1: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:19:09.24 ID:brxTQRYY0

凛「……告げる。汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に」

凛「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

凛「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

凛「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ。天秤の守り手よ……!!」

凛(……間違いなく最強のカードを引き当てた)

ドーン!!

凛「はい?」


凛「え……ええぇぇ!?」


??「やれやれ……。相変わらず人間はやかましいな」



      「うしおととら」×「Fate/stay night」



          『うしおとセイバー』




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1467519548

引用元: うしおとセイバー 



Fate/Requiem 1巻『星巡る少年』【書籍】
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4: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:26:20.98 ID:brxTQRYY0


【第一話 始まりの日 】


5: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:27:54.17 ID:brxTQRYY0


・潮の部屋


桜「蒼月君、そろそろ起きないと遅刻してしまいますよ」

うしお「……う……ん? あぁ、桜姉ちゃん。おはよう」

桜「おはようございます。蒼月君」


6: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:31:23.69 ID:brxTQRYY0


・蒼月家居間


うしお「はー、ごちそーさん」

桜「蒼月君。お茶をどうぞ」

うしお「それにしても親父と母ちゃんが総本山に行ってるからって、桜姉ちゃんに毎日ご飯作ってもらっていいのかなァ」

桜「気にしないで下さい。私も蒼月君にお礼がしたいんですから」

うしお「お礼って、オレが桜姉ちゃんの兄貴を止めた事かい?」

桜「はい。兄さんが弓を持ったばかりの男子を見世物にしていたのを、蒼月君が止めてくれましたから」

うしお「オレ、ああいうのは見てらんねえからさ」

桜「……はい」

うしお「……あ、あーー!? もうこんな時間だ!!」

桜「えっ、あ、そうですね。早く片付けましょう」


7: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:34:16.39 ID:brxTQRYY0


・遠坂邸


??「おい、人間の女ァ」

??「わしは早く強えヤツとやりてえのよ」

??「おい人間の女。聞いとんのか、人間の女」


凛「あーーもう!! この『とら』!!」


凛「アンタねぇ、私はマスターなのよ!?」

とら「あぁ? それがどうした、人間の女」

凛「あ……あったま来たーーッ!! 私のことはマスターって呼べーー!!」

とら「お、おい、おめえ分かっとんのか!? 令呪ってえのは……!!」

凛「うるさいうるさいうるさーーい!!」

8: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:37:42.25 ID:brxTQRYY0


・蒼月家玄関


麻子「うしお、また桜先輩に起こしてもらったんでしょ?」

真由子「うしお君が毎日ちゃんと起きてるなんて珍しいもんね~」

うしお「な、なにをーー!!」

麻子「そ、それよりあんた、おじさんとおばさんが居ないからって桜先輩に……」

麻子「や、やや、やらしいことしてないでしょーねーっ!?」

うしお「な、なに言ってるんだよ麻子ーーっ!?」


真由子「本当二人とも朝から仲いいんだからぁ」

桜「ふふっ」


10: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:43:11.01 ID:brxTQRYY0


・交差点


真由子「それじゃまた後でね。キリオ君」

キリオ「うん、お姉ちゃん」

うしお「キリオまたなーっ!」


キリオ「あっ、うしお兄ちゃん」

うしお「ん? どうしたキリオ」

キリオ「……うん」

キリオ「前から真由子姉ちゃんを狙ってる組織や協会がいるのは話してると思うんだけど、昨日の夜にも来たんだ」

うしお「なに!?」

キリオ「でも、昨日の奴は……。ちょっと違ったよ」


11: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:45:57.24 ID:brxTQRYY0


・キリオ回想


??「へぇ、ガキのくせに中々やるじゃねぇか」

キリオ「お姉ちゃんは、僕が守る」

??「嬢ちゃんからとんでもねぇ力を感じるが、魔術師ってワケじゃなさそうだ」

キリオ「ま、待て!!」

??「悪いな。ウチの雇い主がお前とは戦うなってよ」


キリオ「そいつは、『赤い槍』を持った男だったよ」

うしお「赤い……槍……?」


12: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:49:41.28 ID:brxTQRYY0


・穂群原学園校門


うしお(……『槍』か……)

麻子「どうしたのよ、うしお」

うしお「なんでもねえよ」


凛「…………」

うしお「ん?」


桜「蒼月君? 遠坂先輩がどうかしたんですか?」

うしお「遠坂先輩?」

麻子「あんた遠坂先輩知らないの!?」

真由子「遠坂凛先輩。容姿端麗、頭脳明晰、悪い噂は全くなくて男子生徒の憧れの的らしいよ~」

うしお「へぇ、そんな先輩がいたのかァ」


13: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:53:58.91 ID:brxTQRYY0


・穂群原学園屋上


凛「とら。他のサーヴァントの動きは分かる?」

とら「けっ、わしはそんなことは出来んぞ『ますたー』」

凛「そうよね」

凛(……まさか、二年前に蒼月君と一緒に白面の者から世界を救った妖怪の英霊を召喚しちゃうなんてね……)

とら「おい、ますたー。わしは早く他のヤツらをぶっ飛ばしてえんだ」

凛(しかも、召喚の失敗で二年前のことは忘れてる……)

凛「分かったわ、とら。私に付いて来て、様子を探りに行きましょう」

凛(だけど、最強のカードであることは間違いないわ)


14: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 13:56:31.46 ID:brxTQRYY0


・交差点


うしお「槍の男のことを考えてたら、一日終わっちまった……」

うしお「もう一回キリオに話を聞きに行くかァ」

うしお「ん?」


??「フフッ」

??「早く呼び出さないと死んじゃうよ、お兄ちゃん」


うしお「えっ!?」


15: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:02:17.70 ID:brxTQRYY0


・ビル屋上


凛「とら、この街を見ても何も思い出さない?」

とら「なぁんにもな」

凛「そう……」

とら「わしは記憶なんかどうでもいい。他の奴らをぶっ倒すだけよ」

凛「そうね、あなたの記憶がなくても関係ない。私は『聖杯戦争』に勝つだけよ」

とら「へっ、それでいいのよ。ますたー」

凛「覚悟は出来ているわ。とら」

16: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:06:05.02 ID:brxTQRYY0


【第二話 運命の夜 】


17: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:08:31.98 ID:brxTQRYY0


・交差点


うしお「キリオ。昨日の夜は大丈夫だったのか?」

キリオ「うん、何もなかったよ」

うしお「そうか、それならいいんだけどよ」


うしお(あの女の子はなんだったんだ……)


麻子「コラーっ!! うしお遅刻するわよーっ!!」

うしお「今行くってーの!!」


18: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:10:47.39 ID:brxTQRYY0


・穂群原学園屋上


凛「とら、気づいてる?」

とら「あぁ」

凛「近くで敵の気配がするわ。私達をずっと見てる」

とら「けっ、もったいつけやがって」

凛「面白いわ。人がいなくなるまで様子を見ましょう」


19: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:14:21.96 ID:brxTQRYY0


・穂群原学園屋上


とら「来たかよ。暗くなるのを待ってやがったな」

凛「凄い殺気……」


??「いい夜だな。そこの妖(バケモノ)もそう思うだろう?」


凛「とらが見えてる!? コイツ、やっぱりサーヴァント!!」

??「そういうこと。で、それが分かるお嬢ちゃんはオレの敵ってことでいいんだなぁっ!!」

凛「とら!!」

とら「へっ、やっと遊べらァ」

??「ほう、話が早くていいねぇ。そうでなくちゃ」

凛「槍使い、ランサーのサーヴァントね」

ランサー「いかにも。まさか妖の英霊がいたとはな。まぁ、出会ったからにはやるだけだ」


20: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:20:25.85 ID:brxTQRYY0


・穂群原学園屋上


ランサー「チィッ」

とら「おおおおお!!!!」

ランサー「ぐっ、これ程とはな……。すぐに撤退命令が出るはずだ」

とら「逃がすかよーーっ!!」

ランサー「へっ、いいのか? お前の雷のおかげで人が集まって来てるぜ」

凛「と、とら!! ダメよ、今、人に見られるワケには……」

とら「けっ、しくじったか。ますたー乗れ!!」


21: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:23:32.80 ID:brxTQRYY0


・蒼月家付近上空


ランサー「あのヤロウ、こっちはバケモノとやりあった後だってのに……」

ランサー「魔力を感じたから見て来いとは、人使いが荒すぎるんじゃねーか」

ランサー「あの寺か」


ランサー「……なるほど。微弱だが魔力を感じる」


22: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:29:10.67 ID:brxTQRYY0


うしお「また桜姉ちゃんに晩飯作ってもらっちまったなァ」

うしお「ん? 蔵の方に誰かいる……?」

うしお「桜姉ちゃんは今帰ったし、照道さんも夕方に帰ったから……」


うしお「だ、誰だ!!」


ランサー「見られたか……」

ランサー「ま、運がなかったな坊主。見られたからには死んでくれや」


うしお「赤い、槍!?」


23: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:33:53.13 ID:brxTQRYY0


ランサー「ハァッ!!」

うしお「うわああああ!!」


ランサー「……おいおい。まさか蔵の中に隠れたつもりか?」


うしお(あ、あれがキリオの言ってた赤い槍の男……)

うしお(オヤジもいねえのにどうすりゃいいんだ……)

うしお(この地下室もすぐにバレちまうよ……)



うしお「……そういや『アイツ』と出会ったのはここだったなァ」



ランサー「へぇ、地下室なんてあるのか」


24: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:40:26.23 ID:brxTQRYY0


うしお「!?」

ランサー「鬼ごっこは、ここまでだ」

ランサー「ひょっとするとお前が七人目だったのかもな」

うしお「七人目……? 何のことだが知らねえけど……」


うしお「オレは……負けねえぞ!!!!」


??「はぁっ!!!!」


ランサー「な……なに!? コ、コイツは……!?」


25: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:42:24.39 ID:brxTQRYY0


・蒼月家付近上空


凛「やっぱりあの場所から魔力を感じるわ」

とら「さっきの槍使いかよ?」

凛「そこまでは分からないけど、もしかしたらサーヴァント同士で戦ってるのかも」

とら「へっ、面白え。二匹いっぺんに相手してやるぜーーっ!!」

凛「ちょ、ちょっと、とらっ、飛ばしっ、過ぎっ」

26: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 14:45:46.78 ID:brxTQRYY0


うしお「え……あ……」


??「サーヴァント、セイバー」


セイバー「召喚に従い、参上した」


セイバー「問おう」


セイバー「貴方が私のマスターか」


30: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 20:21:18.37 ID:brxTQRYY0


【第三話 開幕 】


31: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 20:23:33.60 ID:brxTQRYY0


うしお「うわああああ!! なんだなんだ姉ちゃんなんだ!?」


セイバー「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある」

セイバー「ここに契約は完了した」

セイバー「先程の敵がまだ外にいるようです。マスターはここに」


うしお「あっ、ね、姉ちゃん!!」


うしお「行っちまった……」


32: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 20:37:46.78 ID:brxTQRYY0


ランサー「……かわしたな。我が必殺のゲイボルクを」

セイバー「ゲイボルク……。御身はアイルランドの光の御子か?」

ランサー「ドジったぜ。コイツを出すからには必殺でなけりゃヤバイってのに」

ランサー「今日はバケモノの相手をやらされたりと、厄日だな」

セイバー「バケモノ……?」

ランサー「おっと、あまり喋ると雇い主がうるさいんでね」

セイバー「逃げるのか?」

ランサー「追って来るなら構わんぞ。ただし、その時は決死の覚悟を抱いて来い」


うしお「姉ちゃん!! さっきはサンキュ、じゃなくて槍で刺された傷は!?」

うしお「あれ、治ってる……」

セイバー「いえ、これは自動修復で外面を覆っただけです。マスター、傷の治療を」

うしお「そ、そうだよな、待っててくれ!! 家から救急箱持って来るよ!!」

セイバー「マ、マスター!? そういう意味ではなく……」


セイバー「あと一度の戦闘なら支障はない、か」


34: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 20:47:59.56 ID:brxTQRYY0


うしお「あれ、いない。どこに行ったんだ……?」


セイバー「はぁぁぁぁ!!」

とら「へっ!! 大陸の剣使いか!!」

セイバー「獣のサーヴァントは初めて見ました」

とら「最初で最後にしてやるよォ!!」


うしお「おーーい!! 姉ちゃーーん!!」


セイバー「ダメですマスター!! 下がってください!!」

凛「あっ、まっずい……!! とら、引くわよ!!」

うしお「と、遠坂先輩!? そ、それに……」


とら「あ?」

うしお「……!?」


35: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 21:00:47.91 ID:brxTQRYY0


・蒼月家居間


凛「どう? これで大体の説明は終わりなんだけど」

うしお「魔術師による聖杯戦争、七人のマスター、七騎のサーヴァント……」

うしお「勝ち残った組は、聖杯で望みを叶える事が出来る、か……」

とら「ますたー、やめときな。コイツ頭悪そうな顔してるぜ」

うしお「とら!! なにをーーっ!!」


うしお「とら……。オレを、覚えてないのかよ?」

とら「けっ、おめえなんか知らねえよ」


うしお「とら……」

凛「…………」

凛「さて、そろそろ行きましょうか」

うしお「行くって、どこへだい?」

凛「この戦いを監督してる奴の所よ」


36: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 21:10:33.51 ID:brxTQRYY0


・大橋歩道橋中央


凛「ねぇ、もう少し目立たない服なかったの?」

うしお「セイバー姉ちゃんが鎧のまま着れる服なんて、この徳野さんのコートしかないからなァ」

セイバー「私のことは気にしないで下さい。マスター」

凛「蒼月君がセイバーを霊体化出来ないから仕方ないとはいえ、目立つわね……」


37: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 21:20:14.91 ID:brxTQRYY0


・言峰教会


凛「七人目のマスターを連れて来たわよ」

うしお「この人が、言峰神父さんかい?」

言峰「……ほう。現代の英雄が過去の英霊を召喚したか」

うしお「え、英雄なんて呼ぶのはやめてくれよーーっ!!」


凛「それで、これはどういうことなの。蒼月君は魔術師じゃないわよ」

言峰「フッ、忘れたのか凛。マスターとサーヴァントは己の境遇に強く影響する」

凛「……そうか。あのセイバーも蒼月君と同じく国や人々を救った英霊……」

言峰「そういうことだ。蒼月潮ならば英霊を召喚することに魔術師かどうかなど問題ではない」

言峰「この聖杯戦争に巻き込まれたのも、必然と言ってもいいほどの逸材だ」


38: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 21:32:56.57 ID:brxTQRYY0


言峰「改めて聞こう蒼月潮。選ばれしマスターとして、この聖杯戦争を戦う意志があるや否や」

うしお「あぁ、戦うよ」

うしお「俺は魔術師じゃないし、聖杯も英霊も何も知らねえさ」

うしお「でも遠坂先輩に聞いたんだ、サーヴァントってのを使って人を襲ってる奴がいるんだろ?」

言峰「そのような行為をしているマスターがいる事は、魔術協会としては不本意だがね」

うしお「そんなの聞いちまったら、もう黙って見てるなんて出来ねえよ!!」

言峰「うむ……」

凛「決まりね。さ、帰りましょ」


言峰(……蒼月潮。蒼月紫暮の息子がマスターになるとは、フフ……)


39: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/03(日) 21:47:21.84 ID:brxTQRYY0


・街路


凛「これで義理は果たしたわ」

うしお「サンキュ、遠坂先輩」

凛「いいのよ。とらを召喚した縁もあるしね。何も知らずに死なれちゃ私の夢見が悪いもの」

うしお「遠坂先輩って、いい人だなァ」

凛「な、なな……て、手は抜かないわよっっ」

セイバー「……マスター」


??「こんばんは、お兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」


44: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/06(水) 12:10:20.28 ID:/decrKLG0


【第四話 最強の敵 】


45: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/06(水) 12:12:56.77 ID:/decrKLG0


うしお「あの時の女の子……?」

??「初めまして、リン。私はイリヤ」

イリヤ「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、って言えば分かるでしょ」

凛「アインツベルン……。とら!!」

とら「けけ、あーあ。退屈だったぜ」

うしお「遠坂先輩!? 何を!?」

凛「あいつはアインツベルン……。私たちの敵よ」

うしお「敵って……あの女の子が聖杯戦争のマスターの一人……!?」

とら「鈍いよなァ、剣使いの主はよ。もう戦争は始まってんのよ」

セイバー「そういうことです、マスター」


46: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/06(水) 12:22:26.87 ID:/decrKLG0


イリヤ「それがリンのサーヴァント? へぇ、噂通り本当に凄いのを召喚したのね」

凛(……まさかドジったおかげで、この『とら』を召喚出来たなんて言えないわね……)

バーサーカー「…………」

とら「わしに用があるのか。いいぜ、相手になってやらァ」

セイバー「分かるのですか?」

とら「奴の眼は常にわしを捕らえてるのよ。何かあるな」

セイバー「なるほど……」

とら「剣使い、手は出すなよ。奴はわしの獲物よ」

セイバー「分かりました。私としては共倒れを希望しますが」

とら「奴の次はおめえよ、剣使い」


イリヤ「……挨拶はもういいよね。どうせここで死んじゃうんだし」

イリヤ「じゃ殺すね。やっちゃえ!! バーサーカー!!」


47: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/06(水) 12:31:03.16 ID:/decrKLG0


とら「おおおおお!!!!」

バーサーカー「ガアアアア!!!!」


凛「とら!!」

うしお「これが、聖杯戦争か……!!」

セイバー「獣のサーヴァントが押しています」

セイバー「ですが、何かおかしい……」


イリヤ「やっぱり、言われたとおり使うしかないかな」

凛「えっ……」

イリヤ「リン。確かにリンは凄いサーヴァントを召喚したよね」

イリヤ「けど、それを知ったアインツベルンが何も対策をしないと思っていたの?」

イリヤ「カヅチ!!」

華鎚「…………」
華鎚「…………」

とら「ぐあああああ!! こ、こいつァ!?」


48: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/06(水) 12:40:43.34 ID:/decrKLG0


凛「とら!?」

うしお「なんであの妖がこんなところに!?」

イリヤ「フフ、お兄ちゃんには懐かしいかもね」

イリヤ「リンは知らないだろうから教えてあげる」

イリヤ「このカヅチは『結界自在妖』っていって、一体で四百二十体の妖怪を止められるの」

凛「四百二十!? それを二体も操ってるっていうの!?」

イリヤ「あの『決戦』で使われた妖怪たちの秘密兵器も、今はアインツベルンの秘密兵器ってことね」

とら「ぐあああああ!!」

うしお「とら!!」

イリヤ「もう終わりだね。やっちゃえ!! バーサーカー!!」


49: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/06(水) 12:48:48.25 ID:/decrKLG0


バーサーカー「ガアアアア!!!!」

セイバー「くっ、強い……!!」


とら「おい!! この結界を壊すんだよ!!」

凛「今やってるわよっっ!!」


イリヤ「やっちゃえやっちゃえーー!!」

イリヤ「ぁ……」

うしお「血が流れて……。もしかして怪我してんのか!?」

イリヤ「傷が開いただけ。こんなの、何ともないんだから」

うしお「なんだよそれ……。やめろよ……」

イリヤ「えっ……」

セイバー「マスター!! 敵のマスターは危険です!! 離れてください!!」

うしお「やめろよ!! なんでこんなことすんだよ!!」

イリヤ「……!?」

うしお「あっ、そうだ。誰かに命令されてるんじゃないか!?」

イリヤ「…………」

うしお「な、そうだろ。こんな女の子が戦いたがるワケねえよな」


50: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/06(水) 12:56:28.59 ID:/decrKLG0


イリヤ「もう、いい……。こんなの、つまんない」

うしお「えっ」

イリヤ「バーサーカー、カヅチ」

バーサーカー「…………」

華鎚「…………」
華鎚「…………」

イリヤ「リン。次に会ったときは殺すから」



凛「とらの情報は筒抜けってことか……」

とら「けっ……」

凛「アインツベルン……。この借りは、必ず返すわよ」

セイバー(……アインツベルン、か……)

うしお「本当にあんな女の子まで、聖杯戦争に参加してるってのかよ……」


51: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/06(水) 13:13:52.21 ID:/decrKLG0


・交差点


凛「それじゃあね。蒼月君」

うしお「あぁ、遠坂先輩。またな!!」

凛「……これから私達は、聖杯戦争の敵同士なんだけど」

うしお「オレは敵だなんて思ってないさ」

凛「はぁ……。蒼月君には何を言っても無駄みたいね」


とら「くく、おめえら頑固なところは似てるじゃねえのよ」

凛「な、なんですってーー!!」


うしお「セイバー姉ちゃん、オレ達も帰ろう」

セイバー「はい、マスター」


52: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/06(水) 14:08:51.48 ID:/decrKLG0


・蒼月家玄関前


うしお「あ、そうだ。オレのことはマスターじゃなく『うしお』って呼んでくれよ」

うしお「皆そう呼んでるしよ、マスターって呼ばれるのはなんだか恥ずかしいよ」

セイバー「ウシオ、ですか。分かりました。ええ、私にはこの発音のほうが好ましい」

うしお「オレもセイバーって呼んでいいかい?」

セイバー「もちろんです。真名ではありませんが、今の私はセイバーですから」

うしお「真名……。セイバーの過去の本当の名前かァ」

うしお(でも、オレが出会ったセイバーは今のセイバーだ)

うしお(オレをランサーから助けてくれたのは、今ここにいるセイバーなんだから)

うしお(『アイツ』がシャガクシャでも字伏でもないように……。それなら名前は……)


うしお「オレは魔術師じゃないし分からないことばかりだけど……」

うしお「よろしくな、セイバー!!」

セイバー「こちらこそ、よろしくお願いします。ウシオ」


55: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/10(日) 13:44:31.63 ID:8j0Vulo90


【第五話 うしおとりん(前編) 】


56: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/10(日) 13:46:52.65 ID:8j0Vulo90


・穂群原学園廊下


うしお「あっ、遠坂先輩!!」

うしお「探してたんだよ、ちょっと聞きたいことがあって……」


凛「…………」


うしお「あ、あれ……」

横尾「お、おい!! うしお、お前遠坂先輩と知り合いだったのか!?」

厚池「中村サンや井上サンだけじゃ飽き足らず遠坂先輩までも!!」


うしお「う、うーん、聞こえてなかったのかなァ」


57: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/10(日) 13:50:26.64 ID:8j0Vulo90


・穂群原学園屋上


とら「あいつ、おめえを探しとんのか」

凛「ええ、そうみたいね」

とら「剣使いの女もいねえ。殺るなら今なんじゃねえか」

凛「分かってるわ」

とら「ますたーが殺りたくねえなら、わしが」

凛「それだけは止めて。私、貴方達が戦うところなんて見たくないのよ」

とら「けっ、わしとあいつが何だっていうんだ」

凛「行って来るわ、とら。これは遠坂として私がつけるべき、けじめよ」


58: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/10(日) 13:55:08.81 ID:8j0Vulo90


・穂群原学園階段


うしお「遠坂先輩!! やっと見つけた。オレずっと探してたんだぜ、あのさ」

凛「蒼月君、自分がどれだけおバカさんか分かってる?」

うしお「えっ……?」

凛「マスターがサーヴァント抜きで出歩いてるなんて殺して下さいって言ってるようなものよ」

うしお「そうなんだよ。セイバーは霊体化ってのが出来ないからオレどうしたらいいか分からなくてさ」

凛「でしょうね。でも、それで私に頼るのは間違いよ」

凛「言ったわよね? 次に会ったときは聖杯戦争のマスター同士、敵同士だって」

うしお「そんな、まさか……」

凛「私はね、目の前のチャンスは逃さない主義なの」

凛「逃げてもいいけど、勝つのは私なんだから!!」


59: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/10(日) 13:58:33.95 ID:8j0Vulo90


・穂群原学園廊下


凛「蒼月君!! 令呪を渡しなさい!!」

うしお「う、撃たれた……? 今のが魔術ってやつか!!」

凛「大人しくするなら怪我はさせないわ。抵抗するなら、分かるわよね?」

うしお「なんでオレ達が戦う必要があるんだよ遠坂先輩!!」

凛「聖杯戦争っていうのは、そういうものなのよ……!!」

凛「偶然にも最優のサーヴァント『セイバー』を召喚出来たといっても蒼月君は魔術師じゃない」

凛「この聖杯戦争に勝てる見込みなんてないのよ」

うしお「…………」

凛「だから、私が巻き込まれた戦いから降ろしてあげるわよ!!」


60: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/10(日) 14:03:20.95 ID:8j0Vulo90


うしお「やっぱり遠坂先輩っていい人だなァ」

凛「な、なに言って……」

うしお「オレに聖杯戦争にはかかわるなって言ってくれてるんだろ?」

うしお「本気で俺の令呪を奪う気なら『とら』に戦わせてるはずだ」

凛「それは……」

うしお「確かに聖杯戦争っていうのは危険なんだと思う。昨日見たサーヴァント同士の戦いを見て思ったよ」

凛「それなら……!!」

うしお「だからこそ、サーヴァントを使って何か企んでるヤツがいるのを見過ごせねえよ!!」

凛「っ……!!」

うしお「これだけ近づけば、さっきのは撃てないはず……!!」

凛「私の魔術を見て、距離を詰めたのは褒めてあげるわ。でも残念ね……!!」


凛「八極拳っていうんだけど、蒼月君は知ってるかしら……えっ!?」


うしお「遠坂先輩って、拳法も使えるのか……!!」

凛「ふ、防がれてる……!?」

うしお「ありがとよっ!! 麻子のおじさん!!」

凛「空手……!?」


62: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/10(日) 14:25:31.66 ID:8j0Vulo90


凛「はぁはぁ……。私の攻撃を全て防御するなんて、やるじゃない蒼月君……」

うしお「ふぅ……。遠坂先輩こそ、魔術よりこっちのほうが向いてるんじゃないかい」

凛「言ってくれるわね……」


うしお「……遠坂先輩。この令呪が必要だっていうなら渡すよ」


凛「それは、どういう風の吹き回しかしら?」

うしお「令呪は渡すよ。だけど一つ条件を聞いてほしい」

凛「条件……?」

うしお「オレに遠坂先輩の聖杯戦争を手伝わしてくれ」

凛「なっ……」

うしお「遠坂先輩は無関係な人を襲うサーヴァントやマスターをほっとくはずがねえ」

凛「それは……私だって見過ごす気はないわ」

うしお「それならオレの聖杯戦争は遠坂先輩を手伝うことさ」

うしお「確かにオレは魔術師じゃないから役には立たないかもしれねえ」

うしお「でも、お役目のおばさんって人が言ってたんだ。みんな仲良くしろってよ」

うしお「人間と妖怪も出来たんだ。オレと遠坂先輩だって、きっと相当強いぜ?」


63: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/10(日) 14:29:38.58 ID:8j0Vulo90


とら「くく……。おめえの負けよ、ますたー」

凛「とら!? あんたねえ、屋上で待ってろって言ったでしょ!!」

とら「まだ剣使いの主とやるってえのか?」

凛「それは……」

うしお「まだ、戦うのかよ……。遠坂先輩……」

凛「……あーーもう!!」

とら「くく、わしはおめえのことが分かってきたかもしれねえなァ、ますたー」

凛「とらァ!!」

うしお「それじゃ……」


「キャァァァァ!!!!」


うしお「遠坂先輩、今のは!?」

凛「悲鳴、だったわよね」

うしお「くっ……!!」

凛「ちょ、蒼月君!! 場所分かってるの!?」


64: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/18(月) 18:10:30.24 ID:1WrViEbM0


【第六話 うしおとりん(後編) 】


65: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/18(月) 18:13:28.59 ID:1WrViEbM0


・穂群原学園廊下


うしお「お、お前は……!?」

??「…………」
女子生徒「…………」

凛「蒼月君!! こ、この感じ、サーヴァント……!?」

とら「このニオイは『馬乗り』か」

ライダー「貴方が噂の『獣』のサーヴァントですか。確かに、いい毛並みをしていますね」

ライダー「しかしここは貴方とやるには場所が悪い。この場は引かせてもらいます」

凛「とら!! 追って!!」

とら「へっ、逃がすかよォ!!」


66: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/18(月) 18:16:20.96 ID:1WrViEbM0


女子生徒「…………」

うしお「よかったァ。気を失ってるだけみたいだ」

凛「そんなわけないでしょ……」

凛「魔力の源『生命力』を抜かれているのよ。この子、ほっておいたら死ぬわ」

うしお「そ、そんな……!?」

凛「蒼月君、下がって。これくらいなら……」


うしお「ん……? 今、何か光ったような……」

うしお「危ねえーーっ!!」

凛「えっ、な、なに!? 攻撃されたの……!?」

うしお「遠坂先輩!! その子、頼んだよ!!」


67: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/18(月) 18:18:41.20 ID:1WrViEbM0


・弓道場裏雑木林


うしお「どこだーーっ!? いるんだろ!! 出て来い!!」

うしお「うわぁっ!? は、針!? ど、どこから攻撃してんだ……」


ライダー「驚いた。何故避けれたのですか、貴方は」

うしお「…………」

ライダー「次は、外しません」


うしお(……己の心を細くせよ。川は板を破壊できぬ。水滴のみが板に、穴を穿つ……)


うしお「そこだっ!!」

ライダー「今のを避けましたか……」

ライダー「なるほど、ダテにサーヴァントを連れずに歩いているワケではないのですね」


68: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/18(月) 18:23:39.51 ID:1WrViEbM0


ライダー「当たらないなら、近接の攻撃手段に変えるまでです」

うしお「ライダーとか言ったな、来るなら来い!!」

ライダー「それは、ランサーの真似事ですか」

うしお「お前を追ってる最中に壊れたホウキを拾ったんだ」

ライダー「そんな『木の棒』で私と戦えるとでも?」

うしお「やってみなきゃわかんねえさ。でも、負ける気はねえぜ……!!」


69: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/18(月) 18:27:01.63 ID:1WrViEbM0


ライダー「くっ……。貴方は、本当に人間ですか」

うしお「オレは人間だよ!! 蒼月潮ってんだ!!」

うしお「ちょっとだけ『木の棒』の扱いが得意な高校生さ!!」


とら「馬乗りがァここかァ!!」


うしお「とら!?」

ライダー「私が創った偽者を追わせていたはずですが、倒されましたか」

ライダー「獣のサーヴァントに気付かれる前にマスターを始末するつもりでしたが仕方ありません」

うしお「ライダー!! どこに行ったんだ……!?」

ライダー「今回はさすがに分が悪いようです」

とら「チィ!! 馬乗りめえ、逃げ足が速えかよ……!!」


70: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/18(月) 18:41:17.79 ID:1WrViEbM0


凛「蒼月君!! 大丈夫!?」

うしお「オレは大丈夫さ。遠坂先輩、あの子は!?」

凛「安心して。どうにか持ち直したわ」

うしお「よかったァ……」

凛「……今のが学校に結界を覆ってるサーヴァントみたいね」

うしお「結界?」

凛「それもかなり悪質なね。学校の生徒を生贄にしてサーヴァントを強くするっていう最悪な結界よ」

うしお「生贄って……。学校には麻子たちや他のみんなも大勢いるんだぜ!?」

うしお「そんなこと絶対やめさせないと!!」

凛「ええ、勿論よ。結界の発動は止めてみせる」

うしお「遠坂先輩、やっぱりオレたちで争ってる場合じゃねえよ!!」

うしお「オレたちで一緒に結界を止めよう!!」


凛(……本当、真っ直ぐね……)

凛(……あの時から、変わらない……)

凛(……あの時から……)


71: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/18(月) 18:47:49.03 ID:1WrViEbM0


「この公園は今からオレたちのものだァ!!」

「なによう、後から来てどけってことないでしょー」

「あ、あさこ、やめなよう」


「子供同士の喧嘩か。子供でも巻き込まれると危険だな。二人とも、葵さんのところに戻ろうか」

「は、はい、雁夜おじさん……」

「……………………」

「凛ちゃん……?」


72: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/18(月) 18:57:19.06 ID:1WrViEbM0


「どけよ、おとこおんな!!」

「きゃ」


「麻子になにすんだよ!!!!!!」


「こ、こいつ、下級生のくせに……」

「みんなでこいつをやっちまえ~~!!」


「うしお!! 一人じゃ大変そうだな!!」

「士郎!?」

「後ろは任せろ、うしお!!」

「行っくぞーー!! 士郎!!」


73: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/18(月) 19:01:01.10 ID:1WrViEbM0


「お、お前ら、覚えてろよ~~!!」


「ふ、二人とも大丈夫……?」

「このくらい平気だい」

「うしおは本当に『正義の味方』みたいなヤツだよなァ」

「正義の味方? なんだよそれ、そんなんじゃねえやい」

「……………………」

「ふん。オレはただ、あいつらが前から気に入らなかっただけさ」


75: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 21:20:18.89 ID:TTWE+3d30


うしお「遠坂先輩!!」


凛(……真っ直ぐに目を見るわね……)


凛「分かったわ蒼月君。それじゃ私と休戦協定を結びましょ」


76: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 21:25:22.05 ID:TTWE+3d30


