前回 少女「奴隷はもうやだよ……」 その1

351: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:42:43.93 ID:Xu70o61xo
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   朝 路地裏

青白「ひひひひぃーひ。
 いやぁ、うまくいきそうで何よりで」

賊「……幸運に助けられたように見えたぜ」

青白「とんでもねぇ。
 ちゃんと手は打ってるんですぜ、
 こりゃぁ作戦の第一段階、ですからねぃ。ひひ」

賊「こんな作戦で、本当にあの男ってヤツを……
 スカした黒いマントのヤツをやれるのか?
 あの卑怯な男を」

青白「ええ、保証いたしやす。
 例の年寄りは男にとっての右腕、
 あの年寄りがいてこそ、
 男の船は一隻でも『海賊』の船と呼ばれる、
 嘘みてぇな強さを誇れるようになるんでさ」

賊「腕が欠けりゃぁ、
 船の扱いがまともにできなくなって当然だなぁ。
 腕が、欠けりゃぁ……」


引用元: 少女「奴隷はもうやだよ……」 




ヴィンランド・サガ(20) (アフタヌーンKC)
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352: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:43:18.22 ID:Xu70o61xo
青白「今回のバリウガ制圧が上手くいきさえすれば、
 その左腕の痛みも治まりやす。
 連中の船の女が、まとめてバリウガに向かったんで、
 そいつらを……ひひひぃ」


賊「ああ、治まるか、治まる、オサマらねぇと……
 いてぇんだよ、刺された腕が、ぐずぐずに痛むんだ。
 あの夜、黒い男に刺された腕がよぉ。

 この痛み、苦しみ、憎しみ、
 そして味わった辱め!

 ああ、何百倍にもして、味合わせてやる。
 お前だけじゃねぇ、お前の船の人間にもだ。
 女だろうが子供だろうが、
 頭の先から足の先まで、
 男に関わった不運への恨みと、
 男への憎しみで染め上げてやる……」


青白「さ、お仲間の方々も舌なめずりして待ってまさぁ。
 いってらっしゃいまし」にこり

賊「ああ。そうだな……
 卑怯な隠しナイフなんぞで俺の腕を……腕をよぉ。
 男って野郎、簡単には殺さねぇぞ。
 てめぇの船の人間を少しずつくびって、
 手足をもいだ蟻を水に浮かべるように、
 最後は一人海に流してやる……」

 どかどか

353: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:44:00.12 ID:Xu70o61xo

青白「……はぁ」のびー

青白 ぽき、ぽき

青白「ひひひぃ、しっかしチョロい。
 チョロすぎて涙まであふれそうじゃねぇか」

 とことこ

?「いよぉう。青白ちゃん、調子はラッキー?」

青白「ひひ、ラッキーでありますぜ。
 いつもごひいきにしていただき、
 ありがとうごぜぇやす、旦那」

?「いいって事よ。ラッキーだったら何よりだ。
 それこそ、ラッキー!
 そして今日の俺はぁ、超ラッキーだッ!」

青白「なんか良い事でもありやしたか」

?「ふふん、いつものように部下を相手にした、
 イカサマ無しのポーカーで十戦十勝。
 でもって、銃の試し打ちをしたら、
 その弾の先に偶然鳩がやってきてな、
 上手い朝飯になってくれたわけだ。
 そして更に!!」


354: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:44:32.11 ID:Xu70o61xo
青白「ま、まだあるんですかい」

?「先ほど可愛い幼女が船を下りようとしていてな、
 梯子を器用に伝っていたんだが、
 不意にスカートを引っかけて下着をちらりと――」

青白「はいはい、ラッキーラッキー。
 いい加減捕まりますぜ、旦那ぁ」

?「……ごほん。そんでどうだ、俺のプランは」

青白「まるでアッラーフ(神)の加護があるようですぜ。
 面白いようにどんどん火薬が増える。ひひひぃ」

?「我が主、紳士海賊ウルグ・アリ様だって、
 アンラッキーがなけりゃぁイケるって、
 判を押してくれたんだからそこは心配ねぇ」

青白「さすがですねぇ……
 あっし以外の情報屋も使って、
 イオニアの海は掌の上ってヤツですかい」

?「ふふん、俺なんて所詮、
 我が主にとってはまだまだヒヨッコよぉ」

青白「恐ろしい方でやんすねぇ……」


355: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:45:52.16 ID:Xu70o61xo
?「で、俺が聞いてるのはよ、
 ただプランが進行するかじゃねぇんだよ。

 俺達がラッキーを叫びたくなるくらい、
 ど派手な花火があがるのかって事なのさ」

青白「頼まれた通り、あの町を襲うように、
 エサと海賊は配置しやした……ひひひぃ」

?「そうか、ならこの金はお前のモンだ」じゃらっ

青白「わひゃひゃぁ、金だ、金、金ぇええ!」

?「そんなに金が好きか?」

青白「旦那にとってのラッキーみたいなもんでさ。
 コイツが逃げないでいてくれれば、
 あっしにとっては幸せなんで。ひひひぃ」

?「なら、また遠からず、
 俺様の期待に添える仕事をしてくれよ」

青白「へぇ、任せてくだせぇ。
 そんじゃ、また何か有ったら連絡しまさぁ」

?「おう、ラッキーニュース、楽しみに待ってるぜ」


356: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:46:03.59 ID:Xu70o61xo
青白「あ、ちょっと待ってくだせぇ。
 ほら、マントをしっかりしめねぇと、
 矢尻十字が見えちまいますよ」

?「大丈夫だってよ、これくらい。
 俺のラッキーが有れば誰も気づかん!」

青白「そういう話じゃありやせん。
 紳士海賊閣下に知られたら恐ろしいですぜぇ。
 噂じゃぁ、身だしなみにうるさいとか……」

?「む、そうだな。
 あの方は常に、ド紳士、だからな。
 俺も部下として見習わねばならんか」きゅきゅ

青白「はい、それで見えやせん。
 そんじゃぁあっしも行くとしやす。ひひひぃ」

?「……そういやぁ、一つ聞かせてくれや」

青白「へぇ、なんでしょう」

?「その焚きつけた連中ってのは、
 『客』だったんじゃねぇのか?」


357: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/09(木) 23:48:01.89 ID:Xu70o61xo
青白「……まあ、あっしは焚きつけたとは言っても、
 欲しがってる情報を『作って』渡しただけでさ。
 どうなるにせよ、どうにかなってましたぜ」

?「つまり、裏切ったわけじゃぁねぇって、
 そういうわけかい?」

青白「裏切るなんて滅相もネェ。
 あっしは誰もが喜ぶ親切を売らせてもらっただけ、
 それ以上でもそれ以下でもねぇわけでさ」

?「……そーかそーか、そんならいい。
 商売に励めよ」にかっ

 とことこ

青白「……裏切るヤツは殺されるってね。
 もし裏切ったなんて言ってたら、
 旦那があっしを殺したでしょうや。
 怖い怖い……ひひひぃ」

青白(しかし、白髪の旦那を追った三人。
 あの短髪で胸のねぇ娘っこが、
 だーれかに、似てるってーか、
 見た気がするってーか……
 まあ、いいか……)

367: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/11(土) 23:50:16.53 ID:hCoGRWHTo
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   夕方 バリウガの町中

白髪「まさか、この程度の距離に
 六日もかかっちまうとはな……」

白髪(帰って来ちまったな……
 まさか生きている内にもう一度、
 ここの土を踏むことになるとは思って無かったぜ)

白髪「変わってねぇなぁ、この町も」きょろきょろ

白髪(大きくもなければ、さして賑やかでもない。
 港って言っても船が三艘も入ればいっぱいで、
 ちょっと離れた小島に小さな砦があって……
 よくあの砦に忍び込んで、夕日を眺めたな)

白髪「……これは、パンを焼く臭いか。
 多少家の並びは代わったようだが、
 こいつはかわらねぇなぁ」

白髪(とりあえず、町についたは良いが、
 どうしたものか……宿屋なんか有ったっけか?」)


368: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/11(土) 23:51:43.77 ID:hCoGRWHTo
子供1「あはは、鬼さんこちらー♪」

子供2「まてよーっ!
 あんまり港の方に向かったらダメって、
 お父さんたちから言われてるだろ!」

子供1「そんなのしーらない。
 止めたかったら捕まえなさいよー!」

子供2「おいっ、後ろ向いて走ると……」

 どったーん

白髪「っ!」ばっ

子供1「いたーいっ」どすん

子供2「大丈夫?」

子供1「ううー、おしり痛いけど、大丈夫。
 おじさんが助けてくれたから……」

白髪「いやあ、すまねえな、支えきれなくてよ
 いてて……」


369: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/11(土) 23:52:41.49 ID:hCoGRWHTo
子供2「おじさんも大丈夫?」

子供1「あの、ぶつかってごめんなさい」

白髪「なぁに、俺は大丈夫さ。
 子供は元気が一番ってな……よっ、つつ」

子供1「もしかしておじさん、足くじいちゃった?」

白髪「あー、まあ、何ともねぇよ。大丈夫だ。
 ほれ、こっちで遊ぶと危ないからな、
 あっちに遊びにいけ?」

子供2「でも、痛そうだよ?
 薬草貼らない? うちにいっぱいあるよ」

白髪「ほう、坊主の家は医者かなんかか?」

子供2「お医者さんじゃないよ!
 お医者さんは山を二つ越えたトコまでいかないと。
 うちはちょーちょーなの!」


370: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/11(土) 23:53:50.65 ID:hCoGRWHTo
白髪「ああ、そういや、町長のトコは薬師だったか。
 ん? ……っつーと、赤毛の子供か?」

子供2「おじちゃん、お母さんの事知ってるの?」

白髪「あー、まあ、な。
 そうだな、薬草なんざ別になくても大丈夫だが、
 あの根暗の顔くらいは、見るか」

子供1「ねくら?」

白髪「何でもねぇよ。
 よし、じゃあ坊主、ちょっとおまえさんの家まで、
 案内してくれや」

子供2「いいよー」

子供1「じゃ、あたし先に行って、
 お客さんだよって伝えてくるね!」

白髪「いや、そこまでするような事ぁ……」

子供1「ばっびゅーん」たたたーっ

子供2「おーい、またぶつかるなよー!」

白髪「……やれやれ。懲りない嬢ちゃんだ」


371: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/11(土) 23:54:30.17 ID:hCoGRWHTo
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  夕方 バリウガ町長宅

赤毛「はい、それじゃ今日もちゃんと、
 主の恵みに感謝しましょうね」

子供1「はーい」

子供2「ありがとーございまーす」

赤毛「こらっ、そんな風にいいかげんな事しないのっ。
 ほら、ちゃんと手を合わせて、目を閉じて」

子供1「父よ、今日のめぐみのあることに、
 感謝の気持ちをささげます」

子供2「土を耕し、野菜や麦を育ててくれる
 兄弟達の働きに、感謝の気持ちをささげます」

白髪「……父よ、我らが血と肉になるこの糧に、
 祝福を与えたまえ」

赤毛「父と子と、精霊の御名の元に。エイメン」

子供「「エイメン」」

白髪「……エイメン」


372: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/11(土) 23:55:15.47 ID:hCoGRWHTo
赤毛「さ、食べていいわよー」

子供1「わーい! 今日はごはんいっぱーい!」

子供2「あ、こら、そのニシンは僕が狙ってたのにー」

子供1「へへん、早い者勝ちだよー」

子供2「だったら、こっちは……」

子供1「あーっ! お肉そんなに取っちゃダメーっ」

赤毛「静かになさいっ!」

子供「「はーいっ」」

 ばくばく、もぐもぐ

白髪「悪いねぇ、食事に呼んでもらっちまって」

赤毛「いえいえ、かまわないんですよ。
 1ちゃんを守って怪我をされたなんて、
 むしろこれくらいしかお礼ができない事が、
 心苦しいくらいです」

白髪「いやいや、美味い食事に楽しい子供たちがいりゃ、
 他には何もいらないってモンで」


373: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/11(土) 23:56:07.47 ID:hCoGRWHTo
赤毛「……もしよければ、お酒もいかがですか?
 少し待っててくださいね」いそいそ

子供1「ねえねえ、おじちゃん」もっきゅもっきゅ

白髪「ん、なんだ?」

子供1「おじちゃんとお母さんって、
 知り合いなんだよね?
 どういうお知り合いなの?」

白髪「いやぁ、知り合いっつても、俺は船乗りだからな。
 昔この町に来た時に、ちょいと話した程度でよ」

子供1「でも、お母さんちょっといつもより、
 おじさんとあってからそわそわしてるよ?」

赤毛「ばかな事言ってんじゃないの。
 1ちゃんがこの人に怪我させるから、
 申し訳なくて……」

白髪「そんなに気にしねぇでくれよ。
 船乗りにゃ、この程度の怪我なんていつもの……」

赤毛 ちらっ


374: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/11(土) 23:57:22.18 ID:hCoGRWHTo
白髪「……いや、やっぱりちょっと痛むなぁ」

子供1「え、大丈夫?」

赤毛「1ちゃんが見境なしに走り回るから、
 こうやって人に怪我させるのよ?」

子供1「あ、あうぅ」

子供2「だから走るなって言ったのに」

子供1「走るなとは言ってないよー」

子供2「言ったよ!」

子供1「いつのことー?
 何時何分、そらが何回まわったころ-?」

子供2「とにかく言ったってば!」

白髪「ほれほれ、あんまり騒がしくすると、
 また母ちゃんに怒られるぞ?

子供「「はっ」」じっ


375: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/11(土) 23:58:20.76 ID:hCoGRWHTo
赤毛「……賑やかなのもいいけど、
 食事中はちゃんと味わって、
 感謝しながら食べなさいね」苦笑

子供「「はーい」」

赤毛「好き嫌いもしちゃだめよ?」

子供1「えー、でもあたし、お豆がいやー……」

子供2「ぼく、マリネのたまねぎが辛くて……」

赤毛「だーめ! ちゃんと食べないと、
 いつまでたっても大人になれないわよ!」

白髪「っ、く」ぴくっ

赤毛「あら、どうしました?」

白髪「いや、白芥子の種がちょっと辛かっただけだ」

子供2「白芥子は大丈夫―♪」

白髪「そうそうか、辛いのも食べられて偉いな」なで

子供2「えへへー」

 わいわい、もぐもぐ


376: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/11(土) 23:59:56.29 ID:hCoGRWHTo
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  夜 バリウガ町長宅

白髪「いやぁ、良い湯だった。
 沐浴までさせてもらっちまって、悪い気がするぜ」

赤毛「気にしないでください。
 子供を助けてくれたお礼ですから」にこっ

白髪「その子供達は……」

赤毛「はしゃぎ疲れたんでしょうね、
 寝てしまっています」

白髪「……くく、寝顔は、可愛いモンだな」

赤毛「普段はやんちゃばかりですけどね。ふふ。
 ああ、そうだ、ちょっとそこに座ってください。
 薬草を貼りますわ」

白髪「ちょっとひねっただけだ、
 この程度ならなんて事ぁねぇよ」

赤毛「きちんとしないと、
 後になっても響いてしまいますよ。
 ほら、座ってください」

白髪「……強引だなぁ」


377: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/12(日) 00:01:57.60 ID:l0iBYzGfo
  ぺた、ぺた

赤毛「……懐かしいですね」

白髪「……なんの事だ?」

赤毛「とぼけないで良いですよ。
 白髪さんですよね、あの丘の上の教会にいた。
 一緒に遊んでた頃に、私をかばって怪我をして、
 こうやって治療したり……
 さっきからちょっと他人行儀にしてるから、
 不思議な感じね……」

白髪「……しらネェなぁ」

赤毛「嘘をついてもダメですよ。
 お父様にお顔がそっくりだから」

白髪「…………」

赤毛「久しぶりね」

白髪「ああ、久しぶりだな」

赤毛「まるで五十年くらい会ってないみたい」

白髪「……俺にとっちゃ、それくらいかもな」

赤毛「……」

378: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/12(日) 00:02:08.64 ID:l0iBYzGfo
  ぺた、ぺた

赤毛「……懐かしいですね」

白髪「……なんの事だ?」

赤毛「とぼけないで良いですよ。
 白髪さんですよね、あの丘の上の教会にいた。
 一緒に遊んでた頃に、私をかばって怪我をして、
 こうやって治療したり……
 さっきからちょっと他人行儀にしてるから、
 不思議な感じね……」

白髪「……しらネェなぁ」

赤毛「嘘をついてもダメですよ。
 お父様にお顔がそっくりだから」

白髪「…………」

赤毛「久しぶりね」

白髪「ああ、久しぶりだな」

赤毛「まるで五十年くらい会ってないみたい」

白髪「……俺にとっちゃ、それくらいかもな」

赤毛「……」

379: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/12(日) 00:02:46.03 ID:l0iBYzGfo
白髪「しかし、驚いたな。
 あの陰気でしられた赤毛の娘が、
 いまや二児の母か」

赤毛「まだまだ、母親としては未熟だけどね」

白髪「そんなもんか?
 立派な母親にみえるぜ」

赤毛「そう言ってもらえると嬉しいわ。
 ふふ、昔からそうよね、あなたって」

白髪「何がだよ」

赤毛「私が迷ってたり、困ってたりすると、
 それとなく助けてくれるの」

白髪「俺はそんな、王子様みてぇな生き物じゃねぇよ」

赤毛「でも、頼りになる友人だったわ」

白髪「俺にとっちゃ、頼りねぇ友人だったがな」

赤毛「心配してくれてたの?」

白髪「ふん、まさか」


380: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/12(日) 00:03:41.62 ID:l0iBYzGfo
赤毛「私は、ずっと心配してたわよ。
 だって、あなたが……
 あなたのご家族がこの町から離れる原因は」

白髪「おい」

赤毛「町長だった私の両親が、追い出したから」

白髪「正しい判断だ」

赤毛「独善的な判断だったわ」

白髪「……」

赤毛「ずっとずっと、後悔してたの。
 私があなたとよく遊んだりしてなかったら、
 きっとまだあなたとご家族は、
 この町にいられたんじゃないかって」

白髪「そんな事はねぇよ。
 俺は教会に生まれた、呪いの子だからな。
 いずれ両親共々追い出されてたさ」

赤毛「でも……」

白髪「くどいぜ」


381: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/12(日) 00:04:56.85 ID:l0iBYzGfo
赤毛「……ごめんなさい」

白髪「ちなみに、お前の両親はどうしたよ」

赤毛「二年前に海賊が来て、
 父は町を守るために戦って、町は守れたけど、海に。
 母はその現実に耐えきれなくて……」

白髪「……そうか。
 いまの町長は旦那か?」

赤毛「うん。あんまり気が利く人じゃないけど、
 町のため、子供のために一生懸命に働く、
 とっても優しい人よ。
 頑張りすぎて、役場に泊まる事が多いけど」

白髪「なるほど、それで今日も家にいねぇのか」

赤毛「お客様にひきあわせたいから、
 できれば帰ってきてって言ったんだけど、
 ちょっと急ぎの仕事が入ったって……」

白髪「そうか。大変だな。
 しかし、近いうちにちょいと、話がしたいんだが、
 中継ぎを頼めるか?」

赤毛「お話って?」


382: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/12(日) 00:05:40.26 ID:l0iBYzGfo
白髪「まあ、そりゃちょっとな。
 お前が実は、マリネのタマネギとか、
 マメの水煮が苦手だって事を伝えねぇとな、なんてよ」

赤毛「まぁ、それは伝えられたら困っちゃうわ。
 子供に知られたら特にね。
 口封じには、明日の朝ご飯に
 ニンジンのバターソテーを出すしかないかしら?」

白髪「くく、俺が悪かった、勘弁してくれ。
 未だに俺は、あれだけは食えねぇんだ」

赤毛「じゃあ、何を話すのか、
 本当の事を教えてくれる?」

白髪「……すまんな。
 多分まだ知らん方が良いことだ」

赤毛「……そう。わかったわ。
 あなたが何も言わないなら、私も聞かない」

白髪「すまんな」

赤毛「昔のよしみよ」

白髪「助かる」



383: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/12(日) 00:06:12.93 ID:l0iBYzGfo
赤毛「それにしても、ずいぶん変わったわね」

白髪「……人の倍以上も歳をとる体だからな」

赤毛「それも有るけど、違うわよ」

白髪「何がだ?」

赤毛 そっ

白髪「……」

赤毛「傷がいっぱい。
 激しい生き方をしてきたのね」

白髪「まあ、それなりにな。
 だが、子供やなんかがいることに比べりゃ、
 大した事じゃあねぇさ」

赤毛「そうかしら?」

白髪「そういうものさ。
 幼なじみだったお前の子供を見て、
 つくづく思うぜ。
 後悔はないが、こんな『形』は残せてねぇなとよ」

赤毛「……」


384: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/12(日) 00:06:40.05 ID:l0iBYzGfo
白髪「さて、そんじゃ俺はそろそろ寝るぜ」

赤毛「……おやすみなさい」

白髪「ああ。オヤスミ」なでなで

赤毛「…………もう、子供じゃないのよ?」

白髪「なに、俺みてぇなじいさんからすりゃ、
 子供みてぇなもんだろうよ」

赤毛「中身は私と大してかわらないでしょ」

白髪「そうだったかもしれねぇな。
 さて、そんじゃ改めて、おやすみだ」

赤毛「   」ぼそっ

白髪「ん、何か言ったか?」

赤毛「いいえ、お休みなさい」にこっ


391: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:18:08.35 ID:hovJNFSOo
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  朝 バリウガ町長宅

子供1「おはよーございますっ」

白髪「おう、おはようさん。
 いやぁ、よく眠らせてもらったぜ」

子供2「良い夢みられたました?」

子供1「おかしいっぱいの夢とか!」

白髪「お菓子いっぱい、ってのとは違うが、
 まあ悪くない夢だったな。
 懐かしい夢だったぜ」

子供1「なつかしいって、どんな感じ?」

白髪「そうさなぁ。
 秋の草っぱらで寝転がってる感じか」

子供2「それが、懐かしいなの?」

子供1「秋にそーやって寝転がるのは気持ちいいから、
 良い夢なんだねっ」

白髪「まあ、そういうこった。
 ところでお二人さんよ、母ちゃんはどうした?」


392: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:19:38.15 ID:hovJNFSOo
子供2「お母さんはお出かけしてるんだ。
 お父さんに相談するって。
 だから、おじちゃんにはテーブルのご飯食べてって」

白髪「そうか、朝早くからきまじめだな……
 早いに超したことはないが。
 で、お前らはもう食べたのか?」

子供1「うん、いっぱい食べたよ!」

子供2「1っちゃんったら、白髪のおじちゃんの分も」

子供1「わーっ!! 2ぃくん言っちゃだめだって」

子供2「でも、こっそりチーズ食べようとしたろ。
 そういうのはダメなんだぞ」

子供1「う、ううー」じぃっ

白髪「がはは、その程度じゃ怒らねぇって。
 ほれ、もっと食うか?
 お前らの母ちゃんの飯は美味いから、
 腹一杯になるまで食いたいよな」

子供1「わーいっ♪」

子供2「あ、こら、だめだよ!
 お客さんのご飯食べちゃっ」


393: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:20:39.77 ID:hovJNFSOo
白髪「ガキが細かい事を気にするな。
 食べ終わったらどうするんだ?」

子供1「今日は午後から、教会でおべんきょー」

白髪「つまり午前中は暇か。
 何かして遊んでやろうか?」

子供1「ホントっ? えっと、それなら、それならー」

子供2「それなら、おじさん!
 剣の使い方教えてよ!」

白髪「チャンバラか?
 まあ、別にかまわねぇけどよ」

子供1「えー。せっかくだから、冒険のお話とか」

子供2「そんなの、また他の時でもできるだろ」

子供1「チャンバラだってそうじゃんー」

子供2「違うよ、僕が習いたいのは……」

白髪「ん? よく聞こえねぇぜ」

子供2「僕が習いたいのは、相手を倒せる剣だよ」


394: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:21:24.44 ID:hovJNFSOo
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  朝 バリウガ町長宅 庭

白髪「倒すための剣、なぁ……」

子供2「こう、必殺技みたいなの!
 シラガストラーッシュみたいな!」

白髪「なんじゃそりゃ……
 まあ、とりあえず剣を持ってみるか?」ぽいっ

子供2「わ、わわわ……」よろよろ

子供1「やーい、ふーらふらー」

子供2「うるさいよっ」ちゃきっ

白髪「構えがなってねぇなあ。
 もっと胸を張れ。首をさらすな。
 腕に力が入りすぎだ。
 だからって剣先降ろすな」ぺしぺし

子供2「む、むむ」

白髪「よーし、そのまま素振りだ。
 とりあえずもうムリって思うまで振ってみろ」

子供2「ていっ、やーっ!」


395: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:22:45.56 ID:hovJNFSOo
白髪「……で、なんなんだ、ありゃ」ぼそぼそ

子供1「んにゅ?」

白髪「見るからに細くて、
 勉強はできるけどケンカはダメって、
 学者肌の典型みたいなヤツが、なんで剣だよ」

子供1「うん、2ぃちゃんよわいよー」

子供2「うるさいよ、1っちゃん!」

白髪「ほれ、また猫背になってるぞ!
 肩の後ろの骨で、背骨を両側から押さえる感じで、
 ぐっと胸を張れ!
 振り下ろしたあとの剣に振り回されるな。
 剣に体勢を持っていかれてるぞ。
 降ろしたらぴたっと止めろ!」

子供2「はいっ」ぶん、ぶん

子供1「……あのね、2ぃちゃんね。
 村の漁師のとこの男の子たちにからかわれたの。
 ひょろひょろで弱いーって。
 それで、そんな事ないってケンカして、負けて……」

白髪「だから強くなりたい、剣を使えるように、か。
 間違っちゃいねぇが……」


396: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:24:38.53 ID:hovJNFSOo
子供2「ふ、ふぉぉ」よろよろー

