渋谷凛「アイドルサバイバルin仮想現実」 前編

458: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/11(火) 20:34:39.77 ID:CNgNj18+0


未央は声がその部屋にいる全員に届くような位置に移動すると声を張り上げた



未央(ボット)「はい!!ちゅうもーーーーーーーーーく!!」


仁奈(ボット)「む!どうしやがりましたか未央おねーさん!」

雪美(ボット)「.............」

小春(ボット)「はい~?」

翠(ボット)「・・・・・・・・・」

卯月(ボット)「頑張って未央ちゃん!」


未央(ボット)「ゆきみんの黒猫電話によくわからない着信があったのが大体十分前!やはり敵は現れたよ!」

未央(ボット)「ゆきみんの電話は今まではゆきみん一人の危険だけにしか反応しなかった!しかーし!それはゆきみんが独りぼっちだったからの話!」


雪美(ボット)「...マキノと......ありすが...私のこと...見つけて...くれた.....」


未央(ボット)「私たちはいま一人じゃない、六人いるんだよ!つまり!?」


仁奈(ボット)「ゆきみのピンチは仁奈たち全員のピンチでやがります!」


小春(ボット)「私たちのこの場所のピンチでもありますね~」


翠(ボット)「全員で乗り越えるべき危機......ここが気の引き締めどころです」


卯月(ボット)「ここで良いところを見せないと飛鳥ちゃんたちに合わせる顔がなくなっちゃうもんね!島村卯月!頑張ります!」

引用元: 渋谷凛「アイドルサバイバルin仮想現実」 



459: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/11(火) 20:35:44.59 ID:CNgNj18+0

未央(ボット)「そう!みんな!今からが私たちの勝負だよ!」

未央はその場で力強く握りこぶしを作る

ほかの全員も同様だ


未央(ボット)「さぁ、えいえいおー行くよ!!! えい!」


雪美(ボット)「......えい...」


仁奈(ボット)「えい!」


小春(ボット)「えい~」


翠(ボット)「...えい...!」


卯月(ボット)「えいっ!」



「「「「「「おーーー!!!!!!」」」」」」




460: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/11(火) 20:38:33.76 ID:CNgNj18+0


カリカリカリカリカリカリカリカリカリ


橘ありすが居所を突き止め、

二宮飛鳥がノリノリで能力名を考え、

八神マキノをもってして「最強の拠点防衛部隊」と呼ばしめた六人の能力者






本田未央 《ミツボシ効果》

島村卯月 《M・M・E》

水野翠  《規律反背》

佐城雪美 《黒猫電話》

市原仁奈 《U=パーク》

古賀小春 《美女と聖獣》






対するは銃を持った三人


よく知った事務所という、仮想のはずの世界に紛れこんだ異物を巡る戦いが始まる


ゲーム開始41分経過

輿水幸子&星輝子&白坂小梅

VS

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&市原仁奈(ボット)&古賀小春(ボット)

開始

463: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:11:14.73 ID:2DlnZ3UqO

チャプター
渋谷凛


ありす(ボット)「凛さん!!??こ、ここ何階だと思ってるんですかっ!!???」


凛「知らないよ・・・10階くらい?」


一輪車のタイヤを踏みつける足に力を込めなおす


私が足場がわりに落とした机はさっき地面に叩きつけられたらしい

それっぽい破壊音が聞こえたけどここはかなり高所だからその音は届かなかった



今現在、私は世にも奇妙な、壁に垂直に立った一輪車の、その車輪部分に立っている

464: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:16:25.75 ID:2DlnZ3UqO



舞(ボット)「あ、あう・・・」

晴(ボット)「やっぱ凛姉さんハンパねーわ・・・」


ありす(ボット)「こんな風に飛び移ってきて、ここからどうするつもりなんですか!」


私がタイヤを踏んでいるせいで一輪車は前にも後ろにも動かない

舞は一輪車を漕ぎかけの姿勢のまま動けないようだ

晴とありすは舞にぶら下がるような、しがみ付くような姿勢を崩さない


ありす(ボット)「凛さん、私たちが子供だからこんな無茶したんですか?こんな状況でも相手が子供ならどうとでもなると思ってるんですか?」


凛「・・・・・・・・・・・」

465: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:19:00.89 ID:2DlnZ3UqO


高層ビル中程の外壁に張り付いて、

自分を支える足場は子供用の小さい一輪車だけ、

その小さな三輪車の上に人間まるまる四人が引っかかっている

しかも敵対構造としては1対3で、私が1


よくある絶望的にピンチな状況で誰かを見捨てなければならないとき、

映画かなんかのストーリーでは、混乱のさなか人の醜い本性が発露して、仲が良かった人たちや愛し合っていたはずの二人が互いを貶め合ったり、なんて展開がお約束だよね


何とかしないと下手すれば全員地面に叩きつけられる

絶望的ピンチな状況までは一緒、


でも私に味方はいない

でも明確な敵なら三人もいる



凛「・・・これなら混乱はしなくて済むかな・・・」

466: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:20:40.58 ID:2DlnZ3UqO


問題

あなたは3人の人間と狭い足場にいます。

このままでは遥か下の地面に叩きつけられて全滅必至でしょう。

さて、

どうすれば自分だけ助かることができるでしょうか?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

下を見れば遠い地面に砕けた机

上を見れば一輪車に必死にしがみつく私たちを嘲るように一輪車を2本の足だけで足場にしている凛さん

私たちと違ってその両手は自由に開放されています

いや、おかしいでしょう

467: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:22:20.59 ID:2DlnZ3UqO

舞さんは能力を発動し続けるために一輪車にまたがった姿勢を変えられませんが、

私や晴さんがちょっと凛さんの足を払うなりすればあなたは真っ逆さまなんですよ!?

確かにこのビルのガラスはツルツルなので掴まることはできませんが、だからといって無防備すぎでしょう!?


ありす(ボット)「見くびってましたよ。ここまで追ってくるなんて」


凛「私もありすたちがここまで行動力があるなんて知らなかったよ。こんな危ない逃走経路を使うなんてね」


凛「舞、晴」


舞(ボット)「ひゃ、はいっ!?な、なんですか!?」

晴(ボット)「・・・うっす」


凛「私の邪魔したらタイヤ、踏み抜くから」

468: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:25:20.00 ID:2DlnZ3UqO

舞さんの一輪車が壁や天井を走り続ける条件はまず何より一輪車にまたがっていること、

そして車輪が常に走りたい面と接していること

だから、舞さんは天井を走りたいときは壁を経由してから走っている。空中は走れないのだから



だから凛さんの発言はここにいる自分も含めた全員への殺害宣言だ



踏みつけの衝撃で車輪が少しでも面から離れた瞬間、一輪車はこの世界本来の重力に引かれ鉛直に落下することでしょう


凛さんは私に手を伸ばす、ゼロ距離の私に逃げる手段はない。

舞さんと晴さんはどう動いていいのかわからない様子だ

そもそも、もみくちゃでほとんど動けないけど

469: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:27:07.26 ID:2DlnZ3UqO

凛「・・・・・・」


凛さんは自分の足場である車輪に気をつけながら私の手元、腕と体のあいだに挟むように持っていた黒い箱に手を伸ばした


ゆっくり指がこっちに伸びてくる、私たちは動けない。


何故かこんな頼りない足場で、なおかつ孤立無援でありながら凛さんは誰にも邪魔されない


どうしても思い描けないのだ


凛さんだけがここから振り落とされる光景が


ほかの二人も同様だろう。年上も年下も関係ない、だが決定的な精神的優位に凛さんはいる


トライアドプリムスを分断しようという考えは正しかった

このレベルの何者かが三人も集まられたらたまったもんじゃない


470: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:28:26.46 ID:2DlnZ3UqO
カリッ


舞(ボット)「!!」


凛さんの指が箱のふちに引っかかった。


ピアスが中に入っている。

ありす(ボット)「ところで凛さん」


ありす(ボット)「無事この箱を手に入れて、どうやって無事なところまで戻るつもりですか?」


凛「・・・ここにいるのは舞の能力のおかげだし、舞が地上に降りるのについていくしかないでしょ」


ありす(ボット)「できるとでも?」


凛「じゃあ、私のこと倒せる?」
 


 「悪いけど身投げの覚悟くらいないと無理だよ」

471: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:30:40.42 ID:2DlnZ3UqO


___ああ、いまの言葉でなんとなくわかった。

どうしてこの状況でこの人がこんなにも優位に見えるのか




私は小さな声でつぶやく、ほぼ密着状態の舞さんにしか聞こえない




ありす(ボット)「(・・・・・・私のタブレットは回収しておいてください)」




舞(ボット)「・・・・・・ありすちゃん?」


凛「そろそろ、意地の張り合いは終わりでいいよね?」


今度こそ凛さんの手ががっちりと箱を捕捉した

472: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:32:31.70 ID:2DlnZ3UqO

ありす(ボット)「凛さん」



凛さんの五本の指はしっかり握られている




ありす(ボット)「今の発言から論理的に考えると」





私の五本の指は何も掴んでいない



何も、




ありす(ボット)「覚悟があれば、あなたは倒せるんですよね?」





私は手を放し、箱を抱えたまま落ちていった




~~~~~~~~~~~~~~~~~

473: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:41:42.56 ID:2DlnZ3UqO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

凛「っ!!」


舞(ボット)「ありすちゃあああああああん!!!??」


晴(ボット)「ちょ、ま、はぁああああああ!!??」


ありすの姿が遠のいていく


私は反射的に壁面のガラスを蹴った。

まるでスタートダッシュのように、




一輪車が、壁から離れた。



474: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:44:13.29 ID:2DlnZ3UqO


一輪車が常識的な方向の重力に引かれ、自由落下を始めた


私が取るべきだった手段は二つ


舞の能力で、下まで降りてピアスを回収

ただし落下の衝撃でピアスがダメになる可能性が高い

いや、この高さというにもおこがましい高さだ

間違いなくわたしのキーアイテムはダメになる


もう一つは空中にいるうちにありすから箱をかすめとる

そして、

凛「舞!!合図をしたら私がアンタを思いっきり壁に押し付ける!!そしたらもう一回能力で壁に張り付いて!!」


舞(ボット)「え!?ええ?!?ええ!?!?」

475: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:46:08.35 ID:2DlnZ3UqO

私と舞と晴はほとんど壁スレスレを落ちている、

一固まりになった私たち(+一輪車)はありすより重くなった分、ありすより速く落ちる

たしか落下する物体には最終到達速度なるものがあるらしいけど、今は難しいことは考えない


晴(ボット)「なんでオレら掴んだまま落ちるんだよ凛姉ええええええ!!?!?」


三人で弾丸のように加速していく、ありすの小さい体じゃ空気抵抗もあってそんなに加速はしない、


どっちみち十分死ねる高さだけど、だけど高いからこそ追いつく余地がある

476: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:49:37.12 ID:2DlnZ3UqO

凛「ありす!!」



もう届かない所へ落ちていくと思っていたありすにみるみるうちに近づいていく



脱力したように頭から落ちていくありすのその手には私がもらったプレゼント



「何度言ったらわかるんですか」



そして、丸い紙

477: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:51:35.81 ID:2DlnZ3UqO

ヨレヨレの今にも破れそうなそれは、


赤黄青で塗り分けられた綺麗な色で、



「私を呼ぶときは」



ぽしゅ


丸い紙が膨らんだ、


小さな球になっている


どうやら球体を潰したから丸い紙だったらしい


見覚えがある


ああいう色鮮やかな球、


たしか、鞠だ

478: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:53:43.12 ID:2DlnZ3UqO


色鮮やかで、かなり古風な遊び道具


卯月から聞いたことがある


誰かが鞠を撮影に使っていたんだ


そう、着物姿がよくにあう、天真爛漫なキュートアイ__



「橘って呼んでくださいと言っ___」




桃井あずき(ボット)「じゃんじゃじゃーん!!トライアドプリムス分断大作戦だよっ!!」




鞠が、アイドルに変身した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

479: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:56:26.38 ID:2DlnZ3UqO
~~~~~~~~~~~~~


あずき(ボット)「ん?予定とだいぶ違うみたいだねっ!」


桃井あずきの能力は、鞠の形を模したアイテムに変身できること


小日向美穂の、ぬいぐるみの中に入り込み、ボットとして操作する能力と根幹は同じである


ただ難点といえばあずきは鞠に変身している間自力では動けず、


体重や耐久力も鞠と同じになるので非常にダメージを受けやすいのだ


だからこそこの瞬間


誰もが攻撃の手段も移動の手段も持たない場でこそ、あずきは自由に振る舞える


凛「___あ、あずき・・・?」


あずき「あれ?なんでもう落ちてるのかなっ?」

480: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 00:58:34.02 ID:2DlnZ3UqO


あずきは全員が落下中であるという状況を把握できていない


作戦(あずき曰く大作戦)におけるあずきの行動は一つ



”凛を引き付ける餌に使ったアイテムを持って逃げる”

”場合によってはビルから飛び降りてでも”



鞠に変身できるあずきは例え24階から落ちようとも鞠と同じ重さしかない上、

空気抵抗も加味すれば落下することで受けるダメージは少なく済むのだ


あずき(ボット)「あっ!、これが凛ちゃんのキーアイテムだね?」

凛「!!?」


地上は近い

風の音が全員の耳を突き抜ける

483: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 06:29:34.17 ID:2DlnZ3UqO

今の彼女はスカスカの鞠と同じ重量しかないのだ、落ちる速度も遅い


もう凛の手も指も届かない距離が開いてしまった



凛「(___そん、な_____)」




晴(ボット)「おい舞!!早く能力使えええええええええええええ!!!」

舞(ボット)「お、落ちるの!早すぎて・・・!!!」




現在地上2階



四人が地面に叩きつけられるまで残り約0.001秒




ありす(ボット)「(マキノさん、飛鳥さん・・・ありがとうございました)」


~~~~~~~~~~~~~~

484: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 06:30:27.21 ID:2DlnZ3UqO
~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
渋谷凛





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
結城晴(ボット)







~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
福山舞(ボット)







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チャプター
橘ありす(ボット)







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485: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 06:32:59.55 ID:2DlnZ3UqO
~~~~~~~~~~~~
チャプター
緒方智絵里


