1: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:23:54 ID:w/7Zs4bc
………………海での一件から数日後 予備校

成幸 「なんです、藪から棒に」

小美浪先輩 「いや、メールでも謝ったけど、これだよ。ほれ」

成幸 (紙袋? 中身は……)

成幸 「あっ……ああ。これ、海で貸したシャツですね」

小美浪先輩 「いや、ほんと悪かったな。返すの忘れて先に帰って」

小美浪先輩 「メールでは大丈夫だったって言ってたけど、本当に大丈夫だったのか?」

成幸 「えっ、あー……」

成幸 (……帰りに乗せてもらった桐須先生の車の運転は、正直全然大丈夫ではなかったけど、)

小美浪先輩 「? 後輩?」

成幸 (それをこの愉快的な先輩に話したら、また桐須先生をからかうネタにしかねないし)

成幸 (わざわざ言うことではないな。よし)

小美浪先輩 「おーい、こうはーい。どうしたー?」

成幸 「……すみません。大丈夫でしたよ。海の家ですぐに新しいシャツを買えましたし」

小美浪先輩 「そ、そうか……」 ホッ

引用元: 【ぼく勉】小美浪先輩「この前は本当に悪かった」成幸「はい?」 




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2: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:25:50 ID:w/7Zs4bc
小美浪先輩 「なんにせよ、それなら良かった。アタシのミスなのは間違いないからな」

小美浪先輩 「本当に悪かった。ごめんなさい」 ペコリ

成幸 「へ……? い、いやいやいや! 顔を上げてくださいよ、先輩。べつに気にしてませんから」

小美浪先輩 「ん。そうか。じゃあアタシも気にしない」 ケロッ

成幸 「切替早っ!? ちょっとしおらしいから変だと思ったけど、やっぱりからかってただけですか!」

小美浪先輩 「ふふん。アタシに頭を下げさせたんだから、それで良しとしろよ、後輩」

成幸 「……べつにいいですけどね」

3: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:26:47 ID:w/7Zs4bc
小美浪先輩 「とはいえ、後輩に無用な出費をさせてしまったようだからな、」

小美浪先輩 「その海の家で買ったとかいうシャツはいくらだった? 出すよ」

成幸 「へ……?」 フルフル 「い、いやいや、いいですよ。俺の着る服が増えただけですから、べつに」

小美浪先輩 「そういうわけにいくか。後輩だって金が有り余ってるってわけじゃないだろ」

小美浪先輩 「アタシが悪いんだから、アタシが出すよ。当然だろ」

成幸 「いや、でも……」

成幸 (言えない!)

成幸 (桐須先生に眼鏡を弁償してもらう時、世話になったお礼と口止め料を兼ねてシャツも買ってもらったなんて、)

成幸 (絶対に言えない! 言ったら桐須先生に殺されかねない……!)

4: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:28:00 ID:w/7Zs4bc
小美浪先輩 「後輩? またボーッとして、どうした?」

成幸 「なんでもないです! 何もないです!」

小美浪先輩 「お、おう。そうか」

成幸 「お金は、受け取れません」

成幸 (さすがにシャツの代金の二重取りなんてせこい真似は絶対したくない)

小美浪先輩 「おいおい後輩。さすがにアタシもそれじゃ気が済まないぞ」

成幸 (とはいえ、それで納得する先輩でもない。この人は意外とこういうことを気にする人だ)

成幸 (なら……)

成幸 「その代わり、といってはなんですが」

小美浪先輩 「うん?」

成幸 「明日、ちょっと付き合ってもらってもいいですか?」

小美浪先輩 「……うん?」

5: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:29:27 ID:w/7Zs4bc
………………翌朝 小美浪家 あすみの部屋

小美浪先輩 「………………」

小美浪先輩 「……まったく、欲がないというか、なんというか」


―――― 『ちょっと勉強を手伝ってほしくて』

―――― 『先輩の勉強時間をもらっちゃうのは申し訳ないんですが』

―――― 『明日だけでも助けてくれると嬉しいです。場所はうちでいいですか?』


小美浪先輩 「べつに、改めてあんな言い方しなくても、いつも理科系科目を教えてもらってるわけだし、」

小美浪先輩 「後輩だったら、いつでも勉強くらい教えてやるってのに」

小美浪先輩 「……“後輩だったら、いつでも勉強くらい教えてあげるのになっ”」

小美浪先輩 「これ、今日の別れ際にでも言ってやったらまた顔真っ赤にするだろうな、あいつ」

6: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:30:11 ID:w/7Zs4bc
小美浪先輩 「ま、やることが勉強ってのが色気もへったくれもないが、」

小美浪先輩 「あいつをからかうためにちょっと気合いを入れてオシャレをしすぎてしまったな……」

小美浪先輩 「見惚れて後輩が勉強に集中できなかったらどうしような」

小美浪先輩 「……あの真面目眼鏡くんは、そんなことに気づくタチじゃねーか」

小美浪先輩 (……よくよく考えたら、親父のバカに付き合わされてカラオケ行ったり海に行ったりしたけど)

小美浪先輩 (後輩の方からアタシを誘うなんて初めてかもな)

クスッ

小美浪先輩 (……べつに、あいつのことをどう、ってわけじゃないけど)

小美浪先輩 (なんか嬉しいな。アタシを頼ってくれてるみたいで)

小美浪先輩 「……なんて、あいつに言ってアタシに惚れられても困るしな」

小美浪先輩 「さてさて、そろそろ行くかぁ」

小美浪先輩 (……っつーか、アタシ)

小美浪先輩 (男の家に行くのって、初めてじゃないか?)

小美浪先輩 (………………) クスッ (……ま、男ってのが、あの後輩じゃなぁ)

7: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:31:17 ID:w/7Zs4bc
………………ドアの隙間

小美浪父 (あすみ……)

小美浪父 (唯我くんのためにオシャレにこんなに時間をかけるなんて……)

小美浪父 (我が娘ながらなんていじらしいんだ……!) ウルウル

小美浪父 (がんばれよ、あすみ! パパは唯我くんとのことなら何でも協力するぞ!)

小美浪先輩 「……おい、邪魔だぞ、親父」

小美浪先輩 「っつーか、なに人の部屋覗いて涙ぐんでんだよ!」

8: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:32:21 ID:w/7Zs4bc
………………唯我家

小美浪先輩 「………………」

成幸 「あっ、先輩。来てくれたんですね。ありがとうございます!」

成幸 「早速で申し訳ないんですが、手伝ってもらってもいいですか!?」

小美浪先輩 (男子の部屋に行くことに、少なからずドキドキしてた自分をぶん殴りたい気分だ)

理珠 「………………」 グデーッ

文乃 「………………」 ズーン

うるか 「………………」 シクシク

葉月 「おねーちゃんたち、元気出してー」 ポンポン

和樹 「にーちゃんの嫁に来ていいからさー」 ポムポム

小美浪先輩 「おい、後輩。なんだ、この死屍累々の光景は」

小美浪先輩 「お前がやったのか?」

9: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:33:11 ID:w/7Zs4bc
成幸 「俺が何をしたってこいつらはこんなにへこみませんよ」

小美浪先輩 (いや、いつもお前のせいで結構一喜一憂してると思うが……)

成幸 「先週の予備校の小テストが散々だったんですよ。範囲が広がったから前より点数が落ちて……」

成幸 「俺ひとりじゃこの負のオーラに太刀打ちできないので、先輩を呼んだんです」

小美浪先輩 「そうかい。やれやれだな」

小美浪先輩 (勉強を手伝ってほしい、って)

小美浪先輩 (後輩の勉強じゃなくてこいつらの勉強かよ……)

小美浪先輩 (……ま、いいけどさ)

10: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:34:00 ID:w/7Zs4bc
小美浪先輩 「おーい、お前らー」

理珠&文乃&うるか 「「「………………」」」

小美浪先輩 「反応なし、と。じゃあ仕方ねーな。後輩、ちとこっち来い」

成幸 「? いいですけど、なんです?」

小美浪先輩 「こいつら焚きつけるならこれしかねーだろ」

ギュッ

成幸 「!? せ、せせ、先輩!?」

成幸 (だ、抱きつかれた!? 何が起きた!? っていうか良いにおい……)

成幸 (……って違う!)

11: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:35:34 ID:w/7Zs4bc
小美浪先輩 「お前らー、早く起きて勉強しないと、お前らの“先生”、アタシが盗っちまうぞー?」

理珠 「……? !?」 ハッ 「なっ、ななな、何を!? な、なぜ成幸さんに抱きついているのですか!?」

うるか 「へ……?」 ハッ 「な、成幸!? なんで先輩とくっついてるのさ!」

文乃 「………………」 キリキリキリ 「……葉月ちゃん、和樹くん、ちょっと水もらってもいいかな?」

葉月 「へ? いいけど、」 和樹 「どしたの、おねーちゃん?」

文乃 「ちょっと、胃薬をね……」 キリキリキリ

小美浪先輩 「ほい、全員起きたぞ、後輩」

成幸 「さ、さすがはあしゅみー先輩! 一瞬であいつらを目覚めさせられるとは……!」

小美浪先輩 「よーし、後輩。次それで呼んでみろ? 今度はお前を永遠に眠らせてやるからなー?」

12: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:36:30 ID:w/7Zs4bc
………………

小美浪先輩 「いいか、武元。英語は範囲が広がれば当然覚える文法も単語も増える」

小美浪先輩 「点数なんて乱高下するもんだ。それに一喜一憂してたら勉強なんか続かないぞ?」

うるか 「ん……」 グッ 「そうですね。さすが先輩、いいこと言う!」

小美浪先輩 「おう。ってことで……」 スッ 「ここからここまで、この範囲の単語をとりあえず覚えろ」

うるか 「へ……? こ、ここからここまで? 単語数は……?」

小美浪先輩 「知るか。っていうか、そこ中学生レベルの単語だからな」

小美浪先輩 「受験英語で単語を大量に覚える必要はないが、お前の場合はいくらなんでも少なすぎる」

小美浪先輩 「受験に範囲なんてないんだ。基本の単語くらいは覚えろ。基本以前の基本だ」

うるか 「う、うぅ~」 ウルウル 「小美浪先輩の鬼! 鬼畜! うー!」

小美浪先輩 「なんとでも言え」

13: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:37:56 ID:w/7Zs4bc
小美浪先輩 (……にしても) ジーッ

成幸 「……よし。前のテストの復習はこんなもんか」

成幸 「じゃあ、一時間後に同じテストをやってみるから、それまで自習な。わかんなかったらすぐ言えよ」

理珠 「はい」

文乃 「了解だよ」

小美浪先輩 (今は武元の相手をアタシがやってるからいいものの、)

小美浪先輩 (いつもは三人まとめて相手してるのかよ、あいつ。変に器用なやつだな)

小美浪先輩 (色々と不器用なくせにな)

うるか 「……? あ、ねえねえ、先輩」

小美浪先輩 「ん? どうかしたか?」

うるか 「教えてくれるのはありがたいんだけどさ、どうして今日成幸の手伝いをしてるの?」

小美浪先輩 「……あー」 (そりゃまぁ気になるか……)

14: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:39:22 ID:w/7Zs4bc
理珠 「……私も気になります」

文乃 「わたしも、かなー?」

文乃 (……っていうか)

文乃 (返答によっては、成幸くん、叩く) ゴゴゴゴゴゴ……

成幸 (……って顔してんなー。怖い)

成幸 (まぁ、べつにやましいことはないし、話してもいいよな)

成幸 「いや、実はこの前、海に先ぱ――」

文乃 「――何を言おうとしてるか分からないけど言わせるかぁ!! だよ!!」 ガバッ

成幸 「むぐっ!? むぐぐぐぐぐぐぐ!?(何すんだ古橋!?)」

文乃 (だまらっしゃい! なんとなく想像がついたから口をふさいだんだよ!)

文乃 (それを君が口にしたら、絶対にわたしの胃が限界を迎えるってわかったから!)

15: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:40:27 ID:w/7Zs4bc
理珠 「一体どうしたのですか、文乃。急に成幸さんの口をふさいだりして……」

理珠 (というか、成幸さんとの距離が近いですよ、文乃) ジトーッ

うるか 「文乃っちって、時々へんなことするよねー」

うるか (うわー! 文乃っちうらやましいよー! あたしも成幸の吐息を手で感じたいよぅ!)

文乃 「はは……はははは……」 (ただただ胃が痛い)

小美浪先輩 「………………」 ハァ 「……大したことじゃねえよ」

小美浪先輩 「後輩がお前たちのことを心配して、アタシに頭を下げてお願いしてきたってだけだ」

小美浪先輩 「そして優しい優しいアタシは、哀れな後輩に力を貸してやってるってわけだ」

理珠 「成幸さん……」 キュン

うるか 「成幸ぃ……」 キュン

文乃 (ありがたいことだけど胃が痛い)

16: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:42:00 ID:w/7Zs4bc
理珠 「……お二人がそこまでしてくれるなら、私、がんばれます。成幸さん。小美浪先輩」

うるか 「あたしも! 凹んでなんかいられないよね! ふたりのためにもがんばるよ!」

文乃 「そうだね。わたしもがんばるよ。ただ、その前に……」

文乃 「成幸くん。お茶をいれたいから、一緒に来て?」

成幸 「へ? ああ、お茶だったら俺がいれてくるから、古橋は勉強を……」

文乃 「い・い・か・ら、一緒に来て? 成幸くん?」 ゴゴゴゴ……

成幸 「う、うん、文乃姉ちゃん……」

17: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:43:02 ID:w/7Zs4bc
………………台所

文乃 「……で? さっきは一体何を言いかけたんだゴラァ。だよ」

成幸 「怖いので目のハイライトをつけてくれると嬉しいんですが……」

文乃 「あ゛?」

成幸 「すみません何でもないです」

成幸 「いや、実はこの前小美浪先輩とふたりで海に行ってさ――」

文乃 「――ストップ!!」

成幸 「……どうかしたか、古橋?」

文乃 「その不思議そうな顔が不思議で仕方ないよ!? 唯我くん君はひょっとしたらとんでもないおバカなのかな!?」

成幸 「お前のその容赦のない言葉、なんか懐かしい感じがするな……」

文乃 「シャラップ! 感傷に浸ってる場合じゃないんだよ!」

ドスッ!!

成幸 「おぐっ……! 容赦のない手刀!」

18: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:44:13 ID:w/7Zs4bc
文乃 「小美浪先輩とふたりで海に行った!? どうしてそんな恋人みたいな真似をしてるのかな!?」

成幸 「ほら、前に先輩の家で話しただろ? 恋人のフリをしてるって」

文乃 「うん。それは聞いた」

成幸 「それでさ、先輩の親父さんが恋人同士なのに海にも行ってないのはおかしい、って言い出してさ」

文乃 「うんうん」

成幸 「それで、先輩とふたりで海に行った」

文乃 「ふーん。バカだねぇ本当にバカだねぇ成幸くんは」

成幸 「そこまでバカにされるようなこと!? いや、まぁ、恋人のふりがバカっぽいのは分かるけど……」

文乃 「それもそうだけれど! それ以上にそれをりっちゃんとうるかちゃんの前で言おうとするのがバカだって言ってるんだよ!」

成幸 「……? あいつらに言ったらダメなのか?」

文乃 「心底不思議そうな顔に殺意が湧くよ!」

キリキリキリ……

文乃 「……ああ、もういいよ。唯我くんがそういう人だっていうのはわかってたから」

成幸 「なんか、すまん。お前にはいつも苦労をかけてる気がする……」

19: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:44:59 ID:w/7Zs4bc
文乃 「……ふぅ。まぁ、いいよ。わたしは成幸くんのお師匠様だからね」

文乃 「とにかく、小美浪先輩とふたりで海に行ったこと、ふたりには絶対に言っちゃダメだからね」

成幸 「理由が全然わからん……」

文乃 「……今はまだ、わからなくていいよ」

ハァ

文乃 「それも恋の練習問題だよ、成幸くん。特別問題だよ」

成幸 「特別問題! 師匠!」

文乃 (はぁ。まったくもう……)

文乃 (成幸くん。ほんと、手がかかる“弟”だよ。君は)

20: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:45:58 ID:w/7Zs4bc
………………

カリカリカリ…………

成幸 「………………」

ピッ

成幸 「……はい、そこまで。ペンを置いて自己採点」

うるか 「ふはぁ~。頭がパンクしそう……」

理珠 「でも、以前とは比べものにならない手応えです」

文乃 「わたしもだよ。今回は自信あるよ!」

小美浪先輩 (まぁ、そりゃ一回受けたテストをもう一回やってるんだから出来て当然だけどな)

小美浪先輩 (……ま、今日は自信を取り戻させるのが主題だからいいのかね)

成幸 「………………」

小美浪先輩 (……満足げな顔しちまってまぁ。先生ってより、お母さんだな、あれじゃ)

小美浪先輩 (あたしに理科を教えてくれるときも、)

小美浪先輩 (きっとあんな顔してんだろうなぁ)

21: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:52:46 ID:w/7Zs4bc
………………夕方 帰路

うるか 「じゃ、あたしこっちだから。またね」

理珠 「私もこちらですので。今日はこれで失礼します」

文乃 「うん。またね、うるかちゃん、りっちゃん」

小美浪先輩 「また予備校でなー」

文乃 「………………」

小美浪先輩 「………………」

テクテクテク……

文乃 「……あの、先輩」

小美浪先輩 「んー?」

文乃 「成幸くんから聞きました。ふたりで海に行ったって」

小美浪先輩 「ああ。まぁ、アタシとしちゃ隠すつもりはなかったんだけどな」

文乃 「でも、隠してくれてよかったです。あのふたりに知られたくはなかったから」

22: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:53:53 ID:w/7Zs4bc
小美浪先輩 「……友達想いなんだな、お前は」

文乃 「……先輩は、どうなんですか?」

小美浪先輩 「ん? アタシがどうしたって?」

文乃 「以前、先輩はわたしに言いましたよね」


―――― 『後輩のこと特別に思ってるのはお前じゃねーの?』


小美浪先輩 「ああ、そんなこと言ったな」

文乃 「その言葉、先輩にそっくりお返ししてもいいですか?」

小美浪先輩 「ああ?」

文乃 「先輩は、成幸くんのことをからかって遊んでるふりをして、」

文乃 「――――本当は、成幸くんのこと、好きなんじゃないんですか?」

小美浪先輩 「………………」

クスッ

23: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:55:01 ID:w/7Zs4bc
文乃 「!? な、なんで笑うんですか!」

小美浪先輩 「おいおい、笑うくらい許せよ。そんな見当違いなこと言われりゃ笑いもするさ」

小美浪先輩 「アタシが、後輩を、好き? はっ、そんなわけわかんねーこと言われりゃな」

文乃 「………………」

ジーッ

文乃 「……信じていいんですね?」

小美浪先輩 「信じるも信じないもお前次第だろ」

文乃 「……わかりました。信じます」

小美浪先輩 「そうか。そりゃ何より――」

文乃 「――――先輩、今日はいつもよりオシャレしてて、お化粧も気合い入ってる気がしたけど、」

文乃 「わたしの気のせいだったってことにします」 ニコッ

小美浪先輩 「………………」

小美浪先輩 「……お前ってさ、ホント、時々めっちゃ怖いよな」

24: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:57:18 ID:w/7Zs4bc
小美浪先輩 「……じゃあ、アタシもちょっとお前に聞かせてもらおうかな」

文乃 「……なんですか?」

小美浪先輩 「アタシに細かいことはわからない。後輩の色恋沙汰なんて、これっぽっちも興味はないからな」

小美浪先輩 「でも、お前と後輩の関係は、昔と今じゃ明らかにちがうよな?」

文乃 「……何が言いたいんですか」

小美浪先輩 「……“成幸くん”」

文乃 「あっ……」 カァアア…… 「そ、それは、その、ただの姉弟ごっこ、だから……」

小美浪先輩 「ふーん、そうかい。じゃ、そういうことにしといてやろうかね」

ニヤリ

小美浪先輩 「姉弟ごっこ、ねぇ。楽しそうで大層結構」

小美浪先輩 「いつまでその“姉弟”を続けられるのか、楽しみだな、古橋」

25: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/10(月) 23:59:04 ID:w/7Zs4bc
………………唯我家

成幸 「はぁ……今日は本当に疲れた。先輩がいなかったらどうなってたことか……」

成幸 「先輩に本当に感謝だな。何かお礼しなきゃ……ん?」

ゴソッ

成幸 「紙袋? 誰かの忘れ物か?」

ピラッ……

成幸 (紙が出てきたけど、これ、手紙?)


『よう。お前が固辞するから、サプライズみたいになっちまったけど、これやるよ。

 アタシからのプレゼントなんて、アタシのファンなら垂涎ものだぜ?  小美浪あすみ』


成幸 「……? あっ、これ、シャツ……」

成幸 「わざわざ買ってきてくれたのか、先輩……」

成幸 「あいつらの勉強も手伝ってもらったのに、なんか申し訳ないな……」

成幸 「なんだかんだ、本当に面倒見が良くて優しい人だよな、あしゅみー先輩って」

成幸 「今度、本当に何かお礼しないとな……」

26: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/11(火) 00:00:10 ID:Wk/a4uWM
………………小美浪家

小美浪先輩 「ただいまー」

小美浪父 「おお、おかえり、あすみ」

ニコニコニコ

小美浪先輩 「……んだよ、キモいな。何をニヤニヤしてんだ」

小美浪父 「いやな、今日は唯我くんとデートだったんだろう?」

小美浪父 「どうだった? 楽しかったか? どこに行ったんだ」

小美浪先輩 「アタシは小学生か」

ハァ……

小美浪先輩 「何もないよ。アイツの家に行って勉強しただけだ」

小美浪父 「!? 家!? 唯我くんの家にか!?」

小美浪先輩 「それがどうかしたかよ……」

27: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/11(火) 00:00:41 ID:Wk/a4uWM
小美浪父 「………………」

スッスッスッ……

小美浪先輩 「おい。なに無言で着替えを始めてんだ。なんで背広なんか引っ張りだしてんだよ!」

小美浪父 「少し早いかもしれないが、挨拶をしておかなければならないと思ってな」

小美浪先輩 「あいさつって……」

小美浪父 「唯我くんのご家族に。娘のことをよろしくお願いしますとな」

小美浪先輩 「は……?」

小美浪父 「なに、心配するな。あの唯我くんのご家族だ。きっと良い方たちに決まってる」

小美浪先輩 「……うん。まぁ、いつかは言わなきゃいけないと思ってたから、今言うけど」

小美浪先輩 「あんま暴走しすぎるようだと、いい加減殴るぞー、親父ー?」

28: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/11(火) 00:01:44 ID:Wk/a4uWM
………………幕間 唯我家

水希 「ただいまー」

水希 「……?」

水希 「この匂いは、緒方さん、古橋さん、武元さん……だけじゃない」

水希 「新しい女の匂いがする……!!」 ギリリッ

おわり

30: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:35:43 ID:bgRCVaD6
>>1です。もうひとつお話を投下します。
つたないSSで恐縮ですが、読んでいただけたら嬉しいです。


【ぼく勉】桐須先生 「不可解。どうしたというの、唯我くん」

31: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:36:45 ID:bgRCVaD6
………………海の帰り ショッピングモール駐車場 車内

桐須先生 「一体どうしたというのかしら。地獄から帰ってきたような顔だわ」

成幸 「……どちらかといえば、地獄に行かずに済んだ顔ですけどね」

桐須先生 「君が何を言わんとしているのかまったくわからないわ」

成幸 (もう二度と絶対、この人の運転する車には乗らない……。命がいくつあっても足りない)

桐須先生 「では、行きましょうか。シャツとメガネを新調しに」

成幸 「あ、はい……でも……」

桐須先生 「? 何かしら?」

成幸 「さすがに、上半身裸のまま、ショッピングモールに入るのは……」

桐須先生 「!? そ、そういえばそうね……私としたことが、失念していたわ」

桐須先生 (……というか、今さらなことだけれど、)

桐須先生 (生徒とはいえ、上半身裸の男子と同じ車に乗っていたのね、私) ドキドキ

桐須先生 「す、少し車で待っていなさい。すぐに服を買って戻ってくるわ」

成幸 「すみません、お願いします」

32: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:37:44 ID:bgRCVaD6
………………ショッピングモール

桐須先生 (……とは言ったものの、よく考えたら私、男物の服なんて買ったことがないわ)

桐須先生 (そもそも唯我くんの趣味も分からないし……)

桐須先生 (どんな服を買っていったらいいのかしら……)

桐須先生 (……もしも、もしもよ、)

桐須先生 (私が選択をミスして、とてつもなく趣味の悪い服を買っていったりしたら、)

桐須先生 (……ダメよ。ただでさえ彼には情けない姿しか見せていないのだから、)

桐須先生 (これ以上教師としての威厳を失墜させることは許されないのよ)

桐須先生 (絶対に、彼に満足してもらえる服を買って行かなければ)

桐須先生 (ファストファッションはダメ。シンプルなものも多いけれど、変な装飾がついている可能性が高い)

桐須先生 (メンズファッションに疎い私が選ぶのだから、こういうときは、そう……)

桐須先生 (お高めのお店の服ならば、失敗はきっと少ないわ!)

33: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:39:14 ID:bgRCVaD6
………………駐車場 車内

成幸 「すみません、先生。助かりました」

桐須先生 「サイズなどは問題ないかしら?」

桐須先生 (無難。結局、お高そうなお店の店員さんにお任せしてしまったわ)

成幸 「はい、大丈夫です」

桐須先生 「そう。それはよかったわ」

成幸 「ただ……」

桐須先生 「ど、どうかしたかしら……」

成幸 「すごく着心地がよくて、高そうなんですけど……これ、いくらですか?」

桐須先生 「? どうしてお財布をだしているのかしら、唯我くん」

桐須先生 「今日は海でお世話になってしまったし、それは差し上げるわ」

成幸 「い、いやいや、そういうわけにはいかないですよ」

桐須先生 「却下。私の教師としての体面も少しは察しなさい」

34: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:40:38 ID:bgRCVaD6
成幸 「でも……」

桐須先生 「口止め料、といったらいかがわしいけれど、」

桐須先生 「今日のことを黙っていてもらう担保だとでも思って頂戴」

桐須先生 「それに安物の服よ。社会人の私からしたら取るに足らないお金だわ」

桐須先生 (……本当は福沢諭吉先生が消えたのだけれど)

成幸 「……わかりました。じゃあ、お言葉に甘えて、頂戴します」

成幸 「ありがとうございます、桐須先生。俺、この服大事にしますね」

桐須先生 「っ……」 ドキッ 「お礼を言われるようなことではないわ」

桐須先生 「さ、今度は眼鏡よ。早く買いに行きましょう」

成幸 「はい!」

……コケッ

成幸 「うおっ!?」 (段差!?)

桐須先生 「!? 危ない……!」

35: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:42:37 ID:bgRCVaD6
成幸 「ん……?」 (あれ、痛くない……? っていうか、やわらかい……?)

桐須先生 「……いつまでもくっつかれていても、困るのだけれど」

成幸 「へ? わっ……わわっ、き、桐須先生……!?」 バッ

成幸 「す、すみません。つまずいた俺を、支えてくださったんですね」

成幸 (や、やば……俺、桐須先生に抱きついてたよ。怒られる……)

桐須先生 「………………」

桐須先生 「……ごめんなさい。あなたが眼鏡をかけていないことなんて、わかっていたことなのに」

スッ

成幸 「へ……? どうして手を出してるんですか?」

桐須先生 「瞭然。手を繋がないと、危なっかしくて仕方ないわ」

成幸 「!? 手、繋ぐんですか!?」

桐須先生 「それがどうしたというの。いいから、早くしなさい」 ギュッ

成幸 「わっ……わわわっ……」

36: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:44:36 ID:bgRCVaD6
………………ショッピングモール内

成幸 (う、海で人目を避けていたときならいざ知らず……)

成幸 (人がたくさんいるショッピングモールで手を繋ぐっていうのは、やっぱり、こう……)

成幸 (恥ずかしいというか、照れるというか……)

成幸 (桐須先生は美人だから、人目を集めるしなぁ)

成幸 (……でも、さすがは桐須先生。まったく動じてないみたいだ)

桐須先生 「………………」

桐須先生 (……せ、生徒とはいえ、男性と、手を繋いで)

桐須先生 (休日のショッピングモールを歩くなんて、これでは……まるで……)

ハッ

桐須先生 (……何を不埒なことを考えているの、桐須真冬。これはあくまで緊急的な措置)

桐須先生 (私が眼鏡を壊してしまったのだから、その責任を取る。それだけのこと――)

子ども 「あーっ。ねえ、ママ、カップルだよー」

桐須先生&成幸 「「っ……///」」

37: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:46:08 ID:bgRCVaD6
………………眼鏡屋

成幸 (とはいえ、いざ眼鏡屋に来たものの)

成幸 (眼鏡なんて高級品、滅多に買わないし、買ったとしても安い店のセール品だしなぁ)

成幸 (こういうショッピングモールに入ってる眼鏡屋って、高いんだよなぁ)

成幸 (安い眼鏡を弁償してもらうのに、高い金額を払ってもらうわけにはいかないし……)

桐須先生 「どうかしたの? 早く選びなさい」

成幸 「あ、はい。でも……」

桐須先生 「好みに合わないのかしら? それなら、別のお店に足を伸ばしてもいいのだけれど」

成幸 「本当ですか!? それなら、壊れた眼鏡を買った店に行ってもらえると助かります」

桐須先生 「得心。それくらいお安い御用よ。では、車に戻りましょうか」

成幸 「!?」

38: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:47:22 ID:bgRCVaD6
成幸 (ば、バカか俺は!? 別の場所に移動となったら車で移動することになる!)

成幸 (桐須先生の車に乗るのはもうごめんこうむりたい!)

成幸 「あ、いや! よくよく見てみるとー、オシャレな眼鏡がいっぱいだー!」

成幸 「桐須先生! ここで眼鏡選んでもいいですか!」

桐須先生 「……? それはもちろん、構わないけれど」

成幸 「わーい、ありがとうございます、先生!」

桐須先生 「あ、あまり、大声で先生と言わないでもらえると助かるわ」

成幸 「あっ……」 (そりゃそうだ。生徒と二人でお出かけなんて、いいことじゃないもんな)

成幸 「す、すみません……」

桐須先生 「いいわ。早く選びなさい」

成幸 「はい……」

39: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:48:48 ID:bgRCVaD6
………………

店員 「では、二時間後には完成していますので、取りに来てください」

成幸 「はい、わかりました。お願いします」

成幸 (……結局、できるだけ安いフレームを選んだら、前のと同じような眼鏡になってしまった)

成幸 (まぁ、それは構わないんだけど、二時間か……)

成幸 (喫茶店にでも入って勉強でもしようかな)

成幸 (幸いにして、電車で勉強しようと思って道具は持ってきてあるし)

桐須先生 「……二時間。この時間を無駄に使う手はないわ。唯我くん」

成幸 「はい。もちろん勉強時間にあてるつもりです」

桐須先生 「そうしましょう。では、行きましょうか」 ギュッ

成幸 「!? ど、どうしてまた手を繋ぐんですか!? っていうか、“行きましょう”って……?」

桐須先生 「愚問。眼鏡が完成するまで、あなたをひとりにするわけにはいかないでしょう」

40: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:51:04 ID:bgRCVaD6
成幸 「い、いやいや、いくらなんでも大丈夫ですって。ショッピングモールから出ないですし」

成幸 「眼鏡の代金も払ってもらいましたし、もう先生はお帰りになって大丈夫ですよ」

成幸 「先生もお忙しいでしょうし……」

桐須先生 「はぁ? さっき段差でこけていた人間の言うべき台詞ではないわね」

成幸 「うっ……」

桐須先生 「あなたの眼鏡を壊してしまった私が責任を果たす必要があるわ」

桐須先生 「そうでなくとも、危険な状態にある生徒を残して帰れるわけがないでしょう」

桐須先生 「私は教師なのだから」

成幸 (かっこいい……)

成幸 (……かっこいいけど、それは自分の部屋をしっかり掃除できるようになってから言ってほしいなぁ)

桐須先生 「どうせ真面目なあなたのことだから、勉強道具を持ってきているのでしょう?」

桐須先生 「喫茶店にでも入って、落ち着いて勉強をしましょう。分からなければ私が教えるわ」

成幸 「……わかりました。すみません。お願いします」

41: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:56:14 ID:bgRCVaD6
………………物陰

文乃 「………………」

文乃 「……気分転換がてら、ショッピングモールに来てみれば」

文乃 「唯我くんと桐須先生が楽しげに手を繋いでデートしてるって……」

文乃 「これは一体どういうことなのかな……?」

文乃 「っていうか、見つけたのがわたしで良かったよ。うるかちゃんとりっちゃんにはとても見せられないよ……」

理珠 「文乃? そんなところでどうしたのですか?」

うるか 「文乃っちー、今日アイス三段重ねサービスだってー!」

うるか 「早く食べにいこー!」

文乃 「三段重ねサービス!?」

ハッ

文乃 (うぅ……今すぐにでも食べに行きたい、けど……)

42: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:58:06 ID:bgRCVaD6
紗和子 「ねえ、緒方理珠? 私とアイスをシェアしましょうよ」

紗和子 「そうすれば、たくさんの味が食べられるわよ?」

理珠 「良い提案です、関城さん」 パァァァ 「みんなで分け合って色んな味を食べましょう」

文乃 (ちくしょー! だよ! 魅力的なこと話してるー! でもあれを看過できないよー!)

