前回 まどか「世界を縮めたい」【スクライド×まどか☆マギカ】 前編

314: ◆do4ng07cO. 2014/04/26(土) 01:47:48.16 ID:kvPPAARi0
マミ『聞こえる!?佐倉さん!』

杏子『ああ!あんたは大丈夫か!?』

マミ『ええ。私のことはいいから、あなたは二人を守ってあげて!』

杏子『...わかった』

杏子「おい、今すぐ結界からでるぞ」

狼狽えるまどかと仁美を抱え、杏子は出口を探して駆け出そうとする。

その背後から迫るキリカの爪。

その爪を、クーガーが蹴りあげくいとめる。

引用元: まどか「世界を縮めたい」【スクライド×まどか☆マギカ】 




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315: ◆do4ng07cO. 2014/04/26(土) 01:48:51.75 ID:kvPPAARi0
杏子「クーガー...!」

クーガー「彼女の相手は俺がする。お前はお前のやるべきことをやれ」

杏子「...頼んだぞ」タッ

キリカ「......」

クーガー「追いかけないのか?」

キリカ「アンタは私と戦いたいんだろう?」

クーガー「ほう、俺の希望を聞きいれてくれるとはなかなかどうして気前のいいお嬢さんじゃあないか!」

キリカ「よく言うよ。追いかけたところで私を逃がすつもりなんかないくせに」

クーガー「まあ、そうなんだがな」

316: ◆do4ng07cO. 2014/04/26(土) 01:51:17.89 ID:kvPPAARi0
結界内 深層

マミ「ふっ...と」シュルル

マミ(リボンを敷いたから助かったけど...だいぶ落ちたものね)

異納「お待ちしておりました」

マミ「...誰?」

異納「私の名は異納泰介。ストレイト・クーガーと同じアルター使いです」

マミ「アルター使い...!」

異納「私怨はありませんが...我が主のために、死んでもらいます」

マミ「......」

319: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:00:19.63 ID:bW/3ay/o0
――――――――――――――――


ほむら「うっ...」

ほむら(ここは...?)

辺りを見まわして、状況を確認してみる。

ほむら(確か、私は...)

立ち上がろうとするが、しかし手足が縛られていて、動くことすらままならない。

左腕に至ってはソウルジェムごと無くなっていた。

ほむら(...落ち着かないと)

あの後、さやかがどうなったか、敵はどこへ行ったのか、皆はどうなったかなど、気になることは多い。

だが、今わかることは、あの黒衣の魔法少女たちに捕まっているという事実だけだ。

320: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:01:35.86 ID:bW/3ay/o0
無常「目が覚めましたか。暁美ほむらさん」

ほむら「あなたは...?」

無常「以前一度お会いしたのですが...まあ、互いに名前も知らぬ仲でしたから仕方ありませんねぇ」

無常「私の名は無常矜侍。ストレイト・クーガーと同じく精製を受けたアルター使いです」

ほむら「......!」

ほむら(クーガーと同じイレギュラー...!)

ほむら「...そのアルター使いが私をどうするつもり?」キッ

無常「おお、怖い。私の地元の連中にも劣らない良い目ですねえ」

無常「ご心配なく。用済みとはいえ、今すぐあなたを殺そうなどとは思っていませんから」

ほむら「用済み...?」

無常「そうそう、実はあなたに見て貰いたいものあるのを忘れていました。...準備を」パチン

少年「......」コクリ

321: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:02:17.70 ID:bW/3ay/o0
無常「彼の名はイーリャン。精製における、とある研究の過程で産まれた失敗作のアルター使いでしてねぇ。成功体もいるいま、本来なら破棄されるところですが、もったいないのでコッソリ連れてきたのです」

イーリャン1「......」

無常「意思ももたず、自分では判断もできない、ダース以下のクズですが...存外、これはこれで使えまして」

イーリャン1「......」ピッ ピッ

ブゥン

ほむら「モニター...?」

322: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:03:05.00 ID:bW/3ay/o0
ほむら「なっ...!」

モニターに移しだされたのは、皆の姿。

まどかと仁美を抱えて逃げる杏子。

異納泰介と対峙するマミ。

呉キリカと戦うクーガー。

ほむら「これは...いったい...!?」

無常「あなたの存在が、彼らをここにおびき寄せた。そして、私たちの狙いは、あなた達の戦力を分散させること...つまり、あなたはもう用済みということです」

ほむら「...っ!」ギリ

無常「その憤怒なる眼差し...なんと心地いい。私の渇きがまた一つ埋まりました」

323: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:04:10.72 ID:bW/3ay/o0
モニターに映し出された姿を見て、一人足りないことに気付く。

ほむら「...さやかは?何故さやかは映っていないの!?」

ほむらの問いに、無常は答えない。

ただ、その顔に、嫌らしい笑みを浮かべているだけだ。

ほむら「まさか...!」

無常「心配いりませんよ。直にわかります、直にねえ」

無常のほくそ笑みは、深まった。

324: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:05:24.09 ID:bW/3ay/o0
―――――――――――
結界内

魔女「毛毛毛毛毛毛毛毛――――ッ!」ブワッ

杏子「邪魔だっ!」ズバッ

魔女「毛ゃアアアアッ!!」

杏子「ちっ、まだこんなにいるのか...!」

まどか「...ごめん、杏子ちゃん」

杏子「なんであんたが謝るんだよ」

まどか「わたし、いつもみんなに闘わせてばかりで、今回も...」

杏子「なんだ...このごに及んでまだ契約した方がいいかもーとか思ってるのか?」

まどか「...わからない」

杏子「まあ、あたしは他の奴らほどあんたを引き留めるようなことはしないよ。契約するのが本当に必要な時もあるかもしれないからな」

杏子「けど、忘れるなよ。マミが立ち直れたのも、さやかが願いを思い出せたのも、あたしじゃできなかったことだってな」

まどか「......」

仁美「杏子さん、前!」

325: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:06:23.12 ID:bW/3ay/o0
西瓜の魔女


その性質は、栽培。西瓜を誰よりも知りつくし、誰よりも愛した者の末路。結界に迷い込んだ人間を、栽培する西瓜の養分として吸い取ってしまう。
この魔女から逃げるには、彼女の西瓜に触れないように、西瓜について語りあって機嫌を取るのが手っ取り早い。


魔女「」ウネウネ

杏子「ウラァ!」ザシュッ

バサッ

杏子「なんだ、まるっきり手応えが...!?」

魔女の身体が、二つに裂け、杏子たちの身体を包み込む。

杏子(しまった...せめて、こいつら守らねえと!)

杏子「お前ら、絶対にあたしから離れるなよ!」

まどか「う、うん!」ギュッ

326: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:07:16.26 ID:bW/3ay/o0
――――――――――――――

結界


ガキィィン

甲高い衝突音が響き、両者が弾き飛ばされる。

キリカ「流石に速いね。でも、私の方が速い!」

着地したクーガーの体勢が整う前にキリカはその爪で斬りかかる。

クーガー「そうかい!」

だが、爪は空を切り、クーガーはキリカの背後から蹴りを繰り出した。

キリカ「そうだよ!」

その蹴りもまた空を切り、キリカとクーガーは再び体面した。

327: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:09:10.79 ID:bW/3ay/o0
キリカ「凄いね、一人でここまでやれるなんて」

クーガー「そいつはどうも」

キリカ「でも、なぜ一人で戦うんだい?佐倉杏子と一緒ならずっと楽に戦えたのに」

クーガー「なぜ俺だけ残ったか...か。簡単なことさ」

クーガー「この危険な場所ではいつどこでのどかさんが襲われるかわかったもんじゃないし、マキさんも迎えに行かなきゃならん。更にあいつらを安全に逃がしたいという気持ちもあるがそれだけじゃない」

クーガー「俺は一度止められた...即ち、俺がお前よりスロウリイだったということだ。だから俺はお前という壁を越えなければならない!誰でもない、俺自身のためにだ!」

キリカ「...なるほど、ね!」ダッ


328: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:10:00.43 ID:bW/3ay/o0
結界 深層部

パァン

マミ「......」

異納(速い...が、反応できない程ではない)

マミ「...今のは警告。退くなら今の内よ」

異納「......?」

マミ「私もね、そろそろ我慢の限界なのよ。これ以上は、例え生身の人間でも加減できそうにないから...」

異納「ほぉう...!」

329: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:10:39.29 ID:bW/3ay/o0
―――――――――――――――


視界が暗転する。

まどかと仁美は目を瞑っているが、杏子はなにが起きてもいいように目を見開いていた。

杏子(来るなら来い...返り討ちにしてやる)

だが、杏子の警戒とは裏腹に、魔女からの攻撃は何もない。

やがて、視界は晴れ、杏子は無傷のまま着地する。

杏子「まどか...仁美...?」

だが、彼女の背負っていた者たちの姿は見当たらなかった。

330: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:11:41.96 ID:bW/3ay/o0
杏子(手を離しやがったか...?いや...あいつらはしっかりあたしを掴んでた筈だ。それに、この場所...)

伸び放題の草木。

手入れがされていない廃屋。

そして、廃屋の屋根に刺さる巨大な十字架。

杏子(間違えるはずがない...これは、あたしの家だ)

木々を、家を触り、幻覚でないかを確かめる。

杏子(こいつは...本物だ。間違いない。結界からここまでとばされたってことか?)

わけがわからなかったが、ここが本物で、結界の外だというのならやることは一つ。

まどか達とすぐに合流し、ほむらを見つけ次第クーガーたちの援護へと向かう。

そう決めて歩を進めた、その時。




―――ガサッ

杏子「誰だ!?」バッ

331: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:13:14.26 ID:bW/3ay/o0
杏子が振り返った先にいたのは、彼女がよく知る人物で

さやか「......」

杏子「さやか!?お前、なんで...そういえば、あんた回復力だけは半端なかったっけ」

だからか、油断してしまったのかもしれない。

杏子「ったく...そんな息まで切らしてきやがって。怪我人は大人しく寝てろっての」

さやか「......」

杏子「まあ、怪我人でもいないよりはマシって状況だからな。今回ばかりは助かるよ」クルッ

さやかが剣を握ったままでいる意味にも気付かず、杏子は背を向けた。


杏子は気付けなかった。

さやかの様子が明らかにおかしいことに。


杏子「早く、まどか達を探してやらねーとな。クーガーたちもどうなってるかわからないし」

杏子は気付けなかった。

さやかが杏子に向け剣を振り上げていることに。


杏子「それじゃ、サクッとあいつらブッ倒して...」

杏子は気付けなかった。

己に振り下ろされる刃の切っ先に。


332: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:14:21.57 ID:bW/3ay/o0
結界外

ズズズッ

まどか「わぶっ!」ドサッ

仁美「ここは...最初の工場でしょうか」

まどか「たぶん...」

仁美「杏子さんともはぐれてしまったようですし、さてどうしましょうか...」、


カツ

まどか(い、いま足音が...!)

カツ カツ

仁美「誰ですの!?」バッ

???「ヒッ!」ビクッ

333: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:17:50.25 ID:bW/3ay/o0
――――――――――――――――――――
教会前

杏子「がっ...!」

杏子の背に、一閃の太刀筋が刻まれる。

さやか「......」

さやかが再び剣を振りかざすが、杏子は間一髪で回避した。

杏子「なんだってんだよ...」

さやかは無言のまま杏子に切っ先を向ける。

杏子「なんだってんだよ、おい!」

迫りくる刃に、杏子はうろたえるしかなかった。

334: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:18:58.02 ID:bW/3ay/o0
――――――――――――――――――――



ほむら「洗脳...!?」

無常「ええ。あなたが気絶している間に、少しばかり細工をさせていただきました」

ほむら「そんなことが出来るはずが」

無常「なら、何故彼女は佐倉杏子と戦っているのでしょうかねえ」

ほむら「ッ...どうやって彼女を!?」

無常「教えてあげません」

335: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:19:44.95 ID:bW/3ay/o0
無常「まあ、簡単なことではありませんでしたがねぇ。彼女、私の部下がいくら痛めつけても中々折れてくれなくて。もっとも、ソウルジェムの真実について教えてあげたらあっさりと隙ができましたが」

ほむら「!」

無常「では、そろそろ時間ですので」パチン

イーリャン1「......」コクン

ほむら「待って...」

無常「はいぃ?」

ほむら「あなたの目的は...!?」

無常「全てを手に入れること」

336: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:20:40.72 ID:bW/3ay/o0
――――――――――――――――――
教会

さやかの剣と杏子の槍が打ちあう音が鳴り響く。

杏子(なんでだよ...)

杏子は迷っていた。

突如、刃を向けてきたさやかに。



―――いや、それはまだいい。

自分や、自分の父のように、人の心など変わりやすいことは百も承知だ。

だから、これもそういうことなのだろうと納得はできないが理解はできる。

杏子(なあ、さやか...)

だが、それ以上に杏子を迷わせていたのは



杏子(あんた、なんでそんなに遅いんだ?)

迷いは迷いを生み、全ての行動を鈍らせる。

だが、そんな迷いを募らせ、更に傷を庇いながら戦っている杏子ですらこうして反応できるほど、さやかの剣は遅かった。


337: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:21:28.65 ID:bW/3ay/o0
杏子「てめえ...ナメてんのかよッ!」

杏子が力任せに槍を振るうと、さやかはあっけなく弾かれ、大きく後退した。

だが、さやかの眼は何も変わらない。

何も写さず、ただただ虚ろなだけだった。

だが、杏子はそんな目をどこかで知っていた。

杏子「――――!」

杏子のその疑念を確信へと変えたのは



さやか「......」ツーッ

杏子(女泣き――――!!)

さやかの頬を伝う、一滴の涙だった。

338: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:22:52.72 ID:bW/3ay/o0
杏子「...ハハッ、そういうことかよチクショウ。どうりで見覚えがあるわけだ」

そうだ。あの眼は、そうだった。

杏子「いいよ、さやか。それがあんたの本音だっていうなら仕方ねえ」

あの眼は、壊れた父さんや、父さんの言うことを鵜呑みにさせられていた奴らと同じだ。

杏子「後でぐちぐち言うのは構わねえが、今は恨むなよ」

あたしが作っちまった眼と同じなんだ。




あの時、あたしは逃げてしまった。

ちょっと拒絶されたからって、父さんたちの目を覚ますことから逃げてしまった。

だから―――




杏子「しこたまブン殴ってさっさと目を覚ましてやるよ、さやか!」

今度は、もう逃げない。


339: ◆do4ng07cO. 2014/05/02(金) 02:23:22.87 ID:bW/3ay/o0
第7話 佐倉杏子

馬鹿な女と吐き捨てて、屑な女と揶揄される。

己の生き方否定され、道化は笑いに包まれた。

しかし見ろ!あれを見ろ!あれが佐倉杏子だ、美樹さやかだ!

その屑、その馬鹿、他にはいない。


344: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:42:39.63 ID:R/m6OxLa0
ヒョコ

QB(暁美ほむらの居場所は掴めたけれど...彼女を助けたところで事態が好転するわけじゃないんだよね)

QB(彼女が生きていれば、まどかが契約する機会は来ないと考えていいだろう。それに比べて、今のこの状況はとてもいい)

QB(このまま暁美ほむらが助からなければ、いや、自分以外の者たちの誰かが助からなければ、まどかはそれだけで契約を望むかもしれない。反面、まどか自身を失ってしまう可能性もあるけどね)

QB「さて、どうしたものかな...)

―――――キィン

QB「...おや?」

345: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:43:31.44 ID:R/m6OxLa0
―――――――――――

ほむら「くっ...」

ほむら(駄目...どうやっても動くことすらできない。早くここから抜け出さないと―――)

仁美が

さやかが

マミが

杏子が

クーガーが

―――まどかが

346: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:44:46.28 ID:R/m6OxLa0
ほむら「なんで...こうなっちゃったのかな」

ほむら(決まっている...私が弱いからだ)

まどかを失ったあの日、強くなると決めたのに。

今度は私が守るんだって決めたのに。

皆が揃えば、こうやって足を引っ張ることしかできていない。

結局、ただイタズラにまどかを死なせて、みんなを苦しませただけだ。

ほむら「ごめんなさい...」

私は何も変わってなんかない。

ほむら「ごめんなさい...」

あの時と同じ、ただの足手まといで

ほむら「ごめん...なさい...!」

何にもできない愚図のままだ。

347: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:45:44.10 ID:R/m6OxLa0
ほむら「あっ―――」

どこにあるか分からないが、ソウルジェムが濁っていくのがわかる。

一度認めてしまえば、もう止めることはできない。

もう、このまま穢れを溜めこみ、魔女となることだろう。

ほむら(...私の命、か...)

きっと、私の魔女はそんなに強くないから、彼女たちならあっさり倒せるはずだ。

そうすれば、こんな私でも、彼女たちがワルプルギスの夜を倒す糧になれるかもしれない。

少なくとも、こんなところで動けずにいるよりはよっぽど役に立つだろう。

ほむら(これほどちっぽけなもので守れるなら...それもいいかもしれないわね)

そうして、眠りにつくように目蓋を閉じようとするが、しかし

ほむら「え...?」

視界の端に、あの黒い影が映り込んだ。

私のソウルジェムを手にした影に掴まれ、私は

348: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:46:26.34 ID:R/m6OxLa0
第7話 佐倉杏子


ゆま「あ、あの...」

まどか「子供...?」

仁美「どうしたのですか、こんなところで」

ゆま「おねえちゃんたち、ほむらって人の知り合いだよね?」

まどか「ほむらちゃんを知ってるの!?」

ゆま「うん。お願い...わたしが案内するから、ほむらって人を助けてあげて!」

まどか「わかってる。じゃあ、さっそく...」

仁美「離れてくださいまどかさん、その子は敵ですわ!」


349: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:46:59.15 ID:R/m6OxLa0
まどか「え...?」

仁美「おかしくありませんか?キュゥべえさんすら見つけられなかった彼女の居場所をこの子が知っているなんて。しかも、こうも都合よく私たちの前に現れるなんて」

ゆま「そ、それは...」

仁美「おおかた、この子に連れてこさせて私たちを一網打尽にするつもりだったのでしょう。あの外道たちならやりかねませんわ!」

ゆま「お、織莉子たちを悪く言わないで!」


350: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:48:35.16 ID:R/m6OxLa0
ゆま「織莉子たちがおねえちゃん達に悪いことをしてるのは知ってる。でも、織莉子たちはゆまを助けてくれた!織莉子たちは悪者なんかじゃない!」

仁美「...なら、なぜ彼女たちを敵にまわすようなことを?」

ゆま「...さやかお姉ちゃんとほむらお姉ちゃんもゆまを助けてくれたの。でも、二人を傷付けた織莉子たちを見てたら、どうすればいいかわからなくなって...」

ゆま「そうしたら、織莉子は言ってくれたの。自分の信じるものを信じなさいって。だから、ゆまは信じてるから止めたいの」

ゆま「きっと、織莉子は勘違いしてるだけなの!だから...」グスッ

仁美(この子の言ってることは本当?それとも...)

まどか「...ほむらちゃんのところまで案内して」

仁美「まどかさん!?」

まどか「大丈夫。この子は多分嘘をついてない。それに、どの道このままじゃ何も進まないよ」

仁美「それは...そうですが...」

ゆま「ゆまについてきて。今ならキョージもいないと思うから」

まどか「キョージ...?」

351: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:53:04.33 ID:R/m6OxLa0
―――――――――――――
結界内

ガガガガガ

キリカ「すごいね、この速さに追いつけるなんて!でも次もあるよ、次次次次!!」

クーガー「くっ...!」

クーガー(このお嬢ちゃんの速さの肝は魔力だ。おそらく、持続力でいえば俺の方が上...幸い、彼女の攻撃はそこまで重くないから、持久戦ってのがベターな回答だな)

クーガー「―――だが、そいつはノゥだ!」

キリカから距離をとり、アルターブーツの爪先でコツコツと地面を叩く。

クーガー「いいか、お嬢ちゃん。さっき言った通り、俺はお前を超えて俺の速さを証明しなければならん!故に持久戦などに持ち込もうとは思わない!だから...よぉく見ておけ、俺の速さを!」

そして、右脚から放たれるのは、彼の最速の蹴りであり弾丸の一つ。

クーガー「衝撃のォォォ―――ファーストブリットォォォ―――!!」

352: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:53:49.76 ID:R/m6OxLa0
キリカが爪を振りかぶる。

しかし、その弾丸の前では何もかもがスロウリィ。

爪は彼の頬を掠るだけで、威力を殺すことなどできない。

キリカ「がっ...!」

クーガーの右足の弾丸は、キリカの腹部にめり込んだ。

キリカは、その衝撃により、何度も地面をバウンドし、壁に叩き付けられ、砂埃を巻き上げることによってようやく停止した。

353: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:55:07.89 ID:R/m6OxLa0
クーガー「さて...次の相手はあんたか?」

織莉子「......」

クーガー「正直、俺としてはすぐにでもマキさんを迎えに行きたいところだが...」

織莉子「それはできません」

クーガー「そうだろうなぁ」

織莉子「勘違いしないでください。勝負はまだ終わっていない、ということですよ」

ガラガラと壁が崩れ、砂埃が晴れ渡る。

キリカ「......」ニィィ

服の袖はボロボロになり、多少出血はしていたものの、キリカは確かに立っていた。

354: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:56:01.17 ID:R/m6OxLa0
キリカ「織莉子...凄いよ、こいつ。私の魔法にかかったままで、私より速く動いたよ」

クーガー「魔法にかかったまま?」

キリカ「教えてあげるよ。私の魔法は、速度を落とす魔法。あんたのアルターとは真逆の能力だね」

クーガー「なるほど。道理で、お嬢ちゃんの攻撃が軽かったわけだ。ついでに、まともにはいったわりにはピンピンしてるのもそれが理由か」

クーガーの技は、速さに依存したもの。

その速さ自体が抑えられていたために、本来の威力を発揮できなかったのだ。

キリカ「あんたの速さを舐めてた...だから、もう遠慮はしない!」バッ

355: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 02:57:18.99 ID:R/m6OxLa0
取り出したグリーフシードに、ソウルジェムの穢れを吸わせる。

キリカの服が直り、出血も収まった。

クーガーがわかったのはそこまで。

気が付けば、キリカは己の目前にまで迫っていた。

クーガー「ッ!」ガキン

キリカ「さっきまでは、あんたの速さを7割くらいにしていた。今のは半分くらい。あんたはどこまでついてこられるかな?」

クーガー「上等ォ!」

356: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 03:00:25.95 ID:R/m6OxLa0


結界内 深層部

マミ「はっ!」パァン

マスケット銃を異納に向けてうつが、弾丸はことごとく斬られてしまう。

マミ「ならこれなら...ティロ・フィナーレ!」

異納「無駄だ...私のアルター、ブレード・ダンスに斬れぬものなどない!」スパッ

マミ「なっ...!?」

異納「それで終りですか?」

マミ「くっ...パロットラ・マギカ・エドゥインフィニータ!」

無数の魔弾が異納目掛けて放たれ、爆風が巻き上がる。

マミのソウルジェムが黄色く光り、その直後に爆風をも切り裂き、ブレード・ダンスの刃がマミの眼前にまで迫る。

マミはその刃の腹を右手で払い、空いた左手でマスケット銃を突き出すが、銃はもう一振りの刃にあっさりと切られてしまった。

今度こそマミを斬らんと刃を振り上げるが、マミは胴体部分に蹴りを入れ、ブレード・ダンスから距離をとった。

357: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 03:01:05.50 ID:R/m6OxLa0
異納「見事な反応ですが...どうやらここまでのようですね」

マミ「......」

異納「あなたの魔法と私のアルターは相性が悪く、大技も通用しない...つまり、あなたには勝機がないということです」

マミ「...確かに、ここまでみたい。あなたがね」

異納「この期に及んでまだ強がりですか?」

マミ「私がただ闇雲に攻撃していると思った?」

異納「なに...?」

マミ「教えてあげる、あなたの弱点」

358: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 03:03:28.71 ID:R/m6OxLa0
マミ「弱点その1。あなたのアルターは、一度に操れるのは一体だけ。もし複数体できるのなら、私はとっくに斬られているもの」

異納「......」

マミ「弱点その2。私の魔法とは違い、アルターへのダメージは大なり小なり自分も受けてしまう。右腕を抑えているのは、さっきの弾幕で無傷では済まなかったから。違って?」

異納「......」

マミ「弱点その3。あなたのアルターは、クーガーさんと違って己の身体能力を上げるものじゃない...つまり、本体であるあなたは私より劣っている」

異納「...流石は、歴戦の魔法少女。追い詰められながらもそこまで冷静に相手を分析できるとは。しかし、あなたの挙げた弱点は全て私自身も知っていること。即ち、これが勝負を決める糸口とはなりません」

マミ「わからないかしら?弱点を見つけたということは、私はいつでもそこをつけるということ。簡単にやられると思ったら大間違いよ」

異納「...なるほど。手強い」

359: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 03:06:16.85 ID:R/m6OxLa0
マミが巨大な大筒を両腕に装着する。

マミ「ティロ・ボレー!」ドドドドン

異納「大口を叩いたわりにはワンパターンですね!」

迫りくる4つの弾丸をわけもなく切り裂き、ブレード・ダンスはマミの目前にまで肉薄した。

異納(殺った!)