緒方智絵里「あ、」



智絵里「......り、凛、ちゃん...?」



智絵里「.........ど、どうしよう...ぼ、ボットの人たちと、一緒に巻き込んじゃった...」



智絵里「この能力、一度、使っちゃうと...わたしじゃ.......どうしようもないのに......」



ゲーム開始39分経過

報告事項なし


~~~~~~~~~~~~~~~~~~

486: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 06:34:15.14 ID:2DlnZ3UqO
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ERROR!



仮想現実空間運営用自律ボット

CHIHIROより池袋晶葉へ


以下、一点のエラーが観測されました。早急な対処をお願いします


1、プレイヤー「渋谷凛」およびボット「橘ありす」「結城晴」「福山舞」からの信号がロストしました



仮想空間稼働39分経過


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

487: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 06:36:58.94 ID:2DlnZ3UqO
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










智絵里「...まだまだ......がんばらないと......」


「...仕事を取ってきてくれた...プロデューサーが......悲しみます...そんなの...いや、です」


「......まゆちゃんも...がんばってるんだから......わたしも...もっともっと」


「だから......ごめんね?......凛ちゃん」










「朽ち果てて?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

493: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 12:37:33.79 ID:AJqDKbxe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
小日向美穂




退屈してませんでした

といえば嘘になっちゃう

プロデューサーくんモード、えっと長いからくまさんモードでいいや、で私は散歩していた

この状態になってから、私はどちらかというと退屈だったかな?


見渡す限り知らない建物ばっかりで、初めて訪れた街に一人でお仕事に行った時のことを思い出しちゃいます。


あのときは緊張して周りにいる人に道も訊けなかったし、

みんなも私なんかには目もくれず一目散に行き交っていたから話しかけづらかった

なんだか自分以外の人は人間じゃなくてただ歩いているだけの別の生き物に見えてすごく怖かった。


ちひろさんは、そういうのを都会の無関心とか雑踏の空白とかいう単語で説明してたかな

その後、人の多い街を一人で出歩くとき気をつけなくちゃいけないポイントを色々教えてもらったんだ

494: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 12:38:16.48 ID:AJqDKbxe0


今はあの時と真逆、誰もいなかった


くまさんモードでずっと歩いていたから移動距離自体はたいしたことないとは言え、これでも30分くらい歩いていたんだ

もしかしたら晶葉ちゃんの言ってたボット?はいないんじゃないかな、とか思ったけど私に似た子が出てきたのにそれはないよね。

じゃあ別のプレイヤーさんのとこに集中してるとか?


遠くに見える高層ビル、あの向こう側では今も現在進行形で激しい空中戦が繰り広げられていたり___!!

さすがに空中戦はないか、比奈さんから借りた漫画で人がビュンビュン空を飛んでたけど、ここがゲームだからって、いくらなんでもね・・・


回想、回顧はおしまい




まゆ「いま・・・このぬいぐるみ・・・しゃべりませんでしたかぁ?」





げ、現状と向き合わなきゃ・・・

うう・・・怖いよぅ・・・


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

495: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 12:38:55.00 ID:AJqDKbxe0

まゆ「なるほど、わかりましたぁ。ごめんなさいねぇ美穂さん、お腹かっさばこうとして」

美穂「う、うん」

い、今のはスルーしていいのかな・・・?

ま、まぁ未遂だから・・・


まゆ「それにしても・・・変身能力ですかぁ、あずきちゃんもそんな能力でしたねぇ」


美穂「あずきちゃん?・・・あずきちゃんも来てるの?」


まゆ「ええ、はいボットとしてですけどね。小さな鞠のようなものに変身して狭い隙間から逃げられてしまいましたぁ・・・」


美穂「そ、そうなんだ、確かにあの電車の中では見なかったもんね・・・」


私はなぜかまだくまさんモードを解いていない

そのまま、まゆさんの膝の上に乗せられちゃってる

まゆさんは近くにあった室外機に腰掛けてて、

でもちゃんとハンカチみたいなのを敷いてから座るあたり流石だなぁ・・・私はよく公園のベンチや野原でも寝っ転がってお昼寝してたのに

まゆ「ええ、次会ったときは仕留めてみせますよぉ・・・?」

美穂「まゆちゃん、やる気十分なんだね」

まゆ「ええ、今のまゆは殺る気に満ちてますよぉ?」

ん?イントネーションがちがうような・・・訛り?

496: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 12:39:59.68 ID:AJqDKbxe0


美穂「電車といえば、・・・私はまゆちゃんと幸子ちゃんの三人で乗り合わせたよね? 六人のうち三人まではわかるけど残りは誰なんだろ?」


たしか晶葉ちゃんはキュートは6人って言ってたよね?

クール、パッションも気になるけど、やっぱり同じジャンルの子のほうが気になるかな?


まゆ「ああ、キュートでしたらあとは智絵里さん、杏さん、そして美玲ちゃんでしたかねぇ」


まゆちゃんが私の耳を触りながら、あ、ちがうよ!?へ、変な意味じゃなくて!

くまさん状態の私の耳をもふもふしながら教えてくれた


美穂「へえ、そうなんだ・・・ってまゆちゃんどうして知ってるの?」


まゆ「つい十分ほど前に智絵里さんと会ったんです、」

「そのあと少しばかりの情報交換と、アイテムのやりとりをしたんですよ」

美穂「そっか・・・アイテムって例えば?」


まゆ「例えばこれですよ武器の類」

まゆさんが私の右耳から離した手に小振りなナイフを構える

今まで見ないようにしてたけどスカートのリボンの装飾にはびっしりと刃物が挟んである

しかもよく見ると何丁かピストルもリボンで巻きつけられていた

さっきから、まゆちゃんの膝に乗せられたお尻がチクチクするけど気にしないようにしてたのに・・・

497: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 12:41:13.37 ID:AJqDKbxe0

まゆ「あとは、ごくわずかですけど回復アイテムに似たものもあるそうなんですよね、まゆは持ってませんけど」

美穂「そうなんだ、私も頑張らないとなぁ・・・」

まゆ「?・・・美穂ちゃんも頑張っているじゃないですかぁ」

まゆちゃんが私のくまさんをよしよししながら笑顔でそう言ってくれる、でも心当たりはない

美穂「え?・・・わ、私なんてまだまだだよ!?、今もやっとまゆちゃんに会えたとこだもん!」


まゆ「いいえぇ?美穂さん、こうやって早々と能力も手に入れて行動を開始してるじゃないですかぁ」

美穂「で、でも、これも偶然見つけたものだし・・・そういえばまゆちゃんはどんな能力なの?」



まゆ「・・・・・・それが、まゆ、まだ能力がないんです。あちこち回ってるんですけどねぇ」

美穂「そうなんだ、えっと、き、キーアイテム・・・?っていうのが見つからないってこと?」

まゆ「はい、そうなんです・・・やはり通常武器でまゆの非力をカバーするにも限界がありますから、何か能力が欲しいのに」

美穂「そうなんだ」

まゆちゃんの声がちょっとだけ沈んだ

だからこんなに包丁とか持ってるんだ・・・

それを聞いてから改めて見てみるとまゆちゃんの凶器まみれの服は弱い体を守る鎧に見えてくる





そうだよ・・・まゆちゃんは簡単に人を傷つけたりしない、いい子だもん

498: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 12:42:35.90 ID:AJqDKbxe0


まゆ「キーアイテムらしきものを見つけたと思ったら、まゆのじゃなくて智絵里さんのでしたねぇ・・・」

美穂「智絵里ちゃん?」

まゆ「はい、さっき言っていたアイテムのやり取り、というのもまゆが智絵里ちゃんにそれをあげたことなんです」

美穂「じゃあ、智絵里ちゃんもその、能力?っていうのがあるんだ・・・」


智絵里ちゃんの能力、か・・・

あの子おとなしいから、空を飛んだり手から波動拳を出してる姿は想像つかないなぁ・・・



・・・・・・あれ?


美穂「えっと、じゃあなんでまゆちゃんは智絵里ちゃんとは離れちゃったの?」


一緒にいたほうが強い仲間もできていいことだと思うんだけどな・・・


まゆ「智絵里さんにもそれは頼まれたんですが・・・まゆにはまだ、コレといった決め手もないので、足を引っ張りかねませんし」

まゆ「それに智絵里さんの方もまだこの世界に慣れていないようで、怯えきっていましたからね。臆病なのはともかく、共倒れは避けたいですから」


美穂「・・・・・・?、えっと、い、色々考えてるんだね?」


499: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 12:43:23.19 ID:AJqDKbxe0


まゆ「でも、ポテンシャルで言えば智絵里さんの方がまゆより上でしょうから、例えユニットを組んでもまゆはお荷物です」

美穂「そ、そんなことないよ!!まゆちゃん頑張ってるもん!」

まゆ「そうですか・・・うふふ、励ましてくれるんですか、優しいくまさんですねぇ」

美穂「わぷっ」

まゆちゃんにぎゅっとされた

なんだか、まゆちゃん嬉しそう。私もあったかくていい気持ちになる


まゆ「じゃあ、まゆはとりあえず町外れにでも向かってみようかと思います。あとついでに智絵里さんも探してみようかと」

美穂「じゃ、じゃあ、私もついてく!」

まゆ「いいですよ、こちらこそよろしくお願いします」

美穂「は、はい!よろしくお願いします!」








こうして硬く鋭い金属に身を包んだ少女と、

柔らかい綿と布の体を持つ少女は手を組んだ。



ユニット登録はまだ済ませてないが、いずれはするのだろう



500: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 12:44:33.54 ID:AJqDKbxe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

まゆ「そういえば、智絵里ちゃんにはまゆ、かなり厳しいこと言ってしまったんですよねぇ・・・」

美穂「そうなんだ・・・」

まゆ「あまりに臆病で、真剣に取り組む様子が見られなかったので、つい・・・。嫌われてなければいいんですけど」

美穂「だ、大丈夫!嫌われてても私も一緒に謝るから!」

美穂「で、でもまゆちゃんみたいな良い子が人にひどいこと言うとも思えないんだけど・・・どんなこと言ったの?」

まゆ「えっと・・・」








まゆ「まゆが知る限りで、プロデューサーさんがこの仕事を形にするためにどれだけの勤務時間と手間をかけたか、バーチャルに関して身につけざるを得なかった専門知識の量と、その勉強に割いた時間、その間においてプロデューサーさんが体調を崩した期間と回数」



まゆ「そういうことを全部、余すところなく教えてあげたあとに『あなたはこのプロデューサーさんの努力を裏切るつもりですか?』って言っちゃったんです・・・」


美穂「(ど、恫喝に近い・・・)」


501: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/12(水) 12:46:12.77 ID:AJqDKbxe0






まゆ「(でも別にまゆは嫌われてもいいんです、この企画がちゃんとしたモノになりさえすれば)」




まゆ「(智絵里さん?まゆを嫌ってもいいから・・・・・・ベストは尽くしてください)」




まゆ「(事故とは言え、まゆもあなたの能力は経験しています、だからわかります)」






__あなたがその気になれば、勝てる相手はいません__





ゲーム開始27分経過

佐久間まゆ ボット撃破数3体に到達

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503: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:24:38.38 ID:ZXgRqrN5O

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季&小関麗奈

ゲーム開始20分時点



周子(ボット)「いやー、やっと出番かー、待ちくたびれたよほんと」


周子(ボット)「あ、もちろんあたしがいるのにいつ気づくのかって意味ね」




ダンボールがそこかしこに転がっている部屋で三人の人間が対峙している


プレイヤー、大和亜季に小関麗奈

ボット、塩見周子


麗奈と亜季は動けない、いきなりの展開に動けない

504: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:27:18.73 ID:ZXgRqrN5O

二人で誰もいない部屋に入り、物色と調査を開始した。

いつの間にか二人のはずが三人になっていた、その三人目は亜季だった。

二人に増えた亜季はしかし、ユニット登録の画面が出せなかった偽物を暴かれた

そして塩見周子がそこにいた。



この小さな部屋に隠れていたのか


既に店のシャッターを開ける時から近くにいたのか


それとも商店街で二人がユニットを組んだ直後にはもういたのか


実はユニットが組まれたことも知っていて、それですぐそばで自分たちを見ていたのか


もしかしたらこのゲームが始まった段階で二人を影から見張っていたのか





いつから居たのか、どこまで行動を共にしていたのかが全くわからない




まるっきり化かされた気分だ。

505: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:28:53.15 ID:ZXgRqrN5O


麗奈「このアタシにイタズラしようなんていい度胸じゃない!!」


亜季「麗奈、落ち着いて・・・これは悪戯などではなく既に戦闘です」



周子(ボット)「んー、そんなピリピリしなくてもいーのに」


二人から向けられる、敵意というよりは警戒の色が濃い視線を躱すように周子が部屋の中をゆるっと移動する

足元には大小様々な箱が転がっているのに足を引っ掛ける気配はない、積まれた箱も崩れたりぐらついたりすることもない

まるで誰も通ってなどいないかのように、しかし周子は部屋の中をのんびりさまよう


窓からの光以外照明のない薄暗い部屋の中、周子の胸元のバッジから出る赤い光が人魂のように尾を引いた。


亜季「麗奈、その銃は私が、あなたはこちらを」

麗奈「う、うん・・・」


視線は外さずに武器の交換が行われ、亜季の手元にゴツいショットガン、麗奈の手に比較的扱いやすいハンドガンが渡る

そしてそれを敵に向けて構えた

506: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:30:13.54 ID:ZXgRqrN5O

周子(ボット)「もー、いくらボットとプレイヤーが敵同士だからってカリカリしすぎじゃない?」

亜季「先程のご自身が行った奇襲を顧みてもそう言えますか?」

周子(ボット)「奇襲って・・・、言葉がぶっそーだよ」

麗奈「はん!このレイナサマに変なことした自分を後悔なさい!!」

周子(ボット)「へー、ふーん、まぁ確かに麗奈ちゃん大混乱だったもんねー? いいもの見れたなー」

麗奈「んなっ!?」


周子はボットとしてオリジナルの性格の大部分がトレースされ、

そこにプレイヤーを倒す、という闘争意志のようなものが加えられている。

その影響でオリジナルと違ってその発言には悪意めいたものが混じりがちになっていた

一応他のボットにはオリジナルとそう変わらない内面の持ち主もいるにはいる、


周子(ボット)「うーん・・・麗奈ちゃんかわいーからつい意地悪したくなっちゃうね」


だが、周子はその悪意すら武器に使うことに決めていた

507: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:32:06.30 ID:ZXgRqrN5O


麗奈「だ、だれが・・・かわいいよっ!!」

亜季「れ、麗奈!?」


パアァン!!


部屋の中ゆえに銃声が壁中に反響して音の出処を迷わせる


麗奈「・・・あ」


渡されたはいいものの銃の扱いを知らない素人の麗奈はその小さな指を引き金にかけたまま持っていた

それをそのまま周子に向けていた、そして周子がそれを気にする素振りも見せなかった。

亜季は麗奈に目をやる隙を周子に見せるまいとしていた。


だから麗奈の誤射を予測できた者はいない



周子(ボット)「あらま、えっと・・・ナイスショット?」



胸に穴を開けられた周子も含めて

508: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:33:37.71 ID:ZXgRqrN5O


周子(ボット)「いや・・・言っとくけどあたし、ちょっとした・・・偵察のつもりだったんだけど・・・」



半袖シャツにホットパンツ、ラフな格好をした周子の胸元、赤いバッジの斜め下に同じくらい赤い色のシミができている、

心臓にヒット、とはいかずとも人間なら確実に重要な臓器を傷つけている位置だ

その証拠に、周子の声もしぼんで弱々しくなっていく


ゲームの中では銃器の類は持ちやすいよう軽く設定されている、それに反動も現実のものより小さめだ

だから麗奈でも構えさえしっかりしていれば止まった的には当てられる。

今回は誤射だった上に周子がゆっくり動いていたが、それでも大ダメージだろう


周子(ボット)「これ、ちょっとマズいんだけど・・・」


周子が体に空いた穴の縁を恐る恐るなぞる

509: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:34:48.46 ID:ZXgRqrN5O

麗奈「やば・・・撃っちゃった・・・やっちゃってよかったのコレ!?」

亜季「結果オーライです、麗奈。しかしあなたは銃の扱いをよく知る必要がありますな、今のは危なすぎます」


麗奈「う、・・・わかってるわよ・・・もう絶対失敗なんてしないわ!!」









周子(ボット)「ほんとに?」





体に穴を開けたまま発されたにもかかわらずはっきりとした声が部屋に響く

510: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:36:56.31 ID:ZXgRqrN5O



周子(ボット)「麗奈ちゃんに、教えてあげよっか?」



周子(ボット)「あたし相手に失敗すると、どーなるか」




変化は一瞬


麗奈「な、なにあれ・・・」

亜季「し、尻尾にしか見えませんが・・・防弾性の繊維でしょうか・・・」



ぽふっ


まるでダムによってせき止められていた水がダムに空いた小さな隙間から一気に吹き出すように

周子の背後から白い尻尾が出現した。


本数は三本、そのどれもがふさふさとした毛並みを誇るようにパタパタと動いている、狐の尻尾のような形だ

暗い部屋の中でも毛の一本一本までもがつややかに輝いているように見えた

511: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:38:54.96 ID:ZXgRqrN5O

周子(ボット)「いやーいきなり撃ってくるなんて驚かされたね、ま、これでおあいこかな」



周子の体を覆い尽くさんばかりに大きく広がった毛先が、周子の体をなぞったと思ったときには麗奈が付けた傷は消えていた。

血の染みたような跡どころか服に空いた穴までない



麗奈「んな、なんなのよコイツ!」

亜季「・・・ボットとはなんでもありなのですか」



目の前の異変に驚きばかりが先行する

だが、二人の頭の中の冷静な部分ははっきりとわかっていた



いつ、どこで現れたかすらも不明瞭な、
霧のような相手に生半可な攻撃が当たるはずがない


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

512: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:40:30.70 ID:ZXgRqrN5O
~~~~~~~

周子(ボット)「あのさ、」


周子(ボット)「一応このあたしに当たったのは本当なんだけど、あんなふうに体に穴があいて、血が出たりすると思う?」


周子(ボット)「晶葉ちゃんがそんな、ホントに子供のトラウマになりそうなリアルなゲームにすると思ったの?」


周子(ボット)「いや、仮にそうなってたとしてもアイドル第一のPさんが止めるよね?」



理解が追いついていないように見える二人を前に周子が諭すように喋りかける


周子から生えた尻尾はまるでそこだけ別の生き物のように各々が周子の肌を撫で回すようにパタパタとふられていた


亜季「だったら・・・さっきのあなたの様子はなんだったでありますか!!」


周子(ボット)「ん?なんだと思う?あててみて」


尻尾の動きは相変わらずに、周子は亜季と麗奈を意地悪っぽく見つめる

513: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:41:59.67 ID:ZXgRqrN5O

いつの間にか亜季に変身し

狐のような尻尾を生やし

重傷が跡形もなく消える

共通点があるようには見えない

亜季「・・・・・・・・・」

麗奈「・・・・・・・・・」

二人は答えない、ただ構えた銃を向けるだけだ

だが今となってはそれが意味がある行為なのか自信がない


周子(ボット)「......はい、シンキングタイムしゅーりょー」


周子(ボット)「そんな難しく考えることないのに...何が起きたか分からなかった?」


周子(ボット)「うーん、まだこの世界に慣れてないみたいだね、こんなに何でもありなのに・・・」


周子の黒目がちな瞳が細められる。

笑っているようにも狐の顔を真似ているようにも見えた

514: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:45:05.69 ID:ZXgRqrN5O




周子(ボット)「もう言っちゃうとね」






周子(ボット)2「さっきまでのは、ぜーんぶ夢と幻」






周子(ボット)3「ここは仮想の現実、なんでもありの幻想の幻実」



周子(ボット)4「だったら『仮想の中で仮想を作る』能力だってあると思わない?」



一際大きくしっぽが振られたあと、

そこには新たに三人の塩見周子がいた。



515: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:47:49.95 ID:ZXgRqrN5O

麗奈「っはあ!?」

亜季「ボットが、四体・・・!?」



周子(ボット)4「だからそんなんじゃないって、ただの幻だよ」


周子(ボット)3「あたしたちの中の三人はただの嘘っぱち」


周子(ボット)2「ホントのあたしはどれだろうね、当ててみてよ」


周子(ボット)「・・・どう? 麗奈ちゃん」






  これでも絶対失敗しないって言える?









ゲーム開始21分経過

小関麗奈&大和亜季VS塩見周子(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

516: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:52:26.77 ID:ZXgRqrN5O
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
神谷奈緒


大体十分くらい経った


爆弾みたいな衝撃を肩に喰らい

緑の氷柱みたいなナイフで襲われ

黄色いイガ栗のトゲを浴びせられ

水色と赤色の薄い板を叩きつけられてから

・・・
・・


_____________

 神谷奈緒  75/100


_____________

_____________

 梅木音葉+ 97/100


_____________

517: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:54:04.45 ID:ZXgRqrN5O

もう正直よくわからん

音葉さんの音を使った攻撃、

それはその場で発生する音を武器に変えてるみたいだ

だから次に何が来るか読めない、いや、自分の立てた音なのにと言われても・・・


例えばあたしが無理な動きで音葉さんの攻撃を避けたとき、

次の瞬間、靴裏と地面が擦れる音(スキール音だったっけ?)をダーツの矢みたいにして投げてくるし

こっちから反撃してやろうと素手で殴りかかろうと駆け出したときは、

その走り出すために地面を強く踏み込んだ音をカナヅチみたいにして殴りつけてきた


挙げ句の果てに、だったらあたしが動かなければ音葉さんも武器が作れないんじゃね?

