1: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:19:42.60 ID:1rQz/U0m0

晴絵「しばらく東京に滞在するけどみんな羽目を外し過ぎないように!」

「「「「「はーい」」」」」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405084782

引用元: 晴絵「個人戦は見学していくからね」 



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3: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:24:05.46 ID:1rQz/U0m0


今日はとってもいい天気


こんな日はカーディガンを羽織って、お気に入りのマフラーを巻いてお散歩をするんだ



4: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:24:52.22 ID:1rQz/U0m0

宥「ふふふ……あったか~い」

東京は吉野と比べて人も多い

真夏にこんな格好をしているからかな?……多くの人が振り返って見ているのを感じるけど、それももう慣れっこだ

「なぁ、あれって……」

「うん、たぶん……」

……それでも、指を指してヒソヒソ話をされるというのはやっぱりいい気はしないよね

地元では回りの人も見慣れたもので「ああ、あの子か」といった風に挨拶をしてくれたものだけど……

宥「うう……あったかくない……」


5: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:25:19.63 ID:1rQz/U0m0

「あの、すいません」

宥「ふぇ?」

「もしかして……阿知賀女子の松実さんじゃ……?」

宥「え、あ、は……はいぃ……ま、松実宥ですぅ……」

「やっぱり!インターハイ惜しかったですね!かっこよかったです!」

宥「え、あ……ありがとうございます!」


6: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:25:47.96 ID:1rQz/U0m0

私たち阿知賀女子学院はインターハイ団体戦三位という結果で終わった

全力で戦った結果にみんなも満足しているように思う

それにしても声をかけられるなんて……自分の格好が特徴的だから覚えてくれていたのだろうか?

もしかしたら、先程から視線を感じたのはインターハイのこともあったのかもしれない

見知らぬ自分達を応援してくれていた人もいたんだな

都会の人は冷たいって聞いていたけど……

宥「ふふふっ……あっかいねぇ~」

ちょっと嬉しくて軽くスキップしてしまう


7: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:26:32.13 ID:1rQz/U0m0

ぽかぽか陽気で気分がいいな

スキップスキップらんらんらん

なんて、鼻唄混じりに少し歩くと小さな公園を見つけた

子供たちが楽しそうに走り回っているのを見ると私もなんだか楽しくなってくる

宥「ふふふっ」

思わず笑いが溢れてしまう

ベンチもあるし、少し休憩していこうかな?


8: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:27:12.89 ID:1rQz/U0m0

ポーチから水筒を取りだしてあったか~いお茶を飲んで一息つく

「ひっさつ!びぎにんぐ・おぶ・ざ・こすもす!」

「ごぶれいパンチ!」

なにかアニメの物真似かな?必殺技を叫びながら熱い戦いが繰り広げられているみたいだ

やっぱり子供たちの笑顔はあったかいなぁ

宥「ん……ふぁ……」

和んでいたら少し眠くなってきちゃった……

そういえば、最近は麻雀麻雀でゆっくり休む暇もなかったなぁ

宥「……少しくらい、平気だよね……?」


9: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:27:51.39 ID:1rQz/U0m0

――――――

「――!――――!」

宥「ん……なぁに~?」

気持ちよく眠っていたのに、肩を揺さぶられて目が覚める

お昼寝ぽかぽか気持ちよかったのに……

宥「あったかくないぃ……」

「えぇ!?その格好で寒いのはマジでヤバいですって!ちょっと、起きれますか!?大丈夫ですか!?」

宥「うぅ……だぁれ?くろちゃ……?」

「嘘っ!?ついこないだ麻雀打った仲やないですか!まさか弱すぎて覚えてないとか……って誰が雑魚やねん!?」

宥「ふぇぇ?……あれ?二条さん?千里山の……?」

泉「覚えとるやないかい!」


10: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:28:33.32 ID:1rQz/U0m0

宥「ふぁ……どうしたの?こんなところで……」

泉「いやいや!こっちのセリフですって!ベンチで倒れてるから何かあったのかと思って……!」

宥「えぇ?……あ、私はお昼寝してただけだから大丈夫だよ~?」

泉「お昼寝ってこんなところで……!ってそれよりホンマに大丈夫ですか?そんな格好で熱中症とか……」

宥「私はちょっと珍しい体質だから……この格好じゃないとダメなの」

宥「大丈夫だから……ごめんなさい、心配してくれてありがとう」

泉「あ、いや……なんともないならよかったですけど……ってよかないですよ!」

宥「ふぇ!?」


11: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:29:15.00 ID:1rQz/U0m0

泉「年頃の娘さんがこんなところでのんびりお昼寝って……!なんか事件とかに巻き込まれたらどうするんですか!?」

宥「あ、あぅぅ……ご、ごめんなさいぃ……」

泉「あ……す、すいません!こっちこそ大声だして……」

いきなりでびっくりしちゃったけど……心配して声をかけてくれたんだよね?

二条さんは私の隣に座って、なんだかどっと疲れた顔をしている

大きな声を出したからかな?……あ、そうだ!

宥「二条さん、お茶でもいかがですか?」

泉「へ?あ、ありがとうございます……ちょうど喉乾いたなー思ってたんですわ」

宥「はい、どうぞ」

泉「いただきます……熱っ!?」


12: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:29:53.89 ID:1rQz/U0m0

宥「だ、大丈夫?」

泉「あ、はい!大丈夫です!すいません落としちゃって……ってかなんですかこれ!?」

宥「えぇ?あったか~いお茶だよ?」

泉「いやこれ熱湯やん!」

宥「あぅぅ……」

私にはちょうどいいあったかさなんだけど……

宥「ご、ごめんね?」

泉「え、あ、いや!その……熱々おでんみたいなもんでこれはこれでおいしいですよね!?」

宥「うん!私もおでん大好きだよ~」

泉「いやそういう意味じゃ……」

宥「?」

泉「……なんでもないですわ」


13: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:30:27.96 ID:1rQz/U0m0

二条さんは頭を抱えているけど……なにか変なこと言っちゃったかなぁ?

でも、おでんっておいしいよね?コンビニでも一年中置いてくれたらいいのになぁ

あつあつの大根、ちくわ、こんにゃく、がんもにはんぺん……

泉「あの、松実さん」

宥「えっ?なぁに?」

泉「聞いてるだけで暑くなってくるんで勘弁してもらえますか……?」

口に出ちゃってたみたい……恥ずかしいなぁ


14: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:31:16.97 ID:1rQz/U0m0

宥「あ、でも……二条さん」

泉「なんですか?」

宥「二条さんはその制服じゃあ寒くない……?」

泉「いやいや今真夏ですよ!?これでも暑いくらいですって!」

……普通の人はそういうものなのかな?

でも、肩も出てるし……お、おへそも見えちゃってて私はちょっと……せ、せくしー過ぎて着れないかなぁ

宥「それじゃあ、暑いから制服をそういう風にしているの?」

泉「実は……これには深い理由がありまして」

宥「な、何があったの?」

泉「あれは、私が千里山に入学した頃……」


15: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:31:56.90 ID:1rQz/U0m0

――――――

自分で言うのもなんですが、私はインターミドルでも結構活躍して推薦もらって千里山に入学したんです

しかし、入学当初は中学生と高校生のレベルの違いを感じて少し伸び悩んでいたんですわ……

それでも名門千里山に推薦で入った以上、弱音なんて吐いてられません

千里山は昨年二位……一年に即戦力が期待されてないのはわかってましたが、全国優勝の旗を関西に持ち帰るのが自分の使命やって思ってましたからね

それで、練習時間を少しでも多く確保するために登下校はちょっと近道して……近くの病院の敷地にお邪魔して突っ切ってたんです


16: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:32:40.49 ID:1rQz/U0m0

ある日、私がいつものように病院の敷地に入ったときのことです

男の子がサッカーボール抱えて泣いてたんですわ

気になって話しかけてみたらどうも事故で足を怪我したらしくて……またサッカーをするには手術しないといけないとか

でも手術に失敗したら二度とサッカーはできなくなる……

手術は怖いけど、それよりもサッカーができなくなる方が怖い言うてまた泣くんですわ

私もその頃、名門千里山の看板のプレッシャーや高校麻雀に対する不安やらでかなり辛い時期でしたから……なんとか元気付けてあげたいって思ったんです


17: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:34:04.15 ID:1rQz/U0m0

その時たまたまハンカチを持ってなかったんで……制服の袖を千切ってその子の涙を拭き取って、私は言ったんです

『男の子が泣いたらアカン。私は千里山で今年中にレギュラーになるから君も頑張って手術受けるんや!』ってね

関西じゃ千里山の名前を知らん人は居ませんからね……その子も一年生がレギュラーなるんは無理や言うんですわ

せやから、『一年生が千里山でレギュラーとる確率に比べたら手術の成功する確率の方がずっと高い。私は必ずレギュラーになって大会に出るから、君の手術も必ず成功する』って言ったんです

……その男の子もそれで少しは元気が出たみたいで、頑張って手術受けるって言うてくれました

私も自分の言葉には責任とらんといけないと思ってそれまで以上に努力して……夏の予選前にやっとレギュラーの座を手に入れたんです


18: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:34:50.89 ID:1rQz/U0m0

泉「それから手術は成功して、私も部活はレギュラー、テストは満点、彼氏もできて万々歳……って話ですわ」

宥「…………」

泉「……あれ?松実さん?」

宥「あったか~い話だねぇ……私、感動しちゃったよ」

泉「突っ込めやぁぁぁぁ!!」

宥「ふぇぇぇぇぇ!?」

泉「なんでや……なんで泣いとんねん……天然か!突っ込みどころ満載やろ!」

泉「制服ネタで外したん初めてや……いつもならこれでドッカンドッカン来るのに……」


19: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:35:41.61 ID:1rQz/U0m0

凄く良い話だと思ったんだけど……間違った反応をしちゃったのかなぁ?

二条さんは頑張りやさんで、とっても優しい人なんだねぇ

……そうだ!

泉「うぅ……自信なくすわ……松実さんみたいなタイプうちには居らへんしどうしたら……」

宥「ねぇねぇ、二条さん二条さん」

泉「……はい?どうかしましたか松実さん?」

宥「その、松実さん……っていうのはやめにしない?」

泉「へ?」

宥「えっとね、だから……ほら、玄ちゃんもいるから、少しややこしいかなって」

宥「だから、名前で呼んでほしいなぁ」

泉「え……それじゃあ、宥さん?でいいですか?」

宥「うんっ!私も……泉ちゃん、って呼んでいいかなぁ?」

泉「あ、はいっ!もちろんです!」


20: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:36:20.80 ID:1rQz/U0m0

えへへ……やったぁ!お友達が増えちゃった!

宥「ふふふっ……泉ちゃん?」

泉「なんですか?宥さん」

宥「えへへっ……なんでもないよ~」

嬉しいなっ 嬉しいなっ

お友達ができちゃった

わくわく どきどき

いろんなお話がしたいなぁ

麻雀のこととか、好きな食べ物、お飲み物

ほかにもたくさんたくさんお話をして……

泉「あ、宥さん」

宥「なぁに?泉ちゃん」

泉「すいません……そろそろ個人戦に向けてのミーティングがあるんでホテル戻らないといけないんですわ」

宥「……そっかぁ」


21: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:36:54.50 ID:1rQz/U0m0

せっかくお友達になれたのに残念だなぁ……

もっとお話したかったなぁ……

泉「ちょ……そんな顔しないでくださいよ」

宥「あぅ……ごめんね?遅れたら大変だし、私は大丈夫だから帰ってもいいよ?」

泉「……じゃあすいません、これで失礼します」

泉ちゃんがベンチから立ち上がる

隣のスペースが空いたらやっぱり少し寂しくなっちゃった

泉「宥さん」

宥「……なぁに?」

泉「うっかり忘れるところでしたわ……連絡先交換しときましょ?」

宥「……うんっ!」


22: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:37:28.73 ID:1rQz/U0m0

泉「阿知賀は個人戦は出てないですよね?」

宥「うん……だけど、見学していくからしばらく東京にはいるよ~?」

泉「それじゃあ予定空いてるときにメールしますわ……私が大会でボロ負けしたのは忘れてませんからね?今度麻雀打ちましょうよ」

宥「うんっ!楽しみだねぇ~」

宥「あっ、阿知賀は個人戦も出てないから対外試合も大丈夫だよ?」

泉「そういやそうですね……それじゃあ監督にも話して許可が出たら練習試合申し込ませてもらいますね」

泉「じゃあ、そろそろ本気で時間もヤバいんで戻りますわ!」

走り出した泉ちゃんの背に大きく手を振る

宥「うん、またね!……あとでメールするね~!」


23: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:38:09.42 ID:1rQz/U0m0

――――――

宥「ただいま~」

玄「おかえりなさい、お姉ちゃん」

玄「……あれ?お姉ちゃんなんだか嬉しそうだね?」

宥「うんっ!お散歩してたら千里山の二条泉ちゃんに会ってね?お友達になっちゃった~」

玄「おお!それはやりましたね!お姉ちゃん昔からお友達作るの苦手だったもんねぇ」

宥「うん……だから今日はとっても嬉しいの!」

玄「お姉ちゃんが嬉しいと私も嬉しいよ!二条さんはどんな方でしたか?」

宥「とっても優しくて、とっても頑張りやさんのあったか~い人だったよ~」

玄「それはとっても素敵だね!」


24: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:38:50.64 ID:1rQz/U0m0

宥「玄ちゃんが会いたがってた人には会えたの?」

玄「……それが、今はお出掛け中らしくて会えなかったの」

宥「それは残念だったね……」

玄「うん……でも個人戦が始まる頃には帰ってくると思うし……諦めないよ!」

宥「うん!玄ちゃん頑張って~!」

玄「うん!頑張るよお姉ちゃん!」

宥「今日はみんなはどうしてるのかな?」

玄「うーん……あ!穏乃ちゃんはラーメン食べてくるって言ってお昼前からお出掛けしてるよ!」

宥「穏乃ちゃんは元気いっぱいであったかいねぇ~」


25: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:39:25.29 ID:1rQz/U0m0


今日も一日おひさまぽかぽかあったかかったな


あったか~いお友達もできたし


やっぱりお天気の良い日はお散歩に限るねっ!



カン!



26: ◆FYW.3i5lks 2014/07/11(金) 22:40:08.65 ID:1rQz/U0m0

泉「すいません!今戻りました!」

セーラ「お、泉ギリギリやで?なにやってたん?」

泉「あ、外で阿知賀の松実宥さんに会いまして……ちょっとお話しして仲良くなったんですわ」

浩子「へぇ、阿知賀の……」

泉「個人戦は見学してくからしばらく東京にいるそうです。許可が出れば練習試合もできそうって話ですわ」

浩子「よくやった泉!それじゃあおばちゃん……もとい、監督に話してくるわ」

セーラ「にしてもどうやって仲良くなったん?松実姉ってちょっと人見知りっぽかったやん」

泉「いやぁ、寒がってたから袖を千切って肩に掛けてあげたんですわ」

セーラ「はっは!……なんや!それで制服の袖無くなってもうたんか!っふふふ」

セーラ「くくく……つか俺袖ある時見たことないで?」

泉「そりゃ生えるたびに千切っては必要な人にあげてますんで」

セーラ「お前の制服何製やねん!とかげの尻尾か!ふふふっ」



泉(……やっぱりいけるやん!)


もいっこカン!

34: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:33:45.79 ID:TL/zrOBd0


ここは、戦場だ


隣を見れば、今日一日図らずも戦い続けることになった相手がいる


私は今まで使うことの無かったその呪文を唱えた



35: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:34:20.61 ID:TL/zrOBd0



穏乃「大豚ダブル全マシマシ!」




36: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:35:17.11 ID:TL/zrOBd0

――――――

負けた……完全なる敗北だ

あれは本当にラーメンだったのだろうか?

というか、この人は私と一緒に昼前からずっとラーメンを食べ続けていたはずなのにどうして涼しい顔をしていられるのだろうか?

「――ひとつ、教えてあげマショウ」

何を言われるのだろう?

マナーを間違えちゃったのかな?

ギルティされてしまうのだろうか?



「バトルとかロットとか、ネットの中だけのネタでスヨ」

穏乃「そうなんですか!?」


37: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:36:11.57 ID:TL/zrOBd0

「むしろどうして信じたんでスカ……」

穏乃「いや、なんかそういう話がいっぱいあったからそういうものなのかなって!」

「タカカモさんは純粋なんでスネ……」

穏乃「そうですか?あ、私は穏乃で良いですよ!ダヴァンさん!」

ダヴァン「そうでスカ?では私のこともどうかメグと呼んでくだサイ、シズノ」

穏乃「はい!メグさん!」


38: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:37:16.89 ID:TL/zrOBd0


穏乃「ところで、ガセだったってことは、呪文の練習してこなくても平気だったんですか?」

ダヴァン「問題ないと思いマス……できた方が楽しそうでスシ、いろいろスムーズに進むと思いまスガ」

ダヴァン「それにしても日本はよくわからない呪文が多すぎマス……」

ダヴァン「コーヒーを飲むときは、ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノ、と唱えることができないと恥をかくそうでスネ」

穏乃「そうだったんですか!?私はコーヒー苦くて飲めないから知りませんでした!」

ダヴァン「モンケッソクカゲキカゲムシャキザンキザンキザンシエンシハンと唱えると相手は死ぬそうデス」

穏乃「何言ってるのか全然わからないけど強そうですね!」

ダヴァン「おそらくニンジャの術でショウ……あとは特定の条件を満たして、タッカラップトポッポルンガプピリットパロと唱えると願いが叶うトカ……」

穏乃「あ!それは知ってます!」


39: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:38:59.72 ID:TL/zrOBd0

打ち解けた私たちはいろんなことを話した

醤油ラーメンのこと

塩ラーメンのこと

味噌ラーメンのこと

豚骨ラーメンのこと

他にもチャーシューやスープなど……話題が途切れることはなかった


40: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:39:52.77 ID:TL/zrOBd0

――日本のラーメンはまさにムゲン

素晴らしい言葉だ

そう!醤油と塩のどっちが偉いとか、そういうことじゃない!

ムゲンのラーメンがあるからこそ全てのラーメンを等しく愛さないといけないんだ!

穏乃「うう……そのラーメンへの愛!感動しました!弟子にしてください!」

ダヴァン「弟子でスカ!?アー……そういうわけにはいきまセン……私は日本に来てまだ数年でスシ……食に対してもまだまだ不勉強ないわばニワカですカラ」

ダヴァン「むしろ、私が弟子入りしたいくらいデス!シズノの食べっぷりには惚れ惚れしまシタ!」

穏乃「そんな!私なんてまだまだですよ!最後の方は虫の息でしたし!」


41: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:40:38.36 ID:TL/zrOBd0

穏乃「それにニワカだなんて……今日私が行ったラーメン店全部で会ったじゃないですか!」

ダヴァン「シズノが回っていたのは有名店ばかりでしたカラ……私も行ったことのない有名店を回っていたから出会ったのは必然だったのデス」

穏乃「行ったことが無かったんですか?これほどラーメンを愛しているのに……」

ダヴァン「私は麻雀留学生でしたカラ……一日のほとんどを練習に費やしていたので普段はもっぱら近所のラーメン屋とカップ麺デス」

穏乃「そうなんですか……でも、じゃあなんで今日は?」

ダヴァン「……時間ができてしまいましたカラ」

穏乃「ああ!個人戦まで少しありますからね」


42: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:41:38.71 ID:TL/zrOBd0

ダヴァン「……そうではありまセン。私はもうお払い箱になってしまいましたカラ、麻雀を打たなくてもよくなってしまったのデス」

穏乃「え……」

ダヴァン「いわゆる助っ人外人ですカラ……三年生で結果の出せなかった私にはもう居場所が無いのデス」

穏乃「そんな……そんなのおかしいじゃないですか!?メグさんすっごく強かったのに!」

ダヴァン「仕方ないのデス……去年はリューモンブチさんへの対応が評価されて残ることが出来ましたタガ、臨海女子は結局二年連続で優勝を逃していマス」

ダヴァン「監督や仲間たちは庇ってくれましタガ……結局、お金を出しているスポンサーの意向には逆らえまセン」

ダヴァン「もっと結果を出せていればプロチームや実業団に拾ってもらうこともできたのでしょウガ……今大会の成績では不可能でショウ」


43: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:45:14.48 ID:TL/zrOBd0

微妙な成績の外人を取るより、宮永照や愛宕洋榎を取った方が話題になるでショウ?

メグさんはそう言って力なく笑った

穏乃「でも……そんなの、酷いですよ!メグさんだって頑張ったのに!」

ダヴァン「ありがとうございマス……シズノは優しいでスネ」

ダヴァン「しかし、どうしようもないのデス……我々のような麻雀留学生にはとてもお金がかかりますカラ」

ダヴァン「結果が出せなければ捨てらレル……覚悟して日本に来まシタ、私が至らなかったのデス」

穏乃「学生の大会なのに、結果が全てなんて……!」

ダヴァン「シズノはそれでいいでスガ、私はそうもいきまセン……立場の違いでスネ。私にとってインターハイは結果が全ての世界デス。勝負事の話ですから特ニネ」


44: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:46:15.90 ID:TL/zrOBd0

穏乃「でも……そんな」

ダヴァン「……いいんでスヨ、シズノ。泣かないでくだサイ……私も国に帰るまでの間自由時間を楽しみマス」

ダヴァン「観光はほとんどできませんでしたカラ……私、京都・奈良行ってみたいデス!大仏があって、芸者やニンジャにサムライがいると聞いてマス」

……メグさんの方が辛いのに笑っているんだから、私が泣いてちゃダメだ

ジャージの袖でゴシゴシと目元を拭う

穏乃「それじゃあ、私に任せてください!京都も奈良も案内しますよ!私の庭みたいなものですから!」

ちゃんと、笑えてるよね?


45: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:47:19.64 ID:TL/zrOBd0


ダヴァン「それはありがたいデス!忘れていまシタ、阿知賀は奈良代表でしタネ」

穏乃「なんなら私の家に泊まってくださいよ!うち、お土産とか和菓子とか置いてるんです!」

穏乃「あ、もちろんちゃんとした宿が良ければ紹介しますけど!玄さんと宥さんの実家が旅館やってますから!」

ダヴァン「私、あまりお金を持っていないので泊めてもらえればとてもありがたいでスガ……本当に良いのでスカ?話したのも今日が初めてでスシ……」

穏乃「そんな、十食以上のラーメンを一緒に食べた仲じゃないですか!きっと波長があってるんですよ!もはや親友ですよ親友!」

ダヴァン「魂の共鳴というやつでスネ!ふふ……シズノは本当に優しいでスネ」

ダヴァン「シズノだけじゃないデス……日本の人はみんな優しくしてくれまシタ」

ダヴァン「通っていたラーメン屋のオヤジは毎日替え玉サービスしてくれましタシ、サトハにもたくさんお世話になりまシタ……」

ダヴァン「日本はご飯もおいしいでスシ、共に過ごした仲間もいますカラ……」



……帰りたくないデス



46: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:48:14.49 ID:TL/zrOBd0

穏乃「……メグさん」

ダヴァン「あ!すいまセン!なんでもないデス!……楽しい話をしまショウ?今日はシズノと出会えた素晴らしい日ですカラ!」

穏乃「メグさん!」

思わず体当たりのような勢いでメグさんに飛びつく

ダヴァン「シ、シズノ?」

メグさんはどれだけ辛いんだろう?