文乃 (桐須先生と成幸くんが手を繋いでいるところをりっちゃんとうるかちゃんが目撃したりしたら……)


――――理珠 『……な、成幸さん? どうして、桐須先生と仲睦まじく手を繋いでいるのですか……?』

――――うるか 『成幸のバカー! ●●●! そんなに大人の女がいいのかー!」


文乃 「ぐはっ……」 (わたしの胃が、限界を迎える未来が見えたよ……)

43: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 01:59:19 ID:bgRCVaD6
うるか 「文乃っち? どうかしたの?」

文乃 「……ううん。なんでもないよ」

ニコッ

文乃 「ちょっと三人で先に行っててもらえるかな。わたしはお手洗いに行ってから合流するよ」

うるか 「んぅ? トイレだったら一緒に行くよ?」

文乃 「だ、大丈夫! 大丈夫だから! じゃあ、あとでアイス屋さんの前でね!」

シュバッ

うるか 「行っちゃった。文乃っち、お腹でも痛いのかなぁ」

紗和子 (でへへ、緒方理珠とアイスをシェア……間接キス……)

理珠 「うるかさん、行きましょう。関城さんがなんかキモいので」

うるか 「ふたりは本当に大親友なんだよね……?」

44: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:03:56 ID:bgRCVaD6
………………ショッピングモール内喫茶店

成幸 「………………」

カリカリカリカリ……

桐須先生 「………………」

成幸 (……いい。やっぱり桐須先生の前だとメチャクチャ集中できる)

成幸 (あいつらと違って、教える必要はないから自分のことに時間が割けるし、)

成幸 (何より桐須先生のピクリとも笑わない表情が適度な緊張感を与えてくれる)

成幸 (なんだったらこれから毎日家に伺って勉強したいくらいだ……)

桐須先生 (……唯我くん、集中できているようね)

桐須先生 (小美浪さんのメイド喫茶でもしっかり勉強できていたようだし、)

桐須先生 (この子は本当に、勉強をがんばろうという気概が凄まじいわ)

成幸 「……ん」

桐須先生 「? どうかした? 何か分からないところでもあったかしら?」

成幸 「あ、いや、ちょっとお手洗いに行こうかなと」

45: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:04:45 ID:bgRCVaD6
桐須先生 「あら、そう。じゃあ、行きましょうか」 ギュッ

成幸 「!? いや、さすがに、ひとりで行けますよ!」

桐須先生 「何を顔を赤くしているの。男子トイレの中にまでは入れないけれど、」

桐須先生 「トイレの場所までの案内は必要でしょう?」

成幸 「だ、大丈夫ですよ! 場所は把握してますし!」

成幸 「先生はここで待っててください!」

桐須先生 「そう……?」 スッ 「気をつけていってらっしゃい」

成幸 「はい」

46: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:05:21 ID:bgRCVaD6
………………

成幸 (……はぁ。さすがにトイレの案内までお願いするのは恥ずかしすぎるよ)

成幸 (とはいえ、案内板も見にくいな。それっぽい方向に行けば大丈夫かと思ったけど……)

成幸 (うーん、全然分からん。やっぱり桐須先生に案内してもらえばよかったか――)

? 「――ていっ」

ドスッ

成幸 「ふぐっ!?」

文乃 「やぁやぁ、こんにちは、成幸くん。奇遇だね」

成幸 「何事だよ!? ……って、古橋?」

文乃 「そうです。あなたの師匠、古橋文乃です」

成幸 「お前もここに来てたのか。で、どうして俺は手刀を入れられたんだ?」

文乃 「その質問に答える前に、わたしが質問させてもらってもいいかな?」

文乃 「唯我くん、君はどうして、桐須先生と仲良く手を繋いでデートなんかしてるのかな?」

成幸 「……!?」

47: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:06:15 ID:bgRCVaD6
成幸 「いや、違うんだ、古橋。これには深い訳があってだな……!」

文乃 「うん。わたしにはその深い訳は分からないけど、何か事情があるんだろうな、って察することはできるよ」

文乃 「唯我くん、なぜか眼鏡してないしね」

文乃 「でもね、今日このショッピングモールにいるのはわたしだけじゃないんだよ?」

文乃 「りっちゃんとうるかちゃん、あとついでに紗和子ちゃんも一緒に来てるんだよ?」

成幸 「……? それが何か問題あるのか?」

文乃 「なんで君はそういうところとことんまで鈍いのかな!?」

文乃 「……ま、成幸くんは成幸くんだもんね」

48: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:08:10 ID:bgRCVaD6
成幸 「ん……。なんか、すまん」

文乃 「べつに。わたしが勝手に右往左往してるだけ、とも言えるから」

文乃 「……アイス屋さんの周辺には来ないでね。たぶんわたしたちそこにいるから」

成幸 「お、おう。わかった。そっちの方には行かないようにするよ」

文乃 「よろしい。じゃあ、また予備校でね、成幸くん」

成幸 「あっ……、ち、ちょっと待ってくれ、古橋」

文乃 「? どうかしたの?」

成幸 「恥を承知でお願いしたいことがある」

成幸 「……俺を、トイレまで案内してくれないか? 実は眼鏡がなくて、遠くがほとんど見えないんだ」

文乃 「……は?」 ハァ 「本当に、君は手がかかる弟だよ、まったく」

……ギュッ

成幸 「す、すまん。ありがとう」

文乃 「いいよ。手を引くくらい。わたしは成幸くんのお姉ちゃんだからね」

文乃 (……絶対、りっちゃんとうるかちゃんに見られないようにしなきゃ)

49: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:09:12 ID:bgRCVaD6
………………喫茶店

桐須先生 「………………」

ソワソワソワソワ……

桐須先生 (……遅いわ。何かあったのかしら)

桐須先生 (道に迷ってるだけならいいけど、不貞の輩に誘拐されたとか、そういうこともあり得るわ……)

桐須先生 (彼は良い子である分、人の悪意や害意に鈍そうだもの)

桐須先生 (心配。やはり、探しに行くべきね)

ガタッ

成幸 「? 急に立ち上がって、どうしたんですか、先生?」

桐須先生 「!? 唯我くん、無事だったのね」

桐須先生 「随分と時間がかかっているようだったから、心配したわ」

成幸 「ああ……」 (古橋に捕まってた時間が長かったからな……)

成幸 「すみません。ちょっと道に迷ってしまって……」

50: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:10:06 ID:bgRCVaD6
桐須先生 「……ま、まぁ、そんなところだろうと思っていたわ」

桐須先生 「だから送り迎えが必要だと言ったでしょう? まったく……」

成幸 「面目ないです……」

桐須先生 「まぁ、いいわ。ほら、まだ時間はあるんだから、勉強に戻りなさい」

成幸 「はい」

カリカリカリカリ……

成幸 (……そっか。先生)

成幸 (急に立ち上がったのは、俺を探しに行こうとしてくれたのか)

成幸 (……母さん以外で、こんなに俺に親身になってくれる大人がいるって)

成幸 (なんか嬉しいな)

51: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:12:22 ID:bgRCVaD6
………………眼鏡屋

店員 「お買い上げありがとうございましたー!」

成幸 (……ほんと、前とほとんど代わり映えしない眼鏡だ)

成幸 (まぁ、悪目立ちするよりいいか。こういう形の眼鏡、気に入ってるし)

桐須先生 「きちんと見えてる? 問題はない?」

成幸 「はい。レンズが新しくなったから視界がクリアです。勉強にも集中できそうです」

桐須先生 「そう。それは何よりね。しっかり励みなさい」

成幸 「はい! この眼鏡で、絶対受験を成功させます! ありがとうございます、先生」

桐須先生 「お礼を言われる筋合いはないわ。眼鏡を壊してしまったのは私だもの」

フゥ

桐須先生 「ともあれ、無事今日中に眼鏡が仕上がって良かったわ」

桐須先生 「完成まで日を置くようだったら、毎日あなたの世話をしなければならないところだったもの」

成幸 「え……?」

成幸 「あ、あはは、先生もそういう冗談言うんですね」

桐須先生 「……?」

52: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:13:42 ID:bgRCVaD6
桐須先生 「不可解。私がいつどんな冗談を言ったというのかしら」

成幸 「へ? いや、だって、毎日俺のお世話を、って……」

桐須先生 「当然でしょう。もしも眼鏡が今日完成しないようだったら、私は毎日あなたの家に伺うつもりだったわ」

成幸 「そ、そうですか……」 (本気だったのか、この人)

成幸 (あっ、あっぶねー! 店にレンズの在庫があって助かったー!)

成幸 (さすがに毎日家に来られたら大変だし、何より先生に申し訳ないし)


―――― ((なんだったらこれから毎日家に伺って勉強したいくらいだ……))


成幸 (……ん、いや、まぁ、もしそうなってたら、勉強はめちゃくちゃはかどってたかもしれないな)

桐須先生 「? どうかしたかしら、唯我くん」

成幸 「あ、いや……。もし今日中に眼鏡が完成していなかったら、毎日先生に勉強を教えてもらえたのにな、って。そんなこと考えてました」

桐須先生 「……は?」

ハッ

成幸 (俺はアホか!? なに考えてたことをそのまま口に出してんだ!?)

53: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:14:37 ID:bgRCVaD6
桐須先生 「………………」 ゴゴゴゴゴゴ……

成幸 (こ、怖え……。まずい。なんとか言わないと……)

桐須先生 「……唯我くん」

成幸 「は、はいっ!」 ビクッ

桐須先生 「この後、時間あるかしら?」

成幸 「へ……? は、はい。家に帰って勉強するだけなので……」

桐須先生 「そう。じゃあ、今日はうちにきて、勉強していきなさい」

桐須先生 「……さすがに毎日というのは無理だけれど、今日は構わないわ」

成幸 「本当ですか!? じゃあ、お言葉に甘えて、この後お邪魔してもいいですか?」

桐須先生 「ええ。では、行きましょうか」

成幸 「はい!」

54: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:15:19 ID:bgRCVaD6
成幸 「ん……?」 (待てよ? この後先生の家にお邪魔するってことは……)

桐須先生 「どうかしたの? 唯我くん? 早く車に戻るわよ」

成幸 (そ、そうだったー!) ガーン (帰りも桐須先生の車に乗らなきゃってことじゃないかー!)

成幸 「あ、えーと、その……、やっぱり、おうちに伺うのは悪いかな、なんて……」

桐須先生 「無為。子どもが妙な気を遣う必要はないわ。行くわよ、唯我くん」 ガシッ

成幸 「ヒッ……」

ズルズルズル……

成幸 (だ、誰か、助けてー! 文乃姉ちゃーん!)

55: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/12(水) 02:16:18 ID:bgRCVaD6
………………幕間 ショッピングモール アイスクリーム屋

文乃 「んー、美味しい~!」

文乃 「イチゴとクリームチーズのコラボが最高なんだよ!」

キュピーン

文乃 (……いま、なんか、手のかかる弟のヘルプの声が聞こえた気がするけど)

理珠 「文乃、文乃、このアイスも美味しいですよ。小豆の甘みが最高です。一口どうぞ」

紗和子 「この口の中でパチパチするヤツもなかなかよ。食べてみて」

うるか 「チョコチップもビターで美味しいよ~。はい、文乃っち」

文乃 「わーい、いただきまーす!」 ムシャムシャムシャムシャムシャムシャ

文乃 「美味しーい! 幸せ~。胃に染み渡る……」

文乃 (この幸せ空間から出られそうにないから、)

文乃 (勝手にがんばれ、愚弟! だよ!)


おわり

58: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:16:12 ID:AFlK0XbA
>>1です。
ひとつ投下します。


ぼく勉】文乃 「言質とったからね。成幸くん」

59: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:16:51 ID:AFlK0XbA
………………お祭りの数日後 古橋家

文乃 「………………」

カリカリカリ……

文乃 (……うん、大丈夫。公式もだいぶ覚えてきた)

文乃 (三角関数とはだいぶお友達になれた気がするんだよ)

文乃 「ふふ、これも全部成幸くんのおかげかな。今度の模試で、目指せC判定! だよ」

文乃 「……ん?」

ハッ

文乃 「“成幸”くん……!?」

文乃 (わ、わわわ、わたしってば、唯我くんのこと、自然と名前で呼んでた……)

文乃 (ひとりのときでよかった……) ドキドキ (りっちゃんとうるかちゃんがいたらとんでもないことになってたよ)

――ピロン

文乃 「ん……? メール? 成幸くんから……?」

ハッ

文乃 (わ、わたしってば、また……!)

60: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:17:52 ID:AFlK0XbA
文乃 (し、仕方ないよね。ふたりでお泊まりなんてしちゃったわけだし……)

文乃 (お泊まり……) カァアア…… (なんか、●●●な響きだよぅ……)

文乃 (……じゃなくて。メールの中身は、と)

文乃 「……ん?」


 『もし良かったら、なんだけど。

  週末、一緒にプラネタリウムに行かないか?』


文乃 「んん??」

文乃 「んんん???」

61: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:18:29 ID:AFlK0XbA
………………週末 駅前

文乃 「………………」

キョロキョロキョロキョロ……

文乃 (だ、大丈夫だよね。間違っても、りっちゃんもうるかちゃんもいないよね)

文乃 (もしも唯我くんと待ち合わせをしているところなんて見られたら、)


―――― 理珠『文乃? どうして唯我さんとふたりでお出かけなんてことになったのですか?』

―――― うるか『ひどいよ成幸ー! どうしてあたしを誘ってくれないのさー!』


ギリギリギリ……

文乃 (そ、想像するだけで胃が痛い……)

62: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:19:12 ID:AFlK0XbA
―――― 『いや、母さんがまた福引きを当てたんだよ。今度はプラネタリウムのペアチケットでさ』

―――― 『母さんは行けないから俺にくれたんだ』

―――― 『古橋、星好きだろ? ちょうどいいかなー、って思って誘ったんだけど……』

文乃 (……うん。いや、ほんと、プラネタリウム自体は楽しみだし、嬉しいんだけど)

文乃 (絶対、りっちゃんとうるかちゃんにはバレないようにしなくちゃ……)

成幸 「……ん、いたいた。おはよう、古橋。待たせたか?」

文乃 「あっ、唯我くん。おはよ」 フルフル 「全然、待ってないよ。今来たトコだよ」

ハッ

文乃 (ふ、ふつーにデートっぽい返しをしてしまったよ……!

文乃 (っていうかこれ、今さらだけど思いっきりデートだよね!?)

63: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:20:17 ID:AFlK0XbA
文乃 (ふぁあ、普段はふたりきりでもなんてことないはずなのに、)

文乃 (意識し始めると緊張するよぅ……)

成幸 「……古橋? ぼーっとしてどうしたんだ?」

文乃 「ふぇっ!? な、なんでもない! なんでもないよ!?」

文乃 「きっ、今日はお誘いいただいて、ありがとうございます。唯我くん」

ペコリ

成幸 「ははは、何だよ、急にかしこまって」

文乃 (っ~~~!! こっちの気も知らないでー!)

成幸 「いつも古橋には色々相談に乗ってもらってるからな。お礼みたいなもんだから気にすんなよ」

64: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:21:06 ID:AFlK0XbA
文乃 「……お礼? そっか」

文乃 (お礼、かぁ……)

文乃 (そう。そうだよね。成幸くんは、ただのお礼の気持ちしか持ってないんだから)

文乃 「……そんなこと言ったら、そもそもわたしはいつも唯我くんに勉強を教えてもらってるんだけどね」

クスッ

文乃 「じゃあ、行こうか。成幸くん」

成幸 「ん……? お、おう」

文乃 「? 顔が赤いよ? どうかした、成幸くん?」

成幸 「い、いや、何でも、ない……」 プイッ

文乃 「……?」

文乃 (どうしたんだろう? わたし、なにか変なこと言ったかな……?)

65: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:25:21 ID:AFlK0XbA
………………電車内

成幸 「………………」 フムフム

文乃 「………………」 カリカリカリ……

文乃 (電車内でも勉強……。まぁ、受験生だし、当然と言えば当然かもしれないけど)

文乃 (隣にいるのがわたしだからいいけど、りっちゃんやうるかちゃんと出かけるときにそんなんじゃ愛想尽かされちゃうぞー)

文乃 (……なんて、言ってあげるわけにもいかないしなぁ)

成幸 「……ん? どうかしたか、古橋。手が止まってるぞ?」

文乃 「あっ、ご、ごめん。何でもないよ」

成幸 「そうか。……ん。そこ、使う公式が違うな。それだと計算が堂々巡りして、xは求められないぞ」

文乃 「うぉぅ……」 ズーン…… 「どおりで計算式がおかしなことになってると思ったよ……」

成幸 「まぁ、そう落ち込むなよ。公式は覚えられてるんだから、あとは使い方を慣れて覚えていけばいいんだからさ」

文乃 「……うん。そうだね」 グッ 「わたし、もう少しがんばってみるよ、成幸くん」

成幸 「お、おう。が、がんばれよ、古橋……」 カァアア

文乃 「?」 (本当にどうしたんだろう、成幸くん……?)

66: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:26:07 ID:AFlK0XbA
………………プラネタリウム

文乃 「ふぁああああ……」 パァァアアアア

文乃 「ねえねえ見て見て、唯我くん! 展示がたくさんあるよ! 銀河系の模型もある!」

成幸 「へぇー。この時期は夏の星座特集なんてやってるんだな」

成幸 「プラネタリウムもこの時期仕様になってるみたいだぞ」

文乃 「ふぁぁあ……」 パァアアアアアアア

成幸 「じゃあ、俺はチケットを引き換えてくるから、この辺見て待っててくれ」

文乃 「うん!」

成幸 (はしゃいじまってまぁ……。本当に星が好きなんだよな、古橋は)

67: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:27:17 ID:AFlK0XbA
………………

文乃 (エントランスに色んな展示があって、これだけでも飽きないよ)

文乃 (来てよかった……唯我くんに感謝だね)

文乃 (りっちゃんとうるかちゃんのことを考えると、申し訳ない気持ちもあるけどね)

クスッ

文乃 (プラネタリウムも夏の星座特集、かぁ。楽しみだなぁ……)

成幸 「……お、いたいた。古橋、次の回の入場券と引き換えられたぞ」

成幸 「もうすぐ開場みたいだから、並ぼうぜ」

文乃 「うん!」

68: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:27:56 ID:AFlK0XbA
………………プラネタリウム 開演

キラキラキラ…………

文乃 (ふぁああああああ……!!)

文乃 (作り物だって分かってても、壮観だよ……!)

文乃 (真っ暗な場所に満点の星……うぅ……本当に本当に、来てよかったよ……)

成幸 (……なんて考えてるんだろうなぁ。子どもみたいな顔してるぞー、古橋)


――――『星が綺麗な夜だとついつい』

‘――――『死んじゃったお母さんの星』

――――『探しちゃうんだよね』


成幸 「………………」 (……まぁ、べつに、今くらいいいよな)

成幸 (勉強のいい息抜きになってくれりゃ、こっちとしても願ったり叶ったりだ)

69: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:28:49 ID:AFlK0XbA
ナレーション『それでは、星々を見ていただいたところで、夏の星座の説明をいたしましょう』

ナレーション『ただいま点滅している星々が、なんの星座かおわかりになりますか?』

成幸 (ん……えっと、夏のあの方角の星座は……――)

文乃 「――てんびん座」 ボソッ

成幸 「え……?」

ナレーション『この形は、そう。てんびん座です』

文乃 「あっ……」 コソッ (ご、ごめん、唯我くん。つい口に出しちゃって……)

成幸 (いや、ほかの誰にも聞こえてないだろうし、べつにいいと思うけど……)

成幸 (……ほんと、子どもみたいだな、古橋)

文乃 (い、言わないでよ。恥ずかしいんだから)

70: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:29:28 ID:AFlK0XbA
ナレーション『てんびん座は、ギリシア神話で、女神アストレイヤが持っている天秤がモチーフとなっています』

ナレーション『アストレイヤは、その天秤で霊魂の善悪を計り、悪しき霊魂を地獄に送ったといいます』

成幸 (ふむふむ。受験に直接関係はなさそうだけど、教養を深めるという意味では、有益な場所だな。ここは)

文乃 「………………」 コクコクコクコク

成幸 (……すごい勢いでうなずいていらっしゃる。少し怖い……)

ナレーション『では、続いて紹介する星座は、こちらです』

ナレーション『さて、このてんびん座のすぐ近くにある星座はなんでしょうか?』

成幸 「………………」 ジーーーッ

文乃 (な、なんでこっちを見るの、唯我くん) コソッ

成幸 (いや、古橋が答えを教えてくれるかなー、って思ってさ)

文乃 (もーっ! 唯我くん!)

ナレーション『一際輝く1等星、アンタレスが目印ですね。さそり座です』

71: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:30:48 ID:AFlK0XbA
ナレーション『さそり座は、アンタレスを中心にして広がる星座です』

ナレーション『発見しやすいので、天体観測をする際は目印にするといいでしょう』

ナレーション『さそり座のモチーフは、ギリシア神話の太陽神アポロンとその姉、女神アルテミスにまつわる逸話にあります』

ナレーション『月の女神アルテミスと太陽神アポロンは仲良しの姉弟でした』

ナレーション『アルテミスはアポロン以外の男性とは関わりすら持たず、弟のアポロンを溺愛していました』

ナレーション『しかし、ある日アルテミスは猟師オリオンと出会います』

ナレーション『アルテミスは力強く、弓の名手でもあるオリオンにどんどん惹かれていきます』

ナレーション『アポロンはおもしろくありません。アポロンにしてみれば、大好きなお姉ちゃんを奪われた、というような気持ちだったのでしょう』

ナレーション『そしてついに、アポロンはオリオンにサソリを遣わして、オリオンを殺してしまいました』

ナレーション『アルテミスは悲しみ、オリオンを天にあげました。これが、冬の有名な星座、オリオン座です』

72: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:32:05 ID:AFlK0XbA
ナレーション『そして、オリオンを殺したサソリが、天に昇ったものが、このさそり座になった、といいます』

ナレーション『さそり座の裏には、そんな姉弟にまつわるお話があったんですね』

文乃 (……そっか。そういえば、そんなお話だったよね)

文乃 (ほかにも、オリオンはアポロンに騙されたアルテミスの矢で息絶える、なんてお話もあるけど)

文乃 (それにしても……)

チラッ

成幸 (ふむ……ためになるなぁ。結構楽しいぞ、プラネタリウム)

文乃 (姉と仲良くする男に嫉妬する弟、かぁ……)


――――『せめて古橋の受験が終わるまで』

――――『告白するのを待ってもらえないか』


文乃 (ふぇっ……!? な、なんで……)

文乃 (あのときのことなんて、思い出してるの、わたし……)

73: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:32:49 ID:AFlK0XbA
………………プラネタリウム終演

成幸 「はぁ~。おもしろかったなぁ……」

成幸 「星って色んな神話と紐づいてておもしろいな!」

成幸 「今まで地学的なことしか考えたことなかったから、新鮮だったよ。すごいな、星って」

文乃 「……え? あ、う、うん。でしょ? 星、おもしろいでしょ」

成幸 「……? 古橋、なんか顔赤いぞ?」

文乃 「ふぇっ!? そ、そうかな? ちょっと、プラネタリウムに興奮しちゃったからかな」

成幸 「おまえは本当に星が好きだな」

成幸 「でも、喜んでもらえてよかったよ」

文乃 「う、うん。本当に楽しかったよ。ありがとね、成幸くん」

成幸 「っ……」 プイッ

文乃 「……? 成幸くん、どうかしたの……?」

成幸 「な、なんでもない! 二階にも星の展示室があるみたいだから、行こうぜ!」

文乃 「……?」

74: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:33:30 ID:AFlK0XbA
………………帰路 電車内

成幸 (うぅ、眠いけど、耐えないと……)

成幸 (今日の分の勉強は今日中に取り戻さないと……)

成幸 「ん……?」

文乃 「………………」 zzz……

成幸 (今日一日ずっと楽しそうだったもんな。そりゃ眠いよな)

文乃 「……ふふ、えへへ……」

成幸 (どんな夢見てるんだろうな。楽しそうな顔しやがって……)

成幸 (今日ハメ外した分、明日からがんばってもらうからな、古橋)

成幸 (俺もゆっくり眠りたいけど……我慢我慢。さ、もうひとがんばり……――)

ガタン……ゴトン……ガタン……ガタッ……

文乃 「ふぁ……」 カクン

ぽふっ

成幸 「――……っ!?」

75: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:34:22 ID:AFlK0XbA
成幸 (電車が、揺れた、勢いで……///)

成幸 (ふ、古橋の、頭が、肩に……) カァアアア…… (ま、まずい、めっちゃいい匂い……)

成幸 (うおお、さすがにちょっと、起きてくれ古橋ーー!!)

文乃 「………ムニャムニャ……」 zzz……

成幸 「……はぁ」 (……こんな気持ちよさそうな寝顔、起こすわけにはいかないよなぁ)

文乃 「むにゃ……成幸くん、きみは、まったく……」

成幸 「……!?」 ドキッ (び、びっくりした。寝言か……)

文乃 「……まったく、手のかかる、弟だよ」


――――『いつか君が本当にやりたいことを見つけた時は』

――――『お姉ちゃんが全力で応援するからね 「成幸くん」』


成幸 (ま、まずい……! 本当にまずい!)

成幸 (こんなに密着されると、旅館にふたりで泊まったときのこと思い出してしまう……)

76: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:35:26 ID:AFlK0XbA
成幸 (心頭滅却心頭滅却心頭滅却……)

文乃 「……っ、成幸、くぅん……」

成幸 (っ……! だいたいなんで俺のことちょくちょく名前で呼ぶんだよー!)

成幸 (こういうときは素数……素数だ! 素数を数えていこう!)

成幸 (2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31……)

成幸 (……37,41,……えーっと……43,47……)

成幸 (えーっと……次は……)

成幸 (次は……)

77: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:36:04 ID:AFlK0XbA
成幸 (……あー……)

成幸 (……なんか、少し気が紛れて……きた……ような……)

成幸 (あっ、ちが……。これ、ただの眠気……だ、……)

zzz……

文乃 「………………」

成幸 「………………」

子ども 「……? あー、ねえ、お母さん。カップルが仲良く寝てるよー」

お母さん 「しーっ。起こしちゃかわいそうだから、静かにね」

お母さん (……あらあら。お互いをまくらにして、気持ちよさそうに)

お母さん (でも、カップルっていうより、仲良しの姉弟、って感じかしら) クスッ

78: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:36:59 ID:AFlK0XbA
………………駅前

成幸 「………………」

文乃 「………………」

文乃 (ふぁああああああ!!)

文乃 (何やってんのわたし!? 成幸くんにめっちゃくっついて寝てたよ!)

文乃 (ごめん、りっちゃん、うるかちゃん……)

成幸 (うおおおおおおお!!)

成幸 (気を紛らわすつもりが、寝ちまってどうすんだ俺! しかも古橋によっかかって……)

成幸 「な、なんか、すまん……」

文乃 「ふぇっ? う、ううん。こちらこそ、ごめんね」

成幸&文乃 ((き、気まずい……!))

79: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:39:29 ID:AFlK0XbA
文乃 「き、今日は本当にありがとね、成幸くん。すごく楽しかったよ」

成幸 「ん、あ、ああ。それなら良かった」

成幸 「俺も、普段はプラネタリウムとか行かないから、楽しかったよ」

成幸 「今度は本当の天体観測に行ってみたいな」

文乃 「ほんとに!?」 ガバッ

成幸 「!?」 (ち、近い……! 近いぞ、古橋……。っていうか、手! 手!)

文乃 「わたしもゆっくり天体観測行きたいんだよ。受験が終わったら、一緒に行こうね」

成幸 「あ、ああ。受験が終わったら、行こうな……。い、一緒に……」

文乃 「ん……?」

ハッ

文乃 「ひゃあ!?」

80: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:40:18 ID:AFlK0XbA
文乃 (な、なにやってんのわたしー!?)

文乃 (成幸くんから天体観測なんて言葉が飛び出したから、)

文乃 (嬉しすぎて成幸くんの手を握りしめてたよー!)

文乃 (っていうか、一緒に、って……。わたし、何言ってんのー!?)

文乃 「………………」 (……一緒に、か……)

文乃 「……一緒に、行ってくれるんだ?」

成幸 「へ……? あ、ああ。もちろん。古橋と一緒なら、楽しいだろうしな」

文乃 「そ、そっか……」

クスッ

文乃 「……今の、言質とったからね。成幸くん」

81: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 00:49:29 ID:AFlK0XbA
………………幕間 メタ

文乃 (……? あれ……? この話、夏休み中の話だよね?)

文乃 (わたし、単行本七巻20ページ冒頭で矛盾するようなこと思ってるなぁ)

文乃 「……ま、いっか」


おわり

84: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:21:16 ID:AFlK0XbA
>>1です。
ひとつ投下します。
やや長めで表現もくどいかもしれません。


【ぼく勉】関城 「化学部の文化祭の企画?」

85: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:23:33 ID:AFlK0XbA
………………文化祭前 学校 3-F教室前

成幸 「おう。何かやるんだろ?」

関城 「毎年恒例、科学室で子ども向けの実験ショーよ」

関城 「毎年大盛況なのよ。これを目当てに来る近隣の小学生もたくさんいるわ」

成幸 「へー」 ジトーッ

関城 「な、何よ、その疑わしそうな目は」

成幸 「いや、そんな大事な企画があるのに、こんなところでうどんの試食してていいのか、おまえ」

関城 「し、失敬ね! 化学部の準備はこの後やるのよ」

関城 「化学部はホワイト部活だから部員は学級の企画優先で動いてるのよ」 フフン

成幸 「クラスの企画準備が終わってから部活の企画準備をするって、それ逆にブラックじゃないか?」

関城 「いちいちうるさいわね、唯我成幸!」

関城 「……緒方理珠、どうしてこんな男がいいのかしら……」 ボソッ

成幸 「? なんか言ったか?」

関城 「な、なんでもないわよ」

86: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:25:04 ID:AFlK0XbA
理珠 「うどん、どうですか、関城さん、成幸さん」

成幸 「ん。今日もめちゃくちゃ美味しいぞ。さすがはあの親父さんの娘だな」

理珠 「そ、そうですか。ありがとうございます……///」

関城 (……まったく。乙女しちゃってるわね。緒方理珠)

関城 「美味しいと思うわ。でも、昨日より少しうどんが柔らかいわね」

成幸 (昨日って……。関城、毎日試食にきてるのかよ……)

関城 「ゆで時間を変えたのかしら?」

理珠 「! そうなんです。文化祭は小さな子どもも大勢くるので、それくらいのゆで加減の方がいいかな、と」

理珠 「どうですかね?」

関城 「悪くないアイディアだとは思うけど、ゆで時間が増えると、それだけ提供の回転数が落ちるわね」

関城 「それを考慮に入れた上で問題ないなら、このゆで加減でいいんじゃないかしら」

関城 「立ち食いが基本になるのだから、柔らかい方が食べやすいでしょうし」

理珠 「なるほど……」 メモメモメモ

87: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:27:00 ID:AFlK0XbA
理珠 「ありがとうございます、関城さん。すごく参考になります」

関城 「そ、そう? でも、礼には及ばないわよ。なんてったって、私はあなたの大親友だもの!」

関城 (ふぁああああ……//// 緒方理珠に感謝されてる……!)

