1: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:44:36 ID:4Cr
・アイドルマスターシンデレラガールズの二次創作です。
・菜々さんシンデレラガールおめでとう(今更)
・拙作「ほたると菜々のふたりぐらし」から直接繋がった話になっています。
・また、過去に安部菜々と白菊ほたるがアパートで同居していたことがある、という設定を引き継いでいます。
・菜々さんシンデレラガールおめでとう(今更)
・拙作「ほたると菜々のふたりぐらし」から直接繋がった話になっています。
・また、過去に安部菜々と白菊ほたるがアパートで同居していたことがある、という設定を引き継いでいます。
引用元: ・安部菜々「きっとみんな、みんな」
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2: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:45:48 ID:4Cr
◎ある夜/某芸能事務所女子寮ロビー
寮の消灯時間なんかとっくに過ぎた午前3時に、私はときどき寮のロビーを訪れます。
そこの自販機で冷たいコーヒーを買って、真っ暗な外をぼんやり眺めて、色々な事を考えるのです。
そうしていると時々、私と同じように寮生活している事務所所属のアイドルの子に出会うことがあります。
「あれっ、ほたるちゃん?」
「ああ、千鶴ちゃん――」
この日はちあわせしたのは、同じユニットのお姉さんである松尾千鶴ちゃん。
「こんな時間だから、誰も起きていないと思っていました」
「――まあ、今日はちょっと。勉強してたら目が冴えてきちゃって」
首を傾げる私に困ったみたいに笑って、千鶴ちゃんもコーヒーを一本買いました。
こんな時間ですから、甘くないブラックコーヒーです。
寮の消灯時間なんかとっくに過ぎた午前3時に、私はときどき寮のロビーを訪れます。
そこの自販機で冷たいコーヒーを買って、真っ暗な外をぼんやり眺めて、色々な事を考えるのです。
そうしていると時々、私と同じように寮生活している事務所所属のアイドルの子に出会うことがあります。
「あれっ、ほたるちゃん?」
「ああ、千鶴ちゃん――」
この日はちあわせしたのは、同じユニットのお姉さんである松尾千鶴ちゃん。
「こんな時間だから、誰も起きていないと思っていました」
「――まあ、今日はちょっと。勉強してたら目が冴えてきちゃって」
首を傾げる私に困ったみたいに笑って、千鶴ちゃんもコーヒーを一本買いました。
こんな時間ですから、甘くないブラックコーヒーです。
3: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:46:12 ID:4Cr
「ほたるちゃんは、どうして?」
「私は、その――読書していたら眠る時間を逃しちゃって」
私は嘘をついて、眠れない理由を誤魔化しました。
あとは千鶴ちゃんと雑談しながらゆっくりゆっくりコーヒーを飲んで――
おやすみのあいさつを交わして、お互いの部屋に戻ります。
私はいつも、この時間に起きている理由を聞かれると、こんなふうに嘘をついて誤魔化します。
だってそれは、みんなには決して言ってはいけないことだと思えたからです。
「私は、その――読書していたら眠る時間を逃しちゃって」
私は嘘をついて、眠れない理由を誤魔化しました。
あとは千鶴ちゃんと雑談しながらゆっくりゆっくりコーヒーを飲んで――
おやすみのあいさつを交わして、お互いの部屋に戻ります。
私はいつも、この時間に起きている理由を聞かれると、こんなふうに嘘をついて誤魔化します。
だってそれは、みんなには決して言ってはいけないことだと思えたからです。
4: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:46:33 ID:4Cr
◎またある夜/女子寮・白菊ほたる私室]
「――っ!!」
別の日の真夜中、私は声にならない悲鳴を上げて飛び起きました。
真っ暗な部屋でぜいぜいと息をついて、あたりを何度も見回して――
そしてようやく、自分が今まで見ていたものが夢だったと納得して胸を撫で下ろすのです。
私は、ときどき悪夢を見ます。
悪夢の種類は、様々です。
今の事務所が潰れてしまう夢。
不幸をきっかけに今まで仲がよかった人たちに見限れらて、事務所で孤立してしまう夢。
『お前はもう要らないから』ってPさんに言われて、解雇されてしまう夢。
友達と仲たがいして、二度と仲直りできない夢。
事務所の経営が悪化して、いままで優しかった人たちが豹変してしまう夢――
様々、様々です。
