2 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 17:54:57 ID:/jClioaU

 ――アスノ家宅――



ユノア「ただいまー」

エミリー「お帰り、ユノア」

ユノア「あ、お母さん」

エミリー「今、ちょうどお茶にしようと思ってたの」

エミリー「あなたもどう?」

ユノア「わお! それはいい時に帰ってきた!」

エミリー「ふふ、マフィンを焼いたの。 お兄ちゃんの分は残してあげてね?」

ユノア「はーい!」 





3 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 17:55:44 ID:/jClioaU

     コポポポ……

ユノア「んー! いい匂い!」

ユノア「お母さんの入れる紅茶って、ホントにステキ!」

エミリー「ふふふ、おだてても お小遣いは、あげないわよ?」

ユノア「ちぇー」

エミリー「はい、マフィン」 コト…

エミリー「ミルクは いる?」

ユノア「あ、うん!」

ユノア「いただきまーす」

エミリー「いただきます」 

4 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 17:56:25 ID:/jClioaU

ユノア「美味しい!」

エミリー「うん、我ながら上手く焼けてるわ」

ユノア「いつか私も作りたいな♪」

エミリー「ええ、いつでも教えてあげるわよ?」

     アハハ……

ユノア「お兄ちゃん、今日も遅いのかな……」

エミリー「そういえば、部活で忙しいって言ったわね」

エミリー「MS部?だったかしら……?」

ユノア「そうそう。 そんな名前だったね」 

5 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 17:57:01 ID:/jClioaU

ユノア「…………」

ユノア「ねえ、お母さん」

エミリー「ん? 何かしら?」

ユノア「お父さんの事……好き?」

エミリー「……? ええ、もちろん」

ユノア「そう……なの?」

エミリー「どうして、そんな事を聞くの?」

ユノア「…………」

ユノア「今のお父さん……なんか、好きじゃない」

エミリー「…………」

エミリー「そう……」 

6 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 17:57:58 ID:/jClioaU

ユノア「お母さんは、お父さんのどこを好きになったの?」

エミリー「ふふ、そうね……」

エミリー「話すと長くなるわよ?」

ユノア「いいよ。 私、聞きたい」

エミリー「そう……わかったわ」

エミリー「…………」

エミリー「ちょうど、今のユノアくらいの時かしら?」

エミリー「私が お父さんの事、はっきりと意識したのは……」

ユノア「へえ……」

エミリー「でも私とお父さん、幼馴染だったから」

エミリー「その辺りは、ちょっと曖昧かな……」 クスッ 

7 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 17:58:53 ID:/jClioaU

エミリー「でもね……ヴェイガン……あの当時は、UE(アンノウン・エネミー)って呼んでたけど」

エミリー「私達の住んでたコロニーにも襲撃してきたわ……」

ユノア「うん……歴史の授業で習った」

エミリー「…………」

エミリー「お父さん、その時にね」

エミリー「お母さんを……ユノアから見たら、お祖母ちゃんに当たる人を」

エミリー「亡くしたの……」

ユノア「…………」

エミリー「お父さん、もの凄く怒ったわ……」

エミリー「私には、チンプンカンプンだったけど」

エミリー「ヴェイガンの襲撃を予測までしていたのに、大切な人を守れなかったから……」

