2: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:38:16 ID:PZZ
まっほー♪菜森まなだよ!


まなはいつも元気いっぱいの高等部二年生!


五稜館学園での日々は施設にいた時とは違ってまなとっても幸せ!


お友達もいっぱい出来たし、毎日が凄く楽しいんだよ!


そして何より大好きな伊緒ちんと一緒に居られる時間が増えたのが嬉しいな!


伊緒ちんの太もも…二の腕…はぁはぁ…!


でも今みたいに下校時間になったらお家に帰らなきゃいけないのが憂鬱なんだよ…


はぁ…もっと伊緒ちんと一緒に居たいのになぁ…


…くんくん


…あれっ?向こうの路地から伊緒ちんの匂いがするんだよ!


行ってみるんだよ!

引用元: まな「伊緒ちんガチャ」[スクストSS] 



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3: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:39:22 ID:PZZ
くんくん…くんくん…


路地の奥に進めば進むほど、どんどん匂いが濃くなっていくんだよ


伊緒ちんはこんな路地でいったい何をしてるんだろう…?


人も居ないし薄暗いし少し怖いな…


でもでも!この先に伊緒ちんが居るなら、まなへっちゃらだよ!


くんくん…くんくん…!


…あっ!もうすぐ近くだね!


きっとあの曲がり角の先に伊緒ちんが居るんだよ!


「伊緒ちーん!見ーつけた!」


「…あれっ?伊緒ちん居ない…の?」


むむむ…まなの伊緒ちんセンサーに狂いは無いはずなのに…


どこかに隠れてるのかなぁ…?


ええっと…周りに伊緒ちんが隠れられそうな場所は…

4: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:40:23 ID:PZZ
…って言っても、ここは建物と建物の隙間で何も無いんだよ


あるのは壁際に自動販売機が一台あるだけで…


…あれっ?こんな人も通らなそうな場所に自動販売機…?


変なの


「こんな所で誰がどんな飲み物を買うのかなぁ…?」


ちょっと気になったから自動販売機を見てみるんだよ


ええっと、売ってるのは…


「…夜木沼伊緒ガチャ?」


…ん?


…えっ?


…えぇぇぇっ!?


伊緒ちんガチャって何!?


「こ、これはイケナイものかも知れないから1回買って確かめないとだね!」


値段は…1回レアダイヤ1個!?


安い!安すぎるんだよ!


安すぎて怪しすぎるんだよ!

5: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:41:40 ID:PZZ
しかも良く見るといっぱいあるボタンに全部"夜木沼伊緒ガチャ"って書いてあるんだよ!


伊緒ちんがそんな安売りされてるなんて怪しさが限界突破なんだよ!


というか値段がレアダイヤってこれ絶対あからちんの新しい商売か何かだよね!?


「…でもやっぱり気になるから買ってみるんだよ!」


ダイヤを投入口に1個入れて…


どのボタンを押そうかな…?


「えーと、コレにしよう!」


とりあえず目の前にあるボタンを押すと、下の取り出し口からコトンと何かが落ちてきたんだよ


「よいしょ…」


落ちてきたものは普通の缶ジュースぐらいの大きさで…黒いプラスチックの容器…なのかな?


「…ん、蓋が外せるようになってるんだよ」

6: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:45:14 ID:PZZ
でも凄い軽いし中に何か入ってるようには思えないけど…


ええっと容器の中身は…


「これは…伊緒ちんの写真…!?」


まさか本当に伊緒ちんのものが入ってるなんて…!


しかもこの写真…!


「盗撮とかじゃなくてちゃんと正面からカメラ目線で撮られてる…!?」


それに服装も私服だから完全にプライベートな写真なんだよ!


まなだってこんな写真は滅多に撮れないのに、あからちんがどうやって…!?


ううん!そんな事より、こんな良い写真が格安で売ってるなんてこれは買い占めるしかないんだよ!


「と、とりあえずもう1回…!」


と思ってお財布を探ってみたけどもうレアダイヤが無いんだよ…

7: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:46:29 ID:PZZ
仕方ないから一旦、家に帰ろう…


明日はエテルノでいっぱいレアダイヤを集めなきゃ!


それまでに売り切れないといいけど…


とりあえずこの自動販売機ちんの事は内緒にして少しでも他の人に買われないようにしないと


勿論、伊緒ちんには絶対に内緒なんだよ!


伊緒ちんにバレたらこの写真も没収されちゃうだろうし、自動販売機ちんも無くなっちゃうかもだからね!


じゃあ名残惜しいけど…自動販売機ちん、また明日ね!

8: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:48:18 ID:PZZ
次の日、まなはエテルノで任務をしてレアダイヤを5個も貰えたんだよ!


これでガチャが5回分出来るんだよ!


だからご機嫌で自動販売機ちんに向かおうとしたら…


「まな、今日はいつもより機嫌が良いけど何か良い事でも合ったの?」


って伊緒ちんに声を掛けられたの


「うん!実は…」


まな、うっかり本当の事を言いそうになっちゃったんだ


だから咄嗟に…


「…ううん、何でもないよ?まなはいつも元気だから!」


って嘘を吐いちゃった


「そ、そう?でもさっき"実は"って…」


そう言って伊緒ちんは少し不思議そうな顔をしたから…


「じゃあまた明日ね!」


まなはそう言って強引に帰っちゃった


ゴメンね伊緒ちん…

9: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:49:25 ID:PZZ
伊緒ちんに嘘を吐いたのは心が痛むけど、これも伊緒ちんガチャの為…


そう思いながら昨日通った路地を進むと、自動販売機ちんの所にたどり着いたんだよ


「よかった…」


まだどのボタンも売り切れにはなってないみたいでホッとしたんだよ


じゃあ早速…


「今度は…端っこのボタンにしてみようかな」


自動販売機ちんにダイヤを入れてボタンを押す


すると、ゴトリと昨日とは明らかに重そうな物が落ちる音がしたんだよ


もしかして良い物が当たったのかな!?