関城 (我が人生に一片の悔いなし……!)

理珠 「関城さん以外、何を食べても美味しいとしか言わない鈍いひとたちばかりですし……」 ジロリ

文乃 「あ、あはは……。だって、りっちゃんの茹でるうどん美味しいから」

うるか 「そうそう。リズりんのうどんが美味しいのがいけないんだよ~」

成幸 「面目ない……」

関城 「まったく。それじゃ試食の意味がないでしょうに……」

ハッ

関城 「……そろそろ化学部の集合時間だわ。それじゃ、失礼するわね」

関城 「緒方理珠、うどんごちそうさま。当日も絶対食べに来るわね」

理珠 「はい。よろしくお願いします、関城さん」

88: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:28:18 ID:AFlK0XbA
成幸 「せわしないやつだな。緒方のためにわざわざF組に来てるんだもんなぁ」

文乃 「……紗和子ちゃん、大丈夫かな」

うるか 「? 文乃っち、さわちんがどうかしたの?」

文乃 「んー、ほら、紗和子ちゃんって化学部の部長さんじゃない?」

文乃 「化学部の企画、毎年本当に大人気だから、プレッシャーがすごいと思うんだよね」

文乃 「“子どもの集客率・人気共にNo.1”。が化学部の毎年の目標だから」

文乃 「先生方も、化学部の企画で子どもにたくさん来てもらって、うちの高校への進学者を 将来的に増やしたいみたいなの」

成幸 「へぇ……。化学部、期待されてるんだな」

文乃 「だから、部長の紗和子ちゃんのプレッシャーはすごいと思うんだよ」

うるか 「さわちん、なんでもない顔してるけど、大変なんだね……」

理珠 「……心配ないと思いますよ」

文乃 「……? りっちゃん?」

理珠 「あの人は変な人です。色々やらかしてくれますし、うるさいですし、本当に変な人です」

文乃 (……かわいそうだけど、)

成幸 (否定できない。すまん、関城……)

89: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:29:21 ID:AFlK0XbA
理珠 「でも……」


―――― 『なら明日の休みにでも私が選んであげましょうか』

―――― 『この親友の関城紗和子が!!』


理珠 「……でも、ときどき、頼れる人なんです。だから、大丈夫ですよ。きっと」

うるか 「リズりん……」

うるか 「リズりんは、さわちんのことが大好きなんだね……!」

理珠 「は……?」 ジロッ 「何をどうしたら、そういう話になるのですか、うるかさん」

うるか 「またまたぁ。照れちゃって~。このこの~」 ウリウリ

理珠 「や、やめてください。暑苦しいです」

成幸 (化学部の実験ショー、かぁ)

成幸 (子ども向けって言ってたけど、当日、緒方を連れて行ってやったら、)

成幸 (関城のやつ、喜ぶかな)

成幸 「……ん、俺もそろそろクラスに戻らないとだ。うどん、ごちそうさま。緒方」

90: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:30:13 ID:AFlK0XbA
………………少し後 資材室

成幸 (クラスの連中に頼まれてベニヤの補充に来たものの、どれくらい持って行くかな)

成幸 (うちのお化け屋敷もいよいよ本格的になってきたからな。材料はできるだけ多い方がいいかな)

成幸 (……ん、そういやペンキもなくなりそうだったな。ついでに少し持って行くか)

成幸 「よいしょ……っと」

ズシッ

成幸 (お、重い……。最短経路で教室まで戻ろう……) ヨロヨロ……

成幸 (しまったな。小林か大森にでも一緒に来てもらうんだった)


  「実験準備班、実験用具のセットは、最低ふたつ以上予備を用意してね」


成幸 「ん……? この声は……関城?」

関城 「装飾班、装飾は子どもたちを意識して、かわいらしい感じでよろしくね」

成幸 (あ、そうか。ここ、化学室か)

部員1 「部長、気合い入ってますね」

部員2 「そりゃ、文化祭は化学部の見せ場のひとつだからな」

91: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:31:28 ID:AFlK0XbA
部員2 「知ってるか? 部長、毎日ひとりで遅くまで作業をしてるんだよ」

部員1 「へ? そうなんですか? 言ってくれれば手伝うのに……」

部員2 「人に頼るのが苦手な人だからな……。だから、今できるだけ作業を進めておかないと、だな」

部員1 「そうですね! よーし、がんばって準備するぞー!」

成幸 「……へぇ」 (関城の奴、部員から慕われてるんだな)

成幸 (……っと、いつまでも化学部を眺めてるわけにはいかないな)

成幸 (俺も早くクラスに戻らないと)

ツルッ

成幸 「ん……!?」 (水!? あ、やばっ……――)

――――ガシャーン!!!

関城 「……? 唯我成幸?」

92: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:33:07 ID:AFlK0XbA
関城 「ちょっとあなた、大丈夫? けがはない?」

成幸 「ん、ああ、騒がしくしてすまん。大丈夫だ。廊下が濡れててさ……」

成幸 「ベニヤとペンキは無事か。よかった」

関城 「廊下が濡れてた……?」

ハッ

関城 「ご、ごめんなさい、唯我成幸。その水、たぶん化学部の誰かがこぼしたやつだわ……」

関城 「準備前に大掃除をしたときに、廊下のから拭きが甘かったんだわ」

関城 「本当にけがはない?」

ズイッ

成幸 「わっ……」 (ち、近い……!)

成幸 「大丈夫だよ。俺も物を持ちすぎてて前方不注意だったから、気にするなよ」

関城 「………………」

93: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:34:14 ID:AFlK0XbA
関城 「化学部、注目!」

関城 「……誰か、廊下をぞうきんで拭き直しておいて!」

関城 「それから、それぞれの班ごとに、しっかりと準備を進めておいて!」

関城 「私はちょっとこの場を離れるわ。すぐ戻るから、各自できる作業を進めておくこと。よろしくね」

成幸 「関城?」

関城 「この板とペンキを教室まで運ぶのね? 手伝うわ」

成幸 「へ……? いいのか? 化学部も忙しいだろ?」

関城 「こっちの落ち度で転ばせたのだもの。少しくらい、罪滅ぼしをさせてちょうだい」

成幸 「ん……。なら、お願いしようかな。ありがとな、関城」

関城 「べつに、お礼を言われるようなことじゃないわよ」

関城 「さ、行きましょう。唯我成幸」

94: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:35:02 ID:AFlK0XbA
………………

部員1 (せ、関城部長が、化学部以外の男子と!?)

部員2 (普通に話してる! しかもすごく仲が良さそうに!)

部員3 (というか、なんか距離が近い……!)

部員1 (あの人見知りで空気の読めない部長が……)

部員2 (偏屈で変わり者の部長が……)

部員3 (普通の男子とお話をできるようになったのか……)

ホロリ

部員1 (……どうしてだろう)

部員2 (嬉しいのに)

部員3 (涙が止まらない……)

95: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:35:54 ID:AFlK0XbA
………………下校時刻 昇降口

成幸 「……ふぅ。今日も遅くまでかかったな」

小林 「成ちゃん、この後は家に帰って勉強?」

成幸 「おう。まぁ、無理しない範囲でやるつもりだよ」

小林 「大変だなぁ。体調崩さないようにね」

成幸 「ああ。文化祭直前だからな。気をつけるよ」

成幸 「……ん?」 (……あれ? 最終下校時刻なのに、まだ明かりがついてる教室があるな)

成幸 (あそこって、化学室か……?)


―――― 『知ってるか? 部長、毎日ひとりで遅くまで作業をしてるんだよ』


成幸 「………………」

小林 「成ちゃん?」

96: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:36:51 ID:AFlK0XbA
成幸 「……すまん、小林。先に帰ってくれ。やることを思い出した」

小林 「……ん、そっか」 クスッ 「ねぇ、成ちゃん」

成幸 「うん? なんだ?」

小林 「お人好しなのは大いに結構だけどさ」

小林 「なんかあったら、すぐに俺を頼ってよ?」

成幸 「小林……」 ジーン 「ありがとう。何かあったら、すぐお前に言うよ」

小林 「うん、よろしい。じゃあ、また明日ね」

成幸 「ああ。また明日な、小林」

タタタタ……

小林 「……行っちゃった。まったくもう、“成ちゃん”だなぁ」

小林 「今度は誰の世話を焼くのかな」

小林 「武元さんか、古橋さんか、緒方さんか、それとも……」

小林 「また別の子だったりしてね」

97: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:37:31 ID:AFlK0XbA
………………化学室

関城 「………………」

チョキチョキチョキ……

関城 「……ふぅ。紙の鎖はもう少し必要ね」

関城 (ほかの部員も帰したし、ゆっくりやりましょう)

関城 (……がんばってくれてる部員たちのためにも、がんばらないと)

……ガラッ……

関城 「……!? ゆ、唯我成幸……?」

成幸 「よう。明かりがついてたから気になってさ」

成幸 「もう最終下校時刻だぞ? 帰らなくていいのか?」

関城 「ふふん、見くびらないでちょうだい。顧問の先生にもう少し残る許可はもらってあるわ」

成幸 「なんで得意そうなんだよ……」

98: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:38:47 ID:AFlK0XbA
成幸 「他の部員はいないのか?」

関城 「みんな門限や勉強があるもの。もう帰したわ」

関城 「……みんな残りたがったけど、あまり私のこだわりやわがままに付き合わせたくないし」

関城 「女子の部員もいるから、あまり遅くまで残すのも嫌だしね」

成幸 「……ふーん。そっか」

関城 「……? な、何よ、その顔は」

成幸 「いや、お前が部員に慕われてる理由がよくわかった気がするよ。部員想いなんだな、お前」

関城 「しっ、慕われ、って……!? な、何わけわかんないこと言ってるのよ、唯我成幸!」

成幸 「お前の照れ隠しってほんとうるさいよなぁ……」

99: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:39:34 ID:AFlK0XbA
成幸 「紙の鎖を作ってるのか。装飾に使うやつだな」

関城 「そ、それがどうしたのよ」

スッ

成幸 「手伝うよ。俺はのりで鎖を作っていくから、お前ははさみでどんどん切ってくれ」

関城 「えっ……そ、そんな、いいわよ。あんたに手伝ってもらう理由もないし……」

成幸 「今日、ベニヤ板とペンキを教室まで運ぶのを手伝ってくれただろ。そのお返しだよ」

関城 「あ、あれはだって、ころばせてしまったお詫びだから……」

成幸 「いいから、早くのり貸せよ。お前だって女子なんだから、あんまり遅くならない方がいいだろ」

成幸 「俺は門限とか特にないし女子でもない。お前も気にする必要ないだろ?」

関城 「っ……」

関城 「じ、じゃあ……お願いするわ。ありがと……」

成幸 「おう!」

100: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:40:19 ID:AFlK0XbA
………………

関城 「………………」 チョキチョキチョキ……

成幸 「………………」 ペタペタペタ……

関城 「ん。その 鎖、あと十個くらいつなげたら終わりよ」

成幸 「おう、わかった」

関城 「………………」 チョキチョキチョキ……

成幸 「………………」 ペタペタペタ……

関城 「……唯我成幸、あなた、勉強とか大丈夫なの?」

成幸 「……ん? ああ、まぁ、大丈夫とは断言できないけどな」

成幸 「ま、文化祭の間くらいは、多少勉強を忘れてもいいかな、ってさ」

関城 「……ごめんなさい。あなたも忙しいのに、化学部の準備を手伝わせてしまって」

成幸 「変な言い方するなよ。俺が勝手に手伝ってるだけなんだからさ」

成幸 「……よしっ。十個つなげたぞ。とりあえずこれで天井につけてみようぜ」

関城 「……ん。ありがと、唯我成幸」

101: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:42:27 ID:AFlK0XbA
………………

関城 「し、しっかり押さえててよ! 唯我成幸!」

成幸 「押さえてるよ……」

成幸 「っていうか、怖いなら俺が脚立に上るぞ?」

関城 「こ、怖くなんかないわよ!」

成幸 「ったく……。ん……?」

ピラッ……

成幸 「!?」 ガバッ (い、一瞬パンツが見えてしまった……!)

成幸 (う、上は向けない……)

関城 「ど、どうかしたの?」

成幸 「な、なんでもない。早く鎖をつけろよ」

関城 「わ、わかってるわよ」

102: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:47:03 ID:AFlK0XbA
関城 「うー……」 (脚立の上で立つのって結構怖いのよね」

関城 (とはいえ、さすがに部外者の唯我成幸にそこまでさせるわけにはいかないし)

関城 (とにかく、早くテープでつけないと……)

関城 「あ、テープ……」

成幸 「ああ、テープなら俺が持ってるよ。ほら」

関城 「ん、ありがとう。……って、唯我成幸? どうして下を向いているの?」

成幸 「……聞くな」

関城 「……? あ……」

関城 「み、見た!? 見たのね!?」

成幸 「見てない! だから下向いてるんだろ!」

関城 「っ~~~////」

……グラッ

関城 「あっ……」 (ま、まずいわ。バランスが……)

成幸 「関城!?」

ガシャーン!!!

103: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:48:37 ID:AFlK0XbA
関城 「あいたたた……」

関城 (あれ? あんまり痛くない……?)

成幸 「……悪い、関城。できるだけ早くどいてくれると助かる」

関城 「!? 唯我成幸!?」

関城 (私、唯我成幸を下敷きにしてる……!?)

関城 「ご、ごめんなさい! 大丈夫?」

成幸 「ああ、俺は大丈夫だけど、関城はケガはないか?」

関城 「人の心配をしてる場合かしら!? ほら、起きて」

成幸 「悪い。ありがとう」

関城 「……ごめんなさい。私がバランスを崩したから」

関城 「唯我成幸、あなた、私がケガをしないように、助けてくれたのね」

関城 「ありがとう……」

成幸 「そんなに器用なことはできないよ。偶然だ」

成幸 「でもまぁ、お互いケガがなくて良かったな」

104: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:49:46 ID:AFlK0XbA
………………帰路

関城 「………………」 トボトボ……

関城 (結局あの後、脚立での作業はすべて唯我成幸がやってくれたわ)

関城 (……自分が情けないったらないわね)

成幸 「………………」 (うーん、関城のやつ、落ち込んだ顔してるなぁ)

成幸 「……なぁ、関城」

関城 「……何かしら、唯我成幸」

成幸 「関城はすごいよな。化学部の部長として部員に慕われていて、部員たちのためにがんばっててさ」

関城 「……そんなことないわよ。部員のみんなは、仕方なく私に付き合ってくれているだけよ」

105: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:50:32 ID:AFlK0XbA
成幸 (変なところで卑屈だな……。昔なにかいやなことでもあったのか?)

成幸 (うーん、どうにかしてあげたいけど、本人がネガティブなのはどうしようもないよなぁ)

成幸 「……あ」

関城 「? どうかしたの?」

成幸 「……なぁ、関城。おまえ、明日の朝、早く来て作業したりするのか?」

関城 「そのつもりだけど、どうして?」

成幸 「関城ひとりで?」

関城 「まぁ、そうね……」

成幸 「……そっか。わかった。教えてくれてありがとな」

関城 「?」 (一体なんだというのかしら……)

106: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:52:02 ID:AFlK0XbA
………………夜 唯我家

prrrr…………

成幸 「……あ、小林。夜中に電話かけて悪いな。寝てなかったか?」

成幸 「出てくれて良かった。助かるよ」

成幸 「ん、ああ。ちょっと頼りたいことができてさ」

成幸 「……いや、大したことじゃないんだ。少し教えてほしいことがあってさ」



成幸 「小林さ、化学部の部員に友達とかいないか?」

107: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:54:50 ID:AFlK0XbA
………………翌日 学校

関城 「うぅ……」

関城 (睡眠時間が少ないから、眠いわ。朝日が刺さる……)

関城 (でも、私がしっかりしないと。私は化学部の部長なんだから)

ガラッ……

部員1 「あっ、部長! おはようございます!」

関城 「へ……?」

部員2 「部長、黒板の装飾はこんな感じでいいですか?」

部員3 「実験用具の点検全部終わりました!」

部員4 「化学室前の廊下、少しさみしいですよね。模造紙で研究成果を貼っておくのはどうですかね?」

108: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:55:39 ID:AFlK0XbA
関城 「み、みんな、どうして……?」

部員1 「昨日、全員にメールで連絡が入ったんです。部長が朝も作業をするつもりだって」

部員1 「朝の作業だったら門限も何もないから、手伝ってもいいですよね?」

関城 「あなたたち……」

関城 「……し、仕方ないわね! こうなったら全員で作業進めるわよ!」

部員『おー!』

関城 (……でも、どうしてメールなんか回ったのかしら。わたし、朝から作業するなんて誰にも……)


―――― 『……なぁ、関城。おまえ、明日の朝、早く来て作業したりするのか?』


関城 「……あっ」

関城 (唯我成幸……?)

109: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:56:12 ID:AFlK0XbA
………………放課後 3-B

成幸 「………………」

トンテンカントンテンカン……

成幸 (化学部、うまくいったかな……。っていうか、)

成幸 (お節介をしすぎた気もする。関城のやつ怒ってないかな)

小林 「成ちゃん、これもよろしく。あとはそこ打ち付けたら終わりだから」

成幸 「ん、わかった。置いといてくれ」

小林 「いよいよもって、完成までもう一歩って感じだね」

成幸 「そうだな。長かったような、短かったような……」

小林 「化学部も、うまくいってるといいね、成ちゃん?」

成幸 「ん……ああ、まぁ、そうだな……――」

大森 「――唯我ー! おまえー!」

成幸 「わっ、いきなりなんだよ、大森。って何で泣いてるんだ!?」

110: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:57:58 ID:AFlK0XbA
大森 「眠り姫や親指姫、人魚姫のみならず、他の女子まで毒牙にかけてるとはー!」

成幸 「何の話だ!? っていうか誤解を生みそうなことを言うなバカ!」

大森 「じゃあこの女の子はお前の何なんだよー! 結構かわいいじゃねぇかよー!」

大森 「お前を呼んでくれって頼まれたんだよー!」

関城 「……どうも。唯我成幸」

成幸 「あ、関城……」

関城 「大きなお世話かもしれないけど」 ジーッ

大森 「……?」

関城 「友達は選んだ方がいいわよ、唯我成幸」

成幸 「ああ……。なんかすまん」

111: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 18:59:09 ID:AFlK0XbA
………………廊下

関城 「ごめんなさい。忙しいのに、呼び出したりして」

成幸 「いや、もうそろそろ作業も終わるから大丈夫だ。何か用か?」

関城 「……用っていうか、」

ジーッ

関城 「化学部の部員に、朝集合するようにメールを出したの、あなたね?」

成幸 「あー……うん。俺だよ」

成幸 「余計なことをして悪かった。すまん」

関城 「なっ……。や、やめてよ。顔を上げなさいよ。謝ることなんてないでしょ」

成幸 「……? 関城、怒ってないのか?」

関城 「どうして私が怒ってると思ったのか、説明してほしいくらいだわ」

関城 「……ありがとう、唯我成幸。私、朝化学室に入ったとき、部員たちがいて、すごく嬉しかったの」

関城 「一緒に作業してくれる人たちがいるって思うと、心強かったの」

関城 「……だから、本当にありがとう。それだけ、言いたくて」

112: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 19:00:11 ID:AFlK0XbA
成幸 「俺は何もしてないよ。明日の朝、関城がひとりで作業をするぞ、って伝えただけだ」

成幸 「実際、朝から化学室に行ったのは、部員たちがお前のためにそうしたかったからだろ」

関城 「……っ////」

関城 「……じ、邪魔したわね。話はそれだけ。私も化学室に戻るわ」

成幸 「あっ……関城!」

関城 「……? なに、唯我成幸?」

成幸 「もし、うまく時間とかが合ったらだけどさ」

成幸 「理珠と一緒に、お前の実験ショーを見に行くよ」

関城 「へ……?」

成幸 「だから、その……準備もだけど、当日のショーもがんばってな」

関城 「………………」 ニヤリ 「……当然よ! 私を誰だと思っているの?」

関城 「化学部部長、関城紗和子よ!」 バーン

成幸 「……さすが、恐れ入るよ」

成幸 (すっかりいつもの関城だな。よかった……)

113: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 19:00:52 ID:AFlK0XbA
関城 「……ねえ、最後にひとつだけ、いい?」

成幸 「ん?」

関城 「“理珠” 、ってどういうことかしら?」

成幸 「……あっ」

カァアア……

成幸 「い、いや、それは……成り行きで、そういうことになったというか……」

成幸 「本人には、当分そう呼ぶなと言われてるんだけど……」

関城 「へぇえ……」 ニヤリ 「理珠、ねぇ……。まぁまぁ仲睦まじいこと」

成幸 「ち、ちがうからな! お前が考えてるようなことは何もないからな!」

関城 「ふふ。ま、そういうことにしておいてあげるわ」

関城 (……今はまだ、ね)

114: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 19:03:33 ID:AFlK0XbA
………………文化祭当日 午後

成幸 「………………」

ガクッ……

成幸 (つ、疲れたぁ……)

成幸 (うどん1000食騒動に始まり、フルピュアの衣装探し、ダークフルピュアの衣装作り)

成幸 (3-Aの演劇の手伝いをすることになるかと思ったら、着ぐるみを着て先生方に追いかけ回され、)

成幸 (あしゅみー先輩に助けてもらったと思ったら、図らずも演劇に乱入することになって、古橋と……っ……////)

成幸 (うどんの完売はまだ余談を許さない状況だが、チャンスは今しかない……!)

理珠 「あの、成幸さん? 私、この忙しいときに出歩いてもいいのでしょうか……」

成幸 「大丈夫だ! 3-Fのみんなも、少し休めって言ってくれただろ?」

理珠 「それはそうですが……。というか、いまどこに向かっているんですか?」

成幸 「ちょうどついたよ。ここだ」 ホッ 「ギリギリセーフだ。間に合ってよかった」

理珠 「……化学室? ここって、化学部の――」

関城 『みなさーん、こんにちはー!』

115: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 19:04:31 ID:AFlK0XbA
理珠 「関城さん……?」 (そうでした。関城さん、化学部で実験ショーをやるって言っていましたね)

関城 『今日は、一ノ瀬学園文化祭、化学部実験ショーに来てくださり、ありがとうございます』

関城 『この公演が本日最後となります。楽しんでいってくださいね!』

理珠 「すごい……。こんなにたくさんの子どもたちの前で、あんなにハキハキと喋れるのですね」

成幸 「……ほんと、お前の言ってた通りだと思うよ」

成幸 「あいつはすごいな」

理珠 「……はい。私の、大親友ですから」

成幸 「そうだな。じゃあ、その大親友の晴れ舞台、観ていくだろ?」

理珠 「もちろんです。もしつまらないショーだったら、後でダメ出ししてあげなくてはいけませんから」 フンスフンス

成幸 (……ったく。言ってることは厳しいくせに)

成幸 (楽しそうな顔してるぞー、緒方)

116: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 19:05:52 ID:AFlK0XbA
………………本番直前 化学室

関城 (うっ……。少しうどんを食べ過ぎたわね)

関城 (心なしかスカートがきつい気がするわ)

関城 (でも、がんばるのよ関城紗和子。最後のショーまでしっかり成功させないと)

関城 (がんばってくれたみんなのためにも……)

関城 (楽しみにしてくれている子どもたちのためにも……)

関城 (……結局、緒方理珠と唯我成幸は来られなかったみたいね)

関城 (仕方ないわね。うどん1000食なんてトラブルがあったし)

関城 (……そう。仕方ないこと。唯我成幸も方々を走り回っていたようだし)

関城 「あっ……」

理珠 「……」

成幸 「……」

関城 (……うそ)

関城 (きて……くれたんだ……)

117: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 19:06:35 ID:AFlK0XbA
関城 (……不思議だわ)

関城 (さっきまで苦しくて仕方なかったおなかが全然気にならない)

関城 (公演を繰り返して、痛くなり始めていたのども、全然気にならない)

関城 (……友達が、私のことを見に来てくれている)

関城 (それだけで、私は……)

関城 「………………」

スーーーー

関城 『みなさーん、こんにちはー!』

関城 (それだけで、私は。いくらだってがんばれる気がするもの)

関城 (見てなさい。我がライバルにして大親友、緒方理珠)

関城 (……それから、友達と呼んでやってもいい。唯我成幸)

関城 (この化学部部長、関城紗和子の実験ショーを、せいぜい楽しんでいくといいわ!)


おわり

118: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/15(土) 19:07:49 ID:AFlK0XbA
………………幕間 後夜祭 勘違い化学部

部員1 「あれ? 関城部長は?」

部員2 「なんでも、後夜祭の花火を観に行かなくちゃだとかで、急いで行っちゃいましたよ」

部員2 「……絶対、あの唯我成幸さんって方と、ですよね?」

部員1 「我らが部長にとうとう春が……!」

部員2 「今夜は打ち上げ兼部長のおめでとう会ですね!」


おわり

120: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:13:39 ID:l3ORh6EU
>>1です。
ひとつ投下します。


【ぼく勉】水希 「わたしとお兄ちゃん」

121: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:16:28 ID:l3ORh6EU
………………唯我家

水希 (わたしのお兄ちゃんはかっこいい)

水希 (わたしのお兄ちゃんは頭がいい)

水希 (わたしのお兄ちゃんは優しい)

水希 (わたしのお兄ちゃんは頼もしい)

水希 (わたしは、お兄ちゃんが大好きだ)

水希 (……だというのに)

理珠 「成幸さん、この設問なのですが、出題者の意図がわかりません。なぜこんな回りくどい問題を作るのですか?」

文乃 「ふぁー。成幸くん、どういうわけか方程式からxが消えるんだよ。どうしてだと思う?」

うるか 「成幸ぃー! アルファベットが文字に見えなくなってきたよ! これがゲシュタルト崩壊ってやつ!?」

水希 「………………」 ギリッ

水希 (……そんなお兄ちゃんが、どういうわけか最近よくモテている)

122: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:17:28 ID:l3ORh6EU
水希 (昔はそんなことはなかった)

水希 (それこそ、数ヶ月前。高校三年生に進級して少しした頃からだ)

水希 (まず、家に女の子をふたり、連れてきた。緒方さんと古橋さんだ)

緒方 「ふむ……。よく分かりました。ありがとうございます、成幸さん」

文乃 「そっか。ここの項を整理しないからこんがらがっちゃうのかぁ。ありがとう、成幸くん」

水希 (……それでも、その頃はふたりはもう少しお兄ちゃんによそよそしかったと思う)

水希 (今は、なんというか、こういう言い方は絶対に適切ではないのだけど、)

水希 (お兄ちゃんを、すごく信頼しているように見える)

水希 (そして……)

武元 「……28,29,30。あ、ほんとだ。目をつむって三十秒数えたらちゃんと英語に見える! ありがと、成幸」

水希 (中学生の頃から話には聞いていた、水泳部の武元さん)

水希 (これは、とても癪だけれど、断言してしまっていいだろう)

水希 (この人は間違いなく、お兄ちゃんのことを狙っている) ギリッ

123: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:18:29 ID:l3ORh6EU
水希 (それに、この三人だけじゃない)

水希 (お兄ちゃんが最近、嬉しそうに話すことがある)

水希 (よく勉強を教えてくれる先生がいる。その人がいると集中できて勉強が捗る、と)

水希 (嫌な予感がして詳しく聞いてみれば、なんと若い女性の先生だという)

水希 (そして、メイド喫茶……)

水希 (お兄ちゃんが通い詰めているメイド喫茶の、カリスマ店員と呼ばれる“あしゅみー先輩”)

水希 (全員が全員、お兄ちゃんに好意を持っているとは思わないけど、)

水希 (お兄ちゃんはボーッとしているところがあるから、そこをつけこまれないか心配だ)

124: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:19:20 ID:l3ORh6EU
………………ファミレス

小林 「……で、俺を呼んだわけなのね」

水希 「小林さんも受験生なのに、すみません」

小林 「それはいいけどさ。急に成ちゃんからこんなメッセージが来たからびっくりしたよ」



『たすけてください』



小林 「何事かと思ったら、成ちゃんじゃなくて水希ちゃんが送ってたとはね」

水希 「うちは携帯電話が家族共用なので……」

125: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:20:13 ID:l3ORh6EU
小林 「それで、具体的に俺は何をしたらいいのかな」

小林 「いくら水希ちゃんのお願いでも、成ちゃんを彼女たちから引き離すっていうのはできないよ?」

水希 「そこまでしてもらおうとは思ってません。ただ、教えてほしいんです」

水希 「お兄ちゃんと仲の良い、あの人たちのことを。性格とか。小林さんの印象でいいので」

小林 「ふーん? まぁ、それくらいならお安い御用だけど」

小林 「といっても、俺、そこまであの子たちと関わりないよ?」

水希 「小林さんの観察力を信じます!」

パサッ

小林 (……ノートを広げだした。これは滅多なことは言えないな)

126: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:21:15 ID:l3ORh6EU
水希 「では、まず緒方理珠さんからお願いします」

小林 「緒方さんかぁ。うーん……」

小林 「あんまり人付き合いは得意じゃなさそうな感じかなぁ」

水希 「ふむふむ……」 メモメモ

小林 「もう何度か顔を合わせたけど、たぶん俺の名前も覚えてないんじゃないかな」

水希 「なるほど! 薄情な人なんですね!」

小林 「誘導尋問するのはやめようか?」

小林 「こらこら、俺が言ってもないことをメモしちゃいけないよ水希ちゃん」

127: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:22:24 ID:l3ORh6EU
小林 「元々人の名前を覚えるの苦手なんじゃないかな。あんまり人に興味がないっていうか……」

水希 「……? でも、わたしの名前は覚えてくれていたみたいですけど」

小林 「それはたぶん、水希ちゃんに興味があるんだよ、きっと。成ちゃんの妹だからね」

水希 「将を射んと欲すればまず馬を射よ、ということですか。なるほど。良い度胸です」

水希 「わたしを籠絡できると思っているなら考えが甘いですね」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

小林 「たぶん間違いではないけど怖いからその表現はやめようか」

小林 (実際、水希ちゃんを手なずけられた子が成ちゃんに近づける気はするけど)

小林 「何にせよ、悪い子じゃないよ。一生懸命成ちゃんに勉強を教わっているみたいだし」

小林 「すごい努力家だって成ちゃんも言ってたよ」

水希 「……ソウデスカ。ワカリマシタ」

小林 「そういうところをメモしてくれると俺としてはとても嬉しいなぁ?」

128: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:23:34 ID:l3ORh6EU
水希 「次は古橋文乃さんについて教えてください」

小林 「古橋さんは、おっとりした子だよね」

小林 「正統派の美人さんだし、男子にモテる感じかな。実際たくさん告白されてるみたいだし」

水希 「なるほど。色んな男に色目を使うふしだらな女、と」

小林 「うん。本当の本当に、一言もそんなこと言ってないからね、俺は」

水希 「……さすがに失礼だった気がするので訂正します」

水希 「そういう人じゃないのは、見ていてわたしにもわかりますから」

小林 (変なところ律儀なんだよなぁ。こういうところ、成ちゃんにそっくりというか、なんというか)

