前回 イャンクック 「旧沼地で人間を拾ったんだが」 その3

12: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 20:59:58.74 ID:A1QGIGY0
イャンクック 「旧沼地で人間を拾ったんだが」 第6章

副題:「明日、天気になぁれ」

―二年前、人の里―

女将 「まったく! そこじゃないっつってんだろ!(ビシッ)」

女児 「きゃあ!」

女将 「お前のお袋と同じく、使えない娘だよ。雨が降ってきたら、とっとと洗濯物を取り入れな!」

女児 「はい……ごめんなさい……」

女児 「…………」

女児 「(とぼとぼ)」

引用元: イャンクック 「旧沼地で人間を拾ったんだが」 2 




13: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:00:33.63 ID:A1QGIGY0
女児 「(雨……)」

女児 「(雨が降ってる)」

女児 「……?」

兵士A 「住民票がないアイルーはこっちだ!」

兵士B 「抵抗するようなら殺せ! 所詮モンスターはモンスターなんだよ!」


14: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:01:03.32 ID:A1QGIGY0
アイルー達 「ひぃぃ! あっしらは何もしてないにゃァァ!!」

兵士C 「黙れ!(ビシィッ)」

アイルー達 「ビャァ!」

兵士D 「どうせお前らが、モンスターに内通してやがったんだ!」


15: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:01:28.44 ID:A1QGIGY0
アイルー達 「あっしらはそんなことは……」

アイルー達 「人間様の味方でさぁ!」

兵士B 「連れてこい! 住民登録もないアイルーは、別の街に奴隷として売りに出す!」

アイルー達 「そ……そんニャ! あっしらは今までギルドに尽くしてきたのに……」


16: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:02:26.36 ID:A1QGIGY0
アイルー達 「横暴だニャ!」

兵士C 「うるせぇ!(ドガッ)」

アイルー達 「ビニャァ!!」

兵士C 「俺は今まで、モンスターが人間と同じような面ァして、そのらへん歩き回ってるのが気に食わなかったんだ!」


17: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:02:58.16 ID:A1QGIGY0
兵士C 「これでせいせいするぜ!!」

アイルー達 「おいらにはご主人がいるニャ! ご主人に会わせてくれにゃァァ!!」

アイルー達 「嫌だにゃァァ! 奴隷生活は嫌だにゃァァァ!!」

兵士B 「(ガチャン)連れて行け」

兵士E 「了解しました。任務ご苦労様です。ではこのアイルー達は、護送車で運び出しますので」

アイルー達 「ヘルプ! ヘルプにゃァァ!!」

アイルー達 「あっしらは無実でさァァ!!」


18: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:03:34.60 ID:A1QGIGY0
住民達 「またネコが連れて行かれるわよ(ひそひそ)」

住民達 「でも、噂ではこの前のシュレイド城の戦いで、アイルーがモンスター軍と内通してたんじゃないかって……」

住民達 「ほんと!? でもあのネコ達、人なのかモンスターなのか分からないから、前から不気味だって思ってたのよ」

住民達 「この機会に、街からいなくなってくれれば嬉しいんだけどね……」

住民達 「ウチの子も、あの戦いで大怪我してね。今はモンスターの顔を見るだけで吐き気がするわ」

女児 「…………」

アイルー達 「ヘルプ! ヘルプミィィィ!!」

猫護送車 「(ガラガラガラガラ)」


19: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:04:40.37 ID:A1QGIGY0
女児 「…………」

女児 「(お洗濯もの……)」

女児 「…………(とぼとぼ)」

女児 「モンスター……」

女児 「モンスターが、お父さんと、お母さんを……」

女児 「…………」


20: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:05:09.03 ID:A1QGIGY0
女将 「何してんだい! とっとと取り込んで来るんだよ!!」

女児 「! はい! ごめんなさい……!」

女将 「ぐずぐずしてると鞭でぶつよ! お前みたいな役立たずを拾ってやったんだ! いくら役立たずでも、働く努力くらいはするんだね!!」

女児 「(ダッ)」

住民達 「……やぁねぇ。あのお屋敷の子、また怒鳴られてるわよ」

住民達 「父親が、母親と軍を脱走したんだろう? 子供もろくな子じゃないのかもしれないね」

住民達 「何でも、あの子を捨てて、二人で逃げる途中に、砦蟹の侵攻に巻き込まれたとか……」


21: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:05:38.63 ID:A1QGIGY0
女児 「…………」

女児 「よいしょ……」

女児 「(ふらふら)」

女将 「それが終わったら、あとはお客さんの食事作りだよ。休むんじゃないよ。とっととしな!」

女児 「はい……!」

女将 「まったく本当、使えない……(ススッ)」

女児 「…………」


22: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:07:02.44 ID:A1QGIGY0
女児 「よいしょ……」

女児 「雨が……」

女児 「……強くなってきた……」

女児 「(お洗濯ものを、中に入れて……)」

女児 「痛っ……」

女児 「(さむい……)」

女児 「(手が、しもやけで切れてる……)」


23: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:07:41.43 ID:A1QGIGY0
女児 「ふーっ……ふーっ……」

女児 「(すりすり)」

女児 「よいしょ……」

女児 「…………」

女児 「(あとは、お食事をつくらなきゃ……)」

女児 「…………」

女児 「(てが……いたい……)」


25: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:08:19.65 ID:A1QGIGY0
女児 「……?」

女児 「あ……」

女児 「(こんなところに、アイルーがいる……)」

白アイルー 「…………」

女児 「(あまやどりかな……)」

女児 「(でも、バッジをつけてない……)」

女児 「(へいしさんたちに見つかったら、つれていかれちゃう……)」

白アイルー 「…………」


27: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:11:35.83 ID:A1QGIGY0
兵士達 「路地裏も全部探せ! バッジのないアイルーは、全部奴隷市場送りだ!」

アイルー達 「ギニャァァ!!」

兵士達 「逃げたぞ! 追えぇぇ!!」

女児 「…………」

白アイルー 「ふぅふぅ」

女児 「(手に息をかけてる……)」

女児 「(この子もさむいんだ……)」


28: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:12:48.18 ID:A1QGIGY0
女児 「……こっちだよ」

白アイルー 「!」

女児 「そこにいたら、こわい人につれていかれちゃうよ」

白アイルー 「…………(きょろきょろ)」

女児 「かぞくの人と、はぐれたの?」

白アイルー 「(こくり)」

女児 「とりあえず、こっちにかくれて。ほら……」

白アイルー 「(こくり)……(トコトコ)」


29: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:13:42.77 ID:A1QGIGY0
兵士達 「(バタバタ)」

女児 「!」

兵士達 「おい、そこのガキ! この辺にアイルーが逃げ込んでこなかったか!?」

女児 「(ビクッ)…………」

兵士達 「とっとと答えろ!」

女児 「し…………しらない(ふるふる)」

兵士達 「おーい! こっちだ!」

アイルー達 「ギニャァァ! 見つかったニャァァ!!」

兵士達 「チッ(ダダッ)」


30: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:15:18.19 ID:A1QGIGY0
女児 「…………」

女児 「(スッ)夜まで、うごかないほうがいいよ」

白アイルー 「…………」

女児 「さいきん、ずっとこうなの」

白アイルー 「…………」

女児 「(しゃべれないのかな……)」

女児 「そうだ……」

女児 「(ごそごそ)これ、あげる」

白アイルー 「?」

女児 「お魚の干物」


31: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:16:13.85 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「???」

女児 「(ぐぅ~)」

女児 「あ……」

白アイルー 「…………」

女児 「はい」

白アイルー 「(ふるふる)」

女児 「じゃあ、はんぶんこにして食べようか(ポキッ)」

女児 「……はい」

白アイルー 「(もぐもぐ)……(にこっ)」


32: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:18:33.20 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「……?」

女児 「?」

白アイルー 「(スッ)」

女児 「どうしたの? わたしの手?」

白アイルー 「(こくり)……(ぐい)」

女児 「あ……よごれてるから……」

白アイルー 「(ふぅ)」

女児 「!」

女児 「きずが……」

女児 「きずが、ふさがった!」

白アイルー 「(にこにこ)」


33: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:19:02.56 ID:A1QGIGY0
女将 「女児! 女児、どこにいるんだい! とっとと戻ってこないとぶつよ!」

女児 「(ビクッ)」

女児 「あ……ごめんね、わたし、もういかなきゃ……」

女児 「よくわからないけど……」

女児 「手、なおしてくれてありがとう(なでなで)」

白アイルー 「(ごろごろ)」

女児 「この納戸にはだれもこないから、夜までまっててね。また来るから」

白アイルー 「(こくり)」


34: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:20:19.22 ID:A1QGIGY0
―どこか、遠い場所―



×××××× 「Min datter(娘が)」

×××××× 「…………Hun er ikke her(娘が、ここにいない)」

×××××× 「Hun er ikke(いない)」

×××××× 「Det er nodvendigt at lede efter hende(探さねばならぬ)」

×××××× 「Det er nodvendigt at finde hende(見つけねばならぬ)」

×××××× 「Vores barn er en vigtig barn(あの子は大切な子……)」

×××××× 「At barnet skal vare hvidt(……白くなければいかぬ……)」


35: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:21:10.01 ID:A1QGIGY0
×××××× 「Landsby(人里か?)」

×××××× 「Landsby(人里!?)」

×××××× 「Det beskidte landsby(あの汚らしい人里!?)」

×××××× 「Jorden regeret af menneskelige der defiled (穢れた人間に、支配された土地に!?)」

×××××× 「Ah……(ああ……)」

×××××× 「Fadase der, hvad er det vard(失態をした……)」

×××××× 「Det faldt(落ちたのだ)」


36: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:21:43.12 ID:A1QGIGY0
×××××× 「At barnet vil blive defiled(このままではあの子は、地上の毒に冒されてしまう」

×××××× 「Det er nodvendigt at hjalpe(助けなければ)」

×××××× 「Det er nodvendigt at hjalpe(助けなければいけない)」

×××××× 「Fra rotted jorden(腐った地上から……)」

×××××× 「Min datter(娘を……)」

×××××× 「Lad os komme i gang(……降りましょう)」

×××××× 「Til at rotted jord(あの腐りきった土地へ……)」

×××××× 「Kun en gang nu(今一度……)」


37: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:22:11.08 ID:A1QGIGY0
―二年前、人の里、女児の住む屋敷、夜―



女児 「(すすっ)」

女児 「ネコさん、いる?」

白アイルー 「すぅー……すぅー……」

女児 「(ねてる……)」

白アイルー 「……!」

女児 「ごめんね、おこしちゃった」

白アイルー 「(ごしごし)」


38: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:22:47.90 ID:A1QGIGY0
女児 「いろいろ、あまりものだけどもってきたよ」

白アイルー 「……?」

女児 「干物とか……おやさいとか……」

白アイルー 「!」

女児 「どうしたの?」

白アイルー 「(ちょいちょい)」

女児 「あ……おきゃくさんの食べ残しなんだけど……」

女児 「なんだかよくわからないの……」


39: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:23:44.46 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「(つんつん)……(パカッ)」

女児 「この種、われたんだ……」

白アイルー 「(すっ)」

女児 「たべられるの? でも、種のなかみだよ?」

白アイルー 「(こくり)」

女児 「(もぐもぐ)……! 甘いねぇ。中の方がおいしいんだぁ」

白アイルー 「(もぐもぐ)」

女児 「いつも種はすててたよ。あなたは、すごいこと知ってるんだね」


40: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:24:37.48 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「?」

女児 「あぁ、これ?」

女児 「おかみさんに、おこられちゃったの」

女児 「わたしあんまりやくにたてないから……」

白アイルー 「(くいっ)……(ふぅ)」

女児 「青くなってたのに……治ってく。とってもあったかい」

白アイルー 「(ニコニコ)」

女児 「ありがとう。やさしいんだね(なでなで)」


41: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:26:00.59 ID:A1QGIGY0
女児 「お父さんと、お母さんは?」

白アイルー 「(きょろきょろ)……??」

女児 「どこにいるか、わからないの?」

白アイルー 「(こくり)」

女児 「じゃあ、どうしようね……いま、兵士さんに見つかると、ネコさんはつれていかれちゃうんだよ」

白アイルー 「…………」

女児 「外は雨がすごいから、出れないね……」


42: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:26:33.30 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「……(ぎゅっ)」

女児 「……?」

白アイルー 「…………」

女児 「(なでなで)いっしょにねよう? 明日、雨がやんでたら、一緒にお父さんたちを探しに行こう」

白アイルー 「…………(こくり)」

女児 「明日は雨がやむよ。そんな気がするもん、だいじょうぶ」

白アイルー 「(にこり)」


43: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:26:56.36 ID:A1QGIGY0
女児 「お父さんと、お母さんはね」

白アイルー 「…………」

女児 「きっと、むかえにきてくれるんだよ。だって、かぞくなんだもん。むかえにきてくれるよ」

白アイルー 「…………」

女児 「だから、だいじょうぶだよ。こわい人なんて、心配ないよ」

白アイルー 「(こくり)」

女児 「お母さんがね、よくわたしに言ってたの」

女児 「(ごそごそ)」


44: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:27:25.26 ID:A1QGIGY0
女児 「これ」

白アイルー 「!」

女児 「てるてる坊主っていうの。わたし、沢山つくった。これを吊るして、おねがいすれば、きっと明日はお天気になるの」

女児 「一つ吊るしてもだめなら、もっと沢山吊るせばいいの」

女児 「おねがいすれば、きっと明日はお天気になるって、お母さんはいつも言ってた」

女児 「だからわたし、明日はね、明日こそはね、天気になぁれって、そう思って」

女児 「……そう思いながら、いつもこれ、つくってるんだ」

白アイルー 「…………」


45: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:27:48.10 ID:A1QGIGY0
女児 「小さいのがあるから、あげる」

白アイルー 「(にこり)」

女児 「こうやって、ヒモを通して首にかけておけば……」

女児 「もしかしたら、もしもの時に飼いアイルーって思ってもらえるかもしれないし……」

女児 「明日はきっとお天気になって」

女児 「きっと、あなたのお父さんとお母さんも」

女児 「…………」

女児 「探しにきてくれるよ」


46: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:28:19.33 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「(にこにこ)」

女児 「…………」

女児 「(にこり)」

女児 「…………」

白アイルー 「(ごろごろ)」

女児 「……!」

女児 「(このネコさん、せなかに小さな羽がある……)」

女児 「(きれい……)」

女児 「(特別なネコさんなのかな……)」


47: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:28:45.45 ID:A1QGIGY0
女児 「(今は森はあぶないけれど……)」

女児 「(こわい兵士さんたちにつれて行かれるくらいなら)」

女児 「(もしもの時は、森の方が……)」

女児 「(……森……)」

女児 「(お父さんと、お母さんをころした……)」

女児 「(モンスターたちがいる森……)」

女児 「(モンスター…………)」

女児 「(…………この子も…………)」


48: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:29:08.89 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「すぅー……すぅー……」

女児 「………………」

女児 「(てるてる坊主を、にぎってる……)」

女児 「(お父さんとお母さんに、会いたいのかな……)」

女児 「(そうだよね……)」

女児 「(一人はさみしいよ)」


49: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:29:26.38 ID:A1QGIGY0
女児 「(…………)」

女児 「(でも、だいじょうぶだよ)」

女児 「(この子の分も、お願いするの……)」

女児 「(明日、天気になぁれって……)」

女児 「(どんな幸せがくるのかは、わからないけれど)」

女児 「(明日はきっと、雨が止むよ……)」


50: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:30:28.32 ID:A1QGIGY0
―次の日、朝―



女児 「ん……」

女児 「……(あったかい……)」

白アイルー 「すぅー……すぅー……」

女児 「(この子がくっついててくれたから……)」

女児 「あ……」

女児 「(外……雨……。きのうより、強くなってる……)」

女児 「…………」


51: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:33:20.35 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「(ふぁぁ)」

女児 「あ……おはよう」

白アイルー 「(ごしごし)……(にこり)」

女児 「今日の、夕方に自由時間があるから、そのときにお父さんとお母さんを探しにいこう?」

白アイルー 「(こくり)」

女児 「あとでまた、何か食べるものを持ってきてあげる」

女児 「ここにいてね?」

白アイルー 「(こくり)」


52: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:33:46.92 ID:A1QGIGY0
―女児の住む屋敷、昼―



女将 「女児! ちょっと来な!」

女児 「は……はい!」

女将 「……あんた、何かやらかしたんじゃないだろうね!?」

女児 「(ビクッ)え……」

女将 「兵士が来てるんだよ。お前を呼んでこいってさ」

女児 「わたしを……?」

女将 「ぐずぐずするんじゃないよ。あたしもいくからついといで!」

女児 「…………」


53: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:34:46.34 ID:A1QGIGY0
女児 「(もしかして、あの白いネコさんが……)」

女児 「(そんな……)」

女児 「(あの子は、わたしのきずを治してくれて……)」

女児 「(すごくやさしい子で……)」

女児 「(悪いネコさんじゃないのに……)」

女将 「何ボサッとしてんだい! とっとと入るんだよ!(ぐいっ)」


54: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:35:39.96 ID:A1QGIGY0
女将 「お待たせしました。いやぁ、なかなかこの子がね、融通がきかなくてね」

女児 「(兵士さんたちだ……)」

女児 「(白いネコさんはいないみたい……)」

兵士A 「…………」

兵士B 「君か、シュレイド城から来た子っていうのは」

女児 「!!」

兵士B 「孤児登録を整理していて、少々気になる点があってね……」


55: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:37:01.66 ID:A1QGIGY0
女将 「あの……この子が何かをやらかしたんでしょうか?」

兵士A 「いや、そういうわけではありません。どちらかというと、この子の親が問題でして」

女児 「……!!!」

兵士B 「登録によると、父親が脱走兵となっていましてね。知っての通り、軍規によると脱走は死罪に当たる重罪でして」

兵士A 「死亡は確認されてはいますが、法律では、その家族に、軍罰則による罰金が科せられるんですよ」

女児 「………………」

女将 「罰金!? ちょっと、そんな話聞いてませんよ!」


56: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:37:54.92 ID:A1QGIGY0
兵士A 「ええと……あなたは、この子の保護者という形でよろしいでしょうか?」

女将 「! バ……バカを言わないでください。この子は、ウチでただ雇っているだけ……ただの小間使いとして、雇っているだけです」

女児 「!?」

女将 「奴隷として私が買い取ったんです。市民登録があるなんて知りませんでしたよ!」

女児 「(そんな……うそ……)」

女児 「(おかみさんは、お母さんの遠いしんせきで……)」

女児 「(わたし、奴隷じゃない……)」

兵士A 「はぁ、そうなんですか」

兵士B 「まぁ、このご時世ですから、形態はどうあれ、子供が大人の保護下にあるという状況だけで、私たちは口出しをいたしませんよ」

女将 「…………」

兵士B 「それで、本人確認をしてもらいたいんですが」


57: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:39:59.67 ID:A1QGIGY0
女児 「!!」

兵士A 「(スッ)この映写画像は、君のお父さんとお母さんで、間違いないかい?」

兵士B 「もしもそうだというのなら、君に軍からの罰金が科せられることになる」

兵士A 「奉公しているというなら、そこから税金という形で引かせてもらうよ」

兵士B 「残酷なようだが、これも規則でね……家族を失って辛いとは思うが」

女児 「…………」

兵士B 「認めなくてもいい、ただ、形式的なものなんだ」

女児 「!?」

女児 「(認めなくてもいい……?)」

女児 「(わたしが、お父さんとお母さんの子供だって……?)」


58: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:41:32.63 ID:A1QGIGY0
兵士A 「もし違うというなら、この市民登録は抹消して、また新しく作ればいい」

兵士B 「ただの確認なんだ。そう、構えることはない。別人だということで、いいね?」

女児 「…………」

女将 「ええ、ええ別人ですとも。お前も何とかお言い!」

女児 「…………」


59: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:42:09.17 ID:A1QGIGY0
女児 「(お父さん、お母さん……)」

女児 「(むかえに……)」

女児 「(…………………………)」

兵士A 「ん? どうだい?」

女児 「………………」


60: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:43:17.77 ID:A1QGIGY0
女児 「(お金……罰金……)」

女児 「(女将さんにめいわく……)」

女児 「(わたし、いくところ……)」

女児 「(ない……)」

女将 「ほら!(ぐいっ)」

女児 「ひっ……」

女児 「……………………」

女児 「べ……」

女児 「別のひと……です」


61: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:45:38.78 ID:A1QGIGY0
兵士A 「分かった。ではそのように処理をしておこう」

兵士B 「君の新しい孤児登録市民票の発行手続きもしておくよ」

兵士A 「時間があったら、役所に写真を撮りに来なさい」

女将 「なんだか、たいしたお構いもできませんでして……」

兵士B 「いえ、仕事ですから」

兵士A 「それでは、僕らは失礼します」

女児 「……………………」


62: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:47:06.10 ID:A1QGIGY0
―夕方―



女児 「…………」

白アイルー 「?(ぷにぷに)」

女児 「え? あ……ごめんね(にこっ)」

女児 「お父さんと、お母さんを探しにいこうね」

女児 「探しに……」

女児 「…………」

白アイルー 「…………」

女児 「……わたしの、服の中に入って。そうすればみつからないよ」

白アイルー 「(コクリ)」


63: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:49:54.58 ID:A1QGIGY0
アイルー達 「ギニャァ! こっちにも追っ手がいるにゃァ!」

兵士達 「逃がすな! 捕まえろー!!」

アイルー達 「おいどんらは無害ですにゃァァァ!!」

アイルー達 「奴隷市場はもういやだニャァァ!!」

兵士達 「騒ぐな! この!!」

アイルー達 「ブッギャァァ!」

女児 「…………」

女児 「(ひどい……)」

女児 「(何もしてないのに……)」


64: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:51:13.74 ID:A1QGIGY0
女児 「(でも、だれも……)」

女児 「(だれも、たすけてあげようとしない……)」

女児 「(わたしも……)」

女児 「(…………)」

女児 「(モンスターだから……)」

女児 「(モンスター、だから……みんな……)」

白アイルー 「………………」


66: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:52:04.25 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「(ちょいちょい)」

女児 「?」

白アイルー 「(スッ)」

女児 「これ……てるてる坊主?」

女児 「木の実の皮で、作ったの?」

白アイルー 「(コクリ)」

女児 「わたしにくれるの?」

女児 「わぁ……」

女児 「ありがとう(にこっ)」


67: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:53:54.50 ID:A1QGIGY0
アイルー 「(ダダッ)」

女児 「!!」

アイルー 「ヘルプ! ヘルプミィ!」

女児 「(ネコさんが、道路に飛び出してきた……!)」

アイルー 「どなたかあっしをヘルプしてくだされ! あっしはれっきとした雇われアイルーでっせ!!」

住民達 「…………」

アイルー 「あっしのバッヂが、盗まれちまったんです! どなたかあっしの無実を証明して……」

兵士達 「こっちに逃げたぞ!(ダダダダッ)」

アイルー 「ギニャァァ! お縄は勘弁にゃァ! どなたかあっしの顔を!!」

アイルー 「ギルドであっしをみかけたっつぅ人おりませんか! どなたかぁぁ!!」

兵士達 「このっ! 暴れるな!!」

アイルー 「あっしは奴隷じゃねぇですぅぅぅ!!」


69: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:55:04.99 ID:A1QGIGY0
女児 「(奴隷……)」

女児 「(………………)」

女児 「(足が、うごかない……)」

白アイルー 「…………」

アイルー 「だからあっしは……」

アイルー 「無実だって……!!」


71: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 21:57:05.07 ID:A1QGIGY0
兵士達 「いい加減にしろこの……!(ブゥン)」

アイルー 「!!」

兵士達 「モンスターめ!!」

アイルー 「(ドガッ)ビャァ!!」

兵士達 「へへっ……バケモンが人間様と同じ口ィきいてんじゃねぇよ」

アイルー 「(ずるずる……ばたん)」

住民達 「………………」


72: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/06/10(水) 21:59:38.68 ID:A1QGIGY0
兵士達 「おいこれ、死んだんじゃねぇのか?」

兵士達 「強くやりすぎだぞ。あくまで、売るために捕まえてるんだからよ」

兵士達 「構うもんか。ネコなんて腐るほど出てくるだろ」

女児 「………………」

女児 「(血……)」

女児 「(あのネコさん、助けてあげなきゃ……)」

女児 「(でも、体が……)」

女児 「(震えて……)」


73: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:01:37.57 ID:A1QGIGY0
女児 「(奴隷……)」

女児 「(お父さんとお母さんは、もういないの……)」

女児 「(だれも……)」

女児 「(だれも、わたしを守ってくれない……)」

女児 「(もし、兵士さんをおこらせて、お父さんが脱走兵ってわかって……そうなったら……)」

女児 「(お金……………………)」

女児 「…………」

白アイルー 「………………」


74: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:02:43.07 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「(スッ)」

女児 「あ! 駄目! 出ちゃ駄目!!」

白アイルー 「(スタッ)……(トコトコトコ)」

住民達 「ちょっと! あの白ネコ、バッヂをつけてないわ!」

住民達 「野良よ!!」

女児 「あ……ぁ……」

兵士達 「何だァ、あのネコ」

兵士達 「くたばったアイルーに近づいてくぞ」

白アイルー 「(スッ)」

アイルー 「………………」

白アイルー 「(ふぅ)」


75: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:03:58.90 ID:A1QGIGY0
女児 「(あのネコさんの、傷が治っていく……)」

アイルー 「!!! な、何が……」

白アイルー 「(ニコニコ)」

兵士達 「お……おい、今の見たかよ……」

兵士達 「怪我が、消えたぞ……」

兵士達 「それに、あれ……背中に羽が……」

兵士達 「何だあれ……? アイルーじゃねぇ!」

住民達 「ば……化け物……」

住民達 「化け物よ! 化け物猫が、入り込んでるわ!!」


76: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:06:00.94 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「…………」

アイルー 「か……かたじけねぇ! あっしは逃げまさぁ!(ダダダッ)」

兵士達 「その白いのを捕まえろ!」

兵士達 「用心しろ! 強力なモンスターかもしれないぞ!!」

兵士達 「野郎!!(ブン)」

女児 「きゃっ……(剣を、いきなり……)」

白アイルー 「………………」

兵士達 「(キィィンッ)うわぁっぁぁぁ!」

兵士達 「何だ!? 斬りかかった奴が、逆に吹っ飛んだぞ!!」

兵士達 「ひ……ひぃぃ!」

白アイルー 「………………」

兵士達 「目が赤く、光ってる……!! ネコじゃねぇぞあれ!!」


77: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:07:19.32 ID:A1QGIGY0
兵士達 「全員構えろ! ここでしとめるぞ!」

女児 「あ……あぁ……(沢山の兵士さんたちが、剣を抜いてる……)」

白アイルー 「…………」

兵士達 「モンスターめ……どこから入り込んだ!!」

住民達 「ひえええ! 巻き込まれるぞ!!」

住民達 「死ね! モンスター!!(ブンッ)」

白アイルー 「(パチィィンッ)……?」

住民達 「ひっ……石が弾けて消えた……」


78: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:08:08.32 ID:A1QGIGY0
兵士達 「迂闊に近づくな! 矢を射掛けろ!!」

白アイルー 「…………」

女児 「駄目……」

女児 「(あんなに沢山の矢に……)」

女児 「(あの子は何も悪いことを……)」

女児 「(わたしと同じ)」

女児 「(わたしと……同じ)」

女児 「(でも、わたしとちがう)」

女児 「(迎えに来てくれる、お父さんとお母さんがいるの!!!)」


79: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:08:57.42 ID:A1QGIGY0
女児 「やめてぇぇ!(ダダッ)」

兵士達 「! 子供!? しゃ、射撃待て……」

兵士達 「死ねぇ!(ズドドドド)」

女児 「あッ……!!!」

白アイルー 「!!!!」

女児 「う……」

女児 「(撃たれたの……わたし……?)」

女児 「(からだが……しびれて……)」

女児 「(あれ……?)」

女児 「(ドサッ)」

女児 「………………」

白アイルー 「!!! ……!!!」


81: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:10:52.51 ID:A1QGIGY0
兵士達 「この野郎! 子供を盾にしやがった!!」

兵士達 「突き殺してやる!!」

兵士達 「うぉぉぉぉおおお!!」

白アイルー 「…………Stop、det!!」

兵士達 「! 何だ!?」

兵士達 「何だこの光……ま……まぶしい!!」


82: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:11:53.42 ID:A1QGIGY0
×××××× 「En del af hendes……!」

兵士達 「耳に刺さる……な……なんだ……この声!!」

×××××× 「Det er sa meget. Menneskelige!!」

兵士達 「(ゴゥゥゥゥッ)うわぁぁ!」

兵士達 「ぎゃああ……ッ! た、台風か!? 目が……」

兵士達 「何だ……黒い猫と……赤い猫……!!! いつの間に!!」

兵士達 「踏ん張っていられねぇ……!! うわあああ!」


83: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:13:43.80 ID:A1QGIGY0
―女児、夢の中―



女児 「(どこ……ここ……)」

女児 「(真っ白い……ばしょ…………)」

女児 「(何も見えない……)」

白アイルー 「(にこにこ)」

女児 「!! ネコさん!」

女児 「良かった……けがはなかったんだね……」

女児 「けが……あれ……?」

女児 「わたし……」

女児 「どこも、けがしてない……」


84: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:14:37.83 ID:A1QGIGY0
白アイルー 「(ちょいちょい)」

女児 「……? 空……?」

白アイルー 「(ふぅ)」

女児 「!! わぁ! 太陽……それに、虹!!」

白アイルー 「(ちょいちょい)」

女児 「それ……わたしの、てるてる坊主……」

白アイルー 「(にっこり)」


85: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2009/06/10(水) 22:16:49.61 ID:A1QGIGY0
女児 「あ……どこに行くの!?」

白アイルー 「(トテトテトテ)」

女児 「…………!」

黒アイルー 「…………」

赤アイルー 「…………」

女児 「………………あ………………」

白アイルー 「(にこにこ)」

女児 「………………」

白アイルー 「ニャァ(ブンブン)」


86: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:17:37.30 ID:A1QGIGY0
女児 「………………」

女児 「……良かったね(にこり)」

白アイルー 「ニャ…………ニャウ…………」

白アイルー 「Fine…………vejr」

女児 「……?」

女児 「言葉……?」

白アイルー 「Desuden…………lad…………os…………modes」

女児 「…………」

白アイルー 「Under……fine…………vejr!」


87: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:18:01.91 ID:A1QGIGY0
女児 「あ……」

女児 「(手を振って……消えて……)」

女児 「(お父さんと、お母さんと一緒に……)」

女児 「きゃぁ!」

女児 「(い……今一瞬、太陽が爆発したみたいに光った……)」

女児 「……!!!」

女児 「空に……」

女児 「大きな……黒と、赤と……白の、ドラゴンが…………」


88: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:18:19.07 ID:A1QGIGY0
―路地―



