付けた事、
いまさら後悔してんじゃねえだろうなぁ?
いいぜ、謝りてぇってんなら」ずいっ
少女「え、くぅっ」
賊「はっ、胸もなけりゃ図体もでかいが、
まあこんなんでも女だろ。
上納品として受け取って、
機嫌を直してやっても……」
少女(首、捕まれて、息が……)
男「……その汚い手をどけろ」
賊「あぁん、いま何つった!!」ぎゅっ
少女「くはっ、……っ」
この俺様の船の横を素通りするなんざ、
どこの誰だろうが許しはできねえんだよ!」
女将「まぁた、この手合いかい……」ぼそっ
配下「おうおう、びびっちまって声もでねえか?」
男「……」
賊「はっ、俺みてえな大海賊の顔に泥を付けた事、
いまさら後悔してんじゃねえだろうなぁ?
いいぜ、謝りてぇってんなら」ずいっ
少女「え、くぅっ」
賊「はっ、胸もなけりゃ図体もでかいが、
まあこんなんでも女だろ。
上納品として受け取って、
機嫌を直してやっても……」
少女(首、捕まれて、息が……)
男「……その汚い手をどけろ」
賊「あぁん、いま何つった!!」ぎゅっ
少女「くはっ、……っ」
186: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:23:33.58 ID:9uHKtYo9o
女将「おいアンタ、ウチの店で乱暴なんざ……」
配下「けっ、こんなちんけな店のババアが、
息巻いてんじゃねえよ」ズバッシュッ
ざわり
客1「おい、男の『客』だと思って控えてたが、
店の女将に手を出すたぁ、どういう了見だ。
てめぇ、海賊じゃぁねえな」
配下「はっ、旦那に海だの山だのの区別はねえよ!
通った後には灰も残らねえって、
金の旗の旦那をしらねえのか? あぁん?」
客2「……そうか、アンタがあの、
悪趣味で有名な旗の男か。
山賊出身には、本当に品の悪い連中がそろいおって」
賊「あんな豪華な旗は他の海賊じゃ作れねえだろ!
妬んで悪趣味というのは格好が悪いぜ」
客1「誰があんな情緒のねぇもん掲げたがるかよ」
配下「けっ、こんなちんけな店のババアが、
息巻いてんじゃねえよ」ズバッシュッ
ざわり
客1「おい、男の『客』だと思って控えてたが、
店の女将に手を出すたぁ、どういう了見だ。
てめぇ、海賊じゃぁねえな」
配下「はっ、旦那に海だの山だのの区別はねえよ!
通った後には灰も残らねえって、
金の旗の旦那をしらねえのか? あぁん?」
客2「……そうか、アンタがあの、
悪趣味で有名な旗の男か。
山賊出身には、本当に品の悪い連中がそろいおって」
賊「あんな豪華な旗は他の海賊じゃ作れねえだろ!
妬んで悪趣味というのは格好が悪いぜ」
客1「誰があんな情緒のねぇもん掲げたがるかよ」
187: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:24:01.82 ID:9uHKtYo9o
男「……そんなものはどうでもいい。
とにかく、ウチの船員から手を離せ」
賊「しらねえなぁ。
たった一隻の船しかねえ、ちっぽけな船のヤツに、
だぁれが従うかっての。げははは」
男「……ならば力尽くで取らせてもらうか」
ズバシュッ
賊「ぐあぁあっ、なにしやがるっ!!
手が、俺の手がぁああ」
少女「げほっ、げほっ……助かりました。
今の袖口の、仕込みナイフ?」
男「そんな事はどうでもいいだろ。
気を抜きすぎだ、馬鹿者」
?『気を抜きすぎだ、馬鹿者』
少女(あれ、今の、どこかで……
って、銃で狙われて!)
配下「くっ、コレでもくらいやが……」チャキッ
とにかく、ウチの船員から手を離せ」
賊「しらねえなぁ。
たった一隻の船しかねえ、ちっぽけな船のヤツに、
だぁれが従うかっての。げははは」
男「……ならば力尽くで取らせてもらうか」
ズバシュッ
賊「ぐあぁあっ、なにしやがるっ!!
手が、俺の手がぁああ」
少女「げほっ、げほっ……助かりました。
今の袖口の、仕込みナイフ?」
男「そんな事はどうでもいいだろ。
気を抜きすぎだ、馬鹿者」
?『気を抜きすぎだ、馬鹿者』
少女(あれ、今の、どこかで……
って、銃で狙われて!)
配下「くっ、コレでもくらいやが……」チャキッ
188: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:24:29.91 ID:9uHKtYo9o
少女「っ、せいっ」ズバシュッ
配下「うおぉっ、何しやがるてめえ」
少女「それはコッチの台詞よ!
背中から狙うなんて、卑怯じゃない!」ドカッ
男「……少女は平気そうだな。なら、問題は俺か」
ズバッ、ズドンッ、グチャ!
配下2「ひ、ひぃい。コイツ、強ぇえ!」
配下3「くそ、店が狭いから、
取り囲む事もできねえ」
客1「ばっかやろう、その程度の腕で、
この店を荒らしにくるなんざ百年早い!」ズバッ
配下4「ぐあぁあっ!」
客2「じゃが、他の連中は雰囲気を察して、
逃げてしもうたからの。
さすがに男は強いが、援軍がわしらだけじゃ……」
配下「うおぉっ、何しやがるてめえ」
少女「それはコッチの台詞よ!
背中から狙うなんて、卑怯じゃない!」ドカッ
男「……少女は平気そうだな。なら、問題は俺か」
ズバッ、ズドンッ、グチャ!
配下2「ひ、ひぃい。コイツ、強ぇえ!」
配下3「くそ、店が狭いから、
取り囲む事もできねえ」
客1「ばっかやろう、その程度の腕で、
この店を荒らしにくるなんざ百年早い!」ズバッ
配下4「ぐあぁあっ!」
客2「じゃが、他の連中は雰囲気を察して、
逃げてしもうたからの。
さすがに男は強いが、援軍がわしらだけじゃ……」
189: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:24:59.36 ID:9uHKtYo9o
きぃんっ、がきんっ!
男「……っち、次から次に」
配下5「ひひっ、ほれほれ、三対一じゃ
さすがに勝てねえか?」
配下6「気を抜くなよ、コイツ、押されてねえ」
配下7「バカ言うなよ、三人相手に押されねえヤツが
どこにい……っぐ、うぎゃぁああ」どたーん
男「……多数を相手にした戦いは、
軍役中に何度もこなしたからな。
練度の低い貴様らなど、何人来ようがかわらん」
ジャキンっ、ズバシュッ
男「……っち、次から次に」
配下5「ひひっ、ほれほれ、三対一じゃ
さすがに勝てねえか?」
配下6「気を抜くなよ、コイツ、押されてねえ」
配下7「バカ言うなよ、三人相手に押されねえヤツが
どこにい……っぐ、うぎゃぁああ」どたーん
男「……多数を相手にした戦いは、
軍役中に何度もこなしたからな。
練度の低い貴様らなど、何人来ようがかわらん」
ジャキンっ、ズバシュッ
190: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:25:31.88 ID:9uHKtYo9o
少女(すごい、あんな大人数相手に、
男さん退いてない。
でも、退いてないだけで……
何人来てもっていうのは嘘かな)
配下「おい、よそ見してんじゃねえよっ!」キンッ
少女「くっ、……その剣さばき、元軍人でしょ。
人を守るのが仕事じゃないの?!」
配下「こっちの方が金になるのさ。あんたも軍人だろ。
けけ、だが若いな、まだ実戦経験はなかったか?
剣筋に揺らぎがあるぜ」ガキンっ
少女「そういうアンタは、
人なんか斬りなれてるって感じね!」
配下「ったりめぇだろ。
軍人の頃も賊になった今も、殺しまくりよぉ。
特に女をヤルのはたまらねえ……」ぺろり
少女 ぞくっ
配下「そんじゃ、遊びは終わりだ。
弱くなかったが、足りないな。死にさらせ――!」
男さん退いてない。
でも、退いてないだけで……
何人来てもっていうのは嘘かな)
配下「おい、よそ見してんじゃねえよっ!」キンッ
少女「くっ、……その剣さばき、元軍人でしょ。
人を守るのが仕事じゃないの?!」
配下「こっちの方が金になるのさ。あんたも軍人だろ。
けけ、だが若いな、まだ実戦経験はなかったか?
剣筋に揺らぎがあるぜ」ガキンっ
少女「そういうアンタは、
人なんか斬りなれてるって感じね!」
配下「ったりめぇだろ。
軍人の頃も賊になった今も、殺しまくりよぉ。
特に女をヤルのはたまらねえ……」ぺろり
少女 ぞくっ
配下「そんじゃ、遊びは終わりだ。
弱くなかったが、足りないな。死にさらせ――!」
191: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:26:13.70 ID:9uHKtYo9o
ガキーンッ! ズバシュッ!
白髪「遊びが終わりなのはオマエだったな」ヒュン
配下「ば、かな……」がくり
少女「白髪さんっ!!」
白髪「がはは、遅くなってすまねえなぁ。
裏口から入って、女将さん助けてたんだ。
よく持ちこたえたなぁ、嬢ちゃん。
俺が来たからには安心していいぜ」にやり
男「……遅いぞ」
白髪「もう謝ったろ。
おい、じじい共、下がっていいぜ」
客1「てめえにジジイって言われて、
引き下がれるかってんだよ!」ガキン!
客2「見た目は大してかわらんじゃろ」ズバシュッ
配下8「がぁあああ」
白髪「じゃあそっちは任せたわ。俺はコッチだな」
白髪「遊びが終わりなのはオマエだったな」ヒュン
配下「ば、かな……」がくり
少女「白髪さんっ!!」
白髪「がはは、遅くなってすまねえなぁ。
裏口から入って、女将さん助けてたんだ。
よく持ちこたえたなぁ、嬢ちゃん。
俺が来たからには安心していいぜ」にやり
男「……遅いぞ」
白髪「もう謝ったろ。
おい、じじい共、下がっていいぜ」
客1「てめえにジジイって言われて、
引き下がれるかってんだよ!」ガキン!
客2「見た目は大してかわらんじゃろ」ズバシュッ
配下8「がぁあああ」
白髪「じゃあそっちは任せたわ。俺はコッチだな」
192: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:26:39.85 ID:9uHKtYo9o
男「……白髪が隣か、久しぶりだな」
白髪「最近は白兵戦がなかったから、なっ!」ズバッ
キンキン、ガキンッ、ズバシュ
配下5「ぐわぁああ」
配下6「痛ぇえ、いてえよぉ……」
白髪「けっ、斬った張ったをやってんだ。
斬られて痛いのが当たり前だろ。
みっともなく騒ぐんじゃねぇよ」
男「……さて、残るはオマエか」
賊「くっ……」
男「仲間を連れて引き下がるなら、
帰る足が無くなる前にした方がいい」チャキッ
賊「…………おい、おまえら、帰るぞ!
ボヤボヤしてっと、置いてっちまうからな!」
配下「そ、そんな、まってくだせぇ」ヨロヨロ
ぞろぞろ
白髪「最近は白兵戦がなかったから、なっ!」ズバッ
キンキン、ガキンッ、ズバシュ
配下5「ぐわぁああ」
配下6「痛ぇえ、いてえよぉ……」
白髪「けっ、斬った張ったをやってんだ。
斬られて痛いのが当たり前だろ。
みっともなく騒ぐんじゃねぇよ」
男「……さて、残るはオマエか」
賊「くっ……」
男「仲間を連れて引き下がるなら、
帰る足が無くなる前にした方がいい」チャキッ
賊「…………おい、おまえら、帰るぞ!
ボヤボヤしてっと、置いてっちまうからな!」
配下「そ、そんな、まってくだせぇ」ヨロヨロ
ぞろぞろ
193: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:27:12.14 ID:9uHKtYo9o
ばたん
男「行ったな」
少女「ふう……」すとん
客1「ったく、礼儀もなってねえ連中だなぁ」
客2「じゃが、最近の連中にはこう云うのが多いの」
白髪「すまねえなぁ、じいさん方、迷惑かけちまった」
客1「なんのなんの。
酒場で暴力に訴えるような無粋な奴の相手だ。
頼まれなく経って巻き込まれてやるさ」
男「助かります」へこ
客2「そういう殊勝な態度は、海賊には似合わんな。
かか、とりあえず今日はもう店もできんじゃろ。
帰るとするかなぁ……」
少女「あ、あの、女将さんは」
白髪「助けたっていったろ。
斬られてたが、幸いここは医者の家に近いからな。
すぐ駆けつけてきて、かすり傷だって云ってたぜ」
少女「よかったー!」
男「行ったな」
少女「ふう……」すとん
客1「ったく、礼儀もなってねえ連中だなぁ」
客2「じゃが、最近の連中にはこう云うのが多いの」
白髪「すまねえなぁ、じいさん方、迷惑かけちまった」
客1「なんのなんの。
酒場で暴力に訴えるような無粋な奴の相手だ。
頼まれなく経って巻き込まれてやるさ」
男「助かります」へこ
客2「そういう殊勝な態度は、海賊には似合わんな。
かか、とりあえず今日はもう店もできんじゃろ。
帰るとするかなぁ……」
少女「あ、あの、女将さんは」
白髪「助けたっていったろ。
斬られてたが、幸いここは医者の家に近いからな。
すぐ駆けつけてきて、かすり傷だって云ってたぜ」
少女「よかったー!」
194: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:27:39.01 ID:9uHKtYo9o
白髪「男もホッとしてんだろ」にやっ
男「……まあな」
白髪「そんじゃ、船に向かおうぜ。
さすがに、何か有った時を考えると、
今日は船で寝るべきだろ」
男「確かにそうだな。
店の修繕費は……」
客1「俺が預かってやろうか?」
男「頼む」ずちゃっ
客1「こりゃ剛毅だな。いいのか?」
男「次に来た時に、元気な顔が見られればいい」
客1「……確かに引き受けた」
白髪「ん? どうした、嬢ちゃん。
いつまで床と仲良くしてんだよ」
男「……まあな」
白髪「そんじゃ、船に向かおうぜ。
さすがに、何か有った時を考えると、
今日は船で寝るべきだろ」
男「確かにそうだな。
店の修繕費は……」
客1「俺が預かってやろうか?」
男「頼む」ずちゃっ
客1「こりゃ剛毅だな。いいのか?」
男「次に来た時に、元気な顔が見られればいい」
客1「……確かに引き受けた」
白髪「ん? どうした、嬢ちゃん。
いつまで床と仲良くしてんだよ」
195: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:28:10.32 ID:9uHKtYo9o
少女「え、あ、いやー。
その、腰が、抜けちゃって……」
白髪「おいおい……
元兵士としてどうかと思うぜ?」
少女「し、仕方ないじゃん!
結局前線には出なかったし、
本当の命のやりとりなんて初めてだったんだから」
白髪「……なんのために軍に入ってたんだよ」
少女「それは、そのぅ」もじもじ
白髪「まあしかたねぇか、箱入りだし」
少女「うぐぅ……」
男「立てるか?」
少女「も、もうちょっとしたら」
男「なら先に行く。後からついてこい」すたすた
少女「え、ちょ、ちょっと、こういう時は……!」
とことこ、ぱたん
少女「ちょっとーっ!」
その、腰が、抜けちゃって……」
白髪「おいおい……
元兵士としてどうかと思うぜ?」
少女「し、仕方ないじゃん!
結局前線には出なかったし、
本当の命のやりとりなんて初めてだったんだから」
白髪「……なんのために軍に入ってたんだよ」
少女「それは、そのぅ」もじもじ
白髪「まあしかたねぇか、箱入りだし」
少女「うぐぅ……」
男「立てるか?」
少女「も、もうちょっとしたら」
男「なら先に行く。後からついてこい」すたすた
少女「え、ちょ、ちょっと、こういう時は……!」
とことこ、ぱたん
少女「ちょっとーっ!」
196: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:28:55.06 ID:9uHKtYo9o
------------------------------------------------
夜 海賊船甲板
少女「それで、男ったらホントに置いていくし!」
包帯「まあまあ。ほら、ワインでも飲んで」すっ
少女 ごく、ごくごく、ぷはー
狼「荒れちゃって……
しかもいつの間にか、男さん、から男って
呼び捨てにしてる」ちびちび
少女「呼び捨てでいいんですよ、ぶー。
わやくちゃになった店のなかで、
乱闘の直後なのに残されるとか、
心細い女心を全然わかってないんですよ男は!」ぐび
狼「まあ、察しても気にする人じゃないし。
むしろそういうのは、白髪がフォローすると
思ってたけど……」
少女「白髪さんも、何を思ってか一緒に帰っちゃった
から、ひとりぼっちだったのよー」
包帯「それは寂しいよねー。ほら、飲むといいよ」
少女「ありやとございます」ぐぴぐぴ
夜 海賊船甲板
少女「それで、男ったらホントに置いていくし!」
包帯「まあまあ。ほら、ワインでも飲んで」すっ
少女 ごく、ごくごく、ぷはー
狼「荒れちゃって……
しかもいつの間にか、男さん、から男って
呼び捨てにしてる」ちびちび
少女「呼び捨てでいいんですよ、ぶー。
わやくちゃになった店のなかで、
乱闘の直後なのに残されるとか、
心細い女心を全然わかってないんですよ男は!」ぐび
狼「まあ、察しても気にする人じゃないし。
むしろそういうのは、白髪がフォローすると
思ってたけど……」
少女「白髪さんも、何を思ってか一緒に帰っちゃった
から、ひとりぼっちだったのよー」
包帯「それは寂しいよねー。ほら、飲むといいよ」
少女「ありやとございます」ぐぴぐぴ
197: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:29:25.81 ID:9uHKtYo9o
狼「……包帯、少女の事潰す気?」
包帯「そういうつもりは無いけど、
まあ、飲めば収まるとは思ってるかな」
狼「完璧に潰す気でしょ」
包帯「……時には、吐き出しちゃえば良いことも
あると思うからね」
狼「その吐くって、違うモノを吐きそうだけど」
包帯「白髪さんなら、それもまた良しって
言いそうじゃないかな?」
狼「……ダメな影響受けてどうするのよ」
少女「ところれ、双子ひゃん達はどうしらの?」
狼「双子妹が長く起きてられないから、
双子姉も夜は付き添って早く寝てるわ」
少女「そっかー。ひょっろ意外かも。ふわぁあ」
包帯「意外、なのかな?
さて、そろそろかな。少女くん、部屋に戻るかい?」
少女「ん、んー。ふぁあ……まら、ちょっろ」
狼「ふらふらしてるけどね」
包帯「そういうつもりは無いけど、
まあ、飲めば収まるとは思ってるかな」
狼「完璧に潰す気でしょ」
包帯「……時には、吐き出しちゃえば良いことも
あると思うからね」
狼「その吐くって、違うモノを吐きそうだけど」
包帯「白髪さんなら、それもまた良しって
言いそうじゃないかな?」
狼「……ダメな影響受けてどうするのよ」
少女「ところれ、双子ひゃん達はどうしらの?」
狼「双子妹が長く起きてられないから、
双子姉も夜は付き添って早く寝てるわ」
少女「そっかー。ひょっろ意外かも。ふわぁあ」
包帯「意外、なのかな?
さて、そろそろかな。少女くん、部屋に戻るかい?」
少女「ん、んー。ふぁあ……まら、ちょっろ」
狼「ふらふらしてるけどね」
198: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:29:52.68 ID:9uHKtYo9o
少女「これは船が揺れれるんれふー」
とことこ
男「ロクなアテは作れなかったが、とりあえず
適当に作ってみたぞ……
どうした、少女はもう酔ってるのか」
狼「包帯が少女のゴブレットにどんどん注いで、
あおるもんだから」
男「そうか」
少女「むー、わらひはよっへまへん!」
男「……とりあえず、
古くなってしまった干し肉とチーズを、
小麦粉の皮で包み揚げにしたモノを作って、
イモをふかした。バターでも塩でもかけろ」
少女「おー♪」
包帯「待ってました!
いやー、自分で料理作らないでもいいって、
本当に良いね」
男「よいしょ、と。
包帯は好きで料理をしていると思っていたから
任せていたのだが、違ったか?」
とことこ
男「ロクなアテは作れなかったが、とりあえず
適当に作ってみたぞ……
どうした、少女はもう酔ってるのか」
狼「包帯が少女のゴブレットにどんどん注いで、
あおるもんだから」
男「そうか」
少女「むー、わらひはよっへまへん!」
男「……とりあえず、
古くなってしまった干し肉とチーズを、
小麦粉の皮で包み揚げにしたモノを作って、
イモをふかした。バターでも塩でもかけろ」
少女「おー♪」
包帯「待ってました!
いやー、自分で料理作らないでもいいって、
本当に良いね」
男「よいしょ、と。
包帯は好きで料理をしていると思っていたから
任せていたのだが、違ったか?」
199: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:30:22.51 ID:9uHKtYo9o
包帯「いやいや、好きだけどね。
たまには自分以外の料理も食べたいのさ」
男「そういうものか。
味は、そもそもまずくなるようなモノじゃないが、
包帯の料理には比べるべくもないぞ」
包帯「ほめ言葉と考えておくよ。ふふ」
狼「ねえ肉は?」尻尾ゆさゆさ
男「……お前はいつもそれだな」
狼「仕方ないって。航海中はがまんしてるし」
男「……ほれ、まだ柔らかい、生の塩漬け肉だ。
たしかコレが好きだったな」
狼「ちゃんと仕入れてきてくれたんだ♪」がぶっ
男「くくっ、仕入れないと俺が食われそうだからな」
少女(男が、笑った……?)
包帯「はい、男さん」とくとくとくっ
男「……感謝する」くいっ
狼「そうしてると、男夫婦みたい」むしゃむしゃ
たまには自分以外の料理も食べたいのさ」
男「そういうものか。
味は、そもそもまずくなるようなモノじゃないが、
包帯の料理には比べるべくもないぞ」
包帯「ほめ言葉と考えておくよ。ふふ」
狼「ねえ肉は?」尻尾ゆさゆさ
男「……お前はいつもそれだな」
狼「仕方ないって。航海中はがまんしてるし」
男「……ほれ、まだ柔らかい、生の塩漬け肉だ。
たしかコレが好きだったな」
狼「ちゃんと仕入れてきてくれたんだ♪」がぶっ
男「くくっ、仕入れないと俺が食われそうだからな」
少女(男が、笑った……?)
包帯「はい、男さん」とくとくとくっ
男「……感謝する」くいっ
狼「そうしてると、男夫婦みたい」むしゃむしゃ
200: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:31:06.98 ID:9uHKtYo9o
包帯「そうかな?」
狼「包帯が奥さんで、男が旦那さん。
白髪が祖父で、娘達がいて……」
包帯「狼くんも、娘なのかな?」
狼「……アタシは、遊びにくる野良犬」
包帯「それじゃあちょっと寂しいね。
せっかくの家族って想像なんだから」
男「待て、俺を勝手に包帯と添わせるな。
順当にお前らがくっつけば良いだろう」
狼「おまえらって、アタシと包帯? まさか」
包帯「案外楽しいとは思うけどね」
狼「え、ちょっと」
包帯「僕はくるもの拒まず、
みんな大好きだよ、男さんも狼くんも」にこっ
狼「死ねばいい」ぷいっ
少女「わらひは-?」
包帯「うん、好きだよ」にこっ、なでなで
少女「えへっ」にぱっ
201: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:31:40.09 ID:9uHKtYo9o
男 むかっ
狼 むかっ
包帯「男さんと狼くんも撫でてほしいのかい?」
男「いらんっ」
狼「……いらないし」
少女「いま、ちょっろまよっら?」
狼 むすっ
包帯「ほら、撫でてあげるから」なでなで
狼「やめなさいよーっ」ぶんぶん
少女「あははっ」
男「ふっ」ぐいっ
包帯「男さんもほら」なでなで
男「……実は酔ってるな」
包帯「まーね。
でも、たまにはこういう時間もいいでしょ?
