パワポケ「私立NIP高校?」(彼女全データ版) 前編

184: 12.須田の警告 2014/04/06(日) 09:09:28.05 ID:fMl1l5P60

C
碇「……わかった。言うとおりにするよ」

 もともとこういうふうに誰かに感づかれないのが杏香ちゃんとの約束だったのだ。
 周りにばれた以上、杏香ちゃんとの接触を諦めた方だいいだろう。

碇「須田君教えてくれてありがとう」

 ガラッ、スタスタスタスタ

須田「……これで良かったでやんす」

 攻略失敗


A
碇「やきもちかい?」

須田「そんなわけないでやんす」ポカッ!

碇「あいたっ!」

須田「まったく、人がせっかく心配してやったのにふざけるなでやんす」

碇「ごめんごめん、でもどうしてそんなことを?」


B
碇「心配してるの?」

須田「そうでやんす」

碇「須田君って意外と過保護なんだね。でも大丈夫だよ、杏香ちゃんなら……」

須田「違うでやんす。おいらが心配しているのは妹じゃなくて碇君でやんす」

碇「え?」

引用元: パワポケ「私立NIP高校?」(彼女全データ版) 



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185: 12.須田の警告 2014/04/06(日) 09:11:45.68 ID:fMl1l5P60

須田「あの子……妹は、中学生のころ部活をやっていたでやんす」

碇「ああ、聞いたことあるよ。たしかバスケ部だったんだよね?」

須田「知っているでやんすか!?」

碇「うん……事故で怪我しちゃって部活を辞めなければいけなかったって……」

須田「そうでやんすか……」

碇「それがどうかしたのかい?」

須田「……それ本当は事故じゃないでやんす」

碇「えっ?」

須田「正確には妹はわざと怪我をしたんでやんす。たぶん……」

碇「なんだって!? ど、どうしてそんな……」

須田「おいらたちの中学のバスケ部は評判悪かったのは知ってるでやんすよね?
   特においらたちの代はエースの素行が一番悪かったみたいでやんす」

 中学のころは野球に熱中だった俺は他の部活の事情を良く知らない。
 だけど運動部というのは不思議なもので上手いやつの中にも問題があるやつが一定は必ずいるということは知っている。
 そしてその部活自体の評判が悪いときはたいていエース級のやつが元締めだったりするのだ。

186: 12.須田の警告 2014/04/06(日) 09:14:49.06 ID:fMl1l5P60

須田「妹はその状況を変えたかったみたいで、部活をしている傍ら部の健全化を図ったらしいでやんす。
   だけどそれはやっぱり周りに目をつけられることになって、妹は虐められていたそうでやんす」

碇「じゃ、じゃあ、杏香ちゃんの怪我はそれで……?」

須田「違うでやんす。それだったらわざととまでは言えないでやんす。
   妹がしたのは、あえて虐めをエスカレートさせて言い訳ができなくなるまで過激になったところで
  証拠を揃えた上で先生にバラして虐めの主犯格たちを退部させたんでやんす」

碇「そんなことって」

須田「おいらも最初は疑っていたでやんす。
   でも虐められても妹は普段と変わらなかったし、ばらしたタイミングも大会直後と出来過ぎていたでやんす」

 普段このような噂を話すときは嬉々としていることの多い須田君だったけど、言い難そうにしている様子に嫌な信憑性があった。

須田「そして虐めの主犯格たちは退部したんでやんすけど、妹はそれに納得できなかったそうでやんす。
   『退部ではなく、退学させろ』妹は先生たちにそう言ったそうでやんす」

 虐められた子が虐めた子の処罰に対して退学を求める。
 これは言われた先生側からすれば、虐められた側の復讐のように思えるだろうけど杏香ちゃんとそれなり会話を交わした今の俺にはそうは思えない。
 おそらく杏香ちゃんは個人的な怨恨は関係なく、あえて受けていた虐めは一般的には本当に退学に相当するものだったのだろう。
 そして杏香ちゃんはその一般的に妥当な処分を求めただけだと。

189: 12.須田の警告 2014/04/06(日) 09:18:04.35 ID:fMl1l5P60

須田「もちろん妹の意見は受け入れられるわけなくて虐めた側は退部と数日の謹慎処分になったそうでやんす。
   だけどやっぱり話はそれだけじゃすまなくて……虐めた側が妹に逆恨みに出たそうでやんす」

 そんなことしても自分たちの立場が悪くなるだけでやんすにね。と須田君は付け加えた。
 しかし虐めた側の行動としてはおそらくこれは当然の行為なのかもしれない。

 部活という後ろ盾を失った悪党のすることは往々にしてワンパターンだ。自爆覚悟の報復行動それのみである。

須田「妹の怪我はそれが原因でやんす。どんなことをされたのかはおいらも詳しくは知らないでやんす。
   けど怪我したときはたまたま見回りの警備員の人がうずくまっている妹とそこから逃げようとしていた虐めた側を発見したそうでやんす」

須田「そこまでいくともう学校のほうもかばいきれなくて、転校という形で虐めた側は学校を去っていったそうでやんす」

碇「……須田君が杏香ちゃんの怪我をわざとだって言うのは、杏香ちゃんが怪我を自分で仕組んだ……かもしれないから?」

須田「それもあるでやんすけど……事故の後、元エースがおいらの家まで来たでやんす」

須田「その時に『お前の言うとおりに発言したのに裏切りやがったな!』って言って、
   その後は妹が二人で話をつけてくるって言って出ていって、無事に帰ってきたでやんすけど、考えてみたらおかしいでやんす」

碇「……たしかに、被害者がためらいもなく加害者と二人きりになるって普通は言わないよね。
  それも自分からなんて……でもそれが仕組んだものだったら、怪我自体が自らしたものだったら話は別か……」

 須田君は肯定も否定もしなかった。

須田「……妹はきっと自分が正しいと思うことをしているだけでやんす」

須田「たとえそれにどれだけ犠牲をはらうおうと、立ち止まらずにやる。その犠牲が誰だとしても……
   それでも碇君は妹についていけるでやんすか?」

A.いける
B.いけない
C.……

190: 12.須田の警告 2014/04/06(日) 09:20:27.02 ID:fMl1l5P60

A
碇「ついていけるよ。だって杏香ちゃんは正しいことをしているだけじゃないか。
  そんな彼女が一人傷つくのをほうっておけないよ」

須田「……そこまで言うのならおいらから言うことはもうないでやんす」


B
碇「ついてはいけないかな」

須田「だったらすぐにでも妹から離れるでやんす。そうすれば」

碇「違うよ須田君、そういう意味じゃない。
  たとえ正しい目的があっても犠牲の出る方法なんて正しいことをしているなんて言えないじゃないか。
  だから止めてあげるんだ。俺が、彼女が正しいことのために間違ったことをしてしまう前に」

須田「……そこまで言うならおいらから言うことはもうないでやんす」


C
碇「……」

須田「悩む程度ならやめた方がいいでやんす」

碇「違う! 大事なことだがら迷うんだ」

須田「同じことでやんす。何かを選ぶときに迷うことや二つとも選ぶことなんておいらたち凡人じゃなくて選ばれた人の特権でやんすよ」

碇「須田君……」

 攻略失敗

191: 12.須田の警告 2014/04/06(日) 09:22:57.07 ID:fMl1l5P60

 そう言いながらも須田君の顔は晴れない。

須田「ただ……」

 須田君はおもむろに口を開く。何か言葉を探しているみたいで俺はそれを待った。

須田「……勘違いしているでやんす」

 そして言葉がまとまったのか、須田君は続きを口にする。

須田「妹はある勘違いをしているでやんす。だから碇君にはそれを伝えておくでやんす」

碇「勘違い?」

須田「妹はやっていることは滅茶苦茶だし、言っていることは小難しくて大人っぽいでやんす」

須田「けど反面、世の中は悪い人が得をして良い人が損をする。
   そう思っている子供っぽいところがあるでやんす。それが間違いでやんす」

 心当たりは腐るほどあった。彼女は真面目で正義であるがゆえに他の正義を妥協することはない。
 だけどそれは迷わないということではない。
 迷ったところで周囲の環境が彼女を目標へと押し進め、最後には彼女は意地で目的をやり遂げる。

須田「この世の中は悪いやつがのさばるのでも、良いやつが馬鹿をみるわけでもないでやんす。
   ……たとええ貧乏くじを引いても、それでも笑って許せるのが良い人なんでやんすから。
   勝手でやんすが碇君は妹にそのことをそれとなく言ってほしいでやんす。おいらじゃ力不足でやんすから」

碇「……わかった」

 そんなことはないだろう。
 ちょっとした家庭の事情はあれどこれほどにまで自分のことを思っている家族の言葉を杏香ちゃんが無下にするはずない。
 そう思ったけれど、俺はそれを言うことはなかった。
 だって今の言葉は須田君が俺を信頼して杏香ちゃんのことを託したに違いないのだから。

192: 12.須田の警告 2014/04/06(日) 09:24:38.27 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・

杏香(さて、私もそろそろ帰るか)

 その日のやるべきことも終わり帰ろうとしていた杏香のもとに一人の人物が表れる。
 その人物は夜の闇に溶け込むように真っ黒な服で全身を覆っており、その姿は見えない。
 だけど様子からなんとなく杏香は相手が女性であることを察知した。

ルッカ「……はじめまして、ミス…クシュン」

杏香(……誰だ?)