女児 「…………」

女児 「……けほっ……けほっ……」

女児 「わたし……生きてる……」

女児 「(まわりが……台風みたいに、大きく崩れてる……)」

女児 「(まるで何かがばくはつしたみたい……)」

女児 「…………」

女児 「(白ネコさんは、いない……)」

女児 「(カサ……)」

女児 「(これ……あの子がつくった、てるてる坊主……)」


89: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:18:42.01 ID:A1QGIGY0
女児 「あれ……?」

女児 「雨が……止んだ……」

女児 「(空に、虹ができてる……)」

女児 「(きれい…………)」

女児 「あれ……あそこの雲も……」

女児 「てるてる坊主にみえる……」


90: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:19:04.44 ID:A1QGIGY0
女児 「(どうしてだろ……)」

女児 「(涙、出てくる……)」

女児 「(あぁ……わたし……)」

女児 「(わたし……)」

女児 「…………」


91: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/10(水) 22:19:31.36 ID:A1QGIGY0
女児 「………………」

女児 「(お父さんと、お母さんに会えてよかったね…………)」

女児 「(私も……)」

女児 「(あしたは……)」

女児 「(あしたは、天気になると……いいなぁ……)」


101: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:38:32.89 ID:Ky.D1Uo0
―現在、火山、深夜半―



クック 「……ン……ンン……」

キリン 「! おじさま!」

クック 「キリンちゃん……? 私は……」

キリン 「ずっと気を失っていたのよ。良かった、気がついて……」

クック 「ここは……?」

キリン 「アカムトルムさんのお家。洞窟が崩れて、怪我をした人は、みんなここに避難しているの」


102: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:39:06.59 ID:Ky.D1Uo0
テオ・テスカトル 「……? おお、イャンクック殿。目を醒まされたか」

クック 「テオさんではないか。あなたも、いらっしゃったのですか」

テオ・テスカトル 「ああ。人間側の火山通路は、ほとんど完全に埋まってしまった。ガブラス君達の群落が潰れてしまったな……」

クック 「そうですか……」

テオ・テスカトル 「人間が何かを爆発させて、この騒ぎを引き起こしたと聞くが?」

クック 「! そうだ……女児! 女児は……!!」

クック 「助けに行かねば……!!」

クック 「ぐ……(よろり)」

キリン 「おじさま……」


103: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:39:30.79 ID:Ky.D1Uo0
キリン 「女児ちゃんは大丈夫。ヴォルガノスさんが助けてくれて、今、火傷を治すために砂漠にいるらしいわ。さっきネコ飛脚便が知らせてくれたの」

クック 「そうか……良かった……」

クック 「本当に、良かった……(ふらり)」

テオ・テスカトル 「クック殿。私にはどうにも理解ができないのだが、人間は、あなたが保護していた子を熔岩に落とし……」

テオ・テスカトル 「しかしその一方、あなたの傷を治すために、キリンに薬をよこした。そうだね、キリン」

キリン 「はい。おじさまや、他の方の大きな傷はそれで治しました」

クック 「薬を……? 何故だ。私は、確かに人間が悪意を持って爆弾を撃つのを見た。女児はそのせいで、落ちてしまったんだ」


104: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:39:57.66 ID:Ky.D1Uo0
テオ・テスカトル 「私にも詳しいことは分かりませんが……とにかく、大事に至らなくて良かった」

黒グラビモス 「(ズシン、ズシン)イャンクック様!」

クック 「! 黒グラビさん!! 良かった、毒が消えたのか!!」

黒グラビモス 「ええ。この通り動くことが出来るようになりました。夫のことも……重ねて、ご迷惑をおかけいたしました……」

クック 「そんな……頭を上げてください。あなた方には、私の家族が生きているとき、妻の産後など随分と世話になりました」

黒グラビモス 「私の方こそそんな……もう、お礼しか申し上げることができずに……」

バサルモス 「…………」

クック 「あァ、バサル君も無事だったか。良かった」


105: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:40:20.34 ID:Ky.D1Uo0
バサルモス 「クックおじさん、怪我は大丈夫!? 俺……俺……(ぐすっ)」

クック 「私はほら、この通りだ。どうしたんだい?」

バサルモス 「…………」

バサルモス 「……目の前で落ちたんだ……女児が……でも、助けられなかった……」

クック 「(そういえば、あの時、女児はバサルモス君の背中に乗っていた……)」

バサルモス 「ごめんなさい……おじさん、俺……」

クック 「そんなに気に病むことはない。それに、女児は生きているのだろう? なら、問題はないさ」

バサルモス 「でも……俺、情けないよ……」

バサルモス 「何もできなかった……俺……」


106: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:40:40.97 ID:Ky.D1Uo0
黒グラビモス 「(なでなで)この子、火山に迷い込んでいた女児ちゃんと、少しの間一緒にいたらしいんです。それで……」

バサルモス 「(ぐすっ……)」

クック 「一歩間違えば、だれもが惨事になりかけたことだった。何事もなく済んでよかったよ」

アカムトルム 「(ズイッ)そうよぉぉ~、泣いてばっかりいたら、折角のカワイ子ちゃんが台無しじゃない? 駄目よぉ?」

バサルモス 「!!」

クック 「アカムさん!?」

アカムトルム 「あら何? ここ、あたしの家よ」

テオ・テスカトル 「アカム殿、手間をかける」

アカムトルム 「いいのよいいのよ~、テオちゃんの頼みなら、ンもう何でも聞いちゃうっ!」


107: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:41:00.60 ID:Ky.D1Uo0
バサルモス 「おじさ……お姉ちゃん」

アカムトルム 「なぁに純情ボウイ?」

バサルモス 「その……変態とか言って、ごめん……お姉ちゃん、すごく強くて……男らしかった」

アカムトルム 「ちょ、ちょっと何よ改まって。そんなこと言われると照れちゃうじゃなーぃ!」

クック 「(男らしいというのはいいのか……)」

アカムトルム 「んま、坊やも沢山食べて自分を磨けば、いずれアタシのようになれるわよーぅ」

バサルモス 「俺……お姉ちゃんみたくでっかくなれるかな?」

アカムトルム 「なれるなれる。あたしだってね、あんたくらいの時があったんだからねぃ」

バサルモス 「まじで……!?」


108: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:41:17.77 ID:Ky.D1Uo0
テオ・テスカトル 「アカム殿、銀さんは?」

アカムトルム 「ん? お銀なら、一旦塔に戻ったわよ。金子を連れて来るってさ」

テオ・テスカトル 「そうか……」

クック 「どれ……(ぐぐ……)」

キリン 「! おじさま、まだ寝てなきゃ駄目よ!」

クック 「そうもしていられない。女児が、砂漠にいるというなら、迎えに行ってやらねば……」

クック 「あの子も、怖い思いをしたことだろう……」

クック 「私が、ついていてやりたいんだ……」

テオ・テスカトル 「そのことなのだが……」


109: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:41:48.88 ID:Ky.D1Uo0
テオ・テスカトル 「今現在、女児という人間の子は、我が妻に連れられ、夢幻砂漠流、ディアブロス老師の元にいるらしい」

クック 「! 老師の……」

クック 「確かに、老師なら、深い怪我などを治す手立てを知っている……」

クック 「私も随分若い頃、一度だけお会いしたことがある……」

テオ・テスカトル 「しかし、飛脚便で飛んできた猫によると、どうやら今現在、砂漠は、その女児を狙う猿と蟹に囲まれてしまっているらしいのだ」

クック 「! 何だって!?」

クック 「女児は……優しい子なんだぞ!」

クック 「モンスターか、人間かなど関係はない。あの子は、相手が竜でも何でも、自分で薬を塗ってあげるような……」

クック 「そんな、優しい心を持つ子なんだ」

クック 「それを何故、殺そうとなど……!!」


110: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:42:06.25 ID:Ky.D1Uo0
テオ・テスカトル 「うむ……私も、話を聞いている限りでは、排斥しようとは思わない」

テオ・テスカトル 「しかし、この混乱に対する報復を、猿、蟹族は声高に主張をしている……」

テオ・テスカトル 「ラオシャンロンは、お住まいの樹海奥から出てこず、話し合いもできぬ……」

テオ・テスカトル 「それゆえに、猿蟹族が、強行に出ようとしているのだ」

クック 「なんということだ……!!」

クック 「ラオシャンロン殿は、何をしておられるのだ!」

テオ・テスカトル 「分からぬ……しかし、妙な胸騒ぎがする」

テオ・テスカトル 「猿蟹族は、そんな最中、モンスターが人間を助けている状況を、裏切りと考えているようだ」

テオ・テスカトル 「それゆえ、夢幻砂漠流に女児の引渡しを求めているとのこと……」


111: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:42:26.40 ID:Ky.D1Uo0
クック 「……くっ……」

テオ・テスカトル 「私はこれより、砂漠に向かう。我が妻が心配だ」

クック 「テオ殿。私も行きます」

テオ・テスカトル 「しかしクック殿……クチバシが割れている。完治したわけでもない。無理は禁物だ」

クック 「それでも、迎えにいきたいのです……!」

テオ・テスカトル 「……分かった」

バサルモス 「俺も行く。おじさん、俺の背中に乗ればいいよ!!」

クック 「! バサルモス君!」

バサルモス 「ママ、いいでしょ? 俺、おじさんのことを助けてくる」

黒グラビモス 「ええ。ええ、よく助けてさしあげて。イャンクック様、不肖な息子ですが、使ってやってくださいませんか?」


112: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:42:45.09 ID:Ky.D1Uo0
クック 「そんな……いや、ありがたい。すまないが、助けになってくれ」

バサルモス 「はい!」

アカムトルム 「頑張ってくるのよーぅ、純情ボウイ。ことと次第によっちゃ、あなた、将来二代目カム子の座を継げるかもしれないわ。今から精進なさいな」

バサルモス 「うん!(カム子……?)」

キリン 「おじさま、私も行く。このままここで待っているなんてできないわ」

クック 「ああ、キリンちゃん、行こう」

テオ・テスカトル 「よし、では私の巣から抜けられる近道を通って……」

×××××××× 「(ドバッ)」

黒グラビモス 「!! 何かが、地面から出てきたわ!」

アカムトルム 「ちょぉぉっとぉ! 何アタシの家に穴開けてんのよぉぉ!」


113: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:43:03.52 ID:Ky.D1Uo0
ダイミョウザザミ 「シェキ……シェキ……」

バサルモス 「カニだ……!!」

ダイミョウザザミ 「…………テオ・テスカトルはいるか…………?」

テオ・テスカトル 「私だ。何の用だ?」

ダイミョウザザミ 「……シェキ…………我が父より……伝言だ……」

ダイミョウザザミ 「我々、ギザミ一族は…………この行為を……人間の脅威ととって……」

ダイミョウザザミ 「その報復に……出ることにした……」

テオ・テスカトル 「……! 何だと!? 勝手な戦闘は、ラオシャンロンが禁止をしているはずだ」

ダイミョウザザミ 「シェキ……シェキ……」

ダイミョウザザミ 「その……シャンロンは……どこだ……?」


114: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:43:18.28 ID:Ky.D1Uo0
テオ・テスカトル 「何……」

ダイミョウザザミ 「もう……奴は…………我々を守っては……くれない……」

テオ・テスカトル 「…………」

ダイミョウザザミ 「自分の身を自分で……守ろうとして……何が悪い……!」

ダイミョウザザミ 「攻撃は…………明朝…………」

ダイミョウザザミ 「我らの…………力と共に……人を攻撃する……」

ダイミョウザザミ 「その前に……」

ダイミョウザザミ 「貴様らが囲っている……裏切り者が囲っている……人間を…………」

ダイミョウザザミ 「血祭りにあげる…………」

クック 「!!!」


115: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:43:33.77 ID:Ky.D1Uo0
ダイミョウザザミ 「以上だ…………」

テオ・テスカトル 「待て! それでは完全な、反乱宣言ではないか!!」

ダイミョウザザミ 「…………ブランゴ一族も、我らに賛同した…………」

ダイミョウザザミ 「我らはもう……止まらぬ……」

ダイミョウザザミ 「三年前のような…………中途半端な…………」

ダイミョウザザミ 「そのせいで、今のような…………」

ダイミョウザザミ 「それはもう……ごめんだ…………」

テオ・テスカトル 「ダイミョウ殿!!」

ダイミョウザザミ 「(ズボボボボ)」


116: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:43:49.05 ID:Ky.D1Uo0
テオ・テスカトル 「くっ……潜って行ってしまった」

アカムトルム 「ちょぉぉっと! なぁにあれ? 不愉快極まりないわね、まったくカニってやつは!」

テオ・テスカトル 「……とにかく、早く砂漠に行かねばなるまい。アカム殿、後を頼めるか?」

アカムトルム 「それはいいけど……ちょっとあのカニの言ったこと、気になるわね」

アカムトルム 「ラオちゃんには連絡してるの? このこと」

テオ・テスカトル 「ああ。ネコは随分前に走らせている」

アカムトルム 「あたし、ちょっと後で様子見てくる」

テオ・テスカトル 「すまない。では、行くぞ、クック殿方!」

クック 「ああ……!」


117: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:44:04.07 ID:Ky.D1Uo0
キリン 「女児ちゃんを殺すなんて……!! 何ということを!」

クック 「……ギザミ一族は昔からそうなんだ……!」

クック 「人間に対する憎しみが、ここまで根深いとは……!」

バサルモス 「おじさん、俺の背中に捕まって」

クック 「ああ、世話をかける……(ズッ)」

バサルモス 「よっ……と。じゃ、ママ、行ってくる。助けてくるよ。女児も……!」

黒グラビモス 「ええ。イャンクック様をよくお助けするのですよ」

黒グラビモス 「その、人間の子も……」

バサルモス 「うん!」


119: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:44:30.14 ID:Ky.D1Uo0
―砂漠、秘境、奥間、深夜半―



ディアブロス 「……それで、ギザミ一族とブランゴ一族は、この洞窟の入り口を囲んでいるわけか」

ディアブロス亜種 「はい。奴らの要求は、女児の引き渡しと、可能ならば、人間に対する攻撃への参加ですね。どうにも言葉が野蛮でよく分かりません」

女児 「………………」

ディアブロス 「ラオシャンロンが動けぬこの時期を見計らい、人間に対して報復をするつもりか……愚かなことを……」

ドスガレオス 「何かえらいことになってますねぇ……でも、ずっと監視されてるのも癪だな。俺、外に行って蹴散らしてきましょうか?」

ティガ兄 「同感だな。カニや猿がなんぼのもんだっつぅんだよ。ラージャンもいるんだろ? 叩き殺してやるぜ!」

ドスガレオス 「お、兄さん、話が分かるね」

ティガ兄 「てめーもな! ドス家の連中はどいつもこいつも軟弱野郎とばっかし思ってたが、なるほど良さそうなのもいるじゃねぇか」

ナナ・テスカトリ 「……なりません」


120: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:44:49.97 ID:Ky.D1Uo0
ティガ兄 「先生、でもよ……」

ナナ・テスカトリ 「絶対になりません。私の目の届くところで、もう一度ラージャン君や、他の方に暴力を振るうなど……」

ナナ・テスカトリ 「ティガレックス兄君、それを、私が許すとでも思いますか?」

ティガ兄 「…………ッ……いや……それは……」

ナナ・テスカトリ 「ことに及んで、叩き殺すなど……わたくしは、そのようにあなたを教育したつもりはありませんよ」

ティガ兄 「だぁぁーッ、もう何で俺怒られてんの!? 助けに来たのに!」

ナナ・テスカトリ 「物事には順序というものがあるでしょう。まずは話し合いを……」

ティガ兄 「先生、ラージャンに話し合いなんて通じないって! 分かってるでしょ!?」


121: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:45:03.27 ID:Ky.D1Uo0
ティガ兄 「あいつ、先生を呼び出して襲うような、野蛮な下衆野郎だぜ?」

ティガ兄 「それに、ウチの妹分達も、あん時、随分痛めつけられてんだ。これで二回目だぜ!?」

ティガ兄 「話し合いなんて、もうできるわけがねぇ!」

ナナ・テスカトリ 「それでもです」

ティガ兄 「!!」

ナナ・テスカトリ 「それでも、戦ってしまったら、どちらかが折れない限り、もう後には引けないのです」

ナナ・テスカトリ 「何と言おうと、あなたも、ラージャン君も、私の生徒です」

ナナ・テスカトリ 「生徒同士が殺し合いなど、断固として許すことはできません」


122: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:45:22.21 ID:Ky.D1Uo0
ディアブロス 「…………」

ディアブロス亜種 「いかがいたしましょう、主。随分な数を集めているようですが……」

ディアブロス亜種 「それに、何か、嫌な臭いも感じまして……」

ディアブロス 「嫌な臭いとな……?」

ディアブロス亜種 「はい。腐ったような、生臭い磯の臭いでございます」

ディアブロス 「まさか……シェンか……」

ディアブロス亜種 「…………」

ディアブロス 「あ奴は殻を破壊され、地中に封じられているが……ラオの力も弱まっている。出てきたのか……」


123: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:45:37.74 ID:Ky.D1Uo0
ディアブロス亜種 「して、主……」

ディアブロス 「うむ……」

女児 「あの…………」

ディアブロス 「何だ?」

女児 「わたしのせいで、みなさんめいわくなら……」

女児 「わたし、出ていきます」

ディアブロス 「…………」

女児 「目、みえなくなっちゃったけど……」

女児 「けがなおしてくれて、ありがとうございました……」

ティガ兄 「…………」

ディアブロス 「引き渡しなどせぬ」

女児 「!!」

ディアブロス 「たわけが。命を与え、そしてまた奪うなど愚の骨頂。奪うくらいならば与えぬ。それはわしに対する愚弄である」


124: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:45:54.77 ID:Ky.D1Uo0
ティガ兄 「…………」

ディアブロス亜種 「かしこまりました。そのように伝えてまいります」

ディアブロス 「待て、わしもゆこう」

ナナ・テスカトリ 「老師、わたくしも参ります」

ディアブロス 「良かろう。ゆくぞ、黒ディア、ナナよ」

ディアブロス亜種 「はっ」

ナナ・テスカトリ 「はい!」

女児 「おじいさん……」

ディアブロス 「(ドス、ドス)人間の娘よ」


125: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:46:08.04 ID:Ky.D1Uo0
女児 「何……ですか?」

ディアブロス 「わしもほとんど、目が見えぬ」

女児 「!!」

ディアブロス 「しかしわしには、お前の顔が見える」

女児 「…………」

ディアブロス 「見るということは、ただ、目に映る現実を知覚することではない……」

ディアブロス 「聞き、肌で感じ、想い、そして脳の、心の中でそれを受け止め、想像すること……」

ディアブロス 「それが、見るということだ……」

ディアブロス 「よいか……」


126: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:46:24.70 ID:Ky.D1Uo0
ディアブロス 「お前の目が、見えずとも、全て世界は流れ続ける……」

ディアブロス 「お前の目に光が映らずとも、太陽は昇り、また落ちる……」

ディアブロス 「お前が死のうが、世界はそのままよ……」

ディアブロス 「想像せよ……」

ディアブロス 「心で願え……」

ディアブロス 「そのまま、あり続けるであろう世界を想像するのだ」

ディアブロス 「思い描くのだ、場面を……」

ディアブロス 「それが、見るということだ……」


127: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:46:38.84 ID:Ky.D1Uo0
ディアブロス 「………………(ドス、ドス)」

ディアブロス亜種 「(ドス、ドス)」

ナナ・テスカトリ 「すぐ戻ります。みなさん、ここにいてください(ドス、ドス)」

女児 「…………」

ティガ兄 「…………」

ドスガレオス 「……はぁ、やっぱしいつも、老師の話は難しくてよく分からないや」

ティガ兄 「……あぁー眠っ。つか、お前マジで何も見えねーの?」

女児 「…………うん」

ティガ兄 「ぎゃはっ、いいことじゃね? もう俺の顔見てビビるこたーねぇ!」

女児 「…………」

ドスガレオス 「滋養水が強すぎたんだな……時間を置けば、治るかもしれないから、ま、気にせず過ごせばいいと思うよ」

ティガ兄 「軽いなァ兄弟」

ドスガレオス 「俺のウリはこの軽さなもんで」


128: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:46:55.85 ID:Ky.D1Uo0
ヴォルガノス 「……(ズシン、ズシン)」

ドスガレオス 「誰か起きてきやしたぜ」

ティガ兄 「あァ? ヴォルの野郎じゃねぇか!」

ヴォルガノス 「お前は……ティガか。来ていたのか。兄と弟、どっちだィ」

ティガ兄 「兄だ! 見りゃ分かンだろ!」

ヴォルガノス 「首が痛む……あっし、気を失っていたんですかね……」

ドスガレオス 「………………」


129: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:47:08.65 ID:Ky.D1Uo0
ドスガレオス 「………………てな訳で。ちょっと面倒なことになってるんです」

ヴォルガノス 「…………なるほど、じゃあ、今は、先生は師匠たちと一緒に、話し合いに出てるってとこかい」

ティガ兄 「ここにいろってさ。ラージャンもいるってのに……」

ヴォルガノス 「……あっしを闇討ちしたのも、奴だった。前に戦った時より、雷の力が増幅しやがってましてねェ……」

ティガ兄 「へっ。ざまぁねぇぜ」

ヴォルガノス 「つっても弟サンもやられてんでしょ? クシャル姉妹も見えたが……」

ティガ兄 「…………」


130: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:47:29.81 ID:Ky.D1Uo0
ティガ兄 「……確かに、あいつの力ァかなり異常だ。普通のモンスターが出せるパワーを、遥かに超えてやがる」

ヴォルガノス 「…………」

ティガ兄 「単純な戦闘力なら、校長といい勝負だぜ」

ヴォルガノス 「……猿蟹なんざぁ相手にしても、キリがねぇ。得もねぇ。先生の仰ることは的を射てまっせ」

ティガ兄 「ンだとォ!? てめぇ、ラージャンの野郎をあのまま好きにさせといていいってでもいうつもりか!?」

ヴォルガノス 「あっしがクック氏から頼まれたのは、そこな童を探し出すってことだけなんで。それ以外は、今んとこ関係のないことでして」

女児 「…………」

ティガ兄 「チッ。腰抜け野郎が」


131: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:47:51.45 ID:Ky.D1Uo0
ヴォルガノス 「何でも、目ェ見えんくなったとか」

女児 「うん……でも、わたしをたすけてくれてありがとう」

ヴォルガノス 「礼には及ばねぇ。もともとあっしには何ら関係がねぇことでござんす」

女児 「それでも……ありがとう」

ヴォルガノス 「むしろ、あの熱気の中、ナズチの皮を被ってたとはいえ、それだけで済んだのが驚きでさァ」

女児 「…………」

ヴォルガノス 「感謝なら、自分の悪運の良さにするんですな。死んでた方が幸せってことも、世の中にぁよくありまさ」

ティガ兄 「あァ? てめ、何が言いてぇ?」


132: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:48:06.15 ID:Ky.D1Uo0
ヴォルガノス 「特に言いたいことってァねぇが、師匠が外に出てるってなら、あっしもいかにゃぁならんと思ってな」

ティガ兄 「先生がここにいろっつったんだぜ? てめぇ、先生の言うことが聞けねぇってのか」

ヴォルガノス 「それはアンタらに向かって言ったんじゃなかろうかね。あっしにじゃねぇ(ドスドス)」

ティガ兄 「屁理屈言いやがって……てめぇが行くなら俺も行くぜ」

ヴォルガノス 「先生の言うことァ聞けねぇってかい」

ティガ兄 「それとこれたぁ話が別だ。抜け駆けは許さねェ。野郎をブチ殺すのは俺だ」

ヴォルガノス 「…………」


133: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:48:31.00 ID:Ky.D1Uo0
ティガ兄 「おい、ドスガレ公」

ドスガレオス 「へ? はい、何です?」

ティガ兄 「この小娘、砂漠から連れ出せ。ここ、抜け穴とかあんだろ?」

ドスガレオス 「ぇぇ!? 俺だけ負けクジ? そりゃないですぜ兄さん」

ヴォルガノス 「目上のいうことは黙って聞け、バカ者が」

ドスガレオス 「うぅ……さっきまで気絶してたくせに……」

ヴォルガノス 「何か言ったか?」

ドスガレオス 「何も」

女児 「…………」

ティガ兄 「てな訳だ。俺らも加勢に向かうぜ。てめーはとっととおっさんのところに帰るんだな」


134: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:48:54.23 ID:Ky.D1Uo0
女児 「帰る……私が? おじさんのところに……」

ティガ兄 「目の前でうろちょろされると、気になって仕方ねぇ。とっとと森の奥にでも引っ込んで老衰で死ね!」

女児 「…………」

ティガ兄 「よし、行くぜ。ドスガレ公、火山の方に行ってみろ」

ドスガレオス 「合点しましたッス。兄さん方、まぁせいぜい気をつけて」

ヴォルガノス 「言われるまでもない」

ドスガレオス 「そいじゃ、お前さんはこっちにきなされよ」

女児 「う、うん……(ふらふら)」

ドスガレオス 「土ン中通らなきゃいけないからなァ……口の中に入っててくんない?」

女児 「え? いいの……?」

ドスガレオス 「俺、頬袋あるからそこに入ってりゃいいよ」

女児 「あ……ほんとだ……入れそう……」


135: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:49:10.23 ID:Ky.D1Uo0
―秘境、入り口―



ティガ兄 「ラーの野郎は、前から気に食わなかった……」

ヴォルガノス 「…………」

ティガ兄 「あの時……先生を呼び出して、火山で襲ったとき、熔岩に突き落としときゃぁ良かったんだ」

ヴォルガノス 「ラージャンは普通じゃねぇって話ィ、聞いたことありやしてな……」

ティガ兄 「……」

ヴォルガノス 「ありゃ、ドドブラと砂ブラの子供ぅつう話だが……」

ティガ兄 「砂ブラ? まさか! 雪山と砂漠のモンスターじゃ、そもそも種族が違うだろ」

ヴォルガノス 「それでも突然変異で産まれることがあるってな。そんな話でさ」

ティガ兄 「第一砂ブラなんて、俺だって話に聞いただけで……本当にいるかどうかも……」

ヴォルガノス 「まぁ、そういったわけで、あいつはモンスターでありながら、モンスターを越えた力を持ってるんでさ」


136: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:49:21.64 ID:Ky.D1Uo0
ティガ兄 「ちぃっ。胸クソ悪ィ」

ヴォルガノス 「学生の頃からおかしいたぁ思ってたが、どうにも、興奮すると人格が変わったようになるとか」

ティガ兄 「……確かに。金色になると、妙に滑舌良くなるな……」

ヴォルガノス 「先生は平和主義者だが、敵になるってんなら、早めに叩いとくに越したこたぁねぇって訳で」

ティガ兄 「…………同感だ。ン? 先生達だ」

ヴォルガノス 「ドドとギザミもいやすぜ」

ティガ兄 「くそが……イラつく面ァしてやがる」


137: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:49:34.95 ID:Ky.D1Uo0
ドドブランゴ 「……では、人間の引渡しもせず、攻撃にも参加しないと、そう言うのか」

ディアブロス 「くどい。我らにはせんなきこと。おぬしらの意見も聞く余地などはない」

ショウグンギザミ 「…………キシェッ……おいぼれが…………話にならん…………」

ディアブロス亜種 「(ぐるるるる)」

ナナ・テスカトリ 「ドド様、何故ですか。人間達との争いは、ラオシャンロン様が……」

ドドブランゴ 「黙れ、愚女が」

ナナ・テスカトリ 「……!!」

ドドブランゴ 「……このたびの攻撃で、まだ分からないか。人間は、我らの住処を奪うことなど、なんとも思っておらぬ」

ナナ・テスカトリ 「ですが……」

ドドブランゴ 「ですが、何だ? 貴様には癒せるのか? 住処を、仲間を失った者の苦しみ悲しみ全てを……」

ナナ・テスカトリ 「…………」

ドドブランゴ 「だから我らは、報復をするのだ……人間達に、我らの恐怖を与えるのだ……」


138: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:49:49.89 ID:Ky.D1Uo0
ドドブランゴ 「その何が悪い……砂漠の長よ、答えよ!」

ディアブロス 「笑止」

ドドブランゴ 「何!?」

ディアブロス 「雪山の長よ、悲しみだ、苦しみだとのたまうが……なら、それはお主らだけで勝手に取り組めばよいこと」

ドドブランゴ 「……!!」

ディアブロス 「我々は、知ったことではない」

ドドブランゴ 「…………モンスターの身でありながら、モンスターを支持せぬと申すか……」

ディアブロス 「同じことよ。知ったことではないというだけの話……」


139: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:50:03.60 ID:Ky.D1Uo0
ドドブランゴ 「……これ以上話しても無駄なようだな……」

ディアブロス 「…………」

ドドブランゴ 「我らの攻撃は、明朝予定通りに行う……しかし、その前に……」

ドドブランゴ 「貴様らが保護している人間を差し出せ……」

ドドブランゴ 「……差し出せぬというのならば、貴様らも人間と同じよ……」

ドドブランゴ 「奴らに組するものとして、実力行使に移らせてもらう…………」

ディアブロス 「…………」


140: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:50:22.23 ID:Ky.D1Uo0
ディアブロス 「話はそれだけか……」

ドドブランゴ 「…………」

ディアブロス 「……沢山の蟹と猿をはべらせよく言う……」

ディアブロス 「やるなら来んか……男らしくないぞ、雪山の主……」

ドドブランゴ 「! 貴様……」

ドドブランゴ 「……わしを愚弄するか…………!」

ディアブロス 「………………そちらの愚息に、我が弟子が少し世話になってな……」

ディアブロス 「何、来るというのならば、拒む理由もないというもの……」


141: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:50:37.96 ID:Ky.D1Uo0
ナナ・テスカトリ 「(駄目だわ……話を聞いてくださるような状況では……)」

ナナ・テスカトリ 「(……ラージャン君の姿が見えない……)」

ナナ・テスカトリ 「(せめてあの子だけでも、この不毛な争いから……)」

ナナ・テスカトリ 「……!!」

ナナ・テスカトリ 「(何? 地面が揺れてる……!!)」

ナナ・テスカトリ 「(地震!? こんな、砂漠の真ん中で……)」

ティガ兄 「! 先生危ねぇ!(バッ!!)」

ナナ・テスカトリ 「きゃぁ!(ズザァァッ)」

ヴォルガノス 「師匠!!」

ディアブロス 「!!(バッ)」

ディアブロス亜種 「……!(バッ)」


142: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:50:49.84 ID:Ky.D1Uo0
>ズゥゥゥゥン

ナナ・テスカトリ 「(な……何かが、私たちのいた場所に……突き刺さった……!!)」

ナナ・テスカトリ 「(ティガ兄君が、私を抱えて飛び退ってくれなかったら……)」

ナナ・テスカトリ 「(あ……あの……)」

ナナ・テスカトリ 「(あの巨大な足は……もしかして……)」

ナナ・テスカトリ 「(シェンガオレンの……!!!!)」


143: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:51:05.24 ID:Ky.D1Uo0
ディアブロス 「(ズザッ)」

