早坂美玲「アイドルサバイバルin仮想現実」 その2

545 :</b> ◇E.Qec4bXLs<b> [saga]:2014/10/19(日) 23:01:57.52 ID:3tSaKvvK0

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チャプター 
渋谷凛 


雪美(ボット)「............」 



にゃあおー 



予知能力者、佐城雪美の腕の中に抱かれた子猫の電話が鳴く 



凛「......っはぁあ...はぁ...!」 



現実世界に帰ってきたのかと錯覚するほど見慣れた風景 


完全にリアルのままに再現された事務所の風景 


唯一つ致命的に違う部分、 


そこにいるはずの仲間が敵であること 


ライバルなどと言う生優しい言葉ではない 

見知った顔全てがその死力を尽くして自分を狙ってくる恐怖 

この仮想現実に来て分かっていたはずだった 



卯月(ボット)「凛ちゃん、いくらなんでも武器もなしに来るっていうのは...」 

未央(ボット)「いやいや~!普段のクールさの中に見せるこういう向こう見ずなとこもしぶりんの魅力だってあたしにはわかるよ!」 

雪美(ボット)「.........でも...そんなのじゃ......勝てない」 




そこは事務所の応接室、二つのソファと間にテーブルを挟んだ形でボットとプレイヤ-が向かい合う 


凛「......ふぅ...っつ...!」 


プレイヤーである凛がふらつく体を必死で支える 

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1396415964

546 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:10:00.21 ID:3tSaKvvK0


仮想現実ではダメージは痛みではなく疲労として現れることもある 


音葉により一度に大量のスタミナを削られた奈緒しかり 

NWの罠にかけられ、全身を刃物で貫かれた蘭子然り 


今の凛がまさにその状態だった 


凛「(あの変な星爆弾で未央が攻撃...卯月がそれの補助、あの星をばらまいてる)」 


背後の壁にもたれることはできない。2本の足だけでバランスをとる 


凛「(それで...その二人に指示を出してるのが雪美......あの子が一番厄介だなんて思わなかったよ)」 



雪美(ボット)「............」 



これまでの趨勢を思い出す 


入り込んだ建物が中身まで事務所と瓜二つであることの驚きを隠しながらも、まず武器を調達しようと考えた 

幸い自分の能力は移動や回避には非常に優れていた 

そこそこ広い事務室の天井や壁面、ときにはロッカーにくっつくようにして重力無視の縦横無尽に逃げながら室内を物色しようとしたはずだった 


小春の攻撃手段であるヒョウくんは外から中へは入れないだろうし 

翠はどうやら自分を直接攻撃するつもりはなさそうだし、外のカラスの対応で手が離せない 


そこに雪美が動いた 


凛「......っはぁ...モグラ叩きのモグラになった気分だよ...」 


自分でも何を言っているのかはわからない。 

だがそう例えるしかない 



雪美が参戦しても攻撃手段は変わらなかった 

未央がどこからか星型のディスクを滑り出させ、 

それを強化した卯月とともに凛に投げつける 


ただし雪美が参戦した瞬間その命中率が大きく変動した。 


具体的には100%に 

547 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:14:49.01 ID:3tSaKvvK0


ビリヤードのように壁を複雑に反射した星が凛に命中する 


爆散した破片が凛の逃げきれないぎりぎりの範囲から飛来する 


瞬間移動した先に地雷のようにいつの間にか星が設置されている 



それは自分の一挙一動一投足を先読みされているに等しい驚異を凛に与えていた 


凛「(......逃げても逃げても...そこを叩きに来るんだもんね)」 


衝撃を増殖させ、 

スーパーボールのように部屋を跳ね回り、 

一定量の振動を越えたあたりで爆散する 

そのパッション由来の大味な攻撃は範囲が広いが弾幕が薄い。 


だから移動に制限のない凛にとっては恐れるほどのものではなかった 


だが絶妙に、未来を知った上で最大限効果的に配置されれば話は別だ 


今の所クリティカルヒットは避けられているが攻撃の度にどこかに必ず攻撃が掠めていく 


凛は把握していない事実だが、卯月の能力により未央の能力は数量以外に威力も強化されている 

それが少しずつ凛へのダメージを蓄積させていた 


卯月(ボット)「ダメだよ凛ちゃん?雪美ちゃんをそんな怖い顔で睨んだりしたら」 

雪美(ボット)「.........いい...私も.........目を離さない......から」 



詰将棋のように一手ずつ追い詰めていく 


駆け引き、そして読み合い 


それは機械の得意分野だ 




ゲーム開始70分経過 

渋谷凛 
VS 
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 
VS 
白菊ほたる(ボット) 

継続中 

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548 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:18:05.93 ID:3tSaKvvK0


未央(ボット)「そ~れ~じゃ~あ~!みおちゃんアタックやっちゃおっかな!」 

凛「.........!」 


手品師のトリックさながら、未央の両の手の平に星が浮かんだ 


雪美(ボット)「.........」 


そのまま右手を振り上げ、 


雪美(ボット)「............みお」 


それを合図に振り下ろされる 


凛「(また、来た...!)」 


3つの星型が机に衝突し、倍速で跳ね返る 

振動の増幅により物理法則を無視した勢いが飛び石伝いに凛を狙った 



凛「(今度は絶対に当たらない...!)」 



これ以上のダメージは看過できない 

地面に平行に滑るようにして、凛の体が応接室の棚に着地する 

視界の中で未央の姿が直角に折れ曲がった 


「......うづき」 

「頑張りますっ!」 


パァンッ!! 


卯月が足を踏み下ろす。 

その動きで足の裏のもう一つの星が踏みつけられた 

未央の左手からあらかじめ落とされていたそれに衝撃が加わる 

振動の無線伝達により、凛が躱したはずの三つの星が空中で破裂した 



凛「(...よけた、のに...!)」 


重力に対しさらに直角に折れ、次の瞬間には天井に貼り付く 



それでも 



凛「なんで...」 




549 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:23:25.59 ID:3tSaKvvK0


投擲は終わっていた 


両手に三枚ずつ顕現した星型のうち、 

右手の三枚を投げつけ、 

左手の一枚を「スイッチ」として卯月の足元に落とし 



残った左手の二枚が既に天井に向けて飛んでいた 



凛「目の前に...!?」 



どのタイミングかはわからない、 

だが凛が天井に着地するピッタリのタイミングで二枚の星型は到着していた 



雪美(ボット)「...いち」 

卯月(ボット)「にのっ!」 

未央(ボット)「さんっハイッ!!」 



一度踏まれてバラけた「スイッチ」の星の破片 

三人が散らばったそれを一斉に踏んだ 



凛のゼロ距離で星が炸裂する 



手榴弾のように細かく飛び散った破片がダーツよろしく壁を穿つ 




雪美(ボット)「.........」 



未央(ボット)「あらら......しぶりん...やっる~!」 


その破片の一つに凛が立っていた。 

重力に対してやや斜めに向いた体幹で、頭が天井スレスレに届いている 



卯月(ボット)「敵ながら流石だねっ!」 


飛んでくる破片を能力により足場として「設定」したことで出来た回避 


凛「......あっぶない...」 



550 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:27:58.17 ID:3tSaKvvK0


とある映画でピーターパンがフック船長の突き出したレイピアの刃先に立つシーンがあるが 

それよろしく能力により飛んでくる切っ先と同じ速度で移動すれば少なくとも空中では破片は体に刺さらない 

そして元々狙いなど付けられてない大部分の破片は凛が急速に離れたことでその体をそれた 


卯月(ボット)「すっごーい!クモみたいだねっ!」 

未央(ボット)「いや、言ってる場合じゃないから...雪美ちゃん!」 

雪美(ボット)「......」 


それでも、全ては躱せなかった 


凛「......っ」 


右腕に食い込んだ三角形のトゲを払い落とす 


凛「(あまかった...ありすたちもあずきも逃げてばっかだったし、ヒョウくんも外にいる...明らかにヤバそうな仁奈も偶然とはいえ倒せた...)」 

「(事務所の中にここまで攻撃的なのがいるなんて想定してなかった......)」 

ましてやそれが雪美だなんて 

ちゃんとした床に着地しながら件の少女を見つめる 


雪美(ボット)「...凛......いたい?...」 

凛「ううん全然?所詮ゲームだし」 


未央(ボット)「でもー...ゲームだからって手を抜くしぶりんじゃないよねー?」 


そういう未央の手にはもうすでに次の星型が準備、装填されている 


卯月(ボット)「そうそう、小春ちゃんたちを通過してきたんだから、それだけで凛ちゃんの実力と真剣さは本物だよ」 

次は卯月の手の中にも構えられていた。弾数を増やすらしい 


凛「(それにしても...くらくらしてきた、まるっきりいつもの未央と卯月なのに、しっかり私を攻撃する準備を整えてる)」 


いつもの友人がいつもの表情のまま襲い来る。まるで悪夢だ 

応接室の窓を背中に雪美を挟んだ二人が武器を構える 



にゃあおう 



猫が鳴く 
551 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:30:36.81 ID:3tSaKvvK0

凛「.........(一旦逃げる?でも何もできてないし...なにか一矢報いないと)」 

卯月(ボット)「...(私は雪美ちゃんの合図で投げればいいんだよね...よし、頑張ります!)」 

未央(ボット)「......(ゆきみんがこっそりサインを出して...それであたしが動く!)」 

雪美(ボット)「.........」 



未来を知る方法は存在するか 


実際はないこともない 

天気予報、株価予想、ハザードマップ 

過去の情報、現在の情報を積み立てて未来の情報に手を伸ばす 

そういった方法を本当に予知と呼べるかはともかく 



雪美の能力はその方法を予知に用いていた 



そしてこの場合、現在進行形でこの世界の情報を無差別に収集、整理している存在は一つ 


雪美(ボット)「......お月様......見てる」 


凛「......?」 



CHIHIROだけだ 


プレイヤーとボットの動向、能力の発動とそれが引き起こす世界の歪曲全てを監視、処理、記録するボット 


にゃあおー 


雪美の能力の要はそこにいた 

そしてすべてを見ていた 

552 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:35:10.36 ID:3tSaKvvK0

卯月(ボット)「雪美ちゃん?」 


雪美(ボット)「.........未央、右に動いて」 


未央(ボット)「...オッケ」 



ボットは余計な思考を挟まない。 

地面を蹴るようにして右手側に飛ぶ 



そのタイミングに合わせたように、外から内へと応接室のガラスが突き破られた 


三人にガラスの粉を降らしながらも致命的な衝突を避け、一抱えほどの瓦礫の石塊が通過する 



一発が壁に大穴を開け 



凛「__ぁぐっ__!?」 



もう一発が壁際にいた凛の胴にまともに命中し、そのまま一直線に大穴へ吹き飛ばした 




予測、あるいは予知通りに 



雪美(ボット)「......凛......ばいばい...」 



仮想現実空間が稼働して72分と数秒 



CHIHIROが望月聖の能力による最大規模の破壊を観測した頃 



彼女の翼の余波が瓦礫を通じ、必殺の威力で凛を打ち砕いた頃 




事務所の上にビルが降る 
553 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:37:22.45 ID:3tSaKvvK0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


凛の姿はもうない 




卯月(ボット)「なんだか...すごいです」 

未央(ボット)「あ、あたしたちの事務所が...」 



窓もソファも机も瓦礫が飛び込んだ衝撃でひっくり返り、向こうの部屋が覗けるほどの大穴をこしらえ 


たった一度の攻撃で応接室がその体を無くしていた 


未央(ボット)「ゆきみんはこれを予知したわけ?」 

雪美(ボット)「.........ううん......まだ...くる」 

未央(ボット)「へ?」 


疑問の声が掻き消える 


落ちてきたビルが着弾し、 

事務所のすぐ隣に建っていた建物が沈んでいく 

一棟の建物がまるごと四散し、地響きが応接室の三人、そして事務所にいた全員の足場を揺らした 


卯月(ボット)「あうっ!!?」 

未央(ボット)「のわあっ!?」 


卯月が窓の外を振り返る。 

そしてついさっきこの部屋に飛び込んできた瓦礫などただの切れ端でしかなかったことを理解した 



事務所の倍以上の体積とさらにその倍々の重量をもったビルディング 



次は運良く隣の建物に当たることもない、まとめて潰されることは明白なサイズ比だ 


雪美(ボット)「......まに、あう...」 



雪美がそう言い終わると同時 

事務所の表、応接室の割れた窓越しにそれが姿を現した 

554 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:40:35.53 ID:3tSaKvvK0

エレベーターのように下からその巨体を上昇させ、卯月と目を合わせる 


卯月(ボット)「え......ヒョウくん?」 

ヒョウくん「............」 


首にリボンを巻いた翼竜が両翼を唸らせ、風を切り、真正面からそのビルに向かう 


爬虫類らしく変化のない表情はこの状況下では勇ましくもあったが、そのままでは行為は蛮勇でしかない 


いくら巨体とはいえ相手は一棟の、そして高層の建造物 

二歳児と2トントラックほどの覆せない体積差。重量ならばそれ以上だろう 

落ちてくるそれへ、真下から迷いなく突っ込んでいく 

そして 


「___流鏑馬...というのなら分かりますが...」 


天へ向かう龍の背に掴まっていた彼女が姿を現す 



翠(ボット)「...仮にも竜に乗って弓を射る機会が訪れるとは思いませんでした」 



翼竜は、ぐんっと胴を回転させる勢いで背の角度を垂直から水平へ修正する 

それにより彼女もまたその背にまっすぐに立ち直す 




深呼吸 


脱力 


集中 


弓を構える 


腕を天に向けて 



翠(ボット)「.........」 



矢を添える 


矢尻を握った手が耳元に来るまで引く 


目線はまっすぐ 


狙いを定めて 


呼吸を止める 


そして矢は放たれた 

555 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:44:36.26 ID:3tSaKvvK0


蚊の刺すような一撃がコンクリートの巨塊に食い込む 

射られた点を中心に的の図柄がじわりと浮かんだ 



翠(ボット)「......能力、発動」 



水野翠の能力 


『矢の範囲にある、いかなるものも彼女の60メートル以内を侵すことはない』 


強引に、即座に、抵抗もなくコンクリの大型隕石の軌道が逸れた 

その急カーブに暴風が吹き荒れ、翠が姿勢を崩しかける 


翠(ボット)「...っと...危ない」 


同時に、直下のカラスを軒並み下敷きにしながらビルは豪快な音を立て墜落した 


ギリギリで事務所からは外れた位置で 







卯月(ボット)「た、助かりました...?」 


未央(ボット)「ほへー...みどりんカッコイー」 


二人が応接室の窓から身を乗り出す 


小春(ボット)「ヒョウくん素敵です~!●●●●です~!」 


別の部屋でもまた、窓に駆け寄った少女が喜びの声を上げた 




雪美(ボット)「.........?...」 



そして予言の少女は一人疑問を漏らしながら窓と反対側 

壁に空いた大穴を見つめていた 

556 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:46:34.95 ID:3tSaKvvK0

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望月聖の能力の絶対性 

六枚の翼に無限の攻撃力と無限の防御力 

どんな攻撃も通用せず、どんな防御も意味がない 



事務所に飛来した瓦礫の礫にもまたその余波が上乗せされていた 


凛は間接的とはいえ聖の一撃をまともに食らったことになる 



スタミナが少しでも残る可能性などなく 


助かる道理もない 



本来ならば 





「っけほっ!...うぇ、がふっ」 




空から落ちてきた地面に対して斜めに傾いたビルの下側 

そこに蓑虫よろしく逆さまに貼り付いた凛が息を整えていた 


「隕石...かと思ったら次は建物が丸ごと...どうなってるの、これ」 


その隕石に直撃されたにしてはありえないほどの気丈さで呟く 


「......あれが雪美の能力...?じゃないよね、多分。雪美のはあのやたら当たる勘の方だろうし」 


よく見ると凛の服の一部、ちょうど腹にあたる部分が淡く光っている 

その薄明かりが布越しに凛の周囲を把握させるだけの光源となっていた 



「ふぅ......皮肉だよね」 

557 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:48:49.22 ID:3tSaKvvK0


服をまくり上げる、隕石に穿たれた胴を晒す 



「ボットの能力がボットの攻撃を防ぐなんて」 



そこにあったのは薄い板、青い光を四角に放射する物体 


橘ありすのタブレットがスカートに挟まれるようにしてそこにあった 



『ボットは直接的にも間接的にもアイテムを破壊できない』 



それはこの世界の掟の一つ 

大原みちる以外には、例え望月聖であろうと破れない不可侵のルール 

最後の最後で佐城雪美の予測の陥穽を突いたアイテム 

それらが盾になり、凛を皮一枚のところで救っていた 


「画面にヒビも入ってないや...よっぽど丈夫だったんだねコレ」 



彼女はそれを知らない 

「......(あと、これだね)」 

タブレットをしまっていたところとは別、スカートのポケットをまさぐる 

「(...大切そうにしまってた、いや隠されてた?みたいだけど...これって明らかに__)」 

応接室の壁のむこう、現実世界では半ば物置と化した資料室に当たる場所 

致死の攻撃に凛が打ち抜かれていたはずの場所、 

そこで運良く命を繋いだからといってただ逃げだす程、彼女は素直ではなかった 


「__奈緒の髪飾りと、加蓮のネイル、だよね」 


ボットはアイテムを破壊できない、だが隠すことはできる 

そして隠されていたそれらの一部は今ここにあった 


____________ 

 渋谷凛+  32/100 


____________ 

ゲーム開始75分経過 

渋谷凛 
VS 
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 

プレイヤー側の戦闘放棄により続行不可能 

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 
VS 
白菊ほたる(ボット) 

一時中断
558 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:51:40.45 ID:3tSaKvvK0

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イレギュラーチャプター 

《不気味の谷》 

池袋晶葉&一ノ瀬志希&佐城雪美&岡崎泰葉 




_________________ 

  すべて/不在着信   編集 


tfPnvsoE/ifevvszerRs490o 今日 

    助手       月曜日 

    助手       土曜日 

    助手       金曜日 

__________________________________ 




559 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:53:42.95 ID:3tSaKvvK0



「ふうむ...では本当に雪美は私の携帯電話には掛けてきてないんだな?」 


「...うん......その時......私、お仕事......してた」 



「はすはす♪...うんうん、やっぱり泰葉ちゃんはたんぽぽの香りだね~」 

「...蒲公英ですか?香水の類はあまり付けないようにしていますけど...」 

「あふん...そーじゃないんだなーこれが~」 




晶葉「...何をやってるんだ君は」 

泰葉の隣に腰掛け髪の匂いを嗅いでいる志希をたしなめる 

晶葉の向かいのソファには雪美がちょこんと腰掛けている 


ここは談話室、そして簡素なソファとウォーターサーバーだけが備え付けられた室内には四人の人間しかいない 


池袋晶葉、一ノ瀬志希、岡崎泰葉、そして佐城雪美 


ボットではなく生身の人間としてそこにいる。膝の上で気持ちよさげに欠伸をする猫も同様に生身だ 

だが、こうしている間にも彼女のラボでは18台のカプセルが稼働している 

それでも二人がその場を離れているのには理由がある 


岡崎泰葉「...えっと、先ほどの話が聞こえてしまいましたけど...晶葉さんの携帯に着信があった時間帯は私と雪美ちゃんは一緒でしたよ?」 


佐城雪美「......同じスタジオで......撮影...してた」 


晶葉「ふーむ、だが......声紋を調べた限りあの声は雪美のものだったのだがな...」 

志希「にゃふ?...ケータイを変な機械に繋いで何かしてるなーって思ってたけど、声紋調べてたんだ」 

雪美「......せい...もん...?」 

泰葉「何やってるんですか貴方たちは...」 


晶葉の携帯電話の不可解な着信、判読不能な電話番号にノイズまみれの音声 

最後に一言だけ残った誰かの声。晶葉と志希の二人はそれらの解明に動いていた 

その最初の一歩が、声の持ち主だと推測された雪美への聞き込みだったのだが 

晶葉「...まさかボット制作時に使わせてもらった音声データがどこかで漏れたか...?」 

560 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:55:21.31 ID:3tSaKvvK0


雪美「...ボット...今、みんなが遊んでる...ゲームの...?」 

志希「ゲームか...本人たちは多分ガチになってるだろうけどね~」 

注意されたからか、泰葉から少し離れた場所に座りながら志希がケラケラと笑う 

泰葉「ゲーム...あぁ、プロデューサーさんから聞きましたね。なんでも最新の技術を導入したとか...?」 

晶葉「むむ、助手にしては説明が曖昧だな...ゲーム自体は確かにこれまでにない技術だが私は仕上げにしか関わっていないぞ...」 

雪美「そう...なの...?」 

志希「そーそー、箱庭はほぼノータッチのテスト品だよん。晶葉ちゃん謹製なのは電子のお人形さんたちだけ」 



泰葉「............人形...ですか?」 


飄々と解説する志希の言葉に泰葉が反応した 

いつの間にか志希の白衣の端をその手に握っている 


泰葉「それって_」 

晶葉「_おいおい、人形とは違うぞ志希」 


雪美と自分の携帯電話に交互に向けていた視線を切り晶葉が聞き咎めた 


晶葉「確かに外部からの命令がなければ動かないのは事実だが、ただ言われるままに動くというわけではないのだからな」 

志希「そーだっけ?......えっと、そーだったね、さっき聞いたっけ」 

泰葉「............」 

雪美「...?...気に...なる......」 


頭越しに交わされる二人の会話に興味を惹かれたのか、雪美が小首をかしげる 

表情に大きな変化は見られないが子供なりに好奇心を刺激されたらしく目を輝かせている 

晶葉「んん?...ほうほう、私が言えたことではないがその歳で私の研究に関心を持ってくれるか!」 


晶葉はそれに気分を良くしたらしく、携帯電話を白衣にしまい雪美に向き合うと講義でもはじめるかのようによどみなく話し出した 

一応それも子供向けにかなり噛み砕かれた抽象的なものらしい 


晶葉「私が作ったボットの最大の特徴はそれぞれが必ずしも最適解を出すとは限らないということだ。」 

「あらかじめ刷り込んだ事務所の一部の人間の思考パターンを参考にしてそれに沿って行動するようになっている」 


「言ってしまえばモノマネでしかないのだが、ふふふ...それも最初のうちだけさ」 


雪美「...最初......だけ...?」 



晶葉「そうだ。最初は模倣だが、それを軸に周りの環境から学習し個性へと昇華させるのだよ」 

泰葉「模倣を個性に...それって具体的にはどういうことなんですか?」 

晶葉「具体的に?...うむ、なんと説明しようか...」 


体を雪美と泰葉両方に向けるようにして顎に手を当て沈思する 

専門用語をなるべく使わないで説明するにはどうしたらいいだろうか 

561 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:57:41.21 ID:3tSaKvvK0


晶葉「___例えば、水の入った容器が一つあるとして、君たちならどうする?水の量や容器は自由に規定してもらって構わない」 


雪美「...お水......飲み物...コップ?」 

泰葉「飲む...と言いたいところですが、アイドルですし喉のことを考えるとそのままというのは抵抗がありますね、加湿器にでも入れましょうか」 

志希「にゃはっ!そりゃフラスコに適量移して実験開始でしょ~」 



例示として出された質問に綺麗に三者三様の答えが返される 


晶葉「とまぁ、今のように水と容器という二単語からコップ、薬缶、フラスコという意見を引き出せたわけだ」 

「他に想像のつく限りでは......茜ならランニング後に盥いっぱいの水を頭からかぶるかもしれないし、凛や夕美なら花瓶に花でも挿すのかもしれない」 

「では次に......迷子になった猫を探すならどうする?」 


雪美「...居場所...ペロに......教えてもらう......」 

泰葉「探し中の張り紙か、ネットで呼びかけますかね」 

志希「ハスハスして匂いを辿るよ!」 



晶葉「という風に同じ問題でも解決方法は多岐にわたるわけだ」 

泰葉「まるで心理テストみたいですね」 

晶葉「そうだな。ボットに入力された最初の情報がそれだ。『お前のオリジナルはどういう時にどう行動するか』その心理テストの答えを一通り網羅した上で生まれる」 

志希「なーるほどね~、物事に対するリアクションが本人と全く同じなら少なくともボロは出ないもんね」 


雪美「......リアクション......みくと...お魚さん...とか?」 

晶葉「おおう、分かってくれたか。みくのボットにも魚を見たときの反応はインプットされているのだよ」 


10歳児にもある程度は分かるように説明できたことが嬉しいのか顔を綻ばせる 

その向かいで思案顔をして同じく自分なりに理解に努めていた泰葉が怪訝そうに口を開いた 


泰葉「それって、つまり決められた刺激には決まった反応しか返さないということですか?」 

志希「シミュレーションゲームみたいだねー、まぁ実際物理シミュレーションソフトなわけだけど」 


面白がった志希がその指摘の尻馬に乗る。いつの間にか泰葉のすぐ隣に戻っていた 


志希「よく知らないけど恋愛ゲームみたいな感じ?話しかけ方とかプレゼントとかで返事が変わっていくし、そっくりだよねー」 

泰葉「それはよく知りませんけど...」 

晶葉「あの手のゲームは所詮、最初から用意された選択肢の幅しか反応がないだろう。私のボットはそうじゃないぞ」 

特にそれに気を悪くするでもなく晶葉の説明が続く 

晶葉「ボットは唯反応を返すだけではなく、常に思考している。ここで、さっきの心理テストとやらが活きてくるのだよ」 

「ボットは周りの変化だけでなく自分についても考察を重ねている。”自分は何故水の入った容器をタライでも薬缶でもなくコップだと考えたのか”」 

「”何故猫を探すのに、その匂いを重要なファクターに据えたのか”といった具合に自分の性格、人格、存在にも解答を出そうとしているわけだ」 

雪美「......ペロは...そんなに...匂わない...よ?」 

志希「そなの?嗅いでいい?」 

泰葉「.........」 

562 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/19(日) 23:58:47.36 ID:3tSaKvvK0



晶葉「数値解析という学問では答えとなる数字だけで未知の数式を導き出すわけだが、やろうとしていることはそれに近い」 

「凛のボットだとするなら...”水に花を挿すということは自分は花好きか花に詳しい人間かもしれない”という推測を心理テストの答えの数だけ積み重ねていく...」 

「こう言うとなんだが、プロファイリングにも近いな、手掛かりや物的証拠から人物像を描き出すというところが...」 

雪美「プロ...フェイ...フェイ?」 


志希「でもそれってさー...完全に同じ人間にはならなくない?」 

泰葉「そう...ですよね...いくら表面を全く同じ風に演じて、その内奥を再現したとしても、それは演技でしかありません...」 


水を差すようなことを言われても晶葉は特にそれを否定するでもなく続ける 


晶葉「だな...さらにボットと人間では周りの環境が違いすぎる。同じ人格に育つほうがおかしいが......私はそれをボットの個性だと思っている」 


雪美「.........」 


泰葉「じゃあそれって最後には、別人格になってしまうんですか?」 

晶葉「...別人格に成る、か...あるいは育つ、とも言えるな」 

「最初は模倣でも成長を続けていけば最後は誰にも模倣できない個性になる......といいんだがなぁ」 


そこで話はおしまいとでも言うようにソファから降り、白衣の裾を正し始めた 


晶葉「時間を取らせて悪かった。一旦ラボに戻るよ」 

雪美「......別に...いい......」 

泰葉「...こちらも興味深い話が聞けましたし」 


志希「ねぇねぇ泰葉せんぱーい、もうちょっとの間ハスハスしていーい?」 

泰葉「......はすはす?」 



563 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/20(月) 00:01:53.71 ID:B98Kmoz40

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

談話室を出た二人が事務所の廊下を並んで歩く 

年齢も身長も差のある二人の白衣の裾が同じようにはためいていた 



志希「にゃふん......さよなら、たんぽぽの君...」 



晶葉「君には留守番を頼んだほうがよかったのかな」 

志希「やーん、そんなことされたら失踪しちゃうぅー」 



冗談ともつかない志希の軽口に付き合いながらも晶葉の足並みは乱れていない 


志希「...で、晶葉ちん、電話の件はもういーの?」 

晶葉「いいわけない、だが泰葉と雪美が嘘をつくはずもないしな。もう一方の可能性にアプローチするよ」 


志希「もう一方?」 


晶葉「ボットが”こっち”に来た可能性だよ」 



志希「んん?...なにそれ、電子のお人形さんがコンピューターの中からこっちにお話しに来たってこと?」 

晶葉「何をしたかはまだ分からないが、可能性は絶対にゼロというわけではない」 



そう言いながらも晶葉の口調は断定のそれに近かった。そのことに気づいた志希が歩きながら晶葉の顔を覗き込むように上体を曲げる 

志希「うーん...晶葉ちゃん、なーんか隠してない?」 

晶葉「隠す?ボットのことか?」 


顎に手を当てるようにしてしばし考える。その間も歩行速度は変わらない 

やがて意を決したように話し始めた。心なしか声が平坦になっている 

晶葉「......最後には別人格になる、といったな」 

志希「うん、さっき言ってたね~」 


晶葉「実は...私が思うに新しく人格を作るのは飽くまで途中経過であって、最後ではないのだよ」 

「正直、実現の目は限りなく小さいがな...」 



564 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/20(月) 00:04:28.11 ID:B98Kmoz40


最初は人間の粗雑な模倣、 

それが周りの環境に影響を受け、あらゆるものに絶えず疑義を持ち、解を求め 

プレイヤーを通して人間の思考と触れ合い、思考し、行動し、 

やがて全く別の人格と思考を持つに至る 



志希「___で、それ以上ってあるの?」 


事務所の奥にあるラボの扉が見えた二人の歩が少しだけ緩やかになり、扉の前で完全に停止した 



晶葉「__人間になるんだよ」 



携帯電話を取り出し、手早く信号を入力する。 

厳重にロックされていた扉から開錠音が鳴った 


一瞬言葉の詰まった志希が開いたドアの奥の景色、 

機械の立ち並んだ区画に目をやり、もう一度晶葉を見る 


怪訝そうな、面白がっているような、虚を突かれたような表情で聞き直した 


志希「......人間に?ボットが?」 


晶葉「ボットが、だ......途方も無い処理能力のコンピューターがあればの話だがな」 


志希「本気で言ってる?」 


晶葉「......さぁ、どうだろうな」 


外出中だったせいでラボの中は薄暗い。 

その暗闇のなかに白い衣が消えていった 

やがて二人の姿が廊下から見えなくなり、 

自動的に閉まったドアがその闇も遮断した 

565 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/10/20(月) 00:05:10.47 ID:B98Kmoz40


ゲーム開始81分経過 

行動中のボット 全16体 

高峯のあ アナスタシア 森久保乃々  

水野翠 望月聖 佐城雪美 二宮飛鳥 古澤頼子   

遊佐こずえ 白菊ほたる 島村卯月 古賀小春  

浜口あやめ 高森藍子 本田未央  南条光 


白:坂|小>{梅; 




行動中のプレイヤー 全14体 

凛 奈緒 加蓮 小梅 蘭子 

智絵里 幸子 美玲 杏 

愛梨 紗南 きらり 裕子 麗奈 




全ボットのプレイヤーとの接触が完了しました 

1件の不審なデータがあります 

570 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:18:44.37 ID:jhlcpBHT0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南 



