ブルース「……」

マシュ「……」

ブルース「…………」

マシュ「…………」

ブルース「………………」

マシュ「………………」

所長「あの……廊下で何やってるの?」



引用元: バットマン「グランド……オーダー?」 マシュ「その2です」 




Fate/Grand Order-turas realta-(3) (講談社コミックス)
カワグチ タケシ
講談社 (2018-10-09)
売り上げランキング: 4,888
479: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:41:49.56 ID:6odfkc8I0

ブルース「オルガマリー所長か。……いや、イメージトレーニングの特訓だ」

所長「イメージトレーニング?」

ブルース「そうだ。自分と相手の行動を計算し尽くし、現実的空想空間において敵を打ち倒す。……まあ、言うなれば戦う前のリハーサルのようなものだ」

所長「はあ……?」

マシュ「……」ムムム

ブルース「それが一瞬で出来るようになれば、戦闘においてはかなり有利。マシュにはそれを会得してもらう必要がある……これからの戦いの為にも」

マシュ「……」ムムムム……

ブルース「マシュ、蹴りを繰り出した後の動きに隙が多い。盾は取りに戻るな」

マシュ「はい。……え? なんで私の考えてる事が分かったんですか?」

ブルース「……」

所長「相変わらずよく分からない事をやってるわね……ほどほどにしてよ」スタスタ



480: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:42:42.78 ID:6odfkc8I0

マシュ「……」タラ……

ブルース「……集中力が落ちてきているぞ、マシュ。疲労が溜まって来たか?」

マシュ「っ……少しだけ」

ブルース「休みを入れよう。脳が疲れを感じたら、それは感覚以上に酷使している証拠だ」

マシュ「はふっ……分かりました」

ブルース「確か、レオナルドが紅茶と茶菓子の再現に成功していたハズだ。良い休憩になるだろう、行ってくると良い」

マシュ「はいっ。……あの、マスターは?」

ブルース「私は……いや、私も行こう」スクッ




481: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:43:23.81 ID:6odfkc8I0

………………

レオナルド「おっ、工房へいらっしゃい。二人一緒とは珍しい……いや、最近はそうでもないかな?」

ブルース「紅茶の茶葉をもらえないか? 休憩を入れたい」

レオナルド「良いね~、私もそろそろ休もうと思ってたんだ。ちょっと待ってくれ……おーい、ロマニ」ピッピッ

内線「」ピピピッ、ピピピッ……ガチャッ

ドクター『もしもし? レオナルドか? 今忙しいんだ、お遊びの連絡ならまた今度に……』

レオナルド「おやおやぁ? なら私、マシュ、ブルースだけでティータイムを楽しむとしようか」

ドクター『残念だがそう……なに? 今なんて?』

レオナルド「いやぁ~実に残念! 皆で紅茶を飲んでワイワイ過ごそうと思ったんだが! キミが忙しいなら無理強いは……」

ドクター『……いやいやいや!! 待て、今ちょうどキリの良いところまで終わったぞう! ははは、皆でそちらへ行けそうだ!』

所長『ちょっとロマニ? 全然終わってないじゃないの!?』

ドクター『所長……! お願いです! ここまでの記録はつけてますから! ちょっと休むだけですから!』

所長『アンタねえ……!』

レオナルド「ははは、期待せずに待ってるよ。それじゃあね」ガチャッ



482: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:44:09.13 ID:6odfkc8I0

………………

レオナルド「……」ニコニコ

ドクター「……」ダラダラ

所長「……」ギロッ

職員A「……」フム

職員B「……」オドオド

職員C「……」ポケッ



483: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:44:40.67 ID:6odfkc8I0

給湯器「」ピィィィィー……

ブルース「……」コポポポポ……



マシュ「……」カチャカチャ

茶菓子「」ズラッ



ブルース「……」カチャ

カップ「」コトリ

ブルース「……」チョポポポポポ……

紅茶「」ホワァ……

ブルース「……」

ブルース(アルフレッドほど上手くは注げないか)



マシュ「……」カチャカチャ

ミルク「」コトリ

ブルース「砂糖は……」

マシュ「右上の引き出しから二つ隣です」

ブルース「ありがとう」ゴソ



484: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:45:34.09 ID:6odfkc8I0

マシュ「はい、お待たせしました。紅茶と茶菓子です」カチャカチャ

職員B「うわあ~、香りとか本当に紅茶ですね。魔術で再現されたなんて信じられないです!」

レオナルド「フフン、そうだろうそうだろう。まあ天才だからね、私。できない事とか滅多に無いし」

ドクター「……美味しいぞ、コレ……美味しいぞコレ!」ズズ

ブルース「私も失礼しよう……」スッ

職員A「お菓子も程よい甘さで……再現率が高いですね」サクサク

レオナルド「勿論ほぼ完ぺきさ。こだわったからね」

職員C「これうめえ……あっ、これもうめえ」モシャモシャ

レオナルド「ははは、ゆっくり食べたまえ。また余裕が出来たら作ってみるよ」カチャ

マシュ「……あまくて、おいしい……」トローン



485: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:46:17.26 ID:6odfkc8I0

ブルース「……」カチャリ、チラッ

所長「……」ジッ


ブルース(……?)

ブルース「飲まないのか、所長」

所長「……え? 私? あ、私は、その、あの……」チラッ

マシュ「……?」

所長「……いえ、私はやっぱり結構よ。失礼するわね」スッ、スタスタ

ブルース「……」

マシュ「……どうしたんでしょうか」

ブルース「……」



486: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:46:54.08 ID:6odfkc8I0

レオナルド「? どうしたんだ、二人共。ティータイムだぜ、飲んで食べて大騒ぎしろよ」

ブルース「……すまない、私も失礼する。素晴らしい紅茶だった」スッ

マシュ「あ、ま、マスター」

ブルース「マシュ、ここに残っていろ。まだ休憩は必要だ。レオナルド、紅茶と茶菓子に礼を言う」

レオナルド「いや、いいけど……どうしたんだ」

ドクター「ブルースくん?」

職員達「「「?」」」

ブルース「……少し、調べなければならない事があったのを思い出しただけだ」スタスタ



487: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:47:21.19 ID:6odfkc8I0

ブルース「……」ピッピッ

コンピューター『ハッキング進捗率:89%』

ブルース「……」


ブルース(今夜にでもカルデアへのハッキングは完了する。データ最深部へアクセスし、所員達の弱点を見つけ出す……)


ブルース「……」


ブルース(……信用と保険は別物に考えるべきだ。ここには怪しい要素が多すぎる……先程の所長の、あの態度)

ブルース(マシュを見る目は怯えたものだった。だがマシュにその自覚は無さそうに見える……オルガマリー所長は、何かを隠しているか、それとも負い目を感じているのか。アレは自分の罪に怯える目だ)

ブルース(それがカルデアの根幹に関わるものならば、今夜絶対に明らかにする。……場合によっては……)

ブルース「……」ピッピッ


ブルース(……場合によっては、所長を……)



488: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:47:50.29 ID:6odfkc8I0


………………


所長「……」コツ、コツ

自動ドア「」ウィー……

所長「……」コツン……コツン……


蒼い球体「」ポゥン……ポゥン……


所長「……」ピトッ

所長「……」プルプル


バットマン「オルガマリー所長」

所長「……」ピクッ



489: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:48:17.44 ID:6odfkc8I0

バットマン「……こんな夜中に、地下へ降りて何をしている」

所長「……」

バットマン「……カルデアの施設を案内された時には、こんな部屋は紹介されなかったと思うが。秘匿の必要があるのか?」

所長「……」

バットマン「……どうなんだ、所長。この秘密を暴かれる事が、お前にとってそれほどの恐怖なのか」

所長「……ええ、そうね。恐ろしい。怖いわ」プルプル……

バットマン「……それは……」


バットマン「それは、自分達が造りだした『マシュ』という人間が、自分達に復讐するかもしれないという恐怖か?」



490: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:52:06.61 ID:6odfkc8I0

バットマン「2000年。初代所長『マリスビリー・アニムスフィア』による計画……
『英霊を人間に』。このコンセプトの元、最適な身体で造りだされた赤子に英霊を融合させる実験が続いていた」

所長「……」

バットマン「この赤子はデザインベビーと呼ばれ、寿命は長くとも30歳ほど……だが、この実験の唯一の成功例であるマシュの場合は、更に短い。英霊との融合実験段階で、その寿命は更に十年ほど縮んだ」

所長「……」

バットマン「2000年、マシュに英霊が憑依……彼女に憑依した英霊の真名は不明。だが誇り高い英霊だろう。この施設の非人道的なやり方に怒り、協力を拒否。今はマシュの中で眠っている」

所長「……」

バットマン「これらは全てカルデアのデータベース最深部に収められていた。これは本当か? 全て、真実なのか?」

所長「……」グッ、プルプル……

所長「……ええ、本当よ」



491: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:52:52.37 ID:6odfkc8I0

バットマン「……」

所長「全て事実よ。父はそういう男だったの。裏で非人道的な実験を繰り返し、悪びれない男だった。私はそういう男の、実の娘なのよ。私の事、軽蔑した? 怒ってる? ……信用できなくなったわよね。どうする? ここからつまみ出す?」

バットマン「……勝手に話を進めるな。お前の事は信頼しているし、敬意を持っている。お前の優しさと誇りは知っている」

所長「……なら、どうするっていうのよ」

バットマン「マシュを恐れる必要はない。そう伝えに来た」

所長「……」

バットマン「彼女は純粋だ。憎しみを抱いて育ったなら、ああはならない。彼女はお前の事も信頼している……それは分かっているだろう」

所長「……っ……」



492: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:53:26.90 ID:6odfkc8I0

所長「……のよ……」

バットマン「……」

所長「怖いのよっ、たまらなく怖いの!! あの子の目を覗き込むのが怖いの! 父が犯した罪が、私に降りかかってくるのが怖い!」

バットマン「……」

所長「あの子がいつか私を殺しに来るって……運んできてくれたお茶だって飲めない、一緒に話だってできるわけがないっ!! だって、だって、殺されるから! 父がたくさんの赤子を殺して来たのと同じように、私も!!」

バットマン「オルガマリー所長」

所長「私は結局……」

バットマン「所長!」

所長「っ……」ビクッ



493: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:54:18.73 ID:6odfkc8I0

バットマン「……恐怖に飲まれるな」

所長「ごめん、なさい……」

バットマン「……謝る必要は無い。だが、恐怖と戦う事を諦めるな。父親の行いが間違いでも、自分は正しい行いを選択できるはずだ」

所長「……」

バットマン「選択に自信が無い時は、頼れ。共に考える事ができるだろう。正しい決断が下せなくても、責任は共に負えるだろう。ただ……ひとりで悩むのは無しだと、自分で言っていたぞ、所長」

所長「っ……」

バットマン「たとえ恐怖を理解する事が不可能でも、歩み寄る事は可能なハズだ。手を伸ばせ、オルガマリー所長」

所長「……」



494: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:54:49.74 ID:6odfkc8I0


所長「……なんで」

バットマン「……」

所長「なんでそこまで、言ってくれるの」

バットマン「……私に勇気を思い出させてくれたのは、所長。お前達だ。なら、今度は私も手を伸ばす」

所長「勇気……」

バットマン「そうだ……敬意を持っているというのは、本当だ。私はお前を尊敬している」

所長「……そう。貴方、嘘をつかなくなったのね……」

バットマン「……誰かに言われてな」

所長「……分かったわ」



495: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:55:49.19 ID:6odfkc8I0

所長「けど、いきなりは無理。怖いもの」

バットマン「分かっている。だからこそ、少しずつ、慣れていってほしい。きっとマシュも、それを望んでいる」

所長「きっと……か」

バットマン「……? 何だ」

所長「いいえ」


所長(……マシュには、心を開いてるのね)


バットマン「……さあ、戻るぞ。もう真夜中だ」

所長「ねえ、ブルース」

バットマン「どうした」

所長「……いいえ、何でもないわ」


所長(私も……欲張っても、いいのかしらね)



496: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:56:16.06 ID:6odfkc8I0


………………


マシュ「……」ムムムム……

ブルース「マインドセットだ、マシュ。精神を慣れさせろ」

マシュ「……」ムムム……

ブルース「……」

マシュ「……」ムム……

ブルース「……少し休憩にするか。これは難しい訓練だ、一気にやってもあまり効果は無い」

マシュ「っふぅ……これ、かなり……体力を使いますね」

ブルース「よくやっている方だ。……確か、この前の紅茶がまだ残っていたな……」カチャカチャ


コツ、コツ……

所長「……あ」

マシュ「あっ、オルガマリー所長」

ブルース「……」


497: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:56:46.70 ID:6odfkc8I0

………………

マシュ「……はい、どうぞ所長。紅茶です」コトッ

所長「あっ、ありがとう……」ビクビク


所長(これは無害これは無害これは無害……)プルプル


マシュ「……?????」



498: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:57:14.42 ID:6odfkc8I0


ブルース「……」バシッ

所長「え?」

マシュ「え?」

ブルース「……」ズズッ……

ブルース「……」コトッ

マシュ「あ、あの、それ所長の紅茶のつもりだったんですが……いえ、注ぎ直しますけど」コポポポポ……

ブルース「……そうだったのか。すまない、気付かなかった」スッ

所長「え、ええ……?」パシ


所長(ちょっと!? ブルース!?)ヒソヒソ


ブルース「……」サラサラサラ……ペラッ


紙『大丈夫だ。お前も飲める』


所長「え……?」


所長(ま、まさか毒味のつもりで……?)



499: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:57:40.72 ID:6odfkc8I0

マシュ「はい、所長……あれ? マスター?」スッ

ブルース「ありがとう」パシ

マシュ「え、ええ。良いんですけど……え?」

ブルース「……私が紅茶を注ごう。座ってくれ、マシュ」

マシュ「はい……え? 今日、何かおかしくないですか?」

ブルース「脳を酷使した直後は違和感を覚えるものだ。休ませろ」



所長「……」チラッ

紙『大丈夫だ。お前も飲める』

所長「……」ゴクリ


所長(だ、大丈夫よね。ひ、ひとくちだけなら……)


所長「……」ズズ


所長「……あっ、美味しい」ズズ、ゴク



500: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:58:23.92 ID:6odfkc8I0


ブルース「……」チラ

所長「……」モグモグ、ゴクゴク

ブルース「……」フッ

マシュ「……??????」


マシュ(何かおかしい……何かが決定的におかしいですよ……?)


所長(っていうかこれ間接キスじゃないの?)ピクッ


所長「ぶっふぅはぁ!?」ビシャーッ

ブルース「!?」

マシュ「!?」




501: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/07(水) 22:58:51.34 ID:6odfkc8I0


その後。

マシュへの態度は普通になったが、ブルースに対してはしばらく挙動不審になった所長だった。



508: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:52:02.63 ID:z9IWeJy60

 踏み込みが床を砕く。私は身体を捻り、豪速で迫る拳を躱す。

「動きが甘いぞ」

 敵は直前の重い動作からは想像もできないような軽やかなステップで軸をずらし、反撃を封じるチョップを繰り出す。私は盾でそれを防ぎ、何とかスピードを見極める。

(必然的対応をさせる)

 その動きから学ぶべき事は多い。既に彼はマントを翻し、こちらの視界を潰している。

 五感を駆使。私は盾を構えつつ、裏でカウンターの拳を構える。だがいつまで経っても攻撃が来ない。

 後方、質量が空気を裂く音。裏拳でバットラングを弾く……爆発。爆破ジェル塗布済み。爆風に体幹が揺らいだその瞬間、足払いが足元を刈った。

「きゃっ……」

 完全にバランスを崩したところへ、強烈な背負い投げが……


「……しゅ……マシュ」

「反撃を……反撃を……え? あれ?」



509: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:52:40.56 ID:z9IWeJy60


マシュ「あれ? ここは? すごく強くてズルいマスターは……?」

ブルース「……ズルではない。常に打てる手を打っているだけだ。
その様子から察するに、どうやら想像の世界へ入り込んでいたようだな」

マシュ「想像……あ、そうでした。イメージトレーニングしてたんでした」

ブルース「……良いかマシュ、想像が自分の世界を侵食する事はままある。だが、この場合はその限度を定めるべきだ」

マシュ「限度……ですか?」

ブルース「そうだ。マシュ、お前はよくやっている。常人より遥かに飲み込みが早い。だからこそ、その弊害がある」



510: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:53:07.33 ID:z9IWeJy60

ブルース「想像で現実が見えなくなってはならない。逆もまた然りだ。適度な集中、そして自己を分析する計算。戦いの中では不可欠だ」

マシュ「う……」

ブルース「……立ってみろ、マシュ」スッ

マシュ「は、はい」スクッ

ブルース「……良いか、大事なのは原因と結果であり……」



511: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:53:37.48 ID:z9IWeJy60

ブルース「たとえば……拳をこちらへ打ち込め」

マシュ「はい……え?」

ブルース「打ち込め。対処する」

マシュ「で、でも……」

ブルース「……では、軽く、ゆっくりと拳を突き出せ」

マシュ「は、はいっ。えい」ソォーッ

ブルース「……この時点で、反撃の方法は数パターンある。人間である私は、おそらくテコの原理で投げ飛ばすのが一番だろう。
では投げられた時、マシュ。お前はどうする?」

マシュ「え、えーっと……受け身ですか?」

ブルース「……気を遣うな。もっと攻撃的で良い」

マシュ「手を掴み返して勢いで倒れ込んで腕ひしぎに……」

ブルース「そうだ。思考のパターンを作れ。攻撃する時は攻撃の『結果』を、防御する時は防御の『結果』を想像しろ。惰性で考えていては理想の戦場は作れない」



512: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:54:07.52 ID:z9IWeJy60

マシュ「……」

ブルース「……考えろ。お前は今、どうしたいのか。どうしたらその結果へ持って行けるのか。そのために打てる手はなんだ」

マシュ「……」

ブルース「……そのためのイメージトレーニングだ。想像とは、自分が持ち得るもうひとつの世界だ。世界の理想に合わせるな。世界を理想に合わせろ」

マシュ「……よし、やってみます!」

ブルース「その意気だ。……よし、組手といこう」

マシュ「はい! ……え?」

ブルース「組手だ。戦いながら結果を想像しろ」

マシュ「え? え? 無理です無理!!」

ブルース「……無理と断じるのは、一度やってみてからだ。いくぞ」



513: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:54:35.21 ID:z9IWeJy60


………………

マシュ「……」

ブルース「……」


所長「……言い訳があるなら、今の内に聴いておくけど……!」プルプル



ブルース「……少し、戦闘訓練に熱が入り過ぎた」

所長「少し。少しね。へえ、少し熱が入り過ぎたと」

ブルース「……」

所長「じゃあアンタ達は、少し熱が入っただけで壁のパイプを何本も叩き折ったり!」

パイプ「」ボロッ

所長「シミュレーション装置を叩き壊したりするワケね!」

装置「」ボロボロ



所長「見なさい! パイプなんて蒸気が噴き出しっぱなしじゃないの! これもうまともに機能してないわよ!?」

レオナルド「あっ、良ければ私が直す……」

所長「黙ってなさい、今叱ってるでしょう!!」グワァッ

レオナルド「はい」

ドクター「ま、まあまあ。そんなに怒らなくても……」

所長「」ギロッ

ドクター「と思ってたけど気のせいでした、存分に叱ってやって下さい」



514: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:55:02.66 ID:z9IWeJy60


………………

所長「だいたいアンタ達はねえ……」ガミガミ

ブルース「……」


マシュ(あ、脚が痺れてきました……)ピクピク

ドクター(なんで僕まで……なんで僕まで)


レオナルド「なんで私まで……」

所長「黙って聞く!!! アンタもねえ!!」

レオナルド「はい」


レオナルド(うーん藪蛇。口を挟んだら説教が長くなるタイプだコレ)

所長「マシュ! アンタも……」

マシュ「は、はいっ!!」ビクゥッ

ブルース「……」

ブルース(……よし、マシュにも話しかけられているな。態度は普通になったようだ)



515: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:55:39.64 ID:z9IWeJy60


………………


所長「……であるからして……!!」ガミガミ

職員C「あ、あのー……」

所長「何よ」キッ

職員C「ヒッ……いえ、あの、晩御飯できたって知らせに来ました」

所長「あ、え? もうそんな時間?」チラッ

時計『19:00』


マシュ「……四時間みっちり、お説教でした……」グッタリ

ドクター「ごめん、正座のせいで足の感覚ないから立てない……」プルプル

ブルース「……膝に悪いな、この姿勢は……」スクッ

レオナルド「私なんて、『パイプから漏れる蒸気のせいで部屋が霧掛かってきたから』って、パイプの修理しながら説教聞かされたんだぜ? 気持ちはカオスのど真ん中さ」

所長「……続きはご飯の後で。良いわね?」

マシュ「まだやる気なんですね……」




516: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:56:07.32 ID:z9IWeJy60


………………

ブルース「……」

レオナルド「豆のスープも悪くないな、これ」モグモグ

ドクター「美味しいなぁ……みんなと何か食べてる時ほど幸せって思える瞬間はないよ」

マシュ「分かります……」

職員A「ですね。脳が休まります」

職員B「あ、わ、私もです……」

職員C「うめぇ……あったけえ……」

所長「……まあ、気持ちは分からない事も……」

ブルース「……」


ブルース(豆のスープか……アルフレッドが病気で動けない時は、こういう慣れない料理をしたものだった……)


ブルース「……ああ、いい味だ」




517: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:56:46.06 ID:z9IWeJy60


ピーンポーンパーンポーン……

スピーカー『特異点、特定完了。特異点、特定完了。所長、職員は結果の確認をしてください』

ドクター「ん“ん”っ、もう!? うちは職員のみならずAIも優秀だな……」

レオナルド「ん、AIの自動進行機能か。よし、丁度食べ終わったし確認に行こう!」

ドクター「ちょっと待って……ブルースくん、マシュ。召喚システムを試してくれ、きっと十分な量の電力が確保されているはずだ。僕たちはその間に協議を進める!」

ブルース「了解した」

マシュ「はい」

ドクター「うん、よし。それじゃあ行こう!」スクッ

レオナルド「よしよし、AIが出した結果の答え合わせもしてやらなきゃあな!」スタスタ



518: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:57:16.72 ID:z9IWeJy60


………………

ブルース「……食べたか、マシュ」

マシュ「は、はい。ごちそうさまでした」カチャ

ブルース「行くか。……召喚がうまくいけばいいが」

マシュ「大丈夫です。何があっても守ります」フンス

ブルース「頼りにしている」スタスタ

マシュ「えへへ……あっ、待って下さい」タッタッ



519: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:57:45.12 ID:z9IWeJy60


………………


バチバチバチバチ……ギュォォォォォォォオォォォッ


カッ‼


???「……ふー、やれやれ。海が終わったと思ったら今度はよく分からない施設か……おっと、そこに居るのは」

ブルース「ダビデ……お前か」

ダビデ「ブルースにマシュか。キミたちに召喚されるとは……奇妙な縁もあったものだね。けど、悪くないな」

マシュ「ダビデさん! お久しぶりです」

ダビデ「やあマシュ。キミがお望みとあらばいつでも竪琴を奏でよう……羊飼い、ダビデ。僕はやるよ。かなりやる」



520: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:58:11.12 ID:z9IWeJy60

ブルース「……すまないが」

ダビデ「なんだ? 遠慮なく言ってくれ」

ブルース「戦闘能力はあるのか?」

ダビデ「ホントに遠慮なく訊くなぁ、キミは!」

ブルース「……」

ダビデ「この前の特異点では『櫃』に力を奪われていただけさ! 単独で召喚された今、僕はあの時の数倍は強いと思ってくれていい! その辺の石ころを投げても砲撃レベルさ!」

ブルース「成程。期待しておこう」

ダビデ「乞うご期待だ。きっとキミも目を剥くぞ」




521: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:58:39.22 ID:z9IWeJy60


………………

ウィーン

ブルース「入るぞ」スタスタ

ドクター「やあ、ブルースくん。召喚は無事に終わったよう……だね……?」

ダビデ「やあ、どうもどうも」ヒラヒラ

ドクター「……ブルースくん、よりによってそいつを召喚しちゃったのか。前回の特異点で全く活躍してなかったじゃないか!」

ブルース「? ああ、そうだな……だがサーヴァントだ」

ダビデ「おいおいおい! なんだキミは、失礼な奴だな!? 出会って五秒で役立たず呼ばわりか!?」

ドクター「おあいにく様、僕はソロモン王のファンだけどダビデ王は嫌いなんだ!」

ダビデ「なんだって? あのろくでなしのファンとは、さてはキミは……」

ドクター「あっ……」

ダビデ「……キミもろくでなしだな?」

ドクター「ダビデ王よりマシだー! 生娘を毎晩侍らせるってどういう神経してるんだい!?」

ダビデ「モテない男のひがみか! そうなんだろ! 安心しろ、手は出してないぞ! 出さなくてもよりどりみどりだったし!」




所長「……なんなのコイツら」

レオナルド「さっさと話を進めよう。馬鹿二人は置いておいて」




522: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:59:09.55 ID:z9IWeJy60

所長「はい、静かに。今回のレイシフトの説明を行います」

ドクター「ふん……なんでダビデ王なんか召喚しちゃったんだ」ブツブツ

ブルース「……そこまで嫌いだったとは知らなかった。すまない」

ドクター「……」

ブルース「……?」


ブルース(ここまで気が立っているドクターも珍しいな……よほどダビデが嫌いなのか。異性が周囲に多く居ても、良い事など無いというのに……)

ブルース(……それにしても、ソロモン王のファンか。この事件の真相が、いつか全て明らかにされた時……ショックで倒れなければ良いが)


所長「今回特定された時代は……」



523: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 01:59:58.13 ID:z9IWeJy60


所長「時代は十九世紀後半。場所は産業革命真っ只中のロンドンです。相手の狙いは明らか、産業革命を阻止して我々の技術レベルを致命的に遅らせる……」

ブルース「決めつけるには尚早だが」

所長「ぐ……まあ、そうね。実際に赴いて真相を確かめてもらうのは、ブルース。貴方達レイシフト要員に任せます」

ブルース「……ああ」

所長「ロマニ! マシュとブルースの健康状態はどう?」

ドクター「……あっ、はい! 二人とも健康状態は良好です!」

所長「なら良いわ。レイシフト要員は解散とします、しっかり休んで明日のレイシフトに備えて。
次、サポート班! 明日の動きを確認するわよ!」


ブルース「……」スクッ

マシュ「あ、待って下さい」スクッ

ダビデ「あっちょっと待ちなって、僕も行くぞ」


ドクター「……」ムスーッ……



524: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:00:27.83 ID:z9IWeJy60

レオナルド「……なあ、ロマニ。嫌うのも分かるけど」

ドクター「分からないだろ」

レオナルド「……分からないけど、落ち着けよ」

ドクター「……」

レオナルド「……マシュもブルースもびっくりしてたぜ」

ドクター「………………
……はあ、だよなあ。気を付けないと……」ガシガシ



525: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:01:23.45 ID:z9IWeJy60


………………

ダビデ「ところでマシュ、今夜僕の寝床に……」

ブルース「……」ピクッ

ダビデ「……来なくても今日はひとりで眠れそうだな!」

ブルース「……そうか、何よりだ。どうしても眠れないようだったら私を呼べ。夜通し見張っておいてやる」

ダビデ「……勘弁してくれ……」


マシュ「??? え、えっと……では、私はこれで失礼しますね」

ブルース「……ああ。良い夜を」

マシュ「は、はい。また明日」

ブルース「また明日」

ダビデ「じゃあブルース、また明日に!」スタスタ

ブルース「お前の部屋はこっちだ」ガシッ

ダビデ「引っかからないかー!」

ブルース「油断も隙もない奴だ……」ズルズル



526: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:01:57.28 ID:z9IWeJy60


………………


ブルース「……19世紀頃、ヨーロッパでは大規模な産業の変革が発生……これを産業革命と呼び……」ペラッ

ブルース「……蒸気機関の発明、改良が進められ……手工業から機械工業への発展が……」ペラッ、ペラッ

ブルース「……この事が、消費者や生産者の立場をより強固に決定づけ……貴族、中流、労働者などの階級が……」ペラッ


ブルース「……」チラッ

時計『2:13』

ブルース(そろそろ休むか。レイシフトへ向け、体調は万全にしておきたい……)パタン


ブルース「……」


ブルース(……不安が、襲ってくる。何もかもが上手く行っていると、絶対に、その反動が来るという不安が……)

ブルース(今のこの瞬間、私は確かに幸せなのかもしれない)

ブルース(だが、心のどこかで、もう一人の私が冷たく嘲る。しょせん儚い夢なのだと)

ブルース(……破滅は、足音をたてない……)




527: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:02:25.62 ID:z9IWeJy60


………………

ソロモン「もう一度言ってみろ」

???「俺が向かう。お前の策だけでは上手く行く保証がない」

ソロモン「……虫けら相手に、策だと? 笑わせる。賢いつもりか」

???「そう言って、いくつの特異点を突破されてきた? 残りは四つ。お前の策は確かに上策ではあるが、万全を期しているとは言い難い」

ソロモン「……」




528: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:02:54.45 ID:z9IWeJy60

ソロモン「……お前にはバビロニアを任せる。そう言った」

???「奴らがそこまで到着する前に決着をつけるのが最善だ。俺は常に最善を好む」

ソロモン「だからお前が出ると? お前が消滅した時、誰が責任を取る?」

???「俺は死なない。少なくとも、人間の状態で一度は破った相手だ」

ソロモン「……何を恐れている?」

???「俺に、恐れはない。だが奴らに……植え付ける必要がある。道の先には破滅が待っているという恐怖を」

ソロモン「面白い。……実に面白いぞ」



529: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:03:22.00 ID:z9IWeJy60


ソロモン「良いだろう。せいぜい奴らを破滅の道へ誘い込め」

???「……朝飯前だ」

ソロモン「……」


ソロモン(……フン、何をするつもりかは知らんが……折角この私のサーヴァントとして召喚してやったのだ。ここで実力をハッキリみせてもらおうか……)


ソロモン「では、ベイン。お前をロンドンへ飛ばす」

ベイン「……」




530: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:03:52.54 ID:z9IWeJy60


………………

ブルース「っ」ガバッ


時計『07:00』ピピピ‼ ピピピ‼ ピピピ‼


ブルース「……」


ブルース(嫌な夢を見た……気がする。なんだったんだ……)