小林 「成ちゃん曰く、歯に衣着せぬところがあるらしいけど」

水希 「口が悪い、と……」

小林 「だからいちいち曲解するのはやめよう」

小林 「でも、やっぱり緒方さんと同じく、すごい努力家みたいだね」

水希 「……へー」

129: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:24:18 ID:l3ORh6EU
水希 「次は、武元うるかさんです」

小林 「武元ね。一応中学校から一緒だから少しは知ってるけど」

小林 「明るくてスポーツ万能で、誰とでも仲良くなれるやつだよね」

水希 「たしかに、色んな男子に勘違いされてそうな人ですよね」

小林 「勘違い?」

水希 「……“あいつ、俺のこと好きなんじゃないか”って」

小林 「ああ……。分かる気がする」

小林 「少しバカだけど、本当に明るくて良い奴だよ」

小林 「あと、料理もめちゃくちゃ上手だって成ちゃんが言ってたかな?」

バキッ

水希 「……あ、エンピツが折れちゃった。しまったしまった」

小林 (……怖い。目がピクリとも笑ってない)

水希 「お兄ちゃんはいつ一体どこで武元さんの手料理を食べたんでしょうね???」

小林 「ご、ごめん。俺にもそこまでは分からないや……」

130: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:25:15 ID:l3ORh6EU
水希 「では、気を取り直して、次の方に行こうと思います」

小林 「!? その三人だけじゃないの?」

水希 「あしゅみー先輩、って知りませんか?」

小林 「……ん? ああ、成ちゃんから聞いたかな。予備校の先輩だって」

小林 「それ以外分からないよ。でも、夏にふたりで海に行ったとか言ってたかな?」

バキバキッ

水希 「……あれ、おかしいな。エンピツ、また折れちゃった……もったいない……」

水希 「エンピツだってただじゃないのに……ああ、本当に、もったいないもったいない……」

小林 (……昔はもう少し普通の子だったんだけどな……)

131: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:27:31 ID:l3ORh6EU
水希 「最後です。桐須真冬先生ってご存知ですか?」

小林 「……うん。社会科の先生だけど」

水希 「どういう先生ですか?」

小林 「どういうって……うーん。第一印象は怖い先生、かなぁ」

小林 「でも教え方はすごく上手だよ。教材とかもよく考えられてる気がするし……」

小林 「ああ、そういえば成ちゃんが、実はすごく優しくて生徒想いな先生だって言ってたかな」

小林 「桐須先生とふたりで勉強すると、すごく捗るんだって」

水希 「……へぇ。ふたりきりで勉強。なるほど。出るとこ出れば勝てそうな案件ですね」

水希 「この地域の教育委員会の電話番号は、と……」

水希 「あと、一応警察の少年課と児童相談所も調べておかないと」

水希 「一ノ瀬学園の理事に直接携わる方に一報入れてからの方が効果的かなぁ……」

小林 「良い先生だからやめてあげてね? 他意はないと思うから。多分」

132: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:28:55 ID:l3ORh6EU
………………数時間後

パタン……

水希 「よくわかりました。ありがとうございました、小林さん」

小林 「………………」 グッタリ

小林 (結局あれで終わらずに、全員について事細かに聞かれてすべてメモされてしまった)

小林 (成ちゃん、ごめん……)

小林 「……水希ちゃん、」

水希 「はい?」

小林 「成ちゃんのことが好きなのはわかるけど、いつかは兄離れしなきゃいけないんだよ?」

小林 「幼なじみで水希ちゃんのことを小さい頃から知ってるからこそ、言うけどさ」

小林 「成ちゃんがもし幸せになるようだったら、それを応援してあげてほしいって、俺は思うな」

水希 「………………」

水希 「……そんなの、わかってますよ」

グスッ

小林 「……!?」

133: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:29:47 ID:l3ORh6EU
水希 「………………」

グスッ……シクシク……

小林 「ご、ごめん、水希ちゃん。水希ちゃんが成ちゃんのこと大好きだって知ってたのに、」

小林 「無神経なことを言ったよ。ごめんね?」

水希 「……小林さんは、優しいですよね」

水希 「小林さん以外の人だったら、きっと引いてますよ」

グスッ

水希 「でも、仕方ないじゃないですか。お兄ちゃんのこと、好きなんだもん……」

小林 「……うん。わかるよ。俺も成ちゃんのこと大好きだからさ」

小林 「俺も、成ちゃんのことを不幸にするような女の子が現れたら、」



小林 「――……どんな手を使っても成ちゃんから遠ざけるよ」



水希 「小林さん……」

小林 「だから安心してよ、水希ちゃん。学校ではちゃんと、成ちゃんのこと、俺が見てるからさ」

134: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:30:45 ID:l3ORh6EU
………………

小林 「……落ち着いた?」

水希 「はい……。ありがとうございます。わたし、本当に、小林さんがお兄ちゃんの友達でよかったです」

水希 「昔から、お兄ちゃんとわたしの傍にいてくれて、本当に……」

小林 「それはこっちの台詞だよ。昔、家でひとりだった俺はさ、成ちゃんと水希ちゃんがいたから、寂しくなかったんだよ」

水希 「小林さん……――――」



? 「――――お゛い、俺の妹を泣かせてるって奴は、お前か……?」



小林 「へ……? 成ちゃん……?」

成幸 「……ん? んん?? んんん???」

ガクッ

成幸 「……なんだよ。小林かよ。全力疾走してきて損したぜ」

水希 「お兄ちゃん、どうしてここにいるの?」

成幸 「いや、実は……」

135: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:31:45 ID:l3ORh6EU
………………少し前 学校

成幸 (……ふぅ。今日は誰の勉強を教える必要もないから、自分の勉強が進む進む)

成幸 (とりあえずこの前の模試の確認をもう一回と、あとは……――)

――――prrrr……

成幸 「……電話? 緒方から……?」 ピッ

成幸 「もしもし? どうかしたか、緒方?」

理珠 『成幸さん! 大変です!』

成幸 「……? 急にどうした」

理珠 『お店の出前中に見かけたのですが、妹さんが……! 水希さんが!』

成幸 「水希がどうかしたのか?」

理珠 『チャラそうな男に! 泣かされています!!』

成幸 「……は?」

プツン……

136: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:32:34 ID:l3ORh6EU
………………現在

成幸 「……そこから先、あまり記憶はない」

成幸 「学校からここまで全力疾走して、お前たちを見つけたんだ」

小林 「……成ちゃん、遠目で俺だって気づいてくれないのは、ちょっと傷つくな」

成幸 「うぅ……。すまん、小林」

成幸 「水希が泣かされているって聞いて、頭がどうかしててさ」

水希 「お兄ちゃん……」 キュン

成幸 「どうせお前のことだから、水希から何か相談されてただけだろ?」

成幸 「ありがとな、小林。あと、怖がらせて悪かった」

小林 (……ほんと、似たもの兄妹だよなぁ。水希ちゃんが絡むとほんと怖いんだから、成ちゃんは)

小林 (成ちゃんのお嫁さんになる女の子も大変だろうけど、)

小林 (水希ちゃんをお嫁にもらう男の子は、もっと大変かもしれないね)

小林 「いいよ。気にしないで」 ニコッ 「成ちゃんはシスコンだからね」

成幸 「!? し、シスコンじゃねーよ! 変なこと言うな!」

137: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:33:42 ID:l3ORh6EU
水希 「お兄ちゃん、わたしのことが心配で、勉強も放り出してきてくれたんだ?」

成幸 「ん……。そりゃ当然だろ。お前は俺の大切な妹だからな」

水希 「……えへへ。嬉しい」 ギュッ

成幸 「な、なんだよ急に。くっつくなよ。恥ずかしいだろ」

水希 「……今だけ。お願い」

成幸 「……仕方ねーな」

小林 (ほんと、昔から変わらず仲良し兄妹だこと)

小林 (水希ちゃんも満足そうな顔しちゃってまぁ……)

小林 (……ま、幸せそうだから、いっか)

小林 (それにしても……。“チャラそうな男” ……)

小林 (緒方さん、俺の名前どころか、顔すら覚えてくれてなかったかぁ……)


おわり

138: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/16(日) 15:37:34 ID:l3ORh6EU
………………幕間 翌早朝 学校

小林 「こんな早い時間に呼び出して一体どうしたの?」

海原 「……ねぇ、陽真くん」 スッ

海原 「この子、誰? どうしてふたりきりでファミレスにいたの? ねえ、陽真くん」

小林 (……しまった。まさか智波ちゃんに見られていたとは。しかも写メまで……)

小林 「いや、それは――」

海原 「――この子、泣いてるよね? 一体何をしたの、陽真くん。別れ話をしているように見えたんだけど」

小林 「いやいやいや、違うって。それは――――」

海原 「――――怒らないから、正直に言って? ねえ、お願い。陽真くん」

小林 「いや、だから……――」

海原 「――ねえ、わたし怒ってないから、教えて?」 ゴゴゴゴゴ……!!!

小林 (……成ちゃん、頼む。今日はできるだけ早く学校に来てくれ)

※その後ちゃんと誤解はとけました。


おわり

142: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:01:07 ID:SWSJNpPk
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】文乃 「天の光は」 成幸 「すべて星」

143: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:02:05 ID:SWSJNpPk
………………図書館

成幸 「………………」

フゥ

成幸 (久々にひとりの勉強時間が取れたから、めちゃくちゃ捗ったな)

成幸 (今日やりたいと思っていた分がもう終わるとは)

成幸 (……んー、受験生としては、時間があるならもっと勉強しておくべきなんだろうけど、)

成幸 (気分転換がてら、久々に本でも読もうかな。参考書じゃなくて、小説でも……)

成幸 (そういえばオススメの本が入り口近くに展示してあったな)

成幸 (行ってみるかな)

144: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:02:54 ID:SWSJNpPk
………………

成幸 「へー、古典SF特集なんてやってるのか」

成幸 「読んだことはないけど、知ってるタイトルばっかりだな」

成幸 (とはいえ、全部は読めないし……ん?)


『天の光はすべて星』


成幸 「このタイトル……どこかで……」


―――― 『まさに「天の光はすべて星」だね』

―――― 『あっ えっと そういうタイトルの古い本があってね』


成幸 「あっ……」 (そうだ。古橋が好きだって言ってた本だ……)

成幸 「……読んで、みようかな」

成幸 (とはいえ、古橋が好きだっていう本だし、)

成幸 (俺にはちょっと難しいかもなぁ)

145: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:04:07 ID:SWSJNpPk
………………夜 唯我家

成幸 「………………」

ペラッ……ペラッペラッ……

水希 「? お兄ちゃん、今日は勉強勉強言わないね。本読んでるけど……」

成幸 「………………」

水希 「……お兄ちゃん?」

成幸 「ん……? ああ、すまん。水希、何か言ったか?」

水希 「えっ、いや、何も……」

成幸 「そうか」

ペラッ……

水希 (めずらしい。お兄ちゃんが勉強以外ですごく集中してる)

水希 (普段本なんてあんまり読まないのに……)

ピキューン

水希 (……女の気配がする)

146: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:05:19 ID:SWSJNpPk
………………深夜

成幸 (……どうしよう。そろそろ寝ないと明日の学校に差し障りが出る)

成幸 (分かっているのに、読むのをやめられない)

成幸 (決して、そこまで面白い話ではない。地味であまり抑揚のない物語だと思う)

成幸 (アメリカナイズなかけ合いはややくどいし、主人公は情熱的に見えてかなりニヒルだ)

成幸 (……でも、)

成幸 (続きが気になって仕方ない……!)

ペラッ……

成幸 (……!? うぇ!? ええっ!?)

成幸 (ここでこうって……!? ん……!? いやいや、それじゃ……ずっと……!?)

成幸 (………………)

ペラッ……ペラッ……

147: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:06:19 ID:SWSJNpPk
………………翌朝 学校 3-B教室

成幸 「………………」

グターッ

大森 「……? 唯我の奴どうしたんだ?」

小林 「なんでも、徹夜で本を読んじゃったらしいよ」

小林 「眠くて仕方ないから放っておいてくれってさ」

大森 「めずらしい。受験に命かけてる唯我が勉強以外でグロッキーなんて」

小林 「俺もまったく同感だよ」

成幸 「………………」 (めちゃくちゃ面白かった……)

成幸 (……そうだ。古橋に、この感動を伝えなきゃ)

成幸 (いや、違う。俺がただ単に、この本について語れる相手がほしいというだけだ)

成幸 (ぜひ、古橋と話したい……)

148: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:07:26 ID:SWSJNpPk
………………3-A

ピロン……

文乃 「うん……? 成幸くんからメッセージ?」


『大事な話がある』


文乃 「へ……?」


『今日の昼休み、いつもの場所に、ひとりで来てほしい』


文乃 「ふぇっ……?」


『頼む』


文乃 「い、一体なんだっていうの、かな……?」

文乃 「とりあえず、返信を、と……」


『どうしたの? どういう用件かだけ、今教えてくれない?』

149: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:08:24 ID:SWSJNpPk
鹿島 「? 古橋さん、どうかしたんですか~」

文乃 「へっ? い、いや、何でもないよ、鹿島さ――」

――ピロン


『メッセージじゃだめなんだ』

『お前に会って、面と向かって、言いたいことがあるんだ』

『頼む。いま、お前に会いたくて仕方ないのを我慢してるくらいなんだ』

『昼休みより先なんて考えられない』


鹿島 「あら~……」

文乃 「ち、違うからね!? きっとなんか、成幸くんとち狂ってるだけだからね!?」

鹿島 「まさかこんな熱烈なメッセージが来ているとは……」

鹿島 「わざとではないにせよ、勝手に画面を見てしまって申し訳ございません~」

150: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:10:07 ID:SWSJNpPk
文乃 「違うからね!? 鹿島さんが考えてるようなことは何もないからね!?」

鹿島 「昼休みですね。いつも唯我成幸さんとの逢瀬に使っている場所ですね~?」

鹿島 「誰も近づかないように見張っておきますので、ご安心くださいね~」

文乃 「!? いつも成幸くんと話してるあの場所を知ってるの!?」

鹿島 「それはもちろん、いつも覗いていますから~……って、これは内緒なんでした」 テヘペロ

文乃 「てへぺろじゃないよ! っていうか、えっ? えっ? えっ?」

鹿島 「ふふふ~。私の相手なんかしてる場合じゃないですよね~?」

文乃 「こんな熱烈なお誘い、どうされるおつもりですか、古橋姫?」

文乃 「……そ、そんなの……」

ドキドキドキドキ……

文乃 (こ、これって……どういうこと、なのかな……)

文乃 (そういうこと、なのかな……)

151: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:12:13 ID:SWSJNpPk
文乃 「い、いや、そんな、まさかぁ。きっと成幸くんのことだから、」

文乃 「何か間違えてるだけだって。水希ちゃんへのメッセージを間違えて送ってるだけとかじゃないかな」

鹿島 「実の妹にこんなメッセージを送っている方が問題と思いますが~」

ピロン


『どうした? 今日は都合が悪いのか? だとしたら、無理を言って悪かった』

『明日でもいい。その先でもいい。できるだけ早く、お前に会える日を教えてくれ』

『時間は取らせない。古橋、お前に少し話があるだけなんだ』


文乃 「ふぁっ……」

カァアアアアア……

鹿島 「あらぁ~」 ニヤァ 「しっかり名指しされちゃいましたねぇ~、古橋さん」

文乃 「もっ、もうっ! 鹿島さんは向こう行ってて!」

152: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:13:40 ID:SWSJNpPk
文乃 「………………」

ドキドキドキドキ……

文乃 (こ、こんなの……)

文乃 「………………」

ピッ……ピッピッ……


『大丈夫だよ。昼休み、お昼ご飯持って、いつもの場所、行くね』


文乃 (とりあえず、これで……)

ピロン


『ありがとう。急に変なこと言い出して悪かったな』

『嬉しいよ。楽しみにしてるな』


文乃 「なっ……」

文乃 (何が楽しみだって言うの~~~!?)

153: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:14:25 ID:SWSJNpPk
………………

鹿島 「……かくかくしかじか、ということがありまして~」

蝶野 「なんと。そんなことがあったっスか」

猪森 「苦節数ヶ月。唯我成幸の方からその気になったのなら僥倖と言うべきか」

猪森 「そもそも、古橋姫の美貌を考えればなびかぬ方がどうかしている」

鹿島 「ふふふ♪ 私、いまから楽しみで仕方がありません」

鹿島 「いばらの会総力をあげて、唯我成幸さんの“大事な話”とやらを守ろうではありませんか~」

蝶野 「当然っス。古橋姫の恋路を実らせる。それが目下の我々の目標っスから」

猪森 「幹部以外も総動員だ。メッセージの通達は我々で分担する」

猪森 「鹿島は作戦の子細立案を頼む。昼休みまでだが、いけるか?」

鹿島 「ふふ、当然です~。私を誰だと思っているんですか~?」

鹿島 「いばらの会リーダー、鹿島の名は伊達ではありませんよ~」

154: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:15:35 ID:SWSJNpPk
………………3-B

成幸 (……しまったな。興奮してメッセージをたくさん送ってしまった)

成幸 (謝っておくか。いや、それでまたメッセージを重ねてしまっては本末転倒だ)

成幸 (っていうか、ちょっと小説の影響を受けてアメリカナイズなメッセージになってしまった……)

成幸 「……ま、古橋なら笑って許してくれるよな」

成幸 「はぁ~。昼休みは古橋に会える……」 (そしてたくさん語り合える……)

成幸 「楽しみだなぁ」

小林 「!?」 (な、成ちゃん……!? とうとう、女の子と……!)

小林 (そうかぁ。成ちゃんは武元でも緒方さんでもなく、古橋さんを選んだのか……)

ホロリ

小林 「……智波ちゃんに、武元を慰める会を開いてあげてってメッセージ送っとかなきゃ」

大森 「………………」

ギリギリギリギリ……!!!

大森 「くそぉぉおおおおおおお! 俺の春はどこだぁあああああああああ!!!」

155: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:25:11 ID:SWSJNpPk
………………3-A

古橋 (うぅ……今日は幸いにして成幸くんと同じ授業はないけど……)

キリキリキリ……

古橋 (それが余計に昼休みまでの重圧を強くするよ……)

古橋 (一体全体、成幸くんは何を考えてあんなメッセージを送ってきたんだろう)

古橋 (それに、話があるって……何の話だっていうのかな)

古橋 (そっ、それに……)


―――― 『お前に会って、面と向かって、言いたいことがあるんだ』

―――― 『頼む。いま、お前に会いたくて仕方ないのを我慢してるくらいなんだ』


古橋 (なっ、何を言ってんの、もーっ////)

古橋 (……って、わたしったら、何を喜んでいるのかな)

古橋 「………………」

ハッ

古橋 (!? 喜んでるの!? わたしが!?)

156: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:26:23 ID:SWSJNpPk
桐須先生 「で、あるからして、当時の列強諸国はどの国もこういった政策を……」

桐須先生 「……?」

古橋 (わ、わたしが!? 唯我くんに情熱的なメッセージをもらって!?)

古橋 (喜んでるの!?)

桐須先生 「……古橋さん? 顔が真っ赤だけれど、調子でも悪いのかしら?」

古橋 (そんなわけないない! だって現に、胃がすごく痛いし!)

キリキリキリ……

古橋 (うん、痛い! 大丈夫! 痛いもん!)

古橋 (……いや、胃が痛くて喜んでどうするのわたし……)

桐須先生 「今度は真っ青よ? 百面相ね。というか、私の話を聞いてるかしら?」

古橋 (いや、でも……実際……)

古橋 (もし、成幸くんに……ゴニョゴニョ……されちゃったら、わたしは……――)

桐須先生 「――――古橋さん?」

古橋 「ひっ……!? き、桐須先生!?」

157: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:27:03 ID:SWSJNpPk
桐須先生 「私の授業なんて、聞く意味もないという確固たる意思表示かしら?」

桐須先生 「良い度胸ね……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

古橋 「ち、違うんです! ちょっと、考え事があって……」

桐須先生 「ほぅ。私の授業より大事な考え事。とても興味深いわね」

桐須先生 「……話は後で聞かせてもらうわ。昼休み、生徒指導室に来なさい」

古橋 「へ……?」

古橋 「本当ですか!?」 パァアアアア

桐須先生 「不可解。なぜ嬉しそうなの、古橋さん」

古橋 「なんでもありません! 昼休み、生徒指導室ですね!」

古橋 (ただの対処療法なのは百も承知だけど!)

古橋 (これで、昼休みに成幸くんと会わない口実ができた!)

古橋 (いまの精神状態で成幸くんに会ったら、どうなるかわかったもんじゃないもんね!)

158: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:28:24 ID:SWSJNpPk
………………休み時間 3-B


『ということで、ごめん、成幸くん』

『昼休みは桐須先生に呼び出されてしまったので』

『会えそうにないです』


成幸 「………………」

ガクッ

成幸 「……まぁ、桐須先生に呼び出されたんじゃ仕方ないよな」

成幸 「大丈夫だ。気にするな……送信、と……」

ピッ

成幸 「はぁ……。残念だなぁ。会いたかったなぁ、古橋……」

小林 (寝不足のせいかもしれないけど、いろいろダダ漏れだよ成ちゃん……)

ガラッ

桐須先生 「時間厳守。五秒後にチャイムが鳴るわ。席に着きなさい」

成幸 (やべっ。次、桐須先生の授業か。準備しないと……)

159: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:29:44 ID:SWSJNpPk
………………

成幸 (……やばい)

成幸 (徹夜のツケが、こんなところで……)

成幸 (ねっっっっむい……)

桐須先生 「……と、いうことで、列強諸国の施策に対し、我が国は……」

成幸 (しかも古橋と会えないって分かって、少し落ち込んでるから……)

成幸 (余計に……眠い……)

成幸 (ッ……!) ブンブンブン (しっかりしろ、唯我成幸!)

桐須先生 「……? 唯我くん?」

成幸 (勉強をさせてもらっている学生という身の上で、授業中に寝るなど言語道断!)

成幸 (働いてくれている母さんにも! お弁当を作ってくれている水希にも申し訳が立たない!)

桐須先生 「唯我くん。聞いているのかしら? 唯我くん?」

成幸 (俺はVIP推薦をもらわなきゃならない! 授業中に寝ている暇なんか――)

桐須先生 「――……唯我くん?」

成幸 「ひっ……!? き、桐須先生!?」

160: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:31:07 ID:SWSJNpPk
桐須先生 「私の授業はそんなに退屈かしら、唯我くん?」

桐須先生 「世界史の授業に日本の歴史もまじえて、分かりやすく話をしていたつもりなのだけど」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 (し、しまった! 寝ないことに集中するあまり、授業を聞いていなかった!)

成幸 「ち、違うんです、桐須先生! ちょっと眠くて……」

桐須先生 「なるほど。私の授業は居眠りに最適な退屈な授業、と……?」

成幸 「!? そうじゃないんです、先生!」

桐須先生 「話は後で聞きます。昼休み、生徒指導室に来なさい」

成幸 「は、はい……。わかりました……」

成幸 (しょうがないよな。居眠りしそうになってた俺が悪いわけだし……)

成幸 「ん……?」

成幸 (桐須先生に呼び出された……? それって……)

161: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:41:04 ID:SWSJNpPk
………………昼休み 生徒指導室

文乃 「………………」

文乃 「ど、どうして……」

文乃 「どうして君まで生徒指導室に来るのかな!? 成幸くん!?」

成幸 「いや……ちょっと授業中に居眠りしそうになっちゃってさ……」

桐須先生 「喧噪。ここは生徒指導室よ。静かにしなさい、古橋さん」

文乃 「あっ……す、すみません……。つい……」

文乃 (……これほんとに、ほんとのほんとのマジのやつだー!!)

文乃 (成幸くんは本当にわたしに会いたくて会いたくて仕方なかったんだー!)

文乃 (だからわざと桐須先生に怒られるようなことをして……)

文乃 (生徒指導室に呼ばれてわたしに会おうと……)

文乃 (そっ、そこまでして……?)

文乃 (そこまでして、わたしに会いたかったの……?)

カァアアアア……

162: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:42:22 ID:SWSJNpPk
桐須先生 「あなたたちの今日の態度は、いくらなんでもだらけすぎです」

桐須先生 「普段の素行は問題ないので、今日はお説教と反省文だけで済ましますが、」

桐須先生 「今後も続くようであれば、本格的な生徒指導に入りますよ?」

桐須先生 「とにかく、しっかりとしなさい」

文乃 「は、はい……」

成幸 「返す言葉もありません。すみませんでした……」

桐須先生 「……よろしい。では、この原稿用紙に反省文を書きなさい」

文乃 (ほっ……。桐須先生には悪いことをしたけど、反省文で済んで良かった)

文乃 (先生の監督があれば、成幸くんとふたりきりになることはないだろうし……)

桐須先生 「書き終えたら、私に提出すること」

桐須先生 「書き上がらない場合は、放課後も残しますからそのつもりで」

桐須先生 「では、私は仕事があるので職員室に戻ります」

文乃 「へ……?」

163: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:43:18 ID:SWSJNpPk
文乃 「せ、先生!? 行ってしまうんですか!?」

桐須先生 「し、仕方ないでしょう? 私だって、他に仕事があるのだから……」

桐須先生 「古橋さん、あなた、今日は本当に変よ? 何かあったの?」

文乃 「何か、って……」 チラッ

成幸 「?」

文乃 (い、言えるわけねー!! だよっ!)

文乃 「……すみません。大丈夫です」

桐須先生 「そう? 何かあったらすぐに言いなさい」

桐須先生 「それじゃ、しっかりと反省文を書きなさい。いいわね」

ガチャッ……

文乃 (い、行っちゃった……)

成幸 「……さ、書くか」

文乃 (結局成幸くんとふたりきりだよー!)

164: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:44:02 ID:SWSJNpPk
………………

成幸 「………………」

カリカリカリ……

文乃 「………………」 ジーッ (……何か言い出すんじゃないかと身構えたけど、)

文乃 (身構えてたのがバカみたい。成幸くん、真面目に反省文書いてるだけだよ)

文乃 (やっぱりわたしの勘違いだったのかなぁ……)

成幸 「……よしっ。これでいいだろう」

文乃 「あっ、成幸くん、できたの?」

成幸 「おう。やってしまったこと。その原因。対策。しっかりと書いたからな」

成幸 「反省文の見本にしてもらっても恥ずかしくないくらいだぜ」

文乃 「ふふ。ほんと、面白いこと言うなぁ、成幸くんは」

文乃 (よかった。普通だ。この分なら、やっぱりわたしの勘違いだったんだね)

成幸 「俺が書き上がってるくらいだから、お前はもう書き上がってるだろ?」

成幸 「じゃあ、改めて、場所は違うけど、ここで話をしてもいいか?」

文乃 「へ……?」

165: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:44:59 ID:SWSJNpPk
成幸 「………………」 キリッ

文乃 (勘違いじゃなかったー!! めっちゃ真面目な顔してこっち見てるよー!)

文乃 「だ、だめだよ、成幸くん! わたしまだ書き上がってないから!」

文乃 (ほんとは君が書き上げるはるか前に書き上がってたけど!!)

成幸 「へ……? あ、そうなのか……」

シュン

成幸 「すまん……。てっきり、古橋はもう書き上がってると思ったから……」

文乃 「うっ……」

文乃 (成幸くん、君はなんて罪な顔をするんだい……?)

文乃 (そんなしょぼくれた顔しないでよ……。嘘ついたのがすごく悪いことに思えるよ……)

文乃 「……ち、ちなみに」

成幸 「ん?」

文乃 「話、ってどんな話なのかな? それだけでも、教えてくれると……」

文乃 (心の準備ができるんだけど……)

166: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:46:30 ID:SWSJNpPk
成幸 「いやいや、お前まだ反省文書き上がってないんだろ?」

成幸 「まずそれを終わらせないと、また桐須先生に怒られるぞ?」

文乃 「そ、そうだね」

成幸 「それに、メッセージでは“時間は取らせない”なんて言ったけどさ、」

ニコッ

成幸 「よく考えたら、すぐ終わりそうにないからさ」

文乃 (君は一体何を言うつもりなのー!?)

文乃 「………………」

文乃 (……いや、これは、もう確定的)

文乃 (成幸くんは、きっと、わたしに……ゴニョゴニョ……しようとしてるんだ)

文乃 (……で、でも、成幸くんには、りっちゃんとうるかちゃんがいるし)

文乃 (友達の好きな人と、なんて……だめ。わたしにはできないよ……)

167: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:47:40 ID:SWSJNpPk
成幸 「……古橋? えんぴつが動いてないぞ?」

文乃 (成幸くんを傷つけたくない)

文乃 (何より、成幸くんと気まずくなりたくない)

文乃 (成幸くんに勉強を教えてもらいたい)

文乃 (……だから、わたしは)

成幸 「古橋?」

文乃 (ずるい女だ、わたし……)

文乃 「……ねえ、成幸くん。ごめん」

成幸 「へ?」

文乃 「成幸くんがしようとしてる話を、わたしは聞けない」

成幸 「えっ……?」

成幸 「ど、どうして……」

168: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:48:41 ID:SWSJNpPk
文乃 「だって、それは……わたしにとって、本当に大事なものを裏切ることになるから」

文乃 「裏切ることにならなくても、傷つけることになってしまうかもしれないから」

成幸 「………………」

文乃 「……成幸くんの気持ちは嬉しいよ? でも……」

文乃 「わたしは、その大事なものを壊したくないんだ」

文乃 「……君も、その大事なもののひとつだから」

成幸 「古橋……」

成幸 「……すまん。俺が悪かった」

成幸 「安易な俺を許してくれ……!」

文乃 (わ、わかってくれたぁ……) パァアアアア

文乃 「ううん、いいんだよ、成幸くん」

文乃 「わたしの方こそごめんね。君の言葉すら聞いてあげられなくて」

文乃 「でも、君の気持ちは嬉しいから。それだけは覚えておいて」

169: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:49:22 ID:SWSJNpPk
成幸 「ああ、古橋……。俺は、なんて愚かなことをしようとしていたんだ……」

文乃 「いいんだよ。本当にごめんね」

成幸 「謝らないでくれ、古橋!」

ヒシッ

文乃 「ふぇっ……?」

文乃 「!?」 (何で!? どうしてわたしの手を取ってるのかな、成幸くん!?)

