利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目 前編

398: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/23(月) 19:20:43.29 ID:kMfYaA4Ao
金剛「イエス。抽象的デスが、ぽわーっとしているような、ふわふわとしているような……そんな、寝起きでまどろんでいるような感じネ」

提督「ふむ……。あまり良くない事なのだろうか」

金剛「そうなのデスか?」

提督「いや、私の勝手な推測だ。根拠も何も無い」

金剛「……そう言っている時のテートクの言葉は当たっている事が多かったデス。何かあるかもしれまセンね」

提督「そう不安にさせるんじゃない。中に居る金剛も不安に思うだろう。──中に居る金剛も違和感などはあるか?」

金剛「……………………特には無いそうデス。強いて言うならば、心の中で会話しているみたいなこの状態が不思議な感覚だそうデス」

提督「ふむ、そうか。二人とも、何か異常があればすぐに言うんだぞ」

金剛「分かりまシタ。この子も頷いてくれたデース」

提督「うむ。……しかし、一つ疑問に思った事があるんだが」

金剛「? どうかしまシタか?」

提督「今表に出ている金剛が姉で、中に居る金剛が妹のような立ち位置になっていると思ってな。何かあったのか?」

金剛「いえ、特に何かがあったという事は無いデス。自然とこうなりまシタ」

提督「ふむ。そうか」

金剛「……………………」ホッコリ

提督「? どうした? そんな優しい笑顔を浮かべて」

金剛「この子から小動物のようにシスターと呼ばれたので、庇護欲が掻き立てられまシテ」

金剛「ん……?」

提督「! どうした金剛」

金剛「……ソーリィ。そろそろ限界のようデス。頭がボーっとしてきまシタ……」

提督「そうか……。ゆっくり休んでくれ」ナデ

引用元: 利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 二隻目 




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399: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/23(月) 19:21:09.78 ID:kMfYaA4Ao
金剛「んー……♪ グッナイ、テートク……。また、こうや……て……」スッ

提督「……おやすみ」ナデナデ

金剛「!」ピクン

提督「おかえり、金剛」ナデ

提督「気を遣ってくれてありがとう」スッ

金剛「いえ、私はこのくらいしか役に立てないデスから……」

金剛(……最後の一撫では、わざとだったのでショウか? ……嬉しいと思うのは、良くないのに)

提督「そんな事はないから安心しろ。そして、些か気にし過ぎだ。もっとお前のやりたいようにやっても良いんだぞ」

金剛「えっと……ハイ」

提督「うむ。──ところで、体調は大丈夫か?」

金剛「ハイ。それに関してはノープロブレム、デス」

提督「ふむ」ジッ

金剛「…………? あ、あの、テートク? どうかしたデスか?」

提督「少しずつだが、お前の事が分かってきたからな。さっきの言い方から察するに、気にしなくても良いくらいの何かがあるのだろう?」

金剛「! うぅ……ハイ……」

提督「どういう状態なんだ?」

金剛「……ほんの少しデスが、頭がポーっとしマス。重力が半分になったような、軽い浮遊感もあるデス」

提督「そうか。時間も時間だ。今日はもう寝てしまおう」

金剛「ハイ。分かりまシタ」

提督「それと、二日後に備えて心の準備はしておいてくれ」

金剛「心の準備デスか?」

400: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/05/23(月) 19:21:36.81 ID:kMfYaA4Ao
提督「ああ。あくまでその時の金剛と私は初対面だ。それを忘れないでくれ」

金剛「なるほど。本来ならば知らない事を知っていたりしているとおかしい、という事デスね」

提督「そういう事だ。頼むぞ」ポンポン

金剛「あ、また……」

提督「このくらいならば良いだろう?」

金剛「むー……」

提督「不安ならば姉に聞いてみると良い。きっと笑われるぞ」

金剛「……本当にそうなりそうデース」

提督「それと、二日後は私がこうしても困った顔をしないでくれ」

金剛「う……が、頑張りマス!」

提督「よろしい。──では、また明日な、金剛」スッ

金剛「ハイ。おやすみデス」

提督「おやすみだ」

ガチャ──パタン

金剛「……………………」

金剛「シスター……本当にこれで良いのデスか……?」

……………………
…………
……

407: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/02(木) 10:00:30.04 ID:4Y1+l+d4o
暁「私達に特別な用事って何かしら?」トテトテ

雷「きっと、とっても大事なコトよ! 司令官が特定の艦娘を呼ぶだなんて滅多に無いもの!」トコトコ

電「はわわ……! 一体どんな事なのでしょうか……!」トコトコ

響(……さて、大丈夫だとは思うけど、暁がちょっと不安かな)トコトコ

雷「着いたわ! ノックするわね!」スッ

暁「あ! 私! 私がする!」

雷「ちゃんと三回ノックするのよ?」

暁「ぅ、バカにしないでよね。そのくらい分かってるわよ」

響(これは知らなかったと見た)

コン……コン……コン……

提督「入れ」

ガチャ──パタン

響「司令官、言われた通り来たよ」

雷「それで、特別な用事って何? 何なのかしらっ?」キラキラ

電「…………!」ワクワク

暁「…………っ」ソワソワ

提督「その事なんだが、まずは約束して欲しい事がある」

暁「約束?」

提督「ああ。今日の事は非常にランクの高い機密だ。この事は誰に何を聞かれようと、鎮守府から漏らさないと約束してくれ」

電「ハ、ハイなのです!」ピシッ

暁「わ、分かったわ!」ピシッ

雷「はいっ!」ピシッ

響「了解だよ、司令官」ピシッ

408: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/02(木) 10:01:02.91 ID:4Y1+l+d4o
提督「それともう一つ。絶対に大声を出さないでくれ。良いな?」

四人「!」コクリ

提督「よろしい。──二人とも、出てきて良いぞ」

ヲ級「はーい!」ヒョコッ

空母棲姫「…………」スッ

三人「────ッ!!?」ビクッ

暁「ピ──!?」

響「はい、静かにね暁」ムギュ

暁「んぎゅーっっ!!?」モゴモゴ

雷・電「…………」

響(二人は顔が真っ青になって声も出ない、か。やっぱりそうなるよね)

提督「見ての通り、二人は深海棲艦だ。だが、この二人は私や利根の命の恩人でもある」

電「……え?」

空母棲姫「またそうやって誤解を招くような……」

提督「事実だろう? あの時、食糧を確保できるという保証なぞ無かった。そんな中で大量の魚や貝、海草を採ってきてくれたのは誰だったかな?」

空母棲姫「それは……」

提督「私ならばなんとか出来るだろう──と思うのは間違いだ。どうにもならん時なんていくらでもあるし、判断のミスもある。あの時はどうにもならない状況だったのはお前も分かっているんじゃないのか?」

空母棲姫「…………」

提督「それに、私の悩みを解消してくれた事も忘れんぞ」

空母棲姫「あれは──……いえ、貴方には何を言っても勝てそうにないわ……」

ヲ級「私、あの時の、魚が一番、好き! 今度、採ってきて、良いっ?」キラキラ

409: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/02(木) 10:01:29.92 ID:4Y1+l+d4o
提督「もう少し状況が落ち着いてからならば良いぞ。きっと、間宮や伊良湖だけでなく皆が喜ぶだろう」

ヲ級「わーい!」ピョンピョン

三人「……………………」パチクリ

響(なんとなく、こうなるのは予想できたよ)

電「……あの、司令官さん」

提督「どうした、電」

電「……私の勘違いでなければ、二人は敵……ですよね? 空母ヲ級と空母棲姫ですよね……?」

提督「間違ってはいないが、大きく違う点がある」

雷「違うところ……?」

提督「そうだ。見ての通り二人は敵対していない。むしろ、協力してくれているくらいだ。さっきも言ったが、私と利根がこの鎮守府を離れて島暮らしをしている際にも生きる手助けをしてくれた。私にとって、この二人は皆と同じく仲間だ」

三人「…………」ジー

ヲ級「?」ニパー

雷「……司令官、二人が敵じゃないっていうのは司令官を見て分かったわ。けど、どうして私達にそれを教えたの?」

提督「簡単だ。二人は深海棲艦である以上、身を隠しながら行動しなければならない。それをなんとかしてやりたいと思ったからだ」

電「えっと……皆が受け入れてくれれば、鎮守府の中を自由に歩けるようになるから……なのです?」

提督「そういう事だ。それでまずは電たちに紹介する事にした」

雷「……でも、流石にちょっと怖いわ」

響「まあ、そうなるよね」トコトコ

暁「ひ、響……?」

響「二人とも、調子はどうだい?」

ヲ級「今日も、元気、だよ!」

空母棲姫「……悪くはない」

響「それは良いって事なのかな?」

410: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/02(木) 10:01:56.77 ID:4Y1+l+d4o
空母棲姫「む…………はぁ……そういう事ね」

響「…………」ニヤ

空母棲姫「本当、貴女はこの方に影響されているわね?」

響「されるなっていう方が無理だと思うよ」チラ

空母棲姫「それもそうね」チラ

提督「褒め言葉として受け取っておこう」

空母棲姫「もう……これなんだから……」

三人「…………」

電(あれ……? なんだか普通なのです……)

雷(なんか深海棲艦とか敵って感じがしないわ……。深海棲艦なのに……)

暁(…………)

暁「……思ったんだけど、どうして響はその二人と仲が良いの?」

提督「簡単な話だ。教える前に響にバレてしまった。それで三人よりも先に交流していたって所だな」

暁「……そうなのね」

提督「ああ。良かったら響と同じく仲良くしてやってくれ」

暁「……私はもう少し様子を見るわ」

雷「じゃあ、私はこれからちょっとだけお話ししてみようかしら」

電「わ、私もなのです」

響「私はいつも通りかな」

暁「う……わ、分かったわよ! 私も一緒に居るわ!」

提督「お姉さんは辛いな」

暁「うぅー……」

空母棲姫「無理はしなくても良いのよ?」

暁「この人に言われると、なんか複雑な気分……」

提督「まあ、直に慣れるだろう」

暁「ううぅー……」

…………………………………………。

415: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:06:10.10 ID:dCKzIXvTo
提督「──とまあ、今言ったように暁たちは空母棲姫たちと打ち解けたと言って良いだろう」

金剛「やっぱりデスね。あの二人ならばすぐに仲良くなれると思いまシタ」

提督「そして、お前もすぐに皆の中に溶け込めるだろう」

金剛「それは……どうデスかね? 皆さんにとって、私はやっぱり──」

提督「大丈夫だ。初めこそ動揺されるだろうが、すぐに受け入れてくれるさ。瑞鶴と響の時もそうだった。心配する事はないぞ」ポンポン

金剛「……ハイっ」ニコ

利根「うむうむ。そうじゃぞ」ニコニコ

利根(──うむ。良い雰囲気じゃのう。やはり提督はこの笑顔が一番じゃ。きっと、この笑顔を引き出せるのは金剛だけじゃろうなぁ)

利根(いや……『金剛』だから、なのかのう? 金剛であり『金剛』でもあるから、この笑顔に出来るのじゃろうか)

利根「うーむ」

金剛「? どうシタですか、利根?」

利根「なんだか今日は眠くなるのが早くてのう。すまぬが、我輩は先に寝るのじゃ。眠気には逆らえぬ」スッ

提督「……ふむ」

金剛「珍しいデスね?」

利根「こういう事もあるじゃろうて。──では、おやすみなのじゃー」

利根(しっかりと堪能しておくのじゃぞ、提督よ)ニヤ

ガチャ──パタン

金剛「グッナ……もう行ってしまいまシタ。なんだか今日の利根、不思議な感じでシタね?」

提督(……あいつめ、変な気を回したな)

提督「まったく……」

金剛「?」

416: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:06:42.60 ID:dCKzIXvTo
提督「まあ、あいつが深読みをしたという所だ」

金剛「深読み、デスか?」

金剛「──あ、なるほど」

提督「教えて貰ったのか」

金剛「ハイ。けど、本当にシスターは皆さんの事をよく分かっているデスね。私にはどういう事なのか検討もつかなかったデス」

提督「何年も一緒に居るから分かる事だ。そうでなかったら分からないのが普通だろう?」

金剛「……………………」

提督「うん?」

金剛「ぁ……い、いえ。なんでもないデス」

提督「……そうか」

提督(……下田の仲間達の事を、よく分かっていなかったのだろうか)

金剛「! ……あ、あの…………」

提督「どうした?」

金剛「私が何を考えていたのか、分かってしまったデスか……?」

提督「いや、分からんよ。出来るのは憶測くらいだ」

金剛「……なんだか、テートクならば私の考えていた事を言い当てそうデス」

提督「さて、それは分からんな」

金剛「…………? えっと、それはどういう…………あぅ……分かりまシタ……」

提督「……金剛、この子に何かを吹き込んでいるな?」

金剛「……………………テートクはこういう時に頑固になるから、何を考えていたのかも教えてくれなくなると言っていまシタ」

提督「…………」フイッ

金剛(顔を背けた……という事は、当たっているのデスかね?)

提督「ところで話は変わるが、明日の準備は出来ているか?」

金剛「正式に私が在籍するお話デスね。ハイ。ちゃんと頭の中でイメージトレーニングも出来ていマス」

提督「よろしい。ならば、最終確認として私と会話をしてみよう。明日の予行演習だ。──金剛、これからよろしく頼む」

金剛「ハイ。こちらこそよろしくデス」ペコ

提督「……ふむ。硬いな」

金剛「あう……硬いデスか」

提督「そうだな。硬い。もっと素直に自分を曝け出して構わんのだぞ?」

金剛「それは失礼のような……」

提督「……ふうむ。ならば──」

金剛「えっと、それでしタラ──」

提督「────────」

金剛「────? ────────!」

…………………………………………。

417: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:07:13.32 ID:dCKzIXvTo
利根「…………」ボー

利根「……綺麗な月じゃのう。星々も自己主張するかのように強く輝いていて良い夜空じゃ」

利根「…………」モグモグ

利根「うむ。うむうむ! ヲ級に空母棲姫め、また腕を上げおったな? 美味い饅頭なのじゃ。……まあ我輩一人じゃから、ちと寂しいがの」

利根「うーむ。誰かを呼んでみるかの? 筑摩……はまだ鎮守府に居らなんだな。まったく。一体いつになったらこの鎮守府にやってくるのじゃ。姉不幸者め」

利根「まず駆逐艦の皆はもう寝ておるじゃろうなぁ。軽巡の者もそろそろ寝る頃のはずじゃ。重巡は……たしか今日、軽空母の皆と酒を飲み交わしておるんじゃったか。我輩は酒が飲めぬから邪魔をする訳にもいかぬな」

利根「となると戦艦や空母の者たちじゃな」

利根「加賀や赤城はどうじゃろうか? ……無理じゃな。会話が続かずに饅頭を食い尽くされるだけじゃ。飛龍と蒼龍も今日は何か予定があると話をしておったのう。鶴姉妹は……なんだか寝ておりそうじゃから止めておくかの」

利根「戦艦は……正直、金剛型の三人とは特別仲が良いという訳でもないからのう……。簡単に話をする程度じゃし。それに、四人ではこの饅頭の量は少な過ぎる」

利根「という事で残るは長門じゃな。……む。いかん。長門の部屋はどこじゃったかの……?」

利根「……うーむ。仕方が無い。今日は一人で居る事にするかのう。流石にヲ級と空母棲姫の二人を呼ぶ訳にはいかぬしのう」

川内「──あれ? 利根さん?」

利根「うん?」クルッ

川内「やっぱり利根さんだー! どうしたの、こんな夜に? 夜戦?」

利根「どこに敵が見えるというのじゃ、どこに。そういう川内こそこんな夜にどうしたのじゃ? また夜戦病でも発症したのかの?」

川内「さ、流石にそれはもう無いかな。もう提督に吊るされたくないから……」

利根「クックッ。この鎮守府で一番吊るされておるからのう。──まあ、なんじゃ。これも何かの縁。一緒に饅頭でも食わぬか?」

川内「え、お饅頭!? 良いの!? やったー!」チョコン

利根「うむ。月を肴に饅頭を食べておったのじゃが、そろそろ一人は寂しくなってのう」

川内「あれ、提督と一緒じゃなかったの?」

利根「提督はちと用事があってのう。邪魔をせぬよう抜け出したのじゃ」

418: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:07:38.80 ID:dCKzIXvTo
川内「ふーん? 提督も忙しいよねー。あ、いっただきまーす!」パク

利根「どうじゃ? 塩味のある饅頭も美味いものじゃろう」

川内「本当だ、おいしー!! これ利根さんが作ったの?」

利根「我輩は料理なぞ出来ぬよ。これはお裾分けしてもらったものなのじゃ」

川内「という事は間宮さん達かな? へぇー、お饅頭にお塩っていけるものなんだねー」モグモグ

利根「たしか、塩味で甘さが引き立つとか言うておったぞ。不思議な話じゃよのう」

川内「あ! それ聞いた事がある! 西瓜に塩を掛けるってやつだ!」

利根「それと同じじゃな。──ところで川内よ、こんな時間に外に出てどうしたのじゃ?」

川内「ん? やっぱ夜が恋しくなってさー。部屋の中だと静かにしないといけないから外に出てきたんだー」モグモグ

利根「なるほどのう。本当に川内は夜が好きじゃなぁ」

川内「そりゃもうね! だって夜だよ! こう、血沸き肉躍るって言えば良いのかな? そんな感じだよ!」

利根「……やはり夜戦病が発症したのではないのか?」

川内「いやいや、本当にただ歩き回ってるだけだよ。前みたいに騒いだり海へ出ようとしたりしないって」

利根「クックッ。あの時の提督と川内の様子はまだ憶えておるぞ。あれは辛かったじゃろうなぁ」

川内「そ、その話はやめよ? ね? あの時の提督を思い出したくないからさ……?」ビクビク

利根「さて、それはどうしようかのう?」ニヤ

川内「利根さんも提督みたいにイヂワルしないで!? ……ん?」チラ

利根「む?」チラ

利根(ぬ……あれはヲ級と空母棲──あ、気付いて隠れたか)

川内「……ね、ねえ利根さん。今何か見えなかった?」

利根「うん? 何かって何じゃ?」

419: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:08:08.05 ID:dCKzIXvTo
川内「いや、ほら……さっき誰かがあそこに……」

利根「何を言うておるのじゃ川内よ。夜戦病の中毒症状で見えない敵でも見たのかの?」

川内「いやいやいやいや!! 絶対に誰か居たって! こっち見てたってば!!」

利根「じゃが、今は居らぬのじゃろ?」

川内「そ、そうだけどさぁ……。もし敵とかだったら危ないよ」

利根「深海棲艦がこんな所に居る訳なかろうて。それに、深海棲艦ならば一瞬見ただけでも深海棲艦と分かるじゃろう?」

川内「あ、それもそっか。……うーん。でも、なんだか敵っぽく見えたんだよね」

利根「ほれ川内。饅頭じゃ」スッ

川内「え? えーっと……あむ」パク

利根「食って少し落ち着くが良いぞ。それに、もし敵ならば我輩が見逃しておらん」

川内「うーん……? まあ、利根さんがそう言うのなら……」モグモグ

利根「ところで川内よ、お主は星の事が分かるか?」

川内「星? ……全然わかんない」

利根「では、提督から聞いた星の話をしてやろう。北極星というのは知っておるか?」

川内「えっと、確か常に北にある星だっけ?」

利根「うむ。そんなものじゃ。その北極星じゃが、実は我輩たちが見ている北極星は四百年前の姿らしいぞ」

川内「四百……? えーっと、どういう事?」

利根「北極星の光が地球へ届くまで四百年の時間が掛かるという話じゃ。つまり、北極星が今この瞬間に消えて無くなっても、地球では四百年後まで北極星が見えておるという事なのじゃ」

川内「……え!? 光ってあの光だよね!? パッて光ってパッて消える光だよね!? あれって一瞬で向こう側に届くんじゃないの!?」

利根「どうやら光にも速さがあるらしいのじゃ。なんでも、一秒で地球を七周半するらしいぞ」

川内「七周半!? って、そんなに速いのに四百年も掛かるってどれだけ遠いの!?」

420: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/12(日) 01:09:55.85 ID:dCKzIXvTo
利根「途方もない遠さじゃなぁ。前に教えて貰ったが、何千兆キロだとか言っておったのう」

川内「うっわー……もうすっごく遠いってくらいしか分からないや……」

利根「ちなみに一番近所の銀河は何千京キロだそうじゃ」

川内「京って兆の一つ上だったよね!? なにその遠さ!?」

利根「他にも色々と聞いたぞー。そんな遠くからやってくる星の光でも影が出来るとか──」

川内「新月の夜って真っ暗で何も見えないのに、影って──」

利根「それが、綺麗な空気の場所じゃと──」

川内「見てみたいなぁ──」

利根「そして──」

川内「うんうん! ────!」

利根「────」

川内「────!」

…………………………………………。

ヲ級「危なかったね、姫」

空母棲姫「油断していたわ……。これからはもっと気を付けましょうか」

ヲ級「はーい。私も、もっと気を付けるね」

空母棲姫「ええ。後で利根にお礼を言いましょう。逸らかしてくれたみたいだもの」

ヲ級「うん! 次は、あのお饅頭よりも、もっと美味しいの、作る!」

空母棲姫「きっと利根も喜んでくれるわ」

……………………
…………
……

428: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:19:06.74 ID:QDsZQ4q2o
提督「──本日の任務は以上だ。加えて、この鎮守府に新しくやってきた艦娘を紹介する。……入ってきてくれ」

比叡「ッ──!!」

榛名「────────」

霧島「…………」

金剛「英国で生まれた、帰国子女の金剛デース! よろし……」

全員「……………………」

金剛「…………く……」

金剛(……やっぱり、こうなりマスよね)

金剛「えーと、私、どこかおかしかったデス?」チラ

提督「いや、どこもおかしくはない」

長門(……こうなるのも無理はないだろう)

比叡「……司令、一つよろしいですか」

提督「……許可する」

比叡「嫌な予感はしていましたけど、これは一体どういう事ですか?」

提督「……………………」

比叡「……………………」

飛龍(……あれ? なんだか……?)

利根(提督も辛そうじゃな……)

提督「……見ての通りだ」

比叡「…………………………………………」

榛名「…………」ハラハラ

霧島(大丈夫かしら……)

429: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:19:33.43 ID:QDsZQ4q2o
金剛「……比叡?」

比叡「っ!」ハッ

比叡「……いえ、ごめんなさい。司令が何も考えていない訳なんてないのに……」

提督「辛い思いをさせてすまない……」

比叡「…………」

金剛(……えっと、一応ひっそりとしておく方が良いデスよね?)

提督「そして金剛。来て早々に見苦しい姿を見せてしまった」

金剛「! ノープロブレム! 気にしないで下サーイ!」

提督「ありがたい。──そして、金剛に鎮守府の案内を誰かに任せようと思っている。希望者は居るか?」

加賀「私がします」スッ

提督「そうか。加賀ならば分かりやすく教えられるだろう。頼む」

加賀「ええ、お任せ下さい」

提督「ああ。……比叡」

比叡「……はい」

提督「この後、提督室へ来るように。……ちゃんと説明をする」

比叡「…………はい」

提督「以上だ。何か質問のある者は居るか?」

響「司令官、比叡さんにする説明を私達が聞いても良いのかな」スッ

提督「比叡にだけは聞かせる言葉もあるから、一緒にというのは諦めてくれ。その後ならば聞きたい者だけに教える。比叡が拒否しなければ比叡から聞いて貰っても構わない」

響「うん、分かったよ」

提督「……………………さて、他に質問のある者は居ないようだな。解散」

…………………………………………。

430: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:20:03.97 ID:QDsZQ4q2o
コンコンコン──

榛名「はい、どうぞ」

ガチャ──パタン

金剛「……ただいまデース、マイシスターズ!」

霧島「! おかえりなさい、金剛お姉様」

榛名「おかえりなさいませ。加賀さんの案内は終わったのですか?」

金剛「イエス! とっても分かりやすい説明でシタ! ──ところで、比叡はまだ戻っていないデスか?」

霧島「まだですね。……比叡にだけするお話とは、一体なんでしょうか」

榛名「どういうお話なのでしょうか……」

金剛「…………」

金剛(こういう時は、どう声を掛ければ良いのでショウ……)

コンコンコン──ガチャ──パタン

比叡「ただい──! おかえりなさいませ、お姉様」

金剛「比叡こそおかえりデース!」

霧島「……司令とのお話は、どうだったの?」

比叡「司令に泣かされました」

金剛「!? ど、どういう事デスか比叡!?」オロオロ

比叡「あ、えっとですね……司令がどうして金剛お姉さまを再び受け入れたのかを聞いて、その後に私の頭を優しく撫でてくれたんです。それでなんだか涙が出てきて、司令に泣き顔を見られてしまいました」

金剛「そうだったのデスね、どういう事なのかと思ってビックリしたデス……」ホッ

三人「!」

榛名(……少しだけですが『金剛お姉様』と違います。私の知っている『金剛お姉様』は、苦笑いでもこんなにも弱々しい笑顔ではなかったはずです)

霧島(まったく同じという訳ではないようですね。……別の『金剛お姉様』……ですか。なんだか、妙な気分です……)

比叡(…………)

431: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:20:30.42 ID:QDsZQ4q2o
金剛「? どうかしまシタか、三人とも?」

榛名「い、いえ……榛名は大丈夫です」

霧島「答えになっていないわよ、榛名」

榛名「ええと、それは……」

金剛(──やっぱり、ここの榛名も大人しい子のようデスね。ただ、向こうの榛名と違って目が据わっていないからか、なんだか普通の大人しい子に見えるデス)

霧島「もう……。『大丈夫です』って口癖は直すようにと司令からも言われているでしょう?」

榛名「うぅ……」

比叡「…………」

金剛「まあまあ霧島。榛名もきっと、つい出てしまっただけデスよ。ネ、榛名?」

榛名「……はい」コクン

金剛「ゆっくりと直していきまショウ。出来ないなんて事は無いはずネ」ナデ

榛名「……はい!」

霧島(……ふむ。『金剛お姉様』よりも少し甘いようですね。……ですが、それと同時に優しさももっと柔らかく感じます)

比叡「……………………」

金剛「? 比叡?」

比叡「!! は、はい! なんでしょうか」

金剛「いえ、ボーっとしていたようでシタので……。疲れているデス?」

比叡「…………かも、しれないです。もしかしたら、司令に泣かされたから疲れてしまったのかもしれません」

金剛「……もし良かったら、テートクがどんな話をしていたのかを聞いても良いデスか?」

比叡「それは……」チラ

霧島「……私は聞きたいと思っています。司令が何を思っているのか、どう想って受け入れたのかを知りたいです」

432: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:20:59.97 ID:QDsZQ4q2o
榛名「私も、知りたいです。どういう理由なのか、とても気になっています」

比叡「……分かりました。司令もこうなるのを予想していたでしょうし、どんな話をしていたのかを話しますね」

比叡(ただ……金剛お姉様が別の鎮守府の捨てられた艦娘とかそういう部分は言わないようにしないと……)チラ

金剛(確認をするような目……。きっと、比叡は口裏合わせの準備はオーケーなのかと聞いているのでショウね。大丈夫デス。私はテートクの事をほとんど知らない、ここへ来たばかりの『金剛』と思って話しマス)

金剛「私の準備はオーケーです。比叡、話してくれマスか?」

比叡「はい。──司令はウェーク島で何年も三人の事を考えながら暮らしていて、とある事に気付いたそうなんです。『今の自分を、三人が見たらどう思うか』と。それで────────」

霧島(…………ああ……その言葉は金剛お姉様が言いそうな言葉ですね)

榛名(だから提督は戻ってきて、そしてこちらの金剛お姉様を受け入れたのですね)

比叡「その時に言った事なんだけれど、私達も気を付けないといけないと思います。司令ならば私達を沈ませないと妄信してはいけないと。総司令部からの伝達でも毎月、何人もの艦娘が────────」

金剛『……ええ。私達も、その事をすっかりと忘れてしまっていまシタ。比叡と同じく、心のどこかで安心していたのでショウね』

金剛(! 起きていたのデスか?)

金剛『今さっき起きたばっかりデース。──どうデスか、私の自慢のシスターズは?』

金剛(良い子たちデス。本当、こうして見ると姉妹というのはこれがノーマリティだと思えマス)

金剛『ノーマリティかどうかは分かりまセンが、この子達はこれが普通デス。仲良くして下サイね、マイシスター?』

金剛(──ハイッ! マイシスター!)

比叡「──って、あれ? お姉様、話聞いてますか……?」

金剛「……ソーリィ。ちょっと感傷的になってて聞いてなかったデス」

比叡「もー……」

……………………
…………
……

433: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:21:45.48 ID:QDsZQ4q2o
レ級「──さぁて、そろそろ準備とか良いんじゃないかな、大佐クン?」

大佐「その前に戦力の方を聞かせろ。集まった深海棲艦の数はどれくらいなんだ?」

レ級「ざっと七百ってところかなぁ? まっ、あの鎮守府の十倍くらいは居るんじゃない?」

大佐「十倍か。くっ……くくくっ……如何に奴が優秀でも、これだけの戦力差があるなら余裕だ!」

大佐「くく……感謝してやるレ級。お前のおかげで奴をブッ潰す事が出来そうだ」

レ級「これだけ戦力を用意したんだからさぁ、ちゃーんとこっちの計画も忘れないでよぉ? じゃないと……ゴミムシらしく地べたを這いずり回るだろうからさっ」ニヤァ

大佐「分かってる分かってる。あの鎮守府に裏切り者の深海棲艦が居るんだろ? そいつはちゃーんと逃がさないようにすっからよ」

レ級「じゃあ聞くけど、陸に逃げられそうになったらどうするのかな?」

大佐「奴の鎮守府にプレゼントを送っておいた。それを奴が読めば、陸へ逃げようとしないだろうよ」

レ級「へぇ……? じゃあそっちは任せよう!」

大佐「お前こそ艦隊の指揮をミスすんじゃねえぞ」

レ級「だーいじょうぶだって! ……あの蝙蝠どもは殺さなければならんからな」

大佐「…………!」ゾワッ

レ級「そんじゃ! 強襲する日程を決めよう! なんだったら今からでも──」

瑞鳳「──あ、提督……こんな所に居た、の……で……ッ!?」ヒョコ

レ級「って……あーらら。見付かっちゃった」

大佐「ちっ……面倒な……」

瑞鳳「ぇ……え……? し、深海……棲艦が……な、なんで……?」カタカタ

レ級「はーい動かないでねぇ。ついでに喋らないように」ジャキッ

瑞鳳「っ!」ビクッ

レ級「うぅーん、良い子だ。……でさぁ? 今ここで起きている事は全部忘れてくんない? ロケットスタートを決めようとしたのに邪魔をされるのは御免だからさぁ?」

434: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/06/23(木) 21:22:12.58 ID:QDsZQ4q2o
瑞鳳(で、でも、それって……)チラ

大佐「…………」

瑞鳳(提督……どういう事なの……? 助けて……助けて……っ!)カタカタ

大佐「良い事を考えた。レ級、強襲する日はこいつを徹底的に口止めしてからにしよう」

瑞鳳「────ぇ……?」

レ級「ううん? 何する気なのかな?」

大佐「こいつは色々と具合が良いから処分するのは勿体無い。だから絶対にこの事を漏らさないよう、その身に教え込ませるんだよ。そう……色々な手段を使って、なぁ?」ニヤ

瑞鳳「……………………う……そ……」ペタン

レ級「へぇ……随分と高尚な趣味を持っているんだねぇ。お姉さんドン引きしちゃうかも」ニヤ

大佐「口をそんな楽しそうに歪ませていたら説得力の欠片も無いな」

レ級「あ、バレた? ギャハハハハ!」

瑞鳳(提督が……深海棲艦と……)

大佐「じゃあ……早速『教育』するかぁ」グイッ

瑞鳳「ぁ……」

大佐「運が悪かったなぁ瑞鳳。大丈夫だって。絶対にこの事を言えないようにするだけだからよぉ」ニヤァ

瑞鳳「ヒッ──!」

……………………
…………
……

441: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/02(土) 03:26:55.88 ID:/ahWj/2No
ヲ級「こっんだってひょー♪ こっんだってひょー♪」ペタペタ

空母棲姫「ああほら、右側が高くなっているわよ。献立表は皆が見る物なんだから綺麗に張りましょう?」

ヲ級「!! ホントだ! 姫、ありがと!」ニパー

空母棲姫「……本当にこの子ったら。ほら、貼り終えたのだから食堂へ戻るわよ」ナデナデ

ヲ級「はーいっ」ニコニコ

天龍「──ん? おお、姫にヲ級じゃねえか。何してんだ、こんな所で」

ヲ級「てんりゅー! 献立表、張りに来てた!」

天龍「お、マジか! んじゃあ早速チェックしねえとな!」トコトコ

龍田「天龍ちゃんったら本当にご飯が好きよね~」スタスタ

天龍「なーに言ってんだよ龍田! 飯が嫌いな奴なんて」

ヲ級「居ない!」

天龍「なー?」ニカッ

ヲ級「ねー♪」ニパー

空母棲姫「……いつの間にこんなに仲良くなったのかしら」

天龍「ん? いやー、こいつって人懐っこいだろ? ちょっと遊んだらこうなったぜ」

ヲ級「てんりゅー、優しい!」

空母棲姫「そうなのね。良かったわ」ニコ

龍田「貴女も、だ~いぶ馴染んできたみたいね~」ニコニコ

空母棲姫「段々と肩肘を張るのが馬鹿らしくなってきたの」

空母棲姫「そして……全員がお前のように警戒をしてくれると、私も自分の立場を忘れずに済むのだがな」

龍田「あらあらぁ~。何の事かしら~?」

空母棲姫「では、私もとぼけるとしましょうか」

龍田「それが良いわよ~。……私は貴女から残り香が消えるまで、このままだもの」

空母棲姫「……残り香?」

龍田「さあね~? これ以上は言えないわ~」

空母棲姫「…………?」

空母棲姫(残り香……? 一体なんの話だ? ……………………今朝、潜ったせいで磯臭いのでしょうか……? いえ、お風呂はしっかりと頂いていますし……)

龍田「…………」ニコニコ

空母棲姫(……提督と同じくらい読めないわね、この艦娘は)

…………………………………………。

442: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/02(土) 03:27:22.09 ID:/ahWj/2No
提督「──さて……執務が終わってしまった」

利根「終わったのじゃー!」

飛龍「量が少ないですからね。……本当、私達は待機していて大丈夫なのでしょうか。こう何日も待機ばかりですと不安で仕方がありません」

提督「安全に関しては、よっぽどの事でもない限り問題無いだろう。だが、こうも一部の遠征と演習以外やる事がないと暇を持て余してしまう。それをどうしようか」

利根「我輩にとってはそっちの方が問題じゃぞ」

提督「まったくだ。鎮守府内の大掃除でもしようかと本気で思っているくらいだぞ」

コンコンコン──

提督「む? 入れ」

ガチャ──パタン

金剛「失礼しマス」

提督「金剛か。どうした?」

金剛「空母棲姫とヲ級からのお届け物デース。チーズを練りこんだタルトだそうデスよ。おやつにして下サイと言っていたデス」

利根「おお! 新作か! 丁度執務も終わった事じゃし、お茶にしようぞ! ……──って、うん? 当の二人は居らぬのか?」

金剛「夕飯を腕によりを掛けて作ると張り切っていまして、手が離せなかったみたいデス。間宮と伊良湖も忙しそうにしていまシタ」

利根「ほほう。何か良い事でもあったのかのう?」

金剛「どうなのでショウかね……?」

飛龍「そういえば今朝方、空母棲姫さんとヲ級ちゃんが張り切って海へ出ていましたけれど、何か関係があるんですかね?」

提督(なるほど、そういう事か)