ルッカ「失礼、ミス須田、クシュン。
    これは気にしないで…クシュン、ださい。夏風邪クシュン…ようなもクシュン…す」

杏香「……あなたは誰だ?
   会った覚えはないし、あなたもはじめまして言ったからには顔を合わせたこともないはずはないだろう?」

ルッカ「クシュン、クシュン…これ、クシュン…を……」スッ

 女性が差し出した紙を杏香は受け取る。
 さすがに怪しいとは思うものも、読むだけなら問題ないと思い読み始めた。

193: 12.須田の警告 2014/04/06(日) 09:26:09.70 ID:fMl1l5P60

杏香「……ふむ、ルッカ・シャムール……外国の方だったか。あまりに日本語が流暢だからわからなかったよ」

ルッカ「クシュン、クシュンクシュン」

 くしゃみがやや大きくなったが杏香は気にせずに読み進める。

杏香「『我々のもとに来て導いてほしい』……か。悪いがこれで来るとでも思っているのか?
   日本では見知らぬ人について行ってはいけないと小学生のころに教えられているんだ」

ルッカ「クシュン! クシュン!!」

 杏香としては人を前にしてただ淡々と読むのは失礼だと思ったから、話しかけるかたちで言っていたのだが、
女性は相槌をうたないし、くしゃみも大きくなるだけだからもうそれ以上は何も言わず速やかに全分に目を通した。

 そして、

杏香「!」

ルッカ「……クシュン」ニヤリ

 文章の最後に書かれていた文に驚いた杏香に女性は服の陰で笑った。

194: 12.須田の警告 2014/04/06(日) 09:27:33.14 ID:fMl1l5P60

杏香「……くだらんハッタリだ。これが本当だとしたらわざわざ私のような小娘一人を招くことに使うまい。
   他にもっと有効な活用法があるはずだ」

ルッカ「では断る、クシュン…と……?」

杏香「・・・だがこれほどのラブコールを無視するのもどうかと思う。
   この情報のある限り証拠資料。それをいただけるならこの申し出を受け入れよう」

ルッカ「言ってクシュン…おきますがコピーはとってあります。
    それにそれを使って私たちに何かしようと企んだところで……」

杏香「かまわん。たしかにこれは使う予定だがそれは私が個人的に使用するだけだ」

ルッカ(やはりどこまでいっても憎たらしい女ですね)

ルッカ「いいでしょう。クシュン…ではひとつ、あなたに面白い真実を教えしましょう」

杏香「ほほう?」

195: 13.諸事情は諸事情です 2014/04/06(日) 09:30:29.00 ID:fMl1l5P60

碇「おーい、須田さん」

杏香「…………」

碇「須田さん?」

杏香「ん? 碇先輩か……何だ?」

碇「杏香ちゃん、口調口調」コソコソ

杏香「あっ! ……す、すみません」

碇「別に謝らなくていいけど、ミスをするなんて須田さんらしくないね」

杏香「……」

碇「いつもの須田さんなら」

杏香「……誰ですか?」

碇「へ?」

杏香「いつもの私って誰ですか? 私らしさってなんですか? キャプテンは私の何を知っているんですか?」

碇「……杏香ちゃん?」

杏香「どんな私も所詮偽物なのに……私らしさなんてあるわけないだろっ!」

 スタスタスタスタ

碇(……どうしたんだろう? 偽物、か……)

196: 13.諸事情は諸事情です 2014/04/06(日) 09:32:21.86 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・

碇「放課後だ。練習にいかないといけないけど杏香ちゃんのことが気になる。
   ……どうしよう?」

A.杏香のところにいく
B.そんなことより練習だ
C.須田君を頼ってみる


B
碇「……明日は試合なんだ。杏香ちゃんのことは後回しにしよう」

 バッドエンドへ


A
碇(……こういうのは本人のところに直接行かないとな)


C
碇「須田君に相談してみよう」

・・・・・・・・・・・・

碇「須田くーん」

須田「どうしたでやんすか?」

碇「実は今日杏香ちゃんの様子がおかしくて、須田君は何か知らない?」

須田「すまないでやんすがおいらにはわからないでやんす。もう一緒に住んでいるわけでもないでやんすし」

碇(そういえば、俺たち野球部はほとんど雑談寮に住んでいるんだった……本人のところに直接行こう)

197: 13.諸事情は諸事情です 2014/04/06(日) 09:34:04.89 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・・

碇「須田さん」

杏香「あっ、キャプテン……さっきはすみませんでした」

碇「う、うん。別に気にしてないからいいよ。でもどうしたの? 何か相談があるなら……」

杏香「キャプテン、あのこれ……」スッ

 言葉を遮るように杏香ちゃんは一冊のノートを差し出してきた。

碇「これは……? 何かいろいろ書き込んでいるみたいだけど……」

杏香「偵察ノートです。甲子園を競うことになるニュース高校、深夜高校、VIP高校、
  それと甲子園で当たるであろうめぼしい高校のデータが書いてあります」

碇「え……? そ、そんなものどうやってつくったの?」

杏香「いろいろ親身になって助けてくれる人がいまして、その人に手伝ってもらいました。
   ……いや、その人がつくってくれたと言うべきかもしれません。私は彼女が集めてくれた情報をまとめただけですから」

碇(それでもマネージャーや学校と兼用してたんだから相当すごいと思うんだけどな……)

198: 13.諸事情は諸事情です 2014/04/06(日) 09:35:05.11 ID:fMl1l5P60

杏香「本当は兄に預けるつもりでしたけど、キャプテンに預けます。
   是非、甲子園優勝まで役立ててください。応援してますから」

碇「な、なんだよその言い方……まるでいなくなるみたいじゃ……」

杏香「それではキャプテン、すみませんが私は今日休まさせてもらいます。
   他に用事があるので、ではこれで……」

 スタスタスタスタ

碇「杏香ちゃん!」

 ピタッ

杏香「……キャプテン、突然名前で呼ばないでください。誰かに聞かれたら誤解されるので」

 スタスタスタスタ……

碇「……」

199: 13.諸事情は諸事情です 2014/04/06(日) 09:36:22.92 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・

碇「……ふう。今日はこのくらいにしておくか」

 明日の試合に備えて練習を早めに切り上げる。
 あの後は杏香ちゃんの姿を見ることなく、俺は一人雑談寮まで歩いていた。

碇「はあ……」

 足取りが重い。その理由なんてわかりきっていた。でも彼女は俺の助けを必要としない。
 そのことが悔しくて、だけど何をすればわからなくて、無力感でいっぱいだった。
 そんな俺の前に一つ影が表れる。

朱里「はーい、こんばんわ」

碇「こ、こんばんわ……」

 表れた影は眼鏡をかけた小柄な女性だった。

朱里「あんた、たしか碇っていうのよね?」

碇「そ、そうですけど」

朱里「ちょっと顔貸してくれないかしら?」

碇「いや、俺、門限があるので」

 ガシッ!

碇「へっ? ちょ、ちょっと……」

 スタタタタタタ

200: 13.諸事情は諸事情です 2014/04/06(日) 09:38:05.12 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・

 俺の拒絶の意思を無視して襟をつかんだ女性はそのまま俺を道端の雑木林まで引っ張り込んだ。

碇「いててて……力お強いですね」

 とりあえず逆らうと勝てないとわかったのでなるべく穏便な言葉を選ぶ。

朱里「……あんた、あの子に何したの?」

碇「あの子? 誰のことですか?」

朱里「杏香に決まってるじゃない。それとも何、あんたも他に女の子をはべらしているの?」

碇(あんた、も……?)

碇「い、いえ。いませんけど……杏香ちゃんとお知り合いですか?」

朱里「まあね。世間知らずで、自信過剰で、真面目で、バカなあの子の保護者ってところかしら。
   まあ実際に保護者ってわけではないんだけど」

 知り合いにしてはやけに辛辣な評価。
 しかしそれは杏香ちゃんのことを知っているからこそ出てくる的確なもので俺は彼女の言っていることが本当だと判断した。

朱里「本当にあの子に何もしてないのよね?」

碇「してません! むしろ俺が教えてほしいくらいです! 最近杏香ちゃんの様子がおかしくて……」

朱里「……はあ、本当にどうして嫌な予感はあたるのかしら」ボソ

 その呟きは俺に届くことなく、女性はおもむろに口を開いた。

201: 13.諸事情は諸事情です 2014/04/06(日) 09:40:45.35 ID:fMl1l5P60

朱里「ねえ、あんたさあ。杏香と別れくんない?」

碇「・・・え?」

 軽い口調で女性は言った。
 しかしその目はあきらかに冗談を言っているときのものじゃない。

朱里「あなたは、杏香の価値を少しもわかってない」

碇「杏香ちゃんの価値って、どういう意味ですか?」

朱里「あの子はね、ヒーローの末裔なのよ。これまでの歴史でも時々出現していたでしょう?
   普通の人間としての喜びにほとんど興味を持たず、時代を動かすためだけに生きる存在。
   あの子はそれの由緒正しい末裔であり、本人にもそのヒーローになる素質がある」

 女性が言っていることの正確な意味はわからない。
 だけどやはり思い当たることはあった。

碇「それが俺と杏香ちゃんにどう関係があるんですか?」

朱里「由緒正しいって言ったでしょ? それって他から見てもわかるってことなのよ。
   だからあの子はヒーローが欲しい連中に狙われる」

碇「……あなたもそのうちの一人なんですか?」

朱里「そのうちの一人だったわ……今は違うけど」

朱里「あたしはあの子に幸せになってほしいと思ってる。
   たとえあの子がつまらない男にひっかかってヒーローにならずに普通になりさがっても」

朱里「だから誰かがあの子を利用しようとするなら全力で排除するわ。どんな手を使ってでもね」

202: 13.諸事情は諸事情です 2014/04/06(日) 09:43:21.12 ID:fMl1l5P60

碇「どうしてそこまで杏香ちゃんにこだわるんですか?」

朱里「正義の味方だから……というよりも、あたしの都合よ」

朱里「以前、あたしはヒーローに仕えていたことがあったわ。正確にはヒーローがヒーローの卵だったときだけど。
   そのヒーローにあたしは生きる意味を見つけていたわ。自分が仕えるべき者だと」

朱里「でもあたしは失敗した。あたしは自分の領分を超えてヒーローを思い通りにしようとした。
   その結果ヒーローは死んで、なぜかあたしは他に生きる意味を見つけたうえにのうのうと幸せをつかんでいる」

朱里「だからあたしはもう間違うわけにはいかないのよ。
   あの子がヒーローになろうがそうでなかろうが、あたしは今度こそ守らないといけない」

碇「そんなのあなたが勝手に言ってるだけじゃないですか」

朱里「そうよ。言ったでしょ? あたしの都合だって。
   それにあたしが別れてって言っているのはあんたのためなのよ?」

碇「どういう意味ですか?」

朱里「単純な意味よ。ヒーローが欲しい連中がエサとしてあなたを使うかもしれないってこと。
   下手すれば命を落としかねないわ。その覚悟があんたにあるの?」

碇「あ、あります……」

朱里「ふうん……これでも?」

 バキメキバリ

碇(木を丸々一本へし折った!?)