まなはワクワクしながら取り出し口に手を入れるとそこには、そこにはペットボトルぐらいの大きさの黒い容器が入っていて…


「お、おお…!なかなかの重量感なんだよ…!」

10: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:50:20 ID:PZZ
重さも…ペットボトルのジュースぐらいかな?


何が入ってるんだろう…?


気になる中身は…


「…ペットボトルの…スポーツドリンク?」


ペットボトルっぽいと思ったら本当にペットボトルだったんだよ


しかもまなが好きじゃない甘くないやつだし…


「なぁんだ…ハズレかぁ…」


とりあえず捨てるのも勿体ないし、ちょうど喉も渇いていたし飲もうかな


そう思ってキャップを開けたら…


「…!」


ペットボトルの中から伊緒ちんの匂いが…!


「もしかしてコレ…伊緒ちんの飲み欠けペットボトル…!?」


ハズレどころか大当たりなんだよ!

11: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:51:22 ID:PZZ
いいい、伊緒ちんと間接キスしてもいいのかな!?いいんだよね!?


おまわりさんに捕まったりしないよね!?大丈夫だよね!?


でもダメ!我慢なんて出来ない…!


「…んっ!」


まなは唇と手を震わせながらペットボトルの飲み口に口を付ける


「はぁはぁ…はぁはぁ…!」


じゅるり


あぁ…!今まなは伊緒ちんと間接キスをしてるんだ…!


こんな幸せがレアダイヤ1個で味わえるなんて…!

12: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:52:48 ID:PZZ
次の日、まなは今度はレアダイヤを10個も貰えたんだ!


隊長さんはメロンパンとかと交換したかったみたいだけど、メロンパンなんかと交換するより伊緒ちんガチャに使う方がよっぽど良いんだよ


そういえば昨日はペットボトルの後には写真しか出なかったし、今日はもっと良い物が当たるといいな!


「じゃあまなは先に帰るね!」


「あっれぇ?今日はまなちゃん反省会していかないの?」


悠水ちんの美味しいお菓子が食べられる反省会は魅力的だけど、それよりも伊緒ちんガチャの方が大事なんだよ


…とは言えないから


「うん、今日は疲れたから早く帰って休もうかなって…」


と、また嘘を吐いて自販機ちんの所に行ったんだよ

13: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:53:47 ID:PZZ
アルタイル・トルテのみんながまなの体調を心配してくれたのに少し心が痛んだけど…


これも伊緒ちんガチャの為だから仕方ないよね


なんて事を考えているうちに、まなは自販機ちんの前に立っていたんだよ


「今日はいいのが当たりますように…!」


隊長さんがメモカを引く時のように自販機ちんに祈ってボタンを押す


でもURやEXRメモカが出にくいように…


「また写真…」


気付けば10個も有ったレアダイヤは10枚の写真になってたんだよ


どの写真も良い笑顔の伊緒ちんが写っていたけれど、飲み欠けのペットボトルと比べたらハズレ以外の何物でもないよね


明日はもっといっぱいレアダイヤを集めなきゃ

14: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:54:33 ID:PZZ
次の日もまなはレアダイヤを10個貰えた


本当はもっと欲しいけど、エテルノの任務で貰えるのは1日に10個でも多い方なんだって


任務は早く終わらせるように頑張ってるんだから、もっと貰えてもいいのに


何とかもっと貰える方法は無いのかな…?


そう考えてたら椿芽ちんが


「…まなちゃん、何か悩みでもあるのかな?」


って聞いてきたから


「悩みなんて無いよ?」


と答えた


心配してくれた椿芽ちんには悪いけど、これはまなの問題だから

15: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:55:15 ID:PZZ
帰宅前に自販機ちんに寄る


まだ売り切れになったボタンが無くて安心したんだよ


でも問題はここから


売り切れてなくっても、まなが良い物を当てられなければ何の意味も無いもんね


「今日こそは…!」


昨日押したボタンとは違うボタンを押してみる


コトン、コトン、コトン、コトン…


「また写真ばっかりなんだよ…」

16: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:56:21 ID:PZZ
もしかしたらペットボトルが1個入ってただけで、残りは全部写真なんじゃ…?


思わずそんな考えが浮かんでくるんだよ


そんな時…


「…!」


ゴトリ、と重量感のある音が聞こえたから素早く取り出し口に手を伸ばす


「やったぁ!」


久しぶりに感じる重量感と大きさにテンションが上がるんだよ!


中身はなんだろうな!?


「…こ、これは!」


容器の蓋を開けるとそこには…!


「…これ!伊緒ちんの強化選手ユニフォームなんだよ!」


しかもこの匂い、伊緒ちんの使用済みなんだよ!


やったね!

17: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:57:36 ID:PZZ
次の日、まなはレアダイヤを集める良い方法を思い付いたんだよ!


他の人から分けて貰えばいいんだよ!


何でこんな簡単な方法が思いつかなかったんだろう?


とりあえず今日は真乃ちんからレアダイヤを分けて貰ったんだよ


「まなさんも…やっぱりあの新作ゲームを転送するんですか?」


って真乃ちんは思ったみたいだけど、ゲームよりもっと良い事に使うんだよ!


というわけで、今日は任務の分と合わせてレアダイヤがなんと20個も集まったんだよ!


帰宅時間になるのが楽しみなんだよ!