まったりのんびり酔っぱらいーってね」
202: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:32:26.89 ID:9uHKtYo9o
男「たまに、というほどではない気がするが」
包帯「最近はしばらく、酒盛りって行為はしてないよ。
海じゃ水が腐るからラムを飲むけど、
それは酒盛りみたいに、愉しむためじゃないし」
少女「らんれしへらかっらの?」
男「……お前は飲み過ぎだ。少し控えろ」
少女「らいじょーぶらぉー」へらへら
包帯「そうしてると、兄妹みたいだね」
少女「あはは、男がお兄ちゃんろか、らいらい」
男「……そうやって否定されると気になるな。
お前の兄というのはどういう人間だったんだ?」
少女「んー……あかるふれ、つよふへ、
やはひーひとらろよ」にぱっ
包帯「何を言ってるかは判らないけど、
好きな気持ちは伝わってくるね。
いま、お兄さんは……」
少女「死んじゃっはらひいれふねー」
包帯「……すまない」
包帯「最近はしばらく、酒盛りって行為はしてないよ。
海じゃ水が腐るからラムを飲むけど、
それは酒盛りみたいに、愉しむためじゃないし」
少女「らんれしへらかっらの?」
男「……お前は飲み過ぎだ。少し控えろ」
少女「らいじょーぶらぉー」へらへら
包帯「そうしてると、兄妹みたいだね」
少女「あはは、男がお兄ちゃんろか、らいらい」
男「……そうやって否定されると気になるな。
お前の兄というのはどういう人間だったんだ?」
少女「んー……あかるふれ、つよふへ、
やはひーひとらろよ」にぱっ
包帯「何を言ってるかは判らないけど、
好きな気持ちは伝わってくるね。
いま、お兄さんは……」
少女「死んじゃっはらひいれふねー」
包帯「……すまない」
203: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:32:54.02 ID:9uHKtYo9o
少女「きにしないれくらはいー。
ずーっと、前のことらし……」
包帯「……そうだ、なんで酒盛りをしなかったかって
理由は簡単で、海が騒がしかったからだよ」
少女「さわがし?」
包帯「いま教えてもきっと、記憶に残らないね」
少女「あははー」
男「誰も誉めてなどいない。
……そういえば狼は、って、寝ているのか」
包帯「狼くんは、ラムは平気だけど、
ワインとかリンゴ酒はダメみたいだね」
男「そうだったのか」
包帯「そういえば、こういう場に男さんが来るの、
実は初めてじゃない?」
男「初めてではないが、あまりいないな」
包帯「もっと参加したり企画すればいいのに。
みんな歓迎するよ」
男「……今日は突発だったが、これが企画となると、
あの双子が参加するからな」
ずーっと、前のことらし……」
包帯「……そうだ、なんで酒盛りをしなかったかって
理由は簡単で、海が騒がしかったからだよ」
少女「さわがし?」
包帯「いま教えてもきっと、記憶に残らないね」
少女「あははー」
男「誰も誉めてなどいない。
……そういえば狼は、って、寝ているのか」
包帯「狼くんは、ラムは平気だけど、
ワインとかリンゴ酒はダメみたいだね」
男「そうだったのか」
包帯「そういえば、こういう場に男さんが来るの、
実は初めてじゃない?」
男「初めてではないが、あまりいないな」
包帯「もっと参加したり企画すればいいのに。
みんな歓迎するよ」
男「……今日は突発だったが、これが企画となると、
あの双子が参加するからな」
204: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:33:20.96 ID:9uHKtYo9o
包帯「意外だけど、双子くんたちが苦手かな?」
男「普段はかまわんが、
あの騒がしい二人が酔っぱらった所は、
見ない方が正解だと思っている」
包帯「……それは多分誤解だよ」
男「そうなのか?」
包帯「あの二人は、あえて騒がしくしているからね。
望まれれば静かになるよ」
男「信じがたいが、それならばなおさら、
船員の慰労の会で気をつかわせる事もあるまい」
包帯「……まあ、いずれ、
ちゃんとみんなで、酒宴を囲もうよ」
少女「んー」
包帯「どうしたのかな?」
少女「あしたは、いちにちー、
このみなとで、テイハクらよね」
男「そのつもりだ。
荷の積み出しと積み込みは明日からだからな。
今回はそれだけ済んだら海に出る予定だ」
男「普段はかまわんが、
あの騒がしい二人が酔っぱらった所は、
見ない方が正解だと思っている」
包帯「……それは多分誤解だよ」
男「そうなのか?」
包帯「あの二人は、あえて騒がしくしているからね。
望まれれば静かになるよ」
男「信じがたいが、それならばなおさら、
船員の慰労の会で気をつかわせる事もあるまい」
包帯「……まあ、いずれ、
ちゃんとみんなで、酒宴を囲もうよ」
少女「んー」
包帯「どうしたのかな?」
少女「あしたは、いちにちー、
このみなとで、テイハクらよね」
男「そのつもりだ。
荷の積み出しと積み込みは明日からだからな。
今回はそれだけ済んだら海に出る予定だ」
205: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:33:48.14 ID:9uHKtYo9o
少女「それらったら、あした、しゅえんとか」
包帯「ああ、良いかもね。善は急げと」
男「急な話だが、確かに、荷を増やす必要がないのは
いまの内だけか……
悪くない話だ」
包帯「それじゃ、あしたは一日かけて準備して、
みんなの慰労会もかねてパーティーだね」
少女「えへへー。よし、そうろきまったら、
わらひは寝ます! よっと……」がしっ
包帯「え、酔っぱらってるのに、
狼くん担いで船室いくの?
危ないから、ほら」
少女「えちぃころ、ひない?」
包帯「大丈夫だよ。
ほら、部屋に行こうか」
少女「いえっさー」よたよた
包帯「それじゃ、僕も狼くんをベッドに届けたら、
眠らせてもらうね」とことこ
男「わかった」
包帯「ああ、良いかもね。善は急げと」
男「急な話だが、確かに、荷を増やす必要がないのは
いまの内だけか……
悪くない話だ」
包帯「それじゃ、あしたは一日かけて準備して、
みんなの慰労会もかねてパーティーだね」
少女「えへへー。よし、そうろきまったら、
わらひは寝ます! よっと……」がしっ
包帯「え、酔っぱらってるのに、
狼くん担いで船室いくの?
危ないから、ほら」
少女「えちぃころ、ひない?」
包帯「大丈夫だよ。
ほら、部屋に行こうか」
少女「いえっさー」よたよた
包帯「それじゃ、僕も狼くんをベッドに届けたら、
眠らせてもらうね」とことこ
男「わかった」
206: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/20(金) 00:34:21.64 ID:9uHKtYo9o
男「……」
男「家族、か」
男「仲間……」
男「俺は、何をしているんだろうな」
男「あの男もとうに死んだというのに」
男「いまさら、海賊など」
男「……もしも、幸福などというモノが、
この世界に存在するとしたら、
それは過去にのみ、あるのだろうな」
男「月よ、いっそ俺を嗤え。
無様に這い回る俺を嗤え」
男「…………」かたん
とことこ
ぱたん……
男「家族、か」
男「仲間……」
男「俺は、何をしているんだろうな」
男「あの男もとうに死んだというのに」
男「いまさら、海賊など」
男「……もしも、幸福などというモノが、
この世界に存在するとしたら、
それは過去にのみ、あるのだろうな」
男「月よ、いっそ俺を嗤え。
無様に這い回る俺を嗤え」
男「…………」かたん
とことこ
ぱたん……
217: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:01:29.14 ID:Ka2St8g6o
------------------------------------------------
早朝 海賊女子部屋
少女「んむ……むにゃ」
少女(そういえば、今日からは包帯さんについて、
そのお手伝いをするんだっけ……)
少女「そろそろ、起きて向か……う」
狼 ぎゅうー
少女「またコレかぁ……」ごそごそ
狼 ぎゅううー
少女「む、昨日より強くて、うまくはがせない」
狼「んうー」ぐいーっ
少女「あーもう、人の気にしてる薄い胸に顔埋めて、
なにが楽しいのかな……」
狼 すぅすぅ
少女「……なんか、寂しそうな寝顔」
少女(狼さんって、海賊になる前は何をしてたのか、
船の他の人は、おおよそ聞いた気がするけど、
狼さんだけは全然うかがい知れないんだよね)
早朝 海賊女子部屋
少女「んむ……むにゃ」
少女(そういえば、今日からは包帯さんについて、
そのお手伝いをするんだっけ……)
少女「そろそろ、起きて向か……う」
狼 ぎゅうー
少女「またコレかぁ……」ごそごそ
狼 ぎゅううー
少女「む、昨日より強くて、うまくはがせない」
狼「んうー」ぐいーっ
少女「あーもう、人の気にしてる薄い胸に顔埋めて、
なにが楽しいのかな……」
狼 すぅすぅ
少女「……なんか、寂しそうな寝顔」
少女(狼さんって、海賊になる前は何をしてたのか、
船の他の人は、おおよそ聞いた気がするけど、
狼さんだけは全然うかがい知れないんだよね)
218: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:02:18.67 ID:Ka2St8g6o
少女 なでなで
狼 きゅっ
少女(狼の耳とか、尻尾とか。
いわゆる悪魔憑きっていわれる人の特徴、だよね。
人里だと、暮らせないだろうし。
ご両親とか、どんな人なのかな)
狼 すぅすぅ
少女(私は、それなりに身分のある家に生まれたのに、
自由にさせてもらっていた。
死んじゃったお母さんからも、お父さんからも、
愛してもらってた自覚とか記憶がある)
狼 んむぅー
少女「でも、狼さんには、そういう人っていたのかな。
無条件に愛してくれて、大切にしてくれて……」
狼 きゅっ
少女 きゅうっ
狼 ふわっ
少女(あ、ちょっとだけ、微笑んでくれて……
かわいいなー、やっぱり)
狼 すぅすぅ
狼 きゅっ
少女(狼の耳とか、尻尾とか。
いわゆる悪魔憑きっていわれる人の特徴、だよね。
人里だと、暮らせないだろうし。
ご両親とか、どんな人なのかな)
狼 すぅすぅ
少女(私は、それなりに身分のある家に生まれたのに、
自由にさせてもらっていた。
死んじゃったお母さんからも、お父さんからも、
愛してもらってた自覚とか記憶がある)
狼 んむぅー
少女「でも、狼さんには、そういう人っていたのかな。
無条件に愛してくれて、大切にしてくれて……」
狼 きゅっ
少女 きゅうっ
狼 ふわっ
少女(あ、ちょっとだけ、微笑んでくれて……
かわいいなー、やっぱり)
狼 すぅすぅ
219: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:03:02.21 ID:Ka2St8g6o
少女(あー、もうちょっとみてたかったのにー!
って、朝から女の子の顔をもっと見たいとか、
何考えてるんだろ……)
少女「ちょっと、ごめんね」ごそごそ
双子姉「あれ、もう良いの?」
少女「いやー、いつまで見てても飽きないけど
今日は包帯さんのお手伝いが……って、
いつから見てたの?!」
双子姉「またこれかーって、声で起きたよ」
少女「ほとんど全部ね……とほほ」
双子姉「大丈夫、内緒にしておいてあげるから!」
少女「うん、そうしてもらえると助かるかな。命とか」
双子姉「あはは、狼のお姉ちゃんって怒らせると
すっごい怖いからね。
包帯のお兄ちゃんの手伝いするの?
少女「あ、そうだ。急いで行かないと!」ばたばた
双子姉「たぶん、今なら調理していると思うよ」
少女「そっか、ありがと!」だだっ
って、朝から女の子の顔をもっと見たいとか、
何考えてるんだろ……)
少女「ちょっと、ごめんね」ごそごそ
双子姉「あれ、もう良いの?」
少女「いやー、いつまで見てても飽きないけど
今日は包帯さんのお手伝いが……って、
いつから見てたの?!」
双子姉「またこれかーって、声で起きたよ」
少女「ほとんど全部ね……とほほ」
双子姉「大丈夫、内緒にしておいてあげるから!」
少女「うん、そうしてもらえると助かるかな。命とか」
双子姉「あはは、狼のお姉ちゃんって怒らせると
すっごい怖いからね。
包帯のお兄ちゃんの手伝いするの?
少女「あ、そうだ。急いで行かないと!」ばたばた
双子姉「たぶん、今なら調理していると思うよ」
少女「そっか、ありがと!」だだっ
220: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:04:06.51 ID:Ka2St8g6o
------------------------------------------------
朝 海賊船 談話室 調理場
少女「ううー」
包帯「ほら、呻いている暇が有ったら、
ちゃんと手を動かそうね」
少女「判ってますけど……」
包帯「もっと早く手を動かさないと、終わらないよ?」
少女「でも、大きくて……」
包帯「ん、こういうのは大きい方が良いって思うけど、
少女くんは違う意見かな?」
少女「ぬるってしてるから、大きいと手からこぼれて、
上手にできないんですよ……
まあ、おなかいっぱいになるから、
それは幸せなんですけど」
包帯「こんなにアツくしてるのもそのせい?」ついっ
少女「や、ちょ、見ないでくださいっ」
包帯「大丈夫って言うからお願いしたけど、
なんだか罪悪感まで沸いてくるね……」
朝 海賊船 談話室 調理場
少女「ううー」
包帯「ほら、呻いている暇が有ったら、
ちゃんと手を動かそうね」
少女「判ってますけど……」
包帯「もっと早く手を動かさないと、終わらないよ?」
少女「でも、大きくて……」
包帯「ん、こういうのは大きい方が良いって思うけど、
少女くんは違う意見かな?」
少女「ぬるってしてるから、大きいと手からこぼれて、
上手にできないんですよ……
まあ、おなかいっぱいになるから、
それは幸せなんですけど」
包帯「こんなにアツくしてるのもそのせい?」ついっ
少女「や、ちょ、見ないでくださいっ」
包帯「大丈夫って言うからお願いしたけど、
なんだか罪悪感まで沸いてくるね……」
221: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:04:43.43 ID:Ka2St8g6o
とことこ
男「お前達はいった何を騒いでいるんだ?
談話室にまで聞こえているぞ」じろっ
包帯「男さんもちょっと見てあげてください」
少女「そんな、やだ、みせびらかさないでくださいよ!
しかも広げちゃダメです……恥ずかしいし」
男「……ジャガイモの皮むきくらい、
まともにこなせないのか」
少女「い、いや、隊にいた頃はよくやらされてたから、
できると思って任されたんですけど、
この船のジャガイモとっても大きいじゃないですか。
だから、むきにくくて」
男「それでこんなに皮の厚い状態か」
包帯「仕方ないから、
この皮の部分はこれだけまとめて、
細切りにして油で揚げようかな……」
少女「うう、ごめんなさい」
包帯「まあ、今日はこのブランチと、
夜の宴会のおつまみを用意すればいいからね。
ポテトサラダは夜に出しても大丈夫だし」
男「お前達はいった何を騒いでいるんだ?
談話室にまで聞こえているぞ」じろっ
包帯「男さんもちょっと見てあげてください」
少女「そんな、やだ、みせびらかさないでくださいよ!
しかも広げちゃダメです……恥ずかしいし」
男「……ジャガイモの皮むきくらい、
まともにこなせないのか」
少女「い、いや、隊にいた頃はよくやらされてたから、
できると思って任されたんですけど、
この船のジャガイモとっても大きいじゃないですか。
だから、むきにくくて」
男「それでこんなに皮の厚い状態か」
包帯「仕方ないから、
この皮の部分はこれだけまとめて、
細切りにして油で揚げようかな……」
少女「うう、ごめんなさい」
包帯「まあ、今日はこのブランチと、
夜の宴会のおつまみを用意すればいいからね。
ポテトサラダは夜に出しても大丈夫だし」
222: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:05:56.82 ID:Ka2St8g6o
少女「いま、そのブランチ作ってたのに……」
包帯「ごめんね、他のができちゃったから、
先に出さないと、冷めちゃうからさ」
少女「いえ、その、私の方こそ遅くてごめんなさい」
包帯「仕方ないよ。おいおい慣れていこうね」
男「……このスープとパンを、
談話室のテーブルに運べばいいか」
包帯「あ、うん。助かるよ」にこっ
男「戻るついでだ」
とことこ
少女「うー、なんか、かえって足をひっぱってる
ような気が……
何度か包帯さんが動くのも邪魔しちゃってるし」
包帯「まあ、否定はしないけどね」苦笑
少女「ううー」
包帯「気になるなら、そうだね……
その分だけ、洗い物をしっかり手伝ってもらおうか。
それなら期待して良いよね」にこっ
少女「は、はい!」
包帯「ごめんね、他のができちゃったから、
先に出さないと、冷めちゃうからさ」
少女「いえ、その、私の方こそ遅くてごめんなさい」
包帯「仕方ないよ。おいおい慣れていこうね」
男「……このスープとパンを、
談話室のテーブルに運べばいいか」
包帯「あ、うん。助かるよ」にこっ
男「戻るついでだ」
とことこ
少女「うー、なんか、かえって足をひっぱってる
ような気が……
何度か包帯さんが動くのも邪魔しちゃってるし」
包帯「まあ、否定はしないけどね」苦笑
少女「ううー」
包帯「気になるなら、そうだね……
その分だけ、洗い物をしっかり手伝ってもらおうか。
それなら期待して良いよね」にこっ
少女「は、はい!」
223: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:07:37.18 ID:Ka2St8g6o
------------------------------------------------
昼 海賊船 談話室 調理場
じゃぶじゃぶ
少女「はい、洗い物完了です!」びしっ
包帯「お疲れ様。洗い物は早かったね。
とっても助かったよ」
少女「それなら良かった。
で、包帯さんは何をしてるんです?」くるっ
ずるっ
少女「わ、たたたっ」ばたばた
包帯「……っ!!」がばっ
ぎゅっ
少女「――っ、た、助かりました」
包帯「ご、ごめん。危ないと思ったから。
怪我はないかな?」ばっ
少女「はい、怪我は大丈夫ですけど。
なんで包帯さんが謝るんですか?」
包帯「いや、僕が触ってしまったからね」
昼 海賊船 談話室 調理場
じゃぶじゃぶ
少女「はい、洗い物完了です!」びしっ
包帯「お疲れ様。洗い物は早かったね。
とっても助かったよ」
少女「それなら良かった。
で、包帯さんは何をしてるんです?」くるっ
ずるっ
少女「わ、たたたっ」ばたばた
包帯「……っ!!」がばっ
ぎゅっ
少女「――っ、た、助かりました」
包帯「ご、ごめん。危ないと思ったから。
怪我はないかな?」ばっ
少女「はい、怪我は大丈夫ですけど。
なんで包帯さんが謝るんですか?」
包帯「いや、僕が触ってしまったからね」
224: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:09:31.97 ID:Ka2St8g6o
少女「えっと、意味がわからないですけど……?」
包帯「僕は見た目がコレだから、気持ち悪いだろう。
とっさにとはいえ、触ってしまって……」
少女「まさか、助けてもらって、見た目がどうとか」
包帯「……そう言ってもらえるなら、良かったよ」
少女(無理をおして笑顔を向けてくれてるけど、
どうしても包帯で隠しきれない部分が、
火傷の痕で引きつってる)
包帯「まあ、ついクセでね。
続きの作業でもしようか」
少女(クセになるくらい、そうやって拒まれたんだ)
包帯「少女くん?」
少女「私は、本当に感謝してますから!」
包帯「……うん、ありがとう。
キミが、僕が近寄っても嫌がらない人で嬉しいよ
この船のみんなも、そういうのは気にしないしね」
少女「……」
包帯「……ちょっと昔話をしようか。
あんまり、綺麗な話じゃないけどね」
包帯「僕は見た目がコレだから、気持ち悪いだろう。
とっさにとはいえ、触ってしまって……」
少女「まさか、助けてもらって、見た目がどうとか」
包帯「……そう言ってもらえるなら、良かったよ」
少女(無理をおして笑顔を向けてくれてるけど、
どうしても包帯で隠しきれない部分が、
火傷の痕で引きつってる)
包帯「まあ、ついクセでね。
続きの作業でもしようか」
少女(クセになるくらい、そうやって拒まれたんだ)
包帯「少女くん?」
少女「私は、本当に感謝してますから!」
包帯「……うん、ありがとう。
キミが、僕が近寄っても嫌がらない人で嬉しいよ
この船のみんなも、そういうのは気にしないしね」
少女「……」
包帯「……ちょっと昔話をしようか。
あんまり、綺麗な話じゃないけどね」
225: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:15:43.46 ID:Ka2St8g6o
少女「昔話、ですか」
包帯「まあ、ジャガイモの皮むきをしながらの、
ちょっとした暇つぶしだよ」
少女「あ、まだ剥くんですか」
包帯「今日はちょっと多めに、
ジャガイモの絞り汁を使う予定があるからね。
あの白い絞り汁に小麦粉を足して、
蜂蜜と卵を加えて薄く焼くと、
クレープの皮が破れにくくできるんだ。
今日の宴会では、ソレを晩ご飯代わりに出そうかな
なんて手抜きを考えていてね」
少女「あ、ソレはおいしそう!」
包帯「だからジャガイモはまだいくつか、
皮を剥いてすり下ろさないといけなくてね。
僕はクレープで包む中身を作るから、
少女くんはジャガイモの皮を剥いて欲しいんだ」
少女「了解!」
包帯「で、まあ、その作業の傍らで、
昔話をしようと思ったけど、聞くかい?」
少女「……聞きたいです」
包帯「まあ、ジャガイモの皮むきをしながらの、
ちょっとした暇つぶしだよ」
少女「あ、まだ剥くんですか」
包帯「今日はちょっと多めに、
ジャガイモの絞り汁を使う予定があるからね。
あの白い絞り汁に小麦粉を足して、
蜂蜜と卵を加えて薄く焼くと、
クレープの皮が破れにくくできるんだ。
今日の宴会では、ソレを晩ご飯代わりに出そうかな
なんて手抜きを考えていてね」
少女「あ、ソレはおいしそう!」
包帯「だからジャガイモはまだいくつか、
皮を剥いてすり下ろさないといけなくてね。
僕はクレープで包む中身を作るから、
少女くんはジャガイモの皮を剥いて欲しいんだ」
少女「了解!」
包帯「で、まあ、その作業の傍らで、
昔話をしようと思ったけど、聞くかい?」
少女「……聞きたいです」
226: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:32:49.55 ID:Ka2St8g6o
包帯「今から五年くらいまえ、
スピエナに一人の音楽家がいてね。
それなりには人気があったみたいで、
腕を見込まれてリオーマに留学しないかと、
そういう話が舞い込んだんだ」
少女(宗教音楽っていうと、
確かにリオーマに留学する人が多いって聞くから、
そこに留学するってことは、
かなり才能とかが認められたって事だよね)
包帯「しかも、その誘いが噂になって、
そんなに腕が良いなら、
もし気に入ったら留学費用を工面しても良いと、
そういう貴族が現れて、
サロンでの演奏会に招かれたんだ」
少女「わ、それはすごいチャンスですよね」
包帯「そうだね。
ただ、彼は結局、留学はできなかったんだ。
声楽をやっていた彼は、
演奏の前にお酒を飲むことは、
のどに悪いからできないって断ったんだが、
それがいけなかったらしい」
少女「それって、普通の事じゃないんですか」
包帯「貴族の勧めた杯を飲めない、
それは、貴族にとって、怒るに十分な理由らしい」
スピエナに一人の音楽家がいてね。
それなりには人気があったみたいで、
腕を見込まれてリオーマに留学しないかと、
そういう話が舞い込んだんだ」
少女(宗教音楽っていうと、
確かにリオーマに留学する人が多いって聞くから、
そこに留学するってことは、
かなり才能とかが認められたって事だよね)
包帯「しかも、その誘いが噂になって、
そんなに腕が良いなら、
もし気に入ったら留学費用を工面しても良いと、
そういう貴族が現れて、
サロンでの演奏会に招かれたんだ」
少女「わ、それはすごいチャンスですよね」
包帯「そうだね。
ただ、彼は結局、留学はできなかったんだ。
声楽をやっていた彼は、
演奏の前にお酒を飲むことは、
のどに悪いからできないって断ったんだが、
それがいけなかったらしい」
少女「それって、普通の事じゃないんですか」
包帯「貴族の勧めた杯を飲めない、
それは、貴族にとって、怒るに十分な理由らしい」
227: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:39:12.25 ID:Ka2St8g6o
少女「もしかして、その程度の事で」
包帯「その音楽家は喉を潰されて、
熱湯を頭からかけられたんだ」
少女「たった、それだけの事で、
なんでそんなにヒドイ事が」
包帯「貴族でなければ人にあらず。
その考えを肯定する貴族はいても、
そうじゃない貴族は見たことが無いね。
特に、いまのスピエナでは、
私掠船の経営によって利益を得た貴族達が、
金なら有るんだとばかりに好き勝手をしてる」
少女「そんな貴族ばっかりじゃ……」
包帯「いや、貴族なんてそんなものだよ」
少女(ぐらぐらと煮立つ鍋みたいな、
強い憎しみの目)
包帯「でも、こんな外見になっても、
この船の皆は普通に接してくれるからね。
僕をこんな風にした連中を許す気はないけれどさ、
今の生活自体はさほど悪くないと思ってるんだ。
その点だけは、
彼らに感謝しても良いかもしれない」にこっ
包帯「その音楽家は喉を潰されて、
熱湯を頭からかけられたんだ」
少女「たった、それだけの事で、
なんでそんなにヒドイ事が」
包帯「貴族でなければ人にあらず。
その考えを肯定する貴族はいても、
そうじゃない貴族は見たことが無いね。
特に、いまのスピエナでは、
私掠船の経営によって利益を得た貴族達が、
金なら有るんだとばかりに好き勝手をしてる」
少女「そんな貴族ばっかりじゃ……」
包帯「いや、貴族なんてそんなものだよ」
少女(ぐらぐらと煮立つ鍋みたいな、
強い憎しみの目)
包帯「でも、こんな外見になっても、
この船の皆は普通に接してくれるからね。
僕をこんな風にした連中を許す気はないけれどさ、
今の生活自体はさほど悪くないと思ってるんだ。
その点だけは、
彼らに感謝しても良いかもしれない」にこっ
228: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 00:49:31.81 ID:Ka2St8g6o
少女(絶対に、そんな事は思っていないってわかる。
顔は笑ってるけど、
包帯の奥の瞳が、すごく、恐ろしい)
包帯「まあ、この話をしたのは、
結局今は救われているっていうか、
それなりに幸せに生きているっていう事でね」
少女「……」
包帯「だから、そんな風に、
つい謝っちゃう癖にたいして、
つらそうな顔をしないで欲しいなーって、
そういう事なんだ。
その内、このクセも無くなると思うから」
少女(包帯さんの「ごめん」に対して、
私が過剰に反応したから、
わざわざ嫌な話をしてくれたのかな)
包帯「料理の続きをしようか。
手が止まってるよ」にこっ
少女「……はい」
包帯「そう重く受け止めないで欲しいな」苦笑
少女「……難しい注文です」
顔は笑ってるけど、
包帯の奥の瞳が、すごく、恐ろしい)
包帯「まあ、この話をしたのは、
結局今は救われているっていうか、
それなりに幸せに生きているっていう事でね」
少女「……」
包帯「だから、そんな風に、
つい謝っちゃう癖にたいして、
つらそうな顔をしないで欲しいなーって、
そういう事なんだ。
その内、このクセも無くなると思うから」
少女(包帯さんの「ごめん」に対して、
私が過剰に反応したから、
わざわざ嫌な話をしてくれたのかな)
包帯「料理の続きをしようか。
手が止まってるよ」にこっ
少女「……はい」
包帯「そう重く受け止めないで欲しいな」苦笑
少女「……難しい注文です」
231: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 01:04:49.20 ID:Ka2St8g6o
包帯「ごめんね、扱いの難しい話をして」
少女「……」
包帯「なんでかな。
他の人にはあんまり話さないんだけど、
つい、キミには口が滑っちゃうんだ。
気を許しちゃう何かがあるのかな」
少女「……むうー」
包帯「まあ、今のは本当に昔話だから。
昔々、有るところに~って。
実は僕は料理屋の息子で、
スープを頭からかぶっただけかもしれないしね」
少女「全然ごまかせてないですよ。
いや、でも、その方が説得力あるかも?