私は和が転校した時も、赤土先生が実業団に行った時も……憧と中学が別れた時でさえすっごく寂しくて、泣いてしまったのに

海を隔てた距離まで離れて……しかも、メグさんの仲間もそれぞれの国に帰ってしまうかもしれない

そうなったら、日本に来たらみんなと会えるって話でも無くなっちゃうんだよね?


47: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:49:22.26 ID:TL/zrOBd0

ダヴァン「シズノ?大丈夫でスカ?どこか痛いんでスカ?」

穏乃「うぅ……ごめんなさい……私……私……!」

ダヴァン「シズノ……」

穏乃「ごめんなさい……!でも……!」

『寂しくって』

その言葉は何とか飲み込んだけど、結局溢れる涙は止めることができなかった

昔から今までずっと元気なのが取り柄だけど、泣き虫なのも変わらないなぁ

ダヴァン「……シズノ」

それから、メグさんと抱き合ったまましばらく二人で大声で泣いた


48: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:50:23.89 ID:TL/zrOBd0

――――――

穏乃「……ごめんなさい、メグさん」

ダヴァン「いいんでスヨ、シズノ……むしろ思いっきり泣いたらスッキリしまシタ!」

ダヴァン「国に帰るのは寂しいでスガ……二度と会えないわけではありまセン」

ダヴァン「当然麻雀も続けますかラネ!……あちらで活躍すれば日本のチームに移籍する話も出るかもしれませンシ、国際交流戦の代表になれればみんなとも会えるでしょうカラ」

……やっぱりメグさんは凄い

私は国際戦の代表になるなんて軽々しく口に出したりできないし……臨海女子のメンバーが選ばれたエリートであることを思い出させ、そして仲間の強さを信頼していることが解る言葉だ


49: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:53:33.43 ID:TL/zrOBd0

穏乃「……そうですね!辻垣内さんなら余裕で日本代表候補でしょうし、他の方もメダリストだったり凄い強いですもんね!」

ダヴァン「……シズノもでスヨ?」

穏乃「え……?私ですか?そんな!無理ですよ……私なんかまだまだで……」

ダヴァン「そんなことありまセン……インターハイの打牌、素晴らしかったデス」

ダヴァン「自信を持ってくだサイ……あなたは素晴らしい雀士でスヨ」

……親友にこんなこと言われたら、その気持ちを裏切れないよね?

それに、実力のある人に認めてもらえたことが凄く嬉しい

穏乃「……私はまだ、代表になるとか言えるほど自信ないですけど」

穏乃「それでも!必ず今よりもっと強くなって!いつか世界で戦える雀士になってみせます!」


50: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:54:22.70 ID:TL/zrOBd0

ダヴァン「その意気デス、シズノ!」

穏乃「よぉしっ!燃えてきたぁぁぁ!!」

穏乃「気合入れたら何だかお腹減ってきちゃいました!ラーメン食べに行きませんか?」

ダヴァン「それはいいでスネ!私もちょうどお腹が空いてきたところデス!」

穏乃「そうだ!帰国する前に臨海と阿知賀のみんなでラーメン食べに行きましょうよ!それで麻雀も打ったりして!送別会です!」

ダヴァン「ありがとうございマス!素晴らしい考えデス!……しかしラーメン屋では全員入れないのではないでスカ?」

穏乃「それじゃあ……えっと、焼き肉とか!」

ダヴァン「焼き肉!私呪文知ってマス!」


51: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 00:55:45.23 ID:TL/zrOBd0



ダヴァン「タン塩カルビハラミ特上骨付きカルビレバ刺しセンマイ刺し特上ハツビビンバクッパわかめサラダ激辛キムチサンチュでサンキューや!」

穏乃「メグさんは最高です!!弟子にしてください!!」


カン!

58: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:30:45.43 ID:TL/zrOBd0


大好きな麻雀ではインターハイ上位入賞


成績だって上位をキープしてる


あとは素敵な恋人がいたら高校生活完璧じゃない?



59: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:31:42.60 ID:TL/zrOBd0

「君かわいいね~」

「俺たちとお茶しない?」

……そうは言ってもこういうのは守備範囲外なわけで

ナンパとかしてる時点で軽薄な感じがするし、ヘラヘラしててなんか気持ち悪いし

あと、視線がいやらしい

東京にもこんなのがいるのか……いや、奈良にはいなかったけど

というか、この誘い文句でついてく女の子がいるわけ?


60: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:32:21.64 ID:TL/zrOBd0

憧「ごめんなさい、人を待ってるので……」

とりあえず当たり障りのないことを言っておく

本当はシズと出掛けるつもりだったんだけど、ラーメンの食べ歩きをする!なんて言って出てっちゃったし……

誘われたけど、さすがにそれはないでしょ?太りそうだし……というか、そもそもラーメン何杯も食べられないし

どうせならシズにもかわいい服とか選んであげたかったんだけどなぁ

素材がいいだけに非常にもったいない

だいたい、普段着ジャージって女子高生としてどうなのよ?


61: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:33:10.42 ID:TL/zrOBd0

「え、なに?友達?」

「ちょうどいいじゃん!そしたら四人で……」

あ、こいつらまだいたの?
めんどくさいなぁ……

私だって今まで彼氏とかいたことないし、そもそもずっと女子校だから男子の知り合い自体いないけど……

こんなの相手じゃちっともときめかない、私はそんなにチョロくない

そりゃあ、身長180越えの知的で優しい超イケメンとかに声かけられたらキョドる自信あるけど

でも、それは仕方ないでしょ?そんな少女漫画のヒーローみたいな人がいたら誰だってときめくに決まってるし……

そう!こういう迷惑なやつらから助けてくれるヒーローが理想なわけで

漫画とかだとこういう時にはとびきり素敵な人が『ごめん、待った?』なんて言いながら現れてスマートに助けてくれるものだ

……スイーツ(笑)とか言うな

別にそういう夢を持つぐらいいいでしょ?女の子なら憧れるものなの!


62: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:34:01.92 ID:TL/zrOBd0

「わりぃ、待ったか?」

憧「へ?」

「で?俺の女になんか用かよ?」

ぐいっと肩を抱き寄せられる

え?え?

混乱してる間にナンパ男達は尻尾を巻いて逃げていく

「……大丈夫か?」

憧「え、あ……その」

涼しげな目元は知性的で、優しく微笑むその姿に私の心臓はドキドキと跳ねている

本当に現れた身長180越えの知的で優しい超イケメン

顔に熱が集まるのがわかる

「なぁ、本当に大丈夫か?」

テンパった私は、なにか言わないと……その一心で口を開いた


63: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:34:30.98 ID:TL/zrOBd0



憧「す、好きです!付き合ってください!」




64: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:35:05.38 ID:TL/zrOBd0



純「俺は女だ!」




65: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:35:47.94 ID:TL/zrOBd0

――――――

憧「うぁー…………」

恥ずかしい 死にたい

一目惚れした相手が知り合いで……しかも、女性

……仕方ないでしょ!?シチュエーション的には完璧だったし!低めの声も好みでかっこよかったし!帽子被ってたから前と印象違ったし!

……テンパって告白したのは言い訳のしようがないけど

純「なぁ新子、もう気にすんなよ」

憧「……気にしますよぉ」


66: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:36:35.15 ID:TL/zrOBd0

あんな恥ずかしいことして……気にするに決まってる

というか

憧「……井上さんは気にならないんですか?」

普通、同性の知り合いに愛の告白(事故だけど)なんてされたらもう少しギクシャクしそうだけど……

純「まあ、男だと思われるように出て行かないと意味無かったし……」

そうですよね!

だから私は悪くない

悪くないったら悪くない

純「それに……」

憧「それに?」

井上さんは苦虫を噛み潰すような顔をして言った

純「……慣れてるからな」


67: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:37:11.08 ID:TL/zrOBd0

これは、あれか

慣れてるというのは男に間違えられることじゃなくて……

憧「やっぱりモテるんですか、女の子に」

純「……やっぱりってなんだよ」

憧「なんか、はい……納得というか」

純「女に……しかも恋愛的な意味でモテても嬉しくないっての」

憧「あはは!人気者ならいいんじゃないですか?」

純「いやマジで笑い事じゃないんだって!」

憧「えー?普段どんな感じなんですか?」

純「それは……とりあえず暑いし、どっか入ろうぜ?」


68: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:37:47.22 ID:TL/zrOBd0

――――――

憧「私はベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノで」

「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノですね?」

憧「井上さんはどうします?」

純「え……あ?あー、俺も同じので」

「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノお二つで!」


69: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:38:39.30 ID:TL/zrOBd0

純「なんだ今の……しかもコーヒーで千円も……」

憧「どうかしましたか?」

純「いや、なんでも……」

憧「で、どうなんですか?笑い事じゃないって、何かあったんですか?」

純「……俺、龍門渕の先鋒じゃん?」

憧「エースポジションだし、人気も出ますよねー」

共学だとやっぱり花形だし、先鋒はモテると聞いている

それに井上さんは先鋒戦で他校をトバせる実力者……そりゃあモテるだろうなぁ

純「うん、まぁ……それで、クラスのダチとかが差し入れだ、つって食べ物とかいろいろくれるから貰ってたわけよ」

憧「へぇ……でもそれくらいならよくあることじゃないですか?」

私たちだって、全国頑張って!なんて言われてクラスの友達からいろいろ貰ったりしたし

純「……ある時、なんかよくわかんない毛とか爪とか入ってたりするのに気づいてな?」

憧「え」


70: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:39:37.94 ID:TL/zrOBd0

純「前々から女子に『純くん付き合ってー!』とかよく言われてたけど、冗談だと思ってたんだよね……」

憧「え、いや、それって……ヤバイやつじゃないですか?」

純「ああ……なんか本気のやつらもいたみたいで、最近はちょっとそういうのマジで怖くて食べ物とか貰えないわ」

井上さんは間食代浮いてたのになー、なんてため息をつきながらどこかズレたことを言っている

憧「……え?いやいや、それ本当に大丈夫なんですか?」

純「ん?たぶんなー……まぁ普通に過ごせてるし大丈夫じゃないか?」

……大雑把で適当だけど、その細かいことは気にしない感じはワイルドでかっこいいかも

憧「……ってなに考えてんだ私!」

純「ん?どうかしたか?」

憧「ふきゅ」


71: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:40:06.85 ID:TL/zrOBd0

あぁぁぁ!なんか変な声出た!

恥ずかしいなもう!

純「?……そういや、新子は一人で何やってたんだ?阿知賀のやつらは一緒じゃないのか?」

憧「私はちょっと買い物でも行こうかと……みんなそれぞれ出掛けてたり用事あったりみたいで一人になっちゃったんですよ」

純「それでナンパされてたと……ま、新子かわいいから一人で歩いてたら声かけられるよなぁ」

憧「ふきゅ」


72: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:40:57.75 ID:TL/zrOBd0

か、か、かわっ!?いや、そりゃお洒落には気を遣ってるけど!

ってだから!井上さんは女の子だってば!

純「あ、そういや新子は彼氏とかいるのか?かわいいし奈良でもモテるだろ?」

憧「え、うぁ……その、うちは女子校だし男子の知り合いすらいないっていうか!」

純「へぇ……そういうもんか」

憧「……そりゃまあ、私も彼氏ほしいなーとか思いますけど」

純「まぁ、女子高生ならそれが普通だよなー」

憧「……井上さんもほしいんですか?彼氏」

純「…………」

あ、顔真っ赤だ

純「わ……悪いかよ?いいだろ別に」

そりゃキャラじゃねーけどさ、そういうこと思うくらい……

テーブルに突っ伏してぶつぶつと小声で文句を言う井上さんはとてもかわいらしい


73: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:41:34.97 ID:TL/zrOBd0

こういうところを見せられちゃうと、ちょっとからかいたくなるのよねー

憧「じゃあ、どういう人が好みなんですか?」

純「な、なんだよ急にっ!え、えと……そういう話をするならそっちが先に言えよ!」

憧「え!?私ですか?えーと……優しくて、かっこよくて……」




――――――



純「……スイーツ(笑)」

憧「違うもん!あくまで理想だもん!本気で言ってるわけじゃないってばぁ!」

純「あっははは!新子でもそういうこと言うんだな?頭良さそうなのに!」

憧「うぅ……言わなきゃよかった……」


74: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:42:21.64 ID:TL/zrOBd0

そりゃ身長180越えとか滅多にいないし

優しくてー、かっこよくてー、なんて自分でも馬鹿らしいって思うけど……やっぱりそういうのに憧れたりはしちゃうでしょ?

だいたい男って奴はさっきのナンパ男どもみたいなのばっかりなのだ

頭悪そうで、ヘラヘラしてて、いやらしいことばっか考えててさ

井上さんなんかさっき道を歩くときも自然と道路側を歩いてくれたりして……声をかけてくるなら下心よりもそういう優しさを見せてほしい



……そういえば、井上さんって身長180はあるわね

女の子だからいやらしいこととかもないし

優しいし、麻雀も強いし……なによりそこら辺の男よりも全然かっこよくて男前だし


75: ◆FYW.3i5lks 2014/07/13(日) 15:43:18.60 ID:TL/zrOBd0



憧「……井上さん、私の彼氏になってくれません?」



純「だから!俺は女だって言ってるだろ!」



カン!

79: ◆FYW.3i5lks 2014/07/14(月) 23:53:44.06 ID:yycgEGWp0


憧れの人がいる


その背中に追いつくために今まで頑張ってきた


だけど、いつまでもそうしていられないこともわかっているわけで



80: ◆FYW.3i5lks 2014/07/14(月) 23:54:43.53 ID:yycgEGWp0

そういうわけで偵察……いや、お勉強かな?

私は今、東京の複合アミューズメント施設にいる

都会のサービスを見て実家のボウリング場を盛り立てるアイディアでも出てくれば……と思ったのだが

灼「そもそも規模が違……」

集まる人数が違う

施設の大きさが違う

実家はそこそこ繁盛しているが、所詮は娯楽の少ない田舎の話だ

資金力も桁違いだし、都会のお店に勝てると思っていたわけではないが少しへこむ


81: ◆FYW.3i5lks 2014/07/14(月) 23:55:34.24 ID:yycgEGWp0

というか、ひとつ気になっていることがある

元々、ちょっと散歩をするつもりで宿を出たのだ

何となく足を伸ばしていたらボウリングのできる施設が目に入ったので都会の店はどんなものかと入ってきたのだが……

夏休みということもあってかとにかく人が多い

男女のカップルや学生の集まりが多いだろうか

対して、自分は一人だ

灼「ちょっと寂し……」

おもちがどうとか呟きながら暇そうにしていた玄でも誘って出てくれば良かったか

というか、大変不本意ながら自分は小柄なので小学生に間違えられることすらある

下手したら迷子に見えるんじゃないだろうか?


82: ◆FYW.3i5lks 2014/07/14(月) 23:56:34.24 ID:yycgEGWp0

灼「……帰ろう」

こういうところは一人で来る場所じゃない

みんなを誘って……せめて瑞原プロの写真集を眺めてニヤニヤしていた玄を誘って来よう

ドンッ

立ち止まったところで背中に衝撃を受ける

「あだっ」

……この人の多い場所で急に立ち止まればぶつかりもするだろう……私の不注意だ

灼「ごめんなさ……」


83: ◆FYW.3i5lks 2014/07/14(月) 23:58:28.21 ID:yycgEGWp0

「いや、こっちも前方不注意だったんで……ん?」

灼「あ」

「……もしかしてどっかで会ったことある?」

灼「いや、初対面だと思……」

知ってる人だけど

試合の映像で見た……たしか、北海道の中堅だ

揺杏「あ、思い出した!」

灼「どうも……私は」

揺杏「小学校の頃隣に住んでた「人違いです」あれー?」

そりゃあ私は阿知賀じゃ地味な方だし、ブロックも別だったけど決勝に進んだチームの選手なのに……


84: ◆FYW.3i5lks 2014/07/14(月) 23:59:17.42 ID:yycgEGWp0

灼「……阿知賀の鷺森灼です」

揺杏「……あぁ!かっこいいグローブ着けてた子だ!」

穏乃や桜子たち以外に言われたのははじめてだ

……なんとなく馬鹿にされている気もするけど

揺杏「あ、私は……」

灼「知ってる。北海道の……」

揺杏「岩館揺杏!……所属は北海道が有珠山高校、略してうん「ストップ」

おいこら


85: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:00:05.52 ID:WP+8k3B40

灼「頭大丈夫?」

揺杏「その言い方は傷つくなー」

ニコニコと……ヘラヘラと?とにかく笑ってるけど、いきなり何を言い出すのかこの娘は

揺杏「いやいや、これには事情があるのよ」

灼「……事情?」

揺杏「この前、部のみんなでボウリングしてさー」


86: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:01:21.57 ID:WP+8k3B40

――――――

二対三のチームに別れて負けた方が罰ゲームってのをやってたわけ

そんで爽……うちの大将ね、そいつが急に言ったのよ

『有珠山高校って略すと●●●だよな!』

さすがに、こいつなに言ってんの?って思ったけど別に面白ければなんでもいいからさー

負けた方はしばらく名乗るときは『有珠山高校略して●●●』を加えるって条件に決まったのよ

でもその後のチーム分けで成香と二人になっちゃってさー

あ、成香ってうちの先鋒ね……あいつ体使う系ダメダメでね?

まぁ私もあんま得意じゃないんだけど


87: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:02:06.54 ID:WP+8k3B40

揺杏「そんでボコボコにされたから……」

灼「今日は練習に来た?一人で?」

揺杏「……一人でを強調しないでほしいんですけど」

揺杏「つかそっちも一人じゃん!友達いないの?」

灼「…………」

揺杏「え、ごめん……」

灼「いや、散歩のついでに見学に来ただけだから」

揺杏「見学って……そんな、居もしない友達を誘うシミュレーションを……」

灼「失礼な……実家の商売の参考にしようかと思……」

揺杏「実家?」

灼「ボウリング場」


88: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:02:59.86 ID:WP+8k3B40

揺杏「おお!なるほどなー……あ、それじゃあ良かったらボウリング教えてくんない?」

灼「別に構わな……」

揺杏「よっしゃ!いやーこう、見ないうちに強くなって見返してやろうと思ったんだけど……一人でボウリングはさすがにハードル高いことにさっき気づいてさー」

灼「……私もここに一人はキツかった」

揺杏「それじゃあ行こうぜ!……えーと、灼でいい?同い年だったよね?」

灼「うん……よろしく、岩館さん」

揺杏「いやいやそこは揺杏って呼ぶ流れだろー」

灼「ジョーク」

揺杏「……灼は分かりにくいなー」


89: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:03:46.29 ID:WP+8k3B40

――――――

揺杏「……スコア200とか本当に出るんですね」

灼「なんで敬語……?マイボールとマイシューズがあればもっと出ると思……」

揺杏「まだ出んの!?すっげー!マジウケる!」

バシバシと肩を叩かれる

なにがそんなに面白いのか

揺杏「あ、ウケるといえばさ……さっきからすっげー気になってたんだけど」

灼「なに?」

揺杏「……いや、これ言ってもいいのかなー?怒らない?」

灼「そこで止められた方が気にな……」


90: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:04:58.19 ID:WP+8k3B40

揺杏「じゃあ聞いちゃおっかなー!あのさあのさ」

灼「うん」

揺杏「……なんなんすかその服」

灼「うさギドラちゃんTシャツだけど」

揺杏「うさギドラちゃんTシャツ!?」

私が着ているのは三つ首のうさぎさんが描かれたTシャツだ

かわいらし……


91: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:06:17.11 ID:WP+8k3B40

揺杏「え、なにそれ!?どこで買ったの?」

灼「大阪で……」

揺杏もほしいのかな?

揺杏「大阪すげー!マジウケるんだけど!」

揺杏「え?なに?なんでそれを買ったの!?」

灼「……うさギドラちゃんをよく見て」

揺杏「ん?なにか秘密があるの?宝の地図とか?」

灼「ベリーキュート」


92: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:07:58.36 ID:WP+8k3B40

揺杏がお腹を抱えて動かなくなった

というか、笑ってる

ウヒウヒ言ってる

面白い娘だ

揺杏「ヤバい……灼マジヤバい……面白すぎ……!」

……いやまあ、回りと服のセンスとかズレてるのは気づいてるけども

そういう服も似合ってしまうのだからいいじゃないか

あまり嬉しくないけど小柄なのもそれに一役かってると思う

憧だって『私は無理だけど灼さんならアリ』って言ってたし

『普通の』かわいい服も選んでもらったし、憧がアリと言うならアリのはずだ


93: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:08:45.45 ID:WP+8k3B40

揺杏「ほ、他にはどんな服着てるの?」

……この場合は私の好きなタイプの服のことだろう

灼「……狸のレオナルドTシャツとか」

揺杏「レオナルド!?なにそれどんな狸?」

灼「兵庫の山奥に住んでいて漫画を描く……」

揺杏「なんだそれ!?その漫画読みてぇー!」


94: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:12:04.84 ID:WP+8k3B40

――――――

揺杏「あ、一応言っておくけど馬鹿にしてたわけじゃないよ?」

ひとしきり笑ったあとに言われても……

揺杏「いや、私こう見えても裁縫とか得意でさ!ユキの制服も私が作ったんだぜ?」

灼「それは凄……」

揺杏「いやー創作意欲バリバリ湧いてきた!大会中は間に合わないと思うけど、今度そういう系の服縫って灼に送るわ!マジで!」

灼「え……本当に?」

揺杏「もち!ボウリングの授業のお礼!いやーマジで新しい世界が開けたわ!」

灼「……ありがと、揺杏」

揺杏「なんだよー!照れるじゃん!……よーしとりあえず北海道の謎生物調べるかー!」

95: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:12:53.29 ID:WP+8k3B40

――――――

晴絵「あ、灼おかえりー」

灼「……ただいま、ハルちゃん」

部屋に戻ると風呂上がりで部屋着のハルちゃんに迎えられる

晴絵「あれ、一人?みんな居なかったから一緒なんだと思ってたよ」

灼「ん……今日はちょっと将来のために偵察に行ってた」

晴絵「将来?偵察?ああ、そういう……灼もいろいろ考えてるんだね」

……これで通じるハルちゃんはやっぱり凄いと思う


96: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:13:37.04 ID:WP+8k3B40

――赤土晴絵

ずっと、憧れていた

今年、みんなで麻雀を打って、追いかけて……でも、私もいつかは麻雀を棄てて家業を継ぐときが来る

だからこそ、その時が来るまではやっぱり全力でその背中を追いかけたいと思った


97: ◆FYW.3i5lks 2014/07/15(火) 00:14:40.04 ID:WP+8k3B40


目の前には、ずっと憧れてきたハルちゃんの背中


無地のTシャツの背には大きく『伝説』の文字が刻まれている


灼「やっぱりかっこい……」


カン!