ディアブロス亜種 「主、お下がりください」

シェンガオレン 「(ズズズズズズ)」

ディアブロス亜種 「…………地中を移動してきたか、ヤド無しカニが……!」

ディアブロス 「今更、ヤドを壊され、気が触れた男の封印を解いて、どうするというのだ……?」

シェンガオレン 「キシェ…………シャァァ!!」

ティガ兄 「な……何て大きさだ……」

ヴォルガノス 「それに、目の色が完璧おかしい……ったく、面倒なことに……」


144: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:51:20.93 ID:Ky.D1Uo0
シェンガオレン 「痛ェェエエェ……痛ぇぇぇええぇヨォォォ」

ショウグンギザミ 「父上…………もうじき……痛みは晴れます…………人間に恨みを晴らし…………」

ショウグンギザミ 「そして……ラオシャンロンの頭を、新たなヤドとすれば…………」

ナナ・テスカトリ 「! 何ということを!! あなた方、ご自分の仰っていることが……」

シェンガオレン 「痛ぇぇぇえよぉぉぉぉ!!(ブゥン)」

ティガ兄 「先生、早く逃げろ!(ドン!)」

ナナ・テスカトリ 「きゃ……ティガ兄君!!」

ティガ兄 「(ドズッ)ガッ………………!!!」

ティガ兄 「…………(ズゥゥゥン)」


145: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:51:34.66 ID:Ky.D1Uo0
ナナ・テスカトリ 「そ……そんな! そんないきなり!!」

シェンガオレン 「ブェァァァァアァ(バシャァァァ!!)」

ディアブロス亜種 「くっ……溶解液を……! これでは近づけない……!!」

ディアブロス亜種 「奴め……本気で、人間に組するモンスターごと、人を叩くつもりか……!!」

ディアブロス 「…………」

シェンガオレン 「キャラァァ!!(ブゥゥゥン)」

ディアブロス 「(スッ)…………(ガキィィィンッ)」

ドドブランゴ 「!!」

ディアブロス 「…………えげつがない……だらしもない……一度負けた負けカニが、今更何をほざく……」

シェンガオレン 「痛ェェえええ! 背中が痛ぇぇよぉぉぉ!(ブゥゥゥン)」

ディアブロス亜種 「……(ガキィィィン!)」

ナナ・テスカトリ 「(あの大きな足を、跳ね返した……!!)」

シェンガオレン 「キシャァァア!!」


146: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:51:47.89 ID:Ky.D1Uo0
ディアブロス 「大方……ラオの監視の目が緩んだのを見て連れ出したようだが……ヤドのないカニは、所詮カニよ……」

ショウグンギザミ 「我が父を……愚弄するか…………!!!」

シェンガオレン 「シャァァ! シャァァ!!(ブン! ブン!)」

ディアブロス 「(ガキィィン! ガキィィィン!) ……ッ!」

ディアブロス亜種 「主!」

ドドブランゴ 「ふん……老体でよくやる……しかし……」

ラージャン 「………………(スッ)」

ナナ・テスカトリ 「!!」

ドドブランゴ 「行け」

ラージャン 「……(シュッ)」


147: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:52:00.77 ID:Ky.D1Uo0
ディアブロス 「(ガキィィン)……!!」

ラージャン 「(ヒュッ)…………(バチバチ)」

ナナ・テスカトリ 「いけない! 駄目、ラージャン君!!」

ラージャン 「……!(ピクッ)」

ディアブロス亜種 「主!(ドドドッ)」

ラージャン 「(ブワッ)」

ディアブロス 「な……(早い……)」

ディアブロス 「(それに気の量が……爆発的に……)」

ヴォルガノス 「師匠!!(ラージャンが、金色に……)」


148: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:52:15.76 ID:Ky.D1Uo0
ラージャン 「ギャォォォォ!!(バチバチバチバチバチ)」

ディアブロス 「ガァァァ!」

ディアブロス亜種 「グ……アァァ!!!」

ディアブロス 「…………(ズゥゥン)」

ディアブロス亜種 「………………(ズゥゥン)」

ラージャン 「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」

ヴォルガノス 「(な……何てこった……)」

ヴォルガノス 「(師匠とバトラーに、雷が落ちた…………)」

ラージャン 「はぁ……はぁ……(ガクッ)」


149: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:52:28.75 ID:Ky.D1Uo0
ヴォルガノス 「……ッ! しまった! シェンが……!!」

シェンガオレン 「ギャハハハハ! 痛ぇぇぇよぉぉぉぉ!!(ブゥゥゥゥン)」

ナナ・テスカトリ 「!!」

>ドズゥゥゥゥン

ヴォルガノス 「ぐぁぁぁ!!」

ナナ・テスカトリ 「きゃぁぁあああ!!」

ヴォルガノス 「………………(ズゥゥゥン)」

ナナ・テスカトリ 「………………(ズゥゥゥン)」


150: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:52:42.68 ID:Ky.D1Uo0
シェンガオレン 「ケヒュ…………ケヒュ…………」

ショウグンギザミ 「……もうじき……もうじき新しいヤドが手に入ります……父上……」

ドドブランゴ 「………………戻れ、ラーよ」

ラージャン 「…………(シュバッ)」

ドドブランゴ 「…………」

ディアブロス 「………………」

ドドブランゴ 「よし、者ども……ディアブロスの巣を漁れ……」

ブランゴ達 「キキィ!!」

ラージャン 「はぁ…………はぁ………………」

ラージャン 「せ…………先生…………」

ナナ・テスカトリ 「………………」


151: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:52:56.61 ID:Ky.D1Uo0
―砂漠、火山近く―



ドスガレオス 「(ブハァ!)……ッ、やっと抜けた!!」

ドスガレオス 「(しかし、途中で何か地震みたいな音を聞いたが……)」

ドスガレオス 「(また、火山が崩れたのかね……)」

女児 「はぁ……はぁ……」

ドスガレオス 「おっと、まだ死んでないみたいだな」

女児 「うん……ありがとう……」

ドスガレオス 「ここからは、砂を泳ぐから、俺の背中に登って、ヒレを掴んでな」

女児 「わかった……(よじよじ)」


152: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:53:13.02 ID:Ky.D1Uo0
ドスガレオス 「ん~~~~、綺麗な星空だ!」

女児 「…………」

ドスガレオス 「……(そういや、目が見えなくなってたんだっけか)」

ドスガレオス 「(人間も、俺らと同じように……)」

ドスガレオス 「(心細くなったりすんのかね)」

ドスガレオス 「? あれは……」

ドスガレオス 「!! テオの旦那に……バサルっち!」

女児 「……バサル君?」

ドスガレオス 「おーい! 何してんですかい~~!!」


153: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:53:35.12 ID:Ky.D1Uo0
テオ・テスカトル 「ドスガレオス君ではないか!(ズザザザザッ)」

ドスガレオス 「おっす旦那。こんばんはです。奥さん探しっすか?」

テオ・テスカトル 「その通りだ。そういう君は……」

女児 「…………」

テオ・テスカトル 「そうか……この子を先に連れ出したのだな」

女児 「こ……こんばんは…………」

テオ・テスカトル 「……?」

テオ・テスカトル 「(目の焦点が合っていない……)」

テオ・テスカトル 「(見えていないのか……?)」


154: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:53:46.89 ID:Ky.D1Uo0
バサルモス 「あぁぁ!! 女児!! 良かった!!」

女児 「その声は、バサル君!」

ドスガレオス 「バサルっち、久しぶりだなー!!」

バサルモス 「ドスガレ!? 何でこんなとこにいるの!?」

クック 「女児!? 女児じゃないか!!(バサァッ)」

キリン 「女児ちゃん!?」


155: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:53:58.59 ID:Ky.D1Uo0
女児 「(あれ……)」

女児 「(おじさんと、お姉ちゃんの声が聞こえる……)」

女児 「(見えないよ……何も、見えないよ……)」

女児 「(聞き違い……?)」

クック 「女児!!」

女児 「(おじさんの声……)」

女児 「(おじさんの羽のにおい……)」

女児 「(見えない……見えないけど……)」


156: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:54:12.62 ID:Ky.D1Uo0
女児 「(おじさんが、そこにいるの……?)」

女児 「(おねえちゃんも……)」

女児 「(おじいちゃん……わたし……)」

女児 「(想像してもいいの……?)」

女児 「(むかえに……)」

女児 「(わたしを、むかえに…………)」

クック 「女児! 探したぞ!!(バサァ!!)」

キリン 「女児ちゃん、良かった……心配したのよ……」

女児 「おじさん……おねえちゃん……?」


157: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/14(日) 18:54:31.16 ID:Ky.D1Uo0
クック 「女児、どうした? 私だ。クックだ!」

女児 「おじさん…………(ふらふら)」

女児 「…………ッ(ゆらっ)」

クック 「あ……ッ!!(がしっ)」

女児 「……!!」

女児 「これ…………おじさんの羽だぁ…………」

女児 「………………」

女児 「おじさん!!」



第7章に続きます


172: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:52:54.51 ID:pWMg1/U0
こんにちは。少し早いですが、投稿の方をさせていただきます



イャンクック 「旧沼地で人間を拾ったんだが」 第七章



最終章 「家へ、帰ろう」





―人の里、夜中―



ハンマー 「……(ガチャガチャ)」

ネコート 「そこにいるのは、ハンマーかい」

ハンマー 「!?」

ネコート 「みなももう寝静まっている。お前、その怪我でどこに行くつもりだい?」

ハンマー 「ネコートさん……起きていらしたのですか

ネコート 「……お前が見かけたという、子供を捜しにいくつもりかい?」

ハンマー 「…………」

ネコート 「やめておきな。私たちは、今回ちょっとモンスターを刺激しすぎた。今行くのは、得策とはいえないね」


173: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:53:40.09 ID:pWMg1/U0
ハンマー 「しかし、もし俺が見たのが見間違いや幻ではないとしたら、あそこには確かに女の子がいたことになる……」

ネコート 「…………」

ネコート 「だが、その子は溶岩の中に落ちていったのだろう?」

ネコート 「もはや無事とは思いがたいがね」

ハンマー 「…………」

ハンマー 「しかし……それでも、やはり、気になる(ガチャリ)」

ハンマー 「もしかしたら……もしかしたら、モンスターが……あの子を助けてくれているかもしれない」

ハンマー 「だとしたら、同じ人間として……」

ハンマー 「俺は、あの子を迎えに行かねばならぬ」


174: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:53:59.22 ID:pWMg1/U0
ネコート 「……モンスターがかい」

ハンマー 「…………」

ネコート 「小さい頃、家族を殺されてから、がむしゃらにあいつらを狩ってきたお前が、モンスターに心があると言うのかい」

ハンマー 「……分からない」

ハンマー 「分からないが、しかし……」

ハンマー 「あの幻獣は、俺を助けてくれた。それに……」

ハンマー 「…………あの怪鳥…………」

ハンマー 「あの声、あの目は……」

ハンマー 「俺と、同じ目だったんだ……」

ネコート 「…………」


175: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:54:31.37 ID:pWMg1/U0
ハンマー 「何故、どうして……」

ハンマー 「行き場のない、答えのない憤り、苦しみ……」

ハンマー 「だれも答えてはくれない理不尽……」

ハンマー 「そこから抜け出せない痛み、辛さ……」

ハンマー 「しかし現実はなにも変わらず……」

ハンマー 「そんな、とても悲しい目を、あいつはしていた」

ハンマー 「その時、俺は思ったんだ……」

ネコート 「…………」

ハンマー 「俺と同じ苦しみを、悲しみを感じていても、それでも尚、生き続けなければいけない……」

ハンマー 「生きるために、何か犠牲にしなければいけない……」

ハンマー 「奴らと俺は、何か違うのだろうかと」

ハンマー 「ふと、そんなことをな……」


176: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:54:50.80 ID:pWMg1/U0
ネコート 「……だから、もう一度見に行きたいと言うのかい」

ハンマー 「…………(ガサゴソ)」

ネコート 「お待ち。お前、そんな安っぽい武器で行くつもりかい」

ハンマー 「! ネコートさん」

ネコート 「(ゴソゴソ)……こいつを持っていきなはれ」

ハンマー 「これは……メランジェ鉱石でコーティングされている……! それに、まるで水面のように研いである……!」

ネコート 「…………」

ハンマー 「……見事だ。こいつを、俺に……」

ネコート 「今回、お前さんが村にもたらしてくれた利益の見返りとしては、ちと過ぎた代物だがね……」


177: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:55:13.12 ID:pWMg1/U0
ネコート 「先代の村長の持ち物さね……」

ハンマー 「……! 先代の村長……俺の、祖父のか!?」

ネコート 「ああ。見事な業物だから、捨てるに忍びなくてね。私が毎日磨いてたんだよ」

ハンマー 「どうして、それを……」

ネコート 「…………彼は、モンスターの声を聞くことができる男じゃった」

ハンマー 「モンスターの、声を……?」

ネコート 「人間でありながら、モンスター達の言葉を感じることができたハンターは、私が知る限り彼だけだ」

ネコート 「もし、お前が、彼と同じように……」

ネコート 「モンスターから何かを感じるというのならば」

ネコート 「もしかしたら、それを持つ資格があるのかもしれん」


178: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:55:35.28 ID:pWMg1/U0
ハンマー 「(ブン)……ふむ。手になじむ」

ネコート 「もともとお前の血筋のものだ」

ネコート 「モンスターを倒すためではなく、何かを助けに行きたいというのならば」

ネコート 「持っといで」

ハンマー 「すまない。恩に着る(スチャ)」

ネコート 「ハンマーよ」

ハンマー 「……?」

ネコート 「確かにモンスターはモンスターだ。今回ガンランスがとった行動は間違いではなかったかもしれん」

ハンマー 「…………」

ネコート 「やらねばやられていただろう。人間やネコとは、違う生き物なのだ」

ネコート 「だがね、ハンマー。忘れてはいけないのはね」

ネコート 「モンスターにも親がいて、友人がいて……」

ネコート 「教えを広める教師だっている……」

ネコート 「別の生き物だろうと、それは確かなことなんだ」

ネコート 「それをどうとるかは、お前達ハンターの技量だがね……」

ハンマー 「…………」


179: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:55:58.77 ID:pWMg1/U0
ネコート 「火山に向かう道は不安定で危ない。砦の方から行きな」

ネコート 「それに、お前はまだ足が治っているわけではない」

ネコート 「もし何かがあっても、戦うのは避けるのだ」

ハンマー 「分かっている。少し、様子を見てくるだけだ」

ハンマー 「それじゃ」

ネコート 「…………」

ネコート 「(迎えに……か……)」

ネコート 「(顔も、素性も分からず、生きているかどうかも分からない相手を……)」

ネコート 「(やれやれ……)」

ネコート 「(折角助かった命を、また危険な場所に置こうとするとは……)」

ネコート 「(若い男の考えることは、よく分からぬ)」


180: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:56:49.67 ID:pWMg1/U0
―砂漠、深夜半―



クック 「……何ということだ……それでは、女児は……本当に、目が見えなくなってしまったのか……」

女児 「うん……でも……」

女児 「でも、私、もう一回おじさんにあえて、嬉しい」

女児 「お姉ちゃんにも、バサル君にもあえた……」

クック 「……くっ……こんな小さな子供に……」

キリン 「…………女児ちゃん、かわいそう…………人間がよこした薬も、怪我した人を助けるために使っちゃったし……」

女児 「人間が?」

キリン 「ええ……少し前に、埋もれてた人を助けたの」


181: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:57:27.56 ID:pWMg1/U0
キリン 「…………そういうことがあって…………」

女児 「ふふっ……」

キリン 「? どうしたの?」

女児 「人間にも、優しい人がいるんだねぇ」

キリン 「…………ええ、そうね」

キリン 「(あの人間の言葉、私には良く分からなかった……)」

キリン 「(女児ちゃんが、特別なのかな……)」

クック 「何とかならないのだろうか……この歳でめしいとは、あまりに不憫すぎる」

バサルモス 「女児……ごめん。本当に……俺のせいで……」

女児 「バサル君のせいじゃないよ。それに、私目が見えなくても……」

女児 「みんなが迎えに来てくれただけで、それだけでいいよ」

バサルモス 「ご……ごめん……うっ……(ぼろぼろ)」

女児 「泣かないでバサル君。バサル君が泣いてると、私まで悲しくなって……」

ドスガレオス 「そうだよ泣くなバサルっち。目が見えなくったって、いつかいいことあるさ」

バサルモス 「君は相変わらず軽いね…………」


182: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:58:02.58 ID:pWMg1/U0
テオ・テスカトル 「ふむ……老師秘蔵の滋養水を使ったのか。確かに、人の身では強すぎるかもしれないな……」

テオ・テスカトル 「むしろ生きているのが不思議なくらいだ。無茶をする」

クック 「テオ殿。どうにかならないだろうか。この通りだ」

テオ・テスカトル 「クック殿、お止めなさい、子供の前で、大人が頭を下げてはならぬ」

クック 「いや、何か手立てがあるというのなら、私は何度でも、誰にでも頭を下げよう」

女児 「おじさん……」

テオ・テスカトル 「……クック殿、それに女児。失ったものを確実に元に戻す方法は、この世には何一つとしてありはしない」

クック 「…………」

テオ・テスカトル 「しかし、一度堕ちたものを改善に向かわせる努力なら、することができる」

テオ・テスカトル 「(ガブリ)」

クック 「! テオ殿、いきなり何を……」

テオ・テスカトル 「我々古龍は、特別な体に加え、特別な血を持っている」

テオ・テスカトル 「私やナナの血は、熱いから適さないかもしれないが……」

テオ・テスカトル 「定期的に服用することで、もしかしたら視力が回復するかもしれない」

テオ・テスカトル 「怪我ではなく、おそらくは神経が焼ききれているのだ。通常の薬ではいかんともしがたい」


183: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:58:23.17 ID:pWMg1/U0
テオ・テスカトル 「私たちの血はすぐに蒸発する。早く舐めてみなさい。ここだ(スッ)」

女児 「こ……これ……?(ぺろ……)」

女児 「!!! げほっ、げほっ!!」

女児 「あ……熱っ…………!!」

クック 「女児!?」

テオ・テスカトル 「大丈夫か? やはり少し、人間には厳しいようだな……」

クック 「では、どうすれば……」

××××× 「そそ……そういうことなら……ぼぼ、ぼくの血を、舐めればいいんだな……」

キリン 「!?」


184: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:58:47.32 ID:pWMg1/U0
テオ・テスカトル 「ナズチ君! 追いついたのか!?」

バサルモス 「え? 誰かいるの?」

ドスガレス 「何も見えねぇですけど」

キリン 「もう! オオナズチ君。人前ではもっと堂々とするって、いつも言ってるでしょう?」

女児 「(あ……いきなり、何か大きい気配が近くに……)」

女児 「(そういえば、おじさん達に会ってから、ずっと一人多いような気が……)」

オオナズチ 「(スゥゥ)ご、ごめんなんだな……」

バサルモス 「ひぃぇ! 何か出た!」

ドスガレオス 「うわぁあ! バケモノ!!」

クック 「オオナズチ君! 透明になって、追いかけてきてくれたのか!!」

オオナズチ 「ぼぼ……ぼくはバケモノじゃないんだな……地味に傷つくんだな……」


185: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:59:12.41 ID:pWMg1/U0
オオナズチ 「…………」

キリン 「こら、あなた達。彼、傷つきやすいんだから、あんまり刺激しないであげて」

バサルモス 「ご……ごめんなさい……」

ドスガレオス 「は……はい」

オオナズチ 「キ……キリンちゃん、しし、しばらく会いにこれなくてごめんなんだな」

オオナズチ 「ヤ、ヤマツカミ様が……なかなか、そそ、外に出してくれなかったんだな」

オオナズチ 「ここ、校長先生も、久しぶりなんだな」

テオ・テスカトル 「大きくなったな。見違えたよ。ヤマツカミ様のところでの仕事は、上手くいっているかい?」

オオナズチ 「つつ……つらいことも多いけど……ぼ、ぼくは頑張るんだな」


186: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 16:59:41.63 ID:pWMg1/U0
女児 「あ……あなたが、オオナズチさん?」

オオナズチ 「そ、そ、そ、そういう君は……誰なんだな?」

クック 「ゆえあって、私の娘として育てることになった子だ」

オオナズチ 「ふへぇ、大人の世界は、む、難しくてよくわかんないんだな」

女児 「あなたの皮のおかげで、命が助かったの。ありがとう(スッ)」

オオナズチ 「(ナデナデ)ほ……ほほっ! そこを掻いてもらうと、き、気持ちいいんだな」

オオナズチ 「さ、最近はキリンちゃんが、や、やってくれないから、痒いんだな」

キリン 「もう、オオナズチ君、そういう話は……」


187: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:00:19.19 ID:pWMg1/U0
キリン 「! そうだわ、ねぇ、どこかまた、皮が剥けそうなところはない?」

オオナズチ 「? し、尻尾の辺りが剥けそうなんだな」

キリン 「ちょっともらうわね(ガブッ)」

オオナズチ 「!!(ビリビリビリ)……!!」

キリン 「女児ちゃん。これを着て。前のは焼けちゃってるみたいだから」

女児 「わぁ、新しい皮? ありがとう!!」

オオナズチ 「い……痛いんだな…………」

オオナズチ 「で、でもちょっと気持ちいいんだな……」

オオナズチ 「そういえば、ち、血が欲しいとか、聞こえたんだな」

オオナズチ 「ぼぼ、ぼくのを飲めばいいんだな」


188: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:00:48.39 ID:pWMg1/U0
キリン 「女児ちゃん、ここを舐めてみて」

女児 「……(ペロ)……う……」

女児 「にがい…………」

キリン 「どう? 見えるようになった?」

女児 「…………(ふるふる)」

テオ・テスカトル 「すぐには無理だろう。少しずつ、時間を置いて治していけばいい」

テオ・テスカトル 「それはそうと、オオナズチ君。夜分ネコを送って失礼したが、よくヤマツカミ様は外出を許可してくださった」

オオナズチ 「なな……何か、ヤ、ヤマツカミ様、む、胸騒ぎがする、言ってたな」

オオナズチ 「そ、それで、キリンちゃんもいるっていうから、ぼ、ぼく、一生懸命頼んで、出てきたんだな」

キリン 「オオナズチ君……」

テオ・テスカトル 「神の胸騒ぎとは、あまりいい気分はしないな……」

テオ・テスカトル 「しかし……」

テオ・テスカトル 「何か、嫌な臭いが砂漠の向こうから漂ってくる……」


189: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:01:17.38 ID:pWMg1/U0
テオ・テスカトル 「……少し離れた場所に、カニ達が沢山配置されている。見つかったら面倒だ……」

テオ・テスカトル 「オオナズチ君、頼めるか?」

オオナズチ 「ま、任せるんだな」

クック 「頼めるかとは?」

テオ・テスカトル 「彼が透明になると、その体についているものが、においや気配まで透明になるのです」

テオ・テスカトル 「わざわざ争いを起こす必要もない……その力で、中にいるであろうナナ達を、包囲の外に出そうと思います」

テオ・テスカトル 「目的がなければ、彼らもたむろし続ける理由が消えることでしょう」

テオ・テスカトル 「クック殿、あなたは女児を連れて、戻った方がよろしいだろう」

テオ・テスカトル 「キリンも、子供達はみな、樹海に退避しなさい。あとは私とオオナズチ君だけで行く」

オオナズチ 「え……えぇぇえぇ? き、き、キリンちゃん!?」


190: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:01:44.76 ID:pWMg1/U0
キリン 「オオナズチ君、ごめんね。また今度遊びにいくから……」

オオナズチ 「…………」

ドスガレオス 「おい、固まっちゃったぞ、この不思議ドラゴン」

バサルモス 「ほんとこれ、何でできてるんだろうね」

テオ・テスカトル 「! みんな、オオナズチ君の背中に!」

クック 「!!」

テオ・テスカトル 「早く!」

ドスガレオス 「な……何だいきなり?」

バサルモス 「ドスガレ、こっちだよ」

キリン 「オオナズチ君、もうちょっと腰を屈めて!」

オオナズチ 「わ、分かったんだな。じゃあ、すてるすもーどになるんだな(スゥゥゥ)」


191: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:02:05.75 ID:pWMg1/U0
ドスガレオス 「すげぇ、俺達見えなくなったぞ」

バサルモス 「ほんとだ!!」

キリン 「しっ。静かに。声は聞こえるの」

ドスガレオス 「は……はい」

ドスガレオス 「(ひそひそ)おい、誰だよこの怖いねーちゃん」

バサルモス 「(ひそひそ)そういえば誰だろう……俺も初めて見るんだよ……」

女児 「(私たち、透明になったの……?)」

女児 「(確かに、みんなの気配がうすくなった……)」

女児 「(……なにかいる……)」

女児 「(つちの中……)」

女児 「…………(ぎゅ)」

クック 「私に掴まっているんだ」

女児 「(こくり)」


192: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:02:46.50 ID:pWMg1/U0
××××× 「(ズボォッ)」

××××× 「とぉさまー」

××××× 「とぉさまーどこー」

××××× 「(ひっく)」

テオ・テスカトル 「……あれは……」

キリン 「カニの子供だわ……」

テオ・テスカトル 「しっ。他にもいる」

ガミザミA 「キ……ッ! お嬢様、捕まえましたぞ……!」

ガミザミB 「ここまでです……!」

紫ガミザミ 「やぁーのー! わらわも行くのー!」

ガミザミA 「お嬢様! ……お聞きわけ……ください!」

ガミザミB 「戦いは……遊びでは……ありませぬ!!」

紫ガミザミ 「(ビクッ)……ひくっ……」

ガミザミA 「帰るのです……!」

ガミザミB 「われわれは……行かねばならぬのです……!!」


193: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:03:13.98 ID:pWMg1/U0
紫ガミザミ 「AとBが行くのはやじゃ! とぉさまもおるのじゃー!」

ガミザミA 「キッ……失礼!(カコッ)」

紫ガミザミ 「ふぁ……(ドサッ)」

ガミザミB 「…………致し方ない…………昏倒のツボでござる…………」

 >シェンガオレン 「キシェェアァァァァァ!!」

ガミザミA 「!! 総御大の、ときの声……!!」

ガミザミB 「行かねば……!!」

ガミザミA 「……キッ……ここに……オアシスがある…………!」

ガミザミB 「お嬢様を……この…………サボテンの下に寝かせれば……安心だ……」

ガミザミA 「すぐ……部下がくる……大丈夫だ……」

紫ガミザミ 「…………」

ガミザミA 「お許しください……ゆくぞ…………!(ズボボボッ)」

ガミザミB 「ギギ……!(ズボボボッ)」


194: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:04:00.45 ID:pWMg1/U0
キリン 「あのカニ達、小さなカニをサボテンの下に埋めていったわ!」

バサルモス 「早く掘り出さなきゃ……!(バッ)」

テオ・テスカトル 「…………あれは!!」

クック 「…………くっ! テオ殿!」

テオ・テスカトル 「ああ、あれはシェンガオレンの吼え声だ!!」

女児 「(う……うう……!!)」

女児 「(すごく、嫌な声が……聞こえた……!!)」

キリン 「(ダダッ)あなた、大丈夫? しっかりして」

バサルモス 「息してないよ!」

ドスガレオス 「いや、てゆうかカニってどこでどうやって息してるんだよ」

紫ガミザミ 「…………」


195: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:04:32.64 ID:pWMg1/U0
ドスガレオス 「おーい、生きてるか?(ツンツン)」

紫ガミザミ 「う……うぅ……?」

紫ガミザミ 「(ビクッ)……な……何じゃ!? 何じゃおぬしら!」

ドスガレオス 「ひぃえ。喋った。キモッ」

紫ガミザミ 「きも……? と、とにかく無礼であろう! わらわに触れるでない!!」

キリン 「大丈夫? あなた、ここに埋められていたのよ」

紫ガミザミ 「埋められ……? あ、あ奴どもぉぉ! わらわをおいて……」

紫ガミザミ 「(ひくっ)」

紫ガミザミ 「わ、わらわをおいて…………(ボロボロ)」

キリン 「あ……あぁ、泣かないで」

ドスガレオス 「泣いたぞこのカニ。バサルっちみてぇだな」

バサルモス 「一緒にするなよ!」


196: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:04:59.50 ID:pWMg1/U0
紫ガミザミ 「ええい触るでない! わらわを、ダイミョウ一族の紫としってのろうぜきか!」

キリン 「あなた、ダイミョウザザミさんの娘さん?」

紫ガミザミ 「い、いかにも。ダイミョウザザミは我がとぉさまである」

ドスガレオス 「とぉさまだってさ。ププッ」

紫ガミザミ 「こ……このプラナリア! 何がおかしい!」

ドスガレオス 「ぷらなりあ?」

テオ・テスカトル 「失礼(ずいっ)」

紫ガミザミ 「ピィッ!!(ビクッ)」

テオ・テスカトル 「あぁ、驚かせてしまったのなら、申し訳ない。私はテオ・テスカトル。あなたはザザミ氏の一女とお見受けする」

紫ガミザミ 「てお? 聞いたことがあるぞな。AとBが、火山にそういうつぉい龍がいるといっておった」

テオ・テスカトル 「お気遣いとは思うが、ありがとう。聞きたいことがある。お答えいただけまいか」


197: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:05:35.43 ID:pWMg1/U0
紫ガミザミ 「何じゃ。何でも聞くがよい」

ドスガレオス 「(ひそひそ)何だ? カニってみんなこうなのか?」

バサルモス 「(ひそひそ)お父さんより、随分とペラペラしゃべるね。しかも偉そう……」

紫ガミザミ 「無礼者! わらわは、えいさいきょういくを受けたスーパーカニであるぞ。それに、とぉさまをバカにするな!」

ドスガレオス 「とぉさまだってさ。プププッ」

紫ガミザミ 「ええい何がおかしい!?」

テオ・テスカトル 「君たち、少し静かにしてくれ。して、紫殿。先ほどシェンガオレンと取れる声が聞えたが……」

紫ガミザミ 「!! そうじゃ! はようとぉさまを止めねば!」

テオ・テスカトル 「? どういうことか?」

紫ガミザミ 「とぉさまは、じじさまに騙されておるのじゃ。しぇんはとても恐ろしいものだって、かぁさまは仰っておられた」

紫ガミザミ 「じゃから、わらわは、しぇんを使おうとしてるとぉさまを止めなきゃならぬのだ!」


198: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:06:05.32 ID:pWMg1/U0
テオ・テスカトル 「やはりあれはシェンガオレンの声か……!!」