子供1「もうムリみたい?」

子供2「ぜ、はっ。もう、むりー……」ぺたん

白髪「おいおい、誰が座って良いって言った!
 罰としてあと十回素振りだ!」

子供2「ええ、も、もう……」

白髪「口答えも禁止だ。十回追加!
 それとも、もう剣を教えてもらうのはいいですってか」

子供2「…………う。せ、せいっ。はっ」ぶん、ぶん

子供1「ふらふらだよ?」

白髪「おい、坊主!
 へっぴり腰になってるぞ。あと二十回!」

子供2「よけいなこと、いうなよっ!」

子供1「あう、ごめん……」

白髪「なんだ、それだけ元気ならあと十回追加だな」


397: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:26:44.71 ID:hovJNFSOo
子供2「せ、せいーっ!」

白髪「もっと声だせ! ひょろひょろすんな!
 十回追加!」

子供2「はいーっ!」

子供1「……」

白髪「お前は誰を相手にしてるつもりだ。
 空なんか見上げたって相手はいねぇぞー。
 ちゃんと目の前に相手がいるつもりでやり直せ!
 あと二十回だ」

子供2「ひ、ふ、」ふららー

白髪「だぁからよ、胸張ってしっかり剣を支えろ!
 脇が開いてるっての。
 持ち上げるのも遅すぎるぞ!
 そんなんじゃ、持ち上げる前に切られるだろ」

子供2「……っ、っ!」ふららら

子供1「おじちゃん、2ぃちゃんもうムリだよ……
 ふらふらでかわいそうだよ」


398: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:27:30.36 ID:hovJNFSOo
白髪「ほれ坊主、女の嬢ちゃんにまで、
 ふらふらとか言われてるぞ!
 悔しかったらあと二十回振ってみろ!」

子供2「……ぃ……いっ!」

子供1「そんなつもりじゃ!
 ねえ、2ぃちゃんがつらそうだよ!」

子供2「だいじょ、ぶっ、ふぅっ」ぶん、ぶん

子供1「…………」

白髪「ほう、まだ大丈夫ってんなら、
 さらに十回追加だ!
 それから、素振りの剣先下がってるぞ!
 なんだその左右にふらふらの切り下ろし!
 お前は本当に相手を倒すつもりはあるのか」

子供2「う、ぐ……ぐ、っっ!」

白髪「ほれ、剣があがってネェぞ。
 気合い入れてあげろ!
 相手がいたら、待ってはくれねぇからな!」

子供2「うううう、せ、ぃ、っはっ」

子供1「……」


399: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:28:31.18 ID:hovJNFSOo
子供2「はっ、うう……」

 からん

白髪「どうした、もう持てないか?
 俺のカットラスなんざ剣の中じゃぁ、
 かなり軽い獲物だぜ?」

子供1「ねえ、おじちゃんっ」

子供2「ぜ、……はっ」きゅ、からん……

子供1「2ぃちゃん、もうムリだよ。
 はじめて剣持ったのに、
 そんなにできるわけないよっ!」

白髪「まあ、そうだな。
 よーし、休んでいいぜー。
 座ってゆっくり深呼吸だ。
 それからほれ、塩と水をとれ」

子供2 ごくごくごく……ぷはーっ

子供1「…………おじちゃんは、
 あたしたちの事が嫌いなの?」

白髪「あん?」

400: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:29:42.89 ID:hovJNFSOo
子供1「だって、2ぃちゃんがムリって言ったのに、
 それからいっぱい、追加だーって」

白髪「……」

子供2「はふ、はふ……」

白髪「まあ、ちょっとお前さんの歳にはきつかったが、
 別に嫌いだからガツガツやらせたわけじゃねぇぜ?
 ムリって言った後に、コイツ何回振ったよ」

子供1「え、えーっと……」

白髪「百七回だな。
 最初にムリって言うまでで、八十回くらいか。
 最後はもう、振ってるってぇか振られてる形だが、
 それでもそんだけ『ムリの先』があったろ」

子供1「あったけど……」

白髪「最初はそんなモンなんだよ。
 だいたいのヤツは、できる事とできねぇ事を、
 自分でちゃんと知ることもできねぇわけだ。
 だから、自分で勝手に、ある程度でムリを作る」

子供1「でも、まだ2ぃちゃんが、ぜはぜはしてるよ」


401: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:30:33.75 ID:hovJNFSOo
白髪「まあ、二百近く大人用の剣を振り回してりゃ、
 しばらく喋れなくもならぁな」

子供1「こんなのじゃ、まともな練習もむりだよ……」

白髪「まともな練習ができる体力もねぇってこった。
 正直に言やぁ、剣を振るにゃぁ向いてねぇよ」

子供1「……」

白髪「そう睨むなよ。
 別にいじめてるってワケでもねぇ。
 なぁ、坊主よ」

子供2「はぁ、はぁ……」

白髪「町のガキにケンカで負けて、
 悔しかったから剣を習いたいだって?」

子供2「…………」こくり

白髪「あのなぁ、港で働いてるようなガキ共は、
 小さい頃から親を手伝って、
 でっかい荷物を持って働いてるんだ。
 そんな連中に叶わなくたって、別に良いだろうよ」

子供2「……そんなこと、ないもん」


402: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:31:46.65 ID:hovJNFSOo
白髪「お前さんの親は町長で薬屋だろ。
 連中は力仕事。お前さんは勉強が仕事。
 それぞれに得意な所があるんだ。
 自分と相手が互いに得意で、
 どうしても譲れないもんだったら話が変わるが、
 別にそんなんで勝てなくてもいいだろうよ」

子供2「……そんな事、ないもん。けほっ」ちらっ

白髪「…………。
 おい、嬢ちゃんよ」

子供1「ふえ?」

白髪「もうちょっと水持ってきてやってくれや。
 まだ水が足りネェみてぇだ」

子供1「わかったよっ!」たたっ

子供2「……」

白髪「なんでぇ、嬢ちゃんのためってか?」

子供2「……だって、あいつら最初、
 1っちゃんにケンカ売ってて」


403: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:33:52.76 ID:hovJNFSOo
白髪「女の子にケンカ売るたぁ、
 男の風上にもおけネェ連中だな……」

子供2「だから、僕が1っちゃんを守るんだって。
 剣も、まともに振れなかったけど」

白髪「そうだな。
 剣の一本もまともに振れねぇんじゃ、
 ケンカの相手になんざ、まちがってもなれねぇなぁ」

子供2「……」

白髪「それに、そいつらを倒せれば良いって話じゃあ、
 間違っても終わりゃしねぇよ。
 倒したヤツより強いヤツに狙われたり、
 逆恨みした連中に闇討ちされたりな。
 そういう相手のメンツに泥をつけりゃ、
 付け焼き刃で多少強くなったってどうしようもネェ」

子供2「じゃあ、だまって負ければいいの?
 殴られたりしても、我慢すればいいの?」

白髪「真っ向から一対一で殴り合うってのが、
 こういう時のお約束で分かり易いがな、
 そんなのは、殴り合うしか能がねぇ連中に任せろ。
 お前は別に勝ちたいってわけじゃねぇだろ?」

子供2「……でも、負けたら痛いし」


404: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:34:36.93 ID:hovJNFSOo
白髪「勝ち負けで割り切ろうとするなよ。
 お前はその頭があるんだろ?
 だったら、勝ち負けじゃない場所に、
 もちこんでやりゃいいじゃねぇか」

子供2「勝ち負けじゃないところに?」

白髪「一番分かり易いのは、逃げるだな」

子供2「負けてるじゃん!」

白髪「誰も勝ってなんかいねぇがな。
 怪我もしねぇし、相手も満足おおよそ満足する。
 逃げるってのは頭を使えばそう難しくねぇしな」

子供2「……そうなの?」

白髪「さっきも言ったが、
 自分は何ができて何ができねぇのか、
 それを正しく認識する所から物事ってのは始まりだ。
 たとえばお前なら、歳の割に体が小さいよな」

子供2「だから、ケンカも弱くて」

白髪「だからケンカをしなけりゃいい。
 体が小さいから、狭い場所を通れるよな。
 不安定な場所も通りやすいだろ。
 そういう場所は、港があって水路の流れるこの町は、
 いくつだってあるだろ?」


405: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:36:50.83 ID:hovJNFSOo
子供2「でも、そもそも強くなれば……」

白髪「強くなる事も、勝つことも、簡単じゃねぇんだ。
 重要なのは、本当の意味で負けないことだな。
 大切なモノを守りきることができりゃ、
 それが『お前にとっての勝利』だ。
 必要な強さがあるとすりゃ、守りたい奴の背中を
 後ろで支えながら逃げ切る程度の体力でいい。
 ケンカで勝つよりよっぽど効率がいいだろ」

子供2「……」

白髪「あんまり納得できない顔だな」

子供2「だって……」

白髪「ケンカに勝ったって、
 良いことなんざ何もねぇんだって言っても、
 納得はできねぇってか?
 まあ、わかるがな。俺もそうだったしよ」

子供2「おじちゃんは、強いんでしょ……だからだよ。
 弱い僕の気持ちはわからいんだ……」

白髪「俺は確かに負けた事がほとんどねぇが、
 強いってわけじゃぁねぇんだがな。
 いや、騎士団にいた頃は負けっぱなしだったしなぁ」

子供2「……」


406: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:37:34.24 ID:hovJNFSOo
白髪「とりあえずよ。
 その素振りとか、走り込みとか、
 強くなりたいなら毎日やってみろ。
 できるなら港にいって、
 大人達の手伝いもさせてもらえ。

 まずは満足に剣を振る事ができる体力!
 一に体力、二に体力だ!
 体力がついたら、すんげぇ技を教えてやるよ」

子供2「ほんとっ?!」

白髪「おうよ。騎士団に伝わる伝説の技だ。
 期待して良いぜ?」にやっ

子供2「……が、がんばるよ!」

白髪「おう。
 そんじゃ俺はちょいと散歩してくらぁ。
 ムリせず休めよ」

子供2「はい、ししょーっ!」

白髪 ひらひら

 とことこ

白髪「…………俺が師匠ってガラかよ」

赤毛「あら、ずいぶん格好良かったわよ」


407: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:38:25.98 ID:hovJNFSOo
白髪「いつから見てやがった?
 坊主がへたり始めた時に木の陰でそわそわしてたよな」

赤毛「あら、ばれてたの?」

白髪「わからいでか。
 森に隠れるには、その髪が鮮やかすぎらぁ」

赤毛「……ふふ。
 昔のかくれんぼの時と、同じ事を言うのね」

白髪「うぐ。と、とりあえず、悪かったな。
 おまえのガキなのに、シゴいちまって」

赤毛「いいのよ。男の子は叩いて伸ばせってね。
 それに、最近はちょっと逸ってたところが有るから、
 折ってくれて助かったわ」

白髪「下手に剣なんざ持ち出せば、命がないからな。
 自分が弱いって事を忘れたヤツほど、
 長生きできなくなる……」

赤毛「だから、感謝してるのよ」

白髪「それなら助かるが。
 アイツが剣を持とうとしたら、
 俺をダシにして止めてやってくれや。
 しばらくしたらまた、自分が強くなったって、
 きっと誤解するだろうからな」


408: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:39:30.64 ID:hovJNFSOo
赤毛「わかったわ。
 それじゃ、こんどはこっちの用件ね。
 旦那様がアナタに会いたいって」

白髪「ほう、案外早かったな。
 早くても夜にはなるだろうって思っていたが」

赤毛「そこはほら、台所とかいろいろ握ってる、
 奥様のお願いは聞かざるをえないってね」

白髪「かぁー、そりゃぁ怖いな。
 俺はこの町を逃げ出して正解だったかもな」

赤毛「……そんな事言うと、
 憲兵さんに突き出しちゃうわよ?」

白髪「せめてお前の旦那に面会してからだな。
 どんなに恐ろしい女か告げ口してからじゃねぇと、
 断頭台に上っても頭だけで言い続けるぜ」

赤毛「ちょ、ちょっとやめてよっ。
 私がそういう怖い話苦手だって、
 憶えてて言ってるでしょ……性格悪いんだから」

白髪「どっちもどっちだろ。
 なんだ、まだセイレーンのおとぎ話に震えあがって、
 夜にトイレに行けないのか?」


409: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:40:22.03 ID:hovJNFSOo
赤毛「…………むぅっ、ばーかっ!」げしっ

白髪「ってぇぇええっ、いま、お前!
 俺のくじいた足を狙ったろ!」

赤毛「そんなの知りません」

白髪「いや、治療して知ってるだろ!」

赤毛「記憶が定かでございません。
 専門家に依頼して事実関係の再調査を行い該当問題に
おける対策委員会を設置した上でご回答させていただきますー」

白髪「……息継ぎなしでそんな台詞を言えるほど、
 町長職ってのは政治家くさく無かった気がするが……」

赤毛「しらないしらないしらないですー。
 ホントにもう、デリカシーがないんだから……
 だいたいアレって、十四歳の頃の話じゃない。
 それを今さら持ち出すなんて……」ぶつぶつ

白髪「おい、おーい。
 役場の前、通りすぎてるぞ?」

赤毛「……っ、もう!」たたっ


410: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:41:08.37 ID:hovJNFSOo
------------------------------------------------
  昼 バリウガ 役場の町長室

白髪「俺は白髪ってんだ。よろしくな」すっ

町長「どうも初めまして、
 この町で代表を任されている町長です。
 よろしく」ぎゅっ

白髪(おうおう、随分と険のある表情だなぁ。
 年の頃は赤毛より少し上、か。
 ハゲかけちゃいるが、それなりに見栄えのいい顔が、
 なんでこんなにらみつけて……)

町長「すまないが、赤毛。
 しばらく席をはずしてくれないかな?」

赤毛「でも……」

町長「………………」

赤毛「では、後で」

 とことこ、ぱたん

白髪「随分と、慎重じゃねぇか」

町長「慎重にもなるというものだ、海賊」


411: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:42:36.91 ID:hovJNFSOo
白髪「……それは誰に聞いたよ」

町長「港の職員の一人が以前、
 さきほど、この町に海賊が来ているかもしれないと、
 不安げだったが進言してくれてな。
 どうやら、別の町で働いていた頃に、
 海賊衣装で歩く姿を見ていたらしい。
 この小さい町だ。
 なじみの商人以外に来たと言えば、
 お前ぐらいしかいない……」

白髪「まあ、たしかにそうだろうな」

町長「妻と子供を人質にとったつもりか?
 だが、私は町長だ、そんな情に流されるつもりは……」

白髪「おいおい、ちょっと待ってくれよ。
 別に、迷惑をかけに来たわけじゃねぇ」

町長「……なら、目的はなんだ」

白髪「この町の防備を、しばらくの間でいい、
 いつも以上に厳重にした方がいいって警告をだな」

町長「それは、この町を襲うということか!」

白髪「主語がねぇけど、それ俺が襲うと思ってるだろ。
 わざわざ警備を増やすようにいう海賊がいるかよ」


412: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:43:50.33 ID:hovJNFSOo
町長「……そう言って、油断させるつもりか?」

白髪「あんた、どんな頭の中身してるんだっつーの。
 とりあえずよ、海の防備と……
 それから南西の山にもできりゃ一小隊は、
 常に置いておくようにしておくといい」

町長「南西の山だと?
 隣町とは良好な関係を作っている、
 心配される余地はない。
 この町はさらに他の方角も周りを山に囲まれ、
 正面が海という天然の要塞だ。

 湾の中にある小島の砲台と、
 せり出した海岸線の砲台の両方が海を守る間は、
 何人たりとも陸には近づけんぞ」

白髪「確かに正面の防備は堅牢だな。
 船の砲は多く積もうにも重量が問題になるが、
 島の砲台にはその制限がねぇ。

 さらに、どんなに多くの艦隊が押し寄せても、
 入り口が狭くなっている事で、
 実質敵には、ニ隻対二砲台の戦いだ。
 弾の補充さえ十分にありゃ、負けねぇだろうな」

町長「……詳しいな」

白髪「この町の出身だったんだ。
 その程度の知識はある。
 だからこそ、南西の山を見張れって言ってるんだ」


413: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:44:48.35 ID:hovJNFSOo
町長「だが、それはできん」

白髪「なんでできないんだ」

町長「我らがベネッタ共和国の式典が近々あり、
 そのためにこの町の兵の余剰は、
 全てそこに向かわせてしまったのだ」

白髪「呼び戻せばいいじゃねぇかよ」

町長「他の……この町よりも小さな町でさえ、
 兵を供出しているんだ。
 いまさら、海賊の男から情報が入ったので、
 町に兵隊を戻したいなどと云う事はできん」

白髪「……見栄か」

町長「この町の立場を守るという戦争への出兵だ」

白髪「だがよ、人数が足りないまま海賊を迎えれば、
 この町は連中にとって良いエサにしかならねぇぞ」

町長「我が町の兵士は勇敢だ。
 多少の数くらいはどうとでもする。
 むしろはりきって、普段の倍は力を見せるだろう」


414: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:46:04.30 ID:hovJNFSOo
白髪「だが、山側の防備に割く人数はねぇんだろ」

町長「山側は隣の都市との関係が友好であれば、
 問題など生じる事はない。
 そして正面の防備が万全なのだ。
 貴様のような海賊の言葉など聞く耳はもたん!」

白髪「俺が言ってるのは、
 山を一つ超えた所にある崖に……」

町長「くどいッッ!!
 そうしてこの町の防備に穴を開けようとしても、
 先祖代々続いてきたこの守備に、
 ネズミ一匹通すこともない!
 そしてネズミの言葉に耳を傾ける必要もない!」

白髪「ホントに話をきかねぇなぁ……」

町長 りんりんりん

 がちゃ

兵士「町長様、いかがされましたか」

町長「こちらの客人がお帰りだ。
 丁重に送って差し上げろ」


415: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:46:54.52 ID:hovJNFSOo
兵士「はっ! 客人、こちらに」

白髪「……」

町長「我が妻の朋友というから会ったが、
 次に顔を見れば、即刻落としてくれる……っ」

 とことこ、がちゃり

 たたっ

赤毛「どうでした?」

白髪「どうもこうも……
 なんだ、あんたの旦那は海賊に恨みでもあるのか?」

赤毛「……私の父と同じように、
 彼は両親と兄妹が共に、海賊に殺されたって」

白髪「……そうか、まあそりゃぁ、
 仕方ねぇのかもしれねぇけどなぁ……」

赤毛「どうかしたの?」

白髪「いや、なんでもねぇ。……なんでもねぇよ」

赤毛「ねえ」

白髪「…………」


416: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:47:38.19 ID:hovJNFSOo
------------------------------------------------
  夕方 バリウガ 港

白髪「……義理は果たした」

白髪(だが、なぁ……)

 とことこ

白髪「呪われた子って理由で話を聞かれないって、
 そんな可能性は考えていたが、
 海賊だからって理由で切り捨てられるか……
 それじゃぁ、どうしようもねぇなぁ」

少女「じゃあ、もし呪いの子って理由だったら、
 どうにかできたの?」

白髪「俺の云う事を聞かないと、
 俺と同じ呪いにかかっちまうぞー、なんて脅せば、
 多少は効果があるかと思ったんだがな」

少女「いやいや、むりでしょそれ。
 私だって信じないって!」

狼「アタシだって信じない」

双子姉「あたしもそんなの信じないしっ♪」


417: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:48:36.61 ID:hovJNFSOo
白髪「……で、お前ら、いつの間に来たんだよ」

少女「ついさっきだよ。ほんと疲れたー。
 女だけで船旅ってダメだね」

狼「体目当てのくさい男共なんて海に落とせば良いのに、
 少女が下手に愛想笑いで距離を取るから、
 逆に勘違いして寄ってくるんだって」

白髪「まあ、こんだけ可愛い女が二人で旅してりゃ、
 そうならん理由はねぇか」

双子姉「!……!」

白髪「なんでぇ、胸なんざ張ってどうした。
 腰がいてぇのか?」

双子姉「ちっがーう!
 あたしも! 女! れでぃー!」

白髪「がはは、冗談だっての。
 わかってるぜ、双子姉の嬢ちゃんも、
 魅力的なレディーってヤツだ。
 あと五年したら俺のベッドに招待……ふごぶっ」

狼「元気っ、そうでっ、なによりねっ!!」げし、ずが

少女「あーあ……」


418: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:50:18.25 ID:hovJNFSOo
双子姉「それにしても、
 到着してすぐに見つかって良かったねー……
 大きくない町だから、
 最悪は町の広場で延々と名前を叫ぼうとか……」

白髪「そりゃぁ、勘弁して欲しい話だ。
 んで、なんでお前らはココにいるんだよ。
 俺を追ってきたみてぇだが、なんか有ったか?」

少女「なんか有ったかって、大ありでしょ!
 何も言わないで出て行くから、
 最後に話したの私だったみたいだし、
 なにかヒドイこどでも、ぶいじぎに……」ぐじゅっ

狼「……泣かせた」

双子姉「白髪のおっちゃんが泣かせたーっ♪」

白髪「お、俺のせいかっ?!
 いやまあ、俺のせいっぽいが」

少女「……ふだごあねちゃんも、
 ごごにぐるまで、いっばいないでだじ……」

双子姉「わーっ、わーっ!
 言わなくていいのにー」

白髪「……あー、なんつーか、その。すまん」


419: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:52:11.42 ID:hovJNFSOo
狼「すまんで済んだら断頭台はいらないって言葉、
 あたしに教えてくれたのは白髪よね」

白髪「だが、すまんとしか言えなくてよ。
 今回のコレは俺の個人的な話だからな、
 海賊船で近づくワケにもいかねぇ場所だし、
 ちょいと行ってさりげなく戻ろうかーってな」

少女「だったら、なおざら、
 ぢゃんと理由、おじえでいっでぐだざい……」

狼「ほら、とりあえず鼻かみなさい……」

少女「ちーんっ」

狼「アタシは少女についてきただけだから、
 特に何かを言うつもりはないけど……」

白髪「まあ、だろうな」

狼「……ちょっと、心配した、から」(//////

白髪「……………………」石化

双子姉「……」つんつん

少女 すんっ、すんっ


420: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:53:26.08 ID:hovJNFSOo
狼「な、人がせっかく恥ずかしいの我慢したのに、
 なんでぼーっと、空なんか見てるのさっ!」げしっ

白髪「――@;^¥▽*?!」びくんびくん

少女「……なんか、いつもより痛がってない?」

狼「……しらない。アタシ先に宿屋に部屋取るから」

少女「それじゃ、私は……
 町の探索に行ってくるから」

双子姉「え、二人ともいっちゃうの?」

狼「そこのゴミ、任せたから」

少女「ゴミって、とりあえず宿屋までは一緒にいこ!」

狼「ちょっと、腕くまないでよ」

少女「そういえばさっきの、心配って……」

狼「……痛いのと痛いの、どっちがいい?」

少女「どっちも遠慮します!」

 がやがや、とことこ


421: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:54:06.13 ID:hovJNFSOo
白髪「ってーなー。
 あいつ、本気で……くそぉ……」

双子姉「大丈夫なの?」

白髪「……そんなに心配そうな顔なんざするな。
 いつものじゃれ合いと同じだろ」

双子姉「でも、いつもは大した事なさそうなのに、
 今のは痛そうにしてたよね?」

白髪「そんな事ねぇぜ。
 いつだって殴られれば痛ぇからな。
 所で、もしかして本当に三人で、
 船を置いてこっちに来ちまったのか?」

双子姉「うん……
 だって、くろちゃんが何も教えてくれなくて」

白髪「くろちゃん。ああ、男の事か。
 まあ、アイツは俺に義理立てしただけだからよ、
 恨むんなら、アイツに黙らせた俺を恨んでくれ」

双子姉「……恨まないよ。
 あたしだって、知ってたら聞かないもん」


422: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:54:39.82 ID:hovJNFSOo
白髪「知ってたらって、誰かに聞いたのか?」

双子姉「隠れ港の情報屋さんに、
 ここが白髪のおっちゃんの故郷で、
 故郷を守るために戦いに行ったって」

白髪「口の軽い情報屋だ。もう使わねぇぞ、ったく」

双子姉「でも、おかげでここに来れたよ」

白髪「来させたくなかったんだ。
 ヤツの情報が本当なら、形がどうあれ、
 この町は近く戦場のようになるぜ」

双子姉「……」

白髪「できるだけ止めようとしたんだがなぁ……
 海賊の忠告なんざ聞く耳はねぇってよ」

双子姉「こんなに」

白髪「ん?」

双子姉「こんなに良いにおいがして」

白髪「パンやピザの焼ける臭いだな。
 チーズだのバターだのも、そろそろ臭いが混じるぜ。
 もう少しすりゃ、仕事を終えた男達が家に帰る頃だ」


423: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:55:29.97 ID:hovJNFSOo
双子姉「みんなが元気よくて」

白髪「港の連中は活気があるってのが相場だな。
 荷物の上げ下ろしで鍛えた、
 丸太みてぇにぶっとい腕に、
 通りの店でマグにつっこんだエールを掲げて、
 女房の悪口でも言いながら家に帰るのさ」

双子姉「くわしいね」

白髪「昔から、変わらねぇからな」

双子姉「みんな、笑顔だね」

白髪「人が笑顔になれねぇ町は死んだ町だ。
 ここは、そうじゃねぇからな」

双子姉「子供達も笑ってるね」

白髪「お前だって、子供じゃねぇか」

双子姉「……子供じゃないよ?」

白髪「十二、十三程度でなに言ってやがる」

双子姉「……んー」ぐーっ

白髪「……何の真似だよ」


424: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:56:08.00 ID:hovJNFSOo
双子姉「……ちゅぅ、するの」

白髪「誰とだよ」

双子姉「白髪のおっちゃんと」

白髪「しねぇよ、ばか」

双子姉「ばかって言った方がばかなんだよ。
 あたしは本気だよ?
 本気で白髪のおっちゃんと大人のちゅぅをね」

白髪「いらねぇよ。
 五年経ってから出直して来い」

双子姉「知らないモン」ぐいーっ

白髪「だぁーっ、そのおちょぼ口を近づけんな!」ぐー

双子姉「ならちゅぅしてよぉっ」ぐぐいーっ

白髪「仮にもレディーだって言うんだったら、
 そんな珍妙な顔を寄せるんじゃねぇよっ」むにーっ

双子姉「がうがうーっ」ぶんぶん

白髪「いや、お前、狼じゃねぇだろ」


425: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:56:54.21 ID:hovJNFSOo
双子姉「……」むっすー