こんなに料理ができるし……」
包帯「さて、何が真実なんでしょうか」にやり
少女「え、ちょっと、ホントに今までの嘘なの?!」
包帯「あはは、さて、ジャガイモの皮むきの手が、
止まってるよ。早く終わらせようね」
少女「ホントはどっちなんですか?!」
包帯「あはは、少女くんは面白いね」
少女「面白くないってー!」がるるる
少女「……」
包帯「なんでかな。
他の人にはあんまり話さないんだけど、
つい、キミには口が滑っちゃうんだ。
気を許しちゃう何かがあるのかな」
少女「……むうー」
包帯「まあ、今のは本当に昔話だから。
昔々、有るところに~って。
実は僕は料理屋の息子で、
スープを頭からかぶっただけかもしれないしね」
少女「全然ごまかせてないですよ。
いや、でも、その方が説得力あるかも?
こんなに料理ができるし……」
包帯「さて、何が真実なんでしょうか」にやり
少女「え、ちょっと、ホントに今までの嘘なの?!」
包帯「あはは、さて、ジャガイモの皮むきの手が、
止まってるよ。早く終わらせようね」
少女「ホントはどっちなんですか?!」
包帯「あはは、少女くんは面白いね」
少女「面白くないってー!」がるるる
232: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/25(水) 01:06:57.25 ID:Ka2St8g6o
だめだ、ちょっと書き直し必要な箇所見つけたので、
いったんココで区切り入れます><
明日また来るのでありますっ。
いったんココで区切り入れます><
明日また来るのでありますっ。
243: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/26(木) 23:58:13.72 ID:qii6JBGwo
------------------------------------------------
昼 海賊船甲板
少女 ぼー
少女「空が、あおいなー」
とことこ
狼「……どうしたの? こんなところで空なんか見て」
少女「狼さんこそ、
そのシーツの塊ってどうしたの?」
狼「せっかく接岸してて真水が使えるから、
洗濯しようと思って。
男達の分もまとめて来たの」
少女「それなら私も手伝うよ
一人より二人の方が早いと思うし」
狼「包帯の手伝いは良いの?」
少女「まあ、なんとか。
本当はまだちょっとやることが有ったみたいだけど、
追い出されちゃって」
狼「手伝ってくれるのは助かるけど、
何をしたら包帯に追い出されるんだか」
昼 海賊船甲板
少女 ぼー
少女「空が、あおいなー」
とことこ
狼「……どうしたの? こんなところで空なんか見て」
少女「狼さんこそ、
そのシーツの塊ってどうしたの?」
狼「せっかく接岸してて真水が使えるから、
洗濯しようと思って。
男達の分もまとめて来たの」
少女「それなら私も手伝うよ
一人より二人の方が早いと思うし」
狼「包帯の手伝いは良いの?」
少女「まあ、なんとか。
本当はまだちょっとやることが有ったみたいだけど、
追い出されちゃって」
狼「手伝ってくれるのは助かるけど、
何をしたら包帯に追い出されるんだか」
244: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/26(木) 23:59:33.52 ID:qii6JBGwo
少女「だよねー……はぁ」
狼「ちょっと、そっちのたらい持ってきて」
少女「あ、うん。水はどうするの?」
狼「そこの樽に入ってるから、たらいに注いで。
そう、それくらい。で、洗剤をよく混ぜて……
足で踏むから、手伝って」
少女「ん、わかった……って、大人二人は狭いような」
じゃぶじゃぶ
狼「普段は手が空いてれば双子姉とやるから、
あんまり気にならないけど、そうかも……
痛っ、足踏まないでよ」
少女「ごめんっ、泡で見えなくて。
って、今度は狼さんが!」
狼「……ごめん」
少女「やっぱり安定しそうな所に足をおろすと、
多少は踏んじゃうよね」
狼「少女の足が大きいんだと思うけど。
双子姉だったら、こんなに踏んだりしないし」
少女「ヒドっ、実はさりげなく気にしてるのに」
狼「ちょっと、そっちのたらい持ってきて」
少女「あ、うん。水はどうするの?」
狼「そこの樽に入ってるから、たらいに注いで。
そう、それくらい。で、洗剤をよく混ぜて……
足で踏むから、手伝って」
少女「ん、わかった……って、大人二人は狭いような」
じゃぶじゃぶ
狼「普段は手が空いてれば双子姉とやるから、
あんまり気にならないけど、そうかも……
痛っ、足踏まないでよ」
少女「ごめんっ、泡で見えなくて。
って、今度は狼さんが!」
狼「……ごめん」
少女「やっぱり安定しそうな所に足をおろすと、
多少は踏んじゃうよね」
狼「少女の足が大きいんだと思うけど。
双子姉だったら、こんなに踏んだりしないし」
少女「ヒドっ、実はさりげなく気にしてるのに」
245: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:00:15.43 ID:gnbbZmEVo
じゃぶじゃぶ
狼「……それで、さっきはどうしたの?」
少女「あー、その。私が転びそうになったんだけど、
それを包帯さんが助けてくれたんだ。
でもその後に、助けた包帯さんが謝るから、
どうして謝るのかを軽い気持ちできいたんだけど」
狼「クセの理由を聞いて、いたたまれなくなったから、
逃げてきたの?」
少女「逃げてきたってワケじゃないけど、
結果的には違わないかも。
ちょっとぎこちなくなっちゃってさ。
やることができたら呼ぶから、
甲板で休憩してきなよって言われて」
狼「まあ、難しいところかな、それは。
少女にとっても、包帯にとっても」
少女「難しいっていうか、なんていうか……」
狼「そういう意味じゃなくて。
包帯って、今みたいな状態になってから、
さほど経って無くてね。
未だに自分のあの状態との距離感とか、
それに対して向き合う他人との距離が、
つかみ切れてないのよ」
狼「……それで、さっきはどうしたの?」
少女「あー、その。私が転びそうになったんだけど、
それを包帯さんが助けてくれたんだ。
でもその後に、助けた包帯さんが謝るから、
どうして謝るのかを軽い気持ちできいたんだけど」
狼「クセの理由を聞いて、いたたまれなくなったから、
逃げてきたの?」
少女「逃げてきたってワケじゃないけど、
結果的には違わないかも。
ちょっとぎこちなくなっちゃってさ。
やることができたら呼ぶから、
甲板で休憩してきなよって言われて」
狼「まあ、難しいところかな、それは。
少女にとっても、包帯にとっても」
少女「難しいっていうか、なんていうか……」
狼「そういう意味じゃなくて。
包帯って、今みたいな状態になってから、
さほど経って無くてね。
未だに自分のあの状態との距離感とか、
それに対して向き合う他人との距離が、
つかみ切れてないのよ」
246: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:00:48.66 ID:gnbbZmEVo
じゃぶじゃぶ
少女「どれくらい前なの?」
狼「三年、経ってないと思うけど。
最初の一年くらいはずっと、
生きるか死ぬかって、ほとんど意識もなかったとか。
向き合ってるのは二年くらいらしいだって。
包帯がこの船に来たのが一年前からだから、
普通の人に対しての距離感をつかむには、
時間が足りてないんじゃないの?」
少女「うん……」
狼「まあ、前回の時は、
包帯の姿を怖がる双子姉に対して、
包帯もできる限り関わらないようにしてたせいで、
ちょっと事件が起きたことも有ってね。
今回はソレを避けるためにも、
先にそういう話をして、
腹を割ってみようとしたんじゃない?」
少女「腹を割って……かぁ」
狼「それに少女と一緒にいると、
気を張っているだけ損みたいに思えてきて、
ついポロッと口から出ただけかもしれないし」
少女「おお……あれ? それって誉められてる?」
狼「……」
少女「どれくらい前なの?」
狼「三年、経ってないと思うけど。
最初の一年くらいはずっと、
生きるか死ぬかって、ほとんど意識もなかったとか。
向き合ってるのは二年くらいらしいだって。
包帯がこの船に来たのが一年前からだから、
普通の人に対しての距離感をつかむには、
時間が足りてないんじゃないの?」
少女「うん……」
狼「まあ、前回の時は、
包帯の姿を怖がる双子姉に対して、
包帯もできる限り関わらないようにしてたせいで、
ちょっと事件が起きたことも有ってね。
今回はソレを避けるためにも、
先にそういう話をして、
腹を割ってみようとしたんじゃない?」
少女「腹を割って……かぁ」
狼「それに少女と一緒にいると、
気を張っているだけ損みたいに思えてきて、
ついポロッと口から出ただけかもしれないし」
少女「おお……あれ? それって誉められてる?」
狼「……」
247: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:01:20.32 ID:gnbbZmEVo
じゃぶじゃぶ
少女「とりあえず、気にしない感じでいいのかな?」
狼「気にしない方が良いんじゃない。
とりあえず今は、ほら、洗濯物に集中して」
とことこ
白髪「よう、二人揃って洗濯か?」
少女「私は手伝ってるだけだけどね」
白髪「……」じー
狼「なに?」
白髪「いやー、若いのが二人で、
洗濯物を踏んでる姿は楽しそうで良いんだが。
少女、強く生きろ」
少女「何が強く生きろなのさ!」
白髪「がはは、言って欲しいか?
横から見ると、足を上下するたびにたゆんたゆん……」
少女「セクハラっ、それはセクハラだから!!」
狼「……邪魔なだけでしょ、こんなの」
少女「とりあえず、気にしない感じでいいのかな?」
狼「気にしない方が良いんじゃない。
とりあえず今は、ほら、洗濯物に集中して」
とことこ
白髪「よう、二人揃って洗濯か?」
少女「私は手伝ってるだけだけどね」
白髪「……」じー
狼「なに?」
白髪「いやー、若いのが二人で、
洗濯物を踏んでる姿は楽しそうで良いんだが。
少女、強く生きろ」
少女「何が強く生きろなのさ!」
白髪「がはは、言って欲しいか?
横から見ると、足を上下するたびにたゆんたゆん……」
少女「セクハラっ、それはセクハラだから!!」
狼「……邪魔なだけでしょ、こんなの」
248: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:01:58.06 ID:gnbbZmEVo
じゃぶじゃぶ
少女「邪魔って、邪魔って!!
そんなのは持ってる人だから言えるわけでね!」
狼「肩も重くなるし、戦闘で動きにくいし、
動いた後は汗で蒸れて、ひどいときにはかぶれるし。
良いことなんてないと思うけど」
少女「そんなこと無いって!
ほら、さっきから白髪さんの目線がずーっと、
狼さんに向きっぱなしだし」
白髪「がはは、まあ、動きの大きい方に目がいくな」
狼「こんなゆるんだ顔向けられたいの?」
少女「……ここまでいくと、蹴り飛ばしたいけどさ、
仲間内だと、胸が有ればまだ女に見えるのにって、
ずいぶんとこき下ろされて……」
白髪「まあ、気を落とすな。
よく食べてよく寝れば今よりは育つだろうよ」
少女「そ、そうかな?」
少女「邪魔って、邪魔って!!
そんなのは持ってる人だから言えるわけでね!」
狼「肩も重くなるし、戦闘で動きにくいし、
動いた後は汗で蒸れて、ひどいときにはかぶれるし。
良いことなんてないと思うけど」
少女「そんなこと無いって!
ほら、さっきから白髪さんの目線がずーっと、
狼さんに向きっぱなしだし」
白髪「がはは、まあ、動きの大きい方に目がいくな」
狼「こんなゆるんだ顔向けられたいの?」
少女「……ここまでいくと、蹴り飛ばしたいけどさ、
仲間内だと、胸が有ればまだ女に見えるのにって、
ずいぶんとこき下ろされて……」
白髪「まあ、気を落とすな。
よく食べてよく寝れば今よりは育つだろうよ」
少女「そ、そうかな?」
249: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:02:28.19 ID:gnbbZmEVo
白髪「今より減る事はないと思うぞ?」
少女「その言葉のウラが透けてて、泣きたい……
その哀れむような目もやめてよ!」
白髪「がはは、まあ冗談はココまでにしてだ。
その洗濯が終わったら、
ちょっと二人で買い物に行ってきてくれねぇか?」
少女「絶対、冗談じゃなかったし……」
狼「買い物って、何か足りないの?」
白髪「今日の夜に宴会をしようって話だからな、
いつもより少し良い酒と、
それから嬢ちゃんの服をな」
少女「あ、そっか。
昨日はごたごたしてて……」
白髪「そういうわけだ。
俺がついて行っても良いんだが、
たまには女同士で行くといいだろ。
狼「でも、アタシが行くと……」
白髪「耳とか尻尾か?
そんなん、隠してりゃわかんねぇって」
狼「ばれたから今まで問題になったんだけど」
少女「その言葉のウラが透けてて、泣きたい……
その哀れむような目もやめてよ!」
白髪「がはは、まあ冗談はココまでにしてだ。
その洗濯が終わったら、
ちょっと二人で買い物に行ってきてくれねぇか?」
少女「絶対、冗談じゃなかったし……」
狼「買い物って、何か足りないの?」
白髪「今日の夜に宴会をしようって話だからな、
いつもより少し良い酒と、
それから嬢ちゃんの服をな」
少女「あ、そっか。
昨日はごたごたしてて……」
白髪「そういうわけだ。
俺がついて行っても良いんだが、
たまには女同士で行くといいだろ。
狼「でも、アタシが行くと……」
白髪「耳とか尻尾か?
そんなん、隠してりゃわかんねぇって」
狼「ばれたから今まで問題になったんだけど」
250: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:02:58.41 ID:gnbbZmEVo
白髪「まあ、嫌だっていうなら俺が行くが、
たまには船から降りた息抜きをしても、
良いと思うぜ」
狼「……やっぱり、まだ陸には」
白髪「そうか判った。
んじゃ、嬢ちゃん。
終わったら、俺の部屋まで呼びに来てくれ。」
少女「うん、りょーかい!」
とことこ
少女「狼さんは、陸に上がるのが嫌いなの?」
狼「別にそういうワケじゃないけど。
あえて騒ぎの理由を作らなくてもいいでしょ。
アタシが行く必然性もないし」
少女(でも、それならなんで、
少し恋しそうに街の方を見るのかな……)
狼「ほら、足が止まってる」
少女「あ、ごめんっ!」
じゃぶじゃぶ
たまには船から降りた息抜きをしても、
良いと思うぜ」
狼「……やっぱり、まだ陸には」
白髪「そうか判った。
んじゃ、嬢ちゃん。
終わったら、俺の部屋まで呼びに来てくれ。」
少女「うん、りょーかい!」
とことこ
少女「狼さんは、陸に上がるのが嫌いなの?」
狼「別にそういうワケじゃないけど。
あえて騒ぎの理由を作らなくてもいいでしょ。
アタシが行く必然性もないし」
少女(でも、それならなんで、
少し恋しそうに街の方を見るのかな……)
狼「ほら、足が止まってる」
少女「あ、ごめんっ!」
じゃぶじゃぶ
251: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:03:27.16 ID:gnbbZmEVo
------------------------------------------------
昼過ぎ 隠れ港 市場
ざわざわ
少女「昼も夜も、同じくらい活気があるんだー」
男「もう少し落ち着け。
田舎者だと思われたらスリの的だ」
少女「う、それはこまる……って、
お金持ってないから取られる心配はないかも」
男「だから財布を渡してないんだがな」
少女「ぐむ……だいたいなんで、
白髪さんと一緒に買い物のはずだったのに、
男さんと一緒なんだか」
男「文句なら、腰が痛いと言い出した白髪に言え。
俺だって今回の入港で使った費用の収支や、
その他のまとめが終わっていないんだ」
少女「……なんか、経営者みたい」
男「立派な経営者だ。
海賊だから荒くれ者でいいなんていう話は夢物語だ。
○罪にも手を染めるが、
あくまでも経済的な利潤を求める組織が海賊だ」
昼過ぎ 隠れ港 市場
ざわざわ
少女「昼も夜も、同じくらい活気があるんだー」
男「もう少し落ち着け。
田舎者だと思われたらスリの的だ」
少女「う、それはこまる……って、
お金持ってないから取られる心配はないかも」
男「だから財布を渡してないんだがな」
少女「ぐむ……だいたいなんで、
白髪さんと一緒に買い物のはずだったのに、
男さんと一緒なんだか」
男「文句なら、腰が痛いと言い出した白髪に言え。
俺だって今回の入港で使った費用の収支や、
その他のまとめが終わっていないんだ」
少女「……なんか、経営者みたい」
男「立派な経営者だ。
海賊だから荒くれ者でいいなんていう話は夢物語だ。
○罪にも手を染めるが、
あくまでも経済的な利潤を求める組織が海賊だ」
252: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:03:55.41 ID:gnbbZmEVo
少女「……」
男「どうした」
少女「いや、とっても意外で」
男「私掠船などのシステムを考えてみろ。
たとえばマータ騎士団にしたところで、
実態はその渡航費用の大半を、
寄付金という名前の周辺国家の金銭的な鎖に縛られ、
海賊行為を行って返済しながら活動しているのは、
今や周知の事実のはずだ」
少女「うー、また難しい話が」
男「……お前はいったい、あの島の未来の領主として、
いったい今まで何を学んできたんだ」
少女「そんなに困ったような顔されても。
あ、そこの仕立屋さん。
白髪さんに教えられたの、あのお店だと思う」
男「……ごまかされてやるか。
ちなみに今の服は、狼のを借りたのか?」
少女「さすがに、あの汚い服の後に、
試着させて欲しいとは云えなくて。
でもコレもスカートが短すぎて……」
男「いや、そういう話ではないが。
まあいい。入るか」
男「どうした」
少女「いや、とっても意外で」
男「私掠船などのシステムを考えてみろ。
たとえばマータ騎士団にしたところで、
実態はその渡航費用の大半を、
寄付金という名前の周辺国家の金銭的な鎖に縛られ、
海賊行為を行って返済しながら活動しているのは、
今や周知の事実のはずだ」
少女「うー、また難しい話が」
男「……お前はいったい、あの島の未来の領主として、
いったい今まで何を学んできたんだ」
少女「そんなに困ったような顔されても。
あ、そこの仕立屋さん。
白髪さんに教えられたの、あのお店だと思う」
男「……ごまかされてやるか。
ちなみに今の服は、狼のを借りたのか?」
少女「さすがに、あの汚い服の後に、
試着させて欲しいとは云えなくて。
でもコレもスカートが短すぎて……」
男「いや、そういう話ではないが。
まあいい。入るか」
253: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:04:27.50 ID:gnbbZmEVo
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
店主「いやー、よく似合いますよ、お嬢さん」
少女「じゃ、コレもかな。
さっきの服とまとめて四着あれば、
とりあえず足りるよね?」
男「そうだな、さすがにそれ以上は、
経費としては出せない金額になる」
少女「う、ごめんなさい」
男「謝らんでいい。働きの先払いだからな」
少女「じゃ、その分頑張るって事で。
ところで、どうかな。似合ってる?」くるっ
男「ふむ……体つきはしっかりしてるからな。
そういう中性的な格好は確かに似合う」
少女「ありがと。着慣れてるって事もあるし、
狼さんのスカートの短い服も動きやすいけど、
やっぱりズボンの方が楽かなー。」
男「着慣れてるなら、それで決まりだな。
オヤジ、試着した四つはそのまま買っていけるのか?」
店主「いやー、よく似合いますよ、お嬢さん」
少女「じゃ、コレもかな。
さっきの服とまとめて四着あれば、
とりあえず足りるよね?」
男「そうだな、さすがにそれ以上は、
経費としては出せない金額になる」
少女「う、ごめんなさい」
男「謝らんでいい。働きの先払いだからな」
少女「じゃ、その分頑張るって事で。
ところで、どうかな。似合ってる?」くるっ
男「ふむ……体つきはしっかりしてるからな。
そういう中性的な格好は確かに似合う」
少女「ありがと。着慣れてるって事もあるし、
狼さんのスカートの短い服も動きやすいけど、
やっぱりズボンの方が楽かなー。」
男「着慣れてるなら、それで決まりだな。
オヤジ、試着した四つはそのまま買っていけるのか?」
254: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:05:06.52 ID:gnbbZmEVo
店主「大丈夫ですが、先ほどの服についても、
裾と袖はちょっと直しませんか?