地上での戦闘が激しさを増す中、地下もまた腹の底を揺さぶるような地響きが絶えず起きていた 


壁に吊るされた照明のもたらす仄かな明るさとは別の白光、ゲーム画面のバックライトがそこにいた三人の表情をくっきりと浮き彫りにしている 


奈緒「あっ?」 

紗南「あれ...!?亜季さんが!」 

加蓮「消えちゃった?」 


地図もないままに地下下水道を踏破することはできない。 

だが、自分たちの進むべき方向だけでも見出す必要があった 

そこで羅針盤の代わりとなったのが三好紗南の能力の一つ、一直線上に存在するボットかプレイヤーを発見し情報を詳らかにする能力だった 

彼女たちはこの『一直線上』を利用し、入り組んだ地下下水道を迷うことなく進んでいた 

それはさながら空にあって不動である北極星を目印に見失った道を探る遭難者に近い 


だが数分前、その指標は消えた 


加蓮「亜季さんが動いたってこと?」 

奈緒「そりゃ、ある程度は動くだろうけどさ、でもさっきまでは何とか照準合わせてたじゃねえか」 

紗南「いや、大丈夫だよ...亜季さんがやられてなければ...」 


一時的に足を止め、壁にもたれて休憩を始めた加蓮を尻目に紗南が手元のゲーム機を傾ける 

圏外に置かれた携帯電話でなんとか電波を拾おうとするような動きに対してその画面に変化はない 

サーチモードという表示だけが無常に輝くだけだ 


奈緒「......やっぱ...やられちまったんじゃねえか...?」 


壁に体重を預けた加蓮とは別に、その場にしゃがんで足を休めていた奈緒がぽつりと言う 


紗南「でも亜季さんだよ?この手のサバゲーでほいほい負けるはずないって!」 

奈緒「でもよぉ、まゆも美穂もやられちゃったじゃんか...美穂はともかくまゆはボット相手にかなり押してたのにさ」 


弱音とは少し違う。 

どちらかというと今、自分たちのいる仮想世界の厳しさ、難易度を紗南に説こうとしているような、 


”ここでは誰かの勝ち負けを予想なんてできない” 


奈緒の言葉はそう言いたかったのかもしれない 


紗南「でも、だったら!アタシたちどうするの...!?」 

ゲームを掲げていた腕をだらんと下ろし、奈緒に向き直る 

画面が漏らしている、目に眩しい光が紗南から外れその表情が闇に沈む 

571 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:21:00.87 ID:jhlcpBHT0


紗南「あんなカラスまみれの地上にレベル1の装備で出たって死にゲーだしさぁ...」 


それは間違いなく弱音だった 



加蓮「それにしたっておかしいでしょ?」 



切り込むように加蓮が疑問を投げつける。 

奈緒か紗南か、あるいは両方に言っているかのように 

二人と同様に疲れているはずの彼女の声に弱った部分は見られない 


加蓮「亜季さんが負けたのなら、必ず亜季さんの位置を探っている間に敵のボットの情報が飛び込んでくるはずなんだから」 

紗南「そりゃ、そうだけど...でも今までは引っかからなかったのに今になって見つかる?」 

加蓮「それは紗南の腕がいいからでしょ、今まで途切れることなく歩きながら、見えない遠くの亜季さんの位置にゲーム機を向け続けてきたんだから」 

奈緒「だから余計な情報はキャッチしなかったってか...まぁ、亜季さんを脱出の目印にすることしか頭になかったしな」 

加蓮「っていう風に考えると亜季さんは負けたんじゃなくて、紗南の能力の届かない場所に追いやられたんじゃないかな」 


紗南「う...確かにこの能力、直線でどれくらいの距離までカバーできるのか検証できなかったけど...」 

加蓮「あるいは亜季さんか、それともアタシたちが電波を遮断するような攻撃をされてるとか?」 


ともすれば自分たちの危機とも取れる言葉を、いっそあっけからんと言ってのける 


加蓮「なんにしても亜季さんを仕留めたのならアタシたちのところにその手掛かりが入ってくるはずなんだから、それはないよ」 

そしてそう締めくくった 



もちろん加蓮は知らない、残りの二人も知る由もない 



電波よりももっと高速で強健な存在、 


「光」を使った攻撃が、 

数百メートル先の亜季を含む5名を地上に掬い上げたことを 


それが数分前であり、そしてたった今、加蓮の言葉を借りれば大和亜季は「仕留められた」ことを 




ゲーム開始81分経過 

報告事項なし 

572 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:23:00.39 ID:jhlcpBHT0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


真っ赤な色が真っ黒な世界に浮かぶ 


その赤はボットのバッジの色だ 


かつての摩天楼、今となってはゴーストタウンと成り果てた風景を見下ろす 


高い高い視界から 


高いビルも低いビルも、その窓ガラスの枚数も 


屋上に設置されたタンクの大きさも全て見通せる位置 


高空からの光景 



カラス型ボットの彼、あるいは彼女のそれは鳥瞰という 



彼らは群れで飛翔する、群れで攻撃する 


防御はない、 

休憩や撤退もない、 

仲間を援護することも勿論ない 


それ以上のプログラムは組み込まれていない 


彼らの主はそれ以上を与えていない 


変わりに賜ったのは錆びた剣 


斬るもの全てを腐敗せしめるおぞましき刃 


彼女に代わって、この現実全てを無に帰す力 


573 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:24:22.98 ID:jhlcpBHT0


それを振るうべき相手を眼下に見つけた 


群れと共に急降下する。 


両翼を震わせ、ビルを横目に垂直に地面へ向けて加速する 


いる。 

何人も何人も何人も、いる 


どこを見ているのかわからない瞳で、それでもどこかをじっと見たまま歩いている 


集団で、もしかしたらカラスよりも大群で、どこかへ向けて歩き続けている 


だが、カラスたちはその集団の行き先を知ろうとは思わない、思えない 


ただ、最短距離で、効率重視で標的を朽ちさせるのみ 


そして集団の頭頂部が目と鼻の先になるまで接近したところで一度、羽ばたく 


嘴を突き刺した、鈎のような肢で引っ掻く、能力で腐敗させる 


主の指令どおり、小さな鳥類の体で標的相手に精一杯に暴れまわった 



しかしその攻勢は永遠には続かない 



宙をジグザグに飛翔していたその姿は敵に捕捉され貫かれる 


鉄屑とアスファルトでできた槍に 


同時にカラスに触れた部分がボロボロと崩れていく 


それはガラクタの人形、ガラクタの軍隊、偽者の偽物 


高峯のあの細胞を核に単調な動きを繰り返すだけの粗末な分身 


地を這うように練り歩くボットと、黒い稲妻として捨て身の荒廃を振り撒くボット 


どちらも主の命に忠実に行動を続け、決して止まらない 


574 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:26:26.83 ID:jhlcpBHT0


ぶつかり、突き、刳り貫き、刺し、薙ぎ、切りつけ、腐らせる 


石が、土が、羽が、鉄が、軋轢音が、鳴き声が、零れ落ちていく 




そして、そして、そして 



その付近で飛んでいるカラスは最後の一羽だけとなる 



対して、結果としてカラスに体格差で勝っていた人型は十数体 



それでも最初は百体近くいたのだから、損害は軽くない 

損害、つまり高峯のあの受けるダメージだ 

一羽の鳥はそれでも攻撃をやめない、体格、物量ともに負けていても躊躇はない 



カラスは最短距離での体当たりを敢行する。主人の命の下に 

対して人形は歪に捩じくれた槍で迎え撃つ。主人の命の下に 



一羽と一人が接触し 



二つは横薙ぎに殴り飛ばされた 



「___。。、。。__」 



横槍ならぬ横殴りを入れられる。しかもそれはただの一撃ではない 



いくつものボットを犠牲に増幅された威力。 

それが一人と一羽を撃ち抜き一緒くたのごちゃごちゃした塊となって爆ぜさせた 



「____・。、」 



そしてそれも吸収される。一緒くたのごちゃごちゃした塊となって 

カラスはもう一羽もいない、だがガラクタ人形ならまだいる 

それは周りを振り仰いだ。更なる容量を求めるために 


「。・__?_?__」 


そこでそれは違和感を持った 




周囲の人形が全て消えていることに 

575 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:28:21.75 ID:jhlcpBHT0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


アナスタシア(ボット)「...シトー?何が起きているんですか?」 

のあ(ボット)「分からないわ...でも、これが夜の洗礼なのかもしれない。そうじゃないのかもしれない...」 

「どちらに転ぶにしても転がり始めた事象は私たちの手に負える大きさでは...ないみたいね」 


のあは最後のカラスがいなくなったタイミングで残りの人形を「解体し」 

地中を潜らせ、迅速に回収した 

元々ガラクタの部分にはカラスの能力から自身の一部を保護するための被膜の意味合いしかなかったのだからそれも当然だった 


二人は今崩れかけた背の低いビルの3階に隠れていた。 

近くを飛ぶカラスを打ち払い終えた後のしばしのインターバルの間に 


のあ(ボット)「もはやボット同士であることが味方同士であるとは限らない...プレイヤーとの見境もないのね」 


ひび割れた窓越しに外を見下ろす。 

先程まで分身のいた場所を小さな少女がてくてくと歩いている 


アナスタシア(ボット)「あのボットたちに...プレイヤーは勝てるでしょうか?」 

のあ(ボット)「裕子をはじめとして...何人かのプレイヤーには戦闘を行わざるを得ない状況に追い込んだりもした...」 


地下の戦車格納庫に落としたプレイヤーを回想する 


わざわざ敵に塩を送るような真似をしたのには、少なくとも最初は理由があった 

576 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:32:53.04 ID:jhlcpBHT0


のあ(ボット)「全ては今陥っているこの状況に対処するため...だったというのに」 


プレイヤー側の戦力をある程度まで引き上げたところでそれを打ち負かし 


その戦闘で得た、あるいは学習したデータを元に自分たちをボットとして上のレベルに上げる 


そして『夜』に訪れるであろう強敵と、その能力から生き残る 


彼女たちは自己評価を誤らない。 

この世界に来た時のままのステータスと能力だけで敵を打倒しうるとは考えていない 

概要だけみるならそれは「経験値稼ぎ」だ。 

敵が強いほどにより多くの値が得られるのなら、敵を打倒可能なギリギリまで強化する、それがのあたちの戦い方 


今現在、別の地点で古澤頼子が画策していた「蠱毒」と根幹は同じ 


のあ(ボット)「...なんにしても始まってしまったのなら足掻くしかないわ。全ての手札を切ってでも」 


違いは高峯のあがプレイヤーの「質」にこだわったとすれば 

古澤頼子はプレイヤーの「数」を重要視していたことか 


アナスタシア(ボット)「あれは...小梅ですか?ボットだったんですね...」 

のあ(ボット)「相手をする必要はないわ...今の戦力だともう回りくどい手段は取れない。プレイヤーを直接叩くしかないわ」 


覗いていた窓辺から離れる。 

人形、ひいては身体の一部が随分と失ってしまった。 

この状態でもこれから起きるであろう戦闘に備えなければならないのだ 


ボットは混乱しない 

予定外の出来事に直面してもその思考に1ビットのゆらぎも起きない。 

それが起きた瞬間には次の思考が開始されている 





だから 

577 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:34:26.35 ID:jhlcpBHT0


「__・。、!・__」 


窓越しに小梅らしき少女と目があったときも 

ガッシャアアアアアアン!!! 

窓ガラスを粉砕しながら 

小柄な肉体に見合わぬ跳躍力で3階の窓まで飛び上がってきたときも 

「みつけましたよー?」 

小梅を追って高森藍子が現れた時も 

のあとアナスタシアの心は折れない 




ゲーム開始95分経過 

高森藍子(ボット) 

VS 

高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット) 

VS 

白坂小梅(あの子) 

開始 
578 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:36:47.24 ID:jhlcpBHT0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


ゲーム開始90分時点 



異形、醜怪、埒外 


一瞬たりとて同じ形を保たない。 

不定形にして変幻自在 


目線を一度でも切ってしまえば、次に目を向けた時にそこにいるものは全くの別物になっている 


高森藍子の相手はそういうボットだった 


それを白坂小梅と呼ぶのは余りにも憚られたし、実際それは白坂小梅ではなかった 


「___・・。_。」 


藍子(ボット)「どういう能力なら”そんなこと”になるんですか...」 


狭い屋内を「根」が這い回る。 

キノコの軸から生えたそれらが天井や床をのたくりながら藍子を目指す 


その軌跡もまたは複雑怪奇に曲線を、Z字を、渦巻きを描いていた 


空間を縦横した根が養分を求めるように藍子の背中に飛び込む 


彼女の目は、ボットの目はめまぐるしく変わる目前の状況の把握に使用されていた 

579 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:37:44.85 ID:jhlcpBHT0

だが、それでも 


藍子(ボット)「幸い、ただの物理攻撃なようなので私には届きませんが」 


ぴたり 


藍子の背中まで悠々1メートルは残したまま根の触手が停止する 


そこにある不可視の壁に閉ざされたかのように、先へと進もうとしない 


いや、正確には完全には止まらず、ゆっくりと先端を伸ばしてはいた 



だが余りに遅い、遅い、遅すぎる 



たった一メートルを突き抜けるだけで何時間もかかってしまうのではないか、 

そう思わせるほどに鈍重な進行 


「___?・・__?_。」 


藍子(ボット)「......私には追いつきませんよ?__絶対に」 


既にその先端、切っ先を向けている触手は一本ではない。だがその全てが 


何本もの触手が、何回もの刺突が、鞭打が、巻きつきが、"停まっている" 

580 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:39:12.40 ID:jhlcpBHT0

「・・._・。、||・__」 


ぐちゅりっ 


触手の先端が花の蕾のように咲き裁たれ、裂き割れる 

そこからカラスが首をもたげた。鋭くとがった黒い嘴が太い爪のように藍子に狙いを定め、 

首だけが発射された 

ぐちゃんっ 


だがそれもすぐさま空中で停止する。藍子自身に害はない 


それでも藍子の顔が曇った。 

すぐそこにカラスの生首が浮いていればそれも当然だが 



藍子(ボット)「本当に...いやな攻撃ですね」 



改めて小梅だったものを見つめる 

その小柄だった体にはキノコの根が絡み、カラスの肉が貼り付き、ひとつのボットとなっていた 

それぞれのパーツが勝手気ままに蠢き、犇く。 

例えるなら今、その形はカタツムリのようで、 

だがそれも次の一瞬で別のなにかへ変貌する。 

次は猿に似た形へ、次は蛸へ、次は樹木へ、次は___ 


「___・。。、_・/>>・・」 


複数のボットを一体のボットへと混ぜ合わせる能力。 


そしてその能力は今、一体の部品に藍子を組み込もうとしているのだ 





だが、それは叶わない 


581 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:40:22.75 ID:jhlcpBHT0


__ブヅッ__ 


藍子が一歩踏み出し 

一本の触手が消える 

足の下でノイズを立てて掻き消えた触手に目もくれず、 

藍子はまた一歩を踏み出す 


ノイズ 


藍子(ボット)「他にできそうなことも無いようなので、こちらから行きますね?」 


「・・・_・_??__??_」 


藍子を取り囲んでいた触手の包囲網の一部、本体へ通じるエリアが突破される 


ノイズとともに消滅し、素通りされた 


触れることも無く、無かったことにされていく 


「?_?<?」 



藍子の歩みは遅い、だが誰にも止められない 

近づけば減速し、停止し、消滅する 

『高森藍子の空間』を侵せない 



藍子(ボット)「大丈夫ですよ?私の能力はダメージとは無縁のものですから。痛くは、ありません」 


狭い廊下をひたひたと、ゆっくりと、まっすぐに 


ぐちゅりぐちゅりぐちゅりゅ 


包囲網の残った部分、藍子の進行方向の逆、背後側の触手が花開いた 


先端を十字に裂いてまたもカラスの首がミサイルのように発射される 


こんどは何本も何本も、何発も何発も、何度も何度も 


尖った嘴がスティンガーミサイルのように再接近する 


「____・・。。_」 

582 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:41:26.72 ID:jhlcpBHT0


藍子はそれを見ない。 

どの攻撃も彼女に触れる前に動きを自粛することは分かっていた 

彼女の歩みは変わらない、距離が詰まっていく 

対して、小梅だったものは変わった 

四方へ伸ばしていた触手を縮ませ、カラスの羽を纏め上げる 

ぐねぐねと揺らいでいた形態が、一つの定まった定型へと蠢きだす 


藍子(ボット)「もう攻撃はやめですか...」 


壁や天井に拡散していた部品が本体へ 

藍子とその周囲の空間を避けながら小梅だったものの下へ 


一つの散在が一つの存在へ 


ついに形ばかりの障害物すら無くなった通り道を 

それでもマイペースに藍子は進む 


藍子(ボット)「......小梅ちゃん?」 

「_______」 


最後、そこにいたのは一人の少女だった 


見た目だけなら、彼女はどう見ても白坂小梅で、 




藍子(ボット)「......じゃ...ない、?」 


雰囲気、そして表情は全くの別物だった 

583 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:42:54.18 ID:jhlcpBHT0


「__!__」 


”それ”が膝を曲げ、腰を沈め、地を蹴った 

その動作だけで床板は爆発したように割れる 

文字通りのロケットスタート 


破壊的な踏み込みを助走に、その勢いのまま”それ”は 



高森藍子の、そしてボットの知覚センサーを軽く越える速度で衝突した 



藍子(ボット)「っ!?」 


びたっ! 


果たして、それは停まった。 

今までとなんら変わりない結末 


二人の距離は1メートルの間隔を開けて固定された 


逆に言えば、二人の距離は瞬きする間に1メートルまで詰められてしまっていた 


「~~~~___~~~~~~」 

藍子(ボット)「なんですかあなたは......なんですかあなたは!」 


それでも届かない、見えない壁に遮られたように 


だが、止まろうとしない。 


引っ掻くように、齧り付くように、じわりじわりと指を伸ばしてくる 

カラスのミサイルにもキノコの根にもなかった力押しで、文字通り力尽くで 


「”・、。!”__>。。。・。。_」 


木の洞から漏れる澱んだ空気のような、頭の底に吹き込んでくるような音 

それが小梅らしき、小梅以外の何者かの口元から聞こえてくることに気付く 


藍子(ボット)「どうやら...他のボットの容量を自分の身体パラメーターに上乗せしたようですね...!」 


機械的な推測で状況を把握し、藍子は次の一手を打つ 


それは至極単純で効果は絶大 



いつの間にか止めていた足を再度、一歩踏み出しただけだ 



停止した相手に藍子の方から歩み寄る、その動きだけで 

彼女の能力は次の段階へ移る 

584 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:44:27.16 ID:jhlcpBHT0


藍子(ボット)「どんな感じですか?自分が押しつぶされるって」 


停止から消滅へと 


__プツッ__ 


”それ”の両腕から先が消失した 



「___?!?。・。、」 

藍子(ボット)「あれ?この世界だと...ボットは一息に消えてしまうはずなんですが」 


仮想現実では流血はない、肉体の損壊もない。 

だが、確かにその両腕が肘から失せていた 


ぐじゅる 


その断面から何かが飛び出す 

管のような、紐のような、粘土のような 

血管のような、神経のような、筋肉のような、何かがまろびだしまとまり__ 


「__、。、。。」 


両腕は元通りに生え変わった 


藍子(ボット)「吸収したボットを使ったんですね?」 


それを見てもボットの彼女は動揺しない 

ここまでの動きから、このくらいの異常事態は予想がついていた 

藍子(ボット)「ですが___」 

だから。 

もう一歩を踏み出し、もう一度押し潰そうと 


「___!!!__」 



高森藍子は足を動かし 



白坂小梅に似た何かは腕を動かした 

585 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:46:27.17 ID:jhlcpBHT0

屋敷の廊下の壁面に向けて両腕が振り抜かれ、床板の時同様それは爆散した 

複数のボットのスペックを全開にした一撃 


狭い廊下にしばし暴風が吹き荒れる 


藍子(ボット)「きゃっ!?」 


屋敷全体が倒壊しかねない衝撃、波打つように引き剥がされる床板 


埃ではなく、粉微塵になった木屑が藍子の周囲を漂う 

尖った木片や木の板は空中で停止していた 


藍子(ボット)「けほ、けほっ!」 



小さな小さな、取るに足らない木の粉にむせる 

嫌がらせじみたそれも、相手からの精一杯の抵抗だったのかもしれない 

残ったのは天井にまで亀裂を波及させた大穴だけ 


あの不定形のボットの姿はない 


藍子(ボット)「逃げられました...?」 


耳障りなノイズと共に 

採集標本さながら空中に縫いとめられていた木片が軒並み消失させる 

それでも消えきらずに残った木屑の粉が宙に浮く中、また足を進めた 


あくまでマイペースに、ただし方向だけは変更して 


藍子(ボット)「変形に、自己強化に、再生...ずいぶん多彩な能力の方でしたね...」 


先の怪物が空けた穴のフチに足を掛ける、だが痛々しく破砕された木片の鋭利な先端は彼女を傷つけない 


藍子の存在、その周囲の空間に削り取られるようにノイズを鳴らし消えていく 

地面以外のすべてが高森藍子に道を空けながら消尽する 



藍子(ボット)「...私やほたるちゃんや聖ちゃん以外にあそこまでこの世界に負荷を掛けるボットがいるなんて...」 



そんな存在は取り除いておくべきだろう 

自分たちの能力を全開にするためにも 


ボットはそう決定を下した 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
586 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:49:12.02 ID:jhlcpBHT0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
渋谷凛 



目に見える範囲にならどこにだって行ける 


どこにだって足跡を残せる 


彼女は自分の能力をそう推理した 


凛「......せーのっ!」 



表面が朽ちたビルの屋上のへりに足をかけ、空中に身を投げる 



十数階はある階層からのジャンプ。 

遥か下に細くなった道路を見下ろす 


そのままトン、と軽やかに着地した。 

大通りを挟んだ向かいにあるビルの窓ガラスに 



凛「(空を自由に飛ぶ、とは違うけど...こういう自由さも悪くないね)」 

そのまま次なる屋上に向けて窓ガラスを垂直に歩く。ちょうど彼女と敵対したボットの一人、福山舞が一輪車でやってのけたように 

凛「......(それにしても真っ暗...街灯と月がなかったと思うとゾッとする)」 



ガァアー! 


難なく壁面を登りきり、正確には歩き切り屋上に到達したところでまたあの耳障りな鳴き声 


凛を察知したカラスがビルの屋上よりも上空から殺到していた 


だが、カラスが到達した時には凛はもうそこにいない 
587 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:50:57.43 ID:jhlcpBHT0



凛「___よっと」 


隣接する同じくらいの高さの建物の屋上に着地し、態勢を整える 



少し離れた場所ではカラスたちが無人の屋上を彷徨うように旋回していた 



凛「見つけてから動くより、見た瞬間に動き終わってる方が速いよね?」 



カラスには凛が消えたように見えているのか、未だにすぐ隣のビルに移動した彼女に気づかない 


それでも念のために死角となりそうな給水タンクの影に腰を落ち着け、服の中に手を入れた 



そこからタブレットを取り出す 


凛「(どういうわけか武器が見つからない...みんなが探し尽くしちゃったのかな...)」 


みんな、というのがボットを指すのかプレイヤーを指すのかはともかく 

未だに故障どころか充電も切れることなく稼働しているその画面を確認する 

いくつかの赤い丸、そして青い丸が不規則に散らばっている 

いや、いくつか固まった丸点が見受けられるようになっていた 

それは凛を中心としたボットとプレイヤーの方角と距離のデータ 


今の彼女を突き動かすもの 


凛「とりあえず...まず会わなきゃいけないのはプレイヤーだよね。戦力的な意味合いも含めて」 


それにちょっと寂しくなってきたし 

とは口に出さないが否定もしない 

588 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:52:40.46 ID:jhlcpBHT0


凛「ここから...一番近い所にいるのは......」 


彼女の細い指が画面をなぞっていく 


凛「この辺にいる子かな...さっきからあんまり動いてないし」 


やがてある一点で止まった。 

この世界に来て久しぶりにコンタクトをとる、智絵里以来のプレイヤーを決める 


凛「それに三人で固まってる...私のことも受け入れてくれるかも」 


三つの点がひと固まりになって移動している 

見たところ近くにボットはいない 

タンクに背を預けながら凛は画面のその部分を指でコツンと叩いた 


凛はまだ知らない 


自分が選んだその三人の中に北条加蓮がいることも、神谷奈緒がいることも 




ゲーム開始80分経過 

報告事項なし 

589 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:54:14.07 ID:jhlcpBHT0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
早坂美玲 



廃墟と化した町並みを一人のボットとプレイヤーが駆ける 


渋谷凛と同様に、早坂美玲もまた自身の能力の舵を取り始めていた 


美玲「(大体分かってきたぞ...ウチの能力は二つの方法でボットのヤツを攻撃できるんだ)」 


倒壊し地面に対し斜め刺さった建物、その影に滑り込み、特徴的な手袋の爪を地面に突き立てる 

柔らかい素材で出来ていたはずのそれは何の抵抗もなく石材を貫通する 


美玲「(普通に腕の周りをコンクリとか鉄で固めて、ウチの力で振り回すやり方)」 

アナスタシアと戦った時の、工場の壁を引き剥がそうとした時の、ニューウェー部の操る装甲車に立ち向かった時の力 


ボゴリ、と地面が小さくまくり上がり美玲の両手を駆け上がるようにしてまとわりついていく 



美玲「(こっちはウチの手に長くくっついてるけど、動かすのがキツい...!)」 


その音をボットの耳は聞き逃さない 



聖(ボット)「......そこ...」 


地表すれすれに高度を落とした聖の、6枚あるうちの2枚の翼が地面を撫でる。 

同時に地響きが割れた窓ガラス達を震わせる 

翼の先の軌道をなぞりながら起きた地割れが美玲のいるビルへとジグザグの口を開いた 
590 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 09:58:50.65 ID:jhlcpBHT0

底なしの割れ目にビルが沈んでいく。ビスケットのように外装が砕けて地下へ吸い込まれていく 

その影の美玲もろとも 


美玲「......(もう一つは能力そのものの力...ウチの手に”引き寄せる力”そのものを使って爪を動かすやり方)」 


崩れ落ちてきた工場の屋根から身を守った時の、ニューウェーブのさくらを倒すキッカケになった時の、装甲板の一部を変形させて急カーブした時の力 


美玲「(こっちはウチの手からすぐに離れる、時間制限が短い...)」 


周囲に転がっていた何もかもが亀裂に飲み込まれながら美玲を押し流す 

彼女は動かない、動けない。地面から重力に逆らい両腕をかけ登っていく廃材は既に背中を覆い始めていたからだ 

それでも、流れ落ちる瓦礫に下半身まで埋まったまま吠えた 



美玲「だけどなぁッ!!こっちの方がスッゴく強いんだぞッ!!!」 

聖(ボット)「...!」 



ビルの崩落が、瓦礫の流れが、停止した 

写真に撮られた一風景のように一切が鳴動をやめる。 


まるで絵画の中に迷い込んだような停滞感 

そして逆流、形成、襲撃 


美玲の数千倍の体積の建物が屋上から一階まで真っ二つに別れ、2本の塔に変形した 

しかも地上から上へ向けて三叉にさらに分割されそれぞれが尖塔をなしている 

三つに裂けた2本の塔。その姿は 


聖(ボット)「......腕、と爪?」 

美玲「そうだッ!!」 

591 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/05(水) 10:01:00.19 ID:jhlcpBHT0

ビルが倒れる。今度は重力ではなく、美玲の能力に従って 

聖の6枚の翼に向けて6本の爪が倒れ込んでいく 

たった一本であってもその爪のサイズは尖塔ほど。聖や美玲の何倍もの大きさと重さで 


美玲「こんだけデカいとスグに解除されるけどッ!」 

「そのまえに一回でも食らえぇッ!!」 


地表近く、望月聖の小柄な体を包み込みながら数十トンの攻撃がもう一度地響きを起こした 

今度の震動には瓦礫の山から腕の抜けた美玲も吹き飛ばされる 


美玲「ははッ!どうだッ!」 




もちろん、聖にとってどうということはない 



倒れこみ、崩れ落ちた爪の塔。 

二方向から聖に向けて振り下ろされた尖塔がはじけ飛ぶ 


聖「......見つけました...」 


翼が繭のごとく聖を包んでいる 

周りの瓦礫を押しのけながら優雅に開帳された 


闇目に眩しい光の中、傷一つない聖と泥まみれの美玲の視線が交差した 


美玲「チッ!!しぶといなぁもう!!」 

聖(ボット)「それはこっちのセリフです...」 



早坂美玲は知らない 

自分の力では望月聖に届かないことを 

彼女では聖と肩を並べるには一手足りないことを 



早坂美玲は知らない 

その一手が、すぐそばに隠されていることを 



ゲーム開始80分経過 

早坂美玲VS聖(ボット) 

継続中 

598 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/22(土) 23:51:03.11 ID:Fu8g34Ep0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
輿水幸子&白坂小梅&小関麗奈 




アイテムの探しどころとは 



例えば三好紗南は入り込んだビルの中で幸運にも自身のキーアイテムを見つけ 


渋谷凛は事務所の中で加蓮と奈緒のキーアイテムらしきものを手にしたし 


小関麗奈と大和亜季はアーケードのシャッターの空いた店の中で多数の銃器を得た 


いくつかの例外は確かにあるが基本的にこのゲームではアイテムの類は屋内、室内に隠されている傾向が強いらしい 




小梅「そ、そういえば...武器、は建物のな、中の方が、多いって...亜季さんが」 


幸子「なるほど!つまりこの倒壊したビルの瓦礫の中からならこの窮地を脱する何かが手に入るかもしれませんねっ!」 




ガァアアーーー!! 


幸子「__いや無理でしょう!?」 


向かってきたカラスに石を投げつける、やや大きめのものだったため辛うじてヒットした 

ビル一棟が丸々崩壊した恩恵というべきか、大きめの破片ならそこら中にあったのだ 

窮余の一策、ではなく苦肉の策としか言い様のない反撃 


幸子「しっ、しかもこのカラス...凄くシツコイです!カワイイボクにお近づきになりたいのは分かりますけど!」 


その細腕で投げつけられた破片は重石となり、カラスを地面に押さえつけていたが、 

それでも這い出そうと懸命に羽ばたいていた 

さらにカラス単体の能力によりそのストッパーは脆く、今にもカラスを解き放ちそうだ 


小梅「しょ、しょーちゃん...どう、なったんだろう?」 

幸子「この壁の向こうで生きているでしょう!そうに決まっています!輝子さんの能力はとっても強いんですから!」 


もう一つの瓦礫を持ち上げ、地面に縫い付けられたそのカラスに追い打ちをかけた 


迎撃一つにしても彼女の丁寧さはこういうところに表出している 


小梅「さ、さっちゃん...だ、だいじょうぶ...?」 

幸子「問題ありません!小梅さんは早くなにか役に立つものでも発掘しててください!」 



崩れたビルのバリケードを背に、小梅をかばうような位置でカラスの群れに相対する 
599 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/22(土) 23:52:35.85 ID:Fu8g34Ep0


幸子「ふぅ......カワイイボクにこんな肉体労働を強いるなんて、許されない重罪ですよ!」 


ガラン、と音を立てて亀裂に刺さっていた鉄のパイプを引き抜いた 

仮想の現実ではそんな荒事で手の平に傷が付くこともない 



カラン、と音を立てて研がれた剣先が地面をなぞる 



ほたる(ボット)「......それでも、かまいません」 



二人から届かない、そして怪しい動きを見落とさない絶妙な距離でサーベルを保持する 

仮想の現実では彼女の一挙一動の全ては世界を傷つけることになる 



幸子「ふ、フフーン!なんですかさっきからチマチマと!」 

「そんな野蛮な鳥類の一羽二羽でボクらを止められると思っているんですか!」 


ビシっとパイプの先を目の前のボットに向ける。 

彼女の気勢は未だ削がれていない 


というのもほたるがその攻撃に本腰を入れていない、否、「入れられない」状況にあったからだ 


ほたる(ボット)「私の能力は手加減が肝心なのですよ...」 



サーベルを掲げ、振り下ろす 



ボッ! 