だけど決まって同じなのは、『今が壊れてしまう』夢だって事でした。
5: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:46:55 ID:4Cr
私、白菊ほたるは今、しあわせだと思います。
この事務所に拾ってもらって、色々なお仕事をさせてもらって――
今なら『アイドルの白菊ほたるです』って名乗っても、きっと嘘にはなりません。
この間は握手会まで開くことが出来ました。
だけどそれは勿論、一人ではできなかったことです。
私に勇気をくれた人たち、支えてくれた人たちがいます。
握手会に挑戦する機会をくれたのは、Pさんです。
私が人に触れるのを恐がっているのを知っていて、それでも『挑戦してみないか』と機会をくれて。
そして辛抱強く、私が答えを出すのを待ってくれました。
そういう人がいたから、私はアイドルになれました。
この事務所に拾ってもらって、色々なお仕事をさせてもらって――
今なら『アイドルの白菊ほたるです』って名乗っても、きっと嘘にはなりません。
この間は握手会まで開くことが出来ました。
だけどそれは勿論、一人ではできなかったことです。
私に勇気をくれた人たち、支えてくれた人たちがいます。
握手会に挑戦する機会をくれたのは、Pさんです。
私が人に触れるのを恐がっているのを知っていて、それでも『挑戦してみないか』と機会をくれて。
そして辛抱強く、私が答えを出すのを待ってくれました。
そういう人がいたから、私はアイドルになれました。
6: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:47:16 ID:4Cr
――たくさんの友達も出来ました。
お仕事で、プライベードで。
私たちは支えあって、はげましあって進んでいます。
今、私は恵まれていて、今、私の周りにいる人は本当にいい人たちで。
今も私は不幸体質のままだけど、それでも毎日しあわせになっていっていて――
だけどそれなのに、私は今がこわれる夢を見るのです。
みんなが豹変したり、事務所がなくなってしまったり。
それは今までの不幸より、ずっと苦しい夢でした。
私は、この夢の事を誰にも言いません。
だって、ただの夢なんです。
それに――
お仕事で、プライベードで。
私たちは支えあって、はげましあって進んでいます。
今、私は恵まれていて、今、私の周りにいる人は本当にいい人たちで。
今も私は不幸体質のままだけど、それでも毎日しあわせになっていっていて――
だけどそれなのに、私は今がこわれる夢を見るのです。
みんなが豹変したり、事務所がなくなってしまったり。
それは今までの不幸より、ずっと苦しい夢でした。
私は、この夢の事を誰にも言いません。
だって、ただの夢なんです。
それに――
7: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:47:31 ID:4Cr
みんなはあんなに優しいのに。
今はこんなに恵まれているのに。
それでもあんな夢を見てしまうなんて、まるで――
まるで、私が心の奥底では、皆を疑っているみたいじゃないですか。
今があっさり崩れてしまいそうに思っているみたいじゃないですか。
それは皆さんの真心に対するひどい裏切りのように思えて、とても口にしようという気になれなかったのです。
ああ、あんな夢、見なくなればいいのに。
あんな夢を見るのは、きっと間違っているんです。
そんな気持ちが私の中からなくなればいいのに。
悪い夢から醒めたあと、いつも私はそうして自分を責めるのです。
――そうしてひとしきり自分を責めた後、私は汗でビショビショになった寝間着を上から下まで着替えて、あの自販機の前に向います。
高鳴ったままの心臓と火照った身体を、冷たいコーヒーで冷ますために――
8: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:48:33 ID:4Cr
◎15分後/女子寮ロビー・自販機前
「あれれ、ほたるちゃんじゃないですか」
「菜々さん!?」
その日、自販機の前には先客が居ました。
事務所の先輩で、アイドルになる前からずっとお世話になっている人――菜々さんです。
「こうしてほたるちゃんと会えるなんて、たまには夜中の目覚めもいいもんですねー。ささ、となりとなり」
にこにこ笑顔で手招きする菜々さん。
「は、はい……」
失礼します、とちょこんと横に座ります。
「なんだか二人きりになるのって、なんだか久しぶりな気がしますねえ」
「菜々さん、お忙しかったですから」
9: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:49:12 ID:4Cr