なに、半時もあれば終わりますんで、
のんびり待っててもらうなり、
どこか寄った後に来てもらうなり」
男「どうする」
少女「私が決めて良いなら、
もう少しお店の中を見たいかなー。
こっちの小物とか、すごくかわいいし」
店主「では、すぐに仕上げて来ます」
いそいそ
少女「えっへへー、久しぶりだなー、
こういうお店に来るのも」
男「そうなのか?」
少女「島にも一応何軒かあったけど、
遊び相手のほとんどは男の子だったから、
あんまりこういう場所には来なくて。
実家には裁縫師さんが来てくれてたし」
男「たしかに、そんな立場ならば、
特別な用でも無ければ来ないか。
女友達などはいなかったのか?」
裾と袖はちょっと直しませんか?
なに、半時もあれば終わりますんで、
のんびり待っててもらうなり、
どこか寄った後に来てもらうなり」
男「どうする」
少女「私が決めて良いなら、
もう少しお店の中を見たいかなー。
こっちの小物とか、すごくかわいいし」
店主「では、すぐに仕上げて来ます」
いそいそ
少女「えっへへー、久しぶりだなー、
こういうお店に来るのも」
男「そうなのか?」
少女「島にも一応何軒かあったけど、
遊び相手のほとんどは男の子だったから、
あんまりこういう場所には来なくて。
実家には裁縫師さんが来てくれてたし」
男「たしかに、そんな立場ならば、
特別な用でも無ければ来ないか。
女友達などはいなかったのか?」
255: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:05:41.47 ID:gnbbZmEVo
少女「うーん。いないわけじゃなかったけど。
私はちゃんばらとかが好きだったから、
あんまり遊ぶ機会は無くて……
年頃になると特に、
おしゃれとかの話題には、私はついて行けなかったし」
男「そういうもんか」
少女「そういうものじゃないのかな。
あ、コレっ、かわいいー♪」
男「なんだ、木製のブローチか?」
少女「うん。こういう小物とかが好きなんだ」にこにこ
男「リスに、ウサギに……これはなんだ?」
少女「え、クマでしょ?」
男「熊か。だが、それにしては丸すぎないか。
もっとどう猛で、ぎらついた目で」
少女「そんなリアルなの、かわいくないじゃん」
男「そもそも熊にかわいさを求めるな」
少女「私はかわいいと思ったけどな……
長距離行軍訓練で森を抜けている時に見かけて、
うろうろーってしてる姿とか、
愛らしいと思ったけど」
私はちゃんばらとかが好きだったから、
あんまり遊ぶ機会は無くて……
年頃になると特に、
おしゃれとかの話題には、私はついて行けなかったし」
男「そういうもんか」
少女「そういうものじゃないのかな。
あ、コレっ、かわいいー♪」
男「なんだ、木製のブローチか?」
少女「うん。こういう小物とかが好きなんだ」にこにこ
男「リスに、ウサギに……これはなんだ?」
少女「え、クマでしょ?」
男「熊か。だが、それにしては丸すぎないか。
もっとどう猛で、ぎらついた目で」
少女「そんなリアルなの、かわいくないじゃん」
男「そもそも熊にかわいさを求めるな」
少女「私はかわいいと思ったけどな……
長距離行軍訓練で森を抜けている時に見かけて、
うろうろーってしてる姿とか、
愛らしいと思ったけど」
256: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:06:08.71 ID:gnbbZmEVo
男「そういうものなのか?
まあ、確かによく見れば熊に見えん事もないか」
少女「うんうん、そういうものだって。
あー、こっちのカエルのもかわいいー♪」
男「こういう時は、白髪ではないが歳を感じるな。
まさかこれほどまで、若い感覚について行けないとは。
……そっちの箱ばかり見てるが、貴金属や宝石の
飾られている棚は見ていないな。
趣味じゃないのか?」
少女「そういうのも、綺麗だと思うけど……
やっぱり高いから、見て欲しくなったらやだなーって。
あー、でもやっぱり、その髪飾りとかいいなー!」
男「そういうものか」
とことこ
店主「お二人さん、仕立て直し終わりましたよ」
少女「あ、ありがとうございますー」
男「スカートが落ち着かないんだったな。
店の裏を借りて、着替えさせてもらうといい」
店主「どうぞどうぞ」
少女「じゃ、失礼します」いそいそ
まあ、確かによく見れば熊に見えん事もないか」
少女「うんうん、そういうものだって。
あー、こっちのカエルのもかわいいー♪」
男「こういう時は、白髪ではないが歳を感じるな。
まさかこれほどまで、若い感覚について行けないとは。
……そっちの箱ばかり見てるが、貴金属や宝石の
飾られている棚は見ていないな。
趣味じゃないのか?」
少女「そういうのも、綺麗だと思うけど……
やっぱり高いから、見て欲しくなったらやだなーって。
あー、でもやっぱり、その髪飾りとかいいなー!」
男「そういうものか」
とことこ
店主「お二人さん、仕立て直し終わりましたよ」
少女「あ、ありがとうございますー」
男「スカートが落ち着かないんだったな。
店の裏を借りて、着替えさせてもらうといい」
店主「どうぞどうぞ」
少女「じゃ、失礼します」いそいそ
257: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:06:39.35 ID:gnbbZmEVo
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
少女「うん、やっぱり短いスカートより、
断然こっちのがいいなー!」
男「……ずいぶんと男らしいな」
少女「そう言われると弱いかも」苦笑
男「別に趣味をけなしているわけではない。
好きなら良いと思うが」
少女「んー、好き嫌いというか、
慣れ不慣れの問題かな。
スカートなんかで、かかと落としはできないし」
男「……本当に変わったな」ぼそっ
少女「え?」
男「そうだ、コレをやろう」ごそごそ
少女「これって、さっきのお店で、
私がかわいいっていったブローチ……」
男「……」
少女「これ、もらって良いの?」
男「そのために買ったからな」
少女「うん、やっぱり短いスカートより、
断然こっちのがいいなー!」
男「……ずいぶんと男らしいな」
少女「そう言われると弱いかも」苦笑
男「別に趣味をけなしているわけではない。
好きなら良いと思うが」
少女「んー、好き嫌いというか、
慣れ不慣れの問題かな。
スカートなんかで、かかと落としはできないし」
男「……本当に変わったな」ぼそっ
少女「え?」
男「そうだ、コレをやろう」ごそごそ
少女「これって、さっきのお店で、
私がかわいいっていったブローチ……」
男「……」
少女「これ、もらって良いの?」
男「そのために買ったからな」
258: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:07:05.20 ID:gnbbZmEVo
少女「でも、なんでいきなり?」
男「……たいした理由はない。
ただの気まぐれだ」
少女「でも、気まぐれっていうのは、
ずいぶん高い買い物だと思うけど……」
男「……それよりも、そろそろ日が暮れる。
船に戻れば、包帯の手伝いがあるんじゃないか?」
少女「え、あ、そっか。
出てくる事も言ってないし、怒られるかな?」
男「怒られるという事は無いだろうが、
早いほうが良いだろうな。早足で行くぞ」
少女「あ、その前に」
男「なんだ?」
少女「ブローチ、ありがと」にこっ
男「……ふん、俺は何をやっているんだかな」ぼそっ
少女「え、なにか……」
男「急ぐぞ。遅れて道に迷うなよ」
少女「ちょっ、人混みなのに早っ!」
男「……たいした理由はない。
ただの気まぐれだ」
少女「でも、気まぐれっていうのは、
ずいぶん高い買い物だと思うけど……」
男「……それよりも、そろそろ日が暮れる。
船に戻れば、包帯の手伝いがあるんじゃないか?」
少女「え、あ、そっか。
出てくる事も言ってないし、怒られるかな?」
男「怒られるという事は無いだろうが、
早いほうが良いだろうな。早足で行くぞ」
少女「あ、その前に」
男「なんだ?」
少女「ブローチ、ありがと」にこっ
男「……ふん、俺は何をやっているんだかな」ぼそっ
少女「え、なにか……」
男「急ぐぞ。遅れて道に迷うなよ」
少女「ちょっ、人混みなのに早っ!」
259: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:07:40.65 ID:gnbbZmEVo
------------------------------------------------
夕方 海賊船 談話室 調理場
少女「すみません、戻りましたー」こそっ
包帯「おかえり。
買い物に行ってきたのかな?
よく似合ってるよ」にこっ
少女「その、何にも言わないで行って……」
包帯「気にしないでいいよ、それくらい。
やることは済ませていたんだから、
はばかる事なんてないんだよ」
少女(少しだけ、居心地が悪そうな声?
普段なら相手がしゃべるのを待って、
ソレから口を開くのに、
今はどこか焦ってるような印象かな。
……昼の事を話題にしないように、してる? でも)
包帯「でも、今日のこの後はちょっと忙しいからね。
たくさん手伝ってもらうよ」
少女「あ、あの!」
包帯「なにかな?」
少女「お昼の事、ですけど」
包帯「……」
夕方 海賊船 談話室 調理場
少女「すみません、戻りましたー」こそっ
包帯「おかえり。
買い物に行ってきたのかな?
よく似合ってるよ」にこっ
少女「その、何にも言わないで行って……」
包帯「気にしないでいいよ、それくらい。
やることは済ませていたんだから、
はばかる事なんてないんだよ」
少女(少しだけ、居心地が悪そうな声?
普段なら相手がしゃべるのを待って、
ソレから口を開くのに、
今はどこか焦ってるような印象かな。
……昼の事を話題にしないように、してる? でも)
包帯「でも、今日のこの後はちょっと忙しいからね。
たくさん手伝ってもらうよ」
少女「あ、あの!」
包帯「なにかな?」
少女「お昼の事、ですけど」
包帯「……」
260: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:10:24.83 ID:gnbbZmEVo
少女「その、包帯さんの話を聞いて、
どうしたら良いか判らないからって、
空気を固くしちゃってごめんなさい」
包帯「……僕の方こそ。
雰囲気を悪くしてごめんね」
少女「あの、でも、ホントに、
私は包帯さんの事、怖いとか思わないので!」
包帯「うん」
少女「この事はうやむやにしないで、
ちゃんと伝えないといけないなって」
包帯「ありがとう」にこっ
少女「そ、それじゃ作業始めましょ!
何から手伝えば良いですか?」
包帯「そうだね、まずは……
ああ、僕じゃできない事があったから、
それを頼んでもいいかな?
他の料理と一緒には作れなくてね。
ちょっと疲れるんだけど……」
少女「任せてください!」
包帯「助かるよ、じゃ、双子妹くんに言って……」
どうしたら良いか判らないからって、
空気を固くしちゃってごめんなさい」
包帯「……僕の方こそ。
雰囲気を悪くしてごめんね」
少女「あの、でも、ホントに、
私は包帯さんの事、怖いとか思わないので!」
包帯「うん」
少女「この事はうやむやにしないで、
ちゃんと伝えないといけないなって」
包帯「ありがとう」にこっ
少女「そ、それじゃ作業始めましょ!
何から手伝えば良いですか?」
包帯「そうだね、まずは……
ああ、僕じゃできない事があったから、
それを頼んでもいいかな?
他の料理と一緒には作れなくてね。
ちょっと疲れるんだけど……」
少女「任せてください!」
包帯「助かるよ、じゃ、双子妹くんに言って……」
261: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:12:50.30 ID:gnbbZmEVo
------------------------------------------------
夕方 船倉
こんこんこん
双子妹「どうぞでありますよ」
少女「お邪魔しまーす」
双子妹「何かご用でありますか?
今はちょうど、倉庫整理を行っていたのでありますが」
少女「あ、それなら丁度良かった。
包帯さんからの指示で、
火薬を半ポンドか、硝石をその七割くらい、
もらえたら助かるんだけど」
双子妹「火薬か硝石でありますか……
ああ、なるほど、では火薬より硝石でありますな」
少女「えっと、何を作るか、
ソレを聞いただけで判るの?」
双子妹「まあ判るであります。
というか、包帯のお兄さんが硝石を使うなら、
答えはおおよそ一択でありますよ」
少女「う、私にはわからないんだけど」
夕方 船倉
こんこんこん
双子妹「どうぞでありますよ」
少女「お邪魔しまーす」
双子妹「何かご用でありますか?
今はちょうど、倉庫整理を行っていたのでありますが」
少女「あ、それなら丁度良かった。
包帯さんからの指示で、
火薬を半ポンドか、硝石をその七割くらい、
もらえたら助かるんだけど」
双子妹「火薬か硝石でありますか……
ああ、なるほど、では火薬より硝石でありますな」
少女「えっと、何を作るか、
ソレを聞いただけで判るの?」
双子妹「まあ判るであります。
というか、包帯のお兄さんが硝石を使うなら、
答えはおおよそ一択でありますよ」
少女「う、私にはわからないんだけど」
262: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:15:13.89 ID:gnbbZmEVo
双子妹「おや、ではまだ何を作るか、
知らないでありますか」
少女「う、うん……」
双子妹「では、できてからのお楽しみという事
でありましょうね」にこっ
少女(何を作るのか、包帯さんが教えてくれないから、
わざわざ双子妹ちゃんに聞こうとしたのに!
こんなかわいい笑顔を前にしたら、
判らないから教えてとは言えないって……)
双子妹「はい、ではこちらが、
粉末の硝石、半ポンドであります。
終わったら溶液は乾燥して、
改めて硝石を析出させるので、
残しておいてくださいと伝えて欲しいであります」
少女「包帯さんにそういえば判る?」
双子妹「はい、大丈夫でありますよ」
少女「わかった、じゃ、持って行くね」
双子妹「楽しみにしているであります」にぱっ
知らないでありますか」
少女「う、うん……」
双子妹「では、できてからのお楽しみという事
でありましょうね」にこっ
少女(何を作るのか、包帯さんが教えてくれないから、
わざわざ双子妹ちゃんに聞こうとしたのに!
こんなかわいい笑顔を前にしたら、
判らないから教えてとは言えないって……)
双子妹「はい、ではこちらが、
粉末の硝石、半ポンドであります。
終わったら溶液は乾燥して、
改めて硝石を析出させるので、
残しておいてくださいと伝えて欲しいであります」
少女「包帯さんにそういえば判る?」
双子妹「はい、大丈夫でありますよ」
少女「わかった、じゃ、持って行くね」
双子妹「楽しみにしているであります」にぱっ
263: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:18:04.49 ID:gnbbZmEVo
双子妹「おや、ではまだ何を作るか、
知らないでありますか」
少女「う、うん……」
双子妹「では、できてからのお楽しみという事
でありましょうね」にこっ
少女(何を作るのか、包帯さんが教えてくれないから、
わざわざ双子妹ちゃんに聞こうとしたのに!
こんなかわいい笑顔を前にしたら、
判らないから教えてとは言えないって……)
双子妹「はい、ではこちらが、
粉末の硝石、半ポンドであります。
終わったら溶液は乾燥して、
改めて硝石を析出させるので、
残しておいてくださいと伝えて欲しいであります」
少女「包帯さんにそういえば判る?」
双子妹「はい、大丈夫でありますよ」
少女「わかった、じゃ、持って行くね」
双子妹「楽しみにしているであります」にぱっ
知らないでありますか」
少女「う、うん……」
双子妹「では、できてからのお楽しみという事
でありましょうね」にこっ
少女(何を作るのか、包帯さんが教えてくれないから、
わざわざ双子妹ちゃんに聞こうとしたのに!
こんなかわいい笑顔を前にしたら、
判らないから教えてとは言えないって……)
双子妹「はい、ではこちらが、
粉末の硝石、半ポンドであります。
終わったら溶液は乾燥して、
改めて硝石を析出させるので、
残しておいてくださいと伝えて欲しいであります」
少女「包帯さんにそういえば判る?」
双子妹「はい、大丈夫でありますよ」
少女「わかった、じゃ、持って行くね」
双子妹「楽しみにしているであります」にぱっ
264: 再起動してきた>< 2011/05/27(金) 00:32:09.11 ID:gnbbZmEVo
------------------------------------------------
夕方 海賊船 談話室 調理場
包帯「ありがと、助かるよ」
少女「コレをどうするんです?」
包帯「ココに金属製のボウルがあるよね。
この中に卵を三個入れて、
白っぽく成るまで泡立ててくれるかな?」
少女「はーい」 かしゃかしゃかしゃ
包帯 ざっざっざ
少女(包帯さん、作業はやいなー……)
少女「よ、と。できましたよー」
包帯「うん、じゃ、そのままコッチのボウルの、
砂糖と香料入りの生クリームも、
泡立ててもらえる?」
少女「砂糖ですか?!」
包帯「今日はせっかくの宴会だからね。
ちょっと豪華に作ろうと思って」にこっ
少女「ちょっと豪華って程度じゃないですよ」
夕方 海賊船 談話室 調理場
包帯「ありがと、助かるよ」
少女「コレをどうするんです?」
包帯「ココに金属製のボウルがあるよね。
この中に卵を三個入れて、
白っぽく成るまで泡立ててくれるかな?」
少女「はーい」 かしゃかしゃかしゃ
包帯 ざっざっざ
少女(包帯さん、作業はやいなー……)
少女「よ、と。できましたよー」
包帯「うん、じゃ、そのままコッチのボウルの、
砂糖と香料入りの生クリームも、
泡立ててもらえる?」
少女「砂糖ですか?!」
包帯「今日はせっかくの宴会だからね。
ちょっと豪華に作ろうと思って」にこっ
少女「ちょっと豪華って程度じゃないですよ」
265: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:32:39.10 ID:gnbbZmEVo
包帯「今日はせっかくだから、
胡椒も使うよ?」にこっ
少女「わ、わ、わ……」
包帯「ほら、よだれがたれてるよ?」
少女「あ、はい」(////
包帯「最近はまた、
ベネッタとトルキアの仲が悪化して、
欧州全体で砂糖と香辛料の値段が上がったけど、
強奪品だからね。
値段は気にしないでいいし」
少女「いや、商品ですよね、それ」
包帯「まあ、そこは臨機応変に。
せっかくのおいしい食べ物だから、
食べて見たいっていうのは当然の欲求だよ」
少女 ごくりっ
包帯「生クリームはそれくらいかな。
それじゃ、へらをつかって、
生クリームを泡立てた卵のボウルにいれて、
切るように混ぜて行くんだけど……」
少女「だけど?」
胡椒も使うよ?」にこっ
少女「わ、わ、わ……」
包帯「ほら、よだれがたれてるよ?」
少女「あ、はい」(////
包帯「最近はまた、
ベネッタとトルキアの仲が悪化して、
欧州全体で砂糖と香辛料の値段が上がったけど、
強奪品だからね。
値段は気にしないでいいし」
少女「いや、商品ですよね、それ」
包帯「まあ、そこは臨機応変に。
せっかくのおいしい食べ物だから、
食べて見たいっていうのは当然の欲求だよ」
少女 ごくりっ
包帯「生クリームはそれくらいかな。
それじゃ、へらをつかって、
生クリームを泡立てた卵のボウルにいれて、
切るように混ぜて行くんだけど……」
少女「だけど?」
266: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:34:53.19 ID:gnbbZmEVo
包帯「この桶に張った水の中に、
金属製のボウルを浮かせて」
少女「はい」
包帯「この魔法の粉こと、硝石をね。
何度かに分けて、水にさらさらーっと入れて、
棒でぐるぐるーっと混ぜると……」
少女「ゆっくり白いのが浮いてきてますけど」そーっ
包帯「あ、触らないでっ」
少女 びくっ
包帯「念のためにね。
調理中の手に付けて欲しくないし」
少女「あの、硝石って火薬に使う粉ですよね。
なんで料理に使うんです?」
包帯「その答えが、コレ。
白いのが大きくなってきたから、
そろそろ判るかな?」
少女「これ、氷ですか?」
包帯「そう。水に溶かすと温度を下げて、
氷を作る性質があるらしいんだ。
双子妹くんの受け売りだけどね」
金属製のボウルを浮かせて」
少女「はい」
包帯「この魔法の粉こと、硝石をね。
何度かに分けて、水にさらさらーっと入れて、
棒でぐるぐるーっと混ぜると……」
少女「ゆっくり白いのが浮いてきてますけど」そーっ
包帯「あ、触らないでっ」
少女 びくっ
包帯「念のためにね。
調理中の手に付けて欲しくないし」
少女「あの、硝石って火薬に使う粉ですよね。
なんで料理に使うんです?」
包帯「その答えが、コレ。
白いのが大きくなってきたから、
そろそろ判るかな?」
少女「これ、氷ですか?」
包帯「そう。水に溶かすと温度を下げて、
氷を作る性質があるらしいんだ。
双子妹くんの受け売りだけどね」
267: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:37:28.86 ID:gnbbZmEVo
少女「氷って人の手で作れるんだ……」
包帯「今まではできなかったね。
貴族にとっても夏場の氷は貴重って事で、
氷室なんかを地下に作って、
冬の氷の塊をためておくのがせいぜい」
少女「来客用ですからねー」
包帯「……」
少女「どうしました?」
包帯「ああいや。なんでもないよ」にこっ
少女「へー……
あ、もうほとんど固まった」
包帯「まだもうちょっとかな。
コレの氷の上に振りまくと、
さらに温度が下がるから……
金属製のボウルのおかげで、
中まで凍り始めてるよね」
少女「あ、少し固くなってるような」
包帯「ちょっと手間がかかるけど、
コレがサクッっていうか、シュクッてなるまで、
何度か硝石を足しながら混ぜてくれないかな?