ポロン、ポロン、ポロロン♪


ダビデ「おはようブルース、爽やかな目覚めをお届けするダビデサービスだよ」ウィーン

ブルース「……成程、悪夢を見たわけだ……」ドサッ

ダビデ「ちょっと? 僕への扱いが全般的に酷くない?」

ブルース「いや……良い音色だ。とても癒される」

ダビデ「取ってつけたような感想だなー!?」




531: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:04:31.24 ID:z9IWeJy60


ピーンポーンパーンポーン……


レオナルド『おはようカルデア。外は生憎の吹雪だが、インドア派な我々には無関係だ。これより第四回レイシフト前、最後のミーティングを始める。管制室へ集合してくれ』

ダビデ「だってさ」

ブルース「……行くぞ」ムクリ

ダビデ「はいよ」スクッ


自動ドア「」ウィーン……




532: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:05:15.75 ID:z9IWeJy60


マシュ「あ、マスター、ダビデさん。おはようございます」

ダビデ「おはようマシュ。今日も綺麗だ」

マシュ「へっ!? あ、は、はい、ありがとうございます……?」

ブルース「……おはようマシュ。体調に異常は無いか」

マシュ「はい……いえ、奇妙な夢をみたような気がするんですが、忘れちゃって……」

ブルース「……そうか。まあ、所詮夢だ」



533: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:05:44.30 ID:z9IWeJy60

フォウ「……フォ~~ウ……」モゾモゾ

ダビデ「ちょっとタンマ。なんだこの獣、今どっから出て来た?」

マシュ「わわ、フォウさん。最近は隙があったら私の身体に潜り込もうとしてくるんですよ」

ダビデ「う……羨ましいぞ! 僕もその谷間にダイブ……」

ブルース「……」ピクッ

ダビデ「……するのはやめておくよ!」

ブルース「賢明な判断だ。流石は王だな」

ダビデ「いや、王ってのはやめてくれ……僕は羊飼いだから……」



534: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:06:14.55 ID:z9IWeJy60


………………

ドクター「……来たね」

ブルース「遅くなったか」

レオナルド「いいや、時間通りだ。おはよう」

ダビデ「おはよう! ところでキミの名前を聞いていなかったね、美しい人!」

レオナルド「ははは、私は中身がオッサンだから口説くのはやめとくんだな」

ドクター「見境がないな……これで偉大な存在っていうんだから歴史だっていい加減なものだよ」ブツブツ

マシュ「あ、あははは……」



所長「はい、無駄話はやめ! これより第四回レイシフト前、最後のミーティングを始めます! 全員居るわね?」


職員達「「「はい!!」」」




535: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:06:48.03 ID:z9IWeJy60


所長「今回のレイシフト先は19世紀後半のロンドン。解析していく内に、この特異点は霧に覆われているという事が判明しました」

ブルース「……霧?」

所長「ええ。とても濃い霧で……朝昼晩、晴れる事のないものよ。魔術の関与があるかどうかまでは判明しませんでしたが、その線も十分考えられる」

ブルース「ふむ……」


ブルース(……)


マシュ「五感、ですよね」

ブルース「……そうだな。視界が効かないとなると、音だ」

マシュ「はい!」


所長「レーダーも一応強化済みだけど、過信は禁物よ。令呪は三画まで。生身でのサーヴァントとの交戦はできるだけ避ける事」

ブルース「了解した」

所長「良いわ。じゃあ、サポート班!」

職員達「「「はい!!」」」

ドクター「はい!」

レオナルド「はいな」




536: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:07:27.65 ID:z9IWeJy60


………………


所長「レイシフト要員は09:00までに準備を整え、コフィンへスタンバイを済ませる事! では動いて!」


マシュ「……お先に失礼しますね、マスター」

フォウ「フォウ、フォーウ!」

ブルース「ああ、あちらで会おう」

ダビデ「えーっと、これに入れば良いのかい?」

ブルース「そのボタンは押すな。ここの赤いボタンだ」

ダビデ「えっと……おお!」

コフィン「」プシュー……

ダビデ「いいなあコレ! ワクワクするぞ……よーし。ダビデ、いきまーす!」

ブルース「……あちらで会おう」プシュー……



537: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:07:57.37 ID:z9IWeJy60

ブルース「……」ガチャリ、シュルッ。ガキ

ブルース「……」ガキリ、カチッ。スチャッ

マスク「」

ブルース「……」スッ

バットマン「……」



ドクター「……よし、全員スタンバイできたね」



538: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:08:26.53 ID:z9IWeJy60


ドクター「時刻、08:57。ブルース・ウェイン、マシュ・キリエライト、ダビデの三名がコフィンにスタンバイ完了」

職員A「存在証明式、稼働開始! 肉体観測、順調!」

職員B「電子機器類、異常なし! 電力量チェック……クリア!」

職員C「シバの時代特定も良好です! 19世紀後半、特異点のロンドンを捉えています!」


所長「では……ロンドンへのレイシフト、カウントダウン開始!」

職員達「「「了解、カウントダウン開始!」」」


ドクター「……」

レオナルド「……やっぱりダビデは嫌いかい?」

ドクター「好きにはなれない。僕には無理だ」

レオナルド「まあ、仕方ないけど……サポートの手は抜かないように」

ドクター「当然だ! ブルースくんとマシュを守らなきゃ!」




539: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:08:52.34 ID:z9IWeJy60


(((破滅は足音をたてない)))

(((ベイン。お前をロンドンへ飛ばす)))


バットマン(……いや、ただの夢だ)

ドクター『レイシフト10秒前! 9! 8! 7! 6! ……』

バットマン「……」

ドクター『3! 2! 1!』

バットマン「……」グッ

『0』



540: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:09:30.48 ID:z9IWeJy60


………………


バットマン「……」ムクリ


バットマン(硬い地面……いや、石畳か。レイシフトは成功したようだが)


バットマン「……マシュ。ダビデ。何処に居る」

バットマン(見えない……酷い霧のせいで、視界は3~5メートルほどに制限されてしまう)



541: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:09:59.12 ID:z9IWeJy60

バットマン「何処だ、マシュ、ダビデ」スタスタ

バットマン(はぐれたか? レイシフトはランダム要素もあるらしい、こういう事も起こらない訳ではないのだろう……)

バットマン「……ドクター、マシュとダビデの位置を割り出せるか?」

通信機『ザザッ……ザザザザザザザ……』

バットマン「……駄目か……」スタスタ


バットマン「……?」チラッ

バットマン「……!!」ダッ



542: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:10:30.47 ID:z9IWeJy60


マシュ「……あ、ああ……」グッタリ

バットマン「マシュ。どうした。何があった」タッタッ

マシュ「ます、たー……私は、もう……」プル、プルプル……

バットマン「……!? 馬鹿な、どこでこんな傷が……」


バットマン(明らかに致命傷だ。何故だ? 誰が?)


強盗「……馬鹿な奴だぜ。お前を守るために俺に飛び掛かってきやがった」

バットマン「……!?」


バットマン(こいつは、あの時の……両親を殺した、あの……!)




543: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:10:58.80 ID:z9IWeJy60


強盗「大人しくテメェを差し出しときゃ良かったのによ」

バットマン「……どういう事だ……何故……」

マシュ「ますた……さよなら……」シュウシュウ……

強盗「ほら、またテメェのせいで人が死んだ。感想はどうだ?」

バットマン「……違う、違う! こんな……」

バットマン(齟齬だ。齟齬がある。銃声すらなかった。もみあう音さえ聞こえなかった。理性を失うな、ブルース……!)


(((……スター! マスター! おきて……)))

(((……不味いぞ、何かきてる……)))


バットマン「……!!!」



544: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:11:36.52 ID:z9IWeJy60


ドクター『ブルースくんのバイタルに異常が……なんだこの霧は!? 凄まじい毒性反応だ……今解析にかけてる!』

バットマン「……ばかな、……ありえない……」

マシュ「マスター! ドクター、マスターが急に倒れてうわ言を……」

ダビデ「霧の向こうからすごい量の足音だ! 何か来るぞ!」

マシュ「っ……マスター……!」

バットマン「マシュ……マシュ、マシュか!」ガバッ

マシュ「ま、マスター!?」

バットマン「……起きたぞ、状況を!」ムクッ

ダビデ「起きてくれてよかった! 何か来るぞ!」


ザン、ザン、ザン、ザン、ザン……



545: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:12:23.72 ID:z9IWeJy60

ドクター『毒の解析が完了した! これは……どうやら、脳に著しいストレスを与えるガスが霧に混じっているようだ。具体的に言うならば、対象に恐怖を体験させるガスだ! サーヴァントならともかく、人間が吸えばイチコロだぞ!』

バットマン「……覚えがある」

ドクター『そうか……ってなんでキミ、立ってられるんだ!? 常人なら発狂モノの恐怖がキミを襲ってるハズだぞ!?』

バットマン「毒物影響下の自覚はある。だが想像で世界を塗りつぶしはしない……」

マシュ「……!」

バットマン「やるぞ、マシュ、ダビデ。この状況に対処する……」




546: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:13:02.42 ID:z9IWeJy60


『ハハハハハハハハハハハハハハハ!! 苦しいか、バットマン!』

バットマン「……この声は……」

『チチチチチ、誤魔化しても駄目だ……お前の心臓は既に掴んだ。恐怖しているな? 身体の震えは隠せても、心の震えは決して隠せない……』

バットマン「……スケアクロウだ。全員構えろ、サーヴァントも来るぞ!」

『さあ、教えてやろう……この世のたったひとつの真実! 恐怖を!』


バットマン「……警戒しろ……」

マシュ「はい」スッ……

ダビデ「……」


ザン、ザン、ザン、ザン、ザン……



ロボット軍団「……」ザン、ザン、ザン、ザン、ザン……


マシュ「……な……」

ダビデ「冗談だろ、この量……」

バットマン「……」



「さあ」


スケアクロウ「恐怖しろ」スー……

バットマン「!!」バッ




547: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:13:31.86 ID:z9IWeJy60


第四章


死界魔霧都市 ロンドン



549: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/17(土) 02:20:37.93 ID:z9IWeJy60

556: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:04:28.58 ID:IA8vUwsQ0

………………

ベイン「……」ドシ、ドシ

ベイン「……」グルリ

ベイン(……霧が深い。それにこの気に入らない匂い……恐怖ガスが霧に混じっているのか)

ベイン(サーヴァントの身体というのは、どうやら毒物にも耐性が付くらしい……)

ベイン(それに、目や耳も実に良く利く)ピタッ


ベイン「誰だ。こそこそつけて来ているのは」

???「おやぁ? バレてしまいましたか、これは失敗! ワタクシとっても反省しておりますぅ!」



557: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:04:59.42 ID:IA8vUwsQ0

ベイン「……お前は」

???「申し遅れました、ワタクシはメフィストフェレスなる者でして。人の破滅を見るのが三度の飯より大大だーい好きなだけの道化師ですぅ!」

ベイン「ほう……フフフ。人を不快にさせるピエロならよく知っている。それで、そのお前がどんな用で俺の前に立ったんだ?」ゴキゴキ

メフィストフェレス「あぁいえいえ、決して敵意はございません。ただアナタ、破滅の匂いがとっても濃いので……ついつい来ちゃったんですよう。許していただけますかぁ?」ヘラヘラ

ベイン「……」



558: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:06:32.14 ID:IA8vUwsQ0

ベイン「……良いだろう。お前に役割を与えてやろう、ピエロ」

メフィストフェレス「ワタクシはメフィストフェレスですが……」

ベイン「俺が通った後を破壊して回れ。人が居れば特に残酷に痛めつけて殺せ。悲鳴を上げさせろ」

メフィストフェレス「……へえ」

ベイン「時には殺さず、瀕死の状態で道に転がせ。目印をつけていけ。そうすれば……」

メフィストフェレス「そうすれば?」

ベイン「……もっと面白い奴らが現れる」

メフィストフェレス「ウフフフ……なんだか、ワタクシよりよほど悪魔っぽいですねえ」

ベイン「では行け。俺は『準備』を整える」




559: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:07:33.93 ID:IA8vUwsQ0


ベイン「……」ドシ、ドシ


ベイン(連中のアジトまでの道中、まずすべき事は、バットマンの側に付きそうな野良サーヴァントの撃破)

ベイン(その後、それ以外の反抗勢力を各個撃破……まとまってしまう前の撃破が好ましいが、さてそう上手くいくか)

ベイン(『B・P・M・S』からの連絡によれば、サーヴァントによるレジスタンス団体は今のところひとつ……俺がバットマンを倒すのと、そいつらがバットマンに接触するのはどちらが早いか……)


ベイン「……やはりあのピエロを焚きつけたのは正解だったか」ドシ、ドシ


ベイン(事態は常に不利な方向へ進むと見た方が良い。バットマンの悪運の強さは天性のものだ)

ベイン(……だが、俺はお前の弱点を、恐怖をよく知っている。今回の特異点が今までのように簡単に行くと思うな、ミスター・ウェイン)



ドドォォォォォォ……ドッガァァァァァァァ……ヒャハハハハハハハハ‼ アヒャハハハハハハハハハ‼


ベイン「……」フッ

560: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:08:28.55 ID:IA8vUwsQ0


………………

バットマン「ダビデ! ロボット達を寄せ付けるな! マシュ! スケアクロウを抑え込め!」

ダビデ「了解……そらっ!」ヒュンッ


石「」ヒュォォォォッ


ロボットA「ガガガッ!!」ドガッシャァァァァァ、プシュー‼


バットマン(あのロボット……破壊された瞬間、蒸気が内部から噴出した? つまり蒸気機関で動いているという事か……?)


マシュ「やああっ!!」ブォン

スケアクロウ「フハハハハハ!! ならば、もう一度霧の中に身を浸そう……」ズォォォォ

マシュ「くっ……敵、視認不可能! ドクター、レーダーはどうですか!」

ドクター『……駄目だ、まともに機能しない! 霧が含む魔力がこちらの想定以上に高濃度だ、対応は急いでいるが……視野以上には広がらないと思ってくれ!』

マシュ「……っ……マシュ・キリエライト、これより敵の追撃に……」

バットマン「待て! 互いに目の届く範囲から離れるな、ここではぐれたら終わりだ!」



561: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:09:04.01 ID:IA8vUwsQ0


マシュ「ですがマスター! これでは……」

バットマン「……落ち着いて凌ぐんだ。戦況に変化が現れる瞬間は必ず来る。それまで絶対に焦ってはならない……」

マシュ「っ……はい」

バットマン「よし、ダビデ、マシュ。固まるぞ、このまま……」ドクン


(マシュの焦る心がこのまま膨らみ、いつか手の届かない場所まで行ってしまうのでは?)


バットマン(……くだらない想像だ……現実を把握しろ)


(手の届かない場所で、そのまま殺されてしまうのでは?)


バットマン(……集中しろ!)


マシュ「マスター! 敵ロボット、腕の武装を展開しました!」


ロボットB『ロックオン』ウィーン、ガチャリ……


マシュ「あれは……銃です!」

バットマン「マシュ、ダビデの防御を! ダビデ、そのまま攻撃を続けろ! 狙うのは足元だ!」

ダビデ「りょーうかい……フッ!」ビュオッ



562: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:10:00.38 ID:IA8vUwsQ0


ロボットB『発射』バババババババ


マシュ「くっ……」ガギギギギギギギギギギギ‼

ダビデ「そぉらっ!」ヒュンッ


石「」ヒュゥゥゥゥゥゥッ


ロボットB『ガガガガ!』ドガァッ


バットマン「良し……」ドクン


(あれは銃だ。私の両親を殺したのと同じ凶器だ)


バットマン(……違う。今はマシュも居る。守る盾だ)


(だが、その彼女を守るのは誰だ? あの夜と同じように、撃たれて倒れないのか?)


バットマン(……黙れ! 彼女は私が守る、そんな事はさせない……!)


スケアクロウ「恐れているな? 聞こえるぞバットマン」

バットマン「……!!」



563: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:10:51.41 ID:IA8vUwsQ0


スケアクロウ「私の目は誤魔化せない……見えている。今は堪えていても、この注射針を刺せばたちまち正体を現すだろう」カチャ……

バットマン「……」スッ

スケアクロウ「くくく……抵抗できるつもりか? 私は強大な身体能力を手に入れた……サーヴァントという身体は素晴らしい!」

マシュ「マスター! 下がってください!」ババッ

スケアクロウ「おおっとぉ、こちらでも忠実なコマドリを飼っているようだな。そろそろ一人では無力だと気付いたか」

マシュ「……」ガシャリ

バットマン「マシュ、注意しろ。奴の注射……あれは恐らく、恐怖ガスを濃縮させた液体だ……打たれれば、危険だ」

スケアクロウ「くくく……相変わらず恐怖には敏感なようだ。良いぞ、流石はバットマン……」




564: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:11:41.55 ID:IA8vUwsQ0

スケアクロウ「……さあ、恐怖を体験する準備は良いか」

マシュ「……」ジリッ

バットマン「……ドクター、地形の観測を……」



ガッシャァァァァァァァァン‼ オラオラオラァァァァァ‼



バットマン「!?」バッ

マシュ「え……?」


ロボットC『ガガガッ!』ドドッ、ガシャァァァァ

ロボットD『ギギゴゴゴ……』プシュー……

???「雑魚どもが、引っ込みやがれ! 俺の獲物はテメェらじゃねえ!」ブンッ、ガッシャァァァァァァァァ‼


ダビデ「おいおい誰だ、あんなに大量のロボットの群れを……うおっ!?」ドドッ

???「おら退けェ!!」ダダッ



スケアクロウ「……おっと、招かれざる客だ。流石に分が悪い……また会おうバットマン」ズゥゥゥゥ……

バットマン「待て!」ヒュンッ

バットラング「」ヒュォォォォォオォォォォォォ……スカッ



565: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:12:20.58 ID:IA8vUwsQ0

???「ああクソっ、また逃げやがったのか!
……なんで逃がしたんだテメェら!!」ガァッ

マシュ「ご、ごめんなさい!?」

バットマン「……」

???「チッ……腰抜けが。盾ヤロウも居るってのに、それを使いもせずに……」

マシュ「え……えっと、私ですか?」

???「お前以外に誰が盾を持ってんだよ……ああ、チクショウ、気に入らねえ奴の匂いだらけだ此処は!」

バットマン「お前は誰だ。ここで何をしている」

???「あん? 俺は……」



566: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:12:52.99 ID:IA8vUwsQ0


???「俺はモードレッドだ。アイツらと戦ってる」

バットマン「モードレッドだと? ……イングランド、円卓の騎士の……あのモードレッドか」キッ

モードレッド「そうだ。なんか悪いかよ」

バットマン「……」


バットマン(……モードレッド。最も勇猛な騎士とされた、騎士王の息子……)


モードレッド「……睨みやがって、やるってのか」ガチャリ


バットマン(……そして、騎士王を殺した裏切りの騎士)


マシュ「ご、ごめんなさい。その、マスターは……普通に見つめるだけで睨んでるみたいになっちゃうので……」

フォウ「フォウ、フォーウ」ピョンッ

モードレッド「うわっぷ!? ったく、なんだってんだ……」




567: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:13:22.27 ID:IA8vUwsQ0


ダビデ「……ブルース、あの凶暴そうなかわいこちゃんは味方か?」

バットマン「……さあな。今のところは警戒しておくのが妥当だ」

モードレッド「フン、どうもそっちの黒いのとはそりが合わなさそうじゃねえか」

バットマン「原因は自分がよく分かっていそうだが」

マシュ「ま、マスター……」

モードレッド「……あぁ?」ギロッ

バットマン「……」



568: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:13:51.52 ID:IA8vUwsQ0

モードレッド「……チッ、使えそうな戦力ならジキルのところに連れて行ってやろうと思ったのによ」

バットマン「……判断するのは私だ。使えるか使えないか……それを決めるのは単純な力だけではない」

モードレッド「力がねえヤツなんざ興味もねえな」チャキリ

バットマン「こんな挑発に乗ってやすやすと剣を構える、それがお前の弱さだ。力があってもそれでは先が思いやられる」

モードレッド「……」ピキッ

マシュ「マスター、それ以上は……」

ダビデ「おいおい、何か余裕がないなぁ。ブルース、もうちょっと大人の対応を……」



569: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:14:25.56 ID:IA8vUwsQ0


バットマン「……余裕……」

モードレッド「……」


(コイツが裏切って私達全員を皆殺しにする可能性もある)


バットマン「……いや、そうだな……すまない。少し……思考が偏っていた」

モードレッド「……フン、めんどくせえ奴」

マシュ「すみません、マスターはその……顔見知りというか……」

モードレッド「良いぜ、そっちが妙な動きをしたら叩っ斬ればいいだけだ。ついて来いよ」

バットマン「何処へ」

モードレッド「俺達の家へだ」




570: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:14:56.89 ID:IA8vUwsQ0


………………

ドクター『らしくなかったじゃないか、ブルースくん』

バットマン「……そうか? いや、そうだな……少し、過敏になっていた」スタスタ


バットマン(らしくないと言えば、ダビデに対するドクターの対応もおかしかったように思うが……)


バットマン「……常に最悪を想定してしまう。人の考えなど、ひと呼吸で変わってしまうものだから」スタスタ

マシュ「……」スタスタ


ドクター『……ひと呼吸で、か。確かにそうかもしれないね……』



571: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:15:23.48 ID:IA8vUwsQ0




ドクター『ところで、毒の影響はどんな感じだい?』

バットマン「理性的な恐怖とそうでない恐怖を見分けるようにしている。この霧が少しでも薄くなればまだマシだろうが……それこそ、呼吸の度に毒を吸入している状況だ。この対処法がいつまで持つか……」

ドクター『うーん……こっちで解毒剤を研究してみるよ。完成したら成分を表示する。そちらでも精製できるよう、出来るだけ容易に手に入る成分を選択してみる……』

バットマン「……そうか」フッ

ドクター『なんだい?』

バットマン「初めてドクターらしい言葉を聞いた気がしてな」

ドクター『そう!? ……えへへ、そうかなあ。プロっぽかった?』

バットマン「ああ。……ありがとうドクター、よろしく頼む」

ドクター『うんうん、任せてくれ!』

ダビデ「へえ、頼もしいな。優秀なドクターなんだ」

ドクター『うるさいぞ!』

ダビデ「ちょっと!? 対応が違い過ぎるだろう!?」



572: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:16:34.82 ID:IA8vUwsQ0


ダビデ「だいたいなんだってキミはそんなに僕に辛く当たるんだ!」

ドクター『自分の胸に手を当てて訊いてみたらいいと思うな! 無自覚たらしネグレクト王! 女の敵! モテない男の敵! 人類の8割を敵に回してるのを自覚しろよ!』

ダビデ「ちょっと待った!! なんだか不名誉な称号ばっかりだが、ちゃんとした功績だって残してるんだからな! 味方だってそれなりに多いさ!」

ドクター『昔の王様だったらどんなに少なくても何かしらの功績は残してる! それなりって言ってもどうせ味方は羊ばっかりだろう!?』

ダビデ「羊を馬鹿にしたな!?」



ギャーギャー‼ ワーワー‼



モードレッド「なんだアイツら」

マシュ「あ、あはは……け、喧嘩するほど仲がいいとも言いますし」

モードレッド「……どうでも良いけどうるせえんだけど……」

マシュ「それは……っ、構えて下さい。前方から何か来ます」



573: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:17:04.02 ID:IA8vUwsQ0



ガシャン、ガシャン、ガシャン……


自動人形A「……」ガシャン、ガシャン

自動人形B「……」ガシャン、ガシャン

自動人形達「「「……」」」ガシャン、ガシャン、ガシャン



マシュ「あれは……機械の人形でしょうか。マスター、指示を」

バットマン「……」


バットマン(……関節部分から噴き出す蒸気。これも蒸気機関か……)


モードレッド「オラァ!」ブンッ、ガッシャァァァァァァァァ‼

マシュ「も、モードレッドさん!? まだ敵と決まったわけじゃ……」

モードレッド「チンタラしてんのが悪りいんだろうが! 敵か味方か分からなきゃ、取り敢えずぶっ壊せばいいんだよ!」

バットマン「……」



574: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:17:32.90 ID:IA8vUwsQ0



マシュ「マスター、どうしましょう」

バットマン「……あの人形は敵だ。殲滅するぞ」

マシュ「了解しました!」ガシャリ

モードレッド「そぉらっ!」ブンッ、ゴッシャァァァァァァァ‼

ダビデ「せいっ!」ヒュンッ

石「」ヒュォォォォォンッ


人形D「ギギギギーーー!!!」ガッシャァァァァァァァァン‼


マシュ「……たああああっ!」タッタッ、ブォンッ‼




575: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:18:00.65 ID:IA8vUwsQ0


………………


???「……アリス、アリスは何処だ……これだけ広い図書館なら、本くらいあるハズだろう……」ガサゴソ

???2「全く、これだけの本の海の中から特定のものを探し出すだと! 本を元の棚に戻すマナーの良い連中ばかりではなかっただろうに、よくもまあ!」ガサガサ

???3「あら、おじさま達。そこで何をしていらっしゃるの?」

???「キミは……あぁ、キミも物語の一部か。手伝ってくれ、不思議の国のアリスが……時代脚色の極めて少ないモノがここにはあるハズなんだ」

???2「マッドハッター! 誰彼構わず声を掛けるのはやめろと……む、そこに居るのは……また、面倒な奴だな」



576: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:18:44.39 ID:IA8vUwsQ0

???3「めんどうなやつ……私の事かしら、小さな紳士さん」

???2「俺は小さな紳士などという間抜けな名前ではない。全く……」

???3「ごめんなさい、小さな紳士さん。でも、名前が無ければ、どう呼べば良いのか分からないの」

???2「……呼ぶならせめてアンデルセンと呼べ。お前はそこで何をしている」

???3「わたし? 私はありす(わたし)よ、アンデルセンさん」

アンデルセン「……はあ!?」

マッドハッター「なんと! キミがアリスだったか……!」バタバタ



577: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:19:25.13 ID:IA8vUwsQ0


アンデルセン「まっっっっっったくなんて事だ! この狂人に適当に付き合ってやっているつもりが、まさか本物のアリスに出会ってしまうとは……」

マッドハッター「はやくお茶の準備をするんだ、アンデルセン! アリス、ああアリス。キミと会いたかったよ、ずっと夢見てた!」

???3「……おじさま。これがあなたの夢だったのね。でもごめんなさい、私はありすだけどありすではないの」

マッドハッター「なんと……だが良い、アリス。僕はそんな事を気にしない。キミが誰かの為の物語であるならば……こうして共に紅茶を飲む事に、意味はあるのだ」

アンデルセン「……『誰かの為の物語』(ナーサリー・ライム)か。何故狂人はいつも詩的なんだ、世の中の皮肉を感じざるをえん」

???3「ナーサリー・ライム……すてき。私も、そうなれるかしら」

アンデルセン「……全く、さっきまで正体不明だった少女に名前まで付けたか。マッドハッター、お前さては相当頭が切れるんじゃないのか」

マッドハッター「はやく! 紅茶を用意してくれ、アンデルセン!」

アンデルセン「……そんなワケがなかったな」コポポポポ……

マッドハッター「さあ、聞かせてくれ。キミが知るアリスの全てを!」



578: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:20:13.83 ID:IA8vUwsQ0


………………

ベイン「……」ドシ、ドシ……ピタッ


ベイン(……)


ベイン「……」スッ



……、…………タンッ


???「っ」ギュォッ


ベイン「フン」ガシッ、ドシャァッ

???「いたっ……!」ドサリ




579: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:20:40.77 ID:IA8vUwsQ0


ベイン「霧を使って上手く立ち回ったつもりか? 足音をあれほど派手に立てているようじゃ……フフフ、甘いな」グググググ……

???「はなせ!」ジタバタ

ベイン「そちら次第だ。……さあ、名前を言え。その名に価値があれば、上手く使ってやる」ググッ

???「くぅっ……わたしは、ジャック……ジャック・ザ・リッパー」

ベイン「……ほう、切り裂きジャックか。史上稀に見る犯罪者……その正体がここまで幼い少女だったとはな」パッ

ジャック「っ」ババッ

ベイン「良いだろう。お前の事は見逃してやる。何処へなりと行くがいい」



580: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:21:18.41 ID:IA8vUwsQ0


ジャック「……どういうつもり」

ベイン「利用するまでもないという事だ。お前の恐怖は皆を巻き込む」

ジャック「……」

ベイン「フフフ、その目。そして後世に伝わるほどの犯罪。お前が何かにとりつかれたように人を殺して回った理由、それは執着心だ」

ジャック「……なにをしってるの」

ベイン「……」ジッ



581: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:22:58.94 ID:IA8vUwsQ0


ベイン「頬にはねた血液。血の指紋。つい先ほど殺人を犯したが、かなり抵抗を受けたようだな。初撃からこれほどに抵抗するのにはそれなりの体格が必要になる……つまり大人だ。
漂う香水の匂い、また女性をやったようだな」

ジャック「……」

ベイン「英霊は全盛期の姿で召喚される。全盛期が『幼い子供』? ……想像力を生業とする者ならともかく、アサシンでそれは考えにくい。子供時代が幸福の絶頂だったとも考えられるが、その線で行くと『その姿』で大量殺人鬼のように歪み果てる理由もない」

ジャック「……」

ベイン「つまりお前は不幸な子供、殺人のターゲットは女性。子供時代に死亡したか……それとも、まともに成長すらできなかったか。いずれにせよ、大人の女性、自分の母親に強い恨みを……」

ジャック「……」シュン


ベイン(……)


ベイン「……違うな。お前は捨てられたのか、物心がつく前に」



582: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:24:04.88 ID:IA8vUwsQ0


ジャック「っ……なんでわかるの」

ベイン「……」


(((父さんは何処なの?)))