103: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:37:39.88 ID:2L4nh1rC0


私、みんなの役にたてたのかなぁ?



104: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:38:29.65 ID:2L4nh1rC0

団体戦における先鋒というのはエースポジション、つまり点取り屋だ

先鋒が稼げば稼ぐだけ後ろの仲間達は余裕をもって打つことができるし、チームの勢いも増すというもので

私はドラを抱えるという体質上、和了ることができれば圧倒的な火力で場を制圧することができる

反面、ドラを切れない以上手は窮屈になり相手からも読まれやすい

結局、県予選や全国一回戦はこちらの情報が出回ってないこともあり活躍することができたけど、関西の名門……千里山の新エース園城寺さんや王者白糸台のチャンピオン宮永さんにはボロボロにされてしまった


105: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:39:23.95 ID:2L4nh1rC0

団体戦が終わってからプライベートで清澄高校の人たちと打った時にも、宮永咲ちゃん――チャンピオンの妹さんらしい――にはカンでドラを増やされて手牌を完全に縛られてしまったし、和ちゃんのスピードにも追い付くことができなかった

玄「……はぁ」

つい、溜め息が漏れてしまう

阿知賀子供麻雀クラブ時代からNo1を張ってきて麻雀には自信があったのだが、全国に来てからはいまいち戦績も振るわない……

要するに、へこんでいるのです

自信喪失中なのです


106: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:40:48.23 ID:2L4nh1rC0

いやいや、それでも溜め息はよくない

幸せが逃げてくって言うもんね!

こういう時は楽しいことを考えよう

楽しいこと、楽しいこと……

……そういえば、久々に会った和ちゃんのおもちはすごかったなぁ

小学生の頃から規格外だったけどまだまだ成長してるみたいだし


107: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:41:42.33 ID:2L4nh1rC0

しかも!おもちといえばその和ちゃんを越える逸材が全国の会場にいたのです!

そう!鹿児島県代表永水女子の大将、岩戸霞さんです!

あの圧倒的な質量!たまらないのです!

地区大会の映像を見たら、副将の薄墨さんがあれを頭に乗せていたりしていて大変羨ましい

私と代わってくれないかなぁ

玄「うへへ……」

おっといけない

楽しくなりすぎてしまった


108: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:42:41.34 ID:2L4nh1rC0

赤土先生に聞いた話ではどうやらBブロックで和ちゃんたちと対戦した宮守女子の方々と永水女子のメンバーで鹿児島まで海水浴に行っているらしい

赤土先生は宮守女子の監督、熊倉さんとは以前から親しく、東京に滞在している間に何度も会っているようでその時に聞いたらしい

羨ましいなぁ……私も行きたかったなぁ

綺麗な海に真夏の日差しと揺れるおもち

想像しただけで……

玄「……おっと、危ない危ない」

先ほどから周囲の視線が痛い

よほどだらしない顔をしていたのだろう


109: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:43:32.51 ID:2L4nh1rC0

それにしても今日は暑い

お姉ちゃんはあったかいからお散歩してくるね~って言ってお出かけしちゃったけど、私には少し辛い暑さだ

薄着の女性が増えて大変眼福だけどね

玄「……ん?あれは!」

大変なものを発見してしまった

目の前にある大きな木の下で、ちょうど日陰になっているところにベンチがある

そこに腰かけた人は暑さでへばっているのか、ぐでーっとベンチの背にもたれ掛かっている

そして、存在を主張するおもち


110: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:45:00.83 ID:2L4nh1rC0

玄「おお……」

つい、視線が釘付けになってしまう

だいたい、阿知賀女子にはおもちが足りないのだ

おもちをおもちなのはお姉ちゃんぐらいで私としては大変寂しい

岩戸さんには会えないし、和ちゃんもおもちを触らせてはくれなかった

慢性的おもち不足なのだ

「ねぇ、ちょっと……」

玄「おもちがしゃべった!?」

「……おもち?」


111: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:46:12.08 ID:2L4nh1rC0

玄「あ、いえ!なんでもないです!」

よく見たらしゃべったのはおもちじゃなくっておもちの持ち主の方でした

考えてみればそれはそうだろう、暑さにやられているのかもしれない

玄「あ、えーと、なにか用でしょうか?」

とりあえず、見ず知らずの人に話しかけられたのだから用件を聞くべきだろう

「こっちの台詞」

玄「え?」

「……さっきからずっとこっち見てたから」

しまった

じっと見つめていたのは気づかれていたらしい


112: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:47:25.84 ID:2L4nh1rC0

玄「えっと、それは……その」

さすがにおもちを見てました!とは言いづらい

玄「……って、あれ?小瀬川さん?宮守女子の?」

白望「……そうですけど」

玄「そんな、今は鹿児島に居るんじゃ……」

岩戸さんと一緒に!羨ましい!

白望「なんでそんなことまで……」

玄「あ、それは!うちの先生が熊倉さんから聞いたそうで……!」

白望「先生が……?えっと、あなたはたしか……」

……ちょっとドキドキする

インターハイ決勝まで行ったことだし名前も知られていたりするのかな?

白望「ダル……誰だっけ?」

……やっぱり私ダメなのかなぁ


113: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:49:50.51 ID:2L4nh1rC0

玄「うぅ……阿知賀女子の松実玄と申します」

白望「あぁ……ドラの方」

ドラの方って……お姉ちゃんはさしずめ赤い方だろうか

……とにかく、なんとか誤魔化さなければ

玄「えっと、鹿児島にいらっしゃると聞いていたものですから!お姿を見かけて気になりまして……その、お一人でどうされたのですか?」

白望「……さっきみんなで帰ってきて」

白望「暑くてダルかったから……」

白望「あー……しゃべるのダルい」

玄「これだけ暑いとそうなりますよね!私、水筒持ってるので冷たいお茶でもいかがですか?」

白望「……いただきます」


114: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:51:20.14 ID:2L4nh1rC0

玄「あ、汗とか気持ち悪くないですか?」

ハンカチを取り出して小瀬川さんの額に浮かぶ汗を拭き取る

白望「……ありがと」

玄「いえいえ気にしないでください!……大丈夫ですか?」

白望「うん……それで、休んでたらいつものことだって置いてかれて……」

白望「ダルくて……動けなくなってた」

玄「それは大変ですねぇ……でも日陰は少し涼しいですし、風も気持ちいいですね!」

お話しながら、少し手持ち無沙汰になったので鞄から団扇を取りだして小瀬川さんを扇いであげることにした

白望「…………」

白望「……きもちいい」


115: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:52:21.85 ID:2L4nh1rC0

そのままベンチで小瀬川さんとしばらくのんびり過ごす

白望「ん……」

玄「あ、眩しいですよね?私の帽子お貸ししますよ」

白望「……どうも」

……なんだか落ち着くと思ったら、小瀬川さんは少しお姉ちゃんに似ているかもしれない

玄「あ、小瀬川さんはこたつはお好きですか?」

白望「……今夏だよ?」

夏にこたつを使うのはお姉ちゃんだけでした


116: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:55:11.62 ID:2L4nh1rC0

白望「……岩手の冬は寒いから、こたつは外せない」

玄「!……そうですか!そうですよねっ!」

白望「……ダルい」

ダルいって言いながらも、なんだかんだくだらない話に付き合ってくれる小瀬川さんはとってもいい人だ

玄「あ!私、クッキー持ってるんですけど食べますか?」

白望「……いただこうかな」

玄「では、どうぞ!」

白望「ダルい……あーんして」

玄「はい!えへへ……あーん」

白望「ん……おいし」

117: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:56:30.09 ID:2L4nh1rC0

――――――

白望「……松実さん」

玄「なんですか、小瀬川さん?」

白望「……いや、なんだかお世話になっちゃって」

玄「そうですか?」

白望「快適だった……うちにも一人欲しい」

玄「えへへ……そんなに言われると照れちゃいます」

白望「……なにかお礼がしたいな」

玄「そんな!お礼がいただきたくてしたことではありませんので……」

白望「でも……」

玄「あ、それじゃあおもちを少し触らせてください!」


118: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:57:28.20 ID:2L4nh1rC0

白望「……?さっきから言ってるそのおもちというのは……?」

玄「あ、これはこれは失礼しました」

玄「では、改めて……」

玄「●●●●触らせてください!」

白望「え?」

玄「え?」

白望「……ごめん、今なんて?」

玄「●●●●「ちょいタンマ」


119: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 00:58:41.92 ID:2L4nh1rC0

白望「…………」

どうしたのかな?なにか考え込んでるみたいだけど……

あ、あんなに素晴らしいおもちだもんね!出し惜しみするのも分かるよ!

白望「……え?」

玄「え?」

白望「いや……え?じゃなくって」

玄「?……なにか?」

白望「……あれ?私がおかしい?」

小瀬川さんどうかしたのかな?


120: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 01:00:27.14 ID:2L4nh1rC0

白望「……え?つまり、私の……胸を、触りたいの?」

玄「はい!大変素晴らしいおもちをおもちですから!」

白望「……それは、どうも」

玄「そういうわけで是非お願いします!」

白望「……松実さんってさ」

玄「はい?」

白望「……あー、女の子が好きな人?」

玄「……?好きですけど」

穏乃ちゃんや憧ちゃん、灼ちゃんもみんな大好きなお友だちだもんね!

白望「……ダルい」


121: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 01:01:08.90 ID:2L4nh1rC0

小瀬川さんはしばらくなにやら考えたあと口を開いた

白望「……まぁいっか」

玄「本当ですか!?」

白望「なんか、凄く快適に過ごしちゃったし……なにも返さないのもダルいから」

白望「あ、でも……ここだとさすがに」

玄「そうですね!それじゃあ宿の方までお送りします!道はわかりますか?」

白望「うん……あ」

玄「どうしました?」

白望「ダルくて動けない……おんぶして」

玄「!?」


122: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 01:02:41.32 ID:2L4nh1rC0

おんぶ!?

そんなことしたら……

あの素晴らしいおもちが私の背中に……

答えは一つだ

大きく息を吸い込み返事をする



玄「おまかせあれ!」




123: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 01:04:06.20 ID:2L4nh1rC0

ベチャ

玄「お、重い……」

白望「……ダルい」

玄「……でも、背中におもちが……うへへ」

白望「……失敗したかなぁ」



カン!


138: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 21:50:36.49 ID:2L4nh1rC0


夜の公園は、ちょっと怖い



139: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 21:51:20.31 ID:2L4nh1rC0

ラーメンを食べ歩き、メグさんと別れた帰り道

いっぱい食べて、いっぱい話して

気づけばすっかり遅い時間になってしまった

東京の夜は明るすぎるのだ

地元だったらこの時間になったら外は真っ暗になってるもんね


140: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 21:52:11.61 ID:2L4nh1rC0

なんて、ちょっと現実から目を逸らしてみたがこれはヤバい

帰りに通りがかった公園はさすがに暗い

しかも、さっきからなにやら……か細い女の子の声が聞こえるのだ

「――」

「――」

ヤバい、ちょっと……本気で怖い

早く帰ろう

本気で走ればすぐに……

「――ラ~」

穏乃「!?」

心なしか、近づいてきている?


141: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 21:54:37.25 ID:2L4nh1rC0

「――ラ~」

「――ラ~」

いや、おばけがどうとか言うつもりはないけど!

そんなオカモチあり得ないって和も言ってたし!

「――ラ~」

穏乃「……うぉぉぉぉぉぉぉぉ! 走れぇぇぇぇぇ!」

一歩踏み出した瞬間、目の前に自分と同じぐらいのサイズの影が飛び出す



「スエハラ~」



穏乃「うわぁぁぁぁぁぁ!?」


142: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 21:56:27.89 ID:2L4nh1rC0

穏乃「ごめんなさい! 食べないで! 私体も小さいし、おいしくないです!」

「? 私は人を食べる趣味はないのよー」

穏乃「……あれ? 人?」

「そういうあなたは阿知賀女子の高鴨さんなのよー」

穏乃「あ、はい! 高鴨穏乃です!」

由子「私は姫松高校の真瀬由子なのよー」

穏乃「あ、どうも……こんばんは!」

由子「こんばんはー」

ほわほわとした笑顔に少し気持ちも落ち着く

143: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 21:57:47.10 ID:2L4nh1rC0

由子「怖がらせちゃったみたいで申し訳ないのよー」

穏乃「こちらこそ失礼なことを……」

さすがにおばけと思ったなんて――おばけなんていないけど!――失礼だった

由子「気にしなくていいのよー」

由子「ところで、こんな時間に女の子の一人歩きは危ないのよー?」

穏乃「ご飯食べてたら遅くなっちゃって……って、それは真瀬さんもですよ! どうしたんですか? こんな時間に?」

由子「私はちょっと探しものなのよー」


144: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 21:58:23.97 ID:2L4nh1rC0

探しものって……まさか!

穏乃「もしかして、す、スエハラって姫松の大将の末原さんですか!? 行方不明とか!?」

一大事だ!なにか事件とかに巻き込まれてたら――

穏乃「け、警察に!」

由子「高鴨さん、落ち着いてほしいのよー」

穏乃「で、でも!」

由子「恭子は今頃ホテルで牌譜の整理をしてるのよー」

穏乃「……?」


145: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:00:11.96 ID:2L4nh1rC0

穏乃「え、じゃあなんでスエハラ~って……」

由子「探し物の呪文なのよー? 唱えながら探し物をするとすぐに見つかるって言うのよー」

……今日は謎の呪文をいっぱい聞くなぁ

穏乃「そうなんですか……良かったぁ、事件とかじゃなくって」

由子「さっきから紛らわしくて申し訳ないのよー」

穏乃「いえ!私こそすぐに勘違いしちゃって」

穏乃「あ! 何を探してるんですか? 私で良ければお手伝いします!」

困っている人を放ってはおけないもんね!

146: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:01:18.42 ID:2L4nh1rC0

由子「それはとっても助かるのよー! 探してるのは……こういう赤い腕時計なのよー」

真瀬さんはそう言って左腕を私に見せる

そこにはたしかに赤い腕時計が……

ん?

穏乃「……持ってるじゃないですか、腕時計」

由子「あ、これは違うのよー……ほら、よく見ると」

穏乃「……折り紙?」

暗くて気づかなかったが、よくよく見ると、折り紙が腕時計の形に折られている


147: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:04:43.77 ID:2L4nh1rC0

穏乃「え!? うわ、凄い! 上手に折ってありますね!」

由子「時計が見当たらないって言ったら監督が折ってくれたのよー」

穏乃「優しい監督さんなんですね!」

由子「そうなのよー!前にリボンをなくしちゃった時も折ってもらったし、絹ちゃんが眼鏡をなくしちゃった時もこれで代わりを作ったのよー」

いや、折り紙じゃ眼鏡の代わりにはならないんじゃ……

由子「……でも、見当たらないのはお父さんに買ってもらった大事な時計なのよー」

穏乃「お父さんに?」

由子「うん……形見なのよー」

穏乃「形見……って」


148: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:05:39.93 ID:2L4nh1rC0

真瀬さんも家族を亡くしているのか……

玄さんと宥さんもお母さんを亡くしているし、そのことが与える影響が大きいことも知ってる

おもち好きとか

まぁそれはともかく、別れはどんなものであれ辛い

身近な家族のことなら尚更だろう

穏乃「……絶対見つけましょう! 私もできる限り手伝いますから!」

由子「本当に助かるのよー……あ、ごめんね?電話出るのよー」



由子「もしもし?お父さん?」



あれ?


149: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:07:21.76 ID:2L4nh1rC0

由子「えー? 大丈夫なのよー! 大阪のほうが治安悪いくらいよー?」

由子「うん……うん? もう! いい加減娘離れしてほしいのよー」

由子「はいはい、個人戦終わったら帰るのよー」



由子「……ごめんねー? 高鴨さん、電話終わったのよー」

穏乃「いやいや! え? お父さん!? 形見なんじゃないんですか!?」

由子「んー? そうよー? そのうち形見になる予定なのよー」

真瀬さん、いい人なんだろうけど微妙に会話が噛み合わないというかなんというか……


150: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:09:14.59 ID:2L4nh1rC0

……まぁいいか!悲しいことが無かったんだから!

穏乃「……えっと、それでこの公園で落としたんですか?」

由子「たぶんそうだと思うのよー……今日はみんなで気分転換にプールに行って、そのあとこの公園でカバディしたのよー」

穏乃「だいぶハードですね!?」

由子「かなり疲れたしもうおねむなのよー」

真瀬さんが大きくあくびをする

……私もお腹いっぱいだし、なんだか眠くなってきた


151: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:10:27.01 ID:2L4nh1rC0

由子「……もう遅いし、今日のところはここまでにしておくのよー」

穏乃「いいんですか?大切なものなんじゃ……」

由子「この暗さじゃ見つかるものも見つからないし、高鴨さんも眠そうなのよー」

穏乃「あ、そんな私のことなんて……」

由子「姫松の子だったらまぁいいとしても、高鴨さんは他校の生徒だし何かあったら責任とれないのよー」

穏乃「……そうですね、ごめんなさい」

由子「そんなシュンとされると私も困っちゃうのよー……あ、そうだ!高鴨さんにはお礼としてアメちゃんを差し上げるのよー」


152: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:11:23.31 ID:2L4nh1rC0

由子「ちょっと待ってほしいのよー」

真瀬さんがポーチから飴玉を取り出してこちらに差し出す

由子「はい!どうぞ受け取ってほしいのよー」

穏乃「……はいっ!ありがとうございます!」

気を遣わせてしまったし、せっかくなのでいただいておく

由子「あ」

穏乃「どうしました?」

由子「時計、あったのよー!」


153: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:12:00.98 ID:2L4nh1rC0

由子「そういえば、プールに行ったときに外してポーチにしまってたのよー」

穏乃「ポーチの中、探してなかったんですか?」

由子「えへへ……うっかりしてたのよー」

穏乃「うっかりなら仕方ないですね!」

私もよくうっかりしちゃうし人のことは言えない

真瀬さんも嬉しそうだし、私も嬉しくなってきた

やっぱり笑顔は人を元気にするよね!


154: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:12:55.93 ID:2L4nh1rC0

由子「高鴨さんには迷惑かけてしまって申し訳ないのよー」

穏乃「気にしないでください!見つかって良かったです!」

由子「ありがとうなのよー……大阪に来るときは是非連絡してほしいのよー」

ニコニコと笑う真瀬さんと連絡先を交換する

穏乃「ありがとうございます! それじゃあ、私も奈良とか山なら案内できますから!」

由子「ふふふ……それじゃあ今度遊びにいくのよー」


155: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:13:42.14 ID:2L4nh1rC0

――――――

穏乃「ただいまー!」

憧「おかえり! 遅かったねーシズ」

穏乃「いろいろあって……って、なにしてんの?」

憧「私の化粧水しらない? ここら辺に置いたと思ったんだけど……」

穏乃「あ、探すの手伝うよ」


156: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:14:27.38 ID:2L4nh1rC0



穏乃「スエハラスエハラ~」



憧「急に何言ってんの!?」



カン!



157: ◆FYW.3i5lks 2014/07/16(水) 22:17:20.92 ID:2L4nh1rC0

由子「あ、高鴨さんから電話なのよー」

恭子「高鴨……って阿知賀の?」

由子「うん!時計探すの手伝ってもらったのよー」

恭子「そうなんか……ちゃんとお礼言っとかんとな」

由子「もしもし? 高鴨さんどうかしたのよー?」

穏乃『スエハラ効きませんでした!』

由子「それは申し訳ないことをしたのよー」

由子「ほら、恭子も謝るのよー」

恭子「ハァ……ごめんな高鴨さん」


もいっこカン!