白髪「なんだなんだ?
 いきなりどうしてキスなんざしようとする。
 初めての相手は特別って言うじゃねぇか。
 そうやって粗末にするもんじゃねぇよ」

双子姉「……もんっ」

白髪「粗末だろ」

双子姉「粗末じゃないもん。
 あたし、白髪のおっちゃんのこと、大好きだもんっ」

白髪「ちげぇだろ」

双子姉「そんなことないもんっ」

白髪「そいつは、親とかそういうのに対してだろ。
 体を許す相手は、そういう相手じゃねぇのにしな」

双子姉「ちがうもん。
 ほんとに、ほんとに、ちがうんだもん」

白髪「……俺にとっては、お前は孫なんだよ」

双子姉「……」ぽろぽろ


426: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:58:49.50 ID:hovJNFSOo
白髪「泣き止んだら、行こうぜ。
 はやくしねえと、ハラヘリ少女が皿を鳴らして、
 まだかまだかって騒ぎ出すぜ」

双子姉「……ばか」

白髪「ばかって言った方がばかなんだろ?」

双子姉「いま二回言った白髪のおっちゃんは救えないね」

白髪「…………いい度胸じゃねぇか。
 まて、こらっ。くすぐってやろうっ!」

双子姉「ひょい、ひょーいってね。
 へへん、捕まらないよーだ!」

白髪「やろっ、せいっ」

双子姉「きゃ。つかまっちったー」

白髪「さーて、くすぐってやるから覚悟し……」

双子姉「ちゅ」

白髪「……なにしてんだよ」

双子姉「ちゅぅするって、いったじゃん。
 家族だったら、いいでしょ!」


427: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/16(木) 04:59:33.65 ID:hovJNFSOo
白髪「……ったく、先がおもいやられるな」

双子姉「それはこっちの台詞だもん」

白髪「……」なでなで

双子姉「んー♪」

白髪「……ほれ、少女が待ってる。いくぜ」

双子姉「ハラヘリングおねーちゃんのために、
 れっつごー♪」ぎゅっ

白髪「ほれ、暑苦しいから離れろ」

双子姉「えー、やだもーん」

白髪「ったく、しょーがねぇなぁ」

双子姉「へへっ」くるくるっ♪

白髪(時よ、とまれ。お前は美しいってか。
 ……あと五年。
 叶うなら、神様よ。俺の命が流れ落ちるのを……)

双子姉「ふんふふーん」くるくるっ♪



436: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/19(日) 23:57:52.48 ID:ngVyZ5OLo
------------------------------------------------
  夜 バリウガの酒場

 がやがや

少女「えーっと、それじゃとりあえず、
 改めて再会を祝う感じで、かんぱーい!」

全員「かんぱーい!」 

白髪「かーっ、やっぱこの街のエールはいいなぁ!」

双子姉「この鶏料理もおいしー♪」

狼「…………」もぐもぐもぐもぐ

少女「あはは、狼さんもうちょっと落ち着いて。
 取ったりしないからさ」

狼「う、うるさい。別に取られるとか思ってないって」

双子姉「じゃー、ミートパイいただきー!」

狼「っ! ちょっと、それアタシが取っておいたの!」

双子姉「へへん。ふぁふぃふぃふぁふぇふぁ……」


437: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:00:24.23 ID:PkwhPbyao
少女「口の中に何かある時はしゃべっちゃだめ!」

双子姉「むぅぅ……もぐもぐ。はぁーい」

白髪「がはは、元気でいいじゃねぇか」

双子姉「だよねーっ。はぐっ。もきゅもきゅ」

少女「ちょっと、白髪さーん……」じろり

狼「……少女って、そういう所で結構云うよね」

白髪「まあ、育ちの良さがうかがえるっつーかな」

双子姉「少女のお姉ちゃんはお嬢様?」

少女「別にそういう理由じゃないと思うけどーって、
 ほら、口の周りに食べカスついてるって」ぐしぐし

双子姉「んむぅ……」

白髪「……育ちがどうこうって云うより、
 母親気質ってところか」


438: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:00:59.56 ID:PkwhPbyao
少女「口の中に何かある時はしゃべっちゃだめ!」

双子姉「むぅぅ……もぐもぐ。はぁーい」

白髪「がはは、元気でいいじゃねぇか」

双子姉「だよねーっ。はぐっ。もきゅもきゅ」

少女「ちょっと、白髪さーん……」じろり

狼「……少女って、そういう所で結構云うよね」

白髪「まあ、育ちの良さがうかがえるっつーかな」

双子姉「少女のお姉ちゃんはお嬢様?」

少女「別にそういう理由じゃないと思うけどーって、
 ほら、口の周りに食べカスついてるって」ぐしぐし

双子姉「んむぅ……」

白髪「……育ちがどうこうって云うより、
 母親気質ってところか」


439: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:01:44.98 ID:PkwhPbyao
少女「口の中に何かある時はしゃべっちゃだめ!」

双子姉「むぅぅ……もぐもぐ。はぁーい」

白髪「がはは、元気でいいじゃねぇか」

双子姉「だよねーっ。はぐっ。もきゅもきゅ」

少女「ちょっと、白髪さーん……」じろり

狼「……少女って、そういう所で結構云うよね」

白髪「まあ、育ちの良さがうかがえるっつーかな」

双子姉「少女のお姉ちゃんはお嬢様?」

少女「別にそういう理由じゃないと思うけどーって、
 ほら、口の周りに食べカスついてるって」ぐしぐし

双子姉「んむぅ……」

白髪「……育ちがどうこうって云うより、
 母親気質ってところか」


442: サーバとの連携がうまくいかない? ひどい状態(>_<) 2011/06/20(月) 00:05:44.53 ID:PkwhPbyao
狼「とりあえず、少女の事はおいておくとして。白髪」

白髪「あん、なんだ?」

狼「この後はどうするの?
 これから隠れ港に戻ってひと月も待てば、
 また男たちと合流できるけど」

白髪「それは、大人しく引き下がって待つってことか?」

狼「そういう事。
 海賊だから話を聞かないなんて狭量な相手に、
 わざわざ何かしなくてもいいじゃない」

白髪「……」

双子姉「狼のお姉ちゃんは、街を守るの反対なの?」

狼「反対、って言うほど強くはないけど。
 でも、つまらない」

双子姉「つまらないって、なにが?」

狼「そんな相手のために危険の中に飛び込むのが」

双子姉「でも……」


443: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:07:38.22 ID:PkwhPbyao
狼「相手が港を襲う海賊として普通の規模だったら、
 兵員は少なく見て千人程度。船は五隻以上ね……」

双子姉「そんなにいるの?」

狼「少なく見積もって、よ。
 このイオニア海東岸はほとんど帝国の領土だし、
 彼らの勢力なら数倍いてもおかしくないわ。
 そんな相手にケンカなんて売らないでいいじゃない」

白髪「いや、その『少なく見積もって』以上は、
 想定する必要はないぜ」

狼「なんでよ」

白髪「何のために要衝のレパントがある。
 あの近辺がまだ落ちてねぇからな。
 大艦隊が動けば、ベネッタが見すごさねぇよ」

狼「……少なくても数十隻で動く事はない、か。
 相手の元の数が多すぎて、あんまり変わらないけど」

白髪「そう言うなよ。
 少なくとも『最悪』じゃねぇんだからよ」


444: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:08:48.32 ID:PkwhPbyao
狼「だから、この町に残って、
 海賊だからって理由で白髪の話を聞かなかった連中に
 手を貸そうっていうの?」

白髪「……まあ、そうだな」

狼「この町で戦闘ができるのはせいぜい500人くらい?
 規模からの予想だから、違うかもしれないけど。
 地の利が有っても、有利にはならない。
 それが501人になって、なにが変わるのよ」

白髪「地の利を生かせれば、
 その人数でもこの町の防衛はできるんだ。
 今までに何度か似たような事態は有って、
 それを防いできたんだからな」

狼「だったら今回だってやらせればいいでしょ。
 いまさら首を突っ込まなくていいじゃない。
 白髪はこの町から追い出されたから、
 自由きままな海賊になったんじゃないの?」

少女「ちょっと、狼さん、言いすぎだって」

白髪「いや、まあ、そう言われたらその通りだ。
 けどなぁ。
 俺がこの町を守りたいってのは、理屈とは違うのさ」

狼「…………」

445: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:10:05.70 ID:PkwhPbyao
白髪「この町の思い出は、良いモノばかりじゃねぇ
 でも、俺にとってはどれも大切なのさ。
 それに、一人や二人増えたって、
 本来なら大した意味なんかねぇんだがよ、
 いまだけは、俺が加わる意味がある」

狼「何かあるの?」

白髪「この町の防備には穴があってな。
 海の要衝ってだけあって、
 海賊相手の海の防備は万全なんだが、
 陸に問題がある」

少女「港から眺めただけだけど、
 この町って山に囲まれてるよね。
 近くの港からもちょっと離れているし、
 陸からは入れないと思うけど……」

白髪「さすが元上等兵か? よく見てるな。
 ただ、見えない位置が問題だ」

少女「船から見た限りだと、陸地は崖が多くて、
 それなりの傾斜と浅さだったように見えたから、
 接岸はできないようにみえたよ」

白髪「その通りだが、町の南西にある山の向こうに、
 小さいが遠浅の海岸が有る。
 ここだけはガレー船のように浅い船なら、
 ある程度近づいて接岸できるのさ」


446: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:10:52.41 ID:PkwhPbyao
狼「それなら、よくそこから襲ってくるって事で、
 町の方で防備を固めてるんじゃないの?」

白髪「港じゃねぇし、かなり傾斜の厳しい山道だ。
 普通の海賊ならそんな道は使わんと、
 防備は想定されてねぇらしい」

少女「町からの距離はどれくらい?」

白髪「昼間に徒歩で最短距離を行けば一時間。
 抜けるだけならそこまでかからんが、
 余力を残せばその程度だろう。
 夜間なら二時間……二時間半くらいかかるか?」

双子姉「それって、そんなに危ないのかな。
 この港そのものが目的ってわけでもないんでしょ。
 本当にそこまで回りくどいことするかな。
 そこまで儲かってる港には、悪いけど見えないし。
 手間と、手に入るものが釣り合わないんじゃない?」

白髪「それは相手に言ってやってくれ。
 まあ、理由が分からんものの、
 ココを狙ってる奴らがいることは確かだ。
 連中ははばかりなく、
 ココを襲うって言いふらしていたらしい」

少女「……言いふらして?」


447: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:11:48.75 ID:PkwhPbyao
白髪「しかも、実はその連中とは因縁がある。
 少女は知ってるだろうが、
 先日の隠れ港でいちゃもんをつけてきた、
 山賊まがいがいたろ?」

少女「うん、すごく口の臭かった……」

白髪「がはは、そうだったのか?」

少女「ほら、人質にとられた時に、
 顔が近かったでしょ?
 それがすごく匂ってきて……」

白髪「そりゃ、災難だったな、くく……っ。
 まあとにかく、この町を狙ってるのが連中らしい」

少女「げっ」

双子姉「そんなに嫌なの?」

少女「言いたくもなるよ……
 息が特に酷かったけど、全体的にすごく臭くてね。
 それに、おかしな方向に『プライド』持ってて、
 関わるだけ損って感じ……」

少女「そこまでなんだ……」


448: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:13:30.10 ID:PkwhPbyao
白髪「普通の海賊なら山側の心配なんざしねえが、
 山賊相手となりゃぁ、山から狙う確率は高い。
 海賊が面倒がるような厳しい道だって、
 連中ならためらわねぇだろうと思ってよ」

少女「体力だけは有りそうだったしね……」

白髪「町の正面は町の連中が守るだろうが、
 側面からの攻撃には対応の準備がねぇ。
 正面の相手を蹴散らしている間だけ、
 時間稼ぎが必要な気がしてならねぇのさ」

少女「二正面作戦で来るってこと?」

白髪「これは単なる俺の予想だが、
 正面の本隊が持つ前半の役割は陽動だろう。
 距離を保ちつつ、町の防備の意識を引きつける」

双子姉「突っ込んでも、港と入り江の砲台で、
 すぐ沈められちゃうだろうからね」

白髪「そういうこった。
 で、その間に山側から別働隊が、
 入り江の側面にある砲台と港の一部を狙う」


449: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:14:30.73 ID:PkwhPbyao
少女「砲台の占拠ができなくても、
 迎撃に集中できなくなればいいんだね。
 あとは本隊が入り江の中に入って町を占拠できる」

白髪「町の人間を人質に取られた後は、
 やりたい放題されるしかねぇ。
 町にはゴミと死体しか残らなくなり、
 人間は帝国で奴隷として売りさばかれる。
 そこに流れてる小さな川も、真っ赤に染まる」

双子姉「…………」

狼「……何度も云うけど、
 でもそんな白髪の警告に対して、
 町の連中は話を聞かなかったんでしょ」

白髪「町の代表が、だがな。
 こっちだって何度も云うが、
 だからって見捨てるわけにはいかねぇのさ」

狼「なんでそんな、人間に……」

白髪「俺たちだって、人間だろ」

狼「……私達を、悪魔とか魔女って呼ぶ連中とは、
 一緒の扱いなんてされたくない」

少女「…………」


450: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:16:49.70 ID:PkwhPbyao
白髪「確かに、町長は話をきいてくれなかったがな。
 それでも、昔面倒を見てくれた親切な人もいる。
 変わっていない、懐かしい街並みがある。
 親しかった友人もこの町で生きて、
 俺なんぞと子供を遊ばせてくれたんだ」

狼「そんなの……」

白髪「狼にわかってもらえるとは、思わん。
 狼は狼で、苦労してきたのは聞いてるからな。
 故郷と呼べるような場所がないのは仕方ねぇよ。
 ただ、これが俺の生き方なんだ。
 何を云われても譲れねぇよ」

狼「べつに、苦労なんて。
 ただ、そんな風に、白髪をのけものにする相手に、
 何かしなくてもって、それだけで……」

白髪「……お前は優しいな」ぽん。なでなで

狼「……っ、っ」ばっ

白髪「おっと」

狼「……しらない。
 白髪なんて、野たれ死んじゃえばいいのよ」

 どたどた


451: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:17:40.10 ID:PkwhPbyao
白髪「確かに、町長は話をきいてくれなかったがな。
 それでも、昔面倒を見てくれた親切な人もいる。
 変わっていない、懐かしい街並みがある。
 親しかった友人もこの町で生きて、
 俺なんぞと子供を遊ばせてくれたんだ」

狼「そんなの……」

白髪「狼にわかってもらえるとは、思わん。
 狼は狼で、苦労してきたのは聞いてるからな。
 故郷と呼べるような場所がないのは仕方ねぇよ。
 ただ、これが俺の生き方なんだ。
 何を云われても譲れねぇよ」

狼「べつに、苦労なんて。
 ただ、そんな風に、白髪をのけものにする相手に、
 何かしなくてもって、それだけで……」

白髪「……お前は優しいな」ぽん。なでなで

狼「……っ、っ」ばっ

白髪「おっと」

狼「……しらない。
 白髪なんて、野たれ死んじゃえばいいのよ」

 どたどた


452: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:19:45.43 ID:PkwhPbyao
双子姉「怒らせちゃった?」

白髪「いや、怒ってはいないだろうがな。
 わかり合うことはできないってことが、
 わかったんだろうさ」

少女「狼さんは、白髪さんに危険に遭って欲しくない。
 白髪さんは危険でも町を守りたい……」

双子姉「あたしも、白髪のおっちゃんには、
 できれば一緒に逃げて欲しいなーとおもうけど」ちら

白髪「……悪ぃなぁ」

双子姉「だよねー」

白髪「……少女も同じか?」

少女「んー、故郷を守りたいって気持ちは、
 私はよくわかるからね。
 今はちょっと離れてるけど、大好きだから。
 ただ、狼さんの気持ちも分からなくはないからさ」

白髪「俺だって、あいつの気持ちは伝わってるさ。
 だが、ゆずれねぇのさ。これは」


453: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:21:13.26 ID:PkwhPbyao
   深夜 宿屋の屋根の上

 とことこ

少女「やーっと見つけた」

狼「……何か用?」

少女「んー、ちょっと寝酒につきあってもらおうかな、
 なーんて」

狼「嘘つき」

少女「あはは、……ごめん」

狼「謝らないでよ……」

少女「となり良いかな?」どさっ

狼「答える前に座ってるじゃない」

少女「えへへ」

狼「誉めてないわよ」


454: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:23:06.88 ID:PkwhPbyao
少女「とりあえず、おさけ。
 シードル好きだったよね?」

狼「……ありがと」

少女「いえいえ、どういたしまして」

狼 ちびり、ちびり

少女「……」じーっ

狼「……なに?」

少女「なんだか、ちょっと寂しそうかなーって」

狼「そんなこと、ないし」ついっ

少女(目をそらしちゃう所が可愛いなぁ……
 あれ、でも、年上、じゃ、ない? もしかして。
 大質量を誇る二つのアレのせいで、
 なんとなく気後れしてたけど、
 狼さんって私より少し年下かも?)

狼「……なんで悲しそうな顔してるのよ」

少女「な、泣いてないって」ぐっ

狼「何で泣くのよ……」


455: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:23:32.34 ID:PkwhPbyao
少女「白髪さんが一人いたからって、
 大きく変わる事なんてないって?」

狼「そうでしょ。
 誰からも認められる事なんかなく、邪険に扱われて、
 それなのに危険だけ背負おって、
 そんな人間なんかを助けるって、おかしいと思う。
 私たちの船なら、
 助けてくれたら助かったって気持ちを伝えるし、
 そもそも白髪は私たちに必要だし……」

少女「でもね、白髪さんにとっては、
 きっとココを見捨てたら、
 白髪さんじゃいられなくなる何かが、あるんだよ」

狼「…………」

少女「ほとんど私も狼さんと同じ意見だけどね。
 故郷の事になると、ちょっと落ち着けないのは、
 わかるからさ」

狼「……わかってる。ホントは、わかってた」

少女「うん」


456: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:24:06.72 ID:PkwhPbyao
狼「ききたかっただけ……部屋に戻ろう。
 ちょっと、冷えてきたし」

少女「そうだね」

少女(狼さんの背中が小さく震えてるのは、
 寒いから? それとも)

少女「……あのね」

狼「なに?」

少女「白髪さんは、私たちのこと、大好きだと思うよ」

狼「……ありがと」

 とことこ

少女(こんな言葉しか、云えない……
 包帯さんなら、もっと気の利いたことが云えるよね。
 ああもう、なんで、なんで)

少女「私は、なんで、こんなに何もできなくて……」


457: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:25:48.20 ID:PkwhPbyao
------------------------------------------------
  夕方 パリウガ南東の山頂の廃墟

白髪「状況を確認するぜ」

双子姉「いえっさー!」

少女「はい!」

白髪「……こちらの動員は三人。
 俺と、お前ら二人だ」

双子姉「……やっぱり、帰ってこないね」

少女「私が、もっと何か、云えてたら……
 朝になるまでいなくなるのに気づかないとか、
 なんでこう……」

白髪「過ぎた事で自分をせめるなよ。
 それから、この件はもともと俺の身勝手だ。
 ムリしてつきあうこともねぇよ」

双子姉「む、それ、あたしにもいってる?」

白髪「当たり前だ」

双子姉「むううー!」


458: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:27:26.28 ID:PkwhPbyao
白髪「狼は特に人間嫌いだからなぁ。
 少女も覚えがあるんじゃねぇのか?」

少女「あー、確かに。
 最初はナイフで刺されそうになったりしたし……」

白髪「そ、そんな事まであったのか?
 よく生きてるな」

少女「あ……」

双子姉「もしかしてお姉ちゃん、
 秘密にしてたつもりでうっかり?」

少女「いやー、まぁ、あははは……」

白髪「あいつも無茶しやがるな。
 なんにせよ、生きてて良かったぜ」

少女「う、うん……」

白髪「少女も、気がのらなけりゃ、
 いまから引き返してもいいんだぜ?」

少女「それは大丈夫。
 私も、白髪さんの故郷を守りたいって気持ちは、
 よくわかるからさ」


459: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:27:52.38 ID:PkwhPbyao
白髪「……なら、三人で、山賊退治だな」

双子姉「あはは、千人くらい来たらどうしよ……」

白髪「そうしたら仕方ねぇ、大急ぎで町に走って、
 大群が来たって伝えるしかねぇよ」

少女「まあ、そんな事態は無いと思うけど」

白髪「そうだな。
 俺達が相手にしなくちゃならんのは、
 多くても三百人って所だろう。
 現実的に考えれば二百人くらいか?」

双子姉「聞くだけでも嫌になるよ……
 一人で百人相手にするなんてムリだし。
 一対一でも、大人の男の人が相手じゃムリだよ」

白髪「正面から当たるのはムリだな。
 まあ、寡兵で事にあたるなら、
 正面と正攻法ってのはありえねぇよ。
 で、そんな時のために奥の手が!」

双子姉「おお、奥の手が!」


460: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:28:19.22 ID:PkwhPbyao
白髪「少女、まかせた」

少女「はーい、まか、さ、え? えええっ?!」

白髪「当たり前の采配だろ」

少女「いや、あたりまえじゃないし!
 意味判らないって、あたしそんな経験ないよ」

白髪「軍にいたんだろ?
 上等兵だったんじゃないのかよ」

少女「そうだったけど、いったじゃん!
 私はずっと後方支援にまわされてたって。
 だから直接敵の相手なんてしたことないし、
 どんな事すればいいのか……」

白髪「罠と銃は最低限やったんじゃねぇのか?」

少女「罠は、ちょっとだけ。
 銃はそれなりにできるかな。
 でも、銃はあんまりアテにならないよ?」

双子姉「そうなの?」


461: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:28:58.50 ID:PkwhPbyao
少女「女ってことでどうしても体力が劣るから、
 他の人よりは練習したって自負してるけど、
 300フィート(おおよそ100メートル)になれば、
 当たるかどうかはまぐれだし……
 確実に当てたいなら、200フィート。
 再装填が十秒弱で、何丁か使い回しても、
 そこから距離が詰められるから、
 到底まともに相手はできないよ」

白髪「普通のマスケットでそれだけ撃てりゃ十分だ。
 ちょっとコレを見てみろ」

少女「そういえば、さっきから持ってたその鞄、
 何かなーって思ってたけど……
 銃が入ってたの?」

白髪「まあな。双子妹が作った銃だ。
 普通、銃ってのはどうやって再装填して、
 どれくらい時間がかかる?」

少女「こめてあった銃弾を撃ったら、
 煤引き棒を使って銃身を掃除する。これに三秒くらい。
 火薬入れから火薬をいれるのに、二秒くらい。
 弾丸と火薬をいれてぎゅっと押し固めるのに二秒かな。
 たまに棒がつっかかったりすると、もうちょっと……
 それから、狙いを定めて撃つけど」


462: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:31:37.16 ID:PkwhPbyao
白髪「これな、こうやって、こうすると……」

少女「おおー! すごい、おもしろい!
 銃の後ろの部分が開いた!」

白髪「でもって、これな。
 パピルスで包んだ火薬と銃弾の固めた物だが、
 これを、この銃身の後ろからぎゅっと入れる」

少女「で、閉じると……
 これでもう撃てるの?」

白髪「理論上は撃てる。
 だが、火薬が湿気りやすくなるって、弱点があってな」

少女「そっか。夜気の湿気で撃てなくなるって事は?」

白髪「あり得るかもしれん。気をつけておけ。
 だがそれで、再装填の時間はずっと短縮できるな」

少女「うん、これなら普通の銃よりは早くできそう。
 でも、弾幕が作れないから、
 そこまで期待はできないよ?」

白髪「……わかってはいたが、条件が厳しいな」


463: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:33:07.84 ID:PkwhPbyao
双子姉「うーん……
 とりあえず、足止めできればいいんだよね?」

白髪「まあそうだな。
 相手が動けなければ問題無い。
 船に乗って帰ってくれるってなら、万々歳だ」

双子姉「……そっか。
 それなら、ちょっとなんとかなるかも」

少女「あ、そういう条件だったら私も!」

白髪「なんだなんだ、
 急に二人してイキイキし始めたな。
 っていうか、全滅させるつもりだったのか?」

少女「う、だって、また来たら嫌かなーと」

白髪「一度この山側から来たっていう前例があれば、
 あとは町長も訴えを聞かざるを得ない状況になる。
 だからその前例を耐えきれば、何とかなるだろ」

少女「……かなり楽天的だね」

464: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:34:29.59 ID:PkwhPbyao
白髪「仕方ねぇだろ。
 追い返すだけでも普通は無理なんだ。
 それをやってのけたら十分だ。
 できる事とできない事の判断がつかなくなった、
 なんて状態じゃぁねぇからな」

少女「……三百対三ってだけで、
 もう十分正気じゃない気はするけどね」

双子姉「でも、帰りたい気分にさせるだけなら……」

少女「なんとかなりそうな気はするね」

白髪「じゃあその方向で、改めて作戦会議だ」にやり

少女「えへへ、覚悟してればいいんだから……
 えへへへ…………」

白髪「おい、おーい…………」


465: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/20(月) 00:36:01.46 ID:PkwhPbyao
今日はここまで!