風を切る音が耳に届く、だが斬撃は当然届かない 



幸子「何を......ひっ!?」 


強気に言葉を返そうとして、手元を見た幸子が息を飲んだ 



幸子の握っていたパイプが半分以下の長さになっている 



指のすぐ上で切断されたように、だが切断されたはずの先端が見当たらない 

鉄パイプの先は完全に消失していた、 

能力により脆弱に腐蝕し粉微塵に風に溶けていたのだ 

サーベルを振り下ろす一瞬の間に 


ほたる(ボット)「やり過ぎてしまうと......何も残らないですから」 

600 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/22(土) 23:54:52.16 ID:Fu8g34Ep0


ヒュンヒュンと剣先を縦横に振る 

その先端の描くラインを追って黒い線が空を走っていた 


ほたる(ボット)「私のカラスは......こういう使い方もできるんです、よっ!」 


突きを放つ 

夜の空気が切り裂かれ、その動きをカラスが一列に追う 



その姿は突き出される黒い槍と化し、 



幸子「(さっきより断然疾いっ......!?)」 


咄嗟に体をずらした幸子の肩をかすめ、小梅の背中を打った 



小梅「うぁっ!?」 

幸子「小梅さんっ!!」 


崩れ落ちた小梅の体を支える、小梅が被さっていた場所に深く穿たれた穴を見てその威力に背筋が凍る 


穿たれた穴からはカラスの黒羽が覗いていた、 

だが特攻に耐え切れないボットの体は間もなく立ち消えた 


ほたる(ボット)「さて...」 


サーベルを天に突き上げる、その動きだけでほたるの頭上でカラスが黒く渦巻いた 



だがまだ、彼女は決め手となる一撃を放てない 



ほたる(ボット)「(問題は一つ...誰かが私のボットに干渉......いや、はっきりと侵食してること)」 



誰かが自分の能力を脅かしている。 

その一点が彼女の攻勢を後一歩のところで留めていた 



そもそも自身の能力に違和を感じたからこそこの場所まで彼女は足を運んだのだ 

おそらく幸子や小梅によるものではないはずだが、確信が持てないうちに大味な攻撃はできない 


幸子「カワイイボクたちをいたぶろうだなんて...!」 

小梅「けほっ...!」 


ほたる(ボット)「(せめて、あのバリケードのそばから離れてくれれば...少なくともその向こうにいる誰かの脅威は取り除けるのですが...)」 

601 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/22(土) 23:56:13.96 ID:Fu8g34Ep0


バリケードの向こう 

そこにはまさにほたるを脅かしている張本人、古澤頼子がいる 


蠱毒の仕掛け人 



直接の戦闘力を持たないはずのボットが二人ものプレイヤーを討ち 


逆に圧倒的戦力差を有するボットが丸腰のプレイヤー相手に二の足を踏んでいる 


それは全く不条理で奇妙な状況だった 



無作為に寄せ集められた者たちによる化学反応ならぬ科学反応 


その毒はボットもプレイヤーも飲み込んでいく 


もちろんそれは残る一角でも例外ではなく___ 

602 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/22(土) 23:58:51.41 ID:Fu8g34Ep0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
小関麗奈 




麗奈「たぁっ!!」 



投げつけられた小石がミサイルとなって狭い路地を跳ね回っていく 



麗奈「(大体分かってきたわ...アタシの能力の特性)」 


足元には大小のがれきと石、彼女の攻撃の唯一の手段にしてプレイヤーとしてのライフライン 

それらを削ってボットを討つ 

今もまたひび割れた壁面に跳ねた石がボット目掛け飛来し、 


だが打ち払われた 


圧縮された光量、あるいは熱量により強制的に誘爆させられて 


麗奈「(そんでもってアイツの弱点もね...)」 



光(ボット)「どうした麗奈!!そんな離れた場所から石を投げるだけじゃアタシは倒せないぞ!!」 



闇を照らしながら、勇ましく戦意をみなぎらせ麗奈と対峙する姿は変わらない 

こともなげに火薬玉となった石を退けた剣、目映く光るそれを構えなおした 


麗奈「はん、今のうちに精々吠えてなさい」 


手の中でジャラジャラと次の小石を弄びながら綽々と言い放つ 

その視線は南条光ではなくその武器、光剣に固定されている 


よく見るとその長さは不安定に伸縮していて、 

光が掴んだ柄から離れるほどにその「ブレ」は顕著だ 


麗奈「(最初はバカみたいに蛍光灯でも振り回してるのかと思ったけど...)」 

「(......あれは棒が光ってるとか、そういうショボいのじゃないわよねぇ...)」 


イメージとしては花火、それも市販されているような手で持って遊ぶタイプのそれ 

順手に構えられた手の中から鮮やかな白光が吹き出している 

603 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/23(日) 00:06:43.90 ID:/jQt+YwZ0


光(ボット)「さぁこい!」 


麗奈「(だからなんだって話だけど...形のないただの光の塊で殴れるわけないし......だから”その辺”がアイツの能力ね)」 


光(ボット)「言っておくがアタシの能力は!この世界の光を自由自在に変形させる力!」 

「生半可な攻撃では傷一つ付きはしない!よく肝に銘じておけ!」 


麗奈「(自分で言ってるし......そもそも光を変形ってなによ)」 


駆け引きも何もあったものじゃない、いきなり手の内を明かす行為 

確かにボットの戦い方にはオリジナルの性格と特徴が顕著になるものだが、 


最後の最後まで理解の追いつかない千変万化の奇策を披露し続け、 

しかし結局底力を見せないまま消えていった塩見周子とは大違いだった 

尤も、「光線を変形」などというのも、仮想現実でなければ到底理解しようもない言葉だが 



麗奈「教えてもらわなくて結構よ!弱点は丸分かりなんだからっ!」 


両手で石を持ち上げる、片手で投げるにはやや大きすぎた 




麗奈「特大のレイナサマボム!喰らいなさい!」 

光(ボット)「させるかっ!!」 



5メートル程の距離を光が詰める、 


その前に石は麗奈の手から放られた 


突進する光の眼前を石塊が遮る、だが彼女は止まらない 


手に持った剣の構えを変えた。突きの型に 


ガッ! 


剣先が空中で石に食い込む、 


ボットとボムとの距離は1メートルを割っていた 



光(ボット)「いっけぇえええええええ!!!」 



604 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/23(日) 00:09:57.85 ID:/jQt+YwZ0


思わず麗奈がひるむほどの雄叫びをあげる 





その声に呼応するように剣先が伸びた 





変幻自在は伊達ではなく、剣よりもむしろ槍となって石を遠ざけた 


麗奈「そんなのアリなの!?」 


遠ざけた先、狭い路地の一直線上にいる麗奈に向かって穂先が伸び続ける 


光(ボット)「やたらめったら能力を使ったバチだ!」 



カァン! 


剣先、今は穂先を離れ、石が前方に弾かれた 



麗奈「___っ!!」 

「(アタシの能力はっ......!!!)」 



なまじ大きめの石を選んだだけに、そのしっぺ返しは麗奈にとって手痛いものになるだろう 


麗奈の手を離れ、光の能力に跳ね返され、 


そして結果的に麗奈の手前でそれは爆散した 










    ポフッ 


冗談じみた貧弱な効果音と共に 




光(ボット)「......は?」 

麗奈「ばぁーーーーーーーーーーーーっか!!!」 



槍を構えたままの光の耳に嘲弄の声が届く、だが声だけだ 

麗奈の姿は先の、爆発とも言えない「散布」によって生じた煙の向こうにある 


麗奈「アタシの能力が一番効きやすいのは、アタシの手のひらに収まるサイズのヤツだけなのよ!!」 

605 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/23(日) 00:14:18.85 ID:/jQt+YwZ0



その煙幕の中で彼女は野球投手よろしく腕を大きく振りかぶる 


しっかりと握り締められた拳の中には小さな小さな石礫がギッチリ詰められていた 

そう。小さな礫が 


「持つ」でもなく「掴む」でもなく 


「拳の中に握り締められて」いる 



麗奈「(そりゃそうよね、火薬の威力は凝縮した方が強いに決まってるわ)」 


塩見周子との戦いを思い出す 


あの時は手に持っていた紙屑を適当にちぎってそのまま投げていた 


地下下水道での能力の練習と、その後の誤爆を思い出す 


最初は爆発の具合を見るために手の平より大きい欠片で練習ばかりしていた 


そのあとキノコが来た時は咄嗟のことだったため爆散して小振りになった破片しかなく 

そしてそれを緊張で強く握り締めていた 





光(ボット)「これはっ!?」 


極小の爆弾の弾幕が南条光を取り囲み、 



麗奈「そして光!気付いてるかもしれないけど言ってあげるわ」 



極光を打ち消すほどの閃光が満ちて 



「アンタの能力はねぇ、使えば使うほど弱まっていくのよ!」 




極悪な威力が暴風のごとく吹き荒れた 





ゲーム開始78分経過 

輿水幸子&白坂小梅 VS 白菊ほたる(ボット) 

小関麗奈VS南条光(ボット) 

継続中 
606 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/23(日) 00:16:43.19 ID:/jQt+YwZ0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

光るものを物質として固定し、使役する 


そんな能力だからこそ南条光はその名の示す通り光を剣として振るうことができた 


だが、その能力はどうしても有限のものだった 



なぜならその光剣は”目に見える”のだから 



一般的に明るい場所で人間が物を見るとき、それは物体そのものを見るというよりも 

厳密には物体に反射した光を目で捉えることでようやくそれを一つの物体として認識している 


能力により生み出された光剣も例外ではない。 

麗奈も光も、そして亜季も輝子も幸子も小梅も 


その光剣から”漏れ出して”いる光を通して、その武器を認識していた 


南条光の能力の範囲はその手元にしか作動しない。 

そのためどうしても能力の効力の弱い箇所が生じる 

だからこそ、そこから崩れた光線により彼女の武器は武器としての姿を成していた 


諸刃、ではなく脆い刃の剣 

南条光が武器として集めた光は時間とともに流れて消えていくのだ 

607 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/23(日) 00:18:54.21 ID:/jQt+YwZ0


ちなみに、麗奈はそこまで難しく理屈立てて事態を理解したわけではない 



麗奈「アーーハッハッハ!!聡明なアタシは気づいてたわよ!」 

「アンタが剣を振り回すたびに!壁に伸びたアンタの影が短くなってたのをね!!」 

「そんなの見たらアンタの眩しいだけのガラクタの光がちょっとずつ薄まってることぐらい分かるわよ!」 


爆光から目を庇いながら勝ち鬨を上げる 


もしも二人が戦っている場所が壁の間隔の狭い路地でなければ、 

そこに投射された光の影が麗奈の視界に入ることはなかった 


もしも二人の戦いが夜に行われていなければ、 

麗奈は相手の武器の光量の微妙な変化を見抜けなかった 


もしも塩見周子との戦いを経験していなければ、 

周囲を神経質に観察し状況を把握することの重要性を理解していなかっただろう 



麗奈「というかやっぱり周子と比べるとやり方が単純だったわね...」 


苦戦の記憶を振り返る。 

光のボットはほぼ最大威力のレイナサマボムにより半壊したビルの壁だったものに埋もれ姿も見えない 


爆風にえぐられた壁面からはビルの内部、オフィスらしき部屋が覗いていた 


閃光がその有様をくっきりと浮かび上がらせ続けている 


麗奈「亜季は無事なんでしょうね......途中でなんか変な表示が出てたけど」 


608 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/23(日) 00:21:44.15 ID:/jQt+YwZ0

振り返り、足元の崩れた破片を踏みつけながら路地の外へ向かう、 

次は倒壊したビルのバリケードを超えなければならない 


麗奈「厄介なことしてくれたもんね...これ爆破して大丈夫なのかしら...でも、幸子は爆破とかそういうのに巻き込まれそうだし...」 


背後からの光で延長された自分の影に向かって歩く 


麗奈「さっきからカラスの鳴き声ばっかりしてるんだけど......ここってホントにゲームよね?」 


文字通りついさっきまで地下に潜っていた麗奈に白菊ほたるのことを知る余地はない 

積み上がった足場に乗り上げ空を見上げると確かにカラスが輪を描いて飛んでいるのが見えた 


背景は闇夜だったが月光と背後から照らされ続ける閃光が相まって視認は簡単だった 


黒羽の艶まで見通せるようだ。それを見て麗奈が言葉を漏らす 



麗奈「いやいや...いやいやいやいや......」 



麗奈「おかしいでしょ......」 



振り返る 




麗奈「なんでアタシの爆弾がこんな...こんなに何秒も長いこと光ってんのよ!!!」 





光(ボット)「知らなかったのか?」 



そこにあったのはまん丸の鏡。 

だがよく見ると鏡ではない。 


光を反射するのではなく光そのものを放っているのだから 

それは光子の塊そのものだから 


609 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/23(日) 00:37:22.22 ID:/jQt+YwZ0



光(ボット)「光は何より速いんだぞ!」 


起爆した瞬間。 


爆風よりも爆熱よりも早くに、爆光は南条光に到達していた 


そしてそれは彼女にとっては剣であり槍であり、盾だった 


爆発の猛威も、二次災害としてのビルの半壊も彼女はしのぎ切った 

南条光の能力は小関麗奈の能力を出し抜いた 



麗奈「このアタシの___能力が」 


盾の形が変わっていく 


光(ボット)「ちゃんと覚えておくんだな!!!」 



まん丸だったものから、神殿を支える柱のような円柱に 

そしてやがて細く平たく凝縮されていく 



空を突き上げる見上げんばかりの大剣の形状へと、 



全ての影を打ち消さんばかりの光量で路地の空間を埋め尽くす 


身長の何倍もの大剣を両腕に掲げた光と、 

小さな手のひらに小石を込めただけの麗奈の視線が刹那、かち合う 





麗奈「......ひ、光ぅうううううう!!!」 



光(ボット)「__麗奈ァアアアアアアアアアアア!!!」 






ほんの一秒にも満たない時間 



仮想の世界は、 


夜が訪れる前の明るさを取り戻した 



610 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/11/23(日) 00:38:10.31 ID:/jQt+YwZ0


_____________ 

 小関麗奈+ 0/100  


_____________ 



ゲーム開始80分経過 

小関麗奈VS南条光(ボット) 

勝者:南条光(ボット) 

614 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/14(日) 00:03:28.60 ID:KnW1a+/t0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
渋谷凛 




跳ぶ、飛ぶ、そして翔んでいく 




明かり一つ灯さず立ち並ぶコンクリート製の巨大な墓標の間を次々に移動していく 



凛「(こうして見ると、本当にゴーストタウンだよね...)」 



音も軽やかに垂直な壁面に着地し、右手に伸びる遠い地面を見下ろす 

彼女はとっくに能力を使いこなしていた 


凛「私の目標は、と...」 


タブレットの画面の中心には自分を示す赤い丸、 

少し離れた場所にはボットを表すいくつもの青い丸 

彼女の視線はその中の一点に止まる 

そこでは3つの赤丸がゆっくりと進んでいた。どういうわけだかその周りにはボットはいない 


凛「アプローチするならこのチームだよね...ほかの人たちじゃあ私が入り込めなさそうだし...」 


そう言って視線をずらした場所では赤い丸と青い丸が多重に円を描いて行き交っていた。 

絶えず戦闘が行われている証だ。ほぼ丸腰の彼女では巻き込まれるだけだ 




ぶわり 




凛「......っ!」 


覗き込んだ画面からそんな音が聞こえてきた気がした 

小さな青い丸が霧のように画面を侵食し始めている。カラスの大群だ 


凛「(追いついてきてる...というよりまた別の塊が私に狙いをつけてきたんだね)」 

615 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/14(日) 00:05:16.12 ID:KnW1a+/t0


膝を軽く曲げ、跳躍の姿勢をとる。 


次に瞬きを終えた時には別の建物に着地していた 


そのまま飛び石伝いの要領で数十メートル単位のショートカットを行っていく 


凛「私が余計なものを連れて行くわけにはいかない...合流するなら振り切ってからじゃないと!」 


背後でガラスの割れる音が滝のように連続して鳴り響く 

一羽一羽の能力が少しづつこの世界を朽ちさせていく 

それの数倍、幾千のカラスが倍の速度で壁面を荒廃させ、窓ガラスが羽の風圧にうち負けていく 


凛「(追いつかれる...?)」 


機動力においては渋谷凛が現状での最上位のプレイヤーではある 


しかしその事実をして、黒いボットは彼女に肉迫する。 


その圧倒的な物量で 


アァアア゙ーー!! 



ガラスが粉々の飛沫に変貌していく破裂音が木霊する 

凛「__っ!!?」 


前方に黒い羽が霧のように立ちはだかっていた 



凛「ビルの隙間を飛び跳ねてるだけじゃアレの視界からは逃げられないか...!」 


耳元を風がよぎって行く。 

その音にまぎれてはいるが確実に羽音が背後に迫っていた 

かと言って地面を走るのは得策ではない。 

なにせ相手は空一面を覆う程の群れだ、地面に降りることはすなわち逃げ場を塞ぐことに等しい 

だからこうして高層ビルの、決して低くない階の窓ガラスを蹴って進んでいる。 


それでもカラスはその「空路」を埋め尽くし始めていた 


凛「じゃあ、上に行く...!」 


616 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/14(日) 00:06:22.84 ID:KnW1a+/t0


最初に能力が発動した時のことを思い出す 


凛「(私の能力はただ何処にでも立てるだけじゃない...)」 


建物の間を緩やかなジグザグを描いて跳んでいく 



その軌道が直角に近い角度で上空へ折れ曲がった 



あくまで道路に沿っていた移動経路を、脱する 


凛「視界に入る場所になら...どこにだって行ける!」 


目指すは上階、屋上、 


凛「避雷針...!」 




そして、上空 




靴の裏が蒼く瞬いた。 



凛の姿が消える 


617 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/14(日) 00:08:01.83 ID:KnW1a+/t0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


腕力ならば堀裕子が 


破壊力なら小関麗奈が 


回復力なら双葉杏が 


修復力なら十時愛梨が 


機動力なら渋谷凛が暫定的にこの世界でのトップだ 


そしてその機動力をもって駆け回った結果、彼女は大量の情報を手に入れることと相成った 





凛「.............」 




耳を聾する羽音の嵐から抜け出て数秒。 

恐らくこの世界の中に現存する中で一番の高所に到達した凛は沈黙する 

彼女の目には仮想世界の全景が映っていた 


背の低いオフィスビル、斜めに傾いた高層建造物、大穴のあいたデパート、車の一台もない道路や駐車場 


夜の影に飲み込まれかけながらも緑がかった月明かりが浮き彫りにするその姿、 


地平線を埋め尽くす直方体の黒い森、そしてここで彼女は初めてこの街は四方を低山に囲まれていることを知った 


その山の向こうの景色は見えないけれど、この呑み込まれそうなほどに広い仮想現実の有限を見た 


自分たちがいた世界は意外に狭かったのだ 



凛「......、...」 


618 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/14(日) 00:09:19.49 ID:KnW1a+/t0


ビルの全体に比べてあまりにも細い避雷針の頂点に危なげなく直立し、しばしその光景に見惚れたように静止する 


凛「.........」 


凛「.........」 


凛「.........」 



凛「.........あっちの方と」 


凛「...こっちの方」 


もちろん見惚れてなどいなかった 


見渡した限りで明らかに危険地帯、アンタッチャブルな方角を見定めていた 


そしておおよその距離を元にタブレットと見比べる 



凛「(あの翼を生やして飛んでいるのは、ボットか......すぐ近くにプレイヤーが一人)」 

「(でも、少し離れた場所に五人...一人が気を引いている間に、何かしようとしてるの?)」 

タブレットで知ることができるのは位置情報だけ、あとは彼女自身が推測するしかない 


視線を別のポイントへ向ける 


凛「(あそこの”穴だらけ”の建物にはボットが三人、いや四人?)」 

「(なんでかプレイヤーもいないのに戦ってるみたい...仲間割れ?)」 


首を回す 


凛「(あのとんでもなく光っている所は...)」 

「(ボットが4人も...それに対してプレイヤーが2人だけ、か)」 

「これじゃあ、あそこのプレイヤーはもう......ん?」 



凛「ん?」 



彼女は見た。 

タブレットの上で起きたその「変化」を 

だが、その意味するところを正確に理解することはできなかった 

できないままに彼女は次の移動を開始する 


凛「(まずはさっき目星をつけた三人の場所に!)」 

619 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/14(日) 00:11:26.00 ID:KnW1a+/t0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


機動力は情報収集力につながった 


高所から見渡した景色と手元にあったタブレットは安全な道程を示し 


一時の間、彼女の目は全てを見通した 






同様に 






彼女もまた見通されていた 






同じく高所、上空にいた存在に 















聖(ボット)「.........じぃー...」 







美玲「なっ、なに他所見してんだお前ッ!!」 



タブレットで知ることができるのは方向と距離のみ 


何をして、何を見ているかは分からない 


ましてや、画面上のドットが自分を見つめているかなど 

凛には知る由もなかった 



ゲーム開始87分経過 

望月聖(ボット)VS早坂美玲&渋谷凛 

開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
623 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 21:54:04.03 ID:mlSoY6ao0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南 





奈緒「マジか、紗南!?」 





不必要に大きな声は窘められることなく返答された 


紗南「だからちらっとだけど反応したって!」 

加蓮「本題はそっちじゃなくって、その反応した相手ってのは間違ってないよね?」 

紗南「うん!間違いないよ!」 


どこまでも続く広い下水道の中、身を寄せ合うようにして三人で画面を覗き込む 


その喧騒と対照的にサーチモードにされたまま保持された画面は沈黙したまま 


だが確かに、ゲームで鍛えられた紗南の目は画面の変化と表示された文字を読み逃がさなかった 



______________ 

name:渋谷凛 

category:プレイヤー 

skill:・・・Now Loading・・・ 

______________ 





紗南の能力を司るゲーム機、 

そのサーチモードは直線上にしか作用せず、動いている相手には非常に相性が悪い 


ましてや三人は知る由もないが、凛はおそらく現在時刻この世界で一番機敏に動き回っている 


だというのに渋谷凛の能力の軌道と、 

三好紗南の直線は偶然の刹那交差した 


そのほとんど起きないであろう偶然が起きるくらいにお互いの距離は近づいている 
624 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 21:56:33.91 ID:mlSoY6ao0


加蓮「とにかくこのチャンスを逃しちゃダメだよ...大体どの方向で反応したとかわかる?」 


小柄な紗南に背後からもたれかかるようにして画面を覗き込む 


奈緒「や、やっぱ地上に出たほうがいいのか!?」 

加蓮「最終的にはそうなるかもね」 

紗南「でもどこから?やっぱりマンホールとか登っていくの?」 

加蓮「なんにしても早いほうがいいよね、凛だっていつまでもフラフラはしてないだろうし」 

奈緒「でもあのカラスがなぁ...」 

紗南「あぁそっか...どうみてもザコなんだけど数が多すぎるよね」 


いよいよ移動範囲を下水道から地上へ移そうという段階になってもまだ三人を憂慮させるのがそれだ 


地下にいる自分たちに対し、上空を舞うそれらのボットは十分に距離があるのだが 


時折その存在を紗南の手元の画面上に表示しては三人を牽制していた 


加蓮「___でもこのタイミングしかないでしょ?」 


その事実をして加蓮は言う 


奈緒「...そりゃ、凛には会っときたいけど」 

紗南「カラスのせいで巴ちゃんが一瞬で撃破されちゃうの見ちゃったし...」 

加蓮「あーもう、臆病だなぁ...!」 


文字通り千載一遇の契機、凛との合流というカードが目の前にぶら下がってなお消極的な二人に焦れる 


加蓮「というか奈緒、アンタ体力ゲージギリッギリの体ひきずってアタシらのとこに来たじゃん。あのガッツはどうしたのよ?」 

奈緒「いや、あのときは何故か巴が手伝ってくれてたし...」 

「というかお前も単車相手に特攻かましたりしてたらしいじゃねえか」 


紗南「へ、へぇ...?」
625 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 21:58:46.28 ID:mlSoY6ao0


頭上を行き交う二人の会話の剣呑な内容に紗南が若干顔を引きつらせる 


そのとき画面上に、ついに待ち望んでいた変化が訪れた 


紗南「りっ、凛さん出たよ!」 


奈緒「なにっ!?またか!?」 


上ずった紗南の声に奈緒が食ってかかる 


加蓮「どこなの?どの方向に凛がいるの...!?」 

より一層両側から掛かる圧力が増加し、ゲーム機を取りこぼしかけた 

紗南「わわっ、ちょっ落ち着いて!」 


強風から蝋燭の火を守るように、凛へと繋がったリンクを断ち切らぬよう期待を保持する 

それを察した二人の追求も自然に収まった 


奈緒「えっと...確か直線上に居る相手に作用するんだろ......?」 


加蓮「で、つまり画面の上が向いてる方向なわけで...」 


紗南「うん......そういうこと」 


見やすい角度に掲げられたゲーム機から視線を持ち上げる 


上へ、そこにあるのは冷たさしか感じられない下水道の天井 


だから、凛がいるのは 



紗南「アタシたちの真上だよ」 





ゲーム開始87分経過 

報告事項なし
626 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:02:41.34 ID:mlSoY6ao0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
早坂美玲 



ゲーム開始86分時点 



目に付く限りの高層建築物は全て塵芥に帰した 


完全に全ての建物を破壊し尽くしたわけではないし、それもできない 


美玲「(アイツ等...逃げられたか?)」 


破壊をまぬがれた背の低い2、3階建てほどのテナントビルに身を潜ませる 


美玲「(あんまりウチが暴れすぎて流れ弾が飛んでったら危ないからなぁ)」 


爆心地にしか見えない風景を見回す、 

望月聖との戦闘の余波をまぬがれたきれいな街並みは随分遠のいた 


美玲「(あの無事に残ったビルのどれかに隠れて逃げ切れたらいいんだけど)」 


にゃんにゃんにゃん相手に攻撃を凌ぎ切り、単体での撃破ではなかったとは言えニューウェーブを下した 


彼女にはその経験値があった、いきなりポッと出の敵には負けないという気負いもあった 


だから結果として今、味方を逃がすべく殿を勤めている。 



ここまでの戦力差、つまり能力の差は圧倒的だ。 

壊して作り直す美玲と何もかも壊し尽くす聖 

それでも美玲は勝つつもりだった、勝てるつもりだった 



見せつけられたのは 


埃でも払うようにあしらわれ砂礫となっていく街並みと傷だらけの自分 


そして 

それほどの惨状の中でも傷ひとつ付くことなく泰然とした聖の姿だった 



美玲の自信が瓦解していく、 


能力への自負が氷解していく 



彼女の中で、 

仲間のもとへ無事に帰れるだろうという心算はとっくの昔に___ 



美玲「がぅっ!!」 
627 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:05:09.78 ID:mlSoY6ao0


ビルの壁に裏拳を叩き込む 


ズプリとその拳が壁に飲み込まれたのを感じた 


美玲「がぁるるううぅう......」 


この世界はまやかしだ。自分たちが興じているのもただのゲームだ 



だがアイドルとしての仕事でもある 



だったら、どんな実力差を見せつけられようと 



アイドルとして、負けていい理由なんてない 


美玲「そうだ...そうだぞ...諦めてる時間なんてないんだッ!!」 


聖(ボット)「......?」 


外壁を伝い、地面を伝い、能力が波及して 


かつてビルだった破片を持ち上げながら爪が現れた、 

その何もかもが巨大だ 


聖(ボット)「......こりてない」 


同じく破片でできた爪が投石器のように弧を描き、 

そこに載った2トントラック大の瓦礫が宙を飛んだ 

自分めがけて飛んできたそれを聖はわざわざそれを打ち返したりしない 

翼一枚かざせばそれだけでぶつかった方から砕けていった 


美玲「とりゃああああああ!!!」 

雨後の筍のように次々と地面から爪が生え始める。 

そしてその全てが地上を埋めてつくしていた瓦礫を投げていく 

能力で可能となる事象の限界ギリギリまでの酷使。 

それは地面から生えた爪が一度の投擲と同時に衝撃で崩れていくことからも察せられた 

隕石の間逆、地上から空への土石流、破壊力を装填した土の花火 

だが彼女の表情にさしたる変化はない 

聖(ボット)「......質より量で来ても無駄、です」 

6枚の翼のうち4枚がふわりと聖の体を包み込んだ 

次の瞬間、繭に包まれた聖を無数の岩塊が打つ 

だが、 

打ち抜けない、繭となった翼を貫けないまま砂と散っていく 

それどころか彼女の位置を空中に保っていた2枚の翼の羽ばたきすら止められない 

何度も見た光景、見飽きた展開、予定調和の攻防 
628 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:08:06.34 ID:mlSoY6ao0


美玲「へへっ、今度こそびっくりさせてやるッ!!」 


最後の爪が掘り上げた地面を投げ飛ばしたのを見届ける間もなく 

美玲はその場を離れていた 

半壊して何階建てかもわからなくなったビルの埋まりかけの窓に飛び込む 



美玲「逃げるのも防御するのももうやめだッ!!」 

ビルの中に隠していた、 

いざという時の逃亡の手段だった「それ」に左の爪を突き立てた 


耳鳴りを起こしそうな甲高い音と共にバラけた「それ」が美玲にまとわりついていく 


あるいは美玲が飲み込まれているようにも見える 


美玲「(”ウチに直接装備する”モード...これを使うとしばらくウチは重さでほとんど動けない...)」 


能力の副次的効果で動かしていた先程までの投擲とは違う 


ここからは美玲自身が打ち、殴り、削らなければならない 


ガゴンッ 


美玲「うぐぎぎ...!」 


ギギギ... 


背中に金属特有の冷たさと重量がのしかかる。 

だがそれでも完全ではない。 

彼女が押しつぶされるのも時間の問題だ 


美玲「もういっちょ!!」 


左腕を中心に背中におぶさった巨大な質量が右腕にまとわりつく前に地面に振り下ろす 


美玲「”ウチから離れた位置に作る”モードを...」 


「...このビルに使う!」 



次の瞬間、彼女のいたビルが全壊した 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
629 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:10:33.87 ID:mlSoY6ao0


ゲーム開始87分時点 


聖(ボット)「.........もう終わり...?」 


彼女を包んでいた翼が開く 


聖(ボット)「......逃げた...?」 


光り輝く繭の中から見た外の風景は、端的に言って荒廃と終末 


神話において地上に舞い降りた天使が人間の世界を見たとき、今と同じ感想を持ったかもしれない 


聖(ボット)「...!」 


そしてその目は確かに見た 

遥か遠くの街並みを取り巻くカラスの 

不自然な旋回を 



何かを追っている? 