162: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:10:57.24 ID:70e3TFif0


幼馴染みで親友です、だって


そう思ってくれてたのは嬉しいけど、ちょっと照れくさい



163: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:11:30.50 ID:70e3TFif0

「あの、阿知賀の新子さんではありませんか? 『WEEKLY麻雀TODAY』読みましたよ!」

憧「へ? 『WEEKLY麻雀TODAY』?」

「おや? 和から聞いていませんか?」

憧「和? なんで和が……えっと、新道寺の」

煌「すばらです!」

憧「須原さん」

煌「あ、花田煌と申します」

憧「失礼、花田さん」


164: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:12:09.82 ID:70e3TFif0

――――――

憧「和、こんなこと言ったんだ……」

煌「幼馴染みで親友!すばらなことではありませんか!」

この記事を全国の麻雀ファンが読むんだと思うとさすがにちょっと……いや、かなり恥ずかしい

そりゃあ、私も……その、そういう風に思ってたけど、他人に堂々と言うのは照れくさいし……

それに、実際一緒に過ごしたのは一年ほどだし中学も離れてしまっていたから……大切な友人です!とか言われちゃうと、やっぱり嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が熱くなる


165: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:14:47.19 ID:70e3TFif0

憧「それにしても、花田さんが和の転校先の先輩だったなんて……不思議な縁ですねぇ」

煌「すばらなことです……和が以前奈良にいたことは聞いていましたが、まさか阿知賀女子の皆さんが友人だったとは」

煌「そういえば、和は奈良ではどのように過ごしていたのですか?昔の話はあまり聞いたことがないんですよ」

憧「そうですね……最近会った感じだと、奈良にいた頃からあまり変わらないんじゃないですかね」

憧「昔から玄と打ってるのに『そんなオカルトありえません!』でしたし」

煌「ふふっ……和らしいですね」

煌「長野に来てからもずっとその調子で……麻雀の腕もたしかでしたけど」

憧「奈良に来た頃から一貫してデジタル打ちでしたからねー」

牌譜を見る限りでは高校に上がってからもかなりレベルアップしたようで、ハルエも精度が段違いだって褒めてたし


166: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:16:03.69 ID:70e3TFif0

煌「オカルトの話にしても……和の信念はブレませんからね!そこが彼女の強さですし」

憧「そうですねー……変わったのなんて胸が更にでかくなったぐらいで……」

昔からでかかったのにまだでかくなってるのだからずるい

私なんて、正直小六の頃の和より……

煌「新子さん」

憧「あ、はい!?」

煌「気にしなくていいんですよ」

憧「え……」

煌「みんな違ってみんな良いんですよ」

煌「和には和の、あなたにはあなたの魅力があるんですから」

……凄く良いこと言ってるけど、私より小振りな人に言われても

いや、でかい子に言われたら嫌味に聞こえるんだけど

167: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:16:37.81 ID:70e3TFif0

煌「そういえば!」

憧「な、なんですか?」

煌「団体戦決勝、大変すばらな試合でしたよ」

……わざわざ話題を変えてくれたらしい

そんなに沈んだ顔をしていたのだろうか

憧「ありがとうございます……負けちゃいましたけどね」

煌「いえいえ!三位もとてもすばらな成績ですよ!全国で三番目に強い高校生チームなんですから、胸を張ってください!」

どうせ私には張るほどの胸は……って、へこむだけだしやめておこう

それに……


168: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:17:32.39 ID:70e3TFif0

憧「私、決勝ではあまり……」

オーラスに役満を和了る白糸台の渋谷尭深に、悪待ちの竹井、ついでに世界ランカーと厳しい戦いだった

私がもっと稼げれば灼さんやシズにもっといい点数で回せたのだ

優勝も狙えたんじゃないかと思うと、やっぱり悔しい

煌「そんなことありませんよ、新子さんはすばらな打ち回しだったではありませんか」

煌「新子さんだったからこそ後続の鷺森さんに綺麗に繋げたのですから……私だったらもっと削られていましたよ」

憧「そんな、私なんか……そういう花田さんなんて、九州の名門校で先鋒張ってるじゃないですか」


169: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:18:11.61 ID:70e3TFif0

煌「そんな、新子さんもわかっているでしょう?うちは後ろに戦力の比重を置いています」

煌「それに、私は校内でのランキングもあまり高くありませんから」

憧「え?……普通、その場合は五位の人が先鋒になるんじゃないですか?」

煌「……私の実力はけっして高くはありません。 新子さんならわかるでしょう?」

憧「…………」

実際、新道寺との対戦前に全選手の牌譜は確認したけど花田さんは……怖い相手とは思わなかった

煌「ですが、私は……少々特殊な雀士なものですから」

煌「まあ、言ってしまえば私は捨て駒……相手校のエース相手にいくら失点してもトビさえしなければ白水部長たちが取り返してくれる、というオーダーですからね」


170: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:18:58.19 ID:70e3TFif0

特殊?花田さんもなにか玄みたいな……って、そっちよりも

憧「花田さんは……辛くなかったんですか?そんな、捨て駒だなんて……」

煌「まさか!私はどんな役割であれ、チームに必要とされて嬉しかったですよ」

煌「私でも、誰かに必要とされる……とてもすばらなことです」

憧「花田さんは……なんというか、凄いですね」

私だったら捨て駒扱いなんてされたら悔しいし……そんな前向きに捉えることはできないと思う


171: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:19:39.94 ID:70e3TFif0

煌「新子さんはもっと自信を持っていいんですよ?」

煌「新子さんの実力はすばらです!全国大会を勝ち抜き、あの強力な雀士たちを相手に退かずに打ち合えたのですから!」

煌「実力で勝ち取ったレギュラーなんですから、ね?」

憧「花田さん……」



憧「うち、部員五人です」

煌「すばっ!?」


172: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:20:39.01 ID:70e3TFif0

煌「え、えーとですね……」

……さっきまで凄く大人っぽく見えてたけど、こうして慌てている姿を見るとやっぱり同じ高校生なんだなーと思う

憧「あははっ!ごめんなさい……ありがとうございます!ちょっと元気になりました」

煌「そ、そうですか?それはすばらです!」


173: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:21:21.41 ID:70e3TFif0

――――――

なかなか素敵な出会いだった

花田さんはとっても元気で、前向きで……やっぱり私よりも大人な人だと思う

連絡先も交換したし、なにか悩みごとなんかは晴絵よりも花田さんに相談した方が頼りになるかもしれない

話の方も楽しかったし……それにしても、二年間通って未だに言葉で苦労してるって怖い

英語の方がまだわかるなんて言ってたし、そんなのほぼ外国じゃないか

穏乃「あ、おかえり憧ー」

憧「ただいまー……ってみんな集まってなにしてんの?」

玄「さっきメールしたよ?気づかなかった?」

憧「え、嘘!?ごめん!急ぎの用事だった?っていうかみんな待たせてた!?」


174: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:22:24.69 ID:70e3TFif0

気にしてな……って灼さんは言ってくれてるけどさすがに申し訳ない

花田さんとの話が楽しくって気づかなかった……なんて言い分けもしづらいし

宥「ほら、前に赤土先生が優勝したらステーキおごって、なんて言ってたでしょ?」

灼「やっぱりハルちゃんにはお世話になったし……」

穏乃「みんなでなにか準備しようって相談してたんだ!」

憧「すばらな考えね!私たちがここまで戦えたのはハルエのすばらな指導のお蔭だし……」


175: ◆FYW.3i5lks 2014/07/18(金) 00:22:54.15 ID:70e3TFif0


「「「「すばら?」」」」


憧「ふきゅ」


カン!

180: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:44:41.17 ID:mYEGxUkG0


阿知賀とは違う過ごし方が、けっこう楽しい



181: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:45:20.40 ID:mYEGxUkG0

正午前になると、彼女はいつも日陰のベンチで本を読んでいる

団体戦も終わり、時間を持て余している私の足はついそこに向いてしまうのだ

灼「……咲」

咲「あ、灼ちゃん」

こんにちはー、と笑顔で挨拶される

灼「ども……」

なんとなく照れくさくて、愛想なく返してしまう

まぁ、私が笑顔で挨拶すると今度は咲が照れちゃうんだけど


182: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:46:22.87 ID:mYEGxUkG0


灼「今日も暑いね……お茶いる?」

咲「ありがとう……いただきます」

咲とは、阿知賀と清澄で交流会――まあ、実質玄たちと原村さんの再会麻雀パーティーといったところか――で、仲良くなった

ハルちゃんの子ども麻雀クラブに参加してなかった私は少し場違いな気もしていたし、すぐに溶け込んだ片岡さんと違って一歩引いた位置にいた咲となんとなく固まってたら意外と話が合ったのだ

穏乃や憧は友達だけど、やっぱり先輩後輩の関係が先にあるし、単純な年下の友人というのは初めてで……ちょっとお姉さんぶってみたりするのが楽しい


183: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:47:04.42 ID:mYEGxUkG0

灼「…………」

咲「…………」

私は、どちらかというと口数の少ないタイプだ

それは咲も同じで、二人でいると特に何も話さずに時間が経ったりもする

うちは結構騒がしいから、こうやってのんびり過ごすのは新鮮だ

ふと、咲が読んでいた本を閉じる

灼「いいの?」

咲「うん。 キリの良いところまで読んだから」


184: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:47:43.34 ID:mYEGxUkG0

灼「ん……今日は何を読んでたの?」

咲「海外のミステリーだよ。 この作家さんは――」

咲は本のこととなると結構話す

読書は私も結構好きだし、咲からは色々な話が聞けて面白い

……それにしても、咲は毎日ここで本を読んでいるけど大会に向けて調整しなくていいのだろうか?


185: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:48:28.39 ID:mYEGxUkG0

灼「…………」

咲「なぁに?」

灼「……麻雀はしなくてもいいの?」

咲「……私だってちゃんと練習してるもん」

プクーと頬を膨らませて抗議する咲はかわいらしい

咲「そりゃあ、毎日ここで本読んでるけど……それは灼ちゃんとお話したいっていうのもあるし」

灼「そんなにはっきり言われると恥ずかし……」


186: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:49:43.24 ID:mYEGxUkG0

咲「和ちゃんなんかは阿知賀のみんなとか、新道寺の花田さんとか知り合いが多いからいいけど、私はこっちに知り合い少ないし……」

片岡さんは一緒に色々行ってるみたいだし、咲もついていけばいいのに……

というか、咲も知り合いは居るだろうに

灼「お姉さんとは会わないの?」

咲「……ちょっと、喧嘩中で」

灼「ごめ……」

……あまり触れない方が良さそうだ


187: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:50:47.36 ID:mYEGxUkG0

灼「えーと……」

なにか話題は……

灼「あ……せっかく東京来たんだし、彼氏と観光でもしてきたら?」

咲「か、彼氏!?」

灼「違うの?」

咲「ち、違うよぉ!京ちゃんはただの友達で……」

灼「京ちゃん、なんて随分親しげだったからてっきり……」

咲「そ、そんなこと言ったら灼ちゃんだって赤土さんのことハルちゃんって呼んでるけど付き合ってないでしょ!?」

灼「それは比べるところじゃないと思……」


188: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:51:35.43 ID:mYEGxUkG0

なんだ違うのか

ちょっとガッカリだ

阿知賀は女子校だから仲間内だと恋ばななんてできないしちょっと興味あったのに

灼「でも、共学だしそういう話はないの?」

咲「私はないけど……和ちゃんなんか男子に人気だよ」

灼「あー……」

そりゃモテるだろうな

かわいいし

……でかいし


189: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:52:24.63 ID:mYEGxUkG0

灼「でも、咲も人気でるかもよ?インターハイで大活躍だし……」

咲「えぇ?それはないよ」

私地味だもん、なんて言いながらニコニコしてるけど咲はけっこうかわいいと思う

いろいろ危なっかしくて世話してあげなきゃって気になる

咲「灼ちゃんの方こそそういうのないの?」

灼「私……?」


190: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:53:32.44 ID:mYEGxUkG0

灼「ないよ」

咲「ないの?」

灼「阿知賀は女子校だからそもそも男子の知り合いがいな……」

咲「そうなんだ」

灼「うん」

……友達もいるし、麻雀も楽しいし、寂しい青春とは思ってない


191: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:54:24.71 ID:mYEGxUkG0

くー

咲「あぅ」

……咲のお腹の音のようだ

話している間にだいぶ時間が経っていたらしい

灼「……ご飯、食べに行かない?奢るよ」

咲「え、そんな……奢りなんて悪いよ」

灼「じゃあ、団体戦優勝のお祝いってことで……」

咲「……それじゃあ、お世話になります」


192: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:55:16.12 ID:mYEGxUkG0

――――――

咲との食事は楽しかった

玄や穏乃とわいわい食べるのもいいけど、私はのんびりしてる方が性に合ってるかもしれない

それにしても……共学は進んでるって聞いてたけどそうでもないのか

いや、咲がそういうのに疎いだけか

晴絵「あ、おかえり灼ー!私今から熊倉さんとこ行ってくるから」

灼「ん……行ってら……」

灼「あ、そういえばハルちゃん」

晴絵「なに?」

灼「ハルちゃんは結婚とかしないの?」

晴絵「」


193: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:56:16.05 ID:mYEGxUkG0

晴絵「……あ、いや私はまだ結婚考える年じゃないというか」

あ、これ聞いちゃいけない奴だった

凄い勢いで目が泳いでるし

晴絵「いや、ほんと……全然平気だし!ほら、小鍛治プロとかもまだ結婚してないし」

麻雀ならともかく、ハルちゃんはそこで小鍛治プロと並んでいいのか

晴絵「えっと、ほら……」


194: ◆FYW.3i5lks 2014/07/19(土) 01:57:05.04 ID:mYEGxUkG0


晴絵「灼がお嫁さんに来てくれてもいいんだよ?」


灼「わずらわし……」



カン!

200: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:29:50.27 ID:JBqirQPd0


松実館がこの先生き残るためには



201: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:31:31.33 ID:JBqirQPd0

東京にいても、ふとした時に実家のことを考えてしまう

例えば、今みたいにインターハイの会場にいてもだ

普段は家のお仕事のお手伝いをする時間が多いし、どうしても気になってしまう

この前、お父さんに電話した時は松実館では大部屋を使ってインターハイの観戦イベントを開いて大盛況だった、って言ってたけど……

いや、応援してくれたの素直に嬉しいんだけど……つまるところ、近所の人たちと宴会開いただけだよね?


202: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:32:44.42 ID:JBqirQPd0

うちはけっこう歴史のある由緒正しい旅館で、毎年泊まりに来てくれるお客さまもいるけれど……

正直、経営状況は年々悪くなっているような気がする

将来的には……いつか、その、私がお婿さんを取って旅館を継ぐつもりでもある

お姉ちゃんには自分の好きなことをしてほしいもんね

とにかく、そういうことで……しっかりと旅館を続けていくためにもなにか考えないといけないと思う


203: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:33:49.15 ID:JBqirQPd0

「いつもので」

いつもの……常連さんにだけ許された言葉だ

つまり、松実館でも常連さんに対してなにかもっとサービスを……

玄「……いつもの?」

ちょっと待って

ここはインターハイ会場の売店だ

いつもの、なんて言って通じるほど長期的に開いてる店舗でもないのに……

「ん?」

あ、目があった


204: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:35:03.29 ID:JBqirQPd0

玄「……こんにちは」

「……どうも」

この人は……たしか、準決勝で憧ちゃんと打った新道寺女子の江崎さんだ

試合中もジュースを片手に持っていた気がするけど……どれだけ買えばいつもの、で通じるのだろうか

仁美「……飲む?グァバジュース」

玄「あ、そんな……グァバジュース?」


205: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:35:49.27 ID:JBqirQPd0

玄「おお……仄かな甘味と酸味が……」

仁美「うまかやろ?」

……珍しい名前の響きに釣られてつい一口いただいてしまった

これはなかなかのなかなか……じゃなくって

仁美「そいで、どげんかしたと?」

玄「え?」

仁美「うちで良ければ話しば聞くよ?……話して楽になるこつもあるけんね」


206: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:37:15.92 ID:JBqirQPd0

――――――

仁美「なるほど……実家の旅館が」

玄「はい……どうしたらいいのかな、って」

ほぼ初対面の人に話すことでもないと思うけれど、お姉ちゃんや阿知賀のみんなに話して心配かけたくないし……いいよね?

仁美「あの……こん光熱費凄いこつになってるのは?」

玄「え?これくらいじゃないですか?そりゃうちはお姉ちゃんが一年中こたつやストーブ使ってますけど……」

仁美「……なんもかんもお姉ちゃんが悪い」

玄「えぇ!?」


207: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:38:29.12 ID:JBqirQPd0

玄「でも、うちではこれが普通ですよ?」

仁美「松実さんとこで普通でも他所では異常やけんね?」

玄「でも、暖房機具止めたらお姉ちゃんが……」

仁美「……ここは削れんか」

そんな、支出の原因がまさかお姉ちゃんだったなんて……

仁美「んー、新しい客層ば取り込むんは?」

玄「お客さんの新規開拓ですか……」


208: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:39:10.98 ID:JBqirQPd0

玄「でも、いったいどうしたら……」

仁美「娘二人がインターハイ出とうし、お客さんと麻雀打つとか」

玄「なるほど!麻雀好きな人が来てくれるかもしれませんね!」

忙しい中、お客さんと麻雀打てるかはわからないけど良いかもしれない

全国から麻雀好きなお客さんが……和ちゃんたちを招待してみたりしても良いかもしれない

仁美「あとは……そう、マスコットキャラクターば作るとか」

玄「マスコット?」


209: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:41:01.44 ID:JBqirQPd0

仁美「ゆるきゃらとか流行っとるの知っとーと?某市のキャラクターなんか凄い稼いでるらしいし」

玄「ああ……テレビで見たことあります!」

仁美「女性や子供が好きやし、上手くいけばグッズ展開とかして更に収入が!」

玄「ふぅ~む、なるほどなるほど……なるほどー」

仁美「実家にはなんかウリとか、名物とかなかと?」

ウリ、名物……あった!

玄「うちにはお姉ちゃんの素晴らしいおもちがあります!」

仁美「お餅?」


210: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:41:55.75 ID:JBqirQPd0

仁美「松実さん……あー、宥さんの方は餅つきでも趣味にしよっと?」

玄「お姉ちゃんのおもちをついたりこねたり!?」

なんて素晴らしい考えだろうか

おっきくて、やわらかくて……

玄「うへへ……」

仁美「……?」


211: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:43:21.26 ID:JBqirQPd0

――――――

仁美「……そいはいかんやろ」

仁美「あんたお姉ちゃんになんばさせるつもりなん?」

仁美「実家の旅館はそーゆうお店じゃなかやろ」

玄「すみません……少々取り乱しました……」

だって、江崎さんが名物って言うからお姉ちゃんのおもちしかないと思ったんだけど……

仁美「まぁ、よか……とりあえずそいは問題外としても……」

仁美「地元のものとか……あとは分かりやすく名前から取るとか」


212: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:43:57.99 ID:JBqirQPd0

玄「えっと、まつみかんちゃん!とかそういう感じですか?」

仁美「ん……蜜柑のキャラが『お客さんをお待ちしてます!』とかそげな感じで」

なるほど、ちょっとそれっぽいかもしれない

仁美「あ、参考になるかはわからんけど……うちにもマスコットば居るばい」

玄「新道寺女子にマスコットがいたんですか?」

仁美「ん……しんどうくんっちゅうんやけど」


213: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:45:29.12 ID:JBqirQPd0

江崎さんがペンとメモ用紙を取り出してさらさらとイラストを描く

仁美「……どう?」

玄「わぁ~!かわいいですねぇ!」

灼ちゃんなんかは特にこういうの大好きだと思うなぁ

仁美「……パパとママも居るんよ」

玄「家族がいるんですか?」

仁美「そりゃいるよ人の子だから」

玄「ひとのこ?」

頭にリボンをつけている方がママで、首に蝶ネクタイをつけている方がパパらしい


214: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:46:16.35 ID:JBqirQPd0

玄「素敵ですねぇー」

とってもかわいらしい

うちもこういうかわいいキャラクターを作れば新しいお客さまを開拓できるかな?

仁美「…………」

……江崎さんがにやけながら小さくガッツポーズしてる

なにか良いことがあったのかな?

仁美「あ、ちょうどここにしんどうくんぬいぐるみがあるんやけど……」

玄「作ったんですか!?」


215: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:47:28.32 ID:JBqirQPd0

仁美「ん……あんまし気に入ったけん自分で作ったんやけど……松実さんが褒めてくれて嬉しかったけん、もろうてくれん?」

玄「……いいんですか?」

仁美「ん……自分のはまた作ればよか」

玄「……ありがとうございます!いただきますね!」

仁美「それと、良かったら連絡先教えてくれん?」

玄「こちらからお願いしたいです!またアドバイスとかいただきたいです!」

えへへ、しんどうくんプレゼントされちゃった!

私もお友だちが増えて嬉しいよー!


216: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:48:22.76 ID:JBqirQPd0

姫子「あ、江崎せんぱーい!」

仁美「姫子!……そいに部長も」

あちらから駆け寄ってくるのは新道寺の副将・大将の白水さんと鶴田さんだ

どうやら江崎さんを長いこと引き留めすぎたらしい

哩「なかなか帰ってこんから心配……きゃっ!」

白水さんが何かに躓いたのか盛大に転ぶ

そして、手に持ったジュースが宙を舞う


217: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:49:02.99 ID:JBqirQPd0

バシャッ

玄「あ……」

江崎さんから受け取った、しんどうくんぬいぐるみに……

仁美「う、うちらん友情の証が……」

びしょびしょになっちゃった……

……でも、友情の証って言ってくれたのは凄く嬉しいな

哩「あ、えっと……す、すまん!しんどうくんが……」


218: ◆FYW.3i5lks 2014/07/21(月) 14:51:11.17 ID:JBqirQPd0



姫子「死にました」



姫子「おしまい」



哩「死ぬオチはちょっと……」


カン!


226: ◆FYW.3i5lks 2014/07/22(火) 23:51:49.75 ID:54Apt78n0


東京に来てからお気に入りのお散歩コース、ベンチに座ってちょっと一息


あの子は毎日荷物をたくさん持って走っている


つい気になって声をかけてみたんだ



227: ◆FYW.3i5lks 2014/07/22(火) 23:52:38.39 ID:54Apt78n0

宥「あの……亦野さん?」

誠子「はいっ!……あれ?松実さん?」

宥「はい……松実宥です……その、えっと」

……つい話しかけてみたものの、何も考えていなかった

亦野さん困っちゃうよね?

誠子「……すみません!ちょっと急いでるんで!」

宥「あぅ……」

誠子「荷物置いたら戻ってきますから!良かったら待っててください!」


228: ◆FYW.3i5lks 2014/07/22(火) 23:53:34.52 ID:54Apt78n0

どうしよう

特に用事があるわけでもないのに呼び止めてしまった

……しかも、亦野さんはわざわざ戻ってきてくれるらしい

うん、亦野さんはいい人だね

……じゃなくって!とにかく、なにか話題を考えておかないと

誠子「お待たせしましたっ!」

ぅわ亦野さん足早い


229: ◆FYW.3i5lks 2014/07/22(火) 23:54:27.01 ID:54Apt78n0

宥「えと……その、こんにちは」

誠子「こんにちはー」

宥「……あの、忙しいなら私のことは気にしなくてもいいので」

誠子「いえ、大丈夫ですよ。 私は個人戦の地区代表逃してますし……まぁ、うちからは宮永先輩と大星が参加するんで有力選手の牌譜整理したり、調整は手伝ってますけど」

それって結構忙しいんじゃ……

誠子「あ、戻ったときに尭深……中堅の渋谷がお茶淹れてたんで水筒に移して持ってきたんですよ。 あったかいですけど、どうですか?」

宥「……私、あったかいの好きです」

誠子「そうじゃないかと思ったんですよ」

亦野さんがどうぞ、と笑顔で紙コップを差し出してくる

……コップまで準備して来てくれたらしい。 かなり気を遣わせてしまったようだ


230: ◆FYW.3i5lks 2014/07/22(火) 23:55:12.47 ID:54Apt78n0

宥「……おいしいです。 とってもあったかい味がします」

誠子「そう言ってもらえると尭深も喜びます」

亦野さんも嬉しそうだ

渋谷さんとも仲がいいんだろうなぁ

誠子「お茶請けにお煎餅とかどうですか?甘いのが良ければチョコとかも持ってますけど」

宥「えっと、じゃあお煎餅を……」

誠子「りょーかいですっ!」


231: ◆FYW.3i5lks 2014/07/22(火) 23:56:07.52 ID:54Apt78n0

宥「ふふっ……おいしいなぁ」

誠子「たまにはこうしてのんびりするのも良いですね」

今日もお天気だし、とっても気持ちがいい

……亦野さんと違って、私はいっつものんびりしてるけど

誠子「あっ」

宥「どうしたの~?」

誠子「カード、三尋木プロでした!私、ファンなんですよ」

宥「よかったねぇ~」


232: ◆FYW.3i5lks 2014/07/22(火) 23:57:16.72 ID:54Apt78n0

しばらく好きなプロ雀士や日本代表ベストメンバーは誰だ、小鍛治プロが第一線に復帰するって噂が……とか、そんな話で盛り上がる

なんだかとっても話しやすくて、気配り上手な子だ

気がつけばコップはお茶で満たされてるし、お菓子も勧められるままにいただいて……

誠子「宥さん、口元チョコついてますよ」

宥「あ……ごめんねぇ、誠子ちゃん」

誠子ちゃんはサッとハンカチを取り出して口元を拭ってくれて……

あ!いつの間にか名前で呼びあってる!