と思ってその場に仁王立ちして待ち構えたところ音葉さんはいきなり口笛を吹き始めた。

口笛で余裕をアピールしてあたしをを挑発してんのかと思ったら、この口笛が楽器の演奏かよってくらいすげえ上手だった

で、もう予想は付いたかもしれねえけど、その口笛の音も武器にしやがった。

見た目はガラスで出来たレイピア、

あたしの音でできた武器より数倍綺麗だった

518: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:55:50.97 ID:ZXgRqrN5O

奈緒「なんっ・・・なん、だよ!?・・・わっけわかんねぇ・・・!」


ぜえぜえと肩で息をしながら音葉さんを見る


音葉(ボット)「疲労、弱音、少しばかりの諦念の色......やはりまだ完全には諦めてくれないのですね」


見ると音葉さんの手からは鞭みたいな紐が出てきていた。

色は灰色で、なんていうか鮮やかさのない、くすんでくたびれた色だ。たしかに疲労を表してるっぽい色だ



ヒュンッ



音葉さんがその場から動かず、腕だけを横に振った

灰色の鞭がそれにならってこっちに唸りを聞かせながら迫ってくる


あたしはもうろくに動けないので辛うじて腕を上げてそれを防いだ、

だが腕にはビリビリと衝撃が伝わる、そりゃ腕だって体の一部だし

519: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 00:59:49.14 ID:ZXgRqrN5O

逃げようにもここは山の中の道路で一本道、ガードレールの向こうは小さいけど崖があって、

逃げ道としてはできれば選びたくない


ただ、この能力による攻撃、一つ一つのダメージは実は大したことない



奈緒「はぁー、はぁー、・・・悪いけどなぁ、音葉さん・・・手数だけでチマチマこられても・・・はぁー・・・」


音葉(ボット)「..........?...」


あ、むり疲れすぎて声も出ねえ、スタミナはそんなに減った感覚はないけど疲れはそれと関係ないのかもしれない




奈緒「それに・・・音葉さん、攻撃が・・・どんどん・・・弱く、なってきてるぜ・・・?」


音葉(ボット)「.........そのようですね...あなたの音が弱くなってきていますから...」


奈緒「・・・あたしのスタミナを削り切るのと・・・音葉さんの攻撃が、な、何の意味もないような弱いものになるのと・・・どっちが早ぇかな・・・」

520: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:01:39.57 ID:ZXgRqrN5O

これが未だにあたしが勝負を投げない理由。

この得体の知れない回避不能の攻撃は無限に続くわけじゃない。

音葉さんはちょくちょく自分の音を武器にしていたが、連発はできないらしい

それに一度使った武器は次々に消えていっちまうみたいだ。


だからこれは我慢比べだ。


ゲーム内の世界だからか、あたしの体は今のところ目に見える傷はない。骨折やカスリ傷もない、ただしびれてるだけだ


だから心が折れなきゃ問題ない。思い返せば音葉さんもなんかそこは褒めてくれてた。


そうだ音葉さんとのバトル展開になってからどれくらい経ったんだ?


あたしは・・・そうだよ、加蓮!加蓮を呼び止めようとして邪魔されたんだった!

521: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:05:37.48 ID:ZXgRqrN5O

しかしなんであのタイミングで。

音葉さんが「足止めが役目」みたいなことを言ってた時から思ってたが、やっぱり、ボットたちは手を組んでるのか・・・?


奈緒「なぁ・・・音葉さん、あんたらには仲間とかがいるのか・・・?」

答えが返ってくるとは思ってないが質問してみる


音葉(ボット)「(...疑問、ではなくほぼ確信している...だから音に震えがない...隠しても意味はなさそう...ですね)」


音葉(ボット)「(...むしろ、現状を教えることで諦めさせることができれば、彼女を倒すことさえ可能になるかもしれません...)」





音葉(ボット)「...戦力外の、いえ...《戦力外たちの宴》でしたか...」

奈緒「・・・?」


音葉(ボット)「私たち、一部のボットが与している組織の名前です」


奈緒「・・・!やっぱりか・・・!」

522: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:07:02.60 ID:ZXgRqrN5O

音葉(ボット)「主に直接戦闘にむかない能力を持つボットたちを、何人かのチームにすることで一個戦力として確立させようとしている組織で、設立メンバーも同じく戦闘力のないボットでした」


音葉さんはさらりと説明してのけたけどあたしは思ったよりも不利な状況に思考が停止しかけた

まじかよ、まだこのゲームが始まってから一時間と経ってないだろ、なんでそんなに敵の足並みが揃ってるんだよ!?


音葉(ボット)「もちろん一人でも戦える人はいますが、私たちの真骨頂は戦闘よりも作戦行動ですから」


奈緒「作戦・・・?」


音葉さんの口からやたらと不穏な言葉ばかり出てくる


音葉(ボット)「トライアドプリムスを結成させないこと、などですかね」


奈緒「・・・・・・は?」

523: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:08:37.11 ID:ZXgRqrN5O

音葉(ボット)「この広く虚ろな世界に生きるボットはひどく不安定です。どのような戦力がどんな戦況を生み出すかわかりません。」

音葉(ボット)「だからこそ貴方たち三人にユニットを組ませるわけにはいかない、最優先で対処すべき相手なのです。」

奈緒「ユニットって・・・ここゲームの中なのに・・・」

音葉(ボット)「だとしても、現実での強力な人間関係が仮想では無意味...ということにはなりません...」




音葉(ボット)「今も...ほかのメンバーには...私たちの仲間が、向かっています」


奈緒「ってことは、凛や加蓮にも音葉さんみたいなのが・・・?」


音葉(ボット)「............」

奈緒「...?」

音葉さんはちらりと視線だけを横に、どこか遠くを見るように動かした

524: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:10:47.62 ID:ZXgRqrN5O

音葉さんの視線の先には、やはりどこかで鳴っている音が見えているのだろうか




音葉(ボット)「...凛さんはもう少し時間が掛かるかもしれませんが」

「...加蓮さんはそろそろ.......倒されるでしょうね」



奈緒「!!?」


音葉(ボット)「...音に気づきませんでしたか?...彼女にも私に少し遅れて戦闘員が向かっていたのですよ...?」





その言葉を聞いて私は吹っ切れた。

もしかしたら音葉さんはあたしを絶望させようとしていたのかもしれないがあたしは逆に奮い立った



ガードレールを踏み越える

525: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:12:43.38 ID:ZXgRqrN5O

別に崖といっても火サスみてぇな切り立った崖じゃねえ、しっかりコンクリートで舗装された壁の、精々20メートル程の崖だ

足から落ちれば大丈夫、のはず

それにさんざん学んだじゃねえか、

この世界に骨折はねぇ、

痛みの代わりにめちゃくちゃ痺れるだろうが、

走ることさえできれば加蓮のところに行ける!!!


と、考えたのが落ちてる最中のことで、あたしは飛び越えた時は何も考えてなかった

助けに行こうとか、仲間のピンチに駆けつけてやる、とかそんなご大層な思考もなかった


というか20メートルでも人は余裕で死ねるだろ・・・





でも脊髄反射であたしはスタートダッシュを踏み切った



奈緒「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

526: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:13:48.29 ID:ZXgRqrN5O
~~~~~~~~~~~~~~~



あたしは一応、最後の知恵として空中から真っ直ぐ落ちるんじゃなくて、

崖の若干斜めの壁を転がり落ちることで落下ダメージを減らそうとしていた、

たぶん即死級のダメージではなくなるはず、たぶん!


音葉さんからしたら、あたしはさぞ滑稽だろう、ギャグアニメみたいに崖を転がりながら落ちてるんだから




ガツッ

527: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:15:25.45 ID:ZXgRqrN5O


回転する視界の中



『ガツッ』





そんなふうに
  
  あたしは壁のどこかに

引っかかり、


   壁からはじかれ
壁から離れて


自由落下   を



このままじゃ


地面にまっすぐ落ち



あ、ミスったかも


ごめん加___