聖(ボット)「.........じぃー...」 


目を凝らせば、いた 

蒼く光る何かがビルの屋上、その尖塔のような避雷針の先にいる 


ボットではないし、ボットだったところで構わない 



美玲「なっ、なに他所見してんだお前ッ!!」 



次なる標的を定めたところで、活きのいい声が飛んできた、同時に近くのビルが全壊する 

転回しかけた体を戻す、そこで聖はまたも神話じみた光景を目の当たりにした 


それはまさにバベルの塔 


3本でもない、4本でもない、たった1本きりの塔 

全壊した跡地からうずたかく固められた瓦礫と鉄骨の爪が高く高く伸びていた 

聖が破壊してきた高層ビルの分まで空へ近づこうとするかのように 

天に遊ぶ神を討たんとするかのように 




美玲「正真正銘!これが最後だッ!!!」 


630 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:13:29.78 ID:mlSoY6ao0


その爪先に、聖と同じ目線にのし上がった美玲が吠えた 


天の使いと、地を這う獣が並び立った 


月夜の中でありながらその姿は黒々として月光を返さない 


聖(ボット)「.........変なの...」 


美玲の「その姿」をみて短的に感想をこぼす 


ピシリ、バベルの爪塔に修復不能のヒビが入った 

塔全体が大きくしなっていた、 

今から美玲そのものを投擲するために 



ボットである聖もすぐにそれを察した 



これをいなすのは簡単だ 

飛んでくるタイミングに合わせて自分を翼で完全に覆い隠せばそれでおしまい 

哀れ、空を夢見たケダモノは光の盾にはねつけられ、遥か眼下の地面に真っ逆さま 



だが、 


今はそんな回避行動の手段を選択するつもりはない 



次の標的「渋谷凛」がいるのだから 

短期決戦を挑もうというのなら望むところだ 

さっさと終わらせよう 

こっちも一々”石っころ”を防ぐのに退屈していたのだ 




聖(ボット)「...おいで...?」 



631 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:14:26.38 ID:mlSoY6ao0


地割れやビル丸ごと投げみたいな間接攻撃はもう終わり 



無限の力を直接ぶつけてあげる 




二枚の翼が空中の位置を保持し 


二枚の翼で自分の前を薄くガードし 


二枚の翼を槍のように美玲に向けた 



何者にも冒されない3対6枚の翼による攻防一体の構え 



美玲「言われなくても行ってやるよッ!!」 



塔が完全に崩落する0.1秒前、 


美玲は射出された 



最後の装備として 


丸ごと一台作り変えられた装甲車と共に 


632 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:18:20.82 ID:mlSoY6ao0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨 

ゲーム開始85分時点 



きらり「そーこーしゃ?」 


裕子「走・攻・守?」 


杏「装甲車?なんなのそのチート」 



愛梨「うん、美玲ちゃんが言うには最初はボットさんの持ち物だったって、ねっ蘭子ちゃん?」 


蘭子「しかり...我と隻眼の獣爪が幾度もあの鎧の車輪の轍となりかけたことか...(そうです!私と美玲ちゃんは何度もあの装甲車に轢かれかけたんですよ!)」 


地下下水道でもなく、道路でもない場所を疾走する 


杏はきらりに背負われ、蘭子はスケッチブックを抱え、愛梨の頭上でバニー耳が揺れる 


後方で裕子は曲がったスプーンを元に戻そうと躍起になりながらも器用にペースを乱さず足を動かしている 


裕子「それで、そのお車は美玲ちゃんが乗ったままと?」 


目線を手元に向けながら愛梨たちに相槌を打っていた裕子がそう返した 


愛梨「聖ちゃんを...その、倒した後に私たちに追いついてくる手段がないといけないかなって」 


豊満な胸と細長いバニー耳を存分に揺らしながら答えた 


蘭子「かの獣爪が我らの中で最も操舵の才があったのも事実(それに美玲ちゃんが一番あのコントローラーの操作が上手でしたし)」 

杏「へえー、このステージに車とかあったんだ...そっちに乗った方が楽だったかな」 

きらり「杏ちゃんゲームでもなまけてちゃ、メッ!だゆー?」 


633 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:21:33.49 ID:mlSoY6ao0


杏を背負いながらも先頭を走っていたきらりがそんな風に背後の少女を窘めながら身を沈めた 




きらり「きらりーん......キーック!!」 



杏「えっ、ちょ」 


沈めたカラダを戻す反動を利用して、 

一般的な女子の平均を上回る長い脚から強烈な前蹴りが放たれた 



それによってオフィスらしき部屋から廊下に出ていく扉が蝶番ごと吹き飛ぶ 


愛梨「あわ~」 

裕子「おおっ、流石きらりさん!私のさいきっくにも負けず劣らずですね!」 

けたたましい音を立て顔を出したのは蛍光灯一本機能していない通路 


今、五人が通路として使っているのは数あるビルの一階廊下だった 


建物間の移動を最小限に、裏口や窓に入り込んだり 

場合によっては裕子の能力により力技で入口をこしらえながら屋内を縫うように移動している 

こうすれば少なくとも空から狙われることはないし、上空を飛ぶ物体にとって一階は死角となる 


愛梨「それで...私たちはその事務所の偽物?みたいな場所に行くんですよね?」 


裕子「はいっ!何があるかわかりませんけど、何かあるかもしれませんし!」 


杏「とりあえず何かあるんだ...」 


扉一枚吹き飛ばすきらりの蹴りの反動が返ってきたせいで若干苦し気な杏が補足するように言葉を継ぐ 

杏「まぁ他に行くとこもないし...それにダラけるならやっぱ事務所でしょーって話ね」 

蘭子「なるほど、解した...してこの指針は正しき星辰となるか?(わかりました...ところで方向あってますか?)」 

杏「どうだろね...裕子、こっちであってる?」 

裕子「さいきっく大丈夫です!」 

今の所、唯一目的地についての情報を持つ裕子が自信満々にスプーンを掲げた 


杏「不安だ...」 

きらり「にょわぁ...」 

既に乗り捨てたが、かつては戦車の道案内を任せて痛い目を見た二人が顔を曇らせる 

愛梨「なるほど!裕子さん、頼みますね!」 

裕子「お任せ下さい!ムムーン!」 



杏「.........まぁいいか」 

諦念じみたため息をつき、きらりのうなじに頬をこすりつけるようにもたれた 

きらり「うぇへへ、くすぐったいにぃ」 
634 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:24:26.14 ID:mlSoY6ao0



杏「...そういや蘭子さ」 

蘭子「如何した、小さき妖精よ」 

杏「その美玲だけどさぁ、杏たちに追いついてくるときってどうするの? 

蘭子「む?」 

杏「いやほら、探知機でも持たせてないとダメっぽくない?」 


現在、愛梨と蘭子をかばって聖と戦闘中の美玲について、 

逃走か勝利か、いずれかの形で決着がついた彼女が自分たちに合流するにはどうするつもりなのか 


蘭子「ふむ...なんら問題ない」 


彼女は小脇に抱えた画帳を示す 


万物を喰らう鎌、視界を灼きつくす杖、そして空路を舞う羽を生み出し 

取扱説明もなく、法則もなく、ただし確実に状況を好転させてきた力の象徴を、 


彼女は既にそのページを一枚ちぎり、取り次なる力を使っていた 

美玲と別れたすぐ後に 


あまりにも扱いづらく、あまりにも予測できない能力 



だが、彼女はある種の確信を持っていた 


この能力は必要な時に自分を助けてくれた 


だから___ 


蘭子「___我が願えば、力は我に応えん」 


635 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:29:57.85 ID:mlSoY6ao0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
早坂美玲 


ゲーム開始88分時点 


防弾ガラスと装甲板が捻り合い、 

得体の知れないボルトやパイプがそれを彩った爪 


その長さはすでに本体の身長を抜いている、 

両腕に三本ずつ全部で六本 


さらに分厚いタイヤや座席を解体したような歪な集合体が美玲自身を背中から抱きしめていた 


彼女の小柄な体を包むには多すぎた”材料”が両腕だけに飽き足らず背中や足にまで牙と爪を形成している 


毛羽立った背を丸め、牙と爪をむき出しに、 

今にも飛びかかろうとする姿は狼に似ていた 


美玲「(ここまでのものになるなんて思わなかったけどな)」 


そんな美玲がミサイルとなって空を飛ぶ 


装甲車一台と早坂美玲一人。その重量差は恐らく百倍ではきかない 


それに蘭子が運転する車をドリフトさせた時とは違う 

車から爪を生やすのではなく車そのものを爪にしている 

その重さは全て美玲の双肩にかかっているはずだ 


美玲「ぅううぅがあああぁあ!!!」 



そんなものを振り回す膂力はない、 

だから能力をもう一段階使い自身を「投げさせた」 



もう装甲車としては使えない、 

乗れない、逃げられない 

美玲「そぉれがどうしたぁああああ!!!」 


空中で加速のついた1トンの凶器が突っ込む 


鉄と人と爪と牙が防御を捨てて振るわれた 


聖(ボット)「......えい」 


美玲の右手の3本の爪と、聖の左肩から生えた一枚の翼が交差し 



ザクンッ 

切り落とされた右の爪が落ちていった 
636 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:32:42.03 ID:mlSoY6ao0


美玲「まだっ__」 


ギャリッ 

右肩の翼が美玲の左の爪を突き貫いた 


美玲「だッ!」 

背中に据え付けられた爪が伸びる 


ガィンッ 

聖の体にかかっていた翼の盾に弾かれて折れ曲がった 


聖(ボット)「...」 

美玲「___!」 




削ぎ落とされていく 


鉄の鎧が、爪が、装甲が 


移動も防御もかなぐり捨て攻撃のみに全てを懸けて、 

だがその攻撃の全てが夜闇の中に剥ぎ落とされた 


聖(ボット)「...」 


あとは美玲をはたき落とせばいい 

槍として突き出していた二枚が内側に曲がった 

聖の射程圏内に飛び込んできた美玲を包み込んで押しつぶすために 


美玲「__ん」 


しかし忘れてはいけない 

美玲はもう止まれないということに 


「__がぁっ!!」 


滞空のための二枚は聖の背後で静かに揺らめきながら 


攻撃のための二枚は美玲の両の爪を切り落としながら 


防御のための二枚は美玲の頭上から聖へ伸びた牙を遮りながら 






美玲自身がそのまま聖の胴体めがけて飛び込んでくるのを防げなかった 


637 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:34:37.27 ID:mlSoY6ao0


腕も足も届かない 

能力もまだ解除できない 

だから、噛み付いた 


そもそもビル一棟を犠牲にして1トンの鉄塊を投げ飛ばしたのだ 

ちょっとやそっとで止まるはずもない 



それでも聖ならそれを止められたはずだった 

ハエ叩きのように地面に叩き落とすか、 

繭の完全防御態勢を取ればそれだけで完封できた 


そしてそのまま凛を追えばよかったのだ 


だが彼女は迎え撃ってしまった 


無限の攻撃力と防御力を正しく使い、 


空中を突進してくる美玲を真正面から瞬殺しようとした 



美玲「がぶぅぅぅッ!!」 

聖(ボット)「...ゃ!」 


自前の牙をむき出しにした美玲に対し両腕で自分を庇う 


ここにきて初めて、聖は翼以外の手段を行使した 


そして当然、それは効果を成さなかった 

13歳の少女に装甲車一台分の慣性の掛かった人間を止めきれるはずもない 

細腕ごと押し込まれる  



虫歯一つない丈夫な犬歯が聖の白い肌に食い込んだ 


638 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:37:28.17 ID:mlSoY6ao0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南 


ゲーム開始88分時点 



加蓮「行くわよ奈緒!紗南!」 

奈緒「あーもう...わかった!こうなったらヤケだ!」 

紗南「まだ真上にいるよっ!」 

縦に並んだ三人が下水道を走る、といっても長距離を移動するつもりはない 


加蓮「あった!」 


10mも走らないうちに先頭の加蓮が急ブレーキをかける 

そこにはマンホールに通じる梯子が伸びていた、地上への数少ない出入り口だ 


紗南「でもっ、本当にいいの!?もしかしたらこの真上にビルがあって凛さんがどの部屋にいるか分かんないなんてことも...」 

奈緒「マンホールが近くにあんだからそこまで心配するほどでもないだろ、つっても賭けではあるな」 


いまだに怖気づいた様子の紗南と吹っ切った奈緒もそう言いながら足を止めた 

加蓮は既に梯子の段に飛びついて登り始めている 

地上へ続く穴へ、照明のない暗くて狭い空間に突き進んでいく 


奈緒「ほれ、紗南」 

その後ろを追って奈緒が紗南を担ぎ上げた、 

ゲーム機をポケットにしまわせ梯子の最下段を掴ませる 


紗南「わわっ!アっ、アタシから?!いいの?」 

奈緒「そりゃここまで来れたのもお前の功績だし、というか紗南の身長じゃ登りにくそうだから支えてやらないと」 

紗南「奈緒さん...」 


狭い空間の中を加蓮、紗南、奈緒が並んで梯子を登る 

そして詰まった 


加蓮「奈緒......」 

奈緒「あ?どうした早く登ってくれよ、パンツ見るぞ」 

加蓮「バカ...あのさ」 


「マンホールって、どれくらいの重さだったっけ?」 


紗南「あ......」 

639 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:40:34.87 ID:mlSoY6ao0


奈緒「...えっと...原則として普通のマンホールは50kg以上...って、え?」 


加蓮「いま、アタシの頭の上にあるのよね......ごッついのが」 


紗南「ゲ、ゲームだとステージ移動のときとか案外簡単に持ち上げてたりするよ!」 


状況を察し始めた他二人をフォローするように紗南が声を張り上げた、わんわんと暗闇に反響する 


奈緒「お、おうそうだ!アニメでも自称普通の高校生のくせに簡単にマンホールを開けたりしてたぜ!」 

紗南「ほら、だってさ!加蓮さん!そういうのもあるって!」 

奈緒「......そうそう!普通のマンホールだったらボルトで地面に固定されてるのにな!」 


今度こそ全員が静止した 


耳が痛くなるほどの静寂が満ちる 


試しに加蓮が天井の黒い蓋を押し上げようと力む 


無機質で無反応な手応え 



加蓮「......ここにきて、こんな」 


奈緒「くそっ、変なとこまでリアルにしやがって!」 

加蓮が愕然としたうめき声を上げて、奈緒が誰に向けるでもなく悪態をつく 

一旦態勢を整えようと奈緒が梯子から降りかけたところで 



「ううん、そんなことない」 


その声は奈緒と加蓮に同時に届いた 



紗南「いけるかも...」 



誰に聞かせるでもない、 

思考をまとめた頭から口へ不意に漏れ出たような呟きも 


狭い空間にはよく響く 

640 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:43:14.37 ID:mlSoY6ao0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
早坂美玲 


ゲーム開始88分時点 


聖の視界が大きく傾く 


空中での姿勢を保とうと背後に控えた2枚の翼を忙しなく動かす 


「がぁるるるうううううううううう!!!!」 

「や、やめ......ゃ!」 


獣耳を飾った頭を腕で押し返すが思うように力が入らない 

懐に潜り込んできた彼女の上下の犬歯が聖の右肩を鎖骨ごと喰らい、齧りついていたからだ 


ギャリンッ! 


美玲の両腕の延長線上、その体躯を上回るサイズの鉄爪二対が翼に無造作に切り裂かれていく 


食いつき絡み合う不安定な二人から、滑らかな断面の金属片が落下していった 


「がっぎぎぎぎ...!!!」 

「...お、重い...」 


噛み付きのしかかるようにして今、聖もまた装甲の重量を前から背負わされている 

逆に美玲は余分な部品が背中側で連結されているおかげで負荷が両腕以外にも分散されていた 

その美玲の背中から聖目掛けて伸びていた牙が反り返される、聖の頭を覆っていた翼二枚によって 


聖(ボット)「......潰れて...ください」 


ザクン、とついに最後の爪を切り離された 


そして翼が花びらのように上下左右対称に開いていく、美玲を包み押し潰すために 


「がるっ!?」 

美玲も両爪を持ち上げようとする 


ほとんどが抉り取られ、両腕で辛うじて動かせるほどに軽くなってしまった貧相な武器を振るうため 


もはや武器というより鉄くずの廃材に手を巻き込んだようにしか見えないそれを聖にぶつける 
641 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:46:36.21 ID:mlSoY6ao0


しかし元々重厚な装甲板でできたそれと、 


文字通り”羽のように軽い”翼では速さが違う 



美玲「____あ」 


グキャッ 


美玲の目の前に真っ白なシェルターが降りて、 


輝く翼は蕾のように閉じた 





パチィッ! 


聖(ボット)「ん...」 


柔軟さと剛健さの同居する翼同士が擦れ合う音が一つ 

プレイヤーを包んだその四枚が互いに重なり繭を形成している 

ただし今回のものは聖を守護するのではなく美玲を圧殺するためのもの 

何の音もしない、望月聖の翼は音すら通さない 



聖(ボット)「....おっとと」 


静寂を取り戻した世界で聖の体が傾く 


自身の前面に人一人と削り取ったとはいえ装甲車一台近い重量がぶら下がっているのだから当然だ 

美玲の最後の突貫による慣性もなくなった今、この存在は重しでしかない 

文字通り強力無比ではあるが所詮は翼、バランスを崩せば飛べるものも飛べはしない 


パチッパチチ... 


ダメ押し、とばかりにもう一回り白い蕾を縮こませ、中身を押しつぶす 


聖(ボット)「...じゃあ、さようなら」 


不安定ながら二枚の羽で態勢を維持して四枚の翼をそろそろと開いていく 

尋常ではない圧力をかけられた鉄片や配線、装甲板が奇怪な形状のゴミとして隙間こぼれていった 


バラバラと、パラパラと、ボタボタと... 


聖「.......重たくなってきた」 
642 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:48:51.20 ID:mlSoY6ao0


翼が完全に開き切り、 

聖の前面から背面へと戻っていく 


その前に 


何かが翼に引っかかった 

唐突に開閉が中断される 






「.....がふっ」 




ぐねぐねに折れ曲がった爪が内側から翼を掴んでいた 

両腕からそんな物体を伸ばした、人間の形をしたそれを聖は認められない 


「な、なんだこれ...?」 


全身に食い込んだ鉄片がウロコ状にその矮躯を覆っている 



聖(ボット)「...!...」 


ベグシャ! 


開きかけた翼の四枚を再度閉じた、すりつぶすように 



聖の眼の前から意味不明の存在が消えた 



だが彼女ははっきりと感じていた 




聖(ボット)「お、重たくなってる...?」 



この中にいるのは剥き身のプレイヤーだけのはずだ 


凶器も武器も、勢いさえも通用しなかった早坂美玲だけのはずだ 


それに自分の翼に触れて無事でいられる存在がいるはずもない 
643 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:52:04.65 ID:mlSoY6ao0

聖(ボット)「こうなったら...」 

二枚の翼だけではもう支えきれない 

早急にこの蕾に閉じ込めた存在を地面に叩き落とすべく急降下した 

重力加速に翼の推進力を加えて落下するより速く落下していく 

そして、中身をぶちまけるように翼を開いた、その中身を二度と見ないで済むように急旋回しながら 

ガシャンッ! 

無造作に打ち出された装甲板が地面に突き刺さった音だけが響く 


だがそれでも 


「何すんだコイツッ!!」 


それはしっかりと翼にしがみついてきていた 


聖(ボット)「ッ、また...!」 


今度はちゃんと開いた六枚羽、その一枚に長く、歪曲した爪が絡まっている 

全身を醜怪なウロコ状の鉄片に包んだ存在もそのままだ 



聖(ボット)「どうして...まだ、生きているんですか...!?」 

美玲「ウチにもわかんないしッ!!」 



そのウロコが剥がれるように体表を移動し、早坂美玲は顔を出した 

美玲の纏った装甲が移ろいでいく、翼を掴んだままの爪も同様に 


聖(ボット)「ううん...おかしい、掴んだりできるはずがないんです...絶対に...」 

美玲「そんなの知るかッ!!」 


刻一刻と変化していく自分の装備を顧みることもなくより一層爪を握り込む 


ガオオォオンン!!! 


聖(ボット)「!?」 

そこで二人の耳に届いたのは確かに装甲車のエンジン音だた 


それに連動して美玲の体が機械的に持ち上げられる、聖と美玲の視線が数センチの間隔を空けてかち合う 


美玲「やっと...やっと、ウチの番、だッ!」 



ゴツンッ!!!!!! 


聖(ボット)「~~~~~~!?」 



いくつもの偶然を越えて辿り着いた対等な土俵で 


最初に炸裂したのは美玲の頭突きだった 
644 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 22:56:30.45 ID:mlSoY6ao0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨 



杏「愛梨、そのバニーの耳ってどーなってんの?」 

愛梨「はい?あぁこれですか?なんだかさっきからずっと動いてるんですよね~」 

きらり「とーってもかーわうぃーにぃ♪」 



外から見られないように窓枠の下に三人並んでしゃがみこみながら会話する 

杏の指摘した兎耳はもちろん十時愛梨の能力「修復」を司るもの 

それはこうして静かにしている最中も吹きもしない風に揺れるようにぴこぴこと動いていた 



なぜならその能力が現在進行形で発動しているからだ 

その対象を早坂美玲が壊して作り直した「装甲車」にして 



きらり「愛梨ちゃんのはどんなものでも直してきれいきれいにしちゃうの?」 

愛梨「そうんですよー、ただ壊れた街までは直せないみたいで...今は動いてるだけかな?」 



望月聖の能力の本質は無限の破壊力にある 


それを使えばいくら装甲車のパーツに身を包んでいようとも紙くずと同じだ 


ただし、 


たとえ彼女にとって紙くず程度の強度しかなかろうと例外として 


”存在しなかった物”を存在する前に破壊することはできない 


そして十時愛梨の能力はその存在しない物を補い続けるものだ 

645 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 23:02:02.60 ID:mlSoY6ao0


最初、蘭子の力により食い破られた装甲車の天井を元通りに修復し 


次に雨あられと降り注ぐカラスとそれらが宿した破壊の奔流に同じく対抗し続けた 


無から有を生み出すこともデジタルの世界なら非常に容易い 


杏「直すっていてもどんなもんなのよ、それ。やっぱゲームだし一瞬で直るの?」 

愛梨「う~ん、一瞬ではありませんけど、物凄く早いのは確かですね...割れたフロントガラスにヒビが広がるよりも早いです」 

きらり「すっごーい!」 


欠損した部分、失くなってしまった部分を生産し、補填し続ける愛梨の力 

偶然か必然か 

その生産力は聖の破壊力をギリギリで上回り、美玲を完全なる破壊から守りきっていたのだ 


美玲は聖の翼を掴めてはいない、掴んだ部分から弾け飛んではいる 

ただその欠損が補われ続けているだけだ 



しかし同時に美玲の力もまた装甲車には働いている 



破壊と再構成の力は無限の生産と結びつき、決して壊せない装備を作り上げていた 


さらに歪な融合は装甲車のエンジンさえも再構成し 

その馬力を美玲の爪を振るう力に昇華させた 


だが、それを正確に知る者が現れることはない 
646 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 23:03:49.51 ID:mlSoY6ao0




きらり「それにしてもユッコちゃんたち...大丈夫かにぃ?」 


杏「まぁ、杏のスキルがあれば大丈夫でしょ、蘭子は知らないけど」 


愛梨「はうっ、そうでした!でも蘭子ちゃんは私とユニットっていうのに設定したから平気だよね?」 



現在”別行動”をとっている裕子と蘭子の安否を気遣う 



杏「まぁ、ユニットメンバーになんかあったら分かるでしょ」 

「こんなに事務所の近くにいるんだし」 


壁に背をつけたきらりの腕の中で身じろぎする、そこからは窓の外は伺えない 


だが、窓の外には今、 

下手な建物よりも長大な爬虫類が静かに佇んでいることだけは確かだ 




ヒョウくん「.........」 




愛梨「ヒョウ君ってあんなに大きかったんですね~」 


きらり「きらりよりもずっとずっとおっきいー」 


杏「いや、ゲームだからね?......はぁ、それにしてもメンドくさい」 

「まさか事務所がボットの巣窟になってて、しかもそこに突入することになるなんてね」 

647 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2014/12/26(金) 23:07:31.35 ID:mlSoY6ao0

愛梨「時計はないですけど、多分そろそろ蘭子ちゃんたちが仕掛けますよ...」 


今になって小声になった愛梨が耳打ちする 

今から少し前、五人は今事務所から数えて六軒隣のビルにまで近づいてきていた 

しかし一筋縄で踏み込める場所でないことを知った彼女らは作戦を立てた 


その内容は五人中三人がパッションだけあって、シンプルかつ大胆 






裕子「エスパーユッコここに推・参!!」 



蘭子「我こそは仮想の庭園に降り立つ悪姫ブリュンヒルデなり!」 






かつて幸子たちが通った坂の上に顕然と並び立つ 

感情の色のない爬虫類の視線にも怯むこともなく威風堂々と 


たった二人でボットの部隊に立ち向かうプレイヤーとして 





杏「裕子たちが動いたよ...」 

きらり「ゴーゴーだにぃー」 

愛梨「こっそりですよねっ、こそこそ~っと...」 



ボットの目線を、事務所の裏手へ向けて動き出した仲間から逸らす陽動役として 









ゲーム開始90分経過 

双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨 

VS 

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 

開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
657 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:30:39.73 ID:5Z6nAWAa0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
神谷奈緒&北条加蓮&三好紗南 


緑の月に照らされた夜景 

半壊した摩天楼 


それらを鳥瞰しながら飛んでいるカラスの群れ 


その中の一羽が方向を変えた 

うねる黒羽の流れを無視し地上を目指す 


他の数千羽から外れ、急降下していく。決して力尽きて墜落しているのではない 

確固たる目的を持ち、そこへ向けて加速していく 

月明かりの届かないビルの谷間へ吸い込まれるように 


目標はすぐにそのカラスボットの視界センサーに入った 

茶色がかった長い黒髪、 

淡く輝く蒼色の靴、 

現在進行形で夜を生き残るプレイヤー 


彼女はボットの接近にまだ気付いていない。 



そして既に気付いたところで反応出来る速度ではなかった 



そのカラスの目標は渋谷凛___ 





ガィン!! 






___のすぐ隣、 


マンホールの蓋 






658 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:32:23.41 ID:5Z6nAWAa0



凛「わっ!?」 


風圧でなびいた髪の隙間から、矢のように突き立ったカラスが見えた 


凛「(見つかった...!?)」 


瞬間、凛の姿が消え、近くのビルの日除けの下に移動した 

飛んできたカラスは一羽だけ。そのカラスも自殺ものの突貫により消失した 


凛「(いない...?今までだと一羽でもこっちに来たら群れでついてきてたのに...)」 


ガィンッ!!! 


凛「ひゃっ!?」 


再度、同じようにカラスが急降下し、マンホールの蓋に体当たりし、同じ音が響いた 


凛「(なに?...狙いは私じゃなくて......地下?)」 


カラスのバンザイアタックの目的は明らかにその下水道への入口だった 


だが油断はできない、それは空からの死角である日除けの下から彼女が出ていい理由にはならない 


ガィンッ! 

ガィンッ! 

ガィンンンッ!! 


動物の集団自殺現象が凛の目の前で起きている、 

一つ違和感があるとすればそのペースが一羽ずつであることか 



ガキョッ!!! 



音が変わった。同時にマンホールに深い亀裂が生じる 


凛「!!」 


ボットの狙いはプレイヤー、そのボットがこじ開けようとしていた入口が今、開いた 


凛「(これ...まずいんじゃないの?カラスが狙ってるのはあの下にいる誰か...!)」 


タブレットの画面を思い出す、三つ並んで表示されたプレイヤーの証を 

ゴトリ、とマンホールの蓋だった半円の鉄板がずれた 




凛「(あそこにいるのは私が探してた三人...!!)」 



659 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:33:46.05 ID:5Z6nAWAa0

手元を探るとヒビの入った窓硝子が指に触れた 


凛「(向かいのビルに瞬間移動...その軌道上でマンホールに向かってくるボットにこれを突き刺す!)」 


手首をひねって硝子の破片をもぎ取る 

武器は即席、視界は不良、だが覚悟はできた 


凛「......誰かは知らないけど...目の前でみすみすカラスの餌にはさせないよ」 


ゴトリッ 

アァア”ーー 


蓋の破片が押し上げられ、カラスが鳴いた 


凛「!...今出てきたら__!」 






「ぃよっしゃあああ!やっと開いたぁあああ!!」 


凛「な?」 



「お手柄だよ紗南ちゃん!!」 

凛「か?」 



「それほどでもないって、アタシのゲーム機でカラスが操れるかも賭けだったし!」 

凛「さ?」 



「一羽ずつしか動かせなかったけどな」 


「贅沢言わないの、アタシたちに至っては能力なしだし」 



自分の緊張状態など素知らぬというような、場違いな大声 

四苦八苦しながらも三本の腕が二つに割れた破片を押し上げていた 


そのマンホールと蓋の隙間から漏れ出る声に聞き覚えが無い訳もなく 


凛「奈緒、加蓮、紗南?!」 

加蓮「あ、凛やっぱりいた」 


その声に応えたように最初に加蓮が地上に顔をのぞかせた 


660 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:36:08.14 ID:5Z6nAWAa0

奈緒「はぁっ!マジで凛か!?おい加蓮、早く登れって!」 

加蓮「ちょっお尻触んないでよ!」 

紗南「せ、狭い...!」 


地上の地獄絵図を知ってか知らずか姦しくも壮健そうだ 

徐々に加蓮の上半身が地上に押し上げられる 


凛「はは...」 


一時間ほど前とまるっきり変わってない友人の様子に脱力したような笑いが漏れる 

日除けの下から一歩外へ踏み出す、カラスの羽音はとっくの昔に遠ざかっていた 

だから、次の群れが上空を通過する前に、安全な場所へ友人を連れ出さなければ... 


凛「ほら、加蓮...手、貸すよ」 

加蓮「ありがと」 

地面から上半身だけを覗かせた少女に手を伸ばす 

凛「......って、これ二つに割れた蓋が邪魔だね」 


50から60キログラムのマンホール蓋だったもの、 

カラスの能力を利用する形で真っ二つに割られたそれの半分は押しのけられ、依然もう片方が蓋として加蓮の脱出を妨げたままだった 


凛「急いでね...早くしないと見つかるから」 

加蓮「見つかるって...もしかしてあのカラス?」 

凛「そうそう、さっきまで向こうからこっちにかけてものすごい大群がいたんだから...」 


加蓮の手を繋いだまま、視線を遠くに向ける 

まだ空は黒くない 



それに万一の時は自分の能力を使えば逃げられる 



凛「(ん?逃げるにしても、この能力って...他の人も引っ張って行けるのかな?)」 




わずかの間、頭をよぎった疑問 



自分の能力の限度、何ができて何ができないかについての疑惑 



もし、これがなければこの後、渋谷凛がとった行動も変わっていたのかもしれない 




661 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:37:43.43 ID:5Z6nAWAa0







__ゴォオオオオオオオオッ!!!!! 













凛「!!」 

加蓮「何アレっ!!?」 


地上に乗り出していた二人は見た 

空が白く灼けるのを 



紗南「うるさっ!」 

奈緒「何の音だ!」 


地下にいた二人にとってその光景はただの轟音で 

加蓮にとってそれは避けられない破滅で 

凛にとってそれは回避できた攻撃で 



だけど 


凛「加蓮!!」 

加蓮「___え?」 

奈緒「わっ!?」 

紗南「きゃあっ!」 


彼女は逃げるより先に、友人の安全を優先した 

掴んでいた手を離し、加蓮もろとも三人を地下に突き落とすことで 


自分も飛び込もうにもその穴は四人が入るほど広くなくて 

だから自分は地下の逆、上空へ跳ぼうとした 


もしかしたら加蓮の手を掴んだまま跳べたかもしれない 

だが、跳べなかったかもしれない。それに跳べたとして、奈緒や紗南はどうなる? 


そんな疑問が一手、凛を遅らせた 


そして凛は一歩だけ、逃げ遅れた 


ゲーム開始90分時点 
_____
662 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:38:57.95 ID:5Z6nAWAa0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
神崎蘭子? 


ゲーム開始89分時点 





ぱたぱた ぱたぱた ぱたぱた 





それはカラスのいない空を飛ぶ 


カラスも通らない領域を悠々と通過する 


行き当たりばったりでプレイヤーを探すカラスとは違う 


それは夜目が効いた。しっかりと前を見据え、翔んでいく 





ぱたぱた ぱたぱた ぱたぱた 





カラスの真逆、真っ白な羽を優雅に振るいながら 


目指す先はひとつ 
663 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:45:15.23 ID:5Z6nAWAa0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
早坂美玲 



美玲「むぎぎぎ...!」 

聖(ボット)「むぅう...」 


膠着状態 


全てを破壊する攻撃力と、無限に修復する回復能力は拮抗したまま 


自身の能力に両腕を抑えられている美玲は自前の歯を立てようと首を伸ばし 

六枚の翼だけで対抗している聖はその頭を腕づくで押し返す 


聖(ボット)「(私の翼はなんにでも勝てる...... 

例え美玲さんが千人で襲ってきたって、美玲さんが今の千倍大きな体でも...一瞬でぺちゃんこにできる 

そういう能力なんだから...当然そうなります)」 


ちらりと押さえ込んだ美玲の頭部から翼の先へ視線を向ける 

そこでは進行形で破壊と再生を続ける装甲車の破片が有機的な動きでまとわりついていた 

硬質な鉄板が高速で膨張しながら破裂する様は、もはやそれが人工物であったことすら忘れさせる 



聖(ボット)「(でも、倒しても壊しても、蘇ってこられたら...!)」 



美玲「がるぅあっ!!」 


ゴゴォン! 


装甲車一台分、もはや一台という単位で数えられるかは不明だが、 

その重量を伴って二人は「また」墜落した 


ここまで力関係は確かに拮抗している、 


荒ぶっているのは二人の状況だ 


四枚の翼で美玲一人を包み込むように押しつぶしている今、 

二枚の羽で姿勢など保持できるはずもなく、食らいつく美玲を引き剥がす意味も含めて 

二人は巨大なスーパーボールとなってそこらじゅうを破壊しながら上下左右に跳ね回っていた 


勿論聖自身は飛行に用いている翼で身をかばいながらだ。 

664 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:48:31.13 ID:5Z6nAWAa0


ガッゴォオン!ガガァン!! 