もうちょっとだけ書きためあるけど、
エラーがひどいので、もうちょっとサーバが空いてそうな水曜日に、
ちょっと多めに投下する方向で頑張るよ(つ_<)

待っててくれてありがとうなのだ♪

470: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:46:01.46 ID:cPIlV7OBo
------------------------------------------------
  夕方 パリウガ南の海

配下「隠れ港を出てから十日。
 もう限界ですぜぇ、旦那ぁ」

賊「あぁん、何が限界だよ」

配下「隠れ港を出るときに、女奴隷を全員売って、
 武器とか弾薬、船乗りなんかを買いやしたが」

賊「そんなのはいつもの事だろうが」

配下「いや、あっしは止めたじゃぁねぇですか。
 女奴隷を『全員』はマズいって」

賊「うっせぇなぁ、いいだろ、俺の勝手だ」

配下「良かぁありやせんよ。
 おいしい思いができるってついてきてる連中、
 今にも破裂しそうですぜ?
 遠くの村に女の姿が見えるだけで、
 ケダモノみてぇに目を血走らせるほどで」

賊「まだ、たった十日じゃねぇか」

配下「たった十日、されど十日ですぜ」


471: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:46:40.74 ID:cPIlV7OBo
賊「……つまり、なんだぁ。
 俺に文句をつけよぉってぇ連中が、
 いるって事かよ、この船に」

配下「へぇ。そういうワケでさぁ」

賊「ったく、こりねぇ連中だ。
 女の一匹や二匹、例の村を落とした後にゃ、
 好きなだけ○せばいいだろうによ」

 どすどす

配下「旦那、どこへ……甲板ですか?」

 ばたん

賊「うぉい、てめぇらぁ」

手下1「なんだなんだ?」

手下2「おかしらぁ、まだ晩飯には早いですぜぇ」

手下3「ひひひ、そんな冗談お頭に言うと、
 首と体が離れるぜ?」ひそひそ

手下2「げはは、んなわけねぇだろ、
 なんせ、いかにも弱そうな町にだって、
 今はおそわねぇ、なんて臆病言ってるんだ」ぼそぼそ


472: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:47:25.84 ID:cPIlV7OBo
手下3「ま、確かにありゃ妙だったな。
 普段なら誰より自分が先に乗り込むのに、
 あの腕の怪我をしてからか?」ぼそぼそ

手下2「痛いのが怖いでちゅーなんてな、げははは」

賊「ほう、痛いのが嫌いか? あぁん?」

手下2「お、おかしら、いや、今のはお頭の事じゃ
 ないわけでさ、ほら、モノノ例えっつーか」

手下3「そ、そうそう。だから大した意味は」

賊「知らねぇよ、そんな事ぁ」

 ズバッ、ザシュッ

手下2「へ?」

手下3「ぐあぁあ」

手下1「ひ、ひぃ……っ、手下2! 3!!」

配下「首を一刀……首狩りの異名はまだ廃れてやせんね」

賊「そうでもねぇな。
 左がこれになってから動きが鈍いせいで、
 どうも『スッパリ』とはいかねぇ……
 おかげで片方は、かわいそうに、痛そうだったなぁ」


473: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:48:10.75 ID:cPIlV7OBo
手下1「あ、あんたらっ!
 今殺したのは、味方だぞっ!
 ああ、クソッ、2! 3……っ」

賊「なにが味方だ。知ったこっちゃねぇよ。
 俺の事を軽く見たヤツは殺す。
 そいつらは俺を軽く見た、だからソレを首で購った」

配下「旦那は優しすぎるってぇ、思いやす。
 殺しちまったら悲鳴がすぐに終わるじゃねぇですか。
 爪を剥いで、皮を剥いて、肉を削いで、骨を砕いて、
 海賊の『制裁』ってのはそういうモンでやしょう」

賊「そんな事してたら『満足』しちまうだろ?
 これからせっかくの『祭り』なんだ」

配下「……そういう事ですかい。
 よぉし、お前ら、甲板で作業してるお前ら!
 耳の穴かっぽじって、旦那の話をよぉく聞け」

手下達「……」

手下1「くそ、聞かなきゃ殺されるだろ」

手下5「話すって、言った何を話すんだよ」

手下6「まあ、手を休めていいならいいだろ」


474: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:48:37.18 ID:cPIlV7OBo
賊「足りネェ、そうは思わねぇか?」

手下達「「「……」」」

賊「○す奴隷が足りネェ。
 好き勝手する金が足りネェ。
 血湧き肉躍る荒事が足りネェ。
 全てを飲み込む赤い炎が足りネェ。
 腹をたっぷりと満たす食事が足りネェ」

 ごくり

賊「足りネェ、そうは思わねぇか?」

手下達「「「足りネェぞーぉぉぉ!!」」」

賊「そうだ、ソレだぁ。
 足りネェ。満たされネェ。もっと欲しい。
 もっともっと手に入れてぇ。いくらでも持ってこい。
 今のお前達は何を感じてるんだ?
 足りネェ、そうは思わねぇか?」

手下達「「「奪わせろぉぉぉッ!!!」」」

賊「それでいい。
 俺達は海でも陸でも関係ぇねぇ。
 奪って、奪って、奪って奪って奪って……
 そしてぇ、奪うッ!」

手下達「「「うぉぉぉおおお!!!」」」

475: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:49:08.15 ID:cPIlV7OBo
賊「こないだの遭難、お前らは憶えてるか。
 忘れてるヤツはいねぇよなぁ。
 腹が減って仕方無かったろ。
 隣のヤツが肉の塊に見えなかったか?」

手下「その通りだ!」「殺して食いたかった!」

賊「あの後、海辺の村を見つけて襲って、
 魚も、肉も、麦も、たらふく食ったろ。
 どうだ、いつもより『美味』くなかったか?
 足りネェ、から、一気に楽園まで飛んだ気分だったろ。
 さあ、もう一度確認だ。
 お前らは今、何を感じてやがる。
 足りネェ、そうは思わねぇか?」

手下達「「「足りネェぞーぉぉぉ!!」」」

賊「そうだろうなぁ。
 何もかも足りネェだろ……
 俺も、足りねぇよ。
 煮えたぎってる。
 お前らもだろ?
 足りネェ、そうは思わねぇか?」

手下達「「「足りネェぞーぉぉぉ!!」」」


476: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:50:00.36 ID:cPIlV7OBo
賊「いいぜぇ、明日の夜には、好きなだけ『喰らえ』
 逃げ惑う連中を殺せ。
 好きなだけ血を浴びろ。
 望むままに悲鳴を上げさせろよ。
 お前の体が欲しがる分だけ女を抱け。
 奪いたければたっぷりと金と宝石を持っていけばいい」

手下達「「「足りネェぞーぉぉぉ!!」」」

賊「炎を広げて、焼き尽くせ、地獄に変えろ。
 刈り取った頭を大砲に詰めてたたき込んでやれ。
 宴は明日だ。
 飢えろ、悶えろ。
 宴は明日だ。
 夢を見ろ、真っ赤な真っ赤な『楽園』の夢を。
 宴は明日だ!」

手下達「うぉぉおおッ!」「ひゃっはー!!」
 「ぐふふふふ」「いーっひっひっひ」「ぎゃははあ」

賊「明日は大仕事だからなぁ。栄養が必要だ。
 そこで死んでる連中でも挽肉に変えて、
 魚のえさにして網をかけろ」にたり

手下5「ひひ、お頭もえげつねぇ! だが気に入った!」

手下6「やっぱりついてくんならこの人だ!」

手下7「ぎゃはは、今から愉しみだぜぇッッ!」


477: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:50:28.23 ID:cPIlV7OBo

 どすどす

配下「すばらしい演説。あっしも心が震えやした」

賊「こういうのはガラじゃねぇが、
 あの男ってやつを殺すためだと思えば……
 悪くネェ」にたぁり

配下「……」ぞくり

賊「足りネェ。あぁ、足りネェよ。
 満たされネェのさ、俺の心が。
 あの男ってヤツとその仲間に、
 徹底的な絶望と無力を味あわせて泣き叫ばせねぇと、
 この腕の疼きはとまらねぇ……」

配下「旦那のその腕の痛み、
 あっしがきっと、止めてみせやしょう。
 例の情報屋が言っていた裏道には、
 あっしが行きやす」

賊「……そうだな、お前が行くなら安心か。
 それなら船を二隻預ける。
 二隻分……三百人いりゃぁ足りるな」

配下「へぇ。旦那達が時間を稼いでる間に、
 きっと道をひらきます」

賊「……くく、任せたぜ」

478: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:51:20.09 ID:cPIlV7OBo
------------------------------------------------
  夜 パリウガ南東の小海岸

配下「よぉし、全員上陸したな」

手下達「「おうっ!」」

配下「旦那は四隻……千人を連れて、
 町の港の正面にまわった」

手下1「奴隷も入れりゃぁ、千三百人以上だな。
 俺達と、こっちの船の奴隷も合わせりゃ千七百だ。
 周りくどいことしなくたってよ、
 すぐにこんな町なんて落とせるだろ」

配下「帝国の連中を相手にしても落ちねえくらいの、
 天然の要塞にある町だ。
 さすがの旦那でも、すぐには落とせねぇ」

手下5「そんで、俺達が裏から町に進入して、
 連中が抵抗できないようにするってぇ、ワケだな」

配下「その通りだ。
 俺達の役目は、なるたけ早く山向こうについて、
 入り江の端にある砲台と、
 浮島の砲台を占拠する事だ」


479: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:52:02.22 ID:cPIlV7OBo
手下1「まあ、こんだけ人数がいりゃぁ、
 まちの兵隊くらいなんて事ねぇ。
 一ひねりだな」

配下「おう、しかも情報屋の話が本当なら、
 今はこの町の兵隊の一部……
 つっても三割くらいか?
 ベネッタの方に出てるらしい」

手下4「おいおい、そうしたらやることねぇなぁ。
 すぐに終わっちまうだろ」

配下「そうすりゃ後は、なんだってし放題だぜ」

手下6「ひひひ、女だ、俺は女をヤルぜぇ」

手下7「てめぇがサルみてぇにはしゃいでる間、
 町の金貨は俺のモノだな」

手下8「ぎゃはは、殺せりゃなんでもかまわねぇよぉ」

 ワイワイ、ガヤガヤ

配下「よぉし、お前ら、とっとと山を越えるぞ」

手下達「「「おう!」」」

 ザワザワ


480: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:52:29.53 ID:cPIlV7OBo
 トコトコ

配下(そもそも俺は兵卒だが、
 こいつらはただの荒くれ者だ。
 うまく俺が統率して、町まで体力を温存させつつ、
 この山を越えなきゃならねぇ)

手下8「にしても、ずいぶん急な山だな。
 ほとんど崖だぜこりゃ」

手下9「だがまあ、獣道が有るだけ楽だな。
 たどっていけば町にはいける」

配下(確かに獣道はありがたい。
 道を切り開きながら行くのに比べれば、
 随分と体力が温存できる……)

手下4「ん、おい、ありゃぁ」

手下5「男……いや、胸があるから女か?
 なんでこんなトコに」

少女「……」

配下「あの顔……どこかで見た覚えがあるが」


481: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:53:00.36 ID:cPIlV7OBo
手下6「おい、お前、そこの町のヤツか?
 運が悪かったなぁ……
 俺達の姿を見たからには、明日の朝日は拝めネェぜ」

手下7「おいおい、いきなりヤル気かよ。
 まぁ、俺達の事を町に知らされても面倒だ。
 逃がしゃしねぇがな」

少女「……」

手下8「おい、何とか言えよ!」

少女「引き返しなさい。
 一度は情けをかけてあげる。
 大人しく引き下がれば、命だけは取らないわよ」

手下9「っ、だとぉ、てめぇ!
 言うに事欠いて、俺達に引き返せだぁ!」

手下4「命はとらねぇって、要するに俺達を殺るって、
 そういう意味か?
 おいおい、嬢ちゃん一人に何ができるよ」

少女「私一人じゃないわよ。
 気づかない?
 いま、あんたたちの周りには、
 五百人の兵士が息を潜めて隠れてるって」


482: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:53:38.44 ID:cPIlV7OBo
配下「バカな女だな。
 今の町にいる兵士の総勢と同じ数だと?
 町の守りがこんな山中に全員来るはずないだろ。
 ふん、自分で墓穴を掘ったな」

少女「……それなら、ためして見る?」

手下6「へへ、いいぜぇ、
 おれがたっぷり、ためしてやらぁ。
 もちろん、てめぇの体の味をなぁ」にたぁり

 のしのし

配下(……ただのハッタリ。
 いや、俺達は別に無音で移動してたわけじゃねぇ。
 まだ町には距離があるからな、
 むしろ騒がしかったくらいだが……
 なぜ、そんな俺達の前に、女が、一人で)

少女「……ふっ」にやっ

配下「っ! 罠だ、戻れッッ!!」

手下6「罠ぁ? そんなんドコにも……」

 パチンッ、ズドドドドドドッッ

手下達「ひ、ぎゃぁあああああ?!」「ぐぉぉぉ」
 「痛ぇ、痛ぇよぉぉ」「な、なにが起ったぁ?!」


483: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:54:24.82 ID:cPIlV7OBo
手下6「うぐぁああ、いてぇ、弾が、いくつもっ」

配下(幸運だ、隣のヤツが壁になって、
 俺には一発も当たってねぇ。
 こいつらはまとめる俺がいなければ有象無象だが、
 俺さえ無事ならなんとでも戦力として立て直せるっ)

手下1「うおぉぉっ!」ガサガサ

配下「バカな、姿も見えない敵の方に
 突っ込むヤツがいるか!!」

 パンパンッ!

手下1「っ……」ばたり

配下「く、銃撃だ! 右の林から弾幕!
 姿勢低くしろ!
 右の林に撃ちながら、左か後ろに距離をとれぇっ!」

少女 すっ

配下(く、やはり銃を隠し持っていたか。
 だが、私にむけている?
 6はあの娘に近づいているが、
 私までは300フィートはある。当たるわけが)

 ぱぁんっ!!

配下「ぐ、がぁああっ!」

484: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:54:58.25 ID:cPIlV7OBo

配下(バカな! 300だぞ! 
 まぐれでもなく、狙って当てるか、この距離を!)

少女 だだっ

手下6「あぐっ、に、げんなぁっ……!」だだっ

少女「しつ、こいっ!」

 ずぱっ

手下6「あ、が……」ばたり

少女「っ、……」だだっ

配下「く、俺も身を隠して……
 おい、てめぇら、無事か!」

手下達「な、なんとか大丈夫だ!」
 「けど、何人も撃たれた! くそ、俺も、いてぇ……」
 「こんなに大勢がいるなんて聞いてねぇぞ!!」

配下(大勢、か? 初撃の弾幕はそれなりに有ったが、
 それ以降は突っ込んでいったヤツが撃たれただけ)

手下5「ど、どうすんだよぉっ!
 お前がお頭の代理だろ! 軍人だったんだろ!」


485: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:55:25.38 ID:cPIlV7OBo
配下(実は、相手は少ないんじゃないか?
 だが、多かったら……確かめる事はできねぇ。
 道に発砲の黒煙が残ってるせいで、
 正確な敵の方向も判らねぇしな。
 く、案外さっきの銃創が深い……血がとまらねぇ)

手下5「おい! 配下よ、どうすりゃいい!」

配下「前に進むぞ! ただし道に出るのは論外だ。
 射線が通れば撃ってくるからな、灯火を消して、
 森の中を歩いて抜けるぞ!」

手下達「「おうっ!」」

配下(今の奇襲で三十人は失った。けが人も多い……
 くそ、俺が自分から任せろって言った旦那の部隊を。
 よくもやったな、あの女ぁ)

手下4「八つ裂きだ、あの男みてぇな女、
 いたぶった後に八つ裂きにしてやる……」

配下「あぁ。死ぬより辛い後悔をさせてやる……っ」

 ひゅ……ドシュッ

手下4「っぐが……」ぱたり

配下「く、なんだ! 今のは何なんだ!
 くそっ、どうなってやがるッ!!」


486: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:56:03.28 ID:cPIlV7OBo
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  夜 パリウガ南東の山頂

少女「何とか戻れたよー」がさがさ

双子姉「お疲れさまっ。
 作戦その一、『挑発と側面攻撃』成功だね!
 怪我とかしてない?」

少女「怪我は大丈夫……でも、ごめん。
 一撃で敵の隊長を仕留めるって、できなかった……」

白髪「そうか、ならまだ相手は『考えて動く』か。
 ここで仕留められりゃ早かったが」

少女「ごめん、任せてもらったのに」

白髪「危険な敵の前に出る囮をやったんだ。
 それだけで十分、よくやったぜ。
 セリフはちゃんと云えたか?」

少女「うん、それはバッチリ!
 子供の頃から、緊張する場所でセリフを言うのは、
 けっこう慣れてるからね」


487: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:56:48.03 ID:cPIlV7OBo
白髪「なら、相手の頭に『逃げる』って選択肢は、
 ちゃんと出るようになったはずだぜ。
 ムリに全滅覚悟で突貫されちゃ、
 こっちは三人だ、もたねぇからなぁ」

少女「でも、最初の罠の数、
 やっぱりちょっと足りてなかったよ。
 獣道に沿って上ってくるのは予想通りだったけど、
 けっこう無秩序にだらだら上ってきてたから、
 列が長すぎて後ろの方は罠が足りてなかったかな」

白髪「そうか……
 やっぱり材料の不足が問題だったな。
 道に向かって尖った小石を爆発させる罠だけで、
 多く仕留められれば良かったが……」

少女「まあ、相手を混乱させて、
 敵に自分達がいっぱいいるように見せかけるって、
 作戦の目的は達成できたと思うよ!」

白髪「……そうだな。まずはそれを良しとするか」

双子姉「むー、それにしてもさー、
 せっかく町を守るって言って、
 それなりにお金も出したのに、
 火薬あんまり売ってくれなかったよね……」


488: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:57:40.60 ID:cPIlV7OBo
少女「まあ、それはしかたないよ。
 町に海賊が来るって言われたら、
 その直後に火薬を売ってくれなくなるって。
 用心のために余裕を持っていたくなるし」

双子姉「ぶーぶー」

少女「でもほら、弾幕みたいに見える罠はさ、
 町の子供達が石集めを手伝ってくれたから、
 あれだけの数が用意できたんだし」

双子姉「森に罠作ったりするのも、
 なんか楽しそうに手伝ってくれたからね」

少女「まあ、子供にとっては、
 大人にやっちゃダメって言われてるイタズラを、
 どんどんやってくれって事だったからね」

白髪「……ホントは、そんな事をさせて、
 形だけでも関わったりはしてほしくねぇが、な」ぼそ

双子姉「ん? どうしたの?」

白髪「いや、なんでもねぇよ」

少女「……」


489: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:58:39.02 ID:cPIlV7OBo
白髪「ほれ、無駄話はいい。次の作戦行くぞ」

双子姉「あいあーい。
 次はなんだっけ?」

白髪「次はお前の出番だろ。
 隊長が生きてる場合の、第二作戦」

双子姉「地中海が誇る超絶美少女双子姉ちゃんの、
 七つの必殺特技その二だね!」

少女「いや、必殺って、なんか違うと思うけど……
 しかも超絶とか自分で言わない!」

双子姉「いいの!
 こういうのには景気よく、とりあえず必殺って
 つけておかないと偉い人に怒られるんだって」

少女「偉い人って誰さ……」

双子姉「それじゃ、おねーちゃん、
 その前に、さっそくだけど、脱いでー♪」わきわき

少女「え、いや、脱ぐ必要はないよね。
 作戦ってアレでしょ?
 しかもなんか、手つきが○○○○んだけど?!」


490: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:59:06.01 ID:cPIlV7OBo
双子姉「ふっふー、白髪のおっちゃん直伝!
 女の子を脱がす指の運動―♪」

少女「ちょっ!
 白髪さん、いったい何を教えてるのよ!」

白髪「いや、別に教えちゃいねぇが。
 まあ、狼相手によくふざけてやるから、
 見て盗まれたのか?
 双子姉、指はもうちょっとくねくねとだ」

双子姉「あいさーっ! さ、痛くしないからねー♪」

少女「さりげなく助言とかしないでいいから!
 や、双子姉ちゃん、 なんで○○のよ……っ
 ああ、やだっ、そんなとこさわらないでっ!」

双子姉「よいではないか、よいではないかー♪」

少女「ひゃぁっ、そこ、くすぐったいからっ!
 んぅ、ん、やめてよぉ……ぁ」


491: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 01:59:34.60 ID:cPIlV7OBo
双子姉「ふふーん、さ、コレでおっけー。
 まったく、こんな場所に隠すからダメなんだよー?」

少女「は、はふぅ……くすぐったかった……」

双子姉「護身用の爆弾、服の胸の部分に入れて、
 大きく見せようとしないでもいいじゃん」

少女「だってさー……」

双子姉「まあ、これ持ってくねっ。
 こんど前に出るのあたしだし!」

白髪「気をつけて行けよ。
 爆弾つったって、そいつは煙幕だからな。
 近づかれて使うハメにならねぇのが一番だ」

双子姉「あいあいさー。
 んでは、いってきますっ」しゅばっ

 たったかたー


492: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:00:20.37 ID:cPIlV7OBo
白髪「あいつ、遊びか何かと間違えてねぇか?
 心配にさせるなよ。ったく。
 なあ、少女……少女?」

少女「白髪さぁん。
 私も次の作戦に動かないといけないけど、
 その前にちょっと話があってね」ぱき、ぱき

白髪「や、ちょっとまて。な?
 まだ作戦中で、いつ何が起るかわからん。
 だから……おい、大丈夫か?」

少女「え、なにがよ?
 あ、そんな簡単にはごまかされないからね!」

白髪「…………うぐ、やっぱり、ダメか?」

少女「この、○○じじぃーっ!!」

 ずが、ばきっ、げしぃっ

白髪「し、死ぬぅ……」ぴくぴく

少女「死んだら地獄巡りでもすればいいのよ、ったく」

 のしのし……

白髪「…………そうか、そういや、初めてか。
 本当に、こんな若いの二人を巻き込んで、
 地獄行きは免れネェなぁ……」

493: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:00:46.73 ID:cPIlV7OBo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ南東の山中

配下「おい、そっちはどうだ!」

手下8「く、ダメだ、ぜんぜんわかんねぇ!
 判るのはあたり一面が罠だらけって事だ。
 町の奴ら本気で見境ねぇぞ!」

配下(足下に張られた糸……
 木や草に結びつけたソレが外れると、
 紐で結ばれた木の杭が飛んできて……何人死んだよ)

手下9「おい、うるさいぞ! 泣き叫ぶな!」

手下5「うるせぇっぐ、あぁあ、痛ぇ、痛ぇよぉ……
 ひぃぃ、ひっぱるな、千切れるじゃねぇかぁっ。
 早くこれ外せよぉ」

手下9「バカ野郎っ、ひっぱらねぇで外せるかよ!」

配下(更に厄介なのは、この金属片を結びつけた網だ。
 いったん絡まれば自力じゃ逃げられず、
 味方が近くにいてもすぐには助からねぇ)

手下5「さっさとはずせよぉ……痛ぇよぉ」

手下9「く、こんなん、明るければすぐなのに!」


494: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:01:13.09 ID:cPIlV7OBo
配下(でもって、死ぬわけじゃねぇから、
 ずっと悲鳴が聞こえ続ける……
 いくら暴力と悲鳴になれた男だって、
 仲間のこんな声をずっときかされちゃ、士気が……)

配下?「おい、さっきの女がいたぞ!
 野郎共、前に出ろっ! 走って逃げてやがる!!」

手下達「んだと?!」「どっちだっ、くそっ!」

配下?「坂を登る方に向いて左の方向だっ!」

手下達「「うおぉーっ!」」

手下7「捕まえたらただじゃおかねぇぞ!!」だだっ

配下「バカッ、待て! 今のは俺じゃ」

手下達「うわぁあああぁぁ……ぁ…………」
 「ひぃいいい……」「おちるぅぅううう」


495: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:02:23.06 ID:cPIlV7OBo
配下「く! お前ら行くなっ!
 西側は崖だって忘れたかっ!!」

配下?「だが崖際に追い詰めりゃこっちのモンだ!
 女を捕まえろ! 捕まえて痛めつけてやれ!」

手下達「どこだ、女はどこに……おい押すなうぁああ」
 「違、わざとじゃねぇ! 何かが俺の……ぎゃぁああ」

手下7「く、お前ら、こっちに来るな!
 足下に網が有って、それがロープで岩に!
 や、やめろお前! その岩を落としたら俺達っ
 ぎゃああぁぁぁ……ぁ…………」

配下?「ふふーん、まあこんなトコロか。
 しばらく我慢して潜入した甲斐があったなぁ」

手下8「なんだとぉっ!
 まさか配下! お前はスパイか!」

配下「ち、違う、そんなわけねぇだろ!!」

配下?「なぁんてな! ははは!
 どうだ、見事な演技だろ!」

手下8「ん? 声が、あっちから響いてる?」

配下「そ、そっちの声が偽物だ!
 俺が旦那を裏切るわけねぇだろっ」


496: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:03:06.88 ID:cPIlV7OBo
手下8「……そうだ! お頭の好物は?」

配下「ニンニクだ! ニンニク料理が大好きだ!
 俺が臭いからやめてくれっつっても、
 酒場で毎回頼みやがる!」

手下8「ニンニク嫌いって事はあんたが配下か!
 ってことはあっちが偽物だなッ」

双子姉「ああ、だから死ぬほど臭いって言ってたんだ。
 なっとくー……」

手下8「おい、お前ら、この声の奴が仲間を殺した!
 追っかけて仇をうつぞーっ!」

手下達「「うおおおおーっ」」

双子姉「うわ、やばっ!」だだーっ

手下8「待てぇーっ!!」

配下「俺、ニンニク嫌いで有名だったのか……
 って、ちょっと落ち込んでる場合じゃねぇ。
 待てーっ!!」

双子姉「へへーん、またないよーん♪」


497: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:04:12.75 ID:cPIlV7OBo
手下達「くそ、足が速い!」
 「俺達じゃ、夜の森は走れねぇからな……」
 「……声が可愛いな」

手下8「最後の違うだろ!!」

配下(……しかし、まずいな、さっきからの罠の連続で、
 一歩進むだけでもこいつ等ビクビクしてやがる。
 しかも三百はいたはずの連中が、
 気がつきゃ、この周りにいるだけ……
 くそっ! 残りはどこだ!)