ベイン「見れば分かる。そうか、成程……フフフ、面白い。どうやら俺は勘違いをしていたようだ」

ジャック「どういう事」

ベイン「行け。お前と同じ目をした男を知っている」

ジャック「……?」

ベイン「殺せ。お前にとっての『親』を探して回れ。そうすればきっと、目的がお前を見つけるハズだ」

ジャック「……」

ベイン「それとも、ここで俺と無益な闘いを繰り広げでもするか? 俺は全く構わんが」ゴキゴキ

ジャック「……」ジリジリ



583: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:24:47.16 ID:IA8vUwsQ0

ジャック「……」ジリジリ……ズォォォォ……

ベイン「……行ったか。賢明な判断だ」


ベイン(尤も、少し残念でもあるが……主を持たないサーヴァントというのは、あの程度のものなのか)


ベイン「……まあ良い。行くとしよう……鼻が利くというのは、良い事だ」ドシ、ドシ


………………


ナーサリー「それでね、ありすったら……」

マッドハッター「ほうほう……?」

アンデルセン「……待て。何か来るぞ」ピクッ




584: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:25:37.35 ID:IA8vUwsQ0

マッドハッター「アンデルセン、今良いところじゃないか。席を立つにはまだ早い」

アンデルセン「嫌な予感がする……おい、図書館の扉はきちんと閉めただろうな」

マッドハッター「勿論だ。カギを閉めて、誰も入れないようにしたとも」

アンデルセン「……クソ、なんだこの寒気は……特大の不吉がやってくる前触れのような……」


ドゴッシャァァァァァァァァァァ‼


アンデルセン「……!! 今の音は、正面玄関の……!」

マッドハッター「なんだ、誰だ!?」




585: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:26:57.93 ID:IA8vUwsQ0


ベイン「……俺の嗅覚によれば、此処に誰か居るハズだが」ボキボキ


アンデルセン「誰かは知らんが、お前の来る場所ではないぞ筋肉ダルマ!」ギュギュギュォッ


光弾「」ギュォォォォォォォォッ


ベイン「ほう」ドドドッ……シュゥゥゥゥゥゥゥゥ……


アンデルセン「……クソ、付け焼き刃とはいえこうもあっさり弾かれるとは!」


ベイン「いや、効いた。なかなか良い攻撃だったぞ、小僧」ドシ、ドシ


マッドハッター「騒がしいな、誰が……!! べ、ベイン……!?」


ベイン「ジャービスか。お前もこっちに来ていたようだな」


ナーサリー「……お、おじさまがもう一人? 随分、その……いかつい見た目ね」


586: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:27:43.91 ID:IA8vUwsQ0

マッドハッター「お逃げ、アリスの分身さん! アイツは危険だ、悪いドラゴンだよ!」

ナーサリー「わ、悪いドラゴン……とても怖いのね」

ベイン「フフフ、まだ物語に没入するクセが治っていないようだな。骨を何本折られるまでそうやっていられるか、数えてやろう」

マッドハッター「……! アンデルセン、お前も逃げるんだ」

アンデルセン「……マッドハッター」

マッドハッター「アリスを頼んだよ! 必ず生き延びてくれ、彼女は私の全てなんだ!」

アンデルセン「……分かった。陳腐な言葉になるが……また会おう」

マッドハッター「……」




587: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:28:34.12 ID:IA8vUwsQ0

ナーサリー「アンデルセン、駄目よ! このままじゃマッドハッターさんが危ないわ!」

アンデルセン「馬鹿め! 奴は危険を承知で時間稼ぎを引き受けたんだ、さっさと奥に潜り込むぞ!」パシッ、ダダッ

ナーサリー「おじさま! 乱暴は駄目、絶対に駄目よ! 私、怒るんだからあああぁぁぁ……」ズルズルズルズル



ベイン「……お前程度で時間稼ぎになると思ったのか、ジャービス」

マッドハッター「……ならないかもしれないな。でも、こうして……」チリン……チリン……

ベイン「……っ……しまった、マインドコントロール波か……その立ち位置も、計算して……」ヨロ

マッドハッター「……さあ、精神の世界へ旅立つとしよう。そこでなら、私もキミと対等以上にわたり合えるかもしれない……」チリン……チリン……

ベイン「……ぐっ……」ドシン……




588: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:29:03.14 ID:IA8vUwsQ0



(((お前の名はベイン)))

(((意味は『破滅』)))

(((お前は父親の罪を償うために刑務所に居る。それを忘れるな)))

(((でも、父さんは何処なの?)))

(((……アイツは……)))



589: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:29:34.72 ID:IA8vUwsQ0

(((あ……が……)))

(((ナメるな。僕はお前の道具じゃない)))

(((やりやがった! たった8歳のガキがアイツを殺しやがったんだ!)))

(((悪魔め! こっちに来るな!)))

(((……孤独は恐ろしいか?)))

(((……ヴェノム注入計画を……)))

(((バットマン。ゴッサムを恐怖で支配する鉄の男)))


ベイン「……!!」カッ




590: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:30:09.61 ID:IA8vUwsQ0


ベイン「……」ガシッ

マッドハッター「な……!? ば、馬鹿な……悪夢から、これほど早く目覚めるだと……」

ベイン「悪夢か……フフフ、ジャービス。俺は慣れている」グググググ……

マッドハッター「……あ……あが……」ジタ……

ベイン「……この世に現実以上の悪夢など、存在しない」ゴキリ

マッドハッター「…………」

ベイン「……」ポイッ

マッドハッター「……」ドシャッ


591: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:30:38.76 ID:IA8vUwsQ0


ベイン「……」ムクリ

ベイン(広大な図書館の奥まで逃げ込んだか……)

ベイン「フン」

ベイン(そこまで生に執着するならば、好きにするがいい……追って潰す価値もない小物共だ)


ベイン「……」ドシ、ドシ


ティーカップ「」カチャ……



592: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:31:12.61 ID:IA8vUwsQ0


………………

モードレッド「おーい、帰ったぜ」トントン

ドア「」ガチャ……

???「やあ、お帰り……うん? お客さんが多いようだね」

バットマン「……」

マシュ「こ、こんにちは」ペコリ

ダビデ「やあ、どうも」ニコッ

???「……信用できる人達なのか?」

モードレッド「良いから入れろって、何かあってもぶった切れば良い話だし」スタスタ

???「あっ、おい。……はあ、仕方ないな。どうぞ」

バットマン「……失礼する」スタスタ



593: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:31:48.63 ID:IA8vUwsQ0


………………

???「ソファが空いてるから、座って。お茶はお出しできないけど……」

マシュ「いえ、お構いなく。大丈夫です」

バットマン「……話は聞いている。モードレッドと二人、霧に覆われたこのロンドンで、未だに抵抗活動を続けているとか……確か、名はジキルと」

ジキル「ああ。抵抗活動と言っても、霧の原因の調査に出かけたり、目に入った機械軍団を破壊したり……そんな事ばっかりだけど。名乗り遅れた、僕はヘンリー・ジキル」

マシュ「マシュ・キリエライトです」

ダビデ「ダビデだよ。ほら、イケメン美声超強肩で有名な……」

バットマン「私はブルース・ウェインだ。調査で何か分かった事はあるか?」

ダビデ「遮らないでくれるかな!? ホラ今名乗ってる途中だから!」



594: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:33:34.39 ID:IA8vUwsQ0


ジキル「分かってきた事は多い。まず敵はひとつの団体だけじゃなくて、野良サーヴァントにも居るらしく……爆弾で人を殺す者、鋭利な刃物で人を解体する者、帽子で人を操る者が居るようだ」

バットマン「帽子で……人を?」

ジキル「ああ、失礼。帽子のサーヴァントは『居た』と言うべきか……最後の情報では、図書館に入っていったっきり姿を現さないらしい」


バットマン(帽子……マッドハッターか。図書館に入っていった……という事は、またアリスでも探しているのか)


バットマン「すまない。話を切ってしまった。それにしても、何処からそんな情報を仕入れるんだ?」

ジキル「僕は一応、この時代に生きる人間でね。霊薬調合の心得があって、科学者として身を立てているんだ。ツテもそれなりにあるよ」

バットマン「ツテが……」


バットマン(おかしい……ヘンリー・ジキルはもう少し前の時代、物語によって創作された人間だと思っていたが……同姓同名の別人か?)



595: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:34:28.48 ID:IA8vUwsQ0


ジキル「だから、この霧がロンドンを覆った時も、いちはやく研究に乗り出せた。この霧……僕たちは『魔霧』と呼んでいるんだが、これは膨大な魔力と、人を恐怖に陥れる毒を含んでいるらしい」

バットマン「……」

ジキル「最初期はロンドンのあちこちで暴動が起きた。恐怖で我を忘れた人々が、互いに殺し合っていた。だが、それも沈静化しつつある……いや、暴動が起きるほどの人数がロンドンに居ないんだ」

バットマン「死んだのか」

ジキル「僕の試算でも、数十万単位の人間が死んでいる。恐怖毒だけでなく、濃厚な魔力も、耐性の無い人間を蝕んでいるんだ。このままではロンドンがもぬけの殻になるのも時間の問題だろう」

バットマン「……それを止めるために、私達が来た」

ジキル「そうだね。それじゃあ、そろそろそちらの話を聞かせてもらえるかな?」

バットマン「私達は……」




596: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:35:09.95 ID:IA8vUwsQ0


………………

モードレッド「へえ、特異点ね。他に七つもこんな場所があんのか?」

マシュ「はい。三つは既に私達で解決しましたので、残りはこのロンドンを含めて四つです」

ジキル「世界に打ち込まれた七つのボルトのひとつ。それがこのロンドンか……」

バットマン「私達は、この特異点の原因である聖杯を探している。……協力を要請したい」

ジキル「もちろん、願ったり叶ったりだよ。こちらとしても、この魔霧は取り除きたいものだしね」


モードレッド「……フン」

バットマン「何か異論があるなら聞くが」

モードレッド「ああ? ねえよ、ほっとけ」

バットマン「……」

モードレッド「……」

ダビデ「ほ、ほーら! 同盟締結! イェー! 仲良くしよう、な!?」

モードレッド「……チッ」

バットマン「……」



597: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:36:15.57 ID:IA8vUwsQ0



ジキル「魔霧の発生源だが……突き止めようにも、そう派手には動けない。だが、モードレッドから聞いた話によると……どうやら首謀者は『B・P・M・S』と、イニシャルで呼び合っているらしい」

バットマン「本当か」

モードレッド「嘘なんか吐くかよ。あのスケアクロウってヤツが笑いながら言ってたんだ。多分本当だろ、間抜け面だったし」

バットマン「……」


バットマン(B・P・M・S……Sはスケアクロウか。では残りは……)


バットマン「思い当たる人物は居るか」

ジキル「残念だけど、知り合いに当てはまりそうな人は居ない。
……魔霧発生から三日、掴んだ手掛かりはこれだけだ。スコットランドヤードに連絡しようにも、彼らも霧のせいで碌に動けない。政府からの支援も、魔霧が阻んでいる状況だ。動けるのは実質、今ここに居る人員だけだと思ってくれ」



598: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:36:56.98 ID:IA8vUwsQ0



フォウ「フォウ……」

ジキル「……そして、さっそくだけど頼みたい事がある。良いかな、ブルース」

バットマン「聞こう」

ジキル「さきほど、ツテから連絡を貰っていると言ったが……できれば、その人物の保護を頼みたい」

バットマン「……保護か。誰だ、それは」

ジキル「彼の名はヴィクター。ヴィクター・フランケンシュタイン」



599: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:37:35.69 ID:IA8vUwsQ0



………………


ベイン「……ここがお前達のアジトか。随分こじんまりとしたものだな」

P「……地下へ行けばもっと大きな空間があります。それよりようこそ、ミスター・ベイン。歓迎しますよ」

M「生憎『B』と『S』は席を外しているが……よく来てくれた。これで我らの計画はより盤石なものとなるだろう」

ベイン「御託は良い。仕事だ。今、最も計画の邪魔になっているのはどいつだ?」

M「……成程、聞いていた通りの男だな。では本題といこう」



600: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:38:01.23 ID:IA8vUwsQ0


M「我々の動きを監視し、その情報を反抗勢力へ流している者が居る。そいつの始末を頼みたい」

ベイン「誰だ。そいつの名を言え」

M「スイス人の科学者。死体を繋ぎ合わせ、至高の魂を作り上げようとした哀れな男」

ベイン「……」

M「ヴィクター・フランケンシュタインだ」




602: ◆GmHi5G5d.E 2018/03/25(日) 21:40:01.65 ID:IA8vUwsQ0
https://www20.atwiki.jp/nijiame/

マッドハッターもキャラクターBiosに説明が収納されていると思いますので、興味があれば是非ご覧ください

611: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:24:41.94 ID:XAEQl6mw0

………………

バットマン「……」スタスタ

モードレッド「……」スタスタ

バットマン「……」スタスタ

モードレッド「……チッ」スタスタ

マシュ「あ、あのー……」

モードレッド「あ? んだよ」

マシュ「いえ、その……道はこちらで合っているのでしょうか」

モードレッド「ん、おぉ。そうだな、こっちで合ってる。……ジキル、花屋の看板が見える方だったよな?」

通信機『ああ、そうだね。そこから少し行った場所にヴィクターの家があるハズだ』



612: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:25:12.30 ID:XAEQl6mw0

ジキル『ブルース、簡易の恐怖ガス緩和剤の効果はどう?』

バットマン「……かなりマシだ。だが……時折、発作じみて幻覚が現れる。しばらく外に居れば、すぐ効果切れになるだろう」

ジキル『そうか……やはり本格的な解毒剤が必要なようだ。こちらでも研究を進めてみる』

バットマン「頼んだ。帰ったらまた血液のサンプルを提出する」

ジキル『ああ、よろしく頼むよ』




613: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:25:46.24 ID:XAEQl6mw0


バットマン(……?)


バットマン「……なんだ、この匂いは」

マシュ「……うっ、何かが焦げる匂い……?」

モードレッド「……言われてみりゃ、なんだこれ。気持ちワリい匂いだな」

ダビデ「……肉が焦げる匂いだ、これは……」



614: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:26:15.78 ID:XAEQl6mw0


プスプス……ガラガラッ


ダビデ「……おい、ブルース。見ろあれ」

バットマン「……」

ダビデ「まるで爆弾で吹っ飛ばされたみたいな家屋だ、こんなの普通じゃないぞ」

バットマン「……あぁ、普通じゃない。ジキル、聞こえるか」

ジキル『ああ、聞こえているよ。なんだ?』

バットマン「確か、爆弾を使って人を殺害するサーヴァントが居ると言っていたな」

ジキル『……そうだな、そういうサーヴァントも召喚されているみたいだ』

バットマン「……この惨状はそいつの仕業に違いない」

マシュ「酷い……」グググッ

バットマン「……深呼吸しろ、マシュ。好ましくない緊張は取り除け……被害を少しでも抑える方法を考えよう」



615: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:26:42.24 ID:XAEQl6mw0


モードレッド「どうするよ? 爆弾魔は放っておくか、それとも……」

バットマン「……ここはやはり、」

マシュ「追いましょう。放っておけません。絶対に」グググ……

バットマン「……?」

マシュ「あ……いえ、ごめんなさい。判断は、マスターに委ねます」

バットマン「いや……止めるべきだろう。私もそれに賛同する……ジキル、少し保護に遅れが生じるが、構わないな」

ジキル『分かった。ヴィクターも心配だが、爆弾魔の手掛かりを掴んだなら是非そっちを解決してくれ』

バットマン「良し……犯人の追跡を開始する」



616: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:27:19.25 ID:XAEQl6mw0


モードレッド「けどよ、追跡っつったってどうやって……」

バットマン「……方法はある」スタスタ

モードレッド「あ、おい。……んだよ、一人行動大好きかよ」

バットマン「お前達は立ち入るな。現場の保存状態が良いままで観察したい」



バットマン(破壊の痕跡に触れれば、犯人の足取りも分かる……)スタスタ

残骸「」パラパラ……

バットマン「……」ガシッ、ズズズ……


父親の死体「」

母親の死体「」

子供の死体「」


バットマン「……」スッ、カチャカチャ


バットマン(……惨いものだ。父親と母親は子供を庇おうとしたのだろうが……爆弾の威力が大きすぎた。衝撃で子供も死亡、両親は爆発の直撃を受けて遺体の大部分が欠損……)


(逃げろマーサ、ブルース)

バットマン(……)




617: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:27:50.87 ID:XAEQl6mw0


(ブルース、これ以上私達のような悲劇を繰り返させないで)

(ブルース、頼む。私達は苦しんだ。お前も苦しんだじゃないか。これ以上何故戦う必要がある?)


バットマン「……」


マシュ「……マスター? 大丈夫ですか?」

バットマン「ああ、大丈夫だ。こちらには来るな。手掛かりを掴んだ」

ダビデ「本当かい、やるな」

バットマン「あぁ……」



618: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:28:38.96 ID:XAEQl6mw0



バットマン「まず、爆弾は東南東の方角で爆発した。爆破の衝撃がリビングを突き抜け、机の上にあったと思われる新聞紙、帽子、人形が吹き飛んでいる。
だがこの家から見た東南東の建物は無事なものばかりだ。これほど無差別な破壊を繰り返すならば、通り道にあったものは全て爆破するだろう。という事は犯人は正反対の方向から来たんだ」

マシュ「……」

バットマン「……恐らくあの位置に窓があった。窓から……西北西から対角へ爆弾を放り込み、この家を爆破」


バットマン(通り魔的、何の準備も許さないほど唐突な犯行だったのは両親の身体の向きから分かる。咄嗟に子供を抱きかかえたは良いが、爆発の衝撃が来た方向をカバーしきれていない)


バットマン「……そして破壊の痕跡はこの家から西へ、西へと続いている。つまり、西へ行けば犯人を追える」

モードレッド「いちいち回りくどい野郎だな。最初から西に行けって言えよ」

バットマン「行くぞ」

モードレッド「……待てよ? それじゃあヴィクターの家にも近付くじゃねえか。一石二鳥ってヤツか」

バットマン「……」


バットマン(……あまりにも出来過ぎた偶然だ。何か……何か、重大な事を見落としている気がする……)


(((ベイン。お前をロンドンへ飛ばす)))


バットマン「……」


バットマン(嫌な予感がする)



619: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:29:33.49 ID:XAEQl6mw0


バットマン「……全員、警戒してくれ。何か、出来過ぎている……」

モードレッド「出来過ぎている、だあ? ったくテメェは、自分の幸運も素直に受け入れられねえのか」

バットマン「……世界に運は無い。だが策略は存在する。誰かが私達を誘導しているとは考えられないのか」

モードレッド「考えすぎだろ。見た目が陰険だと考え方まで陰険になんのかよ」

バットマン「陰険で結構だ。だが危険なのは、影と執念、カリスマを併せ持った男だ。今回の敵にそれが居る可能性は高い」

モードレッド「だから何だ、剣で吹き飛ばせばいいだろが」

バットマン「謀略で絡まった剣にどれほどの力がある」

モードレッド「教えてやろうか」チャキ

マシュ「お、お二人とも、落ち着いて下さい!」

バットマン「……」


(消せ。不穏分子だ。ここで消せ。マシュ、ダビデが居れば十分な戦力だ。いつ裏切りを受けるか分かったものではない)

(マシュが死ぬぞ。ダビデが死ぬぞ。それは何故だ)

(モードレッドが裏切るからか? それとも、私達が永遠の命を持っていないからか?)