つい先日第7代シンデレラガールの栄冠を射止めた菜々さんは、今一躍時の人。
TV出演、撮影、取材――とっても忙しくしています。
なんでも今は、大がかりなカウントダウンイベントの打ち合わせが大変なんだって聞きました。
「――あらためて7代目シンデレラガール、おめでとうございます」
「あらら、どうもご丁寧に」
頭を下げる私に、菜々さんは柔らかく笑いました。
その笑顔は一緒に古いアパートにいたころそのまんまで、なんだかほっとします。
お互いまだ目が出なくて、オーディションに落ちてばかりで。
二人で小さなアパートで暮らしていたあのころが、なんだかずっと遠い事みたい。
菜々さんがシンデレラガールになったのは嬉しいけど、このまま遠くなっていっちゃうのかなって思うと少しだけ、寂しかったりして。
勿論、そんなことは菜々さんには言えないことなんですけれど。
夢といいこのことといい、このごろ人に言えないことが増えていくなあ。
なんだか少し後ろめたくて、ちくちくと胸が痛むようで、嫌だな――
10: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:49:30 ID:4Cr
そんな事を考えながら顔では笑顔を作って菜々さんと夜中の雑談。
菜々さんの明るい表情、優しい言葉に触れていると、なんだかそんな胸の痛みがすーっと溶けていくよう気がしていたのですけど――
ふと気付くと、菜々さんは笑いを収めて、じっと私の顔を見ていました。
すんすん、とかわいらしく鼻を鳴らします。
「ど、どうしたんですか、菜々さん」
しぐさは愛らしいのに菜々さんの表情はとても真面目で、私は思わずちょっとだけ目を伏せました。
なんだか何かを見透かされてしまいそうな、そんな不安があったんです。
「ほたるちゃんは、どうしてこんな夜中に起きているんですか?」
「それは――」
不安に切り込んでくるみたいな菜々さんの言葉。
どうしようと内心慌ててるうちに、菜々さんは次の言葉を継いでいました。
「もしかして、夢見が悪かったとか、寝苦しかったとか?」
「――」
菜々さんの明るい表情、優しい言葉に触れていると、なんだかそんな胸の痛みがすーっと溶けていくよう気がしていたのですけど――
ふと気付くと、菜々さんは笑いを収めて、じっと私の顔を見ていました。
すんすん、とかわいらしく鼻を鳴らします。
「ど、どうしたんですか、菜々さん」
しぐさは愛らしいのに菜々さんの表情はとても真面目で、私は思わずちょっとだけ目を伏せました。
なんだか何かを見透かされてしまいそうな、そんな不安があったんです。
「ほたるちゃんは、どうしてこんな夜中に起きているんですか?」
「それは――」
不安に切り込んでくるみたいな菜々さんの言葉。
どうしようと内心慌ててるうちに、菜々さんは次の言葉を継いでいました。
「もしかして、夢見が悪かったとか、寝苦しかったとか?」
「――」
11: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:49:48 ID:4Cr
そのものずばりを言い当てられて、絶句します。
後で思えば誤魔化しようはあったと思うのですが、その時の私は図星を指されてすっかり慌ててしまっていて。
「ど、どうしてわかったんですか!?」
なんて、自分から夢見の悪さを白状してしまう体たらくです。
「ふふふ。長い付き合いですから雰囲気で解るんですよ! なーんて、いえたらカッコイイんですけどね」
真剣な表情をくるりと収めて、菜々さんぺろっと舌を出しました。
「ヒントはほたるちゃんの髪ですよ。いつも綺麗にしてるのに、しっとり濡れてぺったんこ。まるでレッスンが終わって、とりあえず汗を拭いた後みたい」
「もしかして、匂いますか」
そういえばびっしょり汗をかいたのです。
すんすんと鼻を鳴らす菜々さんを思い出すと、かあああっと頬が赤くなってしまいます。
後で思えば誤魔化しようはあったと思うのですが、その時の私は図星を指されてすっかり慌ててしまっていて。
「ど、どうしてわかったんですか!?」
なんて、自分から夢見の悪さを白状してしまう体たらくです。
「ふふふ。長い付き合いですから雰囲気で解るんですよ! なーんて、いえたらカッコイイんですけどね」
真剣な表情をくるりと収めて、菜々さんぺろっと舌を出しました。
「ヒントはほたるちゃんの髪ですよ。いつも綺麗にしてるのに、しっとり濡れてぺったんこ。まるでレッスンが終わって、とりあえず汗を拭いた後みたい」
「もしかして、匂いますか」
そういえばびっしょり汗をかいたのです。
すんすんと鼻を鳴らす菜々さんを思い出すと、かあああっと頬が赤くなってしまいます。