18: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:58:57 ID:PZZ
任務が終わったらすぐに帰る準備をする


一刻も早く自販機ちんの所に行きたいからね!


「じゃあバイバーイ!」


そう言って帰ろうとしたら…


「あー…まなさん、良かったらカレーパンどうぞです」


まなの鞄にサトちんがカレーパンをねじ込んできたんだよ


「あ、うん…ありがとうなんだよ」


あまり嬉しくはないけれど、とりあえずお礼を言って外に出る


サトちんから食べ物を貰うなんて珍しい事もあるんだね


それはそうと自販機ちんの所に急がなきゃ!

19: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/03(水)21:59:50 ID:PZZ
「…上手くいった?」


「ええ、恐らく気付いていないかと」


最近、まなの様子がおかしい


昔から普通の人と比べて(特にあたしに対しては異常に)おかしいところはあったけれども、最近はそれ以上に様子がおかしい


もしかしたら何かあたし達にも言えないような悩みがあるのかもしれない


そう思ったあたしはサトカに頼んでまなの鞄にGPS発信器を仕込んでもらった


「ほほぅ、なかなか歩くスピードが速いですね」


「どこかに急いでる…のかな?」


まながどこに向かうのかも気になるけど、それは後で記録を見ればいいし、今するべき事は…


「…よし、ここからは十分離れたし、チームハウスのまなの部屋を見に行ってみようか」

20: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/04(木)20:36:11 ID:Dpd
「ガサ入れってやつだね!」


悠水が茶化すように言う


「悠水…ちょっと空気読もうか?」


「ご、ごめんね…?」


流石に不謹慎だよ?と椿芽に怒られて悠水はシュンとしていた


あたしとしてはこういう時に悠水のような明るい人がいてくれると助かるんだけどね


少し重たい雰囲気が漂う中、あたし達はまなの部屋の前に向かう

21: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/04(木)20:36:32 ID:Dpd
「…やっぱり鍵ぐらい掛かってるよね」


まなの事だし、もしかしたら…と思ったけど、こういう所は意外としっかりしていたみたい


「では開けますね」


サトカがどこからか取り出したピンセットのような器具でまなの鍵穴を弄り始める


それから数十秒後


「…開いたですよ」


カチャリという音と共に鍵が開いたようだ


「サトカ…どうしてこんな技術を…?」


「探偵の助手として必要なスキルですので」


「…勝手に私の部屋を開けたら怒るからね?」


いったい椿芽の部屋には何があるのだろう?


とはいえ、あたしも部屋には見られて困る物は置かないようにしないとだね


「じゃあ…入るよ?」

22: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/04(木)20:37:11 ID:Dpd
「お邪魔しまーす…」


部屋に誰も居ない事は分かっていても、ついそう言ってしまった


勝手に部屋に上がりこんだ罪悪感からかな…?


「さて…」


部屋に足を踏み入れ、辺りを見回す


「うーん…特に変わった感じはしないように見えるけど…」


椿芽の言う通り、一見すると普通の部屋に見える


もしかしたら映画やドラマのストーカーみたいにあたしの写真が壁一面に…なんて事も覚悟していたから拍子抜けだ


「でもどこかに手がかりがあるかもですよ」


「…そうだね、少し詳しく調べてみようか」

23: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/04(木)20:38:02 ID:Dpd
「まずは机かな」


まならしい可愛い小物がたくさん置かれた机


ノートを広げるスペースが無いみたいだけど、ちゃんと勉強してるのかな…?


「まなちゃん、机の上に伊緒ちゃんの写真を飾ってるとか恋する乙女だねぇ」


「あはは…」


机の上にある写真立ての中であたしが笑っているのを見て苦笑いが浮かぶ


「でもこの写真、凄く良い写真だしまなちゃんが飾りたくなる気持ちも分かるなぁ」


椿芽の言うように、確かに良い写真だ


被写体が言うと自画自賛するようで可笑しいけどね


でも…何か違和感を感じる


「あと机の上にあるのは筆記用具に教科書と…これは写真アルバムですかね」

24: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/04(木)20:39:08 ID:Dpd
「アルバム…それは甘酸っぱい思い出が濃縮還元された青春100%の結晶…!」


「だからふざけないの」


「というよりそれだと青春以外に何か混じっちゃってるよね」


「ふふっ…」


こんな時でも笑ってしまうあたしって…


社会人になる前に、もうちょっと笑いのツボを何とかしないと


「ふむ…これは中々ですね…」


いつの間にかアルバムを手に開いたサトカが言う


つられて、あたしも椿芽と悠水と共にアルバムを覗きこむ


「へぇ、写真立ての写真もそうだけど、まなちゃん写真の才能があるんじゃないかな?」


「多分伊緒ちゃんの写真限定の才能だろうけどねぇ」


案の定、アルバムの中にあったのはどれもあたしの写真だった

25: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/05(金)22:31:31 ID:OFV
笑顔のあたし


キメ顔のあたし


寝ぼけ顔のあたし


…あれっ?