成幸 「お前にとって本当に大事な思い出だもんなぁ……!」

ポロポロポロ……

文乃 「ふぇっ!? 泣いてるの、成幸くん!?」

成幸 「うぅ……すまん。古橋……」

文乃 (泣くほど辛かったんだ……)

文乃 (……それなのに、わたしは)

文乃 (その想いを聞いてあげることすらできないって……)

文乃 (……それは、いくらなんでも、ひどい気がする)

170: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:50:07 ID:SWSJNpPk
文乃 (だってもし、わたしが将来……ゴニョゴニョ……するとき、)

文乃 (相手からこんな風に、言う前に拒絶されてしまったら、きっとショックだもん)

文乃 (だから、わたしは……。きちんと断ってあげないといけないんだ)

文乃 (断って……)


―――― 『かっこいいよな。古橋は』


文乃 (……どうして)

文乃 (どうして、旅館に泊まったときのことなんて、思い出してるの……)

171: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:51:10 ID:SWSJNpPk
文乃 (わたし……わたしは……っ)

文乃 (違う。断るのが怖いんじゃない。今までの関係が壊れるのが怖いわけでもない)



文乃 (――わたしが成幸くんの言葉を、拒絶できないって分かってるから、怖いんだ)



文乃 「………………」

文乃 「……いいよ」

成幸 「へ……?」

172: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:52:04 ID:SWSJNpPk
文乃 (それでも、わたしは……聞いてあげないといけない気がする)

文乃 (ううん。認めるのは怖いけど、認めてしまおう)

文乃 (わたしは、成幸くんの言葉が聞きたいんだ……)

文乃 「話して。大事な話があるんでしょ?」

成幸 「で、でも、それはお前にとって、とっても大切な……」

文乃 「……そうだよ。でも、聞いてあげたいって思うのも、本当のことだよ」

文乃 「わたしは今、君の言葉を聞きたいって思ってるんだよ」

173: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:53:36 ID:SWSJNpPk
成幸 「古橋……」

ジーン

成幸 「ありがとう、古橋。本当にありがとう」

成幸 「じゃあ、言ってもいいか?」

文乃 「うん。どんとこい、だよ」 (わたしは、きっと……)

文乃 (成幸くんの言葉を、受け入れて……――)



成幸 「―――――― 『天の光はすべて星』 読んだよ! めちゃくちゃ面白かったよ!」



文乃 「わ、わたし、わたしは……」


文乃 「………………」


文乃 「……は?」

174: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:54:40 ID:SWSJNpPk
成幸 「いや、本当におもしろくてさ!」

成幸 「昨日偶然図書館で見つけて読んでみたら止まらなくてさ!」

成幸 「徹夜で読んじまったよ! だから居眠りしそうになったんだけどな」

成幸 「お前と語り合いたくてさー。だから昼休みゆっくり話したかったんだけど……」

成幸 「でも、そうだよな。あの本、お前とお袋さんの思い出の本だもんな」

成幸 「俺みたいな、SFもそう詳しくない奴と話したくはないよな」

成幸 「気遣いさせて悪かったな。語り合えはしないまでも、感想だけでも言えてすっきりしたぜ」

文乃 「………………」

成幸 「……? 古橋? どうかしたか?」

成幸 「顔真っ赤だぞ? 手もプルプル震えてるし、涙目だし……」

成幸 「や、やっぱり、俺がこんな話するの、嫌だったか……?」

文乃 「……べつに、なんでも、ないですし」

175: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:56:00 ID:SWSJNpPk
成幸 「へ……? なぜ丁寧語?」

文乃 「なんでもないです。ほら、早く提出しに行くよ。成幸くん」

成幸 「え? でもお前、反省文書き上がって……る!? いつの間に書いたんだ古橋!?」

文乃 「うるさい。いいから。早く出しに行こう」

成幸 「な、何を怒ってるんだよ。古橋」

文乃 「怒ってないです。怒ってると思うなら、その原因を探してください」

成幸 「やっぱり怒ってるじゃないか!?」

文乃 「女心の練習問題だよ! 少しは自分で考えろバカー!」

176: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:57:18 ID:SWSJNpPk
………………放課後

成幸 「……なんていうか、今日は本当に悪かったな、古橋」

文乃 「その話はもうしないでって言ったでしょ」

成幸 「うっ……。わ、わかった……」

成幸 (結局、謝罪は受け入れてくれたようだけど、何に怒っているのかは未だに教えてくれていない)

成幸 (やっぱり、安易にお袋さんとの思い出に触れてしまったから、怒ってるんだろうか……)

ズーン……

成幸 (俺は無神経だ。古橋と同じように親父を亡くしている俺が、)

成幸 (古橋の気持ちを慮ってやれないなんて……。教育係失格かもしれん)

文乃 「………………」

文乃 (……はぁ。また変なこと考えてへこんでいるんだろうなぁ)

文乃 「……言っておくけど、成幸くんが『天の光はすべて星』を読んでくれたことは、すごく嬉しかったんだよ」

成幸 「え……?」

177: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:58:43 ID:SWSJNpPk
文乃 「……嬉しくないわけないでしょ」

文乃 「友達が、わたしの大切な思い出を話したこと、覚えてくれてて、」

文乃 「……本まで読んでくれるなんて。そんなの、嬉しいに決まってるじゃない」

成幸 「古橋……」

成幸 「ん……? だとすると、一体何に怒ってたんだ?」

文乃 「………………」

ツーン

文乃 「……知らない。自分で考えろ! だよ」

成幸 「なんでそこは教えてくれないんだ!?」

文乃 (……教えられるわけ、ないじゃん)

文乃 (君から……ゴニョゴニョ……されると思い込んでいたなんて)

文乃 (……そして、その言葉を、たぶん、期待してしまっていた、なんて)

文乃 (……言えるわけ、ないじゃん)

文乃 (成幸くんの、バカ)

おわり

178: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 21:59:32 ID:SWSJNpPk
………………幕間1 唯我家

水希 「……お兄ちゃんの様子がおかしいときは、メッセージのチェックをしないと」

水希 「ん……? 古橋さん宛に大量のメッセージが……」

『大事な話がある』
『今日の昼休み、いつもの場所に、ひとりで来てほしい』
『頼む』
『メッセージじゃだめなんだ』
『お前に会って、面と向かって、言いたいことがあるんだ』
『頼む。いま、お前に会いたくて仕方ないのを我慢してるくらいなんだ』
『昼休みより先なんて考えられない』
『どうした? 今日は都合が悪いのか? だとしたら、無理を言って悪かった』
『明日でもいい。その先でもいい。できるだけ早く、お前に会える日を教えてくれ』
『時間は取らせない。古橋、お前に少し話があるだけなんだ』
『ありがとう。急に変なこと言い出して悪かったな』
『嬉しいよ。楽しみにしてるな』

水希 「………………」 ニヤリ 「……へぇぇえ」

水希 「……さて、とりあえず、古橋さんと、“お話”しないと……」

ユラリ

水希 「ふふ……ふふふふ……」


※その後、誤解はちゃんととけました。

179: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 22:00:30 ID:SWSJNpPk
………………幕間2  いばらの道のいばらの会

鹿島&蝶野&猪森 「「「………………」」」 ニヤニヤニヤニヤ

文乃 「……なに? 鹿島さんたち」

鹿島 「いえいえいえ。残念でしたね、古橋さん~」 ニコッ 「告白ではなくて」

文乃 「聞いてたの!? だってあそこ生徒指導室だよ!?」

蝶野 「ふふ、甘いっスよ、古橋さん」 キリッ 「桐須先生が怖くて我らの責務が果たせるか、っスよ」

猪森 「まぁ、放課後、生徒指導室に張り付いていたことについてみっちりお説教は受けたがな」

猪森 「しかし“氷の女王”恐るるに足らず! この程度で我々が反省すると思っ――」

桐須 「――ほう。まだ反省していないのね」 ゴゴゴゴゴ……!!!

鹿島&蝶野&猪森 「「「!?」」」

桐須 「三人とも来なさい。今日は最終下校時刻に帰れると思わないことね」

アアアアアーーーオタスケヲーーーオジヒヲーーー……ズルズルズル………

文乃 「……ふぅ」 (……あの三人がいないと)

文乃 (平和で、いい……)

180: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/17(月) 22:01:16 ID:SWSJNpPk
………………幕間3 慰める会

海原 「うるか、元気出して!」

川瀬 「ああ。男は唯我だけじゃないぞ」

うるか 「へ……? へ? へ?」


おわり

183: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:20:45 ID:DUtC6N3c
>>1です。
ひとつ投下します。


【ぼく勉】文乃 「わたしはそれで満足だから」

184: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:21:54 ID:DUtC6N3c
………………十年後 春 喫茶店

文乃 「………………」

フゥ

文乃 「……遅いなぁ」

通行人1 「……わっ、すごい美人」

通子人2 「きれいな髪~。肌も真っ白よ」

通行人3 「喫茶店でお茶をする姿も、様になってるなぁ……」

文乃 「……?」

文乃 (なにか分からないけど、じろじろ見られているような……)

?? 「……あっ、いたいた。悪い、待たせた。古橋」

文乃 「あっ……」 ハッ (し、しまった。嬉しそうな顔をしてしまったけど、ダメだよ)

文乃 (時間を守るのは社会人の基本。ここは厳しい顔をして叱ってあげなくちゃ)

文乃 「……も、もうっ。ダメだよ、成幸くん」

文乃 「時間、十五分も過ぎてるよ?」

185: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:22:43 ID:DUtC6N3c
成幸 「悪い悪い。会議が長引いてさ。許してくれよ」

成幸 「先生ってのはほんと、話好きな生き物だよ」

成幸 「みんな好き勝手喋るんだから、会議なんて終わるわけないよな」

文乃 「ふーん、だ。言い訳は聞きたくありませーん」

成幸 「だから、悪かったって……ごめん。パフェ奢ってやるから許してくれよ」

文乃 「パフェ!?」 パァアア……!!

ハッ

文乃 「……じゃない! そんなんじゃ誤魔化されないからね、成幸くん!」

成幸 「なんだよ。いま少し誤魔化されかけただろ」

成幸 「悪かったよ。俺は何をすればいいんだ?」

文乃 「………………」

文乃 「……つまで、……はし、って……ぶの?」

成幸 「へ? どうした? 全然聞き取れなかったんだけど……」

186: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:23:22 ID:DUtC6N3c
文乃 「っ~~~~~~~~」

文乃 「だ、だから!」

文乃 「……いつまで、古橋って呼ぶつもりなの、って……」

文乃 「……言ったんだよ。バカ」

成幸 「へ……? あっ」

成幸 「俺、古橋、って呼んでたか」

成幸 「すまん。えっと……」

成幸 「……ごめん。悪かったよ、文乃」

文乃 「っ……////」

文乃 「しっ、仕方ないから、今回は、それとパフェに免じて許してあげる」

成幸 「本当か? ありがたい」 ニコッ

成幸 「でも、遅れて本当に悪かったな。文乃」

文乃 「っ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

187: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:24:05 ID:DUtC6N3c
………………

文乃 「……ん~、美味し~~い! ここのパフェは絶品だよ!」

成幸 「喜んでもらえて何よりだよ。相変わらずよく食う奴だな」

文乃 「むっ……人を食いしん坊みたいに言ってぇ……」 モグモグ

成幸 「もぐもぐしながら喋るなよ。せっかくの美人が台無しだぞ?」

文乃 「びっ……美人、って……。な、何を言ってるのかな、まったく……」

成幸 「?」

文乃 「……で、今日は一体どんな用なのかな? いきなり呼び出すなんてめずらしいよね」

成幸 「ん……まぁ、ちょっと、な……」

成幸 「………………」

文乃 「……? うつむいちゃってどうしたの? 何か悩み事?」

188: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:24:58 ID:DUtC6N3c
成幸 「……まぁ、悩み事って言ったらそうだな」

成幸 「文乃ぐらいにしか話せそうになくてさ」

成幸 「というか、文乃に聞いてもらいたい話がある、というか……」

文乃 「わ、わたしに?」

成幸 「ああ。お前にしか言えないんだ」

文乃 「な、何の話かな?」

ドキドキドキドキ……

文乃 (これは、ひょっとして……ひょっとすると……)

文乃 (……いや。大体こういうときは、ただの早とちりで終わるんだ。だから、きっと……――)

成幸 「――……実は、結婚指輪のこと、なんだ」

文乃 「ふぇっ!? ほ、本当に!?」

成幸 「へ……? 何で驚いてるんだ、文乃?」

成幸 「俺まだ話してないだろ? 結婚指輪をなくしたこと……」

文乃 「へ……?」

189: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:25:39 ID:DUtC6N3c
文乃 「……? あっ」

文乃 (わたしは一体何を考えていたのだろう)

文乃 (どうして、こんな恥ずかしい勘違いをしていたのだろう)

文乃 (……目の前の、唯我成幸という男は)

文乃 (もうすでに結婚しているではないか)

文乃 (ああ、そうだ。そして、わかった。そうだ。どうして気づかなかったのかな)




文乃 (これは、夢だ)




文乃 (だから、記憶は曖昧で、目の前の成幸くんも少しぼやけていて、)

文乃 (わたし自身の輪郭も曖昧なんだ)

文乃 (これは、将来を思い描いた、わたしの夢だ)

文乃 (そしてその夢の中で、成幸くんはどこかの誰かと結婚しているのだ)

190: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:26:32 ID:DUtC6N3c
文乃 「……なくしちゃった? 結婚指輪を?」

成幸 「ああ。いつもは薬指にちゃんとつけてるからなくすはずはないんだ」

成幸 「でも、先週水泳の補習の監督を頼まれてしまってな」

成幸 「さすがにプールに入ることになるから、外したんだよ」

成幸 「でも、ちゃんとロッカーの中にしまったんだぜ」

文乃 「鍵は?」

成幸 「………………」

文乃 「……かけてなかったんだね」

成幸 「面目ない。まさかあの短時間でなくなると思わなかったんだよ」

191: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:27:29 ID:DUtC6N3c
文乃 「それで、一週間かけて毎日校内を探し回ったけど、見つからなかった、と」

成幸 「そうなんだよ。もう考えられるところは全部見たんだよ」

成幸 「でも、見つからなくて……」

成幸 「文乃だったら何か思いつくんじゃないかと思って、相談したんだ」

文乃 「そう言われてもねぇ……」

文乃 (一ノ瀬学園には、もう十年くらい戻っていない)

文乃 (……って、これは夢の中だから、実際は毎日登校しているのだけど)

文乃 (っていうか、夢の中のことに、わたしは何を必死になってるんだろ)

文乃 (どうせ夢から覚めたら忘れてしまうようなことなのに)

成幸 「うぅ……」

文乃 (……でも、)

ハァ

文乃 (放っておけないよね)

文乃 (わたしはこの人の、お姉ちゃんだから)

192: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:28:41 ID:DUtC6N3c
………………一ノ瀬学園

成幸 「悪い。学校まで来てもらって……」

文乃 「べつにいいよ。それより有給取って出てきてるのに、」

文乃 「職場に戻って大丈夫? 気まずくない?」

成幸 「それくらいは我慢するよ。仕事は全部終わらせてるから、先生方も文句はないだろ」

文乃 「ふーん……」

文乃 (……夢の中とはいえ、十年後の世界)

文乃 (なんか、わくわくするなぁ)

193: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:29:43 ID:DUtC6N3c
………………プール 男子更衣室

文乃 「ふむふむ。ここで水着に着替えたんだね」

成幸 「お前ってなんていうか、結構すごいよな」

文乃 「へ?」

成幸 「調べるためとはいえ、男子更衣室にためらいもなく入るところとか」

文乃 「………………」 ジロッ 「……わたしはべつに協力しなくてもいいんだけど?」

成幸 「うわぁ! すまん、冗談だよ、文乃!」

文乃 「……まったく。本当に君は調子がいいんだから、成幸くん」

文乃 「で? 指輪はたしかに外したんだよね?」

成幸 「外したよ。外して、上の棚にのせたんだ」

文乃 「影も形もないねぇ。下にも落ちてはなさそうだし」

成幸 「ああ。補習が終わって戻ってきたら、もうなかったんだ」

文乃 「……ふむ」

194: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:30:38 ID:DUtC6N3c
成幸 「……一体どこにいったんだろうな」

文乃 (……はぁ)

文乃 (そんなのわかりきってるでしょ、と言ってやりたいよ)

文乃 (ロッカーの扉がひとりでに開くわけがない)

文乃 (指輪が勝手に転がり落ちるようなわけもない)

文乃 (こんなの、答えは当たり前のように出ている)

文乃 (……誰かが鍵のかかっていないロッカーを開け、成幸くんの指輪を持ち出したのだ)

成幸 「うぅ……奥さんに申し訳なくてさぁ……」

文乃 「………………」

文乃 (……言えるかー! だよ!)

文乃 (こんな純朴で良い子に育った弟に、そんな人の悪意が介在するようなこと、言えるかー!)

――――――ガサッ

195: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:31:49 ID:DUtC6N3c
文乃 「ん……?」

女子生徒 「あっ……」

文乃 (女の子……? なつかしい。うるかちゃんと同じ水着だ。水泳部かな?)

文乃 (でも、この子……今、男子更衣室を覗いていたの……?)

成幸 「ん……? ああ、○×。今日も部活か。ご苦労さんだな」

女子生徒 「は、はい。唯我先生も、お仕事お疲れ様です」

成幸 「はは、こどもが大人を労うもんじゃないよ」

成幸 「それに今は一応有給休暇中だ。仕事じゃない」

女子生徒 「……あの」

成幸 「ん?」

女子生徒 「そちらの方は……?」

196: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:32:54 ID:DUtC6N3c
成幸 「ああ、先生の古い友人でな。古橋文乃さんっていうんだ」

成幸 「ここのOGだから、○×の大先輩だな」

女子生徒 「そ、そうなんですか……。はじめまして。○×です」

ジロッ

女子生徒 「わたし、唯我先生が担任なんです」

文乃 「へ……? あ、そ、そうなんだー」

文乃 「はじめまして。古橋文乃です。そういえば、わたしも昔は成幸くんに勉強を教わってたんだよ」

女子生徒 「……“成幸くん”……?」 ギリッ

文乃 「……?」

女子生徒 「あ……あはは。なんでもないです。すみません」

文乃 (この子……)

197: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:33:38 ID:DUtC6N3c
キラッ……

文乃 「ん……?」

文乃 「ねえ、あなた。その手に持ってるのは……」

女子生徒 「!? あ……」

女子生徒 「す、すみません。用事を思い出しました! 失礼します!」

タタタタ……

成幸 「お、おい? 廊下は走るなよーーーー!!」

成幸 「……? ○×のやつ、一体どうしたんだ……?」

文乃 「………………」

文乃 「……なるほど」

成幸 「文乃?」

文乃 「成幸くん、君は、まったく……」

文乃 「ほんと、罪な男だよねぇ」

198: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:34:32 ID:DUtC6N3c
成幸 「い、いきなり何の話だ?」

文乃 「なんでもないよ。相変わらず女心が分からない愚弟だよ君は」

文乃 「わたしの出す女心の練習問題をしっかりやってこなかったせいだよ、まったく」

成幸 「なんだかわからんが、すまん……」

文乃 「……わたしさ、なんとなく指輪がどこにあるか検討ついちゃったんだよね」

成幸 「なに!? 本当か!? それはどこだ!?」

文乃 「……内緒。君には言えないよ、成幸くん」

成幸 「な、何で……?」

文乃 「何でもだよ。いいから、少し待っててよ」

文乃 「……わたしが、指輪を取ってきてあげるから」

199: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:36:04 ID:DUtC6N3c
………………女子トイレ 個室内

女子生徒 「………………」

キラキラ……

女子生徒 「……これ、どうしよう――」

?? 「――どうしようも何も、返すしかないんじゃないかな?」

女子生徒 「!? だ、誰!?」

?? 「名前は名乗らない方がいいんじゃないかな。お互いのためにも」

?? 「トイレの壁一枚隔てて、会話もできるわけだしね」

?? 「わたしは君のことが誰だか分からないし、君もわたしが誰か分からない」

?? 「それでよくないかな?」

女子生徒 「……どうして、ここにいるってわかったんですか?」

?? 「そりゃまぁ、競泳水着のまま行ける所なんて限られてるからね」

?? 「プールサイドにいない。女子更衣室にもいない。だとすれば、このプール併設のトイレしかないよね?」

女子生徒 「……そう、ですね」

200: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:37:13 ID:DUtC6N3c
?? 「……さて、本題に入ろうか」

?? 「君が今手に持って眺めているであろうその指輪を、どうするかという話だよ」

女子生徒 「………………」

?? 「うん。まぁ、君がそれを認めたくない気持ちもわかる」

?? 「でも、そこにそれがあるのは紛れもない事実のはずだよ」

?? 「わたしはさっき、君が指輪を隠し持っているのを、見てしまったからね」

?? 「競泳水着にポケットなんてないもんね。指輪を持つなら手の中しかない」

女子生徒 「……わ、わたしはっ」

女子生徒 「これを、盗もうとしたわけじゃないんです」

女子生徒 「悪いことだって分かってました。男子更衣室に侵入して、勝手に先生のロッカーを開けて……」

女子生徒 「……指輪を少し眺めて、それでよかったんです」

女子生徒 「でも、そのときちょうど、水泳部の男子が来る声が聞こえて……」

女子生徒 「指輪を持ったまま、逃げ出しちゃったんです……」

201: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:38:24 ID:DUtC6N3c
女子生徒 「唯我先生を困らせるつもりなんてなかったんです」

女子生徒 「ただ、ほんの少し……近くで、見てみたくて……」

?? 「………………」

?? 「……大好きな唯我先生の指輪を?」

女子生徒 「……!? な、なんで……?」

?? 「うーん、君がはるか年下の女の子じゃなければ、「わからいでか!」ってツッコんでるところだよ」

?? 「成幸くん良い子だもんねぇ。きっと良い先生なんだろうねぇ」

女子生徒 「……良い先生です。いつもわたしたちのために一生懸命だし、」

女子生徒 「わたしたちのために学園長とも戦ってくれるし、」

女子生徒 「わたしたちのこと、全力で庇ってくれるし、」

女子生徒 「……格好良いんです。唯我先生は。って、あなたはよくご存知ですよね、きっと」

202: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:39:32 ID:DUtC6N3c
?? 「ちなみに君が誤解しているようだから言っておくケド、わたしは彼の奥さんじゃないよ?」

女子生徒 「へ……? 違うんですか?」

?? 「違うよ。奥さんは別の誰か。わたしは彼の古い友人だよ」

?? 「……とまぁ、そんな話は置いておくとして、」

?? 「わたしからひとつ提案があるんだ。聞いてくれるかな?」

女子生徒 「……提案?」

?? 「わたしは学生のころ、“眠り姫”なんてあだ名されるくらいの寝ぼすけでね」

?? 「どんなところでも寝られるんだ……っていうのは言いすぎだけど」

?? 「わたしはいますごく眠い。だから、ちょっと洗面台で手を洗っている間に寝てしまうかもしれない」

?? 「そのとき、隣に誰かが立って、そっと洗面台に指輪を置いていっても、きっと気づかない」

女子生徒 「………………」

?? 「……とまぁ、そういう提案だよ。もしわたしが起きたときに指輪があったら、」

?? 「成幸くんには指輪は女子トイレに落ちてたよ不思議だねぇ、とだけ言おうかな」

?? 「きっとあの純朴な好青年は、それをまったく疑うことなく受け入れるだろうね」

?? 「……さて、どうする?」

203: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:40:55 ID:DUtC6N3c
………………

文乃 「……ほら」

成幸 「!? わっ、本当に指輪だ!?」

成幸 「どうやって見つけたんだ!? っていうかどこにあった!?」

文乃 「女子トイレに落ちてたよ。たぶん、君が眼鏡を外している間に、」

文乃 「指輪はコロコロ転がって女子トイレまで行ったんだろうね」

成幸 「……?」

文乃 (……少し苦しいかな?)

成幸 「なるほど。女子トイレだったら俺が今まで見つけられなかったのも合点がいく」

成幸 「女子トイレとは盲点だったな。ありがとう、文乃。さすがは俺の師匠だ」

文乃 「……成幸くん、君はさぁ」

成幸 「ん?」

文乃 (……少しは人を疑うってことも覚えた方がいいと思うよ?)

文乃 (って、わたしの夢の中の君に言っても仕方ないから、言わないけどね)

204: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:42:00 ID:DUtC6N3c
………………唯我邸前

文乃 「……本当に、いいから」

成幸 「そんなわけにいくかよ」

グイグイ……

成幸 「ぜひお礼をさせてくれ。電話で伝えたら、奥さんもお礼が言いたいって言ってたぞ」

文乃 「……いや、でも……」

文乃 (夢の中とはいえ、成幸くんの奥さん……)

文乃 (誰だろう。気になるけど、見たいような、見たくないような……)

文乃 (誰だろう、っていうのも野暮な定義だ)

文乃 (……“どちらだろう”と言うべきかもしれない)

……――ガチャッ

? 「……あら? 帰ってらしたんですか、あなた」

? 「そんな玄関前にいないで、入ってらしたらいいのに」

文乃 「……あっ」

205: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:43:09 ID:DUtC6N3c
? 「ああ、あなたが古橋文乃さんですのね」

? 「主人からお噂はかねがね聞いております」

? 「なんでも、すごい天才でいらっしゃるのに、苦手分野に挑戦したすごい人だと」

? 「わたくし、一度でいいからしっかりお話したかったんですのよ」

? 「主人があんまりにも楽しそうにあなたのことを話すものですから、」

? 「わたくし、実を言うと少しあなたに嫉妬しておりましたの」

成幸 「お、おい。やめろよ。恥ずかしいだろ……」

文乃 「なっ……」

? 「? 冗談のつもりだったのですけど、少し不謹慎すぎたかしら……?」

? 「不愉快にさせるつもりはなかったんですの。ごめんなさいね」

文乃 「なっ……なんなの……?」

ギリッ




文乃 「――――あなたは、誰……!?」

206: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:44:12 ID:DUtC6N3c
文乃 (この女性は、誰だ……?)

文乃 (りっちゃんではない。うるかちゃんでもない)

文乃 (当然、小美浪先輩でも、桐須先生でもない)

文乃 (誰……?)

成幸 「お、おいおい。何言ってんだ、文乃。結婚式で少しだけ話もしただろう?」

成幸 「俺の奥さんだよ。○○○○だよ」

文乃 「誰?」

成幸 「へ……?」

文乃 「……だから、誰だって、言ってるんだよ?」

文乃 「君は一体誰と結婚をしたんだって訊いてるんだよ!」

207: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:44:52 ID:DUtC6N3c
文乃 (だっておかしいだろう)

文乃 (こんなのあんまりだろう)


―――― ((大丈夫 絶対ない))

―――― ((絶対好きになんてなるはずがない))

―――― ((友達が 好きな人のこと))


文乃 「わたしは、だって……!」

文乃 「君が、わたしの友達と……りっちゃんと、うるかちゃんと……」

文乃 「……だから、わたしは……」

文乃 (だから……? だから、なんだというの?)

文乃 (友達のことを思っていた。だから?)

文乃 (だから、わたしは、彼のことを、あきらめた……?)

………………………………………………

………………………………

………………

208: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:46:00 ID:DUtC6N3c
………………

『……おい、古橋……』

『……古橋……』

『……文乃……』

『……文乃っち~……』

文乃 「あ……」

パチッ

文乃 「……あれ……?」

文乃 「ここは……」

成幸 「何寝ぼけてんだ、古橋。図書室だよ」

成幸 「気持ち良さそうに居眠り始めやがって。今日の分全然終わってないじゃねーか」

文乃 「………………」

文乃 「……成幸くん?」

成幸 「……? どうした、古橋? なんか変だぞ?」

209: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:47:23 ID:DUtC6N3c
文乃 (そっか……。夢、覚めたんだ)

文乃 「………………」

文乃 「……ううん。なんでもない。寝ちゃってごめんね。すぐ追いつくから」

カリカリカリ……

成幸 「お、おう。そうか。がんばってな」

文乃 「うん!」

文乃 「………………」

文乃 (ふふ……。変な夢を見たなぁ。途中から夢だって分かったし)

文乃 (あれが明晰夢ってやつだね。貴重な経験をしたよ)

文乃 「………………」

文乃 (……大丈夫。自分でも驚くくらい、平静だよ)

文乃 (わたしは、大丈夫。変な気持ちもない)

文乃 (わたしは……)

210: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:48:13 ID:DUtC6N3c
文乃 (……もしも、成幸くんがりっちゃんか、うるかちゃんと結ばれて、)

文乃 (そうしたらわたしは、それを心の底から喜ぶことができる)

文乃 (きっとできる)

文乃 (……でも、どうなのだろう)

文乃 (わたしは、それ以外の誰かが、成幸くんと結ばれたら、どう思うのだろう)

文乃 (あの夢は、あくまで夢だ。夢の中だから、変なことを思ってしまっただけだ)

文乃 (……けど、)

文乃 (もしも本当にそうなったとき、わたしは後悔せずにいられるのか?)