ちょっと時間がかかると思うけど」
包帯「今まではできなかったね。
貴族にとっても夏場の氷は貴重って事で、
氷室なんかを地下に作って、
冬の氷の塊をためておくのがせいぜい」
少女「来客用ですからねー」
包帯「……」
少女「どうしました?」
包帯「ああいや。なんでもないよ」にこっ
少女「へー……
あ、もうほとんど固まった」
包帯「まだもうちょっとかな。
コレの氷の上に振りまくと、
さらに温度が下がるから……
金属製のボウルのおかげで、
中まで凍り始めてるよね」
少女「あ、少し固くなってるような」
包帯「ちょっと手間がかかるけど、
コレがサクッっていうか、シュクッてなるまで、
何度か硝石を足しながら混ぜてくれないかな?
ちょっと時間がかかると思うけど」
268: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:38:16.22 ID:gnbbZmEVo
少女「はーい、了解です。
でも、一つ質問していいです?」
包帯「ん、なにかな?」
少女「せっかく凍らせてくれるなら、
硝石をそのまま中に入れたり……」
包帯「……」
少女「しない方がいいんですね!」
包帯「少なくとも僕は……いやかな」
少女「体に悪いんですか?」
包帯「んー、どうだろう。
危ないかどうかは正直に言えば、
試していないから判らないかな。
双子妹くんならもしかしたら知ってるかも
しれないけれど、
そもそも知っているって事を知りたくないような」
少女「い、いったいなんなんですか」
包帯「……その硝石ってさ」
少女「はい」 ごくり
でも、一つ質問していいです?」
包帯「ん、なにかな?」
少女「せっかく凍らせてくれるなら、
硝石をそのまま中に入れたり……」
包帯「……」
少女「しない方がいいんですね!」
包帯「少なくとも僕は……いやかな」
少女「体に悪いんですか?」
包帯「んー、どうだろう。
危ないかどうかは正直に言えば、
試していないから判らないかな。
双子妹くんならもしかしたら知ってるかも
しれないけれど、
そもそも知っているって事を知りたくないような」
少女「い、いったいなんなんですか」
包帯「……その硝石ってさ」
少女「はい」 ごくり
269: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/27(金) 00:41:28.01 ID:gnbbZmEVo
包帯「……いや、やめておこう。
そこは双子妹くんみたいに、
きっぱりと分ける事ができるような人じゃないと、
知らない方がいいと思う」
少女「ちょ、何ですか!
そんな風に言われたら気になるじゃないですか!」
包帯「おいしい食べ物はおいしいで済ませるのが、
賢い生き方ってものだと思うよ……ははは」
少女「……」
包帯「とりあえずある程度固まったら、
後は放っておいても平気だから。
むしろあんまりかき回すとよくないし」
少女「あ、そうなんです?」
包帯「そっちが終わったら、
他にもやることはあるからね。
どんどん手伝ってもらうよ」
少女「えっと、その、
泡立ての作業で、ちょっと腕がつかれたなーなんて」
包帯「無理しない程度に休みながらでいいよ。
無理して働く必要はないから」
少女「う、そういわれると、逆に頑張ります……」
そこは双子妹くんみたいに、
きっぱりと分ける事ができるような人じゃないと、
知らない方がいいと思う」
少女「ちょ、何ですか!
そんな風に言われたら気になるじゃないですか!」
包帯「おいしい食べ物はおいしいで済ませるのが、
賢い生き方ってものだと思うよ……ははは」
少女「……」
包帯「とりあえずある程度固まったら、
後は放っておいても平気だから。
むしろあんまりかき回すとよくないし」
少女「あ、そうなんです?」
包帯「そっちが終わったら、
他にもやることはあるからね。
どんどん手伝ってもらうよ」
少女「えっと、その、
泡立ての作業で、ちょっと腕がつかれたなーなんて」
包帯「無理しない程度に休みながらでいいよ。
無理して働く必要はないから」
少女「う、そういわれると、逆に頑張ります……」
282: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:52:42.89 ID:Hh9tyfhJo
------------------------------------------------
夜 船倉三階船室前
少女「あー、うー……
やっぱり白髪さんについてきてもらえば、
よかったかもしれない」
少女(大した量じゃない、
お裾分け程度の中身しか乗ってないお盆が、
これほど重く感じるのは初めてだよ……)
少女「でも、仕方ない。 女は度胸だよねっ!」
とことこ
少女「こんばんはー」
こんこんこん
■「……ドうZO」
少女「お、おじゃましまーす」
ぎぃぃぃい
少女(う、めまいがしそうなくらいに濃い、潮の臭い。
それから、どうしても、直視できない姿……)
■「いイ……におヰ」
夜 船倉三階船室前
少女「あー、うー……
やっぱり白髪さんについてきてもらえば、
よかったかもしれない」
少女(大した量じゃない、
お裾分け程度の中身しか乗ってないお盆が、
これほど重く感じるのは初めてだよ……)
少女「でも、仕方ない。 女は度胸だよねっ!」
とことこ
少女「こんばんはー」
こんこんこん
■「……ドうZO」
少女「お、おじゃましまーす」
ぎぃぃぃい
少女(う、めまいがしそうなくらいに濃い、潮の臭い。
それから、どうしても、直視できない姿……)
■「いイ……におヰ」
283: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:53:10.70 ID:Hh9tyfhJo
少女「あのね、今日は接岸してるから、
ゴミとか積載とか気にしなくていいって事で、
上で宴会をやってるんだけど」
■「うン、……にGIIIゃ、カ」
少女(なんでこう、声を聞いてるだけで!
全身に鳥肌が立って手が震えてくるかなっ)
■「音ガくがKIれい」
少女「うん、この音楽は包帯さンが、
レベックを弾いてるオトかな」
~♪~♪
少女「それでね、甲板にあがってもらうのハ、
もしかしたら騒ぎになっちゃうカラできないけど、
きぶんだけでも一緒に味わってほしくて、
りょうりのおすそわけニきたの」
■「おフそ……わケ」
少女「お、す、そ、わ、け」
■「お……ス、SO、わケ」
少女「うん、たぶんソレ。
それじゃ、わたしはウエにいかせてもらうね」
ゴミとか積載とか気にしなくていいって事で、
上で宴会をやってるんだけど」
■「うン、……にGIIIゃ、カ」
少女(なんでこう、声を聞いてるだけで!
全身に鳥肌が立って手が震えてくるかなっ)
■「音ガくがKIれい」
少女「うん、この音楽は包帯さンが、
レベックを弾いてるオトかな」
~♪~♪
少女「それでね、甲板にあがってもらうのハ、
もしかしたら騒ぎになっちゃうカラできないけど、
きぶんだけでも一緒に味わってほしくて、
りょうりのおすそわけニきたの」
■「おフそ……わケ」
少女「お、す、そ、わ、け」
■「お……ス、SO、わケ」
少女「うん、たぶんソレ。
それじゃ、わたしはウエにいかせてもらうね」
284: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:53:37.49 ID:Hh9tyfhJo
■「ありガとウ」
少女「どうイたしまして」にこっ
■ ずさずさ
ぱたん
少女「ぜ、……はぁ」
よろよろ
少女(からDAじゅうから、あせがふきだしてる……
なんていうか、クマのくちのナかにいたきぶん。
ユビさきのふるエもずっとトまってなイし)
少女「すごい、すがた だった……
ハマに あがった クじラくらい大きくて、
タコと ひとを まぜそこねた みたいな」
少女(でも、よろこんでくれたみたいで、
それはスナオにうれしかったかも)
よたよた
少女「うー。とりあえず、しんせんな空気で、
しんこきゅうがしたいなぁ……」
少女「どうイたしまして」にこっ
■ ずさずさ
ぱたん
少女「ぜ、……はぁ」
よろよろ
少女(からDAじゅうから、あせがふきだしてる……
なんていうか、クマのくちのナかにいたきぶん。
ユビさきのふるエもずっとトまってなイし)
少女「すごい、すがた だった……
ハマに あがった クじラくらい大きくて、
タコと ひとを まぜそこねた みたいな」
少女(でも、よろこんでくれたみたいで、
それはスナオにうれしかったかも)
よたよた
少女「うー。とりあえず、しんせんな空気で、
しんこきゅうがしたいなぁ……」
285: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:54:32.44 ID:Hh9tyfhJo
------------------------------------------------
夜 海賊船甲板
わいわいがやがや
狼「遅ったから、先に始めてるよ」
少女「あははー、気にしないで。
まだちょっと、風に当たらないと食べられないし」
双子姉「んんー、お姉ちゃんは何してたの?
おいしい料理がちょっと冷めちゃうよ?」まぐまぐ
包帯「石を敷いてるから、すぐには冷めないけどね」
少女「いやぁ、せっかくの宴会だし、
気分だけでも『彼』にも味わってもらいたくて、
ちょっとお裾分けしてきたんだ」
男「ほう……扉の前に置いてきたのか?」
少女「ちゃんと手渡ししてきたよ?」
双子妹「手渡し、で、ありますか?」ぽろり
少女「あ、ちょっと、ほらこぼれちゃってるよ」
狼「まさかとは思うけど、扉の中に入ったの?」
少女「うん、すごい姿でびっくりしたよ。あはは」
夜 海賊船甲板
わいわいがやがや
狼「遅ったから、先に始めてるよ」
少女「あははー、気にしないで。
まだちょっと、風に当たらないと食べられないし」
双子姉「んんー、お姉ちゃんは何してたの?
おいしい料理がちょっと冷めちゃうよ?」まぐまぐ
包帯「石を敷いてるから、すぐには冷めないけどね」
少女「いやぁ、せっかくの宴会だし、
気分だけでも『彼』にも味わってもらいたくて、
ちょっとお裾分けしてきたんだ」
男「ほう……扉の前に置いてきたのか?」
少女「ちゃんと手渡ししてきたよ?」
双子妹「手渡し、で、ありますか?」ぽろり
少女「あ、ちょっと、ほらこぼれちゃってるよ」
狼「まさかとは思うけど、扉の中に入ったの?」
少女「うん、すごい姿でびっくりしたよ。あはは」
286: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:55:00.91 ID:Hh9tyfhJo
全員「……」
少女「え、なに、どうしたの?」
狼「こういうの、肝が太いっていうのかな?」
男「鈍感なんだろう」
少女「ちょっと、鈍感とかなによ!
せっかく仲間が寂しくないようにって、
気を利かせただけなのに!」
狼「……あきれたわ」
双子姉「……見ても平気なのかな?」
男「間違っても見ようと思うな。
少女、お前は明日から一週間の間、
通常業務に加えて甲板清掃と船倉整理だ」
少女「え、ええ、ホントになに?!」
双子妹「あの『彼』の部屋に、
船長の許可無く入ったら、そんな罰則であります」
少女「私はただ、晩ご飯を届けにいっただけなのに」
包帯「実はね、以前、船長の許可を取らずに、
勝手にあの部屋に入って……」
少女「入って?」
少女「え、なに、どうしたの?」
狼「こういうの、肝が太いっていうのかな?」
男「鈍感なんだろう」
少女「ちょっと、鈍感とかなによ!
せっかく仲間が寂しくないようにって、
気を利かせただけなのに!」
狼「……あきれたわ」
双子姉「……見ても平気なのかな?」
男「間違っても見ようと思うな。
少女、お前は明日から一週間の間、
通常業務に加えて甲板清掃と船倉整理だ」
少女「え、ええ、ホントになに?!」
双子妹「あの『彼』の部屋に、
船長の許可無く入ったら、そんな罰則であります」
少女「私はただ、晩ご飯を届けにいっただけなのに」
包帯「実はね、以前、船長の許可を取らずに、
勝手にあの部屋に入って……」
少女「入って?」
287: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:55:38.16 ID:Hh9tyfhJo
包帯「三日三晩うなされたあげくに、
自分の全身の皮をひっかいてはがそうとして、
あげくに海に飛び込んだ船員がいてね」
少女「まさかそんな……」
男「まさかではない。
実際にそれが有ってから、
アイツ自身も人から姿を極力隠すようにしている。
だから俺達もそれに協力する形で、
興味本位で覗かないように罰則を付けたんだ」
少女「そんな、罰則とか聞いてないんだけど……」
男「船内を案内したのは白髪だったな。
説明されてないのか?」
少女「うん。普通に、仲良くしてやってくれって」
男「何を考えている、あの男は……
とにかく罰則は罰則だ。明日からやるように」
少女「うう、はーい。とばっちりだし……
そういえば、その白髪さんは?」
狼「さっきまではそこで飲んでたけど……
今はどこにいったんだか」
少女「探さなくていいの?」
自分の全身の皮をひっかいてはがそうとして、
あげくに海に飛び込んだ船員がいてね」
少女「まさかそんな……」
男「まさかではない。
実際にそれが有ってから、
アイツ自身も人から姿を極力隠すようにしている。
だから俺達もそれに協力する形で、
興味本位で覗かないように罰則を付けたんだ」
少女「そんな、罰則とか聞いてないんだけど……」
男「船内を案内したのは白髪だったな。
説明されてないのか?」
少女「うん。普通に、仲良くしてやってくれって」
男「何を考えている、あの男は……
とにかく罰則は罰則だ。明日からやるように」
少女「うう、はーい。とばっちりだし……
そういえば、その白髪さんは?」
狼「さっきまではそこで飲んでたけど……
今はどこにいったんだか」
少女「探さなくていいの?」
288: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:56:31.14 ID:Hh9tyfhJo
双子姉「いつもの事なんだよ。
白髪のおっちゃんは、じゆーじん、だからね」
包帯「要するに気まぐれなんだけどね。
心配しないでも、気が向いたら戻ってくるよ」
少女「せっかくの宴会なのにー」
狼「少女が来るのが遅いから……
一応、最初は一緒にいたんだから」
少女「だって、しばらく風に当たってないと、
ちょっとふらふらしちゃって」
男「だから立ち入り禁止なんだ……」ぼそっ
包帯「まあとりあえず、
少女くんも戻ってきたってことで、
改めて乾杯でもしようか」
狼「少女は、何を飲む?」
少女「あ、シードルとかもらえるとうれしいな-」
狼「はい……」とくとく
少女「ありがと」にこっ
包帯「それじゃ、改めて。
さっきはなし崩しに始まっちゃったけど、
男さんに乾杯の挨拶を――」
白髪のおっちゃんは、じゆーじん、だからね」
包帯「要するに気まぐれなんだけどね。
心配しないでも、気が向いたら戻ってくるよ」
少女「せっかくの宴会なのにー」
狼「少女が来るのが遅いから……
一応、最初は一緒にいたんだから」
少女「だって、しばらく風に当たってないと、
ちょっとふらふらしちゃって」
男「だから立ち入り禁止なんだ……」ぼそっ
包帯「まあとりあえず、
少女くんも戻ってきたってことで、
改めて乾杯でもしようか」
狼「少女は、何を飲む?」
少女「あ、シードルとかもらえるとうれしいな-」
狼「はい……」とくとく
少女「ありがと」にこっ
包帯「それじゃ、改めて。
さっきはなし崩しに始まっちゃったけど、
男さんに乾杯の挨拶を――」
289: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:57:05.98 ID:Hh9tyfhJo
男「面倒な事をさせるな」
包帯「そうはいっても、船長なんだから」
男「大した意味などない」
包帯「まあ、とにかくさ、ささっと何か一言ね」
男「……白髪がいればやらせるものを。
どこに行ったんだ」ぶつぶつ
少女「あ、双子姉ちゃん、
まだ、乾杯過ぎてから飲まないと」
双子姉「もう飲んじゃってるし、狼のお姉ちゃんも」
狼「ん?」ぐびぐび
男「……」
包帯「あはは……」
男「明日からはまた長い航海になるはずだ。
騒ぎすぎない程度に騒いで、早朝の出発に備えろ。
以上、乾杯だ」
全員「かんぱーいっ!」
包帯「そうはいっても、船長なんだから」
男「大した意味などない」
包帯「まあ、とにかくさ、ささっと何か一言ね」
男「……白髪がいればやらせるものを。
どこに行ったんだ」ぶつぶつ
少女「あ、双子姉ちゃん、
まだ、乾杯過ぎてから飲まないと」
双子姉「もう飲んじゃってるし、狼のお姉ちゃんも」
狼「ん?」ぐびぐび
男「……」
包帯「あはは……」
男「明日からはまた長い航海になるはずだ。
騒ぎすぎない程度に騒いで、早朝の出発に備えろ。
以上、乾杯だ」
全員「かんぱーいっ!」
290: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:57:33.29 ID:Hh9tyfhJo
少女「っていうか、私きいてなかったけど、
明日出航だったの?」
包帯「上陸してすぐに説明したんだけどね……」
男「コイツはそういう生き物だ。
どうしても覚えさせたければ、
繰り返し口にするしかない」
少女「酷いなー。
だいたい男が私の何をしってるのさ!」
男「……知りたいか?」
少女「う、え? なんでそんなマジな顔で?」
男「思ったよりも細かく、
情報屋がお前の事を調べて来てくれてな」
少女「情報屋?」
男「初日に上陸した時に、
白髪を情報屋に向かわせただろう。
あのときについでにお前の情報を求めたんだ」
少女「そんな事してたんだ……」
男「雇用主として、一応な」
少女「うう、あまり変な事が伝わってませんように」
明日出航だったの?」
包帯「上陸してすぐに説明したんだけどね……」
男「コイツはそういう生き物だ。
どうしても覚えさせたければ、
繰り返し口にするしかない」
少女「酷いなー。
だいたい男が私の何をしってるのさ!」
男「……知りたいか?」
少女「う、え? なんでそんなマジな顔で?」
男「思ったよりも細かく、
情報屋がお前の事を調べて来てくれてな」
少女「情報屋?」
男「初日に上陸した時に、
白髪を情報屋に向かわせただろう。
あのときについでにお前の情報を求めたんだ」
少女「そんな事してたんだ……」
男「雇用主として、一応な」
少女「うう、あまり変な事が伝わってませんように」
291: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:58:02.40 ID:Hh9tyfhJo
狼「変な事って、どうしたの?」
少女「い、いや、なんでもない――って!!
狼さん、服! 胸!!」
「ん?」
少女「ほとんど見えてるって!
ほら、男も包帯もコッチ見ない!」がるる
男「いつもの事だ……」
包帯「あはは、眼福だけどね」
少女「この男共ときたら……」
狼「どうしたのよ?」
少女「どうしたも何も、なんで半裸なんですか!」
狼「別に、これくらい」
双子姉「あーあ……」
少女「双子姉ちゃん、なんであきらめた顔してるの?」
双子姉「狼のお姉ちゃんってたまに、
酔っぱらうと脱ぎ出すんだよね」
少女「い、いや、なんでもない――って!!
狼さん、服! 胸!!」
「ん?」
少女「ほとんど見えてるって!
ほら、男も包帯もコッチ見ない!」がるる
男「いつもの事だ……」
包帯「あはは、眼福だけどね」
少女「この男共ときたら……」
狼「どうしたのよ?」
少女「どうしたも何も、なんで半裸なんですか!」
狼「別に、これくらい」
双子姉「あーあ……」
少女「双子姉ちゃん、なんであきらめた顔してるの?」
双子姉「狼のお姉ちゃんってたまに、
酔っぱらうと脱ぎ出すんだよね」
292: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:58:29.90 ID:Hh9tyfhJo
包帯「基本的にはそうなる前に止めたり、
眠っちゃったりするんだけどね」
狼「あたし酔っぱらってないし」むすっ
少女「うん、酔っぱらってるようには見えないけど」
包帯「そこが厄介なんだよね。
あ、男さん、そっちのチーズ取って」
男「ほれ」
包帯「ありがと」にこっ
少女「……なんか、本当に普段通りっていうか」
包帯「まあ、妹みたいなものだからね。
僕にとっては。
男さんにとってもそんな感じでしょ?」
男「……否定はしない」
包帯「あはは、かわいいなー」なでなで
男「やめろ。……酔ってより厄介なのはお前だな」
包帯「そんな事ないって。
狼くんの第二段階のが厄介だとおもうよ?」
少女「第二段階って――ひぃっっ?!」
眠っちゃったりするんだけどね」
狼「あたし酔っぱらってないし」むすっ
少女「うん、酔っぱらってるようには見えないけど」
包帯「そこが厄介なんだよね。
あ、男さん、そっちのチーズ取って」
男「ほれ」
包帯「ありがと」にこっ
少女「……なんか、本当に普段通りっていうか」
包帯「まあ、妹みたいなものだからね。
僕にとっては。
男さんにとってもそんな感じでしょ?」
男「……否定はしない」
包帯「あはは、かわいいなー」なでなで
男「やめろ。……酔ってより厄介なのはお前だな」
包帯「そんな事ないって。
狼くんの第二段階のが厄介だとおもうよ?」
少女「第二段階って――ひぃっっ?!」
293: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:58:57.61 ID:Hh9tyfhJo
狼 ぺろり、じゅるっ
少女「ちょ、や、やめっ。何してるの?!」
双子姉「狼のお姉ちゃんは酔うと、
人を食べ始めるクセがあるんだよねー」
双子妹「食べるというと語弊があるでありますよ。
甘噛みをする、舐めるなどが正しい表現で……」
双子姉「はいはい。妹も酔っちゃって、まったく」
包帯「あれ、君たちにはジュースだけしか、
出してないはずなんだけど?」
双子姉「うん、リンゴのジュースの古くなったのね」
包帯「ああ、古くなっちゃってたなら、仕方ないか」
双子姉「うん、しかたない」
包帯「……なんて言うと思う?」
双子姉「だめ?」
男「双子も明日から、少女と一緒に倉庫整理だ」
双子姉「ぶーぶー」
少女「ちょ、や、やめっ。何してるの?!」
双子姉「狼のお姉ちゃんは酔うと、
人を食べ始めるクセがあるんだよねー」
双子妹「食べるというと語弊があるでありますよ。
甘噛みをする、舐めるなどが正しい表現で……」
双子姉「はいはい。妹も酔っちゃって、まったく」
包帯「あれ、君たちにはジュースだけしか、
出してないはずなんだけど?」
双子姉「うん、リンゴのジュースの古くなったのね」
包帯「ああ、古くなっちゃってたなら、仕方ないか」
双子姉「うん、しかたない」
包帯「……なんて言うと思う?」
双子姉「だめ?」
男「双子も明日から、少女と一緒に倉庫整理だ」
双子姉「ぶーぶー」
294: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:59:24.34 ID:Hh9tyfhJo
双子妹「ところで」
包帯「ん、なにかな?」
少女「や、ちょ、そんなトコかまないで」
狼 ぺろっ、かぷっ
少女「やだっ、耳はだめぇっ」
双子妹「アレはいいのでありますか?」
包帯「愉しんでる見たいだし、いいんじゃないかな?