クック 「テオ殿、これは……!!」

テオ・テスカトル 「ヤマツカミ殿の嫌な予感が的中したか……!」

紫ガミザミ 「何じゃ、わらわは急いでおる。とぉさまの所に行かねばならぬ。質問はそれだけか?」

テオ・テスカトル 「……紫殿、私をダイミョウ殿のところに連れて行ってはくださらんか? その代わり、私があなたを運ぼう」

紫ガミザミ 「へ? よ、よく分からぬが助かる。一緒にとぉさまを説得してくりゃれ!」

テオ・テスカトル 「そのつもりだ……!!」

クック 「テオ殿!」

 >シェンガオレン 「(グググ…………)」

テオ・テスカトル 「シェンが……立った……!!」

紫ガミザミ 「あ……あぁぁ……!! しぇんが……!!」


199: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:06:38.51 ID:pWMg1/U0
キリン 「あれが……シェンガオレン……でも、殻がない……!!」

クック 「頭に乗っているのは……ドドか! それに、隣に見慣れない猿がいる……」

テオ・テスカトル 「ラージャン……! 何だ、あ奴、何を持っている……」

テオ・テスカトル 「!!! ナナ!?」

テオ・テスカトル 「あ奴め! ナナを連れて行くつもりか!!!」

女児 「ナナ……? ナナさんがいるの?」

クック 「……猿につれて行かれようとしている……!!(ギリ……)」

女児 「!?」

紫ガミザミ 「は……はようわらわをつれてゆけ! このままでは、とぉさままで戦いに巻き込まれてしまう!」

テオ・テスカトリ 「分かっています……!(ぐいっ)」

紫ガミザミ 「きゃぁ!」

テオ・テスカトリ 「ナナ!!(ドドドドドッ)」


200: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:07:14.56 ID:pWMg1/U0
キリン 「! テオ様が……私、後を追うわ!(ダッ)」

クック 「キリンちゃん、待つんだ!! ……くっ……(ズキッ)」

女児 「おじさん!」

クック 「くそ……また、シェンを……暴れさせるわけには……」

クック 「もう二度と、二度とシェンは暴れさせんぞ!!」

クック 「バサル君、女児を連れて樹海に避難するんだ。私はシェンのところにゆく!!」

バサルモス 「え……で、でもその傷じゃ……!!」

女児 「いやっ!(がしっ)」

クック 「女児!?」

女児 「もうおじさんとはなれたくない……! それに……」

女児 「ナナさんは、私をたすけてくれたの!」

女児 「私、ナナさんをたすけてあげたい!!」

クック 「…………」


201: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:07:41.08 ID:pWMg1/U0
ドスガレオス 「ちっ。俺も、師匠たちが気になる。いくぜ!(ズボォッ)」

バサルモス 「俺も行く! 女児とクックおじさんを助けるんだ!」

クック 「バサル君……女児!」

オオナズチ 「あ……キ、キリンちゃんが行っちゃうんだな…………」

オオナズチ 「す、すてるすもーどを解除して、あとを、お、追うんだな」

オオナズチ 「(ドドドドドドドッ)」

クック 「うわっ! 女児、しっかり掴まれ!」

女児 「うん……!!」

バサルモス 「!!!」

ドスガレオス 「! 何だあれ!? めっちゃ早っぇ!!」

バサルモス 「は、早く俺達も追わなきゃ、見失う!!」

ドスガレオス 「あ、ああ!!」


202: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:08:08.93 ID:pWMg1/U0
―砦、真夜半―



ハンマー 「夜分申し訳ない」

衛兵A 「いやいや、気にしないでください。仕事ですから」

衛兵B 「しかし、こんな夜中にお一人でハントですか? 誰か護衛を雇った方が……」

ハンマー 「ただの採集だ。そんなに気にすることもない。税関を通らせてくれればいいだけだ」

衛兵A 「気をつけてくださいよ。昼間、火山が爆発したって噂もありますから」

ハンマー 「……ああ、気遣いありがとう」

衛兵B 「こっちに、私達が使っている抜け道があります。いちいち門を出るより、その方が早いでしょう」

ハンマー 「すまない」


203: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:08:36.27 ID:pWMg1/U0
ハンマー 「(……それにしても、このメランジェ鉱石の武器……)」

ハンマー 「(こんなに大きいというのに、ほとんど重量を感じない……)」

ハンマー 「(祖父……先代の村長の持ち物か……)」

ハンマー 「(祖父も……両親と共に、俺が生まれてすぐに死んでしまった)」

ハンマー 「(顔も良くは憶えていないが……)」

ハンマー 「(祖父は、俺と同じ武器を使っていたのか……)」

ハンマー 「……?」

ハンマー 「(何だ……?)」

ハンマー 「(この武器が、震えているのか……?)」

ハンマー 「(俺は何もしていないぞ……!)」


204: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:08:53.61 ID:pWMg1/U0
衛兵A 「何でしょうね、さっきから虫がうるさいな……」

衛兵B 「最近ハチもさっぱりみかけなくなったと思ったが、もしかしたら入り込んでるのかも……」

衛兵A 「毒煙玉の在庫あったかな……」

ハンマー 「いや、違う。俺の武器だ(スッ)」

衛兵A 「うわっ。な、何だかすごそうな……」

衛兵B 「も、もしかしてあなた、Gランクのハンター様だったんですか!」

ハンマー 「…………」

ハンマー 「(振動しているのは、この武器にはめ込まれた宝玉だ……)」

ハンマー 「(何だこれは…………今まで見たこともない、紫色の宝玉だ…………)」

ハンマー 「(妙な胸騒ぎがする……)」

ハンマー 「(もしかして、これは……)」

ハンマー 「(俺に、危機を知らせているのか……?)」


205: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:09:11.51 ID:pWMg1/U0
ハンマー 「二人とも、裏口より先に、高見台に連れて行ってくれないか」

衛兵A 「高見台? そんなところに登ってどうするんですか?」

衛兵B 「三年前のシュレイド城みたいに、モンスターが攻めてくるってわけでもないでしょう? 見るものないですよ」

ハンマー 「いや、少し確認をしたいだけだ。こっちか?(ズンズン)」

衛兵B 「え? ああ、まぁ遠くもないですしご案内しますよ。こちらです」

ハンマー 「…………」

ハンマー 「(宝玉の振動が強くなっている……)」

ハンマー 「(杞憂であればいいが……)」

ハンマー 「(何だ、この不吉な気分は……)」


206: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:09:33.02 ID:pWMg1/U0
―砦、高見台―



衛兵A 「っと、ここです。足場は狭いですから気をつけて」

ハンマー 「…………」

ハンマー 「(宝玉が薄く光り始めた……)」

衛兵B 「あぁ、あいつまた寝てやがる。いくら暇だからって、職務怠慢もいい加減にしろってな」

衛兵A 「おいおい起きろ(ドゲシッ)」

衛兵C 「! お、オレ寝てねぇっすよ! 断じて寝てねぇっすよ!!」

衛兵A 「あーあー分かった分かった。お前は寝てないよ」

ハンマー 「…………」

ハンマー 「(武器の向きを変えると、宝玉の振動と光の強さが変わる……)」

ハンマー 「(こちらの方角が一番、反応が強い……)」

ハンマー 「(あっちは砂漠だ……人もモンスターも、滅多に立ち入らない区画だが……)」

ハンマー 「(何かあるのか……?)」


207: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:09:57.96 ID:pWMg1/U0
ハンマー 「(双眼鏡を持ってきていてよかった)」

ハンマー 「……(ゴソゴソ)」

ハンマー 「(やはり何も見えないな……)」

ハンマー 「(砂丘が、夜風に流れて形を変えているだけだ)」

ハンマー 「(……だとしたら、この異様な武器の反応は何なんだ……)」

衛兵C 「あれぇ? あんなとこに山なんてあったかなぁ?」

ハンマー 「?」

衛兵B 「何言ってんだ。砂漠の地形なんて、毎日変わってるじゃねぇか」

衛兵A 「お前、寝てないのは分かったから、下行って顔洗って来いや。涎垂れてるぞ」

衛兵C 「えぇ!? こ、こりゃ失礼!」


208: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:10:38.31 ID:pWMg1/U0
ハンマー 「(山……?)」

ハンマー 「(確かに、風で動く砂丘が見えるが……)」

ハンマー 「……!!」

ハンマー 「ち…………違う!!」

衛兵C 「ふへぇ!?」

衛兵A 「ど、どうしたんですか、ハンター様!」

ハンマー 「あれは砂丘ではない! 砂を被って、何か大きなものがゆっくり移動している!」

衛兵B 「何だって!?」

ハンマー 「(な……何だ!?)」

ハンマー 「! (今、何か触覚のようなものが見えた!)」

ハンマー 「(あれは……カニ系モンスターの触覚だ!!)」

ハンマー 「(し……しかし……)」

ハンマー 「(あの砂丘の大きさ、もしあれがモンスターだとしたら……)」

ハンマー 「(……もしかして、あれは!!!)」


209: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:11:01.67 ID:pWMg1/U0
ハンマー 「モンスターがこっちに向かってきている! おそらく、三年前にシュレイド城に現れた、砦蟹だ!!」

衛兵A 「え!? えぇぇぇええ!?」

衛兵B 「う、嘘だろ!!」

ハンマー 「砂を被って擬態しているんだ! 早く、迎撃の準備を!!」

衛兵C 「モ、モンスターの襲撃!? この砦に!!」

ハンマー 「(ちっ……ここまで近づかれるまで、分からないとは……!!)」

ハンマー 「(三年前に、あの砦蟹は死んでいなかったのか!)」

ハンマー 「俺は迎え撃ちに出る! 砦の門を閉めろ! 早く!!」

ハンマー 「(な……何だ? 何故今!?)」

ハンマー 「(もしかして、昼間の火山……)」

ハンマー 「(あの報復か!!)」


210: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:11:22.18 ID:pWMg1/U0
―砂漠―



キリン 「テオ様、お待ちください!!」

テオ・テスカトル 「キリン!? 子供は早く戻るんだ!(ダダダッ)」

紫ガミザミ 「ピィィィ!! 早いぃぃぃ!」

オオナズチ 「キ、キリンちゃん、追いついたんだな(ドドドド)」

キリン 「オオナズチ君!」

テオ・テスカトル 「クック殿! 女児も……!!」

クック 「テオ殿、私はシェンを止めたい……!!」

テオ・テスカトル 「!!」

クック 「もう二度と、あんな思いはごめんだ。何としても……何としても!」


211: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:11:58.46 ID:pWMg1/U0
テオ・テスカトル 「……(ブンッ)」

紫ガミザミ 「キャァァ!」

クック 「! (ガシッ)」

紫ガミザミ 「これ、てお!! いきなり何をする!!」

テオ・テスカトル 「失礼。ではクック殿、紫殿を頼む!(ダダッ)」

クック 「分かった!」

女児 「(ぺたぺた)……だ、大丈夫? 私が抱いててあげるね」

紫ガミザミ 「に、人間! 何じゃおぬしは!」

クック 「私の娘だ、敵ではないよ」

女児 「うん、私は何もしないよ」

紫ガミザミ 「ぬ……おぬし、なかなか抱き方を心得ておる。まるでかぁさまのようじゃ。そのままわらわを固定せい」

女児 「え? これでいいかな……(ぎゅっ)」


212: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:12:18.60 ID:pWMg1/U0
バサルモス 「! 猿達、砂に隠れて砦に近づくところだよ!」

ドスガレオス 「くそっ、もうついちまうぞ!」

クック 「ドスガレオス君、君は助けを呼んできてくれ。ヤマツカミ様たちにも知らせねば!」

ドスガレオス 「合点!(ドバッ)」

紫ガミザミ 「あぁ……とぉさまたち……」

紫ガミザミ 「とぉさまは……とぉさまは」

紫ガミザミ 「本当は、人間と戦いたくなどないのだ……」

女児 「!」

紫ガミザミ 「じゃが、じじさまやしぇんの言いなりになって……」


213: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:12:37.57 ID:pWMg1/U0
紫ガミザミ 「とぉさまは、わらわに、今日帰ったら、極上黒真珠の首飾りを作ってくれるといったのじゃ!」

紫ガミザミ 「わ、わらわもとぉさまに……」

紫ガミザミ 「黒真珠でお守りを作ったというに……」

クック 「(この子、父親のことを……)」

クック 「(黒真珠の装飾品を持っている……歪だが、この子が作ったのか……!!)」

女児 「…………」

女児 「(ぎゅ)うん……うん。お父さんに……」

女児 「お父さんに、渡そうね。大丈夫、大丈夫だよ」

クック 「…………」

クック 「ああ、その通りだ!」

紫ガミザミ 「(ぐす……)」


214: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:13:11.87 ID:pWMg1/U0
オオナズチ 「ぼ、ぼ、ぼくは、ど、どうすればいいんだな?」

テオ・テスカトル 「このままでは、シェンガオレンが人間の砦に突撃してしまう……!!」

テオ・テスカトル 「ディアブロス老師達は、止められなかったのか……!!」

女児 「……!」

女児 「おじいちゃんが……!!」

テオ・テスカトル 「開戦してしまえば、三年前の二の舞だ!!」

テオ・テスカトル 「それに、今回は奇襲とはいえ、あの時とは我々の武力も違いすぎる」

テオ・テスカトル 「……無茶だ!」

テオ・テスカトル 「ブランゴ一族とギザミ一族を止めねばならぬ!」

テオ・テスカトル 「…………ナナ……!!!」


215: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:13:39.83 ID:pWMg1/U0
テオ・テスカトル 「………………」

テオ・テスカトル 「私がシェンを抑える」

テオ・テスカトル 「キリン、オオナズチ君、クック殿方は、ナナをお願いできるだろうか」

クック 「テオ殿! 私も……」

テオ・テスカトル 「今のあなたは、手負いだ。とても戦える状態ではない」

クック 「……!!」

女児 「おじさん……」

テオ・テスカトル 「ナナを助け出したら、全員すぐにここを離れてください。私が、持てる全ての力を解放し、シェンを止めます」

キリン 「テオ様、私も……」

バサルモス 「そうですよ! 俺だって!!」

テオ・テスカトル 「いかん!」

キリン 「(ビクッ)」

バサルモス 「……!!!」

テオ・テスカトル 「馬鹿者! 戦いとは、力足りぬ者が、興味本位で参加して良いものではない!! 場をわきまえよ!」


216: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:14:13.11 ID:pWMg1/U0
テオ・テスカトル 「……ナナを、頼みます(ダダッ)」

キリン 「テオ様!! あぁ! 先に行ってしまわれた!!」

オオナズチ 「……ぼぼ、ぼくは、結局、ど、どうすればいいんだな?」

クック 「……ナナ殿を救出することを、最優先に考えよう。オオナズチ君、私たちを乗せて、シェンガオレンに近づいてくれ」

オオナズチ 「わ、分かったんだな」

キリン 「オオナズチ君、焦らないで。物凄い汗の量よ」

オオナズチ 「ぼ、僕、戦闘って、あんまり好きじゃな、ないんだな。こ、怖いんだな」

キリン 「もう! 男ならしっかりして! テオ様はお一人で行かれたのよ!?」

オオナズチ 「お、怒った顔のキリンちゃんは、す、すごく可愛いんだな」

キリン 「いいから早く、透明になって!」

オオナズチ 「わ、わかったんだな」

女児 「バサル君、どこ!?」

バサルモス 「ここだよ! 今、不思議ドラゴンさんの背中に乗った!」

オオナズチ 「す、すてるすもーどになるんだな(スゥゥウ)」


217: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:15:27.96 ID:pWMg1/U0
―砂漠、砦近く―



ダイミョウザザミ 「…………」

ショウグンギザミ 「キシェ……キシェ…………」

ショウグンギザミ 「人間達め……我らがこうして、地中に隠れて襲うとは……思えまい……」

シェンガオレン 「……………………」

ショウグンギザミ 「しかし雪サルめ……後ろに下がるとは…………所詮腰抜けよ、頼りにできる…………」

ショウグンギザミ 「何を……している! 父上に、沈静剤を……もっと注入するのだ……!!」

ガミザミたち 「キィ!(ブスッ、ブスッ、ブスッ)」

シェンガオレン 「……!! ……!!(ズズズズズ)」

ダイミョウザザミ 「(本当に……これで、いいのだろうか……)」

ダイミョウザザミ 「(ラオシャンロンの……監視の目が緩んだ隙に……)」

ダイミョウザザミ 「(樹海洞窟に……封印されていたシェン様を…………解放したが…………)」


218: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:15:45.74 ID:pWMg1/U0
ダイミョウザザミ 「(我々だけで…………)」

ダイミョウザザミ 「(三年前は……総力でも、かなわなかった人間に…………)」

ダイミョウザザミ 「(…………)」

ダイミョウザザミ 「(紫…………)」

ダイミョウザザミ 「(約束を、守れずに…………すまぬ…………)」

ショウグンギザミ 「ダイミョウよ……歩みが遅れておるぞ…………」

ダイミョウザザミ 「! 失礼……つかまつった……」

ショウグンギザミ 「キキ……ゲゲ…………血が滾る…………」

ショウグンギザミ 「血……血だ…………」

ショウグンギザミ 「我らには血が……足りぬ…………」


219: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:15:58.66 ID:pWMg1/U0
ダイミョウザザミ 「……(父上の言葉…………)」

ダイミョウザザミ 「(末期のシェン様の言葉に……酷似している…………!)」

ダイミョウザザミ 「(まるで、シェン様の生霊が……)」

ダイミョウザザミ 「(乗り移ったかの……ようだ!)」

ダイミョウザザミ 「(どうしてしまったのだ…………)」

ダイミョウザザミ 「(父上……!!)」

ショウグンギザミ 「シェ…………シェ…………」


220: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:16:13.81 ID:pWMg1/U0
ショウグンギザミ 「……?」

 >ウ~~~ッ、カンカンカンカン

ダイミョウザザミ 「!! あれは……!」

ダイミョウザザミ 「人間に……気づかれた……!!」

ダイミョウザザミ 「あれは…………人間の……戦いの奨鼓……!!」

ダイミョウザザミ 「父上……! 奇襲は…………失敗で、ござりまする……!!!」

ショウギンギザミ 「シェ……! シェ!!」

ショウグンギザミ 「キシェシェシェシェ!! シェシェシェシェシェシェ!!」

ダイミョウザザミ 「ち……父上……!?」

ショウグンギザミ 「血だ!!」


221: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:16:40.67 ID:pWMg1/U0
ショウグンギザミ 「殺せ! 皆殺しにせよ!」

ショウグンギザミ 「戦いの太鼓よ! 胸を、心を、体を震わせよ!!」

ショウグンギザミ 「逃げる奴は殺せ! 下がる奴も殺せ! 前に出て、全員死ぬのだ!!」

ダイミョウザザミ 「父上!!」

ショウグンギザミ 「砂上に出るぞ! 興奮剤を注入しろォォ!!」

ガミザミたち 「キ……キィ!!(ブスブスブス)」

シェンガオレン 「!! キシェェェアァァァェェェ!!(ドバァッ!!)」

ダイミョウザザミ 「父上……お……おまち……ください!!」

ダイミョウザザミ 「なりませぬ……!!」


222: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:17:11.77 ID:pWMg1/U0
ドドブランゴ 「……人間に気づかれたか……」

ラージャン 「ケケッ…………(バチ、バチ)」

ナナ・テスカトリ 「…………」

ドドブランゴ 「なるほど、息子よ……その女が気に入ったか……」

ラージャン 「…………(にやにや)」

ドドブランゴ 「良かろう。人間を皆殺しにした暁に、正式にその女との婚姻を認めよう」

ラージャン 「クケ……ッ……最高ォ……」

ラージャン 「人間殺せて、先生もらえて、最高ォォォ……!!」

ドドブランゴ 「だが、しばし待つのだ……」

ドドブランゴ 「もうじき、馬鹿なカニどもが先走る……」

ドドブランゴ 「我ら戦士は、奴ら……肉の盾の後で良い」

ドドブランゴ 「戦には、盾は必要じゃ…………」


223: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:17:26.07 ID:pWMg1/U0
シェンガオレン 「シェァァァァ!!(ドバァァッ!)」

ショウグンギザミ 「進め兵士どもぉぉ!!(ドバァァ!)」

ガミザミ達 「キィ!(バババッ)」

ヤオザミ達 「キィ!(バババッ)」

ラージャン 「……!」

ドドブランゴ 「くくっ……」

ドドブランゴ 「ほらな……」

ドドブランゴ 「思ったとおりじゃ」

ドドブランゴ 「馬鹿と鋏は使いようとな……」


224: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:17:46.37 ID:pWMg1/U0
―砦―



ハンマー 「(……くっ!)」

シェンガオレン 「キシェァァ! シャァァ!(ズン、ズン、ズン、ズン)」

シェンガオレン 「シャァァァァ……(ググググ)」

ハンマー 「! (このままでは、砦蟹に要塞門が破られてしまう!)」

ハンマー 「(真夜中半だからということもあるのだろうが、兵士たちの配置が遅い……!)」

ハンマー 「(止めなければ……竜撃戦車の配置が済むまで……)」

ハンマー 「(俺が……!!)」

ハンマー 「(ダダッ)」

衛兵A 「あ! ハンター様!」

衛兵B 「無茶ですぜ! 砦の奥に逃げるんだ!!」


225: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:18:01.40 ID:pWMg1/U0
ハンマー 「(ぐ……昼間、岩に挟んだ足が、まだ良く動かない……)」

ハンマー 「(かくなる上は……)」

ハンマー 「(この、高所から落ちて、その勢いで……!!)」

ハンマー 「(バッ)」

ハンマー 「っぉらあああ!」

ハンマー 「(ブゥン!!)」

シェンガオレン 「(ドガァァッッ!!)……!! ……!!!!!!」

シェンガオレン 「ギャァアァァァ!!!」


226: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:18:24.47 ID:pWMg1/U0
ハンマー 「(ドズンッ)ぐはっ!!」

ハンマー 「…………う…………」

ハンマー 「(体を打ったが……どこも折れてはいない……)」

ハンマー 「(やったのか……)」

シェンガオレン 「キシェァァ! キシェァァ!!(ドバドバ)」

ハンマー 「! 血が出ている!! 頭の一部を、吹き飛ばしたのか!!」

ハンマー 「こ……この武器…………」

ハンマー 「宝玉の光が、一段と強くなっている……!!」

シェンガオレン 「(ズゥゥゥン!!)」

ハンマー 「(倒れこんだ!?)」


227: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:18:49.10 ID:pWMg1/U0
シェンガオレン 「キィィェェェエエエ!(ブンブン)」

ハンマー 「(ち、違う!)」

ハンマー 「(俺を探して、滅茶苦茶に攻撃を……)」

ハンマー 「(ま……まずい。この足では……)」

ハンマー 「!!!」

シェンガオレン 「シャァ!(ブンッ!!)」

テオ・テスカトル 「ギャォォォォ!!(ガキィィン!!)」

テオ・テスカトル 「(ズザァァァ!!)ガルルルル……!!」

ハンマー 「! あ、あれは……」

ハンマー 「(炎王龍!? どうしてこんなところに!)」

ハンマー 「(い、いや……それより、今、あの炎王龍は、俺に向かって振り下ろされた砦蟹の足を、弾いた……!!)」

ハンマー 「(俺を助けたのか!!)」


228: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:19:19.26 ID:pWMg1/U0
テオ・テスカトル 「ガルルルルル(ゴゴゴゴゴ)」

ハンマー 「(な……なんという熱気だ! 炎王龍から発せられているのか……近づくこともできない!!)」

シェンガオレン 「ガ……ガァァ!(ブゥン)」

テオ・テスカトル 「(ゴゥゥゥゥゥゥ!!!)」

ハンマー 「(巨大な炎を吐いた!!)」

シェンガオレン 「ギャ……ギャァァァ!!」

ハンマー 「(効いている!! あの巨大な砦蟹が、怯んでいる!!)」


229: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/18(木) 17:19:49.97 ID:pWMg1/U0
テオ・テスカトル 「…………!!」

ハンマー 「(い……今、あの炎王龍が、俺を見た……!!)」

ハンマー 「(そうか!!!)」

ハンマー 「うぉらぁぁああ!(グルングルン)」

ハンマー 「喰らえぇええ!(ドズゥゥゥッ!!)」

シェンガオレン 「!!! ギギギャァァ!!(ヨロ……)」

ハンマー 「(足が動かなくても、これだけ近ければ……)」

ハンマー 「(当たる……!!)」

ハンマー 「(モンスターと共闘か……!!)」

ハンマー 「(悪くない!!)」


249: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 13:59:30.88 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「(あの人間の武器……見たことがある……)」

テオ・テスカトル 「(あれは、古龍の大宝玉……先代のテスカのものだ)」

テオ・テスカトル 「(溜められた気が、シェンに爆発的な衝撃を与えている)」

テオ・テスカトル 「(…………)」

テオ・テスカトル 「(いや! 今重要なのは……!!)」

テオ・テスカトル 「(私も、この人間も、シェンとギザミ一族、ブランゴ一族の侵攻を止めようとしていること……!)」

テオ・テスカトル 「(それを、この人間が受け入れ、あわせたこと、それが全てであり寛容!)」

テオ・テスカトル 「(ならば共に力をあわせ、同じ目的に向かい、足を踏み出せるこの状況)」

テオ・テスカトル 「(それに甘んじることもまた、戦いの性よ!)」


250: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:00:14.79 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「(ゴォォォォゥ!!)」

シェンガオレン 「ギャァァ! ガッ! ギャァァ!!(ブンブン)」

ハンマー 「うるぉぁああ!(ブゥン!)」

シェンガオレン 「(ガキィィン!!)……!! ガガガガ!!!」

ハンマー 「×××××××!!!」

テオ・テスカトル 「(この人間め、私の背中を守るつもりか)」

テオ・テスカトル 「(現テスカの王たるこの私の背中を、人間が)」

テオ・テスカトル 「(ふっ……)」

テオ・テスカトル 「(まさかこんな日が来ようとはな……)」

ハンマー 「(ブゥン……ガキィィン!!)×××!!」

テオ・テスカトル 「(ゴゥゥゥゥッ!!)」

シェンガオレン 「ガッ…………!! ガァァ!!(ズゥゥゥン!!)」


251: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:01:26.50 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「(やはり人間の言葉は分からない)」

テオ・テスカトル 「(それが理であり、当たり前のことだ)」

テオ・テスカトル 「(最も、今まで人間なんぞと話をしようという者はいなかった……)」

テオ・テスカトル 「(私も、その一人だ……)」

テオ・テスカトル 「(さすれば、あの女児が特別なのか……)」

シェンガオレン 「…………(ググ…………)」

テオ・テスカトル 「敵意を収めよ、蟹の王!!」

シェンガオレン 「(グググ……)」

テオ・テスカトル 「今人間達の砦に攻め込んでも、双方また、取り返しのつかない被害をこうむるのがオチだ!」

テオ・テスカトル 「あなたの深手も、いまだラオシャンロンにより治療中ではないか!!」

テオ・テスカトル 「戻れ! 元の場所に!!」


252: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:02:17.93 ID:7errZqU0
シェンガオレン 「ガガ……ガ…………」

テオ・テスカトル 「!!」

テオ・テスカトル 「反応がない……何だ……?」

テオ・テスカトル 「(あれは……)」

テオ・テスカトル 「(麻薬にやられたものの目だ!!)」

テオ・テスカトル 「(まさか……シェン殿は……)」

テオ・テスカトル 「(操られている……!?)」

ハンマー 「×××!!!(ブゥン!)」

テオ・テスカトル 「!?」

ショウグンギザミ 「(ズボォッ!))」

ショウグンギザミ 「(ガキィィィン!)ッ……!!」


253: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:03:00.51 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「ショウグン殿!」

ショウグンギザミ 「ケケ……ケケケケケッ!! テオォォォ!!(ブンブン)」

テオ・テスカトル 「何をする!? く……っ(ザシュッ)」

テオ・テスカトル 「落ち着け、ショウグン殿!!」

ショウグンギザミ 「落ち着く? 俺は落ち着いてるぜぇぇ? だってこれから、最高の血のショーを見るってのに」

ショウグンギザミ 「おちおちラリってられっかってんだよぉぉ!!」

テオ・テスカトル 「(ショウグン殿もだ……!!)」

テオ・テスカトル 「(正気をなくしている!!)」

ガミザミ達 「(ズボォッ!!)」

テオ・テスカトル 「!!(土の中から、物凄い数が……!!)」

ガミザミ達 「御免!!(ブスブスブスッ!)」

テオ・テスカトル 「! ぐぁ……!!!」


254: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:03:40.32 ID:7errZqU0
ガミザミ達 「(ババッ)」

テオ・テスカトル 「な……何だ…………」

テオ・テスカトル 「目が……霞む……」

テオ・テスカトル 「(痺れ薬を……注入されたのか…………!!)」

テオ・テスカトル 「(ガクッ)」

ショウグンギザミ 「ケケケッ! ケケケケケ!! てめーはそこで、見てな!!」

ショウグンギザミ 「ギャラリーは俺独りで充分だ!! 最前列は俺独りで充分だ!!」

テオ・テスカトル 「と……止まれショウグン殿!! 正気に戻りたまえ!!」

ショウグンギザミ 「やかましいんだよォォォ! 上っ面いい子ちゃんしやがって!(ブゥン)」

テオ・テスカトル 「くっ……(まずい!)」

ハンマー 「…………!!(ガキィィン!!)」

テオ・テスカトル 「! 人間!!」

ハンマー 「×××、×××!!!」

テオ・テスカトル 「! そうか、火を消す! 私の背に乗れ!!」

ハンマー 「××!!(バッ)」


255: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:04:43.97 ID:7errZqU0
シェンガオレン 「(グググ…………)」

テオ・テスカトル 「シェンを止める……話はそれからだ!!」

ショウグンギザミ 「チィ! まだ動けたのか! 野郎ども、今度は毒をブチこめ!!」

ガミザミ達 「キィ!!」

テオ・テスカトル 「ガルルルルッ!!(ダダダダダッ)」

ショウグンギザミ 「……!! なっ……!!」

ショウグンギザミ 「か、壁を駆け登って……」

テオ・テスカトル 「ギャォォォォ!!」

ハンマー 「っぉらぁぁぁぁ!!」

ショウグンギザミ 「そのまま落下の勢いで……!!」

ショウグンギザミ 「父上! 避けるのです!!」

シェンガオレン 「…………!!」


256: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:05:36.48 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「ギャォォォォォ!!(バギィィィン!!)」

ハンマー 「しゃらぁぁ!!(ドゴォォォォッ!!)」

シェンガオレン 「!! グ……ギャァァァァ!!」

シェンガオレン 「頭……頭……頭が……ァァァァァ!!!」

テオ・テスカトル 「やった……!!」

テオ・テスカトル 「(それぞれ、触覚を叩き負ったぞ!!!)」

テオ・テスカトル 「(ドザァァッ!)ぐっ……」

テオ・テスカトル 「(痺れ薬が回ってきたか……)」

ハンマー 「はぁ……はぁ……」

テオ・テスカトル 「(この人間、私に乗りながら、よく合わせる!!)」

テオ・テスカトル 「(敵ながら見上げたものよ!!)」


257: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:06:05.56 ID:7errZqU0
ハンマー 「(炎王龍の動きが鈍ってきている……)」