~~~~~~~~~~~~~~~

528: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:16:36.21 ID:ZXgRqrN5O
~~~~~~~~~~~~~~~~


暗黒


暗黒


暗黒


暗黒


音葉(ボット)「...やはり...あなたは最後まで諦めませんでしたか...」





奈緒「・・・・・・・・・あれ?」


あたしは落ちてなかった


それどころか空中に浮いている


音葉さんの声が間近で聞こえた

その方向を見る









奈緒「・・・・・・・・・天使?」

529: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:17:52.80 ID:ZXgRqrN5O

丁度お姫様でも抱えるみたいにあたしを空中で支えていた



背中から翼を生やして



一瞬、天使かと思ったがその翼はべつに神話とか絵画に出てくるあの天使のものには似ても似つかなかった


まず赤い


それに生えているというより、まるで音葉さんの背中から二方向に吹き出しているかのように流動している


それにまるで赤一色の巨大な花火みたいで


それを背景にしている音葉さんもどこか神々しかった



え、こんなすごいのも出せたのかよ・・・

弱くなってねえじゃん

530: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:19:11.82 ID:ZXgRqrN5O

音葉(ボット)「...聞こえますか? 音が燃えるような色......強い行動の意志...どこまでも進むという力強さを持つ音」



「...拓海さんのバイクの音です...」



ブオオオオオオオオオオオオオオン・・・




あたしの耳にかすかに遠くから響くバイクの排気音が聞こえた。


なるほど、この音を使ったのか、


でもなんで音葉さんはあたしを助けたんだ?

531: 降科 2014/03/13(木) 01:21:00.18 ID:ZXgRqrN5O



奈緒「音葉さ・・・な、なんで・・・あたし・・・」



崖を転がり落ちて背中も腹も腕もしびれてるし、助かったと思ったせいで落ち着いて声が出せない



音葉さんはじっとこっちを見ている、あたしはその腕の中のままだ



バイクの排気音に別の音が混じった気がした



音葉さんはまだあたしの質問に答えない

533: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:22:55.99 ID:ZXgRqrN5O

でもようやく、口を開いた


音葉(ボット)「...この音を...待っていました...」



パキン


多分効果音がつくならこんな感じ


あたしの目の前、丁度お姫様抱っこ状態のあたしの腹の上に小さな石が浮いていた


キラキラとオレンジ色に光っている小ぶりだがダイヤモンドみたいだ


これも音葉さんの能力で出てきた音なのか?あたしのよりもひょっとすると音葉さんのよりも綺麗かもしれない

534: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:23:50.95 ID:ZXgRqrN5O



奈緒「・・・これ、なんの音なんだ?」



音葉さんはその綺麗なオレンジの石をじっくり眺めるとあたしを見た


音葉(ボット)「......純粋で濁りの無い音...迷いなき意志のみが奏でる音色...」






音葉(ボット)「......これは加蓮さんのもの...」


加蓮・・・?

535: ◆ecZBoTY/6E 2014/03/13(木) 01:25:26.21 ID:ZXgRqrN5O






音葉(ボット)「加蓮さんの殺意です」








次の瞬間、

オレンジ色のダイヤは

銃弾のように

あたしめがけて_____



_____________

 神谷奈緒   3/100


_____________

_____________

 梅木音葉+ 97/100


_____________


ゲーム開始35分

神谷奈緒VS梅木音葉(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

545: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 21:44:21.30 ID:wq880jQP0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

チャプター
白坂小梅




マキノ(ボット)「...度し難いわね」


遊佐こずえ(ボット)「...ふわぁ...」



八神マキノは現在二つの問題を抱えていた


時系列的にはゲーム開始から27分


場所は屋敷、ほんの数分前まで小梅たちが物資を調達していたところだ


ちなみに彼女は生身である

仮想現実において生身という言葉も使い方がおかしいので正しく説明すると、このマキノは本体だった。

彼女いわく幽体離脱、意識だけを遥か遠くに跳躍させる能力

跳躍した意識は便宜上、仮初のボットの姿を持ち第三者からも一応視認はできる。


だが飛鳥曰く、”蜃気楼” ありす曰く”出来の悪いホログラム”


その程度のクオリティしかないボットなので、マキノはこの能力を偵察と交渉にしか使わないと割り切っていた


交渉、彼女たちの組織を組み立てるに当たっての構成員の勧誘である、ありすがピックアップした場所にいるボットの元へ即座に跳び、話をつける

546: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 21:46:08.45 ID:wq880jQP0

そのマキノが仮初のボットではなく本体のボット、戦闘力もなくプレイヤーに出くわせば敗北必至の状態でここにいる



まずその目的はボット、遊佐こずえの勧誘に成功したため、身動きの取れない仮初の体ではなく本体自ら迎えにいくことだった

何人かはこちらが指定したポイントまで自力で来てくれたのが、それが出来ない年少のボットは誰かが直接出向く必要があったのだ


こずえ(ボット)「...マキノ...こんどは......ほんもの...なのー?」

マキノ「ええそうよ、さっきまで貴方のところにいたのは私の...ダミー、みたいなものね。貴方と一刻も早く話がしたかったから送ったのよ」

こずえ(ボット)「...こずえと...おはなし...するー?」

マキノ(ボット)「一度、私たちが拠点にしている支部に着いたら、になるわね」


さて、とマキノは視線を足元に向ける


今頃は凛のもとに向かっているであろうありすの能力で見つけた気になるボットの反応は二つ

一つは頼りなくふらふら歩き回っていた遊佐こずえ

もう一つは逆にいつまでたっても動こうとしない反応だった

マキノはそのもう一つを見極めるためにこずえを迎えにいった足でここに来ていた




小梅(ボット)「      」



こずえ(ボット)「...こうめ...ねてるのー?」

マキノ(ボット)「...もし本当にそうなら、辻褄は合うんでしょうけどね」


547: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 21:46:39.85 ID:wq880jQP0


スタミナがゼロになりとっくに消滅しているはずのボット、白坂小梅

それがまるで埋葬されるのを待つかのように静かに横たわっていた

一つの明確な異常である。


マキノ(ボット)「プレイヤーのほうの小梅さんの能力かしら...いやそれにしては意味がわからない、分析できそうなところも見当たらないわ...」


こずえ(ボット)「......?」


マキノ(ボット)「......まあいいでしょう、こずえさん?改めて私たちと来てくれないかしら」


正直マキノとしてはこの事態は非常に気持ち悪い、解決しておきたいものなのだが

だからといって非力な自分がぼんやりとしたこずえをいつまでもこんな所に立ち止まらせておくわけにはいかない


こずえ(ボット)「......うんー...」


こずえはマキノの手を握る、マキノはそれを握り返した


まず屋敷から出て拠点を目指そう、

548: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 21:47:26.43 ID:wq880jQP0


拠点には今は飛鳥がいたはずだ、というか彼女はあそこからほとんど動いていない


あずきは今確か、ありすが連れ出してしまっていたはずだ

あの六人も事務所の方を守っているし

ほかの面子もトライアドプリムスの分断に動いていた



ついさっきまではありすとマキノと飛鳥の三人、

その少し前は拓海と音葉の二人もいた、

そのちょっと前は晴と舞の二人組み

さらに前は事務所の防衛部隊の六人


でもその前は八神マキノ一人しかいなかった



マキノ(ボット)「仲間集め...論理的な判断から私が始めたことだったけれど...ずいぶん賑やかになったものね」




マキノ(ボット)「いえ、物思いにふけっている場合ではないわね、行くわよこずえさん」



消えない死体に並ぶもう一つの問題にして謎、遊佐こずえ



”完全になんの能力も持たないボット”である彼女の手を引き、マキノは屋敷をあとにした



消えるはずの死体が在り

存在するはずの能力が無い


ないはずのものがあり、あるはずのものがない


マキノが対処すべき問題は想像以上に大きい


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

551: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:03:21.46 ID:wq880jQP0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

事務所前道路


小梅「と、ところで、なんで...じ、事務所だったん、だろう...ね?」


輝子「フヒ?」

幸子「どういう意味です小梅さん?事務所じゃ何かだめなんですか?」


小梅「えっと...ほ、ホラーゲームとか...だと、重要なあ、アイテム、があるのは...もっと、大きくて、ぶ、不気味な館、だから...」


輝子「でも、キノコあった...私にはとっても重要...あ、でもわ、私だけか...フヒ...」


幸子「いえいえ輝子さん、貴方のアイテムはボクらにとっても行動の目安として大きなヒントになりましたからね!そのキノコはボクらにとっても重要でしたよ!!」


輝子「さ、さっちゃん...ありがとう......って、このキノコが言ってる」


幸子「!?」

552: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:04:04.16 ID:wq880jQP0


三人は事務所へ続く斜面を下っているところだった。

いくら車が無いとはいえ車道を渡るのは憚られ歩道を使っている


幸子「しかし何故、事務所があるのか、ですか、やはりボクらから見て一目で特別な場所とわかるので、目印にしやすいと晶葉さんが判断したのでしょう」


小梅「や、やっぱり、そうなの、かな...目印って...なん、の、だろ?」


幸子「まぁこの世界のことですから輝子さんのようにレアなキーアイテムとか、そんなとこでしょうね」


輝子「フヒヒ、み、みんなで、い、一緒に...能力使えると、う、うれしい...」


小梅「も、もし...他の、人たちの分も..あ、.アイテムが、あったら...もっていって、あげよう?」


幸子「ふふーん!すばらしいアイデアですね!皆さんがカワイイボクらに泣いて感謝するさまが目に浮かぶようです!!」

553: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:05:21.57 ID:wq880jQP0

彼女たちは知らない

人がその身の奥に持つ悪意を

この場合厳密な定義では人間ではないかもしれないが、



有り余る量の財宝を前にしたときに人がとる反応は二つ



自分の裁量に応じて所持するか

あるいは一つ残らず独占するか


小梅の提案は前者、


そして晶葉がプログラムした敵意という概念

それは闘争への意思と悪意を生み、

ボット達が持つ悪意は後者を選択していた




カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

554: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:08:07.92 ID:wq880jQP0


最初にそれを見つけたのは輝子だった


他の二人より少しだけ猫背だったからこそ、その奇妙な置物が目に入ったのだ


輝子「......フヒ?」


歩道の脇、排水溝、もし雨が降ったなら水が流れ込んでいたであろう細長いスペース


現実ならごみが詰まっていたり、そもそもかなり汚い場所なのだが仮想の中ではお飾りらしく、きれいなものだった


しかし、その「きれい」はあくまで「清潔な」という意味であって、


輝子「な、なに...これ......ほ、星?の...お、置物?」


星が瞬くような「綺麗」ではない


輝子が覗き込んだ排水溝の蓋同士の隙間


カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ



DVDディスクほどの大きさで、黄色くて星型の”何か”


それが排水溝を埋め尽くすように大量に隠されていた



携帯電話のバイブレーションのように振動しながら、周りのものを引っ掻いて



輝子「!!......さ、さっちゃん!うめちゃん!」


輝子は明らかな異常を察して近くの二人に呼びかけた



その声の”振動”を感知して《ミツボシ効果》が発動してしまうとは知らずに

555: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:09:52.78 ID:wq880jQP0

カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカンッ!!!




あるものは他の星を押しのけ、あるものは排水溝の蓋を弾き飛ばし


癇癪球が破裂するようにいくつもの星型が炸裂した


この場合の「星」とはデフォルメされた星マークのように五つのトゲを持ったもので、


この場合では攻撃的でしかない形だった



輝子「ひあ!?」


その大部分がその星を覗き込むように見ていた輝子を直撃する

この世界がゲームであり、製作者が池袋晶葉である以上、過剰なダメージエフェクト、例えば流血や肉体損壊は起きない

だが「刺さる」などの現象自体は、リアルに再現されていた


小梅「...え...」

幸子「輝子さん!?」


突然の悲鳴とそれをかき消す破裂音に二人が振り向く


二人が見たのは星輝子の背中、


それがこちら向きに倒れてきた、


顔が見える、驚いたままの顔だ


次に見たのは星の形をした何か、


輝子の
首に肩に鎖骨に胸に二の腕に肘に肋骨に鳩尾に腹に腕に手に脛に膝に


びっしりと突き刺さった星型の何か、


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

556: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:15:21.76 ID:wq880jQP0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
《ミツボシ効果》の能力によって生み出される星型のオブジェクト


この一つ一つの星にはスピーカーとマイクに似た機能がついている


一つでも星が振動を感知すれば、その振動がほかの星にもワイヤレスで伝播していく仕組みだ



この能力のタチが悪いところは、

星たちがスピーカーさながらに伝える度に振動を際限なく大きくしていくことだ



二つを離れた所に置いておけば、まるでワイヤレスの糸電話のように一方の地点で発生した物音を知ることができるセンサーになる




だが一箇所に密集させておいて置かれると最悪だ、


密着した星と星と星が互いの振動を無限ループ式に増幅してしまう




そしてこの星は、振動がある境界を越えた瞬間、爆ぜる

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

557: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:16:19.47 ID:wq880jQP0

小梅「しょ、しょーちゃ...」


幸子「輝子さん!!」


不意打ち気味に殴り上げられたように

輝子の軽い体は打ち上げられ、背中から落下した

そしてその時輝子が受けた衝撃も

輝子の体中を行き渡った振動として星達は感知する

仰向けに倒れ伏した輝子を起点に、刺さっていた星が射出される

もちろん星が抜けたあとの輝子の体に刺された痕などは無い

問題はそこから飛び散った星たちの行方である

四方八方に四散した星は輝子に駆け寄った二人にも襲いかかった


幸子「うわわっ!??」

小梅「ひっ...!」

まるで黄色い手裏剣のように、振動によるエネルギーを回転に変えながら流星が迫る

だが輝子と違いワンクッション挟んだおかげか、振動は弱まり、星が体に突き刺さることはなかった

一つは咄嗟に顔を覆った小梅の長い袖を巻きこみ、

一つは幸子の額にクリーンヒットした

幸子「あいたっ!」

小梅「あう...」

558: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:18:16.93 ID:wq880jQP0
《ミツボシ効果》の爆発的攻撃力は密集してこそ意味がある、

一度飛び散ればその威力は次第に弱まっていく、だから大きなダメージにはなってないだろう

大打撃を喰らった輝子もなんとか気絶することもなく背中をさすりながら上半身を起こした


輝子「...ひ、ひどい目にあった...」

全身に痺れが走っている、それも体の内側を直接侵すような痺れだ

小梅「しょ、しょーちゃん!」

運良くほぼダメージのなかった小梅が輝子にしがみつく

小梅「だ、だだ大丈夫?い、痛く、ない...!?」

輝子「お、おおう...たぶん...だいじょう、ぶ、フヒヒヒ...」

本気で自分を心配してくれている小梅の背中をさするだけの余裕をみせ、

輝子はできるだけいつもどおりの笑みを浮かべた

幸子「ふん!ボクのカワイイ顔を狙うどころか輝子さんたちまで危険にさらすなんて!これは許せません!!」

幸子も完全に不意を打たれ他にもかかわらずいつもの調子を取り戻していた

頬を膨らませ、わかりやすく怒りを表している

559: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:19:03.69 ID:wq880jQP0

輝子「...も、問題ない、よ...さっちゃん、そんなに痛く、ない」

小梅「...ほ、ほんと?...だいじょう、ぶ?」

幸子「輝子さんに大事ないならそれでいいですが、なんですか!このイヤガラセは!カワイイボクへの妬みですか!」

あたりを見渡す、これを仕掛けた輩がいるはずだ、だがそれらしき人影は周囲には見当たらない


幸子「ふふん、こんなちまっこい罠でボクらを嵌めたつもりですかね!こんなの全然聞いてませんよーだ!」





??「そうでやがりますか」


声が聞こえた

輝子「!」

小梅「?」

幸子「む!?」


ズンッ


そして力強く地面をけるような音が三人の耳に届く

560: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:19:44.17 ID:wq880jQP0

??「ふっふっふ、罠にはしっかりはまってるでごぜーますよ、幸子おねーさん」


ズンッ!


??「未央おねーさんののーりょくは、だめーじをあたえることには不向きでやがりますが、」


ズンッ!!


??「おかげで、近づく隙が出来たでごぜーますよ!!」


ズズンンンンッ!!!!!


地を揺るがす足音が振動を呼び、また地面に転がった星が震え始めたが、それどころではない


輝子「なにか...くる?」

小梅「え...」

幸子「こ、今度はなんですか!」


足音の聞こえてくる方向、三人が見つめる先には道路沿いのビルのうちの一件、

隣の建物より少し背が高い、その影に隠れる位置から音が地面を伝わって響いてくる


ズズンンン・・・


足音が止まる

「それ」はたった今三人の姿を認め、三人もまた「それ」を見上げた

561: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/13(木) 22:21:08.93 ID:wq880jQP0




見上げるような巨体、そしてある意味見飽きた巨体





この時代なら博物館に行かなくとも教育番組のチャンネルを回せば見られるその姿




かつての地球で猛威を振るったウロコの暴君





名前なんて9歳児でも知っている








仁奈(ボット)「ティラノサウルスのきもちに、なぁるでぇすよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」









雄叫びをあげるそれは、もはや着ぐるみではなかった


ゲーム開始44分

輿水幸子&星輝子&白坂小梅

VS

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&市原仁奈(ボット)&古賀小春(ボット)

《ミツボシ効果》《U=パーク》《M・M・E》発動中


継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

565: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:18:57.88 ID:3UoAsq0yO

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
三好紗南

ゲームをプレイしていると、数時間があっという間に過ぎていく

退屈な時間ほど過ぎるのは長いと言うけど、じゃあゲーマーは退屈知らずの人種なんだろうか


べきっ


ぽいっ



ビシッ



紗南「・・・・・・・・・」



ターーーーン・・・

566: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:22:34.73 ID:3UoAsq0yO

あたしがむしり取った筐体のパーツが見えない何かにはじかれるように部屋の隅に飛んでいった


そのあと遅れて狙撃音が届いた

ライフルとかの弾は音速を超えるから、近くだとわからないけど遠く離れると弾の衝突と耳に狙撃音が届くまでにラグが生じる

そんなことをたしか亜季さんが言ってたっけ

で、そのあとそのラグの長さとライフル弾の種類を見極めれば相手のいる距離がわかる?とかなんとか


理屈はわかる、あたしも中学生だし、理科で音が届く時間と距離がどうたらこうたら・・・


紗南「・・・やだ、また現実逃避してた。やばい、やばいよあたし」

べきっ


ぽいっ



ビシッ



紗南「・・・・・・・・・」



ターーーーン・・・

退屈はゲーマーを燻り殺す

567: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:23:49.64 ID:3UoAsq0yO

本来ならここは遠く離れた狙撃手について対策を練るとかするべきなんだけど

どうしようもない、あたしの能力が教えてくれたのが相手は名狙撃手春菜さんってことだけ、


その狙撃の腕は今、あたしの目の前で起きたことが証明してる


あたしの手のひらに収まるようなちっこい筐体の部品を空中で打ち抜くレベル


多分ちょっとでも頭を覗かせたらそこから撃ち抜かれていく

べきっ


ぽいっ



ビシッ



紗南「・・・・・・・・・」



ターーーーン・・・

あたしはもう動けない、でも動きたい

ゲームもせずじっとしているのが苦痛で仕方ない、

568: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:30:27.28 ID:3UoAsq0yO

さっきからの緊張とかストレスが薄れてきてる。

なんであんなにビクビクしてたんだろうって思えてきた

それより退屈がやばい、頭の底をグラグラ火にかけられているような気になってくる


筐体のライフル弾が当たって削れた部分に指を入れる、力を込めるとパキッとちいさい破片が取れた

放り投げる、


ビシッ!


ターーーーン・・・



もういっそのこと


筐体の影から出てみようかな、思いっきり走れば弾も当たらないかも

いや走りだしたと見せかけて逆方向に逃げるとか、あ、いけるんじゃない?





紗南「わかってる、わかってる・・・多分あたし、怖がりすぎて頭おかしくなってる・・・」

569: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:34:40.23 ID:3UoAsq0yO

いけるわけないじゃん、何考えてんだあたし

両手でググッと頭を抑える、フロアの冷たい床に付け続けてたお尻が痛い

テスト前日にむりやり教科書の中身を詰め込んだ後みたいに頭がぼんやりする


なにか変化が欲しい、

今が何分経ったのかもわからない、10分?20分?それよりもっと?


紗南「・・・・・・・・・・」


離れたところに転がったゲーム機はあたしが触れない限り変化しない



ああ、春菜さん、弾切れ起こしたりしてないかなぁ・・・

どっちにせよここからじゃわからないんだけど

570: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:36:47.98 ID:3UoAsq0yO

紗南「・・・・・・・・・・・・」


紗南「・・・・・・・・こんなの」


紗南「こんなのクソゲー過ぎるよ!!!」


スナイパー1体に足止めされてそのあと延々ジリ貧で時間が経つの待ってるだけじゃん!!


敵兵が攻め込んでくるとか!!味方から救援物資が来るとか!!


援護爆撃とか!!救急キットとか!!ゲームならそういうイベント起こるべきでしょ!!


両手で床面をバンバン叩く

あたしもゲーマーの一人、台バンとかはしない、代わりに床に手のひらをガンガン叩きつける

571: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:39:04.12 ID:3UoAsq0yO


緊張、ストレス、退屈、恐怖、そんなのが混ざっておかしくなって、変なスイッチが入ってるのは自覚してる


でもこのままじゃ精神が焦げ付いちゃうような、

だんだん何も考えられなくなっていくような

何も覚えてられなくなるような、

時間とともに何かを落としていくような、

漠然とした予感が湧いてきていた


それがあたしをグラグラ揺さぶる



力いっぱい叩いているのに床からはペチペチと情けない音しか響かない


紗南「あーーー!!もーーー!!!」


たまらずバリケードにしてもたれかかっていた小さい筐体に後頭部で頭突きをする

572: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:41:44.65 ID:3UoAsq0yO

あんまり痛くな__


ガタ、バタン!!


背後で倒壊音がした、

周りが明るくなった、

背中に当たっていた硬い筐体の感覚が離れた


・・・は?


まってよ、


今の頭突きで・・・?


今の頭突きなんかで筐体が倒れたの!?


こんなちっこいあたしの頭突きで!?


あたしは床に座り込んだまま後ろを振り向く、
筐体がこんなに軽いなんてそんな




あたしが背もたれにしていた筐体は穴だらけだった。

573: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:43:28.07 ID:3UoAsq0yO


ライフルの弾痕じゃない


筐体の外装ははがされ、基盤がむき出しだし、

ボタンやスティックも全部引っこ抜かれてる

画面に至ってはひび割れどころか画面を覆うガラスすらない


いつの間にこんなに壊されてたの・・・


そこであたしは気づく、

あたしの足元にびっしりとゴミが落ちていることに

ゴミじゃないあたしがひび割れたとこから少しずつむしり取った小さな破片だ







でもどう考えてもゲーム筐体が傾いて倒れるくらいまでむしった覚えがない


紗南「・・・これやばい」

574: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:45:49.73 ID:3UoAsq0yO

あたしは一体どれくらい前からここにいる?


紗南「・・・・・・あたし自分が何してたか覚えてない」


ゲーマーのあたしはいつの間にゲーム筐体を壊し始めた?


変化は訪れた


あたしの最後の砦の崩壊によって


穴だらけの窓ガラスからは明るい日差しが__


紗南「って!!?ここ無防」


あたしは反射的その場から飛び退いた


ゲーム機の方向に飛んでいく



紗南「いったぁあ!?」


あたし自身が放り投げていた破片がヘッドスライディングの要領で突っ込んだあたしの胴体にやたら刺さる

575: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:48:14.70 ID:3UoAsq0yO


ゲーム機を手に取り振り向く、


あたしがいるのはゲームコーナーを抜けた、フロアから出るエレベーター行きの通路にかかった部分


いくらこのビルが全面ガラスだからとはいえ、ここは安全領域のはず、外からは完全な死角だし


紗南「へへ、まさかバリケードをぶっ倒して気を引くとは思わなかったでしょ・・・」


多分普通に駆け出してたらやられてた


これはラッキーだったのかな、さてこのビルから逃げ出そう

春菜さんがこのビルに踏み込んでくるかもしれないし



さっき撃たれた左腕の痺れもいつの間にか消えていた



紗南「さ!なんだかうまくいったし逃げよっ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

576: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:50:02.58 ID:3UoAsq0yO

ついさっきまで軽い錯乱状態だったことも忘れて紗南は元気に行動を再開する


ゲーム機を抱え直し、地面にうつ伏せに倒れていた姿勢を起こす、


あとはエレベータに乗り込めば、


だが紗南はそのまま駆け出そうとして転んだ


右足がふらついたのだ


紗南「いたた、緊張とかで膝が笑ってるや・・・」


と、もう一度起き上がろうとして理解する


紗南「あたしの、右足」


痺れて動かない、膝ではなく足全体が


この痺れは知っている、さっきも体験した


紗南「・・・撃たれた?」


ビリビリとしびれている、このゲームにはプレイヤーに弾痕や切り傷はつかない


だから気づかなかった、さっきの瞬間、足を打たれたことに

577: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 01:52:52.41 ID:3UoAsq0yO

自分が動けないように楔を打たれたことに


紗南「やばい、なんかやばい!!」


紗南は左足だけで立とうとして、それも失敗すると床を這うように移動を始めた

イモムシのような動きにためらいはない、


上条春菜はあの状況でも弾を当ててきた


そこまでの能力による技術、このまま自分を逃がすはずがない


そう時間をおかずこのビルに入ってくるだろう

579: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 06:13:05.38 ID:3UoAsq0yO

紗南はさっきまで狙撃手に怯え筐体の影に閉じ込められていた 


片足の動かない紗南は、今度はこのビルそのものに閉じ込められかけている 


細くて非力な両腕で床面を押し、懸命に自身を運ぼうとしている 

その動きは見ていて退屈なほどに遅い、 


もしこのフロアに誰かが来たら逃げきれない 






___________ 

 三好紗南+ 65/100  
  

_____________ 



ゲーム開始25分経過 

三好紗南VS上条春菜(ボット) 

継続中 