ユノア「…………」 

8 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:00:16 ID:/jClioaU

エミリー「お父さん、ガンダムに乗り込んで」

エミリー「連邦軍ですら成す術が無かったヴェイガンを 初めて倒す事が出来たの」

ユノア「ふうん、凄いね。 お父さん」

エミリー「……お母さんは、ちょっと怖かったけどね」

ユノア「どうして? 頼もしいじゃない」

エミリー「確かにそう……。 でも、それは」

エミリー「お父さんは、常に戦いの矢面に立つ事を決意した、という事でもあるわ」

エミリー「いつか……お父さんが居なくなってしまうんじゃないかって」

エミリー「お母さん、怖かったな……」

ユノア「…………」 

9 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:01:26 ID:/jClioaU

ユノア「それから?」

エミリー「結局、私達のコロニーは崩壊してしまうわ……」

エミリー「で、お父さんは、ガンダムに乗ってたけど」

エミリー「逃げ遅れてた女の子を救助してたの」

ユノア「おー……なんかドラマチックな展開」

エミリー「私は、その時のいきさつを全く知らなかったけど……」

エミリー「その時の女の子からもらったリボンを」

エミリー「今でも大切に持ってるわ」

ユノア「んな!?」

ユノア「ひっどーい! 浮気だわ! 浮気!」

エミリー「うふふふ……」 

10 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:02:37 ID:/jClioaU

ユノア「どうして笑ってられるのよ、お母さん」

エミリー「こんなの、まだ可愛い方だからよ」 クス

ユノア「……私、本格的にお父さんの事、嫌いになるかも」

エミリー「まあまあ……いいから聞いてくれる?」

ユノア「むう……」

エミリー「……それからの私は、お父さんの傍に居たくて必死だったな」

エミリー「軍艦のディーヴァに密航したりもしたし」

ユノア「お母さんが!?」

エミリー「そうよ? 恋の力って、偉大だなって思うわ」 クスッ

ユノア「それでそれで?」 

11 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:03:52 ID:/jClioaU

エミリー「しばらくは、何の進展も無かったわ」

エミリー「私もバルガスの手伝いや、雑用で忙しかったし……」

ユノア「えー……」

エミリー「お父さんもリボン握りしめて、上の空だったし」

ユノア「ホントにお父さん、サイテー」

エミリー「でもね……、一生懸命だったわ」

ユノア「…………」

エミリー「ヴェイガン、という驚異が迫っているのに」

エミリー「コロニーの内部で派閥争いをしたり」

エミリー「めんどくさがって、何もしない連邦軍だったり……」

エミリー「ユノアと同じくらいのお父さんが、それら全部を何とかしようとしてわ」

ユノア「…………」 

12 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:05:04 ID:/jClioaU

エミリー「もちろん、そんな状況をお父さん一人だけで、一変させるなんて出来なかった」

エミリー「お父さんは……自分に出来る事の限界を知って」

エミリー「悔しそうだったわ……」

ユノア「…………」

エミリー「そして、ね……」

ユノア「うん」

エミリー「当時は知らなかったけど……」

エミリー「あのリボンの持ち主と再会があったそうよ」

ユノア「んな!?」

エミリー「グルーデック艦長の作戦で、立ち寄ったコロニーの有力者に」

エミリー「孤児になった彼女は、引き取られていたの」

ユノア(何? その運命的なドラマ展開……) 