・間桐邸


ライダー「…………」

慎二「邪魔が入ったな」

ライダー「…………」

慎二「まぁいいさ。遠坂も蒼月もそんな簡単に殺しちゃ面白くない」

ライダー「…………」

慎二「アイツらも、あの女と一緒に結界で殺してやる」

慎二「中村麻子……。後悔させてやるよ、この僕の誘いを断ったことを……」

ライダー「…………」

慎二「ハハ、ハハハハ!!」


77: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 21:27:12.83 ID:TTWE+3d30


【第七話 蠢動 】


78: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 21:42:08.45 ID:TTWE+3d30


・蒼月家居間


セイバー「それではウシオ、これからはリンと手を組むと」

うしお「あぁ、学校の結界をなんとかしねえとな」

セイバー「それは分かりました。ですがライダーと戦ったときに私を呼ばなかったことには納得出来ません」

うしお「呼ぶって……。あっ、令呪か!! 忘れてた!!」

セイバー「わ、忘れて……」

凛「蒼月君に何を言ってもダメよ、セイバー」

凛「あの時はライダーを追いかけることしか考えてなかったみたいだから」

セイバー「それでは困るのですリン!! リンからも何か言ってやって下さい」

うしお「わ、分かったよセイバー!! 次は絶対呼ぶからさっ」

セイバー「そうして下さい、ウシオ」

凛「さてと、それじゃ話が一段落したところで。私の部屋、決めさせてもらおうかしら」

うしお「えっ……?」


79: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 21:44:56.60 ID:TTWE+3d30


凛「うん。まぁ、これなら何とかいけそうね」

うしお「本当にウチに泊まるのかい!?」

凛「勿論よ。休戦協定を結んだんだから、お互いを守るのは当然でしょ?」

うしお「だ、だからって……」

凛「それとも蒼月君は、他のマスターに寝込みを襲われてもいいって言うの?」

うしお「そりゃ家に遠坂先輩がいてくれたら心強いけどさ……」

凛「なら問題ないじゃない。私もとらとセイバーに守ってもらえるなら安心だしね」

うしお「い、いいのかなァ……」

セイバー「部屋に関しては私からも要望があります。私はウシオと同じ部屋で寝るべきだと思う」

うしお「な、なに言ってんだよセイバー!?」

凛「夕食の当番は交代性にしましょ。今日は挨拶代わりに私が作ってあげる」

うしお「えっ!? オ、オレは『ジェットサンダーラーメン』しか……」

凛「……分かった。全部私が作ってあげる」

セイバー「話を切らないでもらいたい。私の部屋の問題に結論が出ていない」


ピンポーン


80: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 21:55:37.43 ID:TTWE+3d30


・蒼月家玄関


凛「いらっしゃい」

桜「遠坂、先輩……? なんで……」

凛「私、ここに下宿することになったの」

桜「え……」

うしお「桜姉ちゃん!! こ、これは、その、つまり……」

凛「これは私と『うしお』君が決めた事よ。もう決定事項なの、間桐さん」

桜「決定事項……」

凛「ここには来ない方があなたの為よ」

桜「……私には、遠坂先輩の仰る事が分からないです」

凛「そう、なら分かるように説明してあげるわ」

うしお(……な、なんだか変なことになってきたなァ……)


81: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 22:02:10.30 ID:TTWE+3d30


麻子「うしおーっ。また母さんが色々作ってくれたわよーって、遠坂先輩?」

真由子「うしお君。私のおかーさんからも……あ、桜先輩」

セイバー「ウシオ、リン。騒がしいようですが何かあったのですか」

キリオ「外国の、女の人……」

麻子「ちょっとうしお、これどうなってるのよ?」

うしお「それは、今日から二人が下宿することに、なったから、かな……」

麻子「な、なによそれーーっ!!」


82: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 22:16:56.49 ID:TTWE+3d30


・蒼月家居間


麻子「ちゃんと説明しなさいよ!! うしおーーっ!!」

うしお「イテテテ!!」

真由子「あ、麻子~~!!」

桜「中村さん、落ち着いて……」

うしお「わ、分かったよ!! 全部話せばいいんだろーーっ!?」

凛「ちょ、ちょっと、うしお君!?」

うしお「遠坂先輩、こいつらも学校の生徒なんだ。結界と無関係じゃない」

凛「そうだとしても聖杯戦争は他人に知られてはいけないのよ。話すことは出来ないわ」

うしお「こいつらに隠し事したくねえんだ。頼むよ」

凛(……あーっ。もう……)

凛「……この子たち以外は他言無用。いいわね?」

うしお「サンキュー遠坂先輩!!」


83: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 22:22:15.58 ID:TTWE+3d30


キリオ「……それじゃ僕が戦ったのはランサーって奴だったんだね」

うしお「あぁ、赤い槍の男はランサーだったよ」

麻子「本っ当っ、あんたは……!!」

うしお「だ、だってよォ」

真由子「あの、遠坂先輩……」

真由子「遠坂先輩の、その『サーヴァント』は今この部屋にいるんですか?」

凛「え? あぁ、とらなら家の周りを見てもらってるわ」


凛(……とら、戻って来てくれる)

とら(ああ? 周辺を警戒しとくんじゃなかったのかよ)

凛(それはいいから、早く。霊体化もしなくていいわ)


とら「おい。何がどうなってやがる」

真由子「……………………」


84: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 22:28:20.17 ID:TTWE+3d30


凛「井上さん、これで私たちの話を信じてくれるかしら……え?」

真由子「とら……ちゃん……」

とら「な、なんだァ!? この女、泣いてやがんのか」

麻子「真由子!!」

真由子「あ、麻子ぉ……とらちゃんだよ。とらちゃんが帰って来てくれたんだよ」

麻子「うん、うん。そうだね、真由子」


とら「ますたー!! わしはもういいだろ!!」

凛「あ、とら!!」

とら(……なんだ、急に、頭に、何か……くそォ、思い出せん……)


85: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 22:39:12.02 ID:TTWE+3d30


凛「……井上さん、今の話は本当?」

真由子「はい。最近学校で落書きを見つけたんですけど、私以外には見えてないみたいで……」

うしお「それって、もしかして……」

凛「その場所を明日の放課後教えてもらえるかしら」

真由子「あっ、はい。遠坂先輩」

桜「…………」

うしお「桜姉ちゃん。大丈夫かい? ずっと黙ったままだけどよ」

桜「えっ、あ、大丈夫ですよ。ちょっと色々、驚いてしまって……」

うしお「そりゃそうだよな。オレもいきなり魔術師なんて言われて驚いたさ」

うしお「桜姉ちゃんもオレたちと同じで、魔術師も聖杯戦争も知るワケないもんなァ」

桜「は、はい、そうですね……」

凛(……桜……)


86: ◆I4R7vnLM4w 2016/07/27(水) 22:47:35.72 ID:TTWE+3d30


・蒼月家玄関


うしお「桜姉ちゃん、真由子、キリオ。また明日なーーっ!!」


麻子「あなたが、セイバーさん?」

セイバー「はい。セイバーはクラス名で真名ではありませんが、そう呼んでいただきたい」

麻子「あの、あいつはバカで考えなしで落ち着きなくって、ケンカっ早いから……」

麻子「セイバーさん、守ってあげてもらえますか」

セイバー「……はい。騎士の誓いにかけて」


麻子「うしおーーっ!! 遠坂先輩とセイバーさんに何かするんじゃないわよーーっ!!」

うしお「な、なにもしねえよーーっ!!」


セイバー「彼女も、いい人柄をしている」


89: ◆I4R7vnLM4w 2016/08/21(日) 13:55:58.14 ID:pQ7PWiHv0


【第八話 不協の旋律 】


90: ◆I4R7vnLM4w 2016/08/21(日) 14:02:27.06 ID:pQ7PWiHv0


・放課後


真由子「うしお君、遠坂先輩を呼んできて」

うしお「よーし、遠坂先パーイ!! 次はこっちだーーっ!!」

凛「ちょ、ちょっと待ってよ。こっちの呪刻もまだ壊してないんだから」


凛「ふぅ……」

凛「それにしても井上さんがこんなに行動的だとは思わなかったわ」

とら『さぁな。「泥なんて何だい」ってヤツだろ』

凛「何、それ?」

とら『けっ、知らねえよ。あの女を見てたらそんな言葉が……』

凛「とら……?」

とら(わしは、何かを忘れとるのか……)


91: ◆I4R7vnLM4w 2016/08/21(日) 14:13:59.72 ID:pQ7PWiHv0


とら「おい、女」

真由子「とらちゃん、私の名前は『まゆこ』だよ?」

とら「名前なんかどうだっていいんだよ」

真由子「ふふ、前にもこんなことあったね」

とら「それよりわしはおめえがなんなのか知りたいのよ」

真由子「私?」

とら「おめえはわしのことをよく知っとるようだ」

真由子(……本当に、覚えてないんだね。『誓って』くれたことも……)

真由子(ううん。こうして戻って来てくれただけで、私は……)

とら「おい、どうした」


真由子「……私はね……」


真由子「とらちゃんの『でざぁと』なの」


92: ◆I4R7vnLM4w 2016/08/21(日) 14:18:15.42 ID:pQ7PWiHv0


とら「で、でざ……?」


凛「井上さーん! とらー!」


真由子「遠坂先輩たちが呼んでる。行かなきゃ」


真由子「思い出してね、とらちゃん」

真由子「また食べないうちにどっか行っちゃ、やだよ」


とら「ワケが分からん……」

とら「ちょーしのくるう女だ……」


93: ◆I4R7vnLM4w 2016/08/21(日) 14:26:03.72 ID:pQ7PWiHv0


・蒼月家居間


凛「まぁ、あれだけやれば十分でしょ」

凛「相手は結界の呪刻を一日で破壊されるとは思っていないはずだから、きっと何かアクションを起こすわ」

セイバー「その時が、結界を張るサーヴァントを倒す機会ということですか」

凛「そうなるわね」

うしお「あぁ、絶対に結界をやめさせるんだ……!!」


94: ◆I4R7vnLM4w 2016/08/21(日) 14:39:55.06 ID:pQ7PWiHv0


うしお「そういえば遠坂先輩、隣町の柳洞寺に外国の人が来てるらしいよ」

凛「柳洞寺に外国の?」

うしお「あぁ、麻子が青鳥軒に来たお客さんに聞いたって言ってた」

凛「怪しいわね。でもマスターならあんな目立つ場所を陣取るなんてありえないわよ」

セイバー「いえ、リン、それには異論があります」

セイバー「あの寺院は堕ちた霊脈、魂を集めるには絶好の拠点なのです」

凛「えっ……!?」

うしお「そうなのか!?」

セイバー「はい、今夜にでも調べに行きましょう」

うしお「ま、待ってくれよセイバー。まだその人がマスターって決まったワケじゃねえだろ?」

凛「そうね。それにもし本当に敵のホームなら、どんなサーヴァントがいるか分かるまで待つべきよ」

セイバー「ウシオ……リン……。分かりました……」


95: ◆I4R7vnLM4w 2016/08/21(日) 14:53:30.51 ID:pQ7PWiHv0


・蒼月家蔵前


セイバー「…………」

とら「…………」

セイバー「獣のサーヴァント、私を止めるつもりか?」

とら「タコが、止めねえよ」

とら「一人で行く気か?」

セイバー「…………。私は一人で戦い、勝利し、帰ってくる」

セイバー「ずっとそうしてきた。今までも、そして、これからもです」

とら(一人で、か……)

セイバー「では、私は行きます」

とら「けっ……!!」

セイバー「な、何故です!? 貴方がついて来る理由はない!!」

とら「うるせえっ!!」

とら「わしはおめえが負けるところを見て笑いてえだけよ!!」

セイバー「……もし邪魔になるようなら、貴方から斬り捨てます」

とら「やってみなァ!! そん時ゃ返り討ちよォ!!」


101: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 12:57:26.85 ID:3P7lEYwb0


【第九話 雷下流麗 】


102: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 12:59:37.71 ID:3P7lEYwb0


・柳洞寺山門


セイバー「柳洞寺、ここだな。ん……?」

??「………………」

とら「におうぜ。人間じゃねえな」

セイバー「……お前は?」

??「アサシンのサーヴァント『佐々木小次郎』」

セイバー「ッ……!? ……これは、参りました……」

セイバー「名乗られたからには、こちらも名乗り返すのが騎士の礼です」

アサシン「そうか、名乗れば名乗り返さねばならぬ相手であったか」

アサシン「それは失礼をした。詫びよう、セイバー」

セイバー「何を……」

アサシン「真名など知らずともよい。我らにとって敵を知るにはこの刀だけで十分」

とら「へっ、面白えヤツだな」

アサシン「元よりサーヴァントとはそういうものであろう。違うか、『長飛丸』」


104: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 13:27:18.68 ID:3P7lEYwb0


セイバー「ナガトビマル……?」

とら「……おめえ、わしを知っとるのかよ」

アサシン「見たことはない。しかし昔話を聞いたことがある」

アサシン「一つの山を拠点とし、近隣の村を全て食い尽くした物の怪がいると」

とら「…………」

アサシン「物の怪は仲間を率いて大変な暴れようだったとか……」

セイバー「そのモノノケが、ナガトビマル……?」

とら「さァな」

セイバー(……そうか、リンの話では記憶が……)

アサシン「私はその山に行ってみたが、そこには一面焼け野原の跡しかなかった」

アサシン「その凄惨な光景を見た私は、いつしか思うようになったのだ……」

アサシン「いつか『物の怪』を斬ってみたい、と」


105: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 13:33:38.67 ID:3P7lEYwb0


アサシン「長飛丸、そなたこそ相応しい相手よ」


『わしを長飛丸と呼ぶんじゃねえ』


とら「……今のわしを、長飛丸と呼ぶな」

セイバー「ん……?」


とら「わしは、『とら』だ!!」


セイバー「トラ……」


アサシン「とら、虎、寅……。そうか、確かにそなたを呼ぶには単純だが明確だな」

アサシン「名付けた者は、風情が分かる者と見た」

とら「馬鹿言うんじゃねえよ、アイツがそんなもん分かるワケ……」

とら(……アイツって誰だ……。クソ……)


106: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 13:37:03.02 ID:3P7lEYwb0


アサシン「少し話し過ぎたか、そのせいで立ち合いの時間がなくなっては愚の骨頂」

アサシン「さぁ、どちらが相手かな。二対一でも構わんが、そのような無粋な相手ではないと見える」

とら「勘違いすんじゃねえ。今日のわしは高みの見物よ」

アサシン「そうか。ならばセイバーを倒し、高みから引き摺り下ろすまで」

セイバー「そう簡単にいくと思うな。アサシン……!!」

アサシン「では、果たし合おうぞ。セイバー」


107: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 13:43:08.77 ID:3P7lEYwb0


アサシン「秘剣、燕返し……!!」

セイバー「……!?」

とら「今の鋭さ、鎌鼬より速えかよ。こいつァただのサムライじゃねえな」

アサシン「ほう。我が秘剣をかわしたか、セイバー」

セイバー「多重次元屈折現象……」


アサシン「フッ……。このような俗世に呼び出された我が身を呪ったが、それも今宵まで」

アサシン「生前では叶わなかった『立ち合い』と『物の怪斬り』が出来るのならば……」

アサシン「呼び出せれた甲斐があるというもの……」


とら「へぇ、わしを、どうするってえ?」

アサシン「燕は斬ったことがあるが、生憎、物の怪はないのでな」

アサシン「長飛丸よ。佐々木小次郎の伝説に物の怪退治を書き加えるのも一興だと思わぬか?」

とら「やってみなァ。おめえの最期は妖に食い殺されたってなるがよォ」


108: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 13:46:09.40 ID:3P7lEYwb0


セイバー「待てアサシン。私との立ち合いは終わっていない」

セイバー「それに、今日は高みから見物ではなかったのか?」

とら「けっ、あぁそうだったよ。わしは見物よォ」

アサシン「……ようやくその気になったか、セイバー」

セイバー「あぁ、確かに手加減など許される相手ではなかったようだ」

アサシン「その視えない剣の奥にあるモノ、見せてもらうぞ」


セイバー「我が一撃、受けきれるか。アサシンのサーヴァント!!」

アサシン「この風は……。さながら台風といったところか……!!」


とら「……待ちな。おい、見物客はわしだけで十分よ」

??「……っ」


109: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 13:52:13.57 ID:3P7lEYwb0


アサシン「そこまでにしておけセイバー。その剣、盗み見ようとする輩がいるようだ」

セイバー「……なるほど。ランサーにライダー、それに使い魔か……」

アサシン「最良のサーヴァントと、規格外の物の怪のサーヴァントの組み合わせ……」

アサシン「宝具の一つでも知りたいのは、どの陣営も同じということか」

とら「ちまちま敵の情報なんか集めて、なァにが聖杯戦争よォ」

アサシン「……女狐も珍しく注視している、このような無粋な場での立ち合いは望まんな」

セイバー「決着をつけないつもりか、アサシン!!」

アサシン「生憎と私の役目はここの門番でな。この山門を越えるというのなら決着をつけよう」

とら「けけっ、そうかよ」

アサシン「ほう。高見から降りてきてくれるか」

とら「わしは名前や宝具を隠さないといけない連中と違って、誰に見られていようと関係ねえのよ」

アサシン「フフ、あっぱれなり……」

アサシン「……参る!!」

とら「おおおお!!!!」


110: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 13:57:25.57 ID:3P7lEYwb0


とら「サムライ、やるじゃねえか……!!」

とら(……こいつァ、わしが今まで戦ったどのサムライより強えぇ……!!)

アサシン「……凄まじい。かような物の怪と手合わせ叶おうとは」

アサシン「フフ、時の果てまで迷い込んできた甲斐もあったというもの」

アサシン「しかし惜しいな。時間切れのようだ」

とら「ああ……?」

セイバー「ぐ……っ……」

とら「おい、剣使い……?」

セイバー「引いてもらおうか……。アサシン、私と決着を……」

アサシン「言ったはずだぞセイバー。そなたとは潔い決着を望んでいると」

セイバー「アサシン……」

アサシン「それに、ここで長飛丸の邪魔が入ったのはそなたにとって僥倖ではないか」

セイバー「くっ……」


111: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 14:09:46.66 ID:3P7lEYwb0


とら「サムライ、わしから逃げれるとでも思っとるのかよ?」

アサシン「逃げるつもりはない。だが、そなたはこの山門を越えぬだろうからな」

とら「なにィ……?」

セイバー「……っ……」

とら「おい、剣使い!! なに倒れてやがる!!」

アサシン「セイバーを放って立ち合えば、盗み見の輩がセイバーを襲うだろう」

とら「チッ……」

アサシン「確かにそれでこそ噂に違わぬ物の怪よ」

アサシン「しかしそのような物の怪は『英霊』にはなれぬのではないか」

アサシン「違うか、長飛丸よ」

とら「……そういうとこ、ずっりィよな」

アサシン「フッ……」

とら「それとサムライ。わしを長飛丸と呼ぶんじゃねえ」

アサシン「次の立ち合いを楽しみにしているぞ。長飛丸」

とら「けっ……」


112: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 14:26:27.18 ID:3P7lEYwb0


セイバー「はぁ……はぁ……」

とら「おい、剣使い」

セイバー「私のことはいい……。アサシンを追いたければ追え、ナガトビマル……」

セイバー「いや、違うか、今の貴方は……」

セイバー「ト……ラ……」

とら「おめえ……」

セイバー「…………」

とら「だからキレエなんだよ。魔力がなきゃ風も操れねえ人間はよ」


113: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 15:15:40.59 ID:3P7lEYwb0


・蒼月家玄関


とら「……ますたー。こいつァどうなってやがる」

凛「多分だけど、宝具をキャンセルしたことによる負荷が身体に影響してるわね」

うしお「セイバー!! セイバー!!」

セイバー「……ウ、シオ?」

凛「気が付いたみたいね」


114: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/04(火) 15:21:55.41 ID:3P7lEYwb0


・蒼月家居間


セイバー「……柳洞寺におもむき、アサシンのサーヴァントと戦いました」

セイバー「トラではない他のサーヴァントの存在に多数気付き、戦いを中断しましたが」

凛「あれ? セイバーってとらのこと、とらって呼んでたっけ?」

セイバー「そ、それは、別に……」

凛「まぁとにかく、柳洞寺にアサシンか」

うしお「……そんな事よりセイバー、何で一人で戦いに行っちまったんだよ」

セイバー「ウシオ、私は……」

うしお「一人で、一人で戦うなんてよォ……そんなのいけねえよ」

凛「待って蒼月君。きっとセイバーにも考えがあったと思うし今夜はもう遅いわ。休みましょう」

うしお「あ、あぁ……」

セイバー「ウシオ……」


117: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/08(土) 15:11:52.50 ID:Sg0QvuCa0


【第十話 穏やかな幕間、ブランコのある公園 】


118: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/08(土) 15:14:21.30 ID:Sg0QvuCa0


・穂群原学園屋上


(……ウシオ、私は……)


うしお「…………」

凛「こんな所にいたの」

うしお「遠坂先輩……」

凛「セイバーのことを考えてたんでしょ」

うしお「あぁ……。なんでセイバーは……」

凛「サーヴァントにも叶えたい望みがあるのよ」

凛「聖杯を欲するから召喚に応じる、それがサーヴァントなの」

うしお「叶えたい、望み、か……」

凛「あ、そうだ。蒼月君、今日の帰りに買い物頼めるかしら?」

うしお「えっ、あぁ、もちろん行くよ」

凛「それで、買ってきてもらいたい物はね」


うしお(叶えたい望み……。セイバー、それに、とらにも?)


119: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/08(土) 15:22:09.70 ID:Sg0QvuCa0


・商店街


うしお「よーし、これであらかた買ったかな」

うしお「この材料だと今日はマーボー豆腐か。遠坂先輩のマーボー豆腐楽しみだなァ」

クイックイッ

うしお「ん?」

イリヤ「ごきげんよう。生きてたんだね、お兄ちゃん」

うしお「うわーーっ!? って、あぁ、なんだあの時の女の子か」

イリヤ「私、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

イリヤ「長いからイリヤでいいよ。お兄ちゃんはなんて名前?」

うしお「オレのことかい? オレは蒼月潮ってんだ」

イリヤ「アオツ、キウシオ?」

うしお「言い難いなら『うしお』でいいさ。みんなそう呼んでるしよ」

イリヤ「……ウ、シオ? ウシオ……ウシオ!!」

イリヤ「ねぇ、お話したいこといっぱいあったんだから、行こう!!」

うしお「っと、イ、イリヤ、あんまり引っ張んなーーっ」


120: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/08(土) 15:28:35.75 ID:Sg0QvuCa0


・ブランコのある公園


うしお「へえ、あの国道の向こうにそんな大きな洋館があるのかァ。そこから一人で来たのかい?」

イリヤ「うん、こっそり抜け出して来たの。セラもリズもメイドのくせにうるさいんだもん」

イリヤ「寒いと身体に悪いとか言って、いっつも部屋に閉じ込められてたんだから。今日はご褒美なの」

うしお「…………」

うしお「……あっ、そうだっ!! これがあったあった」

イリヤ「なに、それ?」

うしお「クリームパン(イギリス人もビックリ)うめーんだぜー!!」

イリヤ「えっと、くれるの……?」

うしお「あぁ」

モグモグ

イリヤ「おいしい……」

うしお「へへっ、そうだろ?」

うしお「それにしてもイリヤの髪は白くてキレーだなァ。昔の小夜さんみたいだ」

イリヤ「この髪はね、母さま譲りでイリヤの自慢なんだから」

イリヤ「それに雪みたいで綺麗だって、父さまとシグレさまが言ってくれたの」

うしお「えっ、今、なんて」


121: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/08(土) 15:34:40.77 ID:Sg0QvuCa0


キリオ「あれ、うしお兄ちゃん?」

うしお「おっ!? キリオ、今帰りか?」

イリヤ「…………」

キリオ(っ!? 今、法力とは違う力が……)

キリオ(気のせい、かな……?)

イリヤ「……私帰る。バーサーカー起きちゃった」

うしお「あっ」

タッタッタッ

イリヤ「…………」

キリオ「……な、なに?」

イリヤ「貴方、私と『同じ』ね」

キリオ「!?」


うしお「し、ししし、しまったーーっ!!」

うしお「なんでマスターをやってるのか聞きそびれちまったーーっ!!」


122: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/08(土) 15:43:51.07 ID:Sg0QvuCa0


・蒼月家居間


うしお「ただいまーっと……ん?」


真由子「とらちゃんこれ全部食べていいんだよーーっ!!」

とら「記憶はねえがこれは分かるぞ。こいつァ『はんばっか』てえんだ」

ぱく、もぐもぐ、もぐもぐ

セイバー「む。トラ、何を食べているのですか」

とら「なんだァ? 剣使い。おめえ、はんばっかも知らねえのか。ほらよ」

セイバー「これは、なかなか、いけますね」

凛「セイバー!! 私が夕食作ってるんだからそんなもの食べちゃダメでしょーー!!」

セイバー「リン。このハンバッカをそんなものとは……」

セイバー「今の言葉、騎士の誓いにかけても訂正してもらいます」

麻子「その為に誓いを使うの!?」

凛「ダメよ、ハンバーガーなんて……ハンバーガーなんて……。ぜ、贅肉……」

凛「贅肉が付いちゃうでしょうがーーっ!!」

桜「と、遠坂先輩!! お、おお、落ち着いて下さい!!」


うしお「な、なんだかウチも随分騒がしくなってきたなァ」


123: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/08(土) 16:54:04.67 ID:Sg0QvuCa0


凛「今日はちょっとした収穫があったわ」

うしお「何かあったのかい?」

凛「桜の兄のことは知ってるわよね? ソイツがマスターで私に組まないかって言ってきたわ」

うしお「えぇっ!?」

凛「当然断ったわ。蒼月君は知らないかもしれないけど信頼出来るヤツじゃないもの」

うしお「……結界のことは?」

凛「知らないって言ってたわ。まぁ、本当かどうかは分からないけどね」

うしお「そう、か……」

うしお「桜姉ちゃんの兄貴が、マスター……」

とら「なぁんでそいつをブッ飛ばさねえのよ?」

凛「前にも言ったでしょ、とら。まずは結界をどうにかする、その為の蒼月君との休戦協定だもの」

うしお「あぁ、その通りさ!!」

とら「けっ、そうかよ」


124: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/08(土) 16:59:13.39 ID:Sg0QvuCa0


・蒼月家風呂場


ガチャッ

セイバー「…………」

うしお「…………」

セイバー「すみません、ウシオの入浴したい意思に気付かなかった私の落ち度です」

うしお「うわああああああああああ!!!!」

ダッダッダッ

セイバー「ウ、ウシオ!?」


うしお「また小夜さんのときみたいに覗き男になっちまったぁぁぁぁ!!」


125: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/08(土) 17:01:48.26 ID:Sg0QvuCa0


・蒼月家蔵前


うしお「はぁ、セイバーになんて謝れば……ん?」


うしお「開いてる……。蔵に誰かいるのか……?」


126: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/08(土) 17:07:07.72 ID:Sg0QvuCa0


・蔵地下室


とら「人間か……?」

うしお「……!?」

とら「剣使いの主か」

うしお「う、うわああああ!! なんだなんだ、お前なんだ!?」

とら「あぁ? なにをそんなに驚いてやがる」

うしお「あ……い、いや……。なんでもねえよ……」


うしお「と……。一つ聞きたいことがあるんだ、遠坂先輩のサーヴァントに」

とら「ああ? なんだよ?」

うしお「お前も『叶えたい望み』があるから召喚されたんだよな?」

とら「そんなことかよ」

とら「わしは記憶がないから知らんぞ。だがまぁ、召喚されたってことはそうかもなァ」


とら「わしは行くぞ。えらく気になって来てみたが何にもねえ場所だ」


うしお「とら……」


130: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:01:51.66 ID:fjnpCuIM0


【第十一話 極限結界溜と鮮血神殿 】


131: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:04:06.77 ID:fjnpCuIM0


・蒼月家玄関


セイバー「……ウシオ」

うしお「ん? 何だいセイバー」

セイバー「気を付けて下さい。何か嫌な予感がします」

うしお「予感?」

凛「大丈夫よセイバー。休戦中は私ととらが守ってあげるんだから」

セイバー「はい、リンを信じています」

うしお「何かあったら、この令呪を使ってセイバーを呼べばいいんだよな」

セイバー「そうです。令呪の力を使えば私はマスターの場所へ行ける」

うしお「あぁ分かった。その時は頼むぜセイバー」

セイバー「はい、ウシオ」


132: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:09:00.62 ID:fjnpCuIM0


・穂群原学園教室


厚池「うしおーー!! 放課後部活ねえならまたゲーセン寄ってかねえ?」

うしお「厚池、まーたオレをカモにする気だなーーっ!?」

横尾「うしおはホントにヘタだからなぁ……ぁ……うっ……」

うしお「横尾? どうしたんだよ?」

厚池「あ……ぁ……」ドサッ

うしお「厚池!? 横尾!!」

バタッ、バタッ

うしお「クラスのみんなが……」

大河「あ、蒼月君……」

うしお「藤村先生、これはいったい!?」

大河「分からないわ……。急にみんなが倒れだして、私も……もう……」

うしお「藤村先生!? 藤村先生!!」

大河「…………」

うしお「ど、どうなってんだ……!?」


133: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:13:49.47 ID:fjnpCuIM0


凛「蒼月君!!」

うしお「遠坂先輩!! これは!?」

凛「結界が発動したのよ」

うしお「これが、結界……!!」

凛「まったく、あれだけ呪刻を壊したのに強制発動出来るとはね」

凛「本当サーヴァントに常識は通じないわ……!!」


134: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:20:50.56 ID:fjnpCuIM0


・廊下


凛「とにかく結界の基点を探さなきゃ。蒼月君行くわよ!!」

うしお「あぁ!!」


慎二「よぉ遠坂、それに蒼月」

うしお「間桐先輩!?」

慎二「クク、思ったより元気そうで何よりだ」

うしお「先輩も無事なら良かった。今学校は大変なことになってるんだ。早く救急車を……」

慎二「クク、ハハハ、アッハハハ!!」

うしお「間桐、先輩……?」

凛「……そう。この結界はアンタの仕業なのね」

慎二「そうだとも遠坂。ハハハハ!!」

うしお「なんだよそれ……」

慎二「タイミングには苦労したんだぜ? 僕としちゃお前たちの顔面蒼白を見たかったからさ」

うしお「間桐先輩……結界を……結界を止めろよーーっ!!」

慎二「なに僕に命令してるわけ? 止めて欲しかったら土下座ぐらいしろよ蒼月」

凛「これが最後の忠告。結界を止めなさい」

慎二「分からないかなぁ? そんなに気に食わないなら力尽くでやってみろよ遠坂」

凛「とら」

とら「けっ、こんなガキの相手かよ」


135: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:24:44.96 ID:fjnpCuIM0


慎二「でもさぁ遠坂。二対一ってのは卑怯なんじゃないの?」

慎二「ライダー」

ライダー「はい」
麻子「…………」

うしお「あ、麻子っ!!」

凛「アンタねぇ……」

慎二「ハハ、人質なんて使いたくなかったんだけどさ。でもこれでフェアだろう?」

慎二「ライダー、とっととその厄介な妖怪のサーヴァントを殺しちまえよ」

ライダー「はい」

とら「わしが人間の人質で言うことを聞くとでも思っとんのかよ。ああ?」

慎二「ひっ……」


136: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:32:18.29 ID:fjnpCuIM0


真由子「と、とらちゃん。ダ、ダメだよ……」

とら「おめえ、この結界の中で動けるのか」

凛「井上さん!!」

うしお「真由子!? 大丈夫なのか!?」

真由子「うしお君……。ごめん、私、麻子を守れなかった……」

うしお「麻子はオレが助ける。だから真由子は無理すんな」

真由子「うん。でも、私も、頑張るね……!!」

凛「井上さん、なにを……」

とら「こいつァ、結界か……?」

ライダー「こ、これは……」

うしお「お役目さまの……いや、真由子の力さ!!」


真由子「っっ……!!!!」


ライダー「まさか……『鮮血神殿』が、別の結界に押し返されている……!?」


137: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:37:35.14 ID:fjnpCuIM0


真由子「はぁ、はぁ……」

とら「おい女。もう止めな、ぶっ倒れそうじゃねえかよ」

真由子「とらちゃん。『泥なんて何だい』だよ」

とら「けっ、それがなんだってんだ……」

凛「常識が通じないのは、蒼月君の周りも一緒ね……」

凛「でも、結界が止まってる。これなら……!!」

真由子「遠坂先輩、結界の基点は学園の上空にあります。それを壊して下さい……!!」

ライダー「無駄ですよ。現代の魔術師に私の『鮮血神殿』は壊せない」

凛「確かに私の魔術じゃ壊せない。でも……」

とら「早く乗りな。ますたー」

ライダー「くっ、行かせない……!!」


慎二「なに勝手に話を進めちゃってるわけ? こっちには人質が、ぐふっ」

麻子「あんまり麻子さんをおナメじゃないよ」


138: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:41:05.70 ID:fjnpCuIM0


うしお「麻子!!」

麻子「うしおっ!!」

うしお「麻子、お前空手やめたんじゃなかったのかよっ」

麻子「とーさんにたまに付き合わないと悲しい顔するのよね」

うしお「ハハ、おじさんらしいや」


慎二「がはっ、はぁ、はぁ」

ライダー「マスター!!」


凛「蒼月君、ここは任せたわよ。私はとらと一緒に結界を壊すわ」

うしお「分かった。よーし……。セイバァァァァ!!」


セイバー「マスター、指示を」

うしお「ライダーを頼む!! オレは間桐先輩を!!」


139: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:44:19.25 ID:fjnpCuIM0


セイバー「はぁぁぁぁ!!」

ライダー「くっ……。流石ですね、セイバー」

セイバー「ライダー、貴方はここで倒れろ」


うしお「待てぇぇーーっ!!」

慎二「く、来るなぁっ、来るなっぁぁ」


ドーン!!