美玲「(くっそ!聖のやつ!ウチが離れないからってムチャクチャな飛び方しやがって!)」 


プリンをスプーンで削るように、翼が擦れた跡の地面がめくれ上がっていく 


美玲「(というか、これホントにヤバい...!)」 


石礫が上から横から降り注ぐ、押しくら饅頭の二人がそこらじゅうの瓦礫を砂礫に変えていく 



そして、その時は訪れた 



ジグザグに破壊を撒き散らす二人の軌道が一棟のビルを「また」貫いたとき、 


一階の窓ガラスを突き破り、そのまま屋上に至るまでの十階分の天井と設備を砕きながら屋上へ突き抜けたとき、 



美玲は聖の元から剥がされ、丸腰で宙に放り出された 



そのままビルの屋上、大穴の開いたそのすぐ横に背中から落下する 



美玲「___あがぁっ!?」 

聖(ボット)「___やっと」 



四枚の翼の中には抜け殻となった装甲板の獣爪だけが残った 

どれほど修復されようと、その繰り手がいなければなんら脅威でない 


グシャリッ 


聖(ボット)「もうコレ、いらないですよね?」 


爪の原型をなくした装甲が修復を繰り返しながら落ちていく 


聖(ボット)「初戦から散々、でしたが...」 

六枚の翼を拘束するものはもう何もない、 


美玲「あ__あ、あ...能力の、時間切れが、こんなとこでッ......!」 


緑の月を背後に、対称な円弧を描いて翼が開く 


聖(ボット)「ばいばい、です」 


健闘した敵へのせめてもの餞別に、全力で翼を振った、無限の力が空気を叩く 


竜巻がビルを丸ごと飲み込んだ 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
665 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:50:36.00 ID:5Z6nAWAa0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

ぱたぱた ぱたぱた ぱたぱた 



聖(ボット)「............」 


回転するミキサーに投げ込んだウエハース 

カラスにより老朽化させられていたとはいえ、建物一棟がまるまま粉微塵に消えていく 


もう一度、今度は軽やかに風を起こすとその砂塵も掻き消えた 

あとには何も残らない、鉄骨すらも風に舞っていった 



聖(ボット)「でも、まだ生きてる......」 


「(装甲車が、まだ直り続けてるから...)」 


眼下にある物言わぬ瓦礫にまみれながらも確かに活動している物体をみて、推測する 


確かに十時愛梨の能力は今もまだ運転手のいない車両を修復している 


しかし聖はその修復を”早坂美玲の”能力による現象だと誤解していた 


だからこそ能力の主はまだゲームオーバーになっていない、という認識 


翼の角度を緩やかに調節しながら360度を慎重に見渡す。装甲板の軋りを耳で聴きながら 



ぱたぱた ぱたぱた ぱたぱた 



聖(ボット)「......なに、あれ」 



結果から言えば、誤解ではあったが誤認ではなかった 


666 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:52:42.03 ID:5Z6nAWAa0


ぱたぱた ぱたぱた ぱたぱた 


そこに見えたものは至ってシンプル 


自分から遠く遠く離れた小さなシルエット 


美玲がいて、空を飛んでいた。 


しかも白っぽい羽が生えていた 



聖(ボット)「........ふくろう....ミミズク?」 



美玲「............げ、みつかったぞッ!急げよお前ッ!!」 



羽は美玲のものではなく、美玲の首元を掴んで飛翔する鳥類のものだった 


速度こそ心もとないが確かな力強さで美玲を難なく運搬している 


その、自分の後頭部のあたりで懸命にはばたく”鳥型ボット”を急かす 


美玲はそのボットの鳥に見覚えがあった。そして彼女の推測が正しいのならそれは__ 





美玲「お前あれだろッ!蘭子のCDジャケットで蘭子の手に乗ってたトリだろッ!?」 





___神崎蘭子の能力が寄越した伏兵だった 




カラスも近寄らないこの空間においてどのタイミングで美玲に合流したのかはわからない 

だがそのボットは蘭子の望みに応え、美玲を救ったことだけは事実で 

そして今、彼女らの姿も聖から遠く離れたビル群の中に潜もうとしている 



聖(ボット)「いつのまにあんな遠くにっ...!!」 



完全なるボットとしての不覚、装甲車に能力が発動しているのなら、美玲自身も近くにいるだろうという誤解 


それが蘭子の手引きによる美玲の逃走を助長した 


十時愛梨もまた、美玲を間接的に救ったのだ 


667 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:54:55.26 ID:5Z6nAWAa0


美玲の姿が見えなくなる 


バサァァアッ!!!! 


その場で六枚の翼が聖の背後に翻る 



聖(ボット)「(追いつき、貫き、トドメを差す...)」 



ロケットスタートのための、一瞬の溜め 

無限の攻撃力を加速に転化するためのラグ 



美玲「ヤバッ!アイツ追いつく気だ!!急げ急げ鳥ィ!」 

聖の力を知る美玲の声が焦燥にまみれる 


ぱたたたたたぱたたたたた 


聖(ボット)「(速くなった?...でも、関係ない!)」 


きりきりと翼が引き絞られる、最高速の体当たりを敢行するために__ 



ガゴン・・・ 



美玲「ヤバイヤバイヤバイヤバイッ!!」 

その光景は美玲にとって、ギロチン台の上で刃が引き上げられていくのを見ているようで 


ガシャンッ・・・ 




聖(ボット)「今度こそ___」 


美玲「__なんとかしろォ!!!」 






ジャキッ・・・! 

668 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 09:56:19.94 ID:5Z6nAWAa0

翼が羽ばた 


ドガガガガガガガガガガガッ!!!! 


  
   「は?」 


 銃 
   弾が 


      聖  を 



ドガガガガガガガガガガガッ!!!! 

669 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 10:09:53.68 ID:5Z6nAWAa0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


最初に用意したのは土屋亜子だった 


そこを、神崎蘭子が毟り取った 


十時愛梨はソレを戻そうとしたが 


白菊ほたるがそれを許さなかった 


最終的には 


ソレは早坂美玲の支配下に置かれた 



ドガガガガガガガガガガガガガガガ!! 



聖(ボット)「____こ__」 



乱射された数十発の弾丸の内、聖に命中したのはたった二発 

だがそれで充分、致命的だった 

仮想でない現実だったなら、たった一発でも聖の体を飛び散らせる威力なのだから 



装甲車の、”固定銃座”から放たれる、大口径の弾は 



美玲「......おい、なんだアレ?ウチが...さっきまで使ってたパーツだろ?なんで勝手に動いてんだ?」 



彼女も気付いてなかったことだが、装甲車の銃座自体は少し前に修復されていた 


そして愛梨と美玲の能力が同時に作用した結果、そのトリガーは美玲の制御下にあったのだ 


ただ、彼女は爪と牙以外の武器の存在を知らず、その機銃は無駄な重しとなっていて 


たった今、ようやくその出番が来たのだ 

670 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 10:11:00.94 ID:5Z6nAWAa0


聖(ボット)「____が____ぃあ___」 


翼を全て移動のためだけに使おうとして、防御をしていなかった 

足元のずっと下からくる遠隔操作攻撃に対してなどなおさらだ 


ハンドガンやマシンガンとは訳が違う。装甲車に固定してしか使えないほどの口径と反動を誇る威力を浴びて 




もう何も見えない 




唯一自分を見下せる月も、逃げ延びようとする美玲も、 

正体不明な鳥のボットも、 

渋谷凛も 


ただ落ちていくだけ、 

そして多分地面に墜落する前に彼女は消失する 

それは聖本人にも分かっていた 



パチィッ! 




だから 





パチチチィッ! 


美玲の耳に嫌な音が届く、硝子を引っ掻くような耳障りな音が 


「アイツ...何やってんだ...?」 


パチチチチチィッ!! 


翼と翼が擦れ合っていた 

それの意味するところは【矛盾】 

パチィンッ!! 


無限の攻撃力と無限の防御力の衝突 

どんなものでも貫く翼と 

どんなものでも防ぐ翼の 
671 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/10(火) 10:22:10.43 ID:5Z6nAWAa0


パチチチチイイィイィィイィイ!! 



そこに秘めたエネルギーを無限に押し込んでいく 

六枚の翼が四枚に、二枚に、最後に一つの小さな球体にまで圧縮され 



聖(ボット)「なくなっちゃってください」 




爆ぜた 






__ゴォオオオオオオオオッ!!!!! 








夜空が白く灼ける 












ゲーム開始90分経過 


望月聖(ボット) 消失 

早坂美玲+   0/100 

渋谷凛+    0/100 

神谷奈緒  能力獲得 

北条加蓮  能力獲得 


望月聖(ボット)VS早坂美玲&渋谷凛 

引き分け 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

CAUTION! 

仮想現実空間運営用自律ボット 

CHIHIROより池袋晶葉へ 


・過度の情報が処理されました。容量不足によるパフォーマンスの低下にご注意ください 


仮想空間稼働90分経過 

676 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:28:50.34 ID:cUGxJX090

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨 


ゲーム開始88分時点 



裕子「エスパーユッコここに推・参!!」 

蘭子「我こそは仮想の庭園に降り立つ悪姫、ブリュンヒルデなり!」 



陽動作戦開始 


蘭子「今こそ我に力をもたらせ...!グリモワールよ!」 


不本意ながら着込まざるを得なかった黒のパーカー、そのポケットは蘭子のスケッチブックを丸め込んで収納するにはちょうど良かった 

破られた白紙のページが変化する。この状況に最適な道具へと 



ヒョウくん「......」 

翠(ボット)「今までで一番活きの良いお客様ですね」 

四本の矢が翠の矢筒に装填された、これで彼女の能力はリセットされたことになる 

翼竜の周囲の大岩、数分前に落ちてきた聖と美玲による流れ弾が同時に崩折れた 

彼女の能力による固定が無くなったそれらが脆く倒れていく 



裕子「おぉっ!地震ですか!?」 

蘭子「ち、地形が変わっていくだと...!」 

翠の能力を知らない二人からすれば、なんの前触れもなく周囲の瓦礫が倒れたようにしか見えない 

その隙に一人と一匹は突く、瓦礫の砂塵を振り切って血管の浮いた羽が空を切る 


裕子「むむっ!先手は取らせません!」 


急接近する巨大な敵に彼女が選択した武器もまた瓦礫、自身の倍からある大きさのそれを担ぎ上げた 


「さいきっく 念動力!!」 



それはただの投石、ただし必殺の威力で翼竜とその背の翠を襲う 


677 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/02/14(土) 11:30:52.75 ID:cUGxJX090

対して彼女は弓を引かず、爬虫類の背にしっかりとしがみついた 

それに応じるように翼竜は急上昇して、壁のようなサイズの岩石を躱し、降下する 

そうして温存した矢を弓につがえる、相手を釘付けにして動きを制限する能力のために 




翠(ボット)「___いない?」 




ただし相手がいなければ意味はない 


蘭子はおろか投石した本人である裕子の姿さえ消えていた 


ズズゥン!! 


大岩が一面のガラス窓を粉砕しながらビルに減り込む音が背後から聞こえた 


翠(ボット)「岩に気を取られている内に隠れて...そのまま事務所まで抜けるつもりですか...」 


矢をつがえたまま周囲を警戒しながら後ろへと体を回していく、背後には今まで守護してきた事務所があるのだ 


翠(ボット)「(今となっては通してしまっても”構わない”んですけどね......まだそれには少し早いそうですし)」 


数分前の仲間との会話を思い返す 


それは、変わり果てた状況に対する自分たちの取るべき指針についてのやり取り 



佐城雪美の能力によりもたらされた情報 



八神マキノを始めほとんどのメンバーが消失したという事実にまつわる話し合いを___ 


ズルッ 


ヒョウくん「......!」 

翠(ボット)「!」 


平衡感覚が狂い、視界が急勾配で傾いた 



翠(ボット)「これは__!」 


足場が傾いている、この場合足場とは翼竜と化したイグアナそのもの 



「さーいきっくぅうう...」 



完全に後ろを向ききった翠の目に裕子の姿が飛び込む 


さっき自分の投げた岩の上に陣取り、大綱ほど太さの尻尾をむんずと掴んでいる姿が 

678 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:32:41.46 ID:cUGxJX090

裕子の傍らには蘭子がいた 

ただしこっちは岩の上には着地していない、ふわふわと宙に浮いていた 


その手の中には黒い傘 

さっきまでなかったはずのそれがタンポポの綿毛のように蘭子を空へと引っ張り上げている 


蘭子「我が力は刹那、超常の使い手よ...早急に決めてしまうのだ!(私の能力はすぐに切れちゃうので、裕子さん、さっさとやっちゃってください!)」 


裕子「ううううぬぬぬぬ......!」 


イグアナの翼が虚しく空を掻く、崩された体勢では満足な揚力など得られず 

その巨体が大岩の上の裕子を軸に回転を始めた 


翠(ボット)「(蘭子さんの能力は飛行?...それで裕子さんと共に死角から回り込んできたのですか!)」 


猛スピードで流れる視界、弧を描く足場、傾く爬虫類の背中からでは姿勢を保てない 


弓を射るなど以ての外だ 


今の翠にできることはその翼の根元にしがみつくことだけ 


翠(ボット)「だったら.........ヒョウさん!」 

ヒョウくん「......!!」 

翠がイグアナに合図を送る。そして傾いた背中から滑り降りた 







裕子「テーレーポォオオオオト!!!!!」 







同時に巨大な翼竜は、遥か遠くへ向けて背負い投げられた 


679 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:34:07.00 ID:cUGxJX090

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

ゲーム開始89分時点 


きらり「翠ちゃん以外は見張りもいなかったねー?」 


愛梨「他の人たちが中にいるんですよ、きっと窓から見えただけでも四人くらいいましたし...」 


杏「うぇえ...じゃあ杏たちの方が危ないんじゃないの...?めんどくさ...」 


裕子と蘭子が姿を見せる少し前から行動を開始していた隠密組が事務所の裏手に到着した 


きらり「杏ちゃん、そんなこといっちゃダーメ!ユッコちゃんたちも頑張ってるにぃ?」 

その証拠に今も地響きやガラスの割れる音がそう遠くない場所からビル壁を反響してきていた 

愛梨「でも武器がこんなものしかないのも事実ですしね...頑張らないと...!」 

そういって手に掲げたのは料理用のナイフ、元は蘭子の体に刺さっていたものの一部だ 

ニュウェーブの罠により蘭子を貫いた後、 

何かの拍子に刃こぼれした一部がパーカーのポケットの中に引っかかっており、 

それを愛梨が修復し、一本の新品のナイフになるまで復元した 

ちなみに刃物に軽いトラウマを負った蘭子自身はそのナイフを使うことを忌避した 


きらり「何かあったら~愛梨ちゃんにお願いだにぃ...」 

愛梨「任せてください!ふんす、です!」 


不慣れな手つきでナイフを構え意気込む愛梨をきらりがはやし立てる 



その様子を杏はやや冷めた目できらりの背中越しに見ていた 



杏「(愛梨が刃物を武器にねぇ......似合わない、というか先制攻撃とか無理だろうなぁ...)」 


680 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:36:24.41 ID:cUGxJX090

確かにこの世界はゲームで、敵は機械人形だ。 

ここで誰をどう傷つけようと現実の人間関係は変化しない 

だからといって自分のよく知る人間、それも仲間にナイフを突き立てられるか? 

レーザービームや巨大な恐竜、動く箱といった現実離れした現象とはわけが違うのだ。 

刃物などあまりにも現実的すぎる 


杏「(水鉄砲とは違うんだから...完全にゲームだと割り切ってないと咄嗟に仲間のそっくりさんを攻撃する、なんてできないでしょ...)」 


きらりの背中で心持ち態勢を整えた。事務所の中からは目立った音は聞こえてこない 


杏「(いざとなったらこれ、杏が働かなきゃならない流れかなぁ......)」 


がちゃり... 


愛梨「それじゃ、入りますよ...私に続いてください...」 


きらり「にょわぁー」 

きぃい... 

三人にとって正念場となるはずの扉が開く 


杏「............」 


愛梨の手の中で、ふらふらと揺れる頼りないナイフ 

小声になってはいるものの、警戒心の欠けたきらりの掛け声 


杏「...まぁ、もらった飴の分は頑張るよ...」 


681 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:37:51.23 ID:cUGxJX090

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
堀裕子&神崎蘭子 



世界が静止した 



裕子「あれー?」 

蘭子「__!?」 


裕子の足場となっていた岩が完全に崩れる前に、 

蘭子の空飛ぶ傘に捕まることで避難はできていた 
、 
生地の薄い黒い傘は二人分の体重を感じさせない余裕さで宙を漂う 


そんな二人を至近距離で眺める眼球が二つ 



ヒョウくん「........」 



裕子「本気で投げ...いえ、テレポーテーションさせたんですけどねー」 

蘭子「目と鼻の先の危機に猶予はない!?(そんなこと言ってる場合じゃないですよ!?)」 


投げ飛ばしたはずの大型翼竜がほぼ眼前にいた 


裕子の能力を全開にした上で投げ飛ばされたはずのそれが、悠々と空中で態勢を整える 

巨大な生物というのは体重も大きい分、動かすのは容易ではない。 

だがその体重の大きさは一度速度がついてしまえばそれだけ大きな遠心力がかかるはずだ 


いくら翼があるとは言え空中で急ブレーキをかける手段などあるはずが 






翠(ボット)「......間一髪、ですか」 





いや、一つだけある 

682 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:39:50.18 ID:cUGxJX090


裕子「ん?あのイグアナさん怪我してませんかね?背中のとこ」 

蘭子「そんなことより、は、早く逃げないと...!」 


裕子の指摘のとおり、イグアナの背中は僅かだけ傷ついていた 


水野翠が突き刺した一本の矢により 


翠(ボット)「能力発動......です」 


「これで...ヒョウさんは私から60メートル以上離れることはありません」 


コンクリートの地面に受身を取っていた彼女が毅然と起き上がる 


翼竜の背中から”故意に”滑り落ちる寸前、 

彼女は矢を足元、つまりウロコの背中に突き立てていた 


これにより能力の対象となった翼竜は最低でも地に足をつけた翠から見て60メートルの一に固定される 

鎖につないだ碇を海底に下ろした船が波に流されないように、こうして裕子の怪力も遠心力も全てキャンセルされた 



翠(ボット)「足場ごと振り回された状態では弓は引けませんが......自分の足元に矢を突き刺すくらいは出来るんですよ...?」 

裕子「???」 

蘭子「この世界は我にそぐわぬ!!三十六計なり!(に、逃げますよぉ!)」 


683 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:40:24.84 ID:cUGxJX090


二人は翠の能力を知らない。だが状況のまずさは理解した。 

不意打ちに失敗したのだ 

蘭子が体を傾けると同時に重心の移動した傘はふわりと動き出す 


だが遅い 


翠(ボット)「能力...解除」 


翼竜を保護する戒めが解かれた。碇が上がる 


ヒョウくん「.........」 



バサァッ!! 



蘭子「ひっ!」 

速度、重量、攻撃力、全てが段違い 

今度は尻尾ではない。ヒョウくんの頭突きが二人に振り抜かれた 



裕子「さ、さいきっく...えっと、ジャーーーンプ!!」 



頭突きに合わせて両足を突き出した。膝を緩衝に頭突きの衝撃を相殺する 

しかしそこは踏ん張りの効かない空中、結果として二人は風に巻かれる枯葉のように吹き飛ばされた 


蘭子「きゃああああああ!!」 

裕子「しっぱいですかーーー!?」 


きりもみ式に回転しながらあっけなく遠ざかっていく 


翠(ボット)「.........本当にこれで、よかったんですよね」 

ヒョウくん「......」 


消えていく二人の方向を見ながら、確認するように呟く 




二人は、事務所へ向かって飛ばされていた 

684 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:41:51.58 ID:cUGxJX090
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
十時愛梨&諸星きらり&双葉杏 


愛梨「一階はスルーして...一気に二階まで行きますよ...」 


そういったのは十秒前 


きらり「じむしつに踏み込むにぃー」 


そういったのが五秒前 


杏「なんで誰もいないのさ......」 


そして現在 

電気が通っていないせいで、窓から不自然なほどに燦々と注がれる月光だけが光源となった部屋 

三人は知る由もないが、少し前に凛が踏み込んだことで荒らされた事務室にはいくらか人のいた形跡はあった 

パソコンの備え付けられたデスク、倒れたソファ、割れた窓ガラス、穴の開いた壁 


しかし、ここにいたであろうボットだけがいない 


杏「えっとさ...最初、遠目に見たときは確かに誰かいたよね...?」 


愛梨「はい...窓のそばに。それに今も外には翠さんたちがいるってことは...ここを守ってたはずじゃあ」 

きらり「じゃあじゃあ~、みんな逃げちゃったゆ?」 


暗い室内の中心できょろきょろと周りを見渡す 

杏「誰もいないならいないで、早いとこ見つけるもん探したほうがいいのかもねー」 

内心ほっと息を吐きながら、散らばった室内を目を凝らして観察する 

元々ここにはゲームを有利にする何かを探しに来たのだから妨害はないほうが好ましいのだがこの状況は不自然だった 


杏「(きらりのキーアイテムってなんだろ...きらりの場合...趣味関連のものとか...?)」 

「(ダメだ、心当たりがありすぎる...なにせ小物集めが趣味みたいなもんだしね...)」 


カタンッ 


「!?」 
685 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:43:11.98 ID:cUGxJX090


びくりと三人が震える。気配のなかった室内、その隣の部屋からの物音 


「だっ、誰かいますねっ!!」 

最初に武器を構えたのは愛梨だった。しかし動いたのはきらりだった 

「にょぉおお、わぁあ~~!!」 


「ちょ、慎重に行動しないとっ...!」 


杏を背に負ったまま一気に駆け出し、隣の応接間への扉を蹴破った 

静寂を破壊して、一気に未知の空間が開ける 


「あれあれ~?」 


だが、そこも無人 

ただし何もなかったわけではなかった 


カラン、と乾いた音を立てて応接間の床にそれが落下する 


愛梨「今、扉の裏から何か落ちませんでした?」 

きらり「にゅ?これかに~?」 

杏「なにこの安っぽいおもちゃ...」 


きらりが拾い上げたそれに対して背中越しに杏が毒づく。 

きらりの手のひらに乗るような大きさの、他愛ないおもちゃ 



星形のディスクに対して 



愛梨「そんなものが仕掛けてあるなんて...何かあるんですかね?」 

三人は知らない、本田未央の能力を、それが遠隔で振動を伝えることを 

その振動が応接間での物音を演出したことを 



それが事務所に来た三人の気を引き、 

時間を稼ぐためのものであったことを 


686 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:44:08.38 ID:cUGxJX090


ゲーム開始90分経過 



ガッシャアアアアアアアンンン!! 






裕子「ほわぁああっ!!」 

蘭子「きゃあっ!!!」 




突然の闖入者、すでに割れていた窓ガラスを窓枠ごと粉砕して、 

黒傘とスプーンを構えた少女たちが飛び込んだ 


愛梨「えぇっ!!?」 

きらり「にゅにゅっ!!?」 

杏「!...な、なんでこっちに来てんのさ!?」 





驚愕した三人の表情がそこで白く染まる 






白く灼けた夜空の照り返しを受けて 





90分 

それは命運を分かつ時間 




___ゴォオオオオオオオオオ!!!! 



687 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:45:09.02 ID:cUGxJX090


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


カタカタカタ 


翠(ボット)「.........」 


懐から出した星型ディスクを眺める。それは先程から絶えず震えていた 


これは合図だ。『そこから逃げろ』というメッセージを込めた 


「ヒョウく~~~ん!」 


ビル街の死角、カラスの行動パターンから漏れた一画に翠を乗せた翼竜が着地すると同時にその足元に少女が駆け寄ってきた 


小春(ボット)「うふふ~、無事に帰ってきてくれて嬉しいのです~」 

翠(ボット)「小春さん、大事なお友達を貸していただいてありがとうございました...」 

小春(ボット)「いえいえ~!」 



未央(ボット)「いや~!まさにゆきみんの予言通りの展開でしたなー」 

雪美(ボット)「......ぶい...」 

卯月(ボット)「もーのすっごい大きな音でしたね!」 



小さな少女に続いて、暗闇に潜んでいた他の影も姿を現す 


その内の一人は振動を伝える能力で翠に合図を送った張本人 

もう一人はその合図を送るタイミングを予知したボット 

そして最後の一人は普通のボットだ 
688 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:48:28.74 ID:cUGxJX090


卯月(ボット)「それで翠さん!首尾の方は!?」 

翠(ボット)「雪美さんの予言通りなら三人が事務所にいるはずですから...ヒョウさんが吹き飛ばしたのを含めて五人ですね」 

未央(ボット)「おお~!つまりつまり、五人まとめて一網打尽!というわけだね」 


本田未央、島村卯月、水野翠、古賀小春、佐城雪美 


防御において最強と評された彼女らは拠点を放棄して、避難した 


原因は二つ、「戦力外たちの宴」の情報班、戦闘班が共に壊滅したこと 

そして彼女らが防衛していた事務所もまた、取り返しのつかないダメージを負うことが予見されたこと 


どちらも雪美の能力がもたらした過去と未来の情報。無論、それを疑うものなどいない 


だが、それですごすご逃げ出す彼女たちでもなく、ギリギリまでプレイヤーを待ち構えた 


これがその結果だ 


卯月(ボット)「それにしても...とんでもないですねー」 

翠(ボット)「はい、私ももう少し脱出が遅れてしまえばどうなっていたことか...」 


卯月が背伸びをして遠くを注視する 

たった今、事務所を丸ごと飲み込んで街の一部が消滅していた。 

そこには瓦礫すら残っていない 


未央(ボット)「まさかひじりんがここまでやっちゃうなんて、みおちゃんビックリ!」 


ボット、望月聖の最期の自爆には狙いなどなかった 

割れた水風船のように無秩序に、無作為に四方を灼き尽くした 


翠(ボット)「しかし...次はどうしたものでしょうか...」 


居場所をなくしたボットが呟く 


しかしそれは迷いではない、次なる行動への思索だ 


なにせボットが成すべきことなど一つしかないのだから 





ゲーム開始91分経過 


双葉杏&諸星きらり&堀裕子&神崎蘭子&十時愛梨 

VS 

本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 

暫定勝者:ボット 
689 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:50:30.06 ID:cUGxJX090

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 



何もない、何もない 


聖の能力を浴びた痕には何も残らない 



「はぁっ...、はぁっ......!」 



そこに新たに音が生まれる 



「な、何が......?」 


ガラリ 

聖の攻撃から彼女を守っていた壁の最後の破片が脆く崩れる 



もちろん、ただの壁で聖の攻撃を防げるわけもない 



ただし、完全に破壊され貫通する前に【修復し続ければ】話は別だ 





「...あれ?」 



尻餅を付いた姿勢のままキョロキョロと首を振る、それに合わせてウサ耳が揺れる 


寸前で能力を発動させ、事務所の壁の一部をバリケードにして、 


彼女は生き残っていた 


690 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/14(土) 11:51:18.58 ID:cUGxJX090





愛梨「......事務所は...どこですか?」 




「...街の景色もなくなっちゃって......それに」 




「...みんなは...どこに行ったんですか...?」 





彼女だけは、生き残っていた 





ゲーム開始90分経過 

双葉杏+  0/300 

諸星きらり 0/300 

堀裕子+  0/300 

神崎蘭子+ 0/100 

望月聖(ボット) 消失 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

CAUTION! 

仮想現実空間運営用自律ボット 

CHIHIROより池袋晶葉へ 


・過度の情報が処理されました。容量不足によるパフォーマンスの低下にご注意ください 


仮想空間稼働90分経過 

693 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/21(土) 10:07:16.90 ID:G7ku7TiH0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
輿水幸子&白坂小梅 



聖の攻撃が一帯を灼き尽くす少し前 



それよりは少し狭いとはいえ広範囲を薙ぎ払う一撃があった 


南条光のものである 


光を参考にしたボットは特徴として手加減を知らず、そして何より 

【必殺技を決めたがる】 

だから彼女は麗奈の攻撃を逆利用したことで手にした膨大な力のほぼ全てを放出した 



頼子(ボット)「...参りましたね...私の集めたボットが全て無に帰してしまいました...」 



ほたる(ボット)「...うぅ...折角ボットとしての役をもらえたのに...私ばかりか頼子さんにまで...」 




光(ボット)「っす、すまない!アタシが逆転勝利にこだわったばかりに!」 


694 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/21(土) 10:09:06.12 ID:G7ku7TiH0


数分前までは舗装されていた道路があったとは思えない惨状と静けさ 


光の攻撃は麗奈は愚か勢い余ってその延長上にあった瓦礫のバリケードを巻き込んでいた 


ほたるの能力により周囲の建物が老朽化していたのもあり、周囲の建物もその攻撃の前に砂塵と散った 

近辺の空を埋めていたカラスの群れも例外なく消え失せた。 

ほたる曰く新たな群れを呼ぶにはまだ時間がかかるらしい 


そして件の攻撃がもたらした結末はそれだけにとどまらない 



頼子(ボット)「死んで花実が咲く、などと言いますが...なるほど圧巻な光景です...」 



シルクハットを指で押し上げ、荒れた都心を見渡す。平坦さの消えた地面 

そこに月の光を鈍く照り返す粒がいくつも転がっていた。 

どれも指先ほどのサイズで、波打ち際の貝のようにきらきらと存在を主張する 



ほたる(ボット)「...こ、これ.....全部銃弾なんですか...?」 



頼子(ボット)「弾丸だけでなくいくつか銃身も転がっていますね...それと見覚えのある瓶も...」 


仮想世界のルール、【ボットは積極的にアイテムを破壊できない】 


今、三人の周りを埋め尽くす銃器の類は全て、ビルの中に隠されていたものだが 

先の攻撃により隠し場所だけを葬り去られ、こうしてその身を晒していた 

砂金採りにおいて泥の中から金だけがザルで濾し取られるように 


頼子(ボット)「私とほたるさんは一時的ではありますが...戦闘に能力が持ち込めなくなってしまいましたし...」 


「...これらもありがたく使わせていただきましょう」 


銃弾の海の中からいくつかサルベージする。壊すのではなく使用する分にはボットでも問題ない 
695 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/21(土) 10:09:50.47 ID:G7ku7TiH0

ガシャンッ、カチッ 


ほたる(ボット)「じゃ、じゃあ私も...この小さいのを一丁だけ...」 

光(ボット)「アタシは自分の力だけでやっていくぞ」 


次の戦いに向けての準備を進めていく 


頼子(ボット)「それと光さん...しばらくしたら私とほたるさんは別行動をとりますので...」 

ほたる(ボット)「わ、私と頼子さん...ですか?」 

頼子(ボット)「ほたるさんの能力はどうやら敵味方お構いなしのようなので...出過ぎた真似、でしょうか...?」 

ほたる(ボット)「あっ...す、すいません!こっ、こちらこそよろしくお願いします...!」 

頼子(ボット)「いえいえ、こちらにも利があっての判断ですので、感謝されるようなことなど...」 

光(ボット)「そっか、じゃあアタシはもう行くよ!」 


次の戦い 


つまりもうここにプレイヤーはいないのだ 





少なくともボットの三人から見える範囲には 


696 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/21(土) 10:11:07.60 ID:G7ku7TiH0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

丸く削れた天井から月が見える 



「ぜぇ、ぜぇ...な、なな...なんなんですかもぅ!」 


「さ、さっちゃん、すごい...映画の主人公みたいな、だ、脱出劇...」 


元々、密かに行動していたところを一掬いに戦場に放り上げられたのだ 

だから、隙を見て隠れなおした。下水道へ回帰する 



幸子「全く、全く全くもう!カワイイボクがどうしてこんな日の当たらない場所をこそこそと...!」 



度重なる衝撃や地割れの影響で照明すら疎らになった通路に臆することなく足を踏み出す 

幸子は勇ましく、小梅はややホラーじみた雰囲気に興味津々な様子で 


小梅「でも...しょ、しょーちゃんも、亜季さんも...れ、麗奈ちゃんもいなくなっちゃった、から...」 


幸子「うぐ...まさか最年長でこの手のイベントに強そうな亜季さんが倒れるなんて俄かには信じられませんが...ボクたちだって負けません!」 


走りながらスカートの裾に挟んでいた物を取り出す。小梅もさきほど同じものを手に入れた 

幸子「幸い何故か武器が大量に転がっていたので、これでボクたちも戦えるはずです!」 


小梅「...うん、しょーちゃんの分も、頑張る...」 


女性の小さな手でも扱えるような小振りな拳銃、その銃身が破れた天井から届く月光の中で揺れた 




二人は知らない 

光を見ているのが自分たちだけではないことに 



______________ 

 輿水幸子  119/200 


______________ 
______________ 

 白坂小梅  119/200 


______________ 


ゲーム開始85分経過 

報告事項なし 
697 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/21(土) 10:12:33.89 ID:G7ku7TiH0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 