~~~~~~~~~~~~~~~


578: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 06:05:35.21 ID:3UoAsq0yO

~~~~~~~~~~~~~~~

仮想空間内町外れの一戸建て



棟方愛海(ボット)「揉ませてください」


白菊ほたる(ボット)「え、えええぇ...?」

580: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 06:18:33.02 ID:3UoAsq0yO

愛海(ボット)「本当におねがい!この世界無駄に広いから全然出会いがなかったんだよ!」

「やっとあえたんだから!お願いほたるちゃん!!このとおり!あたしを幸せにして!」


ほたる(ボット)「え、あの...幸せとか、そ、そういうのは、...私、疫病神だから...」


愛海(ボット)「そんなことないよ大丈夫!なんだったらあたしのテクでほたるちゃんも幸せにしたげるから!」


ほたる(ボット)「そういうのは...その、えっと...あぅ、恥ずかしいこと言わないでください...」


愛海は、仮想空間なら胸をもんでも捕まることはないと張り切っていた

それでまずこの街全体を一周しようとして町外れに出たところ、人気のないところに見えにくいように建てられていた家を見つけていた

581: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 06:21:12.76 ID:3UoAsq0yO

ほたる(ボット)「ところで、どうして私なんかを...?」


愛海(ボット)「だって・・・」


ほたる(ボット)「?」


愛海はちらりと周りを見渡す


壁紙が剥がれたり、棚が倒れたりしているなど荒れ放題の室内、


窓ガラスにもヒビが入っっているものや、そもそもガラスがはまっていない窓もある、


人気のない仮想空間内では悪い意味で生活感がある


まるで強盗が入り込んだ跡のような風景だ


壁際、綿の飛び出したソファの上では金髪の小柄な少女が寝息を立てている


望月聖(ボット)「......すぅー,,,」

582: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 06:28:49.02 ID:3UoAsq0yO

愛海(ボット)「ほたるちゃんたち、ずっとこんなとこいるんでしょ?
だからほたるちゃんに、あたしからなんか出来ることないかなぁって、考えたら、もう揉むしかないかなって」


ほたる(ボット)「あの、...そういうの結構です...から、私はこれでいいんです...」

隣の部屋から物音がする、戸棚に食器でも入れているのか、カチャカチャと小さく陶器がぶつかる音が聞こえる


そしてそこから愛海やほたるより少し年上の、どこかふんわりとした雰囲気の少女が顔を出した


高森藍子(ボット)「ふぅ、やっと見つかりました!」


愛海(ボット)「あ、藍子さん何探してたの?ティーカップ?」


藍子の手には紅茶などを飲む時に使うようなカップが2つほどと、それを乗せる用の小皿が一枚だけ抱えられていた


藍子(ボット)「うん、これ?...この家の中からなんとか使い物になりそうなものを探してたんです」

583: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 06:31:13.22 ID:3UoAsq0yO

藍子(ボット)「ほら、ここ...すごく散らかってて、いろんなものがダメになってるから...」


そう言って困ったようにはにかむ藍子の手の中のカップもよく見るとフチが欠けていたり、ヒビが入っている

愛海(ボット)「...........」


おそらくかなり妥協して、妥協に妥協を重ねてやっと使えると判断したのだろう


仮想空間でありながらあまりに理不尽、

どうしてここだけこれほど内装が荒んでいるのか

584: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 06:33:45.56 ID:3UoAsq0yO


愛海(ボット)「やっぱりわかんないよ...なんでみんなこんなとこいるのさ...?」

ほたる(ボット)「?...す、すみません...」


聖(ボット)「ん...むにゅ...?」


藍子(ボット)「................」




愛海(ボット)「このだだっ広い世界でなんでわざわざ廃墟みたいなボロ小屋を選んだの?」


ほたる(ボット)「えっと、その...私がいると、みなさんにご迷惑が...」


愛海(ボット)「それ、さっき聞いた!」

585: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 06:36:01.07 ID:3UoAsq0yO

都会的な町並みと違って完全に廃墟然とした外観の建物に踏み入ってみると、なんと三人ものボットがその廃墟を住処にしていたこと

愛海は最初、それを不思議に思って訳を訊いてみたのだ


藍子(ボット)「あのね?愛海ちゃん・・・?だからさっきも言ったと思うんだけど・・・」



愛海(ボット)「それも聞いた!」

「『閉じ込められてる』って何なの!?ほたるちゃんも聖ちゃんも藍子さんも何も悪いことしてないじゃん!!」


そういうわけだった

詳しいことは頑なに教えてくれないが、三人はこの建物に閉じ込められていると口をそろえて言うのだ

586: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 06:39:34.08 ID:3UoAsq0yO

同じボット、仲間でありながら自分たちより雑に扱われている事実が愛海は腑に落ちないのだ

事実この家は妙な力が働いていて、来客だった愛海は出入りが可能なのだが、ほたる達には扉が開かないらしい


聖(ボット)「...くぅくぅ...」

藍子(ボット)「うーん、私もよくは知らないんですよ、気づいたらここから出られなくて」

ほたる(ボット)「えっと、すみません...私も」


しかし三人はそのことになんの感想もないらしいのだ、

オリジナルの性格のせいだろうか、この現状に諦めをつけていた

その理由も愛海にはわからない

587: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 06:40:56.71 ID:3UoAsq0yO

愛海(ボット)「あーーもーー!!わかった!」


ほたる(ボット)「!?」

愛海(ボット)「あたしが三人をここから出してあげる!!その方法を見つけてきたら●●●●もましてね!!たっぷり一時間!!」


聖(ボット)「...え」

藍子(ボット)「え?」

ほたる(ボット)「ぇ...」


全く意味がわからない

なぜ三人がこんな場所を受け入れられるのか

そもそもこの場所がなんなのか

自分がどうしてこの三人を助けたいのかもわからない


とりあえず、まったくもって何一つ理解可能な要素のないままに愛海の個人的な戦いは始まった


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

594: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 23:38:32.24 ID:qwRRkAnh0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

チャプター
双葉杏



愛海(ボット)「ねぇねぇ、杏さん!これどう思う!?」


・・・杏と杏のパチモンが惰眠を貪ってたら

やけに神妙な表情をした愛海が来たんだけど

寝そべったベンチから見上げたその体にはボット(だったっけ?)であることをあらわすバッジが付いてる


あれ、これ敵じゃね?


でもなんか愛海はこれといった攻撃行為を行ってこない、そもそもゲームとか言われても杏にはまだピンと来てない


杏(ボット)「あれ、愛海じゃんどうしたのさ、杏のオリジナルを倒すなら今だよー」


杏「そのオリジナルを売るとは何事かー!、杏はここでのんびりするんだもんね」


それにいわゆるチュートリアルとやらで杏のところにやってきた敵っぽいのともこれといった争いは起きてない

寝っ転がっているからか杏の口からは、緊張感の欠片もない声しか出ない

595: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 23:40:40.99 ID:qwRRkAnh0


愛海(ボット)「いやーその杏さんのぐうたらさを見込んで相談に乗って欲しいんだけどさ」



杏「飴の量しだいでは相談に乗ってやらないこともないよー」



愛海(ボット)「飴かぁ・・・、あ!・・・ちょっと待って!」


そう言って愛海はポケットをあさると中からキャンディをだした、仮想空間なのに嗜好品まであるなんて晶葉頑張ったんだなぁ



愛海(ボット)「なんか拾ったんだけど、回復アイテムらしいから大事に食べてね!」


杏(ボット)「あーいいなぁ、愛海、杏も一個ちょーだい」


愛海(ボット)「ごめん。もうこれ一個しかない」


愛海がくれたのは随分派手な色のキャンディで、確かイベントが迫ってる忙しい時期にプロデューサーがこれと同じのを食べてたのを見たことがある



杏「んー、うまうま」


ゲーム内でもこんなふうに飴を味わえるとは、ますます現実に帰るのがめんどくさいね!


杏「さて、じゃあ愛海、●●●●絡み以外で相談に乗ろうじゃないか」


一応の誠意として杏は話を聞くために体を起こした、背中はベンチにべったりもたれてるけど



愛海(ボット)「えっとさ、あたしの仲間、もちろんボットなんだけど、廃墟みたいなとこに閉じ籠ってて、どうしたらいいと思う?」


杏(ボット)「なにそれ、杏以外にも怠けてるボットがいたの?」




愛海(ボット)「いや、そういうんじゃなくて、本人たちは閉じ込められてるって言って、しかもそれを受け入れてるんだよ」



杏「・・・なに、監禁?」



杏(ボット)「この世界に何かを閉じ込める場所なんてあったっけ?」



愛海(ボット)「うん、変な廃墟なんだ。あたしは入ったり出たりできるんだけどその子達は出入りできなかったんだ」

596: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 23:42:18.32 ID:qwRRkAnh0
杏「・・・なんか物騒な話だね、」


愛海はベンチの上で杏が体を起こして出来たスペースに座った


杏(ボット)「というか、なんで閉じ込められてるのさ」

愛海(ボット)「うーん、それは教えてくれなかった」


杏「閉じ込められたってのはいつから?」

愛海(ボット)「詳しくは教えてくれなかったな、ゲーム開始して直ぐだったらしいけど」


杏(ボット)「というかなんでこのゲームのために作られてこのゲーム内で閉じ込められたの?」



杏「たしかにおかしいよね、あ、この飴なんか溶けるの早い...愛海、おかわり」

愛海(ボット)「・・・もうないんだって、杏さん」

杏(ボット)「というか貴重な回復アイテム浪費しちゃったよ、杏のモデル」




杏「別に問題ないでしょ一個くらい、別に誰もスタミナで困ってる人なんていないでしょ」

杏(ボット)「まぁ杏たちもこんだけのんびりしてるし、他の誰かがドンパチしてるとも思えないね」




愛海(ボット)「いや杏さんたち、雑談もいいけど相談のってよ!」


愛海が不満そうに言うけど、杏はものの相談相手には向かないことぐらい承知していて欲しいなそこは

597: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 23:43:34.00 ID:qwRRkAnh0

愛海(ボット)「杏さんも結構ひきこもりがちだし、その現実をゆるく受け止めてる感じがするし、もっとこう、思い当たる節とかないの?」

愛海(ボット)「飴一つ分でいいからあたしに知恵を貸して!ついでに胸も貸して!」


杏「知恵ねぇ・・・・・・あと胸は貸さない」




なんというか、杏としてはこんな未知の世界に連れてこられただけでもお腹いっぱいなのにそんなよくわかんない話されてもな・・・





杏「あと、愛海・・・ひとつだけ異議ありだよ・・・」





愛海(ボット)「異議?」

杏(ボット)「・・・一つでいいのか」



杏は態勢こそだらけたままだけど表情だけはキリッとしたつもりで愛海に宣言した





杏「杏は引きこもっているのではない!これは・・・印税生活へ向けた、

充電期間だよ!!」



どやぁ


598: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/14(金) 23:46:39.12 ID:qwRRkAnh0


愛海(ボット)「じゅ、充電期間?」

杏「そう、そのとおり、杏は来るべき日のために英気を養っているのさ・・・!」





愛海(ボット)「・・・充電、充電かぁ・・・」



杏(ボット)「どしたの愛海?」



愛海(ボット)「充電・・・」



愛海はその場で杏の言葉をぼそぼそと繰り返すと突然立ち上がった



愛海(ボット)「杏さん!あたしなんかとっ掛かりみたいなの掴めたかも!」



杏「おー、よく分からないけどやったねー、じゃあもういっかい寝よっと」

杏は愛海が立ち上がったことで再び出来たスペースに頭を横にした


愛海(ボット)「じゃあ、あたしは行かなきゃ!またね!杏さんたち!」



杏「また飴見つけたら持ってきてねー」

杏(ボット)「うーん、愛海も戦わないのか・・・杏今のところ仕事してるボットを見てないような気がする」


愛海はそのままこっちに手を振って何処かへ駆け出して行った


うーん、なんだったんだろ



ゲーム開始30分経過

報告事項なし

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

599: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:20:53.76 ID:1xY+x1YV0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










周子(ボット)「んー、・・・・・・・やだ♪」











廃屋のひと部屋に拒絶の声が小さく鳴った

600: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:21:36.92 ID:1xY+x1YV0





ほたる(ボット)「で、でも...それだと周子さんも...」


藍子(ボット)「そうですよ・・・場合によっては周子さんだけの被害では済まないんですよ!?」






荒み放題の家の荒れ果てた部屋の中、形だけをなんとか保ったテーブルを三人の少女が囲んでいる


ほたると藍子が並んで周子と向かい合って議論をしている形だ。

その議論はどうやら双方の納得いくものとは程遠そうだが、




だが、心配と不安、若干の憤りを含んだ四つの瞳を向けられてなお周子は余裕を崩さない




テーブル同様脆い椅子の背もたれに容赦なく体重をかけて足を組み、リラックスした姿勢のままだ



601: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:22:07.27 ID:1xY+x1YV0

周子(ボット)「というか、逆に聞きたいんだけどさ、ほたるちゃんたちの方はそれでいーの?」


ほたる(ボット)「それは、そうですよ...私たちじゃ...晶葉さんにご迷惑が...」


周子(ボット)「いや、聞いてなかったの?晶葉ちゃんはさ、この世界に起きる不確定要素の調査が目的だって言ってたじゃん、何を遠慮してるのさ」


藍子(ボット)「それにしたって、限度がありますし...」


一向に埒の明かない論を重ねている状態に、

周子を椅子ごと包むようにうねっている尻尾がやや毛羽立っていた

その本数は三本


周子(ボット)「限度っていわれてもねぇ...」

周子はテーブルの上に置かれたティーカップを取る、

それを口元まで持っていったところで、ふと気が変わったように手を止める


周子(ボット)「どっちかというとあたしは紅茶より緑茶派かな」


そう言って尻尾を毛先だけ振る、

すると手品のようにティーカップが湯呑に変わり、

中の液体の色も濁った緑色に変化した

602: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:22:41.14 ID:1xY+x1YV0


藍子(ボット)「見れば見るほど、すごい能力ですね...」

周子(ボット)「んなわけ無いでしょ、こんなのただの嘘っぱちなんだから」

自身の能力の賞賛を軽くいなし、改めて湯呑に口をつけ中身をすする



周子(ボット)「......やっぱり味は紅茶のままかー」

あくまでマイペースを保つ周子にほたるは最後の確認として声をかける

ほたる(ボット)「やっぱり、行って......しまうんですか?」

周子(ボット)「うん、ほたるちゃん達と違ってあたしはこの家から出られるし、つまりCHIHIROがあたし程度の能力じゃ、大したことないと判断したってことでしょ」

藍子(ボット)「でも、それでも周子さんの能力は制限されたままなんでしょう?」

二人共不安げな表情だ。本気で周子を心配しているのだろう


周子(ボット)「いくら制限付きだからって、あたしはそれが取れるまでなんて待ってられないし」

周子(ボット)「なんていうんだろ、オリジナルから引き継いだあたしの性格に、敵意?....みたいなのが染みこんでるのね、まあ多分ボットとして戦うように追加された感情なんだろうけど」


ほたる(ボット)「.......?」

藍子(ボット)「たしかにボットの中には戦闘に向かない性格のボットに一時的な闘争心を足してあるそうですが」

周子の尻尾がふっさふっさと大きく揺れている

603: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:27:00.98 ID:1xY+x1YV0

周子(ボット)「そーゆーこと、あたしにはあって、藍子ちゃんたちにはない、その段階でもう話なんてできないよ」

周子(ボット)「ひたすら能力を使いたくて堪らないあたしと、なるたけ最小限の能力の使用でコトを済ませたいそっちとじゃね」


周子は湯呑を机に置く、するとそれは瞬きする間にティーカップに戻っていた

周子(ボット)「じゃ、あたしは行くから、聖ちゃんが起きたらよろしく言っといてよ」

テーブルの横、ほたると藍子の横を通り過ぎていくとき、

故意にやったのか、尻尾が二人の頬をくすぐった


ほたる(ボット)「せめて...能力が完全になるまでは...やられたり...しないで、くださいね?」

藍子(ボット)「そうですよ...!もし周子さんに何かあったら、ここであなたを止められなかったのを後悔してしまいますし、ほたるちゃんが悲しみます」


丁度、扉を開けた周子の背中に二人がつぶやいた周子は気軽に返事する


周子(ボット)「大丈夫だって、......あたしはあやかし狐だよ?」


扉が閉まる直前もう一度部屋の中に目を向ける。

ほたると藍子、そして目を覚ましたらしい寝起きの聖と目があった










周子(ボット)「そっちこそ『夜』が来るまでにやられないようにね?」




そしてこのあと周子は麗奈たちと出会う

604: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:48:48.89 ID:1xY+x1YV0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
大和亜季&小関麗奈



周子(ボット)4「じゃん!マシンガーン!」


周子(ボット)3「じゃあ、あたしハンドガンでいいや」


周子(ボット)2「ええー?...銃って使うの難しくない?...あたしはシンプルに刀にしーとこ」


周子(ボット)「んー、あたしはどうしよっかなー」






四つの声と四つの武器が蠢く

四人の周子たちが思案めいた言葉を漏らすたびに何もない空間に当たり前のように銃刀が顕現していた



周子(ボット)「ん?亜季さんと麗奈ちゃんはもう武器決まってるんだし、来るなら来ていいんだよ?」




麗奈「アンタ...何よその能力...武器まで出せるとか反則じゃない!?」


亜季「いえ落ち着いて、麗奈、あれも周子の幻覚能力に違いありません」





周子(ボット)「ん、そうだね、武器も偽物だよ」

605: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:49:33.44 ID:1xY+x1YV0








周子(ボット)2「一つを除いてね」








バン!


二人の周子が引き金を引いた、銃器を手にしていた二人だ


麗奈「ひゃっ!?」

麗奈のそばにあったダンボール箱がビックリ箱の中身のように上に跳ね上がった


だが二人に被害はない

亜季「っと!・・・仮想内の仮想などと嘯いたところで射撃能力はたいしたことないでありますな!」

606: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:51:08.14 ID:1xY+x1YV0


それに今の発砲音でハンドガンの方が本物であることがわかった


少なくともマシンガンの連射音ではない



亜季「麗奈!私の後方へ!!」


麗奈「! わかったわ!」


亜季はショットガンの射程外へ麗奈が移動したかしないかの瞬間、引き金を引いた


狙いはハンドガンを持つ一人、本物の一人


人体をえぐり飛ばす威力が、その一人の周子を中心に水平に降り注いだ





周子(ボット)3「えぷっ」




散弾は他の周子の腕や肩などにも命中する





周子(ボット)「いたっ!」


607: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:51:58.14 ID:1xY+x1YV0

だが本命、ハンドガンを構えた周子が後ろの壁まで吹き飛ぶ、

その姿にはさっきのような嘘の「流血メイク」はない、

撃たれて血を流さないほうが手応えがあるというのもあべこべだが、とにかくハンドガンを持った周子は完全に息絶えた








周子(ボット)4「なんてね」




倒れたはずの周子が煙のように消える



608: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:53:07.86 ID:1xY+x1YV0








周子(ボット)5「あたしがハンドガンを持っていたとしてもさー」





そして新たに周子が現れた



周子(ボット)2「それはそのしゅーこが持ってるように”見えた”だけだよ」


周子(ボット)「ほんとはハンドガンを持ってたのは、このあたしだったかもよ?」


周子(ボット)4「いやそれどころかハンドガンじゃなくて玩具のエアガンだったのかもよ?」


周子(ボット)5「あっちゃあ、じゃあ亜季さん、無駄撃ちだったかもねぇ?」




四人の周子がころころ笑う、