でも、君たちはあんまり見ちゃダメだよ」
双子妹「矛盾でありますな」
包帯「大人って、そういう矛盾を飲み込む事で、
一歩ずつその階段を上るものだよ」
双子妹「そういうものでありますか」
包帯「そういうものだよ」
少女「もう、だれか、助けてっ。
助けてよーっ!」
狼 ちゅぱっ、じゅるる
少女「ひい、やらぁっ」
包帯「ん、なにかな?」
少女「や、ちょ、そんなトコかまないで」
狼 ぺろっ、かぷっ
少女「やだっ、耳はだめぇっ」
双子妹「アレはいいのでありますか?」
包帯「愉しんでる見たいだし、いいんじゃないかな?
でも、君たちはあんまり見ちゃダメだよ」
双子妹「矛盾でありますな」
包帯「大人って、そういう矛盾を飲み込む事で、
一歩ずつその階段を上るものだよ」
双子妹「そういうものでありますか」
包帯「そういうものだよ」
少女「もう、だれか、助けてっ。
助けてよーっ!」
狼 ちゅぱっ、じゅるる
少女「ひい、やらぁっ」
295: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 09:59:50.50 ID:Hh9tyfhJo
双子妹「救助を求めていても」
包帯「仲が良いなーって笑っておくのが、
大人のたしなみだね」
男「実害は無いしな」
双子姉「……いままで、実害はずっと、
あたしに来てたんだけど……」
男「実害は無いしな」
双子姉「だから」
男「実害は無いしな」
双子姉「うう……っ」
包帯「あ、でもそろそろ止めたほうが良いかな。
そろそろ本当に、狼くんが噛みつきかねないし。
お酒で本能が目覚める事さえ無ければ、
狼くんは手がかからないんだけど……」
男「む、そうか。だが、白髪は……」
包帯「いないから、今回は男さんだね」
男「……格闘は苦手なんだがな。
白髪のように、あっさり人を気絶させる技術など、
俺には持ち合わせがない」
包帯「仲が良いなーって笑っておくのが、
大人のたしなみだね」
男「実害は無いしな」
双子姉「……いままで、実害はずっと、
あたしに来てたんだけど……」
男「実害は無いしな」
双子姉「だから」
男「実害は無いしな」
双子姉「うう……っ」
包帯「あ、でもそろそろ止めたほうが良いかな。
そろそろ本当に、狼くんが噛みつきかねないし。
お酒で本能が目覚める事さえ無ければ、
狼くんは手がかからないんだけど……」
男「む、そうか。だが、白髪は……」
包帯「いないから、今回は男さんだね」
男「……格闘は苦手なんだがな。
白髪のように、あっさり人を気絶させる技術など、
俺には持ち合わせがない」
296: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:00:20.53 ID:Hh9tyfhJo
包帯「このまま、文字通り骨を拾うつもりで見守る?」
男「……それはそれで」
少女「ちょっと、助けて、っひゃん」
双子妹「……助けてもいいでありますか?」
包帯「ん? できるのかい?
ああなった狼くんは、とりあえず寝かさないと
どうにもならないと思うけど」
双子妹「代わりにお肉を差し出せば、
何とかなると思うのでありますよ」
双子姉「……で、なんで妹ったら、
あたしの背中を押そうとするの?」
双子妹「間違えました。こちらであります」
双子姉(酔っぱらってるからだよね?
あたしの事、心の底ではお肉扱いしてないよね?!)
男「ああ、狼に頼まれて買ってきた、
まだ柔らかい塩漬け肉か」
双子妹「狼のお姉様の大好物でありますから」
包帯「たしかに、それなら大丈夫かな……?」
男「……それはそれで」
少女「ちょっと、助けて、っひゃん」
双子妹「……助けてもいいでありますか?」
包帯「ん? できるのかい?
ああなった狼くんは、とりあえず寝かさないと
どうにもならないと思うけど」
双子妹「代わりにお肉を差し出せば、
何とかなると思うのでありますよ」
双子姉「……で、なんで妹ったら、
あたしの背中を押そうとするの?」
双子妹「間違えました。こちらであります」
双子姉(酔っぱらってるからだよね?
あたしの事、心の底ではお肉扱いしてないよね?!)
男「ああ、狼に頼まれて買ってきた、
まだ柔らかい塩漬け肉か」
双子妹「狼のお姉様の大好物でありますから」
包帯「たしかに、それなら大丈夫かな……?」
297: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:01:23.01 ID:Hh9tyfhJo
双子妹「狼のお姉様―」
狼「がるっ」
双子妹「お肉でありますよー」
狼 かぷっ♪
双子妹「釣れたであります」にぱっ
男「丁度良い、しばらく肉を与えて、
おとなしくさせておけ。
大丈夫か、少女?」
?『大丈夫か、少女?』
少女「うう、およめに、いけない……」
男「冗談が言えるなら平気だな」
少女「冗談にならないのに!
初日はけっこうあっさり対処できたけど、
狼さんってすごく、体重のかけ方が絶妙で、
組み付かれたら離せないし……」
男「アイツはこの船でも、
白髪に次ぐ近接要因だからな、
格闘、剣術に関しては俺よりも上だ」
少女「うう、だったら助けてよ……」
狼「がるっ」
双子妹「お肉でありますよー」
狼 かぷっ♪
双子妹「釣れたであります」にぱっ
男「丁度良い、しばらく肉を与えて、
おとなしくさせておけ。
大丈夫か、少女?」
?『大丈夫か、少女?』
少女「うう、およめに、いけない……」
男「冗談が言えるなら平気だな」
少女「冗談にならないのに!
初日はけっこうあっさり対処できたけど、
狼さんってすごく、体重のかけ方が絶妙で、
組み付かれたら離せないし……」
男「アイツはこの船でも、
白髪に次ぐ近接要因だからな、
格闘、剣術に関しては俺よりも上だ」
少女「うう、だったら助けてよ……」
298: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:01:56.96 ID:Hh9tyfhJo
双子妹「狼のお姉様―」
狼「がるっ」
双子妹「お肉でありますよー」
狼 かぷっ♪
双子妹「釣れたであります」にぱっ
男「丁度良い、しばらく肉を与えて、
おとなしくさせておけ。
大丈夫か、少女?」
?『大丈夫か、少女?』
少女「うう、およめに、いけない……」
男「冗談が言えるなら平気だな」
少女「冗談にならないのに!
初日はけっこうあっさり対処できたけど、
狼さんってすごく、体重のかけ方が絶妙で、
組み付かれたら離せないし……」
男「アイツはこの船でも、
白髪に次ぐ近接要因だからな、
格闘、剣術に関しては俺よりも上だ」
少女「うう、だったら助けてよ……」
狼「がるっ」
双子妹「お肉でありますよー」
狼 かぷっ♪
双子妹「釣れたであります」にぱっ
男「丁度良い、しばらく肉を与えて、
おとなしくさせておけ。
大丈夫か、少女?」
?『大丈夫か、少女?』
少女「うう、およめに、いけない……」
男「冗談が言えるなら平気だな」
少女「冗談にならないのに!
初日はけっこうあっさり対処できたけど、
狼さんってすごく、体重のかけ方が絶妙で、
組み付かれたら離せないし……」
男「アイツはこの船でも、
白髪に次ぐ近接要因だからな、
格闘、剣術に関しては俺よりも上だ」
少女「うう、だったら助けてよ……」
299: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:02:37.02 ID:Hh9tyfhJo
双子妹「狼のお姉様―」
狼「がるっ」
双子妹「お肉でありますよー」
狼 かぷっ♪
双子妹「釣れたであります」にぱっ
男「丁度良い、しばらく肉を与えて、
おとなしくさせておけ。
大丈夫か、少女?」
?『大丈夫か、少女?』
少女「うう、およめに、いけない……」
男「冗談が言えるなら平気だな」
少女「冗談にならないのに!
初日はけっこうあっさり対処できたけど、
狼さんってすごく、体重のかけ方が絶妙で、
組み付かれたら離せないし……」
男「アイツはこの船でも、
白髪に次ぐ近接要因だからな、
格闘、剣術に関しては俺よりも上だ」
少女「うう、だったら助けてよ……」
狼「がるっ」
双子妹「お肉でありますよー」
狼 かぷっ♪
双子妹「釣れたであります」にぱっ
男「丁度良い、しばらく肉を与えて、
おとなしくさせておけ。
大丈夫か、少女?」
?『大丈夫か、少女?』
少女「うう、およめに、いけない……」
男「冗談が言えるなら平気だな」
少女「冗談にならないのに!
初日はけっこうあっさり対処できたけど、
狼さんってすごく、体重のかけ方が絶妙で、
組み付かれたら離せないし……」
男「アイツはこの船でも、
白髪に次ぐ近接要因だからな、
格闘、剣術に関しては俺よりも上だ」
少女「うう、だったら助けてよ……」
300: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:03:08.46 ID:Hh9tyfhJo
男「船員同士のプライベートに、
俺はあまり介入しないことにしている」
少女「うう、そういう言葉を使うと、
なんとなく理解がある船長みたいに聞こえる……」
包帯「まあ、でも助かったから良かったね。
あのままだと、甘噛みじゃ済まなかったよ」
少女「それを笑顔で云える包帯さんが怖いです……」
包帯「いやあ、それほどでも……」
少女「だめだ、なんか悲しくなってきたよ」とぼとぼ
双子姉「あれ、お姉ちゃんはもう寝ちゃうの?」
少女「ちょっとお手洗いー」とぼとぼ
がちゃん
包帯「……少しからかい過ぎたかな?」
男「気にするような性格ではなかろう。
それよりも、そこのチーズを取ってくれ」
包帯「はい、あーん」にこっ
男「お前は確実に酔っているな…………」
俺はあまり介入しないことにしている」
少女「うう、そういう言葉を使うと、
なんとなく理解がある船長みたいに聞こえる……」
包帯「まあ、でも助かったから良かったね。
あのままだと、甘噛みじゃ済まなかったよ」
少女「それを笑顔で云える包帯さんが怖いです……」
包帯「いやあ、それほどでも……」
少女「だめだ、なんか悲しくなってきたよ」とぼとぼ
双子姉「あれ、お姉ちゃんはもう寝ちゃうの?」
少女「ちょっとお手洗いー」とぼとぼ
がちゃん
包帯「……少しからかい過ぎたかな?」
男「気にするような性格ではなかろう。
それよりも、そこのチーズを取ってくれ」
包帯「はい、あーん」にこっ
男「お前は確実に酔っているな…………」
301: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:04:30.02 ID:Hh9tyfhJo
------------------------------------------------
夜 船室
少女「うー、ちょっと怖かった。
ホントに食べられちゃうかと思ったよ……」
少女(言葉が通じないって怖いなー……
こないだはおとなしく寝ちゃってたけど、
狼さんの酒癖の悪さには注意しないと)
とことこ
少女(ん? みんなのいる甲板から見えない位置に、
誰かがいる?
もしかして侵入者とか……)
そーっ
少女(ああ、白髪さんか……)
少女「白髪さん、どうしたんですか、こんな……」
白髪 ぴくっ
少女(泣いて、る……?)
白髪「おう、格好悪い所見しちまったな」ごしごし
少女「えっと、その……」
夜 船室
少女「うー、ちょっと怖かった。
ホントに食べられちゃうかと思ったよ……」
少女(言葉が通じないって怖いなー……
こないだはおとなしく寝ちゃってたけど、
狼さんの酒癖の悪さには注意しないと)
とことこ
少女(ん? みんなのいる甲板から見えない位置に、
誰かがいる?
もしかして侵入者とか……)
そーっ
少女(ああ、白髪さんか……)
少女「白髪さん、どうしたんですか、こんな……」
白髪 ぴくっ
少女(泣いて、る……?)
白髪「おう、格好悪い所見しちまったな」ごしごし
少女「えっと、その……」
302: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:05:12.82 ID:Hh9tyfhJo
白髪「…………まあ、座れや」ぽんぽん
少女「……うん」
白髪「まだ飲めるよな?
回しのみだが、いくか?」ぐいっ
少女「ありがと……けほっ、つ、強っ。けほっ」
白髪「がはは、大丈夫か?」ぽんぽん
少女「うう、喉がやけそう……」
白髪「ほれ、水だ」
少女「んく、んく。ふぅ。
なにこれ、すごく強いお酒……」
白髪「錬金術師の酒だからな。
普段は水代わりのラムだが、酒っていやぁ、
こいつが一番さ」ぐびっ
少女「私は甘い方が好きだけどな……」
白髪「ふっ、まあ、コイツは大人の味だろうな」
少女「大人でも、別においしいってワケじゃないでしょ」
少女「……うん」
白髪「まだ飲めるよな?
回しのみだが、いくか?」ぐいっ
少女「ありがと……けほっ、つ、強っ。けほっ」
白髪「がはは、大丈夫か?」ぽんぽん
少女「うう、喉がやけそう……」
白髪「ほれ、水だ」
少女「んく、んく。ふぅ。
なにこれ、すごく強いお酒……」
白髪「錬金術師の酒だからな。
普段は水代わりのラムだが、酒っていやぁ、
こいつが一番さ」ぐびっ
少女「私は甘い方が好きだけどな……」
白髪「ふっ、まあ、コイツは大人の味だろうな」
少女「大人でも、別においしいってワケじゃないでしょ」
303: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:05:42.98 ID:Hh9tyfhJo
白髪「……確かに、甘いものにくらべりゃ、
口にしてたやすく、うまいとは云えんがな。
歳を食うと、むしろコレがたまらなくなるのさ」
少女「でも、白髪さんだって、
それほど歳ってわけじゃないんでしょ?」
白髪「中身はまあ、まだ若いつもりだがよ。
外側はもうダメだな。長持ちはしねぇよ」
少女「……」
白髪「嬢ちゃんよ。
お前さんは、なんで海になんぞ出ようと思った?」
少女「それは、その……
世界が見たいって思ったから」
白髪「それじゃ、どうして世界が見たいと思ったよ」
少女「……きっと、何にも知らないんだな、
知らずに終わるんだなって、思ったからかな?」
白髪「……」ぐびり
少女「お兄ちゃんがいたって話は、したよね」
白髪「聞いた気がするな」
口にしてたやすく、うまいとは云えんがな。
歳を食うと、むしろコレがたまらなくなるのさ」
少女「でも、白髪さんだって、
それほど歳ってわけじゃないんでしょ?」
白髪「中身はまあ、まだ若いつもりだがよ。
外側はもうダメだな。長持ちはしねぇよ」
少女「……」
白髪「嬢ちゃんよ。
お前さんは、なんで海になんぞ出ようと思った?」
少女「それは、その……
世界が見たいって思ったから」
白髪「それじゃ、どうして世界が見たいと思ったよ」
少女「……きっと、何にも知らないんだな、
知らずに終わるんだなって、思ったからかな?」
白髪「……」ぐびり
少女「お兄ちゃんがいたって話は、したよね」
白髪「聞いた気がするな」
304: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:06:09.59 ID:Hh9tyfhJo
少女「あれは、今から八年前かな。
お父さんの乳母兄妹の人が、
旦那さんに暴力をふるわれていたみたいで」
白髪「女房を殴る旦那なんて、
またロクでもねぇのを掴んじまったな……」
少女「私も何度か会った事があるけど、
お酒さえ飲まなければいい人で、
当時はよく分かってないけど、
普段からは想像もできなかったなぁ……」
白髪「まあ、そういう相手なら最初から、
添い遂げようとはしねぇだろうからな」
少女「でね、そうやって殴られても、
一神教では離婚は認められてないから、
ずっと耐えてたらしいの」
白髪「……」
少女「でも、一神教では一つだけ、
離婚を認める条件があって……」
白髪「ああ、話が読めたぜ」
少女「うん。ウチのお父さんが、
不倫が理由なら分かれられるから、
不倫をしたことにしようって言って」
お父さんの乳母兄妹の人が、
旦那さんに暴力をふるわれていたみたいで」
白髪「女房を殴る旦那なんて、
またロクでもねぇのを掴んじまったな……」
少女「私も何度か会った事があるけど、
お酒さえ飲まなければいい人で、
当時はよく分かってないけど、
普段からは想像もできなかったなぁ……」
白髪「まあ、そういう相手なら最初から、
添い遂げようとはしねぇだろうからな」
少女「でね、そうやって殴られても、
一神教では離婚は認められてないから、
ずっと耐えてたらしいの」
白髪「……」
少女「でも、一神教では一つだけ、
離婚を認める条件があって……」
白髪「ああ、話が読めたぜ」
少女「うん。ウチのお父さんが、
不倫が理由なら分かれられるから、
不倫をしたことにしようって言って」
305: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:07:01.75 ID:Hh9tyfhJo
白髪「またずいぶんとやらかす人だな……」
少女「うん、目的のためには手段なんて、
基本的には選ばない人だったからね」
白髪「で、どうなったよ」
少女「お母さんもだいぶ前に天に召されてたし、
生まれた時から一緒にいた人を助けるためなら、
ある程度の汚名なら喜んで受け入れたいって、
私に謝りに来てね」
白髪「まあ、親が不倫をしたって話なら、
子にも何かしらあるからな……」
少女「まあ、幸いウチみたいに小さい島じゃ、
いつの間にか事情なんて知れてるんだけどね。
その人は島の外にお嫁に行ってたから、
会った事もなかったんだけど、
そういう事情なら良いよって私も迎えて……」
白髪「ほぅ」
少女「で、それからしばらくしても、
まだその人が来なくて、
いい加減どうしたのかってお父さんと心配してたら、
ある日海辺に人が漂着してね……」
白髪「穏やかじゃねぇな」
少女「うん、目的のためには手段なんて、
基本的には選ばない人だったからね」
白髪「で、どうなったよ」
少女「お母さんもだいぶ前に天に召されてたし、
生まれた時から一緒にいた人を助けるためなら、
ある程度の汚名なら喜んで受け入れたいって、
私に謝りに来てね」
白髪「まあ、親が不倫をしたって話なら、
子にも何かしらあるからな……」
少女「まあ、幸いウチみたいに小さい島じゃ、
いつの間にか事情なんて知れてるんだけどね。
その人は島の外にお嫁に行ってたから、
会った事もなかったんだけど、
そういう事情なら良いよって私も迎えて……」
白髪「ほぅ」
少女「で、それからしばらくしても、
まだその人が来なくて、
いい加減どうしたのかってお父さんと心配してたら、
ある日海辺に人が漂着してね……」
白髪「穏やかじゃねぇな」
306: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:07:49.43 ID:Hh9tyfhJo
少女「うん、穏やかじゃなかった。
なにせ、海を渡ってくる途中で海賊に遭って、
その人の息子さんだけが何とか逃れて、
何日も海をさまよって来たって」
白髪「……そいつは、神だって恨むな」
少女「うん。結局お父さんの乳母兄妹の人は、
いつまで経っても見つからないでね。
お父さんはその息子さんを、
自分の本当の家族と思って欲しいって言って、
私もお兄ちゃんって呼ぶようになったの」
白髪「なるほど」
少女「生まれて初めてできたキョウダイだから、
自分でもかなり懐いてるなーって思うくらい、
時間があれば一緒にいたんだけど、
そのお兄ちゃんが剣を振るったり、
島の軍の人たちと銃の訓練とかをしてたから、
私も自然と、遊ぶときはそこに混じるようになって」
白髪「それでこんなじゃじゃ馬になったワケか」
少女「うーん、その時点だとまだ、
剣を振り回すとか言っても、
ちょっと危ない棒っきれくらいで、
剣術とかは全然だったから、一概にそうは言えない」
なにせ、海を渡ってくる途中で海賊に遭って、
その人の息子さんだけが何とか逃れて、
何日も海をさまよって来たって」
白髪「……そいつは、神だって恨むな」
少女「うん。結局お父さんの乳母兄妹の人は、
いつまで経っても見つからないでね。
お父さんはその息子さんを、
自分の本当の家族と思って欲しいって言って、
私もお兄ちゃんって呼ぶようになったの」
白髪「なるほど」
少女「生まれて初めてできたキョウダイだから、
自分でもかなり懐いてるなーって思うくらい、
時間があれば一緒にいたんだけど、
そのお兄ちゃんが剣を振るったり、
島の軍の人たちと銃の訓練とかをしてたから、
私も自然と、遊ぶときはそこに混じるようになって」
白髪「それでこんなじゃじゃ馬になったワケか」
少女「うーん、その時点だとまだ、
剣を振り回すとか言っても、
ちょっと危ない棒っきれくらいで、
剣術とかは全然だったから、一概にそうは言えない」
307: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:08:36.25 ID:Hh9tyfhJo
白髪「なら、その先が、今みたいになった理由か」
少女「うん。お兄ちゃんが来て一年経った頃。
お父さんと一緒に、家族になって一年の節目って事で、
パーティーでもしようかって話した後に、
お兄ちゃんの部屋に行ったら置き手紙だけを残して、
旅に出ちゃってたの」
白髪「……ずいぶんと忙しいヤツだ」
少女「でも、仕方ないのかも。
お母さんを海賊に殺されてから、
ずっとずっと、その○人が許せないって、
それが頭から離れなかったみたい」
白髪「平和に生きる機会だったものを」
少女「それを捨ててでも、仇討ちがしたかったって、
そういう事なんだと思う。
で、二年近く経ってから、
お父さんが『風の噂に死んだと聞いた』って」
白髪「……」ぐびり
少女「でも、なんとなくまだ信じられなくて。
さっきも言ったけど、すごく懐いててね。
お母さんは私の生まれた時に主に召されてたし、
たった一年の家族だったけれど、
それでも初めて私が体験する家族の死で……」
少女「うん。お兄ちゃんが来て一年経った頃。
お父さんと一緒に、家族になって一年の節目って事で、
パーティーでもしようかって話した後に、
お兄ちゃんの部屋に行ったら置き手紙だけを残して、
旅に出ちゃってたの」
白髪「……ずいぶんと忙しいヤツだ」
少女「でも、仕方ないのかも。
お母さんを海賊に殺されてから、
ずっとずっと、その○人が許せないって、
それが頭から離れなかったみたい」
白髪「平和に生きる機会だったものを」
少女「それを捨ててでも、仇討ちがしたかったって、
そういう事なんだと思う。
で、二年近く経ってから、
お父さんが『風の噂に死んだと聞いた』って」
白髪「……」ぐびり
少女「でも、なんとなくまだ信じられなくて。
さっきも言ったけど、すごく懐いててね。
お母さんは私の生まれた時に主に召されてたし、
たった一年の家族だったけれど、
それでも初めて私が体験する家族の死で……」
308: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:09:10.34 ID:Hh9tyfhJo
白髪「初めての死か。
そりゃ、信じられねぇもんだな」
少女「遺髪とかがあったわけでも、ないしね。
それでふっと、あの人が何を思って、
どんな風に生きたのかを知りたいって思いが、
それまで以上に強くなって。
軍に入るきっかけになったのは、それかな」
白髪「なるほど。ただのじゃじゃ馬っていうよりは、
王子様を追うお姫様か」
少女「歌物語だったら、追うのは王子様だけどね!」
白髪「がはは、ちげぇねぇな」
少女「そんなわけで軍に入ったら、
やっぱり仲間は、海賊退治で死んじゃったりして。
それで、そのたびに、
この人はどんな場所で生まれて、育って、
何を思って、何を見たいと思って逝ったのかって、
そういうのがどんどんたまってね」
白髪「……そういう荷物が、
お前さんの家出の背中を押したワケか」
少女「一応ね。
この窓の外には、どんな世界があるのかなって。
彼らが何を見てきたのかを見たいって」
そりゃ、信じられねぇもんだな」
少女「遺髪とかがあったわけでも、ないしね。
それでふっと、あの人が何を思って、
どんな風に生きたのかを知りたいって思いが、
それまで以上に強くなって。
軍に入るきっかけになったのは、それかな」
白髪「なるほど。ただのじゃじゃ馬っていうよりは、
王子様を追うお姫様か」
少女「歌物語だったら、追うのは王子様だけどね!」
白髪「がはは、ちげぇねぇな」
少女「そんなわけで軍に入ったら、
やっぱり仲間は、海賊退治で死んじゃったりして。
それで、そのたびに、
この人はどんな場所で生まれて、育って、
何を思って、何を見たいと思って逝ったのかって、
そういうのがどんどんたまってね」
白髪「……そういう荷物が、
お前さんの家出の背中を押したワケか」
少女「一応ね。
この窓の外には、どんな世界があるのかなって。
彼らが何を見てきたのかを見たいって」
309: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:09:39.41 ID:Hh9tyfhJo
白髪「……だが、お前が危険に遭って、
喜ぶような仲間だったわけじゃねぇだろ?」
少女「あはは、安全な定期便だったんだけどね。
普段はずっと平気なのにさ、
まるで私の船を狙ったみたいに海賊が来てね」
白髪「……狙ったのかもな」ぼそっ
少女「え?」
白髪「なんでもねぇよ。
まあ、あれだ。あんまり背負い過ぎるなよ?」
少女「……うん」
白髪「まあ、そんなところが可愛いんだがな」
少女「へ?」
白髪「ほれ、ちょっと来い」
少女「う……」そろそろ
白髪「まだるっこしいヤツだ」ぐいっ
少女「うわっ」
ぎゅっ
喜ぶような仲間だったわけじゃねぇだろ?」
少女「あはは、安全な定期便だったんだけどね。
普段はずっと平気なのにさ、
まるで私の船を狙ったみたいに海賊が来てね」
白髪「……狙ったのかもな」ぼそっ
少女「え?」
白髪「なんでもねぇよ。
まあ、あれだ。あんまり背負い過ぎるなよ?」
少女「……うん」
白髪「まあ、そんなところが可愛いんだがな」
少女「へ?」
白髪「ほれ、ちょっと来い」
少女「う……」そろそろ
白髪「まだるっこしいヤツだ」ぐいっ
少女「うわっ」
ぎゅっ
310: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:10:06.00 ID:Hh9tyfhJo
白髪「ほれ、膝の上にでも座れ」
少女「う、ちょっと落ち着かないっていうか、
もしかして酔っぱらってる?」
白髪「酔っぱらわんでどうする。
酒に失礼だろうが」
少女(ぎゅっと抱きすくめられて、
苦しいような、少しだけ怖いような。
でも、嫌ってほどでもないから、
いまはまだ、おとなしく)
~♪~♪
白髪「……包帯のヤツの演奏か」
少女「風に乗って……すごい、綺麗な音」
~♪~♪
白髪「嬢ちゃんは、あまり長く、
この船にいるつもりはねぇんだよな」
少女「みんないい人だし、一緒にいて楽しいし。
いっそ……」
白髪「いっそ、このままいつまでも海の上で。
歌でも歌ってか?」
少女「う、ちょっと落ち着かないっていうか、
もしかして酔っぱらってる?」
白髪「酔っぱらわんでどうする。
酒に失礼だろうが」
少女(ぎゅっと抱きすくめられて、
苦しいような、少しだけ怖いような。
でも、嫌ってほどでもないから、
いまはまだ、おとなしく)
~♪~♪
白髪「……包帯のヤツの演奏か」
少女「風に乗って……すごい、綺麗な音」
~♪~♪
白髪「嬢ちゃんは、あまり長く、
この船にいるつもりはねぇんだよな」
少女「みんないい人だし、一緒にいて楽しいし。
いっそ……」
白髪「いっそ、このままいつまでも海の上で。
歌でも歌ってか?」
311: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:10:32.92 ID:Hh9tyfhJo
少女「ヨーホーヨーホーってね」
白髪「……本当にソレで、
嬢ちゃんが満足するなら、すればいいぜ」
少女「……」
白髪「嬢ちゃんよ。
いまの海は、嵐の予兆であふれてやがる。
その嵐の中で、お前さんの故郷も、
沈んじまうかもしれん」
少女「そんなのは……」
白髪「そんなのは、なんだ?」
少女「……」
白髪「別に俺は、島に戻れと強制はしねえ。
ただ、きちんと選ぶ事だな。
選択しないって選択まで含めて、
よく考えて選べ。
時間はまだ、少しだが、有るだろうさ」そっ
少女(肩に頭を乗せて、白髪さんの体温が伝わってくる。
骨張った固い指が、優しく髪を梳いてくれるだけで、
ずんとお腹の奥が重くなる)
白髪「……俺にも、親がいたんだがな」
白髪「……本当にソレで、
嬢ちゃんが満足するなら、すればいいぜ」
少女「……」
白髪「嬢ちゃんよ。
いまの海は、嵐の予兆であふれてやがる。
その嵐の中で、お前さんの故郷も、
沈んじまうかもしれん」
少女「そんなのは……」
白髪「そんなのは、なんだ?」
少女「……」
白髪「別に俺は、島に戻れと強制はしねえ。
ただ、きちんと選ぶ事だな。
選択しないって選択まで含めて、
よく考えて選べ。
時間はまだ、少しだが、有るだろうさ」そっ
少女(肩に頭を乗せて、白髪さんの体温が伝わってくる。
骨張った固い指が、優しく髪を梳いてくれるだけで、
ずんとお腹の奥が重くなる)
白髪「……俺にも、親がいたんだがな」
312: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:11:04.92 ID:Hh9tyfhJo
少女「……ちょっと、想像できないかも」
白髪「なに、俺と大して変わらねぇよ。
記憶にある父親に似ているぜ、
俺のが老けちまってるけどよ」
少女「……」
白髪「その親からもらったもんが三つあってな。
名前と、命と、一つの言葉だ」
少女「どんな言葉?」
白髪「これがまた、厄介だった。
『人として終れるように生きろ』ってな.