利根「む。何やら一人だけ理解したようじゃぞ」

提督「何の事やら」

飛龍「……これは完全に分かっていますね」

443: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/02(土) 03:27:57.19 ID:/ahWj/2No
金剛「テートク、どういう事なのデスか?」

提督「さて、どういう事なんだろうな」

飛龍「金剛さん、提督はこうなったらテコでも動きませんよ。なにせ、頑固者ですから」チラ

金剛「むぅ……」

利根「ほー、これは珍しいのう。金剛が不満そうな顔をしておる」

飛龍「本当です。初めて見たかもしれませんね」

金剛「!! ご、ごめんなさい……」

提督「何を謝っているんだ。むしろ良い事だと思ったぞ」

金剛「…………? あの……どういう事デスか……?」

提督「金剛は自分を抑え過ぎている所があった。ならば、不満を露に出来るほど心を開き始めてくれているという事だろう?」

金剛「…………」パチクリ

利根「ほほう。これは言っている言葉の意味は分かるが理解が追いついていないようじゃのう」

金剛「…………」

提督「……そんなに予想外だったのか? ほら、深呼吸だ。まずは吸って」

金剛「……すぅ」

提督「そのまま吸い続けて」

金剛「…………!」

提督「まだまだ」

金剛「…………!」プルプル

提督「…………」

金剛「…………!!」プルプルプル

飛龍「あ、あの……?」

444: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/02(土) 03:28:23.60 ID:/ahWj/2No
提督「よし、吐いて良いぞ」

金剛「はぁぁ……! …………うぅ……テートク、酷いデス……」

提督「すまない。──少しは落ち着いたか?」

金剛(あ……本当デス。なぜか冷静になっているデス)

金剛「そういう事だったのデスね。ありがとうございマス」ペコ

利根(……人というものは思考が麻痺すると言われた事を忠実に行うんじゃなぁ)

提督「しかし、そんなになるまで意外だったのか?」

金剛「……今まではそんな事は出来ませんでシタので。なので混乱してしまいまシタ。でも、もう大丈夫デス」

金剛「──だって、テートクですから」ニコ

提督「そう思ってくれて嬉しいぞ」ポンポン

金剛「うぅー……また……」

提督「諦めろ。こればっかりは譲らんぞ」

金剛「この間までは少し遠慮して下さっていたノニ……」

提督「嫌か?」

金剛「……その問い掛けは卑怯デス」フイッ

利根「卑怯じゃな」

飛龍「えーっと……」

提督「どうやら私に味方は居ないようだ……」

利根「いやぁ。流石にそれで庇うのは無理があるぞ?」

提督「…………」

金剛「えっと、その……」

提督「…………」

445: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/02(土) 03:28:54.34 ID:/ahWj/2No
金剛「……………………たまになら、良いデス……よ?」

利根「ほれ、金剛が折れてしまったではないか」

提督「ではそれに甘えるとしよう」

利根「まったく……」

金剛「ええと……あの、私は紅茶を淹れてきますね?」スッ

提督「頼む」

金剛「ハイ! 任せて下サーイ!」

飛龍「……それにしても、タルトを作ったお二人は何を作っているんでしょうかね?」

利根「気になるよのう。……一人だけ気付いておるのはズルいのじゃ」チラ

提督「違っているという可能性もあるんだぞ?」

利根「ならば言ってくれても良いではないかー」

提督「合っている可能性もあるからな」

飛龍「では、お茶の時間はお二人が何を作っているのかを予想してみましょう」

利根「うむ! 提督よ、お主と同じ結論だった場合は同じじゃと言うのじゃぞ?」

提督「同じ結論だった場合はな」

利根「絶対に当ててみせるぞー!!」

…………………………………………。

455: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:14:49.09 ID:FYyqU5wUo
天龍「うおおおおっ!!! なんだこれ!? なんだこれ!!?」キラキラ

島風「海の食べ物がいっぱーい!!」キラキラ

比叡「ひえぇー……」

川内「良いじゃーん!! 良いよね、こういうの! 好きだなぁ!」キラキラ

赤城「あれは……鯛……!? アワビにサザエ……!! 鮪やカツオまで……!!!」キラン

加賀「素晴らしいです」キラキラ

間宮「今日はいつも頑張って下さっている皆さんへの労いとして、私たち四人が腕を振るってみました。食材の調達は空母棲姫さんとヲ級ちゃんの二人です」

ヲ級「いっぱい、獲ってきた!」

空母棲姫「生態系を壊さない程度にしていますので連続ではできませんが、たまになら出来ると思います」

川内「おおー!!」キラキラ

那珂「川内ちゃんが夜戦以外でこんなに目を輝かせるのも珍しいねー」

神通「気持ちは分かりますよ」ワクワク

那珂(あ、神通ちゃんも楽しみにしてる)

利根「──ふむ。当たったようじゃ」

飛龍「提督の予想って本当に当たりますよね」ワクワク

提督「二人に海へ出る許可を出したのは私だからな」

利根「なんじゃ。それでは最初から知っておったのではないか」

提督「魚を取りに行きたいから海へ出る許可が欲しい、としか言われておらんよ。後の事は全て想像だ」

利根「それがあるのと無いのとでは大違いじゃろうに」

提督「さて、早速夕食としようか」

利根「あ、逃げおったな。──まあ、我輩もそんな事より早く食べたいのじゃ!」トコトコ

提督「そうだな。海産物は新鮮な内に食べるのが一番だ」

456: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:15:19.91 ID:FYyqU5wUo
川内「ほらー! 提督も早く席に着いて着いて! 早くご飯にしようよー!」

空母棲姫「後は提督だけですよ」

提督「分かった分かった。すぐに座る」スタスタ

提督「──さて、全員居るようだ。間宮、伊良湖、空母棲姫にヲ級も席に着いてくれ」

間宮「え? 私達もですか?」

提督「ああ。これだけ豪勢な夕食なんだ。今日は全員が一緒に楽しもう。もし食べる順番があるのならば食べながら教えてくれるか?」

伊良湖「…………」チラ

空母棲姫「諦めましょう。提督は頑固なので折れてくれないわ。──それに」

川内「…………!!」ワクワク

赤城「…………」ソワソワ

加賀「…………」ヂー

空母棲姫「一秒でも速く食べたがっている子が居るのだから、そうしましょう?」

間宮「もう……。ご飯は各自でよそって頂きますよ?」

全員「はーい!」

間宮「では、五つある羽釜にちゃんと列で並んでよそって下さいね。勿論、喧嘩はメッですよ」ニコ

天龍「おっしゃあ!!! 天龍様が一番だぁ!!」ダッ

島風「おっそーい!」ヒョイッ

天龍「あっ!? ちっくしょ!!」

島風「へへーん! 私には誰も追いつけないんだからねー!」

加賀「頂きました」スッ

赤城「一番近い羽釜でしたので、楽で良かったですね」ニコニコ

457: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:15:56.05 ID:FYyqU5wUo
長門「本当、皆して元気だな」スタスタ

響「長門さんはゆっくり後ろに並ぶんだね」

長門「急ぐ必要もあるまい。余裕を持つのは大事だぞ」

暁(レディだ……!!)

雷「暁が何を考えているのか丸分かりね!」

電「なのです」

川内「まだかなーまだかなー」ヒョコ

神通「姉さん、列から乱れないで下さい」

川内「だってー。気になるしー」

熊野「あまり列から乱れすぎると、提督から叱られますわよ」

川内「!!!」サッ

鈴谷「あっははー! やっぱり提督が怖いんじゃーん!」

川内「……そういう鈴谷さんは怖くないの?」

鈴谷「……ごめん。怖い、怒らせたくない……」ビクッ

川内「だよねー……」

加賀「鯛のお吸い物が最高です」ズズー

赤城「お刺身もぷりぷりとしていて赤身もトロも何もかも美味しいですねっ」モグモグモグ

那珂「はやっ!? もう食べてる!!?」

川内「おぉーい!! 早くご飯を取らないと全部無くなっちゃうよー!!」

天龍「うおおおおおおおおッッ!!! 急いで飯をつぐぞおおおおおお!!」

伊良湖「み、みなさーん! そんなに急がなくても大丈夫ですからぁー!!」

458: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:16:22.46 ID:FYyqU5wUo
飛龍「ふふ。皆さん、本当に元気ですよね」ニコニコ

利根「まったくじゃのう」ニマッ

金剛「アハ。見ているだけで楽しくなるデス。──はい、テートクの分デスよ」ニコ

提督「む? ついでによそってくれたのか。ありがたい」

金剛「いえいえー」ニコニコ

比叡「お姉様ー!! どこですかー!!?」

金剛「あ、比叡が呼んでいますので行ってきマス。──今行くデース!」タタッ

蒼龍「飛龍も負けていられないわよー。そのまま提督と一緒に食べてきなさい。今は皆、ご飯に夢中だからさ?」

飛龍「えっ!? え、えーっと……………………うん……」テレ

蒼龍「もう本っ当に可愛いなぁ飛龍はー! 頑張っておいでー!」

空母棲姫「それにしても……今日は一段と騒がしいわね。海の食べ物でこんなにも変わるだなんて思わなかったわ」

ヲ級「魚! 貝! 焼いたり、煮たり、刺身、美味しい!!」

空母棲姫「ええ、本当にね。これだけ喜んでくれると、作った甲斐があったというものです」ニコ

提督「良い顔だ。似合っているぞ」

空母棲姫「……恥ずかしいです」フイッ

ヲ級「姫、素直に、なってきてる!」ニコニコ

空母棲姫「……私をからかう口は、この口かしら?」ツネー

ヲ級「えふぇふぇー」ニコニコ

空母棲姫「でも……良い気分ですね。とても胸の奥が温かくなります」

ヲ級「うん!」

提督「ああ、本当に良い喧騒だ。ここは元気と希望が満ち溢れている」

ヲ級「提督も、笑ってて、良い顔!」

提督「お前もだぞ」ナデナデ

ヲ級「えへー」ニコニコ

提督(……願わくば、こういう時間が続いて欲しいものだ)

…………………………………………。

459: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:16:48.95 ID:FYyqU5wUo
川内「いやぁー。堪能したねぇー」キラキラ

神通「とても良かったです」ホクホク

那珂「二人ともすっごく良い笑顔だよー」ニコニコ

川内「そういう那珂も満面の笑みでしょー?」

那珂「あんなの美味しくない訳ないじゃん! もう那珂ちゃん、体重の事を忘れて食べちゃいそうだったよ!」

神通「あら。食べたら食べた分だけ訓練をすれば消費されますよ」

川内「おっそろしい事を言わないでよ……。流石にあれだけ食べた後だとキツいってー……」

神通「けれど、本当に美味しかったですよね。私は鯛のお吸い物が一番良かったです」

川内「私は蛸の刺身かな? あの歯応えと引き締まった味は最高だったなぁ」

那珂「天ぷらが一番だったけど、油物だから那珂ちゃんは控えめにしなきゃだったのが辛かったよー! カロリー高いのに、あの味は反則だって!!」

川内「あ、確かに天ぷらも美味しかったね! 赤城さんなんて目ぇキラキラさせてたし!」

那珂「赤城さんは美味しいものなら何でもキラキラさせてるじゃん!?」

川内「いやまあ、そうなんだけどさ。なんだか特に天ぷらを気に入ってなかった?」

神通「言われてみるとそうでしたね。天ぷらを手に取ってからしばらくは天ぷらを口にしていました」

川内「ほーんと、今日のご飯は美味しかったねー」

那珂「またあったら良いよねー」

神通「生態系は壊さない程度に……と仰っていましたから、次はいつになるかは分かりませんね」

川内「だねー。で、ところでさー。二人は空母棲姫さんとヲ級ちゃんの二人をどう思ってる?」

神通「……難しい質問ですね」

那珂「そう? 那珂ちゃんはもう仲間の一人かなって思ってるよ」

川内「やっぱり? 私もそんな感じかな。ヲ級ちゃんなんて人懐っこいし、空母棲姫さんなんてお母さんみたいだしさ」

460: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/19(火) 01:17:15.23 ID:FYyqU5wUo
神通「それは……そうですけれど……」

川内「神通は何か不安要素があるの?」

神通「……ええ。いつか、私達が深海棲艦と戦うのを躊躇う日が来るのでは──という不安があります」

川内「んー……。あるのかなぁ、そういうのって」

神通「姉さんは、そうはならないと仰るのですか?」

川内「だってさ、なんだかあの二人だけは別じゃん? 上手く説明は出来ないんだけど、敵って感じがほとんどしないっていうか……むしろ、私達とあんまり変わらないっていうか……?」

那珂「あ、それ分かる! 隣に居ても怖くないよね!」

神通「ですが……」

川内「たしかに神通の言ってる事も分かるよ。けど、不思議じゃない?」

神通「不思議、ですか?」

川内「うん。深海棲艦ってさ、一目で『敵』って分かるよね? だけど、あの二人は敵って感じがほとんどしない。これって、何かがあるって思わない?」

神通「何か……」

那珂「例えばどんなの?」

川内「まあそれは分かんないんだけどさ……」

那珂「分からずに言ってたの!? 何かあるって那珂ちゃん思っちゃったよ!!」

川内「だって本当に感覚なんだからさー」

神通(……本当、あの二人には何があるのでしょうか)

……………………
…………
……

467: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/23(土) 00:57:06.91 ID:2Rmk4WMMo
 ──誰も助けは来ない部屋で、私は床をボーっと眺めていた。
 いや、眺める他ないと言った方が正しいのかもしれない。なにせ私は今、手に鎖を巻かれて逃げられないようにされている。それに……これから起こる事への準備として、体力は欠片も使いたくなかった。
 急造された地下の一室──。天井にぶら下がった何個かの電球と床に放り置かれたいくつかの『道具』の数々、そして壁や床に残った夥しい血の跡。それが、今の私の世界。
 今まで辛い事なんて沢山あった。無理難題な指示を必死にこなそうとして疲れ切った身体を無理矢理に動かし、たまに提督の情欲を受け止めるのが前の私の日常だった。提督が使えないと言った子には轟沈命令を出す事さえあった。
『もうこんな毎日はヤダ……』
 泣きそうになりながらそう思っていた私だけど、今はこう言える。そんな毎日の方が遥かに良かった──と。
 だって、肉を削がれる事も無ければお腹に大穴を空けられる事も無いんだから。泣き喚けば喜ばれ、無反応でいようとすれば悲鳴をあげさせるような事をされる。
 そして、四肢を千切られて悲鳴で喉が潰ようと、頭を強く殴られて視力を失っても終わる事なんて無い。私は艦娘であり、生きてさえいれば高速修復材で大抵の状態であれば、その場で直ってしまう。背骨は竜骨みたいなものだから傷つける訳にはいかないと言っていたから、それ以外の事はされるのだろう。
 そんな生活が、少なくとも一週間は続いている。時間の感覚がもう無くなってしまっているから正確じゃないけれど、それでも一週間以上は経っていると思う。
 初日は首を絞めた状態のまま何度も何度も殴られた。意識が薄れてほとんど何も考えられなくなったのが最後だったと思う。
 二日目も同じだったけれど、反応が悪くなったと言って釘を身体に打ち込まれた。お腹に十数本くらい打ち込まれた時に吐血したら、提督とレ級は満足そうな顔をしていたっけ……。
 三日目は骨を折られた。指や腕、足の骨を余す所なく折って、私の悲鳴を楽しんでた。変に折られて骨が皮膚を突き破った時は心底痛かった。身体の内側から壊されているような感覚で、自分の足が有り得ない曲がり方をして、千切れたような痛みが全身を襲ってきた。ここから、私は死ぬ方が良いと思い出した。
 次の日は、出来るだけ二人の興味が無くなるように努めた。出来る限り反応をしないようにすれば、さっさと殺してくれると思ったからだ。──それは、甘い考えだったと今は思う。反応しないのならば反応するようにされる。当然の事だ。今までのやり方でダメだったら、別のアプローチをするに決まっている。それを、私は分かっていなかった。
 用意されたのは、何百キロあるのか分からない真っ赤に燃える鉄の塊。流石に奥歯がガチガチと鳴って、自分が今までで一番怖がっているのが分かった。提督が私を床に押し倒し、右腕を真っ直ぐ伸ばすようにと命令した。もちろん腕は震えていて、身体は腕を伸ばすのを拒否していた。何をされるのか分かっているからこそ、身体が恐怖で固まっていた。
 提督はそんな私の腕を取って、まるでエスコートでもするかのように優しく伸ばさせてきた。その状態で動くな──と命令された私は、覚悟する他無かった。
 提督が離れ、レ級が赤い鉄の塊を私の右腕に落とす。骨が砕けて肉を内側から裂き、鉄の重みで潰された肉はその熱で焼かれる事となった。
 我慢なんて出来る訳もなく、私は悲鳴と共に残った腕で鉄の塊をどかそうとした。左手が焼けて激痛が走ったので、ほとんど反射的に手を離した。その間も私の右腕は焼かれ続け、嫌な臭いが部屋に充満していたと思う。
 結局、私は痛みで失神した。起きた時には身体がなんともなっていなかったから夢かと思ったけれど、肉の焦げた臭いが現実だと教えてくれる。そして……次もまた、焼けた鉄が用意されていたっけ。
 ただ違ったのは、痛みで悲鳴をあげる私を見ながら劣情を解消してきた事だろうか。
 今日は、どうなるんだろう……。

 コツン──。

「……ああ…………」

 休憩は終わりらしい。また、今日も痛みに耐える時間がやってきた。
 できれば、痛くも苦しくもないのが良いな……。

……………………
…………
……

468: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/23(土) 00:57:35.33 ID:2Rmk4WMMo
利根「暇じゃぁ……」

飛龍「お仕事も終わっちゃいましたしね……。それにしても、下田の審査っていつまで続くのでしょうか」

提督「審査はあと一週間もあれば終わるはずだ。そろそろ事が起きるだろうから覚悟しておけ」

利根「む? どういう事なのじゃ?」

提督「下田から機密文書が送られてきていてな」スッ

──我、如何ナル時モ総司令部ヘの連絡可──

飛龍「……えーっと…………? なんですか、これ?」

提督「簡単に言えば脅迫状だ」

利根「……これのどこが脅迫なのじゃ?」

提督「字面だけでは分からないが、今朝の偵察で分かった事がある。向こうはこちらに空母棲姫とヲ級が居ると確信している──そう見て間違いないだろう」

飛龍「何かあったんですか?」

提督「──レ級が居た」

二人「!!」

提督「あの鎮守府には、私達の因縁の相手であるレ級が居る。こちらが相手に気付かれないよう索敵できているように、向こうも気付かれないように索敵している可能性が充分にあるだろう」

提督「それを踏まえてこの文書の意味を読み取るならば『おかしな行動を見せれば、総司令部へ即座に横須賀は危険分子だと報告する』という事だ」

飛龍「でも、それって向こうも同じじゃないですか? 向こうもレ級を置いていますし」

提督「条件が違う。向こうは出撃が自由に出来るが、こっちは出来ない。総司令部から視察が来たという理由で同じように海へ逃げても、空母棲姫とヲ級は下田によって沈められてしまうだろう。そんな事、私には出来ん」

利根「むう……では、どうすれば良いのじゃ?」

提督「正直に言って、詰みに近い。打破をしたいのならば見付からないようにこの鎮守府を抜けて下田に潜入して暗殺するか、馬鹿正直に相手するしかない」

飛龍「暗殺なんて無茶ですから、相手をしなければならないという事ですか……」

提督「ああ……。まず間違いなく使ってくる駒は深海棲艦のみだ。向こうは痛手ゼロというのが腹立たしい」

469: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/23(土) 00:58:02.19 ID:2Rmk4WMMo
利根「…………む? そもそも、どうして下田はここを狙うのじゃ?」

提督「そこは分からんから予想しか出来ないが、私怨があるのかもしれんぞ」

利根「私怨……? どうしてまた」

提督「この間の演習の時、長門をアッサリとこちらへ移籍させた事が引っ掛かっている。向こうからすれば、アッサリと言う事を聞いている長門が面白くないはずだ」

飛龍「そんな事で……」

提督「後で下田の事を知っている四人にも聞いてみる。……私の予想が外れていて、レ級も空母棲姫たちと同じく良い意味で協力しているのならば良いのだが」

利根「夢物語じゃのう……」

提督「ああ……」

飛龍「……空は、こんなにも蒼くて平和なのに」

提督「所詮、人間の本当の敵はまた別の人間という事だ。深海棲艦を相手にするよりもずっと性質が悪い」

利根「……どうして、同じ種族で争わねばならんのじゃろうなぁ」

提督「人間がそれだけ汚れているという事だろう……。私もまた、その内の一人だ」

飛龍「提督が、ですか……?」

提督「私も、だ。私にとって絶対に許せない事をしていれば、私は障害の全てを排除して目的を達成するだろう」

利根「まあ、どうせ提督の事じゃ。その時は我輩たちも許せぬような内容なのじゃろうな」

提督「さあな。そればっかりはどうなるか分からん」

利根「道を踏み外しそうになったら、しっかりと戻してやるからの」

飛龍「それは、提督の艦娘にしか出来ない事ですからね」

提督「ああ。頼りにしているぞ、二人とも」

…………………………………………。

470: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/07/23(土) 00:58:31.27 ID:2Rmk4WMMo
瑞鳳「ぁ…………ぅ……」ビクンッ

下田提督「ふぅー……スッキリした」

レ級「あーあー。こんなにしちゃって……可哀想に」

下田提督「今回、肉体的に壊したのはお前だろうが」

レ級「そうだけど、精神的に壊したのは君じゃないかなぁ?」

下田提督「そもそも可哀想だなんて欠片も思っていないだろ。流石に手足を挽き肉にするとは思わなかったぞ俺は」

レ級「平然と見ている所か、この状態で●●た癖に……。もしかして、私よりも残虐なんじゃない?」

下田提督「さあなぁ? ま、楽しんだ事は楽しんだんだ。そろそろ、あの鎮守府を壊しに掛かろうか」

レ級「おっ! 良いね良いねぇ! 私もそろそろ頃合いだと思っていたんだよねぇ!」

下田提督「ククク。とことんお前とは気が合う」

レ級「そうだねぇ。もうさ、艦娘じゃなくて深海棲艦の提督になっちゃえば良いんじゃない?」

下田提督「自由に艦娘を●●なくなるだろ。却下だ」

レ級「ギャハハハハ!! そんな理由で提督やってるなんてねぇ! 本当、面白い人間だわ!」

レ級「んじゃまあ、楽しく殺して殺されよっかぁ!!」

…………………………………………。

477: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/02(火) 10:01:24.01 ID:Hk1ZnPxgo
コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

金剛「こんばんはデス」

提督「金剛か。そっちから来るとは珍しいな。どうした?」

金剛「変な話しデスが……なんだか会いたくなっちゃいまシテ」

提督「……そうか」

金剛「呆れちゃいまシタか……?」

提督「いや、少し意外だっただけだ。だが、本当に珍しい。ただ会いたくなっただけとは」

金剛「迷惑だったら言って下サイね?」

提督「迷惑なものか。気が向いたらいつでも来て良いぞ」

金剛「! ありがとうございマス!」

利根(……のう、飛龍よ。これはもうアレじゃよな?)ヒソ

飛龍(そうっぽいですよね。良い事……なんでしょうか? 提督のお気持ち次第だとは思うんですけれど……)ヒソ

利根(ちなみにじゃが、我輩は受け入れる準備は出来ておるぞ)ヒソ

飛龍(!! ……強いなぁ、利根さん)

提督(一体どんな内緒話をしているのやら……)チラ

提督「さて、三人ともここに居るだけでは暇だろう。特定のメンバーを集めて小さなお茶会でも開くか? 少し聞きたい事もある」

金剛「聞きたい事デスか?」

提督「ああ。それは全員が集まってから話そう。少し待っていてくれ。瑞鶴と響、そして長門を呼んでくる」スッ

金剛「……なるほど。──では、私はお茶を用意しマスね」

提督「ああ。頼んだ」

…………………………………………。

478: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/02(火) 10:01:50.04 ID:Hk1ZnPxgo
瑞鶴「──それで、下田鎮守府に何があったの? あ、この紅茶も美味しい」チビチビ

提督「ほう、察しが良いな」

瑞鶴「この面子よ? もう何かがあったっていうのは分かるわ」

長門「そうだな。とうとうあの愚か者が首にでもなったか?」

響「……むしろ、嫌な予感がするんだけど」

提督「その通りだ。下田鎮守府でレ級を確認した」

四人「!!!」

長門「待て!! なんだそれは!? 一体どういう事なんだ!!」バンッ

提督「言葉通りの意味だ」

響「……つまり、あの人は深海棲艦と手を組んだって事で良いのかな」

提督「状況的に見てそう考えても良いだろう。レ級の話は聞いているが、とてもこちら側に協力をするような奴だとは思えん」

金剛「……………………」

瑞鶴「……やっぱり、辛い?」

金剛「……ハイ」

長門(深く関わった者だからなのか、それとも未練が残っているからなのか……。金剛の事だ。恐らく前者だろう。……心優しいのか、それとも私がドライなだけなのか)

響「それで司令官、私達に何か聞きたい事があるのかな」

提督「ああ。下田の提督が深海棲艦と組む理由を考えて欲しいんだ。恐らくレ級から下田の提督へ誘いがあったと思うのだが、それを受け入れた理由がいまいち不明瞭だ」

瑞鶴「……ん? 考えるのは良いんだけどさ、提督さんはそれを聞いてどうするの?」

提督「対応を変えなければならない。脅されているのか、それとも率先してやっているのか……。もし脅されているのならば、いずれ艦娘を相手にする事も考えなければならない」

響「率先してやっていても同じじゃないのかな?」

提督「それは無いだろう。艦娘を使ってしまえば足が付く。そうすると後で総司令部に言い訳が出来なくなってしまう」

479: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/02(火) 10:02:19.65 ID:Hk1ZnPxgo
瑞鶴「なるほどね……。それで、受け入れたっていうより……たぶん自分から進んでやっていると思うわよ」

響「そうだね」

長門「間違いなくそうだな」

提督「……金剛もそう思うか?」

金剛「…………」コクン

提督「そうか……。では、どうして自ら進んでやっていると思った?」

瑞鶴「だって、なんか妬んでいそうだもん」

響「うん」

長門「ああ。間違いなくそうだろうな」

提督「ふむ……。妬むというのは私に対してだよな?」

瑞鶴「そうね。こっちに演習に来た時に、なんかそんな感じがしたし。提督さんを妬んで襲ってくるっていうのは考えられるわね」

提督「そうか。……しかし、妬みだけでこんなリスクの高い行動に出るのか?」

金剛「……あの方は、自分の思い通りにいかないと周りが見えなくなってしまいマスから」

提督「ふむ……では、本当に感情に任せた行動なのか」

長門「充分に有り得る……というよりも、それ以外に思いつかんな。あの愚か者は後先を考えない」

提督「ならば、基本的に向こうは我々に危害を加えるべく動いているという前提で対応しよう。ただ……そうではないという意思が見えた場合は救出するぞ」

瑞鶴「救出ねぇ……。なんだかすっごく不思議な感じ」

提督「不満か?」

瑞鶴「不満っていうか……似合ってない? あの人の場合は自業自得っていう感じが強くて……」

提督「……変わるものだな、瑞鶴」

瑞鶴「そこは艦娘も人も同じなのかもね。……まあそれに今は私、提督さんの色に染められちゃってるし?」

瑞鶴「……でも、本当はちょっと自己嫌悪してるんだけどね」

480: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/02(火) 10:03:01.27 ID:Hk1ZnPxgo
提督「……すまなかった」

瑞鶴「良いわよ良いわよ。たぶん、私もどこかで吐き出したかったんだと思う。むしろ、言わせてくれてありがとね」

提督「……そうか」

長門「…………それで、これからどうするのだ?」

提督「鎮守府内全員に招集を掛けて近い内に大規模な戦闘がある可能性を連絡する。幸い、装備は充実しているから後は心構えだけだろう」

飛龍「……………………」

飛龍(でも、なんだか嫌な予感がするんですよね……。なんだろう、この嫌な感じ……)

利根「防衛戦は好きではないのう……。海と違っていくらでも物資はあるが……こう、なんとも言えぬ感覚が──」

ドンドンドンッ──ガチャッ!

大淀「提督! 大変です!!」

提督「敵か」スッ

大淀「え──? は、はい!! 深海棲艦の軍勢が近くに来ています!」

提督「数はどれほどだ」

大淀「暗いので断定できませんが……最低でも五百は居るようです」

利根「五百じゃと!? 一人で七人相手にしなければならぬではないか!!」

提督「大淀、電信室で鎮守府内全域に緊急出撃命令を出せ。全員、兵装を確認した上で外へ出すんだ。そして周辺の灯台を全て使い、海へ向けて照らせ。この夜の中ではまともに戦えん」

大淀「畏まりました。……提督、ご無理だけはなさらないようお願いします」

提督「勿論だ。行け、大淀」

大淀「ハイッ!!」

タタタタッ──!

利根「では、我輩たちも行くとするかの。事は一刻を争う」スッ

提督「ああ。そうしよう」

金剛(……覚悟を、決めまショウ)グッ

…………………………………………。

486: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/12(金) 18:42:44.73 ID:gSxcb4P/o
下田提督『レ級……レ級、聞こえているか?』

レ級「はいはーい。どしたのテイトクさん?」

下田提督『我々にとってお待ちかねの戦争の夜だ……が、再確認するが、準備は万全だな?』

レ級「も、そりゃバッチリと! 装備も頭数も上々。しかも相手は鎮守府で身動きが取れないのに、こっちは自由に動ける……まあ、まさか海で攻城作戦をするとは思わなかったけどねぇ」

下田提督『相手は篭城するしかない。それを抉じ開け、大穴を空け、入り込んで破壊し尽くすのが今回の作戦だ。その作戦は何も問題無く進んでいるか?』

レ級「そうだねぇ……なんか灯台が光ってこっちを照らし始めたけどさ、壊しちゃって良い? アレ」

下田提督『破壊しろ。徹底的にだ。二度と使わせるな』

レ級「艦載機も見えるけど、どうしよう?」

下田提督『落とせ。マリアナの七面鳥のように』

レ級「その奥に居る艦娘は?」

下田提督『沈めろ。潜水艦は深海へ招待しろ』

レ級「で、最後にある鎮守府は?」

下田提督『爆破しろ!! 当然だ、不愉快極まる。欠片も残すな』

下田提督『目に付いた物は片端から壊し、目に付いた艦娘は片端から屠れ。存分に壊し存分に殺し存分に沈めろ。お前の目的の深海棲艦は自由だ。好きにすると良い』

レ級「まったく酷いもんだねぇ……仲間を売って仲間を甚振って仲間を殺そうとするなんてね」

下田提督『甚振るっていうのは瑞鳳の事か? アレはお前も壊しにいっていたじゃないか』

レ級「いやいや! 私には自分で自分の指を切り落とさせるなんて思い付きもしませんよぉ! ──あの時の表情は最高だったぁ……」

下田提督『ああ。途中で顔が絶望に染まって私に助けを求めなくなったのも良かっ──』

レ級「──おっとおっとぉ! そろそろ空中戦が始まるから、また随時指示を出してねぇ!! ……さあ、地獄の蓋を開けに行こうか」

下田提督『蓋などと言わず、地獄そのものを作ってしまえ。お前達は地獄の創造人だ。地獄を作り上げ、その地獄に奴らを引き摺り込み、その地獄で奴らに絶望を与える存在だ』

レ級「良いねぇ、ホント……。私よりもずっと深海棲艦しているよ。……あーあー! えっとぉ! 深海棲艦の諸君! 作戦を通達するから耳かっぽじって聞いてねぇ!!」

レ級「まずは陽動部隊が先遣隊として急行しよっかぁ! 付かず離れずの位置で戦って、ジリジリと後退しよう! 敵が誘いに乗ってきたら本隊の私達と一緒に殲滅!! 間違っても突出したりしないように! あいつらはこれまで以上に要注意しなくちゃいけないらしいからさ!」

レ級「さあ……無意味に殺して殺される戦いを始めよっかぁ!! ギャハハハハハァ──!!!」

…………………………………………。

487: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/12(金) 18:43:20.76 ID:gSxcb4P/o
大淀「!! 提督、緊急連絡が入りました。周辺に設置してあった灯台の一つが敵の砲撃により破壊されたとの事です」

提督「やはり長くは保たないか。戦線より下がった艦娘に照明弾を撃たせるとしよう。本当は吊光投弾が良いのだが、制空権が劣勢の状況では使えん」

大淀「はい、そうしましょう。撤退した中で射撃精度が一番高い五十鈴さんと名取さんに任せてよろしいですか?」

提督「いや、天龍と龍田に任せよう。早々に撤退してしまって悔しがっているはずだ。二人ならば射撃精度も充分にあるし、連携も取りやすいだろう」

大淀「分かりました。──妖精さん、船着場で待機している天龍さんと龍田さんに指示書を送ってもらって良いですか? ついでに、救護妖精さんとヲ級ちゃんに医療道具が足りない物があるか聞いてきて下さい」スッ

妖精「はーい。分かったなのー」テテテ

提督「……しかし、戦局が動かんな」

大淀「そうですね……。ですが、突いて下さいと言わんばかりの隙を提督は罠だと仰いましたけど、どういう事なのですか?」

提督「どう考えてもおかしいからだ。今までの深海棲艦はこんな統率された動きをしてきていない。ならば、何かがあると考えるべきだろう。そうだな……例えば、あれを抜けた先には潜水艦部隊が待ち構えているとか……な。もしくは島の影に敵の本隊が隠れているという可能性もある。その場合は私達の敗北が決定する所か、私の大事な子達が沈んでしまう。そんな事を、私は認めん」

大淀「なるほど……。確かにそうなってしまうと背筋が凍ってしまいます。……そして、私達を気遣って下さって、ありがとうございます」

提督「礼は言うな。それがこの鎮守府での当たり前の事であり、当然の事なんだ」

大淀「はい。やっぱり、ありがとうございますね。……それで提督、話を元に戻しますが、おかしくありませんか?」

提督「おかしい?」

大淀「はい。先ほど提督が仰ったように、どうして今回の深海棲艦はこんなにも統率されているのでしょうか? まるで、何者かが裏で指示をしているような動きです。ですが……もしそうであるのならば、一体誰がそんな事をしているのでしょうか……」

提督「……………………」

大淀「……提督?」

提督「……空母棲姫のようなタイプなのかもしれんぞ。あいつならば指揮を執っていてもおかしくないだろう?」

大淀「それはそうですが……もう一つ二つ分からない事があります。──まず一つは、なぜこの鎮守府を狙ってきたのか、という事です。これではまるで、何か目的があるかのような……」

提督「さてな……。そればっかりは分からない。本当に何か目的があるのか、それとも衝動的にやっている事なのか……。私にはあの二人以外の深海棲艦の考える事は分からんよ」

大淀「そうですよね……。では、もう一つの疑問です。提督、どうして逃げないのですか? 数の差は七倍以上。しかも統率が取れている……。状況は圧倒的に不利です。どう考えても提督ならば撤退をご指示なさる劣勢です。なのに、どうして今回はそうなさらないのですか?」