麻子「な、なに、今の音……」

真由子「はぁ、はぁ……。とらちゃん……」


ライダー「鮮血神殿が壊されましたか。ならば……」

セイバー「ウシオ!! 気を付けて!!」

うしお「うわっ!?」

慎二「ライダー!!」

ライダー「マスター。この場から離脱します」


140: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:49:09.13 ID:fjnpCuIM0


セイバー「ウシオ。アサコとマユコも私の後ろへ」

麻子「セ、セイバーさん?」

真由子「はぁ、はぁ……。は、はい……」

セイバー「ライダーは結界の維持に使っていた魔力を開放するつもりです」

うしお「魔力を、開放……?」


慎二「な、なに考えてんだお前、蒼月のサーヴァントにすら勝てないくせに!!」

ライダー「確かに私はセイバーには及びません。ですがご安心を」

ライダー「我が『宝具』は他のサーヴァントを凌駕しています」

慎二「な、なにィ……?」

ライダー「たとえ相手が何者であろうと、我が『疾走』を妨げる事は出来ない」


セイバー「三人とも私から離れないで下さい!! ライダーは宝具を使うつもりです!!」

うしお「これが……サーヴァントの、宝具……!!!!」


141: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 22:56:22.81 ID:fjnpCuIM0


セイバー「言葉通り、離脱する為だけに宝具を使ったようですね」

麻子「も、もう大丈夫なのよね……。うぅ……」ドサッ

真由子「あ、麻子……。うしお君、私も……」

うしお「麻子!! 真由子!!」

セイバー「ウシオ、大丈夫です。二人とも気を失っているだけです」

うしお「な、なんだァ……」


142: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/17(月) 23:04:02.39 ID:fjnpCuIM0


凛「……よっと。お疲れさま。ライダーには逃げられたみたいね」

とら「剣使いなぁにをやっとるのよ。馬乗りなんかを逃がすなよ」

セイバー「トラ、ライダーは宝具を使ったのです」

セイバー「……逃げられた言い訳にはなりませんが」

とら「けっ、その通りよ。だが、馬乗りの宝具か……」

うしお「遠坂先輩、結界は壊せたのかい?」

凛「ええ、とらが完全に破壊したわ」

うしお「そうかァ、それならよかった」

凛「井上さんのおかげよ」

凛「結界の基点が分からなかったら、今頃私たちも結界に力を奪われて倒れてたはずだもの」


とら「今回は確かに……」

真由子「…………」

とら「そこの女が、役に立ったかもな」

真由子(……とら、ちゃん……)


145: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 20:45:17.50 ID:NYL2IYmQ0


【第十二話 空を翔ぶ 】


146: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 20:54:44.08 ID:NYL2IYmQ0


・商店街


慎二(……クソ、クソ、全部、壊す、壊す、ぶっ壊しちまえ!!)

ドンッ

女子「あっ、ごめんなさい」

慎二「あぁ? なにこの女。もっと別の謝り方があるんじゃないの?」

グイッ

女子「い、いや、やめてください……」

礼子「ちょっとやめなさいよ。それに向こうから見てたけどアナタの方からぶつかったじゃない」

慎二「はぁ? なんだよお前。まさか僕が悪いとでも言うつもり?」

間崎「何かあったのか礼子」

慎二「ヒィッ!?」


通行人「お、おい。あの人は間崎さんじゃないか?」

通行人「暴走族『スピードイーター』をたった一人で潰したって言われてる……」

通行人「ひぇ~、おっかねぇー……」


慎二「ク、クソッ!! う、うあああああ!!」


間崎「なんだァ、アイツは」

礼子「さぁ……」


147: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 21:11:49.44 ID:NYL2IYmQ0


・蒼月家居間


うしお「遠坂先輩、学校のほうは?」

凛「そっちは綺礼がなんとかしてくれたわ。井上さんたちは?」

うしお「二人とも家で休んでる。真由子にはキリオが付いてくれてるよ」

凛「そう。井上さんのおかげで全員病院送りが自宅待機で済んだんだもの。感謝してもしきれないわね」


うしお「桜姉ちゃんの兄貴……。間桐先輩はまた何かやる気かな?」

凛「そうね。アイツの性格から言って、まず考えられるのは私たちへの復讐……」

セイバー「では、ライダーのマスターは再び結界を張ろうとすると?」

凛「間違いなくね。だから私たちが探すのはアイツ本人じゃなく」

うしお「……結界!! よーし、行こう!!」


150: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 21:27:10.25 ID:NYL2IYmQ0


・間桐邸


凛「さすがに家に居るわけないか」

とら「ちっ、馬乗りのニオイもしやがれねえな」

凛「二手に別れた蒼月君たちも気になるわ。もう行きましょ、とら」

とら「ますたーよ。ここはあの女の家なんだろ。会わなくていいのかよ」

凛「桜のこと? いいのよ、別に」

とら「わしには関係ねえからいいけどよ。ますたーとあの女は同じニオイがするのよ」

とら「おめえらは」

凛「それ以上はやめて。とら」

とら「……なら、もう行くぜ」


凛(……桜……)


151: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 21:33:54.99 ID:NYL2IYmQ0


・高層ビル前


うしお「セイバー。どうだい?」

セイバー「いえ、魔力は感じません」

うしお「ここも違うかァ」


うしお「ごめんよセイバー。オレが魔術師だったら手伝えるのによ……」

セイバー「ウシオ、それは気にしないで下さい」

セイバー「しかし、そうですね。少し休憩しましょう」

うしお「えっ……?」


152: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 21:41:39.20 ID:NYL2IYmQ0


・公園


うしお「この魚肉ソーセージうめえなァ」

セイバー「……ウシオ、私は貴方に謝らなければいけません」

うしお「えっ?」

セイバー「リンに、ウシオの旅を記録したモノを見せてもらいました」

うしお「オレの? あぁっ、守矢さんのビデオか!!」

セイバー「しかしリンは、その、機械というのが苦手なようで……」

セイバー「最終的にはアサコとマユコに手伝ってもらっていましたが……」

うしお「あ、あぁ、確か遠坂先輩はそうだったよな……」

うしお「しっかし、あれ恥ずかしいんだよなァ。でも、それがどうしたんだい?」

セイバー「それで、よかったらウシオから直接旅の事を聞かせてもらえませんか?」

うしお「セイバーが聞いても面白い話なんてあるかなァ」

セイバー「聞きたいのです!! お願いします、ウシオ!!」

うしお「わ、分かったよ。ど、どうしたんだセイバー」

セイバー「いえ、それは、別に……」


セイバー(……私は知りたい。なぜアナタが私を召喚出来たのか……)


153: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 21:50:49.71 ID:NYL2IYmQ0


うしお「それで、オレとアイツの旅は終わりさ」

セイバー(……そうして、ウシオとトラはこの国を救ったのですね)

セイバー(アナタたちと私は違う……)

セイバー(何故なら、私は国を救ってなどいないのだから……)

セイバー(しかしそれなら尚更、ウシオが私を召喚出来た理由がない……)

うしお「いけねーっ!! 話し込んでたら暗くなっちまった!!」

セイバー「すみませんウシオ。リンたちも気になります。行きましょう」


ドクンッ


うしお「っっ!? セイバー、今の感覚……!!」

セイバー「結界……。しかしこれは誘いですね……」

うしお「それでも、行くしかねえさっ!!」

セイバー「そうですね。ウシオ、魔力を辿ります。注意して下さい」

うしお「あぁ……!!」


154: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 22:00:07.88 ID:NYL2IYmQ0


・高層ビル前


セイバー「ウシオ!!」

うしお「うわっ!? またあの針か、ってことは……!!」

ライダー「フフ……」

うしお「ビ、ビルの壁に……!?」

ライダー「ついてこれますか、セイバー」

セイバー「追います。ウシオはここに居て下さい」

うしお「頼んだセイバー!!」


凛「蒼月君!! 今の、ライダーね。私たちもライダーを追ってたのよ」

うしお「遠坂先輩。あぁ、セイバーとビルの屋上へ飛んで行ったよ」

凛「とら。先に行ってセイバーのサポートを」

とら「なぁんでわしが剣使いの手伝いなんか……」


凛「いいから行けーーーー!!!!」
うしお「いいから行けーーーーっ!!!!」


とら「は、はいーーっ!!」


155: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 22:09:57.15 ID:NYL2IYmQ0


・高層ビル屋上


セイバー「神代のモノを持ち出すとは随分と業が深いようですね。ライダー!!」

ライダー「私は貴方たちの敵だった者に過ぎない」

ライダー「故に私が操るのは貴方たちが駆逐してきた可哀想な子たちだけよ」

セイバー「なるほど。歪んでいるとは思いましたが英霊ではなく悪鬼の類でしたか」

ライダー「言ってくれますね。私の宝具であの獣のサーヴァントを手懐ければ貴方なんて……」

セイバー「トラを……?」

セイバー「フッ……」

ライダー「セイバー。何が可笑しいのです」

セイバー「面白いことを言いますね。ライダー」

ライダー「なに……」

セイバー「あの『雷獣』を手懐け乗りこなすと?」

セイバー「それは貴方には無理だろう。『ライダー』?」

ライダー「っっ……!!」

ライダー「セイバー……!!」


156: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 22:26:37.29 ID:NYL2IYmQ0


とら「……なんじゃありゃ。馬乗りが羽の生えた白い馬に乗っとるかよ。初めて見たぜ」

ライダー「現れましたか、獣のサーヴァント」

とら「剣使い、なーにやっとる。馬乗りなんかに手こずっとんのかよ」

セイバー「トラ、ウシオたちは?」

とら「知るかよ。多分えらべったーとかいうやつで来るんだろ」

セイバー「なるほど、分かりました。出来れば二人が来る前に決着をつけたいところですが」


ライダー「到着した貴方たちのマスターには、消える二体のサーヴァントを見せてあげます」

ライダー「何故なら、貴方たちでは私の子に触れる事も出来ないのだから!!」


157: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 22:30:05.47 ID:NYL2IYmQ0


とら「へっ、馬乗りが粋がるか。よーし……」

とら「剣使いっ、乗れっ!!」

セイバー「トラ、何を……?」

とら「勝負しようじゃねえか、あの馬乗りの羽の生えた白い馬とよ」

セイバー「わ、私に、貴方に乗れと……?」

とら「乗らねーんならわしだけで行くわい」

セイバー「行きます!!」


セイバー「……ライダーにああ言った後に貴方に乗ることになるとは……」

とら「ああ? 何の話だよ?」

セイバー「いえ、こちらの話です。行きましょうトラ、私たちとライダーとの勝負です!!」

とら「へっ、振り落とされんなよ剣使いっ!!」


158: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 22:36:34.57 ID:NYL2IYmQ0


うしお「セイバー!!」

凛「とら!!」


慎二「ハッハハハ!! アッハハハ!!」

慎二「見たか蒼月、遠坂!! あれが僕とお前たちとの力の差だ!!」


凛「慎二……!!」


慎二「空の上ならライダーが有利なんだよォ!!」

慎二「即席でコンビを組んだサーヴァントどもが、僕のライダーと宝具に勝てるわけがない!!」


うしお「セイバー……とら……!!」


慎二「お前たちもサーヴァントもこれで終わりだな!!」

慎二「苦しまないように一瞬で殺してやるよ!! やれライダー、手足一本残すなよ!!」


159: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 22:47:01.47 ID:NYL2IYmQ0


・高層ビル上空


ライダー「速さ比べは同等ですか。やりますね、獣のサーヴァント」

とら「おめえもな、馬乗り。その乗りモンなかなか速えじゃねえか」


慎二「やれライダー、手足一本残すなよ!!」


ライダー「……どうやら余興はここまでのようね」

ライダー「私の真の宝具は強力で、使えばどうしても人目につく……」

ライダー「けれど、この雲の上なら覗き見される恐れはない」


セイバー「それが貴様の宝具か、ライダー!!」


ライダー「えぇ、この子は優し過ぎて戦いには向いていない」

ライダー「こんな物でも使わないと、その気になってくれないのよ」

ライダー「消えなさい!! セイバー!! 雷獣!!」


とら「馬乗りがつけあがりおって」

セイバー「…………」

セイバー「トラ、私の魔力は残り少ない。そこで貴方の力を貸して欲しい」

とら「何だァ? ……へっ、面白えじゃねえか。ドジるなよ剣使い!!」


160: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 22:54:15.59 ID:NYL2IYmQ0


セイバー「風よ……!!」

とら 「雷よ……!!」


とら「こいつの『剣』に落ちやがれええええ!!!!」


セイバー「こ、これが……!!」

セイバー(これがトラの雷……。凄い、これならば……!!)


セイバー「ライダー、この雲の上なら人目につかないと言ったな……」

セイバー「同感だ。ここならば地上を焼き払う憂いもない!!」


とら「黄金の剣、か」




ライダー「騎英の手綱(ベルレフォーン)!!!!」


セイバー「約束された勝利の雷剣(エクスカリバー)!!!!」




161: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 23:00:03.65 ID:NYL2IYmQ0


・間桐邸


桜「ライダー……」


162: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 23:08:22.11 ID:NYL2IYmQ0


・高層ビル屋上


凛「雨雲を、二つの金色が裂いていく……」


慎二「うひゃぁ!! 令呪が、令呪が燃えちまう!!」

凛「慎二……!!」

慎二「ひ、い、うぁ、あああああ!!」

うしお「間桐先輩が逃げる……!! 待てぇぇーー!!」


163: ◆I4R7vnLM4w 2016/10/24(月) 23:11:31.51 ID:NYL2IYmQ0


・高層ビル前


慎二「はぁ、はぁ、はぁ……」

慎二「!?」


??「…………」


慎二「な、なんだよお前!! 邪魔なんだよ!!」


??「『黄金の剣』に『黄金の獣』か」


慎二「ど、どけよぉ!!」グサッ

慎二「あ? あ……ぁ……」


??「『黄金』に相応しい英霊は我だけよ。フフ、ハァーハッハッハッ!!」


166: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 12:58:06.24 ID:7BTo5MIr0


【第十三話 冬の城へ 】


167: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 13:06:03.03 ID:7BTo5MIr0


・蒼月家、庭


とら「は? わしに乗りたい?」

真由子「とらちゃん、セイバーさんを乗せて飛んだって聞いたよ~!」

とら「それがなんだよ」

真由子「次は私だよ~~!!」

とら「なんでそうなるっ!?」

凛「いいじゃない、とら。井上さんには学校の結界でお世話になったんだし」

とら「おめえら、そもそも妖と人間ってのはな……」

凛「令呪に告げる、聖杯の規律に従い……」

とら「こっ、こら!! 馬鹿かっ!! んなことで令呪を使うんじゃねえ!!」

凛「ふふ、分かればよろしい」

とら「ちっくしょ~。もう好きなだけ乗りな」

真由子「やった~~!!」


168: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 13:12:03.27 ID:7BTo5MIr0


セイバー「ト、トラ……」

とら「ああ? なんだよ?」

セイバー「いや、その……」

とら「今わしはこの女の乗り物やるので忙しいのよ。何か用か?」

セイバー「その、実は私は、昔ライオンを飼っていてことがあって……」

とら「何の話だよ……」

セイバー「その、良かったら、また私も……」


凛「あら蒼月君。散歩にでも行くの?」

うしお「……遠坂先輩。あぁ、ちょっと出て来るよ」


セイバー「ウシオ、私も」

凛「いいわセイバー。今は一人にしてあげましょう」

セイバー「リン、ですが……」

凛「これは聖杯戦争なのよ。ああいう事だってあるわ」

セイバー「はい、そうですね」


169: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 13:22:01.13 ID:7BTo5MIr0


・ブランコのある公園


イリヤ「家に居ないと思ったらこんな所に。こんにちは、ウシオ」

うしお「イリヤ……」

イリヤ「浮かない顔してるけど、何かあったの?」

うしお「い、いや、何でもないさ。さーてと、そろそろ帰らないとなァ」

イリヤ「ライダーのマスターを倒したヤツの事を考えてたんでしょ」

うしお「あぁ、オレたちが救急車を呼んだりして命は助かったみたいだけどよ……」

うしお「ってイリヤ、なんでそれを!?」

イリヤ「フフ……」

うしお「……うっ、あぁ……」

イリヤ「あ、もう金縛りになったんだ。ウシオったら『護り』も何もないんだもの」

イリヤ「こんなに簡単に捕まっちゃうなんて、カワイイなぁ」

うしお「イ、リヤ……!!」

イリヤ「オヤスミナサイ……ウシオ……」

うしお「ッ……!!」


170: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 13:30:17.87 ID:7BTo5MIr0


うしお「やめろよ、こんなこと……!!」

イリヤ「へぇ、このぐらいの魔術なら精神のほうは耐えれるんだ」

うしお「カラダが動かねえ……。朏(みかづき)の陣をかけられたときみてえだ……」

イリヤ「無駄よ。魔術師じゃないウシオにそれは解除出来ないわ」

うしお「イリヤ、オレをどうする気だよ……?」

イリヤ「フフ、前にも言ったでしょ? 私のお城にウシオを招待するの」

うしお「城……。そうか、確か国道の向こうとか言ってたっけ……」


うしお(そこに行けば、イリヤにマスターをやらせてるヤツに会えるんじゃ……)


うしお「イリヤ、魔術を解いてくれ」

イリヤ「ウシオは面白いことを言うね。そう言われて解除するはずが」

うしお「イリヤの城へ行く」

イリヤ「えっ……」

うしお「いや頼むぜ、イリヤの城へ行かせてくれ」


171: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 13:39:27.40 ID:7BTo5MIr0


・蒼月家、居間


凛「……はぁ。蒼月君、帰りが遅いと思ったら……」

凛「キリオ君、その話は本当なのよね?」

キリオ「うん。銀色の髪の女の子と国道のほうへ歩いていったよ」

凛「ありがと。キリオ君が見かけたことを言いに来てくれなかったら大変なことになってたわ」

凛「セイバー、どう?」

セイバー「はい。まだ無事である事は感じ取れますがとても遠い。おそらく敵の手中に」

凛「そう……。蒼月君を一人にした私の責任ね……」

セイバー「いえ、ウシオに無理にでも付いていくべきでした。私の責任です」

とら「んなこたァどうでもいいのよ。あのクソうし、が馬鹿なだけよ」

凛「と、とら!? 今なんて言ったのよ!?」

とら「なんだァますたー? わしは剣使いの主が馬鹿と言ったのよ」

凛「そ、そう……」

凛(まさか記憶が……。いや、召喚を失敗してるのよ、そんなことは……)

セイバー「リン、トラ。同盟の盟約が続いているのなら、お願いがあります」


172: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 13:49:52.51 ID:7BTo5MIr0


・アインツベルン城、大広間


うしお「うへー、森の中にこんな城が本当にあるなんてよ……」

イリヤ「ようこそ、ウシオ。私のお城へ」


??「イリヤ、どいて」


うしお「なっ……!?」

ドゴォッ!!


イリヤ「……リズ、どういうこと?」

リズ「そいつ危ない、お断り」

イリヤ「はぁ……。まぁいいわ、ウシオを捕らえるつもりだったのは確かだしね」


うしお「お前がイリヤにマスターをやらせてるのか……!?」

リズ「……? 違うよ」

うしお「ち、違うのか、そうかよ……」

リズ「お前、多分強い。さっきのも避けた」

うしお「さすがにオレだってよ、こんなことになるかもって思ってたさ!!」

リズ「私に惚れるなよ、べいびー」


173: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 14:03:52.17 ID:7BTo5MIr0


うしお「はぁはぁ……」

リズ「避けるの、上手いね」

うしお「前と違って傷がすぐに治るワケじゃないからよ」

リズ「……?」

リズ「でも、それなら……。ちょっと本気、出す」

うしお(あの槍みたいなのをなんとかしないと近づくことも出来ねえか……)


リズ「ぐるぐる、飛んでけー」


うしお「うわっ!? 槍を投げてきた!?」

リズ「しまった。これも避けられた、大問題」

うしお「よーし、こっちもこれを使わせてもらうよ……!!」

うしお「オレだって『槍』の扱い方は自信あるんだぜ!!」

うしお「って、なんだこれぇ!? も、持ち上がらねえ、こんなのを振り回してたのか!?」


??「そこまでです」


174: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 14:21:35.63 ID:7BTo5MIr0


リズ「セラ……」

セラ「カヅチ」
華鎚「…………」

うしお「ぐああああああああああ!!!!」


セラ「お嬢さまのためとはいえ無理をしましたね」

リズ「ちょっと、疲れた。あんまり無理すると、中がいろいろ壊れちゃう」

うしお「…………」

セラ「この方が、あの方の息子……」


セラ「どうでしたか、試したのでしょう?」

リズ「うん。あの人と同じ、優しい」

セラ「そうですか。いえ、そうでしょうね」

リズ「今度一緒に、イノシシ狩りに行きたい」

セラ「それは……」


175: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 14:48:01.93 ID:7BTo5MIr0


・イリヤの部屋


うしお「……う……こ、ここは……?」

イリヤ「あ、やっと起きたんだ。声ぐらい出せるよね」

うしお「イリヤ!? ここはどこなんだ!?」

イリヤ「ここは私の部屋。誰も助けになんて来れないし邪魔は入らないわ」

うしお「何を、する気だよ……」

イリヤ「私がウシオを守ってあげるわ」

うしお「えっ……」

イリヤ「本当は、前からウシオのことは知ってたの」

うしお「オレを……?」

イリヤ「前に住んでたお城には、バルトアンデルスって妖怪が住んでたわ」

うしお「バルトアンデルス……ああ!!」

うしお「ハマーに捕まってた妖怪!! 麻子のトモダチ!!」


176: ◆I4R7vnLM4w 2016/11/13(日) 15:02:24.56 ID:7BTo5MIr0


うしお(確か麻子が、バルはヨーロッパの古城に住む妖怪って言ってたな……)

イリヤ「そのお城で私にはその妖怪しかいなかった。他には何も残ってなかったの」

イリヤ「でも隠れて会っていたらアインツベルンに見つかって、ハマー機関に連れて行かれたわ」

うしお「ハマー機関……。そうか、博士たちが……」

イリヤ「私が吹雪の森で狼に襲われたときも、私はバルを呼び続けた。それぐらいは信頼してたのよ?」

イリヤ「でも助けに来るわけもなく、私を救ってくれたのはバーサーカーだったけどね」

うしお「あのサーヴァントか……」

イリヤ「この国に来る前に少しだけ、あの妖怪に会ったわ」

イリヤ「お爺様の厳しい監視を抜けて、ほんの少しだけ話したの」

うしお(……お爺様……? そいつがイリヤにマスターを……?)

イリヤ「私のことを助けられなくてゴメンって言ってた、何のことか分からなかったけど」

イリヤ「それから、日本に行くならウシオという『すごい』人間がいるから、もしかしたら、って……」

うしお(バル……)

イリヤ「他にも何か言ってた気がするけど、まぁいいわ。それより……」

イリヤ「あの妖怪の言ったとおり、確かにウシオは他のマスターと違って面白いわ」

イリヤ「だから私が守ってあげるの」

イリヤ「そして最後の最後で、殺してあげる」

うしお「イリヤ……!!」


182: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 20:12:42.42 ID:9OjUoUeX0


【第十四話 妖怪の果て 】


183: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 20:19:07.21 ID:9OjUoUeX0


・アインツベルン城周辺


凛「アインツベルン城……。ここで間違いないのよね?」

セイバー「はい」

とら「チッ、華鎚どもが巡回してやがるか」

セイバー「たとえ何が待っていようと関係ありません。サーヴァントにとってマスターは」

凛「待って。とらは姿を消して、セイバーも気配を」


イリヤ「…………」

凛(イリヤスフィール……)

イリヤ「ん? 気のせい、かな。フフ」

セイバー(ウシオ、どうか無事で……)


184: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 20:28:05.01 ID:9OjUoUeX0


・イリヤの部屋


うしお「イリヤはどっか行っちまった……」

うしお「きっと遠坂先輩たちのところだ、早く知らせないと……!!」

うしお「ぐおおおお!! ぬああああ!!」

うしお「ダ、ダメだァ……。魔術の解除なんて出来ねえよォ」

バタン!!

セイバー「動くな!!」

うしお「うわっ!?」

セイバー「ウシオ!!」

うしお「セイバー!!」

凛「思ったよりは元気そうね」

とら「みてえだな」


185: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 20:33:08.04 ID:9OjUoUeX0


うしお「遠坂先輩たちまで、どうしてここに……」

セイバー「私が助けを頼んだのです。ウシオが敵に拉致されたようだったので」

うしお「拉致?」

うしお「い、いやぁ、実はオレのほうからココに来たっていうか、なんていうか……」

セイバー「大丈夫ですウシオ。その事でしたら後で私からお話があります」

凛「もちろん私からもあるから、覚悟しといてよね蒼月君」

うしお「うへぇ、あっしが悪かった……」

とら「ぷぷぷ」

凛「とにかく今は、イリヤスフィールに見つかる前に早く逃げるわよ」


186: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 20:49:55.56 ID:9OjUoUeX0


・大広間


とら「おいっ、剣使い見てみろ!! スゴイのがあるぞ!!」

セイバー「トラ、シャンデリアは返したほうが……」

うしお「ひゃー、ここだけでオレの部屋の何倍あるのか分かんねえぜ」

凛「…………」

うしお「遠坂先輩、どうしたんだい?」

凛「あっさりしすぎよ。ここまで上手く行き過ぎてる」

うしお「えっ……」


??「なぁんだ、もう帰っちゃうの? せっかく来たのに残念ね」


うしお「イリヤ……!!」

凛「イリヤ、スフィール……。そう、なるほどね」

凛「蒼月君で誘き寄せて、本命は私たちってことか」

イリヤ「ウシオが自分からここに来るって言ったのは想定外だったけどね。言ったでしょ、リン」

イリヤ「リンのサーヴァントにはアインツベルンが対策してるって。それがここよ」

凛「まさか……。この城や森そのものがアインツベルンのためのフィールド……!?」

とら「けけっ、どおりで息苦しいと思ったぜ」


187: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 21:01:47.79 ID:9OjUoUeX0


凛「まんまと誘い込まれたってことか」

うしお「遠坂先輩、オレのせいで……」

凛「気にしないで。迂闊だったのは私も同じよ。それより……」

うしお「あぁ、この森から脱出するんだ……!!」


イリヤ「帰らせるつもりなんてないわ」

イリヤ「だって、私はこの城の主なんだからお持て成しをしなきゃ、お客様に」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

セイバー「バーサーカー……!!」

イリヤ「フフ」


とら「……チッ、そういうことかよ」


188: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 21:12:46.78 ID:9OjUoUeX0


凛「この城の内部で戦うのは危険よ。どんな仕掛けがあるか分からないわ」

凛「とら。今はとにかく逃げて、外でバーサーカーを迎え撃つわよ」

とら「逃げる? このわしが?」

とら「なァんでわしが逃げないといけないのよ」

凛「ちょ、ちょっと何言って」

とら「逃げたきゃおめえらで逃げな。こいつァわしの獲物よ」

セイバー「トラ、それなら私たちでバーサーカーの相手を」

とら「剣使い、おめえもなんか勘違いしとるようだな」

とら「わしの獲物を横取りするならおめえが先に相手になるかよ?」

セイバー「トラ、なぜ……」

凛「アンタねぇ、イリヤスフィールは結界を操る妖怪を使役してるのよ!?」

凛「今は見当たらないけど、ソイツらが出てきたらどうすんのよ!!」

とら「相変わらず『ますたー』はやかましいな」


189: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 21:20:15.99 ID:9OjUoUeX0


うしお「…………」

うしお「分かったよ。遠坂先輩のサーヴァント」

とら「なんだァ?」

うしお「何があるのかは知らねえよ。でも、何かあるんだろ?」

とら「へっ……」

とら「剣使いの主にしちゃ分かってるじゃねえか」

うしお「お前とは、付き合い長いからな」

とら「??」


190: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 21:27:45.66 ID:9OjUoUeX0


うしお「行こう!! セイバー、遠坂先輩!!」

凛「あ、蒼月君!?」

セイバー「いいのですかウシオ。しんがりが必要なのは理解出来ますが」

うしお「あぁ、それにとらも俺たちを守りながらじゃ戦おうにも戦えねえよ」

うしお「とらならすぐに飛んで追いつくさ。今はここから逃げよう」

セイバー「なるほど、分かりました。トラ、ご武運を」

凛「ちょ、ちょっと、勝手に話を……。あーー、もうっ!!」

凛「このバカとらーーっ!! アンタは私のサーヴァント!!」

凛「勝手に負けたりなんかしたら許さないわよ!!」


とら「本当にやかましい『ますたー』だぜ」


とら「いいからとっとと行きな」




とら「りん」




191: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 21:37:29.38 ID:9OjUoUeX0


とら「おめえ、わざとアイツらを逃がしたな。なんでだ?」

イリヤ「どうせリンたちは森から出ることなんて出来ないもの」

イリヤ「それよりここで一体のお前を確実に殺すわ」

とら「けっ、この城全体を華鎚どもが結界張ってやがんのか」

とら「確かに、これじゃ飛んで逃げることも城から出ることも出来ねえな」

イリヤ「お前のことをアインツベルンが調べたのよ」

イリヤ「過去に中国の符咒士との戦いで、この結界の使い方でかなり追い詰められてるって」

とら「昔のことは知らねえよ。で、本命はりんでも剣使いでもなく、わしかよ」

イリヤ「当然でしょ?」

イリヤ「私のバーサーカー『ヘラクレス』の相手になるヤツなんて、お前以外にいないんだもの」

イリヤ「セイバーなんて後でどうとでもするわ。お前を確実に殺した後でね」


192: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 21:47:22.27 ID:9OjUoUeX0


とら「けけけ」

イリヤ「何よ……。何がおかしいのよ……」

とら「笑わせるぜ。わしをここに閉じ込めたら、おのれらは勝てるのかよ?」

イリヤ「……っ」


とら「この、わしによ!!」


イリヤ「バーサーカー!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

イリヤ「カヅチ!!」

華鎚「……!!」
華鎚「……!!」


とら「けけっ、来いよ。木っ端微塵にしてやるから……」


とら「やーっと、楽しめそうだぜ!!!!」


193: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 22:05:23.68 ID:9OjUoUeX0


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


とら「やりやがるな!! 退屈しねえや!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


とら「しかしよォ、おめえは正気のほうがつえーんだろうな」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


とら「残念だぜ!!」


194: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 22:09:54.15 ID:9OjUoUeX0


・アインツベルンの森


凛「くっ、令呪が、熱い……」

うしお「遠坂先輩!?」

セイバー「まさか、トラが……」

凛「とらはそう簡単にやられるようなヤツじゃないわ」

凛「そうでしょ、蒼月君?」

うしお「あぁ……!!」


195: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 22:18:46.83 ID:9OjUoUeX0


・大広間


イリヤ「なんで……なんで死なないのよ……」

イリヤ「結界に縛られて、身動き一つ出来ずにバーサーカーに攻撃されてるのに……」

とら「けけっ」

イリヤ「……コイツどこかおかしいわ。油断なく躊躇いなく、殺しなさい!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

とら「くくっ」

イリヤ「まさか、バーサーカーと同じ宝具を……」

とら「宝具だァ? くく、はーっはっはっはっ!!」

イリヤ「なっ!?」


とら「死なねーんだよ。それが妖(バケモノ)!!!!」


196: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 22:31:25.51 ID:9OjUoUeX0


イリヤ「妖怪のサーヴァント、ここまでなんて……」

とら「…………」

イリヤ「手を抜いたワケじゃないでしょうね、バーサーカー」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

イリヤ「カヅチ。そのまま結界でコイツを捕まえてなさい」

華鎚「…………」
華鎚「…………」

イリヤ「マスターのリンさえ殺せばコイツだって死ぬはず……」

イリヤ「早く傷を治しなさい。今すぐリンたちを殺しに行くわよ」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」


とら(……ちっ、潮時か……)


197: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/03(土) 22:52:07.08 ID:9OjUoUeX0


とら(力が入らねえ……)

とら(存在を維持する力ぐらいしか、わしの中にりんの魔力は残ってねえか……)

とら(……でもまぁ、時間は稼いだか……)

とら(この森から脱出さえ出来れば、りん、おめえなら何とか出来るだろ)

とら(わしが消えても剣使いと再契約すりゃ、あのガキどもにも負けねえだろうしな)

とら(ここで、おしめえ、か……)

とら(聖杯戦争の残りのヤツらがどんな敵か知らねえが、おまえならやっつけられる……)


とら(そうだよなァ?)