俺の親は神学者でよ、小さな礼拝堂も任されてたが、
他人より早く老けちまうような俺を産んだことで、
立場を追われて、生きてるウチは楽ができなかった」
少女「……」
白髪「だから最初は、恨み言かと思ったのさ。
ガキの癖に図体ばかりでかい俺に対して、
お前が一緒にいるから定住もできないと、
そういう意味なのかとよ」
少女「そんなはずないって!
だって、自分の子なのに」
白髪「なに、俺と大して変わらねぇよ。
記憶にある父親に似ているぜ、
俺のが老けちまってるけどよ」
少女「……」
白髪「その親からもらったもんが三つあってな。
名前と、命と、一つの言葉だ」
少女「どんな言葉?」
白髪「これがまた、厄介だった。
『人として終れるように生きろ』ってな.
俺の親は神学者でよ、小さな礼拝堂も任されてたが、
他人より早く老けちまうような俺を産んだことで、
立場を追われて、生きてるウチは楽ができなかった」
少女「……」
白髪「だから最初は、恨み言かと思ったのさ。
ガキの癖に図体ばかりでかい俺に対して、
お前が一緒にいるから定住もできないと、
そういう意味なのかとよ」
少女「そんなはずないって!
だって、自分の子なのに」
313: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:11:47.00 ID:Hh9tyfhJo
白髪「真意はどうだか、死人にはきけねぇからな。
どうだとは云えないが、それでも俺は、
けっこうこの言葉を気に入っててな」
少女「……どんな風に?」
白髪「他人の命令でしか動けないヤツは、
狗って呼ばれるだろ?
欲に汚いヤツは豚か。
鈍重なヤツは牛って云われるし、
どうしようもねぇのはクズだ」
少女「見た目じゃなくて」
白髪「中身の問題だな。
風に吹かれるまま、流されるままなら、木の葉か。
そうやって生きるのは楽かもしれん。
だが、それはもう、人間じゃぁねぇのさ。
この船の連中はみんな、
外見は化け物でも、中身は誰より、人間だ」
少女「うん」
白髪「嬢ちゃんもよ、人間として生きろ。
流されず、たゆたわず、選択して、歩き抜け。
自分が何をしたいかは自分で決めろ。
食いたい物を食って、悔いたいモノで感じろ。
お前は、領主って機能のモノでもなけりゃ、
従うしかできない兵士でもねぇからな」
どうだとは云えないが、それでも俺は、
けっこうこの言葉を気に入っててな」
少女「……どんな風に?」
白髪「他人の命令でしか動けないヤツは、
狗って呼ばれるだろ?
欲に汚いヤツは豚か。
鈍重なヤツは牛って云われるし、
どうしようもねぇのはクズだ」
少女「見た目じゃなくて」
白髪「中身の問題だな。
風に吹かれるまま、流されるままなら、木の葉か。
そうやって生きるのは楽かもしれん。
だが、それはもう、人間じゃぁねぇのさ。
この船の連中はみんな、
外見は化け物でも、中身は誰より、人間だ」
少女「うん」
白髪「嬢ちゃんもよ、人間として生きろ。
流されず、たゆたわず、選択して、歩き抜け。
自分が何をしたいかは自分で決めろ。
食いたい物を食って、悔いたいモノで感じろ。
お前は、領主って機能のモノでもなけりゃ、
従うしかできない兵士でもねぇからな」
314: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:12:17.50 ID:Hh9tyfhJo
少女「…………簡単じゃないね」
白髪「がはは、人間だからな。
二本の足で立って、歩いて、
必要なら武器を使って、
言葉で他人とわかり合おうとして、
飽食や怠惰なんて選択ができる生き物だ。
人間である事は、難しく、楽しいぜ」
少女「難しいことはあんまりわかんないけど、
なんとなく判った気はする」
白髪「おいおい、せっかく人が、説教なんざ、
慣れねぇ事をしてやったってのによ」
少女「うん、意外かも。でも、何で急にこんな話を?
なんか――」
少女(なんか、まるで)
白髪「……お前がよっぽど、
危なっかしいからだな」
少女「う、否定できないかも」
白髪「そこは否定しろよ。
よし、そんじゃそろそろ、
あっちの酒宴にでも加わるか」
白髪「がはは、人間だからな。
二本の足で立って、歩いて、
必要なら武器を使って、
言葉で他人とわかり合おうとして、
飽食や怠惰なんて選択ができる生き物だ。
人間である事は、難しく、楽しいぜ」
少女「難しいことはあんまりわかんないけど、
なんとなく判った気はする」
白髪「おいおい、せっかく人が、説教なんざ、
慣れねぇ事をしてやったってのによ」
少女「うん、意外かも。でも、何で急にこんな話を?
なんか――」
少女(なんか、まるで)
白髪「……お前がよっぽど、
危なっかしいからだな」
少女「う、否定できないかも」
白髪「そこは否定しろよ。
よし、そんじゃそろそろ、
あっちの酒宴にでも加わるか」
315: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:12:43.61 ID:Hh9tyfhJo
少女「……白髪さん」
白髪「あん?」
少女「白髪さんは、まだ死なないよね?」
白髪「……」
少女「なんか、急に怖くなって……」
白髪「ばっかやろう。
人生の楽しみなんざこれからだ。
あと百年は生きるぜ?」
少女「……うん。でも百年は無理じゃない?」
白髪「無粋な事を云うんじゃねぇよ。
ほれ、俺の上から立て」
少女「……」
白髪「立て、っての」
少女 ぎゅっ
白髪「……」
少女(いつも伝法な様子だから、そうとは思わないけど、
若々しくても、歳を隠せない体。
きっと、今日明日ではなくても、数年後は……)
白髪「あん?」
少女「白髪さんは、まだ死なないよね?」
白髪「……」
少女「なんか、急に怖くなって……」
白髪「ばっかやろう。
人生の楽しみなんざこれからだ。
あと百年は生きるぜ?」
少女「……うん。でも百年は無理じゃない?」
白髪「無粋な事を云うんじゃねぇよ。
ほれ、俺の上から立て」
少女「……」
白髪「立て、っての」
少女 ぎゅっ
白髪「……」
少女(いつも伝法な様子だから、そうとは思わないけど、
若々しくても、歳を隠せない体。
きっと、今日明日ではなくても、数年後は……)
316: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:13:32.37 ID:Hh9tyfhJo
白髪「そろそろいいか?」
少女「……うん」
白髪「まさか嬢ちゃんから抱きつかれるとはな、
思わぬ役得だったぜ」
少女「そりゃ……親愛なるおじいちゃんだもん。
抱きついたりね! するよ!」
白髪「くく、中身は三十路を越えた、
まだまだ壮年の男だがな」
少女「う、そうだけど……」
白髪「がはは、ネンネの嬢ちゃんなんざ、
気を抜いてるとくっちまぞ~」ゆらーり
少女「あはは……柔らかくないし、おいしくないと、
思うんだけどなぁ……」じりじり
白髪「食い応えが有りそうじゃぁねぇか」じゅるり
少女「に、逃げるが勝ちでっ!」
どたばたーっ
白髪「逃げ足は早ぇなぁ。ったく、拒みすぎだ。
……まあ、しばらくすれば次の朝も来る。
俺は帰るとするか」とことこ
少女「……うん」
白髪「まさか嬢ちゃんから抱きつかれるとはな、
思わぬ役得だったぜ」
少女「そりゃ……親愛なるおじいちゃんだもん。
抱きついたりね! するよ!」
白髪「くく、中身は三十路を越えた、
まだまだ壮年の男だがな」
少女「う、そうだけど……」
白髪「がはは、ネンネの嬢ちゃんなんざ、
気を抜いてるとくっちまぞ~」ゆらーり
少女「あはは……柔らかくないし、おいしくないと、
思うんだけどなぁ……」じりじり
白髪「食い応えが有りそうじゃぁねぇか」じゅるり
少女「に、逃げるが勝ちでっ!」
どたばたーっ
白髪「逃げ足は早ぇなぁ。ったく、拒みすぎだ。
……まあ、しばらくすれば次の朝も来る。
俺は帰るとするか」とことこ
317: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:13:58.49 ID:Hh9tyfhJo
ざっ
男「……」
白髪「よう、いつからいたよ」
男「今だ」
白髪「……」
男「行くのか?」
白髪「おうともさ」
男「……そうか」
白髪「男よぅ」
男「なんだ」
白髪「あの嬢ちゃん、兄の後ろ姿を追って、
軍に入って、外の世界に出たってよ」
男「……愚かだな」
白髪「かわいらしいじゃねぇか」
男「……」
男「……」
白髪「よう、いつからいたよ」
男「今だ」
白髪「……」
男「行くのか?」
白髪「おうともさ」
男「……そうか」
白髪「男よぅ」
男「なんだ」
白髪「あの嬢ちゃん、兄の後ろ姿を追って、
軍に入って、外の世界に出たってよ」
男「……愚かだな」
白髪「かわいらしいじゃねぇか」
男「……」
318: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/05/29(日) 10:14:24.57 ID:Hh9tyfhJo
白髪「相変わらず、不器用なヤツだ」
男「器用さなど、いらん」
白髪「ワシからすりゃぁ、そういうヤツにほど、
その器用さがありゃぁ良いと思うぜ」
男「……俺には説教なんぞいらん」
白髪「ったく、先達にはおとなしく習っておけ」
男「大してかわらんだろう」
白髪「…………そうだな」
男「文句があるのか?」
白髪「なに、無いわけじゃぁねぇが、
そんなもんは口にだしたってどうにもならん。
なら、無粋なことはしねぇのがいいさ」
男「……」
白髪「じゃあな」
男「……達者でな」
白髪「こっちの台詞だ」
とことこ……
男「器用さなど、いらん」
白髪「ワシからすりゃぁ、そういうヤツにほど、
その器用さがありゃぁ良いと思うぜ」
男「……俺には説教なんぞいらん」
白髪「ったく、先達にはおとなしく習っておけ」
男「大してかわらんだろう」
白髪「…………そうだな」
男「文句があるのか?」
白髪「なに、無いわけじゃぁねぇが、
そんなもんは口にだしたってどうにもならん。
なら、無粋なことはしねぇのがいいさ」
男「……」
白髪「じゃあな」
男「……達者でな」
白髪「こっちの台詞だ」
とことこ……
331: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:29:04.01 ID:Xu70o61xo
------------------------------------------------
早朝 海賊船 甲板
男「朝靄に紛れて隠れ港を出る。
帆を張って、準警戒態勢で湾から離れ、
いったん沿岸部から離れてから通常状態に移行し、
東南東のローディオス島へ向かう」
少女「ローディオス島って、
前はマータ騎士団がいた所だっけ?」
男「当時は島の名前でローディオス騎士団だったがな。
聖戦遠征軍の中継基地だった島だ。
今はトルキアの軍や海賊に占領されて、
西欧諸国侵略の橋頭堡として扱われている。
そこの司令部に近々エジピウト側から、
香辛料などが送られるという話が流れてきた」
双子妹「その贅沢品をほんの少し、
分けてもらおうというワケでありますね」
男「そういう事だ。
出航後に通達しようと考えていたが、今伝えるか。
少女を拾った時の襲撃と違って、
獲物の金額からある程度の抵抗が予想される。
改めて武器の手入れなどをしておくように」
早朝 海賊船 甲板
男「朝靄に紛れて隠れ港を出る。
帆を張って、準警戒態勢で湾から離れ、
いったん沿岸部から離れてから通常状態に移行し、
東南東のローディオス島へ向かう」
少女「ローディオス島って、
前はマータ騎士団がいた所だっけ?」
男「当時は島の名前でローディオス騎士団だったがな。
聖戦遠征軍の中継基地だった島だ。
今はトルキアの軍や海賊に占領されて、
西欧諸国侵略の橋頭堡として扱われている。
そこの司令部に近々エジピウト側から、
香辛料などが送られるという話が流れてきた」
双子妹「その贅沢品をほんの少し、
分けてもらおうというワケでありますね」
男「そういう事だ。
出航後に通達しようと考えていたが、今伝えるか。
少女を拾った時の襲撃と違って、
獲物の金額からある程度の抵抗が予想される。
改めて武器の手入れなどをしておくように」
332: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:29:34.18 ID:Xu70o61xo
双子妹「了解であります」
狼「わかった」
少女「はーい……ところで、白髪さんは?」
狼「朝だから寝坊してるんじゃない?」
双子姉「おじいちゃんだから寝坊はしないよー。
あ、でもまだお酒抜けてないかも?」
少女「いや、そこまで歳じゃないって」
男「馬鹿な事を行っていないで出航準備だ。
船橋から離れたら包帯は一度甲板を離れて、
三階のアイツにオールを動かすように指示してくれ。
それから――」
少女「ちょっと待ってよ!
だから白髪さんがいないって言ってるじゃん。
調子悪いなら、もう一日出航待たないと」
男「その必要はない」
少女「なんでさ」
狼「わかった」
少女「はーい……ところで、白髪さんは?」
狼「朝だから寝坊してるんじゃない?」
双子姉「おじいちゃんだから寝坊はしないよー。
あ、でもまだお酒抜けてないかも?」
少女「いや、そこまで歳じゃないって」
男「馬鹿な事を行っていないで出航準備だ。
船橋から離れたら包帯は一度甲板を離れて、
三階のアイツにオールを動かすように指示してくれ。
それから――」
少女「ちょっと待ってよ!
だから白髪さんがいないって言ってるじゃん。
調子悪いなら、もう一日出航待たないと」
男「その必要はない」
少女「なんでさ」
333: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:30:03.31 ID:Xu70o61xo
男「アイツは船を下りた」
双子姉「え……」
包帯「……ですか」
少女「船を下りたって、どういう、こと?」
男「そのままの意味だ。
アイツは昨夜の間に、この船の船員を辞めた。
船長である俺もそれを認めた」
双子姉「な、なんで、なの?」ふらっ
双子妹「おねえちゃん」そっ
双子姉「だって、白髪のおっちゃん、
まだまだ元気だったよ……?
あと百年は冒険するって、楽しそうに言ってたよ……」
双子妹「そういう話ではないのでありましょう」
双子姉「……じゃあ、どういう話なのさ。
ねえ、くろちゃん」
双子姉「え……」
包帯「……ですか」
少女「船を下りたって、どういう、こと?」
男「そのままの意味だ。
アイツは昨夜の間に、この船の船員を辞めた。
船長である俺もそれを認めた」
双子姉「な、なんで、なの?」ふらっ
双子妹「おねえちゃん」そっ
双子姉「だって、白髪のおっちゃん、
まだまだ元気だったよ……?
あと百年は冒険するって、楽しそうに言ってたよ……」
双子妹「そういう話ではないのでありましょう」
双子姉「……じゃあ、どういう話なのさ。
ねえ、くろちゃん」
334: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:30:52.47 ID:Xu70o61xo
男「アイツの個人的な事情だ」
少女「ちょっと男さん!
そんなの答えじゃないって判ってて言ってるよね!」
男「これが、答えだ」
包帯「…………仕方ないよ。
白髪さんは外見は普通だからね。
定住は難しいけど、この船の外でも生きられる。
配当金で『老後』には困らない蓄えも有る。
下りるっていうなら、
もういつ下りても良かった頃だからね」
双子姉「そうじゃないよ……
なんであたし達になにも言わずに行ったのかって、
だって、元気な間は私たちと一緒にいるって、
この船と、『家族』と一緒にいるって……」
狼「『家族』ね……」
包帯「……」
双子妹「船長殿」
少女「ちょっと男さん!
そんなの答えじゃないって判ってて言ってるよね!」
男「これが、答えだ」
包帯「…………仕方ないよ。
白髪さんは外見は普通だからね。
定住は難しいけど、この船の外でも生きられる。
配当金で『老後』には困らない蓄えも有る。
下りるっていうなら、
もういつ下りても良かった頃だからね」
双子姉「そうじゃないよ……
なんであたし達になにも言わずに行ったのかって、
だって、元気な間は私たちと一緒にいるって、
この船と、『家族』と一緒にいるって……」
狼「『家族』ね……」
包帯「……」
双子妹「船長殿」
335: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:31:35.99 ID:Xu70o61xo
男「……『家族』だなんだと、ココはただの海賊船だ。
危険を冒してでも金を得るための集団で、
それ以上でもそれ以下でもない。
そしてこれからその稼ぎのための出港だ。
さっさと持ち場につけ」
双子姉「う……」じわっ
少女「待ちなさいよ!
なんでアンタは、そんな言葉を選んで口にするわけ?
わざわざ子供泣かせて、恥を知りなさいよっ
ただ、白髪さんがなんで下りたのかって、
聞いてるだけじゃない」
男「……不服があるならお前も船を下りろ。
海賊がしたければこの港のどの船でも乗ればいい。
近くのもう一つの港には普通の定期船も有る」
少女「……ったまきた!
この無愛想! 冷血!
行き場のないみんなの居場所を求めてとか、
ちょっとすごい人かと思ったけど、口だけかっ!」
男「……」
少女「……言い返す事すらしないとか。
もう、いい――」ずかずか
危険を冒してでも金を得るための集団で、
それ以上でもそれ以下でもない。
そしてこれからその稼ぎのための出港だ。
さっさと持ち場につけ」
双子姉「う……」じわっ
少女「待ちなさいよ!