尻尾がその間をゆらゆらと嘲るように左右に揺れた




609: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 00:54:14.43 ID:1xY+x1YV0



周子(ボット)「じゃ、つぎの攻撃いってみようか?...まず、あたしと」



周子(ボット)2「次に、あたしと」



周子(ボット)4「そんでもって、あたしと」



周子(ボット)5「おまけに、あたし」




周子(ボット)「全員がハンドガンだったら、どうやって見抜くのかな?」




四つの同じ顔

四つの同じ姿

四つの同じ尾

四つの同じ銃


一つの悪意




ゲーム開始23分経過

小関麗奈&大和亜季VS塩見周子(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

616: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:17:20.99 ID:1xY+x1YV0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
小日向美穂


      __   
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  __      __



...?



まゆ「美穂さん、どうかしました?」

美穂「ん、なんでもない...」



頭の上の方からまゆさんの声が聞こえて、そっちに首を向ける

まゆちゃんと私は今、とりあえず二人で街の外側を目指している

もちろんどっちが外への道かなんてわからないけど、建物の高さが低い方、標高自体は低いけど山みたいなのが見える方向に歩いてる

なぜかまゆちゃんはくまさんモードこと、プロデューサーくん状態の私を胸に抱えたまま移動している

確かに私の今の体重はぬいぐるみと同じだけどその気になればぬいぐるみのまま動けるし、人間の体に戻ることもできるんだけど、

そうなった場合私を吸い込んでいたプロデューサーくんは私が持ち運ぶことになるけど



あまりにも当然の流れで抱きかかえられているので私からは何も言えない

617: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:18:13.86 ID:1xY+x1YV0

まゆ「たまに、銃声が聞こえてきますねぇ・・・」


美穂「うん、模擬戦闘って、やっぱりピ、ピストルなんだね・・・うぅ、怖くなってきたよぉ・・・」


まゆ「そうですねぇ、智絵里さんを探しつつ、街を探索しつつ、ついでに何人か倒していきましょうか・・・」


美穂「ええぇっ!?」


まゆちゃんはたまに好戦的な発言をするから考えが読めない時がある

でも言葉は物騒だけど私を抱きしめる腕はあったかい

      __   
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  __      __



ぬいぐるみの私の耳に銃声が聞こえた

今までのと違ってかなり近い

まゆちゃんも気づいたみたいで、ピタリと足を止めた


まゆ「今度は随分近くで銃声が聞こえましたねぇ・・・」


美穂「うん、ピストルの音以外にもなにか聞こえるね・・・なんだろうこの音」

まゆさんが警戒心を高めたのが私の体に回された腕越しに伝わる


というかまだ私くまさんモードなんだけど・・・戻ったほうがいいよね?


まゆ「?・・・それと美穂さん、今はまだぬいぐるみの方でいてくださいねぇ?」


美穂「ど、どうして?このままじゃ、わ、私邪魔にならない!?」


まゆ「いえ、この状態なら、二人でも同時に動けますし、逃げる時にうっかりはぐれる可能性も下がるでしょうから」


まゆちゃんはそう言って私を抱えたままビルの隙間に身を隠した

もちろん私はなされるがまま・・・ほ、ほんとに邪魔になってないのかな・・・?

618: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:19:11.81 ID:1xY+x1YV0

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  __      __


まゆ「ふむ、妙ですねぇ」

美穂「・・・まゆちゃん?どうしたの?」


息を殺して周りを伺いながらまゆちゃんが小さい声でつぶやく、完全に密着してるぬいぐるみの私じゃないと聞こえないくらいちっちゃい声だった



まゆ「誰かと誰かが戦っているにしては、静か過ぎません?」

美穂「うーん・・・私はよくわからないけど、確かにさっきの一発が聞こえてからは、銃声はしないね、他の変な音が聞こえてるけど・・・なんだろこれ?」

まゆ「変な・・・音?」


まゆちゃんが不思議そうに言う、表情は私の位置からは見えない

美穂「うん、なんて言ったらいいかわかんないけど・・・」

      __   
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  __      __



美穂「あ、また聞こえたよ?」

まゆ「?・・・えっと、まゆにはわかりませんねぇ、どんな音なんですか?」

美穂「・・・ごめん、どう表現したらいいかわかんないけど、遠くから呼ばれてる感じがするんだ・・・」

まゆ「そうですか・・・ぬいぐるみ仲間からの交信ですか?」

美穂「えっ、あ、いや、どうなんだろ・・・」



うーんなんなんだろ


619: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:22:32.64 ID:1xY+x1YV0


銃声の方はさっき一発聞こえたっきりで静かになったまま

でもなんとなくしか方向がわからないから、ここに隠れているのが正解なのかはわからない


まゆ「とにかく、移動しませんとねぇ、ここで隠れていても外にはいけませんし・・・」

美穂「でも、どの道を通ったら安全かわからないや・・・ど、どうしよう・・・?」


私たちがかろうじてわかるのは私たちの進行方向上のどこかの建物のあたりから聞こえてきたということだけ

ここは後ろに下がったほうがいいのかな・・・うぅ、地図がないとどう行けばいいのかわからないよう・・・


      __   
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  __      __


まゆ「どうします?このまま路地裏に引いて裏道から迂回します?」


美穂「うーん、でもピストル相手だともし狭いところで出くわすと逃げられないし・・・」


      __   
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美穂「こっち・・・かな?」

まゆ「!・・・横道ですか、たしかに裏道よりは広いですねぇ・・・いいかもしれません」

620: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:23:42.30 ID:1xY+x1YV0

私がくまさんの手で指差したのは(このぬいぐるみには指がないから、手で示した、かな?)今いる日陰の、狭い道から車道をはさんで向こう側に見える道、

広過ぎる道でも、ピストルで狙われると逃げられないのは一緒だし、車二台分くらいの幅なら、いざ!ってときでも大丈夫かなぁって思ったんだけど、

半分位は直感だった気もするけど


遠くからの銃声は聞こえない、行くなら今!・・・だよね

まゆ「じゃあ、目立たないようにいきますよ?」

まゆちゃんは私を抱えながら裏道を抜け、車道を小走りで横断していく

このまま行けば銃声の聞こえたどこかからは離れてるのかな、


ギィ


まゆ「!!」

美穂「わっ」

ちょうど進行方向上にあった建物の入口の扉が開いた、扉はこっちに開いていて、その影にいる人は見えない

ど、どど、どうしよう!!

回れ右して一旦となりの建物の中とかに避難したほうがいいのかな!?



??「・・・・・・・・・」



扉の影からその人がこっちに出てくる

まず足のつま先が見えて

前髪、

顔、

上半身




赤いバッジ




そしてその下、

胸元に抱えられていたのは






とっても長い形の銃___

621: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:26:10.83 ID:1xY+x1YV0

      __   
__  __  __  __
  __      __


??(ボット)「!」


その子も一瞬で扉の死角から来ていた私とまゆちゃんに気づく、

でも、相手からはまゆちゃんがぬいぐるみを持って走ってきてるようにしか見えてないと思うけど


??「っ!」

ぐっ、とそのボットの腕に力がこもったのが何故か分かった


銃身の、多分ピストルの弾が飛び出す長い筒が、

空気を切り裂くように素早くこっちを向いて___













美穂「だめぇ!!」




622: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:27:58.48 ID:1xY+x1YV0


まゆちゃんの腕を強く蹴って私はそのボットの銃の先っぽに飛びついた


ぬいぐるみの体から飛び出すみたいに人間に戻るとそのまま体をのしかからせて銃を抑えた

プロデューサーくんが抜け殻みたいに地面に落ちていく


??「へっ!?」


ぬいぐるみが飛び出してきて、それが人間になるとは思わなかったみたいで

しかもいきなり自分の手元に人間一人分の重みがかかったせいで銃の狙いはずっと下がって地面になった


美穂「ま、まゆちゃん!!い、今のうちに、逃げてぇ!!」

私の選んだ道のせいで敵に会っちゃったんだもん、!

私のせいだ!

だからここは私が何とかしてまゆちゃんだけでも・・・!


      __   
__  __  __  __
  __      __

623: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:29:07.37 ID:1xY+x1YV0

      __   
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  __      __

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  __      __







まゆ「お手柄ですよぉ・・・美穂さん」






上条春菜(ボット)「・・・・・・こふっ」




美穂「え・・・?」




まゆちゃんは

私が銃を抑えた隙を付いて逃げるんじゃなくて

逆に春菜ちゃんに近づいて





_細身のナイフで


_顎の下から上に向かって深々と






ゲーム開始32分経過

上条春菜(ボット)消失

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

624: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:34:00.72 ID:1xY+x1YV0

______________________
      MENU


→・プロデューサーくん 
  アクセス中

 ・ミニキノコ
  圏外

 ・ミニキノコ   
  圏外

______________________



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


______________________





・・・・・・コントロールモード・・・・・・

         終了します


______________________



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
______________________





 『サーチ』
 
→『コントロール』


______________________


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


625: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:34:37.64 ID:1xY+x1YV0


紗南「・・・はぁっ、はぁっ・・・あぁもう!」


最初のメニュー画面に戻ったゲーム機を持ったまま床に転がる


床は冷たいし片足はまだ痺れてて立てない



紗南「・・・ボットの調査、そして干渉が、あたしのゲームの、そんでもってあたしの能力・・・」


でも、春菜さんがこのビルに上がってきたら間違いなく詰む


紗南「こ、コントロールっていう割には、・・・ここに引き寄せただけじゃんか・・・!」


手元にあるのはゲーム機のみ、

あたしは最初サーチモードで春菜さんが近づいてないかを見るつもりだった。

でも、そこでもうひとつあった『コントロール』のアイコンをヤケになって選んだんだ

うまいこと行かなければもう終わり、くらいの気持ちで


そのあとのことは無我夢中でボタンを連打したりしてたから覚えてないけど、


このコントロールモードっていうのは、どうやら条件付きでボットを遠隔操作できるみたい、


メニュー画面を見る限り、人間以外のボットに限定されてるけど

626: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:35:09.26 ID:1xY+x1YV0

現実であたしがやってるゲームのキャラ操作とは全然違ったけどそれは今はいいや


問題は今頃この近くにいるプ、プロデューサーくん?とかいうボットがどうしてるかだ


あたしはサーチモードにした画面をジッと見つめる



プンッ
_________________

name: 小日向美穂

category: プレイヤー

skill: 
ボット「プロデューサーくん」に同化
及び操作可能、ただし耐久力は通常プ
レイヤーより大幅に低下する

_________________

プンッ
_________________

name: 佐久間まゆ

category: プレイヤー

skill: 
なし


_________________


あっちこっちに向けて、何度ゲーム機の角度を調整してもこの二人以外のデータは受信されなかった

つまり春菜さんはここから遠く離れたところに移動したか、

この二人に倒されたか・・・

627: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/15(土) 23:36:38.38 ID:1xY+x1YV0




紗南「・・・あたし、助かったの・・・?」





声に出すともうだめだ、

それを合図に一気に緊張がとけて体が脱力する

急速に安心感が湧いてきて、ほっとして

このまま眠ってしまいたくなる



でもここで安心し切るのはだめだ



紗南「もう、一人じゃ、やだよぉ・・・」



仲間が欲しい


ワンプレイヤーじゃ、あたしの心がもたない


多分、いや間違いなくあたしは美穂さんとまゆさんを自分の安全のために利用した


だからまずそれを一生懸命、あやまって


仲間にしてもらおう、あたしの能力なら損はさせない、と思うし


そろそろ足のしびれも頑張れば立つことぐらいはできるレベルに収まった


よたよたと立ち上がる、顔面から転びそうになって慌てて手をついた




今からボットに倒されるかもしれないと思った時よりも

このままじゃ孤独になると思った時の方が足に力が入り易かった



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

628: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 00:48:39.24 ID:yyTaBTze0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
輿水幸子&白坂小梅&星輝子



仁奈(ボット)「仁奈は今!!ティラノサウルスでやがります!足元でフラフラしてると、踏んづけて食っちまいやがりますよ!」



輝子「フヒィァア!!?」


小梅「あわわ...」


幸子「ふ、ふふん!だ、だれが爬虫類の相手なんてするものですか!!こ、ここ小梅さん!輝子さん!事務所に逃げ込みますよ!」


ゴツゴツとウロコばった肌質

小さいながらも睨まれると立ちすくみそうになる爬虫類特有の眼

ずらりと並んだ鋭い牙、野太い爪

すべてがその存在がティラノサウルスであることを証明していて



それと同時にティラノサウルスの胸のあたり、二本の前足の中間ぐらいから仁奈の顔が見えていることが

これが仁奈の着ぐるみであり、その能力であることを証明していた



幸子「っていうかそれホントに着ぐるみですか!!?明らかに体に合ってないでしょう!!」

小梅「はぁ...はぁ...きょ、恐竜の体に...仁奈ちゃんの顔が、はぁ...く、くっついただけにしか...見えない」

輝子「フヒ お、おなじ、フヒ...おなじく」

629: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 00:49:13.34 ID:yyTaBTze0



三人は恐竜から同じ方向、事務所に向かって逃げる。幸子以外は既に息切れを起こしていた


仁奈(ボット)「待ちやがるがいいです!!」


ズンズンと巨体を自慢するように足音を鳴らしながら三人の背後に迫る

普通ならとっくに追いついて追い越してもいい速度差なのだが、

仁奈は二、三歩進んでは止まり足元の三人にランダムに噛み付こうと首を突っ込んでいたので、

追いついては逃げられ、追いついては逃げられを繰り返していた


事務所までもう少し


小梅「はぁっ、はぁっ、あ、あそばれてる...気が、する...!」

輝子「ひ、ヒャアア!?アッブネェエエエエ!!」

幸子「なんなんですか!!なんなんですか!?・・・む!?」


三人のうち先頭を走る幸子がそれに気づいた。

道路脇、看板の影に隠されるようにして設置されていたあの忌々しい星型、


仁奈の起こした地響きのせいか振動を感知して震えているせいで隠し場所からはみ出していた



幸子「二人共!!ボクが仁奈さんを食い止めます!!全力で走ってください!」

幸子は足を止め振り返る、二人は幸子を追い越したところで戸惑ったように減速した



小梅「はぁ...えっ?」

輝子「くい、とめ...さっちゃん!?」


ズンッ!!!


仁奈(ボット)「がぁおぉおーー!」


幸子「いきますよ!!」

630: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 00:51:04.81 ID:yyTaBTze0

幸子はヘッドスライディングのように飛び込んだ場所から、

その星型を掴むと立ち上がる間も惜しんで仁奈に投げつけた



幸子の小さい両手で一度につかめたのは精々3つ4つ、



仁奈(ボット)「うお!?未央おねーさんの勝手に使いやがりましたね!いけねーんですよ!!」



仁奈の猛進は止まらない



地面を強く踏む足、地をえぐる爪


そのすぐ横に幸子の投げた星が転がっていく


カアン!!!


輝子の声とは比べ物にならない振動、大型恐竜の鳴らす地響き

それが《ミツボシ効果》を直撃した

仁奈の足元で炸裂する


仁奈(ボット)「んなっ!!なんでやがりますか!!」


いくつかはその太い足に辛うじて刺さったが大ダメージには至らなかった


だが、そこに気を取られ一瞬、仁奈の走りが乱れてしまう



631: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 01:20:37.62 ID:yyTaBTze0


ティラノサウルスの前足はひどく短い

しかしこの恐竜は二本の足で獲物に一気に追いすがる

力強く踏み出される足が生む決して遅くない速度、

それは胴体の長さに並ぶとも劣らない長さの尻尾というバランサーあってこそだ


だが、それでも、

捕食のために特化したその走り方は不安定だったことに変わりはない


仁奈も同様に



仁奈(ボット)「わあああ!?でやがります!?」



地面を叩き割らんばかりの轟音を立てて転倒した


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
事務所


卯月(ボット)「あー!!仁奈ちゃんこけちゃった!!未央ちゃんどうしよう!?」

未央(ボット)「なんだとー!この私の能力を利用するとは生意気なー!」

翠(ボット)「...これは、やはり油断してはいけないと、厳しく伝えるべきでしたね...」



 ガリリ  ジー

 ガリリ  ジー

雪美(ボット)「...........」


窓の近くで外の様子から目を離さない三人を横目に雪見は自分の能力をいじっている

黒猫の形に似た電話、古風なダイヤル式のそれに細っこくて白い指を差し込んでは回し、ダイヤルが戻ればまた回す


小春(ボット)「あれ、雪美ちゃん、なにしてるんですか~?」


それに気づいた小春がソファの、雪美の隣に座ってその手元を覗き込む

だがダイヤルがマイペースにガリりと回されてはジーと巻き戻っているだけで何もわからない

632: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 01:21:56.07 ID:yyTaBTze0

雪美(ボット)「......私...能力......あぶないの...知るだけ......」

「戦いで......何も...できない...」


そう言って雪美は手元の電話をいじりつづける

小春(ボット)「でも、雪美ちゃんはちゃんとできてるですよぉ~?」

そんな雪美に、小春は励ますつもりで頭を撫でた

ヒョウくん「・・・・・・」

小春の腕に抱えられたイグアナはいつもどおり神妙な顔をしている


雪美(ボット)「...私...試してみる......この能力...」

「ほかに...何が......できるか」


雪美の能力《黒猫電話》は主になにがしかの出来事に対して受身だ。

それにあくまで知らせるだけのものであり、対処まではできない

雪美はその自分の現状を打破しようとしているのだ

まずは一歩目として自分の能力の象徴、電話に何らかのアクションを試みている


小春(ボット)「わぁ~、雪美ちゃんすごいですぅ~」

雪美(ボット)「でも.......何も...おきない」

受話器も耳にあてたまま静かに指を動かし続ける

633: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 01:22:24.81 ID:yyTaBTze0

ガリリ ジー

ガリリ ジー

ガリリ ジー

ガリリ ジー

ガリリ ジー

ガリリ ジー

雪美(ボット)「.......おねがい...P...」


自分のオリジナルと魂が繋がっている、らしい人間の名前を呼ぶ


ガリリ ジー

ガリリ ジー




prrr...


雪美(ボット)「!!」

小春(ボット)「?」