提督「…………………………………………」

大淀「……分かりました。言えない理由があるのですね」

提督「すまない……」

488: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/12(金) 18:44:06.42 ID:gSxcb4P/o
大淀「いえ、大きな事情がある事を教えて頂けただけでも充分です。私は……いえ、私達は提督を信じていますから」

提督「本当、私では勿体無いくらいに良い子達を持ったよ、私は」ナデ

大淀「ふふっ。──さて、提督。提督はこの状況をどう防衛しますか?」

提督「まずはこの現状を維持させる。動くのは空母棲姫の偵察報告を聞いてからだ」

大淀「そういえば先程、偵察を命じていましたよね。ですが……その、大丈夫なのですか?」

提督「どうだろうか。理由は不明だが艦載機運用に支障が出ているらしい。前にも動きが重いと言っていた事から、あの艦載機に何か問題があるのかもしれんな」

大淀「いえ、私が言いたいのはそういう事ではなく……」

提督「ふむ、そっちか。安心しろ。空母棲姫は確かに深海棲艦だが、私達に害を与えてはこないよ。私が保証する」

大淀「……信頼しているんですね」

提督「ああ。この短い間でさえ何度も助けられた。あいつが居なければ、私はこの場所に居ないだろうというくらいにな。それに、あいつは私を信頼してくれている。ならば私も信頼で返すべきだろう」

大淀「……本当、深海棲艦って何なのでしょうか」

提督「さあ、な……」

コンコンコン──

提督「空母棲姫か。入れ」

ガチャ──パタン

空母棲姫「艦載機を発艦してきたわ。まずはどの情報が欲しい?」

提督「そうだな。敵の陣形の状態と大まかな艦種の偏りを教えてくれ」

空母棲姫「鶴翼なのに、中央の数が少なくされているわ。アレは罠ね。奥の方に本隊らしき艦隊が隠れているのが見えたから、突っ込むと負けてしまうわね。艦種の偏りは……そうね、端に戦艦で中央に駆逐と軽巡が偏っているような印象かしら。ただ、ほとんど変わりはないわ」

提督「やはり奥に伏兵が居たか。本隊の戦力はどうだ?」

空母棲姫「正直、厄介ね。戦艦を中心とした水雷戦隊の塊よ。空母も多く控えていて、制空権争いも勝つ見込みは少ないでしょうね」

提督「……ふむ。なるほど。相手は私達を警戒し過ぎているか」

空母棲姫「ええ。そんな雰囲気がするわ。だからこそこうやって罠を仕掛けているのでしょうね」

大淀「凄い……。こんな夜にそんな詳細が分かるなんて……」

空母棲姫「……まあ、私は深海棲艦だからな。そんな事よりも、どうするのかしら? このまま放っていては、いずれ相手が痺れを切らして突貫してくるわよ」

489: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/12(金) 18:44:42.10 ID:gSxcb4P/o
提督「そうだな。正直、詰みに近い」

空母棲姫「嘘を吐いているのくらいは分かるわよ?」

大淀「!」

空母棲姫「貴方の事だもの。どうせ、今のように艦娘を過保護に扱うのではなく、駒として扱えば勝機も見えてくるのでしょう?」

提督「…………」

大淀「駒……なるほど、確かに駒として扱えば……ですが、それは……」チラ

提督「ああ。私の方針ではない。……だが、方法が無い事も無い。」

大淀「どのような方法ですか?」

提督「そうだな……。賭けにはなるが、この状況ならば或いは……」

提督「……………………決めた。奇襲を仕掛けるぞ」

空母棲姫「奇襲……? この状況でどうやってですか?」

提督「前線の人数を少なくして戦線を下げる。その間に海岸線を伝って、敵陣の真横から攻撃する」

大淀「……前線が崩壊してしまいませんか?」

提督「だからこその賭けになり、駒として扱う事となる。……上手くいけば誰一人欠ける事無く相手を殲滅する事も可能だろうが、上手くいかなければこちらは全滅するだろう。……今の所、これが一番安全かもしれん」

提督「奇襲に回す数は九隻だ。金剛型の四人、大井、北上、川内型の三人で敵左翼を攻撃する。敵もまさか陸から移動して真横から殴られるとは思うまい。そこで混乱を起こさせて九人に注意が向いた所で強襲し、敵左翼を殲滅する。先制は軽巡五人の魚雷を一斉発射。魚雷到達と同時に全員で砲撃開始。……問題点があれば言ってくれ」

大淀「やはり前線が崩壊してしまう危険性が極めて高いです。火力の低下が著しくありませんか?」

空母棲姫「いえ、その点に関してはまだどうにかなるでしょうね。相手は異様なほど警戒をしてます。本来ならば陣形さえしっかりしていれば数の暴力で落とせる数なのに、そうしてこないというのは明らかに警戒のし過ぎで削り殺そうとしている状況よ。前線自体は崩壊しないはず。むしろ陸に注意がいかないかと心配してしまうわ」

大淀「それでしたら、工廠で保管している艦載機の半分を使って多少でも爆撃を仕掛けるのはどうでしょうか? 少しでも注意を逸らす為には良いかと。」

提督「そうだな。それが良い。だが、艦載機……いや、戦闘機は全て使うぞ」

大淀「全て……ですか?」

提督「ああ。第一次攻撃部隊はほぼ全ての戦闘機を使い、もし作戦が成功したならば、そのまま第二攻撃部隊と連携を取って敵の本隊を叩きに行く」

大淀「いくら全ての戦闘機を出すとしても、敵の艦載機の数も多いので制空権が取れるとは思えないのですが……何か考えでも?」

提督「出す戦闘機の七割を爆装させて爆撃機と錯覚させる。迎撃しようと昇ってきた敵機を殲滅するという作戦だ」

空母棲姫「なるほどね。大量の爆撃機が来れば慌てて昇って迎撃しようとするわ。でも実際は戦闘機だから、昇ってきたばかりで遅い飛行の相手が勝てる訳もない……そうすれば制空権を取れる訳ね。どんなに悪くても優勢にはなるでしょう」

提督「そういう事だ。どうだ?」

490: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/12(金) 18:45:10.84 ID:gSxcb4P/o
大淀「……賛成します。そうでなければ、私達に待っている未来は全滅です!」

空母棲姫「今言っていた方法で制空権を取って追い払うというのはダメなのかしら」

提督「今の状態で制空権だけを取っても、自棄を起こされて全軍突撃なんてされてはマズい。やるならば相手の戦力を大幅に削ってからだ。それならば勝機がハッキリと見えてくる」

空母棲姫「そういう事でしたか。それならば私も賛成します」

提督「では、作戦を通達しよう」カチッ

提督「……全艦娘に指示を与える。まず──」

────────────

下田提督「奇襲を受けただと!? そんな馬鹿な!! どこからだ!?」

レ級『陸からだな……。奴ら、艦娘を陸で移動させて横殴りしてきたようだ。左翼は全滅。反射的に反応したこちらも陣形を崩して烏合の衆となり、先遣隊の八割が壊滅した』

下田提督「ちっ……! 敵の被害は!!」

レ級『大破が十数隻といった所か。残念ながら撃沈には至っていない』

下田提督「くそ!! こうなれば数で押し潰すぞ!! 艦載機を全機発艦して空から絨毯爆撃しろ!!!」

レ級『……了解した』

────────────

空母棲姫「敵、艦載機を大量投入! 如何なされますか?」

提督「防空体制だ。防空射撃後に戦闘機で迎撃だ。大淀、大破した艦娘には『逃げる事だけに集中して、必ず母港へ帰投せよ』と、もう一度強く後押ししろ。これは思ったよりも楽に進むぞ」

大淀「はい!!」

────────────

レ級『航空隊が壊滅した』

下田提督「どういう事だ!? いくらなんでも壊滅するなどおかしいだろ!」

レ級『防空射撃による荒削りの後、戦闘機部隊によって壊滅された。……恐ろしい奴だ。先ほどの爆撃機に偽装していた戦闘機をまだ隠し持っていたとは』

下田提督「くっ……!! そうとなれば、捨て身で攻撃させろ!! こっちは何隻かがあいつの母港の近くまでいければ勝ちなんだ!! 潜水艦部隊には敵戦艦を狙うようにしろ!」

レ級『……そうだな。そうしよう』

────────────

491: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/12(金) 18:46:27.26 ID:gSxcb4P/o
大淀「敵本隊が高速で接近! ソナーに大量の感あり!!」

提督「戦線を下げろ! 引き撃ち体制!! 爆雷、広範囲投下!! 空母は航空支援爆撃用意!!」

大淀「ダメです! 敵艦処理しきれません!!」

提督「直掩機のみ残し、全艦載機は雷撃爆撃装備!! 敵中核、狙え! 水雷戦隊、前方の敵のみ集中迎撃!! 目標、大破以外の敵艦のみ!」

空母棲姫「長門、比叡、夕立、大破! 長門のみ依然として戦闘中!」

提督「長門、命令だ下がれ!!」

長門『バカを言え!! こちらの味方艦隊は金剛と軽巡と駆逐艦のみで──!』

提督「下がれ!! 比叡、夕立、長門を牽引しろ!」

長門『だがっ……!!』

空母棲姫「榛名、霧島、直に戦線へ復帰!」

提督「榛名、霧島が戦線へ復帰する!! だから下がれ!!」

長門『……了解、した』

提督「後で吊るす。覚悟しておけ。──榛名、霧島! 三人の掩護を!! 必ず逃がせ!!」

────────────

レ級『……状況は劣勢。さあ、どうする』

下田提督「ちっ……!! 数の暴力で勝てるはずが……!!」ガンッ

レ級『…………なあ、テイトクさん』

下田提督「なんだ!!」

レ級『あいつら、さっき面白い事をしていたよねぇ? 陸から奇襲するってさぁ』

下田提督「それがどうし──いや、ほう……なるほど」ニヤ

レ級『ついでにあの瑞鳳って艦娘さ、もう自分の意志すらあやふやになってるから剣と盾には丁度良いんじゃないかなぁ?』ニヤ

下田提督「くっ……くくくくっ……! ならば、瑞鳳の命令の為に私も横須賀へ向かおう。あいつらが勝利を手にして、油断しきった所で満身の力を籠めて叩き付けてやる」

レ級『アハハハハハァァッ!! 良いじゃん! 最っ高な作戦だよぉ!!』

下田提督「くくく……覚悟しておけよ、横須賀の連中め……!」

…………………………………………。

497: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/25(木) 21:51:50.74 ID:+KnFEa/ao
空母棲姫「──利根戦隊の左舷方向に居る深海棲艦が最後よ。それで殲滅完了ね」

提督「利根戦隊、左舷に敵が見えるはずだ。それで全てが終わる」

利根『了解した! ──艦隊、左舷方向の敵を叩くぞ! 索敵、始めー!』

提督「利根艦隊を除く全ての艦娘は哨戒しつつ鎮守府へ帰投しろ。大破した艦娘は利根艦隊の帰投を問わず入渠して構わない。……皆、よく頑張ってくれた」

提督「……空母棲姫、周辺の状態はどうだ」

空母棲姫「……だいぶ静かになったわ。利根の向かっている敵を除けば、いずれ沈む敵がいくつか見えるくらいね」

提督「…………そうか」

空母棲姫「何か気になる事でもあって?」

提督「私はまだ、あのレ級を仕留めたという報告を聞いていない」

大淀「そういえば確かに……」

空母棲姫「……ごめんなさい。見逃してしまっていたわ」

提督「いや、責めている訳ではない。あんな状態で常に監視する方が無理だ。むしろ、お前は良くやってくれていただろう? お前が居て、常に状況を教えてくれていたからこそ私達は誰一人として失う事無く生き抜けたんだ」

空母棲姫「ですが……」

提督「納得しなければ、納得するまで続けるぞ」

空母棲姫「もう……」

大淀(……困ってはいますが、嫌ではなさそうですね)

提督「さて、空母棲姫にはすまないが、レ級の捜索をしてくれ。嫌な予感がする」

空母棲姫「分かりました。…………ん?」

提督「どうした?」

空母棲姫「いえ……なんだかやけに艦載機の操作が重くて……」

大淀「疲れが出てきたのでしょうか……? 先ほどまでずっと戦場の状況報告をしていらっしゃっていましたし」

498: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/25(木) 21:52:26.17 ID:+KnFEa/ao
空母棲姫「確かに疲れはありますが……それにしても妙な感覚です。今まで手に持っていた物が、まるで霧になっていっているような……」

提督「……空母棲姫、ここで作戦を休止する。まずは休憩を取れ」

空母棲姫「いえ、それには及びません。疲れとは言っても多少です。……こんな感覚は今まで初めてなので、もう少し調べておきましょう。何が原因でこのような症状が出ているのかを究明する必要もあります」

提督「……………………大淀、間宮のアイスクリームの手配を。五分くらいは休憩を与えたい」

空母棲姫「その五分すら今では貴重よ。他の策が欲しいわ」

提督「ならばヲ級と交代だ。ヲ級も夜目が……いや、確かヲ級はあの艦載機が使えなかったか」

空母棲姫「ええ。意識の連結が出来ないと言っていました。この鎮守府でこの艦載機を使えるのは私だけです」

提督「……やはり作戦を休止だ。お前に何かがあってからでは遅い」

空母棲姫「……………………」

提督「……空母棲姫?」

空母棲姫「待って。今、鎮守府の近くで何かが動いたわ」

提督「敵か?」

空母棲姫「──いえ、艦娘ですね。確かあれは……瑞鳳という子だったでしょうか。ボロボロの状態です」

大淀「瑞鳳……? この鎮守府には居ないはずですが……」

提督「……キナ臭いな」

大淀「え?」

提督「空母棲姫。瑞鳳が現れたのはどこからだ?」

空母棲姫「南西の方角ですね。海ではないわ」

提督「どんな様子だ?」

空母棲姫「心ここに在らず……かしら。歩くのも辛そうよ」

提督(……南西の方向には下田鎮守府がある。そして、歩くのも辛そうにしている、と……。私の思い過ごしか……?)

提督(それに、金剛や瑞鶴、響と同じように逃げてきたのかもしれないのか……)

499: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/25(木) 21:52:54.19 ID:+KnFEa/ao
提督「……逃げ出してきた可能性もあるな」

空母棲姫「下田鎮守府からですか?」

提督「ああ。もしかしたら、下田の提督に異議を申し立てて暴行されたのかもしれん」

大淀「逃げ出してきたって……そんな事、あるのでしょうか。艦娘が提督から離れるだなんて……」

提督「通常では考えられんが、あの鎮守府は悪い意味で常識が通じん。何があってもおかしくない。実際に長門の件もある」

大淀「では、介抱しましょう! 逃げ出してきたのであれば、助けてあげるべきです!」

提督「それは少し待ってくれ。──空母棲姫、瑞鳳の来た方角を詳しく調べてくれ。何か居るか?」

空母棲姫「……いえ、何も見えないわ。せいぜい野良猫が瑞鳳を警戒して見ているくらいね」

提督「ふむ……。ならば助けるぞ。大淀、後の事は頼む」スッ

大淀「はい。お任せ下さい」ピシッ

提督「そして、空母棲姫は休め」

空母棲姫「……それは…………」

提督「……命令だ。休みなさい。お前は充分すぎるくらい働いてくれたんだ。身体を壊してしまえば元も子も無いぞ?」ナデ

空母棲姫(……最近、こうやって撫でられるのが心地良くなってきました)

空母棲姫「……もう。分かったわ。艦載機を工廠へ戻しま──!?」

提督「どうした?」

空母棲姫「……そんな。一体どうして……?」

大淀「何かあったのですか?」

空母棲姫「……艦載機との連結が消えました」

提督「墜とされたのか?」

空母棲姫「いえ、そうではありません。完全に操縦が出来なくなりました……。どんなに頑張っても、意識の再接続が出来ません……」

500: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/25(木) 21:53:21.29 ID:+KnFEa/ao
大淀「やはり、無理をし過ぎたのでは……」

空母棲姫「……そう、なのでしょうか。こんな事、今までどんなに疲れていても無かったのですが……」

提督「一度、救護妖精に診て貰え。何か分かるかもしれんぞ」

空母棲姫「……そうします」スッ

大淀「それにしても……随分と落ち込んでいますね。どうしてですか?」

空母棲姫「…………私の数少ない提督に出来る事が、一つ無くなったからです……。私はそれ以外だと、家事の他は何も出来ないのに……」トコ

大淀(ああ……提督の言っていた事が今ならば分かります。この人は、確かに信用できます)

提督「家事だけとは言うが、その家事も大変なものだろう。何も気に病む必要は無いぞ」

空母棲姫「ごめんなさい……それは出来そうにないわ……。少し休んでから救護妖精へ訪ねます……」

カチャ……パタン……

大淀「……相当に堪えてますね」

提督「ああ……。今はそっとしておいてやろう。──私はその間に瑞鳳を救助する。何か異変があれば、お前の判断で皆に指示を出してくれ」

大淀「……………………」

提督「……大淀?」

大淀「提督、お一人で行かれるのですか?」

提督「ああ。みんな疲れ切っているだろう。そんな状態の子達へ更に仕事を増やす訳にはいかん。それに、話を通すならば私の方が適している」

大淀「なるほど。畏まりました。皆の事は私にお任せ下さいませ」

提督「ああ。頼んだぞ」

…………………………………………。

501: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/25(木) 21:53:48.82 ID:+KnFEa/ao
提督(さて……下田への方向はこっちだが……)キョロ

瑞鳳「…………」フラ

提督(居た。……本当に焦燥してしまっているな。まるで亡者のようだ)

提督「そこに居る艦娘。こんな所でどうした?」

瑞鳳「…………!」

提督「…………」

瑞鳳「…………」ボー

提督「……大丈夫か?」

瑞鳳「……………………は、い……」

提督(大丈夫ではないようだ……。運ぶとするか)

提督「こっちに横須賀鎮守府がある。そこでゆっくりと休もうか」

瑞鳳「…………」

提督(……あの島で会った時の金剛を思い出すな。やはり、下田から逃げ出してきたのだろうか)

提督「ほら、こっちへおいで」

瑞鳳「…………」フラフラ

提督「…………」

瑞鳳「……貴方が……横須賀の、ていと、く……さん?」

提督「ああ」

瑞鳳「……良かった」フラ

ギュゥ……

提督「……む?」

瑞鳳「──捕まえました」グイッ

提督「なっ!?」

ドサッ──!

502: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/25(木) 21:54:16.22 ID:+KnFEa/ao
提督「捕まえただと……!? まさか──!!」

下田提督「そのまさかだよ」ザリッ

レ級「ハハハハァ! 上手くいったもんだ!」

提督「……なるほど。この子は囮だったという訳か」

下田提督「そういう事だ。慈悲深く仲間想いと評価されている貴様の事だ。疲れた艦娘は休ませておいて、貴様一人で来ると思ったよ」

提督「……よく索敵から逃れてここまで近付けたものだ」

下田提督「お前の所の深海棲艦が偵察機を飛ばしているのは分かっていたからな。充分に注意と警戒をして隠れながら来させて貰った。山の中を歩くのは疲れたぞ」

提督(ちっ……だから上空からは見えなかったのか……。いや、それよりも時間を稼ぐ事を考えよう。長時間戻らなかったら、誰かが異変に気付いてくれるはずだ)

提督「……この子の状態が普通ではないが、何をしたんだ」

下田提督「ただ従順になるよう躾けてやっただけだ。非常に楽しませて貰ったがなぁ」

レ級「内臓を直接掴まれる苦しみって喉が潰れるまで叫ぶほどらしいよぉ! 痛みで身体中が痙攣していてさぁ? 油ぶっかけて身体に火を点けても苦しむのが最初だけになるくらい気力も無くなってたねぇ」

下田提督「だが潰すのはどうなんだ? 殺してしまったのかと思ったぞ」

レ級「だーいじょうぶだって! ほら、あの高速修復材っていうの? 背骨以外の大抵の怪我なら全快させてくれるらしいじゃん? まっ! 流石に片肺をぐちゃぐちゃにした時はやり過ぎちゃったと思ったけど。ギャハハハハ!!」

提督(……惨い事を。身体を壊され、そして元通りに直され……それの繰り返しをされたのか)

提督「私をどうするつもりだ。さっき言ったように相当警戒するくらいだ。何か目的があるんだろう」

下田提督「ああ、それだけどさ……アンタ、目の前で自分の大切な子が苦しむ姿ってどう思う?」

提督「……………………」

下田提督「貴様には、助けを求める貴様の艦娘が好き勝手にされる所を見せてあげたいんだ。当初の予定はどんどん沈めて精神を磨耗させた状態でやるつもりだったんだが、よくよく考えたら一人一人を丁寧に殺してあげた方が苦しいだろ?」

提督「…………」

下田提督「ちっ……何か言ったらどうだ? あ?」ガッ

提督「……さあな。案外、眉を顰めるくらいかもしれんぞ」

503: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/25(木) 21:54:42.70 ID:+KnFEa/ao
下田提督「ほーん……? じゃあ、ちょっと動くな。レ級、こいつが動いたら腕を吹き飛ばして良いぞ」

レ級「あいよ」ジャキッ

下田提督「瑞鳳、お前の腰帯を使ってこいつを縛り上げろ。縛られ慣れたお前なら、逃げられない縛り方も知ってるだろ」

瑞鳳「はい……提督……」

シュル……ギュゥゥ……!

下田提督「仰向けに寝転がして、その上に座れ」

提督(なんだ……? 何をする気だ……?)

下田提督「瑞鳳、これが分かるな? いつも通りにやるんだ」ポイ

チャリッ──

提督(短刀……)

瑞鳳「……は、い」スッ

提督「…………」

瑞鳳「…………!!」ザクッ

提督「!!!」

提督(自分で自分の足を刺した……!? 何をしているんだこの子は!!)

瑞鳳「っ、ぁ……! い……っ!」ザクッ

瑞鳳「ぅあ……、は……っぐ…………!!」ザクッザクッ

瑞鳳「あ゙ッ……っう……ギ……っ……! ん、うぅ……!!」ズグッズシュッズリュッ

瑞鳳「あ…………ぁ、ぅ……」グジュ

提督「…………ッ」

提督(自分の肉がぐちゃぐちゃになるまでメッタ刺しにするとは……。これが『いつも通り』だと……?)

504: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/25(木) 21:55:09.28 ID:+KnFEa/ao
下田提督「どうだ、瑞鳳? 今、どんな気分だ?」

瑞鳳「き、もち……良い、で……す……」ニコ

下田提督「そうかそうか。お前はそれが『大好き』だからなぁ」

提督(……こんなに痛みを堪え、消え入りそうな声で、無理矢理に言わせられているのか……この子は)

提督(…………私の服に染みたこの子の血が、生温かい……。この温かみの分だけ、この子は死に向かっている……)

レ級「んー、ちょーっと物足りないなぁ」グチャ

瑞鳳「ッッあァアア!!?」

提督「っ!!」

レ級「そうだ! その表情だ!! うーん、良い表情だぁ。苦痛に歪んだ端麗な容姿……最高だねぇ。赤く滴る肉も手触りが良いし、ホント最高だよ、君ぃ!」グジュッミチッ

瑞鳳「ああッ!!? ギ、いァ……ッ!! ひ、ぅッ……ぐぅッ……!!」

提督「……………………!」

レ級「あれあれぇ? どうしたのかなぁ? 他人の艦娘ですらそんなに険しい表情になるんだ?」

下田提督「くっふふははははッッ! こんな調子だったら、貴様の艦娘に同じ事をさせた時はどうなるんだろうなぁ! ハハハハ……楽しみだ……!」

提督(……狂人どもめ)

…………………………………………。

505: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/25(木) 21:55:37.89 ID:+KnFEa/ao
金剛『──テートク?』

金剛「え?」

比叡「? どうかしましたか、金剛お姉様?」

金剛「あ、いえ。何でもないデース」

榛名「お身体が優れないのでしたら、すぐに救護妖精さんの所へ行きましょう?」

霧島「あれだけの戦闘の後です。こうして休んでいるとはいえ、身体は大事にして下さいね、金剛お姉様」

金剛「……ハイ。ありがとうございマ──」フラッ

三人「!!」

金剛「っ?」

金剛(……勝手に入れ替わった? ナゼ? ……シスター、聞こえますか?)

金剛『ハ、ハイ。いきなりでビックリしたデス。デモ、私もナゼ急に入れ替わったのか分からないデス……』

金剛(……この事は後で考えまショウ。今は、テートクの所へ行くべきデス)スッ

比叡「……金剛、お姉様?」

金剛「……ごめんなさい。少し、やらなければならない事が出来ました」タッ

比叡「!!」

榛名「あ……! ……行ってしまいました」

霧島「…………今の喋り方は……」

榛名「はい……。偶然、でしょうか……」

比叡(あの喋り方は……私の知っている……)

…………………………………………。

506: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/08/25(木) 21:56:04.36 ID:+KnFEa/ao
利根「…………」

響「? どうしたんだい、利根さん?」

利根「……胸騒ぎがするぞ」

雷「敵艦、撃沈したわ……。もうヘトヘト……」

暁「最後に残ってるのが戦艦だったなんて聞いてないわよ……」

利根「…………」ジー

電「……あの、利根さん?」

利根「すまぬ。我輩はやる事が出来たのじゃ。各自、帰投して良いぞ」ザァッ

雷「え? ……利根さんが艦隊を放置して持ち場を離れるなんて、初めてじゃないかしら」

電「なのです……。何かあったのでしょうか……?」

暁「とりあえず戻りましょ……。燃料も弾薬も気力も無くなっちゃった……」

響「……………………」

暁「? 響、どうしたの?」

響「ごめん。私は利根さんについて行くよ。先に帰ってて」ザァッ

電「あ……。どうしちゃったのでしょうか……」

雷「分からないわ……。でも、帰って報告をしなくちゃ」

暁「もう……。戦闘毎の無線周波数を知ってるのは旗艦だけなのに……自分の足で報告するなんて疲れちゃうわ……」

電「き、きっと何か重要な事があったのです」

暁「だったら説明してくれたって良いのに……」

雷「何があったのかしら……」

…………………………………………。

514: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/08(木) 10:05:32.49 ID:5k9vU8eHo
金剛「ハッ──ハッ──ハッ──」タタタ

瑞鶴「あ、金剛さんおかえ……?」

タタタタタ……

瑞鶴「……あんなに急いで、何かあったのかしら。なんだか必死な表情だったし」

瑞鶴「向かった方角は……………………ん……?」

瑞鶴(あっちって確か……下田がある方だったかしら。……偶然? それとも……?)

瑞鶴(……こっそりついていってみよ。何も無かったら良いんだけど……)タタッ

…………………………………………。

515: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/08(木) 10:06:03.33 ID:5k9vU8eHo
瑞鳳「あ……ぁ……っ」ビクッビクンッ

レ級「うぅーん、楽しかったぁ」

下田提督「良い顔だったぞ、瑞鳳。やっぱりお前は最高だ」ニヤァ

瑞鳳「あは……はは……」ビクッ

提督(……………………)

レ級「──あ。そういや私達ってこいつの鎮守府に向かってたんだっけ」

下田提督「そうだったな。こいつらの表情が面白くてついつい時間を掛けてしまった」

提督(…………胸糞が悪い……馬鹿げている……。そもそも、なぜ私は……)

下田提督「……ん?」

提督(心のどこかで、この下衆を羨ましく……)

下田提督「ふぅーん……? なんだ。貴様も俺と同類だったのか?」

提督「悲しい事に、人類という点では同類だろうな」

下田提督「そんな事を言ってるんじゃあないんだよ。お前さぁ? 死に掛けているこいつに、自分がどんな目で見ていたと思ってんだぁ?」

提督「さあな。鏡でもあったのならば分かっただろう」

下田提督「自覚しているくせになぁ。──お前、一瞬だけ笑っていたぞ。このまま放置すれば死ぬこいつを」

提督「そうか。興味が無いな」

下田提督「まあ、後で同じ事をさせてやるさ。そうすれば箍も外れるってもんだろ?」

提督「とことん救えない奴だよ、お前は」

下田提督「そいつはどうも。少なくとも、仮面を被り続けているお前よりかは人生に悔い無く生きているつもりだよ」

提督「……………………」

レ級「あーあー。えっとぉ! そろそろ出発して良いかな? いい加減、動かないとヤバイかもしんないからさ」

516: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/08(木) 10:06:31.08 ID:5k9vU8eHo
下田提督「ヤバイ? 何かあったのか?」

レ級「この人間が帰って来ないという理由で捜索でもされたら面倒だ。こんな場所だといつ奇襲を受けるか分からないからさぁ」

下田提督「なるほどな。ならば行くぞ」

瑞鳳「…………」

下田提督「おい瑞鳳、さっさと……っと、そうだった。お前は動けないんだったな。──レ級、修復材は持ってきているか?」

レ級「そりゃ勿論! なんとなくこうなるのは予想していたしねぇ」スッ

バシャァッ!

瑞鳳「っ……!!」

下田提督「これで動けるだろ。行くぞ。絶対にそいつを放すなよ」

瑞鳳「はい……」ギュ

下田提督「ほら、お前も立て」

提督「…………」スッ

レ級「言っとくけど、妙な真似をしたら吹き飛ばすから注意しようねぇ。──吹き飛ばすのはそこの艦娘だけど」ジャキッ

提督(ちっ……。そういう部分も調査済みか……?)

下田提督「さてと……これで準備は整った。後はお前とその艦娘、そしてお前の深海棲艦を玩具にするだけか」

提督「やってみろ。その時は亡霊となってでも呪い殺してやる」

下田提督「言ってろ。俺は今まで幽霊だのなんだの見た事無いんだ。──なあレ級。やっぱりまずは深海棲艦からぶっ殺すのが先で良いよな?」

レ級「そうしてくれるとありがたいねぇ。いつ逃げるか分かんないし、能力的にも艦娘以上だから奇襲なんてされたくないしね」

下田提督「ならばそうしよう。くくく……楽しくなってき──」

金剛「──提督!?」ザッ

レ級「ほう」ジャキッ

金剛「ッ!!」ピタッ

517: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/08(木) 10:06:58.02 ID:5k9vU8eHo
レ級「賢い艦娘だねぇ。この状況をもう理解しちゃうなんてさ。お姉さん嬉しくて感動しちゃいそうだよ」

金剛「…………」チラ

下田提督「……全く。こんな所で邪魔が入るとはな。おい、お前は何も喋るなよ」

提督(そういう所はしっかりとするか。……さて、どうするべきか)

金剛『…………テートク……本当に……』

金剛「……………………そうですか。貴方が下田の提督ですね」

下田提督「へぇ。俺の事を知ってるんだ? ……ま、それはどうでも良いか。お前に命令があるんだ」

金剛「……命令?」

下田提督「ああそうだ。とりあえず、こいつの命が惜しければ今から言う命令に従え。──鎮守府へ戻って、匿っている深海棲艦を連れてこい。あと……そうだな、駆逐艦も三人くらいな」

金剛「命令に背けばどうなりますか」

下田提督「その時はお前の大事な提督の首がバラグチャになるだけだ」

レ級「ま、そう言う事。安っぽい言い方だけど、あの深海棲艦は消えて貰わなきゃいけない……。こちらの情報を流されると面倒だしね。それに『裏切り者には死を』っていうのが世の常だし! ギャハハハハッ!!」

金剛「……選択肢は無いという訳ですか」

下田提督「ふぅーん。理解が早いな、お前は。俺の金剛もそれくらいだったら楽だったんだろうなぁ」

金剛『っ……』

レ級「……………………」

下田提督「んじゃ、早速行って……なんだレ級? 余所見をするな」

レ級「……そこの木の陰に隠れている君ぃ! 撃たれたくなかったら大人しく出てこようっかぁ!」

下田提督「んん?」

瑞鶴(……なんで分かったのよ、こいつ。……ううん、それよりも……この状況ってどういう事なの?)スッ

金剛「瑞鶴……? どうしてここに?」

瑞鶴「金剛さんが走っていってるのを見て、なんとなく……」

518: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/08(木) 10:07:25.40 ID:5k9vU8eHo
レ級「…………」ジャキン

下田提督「……おい、今度はどっちに砲口を向けているんだ」

レ級「……どうやら時間を掛け過ぎたようだ。こちらからも艦娘らしき何かが来ている」

下田提督「ちっ……面倒な……」

レ級「提督、予定変更を提案する。一人を除いて、先に艦娘を処理するべきだ。人質が居るとはいえ……この数の差は少々、分が悪い」

下田提督「そうするべきだな。──隠れている艦娘! 出てこい!」

提督「!」

利根「──我輩は隠れてなぞおらんのだがのう」スッ

響「これは……」スッ

レ級「へぇ……驚いたよ。生きてたんだ」

利根「あの時は世話のなったのう、レ級よ」

下田提督「なんだ、知り合いか?」

レ級「まあ、ちょーっとね。やっぱり頭を潰しておくべきだったかねぇ」

利根「では、あの時の借りを返そうかのう」ジャキン

下田提督「おいおい、これが見えないのか? 下手な事をしてみろ。お前らの提督が無残な姿になるぞ」

利根「ふむ。それがどうしたのじゃ?」

下田提督「何……?」

レ級「ほう……」

瑞鶴「利根さん……?」

利根「この状況で提督が下す命令くらい分かるぞ。提督ごとお主らを亡き者にせよって所じゃろう」

下田提督「艦娘が人間を殺すだと? バカバカしい!」

利根「お主のどこが人間なのじゃ。艦娘を攻撃し、沈めようとし、鎮守府さえも標的とする……やっておる事は深海棲艦と変わらぬではないか。我輩たちの提督は、そんな輩を放っておくような者ではないぞ」

響「……なるほどね。確かに利根さんの言う通りだ」チャキッ

金剛「……ええ。テートクならば、そう言うでショウね」ジャキッ

下田提督「……………………」

レ級(さあ……面白い事になってきた。提督、この状況をどうする──?)