ハンマー 「(先ほどのカニ達に何かをされたのか……!?)」

ハンマー 「(しかし、砦蟹の触覚は叩き折った!)」

ハンマー 「(これで、奴らの頭が戦意を喪失してくれれば……)」

ハンマー 「(無駄な争いもなく済むというもの……!!)」

ハンマー 「(……ぐっ……)」

ハンマー 「(今は、炎王龍に乗っているからいいが……)」

ハンマー 「(右足の傷が開いたか……!!)」


258: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:06:30.12 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「ガルルルル……!!」

シェンガオレン 「シャァァ……!! シャァァ!!(ズリズリ)」

ショウグンギザミ 「父上! 下がってはなりませぬ! 絶対に……」

ショウグンギザミ 「下がらせはせぬぞォォォ!!」

ショウグンギザミ 「血! 血が足りぬ! こんなものでは血が足りない!!」

ショウグンギザミ 「興奮剤を注入しろ!!」

ガミザミA 「し……しかし、ショウグン閣下……!!」

ガミザミB 「これ以上は……!!」

ショウグンギザミ 「黙れえぇえ!(ブゥン)」

ガミザミA 「(ドガッ)ぐはぁぁ!」

ショウグンギザミ 「俺にたてつく奴は皆殺しだ! ここで死ぬか! 前で死ぬか! その二択しかねぇんだよ!!」


259: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:07:26.30 ID:7errZqU0
ダイミョウギザミ 「……くっ……父上たちが……前に出てしまった……」

ダイミョウザザミ 「(こんな状況で戦っても……勝ち目はない……)」

ダイミョウザザミ 「(ズボォッ)……!!」

ダイミョウザザミ 「(あれは……テオ……! テオ・テスカトル……!!)」

ダイミョウザザミ 「(そ、それにシェン様の触覚が……!!)」

ダイミョウザザミ 「(何だ……!? テオ・テスカトルの……背に、人間が乗っている!!)」

ダイミョウザザミ 「(共闘してでも……シェン様の侵攻を…………止めえんとしているのか!!)」

ショウグンギザミ 「早くしろオォォ! 貸せ!(バッ)」

ガミザミB 「なりませぬ……! これ以上は!!」

ショウグンギザミ 「(ブスッ)」

シェンガオレン 「!!(ビクンッ)……!!! ギャ……ギャォォラァァ!!(ズズズズ)」


260: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:08:14.99 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「(何だ……!?)」

テオ・テスカトル 「(触覚がなくなったというのに、まだ動くのか!?)」

テオ・テスカトル 「(あれではまるで、人間が操る、不気味な戦車そのもの……!!)」

テオ・テスカトル 「(止めるには、致命傷を与えるしかないというのか……!)」

ハンマー 「(……先ほどの一撃、できるとしたらもう一度……!!)」

ハンマー 「(しかし、カニの数が多すぎる……)」

ガミザミ達 「キシャ……キシェ…………(ゾロゾロ)」

ハンマー 「(包囲されてしまった……)」

ハンマー 「(炎王龍の足もふらついている……)」

ハンマー 「(こいつらを掃除している暇はない……!!)」

ハンマー 「(何とか、突破口を開かねば……)」


261: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:08:47.05 ID:7errZqU0
×××××× 「ギャォォォォ!!(ヒュゥゥゥゥッ!!)」

ハンマー 「(なっ……!)」

ハンマー 「(何だ!? 何かが、脇を、カニを蹴散らしながら……)」

ハンマー 「(物凄い勢いで、飛んで来た……!!)」

ナルガクルガ 「ギャォォォ! ギャォォォ!!(シュババババッ!!)」

ショウグンギザミ 「……っぐ……(ガキィィン)ナルガ……クルガか……!!」

テオ・テスカトル 「ナルガ殿!!」

ナルガクルガ 「ドスガレオスからの、伝令を聞いた。助太刀に入る!!」

テオ・テスカトル 「かたじけない!!」

ナルガクルガ 「シェンガオレンの様子がおかしいが……!!(ガチガチガチ)」

ショウグンギザミ 「(ガキィン! ガキィン!)くっ……この、邪魔だァァ!!!」

テオ・テスカトル 「おそらく、痛みや思考を麻痺させる神経毒を注入されている!」

テオ・テスカトル 「抵抗力を奪うしかない!!」


262: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:09:14.37 ID:7errZqU0
ハンマー 「(黒い竜……迅竜か!!)」

ナルガクルガ 「その人間は!?」

テオ・テスカトル 「同じくシェンを止めようとする者だ!」

ナルガクルガ 「…………!! ……承知!(ビュンビュン)」

ショウグンギザミ 「(ドガッ! ドガガガッ!)ぐぅぁぁああ!!」

ナルガクルガ 「こ奴は俺が! あなたはシェンを!!」

テオ・テスカトル 「お任せする!」

テオ・テスカトル 「行くぞ!(ダダダッ!)」

ハンマー 「(先ほどの攻撃を、もう一度やるつもりか……!!)」

ハンマー 「やるがいい炎王龍! 合わせる!!」

テオ・テスカトル 「ギャォォォォ!!(ダダダダダッ)」


263: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:09:49.16 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「(もう一度、この高所から、シェンに一撃を……!!)」

テオ・テスカトル 「……!!」

テオ・テスカトル 「あれは……!」

ドドブランゴ 「…………」

ナナ・テスカトリ 「…………」

テオ・テスカトル 「ナナ……!! ドドめ、ナナに何を……!!!」

ラージャン 「(シュッ)」

テオ・テスカトル 「!」

ハンマー 「何だ……!? いきなり、目の前に金色の猿が……!!」

ラージャン 「ケケケ……ケケケケケ!! 校長ォォォ!(バチバチバチ)」

テオ・テスカトル 「(いかん! この体勢では避けられん……!!)」


264: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:10:58.07 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「グッ……(ブンッ!)」

ハンマー 「うぉわぁぁ!!(お、俺を振り落とした!?)」

ラージャン 「死ねぇぇえ!(バチバチバチバチ)」

テオ・テスカトル 「やらせるものかぁぁ!(ゴゴゴゴゴゴゴ!!)」

 >ドォォォォンッ

ハンマー 「く……空中で、雷と炎がぶつかって、爆発を……!!」

ハンマー 「……!」

ハンマー 「すまない炎王龍! 砦蟹には、俺が一撃を!!」

ハンマー 「ウォォォォ!!(ブンブン)」

シェンガオレン 「!!」

ハンマー 「沈めェェ!!(ズゥゥゥンッ!!)」


265: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:11:40.47 ID:7errZqU0
シェンガオレン 「!!! ! ……ッ!!! ガッ……!!」

シェンガオレン 「(ゆらゆら……)」

シェンガオレン 「(ドズゥゥゥゥン)」

ハンマー 「ガァッ……!!」

ハンマー 「(俺の、脚と腕にも衝撃が……)」

ハンマー 「(ドサァッ!!)」

ハンマー 「(武器が、突き刺さったままだ……)」

ハンマー 「(ま……まずい……)」

ハンマー 「(意識が……)」

ナルガクルガ 「……! シェンが倒れこんだ……!!」

ショウグンギザミ 「父上ェェ!! くそがぁぁ! 邪魔だァァァ!!」

ナルガクルガ 「いかせん!(ガキィィン! ガキィィン!!)」


266: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:12:14.97 ID:7errZqU0
ハンマー 「くそっ……砦蟹は……要塞門の一部を崩して…………」

シェンガオレン 「ガガ……ガ……(グググ…………)」

ハンマー 「何……!? (ま……まだ動けるのか……!!)」

 >衛兵A 「ハンター様! 遅くなりました!!」

 >衛兵B 「化け物め! 好きにはさせんぞぉぉ!」

竜撃戦車 「(キュラキュラキュラキュラ)」

 >衛兵B 「まとめてブッ飛ばしてやるぜぇぇ!」

ハンマー 「竜撃戦車……! 間に合ったのか!!」

 >衛兵A 「今お助けします!!」

ハンマー 「待て! 敵ではない者も混じっている………! 砦蟹を狙うんだ!! ……ぐっ……」


267: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:13:03.22 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「ぐぅぁぁぁ!!」

ラージャン 「(ガブッ! ガブッ!)ヘヘ……ケケケケ……!! 死ねぇぇ!!」

テオ・テスカトル 「(くっ……こ奴離れん……! このままでは、私を下にして地面に激突してしまう!!)」

テオ・テスカトル 「(私の炎も、こ奴を焼いているはず……! 痛みを感じていないのか……!!)」

ラージャン 「先生は……先生はヨォォォォ!」

テオ・テスカトル 「!!」

ラージャン 「俺のものだ! 俺のものだ!! てめぇのじゃねぇ! 俺の、俺に優しくして……」

ラージャン 「俺だけの! 俺だけに優しくしてくれた! 先生はァァ!!!」

ラージャン 「おめぇなんかには渡さねぇぇぇ!!」

テオ・テスカトル 「くっ…………!!」

ラージャン 「落ちろォォォ!!(バチバチバチバチ)」

テオ・テスカトル 「ぐぁぁあっ!」


268: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:13:45.22 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「い……いかん!!」

ラージャン 「あの時もそうだった!」

ラージャン 「俺はただ先生が欲しくて……ただ欲しくて!!」

ラージャン 「先生に言った!!」

ラージャン 「だが先生は、てめぇがいるとぬかした!! 俺がいるのに! ここにいるのにぃぃぃ!!」

ラージャン 「ずっとこの機会を待ってた!」

ラージャン 「てめぇが消え去るこの日をォォ!!」

テオ・テスカトル 「!! (だめだ……この死に物狂いの力……!!)」

テオ・テスカトル 「(こ奴、執念だけで……)」

テオ・テスカトル 「(私と共に、地面に叩きつけられるつもりか……!!)」


269: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:14:44.12 ID:7errZqU0
テオ・テスカトル 「(不覚!!)」

××××××× 「(ヒュゥゥゥ……ゴゥゥゥ!!)」

ラージャン 「(ドガァァ!)ぐぁぁぁ!!」

テオ・テスカトル 「(拘束が緩んだ……!!)今だ! (ドガッ!)」

ラージャン 「……うわぁぁぁ!! (ドズゥゥゥゥン!!)」

テオ・テスカトル 「(ズゥゥゥン)…ぐ……っ(ガクガク)」

クシャルダオラ 「お父様!(バサァッ!!)」

テオ・テスカトル 「クシャル!? その怪我は!!」

錆クシャルダオラ 「ラージャンと少しね! お父様、大丈夫ですか!?(バサッ!)」

テオ・テスカトル 「錆まで……くっ……(ガクッ)」


270: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:15:20.28 ID:7errZqU0
ラージャン 「…………ちぃぃぃ! くそ女どもがぁぁ!」

ラージャン 「誰にも邪魔はさせねぇ……! 先生と俺の間は、誰にも邪魔はさせねぇ!!」

ティガ兄 「(ドォォォンッ!)へぇ、そいつは興味深い話だな」

ラージャン 「!!」

ティガ弟 「(ドォォォンッ!!)俺らにももう少し、詳しく聞かせてくれねぇかな!」

ティガ兄 「最も……ここじゃねぇ、どっか別の、どっか遠い場所での話だがなぁぁ!!(ブンブンッ)」

ティガ弟 「しゃらぁぁ!(ブンブンッ)」

ラージャン 「が……ぎゃぁぁぁ!!(ドゴォォォォッ!!)」


271: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:15:56.53 ID:7errZqU0
ティガ兄 「行くぞ弟者! ダブル蟲竜デストロイだ!」

ティガ弟 「合点だ!」

ティガ兄 「死ねよやぁぁ!!(ドドドドドッ)」

ティガ弟 「これで仕舞いやぁぁ!!(バッ)」

ティガ弟 「地面と空中からの二連撃じゃぁぁ!!」

ラージャン 「!! (ドゴォォォッ)……ッが…………!!」

ラージャン 「……! (ぐらぐら)」

ラージャン 「(よろ……)が…………」

ラージャン 「な………………が…………」


272: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:17:13.81 ID:7errZqU0
ラージャン 「(目が…………目が…………!)」

ラージャン 「(か…………霞む……!)」

ティガ弟 「(ズゥゥン)」

ティガ兄 「…………(バッ)」

ラージャン 「足が…………(ガクガク)」

ラージャン 「(ガクッ)……ッ…………!!」

ティガ兄 「無茶な戦いのツケが、随分溜まってるみてぇだなァ」

ティガ弟 「ケケッ! トドメといこうぜ兄者!」

ラージャン 「(こんな……こんな……)」

ラージャン 「(こんな奴らに…………!)」


273: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:18:05.69 ID:7errZqU0
シェンガオレン 「…………ガガッ……(よろ……)」

ティガ兄 「! シェンがこっちによろめいてくるぞ!(ババッ)」

ティガ弟 「離れろ!(ババッ)」

ラージャン 「…………」

ラージャン 「(か……体が動かねぇ…………)」

ラージャン 「!!」

ラージャン 「(シェンが倒れこむ方向に…………)」

ラージャン 「(親父と…………先生が!!!)」

ラージャン 「うぉぉぉぉぉお!!」

ラージャン 「(ダッ!!)」


274: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:18:29.25 ID:7errZqU0
ドドブランゴ 「! く……避け切れん!!」

ラージャン 「(シュッ)…………グゥッォォォ!!(ガシッ)」

シェンガオレン 「ギギ……ギ…………」

ドドブランゴ 「ラー!!? その傷で、シェンを支え続けるのは無理じゃ!!」

ラージャン 「…………クウグググ………………!」

ラージャン 「シャオラァァ!!(バリバリバリバリ)」

ドドブランゴ 「(じ……自分の体ごと、雷を落とした……!!)」

シェンガオレン 「……!! ガ……!!」

ナナ・テスカトリ 「…………ゲホッ……ゲホッ…………」

ナナ・テスカトリ 「う…………」

ナナ・テスカトリ 「ラ……ラージャン君…………?」


275: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:19:00.44 ID:7errZqU0
ラージャン 「……………………(ふらり)」

クシャルダオラ 「……お母様!(ヒュウゥゥゥ!)」

錆クシャルダオラ 「早くここから……!!(バッ!)」

ドドブランゴ 「くっ……ラーよ! ラー!!(バッッ)」

 >シェンガオレン 「(ドズゥゥゥゥン)」

クシャルダオラ 「…………!! あいつ、お母様を助けて…………」

ナナ・テスカトリ 「ああ……ラージャン君!!」

シェンガオレン 「(ズズ…………)」

錆クシャルダオラ 「倒れこんでるのに……まだ侵攻をやめない……!!」


276: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:19:18.28 ID:7errZqU0
シェンガオレン 「…………(ググ……)」

シェンガオレン 「キ…………ギ…………」

竜撃戦車 「(キュルキュルキュル)」

ハンマー 「! いかん!」

ハンマー 「(まだ新兵なのか!? 反応が鈍すぎる!!)」

ハンマー 「逃げろ!」

シェンガオレン 「ブゥゥァァァアアァ!(バシャァァ!!)」

衛兵A 「な……酸を吐きやがった!!」

衛兵B 「うわぁぁぁ! 脱出しろぉぉ!!」


277: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:19:46.35 ID:7errZqU0
シェンガオレン 「ブゥァァァ!!(ビシャビシャ)」

クシャルダオラ 「あいつ、四方八方に……!!」

錆クシャルダオラ 「お母様! もっと遠いところに離れます! 私につかまって!」

ナナ・テスカトリ 「だ……駄目……体が痺れて……」

クシャルダオラ 「……!!」

クシャルダオラ 「……くっ……奴らめ、毒を……!!」

錆クシャルダオラ 「ここじゃ、私たちにも……!!」

クシャルダオラ 「お母様をお守りするぞ!(バッ)」

 >オオナズチ 「(ドドドドドドドッ)」

クシャルダオラ 「(ガシッ)……きゃぁ!」

錆クシャルダオラ 「(ガシッ)……きゃ……」

クック 「ナナ殿! つかまれ!」

ナナ・テスカトリ 「イャンクック様!!(ガシッ)」


278: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:20:35.03 ID:7errZqU0
ナルガクルガ 「……! 衰えたなショウグンよ! (ガキィン、ガキィン!!)」

ショウグンギザミ 「!! ッ若造がァァ!!」

ナルガクルガ 「そんな腕では俺の頭に! 体には届かん!! 喰らえっぇ!(シュバッ)」

ショウグンギザミ 「(ズバッ)ガァァァ!!(ズゥゥゥン)」

ショウグンギザミ 「ガ……カ……」

ナルガクルガ 「意味のない戦いを欲するは重罪。反逆的行為には粛清あるのみだ。トドメを切らせてもらおう」

ショウグンギザミ 「クク……カカカ……!!」

ナルガクルガ 「!?」

ショウグンギザミ 「俺が……独りで出てきたとでも思っているのか! やれィ!」

ガミザミ達 「キィ!(ババッ)」

ダイミョウギザミ 「父上!(バッ!)」

ナルガクルガ 「! (地中から……)」

ダイミョウギザミ 「父上から……離れるのだ!!」


279: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:21:03.97 ID:7errZqU0
ナルガクルガ 「ふっ」

ショウグンギザミ 「……!」

ナルガクルガ 「貴様こそ何か勘違いをしている。俺も、単身乗り込んでくるほど馬鹿ではない」

××××××× 「(ゴウッ)」

ダイミョウギザミ 「(ドズゥッ!)ぐはぁぁ!」

イャンガルルガ 「はぁ……はぁ……」

イャンガルルガ 「てめぇらァァァ!!(バサァ! バサァ!)」

イャンガルルガ 「人間をやんのは俺だ! 人間を皆殺しにすんのは俺だ!」

イャンガルルガ 「だがしかし!! かかさまを死に追いやったシェンを……クソガニは……」

イャンガルルガ 「それ以上に許せねぇ!!」


280: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:21:59.43 ID:7errZqU0
イャンガルルガ 「のうのうと生きて……また火を放たせるつもりかァァ!(ゴウッ! ゴウゥッ!)」

ダイミョウギザミ 「(ドズゥ! ドズゥッ!!)ぐぅぁぁぁ!!」

ガミザミ達 「ガァァ!!」

イャンガルルガ 「てめぇら全員許さねぇ!」

イャンガルルガ 「屑はくたばれ! そんなに死にてェなら、全員ここで死ねェェ!!」

ダイミョウギザミ 「く……ぐぅ……!!」

ナルガクルガ 「ふ……(奴め……)」

ナルガクルガ 「(自分に対しての怒りに聞こえる言葉よ)」

ナルガクルガ 「(この状況で、シェンを止めようとするとは……)」

ナルガクルガ 「(心の中に、わずかばかりでも戦士の想いがあるか……)」

ナルガクルガ 「(やはり、あの女の子供よ……!!)」


281: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:22:51.97 ID:7errZqU0
ダイミョウザザミ 「(ドガァ! ドガァ!)ガ…………」

ショウグンギザミ 「何やってやがる! 全員、とっとと血祭りに上げろォォォ!!」

ショウグンギザミ 「全員……ガ……(ズバッ)」

ナルガクルガ 「………………」

ショウグンギザミ 「…………(ズゥゥゥン)」

ナルガクルガ 「次はダイミョウ、貴様だ」

ダイミョウギザミ 「ぐ…………」

ナルガクルガ 「父の元へ、ゆくが良い!!」

イャンガルルガ 「(何だ……? あのカニ、動かねぇ……)」

イャンガルルガ 「(! あれは、首飾り……随分沢山と……)」

イャンガルルガ 「(汚ねぇ首飾りだ……)」

イャンガルルガ 「(子供が作ったのか!?)」


282: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:23:13.70 ID:7errZqU0
イャンガルルガ 「チィィ!(バッ)」

ナルガクルガ 「!?」

イャンガルルガ 「(ガキィィン!)何をするガルルガ!!」

イャンガルルガ 「俺の獲物だ……てめぇは下がってろ……クソ野郎」

ナルガクルガ 「…………(ババッ)」

ダイミョウザザミ 「はぁ……はぁ……(ズゥゥン)」

ナルガクルガ 「……好きにしろ。俺はシェンを止めにゆく!(ダッ)」

ダイミョウザザミ 「はぁ……はぁ………………紫…………」

イャンガルルガ 「………………ペッ」

イャンガルルガ 「…………(バッ)」


283: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:23:44.82 ID:7errZqU0
クック 「くそっ……まだシェンガオレンの侵攻は止まらないのか……!!」

クシャルダオラ 「お母様! しっかりして!」

錆クシャルダオラ 「お母様!!」

女児 「ナナさん!? ナナさん、そこにいるの!?」

ナナ・テスカトリ 「まさか……人間の子……? 良かった、無事だったのですね……」

オオナズチ 「ひ……ここからは、離れるんだな……」

オオナズチ 「何だか、人間達が大砲とかもってきてて、ちびっちゃうんだな」

紫ガミザミ 「待つのじゃ!!」

オオナズチ 「せ、背中の皮を挟まないでほしいんだな」

紫ガミザミ 「とぉさま!!」


284: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:24:05.94 ID:7errZqU0
ダイミョウザザミ 「!! 紫!」

クック 「ダイミョウ殿!!」

紫ガミザミ 「(バッ)とぉさまぁぁ!」

ダイミョウザザミ 「紫! 何故こんな……ところに来た!!」

紫ガミザミ 「紫は……紫は、とぉさまが心配で……!!」

紫ガミザミ 「とぉさま、ひどいけがを……!!」

ダイミョウザザミ 「何の、これしき…………(ガクッ)」

紫ガミザミ 「あぁ! じじさまが!!」

ショウグンギザミ 「………………」

ダイミョウザザミ 「見るな紫…………無事でよかった……」


285: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:24:37.03 ID:7errZqU0
クック 「ダイミョウ殿! 早くここから離れねば、人間の砲撃が来ますぞ!!」

ダイミョウザザミ 「イャンクック……オオナズチまで…………」

クシャルダオラ 「(ガルルルルル)」

錆クシャルダオラ 「(ガルルルルル)」

ナナ・テスカトリ 「おやめなさい、あなたたち。ダイミョウ様。これ以上の争いは無意味です……潔く引きましょう」

ダイミョウザザミ 「…………」

ナナ・テスカトリ 「引くもまた誇り、と、わたくしは先代のテスカトリより教わりました」

ナナ・テスカトリ 「それに、あなた様には……」

ナナ・テスカトリ 「ここまで心配して追いかけてきてくれる、娘さんがいらっしゃる……!!」

ダイミョウザザミ 「………………」

ダイミョウザザミ 「一族以外の……手は借りぬ…………!!」

オオナズチ 「(シュバッ)」

ダイミョウザザミ 「! 何をする! 舌を伸ばして……離せ!」

オオナズチ 「ぼ、ぼくの背中に乗るんだな。と……とっととこんなところ、おさらばするんだな」

キリン 「ナイスよオオナズチ君!」


286: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:25:10.21 ID:7errZqU0
オオナズチ 「じゃ、ぎゃ、逆転急カーブなんだな!! こ、校長先生を回収したら、逃げるんだな!!」

クック 「君たちは行ってくれ! 私は……シェンを止めにゆく!!」

ナナ・テスカトリ 「イャンクック様! あなた様にも、子供が……!!」

女児 「(がしっ)」

女児 「私も……」

女児 「私も、おじさんといっしょに行く……!!」

クック 「女児!!」

バサルモス 「なら、俺が女児を乗せるよ! クックおじさんは、俺につかまって!!」

クック 「分かった! もう離れない! 共に行こう!!(バサァッ)」

女児 「うん!!」

バサルモス 「行こう、おじさん、女児!!(バサァッ)」

ナナ・テスカトリ 「待ちなさい三人とも!」

キリン 「おじさま!!」


287: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:25:37.16 ID:7errZqU0
―砦―



ハンマー 「……くっ! (俺の武器が、砦蟹の頭に突き刺さったままだ!!)」

ハンマー 「(まるでまだ、自分の意思で刺さっているかのような……!!)」

ハンマー 「(トドメを……刺さねば!!)」

ハンマー 「ぐ……(よろ…………)」

ハンマー 「(落下の衝撃で……足と、体中が痛む……)」

ハンマー 「!! アレは!?」

ハンマー 「あの、洞窟で見た怪鳥! それに岩竜!!」

ハンマー 「そして、岩竜の背中に……」

ハンマー 「女の子だ!!!」


288: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:25:59.46 ID:7errZqU0
ハンマー 「シェンを止めるつもりなのか!? 突っ込んでいく!!」

ハンマー 「生きていたのか!!」

ハンマー 「………………良かったッ!!!」

ナルガクルガ 「ガルルルルル(ダダダダダッ)」

ハンマー 「! (ガシッ)すまない、背中を借りるぞ!!(バッ)」

ナルガクルガ 「……!! …………(ダダダダダッ)」

ハンマー 「(……な……なんと言う早さだ!!)」

ハンマー 「(あの武器で、もう一度……)」

ハンマー 「(もう一撃砦蟹に攻撃をできれば……!!!)」


289: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:26:29.47 ID:7errZqU0
ナルガクルガ 「ガァァァ!(バッ)」

シェンガオレン 「…………(ズン、ズン、ズン)」

ナルガクルガ 「シャァァ! シャァァ!(ザシュッ! ザシュッ!)」

ハンマー 「! (もはや砦蟹に反応はない……!!)」

ハンマー 「(ただ前進するのみなのか!!)」

ハンマー 「(…………!? あれは……!!!)」

ハンマー 「(馬鹿な……!!)」

ハンマー 「(そ……そんな……そんな馬鹿な!!)」

ハンマー 「(砦蟹の腹部に取り付けられているのは……あれは……)」

ハンマー 「(爆弾!?)」


290: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:26:49.28 ID:7errZqU0
ハンマー 「(俺達ハンターから奪ったのか!?)」

ハンマー 「(大量の爆弾を持って、桃毛獣が隠れている!!)」

ババコンガ 「………………」

ハンマー 「(突貫して、砦蟹ごと自爆するつもりなのか!? 馬鹿な!!)」

ハンマー 「(モンスターがそんな知恵を……)」

ハンマー 「(いや、違う……!!)」

ハンマー 「(あれは憎しみ……憎しみの心が生んだ報復!!)」

ハンマー 「(俺達との戦いで育まれた憎しみの心による膿みだ!!)」


291: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:27:15.62 ID:7errZqU0
ナルガクルガ 「(……何だ? 何故あんなところに、ババコンガが隠れている?)」

ナルガクルガ 「(しかしこの人間……何故俺の背中に……)」

ナルガクルガ 「(テオ殿と共闘しているところは見たが……)」

ナルガクルガ 「(……そういえば、この人間は武器を持っていない)」

ナルガクルガ 「(……! そうか!)」

ナルガクルガ 「(あのシェンの頭に突き刺さっているものか!!)」

ナルガクルガ 「(遠目にも、アレが強固な装甲を切り裂くのが見えた)」

ナルガクルガ 「(こいつはアレをもう一度叩き込もうとしているのか!!)」

ナルガクルガ 「(人間の乗機にされるのは気に食わんが……!!)」

ナルガクルガ 「(死なばもろともよ!!)……! (ババッ)」


292: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:27:43.80 ID:7errZqU0
ハンマー 「! (迅竜が方向を変えた!)」

ハンマー 「(頭の武器に気づいてくれたのか!!)」

ハンマー 「(し……しかし!!)」

衛兵達 「急げー! 大砲とバリスタの玉を、早く装填しろー!!」

ハンマー 「(まずい……!!)」

ハンマー 「(火薬で砦蟹を攻撃しては、逆に要塞が甚大な被害を受けてしまう!!!)」

ハンマー 「(その前にトドメをさすしか……ない!!)」

ババコンガ 「……!!」

ナルガクルガ 「!!」

ハンマー 「(くっ……桃毛獣がこちらに気づいた……!!)」

ハンマー 「(爆弾を砦蟹に縛り付けて、向かってくる!!)」


293: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:28:08.47 ID:7errZqU0
ババコンガ 「! ナルガよォォォ!! 貴様ァァ! 人間の下僕に成り下がったかァァ!!(バッ)」

ナルガクルガ 「(ドゴォッ!!)グッ……!!」

ナルガクルガ 「(いかん! 体勢が不安定な空中で……)」

ナルガクルガ 「(落ちる……!!!)」

イャンガルルガ 「野郎!! くそ……人間め……」

イャンガルルガ 「人間めェェェェ!!(ゴウッ!!)」

ババコンガ 「(ドゴォッ)!! グァァ!」

ナルガクルガ 「! 拘束の手が緩んだ!! 今だ!」

ナルガクルガ 「人よ!! 行けェェ!!(ブンッ!)」

ハンマー 「(俺を上に……)」

ハンマー 「感謝する! 迅竜!!」


294: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:28:38.48 ID:7errZqU0
ハンマー 「(ガッ)」

ハンマー 「(武器を……掴んだ!!)」

衛兵達 「あれは……!!」

衛兵達 「砦蟹の頭に、ハンター様が乗ってるぞ!!」

衛兵達 「撃ち方待てェェ!!」

ハンマー 「(スッ)」

ハンマー 「終わりだ! 砦蟹!!」

ハンマー 「っおらぁぁぁ!!(ドゴォォォォォォォッ!!!)」

シェンガオレン 「!!!!!!!!!」

シェンガオレン 「……ッ! ……(ズゥゥゥ…………ン…………)」

シェンガオレン 「……………………」


295: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:29:04.52 ID:7errZqU0
ハンマー 「はぁ……はぁ……」

ハンマー 「…………ぐっ……(体中が……悲鳴を上げている……)」

シェンガオレン 「…………(ズリ……ズリ……)」

ハンマー 「(ま……まだ止まらないのか……!!)」

ハンマー 「(……違う! この目の色……もう既に砦蟹に意識はない……)」

ハンマー 「(躯だけが、執念で動いているのか!!)」

衛兵達 「!! あれはァァ!!」

衛兵達 「うわぁぁぁ!!!」

ハンマー 「! 何だ!?」

ハンマー 「この地響き……これは…………」

ハンマー 「三年前と同じ……」

 >ラオシャンロン 「ギャォォォォォォォ!!(ドドドドドド)」

ハンマー 「老山龍か!!!」


296: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:30:11.92 ID:7errZqU0
ハンマー 「老山龍が……!」

ハンマー 「老山龍が、砦を吹き飛ばしながら進んでくる!!」

ラオシャンロン 「ギャォォォォ!!!」

シェンガオレン 「!! (ググ…………)」

ハンマー 「(な……何ということだ!)」

ハンマー 「(このままでは、砲弾やバリスタが発射されて、砦蟹に取り付けられた爆弾が……)」

ハンマー 「(爆発してしまう!!)」


297: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:30:37.73 ID:7errZqU0
ラオシャンロン 「シェンよ! おさまりたまえ!!(ドドドッ)」