13 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:06:07 ID:/jClioaU

エミリー「私はその時、ディーヴァでお父さんの力になりたくて」

エミリー「必死の訓練をしてたけど……」

エミリー「その女の子と、ピクニックしたりしてたそうよ」

ユノア「……お母さん。 よくお父さんと結婚したね」

エミリー「結婚してから聞かされたから……」

ユノア「私なら離婚してる」

エミリー「……そうね」

エミリー「この後の話が無ければ……」

エミリー「そうしたかもね……」

ユノア「……何があったの?」 

14 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:08:02 ID:/jClioaU

エミリー「今の話を聞いた、きっかけでもあるんだけど」

エミリー「お父さん寝言で……」

エミリー「”ユリン”って、言ったのよ」

ユノア「それが浮気相手の名前だった、と……」

エミリー「まあ、その話を聞いた時、もう『過去』の話だったから」

エミリー「浮気……と言うのは、酷いかもしれないけどね」

ユノア「……お母さん、優しすぎるよ……」

エミリー「もちろん、ただでは済まさなかったわよ?」

エミリー「お父さん叩き起して、誰なの!? って問い詰めたわ」

ユノア「お母さんのターンね!」

エミリー「ふふふ……」 

15 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:09:46 ID:/jClioaU

エミリー「でも……」

ユノア「……?」

エミリー「……ユノアは、Xラウンダーって、聞いた事はあるかしら?」

ユノア「ううん……知らない」

エミリー「そう……」

エミリー「簡単に言うと……MSに乗る上で、この上なく」

エミリー「力を発揮できる超能力……らしいわ」

ユノア「ふうん……」

エミリー「で、ね」

エミリー「そのユリン、という女の子は」

エミリー「特に優れた、Xラウンダー能力を持っていたそうなの……」

ユノア「…………」 

16 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:12:05 ID:/jClioaU

エミリー「彼女と別れた後、お父さんの知らない所で」

エミリー「彼女はヴェイガンにさらわれた……」

エミリー「その、たぐいまれなる才能のせいで」

ユノア「…………」

エミリー「……そして、お父さんはユリンと再び再開する」

エミリー「戦場で、敵として……」

ユノア「ウソ……」

エミリー「彼女は、ね」

エミリー「本心で敵対してたわけじゃ無かった」

エミリー「その力だけを、MSのパーツとして組み込まれていたの」

ユノア「…………」 

17 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:13:47 ID:/jClioaU

エミリー「お父さんは、何とか救おうとしたけど……」

ユノア「…………」

エミリー「結局……彼女をその手にかけた」

ユノア「……っ!」

ユノア「あんまりだわ! そんなの……酷すぎる!」

ユノア「ヴェイガンは人間じゃない!」

エミリー「…………」

エミリー「……お父さんも同じ事を言ってたわ」

ユノア「……!」

エミリー「……でね、お母さん、彼女の話を聞いてから」

エミリー「何にも言えなくなっちゃった……」 クス… 

18 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:14:36 ID:/jClioaU

エミリー「当時は……ユノアと同じくらいで」

エミリー「恋愛って言うより、『一緒に居たい』ってだけの……」

エミリー「…………」

エミリー「……ううん、何を言っても負け惜しみね」

エミリー「きっとお父さんは、誰よりもそのユリンという女の子が好きだった」

エミリー「そんな人を……理由はどうあれ、自分の手で殺してしまった」

ユノア「…………」

エミリー「お母さん……お父さんを放って置けなかった」

ユノア「…………」

ユノア「……でも」

エミリー「ん?」 

19 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:15:49 ID:/jClioaU

ユノア「お父さん、やっぱりずるいと思う」

ユノア「そんな事は、お母さんと結婚する前に言うべき事だよ」

ユノア「私は……私だったら」

ユノア「自分の好きな人が、自分を一番好きじゃ無いなんて……」

ユノア「絶対、嫌だもん!」

エミリー「…………」

エミリー「……そうね」

エミリー「きっとユノアの意見は、正しいわ」

エミリー「だけど……」

エミリー「やっぱり、好きなんだもの。 お父さんの事」

ユノア「……!」 

20 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:17:03 ID:/jClioaU

エミリー「幼い頃から見て来たお父さんは」

エミリー「強くて、賢くて、頼りがいがあって……素敵な所がたくさんあるの」

エミリー「けど同時に、融通が利かない頑固さや、思い込みが激しい、という」

エミリー「欠点がある事に気がついた……」

ユノア「…………」

エミリー「そしてそれは」

エミリー「私も同じなんじゃないのかな?と感じる様になったわ……」

ユノア「…………」

エミリー「ねえ、ユノア」

ユノア「うん……」

エミリー「ユノアの小さい頃、お父さんはユノアに酷い事をした?」

エミリー「ユノアに、愛情を注がなかった?」

ユノア「…………」 

21 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:19:28 ID:/jClioaU

エミリー「……夫婦ってね」

エミリー「お互いの欠点が、よりはっきり見えてくるの」

エミリー「お母さんが、お父さんの嫌な所を見つけてしまった様に」

エミリー「お父さんもお母さんの嫌な所を見つけていると思うわ……」

ユノア「…………」

エミリー「もちろん、私だって わだかまりが全く無い訳じゃない」

エミリー「でも、お父さんはユリンという人への想いを断ち切れなくても……」

エミリー「私を愛してくれている……」

エミリー「それを私は知っているから、はっきり言える」



エミリー「私は、お父さんを……フリット・アスノを愛してるって……」



ユノア「…………」 

22 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:20:12 ID:/jClioaU

エミリー「ふふっ……何だか恥ずかしい事言ってるわね、私」

ユノア「ううん……そんな事ないよ」

ユノア「私、お母さんの気持ちが聞けて」

ユノア「とっても嬉しい!」 ニコ!