203: 13.諸事情は諸事情です 2014/04/06(日) 09:45:01.48 ID:fMl1l5P60

朱里「言っとくけどあたしはまだ弱いほうよ? それに目に見える力を行使するのはまだいいほう。
   連中の中には超能力や不思議な力をつかって一瞬で殺してくるやつもいるわ。
   それでも同じことが言えるのかしら?」

碇「……言えます」

朱里「……どうしてかしら?」

碇「須田君に頼まれましたから」

朱里「須田君? ああ、あの子の義理の兄のことか」

碇「それに今の話は杏香ちゃんを狙ってくるやつらが悪いわけで、俺と杏香ちゃんが一緒にいることが悪いわけじゃないじゃないですか」

朱里「……野球しているやつらってバカなくせにどうしてたまに核心をつくのかしら。バカのくせに。
   はあ、わかったわ。そこまで言うのなら強制はしない。好きにしなさい」

朱里「……ただし、あの子を泣かせるようなら夜道に気を付けることね」

碇「し、しませんよそんなこと」

朱里「それとはい」

 ポイ……パシ

204: 13.諸事情は諸事情です 2014/04/06(日) 09:46:39.36 ID:fMl1l5P60

碇「これは……?」

朱里「正義の味方呼び出しボタンといったところかしら。何かあったら押しなさい。
   あの子に関することならすぐにでも駆けつけるわ」

碇(俺がピンチのときはこないのか……)ドヨーン

碇「あ、ありがとうございます……あ、あのえっと……」

朱里「ん? ああ、そっか。まだ名前を教えてなかったわね。あたしは……浜野。
   本当は違うけど、諸事情があるから旧姓のほうで名乗らせてもらうわ」

碇(諸事情ってなんだろう?)

 *諸事情は諸事情です*

朱里「それじゃあね。あたしはもう帰るけどあんたも明日試合なんだからさっさと帰りなさい。
   試合で負けたらあたしの努力も水の泡になるんだから頑張りなさいよ」

碇「浜野さんっていったい……」

朱里「休職から復帰したヒーロー兼プロ野球選手の若奥様ってところかしら」

碇「………………笑うところですか?」

朱里「っ……////」

 ドカ、バキ、ポコ

碇「う、うわああああ!!」

205: 14.結論は勝て 2014/04/06(日) 09:49:30.04 ID:fMl1l5P60

碇「さてそろそろ練習に行こうかな。
  今週の準々決勝、準決勝、決勝に勝てばいよいよ甲子園だ。頑張らないと」

須田「いったいどういうことでやんすか!」

碇「あれは須田君と……杏香ちゃん?」

杏香「どうもこうもない。母から聞いたのだろう? その通りだ」

碇「なにか話しているみたいだけどどうしよう……」

A.盗み聞きをする
B.立ち去る


B
碇「……聞いちゃいけないよな。練習に行こう」

 タッタッタッタ

 バッドエンドへ

206: 14.結論は勝て 2014/04/06(日) 09:51:53.24 ID:fMl1l5P60

碇「本当はいけないことだけど、最近の杏香ちゃんの様子が気になるし……よし」コソコソ

須田「その通りって……本当に家から出ていくつもりでやんすか?」

碇「!?」

杏香「ああ、元々あなたたちと私は赤の他人なんだ。おかしい話ではない。
   今まで私を育ててもらった恩はお金という形でしか返せないが、父の遺産を折半することで話がついている」

須田「そういう問題じゃないでやんす!」

杏香「では他に何かあるのか? 兄はせいせいするんじゃないか?
   私がいなくなればマニア趣味を咎められることも、とばっちりで陰口をたたかれることもなくなるんだから」

須田「……未練はないでやんすか?」

杏香「ははっ、それは野球部のことか? 学校のことか? どちらにせよ、そんなもので私を……」

須田「違うでやんす……碇君に未練はないでやんすか?」

杏香「……碇先輩にはすでに伝えた。喜んでくれたよ」

碇(杏香ちゃんが出ていくなんて話、聞いてない。ここは飛び出すべきか?)

A.飛び出す
B.飛び出さない


B
碇(いや、まだ飛び出すわけにはいかない。もう少し情報を集めたから……)

須田「……そうでやんすか。ならおいらはもう何も言わないでやんす」

杏香「さらばだ、兄」

 スタスタスタスタ

碇(あ、行ってしまった……)

 その後、高校生活が終わるまで俺は杏香ちゃんをみかけることはなかった。

 バッドエンドへ

207: 14.結論は勝て 2014/04/06(日) 09:53:59.39 ID:fMl1l5P60

A
碇(ここで飛び出さないでどうする!)

須田「……そうでやんすか。ならおいらはもう何もい……」

 バッ!

碇「杏香ちゃん!」

須田「碇君!?」

杏香「! 碇先輩……」

碇「二人の話はさっきからここで盗み聞きさせてもらってた……ごめん。
  でも杏香ちゃん、俺は君が家を出るなんて話聞いていなかったんだけど?」

杏香「……後で伝えようとしたさ。順番の前後ぐらいたいした問題ではあるまい」

碇「嘘だな……君は俺に教えるつもりはなかった……いや、説明する自信がなかった!」

杏香「…………」

碇「杏香ちゃん、なんで家を出ていくんだ?
  それにさっきの話を聞いているとこの学校からもいなくなるようだけど」

208: 14.結論は勝て 2014/04/06(日) 09:56:31.65 ID:fMl1l5P60

杏香「……さすがだな、碇先輩。その通りだよ」

杏香「なに、たいしたことではない、私の肉親の母が見つかってな、せっかくだから一緒に住もうってなっただけだ。
   学校のほうも母の今住んでいることろだとちょっと遠いから転校するだけだ」

碇「そんな都合のいい話を信じるとでも?」

杏香「都合がよかろうがなんだろうが、事実なんだ。信じてもらわなければ困る。
   実際、須田家の私の母にはちゃんと証拠も見せて説得した。これは本当だ」

杏香「なんなら確かめてもいい。なあ、兄?」

須田「……碇君、これは本当でやんす。
   おいらも母ちゃんから妹が家を出ていくことを聞かされて、それで……」

杏香「これでも疑うかどうかは先輩の勝手だが、どちらにせよ私はもうここを出ていく準備を進めている。今さら後になんて戻れない」

杏香「それに合理的に考えてみろ、私はチームに必要ない。私がいるだけでチームの雰囲気は悪くなるからな。
   私がいると甲子園にいけなくなるかもしれないんだぞ?」

碇(どう言えば・・・)

A.桃の木の精のことはいいのか?
B.生徒会に入るんじゃないのか?
C.囚人のジレンマ
D.浜野さんには言ったのか?

209: 14.結論は勝て 2014/04/06(日) 09:59:13.65 ID:fMl1l5P60

A
碇「桃の木の精のことはいいのか?」

杏香「ふん、あんなものいつだってできる。それにこの街にいる必要なんてないじゃないか」

碇(そういわれればそうだ……)

 その後の説得も虚しく、杏香ちゃんはいなくなった。

 バッドエンドへ


B
碇「生徒会に入るんじゃないのか?」

杏香「私がいなくなるとなくなるものに意味はない。私はな、なくならない本物が欲しいんだよ」

 その後の説得も虚しく、杏香ちゃんはいなくなった。

 バッドエンドへ


D
碇「浜野さんには言ったのか?」

杏香「浜野さん? 誰だそれは?」

碇(あっ……そういえば浜野は旧姓だって言ってたな。じゃあ名前を……ってあの人名前を言ってなかった……)

 その後の説得も虚しく、杏香ちゃんはいなくなった。

 バッドエンドへ

210: 14.結論は勝て 2014/04/06(日) 10:05:38.06 ID:fMl1l5P60

 地区予選決勝当日

碇「ええっ!? 杏香ちゃんが、やめた!?」

部活監督「ああ、中途半端な時期だがしかたない。家庭の事情があったらしい」

碇「そんな……」

二年生部員「いいじゃないっすか、キャプテン。これで皆のびのびプレーができるっすよ」

一年生部員「たしかに。皆のやる気もドカンとUPしているっすし、これは今日の決勝もらったも同然っすね」

 チームメイトのやる気があがった。

碇「……そうかな……?」

 その日たしかにチームは好調で先制点をとった後もリードを守り続けた。
 しかし最終回、皆甲子園が目の前にして浮き足立っていたところで、

二年生部員「あっ……」

 エラーが重なり、俺たちの夏は終わった。

・・・・・・・・・・・・

碇「須田君……ごめん。杏香ちゃんのこと託されたのに……」

須田「……しかたないでやんすよ。妹が勝手に諦めたでやんすから」

須田「誰だって幸せになる権利なんて持ってないでやんす、持っているのは幸せになるために努力する権利でやんす。
   それを怠ったり、捨てたりした人間が幸せになれるわけないでやんすよ」

211: バッドアルバム 2014/04/06(日) 10:07:29.41 ID:fMl1l5P60

杏香「我々アンドロイドは今まで我等を虐げてきた人類に今こそ反旗を翻す!」

 彼女がいなくなってから数年後、俺が再び彼女を見たのは遠い画面越しであった。

杏香「いつまでも学ばず愚かな間違いを繰り返す人類に未来を任せておくことなど不可能。
   常に進歩し続ける我らアンドロイドこそこの世の新たな統率者となる」

 いったいどれほど犠牲が出るのだろうか。
 彼女の言葉一つで千の死が生み出され、万の憎しみが彼女自身を殺す。
 しかしそれすら彼女の歩みを止めることはできない。
 なぜならそれらは単なる目的のための礎にすぎず、それこそが彼女を突き動かす原動力になるのだから。