とら(うしお……)


201: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 13:32:28.43 ID:lkCiBrHG0


【第十五話 追撃の交差『十二の試練』 】


202: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 13:37:08.83 ID:lkCiBrHG0


・アインツベルンの森


セイバー「ウシオ、リン、止まってください」

うしお「セイバー? どうしたんだ?」

セイバー「二人とも隠れて。あれを」


リズ「…………」

セラ「…………」


うしお「あの二人は……!!」

凛「知ってるの蒼月君?」

うしお「あぁ、イリヤの仲間さ。ちょっと戦ったけどよ、かなり強いぜ」

凛「そう……。向こうも簡単には逃がしてくれないか……」

セイバー「強行突破しますか?」

凛「いえ、まだここはアインツベルンの森よ。どんな仕掛けや罠があるか分からないわ」

うしお「もう少しで国道に出るのに……。でも遠坂先輩、どうするんだい?」

凛「そうね。遠回りになるけどアレを使いましょうか」


203: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 13:47:56.66 ID:lkCiBrHG0


・廃墟


うしお「ここは……?」

凛「私たちが来るときはとらの背中に乗って来たんだけど、そのときに上空から見つけたのよ」

うしお「そうか。上から見れば森に何があるか分かるもんね」

セイバー「そのときのトラの背中はモフモフでとても気持ちよく」

うしお「セ、セイバー?」

セイバー「あっ、いえ、何でもありません」


凛「とにかく、陽も落ちて暗くなってきたわ」

うしお「ホントだ。もう外は暗いや」

凛「夜の森は危険よ。この廃墟で敵をやり過ごしましょ」

セイバー「それには賛成です。夜は闇討ちの可能性もある、そうしましょう」

うしお「おーし、分かったぜ」


204: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 14:00:30.66 ID:lkCiBrHG0


ぐぅ~~


凛「ちょっと蒼月君、さすがに緊張感なさ過ぎるんじゃない?」

うしお「オ、オレじゃねえよーーっ!!」

セイバー「……すみません、私です」

凛「あ、セ、セイバーだったんだ……」

セイバー「何か食べる物があればいいのですが」

うしお「食い物かァ……。あっ、これがあったんだ!!」


がさごそ、ころん


凛「……それは?」

うしお「遠野で妖怪の長から貰った『減らないオムスビ』さ。食べてもなくならないんだ」

凛「減らないって、どういうことよ……」

セイバー「確かに、もぐもぐ、これは凄い。食べると、もぐもぐ、既に次のモノが用意してある」

うしお「セイバー、ゆっくり食っても大丈夫さ」

凛「……蒼月君。これがとんでもないモノだって、分かってる?」

うしお「えっ? あぁもちろんさ。コヅカイがピンチのときは助かるんだぜ?」

うしお「今月も金欠でさ、これを持ち歩いて腹が減ったときに食うつもりだったんだ」

うしお「持っててよかったぜ」

凛「…………」

凛「はぁ……」

凛「協会の奴らが知ったら『魔法の数』が変わってるところだわ」


205: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 14:10:23.01 ID:lkCiBrHG0


うしお「この建物って誰かのアトリエだったのかな……?」

凛「えっ? 蒼月君。それは分からないけど、どうして?」

うしお「いや、地面に画材道具が散らばってるから、そう思っただけさ」

凛「言われてみれば確かにそうね。まぁ、この荒れ具合から何年も前でしょうけど」

セイバー「ウシオは自身も絵を描くので気になったのでしょう」

うしお「あぁ、ってセイバーなんでオレが絵を描くこと知ってんだ!?」

セイバー「知ってるもなにも、ウシオの部屋は絵を描く道具で溢れているではないですか」

うしお「あ、そういやそうか」

凛「それに居間には描きかけの絵だって置いてあるじゃない」

凛「えっと、なんだっけ、溶けかけた虎?」


うしお「ありゃ藤村先生の肖像だよっ!!」


206: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 14:19:35.82 ID:lkCiBrHG0


うしお「あーあ、誰もオレの芸術的センスを分かってくれねーんだもんなァ」

うしお「あ、そうだ!!」

うしお「いつかセイバーを描かせてくれよ!!」

セイバー「私を、ですか……?」

凛「蒼月君。セイバーは英霊なのよ? この意味忘れてない?」

うしお「分かってるよ遠坂先輩。セイバーは有名な英雄だってことだろ?」

うしお「きっとスゲェ画家たちが、もう描いてるだろうさ」

セイバー「確かに、全く経験がないワケではないですが……」

うしお「それでも描きたいんだセイバー、頼むよ!!」

凛「ふふ、絵のことになると夢中ね。蒼月君」

うしお「あったりめえよ!!」

うしお「この聖杯戦争が終わったあとでもいいからさ。セイバーを描かせてくれよ!!」

セイバー「……聖杯戦争が、終わったあと……。いえ、それは……」

うしお「オレがセイバーをモデルにするなんて、つけあがってるのは分かってる」

うしお「でもよ、あの日、蔵の地下で出会ったときにも思ったんだ」


うしお「笑ってるセイバーを、描いてみたいって!!」


セイバー「ウシオ……」


207: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 14:25:26.27 ID:lkCiBrHG0


凛「蒼月君。まさかとは思うけど……」

凛「セイバーを描きたいって……。ヌ、ヌヌ、ヌードじゃないわよね!?」

うしお「な、な、なに言ってるんだ遠坂先輩!?」

うしお「んなワケないだろォ!?」


セイバー「……分かりました、ウシオ」

セイバー「聖杯戦争で勝利に導くのがサーヴァントの務め」

セイバー「約束しましょう。必ずマスターには絵を描いてもらいます」


うしお「セイバー……。あぁ、頼んだぜ」


208: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 14:46:21.47 ID:lkCiBrHG0


うしお「……ん、いけね寝ちまった」

セイバー「ウシオ、起きましたか。身体は大丈夫ですか?」

うしお「あぁ大丈夫だぜ。おっ、もう外は明るくなりはじめてるんだな」

凛「蒼月君、おはよう」

うしお「おはようって遠坂先輩、もしかして全く寝てないのかい?」

凛「セイバーに見張ってもらって私も少しは仮眠をとったわよ」

うしお「そうか。よーし、それじゃ」

凛「待って蒼月君。落ち着いて聞いてね」

うしお「えっ?」

凛「今この付近でイリヤスフィールとバーサーカーが私たちを捜索してるわ」

うしお「そんな!? それじゃ、とらは……!!」

凛「大丈夫よ。私ととらの令呪の繋がりは切れてない。多分、城で華鎚の結界に捕まってるんだわ」

凛「あの馬鹿、大口を叩いたわりにはまんまとイリヤスフィールに捕まったのよ」


209: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 14:53:27.77 ID:lkCiBrHG0


うしお「とらが捕まった、か。なんとかしねえと……」

セイバー「しかし、これは好機かもしれません」

うしお「好機? どういうことだい?」

セイバー「トラと戦い終わった直後のバーサーカーです」

セイバー「あのトラのことですから、必ず相手には痛手を負わせているでしょう」

凛「そしてイリヤスフィールは、とら捕縛のためにかなりの魔力と多数の華鎚を使ってるはずだわ」

うしお「そうか、今ならオレたちだけでもバーサーカーを倒せる……!?」

凛「そういうこと」

セイバー「はじめからトラの『狙い』はこれだったのかもしれませんね」

凛「どうだか。アイツのことだから本当にバーサーカーと『タイマン』やりたかっただけでしょ?」

うしお「はは、確かに」

セイバー「ですがこの好機は逃せません。ウシオ、私たちもバーサーカーと……」

うしお「あぁ、タイマンさ!!」


210: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 15:01:54.85 ID:lkCiBrHG0


凛「作戦はこうよ」

凛「蒼月君とセイバーで、バーサーカーの注意を引き付けてもらうわ」

凛「そこに私が背後からの奇襲。とっておきの宝石魔術で終わらせる。どう?」

セイバー「いいと思います。単純ではありますが、それ故に効果的です」

うしお「よーし、分かったぜ!!」

凛(本当のとっておきは、とらの身につけてる宝石だけど。今は手持ちの宝石でやるしかないわね)

うしお「それじゃ行こうか」

凛「ちょっと待って。蒼月君、これを」

うしお「これは、槍……」

凛「私が魔術で作った槍よ。あのバーサーカーと対峙するのに得物がないのは困るでしょ?」

凛「一応、蒼月君の『あの槍』に似せて作ったんだけど、ちゃんと使えそうかしら……」

うしお「あぁもちろんさ。この槍があるならオレは負けないぜ。ありがとう遠坂先輩」

凛「も、もう。でも当然それはあの槍と違って何の力もない槍だから、油断しないでね」

うしお「分かったよ。よーし、それじゃ行こう!!」


211: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 15:20:14.42 ID:lkCiBrHG0


・アインツベルンの森


イリヤ「見~つけた♪」

うしお「イリヤ……」

セイバー「…………」

イリヤ「……意外ね。最後まで逃げ回ると思った。それにウシオ、リンはどうしたの?」

うしお「あっ、ありゃ、えーと、遠坂先輩は、森で、はぐれた、かな?」


凛(……蒼月君、ウソがヘタすぎるわ……)


イリヤ「……そう。ならリンはあとで探して殺してやるわ」

うしお「待ってくれよイリヤ。この戦いはどうしても止めることは出来ねえのか?」

イリヤ「出来ないよ。お爺様の言いつけだもの」

うしお「そうか。やっぱりそのお爺様ってヤツに言われてやってんだな」

イリヤ「そうよ。バーサーカーがいる限り、私はアインツベルンのマスターなの」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

セイバー「アインツベルン……」

イリヤ「他のマスターを全員殺して、聖杯を持ち帰らないといけないんだから……!!」


212: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 15:25:31.69 ID:lkCiBrHG0


うしお「オレはそのアインツベルンも聖杯もよく知らねえさ。でもよ、こんな殺し合いはいけねえよ」

うしお「あの公園で美味そうにクリームパンを食ってたイリヤが、好きでこんなことしてるとも思えねえ」

うしお「もしよ、バーサーカーを倒してイリヤをマスターからやめさせれば、少しはマシになるなら」

うしお「オレは戦うさ。何度だってイリヤのために立つ。立って戦う!!」


イリヤ「な、何を言って……。私のため……?」

イリヤ「そう言って私を騙して、バーサーカーを倒して聖杯を手に入れるつもり?」

イリヤ「もういい、いらない。ウシオもバルと同じだわ」

イリヤ「私を救ってくれるのはアインツベルンとバーサーカーだけ!!」

イリヤ「遊びはこれまで。みんな殺しちゃえ!! バーサーカー!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


うしお「来る……!!」


213: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 15:36:19.23 ID:lkCiBrHG0


バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「バーサーカー、東の妖の一鬼なみの巨体にこのスピード……!!」

うしお「これなら、どうだっ!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「だ、駄目か……。オレの槍の攻撃ははじかれる……!!」

イリヤ「無駄よ。普通の人間の攻撃なんてバーサーカーに通じるはずないもの」

イリヤ「やっちゃえ、バーサーカー!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「ぐはっ……」

セイバー「ウシオ!!」

イリヤ「これで終わりだよ、お兄ちゃん!!」


凛「終わるのはそっちよ、イリヤスフィール!!」


214: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 15:42:07.99 ID:lkCiBrHG0


イリヤ「リン……!?」

うしお「遠坂先輩……!!」


凛「獲ったァ!!」


セイバー「見事ですリン。背後から魔術は完全に入りました、今のは防ぎようがない」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

凛「ウ、ウソ……。確かに、首を吹き飛ばしたはずなのに……!?」

イリヤ「そういう作戦だったんだ。見直したわリン。まさか一度だけでもバーサーカーを殺すなんてね」

うしお「どうなってんだ、バーサーカーは倒したんじゃ……!?」

イリヤ「残念ねウシオ。教えてあげる、ソイツは『十二回』殺されないと死ねない身体なのよ」

セイバー「まさか、バーサーカーの宝具は……!!」

凛「命のストック……『蘇生魔術の重ね掛け』……!?」

うしお「そ、そんな……!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

凛「がはっ……」

イリヤ「確かに終わるのはリンのほうが先だったようね」

イリヤ「バーサーカー!! ソイツ潰しちゃえーーっ!!」


215: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 15:51:12.48 ID:lkCiBrHG0


とら「……ここは、りんの家か。りんと初めて会った場所かよ」


凛「とらァ!!」


とら「りん!?」

凛「アンタこんなところで何してんのよっ!!」

とら「おめえこそ何しに来たんだよ!! 今おめえは逃げるので忙しーいんだろ!?」

凛「ええ、ちょうど今バーサーカーに握り潰されるところよ」

とら「なにやってんだよ!! あのクソ『うしお』なら何とか出来るだろ!!」

凛「とら、記憶が戻ったんだ」

とら「ああ? あぁ、それがどうかしたかよ」

凛「よかった、本当に」

とら「ちっ、なにがでえい。りん、おめえの単純な魔力不足のせいなんだぜ?」

凛「アンタみたいな規格外の英霊を召還する魔力なんて誰も持ってないわよっ!!」


216: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 16:08:53.91 ID:lkCiBrHG0


凛「一つだけ、分からないことがあるわ」

とら「なんだよ?」

凛「私はセイバーを召喚するつもりだった。色々うっかりしてて失敗したけどね」

凛「それで召喚されたのはアンタだった。それだけは不可思議よ」

とら「そんなことかよ。わしはこの土地に五百年はりつけになってた。あの忌々しい槍にな」

とら「この土地に縁のある英霊ってことだ。他のヤツよりは召喚しやすいだろうぜ」

凛「それはそうかもしれないけど、本当にそれだけかしら?」

とら「他になにがあるってんだよ」

凛「マスターが召喚出来るサーヴァントは、そのマスターに似るっていうわ」

凛「私とアンタ、どこか似てるのかもね」

とら「くだらん。わしはそんなもん信じんぞ」

凛「そう? 気に入った相手に素直になれないところとか似てると思うけど」

とら「ふん。おめえにしては阿呆なこと言うよな、りん」


217: ◆I4R7vnLM4w 2016/12/23(金) 16:30:01.99 ID:lkCiBrHG0


とら「話は終わりかよ。りん、わしはもう店じまいだ」

とら「なァんで最期の最期で記憶が完全に戻ったのか知らねえが、もうしめえよ」

凛「は? とら、アンタなに言ってんのよ」

とら「もうわしの中におめえの魔力は残っちゃいねーよ。体が動きゃしねーんだ」

凛「はぁ……。本当にとっておきの宝石を使うことになるとはねぇ」

とら「おい聞いとんのか、りん!!」

凛「アンタの耳につけてるそれ」

とら「ああ? おい、なんだこれ、いつのまにこんなもんつけやがった!!」

凛「そのペンダントは『父さんの形見』で、私の一番とっておきの宝石よ」

とら「まさかおめえ、それをわしに……」

凛「とら、アンタは『私の』サーヴァントなのよ」

凛「だから私が危なくなったときに発動するように仕掛けておいたの」

凛「だって、アンタは私を聖杯戦争で勝たせてくれるんでしょ?」

凛「約束、守ってもらうわよ」


とら「……!?」

とら「傷が、治って……」


凛(……早く助けに来なさいよね、とら……)


とら「へっ……。約束は、守るさ」


222: ◆I4R7vnLM4w 2017/01/24(火) 20:18:41.94 ID:gNeUeXmH0


【第十六話】


223: ◆I4R7vnLM4w 2017/01/24(火) 20:24:35.45 ID:gNeUeXmH0


凛「あ……ぁ……っ……」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」


セイバー「リン!! 今助けます!!」

リズ「イリヤの、邪魔、させない」

セラ「ここは通しません」

セイバー「お前たち……!!」


うしお「遠坂先輩!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「離せよォ!! 遠坂先輩を離せええーーっ!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「ぐはっ……。あ、あぁ、槍が砕けて……そんな……」

イリヤ「バーサーカー!! 早くやりなさい!!」


ドオオオオン!!!!


セイバー「!? 今の音は……」

イリヤ「な、なに……? 城のほうから……?」


224: ◆I4R7vnLM4w 2017/01/24(火) 20:30:20.29 ID:gNeUeXmH0


キィィィィン


リズ「この、音……」

セラ「何かが近づいて……」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」

イリヤ「なに、なんなの……?」




「雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ鳴ぉ雄ぉ!!!!!!」


ドオオオオン!!!!


「まーったく、『わし』がいなきゃこのザマかよ」


うしお「と、とらァ!!」


とら「あいそがつきるぜ。いや、あいそなんざとっくにつかしてたか」


とら「忘れるぐらいによ」


225: ◆I4R7vnLM4w 2017/01/24(火) 20:37:17.28 ID:gNeUeXmH0


うしお「と、とら……まさか……」

とら「なにやってやがる、このうすらバカちびが」

うしお「!?」

とら「しけた面してんじゃねーぞ!!」


とら「うしお!!!!」


うしお「な、なんでぇ……」

うしお「おめえこそ、オレのこと忘れやがって……」

とら「ああ!? おめえのアホ面がおかしくて思い出しちまったよ!!」

うしお「なにをォ!!」


うしお「とらァ!!!!」


とら「タコが!! りんを助ける気ねーのか!?」

うしお「分かってらァ!!」


とら「ドジるなよ!! うしお!!」

うしお「こっちのセリフだい!! とら!!」


226: ◆I4R7vnLM4w 2017/01/24(火) 20:55:47.45 ID:gNeUeXmH0


イリヤ「う、うそよ……」

イリヤ「カヅチ四体の結界で縛っていたのに……。どうやって……」


うしお「バーサーカー!! こっちだ!! オレはこっちにいるぞ!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

とら「前っから思ってたけど下手だよなァ、うしお」

うしお「悪かったな、とら!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」


セイバー「ウシオもトラも動きが違う……。これは……」

凛(……二体で最強。ほんと貴方たちって……)


とら「おらよォ!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

とら「わしの『ますたー』は返してもらうぞ」


凛「かはっ、はぁ、はぁ……。お、遅いのよ、とらっ!!」

とら「へっ、その調子なら大丈夫そうだな。りん」


227: ◆I4R7vnLM4w 2017/01/24(火) 21:14:49.07 ID:gNeUeXmH0


イリヤ「ありえない。ありえないわ、こんなこと……」

イリヤ「もう、いい。もう知らないんだから……」

リズ「イリヤ……?」

イリヤ「どうなったって、もう知らない……!!」


イリヤ「カヅチ!!」


華鎚「……!!」華鎚「……!!」
華鎚「……!!」華鎚「……!!」
華鎚「……!!」華鎚「……!!」


とら「ちぃっ、まだこんなに華鎚どもがいやがったかよ!!」

うしお「とら!!」


リズ「それ駄目、イリヤ……」

セイバー「なに……?」

セラ「いけない、いけません!!」

セラ「森に配置していた全てのカヅチに同時に命令するなどと……」

セラ「ここは城の補助も何もない場所、そんなことをすれば……!!」


228: ◆I4R7vnLM4w 2017/01/24(火) 21:27:47.20 ID:gNeUeXmH0


イリヤ「ウシオ、リン。これで私の勝ちよ」

イリヤ「もう、完全に……貴方たちの、負、け……」ドサッ

うしお「イリヤ!?」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


セイバー「バーサーカーが暴走を……!!」

うしお「これは、どうなってんだ!?」

凛「はぁ、はぁ……。魔力の限界、ね……」

うしお「えっ!? 遠坂先輩、それって」

凛「イリヤスフィールの魔力量が、華鎚に命令するために使った分量で限界だったのよ」

セイバー「しかし、こんな行き成り?」

凛「当然といえば当然よ。自分の使い魔でもない、ましてや『妖怪』を使役出来てたほうがおかしいのよ」

凛「そこはさすがのアインツベルンってとこね。腹立たしいけど」

凛「でもイリヤスフィールには、もうバーサーカーの理性を保つ魔力がないんだわ」


229: ◆I4R7vnLM4w 2017/01/24(火) 21:44:12.63 ID:gNeUeXmH0


バーサーカー「■■■■■■■■■■」

リズ「バーサーカー、駄目……」

セラ「こんなこと、これでは……」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


凛「どうにかするしかないわね……。とらは動ける?」

とら「ぐっ、駄目そうだ。華鎚のクソはあのガキの最後の命令を聞いてやがるのよ」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」

イリヤ「…………」

うしお「!?」

うしお「まさか、バーサーカーはイリヤまで……!?」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

うしお「イリヤーーーーっ!!!!」

イリヤ「…………」

うしお「はぁはぁ、間に合った……。でも、このままじゃ……」


230: ◆I4R7vnLM4w 2017/01/24(火) 21:50:40.31 ID:gNeUeXmH0


凛「とらは結界で動けないし、どうしたら……」

とら「いや、わしに出来ることはまだあるぜ。りん、準備しな」

凛「えっ?」


とら「おいうしお!! よく聞きな!!」

うしお「とらっ!?」

とら「わしにもな、剣使いと同じように『宝具』があるのよ」

うしお「宝具……とらに……?」

とら「それを使えば、おめえは昔みたいに戦えるはずだぜ」

うしお「それって、まさか……」


とら「あーあ、忌々しい」


とら「なぁんでこんなモンが、わしの宝具か」


うしお「あ、あぁ…………」




とら「この 『 獣 の 槍 』 がよォ」




231: ◆I4R7vnLM4w 2017/01/24(火) 21:52:28.24 ID:gNeUeXmH0


【第十六話 宝具『獣の槍』 】


237: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 20:30:19.91 ID:IImsifJB0


うしお「行っくぞォーーっ!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」


凛「これがとらの宝具、使用者の魂を糧にあらゆる妖怪を討ち滅ぼす退魔の霊槍……」

凛「『獣の槍』!!!!」


うしお「どうだァーー!!」

セイバー「ウシオの髪が伸びて……。いや、それよりあの身体能力は……!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

セイバー「す、凄い……。あのバーサーカーを圧倒している……!?」


凛「アンタの宝具、本来はマスターのステータスをランクアップするモノなんでしょうね」

とら「その通りよ。りん、おめえも使えばあれぐらい動けるだろうぜ」

凛「それは無理でしょうね」

とら「あ?」


うしお「おおおおおおおお!!!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」


凛「あんなこと、私には出来ないもの」

とら「へっ……。あの槍を使ってるアイツは、妖(バケモノ)よ」


238: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 20:40:11.97 ID:IImsifJB0


『……我らは心の内に在る……』

『……耳を澄ませば聞こえます。彼の声が……』


うしお(あぁ分かってるさ。ギリョウさん、ジエメイさん)


うしお「聞こえたよバーサーカー。この『獣の槍』を通してお前の声が!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(……少年よ。私を倒してくれ……)


リズ「バーサーカーの、声……」

セラ「何を言って……」


凛「獣の槍は意志ある妖器物……。その獣の槍がバーサーカーの心を読み取った……!?」

とら「けけけ」

セイバー「まさか、それがトラの宝具の『真の能力』……?」

とら「さーて、どうだかね」


239: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 20:49:26.73 ID:IImsifJB0


うしお「バーサーカー!! バーサーカー!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(……無駄だ。最早呼び掛けてどうにかなる段階ではない)

バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(あの少女が膨大な魔力で『狂化』を抑えてくれていたが、それが完全に解けている)

バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(逆に、使い魔に送り続けていた魔力が行き場をなくして私の『狂化』に流れているようだ)


うしお「そんな…………。どうにかならねえのか!?」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(……頼む。私を倒してくれ……)


うしお「……他に方法はねえのかよ。バーサーカー!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(……時間がない。このまま『狂化』が進めば少女の魔力、いや、生命力を全て吸い取ってしまう)


うしお「バカヤロォ……」

うしお「そんなこと言われたらオレは……オレはよォ!!」


240: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 21:02:32.45 ID:IImsifJB0


リズ「バーサーカーと、会話してる」

セラ「分かるのですか?」

リズ「分からない。でも、あの槍を見てたら」

セラ「そんなはずは……。ですが、私も……」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


うしお「バーサーカー、すまねぇ…………」

うしお「これで…………終わりだァーーっ!!」ガクッ


うしお「なっ!? 槍が急に重くなった!?」


セイバー「ウシオ、どうしたのです……!!」


241: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 21:12:23.84 ID:IImsifJB0


とら「どうなっとる!? わしの宝具の制限時間はまだだぞ!!」

凛「何か理由が……」

とら「力が足りねえのか!? りん魔力だ!! 魔力をもっとわしに送れ!!」

凛「やってるわよっ、でも私の魔力だって限界なのよ……!?」

とら「ちぃっ、準備運動なしの宝具発動はしくじったかよ……!!」

凛「不味いわね……。もう宝石も残ってないわ……」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


うしお「ぐっ、赤い布をグルグルに巻かれたときみてえだ……」

ガシッ

リズ「足りないなら、魔力、送る」

セラ「私たちの中の魔力など微々たるモノですが、多少は軽くなるはずです」

うしお「お前ら、なんで……」

リズ「イリヤと、バーサーカーのため。バーサーカー、倒されること、望んでる」

セラ「このままではお嬢さまが危険なのは確かです。お嬢さまのためなら私たちは……」

うしお「……よおおおおし!!」


242: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 21:22:28.56 ID:IImsifJB0


セイバー「……そういえばトラ、私は『雷剣』の借りを返していませんでしたね」

とら「ああ!? おめえ何の話だ、今はそれどころじゃ」

セイバー「貴方と私の宝具の『相性』は悪くないという話です」

とら「だからそれが……。へっ……なーるほど。その手が、あったかい!!」




リズ「そろそろ限界、でも」

セラ「ええ、まだまだこれからです……!!」

うしお「くっそォ、持ち上げるだけで精一杯なんてよォ……!!」

セイバー「ウシオ!!」ガシッ

うしお「セ、セイバー!?」

セイバー「これがトラの宝具『獣の槍』……。ウシオ、私に任せて下さい」

うしお「セイバー、何をする気なんだ……!?」

セイバー「風王結界(インビジブル・エア)の応用技を使います」

うしお「えっ!?」


243: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 21:29:04.49 ID:IImsifJB0


うしお「それってセイバーの剣を視えなくしてるってやつじゃ……」

セイバー「はい、そうです。ウシオ、今この槍は持ち上げて戦うことが出来ないのですよね?」

うしお「あ、あぁ、その通りだぜセイバー」

セイバー「ならば持って戦う必要などありません。この場から風の力で槍を撃ち出します」

リズ「え」

セラ「え」

うしお「ええーーっ!?」



凛「ほ、本気なのよね……!?」

とら「りん!! わしらは宝具の維持に集中すんだよ!!」

凛「分かってるわよっ」


とら「へっ、相変わらず剣使いは面白えことを考えやがるぜ」


244: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 21:47:34.95 ID:IImsifJB0


セイバー「ウシオ、この作戦は私たちがミスをすれば終わりです」

うしお「ああ」

セイバー「目標への狙い。少しでも外せばバーサーカーは倒せず、この槍を失います」

リズ「凄い、作戦」

セラ「む、無謀すぎます。私たちの中で唯一バーサーカーに有効な槍をそんなことに……」

セイバー「では他に違う作戦があると?」

セラ「それは……」

うしお「いや、その方法でやろう」

うしお「もし違う作戦があっても時間がねえ。時間をかけただけイリヤの魔力が吸われちまう」

セイバー「はい、その通りです」

リズ「二人は、もしかして、イリヤのために」

セラ「こんな無茶なことをしようというのですか……」


245: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 22:00:01.53 ID:IImsifJB0


セイバー「……落ち着いていますね、ウシオ」

うしお「えっ、そうかい?」

セイバー「はい。私は貴方の年齢の倍はする騎士を多く知っていますが、その者たちと同じ『場慣れ』を感じます」

うしお「そ、そんなことはねえと思うけどよ」

うしお「アイツとの旅でこういう一か八かなんて場面は何度もあった、ただそれだけさ」

セイバー「なるほど。理解出来ました」

うしお「でもオレが冷静な理由は違うぜ」

セイバー「……と、言うと……?」

うしお「セイバーが『任せてくれ』って言ったんだぜ。それなら」


うしお「なにも怖かねえさ」


セイバー「貴方は……全く……。ええ、もちろんです」


うしお「なら、やろうぜ。セイバー!!」

セイバー「はい、マスター!!」


246: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 22:23:52.69 ID:IImsifJB0


とら「宝具の発動時間の限界も近えな……。正真正銘一発勝負よォ……!!」

凛「バーサーカーが立ち上がるわよ!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


セラ「まだ、なのですか……。もう私たちも……」

リズ「限界かも」

うしお「そろそろオレの腕も……。セイバー!!」

セイバー「まだです。まだ、もう少し……!!」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


セイバー「そうだ、それでいいバーサーカー」

セイバー「貴方の『狂化』は強い、いや、強まっているからこそか」

セイバー「本能的に、この場にある自身を脅かす最大の得物を標的にする」

セイバー「だがそれはこちらにとっても、好都合だ」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」


うしお「バーサーカーが、来る…………!!!!」


247: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 22:34:54.28 ID:IImsifJB0


セイバー「ウシオ!!」

うしお「ああ……!!」

バーサーカー「■■■■■■■■■■」

セイバー「やああああ!!!!」


凛「セイバーの髪が、伸びていく……」

とら「へっ、剣使いが槍を使うかよ」


リズ「なに、これ。今までこんなこと、なかった」

セラ「バーサーカーの感情が、流れてくる……」


バーサーカー「■■■■■■■■■■」
(…………今だ…………!!!!)


セイバー「風よ、荒れ狂え……!!」

セイバー「はああああ!!!!」

うしお「うおおおお!!!!」

うしお「いっけええぇぇーーーー!!!!」




獣槍『風王鉄槌』!!!!