シェンガオレン 「…………(ズズ……ズズ…………)」

ラオシャンロン 「!! シェン……!!」

ラオシャンロン 「おぬし、既に…………」

ラオシャンロン 「(ズキリ)……ッぐ…………」

ラオシャンロン 「やはり…………ここまで動く体力が、もう……」

ラオシャンロン 「私には…………」

シェンガオレン 「(グググ……)」

ラオシャンロン 「!!」

シェンガオレン 「(ブンッ!!)」

ラオシャンロン 「(ドゴォォォッ!)ぐはぁぁぁ!!」

ラオシャンロン 「(躯か……!!)」

ラオシャンロン 「(私と……人間に対する憎しみが、彼を動かしているのか!!)」

ラオシャンロン 「(く……ここまで来るのに、体力を……)」

シェンガオレン 「(ブンッ! ブンッ!)」

ラオシャンロン 「(ドスッ! ドスッ!)ぐぁあああ!」


298: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:31:41.40 ID:7errZqU0
衛兵達 「老山龍がひるんでるぞ!」

衛兵達 「今のうちに、もう一機竜撃戦車を出すんだ!」

衛兵達 「大砲撃てェェ!!」

ハンマー 「待て! やめろォォォ!!」

衛兵達 「撃てェェ!!(ドォンッ! ドォンッ!!)」

ドドブランゴ 「(シュッ!!)」

ドドブランゴ 「(ドゴォォォッ! ドゴォォォォッ!)ぐ……ガアァァァ!!!」

衛兵達 「な……何だ!?」

衛兵達 「あの雪猿、大砲から砦蟹を庇ったぞ!!!」

ドドブランゴ 「が……ガ……(グラグラ)」

ドドブランゴ 「ラー………………」

ドドブランゴ 「(下敷きとなっても……分かる……お前はまだ……生きている………)」

ドドブランゴ 「…………(忌み子として育ててきたお前には……随分と辛く生を過ごさせた……)」

ドドブランゴ 「(砂ブラが死んでからも……わしはお前に優しい言葉など一度もかけなかった…………)」

ドドブランゴ 「(強い種を残すための…………教育と思っていた…………)」

ドドブランゴ 「(そのせいで……お前は歪んで…………)」

ドドブランゴ 「(許して……くれ……)」

ドドブランゴ 「…………(ドサリ)」

衛兵達 「! 第二射急げェェ! まだ動いてるぞ!!」


299: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:33:07.88 ID:7errZqU0
―砦、上空―



クック 「な……何ということだ……」

クック 「ドドが……!!」

女児 「…………ドドさんが!?」

クック 「…………」

クック 「(ラージャンがまだ、砦蟹の下敷きになったままだ……)」

クック 「(息子を……庇ったのか!!)」

ラオシャンロン 「ガ……グァ……(ふらふら)」

バサルモス 「! おじさん、ラオシャンロン様の様子がおかしい!!」

クック 「くそっ……病気とのお噂だったのだが、本当のことだったのか!!」


300: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:33:29.46 ID:7errZqU0
女児 「(うっ…………)」

女児 「(あの時と同じ…………)」

女児 「(お父さんとお母さんをおいかけて……)」

女児 「(やけるとりでと…………大きなカニと…………)」

女児 「(だいじなものがみんなやけて…………)」

女児 「そんなのいや…………」

バサルモス 「女児?」

女児 「またみんななくなるなんて、そんなのもういやだよ!」

クック 「そのとおりだ!!」

クック 「お前はこれから幸せにならなければいけない!」

クック 「普通の幸せを享受し、普通の心の安らぎを得て!」

クック 「普通に、楽しく暮らさなければいけない!」

クック 「お前には……子供達には、それが許されている!!!」


301: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:34:37.33 ID:7errZqU0
クック 「たとえ我が身が砕け散っても、シェンは止めてみせる!!」

女児 「おじさん!! 待って!」

クック 「シェンよ! ラオよ! 下がれ! 下がってくれェェェ!!!(バッ)」

バサルモス 「クックおじさん!!!」

女児 「おじさん!! いっちゃやだ! やだぁぁぁ!!(バッ)」

バサルモス 「! 女児!!」

バサルモス 「じょ、女児まで落ちた!!! 自分から……!!」

女児 「(暗い……こわい…………)」

女児 「(どんどん落ちてく……)」

女児 「(でも、おじさんがこの先にいる!!)」

女児 「(ディアブロスおじいさん! わたし想像するよ!)」

女児 「(おじさんが、この先にいる!!)」


302: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:35:46.33 ID:7errZqU0
クック 「(ガシッ)いくぞ女児!!(ヒュゥゥゥッ!)」

女児 「はい!!」

女児 「(な……何だろう……胸が、温かく……)」

女児 「(うぅん……熱い……!!)」

女児 「(これは……ずっと前に、白い猫さんがくれた、てるてる坊主……)」

女児 「(ずっと、焼けたりせずにくびにかかってたんだ!)」

女児 「(熱くもえてるみたい!!)」

クック 「何だ!? 女児の胸が光っている!!」


303: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:37:58.29 ID:7errZqU0
―砦―



ハンマー 「空から、あの怪鳥と、女の子が……!!」

ハンマー 「な……何だ、この……太陽のような光は!!」

女児 「…………たたかいをやめて!!」

ハンマー 「!!」

女児 「たたかいをやめて、下がって!!」

女児 「たたかいをやめてください!!」

ハンマー 「あの子の声が……聞える……!!」


304: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:39:26.28 ID:7errZqU0
女児 「下がって!!」

シェンガオレン 「(ズズ……ズ…………)」

女児 「Flyt!! bagud!!(退がりなさい!!)」

シェンガオレン 「(ビクッ)」

女児 「Tilbageskridt!! og! de!! dode!!(退きなさい! 死人!!!)」

ハンマー 「う……ぁぁぁ!! 白い光が!!」

ハンマー 「物凄い光だ……!!」

シェンガオレン 「ギャォォォォォォ!!!」


305: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:56:11.40 ID:7errZqU0
ハンマー 「(し……白い光の中で……)」

ハンマー 「(砦蟹が……あの硬い装甲が……崩れていく……)」

ハンマー 「(! 何か見える!!)」

ハンマー 「(あの遠くに…………)」

ハンマー 「(白い巨竜が…………!!!)」

ハンマー 「(まさか、あの女の子は…………!!!)」

 >ブワァァッ!!

ハンマー 「うわぁぁ!!」

ハンマー 「(光が……強く…………!!)」

ハンマー 「(あの女の子が……遠くにいってしまう……!!)」


306: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:56:31.58 ID:7errZqU0
ハンマー 「…………(グッ!)」

ハンマー 「…………おーい!!」

女児 「!!」

ハンマー 「人間は! ……いや、君の仲間は!」

ハンマー 「君を待ってる! 少なくとも、俺は!!」

ハンマー 「いつでも待ってる!!」

ハンマー 「……うわぁ!!」

ハンマー 「(白い光が……ッッ!!)」

ハンマー 「(な……何も見えない!!)」


307: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:57:48.53 ID:7errZqU0
―数ヶ月後、雪山―



ティガ弟 「ふぁァァァ……ッア゛ッ! 暇だなぁ兄者」

ティガ兄 「だなァ」

フルフル 「お前達! ただ、ぐうたら文句を言いに来たのかい!?」

ティガ兄 「…………」

ティガ弟 「あーあー、ちょっと兄者、桜レイアちゃんと喧嘩してさぁ。クシャルも巻き込んで泥沼で、帰るに帰れねぇの! ゲヘヘ!」

ティガ兄 「うるっせぇぞ! 俺ァ何も悪くねぇ」

ティガ弟 「ハイハイ分かりましたよ」

フルフル 「すまないねぇ二人とも。折角着てくれたのに、ムサ苦しいのが二匹もいてねぇ」


308: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:58:28.34 ID:7errZqU0
クック 「いや、そんなことはない。久しぶりに地獄兄弟の顔を見れてよかった」

ティガ兄 「ケッ!!」

ティガ弟 「目ェ、随分良くなってきたんだっけか。これでもう介護生活とオサラバできるぜ!!」

ティガ兄 「めでてェめでてェ。もうガキの子守は沢山だ!」

フルフル 「何をお言いだい。あんた達もねぇ、子竜の頃はそりゃもうあたしは」

ティガ弟 「あ~~~ぎゃ~~~~聞きたくネェ!!」

ティガ兄 「くそババァ! 今はそんな気分じゃねーんだよ!!」


309: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:58:54.15 ID:7errZqU0
少女 「ティガ兄さん、災難だったねぇ。これでも食べて元気を出して」

ティガ兄 「ケッ。ドス食い大マグロの干物なんかで俺が釣られると思うな!(ボリボリ)」

フルフル 「最近は、ラオシャンロンの病気もだいぶ良くなってきたというではないか」

フルフル 「奇跡のようなものという話だからネェ」

フルフル 「女児は古龍の血を飲んでいるんだから、目ェくらい治らなくてどうするよ」

フルフル 「まぁ、あんたたちのムサ苦しい顔をはっきり見ずに済んでるんだ」

フルフル 「今は幸せかもしれないけどねぇ」

少女 「おばあちゃん、そんなことないよ。私は、ティガさんたちは大好きだよ」


310: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:59:27.63 ID:7errZqU0
ティガ兄 「ゲェェェ!! 吐き気の出るセリフ!」

ティガ弟 「俺達が! 好かれている! 頼られている!! 見ろ兄者! じんましんだ!!」

フルフル 「もともとお前らぁ、イボか鱗か分からん顔しとるじゃないけ」

ティガ兄 「うっせ! うっせクソババー!!」

少女 「(くすり)」

少女 「あ……そういえば、おじさん」

クック 「ん?」

少女 「今日は夕方から、トトスさんやナルガさんたちが遊びに来るんじゃない?」

クック 「あぁ、そうだった。うっかりしていた。フルフルさん、それではこれでお暇させてもらうよ」


311: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 14:59:53.89 ID:7errZqU0
フルフル 「そうかい。あんたのクチバシも、だいぶましな形になってきたよ。治療を続ければ、もうじき元通りさ」

クック 「そいつは嬉しい。これで流動食から卒業できるというわけだ」

ティガ兄 「ケケケッ! 流動食!!」

ティガ弟 「子供おっさんだ!」

クック 「ははっ、そう言ってくれるな」

少女 「それじゃね、地獄兄弟さんたち(ナデナデ)」

ティガ兄 「ク……ケケッ! もうちょい右だ」

ティガ弟 「人間は気に食わねぇが、てめーだけは、俺達の鼻掻き要員として残しておいてやってもいいぜ!!」

少女 「(にこっ)ありがと。それじゃ、またね」


312: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 15:00:16.84 ID:7errZqU0
少女 「それと、ティガ兄さん。お花でも摘んでいってあげれば、仲直りできると思うよ」

ティガ弟 「花!? お花だってさ! ギャハハハ!! 兄者がお花!!」

ティガ兄 「う……うるせぇ!! (ヒソヒソ)マジか? 何がいい?」

少女 「雪山草のお花とかどうかな」

ティガ兄 「………………」

ティガ弟 「ギェヒャヒャヒャヒャ!!」


313: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 15:00:50.42 ID:7errZqU0
クック 「よし、それでは行こうか。フルフルさん、また来るよ」

フルフル 「あぁ。最近は人間達の攻撃も、前みたいになりふり構わないものじゃなくなってきたからね」

フルフル 「気をつければ、恐ろしいことはないと思うが……」

フルフル 「少女も、ああいう馬鹿にはついてっちゃいけないよ。いいことないからね」

フルフル 「今日だって、テオとナナの修行をさぼってやがるんだよ。あとで言いつけてやっかんね」

ティガ弟 「兄者が……お花……笑いがとまらねぇ!!!」

ティガ兄 「………………」

ティガ弟 「真剣に考え込んでやがる!!! ウケる!!」

ティガ兄 「あァ? やんのかこらァ!!」

ティガ弟 「上等だァこるぁ!!」

フルフル 「こらあんた達。この前、ラージャンに挑んで返り討ちにされたばっかだろうが。もう面倒ごとはごめんだよ」

ティガ兄 「あれは俺達の勝ちだったぜ!!」

ティガ弟 「あの野郎! しぶといにも程があるぜ! ブランゴ一族の頭になったからって、調子こいてるぜ!!」


314: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 15:02:01.39 ID:7errZqU0
少女 「ふふ……地獄兄弟さんたちは、いつも元気だね」

クック 「そうだな。よし、私の背中に乗りなさい」

少女 「分かったよ!」

フルフル 「そいじゃね。また来なね」

ティガ弟 「ケッ! もう二度と面ァ見せんな!!」

ティガ兄 「…………雪山草か…………」

少女 「ばいばい、またね!」

クック 「それじゃ、帰ろうか」

クック 「家に!」

少女 「……うん!!」


315: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/22(月) 15:03:54.53 ID:7errZqU0
イャンクック 「旧沼地で人間を拾ったんだが」 おしまい



376: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:26:11.75 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「あの人にわたしたい」



―密林、子供達の遊び場―



紫ガミザミ 「のう、少女よ。ちと聞きたいことがあるのじゃがの」

少女 「ん? どうしたの?」

紫ガミザミ 「時たまおぬしの家に顔を出す、黒い竜がおるじゃろ?」

少女 「黒い竜……ナルガさんのことかな?」

紫ガミザミ 「ナルガ? ナルガというのか?」

バサルモス 「そうだよ。ナルガクルガさんは、樹海の防衛隊長をしてる人なんだ」

紫ガミザミ 「何と。おぬしも知っておるのか」

バサルモス 「そりゃもう。あの人は、俺達の目標みたいなものだからね」


377: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:26:30.29 ID:QqDzUTY0
バサルモス 「俺も、もう少し大きくなったら防衛隊に入るんだ」

紫ガミザミ 「カム子の修行は良いのか?」

バサルモス 「まだオカマになるなんて、俺は一言も言ってないよ!」

少女 「紫ちゃん、それで、ナルガさんがどうかしたの?」

紫ガミザミ 「う……うむ。いや……まぁ……」

少女 「?」

紫ガミザミ 「な……何が好きなのかとか、どういう食い物が好みなのかとか……」

紫ガミザミ 「何か知っておらんかと思ってな……」


378: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:26:59.12 ID:QqDzUTY0
少女 「そうだねぇ……ナルガさんは、お家に来てもほとんど喋らないからなぁ」

バサルモス 「あんまりコミュニケーションがとれる人じゃないって話だよ。パパが意思疎通ができないって怒ってた」

紫ガミザミ 「ふむ……」

少女 「あぁ、でもお家にきたら、必ずお酒を飲んでいくね」

紫ガミザミ 「酒か! 何を飲んでおるのじゃ」

少女 「うーん……何だろう。この前、紫ちゃんはいなかったけれど、ナルガさんとキングさんがお家で鉢合わせしたことがあって……」

バサルモス 「あぁ……あの時か……とても重い空気だったね……」

少女 「うん……黙々とおじさんと三人でお酒を飲んでたよ。一言も喋らずに……」

紫ガミザミ 「キングチャチャブーなどどうでもよいのじゃ。ナルガ殿の好物を、わらわは知りたいのじゃ」


379: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:27:49.09 ID:QqDzUTY0
バサルモス 「でも、そんなの知ってどうするのさ」

紫ガミザミ 「う゛っ……それは……まぁ……」

少女 「とりあえず、ツチハチノコのお酒だったと思うな。私、まだ良く見えないから、はっきりとは分からないけれど……」

少女 「ナルガさんとお話をしたいの?」

紫ガミザミ 「そっ……そんなことは申しておらぬ。わらわはただ、ちょっと、お渡ししたいものがあって……」

少女 「渡したいもの?」

紫ガミザミ 「あの方、いつもからだに傷がついておるじゃろう。とぉさまからお聞きしたのじゃ。常に前線で人間と戦っておると」

少女 「そうだねぇ。あの人、いつも血の臭いがするよ」

紫ガミザミ 「じゃ、じゃからわらわは、お守りにならんものかと思って……」

少女 「これ? (スッ)わぁ、耳飾り? 作ってきたんだぁ」

バサルモス 「ププッ」


380: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:28:16.78 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「! 何がおかしい!」

バサルモス 「ふふふ、いやぁ、何でも」

紫ガミザミ 「その笑い顔無礼であるぞ! 何がおかしいかと聞いておる!」

バサルモス 「青春だと思った」

紫ガミザミ 「せいしゅん? よ、よく分からぬが馬鹿にするでない! わらわは、不意にだな」

紫ガミザミ 「ナルガ殿に、この黒真珠のお守りを、お渡ししたくなっただけじゃ!」

紫ガミザミ 「他意はない!!」

バサルモス 「いやぁ、渡したいって時点ですごい他意だよ」

紫ガミザミ 「ええいやかましい! 何がおかしい!?」

少女 「うぅん、おかしくないよ(なでなで)」

紫ガミザミ 「!!」

少女 「今日、ナルガさんがお家に来ることになってるの。そのときにちゃんとお話して、渡せば喜んでくれると思うな」

紫ガミザミ 「ほ、本当か!? ナルガ殿は受け取って下さるのだろうか」


381: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:28:41.95 ID:QqDzUTY0
少女 「大丈夫だよ。あの人、顔は怖いけれどちゃんとお話をしてくれるよ」

バサルモス 「プププッ」

紫ガミザミ 「何を笑っておる! 二代目カム子!」

バサルモス 「まだカム子を継ぐなんて言ってないよ!!」

紫ガミザミ 「おぬしはあのオカムどもと●繰り合っておるがお似合いじゃ。大人の話に口を出すでない」

バサルモス 「やめてよ人をもうカマみたいに言わないでよ!」

紫ガミザミ 「そ、そうと分かれば今日お伺いしてもいいだろうか」

少女 「(にこにこ)いいよ。一緒に渡そう」

紫ガミザミ 「(パァッ)少女……よし、とぉさまに頼んで、お酒も持ってくるぞな!」

紫ガミザミ 「夕刻また来る!(ズボッ)」


382: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:28:57.20 ID:QqDzUTY0
バサルモス 「行っちゃった……何? ナルガさんに一目ぼれでもしたのかな」

バサルモス 「カニなのに……」

少女 「一目ぼれって、素敵なことだと思うよ。種族が違くても愛し合えるって、すごいことだと思わない?」

バサルモス 「そ……そうだね」

バサルモス 「うん、確かにそうだ」

少女 「ナルガさん、おじさんのお話だと結婚もしてないみたいだし……」

少女 「もし紫ちゃんとカップルになれたら、もっと素敵だと思うな」

バサルモス 「いや、それはどうかなぁ……」

バサルモス 「いくらなんでもカニはないよ、カニは」


383: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:29:25.92 ID:QqDzUTY0
―クックの巣、夕方―



クック 「(少女たちが少し遅いな……)」

クック 「(最近は日が落ちるのが遅くなってきたから、大丈夫だとは思うが……)」

クック 「(もう少し遅くなるようならば、探しに行った方が良いだろう)」

クック 「(……しかし、あの子にも友達ができて良かった……)」

クック 「(私は親にはなれるが、あの歳の子にとって、一番大切な、友達にはなれないからな……)」

ナルガクルガ 「邪魔をする(ヌッ)」

クック 「! ナルガか、早いな、今日は」

ナルガクルガ 「迷惑か」

クック 「そんなことはない。入ってくれ」


384: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:30:18.25 ID:QqDzUTY0
クック 「最近、ラオシャンロンの容態もだいぶ快方に向かってきたようだ。めでたいことだ」

ナルガクルガ 「あの人間はいないのか」

クック 「あぁ、少女ならバサルモス君達と一緒に遊びに出ているよ」

ナルガクルガ 「……無用心だな」

クック 「?」

ナルガクルガ 「いくらラオシャンロンが認めたにせよ、人は人よ。あまりのうのうと出歩かない方が身のためかと、俺は思うが」

クック 「まぁ……確かに、それはそれなんだが。座ってくれ」

ナルガクルガ 「(スッ)」

クック 「あの子が人間でも、子供達は仲良くしてくれている。それは、とても大切なことではないかと私は思うんだ」

ナルガクルガ 「…………」

クック 「ただそれだけのことが、私達大人にはなかなかできない。しかし子供なら、できるんだ」

クック 「随分前に、テオ殿とナナ殿の学び舎を見学した際に、聞いた言葉なのだがな」


385: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:31:36.17 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「いいか、クックよ……人は人よ」

ナルガクルガ 「俺が竜であり、お前が鳥竜であるように、変わらぬ種というものは、本能のもっと奥深くに刻まれた業よ」

ナルガクルガ 「変えようとしても、そのカルマは変わることなどありはしない」

ナルガクルガ 「いつかきっと、お前が……」

ナルガクルガ 「後悔をするような日が来るのではないかと、俺は思うのだ」

クック 「…………」

ナルガクルガ 「…………」

クック 「いや、今日は随分と饒舌ではないか。何も出さずにすまなかった。今、つまめるものでも用意しよう」

ナルガクルガ 「…………」

クック 「わかっているよ」

ナルガクルガ 「?」

クック 「人間は人間だ。私達とは違う」

ナルガクルガ 「ならば何故ゆえに」

クック 「分からん……」


386: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:33:03.92 ID:QqDzUTY0
クック 「分からんが……」

クック 「悲しいことというのは、なかなかに消えないものだからな」

ナルガクルガ 「…………」

クック 「この壁に刻まれた焦げ目のように、奥まで入り込んで、とれやしない。悲しいことというものは」

クック 「その反面、私達は、人でも、モンスターでも変わらず、嬉しいことはすぐ忘れてしまう」

クック 「だから、心の底から喜べるという機会は、人生の上でとても、とても貴重なものなのだ」

クック 「悲しいことなんてすぐ、心に刻み込まれるものだがな」

クック 「私は、それゆえに子供達が、喜びを得ることができるのならば、将来ではなく今が」

クック 「今が、大切なのではないかと思うのだよ」

クック 「将来を作るのは、その今を経た、子供ではないか」

クック 「そうは思わないか」


387: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:34:38.68 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「…………」

クック 「や、話し込んでしまった。すまない。ツチハチノコの地酒でいいか?」

ナルガクルガ 「(スッ)…………つまみにはこれでも切るか」

クック 「! それはラオシャンメロンじゃないか。わざわざ持ってきてくれたのか。悪いなァ」

ナルガクルガ 「密林では今が熟れ時でな」

クック 「ほら、酒だ」

ナルガクルガ 「(ぐびっ)……うむ……」

クック 「そういえば、緑コンガさんの怪我も、あの時から快方に向かっているらしいな」

ナルガクルガ 「……あァ。そう聞く」

クック 「前よりもますます、ブランゴ一族……いや、今はラージャン一族か……と、交流が減っていくばかりだが……」

ナルガクルガ 「……猿には猿の掟というものがあるのだろう(ぐびっ)」

ナルガクルガ 「それに、また勝手に侵攻を始めるなどという馬鹿な真似は、当分しないだろう」

ナルガクルガ 「奴らにも、子供がいる……」


388: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:34:56.86 ID:QqDzUTY0
クック 「(ぐびり)……そうか、そうなのか……」

ナルガクルガ 「…………」

クック 「ナルガ、お前はそろそろ、相手を探さないのか?」

ナルガクルガ 「……ククッ」

クック 「?」

ナルガクルガ 「お前に会うと、必ずその話になる」

ナルガクルガ 「酔いが回ると、また言い出すぞ。今日は一回目だ」

クック 「そう言うな。これでも友人として心配しているんだ」

ナルガクルガ 「心配……?」

ナルガクルガ 「それこそ、余計なお世話というものよ(ぐびり)」


389: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:35:26.06 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「独りはいい……独りは気楽だ」

ナルガクルガ 「お前のように、厄介者を抱え込もうとする、その気が知れん」

ナルガクルガ 「人は所詮独りよ。共にいようが、共に戦おうが、結局成すのは自分自身よ」

ナルガクルガ 「自分自身の行動に、誰が責任を取る。誰も興味などない、他人の行動などにはな」

ナルガクルガ 「責任を取れねば朽ちてゆくだけよ。何者と共にいようが変わらぬ」

クック 「否定はしないよ。それは、お前が強いから、そう感じるのだと思う」

ナルガクルガ 「…………」

クック 「しかし、どんなに強いものでも、どこかでほころびというものが、いつかは出てくる」

クック 「何となくそう言える……」

クック 「心も、体も、強ければ強いほど、何かを失った時の喪失感は埋めることはできない」

クック 「もはやそこで完成してしまっているからな……」


390: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:35:48.56 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「…………」

クック 「誰か、お前のことを分かってくれる子と話をするということだけでも、随分に世界が違うものと思うぞ」

ナルガクルガ 「くだらん……」

クック 「(ぐびり)まぁ、好き悪しといえば好き悪しなんだがな」

クック 「折角だ、ラオシャンメロンを切ろう」

クック 「もう少ししたら、私は少女を呼びに行くよ。お前は自由に飲んでいてくれ」

ナルガクルガ 「その必要はない」

クック 「? 何故?」

少女 「おじさんー、ただいまー」

クック 「おお、帰ってきたか。杖の調子はどうだ?」

少女 「(コツコツ)うん、大丈夫だよ。なくてもけっこう歩けるようになったの。誰か来てるの?」

ナルガクルガ 「…………」

少女 「分かった。ナルガさんだ」

ナルガクルガ 「……ふん……」


391: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:36:10.23 ID:QqDzUTY0
クック 「バサル君は?」

少女 「もうじき日が落ちるから、今日は早く帰るって。アカムさんに呼ばれてるらしいよ」

クック 「アカムさん……本気であの子を二代目にするつもりなのか……」

ナルガクルガ 「……何かいるな。嗅ぎなれぬ臭いがする」

少女 「あ、今日はじめて遊びに来たんだけど……」

紫ガミザミ 「(おどおど)」

少女 「ほら」

紫ガミザミ 「こ……こんにちは」

クック 「紫殿じゃないか」

ナルガクルガ 「…………」

紫ガミザミ 「(チラッ)…………(ビクッ!!)」

クック 「どうしたんだ、そんなところに突っ立ってないで入りなさい」

少女 「ほら、行こう。紫ちゃん」

紫ガミザミ 「う……うぬ……」


392: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:36:29.74 ID:QqDzUTY0
クック 「ダイミョウ殿が頭首になられてから、無茶な争いはなくなったのだろう。気に病むことはない」

紫ガミザミ 「邪魔をする」

ナルガクルガ 「ザザミ一族の一人娘ではないか……」

紫ガミザミ 「(ビクッ)」

ナルガクルガ 「恐ろしいか。なるほどそうだろう。お前の祖父を手にかけたのは、俺だからな」

少女 「あ……」

少女 「(紫ちゃんのおじいさん……ショウグンギザミさんは、あの時にナルガさんが……)」


393: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:36:57.04 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「き……気にしてはおらぬ」

ナルガクルガ 「ほう。随分と異なことを言う」

紫ガミザミ 「じじさまは、随分前からおかしかった」

ナルガクルガ 「…………」

紫ガミザミ 「三年前の事件から、じじさまはお人が変わったようになってしまった……」

紫ガミザミ 「でも、誰もじじさまをお止めすることはできなかった」

紫ガミザミ 「とぉさまも……」

紫ガミザミ 「あの時は、じじさまは、わらわの側近や、何よりとぉさまを巻き込んで、大変なことに陥らせるところであった」

紫ガミザミ 「わらわはとぉさまが好きじゃ。側近のAとBも大好きじゃ」

紫ガミザミ 「じゃが、わらわは戦いをとめることができなんだ」

紫ガミザミ 「大切な、とぉさまや側近達を失うところであった」

紫ガミザミ 「ザザミ一族を代表して、お主には……」

紫ガミザミ 「一度、お礼を申さねばならぬと、わらわはそう思っておった」


394: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:37:15.67 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「……」

紫ガミザミ 「だから……その……」

紫ガミザミ 「気にするでない。わらわは、お主にそう言いたいのじゃ」

ナルガクルガ 「……ふっ……」

紫ガミザミ 「……?」

ナルガクルガ 「手にかけた孫から気にするなとはな。笑い種も良いところよ」

紫ガミザミ 「わ、わらわは真面目に言うておる」

ナルガクルガ 「良いか蟹の娘」

紫ガミザミ 「…………」

ナルガクルガ 「いかなる理由があろうと、仲間殺しは法度よ。許されることではない」

ナルガクルガ 「賞賛されることでもない……」

ナルガクルガ 「ゆえに、俺はお前に礼を述べられる筋合いはない」


395: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:37:38.11 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「…………」

紫ガミザミ 「…………」

クック 「まぁ、そう言うなナルガよ。子供からの言葉は、素直に受けておくべきだ」

ナルガクルガ 「知ったことではない。どんな事情があろうとな(ぷいっ)」

クック 「紫殿、こっちに来なさい。丁度彼がラオシャンメロンを持って来てくれてね。今切ってあげよう」

少女 「ラオシャンメロン!」

紫ガミザミ 「う……うむ」

ナルガクルガ 「…………」

紫ガミザミ 「(改めて見ると、傷だらけの恐ろしい顔じゃ……)」

紫ガミザミ 「(しかしこの人が……)」

紫ガミザミ 「(AやB、とぉさまを、じじさまの狂気から救ってくれたのだ)」

紫ガミザミ 「(きっと、物凄く強いのじゃろう……)」

ナルガクルガ 「(ぐびり)」


396: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:38:25.08 ID:QqDzUTY0
クック 「紫殿は、お家には連絡をしたのか?」

紫ガミザミ 「うむ。それと、これをとぉさまから預かった」

クック 「これは……ツチハチノコの上酒だ。わざわざこんな高価なものを……」

ナルガクルガ 「…………」

紫ガミザミ 「いつもわらわは少女に世話になっている。その礼と、とぉさまはもうしておった」

ナルガクルガ 「どれ……(スッ)」

紫ガミザミ 「え……」

クック 「ナルガ、もう帰るのか?」

ナルガクルガ 「子供がいる場所で酒盛りというわけにも行かぬだろう。俺は、コレで失礼する」

少女 「ナルガさん、一緒にラオシャンメロンを食べていこうよ」

ナルガクルガ 「あまり近づくな、人間」

少女 「……?」

ナルガクルガ 「他の者はどう思っていようが、俺はまだ人間の存在を認めたわけではない。無害であるから、放置しているだけよ」

少女 「でも、ラオシャンメロンは今食べなきゃなくなっちゃうよ」


397: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:38:44.04 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「…………」

クック 「そういうわけだ。妙な気遣いはいらんよ。なぁ紫殿」

紫ガミザミ 「う……うむ。ザザミ一族の中でも、ナルガ殿は噂の種なのじゃ」

ナルガクルガ 「……?」

紫ガミザミ 「じじさまの圧政から、みなを解放してくれた黒くつぉい竜だって、みんな噂をしておるのじゃ」

ナルガクルガ 「…………(ドスッ)」

ナルガクルガ 「……お前は何か、勘違いをしている」

紫ガミザミ 「勘違い?」

ナルガクルガ 「俺は黒いが、強い竜ではない。それこそ、俺より強い竜などごまんといる」

ナルガクルガ 「その中でも俺が強く見えるのは、俺が独りで、それゆえに非情だからだ」

ナルガクルガ 「褒められるようなことではない」


398: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:39:04.28 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「それでも、つぉいことには間違いないのじゃろう?」