…………………………………………。

525: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/26(月) 23:28:48.29 ID:ZyK9hbAvo
空母棲姫「……ハァ」

空母棲姫(私は……これからどうやって役に立てば良いのかしら……)チラ

空母棲姫「……この艦載機だけが、私の取り得だったのに」

空母棲姫(意識の連結が切れる寸前に反転させたから一機だけ回収する事が出来たけれど……私はもう、この子を扱う事が出来ないのよね……)

空母棲姫「どうして……いきなり……」

ヲ級「姫、元気、出して?」テテテ

空母棲姫「! ……手当てはどうしたのかしら?」

ヲ級「あと、一人だけ、だよ」

空母棲姫「なら、その子の手当てをしてあげなさい。私に構っている暇なんて無いでしょう?」

ヲ級「今から、手当て!」チョコン

空母棲姫「…………どういう事なの?」

ヲ級「姫、辛そう。だから、お悩み、相談?」

空母棲姫「────────」

ヲ級「……ダメ?」

空母棲姫「……そうね。だったら、少しだけ聞いて貰えるかしら」

ヲ級「うん!」

空母棲姫「…………」

ヲ級「…………」ジー

空母棲姫「……私は、この鎮守府に居させて貰えるだけの役割を果たそうと考えていたの。──いえ、今でもそう思っているわ」

ヲ級「…………」コクコク

空母棲姫「本来ならば、貴女も私も沈められていておかしくないでしょうね。艦娘からも深海棲艦からも敵という立ち位置の私達を、あの人は救ってくれた……その恩は、何かの役に立ち続けるという事で返せる、はずだった」

ヲ級「…………」

526: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/26(月) 23:29:14.17 ID:ZyK9hbAvo
空母棲姫「……私は、貴女みたいに愛嬌を振り撒けないから他の皆とも接点が少なくて、貴女ほどに料理も出来ない。私が出来る事と言えば、自慢だった艦載機運用能力を使った広範囲の索敵と料理の手伝いだけ……。その艦載機も使えなくなった今、やれる事が少ないの」

空母棲姫「料理の手伝いと掃除……あとは精々、小間使いみたいな事。私が居なくても、問題の無い程度の事だけ……。だから、私にとって艦載機は重要だったわ。少なくとも偵察としての役割は果たせていたもの」

空母棲姫「それ以外では何をしようにも、あの人の役に立ちそうな事はほとんど無くて……出来る事をしようにも『深海棲艦』である私は邪魔にしかならない」

空母棲姫「艦娘で在りたかった……。そうならば、私は皆と同じく役に立てたでしょうに……。深海棲艦だから……本来は敵だから、口出しも、行動も許されてはいけない部分があるわ。その部分が、私の出来る事だというのだから現実は非情ね……」

空母棲姫「だから今回の迎撃作戦は、本当に嬉しかったの。もう届かない水底に沈んでしまった、二度と訪れるはずのない『艦娘としての悦び』を、あの人は与えてくれた。だというのに……」

ヲ級「…………」

空母棲姫「……ごめんなさいね。少し吐き出し過ぎてしまったわ」

ヲ級「姫、大丈夫、だよ?」

空母棲姫「貴女は優しいのね」ナデ

ヲ級「ホントの、コト! だって、提督は、姫の事すっごく、頼りにしてる!」

空母棲姫「…………」

ヲ級「じゃないと、今回、一番大事な偵察、姫に頼まないよ?」

空母棲姫「……………………」

ヲ級「それに、提督は何か、考えてくれてるよ、きっと。姫が落ち込まないように、ね?」

空母棲姫「……そうね。あの人も優しいから、きっと何か考えてくれるでしょうね」

ヲ級「それに、姫からも何か、聞こ? 自分だけじゃ、無理だったら、人に聞くと良いって、間宮さんも言ってた!」

空母棲姫「……ええ。本当にそうね。どうして私はそう考えなかったのかしら」

ヲ級「じゃあ、早速、聞きに行こ!」スクッ

空母棲姫(……救護妖精へ聞きに行くのは後日にしておきましょうか)スッ

ヲ級「提督、確か、ずいほー? って人、迎えに、行ったよね?」

空母棲姫「ええ、そのはずよ。……それはどこで聞いたの?」

ヲ級「大淀! 提督に、会いに行ったら、そう言ってた!」

空母棲姫「なるほどね。……まだ戻っていないのかしら」

ヲ級「たぶん? あ。じゃあ、迎えに、行こ!」

空母棲姫「そうね。そうしましょう」

空母棲姫(……提督は、私にどんな言葉をくれるのでしょうか。少しだけ怖くて、少し……そう、少しだけ……楽しみです)

…………………………………………。

527: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/26(月) 23:29:39.42 ID:ZyK9hbAvo
下田提督「はー……面倒くせぇ……。レ級、勝算はどのくらいだ?」

レ級「四割といった所かな。こりゃ参るねぇ」

下田提督「ちっ……まさかこっちが多勢に無勢にされるとは……」

利根「さて……提督にこのような事をしたのじゃ。ただでは済まさぬぞ」

下田提督「あーくっそ……分かった分かった。ここで殺される訳にはいかねえんだ。どうすりゃ良い」

利根「命は惜しいか。では、まずは提督を解放する事じゃな」

下田提督「馬鹿かてめーは。そんな事したらお前達は殺してくるだろうが。そっちもこっちも死なねぇようにする妥協点を今は話してんだよ」

利根「……どう思う、金剛よ」

金剛「…………話を聞くだけの価値はあります。提督を失わずに事を終えられるのならば、その道を選びましょう」

利根「了解じゃ。──そっちの妥協できる点はどこまでじゃ」

下田提督「最低でも俺達の身の安全を保障する事だ。こんな所で死んで堪るかよ」

レ級(……俺達? どうもおかしいな……)

金剛「それは、その深海棲艦も含めてですか?」

下田提督「当然だ。戦力が居なかったら対等に話し合いどころか拮抗状態にすらならねえ。お前達だって同じだろうが。そこの金剛の武装解除をしろって言われて出来る訳ねえだろ」

レ級(ふーん……なるほどねぇ?)

金剛「……ではまず、提督に発言の許可を。私達だけ指揮官無しで交渉するというのは些か対等ではありませんよね?」

下田提督「ちっ。分かったよ。だが、攻撃命令をしようものならば仲良くあの世への片道切符が切られるから、その点だけは覚えておけよ」

金剛「提督、構いませんか?」チラ

利根「…………」チラ

レ級(来た──!!)ニヤッ

ドォンッ──!!

金剛「ッア──!?」

利根「な!? 金剛!!」

528: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/26(月) 23:30:22.32 ID:ZyK9hbAvo
レ級「戦闘中に余所見はイケナイねえ!! ほらもうイッパァツ!!」ドォン!

利根「ガ、ハッ──!!」

響「くっ……!!」タァンッ!

カァンッッ──!

レ級「うぅん? そんなちっこい砲で戦艦が落とせる訳……ないよねぇ!?」ドッ!

響「っぁ……!」

提督「…………!!」ギリィッ

下田提督「さぁて……残るはお前だけだ。まあ、なんも兵装が無いお前なぞ怖くは無いがな」

瑞鶴「こ、この……卑怯よ!! 妥協点を話すってアンタ言ったじゃないの!!」

下田提督「戦争に卑怯もクソもあるか馬鹿。勝てば官軍、負ければ賊軍。それに、こういうのは奇襲って言うんだよ、分かるか?」

瑞鶴「どこがよ! 卑怯者!! 卑怯者卑怯者!!!」

下田提督「なんとでも言え。俺にとっては褒め言葉だ。……そんな事より、よく分かったなレ級。やっぱりお前とは気が合うようだ」

レ級「ま、言葉の端々に違和感あったしねぇ。本当に自分の身だけを考えているなら私を売った方がよっぽど確実だし? そう考えたら、もう何を考えているのか分かるってもんでしょ!」

金剛「っ……!! く……っ!」ググッ

レ級「あらら。やっぱり戦艦は戦艦って所かな? そこの重巡と駆逐は一発で物言わなくなったってのにさぁ」

下田提督「ま、立とうとするのが限界みたいだから変わらんだろ」ガッ

金剛「カ……ハ……」ガクッ

下田提督「さて、と……じゃあそこの瑞鶴も仕留めてから行くとするか」

レ級「んー? この艦娘に呼びに行かせたら良いんじゃないの?」

下田提督「さっきの砲撃音で異変に気付かれたはずだ。こいつらみたいに自分達の提督を死なせてでも俺達を殺そうとしてきたら、今度こそ勝ち目なんて無えぞ」

レ級「ああ、それもそっかぁ。じゃあ、おねんねしていようねぇ!」ジャキッ

瑞鶴「え……?」

レ級「……あ?」チラ

529: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/26(月) 23:30:48.39 ID:ZyK9hbAvo
金剛「させま……せん……! 絶対に……行かせ……ません……っ!」グッ

レ級「……ほぅ。執念だけでまだ動くか」

金剛「私は、まだ……動けます……!」

金剛(シスター……ごめんなさい……。身体をこんなにしてしまって……)

提督「…………」

金剛『……いえ。身体の事は気にしないで下サイ。この身体は、シスターのモノとして扱って欲しいデス』

金剛(何を──……っ!)

下田提督「しつっけぇな……。レ級、頭でも吹き飛ばしておけ。そうすりゃ死ぬだろ」

レ級「あいよ。ま、這い寄って足を掴んだだけじゃ何も出来なかったって訳で……じゃあね!」ジャキッ

提督「させるか!!」ダッ

瑞鳳「ぁ……!」

ドッ!

レ級「おっとっとぉ!? まさか体当たりをしてくるとは思わなかったなぁ。おかげで狙いを外しちゃったよ」

下田提督「ちぃっ! おい瑞鳳!! 何の為のお前だ!! 次は絶対に自由にさせんじゃねえぞ!!!」

瑞鳳「っ……はい……」ガシッ

提督(ち……流石に縛られていてはこれが限界か……。おまけに、これではもうどうにも出来ん……)

提督「だが──」

下田提督「あん?」

ドォンッ!!

レ級「っ……!?」

提督「──無意味ではなかった。良くやったぞ利根!」

利根「……ふふ、戦闘中に余所見をするからじゃ。 どうじゃ、さっきお主がやった事をやり返される気分は?」

530: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/09/26(月) 23:31:15.30 ID:ZyK9hbAvo
レ級「……ク──アハハハハハハハァッッ!!! 最高だ貴様らぁ!! やっぱそうじゃなくちゃ面白くないよねぇ!!」

下田提督「こいつもまだ動けていたのか……!」

利根「我輩はただでは死なぬ! 例え機関が停止しても我輩は死ぬまで撃ち続けるぞ!!」ジャキッ

ドォンッ!!

レ級「っぅ……!! 大した艦娘だよ、お前は──」ジャコッ

ドッ──!!

利根「ガッ……」

ドサッ……

レ級「だが、この至近距離での二発目被弾……息はあろうと流石にもう動けまい」

利根「く、ぅ……!」

下田提督「…………あ? あの甲板胸、どこ行きやがった?」

レ級「応援を呼びに行ったのかもしれんな……どの道こいつらはもう動けないだろう。急ぐ事を提言する」

下田提督「ああ、そうするぞ。瑞鳳、そいつを引き摺ってでも連れて来い。俺達は先行する。重ねて言うが、絶対にそいつを逃がすんじゃねえぞ」

瑞鳳「はい……提督……」

レ級「じゃあ出発すると──」ピクッ

空母棲姫「──何をしている」

下田提督「あ? ……ほー?」ニヤ

ヲ級「提督! みんな!」

提督「……なぜ、ここに」

空母棲姫「迎えに来ました。……それで、貴様たちは一体、私達の提督に何をしている?」

ピリッ──

下田提督(なんだこいつ……! 殺意が肌で感じるぞ……!!)ジリッ

レ級「…………会いたかったよぉ二人ともぉ!! わざわざ殺されに来てくれるなんて思わなかったよぉ、ギャハハハハッ!!!」

空母棲姫「……言葉は無意味か。ナラバ……死ネ」スッ

535: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/08(土) 00:02:14.86 ID:bzbRZr5uo
レ級「たかが一機の艦載機で何が出来るっていうのかなぁ!?」ジャキンッ

ドォン!!

レ級「……へえ、避ける気も無いんだ。じゃあ、あの時と同じように痛めつけてから殺してあげるからねぇ!」

空母棲姫「──やはり、その程度か」

下田提督(おいおい……なんでその距離で食らって掠り傷程度なんだよ……! 相変わらずの化け物め!!)

ヒュッ──ゴォン!!

レ級「ガッ!?」

提督(爆撃だと……? どこからそんな兵装を……)

レ級「……なるほど。たかが一機と言ったが訂正しよう。貴様には一機すら脅威だ。──斉射!」

ドドッ──!!

空母棲姫「…………」

下田提督(斉射でやっと有効打か……? それでも眉一つ動かさないとは……)

空母棲姫「…………」スッ

レ級「!!」ザッ

空母棲姫「避けても無駄だ」

ゴォン!!

レ級「なッ……!?」

利根「はは……。本当に艦載機運用能力が狂っておるのう……。どうして、今のを当てられるのじゃ……」

レ級「……まったくもって化け物と言えよう。あの島では嬲っていたと思っていたが、実際はさほど効いていなかっただけという事か」カコン

ドォン──!!

空母棲姫「……そろそろか」スッ

レ級(こいつ、まさか……)ダッ

536: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/08(土) 00:02:44.44 ID:bzbRZr5uo
空母棲姫「逃がさん」

ゴォン!!

レ級「────ッ!? 主砲、機能停止だと……?」

下田提督「…………!!」

提督(……どこから爆弾を積み込んでいるのかは不明だが、分かった事がある。空母棲姫が兵装を持つ事に反対していたのは、こういう事か)

提督(防御も回避も意味が無いほどの接近戦とはいえ、たった一機の艦載機……それだけでレ級を上回る戦闘力、か……)

レ級(対空砲と副砲は──)ダダダダンッ!!

空母棲姫「…………」ガガガガンッ

レ級(──やはり無意味に近いか。艦載機も読めない動きと近さで砲塔の旋回すら間に合わん……)

ゴォン!!

レ級(ッ……機関にもダメージ……これでは海に出たとしても逃げる事は叶わないだろう)

レ級(この劣勢を覆す事は、不可能だ──)

ガォン──ゴォン──ゴォン──……………………

レ級「……見事だ」

空母棲姫「…………」

レ級「よもや、あの島の時と立場が逆転するとは……。何が貴様をそこまで突き動かす。提督という存在を欲するからか。それとも、ただの復讐か」

下田提督「何やってんだ……何やってんだレ級!!! 至近距離で戦艦が空母に負けてんじゃねえぞ!!」

レ級「黙れよ。茶番はもう終わりだ。貴様とは互いに利用し合うだけだった関係を忘れるな」

下田提督「…………ッ!」

レ級「……早く答えろ。こちらの時間はもう残り少ない」

空母棲姫「……単純な事だ。私は、あの方に救われた。ならば、私もあの方を救うのは当然だ」

レ級「ただそれだけか?」

空母棲姫「……心地良かったのもある。暗い海の底に沈み、怒りと復讐しか感じなかった私に……優しさを思い出させてくれた。それだけでなく艦娘としての悦びすら……与えてくれました。それが理由よ」

レ級「……そうか」

537: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/08(土) 00:03:13.74 ID:bzbRZr5uo
空母棲姫「…………」

レ級「やはり、我々や艦娘だけでは何も出来ないようだ。可能性という鍵を握るのは、いつも人間か……」

空母棲姫「…………」

レ級「これだから面白いんだ……人間って……ヤツ、は…………」カクン

空母棲姫「! ……死亡、確認しました。終わりましたね」

提督「いや、もう一つだけ残っている」チラ

下田提督「クソ……クソックソックソッ……」

空母棲姫「……そうですね。動けないようにしなければいけません。何か縛る物でもあれば良いのですが……」

提督「いや、まずは武装解除からだ。銃でも持っていたら面倒だ──」

下田提督「! クク……ククク……! そうだった……俺にはまだ、これがある!! こうなったら貴様も道連れだ横須賀の提督!!」ゴソッ

空母棲姫「!! ダメッ!!」ダッ

提督「──だから頼んだぞ。金剛、利根」

金剛「──イエス、テートク」ブンッ

利根「──了解じゃ」ブンッ

ガンッ──!!

下田提督「ガ……ッ……」

ドサッ……

金剛「……完全に気絶しまシタ。これでもう安心デス」

空母棲姫「……はあぁぁぁぁ…………」ペタン

提督「どうした、空母棲姫」

空母棲姫「…………身動きも取れなくて殺されそうになった貴方が、どうして一番落ち着いているのかしら、もう……。私は、最後の最後で守りきれなかったのかと……」

提督「金剛と利根の動きには気付いていたからな。後は気を逸らしてやってから殴り倒して貰うだけだったという訳だ」

空母棲姫「もし先に撃たれたらどうするつもりだったのですか……」

538: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/08(土) 00:04:08.57 ID:bzbRZr5uo
提督「そうはならんと信じていた。何せ、私の金剛と利根だぞ? 信じられない理由すら存在せんよ」

ヲ級「……皆、大丈夫?」テテテ

提督「私や金剛と利根、空母棲姫は怪我さえ治せば問題ないだろう。だが響が気を失ったままだから、介抱してやってくれないか?」

ヲ級「うん!」テテテテ

提督「……ほら、お前もそろそろ拘束を解いてくれ」

瑞鳳「…………」

金剛「テートク、ウェポンは全て取り上げましたシタ」

利根「こやつの上着でしっかりと腕を縛ってやったから、これでもう好きには出来ぬぞ」

提督「そうか。これで安全は確保だな」

瑞鳳「…………」

空母棲姫「無理矢理にでも引き剥がしましょうか」

瑞鳳「…………っ」

提督「いや、危害は与えないでやってくれ。最後まで交渉する」

空母棲姫「分かりました。では、私は鎮守府の皆を──ん、あれは……」

ザッ──

島風「提督! だいじょう……うん……?」

提督「島風? 艤装も付けて一体……いや、なるほど。瑞鶴が応援を呼んでくれたのか」

島風「うん、そうだけど……もう終わっちゃったんだ?」

提督「ああ。皆、よくやってくれたよ」

瑞鶴「はぁ……ああもう……島風ったら速過ぎよ……」

539: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/08(土) 00:04:42.81 ID:bzbRZr5uo
提督「瑞鶴か。応援、ありがとうな」

瑞鶴「……え? あれ……ん、大丈夫なの?」

提督「響以外はなんとでもなるだろう。今、ヲ級が介抱してくれている」

ヲ級「響、目、覚ましたよ!」

提督「! 響、大丈夫か?」

響「……うん、なんとか。……ごめんよ、司令官。あまり役に立てなかった」

提督「気にするな。駆逐艦の響があのレ級に対してなんとかしようとしてくれた気持ちだけでも私は嬉しいよ。守ろうとしてくれて、ありがとう」

響「……どうすれば挽回できるかな」

提督「気にし過ぎだ。……だが、そうだな……どうしてもと言うのならば、これから少しずつ戦果を挙げていってくれるか? 少しずつ、ゆっくりと」

響「うん、約束する」

提督「よろしい。──ヲ級、響に入渠と救護妖精の診察を頼む」

ヲ級「はーい!」ダキッ

天龍「──おーい!」

提督「どうやら皆が来たようだ。帰るとしよう。……手荒な事は絶対にさせんからな。立つぞ」スッ

瑞鳳「…………」スッ

利根「……なんだか父親にくっついて離れぬ娘に見えてきたぞ」

提督「馬鹿を言え。割と本当に抜け出せないんだぞ」

利根「なんと……」

金剛(……シスター。身体をお返しします。本当にありがとうございました。……………………シスター?)

空母棲姫「…………」チラ

レ級「…………」

空母棲姫(……最後に満足そうな顔をしていたのは、なぜなのでしょうか)

提督(さて……これから色々と忙しくなるな)

…………………………………………。

549: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:45:31.73 ID:UicorJrKo
提督「──戦闘で疲れている所に呼び出してすまない。手を付けている問題と手付かずの問題を纏め、その処理についての会議を開く」

提督「手を付けている問題は、負傷した艦娘と破損した兵装と設備の修復。現状、負傷したままの艦娘は現在入渠している夕立と時雨、川内、神通の四名。兵装と設備は工廠の妖精達がどうにかしてくれるそうだ。レ級の処理は救護妖精に任せてある。こちらは多少時間が掛かるものはあれど、然程気にしなくても良いだろう」

提督「そして手付かずの問題。こっちが厄介なものばかりだ。一つは隣の部屋で未だ意識を失ったままの下田提督をどうするか。総司令部に報告すべきなのだろうが、その場合はこちらの鎮守府を調べられる可能性が非常に高い。そうなる前に空母棲姫とヲ級の二人をどこか見付からない場所へ匿う必要がある。ついでに、総司令部へはどう報告するかも考えものだ」

提督「二つ目は命令無視を長門への罰。これはいつでも出来るだろう。他のやるべき事が落ち着きしだい吊るすから覚悟しておけ」チラ

長門(……本当に吊るすのか)

飛龍(ご愁傷様です……)

提督「三つ目は空母棲姫とヲ級の艤装について。ヲ級はもはや戦闘にほぼ興味を無くし料理や家事に楽しみを抱いており、艤装は邪魔だから解体して欲しいと頼まれた」

ヲ級「意外と、場所、取るよ。アレ」ムー

提督「…………。そして空母棲姫だが、出来れば鎮守府周辺の哨戒をして欲しいのだが……」

空母棲姫「断固反対です。なぜかまた艦載機が扱えなくなりましたが、私は艤装がある限り爆撃装備などを艦載機に載せられる事が分かったはずよ。私に兵装を残しておくのは危険極まります」

加賀(……とても複雑な気分になります。私が深海棲艦になったら、こうなるのでしょうか……)ジー

提督「その話は後で広げよう。その事に関しても聞いておきたい事もある。そして四つ目だが……」チラ

瑞鳳「……………………」ジャラ

提督「……この子をどうするか、だ。なんとか説得をして互いを手枷で繋ぐ事である程度の距離を開かせる事は出来るようになったが、いつまでもこのままという訳にはいかん」ジャラ

瑞鳳「…………」

利根「何を聞いても答えぬしのう……。なぜか提督の質問にだけは首を振って答える事はあるが……」

提督(そして、もう一つの問題がある、が……)チラ

金剛「…………」コクン

提督(……それはここでは言えんな。妹の方の金剛の意識が途中から戻ってこなくなったらしいが、どうしたのだろうか。大事になっていなければ良いのだが……)

提督「まず、最優先事項は空母棲姫とヲ級をどこへ匿うかだ。あまり遠くではなく、そして居住性もある場所が良いのだが……現状、一番近くの小島へ隠れて貰うくらいしか思い付かん。だが、あの島は人が暮らす事を一切考えていない。完全に野宿と変わらん。他に良い場所を一緒に考えてくれ」

550: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:46:06.85 ID:UicorJrKo
利根「……うーむ」

加賀「……………………」

飛龍「ううん……」

金剛「…………」

ヲ級「えっと……うーん……?」

長門「……難しいな」

空母棲姫「あの小島で良いのではないでしょうか。暮らせないという程ではありませんし、木の実なども手に入ります。むしろ、すぐに行動すべき今では、そこへ行くべきでしょう」

提督「…………」

空母棲姫「一刻を争います。下田の提督を拘束している以上、すぐに上へ報告しなければならないのでしょう? ならば、提督の案を実行するのが最善手よ」

提督「むう……」

空母棲姫「……貴方は優し過ぎます。ですが、本当に私達を大切に思って下さるのでしたら、先程の案でいくべきです。時間が進めば進むほど事態は悪くなり、貴方の立場にすら影響を与えます。……そのような事、私達は望んでいません」

ヲ級「!」コクコクッ

提督「……仕方が無い、か。すまないが、少しの間だけ我慢していてくれるか?」

ヲ級「はーい!」

空母棲姫「了解したわ。それと、気にしなくても良いのよ?」

提督「……すまんな。では、早速だが出航の準備をしてくれ。ついでに空母棲姫の艤装も隠す目的で持って行こう」

空母棲姫「……なぜ私の艤装も。解体すれば良いでしょう?」

提督「お前の艤装は難解だそうだ。解体しようにも時間が掛かる。それならば隠してしまえば良いだろう?」

空母棲姫「海の底へ沈めるのはどうなのかしら」

提督「後々でどうなるか分からん。持っておくくらいならば良いだろう?」

空母棲姫「もう……頑固なんですから……。分かりました。今回は私が折れます。艤装と艦載機もあの島へ持って行きますね」スッ

提督「ああ。気を付けろよ」

551: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:47:19.90 ID:UicorJrKo
空母棲姫「貴方もね。そこの下田の提督は何をしでかすか分からないのだから」

提督「十二分に気を付けよう」

ヲ級「行って、きます!」ブンブン

ガチャ──パタン

提督「……さて、では次の問題を処理しよう。下田の提督の事をどう報告するか、だ」

長門「あの二人の事は伏せておいて、それ以外の事について全て報告すれば良いのではないか?」

金剛「深海棲艦が大量に押し寄せてきた事についてはどう説明するのデスか?」

飛龍「あ、そっか。私達は下田の提督とレ級が手を組んでいるって知っていたから深海棲艦と一緒に攻めてきたって分かるけど、今じゃその証拠も何も無いですよね」

利根「ううむ……バカ正直に深海棲艦を指揮したと言う訳がないからのう」

加賀「逆にこちらが深海棲艦と仲良くしていたと報告されかねません。こちらは鎮守府の皆と接していた分、その事実が発覚しやすいでしょう。嘘が苦手な子も居ます」

金剛「おまけに向こうはどうだったのか、よく分かっていまセン。もしかしたら一部、はたまた全員が知らない可能性もありマス」

長門「……本当、厄介な存在だな……あの愚か者は」

提督「さて、どうするか……。味方の鎮守府を襲撃するなど、余程の理由があると思われれば良くて両成敗、悪ければこちらが圧倒的不利になる」

金剛「……………………」

利根「……………………」

飛龍「……………………」

加賀「……………………」

長門「……………………」

提督「……………………む?」

コン──コン──コン──

大淀「……司令、総司令部より大将のお二人がお見えです」

提督(!! ……いつもと違うノックの仕方と、私を『司令』と呼んだ大淀……これは何かあったか)

552: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:48:08.17 ID:UicorJrKo
提督「──全員、私に話を合わせろ。下田の提督の事について会議をしていたと言うんだ」ヒソ

全員「!」コクリ

提督「……大将殿が? お通ししろ」

ガチャ──

大将A「失礼する」

大将B「何があった、中将よ」

陸奥・日向「…………」ピシッ

提督「……申し訳ございませんが、どの話かご説明頂けますでしょうか」ピシッ

全員「!」ピシッ

大淀「……では、私は失礼します」

──パタン

大将B「下田の艦娘から連絡が入った。大佐が並々ならぬ顔でここへ向かったと」

大将A「そして……大佐と深海棲艦が会話をしていたという報告も同時に入っている。大佐はここへ居るのか?」

提督(ち……。知らんと言っても、下田の提督がおきて暴れでもして気付かれたら面倒か。いくら防音と言えど、扉に体当たりでもすれば音は漏れる。まだ空母棲姫とヲ級の事について隠し通す算段は立っていないというのに……!)

提督「……隣の部屋にて拘束しております」

大将B「拘束とな」

提督「ええ。俄かにも信じ難い事ですが、戦艦レ級と共に行動しており、レ級を排除した上で無力化して拘束しました」

大将A「あの話は本当だったのか……」

陸奥「……提督。そっちも大事なんだけど、少し気になる事があるわ」

大将A「どうかしたのか?」

陸奥「なんで中将は瑞鳳と鎖で繋がってるのかなってね……? しかも、瑞鳳は敬礼もしなかった上に様子もおかしいし」

瑞鳳「……………………」

553: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:49:05.73 ID:UicorJrKo
大将B「ふむ……。私がこちらを担当する。君は隣の部屋の大佐から話を聞いてくれ」

大将A「はっ」ピシッ

提督「……こちらが隣の部屋の鍵です。そして、武装解除はさせておりますが、気を付けて下さい」

大将A「ああ、そうしよう。陸奥、行くぞ」

陸奥「了解したわ」

ガチャ──パタン

大将B「では、その鎖と瑞鳳の事について説明して貰おう」

提督(仕方が無い……ここは二人の事を伏せて真実を話すか……)

提督「はい。……まず初めに、瑞鳳は私の艦娘ではなく大佐の艦娘です。鎮守府防衛の終わり際、陸より負傷した状態で歩いていた所で私が捕まりました」

日向「…………?」

大将B「……むう? 話が見えん。初めから説明をして貰おうか」

提督「畏まりました。──事の初めは五百を超える深海棲艦の軍勢がこの鎮守府へ向かってきた事が始まりです。妙に統率が取れていた行動におかしくは思いつつ、勝利が確実になった所で瑞鳳が陸より亡者のように歩いているのを発見しました。指揮権を大淀へ委託後、私が救助へ向かったのですが……彼女は囮だったようで、そのまま彼女に捕まりました」

大将B「ふむ。それがさっきの話だな。続けよ」

提督「その直後、大佐とレ級が姿を現し、横須賀鎮守府を攻撃する意思を見せたので会話で時間稼ぎをしました。そこへ金剛と利根、瑞鶴、響が駆けつけ、辛くもレ級を殺害する事に成功。最後に銃を取り出そうとした大佐を殴って気絶させましたが、それでも瑞鳳は私を離そうとしませんでした。大佐より絶対に逃がすなと命令されていた事から、それを継続しているのかと思われます」

大将B「そして、今に至ると。ふむ……いくつか疑問点がある。まず、なぜ救援を求めなかった? 五百を超える軍勢を相手に勝てる勝算でもあったのか?」

提督「あの状況に限って言えばありました。陸路より少数精鋭部隊を奇襲として運用する事と、轟沈する前に高速修復材の使用による戦力の継続投入などなど……。前任の提督が残してくれた大量の資材がありましたので、それを使い切るつもりで迎撃すれば勝てる見込みが充分にありました」

大将B「なるほど。流石だな。では次に、なぜ中将が瑞鳳を救助しに向かった? いくら勝利が確実になったと言えど、伏兵が居るだけで引っくり返るだろう?」

提督「この加賀は夜間の偵察訓練を行っており、ある程度ですが夜目も利きます。それにより敵の全数は把握しておりました」

大将B「ふむ。では、なぜ大佐は深海棲艦と共に横須賀鎮守府を攻撃しようとしたのかは検討がつくか?」

提督「……申し訳ありませんが、皆目検討がつきません。なぜこのような凶行に出たのか……」

554: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:50:02.26 ID:UicorJrKo
大将B「では、瑞鳳に聞いてみるとしよう。──答えよ。なぜ大佐は横須賀鎮守府を攻撃しようとした?」

瑞鳳「……………………」

日向「……ダメだな。目が死んでいる。余程の事をされたのだろう。……君をそのようにしたのは誰だ?」ソッ

瑞鳳「……………………」

日向「質問を変えよう。横須賀の中将か?」

金剛「…………」

瑞鳳「……………………」

日向「では、下田の大佐か?」

瑞鳳「……………………」コクン

日向「なるほどな。答えてくれて助かるよ」

金剛(……分からないでもないですが、テートクから疑われるのは嫌な気分になります)

日向「提督、こうなってくると下田の大佐が怪しい。下田の艦娘に聞いた方が良いだろう」

大将B「そうだな。そうし──」

ガチャ──パタン

大将A「中将、話がある。貴様が深海棲艦を匿っているというのは本当か?」

提督(クソ……やはりそうなったか)

陸奥「ちょっとちょっと。いくらなんでも急すぎない?」

大将A「こういうものは時間を与えない方が良い。──さあ、答えろ中将。貴様は敵である深海棲艦を匿っているのか?」

提督(……悪あがきをするしかない)

提督「……一体どうしてそのようになったのでしょうか。私は敵を匿った覚えなどありません」

大将A「白を切るなよ。遠目でしか見ていなかったが、我々がここへ来た時に深海棲艦に似た二人を見掛けているんだぞ。艤装の無い空母棲姫とヲ級のような女をな」

大将B「……そうだな。私も見掛けたが、あまりにも普通にしていた故に人間だと思っていた。だが、確かに似ている」

提督(チ……これは、ここまでか……)

555: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:50:53.69 ID:UicorJrKo
陸奥「だーかーらー! せっかち過ぎるわよ提督! 私も見たけど、あの二人は深海棲艦じゃないでしょ?」

大将A「何……?」

提督(なんだ……? どういう事だ……?)

陸奥「そもそも、私たち艦娘は深海棲艦なんて見たら一発で分かるわよ」

大将B「……そうなのか、日向?」

日向「ああ。なんて言えば良いんだろうな……。黒く冷えているというか……戦うべき相手と分かるというか……深海棲艦はそんな感じがするはずだ」

大将B「あの二人にはそれが無かったと?」

日向「無かったな。あれば即座に瑞雲を放って突撃しているよ」

陸奥「そもそも、敵が居たらその場で報告するわよ?」

大将B「……………………」

提督(どうなっているんだ……? あの二人は確かに深海棲艦のはず……)

大将A「……一先ず、確認してみるとしようか」

大将B「……そうしよう」

…………………………………………。

556: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:51:23.83 ID:UicorJrKo
提督「──空姫、空、ここに居たのか」

空母棲姫「? ────!!」ピシッ

ヲ級「?」

空母棲姫「ほら、貴女も敬礼しなさい。提督の上官よ」

ヲ級「!」ピシッ

大将A「……やはり似ている」

大将B「…………」

空母棲姫(……総司令部に登録されている名前で呼んだという事は、バレないように振舞えって事ですね)チラ

空母棲姫「……提督、どうかなされたのですか?」

提督「ああ」コクリ

提督「こちらの方々は総司令部よりいらっしゃった大将だ。二人を見たいと仰られたので足を運んできた」

空母棲姫「ご足労お掛けして申し訳ございません。本来ならば私達から出向くべきでした」ペコ

ヲ級「!」ペコ

大将B「いや、構わん。何も連絡をせずいきなり押しかけたのはこちらだ。──して、普段は何をしている?」

空母棲姫「主に間宮と伊良湖の助手として調理をしております。そして、料理以外の家事も少々」

ヲ級「間宮と、伊良湖の料理、すっごく美味しいよ!」ニパッ

空母棲姫「貴女は少し静かにしていなさい」ポン

ヲ級「はーい!」

大将A(……とても深海棲艦とは思えん)

557: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:52:28.04 ID:UicorJrKo
大将B「……どうだ、日向?」

日向「見たままだな。クールな姉と無邪気な妹という印象だ」

大将A「陸奥はどう思う」

陸奥「似ているけど、それだけって感じね。別に何もおかしくはないわ」

空母棲姫「……あの、おかしいとは? 何か粗相でもしてしまったのでしょうか」

大将A「いや、こちらの話だ。気にしないで良い」

大将B「ところで、こんな工廠近くで何をしていた?」

空母棲姫「そろそろ皆さんの入渠が終わる頃ですので、タオルや衣服の洗濯物を回収しに来ました」

大将B「こんな夜中にか?」

空母棲姫「洗剤を溶かしたお湯に漬けておく事で、朝の洗濯時に油汚れなどを取りやすいようにする為です」

大将B「ふむ、なるほど」

大将A「……では、戻るとするか」

大将B「そうだな。洗濯の邪魔をして悪かった」

空母棲姫「いえ、お気になさらず」ピシッ

ヲ級「さよならー!」ブンブン

空母棲姫「こら、敬礼なさい」

ヲ級「ごめんなさい……!」ピシッ

大将A・大将B・陸奥・日向「……………………」

提督(上手くやってくれて助かったぞ、二人とも)

…………………………………………。

558: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:53:14.71 ID:UicorJrKo
下田提督「──馬鹿な!! そんなはずがない!」

大将B「現にその二人を見てきた。日向と陸奥も私達と同じく深海棲艦ではないという結論を出している」

大将A「何人かの横須賀の艦娘とも話をしてみたが、全員から料理や家事をやっていると証言も得た」

下田提督「何をした……何をした貴様ァ!! 賄賂か!! それとも脅しか!? 一体何を──」

日向「黙ろうか。君の行ってきた事は、君の鎮守府の艦娘から聞かせて貰っているよ」

陸奥「暴行、脅迫、●●、資材の私的利用、艦娘の轟沈処分、深海棲艦との共謀……読むのも面倒になるくらいまだあるわね。そんな貴方の証言を信用できると思うの?」ペラ

下田提督「だが、俺は確かに聞いたぞ!! こいつが深海棲艦を匿っていると!!」

大将A「……聞いた? 誰にだ? まさか、敵である深海棲艦のレ級から……などとは言わんよな?」

下田提督「っ……!!」

大将B「図星か。……提督の選別法に問題があるようだな。いくら素質があるとはいえ、敵と手を組む非国民を軍に置くなどとは……」

大将A「早急に調査する必要がある。やれやれ……ただでさえ人員が少ないというのに……」

大将B「連れて行け。処分は総司令部で行う」

日向「了解した」ガシッ

下田提督「放せ……放せえええええええッッ!!!!」

日向「…………」ガンッ

下田提督「っぁ…………」ガクッ

日向「これで静かになったな。車のトランクにでも放り込んでおくよ」ズルズル

大将B「ああ。そうしておけ」

ガチャ──パタン

559: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/13(木) 16:54:42.41 ID:UicorJrKo
対象B「……ところで瑞鳳」

瑞鳳「……………………」

大将B「君はどうする。君の鎮守府の皆は解体される事が決まった。本人達の意思でな」

瑞鳳「……………………」

大将B「君も望むのならば解体しよう。さて、どうする?」

瑞鳳「……………………」

ギュ……

提督「……ん?」

瑞鳳「……命令、だから」

大将B「命令?」

瑞鳳「提督が……この人を、絶対に放すな……って……」

大将B「その提督の命令は、もう聞かなくて構わん」

瑞鳳「命令、だから……」

大将B「……そうか。中将、君が管理してくれるか? 中将は長門の件で問題無いと判断できる。適任だろう」

提督「畏まりました」

大将B「では、邪魔をしたな」

大将A「君には期待しているよ」

ガチャ──パタン

提督(……なんとかなったか。寿命が何年か縮んだぞ……)

提督(だが……)チラ

提督「……本当に良かったのか? 私がお前を管理する事になっても」

瑞鳳「……………………」コクリ

提督「そうか。ならば、これからよろしくな」

瑞鳳「…………」

提督「……ところで、この手枷は外しても──」

瑞鳳「…………」フルフル

提督「ダメか……。困ったな……」

…………………………………………。

574: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/18(火) 02:51:21.04 ID:SXU6Mpvqo
金剛「……では、本当に大丈夫なのですね?」

提督「ああ。心配してくれてありがとうな」

金剛「当然です。私達は提督が居るからこそ私達で居られるのですから。本当は押し切ってでも近くで護りたいくらいです」

提督「瑞鳳はそんな子じゃないはずだ。私の勘だがな」ポン

瑞鳳「…………」

金剛「ぅー……これはどれだけ言っても聞いてくれない提督になっているです……」

提督「良く分かってくれていて何よりだ」

金剛「はぁ……。でも、これだけは約束して下さい。何かあったらすぐに私を呼ぶ事です。隣の部屋の扉は半開きにしておきますから、声は届くはずです。これ以上は譲れません」

提督「お前も頑固なこって。──まず無いだろうが、万が一その時がきたら頼む」

金剛「ハイ! ……懐かしいですね」

提督「……そうだな。こういうやり取りは、本当に懐かしい」

金剛「もう少し思い出話に浸りたいですが、それはまた今度の機会にしましょう」

提督「ああ。おやすみ、金剛」

金剛「グッナイ、テートク──」

ガチャ──パタン

提督「……さて瑞鳳」

瑞鳳「……………………」

提督「夜もかなり深くなったから皆を帰した。私達も寝るとしよう」

瑞鳳「…………!」

提督「瑞鳳はそのベッドを使ってくれ。私は床に毛布を敷いて──」

瑞鳳「…………」シュル、パサ

提督「……なぜ服を脱いでいる。そんな状態で寝ては風邪を引くぞ」ソッ

575: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/18(火) 02:52:07.02 ID:SXU6Mpvqo
瑞鳳「…………?」

提督「どうした。どうしてそんなに困った顔をするんだ?」

瑞鳳「…………!」スッ

提督「待て」

瑞鳳「!」ピタッ

提督「なぜ私のズボンに手を伸ばす」

瑞鳳「…………? …………??」

提督「……まさかとは思うが、それが瑞鳳にとって当たり前の事だったのか?」

瑞鳳「…………」コクリ

提督「そうか……。ここではそんな事をしなくて良いんだぞ」

瑞鳳「…………?」

提督「……言い方を変えよう。瑞鳳、それは強制されていた事か?」

瑞鳳「…………」コクン

提督「なら、嫌だったのだろう? それはここではしなくて良い事だ。そんな嫌な事はしなくても良くなったんだ」

瑞鳳「…………」フルフル

提督「……む? 嫌ではなかったのか?」

瑞鳳「…………」コクン

提督(……強制されていたのにも関わらず嫌ではないとはどういう事だ?)