バットマン「……」

モードレッド「……」



620: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:30:35.67 ID:XAEQl6mw0



ポロン、ポロン……ポロロン……

~~~♪ ~~~~~~~♪

バットマン「……!」

モードレッド「……ああ?」

ダビデ「~~~~♪ ~~~~~♪ ……っと。どうだい、落ち着いたかな?」

バットマン「……」

モードレッド「……チッ、なんだってんだよ」

マシュ「ダビデさん……」

ダビデ「二人とも、ちょ~っと余裕が無さすぎるなぁ。ほら、深呼吸深呼吸。力んだ体をリラックスさせるんだ」



621: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:31:12.98 ID:XAEQl6mw0



バットマン(……)スー、ハー……

バットマン「……そうだな。悪かった」

モードレッド「……フン。どうせ行くしか無いんだろ、行くぞ」

マシュ「……マスター」

バットマン「迷惑をかけた。すまない……」

ダビデ「いいや、良いのさ。久しぶりに歌えて気持ち良かったし」ポロロロロン♪

バットマン「……行こう」



622: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:31:56.90 ID:XAEQl6mw0



マシュ「あ、あの。マスター」

バットマン「どうした、マシュ」

マシュ「今、マスターが苦しんでいるのは……私が、爆弾魔を追うように提案したから、ですか?」

バットマン「……苦しんでいる?」

マシュ「その……さっき、家の瓦礫を覗き込んだ時から、雰囲気が険しくなったというか……」


(((ブルース、これ以上私達のような悲劇を繰り返させないで)))


バットマン「……お前の責任ではない、マシュ」

マシュ「ですが……この霧もそうです。マスターの、負担なら……私の我儘で、傷付けているなら……」



623: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:32:24.46 ID:XAEQl6mw0


バットマン「……大丈夫だ。私はそうやわではない」

マシュ「……」

バットマン「マシュ、不安は分かる。人が死ぬ霧の中、出歩く危険性も理解している。いつ敵が濃霧の中から湧いて来るか、気が抜けない厳しさも」

マシュ「はい……」

バットマン「……だがお前は、訓練を積んできた。霧の中に足音が響けば聞こえる耳を持ち、敵が襲って来れば切り返すだけの技術を身に付けた」

マシュ「そう……ですよね」

バットマン「ああ、そうだ。……それに、何かあれば……ごほん、あぁ。たよ……たよr……力を合わせよう」

マシュ「……はい! そうですよね、力を合わせれば……!」

バットマン「……ああ。お前は優秀だ、マシュ」



マシュ(そうだ……私はもう、あの時とは違う。だから……だから、先輩のような事には、ならない)





624: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:32:54.98 ID:XAEQl6mw0



………………


ヴィクター「……ああ……私の、私の試みは……とうとう、失敗に終わったか」

???「……ぁ……ウゥ……」モゾモゾ

ヴィクター「ふ、くくく。私が、作りたかったのは……完璧な乙女だったと、いうのに……何処で間違ったのだろうな、私は」

???「……ウゥゥ……」シュン

ヴィクター「……そうだろう、涙も流せない乙女よ。望まれずして生まれた乙女よ。お前は、私の……人生をかけた失敗作だったのだ」

???「……」



625: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:33:25.12 ID:XAEQl6mw0



ドシリ、ドシリ


ドア「」ガチャ、キィィィィ……


ベイン「……」ドシ、ドシ

ヴィクター「……そうか、もう来たか。はやいのだな、破滅というものは」

ベイン「ヴィクター・フランケンシュタインだな。殺しに来たぞ」

???「……ウゥ……!!」バチバチバチバチッ

ベイン「……?」


???「ウゥゥアアアアアアアーーーー!!!」バチバチバチバチバチバチ、ギュアアアアアアアアア‼

ベイン「!!」




626: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:33:54.92 ID:XAEQl6mw0



………………


チリ……チリチリチリッ……

バットマン「……? 注意しろ、何か奇妙な音が……」


ドドドォォォォォォォォォン‼ ドッガァァァァァァァ‼


バットマン「!?」

ダビデ「なんだアレは……断続的な発光が見えるぞ」

マシュ「あれは……スパーク?」

ドクター『……! 注意してくれ、その先で感知できるほど魔力反応が急激に増大してる! 戦闘だ!』




627: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:34:22.82 ID:XAEQl6mw0


モードレッド「っしゃ、突っ込む……」

バットマン「待て! 迂闊に突撃するな、罠の可能性がある!」ガシッ

モードレッド「ああ!? 離せ腰抜け、指図すんじゃねえ!」バッ

バットマン「待てモードレッド! 戻れ!」

モードレッド「終わってから聞いてやる!」ダダッ




628: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:35:27.63 ID:XAEQl6mw0


マシュ「マスター、どうしますか!」

バットマン「……仕方ない、追うぞ。ダビデ、マシュ、位置を整えろ! モードレッドを……」


ドクター『待った、待った! 前方の戦闘とは別、高速で君達に近付く魔力反応がある!』


バットマン「……敵か」

ドクター『サーヴァント反応! これは……注意しろ、恐らく爆弾魔だ! 高濃度の魔力を両手に……!』


「ヒャハハハハハハハハハハ!」ババッ


マシュ「危ない!」ガガッ、ドッゴォォォォォォォォ‼

バットマン「っ」ゴォッ

ダビデ「うわっぷ……!」ゴォッ、ジリッ



629: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:36:06.51 ID:XAEQl6mw0


???「どぉーーーも!! そろそろ遊び疲れていますが、ここまで来て下さったことに感謝しますよォ!!」

バットマン「お前は誰だ、何故邪魔をする」

???「ひひひひひひっ、あの方の言った通り! 面白い目をした人に出会えましたよォ、感謝しなければねぇ? 破壊活動の結果死んでいった数百の命にも意味が生まれたというものですゥ!」

マシュ「……数百……!」グググッ

バットマン「あの方とは誰だ。そいつの命令に従って破壊を繰り返していたのか」

???「ウフフフフッ、さあどうでしょうね。ほら、ワタクシって気まぐれなところがございまして。命令のためなのか、自分の快楽のためなのかワカリません」

バットマン「……!」




630: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:36:39.74 ID:XAEQl6mw0



(おいバッツ、今誰を思い浮かべた? ウフフフ……俺をあんなユーモアの無いピエロと一緒にするなよ、笑えないぜ)


マシュ「……マスター、攻撃の許可を」

バットマン「待て、マシュ。迂闊に近付くな」

マシュ「でも!」

バットマン「深呼吸しろ。力んでいるぞ」

マシュ「っ……すみません……」

ドクター『……解析中。気を付けてくれ、目に見えない魔力塊がそこら中に仕掛けられている』

ダビデ「うへえ、良い趣味してるなアイツ……リアルマインスイーパーってところか」

???「ではではぁ、そろそろこのメフィストフェレス、戦闘を開始しますよォ!!」ババッ


631: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:37:06.70 ID:XAEQl6mw0


メフィストフェレス「ほぉれっ!!」パチンッ

虚空「」ドッガァァァァァァァ‼

マシュ「っきゃ……!」ズサッ

バットマン「注意しろ! 奴の爆弾は不可視だ、迂闊に動くと……!」

メフィストフェレス「動かなければ良いと言う話でもありませんよォ!」パチンパチンッ

石畳「」カッ
虚空「」カッ


バットマン「……!!」

ダビデ「させるかッ!!」ヒュンッ

石「」ヒュォォォォォンッ


ドガガァァァァァァァァ‼



632: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:37:57.87 ID:XAEQl6mw0



バットマン「っつ……」ゴロゴロッ


バットマン(ダビデの石に弾き飛ばされたか……!)

ダビデ「平気か、ブルース!?」

バットマン「大丈夫だ、礼を言う」

マシュ「くっ……」ムクリ

メフィストフェレス「ヒャハハハハハハハハハハ! 早くも満身創痍ですか、まだまだ爆弾は残ってますよお?」ユラユラ

バットマン「……」



633: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:38:26.51 ID:XAEQl6mw0



バットマン「……奴から一定の範囲内の無機物は、自由意志で爆発物に変えられるようだ。いや、魔力を仕込んで爆発させると言うべきか」

メフィストフェレス「ほう、慧眼ですね。くふふふ、やはり面白い」

バットマン「……マシュ、盾を置くんだ。メフィストフェレスに肉弾戦を仕掛けろ。ダビデ、中距離から攻撃だ」

マシュ「はい!」

ダビデ「オッケー、やってやろう……」

メフィストフェレス「ウフフフ、そう上手く事が運びますかねェ?」

バットマン「……」



634: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:38:57.30 ID:XAEQl6mw0


マシュ「はああっ!」タンッ、ドドォッ‼

メフィストフェレス「シャッハァ!」ガシッ、ブォンッ‼

マシュ「てやぁっ!」グルッ、ギュォンッ

メフィストフェレス「うッ」グォッ、ドッガァァァァァァァ‼


石畳「」バガァッ‼


マシュ「まだだ……!」

バットマン「マシュ! 深追いするな! ダビデ、投擲を!」

ダビデ「言われなくてもッ!」ギュンッ

石「」ヒュォォォォォンッ


ゴッシャァァァァァァァ‼


バットマン「……どうだ」


ダンッ‼

メフィストフェレス「ッはァァァァァー!! 後ろですよぅっ!!」ブァッ‼

バットマン「!?」ババッ



635: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:39:27.20 ID:XAEQl6mw0



ダビデ「しまった!」バッ、ガガッ

メフィストフェレス「ほぉら、チクタク、チクタク……」パチン

竪琴「」カッ

ダビデ「……!!」バッ


ドッガァァァァァァァ‼

ダビデ「ぐわああああああああああ!!」ゴロゴロッ


バットマン「ダビデ!」

マシュ「マスター! 下がってください! こいつは私が……!」ダッ



636: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:40:05.21 ID:XAEQl6mw0



メフィストフェレス「ハハハァー!! 命を持つ痛みすら叫ばず!!」パチンッ


虚空「」カッ

ドガァァァァァァァァ‼


マシュ「っ……」ズサァッ、ダンッ


メフィストフェレス「果てには死が待つと言うのに、私の破壊行動に怒りを燃やす! それがアナタ達の弱点だ!」パチンパチンッ

バットマン「……!!」

虚空「「「」」」カッ


ドドドドドドドガガガガガガァァァァァ‼‼



マシュ「……!!」ジリジリッ

バットマン「マシュ!」

メフィストフェレス「そしてェ!! ……挙句迷いがありますねぇ? そこの猫のコスプレさん……くふふ」



637: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:40:32.82 ID:XAEQl6mw0



バットマン「……何の話だ」

メフィストフェレス「目が語っていますよォ。貴方は納得できていない。恐怖の中で誰かが死ぬ想像ばかりしている」

バットマン「……」

メフィストフェレス「爆弾で死ねた人は幸せですよ、ウフフ……この魔霧の中、恐怖に目を見開き、親や子を手にかけて死んでいく者は少なくない。
貴方は恐怖を抑え込んでいる。ですが、それもいつまで持つでしょうねえ? この霧は見えていた幻を消し、見えなかった真実を暴き出す……」

バットマン「……」

メフィストフェレス「貴方も本当は気付いているんじゃないですかァ? 限りある命なんて、所詮……」

バットマン「……!」

マシュ「……マスター! 指示を!」




638: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:41:06.99 ID:XAEQl6mw0



バットマン「……マシュ」

マシュ「敵の策略です! 気をしっかり!」

バットマン「……」

ドクター『ブルース!』

バットマン「……ああ! 『令呪を以て命じる』! 魔力をマシュの膂力へ変換しろ!」

マシュ「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ダダッ

メフィストフェレス「ヒャハハハハハアーーーー!! 真実から目を逸らしますか! それもまた、人間らしい……ですが、甘い」バッ

マシュ「何……」

メフィストフェレス「迂闊にこの範囲まで踏み入って来たのは愚策としか言えませんねえ。さて、問題です。ワタクシ、一度でも『人間』を爆弾に変えられないと言ったでしょーうか?」パチンッ

マシュの右手「」カッ

マシュ「……!」


639: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:41:39.70 ID:XAEQl6mw0



メフィストフェレス「さあ、ドッカーン……うぶっ」

マシュ「……因果応報です……!」ガシッ

メフィストフェレス「……へえ、良い目をするじゃないですか……!」ギチギチギチ……


バットマン「マシュ!」ダッ

マシュ「マスター、離れて……」


ドッガァァァァァァァァァァ‼




640: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:42:08.49 ID:XAEQl6mw0



バットマン「……っ」ゴゥッ


煙「」モクモク……


スタ、スタ。スタ、スタ


メフィストフェレスの死体「」スタ、スタ。スタ……ドシャッ


バットマン「……マシュ! マシュ、何処だ!」ダダッ

「ここです……」

バットマン「マシュ!」



641: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:42:44.71 ID:XAEQl6mw0



バットマン「……マシュ」

マシュ「無事です……くっ……」ドクドク……


バットマン(右手首から先が欠損……出血が激しい)


バットマン「動くな。『令呪を以て命じる』、回復しろ」ポゥッ


マシュ「……ごめんなさい、マスター」ジュウゥゥゥゥゥゥ……

バットマン「……私の事前準備が甘かった。余裕も殆どない状態だった」

マシュ「……いいえ、それは……私もです」ジュウゥゥゥゥゥゥ……

バットマン「……」



642: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:43:23.30 ID:XAEQl6mw0



バットマン「……マシュ。お前には、恐怖ガスは効いていないんだったな」

マシュ「……はい。効いていません」ジュゥゥゥゥ……

バットマン「勘違いなら言って欲しい。だが、お前は……お前も、普段より少し、焦って見えた。爆弾の事を聞いた瞬間に、表情が変わったように見えた。
……何か恐れているのか、マシュ」

マシュ「……それは……」ジュゥゥゥ……

バットマン「……」

マシュ「……」

バットマン「話せないなら無理強いはしない。ダビデを探すぞ。その後にモードレッドだ」

マシュ「……はい」

バットマン「右手は治ったか。動かせるか」

マシュ「はい。……すみません、マスター」

バットマン「……謝るな。誰しも言えない事の一つや二つはある」スクッ




643: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:43:49.18 ID:XAEQl6mw0



バットマン「……ダビデ! 何処だ!」スタスタ


バットマン(目視した限りでは致命傷は避けていたハズだ。……何処に行った……)


「こっ……だ、こっち……」


バットマン「……!! ダビデ、そこか!」タッタッ




644: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:44:29.85 ID:XAEQl6mw0



バットマン「……」タッタッ

バットマン「……」タッタッ……ピタッ


バットマン(おかしい)

バットマン(私はロンドンに居たハズだ)

バットマン(なのに何故、私は……)

バットマン(何故、雨が降る裏路地に立っている?)



ザアザア……ザアザア……




645: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:45:01.86 ID:XAEQl6mw0



父親の死体「ブルース……」ズリ、ズリ

母親の死体「ブルース……お願い……私達を、これ以上苦しめないで……」ズリズリ

バットマン「……」ヨロ

父親の死体「永遠の命……それさえあれば、私達は……」ガシッ

母親の死体「お願い、繰り返させないで……私達を、助けて……」ガッ

バットマン「…………」ジリ、



646: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:45:59.65 ID:XAEQl6mw0



マシュの死体「マスター……私は、もっと生きていたかった……」

バットマン「……マシュ……」

マシュの死体「あなたが、悲劇を選んだから、私は……私達は……」

ドクターの死体「ブルースくん……」

所長の死体「ブルース……」


バットマン「……」


バットマン(恐怖ガス緩和剤の効果が切れた……そのせいで皆が死んだ? 違う、現実を正しく認識しろ……マシュは死んでいない……はずだ)


(だが、死ぬのも時間の問題だ)



647: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:46:48.12 ID:XAEQl6mw0



(マスター……きて……起きて下さい、モードレッドさんが……!)

(ブルース、頼む……なんだアイツ、強過ぎるぞ……!)


バットマン(……ダビデの声……マシュの声……永遠を拒否すれば、彼らは死ぬのか……)

バットマン(……違う。使命がある。忘れるな、起き上がれ……!)


母親の死体「ブルース……」

父親の死体「ブルース」


バットマン「……」スーッ、ハーッ……


バットマン(……精神を安定させろ。すべき事は何だ。ブルース・ウェインはまだ心を殺す術を忘れていない。バットマンになれ)


バットマン「……」ムクリ



648: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:47:26.67 ID:XAEQl6mw0


………………


バットマン「……っ、起きたぞ、状況を……!」ガバッ


モードレッド「っぐあ!?」ドッシャァシャシャシャシャ‼

バットマン「なに……」

マシュ「マスター、起きてくれましたか! 先程から謎のサーヴァントが出現、苦戦を強いられています!」

ダビデ「石が当たっても通じないぞ……!?」

モードレッド「チックショウ、あの大男……! ヴィクターをやったのもアイツか……!」ギリィ


ゴキリ、ゴキリ

ドシ、ドシ


「ハハハハハハハハハハ! 随分かゆい攻撃を繰り出すものだな!」ドシ、ドシ




649: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:48:11.19 ID:XAEQl6mw0


バットマン「……あの声は……!」


バットマン(間違いない。ヤツだ。今戦っても勝ち目が薄すぎる)


バットマン「っ、ダビデ、マシュ! 一旦退却するぞ!」ダッ

マシュ「ま、マスター!?」

バットマン「このままでは勝てない! 退いて対策を立て直す……」ピタッ


ガシャリ、ガシャリ。プシュー……


???「……逃亡は、無駄である」ガシャリ、ガシャリ

バットマン「……」


バットマン(退路を、断たれた……)



650: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:49:04.18 ID:XAEQl6mw0



「フハハハハハハハハハハハ! 怖いかバットマン……聞こえるぞ、悲鳴を飲み込む音が!」


バットマン「スケアクロウまで来たのか……」

???「貴様らに恨みはない。ただ、悪と悲劇ばかり産むこの世界に恨みがあるのだ」ガシャリ、ガシャリ

バットマン「……」ジリッ

???「我が名はチャールズ・バベッジ。蒸気王。我が夢の世界はすぐそこに。蒸気があまねく地上を覆い、悪が土を踏む事はない。貴様らの命は、その礎。尊い犠牲だ」

バットマン「……」


バットマン(チャールズ・バベッジ。共同計算機、コンピューターの始祖。彼の発明が寿命に間に合ってさえいれば、世界を変えたとも言われる人物だ……真の天才であり、数学者)


バベッジ「……」プシュー……


バットマン(……全身に機械の鎧を纏っている理由は不明だが、あれは容易には破れそうにない……)




651: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:49:33.28 ID:XAEQl6mw0



スケアクロウ「フハハハハハ! さあ、お前の破滅が歩み寄っているぞ……!」ズォォォォォォ……


マシュ「くっ……」ジリッ

バットマン「固まれ、ダビデ、マシュ、モードレッド」

モードレッド「ちっ……」チャキッ

ダビデ「ヤバそうだな、これは……」



ドシリ、ドシリ。ドシリ、ドシリ。



「手は出すな。俺一人で相手をする」ドシ、ドシ




652: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:50:31.14 ID:XAEQl6mw0



バットマン「……」

「フフフ、バットマン。俺を忘れたか? 俺はお前を忘れたことなど無い。召喚された時から、この瞬間を待ち望んでいた」ドシ、ドシ

バットマン「……」

「お前を殺せば、きっと世界は終わるのだろう。悲しむべき事だ。だが、それがどうした」

マシュ「……」ゴクリ

「俺にとっては、さして大事でもない。世界の破滅も良いだろう、見てやろう。所詮守るべくもない。何故なら……」

モードレッド「……」ジリッ


ズォォォォォォ……


ベイン「……俺は、ベインだ」



バットマン(ライダージャケットで覆われた異様な巨躯。マスクで隠した素顔。かつて私を打ち破り、ゴッサムシティを悪の淵へ叩き込んだ男、ベイン……)



653: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:51:16.77 ID:XAEQl6mw0



モードレッド「……御大層な名乗りは終わったかよ、デカブツ」

ベイン「待ってもらえて光栄だ。尤も、お前の実力では不意討ちでも俺には勝てんが」

モードレッド「ほざけ……!」ググググッ

バットマン「落ち着け! 奴の口車に乗るな、危険だ……!」

モードレッド「クソ……」

バットマン「マシュ……ヤツを相手に、決して盾は手放すな。得意な武器が無くなれば即、敗北だと思え」

マシュ「……はい」ガシャリ


マシュ(こんなに緊張しているマスターを見るのは、初めてです……)


バットマン「モードレッド、お前は少し様子見をするんだ」

モードレッド「……チッ……」

バットマン「……ダビデ、耳を貸せ」

ダビデ「オッケー、悪だくみは大好きだ」



654: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:51:53.69 ID:XAEQl6mw0



ベイン「秘密の小話は終わったか、バットマン」

バットマン「……」

ベイン「そのようだな。では……仕掛けさせてもらうとしよう」

マシュ「行かせません……!」バッ

ベイン「ほう、まずはお前か」


バットマン(マシュの盾と身体能力で時間を稼ぎつつ、モードレッドにヤツの格闘パターンを読ませる。……頼みの綱はダビデだが、働くか……)


ベイン「……」


ベイン(……)ニヤリ



655: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:52:31.80 ID:XAEQl6mw0


ベイン「……」ジリッ

マシュ「!」スッ


マシュ(打ち込んで来る……! 受け切ってみせる!)ガシャリ


バットマン「……!!」


ベイン「……」スーッ……


ダ  ン  ‼


マシュ「っ」

ベイン「フンッ!」ギュゴォッ‼




656: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:52:58.99 ID:XAEQl6mw0


盾「」ガッ、ビリビリビリビリビリッ

マシュ「あ……」ビリビリビリビリビリ


マシュ(ただの掌底、なのに……衝撃が全身を突き抜けて、動けない……!)ヨロ


ベイン「トドメだ」ス、スーッ……ドシン


モードレッド「させっかよ!」ブォンッ


ベイン「ふっ」ガシッ




657: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:53:29.92 ID:XAEQl6mw0


モードレッド「……クッソ、放せ、ちくしょうめ……!」グ、グイッ

ベイン「俺に飛び掛かりたい衝動を抑えていたのは流石だ、騎士よ。名前も知らんが……高名なのか、それとも血筋でも良かったか」

モードレッド「……! 黙れ、テメェに何が分かる……!」

ベイン「分かるとも。プライドの高さが災いして真の実力を出し切れていないところも、仲間を見捨てる事ができない騎士道精神も……まるで生前、誰かに認められていた自分を再現しようとしているようだ。涙ぐましい」

モードレッド「テメェ……! 殺す、殺してやる、ぶっ殺す!!」ジタバタ

ベイン「ハハハ……!」グイッ、ブォン

モードレッド「っぐが……!」ドッシャァァァァァァァ……



658: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:54:10.29 ID:XAEQl6mw0



ベイン「さて、次は……」

バットマン「フッ」シュポッガシッ

ベイン「待ちわびたぞ、バットマン」ガシッ、グイッ

バットマン「っく……」グォンッ

ベイン「……フン!!」ドッゴォ‼

バットマン「が……!?」ビュォッ、ゴッシャァァァァァァァ‼


バットマン(駄目だ、強化済みスーツ越しでも内臓が形を……あばらが外向きに……)グラリ、ドシャッ


バットマン「……く……ぐっ……」ピッピッ、ギュォォォォォッ


バットマン(スーツのアイソメトリック力を最大に……肉体の変形を防ぐ……)


ベイン「……今度は信念だ、バットマン。お前は肉体をいくら潰しても這い上がってくる。ならば、精神を先に潰す」ドシ、ドシ


バットマン「……」ヒューッ、カヒュッ……


バットマン(ダビデ、時間は稼いだぞ……今しかない!)


659: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:54:47.26 ID:XAEQl6mw0



マシュ「行かせません……!」バッ

ベイン「お前は俺に負けた。これ以上は無駄だ」

マシュ「行かせません!」

ベイン「……聞く耳がないようだな。ならば、お前の背骨から……」



石「」ヒュォォォォォォッ


ガッシャァァァァァァァァァァ‼


ベイン「!! 何!?」バッ



660: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:55:27.31 ID:XAEQl6mw0



ダビデ「よっし! どうだブルース、やってやったぞ! 僕にかかればこんなものだ!」

ベイン「き、貴様……俺の背中のタンクを……!?」ヨロ

バットマン「……よくやったぞ、ダビデ……!」


バットマン(ベインの超人的身体能力は、筋力増強剤『ヴェノム』に依存している。今、背部にあるそのタンクを破壊した……!)


バットマン「マシュ、モードレッド、チャンスだ! 仕掛けろ!」

マシュ「はい!」

モードレッド「……のヤロウ!!」ムクッ



661: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:55:54.61 ID:XAEQl6mw0



モードレッド「オラァ!」ヒュォンッ

マシュ「たああっ!!」ブンッ


ドガッシャァァァァァァァァァァァァァ‼


煙「」モクモク……


バットマン「……やったか」



662: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:56:39.23 ID:XAEQl6mw0


ドゴッ


マシュ「あぐっ……」ドドッ、ゴロゴロゴロ……

バットマン「何……!?」



663: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:57:28.39 ID:XAEQl6mw0



ギリ、ギリギリギリギリ、ギチギチギチ……


「成程、確かに弱点だ。俺の背中のタンクは常にヴェノムを供給し、俺を強くする。これが無くなれば、俺は弱くなる」グググググ……


モードレッド「……何だと……!?」ギリギリギリギリ


ベイン「だが、バットマン。言っていなかった事がある」バサッ

ライダージャケット「」バサァ……

ベイン「俺のタンクは特注品でな。一度稼働させて循環を始めさせない限りは、全く意味のないシロモノなんだ」


バットマン「……馬鹿な……」


空のタンク「」パリ……


ベイン「今回、俺はサーヴァントになってから、このヴェノムタンクを一度も使っていない。この意味が分かるか?」


バットマン「モードレッド! 逃げろ!」

ベイン「徒労だ。何もかもな」



664: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:58:20.95 ID:XAEQl6mw0


モードレッド「この野郎!!」ググッ

ベイン「フフフ……!」グイッ、ドッゴォ‼

モードレッド「ぐが……!」ドゴシャァァァァァァァ‼

バットマン「……ドクター、ドクター! 今回の特異点は攻略不可能だ、マシュだけでもそちらへ帰せ! ドクター! 聞こえないのか!!」

ベイン「馬鹿め。俺が通信妨害を怠らないと思ったのか、バットマン。リドラーが特定した周波数に対策を施してある。俺の周囲で通信機は使えん……」ピピー‼ピピー‼


影『……』ヴゥゥゥゥン……


ベイン「……今度は俺への通信か。せわしないな」




665: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:59:07.19 ID:XAEQl6mw0



影『お前に任せていたバビロニアの戦線が押されつつある。これはどういう事だ』

ベイン「……用を済ませればすぐに戻る」

影『さっさとしろ。貴様が大丈夫だと保証したんだぞ』

ベイン「焦るな。俺が戻れば元通りだ……」ピッ

影『……』シュゥゥゥゥン……


ベイン「……無粋な者も居たものだ。だが、これで水入らずか?」ドシ、ドシ


バットマン「……くっ……」


バットマン(マシュ、モードレッドは気絶……私はスーツで辛うじて意識を保っている状態……これでは……!)


ベイン「万策尽きたか。ならば死ね」

「まだだ!」バッ




666: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 19:59:34.10 ID:XAEQl6mw0



ダビデ「……僕がまだいるぞ、大男くん!」

ベイン「……興味が無いな。お前には」

ダビデ「そうかな? 僕はダビデ王だ。キミがおおよそ想像もしないような荒事を潜り抜けてきた! キミみたいな大男だって初めてじゃないさ!」

ベイン「それは面白い。では、その経験を使って俺を打ち倒せるか?」

ダビデ「……いや、この間合いでは難しいかな!」

ベイン「そうか。では、遠慮なく死ね」ドシ、ドシ

ダビデ「……!」



バチバチバチバチバチバチィッ‼



667: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 20:00:08.94 ID:XAEQl6mw0



ベイン「っ……」バチィ‼

ダビデ「おっ……! 救援!?」

???「ゥ、ウー……!」バチバチバチバチバチバチ……

ベイン「チッ……! フランケンシュタインの怪物か。仕留め損ねていたとは、俺もまだまだ……」ジリッ

???「ゥゥゥゥゥゥゥァアアアアアアアアアアアア!!!」バチバチバチバチィァ‼

ベイン「……!」バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂィ‼




668: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 20:00:35.24 ID:XAEQl6mw0



ベイン「……やってくれるな、怪物め!」バチィ、ドゴォ‼

???「ぅ、ぁ……」ドシャッ

ダビデ「ええーい! やっぱり僕がやるしかないか、こういう役割は……!」バッ

バットマン「ダビデ……」

ダビデ「ブルース、皆を頼んだ! 僕はやっぱりこうなるらしい! 戦いの中で死ぬなんて、柄じゃないんだけどね!」

バットマン「……!」


ベイン「邪魔をするなら、へし折ってやる!」ガシッ、グイッ

ダビデ「ぐあああっ……」ブラァン……



669: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 20:02:01.86 ID:XAEQl6mw0



バットマン「……っ」


バットマン(時間を無駄にするわけには行かない! 確か、この年代のロンドンには既に下水道が発達していたハズ……)プシューッ、プシュー……


ダビデ「……ブルース、息子の事は、頼んだ」ギチギチギチ……

バットマン「……!」

ダビデ「アイツ、考えすぎて、こじれる事が、よくあるからなぁ。キミくらい、頑固な奴にしか、直して、やれない」

バットマン「……」

ダビデ「……じゃあな、ブルース」

バットマン「……さらばだ、ダビデ!」ポチッ


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ、ガラガラガラガラガラガラ……



ベイン「終わりだ!」グィンッ、ドッシャァ‼

ダビデ「ぐああああ!!!」ゴギッ……




670: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 20:02:51.77 ID:XAEQl6mw0



バットマン「ぐぅっ……」バシャッ

マシュ「……」バシャッ

モードレッド「……ぐ……」バシャアッ

???「ぅ……」バシャン


バットマン(流れが速い……これは、恐怖ガスの廃液が流れているのか……!)


バットマン「く……」シュポッガシッ

ギュルギュル……ギュギュギュ……

モードレッド「ぐ……」ザバザバ……

マシュ「……」バシャシャ……

???「……ぅぁ……」グタッ……


バットマン(このまま、流れて……逃げ切れるか……液を飲まないように気を付けても、気化したものが肺を侵す……)




671: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 20:03:41.22 ID:XAEQl6mw0


マシュ「先輩……ごめんなさい……私が……私が……」

モードレッド「……父上……なんで……」

バットマン「……今、連れて帰ってやる……マシュ、モードレッド……」

バットマン「大丈夫だ、まだ……すまない、ダビデ……」

バットマン「……ドクター、私のバイタルチェックを……」

バットマン「……」


(((ブルース)))

(((ブルース、お願い……)))


((ブルース))

(ブルースくん)

(ブルースくん!!)



通信機『ブルースくん! 返事をしてくれ! バイタルサインが滅茶苦茶だぞ、何があったんだ! ブルース!!』

バットマン「……」


ザアアアアアアアアア……ザアアアアアアアア……



672: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 20:04:25.44 ID:XAEQl6mw0



………………

ベイン「……」ブンッ

ダビデ「……」ドシャッ

ベイン「……この下はどうなっている」

スケアクロウ「恐怖ガスの失敗作が流れている。たとえサーヴァントでも、発狂は免れないだろう……フフハハハハ……」

ベイン「そうか。……これなら、アイツが言っていた意味も分かる。障害にすらならん、下らん相手だ……俺はバビロニアへ戻る」ドシ、ドシ

バベッジ「……一つだけ良いか、ミスター・ベイン」

ベイン「何だ」

バベッジ「ヴィクターはどうなった?」

ベイン「殺した。歯ごたえの無い男だった」

バベッジ「……そうか。さらばだ、ミスター・ベイン。二度と会わない事を願おう」

ベイン「フン……」ドシ、ドシ……ズォォォォォォ……



673: ◆GmHi5G5d.E 2018/04/02(月) 20:05:05.00 ID:XAEQl6mw0



ベイン「……」ドシ、ドシ


ベイン(バットマン。そして、あの盾の少女……マシュ。面白い)


ベイン「ここまで来い……」


ベイン(生き延びろ。生きて此処まで来い)


ドシ、ドシ。ドシ、ドシ……


霧「」ズォォォォォォ……



686: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:13:59.52 ID:iNQLdeY80

………………

M「……つまり、こういう事か。ベインが潰したと断言できるのは、結局、敵サーヴァント一騎だけだと」

スケアクロウ「ただ座しているだけの者よりよほど誇るべき成果だろうさ、ククク」

M「……」ギシッ

P「落ち着きなさい。次の手を考えねば」

M「……ふん。バベッジ、聞こえるか」ピピッ

バベッジ『聞いている』ブゥン

M「植物園へ向かえ、奴らが賢いなら、そこへ来るはずだ」

バベッジ『……了解した』



687: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:14:46.90 ID:iNQLdeY80

P「……」

M「言いたい事があるなら言うが良い、パラケルスス」

P(パラケルスス)「いえ……ただ、変わったのだと、実感しただけです」

M「……人は変わってしまう。ならば、気高いままで仕事を終えたい」

パラケルスス「……」

スケアクロウ「……」