12: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:50:10 ID:4Cr
「大丈夫ですよ――で、悪かったんですか、夢見」
「……はい」
もう隠せる気がしなくて、私は素直に頷きました。
それに本当は、この胸の中の重たいものを誰かに話して、楽になってしまいたかったのかもしれません。
だから、白状します。
悪い夢を見ること。
今が崩れる、人が変わる、アイドルを続けられなくなる。
そんな夢ばかりなこと。
それが私を支えてくれた人たちや環境を内心疑ってしまっているみたいで、自己嫌悪を感じてしまうこと――全部です。
「そうですか」
全部を静かに聴いてくれて、菜々さんはしみじみと頷きました。
菜々さんはなんていうのでしょう。
もし、そんなことないよ、私たちは傍にいるよ――なんていわれたらどうしよう。
考え込むみたいに無言の菜々さんを見て言葉を想像する間、私は少し不安でした。
だって、そんな事を言われたら――きっと、自己嫌悪がもっと強くなってしまうから。
だけど、菜々さんの言葉は、私が想像してたのと全然違いました。
菜々さんはあっけらかんと笑って、
「じゃ、ナナと同じですね!!」
って言ったのです。
「……はい」
もう隠せる気がしなくて、私は素直に頷きました。
それに本当は、この胸の中の重たいものを誰かに話して、楽になってしまいたかったのかもしれません。
だから、白状します。
悪い夢を見ること。
今が崩れる、人が変わる、アイドルを続けられなくなる。
そんな夢ばかりなこと。
それが私を支えてくれた人たちや環境を内心疑ってしまっているみたいで、自己嫌悪を感じてしまうこと――全部です。
「そうですか」
全部を静かに聴いてくれて、菜々さんはしみじみと頷きました。
菜々さんはなんていうのでしょう。
もし、そんなことないよ、私たちは傍にいるよ――なんていわれたらどうしよう。
考え込むみたいに無言の菜々さんを見て言葉を想像する間、私は少し不安でした。
だって、そんな事を言われたら――きっと、自己嫌悪がもっと強くなってしまうから。
だけど、菜々さんの言葉は、私が想像してたのと全然違いました。
菜々さんはあっけらかんと笑って、
「じゃ、ナナと同じですね!!」
って言ったのです。
13: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:52:41 ID:4Cr
「――菜々さんも夢見が、悪かったんですか?」
「夢見もときどき悪いし、今が続かないんじゃないかって不安だったりしますねえ、やっぱり」
困ったものです、ってあっさりと笑う菜々さん。
「そんな、だって――菜々さんはシンデレラガールになったのに」
今が凄く忙しくて、すごく人気があって。
これまでのシンデレラガールがそうだったみたいに、きっとこれから人気はぐんぐん伸びていくところなのに――
「ナナは、うまくいかない期間も長かったですから」
ちょっとだけ、菜々さんの笑顔が曇りました。
「勿論その期間も、ナナ凄く大事に思ってます! ……だけど、ちょっとね」
考え込む瞳は、どこか遠くを見ているみたいでした。
「みんなと一緒にアイドルして、うれしいな、楽しいな、もっと頑張ろうって思ってるナナもいれば、こんな幸運は長く続かないんじゃないか、自分は今、調子に乗って崖の上で脚を滑らせかかってるんじゃないか――って、不安に思うナナもやっぱりいるんですよ」
「夢見もときどき悪いし、今が続かないんじゃないかって不安だったりしますねえ、やっぱり」
困ったものです、ってあっさりと笑う菜々さん。
「そんな、だって――菜々さんはシンデレラガールになったのに」
今が凄く忙しくて、すごく人気があって。
これまでのシンデレラガールがそうだったみたいに、きっとこれから人気はぐんぐん伸びていくところなのに――
「ナナは、うまくいかない期間も長かったですから」
ちょっとだけ、菜々さんの笑顔が曇りました。
「勿論その期間も、ナナ凄く大事に思ってます! ……だけど、ちょっとね」
考え込む瞳は、どこか遠くを見ているみたいでした。
「みんなと一緒にアイドルして、うれしいな、楽しいな、もっと頑張ろうって思ってるナナもいれば、こんな幸運は長く続かないんじゃないか、自分は今、調子に乗って崖の上で脚を滑らせかかってるんじゃないか――って、不安に思うナナもやっぱりいるんですよ」
14: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:53:30 ID:4Cr
「……ナナさん……」
「そしてね、きっとみんな、みんなそうなんですよ」
「え――」
みんな?