先程とは違い、弾丸を放った直後では身動きはとれない。

ブレード・ダンスの刃は、たやすくマミの首を切りさいた。

マミの首が地に落ち、ソウルジェムを踏み砕こうとブレード・ダンスが足をあげた。

―――が


「そうそう、言い忘れてたわ」

360: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 03:07:23.16 ID:R/m6OxLa0
マミの首が、身体が全てリボンに変わり、ブレード・ダンスを縛り上げる。

と、同時に異納の両脚に走る激痛。

異納「がっ...!?」

「弱点その4。あなたの剣は切れすぎる」

声が聞こえたのは、異納の背後。そこに立っていたのは、紛れもなく傷一つない巴マミだった。

異納「いつの間に...すり替わっていた...!?」

マミ「さっきの弾幕の時。それだけじゃないわ。周りを見てみなさい」

異納とブレード・ダンスを取り囲んでいるのは、無数のマスケット銃。

マミ「私の軸の魔法はリボン。あなたが普通の弾だと思って切ってくれたお蔭で、銃をセットする手間が省けたわ」

アルターでリボンを切るのは可能。だが、この無数の銃より早くマミを切り裂くのは不可能だ。

少しでも動けば、銃は全て異納とブレード・ダンスを撃ちぬくだろう。

異納泰介には、もはや打つ手はなかった。

マミ「チェックメイトよ」ガチャ

361: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 03:08:19.14 ID:R/m6OxLa0
―――――――――――――――――
教会前

ガキン

杏子「ハッ、やっぱ遅いなぁ。いまのあんたは!目ェ瞑っててもかわせらぁ!」

さやか「......」

さやかが、杏子から距離をとる。

さやかが逃げ込んだ先は、杏子の教会。

杏子「てめえ...正気じゃねえからって調子に乗るんじゃねえぞ!」ダッ


362: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 03:09:05.00 ID:R/m6OxLa0
さやか「......」

杏子「人ん家にあがり込んでどうするつもりだ?」

さやかが魔法陣を足場にし、一気に跳躍する。

そして上空にも魔法陣を作り、一気に杏子のもとへと跳びこんだ。

杏子「...おい、舐めてるのか?そいつは効かねえって知ってるだろ」

身を屈めてさやかの剣を躱し、次にくる背後からの突進も身体を捻り回避する。

杏子(こいつを足元にうちこめば...!)ジャララ

杏子の槍が、さやかの足元のあるべき場所に絡みつく。

しかし、さやかは剣を床に突き立て、自身の代わりに巻きつけた。

更に、左手に持つ刃の柄を引き、杏子の肩に刀身を撃ちこんだ。

杏子「ぐっ...!」

さやか「...!」ドサッ

勿論、無茶な動きな上、受け身もとれないため、さやかは頭から床に落ちた。

363: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 03:11:28.13 ID:R/m6OxLa0
杏子「...違うだろ、さやか」

さやか「......」

杏子「狙うならこっちだろうが」トントン

杏子が指さしたのは、己の胸元のソウルジェム。

さやかは、そこをめがけて再び突撃した。

まだ粗削りとはいえ、確かに速さと鋭さを持った攻撃。

速さで劣る杏子では避けるしか手はない。だが、杏子は逆に―――

ドスッ

その身で受け止めた。

364: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 03:15:11.58 ID:R/m6OxLa0
ソウルジェムをそれて、右胸に突き刺さる剣。

さやかは引き抜こうとするが、しかし動かない。

杏子「...掴まえた!」

さやかの両腕を掴み、思い切り頭をのけ反らせ、さやかの顔へ頭突きをする。

さやか「......!」フラフラ

杏子は胸に刺さっている剣を抜き、グリーフシードをソウルジェムに当てて魔力を回復した。

杏子(回復は得意じゃねえが...応急処置くらいなら...)シュウウ

杏子「...お互い、こんだけ近いと武器も出せないな」

さやか「......」

杏子「そういえば、前はここでほむらに止められたんだっけな」

さやか「......」

杏子「続きをやろうぜ、あの時の続きを」

365: ◆do4ng07cO. 2014/05/10(土) 03:16:16.31 ID:R/m6OxLa0
―――――――――――――――――――――

コソコソ

ゆま「...こっちだよ」

仁美「...誰もいませんわね」

ゆま「キョージのところにいたのは、異納っていう変な頭の人とイーリャンっていう人だけだったよ」

まどか「...この扉の向こうにほむらちゃんが?」

ゆま「うん...ゆまが見た時は眠ってたけど、多分今はおきてると思う」

仁美「...私が先行しますわ。まどかさんは後から付いてきてください」

まどか(ほむらちゃん...いま、助けるからね!)

仁美「...開けますよ」

ギイイィィィ





まどか「...え?」





燃え盛る炎のように揺れる頭部。

鎧のようなラインをところどころに見せる黒い体。

白の装甲に包まれた左腕と、黒の装甲に包まれた右腕。

そして、人の形でありながら人ではない顔。

扉をあけた先に"それ"はいた。

368: ◆do4ng07cO. 2014/05/15(木) 01:07:18.02 ID:ffKyTSq/0
――――――――――――――
結界内

―――キィン

織莉子「―――!」

織莉子(またあのイレギュラーの反応...!)


クーガー「壊滅の...セカンドブリットォォォ!!」ズガァ

キリカ「ガアアァァ...!アハハッ、凄いや、まだそんなに速く動けるなんて!」

クーガー(遅い...!俺にしては致命的に遅い!)

キリカ「次はどうするの!?次は次は次は次は次は次は次は次は!」

クーガー「決まっている!正面から速さでねじ伏せるだけだ!」

キリカ「いいね!じゃあ次は4割に...」

織莉子「キリカ!早く決着を着けなさい!」

キリカ「なんで...ッ!?」

キリカ(またあいつか...なんでこうも突然出てくるんだよ!)

クーガー「どうした?俺の速さはこんなもんじゃあないぞ!?」ブンッ

キリカ「ちっ...」

369: ◆do4ng07cO. 2014/05/15(木) 01:08:14.40 ID:ffKyTSq/0
キリカ「...悪いけど、あんたとはこれまでだ。全力全開の魔法でいかせてもらうよ」

クーガー「ほぉう、やっと俺の速さを証明できるのか」

クーガー(なんだ、この胸騒ぎは...こりゃ、マジでチンタラしてられないな)

キリカ「くらいな、ストレイト・クーガー」

クーガー「受けろよ、俺の速さを!」



キリカ「速度7割減...」

クーガー「瞬殺の...」

キリカ「ヴァンパイアファング!!」

クーガー「ファイナルブリットォォォ―――!!」

370: ◆do4ng07cO. 2014/05/15(木) 01:09:33.21 ID:ffKyTSq/0
結界深層部

マミ「さあ、どうするの!?」

異納「......」

マミ(この妙な気配...まさか、これが暁美さんの言っていた...?)

異納「...ふっ」

マミ「なにがおかしいのかしら?」

異納「魔女には...様々な特徴がある」

マミ「...?」

異納「空を飛ぶことができるものもいるし、異常に身体が硬いものもいる...そんな魔女が、落ちただけで全て死ぬと思いますか?」

マミ「......」

異納「おかしいと思いませんか?あなたと一緒に落ちてきた魔女たちが姿を現さないことが...」

マミ「なにを...」





鉄槌「ハーンマアアァァァ―――!!」

ドゴォォン

371: ◆do4ng07cO. 2014/05/15(木) 01:12:20.64 ID:ffKyTSq/0
マミ「なっ...!?」

鉄槌「ハンマ!」ギョロ

異納「ブレード・ダンス!」

シュパッ

マミ「しまった!」

異納「...このままもう一度戦うこともできるが、この足であなたと戦うのはリスクが高い。この場は退却させてもらいます」

マミ「待ちなさい!」

追いかけようとするマミの行く手を、大量の魔女が遮る。

異納「私には、我が神の作り上げる世界を守る義務がある...縁があればまた会いましょう」スゥ

魔女「グルアアアァァァ!!」

マミ「邪魔を...しないでっ!」ジャキッ

372: ◆do4ng07cO. 2014/05/15(木) 01:13:23.59 ID:ffKyTSq/0
――――――――――――――――
「......」

"それ"は、まどか達を見つめていた。

いや、眼球はないのだから、顔にあたる部分が向いていたと表現した方が正しいだろう。

"それ"は、何をするでもなく、まどか達に歩みよる。

ただそれだけのことだが、三人を震えあがらせるには十分だった。

仁美(わ、私が...まどかさんを...!)

先に動いたのは、習い事とはいえ護身術を身につけている仁美。

震える身体に無理やり鞭を入れて、"それ"の腹部にあたる部分に拳を打ちこむ。

だが、仁美は知らなかった。

それが勇気ではなく、恐怖による行動であり

仁美「―――え?」

彼女の本能は、決して間違っていなかったことを。

373: ◆do4ng07cO. 2014/05/15(木) 01:16:49.05 ID:ffKyTSq/0
まどか「仁美ちゃん!」

仁美「あれ...私の手...あれ?」

仁美の打ちこんだ拳から先が、綺麗な円形の切り口を残して消え去っていた。

微力ながらも魔力が通っていたさやかの剣ですら、"それ"は消し去ってしまった。

クーガーのような装甲を纏っておらず、魔力も何もない仁美の右拳が耐えられる筈もなかった。

右手を失った仁美に、"それ"が手を伸ばす。

だが、目前の恐怖に仁美は動くことすらできなかった。

仁美「ひっ...!」

仁美(お、恐ろしい...なにが恐ろしいかって、こんな目にあっているのに、痛みも苦しみも感じない...こんなにも死の間際にいるのに、なぜか安らいでしまう...!)

374: ◆do4ng07cO. 2014/05/15(木) 01:18:30.50 ID:ffKyTSq/0
まどか「だめぇ!」

まどかが両手を広げ、"それ"に立ちふさがる。

だが、"それ"はまどかの願いに応えず、代わりにまどかの首を締め上げる。

まどか「ぁぐ...!」

ゆま「まどかお姉ちゃんを放せ、お化け!」

ゆまが駆け寄るが、ピシャリと振り払われ、地面を転がった。

仁美「ま、まどかさん!」

まどかから手を放させようと"それ"の腕を掴もうとするが、膝が笑って動くことすらできなかった。  

376: ◆do4ng07cO. 2014/05/15(木) 01:22:19.07 ID:ffKyTSq/0

まどか(力がなくなっていく...)

まどかの身体が粒子状に欠け始め、衣服の一部ごと吸い取られていく。

まどか(......?)

薄れゆく意識の中、様々なヴィジョンがまどかの脳裏をよぎる。



早口でまくし立てながら、右腕を変化させた少年と共に、敵を蹴散らしていく最速の男

狂ったように笑いながら剣を振りかざす親友

魔女に何かを呼びかけ続ける自分と赤毛の少女

涙を流しながら、仲間にマスケット銃を向ける先輩。

そして




まどか(...ほむらちゃん)

まどかの涙が、"それ"の手にポタリと落ちた。

377: ◆do4ng07cO. 2014/05/15(木) 01:23:45.85 ID:ffKyTSq/0
今回はここまでです。

379: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:11:46.53 ID:90lsZNUA0
************************************

仁美「ふ~れ~た~心は輝いた、鮮やかな色になって♪」

「やあ、そこの道行くお嬢さん」

仁美「はいぃ?」クルッ

ナイトメア「私はナイトメア軍団の団長!設定年齢19歳、蟹座のB型!」

仁美「び、美形ですわ!」

ナイトメア「さっそくだが、きみには私のカキタレとなってもらう!」

仁美「カキタレ...?」

ナイトメア「とにかく来るんだ!」グイッ

仁美「いや~、だれか~!」

「待ちなさい!」

380: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:12:43.99 ID:90lsZNUA0






マミ「キラキラ輝く、未来への輝き!マギサニー!」

杏子「燃える闘魂、悪は絶対許さない!炎の化身、マギクリムゾン!」

さやか「勇気リンリン、直球勝負!マギマーメイド!」

メガほむ「キラリンニコニコジャンケンポン!マギジョーカー!」

まどか「皆に笑顔を、幸せを!マギピーチ!」

5人「愛と平和は私たちが守る!ピュエラ・マギ・HOLY・クインテット!」






381: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:13:41.13 ID:90lsZNUA0
ナイトメア「ぬぬ...現れたな、ピュエラ・マギ・HOLY・クインテット!だが、私は今までのナイトメアのようにはいかんぞ!なぜなら彼らの団長だからだ!」

杏子「面白いじゃん...いくぞ、さやか!」

さやか「おう!」

ナイトメア「ゆるゆるだっ!」ドグォン

「「うわあああああ!!」

マミ「強い...!でも...!」

ほむら「退くわけには」

まどか「いきません!」

ナイトメア「だから無理だって!」ドバァァァン

「「「きゃあああああ!」」」

ナイトメア「これで...理解してもらえたかな?」

メガほむ「うう...私たちが負けたら未来が...!」

ナイトメア「では、トドメと行こう!」

「待てぇ!」

ナイトメア「ぬうっ!?」

クーガー「か弱きレディたちの声を聞きつけ、最速の俺、参上!」

382: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:14:30.71 ID:90lsZNUA0
メガほむ「く...クーガーさん...」

クーガー「愛車に乗って気ままに一人旅をしていたら道中か弱い少女たちのあ~れ~な悲鳴が聞こえたからこいつはピンチに違いないと即座に判断して駆けつけてみれば俺の顔なじみたちが中々にデンジャラスなことになっているじゃあないか!」

クーガー「そこで、だ...俺はお前たちにとっておきを伝授しにきた...そう、合体だ」

5人「合体!?」

クーガー「そうだ...5人揃ってソウルジェムを掲げ、『ホムマドマミアンサヤエントロピー』と叫べば、強力な合体技が使えるんだ」

まどか「そんな技が...」

クーガー「ああ。もちろん、皆の気持ちを一つにする必要があるが...その時間は俺が稼いでやる」

ナイトメア「ふふん、『人間ワープ』の使い手であるこの私に...」

クーガー「遅いっ!」ガスッ

ナイトメア「なにぃ~!?」


383: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:15:30.61 ID:90lsZNUA0
マミ「クーガーさんが足止めしてくれている内に...それじゃあ...いくわよ!」

4人「はいっ!」

『ホムマドマミアンサヤエントロピー!』カッ

クーガー「どうやら成功したようだな...」

ナイトメア「ば、バカな...なんだあのパワーは!?」

さやか「後は頼んだよ、まどか、ほむら...」ゼェゼェ

まどか「うん、いこうほむらちゃん」

メガほむ「うん!」

クーガー「やっちまえ、まどか、ほむら」

『届け私たちの愛と勇気の結晶!スターライトシューター!!』

ナイトメア「そんな...そんなぁぁぁ~!」ドコォォン

今日も見滝原市の平和は守られた!ありがとうピュエラ・マギ・HOLY・クインテット!


384: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:16:28.30 ID:90lsZNUA0
さやか「やったぁ!なんとか倒せたぞ~!」

杏子「はふぅ~疲れちまったぜ」

マミ「なら、私の家でお茶会をしましょうか」

クーガー「いいねえ、それじゃあ俺もお呼ばれしていいかマキ!」

マミ「マミです!」

クーガー「ああ、スマンスマン」

まどか「ウェヒヒ、私たちもいこっかほむらちゃん!」

メガほむ「は、はい!」

時には辛いこともあるけれど、その分楽しいことが待っている。

これが、私たちの戦い。

これが私たちの守るべき...








―――ほむらちゃん

メガほむ「っ!」


385: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:17:36.80 ID:90lsZNUA0
メガほむ(まどか...?)

脳裏に様々なヴィジョンが、絶え間なく浮かんでくる。

巨大な化け物に、一人で立ち向かうまどか。

メガほむ(...ああ、そうだ)

共に戦い、力つき、魔女と成り果てたまどか。

ほむら(...なぜ忘れていた)

最後に私に希望を託し、私にその命を奪われたまどか。

ほむら(...なぜ考えなかった)

見ず知らずの筈の私を助けるために、契約をしたまどか。

ほむら「これは...」

あの悲しみも、怒りも、己の無力も。

何一つ忘れていない。忘れる筈などない。

地面に、まどかを殺した拳銃を構える。

ほむら「嘘だっ!!」




銃の引き金と共に、私の理想とした世界は砕け散った。

386: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:18:40.73 ID:90lsZNUA0
*****************************

上も下もわからない、虹色に包まれた空間。

ほむら(いいものを見せてもらった...)

ここがどこか...そんなことはどうでもいい。

ほむら(でも、あれは夢...ただの夢なのよ)

私は、まどかを守る...ただそれだけだ。





カッ

387: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:22:34.26 ID:90lsZNUA0
光が差し込む。

光と共に、幾つものシャボン玉が溢れ、私の周りを漂っている。

シャボン玉には、私がこれまでに経験・体験してきた全てが詰まっていた。


―――寄こせ、力を

誰に言われるでもなく、そう思った。

―――私はどうなってもいい。だから、全てを変えるほどの力を

漂っていた全てのシャボン玉が、私の身体に染み渡る。

光へと手を伸ばす。光は、私の全身を包みこんだ。






―――運命を覆すほどの力を!