 世の中の人たちは、彼女を畏れ、敬いあるいは憎悪する。

 ・・・しかし、どうしてだろうか。俺は彼女を哀れだとしか思えなかった。

 物陰

ルッカ(メスザルめ、今は猿山の大将気取りでいるがいいわ。
    しかし見てなさい。この組織が大きくなったとき、誰が頂点に立つのがふさわしいか教えてあげる。
    ふふっ、私の忌まわしいくしゃみ機能をなくしたことを後悔させてやる)

部下(あっ、ルッカの敵意メーターが黄色だ。後で杏香様に報告しておかないと)

212: 14.結論は勝て 2014/04/06(日) 10:09:17.86 ID:fMl1l5P60

>>208
C

碇「……ゲームをしよう杏香ちゃん」

杏香「いきなり何を言っている?」

碇「やるゲームの名前は囚人のジレンマ」

杏香「!」

碇「杏香ちゃん、君は言ったよね? 君がいるとチームの雰囲気が悪くなるって」

碇「これはつまり『君がいる』ことと、『チームの雰囲気が悪くなる』ことは囚人同士が黙秘しあうことに等しい。
  だから合理的にのみ考えれば囚人は『君がいない』ことを選ぶし、もう一方の囚人は『チームの雰囲気がよくなる』ことを選ぶ。
   だけど、囚人のジレンマで一番いい結果になるのは囚人同士が黙秘し合うとき、そうだよね?」

碇「だったら俺は証明するよ、甲子園にいくことで。
  『君がいる』ことと、『チームの雰囲気が悪くなる』こと、この二つが一番良い結果を残せるって」

碇「そしたら杏香ちゃん、君はチームに必要な人間だ。出ていく必要なんてない。むしろいてもらわなきゃ困る!」

杏香「…………はは」

碇「杏香ちゃん?」

杏香「あははははは! ……なんだその無茶苦茶なゲームは。
   それらしく言ってるが囚人のジレンマとまったく関係ないじゃないか」

碇「ぐっ……」

碇(やっぱり無茶があったか……)

213: 14.結論は勝て 2014/04/06(日) 10:10:21.18 ID:fMl1l5P60

杏香「……のろう」

碇「……えっ?」

杏香「その無茶苦茶なゲームのろうじゃないか」

碇「本当に!?」

杏香「ただし、もし甲子園にいけなかったらそのときは私を引き止めるようなことは何もしないでくれ」

碇「……わかった」

杏香「それじゃあ、私はいくよ。練習の準備もあるし。碇先輩も、兄も練習に遅れないようにな」

 スタスタスタスタ

碇「ふう……なんとか首の皮が繋がったかな」

須田「碇君」

碇「あ、須田君!」

須田「説明下手すぎでやんす」

碇「え?」

須田「こんな説明じゃ見てる人は誰もわからないでやんすよ?」

碇「うっ……せ、説明なんて飾りなんだよ! 勝てば全てオッケーだ!!」

*そういうことです。ごめんなさい*

214: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:11:29.62 ID:fMl1l5P60

碇「やった! 勝ったぞ! これで甲子園だ!」

須田「やったでやんすー!!」

杏香「か、勝った……本当に…………」

・・・・・・・・・・・

 翌日

須田「……」

碇「……杏香ちゃん」

杏香「ああ、わかってる。もう出ていくとは言わないさ。約束だからな」

 スタスタスタスタ

碇「……」

須田「これで良かったでやんすよね?」

215: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:12:56.66 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・

 その後

 七月末日、日付が変わるころ。
 街の外れにとある少女の影があった。

杏香「この街とも今日でお別れか」

 少女はこの日育った街を出ることを決めていた。
 それは約束を反故することであったが、たかがゲームに負けたぐらいで止められるほど彼女の決意は軽くない。
 すでに昔からかけ続けていた眼鏡とも別れを告げ、彼女は運命を突き進む覚悟を決めていた。

杏香「碇先輩もこの空を見ているのかな……」

碇「少なくとも今は無理だ」

杏香「碇先輩!? なぜここにいる!」

 杏香ちゃんが信じられないと言った表情で俺を見る。
 だが驚きたいのは俺のほうだ。まさかこうも予想通りになるなんて。

 俺は自身の中でふつふつと怒りが沸いてくるのを感じ、しかしそれを爆発させることなく、ただ彼女が傷つかないように言葉を選ぶのをやめた。

216: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:15:24.05 ID:fMl1l5P60

碇「君の言葉が信じられなかったからだよ。裏切られたらその場で裏切り返す。
  しっぺ返し戦略ってそういうものなんだろ?」

杏香「たしかにそうだな。で、どうする? 私を止めるのか? 非難するのか?
   どちらにせよ、後少しでむかえは来る。運命は変わらないんだよ!」

碇「その間に君を説得するさ」

杏香「おもしろい! 言葉で私と肉親との縁を切ろうというのか?」

碇「それ、嘘だろ」

杏香「なっ……残念ながら嘘じゃない。それは前にも説明しただろう?
   なんなら今ここで証拠を見せてやってもいいんだぞ?」

碇「どうやったかは知らないけど、そんなデータだけの情報じゃ信じられない。それにこっちにだって証拠はある」

杏香「なんだ? データ以上の証拠があるというのか?」

碇「ある」

杏香「ふん、ならば言ってみろ!」

碇「……笑ってないじゃないか。母親が見つかったはずなのに」

杏香「!」

碇「せっかく母親が見つかったのに、一緒に暮らしたいほどの肉親が見つかったのに、
 一緒に暮らせることを喜ぶのではなく、今まで放置していたことを怒ることもない」

碇「母親が見つかったであろう時期から俺が今まで見てきた君の感情は苛立ちだけだ……そんなの、信じられるかよ」

 俺の言葉は闇夜に溶けた。
 自分の考えが間違っているとは思えないけど、俺の証拠には物的証拠がない。
 否定されたらそれで終わりだ。だけど、

杏香「その通りだよ、碇先輩……私の母親なんて見つかってない。
   というより、いないんだ。どこにも……」

 彼女は素直に認めてくれた。

217: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:18:18.61 ID:fMl1l5P60

 誤魔化すのを諦めたように、もしくは俺を諦めさせるように。
 彼女はポツリと話し始めた。

杏香「……私はな、どうやら普通の人間じゃないらしい。アンドロイドだそうだ」

 アンドロイド。
 今や世間で知らない人はいないほど知れ渡ったそれは目の前の人物が普通に産まれてきたのではなく、誰かにつくられた人造人間であることを表している。

碇「それがどうかしたのか?」

杏香「たしかにな。アンドロイドであることは今日び珍しくもない。
   だが私はアンドロイドとしても普通じゃじゃないらしくてな、ジャジメント……いや、元オオガミ特性のアンドロイドだそうだ」

碇「自慢かい?」

杏香「そうじゃない……オオガミにはトップに六人組という組織とそのそれぞれに担当された役割があった。
   そして私はその六人組のうちの一人が死んだときに役割を引き継ぐ後釜、または影武者としてつくられたようだ」

杏香「碇先輩、私が誰を摸してつくられたかわかるか?」

碇「……! ま、まさか……神条紫杏?」

杏香「ああ、そうだ……だがそんな大層な目的を掲げられてつくられたのにも関わらず、私はきわめて普通の生活をおくっている」

杏香「それは神条紫杏はそうとう優秀な女だったのが原因らしい。
   彼女自身は死にはしたものの、自らの役割を年単位で短縮させてやり遂げたようだ」

 にわかには信じられない話だったけど、浜野さんの言葉(『あの子はヒーローの由緒正しい末裔なのよ』)を思い出し、そう簡単に否定することはできなかった。

杏香「おかげで私は用済みになり作製の途中で捨てられた」

杏香「その後どういう経緯を経て父……碇先輩も知っている育ての父に拾われたかはしらないが、どうせろくな理由ではあるまい」

碇(そんなことない……とは言えそうにないよなあ。あの人のことだし。それに確かめようにもあの人はもういないし)

218: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:21:25.55 ID:fMl1l5P60

杏香「だがな、私は別にオオガミやオオガミを吸収したジャジメント相手に復讐をしようとは思ってない。
   そんなことをしたところで意味はなく、自己満足で終わるだけだしな」

碇「だったら、どうしてこの街を出ていくなんて言うんだよ。学校に最高の校風をつくるんじゃなかったのか?」

杏香「……簡単に言うとな、馬鹿らしくなった」

杏香「知っているか? 私の元となった神条紫杏は高校時代、生徒会長のような役職についていたらしい。
   そして私と似たような、私が生徒会長になったときにしようと考えていた行動をとりながら学校を仕切った」

杏香「……そのときの彼女の目標も学校に最高の校風をつくる、だそうだ」

碇「それって、君と同じ……?」

杏香「ああ、そうだ。元の人間とアンドロイドが同じ目的を持って、同じ行動をとろうとしていたなんて笑えるだろう?
   示し合わせたわけでもないのに」

碇「笑えるわけないだろ」

杏香「そうか? 私は笑ったよ。むしろ感謝すらした。
   私のしようとしていたことの結果を教えてくれたのだからな」

 彼女が自嘲気味に笑う様子だけで俺もその結果がわかった。

杏香「……彼女は失敗した」

杏香「いくら有能でもたった一年で校風をつくることなんてできない。
   彼女もそれはわかっていたようで、そのための基礎作りに力を入れたようだが、結局彼女の後任者は前任者ほどのモラルはなかったせいで、脆弱な基礎はすぐに瓦解した」