エミリー「そう……」 ニコ

ユノア「でもやっぱり、お父さんずるいと思うな」

ユノア「連邦軍のお偉いさんになってから、お母さんをないがしろにしすぎだよ」

ユノア「もっと傍に居てあげて!って言ってやるんだから!」

エミリー「ふふ、ありがとう、ユノア」

エミリー「お母さん、嬉しいわ」 ニコ 

23 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:21:09 ID:/jClioaU

エミリー「でも……今は、そっとしておいてあげて?」

エミリー「お父さん、大事なお仕事をしているだろうから」

ユノア「……はぁ~い」

エミリー「さて……あら、紅茶、冷めちゃったわね」

エミリー「入れ直すわ」

ユノア「あ! お母さん、私も手伝う!」

エミリー「そう? じゃあ、そっちのポットを持ってきてくれる?」

ユノア「はーい!」


―――――――――――



24 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:22:24 ID:/jClioaU


―――――――――――

 ――最終決戦・セカンドムーン戦後――

 ――アスノ家宅――



     ギィィィィッ……

????「……ただいま」

エミリー「!?」

     タッ タッ タッ…

エミリー「フリット?」

フリット「ああ……エミリー。 ただいま」

エミリー「い、いったい、どうしたの?」

フリット「……もう、あそこで ワシのやる事は無くなったから」

フリット「みなに任せて、一足先に帰ってきたんだ」

エミリー「ううん……私が言いたかったのは……」 

25 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:23:24 ID:/jClioaU

フリット「……?」

エミリー「いえ……何でも無いわ」

エミリー「それじゃあ、いつも通り お風呂で汗を流しますか?」

フリット「……そうだな」

フリット「でも……その前に」

エミリー「……?」

フリット「君に謝っておきたい……」

エミリー「!? ……あなた?」

フリット「…………」 

26 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:24:24 ID:/jClioaU

フリット「どうか、聞いて欲しい」

エミリー「…………」

フリット「……ワシは、今回の戦いが終わって、やっと」

フリット「自分の歩んで来た道を振り返る事が出来た」

フリット「血塗られた、ワシの過去を……」

エミリー「…………」

フリット「そして……」

フリット「その道すがら……」

フリット「いつも陰、日向に、支えてくれていた存在が居てくれた事に気がついた」

エミリー「…………」

フリット「思えば……ワシがまだ、ケツの青いガキの頃」

フリット「ディーヴァに乗り込んだ時から……」

フリット「……いや」

フリット「もっと前から……」 

27 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:25:24 ID:/jClioaU



フリット「君は、ワシの傍に居てくれていたんだ……」



エミリー「…………」

フリット「すまない、エミリー……」

フリット「こんな……こんなに時間をかけてしまってから……」

フリット「君の大切さに……やっと気がつくなんて……」

フリット「ワシは……ワシは……!」 グスッ…

エミリー「…………」

エミリー「……フリット」

エミリー「顔を上げて? フリット…」

フリット「…………」 

28 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:26:25 ID:/jClioaU

エミリー「……いいのよ」

エミリー「私は……私自身が、それを望んだのだから」

エミリー「それに……ちゃんと、私に気づいてくれた」

エミリー「それだけで、私は……嬉しいわ」

フリット「エミリー……」

     ギュッ……

フリット「すまない……エミリー、許してくれ……エミリー」 ポロポロ…

フリット「今更だけど……ワシは……ワシは……」 ポロポロ…

エミリー「いいの……フリット」 ポロポロ…

エミリー「もう……いいの」 ポロポロ…

エミリー「あなたの気持ちは……わかっているから……」 ポロポロ…

フリット「いや……だめだ。 言わせてくれ、エミリー……」 ポロポロ… 

29 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:27:43 ID:/jClioaU

フリット「ワシは、君を……エミリーを愛している……」 ポロポロ…

フリット「誰よりも……君を……」 ポロポロ…

フリット「愛してる……!」 ポロポロ…



エミリー「ええ……ええ……」 ポロポロ…

エミリー「わかって……いたわ……」 ポロポロ…

エミリー「私を……愛していてくれた事に……」 ポロポロ…

エミリー「そして……ずうっと、あなたが……苦しんでいた事にも……」 ポロポロ…

エミリー「だから……もういいの……フリット……」 ポロポロ… 

30 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:28:37 ID:/jClioaU