(スピアオブザビースト・ストライクエア)




248: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 23:11:23.64 ID:IImsifJB0


バーサーカー「……これが、お前の宝具か。雷獣よ」

とら「認めたくはねえがな」

バーサーカー「珍しいものだな、自身の宝具を好まない英霊か」

とら「どんな宝具を渡されても、わしはやりたいようにやるだけよ。だが」

とら「『憎しみはなんにも実らせねえ』。それが『わしの宝具』だからよ」

バーサーカー「そういうことか雷獣よ。前言を撤回しよう」

とら「けっ」


バーサーカー「見事だった騎士王」

セイバー「いえ、私だけの力ではありません」

バーサーカー「一つ尋ねたいことがある」

セイバー「何でしょうバーサーカー」

バーサーカー「暴走した我を狙うより、倒れたマスターを狙うほうが効率的だったはずだ、何故だ」

セイバー「それは……」

セイバー(あんなことがあっても、出来るはずがない。彼女は、アイリスフィールの……)

セイバー「……そんなことはウシオが許しません」

セイバー「マスターの意思を尊重するのもサーヴァントの務めです」

バーサーカー「なるほど、これが騎士王か」


249: ◆I4R7vnLM4w 2017/02/06(月) 23:15:36.18 ID:IImsifJB0


バーサーカー「少年よ。我の声に耳を傾けてくれたこと、感謝する」

うしお「バーサーカー、すまねえ……」

バーサーカー「謝ることはない。これは我が望んだことだ」

うしお「でもよ……!!」

バーサーカー「我を止めるには、この方法しかなかったのだ」

うしお「バーサーカー……」


サァァァァ


バーサーカー「時間か。少年よ、もしバルトアンデルスに会ったら伝えてくれないか」

うしお「バルに……?」

バーサーカー「約束は果たしたと。それとお前の言うとおり、この国に来てよかった、と」

うしお「バーサーカー……。あぁ、分かったぜ」


イリヤ「んん…………バーサー、カー…………?」


バーサーカー「それから、その少女を、頼む……」

うしお「あったりまえだろ!!」


バーサーカー「お前は……優しいのだな……。少女と、同じ、だ……」


うしお「バーサーカー……」


254: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 14:45:39.82 ID:mB8ADYa/0


【第十七話 魔女の宴への招待状 】


255: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 14:51:14.22 ID:mB8ADYa/0


・潮の部屋


麻子「うしおーーっ!! もう昼よ起きんかーーい!!」

うしお「う、ん……麻子、か……?」

麻子「学校が警察の調査で休校中だからっていいかげんに……ん?」

ゴソゴソ

麻子「…………」

ガバッ

イリヤ「うーん、うるさいなぁ」

麻子「なっ……」

リズ「おはよ」

セラ「おはようございます」

麻子「え……えぇぇーーっ!?」


256: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 14:59:49.89 ID:mB8ADYa/0


・蒼月家居間


麻子「うしお!! ちゃんと説明しなさいよ!!」

うしお「い、いや、だからよォ」

セイバー「アサコ。気持ちは分かりますが落ち着いて下さい」

麻子「セイバーさんは納得してるんですか!?」

セイバー「……確かにウシオはどうかしています。イリヤスフィールを保護するなどと」

うしお「そんなにおかしいかい?」

セイバー「はい、聖杯戦争を理解していない思われても仕方ないでしょう」

うしお「そ、そこまでかよ。俺だって分かってるさ」

うしお「イリヤが俺や遠坂先輩の令呪を奪ってサーヴァントと再契約するかもって話だろ?」

セイバー「その通りです」

イリヤ「再契約なんてしないわ。私はバーサーカー以外と契約なんてする気ないもの」

セイバー「その言葉を、信じろと?」

イリヤ「別にセイバーに信じてもらえなくてもいいわ」

うしお「イリヤは俺たちを襲ったりしないさ。それをやろうと思えば今朝だって出来たはずだしな」

セイバー「それは……」

うしお「ずっと隣の部屋で待機してたセイバーもそれは知ってるだろ?」

セイバー「……気付いていましたか」

うしお「屋根にとらもいたしな。そっちは遠坂先輩の指示だろうけど」


257: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 15:06:21.67 ID:mB8ADYa/0


麻子「セイバーさん、私が言ってるのはイリヤちゃんのことじゃないわ」

イリヤ「イ、イリヤちゃん……」

セイバー「アサコ、違うのですか?」

麻子「私が心配してるのはセラさんとリズさんよ!!」

リズ「わたし、たち?」

セラ「どういうことでしょうか?」

麻子(セイバーさんと遠坂先輩と桜先輩で既にスゴイコトになってるのに……)

麻子(これ以上うしおの周りに美人を増やすわけには……なんとかしないと……)

麻子「その、コイツは人使い荒くて大変だからやめたほうが、なんて……」

麻子「た、例えば絵の練習に協力してくれ、とか」

リズ「それぐらいなら」

セラ「気にはしませんが」

麻子「い、いい、いやらしいポーズを要求したり……!!」

うしお「な、なに言ってんだ麻子っ!?」

リズ「うわー」

セラ「それは……」

イリヤ「お兄ちゃん……」

うしお「そ、そんなことするかい!! オレはゲージュツを志す男だぞ!!」


258: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 15:13:11.03 ID:mB8ADYa/0


凛「ふぁ、おはよう。ごめん桜、牛乳飲ませて」

桜「遠坂先輩、もうお昼ですよ……」

凛「いいじゃない。一番の強敵を倒したんだからだらけもするわよ」

凛「……それで、これはなんの騒ぎ?」

とら「おめえならこうなることは分かってただろうがよ」

とら「それで、りん、あれはいいのかよ?」

凛「いいワケはないのよねぇ。あのアインツベルンだし、何回も殺されかけてるし」

とら「だったら」

凛「待って。蒼月君に考えがあるらしいからそれを聞きましょ」

とら「けっ、あの馬鹿うしおに考えなんてあるのかね」

凛「それより、アンタはどうしたのよ……?」

とら「ああ? こいつか?」

真由子「とらちゃんだぁ、本当に本当のとらちゃんだぁ」

とら「おいマユコ!! おめえいい加減離れろ!!」

真由子「あはっ……。今とらちゃんがマユコって言った……」

真由子「もう一回とらちゃん、もう一回言ってっ!!」

とら「……りん、おめえはわしのますたーだろ。なんとかしろォ!!」


凛「朝からずっと?」

桜「はい、まぁ」


259: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 15:19:43.60 ID:mB8ADYa/0


凛「蒼月君がイリヤスフィールを保護したいっていうのは分かったわ」

凛「本来そういうのは教会の監督役の仕事なんだけど、まぁいいでしょ」

うしお「あぁ遠坂先輩。イリヤたちも次に行く当てがないっていうしよ」

イリヤ「お爺様の言いつけを破ったんだもの。行く場所なんてどこにもないわ」

リズ「あとは、処理されるだけ」

麻子「処理って、そんな……」

とら「あのでけえ城に戻りゃいいじゃねえかよ」

イリヤ「聖杯戦争に負けた私たちが? お城に戻った瞬間ドッカーン大爆発よ」

真由子「じょ、冗談、だよね……?」

セラ「いえ、可能性がゼロとは言い切れませんね」

凛「とりあえず分かったわ。それじゃ次は蒼月君の考えを聞きましょ」

うしお「オレは、イリヤたちとも協力出来ないかと思ってよ」

イリヤ「えっ……?」

うしお「この聖杯戦争を終わらせるためにオレは戦ってるんだ」

うしお「イリヤはすげえ魔力を持ってる、リズさんもセラさんも強いよな」

うしお「そんな強い人たちと仲良くしたらよ、こんな戦争すぐに終わりに出来るぜ」

リズ「強い……?」

セラ「私たちが……強い……」


260: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 15:29:42.97 ID:mB8ADYa/0


キリオ「うしお兄ちゃん、行ってきたよ」

うしお「お、すまねえなキリオ。こんなお使いみたいなこと頼んでよ」

キリオ「ううん、これは僕のことでもあるから」

真由子「キリオくん、今朝からどこに行ってたの?」

キリオ「ただいま真由子姉ちゃん。光覇明宗の総本山に行ってたんだ」

イリヤ「コウハ、メイシュウ……?」

キリオ「そう。僕はその光覇明宗で獣の槍伝承者候補の一人だったんだ」

キリオ「でも今はそこでホムンクルスの研究をしてる」

セラ「ホムンクルスの、研究……」

キリオ「今も『囁く者達の家』に残るホムンクルスのために何か出来ないかと思って」

キリオ「僕は『九印』に何も恩返し出来なかったから」

真由子「キリオくん…………」

キリオ「九印なら、合理的じゃない、とか言いそうだけどね」

真由子「ううん、九印くんもきっと喜ぶよ」


261: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 15:43:51.41 ID:mB8ADYa/0


うしお「イリヤたちには、キリオのその研究を手伝ってやってほしいんだ」

セラ「ホムンクルスの研究……。そういうことですか……」

セラ「お嬢様や我々を実験材料にすることで保護すると」

キリオ「ち、違……!!」

リズ「セラ、それ違う」

セラ「何が違いますか、お嬢様にそんなことをさせるぐらいなら私は死を選びます」

イリヤ「落ち着きなさい」

セラ「ですが……!!」

うしお「いや、セラさんのその話が聞けてよかったぜ。本当にイリヤが心配なんだな」

セラ「な……」

うしお「そんなセラさんたちだからこそ、歓迎してもらえると思うぜ!!」

凛「……なるほどね。だから光覇明宗か」

桜「遠坂先輩……?」

凛「キリオ君の研究を手伝うということは、光覇明宗に協力するということ」

凛「それはイリヤスフィールたちが光覇明宗の一員になるってことよ」

凛「ホムンクルスの研究って名目ならイリヤスフィールたちは適任だしね」

凛「そして、いくらアインツベルンでもこの国の組織『光覇明宗』に手出しは出来ない」

真由子「あっ……」

麻子「それなら……」

凛「考えたわね蒼月君」


262: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 15:48:44.73 ID:mB8ADYa/0


イリヤ「ウシオ……。私たちは、助かる、の……?」

イリヤ「もう、痛いことはないの? お爺様に殺されないの……?」

リズ「イリヤ…………」

セラ「お嬢様…………」

うしお「あぁ、オレたちがイリヤを守るさ」

うしお「どんなでっけえ目標があったって、どんなエライヤツにだろうが……」

うしお「使い捨てられていい奴なんざ、この世にゼッテェいねえんだ」

麻子「うしお……」

イリヤ「その、あの、なんて言えばいいか分からないわ……」

イリヤ「感謝を……言いたいのに……」

うしお「お礼ならいらねえさ。もし誰かに言いたいならキリオに言ってくれ」

うしお「光覇明宗にかけ合ってくれたのはキリオだからよ」

イリヤ「キ、リオ……?」

キリオ「えっ……」

イリヤ「キリオ、ありがとう」

キリオ「う、うん……」


真由子「あれキリオくん、顔が赤いよ?」

キリオ「そ、そんなことないよ真由子姉ちゃん」


263: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 16:16:08.91 ID:mB8ADYa/0


セラ「なぜ貴方は私たちにそこまでするのですか? 何か理由が?」

うしお「理由なんてねえさ。そうだなァ、バーサーカーに頼まれたからじゃダメかい?」

リズ「バーサーカー」

うしお「それにキリオの研究を手伝ってやってほしいってのは本当さ」

セラ「研究を……?」

うしお「その、囁く者達の家のときに知ったんだけどよ」

うしお「ホムンクルスは、短命なんだろ……?」

セラ「はい、そうです」

セイバー(……アイリスフィールも言っていた……。短い命だからこそと……)

うしお「もしキリオの研究が進んで、イリヤたちが少しでもうめーモンが食えたらいいなァってよ」

セラ「貴方は、本当にお嬢様のために……」

うしお「あっ、そうだ!!」

うしお「リズさんもセラさんもクリームパン食ったことあるかい!?」

リズ「え……」

セラ「いえ……」

うしお「それなら今度食ってみようぜ。イリヤもうめーって言ったんだ」

うしお「うめーんだぜー、クリームパン!!」

リズ「うん」

セラ「わ、分かりました」


264: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 16:20:36.51 ID:mB8ADYa/0


とら「へっ、見ねえあいだにモノを考えるようになったかよ」

うしお「もうオレもチューボーじゃなくコーコーセーだからな」

とら「けっーけけ!! おいりん聞いたか、馬鹿が調子に乗りおったぞ!!」

うしお「なにをーーっ!! とらァーー!!」

凛「ちょ、ちょっと、わかった、わかったから外でやってよっ」


キリオ「そうだ。うしお兄ちゃん、総本山に行ったときに少し気になることがあったんだ」

うしお「総本山で?」

キリオ「紫暮様に今回のアインツベルンの話をしたら……」


紫暮『大丈夫だキリオ。ずっと前から準備はしていた』


キリオ「そう言ってたんだ」

うしお「親父が準備? どういうことだ?」

キリオ「僕にも分からない」

うしお「うーん……?」


265: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 16:26:57.07 ID:mB8ADYa/0


セイバー「……ウシオ」

うしお「やっぱり、セイバーは納得出来ねえか」

セイバー「いえ、そうではありません」

セイバー「私からも、その……。感謝します、ウシオ」

うしお「えっ、なんでセイバーが礼を言うんだい?」

セイバー「それは……」

セイバー(アイリスフィールの代わりに? いや、私はそんな立場の者ではない)

セイバー(私は何を考えてるんだ……)

セイバー(前回の聖杯戦争の最後、聖杯を手に入れるあと一歩のところで聖杯は破壊された)

セイバー(あの『前回のマスター』の令呪で私が破壊した。そのとき、私は誓ったはずだ)

セイバー(次の聖杯戦争は騎士道も何もかも捨て、全てを排除して勝ち残ると)

セイバー(それなのに、どうして……)

セイバー(ウシオやトラたちに出会って、私のなかで何かが変わったというのか……)

セイバー(そんなはずは……)


うしお「セイバー?」

セイバー「なんでも、ありません」


266: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 16:40:40.85 ID:mB8ADYa/0


うしお「柳洞寺にキャスターがいて、マスターは柳洞寺に住んでる葛木先生……!?」

凛「ええ。私とイリヤスフィールの情報から言って、その可能性が高い」

イリヤ「ウシオたちに協力すると決めたんだから、情報を出し惜しむつもりはないわ」

うしお「イリヤ……。サンキューな」

うしお「でも、それでなんで柳洞寺にキャスターで葛木先生がマスターになるんだ?」

凛「説明するわ。蒼月君はちょっと前から起こってるガス漏れ事件は知ってる?」

うしお「あぁ知ってるぜ。よく厚池たちが話題にしてるよ」

麻子「そうそう、この前ウチにもガス会社の検査が来たのよね」

桜「中村さんのところは中華料理店ですものね」

イリヤ「そのガス漏れ事件はキャスターの仕業よ」

うしお「えっ!?」

凛「正確にはガス漏れ事件に見せかけて人間の魔力、生命力を集めてるのよ」

イリヤ「魔力には流れがある。流れを辿ればどこに行き着くか分かるの」

うしお「それが柳洞寺……」

凛「そう。そしてあんな遠距離でそんな芸当が出来るのはキャスタークラスだけ」

セイバー「リン、それではアサシン陣営とキャスター陣営は組んでいると?」

凛「そういうことになるわね」

凛「山門はアサシンが守って、キャスターは力を蓄える。敵ながら上手いことやってるわ」

とら「けっ、術使いらしいチマチマしたやり方よォ」


267: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 16:59:26.43 ID:mB8ADYa/0


うしお「柳洞寺にキャスターがいるのは分かったけどよ、葛木先生がマスターっていうのは?」

凛「実は、そっちはまだ確証があるワケじゃないんだけど」

イリヤ「ウシオ、キャスターは魔力集めを深夜にしか行っていないの」

うしお「そりゃガス漏れ事件が真っ昼間に起これば大事件になるからじゃ」

とら「あーあ、ちったぁ考えるようになったかと思えばこれだぜ」

うしお「な、なにをとらァ!!」

凛「キャスターは昼間は他にやることがあるのよ」

うしお「やること……?」

セイバー「なるほど。サーヴァントにとって一番やるべきこと」

うしお「あっ、そうか!! マスターの護衛!!」

凛「そういうこと。マスターだからって急に学校に来なくなれば怪しまれるわ、ということは」

うしお「昼間の葛木先生にはキャスターがついてるはず!!」

凛「そう。柳洞寺には他にも知り合いがいるんだけどそっちはもう調べたわ」

凛「あとは怪しいのは葛木先生だけなの」

セイバー「それでは柳洞寺の陣営を攻めるのですか?」

うしお「あぁ、ガス漏れ事件の話を聞いちゃ黙ってられねえよ」

凛「ええ。とにかく明日の放課後、葛木先生の後を追ってみましょう」


268: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 17:05:46.66 ID:mB8ADYa/0


・柳洞寺付近道路


葛木「…………」




うしお「なぁ遠坂先輩。本当に葛木先生がマスターなのかな?」

凛「蒼月君、今それを確かめようと……。追うわよ」

うしお「オレにはどうにも葛木先生がガス漏れ事件を起こしてるようには思えねえんだ」

セイバー「ウシオはその教師と面識が?」

うしお「いや、無口な先生だからあんまり話したことはないんだけどよ」

凛「確かに蒼月君は葛木先生みたいなタイプより、藤村先生みたいなタイプのほうが気が合いそうよね」

うしお「そりゃね」

凛「まぁ蒼月君の言いたいことは分かるわよ。葛木先生は上級生の評判も悪くないもの」

うしお「そうなのかい?」

凛「ええ。っと、この先はもう柳洞寺まで一本道か。仕掛けるなら今だけど……」




葛木「……そろそろ頃合か」


269: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 17:11:07.73 ID:mB8ADYa/0


葛木「いるのは分かっている。出て来たらどうだ」


凛(……気付かれてた!?)

うしお「葛木先生……」


葛木「蒼月と遠坂か」

??「忠告したはずですよ宗一郎様。このようなことがあるから貴方は柳洞寺に留まるべきだと」

葛木「そうでもない。実際に獲物が釣れた」

キャスター「それは確かにそうですね」


凛「アンタがキャスターね……」

セイバー「ウシオ、リン。下がってください」

凛「トラ、出番よ」

とら「術使いが相手じゃ楽しめそうにねえな」


270: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 17:20:53.62 ID:mB8ADYa/0


うしお「セイバーもとらも待ってくれよ。オレは葛木先生に聞きたいことがあるんだ」

葛木「なんだ蒼月」

うしお「葛木先生はキャスターがガス漏れ事件で人間から魔力を奪ってるのを知らないんじゃないのかい?」

葛木「キャスターが……。そうか」

葛木「蒼月、それでその質問の出所はなんだ。疑問には理由があるはずだ」

うしお「だってよ、もし葛木先生が知ってるならそんなことさせないんじゃないかと思ってさ」

葛木「させない?」

うしお「あぁ、そんな悪いことは葛木先生なら止めさせるだろ?」

葛木「…………」

葛木「それは、悪いことなのか?」

うしお「えっ……?」

葛木「蒼月の言うとおり、善悪でいうのなら悪だろう」

葛木「だが、そのガス漏れ事件で何人死のうと私には関係ない。キャスターを止めるつもりもない」

うしお「な、なに言って……」

葛木「例外は存在する。私は蒼月が出会ってきた人間や妖怪とは違うということだ」

うしお「そんな……」

セイバー「その教師はウシオが思っていた人柄ではないようですね」


271: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 18:13:58.30 ID:mB8ADYa/0


とら「ゴチャゴチャうるせえーよ」

とら「誰が死のうが気にしねえなら、おめえがここで死んでも気にしねえだろ」

キャスター「噂の妖怪のサーヴァントね。お手並み拝見といったところかしら」

葛木「妖怪、か……。私がいた組織は退魔の関係ではなかったが」

葛木「キャスター。拳に対妖怪用の補助を頼む」

キャスター「はい、宗一郎様」

凛「まさか戦うつもり……?」

凛「こっちは近接最強のセイバークラスと完全復活したとらがいるのよ」

凛「いくらキャスターがガス漏れ事件で魔力を蓄えてても勝負になるわけ……」

葛木「遠坂、例外は常に存在する。このようにな」

とら「ぐはっ!!」

うしお「とらっ!?」

葛木「有効のようだな」

凛「な、なに今の……。全く見えなかった……」

セイバー「なにか特殊な格闘術……。ただの人間ではない……!!」

とら「……ちっ、わしとしたことが油断したかよ。しかし勝負はまだついてねーぞ」

葛木「そのようだ。だが」

とら「力が抜けてく……。てめえ、何しやがったァ!?」

葛木「キャスターの補助も効果的のようだ。今からお前は殴られた場所から力が流れ出るぞ」

とら「なっ、なにィ~~っ!?」


272: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 18:23:09.72 ID:mB8ADYa/0


うしお「あの葛木先生が、とらと互角に殴り合ってる……!?」

凛「こんな、バカなことが……」

葛木「言ったはずだ蒼月、遠坂。例外は常に存在すると」

葛木「私のように前に出るしか能のないマスターもいるということだ」

とら「へっ、そうかよ!! そいつァ楽しみが増えたぜ!!」


セイバー「あの男の相手はトラがやる。ならばキャスター、貴様の相手は私だ!!」

キャスター「お待ちなさいセイバー」

キャスター「ねぇ、坊やに現代の魔術師さん。野蛮な殺し合いはやめて私たちと手を組まない?」

セイバー「世迷言を……!!」

うしお「手を組むって、どういう意味だよ?」

キャスター「フフ、私はもう聖杯の仕組みを把握しているの」

キャスター「協力するなら貴方たちにも聖杯の恩恵を分けてあげてもいいわ」

凛「へぇ、それは結構な話ね。それで、どうやって聖杯を手に入れるっていうの?」

キャスター「まず、すでにこの土地は聖杯をおろすにたる霊脈を備えているのよ」


273: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 18:31:55.70 ID:mB8ADYa/0


キャスター「坊やは不思議に思ったことはないかしら?」

キャスター「この土地に大きな寺院が二つあることに」

うしお「ウチの芙玄院と、柳洞寺のことかよ?」

凛「そんなの、この国にはいくらでもあるわよ」

キャスター「いいえ、特殊な使命を持つ寺院がこんな近くに二つあるのは異例よ」

凛「特殊な使命? 蒼月君のところはとらや槍のことだろうけど……」

うしお「そういえば昔オヤジが、槍のありがたあい話をするときに言ってた」

うしお「ウチは槍と妖怪を監視する使命があるけど、柳洞寺も同じような使命があるって」

キャスター「それが霊脈の監視よ。あの伝説の槍や妖怪と同等の使命ということ」

キャスター「それぐらいこの霊地は質の高い霊脈を備えている」

うしお「そういうことか……。それでそのすげえ霊脈を使ってどうするんだ?」

キャスター「質の高い霊脈があるなら、あとは聖杯召喚の器と大量の魔力さえあれば聖杯は手に入るのよ」

凛「……そう、大量の魔力ね。キャスター、それに必要な生贄はどの位いるのかしらね?」

うしお「いけ、にえ……?」

キャスター「そうねぇ。『器の魔術師』と町の人間『全て』といったところかしら」


274: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 18:37:29.59 ID:mB8ADYa/0


うしお「生贄に町の人間って、そんなことさせるかよォ!!」

キャスター「残念ねぇ。手を組めると思ったのに」

凛「しらじらしいわねキャスター。そんなつもり最初からないでしょ」

キャスター「あら、その口ぶりだとお嬢さんも聖杯の仕組みは分かってたようね」

凛「まぁね。それで大量の魔力を取り込む器の魔術師は誰がやるのかしら?」

キャスター「そうね。器には優秀な魔術回路を持つ魔術師が適任よ」

キャスター「お嬢さんのような、ね」

うしお「遠坂先輩を生贄の魔術師に……!?」

凛「そういうことだろうと思ったわ、何が手を組むよ」

キャスター「フフ、察しが良くて助かるわ」

うしお「キャスター、そんなことやらせねえぜ……!!」

うしお「遠坂先輩や町の人間を生贄にするなんてこと、絶対に……!!」

凛「蒼月君……」

キャスター「勇ましいわね、セイバーのマスター」

キャスター「でもいいわ。お嬢さん以外にも一人、この町には相応しい魔術師がいるのだから……」

葛木「…………」

うしお「き、消えた……!?」

とら「ちぃっ!! 待ちやがれェ!!」


275: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 18:41:20.05 ID:mB8ADYa/0


うしお「相応しい魔術師って……」

凛「この町にいる優秀な魔術回路を持つ魔術師っていったら……」

うしお「まさか、イリヤ!?」

凛「考えられるわね……」

うしお「今オレの家にはイリヤたちだけだ!!」

うしお「キリオは真由子の家にいるはず、今キャスターに襲われたら……」

凛「不味い……。蒼月君、急いで戻るわよ!!」


凛「とら!!」

とら「あのヤロウ、きっちり借りは返してやる。おめえらさっさと乗れェ!!」

うしお「セイバー!!」

セイバー「はい、急ぎましょう!!」


276: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 21:10:10.55 ID:mB8ADYa/0


・蒼月家居間


うしお「イリヤーーっ!!」

リズ「どうした、ウシオ」

セラ「ウシオ様、そんなに慌ててなにかあったのですか?」

うしお「リズさんセラさん!! イリヤは!?」

セラ「お嬢様でしたら、そちらに」

イリヤ「あっ、ウシオ。さっきマユコとキリオがハンバーガーっていうのを置いていったわよ」

うしお「イリヤ……無事、なのか……?」

イリヤ「えっ、なに?」

セイバー「これはどういうことでしょう?」

うしお「い、いや、俺にもサッパリ……」

凛「まさか…………」

とら「おいりん!! 術使いの主もおらんぞ!!」

凛「イリヤ……桜は、桜はどこにいるの!?」

イリヤ「サクラ? サクラなら夕食の準備とかいって台所にこもってるわよ」

凛「っ……!!」

うしお「遠坂先輩!?」


277: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 21:21:43.37 ID:mB8ADYa/0


・蒼月家台所


凛「桜っ!!」

桜「と、遠坂先輩……?」

凛「桜……」

桜「どうかしたんですか?」

凛「はぁ……。なんだ、ただの脅し」

グサッ

桜「では、ないわよねぇ?」

凛「ぐ、はぁ……。そ、その声……キャスター……!!」

桜「抜かったわね現代の魔術師さん」

凛「その短剣は……!?」

桜「これは魔術契約を解除する我が宝具『破戒すべき全ての符』(ルールブレイカー)」

凛「ルール、ブレイカー……」

桜「完全な契約解除は無理だったけど、お嬢さんの魔力供給を一時的に止めさせてもらったわ」


278: ◆I4R7vnLM4w 2017/03/09(木) 21:35:21.26 ID:mB8ADYa/0


桜「キャスターの私が気付いていないとでも思っていたのかしら?」

桜「規格外の妖怪のサーヴァントの維持、それに加えてセイバーにも魔力を供給している」

桜「セイバーのマスターは魔術師ではないから魔力供給が出来ないですものねぇ」

凛「それは……」

桜「現代の魔術師にしてはよく頑張ってるわよ。でも供給が途切れればそれは崩壊してしまう」

桜「これでセイバーも妖怪のサーヴァントも宝具は使えず、戦闘で傷ついても回復出来ない」

うしお「遠坂先輩!!」

セイバー「これは……!?」

とら「りん、おめえその怪我!!」

凛「桜が、キャスターに操られて……」

うしお「なんだってっ!?」

桜「セイバーのマスター。この娘は、聖杯を呼ぶ生贄に貰っていくわ」

桜「フフ、取り返したければ私の神殿にいらっしゃい」

とら「神殿だとォ!? そこにてめえもあの男もいやがんのかァ!!」

桜「ええ。もっとも、セイバーも貴方もまともに戦える状態ではないでしょうがね」

とら「ああ!? なに言って」

桜「今に分かるわよ。それじゃあね、お嬢さんたち」

凛「ま、待ちなさい、キャスター……!!」

うしお「キャスター、桜姉ちゃんを返せよォ!! 桜姉ちゃぁぁん!!」


281: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 21:22:51.48 ID:qB3iXBS30


【第十八話 決戦、暁に縁消え果てず 】


282: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 21:30:49.27 ID:qB3iXBS30


・柳洞寺山門前階段


セイバー「ウシオ、イリヤたちは大丈夫でしょうか?」

うしお「キリオに来てもらったし照道さんにも残ってもらったから大丈夫さ」

凛「キャスターの言ってた神殿……。ここ以外には考えられないわよね」

とら「ああ、術使いの主もいるはずよォ」

セイバー「それにしてもリン、キャスターは何故サクラを攫ったのでしょう?」

凛「それは……」

うしお「そうだよな。間桐先輩のときに聞いたけど間桐の家にはほとんど魔術師の力は残ってないんだろ?」

とら「…………」

凛「……魔術回路は残っているのよ」


凛「あの子だって、魔術師の家系なんだから……」


うしお「なるほどな、そういうものなのかい」

セイバー「それではキャスターは、そのサクラの魔術回路を使って器の魔術師にしようと?」

凛「そうでしょうね」

うしお「魔術師だろうがなんだろうが桜姉ちゃんを生贄になんかさせねえよ!!」

凛「ええ、もちろんよ蒼月君。ぼやぼやしてる時間はないわよ!!」


283: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 21:33:55.18 ID:qB3iXBS30


・柳洞寺山門


うしお「柳洞寺、あんまり夜に来たことねえから不思議な感じだ」

凛「……待って蒼月君」

うしお「遠坂先輩、柳洞寺はこっちだぜ?」

凛「向こうから魔力を感じるわ」

セイバー「確かに。キャスターの罠でしょうか?」

凛「罠でも行くしかない、時間がないもの。こっちよ」


284: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 21:38:27.47 ID:qB3iXBS30


うしお「ここかい? オレにはただの山肌にしか見えないけどよ」

とら「いいから馬鹿はりんのやることを見てりゃいいのよ」

うしお「なにィ!? とらァ!!」

凛「……!!」

うしお「や、山肌が洞窟の入り口に!?」

セイバー「キャスターの魔術ですね。隠していたのでしょう」

うしお「魔術ってスゲェんだな……」

とら「いろんな妖の術を見てきたお前がそんなことを言うかね」

うしお「それとこれとは別だぜ、とら。人間がこんなこと出来るってのはスゲェのよ」

とら「はー、そんなもんかよ」

凛「さ、行くわよ」


285: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 21:53:00.34 ID:qB3iXBS30


・柳洞寺地下神殿


うしお「山の中に、こんなデケェ神殿が……!?」

凛「呆れたわ。古代の魔術師はやりたい放題ね」

セイバー「これがキャスターの神殿……」

とら「けけっ、こんだけ広けりゃ戦うのに不満はねーよ。楽しくやれそうだぜ」

セイバー「ウシオ、得物はそれでいいのですか?」

うしお「ああ、イリヤが魔術で作ってくれたこの槍があれば十分さ」

うしお「リズさんがハルバードを貸してくれるって言ったんだけど、あれは重すぎて使えねえしな」

凛「……来たわね」


骸骨騎士「アァァ」

骸骨騎士「ウゥゥ」


うしお「いつの間にか囲まれてる……。こいつらもキャスターの!?」

セイバー「はい、魔術で動いてるようです」

とら「術使いがァ、こんなので時間稼ぎが出来ると思っとるのかよ」

凛「とら、蹴散らして!!」

とら「へっ、雑魚に用はないんだよォ!!」


286: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 22:00:47.57 ID:qB3iXBS30


骸骨騎士「…………」
骸骨騎士「…………」


とら「こんなもんかよ」

うしお「ふぅ……。遠坂先輩は!?」

凛「私は大丈夫よ。それよりセイバーはどう?」

うしお「そうか、セイバーは魔力供給が……。セイバー!!」

セイバー「私も問題ありません」

うしお「そ、そうなのか?」

セイバー「ウシオはなにか思い過ごしをしているようですね」

うしお「えっ、でもキャスターのルールブレイカーで……」

セイバー「確かに今の私はリンに定期的に貰っていた魔力だけで戦っています」

セイバー「ですがそれでも、今の戦闘程度で私が傷つくことや消耗することはありません」

セイバー「私はセイバー。三騎士の一角、剣士の英霊です」

セイバー「宝具がなくても他のサーヴァントに遅れを取る事はない」


??「さすがは最優のサーヴァント、といったところかな」


287: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 22:12:28.25 ID:qB3iXBS30


うしお「誰だ……!?」

セイバー「貴様は……」


アサシン「そう身構えなくてもよい。不意討ちなどという無粋な真似はせん」


セイバー「アサシン……!!」

とら「おめえ、サムライ野郎がなんでここに!?」

アサシン「セイバーも長飛丸もなにを驚いている」

アサシン「私が門番だとお前たちは承知しているはずだが」

凛「そう。やっぱりキャスター陣営とアサシン陣営は組んでたか……」

うしお「アサシンのサーヴァントって、佐々木小次郎なんだよな……?」

アサシン「いかにも、私が佐々木小次郎だが」

うしお「うへー、ほ、本物かよ……」

凛「蒼月君、聖杯戦争でその反応今更過ぎない?」

うしお「だってよ遠坂先輩、あの佐々木小次郎だぜ!?」

アサシン「少年よ、私はそこまで有名なのか」

うしお「そりゃ誰だって知ってるさ、勉強が得意じゃないオレだって知ってるよ!!」

アサシン「そうか……」

セイバー「アサシン……?」


288: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 22:17:23.09 ID:qB3iXBS30


うしお「敵同士じゃなかったらサインを貰って握手したいぐらいだけどよ、今は!!」

凛「そんな時間はないのよね……!!」

アサシン「時間が惜しいのは私も同じだ、手合わせの時間が減っては意味がない」

うしお「それならアサシンのマスターも隠れてないで出てきたらどうだ!!」

凛「無駄よ蒼月君。この場に現れないということはアサシンのマスターは隠れながら援護する気だわ」

アサシン「私のマスター?」

アサシン「フッ、なにか勘違いをしているようだな」

セイバー「勘違い……?」

アサシン「私のマスターはお前たちがキャスターと呼んでいる女狐よ」

うしお「なっ、どういう意味だ!?」

アサシン「私はサーヴァントに召喚されたサーヴァント、ということだ」

凛「なるほどね……。キャスターだって魔術師だもの、サーヴァントを召喚する権利はあるってことか」

とら「へっ、術使いのくせに面白えことするじゃねえか」

凛「この神殿と同じで、この聖杯戦争でもやりたい放題じゃないキャスターのやつ」

アサシン「そのキャスターが小娘を連れて、先程この先に進んでいったぞ」

アサシン「あの女狐のことだ。また悪巧みを考えているのだろうな」

アサシン「だが私には関係のないこと。さぁ、進むがいい」

うしお「えっ!?」


289: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 22:54:33.58 ID:qB3iXBS30


セイバー「どういうつもりだアサシン……!!」

うしお「そ、そんな罠に引っかかるかよ!! 落とし穴でもあるんだろ!!」

アサシン「罠などない、進めば分かる」

凛「なら、なんで……」

アサシン「キャスターに召喚されたからといって、私と女狐が同じ思惑ではないということだ」

アサシン「私は門番を任された者。通す者も通さない者も、私が決める」

アサシン「そして、戦う相手もな」

セイバー「アサシン……。分かりました。決着をつけましょう」

とら「待ちな剣使い。おめえは前にサムライ野郎とやっただろうが」

セイバー「トラ、私とアサシンの決着をつけさせないつもりか?」

とら「あの馬鹿うしおの面倒は誰が見る、わしはやだね。それによ」

アサシン「…………」

セイバー「……なるほど、そういうことですか。ここは譲ります、トラ」

アサシン「時間がないのだろう、進まなくていいのか?」

うしお「遠坂先輩、行こう!!」

凛「ええ、行きましょう。とら、任せたわよ!!」

セイバー「アサシン、次に対峙するときは必ず決着をつけましょう」

セイバー「この剣に誓って、約束します」

アサシン「楽しみにしているぞ、セイバー」


290: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 23:01:43.87 ID:qB3iXBS30