388: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:23:18.85 ID:90lsZNUA0
――――――――――――――

ボコォ

仁美「...え?」

"それ"の腹部から、手が生える。

その手は、"それ"の肋骨のような部分を力強く掴んだ。

「......」

"それ"からは痛みも苦しみも感じられない。

"それ"は己の腹部から生える腕をただじっと見つめていた。

389: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:24:14.09 ID:90lsZNUA0
メキメキと音を立て、"それ"の肋骨が軋み始める。

まどか「...ちゃん」

まどかはわかっていた。

まどか「...むらちゃん」

それが彼女であることを。自分の友であることを

まどか「ほむらちゃん!」

"それ"の肋骨を引き裂き、腹をぶち破り、暁美ほむらはこの世界へと舞い戻った。

390: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:26:07.63 ID:90lsZNUA0
ほむらが"それ"の腕からまどかを奪いとり、抱きかかえ"それ"から距離をとった。

まどか「よかった...無事で...!」ギュゥ

ほむら「...心配かけて、ごめんね」

仁美「ほむらさん...ごめんなさい、私...!」

ほむら「よく頑張ってくれたわ。後は私に任せて」

「......」

ほむら「さあ、早くこのバカ騒ぎを終わらせましょう」

ほむら(こいつだけじゃない。美国織莉子、無常矜侍、そしてワルプルギスの夜...対処すべき問題は多い。それが、どうした)

ほむら(...ああ、そうだ。私はあの夢を否定した。ここで戦うと決めた。だったら、出来る出来ないじゃない...やるかどうか、ただそれだけよ)





キュイイイン

391: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:27:10.57 ID:90lsZNUA0
ほむら「なっ...!?」

左手に持つ肋骨が、突如輝き始める。

仁美「こ、これは...!?」

ほむら「う...うああっ...!」

肋骨が、虹色の光と共にほむらのソウルジェムに同化していく。

ほむら「うあああああああ!!」

光は、眩いほどの輝きを放ち、柱となってほむらを呑み込んだ。

392: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:29:10.79 ID:90lsZNUA0










―――――『s.CRY.ed』










393: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:30:01.26 ID:90lsZNUA0
――――――――――――――――――

結界内

ゴゴゴゴゴ

キリカ「......」

前のめりに倒れ、血だまりに沈んでいるクーガー。

キリカ「あんたと戦えてよかった...」

彼を見下ろし、キリカは微笑みと共に告げた。

キリカ「楽しかったよ、ストレイト・クーガー」

そうして、キリカもまた前のめりに地に伏した。

394: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:30:40.48 ID:90lsZNUA0
クーガー「ぐっ...」

傷は浅くはないが、命に別状はない。

だが、クーガーを動けなくするには十分すぎる傷であった。

クーガー「さぁて、と...次はあんたか?」ハァ ハァ

織莉子「いいえ。...私たちの役目は終わりましたから」

クーガー「そいつはどういう...っ!?」

織莉子「......!」

395: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:31:33.14 ID:90lsZNUA0
何かが変わった。

それが、なにを表すのかは分からない。

だが、彼らは一様に動きを止めた。




異納「こ、これは...!?」

アルター使いも




マミ「な、なに...!?」

魔法少女も




鉄槌「ハンマ...!?」

魔女も




QB「......」

インキュベーターも






その大きな"なにか"の変化を、確かに感じ取った。



396: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:32:43.29 ID:90lsZNUA0
―――――――――――――

光の中から姿を現したほむらの背にあるのは、禍々しく巨大な黒翼。

ほむら「.......」

何度も拳を握り直し、その力を確かめる。

ほむら「......」グッ

脚に力を入れ、"それ"にむかって一気に駆け出す。

「......」

"それ"がかざした掌と、ほむらの拳が衝突する。

まどか「わっ...!」

衝突の衝撃が、大気を震わせ、地を揺らした。

ほむらの身体が弾かれ、ゴロゴロと地面を転がる。

"それ"は、虹色の光の柱に呑まれ、その姿を消し去った。


397: ◆do4ng07cO. 2014/05/17(土) 02:33:27.37 ID:90lsZNUA0
まどか「ほむらちゃん!」

まどかと仁美が倒れたまま動かないほむらに駆け寄り、仰向けにして抱きかかえる。

ほむら「っ..ふふっ...」

まどか「えっ...?」

ほむら「...に...れた...」

ほむらは、その左拳を握りしめ、笑みを浮かべた。

ほむら「手に...入れた...!」

401: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:19:45.03 ID:gQ0Y6rCk0
織莉子(今の感覚...あのイレギュラーが関わっているとみて間違いない。...あれは本当に"イレギュラー"なの?それとも...)

織莉子「...ストレイト・クーガー。私はあなたとは戦いません。後は好きにしてください」

クーガー「...どういう風の吹き回しだ?」

織莉子「言ったでしょう。私たちの役目は終わったと」

クーガー「...時間稼ぎ、か」

織莉子「...一つ、忠告させていただきます」

織莉子「人間には出来ることの限界がある。ストレイト・クーガー...それはあなたの速さも同じことですよ」

織莉子は、気絶したキリカを背負い、結界の何処へと消えていった。


402: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:21:03.08 ID:gQ0Y6rCk0
結界が歪み始める。

鉄槌「ハン...マァ...」シュウウ

マミ「はぁ...はぁっ...!」

マミは、襲いくる魔女を全て倒し、最後の一体にもトドメを刺した。

だが、マミの胸中から不安は消えない。

マミ(さっきの感覚...それに、嫌な予感が消えない...)

マミ「はやく...いかないと...」

傷ついた手足を引きずり、少しでも前へ向かおうとする。

だが、そこまで。

魔力を使い過ぎたせいか、マミの両脚から、力という力が一気に抜け落ちた。

マミ「みん...な...」

403: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:22:54.40 ID:gQ0Y6rCk0
―――――――――――――――――
教会内

杏子「おりゃああああ!!」

さやか「......!」

杏子の拳が、さやかの拳が、互いに相手の顔面を捉える。

杏子「き・く・か...よぉ!」

だが、己の意思で繰り出す拳と、意思のない拳。どちらが押し勝るかは明白だった。

杏子「まだだぁ!」

杏子の拳が、さやかの腹部、肩、顔面...至るところに繰り出される。

さやか「かっ...!」

その全てが、面白いほどにヒットし、さやかの身体は後方へ吹き飛んだ。

杏子(いける...!)

杏子には確かな確信があった。

今の今まで無反応だったさやかだが、徐々に反応を見せている。

杏子(今度こそ...今度こそ、失くしてたまるかよ!)

404: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:23:23.13 ID:gQ0Y6rCk0


無常「チッ、思ったよりマズいな...」

イーリャン1のアルターで、杏子とさやかを知覚している無常が露骨に舌打ちをした。

戦況は杏子が優勢。その現状が、無常を苛立たせた。

無常「このままでは奴の方が持たないな...仕方ない」

無常の右手が、黒く蠢く。

無常「頼みますよぉ、私に『向こう側』の世界を見せてくださいねぇ!」


405: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:24:01.12 ID:gQ0Y6rCk0
―――――――――――――――――

まどか「ほむらちゃん、ほむらちゃん!」ユサユサ

仁美「...気を失ったみたいですね」

まどか「どうしよう...」

仁美「...下手に動くと危険ですわ。ひとまずここで待っていましょう」



ォォォォ


まどか「ね、ねえ、なにか音が...」

仁美「これは...」



ゴオオオオォォォォ


ズシャアアア



クーガー「......」

406: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:24:33.91 ID:gQ0Y6rCk0

まどか「クーガーさん、それにマミさんも!」

クーガー「...あんこのやつは...?」

まどか「わかりません。気が付いたら...」

クーガー「...マキさんをお願いします」

気絶したマミをまどか達に託すと、クーガーは止める間もなく走り去っていった。

その跡に、大量の血を残して。

407: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:25:41.02 ID:gQ0Y6rCk0
―――――――――――――――
教会内


杏子の蹴りが、さやかの腹部にめり込む。

さやか「がっ...はっ...!」

杏子(もうひと押し...!)

さやかの目線が、僅かだが杏子から逸れる。

その視線の先にあるのは、さやかの刀剣。

杏子「武器に目がくらんだな...?」

僅かな隙をみせたさやかの懐に、杏子が入り込む。

剣を握り絞めるがもう遅い。

杏子(いま目を覚ましてやるよ、さやか!)

杏子の拳がさやかの顎を捉え、さやかの目は覚める。





――――筈だった。

408: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:26:31.47 ID:gQ0Y6rCk0
杏子とさやかの間に割って入ってきたのは、小型の錆の塊のような使い魔。

杏子はそれに気づくことなく、拳を振り抜く。

だが、拳が使い魔に当たった瞬間、使い魔が破裂。

結果、杏子の拳が当たることはなく、さやかは尻もちをついただけだった。

杏子(目つぶしか...!?)

だが、さやかが剣を握りなおしているのはハッキリと見える。

まだ自分の方が早い。杏子は拳を振りかぶろうとするが

杏子(なんだよ、おい)

身体が動かない。いや、動きが遅くなっているのだ。

杏子(どうなってんだ)

さやかが剣を握りしめ、杏子の首目掛けて振り抜かれる。

だが、杏子にはなにもできない。

首に刃が食い込むのを感じ取るが、避けようとする動作すら鈍くなっていた。

杏子(冗談じゃねえぞ、こんな...!)





振り抜かれた刃は、杏子の首を斬り落とし、力なく倒れた杏子の身体からソウルジェムが外れ





さやか「え...?」

さやかの目は、覚めた。

409: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:27:08.17 ID:gQ0Y6rCk0
無常「お見事でしたねえ」

杏子の身体を抱いているさやかに、無常が称賛の拍手をおくる。

背中を向けているため表情が見えないが、さやかの心情を想像すると、無常の渇きはまた一つ埋まった。

無常「どうでしたか?魔女ではなく、仲間を斬るという感覚は」

さやかは何も答えない。ただ、その身体を震わせているだけだ。

その表情を直に拝見しようと無常があと一歩というところまで歩みよった時だった。

さやかの剣が、一文字に振り抜かれた。


410: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:28:04.41 ID:gQ0Y6rCk0
無常「おっと、怖い怖い」

だが、剣は無常の喉を掠らないギリギリの距離で躱された。

さやか「おまえが...おまえがぁぁぁ!!」

無常「威勢だけはいいですねぇ。しかし...」

さやかの剣は、無常の掌に触れた瞬間、その魔力と共に消え去ってしまった。

無常「残念ながら、『鍵』はあなたではないようですねえ」

さやか「ぐっ...!」

魔力が尽きたさやかは、その場に跪くことしかできなかった。

無常「放っておいても魔女になるが、屑とはいえここまで働いてくれたのです。せめて、最後くらいは華を持たせてあげましょう」

さやか「なにを...!」

無常「少しでも私の渇きを埋めてくださいよぉ。『アブソープション』」


411: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:29:03.36 ID:gQ0Y6rCk0
さやかの身体を駆け巡る激痛。

堪らず悲鳴をあげるさやかを、無常は愉しそうに眺めている。

無常「そうだ。最後に一ついいことを教えてあげましょう。あなたが契約した時に初めて戦った魔女...あれは私が用意してあげたんですよ。あなたが契約しやすいようにねえ!」

さやか「......!」

無常「その悔しさに歪む顔...やはり心地いいものです」

ソウルジェムが濁りきる寸前に、激痛は止み、さやかの身体が地に伏せる。

さやか(...ごめん、みんな)

薄れゆく意識の中でさやかが想うのは、家族のこと、仲間のこと。親友のこと。

そしてなによりさやかの心を支配したのは

さやか(...くやしいなぁ)

恭介の演奏を望み、契約したことも。

心が折れかけ、それでもみんなの助けで立ち直れたことも。

杏子を斬ったことも。こうして魔女になってしまうことも。

今までの希望と後悔の全てがこの男の掌の上だったかと思うと悔しかった。

涙が出るほど悔しくて仕方なかった。




涙がソウルジェムに落ちた時、男は笑い、グリーフシードが一つ誕生した。


412: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:29:31.78 ID:gQ0Y6rCk0
ズズズ

無常「ふむ、それなりには楽しめましたが...こんなものでは足りない」

無常「私の渇きは、反骨心は、埋めることなどできません」

無常「佐倉杏子のソウルジェム。どこかに落ちている筈ですが...」

さやかの亡骸に背を向け、歩き出した時だった。

「馬鹿ヤロウ...」

413: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:30:45.63 ID:gQ0Y6rCk0
声がした。

無常が振り返ると共に、横っ面に拳を叩き込まれた。

無常「ぐあっ...!」

無常(馬鹿な、なぜ...!?)

首を切り落とされた筈の佐倉杏子が、確かに五体満足で立っていた。

無常(美樹さやか...なけなしの魔力を振り絞り、佐倉杏子の身体を修復していたか)

無常(ですが好都合。どの道ソウルジェムを持ち帰り、修復させるつもりでしたから、手間が省けました)

無常の顔に下卑た笑みが浮かぶ。

だが、杏子は無常のことなど見てはいなかった。

414: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:31:40.19 ID:gQ0Y6rCk0
杏子「...さやか」

ああ、まただ。また失ってしまった。

こいつの冷たさが、重さが、嫌というほどに実感させる。

もう逃げないと決めたのに。

もう無くしたくなんかないのに。

結局は同じことの繰り返しだ。

怒りが、悲しみが、無力さがあたしの身体を駆け巡る。

抑えきれないモノとなって吐き出してしまう。

所詮、あたしにはなにも―――




杏子の慟哭が、教会中に響き渡った。

415: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:32:19.06 ID:gQ0Y6rCk0
―――――――――――――――


雨が降り始めた。

クーガーは走っている。

思い当たる場所を片っ端から探し回り、雨に濡れようが、泥が掛かろうが、構わず走り続けている。

腹部から流れる血も、軋む骨も、全身に痛みを訴える激痛も、何もかもを無視してただただ走り続けていた。

その様は、酷く焦っているようで、とても文化人を自称とする男とは思えないほど不様な姿だった。

それでも、クーガーは走るのを止めなかった。

雨は、まだ止みそうにない。

416: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:33:28.79 ID:gQ0Y6rCk0
―――――――――――――――


無常「彼女...とても弱かったですねえ」

無常の言葉に、杏子の身体がピクリと震える。

無常「彼女がもっと強ければ、こんなことにはならなかったかもしれませんねぇ」

杏子は、無常がどうやってさやかの正気を無くしたのかも知らない。

だが、わかった。

目の前のほくそ笑んでいるこの男は、敵だ。

それだけで十分だった。もう抑える必要もない。

杏子は荒ぶる感情のままに、無常矜侍にとびかかった。

417: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:34:50.44 ID:gQ0Y6rCk0
杏子の槍が、無常の掌の薄い障壁と衝突する。

杏子「てめえ、一体なにものだぁ!?」

無常「アルター使いの無常矜侍です」

杏子「てめえがさやかを!」

無常「はい。私がやりましたぁ」

杏子「ふざけんなぁぁぁ!」

無常「真剣ですよぉ」

杏子「っ...ヤロォォォ!!」

無常の障壁に、ピシリとヒビが入る。

無常「おぉ...その怒りです。その悲しみです!」

だが、無常は笑みを絶やさない。どころか、余裕の態度で杏子を見下している。

無常「さあ、向こう側への扉を開きましょう。でないと彼女の死は...無駄になってしまいますよぉ?」

杏子「!...ああああぁぁぁぁ!!」

咆哮と共に、魔力を槍に更に込め、無常の障壁を砕きにかかる。

だが、その槍も魔力に耐え切れず、障壁と共に弾けとんでしまった。

418: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:35:45.62 ID:gQ0Y6rCk0
無常「まだ足りませんねえ。『鍵』はあなたでもないのでしょうか」

杏子「はぁ...はぁ...!」

まだ怒り足りない。だというのに、思うように身体が動いてくれない。

いくら治療の魔法を施しても、血が、魔力が戻るわけではない。

それでも、杏子はなけなしの意地で無理矢理身体を奮い立たせていた。

無常「そうだ、やはり魔法少女の相手は...彼女たちの方がいいでしょうねえ」

無常の右腕が黒く蠢く。

無常「さあ、存分に暴れなさい。私の忠実な魔女たちよ」

419: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:36:47.75 ID:gQ0Y6rCk0
結界

人魚の魔女(オクタヴィア)。
その性質は執着。在りし日の感動を夢見ながらコンサートホールごと移動する魔女。回る運命は思い出だけを乗せてもう未来へは転がらない。

銀の魔女(ギーゼラ)。
その性質は自由。高速で移動する結界の中に潜んでいるが魔女自身は非常に愚鈍。

芸術家の魔女(イザベル)。
その性質は虚栄。自らを選ばれた存在であると疑わぬ魔女。

犬の魔女
その性質は渇望。誰からも誰よりも愛されたくてしょうがない犬の姿をした魔女。

暗闇の魔女
その性質は妄想。闇が深ければ深いほどその力は増す。



無常「彼女にはまだ可能性がある。なるべく殺さないように限界まで追いつめてください」パチン

無常の合図と共に、魔女たちが杏子に襲いかかる。

魔女の剣が、錆が、絵画の使い魔が、爪が、光が杏子をじわじわといたぶるように攻めたてる。

杏子が傷ついていく様を、無常は愉しげに眺めていた。

421: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:38:30.84 ID:gQ0Y6rCk0
ああ、駄目だな、こりゃ。

このままあたしはあんなクソヤロウに言いようにされて終わっちまうみたいだ。

散々周りの人間不幸にしてきた屑にはふさわしい最後ってか?

なあ、神様。

...頼むよ。

こんな人生だったんだ。

せめて、意地くらいは貫かせてよ。

ねえ、神様―――







『なにボサッとしてんのよ。らしくないぞ、杏子』

422: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:39:46.80 ID:gQ0Y6rCk0
杏子「え...?」

無常「バカな...!?」

杏子も無常も、己の目を疑った。

人魚の魔女が、その剣で杏子を守っていたからだ。

杏子「あんた...?」

オクタヴィア『ウアアアアァァァ!!』

咆哮と共に、周りの魔女を薙ぎ払い、無常には車輪を投げつける。

無常「どういうことだ、私の支配が効いていない...!?」

いまにも倒れそうな杏子を淡い光が包み、僅かではあるが傷を癒す。

杏子「そうかい...あんたもそうなんだな?」

オクタヴィア『......』

杏子「あんなのにやられっぱなしなんて、ムカツクよな」

杏子は、オクタヴィアの腕に乗り、折れかけた槍を修復した。

杏子「ブッ倒すぞ、あいつを」

423: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:40:20.52 ID:gQ0Y6rCk0
迫りくる魔女や使い魔を、オクタヴィアが薙ぎ払い、杏子が突き刺す。

杏子「なんでかな...」

互いの背中を庇い合うように、敵をなぎ倒していく。

杏子「こんなにヤバイ状況だってのによ」

それでも状況は圧倒的に不利。有利な要素など欠片もない。だが、それでも

杏子「あんたと一緒だと...負ける気がしない!」

魔女と使い魔に囲まれながらも、着実に無常のもとへと近づいていた。

424: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:41:53.34 ID:gQ0Y6rCk0
無常「あ...有り得ない...」

あの魔女にだけ洗脳が効いていないこともそうだが、それ以上に。

無常「なぜ奴らは倒れない!?」

身体はボロボロ。既に魔力も尽きかけているはずだ。なのに、何故...



「...倒す」

声が聞こえた。

『...そうだ』

最初の声に呼応するように、声がもう一つ。

「『てめえ(あんた)を倒す!』」

おそらくそれは幻聴で、現実の声ではない。

「『ただそれだけだ!!』」

だが、無常は聞いた。

己への敵意が込められた佐倉杏子と美樹さやかの叫びを確かに聞いた。

425: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:42:46.36 ID:gQ0Y6rCk0
杏子「へへっ...やっとこさここまでこれた...」

無常まであとひとっとびという距離。

杏子は、祈るような体勢をとり、巨大な槍を足元から召喚した。

杏子(そういや、クーガーとマミはともかくまどかたちは大丈夫かな...早くこいつをブッ倒して迎えに行ってやらねえと)

オクタヴィア『......』

オクタヴィアが、杏子が召喚した巨大な槍を掴む。

杏子「あんた...」

オクタヴィア『......』コクリ

杏子「...ありがとな、ここまで付き合ってくれて」


426: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:44:15.32 ID:gQ0Y6rCk0
杏子の槍が輝き始める。

無常「このクソカスどもがあああぁぁぁ!!」

無常のアルターが、槍を分解しようとする。が、

無常「す、吸いきれない...!?」

杏子の槍から発される熱が、彼女の身を焦がしていく。

だが、彼女の不敵な笑みが崩れることはなかった。

隣には、頼れる『相棒』がいたからだ。

杏子「さあ、いこうぜさやかあああぁぁぁ!!」





―――こいつは、この光は

爆発が、杏子を、オクタヴィアを、無常を、結界を全てを呑み込んだ。

結界を貫き、外の杏子の教会までもを貫く光の柱が、高く高くそびえ立った。





―――あたしと、あんたの輝きだ。

427: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:45:30.69 ID:gQ0Y6rCk0
***************************

さやか「ったく、無茶しすぎだってーの」

杏子「あんたに言われたくねえよ」

さやか「そりゃそうだけどさ...あ~、もうさやかちゃんは疲れました。杏子ちゃん、おんぶプリーズ」

杏子「...今日だけだからな」

さやか「うわっ、杏子が素直に優しい!?気持ち悪っ!」

杏子「置いてくぞ」

さやか「冗談だって、冗談!」

杏子「ったく...」

428: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:48:32.46 ID:gQ0Y6rCk0
さやか「あ~楽ちん楽ちん」

杏子「そーかよ」

さやか「...ねえ、杏子」

杏子「なんだよ」

さやか「ごめんね、面倒かけちゃって」

杏子「大したことじゃないって」

杏子「...あたしだって、あんたには色々と救われてるんだしさ」ボソッ

さやか「えっ?」

杏子「なんでもない」

さやか「そっか...ありがとね、杏子」

杏子「...おう」

429: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:49:54.05 ID:gQ0Y6rCk0
まどか「杏子ちゃん!」

杏子「よー、お前ら無事だったか」

仁美「まったくもう、心配かけて...」

さやか「いや~、ごめんごめん」

ほむら「でも、よく無事だったわね二人とも」

杏子「お互い様だろ」

ほむら「そうね...ともかく、助けにきてくれたことは礼を言うわ」

マミ「なにはともあれ、こうしてまたみんな揃えたんだもの。上条くんも呼んでお茶会をしましょうか」

さやか「やったぁ!ちょうどお腹ペコペコだったんだ!」

クーガー「なら、その後は再会を祝して深夜の夜景を楽しみながら素敵なドライブにでも行こうじゃないか!」

杏子「止めろ、天国から地獄に突き落とすな!」

クーガー「どういう意味だあんこぉ!?」

杏子「杏子だ!」

クーガー「なら、皆さんはどう思いますか?...あらら、皆さん?みなさ~ん!?」

杏子「満場一致ってやつだな、クーガー」

クーガー「オ~ブストラクション!」ダッ

まどか「クーガーさんが逃げちゃった!」

マミ「一応、謝りに行ってきなさい佐倉さん」

杏子「わかったよ...あー、腹減ったなぁ」

****************************

430: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:52:59.31 ID:gQ0Y6rCk0
無常「......」

全身を焼かれ。右目を失って。腹部もぶち破られた。

それでもなお、無常矜侍は生きていた。

無常「...クッ」

ここは『向こう側』の世界。

ここは、ただでさえ人の形を保つことのできない領域。

無常が負った傷は、この世界で構築された金属のようなもので塞がれており、それが彼の死を防いだ。

無常「アハハハハハハッ!!」

無常矜侍の邪悪で無邪気な笑い声が響き渡る。

彼の視線の先にあるのは、史上最強の魔女。




舞台装置の魔女。通称『ワルプルギスの夜』

431: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:54:21.31 ID:gQ0Y6rCk0
無常矜侍のいる領域よりも更に奥。

"それ"は、漂う二つの塊を見つめている。

一つは、音符の紋様が刻まれたグリーフシードだったもの。

もう一つは、灼熱のように赤いソウルジェムだったもの。

彼女たちの魂は、もはや修復などできないほどに砕け散っていた。

"それ"が、彼女たちの魂の欠片をそっと両手で包み込む。

二人の欠片が、分解され、"それ"の身体に取り込まれていく。

グリーフシードは下腹の辺りに、ソウルジェムは胸の辺りに。かつての持ち主たちと同じ箇所に再構成された。

「――――――」

"それ"の哭き声が響き渡る。




怒りか、悲しみか、喜びか。

その声が何を意味するのかは、誰にもわからない。

432: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:55:38.65 ID:gQ0Y6rCk0
―――――――――――――

立ち上った光の柱を見つけ、駆けつけたクーガーが、彼女たちを発見した時には、全てが終わっていた。

全壊した教会。

傷だらけで倒れている二人の少女。

そこにはもう、彼女たちの魂は存在しない。

クーガー「......」

雨にうたれるのにも構わず、男はただ立ち尽くしていた。



クーガーの判断は正しかったのだろうか。間違っていたのか。

どこかで失敗したのだろうか。最善は尽くしたのだろうか。

彼がこの場にいれば何かが変わっただろうか。それとも変わらなかったのだろうか。

その答えは誰にもわからない。

ただ、わかっていることは一つ。





ストレイト・クーガーには速さが足りなかった。


433: ◆do4ng07cO. 2014/05/24(土) 15:57:07.17 ID:gQ0Y6rCk0
第8話『美国織莉子』

美国織莉子。予知を操る、気高き魔法少女。
彼女の中にある真実が、運命に従って白日にさらされる。迸るは、慟哭。流れ出づるは、血涙。

439: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:25:05.04 ID:8U1V8gw50
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ほむら「なんで...」

ほむら(もう少しでワルプルギスの夜を倒せたのに...なんでこんなことに...!)