―――――――――――


エミリー「はい、あなた。 お風呂上がりのビールをどうぞ」

フリット「ああ、ありがとう、エミリー」

     ゴク ゴク ゴク…

フリット「ふう……美味いな」

フリット「今日のは、格別だ」

エミリー「ふふ、いつもと同じビールですけどね」 クスッ

フリット「そ、そうか……」 ///

     ハハハ……

フリット「さて、と」

フリット「エミリー」

エミリー「はい?」 

31 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:29:35 ID:/jClioaU

フリット「ワシは……これからの時間を」

フリット「出来る限り、君の為に使いたい」

エミリー「あら」

フリット「……ただ、どうすれば、君が喜んでくれるか」

フリット「それがわからなくてな……」 ///

エミリー「あらあら……」 クスッ

エミリー「ちなみに、どんな計画を立て様としたのかしら?」

フリット「まず、最初に考えたのは、プレゼントだ」

フリット「でも……君の好みを良く知らないし」

フリット「モノで君の心を釣っている様で、どうも……という気がして」

フリット「もちろん、欲しいモノがあったら遠慮なく言ってくれ」

エミリー「ふふ、そうね。 いつか利用させてもらうわね」 

32 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:30:28 ID:/jClioaU

エミリー「それで、他には?」

フリット「次に考えたのは、旅行だ」

フリット「新婚旅行もほとんど、おざなりだったしな」

エミリー「そうだったわね」

フリット「だけど……今は、大きな戦いが終わったばかりで」

フリット「危険が伴ってしまう……」

フリット「観光には、まだ時期尚早かな……」

エミリー「そうねぇ……」

エミリー「他には?」 

33 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:31:48 ID:/jClioaU

フリット「そこで、最初の文言になった」

フリット「気の望む事を、出来る限りやる」

フリット「それならば、君の気持ちに答えられるんじゃないか?」

フリット「そう考えたんだ……」

エミリー「どんな事でも?」

フリット「ああ、もちろんだとも」

フリット「君が望むなら、屋敷の掃除だって 洗濯だって 庭の草むしりだって」

フリット「何だってやるとも!」

エミリー「まあ……嬉しいわ」

エミリー「でも洗濯は、洗濯機を壊した前科があるから、頼まないけどね」 クスッ

フリット「あ、あれは、手順がわからなかっただけだ」 /// 

34 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:32:44 ID:/jClioaU

エミリー「でも……」

エミリー「あなたのその気持ちが、とても嬉しい」 ///

フリット「エミリー……」

エミリー「そうね……」

エミリー「…………」

エミリー「そうだわ……!」

エミリー「さっそく、したい事があったわ」

フリット「よし、それはなんだ?」

エミリー「ふふ、それはね……」


―――――――――――



35 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:33:48 ID:/jClioaU

 ――数日後――

 ――アスノ家を見下ろす丘――



エミリー「ほうら、フリット」

エミリー「もう少しよ?」

フリット「ふう……ふう……」

エミリー「ふふ、無理はしないでね?」

フリット「な、何の、これしき……ふう……ふう……」

     チュピ…… チュピピピピ……

エミリー「はい、お疲れ様」

エミリー「着いたわ」 ニコ

フリット「ふーっ……」 

36 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:34:47 ID:/jClioaU

フリット「な、情けないな……」

フリット「これしきの事で、息が切れるとは……」

エミリー「しょうがないわよ」

エミリー「フリットは、低重力下での生活が長かったのだから」

フリット「そ、それにしても、君は元気だね……」

エミリー「趣味でガーデニングとか、していますから」 ニコ

エミリー「庭仕事って、意外と体力を使うのよ?」

フリット「そうか……ワシも今度やってみようかな?」

エミリー「いいわね。 私、張り切って教えてあげる」

フリット「ハハハ……」 

37 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:35:26 ID:/jClioaU

     サアアアアア……

エミリー「…………」

フリット「…………」

フリット「……木陰の風が、気持ちいいな」

エミリー「ええ……」

     トク トク トク…

エミリー「はい、冷えたお茶よ」

フリット「おお……ありがたい。 いただこう」

フリット「グビグビッ……ふー。 美味い」

エミリー「良かった」 クスッ 

38 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:36:11 ID:/jClioaU

フリット「…………」