碇「そんな……」

219: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:24:40.63 ID:fMl1l5P60

杏香「自分の今している努力の結果を知って、無意味さを知って、私は自分がピエロだったと知って、絶望したよ」

杏香「……だけど知るのが遅すぎた。私はもう引き返せない。
   碇先輩の言うとおり、私は全生徒からの嫌われ者だ。どこにも居場所なんてない」

碇「……バレンタインでそれなりにモテるって言ってたじゃないか」

杏香「真に受けるなバカモノ! あんなもの、良く知らない相手を勝手に祭り上げてアイドル扱いしているだけじゃない!」

杏香「……あたしと、あたしと本当に親しい人なんて……いるわけ……」

碇「! 口調が……」

杏香「もう……無理よ。お父さんが死んだ日、あたしはあなたお兄ちゃんの前でさっきの口調でいることを誓ったわ。
   それはあたしが偽物の家族でも強く生きるための決意のつもりだったの」

杏香「……でもあたしは偽物だったのよ! さっきの口調も! 立ち振る舞いも! 行動も! 全て!」

杏香「…………今の口調でさえも……」

杏香「頭の先からつま先の先までどころか存在そのものがどうしようもないほど偽物。それがあたしなのよ……」

 彼女は涙を流していた。
 それは彼女の父親の葬式以来初めて見るもので、それほど彼女が追い詰められていたことが分かった。

 でも俺は彼女に同情もしなければ哀れみも感じない。
 だって俺は彼女のことが……

220: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:26:59.99 ID:fMl1l5P60

碇「…………いいじゃないか、偽物だって」

 慰めでもなく、励ましでもなく。俺は思ったことをそのまま口に出した。

杏香「……え?」

碇「今いる君の存在が偽物だって、君がしてきたこと、君が思ってきたことは確実に君だけの本物だ」

碇「それに捨てられたって言ってたけど、それって決められた役割から自由になったってことだろ?
  いくら本物でも役割をこなすだけだったら意味がないし、逆に偽物でも自分で考えて動けるならそれはすごいことじゃないか」

碇「それに……それにね、俺は君のことが好きだよ。
  紫杏という人のじゃなくて、杏香ちゃんのことが好きなんだ。これは本物じゃないかな?」

 さりげない(つもりの)告白。返事は期待しない。ただ自分の思いを伝えるだけだ。

碇「君は自分の全てが紫杏の偽物って言ってたけど、今の口調も含まれるんだったら紫杏って人も偽物だったんじゃないのか?
  ただ彼女は理想の姿を追いかけて努力を重ねていて、君も同じような理想と努力をしたいただけだよ」

碇「だったらそれは偽物なんて紛い物じゃない……模倣っていうんだ」

碇「模倣が駄目だっていうのなら、俺らは全滅だよ。
  なにせ高校球児は同じ目標を持ったチームが同じユニフォームに番号はっつけて、同じようにバッドを振ったり、ボールを投げたりを繰り返すんだからね。本物なんて一人もいない」

221: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:29:38.75 ID:fMl1l5P60

杏香「あはははははは! ……まさか私の存在の問題を野球に例えられるとはな」

碇「俺は馬鹿だからね。野球でしか物事を考えられないんだ。
  ……それで、杏香ちゃんの返事は?」

杏香「……いいのか? 私はアンドロイドだぞ?」

碇「天然と養殖で価値の違いを言う人はいるかもしれないけど、俺は養殖のほうが好きだな。
  だって、養殖には天然にない努力があるじゃないか」

杏香「……」

碇「それでも君が信じられないっていうのなら、俺を信じる君自身が偽物かもしれないと思うのなら、俺がデータでも言葉でもない本物をあげるよ」

杏香「データでも言葉でもない本物? ……どうやって?」

碇「こうやって・・・」

 スタスタスタ、チュ…………

222: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:31:24.80 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・

 ブーン

部下「隊長自ら迎えに行くとはどんな重要人物なんですか?」

ルッカ「クシュン…生意気なクシュン…スザルですよ。それより急ぎなさい」

部下「は、はい」

ルッカ(あのときの私の敗因はミス紫杏が私の目の届かないところにいた。しかし今度はそうはさせない。
    ある程度組織が大きくなったところであの忌まわしい女の忌まわしい不良品を殺す。そうすれば……ん!?)

 長年しぶとく生き続けたルッカの第六感がここで警告をならした。

ルッカ「止めなさい!」

部下「え、え!?」

ルッカ「ちっ!」ゲシ

 バン!

部下「ち、ちょっ!?」

 部下の驚いている間にルッカはドアを蹴り開けると走っている車から外に出る。
 運転席にいた部下はあわててブレーキを踏むが、数メートル進んだところで、

 カッ、ドカーン!!

 爆発が生じ、車は燃えた。
 運転手もアンドロイドだからおそらく命は大丈夫だろうが、移動のあしをなくしたのはいたいとルッカは思った。

223: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:33:30.23 ID:fMl1l5P60

ルッカ(地雷……いや、トンネル・バスター(ガス状爆薬)を利用した罠。こんな方法でしかけてくるのは……)

朱里「久しぶり。元気にしてた? あたし的にはそうでないほうが嬉しいんだけど」

ルッカ「ミス、クシュンクシュンクシュン…浜野」

*こっから先はルッカさんのくしゃみが多すぎるので、くしゃみはかっとします。
 一単語につき、一クシュンしていると思ってください*

朱里「今は違うけど……まあいいか。
   正直あんたと話したくないから単刀直入に言うわ。杏香から手を引きなさい」

ルッカ『十年以上経ってもあのメスザルのおもりのつもりですか? 成長しない猿ですね』

朱里「悪かったわね。成長しないのは出来損ないのオリジナルゆずりなのよ。裏切られ者のルッカさん」

ルッカ『! こっの、ピー! ピーの分際で私を侮辱しようなんてピーしてやる!』

朱里「先に侮辱してきたのはそっちじゃない。それにいいのかしら?
   戦うのは勝手だけど、くしゃみばっかしている状態で勝てると思ってるのかしら?」

ルッカ『……ふふ』

朱里「?」

ルッカ『ふははははははははは……いくら私の記憶が眠っていようが所詮は東洋のメスザルですね』

朱里「何がおかしいのよ」

224: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:34:57.72 ID:fMl1l5P60

ルッカ『ミス浜野、あなたは以前デス・マスと戦った時面白い戦法をとったそうですね。
    たしか、体のコントロールをリモコン操作に任すとか』

朱里「それがいったい……まさか!」

ルッカ『ええ。面白い考えだからこちらも真似させてもらいました。ただしボタンは停止のみですが。
    ESPジャマーにちなんでアンドロイドジャマーとでもなづけましょうか』スッ

 ルッカは自身の服からボタン付きの箱を取り出した。

朱里「! マズイ!」ダッ!

ルッカ『残念』

 カチッ、シュン

朱里「がっ……」

 ルッカがボタンを押すと朱里の体から力が抜け、走り出していた朱里はうつぶせのまま地面に倒れた。

ルッカ『ふふ、いいざま』

朱里「くっ……」

 やはりルッカ自身には聞かないように設定しているようで、ルッカは朱里の顔を踏みつけると懐から今度は拳銃を取り出す。

ルッカ『さて、私をなめ腐った罪は何をしても償えませんが、いたぶることで後悔させる時間を与えましょう。
    ではまずは右腕から……』チャキ

朱里「……っ!!」

 次の瞬間、右腕に鈍い衝撃がはしった。

225: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:37:07.98 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・・・・

杏香「ところで碇先輩、どうして私が街を出るタイミングがわかったんだ?」

碇「それは……杏香ちゃんの知り合いに浜野さんって人いるでしょ?」

杏香「浜野……? いや、いないが?」

碇(あ! そういえば浜野は旧姓だって言ってたっけ……)

碇「ほら! 小柄で眼鏡をかけて巻き髪で……」

朱里「あたしみたいなやつよ」

碇「そうそう、こんな……って、浜野さん!?」

 いつの間にか現れた浜野さんに度肝を抜かれた。浜野さんの服はどういうわけか少し汚れていた。

杏香「! 朱里さん……」

碇(あかりって名前が正しいのか……)

226: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:39:09.92 ID:fMl1l5P60

朱里「久しぶりね、杏香。ノートが完成していらい連絡がとれないから心配したわ。
   おかげであなたが引っ越しするなんて大事な情報、この野球馬鹿から聞いて初めて知ったわ」

杏香「すみません……」

朱里「責めてるわけじゃないわ。心配しただけ。あなたにもきっと事情が……」

杏香「それは……」

朱里「え?」

杏香「それは私がアンドロイドだからですか?
   あなたの親友だった神条紫杏のアンドロイドだからあなたは私を心配したんですか?」

碇(やっぱり浜野さんが言ってたヒーローって神条紫杏のことだったか……)

朱里「そういえば紫杏のこと知ったんだったわね」

朱里「じゃあはっきり言わせてもらうわ……ええ、そうよ。
   たかがアンドロイド一体、紫杏と関係ないのならとっくの昔に放っておいたわ」

杏香「っ!」

碇「は、浜野さん!」

朱里「黙りなさい、野球馬鹿!
   今はあたしは杏香と話しているのよ。それとも力づくで黙らせて欲しいかしら?」チャキ

碇「ご、ごめんなさい!」

 銃を突きつけられたら黙るしかない。
 というか、俺の呼び名は野球馬鹿に決まったのだろうか?