突如現れた男、無常矜侍が、ワルプルギスの夜を吸収し、クーガーを、織莉子を、キリカを、マミを、さやかを、杏子を殺害した。

無常「さて...残るは、あなた一人ですねえ」

時間停止も使えず、残り少ない銃器で抵抗するが、まるで歯が立たない。

だが、歩み寄る無常の身体を、一つの閃光が貫き、彼の息の音を止める。

ほむら「まどか...?」

まどか「...ごめん。ほむらちゃん」

彼女が契約したことを責めることはできない。

そうするしか、手段は残されていなかったからだ。

それでも、私は納得することなんてできない。立ち止まることはできない。

だから私は...

―――カシャン

440: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:25:43.98 ID:8U1V8gw50
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ワルプルギスの夜は倒した。

共闘した者たちも無事生き残った。

...なのに

ほむら「...まどか」

倒壊した建物に押しつぶされた彼女に触れる。

そこには、もはや温もりはなく、彼女の死を確かに告げていた。

ほむら「...ごめんなさい」

いくら涙を流しても、いくら謝っても、返って来る言葉は無い。

...もう、この世界にいる意味は無い。

生き残った仲間たちを残して、私は...


―――カシャン

441: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:26:42.44 ID:8U1V8gw50
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

魔法少女たちとアルター使いが、ワルプルギスの夜に立ち向かっている。

暁美ほむらという経験者と、鹿目まどかという最強の素質を持つ少女はいなかったが、それでもほぼ互角の戦いを演じていた。

彼らは強かった。しかし、その強さが仇となった。

逆さになっていたワルプルギスの夜が反転し、正常となったのだ。

もはや誰にも彼女を止めることはできず、全てが破壊しつくされ、世界から文明という文明が消え去った。

442: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:28:03.18 ID:8U1V8gw50
――――――――――――――――――

最強の素質を持ち、最強の魔女となる鹿目まどか。

何度も時間を繰り返し、幾つもの世界を滅ぼし続ける暁美ほむら。

そして、誰よりも欲望のままにその力を振るう無常矜侍。

今まであの夜の経験を積んできた暁美ほむらがいなければ、ワルプルギスの夜は倒せない。

無常矜侍がいなければ、鹿目まどかは死に、暁美ほむらはまた時間を繰り返す。

鹿目まどかがいなくなれば、暁美ほむらもまたいなくなり、ワルプルギスの夜を倒すことはできなくなる。

だから、私は何度も繰り返しあれを見ては、世界を救う方法を探した。

でも、どれだけ条件を変えて予知をしようが、世界が終わる結末が変わることはなかった。


443: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:28:47.49 ID:8U1V8gw50
QB「『向こう側』の世界...佐倉杏子と美樹さやかがその命を燃やしてゲートを開いた。そこに無常矜侍を送り込むことがきみの目的だったのかい?」

織莉子「...ええ」

QB「なるほど。だから、きみはこんな回りくどい真似をしたわけだ」

QB「完全に想定外とされていたきみなら出来たはずだ。彼女たちと戦うことも接触することもなく、まどかだけを殺して、この世界を守ることがね」

織莉子「......」

QB「過程はどうあれ、きみの狙った結果にはなった。でも、この後はどうするんだい?」

織莉子「...私は、破滅しかない世界を救う。それだけよ」


444: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:30:26.20 ID:8U1V8gw50
第8話『美国織莉子』

キリカ「確か、この辺りにあいつの車があった筈...おっと、織莉子、こっちだよ!」

イーリャン1「......」

キリカ「悪いね、ちょっと車を調べさせてもらうよ」ゴソゴソ

織莉子「キリカ...最後に確認させてもらうわ。あなたは、本当にこれでいいの?」

キリカ「何遍も言わせないでよ、織莉子。私はいつだって織莉子の味方だ」

織莉子「ゆまちゃんは...」

キリカ「あの子は大丈夫。私よりしっかりした奴だからね。...それに、優しいあの子には重すぎる」

織莉子「...わかった。もう、私は何も言わないわ。ありがとう、キリカ」

キリカ「どういたしまして。...あったよ、織莉子」

織莉子「これで揃ったわね。世界を救う...そのために、あなたにも協力してもらうわよ、『優木沙々』」

445: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:32:00.85 ID:8U1V8gw50
向こう側の世界

ワルプルギス「......」

無常「...アブソープション」

ズズズ

無常「ッ...!」

無常(わずかに吸っただけで、力が増大して...なるほど、これが織莉子が言っていた、強大な力ですか)

無常「その禍々しく、大いなる力...全て頂きます!私のアルター『アブソープション』と、彼女から奪った、全てを操る力で!」


446: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:33:20.78 ID:8U1V8gw50
――――――――――――――――――――

沙々「う...ん...」

沙々(あれ...私、今までなにを...確か、ヘビみたいな奴に絡まれて、それで...)

織莉子「おはようございます。優木沙々」

沙々「ッ!?だ、誰ですか!?」バッ

キリカ「おっと、動くなよ。こちとら穏便に済ませたいんだ」

沙々「くっ...」

沙々(チクショー、なんなんだよ。あの蛇兄ちゃんといいこいつらといい、今年の沙々は厄年か!?)

織莉子「落ち着いてきいてほしいの。あなたの現状とソウルジェムについて...ね」

447: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:34:40.09 ID:8U1V8gw50
***************************

沙々「おっと、中々イカス魔女じゃないですか~!」

魔女「......」

沙々「それじゃあ早速...ゲェ~ット!...って」サッ

沙々(よく見たら一般人もいるじゃんか...見られるとマズイし、仕方ないから魔女があいつらを喰うまで...)

異納「...『ブレード・ダンス』」

シュピン

沙々(!?いま、あの紫髪の男から剣を持った何かが出てきて...魔女を一瞬で切り裂いた...!?)

異納「今のは何でしょうか。アルターではないとは思いますが...」

無常「そうですねぇ...そこに隠れてる、小さなプリンセスに聞いてみましょうか」ギョロ

沙々「!」

沙々(バレてた...!?)

沙々「...くふふっ、私がいることがよくわかりましたねぇ~。でも、知らない方がいいこともあるってお母さんに習いませんでしたかぁ?」

無常「つまり、あなたはあの怪物について知っていると」

沙々「ええ、知ってますよぉ。でも、安心してください。ここで見たことは何もかも忘れさせてあげますからぁ」

無常「それは楽しみですねぇ」

沙々「さぁ、出番ですよ。私のかわいい魔女さん達」ズズズ

無常「これはこれは...」

沙々(で、こいつらが気をとられてる隙に...逃げる!)ダッ

448: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:35:31.87 ID:8U1V8gw50
沙々(冗談じゃねー!あんなワケのわからない奴ら相手になんかしてられるかっつーの!)

無常「おやおや、随分と冷たいですねえ」

沙々「げっ!」

沙々(もう追いついてきやがった...魔女はもう一人が相手をしてるみたいだし...仕方ない)

沙々「喰らいなさい...私の魔法!」キィィ

無常「!」

カッ

沙々(ざまあみやがれ!何者かは知らないけど、操っちゃえばこっちのモンさ!長くは続かないだろうから、今の内に逃げて...)

無常「『そこから動くな』...と、頭の中に響いてくる...なるほど、あなたの能力はそれですか」

沙々「き、効いてない...!?」

無常「実にいい...私好みの力です。その力、いただきます。『アブソープション』」


******************************

449: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:37:14.36 ID:8U1V8gw50

織莉子「...そして、あなたの能力が奪われた後、私は彼らと接触し、一時的に同盟を組んだのです」

沙々「その辺りはあんまり興味がありませんが...それより、私の本体はこのソウルジェムで、濁りきったら魔女になってしまう...と?」

織莉子「理解してもらえたかしら」

沙々「でたらめにも程がありますよ。...といいたいですが、証拠が揃い過ぎてますしねえ」

織莉子「意外に冷静なのね」

沙々「あんな目に遭いましたからねえ。大抵のことは、死ぬよりマシって思えますよ」

織莉子「...それで、私たちに協力するつもりは?」

沙々(あんなのには金輪際関わりたくないですからね...絶対にノゥ!と、言いたいところですが...)

沙々「もし、あなた達が失敗したら、私は...」

キリカ「消されるか...よくて、あいつのペットだろうね」

織莉子「約束するわ。この戦いの後、私たちは絶対にあなたに手を出さない」

沙々(胡散臭いことこの上ないですがねぇ...こいつらと蛇男、どっちの方がマシかっていったら...ねえ...)

沙々「はぁ...わかりましたよ。やります。やらせていただきます」


450: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:37:52.48 ID:8U1V8gw50
――――――――――――――――

さやかちゃんと杏子ちゃんが死んだ。

傷だらけのクーガーさんが二人を連れて帰ってきて、初めて知った。

それは、あまりにも突然すぎて。

わたしは、受け入れて前を向くことなんてできなくて。

ただただ、泣くことしかできなかった。

451: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:39:53.26 ID:8U1V8gw50
ホムホーム

ワルプルギスの夜 襲来予定の数時間前

まどか「......」

ほむらちゃんとクーガーさんは、病院ではなくこの家で療養させていた。

病院では異常事態が起こった時にどうしようもないという、上条くんからの提案だった。

彼もまた、さやかちゃんから少しでも目を離した自分を酷く責めていた。

未だに目覚めないほむらちゃんの左腕に触れてみる。

失くした筈の左腕は、内側が金属のようなものに変わっていて、皮膚のところどころにヒビが入っていた。

きっと、ほむらちゃんはあの子の中で戦ったのだろう。

クーガーさんも、未だに目を覚まさない。

傷ついた身体で、それでもさやかちゃん達を探し出してくれた。

さやかちゃんもマミさんも杏子ちゃんも仁美ちゃんも。

あの場にいたみんながみんなボロボロになって、精一杯に戦ったのに...

わたしだけは、嫌なくらいにピンピンしてて、なにもできなかった。


452: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:40:36.52 ID:8U1V8gw50
ほむら「...まどか」

まどか「ッ...!ほむらちゃん!」バッ

ほむら「わっ!?」

まどか「よかった...ほむらちゃん...」

ほむら(私は...たしか、無常矜侍に捕まって、それで...)

ほむら「他のみんなは...?」

QB「それについては僕が教えてあげるよ」

453: ◆do4ng07cO. 2014/06/06(金) 01:41:38.33 ID:8U1V8gw50
ほむら「キュゥべえ...?」

QB「クーガーはご覧のとおり、そこで眠っている。命に別状はないけれど、いつ目覚めるかはわからない。志筑仁美も、片腕は失ったけれど命に別状はない。マミは、少しでもグリーフシードを集めにいっているよ」

ほむら「......」

QB「ただ、さやかと杏子は死んでしまったけどね」

ほむら「!」

QB「まさか、僕もあんな形で脱落するとは思わなかったよ。でも、きみにとっては良い結果をもたらしたんだ」

まどか「え...?」

QB「おめでとう、暁美ほむら。きみは、苛酷な戦いの末に、ようやく目的を果たすことができたんだ」

ほむら「どういうこと...!?」




QB「ワルプルギスの夜は、消滅した」

455: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:16:59.10 ID:juKdLQg80
****************************

織莉子「...もうすぐよ。覚悟はいい?」

キリカ「私はいつでも大丈夫だよ」

沙々「さっさと終わらせちゃいましょう」

織莉子「沙々さん、準備を」

沙々(あいつに能力を奪われたとはいえ、意思のない人間一人を操るくらいならなんとか...)カッ

イーリャン1「......!」ビクン

沙々「成功しましたよ、織莉子さん」

織莉子「沙々さん、絶対知覚を!」

沙々「頼みますよ、お坊ちゃん」

イーリャン1「......」ピピピッ

織莉子(もうすぐ...もうすぐで、全てが終わる...)

キリカ「織莉子、危ない!」

ザシュッ

456: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:17:41.87 ID:juKdLQg80
異納「...外したか」

織莉子「くっ...」

キリカ「こ、のぉ!」ブンッ

ガキィン

異納「やはり危惧した通りだった...あなた達は危険すぎる。無常様のため、抹消させていただきます」

キリカ「お、織莉子!」

織莉子「大丈夫よ、キリカ。ここまでは、予知で見た光景通り...後は、私たちが何秒もつかで全てが決まるわ」

457: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:18:24.28 ID:juKdLQg80
沙々(...ちょぉ~っとヤバイんじゃないですかねえ。美国織莉子はともかく、呉キリカの方はだいぶ動きが鈍ってるし...)

イーリャン1「......」

沙々「早くしてくださいよ...このままじゃ私の命があぶないんですからねえ」

イーリャン1「......」ピリッ

沙々「お?」

沙々(何か黒いモヤみたいなのが映って...!)

沙々「織莉子さぁん、出ましたよ!」

458: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:19:12.33 ID:juKdLQg80
織莉子「...キリカ」

キリカ「おっけー!速度5割減!」

異納「むっ!?」

異納(魔力を振り絞って...だが、こんなことをすればすぐさま魔女に...)

織莉子「異納泰介...あなたが無常矜侍ときてくれて、本当によかったわ。これで、世界は救われる」

キリカ「悪いけど...あんたの命、使わせてもらうよ」ズッ

異納「なに...!?」

キリカ「ストレイト・クーガーと戦っておいてよかったよ。おかげで、こうして『向こう側』へと繋がりやすくなった」

キリカ「織莉子...後は頼んだよ」ニッ

織莉子「...ええ」

キリカ「最大出力...ヴァンパイア・ファング!!」

459: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:19:50.80 ID:juKdLQg80
向こう側の世界


ワルプルギスの夜が、一欠片も残さず、無常に吸い尽くされた。

無常「あはははは!素晴らしい!力が溢れてたまりません!!」

渇きは埋まった。最早、誰にも負ける気がしない。

魔法少女たちもマーティン・ジグマール率いるHOLY部隊も劉鳳も本土の連中も。

誰一人としてこの力の前ではごみ屑同然!

無常「私が世界を制する者であり頂点だ!」

誰も私を止めることなどできはしない!

無常「私が...神だ!」




「―――オラクルレイ」


460: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:20:32.27 ID:juKdLQg80
幾千もの光線が、無常の身体を貫く。

無常「は...?」ガフッ

貫いたのは、織莉子。衣服も身体もボロボロになりながら、それでも眼光は鋭さを失ってはいなかった。

織莉子「...ワルプルギスの夜の最大の脅威は、その巨大さ。単純なことだけど。それ故に強い。だから、いくら攻撃しようとも怯まない...」

織莉子「でも、あなたは違う...どれほど強大な力を持とうが、所詮は人間。心臓を撃ちぬかれればそれで終わり...あなたの力が現世に具現化する前のここでなら、被害もなく全てを終わらせることができる...」

無常「ぁ...」

無常が何かもごもごと言いながら、手を伸ばす。

しかし、織莉子はそれすら許さない。

その手の甲を撃ちぬくと、無常の身体は粒子状に溶けだしていった。

決着は、あまりにも呆気なく着いた。

461: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:21:58.82 ID:juKdLQg80

織莉子(これで...終わった...)

幾人もの人を傷付け、犠牲にして、相棒すら失って。

その果ての終着地点を織莉子は掴みとった。

自分の行いが正義だとは思わない。もしも、あの世なんてものがあるのなら、間違いなく地獄行きだろう。

今まで犠牲にしてきた者たちへの謝罪を想いながら、目を瞑る。

最後に彼女の目蓋の裏に映るのは―――

***************************

462: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:23:03.43 ID:juKdLQg80
―――――――――――――――――

QB「織莉子の目的は、君たちの抹消ではなかった。彼女たちの狙いは三つ。一つは、ワルプルギスの夜を倒すこと。二つ目は、まどかを契約させないこと」

QB「そして最後に...ほむらにこれ以上時間を巻き戻させないことだ」

ほむら「え...?」

QB「彼女は、君たちがどうあがこうとも敵わないことを予知していた。だから、これ以上君に世界をやり直させないために、この時間軸で全てを終わらせようとしたのさ」

QB「彼女は、無常矜侍とワルプルギスの夜を排除すべき対象とみなした。その双方を消し去るには、どうしても『向こう側』の世界を利用する必要があった」

QB「『向こう側』の世界へ無常矜侍を送り込み、ワルプルギスの夜とともに消滅させる...それが、彼女の狙いだったのさ」

463: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:23:49.36 ID:juKdLQg80
まどか「じゃあ...なんでさやかちゃんと杏子ちゃんを殺したの!?二人は関係ないじゃない!」

QB「『向こう側』への扉を開くには、昂った感情と膨大な魔力が必要なんだ。それこそ、己の身も持たないほどのね」

QB「そして選ばれたのが、感情が昂ぶりやすい二人だったというわけさ。まあ、アルター使いの無常がいたから、繋がりやすかったというのもあるけどね」

まどか「そんな勝手な理由で...!」

QB「でも、その勝手な理由のおかげで、君たちはこうして生きていられる。違うかい?」

まどか「......!」

QB「でも、きみが納得できないというのなら、願えばいい。そのための僕だ」

ほむら「!」

チャキッ

464: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:24:45.88 ID:juKdLQg80
ほむら「お前は...まだそんなことを...!」

QB「...まどか。きみは知りたくないかい?なぜ、織莉子があんな真似をしてまできみを契約させたくなかったか」

まどか「...うん」

ほむら「まどか!」

まどか「...大丈夫。わたしは、大丈夫だから...」

QB「ならば教えよう。正確に言うと、彼女が防ぎたかったのは『まどかが契約すること』ではなく、『まどかがこの一か月の間に契約すること』だ」

QB「話せば長くなるけど...そうだね、まずはソウルジェムのことから話そうか」

465: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:26:18.92 ID:juKdLQg80
~QB、ソウルジェムの魔女化について説明中~

まどか「魔法少女がいずれ...魔女になる...!?」

QB「そう。ほむらや織莉子がどうしてもきみを契約させたくなかったのは、それが理由さ」

クーガー「なるほどな...のむらさんが言いたくなかったわけだ」

ほむら「クーガー...あなたもう...」

クーガー「ええ、ご覧のとおり。キュゥべえ、魔女の強さは元の魔法少女の強さと比例するってことか?」

QB「正確には素質だけどね」

まどか「どうしてそんなことを!?」

QB「宇宙のためさ。勘違いしないで欲しいけど、僕らはなにも君たちに敵意があるわけじゃない。全ては宇宙の寿命を延ばすためなんだよ」

~まどマギ本編とほぼ同じ説明なので略します~

QB「...そして、最高の素質を持つまどかが契約し、魔女となれば無尽蔵のエネルギーを生みだすはずだった」

クーガー「はずだった?」

QB「織莉子たちが、まどかの因果線を断ち切ってしまったんだ」

466: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:28:19.21 ID:juKdLQg80
QB「暁美ほむら。さっきも言った通り、きみが何度も時間を巻き戻してきたために、幾つものへ移行世界のまどかの因果を束ねていた。その過程で、『まどかが無事では、具現化したワルプルギスの夜を倒せない』という運命は固定されてしまった」

QB「だが、織莉子がワルプルギスの夜を消滅させてしまった。その所為で、まどかに絡みついていた因果線は解けてしまったんだ」

クーガー「つまり...」

QB「今のまどかに大した素質はない。だから、契約しても世界を滅ぼすことはないということさ。もっとも、素質自体はまだ残ってるから僕がいなくなることはないけど...それより暁美ほむら」

ほむら「?」

QB「きみは嬉しくないのかい?なにはともあれ、きみの願いは果たせたんだ。こういった時、人間は喜ぶものじゃないのかい?」

ほむら「......」

ほむら(そう...ワルプルギスの夜がいない以上、まどかが契約することはないし、私が戦う理由も消える。なら、どうして...)

ほむら(どうして、こんなに苦しいの?)

QB「やはり、人間の感情というものはよくわからないや。だからこそ、凄まじいエネルギーを生みだすんだろうけどね」

467: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:29:14.40 ID:juKdLQg80
************************

彼が手に入れた力が、空間中に散らばっていく。

無常矜侍は、間もなく手に入れた力と共に消滅する。

それは覆せない筈の運命だった。

無常(いやだ...)

だが、ここは『向こう側』の世界。

人間の欲望を色濃く反映する世界。

それは、無常矜侍も例外ではない。

無常(嫌だぁぁ~~死にたくないィィィ~~!!)