ヒョウくん「・・・」

634: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 01:24:03.51 ID:yyTaBTze0


思いは実った

受信限定のはずの《黒猫電話》に何かが起きた

prrrrrrrrrrrrr


ガチャッ


雪美(ボット)「!......もしもし...」





受話器に意識を集中する


聞こえるのはノイズノイズノイズ


・・・””・!!!・・・」・!・__・



・・?・・・「・・・・・。・・・・・


ノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ
ノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ
ノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ
ノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ
ノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ
ノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズノイズ



誰かの声



聞き覚えがある声


635: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 01:26:02.18 ID:yyTaBTze0



雪美(ボット)「・・・・・・・・・・・・」




雪美(ボット)「・・・・・・・・・・・・」












雪美(ボット)「・・・・・・あきは?・・・・・・」



ブツッ


ツー

ツー




ゲーム開始45分経過

佐城雪美(ボット) 能力獲得





輿水幸子&星輝子&白坂小梅

VS

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)
&佐城雪美(ボット)&市原仁奈(ボット)&古賀小春(ボット)

《ミツボシ効果》《U=パーク》《M・M・E》発動中


継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

643: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 22:44:37.43 ID:yyTaBTze0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャプター
堀裕子


さて、きらりさんは、無事杏ちゃんと会えたのでしょうか


私のサイキック棒倒しの示した道をたどるならきっと間違いなくたどり着けるでしょう。

しかし、その道中で敵に襲われてしまうこともありますからね!気をつけてもらわないと!


裕子「ふーむ、模擬戦闘というには戦闘の相手が見当たりませんね・・・はっ!?」

分かりました!

こういう時こそ、さいきっくの出番ですね!



私は道の真ん中で立ち止まりました

この道は車一台分の幅しかないので迷惑になるかもしれませんが、幸いここにはバスや電車の類はありません

ふむ、電車といえば、となりに居合わせた紗南ちゃんと輝子ちゃんは元気でしょうか


裕子「さて、やはりここは、さいきっくダウンジングといきたいところですが・・・」


あいにく今の私はスプーン一本のサイキッカーです、ふむむ・・・


やはりもう一度サイキック棒倒しを・・・ですがどうせならここは別のサイキックを試したいところですね。

644: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 22:45:07.50 ID:yyTaBTze0


裕子「ぬぬ~、さいきっく沈思黙考!」

集中力を高めるため目を瞑ります

左手にスプーンを握り、右手を頭に当てて念を送り込みます

いでよ天啓!さいきっく思いつき!



裕子「はっ!・・・・・・こっちです!」


分かりました!

私は目を見開くと同時にびしっと指を向けます

この方向こそ私のサイキックの差し示す正しき道!








・・・壁ですか



裕子「・・・・・・・・・ふふふ」


ふふふ、超能力に頼りすぎるな、というサイキックからのさいきっく説教ですね!

645: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 22:45:47.03 ID:yyTaBTze0


その壁にはこれといった隠し扉もなく、ごく普通のコンクリート、といったところでしょうか

ゲームなのでコンクリとか、そういう表現ではなさそうですが・・・

ですが、こうなった以上は仕方ありません!


この壁を超えていきましょう!私にはもうひとつの能力があるのですから!


裕子「む~ん・・・」


右手を壁に当てます、冷たいのが手のひらから感じられますね


集中、集中、集中



裕子「さいきぃぃぃぃっく、力技ァ!!」





掌底打ち、とかなんとか有香さんが言ってましたね、ということは空手の技だったんでしょうか?

壁にくっつけた私の手のひらから蜘蛛の巣のようにヒビが走り出し壁が大きめのがれきに変わって崩れ落ちていきます


ガラガラと崩れた先はどこかの建物の敷地でしょうか、随分開けています


裕子「さて!」


私は足元のがれきをどけて進みます、

少しばかり手加減したせいかがれきの一つ一つは歩くのに邪魔な大きさです

もっと全力でやれば多分、粉々にできたのですが

裕子「よっと、ほいっと・・・」

646: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 22:46:33.72 ID:yyTaBTze0

がれきの荒々しい断面で足を切ったりしないように、

その上をひょこひょこと飛び跳ねて進んでいた私は自分の足元から注意を逸らせません


だから気づいたんでしょう




??「.........」




裕子「のわあ!?」




ボコボコしたがれき、そこに、こけたりしないように慎重に踏み出された私の靴、


そのちょうど横、まるで私の靴に入ったロゴマークを盗み見するかのように目がありました!





それはがれきの隙間からこちらを覗いている、などという意味ではなくそのままズバリ、

がれきにくっついた切れ長の瞼がぱっちり開き、その中からどう見ても人間のものとしか思えない生々しい瞳がこちらを見ていたのです


647: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 22:47:15.17 ID:yyTaBTze0

??「......そう、私の存在に気づいたのね...」


パチリと一度瞬きをしたあとその瞳は私の足元でしゃべり始めました

いえ、目は普通は喋りません、ですが無機物のがれきから目が生えている段階でその手の議論に意味はないでしょう


??「...もっとも...この世界において、存在するということ自体にどれほどの意味があるのか......それゆえに私は何物でもあって何者でもないのでしょう.....」



何言ってるのかよくわかりません、ですのでこの人がボットなのかプレイヤーなのかも分かりません!


??「...でも...私が私であることに変わりはないわ...たとえこの世界を構成するものが0と1の羅列だとしても......その中心を回り続けるものは...私なのだから.......」


目はこっちから視線をそらすことなく、だから私も自分のつま先を見つめるような姿勢を戻せません





??「あなたもまた......この世界に与えられた未知に...振り回されない自分を有しているのね......面白いわ...」





裕子「そ、そうですね!サイキックアイドルに不可能はありません!」

648: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 22:48:45.71 ID:yyTaBTze0



??「...そうね...どこまで変わらずにいられるかしら...」






そこで、すこし、目の、その輪郭が歪んだように見えました

まるで笑ったように見えました





??「......自分の映し身...危険と恐怖を容赦なく醸し出す火器......現実感を喪失させる異能......模擬戦闘などと銘打ちながら...これを遊びとして捉えている者のほうが少なくなってしまったわ...」



次に唇が目の下側に現れました、ちょうど福笑いで人の顔を形作ったような不格好さで、不気味です

それがやはりよく分からない言葉を紡いでいます



??「ある者は並大抵でない勇気を奮い...ある者は引き金を引くことの躊躇をなくし...ある者はこの世界そのものを歪ませる程の異能を得たわ...」



また唇が、少し離れたところの別のがれきから生えてきました、がれきに施された彫刻などではありません、生えてます


649: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 22:49:57.78 ID:yyTaBTze0


??「さて、堀裕子...」


また唇、三つ目


??「私がこれまで見つめてきた他の子たちは......この世界から何かを得て変わったわ...もちろん彼女達自身の軸を壊すことなく」


四つ 五つ 六つ目・・・・・・


肉づきの薄い唇が、入学式の日の桜の花びらのようにあちこちに

がれきだけではありません、私が壊していない地面にも壁にも、

私の足元に出現した最初の一つを中心に波紋のように広がっていきます


??「...あなたにプレゼントよ...これをどう使うか...この世界に...どう取り組むか...見せてもらうわ」





ぱかっ





淀みなくつらつらと言葉を続けていた唇が一斉に大きく口を開きました

右も左も前も後ろも、すべての唇が一斉に、

口の中は真っ暗です

すべての花びらがまるで一瞬で黒く闇をのぞかせる穴になったように錯覚した瞬間




地面が崩れていきました

650: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 22:50:35.34 ID:yyTaBTze0



まるでその口の穴が地面そのもののキリトリ線になったように、


地面が私を中心とした大きな丸を描いて崩れ、私を乗せたまま下に落ちていきます


この地面の下には下水道でもあるのでしょうか、それとも何もないのでしょうか


私がサイキック思いつきで通ろうとした場所が頭上へと離れていきます


ぽっかり空いた穴から漏れる光が遠のきます


私は暗い場所に落ちていく


どんな暗闇もさいきっく自分紅葉を使えば明るく照らすことはできるでしょう


落下が終われば試してみますか





ゲーム開始33分経過

報告事項なし

651: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:05:01.30 ID:yyTaBTze0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

???「にゃあにゃあ、なにしてんのにゃあ?」





??「ちょっとした道案内......自分という存在の変換点へ誘導しただけよ......」


???「相変わらず、わっけわかんにゃいにゃあ・・・」


??「...この世界に来てなお...自分を曲げない者にであったの...そのままどこまで行けるか試してみたくなるのも仕方ないわ...」


???「知らんにゃ、でも自分を曲げないのはみくの特権にゃ!譲らないにゃ!この世界でもみくは自由気ままな猫ちゃんにゃ!」


??「...ボットの役目を堂々と放棄宣言するみくにゃんに失望しました。みくにゃんのファン辞めます」


???「やめるなだにゃあ!ボットのみくにファンなんていないけどやめるなだにゃああ!」





????「そろそろ、美玲、探しに行きませんか?...このままでは...その...逃げられてしまいます」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

652: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:06:03.57 ID:yyTaBTze0

チャプター
大和亜季&小関麗奈


麗奈「あああもおお!!イライラさせんじゃないわよ周子!!」


亜季「麗奈!おそらくそれが周子の狙いです、気を引き締めて!」


麗奈と亜季は今、互いに背中をつけあわせるようにして死角をなくすようにして戦っている

そうでもしないと、周子にはもはや対抗出来そうもないのだ


周子(ボット)5「あはは、おっかしいー」


一人の周子が天井から逆さまにぶら下がっている


周子(ボット)2「真剣になるのはいいけど、あたしたちの中の誰に対して気を引き締めるのかな?」


もう一人が積み上げられたダンボールの後ろからひょこっと顔をのぞかせる


周子(ボット)「ちゃんとあたしのこと見ててよね」


一人は片膝を立てたまま床に座っている


周子(ボット)4「でないと、撃っちゃうぞ♪」


一人は亜季に銃口を向けた

653: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:06:34.66 ID:yyTaBTze0


亜季「っつ!」


周子(ボット)4「なんちゃって」


その周子の手のひらから銃が消えた、

亜季の意識が一瞬、空白になる


周子(ボット)5「ざんねーん、こっちでしたー」


バン!


天井からぶら下がったように”見える”周子が麗奈にむけて発砲した


麗奈「ったぁ!?」


その銃弾は麗奈の足元をかすめ、致命傷にはならなかったがやはり二人を動揺させるには十分だった


周子(ボット)「麗奈ちゃんのびっくりした表情追加ー」


そういって

四人の周子がダンボールの間を漂うように、

亜季と麗奈を取り囲んで回り始める

654: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:07:33.98 ID:yyTaBTze0


周子の攻撃はさっきからこの調子なのだ


二人を惑わすようにあちこちから幻覚攻撃を仕掛けてはその合間に一発だけ銃弾を放つ、


しかもたまに撃つふり、ブラフの時もあるので全く動きが読めないのだ


周子が攻撃に使うハンドガン、ほぼ間違いなく最初この部屋で亜季の姿を真似ながらダンボール箱を物色していて見繕ったものだろう、

だとするなら替えのマガジンのなどは用意してないと見るべきか、いや周子相手だとそれすらも怪しい


こっちから決定的な一撃を与えられない、

しかしむこうも散々こっちを引っ掻き回しておきながらその隙をついてもまともに攻撃を当ててこない

それがさっきから続いている


麗奈「周子!いつまでふざけてんのよ!やるならパッパときなさいよ!」


亜季「(たしかに麗奈の言うとおり、周子はいつまでこうしているはずでありますか)」

ほとんどがブラフとは言え何回か発砲してきているのは事実なのだ、

弾切れがじきに訪れるはずだ

それに自分たちはユニット、スタミナは二人共に200、

普通に考えたらもっと積極的に攻撃を加えるべきだろう、

しかも周子の能力は相手の隙を開けることに特化してるといってもいいのだ




しかし周子は持久戦を選んだ。

じわじわと、集中力をちらしていく、敵対の現実感をぼやけさせていく

ぞわぞわと、戦闘意思を削いでいく、意識下に諦念をすり込んでいく


周子はじっくりと麗奈と亜季を観察しながら考える

・・・少なくとも、まだ能力が本調子じゃないしね、慎重にいっとかないと


655: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:08:19.05 ID:yyTaBTze0


麗奈「だぁーーーーー!!言っといてあげるわ!!アタシと亜季は今ユニットを組んでるのよ!!」

麗奈が怒鳴る、

麗奈「スタミナだって二倍の200よ!それが二人!いつまでも時間稼ぎみたいにチマチマやったってアンタに有利になんてなんないんだからね!」

それはいわゆる示威的行為、逆に周子の方に自分たちとの戦力差を知らしめるつもりの発言だった



周子(ボット)4「ん?」

周子(ボット)5「・・・?」

周子(ボット)「あれー?」

周子(ボット)2「おやー?」


だが周子たちの反応は芳しくない





周子(ボット)「もしかして知らないの?...ユニットを組むことのデメリット」






亜季「・・・?」

麗奈「はぁ!?」



周子がダンボール箱の上に片足だけでバランスをとりながらポツリとつぶやいた

一人の人間の体重を空っぽの箱が支えられるわけないので、また幻だろう

だが、その発言までが嘘とは限らない

656: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:10:14.73 ID:yyTaBTze0

周子(ボット)「麗奈ちゃんと亜季さん、スタミナが二倍になったんだっけ?」


麗奈「そうよ!アタシたち二人のスタミナのところに200って書かれてたわよ!」

亜季「そうであります、周子のお得意の虚言も、ネタ切れでありますかな」



周子(ボット)「それってさ、なんで掛け算じゃなくて、足し算だとか考えないわけ?」




周子(ボット)「ユニットを組んでもメンバーのスタミナは増えないよ」




周子(ボット)「ただ、共有されるだけ」




周子(ボット)「一人で100だったものが二人で200になるだけ」



周子(ボット)「三人ならみんな合わせて300かな?」



麗奈「なによ!別にそれでいいじゃない!もったい付けるんじゃないわよ!」


麗奈は周子からの言葉に反駁する、周子の言葉が事実だとしても何がデメリットだというのか

だが、亜季は違った、亜季は理解した

亜季「・・・麗奈、この話そう単純じゃないであります・・・」

麗奈「なんでよ亜季、ユニットなら100以上のダメージ食らってもリタイヤにならないのはホントでしょ!?」




周子(ボット)「それはまぁ確かにメリットだね・・・少なくともプレイヤーを一人即死させるレベルの攻撃には耐えられようになるとは思うよ?」



周子(ボット)「でもさ、もしユニットの亜季さんか麗奈ちゃんが合計で200ダメージ受けたらどうなるか分かってる?」









周子(ボット)「スタミナを共有してるもう片方も、一緒にリタイヤだよ?」





657: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:11:17.41 ID:yyTaBTze0



ユニットは一蓮托生、力を合わせれば強くもなるが、それは諸刃の剣でもあった

その事実が周子の口から明かされた


亜季「・・・やはり・・・!」

麗奈「な、んで・・・晶葉はそういう説明をしてないのよ!!」


亜季の手に緊張感が走り、麗奈の頭に血がのぼる


二人の頭に軽い気持ちでユニットを組んだことを後悔する気持ちはない

だが、なんとなく頭の片隅にあった「ユニットを組んでいる余裕」は一気に消し飛んでいた




周子(ボット)「さぁさ、麗奈ちゃん、どんどん失敗できなくなってきたねぇ?」


周子は言う


ぽんぽんと


亜季と麗奈の肩に両手をおきながら


麗奈「っい!?」

亜季「また幻・・・!」



箱に座っていた周子はいつの間にか消えている


そしてゼロ距離、二人のすぐ横で三本の尻尾が揺れていた




麗奈「このっ・・・!」

亜季「舐めるなであります!」



背中合わせの麗奈と亜季が同時に振り返る、

658: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:13:19.50 ID:yyTaBTze0


周子はミスを犯した



亜季はそう確信した






周子の能力は、要は”見え方だけ”を変えるものだということは薄々感づかれていた。

もし幻覚で物理的なダメージを与えられるなら、わざわざ一丁の拳銃をちまちま使う必要などないのだから、

それに今までの分身もさんざん動き回っていたにもかかわらずダンボール箱が周子の足にぶつかることはなかった

だから周子の幻覚は映像のように触ることも触られることもできない類のもので、




つまり今肩に触れている手は本物の周子のもの




麗奈はそこまで考えてはいなかった

だが亜季は注意深く戦場を観察し、その考えに至っていた



だが、それを麗奈に口頭で伝えるわけにはいけない。

亜季は油断した周子から何らかの接触を待っていたのだ

そして時は今

659: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:14:30.67 ID:yyTaBTze0


亜季「(ここで逃すわけには・・・!)」


一気に体を回転させる、ダンボール箱が視界をよぎる


周子の体にショットガンを押し付ける

そのまま引き金を引く

これを一瞬でやるだけ




亜季は素手での近接格闘にも多少の心得はあった

だが、周子相手にそんなことはやってられない



幻覚を見せられる前に一気に___



ここで亜季の視界を白が覆い尽くす




亜季「ぶっ!?」


周子がその自慢の尻尾を亜季と麗奈の顔前で振ったからだ



一瞬の思考停止

一瞬の逡巡

一瞬の迷い



周子の悪意はその一点を狙っていた



じわじわと、ぞわぞわと相手を追い詰めながら





二人を致命的なミスをやらかす精神状態にしていた



660: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:17:12.79 ID:yyTaBTze0





周子(ボット)「ばぁん!!!!!!」





そして大声で驚かせる


麗奈「ひゃ!?」

亜季「っく!」


振り返った二人が同時に引き金を引く


急な旋回で安定しない態勢で、

視界が塞がれた状態で、

普通なら引かない状況で、引いてしまった



___その銃口が誤って仲間に向けられているとも知らず



パン!


ドォン!


661: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/16(日) 23:18:10.61 ID:yyTaBTze0


山に住む狐はよく旅人を騙したという話がある


化かして、石ころを木の実だと思わせたり

山道の同じところを何度もぐるぐると通らせたり



旅人が二人組の時などは、

その片方に化けて、喧嘩するよう仕向けたりもしたそうだ




麗奈のハンドガンの銃弾は亜季を貫き

亜季のショットガンの散弾は麗奈を抉る






威力の違う二種類の弾丸

だが二人のスタミナは_

______________

 小関麗奈  120/200


______________

______________

 大和亜季  120/200


______________



ゲーム開始25分経過

小関麗奈&大和亜季VS塩見周子(ボット)

継続中