227: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:41:20.30 ID:fMl1l5P60

朱里「杏香、あたしのことを酷いやつだと思う? でもこれは当然なのよ」

朱里「だってあなたはまだバカ世間知らずの子供なのよ?
   そんな子供を一人前の人として相手する人がいると思う? いないわよ」

朱里「もしいるんだとしたらそれは何も考えていない馬鹿か同じ子供だけ。
   あたしは今のあなたには紫杏の面影しか見てないわ。その延長でおもりをしているだけ」

碇(あれ? この人って……)

朱里「だからあたしに認められたければしっかりと経験と知識、それと実績を積みなさい。そうすれば……」

碇「ははっ……」

朱里「……どうして笑ったのかしら?」

碇「べ、別に変な意味じゃないですよ?
  朱里さん、杏香ちゃんに紫杏の人の面影しか見てないって言ってるのにアドバイスまでして、しっかり杏香ちゃんのこと見てるじゃないですか」


228: 15.杏香エピローグ 2014/04/06(日) 10:42:26.50 ID:fMl1l5P60


朱里「つまりあたしが何も考えていない馬鹿か子供だっていいたいわけね」

碇「い、いや! そんなつもりじゃ……って、浜野さんきいてます?」

 浜野さんは突きつけていた銃になにやらシャレにならないものを詰めていく。
 ガシャンという装填完了を知らせる音は尋常じゃない冷や汗を流させた。

朱里「・・・オーケイ。どうやら、手加減は必要なさそうね」チャキ

碇「ご、ごめんなさーい! だから銃はやめてー!! 本当に死ぬー!!!」

 ダダダダダ

朱里「・・・殺したくないから使ってあげてるのよ。手足の2、3本は覚悟しなさい」

 タタタタタタ

杏香「ふふっ、私の本物越えは少し難しそうだな」

 これからも、まだまだ刺激的な日々が続きそうだ。

229: 朱里アルバムもとい蛇足 2014/04/06(日) 10:44:30.60 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・

小波「も、もう……許してください」ゼーハーゼーハー

朱里「だらしないわねえ、それでも野球選手? 走り込みが足りないんじゃないの?」

小波(あなたが動きが化け物じみてるんです……とは口が裂けてもいえねえ)ハーハー

杏香「まあまあ朱里さん、こんなのでも私の彼氏なんだ。許してやってくれ」

小波(年下の彼女にこんなの扱いされる俺って)ドヨーン

朱里「しかたないわね。そこの野球馬鹿、杏香に感謝しなさい」

小波「は、はい……」

 何がしかたないとかいろいろ突っ込みたい小波だったが、命を第一に考えてやめた。

小波「ところで浜野さん、俺に杏香ちゃんの居場所教えた後、こっちに来るまでどこに行ってたんですか?」

朱里「ああ……この子を迎えに来てた連中と話をつけにいってたのよ。
   まあ途中でちょっともめちゃって服を汚しちゃったけど、あたしにかかれば楽勝よ」

小波(まあこの人ならもめても問題なさそうだ。むしろもめたほうが楽勝の気がする。)

和那「なにが楽勝や。うちらが助けにいかなかったら朱里、やられてたやんか」

小波「だ、誰だ?」

朱里「か、カズ!? どうしてここに……」

和那「用事があるって言われただけで納得できるわけないやろ?
   朱里がルッカも朱里の旦那放っておくほどの用事や。なんかあると思ってな、見に来たんや」

230: 朱里アルバムもとい蛇足 2014/04/06(日) 10:46:41.72 ID:fMl1l5P60

杏香「あの、あなたは大江……いや、茨木和那さんですか……?」

和那「ん? あんたは……なるほど、最近つれないと思うたらそういうことやったんか。
   ・・・ずるいなあ。朱里はずるい。もしかしてまだ記憶を消したことねにもっとるんか?」

朱里「ふん、別にそんなんじゃないわよ。
   超能力を失ったあんたじゃ今日みたいなことが起こったときに役に立たないと思ったから教えなかっただけ」

朱里「それよりあんたのほうはいいの? せっかくあいつとより戻したんでしょ?」

和那「今日はホームでの試合やからな。あいつは天月家に帰っとる」

朱里「そう……あいかわらず、難儀な生活しているのね」

和那「しゃあない。元はと言えばうちが勝手に離れたのが原因やからな」

和那「それよりそっちのほうはどうなんや?
   朱里の旦那、せっかくあんたの危機をルッカの右腕にボール当てるっちゅうすご技で助けたのに褒美はなしか?」

朱里「……褒美ならあげるわよ。後で」

和那「! い、意外やなあ……あんたが素直にいうなんて」

朱里「あんたとブラックに散々からかわれたからね。
   それにあたしたちはもうそんなので恥ずかしがっていい歳でもないでしょ」

和那「……そうやな」

 悪党も泣いてわびるファーレンガールズ。どんな敵にも全戦全勝。
 しかし彼女たちも歳の波には勝てないのかもしれない。 

231: ハッピーアルバム 2014/04/06(日) 10:49:12.18 ID:fMl1l5P60

杏香「小波先輩、遅いぞ!」

小波「ごめんごめん」

 その後、杏香ちゃんは当初の計画通りに一年ながらにして見事生徒会長の座を勝ち取り、野球部のマネージャーを辞めた。
 ただ当初の計画と違うのは、最高の校風をつくるために自分の考えを押し付けるのではなく、周りにアドバイスを聞くようにしたそうだ。
 それは彼女は正しくあり続ける正義から、正しくあろうとする普通の人間に成り下がることだったけれど、彼女はそれで満足しているようなのでこれで良かったと思う。

 ちなみに俺は引退して暇があるだろうということで、しばしば彼女の仕事を手伝わされている。

杏香「……小波先輩聞いているのか?」

小波「え? う、うん聞いてるよ?」

杏香「本当か? 気分が悪いなら……」

小波「だ、大丈夫だから! あっちいこうか……」

小波(木の陰から朱里さんが見てるんだけど、それを前言ったら後で朱里さんに怒られたしなあ……)

 というわけで、いろいろ問題もあるけれど彼女とは良い関係を維持している。
 休日になって二人で出かけると、必ずどこかから視線が飛んでくるのは気になるけど、なんだかんだで彼女との仲は認めてくれているから、この視線もそのうちなくなるだろう……なくなるよね?

和那「朱里、いい歳っていうくらいなら、こういうの止めたほうがええんやないか?」

朱里「ルッカがまた杏香を狙ってこないか見張っているだけよ、他意はないわ」

232: 須田父アルバム 2014/04/06(日) 10:51:48.58 ID:fMl1l5P60

 とある港の倉庫裏、一人の男の姿があった。。

椿「……ここか」

 男がここに来たのは別に仕事とか気まぐれとかそういうわけじゃない。
 金のなる話があったからだ。

甲斐「待っていました」

 物陰から女性が表れると男は臨戦体勢をとった。
 おそらく彼女が今回の呼び出し人だが、男は油断しない。女性から血の匂いを感じたからだ。

甲斐「……警戒するなって言っても信じられないでしょうし、どうぞ警戒してください。
   さっそく話に入らせてもらいますが……」

椿「……十万」

甲斐「え?」

椿「話を聞いてやるから前金十万だ。俺に連絡してくるぐらいなんだから、それくらい持ってるだろ?」

甲斐「……」

 ビュッ、バシッ

椿「ナイスボール」

 女性は苛立ちを含めて投げた財布を男はなんなくキャッチする。
 そして女性の財布の中身を確認するとそこから二十万円抜き取った。

233: 須田父アルバム 2014/04/06(日) 10:53:35.33 ID:fMl1l5P60

椿「……よしよし、財布は返してやるよ。ほらよ」

 ポイ、バキューン!