フリット「……それにしても」

エミリー「ん?」

フリット「こんな近場のピクニックで いいのか?」

エミリー「ええ……」

エミリー「もっとはっきり言うと」

エミリー「場所は、どこでも良かったの」

フリット「む?」



エミリー「あなたと……二人きりで、ピクニックに行きたかった」



フリット「そうなのか……?」 

39 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:37:03 ID:/jClioaU

エミリー「もう……」

エミリー「全然わかってない」

フリット「え!? す、すまん……」

フリット「だが……どういう事なんだ?」

エミリー「…………」

エミリー「ユリンとは、行ったんでしょ? 二人きりでピクニックに」

フリット「ぬがっ……!」

フリット「そ、そういう事だったのか……」

エミリー「そうよ? 私……悔しかったんだから」

エミリー「もの凄く」

フリット「す、すまない……」 

40 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:38:28 ID:/jClioaU

エミリー「ふふ……でも、もういいの」

エミリー「今、フリットは」

エミリー「私の傍に居てくれてる」

エミリー「若い頃なら、きっと彼女に勝った、とか思うんだろうけど……」

エミリー「今は……彼女に会えるのなら、会ってみたいって思ってる」

フリット「そ、そうなのか?」

エミリー「同じ人を好きになって……」

エミリー「二人きりだった時、どんな気持ちだったのか」

エミリー「フリットを どんな風に見ていたのか」

エミリー「フリットを どんな風に好きだったのか」

エミリー「会って、話をして聞いてみたい」 クス

フリット(……なぜか嫌な汗が出る) ダラダラ… 

41 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:39:32 ID:/jClioaU

エミリー「後は、フリットの悪口も言い合いたいな」

フリット「どうしてそうなる……」

エミリー「あら、二人の女の子のハートを盗んだ罪は、重いのよ?」

フリット「返す言葉もない……」

エミリー「ふふ……ごめんなさい」

エミリー「ちょっと いじめすぎたわ」 クス

フリット「胃に穴が空くかと思ったよ……」

     サアアアアア……

エミリー「…………」

フリット「…………」 

42 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:40:17 ID:/jClioaU

フリット「……どうして、忘れていたんだろう」

エミリー「え?」

フリット「ワシは……ユリンと過ごした数日……」

フリット「コロニー内の人工環境だったのに」

フリット「風の心地よさ、小鳥のさえずり、川のせせらぎ……」

フリット「それらが、とても素晴らしいものだと感じていた」

エミリー「…………」

フリット「だが……今の今まで、すっかり忘れていた……」

フリット「どうして今、思い出したのだろう……」

エミリー「…………」 

43 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:41:16 ID:/jClioaU

エミリー「……それはきっと」

エミリー「あなたが……自分を許したからよ」

フリット「……!」

エミリー「あの日……」

エミリー「セカンドムーンの戦いの後、帰ってきた時」

エミリー「あなたは、『ただいま』って言ったの」

フリット「……?」

フリット「いつも言っていただろう?」

エミリー「……ううん」

エミリー「あなたはいつも」

エミリー「『戻ったぞ』だったわ」

フリット「……本当か?」 

44 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:42:02 ID:/jClioaU

エミリー「ええ」

フリット「まったく気がつかなかった……」

エミリー「そう……」

エミリー「私は、それを聞いて」

エミリー「フリットは自分を許して、終りの見えない戦場から本当の意味で」

エミリー「『帰ってきた』って感じた」

フリット「…………」

フリット「……そうだ」

フリット「きっと……そうだな……ふふ」

エミリー「…………」 

45 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:42:41 ID:/jClioaU






エミリー「お帰りなさい」

エミリー「フリット……」

フリット「…………ああ」





フリット「ただいま、エミリー」






――――――――――― 

46 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:43:44 ID:/jClioaU



 それからの フリット・アスノと エミリー・アスノの
仲睦まじさは、多くの人々が目撃している。

 戦後復興でのアドバイザーで、時折、長旅に出かける際も
フリットの傍らには、優しく微笑む彼女の姿が必ずあった。


 フリット・アスノの晩年は、長年酷使し続けた体ゆえか、病床に伏せる事になる。


 ……だが、彼はいつも笑っていた。