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

662: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 00:34:55.64 ID:xkyajF+50

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

やあ、ボクだよ二宮飛鳥だ


今からマキノさんの能力の面白いところを紹介してあげよう

暇つぶしがてら聞いてくれると幸いだ


何度も言ったようにマキノさんの能力は擬似ワープ、とも言えるもの


その精度の程は知らないけど、マキノさんは自分が指定した位置に自分の仮初のボット、

あの蜃気楼のような存在を送り込み、その先からデータを受信している、

まあ一応受信だけでなく言葉を伝えるくらいなら出来るらしい


さて、これの面白いとこはこの仮初のボットを送り込んだ本体はどうなっているのか、なんだけどね


消えるんだよね、跡形もなく


ありすの能力、タブレットの画面という狭い庭にドットを使ってボットやプレイヤーの位置をマッピングする《ドットガーデン》にも映らないそうだ

これはよく考えるとマキノさんは一時的にこの世界から消えていることになるんじゃないかな、

だったらずっと蜃気楼でいれば無敵じゃないのかい?なんて言っては見たけどマキノさんいわく永続的には使えないらしい

時間制限、夢から覚める時間があるんだってさ


それにただでさえボクらボットは生身の人間と比べて不確かな存在だ、その上さらに蜃気楼になるなんてたまったものじゃないだろう


そう、時間が来ればマキノさんは能力を解いてこの拠点に現れるのだ


戻ってくるのだ

663: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 00:36:44.51 ID:xkyajF+50


こずえ(ボット)「...あすかー......なぁに、これぇー...?」


飛鳥(ボット)「・・・これはエクステだよ、ボクのオリジナルは校則の厳しい所で学んでいるらしくてね、それに対する些細な反抗という、待って待って待って待って引っ張っちゃダメだよやめてやめてストップ!ストップだこずえ!」 


こずえ(ボット)「...ふわぁ?...あすか...いたいのー?」


飛鳥(ボット)「確かにボクはイタい中二ではあるけど! そうじゃなくて、引っ張っちゃダメ!」



こずえは座っているボクの前に立ってボクのエクステをぐいぐい引っ張っている

確かに珍しいかもしれないけど引いちゃダメだ

でもボクの両手は現在繊細なチューニング作業中、

加蓮さんと拓海さんの戦闘の盗聴を止めるわけにはいかないから動けない



マキノさん早く戻ってきて



こずえだけ置いていかれても困る


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

664: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 00:37:40.70 ID:xkyajF+50


こずえ(ボット)「んぅ...?」


飛鳥(ボット)「・・・・・・触るのはいいけど引いちゃダメだよ?」


こずえ(ボット)「うんー......わかった...よー?...」


飛鳥(ボット)「疑問符はとって欲しかったな・・・」



ボクの必死の説得は実を結び、現在こずえはボクの膝の上に座ってエクステをいじっている

もちろん外したりはしないさ、つけたまま触らせているよ。だからこそ膝の上なわけだし

ボクのアイデンティティだからねそこは譲れない



遊佐こずえ、何の能力も持たないボット、というのはマキノさんから聞いた話だが

たしかにこの小さい子供は能力を使おうとする様子はない



こずえ(ボット)「....さらさらー...なのー」


飛鳥(ボット)「人工物の方が、得てして本物より手触りが良かったりするものさ」


こずえ(ボット)「あすかー...こずえは...さらさらー?」

飛鳥(ボット)「どうだろうね。なかなか特徴的な癖っ毛ではあると思うよ」



こずえに答えながら頭の中を走る声に耳を澄ませる



ああ、どうやら拓海さんが敗北したようだ



ボクは両手を下ろすと能力を解いた。これ以上聞くことはないだろう

拓海さんの能力、名前をつけようとしたら嫌がられたんだよね・・・

ちょっとだけ物思いにふける

665: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 00:38:29.40 ID:xkyajF+50


こずえ(ボット)「?...あすか......かなしいのー?...」


飛鳥(ボット)「さぁ、ボクはボットだからね、そういうのは分からないよ。あとボクのエクステ食べないでくれるかな?」


こずえ(ボット)「...あむー...」


飛鳥(ボット)「ちょ、」


よっぽどボクの髪からぶら下がる装飾品がお気に召したらしい


変わった子だ


これでオリジナルは11歳、ボクのオリジナルと3つしか離れてないのだから驚きだ



ボクは三年前の11歳のころ、どんな子供だったかな?

と、思い出そうとしたけどよく考えたらボットのボクはまだ生まれて三ヶ月と経ってなかった

たとえ三年前の記憶があっても、それはボットとしてのボクの個性を形成するためにオリジナルと晶葉さんが用意しただけのデータだ



個性



ボットたちにとっての個性とはなんだろうか?

666: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 00:39:10.15 ID:xkyajF+50


基本的な思考アルゴリズムにアイドルたちの人格データを組み込んだもの

それがボクたちの姿形、為人をかたどる1と0の塊


こずえ(ボット)「あむあむ...あすか...えくすて......すきなのー?」


飛鳥(ボット)「多分好きなんだろうね、でもヨダレまみれなのはいやかな」


ボクは本当にエクステが気に入っているのかな?

エクステ好きの性格に作られただけじゃないのかな?


あと、こずえ、

もうボクのエクステが半分以上口に含まれてるんだけど、そろそろいい加減にしてくれ


こずえ(ボット)「...んむんむ」


飛鳥(ボット)「やれやれ」


ボクは右手だけ宙に上げると、能力を行使する、まず適当に誰かの声を拾うことから始めよう

ちょっと自分の存在を疑うという嫌な思考に陥りかけたので現実逃避のついでだ

そういえばこの能力もボクらボットにとっては自分を構成する個性の一つだろう

じゃあ、それがないこずえは・・・



こずえ(ボット)「...もぐむぐ...」


飛鳥(ボット)「やめるんだこずえ。ぺってしなさい、ぺって」



こずえはボクの胸にもたれかかりながらエクステをボクの首元くらいまで口にふくみ始めていた


もうほんと勘弁して

667: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 00:39:51.62 ID:xkyajF+50




こずえ(ボット)「んむ?...んぺぇ...」

飛鳥(ボット)「・・・やっと吐き出したかい・・・ああよく考えたらボットに唾液なんてなかったね」


こずえ(ボット)「あすかー...のうりょく......つかってる...?」

飛鳥(ボット)「うん?そうだよ」


こずえはボクが不自然にあげた右手を見るとエクステを吐き出し、そう訊いてきた

ボクは普通に返答する


こずえ(ボット)「...のうりょくー...」

飛鳥(ボット)「まぁ、たいしたことない、ただの盗聴器だけどね、体がラジオなんだよ」



こずえ(ボット)「...ふーん...」




こずえはボクの首元に手を回し、ゆっくり抱きついてきた、

ボクの右胸のあたりに耳を当て、ボクの体がラジオであることを確かめようとしているようだ

668: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 00:40:39.86 ID:xkyajF+50

こずえ(ボット)「......ふわぁ...あすか...あったかいのー」


飛鳥(ボット)「はは、どうだい?ボクの能力が分かりそうかい?」


こずえ(ボット)「...んーんー...」


こずえは首を振ったけどその髪の毛も動いて首元がくすぐったい


こずえ(ボット)「ふわぁ......のうりょくー...」


こずえが耳元で囁く、こっちまで眠くなりそうだ

こずえの方はそのまま眠ってしまうつもりらしい、抱きついたまま離れなかった













こずえ(ボット)「.........いいなぁ......」




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676: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:34:53.88 ID:xkyajF+50
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677: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:35:42.80 ID:xkyajF+50

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凛「・・・つ・・・」


だるいような、重いような

ついさっきまで熟睡していたところを無理に起こされたときみたいに頭がぼんやりする

目の前には真っ赤な空



凛「・・・・・・えっ!?」


慌てて起き上がった、何が起きてるの?

まず思い出そう、順番に


私は最初、武器になるものを求めて目に付く限りで一番大きなビルに入った

そこで、まるで尾行されてたみたいなタイミングで晴と舞が乱入してきたんだ

その後ありすに私のピアスを見せられて、それを追いかけることになった

多分ピアスを囮に私を罠に嵌めようとしてたんだろうけど、それでも私は追った


そのあとありすたちは私を罠にはめる前にビルから飛び降りて、

私も手近な机と一緒に飛び降りた、で、舞の小さい一輪車の上でピアスを取ろうとして

どこからかあずきが現れて、ピアスを持ったまま逃げちゃったんだ



ちがう、それよりももっと大事なことがあるだろう

私はビルから落ちたはずだ、少なくとも地上10階以上の高さからあのまま地面に叩きつけられていたはずだ


678: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:36:39.99 ID:xkyajF+50


私は周りの風景に目をやる


太陽の位置は見えないけど、空の色から今が夕暮れなのはわかる

私が倒れていたのはどこかの野原、草原みたいな場所で、地平線までずっと一面が真緑色だ


空は真っ赤で地面は緑色


ほかには何もない、遠くにビル群が見えるわけでも、山や小屋すら見えない


凛「もしかして、私・・・ゲームオーバー?」


そうだとするなら納得がいく、

ゲームに入るときは文明的な電車、ゲームから出るときは何もない草原で待機




凛「あーあ、結構頑張ったと思ったのにな・・・」


そのままゴロンと雑草の絨毯に背中を横たえても良かったけど、さっきまで寝てたみたいだし私は起き上がることにした


ついでだからこの野原がどのへんまで続いているのか気になったから見てみようと思ったのもあるかな


凛「へー、誰もいないね、私が一人目の脱落者だったのかな」


そう考えるとちょっとショック、私の頑張りはみんなのより負けてたってことだし


私の靴の下で草がしなっているのが靴裏を通して伝わってくる。

さっきまでコンクリートジャングルを走り回っていたから、ちょっと新鮮


凛「・・・・・・あれ?」


最初何かの板が立てられているのかと思った

草原の真ん中にポツンとつっ立った分厚い板


近寄ってみるとそれが扉だとわかった、でもほんとにただの扉ってだけでどこかへの入口には見えない



だってドア枠に戸がはまっているのが置かれているだけ、どこでもドアみたいなものだった

試しにドアノブを回してみたけど、鍵がかかっていた、いや鍵の意味はないと思うけど・・・



凛「・・・ワープゲート?」


この扉を開くと光に包まれてどこか別の場所に着いたりするのだろうか?

679: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:37:51.74 ID:xkyajF+50


ドアノブの上には鍵穴があった、

よく見ると全体的に細かい装飾品で飾られた扉は鍵穴の周りにもおしゃれが施されていた


この鍵穴の周りをふちどる模様は・・・ハートマークが4つ円を描くような、この草は


凛「・・・クローバー・・・?」

しかも四つ葉

思い浮かぶのはキュートアイドルの一人、緒方智絵里


なんだか違和感がある。

ここはゲームオーバーの人が来る場所のはずでしょ?

どうして一人のアイドルを連想させるようなものが・・・




凛「あれ・・・・・・・・・ありす?」



ドアノブの鍵穴から目線を上げたことで少し離れたところに誰かの背中が見えた


視界中にひろがる緑色の中、ポツリとありすの上着の、落ち着いた色だけが浮いている


私は慎重に近づいていく。どうやら倒れているようだけど、油断はできない

ありすにはゲーム内で一杯食わされてるからね、晴や舞にも気を付けないと、近くにいるかもしれない



こつん



足に何かがぶつかる、私の靴のつま先がタブレットを踏んでいた。

たしかありすが抱えていたものだ

その電源はまだ生きているらしく、画面には赤丸が1つと青丸が3つか4つほど表示されていた



凛「なるほどね、これで私を尾行できたんだ」



見た感じプレイヤーとボットの位置をGPSマップみたいに知ることができる能力、あるいはアイテムだったんだろう

まあ、ここには緑の草原と赤い空しかないからもう必要ないかな

680: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:38:39.41 ID:xkyajF+50


ありすの背中に視線を戻す、

あれ、よく見ると


凛「上着だけ・・・?」


ありすの上着だけが草原にかぶせるように落とされている

暑いから脱いだのかな、よく見るとその近くには晴のかぶっていた帽子があった

他にも舞が乗っていた一輪車、これはまた少し離れたところにあったのでありすの上着に近づいたときに見える位置に転がっていた


凛「ボットもゲームオーバーになるとここへ送られるのかな」


で、そのあと上着を脱いでどこかに行ったみたいだね、草しかないのに


いやここからは見えないけどもしかしたら斜面の向こうとかに何かあるのかな


どっちにせよ行儀悪いな、脱いだら脱ぎっぱなしなんて、

仕事に使った衣装をきちんと畳んでいた三人の姿を思い出す、

ああ、あれは現実の方のありす達だったね


私はなんの気無しにありすの上着を手でどかした、

もしかしたら、ありえないけど、あのピアスがあったりしないかなと思ったというのもある


すると上着に隠れるように、ありすの着ていた服一式がスカートも含めて落ちていたのがわかった


・・・ありす、いま全裸?


よく見ると晴の帽子の近くにもボーイッシュな、というかまんま男物の服がまとまって落ちているし

舞の身につけていた衣類も一輪車の下敷きになっていた


凛「なに?・・・ボットは服を残して消滅するの?」

あるいはどこかで三人が水浴びでもしてるの?

681: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:39:31.06 ID:xkyajF+50

ぶちっ



無造作に脱ぎ捨てられていた服を引っ張り上げようとしたとき

そんな音がした


凛「・・・・・・?」


服が重い、じゃなくて服に何かが引っかかっている



ぶちぶちぶちっ



紐が切れるみたいな音が連続する

服が地面に縫い付けられているのだろうか


凛「・・・ふんっ!」



ぶちちちちっ!



思いっきりありすの服を引き上げた

ありすの服にまとわりついていたものが一気に断ち切れていく




根っこ



細い細い根っこが


何本も何本も何本も何本も何本も何本も
何本も何本も何本も何本も何本も何本も
何本も何本も何本も何本も何本も何本も
何本も何本も何本も何本も何本も何本も



服の”中”から生えていた




ああ、違う、



地面から生えた根っこが

服の中に侵食していた



まるで服の持ち主を養分にするように

682: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:41:08.79 ID:xkyajF+50



おそまきながら私は悟った

ありすも晴も舞もどこにも行ってなかった

どこにも行けなかった

服を着てここにいた




でも服の中身は既に何も残ってない



凛「・・・・・・・・・・・・」




中身は多分もうこの世界にもない




私はその場にペタンと座り込む、呆気にとられていた

私の推測でしかないとはいえ、目の前の状況がその推測に疑わしさを感じさせない



地面に座り込んだおかげで私はやっと気づいた



この草原、野原、雑草


よく見ると全部、クローバーで出来ていた






ハートマーク型の三枚の葉をつけた小さな草が

地平線までの地面すべてを覆い尽くしている



私以外はみんなこのクローバーに、喰われていた



空は赤い、血のように



そして

座り込んだ私の足に、一本の細い根っこが絡みついた






ゲーム開始?分経過

【ERROR!】

683: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:42:11.65 ID:xkyajF+50

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

チャプター
輿水幸子&白坂小梅&星輝子


幸子「いまですよ!!」

小梅「う、撃っちゃう?」

輝子「ヒャッハァア!!よくもやってくれやがったなぁ!」


目の前には倒れふした恐竜こと市原仁奈、小梅と輝子はそこに銃を向けている

この隙に攻撃を加えるつもりなのだろう

幸子「ちょっと待ってください!下手に当ててもこの分厚い肌には効きそうもありません!」

小梅「じゃ、じゃあ仁奈ちゃんの顔を、撃つ......」

輝子「う、うめちゃん...こ、こわい」

幸子「た、確かにそこしか有効な一撃は与えられそうにありませんが・・・」


だが、倒せるのか?当てられるのか?

そもそも目の前の巨体はうつ伏せに倒れていて仁奈の顔の部分は見えない

このままでは何もできずに仁奈が起き上がるのも時間の問題だろう

その証拠にティラノサウルスは2本の足だけでなんとか起き上がろうともがき始めていた

仁奈(ボット)「よくもやってくれやがりましたね・・・・・・」


幸子「・・・!!二人とも!やっぱりここは一旦事務所に駆け込みますよ!」

小梅「え・・・?」

幸子「こんなデカブツ相手にしてたら下手すれば弾切れです!まだ事務所にいるかもしれない敵の方が倒せる可能性は高いです!」

輝子「じ、事務、所・・・?」


幸子「えぇ、おそらくこのタイミングでの攻撃の数々、誰かが事務所からボクらを遠ざけようとしているに違いありません!」


小梅「...あ!そ、そっか...」

684: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:42:54.68 ID:xkyajF+50


得体の知れない炸裂する星、そしてそれに乗じた力押しの強襲

今までほとんど接触のなかったボットから畳み掛けるような二連撃

明らかに狙ってきている


幸子「だから、仁奈さんが起きる前にボクたちの方から事務所を襲撃してやります!」

小梅「わ、わかった!」

輝子「フヒッ!」

仁奈(ボット)「に、逃げやがりますか!?」


一目散に自分から離れていく小さな三人に未だにうまく起き上がれないまま仁奈が吠えた

輝子「フハハハあばよ!」


ぱちーん!


ミニキノコ「?fff」

トコトコトコ

仁奈(ボット)「はい?」



はなれていく際にせめてもの仕返しと輝子が自身の能力によるキノコを向かわせた


仁奈(ボット)「こんなのがなんでやがりますか!」


パクッ

ミニキノコ「f!f」


だがそれはティラノサウルスの着ぐるみに飲み込まれた


輝子「ノォオオオオオオオ!!マイフレェンド!!」


幸子「何遊んでるんですか輝子さん!!」

小梅「は、はやく...」

685: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:43:43.35 ID:xkyajF+50


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




翠(ボット)「.........」



深呼吸


脱力


集中


弓を構える


腕を水平に



翠(ボット)「.........」



矢を添える


矢尻を握った手が耳元に来るまで引く


目線はまっすぐ


狙いを定めて


呼吸を止める




まずは止まった的から

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

686: ◆E.Qec4bXLs 2014/03/17(月) 23:45:27.51 ID:xkyajF+50

カランカランカランカランカランカラン!


次の異変に気づいたのは幸子だった


例えるなら流れ星、

さっき自分たちの妨害をしてきたあの星型のディスクが、地面を滑るようにこっちに向かってきたのだ


幸子「はぁ!?なんですかあの星、勝手に動く機能もついてるんですか!?」


小梅「...え?あ、前からも星...」

輝子「でも、今度はよ、よけられそう...」

事務所と、そこへ向かう幸子たちの間を地面を這いながら一直線に星は進む

てっきり地雷のように隠して使われると思っていたあの星が、意思を持ったかのように幸子たちを狙って直進してきている

だが、決してよけられない速度ではない


幸子「ふふん!どうやらボットの方も頼みの仁奈さんが倒れ、ネタ切れのようです、ねっ・・・と!!」

タイミングを見て走りながらジャンプ、幸子の小さな足の下を星が通り過ぎていく

小梅「うわっとと...」

小梅もぴょんと跳ねて星をスルーした

輝子「ヒャッハアアア!!クリアァ!」

星から攻撃を喰らっていた輝子も怖気づくことなく飛び越える


幸子「さぁ、また次の星が流れてくるまでに行きますよ!銃の準備はいいですね!」

輝子「お、おっけい...!」

小梅「は、ハンドガン...い、いつでも、撃てる」

幸子が振り返り、後続の二人が無事だったことを確かめ、攻撃の意思を新たにする

幸子「じゃあ行きますよ!!」

事務所まであと30メートル

そして前を向いてまた走り出そうとしたところで



カツッ!!




空気を切り裂く音を聞く暇もなく矢が一本突き刺さる

輝子「フヒイ!?」

小梅「さ、さっちゃん...!?」


次回 渋谷凛「アイドルサバイバルin仮想現実」 後編