彼の手に入れた力が、生への渇望が、欲望が、反骨心がこの世界と呼応し、一つの奇跡を起こした。


*********************

468: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:29:59.83 ID:juKdLQg80
―――キィン

QB「!」ビクゥ

まどか「キュゥべえ...?」

QB「...先の言葉は訂正するよ。ほむら、きみの目的は確かに果たされた。でも、きみの戦いはまだ終わってはいない」

ほむら「え...?」




QB「無常矜侍はまだ消滅していない。どうやら、織莉子は失敗していたみたいだ」

469: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:32:16.89 ID:juKdLQg80
****************************

「どうしたの、こんなところに座り込んで」

織莉子「...人を殺したの」

織莉子「みんなを助けたくて、そのために何人も犠牲にして...でも、その人達の死も無駄にしてしまって...残った人に全てを押し付けてしまって...」

「それで立てないんだね」

織莉子「......」コクリ

「...同じだね」

織莉子「え...?」

「わたしもそう。大好きなみんなと一緒にいたかっただけなのに、結局どうすることもできなくて...全部あの子に任せる形になっちゃったの」

織莉子「あなた...?」

「一緒にいこう。あなたの大切な人も待ってるよ」

織莉子「大切な...っ!」

「これからは、ずっと一緒にいられるよ。だから、もう苦しまなくていいんだよ」

*****************************

470: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:33:30.70 ID:juKdLQg80
向こう側の世界

織莉子の身体が、魂が、粒子状に分解され、吸いこまれていく。

それを吸い込んだ手の平を、"それ"はじっと見つめていた。

その視線に込められた意味はなんなのか、それは誰にもわからない。

"それ"は何も発することなく、感情を見せることもなく、向こう側の世界への深淵へと姿を消した。



『ウフフ...ウヘハハハハハハハ!!』

"それ"が立ち去った後の空間に、狂人のような笑い声が木霊していた。

471: ◆do4ng07cO. 2014/06/14(土) 02:34:42.24 ID:juKdLQg80
第9話『暁美ほむら』

遠い日の約束 すれ違ってきた身体 すれ違ってきた心

絶望が支配する螺旋の中で彼女は誓った

あなたを救うと 必ず救うと

だから戦う その運命に、反逆する

474: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:17:37.13 ID:39Vc+g/A0
「ししょー!」

「なんじゃ騒々しいのお、ジグマール」

「女の人が、ししょうに会わせてって...」

「なに?女?」

ズルッ ズルッ

「...なにか引きずっておるのか?」

「は、はい。ぐったりした女の人を連れて...」

「バカモン!男だったら、手伝いの一つくらいしてやらんか!」

「す、すいません!」ダッ

「まったく、相変わらずどこか抜けておるのぉ」

ガチャリ

「ありがと、ジグマールくん...」

「あ~お嬢ちゃん。ワシに何か用かのう?」

「あんたが、アルター仙人...?」

「いかにもそうじゃが...どこでその名を聞いたんじゃ?」

「お願い...この子を助けて...あたしの友達なんだ!」

***********************

475: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:18:43.26 ID:39Vc+g/A0
劉鳳「―――長。隊長!」

ジグマール「―――ハッ!」

瓜核「随分うなされてましたが、悪い夢でも見てたんッスか?」

ジグマール「すまない...何か用があったかな?」

劉鳳「いえ、もうすぐHOLY部隊の集会の時間ですので...」

ジグマール「わかった。すぐに向かおう」

476: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:20:05.21 ID:39Vc+g/A0
瓜核「珍しいな、隊長が居眠りなんざ...」コソコソ

劉鳳「ああ...ストレイト・クーガーの行方も知れず、アルター犯罪者も増え続けているからな...」

瓜核「こりゃ、俺たちがしっかり支えてやんねーとな」

ジグマール「劉鳳、瓜核」

劉鳳「はい」

ジグマール「君たちは、青い髪の少女と桃色の髪の少女に心当たりはないか?」

劉鳳「いえ...瓜核、お前は?」

瓜核「俺もありませんぜ。その子達が、どうかしたんで?」

ジグマール「いや、いい。気にしないでくれ」

ジグマール(...私におぼろげに残っている記憶...何故、今さらこんな夢を...)

477: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:22:50.54 ID:39Vc+g/A0
第九話『暁美ほむら』


私たちの色んなものを壊していった無常矜侍が生きている。

キュゥべえがそう告げた時、わたしは震えあがった。

顔も知らない相手だけれど、また奪われるのが、怖くてたまらなかった。

いつも自信満々なクーガーさんでさえ、顔を引き締めていた。

なのに、なぜかほむらちゃんは...笑っているように見えた。

478: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:26:11.08 ID:39Vc+g/A0
―――――――――

QB「どうするんだい?僕としては無常矜侍と戦うことはオススメしない。なんせ、君たちの戦力はガタ落ち、まどかももはやただの一般魔法少女とほとんど大差なくなってしまった。勝てる保証はないよ」

マミ「私は逃げないわ。逃げる意味が無いもの」

クーガー「俺も同じ意見です。なにより、あいつには借りがありますから」

ほむら「逃げたところで、あいつがまどかに危害を加えないわけがない。ここで終わらせるわ」

QB「そうかい...ほむら、この先のことはきみにもわからないのだろう?なら、これまでと変わらず僕は見届けるまでだ」

QB「ただ、気をつけてくれ。彼は己の欲望で未来を変えるほどの化け物だ。準備と警戒はし過ぎるということはないからね」

ほむら「今回はやけに私たちの肩を持つわね。何を企んでいるの?」

QB「僕としても、無常矜侍にきみが殺されてもらっては困るからね。きみから感じ取れるようになった力は凄まじいものだ。まどかほどではないにしろ、僕の知る中でもまどかの次に凄いものだ」

クーガー「長い目でみれば彼女が生き残った方が得ってことか?」

QB「そうだね。ほむらが魔女になった時、きっと素晴らしいエネルギーを生みだしてくれるだろう」

クーガー「...ったく、少しはいいところあると思ったら、ブレないな、お前さんは」

479: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:26:58.56 ID:39Vc+g/A0
まどか「...今日、なんだね」

ほむら「ええ。うまく言えないけど、感覚でわかるの..."あいつ"に取り込まれてたからかな?」

まどか「...勝てるかな」

ほむら「...わからない。でも、あなたは必ず守る。それだけは約束するわ」

まどか「......」

ほむら「...じゃあ、行ってくるね」

まどか「待って。もう一つ...約束して」

まどか「ほむらちゃんだけじゃない...クーガーさんもマミさんも、誰も死なないで」

ほむら「...ええ。約束するわ。私たちは、もう一度あなたのもとへ帰って来る」

480: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:28:47.31 ID:39Vc+g/A0
―――――――――――――――――

クーガー「あれから一週間ですよ、一週間。一週間あればなにが出来ると思いますか?週刊誌ならもう次の号が発売されている。日刊新聞なら7部も読めることになる。カップラーメンなら3360個も作れる。そして、俺たちなら充分に準備ができる時間でもある」

マミ「...ほんと、あなたは変わりませんね」

ほむら「クーガー、巴さん。手筈通りに頼むわよ」

クーガー「わかってますよ、のむらさん」

ほむら「ほむらよ」

クーガー「あぁっと、すみません」

ワルプルギスの夜が訪れる筈だった日付を、もう一週間も過ぎている。

たった一週間。だが、さやか達が作ってくれたこの一週間を無駄にすることはできない。

クーガーの言った通り、準備は出来ている。

マミ「...ソウルジェムの反応が強くなってきたわね」

ほむら「―――くるっ!」

481: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:30:04.48 ID:39Vc+g/A0
ウフフ...ウヘハハハハハ!』

向こう側の世界からやってきたもの。

ワルプルギスの夜と同等かそれ以上の灰色の巨体。何本も生えた手足。

身体の至る所に空いた大穴、背中から生えた突起。

その姿は、アルター使いでも魔女でもなく、正に怪物。

クーガー「...こいつはまた、スゴイのがきたもんだ」

マミ「あれが...無常矜侍」ギリ

ほむら「...私としては、あなたが世界を征服しようが何をしようが興味はない。でも、あなたは私の壁。まどかに害を為す存在。だから...」

ほむらが、魔法少女の衣装に包まれる。

本来なら左腕に現れる盾はなく、代わりに禍々しく、ドス黒い翼が背中から湧き出した。

ほむら「殺してあげるわ、無常矜侍」

翼が、三人と怪物を呑み込んだ

482: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:30:59.48 ID:39Vc+g/A0
避難所

『見滝原市で発生していたスーパーセルが突如消失しました。現在原因を調査中ですが、避難所の方々は今しばらくその場で待機していてください』

まどか「ほむらちゃんたちは、勝てるの...?」

QB「さあね。無常矜侍も暁美ほむらも、底のしれない力があるからね。どっちに転ぶかは僕もわからない」

まどか「...そう」

QB「まったく、ここまで予想がつかない事態は初めてだよ。厄介というべきなのかな」

QB「どの道、並み程度の素質しかなくなってしまったきみは、大人しくここで待つべきだと思うよ」

まどか「......」ギュッ

QB「どうしたんだい?」

まどか「...ごめん、落ち着けないの」

まどか(ほむらちゃん、マミさん、クーガーさん...)

483: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:32:12.24 ID:39Vc+g/A0
―――――――――――――――――――――

無常『ケヒャヒャヒャヒャヒャ!!』

クーガー「どうも、正気を失ってるみたいだな」

ほむら「巴さん、クーガー。援護を頼むわよ」

マミ「...ええ」

ほむらが翼を広げ、無常のもとまで飛んでいく。

無常の背中の突起から、幾千もの光線が放たれる。

光線がほむらを貫くが、しかし彼女の姿は、まるで幻覚であったかのように掻き消えた。

ほむら「喰らいなさい」

ほむらが手にするのは朱色の槍。無常の幾多もある腕のうちの一本を突き刺し、引き裂いた。

484: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:36:31.07 ID:39Vc+g/A0
使い魔『キャハハハ!!』

ほむら「『アレグロ』」

手に持つ槍が剣に変わる。

ほむらの足元に浮かび上がる音符の紋様が刻まれた魔法陣。

それを踏みしめたほむらは、目にも止まらぬ速さで使い魔たちの合間を駆け抜け、無常の腹を切り裂いた。

だが、そこからは大した血が出ることもなく、僅かな切り傷しか残せなかった。

ほむら(ッ...!思ったより固いわね...)

無常『ケハハハハハ!!』

無常の腕が振るわれる。

ほむらが咄嗟に右腕で庇うが、耐え切れず、ミシミシと音を立てて吹きとばされる。

追い打ちをかけるように光線が放たれ、ほむらに直撃する。

ほむら「...『影の魔女』」

しかし、ほむらにダメージはない。

幾多もの影が、光線からほむらの身を守ったのだ。

485: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:38:29.97 ID:39Vc+g/A0
時間停止の代わりに得た、ほむらの新しい力は記憶。

飛行能力だけではなく、翼の範囲内に、魔女に類似した結界を創りだすことが可能。

更に、結界の中では、ほむらが体験してきた戦いの記憶を己の力にすることができる。

即ち、今のほむらは、今まで戦ってきた全ての魔女の力を手に入れたに等しい!

だが、欠点はその持続時間。

10分もしない内にこの結界は崩れ去り、ほむらは何も使えない無力な魔法少女へとなるだろう。

全てを捨ててでもこいつを倒す。それが、『進化』を得るためのほむらの覚悟だった!

486: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:39:19.29 ID:39Vc+g/A0
ほむらの背後から、大量の車輪が現れる。

放たれる車輪が、次々に使い魔を蹴散らし、無常本体にも被弾する。

やはりというか、無常には大した傷はつかない。精々、注意を引き付ける程度だった。

しかし、ほむらの狙いはそれで十分だった。

いくら強化されたとはいえ、元が貧弱の彼女である。最初から、無常の厚い壁を突破できるとは思っていなかった。

それは、ほむらの役目ではない。

クーガー「ラディカル・グッドスピイイィィィド!!」

それは、彼らの役目だ。

487: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:40:10.75 ID:39Vc+g/A0
タンクローリーの上に片膝をついているクーガー。

アルター能力で、タンクローリーのフォルムを分解・再構成。

速度が何倍にも増したタンクローリーが、切り立った橋から無常へと飛んでいく。

そして、クーガーが跳び下りるのとほぼ同時に、タンクローリーが無常の横っ面へと衝突し、爆発した。

さしもの無常も耐え切れなかったのか、ブルブルと顔を何度も振るう。

そして、目を開いた先に映るのは、突き付けられた巨大な銃口。

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

銃身を文字通り、無常の右目に突き刺し、躊躇いなく引き金を引いた。


488: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:41:31.46 ID:39Vc+g/A0
無常『ウギャアアアアアァァァ!!』

痛みを感じたのか、絶叫をあげもがき苦しむ。

マミが無常から振り落とされるが、地面に叩き付けられる寸前でほむらが受け止めた。

マミ「ありがとう」

ほむら「...少しは効いてくれたみたいね。それがわかるぶん、ワルプルギスの夜よりはマシかもしれないわね」

クーガー「だといいんですがねえ。ただ、奴もこのままやられっ放しでいてくれないのは確かです」

ほむら「だからこそ、あいつの自我がない今がチャンスよ」

クーガー「わかってますよ。勝負ってのは最速で決めるに限りますから。それじゃ、第二ラウンドといきますか」

無常『ゲヒャハハハハ!』

489: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:42:46.21 ID:39Vc+g/A0
ほむらが注意を引き付け、クーガーが車やミサイルをアルターで加速させてぶつけ、マミが的確に急所を撃ちぬいていく。

三人の連携は、確実に無常へダメージを蓄積していった。

しかし、連携というものは、イレギュラーが起こればたやすく崩れ去るもの。

マミが、無常の額の孔に撃ちこんだ時だった。

無常『アアアアァァアァアアアア!!』

突如、苦しみ方が変わり、光線をやたらめったらに撃ちだした。

命中率の低い攻撃ではある。しかし、不幸なことに、無常の身体に繋いでいたマミのリボンが焼かれ、マミの身体は落ちていく。

勿論、マミもリボンが解かれた時のことを考慮していないわけではない。また、地面もそう遠くないため、ダメージを受けることもない。だが、マミの不運は続く。

無常は、落ちていくマミを見つけ、額の孔に光を溜めていた。

マミ(...!)

だが、光線が放たれる直前、マミは見た。見ることができた。

額の孔の奥に、核のような球体にヒビが入っていたことを。

次の瞬間、マミは光線にのまれてしまった。

490: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:43:29.71 ID:39Vc+g/A0
クーガー「マキさん!」

『クー...ガー...さん、暁美...さん...』

ほむら「!」

『額の...孔の...核を!』

それきり、テレパシーは途絶えてしまった。

ほむら「ッ...クーガー!」

クーガー「了解!」

無常の額に再び光が収束する。

本来ならば、じっくりと反撃のチャンスを伺いたいが、ほむらの翼も長持ちはしない。

次に巨大な光線を放つのに要する時間は10秒ほどといったところだろうか。その時間は彼の前では十分すぎる時間だった。

491: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:44:32.64 ID:39Vc+g/A0
―――10秒


クーガーがほむらを背負い、ラディカル・グッドスピードで駆けていく。


―――9秒

またもや、光線がまばらに放たれるが、所詮は命中率の低い攻撃であり、ましてや彼の速さに付いてこられるはずもなかった。


―――8秒

無常の足元にまでたどり着くと、そこから一気に跳躍。あっという間に額の高さまで到達し、右足に乗せたほむらを、オーバーヘッドキックの要領で発射する。

―――7秒

スキだらけになったクーガーに、無常の腕が振るわれる。

メキメキと音を立てて地面に叩き付けられ、砂埃が巻き上がる。それと同時に、ほむらは額へと到達。

ほむらは振り返らなかった。振り返れば、その分だけ彼らの意思が無駄になるからだ。

使い魔たちが群がり、ほむらの身体を傷付け、削っていく。

だが、相手をすることもなくほむらは突き進む。

―――2秒

孔との距離は目と鼻の先。手を伸ばせば、十分に球体にとどく距離だ。

ほむらの指先が、孔の奥の球体に触れ、そして


―――1秒

ほむら「...え?」



ほむらの翼が消え去った。

ほむら(うそよ...なんで...私は、まだやれ―――)









―――0秒

492: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:45:07.68 ID:39Vc+g/A0
――――――――――――――――――――――

QB「...これはマズイ。三人とも、かなり危ない状況だ」

まどか「え...?」

QB「今はかろうじて息があるみたいだけれど、時間の問題だろう」

まどか「......!」

反射的に駆け出すまどか。

自分に何が出来るかなんてわからない。

ただ、このまま何もせずにいられるほど、まどかは大人ではなかった。

493: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:45:58.37 ID:39Vc+g/A0
――――――――――――――――

無常『クッ...ハハハ...!素晴らしい...なんという力...あの程度で満足しかけていた私が恥ずかしい...』

ほむらの翼は、まだ制限時間を過ぎてはいなかった。それにも関わらず、彼女の作った結界が崩壊していく。

無常『美国織莉子...感謝しますよぉ。あなたのお蔭で、私は更なる高みへと上り詰めたのですから』

彼女の翼を消したのは、無常のアルター『アブソープション』。

本来なら、ほむらの力を吸収できるほどの力はない。

だが、皮肉にもダメージを蓄積させてしまったがゆえに自我を取り戻させてしまい、尚且つ絶大な力を得た無常のアルターは、ほむらの進化さえも吸収できるほどのものとなっていた。

無常『さて...敵はいなくなったことですし、手始めにこの見滝原を...おや?』

494: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:46:44.77 ID:39Vc+g/A0
ほむらの前方で、ロボットのような魔女が佇んでいる。

ほむら「うぅっ...」

全身を焼かれ、右足がへし折れているものの、ほむらはかろうじて生きていた。

光線が放たれる直前、死を直感したほむらは、無意識の内に残された力で能力を発動させていた。

発動した『逆転の魔女』がほむらを庇い、即死を防いだのだった。

しかし、許容量を超え、逆転の魔女は塵となり消え去った。

ほむら(私は...まだ...戦え...)

左手を前方へと伸ばすが、やがて力失く地に落ちる。

無常『しぶといですねえ...一思いに楽にしてあげましょう』

無常が掌を振りかぶり、ほむらに振り下ろした。

495: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:47:24.81 ID:39Vc+g/A0
クーガー「衝撃の...ファーストブリットォォォ!!」

無常の腕に、高速の蹴りが食い込み、ほむらに振り下ろされていた腕の軌道が剃れた。

無常『ぐあぁ...!』

衣服は赤く染まり、息も絶え絶えに。しかし、片目が壊れた黒サングラスから覗く眼光だけは鋭いままだった。

ほむら「クーガー...」

無常『五月蠅い羽虫だ...そんな身体のあなただけで何ができますかねぇ?たかが一アルター使いのあなたに!』

クーガー「そいつはお互い様だ」

無常『なにを...ぐぅっ!?』

クーガー「どうやら、さっきまでの俺たちの行動も無駄じゃなかったみたいだな。それに、それだけの力さ。何のリスクもないわけがない」

無常『リスク...いいでしょう。あなたたちを消滅させてから、ゆっくりと克服することにしましょう...ぐああっ!...アヒャハヒャヒャ』


496: ◆do4ng07cO. 2014/07/01(火) 02:47:59.15 ID:39Vc+g/A0
ほむら「...逃げて、クーガー。速さだけなら、あいつなんかに負けないでしょう」

クーガー「......」

ほむら「私はもう駄目。あなただけでも、まどかのところに...」

クーガー「...悪いが、そいつは聞けません」

言うが早いか、クーガーはほむらを両手で抱きかかえた。

ほむら「なっ...」

クーガー「必ず帰ると約束したのでしょう?なら、あなたに諦めている暇はない筈だ」

ほむら「は、離して!死にたいの!?」

クーガー「ご心配なく。俺は手より足を使うタイプですから」

ほむら「...バカ」

クーガー「一途な男は、バカに見えるものですよ

499: ◆do4ng07cO. 2014/07/08(火) 00:49:18.44 ID:bhev0Ult0
「な、なにあれ...?」

「怪獣...!?」

「逃げろォォォ!!」

魔女と違い、無常の身体はあくまでも物質。魔力のない人間でも触れるし、見ることもできる。

ほむらの結界が解かれ、姿を現した無常の異形さに、避難所中は混乱に陥っていた。

ゆま「あれ...?」

仁美「まどかさん...?」

一緒に避難していた筈のまどかがどこにも見当たらない。

仁美「まさか...!」

失くした右腕が、チリチリと痛む。

嫌な予感がした。

仁美とゆまは、人混みの流れに逆らい、避難所の出口へと向かった。

500: ◆do4ng07cO. 2014/07/08(火) 00:50:25.97 ID:bhev0Ult0
クーガー「遅い!そんな攻撃では俺は捉えられない!」

無常の腕を、光線を、紙一重で躱し、ケリを入れる。

動きは単純。それ以外に彼のうつ手段はない。

無常(馬鹿な...)

だが、無常はクーガーを捉えきれない。既に瀕死な上、人一人を抱えた、生身の人間であるクーガーをだ。

無常(何故一アルター使いのこの男に...全てを超越した私が翻弄されている!?)