「............」 




「(...どうしたものでしょうか......)」 




散らばった武具、見晴らしのよくなった夜空 

背を預ける瓦礫も少なくなった場所で、あやめは黙考する 



あやめ(ボット)「(奥の手を隠していた頼子どのはおろか、ほたるどのまで無力化してしまうとは)」 



視線の先では三人が装備を吟味している、まるで死体の骨を拾うような作業 

しかしあやめには能力を通してその光景は違ったモノに見えた 


あやめ(ボット)「(わたくしにとって、全ての隠し刃は薬籠中の物、その場所は明らか)」 


【音が視える】という音葉に似た能力の彼女にとって、アイテムは絶えずその所在を主張する灯火である 


だから彼女にとって今の光景は 


あやめ(ボット)「月見草の畑...といったところですかな」 

頼子(ボット)「...?どうか、しましたか?」 

あやめ(ボット)「いえ、お気になさらず...選別はお早めに...」 


少し離れた場所にいた三人の一人の怪訝な表情に静かに返す 



あやめ(ボット)「(そう、お早めに...)」 

698 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/21(土) 10:15:10.88 ID:G7ku7TiH0


彼女にとって武具は灯火、だからこそ地下道に隠れていた一団を見透かした 


だからこそ、今も少しずつこの場を離れようとしている二人分の存在も認識していた 



あやめ(ボット)「(麗奈はおそらく光どのに敗れたとして...幸子に小梅ですか...)」 


「(やはり大味な攻撃は悪手...)」 


「(やはり光どのと別行動をとってから...頼子どのと追撃に参るとしましょう)」 


そして彼女が選択したのが沈黙だった 


南条光の能力、そして攻撃手段は忍の美学とはあまりに反する 


ここで下手に地下道をひた走る二人の存在を示唆すればそのあとどんな乱戦、混戦が起きるかは想像するにあまりある 


だからこそ今は、小さな二つの灯火を目だけで追い続ける 


あやめ(ボット)「(委細支障はありません...まるで夜闇がわたくしに力を与えてくれるよう...今なら二人の息遣いすら伝わりそうです)」 


正面突破を不得手とするボットとして、せめてこれくらいはしなくては 

傍にあった丁度いいサイズの岩に腰掛ける 


あやめ(ボット)「(今だけは束の間の解放を味わうといいです...)」 


ゆらゆらと離れていく二つの反応、こうして地面を隔てて補足されているとは夢にも思うまい 



グギッ 



急にその二つの灯火が消えた、代わりに見えたのは大きな丸い反応 



それが自分たちの真上にあった月だと気付いたのは、ゴキリと体内で音が鳴ったとき 


699 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/02/21(土) 10:17:39.66 ID:G7ku7TiH0


いつの間にか 

自 分の首 が真上を向 いてい 



「(いや、向けられてッ...!!?声がっ!)」 



いつの間にか自分の首元が締め上げられている 

そのまま真後ろに無理やりひねられた 


ゴギッ 


真後ろを向いた視界が下手人の顔を捉える 


「(なぜ、あなたが...?)」 


目の前で揺れる「50」の数字が刻まれたプレート 

それが彼女の見た最後の光景 





?「ドッグタグ...」 


?「本来、持ち主の死後にこそ真価を発揮するものではありますが...」 



他の三人はこのナイトアサシンに気付いていない 

それは、忍びの暗殺に匹敵する近接格闘技術 




大和亜季「まさか”ゲームオーバーになった後に効果が発動する”と解釈されるとは」 


星輝子「...あ、晶葉ちゃんなりの...ジョーク?...フヒヒ」 


____________ 


大和亜季+  50/100 


____________ 

____________ 


星輝子+  50/100 


____________ 




ゲーム開始86分経過 


浜口あやめ(ボット) 消失 

705 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:02:26.08 ID:QmKZ2G4k0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
大和亜季&星輝子 



亜季「頼子殿の能力によりユニットが強制解除されていたこと、それと我々が近くにいたこと」 



輝子「そ、それが...私も一緒にい、生き返った...理由?」 


亜季「で、ありましょうな...」 


輝子「あぅ......れ、麗奈ちゃん、には...悪いことしちゃったな...」 





頼子とほたるが去り、光が駆け去った後 

代わってその場にいた二人が状況を整理していた 

敗残処理にも似た空気が満ちる中で 



亜季「それを言うなら、大恩ある幸子どのや小梅どのに報いることのできなかった私こそが愚物であります」 

輝子「麗奈だけじゃなくて...さっちゃんやうめちゃんもいなくなったもんな...」 

亜季「十中八九、戦死したのでしょう......」 



心底から悔いた声で亜季が言う。急造ではあったが、あのプレイヤー五人のチーム中では自分が最も実戦に強いという自負があった 


だが現実はどうだ 


二人分の効力を発揮したことでおそらくもう使いものにならなくなったであろうドッグタグに目を落とす 


亜季「おそらく私の蘇生能力はこのプレート二枚で品切れでありましょう...つまり私はまた、無力であります」 

輝子「そ、そんなこと...ない、よ?」 


最も破壊に向いていた麗奈はおろか、自分たちが命を拾うきっかけ、キーアイテムを授けてくれた幸子や小梅まで姿を消した 

亜季「.........」 

輝子「.........」 

亜季「......ふぅーーー...」 

輝子「.........?」 

亜季「この腰抜けめがッ!!!」 

輝子「フヒッ!?」 

亜季が両手で自分の頬をひっぱたいた 

破裂音が闇夜に響く 

亜季「軍人たるもの、屍を乗り越えてこそ!!愚痴るだけの豚になるのはここまでであります!」 

輝子「あ、はい...(一人で落ち込んで一人で立ち直った...)」 

反省会はここまでとばかりに頭を切り替えた様子で力強く発された宣言 

言うが早いか瓦礫を跳ね上げる勢いで地面に散らばった物資をかき集める 

この場合の物資とはすなわち武器だ
706 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:07:40.02 ID:QmKZ2G4k0


拳銃、猟銃、散弾銃、コンバットナイフにアサルトライフルがテキパキと亜季の体に装着されていく 



亜季「頼子たちが残りのアイテムを処分していなくて良かったであります」 

輝子「フヒヒ...亜季さん、コ、コマンドーみたいな格好に...」 



ガンベルトといったご都合主義で便利なアイテムまで発掘したことで亜季の全身が凶器に埋まっていく 


輝子「(私はユニット切られちゃたけど...さっちゃんたちはそのままやられちゃったんだよな...)」 


相方の勇猛さに押されるようにして輝子もまた手近に転がった武力に手を伸ばす 


輝子「(ぶっちゃけピストルの反動は私の腕力じゃ扱えないし...あっ、このナイフちっちゃいキノコみたいなのが付いてる...)」 


技術を持たないことを自覚している輝子は多くを持たず一本だけ懐に忍ばせることにした 





亜季「弾は装填!覚悟も充填!今こそ敵を殲滅し、最後は玉砕する覚悟であります!」 





__ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!! 



二人のいる場所から何本かの大通りを挟んで極太の破壊光線が横断したのはその宣誓と同時 


よって輝子の耳にその口上が届くことはなかった 


亜季「さぁ、輝子どの!!ともに手を取り戦いましょう!!」 


網膜を灼くような激光を背景に歪な立ち姿が切り取られる 


輝子「お、おお...!」 


だが、何かは伝わったらしい 

彼女は、差し出されたたくましい腕を、確かに掴んだ 




ゲーム開始90分経過 

報告事項なし
707 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:10:51.20 ID:QmKZ2G4k0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
ボット 



ほたる(ボット)「...あの」 



頼子(ボット)「はい、なんでしょう」 



光と別行動をとった後、高架の道路を並んで歩いていた 


都会の中にあって広く視界を確保でき、カラスのいる空に少しでも近い地を探した結果だ 


ほたる(ボット)「えっと、あやめさんはどこに...?」 

頼子(ボット)「まさか光さんの攻撃に巻き込まれたとは思いませんが...」 

ほたる(ボット)「ませんが...?」 

頼子(ボット)「あの方のことですから...どこかに、隠れているのかもしれませんね」 


マントを揺らす長身の影と剣を引き摺る小柄な影がアスファルトに伸びる 


頼子(ボット)「それと、私の方からも伺いたいことが」 

ほたる(ボット)「な、なんでしょう...?」 

頼子(ボット)「ほたるさんの能力、おそらくそれと同等であろう藍子さんについて、です」 

ほたる(ボット)「藍子さん、ですか?」 

頼子(ボット)「はい、聖さんについては先の戦闘の前に聞きましたので」 

ほたる(ボット)「は、はい...といってもどう説明したらいいのでしょう」 

頼子(ボット)「少なくとも...貴女方三人が散開しているということには事情がある、とお見受けしますが」 


ほたる(ボット)「そうですね...」 




「藍子さんの力が操るのは、『重さ』です...」 




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
708 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:13:25.20 ID:QmKZ2G4k0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


小柄な体が宙を回転し、異様に長い袖がその動きを追従する 


「・.・・。!」 


アナスタシア(ボット)「っあ!」 


差し向けた氷柱の槍に袖が絡んだ。次の瞬間には袖はその姿を変える 


アナスタシア(ボット)「(変身能力は...なんでもあり、ですか)」 


植物の蔓のように、人体にありえない角度と長さに伸びた触手を頭の動きだけで躱した 

同時に手首に纏っていた己の氷を巻き付いた袖ごとパージする 


アナスタシア(ボット)「(しかしこの、小梅のボット...?どうして)」 


改めて対峙している敵に注目する、それの見た目は白坂小梅のボットだった 

少なくとも攻撃さえしてこなければ 


「..・..。..・...」 


その身体能力は13歳の少女どころか人間のものでもなく 

びっくり箱のようにタイミングも本数も選ばず触手を飛び出させる様子は生物にすら見えない 

本来なら能力を持たないはずの練習用ボットであるはずだが、アナスタシアはそれを知らない 


アナスタシア(ボット)「シトー...?どうしてボット同士で、争わなくてはいけないのでしょうか...」 


のあ(ボット)「...この不条理を踏まえた結末を、この子達の電脳が望んだからでしょう...」 


五指に透き通った爪を形成する彼女に背中合わせになるようにして、のあが立った 

その彼女の右腕もまた、瓦礫と鉄骨を取り込んだ異形 


ただし大幅に抉られている 


「...そうなんですよね」 


廃墟ビルの中で月明かりがゆらいで、のあの対敵が姿を浮かばせる 



藍子(ボット)「...仮想現実の容量の都合上、私みたいなのが全力をだそうと思ったらこうするしかないんです」 

709 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:15:19.44 ID:QmKZ2G4k0

高森藍子 


『夜』のボット 


全方位からの攻撃を強制的に減速し、 


果ては完全に消滅させる 


のあ(ボット)「(でも、それだけじゃ...いえ、そういう能力じゃあ、ない)」 


物体に潜行し、同化する力を持つ彼女だからこそ感じる違和 


彼女が操っているのは少なくとも『速さ』ではない 


それだけでは最初、自分が忍ばせた遠隔操作の目玉が破裂することもなかった 



のあとアナスタシアが背中合わせに立ち、それを藍子とあの子が挟んでいる 

だが、この中で明確な味方同士であるのは身を寄せ合う二人だけ 



この混戦状況は何も進展していない、 


だからこそスタミナの続く限り何度でも仕切り直される 


茶番のように、歌劇のように 
710 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:19:18.71 ID:QmKZ2G4k0


コツ、と 

藍子の靴音が鳴る。 


ゆったりとした服がありもしない風にたなびく 




藍子(ボット)「.........」 




パキ、と 

肉食獣のツメを象った氷爪がアナスタシアの両手を包み込む 




アナスタシア(ボット)「.........」 




ゴトリ、と 

のあの体内で重量を持った鉄塊がその位置を変えた 




のあ(ボット)「.........」 




ぶしゅる、と 

小梅に似たボットの、細かった両腕が赤黒い風船のように膨らんでいく 




「..・.。・...」 




 無音 


 無音 


 無音 



____カツンッ! 




「!!!!!!」 
711 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:22:04.92 ID:QmKZ2G4k0




死角となる背中に隠されていた”氷の剣”が振り下ろされ 




爆発した両腕から血まみれのカラスが”噴射”され 




体内に同化させていた尖った鉄片がダース単位で”砲撃”される__ 







___その前に 






藍子は移動を終えていた 





のあと、アナスタシアと、小梅もどきの、全員に手が届く懐へと 




同時に目の前の藍子がノイズのようにブレて消えた 



のあ(ボット)「瞬間、移動...!」 


藍子(ボット)「ちがいますよ?」 


712 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:36:26.28 ID:QmKZ2G4k0

減速 消滅 そして高速移動 


高森藍子の手は二つに留まらなかった 


その右手が大きく弧を描く 

彼女は触れない、ただ近づけただけ 

それだけで最も近くにあった小梅の、左肩からぶら下がった風船のような肉塊が掻き消え 

能力を使いだす前の小梅の体に戻された 

「・・・。・!・..」 

アナスタシア(ボット)「シトー...!?」 


右肩の肉風船が破裂し、カラスが発射される 

それはアナスタシアの顔をかすめるようにして窓ガラスを突き破り、赤い飛沫と共に落ちて行った 


藍子の手は止まらない 



小梅の姿が掻き消えた、痕跡すら残さず 



スイッチを切り替えたように、デスクトップ上のファイルでも削除するようにあっけなく 



藍子の手は止まらない 


アナスタシア(ボット)「!」 

突き出された氷の剣が見えない何かに食い止められた 

そのまま藍子の体から数センチのところで、凍った切っ先が消失していく 



藍子の手は止まらない 



のあが振り向きざまに含み針を放った 

その唇から放たれたのは針とは到底言えないサイズの鉄杭で 

しかしそれも藍子に触れることはなく、数センチ手前で杭の時が止まる 


にこやかな表情が窓から漏れる月光で淡緑に塗られる 



藍子の手は止まらない 



次の瞬間、その顔が白く照らされた 
713 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:38:41.42 ID:QmKZ2G4k0





___ゴォオオオオオオオオオオオオオ!!!! 





藍子(ボット)「ああぁぁっ!?」 


引き戻した両手で目を覆う 



窓の向こうから殺到した夜空を灼く白光が、藍子の瞳に注ぎこまれた 



藍子(ボット)「ひっ、聖ちゃん...!」 



ボットである彼女の網膜がダメージを負うことはない 


それでも一瞬以上の時間、隙ができた 




アナスタシア(ボット)「...一体何が起きた、のですか?」 


のあ(ボット)「...この場の全員にとっての想定外の事象よ」 
714 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:41:28.31 ID:QmKZ2G4k0


アナスタシアは彼女の急変の理由がわからない、 

のあも理解までに一瞬を要した 


なにせ彼女たちからは高森藍子は 

『薄暗い部屋の中で』いきなり悲鳴を上げたようにしか見えなかったのだから 


のあ(ボット)「...退くわよ、何かがくるみたい」 


アナスタシアを抱えてひび割れた壁に肩からぶつかる 


体が肩から内壁に沈み込み、次の瞬間外壁へと吐き出された。壁抜けトリックのような光景 


そのまま二人そろって落ちていく 

その鼻先をかすめるようにして 



のあ(ボット)「彼女のブラックボックスも...これでタネが割れたわね」 



藍子が残ったままのビルを、聖の最期に放たれた波が包み込んだ 

715 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:45:39.65 ID:QmKZ2G4k0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 



ほたる(ボット)「重さ、というのは...実際の体重のことじゃないんですよ?」 

「ボットのデータとしての重さ、容量の大きさ?、そういうもの、らしいです」 

「私の能力もそれなりの容量ですが...それはあくまで作り出したカラスの分も合わせれば、の話です」 

「藍子さんはその重さを変えて......えっと、つまり」 


頼子(ボット)「それは、”この仮想現実の処理速度を部分的に変更する、ということでしょうか?」 


ほたる(ボット)「コンピューターの知識はあまりないのですが、そんな感じだそうです」 


頼子(ボット)「......大まかには、わかりました...」 

「私たちボットにとっての現実であるこの仮想世界ですが、その実体は膨大な量の演算と結果」 

「...こうして話し歩くことができるのも...別の現実、プレイヤーたちが元いた世界に設置された巨大なコンピュータが重力や摩擦、音の振動伝達を計算を行っているから」 

「その計算が終わらない限りは...このデジタルの世界で枝から離れたリンゴが地面にまっすぐ落ちることも、カラスの羽が揚力を生む事実も起こらない、と」 

「......そういう理解でよろしいでしょうか?」 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
716 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:50:37.59 ID:QmKZ2G4k0


のあ(ボット)「藍子の能力...おそらくコンピューターの処理作業に介入し、それに負荷をかける力」 


アナスタシア(ボット)「アー......なんとなく...わかります。」 

「...古いゲーム機やパソコンで...一つの画面の中でたくさんのことが起きると、動きが鈍くなる...アレですね?」 


のあ(ボット)「その理解でいいと思うわ...彼女は自分を中心とした空間に能力を及ぼしていた」 

「だから近づくものは仮想での動作処理に荷重がかけられ、遅くなったように見える」 


アナスタシア(ボット)「ンー、でも、私たちの武器や...小梅が消えてしまったのはどうしてでしょう?」 


のあ(ボット)「......その現象を...強いてゲームに当てはめる......非現実的だけれども」 



「...処理落ち、なのでしょうね」 



アナスタシア(ボット)「...アー、処理、落ち?...藍子はずいぶん手の込んだことをしていたの、ですね?」 


のあ(ボット)「途中の彼女の瞬間移動も、彼女の体に”反射して私たちの目に入る月光”を減速したことで、相対的に光より速く移動したから...つまり残像を作ったわけね」 


「私たちが破壊光線の接近に気づくのが遅れたのも、あの部屋に飛び込んでくる光が減速して私たちが知覚するまでにラグがあったから、私たちには部屋が真っ暗なままに見えた」 


「藍子が真っ先に反応していなければ脱出も叶わなかったでしょう」 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
717 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:54:09.08 ID:QmKZ2G4k0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

ほたる(ボット)「藍子さんの能力は相手のデータを重くし続け、最後にはこの仮想現実が扱えない容量になり、弾き出されてしまうそうです」 

「晶葉ちゃんなら詳しくわかるんでしょうけど...藍子さんの言葉を信じるなら、ここはそういう風になっている...とか」 

「でも、藍子さんは心配もしていました。自分の能力のせいで仮想世界全体が”落ちて”しまわないかと...だからこそ省エネモードである夜にしか動けなかったんです」 


頼子(ボット)「...でしょうね」 

「...伝聞でどこまで真実を把握できたかは分かりませんが...文字通り埒外な方というのは伝わりましたし」 


ボットの持つ能力の幅は多岐にわたる 


卯月や泉のように「設定値」を操作するもの 


のあや周子のように姿を変えるもの 


輝子や音葉のように何かを生みだすもの 


マキノや拓海のように条件付きで無敵になるものもいた 


だが、これらはあくまで仮想現実という容器の中を泳ぐ為の尾鰭であって、そこから外の世界へ出ることはない 

高森藍子は違う 

彼女の力は容器の中に注がれた液体そのものに干渉する 

外の世界、容器に液体を注ぐ蛇口を好き自由に引き絞る、そういう力だ 
718 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:55:13.40 ID:QmKZ2G4k0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


のあ(ボット)「そんな彼女にも例外があった...」 

「...というよりその弱点が切欠で能力の全容が推察できたわ」 


アナスタシア(ボット)「それがсвет、自分の目で知覚している光...ですか」 


のあ(ボット)「そう。自分の瞳に触れる光まで遅くなれば...それは視える景色まで遅くするのと同じ...満足に歩くこともできなくなるでしょうから」 


アナスタシア(ボット)「正体はわかりませんでしたが...あの光線に感謝、ですね...?」 


のあ(ボット)「高確率で藍子は無傷でしょうけどね」 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
719 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/03/19(木) 10:57:05.69 ID:QmKZ2G4k0


「はぁ...まだチカチカします...」 


腰掛けた地面がゆっくりと降下していく 


足元に荒廃した摩天楼を広げながら藍子はクシクシと目をこすっていた 


目立った建物はもうどこを探しても跡形もない 


「聖ちゃんも危ないです...あのタイミングであんな力を出すなんて...」 

「もし、私がもうすこし能力を使っていたら容量オーバーじゃすまないですよ、もう...」 


藍子が腰を下ろしているのはエレベーターではない。そういったものは先の一撃で分子一つ残さず消滅した 



それは藍子の能力の加護を受けることで破壊をまぬがれた1メートル四方程のブロック 


本来なら重力に引かれ速やかに落下しているはずだが、藍子の能力下においてその落下速度は鳥の羽のようにゆっくりで、 


だからこそ、こうして安全かつゆるやかに藍子の体を地上に運ぶべく機能していた 


「はぁ、のあさんはさっきので私の能力、理解しちゃっただろうなぁ...」 

「見た限り、のあさんの能力って大容量だったから先に倒しておきたかったのに」 

月に一番近い座標で、ふわふわのスカートが靡く 


「............」 


白光に灼けかけた瞳も既に大過ない、その視線まだ見ぬ標的へ定められる 


「...やっぱり最優先はプレイヤーさんたちですねっ」 


視線が一点に止まる 


「あっ!丁度あそこにカラスさんが集まってるじゃないですか♪」 


わざとらしくぽん、と手を打った 


高森藍子は休まない 

ゆるやかな侵蝕も止まらない 




ゲーム開始92分経過 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
724 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:05:10.80 ID:4IFuXgNi0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
十時愛梨 


「けほっ」 


「だれもいない......」 


「というか...みんな、なくなっちゃった?」 


バニーのウサ耳は動かない 

修復可能な対象が消えた世界では 


「私のことを守ってくれた事務所の壁も...これ以上は治らなそうです」 


背中を預けていた瓦礫が自重で倒れた。あっけない音と共に瓦解する 

愛梨もまた、その上に仰向けに倒れる 


「...はぁ、ここって本当に事務所だったんですよね...?」 


聖の最期の攻撃が掠った場所は塵一つ残らなかった 

唯一の例外が愛梨と、その防壁及びその周辺部分 

それらが小石程度のパーツとなって窪んだ地面を静かに埋めている 


十時愛梨の能力は「修復」 

脱いだ服だって元に戻すことができる 


だが小石程度の残骸からビル一棟まで修復するほどの出力は、ない 


背もたれをなくした愛梨が起き上がる 

手をついて起き上がると、そこを中心に地面が膨張する 

「わわっ!?勝手に能力が...!」 

既に元気を取り戻した体で跳ね起きるも、彼女が手をついた場所から伸びた土くれは柱を象り、 

不安定な地盤に生えたそれは自重でへし折れた 


「きゃあっ!?」 
725 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:06:52.49 ID:4IFuXgNi0

起き上がり、立ち上がり、 

そしてまた飛び退くようにして倒れこんだ 

背後にまた瓦解の音を聞く 

受身を考えなかった彼女を受け止めるには地面はささくれすぎている 



「あいたたた...滑っちゃいましたぁ...」 


今度は迂闊に地面に掌を押し付けないよう腹筋を使って起き上がり、背中を軽くはたく 


「くすん...蘭子ちゃん達が運転する車はほとんどスリップとかしなかったのに...」 


誰も返答するものがいない中、一人愚痴をこぼしながらも愛梨の指先が小粒の石を落としていく 


その硬い手触りの中、一つだけ指の中で柔く折れる何かが挟まっていた 


二本指でつまんだそれを月明かりに掲げる 


愛梨「...これって」 


それは緑色に照らされ、ひらひらと___ 









「___傀儡とは悲しいものね__」 







静寂が破られた 


手のひらサイズの膨張どころではない、地盤が山なりに隆起していく 
726 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:08:14.08 ID:4IFuXgNi0


「___どれだけ消耗しようと、損壊しようと」 



盛り上がった体積があっという間に月から愛梨を覆い隠す 



「一度相手を認識してしまえば___」 



山頂が小さくひび割れる。声はそこから鳴っていた 




のあ(ボット)「全力を振り絞るほかないのだから」 



それは唇だった 



愛梨「ひゃいっ!?ののののあさんの声がっ!?」 


どこか抜けている、と評される彼女だが目の前で起きた現象から敵意を感じるのは早かった 

くしゃりっと手の中のものを握り、膨らみ始めた石山から背を向け走り出す。同時に山の方も姿を変える 


”鎌首をもたげる”とでもいうのか、山そのものが不自然に歪み山頂が愛梨に向けて折れ曲がる 

愛梨の身長を上回る大きさがシャチやサメの頭部に似た形のシルエットを夜にくり抜いた 


そのまま、射出される 


荒々しく削れた地面の表面を滑るように愛梨の背中を追う 

それは海面から突き出たサメの背びれのようで、 


愛梨「わっわっ、何でそんなに速いんですかぁっ!?」 


全力疾走を続けながら振り返り、よろけて地面に手を付く 

バニーの耳が揺れる 


愛梨の手のひらが触れた場所から柱が芽吹いた 


後から迫る石の背びれ目掛け、柵となって立ちふさがる 



愛梨「(私の能力って...こういうふうにも使えるんだ...!)」 
727 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:09:16.10 ID:4IFuXgNi0

立て直した姿勢を再度、次は意図的に崩すと両手で地面をなぞった 

映像を逆再生するように、その場からメキメキと梁、柱、壁面が再生される 


不完全で不安定なせいですぐさま根元から倒れていくが意味はあった 


追跡者たるのあへの障害物として___ 



ガブリッ 



のあ(ボット)「邪魔...でもないわね」 



___微々たるものだが 



愛梨「の、飲み込まれてます...」 



____________ 

十時愛梨+  34/100 


____________ 
____________ 

高峯のあ+  30/100 


____________ 
____________ 

アナスタシア+ 40/100 


____________ 



ゲーム開始101分経過 

十時愛梨 
VS 
高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット) 

開始 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
728 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:10:37.11 ID:4IFuXgNi0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

物体と同化する能力にとって障害「物」など存在しない 


愛梨「どこかに逃げ込まないと...普通に走っても追い詰められちゃいます...!」 


ガシャンッ! 


ガラスの扉が倒れると同時に光の差さないフロア内に踏み込んだ 

それなりに大きなビルなのであろう、奥行の広いエントランスを一直線に横切っていく 


「(ちょっとやそっとじゃダメなら、ビルの壁や天井で邪魔しちゃいます!)」 


背後を振り返る。ついさっき自分が突破した玄関を人間大の小山が、体を縮めながら入ってくるのが見えた 

同化できるとはいえ、天井や支柱を破壊しないよう難儀しているようだ 

それを認め、迷いなく奥の階段室へ向かう 

どこからか漏れ入った月光が無機質に連なった足場の様子をはっきりさせている 


愛梨「すーっ、ふーぅ......すーっ、ふーぅ...」 


階段を前に深呼吸 


右手は階段の手すりをしっかりと握っている 

上の方から降ってくる月光のおかげで、階段の状態はよくわかった 


「すーっ...ふーぅ、すーっ...ふーぅ」 


白菊ほたるの能力により、形を保っているのが不自然なほど老朽化しているのは 


触れた右手を中心に階段が修復されていく。左手は拳の形に握り締められたままに 


「すーっ...」 


それでも全てを元通りにはできない。もっと上階にまでは修復も追いつかない 


「ふうっ!」 


それでも駆け上がった 

729 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:12:51.88 ID:4IFuXgNi0

同時に階段室の扉が真っ二つに割れた。そのまま取り込まれる 

それは高峯のあであって高峯のあだけではない 

いくつもの無機物のパーツが編み合わさり、大きく膨らんだ体は既に人の形をなしていなかった 


のあ(ボット)「万物を直す能力...いえ」 


獣の爪のように尖った部位で手すりを切断する 


「元の形を維持させる...そういう力ね」 


すぐさま失われた部分が再生する。それに加え”同化できない” 


「あの黒鳥のせいで私の本体も随分減らされたのもあるのでしょう」 


上階からは足音が一定のペースで遠ざかっていく 


「...ちゃんと手順を踏んで登る...それ以外の選択肢を奪ったつもりかしら」 


今の高峯のあに定められた形はない 

その歪な体が軋み変形すると、昆虫のような細長い多脚が姿を現した 

「___この程度で?」 



ダガッ! 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!! 



追跡を開始する 


二本足の人間には決して真似できない、多重の足音、そして速度で階段を駆け上る 


730 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:15:08.68 ID:4IFuXgNi0

愛梨「こっ、怖すぎですよー!?」 


吹き抜けを通して愛梨の目にも異形の姿が飛びこんだ 

階段の狭い空間を埋め尽くす体が時に手すりや壁を蹴飛ばしながら猛然と這い上がってくる 


愛梨「はやくっ...上へ逃げないと!」 


水平移動においては障害物の通じないのあに叶わない以上、他の階には逃げられない 


上へ、上へ 



愛梨「(でも、どこまで上がって行けば...?)」 



ガガガガッガツッ! 



のあ(ボット)「気づいているのかしら...?」 



ガガガガガッガガッ 



愛梨「っふぅ!」 



非常灯よりも強い光が階段を緑に照らす中で行われる追いかけっこ 



「......もう、逃げられないことに」 



終わりは近い 


愛梨「あれ......?」 


惚けた表情が緑に照らされる 



愛梨「階段がなくなって...え?屋上...?」 



彼女を覆い隠すものは何もない 


階段室は途中で途切れていた。逃げ込む部屋もなくなっていた 


摩天楼をどこまでも見通せそうな開けた視界 


残酷なまでの開放感 



愛梨「建物の上が......ない」 


731 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:17:31.63 ID:4IFuXgNi0


白菊ほたると望月聖の力 


その影響から逃れられる建築物などない 


今ある階段を全て登りきった彼女を迎えたのは虚空 

柱すら残さず全ての上階が消滅した跡 

文字通り何もなかった。そこがゴールだった 



ガガッガガガガガガガガガガガッ!! 


足元から音が這い寄る 



愛梨「どど、どうしよう...逃げるばかりで気づかなかった...!」 



くしゃり 

と、左手が握られる 

右手が手すりから離れる 


修復能力の外れた階段が変形する 

高峯のあの意思にそって 


その瞬間、階段が崩れ、彼女は落ちた 


愛梨「きゃああああああっ!!」 


背中から落ちていく、空に浮かんだ月がスローモーションで離れていく 


逃げ場も今いる足場も奪われ、空に向かって手を伸ばした 


くしゃっ 


愛梨「___あ」 


左手からこぼれ落ちた 


何もなくなったと思っていた場所で見つけ、なんの気なしに拾い上げた 


大事な仲間の忘れ物 




『__我が望めば、我に答えん___』 





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
732 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:19:05.00 ID:4IFuXgNi0


ガガガガガガガガガッ! 

ガゴンッ! 


のあ(ボット)「..........」 


廃屋の蓋を跳ね除け、姿を現す 

ねじれ曲がった階段の一部が打ち捨てられた 


のあ(ボット)「どういうことかしら...」 


見渡す限り、本来は廊下や室内の床だったであろう地面 

柱も壁も、そして誰もいない平坦な荒廃 


「どこに逃げたというの...」 


歪な足を動かしビルの淵に立つ。そこから見えるのは隣に並んだビル 

だが、決して飛び越えて行ける距離ではない。そのまま絶壁に目を落とす 


「まさか、身を投げた...?」 


パリンッ 

地面に落ちたガラスが割れる。遥か高所から叩きつけられたそれは微塵に散った 


「...わけ、ないわよね。捨て鉢になるような器じゃあ...ないもの」 


顔を上げる 


ボゴゴッ!! 