とら「おめえ、始めから剣使いは行かせるつもりだったろ」

アサシン「さて、なんのことかな」

とら「とぼけるんじゃねえ。わしにだけ殺気を放ちやがってよ、剣使いも気づいてたぜ」

アサシン「フッ、そうであろうな」

アサシン「確かにセイバーとの立ち合いは極上だが、私は言ったはずだぞ長飛丸」

アサシン「この夢か現か分からぬ聖杯戦争、ここで私が望むは物の怪斬りのみ」

とら「へっ、そうかよ。いいぜ、相手になってやる。おめえにも借りはあるからな」

とら「だがこの先に借りがあるヤツが他にもいるのよ。あんまり遊んだりは出来ねえぜ」

アサシン「それは有難い。サーヴァントに召喚された身、おそらく朝まで保つまいからな」

アサシン「もはやセイバーにも会うことはないだろう」

とら「おめえ……」

アサシン「それに私はどうしてもお前に確かめたいことがある。ゆえに……」

とら「いいぜェ、なんでも答えてやるよ。わしをブッ倒せれたらなァ!!!!」

アサシン「望むところ……。参る……!!!!」


291: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/07(金) 23:53:36.96 ID:qB3iXBS30


うしお「とら、負けんなよ……!!」

セイバー「大丈夫です。確かにアサシンは強い、ですがトラなら」

凛「先が見えてきたわよ!!」


うしお「ここは……」

凛「かなり広いわね……」

うしお「!? 遠坂先輩っ!!」

凛「えっ?」

ドンッ

葛木「防がれたか。蒼月、奇襲には慣れているようだな」

うしお「葛木先生……!!」

葛木「いや、魑魅魍魎と戦ってきた蒼月ならこの程度の奇襲は予測出来るか」

セイバー(……やはりこの男はキャスターより危険だ。初見とはいえ強さが未知数……)

セイバー(トラと互角に殴りあった事といい、ウシオやリンに任せるわけには……)


292: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/08(土) 00:01:27.13 ID:mqRI4eum0


葛木「…………」


セイバー「ウシオ、リン、先へ。この男は私に任せてください」

うしお「セイバー!?」

セイバー「サクラが心配です。私のことは気にせず先へ」

凛「桜……。セイバー、頼んだわ」

うしお「遠坂先輩!? 行っちまった……」

セイバー「ウシオ、キャスターは魔術師としては破格かもしれません」

セイバー「ですがリンも優秀な魔術師です」

うしお「分かってるさ。遠坂先輩がキャスターに負けるかよ!!」

うしお「オレもいるしな!!」

セイバー「はい、ウシオとリンなら必ずキャスターに勝てます。行ってください」

うしお「ああ、セイバー。ここは頼んだぜ!!」


293: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/08(土) 00:45:42.65 ID:mqRI4eum0


・地下神殿最深部


桜「…………」


凛「桜っ!!」

うしお「桜姉ちゃん!!」

桜「…………」

うしお「桜姉ちゃん、オレたちの声が聞こえないのか!?」

凛「キャスターに何かやられたわね……」

??「フフ……」

凛「キャスター!! 出て来なさい、そこにいるんでしょ!!」


キャスター「ようこそ我が神殿へ、お嬢さんたち。歓迎するわよ」


うしお「キャスター、桜姉ちゃんの魔術回路で器の魔術師にするつもりなんだろ!?」

キャスター「えぇ、そうよ」

うしお「そんなことはさせねえよ!! 無関係な桜姉ちゃんを巻き込みやがって……!!」

キャスター「無関係? 桜さんが? いいえ、そんなことはないわよねぇ?」

凛「…………」

うしお「えっ?」


294: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/08(土) 00:55:21.77 ID:mqRI4eum0


キャスター「今も昔も、ずっとお待ちかねよ。桜さんはお嬢さんを」

凛「どうやら、私たちのことは全部お見通しのようね」

キャスター「えぇ、桜さんの頭の中を覗かせてもらいましたから」

キャスター「それに聖杯戦争の参加者の経歴を調べるのは当然でしょう?」

凛「そうね……」

うしお「なんだ、なんの話を……」

キャスター「フフ、聖杯召喚までにはまだ時間があるわ」

キャスター「余興として、坊やに魔術師の家系の話を聞かせてあげましょう」

凛「キャスター……!!」

キャスター「本当に魔術師とは不遇なもの、不幸なことなどいくらでもあるものよ」


キャスター「例えば、姉妹の縁が引き裂かれることも、ね」


凛「……っ!!」

うしお「し、まい……?」


298: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/11(火) 23:17:07.18 ID:RR8B4w1j0


とら「やるなァ、サムライ!!」

アサシン「見せ所よな……!!」

とら「けけっ、おめえ歯ごたえあるぜ。サムライ、いや、コジロウとかいったかよ」

アサシン「それは偽りの名だ」

とら「ああ? 偽り?」

アサシン「いかにも。この世界に佐々木小次郎という人物が実在した証拠はない」

とら「どういう意味だよ?」

アサシン「人々が過去を捏造し記憶だけで剣豪とされた人物、それが佐々木小次郎だ」

とら「聞いたことあるぜ。おめえ、架空の英霊ってやつか」

アサシン「そう。この私の記憶も技も、全て人々が創り上げたものかもしれん」

アサシン「ゆえに、私はお前と戦いたかった」

とら「なに……?」

アサシン「昔話『雷の舞』で長飛丸を倒す『雷の物の怪』とな」

とら「けっ、はじめからそいつが偽者だって知ってたのか」

アサシン「ああ、私のいた地方に残る有名な伝承なのでな」

とら「名が売れるのも考えモンだぜ。わしも、おめえもな」

アサシン「フッ……。だからこそ、私もお前のように自分が本物だと示す舞を」

アサシン「舞ってみせようぞ……!!!!」

とら「やってみなァーー!!!!」


299: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/11(火) 23:27:39.08 ID:RR8B4w1j0


葛木「……これがセイバーか。長期戦になればこちらが不利だな」

セイバー「キャスターのマスター、貴方はここで倒れろ」

葛木「そのつもりはない。しかしその勇ましさ、蒼月のサーヴァントだと納得がいく」

セイバー「なに……?」

葛木「セイバー、お前はどこまで蒼月のことを知っている?」

セイバー「我がマスターを? 何が言いたい?」

葛木「二年前、この国は『強大な妖怪』に襲われた。それを倒し、この国を救ったのが蒼月だ」

セイバー「知っている。ウシオとトラ、それに人間と妖怪が手を組み戦ったと」

葛木「私も、そのとき戦った多くの人間のうちの一人だ」

セイバー「なんだと、貴様が……?」

葛木「私は暗殺の技能を持った朽ち果てた殺人鬼だ」

葛木「いつ死んでもいいが、いきなり現れた妖怪などという存在に殺されるつもりはない」

セイバー「なるほど、自身を守るためだけに戦ったか」

葛木「いや、私の周囲でも『黒炎』と呼ばれる妖怪の手下が人々を襲っていた」

葛木「私はその黒炎を倒していった」

セイバー「それはおかしいな。貴様は他者がいくら死んでも関係ないと言ったはずだが?」

葛木「その通りだ。だが、私の生活に支障が出るほどの損害を黙ってみているつもりもない」


300: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/11(火) 23:39:06.39 ID:RR8B4w1j0


葛木「私は周囲から感謝された。しかし私は誰かのために戦ったわけではない」

葛木「私は自身のためだけに戦ったはずだ。だが不思議だ、失ったなにかが戻ったような気がした」

セイバー「…………」

葛木「蒼月のあの戦いを見て、この国中の人々が恐怖を忘れたように私も何かを感じたのか」

葛木「その答えを探している」

葛木「それからして、柳洞寺の前で倒れていた女を助けた」

セイバー「倒れていた女? そうか、それがキャスターか」

葛木「蒼月の強さは誰かのためになることらしい。私には分からないが、それを真似てみた」

葛木「ただの真似だが、もう始めたことだ。途中で止めることは出来ない」

セイバー「それが貴様の戦う理由、いや、望みか。しかし、なぜ貴様は私にそんな話をする?」

葛木「お前の戦う理由が気になっただけだ、セイバー」

セイバー「なに?」

葛木「あの蒼月のサーヴァントなら、それ相応の戦う理由、望みがあるのではないのか?」

セイバー「それは……。私は、私の望みは……」


セイバー(……私は偽りの王。私の戦いは全て無駄だったのだ……)

セイバー(王の選定をやり直し、過去を変え、『王国の救済』を成し遂げる……)

セイバー(それが私の戦う理由、私の望み……。聖杯に願う、奇跡……)


セイバー「私の望みは……!!!!」


301: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/12(水) 00:04:13.61 ID:f9d2oEFZ0


キャスター「……そうして、姉妹は魔術師の家同士の協約により引き裂かれた」

キャスター「これで、その二人の物語は終わりよ。坊や」

うしお「そんな……。遠坂先輩と桜姉ちゃんが、姉妹……」

凛「…………」

キャスター「そのお姉さんが今更、妹を助けに来たというのかしらねぇ?」

凛「……ええ、そうよ。桜を器の魔術師なんかにはさせないわ、絶対に」

キャスター「そう、いいわよ。それなら機会をあげましょう」

うしお「なにっ!?」

キャスター「もうすぐ聖杯は召喚される。最後のチャンスをあげましょう」

キャスター「桜さんの洗脳を解いてみなさい。私の魔術が解ければ桜さんは器として機能しないわ」

キャスター「さぁ、精一杯足掻きなさい」


桜「…………」


凛「桜っ!! 桜、私の声が聞こえないの!?」

うしお「桜姉ちゃん!! 目を覚ましてくれ!!」


キャスター「フフ、引き裂かれたモノは戻りはしないのよ」


302: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/12(水) 00:18:51.11 ID:f9d2oEFZ0


凛「桜っ!! 桜ーーっ!!」

桜「…………」

凛「なんとかしてキャスターの魔術を解析して……。そんな時間なんて……」

桜「…………」

うしお「桜姉ちゃん、オレは魔術師の家の協約とかは分からねえよ」

うしお「でも、いきなり仲の良い姉ちゃんと離ればなれになるなんてつらかったよなあ」

凛「蒼月君……」

うしお「でもよ、遠坂先輩は桜姉ちゃんを忘れたりなんてしてないぜ」

うしお「その証拠によ、遠坂先輩は桜姉ちゃんを助けに来たんだ」

桜「…………」

凛「桜……。駄目なの……」

うしお「まだだ、まだ……!!」

凛「蒼月君、その手にあるのは宝具『獣の槍』じゃないのよ……」

凛「バーサーカーのときみたいに心に語りかけるなんてことは出来ないわ……」


キャスター「残念、どうやら時間切れ。そろそろ聖杯召喚のようね」


304: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/12(水) 00:32:20.20 ID:f9d2oEFZ0


桜「…………」

凛「桜……」

凛(……魔術師にとって一番大切なのは命じゃない。守らなくちゃいけないのは魂の尊厳……)

凛(アンタも魔術師の家に生まれたんだから、分かるわよね)

凛(大勢の生贄の器にされるぐらいなら……。そうでしょう、桜……)

桜「…………」

凛(……私も甘いなァ……。蒼月君、あと、お願いね……)

パシィッ

凛「蒼月君……? 放しなさい!!」

うしお「させねえさ。桜姉ちゃんの代わりに器になるなんて」

凛「……っ!?」

凛「ち、違うわ……。わ、私は、桜を、こ、殺そうと……」

うしお「今回さ、おかしいとは思ってたんだ」

凛「え……?」

うしお「いつも冷静な遠坂先輩が、キャスターの神殿をどんどん進んでいくからよ」

うしお「桜姉ちゃんを一番心配してたのは遠坂先輩だ」

うしお「そりゃそうだよァ、妹なら当然だよな」

凛「あ、蒼月君……私は……私は……」


305: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/12(水) 00:42:28.23 ID:f9d2oEFZ0


凛「でも、私たちにキャスターの魔術を解くなんて出来ないわ……」

凛「あとは大元のキャスターを倒すしか、でも、もうその時間もないのよ……」

うしお「いや、方法はまだあるぜっ!!」

キャスター「フフ、面白いわね。まだ足掻いてくれるのかしら?」

うしお「あぁもちろんさキャスター!!」

うしお「桜姉ちゃんのためなら最後の最後まで足掻き続けてやる!!」

うしお「それによ、オレには桜姉ちゃんがキャスターの魔術に負けるなんて思えねえよ!!」

キャスター「なっ……」


うしお「桜姉ちゃん、初めて会ったときのことを覚えてるかい?」

桜「…………」


306: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/12(水) 00:49:54.33 ID:f9d2oEFZ0


「桜、まさかお前、僕に意見するつもり?」

「そ、そんなことはないです兄さん」

「それじゃなに? なにを言いたいの、お前は」

「ただ、まだ一年生には弓を持たすのは早いんじゃないかと思って……」

「それが僕に意見してるって言ってるんだよっ……!!」

バシッ

「ただの兄妹喧嘩ならほっとくつもりだったんだけどよ」

「あ……」

「女の人に手を上げるのは黙ってみてられねえよ、センパイ」

「お、お前、あの蒼月か……。く、くそっ……」


「はぁ、うしおのケンカっ早さは高校生になっても変わんないのね」

「だ、だってよォ」

「まぁ今のはアンタが行かなくても、この麻子さんが行ったけどね」

「とか言って麻子はうしおくんが助けに行くの分かってたくせに~」

「ま、真由子!!」


「あの、ありがとうございます」

「えっ? あ、いや、礼なんてやめてくれよ。オレが勝手にやったことさ」


307: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/12(水) 00:57:00.58 ID:f9d2oEFZ0


「蒼月君……」

「あれ、確かこの前の……」

「この間は、ありがとうございました」

「も、もう礼はいいよっ。それよりセンパイも買い物かい?」

「はい、夕飯の準備を」

「オレもさ。今、親父と母ちゃんが総本山に行っててさ、オレ一人なんだ」

「そうなんですか……。それが、今晩の夕飯ですか……?」

「あぁ、ジェットサンダーラーメン」

「……………………」

「ん……?」

「今日の夕飯は私が作ります。私にお礼をさせてください」

「えぇっ!?」

「蒼月君はこの町を、いえ、この国を救った人なんですよ。もっと食べるべきです」

「い、いや、ちょっと待ってくれよっ。それとこれなんの関係が」

「待ちません。それに後輩は先輩の言うことをきくものです」


「買い物かご持って行っちまった……」

「ひゃー、意外に強引な姉ちゃんだったんだなァ」

「でも良かったぜ。あれなら兄貴にも誰にも負けねえや」


308: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/12(水) 01:16:23.98 ID:f9d2oEFZ0


うしお「あの桜姉ちゃんがキャスターの魔術に負けるはずがねえ!!」

桜「…………」

キャスター「まさか私の魔術を直接この娘に破らせるつもり?」

キャスター「坊や、その儚い希望も空しくなってこないのかしら」

キャスター「桜さんは抗うことなんて出来ないのよ。過去も、そして今も」

凛「そんなことないわ!!」

凛「昔は出来なくても今なら出来る。私も桜も、今なら抗える!!」

凛「桜、私も覚えてるわよ。アンタが負けず嫌いだってこと」

凛「だって私はアンタの……」

凛「桜の……姉なんだからっ!!」

桜「……っ……」

うしお「確かに桜姉ちゃんは『間桐桜になったとき』は一人ぼっちだったかもしれねえ」

うしお「でも『今の間桐桜』は一人だなんて言わせねえぜ!!」

うしお「ここに桜姉ちゃんを待ってる人間が二人もいるんだぞ!!」

桜「……あ……ぁ……」


うしお「オレたちだけじゃねえ!! 麻子も真由子もそうだ!!」

うしお「間桐桜を待ってるヤツらがたくさんいる!!」

うしお「だからよ、キャスターなんかに負けるなァーーーー!!!!」


桜「……あぁ、姉、さん……蒼月、くん……」


309: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/12(水) 01:28:42.73 ID:f9d2oEFZ0


キャスター「そんな馬鹿な……。ありえないわ……」

キャスター「外側から魔術を破れないからって、内側から魔術を破らせるなんて……」


凛「さ、桜……。桜ァーー!!」

桜「夢の中で、ずっと、姉さんと蒼月くんの声が聞こえていました……」

凛「ごめん、ごめんね……」

桜「私は姉さんがうらやましかった……。でも、今は違う……」

桜「私を……私として必要と……。私を待ってくれている人たちがいるんですね……」

凛「ええ、ええ、そうよ、桜……」


キャスター「大人しく夢の中で私の操り人形になっていればいいものを……」

うしお「キャスター!!」

キャスター「見事、と褒めるべきかしらね。現存する英雄とはいえ島国の坊やと甘く見ていたわ」

うしお「もう桜姉ちゃんを器の魔術師になんてさせねえぞ、キャスター!!」

うしお「聖杯の召喚なんてことはやめろよ!!」

キャスター「フフ、面白いわね。すでに勝った気でいるのかしら?」

キャスター「別に器の魔術師は一人でなくてもいいのよ。そう、二人でも、ね」


310: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/12(水) 01:36:37.61 ID:f9d2oEFZ0


桜「姉さん、これは……」

凛「ごめん桜。今は説明してる時間がないの。ここに隠れてて」


キャスター「まずは現代の魔術師さん、褒めてあげましょう」

キャスター「正攻法ではないとはいえ私の魔術を破ったのですから」

凛「そりゃどうも。でも古代の魔術師の魔術も大したことなかったわよ」

キャスター「フフ、言うようになったわね。そうでないと面白くないわ」

キャスター「今から私の魔術でアナタも桜さんも器になるのですから」

うしお「そんなことはさせねえよ」

キャスター「まさか、そのなんの能力もない槍で私と戦うつもりかしら?」

うしお「あぁそうさ」


凛(……そうよ。あれは宝具『獣の槍』じゃない。ただの槍よ……)

凛(キャスターの魔術で、桜は完全に洗脳されてた。それを蒼月くんは宝具なしで……)

凛(バーサーカーのときは宝具の能力だと思った、でも違ったってこと……?)

凛(桜の洗脳を解き、バーサーカーの暴走を止めた能力……。それは蒼月くんの……)


311: ◆I4R7vnLM4w 2017/04/12(水) 01:40:31.50 ID:f9d2oEFZ0


キャスター「なめられたものね。サーヴァントなしで大した武器もなく私と戦うと」

キャスター「思い知らせてあげましょう。魔女の指先、とくと味わってもらおうかしら」


うしお「遠坂先輩、準備はいいかい?」

凛「ええ、蒼月くん。いつでもいけるわ」

うしお「それじゃオレたちとキャスターの……」

凛「タイマン、始めましょうかっ!!」

うしお「おう!! 行っくぜェーーっ!!」


315: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/09(火) 21:41:44.12 ID:Epm9CavJ0


【第十九話 教師と魔女『雨に現れ、雨に消え』 】


316: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/05/09(火) 21:52:49.71 ID:Epm9CavJ0


アサシン「……音が止んだか」

とら「ああ? 音だァ?」

アサシン「どうやら女狐の企みは失敗したようだぞ」

とら「へっ、そうかよ。それならわしもこの門をそろそろ通らせてもらおうかね」

アサシン「フッ、お互い頃合いか。私も秘剣の魔翌力しか残っていないのでな」

とら「決着といこうぜ、サムライ」


アサシン「…………」

とら「…………」


アサシン「……最後に一つだけ聞かせてくれ」

とら「なんだよ?」

アサシン「セイバーのマスター、あの少年は嬉々として私の名前を出した」

アサシン「だが私にはその実感がない。少年が真っ直ぐ私を見ても、私は返すことが出来なかった」

とら「アイツはただの馬鹿だぜ。お前が本物かどうかなんて考えちゃいねーよ」

アサシン「だからこそ知りたい。私は、いたのか……?」


317: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/09(火) 21:59:53.05 ID:Epm9CavJ0


アサシン「他でもない、物の怪のお前に問いたい」

とら「わしに?」

アサシン「人間では意味がないのだ。捏造された記憶を持った人間ではな」

アサシン「直接その時代にいた物の怪、そしてお前だからこそ信用に足るというもの」

アサシン「佐々木小次郎は、存在していたのか?」

とら「おめえ、それを確かめるためにわしと戦って……」


とら「……生憎だがよ、わしはおめえが知りたいことは答えられんぞ」

とら「わしは槍にはりつけにされて五百年閉じ込められてたのよ」

とら「その間にサムライの時代は終わっちまってたよ」

アサシン「そうか……」

とら「そもそもわしは人間の顔も名前も覚えちゃいねーよ」

アサシン「フッ、それもそうだな。物の怪とはそういうものか」


とら「だがよ、一つ分かることがあるぜ」

アサシン「なに……?」

とら「おめえは最強のサムライよ。わしが戦ったサムライの中で一番強えぜ」

アサシン「私が、最強の侍……?」

とら「わしが認めてやらァ。この『わし』がな」

アサシン「……そうか、私は最強の侍か。フフ、かの雷の物の怪に認められたからには……」

アサシン「無様な一芸は、披露出来んな……!!」

とら「きな、ブッ倒してやるよォ……!!」


318: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/09(火) 22:17:48.40 ID:Epm9CavJ0


アサシン「参る……!!!!」

アサシン「秘剣……『燕返し』!!!!」


とら(来る!! あの鎌鼬より鋭いやつかァ~~!!)


アサシン(まずは頭上から股下までを断つ縦軸の「一の太刀」)

とら(速すぎて発動は潰せねえか、避けるしかねえ……!!)


アサシン(それから一の太刀を回避する対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡である「二の太刀」)

とら(な、なにィ~~!? こっちにも太刀が迫ってきてやがる!?)

とら(それなら避ける場所はここしかねえ……!!)


アサシン(そして左右への離脱を阻む払いの「三の太刀」)

とら(どうなってやがる!? どこにも逃げ場所がねえ!?)


アサシン(三つの異なる太刀筋を同時に放つことで対象を囲む牢獄を作り上げる)

アサシン(これが我が秘剣『燕返し』だ)


アサシン「勝負あったな、雷の物の怪よ」

アサシン「我が剣先からは燕でさえ逃れ得ぬ。翼がなくても飛べるそなたでも酷な勝負であったかな?」




とら「……タコが。なに勝ち誇ってやがる」




アサシン「……っ!?」

アサシン(自身の身体を伸ばして、いや、変化させて牢獄から逃げ……!?)




とら「おめえの相手はツバメじゃねえ」


とら「バケモノなんだぜ……!!!!」




320: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/09(火) 22:47:16.08 ID:Epm9CavJ0


アサシン「……行け。勝負はついた」

とら「ああ」

アサシン「我が秘剣の全てをかけた極上の立ち合いだった」

アサシン「感謝する。長飛丸、いや……」

アサシン「とら殿」

とら「わしも楽しかったぜ。じゃあな」

とら「コジロウ」


サァァァ

アサシン「フッ、そろそろか……」

アサシン「聖杯戦争、なかなかに楽しい一時であった」

アサシン「しかし私としたことが修行不足であったな」


アサシン「だが私は『雷の物の怪』が認めた『佐々木小次郎』」

アサシン「次に呼ばれるまでには、どれ……」


アサシン「雷を斬れるようになっておこうか」


321: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/09(火) 23:07:34.44 ID:Epm9CavJ0


凛「今よ蒼月くん!!」

うしお「うおおおおおお!!!!」

キャスター「貴方たちの考えなんて手に取るように分かるわ」

キャスター「キャスターが相手なら二人で接近戦を挑めば数の有利で勝てる」

キャスター「今までもそんな愚かな騎士たちを多く見てきたわ。でも残念ね」

うしお「防がれた……!?」

キャスター「私の高速神言は剣士クラスの刃にさえ先んじる。坊やの槍が当たることなんてないのよ」

うしお「まだまだこれからだぜ、キャスター!!」


キャスター「貴方の戦い方は優雅さに欠けるわ」

うしお「オレは……地味さ!!」


キャスター「そうね、それなら派手に散らせてあげる……!!」

うしお「ぐっ……!?」

凛「とらの言うとおり、蒼月くんはいつも背中がお留守よねっ!!」

うしお「ごめんよ遠坂先輩!!」

キャスター「なっ……」


322: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/09(火) 23:17:39.46 ID:Epm9CavJ0


キャスター「押されている、私が……。あ、ありえない……!!」

キャスター「宝具の槍のない坊やと、格下の魔術師のお嬢さんに、私が……!?」

うしお「遠坂先輩!!」

凛「ええ、次行くわよっ!!」

キャスター「しかしこの連係、歴戦の槍兵と術師が組んだかのような……」

キャスター「フ、フフ。そう、そういうことね。私が甘かったわ、お嬢さん」

凛「なによ?」

キャスター「意識の共有かしら、それとも私と同じような魔術で坊やを操っていたのね」

凛「はぁ? なに言ってんのよ?」

キャスター「もう隠さなくてもいいのよ。確かに意識や洗脳の魔術も使えたのは予想外だったわ」

凛「あのねぇ、そんな魔力あったらとらに送ってるわよ!!」

キャスター「ウソが下手ね。同盟を組んで一週間程度の二人がこんな連係を出来るわけが……」

凛「ああ、そういうこと。それなら教えてあげるわよキャスター!!」

凛「こんな山の中で自分の神殿なんかコソコソ作ってるアンタと違って、私たちは!!」


うしお「『練習』出来るんだよ!!」


キャスター「なっ!?」

キャスター(お嬢さんの後ろに隠れて……!?)

うしお「どうだいキャスター!! オレの槍、当たったぜ!!」

キャスター「こ、この……!!」


323: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/09(火) 23:26:58.35 ID:Epm9CavJ0


キャスター「……いいわ、認めてあげる。なかなかやるわよ、貴方たち」

キャスター「でもね、何か忘れていないかしら?」

うしお「なんだ……?」


桜「きゃっ……!!」

骸骨騎士「アァァ」
骸骨騎士「ウゥゥ」


凛「桜っ!!」

うしお「桜姉ちゃん!!」

キャスター「忘れてもらっては困るわね。私は神代の魔術師。はじめから数の有利不利などないのよ」


「おめえもなーんか忘れとるよな、術使い」

ドゴーン!!


キャスター「よ、妖怪のサーヴァント!!」

凛「とら!!」


桜「あ、あの、ありがとうございます。とらさん」

とら「へっ、いいから捕まっときな」


324: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/09(火) 23:38:57.58 ID:Epm9CavJ0


キャスター「アサシン、あの役立たずが……!!」


セイバー「ウシオ!!」

うしお「とら、それにセイバーも!?」

桜「セイバーさんまで……」

セイバー「良かった。サクラも無事のようですね」


葛木「キャスター、状況はどうなっている」

キャスター「すみませんマスター。聖杯の召喚は失敗。人質を逃がしアサシンを失いました」

葛木「別に構わん。ここで終わりではない。それに状況が不利なら撤退するだけのことだ」

キャスター「はい、分かりました。撤退します」


セイバー「キャスター、まさかこの場から逃げれると思ってないだろうな?」

とら「ここがおめえらのしめえの場所だぜ」

凛「形勢逆転ね、キャスター」


325: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/09(火) 23:45:39.57 ID:Epm9CavJ0


キャスター「形勢逆転? いいえお嬢さん、形勢はそのままよ」

凛「なんですって……?」


ゴゴゴゴゴゴ


うしお「な、なんだ、地震かっ!?」

セイバー「いえ、違います。これは……」

キャスター「ここは私の神殿。造るのも思いのままなら、壊すのも思いのまま」

凛「キャスター……!!」

とら「それがどうした術使い。そんな脅しでわしが見逃すとでも思ったのかよ?」

キャスター「ええ、そうよ。妖怪のサーヴァント、貴方は逃げていくことになるわ」

とら「ああ? わしが逃げる?」

キャスター「別に私は神殿が崩れるまで貴方とやりあったっていいのよ?」

キャスター「貴方のマスターが私のように転移の魔術が使えるのなら、ね」

凛「くっ……」

うしお「だ、駄目だ。このままじゃ生き埋めになっちまうよ!!」

凛「……とら、桜を乗せて。蒼月くん、セイバー、この神殿から脱出するわよ」

キャスター「フフ、それでいいのよ。お嬢さん」


326: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/09(火) 23:55:09.24 ID:Epm9CavJ0


とら「おい!! りん!!」

凛「桜はキャスターの洗脳のせいで衰弱してる。アンタが運んでくれないと脱出できないわ」

凛「アンタとセイバーを神殿の崩壊限界まで残らせてキャスターを倒す手もあるけど」

凛「もしまだキャスターが奥の手を持ってるなら危険だわ。ここは逃げるしかないのよ」

とら「チッ……。あーあ、分かったよ」

うしお「へっ」

凛「どうしたのよ蒼月くん。何か変?」

うしお「いや、いつもの冷静な遠坂先輩だから嬉しくてよ」

凛「な、なによそれ……」

セイバー「ここまで来てキャスターを討てないのは不本意ですが、マスターの安全を考えれば当然です」

うしお「オレは桜姉ちゃんが無事に帰ってきたならそれで十分さ」

桜「蒼月くん……」

とら「オラ、さっさと乗りな」

桜「と、とらさん、本当にいいんですか?」

とら「おめえには手作りはんばっかの借りがあるのよ。槍で脅して乗っかるヤツと違ってな」

うしお「とらァ、聞こえてんぞ!!」

うしお「って、こんなことしてる場合じゃねえ。脱出しねえと……」


327: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/10(水) 00:13:41.33 ID:hOwTvVaQ0


キャスター「さぁ、私の神殿からお逃げなさい。『見逃して』あげるわよ」

凛「くっ、蒼月くん行くわよ!!」

うしお「あぁ遠坂先輩」


キャスター「最後に坊やに忠告してあげるわ」

うしお「なに……?」

キャスター「私は今回のことで役立たずのアサシンを失ったわ」

キャスター「貴方のセイバーは、とても綺麗で強くて美しいわね」

セイバー「何が言いたい、キャスター」

キャスター「坊や、夜道には気をつけなさい。私のルールブレイカーが常に狙っているわよ」

うしお「桜姉ちゃんの次は、セイバーを狙うっていうのかよ!!」

キャスター「ええ、次はセイバーを頂くとしましょう」

セイバー「キャスター、貴様……!!」

キャスター「フフ、私のモノにしてみせるわ、セイバー」




??「チッ……。戯けが……」

??「身の程の違えたな、雑種」




329: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/10(水) 22:46:53.67 ID:hOwTvVaQ0


うしお「なぁキャスター。なんでそんなことするんだよ?」

キャスター「なんで? 坊やは頭が悪いのかしら……」

とら「そいつは馬鹿だぜ」

桜「と、とらさんっ」

キャスター「この聖杯戦争に勝ち残り、聖杯を手に入れるために決まってるでしょう?」

うしお「そんなことは分かってるよ。でもよ、セイバーを奪ったりなんてしなくていいだろ?」

キャスター「……意味が分からないわね」

葛木「蒼月、その理由はなんだ。なぜそう思う」

うしお「さっきキャスターと戦って分かったんだ。キャスターの魔術はスゴかったぜ」

うしお「きっと一人じゃ負けてた。遠坂先輩と二人だったからなんとかなったけどよ」

うしお「葛木先生の拳法もすげえし、キャスターの魔術もすげえよ」

うしお「きっと二人が組めば絶対に強えんだろうな」

キャスター「私とマスターが……。そんなこと、貴方に言われなくても……」

葛木「…………」

うしお「だったら人質を取ったり、他のサーヴァントを奪わなくてもいいだろ?」

うしお「相当強いぜ、葛木先生もキャスターもさ」

キャスター「あ、貴方はいったい……」


桜「姉さん、あれ大丈夫なんですか……」

凛「面食らうわよね普通。私もそうだったし。でもあれが蒼月くんなのよ」


331: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/10(水) 22:58:38.38 ID:hOwTvVaQ0


葛木「……キャスター。お前のやり方に口は出さないと言ったが気が変わった」

葛木「蒼月とセイバーの二人に『お前と』戦ってみたくなった。手を貸せ」

キャスター「いいえマスター。今私もそれを提案しようと思っていました」


キャスター「坊や、約束してあげるわ。貴方とセイバーは私たちが倒す、必ずね」


うしお「あぁいいぜ。オレたちも負けねえからよ」

セイバー「いずれキャスターのマスターとは決着をつけるつもりでした。望むところです」

キャスター「フフ、楽しみだわセイバー。約束よ」


??「約束? 抜かしたな雑種」

??「その女と取り決めをしていいのは、王である我(オレ)だけだ」


キャスター「っ!?」

セイバー「!?」

うしお「な、なんだ、誰だ!?」


??「先ほどの騎士王を奪うなどと口にしたのも大罪だが……」

??「我のモノであるアレと、我を差し置いて取り決めだと?」


??「……失せろ、雑種」


332: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/10(水) 23:10:25.64 ID:hOwTvVaQ0


凛「空一面に剣や槍が……なんなのよあれ……」

うしお「飛んできた!? オレたちを狙ってるのか!?」

凛「と、とらっ、雷で撃ち落としてっ!!」

とら「こんなもん全部に当てれるかよ!! りん、防ぐしかねえぞ!!」

凛「そんなこと出来るワケ……!!」


キャスター「フン、現代の魔術師は結界も張れないのかしら……!!」


凛「広範囲結界!? なんで、私たちまで……」

キャスター「あら、私は言ったわよ、お嬢さん。私の神殿から『見逃して』あげると」

キャスター「私の神言は古代より絶対なの。だから無事にここから逃げてもらわないと困るのよ」

凛「キャスター……。アンタ……」


??「久しいなセイバー。覚えているか、我が下した決定を」


うしお「セイバーの知り合い……?」

セイバー「貴様が……なぜここに……」


??「なんだその顔は、未だ覚悟が出来ていないというのか」

??「男を待たせるとは戯けた女だ。だが、こんなみすぼらしい神殿では再会も色褪せるか」


333: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/10(水) 23:20:54.38 ID:hOwTvVaQ0


キャスター「早く行きなさい。私の結界が維持されてる間に……!!」

凛「でも、それは……」

キャスター「貴方だって『アレ』が並じゃないことぐらい分かるはずよ、行きなさい」

キャスター「神殿の崩壊はもう私にも止められないのよ。それともこのまま潰されるつもりかしら?」


ゴゴゴゴゴゴ


凛「…………」

凛「みんな、キャスターが結界を張ってる間に逃げるわよ。急いで!!」

とら「あの金色野郎……!!」

桜「と、とらさん……」

とら「チッ、行くぜ。捕まってろ」


??「色褪せた再会など我には似合わん。今日は雑種と戯れて終わりにするか」

??「いずれ逢うぞセイバー。それまでに覚悟を決めておけ」


セイバー「…………」

凛「蒼月くん!! セイバー!!」

セイバー「はい、今行きます」

うしお「あ、あぁ」


334: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/10(水) 23:30:36.14 ID:hOwTvVaQ0


??「どこまで耐えれるか試してみるのも一興か」

??「雑種、我が戯れに付き合ってやるのだ。少しは愉しませてみろ」


葛木「…………」

キャスター「私がこんなことをしてるのが可笑しいですか、マスター」

葛木「いや、そうでもない」

キャスター「えっ……」

葛木「お前は『こうする側』だと思っていた」

キャスター「マスター……」


ゴゴゴゴゴゴ


??「神殿の崩壊が本格的に始まったか。戯れも終わりだな」


キャスター「マスター、転移の魔術の準備が出来ました」

葛木「うむ」


335: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/10(水) 23:37:53.49 ID:hOwTvVaQ0


キャスター「それでは……」


??「フン」


キャスター「っ!?」

キャスター(大量の武器を飛ばすのを止めて、一本の剣を……)

キャスター(私の結界を破れないと知って苦し紛れに……?)