提督「……すまない。私ではよく分からん。どういう事なんだ?」

瑞鳳「…………気持ち、良いから……」

提督「……そうか」

576: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/18(火) 02:52:33.16 ID:SXU6Mpvqo
瑞鳳「痛くて……苦しい事は……瑞鳳にとって、気持ちの良い……事です」

提督(これは……そう思い込まされているのか。嘘でもずっと言葉に出していると、何が嘘で何が本当なのか分からなくなるとは言うが……これがその状態か)

提督「……いや、もう今までのような痛い事も苦しい事も無い。もう、そんな苦しみを味わわなくて良いんだ」

瑞鳳「……………………」

提督(……無表情すぎて感情が読めん。何を考えているのだろうか)

提督「そうだな……。とりあえず寝ると……いや、睡眠を取ろうか。これなら分かるか?」

瑞鳳「…………」コクン

提督「よし、良い子だ」ナデ

瑞鳳「…………?」

瑞鳳「…………」ジー

提督「ん? どうした?」

瑞鳳「…………」

提督(……本当に何を考えているのか分からん。どうしたんだ?)

提督(そうだな……少し、話をしてみるか。このまま放っておく事もできん)

提督「瑞鳳、これから睡眠を取る前に少し会話をしてみようか」

瑞鳳「…………?」

提督「少しずつで構わん。嫌だと思ったら何も言わず布団の中へ潜り込んでも良い。だから、お前が閉じ切ってしまった心を少しずつ開いてみないか?」

瑞鳳「…………」

提督「初めは声を出さず頷いたり首を横に振ったりするだけで構わない。もう一度言うが、嫌だと思ったらその時点で布団の中へ潜り込むんだ。それが会話の終了の合図とする。良いか?」

瑞鳳「…………」コクン

提督「ありがとう。──まず初めに、ここは瑞鳳が今まで居た鎮守府と色々違うはずだ。だが基本的に出撃と演習、遠征、そして事務仕事や掃除なんかは恐らくどこの鎮守府も同じだと思う。瑞鳳もそうだったか?」

瑞鳳「…………」コクン

提督「そうか。この鎮守府では朝礼もあり、朝は必ず全員が私と顔を会わす。そして、それ以外ではよっぽどの事でもない限り自由にしている。会話をするも良し。遊んでも良し。独自で訓練をするも良し。……まあ、酒は節度を守るようにとは言っているがな」

瑞鳳「…………」

577: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/18(火) 02:53:13.46 ID:SXU6Mpvqo
提督「無論、瑞鳳もそれには従ってもらう。だが、現段階で瑞鳳は基本的にほぼ自由にさせるつもりだ。せいぜい、朝礼には顔を出して貰うくらいだろう」

瑞鳳「…………?」コテッ

提督「首を傾げたのは『なぜ?』という意味か? 正直に言うとだな、瑞鳳の精神状態を考えての事だ」

瑞鳳「…………」

提督「今のお前を他の子達と同じように扱ってはいけないと私は判断した。まずは心を癒す事が先決だ。何かしたい事があれば言ってくれ。出来る事であれば叶えよう」

瑞鳳「……………………」

提督「何かあるか?」

瑞鳳「……痛い、こと」

提督「む……?」

瑞鳳「痛い事……して下さい……」

提督「……どういう意味だ、それは?」

瑞鳳「私は……痛い事が、好き……ですから……」

提督「……それは無理矢理に言わされていた事だろう? ここではもう、必要以上の痛い事や苦しい事は受けなくて良いんだぞ」

瑞鳳「…………」フルフル

瑞鳳「痛みは……私に与えてくれるから……。生きているって……ちゃんと、生きているって……」

提督「…………」

瑞鳳「だから……痛い事とか、苦しい事が……好きです」

提督「……………………」

瑞鳳「……おかしい、ですか?」

提督「……そうだな」スッ

瑞鳳「あ……」ピクン

提督(……ああ、利根よりも首が細い。片手で充分な気すらある。──本気でやれば、折れてしまいそうだ)

提督(そうだな……瑞鳳も痛い事や苦しい事を望んでいるんだろう? ならば……)

578: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/18(火) 02:53:41.72 ID:SXU6Mpvqo
コンコンコン──

提督「────!!」パッ

金剛「──テートク、本当に大丈夫デスか?」

提督「……金剛か。どうしたんだ?」

金剛「なんだか胸騒ぎがシタので……。入っても良いデスか?」

提督「……ああ。頼む」

ガチャ──パタン

瑞鳳「…………」ジッ

金剛「…………? 何かしていたデスか?」

提督「……そうだな。あまり良くない事をやりそうになっていた」

金剛「そうデスか……」トコトコ

金剛「提督……」ギュ

提督「!」

金剛「なんとなくですが、察しました……。やっぱり提督は『私達』の事を気にしているのですね」

提督「…………」

金剛「ごめんなさい……私が癒してあげられれば良いのですが、今の私では……」

提督「いや……そうやって気を掛けてくれるだけでも充分だ……。ありがとう、金剛……」

瑞鳳「…………」

提督「……すまんが金剛、頼みがある」

金剛「? 何でショウか?」

579: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/18(火) 02:54:08.27 ID:SXU6Mpvqo
提督「今日だけでも構わないから、瑞鳳の隣で寝てくれないか? ……今の私は、酷く不安定だ」

金剛「ハイ。分かりまシタ。……って、テートクは床で寝るつもりデスか?」

提督「ああ。流石に一緒のベッドで寝る事はせんよ」

金剛「……本当、頑固なんですから」クス

金剛「──さて、そうと決まれば早速スリープするデース! 電気を消しマスので、二人は布団の中へ入って下サイ」トコトコ

提督「ああ。ついでに燭台にも灯を点けておこう」シュッ

瑞鳳「…………」

提督「ほら、瑞鳳もベッドの布団に入りなさい」モゾ

瑞鳳「…………」モゾ

金剛「では、消しマスね」

パチン──

金剛「さて、と」トコトコ

瑞鳳「…………」

金剛「隣、失礼するデース」モゾ

瑞鳳「…………」フイッ

金剛(あれ……?)

提督「さて、では寝るとしよう。灯を消してくれ、金剛」

金剛「ハイ」フッ

提督「おやすみ、金剛、瑞鳳」

金剛「グッナイ、二人とも」

瑞鳳「…………」

金剛(……私、何か嫌われるような事でもしてしまったのでしょうか)

…………………………………………。

580: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/18(火) 02:54:38.63 ID:SXU6Mpvqo
金剛「すー……すー……」

提督「…………」

瑞鳳「…………」モゾ

瑞鳳「…………」ソロリ

提督「…………」

提督『──基本的にほぼ自由にさせるつもりだ』

瑞鳳(……私の、自由に)

瑞鳳「…………」モゾ

提督(む……?)

瑞鳳「…………」

提督(金剛……ではないな。瑞鳳か)

瑞鳳「…………すぅ……」

提督(……気付いていない振りをしておこう。何か理由があるのだろう)

瑞鳳「すぅ……」

提督(さて……私もまた眠るとするか……)

…………………………………………。

589: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/27(木) 16:42:25.32 ID:n4pu7Ko0o
提督「──朝礼でも言ったように、総司令部からの通達でしばらくは全戦線を停滞、維持させる事となった。よって、その間は暇になるだろう。新たに指示が与えられるまでに昨日言っていた問題点を解決したい」

金剛「ハイッ!」

利根「うむ!」

ヲ級「はーい!」

空母棲姫「分かりました」

瑞鳳「…………」

提督「ここに居る全員が知っての通り、昨夜のいざこざで最も面倒な問題が解決した。次に解決したい問題として、空母棲姫の艤装をどうするか、だ。なお、ヲ級の艤装は今朝方解体し終わったと報告が上がっている」

ヲ級「やった! 部屋、広くなる!」

空母棲姫「……それで、私の艤装はどうなったのでしょうか?」

提督「手を付けてすらいない」

空母棲姫「…………」ジッ

提督「それには理由があるから、そう睨むな」

空母棲姫「理由とはなんでしょうか」

提督「第一に解体が困難という事。まあ、これは時間を掛ければどうにかなるが、他にやる事があるため優先順位は低めだ。そして第二に、なぜ空母棲姫が艦載機をもう一度扱う事が出来たのか、という事だ。確か、艦載機との意識連結が出来なくなったはずだったな?」

空母棲姫「ええ……。私でも分かりません。なぜ、あの時だけ扱えたのか。その理由は私も知りたいわ」

提督「空母棲姫自身が分かっていないのか……。困ったな……。要因が分かるのならば、いざという時の自衛に使って欲しかったのだが……」

空母棲姫「鎮守府において自衛は必要でしょか」

提督「可能性は低いだろうが、今回のレ級のように狙ってくる者が居ないとは限らない。それならば、空母棲姫も艦載機が扱える方が色々と安心できるだろう?」

ヲ級「? どうして、可能性、低いの?」

提督「あれだけ大々的に動いていたんだ。もし狙っているのだったら一緒に行動すると思われる。わざわざ分けるメリットも無い」

ヲ級「なるほどー」

590: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/27(木) 16:42:58.35 ID:n4pu7Ko0o
空母棲姫「……理由は分かりましたが、やはりそれでも反対です。私に兵装を持たせるという事は危険極まります」

提督「その事についてだが、私は兵装を完全に排除する方が危険だと思っている。先の防衛戦は空母棲姫が索敵をしてくれなければ負けていただろう」

金剛「その点については私も同意デス」

利根「そうじゃな。間違いなく負けておる。戦況が常時分かっておったから突っ込み時も引き際も分かっておれたからのう」

空母棲姫「それ、は……」

提督「空母棲姫、こう考えてくれないだろうか。艤装の解体はいつでも出来るが、手放した艤装は二度と帰ってこない。ならば一旦保留にしておこう──と」

空母棲姫「ですが……」

提督「ふうむ……。ならばこうしよう。一つ、艤装は私が預かっておく。必要時以外は空母棲姫が触れる事を禁ずる。二つ、空母棲姫が艤装を使用する際は私の許可と共に私の管理下である事。……これでどうだ?」

空母棲姫「…………考えさせて下さい」

提督「ああ。ゆっくり考えると良い」

空母棲姫「はぁ……やっぱり貴方には勝てそうにありません……」

提督「これでも鎮守府を預かる者だからな」

ヲ級「それにしても、どうして、姫は、艦載機、使えたんだろ?」

空母棲姫「そればっかりは分かりませんね……一体何があったのか……」

利根「……む? そういえば、前に負のエネルギーがどうのと言っておらなんだか?」

提督「ふむ。確かに言っていたな。その負のエネルギーが枯渇した、とかか?」

空母棲姫「なるほど、筋は通っています。貴方達と出会ってから怒りも後悔もほとんど感じていませんし、レ級と戦闘に入った時なんて怒りで我を忘れていましたし」

利根「その負のエネルギーが無くなったから艦娘からも深海棲艦と見られぬのかものう」

提督「……関係あるのか?」

利根「あるやもしれぬぞ。深海棲艦は見れば分かるし敵と判断できるが、空母棲姫とヲ級の二人は島の頃はともかく、今は敵と感じられぬ上に深海棲艦と識別できぬ。昨日戦った深海棲艦は深海棲艦と分かった事から、可能性は高いのではないか?」

提督「ふむ……。そうだな。確かに可能性は高い。これからは頭に置いておこう」

591: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/27(木) 16:43:25.50 ID:n4pu7Ko0o
ヲ級「? 何か、変わるの?」

提督「何も変わらんよ。お前達は今まで通りのんびりと暮らせるって話だ」ポン

ヲ級「えへー」ニコニコ

提督「では、この話は一旦ここで保留だ。次に、瑞鳳をどうするかなのだが……」

瑞鳳「……………………」

提督「……率直に聞く。どうするのが一番だと思う?」

利根「また難しい事を……」

提督「難しいからこそ知恵を貸して欲しくなるんだ。現状では瑞鳳を癒す事しか思い付かんが、その方法すらどうしたものか……」

利根「好きな事をやらせるのはどうなのじゃ?」

提督「瑞鳳、言っても良いと思うのならば言ってくれ。瑞鳳がしたい事はなんだ?」

瑞鳳「……………………」

ヲ級「?」

提督「……という事だ。あまり口に出せる事でもない。そして、私はそれをしようとは思っていない」

空母棲姫(……●●な事なのかしら。もしそうであれば困難ね。この方は随分と堅物でしょうし)

金剛「では、甘い物とかどうデスか?」

瑞鳳「…………」

金剛「ぅー……反応が無いデース……」

ヲ級「!!」ピンッ

ヲ級「甘い物、あるよ!」ゴソゴソ

利根「ぬ? なんじゃ?」

ヲ級「玉子焼き!」パッ

瑞鳳「!」

592: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/27(木) 16:43:59.82 ID:n4pu7Ko0o
利根「……なぜ玉子焼きを持ってきておるのじゃ?」

ヲ級「初めて、焦げ目無しで、綺麗に焼けたから!」キラキラ

利根「ふむん? ……ほう! 綺麗じゃのう。こんな綺麗な玉子焼きは見た事がないぞ。……しかし、玉子焼きくらいならば二人は簡単に作れるのではないか?」

空母棲姫「難しいわよ。白身と黄身、そして出汁が綺麗に混ざっている事と火加減の調整が上手く出来なければ、ここまで黄一色の玉子焼きは出来ないわ。基本の料理という物は、シンプルが故に作り手の技量が分かるものよ」

提督「空母棲姫も出来るのか?」

空母棲姫「……出来ません。中の隙間は無くなっても、どうしても層の部分が分かります。本当、この子は料理の才能があるわ」ナデ

ヲ級「えへー」ニコニコ

瑞鳳「…………」ジー

金剛「? 瑞鳳が興味を持っているデス」

提督「む。食べたいのか?」

瑞鳳「…………」フルフル

提督「では、作りたいと?」

瑞鳳「…………」コクン

提督(……料理が好きなのだろうか? いや、そうならば食事の時に何らかの反応をしているはずだ。玉子焼きに何か拘りでもあるのか……?)

提督「構わんぞ。昼食後のツマミとしよう」

瑞鳳「…………」コクン

ヲ級「一緒に、作ろ?」ニパッ

瑞鳳「…………」コクン

…………………………………………。

593: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/27(木) 16:44:29.63 ID:n4pu7Ko0o
瑞鶴「──それで、焦げ目とか層の隙間が無くなるまでやったのね。あ、美味しい」モグモグ

長門「なるほどな。だから妖精も含めた全員に玉子焼きがオヤツとして出されたのか」

翔鶴「ですが、本当に美味しいですね」ニコニコ

電「なのです。とっても美味しいのです」

雷「瑞鳳さんも料理が上手なのね!」

暁「…………」ジー

響「? 暁、どうしたんだい?」

暁「……まだ司令官と鎖で繋がってるのが気になるのよ」ジー

提督「そう言ってくれるな。この子は下田の提督の命令を続けているだけなんだ」

瑞鳳「…………」

利根「鎖を外せば腕にしがみ付くが、それの方が良いのかの?」モグモグ

暁「うーっ……」ジー

空母棲姫「大丈夫よ。提督が説得をしてくれているから」ナデ

暁「ぅー……」

ヲ級「嫉妬?」

暁「なっ!! 違うわ! ふーきの問題があるって事よ! レディは嫉妬なんかしたりしないわ!!」

提督(嫉妬なのか)

響(嫉妬だね)

雷(嫉妬なのね)

電(嫉妬なのです)

利根(嫉妬じゃのう)

瑞鶴(嫉妬ねー)

翔鶴(あらあら……)

長門(……本当にこの方は皆から好かれているな)

空母棲姫(本当、分かりやすいわね、この子)

ヲ級「♪」ニコニコ

暁「もーっ!! なんで皆してそんな温かい目で見てくるのよー!! 嫉妬じゃないんだからぁー!!」

594: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/10/27(木) 16:45:01.59 ID:n4pu7Ko0o
ギャーギャー

瑞鳳「…………」ジー

提督「どうした、瑞鳳」

瑞鳳「……………………楽しそう……」

提督「いずれお前もあの中に入れるさ」ナデナデ

瑞鳳「……うん」

暁「あーッッ!! 今度は頭撫でて貰ってる!!!」

響「暁、もしかして甘えたいだけだったりする?」

暁「そんな訳ないでしょ響!! レディはお子様みたいに甘えたりしないんだからぁー!!!」

提督「時と場を弁えれば構わんぞ」

暁「む……」

響「あ、考えたね」

暁「!!! もー!! 響、貴方の玉子焼き食べるわよ!?」

響「おっと。食べられたら困るから、これ以上は刺激しないでおこうかな」

暁「ふん、だ!」

ヲ級「♪」ニコニコ

提督(……金剛も今頃は姉妹と食べているのだろうか。……本当、金剛の問題もどうするべきか)

瑞鳳(甘える……)

…………………………………………。

601: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/05(土) 03:27:11.01 ID:QqswW4aao
提督「…………」サラサラ

瑞鳳「…………」ジー

コンコンコン──

提督「入れ」

ガチャ──パタン

大淀「失礼します。提督、少し急な報告……もとい、相談がございます」

提督「む? 何があった?」

大淀「多くの方から、ある相談を受けまして……。本来はご本人の前で言うのは憚られるのですが、今回はそうもいきそうにありません」

提督「ふむ」

大淀「……率直に申し上げますと、提督と瑞鳳さんが鎖で繋がっているのを良しとしない方々が多くいらっしゃいます」

瑞鳳「…………」

提督「やはりそうなったか……」

大淀「駆逐艦の子達は理解も納得も出来ない意見が多く、軽巡以上の方々も理解は出来ても納得がいかないという意見を耳にしております。いくら扉を隔てているとはいえ、お手洗いや入浴など特に……」

提督「……あまり良くはないな。このままでは分裂や喧嘩も起きてしまいかねん」

大淀「はい……。皆さんも提督へ直接言うのを避けているのか、私へ相談が殺到しました……」

提督「苦労を掛けてすまない。……しかし、どうしたものかな」

大淀「私も考えてはみたのですが、解決できそうな案は思い付きません……」

提督「……明日まで待って貰ってくれないだろうか。それまでに対策を考える」

大淀「……なんとか頑張ってみます」

提督「ありがとう。……効果は無いかもしれないが一応、厠と風呂の際、待っている方は目と耳を塞いでいると伝えてやってくれないか?」

大淀「はい。畏まりました」

602: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/05(土) 03:27:38.96 ID:QqswW4aao
提督「大淀ももう少しだけ我慢してくれ」

大淀「お気遣いありがとうございます」

提督「何か望みがあるか? 出来る範囲ならば叶えよう」

大淀「え? よろしい……のですか?」

提督「ああ。流石に大きな迷惑を掛けてしまった」

大淀「…………えっと、では……瑞鳳さんと同じように、とかは……」

提督「……………………」

大淀「あの……すみません、冗談です」

提督「……今度叶える。その時が来たら伝えよう」

大淀「──え!? ほ、本当ですか!?」ドキドキ

提督「ああ」

提督(……大淀にそんな趣味があったとは思わなかった)

大淀「提督と繋がる事が出来るなんて……夢でしか出来ないと思っていました」

提督(ふむ? 『繋がる』という事が大事なのか? ……まさか、不満を言っている者達もそれが原因……いや、それは無いか)

大淀(言ってみるものですね♪)テレ

提督(……無いよな?)

提督「……くれぐれも内密にするように」

大淀「はいっ!」

提督「では、頼んだぞ」

大淀「はい。大淀、頑張りますね! ──失礼しました」

ガチャ──パタン

提督「瑞鳳も、秘密にしてくれよ?」

瑞鳳「…………」コクン

提督「よろしい。──さて、仕事の続きとするか」サラサラ

瑞鳳(……相談をしても、良い人)

…………………………………………。

603: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/05(土) 03:28:15.50 ID:QqswW4aao
瑞鳳「…………」ジー

利根「今日はやけに提督を見ておるのう」モグモグ

金剛「何かあったのデスか?」コクコク

提督「……心当たりが全く無い。私も不思議に思っているくらいだ」ズズッ

瑞鳳「…………」ジー

利根「紅茶や茶菓子もほとんど手を付けておらぬしのう……」

金剛「……あの、もしかして美味しくなかったデスか?」

瑞鳳「…………」チラ

瑞鳳「…………」フルフル

瑞鳳「…………」フイッ

利根「……マズい訳ではないが、今は提督を見る事の方が優先されている……なのかのう?」

提督「一体どうしたんだ、瑞鳳?」

瑞鳳「…………」ジー

提督「ふぅむ……」

利根「うーむ……。まあ、考えても分からぬ。ここは保留じゃな」

提督「そうするか……。すまんな瑞鳳。私にはお前が何をしようとしているのか分からん」ナデ

瑞鳳「…………」

提督「だが、もし何かしたい事があったら言ってくれ。可能な範囲であれば許可も出せる。そして叶えてやる事も出来る」

瑞鳳「…………」コクン

金剛「あ、瑞鳳。もし紅茶が冷めてしまったら言って下サイ。すぐに取り替えるデス」

瑞鳳「!」ゴクゴク

利根「一気に飲んだのう」

金剛「…………?」

提督「一体どうしたというのか……」

604: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/05(土) 03:28:50.26 ID:QqswW4aao
瑞鳳「……捨てるのは、勿体無いから」

利根「ああ、なるほどのう。捨てられると思うたのか」

瑞鳳「…………」コクン

提督(……そうだとしても急だったな。……また下田の提督関係で何かされていたのだろうか)

提督「…………」ポン

瑞鳳「?」

提督「…………」ナデナデ

瑞鳳「…………」

金剛(本当、下田では何があったのでしょうか……。私も何か出来れば良いのですが……)

金剛(そもそも、瑞鳳はどうしてこんな風になったのでしょうか。酷い事をされてきたというのは耳にしていますが、一体どんな事をされたら──)

金剛「!」ピン

金剛「瑞鳳、隣に座りマスね」

利根「む?」

瑞鳳「…………」

金剛「少し、失礼するデス」ギュ

瑞鳳「!」

金剛「今まで何を経験してきたのか、それは私では分かりまセン……。ですが、辛いものだったという事だけは分かりマス」

瑞鳳「…………」

金剛「こうやって抱き締められると、私は落ち着きマス。こうやって下さる人が居るから、私は辛い事があっても頑張れてきまシタ。瑞鳳も同じかは分かりまセンが、少しでも落ち着けられるなら嬉しいデス」

瑞鳳「…………」ホゥ

利根(ふむ)

605: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/05(土) 03:29:19.19 ID:QqswW4aao
瑞鳳「…………」スリ

金剛「アハ。落ち着きマスか?」

瑞鳳「…………」コクン

金剛「良かったデス。好きなだけこうしていて下サイね」ナデ

金剛「テートクも、こうしてあげたら良かったデスよ?」チラ

提督「それをお前が言うか……」

金剛「私だから言えるのデス」

提督「……まったく。本当にお前には時々勝てんよ」

金剛「えへへー」ニコ

利根(……もしやとは思うておったが、この金剛は……あの金剛ではないか?)ジー

提督「…………」チラ

利根「!」

提督「…………」ジッ

利根(やはりそうなのか。……うむ、分かっておる。誰にも言ったりはせぬよ。何か事情があるのじゃろう?)コクン

提督「…………」コクリ

金剛「ほら、テートクも落ち着かせてあげて下サイ」

提督「しかし……」

金剛「きっと、この子もそうして欲しいと思っているデスよ?」

提督「……そうなのか、瑞鳳?」

瑞鳳「…………」チラ

金剛「♪」ニコニコ

瑞鳳「…………」チラ

提督「…………」

瑞鳳「…………」コクン

606: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/05(土) 03:29:51.36 ID:QqswW4aao
金剛「ハイ! 瑞鳳もそう言っているデース! テートクは人を落ち着かせるのがとっても上手ネ!」スッ

提督「そんな事はないと思うが……」

利根「自覚無しじゃったのか。我輩がなぜいつも背中にのしかかっておったのか分からぬのか?」

金剛「背中にのしかかっていた、デスか?」

利根「うむ。とある島で提督と二人で何年か過ごしていた頃にの。我輩はそれが好きで暇さえあればその状態じゃった」

提督「確かにほぼずっとそんな感じだったな」

金剛「そんな事があったデスか。私、その頃の話が聞きたいデース!」

利根「うむ。我輩は良いぞ。提督も良いよな?」

提督「ああ。構わん」

金剛「ヤッタ! その島ではどんな事があったデスか?」

利根「基本的には暇で海を眺めてばかりおったのう。他には──」

金剛「ふむふむ」

提督(……そうか。色々な事があって金剛に話していなかったな。……本当、色々な事があったものだ)

瑞鳳「…………」クイクイ

提督「うん?」

瑞鳳「…………」ジー

提督「……なるほど、催促か」チラ

金剛「?」チラ

金剛「♪」コクリ

利根「金剛よー、聴いておるのか?」

金剛「勿論デース。それで、釣りで利根はテートクに何回勝ったデスか?」

利根「む。そ、それはじゃな?」

瑞鳳「…………」クイクイ

提督「……ほら、おいで」スッ

瑞鳳「…………」ソッ

提督「…………」ギュ

瑞鳳「!」ピクン

瑞鳳「…………」ホゥ

提督(金剛のおかげで一層落ち着けているようだな)ナデナデ

瑞鳳「…………」コテッ

提督(む、身体も預けてきたか。……ああ、構わんぞ。好きなだけ甘えて良い。甘えてきた以上に愛でよう)ナデナデ

瑞鳳(……この人は、優しくて……温かい人。……甘えても、良い人)

瑞鳳(良いなぁ……これ……。眠っちゃいそう……)

…………………………………………。

607: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/05(土) 03:30:17.98 ID:QqswW4aao
利根「では提督、瑞鳳よ、また明日じゃ」

金剛「グッナイ二人とも!」

提督「ああ。お前達も良い夢を見ろよ」

ガチャ──パタン

提督「さて、私達も寝ると──ああいや、今日は風呂に入る間が無かったんだったな。寝る前に風呂に入るとしよう」スタスタ

瑞鳳「…………」コクン

ガチャ──パタン

提督(……しかし、この部屋に備え付けてある風呂場に瑞鳳と共に居るのはこれで数日だが、未だに慣れんな)

提督「さて、今日も瑞鳳が先に入るか?」

瑞鳳「…………」フルフル

提督「そうか。では、私が先に入ろう。着替える間だけ手枷を外すぞ。瑞鳳、私の方の鍵を出して外してくれ」

瑞鳳「…………」スッ

カチャ──カチンッ

瑞鳳「…………」ジー

提督「……む? 瑞鳳、向こうを向いてくれないか? 着替えれん」

瑞鳳「……私のも」スッ

提督「む? 瑞鳳の手枷も? どうしたんだ?」

瑞鳳「…………」ジー

提督「まあ、良いか……」カチンッ

提督(漸く手枷で繋がなくても良いと思ってくれたのだろうか)

608: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/05(土) 03:30:46.89 ID:QqswW4aao
瑞鳳「…………」シュル

提督「待ちなさい」

瑞鳳「…………」ピタッ

提督「なぜお前も服を脱ごうとしているんだ……」

瑞鳳「…………」ジー

提督「…………」

瑞鳳「……甘えたい」

提督「……………………そうか。甘えるのは構わないが、一緒に風呂へ入ろうとするのはやめておけ。風紀の問題がある」

瑞鳳「…………」ジー

提督「こればっかりは堪えてくれ。そもそも、男女が同じ風呂に入るというのはあまり良くない事だ」ナデ

瑞鳳「…………………………………………」

瑞鳳「…………」コクン

提督(長く考えていたようだが、納得してくれたか)

提督(しかし……甘えるとしても、なぜ一緒に風呂へ入ろうとしたんだ……?)

…………………………………………。

609: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/05(土) 03:31:28.96 ID:QqswW4aao
提督(そして風呂が終わったらこれか)

瑞鳳「…………」ギュゥ

提督(……手枷をする前に戻っていないか、これは?)

瑞鳳「……横須賀の提督さん」

提督「! どうした?」

提督(……この子が自分から話し掛けたのは初めてじゃないか?)

瑞鳳「甘えさせて、下さい……」

提督「……ふむ」

瑞鳳「寝る時に抱き締めてくれると……嬉しい、です」

提督(…………今はそうしてあげた方が良いか)

提督「分かった。電気を消すから、先にベッドへ入っていなさい」

瑞鳳「はい」トコトコ

カチッ──

提督(む……燭台に火を点けておくべきだった。……まあ、どうとでもなるか)スタスタ

提督「私もベッドへ入るから、ぶつからないように」ソッ

ピトッ──

提督「む?」

瑞鳳「……私は、ここに居ます」

提督「……そうか」モゾ

瑞鳳「ん……」ギュ

提督「む」

瑞鳳「落ち着きます……」

提督「……そうか」

610: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/05(土) 03:32:49.82 ID:QqswW4aao
瑞鳳「横須賀の提督さんも、抱き締めてくれますか……?」

提督「……分かった」ギュ

瑞鳳「んっ……!」ピクン

提督「む、痛かったか。すまない」スッ

瑞鳳「……もっと、して下さい」

提督「うん?」

瑞鳳「瑞鳳は……痛いくらいが良いです。もっと、あったかいのを感じたいです」

提督「…………」

瑞鳳「…………」ギュゥ

提督「……温かいのを感じたいから、なんだな?」

瑞鳳「はい……」

提督「分かった。それならば良いぞ」ギュウッ

瑞鳳「んっ──!」ピクッ

瑞鳳「……あったかい」スリ

提督「痛くはないか?」

瑞鳳「……もう少し、強くても良いくらいです」

提督「……これ以上は睡眠に支障をきたしそうだから止めておく」

瑞鳳「はい……」スリ

提督(……瑞鳳の鼓動を感じる。しかし……なんだか速いな)

瑞鳳(これ……身体の奥から気持ち良い……。あったかくて優しい痛みなんて、あるんだ……)

瑞鳳(提督がくれた痛みよりも、もっともっと欲しくなる痛さ……)

提督「良い夢を見てくれよ」

瑞鳳「……はい」

瑞鳳(良い夢……うん……。見れそう……。この人とくっついていると……温かい気持ちになる……)

…………………………………………。

617: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/17(木) 06:09:27.68 ID:3cgKq1PEo
瑞鳳『提督、今日はダシ巻き作ってみたんだけど、食べる?』

提督『ほう。頂こう。──うむ、良い味だ』

瑞鳳『本当ですか? 一杯あるから、たくさん召し上がれ♪』

提督『良い子だなぁ瑞鳳は』ナデナデ

瑞鳳『えへへ』

────────────────。

瑞鳳「!」パチ

瑞鳳(朝……?)