文乃 (もしかしたら、わたしは、自分では気づいていないだけで、すでに……)

文乃 (成幸くんのことを……)

成幸 「……古橋?」

211: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:49:56 ID:DUtC6N3c

文乃 「へ……?」

成幸 「大丈夫か? 顔色悪いぞ?」

理珠 「文乃、大丈夫ですか?」

うるか 「文乃っち。なんか元気ないよ」

文乃 「あ、いや……」

文乃 「あはは。ちょっと寝ぼけてるだけだよ。大丈夫……」

文乃 (……そう。わたしは、大丈夫。大丈夫でなければならない)

文乃 (夢の中のようなことには、きっとならない)

文乃 (だって、わたしの友達は、こんなにも魅力的な女の子だから)

文乃 (わたしは、そんなふたりの応援ができれば、)

文乃 (そして、成幸くんの幸せな未来を、お姉ちゃんとして応援できればそれだけで……)

文乃 「……うん。大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

ニコッ

文乃 (わたしはそれで満足だから)

おわり

212: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/09/19(水) 01:51:28 ID:DUtC6N3c
………………幕間  兄も幕間もわたしのもの

水希 「どうも、古橋さん」

キラキラキラ……

水希 「わたしがお兄ちゃんの嫁の水希です」 ニコッ

文乃 「おおう……」



おわり

216: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:07:51 ID:LAfruxaA
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】あすみ「遊園地のペアチケット?」

217: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:08:33 ID:LAfruxaA
………………小美浪家

小美浪父 「ああ。福引きで当たったんだ。お前にあげるから、唯我くんと行ってきなさい」

あすみ 「ああ? 前から思ってたけど、あんた受験生をなんだと思ってるんだ?」

小美浪父 「おや、一日勉強を抜きにしたところで落ちるものでもあるまい?」

小美浪父 「……というよりは、その程度で落ちるならそもそも受からんと思うがね」

あすみ 「ぐっ……くそ親父……」

小美浪父 「私が医学部に入学した頃は、競争率も今の何倍も……っと」

小美浪父 「今はお説教の時間ではないな」

小美浪父 「たまには彼氏と水入らずでゆったり遊んできたらいいじゃないか」

小美浪父 「……それとも、まさかあんないい彼氏と会いたくない、なんて言うわけではあるまいな?」

あすみ 「だー、もう! わかったよ! 行きゃいいんだろ行きゃ! 後輩と予定が合えばだけどな!」

小美浪父 「よろしい。後でデートの写真を見せてくれよ。楽しみにしているからな」

218: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:09:39 ID:LAfruxaA
………………数日後 遊園地

あすみ 「……と、いうことで、毎度毎度、本当にすまん、後輩」

成幸 「あははは、まぁ、あのお父さんだったら、遊園地のペアチケットなんて当てたらそうなりますよね」

成幸 「俺は気にしてませんから、大丈夫ですよ、先輩」

キラキラキラ……

成幸 「それより、遊園地なんて本当に久々で、嬉しくて……」

あすみ 「男子高校生が遊園地で目をキラキラさせんなよ……」

あすみ 「まぁ、あのクソ親父もまさか仕事をさぼって遊園地に来て監視、ってことはないだろうから、」

あすみ 「どっかのベンチで勉強でもしてようぜ。後で写真撮影だけ付き合ってくれれば……――」

あすみ 「――……って、なんで悲しそうな顔をしてるんだよ、後輩」

成幸 「……いや、もちろん俺たちは受験生で、今の時期は本当に勉強していなきゃいけないですけど、」

成幸 「……遊園地楽しそうだなぁ」

219: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:10:31 ID:LAfruxaA
あすみ 「……お前な」

ハァ

あすみ 「しょうがねぇ。こんなところに付き合わせてるのはアタシだしな」

あすみ 「せっかくだ。息抜きがてら、今日一日遊ぶとするか、後輩」

成幸 「いいんですか!?」 キラキラキラキラ 「嬉しいです、先輩!」

バッ

成幸 「じゃあまずどこ行きます? 俺はこのジェットコースターに行きたいです!」

あすみ 「お、お前……。いつの間にパンフレットなんかもらってたんだよ」

成幸 「先輩はどこに行きたいですか?」

あすみ 「人の話聞けよ。……いや、いいや。いいよ。ジェットコースターで」

成幸 「じゃあ早速行きましょう、先輩!」

ギュッ

あすみ 「……!?」

成幸 「? どうかしましたか、先輩?」

220: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:11:57 ID:LAfruxaA
あすみ 「どうかしたかって、お前、手……」

成幸 「あ……」

パッ

成幸 「す、すみません」

あすみ 「べつにいいけどさ。お前がアタシに本気になっちまったのかと思って焦ったぞ」

あすみ 「今日はえらく積極的じゃねーか、後輩?」

成幸 「ち、違いますよ! 昔のくせで……」

あすみ 「癖……?」

成幸 「小さい頃、知らないところに行くと、いつも妹の手を引いてあげてたから……」

成幸 「その……つい、先輩の手を握ってしまって……」

221: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:12:35 ID:LAfruxaA
あすみ 「……ほぅ」

あすみ 「それは、アタシがちんちくりんだから妹扱いしなきゃ、ってことか?」

成幸 「ご、誤解ですよ! そんな風に思ったことなんか一度もないです!」

あすみ 「……わかってるよ。冗談だ」

クスッ

あすみ 「ほら、手、引いてくれるんだろ?」

成幸 「へ……?」

あすみ 「どうせだったら本当にデートっぽくした方が親父を誤魔化すにもいい写真が撮れるだろう」

あすみ 「……ほら、早くしろよ。行くんだろ、ジェットコースター」

成幸 「は、はい!」

……ギュッ

222: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:13:47 ID:LAfruxaA
………………ジェットコースター降車後

成幸 「………………」

グターッ

あすみ 「……おい。ジェットコースターに乗りたいって言い出したのはお前だよな?」

あすみ 「なんでアタシがピンピンしてんのに、お前がボロボロなんだよ」

成幸 「お、おかしいな……。子どもの頃は楽しかったんだけどな……」

あすみ 「ったく。仕方ねーな。なんか飲み物でも買ってきてやるから待ってろ」

成幸 「すみません……。よろしくお願いします……うっぷ……」

223: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:14:24 ID:LAfruxaA
………………

あすみ 「……ったく。ジェットコースター程度でダウンしやがって。情けない」

あすみ 「本当に……」

クスッ

あすみ 「しょうがない奴だ。まったく」

prrrrr……

あすみ 「ん、電話……? げっ、親父からかよ」

ピッ

あすみ 「……何の用だよ」

小美浪父 『いや、デート中にすまんな』

小美浪父 『ひとつお前に言っておきたいことがあったのを忘れていてな』

小美浪父 『昨日もお前と話していて思ったのだが、唯我くんと付き合い出して結構経つというのに、』

小美浪父 『いつまでも“後輩”と呼ぶのはいかがなものかと思うぞ』

あすみ 「あんた本当に最近あいつのことばっかりだな。どんだけ気に入ったんだ、あいつのこと」

224: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:15:28 ID:LAfruxaA
小美浪父 『お前、そんなことだと、唯我くんに愛想を尽かされてしまうぞ?』

小美浪父 『言っておくがな、あんなに良い青年はこれから探したってそうそう見つかるものじゃない』

小美浪父 『特にお前みたいな跳ねっ返りは……――』

あすみ 「お説教はいいんだよ。要点だけ話せ要点を」

小美浪父 『む……。たしかにその通りだな。では、言わせてもらうが』

小美浪父 『唯我くんを名前で呼んであげなさい』

あすみ 「ああ!? なんでいきなりそんな話になるんだよ!」

小美浪父 『なんでも何もないだろう。唯我くん……、いやこの際私も名前で呼ばせてもらおうか。な、成幸くんと……////』

あすみ 「なんであんたが照れてるんだよ! 気持ち悪いな!!」

小美浪父 『うるさい。いいから聞きなさい。成幸くんに愛想を尽かされたらお前、どうするつもりだ』

小美浪父 『言っておくが、ああいう好青年がお前のことを見てくれているから、』

小美浪父 『お前の医学部受験を許しているということを忘れるなよ』

あすみ 「ぐっ……」

225: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:16:21 ID:LAfruxaA
小美浪父 『……で、どうするんだ?』

あすみ 「わかった。わかったよ。後輩のことを名前で呼べばいいんだろ?」

あすみ 「そんなのわけないしな。普段は名前で呼び合ってるし」 (うそだけど)

小美浪父 『ほう。そうであれば何の心配もないな。では今度唯我くんが家に来たときに、見せてもらうからそのつもりで』

あすみ (っ……適当に流してごまかすつもりが、そうもいかねぇか)

あすみ 「わかったよ。要件はそれだけか? 切るぞ」

小美浪父 『ああ。最後にひとつだけ』

あすみ 「あんだよ」

小美浪父 『お前は唯我くんのことを名前で呼び捨てにしていると思うが、唯我くんはお前のことをなんと呼んでいるんだ?』

あすみ 「は……?」

小美浪父 『やはり彼らしく慎ましやかに「あすみさん」だろうか。それとも、ふたりきりの時は積極的に「あすみ」なんて呼ばれているのか?』

あすみ 「………………」

ピッ……ツーツーツー……

あすみ 「付き合いきれねぇぞ、あのバカ親父」

あすみ 「……あしゅみー先輩って呼ばれてる、なんて言えるかよ。ったく」

226: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:16:58 ID:LAfruxaA
………………

あすみ 「……ってな電話があってな」

成幸 「なるほど。さすが先輩のお父さん。鋭い指摘ですね」

あすみ 「そ、そうか……?」

成幸 「では、今日一日、遊園地デートのフリをしながら、名前で呼び合う練習もしましょう」

成幸 「お父さんのリクエスト通り、呼び捨てで呼びましょうか? “あすみ” って……」

あすみ 「あ゛?」 ゴゴゴゴゴゴゴ…………

成幸 「じ、冗談ですよ!! えっと……あ…… “あすみさん” ……?」

あすみ 「……おう。悪くないな」 ニヤリ 「じゃ、アタシも呼び捨てはやめて、優しい先輩っぽく、」

あすみ 「“成幸くん”?」

成幸 「っ……///」

あすみ 「……ほーぅ」

ニヤニヤ

あすみ 「一丁前に照れやがって。名前で呼ばれただけで発情か? ●●●くん?」

227: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:18:12 ID:LAfruxaA
成幸 「や、やめてくださいよ! 仕方ないじゃないですか」

成幸 「……先輩みたいな美人さんに名前を呼ばれたら、そりゃ照れますよ。仕方ないでしょ」

あすみ 「っ……」

あすみ 「………………」

成幸 「……? 先輩?」

あすみ 「……お前ってさ、ほんと時々ずるいよな」

成幸 「へ? へ? どういうことですか?」

あすみ 「教えねぇよ。それくらい自分で考えろ、バカ」

あすみ 「……それから、先輩、じゃなくて、“あすみさん”、だろ?」

成幸 「あ、そうでした。すみません。えっと…… “あすみさん”」

あすみ 「おう」

スッ……

あすみ 「……ほら。もうだいぶ気分も良くなっただろ?」

あすみ 「せっかくの息抜きなんだ。ちゃんとエスコートしてくれよ、“成幸くん”」

成幸 「あ……は、はい……!」 ギュッ

228: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:19:19 ID:LAfruxaA
………………ミラーハウス

成幸 「どっちが出口か分からない……。“あすみさーん” ! どこですかー!」

あすみ 「大声で呼ぶな! 恥ずかしいだろ、バカ」

成幸 (そう言いながらも迎えに来てくれるんだよなぁ……)

係員 (ラブラブだなぁ……)


………………お化け屋敷

あすみ 「……へぇ、“成幸くん” は、こういうアトラクションで女の子に頼られるのが好きなのか」

あすみ 「せっかくだし抱きついてやろうか?」

成幸 「ち、違いますよ! そんな不純な動機で選んだわけじゃないですよ!」

ギュッ……

成幸 (とか言いながら、先輩、俺の手をすごい勢いで握りしめてるんだけど……)

成幸 (指摘したら怒りそうだから黙っておこう)

お化け (ラブラブだなぁ……)

229: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:20:13 ID:LAfruxaA
………………広場 キャラクターグリーティング

成幸 「はい、チーズ……っと」

成幸 「うん。良い感じに写真が撮れましたね」

あすみ 「うーん、でも着ぐるみを挟んでるとカップルっぽくないって親父にイチャモンつけられそうだな」

あすみ 「念のためキャラクター抜きで一枚くらい撮っておくか」

ムギュッ

成幸 「!? お、大勢の人がいる前で、くっつくのはちょっと……」

パシャッ

あすみ 「おお、良い具合に真っ赤な顔が撮れたぞ、“成幸くん”」

成幸 「やめてくださいって! 仕方ないじゃないですか!」

着ぐるみ (ラブラブだなぁ……)

230: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:20:59 ID:LAfruxaA
………………メリーゴーランド

成幸 「こ、この歳でこれに乗るのは少し恥ずかしいですね」

あすみ 「じゃあ、こうすりゃいいんじゃないか?」

ムギュッ

成幸 「あ、“あすみさん” !? 何で俺の馬に座るんですか!?」

あすみ 「もう少し下がれよ。それともこれくらい密着してる方が好みか? ●●●くんは」

成幸 「や、やめてくださいってば!」

成幸 (メリーゴーランドの馬にふたりで乗るって、本物のカップルみたいだ……)

あすみ 「………………」

あすみ (予想以上に狭いな。後輩の体温が背中にダイレクトだ)

係員 (ラブラブだなぁ……)

231: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:21:36 ID:LAfruxaA
………………夕方

成幸 「……はーっ、楽しかった。色んなアトラクションを回れましたね」

あすみ 「お前、はりきりすぎだ。結局ほぼ全部のあトラクション回ったじゃねーか」

成幸 「せっかくいただいたチケットですから。目一杯有効活用しないと」

あすみ 「そうかよ。そこまで喜んでくれるなら、親父も嬉しいだろうな」

あすみ 「……ん?」

成幸 「? どうかしました?」

あすみ 「………………」

クスッ

あすみ 「……なぁ、最後にアレに乗ろうぜ。恋人のフリにはうってつけだろ?」

成幸 「アレって……」

成幸 「……観覧車?」

232: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:22:21 ID:LAfruxaA
………………観覧車

成幸 「………………」

あすみ 「………………」 ニヤリ

あすみ (後輩の奴、緊張した顔して黙り込んで……)

あすみ (からかってやるのに最適な場所だと踏んだが、まさにうってつけだな)

あすみ 「“成幸くん”」

成幸 「……? なんです、“あすみさん”」

あすみ (……あれ? コイツ意外と動じてない? っていうか、平然とアタシのこと名前で呼びやがったな)

あすみ (……このヤロウ。もうアタシを名前で呼ぶのに慣れたってことかよ)

あすみ (ん?)

ハッ

あすみ (アタシは、アタシに照れない成幸に、ムカついてるのか……?)

あすみ (……いや、べつに、ただ単に、からかい甲斐がなくてムカついてるだけだ)

あすみ (それ以外の何でもない)

233: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:23:05 ID:LAfruxaA
成幸 「あの、“あすみさん” ?」

あすみ 「ん? ああ、すまん」

あすみ 「そっち、行ってもいいか?」

成幸 「へ……? こっちって、だって……――」

あすみ 「――じゃ、失礼しますよ、と」

ポフッ

成幸 「!?」 (ち、近い! 狭い観覧車だから、隣に座られると、すごく近い!)

成幸 (っていうか、もうほとんど密着してるぞこれ!?)

成幸 (何でわざわざこっちに座り直したんだ!?)

あすみ 「………………」 クスッ (成幸のやつ、動揺してるのが手に取るように分かるな)

あすみ (面白い。これだから、成幸をからかうのはやめられない)

あすみ (……つってもこれ、いくら何でも近すぎたかな)

あすみ (隣に座るとこんなに密着することになるとは、思ってなかったな)

234: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:24:00 ID:LAfruxaA
成幸 「あ、あの……」

あすみ 「んー? なんだよ、成幸?」

成幸 「えっ……?」

あすみ 「? なんだよ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

成幸 「あ、いや……なんでもないです。そ、それより、」

成幸 「どうしてわざわざ俺の隣に座り直したんですか?」

あすみ 「……さて、どうしてだろうな?」

成幸 「わ、わかりませんよ」

あすみ 「じゃあ、教えてやろうかな」

あすみ 「………………」

あすみ (にしし、成幸の奴、目つぶったアタシにドキドキして……――)



成幸 「――……なつかしい、な」



あすみ 「……?」

235: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:24:49 ID:LAfruxaA
あすみ 「成幸……?」

成幸 「あっ、すみません。ちょっと昔のことを思い出して」

成幸 「……まだ和樹と葉月が生まれる前、俺が小学生の頃、遊園地に来たときのこと、思い出しちゃって」

成幸 「あのときも、最後にこんな風に妹の水希とふたりで観覧車に乗ったな、なんて」

クスッ

成幸 「すみません。変なこと言いました」

あすみ 「………………」

成幸 「……先輩?」

あすみ 「………………」 (……なんだよ)

あすみ (アタシは結局、妹扱いかよ)

あすみ (ドキドキしてくれてたんじゃないのかよ)

あすみ (……美人って言ってくれたじゃねぇかよ)

あすみ (なのに、お前が思い出すのは、妹との思い出かよ)

あすみ (……なんで)

あすみ (なんでアタシはこんなに、悔しい、って思ってんだろ)

236: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:26:00 ID:LAfruxaA
成幸 「先パ――あ、…… “あすみさん”、どうかしましたか?」

あすみ 「……何でもない。お前のことをからかって遊ぼうと思ったけど、やる気もなくなった」

成幸 「へ?」

あすみ 「アタシはどうせ、妹扱いしかされないちんちくりんだしな」

あすみ (美人だって……)

あすみ 「そりゃ、アタシなんかにドキドキするわけもないよな」


あすみ (美人だって、言ってくれたくせに……)


成幸 「……? えっと、あの……あすみさんが何を言ってるのかよく分からないですけど、」

成幸 「こんなこと言うの恥ずかしいですけど、普通にドキドキしてますよ、俺」

あすみ 「へ……?」

成幸 「いや、そこで何でキョトンとするのかよく分からないです。さっきも言ったじゃないですか」


成幸 「“あすみさん” みたいな美人さんがこんなに至近距離にいたら、ドキドキしないわけないでしょうが」


成幸 「……っていうか、妹の話をしたのだって、気を紛らわすためなんですからね」

237: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:26:58 ID:LAfruxaA
あすみ 「……そ、そうか」

あすみ (……!? そうか、じゃねーよアタシ!)

あすみ (何をやってるんだ、アタシは。一体何を……)


―――― 『……何でもない。お前のことをからかって遊ぼうと思ったけど、やる気もなくなった』

―――― 『アタシはどうせ、妹扱いしかされないちんちくりんだしな』


あすみ (何を言ってるんだアタシは!?)

あすみ (うわ、なんか思い出したくもないくらい、ただの面倒くさい女じゃねーか)

成幸 「それに、“あすみさん” 、さっきからずっと俺の反応見て遊んでるじゃないですか」

あすみ 「……?」

成幸 「さっきから俺のこと呼び捨てで呼んでるの、俺をからかうためでしょう?」

あすみ 「呼び捨て? アタシが……?」

あすみ 「………………」

238: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:28:05 ID:LAfruxaA
成幸 「……先輩? どうしたんです? 何で急にそっぽ向いたんですか?」

あすみ 「……うるせぇ」

成幸 「体調でも悪いんですか? あ、ひょっとして高いところが苦手とか?」

あすみ 「うるせぇ」

成幸 「……ん? 首元が赤いですよ? 熱でもあるんじゃ……」

あすみ 「だから、うるせぇっての。今こっち見るな」

あすみ (こちとら首どころじゃなく顔全体真っ赤なんだよ!!)

あすみ (アタシ、当たり前のように、呼び捨てにしてたのか、こいつのこと……)

あすみ (それに気づいてなかったのか……)

あすみ (ムカつく。ムカつくのに、なんでか、さっきみたいに嫌じゃない)

あすみ (嬉しい、なんて思ってる……それが一番、ムカつく)


―――― 『言っておくがな、あんなに良い青年はこれから探したってそうそう見つかるものじゃない』


あすみ (ああ、ちくしょう。親父のやつ。そんなのわかってるよ)

あすみ (そんなの、アタシが一番、わかってるんだよ)

239: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:28:40 ID:LAfruxaA
………………帰路

成幸 (先輩、どうしたんだろ。なんか機嫌が悪いというか、なんというか……)

成幸 (ずっと黙り込んでるし、俺、なんかしちゃったかな……)

成幸 「あ、あの、“あすみさん” ……」

あすみ 「なぁ、“成幸くん”」

成幸 「あ、は、はい!」

あすみ 「名前を呼ぶ練習は今日だけで十分だろ」

あすみ 「もう元に戻していいぞ。また、ウチに来てもらうことがあったら、やってもらうかもしれないけどな」

成幸 「……わかりました。先輩」

あすみ 「おう、後輩」

240: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:29:23 ID:LAfruxaA
あすみ 「……今日は付き合わせて悪かったな。お前にも勉強があるのに」

成幸 「そんなの先輩も一緒じゃないですか。それより、滅多に来られない遊園地に来られて、すごく楽しかったですし、」

成幸 「ありがとうございます、 “あすみさん”」

あすみ 「っ……」 プイッ 「お前、戻ってるぞ」

成幸 「へ……? あっ」

カァアアアアア……

成幸 「す、すみません」

あすみ 「べつにいいけど――――」


  「――――仲睦まじそうで何よりだ。嬉しいぞ、あすみ、唯我くん」


あすみ 「!? 親父!? どこから湧いた!? っていうか仕事はどうしたんだよ!」

小美浪父 「診療時間が終わった瞬間に家を出て駆けつけた」

あすみ 「あんた本当にアホなんじゃないか!?」

241: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:30:13 ID:LAfruxaA
成幸 「あ、どうも、お父さん。いつもあすみさんにお世話になってます」

小美浪父 (お義父さん!? ああ、息子よ……)

小美浪父 「いやいや、こちらこそ、いつも娘がお世話になっています」

あすみ 「お父さん呼びに悶えんな! ほんと何しに来たんだよあんたは!」

小美浪父 「娘の遊園地デートを観察しに来たに決まってるだろう! 何を言ってるんだお前は!」

あすみ 「なんで逆ギレしてんだよ!」

成幸 「ま、まぁまぁ。お父さんもあすみさんも、抑えて抑えて……」

242: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:31:01 ID:LAfruxaA
小美浪父 「いや、しかし、デート本番には間に合わなかったようだが、」

小美浪父 「今の君たちが見られれば来た甲斐があったというものだ」

あすみ 「い、今のって、べつに何もないだろ」

小美浪父 「すばらしい。今の状況が何でもないことなのか」

小美浪父 「君たちは私が想像するよりはるかにラブラブだったようだ……」

あすみ 「だから何の話をしてんだよ!」

小美浪父 「気づいていないのか? それくらい自然なことなのか?」



小美浪父 「父親を前にしても、手を繋ぎ続けていることが」



成幸 「え……?」

あすみ 「へ……?」

成幸&あすみ 「「わぁ!?」」

バッ

243: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:31:39 ID:LAfruxaA
成幸 (し、しまった……)

あすみ (デート中、ずっと手をつないでいたから……)

成幸&あすみ ((今も当たり前のように手をつないだままだったー!!))

小美浪父 「照れなくてもいい。若いというのはそういうものだ」

あすみ 「したり顔で変なこと言ってんじゃねー、このバカ親父!」

小美浪父 「こんなことならば声をかけるべきではなかったね。失礼した」

小美浪父 「私はまっすぐ家に帰るよ。邪魔したね」

あすみ (ああ、ちくしょう。言いたい放題言いやがって)

あすみ (まぁいい。早く帰れ)

小美浪父 「あ、そうそう」

ニコッ

小美浪父 「今日は外泊してきてもいいぞ、あすみ」

あすみ 「なっ……」

244: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:32:21 ID:LAfruxaA
小美浪父 「ただし、唯我くんはまだ高校生なのだから、しっかりと親御さんの許可をもらってからにすること。いいね?」

あすみ 「何を言ってんだこのバカ親父!」

成幸 「あ、うちは電話をすれば、すぐOKがでると思います」

あすみ 「お前もマジメに答えなくていいよ!」

小美浪父 「では、私は失礼するよ」

あすみ 「……くそ、あの親父、言いたいだけ言ったら本当にいなくなりやがった」

あすみ 「自分の娘のことをなんだと思ってやがるんだあの親父は」

成幸 「ははは、きっとあすみさんのことが心配なんですよ」

あすみ 「そうは見えないけどな。楽しんでるだけだろ」

あすみ 「……この際、本当に外泊してやって、驚かしてやろうかな。なぁ後輩?」

成幸 「かわいそうだからやめてあげてください。あと俺を巻き込まないでください」

245: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:33:26 ID:LAfruxaA
成幸 「……さ、行きましょうか」

あすみ 「ん? 何だよ、この小妖精メイドあしゅみぃの同伴デートが足りないのか?」

あすみ 「それとも、まさかあの親父の言葉を真に受けたんじゃないだろうな?」

あすみ 「一緒にお泊まりしてやってもいいが、高いぞ?」

成幸 「何を言ってるんですか。勉強ですよ。ファミレスかどっかでしていきましょうよ」

あすみ 「ああ……」 クスッ 「……ま、お前はそうだよな」

成幸 「へ? 何です?」

あすみ 「何でもない。ほら、行くんだろ、ファミレス。仕方ないから、勉強くらい付き合ってやるよ」

成幸 「はい、ありがとうございます!」

あすみ (……ま、べつに、いいか)

あすみ 「勉強してる方が、アタシたち、って感じだしな」

成幸 「へ……?」

あすみ 「今日も頼りにしてるぜ、“成幸くん”」

成幸 「はい、“あすみさん”!」

おわり

246: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 02:34:20 ID:LAfruxaA
………………幕間 胃痛のタネ

文乃 (……偶然街に買い物に出たら、成幸くんと小美浪先輩が手を繋いで歩いているのを見かけてしまった)

文乃 (明日本人に確認するべきか、それともそんな野暮なことをするべきではないか……)

文乃 (恋人のフリのわりには、仲睦まじそうに見えるし……)

キリキリキリキリ……

文乃 「……胃が痛い」

文乃 (成幸くん、覚えてろ。だよ)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

文乃 (今度学校で会ったら、絶対、ぶつ)


おわり

248: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 20:46:41 ID:LAfruxaA
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】理珠 「うどんフェスティバルですか!?」

249: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:05:39 ID:LAfruxaA
………………一ノ瀬学園

成幸 「ああ。昨日偶然、駅前でチラシを見つけてさ。今週末らしいぜ」

成幸 「会場の公園、電車で三十分もかからないだろ?」

成幸 「緒方はうどんが大好きだから、教えてやったら喜ぶかなー、なんて……」

理珠 「日本中のうどんが集まる、夢の祭典……すごいです……!」

成幸 「当たり前のように大喜びみたいだな。よかった」

成幸 「そのチラシやるから、行ってこいよ。古橋かうるかでも誘ってさ」

理珠 「あ、でも……文乃は今ダイエット中で、誘うのはためらわれますし……」

理珠 「うるかさんは国体前の練習で週末も空いてないかと……」

成幸 「ん、そうなのか……」

成幸 「じゃあ、週末一緒に行くか?」

理珠 「へ?」

成幸 「息抜きにうどんを楽しんだ後、どこかで勉強して帰ろうぜ」

理珠 「は……は、はい……/// ぜひ、そうしましょう……//」

250: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:06:46 ID:LAfruxaA
関城 「緒方理珠ー! すごいものを見つけたわよー!」

バーン!!!!

成幸 「……お前はもう少し静かに登場できないのか、関城」

関城 「あら、唯我成幸もいたのね。ごきげんよう」

関城 「それより、緒方理珠、大変よ! 今週末とんでもないイベントが開催されるの!」

関城 「その名もうどんフェスティバルよ! うどんフェスティバル!」

関城 「あなたうどん大好きでしょ? ぜひ一緒に……って」

ハッ

関城 (緒方理珠がもうチラシを持っている!? ってことは、唯我成幸が……!?)

成幸 (なんだと!? 関城も同じチラシを持ってきたのか!? ってことは……)

関城 (私!)  成幸 (俺!)

関城&成幸 ((とんでもないお邪魔虫をしてしまったのではー!?))

251: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:07:50 ID:LAfruxaA
理珠 「あ、関城さん、ちょうどよかったです。今、成幸さんとそのイベントの話をしていて、」

理珠 「週末、成幸さんと一緒に行く予定だったので、関城さんも一緒にどうですか?」

関城 「ごふっ……こ、光栄な申し出だわ。嬉しすぎて吐血しそう……」

関城 「で、でも、あなたは唯我成幸とふたりで行きたいのではないかしら?」

理珠 「? なぜですか?」

成幸 「そ、そうだよな。どっちかといえば、友達の関城と2人で行きたいよな?」

理珠 「? そっちもなぜですか? 私にとってはお二人とも大切な友人ですが」

成幸 (言葉がドストレートだから!)  関城 (その言葉はとてつもなく嬉しいけれど!)

成幸&関城 ((そういうことじゃないーーーーー!!!))

理珠 「……むっ」 プイッ 「なんだか知りませんが、お二人だけで通じ合っている気がします」

理珠 「……もしかして、私は邪魔ですか? 本当は、お二人だけで行きたい、とか」

成幸&関城 「「そんなわけねーだろ!!」 ないわよ!!」

理珠 「そ、そうですか……。なら、いいじゃないですか。三人で行きましょう」

理珠 「楽しみですね、うどんフェスティバル。成幸さん、関城さん」

252: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:08:40 ID:LAfruxaA
………………少し後

成幸 「……なんというか、本当にすまん」

関城 「なんであなたが謝るのよ。こちらこそごめんなさいだわ」

関城 「あなたが緒方理珠を誘っていると知っていたら、あんな愚を犯さなかったというのに……」

成幸 「いや、それは俺の方だ。お前も、友達とふたりきりの方がよかっただろ?」

関城 「私はべつに……」

関城 「……というか、当日はふたりきりにしてあげるから、しっかり緒方理珠をエスコートしてあげるのよ?」

成幸 「なんでそんな話になるんだよ。っていうか、前のペンケースの時も思ったけどさ、」

成幸 「なんでお前はいちいち俺と緒方をふたりきりにさせたがるんだ?」

関城 (この男……。鈍いにもほどがあるでしょうに)

関城 (感情の機微にそう敏感でもない私が気づいてることに、どうして気づかないのかしら)

関城 (緒方理珠は、まだ自覚もしていないけれど、あんなに分かりやすいサインを出しているというのに……)

関城 (いっそ、この鈍い男に緒方理珠の気持ちを言ってやれたら、どんなにすっきりするだろうか……)

関城 (……でも、違う。わかってる。それは私がやることじゃない)

関城 (緒方理珠が自分でやることだから)

253: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:09:44 ID:LAfruxaA
成幸 「関城?」

関城 「……言わないわ。言えないもの」

成幸 「そうかよ。全然、意味わかんねーけどな」

成幸 「……俺の方こそ、当日は仮病を使うから、緒方とふたりで行ってこいよ」

成幸 「俺は、偶然、流れで一緒に行くことになっただけだから」

成幸 「お前は、緒方を誘うためにわざわざチラシを持ってきたんだろ?」

成幸 「だったら……――」

関城 「――ダメよ。あなたも一緒に来なさい」

関城 「それだけは絶対譲れないわ」

成幸 「……わかった。じゃあ、お前も絶対来いよ。三人で行くんだからな」

関城 「ええ」

成幸 (こうなった以上、仕方ない! 三人で和気藹々とうどんを食べながら、)

関城 (隙を見て、ひとりで抜け出す! そうすれば、ふたりきりにしてあげられる!)

254: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:10:23 ID:LAfruxaA
………………物陰

理珠 「……ふたりで楽しそうに、私をのけ者にして」

理珠 「……ずるい、です。きっとふたりでどのうどんを食べるか相談しているんです」

理珠 「私だって、一緒にうどんフェスティバルの話をしたいのに……」

理珠 (そういえば、いつだか、うちで成幸さんと勉強しているとき、)

理珠 (関城さんがすごい勢いで成幸さんに興味を示していることがありましたね)


―――― 『君って どんな女の子がタイプなのかしら……?』

―――― 『や やっぱり恋人とは同じ大学行きたいわよね!?』

―――― 『は 初デートはどこがいいかしら!?』

―――― 『子供は何人欲しい!?』


理珠 (ま、まさか……)

理珠 (私が知らなかっただけで、ふたりは実は、もうお付き合いをしていて……!?)

理珠 (関城さんは、成幸さんがうどんフェスティバルに私を誘ったことを怒っているのでは!?)

理珠 (と、とと、とんでもないことをしてしまいました……)

255: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:11:14 ID:LAfruxaA
理珠 (ひょっとして、私はとんでもないお邪魔虫になってしまったのでは!?)

理珠 (というよりは、まるで関城さんと成幸さんの間に入り込む泥棒猫……)

理珠 (浮気相手!? 不倫相手!? 愛人!?!?)

理珠 (ま、まずいです……ど、どうしたら……)

ズキッ

理珠 「ッ……」

理珠 「………………」

理珠 (……なぜ)

理珠 (なぜ、こんなにも胸が締め付けられるのでしょう)

理珠 (なぜ、涙が出そうになっているのでしょう……)

グスッ

理珠 (……なぜ、こんなにも、嫌な気持ちになっているのでしょう)

256: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:12:13 ID:LAfruxaA
………………当日 会場の公園

成幸 「………………」

関城 「………………」

成幸 「……何で俺とお前がしっかり時間通りに来て、緒方が来ないんだ?」

関城 「知らないわよ。さっきからメッセージ送ってるけど、返信はないし」

関城 「そっちにも返信はないの?」

成幸 「ないな。ここ数日、なんか浮かない顔してたから心配だったんだが……」

関城 「……一体どうしたのかしら」

ヴヴッ……

関城 「! 緒方理珠から返信だわ!」

関城 「なになに……? “お店の都合で行けなくなりました。すみません”」

関城 「“おふたりだけで楽しんできてください”、って……」

関城 「………………」

成幸 「……えっと、つまり、緒方は来られない?」

関城 「そうみたいね」

257: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:13:01 ID:LAfruxaA
成幸 「………………」

関城 「………………」

成幸 「……ん、えっと、どうする?」

関城 「どうするもこうするも、緒方理珠がいないんじゃ、ねぇ?」

成幸 「だよなぁ……」

関城 「………………」

成幸 「………………」

成幸 「……でもまぁ、ボーッとしてても仕方ないし、ちょっと回ってみるか?」

成幸 「せっかく屋台もたくさんあるし、美味しそうだし」

関城 「………………」

関城 「そ、そうね……」

258: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:14:13 ID:LAfruxaA
………………物陰

理珠 「………………」

理珠 「ん、動き出しましたよ、文乃」

文乃 「……うん。わたしも見てるからわかるよ、りっちゃん」

文乃 「それはそれとして、どうしてわたしたちはこんな出歯亀みたいなことをしているのかな?」

文乃 「わけわかんないことしてないで、りっちゃんもふたりと合流したらいいじゃない」

理珠 「そんなことできません! さっきも言ったでしょう、文乃!」

理珠 「あのふたりはお付き合いをしているんです! 邪魔はできません!」

文乃 「あー……うん」 (これまたとんでもない勘違いをしちゃったもんだなぁ)

文乃 (どうしたものかなぁ……)

キリキリキリ……

文乃 (胃が痛いなぁ。とりあえず、今度成幸くん、一発ぶつ)

259: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:14:47 ID:LAfruxaA
理珠 「私は、ふたりの邪魔をしてしまったんです」

理珠 「ふたりは本当なら、ふたりきりでこのイベントに来たかったはずです」

文乃 (絶対違うと思う)

理珠 「ふたりは私を気遣って、私にも声をかけてくれましたが……」

理珠 「本当はふたりきりがいいはずなんです」

文乃 (ぜっっっっったい違うと思う)

理珠 「だから、私はこうして、せめてもの罪滅ぼしとして、ふたりが楽しくイベントを回れるように、」

理珠 「見守ってあげなければならないのです」

文乃 「……うん。話は分かったけど、どうしてわたしが呼ばれたのかな?」

理珠 「ひとりだと心細かったので」

文乃 「……あ、うん。まぁいいけどね」

文乃 (成幸くん、今度きれいに手刀をキメてやるから覚えてろ、だよ)

260: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:15:42 ID:LAfruxaA
………………

関城 「あっ……、あのうどん、緒方理珠が好きそうよね」

成幸 「ん? ああ、正統派のうどんって感じだな。たしかに好きそうだ」

関城 「せっかく来たわけだし、食べてみようかしら」

関城 「写真を撮って送ってあげたら、緒方理珠の奴喜ぶかしら」

成幸 「ああ、そりゃいいな。俺もどれか買って写真送ってやろうかな」

関城 「……よく考えたら、緒方理珠の心境を考えれば、私たちは目一杯楽しまないといけないわね」

成幸 「へ……?」

関城 「だってそうでしょ? 自分が行けなかったから私たちが楽しめなかった、なんてことになったら、」

関城 「緒方理珠はきっと申し訳ない気持ちでいっぱいになるわ」

成幸 「!? それもそうだな。じゃあ、俺たちは今日、目一杯楽しんだ風を装わなければならないのか」

成幸 「そうと決まれば善は急げだ。俺は別のうどんを買ってくるから、またここ集合な」

関城 「わかったわ、唯我成幸。これ以上ないってくらいうどんフェスティバルを楽しんでる写真を撮らなくてはね!」

261: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:17:05 ID:LAfruxaA
………………物陰

文乃 「何事か囁きあって別れたね。また集合するみたいだけど……」

理珠 「?」

文乃 「ああ、別々の屋台に並んだよ。それぞれ食べたいうどんを買ってるみたいだね」

理珠 「……それをシェアしたりするのでしょうか」

文乃 「えっ、いや、たぶんあのふたりのことだから、それはないと思うけど……」

理珠 「きっとするんでしょうね」

ズーン

理珠 「何と言ったって、あのふたりは恋人同士なのですから……」

文乃 (自分で言ったことで勝手にへこまないでほしいかな!?)