なんでアンタは、そんな言葉を選んで口にするわけ?
わざわざ子供泣かせて、恥を知りなさいよっ
ただ、白髪さんがなんで下りたのかって、
聞いてるだけじゃない」
男「……不服があるならお前も船を下りろ。
海賊がしたければこの港のどの船でも乗ればいい。
近くのもう一つの港には普通の定期船も有る」
少女「……ったまきた!
この無愛想! 冷血!
行き場のないみんなの居場所を求めてとか、
ちょっとすごい人かと思ったけど、口だけかっ!」
男「……」
少女「……言い返す事すらしないとか。
もう、いい――」ずかずか
336: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:32:07.82 ID:Xu70o61xo
双子姉「お、お姉ちゃん……どうするの?」
少女「こんなガキみたいなのが船長の船なんて、
乗ってられないから下りる」どかどか
狼「待ちなさいよ。下りてどうするの」
少女「しらない」
すたすた
狼「しらないって……」ちらっ
男「包帯、出航準備を手伝え」
包帯「……うん」
双子姉「私のせいで、お姉ちゃんも……」
狼「いつもなら、白髪が取りなしてくれるのに。
なんて言っても、仕方ないか……」
双子姉「ねえ、狼のお姉ちゃん……
私が謝ったら、お姉ちゃんは帰ってくれるかな?」
狼「……それは、ムリね。
双子妹は悪くないから、謝った方が逆効果になる」
双子姉「う、ぇぅ……」
少女「こんなガキみたいなのが船長の船なんて、
乗ってられないから下りる」どかどか
狼「待ちなさいよ。下りてどうするの」
少女「しらない」
すたすた
狼「しらないって……」ちらっ
男「包帯、出航準備を手伝え」
包帯「……うん」
双子姉「私のせいで、お姉ちゃんも……」
狼「いつもなら、白髪が取りなしてくれるのに。
なんて言っても、仕方ないか……」
双子姉「ねえ、狼のお姉ちゃん……
私が謝ったら、お姉ちゃんは帰ってくれるかな?」
狼「……それは、ムリね。
双子妹は悪くないから、謝った方が逆効果になる」
双子姉「う、ぇぅ……」
337: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:32:51.06 ID:Xu70o61xo
狼「……男」
男「なんだ」
狼「またしばらくしたら、この港に来るでしょ」
男「早くても一月半ほど後になるがな」
狼「……アタシが戻らなかったら、一月半後にココで」
男「意外だな」
狼「何がよ」
男「俺はお前に対して、
下りた人間を追いかけるような甘さが嫌いだと、
そう考えている印象を受けていた」
狼「……『人間様』を仲間に加えるのは、
今でも反対したいと思ってる。
自分から出て行った相手を追うような、
なれ合いだって嫌い」
男「ならば、行動と矛盾しているな」
男「なんだ」
狼「またしばらくしたら、この港に来るでしょ」
男「早くても一月半ほど後になるがな」
狼「……アタシが戻らなかったら、一月半後にココで」
男「意外だな」
狼「何がよ」
男「俺はお前に対して、
下りた人間を追いかけるような甘さが嫌いだと、
そう考えている印象を受けていた」
狼「……『人間様』を仲間に加えるのは、
今でも反対したいと思ってる。
自分から出て行った相手を追うような、
なれ合いだって嫌い」
男「ならば、行動と矛盾しているな」
338: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:33:15.63 ID:Xu70o61xo
狼「でも、あの子は」
狼『ああ、耳の事ね……気持ち悪いでしょ』
少女『カワイイーッッ!!!!』バッ、むぎゅーっ
狼「どこか、他の『人間様』とは違うから……」
とことこ
男「……」
包帯「とりあえず、双子妹くんと協力して、
あらかた出航準備はできたよ。
後は錨を上げて、港を出るだけ」
男「任せきりにしてすまん」
包帯「僕はかまわないけどね」
双子姉「…………」
男「あと少し太陽が上がるまで狼を待つ。
それで戻らなければこの人数で出航だ」
包帯「……また、急がしくなりそうだね」
狼『ああ、耳の事ね……気持ち悪いでしょ』
少女『カワイイーッッ!!!!』バッ、むぎゅーっ
狼「どこか、他の『人間様』とは違うから……」
とことこ
男「……」
包帯「とりあえず、双子妹くんと協力して、
あらかた出航準備はできたよ。
後は錨を上げて、港を出るだけ」
男「任せきりにしてすまん」
包帯「僕はかまわないけどね」
双子姉「…………」
男「あと少し太陽が上がるまで狼を待つ。
それで戻らなければこの人数で出航だ」
包帯「……また、急がしくなりそうだね」
339: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:33:50.75 ID:Xu70o61xo
------------------------------------------------
朝 隠れ港 市場
少女「……もう、みんな行っちゃったよね」
狼「間違いなく」
少女「うう、狼さんまで飛び出させてごめん」
狼「ホントに迷惑してる」
少女「はい……」
狼「さらに着替えも無いとか」
少女「グサッ」
狼「路銀も最低限しかないとか」
少女「グサグサッ」
狼「何を考えて何をするつもりだったの」
少女「あー、えーっと、それはですね……
とりあえず遺憾の意を表明したいなーと」
狼「男は全く動じて無かったけど」
少女「うぐふぅっ……」
朝 隠れ港 市場
少女「……もう、みんな行っちゃったよね」
狼「間違いなく」
少女「うう、狼さんまで飛び出させてごめん」
狼「ホントに迷惑してる」
少女「はい……」
狼「さらに着替えも無いとか」
少女「グサッ」
狼「路銀も最低限しかないとか」
少女「グサグサッ」
狼「何を考えて何をするつもりだったの」
少女「あー、えーっと、それはですね……
とりあえず遺憾の意を表明したいなーと」
狼「男は全く動じて無かったけど」
少女「うぐふぅっ……」
340: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:34:26.67 ID:Xu70o61xo
狼「まったく、まさか本当に無策なんて」
少女「いや、まったくじゃないよ。
この前に騒ぎになった酒場に行けば、
多少は何かわかるかなーって考えたり!」
狼「……何かって?」
少女「う、何か、だけど」
狼「要するに、アテにはできないって事ね」
少女「でも、あのままあそこで黙って、
あの人の言葉を聞いてるなんてできなくて……」
狼「確かに、さっきの男は言い過ぎだと思うけど」
少女「でしょー!」
狼「案外、一番動揺してるのは男とか」
少女「……へ?」
狼「なんでも無い。
とりあえず、こんなところでじっとしていても、
無駄に興味を引くばっかりで、
良いことなんかないわ」
少女「いや、まったくじゃないよ。
この前に騒ぎになった酒場に行けば、
多少は何かわかるかなーって考えたり!」
狼「……何かって?」
少女「う、何か、だけど」
狼「要するに、アテにはできないって事ね」
少女「でも、あのままあそこで黙って、
あの人の言葉を聞いてるなんてできなくて……」
狼「確かに、さっきの男は言い過ぎだと思うけど」
少女「でしょー!」
狼「案外、一番動揺してるのは男とか」
少女「……へ?」
狼「なんでも無い。
とりあえず、こんなところでじっとしていても、
無駄に興味を引くばっかりで、
良いことなんかないわ」
341: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:36:15.20 ID:Xu70o61xo
少女「興味なんて、まだ開いてる店もないし、
人だってぽつぽつ通り抜ける程度で……」
狼「ココをどこだと思ってそんな油断してるのよ。
そこ、出てきな。
……それとも引きずりだされたい?」
青白「おっかないですねぇ。ひひひぃ。
あっしはこれでも、隠れ潜むのは得意なんでやすが。
どうやってわかりやしたか」
狼「煙草の臭いにおいがぷんぷんしてれば、
それは誰だってわかるでしょ」
青白「……わざわざ着替えてきたってのに、
ずいぶん鼻がきくもんで」
狼「で、あんたは何?
しばらく前からそこで隠れて聞いてたけど」
少女「そうなの?」
青白「油断してる相手を見てたはずが、
自分が油断させられて誘い込まれてたとは、
まさかまさか、思わなかったでやす」
狼「……ごたくはいらないから。
あんた、さっきから尾行してたみたいだけど、
なにか用なの?」
人だってぽつぽつ通り抜ける程度で……」
狼「ココをどこだと思ってそんな油断してるのよ。
そこ、出てきな。
……それとも引きずりだされたい?」
青白「おっかないですねぇ。ひひひぃ。
あっしはこれでも、隠れ潜むのは得意なんでやすが。
どうやってわかりやしたか」
狼「煙草の臭いにおいがぷんぷんしてれば、
それは誰だってわかるでしょ」
青白「……わざわざ着替えてきたってのに、
ずいぶん鼻がきくもんで」
狼「で、あんたは何?
しばらく前からそこで隠れて聞いてたけど」
少女「そうなの?」
青白「油断してる相手を見てたはずが、
自分が油断させられて誘い込まれてたとは、
まさかまさか、思わなかったでやす」
狼「……ごたくはいらないから。
あんた、さっきから尾行してたみたいだけど、
なにか用なの?」
342: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:36:55.79 ID:Xu70o61xo
青白「申し遅れましたが、怪しいモノじゃありやせん。
あっし、この港で細々と情報を商ってる、
青白ってケチな男でありやす。ごひいきに。ひひひぃ」
狼「盗み聞きも仕事ってわけ」
青白「へえ。まあ、そういうわけで」
少女「もしかして、この人に聞いたら判らない?」
狼「……」
青白「ひひひぃ、何かお求めでありやすか」
少女「あの、白髪って人の情報、あります?
どこに行ったかとか……」
青白「人捜し、ですかい。
しかししかし、ひーひひ。さてさてさて」
少女「な、なによ……」
青白「いえ、奇縁でありやしょう。
白髪の旦那には、数日前に情報を売りやした。
ああ、この情報はタダでいいですぜ。ひひひぃ」
狼「……」
あっし、この港で細々と情報を商ってる、
青白ってケチな男でありやす。ごひいきに。ひひひぃ」
狼「盗み聞きも仕事ってわけ」
青白「へえ。まあ、そういうわけで」
少女「もしかして、この人に聞いたら判らない?」
狼「……」
青白「ひひひぃ、何かお求めでありやすか」
少女「あの、白髪って人の情報、あります?
どこに行ったかとか……」
青白「人捜し、ですかい。
しかししかし、ひーひひ。さてさてさて」
少女「な、なによ……」
青白「いえ、奇縁でありやしょう。
白髪の旦那には、数日前に情報を売りやした。
ああ、この情報はタダでいいですぜ。ひひひぃ」
狼「……」
343: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:37:40.36 ID:Xu70o61xo
少女「それなら、今の居場所もわかる?」
青白「確認は取れないですが、見当はついています。
しかし良いんでしょうかねぇ。
探すってのは、いなくなったって事でありやしょう。
いなくなったなら、どこに行くか告げてない。
告げてないなら、言いたくなかったか、
言えない事情が有ったって事でありやしょう」
少女「う……それは」
双子姉「いいんだよっ」だだっ
少女「双子姉ちゃん!」
青白「おや、お仲間ですかぃ?」
双子姉「うん。白髪さんのお仲間。
で、これから白髪さんを探しに行く仲間なの」
青白「まぁ、あっしとしてはとりあえず、
金さえ払ってもらえりゃぁ、何だって、誰にだって、
ほしがってる情報を売るつもりですよ。ひひひぃ」
双子姉「じゃあ、教えて。
白髪さんはどこにいるの?」
青白「確認は取れないですが、見当はついています。
しかし良いんでしょうかねぇ。
探すってのは、いなくなったって事でありやしょう。
いなくなったなら、どこに行くか告げてない。
告げてないなら、言いたくなかったか、
言えない事情が有ったって事でありやしょう」
少女「う……それは」
双子姉「いいんだよっ」だだっ
少女「双子姉ちゃん!」
青白「おや、お仲間ですかぃ?」
双子姉「うん。白髪さんのお仲間。
で、これから白髪さんを探しに行く仲間なの」
青白「まぁ、あっしとしてはとりあえず、
金さえ払ってもらえりゃぁ、何だって、誰にだって、
ほしがってる情報を売るつもりですよ。ひひひぃ」
双子姉「じゃあ、教えて。
白髪さんはどこにいるの?」
344: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:38:11.80 ID:Xu70o61xo
狼「ソレをアタシたちが知らない事が……」
双子姉「白髪のおっちゃんの望みかもって、
そこから聞こえてたよ。
でもいいの。そんなの知らない」ぷぅ
狼「知らないって……」
双子姉「だって、あたしはおじいちゃんの家族だもん。
心配して当然だもん。
そりゃ、隠してる事を調べるのは嫌だけど、
何もしないよりはずっといいもん」
狼「言ってること、筋が通ってないし」
双子姉「いいの。とにかく今は、
追いつけるかもしれないウチに、
おじいちゃんの事を聞いて追いかけるの」
狼「……まあ、いいか。
アタシも考えるとか苦手だし、
必要なら後で殴ればいいかも」
少女「ちょっと、殴ればいいかもって、
それはヒドイって……まあ、同感だけど」
狼「ヒドイのは置いていった白髪でしょ。
で、情報屋さん、値段は?」
双子姉「白髪のおっちゃんの望みかもって、
そこから聞こえてたよ。
でもいいの。そんなの知らない」ぷぅ
狼「知らないって……」
双子姉「だって、あたしはおじいちゃんの家族だもん。
心配して当然だもん。
そりゃ、隠してる事を調べるのは嫌だけど、
何もしないよりはずっといいもん」
狼「言ってること、筋が通ってないし」
双子姉「いいの。とにかく今は、
追いつけるかもしれないウチに、
おじいちゃんの事を聞いて追いかけるの」
狼「……まあ、いいか。
アタシも考えるとか苦手だし、
必要なら後で殴ればいいかも」
少女「ちょっと、殴ればいいかもって、
それはヒドイって……まあ、同感だけど」
狼「ヒドイのは置いていった白髪でしょ。
で、情報屋さん、値段は?」
345: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:38:44.06 ID:Xu70o61xo
青白「へぇ、五デュカートほどいただきやす」
少女「高っ!」
青白「まあ、おまけがいろいろありやす。
アテもなく個人を探すってのは、
時間も労力も考えれば安くネェわけでさ。
それと比べれば、お得かと思いますぜ」
狼「……大した情報じゃなかったら、
あんたも殴るから」ちゃりんちゃりん
青白「ひひひぃ。そんな事にはなりやせん。
まあ、結論から言っちまいますと、
白髪の旦那はバリウガに向かっていやす」
少女「バリウガに?」
双子姉「……どこ?」
少女「ここから船で七日くらい東……
ケリウキラとか、リベルタからなら、
目と鼻の先って所ね」
狼「……詳しいの?」
少女「え、あ、まあ、そっちの出身でね」
少女「高っ!」
青白「まあ、おまけがいろいろありやす。
アテもなく個人を探すってのは、
時間も労力も考えれば安くネェわけでさ。
それと比べれば、お得かと思いますぜ」
狼「……大した情報じゃなかったら、
あんたも殴るから」ちゃりんちゃりん
青白「ひひひぃ。そんな事にはなりやせん。
まあ、結論から言っちまいますと、
白髪の旦那はバリウガに向かっていやす」
少女「バリウガに?」
双子姉「……どこ?」
少女「ここから船で七日くらい東……
ケリウキラとか、リベルタからなら、
目と鼻の先って所ね」
狼「……詳しいの?」
少女「え、あ、まあ、そっちの出身でね」
346: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:39:21.39 ID:Xu70o61xo
青白「そんなら話が早くて助かりやす。
近年、トルキアの紳士海賊ウルグ・アリとが、
イオニア海東部を牛耳ろうって動いとりやしょ」
少女「ジアキントス辺りまで押さえて、
あとはレピアント海域が落ちれば、
イオニア海に面するギリシーヤの海岸線は、
ほとんどが押さえられるって……」
青白「ひひひぃ、ずいぶん詳しいこって」
少女「あ、あはは……噂でね、ほんと、聞いただけ」
青白「まあ、実際はもうすでに、
あの辺りはまとめてトルキアのもんでやしょ。
特にウルグ・アリの勢いはとんでもねぇ」
狼「それが、白髪となんの関係があるの?」
青白「あせっちゃぁいけやせん。
ウルグは足を止めてるレピアントからベネッタへ、
トルキア軍の道を開こうと考えてやがるんでさ。
なにせ最近のスルチアンは放蕩三昧、
さらにその子はタカ派の筆頭でさ。
多少財政が圧迫されてる現状に、
それなら奪ってやろうという話が出てくるのは流れで」
近年、トルキアの紳士海賊ウルグ・アリとが、
イオニア海東部を牛耳ろうって動いとりやしょ」
少女「ジアキントス辺りまで押さえて、
あとはレピアント海域が落ちれば、
イオニア海に面するギリシーヤの海岸線は、
ほとんどが押さえられるって……」
青白「ひひひぃ、ずいぶん詳しいこって」
少女「あ、あはは……噂でね、ほんと、聞いただけ」
青白「まあ、実際はもうすでに、
あの辺りはまとめてトルキアのもんでやしょ。
特にウルグ・アリの勢いはとんでもねぇ」
狼「それが、白髪となんの関係があるの?」
青白「あせっちゃぁいけやせん。
ウルグは足を止めてるレピアントからベネッタへ、
トルキア軍の道を開こうと考えてやがるんでさ。
なにせ最近のスルチアンは放蕩三昧、
さらにその子はタカ派の筆頭でさ。
多少財政が圧迫されてる現状に、
それなら奪ってやろうという話が出てくるのは流れで」
347: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:40:13.63 ID:Xu70o61xo
少女「あの辺りは天然の要塞だから、
攻められないって聞いてるけど……」
青白「へえ、そうでさ。
レピアント海域の周りは弧を描くように、
いくつかの島が連なっておりやす。
そこにはいくつか小型の基地や砲台があって、
あっちを狙えばこっちにケツが向くって具合で、
守りに堅いと評判は上々。
しかし、ギリシーヤ海岸線をおとさにゃ、
奥にあるベネッタへは補給が足りずに手がのびねえ」
少女「だから、レピアントが万が一落ちなければ、
そこから奥は対トルキアに関していえば、
しばらくは大丈夫だって話は聞いてるけど」
青白「まあ、半円の内側から狙えば、
そりゃどっかからケツを撃たれて沈むのは当然でさ。
しかし、その外から狙うならどうでしょうや」
少女「レピアントの外、それでバリウガ?」
青白「へえ。群島が砲台を向けてねえ方から、
攻撃をしかけりゃぁいいって考えらしいですぜ。
で、ある海賊が遠からず襲いにいくとかどうとか」
攻められないって聞いてるけど……」
青白「へえ、そうでさ。
レピアント海域の周りは弧を描くように、
いくつかの島が連なっておりやす。
そこにはいくつか小型の基地や砲台があって、
あっちを狙えばこっちにケツが向くって具合で、
守りに堅いと評判は上々。
しかし、ギリシーヤ海岸線をおとさにゃ、
奥にあるベネッタへは補給が足りずに手がのびねえ」
少女「だから、レピアントが万が一落ちなければ、
そこから奥は対トルキアに関していえば、
しばらくは大丈夫だって話は聞いてるけど」
青白「まあ、半円の内側から狙えば、
そりゃどっかからケツを撃たれて沈むのは当然でさ。
しかし、その外から狙うならどうでしょうや」
少女「レピアントの外、それでバリウガ?」
青白「へえ。群島が砲台を向けてねえ方から、
攻撃をしかけりゃぁいいって考えらしいですぜ。
で、ある海賊が遠からず襲いにいくとかどうとか」
348: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:40:40.59 ID:Xu70o61xo
狼「その情報を、白髪に売ったわけ」
青白「なにせ、白髪の旦那にとっちゃ、
バリウガは今でも忘れられねぇ故郷だとか。
あっしはそこに関わる話を聞いたら、
まとめて旦那にお渡ししてたんでさぁ。
だからそんな、恨めしげな顔で見ねぇでくだせぇよ」
双子姉「むー」
狼「とりあえず、情報はそれで全部?」
青白「へぇ。あっしが知ってる中で、
白髪の旦那の行く先に関係する情報ってぇのは、
こんな程度の事でさぁ」
狼「確かに、有効な情報だったわ」
青白「ひひひぃ、ありがとうございやした。
では、あっしは失礼しやす」
とことこ
狼「……ここから、バリウガに一人で行くなら、
少し歩いた港から、定期船を乗り継ぐ、か。
幸いアタシが多少は路銀を持ってきたから、
追いかけられるけど、どうする?」
少女「とりあえず、白髪さんには会いに行くよ」
青白「なにせ、白髪の旦那にとっちゃ、
バリウガは今でも忘れられねぇ故郷だとか。
あっしはそこに関わる話を聞いたら、
まとめて旦那にお渡ししてたんでさぁ。
だからそんな、恨めしげな顔で見ねぇでくだせぇよ」
双子姉「むー」
狼「とりあえず、情報はそれで全部?」
青白「へぇ。あっしが知ってる中で、
白髪の旦那の行く先に関係する情報ってぇのは、
こんな程度の事でさぁ」
狼「確かに、有効な情報だったわ」
青白「ひひひぃ、ありがとうございやした。
では、あっしは失礼しやす」
とことこ
狼「……ここから、バリウガに一人で行くなら、
少し歩いた港から、定期船を乗り継ぐ、か。
幸いアタシが多少は路銀を持ってきたから、
追いかけられるけど、どうする?」
少女「とりあえず、白髪さんには会いに行くよ」
349: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:42:10.55 ID:Xu70o61xo
双子姉「おじいちゃんの故郷がピンチなんでしょ。
それなら一緒に助けちゃおうよ」
狼「……町については置いておくとして、
とりあえず白髪を追うことは決定ね。
それなら、最低限の水と糧食、
火種なんかを確保して、隣の港に向かうわよ」
双子姉「あいあいさー!」
少女「はーいっ!」
双子姉「あ、この町でついでに果物も買いたい!
珍しいのとかイロイロ置いてるって聞いてるからね」
少女「果物かぁ……そういえば、昨日だけど、
そこのお店で干し杏が並んでたような……じゅるり」
きゃっきゃ
狼「なんで、それなりに真面目な状況なのに、
急にこうも緊張感がなくなるって……はぁ」
少女「あ、干し肉とかどうする?」
狼「柔らかいの!
干し肉無かったらアタシはいかないからね」
わいわいがやがや
それなら一緒に助けちゃおうよ」
狼「……町については置いておくとして、
とりあえず白髪を追うことは決定ね。
それなら、最低限の水と糧食、
火種なんかを確保して、隣の港に向かうわよ」
双子姉「あいあいさー!」
少女「はーいっ!」
双子姉「あ、この町でついでに果物も買いたい!
珍しいのとかイロイロ置いてるって聞いてるからね」
少女「果物かぁ……そういえば、昨日だけど、
そこのお店で干し杏が並んでたような……じゅるり」
きゃっきゃ
狼「なんで、それなりに真面目な状況なのに、
急にこうも緊張感がなくなるって……はぁ」
少女「あ、干し肉とかどうする?」
狼「柔らかいの!
干し肉無かったらアタシはいかないからね」
わいわいがやがや
次回 少女「奴隷はもうやだよ……」 その2
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