提督「…………」ナデナデ

瑞鳳「ぁ……」

提督「ん、起きたか瑞鳳」スッ

瑞鳳(……そうだった。私、抱き付いて寝てたんだっけ)

提督「そろそろ起きるとしよう。他の皆が来る前に」

瑞鳳(──もしかして、ずっと頭を撫でてくれていたのかな。だから、あんなにあったかい夢を……)

瑞鳳(そういえば……あんなに心地良い夢を見たのって、いつ振りだろ……)

瑞鳳(…………この人には、本当に心を見せても……良いのかな)

提督「瑞鳳? どうした?」

瑞鳳「……あの」

提督「うん?」

瑞鳳「……………………え、と……」

提督「…………」

瑞鳳「……なんでも、ないです」

提督「ふむ……。少し失礼する」ギュゥ

瑞鳳「!!」ピクンッ

提督「このくらいだったか?」

瑞鳳「……はい」ギュ

瑞鳳(ああ……良いんだ……。私……もう閉じ篭らなくても、良いんだ……)

瑞鳳(温かくて、優しくて、安心できて……。いつか夢に見た、落ち着ける時間……)ジワ

瑞鳳(なんでこの人は、私にソレをくれるんだろう……? 迷惑ばかり掛けている私に、どうして……?)ポロポロ

瑞鳳(私の状態が良くないから……? 治さなきゃいけないから……? ……ううん。きっと、この人はこれが普通なんだ……。この人にとっては、ただちょっと優しくしているだけなんだ……)ポロポロ

提督「……もう少しだけ、うたた寝でもしようか。まどろみの中は気持ちが良い」ナデ

瑞鳳「はいっ……!」ポロポロ

瑞鳳(ああ……嬉し泣きって、本当にあるんだ……。私、こんなの初めて……)ポロポロ

…………………………………………。

618: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/17(木) 06:09:54.33 ID:3cgKq1PEo
瑞鳳「……ありがとうございます」

提督「もう良いのか?」ナデ

瑞鳳「うん……。名残惜しいけど、もうそろそろ起きなくちゃいけないから」

提督「そうだな。もうあと少しで金剛や利根がやってくる」

瑞鳳「……大丈夫かな」

提督「赤くなった目が治るかどうかか?」

瑞鳳「ううん、違うの。私、皆に会うのがちょっと怖くて……」

提督「ふむ」

瑞鳳「だって……昨日、大淀さんが言ってたように……皆が不満を持ってるって……」

提督「なるほど。それで不安なのか」

瑞鳳「うん……」

提督「大丈夫だ。その事については謝っておけば問題無い。あの子達ならば分かってくれる」

瑞鳳「……ホント?」

提督「流石にその場で一切合切なにもかも飲み込んでくれはしないだろうが、少し時間を掛ければ受け入れてくれるだろう」

瑞鳳「…………」

提督「怖いか?」

瑞鳳「……ちょっとだけ。でも、横須賀の提督さんが言うのなら……大丈夫、だよね?」

提督「信じてくれるとありがたい」ナデナデ

瑞鳳「……うん。信じるね」

提督「うむ。では、顔を洗ってきなさい」

瑞鳳「うん!」ニコ

トコトコトコ──

619: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/17(木) 06:10:22.70 ID:3cgKq1PEo
提督(……どことなく、妹の方の金剛と似たような笑い方をしている。儚い笑みだ……)

瑞鳳「……えっと、横須賀の……じゃなくて、中将さん」ヒョコッ

提督「うん? どうした?」

瑞鳳「…………提督は……どうなるのかな」

提督「大佐か。……分からん。ただ、敵に協力をしていたと認めてしまった事から『処分』もあり得る」

瑞鳳「……そっか」

提督「…………」

瑞鳳「やっぱり、そうなっちゃうよね……。うん……そっか……」

提督「……辛かったら、いつでも話を聞くぞ」

瑞鳳「うん……」トコトコ

提督(……本当、あんなに酷い事をさせられても悲しめるとは)

提督「艦娘、か……」

提督(基本、ただ一人の提督に付き従うと聞くが……ここまでいくものなのか……。私に付き従ってくれる子達も、同じなのだろうか……)

提督(そして、好いてくれる理由も……。そして……もしかすると、金剛も……)

提督「…………」チラ

提督(金剛との、つがいのネックレスは引き出しの奥にある。……もしかすると、あのネックレスは金剛にとって呪いだったのだろうか。より束縛し、より私を盲目に信じさせる、薄汚い物だったのだろうか……)

提督「……どうなんだろうな」

提督(もしそうであるのならば……寂しいな)

瑞鳳「──中将さん」トコトコ

提督「どうした、瑞鳳」

瑞鳳「辛そうだけど、大丈夫……?」

620: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/17(木) 06:11:03.89 ID:3cgKq1PEo
提督「……ポーカーフェイスには自信があるつもりだったが」

瑞鳳「……いつも提督の顔色を伺っていたから、なんとなく分かっちゃうの」

提督「そうか……」

瑞鳳「えっと……私、痛い事は好きなの。だから、もしそれで気が紛れるなら、いつでも良いですよ?」

提督「馬鹿を言うんじゃない」

瑞鳳「本当なの。……最初は痛い事は嫌だったし逃げ出したかったけど、いつの間にか『痛い』って感覚は生きてる証に感じて、生きてるって分かる事が好きになって……」

提督「……………………」

瑞鳳「私なら大丈夫です。自分で自分の小指を切る事も出来るから、ね?」

提督「自分の、指を……?」

瑞鳳「うん。そうしなかったら、私の代わりに他の艦娘の指を切り飛ばすって言われたから……」

提督「……瑞鳳、もっと近くに来なさい」

瑞鳳「? うん」トコトコ

提督「おいで」スッ

瑞鳳「え? 腕の中……良いんですか……?」

提督「ああ」

瑞鳳「……うん!」ソッ

提督「こうされるのと、どっちが好きだ?」ギュッ

瑞鳳「んっ……。こっち、かな?」

瑞鳳「痛いのも良いけど、こうやって、誰かの心臓の音を感じるのも……好き。痛いくらい抱き締められるのって、もっと欲しくなる痛みだから……。それに、心臓の音を聞いてると、生きてるんだなって思えるの……」スリ

提督「……そうか」

瑞鳳「うん……。気持ち良くて、優しくて、あったかいから、凄く好き……。もしかしたら癖になるかも」

621: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/11/17(木) 06:11:50.52 ID:3cgKq1PEo
提督「…………」

瑞鳳「あぁ……ずっとこのままで居たいって思っちゃう……」

提督(そういえば……金剛も抱き締められるのは好きだったな……。…………少しくらいは、私も都合良く考えても許されるだろうか)

提督「……ありがとう、瑞鳳」

瑞鳳「? お礼は私が言うべきじゃ……」

提督「いや……少しだけ、軽くなった」

瑞鳳「軽く……? え、えっと……?」

提督「ありがとう……」

瑞鳳「……うん」

コンコンコン──

提督「──さて、今日も一日が始まる。瑞鳳、今日は正式に鎮守府の皆に自己紹介しようか」スッ

瑞鳳「はいっ」

提督「よろしい。──金剛、入ってきて良いぞ。知らせたい事もある」

…………………………………………。

627: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/01(木) 04:40:33.50 ID:svt2Tvv2o
金剛「…………」チラ

瑞鳳「────?」オドオド

祥鳳「────────」ナデ

瑞鳳「────♪」

天龍「? ────!」

暁・雷「!」

ヲ級「────!」ブンブン

瑞鳳「!」チラ

祥鳳「────」フリフリ

瑞鳳「…………」フリフリ

暁・雷「…………」チラ

天龍「? ────?」

暁・雷「…………」フリフリ

金剛(……祥鳳はともかく、さすが天龍とヲ級ですね。事情が事情だからなのか、それとも素の行動なのかは分かりませんが、わだかまりを解消してくれそうです)クルッ

金剛(こう言うのは良くありませんが、おかげでこっちの問題も手が付けられそうです。……シスターの事、テートクに相談しなくちゃ)スタスタ

金剛(今の時間は大抵が執務のはずですが、最近は執務が少なくなった事で休憩時間にしていましたから大丈夫ですよね)スッ

コンコンコン──

提督「金剛か、入れ」

??「なっ!!」

金剛(? 誰の声でしょうか?)

628: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/01(木) 04:41:03.67 ID:svt2Tvv2o
ガチャ──パタン

長門「な……なな、ななな……!!」ブラーン

金剛「……なんで吊るされているのデスか?」

提督「この前の深海棲艦との戦闘で命令を無視してまで前線に残っていた罰だ。あれではいつ沈んでもおかしくなかったぞ」

金剛(ああ……なるほど)

利根「ほれ、金剛も見るかの? なんと純白の下着じゃぞ。意外じゃよのう」ピラ

長門「何をする!? やめないかッ!!」

利根「とは言うても、これがこのお仕置きの醍醐味じゃからのう。……おぉ、よく見ると小さな薄桃のリボンがあるのじゃな。やはり可愛いもの好きか」ジー

長門「~~~~~~!! て、提督も何か言ってくれ!」

提督「私はここでお前の反省を見守るだけだ。それ以外はよっぽどの事を除いて関与せん」

長門「見守るなどと言いつつ戦艦すら射殺す目をしているではないか……!!」

金剛・利根「あ」

提督「反省の色が見えんな。十分追加」

長門「なぁっ!? ほ、他の者達が更に来たらどうする!?」

提督「それはお前自身が招いた事だ。それによって生まれる問題は自分の行動の結果だと思え」

長門「くぅっ……!」

利根「じゃが、羞恥心ばかりで恐怖心が無いのはまだ良いのではないか? 我輩など提督がこんな形相で視線を逸らす事も許されず仁王立ちなどされたら怖くて縮こまってしまうぞ」

長門「今はそれどころではない!! これ以上、誰かに見られたらと思うと──!」

提督「ほう? 反省をするどころか全く別の事を考えるか」ジッ

長門「ひっ!? じ、時間を延長するのは止めてくれ!! もうあんな事はしないと誓う!!!」

提督「宜しい。あと五分で降ろすとしよう」

629: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/01(木) 04:41:30.38 ID:svt2Tvv2o
長門「な、長くなっているのは変わらないのか……!!」

提督「お望みならばもっと長くしてやるが」

長門「や、やめてくれぇ!! こんな姿をこれ以上見られたくない……ッ!!」

利根「……プライドの塊というのは生き辛そうじゃのう」

金剛「効果抜群ネー……」

────五分後──

長門「…………終わった……。二つの意味で、終わった……」ズーン

利根「瑞鶴と響がやってくるとはのう。気を利かせてくれたのか、すぐに帰ってくれたが」

長門「誰かに話していたり、しないだろうか……」

利根「瑞鶴は何かあった時にポロッと口にしてしまいそうじゃ。響は……言いそうではないが、今回の事を知っている者の間では言いそうなイメージはあるかの」

長門「ああぁぁぁぁぁ…………」

金剛「物凄い悲痛な声デス……」

利根「しかし少し意外じゃったな。てっきり『フン。ビッグ7たる者、この程度で屈したりはしない』なんて言うかと思っておったのじゃが」

長門「こういう羞恥心を煽られる事は苦手なんだ……」

利根「なるほどのう」

提督「反省はしたか?」

長門「!! は、はいッ!」ビクッ

金剛(また一人、テートクを怒らせてはいけないと身をもって知ったですね……)

提督「宜しい。部屋に戻って良いぞ。──利根、部屋まで送ってやってくれ」

利根「うむ。フォローは任せるが良いぞ」トコトコ

長門「失礼……した……」トボトボ

630: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/01(木) 04:42:00.98 ID:svt2Tvv2o
ガチャ──パタン

提督「……さて金剛。少し話がある」

金剛「……ハイ。シスターの事デスね?」

提督「ああ。あれから表に出てきたりはしているか?」

金剛「いえ……塞ぎこんでいてまったく返事をしてくれまセン。心の奥に居るのだけは分かるのデスが……」

提督「大丈夫なのだろうか……」

金剛「分かりまセン……。そもそも、どうして塞ぎこんでしまったのかも分からないデス……」

提督「むう……」

金剛「…………」

提督「……一先ず、呼び掛けて──いや、呼び掛け続けてみよう。もしかしたら反応してくれるかもしれん」

金剛「ハイ。私も諦めまセン。諦めてしまったら……それは私がシスターの身体を乗っ取ってしまうのと変わらないデス」

提督「そうだな。……金剛、気になったのだが、最後に妹の方と話した時に何かおかしい所とかはあったか?」

金剛「そうデスね……。レ級と戦っていた時にたしか、この身体は私のモノとして扱って下サイ、と言っていたデス」

提督「……ダメージを気にしないで良い、と言った訳ではなさそうだな」

金剛「ハイ……。あの時は考える余裕がありまセンでシタが、今になって思うと、あれは私に身体を受け渡すという意味にも聞こえるデス」

提督「ああ……。本当、どうしてなんだ金剛。お前の身体はお前のモノだろう? 誰かのモノでもない、自分自身のモノだ。今はただ好意で私達を会話させる為に──……」

金剛「!」ハッ

提督「……そういう事か」

金剛「きっと、そうかもしれまセン。……馬鹿デス」

提督「本当にな……。そんな事をしても、誰も喜びはしないというのに……」

提督「──私と金剛の為に、自分を犠牲にしようと考えるか。なぜそんな事を……」

631: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/01(木) 04:42:27.46 ID:svt2Tvv2o
金剛「……艦娘、だからデスかね」

提督「…………」

金剛「私達はテートクの為に動き、テートクに喜んで貰いたいと思っているデス。……きっと、シスターは自分ではなく、私の方がテートクを喜ばせられると思ったのでショウね」

提督「……………………」

金剛「……シスター、お願いデス。もし本当にそんな事を考えているのでしタラ、考え直して欲しいデス。私もテートクも、そんな事は望んでいないデス」

提督「金剛、話をさせてくれ。このままお前が居なくなるなど、私は認めん。……頼む」

金剛「…………ダメです。反応も何もしてくれまセン……」

提督「金剛……」

金剛「シスター……」

…………………………………………。

635: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/15(木) 04:16:02.26 ID:2Gw8Ge/do
飛龍「…………」カリカリ

利根「…………」カキカキ

提督「…………」サラ

飛龍(……利根さん。提督に何かあったんですか?)ヒソ

利根(いや……我輩は知らぬ。朝から何か深く考えておるようなのじゃが……聞いても生返事なのじゃ)ヒソ

飛龍(……一体、何があったんだろ。それに、私達に相談してくれないって事は……私達は頼りにならないって事なのかな……)シュン…

利根(飛龍よ)ヒソ

飛龍(…………?)

利根(お主が考えている事はなんとなく分かる。じゃが、あの提督じゃぞ? 一人でこんなに考えるという事は、きっと人に言えぬ事なのじゃ。それか、言うと問題のある事なのかも知れぬ)ヒソ

飛龍(…………)

利根(今はそっとしておくのが良かろう。見守るというのも、一つの信頼の形なのじゃ)ヒソ

飛龍(……………………)

飛龍「……利根さん、私はこういうのが苦手なのは知っていますよね?」

利根「!」

提督「……うん?」

飛龍「私は不器用に真っ直ぐです。だから、私は訊くしか出来ません」

提督「……何の話だ?」

飛龍「……提督。提督の悩みは、何ですか? それを教えてくれませんか?」

提督「む……」

飛龍「こんな風に提督が悩んで苦しんでいる姿は私も辛いです。だから、一緒に考えさせてくれませんか? 頼りないかもしれませんが、提督の悩みを私達にも共有させてくれませんか?」

利根(むう……これは良くないぞ……)

636: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/15(木) 04:16:28.45 ID:2Gw8Ge/do
提督「……飛龍」

飛龍「! はい」

提督「……すまない」

飛龍「……それ、は…………」

提督「そういう事だ。……簡単に人に話せる事ではないんだ。私も誰かと相談をしたい気持ちがある。今ここで話したいくらいだ。……だが、言う訳にはいかない。そうすると──」

提督(──余計に、殻に閉じ篭っている金剛の立ち位置が危ぶまれる。いつか必ず、あの子が酷く傷付いてしまう)

提督「…………すまない」

飛龍「そう……です、か……」

利根「……提督よ。一旦、休憩にせぬか? 今のままでは仕事にならぬじゃろう」

提督「……そうだな。休憩に──」

飛龍「…………」ジワ

提督「!!」

飛龍「!」ブンブン

飛龍「す、少し顔を洗ってきます!」タッ

提督「飛りゅ──」

ガチャ──パタン

飛龍「ごめんなさい、提督……」

飛龍(……馬鹿だな、私。勝手に訊いて、勝手に傷付いて……。提督だって人なんだから、誰にも言えない事くらいあって当然なのに……)

金剛「──飛龍?」

飛龍「!!」

金剛「どうシタのデスか? 泣いているようデスが……」

637: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/15(木) 04:16:54.96 ID:2Gw8Ge/do
飛龍「……金剛さん。…………ごめんなさい……」スッ

金剛「あ……。……何があったのでショウか」チラ

利根『────難しいものじゃなぁ……』

提督『飛龍には悪い事をしてしまった……。もう少し、言い方があったかもしれんというのに』

利根『……これは我輩の勝手な憶測なのじゃが、金剛の事で悩んでおるのではないか? そして、それは我輩にも言えぬ事かの?』

提督『……そうだな。なるべくならば誰にも伝えない方が良い内容だ』

利根『ふぅむ……。ならば我輩は待っておるとするかの。……じゃが、飛龍のような子も居るのじゃ。その点はどうにかした方が良いぞ?』

提督『ああ……まったくだ。今回の落ち度は私にある』

利根『……本当、難しいものじゃな。人間も、艦娘も……』

金剛(この話は、もしかして……)

金剛(……どうしましょうか。……本当、困りました。どうすれば、この状況を解決出来るのデスか……?)

金剛「……………………」

金剛(一先ずは飛龍です。利根の言っていたように、飛龍のように傷付いてしまう子だって居ます。ただ……こればっかりはテートクではどうしようもできそうにないですね……。ならば──)スッ

金剛(──私がやらなければなりません。そうでないと、この鎮守府は大変な事になってしまうです)スタスタ

金剛(飛龍の事です。きっと、あの部屋に行っているでしょうね。あの部屋ならばここから近いですし、それに今の時間ならば一人になれるはずですから)スタスタ

金剛(廊下を曲がって突き当たり……夜、お酒を飲む時に使われる部屋。飛龍なら、きっとここに……)スッ

コンコンコン──

ガチャ──パタン

飛龍「!! こ、金剛さん……? どうしてここに……」

金剛(やっぱり居ました。……やっぱり、泣いていたようですね。目尻が赤くなってるです)

金剛「飛龍がここへ入っていくのを見たので、来まシタ。隣に座りマスね。それで……何かあったのデスか?」スッ

638: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/15(木) 04:17:21.34 ID:2Gw8Ge/do
飛龍「それ、は……その……」

金剛「ハイ」

飛龍「……私の自分勝手な行動で、私が勝手に傷付いたんです。……私はある人に、心の奥へ踏み込むような事をしてしまいました。けれど、それはその人にとってとても重要な上、誰にも話す事の出来ない内容だったようで……。それで、話してくれなかった事が凄く辛くて……」

金剛「自己嫌悪してしまった、デスか」

飛龍「はい……。今、そんな事をしてしまった事を後悔しているんです……」

金剛「後悔、デスか」

飛龍「ええ……。もう、自分が嫌になります……」

金剛「……その人はとても悩んでいたのデスよね?」

飛龍「はい……見ていてこっちも心配になるくらいでした……」

金剛「心配になる……という事は、その人は普段そんな風に悩まないのデスね?」

飛龍「そうです……。あんなに悩んでいる姿なんて、初めて見ました……」

金剛「……これは私の勝手な意見デスが、私は飛龍のした事は間違っていないと思うデス」

飛龍「でも……」

金剛「普段、悩んでいる姿を見せない人なのデスよね? なのに、そんな人が悩んでいる姿を人に見せてしまうという事は、誰かにその悩みを話したいのだと思いマス」

提督『……簡単に人に話せる事ではないんだ。私も誰かと相談をしたい気持ちがある。今ここで話したいくらいだ』

飛龍「……はい」

金剛「その人は話す事が出来ないと言ったようデスが、それは飛龍の為を思ってなのかもしれまセンよ?」

飛龍「私の為……?」

金剛「ハイ。誰にも話す事が出来ないという事は、話す事自体が危ない事や、話す事で誰かが傷付く内容だったという可能性が高いデス。それを知ってしまった飛龍が、その人と同じく悩んでしまうのを避けたかったのかもしれまセン」

飛龍「……………………」

金剛「少し待ってみてはどうデスか? 時間が経つ事で話せるようになるかもしれまセンし、もし解決シタのならば、掻い摘んで話してくれると思うデス」

639: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/15(木) 04:17:55.27 ID:2Gw8Ge/do
飛龍「……そう、ですね。……そうしてみます」

金剛「イエス! そうとくれば、涙を拭いて顔を洗ってから、その人の所へ行ってあげて下サイ! 待っていると言っておけば、話せる時になったら話してくれるはずデース!」

飛龍「──はい。ありがとうございます、金剛さん」

金剛「私は自分の考えを言っただけネ。それでどんな風に受け取って、どんな風に解決するかは飛龍次第デス」

飛龍「……なんだか提督みたいな言葉ですね?」クス

金剛「私もテートクに影響されているデスからね」ニコニコ

飛龍「……なんだか、懐かしいです」

金剛(……はぐらかしておきましょう。言う訳にはいきません)

金剛「懐かしい……?」

飛龍「あ──い、いえ! なんでもないです!」

金剛「うーん……そういう事にしておきマス! では、飛龍もどうすれば良いのか分かったようなので、私も行くデス」スッ

飛龍「……もしかして、何か用事があったりしました?」

金剛「ノンノン。レディのお化粧直しを見る訳にはいかないデース。──では、失礼しまシタ」

ガチャ──パタン

飛龍(……やっぱり、あの金剛さんに似てるなぁ。やっぱり、別人でありながら同一人物って事なのかな)

金剛(これで上手くいけば良いのですが……。少なくとも、飛龍の落ち込んでいる姿を見て、テートクが何かを悩んでいるという事は無いでしょう。……テートクならば、これから悟られないようにしてくれるはずです)

金剛(……シスター。せめて、お話の場だけでも用意してくれたら……)

…………………………………………。

651: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/25(日) 04:48:02.84 ID:gfxgnvvZo
利根「──のう提督よ。サンタになってみる気はあるかの?」カリカリ

提督「……執務中だというのに、いきなりどうした利根?」サラサラ

利根「何。簡単な事じゃ。一部の者達がクリスマスを楽しみにしているようでな」カリカリ

提督「なるほど、そういう事か。……しかし、今からプレゼントなど用意できんぞ。そもそも、娯楽品を手に入れる事自体が難しい事から、希望の品を渡す事もままならない」サラサラ

利根「そこは提督という権限でどうにかしてやってはどうじゃ?」

提督「馬鹿を言え。また島流しされたいのか?」

利根「やはりそうなるよのう……」

提督「……しかし、どうしてまたそんな話をしたんだ? プレゼントを欲しがっている子でも居たか」

利根「まあ居る事は居たが、少数じゃな。単純にクリスマスの雰囲気を知りたいという者が多かったのじゃよ」

提督「ふむ……」

利根「そこで気になったのじゃが、どうして提督はクリスマスに何かイベントをしたりしないのじゃ?」

提督「クリスマスは、深海棲艦が現れる前に戦争していた敵国の祭りだからだ。敵国の祭りで祝うなど士気の低下に繋がりかねんと判断して一切の手を付けていない。むしろ、祝っているのを上層部に知られでもしたら面倒だ」

利根「ほー。初めて知ったぞ。むしろ、深海棲艦と戦う前に戦争などしておったのか」

提督「……そうか、お前達は知らないのか。一応この国は枢軸国として、ドイツなどと共にアメリカやイギリスなどの連合国を相手に戦っていたぞ」

利根「過去形なのじゃな」

提督「今はそれどころではないからな。連合はおろか、枢軸にすら連絡が取れん。近くにある国ですら人を確認できていない。深海棲艦によって殲滅された可能性は大いにあるだろう」

利根「なるほどのう。……話は戻すが、お菓子を配る事も難しいかの」

提督「菓子か。ふむ……。それならば士気向上という建前も得られる。それに、実際に皆が喜ぶだろう」

提督「あと、お前も喜びそうだ」チラ

利根「むむ。我輩はお子様ではないぞ?」

提督「そうか。──では、間宮たちに頼んで25日に配る菓子を用意して貰うか」

利根「ちなみに、どんな物を配るのじゃ?」

提督「そうだな……。出来れば、普段とは違う菓子が良いな。その方が皆も喜ぶだろう。そこは間宮たちと一緒に相談でもしよう」

利根「ほうほう」

提督「さて、では間宮たちと話す為に執務をさっさと終わらせるとしよう。利根、ついてこいよ」サラサラサラサラサラ

利根「ぬぁ!? そ、そんなに速く処理など出来ぬわ! 腕が早送りしているみたいじゃぞ!?」カリカリカリ

……………………
…………
……

652: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/25(日) 04:48:29.16 ID:gfxgnvvZo
提督「──さて間宮、最中はどうなった?」

利根「ほう、最中にしたのか」

間宮「はいっ、ちゃんと作っておきました。こちらに用意していますよ」

利根「おお……これまた凄まじい量じゃのう……」

提督「……山と言うのはこういう事だな。百なんて個数ではないだろう、これは」

ヲ級「一杯、作った!」ニパッ

伊良湖「空母棲姫さんとヲ級ちゃんが頑張って下さったので、一人あたり四個も用意できましたよ!」ニコニコ

空母棲姫「頑張りました」

提督「という事は三百近くもか……。本当、ありがたい」ナデ

間宮「いえいえ♪」ニコニコ

伊良湖「わわっ……! 頭を撫でてくれたのって初めてかも……!」

ヲ級「えへー♪」ニパー

空母棲姫「少し……恥ずかしいです……」

ヲ級「姫、照れてる!」

空母棲姫「……頬を伸ばしてあげても良いのよ?」

ヲ級「素直が、一番!」ニコニコ

空母棲姫(……こうも純粋に笑顔を向けられると、お仕置きも出来ないわ)

利根「ところで、提督よ」

提督「どうした」

利根「既に菓子の匂いに釣られて何十人……というよりも、全員が食堂を覗いているようじゃが、どうするのじゃ?」

653: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/25(日) 04:48:57.55 ID:gfxgnvvZo
川内「ねえ、何かなアレ?」

電「ちっちゃな袋が沢山なのです」

赤城「甘い匂いがします……!」

鈴谷「もしかしてお菓子とか? 提督やるじゃーん!」

提督「丁度良いからここで配るとしよう」スッ

提督「──お前達、中へ入ってこい」

全員「はーい」

ゾロゾロ

提督「全員揃ったな。──本日はクリスマスだというのは皆も知っているだろう。今までは事情により開催される事はなかったが、今年より菓子の配布という形で実施する事とした。今日の為に頑張ってくれた四人には必ず礼を言うようにしてくれ」

全員「はいっ! ありがとうございます!」

提督「よろしい。では、菓子を配る。私たち六人で配るので、六列に並んで受け取ってくれ。一人につき四個だ」

…………………………………………。

654: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/25(日) 04:49:23.72 ID:gfxgnvvZo
ガチャ──パタン

利根「ふぅ……。皆、喜んでおったのう」

提督「ああ。良い笑顔だった。これからもクリスマスは菓子を配るとしよう」

利根「うむ!」

提督「さて利根。手伝ってくれたお前にもクリスマスプレゼントがあるのだが」

利根「ほう、プレゼントとな? 何があるのじゃ?」ワクワク

提督「これだ」スッ

利根「うん? さっき配っていた最中……と似ておるのう。なんだか形が歪じゃ」

提督「間宮と伊良湖の完全監修の下だったが、私が作った」

利根「……なぬ!? 提督の手作りじゃと!?」

提督「そんなに驚くか」

利根「なんでも、以前は卵と塩だけで虹色の物体Xが出来るとかと耳にした事があるぞ」

提督「まあ……な。そんな時代もあった。私は料理が壊滅的に下手だ。……だが、島暮らしをしていた事もあって、簡単な料理くらいならば出来るようになっている。それで、いつも私の傍に居てくれている利根へ渡すのに丁度良いと思ったんだ」

利根「レア物じゃ!! 提督の手作り菓子じゃ!! わーい!」

提督「お前、この間はお菓子で喜ぶのはお子様だとか言っていなかったか?」

利根「何を言う! 提督の手作りで喜ばぬ愚か者など居らぬわ!」

提督「喜んでくれて何より」

利根「……じゃが、ちと足りぬのう」

提督「食いしん坊かお前は」

利根「そういう意味ではないわ。……提督よ、この最中を口で咥えてくれぬか?」

655: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2016/12/25(日) 04:50:30.79 ID:gfxgnvvZo
提督「……そうきたか」パクッ

利根「ん……」スッ

提督「…………」スッ

利根「……くくっ、これは良いものじゃ。気分が良くなるのじゃ」ニヤ

提督「……私は少し恥ずかしさがあるぞ」

利根「まあまあ。プレゼントなのじゃから少しくらい良かろう?」

提督「まったく……」

利根「提督、もう一回頼むぞ」キラキラ

提督「……もうこうなったら何回でも付き合ってやる」スッ

利根「うむ! ありがたいぞ!」ニパッ

提督「困った嫁を持ったものだ」

利根「それはお互い様じゃろう?」

提督「……ほら、早くしないと誰かが来るかもしれんぞ」スッ

利根「っとと、そうじゃな。……ん」スッ












響(実は最初から見ているんだけどね。嬉しそうにしている二人を見る……これはこれで良いものだね)ニヤ

クリスマス・利根編 了

662: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/14(土) 01:28:25.93 ID:lFK1rZlxo
カチャッ……ガチャ──パタン

金剛「…………」トコトコ

ポフッ

金剛「……ここのベッドは、いつも通りデスね」ナデ

金剛「シスター、知っていまシタか? この部屋、実はテートクと私にとって大事な部屋なのデスよ。なぜだと思いマスか?」

金剛「……それはデスね、この部屋は……テートクと私の部屋だったからデス。二人っきりになりたい時は、必ずこの部屋を使っていまシタ」

金剛「二人になりたい時以外にも、スリープする時や皆さんには秘密の話をする時も……愛を囁く時も、必ずこの部屋でシタ。知っているかもしれまセンが、この部屋は防音加工をしているデス。完全に二人っきりになりたいから、そんな改造をしまシタ」

金剛「だから……テートクがシスター達をこの部屋に通した時はビックリしたデス。それに、シスターをしばらくここへ残していたのも複雑な気持ちになりまシタ」

金剛「私の死をしっかりと受け止めてくれたのかな……と思ったり、私ではなく『金剛』であればそれで良いのかな……と思ったり、それとも未練が残っていてシスターを私と重ねていたのかな……とすら思いまシタ。……そのどれも違っていまシタけれどね」

金剛「……シスター。テートクは前に進もうとしているデス。もう一緒に歩く事が出来なくなった私の傍に居ようとせず、前に向かって進んでいる皆さんと共に歩んでいこうとしてくれていマス。……けれど、私が居るとそれは出来まセン。私は……もう過去の存在なのデス。テートクの未来に、もう……私は居まセン。死者は死者らしく、ひっそりと見守るだけにすべきでシタ」

金剛「ごめんなさい、シスター……。私のせいで、シスターを思い詰めさせてしまいました……。私は、悪霊と何も変わりません……」

金剛『……違いマス』

金剛「!! シスター……!」

金剛『なんで、そんな風に言うのデスか……。悪霊だなんて、私は一度も思った事なんてありまセン! シスターは私にとって頼りになって、強くて優しい存在デス!』

金剛『私は……私は……! テートクに喜んで欲しかったのデス!! シスターと一緒に暮らしていけば……初めこそ私を気に掛けようとも、いつかきっと幸せに暮らして下さると思ったからデス!! だというのに……なぜデスか!? テートクもシスターも、心の底から愛し合っていたはずデス!! なのに、なぜお二人はそんなに悲しそうにするのデスか!? 二度と会えないはずだった二人が一緒に暮らせるようになってハッピーエンドで良かったではありまセンか!!』

金剛「…………」

金剛『だから……だから……!』

金剛「……………………」

金剛『シスター……』

金剛「…………あれ?」フラッ

ボフッ……

663: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/14(土) 01:29:01.34 ID:lFK1rZlxo
金剛『シスター……?』

金剛(……身体が、思うように動かせない?)

金剛『え……?』

金剛(何ですか、これは……。どこにも力が入りません……)

金剛『え……え……?』

金剛(……右手は……ダメです。左手……指……両足……腰……首……。…………本当にダメです。どこも動きません)

金剛『な、何が起きているのデスか?』

金剛(分かりません……。一体、何が起きたのでしょうか……。……シスターは動かせられますか?)

金剛『……………………。私も動かす事が出来まセン……』

金剛(……一先ず、主導権を変わりましょう。シスター、身体を動かす事が出来るか試して下さい)スッ

金剛『ハ、ハイ!』スッ

金剛「…………変わりまシタが……何デスか、これは……? まるで、自分の身体ではないみたいデス……」

金剛『どこか動かす事は出来ますか?』

金剛「……………………少しだけならば動かせマス。とは言っても、指くらいデス……」

金剛『……困りました。このままだと自分ひとりでは何も出来ません……』

金剛「しかも、この部屋って防音デスよね……? 誰か気付いてくれるのでショウか……」

金剛『……………………』

金剛「うぅ……どうしまショウ……」

金剛『……いえ、大丈夫です』

金剛「え……?」

金剛『テートクならば、必ず気付いてくれます』

金剛「でも……」

664: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/14(土) 01:29:27.75 ID:lFK1rZlxo
金剛『大丈夫です。テートクを信じて下さい』

金剛「……シスターが言うのであれば、信じるデス」

金剛『……ちなみにですが、こんな事になった原因は私にあると思います』

金剛「え?」

金剛『私がシスターと一緒に過ごし始めてからシスターの身体がおかしくなっています。頭がボンヤリとするくらいならばあまり気になりませんでしたが、こんな風にまでなると無視できません』

金剛「そ、それは……」

金剛『シスター。やはり私は──』

金剛「駄目デス」

金剛『シスター……』

金剛「テートクにはシスターが必要デス。テートクを本当の意味で癒す事が出来るのは、シスターだけデス。……なのに、今ここでシスターが居なくなってしまっタラ、いったい誰がテートクを癒すのデスか?」

金剛『……………………』

金剛『……いえ、それは違います』

金剛「え?」

金剛『死者は死者でしかありません。死んでしまった私は、本当ならば干渉する事は許されていないのです。……それに、テートクをこれから癒すのは、シスター達の役目です』

金剛「で、ですが……!」

金剛『シスター、やっぱり私は大人しく見守る事にします。そうすれば、きっとシスターの身体の異常も無くなるはずです』

金剛「…………」

金剛『たぶん大丈夫ですが、シスターの身体から出られるか試しますね』

金剛「……テートクに!」

金剛『…………?』

金剛「テートクに訊いてみまショウ! テートクなら、きっとシスターを求めるはずデス! だって、お二人は愛し合っていたのデスから!」

金剛『…………』

665: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/14(土) 01:30:01.67 ID:lFK1rZlxo
金剛「もしテートクがシスターを求めるのならば、シスターは残って下サイ! 私は、お二人が離れ離れになるのが嫌デス!! 折角のチャンスなのデスよ!? もう二度と話す事すら出来なかったお二人が、また一緒に暮らして笑い合えるチャンスを捨てないで下サイ!」

金剛『……では、テートクが私を求めなかった場合、私はシスターの身体から出るようにします』

金剛「……ハイ! 構いまセン! テートクは、必ずシスターを放さないデス!」

金剛『それともう一つ。もし私が身体から出る事になったら、シスターは自分を大事にして下さい。シスターは、少し自分を蔑ろにしがちです』

金剛「分かりまシタ。約束しマス」

金剛『約束デス。──では、テートクを待ちましょう』

…………………………………………。

670: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/24(火) 03:05:43.00 ID:75xTnsMro
金剛「…………テートク……」

金剛(信じていマス、テートク。きっと……いえ、必ずシスターを選んで下さると。そして……)

金剛『……………………』

コンコンコン──

金剛「!」

ガチャ──パタン

提督「ここに居たのか、金剛」スタスタ

提督(む……?)

