1: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:00:47.28 ID:BGLV33+Vo
「ふう、忘れ物はないな……」


自分で確認するようにつぶやき愛車の軽トラを走らせる


数十分ほど走った小高い丘が俺の目的地だ


「また来ましたよ、鈴さん」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1395241247

引用元: 【シュタゲSS】Mr.ブラウン「またこの時期がきたか……」 



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2: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:02:05.35 ID:BGLV33+Vo
墓参りに来る人のいないために汚れたままの墓を丁寧に磨いて行く


あたりの雑草も抜かなきゃならないのが結構手間だ


しかし来たときとは見違えるように綺麗になった墓石に一息つく

3: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:02:32.61 ID:BGLV33+Vo
「さてと……」


一旦軽トラへと戻りお供えの品を持ってくる


とは言っても特にかわったものがあるわけでもない


彼女の好きだった花と少しの酒、それとぼたもちだ

4: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:03:10.46 ID:BGLV33+Vo
「見てくれが悪いのは勘弁してくださいよ?」


男で一つで娘を育ててはいるがだからと言って料理が全て上手に作れるわけではない


特に確固たる目標があるこのぼたもちは……


「少しは貴女の味に近づけましたかね?」

5: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:04:58.34 ID:BGLV33+Vo
火事で妻と家を亡くし路頭に迷っていた俺を拾ってくれた女性


それが目の前の墓に眠っている女性だ

6: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:05:26.90 ID:BGLV33+Vo
あまりの出来事に生きる気力を失ってしまっていた


そんな俺を励ましてくれたのも彼女だった


親子ほど歳の離れた彼女からしたら俺は息子のようなものだったのかもしれない


なにせ彼女には血のつながった身内といったものが一人もいなかったのだから……


半ばそれに甘えてしまっていたのだろう


鈴さんに俺、そして娘の綯という奇妙な家族生活はずっと続くと思っていた

7: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:06:15.36 ID:BGLV33+Vo



しかしそんな生活はある日突然終わりを迎えた




8: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:07:04.86 ID:BGLV33+Vo



鈴さんが倒れたのだ




9: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:08:51.89 ID:BGLV33+Vo
病院に担ぎ込まれた貴女の病状を聞いて俺は愕然とした


原因不明で完治の見込みなし


別の医者なら診断もかわるかもしれない


しかし現実はそう甘くなかった


診せる医者診せる医者が同じ診察をくだしたのだ……

10: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:10:48.12 ID:BGLV33+Vo
それでも俺は貴女の回復を信じていた


毎日毎日来る日も来る日も見舞いに行った


しかし貴女の思いは俺とは違っていたようだった

11: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:11:18.51 ID:BGLV33+Vo
きっと貴女は自分の死期というものを悟っていたんだろう


自分の資産の管理を全て俺に任せてくれた


だんだん弱っていく貴女


それを見るのがどれほど辛かったか……

12: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:13:20.42 ID:BGLV33+Vo



そして貴女は亡くなった……




13: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:15:02.45 ID:BGLV33+Vo
喪主として葬儀などを執り行ったが弔問客はほとんどいなかった


それに不思議と悲しいという感情もわかなかった


置いて枯れた貴女と置いてかれた俺


きっと妻が死んだときもそんな感情だったのだろう……

14: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:15:35.08 ID:BGLV33+Vo


鈴さんの死後しばらくして遺品の整理をしていてふと目についた


あのおはぎのレシピが……



15: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:16:01.38 ID:BGLV33+Vo
「一応素晴らしい師匠のレシピ通りのはずなんですがねえ……」



毎年2回


彼岸が近づくと作ってくれたぼたもちとおはぎ


その美味さは今でも鮮明に覚えている


娘の綯は覚えてないかもしれないがな……

16: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:16:34.05 ID:BGLV33+Vo
それ以来俺も年2回ぼたもちとおはぎを作るようになった


最初は失敗ばかりでとても食えた代物じゃなかったが……


最近では少しは納得のいくものが作れるようになってきた


娘も美味いと言ってくれる


といっても貴女の味には全然届いちゃいませんがね……

17: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:17:39.73 ID:BGLV33+Vo
「じゃあそろそろ帰りますね」


娘も学校から帰ってくる頃だろう


墓に供えたぼたもちを下げる


カラス共に食わせてやるにはもったいなからな

18: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:19:00.87 ID:BGLV33+Vo


「じゃあまた来ます」



19: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:20:25.52 ID:BGLV33+Vo
来たときと同じように軽トラを走らせる


家にたどり着くとちょうど娘も帰って来たところだった


「ただいまー、お父さん」


「おう、おかえり」


「今日のおやつはなに?」


「ぼたもちがあるからちゃんと手を洗ってうがいをしてから食べるんだぞ?」


「うん!」

20: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:21:11.36 ID:BGLV33+Vo
さて……


たしか上にいるのは8人だったか……


いつも綯も世話になっているしこれくらいしてやってもいいだろう


本当はあまり付き合ってほしくないやつもいるが嬢ちゃんになついてるしな……

21: ◆SUZUHAec1I 2014/03/20(木) 00:21:39.38 ID:BGLV33+Vo
まあいいさ


心して食えよ?


鈴さんのバカ息子からバカ息子たちへのぼたもちを……



                                おわり