私もお友だちつくるの上手になってきたのかなぁ


233: ◆FYW.3i5lks 2014/07/22(火) 23:58:29.57 ID:54Apt78n0

宥「えへへ……」

誠子「どうしました?」

宥「なんでもないよっ」

誠子「……ふふ」

誠子ちゃんがそっと頭を撫でてくれる

とっても優しい手つきできもちいいなぁ

……あれ?私、さっきからご主人様にお世話されるわんちゃんみたいになってる?


234: ◆FYW.3i5lks 2014/07/22(火) 23:59:45.22 ID:54Apt78n0

誠子「……あ、すいません!宥さんの方が先輩なのに頭撫でちゃったりして!」

宥「んー?誠子ちゃんの手、きもちいいからもっとしてほしいなぁ」

誠子「……じゃあ、失礼します」

宥「えへへ……誠子ちゃん、こういうのなれてる?」

誠子「……大星とか、なんというか犬猫的な可愛がりかたをしてますけど……それで、つい」

宥「そっかぁ」

大星さん、かわいいもんねぇ

それじゃあやっぱり私も犬的な扱いかなぁ?

宥「わんわん!」

誠子「……かわいい」

えへへ……また撫でられちゃった


235: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:00:47.57 ID:OwN2RDPh0

誠子「えっと、それでどうしたんですか?」

宥「?」

誠子「いや、その……さっき、宥さんに呼び止められたじゃないですか?なにか用があったんじゃないかなって」

宥「あっ」

忘れてた


236: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:01:42.34 ID:OwN2RDPh0

宥「えっとね?……特に用事はなかったの」

誠子「そうなんてすか?」

宥「私、いっつもお散歩してて……ここで休憩してると毎日誠子ちゃんが荷物抱えて走ってたから気になっちゃって……それだけなの。 ごめんね?」

誠子「そんな、謝ることじゃないですよ……宥さんとのんびりできて良かったですし」

宥「そう?……えへへ、ありがとう」


237: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:02:59.76 ID:OwN2RDPh0

誠子「毎日ここら辺走ってたのは……うち、お菓子の消費量とか多くて」

宥「部員さん多いもんねぇ」

誠子「いや、主に宮永先輩が……なんでもないです」

誠子「まぁ、それで買い出しとか私が行ってたんですよ」

宥「……そうなの?」

白糸台の部員さんは会場にも大勢来ているのに、団体戦メンバーの誠子ちゃんが?

誠子「……身体動かしてた方が落ち着くんですよね」

宥「……誠子ちゃん?」


238: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:04:02.03 ID:OwN2RDPh0

誠子「覚えてます?準決勝」

宥「……うん」

私たち阿知賀女子は一位抜けして、白糸台は二位通過だった。 誠子ちゃんは……

誠子「マイナス59400は……さすがに、無いですよねぇ」

宥「……決勝は、良かったと思うよ?」

誠子「私も、思ったよりよく打てたと思いますよ?」


239: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:04:59.78 ID:OwN2RDPh0

誠子「うち……白糸台は複数のチームを組んで、部内戦で最も成績の良かったチームが大会に出るんですよ」

宥「うん……聞いたことあるよ」

誠子「まぁ、宮永先輩が圧倒的すぎてこの三年は実質宮永先輩のチームが大会に出る状態だったんですけど」

誠子「……宮永先輩が一年生でインターハイ優勝してますから、今の一・二年生は先輩に憧れて、って子が多いんですよ」

誠子「もちろん私も例外じゃなくて……虎姫に誘われた時は本当に嬉しくて」

誠子「どの部員も当然、弘世部長と宮永先輩の虎姫入り狙ってましたからね……勝ち続けて、実力を示さないといけなかった……周囲を納得させるだけの力を示さないといけなかったんです」

誠子「私一応、部内のチーム対抗戦でも、対外試合でも、団体戦の副将戦で二位以下なんてあの試合まで取ったことなかったんですよ?」


240: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:05:55.42 ID:OwN2RDPh0

誠子「でも、結局白糸台は準決勝二位通過、優勝も逃してしまって……」

誠子「部の性質上、みんな他チームにライバル意識はありますし……失点量は私が圧倒的ですし、ちょっと居づらいんですよね」

誠子「虎姫のみんなは私を責めたりしないけど……私が気にしちゃうというか、それでみんなもちょっと気まずそうというか」

誠子「あー……ごめんなさい!こんな話を……準決勝から対戦してた宥さんに言ったらダメですよね」

……誠子ちゃん、辛そうだ


241: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:07:11.26 ID:OwN2RDPh0

宥「……いいよ?私が聞いてあげる」

誠子「でも……」

宥「誠子ちゃんは真面目で、しっかりしてるから……回りの子にもそういう,弱いところは見せづらいんだよね?」

宥「チームの子たちにも心配かけたくないんでしょ?私なら、ほら……誰にも言わないから」

宥「んーとね?一回吐き出した方が楽になると思うなぁ」

……私も、お母さんの時はたくさん泣いて、それから少しずつ立ち直っていけたんだもんね


242: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:08:03.30 ID:OwN2RDPh0

――――――

誠子「……ありがとうございます。 ちょっと楽になりました」

宥「えへへ……どういたしまして」

誠子「なんか、宥さんってぽわぽわしてて……守ってあげなきゃいけない感じに見えましたけど……」

誠子「なんというか……やっぱりお姉さんなんですね」

宥「うん!私はお姉ちゃんだよ~?」

誠子「あはは……妹さんが羨ましいです。 私一人っ子ですし……宥さんみたいなお姉ちゃんがほしかったかも」

宥「……それじゃあ、私がお姉ちゃんになってあげる!」

誠子「へ?」


243: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:08:52.16 ID:OwN2RDPh0

宥「ほら、お姉ちゃんって呼んで?」

誠子「え、いやいや!さすがにそれは……!」

顔赤くしちゃって、誠子ちゃん照れてるんだ……かわいいなぁ

宥「いいからいいから……ほら、お姉ちゃんが甘やかしてあげる!」

たまには強引なのもいいよね?

隣に座る誠子ちゃんを抱き寄せて、今度は私が頭を撫でてあげる

誠子「わわっ!」

宥「えへへ……いい子いい子」

誠子「あ……う……」

宥「ほら、ね?」

誠子「お……お姉ちゃん……?」


244: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:09:44.93 ID:OwN2RDPh0

――――――

宥「玄ちゃ~ん!ただいま~!」

玄「おかえり!お姉ちゃん、今日もご機嫌だねっ!」

宥「うんっ!今日は妹ができちゃった~」

玄「ふぇ!?」

宥「ふんふ~ん♪」


245: ◆FYW.3i5lks 2014/07/23(水) 00:10:39.07 ID:OwN2RDPh0


玄「お父さん……いつの間にか再婚したの!?」


宥「!?」


カン!

256: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:22:19.05 ID:oIkfXgDs0


恥ずかしいから誰にも言うつもりはなかったけれど


私はお姉ちゃんが大好きだ



257: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:23:12.27 ID:oIkfXgDs0

私が麻雀を始めたのもお姉ちゃんがきっかけだった

阿知賀女子が晩成を倒してハルエがレジェンドと呼ばれ始めた頃、一緒に戦ってたお姉ちゃんはかっこよかったし、その存在が妹として誇らしかった

そりゃあハルエは一年生で部長でエース、なんて子供でもわかる肩書きと実力の持ち主だったけどさ

私としては……普段いつも遊んでくれる、優しくてニコニコ笑ってるお姉ちゃんが、卓につくと凛々しい表情で華麗に打ち回す姿に憧れたのよね

最初はお姉ちゃんに麻雀を教えてもらって……ハルエがお姉ちゃんの奨めで麻雀教室を開きはじめてからは
シズや玄、それに近所の子供たちを誘ってみんなで麻雀を始めた

……この頃になると、お姉ちゃんは麻雀を打つこともなくなって、毎日家の手伝いをしていたと思う


258: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:23:49.79 ID:oIkfXgDs0

神社は私が継ぐから憧は自分の好きなことを全力で頑張りなさい?

そんなことを言われた記憶がある

私はお姉ちゃんと麻雀を打つことはなくなってきたけど、その代わりにみんなと麻雀を打って……お姉ちゃんとハルエみたいに、シズや玄と一緒に戦っていきたかった

結局私は麻雀を続けるために阿太中に進学したんだけど……

って、今はこの話はいい。 お姉ちゃんの話だ


259: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:24:26.38 ID:oIkfXgDs0

お姉ちゃんは神学――神道では教学って呼ぶらしいけど――の勉強とかもしたのかな?そこら辺は私にはよくわからないけど……

とにかく、要領のいいお姉ちゃんはお祓いとか、そういう作法もすぐに覚えたみたいで実家の神社の手伝いをこなしていた

お姉ちゃんは――身内の贔屓目もあるかもしれないけど――美人だし、優しくて気配りのできる所謂いい女だと思う

雀士としても、女としても私の目標なのだ


260: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:25:20.85 ID:oIkfXgDs0

で、なんで今お姉ちゃんのことを思い出してるのかっていうと……

巴「大丈夫?少し落ち着きました?」

憧「……大丈夫です。 すみません、ご迷惑をかけまして……」

シズと街に出て歩き回っているときに、たまたま永水女子の狩宿さんと神代さんとすれ違って……

こう、神代さんの世話を焼く……と言ったら失礼になるとのだろうか?その狩宿さんの姿がお姉ちゃんと被って――たぶん、これは巫女装束のせいだろう――まぁ、ホームシックとでもいうのか

……ちょっと、泣いちゃった。 街中で


261: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:26:25.84 ID:oIkfXgDs0

それで、気づいた狩宿さんと神代さんに連れられてすぐ近くにあった永水女子の宿泊先に避難させてもらったのだ

お姉ちゃんと会ってないのは二週間ほどだし、そもそも団体戦の後には電話で話したりはしているのに……
高校生にもなって恥ずかしい……!

巴「ちょっとメイク崩れちゃってるから直してきたら?私の道具でよかったら貸しますよ?」

憧「すいません……お借りします」

そういえば、中学上がったぐらいにメイクの仕方もお姉ちゃんに教えてもらったなぁ

……やめよう。 また涙出てきたら困るし


262: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:27:07.89 ID:oIkfXgDs0

隣の部屋からはシズと神代さんの話し声が聞こえる

東京のどこのラーメンがおいしいとか、どこのお菓子がおいしいとか……

食べ物の話しかしてないし……せっかくシード校の、しかも注目選手と話す機会なんだから麻雀の話もすればいいのに

というか、鹿児島代表の利仙さんとも打ったんだし、そういう話題を振っていきなさいよ

巴「足りないものとかありますか?」

憧「えっと、大丈夫です!ありがとうございます」

巴「気にしなくていいですよ? 困ったときはお互い様って言いますし」


263: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:27:54.21 ID:oIkfXgDs0

憧「あの、私の方が年下ですし……」

巴「ふふっ……ごめんね?居心地悪かったかな?それじゃあ、憧ちゃんも言葉遣い楽にしていいからね」

憧「あ……わかりました、えと、巴さん……?」

巴「うん、それでいいよ。なんなら巴ちゃんでも、呼び捨てでも」

憧「さ、さすがに呼び捨ては……」

巴「それは残念だなぁ」

……ちょっとからかわれてる? 見た目はそうでもないけど、今みたいな笑い方とか、やっぱり少しお姉ちゃんに似てるかもしれない


264: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:28:51.09 ID:oIkfXgDs0

巴「ね、憧ちゃん」

憧「なんですか?」

巴「……穏乃ちゃん、心配してたよ? なにかあったのなら話してあげた方がいいんじゃないかな?」

憧「う……」

まぁ、いきなり泣いちゃったしそりゃあシズは心配するだろう

でも、さすがに「もう大丈夫、お姉ちゃんに会いたくなって泣いちゃっただけだから!」とか、言えるわけがない

……うん、絶対無理!そんなの、シスコンみたいじゃないのよ


265: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:29:57.70 ID:oIkfXgDs0

憧「えっと……ほんと、大丈夫なんで」

巴「穏乃ちゃんそれで納得するかなぁ」

……まぁ、しないと思うけど

クスクスと笑う巴さんには、なんだか色々見通されてる気がする

……なんでだろう、お姉ちゃんにはかなわないって感じが巴さんにも発揮されちゃってる?


266: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:31:35.09 ID:oIkfXgDs0

憧「……あの、笑いません?」

巴「ん?それは聞いてみないとわからないかも」

そりゃそうだろうけど……なんだか手玉に取られてる感じがする

宥姉はおっとり系だし、灼さんはしっかりしてるけどあまりからかわれたりはしないし……

あ、そういえば玄も年上だっけ?忘れてた

巴さんは年上のお姉さんって感じするけど、玄は全然そんな感じしないしなぁ


267: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:32:47.19 ID:oIkfXgDs0

憧「……巴さんが」

巴「え……わ、私!?なにかしちゃった!?」

あ、慌ててる……お姉ちゃんとは十歳離れてるけど、巴さんはまだ高校生だもんね

やっぱりお姉ちゃんの方が大人な感じで……じゃなくって!なんかそれだと私がお姉ちゃん大好きみたいだし!

……いや、うん。 好きなんだけど


268: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:33:40.46 ID:oIkfXgDs0

憧「その……巴さんが、ちょっと雰囲気がお姉ちゃんに似てて……」

巴「……ホームシック?」

憧「う……まぁ、そんなところです……ごめんなさい」

巴「謝らなくていいよ?気持ちはわかるしね」

憧「……巴さんもなるんですか?」

巴「家族と離れるのは寂しいよ、やっぱり」


269: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:35:41.70 ID:oIkfXgDs0

巴「……うち、結構特殊でしょ?巫女装束だし」

憧「そうですね……私は実家が神社なんで巫女装束自体は見慣れてますけど」

巴「あ、そうなんだ!っていうかお姉さん思い出したのはそれが原因かな……?」

憧「はい……それはあると思います」

私のなかでは巫女装束ってイコールでお姉ちゃんだし

巴「……でね、うちでは子どもの頃から修行して、姫様のいる神境の本家にお呼ばれするんだけど」

憧「修行……ですか?」

巴「えーと、山に登ったり、滝に打たれたり?」

憧「はぁ!?」


270: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:37:16.30 ID:oIkfXgDs0

憧「え、いやいや……冗談ですよね?」

巴「……やっぱり、普通じゃないよねー」

憧「えっ……だって、いやいろいろ言いたいことありますけど!とりあえず危ないですよ!?」

巴「今思えばそうなんだけど……私も、霞ちゃんもはっちゃんもはるるも、みんなやってたから気づかなかったのよね」

なにそれ怖い

巴「……お姉さんはそういう修行は」

憧「してないですよ!?」

……してないよね?


271: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:38:41.52 ID:oIkfXgDs0

巴「とにかく、そういう修行をしたら親元を離れて本家の姫様に付くから……私もしばらくは両親に会いたいって一人で泣いたから……家族と離れる寂しさはわかるよ?」

憧「でも……巴さんは子どもの頃の話ですよね?私もう高校生ですし……」

巴「私は、いくつになっても家族は大事にした方がいいと思うな」

巴「私なんて一緒にいる姫様達……小蒔ちゃん達が家族同然になっちゃってるから」

巴「最近は両親とも年に片手で数えられるぐらいしか会わないし……」

巴「そういう風習とはいえ、それで平気になっちゃってるのも……なんだか、ね」


272: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:41:18.01 ID:oIkfXgDs0

巴「……お姉さんとは仲良しなんでしょ?それなら良いことじゃない」

巴「それに、私だって霞ちゃんもはっちゃんもはるるも小蒔ちゃんも姉妹みたいなものだけど、みんなのこと大好きよ?」

憧「うぅ……でも、やっぱりこの年でお姉ちゃん好きとか、ちょっと……」

巴「好きってことは恥ずかしいことじゃないよ。今晩にでも一回電話してみたら?お姉さんも憧ちゃんのこと好きだと思うな」

憧「……そうしてみます」

巴「素直でよろしい!……あ、憧ちゃんプリン好き?さっき小蒔ちゃんと買ってきたの……ビンに入ったとろとろプリン」

憧「大好きです!」

巴「ほら、プリンは好きって言えるでしょ?」

憧「あぅ……」

巴「ふふっ……今はっちゃん達お出掛けしてるし、食べちゃえばわからないから」

三人には黒糖でも用意しておくわ、なんて言ってニヤリと笑う巴さんは、やっぱりどこかお姉ちゃんに似てた


273: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:42:22.70 ID:oIkfXgDs0

巴「姫様、穏乃ちゃん、おやつの時間に……あら」

憧「……寝てますね」

巴「ふむ……二個づつ食べても姫様の分は残るわね」

憧「ちょ、巴さん!?」

巴「うん、いつも私ばっかり苦労してるしちょっとぐらい許されるんじゃないかしら……」

憧「いや、でも……」

巴「このプリン、とってもおいしそうじゃない?」

憧「…………」


274: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:43:13.35 ID:oIkfXgDs0

――――――

あの後結局、シズと神代さんが起きるまで巴さんと二人で話して……プリンも二個食べた。 おいしかった。

憧「ただいまー」

宥「おかえり~」

穏乃「今日は永水の人と友達になりました!」

玄「!? 石戸さんを紹介してください!」

穏乃「あ、いや石戸さんには会ってないですけど……」

灼「玄……頼むから問題は起こさないでほし……」

玄には言うなって言ったのに……

まぁいい、とりあえず……お姉ちゃんに電話してみようかな


275: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:44:08.70 ID:oIkfXgDs0

望『もしもし憧?どうしたのー?』

憧「お姉ちゃん!……いや、特にどうということはないんだけど……」

望『んー?お姉ちゃんに会えなくて寂しくなっちゃったかな?』

憧「ちっちちち違うわよっ!!」



憧「切っちゃった……」

穏乃「どうしたの?なんか叫んでなかった?」

憧「あ、いや……今お姉ちゃんに電話してたんだけど……」


276: ◆FYW.3i5lks 2014/07/25(金) 00:45:28.15 ID:oIkfXgDs0

玄「あぁ、憧ちゃん望さんのこと大好きだもんねぇ」

憧「えっ」

宥「仲良しであったかいよねぇ」

憧「ちょ」

穏乃「そういえば憧は昔っからお姉ちゃんお姉ちゃんってよく言ってたよね」

憧「ななななにを」

灼「態度でバレバレだとおも……」

憧「ふきゅ」


カン!



286: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:06:32.81 ID:hGdZxV6X0


大きいことは、いいことだ


……おもちの話です



287: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:07:44.27 ID:hGdZxV6X0

それにしても、でかい

おもちではなく、縦に

豊音「あっ! 松実さんだー! 阿知賀のドラゴンロードだー!」

玄「!?」

情報として知っていても、直接会えば驚きもする

ほぼ2メートルもある人なんて初めて見た

龍門渕の執事さんや井上さん、それにこの間会った清澄の須賀くんが180オーバーでかなり大きく感じたけど……失礼かもしれないが……ちょっと怖いぐらいに大きい


288: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:08:55.44 ID:hGdZxV6X0

豊音「わわっ! どうしてシロと一緒に?」

白望「さっき道端で……ダル……あとよろしく」

玄「えっ!? えっと、小瀬川さんが落ちてたので拾ってきました!」

豊音「わぁ! 凄い凄い! ありがとうございます! あのあの、サインとかもらってもいいですか?」

玄「さ、サインですか?」

豊音「うんっ!大会の時、松実さんちょーかっこよかったよー!」

玄「そ、そうですか?」

全国来てからは一回戦以降いまいち活躍できなかったような……


289: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:10:24.75 ID:hGdZxV6X0

豊音「準決勝であのチャンピオンから直撃取ったりとか!」

玄「……あれは、園城寺さんや花田さんが」

豊音「一回戦では去年の個人戦15位の寺崎さんに勝っちゃったし!」

玄「えっと……」

豊音「なんといっても地区予選で奈良県王者、晩成の小走やえさんにも稼ぎ勝ってるし!」

……公式大会とか疎くてよく知らなかったんだけど、小走さんって有名人だったんだ

というか、初出場で別ブロックだった私の試合をよく知ってるなぁ

白望「その子、なんというか……オタクだから……」

……なるほど


290: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:11:57.14 ID:hGdZxV6X0

豊音「ちょっと! ちょっと待ってて! 色紙持ってくるよー!」

玄「え、いや、姉帯さん!?」

白望「あー……悪い子じゃないから、相手してあげて」

玄「こ、小瀬川さん!? どこに!?」

白望「ダルい……寝る……」

玄「そ、そんな! おもちは……」

白望「おやすみ……」

玄「お、おもち……」

そんな、おもちを楽しみに小瀬川さんを背負ってきたのに……

いや、充分に背中で楽しんだけれども


291: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:13:22.85 ID:hGdZxV6X0

豊音「松実さーん! ……あれ? シロは?」

玄「……疲れたので寝るそうです」

豊音「そっかぁ……せっかく送ってくれたのにごめんね?」

玄「……いえ、まぁ」

旅行帰りだし仕方ない……仕方ないんだ、うん

豊音「それじゃあ、お願いしてもいいですか?」

玄「はい……えと、普通に名前を書けばいいですか?」

豊音「うんっ!」


292: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:15:20.51 ID:hGdZxV6X0

豊音「わぁ! ありがとうございます! ちょーうれしいよー!」

玄「そんな、私のでよければいくらでも……」

それにしても……見た目のプレッシャーに反して随分と可愛らしい人だなぁ

豊音「えへへ、ありがとう! またサインが増えちゃったよー」

玄「また……ってことはたくさんもらってるんですか?」

豊音「対戦相手校の人からはだいたいもらったよー? 二回戦で打った大将さんと、神代さんや原村さんにも!」

玄「和ちゃんもですか?」

豊音「うんっ! 原村さんとはお知り合いなんですか?」

玄「昔……」


293: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:16:50.28 ID:hGdZxV6X0

――――――

豊音「わぁ! それじゃあ原村さんと打つために?ちょー素敵だよー!」

玄「穏乃ちゃんや憧ちゃんと一緒にスタートして……お姉ちゃんと、灼ちゃんが来て……優勝はできなかったけど、とっても楽しかったです」

豊音「うんうん! わかるよー……私も、負けちゃったのは悔しくて、悲しかったけど、それ以上に楽しかったから……」

玄「私たちのインターハイはもう終わっちゃったけど……宮守女子は、個人戦に参加するんですよね?」

豊音「そうだよー? だから、もう少し東京にいるんだー」

玄「阿知賀女子も個人戦は見学していきますから……応援してますね!」

豊音「ありがとー!」


294: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:19:24.91 ID:hGdZxV6X0

豊音「あ、松実さんお菓子でもどうですか? 塞に聞いたらお饅頭があったんだー」

玄「ありがとうございます! お饅頭好きなんです。穏乃ちゃんのお家でも和菓子とか作ってるんですよ」

豊音「高鴨さんのおうちで?」

玄「お土産とかも置いてて……奈良に来ることがあったら是非お買い物していってください! 私のおうちも旅館ですから宿泊先にどうぞ!」

豊音「わぁ! 宣伝されちゃったー! 奈良に行くときは是非お世話になりますね!」


295: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:20:12.16 ID:hGdZxV6X0

――――――

玄「それにしても、どうして私のサインなんか?和ちゃんとかは将来プロになったりしたら価値とか?そういうのも出るかもしれませんけど……」

豊音「えっと……私、土地の事情といいますか、そういうのでなかなか外に出れなかったんだー」

豊音「だから、今回このお祭りに仲間と一緒に参加できたことが嬉しくって……」

豊音「この、皆さんにもらったサインは……その大事な思い出の記念になるんだー」

豊音「それだけで……これは私にとってすっごく価値のあるものだから」


296: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:22:49.29 ID:hGdZxV6X0

大事な思い出の記念……かぁ

玄「……姉帯さんっ!」

豊音「はいっ!?なんですか?」

玄「えっと……ちょっと……あった!」

荷物をごそごそと漁り、取り出したのは……

豊音「……カメラ?」

玄「よかったら、記念写真でもどうですか?」

三月……誕生日に阿知賀のみんなに貰ったデジカメだ


297: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:24:01.18 ID:hGdZxV6X0

玄「私も、思い出とか、記念とか……大事にしたいなって思ってて」

玄「せっかくインターハイをきっかけに、こうして会うことができましたから」

豊音「…………」

玄「……姉帯さん?」

豊音「……ちょーうれしいよー」

玄「姉帯さんっ!?な、泣かないでくださいよぉ……」

豊音「ごめんねー……私、泣き虫で……」


298: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:25:22.36 ID:hGdZxV6X0

豊音「うぅ……よしっ!せっかくの記念写真だから、泣いてちゃいけないよねっ!」

玄「はいっ!笑顔がいいですよね!」

豊音「えへへ……ちょーうれしいから笑顔もばっちりだよー!……それじゃあ、なんの記念にしようか?」

玄「お友だち記念でいきましょう!」

豊音「……うん!」


299: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:26:41.97 ID:hGdZxV6X0

――――――

宥「あれ?玄ちゃんなにしてるの~?」

玄「今日はお友だちができたので、記念に写真をたくさん撮って来たんだ~」

姉帯さんと写真をたくさん撮って、今度改めて会いに行ってデータを渡す予定だ

宮守の皆さんはお疲れのようで既にお休みされてたので一緒に写真は撮れなかったけれど、次に会う約束もできたしその時にまた写真をたくさん撮ればいいよね?