 ばっ

手下8「辺りが開けた!」

配下「しめた!
 これで星明かりで罠が見え……」

少女「ずいぶん遅かったわね」どーんっ

配下 あ、てめぇ、この前の……」

少女「やっと思い出した?」

配下「絶壁女!!」

少女「…………」


498: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:04:41.31 ID:cPIlV7OBo
手下達「くそ、足が速い!」
 「俺達じゃ、夜の森は走れねぇからな……」
 「……声が可愛いな」

手下8「最後の違うだろ!!」

配下(……しかし、まずいな、さっきからの罠の連続で、
 一歩進むだけでもこいつ等ビクビクしてやがる。
 しかも三百はいたはずの連中が、
 気がつきゃ、この周りにいるだけ……
 くそっ! 残りはどこだ!)

 ばっ

手下8「辺りが開けた!」

配下「しめた!
 これで星明かりで罠が見え……」

少女「ずいぶん遅かったわね」どーんっ

配下 あ、てめぇ、この前の……」

少女「やっと思い出した?」

配下「絶壁女!!」

少女「…………」


499: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:05:23.58 ID:cPIlV7OBo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ南東の山頂

双子姉「……っ、はぁ……。
 さすがに夜の森走るのなんて……
 つかれた……」

白髪「お疲れさん。こっちも片付いたぜ」すっ

双子姉「っ! おっちゃん、真っ赤だよ!
 どこか怪我したの?!」

白髪「あぁん、まあ、かすり傷だ。殆ど返り血だな」

双子姉「……」

白髪「……怖いか?」

双子姉「……だって」

白髪「そうだったな、双子姉の前じゃ、
 まだそれほどは殺して無かったか……
 こんな真っ赤になるほどの殺し合いなんざ、
 ワシもずいぶん久しぶり……」

双子姉「そうじゃないよっ! ……そうじゃなくて」

白髪「……」


500: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:06:38.29 ID:cPIlV7OBo
双子姉「……そんなに血がついてるって、
 ずっと剣で戦ってきたんだよね?
 ほんとに怪我してないの?
 大丈夫なの?」

白髪「がっはっは、大丈夫だぞ。
 いや、まあ、かすり傷はあるがな。
 こちとら人生の大半、騎士だったんだぜ。
 闇にまぎれて不意打ちまですりゃ、
 一対一だの二対一だので負けるかよ」

双子姉 ぎゅっ

白髪「おい、服が汚れるぞ」

双子姉「っ、っ」ふるふる

白髪「……泣くなよ。
 ワシは大丈夫だ。こんな連中相手なんざ、
 危ない事なんてねぇよ」

双子姉「うそ、うそだもん……」うるっ

白髪「…………」なでなで

双子姉「さっき、追われてすごく怖かったもん。
 剣とか銃を持った人が相手じゃ、
 いつ、死にそうになってもおかしくないもん」


501: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:07:35.55 ID:cPIlV7OBo
白髪「がはは、大丈夫だっての。
 ワシが怪我でもしたら、包帯も狼も少女も、
 双子妹も、……お前も、うるせぇからなぁ」

双子姉 ふるふる

白髪「……安心しろ。
 もうすぐこの戦いも終わりだ。
 本隊から別れた連中は殺すか、追い返すかしてきた。
 これで残りは、少女の所の連中くらいだ」

双子姉「……」

白髪「よし、落ち着いたな。
 それじゃ、ワシは行ってくる。
 双子姉は罠作りで疲れてるんだろうさ、
 後はゆっくりと寝ておけ」ぽんぽん

双子姉「……」

白髪「……」くるっ。

 すたすた


502: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:08:42.45 ID:cPIlV7OBo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ南東の山頂そば

 どぉぉん、どぉぉん

少女「聞こえてるでしょ、
 町の正面に来た海賊に、町が応戦してる大砲の音。
 もうこれから町に向かっても間に合わないし、
 諦めて降参しなさいっ!」

配下「……いいや、間に合う、まだ間に合うぜ」

少女「ここから町まで、昼でも半時はかかるし。
 今は夜で、いくつも罠があるわよ。
 それを避けてたどりつく頃には、
 場所を知らなきゃ朝になるから」

配下「……」

少女「別に私たちは殺したいわけじゃないし、
 大人しく帰ってくれればいいだけ。
 だから今は退かない?
 きっと、はぐれた人たちも、海に落ちた人たちも、
 船のところで待ってるから……」

配下「……言いたい事はそれだけかよ」

少女「……なによ」


503: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:09:17.68 ID:cPIlV7OBo
配下「俺たちはな、ピクニックに来てるんじゃねぇ!
 旦那達が時間を稼いでる間に、
 旦那達を助けるためにここに居るんだよ」

手下達 こくこく

配下「悪いが、お前らが少数なのは、
 この罠の張り方と、さっきから女が繰り返し、
 こっちに来てる事で判ってる。
 お前の銃の腕はすごいが、
 前線で戦える男達はそう多くないんだろ?
 だから、あの場所、俺達が前に進めなくなる場所で、
 お前が俺を狙撃したんじゃねぇか?」

少女「……そ、そんなの」

配下「とにかく、もうお前達には踊らされねぇ!
 お前らぁ!
 とにかく一人でも、旦那の応援に駆け付けるぞ!
 罠なんて踏みつぶして乗り越えろ!
 俺達はなんだ!」

手下達「賊だぁ!」「山賊だ!」「海賊だ!」
 「「「荒くれの掠奪者だ!!」」」

配下「だったらうだうだしてねぇで、
 とっとと奪える町まで行くぞッ!!」

手下「「「おうッッ!!」」」


504: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:10:21.07 ID:cPIlV7OBo
少女「くっ……」だっ

配下「逃げるかっ、追え!
 捕まえて町でさらし首にしてやれ!
 俺達の恐怖を思い知らせろ!」

手下達「「「おおおおおおっ!!」

少女(く、まだ心が折れてないなんて!
 でも、そこには)

少女「やけになっても大丈夫なように、ちゃんと罠が!」

配下「知った事かぁっ!
 踏みつぶせ、野郎ども!!!」

手下達「「「うおりゃぁぁ!!」」」

少女(これを引っ張れば、岩が一気に崩れて……)ぐいっ

 …………

手下達「「「うおおおおおっ!!!」」」

少女「え、うそ!!」

配下「は、なんか知らんが、不発だったらしいなぁっ!」

少女「くっ」だっ


505: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/23(木) 02:11:59.05 ID:cPIlV7OBo
配下「逃がすかよぉっ!!」

 がしぃっ

手下達「配下が女を捕まえたっ」「いいぞ、殺せぇ!」
 「殺すなっ、拷問だぁ!」「八つ裂きにしろぉ!」

少女「……っ!」ばっ

配下「刀なんか出したって、無駄だってんだよっ!!」

 ガキィィンッ

少女「そんな、こないだより、強い?!」

配下「てめぇの剣なんざ、
 所詮決まった型の貴族の剣だろ!
 どう来るかわかってりゃ、対応なんざ簡単なんだよ!」

少女(こんな状態じゃ、罠のところに走れない……っ。
 どうしたら、どうしたら……?
 さっきの二つの煙幕、片方でもあれば逃げられたのに。
 なんで両方……違う、今はそんな事じゃなくて、)

配下「さぁ、罠の無い道を町まで案内してもらおうか。
 これならすぐに、町まで行けるだろ」

少女「――っ!!」

配下 ニヤリ

510: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:25:32.96 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ南東の山頂そば

少女「なによ、[ピーーー]ならさっさと殺しなさいよ!」

配下「そう焦るなよ。
 なぁ、……あー、白髪に、双子妹だったか?」

双子姉「むぅーっ、あたしたちが出てきたんだから、
早くお姉ちゃんを解放してよ!」

手下8「ひゃはは、もうちょっとつきあってもらうぜぇ。
 なんだ、よく見りゃまだガキじゃねぇか」

少女「二人とも、ごめん……
 私がつかまったから」

配下「仲間思いでいいじゃねぇか。
 こいつの命がおしければ、なんて言って、
 まさか本当に姿を見せるヤツがいるたぁ、
 夢にも思って無かったがよ」

手下8「楽ができていいってもんだ。
 またにげまわられちゃぁ、たまらねぇからな」


511: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:26:07.01 ID:mCLygqSvo
白髪「く、すまんな、二人とも。
 ワシが巻き込んじまったばっかりに……」

少女「だ、大丈夫だよ、これくらい」キッ

手下9「はっ、そんな風に縛られたまま睨まれたって、
 誰が怖がるってんだよ。
 さんざん、俺達をコケにしてくれたなぁっ!!」

 どすっ

少女「かは……っ」

配下「いい気味だなぁ、おい。
 さんざん俺達をふりまわして、仲間も殺してくれた。
 なにか礼が必要か? んん?」

少女 びくっ

白髪「礼なら、縄をほどいてくれよ。
 ついでに二人を解放してくれんか?」

配下「ジジイは黙ってろ!」 がっ

白髪「ぐ、げふっ、がっ……」


512: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:27:09.99 ID:mCLygqSvo
少女「やめなさいよ、縛った相手に暴力ふるって、
 男としてはずかしくないの?」ぎりっ

配下「……いいぜぇ、その表情!
 強がりながらおびえる目だ。
 俺はそんな目を見るのがだいすきでね。
 たまらねぇよ……」

少女「おびえてなんかっ」

配下「おびえてんだろ。
 ま、他の音ならともかく、お前じゃぁそそらねぇからなぁ」

少女「な、それはそれで腹が立つーっ!」

手下8「で、配下、こいつらどうするんだよ」

配下「そうさな、とりあえず、こいつら連れて入り江に行くぞ。
 こいつらは『通行証』だ」にやり


513: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:27:36.73 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 金色の旗の船

賊「状況はどうなってやがる」

手下A「砲台からの攻撃で正面にまわった四隻の内、
 一隻は浸水で沈没。二隻損傷してやす」

賊「被害がでけぇな。
 泳いで島に近づいたヤツはいねぇのか」

手下B「ここは丁度潮の通り道でして、
 入り江の内側ならまだしも、
 この距離じゃ、つくまでにだいぶ流されちまいます」

手下C「夜の海を流されながら泳げば、
 夏とは云え冷えるからな、
 陸に着く頃にはボロボロだぁ」

賊「ちっ、使えねぇやつらだな。配下の野郎はどうだ。」

手下A「町に襲撃をかける前に、近くの森に火を放って、
 町の陽動とこちらへの連絡にすると言ってましたが、
 まだそうなってませんね」


514: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:28:13.02 ID:mCLygqSvo
賊「待ち伏せでもされたか……
 あの情報屋、今は山を守れる戦力はねぇなんて、
 嘘こきやがったな!
 次にあったらくびり殺してやるっ」

手下B「どうしやすか? このままじゃ……」

 どぉぉぉおおん

 ぐらぐら

賊「な、何が起った!」

手下D「大変です、お頭!
 南から現れた船が、俺達を攻撃してやす」

賊「ばかな! 町の船は北にあるベネッタに航行中だ!
 南からの援軍なんてありえねぇ!
 コレは確認済みだったはずだぞ!」

手下D「町の船じゃありやせんっ。
 夜闇に紛れる黒い船体で、発見が遅れましたが、
 メインマストの上にジョリー・ロジャーを確認。
 海賊船です!」

賊「か、海賊だとぉ!!」


 どぉぉぉん


515: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:28:41.72 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 海賊船

双子妹「距離おおよそ半マイル、
 風向きは北東から南西で視界良好。
 敵艦数は……四でありますかね」

男「いや、戦闘の頭一つ出ている船は死に体だ。
 町の射程圏内でもある。無視してかまわん」

双子妹「了解であります。
 では目標三っ、全て横っ腹でありますな。
 曲射軌道計算終了。
 試し撃ちいくであります!」

男「許可する。のろしを上げてやれ」

 どぉぉおおおん

双子妹「……外れたか」

双子妹「目視照準から距離の確認を完了。
 うう、ごめんなさいであります」


516: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:29:12.43 ID:mCLygqSvo
男「文句を言ったわけではない。
 そのための試し撃ちだ。
 次に当てれば良い」

包帯「船長はもうちょっとだけ、
 愛想が良ければ良いのにね」

男「愛想などいらん」

包帯「そうだから、みんなに逃げられちゃうんだって。
 こうやって結局は、助けに来るのにさ」

男「……」

双子妹「家族を助けるのは当然でありますよ」えっへん

男「家族だなんだと、俺を巻き込むな。
 俺が寝ている間に方向を変えて、何を言っている。
 おかげで、大金を払った輸送情報が空振りになったぞ」

包帯「どうしてもこっちに来るのが嫌だったら、
 また舵をとって変えれば良かったと思うんだけど、
 それは言わないべきかな?
 素直じゃないんだから」にこにこ


517: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:29:44.06 ID:mCLygqSvo
男「……うるさい。聞こえよがしに言うな。
 それよりも、そろそろ本番だ。
 次は当てろよ」

双子妹「誤差は修正完了であります!
 もう外さないでありますよ」

男「では答え合わせだ。
 本船正面の全砲門を解放っ!」

包帯「準備完了、いつでも撃てるよ!」

男「目標は腹を晒している。
 連中の腹の中に直接、
 大理石の弾をたっぷり見舞ってやれ!」

双子妹「あいさーっ!」

男「てーっ!!」

 どどどどどぉぉぉおおおん


518: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:30:13.26 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 金色の旗の船

 どどどどどぉぉぉおおおん

手下A「おかしらぁーっ、
 二隻の側面に敵弾が命中した!
 このままじゃアイツラもすぐに沈んじまうぞ!」

手下B「こっちの船も船尾をかすったぞ!
 くそ、何人か海に落ちて……」

手下D「誰か、船医を呼べ!
 大砲が砕いた床板で、けが人だらけだ!」

手下E「化け物だ、くそ、ありゃぁ化け物だぁっ!!」

手下A「あの『海賊』にケンカをうるなんざ、
 間違ってたんだ。
 今からでもおそくねぇ、北に逃げよう!」

手下B「ばか、北ったらベネッタの本山じゃねぇか。
 逃げるんだったら西だろうがよ!」

手下A「どっちだっていい!
 さっさと逃げないと、穴だらけにされるぞ。」

うあぁああああ、もうダメだぁ!


519: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:30:41.32 ID:mCLygqSvo
賊「落ち着けてめぇらぁっ!」

 きぃーぃん

手下達「「「……」」」

賊「あの二隻は沈むのが判ってるんだな」

手下A「へい!」

賊「だったら簡単だ、ただで沈ませてやる必要はねぇ。
 奴隷を残して二隻から船員をこっちに集めろ!」

手下B「そ、そんで何をするんで」

賊「火薬を積んで火を付けた一隻を、
 小島の砲台に向かって全速で突撃させるんだ!
 運が良ければ小島の連中が助けてくれるって言やぁ、
 船の奴隷共もはしゃいで働くだろうさ」

手下C「うっはぁ、さすがお頭だぁ!」

賊「小島をよけるから二隻しか通れねぇ広さになるんだ。
 厄介な左右からの同時砲撃も、
 この船を挟むようにつっこめば、他が盾になる。
 本船だけなら港に入れるはずだ!」


520: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:31:12.09 ID:mCLygqSvo
手下A「けどよ、一隻だけでつっこんでも、
 何も持って帰れねぇぜ?」

賊「ばっきゃろぅ、裏の山に登らせた一隻があるだろ。
 それに町にゃ漁船だってある。
 いま目の前の町にいる人間を掠って、
 ガキを人質に奴隷として帝国に売りゃぁ、
 沈んだ船だって新しくなって帰ってくるって寸法よぉ」

手下C「うおおお、さっすが俺らのお頭だぁ!
 そこにしびれる憧れるぅッッ」

賊「わかったらお前ら、さっさとやるぞ!」

手下達「「「へいっ!!」」」

賊「……『海賊』よぉぅ、隠しナイフに奇襲たぁ、
 随分とせせこましい真似をするじゃねぇか。
 だがなぁ、最後に勝つのは、この俺だぁ!

手下D「入り江の山側砲台から煙を確認しやした!」

賊「そんなもん、大砲使えばいくらでも出るだろ!」


521: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:31:46.02 ID:mCLygqSvo
手下E「違ぇって!
 火薬の黒煙じゃねぇ。
 火事みてえな灰色の煙だ!」

手下D「よく見えねぇが人が右往左往してやがる」

賊「なんだと……そうか、配下が道を拓いたか!」

手下A「いよっしゃー!
 さすが配下さん、いつもは三下くさいのに、
 やるときゃぁやってくれる人だ!」

手下B「冷や汗かかせるぜぇ」

賊「なに安心したような顔してやがる。
 本番はこれからだぞ!」がつんっ

手下A「ってー……
 この分も、後で捕まえた奴隷ぶん殴ってやる」

手下B「八つ当たりかよっ。ひひひ」

賊「船員の乗り換え急がせろ、
 いや、終わるまで待つ必要もねぇ。
 港に向かって全速前進!
 ぶっ壊れてもかまわねぇ、この隙に町に突っ込むぞ!

手下達「まってましたー!」「やったるぜッ」
 「URYYYYYY!!」


522: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:32:22.20 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ入り江砲台

少女(積みあがった、死体。
 私達人質を助けるために武器を捨てて、
 殺されてしまった人たち。
 命はとらないという嘘を、信じてしまった人たち)

手下8「ひゃはははぁっ、
 子供の命一つがそんなに大事かよ。
 代わりに自分達が死んでちゃぁ、意味ねぇだろ」

双子姉「う、あぁう……」ぼろぼろ

白髪「こんな子供を盾にしてせまるなんざ、
 それでも男かよ」

少女(そう、私と双子姉ちゃんを盾に立たせて……
 だから、私も、双子姉ちゃんも、見せられた。
 目の前で、私達の変わりに死んでいく人たちを)

配下「知ったこっちゃねぇな。
 目的が果たせりゃ、それで良いんだよ」

白髪「てめぇらみてぇなのを、くずって呼ぶのさ」


523: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:32:54.63 ID:mCLygqSvo
手下9「んだとぉ、お前だけ先死ぬかよ、オラァっ」

どすっ、げしっ、

白髪「く、……っ、は、」

少女「ちょっとやめなさいよ。
 ホントに男らしくない!
 白髪さん、大丈夫?」

白髪「げほっ、げほっ……
 これくらい、何の問題も、ねぇよ……くっ」

少女「やだ、血が……」

配下「おいおい、まだ死ぬなよ?
 お前達にはまだやることがあるのさ。
 この特等席で、な」にやり

少女(どうしたら、どうしたらいいの?)


524: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:33:36.69 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 海賊船

双子妹「一斉射から三百秒経過。
 大砲の火薬で曇っていた視界が戻るでありますよ!」

男「第二波いけるか?」

包帯「難しいね。今すぐなら半分だけ」

双子妹「全門使うなら、あと三百秒くらい。
 この距離で狙うには大砲掃除しないと、
 中に残った煤で飛距離が変わるであります」

男「……ちっ、やはり手が足らんかッ」

双子妹「煙幕が晴れたであります……」

男「敵船が集結してる……?
 密集体型なんぞとっても、
 大砲のいい餌食だぞ。何を企んでる」


525: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:34:06.53 ID:mCLygqSvo
双子妹「どうやら船に自分達で火を付けて、
 奴隷さんたちに特攻させるようであります!!」

男「くそっ、なりふりかまわないかッ。
 仕方無い、全速前進だ!
 少しでも距離を詰めて、次は直接照準する!」

双子妹・包帯「「了解!!」」

男 だだっ、かちゃ

男「すまん、ムリをさせるが、全力で漕いでくれ!
 多少のずれはこちらで修正する。
 とにかくまっすぐに全速だ!」

■『――――――――――ッッ!!』

 ずぁああああああ

双子妹「お兄様、今は戦力が足りないであります」

包帯「冷静に考えれば接近は命取りだよ」


526: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:34:40.02 ID:mCLygqSvo
男「危険など承知だ。
 だが、連中が町に乗り込む様をじっと見ていては、
 ここまで来た意味がないっ!」

包帯「男さん、ムリをしたら僕たちまで巻き添えって、
 それだけ憶えておいて欲しいね」

男「判っている、意味の無い突撃はせん。
 だが、その命は預けてもらうしかあるまい。」

包帯「わかったよ。
 火薬と弾丸の装填完了、双子妹くん、計算よろしく」

双子妹「了解であります……照準は水平を維持!
 船の突撃と弾丸の落下速度を計算して、
 喫水線を狙うでありますよ!」

包帯「了解!」


527: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:35:07.23 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 金色の旗の船

賊「さっさとオールを動かせ奴隷どもぉ!
 どうせ代わりの奴隷なんざいくらでもいるんだ。
 サボってやがるとなますにするぞぉ!!」

奴隷達「「「ハイッ」」」」

手下D「悪魔の魚とマスケットの船、
 信じられない速度で接近中です!」

手下C「なんであんな速度で、
 このバカでっかいオールが動くんだよ!」

手下D「知るか!
 くそ、俺達が街に入るのが先か、
 連中が、俺達に接触するのが先か……っ」

賊「てめぇら、舷側の大砲で威嚇しやがれ!
 当たらなくてもかまわん!
 波を立たせて動きをとめろ!」

手下達「「「おうよっ!」」」

ずっっだぁあああん


528: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:35:42.98 ID:mCLygqSvo
 ずっっだぁああああん

 ぐらぐら


手下A「同時に撃って来やがった!」

手下B「側面に被弾!
 水が入りこんでいやがる!」

手下C「えぇい、全力で港に突っ込め!」

賊「奴隷共!
 足の鎖にヒッパラれて、
 船と沈みたくなけりゃぁせいぜい張り切れ!」

奴隷達「「「はいっ」」」

賊「おまえらもどんどん弾を撃て!
 沈んだらどうせあの世じゃ金なんて使えねぇ。
 全部使いきるつもりでぶちこむんだ!」

手下「「「おうっ!!」」」


529: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:36:15.82 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 海賊船

 どぉおおおおん

男「く、側面をかすったか!」

双子妹「お兄様、船の損傷どうでありますか?」

男「オールの一部が破損した。
 速度があがらん!
 くそっ、先に沈めておけば……」

双子妹「……」

包帯「どうする?
 連中は港に突撃するみたいだけど、
 このまま一緒に港にはいるかい?
 それとも少し離れて、大砲で対地砲撃するかい?」

男「後者はだめだ。
 港の被害ばかり大きくなるが、ほとんど影響はない。
 結局、俺達が街を壊す事になる」

双子妹「お兄様……」


530: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:36:56.30 ID:mCLygqSvo
男「よし、あの船の後ろにつける。
 俺達も突撃するぞ」

双子妹「でも、この船が壊れたら、
 みんなのお家も、なくなるであります……」うるっ

包帯「……」ぽん

男「大丈夫だ。港の固めた部分ではなく、
 連中の船に対してぶつかるようにすれば、
 衝撃は緩和される」

包帯「……運が良ければ出口がふさがって、
 船の中に人を閉じ込められるかも。
 そうすれば、多少はましになるかな」

男「そううまく行くとはかぎらんがな。
 衝角で敵の船を串刺しにする、
 全員対衝撃体勢!」

双子妹・包帯「「了解!」」

男「お前も、衝撃にそなえろ!」

■『う゛ぁkAっタ――!」

ずっがぁぁあああああん


531: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:37:39.27 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ入り江砲台

 どぉおおおん

手下8「よぉし!」

配下「お頭達は入港した!
 俺達も略奪に行くぞ!」

手下達「「「へい!」」」

少女「待ちなさいよ、この縄ほどきなさい!」

手下9「へっ、そこでこの町が滅ぶ瞬間を、
 じっと見てろよ。
 てめぇらが捕まったから、
 滅ぶ街をな」

少女 ぎりっ

 どすどす

?「――――――」

少女「えっ……」


532: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:38:06.99 ID:mCLygqSvo
「――――ぉおおおおおん」


手下8「な、なんだ!」

手下9「あの光、うわあああ、窓に、窓にぃっ!」

「あぉぉぉおおおおん」
「うがああああ」

手下達「「ひぃぃぃ」
 「お、狼だ、狼のむれがあああ」

 すっ

狼「遅くなったわね」

少女「狼さん!」

狼「ほら、手を出して。
 ロープを切るから」

少女「うん!」

白髪「すまねぇな、助かったぜ」


533: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:38:35.40 ID:mCLygqSvo
双子姉「お、狼のお姉ちゃんだーっ!!!!
 嘘じゃないよね、本物だよねーっ」ばたばた、べちょ

狼「ほら、縛られたままであばれないの。」

双子姉「来てくれたんだ、来てくれたんだぁ!」

狼「まあ、ね。
 ちょっと、気が向いた、から……」

少女「……来てくれて、ありがと」

狼「べつにお礼なんかいいわよ。
 アタシはべつに、ちょっと友達と散歩してたら、
 こっちに行こうかなって気が向いた、だけ」ぷいっ

白髪「かか、顔がまっかじゃね……がぶえ、げはぅっ」

狼「ばかっ、しねっ、
 あんただけ助けなけりゃよかった!」

 そーっ

少女「うわああ、周りに狼が一杯……
 しかも、いつの間にかあの人達の声が、
 聞こえなくなってると思ったら。
 う、ぷ……」


534: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:39:10.33 ID:mCLygqSvo
双子姉「狼のお姉ちゃんのお友達って」

片目 すっ

狼「アタシの直接の友達っていったら、
 この片目と、あとちょっとくらいだけど。
 みんな、一緒に来てくれて……」

片目「がふっ」

双子姉「あの、ありがと、きてくれて」

片目「……」つーん

双子姉「あはは……」

片目「ばふ」

狼「うん、ありがと。
 後は自分達でなんとかするわ。
 また今度、お礼させてもらうわね

片目「がうっ」くるっ

 すたすた

535: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:39:53.92 ID:mCLygqSvo
少女「最後、なんていってたの?」

狼「気にするな、好きで手伝ったんだ、
 みたいな事ね」

少女「うわ、すっごいクール……」

双子姉「それにしても、優しそうな狼さんだったね。
 狼のお姉ちゃんみたい♪」

狼「……ふん」

少女「あ、そうだ!
 狼の群れにびっくりしてた!
 町! 町は……っ、炎が!」

狼「一隻だけだけど、進入されたみたいね。
 ……男のばか」

双子姉「え、あ、ほんとだ、
 なんでうちの船がここに?!」

狼「しらないわよ。
 私も走ってくる途中に見ただけだから。
 ここまで来て港に進入されるなんて、
 なにやってるのよ……」


536: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:40:30.02 ID:mCLygqSvo
双子姉「とりあえず、町まで急ごうよ。
 ほら、白髪さんも!
 町の人達助けないと!