文乃 (まぁ、でもこれではっきりするかな)

文乃 「あのふたりが恋人同士なんてありえないって。見てれば分かるよ」

理珠 「そうでしょうか……」

262: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:18:12 ID:LAfruxaA
………………

成幸 「………………」

関城 「………………」

成幸 「……うどんを目一杯楽しそうに撮るって、どうしたらいいんだ?」

関城 「あなたたち以外まともに友達のいない私に分かるわけがないでしょう」

成幸 「悲しいことを自慢げに言うなよ……」

成幸 「とりあえず普通にうどんだけ撮って送るか。……いや、」

成幸 「関城、うどんの器を持て」

関城 「へ? いいけど……」 スッ

成幸 「で、笑え。良い感じに」

関城 「い、良い感じって……」

パシャッ

成幸 「……ん、まぁいいだろ。これを緒方に送る」

成幸 「ついでに、お前も俺を撮れ。ほら」 スッ

263: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:19:06 ID:LAfruxaA
………………物陰

ピロリン

理珠 「……関城さんと成幸さんからメッセージが届きました」

理珠 「写真付きです」

理珠 「今まさにふたりが仲睦まじく撮り合ってたお互いの写真です」

文乃 (……成幸くんほんと今度覚えてろよ、だよ)

理珠 「すごく楽しそうに見えます……。これも見間違いですか、文乃?」

文乃 「いや、それは……」

ピロリン

理珠 「……今度は、食べてる最中の写真です」

理珠 「美味しそうにうどんをすする関城さんと、鶏天にかぶりついてる成幸さんの写真が送られてきました」

理珠 「これは私に送るための写真というよりは、おふたりの思い出を保存するためのものなのではないですか?」

ズーーーーン

理珠 「やっぱり、本当に楽しそうです……」

文乃 (ほんと覚えてろよ成幸くん……) ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

264: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:20:04 ID:LAfruxaA
………………

関城 「……ねぇ、唯我成幸」 ズルズルズル……

成幸 「うん?」 ズルズルズル……

関城 「なんかこうしてご飯食べながら写真を撮るって、本当に友達みたいね」

成幸 「なんだいきなり。そりゃ友達なんだから当たり前だろ」

関城 「……え、ええ。そうね」

関城 (……私って、やっぱり面倒くさい人間だわ)

関城 (こうして確認しないと、相手が本当に友達って思ってくれてるか分からないんだから)

成幸 「……緒方の奴、これで俺たちふたりだけでも楽しかったって伝わるかな」

成幸 「でも、あいつのことだから、写真のうどんを店の参考にしたいとか言い出しそうだな」

成幸 「ちゃんと味の記録とかもつけておいてやらないとな」

関城 「ふふ、そうね。あと二、三杯は食べなくちゃいけないわね」

成幸 「そうだな。ゆっくり美味しそうなの食べて回ろうかね」

265: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:21:01 ID:LAfruxaA
関城 「………………」 ジーーーッ

成幸 「……? どうかしたか、関城。じっとこっちを見て」

関城 「……うん。唯我成幸、その鶏天美味しそうね。少しちょうだい?」

成幸 「いいけど……。口つけちゃってるぞ?」

関城 「そんなの気にしないわよ。だって私たち友達なんでしょう?」

成幸 (こいつ、友達って言葉を神格化しすぎてないか……?)

成幸 「ほら、取って食べて良いぞ」

関城 「ん、ありがとう。……はむっ……あら、結構美味しいわね」

成幸 「だろ? お前のうどんのスープ、少しもらってもいいか」

関城 「どうぞ。好きなだけ飲んだらいいわ」

成幸 「じゃあお言葉に甘えて、と……」

成幸 「ん、うまいな。でも緒方んちのうどんの方が好みかな」

関城 「奇遇ね。私も同じ事を思っていたわ」

266: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:21:59 ID:LAfruxaA
………………

成幸 「ふぅー、美味しかった。でもまだまだ食べられるな」

関城 「量自体はそう多くないし、リーズナブルだものね」

成幸 「次はどんなうどんにするかなぁ。こうやってシェアすれば倍の味が楽しめるな」

関城 「じゃあ、私は今度はあの青森ミルクカレーうどんって奴にしようかしら」

成幸 「ん、じゃあ俺は、山梨ほうとう風うどんにしようかな」

関城 「………………」 (なにかしら。本来の趣旨から外れまくっている気がするけれど)

成幸 (うーん、本当なら緒方を楽しませるために来るつもりだったのに、)

関城&成幸 ((普通に楽しい……))

関城 「あ、せっかくだし空っぽの器も撮っておこうかしら」

成幸 「いいな、それ。じゃあせっかくだし一緒に撮るか」

パシャッ

267: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:23:47 ID:LAfruxaA
………………物陰

理珠 「………………」 ズーン

理珠 「……完食後のきれいに空になった器を持ったツーショットが送られてきました」

文乃 「ち、違うよ? きっとふたりは来られなくなっちゃったりっちゃんのためを思って写真を送ってくれてるんだよ」

理珠 「そうでしょうか。でも、このメッセージを見る限りそうは思えません」


―――― 『緒方理珠! うどんフェスティバル、とっても楽しいわ!』

―――― 『あなたがいなくても私たちふたりはとっても楽しめてるから、心配しないでね!』

―――― 『PS.食べ物をシェアするのって楽しいのね! 色んな味が楽しめてオススメよ!』


文乃 「………………」 (ああ、どうしよう……)

シュッシュッ……

文乃 (今度会ったら紗和子ちゃんにもこの必殺の手刀をお見舞いしてしまうかもしれない……)

文乃 (あっ、紗和子ちゃんと成幸くんが別れた。またうどんを買いに行くのかな……?)

文乃 (このままじゃりっちゃんがダークサイドに落ちてしまう。わたしがなんとかしないと……)

文乃 「……りっちゃん、ちょっと待っててくれる? ちょっとお手洗いに行ってくるから」

268: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:25:40 ID:LAfruxaA
………………

成幸 「………………」 (……どうしよう、楽しい)

成幸 (受験生ってのもあって、最近まともに遊んでないせいかな……)

成幸 (友達との食べ歩きって、やっぱり楽しいよな。関城って、過激なところもあるけど基本的には常識人だし)

成幸 (たぶん一緒にいて楽ってのもあるんだろうな……)


  「……さて、お話聞かせてもらってもいいかな、成幸くん?」


成幸 「へ……? って、古橋!? なんでここに!?」

文乃 「なんでだろうね? それは正直わたしが一番聞きたいんだけど……」

文乃 「……とりあえず、お話を聞かせてもえるかな?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

成幸 「ひ、ひょっとして、怒ってる?」

文乃 「ううん、怒ってないよ。これっぽっちも怒ってないよ……」

文乃 「紗和子ちゃんとツーショット写真を撮ったこととか、全然怒ってないよ?」

成幸 「うそつけ! 絶対怒ってるだろ!?」

269: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:26:23 ID:LAfruxaA
………………

文乃 「……なるほど。よくわかったよ」

文乃 「つまり、成幸くんと関城さんが楽しそうな写真をりっちゃんに送ったのは、」

文乃 「りっちゃんに対する嫌がらせではなく、りっちゃんのためを思ってのことなんだね」

成幸 「と、当然だろ! 緒方のことだから、お店の都合で来られなくなったことに罪悪感を抱いているだろう?」

成幸 「その罪悪感を少しでも減らしてやろうと、緒方がいなくても楽しくやってるよって写真を送ってたんだよ」

文乃 「うん。わたしもそんなところだろうと思ってはいたけどね」

文乃 「……実はいま、この会場に、りっちゃんが来ています」

成幸 「へ!? 緒方が!? だってあいつ、お店の都合で来られないって……」

文乃 「嘘も方便、のつもりだったんだろうね、りっちゃんとしては」

文乃 「なんでそんな嘘をついたかっていうと、君と紗和子ちゃんに遠慮したからだよ」

成幸 「遠慮?」

文乃 「うん。早い話が、りっちゃんは君と紗和子ちゃんが付き合ってるって勘違いをしているんだよ」

270: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:27:55 ID:LAfruxaA
成幸 「は、はぁ!? 俺と関城が付き合ってる!?」

文乃 「勘違いの経緯はともかく、そんな勘違いをしているりっちゃんが、」

文乃 「君たちから送られてくる、とても楽しそうな、ある種ラブラブな写真をどう受け止めたと思う?」

成幸 「か、勘違いに拍車がかかりそうだな……」

文乃 「うん。と、いうことで、お店の用があるっていうりっちゃんのうそは、君たちを思ってのことだから、許してあげてほしいな」

文乃 「その上で、どうにかりっちゃんを君たちと一緒にしてあげられないかな」

文乃 「……りっちゃんはすごく頑なになってて、成幸くんたちの前に姿を現す気はないみたいなんだよ」

成幸 「……うーん、そうだなぁ」

成幸 「………………」

成幸 「……よし。一芝居打とう。関城には俺から説明するから、古橋、お前も協力してくれ」

文乃 「一芝居?」

成幸 「ああ。まずは緒方の勘違いを正すところから始めないとな……」

271: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:28:38 ID:LAfruxaA
………………物陰

文乃 「おまたせ、りっちゃん」

理珠 「ああ、文乃。戻ってきてくれたんですね」

理珠 「長いこといなくなってしまったから、私に愛想を尽かして帰ってしまったのかと思いました……」

文乃 「そんなことしないよ。ちょっとトイレが混んでてね、なかなか入れなかったんだ」

文乃 「で、ふたりの様子はどう?」

理珠 「うどんを買ってきて、ふたりで食べています。やっぱり楽しそうです」

文乃 「……本当かなぁ」

理珠 「えっ……?」

文乃 「本当にふたりが仲良しで、ラブラブで、楽しそうかどうか、」

文乃 「もっと近くで見てみない? りっちゃん」

272: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:30:17 ID:LAfruxaA
………………

関城 「………………」

成幸 「………………」

ピロリン

成幸 「……!」 ボソッ (……古橋から合図のメッセージが来た。始めるぞ、関城)

関城 (わ、わかったわ)

成幸 「……っあー、やっぱり、お前とふたりだけじゃ、つまらないなー」

関城 「そうねー。やっぱり、緒方理珠がいないと、つまらないわねー」

成幸 (うぅ……こんな説明的な台詞を、大声で言わなきゃいけないのか……)

成幸 (自分で思いついたこととはいえ、恥ずかしすぎる……)

成幸 「緒方がここにいてくれたらなー、きっとうどんももっと美味しくなるだろうになー」

関城 「本当だわー。あーあ、緒方理珠と一緒にうどんを食べたかったわー」

273: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:31:02 ID:LAfruxaA
………………物陰

文乃 「……だってさ。聞こえたよね、りっちゃん」

理珠 「わ、私がいないと、つまらない……?」

理珠 「あれは本当ですかね、文乃?」

文乃 「まぎれもない本心だと思うよ?」

理珠 「で、でも、やっぱり、ふたりは私がいなくても楽しそうでしたし……」

理珠 「ツーショット写真を撮るくらいラブラブなふたりが、私を必要とするとはとても……」

文乃 「………………」

プツン

文乃 「……うん。あのね、ちょっと本音で喋らせてもらうよりっちゃん」

理珠 「へ? 文乃?」

文乃 「わたしも、早く、いろんな、うどんを、楽しみ、たいんだよ、りっちゃん」

文乃 「だ・か・ら」

文乃 「さっさとふたりのところ行って謝って仲間に入れてもらってこーい!!」

ドン!!!

274: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:31:50 ID:LAfruxaA
理珠 「わっ……わわわっ……」

関城 「緒方理珠!」

成幸 「緒方!」

理珠 (な、何をするのですか文乃ー! 文乃が押したせいで、ふたりの目の前に飛び出してしまいました!)

理珠 (わ、私は、どんな顔をしてこのふたりと顔を合わせれば……)

成幸 「良かった! お店の都合が済んだんだな!」

理珠 「へ……?」

関城 「それでここに来られたのね! 良かったわ!」

理珠 「い、いえ、その……」

成幸 「ほら、緒方。ここ座れよ」

関城 「ここのおうどん、結構美味しいわよ。食べてみて」

理珠 「あ……えっと、あの……」 カァアア…… 「あ、ありがとう、ございます……」

275: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:33:11 ID:LAfruxaA
………………物陰

文乃 「……ふぅ。まぁ、変に関係がこじれる前に修復できて良かったよ」

文乃 (……ふふ、でも、こういう言い方したら、三人とも怒るかもしれないけど、)

関城 「ち、ちょっと落ち着いて食べなさい、緒方理珠。うどんは逃げないわよ」

理珠 「はむはむはむ……むぐむぐ……」

成幸 「ダメだ、聞きゃしねぇぞ。俺、水もらってくるから、関城は緒方を見ててやってくれ」

関城 「任されたわ!」

文乃 (……成幸くんがお父さんで、紗和子ちゃんがお母さん。りっちゃんが小さな娘さんみたい)

文乃 「……さて、わたしもいくつかうどん食べて帰ろうかな」

文乃 「あの三人にとっては、わたしは本当にお邪魔虫だろうし……――」

成幸 「――……あ、いたいた! おい、古橋。なんでそんなところで隠れてるんだよ」

文乃 「へ……?」

成幸 「お前も一緒に会場回るだろ? いま関城が緒方のこと見ててくれてるから、一緒にいてやってくれ」

成幸 「お腹が空いてたんだろうな。緒方がすごい勢いでうどんを食べてて手がつけられないんだ」

276: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:34:01 ID:LAfruxaA
文乃 「………………」

文乃 「……わたしも、ご一緒してもいいの?」

成幸 「はぁ? 当たり前だろ? っていうか、今日はお前に迷惑かけたみたいだな。すまん」

成幸 「いつもありがとな、古橋師匠」

文乃 「……まぁ、わたしにかかればこれくらいのすれ違い、すぐ解消可能ってもんだよ」

文乃 (……えへへ、そっか)

文乃 (成幸くん、わたしも、誘ってくれるんだ……)

文乃 「……じゃあ、お言葉に甘えて、ご一緒しちゃおうかな」

文乃 「さっきから、メガ盛りMAXスタミナうどんっていうのが気になってるんだよね」

成幸 「……? お前、ダイエット中じゃないのか?」

文乃 「………………」

文乃 「……何か言ったかな? かな? 成幸くん?」 シュッシュッ

成幸 「何も言ってない! 何も言ってないから手刀の素振りをやめろ!」

277: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:35:14 ID:LAfruxaA
………………

理珠 「………………」

ズルズルズル……モグモグモグ……ゴックン……

理珠 「……あの、関城さん」

関城 「ん? 何かしら?」

理珠 「じ、実は今日、お店の都合っていうのは、本当は……――」

関城 「――……なんか、気を遣わせちゃったみたいね」

理珠 「……?」

関城 「でも、それ空回りよ。だからこれからは、あんまり自分ひとりで思い詰めない方がいいと、私は思うわよ」

理珠 「……はい。その通りだと思います。今日もいっぱい、迷惑をかけてしまいました」

関城 「でも、私も同じだもの。同じように空回りして、あなたや唯我成幸たちに迷惑をかけてばかりね」

ニコッ

関城 「私たち、似たもの同士ね」

理珠 「……はい。本当に、そう思います」

278: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:37:12 ID:LAfruxaA
理珠 「あ、あの、ひとつだけ確認させてください」

関城 「何?」

理珠 「関城さんは、成幸さんのことを、その……好き、だったりは……」

関城 「しないわ。少なくとも異性として意識したことなんて一度もないわ」

理珠 「そ、そうですか……」 ホッ 「よかったです」

関城 「へぇえ……」 ニヤリ 「“よかった” ってどういう意味かしら、緒方理珠?」

理珠 「へぇ!? い、いや、それは……その、べつに、大した意味じゃ……」

関城 「……ま、今はいいわ」

関城 「でも、どうして “よかった” って思ったのかは、しっかりと考えておきなさい」

関城 「いつかきっと、それがあなたにとって、とても大切なものになると思うから」

理珠 「……私にとって、とても大切なもの……」

関城 「いつか、わかるといいわね」

関城 (……そのときに、願わくは。この大親友が、笑っていられますように)

関城 (緒方理珠が、唯我成幸の隣で、幸せそうに、笑っていられますように)

おわり

279: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/02(火) 21:37:59 ID:LAfruxaA
………………幕間 翌日  なぜ?

文乃 「………………」

ズーン

文乃 「な、なんで体重増えてるの……!?」

文乃 「だって昨日は、スタミナうどんに豚キムチうどん、」

文乃 「かつとじうどんにスペシャルとろろうどん、天ぷらうどん天ぷら全乗せ、」

文乃 「他諸々……しか食べてないのに!」

文乃 「……なぜ???」


おわり

282: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:40:24 ID:BlhIJ9pQ
>>1です。
投下します。



【ぼく勉】うるか 「あたし、がんばるからね。成幸」

283: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:41:27 ID:BlhIJ9pQ
………………夏休み後半 武元家

うるか 「………………」

ガリガリガリガリ……

うるか 「……ふー。つかれたー」

うるか (長文読解は本当に苦手だなぁ。見てるだけで頭がガンガンしてくるし)

うるか (でも、今日だけでかなり進んだし、理解も深まった気がする)

うるか 「……えへへ、成幸、褒めてくれるかなぁ」

ポワンポワンポワン…………


『うるか、よくやったな』

『偉いぞ。これはご褒美だよ』

『……ふふ、可愛い奴め』

『なんだ? もっと欲しいのか?』

『じゃあ、この続きは家に帰ってからだな』

『覚悟しておけよ、うるか』

284: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:42:12 ID:BlhIJ9pQ
…………ポワンポワンポワン

うるか 「……なんてね! なんてね! なんてね!!」

うるか 「………………」

うるか 「……もう少しがんばったら、もっと褒めてくれるかな」

うるか (すごく眠い、けど……)

うるか (夏の大会も終わったし、国体までまだ時間もあるし……)

うるか (いまのうちに、できるだけがんばらないとだよね)

うるか 「よし、もう一題だけ、がんばろう!」

ピロリン♪

285: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:42:43 ID:BlhIJ9pQ
うるか 「ん? メール? ……!?」

うるか (成幸から!?)


『夜中に悪い』

『お願いしたいことがあるんだ』

『今度の週末、ちょっと付き合ってくれないか?』


うるか 「へ……?」

うるか 「………………」

うるか 「……えええぇええええええ!!??」

286: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:43:41 ID:BlhIJ9pQ
………………週末 駅前


―――― 『突然わるい。チビどもがプールに行きたいって言い出してさ』

―――― 『折良く母さんが職場で市営プールの優待券をもらってきて』

―――― 『母さんは仕事があるし、水希は部活があるし、俺しか一緒に行ってやれないんだけど』

―――― 『俺、泳げないだろ? もしものとき、チビたちを助けられないからさ』

―――― 『もしうるかが大丈夫なら、一日俺とチビたちに付き合ってくれないか?』

―――― 『泳ぎのスペシャリストのうるかがいれば、俺としては安心できるんだけど……』


うるか 「………………」

うるか (……好きな男子にそんな風にお願いされたら、断れるわけないじゃんねえ)

うるか (っていうか、まぁ、弟妹くんたちはいるにしても、渡りに舟っていうか……)

うるか (カタチはどうであれ、成幸とプールデートってことに変わりはないわけで……)

287: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:44:28 ID:BlhIJ9pQ
うるか (海っちと川っちにお願いして、水着選び手伝ってもらったし……)

うるか (な、成幸、この水着見てどう思うかな)

うるか (かわいいとか、きれいとか、え……ええ、●●●とか、思ってくれるかな……)

うるか (なんてねなんてねなんてね!! 何考えてるんだろ、あたし……)


  「あ! おねーちゃんだー!」  「おねーちゃんだー!」


タタタタタ……

ポフッポフッ

うるか 「んあ? おお、弟妹クンズじゃないかー」 ギュッ

和樹 「今日はよろしくな、おねーちゃん!」

葉月 「よろしくね!」

うるか 「うん、よろしくね!」

うるか (ち、小さい成幸を見てるみたいで、カワイイよぅ……)

288: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:45:05 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「い、いきなり走り出すなよ、お前ら……」

うるか 「あ、成幸。どしたん? フラフラだけど」

成幸 「和樹と葉月が急に走り出すから、追いかけたらな……」

うるか 「運動不足すぎだよー。まったくもー」

成幸 「面目ない……」

うるか (……はぅ~~~~~~~。フラフラな成幸もかわいいよぅ……)

成幸 「待たせて悪かったな。来てくれてありがとう。助かるよ、うるか」

うるか 「う、うん。気にしなくて良いよ。あたしも(成幸と)市営プール行きたかったし」

和樹 「ねーねー、早く早くー」  葉月 「プールいこー! 兄ちゃん、おねーちゃん!」

グイグイ

成幸 「わ、わかったから、引っ張るなよ」

成幸 「悪いな、うるか。今日一日こんな感じになるけど……」

うるか 「全然オッケー! 楽しそうだし問題ないよ!」

うるか 「さ、おチビちゃんたち、プールにレッツゴー!」

和樹&葉月 「「ゴー!」」

289: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:45:57 ID:BlhIJ9pQ
………………電車内

和樹 「プール、プール♪」 葉月 「プール、プール♪」

うるか 「ふたりとも楽しそうだねぇ。プールが本当に嬉しいんだ」

和樹 「うん! 市営プールってなかなか行けないからね!」

葉月 「スライダー乗れるかなぁ……楽しみ……」

成幸 「……この前話しただろ? うち、親父がいないからさ」 コソッ

成幸 「和樹も葉月も、プールってあんまり行ったことがないんだよ」

うるか 「ああ、そっか……」

グッ

うるか 「じゃあ、今日は目一杯楽しませてあげなくちゃね!」

成幸 「……ああ。ありがとな、うるか」

うるか 「うん!」

290: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:46:48 ID:BlhIJ9pQ
………………市営プール 入り口

成幸 「じゃあ、葉月の着替え、頼むな」

成幸 「たぶん俺たちの方が先に着替え終わってると思うから、入り口付近で待ってるから」

うるか 「うん、わかった! じゃあ行こうか、葉月ちゃん」

葉月 「うん!」


………………更衣室

うるか 「お着替えひとりでできる?」

葉月 「うん、大丈夫よ! うんしょ、うんしょ……」

ヌギヌギ……

うるか (大丈夫そうかな。じゃあ、あたしも早く着替えて、と……)

うるか 「………………」

ドキドキドキドキ……

うるか (普段、競泳水着しか着てないから、こういう水着を自分が着るんだって思うと……)

うるか (やっぱりちょっと緊張するな……)

291: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:48:22 ID:BlhIJ9pQ
葉月 「おねーちゃん?」

うるか 「へ……? あ、ごめんごめん、お姉ちゃんもすぐ着替えるね」

うるか (でも、海っちと川っちに付き合ってもらったし……)

うるか (成幸に見せるため、成幸にみせるため、成幸に見てもらうため……)

スルスルスル…………

うるか 「ん……。ん?」

うるか (……しまった。普段、競泳水着しか着ないから、想定してなかったけど、)

うるか (背中のヒモを結ぶタイプの水着、む、結ぶの、ちょっと難しい……)

うるか (試着の時は川っちに結んでもらったから気づかなかったけど……)

うるか (まずい)

葉月 「? おねーちゃん、ひも、うまく結べないの?」

葉月 「結んであげようか?」

うるか 「本当に? じゃあお願いしようかな……」

292: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:48:58 ID:BlhIJ9pQ
キュッキュッ……ムギュッ

葉月 「結べたわよ~」

うるか 「ありがとう、葉月ちゃん」

葉月 「………………」

フムフムフム……

うるか 「葉月ちゃん?」

葉月 「●●●●もおしりも大きくて、日焼けも健康的ね。体力もあるし……」

葉月 「兄ちゃんが料理も上手って言ってたし、すごく理想的なお嫁さんだわ」

うるか 「へ? へ? へ?」

葉月 「おねーちゃん、兄ちゃんのお嫁に来ない?」

うるか 「なっ、なななな、何を言ってるのかなー!?」

うるか 「ほ、ほら、成幸も和樹くんも待ってるだろうし、行くよ、葉月ちゃん」

葉月 「はーい」

うるか (成幸のお嫁さん……) カァアアア…… (望むところだけど、まだ早いよぅ……///)

293: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:49:46 ID:BlhIJ9pQ
………………

うるか 「おーい、成幸ー、和樹くーん」

葉月 「兄ちゃーん」

成幸 「お、着替え終わったのか。意外と早かったな……って……」

成幸 「!?」

うるか 「成幸……? どしたん? 目逸らしちゃって……」

うるか (こ、これは、間違いない……!)

うるか (効いてる!!)

成幸 「い、いや、なんでも、ない……ことも、ない、けど……」

成幸 「い、いつもの水着じゃないから、びっくりして……。いや、当たり前か、あはは……」

和樹 「兄ちゃん?」  葉月 「顔真っ赤ね。大丈夫?」

成幸 「だ、大丈夫だよ。さ、混雑する前に、ビニールシート敷いて場所取りしに行くぞ」

294: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:50:23 ID:BlhIJ9pQ
成幸 (び、ビキニ、っていうのかな、ああいう水着……)

成幸 (先輩の水着姿はこの前見たけど……うるかのこういう水着姿って、なんていうか……)


―――― 『ほー 緒方や武元くらいないと物足りないってか?』


成幸 (なまじ中学の頃から知ってるだけに、余計になまめかしいというか……)

成幸 (やっぱり、先輩より肉付きがよくて、大きいというか……)

成幸 (!? って俺は何を考えてるんだ!? 和樹と葉月のために一日潰してくれてるうるかに、)

成幸 (俺はなんてヨコシマでひどいことを考えてるんだ……!)

うるか 「……成幸? 大丈夫?」

成幸 「お、おう、大丈夫大丈夫。な、何も問題ないぞ。水着似合ってるぞ、うるか。可愛いぞ。きれいだ」

うるか 「ふぇっ……!?」

成幸 「……!?」

成幸 (勢いよく口から勝手に言葉が飛び出したー!)

成幸 (場合によってはセクハラになりかねん! 早く訂正を……!)

295: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:50:56 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「い、いや、その……今のは……――」

うるか 「――嬉しい」

成幸 「え?」

うるか 「すごく嬉しいよ、成幸。ありがと……」

成幸 「あ、ああ。ど、どういたし、まして……」

うるか 「えへへ……///」

うるか (……がんばってこの水着にしてよかった~~~! 海っち川っちありがとー!!)

葉月 「ねぇねぇ」 コソッ

和樹 「ああ」

葉月 「うるかおねーちゃんは、嫁の最有力候補、と……」 メモメモ

和樹 「ぜってー兄ちゃんのこと好きだぜ、あれ」

葉月 「問題は、それでも気づかない兄ちゃんの鈍さなのよね~」

296: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:52:54 ID:BlhIJ9pQ
………………子ども用プール

パシャパシャパシャ

和樹 「冷たくてきもちーなー!」

葉月 「えへへ、お風呂よりひろわー!」

うるか (まだふたりとも小さいもんね。子どもプールくらいしか入れないよね)

成幸 「悪いな、うるか。泳げるお前にはフラストレーションがたまるかもしれないけど……」

うるか 「ううん、全然。むしろ、泳ぐことも勉強も忘れられてボーッとしてられるよ」

うるか 「にひひ。それに、成幸じゃこの浅いプールでも溺れちゃうかもしれないしね」

成幸 「ああ。その可能性は十分にあると思う」 ゴクリ

うるか (じ、冗談のつもりだったんだけどな……)

葉月 「兄ちゃん、兄ちゃん」

成幸 「うん?」

バシャッ

成幸 「ぶわっ……、み、水……?」

297: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:53:49 ID:BlhIJ9pQ
和樹 「えへへ、兄ちゃん、スキありだぜ!」

成幸 「お前たち~~、やったなー!」

葉月 「きゃー、兄ちゃんが追いかけてくるわー!」

バシャバシャ……キャッキャッ……

うるか 「………………」

クスッ

うるか 「……楽しそう。あたしまで楽しい気分になってくるよ」

うるか 「こちらこそ、一緒に来させてくれてありがとう、だよ」


―――― 『……ちょうど武元に出会った頃 中学の入学式の数日前だったかな』

―――― 『親父が死んだんだ』


うるか 「………………」

うるか (ああやって、お父さんの代わりみたいなことを、ずっとしてきたんだよね)

298: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:54:44 ID:BlhIJ9pQ
うるか (……成幸はすごいなぁ。なんか、すごく申し訳ない気持ちになってきたよ)

うるか (あたし、成幸と一緒にプールに行けるって、浮かれて、はしゃいで……)

うるか (あたしは、学校も水泳も、好きに選ばせてもらって……)

うるか (がんばれることだけがんばって、今までフツーに生きてきたんだ)

うるか (そんな間もずっと、きっと、成幸はこうやって……)

うるか (誰かのためにがんばってきたんだろうな)

うるか (それに引き換え、あたしは……――)


  「――うるか」


うるか 「へっ……?」

バシャッ

うるか 「わひゃっ、冷たっ……」

299: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:55:16 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「何ボーッとしてるんだよ、らしくもない」

成幸 「一緒に遊ぼうぜ」

うるか 「………………」 クスッ 「……よーし、やったなー、成幸ぃー!」

うるか 「うるかちゃんに喧嘩をふっかけたこと、後悔させてやるぜー!」

バシャバシャバシャバシャ

成幸 「うおっ!? さ、さすがは武元うるか、すごい水量だ……!」

葉月 「兄ちゃん兄ちゃん、このままじゃ負けちゃうわ」

和樹 「よーし、じゃあおれは強い方につくぜー!」

成幸 「そこで裏切るのかお前は!?」

葉月 「じゃあわたしもうるかおねーちゃんにつくわ」

成幸 「葉月まで!?」

バッシャァアーーン

成幸 「ごふっ……!?」

ブクブクブク……

うるか 「……成幸!? 子ども用の浅いプールで本当に溺れてる!?」

300: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:55:47 ID:BlhIJ9pQ
………………木陰

成幸 「うぅ……やっぱり、水は苦手だ……」

うるか 「ご、ごめん、成幸。ちょっとやり過ぎちゃった……」

葉月 「気にしなくていいのよー、うるかおねーちゃん」

和樹 「逆に、どうやったらあんなに浅いプールで溺れられるのか知りたいぜ」

成幸 「まったく、面目ない……」

成幸 「すまん、うるか。俺は少しここで休んでるから、チビどもをお願いしてもいいか?」

うるか 「それはいいけど、成幸はひとりで大丈夫?」

成幸 「ああ、俺のことは気にしなくていい。悪いけど、頼めるか?」

うるか 「もちろん。そのために今日はここに来てるんだから」

うるか 「じゃ、葉月ちゃん、和樹くん、いこっか!」

和樹&葉月 「「うん!」」

301: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:56:38 ID:BlhIJ9pQ
………………

トコトコトコ……

葉月 「あのね、うるかおねーちゃん」

うるか 「うん?」

葉月 「兄ちゃんね、あんな風に情けなくて、弱っちいところもあるけど、」

葉月 「それでもね、すごく格好いいところもあるのよ」

葉月 「だから、ああいうところを見ても、幻滅しないでほしいな、って……」

うるか 「……うん。大丈夫。そんなのわかってるって」

うるか 「あたしは成幸と中学生の頃からの付き合いだからね」

うるか 「あたしだって、いつも成幸のお世話になってるんだから」

和樹 「……うむ」 コソッ

葉月 「これはもう、うるかおねーちゃんが嫁に来たら全部解決なんじゃないかしら」 コソッ

和樹 「あとは、水希姉ちゃんがどういう反応をするかだな」

和樹 「もしうるかおねーちゃんの方がお料理が上手だったりしたら、」

葉月 「荒れるわね。間違いなく」

302: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:57:15 ID:BlhIJ9pQ
うるか 「……?」 (何をコソコソ話してるんだろう……?)