玄「ほら、お姉ちゃん見て見て!宮守女子の姉帯さんとツーショット!」

宥「どれどれ~?」



「「あっ」」

300: ◆FYW.3i5lks 2014/07/26(土) 01:27:25.39 ID:hGdZxV6X0


玄「姉帯さん……大きすぎて首から上が見切れてる……」


宥「あったかくないぃ……」


カン!

316: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:45:35.92 ID:rOAbL9qG0


友達に頼られれば、助けたいと思うのは当然だろう



317: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:46:36.14 ID:rOAbL9qG0

日課になりつつあるお昼前の散歩、いつも通り咲に会いに行く

咲「灼ちゃん」

灼「おはよ……どうしたの?」

咲「あの、そろそろ個人戦も始まるから……よかったら打ってくれないかな?」

灼「ん……いいよ」

実際、全国大会を勝ち抜いただけあって清澄の雀士はレベルが高い

以前お世話になった風越や鶴賀、龍門渕の人たちとも打てるようだし、咲に付き合うことは私にとってもプラスになるはずだ

なにより咲に頼られたのだから、力を貸してあげたい


318: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:47:26.72 ID:rOAbL9qG0

――――――

灼(これは……キツ……)

正直、甘く見ていた

もちろん楽しいし、勉強にもなるけど……まさか咲と天江さんを含む卓で連戦することになるとは……

咲と原村さんが同じ長野代表の福路さんと卓を囲めない分、ローテーションがキツくなるのは理解していたが、何故天江さんまで固定されるのか

まこ「お疲れさん」

灼「あ……染谷さん、ども……」


319: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:48:23.16 ID:rOAbL9qG0

まこ「隣の部屋に軽食と飲み物を用意したんじゃが、休憩するならどうかいのう?」

おなか空いとるじゃろ?

そう言われてようやく気づいたが、時計を見ると昼食には少し遅い時間帯だ

思えば、お昼前から強敵と打ち続けていたし疲労も溜まっている

灼「ありがと……いただきます」


320: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:49:20.13 ID:rOAbL9qG0

まこ「すまんのう……咲と天江さんを相手にするんはキツかったじゃろ?」

灼「……まあ、付き合うって言ったしあの二人や、他のみんなと打つのはいい経験にな……」

まこ「わしが言うのもなんじゃが、強者揃いだからのう……ただ、桁違いに疲れるんがな」

灼「うん、天江さんの支配が……咲も、地区決勝よく勝ったとおも……」

大会前に練習試合を組んだときも龍門渕には勝てなかったし、天江さんが参加してなかったとはいえ福路さんは咲や原村さんを退けて個人戦優勝だ

正直、長野はかなりレベルが高いと思う


321: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:50:08.67 ID:rOAbL9qG0

まこ「……ありがとな」

灼「……?」

なにかお礼を言われるようなことをしただろうか?

まこ「その……最近、咲とよく話してくれとるみたいじゃから」

灼「……お母さん?」

まこ「誰がオカンじゃ!?」


322: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:50:55.46 ID:rOAbL9qG0

まこ「わし、ばばくさいかのう……しかし今更言葉遣いも直せんし……」

……もしや地雷だったのだろうか

というか、ばばくさいとまでは言ってない

まこ「……まあええわ。咲、東京に来てから少し様子がおかしかったんでな」

まこ「チャンピオンのことなんじゃろうが……あまり踏みいったことは聞けんからのう」

灼「ん……私も詳しくは聞いてないし、なんでもない話しかしてないけど」

まこ「……それでも、それで少し楽になっとるようじゃから……ありがとな」

灼「……友だちと、話してるだけだから」

お礼を言われるようなことでもないけど……ちょっと、照れる


324: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:52:20.22 ID:rOAbL9qG0

まこ「ふふっ……しかし、本当ならわしも力になってやりたいんじゃがのう」

灼「……染谷さんは、ちゃんと咲の支えになってると思うけど」

まこ「……ほうか?」

灼「咲は……よく、麻雀部の仲間の話をするよ。 すごく、楽しそうに」

灼「染谷さんの話もたくさん聞いたし……咲は、清澄のみんなのこと大切に思ってる」

灼「だから咲が、みんなの助けが必要になったらきっと話してくれるとおも……」

まこ「ん……そうじゃな」


325: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:53:24.47 ID:rOAbL9qG0

咲の抱える問題がどれ程のものかはわからないし、私が力になれることはないのかもしれないけど……ちゃんと、回りの人たちが心配して見ていてくれてるのを見て少し安心する

まこ「……ところで、咲はどんな話をしたんじゃ?」

灼「んと……染谷さんのことは……」

いろいろ聞いてるけど、総合すれば

灼「……やっぱり、お母さんかな?」

まこ「それはもうええって!」


326: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:54:01.70 ID:rOAbL9qG0

灼「……料理が上手って言ってた。 これも染谷さんが?」

目の前には、片手で食べられる――例えば麻雀を打ちながらでも――おにぎりや、サンドイッチが並んでいる

まこ「打ちながらでも食べれるもん用意しようと思ってな?さっきまでわしも卓についとったから準備が遅れてのう」

まこ「先回りして用意せんと、個人戦に参加する福路さんが準備し始めるけぇね」

たしかに、福路さんが打たないんじゃ本末転倒だ

そういえば、準決勝前に打ってもらった時もお弁当作って来てくれたっけ

灼「ん……おいし……」

まこ「とはいえ、おにぎりやサンドイッチじゃ普通は失敗しようがないからのう……腕前の披露にはならんわ」

……わざわざ普通は、なんて言うのは危ない例が身近にいるのだろうか?


327: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:54:44.43 ID:rOAbL9qG0

灼「あとは……実家が雀荘やってるって聞いた」

まこ「あんまり大きくはないがのう……そういえば、鷺森さんとこはボーリング場じゃったか」

灼「ん……他に娯楽もないし、そこそこ繁盛してるとおも……」

まこ「羨ましいのう……うちも色々工夫はしてるんじゃが……やっぱり今はネットで気軽に打てるからのう」

灼「工夫って、たとえば?」

まこ「メイド服で接客したりとか」

灼「!?」


328: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:55:43.09 ID:rOAbL9qG0

まこ「咲に聞いとらんかったか?」

灼「……冗談かと」

なんというか……染谷さんはそういう突飛なことはしない人だと思ってた

まこ「うちの部長に言われてやってみたら結構ウケてのう」

ああ……竹井さんか。 なんか納得した

まこ「……店の制服なら、かわいい服着る言い訳にもなるしのう」

メイド服着たかったのか


329: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:56:51.97 ID:rOAbL9qG0

まこ「わしはほら、あんまそういうの似合わんと思うし……」

灼「……そんなことはない。 それに、着たい服を着ればいいとおも……」

まこ「ふむ……なるほど」

納得してくれたのはいいが、そんな目で見ないでほしい

かわいいじゃないか。 ライオンTシャツ


330: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:57:45.97 ID:rOAbL9qG0

まこ「あ、風船配ったりもしたのう」

灼「それはいいかも……」

子どもたちは喜んでくれると思うし……ん?

灼「雀荘に子ども来るの?」

まこ「いや、常連に案外好評でな?」

……なにが当たるかわからないなぁ


331: ◆FYW.3i5lks 2014/07/31(木) 23:58:54.05 ID:rOAbL9qG0

まこ「あと、藤田プロがブログで宣伝してくれたのう」

灼「……藤田靖子?プロ雀士の?」

まこ「うちの常連さんでのう」

灼「へぇ……」

素直にすごいな

プロボウラーの常連なんてうちにはいない

……というか、今はプロボウラーなんて名前も聞かない

まこ「お蔭で出前のカツ丼目当ての客が増えてのう」

灼「……それはカツ丼屋の宣伝なんじゃ」


332: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:00:18.53 ID:k74OTdhY0

まこ「まあ、こんなとこかいのう」

灼「参考になった。 ありがと……」

まこ「お?メイド服着るか?なんなら何着か都合しても……」

灼「……それは遠慮する」

さすがに恥ずかしい

というか、ボウリング場の受付にメイド服で座ってたらいろいろおかしくないだろうか?

……ん? 雀荘にメイドがいるのもおかしくないか?

333: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:01:08.16 ID:k74OTdhY0

まこ「……お、卓割れしたみたいじゃし一局打つかのう?」

灼「ん……よろしく」

咲「よろしくね、灼ちゃん」

衣「今日は奇幻な手合いが多くて楽しいぞっ!」

まこ「…………おう、よろしく」

灼「……また、この卓……」


334: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:01:49.63 ID:k74OTdhY0

――――――

疲れた

とにかく疲れた

しかし、実家のためだ。 休むのはやるべきことをやってからだ

灼「ハルちゃん、サインちょうだい」

晴絵「へ?」

灼「店に飾ろうとおも……」


335: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:03:10.56 ID:k74OTdhY0

ハルちゃんは阿知賀のレジェンド……地元の英雄だ

未だに大人気だし、宣伝効果もあるはずだ

晴絵「え、本気? えっと……実業団の時に使ってたのでいいかな?」

灼「! うん! あと、阿知賀のレジェンドでもお願い」

晴絵「レジェンドはさすがに恥ずかしいんだけどなぁ……」

なんて言いつつ、色紙にサッとサインを書いて渡してくれる

さすがハルちゃんかっこいい

灼「ありがと……」


336: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:04:02.47 ID:k74OTdhY0


『博多エバーグリーンズ 赤土晴絵』


『阿知賀のレジェンド 赤土晴絵』


灼「…………」


灼「やっぱり、これは部屋に飾ろう」


カン!

337: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:07:17.67 ID:k74OTdhY0
ゆっくり書きすぎたせいでなんか書きながらいろいろ行方不明になってた気がする…
染谷先輩はいつかリベンジしよう

少し離れますが、あわしずも投下します

338: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:29:29.19 ID:k74OTdhY0
なんか、夏コミに咲のスタッフ本出るらしいですね
コミケとか行ったことないし意味不明で怖いですけど

あわしず投下します

339: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:30:24.94 ID:k74OTdhY0


「強敵」と書いて「とも」と読む


昨日の敵は今日の友って言葉もあるし……そういうものじゃないの?



340: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:31:11.86 ID:k74OTdhY0

穏乃「あ、大星さんこんにちは」

淡「げっ」

……出会い頭にそれは酷くない?

団体戦準決勝、決勝と2回も打った仲だというのに

……もしかして嫌われてるのかな?


341: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:32:29.86 ID:k74OTdhY0

淡「……な、何か用?」

穏乃「いや別に。 見かけたので挨拶しただけで……暑いから飲み物でも買おうかと」

コンビニに入ろうと思ったら入口で偶然会っただけだ

淡「……むっ」

あれ? なんかムッとしてる……というか、口で言ってる

……なんだか機嫌悪いみたいだし、買い物して早く帰ろう


342: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:33:16.86 ID:k74OTdhY0

淡「あ、ちょっと!高鴨穏乃!」

穏乃「なんですか?」

というか、入口に立たれてると中入れないんだけどなー

淡「えっと、ちょっと待って!」

なにやらごそごそと荷物をあさり始めた

淡「じゃーん!」

あ、アイスだ


343: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:34:13.79 ID:k74OTdhY0

淡「ふふん、いいだろー!」

穏乃「いいですねー」

淡「冷たくておいしー!」

……本当においしそうだな

淡「まあ?どうしてもって言うなら分けてやらなくも……」

穏乃「私も買ってこよっと」

「いらっしゃいませー」

淡「……むむむ」


344: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:35:42.60 ID:k74OTdhY0

外は地獄かってぐらい暑かったけど……コンビニは涼しいなー

飲み物は……スポーツドリンクでいっか

あと、大星さんのせいで異常にアイス食べたい

アイス買おうアイス

淡「ちょっと高鴨穏乃!私を無視するなんて……!」

「お客様、店内での飲食は……」

淡「むきー!」

大星さん、なに騒いでんだろ?


345: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:36:50.43 ID:k74OTdhY0

――――――

淡「やっと出てきた!高鴨穏乃!」

穏乃「あれ?大星さんまだいたんですか?」

淡「何その言いぐさは!この暑い中30分も待たせて何やってたの!?」

穏乃「いや、マンガ立ち読みしてたんですけど……もしかして私を待ってたんですか?」

淡「な、なんで私があんたなんか待たなくちゃいけないの!?」

穏乃「それはこっちが聞きたいんですけど……」


346: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:38:09.31 ID:k74OTdhY0

穏乃「っていうか、待つにしても中に入ってれば暑くなかったんじゃ……」

淡「アイス食べてたら追い出されたの!」

穏乃「……食べ終わってから入ればよかったんじゃないですか?」

淡「あっ」

淡「……その話はもういいの!」

気づかなかったのか


347: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:41:56.41 ID:k74OTdhY0

穏乃「……それじゃあ私に何か用ですか?」

私を待ってたってことは……嫌われてるわけじゃないのかな?

淡「……なんで私があんたに用があるのよ!」

あれ? やっぱりなんか嫌われてる?

穏乃「……それじゃあ、帰りますね」

淡「えっ」

穏乃「お疲れさまでーす」

淡「ちょ、ちょっとぉ!」


348: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:43:03.02 ID:k74OTdhY0

穏乃「……暑いなぁ」

……どうしよう

淡「ほんと、勘弁してほしいよね!だいたいなんで私が買い出しなんか……」

なんか、大星さんついてきてるんだけど

穏乃「……普通、一年生が買い出しとか行くんじゃないですか?」

淡「なに?気になる?独り言だったんだけどなー!まあ?どうしても気になるって言うなら答えてあげてもいいけど?」

うわぁ、ちょっとめんどくさい


349: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:44:50.04 ID:k74OTdhY0

穏乃「…………」

淡「どうしても気になるって言うなら答えてあげてもいいけど!?」

穏乃「いや、結構です」

淡「……最近亦野先輩が買い出しに言ってるんだけどさー」

話したいなら普通に話せばいいのに……

淡「亦野先輩お菓子とか全然知らないんだよねー」

淡「私とテルーのリクエストに答えきれないって言うかさー」

穏乃「……最初っから大星さんが行けばいいんじゃないですか?」

ちょっとムッとする

先輩をパシりに使うのはどうなんだろうか


350: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:46:05.31 ID:k74OTdhY0

淡「は? なんで? 私の方が麻雀も強いし、暇な亦野先輩が行けばいいじゃん」

穏乃「なんですか? その言い方は……」

淡「だって本当のことじゃん」

穏乃「たとえそうだとしても先輩に……」

淡「だいたい亦野先輩が個人戦選手は練習しろ! って自分が行くって言い出したんだし……」

……それならそうと余計なこと言わなきゃいいのに


351: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:47:08.36 ID:k74OTdhY0

淡「そうだ! 個人戦!」

穏乃「どうかしたんですか?」

淡「準決勝ではちょっと……ほんとにちょっとだけやられたけど! 決勝では私が勝ったから!」

淡「まだ一勝一敗!決着は個人戦でつけるからね!」

……もしかしてそっちが本題だったのかな?

穏乃「……残念だけど大星さん」

淡「なに?」

穏乃「私個人戦出ません」

淡「ぅえ!?」


352: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:48:09.83 ID:k74OTdhY0

淡「え?え、なんで!?」

穏乃「いや、なんでと言われても……」

淡「あっ! さては予選敗退!? これは不戦勝で私の勝ち……」

穏乃「いやその、予選も参加しなかったので……」

淡「なんで出てないの!? って言うか! それじゃあ奈良は誰が代表なのさ!?」

穏乃「晩成高校の小走やえさんとか……」

淡「知らないよそんなやつ!」


353: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:49:42.24 ID:k74OTdhY0

穏乃「知らないのにそんなやつって……というか、王者晩成の小走さんといえば結構有名だと思うんですけど」

淡「王者? ふふん、うちに高校生一万人の頂点、チャンピオンのテルーがいるもんね!」

いや私に勝ち誇られても……

というか、晩成は赤土先生の年まで連続出場して、その後も勝ち続けてる全国区の学校なんだけどなー

穏乃「……今年の団体戦は清澄に持ってかれちゃいましたけどね」

淡「ぐぬっ」


354: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:50:54.18 ID:k74OTdhY0

淡「……むー!サキにもちょっとやられただけで!まだ個人戦があるから勝負がついたわけじゃないし!」

穏乃「はぁ」

淡「っていうか! 同学年だから来年も再来年も打って私が勝つから実質勝ちだし!」

穏乃「へぇ」

淡「同学年といっても私は実力でいえば高校100年生だからその差は99年分だけどね!」

穏乃「すごいですね」

淡「そう! すごいの!」


355: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:52:03.50 ID:k74OTdhY0

淡「それにそれに……」

うーん……大星さんに嫌われてるのかと思ったけど……

もしかして、ただ構ってほしいだけなのかな?

淡「ちょっと! 聞いてんの!?」

穏乃「あ、聞いてますよ」

淡「そう? それでね? 私は……」

……そう考えたらなんか大星さんかわいく見えてきたな

桜子とかひなちゃんみたいな?

こう、妹分的な……


356: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:52:56.63 ID:k74OTdhY0

淡「じゃあ、今から雀荘行って打とう!」

穏乃「あ、はい……ん?」

どこがどう繋がって雀荘に?

淡「ほら、早く行こっ! 一応言っとくけど、私はあんたのことなんかライバルとか思ってないからね!私の方が100倍強いし!」

……これは、ライバル視されてるってことかな?


357: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:54:13.67 ID:k74OTdhY0

穏乃「……よぉーし! それじゃあ私も最初から100速に仕上げて全力で行きますよ!」

淡「むっ!それじゃあ私はその100倍の10000速でボコボコにしてやるから!」

穏乃「じゃあ私は更にその100倍の1000000速で!」

淡「ならその更に100倍の……いち、じゅう、ひゃく……とにかく!私はもっとすごいから!」

燃えてきた!沸々と煮えたぎってきた!

穏乃「あ、大星さん荷物いいんですか?」

淡「んー……全部お菓子だし後で一緒に食べよっ!」

穏乃「はい!」


358: ◆FYW.3i5lks 2014/08/01(金) 00:54:54.83 ID:k74OTdhY0


穏乃「大星さん!」


淡「なに?」



穏乃「麻雀って楽しいですよねっ!」


淡「とーぜんじゃん!」


カン!

371: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:43:46.47 ID:Gf0sb2Lx0


昔は、なにかあるといつも玄ちゃんに助けてもらってたっけ


でも、やっぱり私はお姉ちゃんだから……助けられるより助ける側になりたいな



372: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:44:50.71 ID:Gf0sb2Lx0

宥「あの……どうしたの? 大丈夫?」

知らない人に声をかけるのはやっぱり少し緊張する

でも、泣きそうな女の子を放っておけないよね?

「うぅ……先輩と一緒にインターハイの応援に来たんですけど……はぐれてしまったのです」

宥「えっと、電話とか……連絡手段はあるかな?」

「電話……充電切れてました」


373: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:46:01.49 ID:Gf0sb2Lx0

宥「番号がわかるなら、私の電話貸すよ?」

「えっと、ごめんなさい……わからないです……」

宥「そっかぁ……」

困ったなぁ……こういう時にパッと解決できればかっこいいんだけど

宥「あ、私は松実宥といいます。 よかったら名前を教えてもらってもいいかな?」

マホ「夢乃マホ、中学二年生です!」


374: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:47:08.19 ID:Gf0sb2Lx0

宥「マホちゃんかぁ……よろしくね」

マホ「はいっ!よろしくお願いしますっ!」

とっても元気のいい返事だ

いつの間にか笑顔でいっぱいになってるし、少しは安心してもらえたのかと思うと私もひと安心だ

宥「ねぇ、インターハイの応援に来たって言ってたけど、もしかして麻雀かな?」

マホ「はい!長野から和先輩の応援に来ました!」

宥「長野の和先輩……って、昨年のインターミドルチャンピオンの原村さん?」

マホ「はい!マホは中学の後輩なんです!」

……もしかして、解決したかな?