同時にその体表を目玉が埋め尽くした 

増殖した視野が正面のビルをつぶさに、睨めつけるように探索する 

カラスの影響でひび割れ、ささくれ、傾いた壁面、荒廃と、 



「......あの窓だけ...割れ方が不自然」 



一点の違和 


733 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:20:53.52 ID:4IFuXgNi0


「老朽化じゃあない......誰かの力が及んだような」 


のあの腰元から生えた鉄材の肢が一本発射される 

回転しながら飛んだそれは違和感を消し去るようにその窓付近を抉りとる 


「きゃっ!」 


微かに聞こえたのは紛れもない標的の声。落剥した外壁のむこうにその姿もあった 


愛梨「み、見つかっちゃいました...」 


純粋にどうして見つかったのかわからないと言いたげな驚いたような顔の、数センチ横に鉄の肢に突き立っている 

彼女へ向けて次の肢を発射しようとして、体を傾ける。互いに距離があるが命中させるのはボットの彼女には造作もない 

粉砕された壁が老朽化の影響で粉となって、土煙のようにビルの谷間を舞う 


のあ(ボット)「どうやってこの距離を克服したのかは知らない...だからその謎ごと沈んでもらうわ」 


そんな煙幕など歯牙にもかけず、一本、二本......五本の肢が鉄槍として順次狙いを定めていく 

既に一撃目で剥き出しになった通路では一瞬の間に愛梨が逃げて行ける方向などない 


「......?...」 


愛梨「よいしょっ...!」 


「立ち向かうつもり?」 


両者を遮るものはない、そこにあって彼女はまっすぐ立っていた 



バサァッ!! 



突如、土煙が強引に吹き散らされた 


「......十時愛梨...何かしら、ソレは...」 

「これまでの貴方の力の形とは...随分乖離しているわね」 


明るい夜光が愛梨の背中から生えたソレに照り返される 



それは羽だった 



かつて、ほんの短い間だけこの世界にあって、 

そして今、夢幻のように消えていくそれは 

望月聖を早坂美玲が引き付け 

廃屋の街から迅速に退避するために 

神崎蘭子が顕現させた小さな異能 


734 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:22:31.72 ID:4IFuXgNi0




愛梨「蘭子ちゃんが使ってた時よりも持続時間は短いけど......」 


彼女が拾ったのは小さな切れ端 


スケッチブックのひとかけら 


それは彼女の握られた手の中で修復され、萌芽の時を待った 



「ちょっとだけお借りします!!」 



次に愛梨の手の中に握られたのは、禍々しい鎌 





ゲーム開始109分 

十時愛梨 
VS 
高峯のあ(ボット)&アナスタシア(ボット) 

継続中 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
735 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:25:10.98 ID:4IFuXgNi0


一投目 


山なりに跳んだ肢が愛梨の足元を粉砕した 

「肢」と表現するには太すぎるそれが床に穴があける 

愛梨「ひゃあうっ!?」 

後ずさりながら通路の奥に引っ込んだところに、 


二投目 


床ではなく窓ガラスが壁材もろとも吹き込んだ 

一投目に比べると格段に細長く、派手な音や破壊はもたらさなかった。だからといって当たって無事に済むものでもない 


「(私が直したのは能力そのものじゃなくて、スケッチブックのページだけ...)」 


構えた鎌を使うに使えず、必死で足場を確保しながら頭を回す 


愛梨「(だから一回使ったらページが消えて...今度はもう直せない...!)」 


三投目 


砕き落とされた壁の穴を通過し、愛梨のすぐそばにあった戸を貫通する 


愛梨「ッ!(ここに逃げ込まなくてよかった~!)」 


のあ(ボット)「.........」 


向かい合う両者を遮る壁は剥がれ落ちて、逃走経路となる通路は穴だらけ 

すぐそばの部屋に突き立てられた鉄肢は強力な牽制となった 

愛梨「(一撃で当てないと...!)」 


四投目 



今度こそ外れなかった、退路もなかった 



愛梨「きゃうっ!!」 



衝撃が愛梨の腕を通して体を突き抜けた 


736 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:27:10.71 ID:4IFuXgNi0



正確に愛梨の胸元に食いかかった肢が、咄嗟に構えた鎌の柄に弾かれたにも関わらず 



愛梨「あ、当たっちゃうトコでした...」 


反動で痺れの走る両腕。防御が成功していながらダメージとして残留するほどの威力 



それは愛梨にとってだけのダメージだけではない 



愛梨「ああっ!!!?」 



両手を見る、両手の間を繋ぐ柄を見る、禍々しくも頼もしい刃を見る 


その鎌が茫として透け、消えかけていた 


愛梨「ささ、さっきのガードだけで使った事にカウントされちゃうんですかぁっ!?」 


慌てて振りかぶる。このまま黙って丸腰になるわけには行かない 


かといって両者の距離は軽く見て10メートル、ビル同士の間隔としては狭く、対人戦において絶望的に広く遠い 



結果 


愛梨「でえぇーーーい!!!」 


ぶん投げた 


異形の装飾を振り乱して回転しながら飛んでいく 


のあ(ボット)「........」 


対してのあは既に動いていた、最後の一本を構え 




見る間に愛梨への距離を詰めながら 

737 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:28:48.47 ID:4IFuXgNi0


愛梨「...え?」 


合体したビルの一部を自分ごと大きく引き伸ばして 


愛梨「ええ...!?」 


スプーンですくい取った蜂蜜や水飴のようにビルが”引っ張られる” 

その伸びきった頂点に高峯のあの上半身があった 


のあ(ボット)「逸ったわね、十時愛梨」 

愛梨「そんなことできるんですかぁ!?」 


尾を引いて一気に肉薄する。両者の距離は3メートルを切った 

投げられた鎌はのあに触れることもなく、空中ですれ違い向かいのビルへ飛んでいく 


白菊ほたるの能力によりすり減らされた肉体 

その残骸全てを投じた絶対不可避の捨て身技 


ゴッ! 


愛梨の胸が、今度こそ鉄槍に突かれた 


「......あっ、え...?」 


それはどちらの漏らした困惑だったか 


鉄槍は深くは刺さらなかった 

心臓まで届かなかった 



のあ(ボット)「これは...?」 


愛梨「ら、蘭子ちゃん...」 

738 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:31:37.67 ID:4IFuXgNi0


愛梨は見た 


投げた鎌の能力が発動し、荒廃したビルの一角を食い尽くすのを 


のあの”根元”がザックリと欠損するのを 


愛梨は知る由もないが 

それは装甲車や、土屋亜子を噛み砕いた時と同じ光景だったかもしれない 


支柱を失い、必殺の勢いに歯止めをかけられた長大な体が重力に引き落とされていく 

壁も窓も通路も破壊した、掴まって身を助ける箇所などない 


のあ(ボット)「_____」 


しくじった、たった一手の情報不足で 


遠ざかっていく、十時愛梨の姿が頭上へと 


瞳は驚きを隠すことなく向かいのビルに釘付けになっていて 


そのまま落ちていく自分を見下ろした。まるで自分でも予想外だったと言いたげだ 


そうよ、もっと驚愕した表情を向けなさい 



こっちを見なさい 



敗者を注視なさい 



勝利を確信なさい 



安堵しなさい 



のあ(ボット)「____それが」 



739 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/04/07(火) 22:33:12.32 ID:4IFuXgNi0


投げつけられた二本目の肢 

肢というには余りにも太かった 

それが真っ二つに割れる 



その中央 

くり抜かれた空間 

そこから飛び出した華奢な体 



アナスタシア(ボット)「небрежность......油断、です」 





振り抜かれた拳 

落ちる体 



___________ 

 十時愛梨+ 11/100 


___________ 





ゲーム開始110分 

十時愛梨 
VS 
アナスタシア(ボット) 

継続中 



ゲーム開始111分経過 

高峯のあ(ボット) 消失 



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
745 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:09:17.79 ID:R+0oSAgq0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南 




凛が消えた 



自分たちが探し続け、同じく自分たちを探し続けてくれていた仲間が 

一辺の希望も残さない極光に灼かれていった 


「ホント、どうしよ...」 

「あぁ、頭が追いつかねえ...」 


獰猛なまでに開放された空を見上げる。地上から下水道の天井までが丸ごと消失した今、それを遮るものはない 

辛うじて残った地下の地面に仰向けに横たわった加蓮の声に、隣にへたりこんだ奈緒が反応する 


加蓮「アタシのせいで凛が......まぁ、間違いなくやられちゃったよね」 

奈緒「いや加蓮のせいじゃ...無理に後ろからケツ押してたアタシだって...!」 

加蓮「そういうのを言いたいんじゃなくってさ」 

奈緒「うん?」 


自責を感じさせるセリフに、反射的に反駁しようとして先回りされる 


加蓮「えーと、ほら...なんていうか」 

奈緒「なんだよ」 


加蓮「バカみたいにデカいビームだったじゃん?」 

奈緒「あ?」 


加蓮「あんまりに現実離れしすぎてて、凛に対する申し訳なさとかが吹き飛んじゃった...」 


奈緒「.........あー、ごめん、わかる」 



仰臥する彼女の横に並んで横たわる、癖っ毛が加蓮の耳元まで広がった 


746 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:10:18.01 ID:R+0oSAgq0



現実感の乖離 



加蓮「とりあえずアレだね。現実に帰ったら凛にケーキでも奢ってあげるんだ」 

奈緒「...おいやめろ、それ死亡フラグだぞ」 



高度な演算で再現された仮想世界にいる間に無意識のうちに刷り込まれていた錯覚 


感じた痛みが本当に自身の死へ直結しているような恐怖 

他者の命を奪える本物の凶器を扱っているような昂揚 

敵を殲滅することが最重要目的であるような逼迫感 


昼の間にボット相手に繰り広げた戦いにのめり込んだ結果、生まれたそれらの感覚は 



夜が始まってからの怒涛の展開の連続の前に吹き飛んだ 



熟読していた漫画がトンデモ展開に突入したせいで醒めてしまうような 

ありえない展開のせいで自分が夢を見ていることに気付いたような 
747 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:11:34.12 ID:R+0oSAgq0




「すっごいの見つけたよーーーっ!!」 




加蓮「わっ!?」 


地上から顔を覗かせそのまま下水道の底、加蓮の隣に滑り降りてくる小柄な影 

奈緒「(なんだかんだで紗南の切り替えが一番早いんだよなぁ...)」 

「(まゆや美穂がゲームオーバーになんのを間近で見てたから仕方ないんだろうけど)」 




紗南「ほら!これ!タブレット!電源生きてる!」 



探索から帰った少女は元気いっぱいにその戦利品を掲げた 



掴んだ機器ごと両腕をぐっと前に突き出す 

奈緒「うわっ、ホントじゃん......なんかのアプリが起動しっぱなしだけど」 

加蓮「地図...だよね、これ......ってこれもしかしてアタシたちの...?」 

紗南「そう!これアタシたちや他の人たちの居場所をマッピングしてるんだよ!」 

身を起こした二人が紗南の手元に目を瞠る 

奈緒「マジかっ!?」 

加蓮「そっか...これで凛はアタシたちを見つけられたんだ...」 

紗南「そう!!これさえあればアタシたちも仲間を見つけられるんだ!」 

奈緒「やったぜ!」 

「これにアタシらの能力もあれば鬼に金棒ってやつだ!」 


パンッ、と軽やかな音とともに三人が自然とハイタッチを交わした 



破壊しつくされた世界は一周回って娯楽としての一面を顕し 

結果として三人から過剰な緊張感を取り除いた 



ちょっとばかし無茶苦茶なだけで 

所詮はゲームだから、と 


748 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:12:13.94 ID:R+0oSAgq0


______________ 

 神谷奈緒+  67/300 


______________ 
______________ 

 北条加蓮+  67/300 


______________ 
______________ 

 三好紗南+  67/300 


______________ 








数分後 






ゲームと現実の垣根は瓦解する 







ゲーム開始110分経過 

北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南 

ユニット結成 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
749 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:13:15.61 ID:R+0oSAgq0


チャプター 
大和亜季&星輝子 

____________ 


大和亜季+  50/100 


____________ 
____________ 


星輝子+  50/100 


____________ 





「いるでありますな...」 

「フヒ?」 



軍靴に包まれた忍び足が止まる、並んでいた細い足も動きをやめた 

その後ろをついて回っていた菌類の歩みも続いて止まった 


亜季「この並んだビルの向こう...不穏な存在を感じるであります」 


大規模破壊の影響を免れたものの、ゴーストタウン化を避けきれなかったビル街のあいだを縫う道路 


その一角で、静かに戦いが始まろうとしていた 



ズンン... 



輝子「......足音、地響き?...い、いるな、たしかに」 


周りをキョロキョロしだした輝子も改めて亜季と同じ方向を向く 

その視線の先、路地の隙間から細く切り取られた月明かりが漏れ出している 



そこを巨大な影が遮った 



ズンン... 


750 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:14:17.99 ID:R+0oSAgq0


亜季「相当なサイズでありますな」 

輝子「わ、私のキノコよりも...重たそうだ」 


根っこを手足のように生やしたボットが輝子の背後に揺れた 


亜季「ですが、我々に撤退する基地などありません」 


「ただ進むのみであります」 


宣言と同時に亜季の手の中でグリップが回った 


速やかに安全装置が外れ、引き金に指がかかる 


輝子「フヒヒ...き、キノコ付きのナイフのちから...見せて、やるぜえ...!」 


全身を銃器で包んで探索すること10分と少し、それらが振るわれる時が来た 

ビルを挟んでもう一本向こうの通りまで約15メートル、そこへ至る道幅は1メートル半ば 

その脇に背を壁につけて立つ、輝子も遅れて亜季に習った立ち姿で並んだ 



亜季「いいですか輝子どの、まずビルの隙間を一気に走り抜けます...」 

輝子「お、おう」 

亜季「私が先行し、できる限りの弾幕を張りながら相手を攪乱します」 

輝子「わ、わかった...」 

亜季「そこで後援として輝子どのは新たにボットを召喚して下さい」 

輝子「まかせろぉ...」 


亜季「ですので今ここにいる分はここに置いていきます」 

輝子「フヒッ!?」 

ビックキノコ「ffFF!?」 

亜季「いえ...その図体ではビルの隙間に入りませんし...」 


ごくごく小規模のブリーフィング 


だが、重要なことはここに至るまでに話し終えていた 

751 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:15:40.47 ID:R+0oSAgq0

ズン... 



亜季「行くでありますよ...」 


ここにきて亜季の声に緊張の火が灯る 

何度となく繰り返された戦い。多対一、混戦、能力合戦 


だが今から打って出る戦いはある一点において今までと違う 


輝子「初めてだぜ...わ、私たちの方、から、い、挑むのは...」 


自分たちから攻勢に出る、という点で 


亜季「で、ありますな」 



ジャキッ!! 



亜季「3、2、1、0で一気に通り抜けます...いいですね?」 

輝子「お、おっけー...」 

腹の底に響く足音は少しずつ遠ざかっている 



「3」 



作り物の世界の作り物の銃が重みを増す 



「2」 



輝子のナイフが鈍い緑色に光った 





「1」 





「......こっそり......なんて...」 





亜季「0!」 













雪美(ボット)「......私には...お見通し......」 

752 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:17:11.66 ID:R+0oSAgq0


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


まず初めに夜景が揺れた 



ズズ...ズ 


薄緑の夜空を闇色に切り取る建物の影が緩慢に揺らぐ 



亜季「こ、れは...!?」 




そしてビルが動き始めた 



輝子「ヒャアアアァァハアアアァァァア?!」 


たった今まで体を預けていた盾であり障害物そのものが牙をむく 


ビルの隙間を駆け抜けるどころではない、その隙間は目の前で挟み潰された 



亜季「向こうから...力尽くでこっちを押し潰す気でありますか!?」 


倒れるでもなく崩れるでもなく、押し進んでくる広大な壁面 

かといって同じようにこちらから押し返すことができる重量ではない 


亜季「てっ、輝子どのォ!!」 

輝子「ッシャアアア!!出番だぜ!!」 


作戦ともいえない作戦は変更された 


力押しのパワーゲームに 


ビッグキノコ「FFFFff!!」 


輝子の横に待機していたボットが傘頭を大きくもたげる 

「ブチかませェエエエ!!」 



ドゴォオォォオンンン!!!!!! 


753 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:18:19.80 ID:R+0oSAgq0


ビルの壁に大穴が開く、それでもビルの移動は止まらない 


目に見えないレールに乗ったように容赦なく道路を横断していく 

だから二人はそこに乗り込んだ、目指す目的地は変わらない 

ビルの動きと逆行してビルの内部を走り抜ける 


亜季「常識の通じない戦場であります、なっ!!!」 

輝子「き、キノコが無駄に、ならなくて...よ、よかった、ぜ...」 


ビルの中に取り残された資材、オフィス用の椅子や机を押しのけ飛び越えながら足を動かす 

輝子の前ではキノコが無理やり道を切り開いていた 

すぐにビルの裏手、向こうへ繋がる窓ガラスへ到達した 


亜季「出鼻は挫かれましたが、我々に撤退はありません!!」 

輝子「お、おお!!」 


両手に構えられた二丁の銃口が火を噴く、ガラスが粉砕され、道がつながった 


亜季「いっせーっ!!」 

輝子「ノッォオオ!!!」 

ビッグキノコ「F!!」 




ガッシャアアアアアアンン!! 




割れたガラスを蹴破って、ボットが一部の壁を叩きくだいて 





そのとき一本の「矢」が壁から外れた 

754 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:19:18.55 ID:R+0oSAgq0


翠(ボット)「おや、力技で切り抜けましたか」 


そして対峙する 



「ヒョウ君、ファイトです~!」 

「矢でも鉄砲でももってこいっ!」 

「雪美ちゃんはちょっと離れててね」 

「......私も......戦う...のに」 


亜季「五対二!!?上等であります!!」 

輝子「五対三、だけど、な...」 


手始めに亜季の両手から鉛の雨が噴射した 





ゲーム開始115分 

大和亜季&星輝子 
VS 
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 

開始 





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
755 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:20:33.07 ID:R+0oSAgq0


円盤投げの陸上選手を思わせる動きで未央の腕がしなる 


亜季が銃弾をばら撒くと同時、いやそれよりも若干早く振り抜かれたときには出現している 



未央の肩から背中を覆う星型の円盤が 


亜季「ぬうっ!?」 


五芒星型の盾が銃弾の衝撃を振動として吸収し、跳ね返す 

未央(ボット)「ふっふーん!見よこの防御力!」 


反対側の腕にも出現させたそれを前面に掲げる 


「しまむーの能力全てを注ぎ込んだ、ちゃんみお☆シールドは伊達じゃない!」 


そのサイズは道路脇の用水路に潜ませていた時の小道具めいたものとは違う 

盾として体幹の側面を十分に覆いながら、尖った五つの矛先を伸ばし地面に轍を穿っている 


亜季「(面積、リーチ、硬度ともに厄介極まりない...,...ふざけた見た目の割に攻防一体でありますか)」 


輝子「フヒヒ...こんだけおっきいなら......関係、ない!」 

一歩遅れて胞子をまき散らしながらキノコの傘頭が振り下ろされた 

756 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:21:58.46 ID:R+0oSAgq0


島村卯月の能力は”能力の強化” 

シンプル故に何にでも使える 

ルールで雁字搦めにする能力である翠を除いて 

小春を強化したことでイグアナを翼竜へと進化させ 

雪美の危機感知能力を予知能力へと押し上げる足がかりとなった 

無論その恩恵は未央にも及んでいたが、それは一度に出現させる数量に関してのみ 



市原仁奈が欠けた今、彼女に「割り振られていた分」は 




「ヒョウ君、カミツキ攻撃です~」 



未央を押し潰す勢いで振り下ろされた頭突きが横殴りに阻止された 


輝子「ヘェアッ!?」 

ビッグキノコ「ffF...」 


建物の二階ほどまで成長していた菌類は、それ以上の存在に咥えられ 


植物食の動物にあるはずのない牙で真っ二つに断ち裂かれた 



小春(ボット)「おっきなお羽だけじゃなくて~、かっこいいキバまで生えちゃいました~」 



輝子「あ...ああぁあ...」 

亜季「こっちも、別の方向で厄介であります、な!」 


未央相手に牽制を続けていた銃弾が切れる、と同時に最後にそれを投げつけた 


未央(ボット)「うおっ!?危なっ!?」 

空いた片手には既に手榴弾が握られている 



「輝子どの!伏せてください!」 



犬歯を引っ掛けるようにしてピンが引き抜かれ手の平大の炸薬が宙を舞う 

小春(ボット)「はい~?」 


一瞬の間を置いて、爆発 


巨大爬虫類の背中の上が炎上する 
757 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:23:16.53 ID:R+0oSAgq0


ヒョウくん「.....!」 


羽ばたかせた翼が爆煙を吹き払い、ゴツゴツした背中がさらされる 



小春(ボット)「はうぅ~、とっても熱かったです~」 



そこには五体満足のまま、暢気に爆炎を浴びた感想を漏らす少女の姿があった 



亜季「なんですと?!」 

輝子「じょ、丈夫だな...おい...」 


少女にあるまじきタフネス 

これは卯月による強化だけでなく小春の能力による恩恵もある 

古賀小春とヒョウ君はいわゆる一心同体の状態にあり、ユニットのように一つのスタミナを共有している 

だがプレイヤーと違って、彼女たちはそのことを弱点としてはいない 



小春(ボット)「うふふ~、ヒョウくんがへっちゃらなら、小春もへっちゃらです~」 



彼女たちは防御力、耐久力といったステータスまでもを共有していたのだ 

文字通り一心同体、つまり 


「ヒョウ君がいる限り小春は負けませんし~、小春がいる限りヒョウ君もピンピンです~」 


輝子「知るかァ!」 


パンパンパァン、荒々しい手拍子が三度続けて鳴り響いた 


その所作だけで輝子の身長の倍の背丈のボットが背後に並ぶ 


輝子「キノコの恨みをォ思い知りやがれェエエエャヤアアア!!」 


腹の底から響く雄叫び、それがゴングだった 

菌糸と翼と根と牙が絡み合いシャウトが木霊する 


758 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:24:30.87 ID:R+0oSAgq0



亜季「ッ!...輝子どの...あまり離れては...」 



未央(ボット)「あーらら、始めちゃったね~」 



輝子を追った亜季の前に未央が躍り出た 


亜季「...!」 


未央の背後で爬虫類と菌類がビルを破壊し、奥に潜り込んでいく 

人外同士の怪獣対戦を繰り広げながら遠ざかっていく輝子への道に立ち塞がれた 



未央(ボット)「あっちはあっち、こっちはこっちでやろうよ、ね?」 


亜季「.........上等であります!!」 



こっちの戦いにはゴングはなかった 

地面を蹴る音と発砲音と 

跳弾音だけ 







卯月(ボット)「うーん、ちょっと割り込めませんね~」 



趣の異なる二種の戦闘から距離を置いて、そんな言葉が漏れた 


翠(ボット)「仕方ありませんよ、不注意で卯月さんが欠けては元も子もありませんし」 


能力を解除しながらも手に弓矢を携えたまま答えが帰る 


雪美(ボット)「...大丈夫......すぐに......忙しく...なる」 


戦場の真ん前の緊張の中、ポツリと呟かれた予言は不穏極まりなかった 


「.......そう、ですか。だとしたら私の出番でしょうね」 

しかしボットはそれが瞞しの類でないことを知っている 




「......うん...いっぱい......近づいてきてる...から...」 





ゲーム開始116分 

大和亜季&星輝子 
VS 
本田未央(ボット)&島村卯月(ボット)&水野翠(ボット) 
&佐城雪美(ボット)&古賀小春(ボット) 

継続中 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
759 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/05/11(月) 00:25:00.38 ID:R+0oSAgq0

チャプター 
三好紗南のゲーム画面 



_____________ 

name:神谷奈緒 

category:プレイヤー 

skill:倒したボットを通貨と 
してチャージする。それを用 
いることで、ストアを経由し 
て仮想世界内に存在するアイ 
テムを購入し現在地点に取り 
寄せる 
_____________ 


_____________ 

name:北条加蓮 

category:プレイヤー 

skill:自分以外のプレイヤー 
1人をマークした地点に瞬間 
移動させる。マークできる回 
数はネイルの数だけ 
_____________ 


762 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/06/07(日) 22:29:17.58 ID:xKRCPrHo0


チャプター 
大和亜季&星輝子 

__________ 

本田未央+ 95/100 


__________ 

__________ 

大和亜季+ 49/100 


__________ 



ダァン!ダァン! 


ガィイン!!ガィイン!! 


発砲、跳弾、発砲、跳弾 


ダンッ!タタンッ! 


踏み込み、のけ反り 


ギィイイイインン!!! 

ガリガリリリリリ!! 


未央の通った道筋が削り取られる音 



「(どういう仕組みなのか...あれに触れると皮膚が擦り剥けるどころでは済みそうもありません...)」 



亜季の武器は銃火器、どれも当れば必殺の威力であることは保証されている 

しかし相手の武器もどうやら玩具ではないらしい 


未央の両肘を中心にそれぞれ広く展開された五芒の星型 


四本の切っ先が上半身への攻撃を妨げ、残る一本が彼女の力強い腕に沿って真っ直ぐに亜季を目指す 

そのシルエットは甲殻類の両肢を思わせた 


「おっと、逃げられるとさすがの未央ちゃんもマズいからね~!」 


それに弾丸を跳ね返す硬度の素材でありながら非常に軽いらしく、 

身体能力では上のはずの亜季相手に身軽に立ち回り、的確に追走してくる 


ギイイィィィインッ!! 
763 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/06/07(日) 22:31:00.18 ID:xKRCPrHo0


「ぐぅうっ!!」 


右からの突きを咄嗟に銃筒で止めた 


その一撃だけで深い切り込みが口を開け、弾丸の出口がお釈迦になる 


「とんだ粗製品であります、なッ!!」 

突きの方向を逸らし、反対の手に握り直していた別の銃に火を噴かせる 

「あぶなっ!?」 

狙いもつけずに放たれた銃弾に未央が一歩引いた 

だが、すぐに足を戻しながら追撃してくる 

今度は両手の銃廷でそれを止めた、未央と両手同士で組み付く 


未央(ボット)「ぐぐぐ~」 


カリカリカリカリカリカリカリ...!!! 


力比べ、に見せかけた時間稼ぎで思考をまとめる 

亜季「......(やはり単純な筋力では私が上、この状態を維持したまま...何か策を)」 


こうしている間も未央の矛先と接触した部分が目に見えてすり減り、削れていく 


亜季「(なら、この妙な攻撃力は一体...恐らくこれが弾丸を弾いたトリックでもあるのでしょうが)」 


カリカリカリカリカリカリカリカリカリ!! 


「ふんぬぬぬうううう~~~!!」 


銃廷の削り節が散り、夜闇に溶けていく 


「(なんとか、しなくては...!)」 


ガリッ! 
764 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/06/07(日) 22:33:46.48 ID:xKRCPrHo0

耳障りな擦過音を立てて銃廷が滑った 

肘に力を込め、腕を開くように未央の星の矛を押し返す 

「わわっ!」 

力押しにあっさりバランスを崩す未央、 


亜季はそこへ踏み込んだ 

破壊の両矛に抱かれるような位置取りへと、死中に活を見出すために 


ゴッ! 


未央(ボット)「あぃっ!?」 


頭突き、開いた両腕で未央の肘を矛ごと抑える 


ボッ! 


「はぶっ!?」 


よろけた胴に追い打ちの右膝、完全に体勢を崩させる 

そこでようやく本命、二丁の銃を構えた腕が亜季に追いついた 




タンタァン!! 


命中 


未央(ボット)「ご、ふっ...」 



心臓と左胸に真っ暗な銃痕が並んだ 

未央の体が真後ろに飛んでいく 


破壊力を形成するためのサイズゆえに超至近距離からの攻撃を防げない 


それが未央の”矛と盾”の弱点 

亜季が銃を構えたまま残心する 



亜季「で、あります 



 がッ......!?」 

765 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/06/07(日) 22:37:37.58 ID:xKRCPrHo0


視界が黄色に染まる 


手の中の銃が落ちる 


肩口から痛みが破裂する 



亜季「あ、ぐぐ......?(反射的に避け、ましたが...)」 



彼女の左肩にそれは突き立っていた 



未央(ボット)「ふ、ふふ......ちゃんみおキャノン...だよ」 



制服とジャージの隙間、銃痕の下からディスクサイズの星型がこぼれ落ちた 



これは矛と盾ではない、 


星型のチョッキだ 


「これって、ある程度の衝撃を受け...ると爆ぜるんだよね... 

まぁ、ちっちゃいサイズだと全然ダメージないんだけどね?」 


開放された両腕をさすりながら体を起こす、鉛を体内に潜らせたとは思えない気丈さで 


「...ちえりんや、ほっしーみたいなちっちゃい子も倒せないくらいだし? 

でもこれと連動して吹き飛んだ、大きい方はどうかなー?」 


体を起こした未央の傍らで、 

さっきまで武器となっていた星型は切っ先を分離するように五つの小さな破片になっていた 


チョッキに食い止められ形の歪んだ二発の銃弾とともに 

766 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/06/07(日) 22:49:20.02 ID:xKRCPrHo0

亜季の左肩に刺さった三角錐の矛が少しずつ食い込んでいく 

未央の手元を離れていながらも愚直に、ピラニアが肉を食い破るように 


亜季「...連、動、ですと...!?ぐくっ、それにこれは!」 


左腕は動かせないまま銃を手放した右手がその矛先に触れたとき、今更ながら未央の能力の一側面を理解した 


亜季「(直に触れて初めてわかりました...これは高速で振動している!)」 


削岩機やテーザーソーと同じ理屈 

振動を衝撃の連打として破壊力を生み出し、対象を瞬時に蝕む仕掛け 


亜季「がっ!!!」 


首ごと持って行かれそうな振動を浴びながら星の刺を殴り飛ばす 

空を裂く甲高い音を鳴らしながら飛んだそれは地面に刺さり、アスファルトを彫った 


亜季「(ぬぅ!?風景がブれる...船酔い?、視界不良であります...!)」 


痛みこそセーブされているとは言えダメージと振動の残響が目眩を引き起こす 

亜季が膝を着くと同時、未央が立ち上がった 


「(...ヒョウ君の翼の裏側に貼っつけた星から振動を送ってもらっててよかった~!)」 


決して無傷ではないが大した痛手でもない、準備運動のように未央はその場で肩を回す 


亜季「これだからボットの能力というのは...!」 


近距離には星の矛と盾、遠距離からの攻撃には星の鎧が対応する 

そして中距離までなら星の分解され、射出される 


「厄介極まりない...であります!」 


幾分か動作を回復した両腕で銃を構えた 

最初のネックであった彼我の距離は充分開いた 
767 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/06/07(日) 22:51:54.47 ID:xKRCPrHo0


未央(ボット)「おぉっと!!」 


ガガンッ!! 