またしても感じる違和感


「…ちょっと詳しく見させてもらっていいかな?」


「どぞです」


サトカからアルバムを受け取り、写真1枚1枚にじっくりと目を通す


…やっぱりだ


あたしは違和感の正体に気付いた


気付いてしまった


「この写真…どれも撮られた覚えが無い…」

26: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/05(金)22:32:08 ID:OFV
「…え?」


3人の目が丸くなる


「で、でもまなちゃんは伊緒ちゃんの写真をいっぱい撮ってるし、覚えてないだけなんじゃ…」


「だとしても、アルバムの写真の思い出を1枚分も覚えてないなんて、おかしいと思わない?」


「それは…」


「でもこの写真に写ってるのは伊緒だよね…?」


写っているのは確かに"あたし"だ


でもその"あたし"は"あたし"であって"あたし"ではない

27: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/05(金)22:34:40 ID:OFV
「となると、まなさんが作った合成写真とかですかね」


「それはなくはないけど…」


まながこんな精巧な合成写真を作れるとは思えない


そもそも近くにあたしが居るのに、ここまでの合成写真を作る必要性が感じられない


「もしくは、まなさんが誰に作ってもらった可能性もあります」


「或いはまなさんではない人物によって撮られた写真か…ですね」


「一応、別のチャンネルの伊緒さんを撮ったものという可能性もありますが…」


「任務以外で別のチャンネルに行けばパトリの反応で分かるはずですよ」


どの可能性もイマイチしっくりこない


…けど、完全に否定は出来ない


とりあえず写真の事は後で考えるとして…


「この写真だけじゃ何とも言えないし、もう少し他の所も探してみよう」

28: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/05(金)22:35:50 ID:OFV
そうして部屋の捜索を再開するあたし達


広くない部屋とはいえ、それなりに物が多いので手分けして調べる事になった


あたしが部屋奥の棚を調べていると…


「やっぱり何かを隠すならベッドの下かな…」


ベッドの方から悠水がボソッと言うのが聞こえた


それは男子が○○○な本を隠す所じゃ…?


「…おっ、何か箱があったよ!」


ベッドの下、金属の枠と床の間に潜りこんでいた悠水が声をあげる


えっ?本当にベッドの下に何か隠してあったの?

29: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/05(金)22:36:39 ID:OFV
「よっと…」


ジタバタとベッドの下から這い出てきた悠水の手には木の箱が掴まれていた


装飾も何も無い木製の箱


箱の大きさは…おばあちゃんの家にあるような救急箱ぐらいかな?


「これにも鍵が付いてますね」


ベッドの下に隠すように置かれていた箱に鍵か…


嫌な予感しかしない


「…開けるですか?」


サトカがあたしを見て言う


この箱の中身を見たら後戻りは出来ないというのをサトカも感じているようだ


「…うん、お願い」

30: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/06(土)22:33:39 ID:HAi
カチャカチャ…


サトカが鍵を弄る


そしてドアを開けた時より少し長い時間の後にカチャリと解錠した音がした


「伊緒さん、どぞです」


サトカが箱をあたしに差し出す


「…うん、まずは伊緒が見るべきだもんね」


「わたし達に見せたくなかったら見せなくてもいいからね?」


あたしとまなの事を思っての心遣いは嬉しいけれど…


「いや…まなの事はみんなで何とかしてあげたいから、みんなも見てくれるとありがたいな」


「伊緒がそう言うなら…」


「ありがとう、みんな」


そう言って箱の蓋に手を掛ける


「開けるね…?」

31: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/06(土)22:34:31 ID:HAi
ゴクリと唾を飲む


何が入っていたとしても受け入れてあげなくちゃ…


「これは…?」


「空のペットボトルと…畳まれた布かな?」


空のペットボトル?


なぜそんな物を鍵付きの箱に?


そんな疑問の中、布を手に取り広げると…


「…!」


これは…!?


「ねぇ伊緒ちゃん、それって…」


悠水も気付いたようだ


「あたしのユニフォーム…」

32: ◆ajqgdR8aUE 2018/10/06(土)22:35:13 ID:HAi
「信じたくはありませんが…窃盗は見逃せませんね」


おかしい


確かにまなはあたしに執着しているけど
、あたしの物を盗むような子じゃなかったはずだ


そのはず…だよね?


「様子がおかしかったのも思春期特有のやつ…って事なのかな?」


「まぁ伊緒は魅力的だから理解出来なくは無いけど…」


「本当にそう…なのかな」


様子がおかしかった理由によっては黙認する事も考えていた


けど写真やユニフォームを見て考えが変わった


まなは何かを隠している


これは明日、まなを問い詰めないと

33: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/06(土)22:36:15 ID:HAi
次の日は雨だったんだよ


天気予報ではもう少しすると止むって言ってたけれど、一刻も早く自販機ちんの所へ向かいたい


だから傘を持って外に出ようとしたら…


「…まな、ちょっといいかな?」


伊緒ちんに呼び止められたんだよ


「ごめんね伊緒ちん、ちょっと用事が…」


「大事な話があるの」


まなの言葉を遮るように伊緒ちんが言う


大事な話?


なんだろう?


「まな、最近様子がおかしいよね?」


「何かあったの?」

34: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/06(土)22:37:29 ID:HAi
「おかしいって…別にそんな事ないよ…?」


「…昨日、まなの部屋を見させてもらったんだ」


「…!」


「ねぇ教えて?まなの部屋にあるあたしの写真とユニフォームは何なの?」


伊緒ちんがまなを問い詰める


答えたくない


答えれば伊緒ちんはまなの事を嫌いになっちゃうだろうから


だから外に逃げようとドアの方を見たら、ドアを塞ぐように椿芽ちんと悠水ちんが立っていた


「教えてくれるまで外には出さないよ」


伊緒ちんの顔は本気だ


こうなったら全て話すしかないのかな…

35: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/07(日)22:58:27 ID:7X3
言い逃れ出来ないと悟ったのか、まなは全てを話してくれた


自販機の事も、そこから出てきた物についても全てだ


「レアダイヤを入れると伊緒の物が出てくる自販機か…」


椿芽と悠水は半信半疑みたいだったけど、あたしはまなの言う事は本当の事だと思った


だから


「…分かった、雨が止んだらその自販機の所まで案内してくれるかな?」


その自販機は撤去しないと


その為には直接見に行かなきゃ

36: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/07(日)22:59:29 ID:7X3
伊緒ちんに全てを話してから何十分か後(まなとしては永遠にも感じた時間)に雨が止んだ