375: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:48:36.28 ID:Gf0sb2Lx0

宥「私、奈良の阿知賀の選手で……原村さんとも一応知り合いだし、泊まってるホテルなら案内できるよ?」

マホ「本当ですかっ!?……そういえばマホ、松実先輩が打ってるのテレビで見ました!」

宥「本当?私、どうだったかなぁ」

マホ「すごかったです!ぽかぽかした感じのがぐわーって来てどーん!ってなってて……憧れちゃいます!マホもあんな風に打ってみたいです!」

宥「えへへ……そうかなぁ」


376: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:50:18.57 ID:Gf0sb2Lx0

っと、浮かれてる場合じゃなかった

まだ問題は解決してないし……

宥「とりあえず原村さんに連絡しておいた方がいいよね?」

マホ「わわっ!言われてみるとそうですね!忘れてました!」

宥「それじゃあ電話してみるから、ちょっと待っててね」

ポケットから携帯電話を取りだし、原村さんに電話を……

宥「…………」

そういえば清澄の人たちに会いに行ったときは、染谷さんや福路さん、それに龍門渕の執事さんがこたつやらなにやらをパッと用意してくれたからのんびりし通しで連絡先も交換してなかったような……


377: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:52:06.00 ID:Gf0sb2Lx0

マホ「松実先輩?どうかしましたか?」

宥「え!?いや、その……ごめんね?ちょっといい天気だからぼーっとしちゃった」

マホ「あ!それわかるのです!マホもよくぼーっとしちゃってムロ先輩に叱られてしまうのです……」

なんとか誤魔化せたみたいだ

だけど、このままだとどうにもならないし……こうなったら



玄『もしもしお姉ちゃん?』


宥「くろちゃん助けてぇ……」


378: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:52:48.84 ID:Gf0sb2Lx0

――――――

結局、玄ちゃんに頼ってしまった

お姉ちゃんなのに情けないなぁ

マホ「あの、どうでしょうか?」

宥「……もう大丈夫! 原村さんの方にも連絡がいったはずだし、一緒に来た……ムロさん?にも伝わると思うよ~」

マホ「わぁー!ありがとうございます!松実先輩頼りになりますっ!かっこいいですっ!」

こう素直に褒められると……ズルしちゃってるしなんとなく罪悪感が……


379: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:53:31.54 ID:Gf0sb2Lx0

宥「……それじゃあ、清澄の宿泊先まで送るね」

マホ「お世話になりますっ!」

ぴょこんぴょこんと跳ねて感情を表す様子は元気いっぱいで穏乃ちゃんを思い出す

私が穏乃ちゃんに思うように、原村さんもマホちゃんをかわいい後輩に思ってるのかもしれないなぁ


380: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:54:26.63 ID:Gf0sb2Lx0

宥「マホちゃんも麻雀を打つの?」

マホ「はい!……あまり上手にできないですけど」

マホ「一生懸命頑張ってるんですけど……毎回なにかチョンボしてしまうのです……」

……それはなんとも、大変だなぁ

マホ「うぅ……どうすればいいのでしょうか……」

すっごく悩んでるみたいたし、なんとか励ましてあげたいなぁ


381: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:55:32.15 ID:Gf0sb2Lx0

宥「うーん……それじゃあ反対に、マホちゃんが得意なことってなにかな?」

マホ「得意なことですか?」

宥「そう、得意なこと」

マホ「えっと、えっと……ちょっと違うかもしれないですけど……」

宥「なぁに?」

マホ「マホは物真似が上手だって言われます!」

宥「……物真似?」

マホ「はい!」


382: ◆FYW.3i5lks 2014/08/05(火) 23:59:56.19 ID:Gf0sb2Lx0

麻雀で、物真似?……ちょっとよくわからないなぁ

宥「……たとえば、どういうことかな?」

マホ「んーと……たとえば私がタコスを食べると、ゆーき先輩みたいにタコスぢから全開になれるのです!」

宥「へぇ……」

つまり……麻雀の特性のようなものを物真似するってことかな?

宥「……え? そ、それって凄いことだよマホちゃん!」

マホ「そうなんですか?」


383: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 00:01:22.58 ID:BozX8Bh50

インターハイでいろんな人と打ったけど、たとえば玄ちゃんとチャンピオンの真似をしながら打つことができるとしたら……

マホ「マホがかっこいいって思った打ち方を真似しようとするとできる時があるのです」

マホ「それでも対局中に一回ぐらいしかうまくいかなくて……和先輩には真似ばっかりしてないで基本をしっかり頑張りなさい、って叱られてしまうのですけど……」

宥「…………」

つまり、力になにか縛りがあるのかな?

赤土先生に相談して研究してもらえばもうちょっと詳しくわかるかも……

マホ「松実先輩?」

宥「……あ、ごめんねマホちゃん」


384: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 00:02:12.32 ID:BozX8Bh50

うーん……私がいろいろ言っちゃってもいいのかな?

原村さんたちが指導してるなら、よそ者の私が口を出すのも悪いし……

宥「そうだなぁ……私は、マホちゃんが楽しく打てるのが一番だと思うな」

宥「だから、今言ってたみたいに真似っこして打つのもいいと思うし……原村さんに言われているみたいに基本を身につけるっていうのもいいと思うよ?」


385: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 00:03:02.34 ID:BozX8Bh50

マホ「マホは……やっぱり先輩たちみたいにかっこよく打ちたいです」

マホ「それで、先輩たちみたいに仲間たちと全国優勝するのがマホの夢なのです!」

宥「うん、得意なことを伸ばすのもとっても大事なことだと思うし……そのために頑張るのはとってもいいことだと思うな」

宥「……でも、団体戦でチョンボしちゃうと仲間に迷惑かけちゃうから気をつけないとね?」

マホ「あぅ……気をつけます」


386: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 00:04:45.14 ID:BozX8Bh50

これくらいなら、言ってもいいよね?

マホちゃんが自分で考えることも大事だと思うし……

宥「あ、見えてきたよ……ほら、あそこ」

マホ「あ! 和先輩! ムロ先輩!」

裕子「あ!じゃないだろマホ!ふらふらしないでちゃんと着いてこいって言っただろ?」

マホ「す、すみません……」

和「松実さん、わざわざすみません。 後輩が迷惑をかけてしまって……」

宥「ううん、私も散歩中で……特に用事もなかったから気にしないで」


387: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 00:06:01.92 ID:BozX8Bh50

マホ「松実先輩! ありがとうございました! とってもとっても助かりました!」

宥「どういたしまして……それじゃあ、またね」

マホ「えっ!? 帰っちゃうんですか……?」

宥「え……だって……」

和「良かったら、少し寄っていってください。 お茶ぐらいは出せますから」

宥「……それじゃあ、少しだけ」

マホ「わーい! マホ、松実先輩と打ってみたいです!」

裕子「マホ、ただでさえ迷惑かけたのにあんまりわがまま言うなって」

宥「あ、いいよいいよ! 私もマホちゃんと打ってみたいなぁ」


388: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 00:06:56.96 ID:BozX8Bh50

マホ「わーい! 松実先輩松実先輩! どうやったら松実先輩みたいに打てますか?」

宥「えっと……私は、あったかいの来て~って思いながら打ってるけど……」

マホ「なるほど……」



マホ「それじゃあマホ、とりあえずマフラー買ってきます!」


裕子「夏場にマフラーは売ってないよ!」


カン!

393: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:17:19.68 ID:BozX8Bh50


女子高生にもなって普段着ジャージはやめなさい!


そんな風によく憧に怒られるけど……


動きやすいし、この格好が好きなんだからいいじゃないか



394: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:18:16.46 ID:BozX8Bh50

穏乃「いいですよね?ジャージ!」

一「ボクもジャージ自体はいいと思うけど……まあ、もう少しお洒落してみてもいいんじゃないかな」

穏乃「でも今日のジャージはよそ行き用だからちょっと素材に違いが……」

一「なるほどね……こう、見えないお洒落ってやつ? 見えてるけど」

穏乃「そんな感じです! 普段のは山も登れるくらいに丈夫なやつなんですけど……」

一「いくら丈夫でもその格好で登山は本当に危険だからダメだよ!?」


395: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:19:26.60 ID:BozX8Bh50

……まあたしかに、お洒落する事自体に興味がないわけではないし、ジャージとはいえいろいろ気は遣ってるんだけど……普段ジャージを着ない憧にはなかなか理解してもらえない

……それにしても国広さんの私服はお洒落だ

結構肌出てるから山は行けなそうだし、手枷なんて私だったらちょっと恥ずかしいけど……攻めのファッションってやつだよね

一「あ、服装と言えば鷺森さんってさ」

穏乃「灼さんですか?」



一「センスいいよね」

穏乃「かわいいですよね!」


396: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:20:17.89 ID:BozX8Bh50

一「最近よくボクらの宿の方に来てるからよく見かけるんだけどさ……」

穏乃「宮永さんと話に行ってるみたいですねー」

一「うん、それでさぁ……この前鷺森さんが着てたシャツの三つ首のうさぎって」

穏乃「うさギドラちゃんですね!みんなで大阪行ったときに買ったんですよ」

一「大阪かー……ネットとかで探せば似たようなの見つかるかなー」

穏乃「あれいいですよね!私は左の頭が凛々しくてかっこいいなって思うんですけど……」

一「わかるわかる! でもボク的にはやっぱり右の頭のキュートさがたまらないっていうか……」


397: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:21:09.17 ID:BozX8Bh50

ヤバい……!国広さんと話すの楽しい!

話が合うっていうのはいいね!

そりゃ憧は親友だけどジャージに対する情熱を理解してくれないっていうか……

穏乃「……あ! あそこですね、神代さんに教えてもらったお菓子屋さん!」

一「みんな待ってるしパパっと買ってこうか」

一「それにしても阿知賀のみんなは顔広いよね……大阪の荒川さんたちとも打ったんでしょ?」

穏乃「いやーたまたま縁がありまして……元々は赤土先生の顔の広さからですかねー」


398: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:22:03.30 ID:BozX8Bh50

「おや?阿知賀の高鴨さんではありませんかー?」

穏乃「……あ、永水の薄墨さんですか? こんにちは!」

初美「こんにちはー! 先日は姫様と巴ちゃんがお世話になったそうで……」

穏乃「いえいえ! こちらこそお世話になってしまって……」

初美「そちらの方は……どこかで見かけたような気もするのですが……?」

一「はじめまして、長野の龍門渕高校、二年の国広一です」

初美「ああ! 龍門渕の……去年のインターハイの放送で見たんですねー」


399: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:23:06.51 ID:BozX8Bh50

初美「しかし……長野の個人戦代表は風越の福路さんと、清澄の原村さん、宮永さんではありませんでしたかー?」

一「長野はわりと各校仲良くて……みんなで応援に出てきたんですよ」

初美「それはいいですねー! うちはぽっと出ですし、赤山なんかには敵視されてるような気もしますよー」

穏乃「この前藤原利仙さんと打ちましたけど、敵視というかライバル視って感じでしたよ?
うちも晩成が壮行試合してくれたぐらいで県内で仲いいとこって他にありませんねー」

一「長野は決勝参加の四校で合同合宿なんかもやってるから……」


400: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:24:35.01 ID:BozX8Bh50

初美「……あれ?それじゃあお二人はどういう繋がりですかー?」

一「阿知賀とは全国前に練習試合をしてて……阿知賀と原村さんが個人的に友人っていうのもありますね。 龍門渕は清澄と同じ宿とってますから」

穏乃「集まって麻雀打ってるので、おいしいお菓子でもと思いまして」

初美「そういうことですかー! あ、私のお薦めはこっちとこっちと……」

穏乃「ありがとうございます! えっと、どれくらい買ってけばいいんでしたっけ?」

一「今日は……長野三校に阿知賀のみんな、萩原さんと須賀くん、久保コーチに赤土先生で22人かな?」

穏乃「よーし……それじゃあ、棚のそこからこっちまで全部ください!」

初美「おお……豪快ですねー」

穏乃「一回言ってみたかったんです!」


401: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:25:23.60 ID:BozX8Bh50

初美「それにしても……」

穏乃「どうしました?」

初美「国広さん、素敵な服を着てますねー」

そこに目をつけるとはさすが薄墨さん、お目が高い

一「わかるんですか!?」

初美「そりゃあわかりますよー! 特にその手枷なんて攻めに攻めてますねー」

一「えへへ……これ、大事な人にもらったものなんですよ」


402: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:26:52.81 ID:BozX8Bh50

一「それに、そんなこと言ったら薄墨さんだって……その巫女服! 凄いハイセンスな着こなしじゃないですか!」

初美「おお……わかってくれますかー! これはかなり自信あるんですよー!」

穏乃「その短い袴とかすっごくかわいいです!」

初美「えへへ……そうですかー? 高鴨さんもそのジャージかなりいいやつですよねー?」

穏乃「そうなんですよ! いやージャージとはいえやっぱりこだわりを持ってですね……」

一「ノースリーブも夏らしさがあっていいよね」

403: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:27:51.62 ID:BozX8Bh50

――――――

穏乃「……あれ? 気づいたら戻って来ちゃいましたね」

初美「あらら……すみません、楽しくってつい着いてきちゃいましたよー」

一「よかったら少し寄っていきませんか?」

初美「是非そうしたいところですが……これ以上遅くなっちゃうと霞ちゃんたちに心配かけちゃいますからねー……そろそろおやつの時間ですし」

穏乃「そうですか……それじゃあ、また今度遊びに来てくださいね!」

一「ボクらも個人戦終わるまで東京にいるんで……」

初美「わかりましたよー! 今日は穏乃ちゃんと一ちゃんに会えてよかったですよー!じゃんけん負けて買い出し担当になったときは厄日かと思ったんですけどねー」


404: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:28:56.11 ID:BozX8Bh50

灼「あ……おかえり」

穏乃「灼さん! どうしたんですか?」

灼「遅いから迎えにいこうかと……」

一「ああ、ごめんね?心配かけちゃったかな?」

初美「鷺森さん! はじめましてですよー」

灼「あれ……永水の薄墨さん?こんにちは」

穏乃「お店で会って意気投合しちゃって……ファッションの話とかで盛り上がっちゃいました!」

灼「穏乃が? めずらし……」


405: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:29:51.97 ID:BozX8Bh50

穏乃「私だって一応いろいろ考えてますからね!」

初美「すっかり趣味が合っちゃいましたよー」

一「ただ、そこらのお店とかだとなかなかボクら好みのがなくってね……」

灼「……そういうことなら、心当たりがある」

初美「ほんとうですかー!?」

一「えっ!?ボクも気になる!」

穏乃「どんなところなんですか!?」

灼「お店じゃないんだけど……ちょっと待って」


406: ◆FYW.3i5lks 2014/08/06(水) 22:30:35.10 ID:BozX8Bh50



灼「――そういうわけでこういう服が欲しいんだけど……」



揺杏『マジやべぇ』



カン!

412: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 00:51:58.42 ID:6JxqTD9v0


シズが服を買いに行きたい、だって!


やっと私の願いが通じたんだ!


かわいい服をたくさん選んであげて……とにかく、今日は一日着せ替え人形にしてあげるわ!



413: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 00:53:13.10 ID:6JxqTD9v0

……そういう予定だったんだけど

憧「あの……シズ? 今日は服を買いに来たのよね?」

穏乃「そうだよ?」

きょとんと首をかしげる仕草は文句なしにかわいいんだけど……

憧「……えっと、お店はここでいいの?」

穏乃「うん! やっぱり都会のお店は大きいね!」

いや、たしかにお店は大きいけどそこじゃなくって

憧「ここ、スポーツ用品店じゃない?」

穏乃「そうだけど?」


414: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 00:54:13.66 ID:6JxqTD9v0

憧「……今日は服を買いに来たのよね?」

穏乃「それさっきも聞いてたよ? 大丈夫? 疲れてるんじゃない?」

憧「……たった今、急に疲れが出てきたというか……」

これは、もしかしてアレか

憧「……ジャージ買いに来たの?」

穏乃「うん!」

わぁいい返事


415: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 00:55:27.85 ID:6JxqTD9v0

憧「……お洒落したいって言ってなかった?」

穏乃「私、国広さんや薄墨さんと話して気づいたんだよね……やっぱりジャージでもお洒落はできる!」

よりにもよってその二人か!?

憧「あの二人は……なんというか、とってもセンスがズレてるでしょ!?」

穏乃「ちっともぼかせてないよ!?」

憧「どうして……そういう時は私に最初に相談しなさいよ!?」

穏乃「だからこうやって憧を誘って来たんじゃん」

憧「そうなんだけど……もっと早いタイミングでと言うか……」


416: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 00:57:05.82 ID:6JxqTD9v0

お洒落したいと思ってくれたのはいいんだけど……

シズが国広さんや薄墨さんに感化されてしまったというのは……正直あまり好ましくない

どう考えてもあの二人のファッションは……あー……そう、尖りすぎだろう

穏乃「憧……私、わかっちゃったよ」

憧「なに?」

穏乃「はっきり言って、憧とはセンスが合わない!」

憧「!?」


417: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 00:57:58.51 ID:6JxqTD9v0

穏乃「こういうことは、国広さんや薄墨さん……それか灼さんに相談する!」

憧「ちょ……待って待って待って!考え直して!その人たちは……かなりマイノリティな趣味であって……」

穏乃「? これだけ趣味の合う仲間がいるんだからそんなことないでしょ? っていうか、和だってフリフリのフワフワだったじゃん!」

憧「だから……!」

マイノリティなのを自覚しているのとしていないのではまた意味が変わってくると言うか……

穏乃「私はジャージ買ってくるから!」

憧「ちょっと待っ……あーもう! 私はシズに似合う服選んでくるからね! 絶対更正させてやるんだから!」


418: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 00:59:29.00 ID:6JxqTD9v0

――――――

憧「どうしようかなぁ……」

本当だったらシズを連れ回して、勢いでスカートとか買わせちゃうつもりだったんだけど……

たぶん私がここで買っていっても山行くのに着ていけないとか、そんな理由で嫌がられると思うし……

でもシズの足、筋肉ついてるわりに綺麗なんだよなぁ……それならパンツルックでシズが好みそうなのを……いや、足が出すぎるようなのを選んでまたあの人たちに変に感化されても困るし……

うーん……でもそんなことばっか言ってたら服なんて選べないし……

ドンッ

「きゃっ!」

憧「うわっ! ごめんなさい! 考え事してて……」


419: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 01:00:01.39 ID:6JxqTD9v0

どうも、考え事をしてると視野が狭まるらしい

足元には……小学生ぐらいかな? 女の子がしりもちをついてる

憧「ごめんねっ!大丈夫?」

「ったた……大丈夫、ですけど……」

憧「ほんとにごめんね? 一人? お母さんは?」

「……あの、私、高三なんで……」

憧「へ? ……いやいや、どう見たって小三……」

「うるさいそこ!チビって言わない!」

憧「まだ言ってないでしょ!?」


420: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 01:01:08.56 ID:6JxqTD9v0

「人を見た目で判断しない! そりゃあたしかに、ちょっとばかり、少しだけ、他の人より背が低いけど……」

憧「は、はぁ……」

なんか変な子に捕まってしまった

だいたい、こんなちんまくてかわいい高三が……

あ、でも薄墨さんや天江さんも年上か

……ん? そう考えるとこの子どっかで見たような……

「こら! 人の話を聞くときはちゃんと目を見て!」

憧「す、すみませんっ!」

……この感じ……えっと、どこか試合の映像で……

憧「……宮守女子の、鹿倉胡桃さん……?」

胡桃「……! ああ、どこかで見たと思ったら阿知賀の新子憧ちゃんだ!」


421: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 01:02:28.44 ID:6JxqTD9v0

憧「あの、すみません! 失礼なことを……」

胡桃「まぁ……よく言われるし、気にしてないけど……」

いやいや、思いっきり気にしてるじゃないですか……

胡桃「それにしても、よく私のこと覚えてたね? 二回戦負けだったのに……」

憧「あ、私中堅なので……竹井さんチェックするときに二回戦の映像も見たから……」

胡桃「なるほどね! 勉強熱心で偉い偉い!」




422: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 01:03:50.64 ID:6JxqTD9v0

憧「鹿倉さんはお買いものですか?」

胡桃「そうそう! 東北のド田舎からせっかく出てきたんだし、かわいい服買わなきゃね!」

憧「服……」

胡桃「そりゃ去年の服も着れるけど! 」

胡桃「はやりとか!!」

胡桃「あるんだから!!」

憧「違います! そういう意味じゃないですから! 怒らないでください!」


423: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 01:04:45.70 ID:6JxqTD9v0

――――――

胡桃「つまり……親友が変なファッションにはまって困ってると」

憧「端的に言うとそういうことで……なにかいい案はありませんかね?」

胡桃「うーん……あ!」

憧「考えつきました!?」

胡桃「あそこのスカート! 憧ちゃん似合うんじゃない?」


424: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 01:06:41.95 ID:6JxqTD9v0

あ、かわいい

憧「えー? でも、ちょっと丈短すぎじゃないですか?」

胡桃「大丈夫大丈夫! 憧ちゃんなら全然平気! 足細くて綺麗だし!」

憧「ひゃっ! ちょっと、太もも撫でないでくださいよぉ」

胡桃「減るもんじゃないし気にしないの! あーあ……私や豊音は体型の問題で着れるもの限られるし羨ましいなぁ」

憧「でもでも胡桃さんみたいに……えっと、小柄でかわいらしいからこそできる格好っていうのもあるじゃないですか?」

胡桃「園児帽とスモックは着ないよ!?」

憧「いや着せませんよ!?」

……着せられたことがあるのだろうか?

425: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 01:07:29.50 ID:6JxqTD9v0

……そうなのよね

私はこういう……くだらないことでもいいから、ファッションに関する話をもっとしたいのであって

灼さんはちょっとズレてるし、宥ねえは超厚着だし、玄と服の話すると胸のことばっか言われるから不快だし……シズには、なんというかまっとうな道に来てほしかったんだけど……

うーん……吉野に戻ったら久々に初瀬でも誘って出掛けようかな

胡桃「そういえば、高鴨さんのことだけど……足元から攻めるのはどう?」

憧「え……?」


426: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 01:08:24.61 ID:6JxqTD9v0

胡桃「山とか登ったり、運動する用のじゃなくってかわいい……ヒールとかでもいいんじゃないかな?そういう靴を用意して……」

憧「……いくらちょっとアレなセンスでも足元はそうそういじれない?」

胡桃「そう! それで靴に合わせてかわいい服を用意してあげて、セットで着てもらうの!」

胡桃「靴を先に見せて……気に入ってもらってから服を出すの! セットのコーデって言えば着ようかなって気持ちになるかもしれないし……お洒落したいって気持ちがあるなら突っぱねられたりもしないんじゃないかな?」

おお……なんか、そう言われるといけそうな気がするかも!