501: ◆do4ng07cO. 2014/07/08(火) 00:51:33.60 ID:bhev0Ult0
クーガーは一度敗北した。

だからこそ、乗り越えるために速くなる。

実にシンプルな思想。しかし、それこそがこの男の全てであり生き様。そんな彼のエゴが、アルターの能力を限界まで引き出すのだ。

クーガー「壊滅のセカンドブリットォォォ―――!!」

無常『ぐぅ...調子に乗るなァ!』

しかし、それでもまだ足りない。

捉えられない無常。決定打にかけるクーガー。

戦況は膠着していた。

502: ◆do4ng07cO. 2014/07/08(火) 00:52:24.24 ID:bhev0Ult0
無常『ええい、チョコマカと...ぐああっ!』

またもや、突如苦しみ始める無常。

無常『...エヘヘヘハヘヘ』

クーガー「成る程。少しは馴染んできたみたいだが、安定には程遠いってわけか」

また自我を失ったようだ。

希望は見えてきた。

その筈なのに、ほむらはよぎる不安を隠せなかった。

クーガーは強い。あの無常を相手に一歩もひけをとらない。

だがしかし、何かを見落としている気がする。

その答えが出る頃には、全てが手遅れだった。

503: ◆do4ng07cO. 2014/07/08(火) 00:54:27.10 ID:bhev0Ult0
使い魔「キャハッ!」

どこからか現れた使い魔が、クーガーの足を縫い付ける。

クーガー「なっ!?」

一瞬だった。

音もなく、使い魔は、突然現れたのだ。

使い魔「キャハハハハハ!!」

別の使い魔の笑い声が響き渡る

使い魔が、ほむら目掛けて槍型の影を放った。

クーガーはほむらを手放し、影に心臓部を貫かれた。

クーガーは残る力を振り絞り、足を縫い付けていた影をアルターで分解し、使い魔を蹴りでかき消す。

クーガー「...俺としたことが、迂闊、だったな」

無常の自我が途切れた時にだけ、性質が魔女に近づき、使い魔が現れる。

本人すら知らなかったその事実に気が付いた時にはもう遅い。

クーガーは、自嘲的な笑みを浮かべ、膝から地に崩れ落ちた。


504: ◆do4ng07cO. 2014/07/08(火) 00:55:35.84 ID:bhev0Ult0
ほむら「...ぁ」

クーガーの身体が、ほむらに重なるように倒れていく。

ほむらの身体に、クーガーの血が纏わりつく。

彼を嘲笑うかのように無常とその使い魔たちの笑い声が重なり響いている

ほむら「う...うあああああ!」

襲いくる使い魔を、渾身の力で殴りつける。

だが、悲しいかな。ただでさえ死にかけで、素質としては最弱の魔法少女では、使い魔にすら歯が立たなかった。

逆に使い魔に殴り飛ばされ、ビルの壁面に叩き付けられる。

無防備な彼女に建物の残骸が投げつけられ、そして




グ シ ャ リ

505: ◆do4ng07cO. 2014/07/08(火) 00:56:36.08 ID:bhev0Ult0
まどか「はぁっ...はあっ...!」

まどかが辿りついた時には、もう手遅れだった。

高笑いをあげる無常と使い魔たち。

まどか「やだ...」

その傍らで、ぐしゃぐしゃになっている大切な人。

駆けより、抱きかかえ、何度も名前を呼ぶが返事はない。

まどか「やだよ....」

彼女を抱きかかえた両手が、血で真っ赤に染まる。

まどか「イヤああああぁぁぁぁ―――!!」

まどかの悲鳴が、瓦礫だらけの街に響き渡った。

506: ◆do4ng07cO. 2014/07/08(火) 00:57:28.48 ID:bhev0Ult0
ほむら「うっ...」

どれほど経っただろうか。

朦朧とする意識と、全身を走る激痛に、自分が生きていることを実感する。

響く笑い声に、現実を突きつけられる。

ほむら(...ここまで、か...)

もう、時は巻き戻せない。

仮に巻き戻せたとしても、またまどかの因果が増えるだけ。

苦しさが、悔しさが、怒りが、ほむらの胸中を渦巻き、涙へと変わる。

黒ずんだソウルジェムに、涙が流れ落ちた。





瞬間、ほむらの左手を温もりが包んだ。

507: ◆do4ng07cO. 2014/07/08(火) 00:58:11.07 ID:bhev0Ult0
強大な敵と対峙するまどか。

それは、何度も見てきた、絶対に見たくなかった光景。

ほむら「そんな...どうして...」

それは、破滅しかない道。

もう、やり直しがきかないこの時間軸で、それでも彼女は選んでしまった。

まどか「...ごめんね、ほむらちゃん」






魔法少女の衣装に身を包んだ彼女は、寂しげに微笑んだ。

508: ◆do4ng07cO. 2014/07/08(火) 00:58:39.49 ID:bhev0Ult0
第10話『鹿目まどか』

クーガーが、背負ったものを解き放つ ほむらが、求め続けてきたもののために立ち上がる

その果てに何があるというのか 何もありはしない

ないからこそ求める 人は、求め続ける


511: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:11:15.70 ID:GyhmjCHu0
****************************

マミ「...そう、それが真実なのね」

遅れて合流したマミさんに、わたしたちはソウルジェムの真実を語った。

ほむら「...意外に動揺しないのね」

マミ「ええ。...そんなこと、もうどうでもいいもの」

その時のマミさんの目が、濁りかけたように見えて。

―――それが、あの時見せられた、泣きながら銃を構えたマミさんの姿と重なって。

まどか「だ、だめっ!」

たまらず、わたしはマミさんにとびついていた。

512: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:12:13.24 ID:GyhmjCHu0
マミ「か、鹿目さん?」

まどか「いつか魔女になるとか、そんなの関係ない!マミさんはマミさんだよ!」

みんなが呆気にとられたようにわたしを見ている。

やがて、マミさんがわたしの頭をなでてくれた。

マミ「大丈夫よ。私は生きることからも戦うことからも逃げない。絶対にね。暁美さん、クーガーさん、作戦をたてましょう」

マミさんは、いつものように温かく微笑んでくれた。言葉にも嘘はなかった。

でも、わたしは気づいていた。

マミさんの目からは、濁りが消え去っていなかったことに。

513: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:14:32.53 ID:GyhmjCHu0
―――――――――――――――――――


まただ。また失ってしまった。

いつもそうだ。

お父さんもお母さんも犠牲にして、私だけが生き残った。

佐倉さんの家族もそうだ。

私が気付かない内に、大切な人の大好きな家族は崩壊し、この世を去っていった。

...そして、佐倉さんと美樹さん。

あの時、私は異納泰介を撃つのをためらってしまった。

人間だから?敵ではあるけど、命をとる必要はないから?

違う。私は、臆病だっただけだ。

彼を殺した時に、仲間から向けられる視線が怖かっただけなんだ。

もし、あの時躊躇わず撃って、二人のもとに少しでも早く駆けつけていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。

後悔ばかりが湧き上がってくる。

いつだって私は、間違ってばかりなんだ。

...私はもう迷わない。

私はどうなってもいい。この手が汚れてもいい。だから...


514: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:16:28.05 ID:GyhmjCHu0
*******************************


私は、全身をリボンで包み、なんとか光線を退けた。

しかし、その衝撃は到底殺しきれるものではなく、身体の至るところに深手を負い、少しの間気を失っていた。

その少しの間に戦況は変わり果てていたようで。

左足を引きずり、暁美さんとクーガーさんを探し回る。

マミ「...ッ!」

そうして見つけたのは、胸を貫かれるクーガーさんと、暁美さんに迫る巨大なビル。

私はすぐさま暁美さんの足にリボンを巻きつけ、引っ張り上げた。

間一髪直撃は免れたものの、破片を防ぎきることはできず、私と暁美さんの身体に破片が幾つも刺さってしまった。

515: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:17:32.93 ID:GyhmjCHu0
マミ「うぐっ!」

私のお腹に激痛が走る。

血は流れているけれど、幸いにも深手ではない。

問題は、暁美さんとクーガーさん。

暁美さんは、ソウルジェムは無事であるものの、肉体の損傷が激しすぎる。

このままでは、濁りきるのも時間の問題だろう。

そしてクーガーさん。

彼が貫かれたのは間違いなく心臓。これが破壊されれば間違いなく人間は死ぬ。

マミ(お願い...間に合って!)

暁美さんとクーガーさんに、治癒の魔法をかける。

私の魔法は繋ぎ合わせる魔法。

クーガーさんが心臓を貫かれたのは今さっきのこと。

間に合えば、クーガーさんの心臓を治せるかもしれない。

...可能性は限りなく低い。

私の魔力は残り少なく、心臓を治しても蘇るとは限らない。

なにより、人を蘇らせるなんてことは奇跡そのもの。

それこそ、キュゥべえと契約でもしない限りできないほどのだ。

でも、そんなことはどうでもいい。

私は、二人にひたすらに魔力を注ぎ続けた。

516: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:19:23.18 ID:GyhmjCHu0

使い魔「キャハハハハ!!」

複数の使い魔が、いつの間にか私の背後に迫っていた。

マミ「―――!」

彼らに放たれる影を、打撃を、全て代わりに受け止める。

痛い、苦しい、倒れてしまいたい。

だが、反撃にも、自分の治療にも、痛覚を失くすことにも魔力を割く余裕はない。

それを知ってか知らずか、使い魔たちは攻撃の手を休めなかった。

私にできるのは、彼らに魔力を流し、耐えるだけ。





ドスドスドスッ

腹部を何度も殴打される。大丈夫、これくらいなら立っていられる。

ゴッ ドシュッ

頭を殴られ、続けて肩を貫かれた。まだ大丈夫。

バキリ

左足が折れた。まだ立っていられる。

ズバッ

右腕がきられた。まだだいじょうぶ。

ヒュッ

のどにあなを空けられた。まだ、だいじょう、ぶ。

ゴキリ

くびのほねがおられた。わたし、は、まほう、しょうじょ、だから、だい、じょう、ぶ。

ゴッ バチッ ブチリ バキバキバキ ドシュッ

まだ、まもれ、る

おおきなうでがふりおろされる

ま、だ、まも、れ


グ シャ リ



517: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:20:14.51 ID:GyhmjCHu0
まどか「はぁっ...はあっ...!」

まどかが辿りついた時には、もう手遅れだった。

高笑いをあげる無常と使い魔たち。

まどか「やだ...」

その傍らで、ぐしゃぐしゃになっている大切な人。

駆けより、抱きかかえ、何度も名前を呼ぶが返事はない。

まどか「やだよ....」

彼女...巴マミを抱きかかえた両手が、血で真っ赤に染まる。

まどか「イヤああああぁぁぁぁ―――!!」

まどかの悲鳴が、瓦礫だらけの街に響き渡った。

518: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:20:50.00 ID:GyhmjCHu0
...かなめさんのこえがきこえる。

だめじゃない、こんなあぶないところまできちゃ。

うっすらとしかみえないけれど、やつらがせまってきているのがわかる。

にげて、とさけびたい。でも、のどがこわれていてさけべない。

じゅうでおいはらいたい。でも、まりょくもじゅうをにぎるちからもなんにもない。

...ああ、どうかおねがいします。

せめていちどくらい、わたしのだいすきなひとたちをまもらせて。


519: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:22:03.41 ID:GyhmjCHu0
**********************

クーガー「なんだって?」

カズマ「俺は強くなりてえ。メソメソして生きたくねえんだ」

クーガー「強くなる方法でも知りたいのか?」

カズマ「あるのか!?」

クーガー「ハハッ、あるわけないだろそんなもん」

クーガー「ただ...そうだな。強くなるためには、弱い考え方をすることだ」

カズマ「弱い考え方?」

クーガー「そうだ。例えば、お前のダチが不良に襲われてるところを見たとする。一番弱い考え方はなんだ?」

カズマ「ダチを見捨てて逃げることだ」

クーガー「そうだ。その弱い考え方に反逆するんだよ」

クーガー「弱い自分自身に反逆し続けていれば自然に強くなる...強くなるのさ。わかったか?カズヤ」

カズマ「カズマだ!」

クーガー「あぁ~、スマンスマン」

****************************

520: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:22:59.27 ID:GyhmjCHu0

手足が凍りついたように動かない。身体はダルイし、非常に眠い。気を抜けばすぐにでも逝ってしまいそうだ。

もう休め。十分だ。おまえはよくやった。

そんな考えが頭によぎる。

だからこそ。ああ、だからこそだ。


ドクン


俺はその考え方に反逆する。


ドクン


それが俺の生き方だ。信念だ。


ドクン


誰にも邪魔はさせない。たとえそれが俺自身だとしても!



―――ドクン


―――――――――――――――――――

521: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:24:28.61 ID:GyhmjCHu0
風を切る音がした。

まどかが振り返ると、そこにあるのは、使い魔の残骸と最速の男の背中。

彼は、まどかと傷ついた二人を抱え、無常から距離をとった。





―――少女の希望と男の反逆は、確かに繋がった。


522: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:25:11.96 ID:GyhmjCHu0
QB「残念だけれど、彼女たちはここまでだ」

まどかの肩にしがみついていたキュゥべえが告げる。

QB「でも、きみが願えばマミかほむら、どちらかは助けられる。ひょっとしたら、無常を倒せるかもしれない」

それは、確かに残された希望で。

QB「どの道、このままではみんな死んでしまう。なら、僅かにでも希望のある方に賭けるべきじゃないのかな」

それは、どうしようもない事実で。

QB「さあ。僕と契約して、魔法少女になろうよ!」

この上なく甘い誘惑だった。

523: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:25:48.65 ID:GyhmjCHu0

「か...なめ...さん」

まどかの袖を引っ張るマミ。

マミ「私は...いいわ...」

かろうじて聞き取れるほどのか細い声と残された指で、震えながらほむらを指す。

マミ「彼女を...おねがい」

まどか「マミさん...」

マミ「あの子は最後の希望...だから...私はこれでいいの」

まどか「いやだ...いやだよ。絶対にマミさんを見捨てたりなんかしない!わたしは...わたし...は」グスッ

言いながら、まどかは気付いていた。

彼女の状態、魔力を使い果たしドス黒く濁りきったソウルジェム。

彼女の容態を治せる者などいないし、魔力を回復させるグリーフシードもない。

ほむらもまた、肉体こそは治りつつあるものの、ソウルジェムの濁りは限界寸前だ。

...つまり、本当にどちらを助けるか選ばなければならないのだ。


524: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:26:26.65 ID:GyhmjCHu0
マミ「かなめさん...私ね、いまとっても嬉しいの」

まどか「え...?」

マミ「お父さんやお母さんだけじゃない...今まで、私は、護れる立場にいながら何も護れなかった」

マミ「でも、やっと護れたの。大好きなあなたたちを護れて、とても嬉しいの」

マミ「だから、私に後悔なんてないわ」

そして、彼女自身がそれを望んでいるのなら...

マミ「泣かないで、かなめさん...」

まどか「...はい」

マミ「みんなのこと、よろしくね」

まどか「はい...!」

525: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:27:21.96 ID:GyhmjCHu0

マミ「ぁぐ...!」

ソウルジェムにヒビが入る。

とうとう、彼女にも限界が来たのだ。

まどか「マミさん!」

マミ「クーガーさん...最後に...お願い...」

クーガー「......」

マミ「魔女になる前に...私も...一緒に...」

クーガー「...わかりました」


526: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:30:27.73 ID:GyhmjCHu0
クーガー(ああ、わかっている。これは俺が招いたことさ)

彼女が傷つき、魔女と成り果てようとしているのは、己の速さが足りなかったからだ。

クーガー(足りないもんばっかりだ。全くもって情けない)

だからこそ、クーガーは謝らない。心の中で詫びようが、それを口に出すことは彼女の行為を卑下することになるからだ。

クーガー「...ありがとうございます。あなたのおかげで、俺はまた走ることができる」

努めて微笑みを湛え、しかし爪が肉に食い込むほど拳を握りしめる。

マミ「どういたしまして」

マミはクーガーのお礼に、精一杯の笑顔で応えた。




―――パリン



ソウルジェムが分解され、クーガーの脚に再構成される。

クーガーの脚に纏われるのは、いつもの桃色ではなく、ところどころに黄色が混じった装甲。

巴マミは死んだ。

しかし、彼女の魂はクーガーと共にある。

彼の装甲は、彼女の生きた証を確かに刻んでいた。


527: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:31:11.15 ID:GyhmjCHu0

まどか「...キュゥべえ。わたし、契約する」

クーガー「......」

まどか「...ごめんなさい、クーガーさん。ずっと止めてくれたのに、結局こうなっちゃって...」

クーガー「謝る必要なんてありません。あなたが決めたことでしょう?なら、思い切って進めばいい」

まどか「ありがとうございます」

QB「さあ、鹿目まどか。きみはその魂を代価にして、何を願う?」

まどか「わたしの願いは―――」クラッ

突如、激しい眩暈に襲われる。

まどかは、自分の発した言葉すら聞き取れず、意識を手放した。

528: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:32:52.77 ID:GyhmjCHu0
*************************

上も下も色も、何もない真っ白な空間。

その中心に映る一つの影。

まどか(あれは...わたし...?)

顔こそは見えないが、姿かたちといい、どこか面影があるような気がした。

影がわたしとコツンと額同士を合わせる。

すると、流れてくるのは以前もみたあの像。

しかし、一つ違うのは―――

529: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:34:11.50 ID:GyhmjCHu0
まどか『ほむらちゃん...過去に戻れるって言ってたよね。こんな終わり方にならないように歴史を変えられるって...』

―――違うよ。そうじゃない

まどか『だからね、お願いがあるの』

―――無理はしなくていい。逃げ出してもいい。だから...

まどか『キュゥべえに騙される前の...馬鹿なわたしを、助けてあげてくれないかな』

―――生きて、ほむらちゃん。




わたしが見たもの。それは誰にも、幾度となく時間を繰り返してきたほむらちゃんにも知ることが出来ない真実。

まどか(そっか...そういうことだったんだ)

影が、どこか寂しげに微笑んだ気がした。

530: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:35:00.05 ID:GyhmjCHu0
「......」

影がわたしに手を伸ばし、わたしもつい手のひら同士を合わせてしまう。

手のひらの隙間から桃色の光が溢れ、私たちを包み込んだ。

光の中で、手を繋いだまま、渦を巻くようにぐるぐると回りだす。

ポンッと何かが弾ける感覚と共に、腕、足、体の順に、私は魔法少女の衣装になっていった。

そして、最後に私の額に軽くキスをして、彼女はわたしに溶け込んだ。

531: ◆do4ng07cO. 2014/07/23(水) 02:35:49.41 ID:GyhmjCHu0
*********************

QB「...契約は成立だ。これできみも魔法少女だ」

まどか「......」

QB「どうかしたのかい?」

まどか「...ううん、なんでもない」

先程見たのはほんの一瞬の出来事だったようで。

キュゥべえとクーガーの様子がそのことを表していた。

まどか「いこう、クーガーさん。決着を着けよう」

深呼吸とともに、改めて決意を固める。




―――この戦いの、これまでの全てに!

535: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 00:51:06.09 ID:4ON82TeN0
第10話『鹿目まどか』


ほむら「まどか...どうして」

ほむら(どうしてかですって?...聞くまでもない。全部、私のせいじゃない。私に力が足りなかったから、私が約束を果たせなかったから...)

まどか「違うよ、ほむらちゃん」

まるで、心を読み取ったかのようなまどかに、驚きの表情を見せる。

まどか「わたしね、ずっと考えてた。どうして、ほむらちゃんがこんなに苦しまなくちゃいけなかったのか。あの時、あの子はどうして見せてくれたのか。...その答えが、やっとわかったの」

ほむら「まどか...?」


536: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 00:52:44.01 ID:4ON82TeN0
まどかは語った。

私と約束した時の彼女の真意を。

そして、謝った。

自分の身勝手な約束が、私を苦しめ続けていたと。

まどか「本当は、ほむらちゃんに生きていてほしかった。理由なんてどうでもいい。ただ、ほむらちゃんに生きていてほしかった...それだけだった」


537: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 00:53:47.34 ID:4ON82TeN0
ほむら「そんな...それじゃあ、私が今までしてきたことは...なに...?」

何度も何度も時間を繰り返してきた。

その過程で、恩人であり師匠でもあった先輩を救えなかったこともあった。

その過程で、魔女となったまどかの親友を殺したこともあった。

その過程で、何度も協力を持ち掛けた少女を見殺しにしたこともあった。

それになんとか耐えてこられたのも、まどかとの約束があったからこそ。

でも、その約束自体を彼女自身に否定されたら。

彼女自身が最初から守る気がなかったとしたら。

ほむら(もう、私は...)

538: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 00:57:46.30 ID:4ON82TeN0
まどか「...大丈夫。後は任せて」

ほむら「え...?」

まどか「ほむらちゃんのこれまでも、みんなの想いも、無駄になんてしない」

そう言い切った彼女の目には、確かな意志と決意が宿っていて

まどか「わたしが、決着をつける」

それは、かつての彼女と同じだった。

539: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 00:59:06.54 ID:4ON82TeN0
かつてのまどかは、私を助けるために散っていった。

かつてのまどかは、嘘の約束をしてまで私を生かそうとした。

いまのまどかは、己の身を投げ打ってでも無常を倒そうとしている。

ならば、生き残ることこそがまどかに報いる唯一の道ではないのか?

今までの罪も何もかもを背負ってでも生きるべきではないのだろうか?

例え、戦う理由がなくなったとしても...







ほむら(...違うでしょ)


540: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:00:21.05 ID:4ON82TeN0
そんなものは言い訳だ。

このままなんの証も立てずに、まどかを死なせるつもりか?