まなはみんなを先導して自販機ちんのところへ連れて行く


そういえば今日は伊緒ちんがすぐ近くにいるから、匂いを辿ってだと自販機ちんまでたどり着けないんだよ


道を間違えないようにしないと…


「こんな路地の奥に自販機…?本当にあるん…だよね?」


まなもそう思う


でもこの曲がり角の先に自販機ちんが…

37: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/07(日)23:00:16 ID:7X3
「…あれっ?」


「ここ…なんだよね?」


「でも何も無いよ?」


いつもの路地の奥


だけど自販機ちんだけが無い


「まさか…まなちゃん自販機を撤去されたら困るから嘘の場所を…」


「ち、違うよ!昨日までは本当にここにあったんだよ!信じてよ!」


「…どうやら、それは本当のようですね」


サトちんが地面を見て言う


「見てください、ここだけ地面が濡れてないです」

38: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/07(日)23:01:01 ID:7X3
サトちんの前の地面、自販機ぐらいの大きさだけが湿ってなかったんだよ


そしてそこは、ちょうど自販機ちんが置いてあった場所だ


「じゃあついさっきまでは自販機があったって事?」


「恐らくは」


「私達が来る直前に誰かが撤去したのかな…?」


伊緒ちんにはファンが多いし、ファンの中にはこういうのはいけないからって通報しちゃったりする人が居てもおかしくないけど…


こんなにタイミング良く撤去されるかな…?


「ま、まぁこれで一件落着って事だね!ね!」

39: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/07(日)23:01:56 ID:7X3
確かに自販機がこの場に無いなら、これ以上まなを追及してもしょうがない


自販機があったのは本当みたいだし


でも…これで一件落着でいいのかな?


結局、自販機の正体も分からず仕舞いだし…


「…とりあえず今日は帰ろっか?」


また明日、ゆっくり話し合おう?と椿芽が言う


「そですね」


「うん…」


ひとまずあたし達はそれぞれの家路につくことにした

41: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/10(水)21:27:36 ID:qTZ
次の日、まなは元気が無さそうだった


ここ数日間とはいえ、熱中していたものがいきなり無くなってしまったのだから無理もない


でも止めなければ悪い事になっていただろうし、これもまなの為だ


早くいつものまなに戻るといいな

42: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/10(水)21:28:17 ID:qTZ
「はぁ…」


帰り道、思わずため息が出る


あの快感を味わってしまったら普通の生活には中々戻れないんだよ…


でもみんなにバレてホッとしたような気もする


ただもう1回ぐらいは引きたかったなぁ…


なんて事を考えていたら、ついあの路地に入ってしまっていた


もう自販機ちんは無いのにね

43: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/10(水)21:29:00 ID:qTZ
まなの事が心配で後をつけてきたら、あの路地に入っていってしまった


本来はすぐにでも駆けつけて止めるべきだろうけど…


もうあの路地に自販機は無いんだ、というのを改めて自覚する良い機会だよね


幸い、先に帰ったサトカから自販機が戻ってきてない事は確認済みだし、離れた場所から見守る事にしよう


GPS発信器で長時間立ち止まっているのが分かったら駆けつけるつもりだけどね


万が一、サトカが確認した後に自販機が戻ってきている可能性もあるし…

44: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/10(水)21:30:31 ID:qTZ
まなは路地の奥へ進む


この先に自販機ちんが無いのは分かりきってるのにね


ここを通るのは最近の日課だったし、身体が覚えちゃったのかな?


もう引き返すより先に進んじゃった方が帰り道には近いし、このまま奥へ行くんだよ


あの曲がり角を曲がれば、かつて自販機ちんがあった場所だ


そして、その先には帰り道に繋がる道が…


「…!」

45: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/12(金)23:30:14 ID:vFP
路地の奥、かつては自販機ちんが置いてあった場所


昨日は跡形も無く消えていた自販機ちんが、今日は今までのように佇んでいた


まなの前に戻ってきたんだよ!


これはガチャを引きなさいって事だね!


でももし伊緒ちんにバレたらどうしよう…


バレたら…?


ううん


バレなければいいんだよ


とりあえず1回、引くんだよ

46: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/12(金)23:31:21 ID:vFP
近くのファストフード店でコーヒーを飲みながらまなの動きを監視するあたし


まさか自分がストーカー紛いの行為をする事になるなんてね


「このまま帰ってくれればいいんだけど…」


しかしそんな思いも空しく、路地の奥、まな曰く自販機が置いてあったという場所で、まなのGPS信号が動きを止めた


どうやら立ち止まっているようだ


「まさか…」


この短時間に自販機が戻ってきた?


あたしは飲みかけのコーヒーを置いて店を飛び出した


まなの所へ急がなくっちゃ!

47: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/12(金)23:32:24 ID:vFP
レアダイヤを投入口に入れようとしたその時


「この匂いは…!」


遠くから伊緒ちんが近付いてくるのを感じる


どうして伊緒ちんが!?


どうしよう!このままだとバレちゃうんだよ!


でも今引かなかったらもう次は無いかもだし…


と、とにかくギリギリまで引けるだけ引くんだよ!


そう決めたまなは少しでもタイムロスを短くするために、ありったけのレアダイヤを投入口に突っ込んだ


これならあとはボタンを押すだけだもんね!