金剛「……テートク」

提督「! お前は……」

金剛「テートク、大切なお話がありマス。訳有ってこの体勢デスが、許して下サイ」

提督「……ああ、構わんぞ。大切な話とはなんだ?」

金剛「それは、私とシスターの事デス」

提督「……ふむ」

金剛「……………………」

提督「…………」

金剛「実は、デスね。もうそろそろ限界なんデス」

提督「限界?」

金剛『シスター……?』

金剛「私は……もうすぐ消えてしまいマス」

提督「…………」

金剛『消える……? 一体何を……』

671: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/24(火) 03:06:13.03 ID:75xTnsMro
提督「どういう意味だ?」

金剛「あの島で拾われた私の意識は、もうすぐ無くなってしまうのデス。そして、この身体はシスター……テートクの『金剛』が受け継いでくれマス」

金剛『──待って下さい!! 何を言っているのですか!?』

金剛「こうなるのは分かっていまシタ……。ケド、確信は持てなかったのデス。……この前の、深海棲艦の大群と戦うまでは。だから……後はシスターと二人でお願いしマス」

提督「……それは、お前が消えて、姉の金剛が残るという意味か?」

金剛「……ハイ」

金剛『…………っ。そういう、事ですか……。シスター……貴女はどこまで馬鹿なのですか……。嘘を吐いてまで、どうして……』

金剛(馬鹿デスよ、私は。私よりも、シスターがテートクを幸せに出来マス。そして……テートクもその方が良いはずデス。その為であれば、私は自分の命すら惜しくありまセン。しばらくシスターに身体を預けていて、私は自分の意識をこの身体から消せる事も知りまシタ。後は……お別れの言葉だけデス)

提督「……そうか。ならば、言わなければならない事が出来たな」

金剛『提督!?』

金剛「……ハイ」

提督「──私がその程度の事、分からないとでも思ったか?」

金剛「…………え?」

提督「アイツがその程度で納得するものか。お前が消えると言っていたが、アイツがそれに納得する訳が無い」

金剛「で、でもシスターは……」

提督「舐めるなよ。アイツは私が選んだ子だ。強く、賢く、そして眩しいほどに真っ直ぐな子だ。そんなアイツがお前の犠牲を認めるとでも?」

金剛「…………っ」

提督「アイツは諦めが悪い。どんな状況でも、どんな状態であろうと、自分がどうしても納得できない時は全力で立ち向かう。例えそれが、どんなに無駄だと分かっていても」

提督「そもそも死者は死者でしかない。アイツが……死者である金剛が、生者に成り代わろうとするものか」

提督「──私が愛した金剛は、そういう子だ」

金剛「────────」

金剛『……ふふっ。やっぱり、提督は提督ですね。こうやって私を理解してくれるから、私は提督を心から愛せました』

金剛『私を理解してくれて、私と一緒に歩んでくれて、私と一緒の時間を過ごしてくれて……。沈んでしまった後もこうやって理解してくれて、私は本当に幸せ者です』

672: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/24(火) 03:06:52.47 ID:75xTnsMro
金剛「…………」

金剛『シスター、これで分かりましたね。消えなければならないのは、私の方です』

金剛「なぜ、デスか……」

金剛「なぜ!? なぜ二人はそうやって割り切れてしまうのデスか!? そんなに愛し合っていたというのに、どうしてこのチャンスを捨てようとするのデスか!!?」

金剛「私には分かりまセン!! 二人は言っていたではありまセンか!! また話したいと! また会いたいと! なのに、なぜ!?」

提督「充分に夢を見させてくれたからだ。本来ならば絶対に叶わない夢を……」

金剛『ですが、夢は夢です。いつか、覚めなければなりません』

提督「それに、金剛ならば待っていてくれる」

金剛『ええ。いつまでも待っていますよ』


ヴァルハラ行きを蹴ってでも──

673: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/24(火) 03:07:28.31 ID:75xTnsMro
金剛「……………………本当、お二人はお互いの事を良く知っているのデスね……」

提督「なるほど。同じ事を言っていたか」

金剛「…………」コクン

金剛「本当、私も馬鹿デスけれど、お二人も馬鹿デス。折角のチャンスを棒に振るだなんて……」

提督「お前の犠牲で成り立つチャンスなど考えるまでもなく却下だ。私も金剛も、そういう事が嫌いでな」

金剛『イエス! 絶対に許しません!』

金剛「……敵いまセンね、これは」

金剛「私の負けデス。シスター、最後に身体をお貸ししマスので好きに使って下サイ」スッ

金剛『またそう──』

金剛「──やって……って……」

提督「…………」

金剛「…………」

金剛「もう……シスターも中々に強引デース……」

提督「そういう所はお前よりも強かだな」

金剛「本当デス」ニコ

提督「さて……金剛」

金剛「ハイ」

提督「これが最後のようだ。何か言い残したい事はあるか?」

金剛「そうデスね……。一つだけならあるデス」

提督「ほう。なんだ?」

金剛「──どれだけ時間が掛かっても構いません。いつか、私ではなく誰かを愛してあげて下さい」

提督「さてな。私が靡くような子は稀だぞ」

金剛「知っています。どれだけ頑張った事か……」

提督「……くくっ」

金剛「……ふふっ」

提督「金剛」

金剛「はい、提督」

提督「今まで、本当にありがとう」

金剛「提督こそ、今までありがとうございました」

提督「では──」

金剛「それでは──」


──さようなら

674: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/24(火) 03:08:09.17 ID:75xTnsMro
金剛「…………」スッ

金剛「ぁ……。動けるようになりまシタ」モゾッ

提督「ん? 動けるように?」

金剛「えっと……実は、さっきまで身体が動かなくなっていたデス」

提督「……その話は後で聞かせて貰う。その前に、言わなければならん」

金剛(怒られるのでショウか……)ビクビク

提督「──おかえり、金剛。ずっと心配していたんだぞ?」

金剛「え……?」

提督「何を驚いているんだ」

金剛「だって……私は……」

提督「それとこれとは話が別だ。無論、後で叱るから覚悟しておけ」

金剛「ハ、ハイ……」ビクッ

提督「……どこもおかしい所はないか? 頭がボーっとするとかはあるか?」

金剛「んっと……」グッグッ

金剛「…………ノープロブレム、デス」

提督「そうか。一応、救護妖精に診て貰おう。ついでに、その時に話を聞かせて貰うぞ」

金剛「え……で、でも……他の誰かに知られるのはノーグッドなのでは……?」

提督「お前や瑞鶴、響が別の鎮守府の艦娘というのすら見抜かれている。救護妖精には隠すだけ無駄だ」

金剛「……何者なのデスか、救護妖精は」

提督「さあな……。ほら、立てるか?」スッ

金剛「ハ、ハイ」スッ

提督「少しでも異常を感じたら言ってくれ。抱えて連れて行く」

金剛「え……ええ、と……。…………その時は、よろしくお願いしマス」ペコ

提督「よろしい。──では、行くぞ」

金剛「……ハイっ」

金剛(……本当に、テートクは優しいのデスね。怒るよりも先に『おかえり』デスか……)

金剛(ああ……だからシスターは心から愛せたのデスね。……少し、分かる気がするデス)

金剛(確かに、この方ならば心の底から愛せマス──)

…………………………………………。

680: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/31(火) 03:45:55.09 ID:jKpNLkIMo
提督「まったく無茶をしおって……」スタスタ

金剛「うぅ……」

提督「異常を感じたら言えと言っただろう。ふらついて危険極まりなかったぞ」スタスタ

金剛「ごめんなサイ……」

提督「後で説教だ」スタスタ

金剛「ハイ……」

金剛(これは……お姫様抱っこの状態で見付かるのはノーグッドだと思ったから……と言っても納得してくれなさそうデス……)

提督「ドアをノックする。少しの間だけ我慢して立っていてくれ」スッ

コンコンコン──

救護妖精「ん? 誰だい?」

提督「私だ。患者を連れてきた」

救護妖精「そうかい。丁度良いし入りなー」

提督(……丁度良い?)ガチャッ

瑞鳳「…………」ペコッ

提督「瑞鳳? 何かあったのか?」

救護妖精「まあちょっとね。で、金剛に何かあったのかい?」

提督「頭がふらついている。診察をして貰って良いか?」

救護妖精「ああ良いよ」

提督「出来れば二人のみで診察して欲しい。その方が色々と都合が良いんだ」

救護妖精「なんだいそれ……。まあ良いけど、条件があるよ」

提督「条件?」

681: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/31(火) 03:46:27.07 ID:jKpNLkIMo
救護妖精「あたしが診察をしている間、提督は瑞鳳の診察をしてくれると助かるんだよねぇ」

瑞鳳「!!? そ、それって……!!」

提督「私に医療の知識は無いんだが……」

救護妖精「出来るかどうかは提督の気分や考え次第だよ。──ま、そういう事だから瑞鳳、後は自分で言うと良いさね。あたしは金剛の診察をするよ」トコトコ

金剛「ハイ」スッ

提督「待て。倒れられたら困る。隣の部屋の椅子まで連れて行くぞ」ヒョイ

金剛「わわっ……! ハイ……」

救護妖精「ほい、こっちだよ」ガチャ

提督「ああ。──金剛、ちゃんと原因も話すんだぞ?」ソッ

金剛「…………ハイ」

救護妖精(……こりゃまた複雑な原因を抱えてそうだねぇ)

──パタン

提督「──それで、瑞鳳」

瑞鳳「!!」ビクンッ

提督「何があったんだ? 救護妖精は私が診察をしろと言っていたが……私でなければ出来ない事なのか?」

瑞鳳「え、と……その…………」

提督「…………?」

瑞鳳「あの……それは……」モジモジ

提督「……随分と歯切れが悪いな。言い難い事なのか」

瑞鳳「……………………」コクリ

提督「ふむ……。約束しよう。誰にも言ったりしないし、その内容について真剣に向き合うよ」

682: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/31(火) 03:46:53.34 ID:jKpNLkIMo
瑞鳳(…………提督なら、話しても大丈夫……よね?)

瑞鳳「……じゃあ、あの…………」

提督「…………」

瑞鳳「わ……私の、身体の疼きを……どうにかしてくれますか……?」モジモジ

提督「……………………なんだって……?」

瑞鳳「い、今までそういう事……されてきたから……身体が覚えちゃってて……」

提督「…………」

瑞鳳(難しい顔……困ってる……? やっぱり話すべきじゃなかったかな……)

提督「……瑞鳳」

瑞鳳「はい……」

提督「私は安易にその要求を呑む事は出来ない」

瑞鳳「……はい」

提督「こう言うのもあまり良くないかもしれないが、私はその手の事に対して精神的に重要視している」

瑞鳳「……えっと? どういう事ですか……?」

提督「……端的に言うと、互いに合意を得た時にしかしようと思っていない。だが、私は知っての通り堅物だ」

瑞鳳「ええと……つまり、提督を『その気』にさせたら良いって事ですか?」

提督「まあ……そう思ってくれて良い」

瑞鳳「……私みたいな傷物でも……ですか?」

提督「傷物だなんて言うんじゃない。自分の事をそんな風に思うな。どんな経験があろうと無かろうと、お前はそれも含めて『瑞鳳』なんだ。例え瑞鳳が初めから私の子だったとしても、お前がお前である限り何も変わらんよ」

瑞鳳「でも……提督も●●●の経験が無い子の方が……」

提督「そうとは思わん。●●な事に限らず、受け入れると思えばその人が不治の病だろうと四肢が欠損していようと殺人鬼だろうと私は受け入れる。むしろ、そのような偏見なぞ無意味だ。さっきも言ったように、誰であろうとどんな経験をしてきていようと、私が受け入れると思えれば私は受け入れる。私が受け入れるという事は、それらも全てひっくるめて受け入れるからだ」

683: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/31(火) 03:47:24.96 ID:jKpNLkIMo
瑞鳳「……不思議ですね」

提督「たまに言われる」

瑞鳳「だったら……今、誘惑をして良いですか……?」

提督「それはダメだ。時と場を弁えなさい」

瑞鳳「時と場を弁えれば……良いんですか?」

提督「誘惑自体は構わんが、私が受け入れるかどうかは別だぞ」

瑞鳳「……難しそうですね」

提督「そうだなぁ……。ある者は私を振り向かせる為に随分と長い時間を掛けたものだ」

提督(まあ……響には金剛と愛し合う前、あの悲痛な顔に負けて『手伝い』をした事はあるが……)

瑞鳳「でも……今日の夜に誘いに行きますね」

提督「先程も言ったように、受け入れるかどうかは別だぞ」

瑞鳳「……もしかしたら、押し倒しちゃうかも」

提督「そんなに我慢しているのか……」

瑞鳳「……うん」

提督(状況にも拠るが、空き部屋の鍵を用意しておくか……)



??(これは良い事聴いちゃった……!)ササッ



提督(……うん? …………気のせいか?)

瑞鳳「? どうかしたんですか?」

提督「いや、なんでもない」

瑞鳳「??」

684: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/01/31(火) 03:47:51.48 ID:jKpNLkIMo
提督「それはそうと、欲求不満の解消に別の事で代用するというのは試してみたか? 運動をしたり何か集中するような事をしたりと」

瑞鳳「一杯やってみたけど、むしろ疲れると余計に……」

提督「うーむ……」

提督(そういえば……他の子達はどうしているのだろうか。一部の子には空き部屋の鍵を渡して見付からないように一人で処理して貰っているが……鍵を渡していない子はどうしているのやら)

提督(……もしかして、他の子も瑞鳳のように救護妖精に相談しにきているのか? ……いや、救護妖精ならば私に押し付けてくるはずだから無いか。…………困ったな……。私は女ではないからよく分からん……)

ガチャ──パタン

救護妖精「終わったよ。そっちはどうだい?」

提督「こちらも後は成るように成るだけだ」

救護妖精「そうかい。で、こっちの話だけど、細かい事はこの後で検査するよ。姉妹にはちょっと検査しておくって言っておいてくれるかい?」

提督「ああ、分かった」

救護妖精「あと、金剛の話を聞く限りでは問題無いだろうね。検査も念の為だから、そんなに気にしなくても良いよ」

救護妖精「──むしろ、提督の方がどうなのかと思うくらいだしねぇ」

提督「私の事は気にするな。心の整理はついた」

救護妖精「利根辺りはどうなんだい」

提督「あいつならば説明をすれば受け入れるだろう。私と違って依存まではしていなかったからな」

救護妖精「なるほどね。じゃあ利根の方は頼むよ」

提督「ああ、任せておけ」

救護妖精「そんじゃ、検査するから瑞鳳と一緒に出ておきな。なんならそのまま──」

提督「いくらお前といえど、それ以上を口にすれば吊るすぞ」

救護妖精「おお怖い。ならここまでにしておくかねぇ」

提督「まったく……」

…………………………………………。

694: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/02/12(日) 03:44:04.13 ID:JkgyKb/so
救護妖精「──ほい。人払いも済ませたよ。これでこの場所はあたし達の三人だけさね」

提督「それで、検査の結果はどうだったんだ?」

救護妖精「まあ、検査自体は何も問題無いって言って良かったよ。むしろ、問題があったのは金剛の話かねぇ」

金剛「……シスターの事デスね?」

救護妖精「ん、そう。艦娘の幽霊なんて存在する訳が無い。聞いた時なんて自分がおかしくなったのか提督たちがおかしくなったのか考えたくらいだよ」

提督「なぜ存在しないと?」

救護妖精「まあ……そういうものなんだよ、艦娘って存在は。……それで、本当にあの『金剛』の幽霊だったって言うのかい?」

提督「間違いない。私と金剛しか知りえない事も知っており、利根と交わした言葉も憶えていた」

救護妖精(そんな馬鹿な……。艦娘は沈んで深海棲艦にならない場合、人工魂は元の場所に還るはずなのに……)

救護妖精「…………うーん……」

金剛「物凄く難しい顔をしてるデス……」

救護妖精「……想いの強さ、なのかねぇ。んー、よく分かんないねぇ……」

救護妖精「とりあえず、この話は保留……っていうよりも、これ以上はもう分からないかもね。当の金剛はもう居ないみたいだしさ」

提督「そうか……」

救護妖精「この金剛も問題は無いっぽいから話を変えるけど、提督はこれからどうするんだい」

提督「む? どうするとは?」

救護妖精「提督もだいぶ吹っ切れたように見えるからね。新しい嫁でも探したらどうだい? 提督ならより取り見取りでしょ?」

提督「なぜそんな話になるんだ……」

救護妖精「ま、提督が元気無い時に色々と話を聞いているからね。きっと、提督が思っている以上に提督の嫁になりたがってる子は多いよ」

提督「……………………」

金剛(お嫁さん……)チラ

695: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/02/12(日) 03:44:34.64 ID:JkgyKb/so
救護妖精「それに、いつまでも待たせるなんて可哀想だろう? そこん所もちゃんとハッキリさせとかないと、皆も動くに動けなくなるよ」

提督「むう……」

救護妖精「幸い全鎮守府の監査だかなんだかで暇してるんだから、今の内に解決させておきな。こっちはもうお腹一杯なんだよね」

金剛「お腹一杯……?」

提督(……という事は、救護妖精に相談が殺到しているのか)

救護妖精「検討するくらいはしてくれると、あたしもありがたいんだよねぇ」

提督「……分かった。検討はしておく」

救護妖精「うんうん。──さて、あたしから言える事はこんくらいだよ。提督と金剛は何かあるかい」

提督「強いて言うならば、本当にお前は何者なんだというくらいか」

救護妖精「残念。それは秘密だよ。あたしの素性を知りたければ、人生そのものを狂わせるような対価と交換さね」

提督「そうか。諦めておく」

救護妖精「それが良いよ。世の中には知らなくても良い事はいくらでもあるんだ。……で、金剛は何かあるかい」

金剛「私は特に……」

救護妖精「あいよ。じゃあ提督、頑張りなー」

提督「うん? どういう意味だ?」

救護妖精「周りの皆が頑張るのは目に見えてるからねぇ。後は提督がどれだけ皆に近付くかだよ」

金剛(ああ、なるほど……)

提督「……限りなく善処するよう努力する検討をしておく」

金剛「え、えぇ……と……?」

救護妖精「なんだいそりゃ……。やらないって言ってるようなもんじゃないか」

提督「それは神のみぞ知る」

救護妖精「まったく……。どこまでも堅物なんだから」

…………………………………………。

696: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/02/12(日) 03:45:01.25 ID:JkgyKb/so
ガチャ──パタン

提督「ふー……」ギシッ

提督(嫁、か……。急にそんな事を言われても困るものだ……。そもそも私が靡くかどうかなど、私自身が分かっていないというのに)

提督「……だが、金剛にも言われた通り、私も前に進まなければならんな」

コンコンコン──

提督(瑞鳳か? 思ったよりも早いな)

提督「入れ」

ガチャ──パタン

川内「やっほー提督」

提督「ん? 川内とはこれまた珍しい。どうした?」

川内「ふふーん♪ ちょっとね~♪」トコトコ

提督「機嫌が良いな。何か良い事でもあったか」

川内「ま、そんなトコだよ。隣座るね!」ポフッ

提督(……えらく近くに座ったな)

川内「ね、提督」

提督「うん?」

川内「一緒に夜戦、しよっ?」ニパッ

提督「……夜戦と言われてもだな。今は出撃待機命令で──」

川内「そっちじゃないってー。違う意味の……や・せ・ん♪」

提督「……………………」

川内「むー……。女の子が誘ってるんだよ? 何か反応してくれないと傷付くなぁ……」

697: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/02/12(日) 03:45:30.36 ID:JkgyKb/so
提督「……一応聞いておくが、どういう意味かちゃんと分かっているんだよな?」

川内「そりゃ勿論っ。だって、その為に夜に提督のとこに来たんだよ?」

提督「……………………」

川内「ほら、難しい顔しないで? 優しい顔で私を見て欲しいな」スッ

提督「…………まだ早い」ポン

川内「むっ。身体はもうちょっとで大人だって! ……あー……もしかして、提督ってグラマーが好みとか?」

提督「そういう意味ではない。とにかくまだ早いんだ。今日の所は素直に部屋へ戻って寝なさい」

川内「むむむ……なら、押し倒してやるー!」バッ

提督「甘い」スッ

川内「むぐっ……」ボフッ

提督「私を押し倒したくば、それ相応の努力をしてくるんだな」ナデナデ

川内「むー……。なんでダメなのさー……」

提督「足りないモノがあるからだ」

川内「やっぱりグラマーな身体が……」

提督「そうではないと言っただろ。……金剛がどうやって私の心を動かしたか考えれば分かるよ」ナデ

川内「金剛さん……」

川内「……………………」モゾモゾ

提督「む……」

川内「えい」ギュ

提督「こら、抱き付くんじゃない」

川内「……こんな風に積極的なとこ?」

提督「それは間接的に必要なモノかな。良いから離れなさい」

698: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/02/12(日) 03:48:22.92 ID:JkgyKb/so
川内「むー……」

提督「……今日は聞き分けが悪いな」

川内「! あ、じゃあ、提督をその気にさせれたら夜戦してくれる?」

提督「なんだその『良い事を考えた』みたいな顔は。却下だ」

川内「むむー……」

提督「本当にどうしたというんだ……。むしろ心配になってくるぞ」

川内「……提督のお嫁さんになりたいなって」

提督「どうしてまたそう思ったんだ?」

川内「だって……救護室の前でそういうの聞いたから……」

提督「ああ……あの時に誰かが居たと思ったが、川内だったのか」

川内「うん。……それで、●●●な事をしたら少しは私を特別に見てくれるかなって思ったんだ」

提督「そういう事か。まったく……お前も欲求不満が溜まって行動に出たのかと思ったぞ」

川内「……正直に言うと溜まってるよ?」

提督「……すまん」

川内「許してあげるには、この状態をちょっと続けさせて欲しいなぁ」ギュー

提督「……仕方が無いな。分かった。少しの間だけだぞ」

川内「やったぁ! ──うーん、良いよねぇ提督って。やっぱ好きだなぁ」

提督「恥ずかしげもなくよくそんな台詞が言えるものだ」ナデ

川内「好きな事を隠してもしょうがないじゃん。気持ちっていうのは伝えてこそだよ」

提督「……そうだな。まったくもってその通りだ」ナデナデ

699: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/02/12(日) 03:48:57.34 ID:JkgyKb/so
コンコンコン──ガチャ

川内「──え!?」

瑞鳳「失礼しま──!?」ビクンッ

提督「……………………」

川内「あ、あははは……」

瑞鳳「え、えーっと……その…………お邪魔しましたっ……!!」

パタン

川内「……見られちゃったね」

提督「まさか入室許可を出す前に入ってくるとは……」

川内「……どうする、提督?」

提督「困った……。…………まあ、まず川内。この鍵を渡しておく」スッ

川内「? なにこれ?」

提督「空き部屋の鍵だ。……平たく言うと、自分でソレを解消したい時などの一人になりたい時に使いなさい」

川内「私は提督じゃないとヤだなぁ……」

提督「……こっちも困る事になるとは」





瑞鳳(うぅー……。人のを見ると余計に欲求不満がぁ……)

…………………………………………。

710: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 02:58:28.08 ID:awnviBj5o
川内「じゃあ、おやすみ提督! 次こそは夜戦しようね♪」

提督「それは川内の努力次第だ。──良い夢を見ろよ」

川内「♪」フリフリ

ガチャ──パタン

提督「……積極的過ぎるのも困りものだな。……まあ、私も寝るか」スッ

提督(これからどうなる事やら……)スタスタ

コンコンコン──

提督「む? 利根か、入れ」

ガチャ──パタン

利根「……ふむ。相変わらずノックだけで誰が来たのか分かっておるようじゃのう」

提督「経験だ。少しでも変えられると分からん。ところでこんな時間に来るとは珍しい。どうしたんだ?」

利根「まあなんじゃ。海を見ながら饅頭を食べておったら不思議な事があったのじゃ」

提督「不思議な事?」

利根「うむ。金剛が挨拶に来てのう。これが別れと言うておった」

提督「……………………」

利根「聞くに、このままでは悪い影響しか与えぬとな。ならば後は見守るのみに徹するらしいぞ。妙に優しく満足した顔じゃったよ」

提督「……すまんな。あまりにも急な事でお前を呼んでやれんかった」

利根「なに。我輩は金剛ともう一度だけ話せただけで充分じゃ。金剛達が我輩と提督を恨んでおらず、見守ってくれていると分かっただけで充分なのじゃ」

提督「……そうか」

利根「それで提督よ、もう一つ金剛に言われた事がある」

提督「なんだ?」

利根「後ろ髪を引かれるのは分かるが、提督もちゃんと心を寄せるのじゃぞ。そんなのでは金剛に叱られてしまうのじゃ」

711: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 02:58:54.87 ID:awnviBj5o
提督「……そうだな。だが、少しの時間は貰いたい。その間に前へ進めるよう『思い出』にしておく」

利根「うむ。それが良いぞ」

提督「……利根、窓の外を見ないか?」ゴトッ

利根「うん? 夜の海なぞ見てどうするのじゃ?」

提督「いつもやっていただろう。アレだ」スッ

利根「なるほどのう。じゃから椅子を用意したのじゃな。──ほれ、のしかかるぞー」ノシッ

提督「……………………」

利根「……うーむ。違うのう」

提督「やはりそう思うか」

利根「という事は、提督もかの?」

提督「ああ。場所が違うからか、それとも椅子に座っているからか。向こうは汚れた畳の上だったからなぁ」

利根「どうなのじゃろうなぁ……。またあの島に行けば分かるかも知れぬが」

提督「名案だ。行くか」

利根「……なぬ?」

提督「この横須賀鎮守府は、一応ウェーク島を確保している扱いなんだ」

利根「なんと。そうであったのか」

提督「何度か行き来した事から、横須賀の管轄となってしまった。……まあ、あんな東の果てにあるような場所は補給も満足に出来ないから放棄したいくらいなんだが」

利根「ふむ。じゃが、それとの話の繋がりがよく分からぬぞ」

提督「ウェーク島を軍事施設として開発可能か周辺の島々も含めて視察に行くとでも言えば通るだろう」

利根「補給が満足に出来ぬのにか?」

提督「総司令部としては活用できるのであれば活用したいそうだ。あの場所を確保して拠点に出来るのであれば戦線が一気に広がるという考えらしい」

利根「ふうむ」

712: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 02:59:22.93 ID:awnviBj5o
提督「実際に私達はウェーク島で暮らしていた事がある。だから総司令部も出来るならば活用したいのだろう。結果など火を見るより明らかだがな」

利根「……つまる所、サボると考えて良いのか?」

提督「そうとも言う」

利根「まったく……。あの島でサボり癖が付いたのではないか?」

提督「出撃待機命令なんてものを出す方が悪い」

利根「じゃが、この鎮守府全員を連れて行く訳にはいかぬじゃろ。そこはどうするのじゃ?」

提督「何人かを連れて行くだけに留める。そしてその間、大淀に指示書を渡して鎮守府を任せよう」

利根「……猛反対しそうじゃなぁ」

提督「さて、それはどうか分からんな」

利根「ふむ?」

提督「まあ、そんなに長い間でもない。なんとかなるだろうさ」

利根「なるのであれば良いがのう……」

……………………
…………
……

713: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 02:59:55.22 ID:awnviBj5o
カチン──

提督「──さて、大淀」

大淀「は、はいっ!」ピクンッ

提督「この部屋の鍵を掛けた事で分かると思うが、用意はしてきているな?」

大淀「はいっ……! ちゃんと持ってきています!」

提督「しかし……お前も不思議な子だ。鎖で繋がれたいだなんて」

大淀「へ、変……ですか……?」ビクッ

提督「珍しくはあるが、そういう人も居るだろう。人など十人十色だ。私はこのくらいでは動じんよ」

大淀「良かった……。では、お願いします……!」スッ

提督「……待て。なんだこれは。手枷にしては大きくないか?」ジャラ

大淀「あの……ですね? 手首ではなく、こっちの方が良いなぁと思いまして……」チョン

提督「首……という事は、首輪か……」

大淀「は、はい……」

提督「……………………」

大淀「て、提督……あの……その……ごめんなさい……」

提督「いや……手枷ではなく首輪となると、また別の意味になりそうで困っているんだ……」

大淀「えっと……? 別の意味とは?」

提督「手枷ならば互いに束縛されているという認識も出来るが、片方が首輪だとペットや奴隷のような気にしかならん」

大淀(……ペットや奴隷)

大淀「ワ、ワン……?」

提督「……私は大切な子をペット扱いにせんぞ」

714: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:00:22.34 ID:awnviBj5o
大淀「じゃ、じゃあご主人様というのは」

提督「奴隷にするくらいならば解放して自由に行動させる」

大淀「……では、開放された奴隷が首輪を外したがらないという設定でお願いします」

提督(……いつの間にイメージプレイになっているんだ?)

提督「…………どうしてそうなったんだ、まったく……。ならば、条件を呑んで貰うからな」

大淀「条件ですか?」

提督「私は少しの間、ウェーク島へ視察へ行く予定を立てようと思っている。その間の鎮守府を大淀が指揮して欲しい。指示書は用意する」

大淀「それは……結構大変ですね……」

提督「もしこの条件を呑んでくれるというのならば、首輪を認める」

大淀「……………………呑みます。私、やります!」

提督「よろしい」ジャラ

大淀「あ……っ」ピクッ

提督「手触りの良い首輪だ。苦しかったり痛かったりはしないか?」

大淀「はいっ。緩めて下さっているので、そんな事はありません」ドキドキ

提督「さて大淀。ただ首輪を付けられたかったという訳ではなさそうだが、何を考えていたんだ?」

大淀「そ、その……まずは、引っ張って下さると……とても嬉しいです」

提督「そうか」クイッ

大淀「ん……っ」ピクッ

大淀「…………っ」フルフル

提督(……これは、大淀なりの発散方法なのだろうか。……少しだけでも付き合ってやるべきか)

提督「苦しそうだな。外してやろうか」

大淀「い、イジワルを言わないで下さい……」

715: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:00:49.18 ID:awnviBj5o
提督「どうしてだ? 苦しい事から開放するんだぞ。それの何がイジワルだと言う」

大淀「そ、それは…………その……」

提督「ほら、言ってくれなければ分からんぞ」クイッ

大淀「あっ……ぅ……。好き……だから、です……」

提督「何が好きなんだ?」

大淀「こうされるのが、好きだから、です……」

提督「こうされるのであれば誰でも良さそうだな」

大淀「そ、そんな事は──んっ!」ビンッ

提督「ほう。ただ引っ張っただけでそんな表情を浮かべているというのにか?」

大淀「提督だけです……! 私が、こんな風になってしまうのは、提督にだけです……!」

大淀「だから、その……もう少し、強く……」

提督「……………………」

大淀「…………? 提督……?」

提督「……やはり、私には合わん」

大淀「え、えっと……?」

提督「どうも奴隷のようにしか見えなくて胸糞が悪くなる……。私は、例えままごとでもお前をそんな風に扱いたくないという事なのだろう」ジャラ

大淀「あ……首輪、外されて……」

提督「やはりこうでなくてはな」ソッ

大淀「……ふふっ。そうですね。先ほどの少し乱暴に扱って下さるのも良かったですけれど、こうして優しく頬を撫でられる方がずっと良いですね」ニコ

提督「すまんな。私は鬼畜にはなれないようだ」

大淀「いえ。私の方こそ我侭を言ってしまい、すみませんでした。そして、それに付き合って下さってありがとうございます」

大淀「ですが……」ジャラ

提督「うん?」

大淀「よいしょ……。こうして、鎖を外した首輪は付けさせて下さい」

提督「気に入ったのか」

大淀「恥ずかしながら……。なんだか、提督に束縛されていると感じると愛おしくて」

提督「……なるべくだが、それは人前に見せないように。流石にファッションとしても無理がある」

大淀「う……で、では、今この時だけは許して下さいね」

提督「ああ。この時は許そう」

大淀(……考えていた通りにはいきませんでしたが、これはこれで良いものですね♪)

…………………………………………。

716: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:01:17.22 ID:awnviBj5o
瑞鳳「…………」ウズウズ

瑞鳳「…………」キョロキョロ

瑞鳳(ううぅ……。提督にどうにかして欲しい……。でも、昨日みたいに誰かが提督と一緒にお楽しみしていたらどうしよう……)

瑞鳳(……誰も居ないよね? ちょっと聞き耳立ててみよっと……)ソッ

加賀『──提督、お嫁さんを探しているという話を耳にしたのですが』

提督『川内か……? まったく……どうして話を広めたりしたんだ……』

加賀『いえ、救護妖精から聞きました。──それで、単刀直入に言いますが、私なんてどうですか?』

提督『救護妖精め……。ちなみにだが、これからどうなるかは加賀の努力次第だ』

加賀『……早い話、貴方に振り向いて貰えるようにすれば良いのね』

提督『そういう事だ。私は誰でも良いという訳ではない』

加賀『それでしたら……これから少しばかりお相手して頂けますでしょうか。外堀なんて無視をして、本丸を直接落とします』

提督『言っておくが、いかがわしい手段を取ろうものならば説教するからな』

加賀『……本丸ではなく、二の丸や三の丸から攻めますね。お酒なんて如何ですか?』

瑞鳳(やっぱり居た……。提督、人気だなぁ……)スッ

瑞鳳(今日は諦めておこ……。他の人が居ない時があれば良いなぁ……)トボトボ

──しばらくして

北上『にしても、本当に堅物だよねぇ提督ってさー。その気にならなくてもハーレム出来るってのにさー」

提督『生憎、一途でありたいんでな』

北上『まーそうだよねー。あ、パンツ見せてあげよっか? その気になるかもよ?』

提督『お前が見せるのが先か、私がお前を吊るすのが先かの勝負をするんだな?』

北上『じょ、冗談だってば~……もー……。まあ、それなら一緒にダラダラしましょうかー』

────────────────。

717: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:01:44.13 ID:awnviBj5o
飛龍『あの、ですね提督。急に話題を変えますが……お嫁さんを探しているって本当ですか……!?』

提督『……飛龍、救護妖精は一体どんな風に言ったんだ』

飛龍『え? 提督が新しいお嫁さんを考えているとかって聞きましたけど』

提督『…………まったく……』

飛龍『……えーと、もしかして違ってました?』

提督『いや……そうだな……正確には色々と悩んでいる』

飛龍『誰にするか、ですか?』

提督『それ以前に、私の心の準備の方がだな……』

飛龍『なんだか意外ですね……もっと、こう──』

提督『とは言ってもだな……──』

────────────────。

718: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:02:10.90 ID:awnviBj5o
ヲ級『ね、ね! 今日は、姫がワッフルを、作ったよ!』

提督『ほう。空母棲姫が作ったワッフルか』

利根『楽しみじゃ。物凄く楽しみじゃ』

空母棲姫『……そんなにワクワクとされると恥ずかしいのだけれど』

利根『これがワクワクせずに居れる訳がなかろう』

提督『正直に言うと、私も非常に興味深く思っている』

ヲ級『ほら、姫』

空母棲姫『……この子ほど上手には出来ていないわよ』

利根『おおー……良い香りじゃぁ……。ほんのりと柔らかい甘い香りは最高じゃ』

空母棲姫『……ほら、さっさと食べなさい』

提督『照れ隠しが下手になってきているぞ』

空母棲姫『誰のせいですか……もう……』

────────────────。

719: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:02:39.93 ID:awnviBj5o
瑞鶴『で、決まったの?』

響『お嫁さん』

提督『決まるも何も、まだ私自身、心の準備が出来ていない』

響『心の準備って?』

提督『私が誰かを受け入れる心構えがまだなんだ』

瑞鶴『えーっと……提督の金剛さんへの想いを断ち切る為って意味……?』

提督『そんな所だ。……これが中々に難しくてな』

響『司令官の事だから、本当の結婚をしようと考えてたんだよね?』

提督『ああ』

響『じゃあ、簡単に割り切れる事じゃないさ。時間は掛かって当然だよ』

瑞鶴『んー、と……うまくは言えないけど……焦る事はないから、ゆっくり頑張れば良い……わよ?』

提督『ありがとう、二人とも』

響『ん。もっと頭を撫でてくれて良いんだよ?』

瑞鶴『……なんだろ。結構良いわねこれ』

────────────────。

720: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:03:06.71 ID:awnviBj5o
瑞鳳(うー……うぅー……いつも誰か居て、全然頼めない……。で、でも、今日こそは大丈夫……よね……?)オズオズ

提督『──という訳で、今後は無理をするんじゃないぞ。あと、約束したんだろう? その通りに自分は大事にするんだぞ』

金剛『ハイ……』

瑞鳳(また誰か居る……。もう我慢の限界になってきてるのに……)

提督『よろしい。ならば説教は終わりだ』

瑞鳳「!」

提督『それで金剛、この中でどの茶葉が一番好きだ?』

金剛『え? ……えっと、これデス』

提督『そうか。長い説教で疲れただろう。これくらいしか出来んが許してくれ』

金剛『あ……。……これくらい、だなんて事はないデス。私はとっても嬉しいデスっ』

提督『そう言ってくれると、私も気が楽になるよ』

瑞鳳(あぅ……またダメなの……? そうだ……ああすれば……!)