688: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:16:16.06 ID:iNQLdeY80


M「結果、自分が変わってしまったとしてもだ。……過ぎた贅沢だと、思わないでもないのだがね」

パラケルスス「……贅沢ですか」

スケアクロウ「……見てきたハズだ、マキリ。人間の本質は恐怖だ。絆、博愛、平和。そんな綺麗事を囁いていた連中が、一口でもガスを吸えばどうなった?
結局、世界は嘘で覆われているのだ。見栄えだけは良い、輝かしい嘘でな」

M(マキリ)「……そう、だったな。ああ、無論、我々の目的が揺らぐ事はない」

スケアクロウ「……私は行く。恐怖ガスを更に改良しよう」スタ、スタ……

パラケルスス「……」



689: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:16:45.44 ID:iNQLdeY80


マキリ「……」

パラケルスス「……悪は止まれない。私がそう言ったのを覚えていますか」

マキリ「……覚えている。勿論だ」

パラケルスス「ですが、毒がその分量によって薬にもなるように……必要悪というのは、存在するのです。
今、その魂が悪に染まっていても。きっと世界は良い方向へ変わっているのです。変化に犠牲は、つきものですから」

マキリ「……ふふ、魂か。なあ、パラケルスス」

パラケルスス「はい、マキリ」

マキリ「私の理想は──」



690: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:17:11.58 ID:iNQLdeY80

………………


ゴポッ、ゴポポポポポ……


(ブルース)

(ブルース)

((バットマン))

バシャアッ、ポタ、ポタ……

((坊ちゃま……))

(((ブルース)))

(((お父さん……)))

(((逃げろ)))


バットマン「……」ポタ、ポタ……

???「ぅあ……」バシャバシャ……

バシャ、バシャ……


???2「おーい! こっちだ、こっち! 運んできてくれ!」



691: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:17:37.59 ID:iNQLdeY80



(((ハハハァー!! 命を持つ痛みすら叫ばず!)))

(((果てには死が待つというのに、私の破壊行動に怒りを燃やす! それがアナタ達の弱点だ!)))



???「う……」バシャバシャ

???2「酷いな……ブルースが特に不味い。早く緩和剤を打たなきゃ」カチャカチャ

バットマン「……ぐ……」



(((貴方も本当は気付いているんじゃないですかァ? 限りある命なんて、所詮……)))


(((今度は信念だ、バットマン。お前は肉体をいくら潰しても這い上がってくる。ならば、精神を先に潰す)))

(((お前を殺せば、きっと世界は終わるのだろう)))


(((世界は狂っている……貴様は狂っていない)))

(((こちらへ来い、ブルース)))

(((ブルース)))


(((逃げろマーサ、ブルース)))


692: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:18:06.69 ID:iNQLdeY80



バットマン(……)

(((私達はお前にそうなって欲しくなかった、ブルース)))

バットマン(……)

(((ただ、お前が幸せに生きてくれれば、それだけで良かったのに)))

バットマン(……)

(((……だが、もう良いんだ。こっちへ来い、ブルース。一緒にいこう。もう、これ以上苦しむ必要はない)))スッ

ブルース(……)

(((ブルース、大丈夫よ。お母さんだってついてるわ。こっちへいらっしゃい)))


ブルース(……)


バットマン(……違う)



693: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:18:47.69 ID:iNQLdeY80


(((ブルース)))

バットマン(向き合え。真の恐怖とは何だ。私は何を恐れている)

(((ブルース、こっちへいらっしゃい)))

バットマン(一時の暖かさでそれを誤魔化すな。私は何を恐れている。仮面を剥がれる事か? それとも)

(((ブルース)))

バットマン(また、闇の中で動けなくなる事か?)



バチチィッ、ドクン‼


バットマン「ッ!!」ガバッ

???「ゥー……」バチ、バチチチ

???2「ブルース!」


694: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:19:18.21 ID:iNQLdeY80


バットマン「ここは一体……ジキル博士?」

ジキル「僕だよブルース。通信が途切れたから、電波の発信源を追って駆け付けた。助けてくれたのは、この子だけど」

???「……」

バットマン「……」チラッ


排水口「」バシャシャシャシャ……


マシュ「……」グタッ

モードレッド「……」グッタリ


バットマン「……本当に、お前が?」

???「ウ!」コクコク



695: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:19:49.91 ID:iNQLdeY80


バットマン「……ありがとう、あのままでは死んでいた。助かった」

???「ウゥ……」フリフリ

バットマン「ジキル、恐怖ガスの緩和剤はまだあるか? マシュとモードレッドも恐らくガスの影響下にある」

ジキル「駄目だ、ストックの一本分は既にキミに使った。何処かに隠れて調合しないと」

バットマン「そうか……」


通信機『』ピピー‼ ピピー‼

バットマン「もしもし、ドクターか」ピッ

ドクター『ブルースくん! 良かった、応答しました! 生存を確認!』

所長『ブルース! 生きてたのね……!! どうして連絡しなかったの!? マシュは!?』

レオナルド『ほら言ったじゃないか、絶対生きてるって』

ドクター『何度もバイタルを確認してたクセによく言えるな!?』

レオナルド『恐怖に勝るのはいつだって事実さ……早速だが、状況を確認したい。良いね、ブルース』

バットマン「ああ、報告する」



696: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:20:28.78 ID:iNQLdeY80


………………


ドクター『……成程、ベイン。それにB・P・M・Sのうちの「B」、バベッジの登場か』

レオナルド『サーヴァント三騎を相手に全く退かず、それどころか遊びじみて返り討ちにしただって? そのベインというヤツは何者なんだ、ホントにただのサーヴァントなのかな?』

バットマン「……怪しいものだが、生前から考えると妥当な強さではあった」

レオナルド『うーん……滅茶苦茶だな。ブルース、キミは平気かい?』

バットマン「一撃もらったが、スーツのアイソメトリック機能で持ちこたえている」

ドクター『……そのまま休んでいて欲しいところだが、マシュのバイタルがひと呼吸ごとに悪化している。可及的速やかに屋内へ退避してくれ』


ジキル「ここから近いのは……図書館だな。こちらとしても、広めのスペースを確保したい」

バットマン「分かった、では行くぞ。ジキル、モードレッドを頼む。私はマシュを担ぐ」

ジキル「了解。よいしょ……うっ、重いな……」ガシ、グイッ

モードレッド「……ちち、うえ……」グタッ



697: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:20:55.88 ID:iNQLdeY80


バットマン「……」ガシ、グイッ

マシュ「……先輩……」

バットマン「……」スタ、スタ

マシュ「……ごめんなさい……」

バットマン「……」



698: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:21:21.34 ID:iNQLdeY80


コツ、コツ……


ドクター『ブルース、その……肝心な時にサポートが行き届いていなかった。すまない』

バットマン「……あぁ、大丈夫だ。私も、現場で常に策を考えるハズが、犠牲を出しながらの撤退になってしまった……まるで最悪を受け入れたようだった。情けない話だが」ポタポタ、グイッ

ドクター『……』

バットマン「……それに、フランケンシュタイン博士を助けられもしなかった。すまない」

ジキル「……良いんだ。キミ達が帰って来た、それで十分だよ」

???「……ゥ……」フリフリ

バットマン「……良ければ、キミの名を教えてもらえないか」

???「ふらん……」

バットマン「フランか……」



699: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:22:00.00 ID:iNQLdeY80


バットマン「ダビデを……ダビデを助けようとしてくれた事に、感謝する。ありがとう」

フラン「……ゥ」

ドクター『……ダビデも、消滅したんだね。アイツ、最期に何か言ってたかい?』

バットマン「あぁ。息子を頼むと、そう言われた」

ドクター『えっ……息子って、そ、ソロモンを?』

バットマン「ああ、そうだろう」



700: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:22:25.50 ID:iNQLdeY80


ドクター『……そうか、そんな事を……』

バットマン「ドクター、やはり……ダビデは、お前が思っているほどは、悪い奴ではないと思う」

ドクター『……そう、か。
……そうだね。僕も少し、言い過ぎたかもしれないなぁ』

バットマン「……」

ドクター『……ありがとう、ブルース。ごめんね』

バットマン「謝る事ではない。ダビデにも息子を思う気持ちがあった、それだけの事だ」

ドクター『そうだね……』



701: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:23:04.04 ID:iNQLdeY80


バットマン(しかし、今回の黒幕がソロモンだと直接ダビデに明かした事があっただろうか)

バットマン(……覚えはないが、第三特異点であれほど強く問い詰めたのだ。何かしら察するところはあったのだろう)


ジキル「あれが図書館だ、ブルース。もう少し踏ん張ってくれ」

バットマン「ああ、大丈夫だ……」

フラン「ウ!」スタスタ



702: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:23:32.60 ID:iNQLdeY80


バットマン「……」


霧「」ズォォォォォォ……


街路「」……、…………


バットマン(私達以外の足音などしていない。その筈だ、だが……この胸騒ぎは何だ?)

バットマン(また恐怖ガスの幻覚か? いや、それにしては……)


ジキル「どうした?」

バットマン「……」

フラン「?」

バットマン「……いいや、何でもない。行くぞ、止まらず」スタスタ




703: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:24:02.31 ID:iNQLdeY80


………………


ナーサリー「……」

アンデルセン「……ほら、紅茶だ。飲め」カチャ

ナーサリー「いらないわ。紅茶なんて……」パシッ

アンデルセン「いつまでヘソを曲げているつもりだ、お前……」

ナーサリー「いつまで、ですって?」

アンデルセン「……」

ナーサリー「……マッドハッターさんが帰ってくるまでにきまってるわ」



704: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:24:31.54 ID:iNQLdeY80


アンデルセン「……死人は戻らん」

ナーサリー「じゃあ……じゃあ、どうして助けに行かせてくれなかったの!? 私、わたしは……私は、ようやく『物語』になれたのに……っ」ギュッ

アンデルセン「……」

ナーサリー「これじゃまた、誰も読んでくれない。誰も私を見てくれない。誰も……」ブルブル

アンデルセン「いつまでも同じ事を言うんじゃない。あそこで無駄死にするのがお前の役割だったなら、とっくに放り出してる」

ナーサリー「……だからあなたは嫌いよ、アンデルセン」キッ

アンデルセン「フン……」



705: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:24:59.76 ID:iNQLdeY80


アンデルセン「……?」ピクッ

ナーサリー「? アンデルセ……」

アンデルセン「静かに。……チッ、侵入者か。動くなよ、俺が向かう」

ナーサリー「わたしも向かうわ。一人は駄目よ、ぜったい駄目」

アンデルセン「座っていろ。マッドハッターの最期の言葉まで無碍に扱うつもりか」

ナーサリー「……大人ってズルいわ、だから嫌いなの!」

アンデルセン「奇遇だな、俺も理想論ばかりの子供は大嫌いだ!」ガチャッ、バタンッ‼

ナーサリー「っ……」



706: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:25:26.00 ID:iNQLdeY80


………………

ドクター『……すまない、感知が遅れた。図書館内の魔力反応に揺らぎが出た。キミ達は何やら結界じみたものを踏み越えてしまったようだ』

バットマン「ジキル、確か図書館に居るサーヴァントは……」

ジキル「ああ、帽子をかぶった男だったハズだ」

バットマン「……」


バットマン(マッドハッターの仕業か? いや、だが奴はわざわざこんな回りくどい事をする性格ではなかったハズ……)


バットマン「ドクター、図書館内のサーヴァント反応をサーチできるか」

ドクター『待ってくれ、今やってみてる……うぅ、相変わらずノイズまみれだな。恐らく二人居るぞ、それで……この体格、どっちも子供みたいだな』

バットマン「子供?」


バットマン(……マッドハッター……ではない?)



707: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:26:13.48 ID:iNQLdeY80


ドクター『あぁっ、駄目だ! ノイズが激し過ぎて捕捉しきれないぞ……二階に居るらしい事は分かったんだが』

バットマン「十分だ。……二人とも注意しろ、この建物も安全という訳では無さそうだ」

ジキル「困ったな……」

フラン「まも、る」

バットマン「……行くぞ」スッ


裏口「」ガチャ、ギィィィィィィィ……




708: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:26:39.44 ID:iNQLdeY80



コツ、コツ……コツ……

蜘蛛の巣「」ハラリ

ろうそく「」ユラァ……


バットマン「……」


バットマン(やはり、つい先ほどまで人が居た痕跡がある)


ジキル「うわっ……酷い状態だな、ここは……」

バットマン「迂闊に動くな。……それと、扉をきちんと閉めてくれ」

フラン「ウ!」ガチャン


裏口「」ガチャリ



709: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:27:39.91 ID:iNQLdeY80



バットマン「……そこの机の上を片付けるぞ。マシュとモードレッドを寝かせる」

ジキル「ああ、緩和剤製作のスペースも作らなくちゃな」

フラン「きたない……」ガサゴソ

バットマン「……いや、待ってくれ。少しだけ」スタスタ


バットマン(机の上にあるのは……赤ずきん、蟻とキリギリス、赤い靴、ある母親の物語……『あ』から始まる本ばかりか)ペラ

バットマン(読まれた形跡はどれも古いものだ。各ページの湿り気、クセの付き方から判断して……恐らく、他の本を探す際に本棚から放り出されていたのだろう)ペラ、ペラ

バットマン(では目的の本とは? ……考えるまでもない。『アリスズ・アドベンチャー・イン・ワンダーランド』『不思議の国のアリス』。マッドハッターの愛読書)

バットマン(……だが、捜索は途中で打ち切られたようだ。中途半端に残ったあ行の本棚、冷めたままで放置された紅茶とカップ……急な来客でもあったか、それとも)


ビュォォォッ……

本「」パララララララ……

バットマン「……風?」

ジキル「扉か窓でも開いてるんじゃないか?」



710: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:28:13.98 ID:iNQLdeY80



バットマン「……ここに残っていてくれ、見に行く」スクッ

ジキル「了解。緩和剤も調合を開始するよ」

バットマン「頼んだ。フラン、ここの守りは任せた」

フラン「まかせて!」フンス

バットマン「……」スタスタ



ヒュォォォォォォォォォオオオ……


裏口「」……キィ……




711: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:28:48.55 ID:iNQLdeY80


コツ、コツ……


バットマン(何かが起こったのは間違いない。ここにあるのは三人分の足跡だ。本を蹴飛ばし、垂れたインクを踏みながら『その現場』へと急いだらしい)コツ、コツ

バットマン(ここまで急ぐとなると、敵か)


ドクター『気を付けてくれ、ブルース。二階のサーヴァント反応がひとつ減った』

バットマン「……了解。慎重に行動する」コツ、コツ


ビュオォォォォォッ……


バットマン「……これは……」ピタッ


バットマン(凄まじい攻撃力でもって図書館の正面玄関が破壊されている。粉々の木片を踏みながら侵入者は入って来た……脳内で木片を元の位置に再構築。足跡を分析する……)

バットマン(……この足の形は、ベイン)ピクッ

バットマン(成程、ようやく事態が把握でき始めたぞ。図書館に居た三人は団結してベインを攻撃したんだ……しかし、我々が遭遇したベインには傷一つ付いていなかった。虚しい抵抗か)

バットマン(図書館には未だに二つのサーヴァント反応。つまり、ひとりを犠牲に残りが逃げた……さあ、犠牲になったのは誰だ?)


ビュォォォォォォオオッ……


帽子「」コロコロコロ……

バットマン「……」パシッ


バットマン(……マッドハッター)



712: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:29:29.65 ID:iNQLdeY80


???「……手を上げろ、黒猫男」

バットマン「……」


バットマン(しまった、後ろを取られた……)


???「手を上げろと言ったんだ、聞こえなかったか」

バットマン「……」スッ

???「聞き分けの良い奴だ。敵か味方か分からない状況ではこうするのが賢明でな」

バットマン「……我々は味方の可能性が高い」

???「さあ、どうだろうな……少なくとも、その帽子にすぐ目を付けた時点では怪しいものだが」

バットマン「……」



713: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:29:58.49 ID:iNQLdeY80



バットマン「マッドハッター。そうだな」

???「……なんだ、お前もあの狂人の知り合いか?」

バットマン「古い付き合いだ……嫌になるほどのな」

???「含みのある言い方だな。どうしてアイツの知り合いはマスクしか居ないんだ」


バットマン(マスク……という事は、やはり)

バットマン「……やはり、ベインも来たのか」

???「ますます怪しいな、お前は。何故そこまで知っている? 何故ここに来た? 何故黒猫のコスプレなんだ?」

バットマン「それは……」


ドゴォォォォォォォォォォォォ……


バットマン「……!!」バッ



714: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:30:29.87 ID:iNQLdeY80


???「ええい、今度は何の音だ!?」

バットマン「あれは……!」


バットマン(しまった、ジキル達が居る方角……!)ダッ


???「待て、動くな! 今の音は何だ!?」

バットマン「敵だ! 侵入を許した!」

???「敵だと!? お前達はどうなんだ!」

バットマン「敵ではない!」

???「その証拠は!」

バットマン「恐れている! 悪いが行くぞ!」ダダッ

???「待て!! ええい、待てと言っているだろう!!」ダッ



715: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:31:05.84 ID:iNQLdeY80



………………

ジキル「くっ!?」ガギィ‼

???「フッ」クルクルスタッ、ダダッ

フラン「!!!」ガッギャァァァァァァ‼

???「やああっ!」ガギャギャギャギャ、ズバァッ

フラン「ッ……」ドサァッ

???「解体するよ」スッ


バットラング「」ヒュォォォォォォォッ


???「っ!!」ガギャア‼


バットラング「」クルクル……カラン


バットマン「……間に合ったか!」ダッダッ



716: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:32:26.66 ID:iNQLdeY80



バットマン(幼い姿、両手に握ったナイフ……乾いた血が体に点々と散っている)


バットマン「何者だ」

???「……わたしたち?」

バットマン「……」ジリッ


バットマン(……私達、だと? 複数? 二人以上がこの場に襲ってきたのか?)



717: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:32:52.19 ID:iNQLdeY80


ジキル「来てくれて助かった……急にそこの少女が襲ってきたんだ、恐らくはサーヴァント」

バットマン「……一人でか?」

ジキル「ああ、恐らくは彼女が『ジャック・ザ・リッパー』だろう。まだ新聞が刊行されていた頃に、容姿を見たという者のスケッチが載っていた」

バットマン「……成程、了解した」


バットマン(……この位置は不味い。下手に動けばジャックがモードレッド、マシュを人質にとる)


ジャック「……」ジッ



718: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:33:20.18 ID:iNQLdeY80


ジャック「あなたなの?」

バットマン「……?」

ジャック「あなたが、わたしたちのお母さんになってくれるの?」

バットマン「……私は男だが。『お母さん』とは、何だ」

ジャック「ずっと探してた。どれだけお腹を開いても、どうしても見つからなかった」

バットマン「……探していた?」

ジャック「うん。だって、帰りたいもん」



719: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:33:55.15 ID:iNQLdeY80


ジャック「……あぁ、やっぱり、その目。私達のおかあさん。全部を諦めて、仕方がないって思ってる目」

バットマン「……私にも諦めていないものはある」

ジャック「じゃあ、諦めてねッ」ダンッ、ギュオッ‼

バットマン「ッ」ガギィィィィィィィッ、ゴロゴロッ


バットマン(良し、喰らい付いた)


バットマン「ジキル博士! マシュとモードレッドを安全な場所へ! フラン、ジャックを抑えるぞ!」ゴロゴロ、スクッ

ジキル「了解!」

フラン「ウァァァァァ!!」ババッ

ジャック「邪魔だよ!」ヒュンッ



720: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:34:33.65 ID:iNQLdeY80



ジキル「よい……しょっ!」グイッ

モードレッド「……クソ……俺の、価値……!」ブラァ……

ジキル「……大丈夫、助けるから」スタ、スタ


ハイド(((助けるだって? おいおい、よく言えるな)))


ジキル「……黙れ、違う……」スタ、スタ


ハイド(((何が違うんだよ、後ろじゃ戦いの音が響いてるぜ? 『あの薬』を飲めよ……そんで加勢しろ、それがベストだ。ベストを尽くさない人間が未来を語る資格はない。そうだろ?)))


ジキル「……僕には僕の役割があるんだ。黙って、従え……!」


ハイド(((ケッ……)))



721: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:35:02.32 ID:iNQLdeY80


バットマン「くっ……」ガギィ、ギャリギャリギャリ

ジャック「このまま……!」ギリギリギリ

フラン「させない!」ブォンッ

ジャック「!!」ババッ、スタッ

バットマン「……」


バットマン(やはり熟練したサーヴァント相手にはかすり傷一つ負わせるのも難しいか……ならば)スッ

バットマン(マッドハッターの帽子を使う)



722: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:35:41.84 ID:iNQLdeY80



バットマン「フラン、少しの間の時間稼ぎを頼む。ドクター、私の脳波の観測を」スチャッ

ドクター『え、え、え!? わ、分かった!!』

フラン「わかった!」ブォン、バチバチバチバチィッ

ジャック「っ、電気……」ジリッ

フラン「ここからは、通さない!!」ダン‼


バットマン(……肉体面で捉えられないなら、精神面から捕捉する……!)ギュゥゥゥゥゥォォォォォォ……


ドクター『ブルースくん、β波が危険域だ! ……え、安定した!? どういう事だ!?』

バットマン「まだ大丈夫だ、ドクター……!」ギュォォォォォォォォォォ……

ドクター『ど、どうなってるんだ!? 何だその帽子!?』



723: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:36:10.28 ID:iNQLdeY80



フラン「ハアッ!」ブォン‼

ジャック「っ」ババッ、タタッ

フラン「ウァァァァアアアアアアアア!!!」バチバチバチバチバチィ‼

ジャック「遅いよ」タタッ、ダダッ


フラン(当たらない……!?)


ジャック「そろそろ、終わらせるね」タンッ

フラン「!!」バッ

バットマン(っ、間に合わない……!)ギュォォォォォォォォォォ……


光弾「」ギュドドドドォッ‼

ジャック「!!」バッ


???「……フン、間に合ったようで何よりだ」シュゥゥゥゥゥゥ……



724: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:36:37.64 ID:iNQLdeY80


バットマン「お前は……あの時の、子供か」

???「子供ではない。アンデルセンと呼べ……全く、追いついてみればこれだ。図書館で大乱闘とは不届き千万、せめて本の無い場所でやれ!」

フラン「ウゥ……」

バットマン「……協力如何による」

アンデルセン「小生意気な男だ、お前は!」

バットマン「同意してもらえたようだな」


ジャック「……解体するひとが、増えただけだよ」カチャッ

アンデルセン「フン、少女の殺人鬼か。今度お前を題材に小説でも書いてやろう」

バットマン「構えろ。来るぞ」



725: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:37:15.31 ID:iNQLdeY80


ジャック「……」タタ、スゥッ

フラン「ウゥ……!」ダッ

バットマン「待て、追うな。奴の戦略だ」バッ


バットマン(真正面から掛かって来ず、障害物の陰に隠れ、気付かれない内に敵の命を掠め取る……生粋のアサシンだ。迂闊に誘い出されれば破滅する)


アンデルセン「どうする、見失ったぞ」

バットマン「…………アンデルセン、フラン。固まれ。あちら側の本棚を破壊し尽くせ。策がある」

アンデルセン「全く、本に対する冒涜だ!! ……商売敵の本ばかりだから喜んでやろう」ギュォォォッ、ドシュシュゥッ

フラン「ウ、ウゥ!」ブォンッ、バキャァ‼


本棚「「「」」」」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ドッシャァァァァァァァアン……‼



835: ◆GmHi5G5d.E 2018/07/05(木) 11:49:27.63 ID:kOVjGS6K0

………………


ジャック(……あっちにわたしたちは居ないのに、本棚を倒してる……足音も聞こえなくなってこっちには好都合だけど)


ズグググググググググ……ドッシャァァァァァァン……


ジャック(自暴自棄、なのかな。ヤケになっちゃったんだね、かわいそう……すぐに片付けてあげなきゃ)タタ、タタタタ……



バットマン(当然そう考えるだろう。だが派手な動きに気を取られ、私を見失うようでは甘い)プシューッ、プシュー……カチャカチャ、ピンッ

バットマン(隠れる場所も制限される。つまり、この後ヤツが来るのは……)カチャリ……

727: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:38:11.17 ID:iNQLdeY80



ジャック(あの位置を取れば……)タタタッ……


ジャック「……?」ピタッ


ジャック(……これ、ワイヤー? 罠だ)ジッ


カタッ

ジャック「!!」バッ


バットマン「……」コソコソ


ジャック「……見つけた」ダンッ




728: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:39:38.73 ID:iNQLdeY80


バットマン「!!」ガギィィィィィィ、バッ


バットマン(誘導成功だ)


ジャック「ひとりだけ、逃げようとしてたの? わるいお母さんだね」クルクルッ、スタッ

バットマン「……さあ、どうだろうな」

ジャック「でも、解体して、かえるから」

バットマン「母は変えられない」

ジャック「かえれるよ。これからはずっと一緒だもん」


バットマン(……机の上に乗った。ジャックの精神捕捉にはまだ時間が掛かる。作戦通り)



729: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:40:10.94 ID:iNQLdeY80


バットマン「フッ!」シュババッ


バットラング「」ギュギュォォォォォォッ‼


ジャック「!!」ガギャッ

バットマン「フッ!」スタッ、ヒュンッ

ジャック「あたらないよ!」シュンッ、ヒュォッ

バットマン「くっ……」ギャリリリィ‼


バットマン(良し。高所レベルは同程度を確保。机の上は足場が制限される分、ジャックも迂闊に大幅な回避、攻撃はできない……ならば近距離戦闘、身体能力の差は技術と予測で誤魔化し互角の戦いに持ち込む!)




730: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:40:56.73 ID:iNQLdeY80


ジャック「っ!」ババッ

バットマン「シッ」シュババッ


バットラング「「「」」」ヒュオォォォォォォォオォォッ


ジャック「あたらないって言ってるよ!」バッ

バットマン「無論そうだろう!」ヒュンッ

ジャック「ふっ」パシッ

バットマン「……!!」グッ、グッ……

ジャック「……駄目だよ、お母さんは人間だもん。わたしたちには勝てないよ」ググググググ……

バットマン「……そうかもしれないな、ジャック・ザ・リッパー」

ジャック「……」

バットマン「だが、後ろに注意しておいた方が良いだろう。リバースバットラングは『帰って来る』」

ジャック「!?」バッ


バットラング「「「」」」グォンッ、ヒュォォォォォォォォオッ‼



731: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:41:32.20 ID:iNQLdeY80



ジャック「っくぅ!?」ガギギギギィ‼

バットマン「そこだ……!」シュポッガシッ、ギュチチィ‼

ジャック「ぐ……なにを!」

バットマン「フラン、今だ! 思い切り叩き込め!」


ダッダッダッダッダッダダンッ‼

フラン「ウゥゥゥゥゥゥァァァアアアアアアアァァァア!!」バチバチバチバチィッ、ドッゴォォォォォォォォ‼



732: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:41:59.85 ID:iNQLdeY80



モクモク……バチ、バチチ……


バットマン「……どうだ……」

フラン「……」バッ


バチ、バチバチチ……ジリッ


ジャック「……きか、ないよ……!」バチチチチチ……ググググググ……‼

フラン「……!」



733: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:42:27.39 ID:iNQLdeY80


バットマン(ならば)


バットマン「アンデルセン! 二階のサーヴァントを借りるぞ!」

アンデルセン「!? 待て、それは……!」

バットマン「最終手段だ! フラン、机の端を叩け! アンデルセン、私を撃て!」

フラン「!?」

アンデルセン「なにぃ!?」

バットマン「やれ! 策があると言っただろう!」

アンデルセン「つくづく狂った熱の男だ! どうなっても知らんぞ!」ギュギュギュオォォォッ‼

フラン「ウ、アアアアァァァァ!!!」ドッシャァァァァァァァァン‼




734: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:43:31.30 ID:iNQLdeY80


(ここだ)


 一瞬を捉える。ブルース・ウェインは投げ技の厳しい修行を思い出していた。血反吐を吐きながらも起き上がり、何度も投げられたあの修行だ。身体が覚えている。


 重心が全てだ。ジャックを腕に捉え、倒れ込む準備をした。フランのメイスが机の端を叩き、シーソーじみて逆の端を跳ね上げる。バットマンのマントが翻り、凄まじい勢いで重心が移動する。二者が空中へ放られる。

 光弾が肩に着弾。ブルースは衝撃を受け、まるで水の流れのようによどみなく回転した。ジャックを腕に捉えたままだ。ブルースは遠心力、重心、そして筋力の最高パフォーマンス点を計算した。

 その瞬間、バットマンは目を見開いた。そしてジャックの身体を僅かに引っ張り上げ、巴投げのように頭上へ、天井へと放った。


 三人の全力が乗算され、一瞬の回転の中から砲弾じみてジャックが弾き飛ばされた。天井を突き破り、少女は二階へと放り込まれた。数秒遅れ、コウモリの騎士も羽を広げ、急制動で二階へと突入した。



735: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:44:08.24 ID:iNQLdeY80



ジャック「ごほっ、ごほっ……」ガラガラ……

バットマン「……」バササササッ、スタッ

ジャック「……くっ」キッ

バットマン「……」


バットマン(……ジャックの精神捕捉にはまだ掛かるか。警戒が激しいと捕捉も遅れるらしい……)ジッ




736: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:44:38.57 ID:iNQLdeY80


???「……どなたかしら?」

バットマン「……お前が、第二のサーヴァントか」

???「第二の……? よく分からないけど、私にはナーサリーという名前があるのよ。それに、その帽子を何故貴方が被っているの?」

バットマン「深い理由がある、ナーサリー。だが今は力を貸して欲しい」

ナーサリー「……」チラッ


ジャック「……」ボロッ


ナーサリー「……いたいけな少女を敵に回して、そんな説得では無理よ」ジッ


バットマン(成程、アンデルセンが共闘を勧めなかった理由か)



737: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:45:35.68 ID:iNQLdeY80


バットマン「……私はマッドハッターの……友人だった」

ナーサリー「……嘘はそんな嫌そうに言ったら駄目よ、黒猫さん」

バットマン「嫌な思い出もある」

ナーサリー「……」

バットマン「……嫌な思い出だけだ。敵同士だったが、守るべきものは必ずしも相違していた訳ではない」

ナーサリー「今回は何を守っているの?」

バットマン「世界だ。手を貸してほしい」

ナーサリー「……わたし、子供だけど、大丈夫かしら?」

バットマン「世界の危機に立ち上がらせないというのは、いくら子供でも酷なものだ……」

ナーサリー「……ええ、勿論よ! 手を貸すわ、黒猫さん!」



738: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:46:05.58 ID:iNQLdeY80


ナーサリー「さあ、そういう理由よっ。名前を聞かせてちょうだい、そこのあなた」

ジャック「……ジャック・ザ・リッパー」

ナーサリー「まあ……大量殺人のあのジャックなのね」

ジャック「邪魔をするなら、解体するよ」カチャッ

ナーサリー「でも私だって負けないわ。ご存知かしら、お姫様だってスカートを上げれば走れるのよ」

ジャック「……? よく分からないけど、邪魔するんだね。なら、容赦しないよ」ジリッ



739: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:46:52.48 ID:iNQLdeY80


ナーサリー「……」ヒュオォォゥゥ……

ジャック「っ」ダンッ

ナーサリー「くるくるくるくる回るドア……」バッ、ギュォォォッ


光弾「」ギュドドドドッ


ジャック「あっ……!?」ギャリィ‼ ギャリィン‼

ナーサリー「行き着く先は、鍋の中!」パパパッ

パキィィィィィィ……

ジャック「つっ……!?」


ジャック(手が、凍った……!?)



740: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:47:30.70 ID:iNQLdeY80


バットマン(いいぞ、このまま……)


ジャック「っ、こんな程度!」バキャァァァァァ、ブンッ

ナーサリー「きゃっ……!?」ドサッ

ジャック「わたしたちは、かえらなきゃ駄目なの! 邪魔しないで!!」ダンッ

ナーサリー「……! 駄目よ、私にだって世界があるもの!」スクッ、ギュォォォッ

ジャック「じゃあわたしたちの世界は何処なの!? 消えるのが世界のためなの!? そんな世界なら、最初から……」ブォンッ


(((捉えた)))


ジャック「っ!?」ビクッ

ナーサリー「……?」


(((捉えた。捉えた)))


ジャック「……え? なに、これ」ジリッ

(((捉えた捉えた捉えた捉えた捉えた捉えた捉えた捉えた)))

ジャック「……なに。なんで」

(((捉えた捉えたお前の捉えた捉えた精神を捉えた捉えた見せてもらう捉えた捉えた捉えた)))


バットマン(捉えたぞ、ジャック・ザ・リッパー。精神に動揺をきたしたな……見逃すものか)



741: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:48:03.30 ID:iNQLdeY80



ジャック「……やだ。やだよ、何……なんで」ペタン

バットマン「このまま、精神の深層へ潜り込む……ドクター。10分経過しても私が戻って来なかった場合は、スーツの蓄電機構を解放し、電気ショックで呼び戻してくれ」ギュォォォォォォォォォォ……

ジャック「……う……」ドサッ

バットマン「……ナーサリー、見張りは頼んだぞ」ギュォォォォォォォォォォ……

ナーサリー「ど、どうなって……どうするつもりなの?」