ナルガクルガ 「…………」

紫ガミザミ 「先日も、ハンターの攻撃からとぉさまを助けてくれたらしいではないか。どんな理由であれ、つぉいのは格好いいぞな」

ナルガクルガ 「格好いい……俺がか。奇妙なことを言う餓鬼だ」

紫ガミザミ 「わらわはがきではない。英才教育を受けたスーパーカニであるぞ」

ナルガクルガ 「…………」

紫ガミザミ 「お主、話をしてみると存外無礼じゃな。友達おらぬじゃろ?」

ナルガクルガ 「ふっ……子供に何が分かる」

紫ガミザミ 「ぬぅ、さっきから褒めてしんぜておるのに、子供扱いばかりしおってからに!」


399: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:39:22.50 ID:QqDzUTY0
クック 「三人とも、ラオシャンメロンが切れたぞ」

少女 「わーい!」

ナルガクルガ 「…………」

紫ガミザミ 「おお、いい香りがするぞな。何じゃこれは」

少女 「樹海の奥の方に生えてるメロンらしいの。時々ナルガさんが持ってきてくれるの」

紫ガミザミ 「初めて見るぞな」

ナルガクルガ 「(ぐびり)」

紫ガミザミ 「! お主また、わらわのことを子供と思って笑ったな!」

ナルガクルガ 「……(ぐびり)」

紫ガミザミ 「むきぃぃ! 何だか腹がたつぞ!」


400: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:40:25.14 ID:QqDzUTY0
クック 「ほら、紫殿も」

紫ガミザミ 「う……うぬ。(シャリ)ほう! 火薬イチゴより甘くて冷たくてンまいぞな!」

クック 「それは良かった。まだ沢山あるから、どんどん食べるといい」

少女 「おいしいね!」

紫ガミザミ 「うぬ!」

ナルガクルガ 「…………」

クック 「そういえば、ナルガ。麻薬の取り締まりは上手くいっているのか?(ぐびり)」

ナルガクルガ 「正直なところ、全ての取り締まりは難しいな」

クック 「そうか……」

ナルガクルガ 「エスピナス兄妹にも手伝わせ、森の中のマンドラゴラはほぼ全て摘み取ったが、クイーンランゴスタが非協力的だ」

クック 「だろうな……彼女達は、それを餌にしている一面もある」

クック 「今度、またキングに頼んで、クイーンと話をしてみないといけないな」


401: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:42:03.30 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「それに最近は、別エリアからの新種のヤクも確認されている」

クック 「別エリア?」

ナルガクルガ 「樹海を抜けた先にある、ラオシャンロンの統治から外れた自治区域から流れて来ているとの話だ」

クック 「あそこか……我々も滅多に寄り付かないように、提携を結んでいる、海を挟んだ場所……」

ナルガクルガ 「マンドラゴラのヤクは、ある程度息などで分かるが、あちらからのものは判断がつけがたいな。何しろ前例がない」

クック 「猫が海を渡って持ち込んだのだろうか」

ナルガクルガ 「おそらく」

クック 「しかし、彼らが海路から持ち込む品々は貴重なものも多い。それら全てを規制することもできないだろう」

クック 「考えられるとすれば、あちら側と交易を結ぶことだが……」

クック 「今の我々のまとまりでは、難しいかもしれん」

ナルガクルガ 「…………」


402: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:42:38.51 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「……新種の獣竜種らしき卵も、この前猫が持ってきたものが今、フルフルの所で保管されている」

クック 「何!? よりによって卵を持ち帰ってきたのか!?」

ナルガクルガ 「持ち帰ってきた猫は、寂れた巣の中で拾ってきたと言っていたが、本当のことかどうか……」

ナルガクルガ 「盗んできたのならば、孵る前に返してこねばならぬが、フルフルの話では、もうじき生まれるそうだ」

ナルガクルガ 「そうなれば面倒なことになる……」

ナルガクルガ 「俺が心配しているのは、ヤクよりもむしろそれよ」

ナルガクルガ 「面倒なのは一匹で充分よ(ギロリ)」

少女 「?」


403: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:43:17.63 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「いずれにせよ、一度海を渡らねばならぬかも知れぬ」

クック 「…………人間達も、里に近い場所の素材はとりつくしたからな……」

クック 「外に目を向けるかもしれない時期に、面倒なことに……」

クック 「その卵は、ラオシャンロン殿やヤマツカミ様は存在を知っているのか?」

ナルガクルガ 「まだ知らぬはずだ。興味本位で猿どもが何をするか、分かったものではない。俺が戒厳令を敷いた」

クック 「そうか……明日あたり、私もフルフルさんのところに行ってみよう。ヤマツカミ様には、少なくとも知らせねばなるまい」

ナルガクルガ 「問題は誰が親になるかということよ」

クック 「…………」

ナルガクルガ 「フルフルは高齢だ。もはや昔のような力はない」

ナルガクルガ 「本来ならば親としての条件付けを施すのは適切ではないが……」

ナルガクルガ 「やはり、テオ殿とナナ殿に任せるしかなかろう」


404: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:44:06.80 ID:QqDzUTY0
クック 「とにかく、面倒なことになる前に、もう一度猫を、卵を拾った場所に向かわせねばなるまいな」

ナルガクルガ 「卵は孵化が近いため、もはや動かすことはできんが、猫は既に向かわせた」

クック 「そうか……」

少女 「ねぇ、ナルガさん。あたらしい子が生まれるの?」

紫ガミザミ 「どんないかつい奴が生まれるのか、楽しみじゃのぅ」

少女 「きっと、すごく可愛い子だよ!」

ナルガクルガ 「ふっ……子供の発想だな……」

紫ガミザミ 「ぬぅ。何がおかしい! お主先ほどから子供子供と無礼であろう」

ナルガクルガ 「………………」

紫ガミザミ 「わらわも見てみたいぞな。ひょっとしたら、一番最初にわらわを見て、かぁさまと思うやも知れぬ!」

クック 「紫殿、それはちとまずい」

紫ガミザミ 「何故じゃ?」

クック 「今回の件に関しては、安易に条件付けはしないほうがいいだろう。いずれにせよ、フルフルさんと話をしてからだな」

紫ガミザミ 「むう、しかし興味はあるぞな。ナルガ殿、生まれる時はわらわも連れて行ってくりゃれ」

ナルガクルガ 「……俺は必要以上に揉め事には干渉せん。行きたいのならば自分の力で、独りで向かうんだな」

紫ガミザミ 「つれないのぅ。お主、ますます友達おらぬじゃろ?」

ナルガクルガ 「…………」


405: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:44:45.35 ID:QqDzUTY0
クック 「まぁまぁ。悪戯をしないというのなら、私が連れて行ってあげよう」

紫ガミザミ 「本当か!? 話が分かるぞなクック殿。ナルガ殿とは大違いじゃ!」

ナルガクルガ 「(ぐびり)」

クック 「この前、数十年前の大地震のとき、地下に埋もれてしまったフルフルさんの卵も何個か見つかったそうじゃないか」

クック 「孵る確立は物凄く低いだろうが、雪山の氷層に埋もれていたから、もしかしたら新しい子が誕生するかもしれない」

少女 「本当!?」

クック 「今、フルフルさんは卵を温めている過程で動くことができないんだ」

クック 「少女はまだ見ていないだろう? 新種の卵の確認がてら、紫殿と見に行こうか」

少女 「小さなフルフルさんが生まれるの!? わぁ、楽しみ! 行くぅ!」

紫ガミザミ 「そういえばフルフルとは誰ぞな?」

少女 「雪山に住んでる優しいおばあちゃんだよ。紫ちゃんも、すぐ好きになるよ」


406: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:45:06.16 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「(ぐびり)」

アクラ・ヴェシム 「大将、つきましたぜ……」

××××××××× 「ご苦労」

クック 「あの足音は……」

クック 「アクラ君、それにキングじゃないか!」

キングチャチャブー 「邪魔するぜ……」

チャチャブーA 「ビィッ!」

チャチャブーB 「ビィッ!」

キングチャチャブー 「お前らはここにいろ……」

アクラ・ヴェシム 「了解ですぜ……」

チャチャブーA 「ビィ!」

チャチャブーB 「ビィ!」


407: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:45:29.27 ID:QqDzUTY0
クック 「どうしたんだ、キング。わざわざこんな夜分に」

キングチャチャブー 「いや……いい魚が入ったもんでな……」

ナルガクルガ 「…………」

キングチャチャブー 「……ほらよ(ドサッ)」

クック 「これは、太公鯉ではないか! わざわざすまないな。今、ツチハチノコの上酒を開けるところなんだ。飲んでいってくれ」

キングチャチャブー 「………………(ドスッ)」

ナルガクルガ 「………………」

クック 「アクラ君には、ハチミツ酒でいいかな?」

アクラ・ヴァシム 「お構いなく……」

クック 「遠慮せずに。君達も飲んでいくといい」

チャチャブー達 「ビィィ!」


408: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:45:54.55 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「あ……あれがキング……初めて見た……」

少女 「キングチャチャブーさん、こんばんは」

キングチャチャブー 「(じろり)…………あァ…………」

紫ガミザミ 「(ひそひそ)何じゃ、こやつもコミュニケーション不全か……?」

少女 「(ひそひそ)そういう言い方をしたら失礼だよ。いい人だし、とっても偉いみたいだよ」

キングチャチャブー 「(ぐびり)」

ナルガクルガ 「(ぐびり)」

クック 「折角だから太公鯉を焼くか。少女、薪に火を起こすから手伝ってくれないか」

少女 「うん、分かったよ」

紫ガミザミ 「な……待つのじゃ少女! 独りで置いていくな!」

少女 「薪は……これでいいかな……」

紫ガミザミ 「あぁ……行ってしまった。空気が重苦しいぞな……」

キングチャチャブー 「(ぐびり)」

ナルガクルガ 「……(ぐびり)」


409: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:46:23.59 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「(しかしコレはチャンスじゃ……)」

紫ガミザミ 「(想像とは違う人じゃったが、とぉさまを助けてくれたのは事実じゃ)」

紫ガミザミ 「(……じゃが、こんなものを渡しても喜んでくれるのじゃろうか……)」

キングチャチャブー 「……ダイミョウ家の娘じゃねェか……」

紫ガミザミ 「(ビクッ)……う、うむ」

キングチャチャブー 「餓鬼が、ここで何をしている…………」

紫ガミザミ 「な……何をしているって、そんなことお主には関係がなかろう」

キングチャチャブー 「…………(ぐびり)」

紫ガミザミ 「(う……怒った……?)」

キングチャチャブー 「違ェねェ(ぐびり)」


410: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:46:57.85 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「ぬ!? 魚の焼けるいい匂いがしてきたぞな」

キングチャチャブー 「おい小僧……」

ナルガクルガ 「…………(ぐびり)」

キングチャチャブー 「てめぇのことだ……」

ナルガクルガ 「……?」

キングチャチャブー 「(ドサリ)」

ナルガクルガ 「! これは……マンドラゴラ? こんなに沢山……」

キングチャチャブー 「今朝方、ウチのモンがハチから巻き上げた……てめぇ、集めてやがるんだろう」

ナルガクルガ 「(スッ)」

キングチャチャブー 「処分しとけ……」

ナルガクルガ 「(グビリ)」


411: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:47:21.82 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「何ぞな、この赤いキノコは……」

紫ガミザミ 「うあ、変な臭い……」

ナルガクルガ 「(バッ)」

ナルガクルガ 「何してる……餓鬼」

紫ガミザミ 「な……何じゃ。ちと気になっただけではないか」

紫ガミザミ 「そんなに乱暴にせずとも良いではないか」

ナルガクルガ 「黙れ……」

紫ガミザミ 「!」

ナルガクルガ 「餓鬼が触っていいものと、悪いものがある……」

ナルガクルガ 「好奇心も大概にしろ……」

キングチャチャブー 「(ぐびり)」


412: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:47:40.09 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「(ひくっ)」

紫ガミザミ 「ふ……ふん! そんなもの、こちらからお断りじゃ!」

紫ガミザミ 「不愉快じゃ。わらわはもう帰る!」

紫ガミザミ 「(ズボボボッ)」

ナルガクルガ 「…………」

紫ガミザミ 「(ズボッ…………チャリィィン)」

少女 「みなさん、お魚焼けたよー」

少女 「あれ? 紫ちゃん?」

クック 「ん? 紫殿は帰ったのか?」

クック 「何か落ちているな……」

クック 「黒真珠の耳輪ではないか」

少女 「!」


413: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:47:58.06 ID:QqDzUTY0
少女 「それ、紫ちゃんが、ナルガさんのために作ったものなの」

ナルガクルガ 「? 俺のために?」

少女 「お父さんを助けてくれて、カッコよくて……」

少女 「それに、いつも傷だらけだから……」

少女 「お守りだって、そう言って、今日はそれをナルガさんに渡しに来たのに……」

ナルガクルガ 「…………」

クック 「子供からの贈り物だ。ほら、持っているといい」

クック 「お前が独りきりで活動していると思っても、沢山の人がお前の活躍を見ているんだぞ」

キングチャチャブー 「…………」

ナルガクルガ 「ふん……こんなもの……」


414: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:48:19.14 ID:QqDzUTY0
キングチャチャブー 「……てめぇ、女からの貢物を投げ捨てる気か……?」

ナルガクルガ 「……貴様には関係がないことだ……」

キングチャチャブー 「あァ……ねェな……」

キングチャチャブー 「だが、男にゃァ、守らなァいけんものがあるってな……」

キングチャチャブー 「どんな外道になっても、それだけぁ忘れるなと……」

キングチャチャブー 「俺ァ……先代のキングから教わったことがあるもんでな……」

ナルガクルガ 「(ぐびり)」

キングチャチャブー 「……女からの供物と、うめぇ酒はな……命の次に大事なもんだ……」

キングチャチャブー 「(ぐびり)どっちも……そう簡単には手にはいらねぇ」


415: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:49:16.44 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「ふん……(グッ)」

クック 「ナルガ、魚を食べていかないのか?」

ナルガクルガ 「興が削がれた。また、出直すことにしよう……」

キングチャチャブー 「(ぐびり)」

ナルガクルガ 「邪魔をしたな(ズン、ズン)」

少女 「またね、ナルガさん」

ナルガクルガ 「…………(ズン、ズン)」

少女 「あぁ、紫ちゃん……何か怒っちゃったのかな……」

少女 「私が目を離してる間に……」

少女 「独りでちゃんと帰れるかな……」

クック 「大丈夫だ。心配は要らないよ」

少女 「どうして?」

クック 「ほら」

少女 「あ……! キングさんが持ってきた袋と……紫ちゃんの耳輪がなくなってる!」

クック 「ナルガはああ見えて義理堅い男さ……」

クック 「ほら、キング。それにアクラ君やチャチャブーさんたちも、魚が焼けたぞ」

アクラ・ヴァシム 「や、こりゃあり難ェ」

チャチャブー達 「ビィィ!!」

キングチャチャブー 「(ぐびり)」

クック 「少女、明日あたり、一緒にフルフルさんのところに行こうか」

少女 「うん! 紫ちゃんも連れて行っていい?」

クック 「もちろんだ。さぁ、ラオシャンメロンの残りを食べてしまおう」


416: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:49:46.57 ID:QqDzUTY0
―樹海入り口―



紫ガミザミ 「(ふん、子供子供と……)」

紫ガミザミ 「(馬鹿にしくさりおって……)」

紫ガミザミ 「(もうあんな黒いの、知ったことか!)」

紫ガミザミ 「(お礼を受け取る気もないみたいだし、最初っからわらわのことなんぞ馬鹿にしておるのじゃ!)」

紫ガミザミ 「(所詮、カニと竜など、別の種族なのじゃ!!)」

紫ガミザミ 「…………」

紫ガミザミ 「(うぅ……寒くなってきた)」

紫ガミザミ 「(勝手に飛び出してきてしまったが、少女やクック殿に失礼であった……)」

紫ガミザミ 「(しかし今更戻るのも情けのぅ)」

紫ガミザミ 「(少し遠いが、歩いて帰るか…………)」

紫ガミザミ 「(トボトボ)」


417: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:50:01.95 ID:QqDzUTY0
紫ガミザミ 「! (何じゃ? 何かが木の上を飛び回っておる!)」

紫ガミザミ 「ひっ……(ビクッ)」

紫ガミザミ 「(こ……怖い……!)」

紫ガミザミ 「(もしも凶暴な奴じゃったら……)」

紫ガミザミ 「(は……はよう地面に……)」

紫ガミザミ 「(うわっ! ここは硬くて潜れぬ!!)」

紫ガミザミ 「(ど……どこかに身を隠さねば……)」

×××××× 「(シュバッ)」

紫ガミザミ 「ピィィッ!!(ビクッ)」


418: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/06/28(日) 17:50:51.13 ID:QqDzUTY0
ナルガクルガ 「…………何を死んだふりなどしている。餓鬼め…………」

紫ガミザミ 「(チラッ)…………し……死んだふりなどしておらぬ!!」

紫ガミザミ 「な、何じゃ。またわらわを馬鹿にせんと、おいかけてまで来たのか!」

ナルガクルガ 「お前になど興味はない……俺の巣もこちらの方向なだけだ……」

紫ガミザミ 「!!」

紫ガミザミ 「(ぬ……! ナルガ殿の耳に、わらわが作った黒真珠のお守りが!!)」

紫ガミザミ 「(怒って出てくるときに、落としてしまったのか!)」

紫ガミザミ 「(もしかして、この方は、わらわのことを心配して……)」

ナルガクルガ 「……何をしている。それとも独りで帰るか。それもまた一興」

ナルガクルガ 「この一帯は、夜は猿の縄張りとなるがな……」

紫ガミザミ 「さ……猿!?(ビクッ)」

ナルガクルガ 「行くぞ……」

ナルガクルガ 「背中に乗れ」

紫ガミザミ 「…………」

紫ガミザミ 「う……うぬ!」


433: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:14:55.23 ID:zd2zU5k0
2.リオレイア 「どうしてあなたはそんななの?」



―水没林―



ラギアクルス 「それでは本当なのか……ボルボロス様の卵が盗まれたという話は」

チャナガブル 「ああ。今は砂原は大騒ぎになっている。何しろ、数十年ぶりのお子だ」

ラギアクスル 「このままでは我ら騎士の面目が立たぬ……」

チャナガブル 「どうするつもりだ、ラギア」

ラギアクスル 「盗んだのは、チャチャ族ではあるまい。おそらくは猫だ」

ラギアクルス 「ボルボロス様の巣付近で、見慣れぬ猫の姿を見たという者の話を聞いた」

ラギアクルス 「このあたりには、あまり猫は生息していない」

ラギアクルス 「おそらく、臨海線を越えた、あのフィールドからやってきた者だろう」


434: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:15:37.78 ID:zd2zU5k0
チャナガブル 「お主、まさか……」

ラギアクルス 「お前はボルボロス様をお守りするのだ。我は海を越え、あちらに渡ろうと思う」

チャナガブル 「早計ではないのか」

ラギアクルス 「身内ではあるまい。卵を盗むなど重罪甚だしい。そんな愚考を成す者が、我ら騎士団の中にいるとは考え難い」

チャナガブル 「それはそうだな……だがお主のみに任せるわけにはいかぬ。私も……」

ラギアクルス 「いかぬ。お前はここで、副騎士団長としてみなの統率に当たらねば」

チャナガブル 「うむ……しかし……」

ラギアクルス 「何、我の速度ならば三両日もあればあちらに着くだろう。また、みなに余計な心配をさせたくはない」

チャナガブル 「分かった。いつ経つのだ?」

ラギアクルス 「一度ボルボロス様に拝謁してからだな……」

ラギアクルス 「このことが、御身に響かねばよいが……」


435: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:15:58.57 ID:zd2zU5k0
―雪山、朝―



少女 「おばあちゃん、こんにちは!」

クック 「フルフルさん、お邪魔するよ」

フルフル 「ああ、少女にクックかい。すまないねぇ。出迎えもせんで」

クック 「いやいや、気にしないでくれ(ブルブルッ)」

少女 「外はすごい雪だよ。あんまり動かないほうがいいかも」

フルフル 「そうかいそうかい。今茶ァでも淹れてあげっかね」

クック 「いや、気遣いなく。私が淹れよう」

少女 「卵、みつかったの?」

フルフル 「あァ、そうなんだよ」


436: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:16:52.24 ID:zd2zU5k0
フルフル 「雪山の割れ目に落ち込んでた、あたしの卵が少しねぇ。ためしにあっためてみてるんだがね。ここさね」

少女 「(ぺたぺた)うわぁ、卵でも大きいんだね」

フルフル 「どうやら、氷付けになってたみたいでね。この一つだけは無事のようなんだよ。もうじき生まれるねぇ」

少女 「素敵! 子フルフルちゃんだね!」

フルフル 「はっは。この歳のババァが子供っつぅのもおかしな話なんだがね。まぁ捨て置くわけにもいかんじゃろ」

少女 「こっちの卵は……何だかゴツゴツしてる」

フルフル 「うむ。猫が、どうやらここから離れた場所から盗んできたらしい卵でなァ」

フルフル 「このままにしておいては、氷付けになる前に死んじまう」

フルフル 「しょうがないから温めてるってなわけじゃよ」

少女 「おばあちゃんの卵はつるつるしてるのに、まるでこれは岩みたい。それに、とっても熱いよ」

フルフル 「火山のモンスターかもしれんねぇ。ババァの皮はしなびて、もう熱さはよぉ感じんけどねぇ」


438: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:18:19.19 ID:zd2zU5k0
クック 「それが、猫が海の向こうから盗ってきてしまったという卵か……見たことのないものだな」

フルフル 「あたしにもわからんねぇ。何が生まれるのか見当もつかんよ」

クック 「面倒ごとにならなければよいが……フルフルさんも、そのお歳では一度に二匹の子育ては辛かろう」

フルフル 「若造が心配なんて気の利いたことをするんじゃないよ。あたしはまだまだ大丈夫さ」

少女 「そういえば、地獄兄弟さんたちがいないね」

フルフル 「あいつら、卵を温める役をさせようとしたら逃げよった。いくじのない男どもよ」

少女 「おばあちゃん、私手伝うよ!」

フルフル 「ありがとよ。でも人間のお前にできることかい……そうさね、木の葉で、覗いてる方の卵の面を拭いてやってくんないかい」

少女 「うん!(ごそごそ)」

フルフル 「目はどうだい」

少女 「少しずつオオナズチさんの血を飲ませてもらってて、ずいぶん良くなったよ」

少女 「ぼやーっと何かが見えるくらい」

フルフル 「そうかい、それはなによりさね」


439: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:19:15.31 ID:zd2zU5k0
少女 「あ……中で何か動いた。おばあちゃん、卵の中で何か生きてるよ!」

フルフル 「そりゃそうさ。卵は強いんだ。氷漬けになったくらいじゃ、死にゃせんよ」

フルフル 「まさかあの人との忘れ形見が、ひょっこり出てくるとはねぇ」

少女 「こっちのごつごつしたのは、動かないねぇ」

フルフル 「うむ……ひょっとしたら、温めるのが間違っているのやもしれん」

フルフル 「どうにも火山の竜の処置は分からなくてね。ナナ・テスカトリを呼んでいるんだ。聞こうと思ってね」

少女 「ナナさんがここに来るの?」

フルフル 「あァ。もうじき来るはずさね」

少女 「わぁい。ナナさん、優しいから大好きだよ」

フルフル 「お前さんももう少し大きくなったら、ナナの学校に通ってみるといい」

クック 「おぉ、それはいい考えだ」

少女 「学校? 私が、学校に行けるの?」

クック 「少女が行きたいと言うなら、私から頼んであげてもいいぞ」

少女 「行きたい!」


440: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:19:38.25 ID:zd2zU5k0
フルフル 「! 今卵が動いたな」

クック 「何と、もう生まれるのか?」

クック 「フルフルさん、ここに温めた木の実のスープは置くよ」

フルフル 「火山の卵は分からんが、あたしの卵はそろそろ生まれそうだねェ」

フルフル 「クックよ、火のついた炭を少し、ここらに集めてくれないか」

クック 「ああ、これくらいでいいかい?」

フルフル 「そこに、この卵を置いてくれ」

クック 「どっこいしょ……これでいいかな」

少女 「どうして卵を炭で炙るの?」

クック 「雪山は寒いから、生まれてきてすぐに凍えてしまわないように、こうするんだ」


441: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:20:00.11 ID:zd2zU5k0
クック 「お……! 卵にヒビが入ってきたぞ!!」

少女 「わぁ……!!」

少女 「(よく見えないけれど、私くらいの大きさの卵が動いてる!)」

少女 「(フルフルさんの赤ちゃんが生まれるんだ!!)」

卵 「(カタカタ)」

卵 「(パリ…………)」

子フルフル 「キィィ!(モゾ……ッ)」

フルフル 「おぉ、ほんに生まれおった!」

クック 「元気な子じゃないか!!」

子フルフル 「ピィ、ピィ(モゾモゾ)」


442: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:25:01.72 ID:zd2zU5k0
少女 「おじさん、もがいてるよ」

クック 「大丈夫。竜は自力で卵を出てきて、初めて一人の竜として認められるんだ」

子フルフル 「キィ……キィ…………」

フルフル 「坊や、こっちじゃ、おいで」

子フルフル 「! キィ……!(バッ)」

子フルフル 「(ドダッ)」

子フルフル 「(ズリズリ)……キィ…………」

フルフル 「よぉしいい子じゃ。こっちにきな。体ァ舐めてやっかんね」

子フルフル 「キィ」


443: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:26:35.05 ID:zd2zU5k0
少女 「赤ちゃんでも大きいねぇ。無事に生まれてよかった!!」

フルフル 「少しすれば言葉を覚えるさね。竜は青年期までは成長が早いから、これだけ歩けりゃ大丈夫さ」

フルフル 「ペロ」

子フルフル 「クゥン」

フルフル 「はっは。あたしが母ちゃんだって分かるのかい。賢い子だ!」

クック 「良かったなぁフルフルさん。何か食べさせてあげないといけないんじゃないか?」

フルフル 「もう作ってあんのよ。魚のすり身をあわせたやつさね。ほれ、食いねぇ」

子フルフル 「キィ(もぐもぐ)」

フルフル 「ほっほっほ。食いよる。この子は元気に育つぞい!」

少女 「良かったね、おばあちゃん!」

少女 「(すっ)」

少女 「(なでなで)よろしくね。お姉ちゃんだよ」

子フルフル 「キュゥ」


444: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:28:31.56 ID:zd2zU5k0
クック 「めでたいめでたい。樹海に猫を飛ばしてヤマツカミ様たちにも知らせよう」

フルフル 「そんな大げさなことでもないさ。でも生まれて悪いことなんてなにもないかんねぇ」

フルフル 「最も、あたしがちゃんと育ててやれるか、体がもつかどうかちょいと心配だが」

少女 「おばあちゃん、私、この子を育てるの手伝う! おじさん、いいよね?」

クック 「手伝うって、ここでかい?」

少女 「(こくり)」

クック 「(ふっ)……ああ。フルフルさん、迷惑でなければ少女も使ってやってくれ」

フルフル 「迷惑なもんかい。逃げた不祥の息子どもよか、よっぽど頼りになるさね」

子フルフル 「(ムグムグ)」

少女 「どれくらいで喋れるようになるかな?」

フルフル 「ちゃんと毎日喋りかけてやれば、すぐに簡単な受け答えは出来るようになるだろうよ」

少女 「人間とは違って、強いんだねぇ」

フルフル 「それくらいでないと、竜はやっていけんのよ」


445: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:29:16.62 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「こんにちは。フルフル様、いらっしゃいますか?」

少女 「!! ナナさんだ!」

クック 「おお、ナナ殿。吹雪の中ご苦労だった。迷わなかったかい」

ナナ・テスカトリ 「ごきげんよう、イャンクック様、それに少女。ええ、わたくしにとって雪は、たいした障害にはならないのです」

ナナ・テスカトリ 「(ブルブルッ)フルフル様?」

フルフル 「おおナナよ、こっちへおいで」

ナナ・テスカトリ 「!! まさか!? お生まれになったのですか!!!」

子フルフル 「(むぐむぐ)キュゥ」

フルフル 「はっは。ついさっきな。クック達が手伝ってくれて、無事に生まれた。元気な子だよ」

ナナ・テスカトリ 「まぁ! 良かった……本当に! 夫も、随分と心配しておられました。可愛らしい子ではないですか!!」

フルフル 「あたしに似てしわくちゃだが、そこらへんは愛嬌さね」


446: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:30:18.21 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「あぁどうしましょう。まさかこんなことになっているとは思わず、何もお祝いの品を持参いたしませんでした」

ナナ・テスカトリ 「ご滋養に良いかと思い、ゲリョス君に協力してもらって、狂走エキスの滋養酒はお持ちしたのですが……」

フルフル 「ほう。それはありがたい。それと、気ィ使うんじゃないよ」

フルフル 「あんたが来てくれたってことだけで、もう充分さね」

ナナ・テスカトリ 「フルフル様……」

クック 「ナナ殿、滋養酒を木の実の椀に注ごう」

ナナ・テスカトリ 「よろしいのですか? では、お願いいたします(スッ)」

少女 「ナナさん、久しぶりです(すっ)」

ナナ・テスカトリ 「ああ少女ちゃん。目は、少しは見えるようになったかしら」

少女 「ぼんやりと輪郭だけ……」

ナナ・テスカトリ 「こちらに来なさい。わたくしの毛に包まっていれば、幾分温かいでしょう」

少女 「(もぞもぞ)うわぁ、ぽかぽかしてる」


447: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:30:53.60 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「後程夫も伴い、きちんと御祝儀にお伺いいたします」

フルフル 「いいさいいさ。テオも忙しいのだろう」

ナナ・テスカトリ 「めでたいことはみなで祝わなければ。フルフル様は、もう少しわがままになってもよろしいと思われますよ?」

フルフル 「言うようになったじゃないかい。小娘がねぇ」

クック 「ほら、フルフルさん。ナナ殿がお持ちになった滋養酒だ」

フルフル 「ありがとよ。(ぐびり)うむ。体が温まるねぇ。ゲリョスにも、礼を言っておいておくれ」

フルフル 「あいつの頭のクリスタルは、そろそろなじんだかい?」

ナナ・テスカトリ 「フルフル様の治療のお陰で、新しいライトクリスタルもぴったりはまったって喜んでいましたわ」

フルフル 「そうかいそうかい。それは何よりさね」

子フルフル 「すぅー……すぅー……」

ナナ・テスカトリ 「ふふ……眠ってしまいましたね。わたくしの毛を少し、差し上げましょう(がぶり)」

ナナ・テスカトリ 「こうしてかけてあげれば、寒くないでしょう?」

フルフル 「若い女が、そういうはしたないことをすんじゃないよ」

フルフル 「しかし炎妃龍のたてがみが生まれの贈り物かい。帽子でも作ってやって、大事にせんとねぇ」


448: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:31:36.97 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「いえ、でも本当に良かった。今日は幸せな日です」