48: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/12(金)23:33:07 ID:vFP
「えいっ!」


ボタンを押すとゴシャン!という大きな音が取り出し口の方から響いた


かなり重そうなものが落ちた音なんだよ!


「これは…」


取り出し口から出てきた"それ"は黒いビニール袋らしきものにくるまれていた


この大きさと匂い、そして温かさは…


袋をあけて"それ"の中身を確認する


ああ、そうだ


まなはずっと"これ"が欲しかったんだよ


まなはそれを大事に抱えると、足早にその場から離れた

49: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/12(金)23:34:21 ID:vFP
「まなっ…!」


店を飛び出してから数分、自販機があったという場所にあたしはたどり着いた


が、そこにまなの姿は無かった


もちろん、自販機の姿もだ


もしかしたら自販機が戻ってきたかも…と心配したが、そうでなくてホッとする


少し落ち着いて、まなのGPS信号を確認すると、まなは無事帰宅ルートを進んでいるようだった


「良かったぁ…」


きっと立ち止まったのは自販機の事を思い出していたのだろう

50: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/12(金)23:35:19 ID:vFP
じゃああたしも帰ろっかな


そう思って通りへ踵を返そうとしたら…


「…ん?」


足元の地面に何か、小さな赤い染みのようなものがあるのが目に入った


これは…血痕?


「な…訳ないか」


あたしは改めて家路につくことにした

51: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/12(金)23:35:37 ID:vFP
この時、まなの後を追わなかった事をあたしは後悔する事になる


なんせ、この時を最後にまなは消息を絶ったのだから…

52: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/15(月)23:12:34 ID:k8b
今朝はまなちゃんと伊緒ちゃんがまだ登校してなかった


また伊緒ちゃんが寝坊したのかな?


と思ったら始業のチャイムが鳴るギリギリに伊緒ちゃんが教室に入ってきた


「おお!おはよう伊緒ちゃん!」


「ああ、悠水おはよう」


しかしまなちゃんの姿は無い


「…あれっ?今日はまなちゃんは一緒じゃないの?」


「それなんだけど…」


なんでも伊緒ちゃんによると、まなちゃんが朝の待ち合わせ場所に来なかったという


で、携帯も繋がらなかったから登校時間ギリギリまで待ってから登校してきたんだってさ


もしかしたら学校には連絡がいってるかもしれないからって

53: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/15(月)23:13:30 ID:k8b
でも結局まなちゃんが学校に来ないまま、その日は放課後を迎えた


担任の先生も連絡は受けていなかったみたいだし、心配だ


もしかしたら体調が悪くて倒れてたりしてるんじゃ…?


ゆか子先生もそう思ったらしく、まなちゃんの住む家の管理人さんに様子を見に行って貰ったらしい


しかし家にまなちゃんの姿は無く、玄関にはいつも履いているローファーも無かったという


昨日から帰っていないのか、それともどこかに出掛けているのかは分からないけど、連絡が無いのは不安だね


大丈夫かな…

54: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/15(月)23:14:21 ID:k8b
今日もエテルノで任務にあたる


しかし今日はまなちゃんの姿が無い


悠水や伊緒によると昨日の夕方を最後に連絡がつかないらしい


ティエラ先生は現実世界で事件に巻き込まれた可能性と、境界でオブリ等に襲われた可能性から、警察と時空管理局に捜索を頼んだという


まなちゃん…無事だといいな…

55: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/15(月)23:15:17 ID:k8b
まなちゃんと連絡がつかなくなってから数日後


リョウコさんによると警察は、というよりリョウコさんのお父さんは、娘の友人という事もあって、かなり熱心にまなちゃんを探してくれているらしい


しかし最後に伊緒が会った日の夕方の足取りが、とある地点で急に途切れていて捜索は難航しているという


なんでも警察犬もその地点で立ち止まってしまうとか…


一方、時空管理局はまなちゃんのパトリの反応を探しているらしいけど、未だに反応が掴めていないみたい


まるで自分から姿を消したように…

56: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/15(月)23:17:03 ID:k8b
今日でまなさんが消息を絶ってから今日で1ヶ月ですか


まだ警察・時空管理局ともに足取りを掴めていないとの事です


私も独自に捜索はしていますが…未だに手がかりは掴めていないですよ


この1ヶ月、伊緒さんは相当堪えているようです


かつてはトップクラスだった学力も今では悠水さん並みに落ち込み、得意だったバレーボールも身が入らないようですよ


アコさんによると強化選手枠からも外されてしまったとか


まぁ無理もありません


あれほど仲の良かった幼なじみが急に居なくなってしまったのですから


「伊緒さん…あれは辛いですよ」

57: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/18(木)19:13:50 ID:g93
まなが居なくなってから今日で3ヶ月…ぐらいだったかな?


あれ以来、勉強もスポーツも身が入らないあたしは、心身ともに不安定だという理由でストライカーからもアシストからも外されてしまった


なので退屈で非生産的な日々を過ごしている


少し前までは学園のスター(自分で言うのもなんだけど)として忙しかったのにね


そんなこんなで学校でもエテルノでも居心地の悪いあたしは、放課後になると連日こうしてパトリを片手に街中を彷徨いている


もしかしたらまなの反応が…という淡い期待を抱いて

58: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/18(木)19:14:28 ID:g93
警察や時空管理局を信用していないわけでは無いけれど、自分でも探さなきゃと


そんな気がしてならないのだ


まなの最後の痕跡を知ってるし、消えるのを止められなかった贖罪…なのかな


まぁ、パトリの反応があれば時空管理局も分かるだろうけどね


「今日も反応は無い…か」


夜も更けてお巡りさんの巡回も始まる頃だし、そろそろ帰らないと


また補導されちゃったら色々な人に迷惑だからね

59: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/18(木)19:14:51 ID:g93
そういえばこの前はリョウコさんが駆けつけてくれたっけ


今度お礼に何か甘い物でも差し入れして…


と考えていると


「…!」


あたしのパトリにまなのパトリの反応が合った


一瞬、本当に一瞬だけれど居場所も表示された


あたしは急いでその場所へ向かう


今度は消えさせない!