白髪「……すまんな、危険な目に遭わせて、
 だが、またさらに危険な場所について来なくて良いと、
 今のワシには、いえん」

狼「ふん、そんな事言ったら、また蹴飛ばすわよ。
 いいから、ここから町までの最短距離を案内しなさい。
 ここまでして、町の人達が助からなかったら……」

少女「させない。
 そんなのは絶対に許さないから!」

双子姉「そうそう、みんな助けるんだよ!」

白髪「……すまん。それから、ありがとよ。
 こっちだ!
 多少道は荒いが、
 なぁに、駆け抜ければすぐ街に行ける近道だ」

 だだだーっ


537: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:40:56.72 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ

 ずばっ、ザシュッ

男「十九人目……ぜ、は……
 これで、船に閉じ込められなかった連中は
 ほとんどやったか?」

手下C「へっ、後ろががら空きだz」

 たーんっ

双子妹「集中力が切れているでありますよ、お兄様」

男「すまん、助かった」

双子妹「こちらも四人ほど倒したであります。
 しかし、やはり手が足りなくて……」

包帯「どれくらい散ったのか、
 どれくらい残っているのか、
 つかめないね」

男「く、こんな時ばかりは、
 大所帯でないことがくやまれるな」


538: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:41:29.94 ID:mCLygqSvo
双子妹「……お兄様でも、そんな事を言うんですね。」

男「なにがだ」

双子妹「いえ、何でもないでありますよ」ちらっ

男「……なんだ、また、
 ロクでもないことを考えていたのか?」

双子妹「ええ、後ろの正面」

男 くるっ

手下D「ひっ」

男 ずばしゅっ

双子妹「だれなのかなーと」

男「……斬る相手は敵とだけ思え」

双子妹「……そうでありますな。
 では次の海賊さんを……」

 ばんばん、ばん!

男「はっ、こっちだ!」

 だだっ


539: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:42:02.37 ID:mCLygqSvo
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

手下F「へへ、こんな所に固まってがったか。
 いくら探しても殺す相手がいないわけだぜ

 すぅっ

男「……」ヒュッ

 かきーん!

手下F[あぁん? おう、お前ぇ……
 お頭の探してた海賊じゃねぇか」

男「ち、板金鎧か」

手下F「後ろから人に斬りかかるなんざ、
 いけねぇやつだなぁ。ぬんっ」

 ぶぉんっ

 がきぃぃんっ

男「ぐっ」

手下F「げははは、どうだ、俺様の斧は」

男「体がでかいだけ、あるな。くっ」


540: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:42:30.74 ID:mCLygqSvo
手下F「並のやつなら、右と左で真っ二つだったんだが、
 なに、そうやって受け止めたって、
 俺の力にかなうわきゃぁねえっ」

 ぐぐぐっ

男「くぅ……っ」

手下F「げはは、どうしたどうしたぁっ!」

双子妹「お兄様、引いてください!
 狙えないであります!」

男「離れられたら、離れる、が……っ」

手下F「ふん、せいぜいこのまま、
 つぶれるがいいっ!」ぐぐっ

白髪「おいおい、腕がなまったんじゃねぇか?」

 すっ、ずばしゅっ。

手下F「げはぁっ、くそ、まだ、味方がいたかっ」

 ばたり


541: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:42:59.41 ID:mCLygqSvo
双子妹「狼のお姉様に、少女のお姉様、
 それに、お姉ちゃん……」

少女「遅くなってごめん!」

狼「無事そうで良かった」

双子姉「頑張ってるみたいだねー、妹♪」

白髪「……なあ、ワシは?
 男をピンチから救ったのはワシだよな?」

双子妹「あ、いたのでありますか?」

白髪「……」いじいじ

双子妹「じょうだんでありますよー。
 ご無事でなによりであります、白髪のおじさま」

白髪「おう……
 この扱い、明らかに影響の発信源は狼だよなぁ」

狼「日頃の行いでしょ」

男「……すまん、海上で食い止めきれなかった」

白髪「いや、こっちも完全に仕留め切れていなかった」


542: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:43:41.23 ID:mCLygqSvo

 よろよろ

赤毛「白髪さん……」

白髪「おお、どうした、
 そんなに泣きはらした顔しやがって」

赤毛「二人が、子供たちが!」

白髪「なに、まさか」

赤毛「避難する時には一緒にいたのに、
 私が他の避難所に連絡しに走っている間に……」

町民「す、すみません、俺達がしっかりみてりゃ……」

赤毛「いえ、みなさんだって、
 ご自分のお子さん達で、精一杯ですから……」

白髪「ちっ、まだ賊はうろついている。
 しっかりと扉を閉じて、
 町の衛視が安全を言いに来るまで待ってろ」

赤毛「わ、わたしも、あの子達を助けに」

白髪「……」ぐっ


543: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:44:08.79 ID:mCLygqSvo
赤毛「わかったわ。
 あなたに、任せます」

白髪「すまねぇ。
 俺がもうちょいわかけりゃ、
 守ってやるからついてこいって云えたが」

赤毛「いいのよ。ありがとう」

男「子供が行方不明か。
 ……手分けして探すぞ」

少女「うん。どこか心当たりはない?」

赤毛「えっと、あなたたちは」

白髪「…………みんな、ワシの家族さ」

赤毛「……そう。
 助かるわ。
 でも、どこに行ったかは判らないの」

少女「なら、ココは私の出番かな!
 これでも、迷子捜しは島で一番得意だったよ」

男「…………むしろ迷子になるプロだったろう」

少女「そんなことないって!」


544: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:44:41.41 ID:mCLygqSvo
男「なら、白髪と双子妹、狼は少女と共に、
 その子供を捜索しろ」

白髪「そっちはどうするんだ」

男「包帯は、賊の船に閉じ込めた連中を見張っている。
 俺と双子妹の二人組だが、
 なに、それで二十人ほど倒したんだ。問題ない」

双子妹「自分も、男のお兄様も捜し物は得意であります。
 なので、これがきっとベストかと思われます」

白髪「……」

男「俺達はずっと船にいたからな、
 まだ体力もある。
 満身創痍のお前達よりはまだ戦えるつもりだ」

白髪「すまねぇ。まかせた」

少女「それじゃ行こう!
 私たちは街の東側に向かうから」

男「なら西側に向かう。
 気をつけろ、襲ってきた連中の代表格、
 あの賊はまだ倒していない」

少女「りょーかいっ!」

 だだーっ

545: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:45:12.31 ID:mCLygqSvo
------------------------------------------------
   夜 パリウガ

子供2「よし、これで大丈夫か?」

子供1「うん。お母さんが大事にしてたブローチ、
 ちゃんともった!」

子供2「それじゃ、いそいで戻ろう。
 きっと心配してるよ」

子供1「うう、2ぃちゃんも巻き込んで、ごめんね」

子供2「きにするなよ。
 さ、いくぞ
 大丈夫、なにかあったら、僕が守ってあげるから」

子供1「うん!」

 たたーっ……

 どんっ

子供1「い、いったーい」


546: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:45:44.31 ID:mCLygqSvo
賊「おうおう、どうしたガキ共」

子供2「ひっ」

賊「がはは、町の連中が見つからないと思ったが、
 やぁっと見つけたぜ。
 この町はよっぽど襲われなれてるのか?
 避難が早くて嫌になるぜ」

 がしっ

子供1「きゃぁっ!」

子供2「1っちゃん、1っちゃんっ!」

賊「さぁて、最初のエモノだ。
 運がいいなぁ、一番早く、絶望できるんだぜ?
 他の連中も、すぐそうなるから大してかわらんがな」

子供2「くっ」ちゃきっ

賊「ん? なんだ、一丁前に剣を使えるつもりか?
 ぁああん?」

子供2「くぅっ、てやぁっ!!」

 ばぎゃんっ!

 ずさあああ


547: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:46:28.44 ID:mCLygqSvo
子供1「2ぃちゃんっ!」

賊「がはは、軽い、軽すぎるぜぇ。
 吹っ飛んじまったなぁ」ガッ

子供2「う、……い、きが」

子供1「やめて、2ぃちゃんを離して!」

賊「うるせぇ!
 その耳障りなキンキン声でわめくんじゃねぇ!」

 ガッ

子供2「1っちゃん、血が、頭から血が!

賊「あぁん、死んだか?
 ったく、小さい女だって、
 そりゃそれで売り先があるんだがな。
 まあいいか、一匹くらい殺しても」

子供2「よ、く、も……ぐはっ」

賊「なんだよ、粋がるなよ
 お前もすぐに送ってやる、よっ!」

ぶんっ


548: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:47:00.21 ID:mCLygqSvo

 がきん!

白髪「――は、軽い。かるいなぁ」

 がきぃぃいん

賊「てめぇは、あの酒場にいた!」

白髪「恨みがあるのは俺達に、だろ。
 よそさまに迷惑かえるなんざ、いけねぇ大人だ」

白髪(くっ、まさか、
 少女達とちょっと分かれた瞬間に、
 まさか狙ってくるとはな。
 騒ぎを聞きつけて……間に合うか?)

子供2「しらが、さん」

白髪「よくかんばった。
 妹をまもったんだろ?」

子供2「うん、うんっ」ぼろぼろ

白髪「じゃ、今度は俺が守る番だな。
 手をつないで、連れて、走りな」

子供2「でも、白髪さん、真っ赤で!」


549: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:47:36.90 ID:mCLygqSvo
白髪「なぁに、かすり傷さ」

子供「嘘だ、だって」

白髪「坊主!」

 びくっ

白髪「かあちゃんが心配してるぜ。にかっ」

子供2「…………っ、約束!」

白髪「あん?」

子供2「こんど、必殺技!」

白髪「ああ、いいぜ。今度、な」

子供2「いくよ、1っちゃん……」

子供1「おにい、ちゃん」

子供2「大丈夫だ、僕が、まもるからな!」

とた、とた


550: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:48:05.10 ID:mCLygqSvo
白髪「……待っててくれるたぁ、優しいなぁ」

賊「なに、一度希望を持ってからのほうが、
 絶望ってのはより輝くからな。
 子供を逃がしたつもりだろ?
 俺を倒せば大丈夫だって思ってるんだろ?」

白髪「あたりまえだ」

賊「そんなお前が俺に負けて、
 ガキの前で八つ裂きにされる姿をよぉ
 想像するだけで、たまらねぇんだ……」

白髪「けっ、この外道が」

賊「外道でけっこう。
 そんな言葉で何かを思うような生き方はしてねぇよ」

白髪「そうかい。
 そんじゃぁ、後はやるだけ、か」

賊「ぬぅぅううんっ」

 がいぃぃん

白髪「ワシが、ココでお前を倒すぜ」

賊「やってみろっ」


551: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:48:30.93 ID:mCLygqSvo
 がきぃぃいいんっ!

 がんっ、がきんっ! がっきぃん!

賊「そういやぁ、さっき言ってたなぁ。
 必殺技だったか?
 おもしれぇ、やってみろよ」にたり

白髪「……あるわきゃねぇだろ」

賊「おいおい、信じてくれるガキをだますほうが、
 よっぽど外道じゃねぇのか?」

白髪「外道ってのは、人の道をすてたヤツだろう。
 わしはせいぜい、悪党って所さ」

 がきぃぃんっ

白髪「勝手気ままに生きてきた――」

 がっ

白髪「親は神の愛だのなんだのと説いてくれたがよ、
 ワシは多くの人間を殺してきた――」

ぎりぎり


552: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:49:02.60 ID:mCLygqSvo
白髪「正義だ、悪だ、異教徒だ。
 なんだかんだ言って、殺しすぎたしな
 地獄行きは免れねぇよ」

 ばっ

白髪「だが、悪党の俺だからな、
 そんな悪党なりに、子供を笑顔にさせる嘘くらいは、
 夢を見させるくらいは、したっていいだろ」


白髪「地獄巡りが百週から百一週になったって、
 大してかわりゃしねぇのさ」

賊「で、言いたい事は終わりか、よ!」

 ががっ、ぎんぎんぎんぎんっ

白髪「く、てめぇ、手を抜いてやがったか!」

賊「その『かすり傷』、
 随分血だまりをつくるじゃねえか」

白髪「……」


553: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:49:50.48 ID:mCLygqSvo
賊「それに、踏み込みがあまいぜ。
 足にも怪我があるんじゃねぇか?
 その傷でをかばおうとして、全体がガタガタだぜ。」

白髪「待ってたのかよ、俺が消耗するのを」

賊「はっは、外道らしくていいだろ?」

白髪「ああ、まったく外道らしい!」

 ぎぃんっ、がぁぁんっ!

白髪「ちっ、剣が……」

賊「ははっ、もう手に力が入らないか?
 目もみえてねえんじゃねぇかぁ?
 ……拾う時間はやらねぇがな」

白髪「だからなんだよ……
 てめぇ一人殺す程度、素手でも十分ってもんだ」

賊「はっ、だったらせいぜい、見せてみろ!」

 ずばしゅ、ガッ


554: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:50:24.94 ID:mCLygqSvo
賊「く、てめぇ、自分から前に突っ込んで!」

白髪「剣の威力があるのは先端だけだからなぁ。
 近い相手にゃ、骨でとまる……ぜ、はぁ」

賊「だが、それが、どうしたぁ!」

 ぐぐっ

 ぶしゅぅっ

白髪「……ここで引かなかったのが、お前の敗因だ」

賊「負ける?
 俺が負けるだと?!
 意味がわからねぇっ!」

白髪「痛みや恐怖で俺が引くとおもったか?
 あいにく、俺はもう、引くわけにはいかねぇのさ
 それ、顎ががら空きだ!」

 がっ

賊「ぐぅっ」くらぁっ


555: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:50:55.65 ID:mCLygqSvo
白髪「まだいくぞ、喉!」

 がつんっ

賊「ごぶぅっ。げ、げぇええっっ」

白髪「顔を下げちゃいけねぇなぁ……
 目が、丁度狙い易い高さだぜ」

 ぐっ

賊「ま、まへっ、目は」

白髪「言ってるだろ、俺は悪党だってよ
 ……大切なモノを守ろうってんなら、
 手段なんざ選んでらんねぇ、てな」


556: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:51:56.47 ID:mCLygqSvo
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 たたたっ、

少女「あ、ちょっと、きみ!
 もしかして、町長さんのとこの」

子供2「お、お姉ちゃんはだれ、
 あの怖い人達の仲間?!」すちゃ

少女「ちがうよ、白髪って人の、家族、かな」

双子姉「家族だよっ!
 家族でいいの!」

狼「……まあ、あの野蛮な連中とは、敵」

子供「た、助けて!
 白髪のおじちゃんが、おじちゃんが!」

狼「っ、どっち?
 どっちにいるの?」がっ

子供2「あっち、案内するよ」


557: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:53:05.99 ID:mCLygqSvo
双子姉「……だめだよ。君たちはこっち」

子供2「でも、でも!」

双子姉「白髪のおっちゃんが必死で逃がしたのに、
 危ない所にもどるなんてダメだよ!」

子供2「……うう」

少女(痛いくらいに、伝わってくる。
 強くなりたい。
 無力はいやだ。
 なにかしたい。
 自分に、もっと力があれば。
 私にも憶えのある気持ち)

双子姉「お母さんの所に、
 連れて行ってあげるから、ね」

子供2「……」

子供1「うぅん……」

子供2「……わかった」

少女「双子姉ちゃん、任せても」

双子姉 こくり


558: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:53:44.62 ID:mCLygqSvo
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「さーん」

「し……さ……」

「白髪さーん」

「……こっちだ」

 たたっ

少女「う……っ」

白髪「がはは、わりぃなぁ、
 ちょっと、立ちくらみがしてよ。
 楽させてもらってるぜ」

少女「た、立ちくらみとか、そんな!
 服破くよ! しばるから、痛いけど我慢して!」

白髪「くっ、おいおい、
 かまわねぇよぉ、そんなこと」

少女「そんな事じゃないよ!
 これじゃ、このままじゃ!
 ああ、血が、」


559: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:54:34.14 ID:mCLygqSvo
白髪「首のそばだしなぁ。
 でかい血管が斬られりゃぁ、どうしようもねぇよ」

少女「傷、焼けば血は止まるって……」

狼「……一つや二つ塞いでも、ムリね。
 血のにおいが、しすぎてる」

少女「もしかして、ごめん、みるね」

 そっ。ばり、ばりばり

少女「あ、あ……」

狼「こんなに傷……」

白髪「いやぁ、いけねぇなあ、
 もう若い頃みてぇにはうごけねぇよ」

少女「もしかしてずっと、こんなにたくさんの傷、
 山の上にいたときからなの?
 あの時からずっと、隠してたの?!」

白髪「まあ、いくつかは、な」

少女「ばか、ばか、ばか……」


560: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:55:06.01 ID:mCLygqSvo
白髪「なあ……」

狼「なに?」

白髪「おれよぉ、こないだ作戦会議した、
 あの廃墟にあった教会で、うまれたのさ。
 俺の灰は、そこから、海に……」

少女「そんな、死ぬみたいな事いわないでよ!」

白髪「わるいが、今回ばかりはなぁ
 冗談だ、とは、いえねぇのさ」

少女「勝手だよ、嘘だって、言ってよ」

白髪「もう、げほっ、ながくねぇ」

少女「……う、あ」

白髪「わがままばかりでわりぃが、
 さいごに、もう一つ聞いてくれや」

少女「そんなこと、」

白髪「誰にも、街のやつには、
 特に、あのガキ共に、
 俺が死んだって、内緒に、な」


561: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:55:32.84 ID:mCLygqSvo
少女「そんな、こと、言わないでよぉ……」ぼろぼろ

白髪「ただ、元気にいきろって、よ」

 たたっ

双子姉「白髪のおっちゃ……あ、あ」

狼「……何か言葉をかけるなら、今よ」

白髪「おう、よかった……
 最後に、顔、みられてよ」

双子姉「そんな、うそ、うそだ」

少女「ねぇっ」

白髪「おまえらも、元気でな」

双子姉「おねがい、だから」

狼「……二人とも」

双子姉「……」よろよろ、ぎゅっ

白髪「おいおい、よごれっちまうぞ」

双子姉「いいよ、そんなの」


562: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:56:03.19 ID:mCLygqSvo
白髪「……さむかったから、ちょうどいい、がな」

少女「やだ、やだよ……」

狼「……」そっ。ぎゅっ

少女「う、うぅ……」ぎゅぅっ

双子姉「うん。あのね、あたしもあったかったよ」

白髪「なんの、はなしだよ」

双子姉「出会ったときに、もう大丈夫だって、
 抱きしめてくれたよね」

白髪「さぁて……おぼえてねぇなあ」

双子姉「嘘つき。あのね、あたし……」

白髪 なで

双子姉「あだじ……」ぽろぽろ

狼「……」じっ


563: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:56:37.83 ID:mCLygqSvo
白髪「ああくそ、くやしいなぁ、
 双子姉が、成長するのを」

狼「大丈夫。
 いつかは見せにいくから。
 でも、すぐにはムリ。アタシが、守るから」

白髪「そうか?
 そんなら、のんびりまってるぜ」

狼「うん。楽しみにまってて」

白髪「……ああ」

双子姉「あのね、あだじ……」

白髪「……ばーか。泣いたら、
 可愛い顔が、だいな……し」そぉっ

 ぱた……

少女「あ、あぁああ……」

狼「……」ぎゅうっ

少女「あぁああああああっっ」ぎゅぅうっ


564: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:57:03.28 ID:mCLygqSvo
双子姉「……ちゃんと」

双子姉「ちゃんと、ざいごばで……」

双子姉 ちーんっ

双子姉「いつも、ごまかして」

双子姉「こないだも」

双子姉「……いまも」

双子姉「だから、云えなくて」

双子姉「大好きなんだよ……」

 ちゅ

双子姉「大好き、なんだよぉ……」

双子姉「……ばか」

双子姉「ばかばかばかっ」

双子姉「ばか……っ」

狼「……ホントに、バカよ、白髪」ぎゅっ

双子姉「あ、くう、うぅぅぅうううううう」ぎゅぅっ


565: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/06/26(日) 03:58:08.83 ID:mCLygqSvo
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   夜 パリウガ

?「ふっはっはっはは!」

?「すばらしい、実に、じぃつにぃ――ラッキィ、だ」

?「邪魔だった港は炎に包まれ、
 目障りな賊は始末された。
 そして――」

?「あの、憎き白髪もここで屍に」

?「神よ、ああ神よ!
 信じる者は救われる!
 アナタに全てを預け渡し、祈り続けるこの私こそ!
 あなたの愛にふさわしい!」

?「さあ、踊れ踊れ! 幕は上がるぞ!」

?「街を真っ赤に染め上げて、
 炎を背景にタイトルコールだ!」

?「アッラーよ、たたえる我はココにあり!!」

?「アッラーフ・アクバル!
 ラー・イラーハ・イラーッラー。
 ハイヤー・アラー・ハイリ・アアル!!」


580: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:21:17.87 ID:KM8wf9O0o
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   夕刻 海賊船廊下

 とことこ、ぱたん

男「……少女の調子はどうだ」

双子妹「昨夜の内に熱も下がり、
 今は大人しく休んでいるでありますよ。
 傷はもう、軽いモノならある程度なおり始めてるです」

男「頑丈だな。
 バカだとは思っていたが、
 分類上は体力バカのたぐいか」

双子妹「あはは、あんまり言ったら、
 かわいそうでありますよ」

男「もういいと言っているのに、
 命を捨てるように敵に突貫する者を、
 バカや愚か者と言わずになんという」

双子妹「……実は怒ってます?」

男「知らん。
 それにしても、かなり傷を負った様に見えたが、
 もう遠からず治るか」


581: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:21:44.27 ID:KM8wf9O0o
双子妹「深い傷はいくつか有って、
 痕も……きっと体に刻まれるであります」

男「仕方ない奴だ。
 ……だが、治るならばいいだろう。
 一時は死にかけた身だ」

双子妹「その推測にも疑問が生じているであります」

男「どの部分に疑問がある。」

双子妹「先ほど室内に食事を持ったものの、
 未だに手を付けていないかったのであります。」

男「寝込んでいた二日、いや既に三日か。
 寝ている間は、水と薄く煮た羊の乳の麦粥を、
 少量流し込んだだけだったな」

双子妹「そうであります。
 少しずつ含ませてもすぐに咽せてしまうので、
 結局諦めざるをえなくて……
 吸収が消費に追いついていないと思うであります」

男「ゆれる船では、寝ていても体力を使うからな。
 足しにはなっていないというわけか」

双子妹「幸いこの船には、
 他の船や、場合によっては中規模の街よりも、
 医薬品や滋養を取る事のできるモノには、
 恵まれた環境にあるですが……」

582: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:22:12.75 ID:KM8wf9O0o

男「口に入れようとしなければ意味がないな。
 どうするつもりだ?」

双子妹「食べてもらう事は、前提であります。
 でも、だからといって、
 マウスオープナーとかを使うわけには……」

男「食事を拒んで餓死しようとする奴隷に、
 流動食を飲ませるために突っ込む道具だったか。」

双子妹「はい。」

男「あんなもの、ウチの船にあったのか?」

双子妹「医療用の道具として、
 一応積んでいたであります。」

男「そんなモノは使わなくていい、
 と言いたいが、少女が自発的に食べないならば
 一つの手段として、検討が必要か。」

双子妹「……」


583: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:22:39.16 ID:KM8wf9O0o
男「難儀をかける。
 いざとなれば、嫌われ役は俺がやろう。」

双子妹「まあ、自分は兼任でも船医でありますから。
 その時は、お姉様の体を守ってあげてください。」

男「……やはり、少女がモノを食わないのは、
 食欲などの問題では無く、
 白髪の事が原因だと思うか?」

双子妹「根底にはあると思うであります。」

男「他にもあるのか?」

双子妹「自分は推論は口にしても、
 推察には語る言葉を持たないであります。」

男「……自分で向き合えと云う事か。
 確かにそうだな。」

双子妹「ついでに、多少なりとも、
 料理をお姉様に食べてもらえると、
 自分としては無理強いせずにすむであります。」

男「善処しよう。」


584: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:23:06.12 ID:KM8wf9O0o
双子妹「それでは、自分は今回の戦闘の報告書、
 主に在庫の確認などを行うであります。」

男「すまんな。
 夜は包帯に、滋養がつく物を作るように言おう。
 お前にも、疲れがみえる。」

双子妹「……はい。」

男 ぽん……

 こんこんこん

男「俺だ、入るぞ」

 かちゃ……ぱたん

双子妹「……船長殿だって、
 辛そうでありますよ。
 ……無理をしすぎないと、いいでありますが」


585: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:23:31.83 ID:KM8wf9O0o
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   夕刻 海賊船女子部屋

少女(なんで、だろ……)

少女「……」

少女(ただ、涙が、とまらない――)

男「寝ているワケでは無いようだな」

少女「……」

男「熱は引いたと聞いたが、
 気分はどうだ」

少女「……」

男「せっかくの食事、食わんのか。
 食欲がないというお前にと、
 包帯が作ったリンゴのコンフィなど、うまいぞ。
 貴族でもそうそう食べられる味ではない」

少女「……」


586: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:24:00.39 ID:KM8wf9O0o
男「……ムリをしすぎだ、馬鹿者。
 双子姉も狼も置いて、 
 一人で敵を殺して回るなど。」