いつも笑顔で私に接してくれる沢山の人を思い出して、私は目を丸くしました。
「そう、みんなです。だって、アイドルの世界はとても不安定なところです。明日が今日と同じだなんて保障はどこにもない場所ですもの――不安を感じて居ない人なんか、きっと居ないです」
だから自己嫌悪なんて感じなくていいんですよ、と菜々さんが小さく言いました。
私は不意に、千鶴ちゃんの顔を思い出します。
今までこの自販機の前で出会った、何人ものアイドルを思い出しました。
みんなは何故、こんな夜中に起きていたのでしょう。
あの夜、千鶴ちゃんは千鶴ちゃん自身が言うように、本当に勉強で眠れなくなったんでしょうか。
私と同じように、何かを誤魔化していたのではないでしょうか。
あの困ったような笑顔。
私ももしかして、あの時似たような顔をしていたのではないでしょうか。
15: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:53:57 ID:4Cr
「――みんな、そうなんですか」
「程度の差はあると思いますけどね――ほたるちゃんは今まですごく大変だったから、強く不安を感じてるのかも知れないです」
菜々さんは窓の外の暗闇を見上げて、頷きました。
ああ、だけど、それならみんな同じです。
千鶴ちゃんは昔の事務所で苦労をしたと聞きました。
裕美ちゃんは、自分の目つきにコンプレックスがありました。
菜々さんはアイドルへの夢に何度も挑んで、届かずにいました。
いつかアイドルに挑めなくなる日がくる恐れを、だれよりはっきり感じたことがあるのは、きっと菜々さんです。
だけど菜々さんは、笑っていて。
みんなも普段は笑っていて。
みんな、大きな不安を、今が崩れる恐さをどこかに抱えていて――
「――みんな、どうしているんでしょう」
思わず、呟いていました。
「こんな不安と、恐さと。菜々さんは、みんなは――どうやって克服しているんですか?」
「程度の差はあると思いますけどね――ほたるちゃんは今まですごく大変だったから、強く不安を感じてるのかも知れないです」
菜々さんは窓の外の暗闇を見上げて、頷きました。
ああ、だけど、それならみんな同じです。
千鶴ちゃんは昔の事務所で苦労をしたと聞きました。
裕美ちゃんは、自分の目つきにコンプレックスがありました。
菜々さんはアイドルへの夢に何度も挑んで、届かずにいました。
いつかアイドルに挑めなくなる日がくる恐れを、だれよりはっきり感じたことがあるのは、きっと菜々さんです。
だけど菜々さんは、笑っていて。
みんなも普段は笑っていて。
みんな、大きな不安を、今が崩れる恐さをどこかに抱えていて――
「――みんな、どうしているんでしょう」
思わず、呟いていました。
「こんな不安と、恐さと。菜々さんは、みんなは――どうやって克服しているんですか?」
16: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:54:20 ID:4Cr
「克服なんて、できないですよ」
むしろさっぱりはっきりと、菜々さんは言い切りました。
「できないんですか」
「光が強くなれば闇も深くなる、なんて悪役さんが言いますが、それは本当の事だと思います――きっとね、ナナたちを照らすスポットライトの光が強くなるほどに、足元の闇を強く感じるようになるんですよ」
まばゆいステージを、思い出します。
輝く光に包まれてステージに立つと、周りが見えにくくなることがあります。
あれと同じことなんでしょうか。
私は、みんなは、しあわせになるほど、アイドルになるほど、影の暗さを恐れることになるんでしょうか。
「どうしたら、いいんでしょう」
「闇が恐ければ、スポットライトが無いところにいくしかないと思います」
それは、つまり、アイドルをやめるということです。
「――それだけは、できないです」
足元の闇を、沢山の悪い夢を思い出しながら、私はそれでもかぶりを振りました。
それだけは、出来ないことなのです。
むしろさっぱりはっきりと、菜々さんは言い切りました。
「できないんですか」
「光が強くなれば闇も深くなる、なんて悪役さんが言いますが、それは本当の事だと思います――きっとね、ナナたちを照らすスポットライトの光が強くなるほどに、足元の闇を強く感じるようになるんですよ」
まばゆいステージを、思い出します。
輝く光に包まれてステージに立つと、周りが見えにくくなることがあります。
あれと同じことなんでしょうか。
私は、みんなは、しあわせになるほど、アイドルになるほど、影の暗さを恐れることになるんでしょうか。