60: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/18(木)19:15:26 ID:g93
「ここは…」


たどり着いたのは町外れの廃工場


まるでモルガナと戦ったあの場所のようだ


警戒しつつ、廃工場内に足を踏み入れるが人の居る気配は無い


それもそのはずだ


パトリの反応が一瞬しか無かったという事は、まなは境界にいる可能性が高い


境界…という事は今回もモルガナが…?


リスクを考えると連絡をとってみんなが揃うのを待つべきだろうか


…いや、それで"また"まなを見失うのは御免だ


あたしはパトリを使って境界へ…

61: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/18(木)19:19:17 ID:g93
「…っ!」


境界に移ったあたしが感じたのは暗闇と…酷い悪臭だった


生臭さと腐敗臭…そして油と鉄の匂い


ここに何が…?


パトリの液晶を懐中電灯代わりに暗闇を照らすと…


「…ひっ!?」


あたしの目に写った"それ"は…一本の足だった


爪先から太ももまでの足


太ももより上の無い足


切断面から鮮血の滴る足


そのおぞましい光景に後退りをすると…


「…きゃっ!?」


ヌチャリとした何かを踏んだあたしは、ズルリと足を滑らせ尻餅をつく


その衝撃でパトリを落としてしまった


あたしの手を離れたパトリは床を滑り…暗闇の中心へ


そしてそのパトリの明かりが暗闇全体をうっすらと照らし…悪臭の正体を暴いた

62: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/20(土)22:49:10 ID:BlP
明かりに照らされた"それら"は壁に沿ってうず高く、そして"部位"ごとに分類されて山のように積まれていた


足の山


腕の山


内臓と思われる肉片の山


それらの山は半分が腐敗し


もう半分がまだピクピクと


まるで生きているかのように蠢いていた


「…うっぷ…!」


悪臭がかつて人間であったものから発せられていると理解して吐き気を催す


胃酸が食道を逆流して喉が焼けるように痛む


一刻も早くこの空間から逃げ出したい…!


でも今ここ離れれば、次もここに来れる保証は無い


あたしは今日の昼食を床にぶちまけそうになるのを堪えて、パトリで先生に連絡を取った

63: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/20(土)22:51:02 ID:BlP
先生が到着するまでの何分か


工場内に入ってきた先生があたしの肩を叩くまでの時間は永遠のように感じた


先生はあたしの顔を見ると


「…事情は分かりました」


「ここはわたくしに任せて、夜木沼さんは家でお休みになってください」


と、あたしを気遣ってくれた


よっぽど酷い顔をしていたらしい

64: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/20(土)22:52:34 ID:BlP
翌朝、先生から工場で見たものについて聞いた


先生によると


「あの工場からは数百人分の人間の部位が発見されました」


「DNA鑑定の結果、あの工場にあった臓器や四肢は全て別人のもので…」


「幸い、その中にまなさんのものはありませんでした」


「切断されてなお、生体反応がある臓器や四肢があったのに関してはまだ調査中です」


との事だった


あの人間の残骸の中にまなが居なかったのは良かったけれど…


だとしたらあの反応は…?


まさかあの惨状をまなが…?

65: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/20(土)22:55:06 ID:BlP
「この件にまなさんが関与しているかは…分かりません」


「しかし境界内で起きた事ですし…関与している可能性は高いかと」


確かに…境界内に入れるのは限られた者だけだ


「最後に…この件は他言無用でお願いします」


先生は最後にそう告げた


もっとも、言われなくても他人に話す気はなかった


あんなに酷いもの、言葉にしたくない

66: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/22(月)21:40:06 ID:veI
「…局長、お話しとは?」


工場の一件を夜木沼さんへ報告後、わたくしは局長に呼び出されていた


「もしかして…決算書の件でしょうか…?」


「決算書…?違いますよ?」


良かった、まだバレてないようです


「今回お呼びしたのは、そちらのチャンネルの菜森まなさんについてです」


まなさん…ですか


「さて、本題に入る前にお聞きします」


「あの工場で見つかったものについて、夜木沼伊緒さんに真実は告げていませんよね?」


「…ええ、言えるわけないじゃないですか」


「まさか、あれが全て夜木沼さんのものだなんて…」

67: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/22(月)21:41:00 ID:veI
DNA鑑定の結果、あの工場にあった全ての四肢や臓器が(腐敗したものも含め)同一人物のものである事が分かりました


その人物とは…夜木沼伊緒さん


当然、その事は本人には告げていません


「それは良かったです」


「知らない方が幸せですからね」


「では本題に入りましょう」


「今回、工場で見つかったものと菜森まなさんの行方不明…」


「これにはとあるオブリが関わっている事が確認出来ました」


「…!」

68: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/22(月)21:41:57 ID:veI
「ティエラさんは"フェアトレードオブリ"というオブリをご存知ですか?」


「いえ…」


初めて聞いた名前ですね


「フェアトレードオブリはとにかくレアダイヤを浪費するのが好きなオブリです」


「このオブリにレアダイヤを渡すと対価として、渡した者が一番欲しい物を転送してくれるそうです」


本当に浪費したいだけなんですね


そんな事をしてそのオブリに何の得が…


「例えば私がティエラさんの物が欲しいとレアダイヤを1つ渡したら…」


「レアダイヤ1つ分で転送出来る質量のティエラさんの持ち物が転送されてくる…という事ですね」


「はぁ」

69: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/22(月)21:43:17 ID:veI
レアダイヤはエテルノでも日用品の転送に使われていますが、オブリも同様に使用出来るとは


「さて、ではレアダイヤ1つ分ではどのぐらいの質量の物が転送出来ると思いますか?」


「わたくしの持ち物からだと…眼鏡やアクセサリーといった小物ぐらいでしょうか?」


「そうですね、大きくても洋服1枚程度の物だと思われます」


「では、レアダイヤ10個分では?」


「それは…小物が10個転送されてくるのでは?」


「それだと1個分が10回となるので、10個分の対価としてはフェアではありません」


そうでしょうか?