…………………………………………。

721: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:03:37.82 ID:awnviBj5o
カチ──コチ──カチ──コチ──

提督(……マルヒトマルマル。そろそろ瑞鳳との約束の時間か)チラ

コンコンコン──

提督「入──」

ガチャ──パタン

瑞鳳「……………………」

提督(……事情は分かっているから、入室許可の事は後で言っておくか)

提督「瑞鳳、鍵を閉めておいてくれ」

瑞鳳「……はい」

カチン──

瑞鳳「この時間なら……誰も来ない。これで……誰も入れない……よね?」トコトコ

提督「……そうだな」

瑞鳳「えへ……えへへ……。やっと……やっと二人きりになれました……」ソッ

提督「こら。どこに手を伸ばしている。まだ私は受け入れると言っていないぞ」

瑞鳳「……本当にガードが固いですね。でも……提督、見て下さい……」シュル

提督「む……」

パサッ

瑞鳳「女の子って、何日も我慢してたら……こんなになっちゃうんだよ……? もう、パンツ穿いてる意味、あるのかな……って思ってるの」

瑞鳳「それに……すっごく恥ずかしいです……。恥ずかしいのに……それ以上に、自分が抑えれないんです……」

瑞鳳「だから……提督ぅ……私の身体……まさぐって……?」

提督(仕方が無い……か……)

723: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:04:32.51 ID:awnviBj5o
瑞鳳「ぁ…………ふ……ぁー……」ピクンッ

提督(……本当に抱き締めただけで、ここまでなるとは思わなかった)

提督「……瑞鳳、大丈夫か?」

瑞鳳「んっ……ぁ……」ポー

提督「やり過ぎたのだろうか……」

瑞鳳「ぁ……」コテン

瑞鳳「…………すー……」

提督(寝てしまった……。まあ……何回も●●していたようだから当たり前か)

提督(身体は拭いてやった方が良いのだろうか。……いや、辞めておこう。拭いても嫌がられないのは分かるが、そういうのはしっかりとした関係になってからだ。それならば起きた時に風呂に入って貰った方が良い)スッ

スタスタ──ポフッ

瑞鳳「ん……………………すー……」

提督「良い夢を見てくれよ」ナデ

提督(さて……私の方は毛布とソファで良いか。……と、その前に着替えるとしよう。色々と汚れてしまった)

提督「……これで満足してくれていたら良いんだが」

…………………………………………。

724: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:04:59.44 ID:awnviBj5o
瑞鳳「ん……」パチッ

瑞鳳(あれ……ここドコだろ……? 私の部屋じゃない……?)モゾ

瑞鳳「──ハッ!」

瑞鳳(そ、そうだった……! 昨日、我慢できなくなって提督に……! ……って、提督、どこだろ?)キョロ

提督「む……起きたのか」モゾ

瑞鳳「あれ……えっと、提督? なんでソファで寝てるの?」

提督「一緒に寝るのはマズいだろう」

瑞鳳「私は良いと思うんだけど……」

提督「瑞鳳が良くても、他の者は良く思わんぞ。次は自分が、と言ってくるのが目に見える」

瑞鳳(そういえば……一途でありたいって言ってたっけ)

瑞鳳「……んっと、一つ良いですか?」

提督「どうした?」

瑞鳳「提督は、一夫多妻とか二人以上と関係を持つのが嫌なんですか?」

提督「ああ。好きではない」

瑞鳳「どうしてだろ……」

提督「愛するのならば一人が良い。第一夫人だの正室側室だのと序列を作るのも嫌いだ。愛するのならば全力で愛するべきだよ。それに、愛情が偏るのも嫌いだ」

瑞鳳「……………………」

提督「不思議か?」

瑞鳳「……ううん。そういう人も居るんだなって思ったの」

提督「瑞鳳は一夫多妻に賛成なのか」

瑞鳳「……どうなのかな。たぶん、賛成だと思う」

提督「曖昧だな……」

瑞鳳「一夫多妻だったら……私と気兼ねなく……その……まぐわって、くれるの……かなって思って……」

提督「恥ずかしいのならば無理して言わなくても良いんだぞ……?」

瑞鳳「あうぅ……」

提督「まあ、この話は終わらせておこう。朝礼の時間になる前に身体を洗ってきなさい」

瑞鳳「はーい」

瑞鳳(って……別に私の身体、好きにしても良かったのになぁ。提督なら信用できるのに……)

……………………
…………
……

725: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:05:26.16 ID:awnviBj5o
提督「──以上が本日の任務となる。周辺警備ばかりで退屈かもしれないが、もう少しの間だけ我慢してくれ。そして、最後に報告がある。三日後より私はウェーク島へ出発する事となった」

全員「!!」

提督「詳しく言うと、ウェーク島を軍事利用できるかどうかの判断をする為に足を運ぶ。上層部としてもあの場所を利用できるのであれば色々と有利に働くだろうと思っているらしい。だが、私一人が向かうというのは非常に危険だ。私もそんな無謀な事はしたくない。そこで、私と一緒に調査してくれる者を募集する。人数は六人前後。それとは別に空母棲姫とヲ級は連れて行く予定だ。希望する者は朝礼終了後、提督室へ向かってくれ」

提督「なお、予め言っておくが自給自足な上に娯楽も電気も食糧も水も何も無い。……ああ、寝床も爆破されたので作らなければならんな。つまり、バカンスなどとは完全に真逆の完全なサバイバルとなる事を留意しておくように」

提督「以上。何か質問はあるか?」

川内「……あの、提督」スッ

提督「どうした、川内」

川内「それって本当に暮らしていけるの……? というか、何日そこに居なきゃなの……?」

提督「一応、なんとか出来た経験はあるから出来ない事は無いだろう。たかが半月から一月くらいだ。なんとでもなる。……まあ、あくまで毎日同じ食べ物とサバイバル及び何も無い暮らしをどうにか出来る精神を持っているのならば、という話だが」

川内「うわぁ……」

加賀(流石に……それは耐えられないかもしれないわ……。ついて行きたいのに……ついて、行きたいのに……)

提督「他に質問がある者は居るか?」

龍田「は~い。その間の鎮守府はどうなるのかしら?」

提督「提督代行として大淀に指揮して貰う。とは言っても、管理と遠征、警備くらいだとは思うが、大変なはずだ。皆で協力して支えて欲しい」

龍田「その言い方だと出撃はしないようだけれど、大丈夫なのかしら~」

提督「上からの許可も下りている。その点は問題無い」

龍田「あらぁ~。だったら、私は残りますね。私達のお家を護るのも、とーっても大事ですもの」

提督「理解が早くて助かる。ある意味で言うと調査よりも、私が留守の間この鎮守府を護り通す方が難しいかもしれん。私が帰ってきた時に鎮守府が瓦礫の山へとなっていては洒落にもならん」

提督「他に質問がある者は居るか? ……………………居ないようだな。では、朝礼は終わりだ。各自、自由にして良し」

…………………………………………。

726: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:06:00.12 ID:awnviBj5o
──ウェーク島

利根「……まあ、なんとなくこうなりそうじゃとは思っておったわ」トントントン

提督「小屋の建築の事か? それとも、この島に来るメンバーの事か?」カンカンカンカン

瑞鶴「響ちゃーん! 釘持って来て貰って良いー?」

響「すぐに持って行くよ」タタッ

飛龍「金剛さん、いっせーのでいきますよ!」

金剛「イエス。掛け声はお任せしマス」

瑞鳳「空母棲姫さん。作った木炭ってどこに置いとくと良いの?」

空母棲姫「家が出来るまでは竈の隣に置いておきましょうか。見た感じ、そろそろ出来そうよ」

ヲ級「獲ったお魚、捌いたよ!」タタッ

空母棲姫「ありがとう。次は調理器具を持ってきて頂戴?」

ヲ級「はーい!」

利根「無論、メンバーの方じゃ。我輩の予想とほぼ違いが無いぞ」トントン

提督「奇遇だな。私もこのメンバーになると思っていた。強いて言うならば、長門や加賀が希望してこなかったという事くらいか」カンカンカン

利根「加賀は来ぬじゃろうな。さぞかし食事の事で悩んだじゃろうなぁ」ゴトゴト

提督「長門は長門であいつらしい答えだったな」ガンッガンッ

利根「どんな敵が来ても護れるように、じゃったか? あやつは本当にどこまでも真面目じゃのう」

提督「本当にな。──さて、こんな所か」

利根「うむ! 前よりも立派になったぞ!」

飛龍「ふぅー……疲れちゃった」

金剛「持ってきた資材のほとんどを使ったネ」

727: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:06:28.14 ID:awnviBj5o
瑞鶴「……なんだか懐かしいなぁ」

瑞鳳「え? 懐かしい……?」

瑞鶴(やばっ……。そういえば瑞鳳って私達とほとんど会ってないんだった……)

瑞鶴「あー……え、とね? 前にもこういう事をやった事があるの。うん。だから懐かしいってね?」

瑞鳳「へぇー……。なんだか意外ですね」

瑞鶴「あ、あははは……」

瑞鶴(……ってか、憶えられてなかったのね。……なんだかちょっとショック)

響「後は家具だけかな? とは言っても、ベッドくらいだけど」

提督「そうだな。それが終わってから飯としよう」

空母棲姫「では私達はこのまま、おゆはんの準備をするわ」

ヲ級「美味しいの、作るよ!」

提督「ああ。楽しみにしているぞ」ナデ

ヲ級「えへー♪」

瑞鳳「…………」ヂー

提督「……瑞鳳も、頑張ってくれ」ナデ

瑞鳳「! はいっ!」

空母棲姫(あら、可愛らしい……)

提督「さて、各々のやるべき事に戻ろう。暗くなる前に終わらせるぞ」

全員「はいっ!」

…………………………………………。

728: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:06:54.89 ID:awnviBj5o
提督「……やはり、良いなぁ」

利根「うむー……」ノシッ

響「落ち着く」チョコン

飛龍(あの……何をやっているんですか、あれ……? 食べ終わってやる事が無くなったら、三人が夕暮れの海を窓からボーっと眺めているんですけど……)ヒソ

金剛(えっと……この島でステイしている間、ああしているのが日常だったのデス。きっと、それで落ち着くんじゃないかな……と……)ヒソ

瑞鶴(懐かしい光景ねぇ……。あの時はずーっとこの姿を見てた気がするわ)ヒソ

瑞鳳「…………」ヂー

利根「うん? どうしたのじゃ瑞鳳よ?」

瑞鳳「あ……えっと、私も……くっつきたいなって……」

利根「あー、なるほどのう。ほれ、どこにでもくっつくと良いぞ」

提督「私の意志は関係無しか?」

利根「お主が断るとは到底思えぬ」

提督「よく分かっているようで。──おいで、瑞鳳」

瑞鳳「! うんっ!」ギュ

利根「ふむ。右腕にしがみ付くか」

飛龍「…………」ウズウズ

瑞鶴「…………」チョンチョン

飛龍「?」

瑞鶴「左、空いてるわよ?」

飛龍「え、ええと……」ウズ

729: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:07:21.53 ID:awnviBj5o
提督「……ほら、おいで」

飛龍「ぅ……。で、では、お言葉に甘えて……」ソソッ

利根「どうじゃ? どんな感じじゃ?」

飛龍「……もうちょっとだけ近付きたいかな」ギュ

瑞鶴「瑞鳳と同じになったわね」

瑞鳳「やっぱりこうなりますよね?」

提督「腕すら動かせん……」

金剛(……なんだか、娘にとっても懐かれているダディみたいネ)

空母棲姫「提督、皆、明日の朝食なの、だけ……ど……?」

提督「…………」

空母棲姫「……どういう状況なのかしら、これ」

ヲ級「提督、人気者!」

響「落ち着くよ。とても」

利根「うむ」

空母棲姫(……苦労しているのね。でも、それを顔に出さないのは貴方らしいわ)

提督「……それで、朝食がどうしたんだ?」

空母棲姫「朝食は焼き魚にしようと思っているのだけれど、他にリクエストはあるかしら。あるのならば作ろうと思いまして」

提督「私は焼き魚に賛成だ。朝はサッパリとした物が良い」

利根「我輩も同意見じゃぞ」

響「それが良いな」

瑞鶴「あ、私はちょっとだけ濃い味が良いな」

飛龍「焼き魚ですか。楽しみですっ」

金剛「私も楽しみデース」

瑞鳳「…………」コクコク

730: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:07:48.03 ID:awnviBj5o
提督「それに、そんなに贅沢をしては後が持たん。質素に頼む」

空母棲姫「分かりました。では、暗くなるまで仕込みと保存食を作っておきますね」

ヲ級「姫、どっちが、多く出来るか、勝負!」トコトコ

空母棲姫「……負けないわよ」スタスタ

瑞鶴「本当、頼りになる二人ね」

提督「本当にな。私達も私達で出来る事をやるぞ」

全員「はーい」

…………………………………………。

731: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:08:15.44 ID:awnviBj5o
飛龍「うわぁ……夜になると本当に暗いですね……」

瑞鳳「月の光だけ明るくて……なんだろ、なんだか神秘的……」

空母棲姫「夜の海を見るのは初めてなの?」

瑞鳳「夜の海をこうやって見た事が無くて……」

利根「普通は見れても作戦行動中じゃからのう」

空母棲姫「なるほどね。──良いでしょう? こういう風に平和的に海を見るというのも」ナデナデ

ヲ級「くー……くー……」

提督「ああ。とても良い。いつまでもこうしていたいくらいだよ」

瑞鳳「……………………」

提督(……うん?)

金剛「? 瑞鳳? 真顔でどうしたデスか?」

瑞鳳「! ……んっと、もう少し近くで海を見てくるね?」スッ

瑞鶴「え? ……行っちゃった」

金剛「どうシタのでショウか……」

空母棲姫「少し寂しそうな顔をしていたようにも見えましたが……」

飛龍「…………あの」チラ

提督「ああ。私が行こう」スッ

金剛「わ、私も行って良いデスか?」

提督「いや、私一人で行く。何人も一緒だと瑞鳳も臆するかもしれん」

金剛「……ハイ」

提督「まあ、任せておけ。これでも提督をやっているんだからな」ポンポン

732: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:08:41.90 ID:awnviBj5o
提督「各自、眠くなったら寝てしまいなさい。……言っておくが、ベッドは人数分作ったんだから自分のベッドで寝るように」スタスタ

全員「はーい」

飛龍「──金剛さん、瑞鳳ちゃんが気になるんですか?」

金剛「えっと……気になるというよりも、なんとなく同じのような気がシテ……」

響「同じって?」

金剛「……私と、同じような雰囲気だったのデス。心に整理を付けたと思っていながら、寂しくなるあの気持ちを感じていたように見えまシタ」

瑞鶴「ああ……下田の……」

金剛「…………」コクリ

利根「なるほどのう……。まあ、提督ならばなんとかするじゃろう。きっと励まして帰ってくるぞ」

空母棲姫「当然そうでしょうね」

響「ホント、空母棲姫さんって最初の頃と変わったよね」

空母棲姫「現状を受け入れただけよ。私自身はこれといって大きくは変わっていないわ」ナデ

ヲ級「ん~……♪」

瑞鶴「良い夢見てそうねぇ……」

…………………………………………。

733: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:09:08.27 ID:awnviBj5o
ザザァ──……

瑞鳳「…………」ボー

瑞鳳「……今頃、何してるんだろ」

瑞鳳「……………………提督……」

提督「──呼んだか?」

瑞鳳「!!」ビクンッ

提督「隣、座るぞ」スッ

瑞鳳「…………」

提督「瑞鳳、今は暗いか? それとも明るいか?」

瑞鳳「え……?」

提督「どうだ?」

瑞鳳「……………………え、っと……暗い、かな……?」

提督「そうか。私は明るいと思う」

瑞鳳「どうして? 夜なのに……」

提督「この綺麗な夜の海を見れて機嫌が良い。だから明るいんだ」

瑞鳳「ぁ、なるほど……」

提督「だが、瑞鳳は暗いようだな」

瑞鳳「……うん」

提督「聞いても良いか?」

瑞鳳「…………うん。提督になら、言える……と、思うかな……?」

瑞鳳「ん、とね……? ちょっとだけだけど、気になってるの。……『提督』の事」

734: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:09:50.68 ID:awnviBj5o
提督「それは、私ではないな?」

瑞鳳「…………」コクン

瑞鳳「今頃、どうしてるのかなって……。今になって思えば、あんなに酷い事ばっかりされてきたのに、なんだか気になっちゃうの」

瑞鳳「私、おかしいのかな……。酷い事も苦しい事も、辛い事もいっぱいされたのに、大丈夫なのかなって思ったり、辛い目に遭ったりしてないかなって思ってる……」

提督「瑞鳳がそれだけ優しいという事だろう」

瑞鳳「なのかな……。自分の事なのに、よく分かんなくて……。そもそも、こんなに綺麗な夜の海を見て、どうして『提督』の事を思い出したのかな……」

提督「……そればっかりは私には分からん。ただ分かるのは、お前が優しいという事くらいだよ」

瑞鳳「…………ありがと、提督」

提督「うん?」

瑞鳳「私の事、気に掛けてくれて……ありがと。きっと、提督は優しいから私がこんな気持ちになってる事に気付いたんだよね」

提督「さてな。それは秘密にしておこう」

瑞鳳「もー……すぐにそうやって逸らかすんだから……。でも……提督のそういう不思議なトコ、私は好き」

瑞鳳「今見てる海みたいに、ただ冷たいように見えて綺麗。……ちょっとだけ、羨ましいなって思うくらいに。返答とかすっごく素っ気無く聞こえるのに、ちゃんと話を聞いてくれてて、ちゃんと話してくれて、ちゃんと見てくれてる……」

瑞鳳「実はね? そういうの……叶ったら良いなって、ずっと思ってたの。……『提督』が、そうなってくれたら良いなって、思ってた。厳しくても良いから──怖くても良いから──酷い事をされても良いから──……。私をちゃんと見て、私を大切にしてくれたらなって……」

瑞鳳「……『提督』が連れていかれた時の話を聞く限りだと、もう『提督』は提督じゃなくなってるんだよね?」

提督「……そうだな。提督としての肩書きは、後日すぐに剥奪されたよ」

瑞鳳「そっか……。じゃあ、もう会えないのかな……」

提督「……ああ」

瑞鳳「そっか……。うん、そうだよね……」

瑞鳳「…………」チラ

提督「…………」

735: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:10:30.36 ID:awnviBj5o
瑞鳳「……ねぇ。なんとなくは分かってるけど、教えて欲しい事があるの」

提督「なんだ?」

瑞鳳「……『提督』は、どうなっちゃったの?」

提督「……………………」

瑞鳳「良くて牢屋の中で、悪いと……殺されてるのかなって」

提督「…………………………………………」

瑞鳳「……そっか。言えないって事は、そういう事だよね」

提督「…………」ポン

瑞鳳「……えへ。こうやって頭を撫でられるのも、慣れちゃったなぁ。初めは叩かれるのかと思っちゃったりしたけど、今はもう安心しちゃってる」

瑞鳳「…………なんだろ。なんだか、胸にポッカリ穴が空いたみたい。悲しいのかも寂しいのかも分かんなくて……なんだか変な気持ち」

提督「……瑞鳳は、私の艦娘になって後悔していないか?」

瑞鳳「ん……うん。優しいし、困った時は助けてくれるし、何よりも安心させてくれるから後悔なんてしてないよ」

提督「そうか……」

瑞鳳「……………………」

提督「…………」

瑞鳳「……うん。ここに置いていこう」

提督「置いていく?」

瑞鳳「うん。『提督』……ううん。『あの人』への縛られたみたいな感情。ここに置いて帰ろうって思ったの」

提督「辛くないか?」

瑞鳳「ちょっとね……? でも、なんだか不思議。辛い事は幸せだったはずなのになぁ……。この辛さは、なんだかヤな気分……」

提督「……そうか」ナデ

736: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:11:00.92 ID:awnviBj5o
瑞鳳「……ねぇ、提督」

提督「どうした?」

瑞鳳「折角ベッドを用意したけど……今日だけは一緒に寝て良い? ……ちょっとじゃないくらい、寂しいから」

提督「……夜中に寝惚けて入ってきたという事にするんだぞ? 私もフォローを入れておく」

瑞鳳「うん……♪ ありがと、提督」

提督「さて、そうと決まったら先に戻っていなさい」

瑞鳳「提督は?」

提督「私はもう少しだけ、この海を見ておくよ。……私も、色々と考えたい事があるんだ」

瑞鳳「ん……遅くならないでね?」

提督「ああ」

瑞鳳「それじゃ……先に戻ってるね?」スッ

トコトコ──

提督「…………」

提督「……………………」

提督「…………………………………………」

利根「──まったく。何をしておるのじゃ?」

提督「! 利根と金剛か」

金剛「あの……大丈夫デスか?」

提督「ああ。ボーっとしていただけだ。──瑞鳳の様子はどうだった?」

利根「寂しさが薄れておった。今は他の者と同じく布団の中じゃよ」

提督「そうか。私もそろそろ戻らなければな」

737: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:11:27.74 ID:awnviBj5o
利根「そうじゃぞー? 金剛が酷く心配しておったのじゃ」

金剛「!? あ、えと……その……!!」ワタワタ

提督「……すまん。心配を掛けさせてしまった」

金剛「だ、大丈夫デス……! ハイ……えっと……大丈夫デス」

提督「……くくっ」

利根「なんじゃそれは……」

金剛「あの……? 私、何か変な事でも言いまシタか……?」

提督「いやなに。まるで榛名みたいだと思っただけだ」

利根「うむ。あやつは『大丈夫』という言葉が口癖じゃったからのう」

金剛「ぁぅ……」

提督「くくくっ……はははは」

金剛「そ、そんな笑う事ないじゃないデスかぁ!」

提督「いや、すまん……くくっ……」

金剛「ぅー……」ヂー

利根(うむ。良いのう。これは良いのじゃ。……じゃが、金剛が少し問題かのう?)

金剛「ぅぅー……」ヂー

提督「いやはや、悪かった。頼むから機嫌を直してくれないか?」

金剛「むぅ……しょうがないデスね……」

利根「……うーむ。うぅむ……うーむ……」

金剛「? どうしたデスか、そんなに悩んで?」

利根「いやー……少し思う所があるからのう」

738: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:11:54.21 ID:awnviBj5o
提督「思う所?」

利根「うむ。まあ簡単な話じゃ」

提督・金剛「?」





利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」

金剛「…………」





提督「……うん? どういう意味だ?」

利根「提督の隣が暇をしておる。そう言っておるのじゃ」

提督「…………」

利根「ほれ金剛よ、何をしておるのじゃ。さっさと提督の隣に座らぬか」グイグイ

金剛「え……え……?」

利根「ほれほれ早く」

金剛「ハ、ハイ……」チョコン

利根「……うむ。うむうむ。やはりこうでなくてはな」

金剛「…………?」

提督「……利根」

利根「すまぬが提督よ、我輩は急に眠気がやってきたのでー寝るっ。あんまり遅くならぬようにするのじゃぞー」トコトコ

金剛「……行ってしまいまシタ」

739: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:12:21.54 ID:awnviBj5o
提督「まったく……」

金剛「あの……良いのデスか? よく分からないまま隣に座ってしまいまシタが……」

提督「……ああ。折角の時間だ。少し話し相手になってくれるか?」

金剛「…………? テートクも利根みたいによく分からない事を言うデース……」

提督「まあ、気にするな。いつか分かるかもしれんぞ」

金剛「いつかって、いつなのデスか……もー……」

提督「くくっ。さあ、それはいつかな──?」

金剛「うー……。テートク? いくらなんでも──」

提督「まあ、それは──」

金剛「もー……──」

提督「────?」

金剛「────────」

提督「────。────」

金剛「────────? ……────」

740: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/03(月) 03:12:48.10 ID:awnviBj5o
利根「…………」チラ

利根「……やはり、提督の隣には金剛が合っておるのう。──うむ。うむうむうむ。それに、我輩も気付いた事があるのじゃ」

利根「──我輩は、提督のあの笑顔を見ていたいのじゃなぁ」

利根「我輩達はお互いに一度壊れてしもうたが、それでも変わらぬものはある」

利根「提督は金剛を──我輩は提督のあの笑顔を──。それらを求めておる。……まあ、こう思う事自体が壊れて居るのかもしれぬが」

利根「頼んだぞ、金剛よ。我輩は、提督のその笑顔を見ていたいのじゃからな」

提督「────────」

金剛「────」

利根「…………」ニヤ

利根「くくっ。今日は良い夢を見られそうじゃ」

利根「……金剛、瑞鶴、響よ。我輩達は捻じ曲がりながらも前へ進むぞ。だから、安心して見ておってくれ」

利根「──これからが楽しみじゃ♪」





──── 利根「提督よ、お主なかなか暇そうじゃの?」 金剛「…………」 True End ────

750: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/03(月) 10:41:34.15 ID:apncpL6A0
本当にお疲れさまでした!
棚ぼた含めて大淀ェ…
それとあんだけボロボロだった面々で、ここまで巻き返せるだけ凄いのか優しさからかw

リクエストはメインのメンバー以外の鎮守府組が、今後どんな風なアピールに出てるかとかどうでしょう?

755: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/19(水) 01:44:39.54 ID:Pat0QSv5o
ちょっとしたオマケ。
>>750を見て川内さんが思い浮かんだので殴り書いたものを投下します。超短いです。

756: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/19(水) 01:45:21.28 ID:Pat0QSv5o
「ね、提督」

 ベッドに腰掛けた私の膝の上で機嫌良さそうにしている、良い香りの髪を下ろした川内が私を呼ぶ。
 最近、彼女は寝る前に必ずと言って良いほどヒッソリと私の部屋へ訪れていた。理由は言わずもがな、私を誘惑する為だそうだ。

「どうした?」

 初めこそはベッドの中に潜り込んでいたり露骨にいかがわしい事をしようと誘惑をしていたのだが、数日前からめっきりとそれが無くなった。
 何かがあったのか、それとも心境の変化なのかは分からないが、私は内心ホッとした。正直に言うと、真正面から誘われるのは苦手なのだ。言葉遊びを多用する私にとって、直接的に面と向かって言われると返しようが無くなる。茶化すのも手かもしれないが、それは彼女に対して失礼なのでやりたくない。

「新しく作戦が始まっても、こうやって部屋に来て良い?」

 意外な言葉だったので、少し驚いて手が止まってしまった。
 止まった櫛を、再び彼女のサラリとした髪へ滑らせながら答える。

「構わんぞ。……むしろ、作戦があろうと無かろうと来そうなものだと思っていた」
「アハハ! 流石に提督の邪魔になるかもしれないから確認するってー」

 いつものように、あどけない口調でそう言う川内。
 だが、そこから続いた言葉は、そうでなかった。

「……だって、嫌われたくないしね」

 いつもの彼女が晴れだとすれば、今の川内は雨雲がジワリと空を覆い始めたような灰色の寂しさだ。
 何があったのだろうか──。そう思って訊いてみるも、ちょっとね、と返されてしまった。
 顔が見えていない事もあり、真意は全く分からない。ただ言えるのは、川内は少しナーバスになっているのだろう、という事だけだ。

「……そうか」

 あまり深くは踏み込まず、いつもの口癖を口にする。それと同時に、川内の頭をゆっくりと撫でた。
 何も言わず背中を預けてくる川内。髪が近くなった事で、香りが強く鼻腔を刺激してくる。その香りの強さは彼女との距離を表しているのだが、心は真逆と離れていた。
 理由など簡単だ。私は卑怯者だからである。これだけ好意を示してくる子に対し、答えを保留しているのだから。本来ならば、ハッキリと返答をした方が良いのだろう。
 ズキリ、と胸が痛む。彼女を撫でる手が止まる。今の私の状態で言えば、誰に対してもOKを出すつもりは無い。それはつまり、毎晩健気に私と時間を過ごす彼女へ首を横に振るという事だ。
 ……その時、間違いなく彼女は悲しむだろう。もしかすると、今まで見せた事の無い涙を流すかもしれない。
 それが、私は怖い。
 卑怯だと分かっていても、優柔不断だと思っていても……それでも、私は踏み止まってしまう。
 ヴァルハラから見守ってくれている金剛のような、特別な子が出来るまで私はこのままだろう。

「……ん。提督?」

 撫でる手が止まり、頭に置いているだけとなった事が気になったのか、川内が首を捻って私へ横顔を見せてきた。
 どこか諦めているような、そんな雰囲気の笑顔。それが、酷く儚く見える。この撫でていた手を動かせでもしたら崩れてしまいそうなくらい、彼女の顔は脆そうに映った。

「……………………」
「……そっか」

 儚い笑顔が柔らかく変化する。母性があるというのか、それとも慈愛があるというのか、人を安心させる笑顔だ。

「ゆっくりで良いんだよ? それに今の私は、今のままが良いしね」

 そう言いながら、彼女はベッドに置いた私の手に手を重ねてくる。
 男のそれとは違ったほっそりとしている柔らかな感触。それが、堪らなく胸に痛みを与えてきた。
 ……いつまで、私は囚われているのだろうか。いつになったら心の整理を付けられるのだろうか。

「……そんな顔、しないで欲しいなぁ」

 身体を捻り、向かい合う形となる川内。……傍から見るとビジュアルが非常によろしくないな、これは。

「ちょっとだけ、許してね」


757: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/19(水) 01:45:50.23 ID:Pat0QSv5o
 多少の不安の色を見せる声で、彼女は私に抱き付いてきた。
 あまりに急な事だったので対応も出来ず、されるがままとなってしまう。
 ……分からん。川内が何を考えてこうしたのか、まったく分からない。

「ね、提督。こうやってさ、ギューって抱き締めたら落ち着くよ?」
「落ち着く……?」

 更に予想外の言葉を投げられ、彼女が口にした言葉をそのまま返してしまった。
 ……何がどう落ち着くというのだろうか。いまいち理解できない。

「うん。護ってくれているみたいで、怖い事とか不安な事とか全部考えなくても良くてさ、絶対に危険なんて無くて、それですっごいあったかいんだよ? 落ち着く以外ないじゃん?」

 まるで父親に甘える娘のようだ──。
 真っ先に思いついた言葉がそれだった。だが、それを口にすると不機嫌になりそうなので止めておく。娘じゃなくて女の子として見てーと言いそうだ。

「そうか」

 なので、その言葉で濁して頭を撫でる。すると、気持ち良さそうに声を漏らす少女の姿がそこにあった。
 私はいつも以上に甘えてくる川内の頭を撫で続ける。川内は余程気に入ったらしく、その状態を維持していた。
 ──が、五分もすると変化が訪れる。彼女は段々と体重を私へ預け、私を抱き締めている腕が徐々に下がり、力無く私の腰元へ落ちたのだ。
 どうしたのだろうか、と一瞬だけ思ったが、すぐに事態を理解する。
 何も難しい事などない。眠ってしまっただけのようだ。いつもならば眠たくなると自分の部屋へ戻るのだが……。

「……ほら川内。自分の部屋で寝なさい」
「ん……んん……?」

 背中をポンポンと叩き、夢の中へと旅立ってしまった彼女をこちらへ戻す。未だまどろみの中に居る彼女は、眠たそうな目で私を見詰めてきた。その瞳には何か意志がある訳でもなく、ただただ私を見ているだけだ。

「ここで寝るぅ……」
「……こら、川内」

 また珍しい事に、我侭を言ってきたので軽く叱り、無理にでも自分の部屋へ戻そうとする。風紀上よろしくないからだ。他の子達が真似でもしたら収拾つかなくなってしまう。
 ──いつもなら、そうしただろう。

「……ちゃんと布団の中で寝なさい。風邪をひくぞ」

 だが、今日はそうしなかった。寂しそうな顔をした彼女の顔を見たからか、それとも自分の心が不安定になっているからか、はたまた両方か──。
 ……本当、弱くなってしまったな、私よ。
 川内は、はぁい、と間延びした返事をして、彼女はもそもそと布団の中へと潜り込む。そして、布団から顔を出すとこちらへ両手を伸ばしてきた。
 本当ならばその腕の中に身を収めるのが良いのだろうが、今の私ではそれは出来ない。
 少しだけ考えて、その両手に腕を伸ばしてみる。すると、ゆっくりと私の腕を抱き締めて寝息を立て出した。

「今回だけだぞ……?」

 聞こえていないのを分かった上で忠告する。
 そんな意味の無い言葉を紡ぎながら、私も彼女と同じ布団の中へと入った。

「うん……てぇとく……すきだよ……」

 若干、呂律の回っていない愛の告白。一体、彼女はどのような夢を見ているのだろうか。
 空いているもう片方の手で彼女の頭を二撫でほどして、私も目を閉じた。

(──出来る事ならば、誰も悲しまない未来を描きたいものだ)

 そんな叶わない願いを心で呟き、意識を手放す為に頭の中を空っぽにする。
 ああ……本当に、そうなれば良いのにな……。
 しがらみだらけの私の心。それが解かれるのは、一体いつになるのだろうか。

 少なくとも今日、そのしがらみは僅かながら解かれたと信じたい──。

758: 妖怪艦娘吊るし ◆I5l/cvh.9A 2017/04/19(水) 01:47:54.68 ID:Pat0QSv5o
以上でオマケ終了です。今度こそこの物語は終わりです。
もしかしたら小説になろうとかで何かを書くかもしれませんが、見付けた時はひっそりと応援して下さいますと幸いです。

それでは、だいたい一週間後にHTML依頼を出します。お疲れ様でした。