いつも笑顔のエミリー・アスノが傍らに居たのだから。

彼の周りは、常に笑い声で溢れていた……。




47 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:45:27 ID:/jClioaU



 ……そして、彼を看取ったのも彼女、エミリー・アスノであった。

「ありがとう」の言葉を最後に、笑顔で旅立ったフリットを
彼女は、彼と同じ様に笑顔で、静かに涙を流し「こちらこそ、ありがとう」と
フリットを見送ったのだった……。



 それから二年後……彼女、エミリー・アスノも息を引き取った。



彼女は、いつもと同じくガーデニングの最中だった。

死因は心不全、とされたが、苦しんだ様子もなく
安らかな顔で庭に倒れていた所を発見される。




48 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:46:40 ID:/jClioaU



 ――そして――

 ――その手には――



 ――おそらく、日課になっていた――





 ――フリットの墓に添えられるはずだった花が、一輪――





 ――握られていた――




49 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:47:46 ID:/jClioaU

―――――――――――

     ……ェ………リ………エ………リー…

????「エミリー」

エミリー「……えっ?」

エミリー「フリット?」

フリット「良かった、気がついたかい?」

エミリー「あれ!? なんで、昔の……少年の姿なの!?」

エミリー「っていうか、私も!?」

フリット「はは、どうしてかな?」

フリット「僕にもわからないよ」

フリット「一つ言える事は……君も旅立ったって事かな」

エミリー「……そっか。 私、死んじゃったのね」 

50 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:48:52 ID:/jClioaU

???「はじめまして」

エミリー「え?」

エミリー「あなたは……?」

???「私はユリン。 よろしくね」 ニコ

エミリー「! あなたが、ユリン!」

エミリー「わぁ~……やっぱり可愛い女の子だなぁ~」

ユリン「ありがとう……」 ///

ユリン「ところで、エミリーって、呼んでもいいかな?」

ユリン「私の事も、ユリン、で、いいから」

エミリー「うん! もちろん!」

エミリー「よろしくね、ユリン!」

     アハハハ…… 

51 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:49:45 ID:/jClioaU

ユリン「あなたの事、フリットからたくさん聞いた」

ユリン「エミリーは凄いんだぞ」

ユリン「エミリーは、エミリーは、って」

ユリン「凄く惚気られたわ……」 クスッ

エミリー「フ、フリット……バカ……」 ///

エミリー「嬉しいけど、ユリンの気持ちを考えなさいよ……!」 ///

フリット「い、いや~……何か、止まらなくて……」 ///

ユリン「ふふ、お互い、厄介な人を好きになっちゃったね」

エミリー「ホントにそうね……」

エミリー「でも、私、あなたに会えて、とても嬉しい!」

ユリン「うん、私も、あなたとお話したかった!」 

52 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:50:43 ID:/jClioaU

ユリン「何から話そうかしら?」

エミリー「やっぱりフリットの悪口?」

ユリン「そうそう! 私もそれがいい!」

     アハハハ……

フリット「……えっと、出来れば、本人の目の前では止めて欲しいけど」

フリット「まあ、好きにしてくれ……」

エミリー「うん! 好きにする!」

ユリン「ね!」

フリット「それじゃ行こうか?」

エミリー「え? どこに?」

エミリー「あ……なぜか、あっちに行かなきゃ、ってわかる」

フリット「うん、そうだね」 

53 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:51:49 ID:/jClioaU

フリット「たぶん、あの世って奴かな?」

エミリー「……あれ?」

エミリー「フリットは、二年も前に……」

フリット「……エミリーを待ってた」 ニコ

エミリー「!」

フリット「君と、一緒に行きたかったから……」

エミリー「フリット……」 ジワ…

エミリー「バカ……」 グスッ…

フリット「でも、僕なんて、まだまださ」

エミリー「……え?」 

54 :以下、名無しが深夜にお送りします:2012/11/23(金) 18:52:43 ID:/jClioaU

フリット「だって……ユリンは、70年も僕を待っていたんだから」

エミリー「……!!」

ユリン「……ちょっと、辛かったけどね」 ///

エミリー「…………」

エミリー「……まったく、フリットは、ホントに罪作りなんだから……」

フリット「……ごめん」

エミリー「まあ、いいわ」

エミリー「行こう? ユリン、フリット」

ユリン「うん! エミリー、フリット」

フリット「ああ、行こう! エミリー、ユリン!」



フリット「僕達を待つ、新しい世界へ!」



     エミリー編 おしまい