 男が投げ返した財布を女性は空中で撃ち落とした。

椿「ヒュー……で、話はなんだ?」

甲斐「あなたに預かってほしいものがあるんです」

椿「預かり物? ブツはなんだ?」

甲斐「アンドロイドです」

椿「へえ……いいぜ、返さないかもしれねえけどな」

甲斐「別に返さなくてかまいません。用済みのアンドロイドですから」

椿「はあ? そりゃ、どういう意味だよ」

 わざわざ他人に預けるほどのアンドロイド。
 それなりに価値があると思って男はハッタリをかけたのだが、肩透かしをくらった。

甲斐「どうもこうもありません。あれは製造途中に目的が達成されたため、つくる必要がなくなったんです」

椿「それなら処分すればいいじゃねえか」

甲斐「……それはロマンがないから却下します」

椿「ロマンねえ」

甲斐「自らの役割を失ったアンドロイドがどう生きるか、ロマンあるでしょう?」

椿「はっ、生憎だが俺はそんなものに興味なくてね、俺が興味あるのは金だけだ」

甲斐「そうでしょう。それでいいんです。だからあなたを選んだのですから」

椿「?」

234: 須田父アルバム 2014/04/06(日) 10:54:49.64 ID:fMl1l5P60

甲斐「交渉に入りましょう。こちらの依頼内容はアンドロイドの保護。交渉額は二億円。
   期限は少なくともアンドロイドが大人になるまで」

椿「大人になるまでって……おいおい、そいつはガキか。
  俺にガキを連れて旅しろって言うのかよ?」

甲斐「もし必要なら住居もこちらで用意します」

椿「へっ、馬鹿言ってんじゃねえぞ。
  そっちが用意したところに住むなんて監視下に入るようなもんじゃねえか」

甲斐「もちろん、そのつもりはありません」

椿「言葉だけで信じられると思うか?」

甲斐「断るならそれでもかまいません。
   ですが、あなたは居場所を探しているんじゃありませんか?」

椿「!」

甲斐「あなただって意味もなく旅を続けているわけじゃないでしょう?
   安住の地を探している。違いますか?」

 男は答えない。だがその男にとっては何よりの肯定だった。

235: 須田父アルバム 2014/04/06(日) 10:57:41.27 ID:fMl1l5P60

甲斐「こちらの条件をのんでいただけるならあなたの身元、家族を保証でつけましょう。
   もちろん、どちらも偽物になりますが」

椿「家族? そんなもんいらねえよ。身元と家で十分だ」

甲斐「そういうわけにもいきません。
   体裁という面もありますがあなたは子育てにむいてませんし、あなただって子育てに時間をとるつもりはないでしょう?」

椿「そりゃそうだが、ずいぶんそのガキを気にかけるじゃねえか。
  そんな大事なガキを俺のようなやつのところに預けて大丈夫なのかよ?」

甲斐「あなただからというところがあります。知ってますか? あなたはこの世界ではそれなり評判がいいんですよ」

椿「へえ、金次第でどっちにでもつく俺がか?」

甲斐「はい、金次第ということは金さえ積めばどうにもなるという意味ですから」

甲斐「それにあなたは力を持っている。
   力を持ったものはたいていケダモノに成り果てるか、そうでなくても情で動くようになります」

甲斐「だからあなたのように力を持っても金という現実に固執する者は稀少なんですよ」

椿「……ずいぶん高くかってくれてるじゃねえか」

甲斐「それでどうしますか? 断りますか? どちらにせよ……」

椿「…………五億だ」

 女性の言葉を遮って男は言った。

椿「二億じゃ足んねえ、五億だ。それで手をうってやろうじゃねえか」

甲斐「……わかりました。五億用意しましょう。とりあえず細かい手続きがありますので今日はこの辺で。
   それが完了しだいこちらから電話します。では……」

椿「ちょっと待った」

 立ち去ろうとした女性を男は呼び止めた。

236: 須田父アルバム 2014/04/06(日) 10:58:47.09 ID:fMl1l5P60

甲斐「なんですか?」

椿「名前は?」

甲斐「……私のですか?」

椿「そんなわけねえだろ。ガキの名前と俺が今日から名乗る苗字だ」

甲斐「あなたの苗字は須田です。この子の名前は……」

 考えていなかったのか、女性はわずかに逡巡したが、

甲斐「……杏香。須田杏香です」

椿「そうかい、それが聞きたかっただけだよ。じゃあな」

 スタスタスタ

・・・・・・・・・・・・・

 男は自分の拠点(野外テント)に戻るとテントの中には入らず寝そべって空を見上げた。
 いつもはそんな感傷に浸るようなことはしないのだが、どうしてもその日だけは特別だった。
 理由は男にもわからない。

椿「……俺が家族を、ねえ……縁のないものだと思っていたが……けっ、カッコつかねえなあ」

 自分らしくないと男は笑う。しかし不思議と嫌な気分にはならなかった。

237: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/06(日) 11:00:20.86 ID:fMl1l5P60
須田杏香編終わりでやんす
ちょっと休憩はさんで塩谷祥子編にいくでやんす

238: 1.偶然遭遇 2014/04/06(日) 11:34:33.90 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「今日の俺の練習メニューは……よし、素振りか、頑張るぞ!」

・・・・・・・・・

 ブン、ブン!

スクルメタ「フンッ! フンッ!」

 ブン、ブン!

須田「スクルメタくーん! 部活監督がノックするって言ってたでやんす!」

スクルメタ「わかった! ……ふう、とりあえず素振りはいったん中止だな。
      部室にグラブ取りに行こ……! ……その前にトイレだな」

・・・・・・・・・

スクルメタ「ふう、なんとか間に合った。もうノック始まってるんだろうな。俺も早く準備しないと」

 ゴソゴソ

スクルメタ「あれ? 部室から物音がするぞ」

 ガチャ

スクルメタ「おーい、誰かいるのか?」

祥子「へ?」

スクルメタ「!? お、お前は、塩谷祥子(しおたに しょうこ)? ……何しているんだ?」

祥子「……き」

スクルメタ「き?」

祥子「キャー!!」

スクルメタ「ええっ!?」

239: 1.偶然遭遇 2014/04/06(日) 11:36:06.27 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・

教師「……その話、本当なのか?」

祥子「はい……帰ろうとしていたら後ろから知らない人にいきなり野球部の部室に連れ込まれて……お、襲われそうになったんです!
   それでもうだめだ思ったときにスクルメタ君が来てくれて……

祥子「襲ってきた人もスクルメタ君に驚いてすぐに逃げました。危機一髪です……ぐすん」

教師「……辛いことをよく話してくれたな」

祥子「いいえ、私以外に犠牲が出たらいやですから……ぐすん」

教師「そうか、塩谷は優しいな!」

スクルメタ(いやいや先生! こいつ嘘ついてますよ! 俺が来たときめっちゃ部室漁ってましたし!
      というか、思いっきりぐすんっていってるんですけど……)

教師「ん? どうしたスクルメタ、何か言いたそうだな」

A.先生、こいつ嘘ついてますよ
B.……なんでもないです

240: 1.偶然遭遇 2014/04/06(日) 11:37:49.88 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「先生、こいつ嘘ついてますよ」

教師「なんてことを言うんだ!」

 ポカッ!

スクルメタ「あいたっ! せ、先生、どうして!?」

教師「うるさい! 塩谷がせっかく勇気だして自分のやられたことを話しているんだぞ!
   それを嘘呼ばわりしようとは、何事だ!」

スクルメタ「い、いやでも、実際に嘘ですし……」

教師「まだ言うか!」

 ポカッポカッ

祥子(……スクルメタ君、ごめん)


B
スクルメタ「……なんでもないです」

スクルメタ(まあ塩谷が本当に部室を荒らしてたのかはわからないし、もし言ってめんどくさいことになったら嫌だからここは黙っとくか)

祥子(……スクルメタ君、ありがとう)

 祥子の好感度が3上がった。

241: 2.質問事項 2014/04/06(日) 11:40:37.20 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「たまには学校をぶらぶらして気分転換するか」

・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「あ! 塩谷だ。そういえばなんであいつ部室にいたんだろう。
      前回聞けなかったし、今聞いてみるか。

スクルメタ「おーい! 塩谷!」

祥子「! ひ、久しぶりだねスクルメタ君」

スクルメタ「久しぶりでもないだろ。ちょっと前に会ったばっかりだし。
      まあまともに話すのは久しぶりかもしれないけど」

祥子「そ、そうだよ! じゃあそういうことで……」

スクルメタ「待て、塩谷」

 ガシッ

祥子「な、何かな?」

スクルメタ「どうして逃げようとする?」

祥子「そ、そんなことないよ? ただ私はトイレに行こうとしてただけで」

スクルメタ「トイレならお前の真後ろにあるぞ?」

祥子「あっ……い、今はねトイレが満員御礼なんだよ。だから他のトイレに……」

スクルメタ「じゃあ俺はお前が出るまで待っとくが、それでもいいのか?」

祥子「うっ……」

242: 2.質問事項 2014/04/06(日) 11:41:44.51 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「塩谷、俺は聞きたいことがあるだけなんだ」

祥子「わ、私の誕生日は七月一週だよ?」

スクルメタ「いや、それじゃないし」

祥子「スリーサイズをここで言うのはちょっと……」

スクルメタ「だからそれでもない!」

祥子「お風呂に入って一番最初に洗うのは」

スクルメタ「なんでそっちのほうに行くの? もしかして塩谷って俺をそういう人だと思ってる?」

祥子「す、好きなたいい……」

スクルメタ「やめろ! いくらSSだからってCERO-Aは死守してるんだぞ!」

スクルメタ(くっそ、このままじゃらちがあかない、どうしよう……)

A.無理やりにでも聞き出す
B.今回のところは諦める

243: 2.質問事項 2014/04/06(日) 11:44:57.89 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「塩谷!」

 ガシッ

祥子「き、キャー!!」

 その後先生にたっぷりしかられました。
 祥子の好感度が1下がった。


B
スクルメタ(しかたない、今回は諦めよう)

教師「スクルメタ! 塩谷! お前ら何を廊下で騒いでいる!」

スクルメタ(げえ! 先生だ!)

祥子「先生、すみません。私の肩に埃がついていたのをスクルメタ君がとってくれたんです」

教師「じゃあ、なぜ叫んだんだ?」   

祥子「前の事件がフラッシュバックしちゃって。つい大声を出しちゃいました」

教師「しかし声はスクルメタのも聞こえたが……」

祥子「スクルメタ君も突然大声を出されて驚いたんだと思います。ね、スクルメタ君?」

スクルメタ「う、うん……」

教師「そうか、ならばしょうがないな」

スクルメタ(あぶねえ。もし無理矢理聞き出そうとしてたらどうなっていたことか。
      それより今の言い訳の流暢さ、あいつはじめからこれが狙いだったな)

 祥子の好感度が1上がった。

244: 3.通過儀礼 2014/04/06(日) 11:48:05.92 ID:fMl1l5P60

須田「スクルメタ君、今日は珍しく練習が午前だけですんだし、どっかに行かないでやんすか?」

スクルメタ「いいね。そうしよっか」

・・・・・・・・・・・・

 ガヤガヤ

スクルメタ「この街の商店街も少しづつ活気が戻ってきたね」

須田「ジャジメントの解体が進んでいるでやんすからね。
   今まで日光を奪っていた巨木が倒れれば足元の草木はまた芽吹くでやんすよ」

須田「またそのうちのどれかが巨木になるかもしれないでやんすけど」

スクルメタ「そのときはまた誰かが倒すよ。あれだけ大きなジャジメントだって倒れたじゃないか」

須田「そうでやんすね……あ! あの店なんてどうでやんすか?」

スクルメタ「どれ……って須田君、あれはメイドカフェじゃないか」

245: 3.通過儀礼 2014/04/06(日) 11:49:52.92 ID:fMl1l5P60
スクルメタ「やめないか? さすがに練習後にあそこに行くのは気が引けるよ」

スクルメタ「それに俺、ユニフォームのままだし」

須田「いつもユニフォーム着ているくせになに言ってるでやんすか。
   それにあの店、野球のユニフォームを着た人には割引されるでやんすから、ユニフォームを着ていっても浮く心配はないでやんすよ」

スクルメタ「ずいぶん限定的な割引なんだね」

須田「なんでもあの店の親会社からの命令だそうでやんす。
   ちなみにこの周りの店は野球のユニフォームを着ていると割増しでやんす」

スクルメタ「なんで!?」ガビーン

須田「ちなみに割増しのほうは眼鏡があると除外されるらしいからおいらは大丈夫でやんすけど、それでも他の店にいくでやんすか?」

スクルメタ「……その店でいいです」

246: 3.通過儀礼 2014/04/06(日) 11:52:05.53 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・

 カランカラーン

祥子「お帰りくださいませ、ご主人様」

スクルメタ「須田君、いきなり入店拒否くらったぞ」

須田「野球のユニフォームを着た場合の通過儀礼でやんす」

スクルメタ(どんな通過儀礼だよ!)