「どうしたら、いいんでしょう」
「闇が恐ければ、スポットライトが無いところにいくしかないと思います」
それは、つまり、アイドルをやめるということです。
「――それだけは、できないです」
足元の闇を、沢山の悪い夢を思い出しながら、私はそれでもかぶりを振りました。
それだけは、出来ないことなのです。
17: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:54:48 ID:4Cr
菜々さんは、まるで私の答えがわかってたみたいに『でしょうね』って頷いてから、言葉を継ぎました。
「なら、覚悟するしかないでしょう」
「覚悟、ですか」
「影は一人に一個づづ、どうやってもついて回ってるものなんだ、って。誰もがずっと付き合っていくものなんだって――それにね」
ふと、菜々さんは自分の足元を指差しました。
「ナナはこう思うんです――もしかしたら光だけ見て、この足元の影が見えなくなったら、ナナたちはその時こそステージから転がり落ちちゃうんだろうな、って」
「――恐い、ですね」
「はい、恐いです」
「みんな、恐いんでしょうね」
「はい、きっと、みんな恐いです」
18: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:55:08 ID:4Cr
「……もし、誰かが転がり落ちそうなとき」
私は千鶴ちゃんの笑顔を思い返しつつ、考えをめぐらせました。
「私が手を伸ばしたら、その子は落ちずにすむでしょうか」
「ええ、きっと」
菜々さんは笑って請け負いました。
「きっと、ほたるちゃんが転がりおちそうな時、手を伸ばしてくれる子もたくさん居ますよ――あっ、ナナも! ナナも延ばしますから、ナナが転がり落ちそうなときは頼みますね! ね!?」
急におどけたように慌てる菜々さんに、私は思わず吹き出して、わかりましたと請け負いました。
きっと菜々さんは私の心を軽くするために、おどけてみせてくれたんです。
19: ◆cgcCmk1QIM 2018/12/03(月)18:55:29 ID:4Cr
菜々さんは言いました。
ここは不安定で、足元に闇が深くある場所。
もしかしたら私たちは、がけっぷちの光があたる場所で、そうとは知らずに踊っているのかもしれません。
だけど――現金でしょうか。
足元の闇は消せなくても、私ががけっぷちから脚を滑らせたとき、手を伸ばしてくれる人はきっといる。
私も、手を延ばすことが出来る。
そう考えると、すこし心が軽くなったような気がしました。
「――ステージは、一人で立つものではないですものね」
「そういうことです」
私たちの足元から、闇がとおざかることはありません。
だって、それはスポットライトを浴びた自分が作る影なのですから。
だけど、皆がそうなら、助け合うことはきっと出来ます。
誰かが影を恐れていることを、解ろうとすることができます。
そうして解ろうとしてくれる人がいれば、きっと足元の闇の恐さとも向き合っていける。
もしかしたら、だから私たちはみんなでステージに上がるのかもしれません。
暗い自販機の前、隣に菜々さんの暖かさを感じながらそう考えるうちに、私は心が少しづつ安らいでいくのを感じました――。
【おしまい】
ここは不安定で、足元に闇が深くある場所。
もしかしたら私たちは、がけっぷちの光があたる場所で、そうとは知らずに踊っているのかもしれません。
だけど――現金でしょうか。
足元の闇は消せなくても、私ががけっぷちから脚を滑らせたとき、手を伸ばしてくれる人はきっといる。
私も、手を延ばすことが出来る。
そう考えると、すこし心が軽くなったような気がしました。
「――ステージは、一人で立つものではないですものね」
「そういうことです」
私たちの足元から、闇がとおざかることはありません。
だって、それはスポットライトを浴びた自分が作る影なのですから。
だけど、皆がそうなら、助け合うことはきっと出来ます。
誰かが影を恐れていることを、解ろうとすることができます。
そうして解ろうとしてくれる人がいれば、きっと足元の闇の恐さとも向き合っていける。
もしかしたら、だから私たちはみんなでステージに上がるのかもしれません。
暗い自販機の前、隣に菜々さんの暖かさを感じながらそう考えるうちに、私は心が少しづつ安らいでいくのを感じました――。
【おしまい】
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