どちらも総量は同じになるように感じますが…

70: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/22(月)21:44:06 ID:veI
「10個分の質量を1つ分ずつに分割するのでは10個である意味がない…というのがフェアトレードオブリなりの流儀なのだそうです」


つまりレアダイヤ10個分を対価とする場合は10個分の質量のものしか貰えないという事ですか


律儀というか融通が聞かないというか…


「では、それを踏まえた上で先程の質問の答えをもう一度聞かせてもらいましょうか」


「眼鏡やアクセサリーの10倍の質量がある持ち物…というと鞄や靴ぐらいでしょうか」


「ではそれが20個では?」


局長が質問を畳み掛ける


「20個…鞄や靴のさらに倍というと…」


中々思い付きませんね


「思い付きませんか?」

71: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/22(月)21:44:58 ID:veI
「わたくしの持ち物と判断されるかは微妙ですが…強いて言えば家具や家電製品ぐらいでしょうか」


「では対象が夜木沼伊緒さんのような学生だったら?」


「それは…そもそもそんな質量の持ち物は持っていない方が多いですよね?」


「いえ、ありますよ」


「誰もが肌身離さず持っているあるものが…ね」


局長の今の言葉でわたくしはこの一件の真実を察する


「嘘…ですよね…?」


それが真実だとしたら、まなさんは…

72: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/24(水)18:32:08 ID:rOC
「他のチャンネルの夜木沼伊緒さんから身体を奪う事になると分かった上で、オブリにレアダイヤを渡し続けているという事ですね」


「しかし行方不明になる前にオブリと接触したという話は…」


わたくしの疑問を局長が遮る


「フェアトレードオブリはレアダイヤを収集し易くする為に、擬態を得意としています」


「ポストやゴミ箱、そして自動販売機などにですね」


自動販売機…!


「恐らく、知らず知らずの内にオブリのなわばりである境界に誘い込まれてしまったのでしょう」


つまり、まなさんはオブリだと認識していないという事ですか

73: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/24(水)18:32:46 ID:rOC
「それで…被害は?」


「分かっているだけで数百人、しかし半数は無事で済むかもしれません」


「あの四肢や内臓には、まだ生体反応があるものがありましたよね?」


なるほど、そういう事ですか


あれらは境界から境界に転送されたものだったのですね


つまり…現実よりも時間経過が皆無に近い


だからまだ生きていたというわけですか


それなら元のチャンネルに戻せば繋げる事も…!

74: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/24(水)18:33:25 ID:rOC
「しかし半数は無事とはいえ、どのチャンネルでもエース級のストライカーである夜木沼伊緒さんを多く失った損害は見逃せません」


「なので、そちらのチャンネルの菜森まなさんはモルガナに匹敵する脅威と判断し、排除する事が決まりました」


「キャラメル・スピカ同様、もう再会は出来ないものと思ってください」


局長は表情1つ変えずに言う


次にまなさんが時空管理局に発見された時には…


「ではこれで話は終わりです」


「そちらのストライカーの方々には上手く伝えておいてくださいね」


「はい…」


いつだって真実を識ってしまうのは辛い


そしてそれを隠し通すのもだ

75: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/24(水)18:35:30 ID:rOC
「まなにはもう会えない…!?」


ようやく手がかりが見つかって、再会まであと少しというところで先生から告げられたのは、これ以上の捜索は困難だという知らせだった


先生によると、とある境界でまなのパトリだけが発見されたという


つまり…パトリの反応も無い状態では無限にあるチャンネルから、ここのチャンネルのまなを見つけだすのは限りなく不可能に近い


だからもう会えないと思ってほしいという


確かにセレーネさんも未だに発見に至っていないのを考えると時間の無駄なのかもしれない


でも…!

76: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/24(水)18:37:10 ID:rOC
あたしは先生に食い下がろうとした


諦めるなんて出来るわけがない


…でも先生のやるせない顔を見て思い留まった


そう…だよね


先生も辛いはずだ


その先生が諦めろというのならば…あたしは従うしかない


これで本当にお別れだとは思いたくないけれど…ね

77: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/24(水)18:38:05 ID:rOC
あれから何ヵ月経っただろうか


よく"辛い事は時間が解決してくれる"と言うけれど、そんな事はなく、あたしはただ辛い時間をやりすごしていた


まなはまだ生きているのだろうか


それとももう…


それすらも分からないのがもどかしい


「まな…会いたいよ…」


近くから居なくなって改めて、まながあたしにとって大きな存在だったのを痛感する


それこそ、もう一度まなに会えるなら何でもするぐらいに…だ


「…?」


放課後、自宅への帰路の途中


それは薄暗い中で煌々と光っていた


「菜森まなガチャ…?」

78: ◆7.8UPwV50EjK 2018/10/24(水)18:38:58 ID:rOC
伊緒ちんの太もも…二の腕…はぁはぁ…

















じゅるり


END