バットマン「……」


バットマン(このまま戦意の元を取り除く。もしくは、精神を崩壊させる)ジッ



742: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:48:31.71 ID:iNQLdeY80


──────

『産めるワケがないでしょう、自分ひとりが食べていくのに精いっぱいで……』

『愛してる。愛してる。ごめんね、ごめんね……』

『大丈夫よ、愛してるのは貴方だけ』

『堕ろすわ』

『……許して、お願い……許して……』

『神様……』


バットマン(……)

マッドハッター『やあ、バットマン。お前なら必ず来ると思っていたぞ』


743: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:49:07.74 ID:iNQLdeY80



マッドハッター『そうだな。例えば赤ずきんは、男に襲われる少女としてその物語が解釈される事が多い』

バットマン『……お前は、マッドハッター? 死んだハズだ』

マッドハッター『勿論死んだ。肉体はね。だが見ろ、お前は私の帽子を被った……そこにあった残留思念が、私を形作っている。どうだ、ロマンチックだろう?』

バットマン『……』

マッドハッター『……そして、アレを見ろ』


『愛してなんかなかった』

『父親なんて分からない』

『だけど出来た。だから堕ろす』

『悪い事だけど、胎児に意識なんて無いでしょう? だから、これは罪じゃない。……罪じゃ、ない』


マッドハッター『うーっ、これはロマンチックには程遠いな……なあバットマン、人を最も苦しめる恐怖とは何だと思う?』

バットマン『……』

マッドハッター『……それはな、罪の意識だ』



744: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:49:42.90 ID:iNQLdeY80


マッドハッター『勿論、サイコパスを自称する人間は多い。だが良心の呵責は大なり小なり無意識下に積み重なるものだ。人生の澱みと言い換えても良い……ウフフフ、物語に入り込む際の足かせになるから、私は切り捨てるがね』

バットマン『何が言いたい』

マッドハッター『何が? 言いたいか、だって? バットマン、もう明白だろう! ここはあの殺人鬼の深層心理じゃないのさ。澱みはもっと下の部分にある。もっと降りる必要がある』

バットマン『……もっと降りる?』

マッドハッター『そうとも。集中を深めろ、ウサギに導かれる少女の如く……私はついて行けないが、「そこ」に辿り着けるハズだ』

バットマン『……』ジッ

マッドハッター『……そうだ、深めろ……』



745: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:50:12.41 ID:iNQLdeY80




………………

ちがう。

ちがうよ。迷惑なんてかけない。だからやめて。

産まれたい、それが一番強い望みだったのに。

どうしてこうなの? 何が駄目だったの? わたしたちが、悪い子だったから?

それとも、世界が駄目だったの?



746: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:51:09.92 ID:iNQLdeY80



なら、わたしたちが消えたんじゃない。おかあさんが消えたんだ。だって、まだわたしたちはここに居る。

だから、探さなくちゃ駄目。探して、探し出して、もう一度一緒になる。

そして、今度こそ、一緒に────



747: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:51:40.07 ID:iNQLdeY80



バットマン『……それがお前か、ジャック』

ジャック『……』

バットマン『娼婦達が妊娠し、堕胎する。その水子の霊が集まって出来たのが、お前という存在なのか』

ジャック『……おかあさんに、会うんだ。だって、そうしないと、私達はずっと迷子だから』

バットマン『……』

ジャック『会って、もう一度、産んでもらうの。そうしたらやり直せるから。もう一回、やり直せるから』

バットマン『……』



748: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:52:09.25 ID:iNQLdeY80



バットマン『……いいや』

ジャック『……』

バットマン『死者は帰らない。絶対に』

ジャック『……じゃあ、どうすればよかったの? わたしたちは死んだまま? 産まれたかったのに。忘れ去られたままになっておけばよかったの? それが世界なの?』

バットマン『だが、殺しは正当化されない』



749: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:53:05.26 ID:iNQLdeY80


ジャック『殺しじゃない。帰りたかっただけ』

バットマン『被害者達は死んでいったぞ。訳も分からず、理由も分からず』

ジャック『……わたしたちだって……! わたしたちだって、生きたかった! でも叶わなかった! だって、生まれる前から、世界が終わっていたんだもん!!』

バットマン『……』

ジャック『……お母さんは泣きながらわたしたちを殺したよ。知ってるもん。だから、帰らなきゃ。帰って、安心させてあげるの。そうすれば、もう一度やり直せるから』



750: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:53:45.55 ID:iNQLdeY80


バットマン『……』

ジャック『……だから、あなたも、おかあさんになってね。わたしたちを、受け入れてね』

バットマン『……』

ジャック『一緒に、幸せをやり直そうよ。おかあさんとなら、大丈夫』

バットマン『……』



751: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:55:21.91 ID:iNQLdeY80


バットマン『……私の目』

ジャック『……?』

バットマン『諦めた目だと言ったな。それは間違いだ』

ジャック『何が言いたいの』

バットマン『能動的に人を変える事などできない。だが世界は変えられる』

ジャック『……』

バットマン『変えてみせる。お前達の世界が破滅しているならば、救う』

ジャック『無理だよ』

バットマン『できる。私も無理だと思っていた』

ジャック『……』



752: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:55:57.88 ID:iNQLdeY80


ジャック『……でも、おかあさんのところに……戻らなきゃ』

バットマン『……』

バットマン『……ならば、私が母親になろう。私の手を取れ、ジャック』

ジャック『……え……』

バットマン『今度こそ、お前を置き去りにはしない。お前を腹に宿す事はできないが、共に戦う事はできる』

ジャック『……』

バットマン『……親の愛が信じられないなら、私は諦める訳にはいかない』




753: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:56:35.25 ID:iNQLdeY80



ジャック『……信じて、いいの?』

バットマン『決して後悔はさせない』

ジャック『ほんとう? ほんとうに? 今度こそ、捨てられないの?』

バットマン『……マーサの名にかけて、誓おう』

ジャック『わたしたちは、まだ幸せになれるの?』

バットマン『お前が諦めないのならば、いつまででも』

ジャック『そう、なんだ……まだ……』



754: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:57:05.59 ID:iNQLdeY80


ジャック『……』

バットマン『……行くぞ、ジャック。手を取れ。あちらでもまだやるならば、相手はしよう』

ジャック『うん……』キュッ

バットマン『……』ギュォォォォォォォッ

ジャック『今度は、捨てないでね』

バットマン『……勿論だ』


ギュォォォォォォォォオオオオオオオ……



755: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:57:51.12 ID:iNQLdeY80



………………

フラン「……ウゥ!!」ダダダッ

アンデルセン「ナーサリー! 怪我は無いか!!」タタタ

ナーサリー「大丈夫よ、平気……だけど、二人が」

ジャック「……」

バットマン「……」

アンデルセン「でかしたぞ、チャンスだ。今の内にこの殺人鬼を放り出すとしよう」

ナーサリー「駄目よ! この黒猫さんとジャックは今戦ってるの、起こしちゃ駄目」

アンデルセン「おのれ……これだから! 低い可能性に賭けられるかと言うのだ、全く!」

ナーサリー「駄目なのっ!!」

アンデルセン「駄目なものか!!」

ナーサリー「ゼッタイダメ!!!」

フラン「ウゥ……」



756: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:58:18.47 ID:iNQLdeY80


アンデルセン「この……」

ナーサリー「分からずやさんの……」


バットマン「ッッ!!!」ババッ、ズササァッ

ジャック「ッ!!」ダンッ、クルクル……スタッ


アンデルセン「!?」

ナーサリー「きゃっ!?」

フラン「!!」スッ



757: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:58:48.08 ID:iNQLdeY80


バットマン「……ハァッ、ハァッ……」ジリッ

ジャック「……」ジッ

アンデルセン「おい。どうなっている」

ナーサリー「……」

バットマン「……ジャック。答えを聞こう。これを続けるならば相手になる」

ジャック「……」

フラン「……」



758: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 17:59:29.70 ID:iNQLdeY80



ジャック「……勝ち目もうすいし、やめるよ」パッ


ナイフ「「」」カラン、カラン


バットマン「……そうか。なら、やめよう」スッ

ジャック「……」

バットマン「……」

ジャック「……っ、おかあさん……っ!」タッタッ、タンッ

バットマン「……」ガシッ

ジャック「おかあさん、おかあさん……おかあさん……」ギュゥゥゥゥゥッ……

バットマン「……大丈夫だ、ジャック」



アンデルセン「……ナーサリー、一部始終を見ていたんだろう。なんだこれは」

ナーサリー「さっぱり……だけど、素敵」

アンデルセン「ワケが分からない事を素敵で済ませるんじゃない!」

ナーサリー「もう! だから人魚姫はバッドエンドになっちゃったのよ!」

アンデルセン「現実をしっかりと……ああクソ、お前はリメイク版でも観ていろ!」



759: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 18:00:28.18 ID:iNQLdeY80

ダダッ、ガチャリ‼


ジキル「ブルース! 加勢に……え?」

バットマン「……大丈夫だ、博士。少し時間をくれ」

ジャック「……」ギュゥゥゥゥゥゥゥ……

ジキル「……え? どういう……え?」

アンデルセン「ようやくまともな感性の男が来たか! こっちへ来い、貴重なんだ!」

ジキル「……???」

フラン「ウゥ……」




760: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 18:01:01.76 ID:iNQLdeY80



………………


ジキル「……うん、結論から言うと……やっぱり解毒剤の精製が不可欠だ。二人の精神状態は安定しつつあるが、いつまた恐怖に飲まれるか」

バットマン「……やはりか。ドクター、聞いているか」

ドクター『あぁ、勿論。そちらでも準備しやすい成分の解毒剤を模索しているが……どうにもね。できるだけ簡易化した成分表を送る』ピッピッ

バットマン「……どうだ、ジキル博士。これを作るのは可能か?」

ジキル「……うーん……少し厳しいな。東南アジアとかアメリカ辺りにしか自生していない植物の成分が含まれてる」

バットマン「そうか……いや待て。キャプテンドレイク……大航海時代の名残だ。世界中の植物が植物園に集められているハズ。そこにも無いか?」

ジキル「ああ! そこならあるハズだ、きっと見つけられる!」

バットマン「良し。ならそこへ向かうとしよう」




761: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 18:01:43.87 ID:iNQLdeY80


………………

バットマン(……植物園は少し遠い。巡回する自動人形、ロボット達とはあまり遭遇したくない)

地図「」ペラ……

バットマン(……ロボットの武装は遠距離もカバーしてくる。直線の道は避け、曲がり角の多い道を採用しつつ……)

バットマン(……しかし、無理だ。最低でも何度か戦う事になる。消耗した状態で、B・P・M・Sの面子に出くわさないとも限らない)

バットマン(……)



762: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 18:02:12.60 ID:iNQLdeY80


モードレッド「おい。オレ達を連れて行かねえなんて言うんじゃねえだろうな」

バットマン「……モードレッド。回復したか」

モードレッド「恐怖なんざ、下らねえ。行けるぜ、オレは……ちょっと取り乱してただけだ」

バットマン「……」

モードレッド「連れて行け。戦力になる。今度こそ負けねえ」

バットマン「……当然、そうする。休む暇などないぞ」

モードレッド「上等だ……」



763: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 18:02:46.12 ID:iNQLdeY80


………………

バットマン「マシュ。行けるか」

マシュ「! マスター……はい。その、ご迷惑をおかけして……」

バットマン「大丈夫だ。行けるなら準備をしろ。まずは植物園へ向かう……長丁場になる」

マシュ「……はい。平気です」

バットマン「今からちょうど15分後、全員で出発だ。正面玄関で会おう」スタスタ

マシュ「……あの、マスター!」



764: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 18:03:13.09 ID:iNQLdeY80


バットマン「どうした」クル

マシュ「……」

バットマン「……どうした、マシュ」

マシュ「……あの、ベインさんに……手も足も出ずに……負けてしまって」

バットマン「……」

マシュ「……これから先、ずっと……戦って、勝っても、いつかあの人が立ちはだかるんじゃないかって」

バットマン「……」



765: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 18:03:45.99 ID:iNQLdeY80


バットマン「……きっと奴は、そうなるように全力を尽くすだろう。もう一度ベインと闘うその時は来る。だが、マシュ」

マシュ「……」

バットマン「我々は破滅の為に戦っているのではない。この戦いの先にあるのは破滅ではない。乗り越えるべき壁だ」

マシュ「……」

バットマン「それに、戦いだけが全てではない。作戦で勝てる事もある……悲観するな、奴は完璧ではないさ」

マシュ「……はい」

バットマン「15分後だ。正面玄関で会おう」スタスタ



766: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 18:04:12.03 ID:iNQLdeY80



バットマン(……きっと奴はもう一度現れる。ベインは)

バットマン(作戦で勝てる事もある。事実だ……だが、言っていない事実もある)

バットマン(戦略的視点ですら、ベインは私と拮抗、または上を行く)

バットマン(……果たしてこの恐怖は、恐怖ガスの影響によるものか。それとも……)


バットマン「……破滅が待つ、か」



767: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/02(土) 18:04:40.48 ID:iNQLdeY80



(((お前を殺せば、きっと世界は終わるのだろう。悲しむべき事だ)))

(((だが、それがどうした)))

(((世界の破滅も良いだろう、見てやろう。所詮守るべくもない)))


バットマン「……」


バットマン(破滅に身をさらし、世界を守る。その価値は、あるか?)




777: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:01:29.53 ID:aYEhFwXa0

「見てくれ、チャールズ」

 この少女(フラン)は最高傑作になる……そう言う男の笑顔は、屈託のないものであった。私にはその作品の素晴らしさが分からず、首をかしげるばかりであったが。

「ははは。これはイヴだよ、チャールズ。もう少しで、私は完璧だった人類を造り出せる」

「イヴ。最初の人類か……ヴィクター、そんな事が可能なのか?」

「勿論だとも! 私はこれで世界を変えてみせるぞ!」

 ヴィクターは笑っていた。私も笑みを浮かべ、激励の言葉を口にしたのだと思う。

 一人が世界を変えられる。その時の私達は、まだそう信じていた。



778: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:02:16.55 ID:aYEhFwXa0

「見るがいい、チャールズ」

 世界の真実は恐怖だ……そう呟く男の目は何も映していなかった。霧に飲まれて行く街の中、人々は怖気づき、殺気立ち、隣人や家族を手にかけた。

「これが真実だ、チャールズ。嘘のヴェールをはぎ取れば、世界は容易く崩れ去る」

「……では、やはりこれが真実だったのだな。スケアクロウ」

「勿論だとも。世界はとうに終わっていた」


 スケアクロウは無表情に言った。我も無感情に、諦めきって世界を見下ろしていたのだと思う。


 世界を変える事などできない。我々は、結論に達してしまっていた。



779: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:02:50.24 ID:aYEhFwXa0



 私は、星を目指していたのだと思う。

 蒸気機関はいつか天を超える。そして、あの輝きの元へ至れるのだと、そう信じていた。


 いつからか、蒸気が空を覆うようになっていった。我々では無理だ。仲間の研究者の誰かが、そう呟いたのを聞いた。地を走り、海を渡ろうとも、星へ至る事だけはできなかった。


 人々は星に目もくれない。たとえ一人で星に手を伸ばしても、世界は変わるハズもない。


 いつからだろうか。蒸気が空を覆うのを、言い訳じみて見つめていたのは。




780: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:03:27.60 ID:aYEhFwXa0



………………

チュゥン‼ ドッガァァァァァン‼

ロボットA「殲滅、シマス」ババババババババババ

ロボットB「……」ガシャン、ガシャン



バットマン「無事か、博士!」ズシャシャッ

ジキル「っ、ブルース。ああ、こちらは大丈夫だ!」チュウン!バチュン!!

バットマン「ジャック、出過ぎるな! マシュはアンデルセン、ナーサリーを庇いつつ防御を! フラン、モードレッド、まだ掛かるか!?」



フラン「ゥウ……!!」ブォンッ、ガッシャァァァァァ

モードレッド「うっせェぞ! 今やってんだろうが!!」ガシャァァァァ、ガッキャァァァァァァ‼

自動人形A「……」ウィー、ウィー

自動人形B「殺害」ウィー……ココココココ……



781: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:03:58.70 ID:aYEhFwXa0


バットマン(……ジリ貧。ジャックの働き次第……いや、賭けはしたくない。何処か、挟み撃ちにされにくい場所は……)


看板『UNDER GROUND』

バットマン「……!! 全員、地下鉄のホームへ飛び込むぞ! 急げ!」

モードレッド「あぁ!? 敵に背中を見せるってのか!?」

バットマン「戦略的撤退だ、大局を見失うな! マシュ、宝具を解放できるか!?」

マシュ「可能です!」

バットマン「今すぐ解放しろ! 全員、タイミングを合わせて撤退に動け!」

モードレッド「クッソが……!!」ギリッ



782: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:04:24.74 ID:aYEhFwXa0


マシュ「真名、偽装登録……行きます! 『ロード・カルデアス』!!」ゴォォォォォォォォォォォォォォッ‼

バットマン「今だ! 全員階段を降りろ! フランは待て!」

フラン「わかった!」


ナーサリー「お先にごめんなさいっ!」タタタッ

アンデルセン「手を引くな! 転げ落ちるわ!」ヨロロッ

ジャック「さきに行ってるね、おかあさん!」タタッ

モードレッド「チクショウが……」ギリィ、ダダッ


バットマン「……よし、マシュ! いつでも防御を解放して良いぞ!」

マシュ「……! ……!! 分かりました、もう少し……ふぅっ」ブゥン……ガギャギャギャギャギャギャ‼



783: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:05:17.04 ID:aYEhFwXa0


バットマン「フラン、今だ! 辺り一帯の霧に電撃を走らせろ!」

フラン「ウゥゥゥゥゥゥァァァアアアアアアアァァァア!!!」バチバチバチバチバチバチバチィィィィィ‼


霧「「「」」」バチチチチチチチチチチチチチィ‼


ロボット達「「「ズズズズズズズズズズググググググググ……」」」バチ、バチバチ……

自動人形達「「「ガガガガガピピピピピ……」」」ビリビリビリビリ、ビリ……


バットマン「今だ、マシュ、フラン! 地下鉄へ!」

マシュ「はい!」ダダッ

フラン「ウゥ……」バチ、バチバチ……フラッ

バットマン「……! 行くぞ」ガシッ、タタタ

フラン「ごめん……」ヨロヨロ



784: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:05:45.93 ID:aYEhFwXa0


ドクター『無事かい、ブルース!?』

バットマン「あぁ、無事だ。霧の魔力伝導率が極端に高いという発見のお陰だ……」コツコツ

ドクター『良かった……そこは何処だい、霧ほどじゃないけど電波状況が悪いな……』

バットマン「……地下鉄のホームへ降りている。これからもっと悪化するだろう。少し通信を切る」ピッピッ

フラン「……もう、大丈夫」

バットマン「そうか。いきなり無理難題を吹っ掛けて悪かった……ゆっくりでいいぞ」

フラン「ウゥ……」フリフリ



785: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:06:12.69 ID:aYEhFwXa0


バットマン「全員無事か」

マシュ「はい!」

ジャック「へいきだよ」

ナーサリー「居るわっ」

アンデルセン「……暗いな、ここは」

フラン「ウゥ」

モードレッド「……居るよ」


バットマン「……地下鉄への降下は予定とは違うが、まあいい。このまま、できるだけ植物園に近い駅に出るぞ」

全員「「「はい!(了解)」」」



786: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:06:39.07 ID:aYEhFwXa0


看板『→Next Sta.BAKER STREET』


ポスター『なんと言っても19世紀! 地下鉄(The tube)はロンドン市民のたしなみ』

ポスター『生活にお困り? なら、スコットランドヤードが解決します!』

ポスター『日々の癒し、新たな発見……王立キュー植物園は二駅先』


バットマン「……少し歩くようだ。どうだマシュ、追手の足音は聞こえるか?」

マシュ「……微かに聞こえます。ですが、まだ電撃から復旧し切っていない……混乱が生じているようです」

バットマン「良し……全員並びを崩すな。このままチューブの中を進む」



788: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:07:10.29 ID:aYEhFwXa0


アンデルセン「本当に真っ暗だな、ここは……ランプを持ってきたのは正解だった」カチャ、ポウッ

ジキル「なんと言っても19世紀だ。ありがたいよ」コツコツ

フラン「ウゥ」コクコク


マシュ「……」コツコツ

モードレッド「……」ズンズン

バットマン「……」


バットマン(……闇は想像の余地を与える。マシュとモードレッドが恐怖に掻き立てられていなければ良いが)コツ、コツ……



789: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:07:48.83 ID:aYEhFwXa0


ナーサリー「まぁ……本当に管のようになっているのね! おもしろいわっ」

ジャック「おもしろーい!」

「おもしろーい!」
「……しろーい……」
「……ーい……」(反響)


ジャック「……!!」キラキラ

ナーサリー「まあ、響いて返って来るのね! まるで何人もジャックがいるみたいだわ!」キラキラ


アンデルセン「……お前達の能天気さは本当に……世界の危機だというのに、頭が痛くなってくるぞ」

モードレッド「……」イライラ



790: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:08:15.70 ID:aYEhFwXa0



アンデルセン「む、これは」

ジキル「……蒸気車両だ。機関車がチューブを塞いでる……どうする、ブルース」

バットマン「待ってくれ、少し……ドクター、聞こえるか」

ドクター『ザザ……聞こえる……シグナルは悪いけど……ザザザッ……』

バットマン「私達の目の前にある車両内部をスキャンできるか。何か罠が無いとも限らない」

ドクター『りょうか……ザザッ……ノイズ……酷いが、断片情報を……ザザザザ……み合わせた結果、そこは……ザザザザザザ……問題無い』

バットマン「……行くぞ。車両内部を通過する」ガチャリ、ギィィィ



791: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:09:22.00 ID:aYEhFwXa0


ジキル「……まだ石炭が生きている。つい最近まで稼働があったんだろうね……無茶をしてたものだ」コツ、コツ

ナーサリー「すごいわ、本当に本の中みたい……」テクテク

ジャック「見て見ておかあさん、ぶら下がれるよ!!」ブラァ

モードレッド「……チッ……」

バットマン「つり革で遊ぶのはやめr……怪我をするぞ、気を付けるように」スタスタ


バットマン(……蒸気機関車か。現代と近代の橋渡し……確かにここは歴史のターニングポイントだ)

バットマン(しかし、木製のチューブに蒸気機関車とは。確かに、開発されたばかりの地下鉄では火事が絶えなかったと聞くが……やはり、余計な危険を招く前に迅速な退出が望ましい)スタスタ


モードレッド「……着いたぜ。逆の端っこ、機関車両だ」

バットマン「出るぞ。あまり音を立てないように」スタ、スタ

マシュ「了解です」

バットマン「ジャック。分かったな」

ジャック「はーい」



792: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:10:01.45 ID:aYEhFwXa0


モードレッド「……」ズンズン

バットマン「待てモードレッド、あまり急ぐな」

モードレッド「ああ?」ピタッ

バットマン「ついて行けない者が出ると言ったんだ。スピードを合わせ、ゆっくりと進むぞ」

モードレッド「チッ……ノロいな、チクショウが」

バットマン「……」



793: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:10:46.02 ID:aYEhFwXa0

………………


コツ、コツ……


バットマン「……待て、一旦止まれ」

モードレッド「あぁ?」ガチャリ

バットマン「定期確認だ。マシュ、何も聞こえないか?」

マシュ「……いいえ、何も聞こえません」

バットマン「……良し、進行を再開する」

モードレッド「……んだよ、クソ……」ブツブツ……

バットマン「……苛立つな。慎重に行かなければ……」

モードレッド「うるせえ、分かってる」

バットマン「分かっていたらそんな言葉は……」

モードレッド「うるっせえってんだよ!!!」



794: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:11:19.77 ID:aYEhFwXa0


壁「」ワァン……ワァン……ワァン……


モードレッド「……」フーッ、フーッ

バットマン「……何を恐れている」

モードレッド「……誰が、何を、怖がってるだと?」チャキッ

バットマン「今のお前は異常だ。何を苛立っている。何を焦っている」

モードレッド「誰が!? 怖がってるだと!!?」

バットマン「傍目にも明らかだ。ベインに負けてから、お前は……」

モードレッド「テメェ!!」ガシッ



795: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:11:54.74 ID:aYEhFwXa0


マシュ「も、モードレッドさん!」ガシッ

モードレッド「離せ! テメェもういっぺん言ってみろ……オレが、なんだってんだ!!」バッ、グイッ

バットマン「お前の行動が士気を乱すものになると言っている。緩和剤は打ったハズだ、恐怖を抑えろ」

モードレッド「クソが……! テメェがオレに指図すんじゃねえ!」

バットマン「私が気に食わないだけか? ならば指揮はアンデルセン辺りに任せよう。それで満足か?」

モードレッド「おちょくってんのか……!!」ギリィ

バットマン「……そうではないのだろう。だから言っている、モードレッド。恐怖を抑えろ。飲まれるな」

モードレッド「テメェがオレの何を知ってんだ!!」バシィ



796: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:12:23.09 ID:aYEhFwXa0



ワァン……ワァン……ワァン……


バットマン「……」ジリッ

モードレッド「……」ギリッ

マシュ「……」

アンデルセン「……」

ナーサリー「……」


暗闇「」…………、……

ジャック「……?」


蒸気「」ズォォォォォォ……



797: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:12:58.36 ID:aYEhFwXa0



暗闇「」……、……、……

マシュ「……? これは」


蒸気「」ズォォォォォ……


アンデルセン「何だ。下らん諍いの次はボヤ騒ぎか?」

ナーサリー「待って。何か聞こえてこない?」

ジャック「……これ、足音だ。後ろから」

バットマン「しまった、チューブ内で声が反響して地上に届いたか……走るぞ」

マシュ「待って下さい、前方のホームへ降りて来る足音も……!」

バットマン「全速力だ! 挟み撃ちにされる前に全員目的地のパディントン駅を目指せ!」ダッ

モードレッド「クソ、チクショウが……!」ダンッ



798: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:13:42.65 ID:aYEhFwXa0



ガシャ、ガシャ、ガシャン……


ロボットC「発見、発見。全個体へ通達。チューブ内をパディントン方面へ向かって走る標的たちを発け……ガガピー!」バガガッ

アンデルセン「ふうっ! 少し遅かったか、恐らく地上のロボット部隊が地下鉄へ降りて来るぞ!」タタタタタタタ

バットマン「走れ、走れ!! 全員止まるな!! 行け!!」ダッダッダッダッダッ

マシュ「ま、マスター!」

バットマン「どうした!?」

マシュ「前方、暗闇の中に何か見えます!!」

バットマン「何……」




799: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:14:13.69 ID:aYEhFwXa0



 恐怖ガスの幻覚だ。そう返そうとしたブルースは、闇に目を凝らし、瞬時にそれを撤回した。

 ジャックも、ナーサリーも、アンデルセンも、モードレッドも止まる。ジキルはつられて『それ』に気づき、見上げるように首をのけぞらせる。


 それは暫時、身動きを止めていた。抵抗勢力が此処に来ると分かっていて、待ち伏せていたかのようでもあった。

 それが身じろぎした時、闇が波打ち、何倍にも大きく見えた。実際それは巨人じみて、その場に居る誰よりも大きく、質量も備えていた。関節部が駆動し、蒸気が噴き出す。

(怪物だ)

 恐怖が囁いた。それは伝播し、抵抗勢力の誰もが共有する感覚となった。

 ガシャリ。機械の鎧が軋み、蒸気のエネルギーが満ち満ちてゆく。闇を切り裂き、真紅のモノアイが点灯する。それはブルース達を睥睨し、敵意でもって輝いた。


「我が名は、チャールズ・バベッジ。蒸気王」

 蒸気が噴出する。立ち上がった怪物は、紳士然とした態度で名乗りをあげた。



800: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:14:50.34 ID:aYEhFwXa0



バベッジ「やはり生き延びたか。……いや、最初からベインは貴様らを殺す気などなかった。ならば当然と言うべきであろう」

モードレッド「……!」ギリィ

バットマン「どういう事だ。何故ベインは私達を生かした」

バベッジ「……問いに価値無し。我は貴様らを止めるためにこそ此処に居る。植物園で解毒剤を作らせる訳には行かない」

フラン「どうして」

バベッジ「……ヴィクターの娘か。何故ならば、この世界に価値が無いからである」

フラン「……」



801: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:15:40.70 ID:aYEhFwXa0



バベッジ「貴様らが歩む世界は夢を切り捨てたそれである。悪が真実となり、希望が偽善となる。そんなものを認めるわけにはいかない」

マシュ「そんな事は……」

バベッジ「数列と同じなのだ、年若き乙女よ。もはや予測はついている。勇者はおらず、恐怖がのさばる。人々は目を伏せ、星を目指さず死んで行く。そんな世界に、どれほどの価値がある?」

フラン「……」

バベッジ「だからこそだ。恐怖が真実になってしまったのならば、それを変える。世界にとっての悪であろうと、我々にとっての正義である」ガシャリ



ロボットD「……」ガシャリ、ガシャリ

ロボットE「……」ガシャリ、ガシャリ

ロボット達「「「……」」」ガシャン、ガシャン、ガシャン


バットマン(……挟撃。圧倒的不利。チューブからすぐに脱出しなかったのは悪手だったか)


マシュ「囲まれました、マスター……指示を」

バットマン「全員構えろ。モードレッド、ジャック、フランはバベッジを。アンデルセン、ジキル、マシュ、ナーサリーはロボット達を片付けるんだ」


全員「「「……」」」ジリッ


モードレッド「……ウォラァァァァァァッ!!!」ブォンッ

バベッジ「フン!!」ズォッ


ガッギャァァァァァァァァァァァ‼‼




802: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:16:33.50 ID:aYEhFwXa0


ロボットD「標的捕捉、捕捉、捕捉」ババババババババババ……

ロボットE「捕捉、捕捉、捕捉」ババババババババババ……

マシュ「くぅっ!?」ガギャギャギャギャギャギャ‼

バットマン「耐えてくれ、マシュ……! アンデルセン、ナーサリー! 牽制しろ! ジキル、怯んだ個体を共に仕留めるぞ!」バッ

アンデルセン「簡単に言ってくれるッ!」ギュギュォッ

ナーサリー「ええ、いくわよ!!」ギュォォォッ‼


光弾「「「」」」ゴォォォォッ、ドガァァァァァァァ‼


ロボットD「!」ヨロッ

ロボットE「!!」グラリ

ジキル「そらっ!」ガシ、ズガガッ

ロボットD「グギギ……」ドッサァァァン

バットマン「……ここだ!」バシ……ゴギャリ

ロボットE「捕捉捕縺ョ縺薙」バチバチバチ……ギュギギギギギ……



803: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:17:11.16 ID:aYEhFwXa0


ジャック「やあっ!」ヒュヒュヒュンッ

バベッジ「……この鉄の鎧には、効かぬ!」ガギャギャギャ、ブォンッ

ジャック「っ」タンッ、クルンッ

モードレッド「……ならオレはどうだ、機械ヤロウ!!!」ギュォッ

バベッジ「軽い! 腰の入らぬ剣戟など!」ブォンッ、ゴォッシャァァァァァァァァ‼

モードレッド「ぐっあ……!?」ゴォッ、ドガァァァァァ……


モードレッド(……クソ、手が震えやがる……!)プルプル……


バベッジ「やはり、不可能なのだ。人は内なる恐怖には勝てん」ブシュー……


バチ、バチチチチチチチチ……


バベッジ「むっ……」

フラン「ゥゥー……!!!」バチチチチチチチチィ……‼

バベッジ「……ヴィクターの娘。立ちはだかるか」



804: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:17:46.76 ID:aYEhFwXa0


バベッジ「見たはずだ。勇猛な騎士でさえ、自らの恐怖に押し負けた。生まれたばかりのお前は尚更であろう」

フラン「……こわく、ない!」

バベッジ「意地を張るのはよせ。フラン、お前は我が友の作品。壊したくない形見なのだ」

フラン「私はモノじゃない!!」

バベッジ「……謝罪する。だが、結果は変わるまい」ブシュー、ガチャリ……

フラン「変える!!」カチャッ

バベッジ「ああ、無知より尚愚かである。事実を知ってしかし足掻くその熱は、若さである。……よかろう、一撃で沈めてくれる!!」ブォンッ



805: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:18:24.35 ID:aYEhFwXa0


フラン「っ!!」ブォンッ、ガギャァァァァァァァァ‼

バベッジ「……やはり非力。我が蒸気機関のパワーの前では、なべて赤子の手を捻るが如し」ブシュー、ギリギリギリギリギリ……

フラン「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……」ギリギリギリギリ、ジリジリジリッ

バベッジ「……フン!!」ブォンッ、ドゴォッ

フラン「うぁっ!?」ゴシャシャシャ、ドガァァァァァ‼

モードレッド「っ、フラン!!」

バベッジ「次は貴様である」ブシュー……



806: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:18:56.40 ID:aYEhFwXa0



ジャック「させないよっ!」タタッ、ギュォッ

バベッジ「貴様の刃。通らぬと言ったハズだ」ガギャァァァァァ、ブォンッ

ジャック「っく……」クルクル、スタッ