少女「……」

男「あと一歩俺達が捕捉するのが遅れていれば、
 お前まで白髪の様に倒れていたぞ」

少女「……のに」

男「なんだ?」

少女「その方が、よかったのに……」

男「死にたかったのか」じろっ

少女「……」

男「お前が道連れになったところで、
 白髪が喜ぶという事でもない。
 何を血迷っている。」

少女「それだけじゃない……私がいなければ、
 みんな、街を追われなかったよ。」


587: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:24:30.51 ID:KM8wf9O0o
男「あの砲台の生き残りがなにやら言っていたな。
 お前が人質にならなければ、
 砲台は落ちることなく、海賊も街に入らなかったと。」

少女「私の、せいだから。」

男「だが、お前達がいなければ、
 街には無傷な連中が大挙して押し寄せていただろう。」

少女「……」

男「加えて言うならば、
 連中の覚悟と意識が足りなかっただけだ。
 お前は攻められるために、攻められているに過ぎない。
 罪悪官を感じる事はない」

少女「でも……」

男「たった四人で、三百人の敵を倒しきったんだ。
 この街の兵力が通常通りであったとしても、
 三百の敵に奇襲されれば壊滅的な損害を被っただろう。
 それを防いだ」

少女「……できて、なかったよ」

男「海側の敵を防ぎきれなかったのは、
 お前の責任ではない
 お前はできる限りの事をした。


588: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:24:59.27 ID:KM8wf9O0o
少女「でも、私のせいで、みんな、
 石を投げつけられて、追われて。」

男「そんな態度を取られるのはいつもの事だ。
 どの港に行っても、海賊の俺達は……
 異形の俺達はなおさら、石をもって追われる。
 いつもの事だ」

少女「私のせいで、助けにきた白髪さんまで、
 街を、壊した立場にされて」

男「掲げる旗や信じる神が違えば、
 認められる行為やその見方が変わる。
 ソレがこの世界の理屈だ。結果は変わらん。」

少女「……それなら」

男「なんだ」

少女「それなら白髪さんは……
 何のために……」

男「……」

少女「っ……ぐすっ……う……ぅう……っ ぽろぽろ」


589: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:25:30.98 ID:KM8wf9O0o
男「ならば、お前は楽園を見れば満足だったのか?
 そんな物は、この世にはない。」

少女「そん、なの……そんな、いいかた……」

男「……」

少女「ぅ……っ、ぐすっ……」

男「食事は摂れ。吐かない程度に腹に入れろ。
 包帯や双子に心配をかけるな。
 迷惑がかかる」

少女「……っ」

男「それ以上の期待はせん。」

少女「…………」

 とことこ、ぱたん

少女「……う、あ、ぐ……うぅ…………」


590: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:27:43.47 ID:KM8wf9O0o
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   夕刻 海賊船女子部屋

狼「大人げないわね」

男「聞いていたのか」

狼「聞こえただけ。
 アタシも少女の見舞いに来てさ。」

男「なら見舞えばいい。
 俺は船橋に行く。
 いつまでも包帯に舵を任せ続けるワケにもいかん」

狼「む、男の尻ぬぐいなんてお断りさ。
 そもそも、慰めに行ったはずじゃないの?」

男「……」

狼「アタシね、普段の男は嫌いじゃない。」

男「何だ、唐突に」

狼「無愛想で、やる気も覇気もない」

男「……それは誉めていないな。」


591: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:28:12.50 ID:KM8wf9O0o
狼「でも、船長としてやるべき事はこなす。
 必要以上に干渉してこない、
 わきまえている、居心地の悪くならない相手。
 そういう意味で、嫌いじゃない」

男「奇遇だな。俺も、お前を同じように思っていた。」

狼「そんなのはどうでもいい。
 ただ、今の男は、嫌い。
 仲間に対する尊敬が、見えない。」

男「……そうかも知れんな。」

狼「自覚はあるってわけ。
 少女の事が嫌いなの?」

男「……なぜだ」

狼「少女が関わると、男の態度が変になるから」

男「そんな事は……」

狼「無いって云えないでしょ」

男「……」

狼「もしかして少女も、あの黒ひげの――」

 どかっ


592: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:28:39.65 ID:KM8wf9O0o
男「あの名前を、口にするな」

狼「関係者なの?
 男がこんな風に、
 普段とは違う態度を取るのって、
 アタシが知る限りは、それだけだから。

男「……そのような情報はない。
 そして、その可能性もないだろう」

狼「ただ、そこに近い『過去』に彼女がいる?」

男「聞くな。
 お前は詮索されるのが嫌いだと思っていたがな」

狼「そうよ。
 触られるのも、詮索されるのも嫌い。
 でも、触ったり、詮索したりするのは嫌いじゃないわ」

男「……身勝手だな。」

狼「前者は私の感情。
 後者は無理強いしなければ問題にならないでしょ。
 で、答えるの?」



593: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/03(日) 05:29:15.07 ID:KM8wf9O0o
男「答えん。」

狼「そう、ならアタシにできる事はないわね。
 ……あと、伝言。
 包帯が、矢尻十字について話があるって。」

男「それを早く言え。
 マータ騎士団か……
 くそっ、こんな時に」

 とことこ

狼「……尻ぬぐいは嫌いなんだけど。
 食事くらいはさせないと、かな」

狼「なんでアタシがこんな事しないといけないのよ。
 こういうのは、白髪の……」

狼「白髪……」

狼「ふん、あんなセクハラ魔神なんて……」


602: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/13(水) 02:11:16.19 ID:8Mk/e9+8o
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   夕刻 海賊船廊下

 とこ、とこ……

男「ふん……。判っている」

男(そうだ、誰よりも俺が、自分が判っている。
 少女に対する態度が、平静では無いとな)

男「狼の勘も、あなた勝ち外れてはいないしな」

男(確かに少女は、
 あの男――家族の仇である黒ひげとは、
 直接的に関係はない)

男「だから、嘘はついていない」

男(ただ、俺にとっては無縁ではない。
 切り離せない、近しく結びついた存在――)

男「言うなれば、八つ当たり、か」

よろっ

とすっ

男「……いまさら」


603: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/13(水) 02:11:56.77 ID:8Mk/e9+8o
男(黒ひげに家族を殺されて、
 俺自身も傷を負わされ、
 荒れ狂う海に突き落とされたあの日、あの時。
 俺の人生は、変わった)

男「あの男への復讐だけが」

 ぐっ

男「俺の、生きる理由になった」

男(どれだけの時間を、
 波にもまれながら、
 小さな木片にすがりついて流されたか)

男「今でも、思い出せる」

男(じりじりと、熱した針を突き刺すような陽光に、
 体中を焦がされながら、
 一面に俺を囲む海によって、
 呼吸するたびに割れそうな喉の渇きを抑えながら)

男「あの男を殺す事だけを考えた……あの、時間」

男(少女は、それを、思い出させる)


604: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/13(水) 02:13:44.95 ID:8Mk/e9+8o
男「……八つ当たり、だがな」

男(いまだ俺は生きている。
 なのになぜ、あの男は死んだのか)

男「俺は、この振り上げた拳をドコに降ろせばいい……
 いや、判っている、少女にではない、
 それは、わかって……」

 ぐっ

男「……悩んでいても、解決はしないな」よろ、よろ

『ねえ』

男「うるさい」

『あのね、いつかね』

男「だまれ」

『――――――――――――』

男「どうしてだ。
 なぜ、死ぬのが俺では無かったんだ……」

『それが、大切なの?』

男「白髪ではなく、俺が、死ぬべきだったんだ……」


605: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/13(水) 02:14:22.86 ID:8Mk/e9+8o
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   夕刻 海賊船談話室

包帯「ああ、船長。
 ごめんね、呼び出しちゃって」

男「かまわん」

包帯「……なにか、あった?」

男「何かあったのはこっちだろうが。
 矢尻十字についての話だと聞いたが、
 騎士団の船でも襲ってきたか」

包帯「近からず、遠からず。
 マストの上で見張りをしていたら、
 遠くに連中の船が見えてね。
 こっちは偽装としてスペインの国旗を出してたから、
 まあ問題ないかなーと、
 手旗で挨拶だけして追い越させるつもりだったけど」

男「ということは、来たのは後ろからか」

包帯「まあ、後ろって言っても、
 水平線の縁をなぞるようなぎりぎりだったけどね」


606: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/13(水) 02:15:55.51 ID:8Mk/e9+8o
男「そうか。それで、その船がどうした?
 確かに騎士団の船がイオニアのこんな奥にいるのは、
 多少違和感があるが、
 珍しい事ではないだろう」

包帯「それは同意。
 でも、なんだか立派な鷹が飛んで来てね。
 足にこの手紙がついてたんだ」

男「手紙だと」 がさがさ

包帯「一応、頭の部分だけ開いて、
 船長宛って事だけ確かめたよ」

男「それくらいは問題ない……なるほど、青年か」

包帯「青年さんって、知り合いの名前かい?
 にしては、あんまり嬉しく為さそうだけど」

男「知り合い、だな。
 まさかこのタイミングで会うか……」

包帯「どんな関係か、聞いても?」

男「昔の同僚だ。騎士団時代のな」

包帯「へえ。だから砲弾じゃなくて
 手紙が飛んで来たのかな」

607: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/13(水) 02:16:50.52 ID:8Mk/e9+8o
男「そういう事だろう。
 あまり助かったという気はしないがな」

包帯「手紙にはなんて?
 命が惜しければ降伏しろとか
 昔なじみのよしみで降伏の機会はやろう、とか」

男「確かに騎士団の主な『任務』は海賊行為だが、
 相手をするのはあくまで、トルキア勢力に対してだ。
 基本的に、この近辺の船は敵としては扱われん」

包帯「……通行料さえはらえば、だけどね」

男「否定はできんな。
 だが、こいつについてだけは違うと言っておこう」

包帯「どういう意味なんだい?」

男「そうだな……『騎士』だからという言葉で通じれば、
 分かり易いのだが」

包帯「騎士団なんて、貴族の三男、四男の集まりでしょ。
 金と権力と身内での評判以外を気にする人間って、
 それ以外のどんな意味が騎士にあるんだい?」

男「……相変わらず貴族に関する事には、手厳しいな。」

包帯「あ……ごめん。
 男さんとか白髪さんは、含めてないから」


608: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/13(水) 02:17:42.19 ID:8Mk/e9+8o
男「気にするな。
 俺も立場は元貴族だった身として、
 少し気になっただけだ」

包帯「そっか、貴族だった――って、え?」

男「なぜ、そこまで、驚いた顔をする。」

包帯「貴族らしくないし、
 てっきり騎士団にいたっていっても、
 小間使いとかかなーと思ってたからね」

男「まあ、白髪は元はそうだったが、俺は違うぞ。
 俺が生まれた後に、親が貴族と婚儀を結んだからな、
 名目上は貴族として騎士団に入団した身だ」

包帯「でも出身は庶民なんだよね。
 だから、あんまり貴族臭くないのかな」

男「それは、そうかも知れんな。
 おかげで賤民と言われていたが――
 いや、話を戻そう。だいぶズレた気がする」

包帯「手紙についてだね」

男「内容は、近くの港に来いとある」

包帯「罠とかかな?」


609: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/13(水) 02:18:29.74 ID:8Mk/e9+8o
男「いや、それはないだろう。
 先ほど言いかけたが、
 こいつは騎士道を重んじる、
 まさに理想の『騎士』なんだ」


包帯「みんな大好きトマス・マロリーかい?
 ロマンはあるけれど、冗談としては面白くないね」

男「冗談では無い。いや、冗談ではすまない、だな。
 トマスを知っているなら話は早いが、
 誇りと忠義を何より重んじるという、
 理想の騎士を書いた物語を読んで、
 そうなりたいと願う者は、
 騎士団内部でも実は少なくないんだ。だが……」

包帯「まあ、判らないでもないけど、
 現実との違いを知るとか、そういうところでしょ。
 『帝国の方が騎士道精神にあふれている』なんて、
 言われている始末だからね」

男「……返す言葉も無いな。
 だが、中にはそんな幻想を、
 現実にしてしまおうという奴もいてな」


610: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/13(水) 02:19:19.49 ID:8Mk/e9+8o
包帯「その彼は、今もそれを目指していると?」

男「同僚からすれば『厄介なことに』な。
 そんな奴からの誘いだ。
 罠という事はない」

包帯「……」

男「白髪の死を伝えるため、
 いずれ連絡を取ろうと思っていた所だ。
 俺は誘いに乗ろうと思う」

包帯「了解。まあ、船長の意向だからね、従うよ。
 むしろ、違う意味で船長に対する罠みたいだから、
 見ていて面白くなりそうだしね」

男「どういう意味だ?」

包帯「どういう意味も何も、
 そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいんじゃないかい、
 って事だよ。ふふ」

男「……苦手なんだ。奴が。」


611: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/13(水) 02:19:58.94 ID:8Mk/e9+8o
包帯「みたいだね。
 もしかしてアレかな、よく言う、昔の自分を見て――」

男「そうと決まれば! 進路を変える」

包帯「……ふふ、了解。他のみんなにも伝えてくるよ」

男「任せた。
 あと、あと今夜の食事は滋養のつくものを頼む。
 双子妹を筆頭に、疲れているようだ。」

包帯「うん。任せてもらうよ。
 この辺りは港も多いからね、
 いざとなれば食材なんかはまたすぐに買えるし」

男「負担をかけてすまんな」

包帯「仕方無いよ、人手がないし」

男「……せめて、双子姉が残っていればな」

包帯「……居ない人の事を言っても、仕方無いよ」

男「そうだな。ひとまず俺は自分の仕事を済ませよう。
 晩飯の時間になったら教えてくれ」

包帯「アイアイサー」

 とことこ


618: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:20:06.04 ID:PoO4m/tco
------------------------------------------------
   夜 バリウガ町長宅

双子姉「へっくちっ」

赤毛「大丈夫?
 ちょっと冷えてきたかしらね」

双子姉「へーきへーき。
 多分誰かが噂してるんだよ」

赤毛「あら、どんな噂かしら」

双子姉「港のおっちゃんとかがさ、
 『マスター、今日港ですれ違ったあのレディー、
  どこの誰かわかるか?
  俺はもう一瞬で心を奪われてよ』
 『ああ、町長の所に居候してる双子姉って、
  何とも不憫な身の上の美少女らしい』
 『ああ、それなら俺が、その魂を慰めてやりてぇ』
 とかなんとか、そんな噂が!」

赤毛「ふふ、モテモテなのね。
 それに、声真似もとっても上手よ」

双子姉「なんたって、れでぃーですから!」きりっ

赤毛「ふふっ」にこっ


619: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:20:52.23 ID:PoO4m/tco
双子姉「その……ありがとね」

赤毛「何についてのお礼かしら?」

双子姉「イロイロと気を遣ってくれたり、
 こうやってお家に泊めてくれたり」

赤毛「……気にしないで。
 あなたはこの街のお客さんで、恩人だもの。
 できる事はさせてもらってるけど、
 あなた達にしてもらった事を考えれば、
 全然足りないわ」

双子姉「おかげで、あたしは白髪のおっちゃんの葬儀に、
 ちゃんと参列させてもらえたから。
 とっても助かっちゃったよ」

赤毛「そんなのは当然のじゃない……。
 あなたしか参列してもらう事ができなくて、
 街の一員として、申し訳ないわ」

双子姉「でも……街の復興でみんな大変だし、
 海賊に対する風当たりも強いのは当然だよ」

赤毛「街のために一所懸命戦ってくれた人達を、
 無理矢理に追い出すなんて恩知らずじゃない。
 私の声じゃ、あなたしか迎えられなかったけど……」


620: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:21:39.50 ID:PoO4m/tco
双子姉「しかたないよ。
 海賊だし、ばけもの、だしね。
 気持ち悪いし、縁起悪いし。
 下手したら、教会からも怒られちゃうし」

赤毛「そんなの、誰かから言われたの?」

双子姉「街の人達は、言ってるよ。
 赤毛さんは優しすぎるって」

赤毛「そんな、恥知らずなこと……」

双子姉「でもね、そうだと思うよ。
 狼の姿をしてたり、包帯でぐるぐるだったり、
 人の何倍も早く歳をとっちゃったりね。
 あたしも仲間として知り合わなかったら、
 不気味な人達とか、怖い人達って感じたと思う」

赤毛「双子姉ちゃんみたいな子に、
 気持ちをくみ取らせるようにさせて、ごめんなさい」

双子姉「謝らないでいいんだよっ!
 他の人達と違うからこそ、いろんな場所から、
 あんな小さな船に集まった仲間でもあるからね!」

赤毛「そう言ってもらえると、
 少しだけ、救われた気がするけど」にこ……


621: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:24:06.33 ID:PoO4m/tco
双子姉「だーかーらー、赤毛さんは悪くないんだよー。
 ま、言いたい人には言わせておけば良いって。
 何も知らない人に何を言われても気にしないし」

赤毛「……強いのね、あなたたちは」

双子姉「大切な人に誤解されるのは辛いけど、
 自分とかそんな人に恥じるところが無いなら、
 胸を張って泰然と構えてろってね、
 白髪のおっちゃんに教わったんだよ」にぱっ

『そうすりゃ、お前もちったぁ明るくなれねぇか?
 根暗の嬢ちゃんよ』

赤毛「私も同じ事を聞いた事があるわ」

双子姉「そうなの?」

赤毛「ずっと……ずうっと昔にね」

双子姉「まあ、白髪のおっちゃんは、
 仲間に対しても気にしなさすぎだと思うけどね。
 狼のお姉ちゃんに対してとか……」

赤毛「あらあら……ふふっ」

双子姉「だからね、あたしは平気なの。
 ……ただ、あたし達じゃなくて、
 赤毛さんが立場を悪くしてないかなーとか、心配でね」


622: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:25:16.30 ID:PoO4m/tco
赤毛「……嘘をついても、
 あなたを傷つけるだけだと思うから、
 本当の事を言うわよ?」

双子姉「うん」

赤毛「確かにね、一部ではあなたに対してとか、
 あなたの仲間に対して、
 不満を持っている人はいるみたい」

双子姉「……だよね」

赤毛「でもね。
 それ以上に違う声も聞こえるのよ。
 双子姉ちゃんが街の復興のお手伝いをしてくれて、
 とっても助かってるとか。
 あなたの笑顔に励まされた、とか」

双子姉「ふふん、これも双子姉が誇る、
 七つの必殺特技のひとつなんだよ!
 スマイルはプライスレスっ」にぱっ

赤毛「男の子のハートはイチコロね」にこっ

双子姉「でも、白髪のおっちゃんには、
 効果がなかったんだよねー……」しゅん

赤毛「あらあら、まあまあ……」くすっ


623: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:28:41.94 ID:PoO4m/tco
双子姉「話を戻すけど、
 それじゃ、赤毛さんには迷惑とか」

赤毛「全然かかってないわよ。
 むしろとっても助かってるくらい。
 子供達の面倒も見てくれるし、ね」

双子姉「面倒なんて、ちょっと気にかけてるくらいだよ。
 二人ともあたしと一緒に、
 一日中ずーっと、復興のお手伝いしてるから。
 ……まだ遊びたい頃だと思うんだけど」

赤毛「そうね、今までだったらわがままを言って、
 手伝いなんかしなかったと思うんだけど……
 あの子たちも、白髪さんから『何か』を、
 受け取っていたのかしら」

双子姉「白髪のおっちゃんったら、モテモテだね」

赤毛「ふふ、そうね。
 心配をかけるかも知れないけど、
 これからもあの二人と仲良くしてくれたら嬉しいわ」

双子姉「ばーんとぉっ、任せちゃってよ♪
 あ、でも、そのかわり、ね」

赤毛「なにかしら?」


624: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:29:11.70 ID:PoO4m/tco
双子姉「赤毛さんの時間がある時でいいから、
 いろいろ、教えてほしいなーって。
 昔の、白髪のおっちゃんの事」

赤毛「……ええ、私の知っていることなら、喜んで。
 でも、いいのかしら?」

双子姉「ん、なにが?」

赤毛「あなたにとって、
 白髪さんの話は、まだ辛すぎないかしら?」

双子姉「……」

赤毛「私はずっとこの街にいるから、
 何年か経って落ち着いてから、
 聞きに来てくれても良いと思うの。
 今は、無理をしなくていいのよ」

双子姉「そうだね、無理はしない方が良いとおもう」

赤毛「それなら……」

双子姉「でも」

赤毛 じっ

双子姉「そうじゃないんだよ」


625: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:29:51.12 ID:PoO4m/tco
赤毛「違うの?」

双子姉「白髪のおっちゃんの事をね、
 あたしは大好きだったんだ」

赤毛 きゅっ

双子姉「えへへ、赤毛さんの手、あったかいね」

赤毛「……」

双子姉「その気持ちを伝えたらね、
 おっちゃんには、家族の好きとか男女のとか、
 いろいろ言われたんだけどさ。
 正直まだ、あたしにはよくわかんない」

赤毛「難しいわよね、そういうの」

双子姉「うんうん。
 でもね、ひとつ言えるのは、
 とにかく大好きだったんだよ、ってこと」にへら

赤毛「あなたと話してると、
 とっても、伝わってくるわ」

双子姉「たぶん、だから心配してくれたんだよね。
 白髪のおっちゃんが天に召されて、
 その事で、あたしが無理をしてないかって」


626: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:30:48.27 ID:PoO4m/tco
赤毛「ええ。
 神はいたずらに試練をお与えにはならないわ。
 でも、自分を壊してしまうほど、
 過ぎたがんばりはいけないのよ?」

双子姉「んー、あたし、
 白髪のおっちゃんの神学のお話は、
 さぼっちゃってたからよく判らないかも」

赤毛「あら、そうなの?
 あの人のお説教は、他の神父様や牧師様より、
 ずっと興味深く聞けたけど」

双子姉「神様っていうのが、どうしても、
 あたしには肌に合わなくて。
 妹を魔女って呼んで顔に入れ墨をいれるとか、
 ヒドイ事をしたのも一神教の人達だし」

赤毛「……ごめんなさい、
 軽率な言葉だったわ」

双子姉「ごめんね、素直に受け取れなくて。
 だから、神様とか、そういうのとは関係なく、
 あたしは、手を伸ばしたいんだと思う」

赤毛「手を、伸ばす?」


627: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:31:37.24 ID:PoO4m/tco
双子姉「言葉にしにくいけど、
 おっちゃんが死んじゃうときにね、
 笑顔だったんだ。
 山も街も走り回って疲れ切った上に、
 どうしようもないくらい大けがしてて、
 とっても辛いはずなのに、笑ってたの」

赤毛「……なんでかしらね」

双子姉「わかんない。
 でも、その顔がね、やきついて、るんだよ。
 とっても、とっても、
 やさしい顔で、やさしい声で、
 あたしの事、おいていっちゃうのに、
 それでもどこか、誇らしげでね」

赤毛「とっても……勝手な人ね」

双子姉「うん、勝手だとおもう。
 でも、なんかね、うらやましかったんだ。
 きっと、今のおっちゃんには、
 世界が輝いてみえるんだろうなって。
 そんな光景を見られるような生き方したいなーって」


628: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:32:59.74 ID:PoO4m/tco
赤毛「だから、彼の話を聞きたいの?」

双子姉「うん。
 おっちゃんがどんな思いで、この街を守ったのか。
 おっちゃんにとって、
 あたしとか船のみんなはどう見えたのかとか」

赤毛「どう、見えたのか……」

双子姉「今すぐに答え合わせはできないけど、
 おっちゃんの事を知れば、
 ちょっとはそれもわかるのかなって。
 わかりたいな、って」

赤毛「……ホントに、彼の事が好きなのね」

双子姉「えへへ。だからね、心配ないんだよ。
 ちょっとだけ、ほんとーにちょっとだけ、
 胸がちくんとするんだけど」

赤毛「……」ぎゅっ

双子姉「えへへ、ありがとー」にへらっ

赤毛「これくらいしか、できなくて……」

双子姉「嬉しいけど、大丈夫」すっ

赤毛「本当に?」


629: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:33:28.29 ID:PoO4m/tco
双子姉「コレはきっと、心の成長痛ってやつなんだよ。
 おっちゃんならきっとそう言うね」にぱっ

赤毛「……そうね。たしかに彼なら、
 そんな事を言いそうな気がするわ」にこ……

双子姉「じゃ、お話を……」

赤毛「でも、今日はダメよ。もう寝る時間でしょ」

双子姉「むー、子供扱いされてるような」

赤毛「まだ成人してないんだから、子供扱いよ」

双子姉「そーゆーところ、
 さすが白髪のおっちゃんの幼なじみだよ」ぼそっ

赤毛「ほら、ぶつぶつ言ってないで、
 布団に入っておやすみなさい」

双子姉「お客様なのにー」ぶーぶー

赤毛「お客様だから、ちゃんとお世話させてもらいます」

双子姉「はーい…… おやすみなさい」にこ

赤毛「はい、お休みなさい」にこっ


630: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:33:56.24 ID:PoO4m/tco
------------------------------------------------
   夜 海賊船女子部屋

 とんとんとん

 がちゃ

男「入るぞ」

少女「……もう入ってるし」もぐもぐ

男「返事が期待できないんだ、おざなりにもなる」

少女「そういう問題じゃないし」むぐむぐ

男「文句ばかりは饒舌だな」

少女「む……嫌がらせにきたの?」

男「いや、双子妹に頼まれてな。
 お前がちゃんと食事を摂っているか、
 確認するために来た」

少女「ちゃんと、食べてるよ」

男「そのようだな。
 食が進んでいるとは言いがたいようだが、
 自分で食べているだけ、二日前よりはマシか。
 顔色も幾分か良くなったようだな。」


631: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:34:26.90 ID:PoO4m/tco
少女「だって……」ぶつぶつ

男「なんだ?」

少女「狼さん、が、…………う、うう」ぷすぷす(///

男「おい、どうした?」

少女「く、くち、く、、く……」

男「く?」

少女「いい。やっぱりいい。
 聞かない方がいい」

男「なにやら恐ろしげだな。
 とりあえず、ほどほどにしておけと言っておくか」

少女「別に、そういう事じゃ無いから、大丈夫。
 ……そういう事、言う人だっけ?」

男「何がだ?」

少女「男って、そういう時に、
 俺は知らないって無視する人だと思ってた」


632: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:34:52.77 ID:PoO4m/tco
男「そうしたいがな。
 今の船でもめ事がおきれば、命にかかわりかねん。
 白髪も双子姉もいないせいで手が足りん。
 お前もまだ働けんしな」