銃弾の軌道が星の盾に衝突して地面に転がる 

今度の星は一つだけだが更に大きくなり、彼女の身をカバーしていた 

矛よりも盾としての役割を大きくしたらしい 


亜季「(今の音は...?それに銃弾が...)」 


彼女は預かり知らぬことだが翼竜の翼の下に仕込まれた星もたった今破裂した 

だから今の未央は能力を通じて振動エネルギーを増幅することができていない 

亜季が一瞬感じ取ったその違和を掻き払うように 




「そおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおれっ!!!」 




未央は投擲した 



少女一人の身の丈と同等の尖った円盤が空中で唸る 

冗談のような大きさの手裏剣が亜季の首筋に飛び込む 


亜季「ッ!...今度はこんな手を!」 


空中で打ち落とせる質量と速度ではない 

痛む左肩をかばいながら右側に飛んだ 

その背後にあった空気を裂きながら車輪大の流星が奔った 

無論逃げに徹するわけではない、そのまま落とした銃を拾い 



亜季「(ここで牽制しておかなくては!)」 


不安定な構えのまま、狙いを定めず未央の方向だけを頼りに引き金を引いた 




そのときに、見た 


768 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/06/07(日) 22:53:54.54 ID:xKRCPrHo0


亜季「_____!」 



銃口の少し向こうで 



右足を勢いよく振り下ろす未央を 



亜季「(マズいマズいマズいであります!)」 



彼女の足元には小さなスイッチ 



それは星の鎧よりもわずかに小さな星型で 



「はい、ドーーーン!」 



未央の靴の下で小さな音が破裂する 



そして衝撃は、振動として伝播して 



亜季の真後ろで大破裂が起きた 


必殺の尖端が空中で飛散する 



亜季「(これは...避けられません!!)」 


769 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/06/07(日) 22:55:48.51 ID:xKRCPrHo0




「ヒャアアアアッッッハアアアアアアアアアアアアア!!!??」 

「は?」 




飛んできたのは敵の武器だけではなかった 


触手のような根と猥雑に絡みあった輝子が吹き飛んできた 


星と尖端を絡め取り、亜季も巻き取られ、ゴロゴロと転がっていく 





小春(ボット)「わ~い、やりました~!」 



ウロコの背中で小春がはしゃぐ 

さっきまでまとわりついていたキノコ三体を振り払い、その様子はすっきりしていた 

本人としては輝子はおろかそれより更に年上の亜季まで倒してご満悦なのだろう 

未央(ボット)「あらら......ここは確実に決めときたかったんだけどなー」 

決定打を逃した未央としては面白くないが標的を一箇所にまとめられたと考えることにした 

月があるとはいえ、少し目を向ければ光の届かない闇などいくらでも目に付く 


「あれ?」 


そんな風に誰かが隠れる可能性のあるポイントに走らせた視界がある事実を見つけた 


「しまむー?...ゆきみん?...みどりん?」 


仲間が見つからないという事実を 

770 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/06/07(日) 22:57:33.87 ID:xKRCPrHo0


老廃したビル壁がひび割れ、粉を吹き 

崩折れた二人の体にはらはらと降り注いでいた 


亜季「しょ、輝子どの...」 

輝子「フヒ......す、すまん」 


壁にめり込んだキノコボットが消失する中、輝子は亜季の胸に上下逆に飛び込んでいた 


自分の下で呻く亜季に、咄嗟に輝子が咄嗟に腰を上げたが、 



亜季「実にナイスであります」 



続く言葉は肯定の一言だった 



輝子「フヒ?」 

亜季「いいですか...そのまま少し耳を傾けていいてください」 



そうしてその体勢のまま輝子にある作戦を耳打ちする 


さっきまでは未央によって完全に「詰んで」いた亜季 


だが輝子が将棋盤をひっくり返し、その命を拾った今 


恐れるものなど何もない 




ゲーム開始119分 

大和亜季&星輝子 
VS 
本田未央(ボット)&古賀小春(ボット) 

継続中 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
777 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:09:41.33 ID:PMmm2VdB0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南 



>チュートリアルボット 
___________ 

北条加蓮  10MC 

神谷奈緒  10MC 

三好紗南  10MC 
___________ 

>ノーマルボット 
___________ 

向井拓海  

単独撃破報酬 4800MC 
___________ 

村上巴 

ダメージ報酬 1200MC 
___________ 

前川みく 

多対一報酬  2400MC 
___________ 


計8430MC 


手のひらサイズの小さな画面を更に小さな文字が走る 

奈緒「ポイントが貯まるって...まじでゲームじゃねえかよ」 

紗南「美穂ちゃんと二人で倒したみくにゃんより加蓮さんが一人で倒した拓海さんの方がもらえるポイント高いんだ...細かいなぁ」 

__________________ 

ハンドガンA 800MC  在庫わずか 

ハンドガンB 800MC  在庫わずか 

ハンドガンC 800MC  在庫わずか 

マガジンA  400MC  在庫あり 

マガジンB  400MC  在庫あり 

マガジンC  400MC  在庫あり 

ナイフ    300MC  在庫あり 

ライフル   1000MC  在庫わずか 

対戦車砲  3000MC  在庫わずか 

手榴弾    600MC  在庫あり 

自転車    500MC  在庫なし 

戦車    15000MC  在庫あり 

砲弾     3000MC  在庫あり 

ジャンク品▽ 50MC  在庫あり 

__________________
778 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:11:06.62 ID:PMmm2VdB0

加蓮「戦車って何なのよ...知らないんだけど」 

紗南「ん?言ってなかったっけ?この街のどこかに戦車が置いてるって」 


ゲーム機とタブレットを装備した紗南が加蓮を振り返りながらきょとんと首をかしげる 


奈緒「そういや、巴と戦ってる時に何回か爆弾落とされたような...」 

紗南「それアタシー、戦車おいてる場所までは分かんないけど一応操作できたから」 

加蓮「え?そのタブレットでわかんないの?」 

紗南「うーん、アタシもそれは考えたんだけど...」 

そういってタブレットの画面をあちこちとタッチする事に画面が波立つ 

よく見ると画面に地図が表示されている状態は固定されたまま、そこに漂うドットだけが切り替わっていた 


奈緒「これは?なんかあたしらの周りのプレイヤーが消えたり付いたりしてるけど」 

紗南「多分感度みたいなのを調整してるんだと思う...」 

加蓮の横から画面を覗こうとした奈緒の疑問にぼんやりとした答えが返った 

紗南「ほら、今は空いっぱいをカラスが飛んでるし、何でもかんでも感知してたら画面見れなくなっちゃうから」 


彼女の指が画面上を滑ると同時に画面が青い丸で埋め尽くされた。それらは全てボットの位置情報だ 

アイドルも、戦車も、キノコも、カラスもその地図上では区別がつかない 


加蓮「はぁーあ、これじゃ接触できそうなのはプレイヤーだけみたいだね」 

奈緒「だから今まさにそのプレイヤーんとこに向かってんだけどな」 

改めて、目的地となる方向を目視する 

三人は今ゴーストタウンから廃墟へ、そして廃墟から跡地へと変貌した道を進んでいた 

潤沢な装備への伝手を手に入れた彼女たちだったが、空を我が物顔で支配するカラスの群れを避けなければならないのは変わらず、自ずとそのルートは限られた 

奈緒「しっかし、ネズミか虫にでもなった気分だ。あるいは洞窟探検隊」 

低い天井から漏れ出した月光のエリアを回り込んで空からの視界をクリアする 

崩れ、倒れ、均されたビル街。彼女たちが選んだのはその瓦礫の「下」だった 

剥がれた壁材と建材がぶつかり合い支えあって出来たトンネル、不安定で不十分な隙間 

しかし彼我の物量さを鑑みればその偶然の産物だけが彼女たちの細い命綱だった 

779 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:13:13.02 ID:PMmm2VdB0

紗南「トンネルが崩れてもアウト、トンネルの上から見つかってもアウト...スリリングだねっ!」 

加蓮「はしゃいで壁倒さないでよ紗南」 


余裕の表れか、自分たちを覆い隠すか細い通路を軽く小突く紗南を加蓮が窘める 

奈緒が立ち止まり、それに続いて二人も足を止めた 


「あそこか...」 


誰ともなしに呟く 

彼女たちはタブレットの指し示す激戦区を見通せる一にまで到達していた 

大通りらしき平坦な道路を挟んですぐ向こうからはもう危なっかしい音が断続している 


望月聖、高峯のあ、白菊ほたる、神崎蘭子、etc... 

度重なる大規模破壊がもたらした街への傷跡 

それらの間隙に立地していたおかげで全壊をまぬがれ、辛うじてビルの体裁を保った区画 


奈緒「ここで止まれ。輝子と亜季さんも心配だがブリーフィングしとこう」 

瓦礫と廃材の海の上の暗闇にくっきりと立ち並ぶ影を背景に足を休める 

奈緒「状況を整理しようぜ」 

「まずアタシたちは今、味方を増やすって方向で動いてる」 

紗南「情報収集力とウエポンだけ偏って集まってるしね。あとは兵力でしょ」 

奈緒「そーそ、アタシのスキルで武器はなんとかなるし、紗南のアイテム二つで他の誰かを探すのもぐっと楽になった、あとは実行するのみだ」 

加蓮「で、とりあえず一番近いプレイヤーかユニットかな?...に会いに行こうってことで」 

紗南「その前にボットとのバトルをクリアしないとね!」 

ぱん、と音を立てて紗南の手がタブレットの画面を叩く 

その指の下では赤と青の丸が震えながらぶつかり合うように位置を変えていた 

その攪拌されたような蠢きはそのまま戦いの激しさを物語っている 


奈緒「のんびりしてる時間もないが特攻かますわけにもいかねえ」 

「相手の能力を把握した上で、必要となる最低限度の火力を”取り寄せる”ってことでいいな?」 

加蓮「元々大荷物運べるメンツじゃないしね。アタシも紗南ちゃんも」 


奈緒「にしてもどうだ紗南?相手か味方の能力は読み取れたりしたのか?」 

紗南「うーん、何人かは...やっぱり離れてるとうまくいかないね」 


タブレットを支える手とは反対の手に握られたゲーム機は少し前からサーチモードのままだ 
780 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:14:26.78 ID:PMmm2VdB0

彼女の能力は強力でありながら不便だ 

今のサーチモードの場合だと広大な距離を開けたまま一方的に対象の情報を素っ破抜くことができるが、 

それにはセンサーの直線上に正確に動く対象を捉え続けていなければならない 

ましてや今は夜、対象は遠く、そして不可視だ 


紗南「一応今まででちらほら読み取れたのが~~っと...」 


記憶を掘り起こすようにゲーム機の角でこめかみをこする 

地下下水道で偶然亜季の能力情報を探知したのがずいぶん昔に感じる 

それから今に至るまで何度かアクセスを試みてはいた 

しかしそれは、目隠し、物干し竿で金魚すくいをするようなムリゲーで___ 


紗南「輝子さん、未央さん、卯月さん、翠さん、小春ちゃん...大体ほとんどだよ!」 


彼女が全力を以てチャレンジするに足るゲームだった 


加蓮「さすがピコピコ娘」 

「で、誰がボットだったっけ?確かその近くにいる亜季さんはプレイヤーだったよね?」 

紗南「輝子さんと亜季さん以外は皆ボットだよ」 


低くて脆い天井に気を遣い、足元に注意を払いながら質問を投げてくる加蓮の腰元では銃身が窮屈そうに挟まれている 

このちっぽけで強力な武力のまま先を急ぐか、奈緒の助力を要するかは紗南からの情報次第だ 


紗南「完全に囲まれてるのにまだ生き残ってるだけあって結構強キャラなんだよねー」 

奈緒「ほーん、どんな能力よ?その様子だと画面から消える前になんとか頭の中にたたき込めたんだろ?」 

紗南「うん!えっと...まずはねー」 


ちらりとタブレットに目を落とす 

地図上の青丸の一つを小突きながら記憶を掘り起こしていく 
781 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:16:11.24 ID:PMmm2VdB0


紗南「うぅん、ちょっとまってね。ちゃんと思い出すから...」 

ゲーム機の能力と違い、タブレットは情報が揺らぐことはない 

その薄い板は天上からの確固たる視点でこの街を見下ろしている 


紗南「......まず、卯月さんの能力は強化系でね?...他のボットの能力だけに作用するみたい」 




だが忘れてはいけない。その視界は何も彼女の持つ機械だけの特権ではない 





「......言っちゃ.........ダメ...」 





ゲーム開始120分 


北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒 
VS 
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット) 



開始 


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
782 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:17:51.45 ID:PMmm2VdB0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 


カシャン 


奈緒「?」 



慎重に足場を確認しながらあるくさなか小さな音を耳が拾った。 


ともすればその足音にさえかき消されそうな小さな破裂音 


奈緒「ストップ......どっかに誰かがいやがる...」 

紗南「いや、それはわかってるけど」 

警戒心を引き上げる奈緒に対し画面を小突いて紗南が言う 


奈緒「そういうんじゃなくて...なんか変な音聞こえたろ、今?」 





ズズズ... 




加蓮「ん、この何かを引きずるみたいな音?」 

奈緒「そうじゃなくて、もっと小さな......そう!ガラスが割れるみたいな」 


前を見ていた奈緒が振り返る 




ズズズズズズ! 



だから動き出した光景の第一発見者は紗南だった 

紗南「いやいやいやいや!ガラスどころじゃないでしょアレ!」 



地面に生えた標識やガードレールをこそぎとり 

電線を引きちぎり、カラスの群れを押しのけ 



紗南「ビ、ビルまるごと動いてるじゃん!!」 



加蓮「あんなの動かすって......のあさんレベルのボットがまだいるの?」 

コンクリートの巨大墓標が動き始めた 

奈緒「マズいマズいマズいって!!」 

アスファルトが波打ち、際限なく粉々に砕けていく 

そこをビルが砕氷船さながらに強引に割り進む 

ビル街と奈緒達を隔てていた道路を横断して、彼女らを挽き潰そうと 
783 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/11(火) 13:21:21.64 ID:PMmm2VdB0

奈緒「あれを避けて回り込むぞ!」 

加蓮「逃げきれるのこれ!?」 

紗南「避けゲーなら得意だし!」 

ビルの直線軌道上を大きく迂回するように走る 


紗南「あっぶな、いっ!!!」 

波打ち、逆立った地面を飛び越えた紗南の、数メートル背後をゴリゴリと蹂躙して通り過ぎていく 

そして、奈緒たちがいた荒れた地面に突っかかるようにして停止した 


加蓮「(このままビルのないとこまで逃げ切れる?)」 

紗南「(よっし、どーやら曲がったり追尾したりはしないみたいだね!)」 



だが猛追は止まらない 



「...翠......次......あっち...」 


ゴッゴゴン 

走る三人の前にまたもビルが躍り出る。先のものより階数も少なく、その分速い 


加蓮「二棟め!?」 

奈緒「そりゃそうくるよなぁっ!?」 


道路の先が横車を押すように無理やり遮られる 

ガゴォン 

紗南「うえっ!?」 

三棟目、それは今までとは違った軌道を描いた 

建材の基礎を引きちぎるように不自然に折れ曲がり、ビルディングの根元から大きく折損を起こしながら 


そして二棟目の上に倒れ、完全に道路を封鎖した 


数十トンの倒壊の衝撃で壁一面のガラスが煙のように宙に向かって噴き出す 

紗南「いぃいいっ!?」 

極小の凶器が月明かりの下降り注ぐ 


奈緒「うわああああっ!?今までで地味に一番あぶねぇ!!」 

加蓮「きゃあああ!」 

来た道を急旋回、共に引き返す 

軋む窓枠が荷重に負け、ガラスを吐き出しながら歪曲し破断する 

何もかもが歪んでいく 


その中にあって、厳然と真っ直ぐ天を向いた矢を見た 


紗南「(......なにあれ?壁のひび割れのとこに...)」 


四棟目は既に動いていた 

退路と背後を封じた上での本命 

ガードレールが飴細工のようにひしゃげ、道路に乗り上げる 
784 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:22:52.27 ID:PMmm2VdB0


奈緒「くっそ!!挟まれたか!?いや、ビルの隙間を抜ければあるいは?」 


加蓮「いや、道路から降りて今まで来た道を引き返したほうが安全だって...」 

奈緒「それじゃ味方と合流できねえし、向こうの思うツボだろ!」 

加蓮「じゃあアンタがバズーカでも取り寄せて、ビルごとぶっ飛ばしなさいよ!」 


決してパニックに陥ってはいない。だが焦りが二人の声を荒げさせていた 


そして突破と撤退に揺れる二人を尻目に事態は際限なく悪化する 




紗南「あ、それどっちもむりかも」 



ア”ァア”アーーー 



「カラスに気づかれた」 



黒の奔流がなだれ込む 

785 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/11(火) 13:24:28.05 ID:PMmm2VdB0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
大和亜季&星輝子 


亜季「この地鳴りは...」 

輝子「...また、何か、やらかしたな...これは」 


ズズン... 


未央(ボット)「あらら...折角この辺はまともな建物も残ってたのになー」 


四角いシルエットが時にチェスのコマのように平行移動し、時に将棋崩しのように瓦解していく光景は遠目にもよく見えた 

「...みどりん、最初の頃とは能力の使い方変わってきてるねぇ...」 

小春(ボット)「あんな風にドカーンってしちゃうと、プレイヤーさんが見えなくなるんじゃないですか~?」 


未央(ボット)「んー、だからゆきみんがいるんだろうね」 


矢を中心とした能力範囲内の物体を強制的に翠から60メートルの位置へ固定する 

瓦礫の巨塊も、人間も、恐竜も、建造物も、引き離され、あるいは引き寄せられ固定される 

しかしそれを利用した攻撃はどうしても翠を中心とした円上の単調な直線移動にしかならない 

だから彼女がいる 


雪美(ボット)「これで.......ぺちゃんこ......できた?」 


卯月の力の恩恵により勝ち得た月を侵食しCHIHIROの視界をジャックする力 


仮想現実全域をも見通す力と、反撃不能の大規模破壊 


未央(ボット)「だから、すぐ終わるでしょ」 

ヒョウくん「...............」 


爬虫類の翼竜は黙して語らない、その翼の下に星型のディスクが改めて備え付けられた 

カリカリと空気を震わせる音が未央の両腕を覆う 


「んじゃま!こっちも終わらせよっか!」 


「は~い、わかりました~!」 


786 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:26:50.08 ID:PMmm2VdB0


  戦闘再開 


対するは痛手を負ったプレイヤー二人 

先程から動きがないままにボソボソと何やら言葉を交わしているようだが 

未央(ボット)「待つわけないって」 

小春(ボット)「ですです~」 


ゴォオッ!! 


未央の頭上を小春とその相棒が翔んでいく 

亜季と輝子ビルに向かって一直線に、そのまま衝突寸前に急上昇 


「あれ、避け......フヒッ!?」 

「伏せるのです!!」 


一拍遅れてウロコを纏った尾が叩きつけられた 


巻き起こった風に前髪を吹き上げられながら未央が口笛を吹いた 

尾先は窓も柱も叩き壊して壁の向こうに突き抜けている 





ヒョウくん「.........!」 


小春(ボット)「どうかしましたか~?」 


尾先を食い込ませたまま一度、大きく羽ばたく 


しかし、動かない。しっぽが抜けない。何かが尾先を掴んでいる 


「フヒ、フヒヒヒヒヒ......」 


瓦礫に埋もれたどこかで笑声が転がる 


三体の巨大なきのこが根を伸ばし一体となって 




「第二ラウンド開始だァアアア!!!」 



翼竜を地面に縫い止めていた 
787 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:29:39.47 ID:PMmm2VdB0


小春(ボット)「むぅっ!ヒョウくん!」 

短い呼びかけに即座に応じる 


地響きと共に着地し、四本足で踏ん張るとともに尾を引きずり出す 


「FffffF!」 

尖った爪先が地を穿ち、菌類の群れはあっさり釣り上げられた 

キノコのボットとプレイヤー1人が宙に投げ出される 

小春(ボット)「ヒョウくん~食べちゃってください~」 


自身を縫い止めていたビルから一歩退き、牙をむきだし真上を仰ぐ 

自由落下する菌類と人間に狙いを定め 

絶命必至の尖端を並べ陥穽が大口が天を向いた 


未央(ボット)「ここで残る一人も追撃!」 


入れ替わりに未央が破壊の跡地に踏み込んだ 


「(輝子ちゃんが引っこ抜かれてったから......亜季さんはっと...)」 


カラン... 


「(!...はっけーん!)」 


崩れた天井の一部が仕切りと化していた 

その向こうから物音と確かな存在感 


ギャリリリリリリリン!!! 


把握した瞬間に未央の攻撃は遂行された 


高速振動する刃を右から左へ一閃する、アスファルトが粉へと削られ砂塵が舞う 

狙いは心臓、長身の部類である亜季の胸元にラインを引くイメージで 

何の抵抗もなく刃先は硬い土くれに滑り込み、するりと隙間を切り開いた 


「いっちょあがりぃ!」 


両断された部分が盛大に砂煙を巻き上げながら崩折れた 

そして、その向こうで真っ二つに断たれた人影を見た 



「さらば亜季さん...今までで一番冷や汗の出る戦いだったよ......」 



同時、未央の背後 


ヒョウくんの牙がキノコのボットに刺し込まれ、彼らは食いちぎられた 
788 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:34:57.00 ID:PMmm2VdB0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

一棟のオフィスビルの屋上、空っぽの貯水タンクの影 


雪美(ボット)「...かれん...も...みんな、生きてる...」 


白く小さな指が一点を指す。その先には密集、ではなく圧縮されたビル群 

隙間風の吹く空間を全て蹂躙した跡地 

しかし彼女の「眼」はそこまで追い込んでなお活路を見出したプレイヤーを見落とさなかった 

だから次なる一手を支持しようと__ 


「ッ!」 


__したところで瞠目する。その目は月に向けられたまま、しかし彼女の目には見えていた 

見通せていた 


卯月(ボット)「ど、どうしたの雪美ちゃん?お目目がものすごくパッチリしてるよ...?」 


雪美(ボット)「...み、みお...こはる......」 


翠(ボット)「お二人がどうかしましたか?」 


四本目の矢を放ち、雪美からの次の指示を待っていた翠もその呆然とした少女の表情に戸惑う 


「.....あぶない......避けて..........!」 


届かぬ警告が知らず漏れ出す 

なまじ全てを見通すことができるからこそ、伝える術がないもどかしさ 


だが、 


「......」 

それで止まるようなボットではない 


「あっちに」 


次の対応策が動き出した 




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
789 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします :2015/08/11(火) 13:36:02.84 ID:PMmm2VdB0

小春(ボット)「ヒョウくん!!?」 


未央(ボット)「ちょっ......えぇ?」 


最初は音、次にたなびく煙 

最後に哄笑 


「いかに恐竜とはいえ、手榴弾入りのキノコソテーは辛いでありましょう」 


「引ィっかかったなァ!!ヒャッハハア!!!」 


翼竜の背中に新たに着地する影がある 

翼竜は口から黒煙を吐き出しえづくように首を振っている 

安定を欠いた飛行態勢が翼や肢を周囲にぶつけさせ不本意な破壊を生む 

最もダメージを与えるであろう体内からの、それもほぼベストタイミングでの爆発 

キノコボットに仕込まれていた爆弾は、食いつかれた衝撃で作動する仕掛けが施されていた 

今、この戦場でそんなビービートラップに精通している者は一人しかいない 

790 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:37:31.20 ID:PMmm2VdB0



両断された「キノコボット」の影から身を出す小柄な影がある 

未央の周囲には既に瓦礫の下を地脈のように走る根が張り巡らされていた 

それは菌類が繁殖するための土台であり、同時にキノコの本体 

それは死角から未央の武器に狙いを定めていた 

「っ、このっ!!...とれないし!」 

触れるだけで物体を切断する振動刃に幾重にも巻き付き、切り裂かれながらもさらに拘束を厚くしていく 

今、この戦場でそんな不運にきのこボットを使いこなせる者は一人しかいない 





亜季「銃は強力無比な武器ではない、よく思い知りました」 

輝子「だから、フヒヒ...て...適材適所」 




波打つウロコに足を踏みしめ引き金に指を添える 

対するは無防備な少女 




砕けたフロアに繁殖した沢山のトモダチと並び立つ 

対するは孤軍の少女 




791 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/11(火) 13:39:35.73 ID:PMmm2VdB0


小春(ボット)「ヒョウくん......どうしてこんな」 



亜季「状況に応じた部隊編成の結果でありますよ」 



未央(ボット)「ぬぬぬ...みおちゃん一人にこの多勢...キッついなぁ」 



輝子「ヒャハッ!!」 

ビッグキノコs「FFffFF!!」 



雪美(ボット)「......翠...」 



翠(ボット)「...行ってきます!」 



卯月(ボット)「あわわ、わ、私はどうしたら...!?」 







ゲーム開始122分経過 

大和亜季 VS 古賀小春(ボット) 

星輝子 VS 本田未央(ボット) 

開始 

北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒 
VS 
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット) 

継続中 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
796 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/16(日) 13:06:18.06 ID:kuQkhjxe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
北条加蓮&神谷奈緒&三好紗南 



ビルには二種類の側面がある 


住人や来訪者、日光や風景を受け入れる面 

最低限度の通風孔と窓、排気口だけの面 

前者は言わずもがな玄関口、だが実際は一面に限らず通りに相対する面、 

通行人の目に触れる面は自ずとこれと同じように窓が大きいデザインにも建築家の意匠が凝らされるものだ 


そして後者は建物間の狭い隙間、そちらへ向いた面だ 

日の当たらない、車はおろか人の通らない、通れない空間 

都会に限らず隣接するビルの隣り合う面は大抵が物寂しい 

一棟のビルが更地となったとき、かつて隣接していた建物の壁は日の下に剥き出しになる。 


それを見ればよくわかる 

そこに並んだ窓は日光も人の出入りも丸ごと拒絶するように小さいのが 



だからこそ水野翠は「その面」で三人を押しつぶすよう操作した 

なぜならボットは学習するから 


大和亜季と星輝子がやったような、迫り来る建造物に対し窓を叩き割って正面突破するような真似をされないように 

人が通過することを想定していない壁面が向くような位置にプレイヤーを追い込み、潰す 

元より、破壊こそ免れていたがカラスのせいで老朽化の進んでいた街並みだ。雪美の手、否、眼を借りればそれらの調整は容易い 


かくして、完全に逃げ道を奪った上での囲い込み作戦は十全に成功した 




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
797 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/16(日) 13:08:25.93 ID:kuQkhjxe0

___________ 

対戦車砲  -3000MC  


  残5430MC 
___________ 



「つかっちまった... 

......使っちまったぞおい!」 


「うるっさい、聞こえてるってば...」 


「あはは、危機一髪......」 


光の差さないエントランスフロア奥 


入り組んだ通路の先に彼女らはいた 


加蓮「仕方ないって、奈緒の能力で壁をぶっこぬかなきゃ潰されてたし」 


そう言う加蓮が腰掛けているのは対戦車砲の一撃に飛ばされた壁の破片だ 

壁が衝突する直前。奈緒は初めて能力を使った 

人の通る隙がないのならこじ開けえてしまえ、と見様見真似でぶっぱなした 

ゴン、ゴン、と硬質な音が暗い廊下に反響する。奈緒が早々に役目を果たした砲身を拗ねたように蹴る音だ 


奈緒「しかもこれ、弾一発しか入ってねえじゃねえか...コスパ悪すぎんだろ」 

加蓮「はぁ、そんな愚痴んないでよ。次どうするか考えよ?」 

身体的にはともかく、精神的には早くも回復したらしい加蓮が奈緒に歩み寄り肩に手を置く 


加蓮「で、そっちは何か分かった?」 

タブレットを眺めながら寝っ転がっていた紗南に声を投げる 

紗南「これは、多分翠さんの能力かなー」 

床の上に仰向けになった彼女の胸の上に置かれたゲーム機は「コントロールモード」にされている 
798 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/16(日) 13:11:48.12 ID:kuQkhjxe0


奈緒「翠さんの?」 

紗南「うんうん、なんでも...能力の範囲にあるものを60メートル先まで動かせるんだってさ!」 

加蓮「だからってビル動かすの...?」 

げんなりした表情で改めてボットの非常識っぷりに呆れかえる 


そこで急にハッとしたように息を吸った 

加蓮「60メートルってことは...」 

奈緒「...げっ!」 

加蓮の雰囲気から奈緒も続いて察した 

「...そう遠くないところにいるってことか...気を付けねえと」 


紗南「隣のビルだよ」 


神妙な顔つきで芽生えた警戒心にあっさり事実を突きつける 

タブレットの画面が奈緒に見えるような角度に構えながら 


二次元図面上では三体のボットが三人のプレイヤーの傍にいた 


奈緒「おぉう...シビアだ」 

加蓮「だよねぇ...」 

その事実を認識し、奈緒は床面に項垂れ、加蓮は嘆きながら天を仰いだ 


加蓮「じゃっ、奈緒ばっかに負担もかけられないし」 

ここでも最初に思考を切り替えたのは加蓮だった 


加蓮「アタシの持ってる能力とやらで華麗に脱出しますか!」 

加蓮の手の中で着け爪が踊った 




ゲーム開始124分経過 

北条加蓮&三好紗南&神谷奈緒 
VS 
島村卯月(ボット)&水野翠(ボット)&佐城雪美(ボット) 

継続中
799 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/16(日) 13:14:27.69 ID:kuQkhjxe0

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
チャプター 
大和亜季 


どれだけ防壁の高い城砦であろうと、乗り越えてしまえばこんなもの 

縦横無尽に空を駆けることのできるヒョウくんであろうと 

背中に乗ってしまえば容易に振り落とされることはない 


小春(ボット)「あわわわ...」 

ヒョウくん「.........」 


恐るべきことに同じ生物の背にいながら亜季と小春の間には10メートル近い距離があった 

その二人の足元では動くに動けない翼竜が伏している。牙の隙間から漏れる煙の糸が途切れない 

彼が亜季を振り落とそうとすればまず先に小柄な小春に危機が及ぶだろう 


亜季「なにせ、同じ土俵に上がっているのですから。下手な擾乱は下策でしょうな」 


プッ、と手榴弾のピンが吐き出された 

それはウロコの上を2、3回跳ねながら視界から消えていった 

代わって二丁のハンドガンが両の手に握られている 


亜季「どうやら内側からの爆破は...効いたようですな!」 


発砲開始 

爬虫類の背中が戦場と化す 


小春(ボット)「きゃう!」 


放たれた三発の内、二発が小春の肩と腕に命中する 

だが、小春とヒョウくんは一心同体。耐久性を共有しているため手応えは薄い 


「ヒョウくん、おねがい~」 


小春の姿がヒョウくんの背に並んだトゲのような背ビレに隠れる 

巨大な爬虫類は背びれすらも巨大で、小春の頭の高さほどもある 


亜季「逃がしません!!」 


小柄な姿が消えた辺りに弾幕を張りながら駆け出す 

ヒョウくんの背中を縦断しようとして、それはすぐに阻害された 

800 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/16(日) 13:16:28.89 ID:kuQkhjxe0


ヒョウくん「...!......」 


バサァッ! 


弾丸の前に薄い膜が展開し、視界を遮る 

亜季「ぬっ!?」 


亜季の前に張り出したのは翼だった 

本来飛行のためであるそれは外ではなく内に向き、亜季の進路を遮断した 

緑と赤に脈打つ障壁にたたらを踏む 


そこに追撃 


亜季「!!?(尾が!?)」 


彼女の体幹を凌駕する太さのウロコの鞭が 

左右からの妨害に気を取られた亜季の脳天めがけて振り下ろされる 

ダダン!! 

発砲、二発の弾が対象を食い破る 

そのまま体当たりした 


亜季「(流石にアレはどうしようもないであります!)」 


尻尾ではなく目の前の翼のバリケードに向けて 

銃弾の衝撃でわずかにほころんだ防壁の間隙をこじ開けるように転がり込む 

間一髪でウロコを帯びた鞭打を躱した 

「っ!......ヒョウくん!真上に飛んでください~!」 


鱗状の大地を転がりながらそんな声を聞いた 

同時に飛翔音、大地の揺れを背中で感じる 


亜季「無理やり飛ぶつもりでありますか!」 

完全に身を起こすより前にコンクリの大地が遠ざかっていく 

爬虫類の翼が羽ばたくたびに規則的に足元が揺れる 


亜季「......ぬぬ、まさかこのまま暴れたりはしないでありましょうが...」 


二丁銃の片方を収納し、空いた手で背びれの一本を掴み走り出した 

足の下に広がるウロコの流れに注意を払い、足を滑らさないように慎重かつ迅速に 


亜季「(さきほどの小春殿の声、何かに気付いたような様子でしたが...)」 


視界の隅では真っ暗で規則的に並んだ窓が背景として下方へ流れていく 

その速度へ追いすがるように前へ前へと地を蹴る 
801 : ◆E.Qec4bXLs [saga]:2015/08/16(日) 13:17:54.61 ID:kuQkhjxe0

そして 


小春(ボット)「あう...」 


接敵した 


規則性を持って並んだトゲの背びれに身を隠すようにして、小春はいた 

空中では逃げ場はない。それはボットたる彼女も同様 

そして両者は今、背びれを間に相対している 

たった1メートルの間隔で 


亜季「ここが、戦場であります」 


動けない少女に銃口を突きつける 

ゼロ距離に小さな額が迫る 

引き金を引いた 




ゲーム開始124分経過 

大和亜季VS古賀小春(ボット)&水野翠(ボット) 

開始