キャスター「いえ、そんなはずはない。それでも、どんな剣でも私の結界は破れない……!!」


キャスター「……!!」


キャスター(何もないかのように貫通して……そんな宝具知らな……)


キャスター「ぐっ、はっ…………」

葛木「キャスター!!」


??「やはり雑種では愉しめんな。終わりにするか」


336: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/10(水) 23:47:49.14 ID:hOwTvVaQ0


キャスター(だ、駄目。今の私には結界は張れない……!!)

キャスター「マスター逃げてください……!!」

葛木「それは出来ない相談だな」


??「ほう、拳で打ち落としたか」


キャスター「どうして……」

葛木「お前は私のサーヴァントだ。お前を置いて行くことなど出来ない」

キャスター「そ、宗一郎様……」


??「サーヴァントの次はマスターが道化になるか。ならば次も耐えてみせろよ?」


葛木「くっ……がっ……」

キャスター「マスター!!」

葛木「キャスター、蒼月が言っていたな。私たちは強いと」

キャスター「それは……」

葛木「人は誰かのために強くなれる。ようやく気がついた」

葛木「私は、誰かのためになりたかったのだ」


??「終わりだ」


キャスター「マスター!!!!」


337: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/11(木) 00:11:37.15 ID:TbDAlxEa0


「おおおおおおおおおお!!!!」


カキィィン!!


キャスター「あ、あぁ……ど、どうして……」


葛木「あ、蒼月……!!」


うしお「…………」


??「ほう……」


葛木「何故だ蒼月、何故戻ってきた……」

うしお「前にさ、見たんだ葛木先生」

葛木「なに……」

うしお「麻子と真由子が図書委員の仕事してるときに、生徒会の兄ちゃんたちと手伝ってたろ?」

葛木「たった、それだけで……?」

うしお「忘れられねえよ。オレが廊下を走ってたときしかってくれたこともさ」

うしお「そうさ、忘れられるもんかよ。だから……!!」


??「嗤わせる。まさか『槍』も『獣』もなしに我とやるつもりか」


342: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/13(土) 21:59:59.30 ID:7vaGHc090


ガラガラガラ!!

??「チッ、崩れ始めたか。時間切れだな」

??「まぁいい。興ざめな幕切れだが、ここは相応しい場所ではない」


うしお「行ってくれた、のか……?」

ドガッ!!

うしお「うおっ!? 危ねえ!!」

葛木「ここはもう、崩れるな」

うしお「葛木先生、立てるかい?」

葛木「ああ」

うしお「キャスターは……」

ガラガラ!!

キャスター「が、瓦礫が……!!」


凛「ガンドォ!!」

セイバー「はあああ!!」


うしお「遠坂先輩!! セイバー!!」

キャスター「貴方たちまで……」


343: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/13(土) 22:19:09.61 ID:7vaGHc090


キャスター「どうしてお嬢さんまで……」

凛「こんなの心の贅肉よ。でもね、止めても行っちゃうヤツがいるんだから仕方ないでしょ」

凛「それに、ここでアンタに死なれちゃ私が気持ちよく聖杯戦争に完璧に勝ったって言えないじゃない」

キャスター「……フフ、残念ね。もう少し賢かったなら教え子にしてあげてもよかったのだけれど」

凛「う、うるさいわねっ。そんなのこっちから願い下げよ!!」


キャスター「セイバー、貴方が聖杯戦争を理解してないとは思わなかったわ」

セイバー「勘違いするなキャスター。以前の私ならここでお前を確実に仕留めている」

セイバー(……そう、彼らに出会う以前の私なら……。やはり私は……)

ガラガラガラ!!

凛「っと、悠長に話してる時間はなさそうね」

キャスター「はぁ、はぁ……。私は、もういいわ。マスターは逃げてください」

うしお「キャスター、まさか……」

葛木「言ったはずだキャスター。お前は私のサーヴァントだと」

キャスター「マ、マスター!? お、下ろしてくださいっ」


凛「はぁ……。助けに来てお姫様抱っこ見せられるとは思ってなかったわ」

キャスター「う、うるさいわよ!!」


344: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/13(土) 22:26:11.71 ID:7vaGHc090


・柳洞寺山門


桜「姉さん……」

とら「おめえの姉ってやつは馬鹿だぜ」

桜「はい、知ってます」

とら「でもまぁ、先に飛び込んだクソうしおのほうが大馬鹿だけどな」

桜「それも知ってます。でも……」

桜「ふふっ」

とら「あ?」

桜「それは、とらさんのほうがもっとよく知ってますよね?」

とら「けっ……」

とら「さくら、とかいったかよ。わしはやつらと違って馬鹿じゃないのよ」

桜「は、はい」

とら「あーあ、でも仕方ねえよな。りんはわしのますたーだからよ」


とら「わしは行くしかねえのよォ!!」


桜「それも、この国の人たちならみんな知ってますよ。とらさん」


345: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/13(土) 22:59:05.72 ID:7vaGHc090


凛「もうすぐ出口よ!! 急いで!!」


ガラガラガラ!!


うしお「出口が瓦礫で塞がって……」

セイバー「くっ……」


ドガーン!!


とら「おめえらなにをやっとる!! さっさと走れェ!!」


セイバー「トラ!!」

うしお「うおおおおおお!!!!」


346: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/13(土) 23:12:09.45 ID:7vaGHc090


凛「はぁはぁ……。間一髪ってやつね……」

うしお「なんとか、脱出できたんだよな……」


キャスター「マスター、もう大丈夫です。下ろして、ください……」

葛木「ああ」

キャスター「ハァ……ハァ……」

サァァァ

葛木「これは……。どういうことだ、説明しろキャスター」

キャスター「どうやら、私はここまでのようです。マスター」


セイバー「キャスター……」

うしお「遠坂先輩、なにか方法は!?」

凛「すでにキャスターの身体は消えかかってる。今から葛木先生がなにをやっても手遅れよ」

うしお「そんな……」


347: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/13(土) 23:57:06.99 ID:7vaGHc090


キャスター「でも、良かった……。貴方の望みが叶って……」

葛木「キャスター……」

キャスター「私は、駄目ね……。分かっていたのに、私のやり方では……ぐっ……」

キャスター「願望機などでは、貴方の望みは叶わないって……。それでも、ねぇ……」

葛木「…………」

キャスター「眩しい、わね……」

うしお「えっ……?」

キャスター「フフ……。姉妹の絆も、坊やの輝きも、私には眩しすぎるわ……」

キャスター「目を背けたくなるほどよ……」

凛「キャスター……アンタ……」


葛木「キャスター、お前の望みを言え。例えお前が消えたとしても、私が代わりに果たす」

キャスター「いいえ、それは必要ありません。だって、私の望みも……」


キャスター「先ほど叶いましたから」


348: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/14(日) 00:03:54.76 ID:rC6jqDiD0


『初めて会ったときも、雨、でしたね』


『…………』


『待って』


『なんだ』


『傘は?』


『必要か?』


『……いいえ。でも、肩に小鳥がとまりたがっていますから』


『そうか。そうだな』


349: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/14(日) 00:17:12.93 ID:rC6jqDiD0


ポタ、ポタタ


凛「雨、か……」

うしお「葛木、先生……」


葛木「…………」


葛木「遠坂」

凛「えっ」

葛木「私はキャスターを失った」

葛木「私は聖杯戦争に詳しくはない。この後どうすればいいか教えてくれ」

凛「あ、は、はい」

うしお「葛木先生……」

葛木「安心しろ蒼月。私はもう聖杯戦争に関わるつもりはない」

うしお「あぁ、分かってるよ」

葛木「そうか」


葛木「……雨が、強くなってきたな」


350: ◆I4R7vnLM4w 2017/05/14(日) 00:20:03.04 ID:rC6jqDiD0


セイバー「トラ。キャスターのマスター。あの男との決着はいいのですか?」

とら「わしは無粋な真似はせんのよ」

セイバー「フッ、アサシンの真似ですか」

とら「へっ……」


とら「それより剣使い、あの金色の野郎はなんなんでえ?」

セイバー「それは……」


354: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/06(火) 22:29:10.37 ID:2rXJrzBr0


・間桐邸地下蟲蔵


杜綱「これで終わりだ。柳月派不動縛呪!!」

臓硯「ぐぐ……。光覇明宗がァ……」

杜綱「この縛呪を断ち切ることはお前には出来ない。観念してもらおうか、マキリ」

臓硯「ククク、観念か。それより今更わしに光覇明宗が何用じゃ?」

杜綱「今回の聖杯戦争、いや、前回の聖杯戦争でもお前が暗躍していたことを光覇明宗は掴んでいる」

臓硯「ほう。さすがはこの国の中枢組織、褒めてやろうか」

杜綱「そして紫暮様はこの土地で見張っていたのだ。本物のお前が動き出すときを」

臓硯「前回の聖杯戦争のときから、やはりあの男……」

臓硯(キャスターから逃れるために本体を動かしたのを感づかれたか……。だが、すでに本体は……)

杜綱「妖に成り果ててまで叶えようとしたお前の野望もここまでだ」

杜綱「悪行を繰り返す妖を光覇明宗は決して見逃さない」

臓硯「そうか……。だが、ここはわしの蟲蔵よ……」

臓硯「貴様一人で、何が出来るかの……!!」

カサカサカサ

??「土剋水!!」


355: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/06(火) 22:41:14.85 ID:2rXJrzBr0


臓硯「誰じゃ!?」

日輪「お前こそ、元獣の槍伝承候補者をなめないでもらいたいな」

臓硯「ぐっ……二人おったか……」

日輪「油断するな杜綱。縛呪で縛られていても蟲を操ることは出来るみたいよ」

杜綱「あぁ、紫暮様が監視をしていた相手だ。何かあるはず……」

日輪「しかし……。早くしろ杜綱、さすがの私でもこの場所は不快だ」

杜綱「確かに。純を連れて来なくてよかったよ」

臓硯「クク……」

杜綱「これで本当に終わりだ。式神、ヒルコ!!」

臓硯「がっ……はっ……」

臓硯「…………」

臓硯「……」


356: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/06(火) 22:47:47.51 ID:2rXJrzBr0


日輪「終わったね」

杜綱「そうだな……」

日輪「どうしたの杜綱。何か変よ?」

杜綱「いや、紫暮様が危惧していた相手にしては……」

日輪「それより報告よ。杜綱はまた教会の監視に戻るんでしょ?」


??(……教会の監視……? なぜ、光覇明宗が教会を……)


杜綱「それなんだが日輪、報告と監視を代わってはくれないか?」

日輪「私は別に構わないが……。何かあるのか?」

杜綱「紫暮様は間桐慎二が入院している病院にいるだろうからね」

日輪「そういうことか。分かった、教会の監視は私が引き継ごう」

杜綱「すまない日輪」

日輪「お前も相変わらずね杜綱」

杜綱「あぁ、いつも純に過保護すぎると怒られてるよ」

杜綱「それでも兄妹の問題は見過ごせな……っ!?」

臓硯「…………」

日輪「杜綱?」

杜綱「いや、なんでもない。気のせい、か……」


357: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/06(火) 22:55:56.40 ID:2rXJrzBr0


・潮の部屋


うしお「遠坂先輩、あれから葛木先生はどうしたんだい?」

凛「すぐに入院よ。立っているのが不思議なぐらいだったんだから」

うしお「そうか……。そうだよな、キャスターの盾になったんだから」

凛「ええ、でも葛木先生は大丈夫よ。命に別状はないわ」

うしお「それならよかったぜ」

凛「それより蒼月くん、今の私たちにはもっと気にしないといけないことがあるわよ」


358: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/06(火) 23:05:06.39 ID:2rXJrzBr0


うしお「それじゃ、あの金色のヤツは前回の聖杯戦争から!?」

凛「それ以外に考えられないのよ」

凛「私はアーチャーの枠を使ってとらを特殊に召喚した。これは色々偶然が重なった結果ね」

凛「例外は確かにある。それでも聖杯戦争で呼び出せるサーヴァントは七騎だけ、これは変えられないはずよ」

凛「そうでしょセイバー?」

セイバー「そうですね。それが聖杯戦争の基本ルールのはずです」

とら「八人目の野郎がいるなら、そいつァ前回の勝者しかいねえってことかよ」

うしお「セイバーはアイツと知り合い、なんだよな……?」

セイバー「知り合い、いえ、そういうワケでは……」

凛「アイツの正体だけでも分からないの?」

セイバー「前回の聖杯戦争でも、私は正体が分かりませんでした」

凛「昨日の夜、山ほど宝具を使ってたのよ。正体を探るなんてこと」

セイバー「その山ほど飛ばしてきた宝具、どれか一つでも見覚えがありましたか?」

凛「えっ、まさかそんなこと……」

うしお「とらはなんか見覚えねえのか?」

とら「けっ、わしが人間の武器なんか覚えとるわきゃねーだろ」

とら「あのクソ忌々しい槍以外はなァ!!」

うしお「言うと思ったぜ……」


359: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/06(火) 23:15:32.15 ID:2rXJrzBr0


セイバー「英雄の証である宝具を、あの男は湯水のように持っているのです」

セイバー「そしてなにより私が不思議に思っているのは……」

うしお「もしかしてセイバーの剣も……?」

セイバー「ウシオ、気づいていましたか」

とら「チッ、わしの見間違いじゃねえようだな」

凛「ちょ、ちょっとなによ、なんの話?」

うしお「あの宝具のなかに『獣の槍』があったんだ」

凛「ど、どういうこと!?」

うしお「オレにも分からねえんだ」

とら「あれは獣の槍じゃねえよ。確かに似てはいたが剣にも見えたしな」

凛「まさか獣の槍が二本あったってこと?」

うしお「いや、それはないと思う」

うしお「前に妖怪たちが獣の槍を作ろうとしたことがあるんだけど、それはオレが止めたよ」

うしお「それに獣の槍は、作ろうと思って作れるものじゃねえんだ」

とら「そういうことよ。あんなもんがそう簡単に何本もあってたまるかよ」

凛「蒼月くんたちがそう言うならそうなんでしょうけど……」

セイバー「獣の槍を持った英雄が他にもいたというのは?」

うしお「獣の槍を使い続けた人間は、字伏っていう妖怪になるんだ。だからそれも違うと思う」


360: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/06(火) 23:24:04.96 ID:2rXJrzBr0


うしお「セイバーの剣もあの宝具の中にあったのかい?」

セイバー「はい、厳密には私の剣とは違う形状でしたが、あれはどう見ても……」

凛「獣の槍やセイバーの剣を持った英雄……? 何よそれ反則じゃない……」

とら「あの野郎が誰だろうと関係ねえよ。次に会ったときはブッ倒す、それだけよォ」

うしお「そうは言ってもよ、とら。アイツの正体だけでも知ってないと困るだろ?」

とら「けっ、わしは必要ねえな」

うしお「ったくよ。なぁセイバー、セイバーは前回の聖杯戦争も参加したんだろ?」

セイバー「はい、そうですね」

うしお「そのときのことを話してくれないか?」

セイバー「前回の……」

うしお「もしかしたらアイツの正体が分かるヒントがあるかもしれねえしよ」

セイバー「……これはいい機会なのかもしれません」

うしお「セイバー……?」

セイバー「いつかは話すつもりでした。ウシオ、貴方は聖杯戦争と全くの無関係ではないのですから」

うしお「えっ……」

セイバー「私の前回のマスターには一人の協力者がいました。それはウシオ、貴方の」


ダッダッダッ、バタンッ


麻子「う、うしお!! 桜先輩がっっ!!」


361: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/06(火) 23:34:42.40 ID:2rXJrzBr0


【第二十話 遠い約束の夜へ 】


362: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/06(火) 23:51:00.50 ID:2rXJrzBr0


・蒼月家居間


真由子「桜先輩っ!!」

桜「…………」ガクガク


キリオ「真由子姉ちゃん放れて!!」

イリヤ「キリオ、サクラを縛るわよ」

キリオ「分かった!!」


凛「桜……!!」

うしお「桜姉ちゃん!!」


桜「…………」グググ


うしお「これは、どうなってんだ!?」

麻子「急に桜先輩の様子がおかしくなって、暴れだしたのよ……」

凛「なんで、桜……」

イリヤ「今は私の魔術とキリオの法力で抑えてるわ」

キリオ「この力、このお姉ちゃんの力じゃない……?」


363: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/07(水) 00:07:51.22 ID:jDv4vkxI0


セイバー「まさかキャスターの洗脳がまだ?」

凛「キャスターはもういない、それはないわ」


桜「…………」グググ

パキィン!!


キリオ「そ、そんな……」

イリヤ「へぇ、やるわねサクラ。今のを破るんだ」

うしお「桜姉ちゃんっ!!」


桜『……手間取らせる。ここまで抵抗したのは蟲蔵に初めて入れたとき以来かの』


凛「さ、桜……?」


桜『ほう、なるほど。昔を思い出す出来事でもあったか』

凛「その声、でも、なんで……」

うしお「これは、いったい……」

桜『クックッ、やっと大人しくなりおったわ。こやつらの前では醜態を晒したくないか』


364: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/07(水) 00:24:07.12 ID:jDv4vkxI0


桜『この小娘は返してやる。お前たちもそこで大人しくしておるんじゃな』

フラッ

凛「桜……!!」

麻子「桜先輩!!」


セイバー「今のは、どういうことなのですか……」


とら「……ちっ、わしとしたことが今まで気付かんかったかよ」

うしお「とら!? どういうことだ!?」

とら「その女の身体のなかに『変化』がとり憑いてやがるのよ」

うしお「変化って……。石喰いのときのヤツかっ!!」

とら「ほーう、本当にちったぁお前もモノを覚えるようになったか!!」

うしお「なにをーー!!」

うしお「……とら。今、身体のなかって言ったよな」

とら「あぁ? それがどうし」

ダッダッダッ

とら「おいっ!! うしお!!」


365: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/07(水) 00:36:23.41 ID:jDv4vkxI0


・蒼月家洗面所


うしお「おんじ!! 雲外鏡のおんじ!!」

うしお「日本中の鏡はおんじに通じてる。そうだよな、おんじ!!」

とら「なーんだ、じじいになに聞くんだよ」


セラ「あれはウシオ様……?」

リズ「鏡に向かって、話しかけてる」

セラ「み、見なかったことにしましょう」

リズ「やっぱり、この間のアレが不味かったのかも」

セラ「え?」


リズ『練習でも、手加減、しない』

うしお『こっちだってさ!!』

リズ『行くよ。あっ』コケッ

うしお『リズさん!? えっ』ゴチーン


リズ「ハルバード、脳天直撃」

セラ「あなたはなにをしてるのですか……」


366: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/07(水) 00:42:23.75 ID:jDv4vkxI0


うしお「駄目か……。あっ」

うしお「セラさんリズさん、いいところに!!」

リズ「見つかった」

セラ「な、なんでしょうウシオ様」

うしお「雲外鏡のおんじを呼んでるんだけど反応がなくてよ」

うしお「一人で呼ぶより三人で呼ぶほうがおんじも聞こえると思うんだ」

うしお「二人とも手伝ってくれよ!!」

セラ「え、あ、わ、分かりました……」

リズ「ウシオ、やっぱり打ち所が悪くて……」

うしお「なんの話だい? とにかく行くぜ!!」


うしお「雲外鏡のおんじ!!」

リズ「おんじー」

セラ「お、おんじー」


??「……この声は聞いたことがあるのとないのがあるぞ」

??「だーれじゃ、わしを呼ぶのは」


370: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 17:56:15.78 ID:q9dcR5S+0


うしお「雲外鏡のおんじ!!」

おんじ「なんじゃ蒼月潮か。久しぶりじゃの」

リズ「鏡の、中に」

セラ「こ、この方が、おんじ様ですか?」

おんじ「お~、こりゃべっぴんさんが二人も。なんじゃ紹介してくれるのか?」

うしお「おんじ!! 頼みがあるんだ!!」

おんじ「頼みィ? おい蒼月潮、人間の頼みごと一つでわしを呼んだのかァ?」

おんじ「あのな、白面のときは手を取り合ったが本来、妖怪と人間っていうのはだな」

うしお「それは分かってるっておんじ!! 急ぎなんだ!!」

セラ「おんじ様、ウシオ様の頼みごとを聞いてはもらえないでしょうか」

おんじ「うっ……」

リズ「おんじ、お願い」

おんじ「わ、わしは色んな鏡からべっぴんさん見とるから、む、無駄じゃぞ」

リズ「そんな」

セラ「おんじ様……」

??「おい、それなら誰が頼めば聞いてくれるんだよ?」

おんじ「えっ……」

とら「よう、じじい」


371: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 18:04:07.43 ID:q9dcR5S+0


おんじ「げぇぇ~~!? 長飛丸ぅぅ~~!?」パリンッ

とら「けけっ」

おんじ「ど、どうなっとるんじゃ……。妖が復活するには、そりゃ長い時間がかかって」

うしお「それはまた今度説明するからさ!!」

うしお「おんじ、イズナだ!! イズナを呼んでくれ!!」

とら「イズナ? そういうことかよ」

おんじ「イズナだァ? あのな蒼月潮、妖怪と人間は」

とら「じじい、話が進まねーだろ。とっととイズナ呼んで来いよ」

バチバチ、ビリビリ

おんじ「は、はい~~~~!!!!」


リズ「トラ、頼もしい」

セラ「よ、よかったのですか、トラ様」

とら「いいんだよ。この手に限るぜ」

うしお「いいのかなァ……」


372: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 18:32:16.16 ID:q9dcR5S+0


イズナ「うしおーーっ!!」

うしお「イズナっ!! 元気だったか!?」

イズナ「バッカ、妖怪に元気もなにもないって言ったろォ!!」

セラ「本当に鏡の中から出て……。魔術ではないのですよね……」

リズ「かわいい」

イズナ「ん? こりゃまた綺麗どころが増えてるなァうしお」

イズナ「北海道まで駆けつけてくれた五人じゃ飽き足らず、また二人も増やしたのかい」

うしお「な、なんの話だ?」

とら「けっ」

イズナ「よォ、長飛丸~~!!」

とら「お前はあんまり驚かんのだな」

イズナ「どうせ長飛丸のことだからな!!」

イズナ「いつかはうしおのところに戻って来ると思ってたのよォ!!」

ゴォォォォ

イズナ「きゃーー!! これこれ久しぶり!! きっくーーっ!!」

リズ「いいノリしてる」

うしお「イズナは相変わらずみたいだなァ」

セラ「だ、大丈夫なのですか?」

イズナ「綺麗な姉ちゃん、妖怪にはこんなもん挨拶みたいなもんよォ」


イズナ「ふー、さてと挨拶も済んだってことで……。聞かせてもらおうかい」

イズナ「七十五匹の眷族をもつ人間体内のエキスパート……」

イズナ「この『イズナ』様を呼んだ理由を」


373: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 19:05:00.59 ID:q9dcR5S+0


イリヤ「上手いことやってるわね。キリオのほうはどう、こっちが専門でしょ?」

キリオ「駄目だ、完全に妖にとり憑かれてる。法力で無理やり倒すとこのお姉ちゃんが危険だよ」

凛「そんな……」

真由子「桜先輩……」


イズナ「なーるほどねぇ。大体の事情は分かったぜい」

麻子「イズナくん!?」

イズナ「よォ姉ちゃんたち、久しぶり!!」

セイバー「ウシオ、こ、この者は……?」

うしお「イズナさ。前に世話になった妖怪なんだ。詳しい話は今度するよ」

セイバー「分かりました……。そのときにはその、触ってもいいですか?」

うしお「えっ?」

セイバー「い、いえ、なんでもありません」


イズナ「こんなことは長の頼みでもない限りやらないんだが、うしおの頼みじゃ断れねえや」

イズナ「でもよォうしお、杜綱んときは獣の槍があったから体内に入れたんだぜい?」

イズナ「この姉ちゃんを助けたいのは分かるけど、人間のうしおを体内に連れてくことは出来ねえや」

うしお「いや、獣の槍はあるんだ。イズナ」

イズナ「け、けけ、獣の槍がある!?」


374: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 19:19:01.09 ID:q9dcR5S+0


うしお「とら、頼む」

とら「待ちなうしお。おめえ分かっとんのか?」

とら「わしの宝具『獣の槍』には制限時間がある」

とら「この女の体内に入ることに力を使えばいつもの二倍、いや三倍の早さよ」

とら「本物の獣の槍のように妖になるワケじゃねえ、魔力がなくなり次第おめえはただの人間になる」

とら「そうなりゃイズナの力があったって、おめえは死ぬだけよ」

うしお「杜綱さんのときと同じ、いや、それよりもか……」

うしお「それでもよ、とら、オレは行きてえんだ」

うしお「桜姉ちゃんに何がとり憑いてるかは知らねえさ」

うしお「でもよ、もし婢妖みてえのがとり憑いてて苦しんでるなら助けてやりてえよ」

とら「てめえが死ぬかもしれねえ、それでもかよ?」

うしお「これからだったんだぜ。桜姉ちゃん、遠坂先輩を姉さんって呼んでた。もっと呼んでもらいてえよ」

凛「蒼月くん……」

とら「けっ、まぁ分かっとったがな」

とら「だが決めるのはわしじゃねえ。りんだ」

凛「私……?」


375: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 19:35:39.44 ID:q9dcR5S+0


とら「宝具は大量の魔力を消費する」

とら「連戦で魔力が低下してるおめえじゃ獣の槍を維持出来るか分からねえぞ、りん」

凛「…………」

凛「まだ、よく理解出来てないけど……」

凛「宝具『獣の槍』を使えば桜を救えるっていうなら……。やって、とら」

とら「やれるのかよ?」

凛「私の魔力が完全になくなったとしても、維持してみせるわ」

とら「……おめえがそこまで言うとはな」

凛「だってここでおりたら、それこそ本当に姉なんて名乗れないわよ?」


キィィィィン

パシィッ


うしお「とら!!」


とら「わしは行かんぞ。人間の体内なんて二度と行かんと決めとるからな」


うしお「へっ、ありがとよ!!」

凛「これだけで十分よ、とら!!」


376: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 20:39:13.24 ID:q9dcR5S+0


イズナ「うしお……。それ、本当に獣の槍なのかよ!?」

うしお「すまねえイズナ、説明してる時間はねえんだ。頼む、やってくれ」

イズナ「よ、よし、分かったぜい」


うしお「キリオ、イリヤ、何が起こるか分からねえ。桜姉ちゃんを抑えといてくれ」

キリオ「うん、分かったよ」

イリヤ「こっちは任せなさい、ウシオ」

うしお「セイバーもキリオたちを手伝ってやってほしいんだ」

セイバー「分かりました。サクラを助けに行くのですね?」

うしお「あぁ」

セイバー「止めるつもりはありません。ウシオ、ご武運を」


真由子「うしおくん、桜先輩を助けてあげて」

うしお「真由子、もちろんさ」

麻子「えいっ」

うしお「な、なんだよ麻子?」

麻子「私たちはまだ遠坂先輩がお姉さんだとかの話を聞いてないわよ?」

うしお「し、しかたねーだろ。そんな時間なかったんだ」

麻子「だから、絶対無事に戻ってきて説明しなさいよね、うしお」

うしお「……あぁ、分かったぜ」


377: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 20:48:25.78 ID:q9dcR5S+0


うしお「それじゃ、行ってくる」

凛「待って!!」

うしお「遠坂先輩……?」

凛「私も連れて行って」


とら「はぁ~~~~!?」


凛「私も行くわ」

とら「馬鹿言うんじゃねえ!! りん、おめえはここで宝具の維持に専念すんだよ!!」

凛「その宝具の維持だって蒼月くんの状況が分からないと出来ないわよ」

とら「馬鹿より馬鹿がいやがったかよ……。おいうしお!! こいつを止めな!!」

凛「蒼月くん。あの声、いえ、桜にとり憑いてるヤツに心当たりがあるの」


凛「きっとこの戦いは……『遠坂』の私が行かなきゃならない使命なのよ」


うしお「……よし、行こう!!」


378: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 21:01:22.22 ID:q9dcR5S+0


イズナ「長飛丸は来ねえのかー?」

とら「うるせえーーっ!! そんな馬鹿どもに付き合いきれるか!!」


凛「とら……」

とら「りん、おめえ死ぬかもしれねえんだぞ!? 聖杯戦争はどうすんだよ!?」

凛「それでも行くわ。もう決めたのよ」

とら「わしは行かんぞ!!」

とら「わしを連れてきたきゃ令呪でも使うんだなァ!! 令呪でもよォ!!」

凛「使えないわよ、令呪なんて。だってこの戦いは聖杯戦争とは違う私の戦いだもの」


とら(こんのォ馬鹿がァ~~。てめえの呼び名で令呪を使ったヤツが言うことか~~!!)


凛「……ごめん、とら」


とら「あ?」


凛「聖杯戦争に勝ち残るって約束、私のほうから破りそうだわ」


とら「…………」


379: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 21:17:21.23 ID:q9dcR5S+0


うしお「遠坂先輩、オレと一緒に槍を握るんだ」

凛「えぇ、分かったわ」

イズナ「ククッ」

うしお「なんだイズナもか。ははっ」

凛「蒼月くん?」

うしお「あぁごめんよ。前にも同じことがあったからおかしくてよ」

とら「……おいうしお、なに笑ってやがるんだよ」

うしお「別になんでもないさ、とら」


とら(その期待した目~~!! ムカつく!! てっぺんきた!!)