うるか 「ん? あっ……」


『浮き輪、レンタルできます』


うるか 「………………」

和樹 「おねーちゃん?」

うるか 「ねえ、和樹くん、葉月ちゃん、少しだけ深いプール、行ってみよっか」

葉月 「?」

うるか 「あ、おじさーん、子ども用の浮き輪ふたつ貸してー!」

303: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:58:50 ID:BlhIJ9pQ
………………流れるプール

葉月 「わ、わわ……」

和樹 「足がつかない……!」

うるか 「大丈夫だいじょーぶ。浮き輪があるから沈まないからね」

うるか 「それに、いざとなったらうるかお姉ちゃんがついてるよ」

葉月 「うん……」

プカプカプカ……

和樹 「すげぇ。プールが川みたいに流れてる……」

うるか (人がたくさんいるから、ぶつからないように気をつけないと……)

うるか (それに、万が一のこともあるから、絶対ふたりから目を離さないように……)

うるか (……きっと、成幸はずっと、こうやってこのふたりの面倒を見てきたんだろうな)

304: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 00:59:30 ID:BlhIJ9pQ
葉月 「足つかなくても怖くないわね」

和樹 「うん! うるかおねーちゃんがいるもんな」

うるか 「にひひ、嬉しいこと言ってくれるじゃないのー」

うるか 「じゃあ、ちょっとだけスピードアップするよ。しっかり浮き輪につかまって」

和樹&葉月 「「?」」

うるか 「それー!」

葉月 「きゃーっ、すごい勢いだわー!」

和樹 「すげー! もっともっとー!」

うるか (ふたり同時に浮き輪を押すって、結構疲れるんだね……)

うるか (ん……少し前が空いた。これなら……)

うるか 「よーし、しっかりつかまってるんだよー!」

うるか 「少しだけ、このうるかちゃんの本気を見せてあげようかなー!」

ザブン……ビュン!!!

305: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:00:24 ID:BlhIJ9pQ
葉月 「ひゃっ……!」

和樹 「うおー!? めちゃくちゃ速い!?」

うるか 「えへへ、そうだろうそうだろう? これがうるかちゃんの泳ぎの力だー!」

バシャバシャバシャ……

うるか (って言っても、顔は出したままだし、周りの迷惑になっちゃうからちょっと足動かしてるだけだけど)

うるか (でも、ふたりとも楽しそうでよかった……)

ハラリ……

うるか 「ん……?」

うるか 「!?」 (こ、このそこはかとない開放感は……)

うるか 「………………」

うるか (やっぱりトップスがない!? え、うそ……どこ……? 流された……!?)

葉月 「おねーちゃん?」 和樹 「どうかしたの?」

うるか 「う、ううん。なんでもないよ」

うるか (まずい! 浮き輪を持っていないとふたりが流されちゃう!)

うるか (胸を手で隠すこともできないし、肩まで水に浸かって誤魔化すしかない……)

306: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:01:26 ID:BlhIJ9pQ
うるか (水着を探すどころの話じゃない。とりあえず、ふたりをプールサイドに上げて……)

うるか 「……ふたりとも、ちょっと一回、プールを上がろうか」

葉月 「? まだ入ったばっかりよ?」

和樹 「もう少し入ってたいなぁ……」

うるか 「うっ……」

うるか (……まぁ、そうだよね)

うるか 「………………」


―――― 『……この前話しただろ? うち、親父がいないからさ』

―――― 『和樹も葉月も、プールってあんまり行ったことがないんだよ』

―――― 『じゃあ、今日は目一杯楽しませてあげなくちゃね!』


うるか (……成幸にふたりをお願いされてるんだ。だったら、あたしは、)

うるか (水着の上がないくらいで、泣き言なんか言ってられないよ!)

307: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:02:05 ID:BlhIJ9pQ
うるか 「よーし、じゃあもう何周かしちゃおうかー!」

うるか (回ってれば、きっと水着も見つかるだろうし……)

葉月 「わーい! するわするわー!」

和樹 「おねーちゃん、おねーちゃん、またバシャバシャって速いのやってよー!」

うるか 「よしきた。じゃあ、人がいなくなって、前が開けたら……それ!」

バシャバシャバシャ

葉月 「きゃー」 和樹 「わーい!」

うるか (大丈夫。大丈夫。水に肩まで浸かってれば、きっと誰にもバレない……)

うるか 「………………」

うるか (バレてない、よね……?)

308: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:04:27 ID:BlhIJ9pQ
………………

葉月 「お水つめたーい」 ポー

和樹 「太陽あったかーい」 ポー

うるか (……しばらく流れるプールを周回したけど、ふたりとも疲れてきてる感じかな)

うるか 「そろそろプール上がろうか? ふたりとも疲れてるみたいだし」

葉月 「うん、上がるわ」  和樹 「ノドも乾いてきたしなー」

うるか 「……!?」

うるか (そうだ。このふたりはまだ小さな幼児だ)

うるか (幼児がノドの乾きを訴えるって、熱中症一歩手前だって救急救命(>>0�の講習で言ってたっけ……)

うるか (ど、どど、どうしよう。プールサイドにふたりを上げれば、当面の危険はないけど、)

うるか (このまま水分を取らせられなかったら、最悪、熱中症に……)

うるか (かといって、この人混みでふたりだけで成幸のところに行かせるわけにはいかないし……)


>>1の経験則ですが水泳部はソレ系の講習を受けることがままあります。

309: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:06:09 ID:BlhIJ9pQ
うるか 「………………」

うるか (こうなったらもう仕方ないよね)

うるか (恥ずかしいけど、ふたりの安全には代えられないモン)

うるか (あたしが恥ずかしい思いをする程度で済むなら、それでいい)

うるか (み、見られて減るもんじゃないし! べつに、いいし……)

葉月 「……おねーちゃん?」

うるか 「あっ……ご、ごめんごめん。じゃあ、行こうか……――」


  「――……そんな格好でどこ行くってんだよ、うるか」


うるか 「へ……? 成幸!?」

和樹 「兄ちゃん!」

成幸 「悪い。てっきり子ども用プールにいると思ってたから、探すのに手間取った」

成幸 「ずっとひとりでチビたちのお守りをさせて悪かったな」

成幸 「ほら、和樹、葉月。プールから上がるぞー!」

ザバァ

310: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:07:02 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「ほら、飲み物。ふたりとも、これ飲んでそこで少し待ってろよ」

葉月&和樹 「「はーい!!」」

成幸 「……ってことで、」

ザブン

成幸 「うおお……足がつくって分かってても、水流があるから少し怖いな……」

成幸 「っていうか、一度でも足を滑らせたら俺は溺れるからそこんとこよろしく」

うるか 「じゃあなんでプールに入ってきたの!?」

成幸 「……これに決まってるだろ」 コソッ

うるか 「これって……あ、あたしの水着!?」

成幸 「お、大きな声出すなよ。俺だって恥ずかしいんだから……」

成幸 「さっきお前たちを探してるときに、偶然排水溝にひっかかってるのを見かけたんだよ」

成幸 「お前の水着に見えたから、もしかして、と思って持ってきたんだ」

311: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:07:51 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「違ったら落とし物センターに届けようと思ってたけど……」

カァアアアア……

成幸 「その様子じゃ、本当にお前のみたいだな……」

うるか 「……!? な、成幸の●●●! こっち、見ないでよ……」

成幸 「見てねえよ。それより、早く受け取れよ、水着」

うるか 「う、うん……」

うるか 「ありがと、成幸……」

成幸 「いや……」 カァアアアア…… 「い、いいから、早くつけろよ」

うるか 「うん……」

スルスルスル……

うるか 「……ねえ、成幸」

成幸 「うん?」

うるか 「水の中だし、あんまり後ろで結ぶのも慣れてないからさ、」

うるか 「背中のヒモ、結んで?」

312: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:08:29 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「!? い、いや、それは、ちょっと……」

うるか 「……じゃあ水着つけないままプールから上がれって言うの?」

成幸 「わ、わかったよ! 結ぶよ!」

うるか 「ひゃうっ……」

うるか (な、成幸の手が、背中に……///)

成幸 「ん……こんな感じでいいのか……? こう、っと……」

うるか 「ひゃんっ」

成幸 「へ、変な声出すなよ!」

うるか 「だ、だって、成幸が背中をまさぐるから……」

成幸 「仕方ないだろ! 見ないようにして結んでるんだから!」

成幸 「……よし。これでいいだろ。大丈夫そうか?」

うるか 「……うん。大丈夫。ちゃんと結べたみたいだよ」

うるか 「……ありがと、成幸」

313: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:09:51 ID:BlhIJ9pQ
成幸 「……いや、礼を言うのはこっちだよ。うるか。それに、謝らないとな」

成幸 「お前ひとりにあのふたりの世話を押しつけるようになってしまって、本当にごめん。悪かった」

うるか 「い、いいよいいよ。あたしも楽しかったし、」

うるか 「それに、あたしが勝手に浮き輪を借りて、流れるプールに入ったのが悪かったし……」

うるか 「成幸に一言いってからにすればよかったね。ごめんね」

成幸 「いや……それは大丈夫だよ。お前が責任持ってふたりを見ててくれたからさ、」

和樹 「めちゃくちゃ楽しかったなー!」 葉月 「ねー! またおねーちゃんにバシャバシャしてもらいたいわねー!」

成幸 「あのふたりは、安全に楽しく遊ぶことができたんだろうしさ」

成幸 「それに、お前、あのふたりのために、水着の上がないままプールから上がろうとしただろ」

うるか 「そ、それは……だって、ふたりに水分を摂らせなきゃって思ったから……」

成幸 「そこまでやってくれてさ、文句なんか言うわけないだろ。だから、本当にありがとう」

成幸 「あのふたりのお姉ちゃん代わりをしてくれて、本当に、本当にありがとう、うるか」

うるか 「うっ……」 ドキッ 「そ、そんな、お礼なんかいいよ……。あたしも、楽しかったから……////」

うるか (うぅ……。嬉しいなぁ。成幸に……大好きな男の子に、ここまで言ってもらえるなんて……)

うるか (嬉しいなぁ……)

314: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:10:48 ID:BlhIJ9pQ
………………帰路 電車内

葉月 「………………」 zzzzz……

和樹 「………………」 zzzzz……

成幸 (嬉しそうな顔しちまってまぁ……)

成幸 (幸せそうな寝顔だ。まぁ、今日一日目一杯遊んだからな。眠くもなるよな)

成幸 「ふぁーあ、俺も眠いや……」

うるか 「……いいよ。寝ても」

成幸 「ん……?」

うるか 「あたし、水泳部で鍛えてるからさ。駅についたら起こしてあげる」

うるか 「だから、寝てなよ。成幸も慣れないプールで疲れたでしょ?」

成幸 「あー……」

成幸 「……じゃあ、お願いしてもいいか?」

うるか 「うん。あたしは気にせず、ゆっくり寝たらいいよ」

315: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:11:24 ID:BlhIJ9pQ
………………

成幸 「………………」 zzzz……

うるか 「……成幸?」 ボソッ 「寝ちゃった……? かな」

うるか (さ、さすがに人もいるし……恥ずかしいけど……)


―――― 『ちょっとしたゲームみたいな感じで……姉弟ごっこを少々……』


うるか 「……文乃っちが、お姉ちゃん役をやったなら、あたしだって」

うるか 「少しくらい、いいよね……」

ドキドキドキ……

うるか 「………………」

ナデナデナデ

うるか 「……いつもがんばってて偉いね、成幸」

うるか 「今くらいは、うるかお姉ちゃんに甘えても、いいんだよ……?」

ポフッ

うるか 「……うん。うるかお姉ちゃんの肩を貸してあげるから、ゆっくりおやすみ。成幸」

316: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:12:14 ID:BlhIJ9pQ
うるか 「………………」

うるか (……あたし、もっと勉強がんばらないと)

ゴソッ

うるか (あたしは、だって、成幸よりはるかに恵まれた環境にあるから)

うるか (あたしは、水泳だけがんばっていればいいなんて、そんなわけないんだ)

うるか (何もかもに一生懸命な成幸の隣に立つつもりなら、)

うるか (ううん。奥さんとして、成幸の傍にい続けるつもりなら、)

うるか (あたしは、もっともっとがんばらないと。甘えてなんかいられないんだ)

ペラッ……ペラッ……

うるか 「……待っててね、成幸」

うるか 「あたし、がんばるから」

うるか 「いつか、成幸の隣で、成幸のことを支えてあげられるように」

うるか 「あたし、がんばるからね。成幸」


おわり

317: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/04(木) 01:12:59 ID:BlhIJ9pQ
………………幕間

水希 「……!?」

ピキューン

水希 「……今、誰かがお兄ちゃんの奥さんになる決意を固めた気がする!」

花枝 「部活から帰ってきてすぐ何言ってんのあんた」

花枝 「あたしも仕事で疲れてるんだから勘弁してね」

水希 「……!?」

ピキューン

水希 「またひとり、お兄ちゃんの“お姉ちゃん”を自称する女が現れた気がする!」

花枝 「うんうん。お母さんはあんたの将来がただただ心配だわー」



おわり

321: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:00:11 ID:7gBWQ9QA
>>1です。
投下します。


【ぼく勉】成幸 「愛してます」

322: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:02:28 ID:7gBWQ9QA
………………一ノ瀬学園 職員室 昼休み 「愛してるゲーム」 直後

真冬 「………………」

真冬 (……一体何だというの)

真冬 (唯我くんは一体なぜあんなことを言ったというの)


―――― 『えっと……あ……あぅ……』

―――― 『愛してます……』


真冬 「ッ……」

ガツン……!!!!

鈴木先生 「!? き、桐須先生……?」

佐藤先生 「急に頭を机に打ち付けて、大丈夫ですか?」

真冬 「え、ええ。全く問題ありません」

真冬 「文部科学省学習指導要領改訂の第四次答申について考えていたら、つい熱が入ってしまって」

真冬 「お騒がせしてしまい、申し訳ありません」

323: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:03:16 ID:7gBWQ9QA
鈴木先生 「さ、さすがは桐須先生……」

佐藤先生 「新しい学習指導要領への対応もばっちりというわけですね……!」

真冬 「……ふぅ」 (なんとかごまかせたわね)

真冬 (まったく、唯我くんは、何をバカなことを……)


―――― 『愛してます……』


真冬 「ぐっ……」

ガツン……!!!!!!!!

鈴木先生 「今度はすごい勢いで後頭部を壁に打ち付けましたけど!?」

佐藤先生 「大丈夫ですか!?」

真冬 「え、ええ。まったくもって、問題ありません」

真冬 (……唯我くん。どうして君の発言で私がこんなに心を乱されなければならないのかしら)

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!!!!

324: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:04:14 ID:7gBWQ9QA
佐藤先生 (す、鈴木先生、桐須先生が静かに怒りを燃やしているぞ!) コソッ

鈴木先生 (きっと世界史の学習指導要領改訂の答申が気にくわなかったんですね!) コソッ

佐藤先生 (俺たちもしっかりと目を通さねば! 文科省の資料!)

鈴木先生 (っス!)

真冬 「………………」

真冬 (平常心。平常心よ、真冬。幸い私は午後、授業がない)

真冬 (放課後に唯我くんを指導するまでには、時間的余裕があるわ)

真冬 (それまでに彼の意図と、彼をどのように教え導くべきか、考える時間はたっぷりある)

真冬 (……待っていなさい唯我くん。君を、教師としてしっかりと指導してあげるわ)


―――― 『愛してます……』


真冬 「ふんっ……!!!」

ガツン……!!!!!!

佐藤先生 「こ、今度は拳を壁に叩きつけたぞ!?」

鈴木先生 「よっぽど腹に据えかねることがあったんですね!」

325: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:06:40 ID:7gBWQ9QA
………………五時間目授業中 職員室

真冬 「……はぁ」

真冬 (意気込んだはいいものの、具体的にどうしたらいいのか全くわからないわ)

真冬 (彼がどういう意図であんなことを言ったのか、冷静に分析する必要があるわね)

真冬 (……ひょっとしたら、愛という言葉には、私が知らないだけで、)

真冬 (若者特有のスラングのようなものが含まれている可能性があるわね)

カタカタカタ……

真冬 (……ネットで調べても、特に、そういったことは見つからないわね)

真冬 (愛。国語辞書で改めて調べる……必要はないわね)

真冬 (……もしも)

真冬 (もしもよ)

真冬 (もしも、唯我くんが、さっきの言葉を本気で言っていたとしたら……)

真冬 (……私は本当に、どう指導したらいいというの!?)

326: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:07:22 ID:7gBWQ9QA
………………廊下

真冬 (生徒とはいえ、男性から好意を向けられたときにどうしたらいいかなんて……)

真冬 (……ダメよ。私に分かるわけがないわ)

真冬 (……どうしたらいいかしら。誰かに相談すべきかしら)

真冬 (学園長……却下。その他の男性教諭……却下)

真冬 (ならば……女性教諭しかないけれど……)

真冬 (………………)

真冬 (……“あの人” は空いてるかしら)

真冬 (体育科教官室、行ってみようかしら……)

327: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:08:22 ID:7gBWQ9QA
………………体育科教官室

真冬 「失礼します」

? 「ん……? ああ、桐須先生。こっちに来るなんて珍しい」

? 「またなんか提出してない書類でもあった? だとしたら悪いね」

真冬 「……いえ、そういうわけではないのですが、」

真冬 「ちょっと、先生にご相談したいことがあるのですが……」

真冬 「少しよろしいでしょうか、滝沢先生」

滝沢先生 「ん、私に相談? 桐須先生が?」

滝沢先生 「珍しいことがあるもんだね。明日は雨かな」

真冬 「そ、そんなに言うほどですか……?」

滝沢先生 「冗談、じょーだん。ごめんね。でも、あんまり人に相談するタイプじゃないと思ってたから意外でさ」

滝沢先生 「幸い他の先生は授業で出払ってるし、」

滝沢先生 「テキトーに座んなよ。お茶でもいれるからさ」

328: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:09:16 ID:7gBWQ9QA
………………

滝沢先生 「……で? 相談ってなんだい?」

滝沢先生 「わざわざ私のところに来るってことは、あんまり男性教諭に聞かれたくないようなことだろうけど」

真冬 「え、ええ。まぁ、そうなのですが……」

真冬 「……今から話す内容を、ご内密に願えますか?」

滝沢先生 「私はそんなにお喋りじゃないよ。桐須先生が口外してほしくないことは誰にも言わない。約束するよ」

真冬 「はい……。では、言いますが……」

真冬 「……あの、その……男子生徒に、ですね……」

滝沢先生 「うん」

真冬 「……先ほど、その……『愛してる』という旨の言葉を、かけられてしまって……」

滝沢先生 「………………」

真冬 「それで、その……どうしたらいいか、考えあぐねてしまって……」

真冬 「先生にこうして、相談に乗ってもらえればと思いまして……」

滝沢先生 「……驚いた」

真冬 「え、ええ。私も驚いてしまって、どうしたらいいかわからなくて……」

329: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:10:10 ID:7gBWQ9QA
滝沢先生 「いやいや、そこに驚いたんじゃなくてさ……」

真冬 「えっ……?」

滝沢先生 「勝手なイメージだけど、桐須先生が男子からそんなこと言われたら、」

滝沢先生 「一瞬で一刀両断にしそうだと思ったからさ」

滝沢先生 「そんな風に顔を真っ赤にして言葉を詰まらせてるとさ、」

滝沢先生 「……ギャップっていうのかな。すごく可愛く見えて驚いたんだよ」

真冬 「か、かわ……っ!? っていうか、顔を赤くしてなんか……――」

滝沢先生 「――……ほい、手鏡」 スッ

真冬 「や、やめてください!」

滝沢先生 「ははっ、ごめんごめん。でも、うちの武元並にかわいいよ、桐須先生」

真冬 「それは教員としては嬉しくありません!」

330: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:10:44 ID:7gBWQ9QA
滝沢先生 「……にしても、愛してる、ねぇ」

滝沢先生 「桐須先生にそんなことを言う度胸がある男子生徒だったら、受け入れてもいい気がするね」

真冬 「何を言ってるんですか! 教師としてそんなことはありえません!」

滝沢先生 「ま、そりゃそうだ」

滝沢先生 「……私も昔はそんな経験あったけどね」

滝沢先生 「当たり前だけど、何人か振ってやったよ」

真冬 「や、やはり。滝沢先生も同じような経験をされているのですね!」

滝沢先生 「というか、桐須先生みたいな美人が、今までそういうことがなかったのが逆に不思議だけど」

滝沢先生 「高校生ってのは微妙なお年頃でね。ちょっとしたことで惚れたなんだで忙しいもんだよ」

滝沢先生 「桐須先生みたいにきれいな年上に憧れてる男子は多いだろうね」

真冬 「わ、私はそんな、生徒が憧れるような存在では……」

滝沢先生 「先生がどうでも、生徒は勝手に憧れるんだよ」

滝沢先生 「……ま、仕方ないことさ」

331: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:11:25 ID:7gBWQ9QA
真冬 「私はどうしたらいいのでしょうか」

滝沢先生 「断るしかないだろう。もちろん、断らなくてもいいけど、教師としてはオススメできない」

真冬 「どうやって断ったらいいか、教えていただけたら……」

滝沢先生 「それはできないね。だって、私は桐須先生がどこの誰に告白されたのか知らないし、」

滝沢先生 「知ってたとしても、その生徒との関係性を知らない。だから、断り方なんて分からない」

真冬 「うっ……」

滝沢先生 「生徒は人間だよ。その人間と相対するとき、誰に対しても同じような指導はできないだろう?」

滝沢先生 「……というか、しちゃいけないんだ」

滝沢先生 「だから、それは、その生徒との関係性を考えて、適切と思える断り方をするしかないんだ」

滝沢先生 「……告白された、桐須先生自身がね」

滝沢先生 「桐須先生が自分で考えた言葉なら、生徒は受け入れてくれるさ」

真冬 「そうでしょうか……」

滝沢先生 「……もし、桐須先生が、その相手をできる限り傷つけないようにしたいと考えているなら、それは難しいよ」

真冬 「えっ……」

332: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:11:55 ID:7gBWQ9QA
滝沢先生 「断るってのは、傷つけるってことだよ。“傷つけたくない” ってのは、“傷つきたくない” ってことさ」

滝沢先生 「気を持たせるようなことは言わず、すっぱりさっぱり、振ってやるしかないさ」

真冬 (“傷つけたくない” ……そう。私は、たしかに、唯我くんに対してそういう気持ちを持っている)

真冬 (できることなら、傷つけたくない。彼が、すごく良い子であるということを、私は知っているから)

真冬 (でも、傷つけない答えは、言えない。傷つけないように断ることは、できない……)

真冬 (なら、私は……)

真冬 「……そう。そうですね」

真冬 「ありがとうございます、滝沢先生。少し気が楽になりました」

滝沢先生 「そう? そりゃ何よりだ」

滝沢先生 「大変だと思うけど、がんばんなね、桐須先生」

真冬 「……はい」

333: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:12:32 ID:7gBWQ9QA
………………放課後 生徒指導室

真冬 「………………」

ドキドキドキ……

真冬 (……大丈夫。大丈夫よ真冬。だって何回もシミュレートをしたもの)

真冬 (何回もシミュレートをして、簡単に、それこそただ断るだけというのが最適解だと分かったもの)

真冬 (だから、余計な言葉や、フォローはなし。いつも通り、スパッと言うことだけ言えばいい)

真冬 (唯我くんだからって特別扱いしてはいけない。唯我くんに適するカタチで、断ってあげればいいだけ)

真冬 (……大丈夫)

ドキドキドキ……

……コンコン

真冬 「!?」 (き、来たわね……)

真冬 「入りなさい」

成幸 「し、失礼します……」

334: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:13:07 ID:7gBWQ9QA
真冬 「座りなさい」

成幸 「はい。失礼します」

真冬 「……さて、なぜ呼び出されたかは分かるわね」

成幸 「はい……」

真冬 「………………」

真冬 (……さぁ、言うのよ、真冬)

真冬 (ごめんなさい、と。私たちは教師と生徒。そういう言葉は交わされるべきではない、と)

真冬 (あなたの気持ちは受け入れられない、と)

真冬 (そう言って、それで……――)

成幸 「――あ、あの、桐須先生」

真冬 「は、はい」 ビクッ 「何かしら?」

成幸 「さっきはその、すみませんでした!」

335: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:14:57 ID:7gBWQ9QA
真冬 「えっ……」

真冬 「あ、いや、べつに……その、謝らなくても、いいのだけど……」

成幸 「でも、桐須先生を困らせるようなことを言ってしまって……」

成幸 「本当にすみません……」

真冬 (す、すごく落ち込んでいるわ。これは想定外の反応だわ……)

真冬 (私に迷惑をかけてしまったことを、申し訳ないと思っているのね)

真冬 (こんなに落ち込んでいる唯我くんに、私、言えるの……?)

真冬 (……いや、それでも、言わなくてはいけない)

成幸 「すごく不快な思いをさせてしまったと思いますし、場合によってはセクハラになっても仕方ないようなことですし……」

真冬 「そ、そんなに気にするようなことではないわ」

真冬 「相手が嫌と思わなければセクハラではないのよ」

真冬 「私はこれっぽっちも嫌だと感じなかったし、あなたの気持ちは嬉しかったし……」

真冬 (……ん?)

真冬 「……!?」

336: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:15:57 ID:7gBWQ9QA
真冬 (って、私は何を言っているの!?)

真冬 (お、おお落ち着きなさい真冬。落ち込む唯我くんを見ていて、つい我を忘れてしまっただけよ)

真冬 (だから、決して今のは私の本心というわけでは……)

成幸 「……? 嬉しかった? どういうことですか、先生?」

真冬 「え……?」

成幸 「……その、ゲームで、先生相手にふざけたことをしてしまったのが、嬉しいとは到底思えないのですが……」

真冬 「……ゲーム?」

成幸 「え、ええ。あの、あ……『愛してるゲーム』っていうんですけど、」

成幸 「相手に愛してるって言って、照れた方が負けってゲームなんです……」

真冬 「………………」

真冬 「……へぇ」

ゴゴゴゴゴゴゴ…………

真冬 「……なるほど。ゲーム。へぇ。さっきのはゲームだったと?」

成幸 (あっ……俺、たぶん死んだな……)

337: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:18:27 ID:7gBWQ9QA
………………指導後 廊下

成幸 「……はぁ、ひどい目にあった」

成幸 「いや、まぁ俺が悪いから仕方ないんだけどさ……」

理珠 「あっ、成幸さん! ご無事でしたか」

成幸 「ん? 緒方、古橋、うるか。どうしたんだ?」

文乃 「大森くんたちから話を聞いてさ。桐須先生に呼び出されたって」

うるか 「大丈夫、成幸? なんかやらかしたんー?」

成幸 「あ、ああ、いや。気にしなくていいよ。大丈夫だったから」

成幸 (い、言えない! こいつらには、アホらしすぎて絶対に言えない!)

成幸 (桐須先生相手に 『愛してるゲーム』 をやったなんて、絶対に言えない!)

文乃 「……? 成幸くん、なんか隠し事してない?」

成幸 「へ!?」 ビクッ 「な、何もないよ? ないない。何もない」

文乃 「……ふーん」 ニコッ

文乃 (ちょっと、表、出ようか。成幸くん) アイコンタクト

成幸 (……は、はい。文乃姉ちゃん) アイコンタクト

338: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:18:59 ID:7gBWQ9QA
………………指導室

真冬 「………………」

真冬 「……全部、私の独り相撲だった、ということね」

真冬 「ふふ。私らしい結末だわ」

真冬 (……恥ずかしい。私は、唯我くんが私に好意を向けているであろうと、勝手に思い込んで)

真冬 (あまつさえ、あんなことを……)


―――― 『私はこれっぽっちも嫌だと感じなかったし、あなたの気持ちは嬉しかったし……』


真冬 (……まったく、本当に私は一体なぜあんなことを言ってしまったのかしら)

真冬 (あんな言い方をしてしまったら、まるで私が唯我くんに……ゴニョゴニョ……と言われて、喜んでいるみたいだわ)

真冬 (……まったく。自分が嫌になる)

真冬 (そんなことあってはいけない。私と彼は教師と生徒。だから……)

真冬 (だから……?)

真冬 (……もしも、仮に、教師と生徒でなければ?)

339: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:23:23 ID:b2POdDJY
ハッ

真冬 「な、何をバカなことを考えているの、私は」

真冬 「………………」


―――― 『愛してます』


真冬 「っ……」

ドキドキドキドキ……

真冬 (これは、驚いたことを思い出して、鼓動が早くなっているだけ……)

真冬 (そうでしかない。そうでないはずがない)


―――― 『愛してます』


真冬 「……あー、もうっ」

真冬 (……なのに、どうして)

真冬 「どうして、私は彼の言葉を思い出してしまうのよ……」

おわり

340: 以下、名無しが深夜にお送りします 2018/10/06(土) 01:24:02 ID:b2POdDJY
………………幕間の幕間  唯我家の日常

水希 (……ほぁぁ、お兄ちゃんにたくさん 『愛してる』 って言われちゃったよ)

水希 (もっと言ってもらえばよかったかな……)

水希 (ん……待って。よく考えたら……)

水希 (お兄ちゃんは、一体どこの誰から 『愛してるゲーム』 なんて教えてもらったんだろう)

水希 「………………」

ピキューン!!!!

水希 「女の気配がする……!?」

和樹 「はーい、水希姉ちゃーん」 葉月 「催眠術かけるからこっち向いてー」


おわり



次回 【ぼく勉】小美浪先輩「この前は本当に悪かった」成幸「はい?」 中編