バベッジ「千日手も良いが、我は早々に決着を望む」ガシッ、グォッ

ジャック「あっ!?」ブラァン

バベッジ「……ぬぅぅぅぅぅん!!」ブンッ、ゴッシャァァァァァァァァァアアア‼

ジャック「あぐっ……」ガシャァァァァァァ……



807: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:19:28.76 ID:aYEhFwXa0


モードレッド「テメェ……!」プル、プル……


モードレッド(……駄目だ、脚が、すくんで、動かねえ……)


(((無価値)))


モードレッド(やめろ。オレは無価値じゃねえ)


(((所詮はアルトリア王の影)))


モードレッド(クソ!! なんでいつもこうなんだ! オレはただ……)


(((お前を騎士とは認めまい)))


モードレッド(……ただ、あの人を……)



ブシューッ、ガチャン、ガチャン……ブシューッ……

バベッジ「トドメである」ガチャン、ガチャン……



808: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:20:07.54 ID:aYEhFwXa0




バットマン(……不味い、アレではモードレッド達が負ける!)ドクン‼


(((ブルース、皆を頼んだ!)))


バットマン(……)ドクン……


バットマン(前方にはバベッジ。巨体。蒸気で稼働する鎧。圧倒的なパワー。
後方にはロボットの群れ。重武装。長距離をカバーする銃。
こちらの残存勢力、マシュ、アンデルセン、ナーサリー、ジキル。  モードレッドは攻撃を受け、移動不可。 
チューブ内。ならば結論はひとつ)


バットマン「……マシュ、バベッジを抑えろ。アンデルセン、ナーサリー、ロボの群れを退けろ。ジキル、行くぞ」

ジキル「え……?」



809: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:21:05.56 ID:aYEhFwXa0


バットマン「行くぞ。これしかない。頼めるな、マシュ」

マシュ「……はい。大丈夫です、マスター。行って下さい」ガチャリ

アンデルセン「なんだ。死ねという命令か」

バットマン「……それはお前達次第だ」

ジキル「ブルース、どういう事だ!? 残しては行けない!」

バットマン「だがこのままでは勝てもしない」




810: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:21:33.90 ID:aYEhFwXa0



バベッジ「逃走。実に人間らしい選択である」ブシュー、ガシャン

マシュ「あなたの相手は私です!」ダダッ、ガシャリ

バベッジ「良かろう。せめて苦しませまい」


アンデルセン「行くと決めたなら早く行け! そう長く活路は開いておいてやれん!」ギュギュギュオッ‼

ナーサリー「心配ご無用よ、私達は強いもの!」ギュォォォッ‼

光弾「「「」」」ゴォォオォッ‼


ロボットE「ガガガッ……」ヨロッ

ロボットF「ギギ……」


バットマン「行くぞ、ジキル博士」

ジキル「無理だ! 皆を置いて行ける訳が……」

バットマン「議論する時間はない。……すまない、アンデルセン、ナーサリー、マシュ」

アンデルセン「フン……早く行け!」

バットマン「行くぞ」ガシッ、ダッダッダッ

ジキル「離してくれブルース!! 待ってくれ……待ってくれ!!」ズル、ズルズル、ヨロヨロ



811: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:22:01.61 ID:aYEhFwXa0



バベッジ「哀れ也。主人が去って尚、勝てぬ戦いに身を投じる貴様は……どこにそんな忠義を持つ?」

マシュ「勝てない戦いとは思っていません! 必ず、勝ちます!!」ガシャリ

バベッジ「ならばその希望を持ったまま、力尽きるが良い。後悔など持たぬうちに、片付ける」ブシュー……


モードレッド(……、……)プル……




812: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:22:30.96 ID:aYEhFwXa0



モードレッド(……ハッ、そりゃあ、そうだ。勝てるワケがねえ。この物量差で、この実力差。オレが万全の時だって、勝てたか怪しいもんだ)


バベッジ「そこだ!」グォンッ、ブン‼

マシュ「きゃっ!?」ガガガッ、ドサァッ


モードレッド(誰だって逃げるさ。ブルースのヤロウだって、オレだって……オレだって、生身の時なら、ケツまくって逃げ出してただろうよ……)プル、プル……

モードレッド(……そうだ。そうして、オレは……また、自分の価値を消してしまう)


バベッジ「フン!」ギャギャァ、ドッサァァァァァァァン‼

マシュ「うっ……く……!!!」ギリギリギリギリギリギリ

バベッジ「無益だ。楽になるがいい」ギリギリギリギリ……ブシュー……

マシュ「……!!」ギリギリギリギリ……‼


モードレッド(ああ、クソ)プル、プル……

モードレッド(怖えな、チクショウめ)ギリィ……


ブゥゥゥゥゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼‼




813: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:23:22.77 ID:aYEhFwXa0



ワァン……ワァン……


モードレッド「……は?」

マシュ「!! アンデルセンさん!」ギャリィ、ババッ

アンデルセン「ああ、分かっているさ! ナーサリー、ジャックを避難スペースへ!」

ナーサリー「分かってるわっ!」ガシ、ズルズル

アンデルセン「俺はフランか! ええい、重たいな……!!」グイグイ


バベッジ「……? 何をするつもりだ」

マシュ「まだ逃がしません!!」ブォンッ‼

バベッジ「くっ……」ガギィ‼



トンネル内「」……‼ ……タン‼ ……タンッ‼ ガタンッ‼



814: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:24:45.45 ID:aYEhFwXa0



ブゥゥゥゥゥオオオオオオオオオオーーーー‼ ガタンガタン‼ ガタンガタン‼ ガタンガタン‼


バベッジ「!! まさか、貴様!!」ギャリィ‼

マシュ「そのまさかです! モードレッドさんっ、退避スペースへ……失礼します!!」バシッ、ダダッ

モードレッド「なんだ、何を……アレ、は」


蒸気機関車「」ガタンガタン‼ ガタンガタン‼ ガタンガタン‼


ロボット達「「「」」」バギャッ、ドギャギャギャギャギャ‼



815: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:25:17.83 ID:aYEhFwXa0



バットマン「もっと石炭を入れろ! 出力を最大に保つんだ!!」ガシャ、ガシャ

ジキル「やってる、よ、これしんどいな!!!」ガシャ、ガシャ


バットマン(……直線上。バベッジ、その巨体は避難スペースには潜り込めまい。そして、同じ蒸気機関ならば……負けは、ない!)



蒸気機関車「」ガタンガタン‼ ガタンガタン‼ ブゥゥゥゥゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオ‼


バベッジ「おのれ、貴様!!! 蒸気圧、最大……!!」ブシューッ、ブシューッ‼


バベッジ(間に合わない……!)


バットマン「降りろジキル!!」バッ

ジキル「ふえっ!?」ゴォッ

バベッジ「っ」グォォッ

ゴッシャァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアガガガガガガガガガガガガガガガ……ドガァァァァァァァァァァァァァァ‼




816: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:26:15.91 ID:aYEhFwXa0



………………

……ゴゴゴゴゴゴ、ドサァァァァ……


ズリ、ズリ……ズリ、ズリ……


バットマン「……くっ……ぐっ」ズリ、ズリ


バットマン(間一髪で脱出……とは、いかなかったか。衝撃で全身の傷が開こうとしている)


パチ、パチ……ボボゥッ、バチバチ……ゴゴゴゴゴゴゥッ


バットマン(……やはり、火事は免れんか……早く脱出せねば)ズリ、ズリ


ゴゴゴゴゴッ、ガラガラガラ……

バベッジ「……きさ、ま」ガシャリ、ガシャリ……

バットマン「しぶとい奴め……」



817: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:27:33.91 ID:aYEhFwXa0


バベッジ「そんかい、りつ、9、7%……おの、れ。我が理想は、終わり、を、告げようと、している」ブシュ、ブシュッ、ブシューッ

バットマン「……理想だと。諦めきった世界へ進むのが、お前の理想だったとでもいうのか」

バベッジ「世界に、守るべきものなど、なくなって、しまったのだ。悪と、死が、入り乱れる、あの世界には、何も」ギュ、ギュギュギュギュォォォォォォォォーン……グググググッ

バットマン「……」

バベッジ「もはや、損壊は、止まず。貴、様を、道連れに、する……!」ブォンッ

「ウゥッ!!」バッ

バベッジ「……!!」ピタッ



818: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:28:23.84 ID:aYEhFwXa0



パチ、パチパチ。ゴウッ、ゴゴゴゥ……


フラン「……」ジッ……

バベッジ「……フラン……」

フラン「……」

バベッジ「……ああ、そうか。止まってしまったか」シュウシュウ……

フラン「……ウゥ……」

バベッジ「……口惜しいな。やはり、世界は諦めた者へは冷たいのだ」シュウシュウ……

バベッジ「口惜しいな、ヴィクター。口惜しいな、スケアクロウ」

バベッジ「……さらば、我が理想よ」シュゥゥゥゥゥゥゥ……

フラン「……」



819: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:29:51.45 ID:aYEhFwXa0



バットマン「……二度も助けられたな、フラン……くっ」ググッ、ムクリ

フラン「無理、駄目」スッ

バットマン「いいや、平気だ……他の者は?」

フラン「今、列車の残骸を、退かしてるところ」

バットマン「そうか……いいか、すぐに出なければ。火災で酸素が無くなって動けなくなる……行くぞ」スタスタ……ヨロッ

フラン「!!」ガシッ

バットマン「すまない、大丈夫だ……」


バットマン(……いかん、体も限界が近い……)フラフラ




820: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:30:23.26 ID:aYEhFwXa0



モードレッド「ぐんぬぬぬぬぬ……!!!」ゴゴゴゴゴゴゴゴッ

ジキル「うぅぅぅぅぅ……」グググググググッ

列車「」ギゴゴゴゴゴゴ……ゴロォ


ジキル「よし、やった!」

モードレッド「おら、出ろ!」

マシュ「あ、有難うございます!」

ジャック「ありがとう!」

アンデルセン「おい何だ!? 今度は本当に火事か!?」

ナーサリー「大変……早くここから出なきゃ」



821: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:30:54.09 ID:aYEhFwXa0


バットマン「全員無事か」

マシュ「マスター! はい、無事です!」

ナーサリー「無事よ。……あなたこそ、大変みたいだけど」

バットマン「平気だ。全員今すぐここから出るぞ、チューブ内は危険だ」

ジャック「さんせい!」

バットマン「よし……パディントン駅は、すぐそこに……」グラッ


グラグラグラッ、ゴゴゴゴゴゴゴ……‼


モードレッド「っ、あぶねえ!」ダッ

バットマン「っ!?」ドサッ

ジキル「うわっぷ!?」ドサァッ



822: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:31:21.05 ID:aYEhFwXa0



炎上する瓦礫「」ガラガラガラ……ゴゥッ、ゴゴゥッ

バットマン「なっ……しまった、分断されたか。マシュ! 聞こえるか!」


マシュ「は、はい! 聞こえます!」


バットマン「パディントンに近いのはそちらだ、そこからキュー植物園へ向かって安全を確保してくれ! こちらは一旦別の駅から退出を試みる! 後で合流しよう!」


マシュ「了解しました! どうかご無事で、マスター!」


バットマン「ああ! ……急いで出るぞ、危険だ」

モードレッド「おう」

ジキル「ああ。……行くとしよう」




823: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:32:01.64 ID:aYEhFwXa0


タタタタタタ……


バットマン「……っく……」ダッダッダッ……フラッ

モードレッド「っ、おい。シャキっとしろ」ガシッ

バットマン「すまない、大丈夫だ……平気だ。行ける」

モードレッド「……いいや、無理だな。オレが抱えてやる」

ジキル「そうだね。僕には重すぎる」

モードレッド「ハ、正直な奴……」

バットマン「……すまない」

モードレッド「……」ガシッ、グイッ



824: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:32:51.54 ID:aYEhFwXa0



ゴゴゥッ、ゴゴゴゴ……

ダッダッダッ


モードレッド「……オレ、お前の事、もっと根性無しだと思ってたよ。何かあったらすぐ戦場から逃げ出す奴だと思ってた」ダッダッダッ

バットマン「……」ユッサユッサユッサ

モードレッド「だから、まあ、なんだ。……悪かったな、いろいろ。突っかかって」

バットマン「……」

モードレッド「……何か言えよ」

バットマン「……いや、気にしていない」

モードレッド「嘘つけ」

バットマン「気にしていない」

モードレッド「素直じゃねえ奴!!!」



ジキル(……なんでお姫様抱っこなんだ……???)タッタッタッタッ




825: ◆GmHi5G5d.E 2018/06/14(木) 23:33:27.49 ID:aYEhFwXa0


モードレッド「見えたぜ。出口だ」

ジキル「少し、どこかの家屋で休みを入れたい。ブルースの回復薬も作ってやらないと」

バットマン「そうだな……地上に出たら、一旦降ろしてくれ。慎重に行動しなければ」

モードレッド「なんにせよ、植物園には行かねえと駄目なんだ。準備は整えねえとな……おう、階段のぼるから揺れるぞ」

バットマン「それは、あまりにも今更な警告だと思われる……」

モードレッド「何だと!?」

ジキル「ちょ、ちょっと声を抑えめにだな……」



看板『Sta.BAKER STREET』


ゴゥッ。ゴゴゴゴゴゥッ、パチパチ……



839: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:13:37.89 ID:2zVNU7dP0


………………

ホムンクルスA「……」ドシ、ドシ

ホムンクルスB「……」ブォンッ

モードレッド「クソ!! ロボットの親玉を片付けたと思ったら今度はこれかよ!!」ガギィ‼

ジキル「物量が……!!」シュバッ

モードレッド「チクショウ、おいブルース! 一網打尽にする作戦考えろ!!」

バットマン「何処かで屋内へ退避するぞ、無用な戦闘だ」

モードレッド「ああ!? 腰抜けか!!」

バットマン「大声を出すな、もっと呼び寄せるぞ。後退開始」



840: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:14:27.57 ID:2zVNU7dP0


ジキル「ええいっ」ババッ


ジキル(駄目だ、いつものような力が出せない……!)


バットマン(……?)


バットマン「博士。後退するぞ、怪我は無いか」

ジキル「あ、ああ。大丈夫だよ」

バットマン「……行くぞ」



841: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:14:56.28 ID:2zVNU7dP0


ジキル(生物を切ったら……)

ジキル(『殺す』という行為を認識してしまったら……)


ハイド(だよなぁ、気持ちイイもんなあ?)

ジキル(違う……)

ハイド(おっと、俺を否定するのか? 暴力の快感を?)

ジキル(僕はジキルだ。しっかりしろ)

ハイド(そうとも。俺はお前だ)

ジキル(違う!)

ハイド(本当に思ってるのか? 俺とお前は違うなんて)


ジキル「黙れ!! ……あっ」

モードレッド「……?」

バットマン「博士?」



842: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:15:27.54 ID:2zVNU7dP0



ジキル「い、いや……なんでも、ないんだ」

バットマン「……恐怖ガスの影響か。手早く建物を見つけて休もう」

モードレッド「なんだよ、早く言えよ」

ジキル「……そうだな。ごめん」

モードレッド「ったく、これだから……」

バットマン「謝る事ではない」

モードレッド「オレの台詞を遮るんじゃねー!!」



843: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:16:07.11 ID:2zVNU7dP0


バットマン(しかし、手ごろな建物が少ない……)


バットマン「……駄目だ、こちらの建物も返答はない」ドンドン

モードレッド「なー、いつまでやるんだ……」ドンドンドンドン

バットマン「住人がこたえるまでだ」ドンドン


バットマン(……しかし、非常時なのは住人も同じか。こんな時に、誰かを助けようなどという考えの方が貴重……)ドンドン


ガチャリ

ドア「」ギィィィィィ……



バットマン「……何?」

バットマン(ひとりでに開いた?)



844: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:16:38.00 ID:2zVNU7dP0


モードレッド「おっ、開いたな。じゃあ入ろうぜ」

バットマン「待て、罠かもしれない。ドクター、聞こえるか。内部のスキャンを……」

ドクター『もう済ませてあるよ。罠の類は見受けられない』

バットマン「成程……モードレッド、内部の物音は」

モードレッド「んー、あー……何も聞こえねえ。誰も居ねえと思うぜ」

バットマン「入るぞ。ジキル博士、私とモードレッドの間に」

ジキル「了解」

モードレッド「うし、行くぞ」ガチャッ


ドア「」バタンッ


表札『221B』



845: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:17:03.56 ID:2zVNU7dP0


………………


スタ……スタ……

バットマン(……本当に誰一人居ない。とても静かだ)


ギシィッ‼

ジキル「うっ!?」ビクッ

モードレッド「あ、わりぃ。気ィ付けろよ、階段のここ軋むぜ」ギシ

バットマン「……」



バットマン(家の何処かで誰かが身じろぎする気配すらない。本当に無人のようだ……)



846: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:17:30.34 ID:2zVNU7dP0



ジキル「……良かった、二階には十分なスペースがあるね。よし、回復薬と緩和剤の調合を開始する」

バットマン「頼んだ。こちらはマシュ達との連絡を試みる」

モードレッド「なんでも良いけど早くしろよ」

バットマン「お前は引き続き警戒を頼む」

モードレッド「はいはい……」



847: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:18:03.90 ID:2zVNU7dP0



ジキル「……」チョポポポポ……キリン、カチャカチャ


ジキル(恐怖ガス……僕の不調は本当にそれだけだろうか。もっと根本的な何かに根ざしていないだろうか)プル……

ジキル(僕は何を怖がっているんだ。本当に恐ろしいのは一体何なんだ)

ジキル(ハイド? 殺人? それとも……)


ジキル「……」グググ……


ジキル(……人を、殺せない事か?)



848: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:18:42.20 ID:2zVNU7dP0


バットマン「もしもし、マシュ。聞こえるか」ピッピッ


マシュ『あっ、マスター! ご無事でしたか!』

アンデルセン『いちいち声がデカいぞ盾女!!』

ナーサリー『あなたの方が大きな声よ、アンデルセン!!!』

フラン『ウゥ、ウ……』

ジャック『みんな五月蠅い、おかあさんの声が聞こえないよ』


バットマン「……全員無事なのは分かった。今どの辺りだ」



849: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:19:09.59 ID:2zVNU7dP0


マシュ『あと数ブロック進めば植物園に到着します。先程から敵の様相が変わって……ホムンクルスが多く襲ってきています』

バットマン「そうか。こちらも同じような状況だった、今は家屋に間借りして回復薬と緩和剤の作成中だ。良いか、少しでも無理だと感じたなら即座に逃走するんだ」

マシュ『はい、了解しました! ……え? アンデルセンさん? 代わりたいんですか?』

バットマン「……?」

マシュ『え、えーっと……マスター。アンデルセンさんが少し話したいそうです』

バットマン「分かった。代わってくれ」



850: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:19:58.55 ID:2zVNU7dP0



アンデルセン『もしもし、ブルースか。聞こえるか』

バットマン「もしもし、アンデルセン。何かあったか」

アンデルセン『気付いているとは思うが、戦力不足だ。分断された今、こちらの面子では火力不足に陥りやすい』

バットマン「……」

アンデルセン『加えて、バベッジの待ち伏せだ。奴らは植物園を守る気で居たらしい。あの機械紳士が敗れた今、更なる戦力を追加してくるだろう。このホムンクルス達はその前兆だ』

バットマン「……ああ、気付いている。だが進んでくれ。お前がブレインの役割を果たせば、不足の無い集団にはなれる」

アンデルセン『……お前、機械のようだと言われた事は?』

バットマン「回復すればすぐに追いつく、植物園で会おう。通信を切るぞ」

アンデルセン『ああ待て。ジャックが声を聴きたいと……』

バットマン「会ってから話すと伝えてくれ」ピッピッ



851: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:20:24.49 ID:2zVNU7dP0



バットマン「ジキル博士、回復薬と緩和剤は……」

ジキル「……」

バットマン「……ジキル博士?」

ジキル「……え? あ、ブルース。大丈夫、回復薬は出来上がったよ。服用してくれ。緩和剤はもう少しかかる」スッ

バットマン「ああ……博士、疲れているのなら」

ジキル「いいや、大丈夫。……大丈夫だ」



852: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:20:51.55 ID:2zVNU7dP0


モードレッド「らしくねーな、調合中に上の空なんてよ。なんかあったのか?」

ジキル「い、いや。何も」

モードレッド「ホントかぁ?」

ジキル「な、なんでもないって……」

バットマン「調合が終わってからにしてやれ、モードレッ……」



ギシィ‼

ジキル「!!」

バットマン「……」チラッ

モードレッド「……」コクッ



853: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:21:21.32 ID:2zVNU7dP0



バットマン(階段が軋んだ。誰かが上がってきている)


バットマン「……」スッ

モードレッド「……」カチャリ

バットマン「……」


バットマン(回復薬を服用し、もしもの時に備える……)ゴク、ゴクリ……



ガサガサ、ゴソゴソ……

「フォウ、フォーウ!」

???「こら、暴れるな。全く、街中に面倒の種がたくさん転がってる……」

「フォウ、キュ、フォーウ!!」

???「……おや、参ったな。扉が開きっぱなしじゃないか、誰がこんな……な、だ、誰だ!?」

バットマン「……?」


バットマン(……一般人? ……それに、)

バットマン「フォウ?」

フォウ「フォウ、フォーウ!」タタッ




854: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:21:52.73 ID:2zVNU7dP0


バットマン「失礼した、ミスター。我々は決して怪しいものではない……こちらへ来い、フォウ」

フォウ「……」テシテシ

???「怪しいものではない? よく言えたな、キミ、その恰好で!」

バットマン「……」

モードレッド「ははは、言われてやがる。ザマァねえでやんの」

ジキル「申し訳ありません、お邪魔でしたらすぐに失礼させていただきます」

???「いや……いや、まず君達は何者だ? どうやら、その獣とも知り合いのようだし」

フォウ「フォウ?」パタパタ

ジキル「……」

モードレッド「……」

バットマン「……」



855: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:22:21.77 ID:2zVNU7dP0


???「いいか、こっちはこのふざけた霧の原因を調べるためにずっと駆けずり回ってたんだ。そこへこんな怪しい集団が現れたら、逃がさないのが普通だ」

バットマン「……ミスター、虚勢を張るものではない」

???「そうかな? 僕は元軍人だ。銃の扱いだって、慣れてるさ」カチャリ

バットマン「……」


バットマン(……少しでも情報が必要か)


バットマン「……分かった、話そう」

ジキル「ブルース」

バットマン「勝手に間借りしていたのはこちらだ。それに、彼は当事者だ……知る権利がある」

???「賢明だ。どうぞ話して」




856: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:23:00.98 ID:2zVNU7dP0



………………

???「れ、レイシフトに……えー、特異点、それに……なんだ、カルデア?」

バットマン「そうだ。信じたか?」

???「……参ったな。僕の同僚が似たような事を言ってた……『今日は未来の分岐点だ』と。口からの出任せなら良かったが、そうは見えないし」

バットマン「では、こちらから出せる情報は以上だ。私はブルース。こっちがモードレッド、ジキル」

モードレッド「おう、このモードレッドに武器を向けるたぁいい度胸……」

ジキル「ヘンリー・ジキルです。よろしく」

モードレッド「まだオレが!! 喋ってるっつーの!!」

???「ああ、こっちこそ失礼。僕はジョン・ワトソン、軍医をやってて……なんというか、今は事件をまとめてるところかな。ああ、本業は医者だ」

バットマン「ジョン……ジョン・ワトソン? シャーロック・ホームズの、あのワトソン医師か?」



857: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:23:37.12 ID:2zVNU7dP0


ワトソン「ああ、そうだ。キミも僕の小説のファンかい?」

バットマン「……」


バットマン(ジョン・ワトソン。コナン・ドイルの推理小説、『シャーロック・ホームズ』の語り手となる人物だ……確かに、物語の中では彼が全ての記録をつけていた設定になっていたが)


ワトソン「なら、前回の事件簿も読んでくれただろうね? 霧の中で、殺人鬼との追いかけっこ! なんと犯人は小さな子供だった……スリル満点、こんな事件の只中じゃなければ大うけだったハズさ」


バットマン(ジャックの事か……彼女が味方だとは言わない方が良さそうだ)


ワトソン「私はこれでも見たものを記録する能力に長けていてね、スコットランドヤードにもスケッチを送って大変貢献した……ええと、ここにも残っているハズだからキミ達の警戒のためにも一枚……」

バットマン「いや、良い。それよりもドクター、彼は……『シャーロック・ホームズ』は今、何処に居る?」



858: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:24:20.23 ID:2zVNU7dP0


ワトソン「なんだ、やっぱり君達も依頼人だったのか! 残念だが、今彼はここには居ない。ロンドン中の資料を集めたり、面倒の種を摘んだりで大忙しだ」

バットマン「資料を?」

ワトソン「ああ、いや、この霧の原因を調査するためにね。彼が言う事には、『この霧がひとつの事件で完結するハズがない。背後にもっと大きな陰謀があるハズだ』と。ははは、毎度常人には及ばぬ思考を働かせる男なんだ」

バットマン「……そうか」

モードレッド「ハッ、変人ってヤツか」

ワトソン「うむ、我が友ながら否定できないな。……ああいや、待て。そういえば、妙な連中に会ったらこれを渡せと言われていたな」ゴソゴソ……スッ

バットマン「……? これは?」パシッ

ワトソン「さあ。何やらびっしりと書かれているが、私には何のことやらサッパリだ。だけど、必ず渡せと」



859: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:24:47.92 ID:2zVNU7dP0



紙切れ『潜入して盗み聞いたところ、やはり彼は既に死んでいる。では奴はどのようにして十の指輪を操るのか?
アトラス院にて待つ S・H』

バットマン「……」

ジキル「潜入して、……なに?」

モードレッド「縦読みだ。知ってるぞ、そうなんだろ?」


バットマン(奴。彼。十の指輪)


バットマン「……成程、理解した。燃やして構わないな」

ワトソン「え? あ、ああ……構わないが、理解できたのか?」

バットマン「キミ達の持っていないピースを丁度私が持っていた。それだけだ」ボゥッ



860: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:25:39.28 ID:2zVNU7dP0



モードレッド「おい、どういう意味だ? これが分かったのか?」

バットマン「ああ、分かった。尤も、彼も分かっていて敢えて私に問うたのだろう」

ワトソン「あー、シャーロックが? つまり、どういう事なんだ?」

バットマン「……つまり、」


通信機『マスター! マスター、救援を……っぐ!?』ザザザッ

バットマン「……!!」

ジキル「今のは……!」



861: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:26:08.18 ID:2zVNU7dP0


バットマン「すまないミスターワトソン。邪魔をした。ジキル、恐怖ガス緩和剤の摂取は完了したか?」

ジキル「ああ。いつでもいける」

ワトソン「まっ、待て。どういう事だ、何が起きている?」

バットマン「……説明は、いずれ彼がするだろう。さらばだ」ダッ

モードレッド「邪魔したな!!」ダダッ

ジキル「失礼します」タッ

フォウ「フォウ、フォーウ!」ピョンピョーン




862: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:26:59.90 ID:2zVNU7dP0


シーン……

ワトソン「……」

ワトソン「……ええいっ、じっとしていられるか! どうしてどいつもこいつも蚊帳の外に置いておこうとするんだ!」

ワトソン「えぇーと、銃、ステッキ……トップハット、良し!」

ワトソン「待っていろよ、私だってシャーロックに及ばないまでも、真実に対する探求心はあるとも! ハドソンさん、出かけます!」ドタドタ


シーン……


ワトソン「……ああ、居ないんだった。ええいもう!」ガチャリッ


ドア「」バタン‼




863: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:27:38.02 ID:2zVNU7dP0


…………十数分前……


マシュ「ふう、ホムンクルス達は予想外でしたが……思ったより楽に突破できましたね。そして、アレが」

アンデルセン「ああ、アレが植物園だ。おい、へっぽこドクター」

ドクター『……あれ、もしかしてそれって僕の事? だとしたらショックなんだけど!?』

アンデルセン「お前以外に居るか。植物園の内部をスキャンできるんだろう、やってくれ」

ドクター『ぐぅ……分かったよ、やるよ……はいはい、内部に魔力反応はなし。探してる植物は奥の方にあるみたいだ』

アンデルセン「成程な。良いだろう、マシュ、フラン、俺の前に立て。ジャックとナーサリーは俺の後ろだ。行くぞ」


864: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:28:06.01 ID:2zVNU7dP0



………………


マシュ「……」コツ、コツ


マシュ(この建物、曲がり角が多い。障害物が多すぎて、敵に隠れる場所を与えてしまう)

マシュ(……それに、嫌な予感がする。何か、凄く嫌な予感が……)


アンデルセン「おい、マシュ! こっちだ、目当ての植物を見つけたぞ!」

マシュ「あ、はい! 今行きます!」


マシュ(考えすぎ……なのかな)



865: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:28:41.99 ID:2zVNU7dP0


ジャック「……うーん、これ? あんまりきれいなお花じゃないね」

ナーサリー「そんな事はないわ、どんなお花も綺麗になれるの」

アンデルセン「全く……! 無駄口を叩かず少しでも採集に精を出せ!」ブチブチ

フラン「うるさい……」ブチブチ

マシュ「……」ブチブチ


マシュ(……何かがおかしい。何か……恐怖ガスを受けてから、思考が鋭敏になってる。たとえば)

マシュ(さっきから、どうしてスイレンの水面にさざなみが立っているんだろう)




866: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:29:38.38 ID:2zVNU7dP0



マシュ(水面の近くには……通気口だ。金網にはボルトが外された痕がある)

マシュ(ダクトは上に続いてる。何処に出るんだろう? さっきから感じるこの違和感は何?)


(((運などない。だが策略は存在する)))


マシュ(……マスターなら、どう考える? この違和感……偶然? それとも、)



ドクン


マシュ(外された金網。波立つ水面。罠ひとつない植物園。私達でも突破できたホムンクルス)


マシュ「皆下がって!!! 攻撃下です!!!」ババッ

アンデルセン「っ!!?」ババッ

フラン「!!」ザザァッ‼

ジャック「!」タンッ、トトッ

ナーサリー「きゃ!?」ヨロ、タタッ


ガッシャァァァァァァァァァァン‼




867: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:30:15.78 ID:2zVNU7dP0



霧「」ズォォォォォォォオ……


???「フフフハハハァ……少しは賢い者が居たようだ」

???2「慢心はなりませんよ、ジョナサン。彼らはバベッジを打倒した」

スケアクロウ「ンフフフフフフ……期待しておこうじゃないか、なあ、パラケルスス。彼らは恐怖に抗えるかな?」


アンデルセン(……B・P・M・Sの内の二人! スケアクロウ、パラケルスス!!)


アンデルセン「手に余る」

マシュ「マスター! マスター、救援を……っぐ!?」ガギィン‼

スケアクロウ「ヒャハハハハ……練られた動きだ、女ぁ!」ヒュンヒュンッ

マシュ「くぅっ……!?」ガガッ、ガギィィ‼



868: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:31:07.83 ID:2zVNU7dP0


マシュ(鎌。中距離の武器……近寄れない。私が苦手とする武器)ガィン‼ ガギィン‼


ジャック「たぁっ!!」タンッ


水「」ギュギュ、ズォッ‼


ジャック「!!」

ナーサリー「ジャック危ないっ!!!」バッ

ジャック「くっ……」ドドッ、ゴロゴロッ

パラケルスス「おや、躱しましたか。この一撃で一人は持って行くつもりでしたが、なかなか思うようにいきませんね」

ナーサリー「あなた……!」

パラケルスス「私はパラケルスス。元素を操る魔術師。どうぞお見知りおきを」


アンデルセン(……ブルース達はベイカーストリートへ出た。ここへ来るまでにかかる時間は……15分、20分。間に合わん、確実に俺達が殺されている)



869: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:31:49.07 ID:2zVNU7dP0


アンデルセン「戦いをやめ、交渉する気は?」

マシュ「あ、アンデルセンさん?」

フラン「ウゥ……?」

パラケルスス「……?」

スケアクロウ「耳を貸すな、パラケルスス!!」

パラケルスス「逸ってはなりません、ジョナサン。……交渉ですか?」

アンデルセン「俺達は、仲間の内で最も強い連中の情報を売る。そいつらはここには居ない」

マシュ「な……! 駄目です!!」

アンデルセン「黙っていろ! 今ならおまけで、俺の命もくれてやる。さあどうだ、のるか、そるか」

ナーサリー「駄目よ! 絶対にダメ!! 切り抜ける方法があるハズよ!」

アンデルセン「……」


870: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:32:21.60 ID:2zVNU7dP0



アンデルセン(いつもながら、子供の理想論だ。切り抜ける方法などない。マシュ、フランも薄々それに勘づいている。俺達は、勝てん)

アンデルセン(モードレッドやブルースが居れば違っただろうが、奴らは今、ここには居ない。ああクソ、ないものねだりはガキの思考だ!)

アンデルセン(あとはどうなるか。フラン、マシュ、ジャック、ナーサリーをどうにかしてこの場から逃がせないか。こいつらがどれほどの脅威として認識されているかにもよるが……)


パラケルスス「……」

スケアクロウ「……」




871: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:32:55.07 ID:2zVNU7dP0



パラケルスス「……気高い行いですね。ですが、……面白い話を、して差し上げましょう」

アンデルセン「……?」

パラケルスス「恐怖ガスが変えてしまった人の中には、アナタのような勇気ある人も居た」

スケアクロウ「パラケルスス!!」

パラケルスス「言わせてください、ジョナサン。……恐怖を経験し、彼は変わってしまった。勇気は打ち砕かれ、絶望と攻撃性のみが残った」

スケアクロウ「……」

アンデルセン「……」

パラケルスス「彼が最期に何と言ったか、知りたいですか? 『あぁ、神様』、それだけです。自分のしたことを認識した彼は自殺した」

アンデルセン「……」

パラケルスス「人間は弱すぎる。いともたやすく変化し、自分がそれに耐えられない。悪に染まった魂を、善良な心は直視できない」

スケアクロウ「……」

パラケルスス「……失礼しました。ではやりましょうか、スケアクロウ。終わらせる」