『どうして...死んじゃうってわかってたのに...』

あの時、私はなにもできなかった。

『私なんかを助けるよりも...あなたに生きてほしかったのに...』

彼女に守られるだけの弱い存在だった。

『さあ、聞かせてごらん。きみはどんな祈りでソウルジェムを輝かせるんだい?』

『私は...』

最初は私のエゴからだった。ああそうだ、何もできない自分が許せなかった。

『鹿目さんとの出会いをやり直したい』

だから私は強くなりたかった。

彼女と対等になれるように。本当の友達になれるように。

『彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい!』

だというのに、結局守られてばかりだった。

さやかに、杏子に、マミさんに、クーガーに。そしてまどかに。






ほむら「まって...まどか」

だから...まどかの意志に背くことになっても、このままでは終われない。

541: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:01:23.08 ID:4ON82TeN0
無常『ンフ...!』

まどかの背後で、振りかぶられる巨大な腕。

それを防ぐようにクーガーが腕に蹴りをいれる。

クーガー「レディが大事なお話をしてるんだ。せっかく意識を取り戻したところ悪いが、ここは空気を読んでもらおうか」

無常『全く、トコトンイラつかせてくれる羽虫ですねぇ。いいでしょう、お望み通りあなたから消し去ってあげます』

その言葉を合図に、あっという間に使い魔がクーガーを取り囲む。

無常『おかげさまで随分と慣れてきましてねえ。もう意識がとぶこともなさそうです。それに、こんなこともできるようになったんですよぉ』

クーガー「そうかい。なら、俺も見せつけてやるよ」

無常『ハッ、死にかけの身体で強がりを。...ならばみせてもらいましょうかねぇ!』

使い魔がクーガーに一斉にとびかかる。

180°全てが包囲されたこの状況。例え万全の状態のクーガーでも、為す術がなかっただろう。

そう、今までの彼ならば。

クーガー「ああ、見せてやる!俺たちの速さをなぁ!」

542: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:01:56.05 ID:4ON82TeN0
ヒュッ

それは一瞬だった。

無常『え...!?』

瞬きするよりも速く使い魔は消滅し、知覚も痛覚すらも置き去りにして無常の腕の一本が地に落ちた。

無常『......!!』

無常は背後のクーガーへと光線を放つ。

しかし当たらない。

避けようとする暇さえ与えず、クーガーの第二撃は無常の腕をまた一本破壊した。

543: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:02:40.85 ID:4ON82TeN0
無常『...ンフッ』

だというのに、無常は笑みを深めた。

無常『どうやらその力...制御できていないようですねぇ』

クーガー「......」

無常『まあ仕方ないでしょう。なんせそのちっぽけな生身で進化をしようというのですから。おまけに傷ついたその身体...精々あと一発が限界といったところでしょう』

クーガー「...ああ、そうだ。だが、それで十分さ」

無常『なに?』

544: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:03:22.78 ID:4ON82TeN0
ほむら「待たせたわね」

クーガー「ええ。待ちました」

まどか「...無常矜侍。わたし達はあなたを許さない」

無常『許さない?許さないですって?そんなカスのような魔力で私を倒せると!?』

ほむら「倒せるかじゃない。倒すのよ」

無常『...いいでしょう。速さも進化も意味のないほどの力で、全て消し去ってあげますよぉ!』


545: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:04:45.65 ID:4ON82TeN0
クーガー「...奴は、全ての力を込めて攻撃してきます。逃げ場なんてないくらいの特大のをね」

ほむら「あの吸収能力は?」

クーガー「おそらく使いません。さっきのやりとりで、奴の能力より俺の方が速いことは証明しましたから」

まどか「...なら、やることは一つだね」

クーガー「ええ。正面から切り開く。それができなければおしまいです」

ほむら「...わかった。頼んだわよ、クーガー」

クーガー「任せてください、ほむらさん」

ほむら「ほむらよ」

クーガー「あってるでしょう?」

ほむら「!...ふふっ」

546: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:05:32.11 ID:4ON82TeN0
ほむら(私の能力は...まだ完全には死んでいない)

指先に魔力が集中し、紫色の弓が模られる。

ほむらは、先の無常との戦いで、一度も弓を使っていない。

ほむら(心のどこかでまどかには絶対に並べないと...そう思っていたのかもしれないわね)

初めてだからか、思ったように弓の形を維持できない。

まどか「ほむらちゃん」

まどかがほむらに手を重ね、共に弓を模る。

桃と紫の混じった弓と矢がつくられる。

これが、私たちの全力全開。

勝っても負けてもこれで終わり。

―――もちろん勝つ。勝ってみせる!

547: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:06:49.50 ID:4ON82TeN0
暁美ほむらの結界が崩壊してから、まだほんの数百数十秒ほどしかたっていない。

しかし、あとその一握りにも満たない時間でこの戦いの決着はつくであろう。




『消えてなくなれェェェ―――!!』



「瞬殺の...ファイナルブリットォォォ―――!!」



「「貫け―――!!」」




どんな『魔法』でも『進化』でも

彼らを包む運命を止めることだけはできないのだ


548: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:08:22.83 ID:4ON82TeN0
無常の超高圧の光線に、クーガーの脚とほむらたちの矢が衝突し、爆風が巻き起こる。

拮抗したかのように見えたのは一瞬だけ。

瞬く間にクーガーたちが押され始める。

ほむら「まだよ...意識を保って!」

まどか「う、うん!」

限界まで魔力を捻りだす二人。

しかし、それでもなお光線を押し返すことはできない。

無常『キャハハハハ!!死ね、シネ、しね―――!!』




クーガー「...まだだ」

光熱により溶けていく両脚の装甲。

クーガー「まだ足りない」

彼の言葉に、欲望に呼応するかのように、装甲が輝きだす。

光は、ほむらたちの矢をじわじわと分解していき、クーガーの身体を包んでいく。





クーガー「だから...よこせ、速さを!」

その言葉と共に、クーガーの全身は、全て分解された。

549: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:09:58.73 ID:4ON82TeN0
***********************

上も下もわからない、虹色に包まれた空間。

その中心に映る一つの人影。

クーガー「...なんだ、こんなところにいたのか」

"それ"の胸元にそっと触れる。

理屈はわからない。だが、確かに彼女たちがここにいることは感じ取れた。

クーガー「悔しいよな、あんなやつの踏み台になって終わるなんて」

"それ"の胸元の赤の宝玉と、腹部の青の宝玉が輝きを帯びる。

光が、伸ばした手を伝って、身体に溶け込んでくる。





クーガー「いくか、一緒に」

*************************

550: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:10:56.01 ID:4ON82TeN0
光の中で、クーガーの身体が再構性される。


―――もっとだ...


彼の姿は無常とは違った意味で異形。


―――もっと


爪先から髪の毛の先まで、全てが桃・黒・黄・青・赤が混じった装甲に包まれる。


―――もっと!


空気抵抗を極限まで抑えた流線型。

これが、速さを求めたクーガーのアルターの到達点。


『もっと輝けぇぇぇ―――――!!』


ようやく知ることができた、文化の神髄

551: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:12:22.62 ID:4ON82TeN0
巴マミの魔法は、繋げる魔法。

『向こう側の世界』へとその身を投じ、アルター使いと魔女のハイブリットとなった無常。

そして、ほむらもまた、『向こう側』の世界を垣間見た者。

なによりクーガー自身が、『向こう側』から力を引き出すアルター使い。

それらの要因が全て絡まった必然か、それとも命を燃やし起こした奇跡か。

それは誰にもわからない。

だが、確かに。ああ、確かに。

クーガーのアルターは進化を果たしたのだ。

552: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:14:49.41 ID:4ON82TeN0
それでもなお、全体的に見れば、無常の方が圧倒的である。

―――ただひとつ、速さを除けば。




速さを一点に集中させれば、どんな分厚い塊であろうと砕け散る。

馬鹿な、と思う暇すらなく、光線が四散していく。

無常が認識できたのは、一本の矢と化した男と、その背後に浮かぶ少女たちの幻影。

『アブソープション』を発動させる間もなく、貫かれたと認識する暇もなく。

無常の額は、光速の矢に貫かれ、絶叫とともに無常の身体が発光と共に消失した。

553: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:18:58.02 ID:4ON82TeN0
ゆま「あ...あれ...?」

仁美「皆さんは...?」

無常は消え去り、嵐も止んだ。

だが、二人が駆け付けた時には、まどかもほむらもマミもクーガーも。

誰一人としてこの場にいなかった。

554: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:21:07.05 ID:4ON82TeN0
*************************

方向感覚もないように思える光の中。

どこか安らぎさえおぼえるこの中で、疲れ切った身体を支えあうように、三人は背中合わせで座り込んでいた。



まどか「終わった...ね」

ほむら「...そうね」

...これで、今までの戦いは終わった。

まどかは全てを知った上で納得して契約をした。約束を守る必要もなくなった。世界を滅ぼすこともなくなった

これまでの全てに決着はついた。だからこそ...





ほむら「ごめんね、まどか...私、もう行くね」

まどか「......」

私の戦いは、これからだ。

555: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:21:53.96 ID:4ON82TeN0
クーガー「それが、あなたの選んだ道ですか」

ほむら「ええ。やっぱり、自分の気持ちは裏切れそうにない」

これは、私の我儘。

どうしようもないくらい小さくて、欲深いこと。

でも、やっと思いだせた最初の願い。

きっと、どう進んでも後悔しかないのだろう。それでも...

ほむら「私は、諦めたくない。私の願いを、無意味なもので終わらせたくない」

556: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:26:14.57 ID:4ON82TeN0
まどか「...ほむらちゃん。手、貸して」

ほむらの左手をそっと握りしめる。

すると、カシャンという音ともにほむらの盾が復元された。

まどか「...ほむらちゃん。わたし、あなたにずっと約束を押し付けてきた。だから、今度はわたしが約束する」

髪を結んでいたリボンを外し、ほむらの手に握らせる。

まどか「わたしは、絶対に絶望に負けない。みんなのぶんも背負って生きていくって。...これはその証」

ほむら「...あなたが生きている時間軸もある。それだけで、私は前へ進める。だから...私より先に死んだりしたら、許さないんだから」

まどか「...うん、約束」

そうして、子供のように互いの小指を絡め、微笑みを交わしあった。


557: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:27:34.96 ID:4ON82TeN0
ほむら「世話になったわね、クーガー」

クーガー「...いいえ。礼を言うのは俺の方ですよ」

ほむら「?」

クーガー「なんたって、あのとき十分に目の保養をさせていただきましたから!」

ほむら「っ...!ど、どうやらあなたは殺しても死にそうにないわね」プイッ

クーガー「そんなに怒らないでくださいよ、ほむらさん」

クーガー(...あなたたちには、学ばせて貰いましたから)

ほむら「...まどか、クーガー。本当にありがとう...元気でね」




―――カシャン

558: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:29:55.88 ID:4ON82TeN0
光の中から、ところどころに見滝原の街並みが覗き始めた。

クーガー(そろそろ、帰り道も消えちまう、か...)

まどか「...クーガーさん」

クーガー「心配いりませんよ。俺はここに...」

まどか「...無理しないでください。身体のこと、わかってますから」

クーガー「......」

まどか「クーガーさんには、クーガーさんのやることがあるでしょう?だったら、こんなところで止まっちゃ駄目です」

まどか「...だから、ここでお別れです」

559: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:31:31.14 ID:4ON82TeN0
クーガー(...俺としたことが、らしくなく過保護になってたようだな)

カズマと別れる時、俺は何も言わずに立ち去った。

あいつは強い。そしてまだ強くなれる。その強さは、俺とツルんでいたところで先には進めない。あいつに俺はもう必要なかった。だから別れた。

彼女もそうだ。優しく、強い人間だ。伸びしろもある。だったら、これ以上はただの必要のないお節介だ。

クーガー「...わかりました。このストレイト・クーガー、お言葉に甘えて治療に専念させていただきます」

560: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:32:36.09 ID:4ON82TeN0
まどか「あっ...待ってください」

クーガーのボロボロの黒サングラスを手にとり、リボンと同様に手に包む。

すると、たちまちにレンズもなにもかもが復元された。

ただ違うのは、黒ではなくピンクになっている点。

クーガー「こいつを、俺に?」

まどか「えへへ、今までのお礼ってわけじゃないけれど...どうですか?」

クーガー「こいつはいい。素敵なプレゼントをありがとうございます」

561: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:34:39.36 ID:4ON82TeN0
クーガー「さて...もう時間もないようだ」

見れば、光は既に輝きを失いかけており、うっすらと見滝原が見え始めている。

クーガー「それでは、お元気で。鹿目...まどかさん」

まどか「はいっ!」

固く握手を握り交わし、クーガーは背を向ける。

彼は跳びたち、光の中に一瞬で消え去った。

*************************

562: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:37:26.85 ID:4ON82TeN0
ヒョコッ

QB「ほむらとクーガーはこの世界から去ったようだね」

「......」

QB「ストレイト・クーガーの開いた"向こう側への扉"を辿り、過去へと遡ったきみの徒労は無駄に終わったようだ」

QB「微かにきみの力に触れたさやかは無常の支配へ抗えた。同じくまどかは、きみが見てきたことに触れることができた。ほむらもまた新たな力を手に入れることができた。でも、それだけだ」

QB「結論からいえば、あの三人は死に、まどかは契約をし、ほむらも戦いを終わらせることはできなかった」

QB「まあ、あの暁美ほむらからエネルギーを採集できなかったのは誤算だったが...それも宇宙の視点で見ればマイナスでしかない」

QB「一番のイレギュラーであるきみが関与したところでどうにもならないんだ。それでもきみは、幾多の時間軸の狭間で彷徨い続けるつもりかい?」

「......」

QB「...聞いたところで無駄か。今までの行為は、いまここにいるのは、魔女と同じくいわば性質での行動に等しい。彼女たちが"向こう側"への領域に触れることができたのは彼女たち自身によるもので、そこにきみの意志なんてものは存在しないのだろう」

QB「そんな姿に成り果ててまでも救いたいというのなら...僕はなにも言わないよ」

QB「...いまは帰るといい。ここにきみの護りたいと思ったものはもうないんだから」

「......」

スゥ




QB「...じゃあね、元"救済の魔女"」


563: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:38:20.50 ID:4ON82TeN0
どこかの川岸

ザパァ

無常「ぷはぁ!...はぁ、はぁ...」

無常(死ぬ...このままでは...死んでしま...う...)ガクッ




QB「これは驚いた。まだ生きていたんだ。まったく、僕に感情があれば呆れるほどのしぶとさだ」

QB「...あのまどかのエネルギーが手に入らなかったのは、きみが原因ともいえるよね」

QB(この男は生かしておけば僕たちの障害にしか成り得そうにない。だったら...)

QB「...ルール違反かもしれないけど、この場で処分してしまおうかな」


ズパァ

QB「」ドサッ



異納「無常様...!」

異納(まだ息はある...光が消え去るその前に!)タッ


564: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:39:41.88 ID:4ON82TeN0
...呉キリカ 美国織莉子 佐倉杏子 美樹さやか 巴マミ 暁美ほむら 鹿目まどか

彼女たちがいたから私は力を手に入れた。

だが、彼女たちのせいで全てを失った。

この借りは...いずれ返させてもらいますよぉ

そして...ストレイト・クーガー

あなたは特に許せません。

あなたにはこの手で、最も屈辱的な死を送ってさしあげましょう



んふ...ンフフフフフ...





565: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:50:02.13 ID:4ON82TeN0
――――――――――――――

ゆま「まどかおねえちゃん!」

まどか「......」

仁美「これは...いったい...?」

まどか「...ぜんぶ話すよ」

わたしは挫けない。絶対に弱音なんて吐かない。前だけを向き続ける。

でも...





『まどかはあたしの嫁になるのだぁ~!あははは!』

もう戻らない

『佐倉杏子だ。よろしくね』

わたしが大好きだったあの人たちは

『あんまりかっこ悪いところ、見せられないものね』

わたしが愛したあの日々は

『速さとは文化の象徴であり万物の基本的行動理念!すなわちそれは何者にも勝る速さは最高に有能なものだという証拠になるはずだ!そう思いませんかのどかさん!?』

奇跡や魔法が叶ったとしても

『―――まどか』

決して戻ることは無い





まどか「ごめん...いまだけは...」

いまだけは、泣いてもいいよね

566: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:51:45.83 ID:4ON82TeN0

―――――――――――


ほむら「......」

視界に入るのは、いつもの病院の天井。

変身して、身体を確かめてみる。

黒の翼はどこにもなく、左腕にはやはりいつもの盾がついていた。

盾の中身を探ってみる。

当然ながら、何も入っていない。

使えなかった武器も、最後にまどかから受け取ったリボンもだ。

ほむら「夢...だったのかな」

思えば、自分に都合がいいことが多すぎた気がする。

魔法少女を普通に受け入れてくれた仁美たち一般人も。

仲たがいしないどころか、最後まで信頼してくれたマミさんやさやかも。

いつも以上に協力的だった杏子も。

頼れる伊達男、クーガーも。

私を理解し、隣に立ってくれたまどかも。

全て、私が作りだした夢だったのだろうか。



ガララ

ナース「おはようほむらちゃん」

ほむら「...おはようございます」

ナース「それじゃあ、お熱から...あら?」

ほむら「あっ...」

567: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:53:23.28 ID:4ON82TeN0
テーブル台に置いてあるリボンと写真。

ナース「素敵なリボンね。それに、この写真...」

なぜここにあるのか。そんなことはどうでもよかった。

ナース「ほむらちゃん、とても楽しそうね。お友達かしら?」クスッ

ほむら「...はい。私の、最高のともだちです」

彼らが、あの時間が幻想などではない確かな証であるのだから。

568: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:54:59.66 ID:4ON82TeN0
――――――――――――


ジグマール「目が覚めたかね?ストレイト・クーガー」

クーガー「ここは...」

ジグマール「心配するな。ここはHOLY部隊の特別治療室だ。本土は非道徳的な精製のことは隠し通したいらしく、きみの処分については何も言及はなかった」

クーガー「......」

ジグマール「イーリャンの発見があと10秒遅ければ死んでいたそうだ。後遺症も残るだろう。皆には凶暴なアルター使いと遭遇したことにしてあるが...きみほどの男が、なぜそんな事態にまで陥った?」

クーガー「それが、何も覚えていなくてね」

ジグマール「隊長である私にすら言えないほどのことかな?」フッ

クーガー「たーいちょーう。俺は事実を言ってるだけですって」

ジグマール「...いいだろう。憶えていないのなら仕方ないな。この件はこれで終わりだ。きみには、一日でも早い復帰を期待する」

クーガー「了解です」


569: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:55:52.86 ID:4ON82TeN0

ジグマール「ところで、ずっと気になっていたのだが...」

クーガー「はい?」





ジグマール「サングラス、変えたのか?」

クーガー「ええ。文化的でしょう?」

570: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:57:41.25 ID:4ON82TeN0

――――――――――――――――――


私は戦う。運命に抗い続ける。



和子「今日はみなさんに転校生を紹介しまーす」

さやか「そっちが後回しかよ」ガクッ


誰に否定されようとも構わない。それが私の選んだ道だから。


和子「それじゃあ暁美さん、いらっしゃーい」


まどかのためだけじゃない。

私は、私のために進み続ける。




ガララ

ほむら「オー、ジャマジャマ」


571: ◆do4ng07cO. 2014/08/19(火) 01:58:49.94 ID:4ON82TeN0
最終話『ストレイト・クーガー』

ああ、もはやなにも言うまい

語るべき言葉、ここにあらず 話すべき相手、ここにおらず

男、ただ前を向き、ただ進み続ける

ただ前を向き、ただ進み続ける

576: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:25:31.34 ID:2DvbohYw0


ゴオオォォォ

「...なるほど、確かにあれには誰も敵いそうにないわい」

「そうだよ。...だから、あたしは、あいつを止められる可能性を持つ人を探して欲しいと願ったんだ」

「カーッ、随分と一方的じゃのお。しかし...おそかれ早かれ、彼女はワシらのところへきた。不意打ちでやられるよりはマシじゃわい」

「ししょう...」

「なぁに、成功しても失敗してもワシは死ぬんじゃ。そんなに心配せんでもええぞ」

「諦めろってことじゃないですか」

「そりゃ違う。ジグマールよ、お主は死にたいか?」

「いいえ」

「ならば、もがけ。いくら追い詰められようとも、傷つこうとも必死に抗え。そうすれば...なにかが掴めるかもしれん」

「...ごめん、あたしの勝手な願いに巻き込んじゃって」

「気にしなさんな。このチカラ...『ALTERATION』を封印するには持ってこいの相手じゃろうて」

オオオォォォ

「...さて、随分待たせたのぉ。それじゃあ、いっちょ逝くとするか」


577: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:33:01.87 ID:2DvbohYw0
QB「...凄かったね、彼の『ALTERATION』というものは。ただの人間が、僕たちしか認識できていなかった『向こう側の世界』へとアクセスできるとは、君たちの認識を変えるべきかもしれないね」

「......」

QB「とはいえ、彼女を消し去るにはパワー不足だったようだ。きっと、彼女は不定期にゲートを開き現れ、その度に命を吸っていく。そうやって永久の時を孤独に過ごしていくのだろう」

QB「ああ、僕は嘘はついていないよ。彼はちゃんと、その命を賭して、彼女が【この世界で】命を吸い続けることを止めてくれたじゃないか」

「......」

QB「...でも、無駄だったとは思わないよ。被害はこの大地だけで済んだし、取り込まれた人間も全員ではないが、それなりには戻ってきた。そのことを彼らは憶えていないだろうが、それを生かすも殺すも彼ら次第さ」

「...ねえ、もうここには魔女はいないんだよね」

QB「彼女が吸い上げてしまったからね。使い魔一匹も残っちゃいない」

「そう...なら、あたしが最後ってわけね」

QB「きみはそれでいいのかい?」

「魔女がいなければ、魔法少女もここには来ない。あんたたちもこの星から引き上げるから、魔法少女が産まれることもない。もう、ここには魔法少女はいらないんだ」

「もとの原因作ったあんたに言うのもおかしいけど...最後に、あたしの我儘聞いてくれてありがと」

(...ごめん、まどか。あたし、あんたになにもできなかった...)