フルフル 「お前さんらも、はよ子供つくりなよな。人のこと見て一喜一憂する歳でもあるまいさ」

ナナ・テスカトリ 「まぁ、フルフルさんったら。わたくしたちはまだ、王子を残す気はありませんよ」

フルフル 「運命はどう転ぶか分からんからね。あたしも、まさか数十年前に谷底に落ちた卵が、今孵るとは思わなんだよ」

フルフル 「その時のためさ」

ナナ・テスカトリ 「(くすり)……そうですね」

クック 「フルフルさん、その子は女の子かい?」

フルフル 「そうみたいさね」

クック 「そうかそうか。私の鱗も、何かに使えるだろう。ほら、収めてくれ」

フルフル 「お前さんまで、まったく気にするなと言うに」

クック 「フルフルさんはその子を見てやっていてくれ。しばらく、家事は私と少女がやろう」

クック 「ナナ殿も、何か食べて行かれるといい」


449: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:32:12.02 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「いいえ、イャンクック様、お構いなく」

ナナ・テスカトリ 「早く夫に、このことを知らせてさしあげたいのです」

ナナ・テスカトリ 「あの人も、きっと喜びますわ」

少女 「そういえば、おばあちゃん」

フルフル 「何だい、少女?」

少女 「もう一つの卵のことを、ナナさんに聞かなきゃ」

フルフル 「おぉ、うっかりしておった。ナナよ、先日の卵のことなんじゃが」

ナナ・テスカトリ 「ああ、わたくしもうっかりしておりました。これですね……」

ナナ・テスカトリ 「お送りいただいた猫さんから、お話はお聞きしています」

ナナ・テスカトリ 「海の向こうの地から、盗まれてきたらしいですね……」

ナナ・テスカトリ 「お母様やお父様は、どれだけ心を痛めていることでしょう……」

ナナ・テスカトリ 「できうることなら、すぐに元の場所に戻してあげたいのですが…………」


450: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:34:00.00 ID:zd2zU5k0
フルフル 「それができりゃ苦労せんわなぁ。一応温めてはおるのじゃが、あたしの体温よりも卵の方が熱いのよ」

フルフル 「どうしたものかと思ってねぇ」

ナナ・テスカトリ 「生まれつき炎をまとっている、特殊な竜なのかもしれません」

ナナ・テスカトリ 「その場合、卵は温めるよりもむしろ、適度に冷やした方が子にとっては良いと思われますわ」

フルフル 「やはりそうかい。でも、だからといって雪の中に埋めるわけにもいかんねぇ」

ナナ・テスカトリ 「氷を拾ってきて、その上に立てかけておくだけで充分ですよ」

フルフル 「おお、そうだったのかい」

クック 「今、少し入り口からとってこよう」

フルフル 「すまないね、頼むよ」

ナナ・テスカトリ 「しかし……フルフル様、竜は、生まれてすぐに見た者、感じた者を親と思ってしまうことが、往々にしてあります」

ナナ・テスカトリ 「この卵の実情が分からないまま、生まれてしまっては双方のためにはならないと思われます……」

ナナ・テスカトリ 「残酷なようですが、もう少し詳しいことが分かるまで……」

ナナ・テスカトリ 「もし、近いうちに生まれてしまった場合には、目隠しをしてあげてください」


451: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:35:23.64 ID:zd2zU5k0
フルフル 「ふむ……そうするほかあるまいな」

ナナ・テスカトリ 「今、盗んできた猫さんの取り調べをナルガクルガ様が行っております」

ナナ・テスカトリ 「場合によっては、海を渡り向こうの地へ行く必要もあるかと思われます」

ナナ・テスカトリ 「なるべく早くことを進めるよう、ナルガクルガ様にはお伝えいたしますゆえ……」

フルフル 「まぁ、とってきちまったもんはしかたないさね」

フルフル 「丁度家族が増えたとこだ。もう一匹くらい増えても、どうってことはないさね」

フルフル 「もしもの時はあたしがちゃんと育てるよ」

ナナ・テスカトリ 「フルフル様……」

クック 「よっ……と(ドサリ)これくらいでいいかな?」

ナナ・テスカトリ 「あぁイャンクック様、ご苦労おかけいたします」

クック 「何の何のこれくらい。それでは、この卵は、氷の中に置いておくぞ(グッ)」

クック 「しかし熱いな……燃えるようだ(ゴロン)」


452: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:36:53.32 ID:zd2zU5k0
ナナ・テスカトリ 「それでは一旦失礼いたしますわ。夫と共にまたお伺いいたします」

少女 「ナナさん、待ってるね」

ナナ・テスカトリ 「後で一緒に遊びましょうね(すりすり)」

フルフル 「気をつけて行くんだよ。吹雪はもっと強くなるからね」

ナナ・テスカトリ 「わたくしは炎龍です。これしき問題はありませんよ」

ナナ・テスカトリ 「それでは、失礼いたします」

クック 「ああ、私たちもここにいるから、ゆっくり来て下さって大丈夫だ」

ナナ・テスカトリ 「はい。それじゃね、ぼうや」

子フルフル 「すぅー……すぅー……」

クック 「行ってしまったか……炎龍とはすごいな。吹雪が割れるようだ」

少女 「テオさんも来るんだって。楽しみだね」


453: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:37:48.80 ID:zd2zU5k0
クック 「折角だ。私も狂走エキスの滋養酒を少しいただいてもいいだろうか」

フルフル 「おぅおぅ、飲みぃや」

クック 「(ぐびり)うむ、体が温まる。少女もほら」

少女 「(ちびり)辛っ……」

クック 「はっは。まだ早かったか」

クック 「フルフルさん、何かやることはないだろうか。何でも手伝うぞ」

フルフル 「それじゃ、魚の干物を一旦お湯で戻してから、すり潰してくんないかね」

クック 「分かった。少女もやるかい?」

少女 「やるぅー!」

フルフル 「まったく、あんたらがいてくれて助かるよ」

フルフル 「あのバカ息子どもはまったく持って役にたたん」

クック 「男の子というものは、どこか格好つけてしまうものだ。気恥ずかしいんだろう」

フルフル 「あいつらはただ阿呆なだけさね。いい歳こいて、子供のままさ」


454: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:39:01.43 ID:zd2zU5k0
クック 「ん? 裏口の方が騒がしいな」

 >ガタガタガタ

××××× 「あ、開けてくれェェ! この岩をどかしてくれェェ!」

クック 「誰か来たみたいだ。でも、わざわざ裏口から来るなんて……」

クック 「岩をどかしてくるよ」

フルフル 「あの声は、レイアの旦那じゃないかい」

リオレウス 「ぶぅっはぁぁ! 死ぬかと思った!」

クック 「レウスさん! 雪まみれじゃないか!!」

リオレウス 「や……やぁイャンクックさん(ガチガチ)」

リオレウス 「少女さんに、フルフル婆さんも、こんちは(ガチガチ)」

リオレウス 「レイアに、こんがり肉Gを渡してくるように言われたんだけど……」

リオレウス 「も、物凄い吹雪で……遭難しちゃったんだ……」

リオレウス 「ぶえっくしょぃ(ゴウッ)」

 >ボッ

クック 「お、薪に火がついたぞ」


455: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:40:05.48 ID:zd2zU5k0
フルフル 「久しぶりじゃないか、坊主。とんと顔を見せに来ないから、鬼嫁に虐め殺されたかと思ったよ」

リオレウス 「酷いなぁ婆さん。それより、地獄兄弟をどうにかしてくれよ。家に居場所がなくなってきてるんだ」

少女 「こんにちは、リオレウスさん」

リオレウス 「こんにちは。お。それは狂走エキスの滋養酒だね。いただいてもいいかい(グビリ)美味い!」

少女 「(あ……私の……)」

リオレウス 「婆さん、レイアが焼いたこんがり肉G、ここに吊るしておくね」

フルフル 「まったく、気を使うこたぁないのに。よろしく言っといてくれ」

リオレウス 「(ブルブル)うぅ寒っ……少し温まっていっていいかい?」

リオレウス 「ふぅ。まったく何だってこんな吹雪の時に」

子フルフル 「すぅー……すぅー……」

リオレウス 「!?」

リオレウス 「ひぃぇ! 小さい婆さんがいる!」

フルフル 「今ごろ気づいたのかい。例の卵が、ついさっき生まれたんだよ」

リオレウス 「何てこった!! 二代目じゃないか。良かったなぁぁ婆さん!!」

フルフル 「おいおい、そんなに騒いじゃ、この子が起きちまう」

リオレウス 「おっとこりゃ失敬。いやぁぁ! でもめでたいなぁぁ!! 婆さんに子供か!」

リオレウス 「レイアにも知らせてやらなきゃ!」

リオレウス 「……あー…………吹雪が止んだらね……」


456: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:40:58.84 ID:zd2zU5k0
リオレウス 「寝てるのかい? はっはっは! 婆さんそミニチュアにしたみたいだ!」

フルフル 「あたしも若い頃は、こんなにつやつやした肌だったんだよ」

クック 「よし、魚のすり身煮込みの仕込みは終わったよ。レウスさんが持って来てくれたこんがり肉Gにも火を通したから、みんなで食べよう」

リオレウス 「へぇ! そいつはありがたい!」

リオレウス 「ついでに温かいスープももらえると最高だね!」

クック 「ははは。ほら、どうぞ」

リオレウス 「うん、美味い! レイアのより断然美味い!」

フルフル 「今のは聞かなかったことにしてやるよ」

リオレウス 「ん? 何であの卵は氷に漬けてあるんだい?」

少女 「さっきナナさんが来てくれて、火山の竜の卵はそうした方がいいって」

リオレウス 「ふぅん。あぁあれか。猫が海の向こうから盗んできたってやつだね」


457: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:41:31.81 ID:zd2zU5k0
フルフル 「そういや、あんたはあっちの方から来たんだっけかい」

リオレウス 「まぁ、生まれてしばらくして、こっちに渡ってきたけどさ。詳しくはあっちのことを知ってるわけじゃないよ」

リオレウス 「でも、もし騎士団の竜の卵なら、まずいことになるかもしれないな……」

クック 「騎士団?」

リオレウス 「ああ。海の向こうは、一つの王族を中心にして、その周りを騎士団が守って暮らしているんだ」

リオレウス 「騎士団は王族に絶対忠誠を誓ってて、結束も固い」

リオレウス 「束になって襲い掛かってくるから、怒らせたら面倒だ」

リオレウス 「早いところ、元の場所に戻した方がいいと思うけどな」

フルフル 「それができりゃ苦労せんわ。もうじき生まれそうなんじゃ」

リオレウス 「ヘェァ! 本当かい!? まったく、何だってそんな面倒なものを持ってきたんだ!」


458: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:42:04.20 ID:zd2zU5k0
リオレウス 「うーん……俺は全然子育ては分かんないからなぁ」

リオレウス 「雪が止んだら、レイアを連れてくるよ」

フルフル 「そうかい。あたしも久々にあのじゃじゃ馬を見たいもんだ」

リオレウス 「最近酷いよ……狩りの獲物が小さいと、容赦なく締め落とすんだ」

リオレウス 「段々それが快感になってきてしまっている自分がいる……」

フルフル 「快感になってるならいいじゃないかい」

リオレウス 「変わっていく自分が怖いんだよ……」

クック 「よし、少女。そこの木の実の器に、すり潰した魚を入れるんだ。できるかい?」

少女 「うん、頑張る」

リオレウス 「俺も何か手伝おうか?」

リオレウス 「どうせ吹雪で、しばらく外には出れそうにないからね」


459: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:42:25.77 ID:zd2zU5k0
少女 「じゃあ、リオレウスさんはこの香辛料を振り掛けてくれる?」

リオレウス 「よしきた! 任せてくれ(バッバッ)」

リオレウス 「(ムズムズ)……う……鼻が…………」

リオレウス 「ぶえっくしょい!(ゴウッ!)」

少女 「きゃぁ!」

 >ズゥン

クック 「少女! 大丈夫か!」

リオレウス 「ああごめんよ! 家でもよくやって、レイアに半殺しにされるんだ!!」

少女 「ちょっとびっくりしただけ。平気だよ(なでなで)」

リオレウス 「あ……何か優しくされると涙が……」


460: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:42:49.56 ID:zd2zU5k0
クック 「ん!? 今のレウスさんの火の玉、あの卵に直撃したぞ!!」

リオレウス 「何だって!?」

フルフル 「お、おい。大丈夫なんだろうね?」

クック 「氷は全部溶けてしまっている。割れてはいないようだが……」

クック 「熱っ……!!」

クック 「ま……真っ赤に発熱している!」

リオレウス 「お……俺のせいかい!?」

クック 「卵にヒビが入ってきた! 生まれるぞ!!」

フルフル 「何だって!? 振動を与えたからかい!?」

フルフル 「ちょっと急すぎるさね。早く目隠しの用意を……」


461: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:43:10.67 ID:zd2zU5k0
卵 「(ピキ……ピキ……)」

卵 「(バリィィィンッ!!)」

×××××× 「ピィィィィ!」

クック 「うわっ! 火の玉が飛び散った!!」

少女 「きゃぁあ!」

リオレウス 「あ……あれは……!!」

竜の子供 「ピィ……ピィ……」

フルフル 「いかん! 目を開けるぞ!!」

竜の子供 「ピ……?」

竜の子供 「(きょろきょろ)」

竜の子供 「(じーっ)」

少女 「……?」

少女 「(何か、私くらいの大きさの竜さんが、こっちを見てる……)」

竜の子供 「まんまー(バッ)」

竜の子供 「まんま(ドスドスドス)」

少女 「(こっちに来た!)きゃぁぁ!」


462: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:43:35.17 ID:zd2zU5k0
竜の子供 「まんまー、まんまー(ぺろ)」

少女 「え……あ……?」

少女 「(この子、もしかして……)」

少女 「(私のことを、お母さんだって思っちゃったの!?)」

フルフル 「……遅かったようだね……」

クック 「まさか少女のことを……」

クック 「しかし、この異様な姿は……」

クック 「まるで岩が絡み合ったような……どことなくグラビさんに似ているが、頭が物凄く大きい……」

竜の子供 「(すりすり)」

少女 「う……うふふ。くすぐったい(なでなで)」

リオレウス 「何てこった……」

クック 「レウスさん?」

リオレウス 「これは……ボルボロスの子供じゃないか……!」


463: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:45:12.44 ID:zd2zU5k0
リオレウス 「……いや、違う……? 俺が知っているボルボロスとは形が……」

クック 「ボルボロス? 一体誰だい?」

リオレウス 「海の向こうの土地の、騎士団が守っている女王だよ」

フルフル 「何だって? 女王じゃと……」

竜の子供 「まんまー」

少女 「あはは、くすぐったぃ~」

クック 「面倒なことになったな……こんなに孵化が早まるとは思わなかった」

リオレウス 「もしかしなくても俺のせいだよね……ごめんよみんな」

フルフル 「いや、楽観視しておったあたしらも悪かった。とにかく少女。そのいかつい子をこっちによこしな。凍えちまう」

少女 「うん。でもこの子、すごくポカポカしてるから大丈夫だと思うよ」

クック 「そういえば湯気が立ってるな……」

クック 「グラビさん達でも湯気は立たないというのに……よほど体温が高いのか」


464: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:45:43.52 ID:zd2zU5k0
少女 「どっちかというと、お水を飲みたいみたい」

フルフル 「そうさね。あたしの後ろに大きな木の実の殻があるだろう? そこに、作っておいたハチミツ水があるから、飲ませておやり」

クック 「これか? ほら」

竜の子供 「ふんぎゃぁぁ!」

少女 「きゃっ……いきなりかくれて、どうしたの?」

クック 「私の顔に驚いたのか?」

リオレウス 「しかし、それにしてもごっつい赤ん坊だなぁ」

竜の子供 「ピィィィ!!」

リオレウス 「う、うわ! 何だ、顔に似合わず怖がりだ!」

少女 「落ち着いてね、みんないい人だよ」

竜の子供 「ブフゥー、ブフゥー」

少女 「これ、ハチミツ水。飲める?」

竜の子供 「!! (ゴクゴクゴクゴクゴク)」

少女 「ひゃっ……すごい勢い……」

少女 「もうなくなっちゃった……」

竜の子供 「ぷふぅ~」

竜の子供 「まんま~(ごろり)」

少女 「ふふ、よく見えないけど、可愛いね(なでなで)」

竜の子供 「ふぶぅ~」


465: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:47:18.02 ID:zd2zU5k0
クック 「(困った……王族の子だったのか!)」

クック 「(私やフルフルさん、レウスさんならともかく、よりにもよって人間の少女を親と思い込んでしまうとは……)」

クック 「(海の向こうの土地が、人に対してどんな感情を抱いているのか分からないが……)」

クック 「(こうなっては引き離すわけにもいかん……)」

クック 「(どうしたものか……)」

フルフル 「おいおい、少女、気をつけな。いくら子供とはいっても竜なんだ。知らない間に大怪我をすることだってあるよ」

少女 「うん、気をつける」

少女 「ねぇ、ここは風が入るから、もう少し奥に行こう?」

竜の子供 「??」

少女 「こっちだよ」

竜の子供 「(じり……じり……)」

少女 「この人はフルフルさん。そして子フルフルちゃん。私の、家族みたいな人たちだよ」

少女 「大丈夫、怖くないよ」

竜の子供 「(ズン、ズン)」

フルフル 「(なでなで)ふむ……手触りはバサル坊主に近いねぇ」

竜の子供 「(ふぁぁぁ)」

少女 「あ……ちょっと待って……」

竜の子供 「(ゆらり……ずぅん)」

竜の子供 「すぅー……すぅー……」

少女 「寝ちゃった……私の服を掴んでるから、動けないよ」

少女 「どうしよう、おじさん……」


466: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:48:57.45 ID:zd2zU5k0
クック 「うむ……もしレウスさんの言うとおりに王族の子だとしたら、迂闊なことはできないな」

クック 「少女、すまないが少し、その子の近くについていてやってくれないか?」

少女 「うん、分かったよ」

リオレウス 「何か責任感じちゃうなぁ。イャンクックさん、どうするよ?」

クック 「もうじきテオ殿とナナ殿がいらっしゃるはずだ。彼らならいい知恵を持っているかもしれないから、少し待とうか」

クック 「どっちにしろ、赤ん坊が二匹も生まれたんだ」

クック 「大人の私達がここを離れるわけにはいかないだろ?」

リオレウス 「うぅん、そうは言われても」

リオレウス 「吹雪だけど、俺は頑張って家に帰って、事情を話してレイアに来てもらうよ」

リオレウス 「俺よりも、何かとあいつのほうが役に立つと思うし」

フルフル 「そうかい。ついでに地獄兄弟がいたら、ブッ叩いてつれてきてくれないかい?」

リオレウス 「ひゃぁ、バイオレンスだなぁ婆さんは。反撃されない程度にやっておくよ」

クック 「レウスさん、これを持っていくといい。狂走エキスの滋養酒を木の実に入れておいた。飲めば寒くないぞ」

リオレウス 「お、ありがたいねぇ。それじゃ皆さん、邪魔しかしてない気がするけど、すぐ役に立つ奴を連れてくるから!」

少女 「気をつけてね、リオレウスさん」


467: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:49:37.74 ID:zd2zU5k0
少女 「(この子、私の服を強く掴んでる……)」

少女 「(私のことを、お母さんだと思ってるんだ……)」

少女 「(まだ頭とかが濡れてる……)」

少女 「(拭いてあげなきゃ……)」

少女 「……(ごしごし)」

テオ・テスカトル 「御免。日中最中だが失礼する」

ナナ・テスカトリ 「フルフル様、夫とまた参りました」

クック 「お、テオ殿とナナ殿だ。レウスさんと入れ違いになってしまったな」

フルフル 「おお、お入り。中は温かいよ」

テオ・テスカトル 「いや、すごい吹雪だ(ブルブルッ)フルフル殿、久しゅう」

テオ・テスカトル 「む、その子が、あなたのお子様か」

テオ・テスカトル 「僭越ながら、私のたてがみで毛布を編んできた。使ってください」

フルフル 「そんなに気を使わずともよいのに」

少女 「テオさん、こんにちは!」

テオ・テスカトル 「おお少女よ。久方ぶりだな…………ぬ? 何だ、その子竜は?」

ナナ・テスカトリ 「あぁ! もしかして、生まれてしまったのですか!?」

クック 「うむ。少々困ったことになってしまって……」


468: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:50:36.01 ID:zd2zU5k0
クック 「………………というわけなんだ。おそらく、熱を受けて孵化が早まったんだろう」

テオ・テスカトル 「私は海の向こうに行ったことはないが、もしリオレウス殿の仰るとおりに、王族の子としたら、少々面倒なことだ」

テオ・テスカトル 「竜は、一度親と認識した者は、およそ死ぬまで親と思い続ける」

テオ・テスカトル 「物心ついても、本能の奥でずっと、その感情は消えることはない」

テオ・テスカトル 「はからずも少女が、この子竜の『親』となってしまったわけだが……」

少女 「ご……ごめんなさい……どうしよう……」

テオ・テスカトル 「いや、君の責任ではない。いたし方がないことだろう。それよりも、無事に生まれてよかった」

ナナ・テスカトリ 「! そうですわ! 何の問題もなく、綺麗に生まれて、こんなに嬉しいことはありません」

クック 「あ……ああ。そう考えれば、確かに……」

クック 「ちゃんと生きていて、生まれて来てくれたというのは嬉しいことだ」

少女 「じゃ……じゃあ、この子に何もしない?」

クック 「何を言うんだ。私たちは、これから少女、お前とこの子を守らなければならないんだ」

テオ・テスカトル 「左様。ナルガクルガ氏より話を聞き、一度海の向こうに渡ることを考えていたが……」

テオ・テスカトル 「この状態では、少女も共に渡らねばなるまいな」

ナナ・テスカトリ 「………………」

少女 「海の向こうにいけるの!?」

少女 「私、ずっと海に行ってみたかったの!!」


469: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:51:24.21 ID:zd2zU5k0
テオ・テスカトル 「少女、酷なようだが忘れてはいけない」

少女 「?」

テオ・テスカトル 「君は人間だ。そして海の向こうの土地では、人間のことをどう思っているのか、我々はよくは知らぬ」

少女 「あ…………」

少女 「ごめんなさい……」

テオ・テスカトル 「謝ることではないが、危険ではある。派遣隊は慎重に選ばねば」

竜の子供 「ブフゥ……まんま……(ぎゅっ)」

少女 「うん……大丈夫だよ(なでなで)」

ナナ・テスカトリ 「とりあえず、火山の竜は塩分が不足しがちです。岩塩の塊も取ってきました。スープを作ります」

ナナ・テスカトリ 「フルフル様、お台所をお借りしてもよろしいでしょうか?」

フルフル 「ああ、ええよ。好きに使いな」

クック 「ナナ殿。私も手伝おう」

ナナ・テスカトリ 「ありがとうございます。それでは、この材料を……」


470: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:51:59.55 ID:zd2zU5k0
テオ・テスカトル 「ふむ…………」

テオ・テスカトル 「リオレウス殿はボルボロス、と仰ったのだな?」

少女 「うん。女王様だって……」

テオ・テスカトル 「向こうの地に渡った猫から、話だけは聞いたことがある」

テオ・テスカトル 「女王がボルボロス、そして王がウラガンギンと……」

少女 「ウラガンギン……」

テオ・テスカトル 「王は随分前に死去したらしいが、その方と女王の子供だとすると、どちらかの種の特徴が色濃く出たようだな」

テオ・テスカトル 「推測するに、雄であるところを見るとウラガンギンか……」

テオ・テスカトル 「(なんと言うことだ……)」

テオ・テスカトル 「(もしもこの推測が本当のことだとするなら、未来の皇帝ではないか……!)」


471: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:52:49.71 ID:zd2zU5k0
―密林、昼間―



リオレイア 「もう! あなたって人は本当に馬鹿なんだから!」

リオレイア 「私は、お婆様を助けに行きなさいって言ったのよ?」

リオレイア 「どうしてそんな簡単なことさえ出来ないの!?」

リオレウス 「わ……分かった……悪かった……」

リオレウス 「悪かったから……飛びながら尻尾で首を絞めるのはやめてくれ…………」

リオレウス 「お…………落ちる…………」

リオレイア 「(バサァッ)ふぅ……あなたは本当に頼りにならないわね……」

リオレウス 「言葉もないよ……」

リオレイア 「とりあえず、出産祝いは持ったわね? 早くお手伝いに行くわよ!!」


472: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:53:14.13 ID:zd2zU5k0
リオレウス 「(バサァ、バサァ)」

リオレウス 「(雪山の悪天候のせいか、こっちまで霧がかかってるな……)」

リオレウス 「レイア、そんなに飛ばしたら、前が良く見えないだろ? 危ないよ」

リオレイア 「軟弱なあなたと一緒にしないで!」

リオレウス 「怒るなよ。俺は俺なりに頑張って生きてるんだよ!!」

リオレイア 「はいはい。どうでもいいから遅れないで」

リオレウス 「分かってるよ…………ん?」

リオレウス 「(何だ、あれ?)」

リオレウス 「(海と密林を繋ぐ入り江で、何か動いてる……)」

リオレウス 「(霧でよく見えないけど……)」

リオレウス 「(地獄兄弟かな……?)」

リオレウス 「……!! ひぃぇ!!」

リオレイア 「(ビクッ!)な、何、いきなり奇声を上げて!」


473: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:53:34.10 ID:zd2zU5k0
リオレウス 「レ、レイア! 下に何かいる!!」

リオレイア 「下? 何も見えないけど……」

リオレウス 「そっちじゃないよ! 入り江の方に……」

リオレウス 「(で……でかい!!)」

リオレウス 「(竜!? でも、あんな竜は見たことがない!!)」

ラギアクルス 「……………………」

リオレイア 「!! 何、あれ!?」

リオレウス 「分からない……でも、このままだとあの竜、奇面族の土地に入っちゃうぞ!」

リオレイア 「う……嘘! そんなことしたら……」

リオレウス 「止めなきゃ……!!(ヒュゥゥゥ)」

リオレイア 「あ……あなた!!」


474: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:53:55.32 ID:zd2zU5k0
―密林、奇面族の里―



キングチャチャブー 「…………?」

キングチャチャブー 「何だ……?」

キングチャチャブー 「(森の空気が、いつもと違う……)」

キングチャチャブー 「(ざわついてやがる……)」

キングチャチャブー 「(さっきから感じるが、気のせいじゃぁねェ)」

キングチャチャブー 「(何か近づいてきてるってのか……)」

チャチャブーA 「ビィ! ゴッドファーザー! 緊急報告!」

キングチャチャブー 「…………」

チャチャブーA 「エリア1の守備隊より、正体不明の竜の進入を確認との連絡!」

チャチャブーA 「現在、その竜は速度を変えずに、こちらに向かってきております!!」

キングチャチャブー 「…………(チッ)」


475: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/03(金) 16:54:15.78 ID:zd2zU5k0
キングチャチャブー 「……(嫌な霧だ……)」

キングチャチャブー 「…………」

チャチャブーA 「守備隊は正体不明を追いながら南下中! ご指示を!!」

キングチャチャブー 「(スッ)」

キングチャチャブー 「……酒が切れた」

キングチャチャブー 「丁度暇ァなったとこよ」

キングチャチャブー 「一番隊、二番隊、出撃準備」

チャチャブー一番隊 「ビィ!!(ザッ)」

チャチャブー二番隊 「ビィ!!(ザッ)」

キングチャチャブー 「行くぞ……」

キングチャチャブー 「(変な胸騒ぎがしやがる……)」

キングチャチャブー 「(チッ……酒が切れたせいならいいが……)」


494: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/07(火) 13:39:46.42 ID:S/GPSHQ0
3.キングチャチャブー 「空は飛ぶんじゃねぇ、駆けるもんだ」



―密林、運河内―



ラギアクルス 「(弱った。何だ、このまとわりつくような霧は……)」

ラギアクルス 「(このあたりは水深も浅く、水が濁っている……)」

ラギアクルス 「(頭を出して泳ぐしかないが、現在位置も分からぬことには……)」

ラギアクルス 「(我自身、こちらの土地に来るのは初めてのことだ)」

ラギアクルス 「(突発的に攻撃はしてこないと思うが……)」

ラギアクルス 「(もしも他人の縄張りだった場合、少々厄介だ……)」

ラギアクルス 「……!!」

ラギアクルス 「(何だ……? 霧の向こう……木を盾にして、何か大量にうごめいている……)」

ラギアクルス 「(チャチャ族……? 違うな。一回り大きい……)」

ラギアクルス 「(こちらの奇面族……!)」

ラギアクルス 「(まずい。別大陸のチャチャは凶暴と聞く)」

ラギアクルス 「(我は、奴らの縄張りに入ってしまったのか……)」

ラギアクルス 「(蹴散らすことには造作はないが……)」

ラギアクルス 「(奴らに、御前様の御卵を奪われている以上、表立って騒ぎを起こすのは得策ではない……)」

ラギアクルス 「(さて、いかとするか……)」


495: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/07(火) 13:40:40.51 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「…………」

チャチャブー達 「………………」

ラギアクルス 「(弓……? 人間の武器を真似て作ったのか……)」

ラギアクルス 「(あの光沢、おそらく痺れ毒が塗られている……)」

ラギアクルス 「(知らぬこととはいえ、領域侵犯は重罪よ……)」

ラギアクルス 「(それは分かる。我も同じ状況になれば、騎士団員に同様な命令を発するであろう)」

ラギアクルス 「(優秀な指揮官がおるのだ……)」

ラギアクルス 「(となれば、木っ端と話をいくらしようとも無駄……状況は好転せぬ)」

ラギアクルス 「(指揮官に事情を説明せねばならぬ……)」

ラギアクルス 「(だが……)」

ラギアクルス 「(川の両脇に、毒矢の奇面族か……)」

チャチャブー達 「…………」

ラギアクルス 「(囲まれた…………)」


496: 三毛猫 ◆58jPV91aG. 2009/07/07(火) 13:43:13.30 ID:S/GPSHQ0
ラギアクルス 「(仕方がない)」

ラギアクルス 「(我にも、我の身を守る権利がある)」

ラギアクルス 「(それに、御卵を盗んだのはこちらの方……)」

ラギアクルス 「(義は、我にある……!!)」

チャチャブーA 「三番隊、四番弓隊、構え!」

チャチャブー達 「ビィ!!」

チャチャブーA 「三番隊、てェ!!」

チャチャブー達 「ビィィィ!!(ピュンピュンピュンピュン)」

ラギアクルス 「!!」

ラギアクルス 「(撃ってきた……やはり、いたし方あるまい!)」

ラギアクルス 「ふんッ!!(バリバリバリバリ)」

チャチャブー達 「!!」

チャチャブーA 「……電撃!? 竜が電撃だと……!?」

チャチャブーA 「矢が、空中で弾け飛んだ…………!!」


次回 イャンクック 「旧沼地で人間を拾ったんだが」 その5