872: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:33:38.40 ID:2zVNU7dP0


アンデルセン(やはり話など通用せんか!)


アンデルセン「クソ!!」ババッ、ギュォォォォォッ

スケアクロウ「フン、効かないぞ!」ガギギィィィ、ヒュォンッ‼

マシュ「たあっ!」ガギィン‼

スケアクロウ「小娘、邪魔だァ!!!」ヒュンヒュンヒュンッ



パラケルスス「心苦しいですが、新たな世界の礎となって頂きます」パパパパッ、ギュゥゥゥゥゥ……

ナーサリー「迂闊に近付いちゃ駄目、嫌な感じがするわ!」

ジャック「く……」ジリッ

フラン「ウゥゥ……」ジリジリ


パラケルスス「土、水、火。これで十分でしょう」ボボボボボォォォォッ‼

ナーサリー「!!!」ギュギュギュオッ、


ドドドドォォォォォォォォ……



873: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:34:10.69 ID:2zVNU7dP0


フラン「う、ウゥ……!」ゴロゴロッ

パラケルスス「……おや、アナタは……?」

フラン「……」ムクリ

パラケルスス「……ホムンクルスではない? ですが、真っ当な人間でも、サーヴァントでも……」

フラン「ウゥァ!!」バチバチバチバチィ‼

パラケルスス「……」ギギィィィ、パァン

フラン「……!!」ブォンッ

パラケルスス「……成程、アナタも作られた存在でしたか」ガギィィィィィ‼

フラン「アァァァァァ!!」ギリギリギリィ

ジャック「やあっ!!」ダダンッ、ギュォォォッ

パラケルスス「遅い」パシ、ブォンッ

フラン「ぐ……!?」ドシャァッ

ジャック「うわ!?」ドシャシャッ



874: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:34:41.84 ID:2zVNU7dP0


スケアクロウ「ヒャハハハハハハハ! 脆いものだな!!」ヒュンヒュンヒュンッ

マシュ「くっ……」ギギィン‼ ギュリィン‼

アンデルセン「マシュ!」ギュギュオォォォオッ‼

スケアクロウ「効かないと言ったハズだぞ!」ギャァン‼

マシュ「たあっ!」ブォンッ

スケアクロウ「のろいわ!!」タタッ

マシュ「……ふー……」ジリッ



マシュ(苦手な中距離戦。素早い相手。油断すれば恐怖ガスの濃縮液を注射され、戦闘不能)

マシュ(……認めるしかない。苦手な局面だ。でも、だからこそ……)

マシュ(何度もイメージトレーニングしてきた)



マシュ「……」スー……

スケアクロウ「……?」


スケアクロウ(なんだ、この雰囲気の変わりようは……まるで、これは……バットマン?)



875: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:35:41.05 ID:2zVNU7dP0


スケアクロウ「こざかしい! 私の動揺を誘うつもりだったか、残念だったな!!」ヒュンヒュンヒュンッ

マシュ「……」ガギガギガギィ‼ ギィン‼

スケアクロウ「私には恐れるものなど何もない! もはやバットマンでさえ、私の恐怖ではないのだ!!」ヒュンヒュンッ

マシュ「……」ギギギィン‼

スケアクロウ「死ね! 死ね、小娘!!」ババッ、ヒュゥンッ

マシュ「……!!」ダンッ、ジリリッ


スケアクロウ「!!!」ドクン


ドクン……


スケアクロウ(この間合い。この構え。繰り出した鎌は戻せない)ドクン

スケアクロウ(この、小娘。いや、コイツは……私が想像していたより、はるかに)ドクン、ドクン


マシュ「はああっ!!!」ダダンッ、ゴォッ

スケアクロウ「ぐうわああああ!?」ドゴォ、ゴシャシャシャシャシャシャァ……



876: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:36:39.33 ID:2zVNU7dP0


アンデルセン「……なんだと、驚いた」

マシュ「はーっ、はーっ……」ジリッ


マシュ(相手の全ての行動を予測し、瞬時に対応策を立てる。防御から反撃に転ずる隙を意図的に作り出す)

マシュ(言うのは簡単ですが、脳への疲労蓄積が……マスターはこれを毎回やっているんですか……)ヨロ



パラパラ……


スケアクロウ「貴様、貴様ァ……!!」ヨロ、ヨロ

マシュ「次で終わりです、スケアクロウ!」

スケアクロウ「黙れ! まだコレがある!」バッ、プシュッ

マシュ「……!?」


マシュ(注射針を……自分の心臓付近へ、刺した!?)



877: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:37:13.38 ID:2zVNU7dP0


パラケルスス「!! スケアクロウ、それはまだ時期尚早です!」

スケアクロウ「ク、ククク、式の組み立ては既に済んでいる。あとは実験だけだ……私は研究に献身的なのだ」ググ、ググググ……

マシュ「どういう事ですか!? 何故自分に恐怖ガスを……!?」

スケアクロウ「ククク……恐怖にかられただけで全てのヒトが狂暴になると思ったか? 否、否、全くの間違いだ! 私は人の凶暴性を引き出す成分も含めていた! そして、これが!!」

空の注射器「」カラン……

スケアクロウ「はははハはハハハハ!! 終ワりだ、嘆くがいい! 怯えルがイイ!! 我こそはスケアビースト! 恐怖ノ化身! 恐怖と暴力の象徴だ!!」ググ、ググググググ……

マシュ「……な……」

スケアビースト「……ぐ、グググ……」シュゥゥゥゥゥゥゥ……


878: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:38:24.67 ID:2zVNU7dP0

スケアビースト「……フシュルルルル……」ズオォォォォォォ……



ナーサリー「……なんてこと、あれじゃあまるで童話に出て来るモンスターそのものじゃない……」

ジャック「……おおきい」

フラン「ウゥ……」


アンデルセン「……これは」


マシュ(勝てる? いや、厳しい。使える環境も少ない)


スケアビースト「アァァァァァァァァァァァグォォォォォオォ!!」ブンッ

マシュ「っ!!」ガギィィィィィ‼


マシュ(速く、重い! 危険すぎる!)



879: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:39:19.44 ID:2zVNU7dP0


アンデルセン「こっちだデカブツ!」ギュギュギュオォォオッ

スケアビースト「……」ドドドッ……シュゥゥゥゥゥ……

アンデルセン「……クソ、弾かれてばかりだな! やはり俺に戦闘は無理か……!」

スケアビースト「グググ……」ブォンッ

アンデルセン「うお!?」ババッ

マシュ「そこ!!」ブォンッ

スケアビースト「……」ガシッ、ドゴォ

マシュ「あぐっ……!?」ドシャシャシャ……

スケアビースト「グルロォォォォォォォオォアアア!!」ダダンッ

ナーサリー「え? きゃっ!?」

ジャック「あぶないっ!!」ダンッ、バッ

ナーサリー「うッ」ゴロゴロッ



880: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:39:56.98 ID:2zVNU7dP0


フラン「ウゥゥゥゥゥアアアアア!!」バチバチバチ、ブォンッ

スケアビースト「……」ガシッ、ドッシャァァァァァ‼

フラン「うぁ……!?」ゴシャッ、ゴロゴロ……

スケアビースト「……ぐ、グググ。死ネ、小娘共……」ドシ、ドシ

パラケルスス「……」


パラケルスス(……味方とはいえ、迂闊に近寄らない方が良さそうですね。今のアレはジョナサンではない)


マシュ「っ!」ダダッ、ザザァ‼

スケアビースト「…………!!」グググ、ググググ……



881: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:40:45.02 ID:2zVNU7dP0



スケアビースト「ハァァァァァァァ……」フシュルルルルルルル……

マシュ「……!?」ジリ


マシュ(なに、これ……吐息? 黄色い、吐息が……)


マシュ「!!!」


マシュ(不味い……これは、恐怖ガスの、濃厚な……!)


マシュ「……、」ヨロ、




882: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:41:15.06 ID:2zVNU7dP0


アンデルセン(しまった!!)タタタッ


マシュ「……」グラリ、ドサッ

スケアビースト「……死ネ……」グググッ


アンデルセン「マシュッ!!!」ダンッ、バッ

スケアビースト「グルォア!」ブォンッ、ゴシャァ‼

アンデルセン「うぐあ……!?」ゴシャァァァァ……




883: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:41:44.30 ID:2zVNU7dP0


パラケルスス(致命打)


アンデルセン「……か、はっ……」プル、……


アンデルセン(クソ、全滅か……!? いや、まだ可能性はある!!)


アンデルセン「……なー、さりー、ナーサリー」ヒューッ、コヒューッ

ナーサリー「う、うぅ……あ、アンデルセン!?」ムク、タタッ

アンデルセン「ナーサリー、聞け、いいか……」



884: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:42:55.22 ID:2zVNU7dP0


ナーサリー「どうして、なんで、なんで貴方まで」

アンデルセン「いいか、ナーサリー、聞くんだ。お前の、結界でここを覆い、ブルース達の到着まで、持ちこたえさせるんだ」シュウシュウ……

ナーサリー「いや……いや! できる訳ない、できない! なんで私をおいていくの!? また、これじゃあまた、偽物のお話になっちゃう……!」ポロ……

アンデルセン「ナー、サリー、いいか。できるわけがない、とか、無理とか、いうのは、汚い大人の言い訳だ。お前は子供の夢だ。ひとつひとつが、本物なんだ」シュウシュウシュウ……

ナーサリー「……!!」

アンデルセン「……頼めるな、ナーサリー」

ナーサリー「……」……コク、コクコク

アンデルセン「なら、良いんだ。ああ全く、ガラではなかった……」シュゥゥゥゥゥゥ……



885: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:43:45.77 ID:2zVNU7dP0


スケアビースト「……」ドシ、ドシ

ナーサリー「……」ボソボソ……

パラケルスス「……?」


ナーサリー「……白黒マス目の王様ゲーム……走って走って鏡の迷宮」


パラケルスス(……)ピクッ

パラケルスス「スケアビースト!」

スケアビースト「!!」ブォンッ

ナーサリー「みじめなウサギはさよならね?」グシャアッ


カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ


パッ


886: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:44:16.32 ID:2zVNU7dP0



パラケルスス「……? ここは……」


スケアビースト「……」ドシ、ドシ

ナーサリー「……」ボソボソ……

パラケルスス「……?」


ナーサリー「……白黒マス目の王様ゲーム……走って走って鏡の迷宮」


パラケルスス(……なんだ、今のは……? 確かに殺したハズ)

パラケルスス「スケアビースト!」

スケアビースト「!!」ブォンッ

ナーサリー「みじめなウサギはさよならね?」グシャアッ


カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ


パッ


887: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:44:57.45 ID:2zVNU7dP0


スケアビースト「……」ドシ、ドシ

ナーサリー「……」ボソボソ……

パラケルスス「……!?」

ナーサリー「……白黒マス目の王様ゲーム……走って走って鏡の迷宮」


パラケルスス(どういう事だ。何が起きている。これは。これは、何だ)

パラケルスス「スケアビースト! 急ぐのです!」

スケアビースト「!!」ブォンッ

ナーサリー「みじめなウサギはさよならね?」グシャアッ


カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ


パッ



888: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:45:33.11 ID:2zVNU7dP0


スケアビースト「……」ドシ、ドシ

ナーサリー「……」ボソボソ……

パラケルスス「時間を繰り返すとでも……何度もさせるものか!!」ギュギュオォォォッ


ナーサリー「……白黒マス目の王様ゲーム……走って走って鏡の迷宮」パパァン

パラケルスス「何……!」


パラケルスス(弾いた……? 今の攻撃を弾かれたら、ここからでは、何の攻撃も……)


スケアビースト「……」ブォンッ

ナーサリー「みじめなウサギはさよならね?」グシャアッ


カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ


パッ



889: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:46:10.49 ID:2zVNU7dP0


パラケルスス(馬鹿な)

カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ

パッ


パラケルスス(馬鹿な。こんな事が)

カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ

パッ

パラケルスス(これでは倒せない。逃げられもしない)

カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ

パッ

パラケルスス(刻一刻と、理想が遠のいて行くというのに……!!)



カチッ、カチッ……ギュォォォォォッ

パッ



890: ◆GmHi5G5d.E 2018/08/02(木) 01:46:54.58 ID:2zVNU7dP0


………………


ドクター『……ブルースくん、急いでくれ。アンデルセンの魔力反応がロストした』

モードレッド「……」ダダダ……

ジキル「……」タッタッ

バットマン「……了解した」ダッダッ


バットマン(待っていろ、今向かう……!)ダッダッ



看板『王立キュー植物園 この先2ブロック』



901: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:02:48.56 ID:fIC7lgGL0

………………

バットマン「……これ、は……植物園のハズだが」

フォウ「フォーウ……」ピコピコ

ジキル「結界で覆われてるね。ちょっとやそっとでは壊れないモノだ。この性質、時間も分断してるのか……?」

モードレッド「ブラックボックスってか。この感じ、多分ナーサリーのヤツだな……どうする?」

バットマン「ドクター、この結界に入る方法は?」ピッピッ

ドクター『通常なら入れない……けど、マシュが持ってる通信機が中継の役割を果たしてて……えーと、端的に言うとブルースくん、キミだけが入れる』

バットマン「成程」


902: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:04:29.35 ID:fIC7lgGL0


バットマン「では、私が先に行く。二人は結界が解けた後に来てくれ」

モードレッド「おう、分かったぜ」

ジキル「分かった。……気を付けてくれ、ブルース」

フォウ「フォウ、フォーウ!!」パタパタ

ドクター『本当に気を付けてくれ。その結界の中は、繰り返された時間のせいで座標も時流も滅茶苦茶だ。正直、キミを送り込むのだって……』

バットマン「必ず戻る、ドクター。マシュの観測を続けてくれ。私はそこへ辿り着く」

ドクター『……頼んだよ。……僕、卑怯な立場だな、ホントに』

バットマン「最も苦しい立場だ。……行ってくる」ズォォォォォォォォォォォ……


903: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:05:18.57 ID:fIC7lgGL0



………………


所長「……」ジッ

ドクター「……」チラッ


ドクター(所長は……あのお茶会以来、取り乱す事が少なくなった。今、ブルースくんが結界の中へ入っていったのだって……いつもなら、必死で止めてた)

ドクター(でも、今は落ち着いてる。いや……落ち着こうと、してる)


所長「何よ」

ドクター「い、いいえ!」


ドクター(……やっぱり、マシュへの態度が普通になったのと関係してるのか)



904: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:05:50.65 ID:fIC7lgGL0


職員A「……ブルースさんの肉体、観測順調……結界のはざま、虚数空間へ移入開始。肉体を存在防護式で覆います」カタカタ、カタカタ

職員B「電子機器の稼働式にIF欄を追加。非存在の存在特定を開始」ピッピッ

職員C「シバのレンズを一枚、虚数空間の観測にあてます。角度調整」カタカタ、タンッ


ドクター「……レオナルド、そっちは?」

レオナルド「んー? 順調だ、機器に異常なし。……そっちはどう?」

ドクター「ああ、こっちにも異常はない。……うん、順調だ」

レオナルド「そうか。……キミ自身はどうだい、ロマニ?」

ドクター「僕? なんで僕が……」


ドクター(……)



905: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:06:33.09 ID:fIC7lgGL0



ドクター「……あぁ、ダビデの事かい?」

レオナルド「……」

ドクター「そうだな、僕たちのサポート不足もあっただろうね。ベインとかいう化け物も出て来たらしいし、消えたのも、仕方ない。割り切ってるよ」

レオナルド「…………」

ドクター「……確かに、ちょっと言い過ぎたけど、それだけだ。サポートに戻るよ」

レオナルド「……」


レオナルド(素直じゃないよなぁ、カルデアの面子って)



906: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:06:58.81 ID:fIC7lgGL0


職員C「……ま、待ってください。おかしい、計器の故障……いや、これは……」

レオナルド「どうした?」

所長「まず報告をしなさい」

職員C「きょ、虚数空間内に魔力反応を観測しました!」

ドクター「何? 虚数空間の、中にだって?」

職員C「機器の誤作動……いえ、反応がどんどんブルースさんに近付いています! これは……!?」

ドクター「くっ、ブルースくん! 聞こえるか、ブルースくん!?」



907: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:07:28.75 ID:fIC7lgGL0



………………

バットマン「……」


バットマン(また、この空間か……土の橋じみたものが、闇の奥までずっと続いている)

バットマン(闇の中には、ばら撒かれたような光の粒たち。星々。……時流に流された時の事を思い出す……)


(((おとう、さん……おかあさん……)))


バットマン(……進み、先に待つものを確かめる)


バットマン「……」スタスタ


通信機『』ザザザ……ザザザザ……



908: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:08:21.25 ID:fIC7lgGL0


バットマン「……」スタスタ

バットマン「……」スタスタ……ピタッ


ダビデ「……」


バットマン「……ダビデ?」



909: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:08:59.16 ID:fIC7lgGL0



ダビデ「ん? おや、キミもここに? 流された……ワケじゃ、無さそうだな」

バットマン「何をしている? 何故……いや、確か、以前も……」


バットマン(そうだ。以前も、消滅したサーヴァントがここに……)


ダビデ「はは、『絆』がロープみたいになってるのかな。また会えて嬉しいよ」

バットマン「……ああ。……すまない。ベインに対抗もできず、お前を失った」

ダビデ「会って早々に雰囲気を暗くしようとするな!? いや、キミらしいけど……良いのさ、後悔はない。進もうブルース、そのために来たんだろう?」

バットマン「……ああ」



910: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:09:32.76 ID:fIC7lgGL0


バットマン「……」コツ、コツ

ダビデ「……正直、キミが時流に流されないのはおかしいと思ってる。精神が強靭だと言っても、限度があるからね」テクテク

バットマン「……?」

ダビデ「あー、つまりだ。キミの精神や肉体は、とある目標に引力じみて引き付けられているんだ。とても大きな目標だ」

バットマン「目標……」

ダビデ「うん、そうだ。信念と言い換えても良いかもしれない。……言わずもがな、かな? 多分、マシュだね」

バットマン「……」



911: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:10:18.56 ID:fIC7lgGL0



バットマン「私が、マシュに……」

ダビデ「ははは、あくまで予測の話だよ。でも、キミ、彼女が大事だろう?」

バットマン「ああ。私は彼女が大切だ」

ダビデ「それは、ある意味では、世界の理を超えた思いの強さだ。……ブルース、確認をしておきたい。野暮な事でも、残酷な事でも。これは僕の役目だと思うから」

バットマン「何だ」

ダビデ「キミは、世界が滅んでも……彼女を助けたいと思うかい?」



912: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:10:52.83 ID:fIC7lgGL0



バットマン「世界が、滅んでも……?」

ダビデ「うん。世界と彼女を秤にかけた時、彼女を助けるかい?」

バットマン「……」


バットマン(考えた事は、あった。何度もその瞬間はシミュレーションしてきた。その選択の瞬間、私自身が冷酷であれるように。最善の選択を行えるように)

バットマン(マシュだけではない。所長も、ドクターも、レオナルドも、職員達も……全員だ。全員を、秤にかけ続けて来た)


ダビデ「ああ、うん。分かった」

バットマン「……まだ何も答えていないと思うが」

ダビデ「その沈黙が答えみたいなものさ……」



913: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:11:31.34 ID:fIC7lgGL0


ダビデ「そうか。良かった」

バットマン「何がだ」

ダビデ「キミをマスターに持てて良かったって事さ。全く、キミって性急だって言われた事無いか?」

バットマン「……」

ダビデ「あるんだ……その誰かさんも苦労してるね。こりゃこの先大変だ」

バットマン「……悪かった」

ダビデ「別に謝れとは……あぁほら、着きそうだ。僕はここでお別れだね」

バットマン「……必ず世界を、」

ダビデ「救え、とは言わないさ。ただ、自分で考えて欲しい。自分のために戦えないヤツが、世界を救えるハズもないしね……そうだろ、ブルース?」

バットマン「……恩は返す」

ダビデ「カッタいなぁ!!」



914: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:12:02.19 ID:fIC7lgGL0


………………

バットマン「……」スタッ

バットマン(あの妙な空間を抜けた。ここは……植物園内部か)キョロキョロ


空間「」グニャァァァ……

空間「」バチッ、バチチッ‼


バットマン(……急がなければ。良くない事が起きているようだ)スタ



915: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:12:29.56 ID:fIC7lgGL0


ドシ、ドシ……


バットマン「……」スッ


スケアビースト「……」ドシ、ドシ

ナーサリー「……」ボソボソ……

パラケルスス「くっ……」ジリッ



バットマン(マシュ、ジャック、フランは倒れている。ナーサリーは何かを詠唱中……アンデルセンは、居ない。間に合わなかったか)チラ

バットマン(敵対しているのは、スケアビーストと……白衣の男。十中八九『B・P・M・S』の一人。成程、ナーサリーの能力に賭けたかアンデルセン)

バットマン「……さてどう救出するか」



916: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:13:03.47 ID:fIC7lgGL0


スケアビースト「……」ドシ、ドシ


バットマン(このままではナーサリーが殺される。だが私一人飛び出したところで、叩き潰されて死ぬのがオチだろう)

バットマン(経路を算出。モードレッドがこちらに辿り着くまでの最短時間、最長時間それぞれの計算。そして時間稼ぎ……久々に搦め手と行くか)プシューッ……

バットマン(……)シュポッガシッ、ギュィィィィィィィィッ



917: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:13:45.40 ID:fIC7lgGL0



………………

パラケルスス(あれから何分が経過した? いや、何時間? 分からない。ただひとつ言えるのは、敵の増援は確実に到着しているであろうという事……)

パラケルスス(ナーサリー。油断していた。まさかここまで、てこずるとは……まだ計画は最終フェイズに入っていない)

パラケルスス(スケアビーストには言葉も通じない。……申し訳ありません、マキリ。私の、迂闊……)


ドドォン……‼

スケアビースト「……!?」

ナーサリー「っ」

パラケルスス「何の音だ!?」



918: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:15:17.51 ID:fIC7lgGL0



 植物園二階から突如響いた爆音に、その場に居た全員の視線が飛んだ。その隙に、倒れていたジャックがまず闇に引きずり込まれた。

「一体……」

 ナーサリーが呟き、しまったと口を抑える。詠唱が途切れた。ブラックボックスじみた結界が解除されている。つまり、もう、時間のループは行えない……

 その事実に、次いでパラケルススが気付く。今の爆音が何であろうが、チャンスだった。即座に行使された魔法、炎が飛び出しナーサリーを狙う。スケアビーストがそれに追従するかのように飛び掛かる。

 が、更なる破壊音が響いた。パラケルススは構わず攻撃を続けようとし……おのれの迂闊を、またしても呪った。破壊されたのは、二階の足場の、片方の留め金。振り子運動に乗り、破城槌じみて、パラケルススへ足場が追突した。

「っぐぅ……!?」


 吹き飛び、転がるパラケルスス。スケアビーストが思わず振り返る。その瞬間、さらに闇から腕が伸び、今度はマシュとフランを二人引きずり込んだ。


 ナーサリーはハッと後ろを振り返る。闇から歩み出る者があった。それは夜に混じるコウモリのように、瞳だけを光らせ、じわりと染み出すようであった。

「よくやった、ナーサリー」

 いかつい見た目に反し、優しい声がかけられる。ナーサリーは安堵と、重圧と、悲しみが一気に胸の中で爆発するのを感じ、大粒の涙を流しながら声を上げる。

「ご、めんなさい、アンデルセンが、アンデルセンが……」
「分かっている。大丈夫だ」

 大丈夫ではない。だが、ナーサリーは安心してしまう自分の不甲斐なさに更に涙をこぼす。スケアビーストが振りむき、口から黄色いガスを漏らしながら唸る。

「バァァァァァァァァット、マン……!!」
「待ちかねたか、スケアクロウ。来たのは私だけではない」

 バットマンが言い放つのと同時、怒れる闘牛じみた豪快な足音が廊下から響き始める。パラケルススは起き上がりながら、それを見る……全身から殺気を放ち、大股で駆けて来るモードレッドを。


「吹っ飛ばしてやらァ!!」


 彼女は叫び、剣を抜き放った。その刀身を赤いスパークが走った。



919: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:16:42.59 ID:fIC7lgGL0



モードレッド「死ねェ!!」グオォォッ

スケアビースト「!!」ガッ、ギリギリギリギリィ‼

モードレッド「……随分好き勝手やってくれたみてえだな、オレの仲間に……」ギリギリギリギリ……

スケアビースト「グルォァ……」ギリギリギリギリ……フシュゥゥゥゥッゥ……

モードレッド「うっ、なんだこいつ、ガス吐きやがった……!?」

バットマン「吸うな! 恐らく高濃度の恐怖ガスだ!」

モードレッド「おせえよ! 吸っちまったぞ……ぐぅっ、ふらつく……」

バットマン「チィッ」シュパパパッ


バットラング「「「」」」ヒュオォォォォォォッ


スケアビースト「!!」パシシィ‼



920: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:17:11.73 ID:fIC7lgGL0


モードレッド「っ、クソッタレがァっ!」ブォンッ

スケアビースト「ガアッ!?」ドサァッ、ゴロゴロ……

モードレッド「くっ……ちくしょう、俺に近付くんじゃねえ……」フラフラ

スケアビースト「ぐっ、くっ……」スルスルスル……

スケアクロウ「……ぐぅぅぅ……」グッタリ


パラケルスス「しまった……!」


パラケルスス(スケアビーストの維持時間が限界か……! 形勢も最早逆転、逃げるしかない!!)



921: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:17:57.02 ID:fIC7lgGL0


パラケルスス「スケアクロウ! 撤退です、このまま理想を潰えさせるわけにはいかない!」

スケアクロウ「……行け……置いて……行け」

パラケルスス「何を馬鹿な……!」ガシッ、グイッ

スケアクロウ「……」グッタリ


バットマン(逃げられる)

バットマン「ナーサリー、追撃を行えるか!?」

ナーサリー「魔力が、足りなくて……!」

モードレッド「……クソ……! クソ、俺から……! 俺から、離れろォォォォォオオォォォ!!」ギュィィィィィィィィィ‼


バットマン「何を……!」

バットマン(まさか、宝具を発動しようとしているのか!?)



922: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:18:27.33 ID:fIC7lgGL0


モードレッド(大丈夫!! 大丈夫だ!! オレは平気だ……! 平気だ! 吹き飛ばす! 父上……違う、敵を! 今の敵に集中しろ!)

モードレッド(今、戦場から逃げる腰抜けが敵だ! 逃がしてたまるか! 吹き飛ばす! ツケを払わせる! フラン達にやった事を償わせてやる!)


モードレッド「離れろブルース!! 撃つぞ!!」ギュイィ、グォォォォオォォォォオォォ

バットマン「……!! 伏せろナーサリー!!!」ガバッ

ナーサリー「きゃっ!?」


モードレッド「『我が麗しき父への叛逆』(クラレント・ブラッドアーサー)!!!」ギュガガガガガァァァァァァァァァァァァァッ‼




923: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:19:02.14 ID:fIC7lgGL0



パラケルスス(計算、通り)ニヤリ


バットマン「……!?」



パラケルスス「その宝具、頂きます。『元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)』」ギュォォォォォォォォォォォッ‼

短剣「」パキ……パキィ……

パラケルスス「霊子解析……侵食、完了」キィィィィィィ……ン


モードレッド「馬鹿な、止められた!?」

バットマン「モードレッド、かわs……」


パラケルスス「『我が麗しき父への叛逆』(クラレント・ブラッドアーサー)」ドガガガガガガガガガガガガガァァァァァァッ‼




924: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:19:56.54 ID:fIC7lgGL0


パラパラ……

パラケルスス「……ふぅっ、これで逃げる時間は稼げたハズ」

スケアクロウ「……下ろせ、パラケルスス。一人で歩ける……」

パラケルスス「スケアクロウ、回復しましたか。共に施設へ戻りましょう、我らの理想にはいささかの揺らぎも……」

スケアクロウ「いや、無理だ。バットマンが来た……バットマンが、来た。最善策を取らなければ、終わりだ」

パラケルスス「……」

スケアクロウ「ここで分かれて、混乱させる。お前は戻れ、パラケルスス。私は、別の方向へ行く」

パラケルスス「……そこまで恐ろしい相手なのですか、あの男は」

スケアクロウ「どんな窮地でも乗り越え、我々を止めに来る。行かなければ……少しでも、理想の世界の可能性を上げねば」

パラケルスス「……」



925: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:20:47.34 ID:fIC7lgGL0


パラケルスス「……私は」

スケアクロウ「……」

パラケルスス「私は貴方を、心から尊敬します。同志スケアクロウ」

スケアクロウ「尊敬は要らない。お前達の理想を作るがいい」

パラケルスス「……さらばです、スケアクロウ」ダッ

スケアクロウ「フン……」



926: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:21:44.16 ID:fIC7lgGL0



スケアクロウ「……」


スケアクロウ(……そうだ。世界の本質は今見ている、霧がかった恐怖のるつぼであるハズなのだ)

スケアクロウ(奴らがその目に宿す強い希望など、所詮はまやかしに過ぎない)

スケアクロウ(世界は終わる。私は、奴らの『理想の世界』とやらには行かない。ここで死ぬ)

スケアクロウ(ありったけの恐怖と共に、死ぬのだ。真理を見た私に、後悔など無い……)


スケアクロウ「……そうだ、最初からそうだったのだ……」ヨロヨロ




927: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:22:23.77 ID:fIC7lgGL0



………………

バットマン「モードレッド、無事か!!」ダダッ

モードレッド「……ぐっ、大丈夫だから、近寄るんじゃねえ……」グッタリ

バットマン「傷の様子を見せろ」ガシッ


バットマン(……宝具の跳ね返しを受けたが、鎧が殆ど受け止めている。うまく受け流したようだ)


モードレッド「俺はいい、クソ、追わねえと……!」グ、プルプル……

バットマン「ああ、すぐに追う。……マシュ達の様子も見なければ……」

ジキル「みんな! ようやく見つけた……!」タッタッ

フォウ「フォウ、フォーウ!!」テテテ

バットマン「ジキル博士、フォウ、無事だったか」

ジキル「置いて行かれて、ずっと彷徨ってたんだ……! この中迷路みたいだし!」ゴホッゴホッ

フォウ「フォウ、キュ、フォーウ」パタパタ



928: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:23:00.13 ID:fIC7lgGL0


ジャック「おかあさん! おかあさん!」タタッ

フラン「う、ウゥ……!」ムクリ

マシュ「……マスター?」フラフラ


バットマン「起きたか。ダメージはどれほど受けた?」


ジャック「ぜんぜんへいきだよ!」

フラン「問題、ない……」

マシュ「……ガスを吸ってしまいましたが、戦えます、私は大丈夫です」


バットマン「よし。ならもう一度役割ごとに再編成を……」

ドクター『もしもし、ブルースくん! 大変だ、霧の中の魔力反応を追跡していたんだけど……二手に分かれた!』

バットマン「何だと?」



929: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:23:38.86 ID:fIC7lgGL0



バットマン(……流石に真っ直ぐ帰るほど油断しきってはいないか。ならば……)


バットマン「予測進路をレーダーに表示してくれ。二手に分かれて追う」

ジキル「な……それは、無茶じゃないか!?」

バットマン「やらなければ、ジキル博士。このまま振り回され続ければ、奴らの方が準備を整えてしまうだろう。奴らが何をするつもりにしても、我々は敵に時間を与え過ぎた」


バットマン(そう、時間を与え過ぎた。嫌な予感がする。妙に素直に引いて行ったベインも、油断できない要素の一つ……)


バットマン「とにかく、奴らの目論見は達成寸前だろう。奴らが世界を壊す前に、こちらが出向いて阻止しなければ」


バットマン(見る限り、マシュ、モードレッドは恐怖ガスの影響下。能力的には半減したとみていい……)


バットマン「ナーサリー、恐怖ガスの解毒剤の原料は手に入れたか?」

ナーサリー「え、えぇ、勿論よ。はい、これ……」スッ

ジャック「あっ、わたしもがんばったよ! これ!!」

バットマン「よし……」




930: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:24:32.99 ID:fIC7lgGL0



ジキル「……分量、30グラム……」

ドクター『ステロイドを』

ジキル「成程……ブルース、ちょっといいかい?」

バットマン「どうした、ジキル博士」

ジキル「植物の量が足りない。解毒剤は作れるが、これではせいぜい一人分のみだ。……どうする」

バットマン「……」

モードレッド「俺達には要らねえ。戦えるのに、そんなモン要るか」

マシュ「……はい、平気です。それより、マスターこそ……」

バットマン「……」



931: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:25:05.91 ID:fIC7lgGL0


バットマン「ジキル博士、緩和剤は何本ある」

ジキル「一応、三本持って来てるけど……」

バットマン「マシュ、モードレッド、私でそれを飲む。私達三人がスケアクロウの追跡にあたる。ジキル、ナーサリー達と共にパラケルススの追跡を頼む」

ジキル「ぼ、僕が!?」

バットマン「キミなら大丈夫だ。通信機を持ってくれ」スッ

ジキル「や、やるだけやるけど……」パシッ

バットマン「では解毒剤の精製を、博士。完成し次第、追跡を始めるぞ」




932: ◆GmHi5G5d.E 2018/11/17(土) 01:25:47.72 ID:fIC7lgGL0



………………


ワトソン「全く、何だ今の爆発は……ロンドンはどうなってしまうんだ」


ワトソン(ホームズ、これは大変な事件だぞ。こんな時に君は一体どこへ行ってしまったんだ……)


チュドォォォォォォォォォン……


ワトソン「……また! あれは植物園の方か、うぅむ……」

ワトソン「……今回行くのは僕だけか。ホームズのファンにはウケないだろうな!」スタスタ