憧「胡桃さん天才! ありがとうございます! その手でいきます!」

胡桃「高鴨さんってジャーでポニテの子だよね? 私も選ぶの付き合っちゃうから!」


427: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 01:09:57.13 ID:6JxqTD9v0

――――――

完璧だ……これならシズをこっちの道に引き戻すことができるはず……

「――これをこっちの方に」

「それならむしろ――」

憧「……?」

なんか騒がしいけど、どうかしたのかな?

まあいい、シズが道を誤らないうちに引き戻すんだ!


憧「ただいまー!シズー? ちょっといい?」



428: ◆FYW.3i5lks 2014/08/08(金) 01:12:43.56 ID:6JxqTD9v0

灼「よく旅館とかに置いてある熊の置物ってすごくかわいらし……」

穏乃「わかります!しかも鮭獲ってるのがワイルドでいいですよね! それでいきましょう!」

揺杏「マジで!? ちょーウケる! よっしゃ道民なめんなよー! 熊ぐらいちょいちょいのちょいだぜー! 必殺祭り縫い!」

一「それ祭り縫いじゃ無いよね!? あ、薄墨さんの服ってここら辺の布地もっと削れるんじゃないかな?」

初美「いいですねー! 岩館さんお願いしますよー!」

揺杏「あっはっは! まだ削んの!? センスマジでやべぇ! 頭おかしくなりそう!」

憧「」


手遅れだった


カン!

432: ◆FYW.3i5lks 2014/08/09(土) 00:56:59.00 ID:kOmeqCpW0
揺杏「ただいまー」

誓子「おかえりー……なに? その布切れ」

揺杏「え? いやこれ服らしいよ? センスマジヤバくね?」

由暉子「先輩が作ったんじゃないんですか?」

爽「じゃあこの前ポーカーの罰ゲーム保留してたし、成香はその布切れ着て『時にはHAYARIに流されて』熱唱アーンドダンスな?」

成香「意味不明で怖いです……というか打倒はやりんじゃないんですか?」

爽「……敵を知り己を知ればなんとかって誰かが言ってた!」

由暉子「孫子ですね」

誓子「あ、撮影は私に任せてね」

成香「ちかちゃん!?」

由暉子「ネットに上げたりするんですか?」

爽「いやこれを公共の電波にのせたらアウトだろー」

揺杏「インハイの放送で似たようなの流れてたけどなー」

的な?

土曜昼頃に投下できたらなーと思ってます

436: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:10:03.35 ID:NK9HuVNU0


ハルちゃんにもらったネクタイ……私の宝物だ


だからいくら友人とはいえ、妙な手を加えたりはされたくないのだ



437: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:11:36.96 ID:NK9HuVNU0

適当にいいわけをして部屋を出る

とりあえずほとぼりが冷めるまでは……私の部屋はみんなが使ってるし、穏乃の部屋で休ませてもらおう

灼「おじゃましま……」

智紀「……鷺森さん?」

灼「あれ……沢村さん? いらっしゃい……?」

智紀「こんにちは……一と一緒だったんじゃ?」

灼「ああ、それが……」


438: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:13:21.56 ID:NK9HuVNU0

――――――

揺杏「そういえば灼の制服って一人だけネクタイで……それは普通にお洒落だよね」

灼「ハルちゃん……赤土先生が10年前にインハイ出たときに着けてたやつで……」

穏乃「赤土先生は吉野のヒーローですからね! 決勝の舞台まで一緒に行けて私も嬉しかったです!」

一「なるほど……たしかに素敵だけど、もっとお洒落にできるんじゃないかな?」

灼「えっ」

初美「いいですねー! 薔薇のワンポイントでもいれてみますかー?」

穏乃「それかっこいいですね! 基本無敵って感じで!」

一「レボってるね!!」


439: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:15:13.81 ID:NK9HuVNU0

灼「……とまあ、危険を感じたので逃げてきた……」

智紀「それは……どうもお疲れさま」

思い出しただけで頭が痛い

彼女らとは感性に近いところがあって――揺杏は普通の感覚の持ち主だし、センスもいいが面白がって参加している――珍しくファッションの話もある程度共有できて楽しい時間を過ごしていたのだが……

揺杏の裁縫スキルの高さで自分達の思い描く服が次々に産み出されることにテンションが振りきれたのだろう……少々悪ノリが始まってしまった

……正直、国広さんや薄墨さんはもう自分で布切ってればいいんじゃないかとも思ったが


440: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:16:34.50 ID:NK9HuVNU0

智紀「……珍しいよね、一とセンス合うのって」

灼「……私はあそこまで肌は出せな……」

智紀「わかる」

さすがにアレは恥ずかしいだろう

いや、自分のセンスも普通とはズレているのはわかっているけれども


441: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:18:02.22 ID:NK9HuVNU0

灼「ところで沢村さんはどうして穏乃と憧の部屋に?」

智紀「今日は私たち龍門渕と阿知賀のみなさんでインハイの映像を使って研究会をするって話だったでしょ?」

灼「うん……あ、もうそんな時間?」

智紀「うん……牌譜とかの荷物がこっちの部屋にあるからって新子さんが」

憧……帰ってきたと思ったらすぐに姿が見えなくなったけど、みんなと合流してたのか……というか

灼「ごめ……憧が……せめて阿知賀の人間が運ぶのが筋だよね? 私も手伝う」

智紀「大丈夫………新子さんなんか凄く疲れてるみたいだったし……こちらこそ許可はもらったけど部屋を漁るのは申し訳ない」

そういえば、元気に部屋に入って来たと思ったら急に顔色悪くしてたけど大丈夫かな?


442: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:19:00.84 ID:NK9HuVNU0

智紀「それじゃあ……よいしょ」

灼「!?」

沢村さんがおもむろにノートパソコンやテレビをまとめて抱えあげた

灼「だ、大丈夫? 私も持つよ?」

智紀「大丈夫……まだ余裕」

灼「でも……」

智紀「気は優しくて力持ち」

……ぐっ、と荷物を抱えたままポーズまで取るのだから本当に大丈夫なのかもしれない


443: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:20:44.62 ID:NK9HuVNU0

灼「でも、そんなにモニター必要? いくらなんでも一度に何試合も同時には見れないんじゃ……」

智紀「透華のことだし正直ノリで用意させてるだけな気はしてる」

……龍門渕さんはたしかに勢いでものを言うところがあるように思う

灼「とりあえず私も準備手伝うから……」

智紀「ありがとう……じゃあ、そっちにプリントした牌譜があるから持ってもらってもいい?」

灼「それでいいの? 重くない?」

智紀「こっちは鷺森さん一人じゃ持てなそうだし……一たちはいいの?」

灼「あっちもたぶん勝手に盛り上がってると思うから……あとで呼べばいいよ」


444: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:22:12.84 ID:NK9HuVNU0

牌譜といっても、紙媒体はかさばるしインターハイの主な試合を全て集めれば結構な量になる

灼「前、見えな……」

智紀「やっぱり私が持とうか?」

……沢村さん、まだ持てるの?

灼「意外と力持ち?」

智紀「こう見えて、脱いだら凄い」

灼「……脱がなくてもわかるよ」

智紀「……私、特に鍛えてはいないんだけど……」

灼「いや…… まあ、うん」

どこからどう見てもでかいしなぁ


445: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:23:16.07 ID:NK9HuVNU0

智紀「そこの……松実さんたちの部屋でやるって」

灼「ん」

智紀「透華?手が塞がってる……開けて」

沢村さんが声をかけると、内側から扉が開く

憧「お疲れさまでーす」

灼「憧……大丈夫? さっき顔色悪かったけど……」

憧「あー……ちょっと衝撃的すぎてね……灼さんこそどうしたの? 国広さんや薄墨さん、岩館さんも来てたのに」

灼「ちょっと場が荒れてきたから避難中」

憧「あそこは最初から荒れ放題でしょ……」


446: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:24:26.89 ID:NK9HuVNU0

智紀「…………」

灼「……大丈夫?」

智紀「……正直結構キツかった」

無理しないでモニター半分分けてくれればよかったのに……

透華「智紀、お疲れさま……鷺森さん、お邪魔していますわ」

灼「ども……永水の薄墨初美さんと有珠山の岩館揺杏さんが来てるんだけど、参加して平気?」

透華「問題ありませんわ! 特に、薄墨さんと言えば地区大会決勝で他校をトバしたり役満を何度も和了ったりとド派手に目立ちまくりですし是非ともお話させていただきたいところですわ!」

灼「ありがと……」


447: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:25:54.67 ID:NK9HuVNU0

灼「それじゃ、穏乃と国広さんも一緒にいるから呼んでくる」

智紀「……私も行く」

灼「休んでたら?」

智紀「平気……また絡まれたら困るでしょ?」

……たしかにあの勢いで押されたらネクタイを守りきれないかもしれない

灼「ありがと……」

智紀「気にしないで」

沢村さん、私と一緒で口数も少ないしポーカーフェイスな人だと思ってたけど……

意外とお茶目で、笑顔がかわいいんだ


448: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:27:56.08 ID:NK9HuVNU0

一「ボクたちはさ、この、服という概念に囚われすぎてると思うんだよね……」

初美「この服という枠をひとつ越えた先にあるものが……」

穏乃「つまり、私のジャージもジャージでない一歩進んだなにかに……」

揺杏「なんだコイ……この人たち……マジきめぇ……いや、褒めてるんだけどね?」

灼「…………」

智紀「…………」

どうやら議論がヒートアップした結果新たな境地に辿り着いたらしい

……正直意味がわからない


449: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:29:19.51 ID:NK9HuVNU0

智紀「あの……研究会、始めるって」

灼「薄墨さんと揺杏も暇なら参加していく?」

初美「いいんですかー? それでは遠慮なく参加させていただきますよー」

揺杏「それじゃ私も……あ、綺麗なおねーさんいるじゃん! 私の作る服とか着てみない?」

智紀「いや……私は一たちとはちょっと趣味が合わないというか……」

揺杏「いや自分で言うのもなんだけど、私も普段は普通のお洒落な服作るんだよ!?」


450: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:30:42.63 ID:NK9HuVNU0

――――――

なんだかんだで結構な人数になったし、大量にモニターを用意したのは正解だったらしい

初美「あ、こっちのモニター見てください! 灼ちゃんと対戦している……」

個人戦参加者で私の対戦相手と言えば……

灼「白水さん? くせのない実力者で対策は大変そうだけど……」

初美「いえ、越谷の宇津木さんです! 王冠は個性的で素敵ですねー!」

……ん?

穏乃「私は、一回戦の時凄く気になったんですけど……讃甘の新免さん! 刀はやっぱりかっこいいですよね! 私も何かアクセサリー持とうかなぁ」

一「でも、やっぱりインハイ参加者だと薄墨さんがダントツでセンスいいね」

初美「そんな、照れちゃいますよー」

智紀「……あの、なんの話を」


451: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:31:34.53 ID:NK9HuVNU0


揺杏「え?ファッション研究会じゃないの?」


灼「もうそれでい……」


カン!



452: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 01:33:39.60 ID:NK9HuVNU0
一回人数増やすと楽すぎて困る
気づいたら揺杏とファッションリーダースレになりそうで怖い…

次回はハルちゃんになるかと思います

455: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 22:49:49.15 ID:NK9HuVNU0


こういった仕事は実業団時代に何度か来たし、経験がないわけではないけど……


久しぶりだし、面子の問題もあって少々緊張する



456: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 22:51:17.35 ID:NK9HuVNU0

恒子「ふくよかすこやかインハイレディオーーーーーー!!」

恒子「はい今週もふくよかじゃないスーパーアナウンサー福与恒子と!」

健夜「……すこやかじゃない小鍛治健夜でインターハイ情報をお送りします」

恒子「……と! ここまではいつものオープニングですが……」

恒子「なぁーんと! 本日はこの番組初のゲストをお迎えしております!」

恒子「……初だよね?」

健夜「確認もなしに勢いでものを言わないでよ!?」

恒子「えー私の記憶では初です! さぁ! 記念すべき番組初のスペシャルゲストは今をときめくこのお方!」


457: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 22:53:14.67 ID:NK9HuVNU0

晴絵「あー……はれやかじゃない赤土晴絵です……よろしくお願いします」

……自己紹介、これ言わないとダメなの?

恒子「はい! すこやん拍手!」

健夜「え、あ……うん」

晴絵「……あの、福与アナ」

恒子「なんですか?」

晴絵「何故そこまでハードルを上げるのか……」

恒子「ごめんね☆」

恒子「……ねぇねぇ似てた?瑞原プロの真似!」

晴絵「え、はい……結構……」

健夜「こーこちゃん少し自重してよ!? 赤土さんも付き合わなくていいから!」


458: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 22:54:41.61 ID:NK9HuVNU0

恒子「さぁゲストの登場で私もテンション爆アゲ中です! では僭越ながら赤土さんの紹介をさせていただきます!」

恒子「赤土さんは今年のインターハイ団体戦三位、阿知賀女子学院の出身で、現在母校の監督を務めています!

 阿知賀女子学院は十年前にインターハイ初出場、準決勝まで駒を進めています! そして当時のエースが赤土さんです!

 高校卒業後は福岡の実業団チーム博多エバーグリーンズに所属し、日本リーグでプレイされてました!

 誰だよ赤土って知らねぇよ!って思ったそこのあなた! 今すぐ謝れ!」

健夜「リスナーに喧嘩売らないでよ!?」


459: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 22:56:03.14 ID:NK9HuVNU0

恒子「えーそれで、十年前のインターハイでは準決勝敗退となっていますが……なんと! その時の対戦カードが新道寺女子の野依理沙、朝酌女子の瑞原はやり、そして土浦女子の我らが小鍛治健夜と現在のトッププロたちと対局されてるんですね!」

晴絵「ええ……まあ、結果は散々だったんですけど」

健夜「そんなことありませんよ。 私が今までで振り込んだ最も高い手は赤土さんの跳満ですし……私にとっても印象深い対局でした……赤土さんの日本リーグでの活躍は私もチェックしてましたし、素晴らしい雀士だと思います」

晴絵「……小鍛治さん」

恒子「つまり、その素晴らしい雀士たちをボコボコにして優勝した小鍛治プロが地上最強ってことですね!」

健夜「どうしてそう繋げるの!?」


460: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 22:57:51.44 ID:NK9HuVNU0

晴絵「いや……でも実際なんで私が呼ばれたんですかね? インハイの解説で東京にいらしてますし、今名前の挙がった瑞原プロや野依プロを呼んだ方が……」

健夜「それは……」

恒子「たしかにそういう声もあったんですけど、瑞原プロや野依プロは日程も合いませんでしたし……インハイレディオということで千里山女子の監督をされてる愛宕雅枝元プロにも声をかけたんですが生徒の個人戦が残ってるということでして……」

恒子「ぶっちゃけ、暇でギャラの安い赤土さんを呼びました!」

健夜「言って良いことと悪いことがあるよ!?」

恒子「表向きは団体戦上位入賞校の監督であり、日本リーグでのプレイなど実績もある……そして小鍛治プロが二十年前の対局を忘れられなかったから、ということにしてます!」

健夜「先に裏を言っちゃってるよ!? っていうかこっそり十年増やさないでよ!?」


461: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 22:59:20.33 ID:NK9HuVNU0

……一応打ち合わせとかしてたけど、アレは意味なかったな

小鍛治さんに聞いてはいたけど福与アナほんとになんでもアリだな

恒子「そういえば赤土さんは地元吉野では『阿知賀のレジェンド』って呼ばれているらしいですね!」

晴絵「え……それ、どこで聞いたんですか? この歳になるとさすがに少し恥ずかしいというか……」

恒子「ネットで調べました! やはりインターハイ常連校である晩成高校を破った印象が大きく地元では大人気のヒーローだとか! エバーグリーンズ時代はハルちゃんの愛称で親しまれていたようですね! 私もハルちゃんって呼んでいいですか?」

晴絵「え、まあ、かまいませんけど……」

健夜「こーこちゃん仕事中だよ!? そういうのは休憩中に……」

恒子「では! ここからは『スーパーアナウンサー』福与恒子と『衝撃の美人雀士』小鍛治健夜、ゲストの『阿知賀のレジェンド』ハルちゃんこと赤土晴絵の三人でインターハイ情報をお送りします!」

健夜「変にハードル高い二つ名つけないでよ!?」


462: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 23:00:59.08 ID:NK9HuVNU0

恒子「赤土さんは一高校を率いる監督として選手たちの研究も進んでらっしゃると思いますので、注目選手など是非お話をうかがいたいと思います!」

晴絵「はい、よろしくお願いします」

……とはいえ、各選手の打ち筋などに関して詳細に話すわけにもいかない

当たり障りのないことしか話せないのはなんとも歯痒いけど、自分の時にやられたら絶対に嫌だし仕方ないか……

恒子「えー、個人戦の日程とルールは……」

健夜「今から確認するの!? 個人戦の日程は……」

……こうして見てるとやっぱりうまく回すな福与アナ……計算、ではなさそうなのがアレだけど


463: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 23:02:04.58 ID:NK9HuVNU0

恒子「個人戦は昨年の上位三名が引き続き参加していますね」

健夜「白糸台の宮永照選手、三箇牧の荒川憩選手、臨海女子の辻垣内選手ですね


晴絵「三人とも癖の少ない……強いて言えば宮永選手は打点を徐々に高めていく傾向がありますが、攻守ともにレベルの高い優れた雀士ですね」

恒子「三人ともめっちゃ強いってことですね? 小鍛治プロの相手ではありませんが!」

健夜「いちいち変に持ち上げないで!? だいたい私も一応プロだし学生相手じゃそうそう負けないよ!?」

晴絵「でも実際、あの三人は学生のレベルは逸脱していると思いますけどね……特に、宮永選手は対局相手への観察能力も長けていて、対応力も高いです……プロ入りすればまず間違いなく日本を代表する打ち手になると思いますよ」

恒子「片手で捻ってやる! なんて言えるのは小鍛治プロぐらいですね!」

健夜「そんなこと言ってないよ!?」


464: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 23:03:18.12 ID:NK9HuVNU0

健夜「はぁ……こーこちゃん今日は妙に絡むね?」

恒子「赤土さんにどこまで絡んでいいのかわからないから小鍛治プロを弄ってるんです! 大人なんだから我慢してください!」

健夜「こーこちゃんも大人なんだから少し落ち着いてよ!?」

晴絵「あはは……私は普通に絡んでくれてもいいですよ? 」

恒子「本当ですか? じゃあハルちゃんはさー」

健夜「フランクすぎだよ!? 一応仕事なんだから……」

恒子「一応とはなんですか!? れっきとした仕事なんですから小鍛治プロも気を抜かないで対局と同じぐらい真剣に取り組んでください!」

健夜「ご、ごめんなさい……って私が怒られるの!?」


465: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 23:04:17.60 ID:NK9HuVNU0

恒子「小鍛治プロのせいで話が逸れました! インターハイの話に戻りますが……」

健夜「私のせいなの!?」

恒子「宮永選手の白糸台高校からは、団体戦で大将を務めた一年生の大星選手も個人戦の代表になっていますね?」

晴絵「彼女もチーム虎姫に所属する攻撃力の高い選手ですね……ん……と、ダブルリーチの多い選手ですが……攻撃は最大の防御と言うように、守備に関しても光るものを持っていますね」

恒子「大星だけに?」

健夜「…………」

晴絵「あー……まぁ……」

恒子「……失礼しました」


466: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 23:05:56.60 ID:NK9HuVNU0

恒子「えー……その二人の白糸台を赤土さん率いる阿知賀女子は準決勝で破っていますね!」

晴絵「ありがとうございます……うちの生徒たちもみんなよく頑張ったと思います」

健夜「そういえば阿知賀女子からは個人戦の参加者はいないんですね」

晴絵「そうですね……生徒たちが団体戦一本で、ということでしたので」

恒子「奈良県の代表枠は小走やえ選手を始めとした晩成高校の選手で埋まっていますが、同郷ですし気になるのでは?」

晴絵「もちろん気になりますよ……奈良個人戦一位、エースの小走選手は実績も実力もありますし……個人的にも注目してますし、頑張ってほしいですね」

恒子「なるほど……小鍛治プロは個人的に注目している選手とかいますか? 地元の選手とか……」

健夜「え? いや、私は特にそういうのは……」

恒子「世界レベルの私が学生のことなんか知るか! だそうです!」

健夜「だからそこまで言ってないよ!?」


467: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 23:06:46.70 ID:NK9HuVNU0

――――――

健夜「お疲れさまです」

恒子「お疲れさまー」

晴絵「お疲れさまでした」

健夜「赤土さん、急な話だったのに来てくれてありがとうね……よかったらご飯一緒にどうかな?」

晴絵「いえ、私も楽しかったんで……お供させていただきます」

恒子「あ、ずるい! 私も行く!」

健夜「じゃあ行こっか……ごめんね? こーこちゃんあんなんで大変だったでしょ?」

晴絵「いや、アレで緊張解れましたしむしろ助かりましたよ……小鍛治さんこそいつも大変そうですね」

健夜「なんかもう慣れちゃったけどね……」


468: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 23:08:02.08 ID:NK9HuVNU0

恒子「……で、結局近場のファミレス? 折角なんだからもっといいとこ行くとかさー」

健夜「それはこの前行ったし……」

恒子「え!?私呼ばれてないよ!?」

健夜「私たちの集まりにこーこちゃんいたらおかしいでしょ!? 同窓会みたいなものだよ!?」

晴絵「福与アナだったらすぐ打ち解けそうですけどね」

恒子「すこやんみたいにこーこちゃんでいいですよ? ほら、私もハルちゃんって呼ぶから!」

晴絵「そうですか? まぁこーこちゃんがあの場にいても昔話に花を咲かせてたんで……」

健夜「はやりちゃんに理沙ちゃん、良子ちゃんと懐かしい面子が揃ったよね……みんな忙しいし、東京に集まるインハイの時期じゃないと集まれなかったんじゃないかな」


469: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 23:08:56.92 ID:NK9HuVNU0

恒子「え!? なにそれ凄いメンバーじゃん! なんで呼んでくれないの!?」

健夜「その説明はしたでしょ!?」

恒子「十年前のインターハイの面子も揃ってるんですね? もしかして一局打っちゃったり?」

晴絵「うん、麻雀バーに集まったんで……」

健夜「結果は……」

恒子「……わかってるよ、すこやん」


470: ◆FYW.3i5lks 2014/08/11(月) 23:10:56.68 ID:NK9HuVNU0


恒子「対局の結果は『シノハユ~the dawn of age~』の物語で明かされることでしょう!

現在、月刊『ビッグガンガン』にて原作:小林立先生 作画:五十嵐あぐり先生の強力タッグで好評連載中!

最新2巻は9月25日発売決定だぁーーー!!」


健夜「メタ発言はやめて!」


カン!


次回 晴絵「個人戦は見学していくからね」  後編