QB「...じゃあね、美樹さやか」



パリン


578: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:34:37.60 ID:2DvbohYw0
十数年後



劉鳳「うぅっ...母さま...母さま...?」

「......」

劉鳳「っ!あ、アルター使い...!?」

絶影「ワンッ、ワンッ!」

「......」

カッ

ズドン

絶影「キャィン!」ドサッ




「......」

スゥッ


劉鳳「絶影...!母さま...!うっ...うあああああ!!」

579: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:36:30.52 ID:2DvbohYw0

QB「どんな感じだい?」

QB2「ふむ...あまりあてにはならないかな」

QB「というと?」

QB2「彼女が『向こう側』から姿を現すことができるのは、この世界と向こう側との狭間が薄くなった時。つまり、魔法少女が魔女へと変わるときくらいしかないんだよ。しかも、確実じゃないときた」

QB2「例外として、アルター能力の素質が高い者に引き付けられる場合もあるけれど、それもそうそうあるものじゃない」

QB「つまり、効率が悪いと」

QB2「そういうことだね。そもそも、彼女がゲートを開いたところで、得られるエネルギーも多いわけじゃない。なまじ強いから制御も難しいしね」

QB「わかったよ。それでは、予定通り地球からは手を退く方針でいくとしよう。僕らのノルマは達成されているからね」

580: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:40:18.68 ID:2DvbohYw0
ある日、自然現象では有り得ない程のエネルギーが放出し、半径約20km、高さ約240mにも及ぶ大隆起現象が発生した。

その原因は今もなお不明とされているが、首都圏全域の機能は失われ、政治や経済も長期に亘り停滞した。

結果として、5年間放置されたこの大地は、何かを失ってしまった大地『ロスト・グラウンド』と呼ばれることになる。

また、この大地では、新生児の数%に先天的に備わっている精神感応性物質変換能力が確認されるようになり、その数は年々上昇しつつある。

この大地で最初に発見された、少年マーティン・ジグマールはじめ、多くのこの能力者を実験体として調査・研究しているが、その全貌は未だ解明されていない。

いつからか、この能力は、進化を意味する『アルター能力』と呼ばれるようになった。

581: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:41:07.90 ID:2DvbohYw0
最終話 『ストレイト・クーガー』


杏子「ソウルジェムがやたらと疼くな...」

マミ「暁美さん、あなた本当にこんなモノと何度も?」

ほむら「ええ。...とは言っても、こんなにベストな状態は初めてだけど」

マミ「緊張してるみたいね。そういう時はこれ!」

ほむら「ボイスレコーダー...?」

ザザッ

キリカ『こちらキリカ!私たちがいる限りまどかにはあの獣を近づかせない!だから愛のもとに安心して戦いな!はい次!』

織莉子『こちら織莉子。ほむらさん。あなたには言いたいことが山ほどありますが...いまはこれだけ。必ず勝ってください。どうぞ』

まどか『...ほむらちゃん、昨日約束してくれたよね。わたし、信じてるから...だから、負けないで!』

ザザッ

マミ「どう?少しは気分がほぐれたかしら」

ほむら「...あまり、もと心臓病をイジめないでほしいのだけれど。まあ...やる気は出てきたわね。特に最後で」

マミ「それはよかったわ」

582: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:42:33.04 ID:2DvbohYw0
杏子「しっかし、よくもまあ契約する前に仲間にしちまおうとか思えたな。前は殺しあった仲なんだろ?」

ほむら「...いまの私と彼女の願いの利益は一致していたもの。なら、早急に契約のリスクと結果を教えれば...」

杏子「あいつらが契約する必要もなくなるし、説得もしやすくなるってか」

ほむら「まあ...教えた上でもなお契約するバカもいるけれど」

さやか「なんですと!?それはいったい誰のことかな!?」

杏子「お前以外に誰がいるよ」

ほむら「でも、あなたが筋金入りのバカでよかったわ。まだ許容範囲だもの」

さやか「なんか褒められてる気がしないんだけど」

ほむら「褒めてないもの」

QB「まあ、きみも大概だと思うけどね。せっかくの戦いを終えるチャンスを、自分が納得できないからって逃す行為を、人はバカとよぶんじゃないかな」

グシャッ

QB「げふっ」

ほむら「...まあ、否定はしないわ」

QB「ならばなぜ踏みつけたんだい?わけがわからないよ...」

マミ「はいはい、お喋りはそこまで。そろそろ来るわよ」

583: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:43:30.19 ID:2DvbohYw0
ワルプルギス『ウフフ...アーハハハッ!!』

杏子「うるせーなぁ...耳がおかしくなりそうだ」

ほむら「最後のリベンジマッチといくとしましょうか」

バサァ

さやか「うおっと!...相変わらずビックリするねその翼は」

ほむら(ワルプルギスの夜...今日こそあなたを倒し、まどかを救う。そして、私のこれまでを証明してみせる!)


584: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:45:30.54 ID:2DvbohYw0

************************************

マミ「...それが、どんなに恐ろしいことかわかっているの?」トポトポ

カチャリ

マミ「そうなればあなたは、あなたという個体を保てなくなる。死ぬなんて生易しいものじゃない。魂すらすり減って、その果てにあるのは...喜びも悲しみも感じられない、完全な無よ」

クーガー「ええ。わかってます。それに、誰もそんなこと俺に望んじゃいないってこともね」

マミ「......」

クーガー「ほむらさんは、自分が納得するために立ち上がった。イレギュラーな事態のおかげではなく、自分で勝ち取った証を立てるために」

クーガー「まどかさんは強い人だ。あの街を守るために、自分の意志で戦っている。だったら...いまさら俺にできることはなにもありません」

マミ「なら...」

クーガー「でも、この目で彼女たちの姿を確かめたい...理由としてはそれだけで充分です」

クーガー「それに、どうせ少ない命だ。だったら、少しでも多くの事を見るために使い切らなきゃ勿体ない。そう思いませんか?」

さやか「いいんじゃない?自分で決めた道を最速で突っ走る。それがクーガーさんでしょ」

杏子「つーか、うじうじ悩んで止まってるクーガーなんてウザイだけだって」ケラケラ

クーガー「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか、あやか、あんこ」

「「さやか(杏子)だ!」」

クーガー「スマンスマン」



クーガー「さて、随分と休んだことだし...それじゃあ、いきますか」

**************************

585: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:46:22.65 ID:2DvbohYw0
無常要塞


ガラガラ

瓜核「急げ!上が激しく始めたらしい!」

水守「出口はこっちに!?」

イーリャン「うん...このまままっすぐいけば...」

ガッ

水守(しまっ...床がずれて瓦礫に足を!)

水守「あうっ!」ドサッ

瓜核「どわっ!」イーリャン「あっ」ドササッ

グラッ

イーリャン「柱が倒れてくる!」

瓜核(やべえ!アルターで分解する暇も...)

水守「きゃああああ!」

瓜核「うわああああ!」




ガコォォン

586: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:47:25.96 ID:2DvbohYw0
イーリャン「え...?」

水守「この車...クーガーさん?」

運転席のドアが開く。

水守「...?」

しかし、そこにいつもの伊達男の姿はなく、二つの空席が水守たちを待っていた。


587: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:48:23.01 ID:2DvbohYw0

カズマ「無常矜侍ィィィィ――――!!」

無常「私の...私の向こう側の力が...!?この男はなんなんですか!?」

無常(こうなれば、あの娘を...!)

「カズヤだよ」

無常「っ!?」

クーガー「シェルブリットのカズヤだ」

無常「貴様...いつの間に」

無常(奴は確かにこの手で全てを吸いつくし、殺したはず...!)

クーガー「愚問だなぁ。俺は誰よりも速く走れる男だぜ。カズヤ、俺はこの子たちを連れてでる。後は頼んだぞ」

カズマ「いきなり現れて、勝手なことをぬかすな!」

クーガー「最後の頼みくらいきけよ」

カズマ「!あんた...」

クーガー「じゃあな、カズヤ」

カズマ「...最後の最後まで名前間違えやがって...じゃあな、兄貴」

カズマ「―――さあ、ケンカだケンカァ!トコトンやるぞ!!」


588: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:50:32.05 ID:2DvbohYw0
無常はカズマがケリをつける。

あの調子なら劉鳳も負けないだろう。なにより手出しなんざあいつ自身が許さない。

なら、俺の役目はここで終わりだ。

...学習しない奴だな、無常。

お前の敗因はいつだって同じだ。たった一つのシンプルな答えさ。





『お前はあいつらを怒らせた』

589: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:52:27.78 ID:2DvbohYw0
劉鳳「......」

母の、愛犬絶影の仇は討った。不思議と、目の前のものに憎しみはなくなっていた。

結晶体の身体に触れ、そっと光の中へと押し込む。"それ"はまるでその行為を望むかのように、一切抵抗をしなかった。

劉鳳「帰れ、向こう側へ...永久に」

結晶体の額から、縦に裂けた光球が劉鳳の手のひらへふわりと落ちた。


『―――ありがとう』


劉鳳「!」


『―――ごめんなさい』


劉鳳「......」

現実かそれとも幻聴か。それはわからなかったが、しかし彼は心のどこかで納得できていた。

劉鳳「...これでいい。やつもまたさまよっていた。これでいいと...俺は思う」

結晶体は光の中へ消え、手のひらの光球もまた、大気へと溶け込んだ。

590: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:53:03.96 ID:2DvbohYw0
かなみ「うっ...」

クーガー「ここで待ってな。直に迎えが来る」

かなみ「あなた...だれですか...?」

クーガー「......」

かなみとクーガーは、交わした言葉も少なければ一緒にいた時間も少ない。そのため、クーガーについてはほとんどなにも知らない。

だが、アルターによって無意識に感じ取れた心が、いまと自分の知る彼とでは別物であることだけはわかった。

その違和感を口にする前に、無常に酷使され続けた疲労感により、かなみは意識を手放してしまった。



591: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:55:02.97 ID:2DvbohYw0








クーガー「風力温度湿度、一気に確認。ならまぁ、やってやりますか」








592: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:55:33.03 ID:2DvbohYw0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ワルプルギスの夜『あは...はァ...』

杏子「ワルプルギスの夜が消えていく...」

さやか「勝った...の?」

マミ「...そのようね」

さやか「は...はは...喜びたいけどしばらく動けそうにないや」

593: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:56:23.75 ID:2DvbohYw0
まどか「みんな!」

杏子「よう、無事だったか」

まどか「みんなが避難所を護ってくれたから...それよりほむらちゃんは!?」

マミ「心配しないで。ちょっと離れたところにいるだけだから」

まどか「よ、よかった...みんな、ここで少し待ってて!すぐにほむらちゃんも連れてくるから!」

さやか「おーはやいはやい。こりゃ、あたしの嫁ポジションはとられちゃったかな」

594: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 01:58:15.57 ID:2DvbohYw0
ワルプルギス「」シュウウ

ほむら「はぁ...はぁ...お、終わった...」

ほむら(思えば、あなたとも長い付き合いになるわね。今まで一度も勝ったことはなかったけれど...)

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「まどか...」

まどか「待っててね、すぐにみんなのところへ連れて行くから...」

ワルプルギス「」グルン

まどか「え...?」

ゴオオオォォォ




さやか「ヤバイ、あいつまだ動くみたいだよ!」

マミ「いいえ、おそらくいまビルに放ったあれが最後の一撃...でも...!」

杏子「くそっ、ここからじゃ間に合わね...!」





ヒュン

杏子「?」

杏子(いま...なにかが通り過ぎた...?)


595: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:00:16.14 ID:2DvbohYw0
ほむら(ビルが倒れて...まずい、これは躱せそうにない!)

ほむら「まどか、離れないで!」

まどか「う、うん!」

ほむら(どうやら、タダでは終わらせてくれないようね...でも、残りの魔力で致命傷だけはなんとか...!)

ビル「」ズオッ

ほむら(きたっ!)


ヒュッ

ほむら「え...?」

596: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:01:50.64 ID:2DvbohYw0
さやか「ほむら、まどか―――!」

マミ「大丈夫よ。魔力が減った反応もない...けれど、ここからじゃ見えにくいわね」

さやか「ええい、あたしはもう我慢できん!這ってでもいくよ!」

マミ「こら、待ちなさい!あの子ってば...後で更にヒドくなっても知らないわよ」

杏子「......」

マミ「どうしたの?」

杏子「いや、なんでもない」

杏子(さっきのは気のせい...だったのかな)




ほむら「いったいなにが...?」

まどか「あ、ありがとうほむらちゃん」

ほむら「私はなにも...」

ほむら(そう...風が吹いたと思ったら、ビルがそれて...風...まさか!?)

辺りを見渡すが、やはり誰もいない。

だが、代わりに地面にあったのは、一つの欠片。

ほむら「...ほんと、お節介焼きな男ね」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「...なんでもないわ」

ほむらは、桃色の欠片をそっと握りしめた。



ほむら(でも...ありがとう、クーガー)


597: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:02:35.46 ID:2DvbohYw0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




結界


魔法少女「くうぅ...」

使い魔「キキーッ」

魔法少女「や...いやぁ...!」

魔女「ぶわああぁぁ」

魔法少女「いやぁぁぁぁ!!」



ズドドド

魔女「!?」

「そこまでだよ」

魔法少女「あ...あなたは!」

598: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:04:07.60 ID:2DvbohYw0



1c0b952ac8c03ad485de70c8efa22cfd






















ズン!! 

魔法少女「まどかさん!!!」 

599: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:05:22.63 ID:2DvbohYw0
まどか「大丈夫だった?」

魔法少女「あなたが現在見滝原で大活躍中の...」

まどか「そんな大層なものじゃないよ...後は任せて」

魔法少女「だ、ダメです!そいつかなりの強さなんです!いくらまどかさんとはいえ...」

「心配しなくてもいいですよぉ。...まどかさーん、ちゃっちゃと終わらせてくださいよ」

魔法少女「あ...あなたは沙々さん!?それより、心配いらないって...」

沙々「くふふっ、よく見ておいてください。本当の魔法少女ってやつをね」

まどか(相手には必ず弱点がある。あの魔女の弱点は...)

魔女「エイイイィィィメェン!!」

まどか「ここだっ!」シュッ

カッ

600: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:06:06.22 ID:2DvbohYw0
魔法少女「すごい...たった一撃であの魔女を...いったいどんな奇跡を願えばあれほどの...」

沙々「そんな大した願いじゃないですよ」

魔法少女「え?」

沙々「彼女が願ったのは、大切な人たちの力になる権利を得ること。つまり、奇跡とか無しに魔法少女になった感じですね」

魔法少女「それじゃあ...本来は戦闘向きでなく、あの強さも己の努力で培ったものだと?」

沙々「そういうことになりますね。魔力自体もそこまであるわけじゃありませんし...ま、伊達にあの巴マミや佐倉杏子の戦いを見てきたわけじゃないってことですよ」

魔法少女「あ、あの、これから時間はありますか!?よかったらお礼をさせてください!」

まどか「ごめんね、これからよらなくちゃいけないところがあるの」

魔法少女「そ、そうですか...これ私のメルアドです!なにかあったらいつでも呼んでください!」

まどか「ありがとう」ニコッ

魔法少女「~///それでは失礼します!」ダッ

沙々「相変わらずおモテになることで」

まどか「そういうのじゃないってば。はい、グリーフシード」

沙々「助かります。残りは半分くらいですか...こいつはあなたが使ってください。それじゃ、またヤバそうなところを見つけたら連絡します」

まどか「じゃあね、沙々ちゃん」

まどか(さて、と...)

601: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:07:51.45 ID:2DvbohYw0
霊園


まどか「...久しぶり、みんな」

さやかちゃん、マミさん、杏子ちゃんのお墓に花を添える。

以前は毎日来ていたけれど、徐々に訪れる回数も減っていき、今回は3か月ぶりとなる。

本当は、毎日でも来たいけど、あんまりみんなに頼ってばかりもいられない。

まどか「なんだか、時間が流れるのって早いなぁ...」

あの騒動からもうすぐ二年になる。

わたしは高校生になり、仁美ちゃんたちとも違う学校になってしまった。

仁美ちゃんは、まだ右手の義手が上手く馴染めていないみたい。『まどかさんだけに背負わせませんわ!』と息巻いて、いつかは、魔女にも負けない義手を作りたいらしい。...仁美ちゃんはどこへ向かっているのだろう?

上条くんは、相変わらずバイオリンの練習に勤しんでいる。この前のコンクールは、残念ながら賞は貰えなかったけれど、これからあがっていくためには必要なことだと彼は言っていた。

ゆまちゃんは、感情を失った少年、イーリャンくんを連れて孤児院へ入った。ゆまちゃんは、最初は織莉子さんのことでふさぎ込んでいたけれど、イーリャンくんの手前、いつまでも泣いていられないと決め、今ではだいぶ笑うようになった。

それに影響されたのか、イーリャンくんも『自分で考える』ことが出来るようになりつつあるそうで、最近ではひらがなを勉強しているそうだ。

キュゥべえは相変わらず。ただ、無常矜侍の件で、無闇に人間の感情を刺激するのはリスクが高いかもしれないとのことで、代用できるエネルギーを研究中らしい。

最後に...優木沙々ちゃん。正直、わたしはこの子が無常矜侍に少し似ていて苦手だったけれど...いまではそれなりに協力して活動している。イーリャンくんをゆまちゃんに紹介(?)したのも彼女だ。

彼女曰く『あんな目に遭ったうえに、魔法も上手く使えなくなりましたからねぇ。とりあえず生きれればそれでいいですよ私は』とのことだ。

まどか「あれからも色々とあったけれど...今もわたしは元気です」


602: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:09:21.63 ID:2DvbohYw0
それから、色々と報告をしてここでの時間を過ごした。

まどか「...じゃあね、みんな。また来るよ」

きっとわたしは、ここを訪れる度にしつこく後悔するだろう。

でも、わたしは挫けるわけにはいかない。

みんなのぶんまで背負って生きると決めたし、なにより、闘い、生きると約束したのだから。

あの人たちにまた会えた時に、笑われないように。

ずっと戦い続けてきた、ほむらちゃんとクーガーさんに再会したとき、しっかりと胸を張れるように。

まどか「...さて、行こっかな」






―――ズドン

603: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:10:04.79 ID:2DvbohYw0
まどか「!?」

突如、後ろの空き地に響いた音。

まるで隕石でも落下したかのようにもうもうと煙が立ち昇っている。

「イカンイカン...世界を縮めすぎてしまった...」

その中心から聞こえてくるのは男の人の声。

まどか「......!」

そうだった。最初の出会いもそうだった。

この人はいつだってマイペースのハイペースで、前触れもなく訪れた。

ピンクのサングラスを人差し指であげ、いつもの不適な笑みで煙から姿を現した。






クーガー「こんにちわぁ、のどかさん」

604: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:11:07.73 ID:2DvbohYw0

服装以外、あの時と何も変わらない彼。

言いたいことは山ほどある。

聞きたいことも山ほどある。

でも、わたしの最初の台詞はやっぱりこれだった。






まどか「まどかですよ、クーガーさん」

605: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:12:18.65 ID:2DvbohYw0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

カズマ「劉鳳ォォォ―――!!」

男が闘っている。

劉鳳「カズマァァァ―――!!」

二人の男が闘っている。

理由なんて立派なものはない。強いてあげるとするならば、意地の張り合い。

ガキ大将同士が無邪気に殴り合っているような、愚かな戦い。

だが、それでも。この大地に住む人々はこの壮大な喧嘩から目を離すことができなかった。

606: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:13:24.99 ID:2DvbohYw0
子供A「スッゲー!」

子供B「アルター使いって、あんなこともできるんだ!」

「おーい、そこの坊主ども!」

子供達「?」

クーガー「あそこで闘ってるのな、一人は俺の元同僚で、一人は俺の弟分だ。へっ...まあ、よく頑張っちゃいるが、俺よりは下だな」

子供B[お兄さん、そんなに強いの!?」

子供A「ウッソだー!」

クーガー「嘘じゃねえよ。俺は世界を縮める男だからな...」

子供B「だったら、上手にアルターを使う方法を教えてよ!」

子供A「おい、すげえよ!」

子供「わぁー!」

スタタタ

607: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:14:39.95 ID:2DvbohYw0
クーガー「ふふっ...ふふふっ」

見たいものは全部見れた。彼女たちの力を借りたとはいえ、命を払って走った甲斐があったもんだ。

クーガー(カズマ...お前は限界を超えちまったんだな...だったら進め、徹底的にな...)

心残りがあるとすれば...本をまだ読み終えていないことと、せっかく淹れ方を教えてもらった紅茶が冷めちまったことくらいか。

クーガー(劉鳳...少しくらい時間ができたら戻ってやれよ...水守さんのところ...へ...)

目蓋がとても重い。だが、悪い感じはしなかった。

あれだけ傷みきっていた身体が、フワリと軽くなった気がした。

これなら、心地よく眠れそうだ。

さて...夢でも...見るか...







『お疲れ様、クーガーさん』




608: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:15:48.55 ID:2DvbohYw0
パラソルの下で、無人の椅子がポツンとたたずんでいる。

一陣の風が、椅子を軽く揺らす。

ギシリと哭くと、それきり椅子は動かなかった。

冷めきった紅茶と、栞が挟まれた読みかけの本だけが、誰かがそこにいた痕跡を残していた。







まどか「世界を縮めたい」【スクライド×まどか☆マギカ】



609: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:18:01.53 ID:2DvbohYw0
おまけ 一発ネタ 新編『反逆の物語』~ピュエラとマギはラテン語で、ホーリーは英語だ!~



ナイトメア「」フワフワ



まどか「おまたせ!」

マミ「これで全員揃ったわね」

マミ「―――それじゃあ、いくわよ!」

「「「「「はいっ!」」」」」



キュイィィィン

バァン バァン シュピン



ほむまどマミあんさや劉鳳「「「「「「ピュエラ・マギ・HOLY・セクステット!!」」」」」」

ナイトメア「!?」

610: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:18:46.86 ID:2DvbohYw0
マミ「鹿目さん!」

まどか「はいっ!」

まどマミ「「ティロ・デュエット!」」ドウッ

ナイトメア「!」ワタワタ

劉鳳「逃がすか!剛なる拳伏龍、臥龍!!」ドドウッ

ナイトメア「!!」サッ

さやか「ナイス三人とも!...気持ちは分かるけど、ちょっと落ち着きなよ仁美!ゴメイサマ・リリアン!」シャッ

ナイトメア「」アセアセ

さやか「杏子!」

杏子「おうよ!アミコミ・ケッカイ!」ジャララ

劉鳳「加えて、柔らかなる拳、烈迅!」シュルル

ナイトメア「」グルグル

ほむら「動きが止まりました!」

マミ「お見事!さあみんな、仕上げよ!」



611: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:19:32.61 ID:2DvbohYw0
パン パン パン

ケーキ、ケーキ。まぁるいケーキ!

べべ『ケーキハサヤカ?』

さやか「ちーがーう。私はラズベリー!まぁるいケーキはあ・か・い。ケーキは杏子?」

杏子「ちーがーう。あーたーしーはり・ん・ご。まぁるいケーキはほろ苦い。ケーキは劉鳳?」

劉鳳「ちーがーう。俺はプリン。まぁるいケーキはベベが好き。ケーキは巴さん?」

マミ「ちーがーう。私はチーズ。まぁるいケーキはこーろがる。ケーキは暁美さん?」

ほむら「ちが、います!わた、わたしはかぼちゃ。まぁるいケーキは甘い、です。ケーキはまどか?」

まどか「ちーがーう。わたしはメロン!メロンが割れたら甘い夢」

今夜のお夢は苦い夢 お皿の上には猫の夢

まるまる太って召し上がれー!

ベベ『むじゅむべー!!』ドボァ

612: ◆do4ng07cO. 2014/08/21(木) 02:20:35.13 ID:2DvbohYw0

さやか「っはー!終わったぁ!」

杏子「じゃ、マミ。今日もよろしくー!」

マミ「はいはい」フフッ

ほむら「......」

まどか「どうしたの、ほむらちゃん?」

ほむら「...ううん、なんでもない」

ほむら(私たちの戦いって...これでよかったんだっけ...?)

ほむら(ただ言えることは...)チラッ




劉鳳「プリンはありますか?」

マミ「ええ。昨日みつけたとっておきのがあるわよ」

劉鳳「やったぁ!」

ほむら(あの人だけは絶対に違う気がする...!)



終わり