少女「……ごめん」

男「会話ができるようになっただけ、進歩と思うが。
 体はまだ不調だろう」

少女「体は……大丈夫、明日から働くよ」

男「双子妹は許可したのか?」

少女「許可は、ないけど」

男「なら、船長としても許可できん。
 治れば普通に船員として使える者を、
 ろくに働けない状態で使って死なれてはかなわん」

少女「……」

男「それともなんだ、遠回りな自殺か」

少女「……それも、いいかもね」

 ぎりっ

少女(そういえば、いつかもこんな音を聞いたような)


633: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:35:24.75 ID:PoO4m/tco
男「…………そうか。わかった」ぐいっ

少女「え、え……?」

 ぎしぃっ

少女(おし、たおされて、る?
 お腹の辺りに……マウントポジション、だっけ。
 体重、ほとんどかけてないみたいだけど、重い)

男「お前は、死にたいんだな」

少女(普段は同じぐらいの身長としか思ってなくて、
 もうちょっと背の高い人の方が、
 男性としてはイイカナーとか、
 ぼーっと思ってたけど、
 見上げると、ずっと大きく思えて、怖い)

男「もう一度聞く。
 お前は、死にたいんだな」

少女「……うん」

男「ならば、絶食や過労なんて求めるな」すっ

少女(ゆっくりと、男の普段からは想像できないけど、
 優しいと感じるほど丁寧にまぶたを閉じられて。)

男「お前も、ある一点では白髪と同じだ」


634: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:36:09.19 ID:PoO4m/tco
少女(船の作業でがさついた指先が、
 なんで、こんなに優しく髪の毛を梳くのかな)

男「遺された者の事を考えない、
 その傲慢さが、よく似ている」

少女(わからなくなる……
 何かを錯覚しそうなくらい優しい動作で、
 なんでか優しく聞こえる声で、そんな言葉)

男「だが、お前と白髪は決定的に違う」

少女「……」

男「お前は、領主の娘じゃなかったのか。
 数百、数千の人間の命と安全を預かる、
 その栄誉と責務も考えない」

少女(領主の娘――
 約束された、そして背負うべき未来。
 そんなもの、別に欲しく無かった)

男「お前は、お前が居なくなることで守れなくなる、
 人々と子供の笑顔の事を、考えるべきだった」

少女(白髪さんがあの賊から守った、二人の子供。
 知り合い、なのかな。
 最後まであの二人の笑顔を気にしてた)


635: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:36:46.78 ID:PoO4m/tco
男「お前は、最低だ」

少女(頭を撫でていた手がゆっくりと下がって)

 ぐうっ

少女「か――はっ」

男「お前は笑顔を守ったアイツとは違う。
 守るべき笑顔を見捨てて逝く、
 ただ『逃げ』ただけの、臆病者だ」

少女「にげ、……じゃ」

男「逃げだろうさ。死とは、究極の逃避だ。
 誰も、何も、そこまで追いかける事は無い。
 地獄には落ちるかもしれんがな」

少女「……くる、し」

男「そうだろうな。
 動脈を押さえればさほど経たずに、
 意識を落とす事もできるが。
 そうあっさりと死なせてはやれん」

少女(どんな顔して、私を殺してるの、かな。
 目をふさがれてなければ、みたのに)


636: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:37:21.14 ID:PoO4m/tco
男「この船にも、お前においていかれる連中がいる。
 いつもの事だが、今回の件では特に、
 少しでも食欲を持ってもらえるようにと、
 料理を工夫していた包帯」

少女(いつも、うん、おいしかった)

男「いつも以上に仕事をこなした上で、
 何度も繰り返し俺の部屋まで来て、
 少しでも早く良くなるようにと、
 騎士団から持ち出してきた医学書を読んだ双子妹」

少女(だから、あんなに目の下に濃いクマを)

男「お前の仕事を丸ごと引き受けた上で、
 特別な事はできないが何かしたいと、
 お前が傷で熱を持っているときに、
 こまめに汗を拭い、寝具を何度も洗っては替えて、
 一番手間をかけていたのは狼だろうな」

少女(いっぱい、いっぱい――)

男「そうした思いの上に、お前は」

 はたり

男「お前は、白髪と違って生き延びたものを」


637: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:38:02.22 ID:PoO4m/tco
 はたり

少女(ああ――)

男「だが、それでも死にたいと言うなら」

少女(どんな、顔って)

男「俺が」

少女(この人)

男「殺してやろう」

少女(泣いて)

男「殺してやりたくないほど憎いが、殺してやろう」

少女(この人でも、涙、あったかいんだ)

男「これも、業か」

少女(苦しい、空気が足りない。
 勝手にもがく体を押さえられる力強さが、
 怖くて、頼もしいような)

男「俺は、殺す事しか、してやれん」


638: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:38:34.62 ID:PoO4m/tco
少女( ああ、意識、とび、そ。
 視界、あか、い。しろ、い)

男「そろそろ、眠れ。
 俺も元は僧籍だ、祈りくらいは、くれてやる」

少女(ああ、もう……なんて、優しい声で、この男)

少女 ぐっ

男「……」

少女 ぐぐっ

男「どうした、死にたいんだろう」

少女「ど、け……」

男「……」すぅっ

少女「げ、げほっ、ぇぐっ、げほっ……」

男「……」


639: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:40:01.80 ID:PoO4m/tco
少女「ぜ、は……。
 い、いつまで、人の上にのってんのよ……」

男「……そうだな」すっ

少女「案外、重いんだ。全然、動かなかった」

男「これでも、騎士だったからな。
 連中の中では貧相で身長の無い部類だったが、
 必要に足る分はあるつもりだ」

少女「そっか……」

男「……」

少女「……」

男「……なぜだ」

少女「……」

男「なぜ、死ぬのをやめる気になった」

少女「あー……聞くの? それ」

男「言わずに済ませるつもりだったのか、貴様は」

少女「う、怒って、る、よね、うん」


640: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:40:46.18 ID:PoO4m/tco
男「当たり前だ、バカモノ」

少女(怖い、はずなのに。むしろ、かな、しそ、う?
 怒っているような口調なのに、違う?
 少しだけ、安心しているようにも見えて、
 どうなんだろ)

男「お前が目を覚ましてから二日。
 他の連中の前では言わなかったようだが、
 俺に対しては三度、死にたいと言ったな」

少女(数えてるとか、几帳面っていうか、うう)

男「また黙りか」

少女「いや、その、なんというか。
 言葉にするのが難しくて」

男「……まだ、ましな言い訳だな」

少女「あはは……。
 なんていうか、さ。
 一度は完全に、殺してくれるのかって、
 殺してもらえるなら死にたいなって思ったんだよね」

男「……」


641: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:43:50.55 ID:PoO4m/tco
少女「白髪さんが死んじゃって、
 私の心の中にね、ぎゅってする何かができたんだ。
 ぐるぐる、ぎゅうぎゅうって、
 これを、喪失感っていうのかな」

男「まあ、そうだろうな」

少女「よく、胸にぽっかり穴が開いたっていうけど。
 心臓の代わりに大砲の弾がある感じかな。
 ずんと重くて、ぎちぎちして、
 もう、どうして良いのかわかなんなくて」

男「……落ち着け」そっ

少女「……そうやって、背中に手を当てられてると。
 なんだか、安心する」

男「そうか」

少女「昔、誰かにやってもらったのかな」

男「俺が知るか」

少女「あはは、そうだよね」


642: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:44:27.97 ID:PoO4m/tco
男「それで、話の続きはどうした。
 白髪と違って聞き上手ではないが、
 話す気があるなら耳には入れてやる」

少女「あー、えー……まあ、いいや。
 でもね、その、私の事を殺そうとしながらさ、
 泣いた男の顔を見たらさ」

男「……泣いてなどいない」

少女「いや、泣いてたし」

男「気のせいだろう」

少女「いや、顔になんか滴ってきたよ」

男「……お前がバカみたいな力で抵抗するから、
 押さえようとして汗をかいたんだろう」

少女「げっ!」ずさっ

男「……嘘だ」

少女「……まあ、汗かいてないしね」

男「……」

少女 すっ


643: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:45:14.32 ID:PoO4m/tco
男「隣に戻るのか」

少女「うるさい。
 で、まあ、なんだかさ、『ああ――』って思ったんだ」

男「どういう意味だ?」

少女「いや、だから言葉にできないんだって。
 ただ、なんていうか、
 うーん、こうしなきゃって感じがしてね」そっ

 なでなで

男「……なぜ俺の頭を撫でる」

少女「そうしなきゃって感じがしたから。
 どうしてかわかんないけど、
 それが胸の奥にあった大きな塊みたいなものを、
 少しだけ小さくしてくれて」

男「それで、撫でるのか」

少女「うん」

 なでなで


644: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:45:40.45 ID:PoO4m/tco
男「……つくづく、ワケのわからん奴だ」

少女「いや、男に言われたくないし」

男「その言い方だと、俺の方が変わっているように、
 聞こえるんだが」

少女「その通りでしょ。
 ほんと、ぜんぜんわかんない。
 まったく、ちっとも」

男「……」

少女「ほとんど何にもしゃべらないし、
 船って小さな空間に一緒にいるのにさ、
 ずっと一歩離れた所にいるみたいに距離があって」

男「……」

少女「そんな男を泣かせて、私……」

 がたっ


646: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:49:11.98 ID:PoO4m/tco
男「……落ち着いたなら、さっさと寝ろ」

少女「え、ねえっ、ちょっと」

 とことこ、ぱたん

少女「……出てっちゃった」

少女(そんなに恥ずかしかったのかな、泣いたこと。
 でも、指摘されてちょっと不快そうだったけど、
 出ていくほどには見えなかったし)

少女「むしろ、怖がってた……?」

少女「……そんなまさか、だよね」


647: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:51:09.75 ID:PoO4m/tco
------------------------------------------------
   夜 海賊船 甲板

 ざざーん

男「……」

男「泣く、か」

男「意味がわからん」

男「何人も殺してきたというのに」

男「いまさら」

男「そうだ、俺はそのためにいるはずなんだ」

男「殺すために」

 ざざーん

 とことこ

包帯「お月見かい?」

男「……特に、目的は無い」

包帯「そう」


648: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:51:35.87 ID:PoO4m/tco
男「……少女は食事したぞ」

包帯「ああ、うん。
 さっき食器を下げに来たよ。
 まだ傷が治ってないのに無茶して。ふふ」

男「一回死んでしまえばいいものを」

包帯「死んでも治らないたぐいの病気じゃない?」

男「……なにげに言うな」

包帯「いやいや、それほどでも」

男「俺は誉めたのか?」

包帯「さあ、どうだろうね」

男「……ふ。お前はどうした」

包帯「何がかな?」

男「月見にでも来たのか?」

包帯「いや、船長が甲板にいるのが見えたから、
 コレでもどうかなーと。
 前から機会をうかがってたんだ」


649: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:52:04.30 ID:PoO4m/tco
男「白髪が好んでいた蒸留酒か」

包帯「なんだかんだと慌ただしくて、
 バリウガを出てからずっと休めなかったし、
 白髪さんを悼む余裕すらなかったからねー」

男「弔い酒ということなら、
 そうだな、少しもらうか」

包帯「はい」

 とくとくとく……

男「……く、相変わらず強いな」くいっ

包帯「よくこんなのを何でも無いように飲んでたよね」

男「そうだな」

 ざざーん

 ざざーん


650: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:52:35.95 ID:PoO4m/tco
包帯「大丈夫かい?」くいっ

男「何のことだ?」

包帯「白髪さんが亡くなってから、
 船長、ずっと無理してるみたいだから」

男「……無理など」

包帯「してるでしょ。
 いいんだよ、白髪さんの代わり、しなくたってさ」

男「……」

包帯「らしくないんじゃないかい?」

男「……少し。昔の話になる」

包帯「昔の話?」

男「十年ほど前に、俺は海賊に襲われたんだ
 今ではひとつのおとぎ話にさえなっている、
 黒ひげの艦隊にな」

包帯「それでよく、生きてるね」


651: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:53:20.01 ID:PoO4m/tco
男「重傷を負わされたが、
 幸い人のいる場所に漂着できてな。
 そこの貴族に救われて、良くしてもらった」

包帯「それで、めでたしめでたしとは、
 おわらないのかい?」

男「……目の前で家族を殺されて、決めたんだ。
 黒ひげを殺すために全てを捨てると。
 命も、時間も、全て」

包帯「それで、騎士団にはいったのかい?」

男「そういう事だ。
 帝国の私掠船艦隊を預かる黒ひげを相手に、
 堂々と敵対し、倒す事ができる組織は多くなかった。
 そして組織でなければ狙う事すらできなかった」

包帯「でも、黒ひげが死んだのは」

男「俺が騎士団に入って、しばらくしてからだな。
 その死の報が流れる少し前に、
 俺と白髪はひとつの契約をして、騎士団を離れた」


652: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:53:49.62 ID:PoO4m/tco
包帯「でも、黒ひげに復讐できるのは、
 騎士団くらいしかないよね」

男「確かに、純粋な戦力としては騎士団も悪くない。
 だが、性質の問題がな……」

包帯「っていうと?」

男「元は純粋な信仰から生まれた騎士団として、
 異教……という事になっている帝国と、
 理念の面で敵対していた。
 表面上では、今もそうだ。
 連中は『戦争の家の平定』。
 俺達は『預言者を僭称する無礼な相手への武力抗議』。
 理由を挙げようと思えば、いくらでもある」

包帯「含むねぇ」

男「きっかけはおそらく、西インド航路の発見だ。
 例の黄金大陸が発見されて以来、
 地中海以上の『金づる』を手に入れて、
 貴族の連中は皮算用に必死になっている」

包帯「なるほど。
 地中海は必要な輸送路ではあっても、
 そこを守る騎士団の立場が悪化する事は避けられない。
 だから弱体化した?」


653: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:55:08.56 ID:PoO4m/tco
男「さらにルターの影響もある。宗教改革だな」

包帯「騎士団が拠点にしているマータ島が、
 神聖リオーマの封領ってことと関係している?
 たしか、一番激しくやりあってるよね?」

男「確かにその影響もあるだろう。
 騎士団は八つの軍団で構成されていて、
 そのウチひとつは神聖リオーマの人間によって、
 構成されているんだが……」

包帯「もしかして内部分裂とか?」

男「そこまでではない。
 だが、家族が改宗してややこしくなった連中は、
 少なくなかったな」

包帯「難しいものだねぇ」

男「騎士団にとっては、それ以上に難しい状況だ。
 各国の庇護が薄れた影響から実質的な戦力が低下し、
 寄付金が減って慢性的な金欠になっていた。
 そこから腐敗が広がったな」

包帯「だから、いまの騎士は海賊同然なんだね」


654: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:55:36.37 ID:PoO4m/tco
男「騎士は強い相手に挑む。
 海賊は弱い相手を襲う。
 黒ひげなんて化け物退治を行う力は、
 当時の騎士団には既になかったんだ。
 襲ってくるなら話は別だが、
 黒ひげは実に狡猾だからな、その期待は持てなかった」

包帯「だから騎士団を離れた、と。
 船倉の『彼』と出会ったから出奔したって聞いたけど」

男「その影響もある。
 さっき話した『契約』だが、
 白髪は、俺の復讐を手伝う。
 その代わりに、復讐を遂げた後には、
 白髪や、アイツの居場所を作るのを手伝うというのが、
 俺達の交わした契約だった」

包帯「居場所、ね」

男「幸せそうに故郷を語っていたアイツにとって、
 その居場所を追われた経験は、
 拭いがたいものだったんだろうな。
 その結果としてこの船の母体ができたわけだが、
 しばらくして黒ひげの処刑が行われた」

包帯「うわ……」


655: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:56:05.29 ID:PoO4m/tco
男「結局、復讐は永遠に果たされなくなった」

包帯「……」

男「だが、討つ相手が居なくなったなら手間が省けたと、
 白髪は容赦なく契約の遂行を求めてきたんだ。
 この船と船員を『居場所』に届けろと」

包帯「……白髪さんらしいね」

男「ふん、はた迷惑な男だ。
 人にはそんな要求をしながら自分は、故郷で……」

包帯「よかったと思うよ」

男「なにがだ?」

包帯「誰にとっても、これが」

男「そう思うのか」

包帯「うん。いろいろと、ね。
 ただ、無理はしなくていいと思うんだ。
 白髪さんのお願いを聞きたいって気持ちは分かるけど、
 このままじゃ、船長がもたないと思うよ?」

 ざざーん


656: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:56:43.63 ID:PoO4m/tco
男「……いや、大丈夫だ」うと、

包帯「でも」

男「あいつの、守りたいと願ったものだ。
 俺も、この船は、嫌いではない」うとうと

包帯「船長……」

男「我の強い連中が集まった、
 どうしようもない、ちぐはぐな船だ、が、
 あいつが、最後まで、大切にしていたものだ。
 それを守るのは、悪い気分、では、ない」

包帯「うん」

男「……」

包帯「ん? ……おーい」

男 すー、すー

包帯「うわ、酔っ払いさんめ。何が大丈夫なんだか」

 ざざーん

包帯「……」


657: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 00:59:49.92 ID:PoO4m/tco

 ざざーん

包帯「居場所を守る、か。
 確かに、守ってくれるのは嬉しいけど。
 今の船長の考えとかって、
 たぶん白髪さんの言いたかった事は違うと
 思うんだよねー」

包帯 くいっ

包帯「ま、何か言ってどうなるものでもないけどさ」

包帯 ふぅ

包帯「それにしても強いなー、白髪さんって、
 よくこんなキツいお酒が飲めるもんだよ……」

 ざざーん

包帯「とりあえず、ココにいたら風邪ひかせちゃうし、
 連れてくしかないよね……
 面倒だなぁ。
 愚痴らせるために飲ませたとはいえ、
 まさかちょっと舐めた程度で沈むなんて思わないし」


658: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 01:00:16.15 ID:PoO4m/tco
包帯「よっこい、せ」

包帯「わ、ととと……」ぐらっ

 すっ

狼「……無理でしょ、あんた」そっ

包帯「おおっと、びっくりしたなぁ、もう」

狼「白々しいんじゃないの?
 さっき、見張りを交代したばっかりで」

包帯「いやまあ、聞いているのは知ってたけどね。
 マストを下りてまで、来るとは思わなくて」

狼「……酔っ払いに酔っ払いを任せると、
 大変な事になるでしょ」

包帯「ふふ、そうかもね」

狼「そこでなんで、アタシを見るのよ」

包帯「特にそんなつもりはないけど? ふふ」


659: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 01:02:27.86 ID:PoO4m/tco
狼「……あんたのそういうとこ、嫌い」

包帯「僕は好きだよ、狼くんのそういう所」

狼「そういう所はもっと嫌い」

包帯「ごめんね?」

狼「……そういう所も嫌い」

包帯「そうとう嫌われてるみたいだね」

狼「……知らない。男はアタシが部屋に背負っていく。
 包帯は自分で戻れるでしょ」

包帯「うん、お気遣いありがと」

狼「……おやすみ。お疲れ」

包帯「うん、おやすみ」にへらっ

 とことこ

包帯「……うん。
 あの狼くんが可愛くみえるなんて、
 僕もそうとう酔ってるかな?
 やれやれ……」


660: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 01:03:31.79 ID:PoO4m/tco
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  未明 マータ騎士団ディオイツ分隊三番艦

 こんこんこん

青年「入れ」

 がちゃ

眼帯「失礼します。
 まもなくビリンディジ港へと到着しますよ」

青年「そうか。連絡ご苦労」

眼帯「寄港後、本艦は三日間の準待機を行い、
 物資の積み込み後、マータ島へ帰還。
 そのような予定でよろしいですね?」

青年「それでいい。四日目の朝に出港だ。
 それまで船を頼む」

眼帯「それまでお出かけ、との事ですが」

青年「問題があるか?」

眼帯「いえ、必要な息抜きと考えますよ。
 アイゼンリッター(鋼鉄の騎士)どの」

青年「……からかうな」


661: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 01:05:16.79 ID:PoO4m/tco
眼帯「その意思はまさに鋼の如く。
 立ちふさがる敵はただその刃を待つばかり。
 ドイツ分隊が誇る鉄壁の騎士。

 なんて、見習達が謳ってたんですが、
 いや、いい詩じゃないですか」

青年「……」じろっ

眼帯「あ、その、すみません」

青年「ふぅ、見習いの戯言にお前が踊らされてどうする」

眼帯「あはは、まあ、母がカスティーリャの出身なんで、
 まあラテンの血と思って諦めてください」

青年「何でも血のせいにするな」

眼帯「何でも神のせいにする帝国の連中よりは、
 マシじゃありませんかね?」

青年「程度問題にするな。
 我がディオイツ分隊にそんな軟弱な人間はいらん。
 それとも、今からカスティーリャ分隊に移籍するか?」

眼帯「いえ、気を引き締めます、副分団長」くいっ

青年「……」


662: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 01:09:58.61 ID:PoO4m/tco
眼帯「ごほん。
 しかし、どこに向かわれるんですか?
 いつもは準待機の間もずっと詰めて、
 『働いている船員が居るならば休むワケにはいかん』
 なんて言ってらっしゃるのに」

青年「これも一つの任務だ」

眼帯「……こないだの海賊船に関係あります?」

青年「余計な詮索は無用だ」

眼帯「はあ、すみません。
 なにぶん副船長なんて重責は初めてなんで、
 どうにもこうにも不安が……
 なので、緊急の連絡先くらいは知りたいもんでして」

青年「そうか、そういう事情ならば仕方無い。
 南南東にて、俺はその海賊と会うことになっている」

眼帯「ふむ、珍しいですね。
 普段は海賊なんて、捕まえるか殺すかなのに」

青年「俺を暴力主義者のように言ってくれるな。
 投降に応じない相手が多すぎるだけだ」



663: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 01:11:34.16 ID:PoO4m/tco
眼帯「失礼しました。
 しかし、それなら相手は海賊でしょう。
 良ければ自分もお供しますよ、
 海賊というのは、相手にするとつけあがり、
 だまし討ちや手練手管はあたりまえです」

青年「問題ない。
 今は海賊などに身を落としているが、
 元は俺の知り合いの、騎士だった方だ」

眼帯「騎士団から逃げて、海賊に?」

青年「逃げたというよりも、
 追い立てられた、だろうな」

眼帯「何かしたんですか?」

青年「……いや、ここから先は個人の事情だ。
 明かす必要がある情報としては、
 彼らは恥じるべき行いをしたワケではないという、
 その事実だけで十分だろう」

眼帯「よくわかりませんが、
 危険な相手じゃないと」

青年「もちろんだ」


664: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 01:12:12.99 ID:PoO4m/tco
眼帯「しかし、それならこの情報は伏せときましょう。
 船長が海賊と会っていたなんて事が知れちゃ、
 隊の連中はいぶかしがります」

青年「その通りだ。他言無用に頼む」

眼帯「はい、了解です」

青年「他に問題はあるか」

眼帯「はい、いいえ。ありません」

青年「では、これよりこの艦の全権を委任する。
 問題が発生した場合、お前の判断で事にあたれ」

眼帯「はい。では失礼します」

青年「うむ」

 ぱたん

 とことこ

眼帯「ふぅ、緊張した」

騎士A「よぉ、眼帯」

騎士B「おつかれさまっす。
 船長の機嫌はどうだったっすか?」


665: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 01:21:43.78 ID:PoO4m/tco
眼帯「どうもこうも、
 相変わらずの鉄壁で鉄面皮ですよ。
 にこりともしないので、背中の冷や汗がとまらない。
 さすがアイゼン様」

騎士A「あの人も、もう少し人間的によ、
 こう『できて』いりゃ、
 今頃は分団長だって夢じゃねぇのになぁ」

騎士B「分団長っ!?
 いやぁ、あの人俺達とそう変わらない年齢でしょ。
 そりゃぁねぇっすよー」

眼帯「功績としては十分ですよ。
 あの銀目も、黒砡王も捕まえて」

騎士A「あれ、たしか銀目は分団長じゃなかったか?」

眼帯「いちおう、名目は」

騎士B「まあ、自分がやったって、
 睨まれてちゃいえねぇっすよね」

眼帯「海賊にしても、海軍にしても、
 基本的に、船に実際にのるのは三年程度。
 船がそれだけ長生きしにくい場所ですからね」

666: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 01:28:57.01 ID:PoO4m/tco
船員A「それが、今年で船に乗って四年目。
 船長に抜擢されて三年か」

船員B[しかもその激務の間に訓練サボらず、
 今年で騎士団剣術大会の連続優勝まで……」

眼帯「これで、もうちょっと聞き分けが良ければ」

船員A「団長会議のたびに、
 あの人一人で毎度のように大騒ぎってのは、
 もう、なにか、一つの名物だよな」

船員B「もったいないお人っすよ」

眼帯「……ま、でも、」

船員A「なんだ、なにかあったのか?」

眼帯「あ、いや、なんでもないですよ、なんでも」

船員A「ホントか? ウソだろー?
 ほれ、なんなんだよ」つんつん

眼帯「あはは、やめてくださいよー」

船員B「いや、途中まで言われたら気になりますって」


667: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) 2011/07/22(金) 01:30:16.17 ID:PoO4m/tco
眼帯「いやー、しかし、
 口止めされてますからね」

船員A「あやしいなぁ、ほれ、いわねぇと今夜の飯、
 気がつけばなくなってるぜー?」

眼帯「がっ、今日の給仕だからって!
 職権乱用はないですよ!」

船員A「だったら言ってラクになっちまえ。
 大丈夫だ、ディオイツ分隊は口と結束の固さがウリだ」

眼帯「なんだかなぁ。
 コレがしられたらラッキーじゃないんで、
 絶対に、秘密ですよ?」

船員B「大丈夫っすよー」にへらー

眼帯「実はですね、次の港でどうやら、
 船長が海賊と……」 ぼそぼそ


次回 少女「奴隷はもうやだよ……」 その3