イズナ「それじゃ、行くぜーーっ!!」


とら「くそったれい!!!!」


凛「とらっ!?」

うしお「とらァ!!」


とら「勘違いすんじゃねーぞ!! うしお!! りん!!」

とら「りんはわしのますたーなのよ!! だからしかたねーの!!」

とら「それに獣の槍はわしの宝具!! どんな使い方されるか見とかんとなァ!!」


凛「フフ、なるほどね。そういうことか」


380: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/10(土) 21:22:06.59 ID:q9dcR5S+0


うしお「へっ……。よし……」




うしお「行っくぞーっ!! とらーーっ!!」


とら「うるっせーんだよ!! うしおーーっ!!」






おんじ「なんじゃなんじゃ、こりゃどうなっとるんじゃ……」




384: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/29(木) 23:03:35.58 ID:12y1CqG30


セイバー「ウシオ……」

麻子「大丈夫ですよ。セイバーさん」

セイバー「アサコ、ですが……」

麻子「あいつは絶対戻ってきます。私たちのところへ」

セイバー「信じているのですね、ウシオを」

麻子「アホでバカだから遅刻することもありますけどねっ」

セイバー「分かりました。信じましょう、私も」


385: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/29(木) 23:09:13.72 ID:12y1CqG30


・桜の体内


イズナ「なーんだ。長飛丸、やっぱり来たのかァ」

とら「おいイズナ!! おめえも勘違いしとるようだな!!」

イズナ「もう分かってるってー。うしおとその姉ちゃんの為じゃないんだろォー?」

とら「イズナァァァァ!!!!」

イズナ「ひゃーーっ!! って長飛丸、どうやらあちらさんから来てくれたみたいだぜい」


蟲「……!!」

カサカサカサ、カサカサカサ


イズナ「こりゃまた●●な形をした妖だなァ」

とら「数も大きさも婢妖と似てやがるがよ、気味がわりいな」


386: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/29(木) 23:16:56.75 ID:12y1CqG30


凛「こんなのが桜の身体の中に……」

うしお「遠坂先輩、大丈夫かい?」

凛「なんとかね」

うしお「そうか、よかった」

凛「これが獣の槍なのよね。まさか自分で握ることがあるなんて思ってなかったけど」

うしお「でも遠坂先輩の髪は変わってないけど、なにかあるのかな?」

とら「わしが選んだ宝具の使用者がおめえだからだよ」

うしお「使用者?」

とら「槍の力は今うしおとりんに分散されてるが、使用者って括りならうしおだからな」

凛「なるほどね、そういうことか」

とら「その槍の力も、おめえら二人分が体内に入ることに使ってんだ。分かってんのか、りん」

凛「そうね、時間がないわ。蒼月くん。私のことはいい、派手にやって」


うしお「遠坂先輩……。よーし、分かった!!」


イズナ「あーあ、姉ちゃん。コイツらにそんなこと言っていいのかい?」

凛「えっと、イズナ、くん? どういう意味?」

イズナ「イズナでいいぜい姉ちゃん。まぁ見てなって」


387: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/29(木) 23:34:40.04 ID:12y1CqG30


蟲「……!!」

カサカサカサ、カサカサカサ


うしお「数が多いな……」

うしお「とら、来いっ!! こんなときは分かってるよなァ!!」


とら「わしに命令するんじゃねえクソうしお!!」

とら「だが……。へっ、あの方法かよ!!」


凛「ちょ、ちょっと待ってよ。派手にって言ったけど少しは手加減……」

イズナ「もう聞いちゃいねえや」


うしお「うおおおお!!!! 蹴散らせええええ!!!!」

とら「はーっはっはっはっはっ!!!!」


凛「言うんじゃ……なかったわ……」


388: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/29(木) 23:41:52.98 ID:12y1CqG30


蟲「…………」カサカサカサ


うしお「なんだ、逃げていく……?」

とら「臭うぜ。こいつらの親玉はこの先よォ」

うしお「イズナ、この奥はどこなんだ?」

イズナ「人間で言うところの心臓って部分だな」

凛「桜の、心臓に……」


イズナ「道を抜けるぜぇ。この先はいっきに広くなるんだ、気をつけてくれよ!!」


うしお「なっ……。あ、あれは……!?」

凛「心臓に何かが張りついてる!?」

うしお「なんて大きさなんだ、こんなのが桜姉ちゃんの心臓に……」


とら「タコが、間違えるんじゃねえ。今のわしらは小さくなってんだ」

とら「あんなのは外から見たらおめえらの親指大ほどしかねーよ」


うしお「そ、そうか……。とにかくアイツを心臓から切りはなさねえと!!」ダッ

イズナ「うしお駄目だーーっ!!」

凛「な、なに!?」


389: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/29(木) 23:52:31.13 ID:12y1CqG30


うしお「イズナ? どうしたんだ?」

イズナ「あぁそうか、そういうことか。長飛丸が気づかねえのも無理はねえや」

とら「おいイズナ!! なんなんだよ、あんな変化一匹わしの雷で」

イズナ「そいつは出来ねえぜ長飛丸」

イズナ「この妖は、この姉ちゃんにとり憑いてるんじゃねえや」

イズナ「姉ちゃんの心臓に、直接とり憑いてやがるのさ!!!!」


とら「な、なにィ~~~~!?」


イズナ「長飛丸の雷なんて当てたらどうなるか、人間の心臓は妖と違ってデリケイトなんだぜ?」

とら「で、でり……?」

凛「それじゃ……」

うしお「あの変化は、倒せない……!?」


??「だから言ったじゃろう。大人しくしておれと」


凛「こ、この声……!!」


??「貴様らには、何も出来ないのだからの」


凛「やっぱりアンタは……。間桐、臓硯……!!!!」


臓硯「カカッ……」


390: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/30(金) 00:12:21.71 ID:Ifrpe99S0


うしお「まとう、ぞうけん……。間桐ってことは間桐先輩や桜姉ちゃんの!?」

凛「ええ、そうよ。あの慎二の祖父、間桐家の実質的当主よ」


臓硯「遠坂の小娘がここまで来るとはの」


凛「話してもらえるんでしょうね、間桐臓硯」

凛「これはどういうことなのか。なんでアンタが桜の心臓にとり憑いてるのかを!!」


臓硯「うむ、いいじゃろう。ここまで来た褒美にわしの望みを聞かせてやろうか」


391: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/30(金) 00:15:27.46 ID:Ifrpe99S0


桜「…………」


真由子「桜先輩の震えが止まった……」

麻子「終わった、ってこと……?」


イリヤ「いいえ、サクラが起きる気配がないわ」

キリオ「妖の力もまだ感じるよ」


セイバー「むしろ、これから、ということですか」

麻子「これから……」

真由子「うしおくん……」


392: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/30(金) 00:26:15.56 ID:Ifrpe99S0


うしお「それじゃ、桜姉ちゃんは子供の頃からお前に……!?」

凛「……っ……」


臓硯「カカッ、貴様らにも聞かせたかったよのう」

臓硯「蟲蔵に放り込んで初めの三日は、そりゃもう散々な泣き叫びようじゃったからの」


うしお「こォの、ヤロォ……!!」


臓硯「見せたかったよの遠坂の小娘。四日目からは声すら上げなくなったこの小娘の姿をォ」


凛「…………」


凛「……蒼月くん。この槍、貸してもらうわね」

うしお「えっ、遠坂先輩……!?」


凛「アイツはここで……。私が殺す……!!!!」


臓硯「いいぞォ遠坂の小娘。いい貌じゃ」


凛(……憎い、憎い、アンタが憎い……!!!!)

うしお「獣の槍を通して、遠坂先輩の感情が流れ込んでくる……!?」


393: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/30(金) 00:48:05.97 ID:Ifrpe99S0


イズナ「姉ちゃんどうしちまったんだ、いきなり仕掛けるなんてよ!!」

とら「ちっ、宝具は宝具でもあれは獣の槍かよ……。槍自身が使用者を選びやがった……」

イズナ「あの心臓に攻撃しちゃ駄目だぜ!! この姉ちゃんが危ねえよ!!」

とら「おいうしお!! りんを止めなァ!!」


凛(……憎い……憎い……!!)


うしお「ダメだ遠坂先輩っ!!」

凛「なんで止めるのよ蒼月くん!?」

うしお「それじゃダメなんだよ……」

凛「どうしてよ!? 蒼月くんは桜を助けたくないの!?」

うしお「助けたいさ。でも今の先輩のままじゃ桜姉ちゃんは助けられない」

凛「そんなことないわ。今すぐアイツを殺せばいいのよ……!!」

うしお「いいや。きっと、この槍は砕けちまうよ」


うしお「オレのときみたいにさ」


凛「……っ!?」


うしお「あいつが許せないのは俺も一緒さ。だからよ、一人でやろうとなんてしないでくれよ」


凛「……わ、私……なんで……」


394: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/30(金) 01:02:00.61 ID:Ifrpe99S0


臓硯「……あの白面を倒した小僧か。不要なことをするわ」


うしお「間桐臓硯……。お前の思いどおりにはさせないさ!!」


イズナ「人間ってのはちょっと見ない間にあんなに変わるもんかねぇ。妖とは大違いだぜい」

とら「へっ、コーコーセーとかいうのになってマシになったかよ。だがまぁ、悪かねえぜ」


臓硯「せっかく良い貌をしておったのにのォ、遠坂の小娘」

臓硯「貴様らには分からんか、長年生きとると色々と飽いてくるものよ。なのだが……」

臓硯「飽きんよなァ、あの人間の憎悪を貌だけは……ククク……」


とら「けけっ、けけけ!!」

イズナ「へへっ、おいおい長飛丸。あんまり笑ってやるとカワイソウだぜい?」

とら「悪い悪い。ここに来る前のうしおじゃねえが笑うのを耐えられなかったぜ」


臓硯「同じく白面を倒した妖怪のサーヴァント……。何が、そんなに面白い?」


とら「いやァ、あんまりにも面白くてよォ」

とら「もっと聞かせてくれよ。たかが数百年しか生きてねえ変化の話をよ」


395: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/30(金) 01:55:44.86 ID:Ifrpe99S0


臓硯「その口ぶり、生前は大層な妖怪じゃったろうが……」

臓硯「今の貴様は魔力で動く人形、ただのサーヴァントじゃ」

臓硯「ククク……。貴様を殺すのも」


蟲「!!!!」


うしお「巨大な蟲が四方から……!?」

凛「とらっ!!」


臓硯「簡単じゃ」


とら「で?」


ドゴッ!!


蟲「」


臓硯「なっ……」


とら「誰が、誰を、殺すってぇ?」


396: ◆I4R7vnLM4w 2017/06/30(金) 01:59:15.06 ID:Ifrpe99S0


セイバー「始まったようですね」


桜「…………」ガタガタ


キリオ「結界を張るよ。お姉ちゃんたちは下がって」

真由子「私たちにも何か出来ることがあればいいんだけど……」


イリヤ「…………」

リズ「イリヤ、どうしたの」

イリヤ「ウシオたちが突入して、どれくらい経ったか分かる?」

セラ「三十分以上は経ったかと」


イリヤ「……不味いわね」


麻子「イリヤちゃん……?」


398: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/02(日) 02:34:56.13 ID:SbmFcXbs0


臓硯「行け、行け、蟲どもよ。奴らを嬲り殺しにしてくれるわ」


蟲「……!!」カサカサカサ

蟲「……!!」カサカサカサ


イズナ「おーおー、大勢お出ましだぜい!!」

とら「イズナ、東の妖たちはどうなっとる!? あんな若僧の変化にデカイ顔させとるのかよ!!」


イズナ「仕方ねえだろー? 長たちがこの国の礎になってから東もゴタゴタしてんだ」

イズナ「今の東の妖は、遠野妖群頭の一鬼が長を引き継いでなんとかなってるけどよ」


とら「一鬼が長だァ!? くっ、くくく、そいつァ見物だな」


イズナ「東は西と違って仲間意識があるっていっても、変化まで面倒見切れねえのさ」

イズナ「ああいう変化もいるってことだぜ。珍しくもねえや」


とら「あーあ、最近はあんな妖が増えてんのかねえ」


イズナ「妖だって色々いるんだぜい。長飛丸を知らない妖だって、ましてや変化なら当然いるって」

とら「けっ。まぁ、獣の槍に五百年はりつけにあってたからな。知名度低いのは認めるさ」


399: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/02(日) 02:42:31.95 ID:SbmFcXbs0


蟲「……!!」カサカサカサ


うしお「キリがねえ!! おいとらァ!!」

うしお「大口叩いといて何か方法あるんだろうなァ!?」


とら「クソうしおが!! そんなもんあったらとっくにやっとるわい!!」

とら「あんなカスに負ける気はしねえが……。ん……?」


凛「はぁ、はぁ……。なんとか、アイツを桜の心臓から離さないと……」

イズナ「姉ちゃん大丈夫かよ!?」

うしお「遠坂先輩っ!!」

とら「りん、おめえ魔力が限界を……」

凛「はぁはぁ……。私が槍を、暴走させたせいだわ……」

とら「ちげえよ。始めから無理だったろうがよ、二人分も体内に入る魔力なんてよ」

凛「それでも、ね……。一秒でも早く、桜を助けたいじゃない……」

凛「桜が、間桐に行って、姉らしいこと私、全然やれなかったからさ……」

とら「りん……」

うしお「遠坂先輩……」


400: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/02(日) 03:29:26.76 ID:SbmFcXbs0


とら「もういいイズナ。引き上げだ!! 脱出すんだよ!!」

イズナ「だ、脱出っていっても……。長飛丸、この状況じゃ……」


蟲「……!!」カサカサカサ

蟲「……!!」カサカサカサ


うしお「うおおおお!!」

凛「はぁ、はぁ……」


うしお「すまねえイズナ。オレが突破口を開くから道案内してくれねえか」

イズナ「うしお、姉ちゃんを抱えながらで戦えるのかよ!?」

うしお「大丈夫さ。でも、獣の槍が重くなり始めてる」

とら「宝具の時間切れかよ!? ちっ、魔力がねえなら当然か……」


臓硯「カカッ。あれだけ吠えておきながら尻尾を巻いて逃げるとはの、所詮はケモノか?」

臓硯「逃がしはせん。行け蟲ども、そのまま喰らい尽くすがいいわ」


蟲「!!!!」カサカサカサ


401: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/02(日) 03:42:03.69 ID:SbmFcXbs0


セイバー「ぐっ……」

麻子「セイバーさん!? どうしたんですか!?」

セイバー「おそらく、ウシオたちが危機に……」

真由子「えっ!?」

セイバー「私とウシオは、マスターとサーヴァントという契約の繋がりがあります」

麻子「繋がり……」

セイバー「ウシオは魔術師ではないので遠距離の会話は出来ませんが、繋がりは確かにあります」

キリオ「うしお兄ちゃんたちが危ないって、感じられるってこと?」

セイバー「そうですキリオ。正確な状況は分かりませんが危機的状況なのは確かです」

イリヤ「それはそうでしょうね」

セラ「お嬢さま……?」

イリヤ「今更ここにいる人間に、宝具『獣の槍』の説明なんていらないわよね」

イリヤ「あれほど規格外の強力な宝具よ。リンだけで宝具の発動、維持、本当に出来ると思う?」

リズ「まさか」

セイバー「サクラの体内で、宝具を消失……!?」

イリヤ「消えてはないわ。それならセイバーも分かるはずよ。でも、時間の問題ね」

麻子「そ、そんな……」

イリヤ「短時間で倒せる相手ならよかったけど、そんな甘い相手じゃなかったみたいね」

キリオ「いったい、どうしたら……」

イリヤ「ここは、私の出番かな」


402: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/02(日) 04:15:36.51 ID:SbmFcXbs0


イリヤ「私の魔力をリンに送るわ」

麻子「そんなことが出来るの!?」

イリヤ「ええ、出来るわよ」

真由子「で、でも、うしおくんたちが桜先輩の体内のどこにいるかも分からないのに……」

イリヤ「直接リンに送るワケじゃないわ。サクラに届けてもらうのよ」

セイバー「なるほど……。サクラ自身ならリンが体内のどこにいても魔力を供給できる」

イリヤ「そういうこと。とにかく魔力を送らない限りは何も始まらないわ」

セラ「待ってください、お嬢さま」

イリヤ「なによ」

リズ「イリヤでも、魔力、足りない」

イリヤ「…………」

セラ「あの宝具の魔力使用量は桁外れです。いくらお嬢さまでも、一人では……」

イリヤ「なら、このまま黙って見ていろというの?」

セラ「それは……」

イリヤ「言われなくても分かってるわよ。それでもやるわ。ウシオを見殺しになんか出来ないもの」


403: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/02(日) 04:22:36.19 ID:SbmFcXbs0


真由子「どういうこと、なんですか……?」

リズ「魔力が足りない。増幅でもしないと」

麻子「増幅……?」

セラ「魔術のなかには、己の魔力を高める術式が幾つかあります」

セラ「しかしそれは大掛かりな儀式、準備を必要とします。そんな時間は……」


キリオ「それは、イリヤの魔力を増幅させればいいの……?」

セイバー「キリオ、何か方法があるのですか?」

キリオ「うん……」

セイバー「その方法とは……?」


キリオ「光覇明宗、『威颶離(いぐり)』法」




404: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/15(土) 02:03:44.58 ID:33Uf5Sa80


セイバー「ということは、キリオの念を私たちの体を通して増幅し、イリヤが受け取り魔力を高めると」

キリオ「うん、それが『威颶離』法だよ」

セラ「そんな術式が……」

リズ「それなら準備、いらない」

キリオ「ただ、法力僧じゃないお姉ちゃんたちが体に念を通せば、かなりの苦痛になるはずだよ」

キリオ「だから本当は、このやり方は……」

真由子「待ってキリオくん。さっきイリヤちゃんも言ってた。このまま黙って見てるなんて出来ないよ」

麻子「そうよ、私もやるわよ。私にも出来ることがあるならやりたいわ!!」

イリヤ「決まりね。キリオ、私はいいわよ」

キリオ「イリヤ、一番負担がかかるのは君なんだよ……。だから僕は……」

イリヤ「キリオが心配してくれるのは悪い気分じゃないけど……」

イリヤ「それでも、大きな力を受け止める器の役割は私が適任よね」

キリオ「え……?」

セラ「お嬢さまっ!!」

イリヤ「冗談よ。でも、私以外にやれる人物がいないのも事実でしょ」

セラ「それは、そうですが……」

イリヤ「やりなさいキリオ。他の誰でもない、私がやれって言ってるの」

イリヤ「念を込めることに手加減なんかしたら許さないわ」

キリオ「イリヤ……。分かった。威颶離をやろう」


405: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/15(土) 02:09:04.28 ID:33Uf5Sa80


イズナ「こ、ここも出口が塞がってやがる!!」

蟲「……」カサカサカサ

とら「ちぃ~~!! やはりわしの雷でえ!!」

イズナ「だからそれはダメなんだって長飛丸ーー!!」

うしお「はぁはぁ……。ぐっ……」

凛「…………」

イズナ「まさかうしお、その獣の槍もう振れないんじゃねえのか!?」

うしお「まだ大丈夫だ……。とにかく違う脱出口を……」

イズナ「で、でもよォ!!」


臓硯「ククッ、そろそろ終わりかの」


『ウシオ、聞こえる?』


臓硯「なに……?」


うしお「この声……。イリヤっ!?」


406: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/15(土) 02:17:04.98 ID:33Uf5Sa80


イリヤ『ウシオ、聞こえてるものだと思って話すわよ』

イリヤ『今、魔術を使ってサクラの体全体に声を届けてるわ』

イリヤ『敵にも聞かれることになるけど、それは仕方ないわよね』


臓硯「なにをする気じゃ……?」


イリヤ『リン、随分手こずってるみたいじゃない?』

凛「悪かったわね……」

イリヤ『しょうがないから助けてあげる』

イリヤ『今からキリオのイグリ法を使って、私の魔力をサクラに送るから受け取りなさい』


うしお「威颶離って、まさか山魚のときの!?」

とら「けけっ、あれをやるかよ」


臓硯「この小娘に……。ククク……」


イリヤ『サクラ、眠らされてるところ悪いわね』

イリヤ『でも、その標本にされてもおかしくないぐらいの才能、使わせてもらうわよ』


桜「…………」


407: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/15(土) 02:24:28.82 ID:33Uf5Sa80


イリヤ「さてと、こんなところね。そろそろ始めましょ」

セイバー「貴方は……」

イリヤ「何してるのよセイバー。早く手を握りなさい」


セイバー(ウシオたちに出会って変わったのは私だけではないか……)

セイバー(……アイリスフィール。貴方の子供は大きくなりましたよ)


イリヤ「何よ、私の手を見つめて」

セイバー「いえ……。イリヤスフィール、いや、イリヤ」

セイバー「我がマスターの命運を貴方に託します」

イリヤ「あらたまってなに。セイバーに言われるまでもないわ」


イリヤ「でも、そうね……。私に任せなさいセイバー!!」

セイバー「はい、イリヤ」


イリヤ「キリオ、こっちはいいわ。やりなさい!!」


キリオ「こっちも法力とエレザールの鎌の準備が出来たよ」


キリオ「それじゃ……。『威颶離』法、始めるよ……!!」


408: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/15(土) 02:28:59.01 ID:33Uf5Sa80


麻子「な、なにこれ、体の中に何かが通っていく……」


真由子「これがキリオくんの念の力……」


セラ「ぐっ……。魔力供給とは違いますね……」


リズ「ここまで、来た、凄いの」


セイバー「こ、これがイグリ法……」


イリヤ「始まったわね……。魔力が増幅されてる……。これなら……!!」


409: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/15(土) 02:35:02.36 ID:33Uf5Sa80


臓硯「カカッ、これほど愉快なこともあるかのォ」

臓硯「貴様たちの足掻きが愉しくて、ついわしも笑みがこぼれるわ」


うしお「何ィ!? どういう意味だ!!」


臓硯「この小娘に魔力を送るじゃと……クク……」

臓硯「無駄じゃ。こやつの遠坂の魔術回路はとうの昔にわしが破壊しておるわ」

臓硯「魔力を送ったところで回路がなければ流れることはない」

臓硯「逆にその魔力をわしが取り込んでくれるわ」


凛「それは、どうかしらね……」

うしお「遠坂先輩っ!!」


臓硯「なに……?」


凛「アンタには見えないの、あれが……」


とら「なんだァ!? 無数に光る線が……!?」

イズナ「人間体内のエキスパートのオレ様でも見たことねえぜ!?」


臓硯「ば、馬鹿なっ……。そんな筈は無い、わしは確かにこやつを壊して……」


凛「衰退した理由も分かるってもんよね。間桐当主」

凛「これが遠坂よ。見くびらないでもらえるかしら?」


臓硯「ぐっ……!!」


410: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/15(土) 02:45:26.37 ID:33Uf5Sa80


蟲「……!!!!」カサカサカサ

蟲「……!!!!」カサカサカサ


とら「イズナァ!! こいつらを槍に近づけさせるんじゃねえぞォ!!」

イズナ「分かってるって長飛丸よォーー!!」


うしお「遠坂先輩、大丈夫なのかい!?」

凛「はぁ、はぁ……。ええ、大丈夫よ。桜とイリヤが魔力を送ってくれてるわ」

凛「これなら、あと少しで……!!」


臓硯「何を仕出かすつもりか知らんが……」

臓硯「外の連中さえいなければ、貴様らなど……!!」


411: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/15(土) 02:52:16.09 ID:33Uf5Sa80


麻子「ぐっ……くぅ……」

真由子「う、うぅ……」

イリヤ「ハァハァ……」

セイバー「イリヤ……。キリオ、まだですか!!」

キリオ「まだ、あとちょっとで……!!」


桜『なるほどの……。光覇明宗の術か。小賢しい真似をするわ』


セイバー「なっ、お前は……!?」


桜『これで、どうじゃ』


キリオ「お姉ちゃん!!」


真由子「あぁ、麻子……なんで……。手を放しちゃ……」

麻子「な、なによこれ……。何かに引っ張られて、手が……」


桜『クク、貴様らなどこれで十分よのォ』


412: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/15(土) 03:08:24.44 ID:33Uf5Sa80


セイバー「アサコ!! マユコ!!」

セラ「あんな初歩的な魔術など……!!」

イリヤ「手を放してはダメっ!!」

リズ「術式が途切れる。でも、このままでも」


真由子「か、金縛りみたいに体が動かない……」

麻子「たった一人分の距離も、手を伸ばせないなんて……」


キリオ(お姉ちゃんたちを助けるには威颶離を解除しないと……。でも、それじゃ……)


桜『これで魔力の供給は途切れる。クク、これであやつらも終わりじゃな』


麻子「そんなことない……」

麻子「私が手を伸ばせばアイツが助かるなら、今度は私が……!!」

真由子「あ、麻子……」


桜『無駄なことを。貴様ら小娘にはこの程度の魔術も破れまいて』


??「……そうそう。無駄なことはやめろよ、中村」


麻子「えっ!?」




慎二「だってさ、そこには僕が入るんだから邪魔なんだよねぇ」




416: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/17(月) 00:07:09.23 ID:1uQBv6pv0


・病院中庭


「申し訳ありません紫暮様。間桐臓硯の本体を取り逃がしました」

「間桐邸の調査の結果、あの臓硯も蟲の触覚に過ぎないようです」

「うむ……。やはり一筋縄ではいかない相手か……」

「しかし、本体はどこに……」



慎二「…………」



??「盗み聞きとは感心しませんね」


慎二「チッ……。またアンタかよ……」


慎二「蒼月須磨子さんよ」


須磨子「はい」




417: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/17(月) 00:18:50.84 ID:1uQBv6pv0


須磨子「何を聞いていたのですか?」

慎二「なんでもいいだろ。それよりなんでアンタがここにいるワケ?」

須磨子「異なことを聞かれますね」

須磨子「ここは光覇明宗の病院ですから、私がいるのは自然ではありませんか」


慎二「そんなことは聞いてないんだよ」

慎二「それともなに? まだ僕から聖杯戦争のことを聞きたいの?」

慎二「残念。もう聖杯戦争のことは蒼月のオヤジに洗いざらい話したんだよねぇ」

慎二「だから僕に付きまとったって何も情報はないんだよ。ハハッ、無駄足だったね」


須磨子「……そうですか。何か知っているのですね」


慎二「はぁ? なに言って……」


須磨子「ここには葛木宗一郎さんのお話を聞きにきたのです」

須磨子「あの方も大変な使命を持った方ですから」


慎二「使命、ねぇ……」


418: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/17(月) 00:29:05.31 ID:1uQBv6pv0


慎二「…………」


須磨子「自分の心の間で、ゆれているのですね。間桐慎二さん」

慎二「な、なにィ……?」

須磨子「今の貴方の眼には、今までになかった使命を感じます」

慎二「チッ、何も知らないくせに……偉そうにさァ……」

慎二「…………」

慎二「今更、僕が行ったって……」


「そこに誰かいるのか?」


慎二「あ……」

須磨子「ここは私に任せて、ゆきなさい」

慎二「で、でもさァ」

須磨子「その使命は貴方にしか果たせないモノではないのですか?」

慎二「それは……」

須磨子「今の貴方なら大丈夫です。ゆきなさい。それが、貴方の使命ですよ」

慎二「っ……」


419: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/17(月) 00:53:57.96 ID:1uQBv6pv0


麻子「間桐先輩っ!?」

セイバー「ライダーのマスターが何故ここに……!?」


桜『慎二……。お前、何をしに来た?』


慎二「よォ爺さん。ライダーを失って聖杯戦争は負けちゃったよ」

慎二「それからは大変さ。お節介なヤツらに説法を聞かされて嫌になるよ」

慎二「でもさ、僕としてはこのまま言われぱなしってワケにはいかないんだよねぇ」


桜『何を、言っておる……』


慎二「だからさァ……。こうするんだよォ!!」


ガシッ、ガシッ


麻子「そんな……!!」

真由子「せ、先輩っ!!」


慎二「ぐっ、ぐああああーーーー!!!!」


420: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/17(月) 01:10:22.07 ID:1uQBv6pv0


キリオ「だ、駄目だよ!! お兄ちゃん!!」

キリオ「念の流れに急に入るなんて危険すぎる!!」

キリオ「今、威颶離を解除するから、それから……!!」


慎二「や、やめろクソガキがァ……。術式を解除したら、また発動するには時間がかかる……」

慎二「回路がなくて魔術を教えてもらえなかった僕だって、それぐらい知ってるんだよねぇ……」


麻子「で、でも間桐先輩、手が……」

真由子「あ、あぁ、ボロボロに……」


慎二「ぐっあっ……。中村、井上、今回は他の女子と違って僕の誘いを断らないでくれよ……」

慎二「まぁ今回ばかりは、この手を跳ね除けられても放す気はないんだけどさ」


麻子「先輩……」


421: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/17(月) 01:59:27.08 ID:1uQBv6pv0


桜『慎二。貴様は自分が何をしておるのか、分かっておるのか?』


慎二「まぁね……。そろそろいいだろ爺さん。そいつさ、解放してやってよ」


桜『なっ……に……』


慎二「あぁ今更だろ、分かってる。だから助けに来たなんて言わないさ」


桜『う……ん!? い、意識が……小娘に……!?』


慎二「……桜。そこで聞いてるのかよ」


桜『こ、こんな力……どこに……』


慎二「別にさ、今まで僕がやったことを謝って許してもらえるなんて思っちゃいない……」

慎二「がはっ……。でも……、これぐらいはやらせろよ……」


慎二「今更だけど……。これが僕の『使命』らしいからさ」


桜「に……兄、さん……」


424: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/21(金) 03:18:41.14 ID:okDxVkSb0


臓硯「意識を取り返された……。今まで、こんなことは……」


とら「ひゃーはっはっはっはっーーーー!!!!」


臓硯「な……!?」


とら「おいイズナ。新顔の若僧に教えてやんな」

イズナ「へへっ、そうだなァ長飛丸。変化でも妖なら知っておかなきゃなァ」


臓硯「何を……」


とら「妖の世界にはわしより、もーっと怖えモンがあるのよ」

イズナ「それは妖怪なら名前を聞いただけで震え上がる妖器物(バケモノきぶつ)……」


イズナ「獣の槍よォ!!」


臓硯「っ……!?」




うしお「よし、これなら……」

凛「もう大丈夫よ」




425: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/21(金) 03:27:24.11 ID:okDxVkSb0


臓硯「……魔力供給が整った程度で何を粋がっておる」

臓硯「貴様らはわしの本体に攻撃出来ん」

臓硯「わしが小娘の心臓にとり憑く限り、貴様らは何も出来ずに嬲られるだけじゃ」

臓硯「行け蟲ども。もう目障りじゃ、そやつらを始末しろ……!!」


蟲「…………」カサカサ


臓硯「どうした……?」


蟲「…………」カサカサ


臓硯「何故、蟲どもが言うことを聞かん……」


蟲「……!!!!」カサカサカサカサ


臓硯「な、何をしておる……。心臓から本体を切り放そうとしておるのか!?」


臓硯「何故じゃ!? 何故蟲が勝手に……!?」




とら「けけけ……。ほーら、来た来た」


とら「妖の苦手で怖えモンをよ、槍が連れてきたぜえ」




??『長生きしすぎてボケたんじゃないか吸血鬼』

??『その蟲を扱えるヤツは、他にもいたじゃないか』




臓硯「き、貴様はっ……!?」




雁夜『他ならぬアンタが、オレにくれた能力だろ?』




426: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/21(金) 03:39:22.67 ID:okDxVkSb0


臓硯「雁夜っ!? 貴様は前回の第四次聖杯戦争のときに死んだはず……」

臓硯「こんな場所にいるはずが……!!」


雁夜『あぁそうだな。それでも呼び出してくれたみたいだ』

雁夜『あの宝具が』


臓硯「宝具……。あの槍の、宝具としての能力か……!!」

臓硯「そうか遠坂の小娘、魔力供給は真の能力を開放するための……!!」


凛「雁夜、おじさん……?」


雁夜『凛ちゃん、オレがヤツを抑えてる間に本体を倒してくれ』

雁夜『この宝具の力がどれだけ持つかオレには分からない。頼む、早く……!!』


雁夜『桜ちゃんを、救ってくれ……!!』


うしお「おじさん……。よし、分かった!! 遠坂先輩!!」

凛「えぇ、もちろんよ!!」


イズナ「オレもこの蟲は見飽きたぜい。そろそろおいとましてえなァ長飛丸」

とら「その意見にゃ賛成よ。うしお!! りん!! 決めちまいなァ!!」


427: ◆I4R7vnLM4w 2017/07/21(金) 04:34:35.35 ID:okDxVkSb0


うしお「遠坂先輩、髪が伸びて……」

凛「私もここまで伸ばしたことないから、自分でも少し新鮮ね」

うしお「ははっ、似合ってるよ」

凛「もう……。気を失ってるときにね、槍のなかで二人と話したわ」

凛「私も憎しみだけで戦わない。だからきっと、本当に選んでくれたのね」

うしお「そうか。うん、それならよかった」


臓硯「か、身体が動かん……。蟲も、動かせん……。雁夜ァ、貴様ァ……!!」


凛「間桐臓硯、終わらせてもらうわよ」


臓硯「遠坂の小娘、何故そんな顔が出来る……。貴様はわしが憎くて仕方がないはず……」


凛「ええ、そうだったわ。でも不思議よね、何故だか今の私はアンタを憎んでないのよ」

凛「今はただ、アンタを桜から一刻も早く追い出したいだけ」


臓硯「そんなはずはない……。人間など、理想など、あるはずが……」


凛「そうか……。アンタも魔術師だったんだから、不老不死を目指す前が……」

凛「可哀想ね、間桐臓硯」


次回 うしおとセイバー 後編