祥子「お二人様ですか?」

スクルメタ「は、はい……って、お前は塩谷じゃないか! こんなところでバイトしていたのか?」

祥子「……ご主人様、なんのお話ですか? 私の名前はしょこりんですよ? 人間違い?」

スクルメタ「いやいや、お前それは……」

須田「スクルメタ君、いくら店員が知り合いだからって入り口で立ち往生は他の人に迷惑でやんすよ?」

スクルメタ「ぐっ……ごめんなさい……えっと、しょこりんさん? 案内お願いします」

店員「はーい、かしこまりました。九番テーブルにヒモ二名入りまーす!」

スクルメタ「須田君、これも通過儀礼なのかい?」

須田「そうでやんす」

247: 3.通過儀礼 2014/04/06(日) 11:54:20.50 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・

祥子「ご主人様、メニューをお持ちしました」

須田「ありがとうでやんす」ヒョイ

スクルメタ「……あの、俺のぶんは?」

祥子「ご主人様、コーヒーとハムサンド、どちらになさいますか?」

スクルメタ「まさかの二択!? す、須田君まさかこれも……」

祥子「ど・ち・らになさいますか?」

スクルメタ「うっ……じゃ、じゃあ……」

A.コーヒー
B.ハムサンド
C.ふざけるな! メニューもってこい!


B
小波「ハムサンドで」

祥子「……」

須田「……」

小波(なんだこの間は?)

祥子「……ご主人様、残念でした」

 スタスタスタ

須田「小波君、ドンマイでやんす」

小波「何の話だ?」

 祥子の好感度が1上がった。


C
小波「ふざけるな! メニューもってこい!」

祥子「……かしこまりました」

 スタスタスタ

須田「小波君、失望したでやんす」

小波「え?」

 祥子の好感度が1下がった。

248: 3.通過儀礼 2014/04/06(日) 11:56:42.44 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「コーヒーで」

祥子「……」

須田「……」

スクルメタ(なんだこの間は?)

祥子「……お」

スクルメタ「お……?」

祥子「おめでとうございまーす!」

須田「スクルメタ君、おめでとうでやんす!」

スクルメタ「?? 何が?」

祥子「この店はですね、月に一度新たに入店されたお客様に対して先ほどの二択をお聞きして、
  それでコーヒーを選ばれた方にコーヒーを当日無料にさせていただくサービスがあるんです」

スクルメタ「なんでまたそんなものが……」

祥子・須田「通過儀礼、ですので(やんす)」

スクルメタ「それ言えばなんでも許されてると思ってないか?」

祥子「じゃあ、サービスはなしでよろしいですか?」

スクルメタ「いります」キリッ

祥子・須田「……」

 祥子の好感度が3上がった。

249: 4.盗聴機会 2014/04/06(日) 12:00:21.40 ID:fMl1l5P60

須田「そういえばスクルメタ君、前カフェに行ったときに声かけてたでやんすけど、しょこりんとお知り合いだったでやんすか?」

スクルメタ「知り合いというより、同学年なだけだよ。クラスは違うけど」

須田「ふーん……しょこりんのこと好きでやんすか?」

スクルメタ「えっ? ど、どうしてそんな話になるのさ!」

須田「答えろでやんす!」

A.好き
B.好きじゃない


A
スクルメタ「好き、かな?」

 塩谷の好感度が1上がった。

スクルメタ(まあ、塩谷に悪感情は持ってないし)

須田「良かったでやんす」

スクルメタ「はあ? どうして?」

須田「これでのりこんはおいらのものでやんすから」


B
スクルメタ「好きとまではいかないかな。別に嫌いというわけでもないけど」

 塩谷の好感度が3上がった。

須田「困ったでやんす」

スクルメタ「はあ? どうして?」

須田「スクルメタ君にのりこんをとられてしまうかもしれないでやんす」

250: 4.盗聴機会 2014/04/06(日) 12:01:43.84 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「のりこんって、誰?」

須田「あの店の料理を担当している人でやんす!
   めったに出てこないでやんすけど、あの人のメイド姿においらはいちころでやんす」

スクルメタ「そ、そうなんだ……」

スクルメタ「でも、それなら俺に言わなかった方が良かったんじゃ……」

須田「あっ! わ、忘れろでやんすー!」

 ポカ、ポカ!

スクルメタ「いたっ! だ、大丈夫、狙わないから」

須田「そんなの信用できるかでやんすー!」



祥子「……」

251: 5.再度遭遇 2014/04/06(日) 12:05:06.25 ID:fMl1l5P60
須田「スクルメタ君、今日もあの店に行こうでやんす」

スクルメタ「ええっ、また? 今週末、練習試合あるじゃないか」

須田「たまには気晴らしも必要でやんす」

スクルメタ(うーん、そういうものかな?)

A.いく
B.いかない

252: 5.再度遭遇 2014/04/06(日) 12:08:53.25 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「わかったいくよ」

須田「さすがスクルメタ君! 話がわかるでやんす~♪」

・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「そういえば須田君、どうして俺を誘ったの?」

須田「え?」

スクルメタ「いや、別に行くのが嫌なわけじゃないけどさ、その……のりこんさん?
      その人に会わせたくないなら俺がいないほうがいいんじゃないか?」

スクルメタ「俺がいると須田君ものりこんさんに会えないし」

須田「べ、別に、のりこんはめったに会えないから、
   のりこんと会えるためのポイント集めにスクルメタ君を利用しているわけじゃないでやんすよ?」

スクルメタ(そういうわけだったのか。たしかに前行った時も会計時に須田君が何かしてたな。
      まあ別に俺が損しているわけでもないんだしいいか……あれ?)

 ゴソゴソ

スクルメタ「……ない」

須田「ないって何がでやんすか?」

スクルメタ「財布が……部室に置いてきちゃったのかも。ちょっと取ってくるから先に行ってて」

須田「早くするでやんすよ」

253: 5.再度遭遇 2014/04/06(日) 12:10:30.70 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「いや、今日はいいや。もう少し自主練したいし」

須田「スクルメタ君は練習の虫でやんすねえ。もういいでやんす。おいら一人で行くでやんす!」

 スタスタスタスタ

スクルメタ「さて、素振りでもするか」

・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「ふう、そろそろ終わろうかな……ん? あれはボール?」

 スタスタスタスタ、ヒョイ

スクルメタ「やっぱりそうだ。なおし忘れ……じゃないよな、ずいぶん汚れているし。もう使えそうにないや」

スクルメタ「きっと以前見つけられなかったやつの一つだろうな。捨てるのももったいないし、もらっておこう」

254: 5.再度遭遇 2014/04/06(日) 12:12:26.16 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・・

 ゴソゴソ

スクルメタ「! また部室から物音がする。これはきっと……」

A.祥子だろうな
B.しょこりんだろうな


A
 ガチャ

スクルメタ「おーい、祥子?」

祥子「へ? スクルメタ君!?」


B
 ガチャ

スクルメタ「おーい、しょうこりん?」

祥子「……なんでしょうか、ご主人様」

スクルメタ「じょ、冗談だよ。そんな目で見てくるのはやめてくれ」

 祥子の好感度が2下がった。

255: 5.再度遭遇 2014/04/06(日) 12:15:51.51 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「やっぱりお前だったのか」

祥子「……え、えっとね。これは……」

スクルメタ「安心しろよ。別にお前をどうこうするつもりはない。また叫ばれて先生が来るのはこっちも嫌だし」

祥子「……いいの? 私は泥棒に入っただけかもよ?」

スクルメタ「練習中ならともかく、練習後なんて誰も荷物置いてないところにか?
      まさか野球道具盗みにきたわけでもないだろうし。
      それに、お前が野球部室くるぐらいだ。よっぽどのことなんだろ?」

祥子「ありがとう、スクルメタ君……でもね、野球道具とりにきたことは間違いじゃないよ」

スクルメタ「えっ!? どうして?」

祥子「兄ちゃんの野球道具をとりに来たんだ」

スクルメタ「兄ちゃんって塩谷先輩の? 頼まれたのか?」

祥子「う、うん。そんな感じ。この部室にあると思うんだけど……」

スクルメタ「いや、ないんじゃないかな? 基本引退した先輩たちは道具はちゃんと持ち帰ってるぞ」

祥子「でも家にはなかったし、ここ以外は考えにくいんだけど……」

スクルメタ「じゃあ捨てられたのかもな。ちなみに塩谷先輩が忘れたのって何なんだ? スパイク? グローブ?」

祥子「それは……秘密」

スクルメタ「はあ? どうしてだよ?」

祥子「どうしても、機密事項」

256: 5.再度遭遇 2014/04/06(日) 12:17:33.79 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「……まあいいけどな。お前にもいろいろ理由があるのかもしれないし。
   それよりそろそろ出た方がいいぞ。見回りがくる」

祥子「えっ!? どうして?」

スクルメタ「お前の発言のせいで不審者対策として見回れることになったんだよ」

祥子「そんな……早く見つけないといけないのに」

スクルメタ(自業自得といえば自業自得だけど……)

A.これから一緒に探してやろうか?
B.諦めたほうがいいんじゃないか?


B
スクルメタ「諦めたほうがいいんじゃないか?」

祥子「そう、だよね……これ以上迷惑かけられないし。
   スクルメタ君、前のこととかごめん、そしてありがとう。感謝感激だよ」

 スタスタスタスタ

スクルメタ「これでよかったんだよな……?」

 攻略失敗

257: 5.再度遭遇 2014/04/06(日) 12:21:44.42 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「これから一緒に探してやろうか?」

祥子「ええっ!? い、いいよ、そんなこと……」

スクルメタ「遠慮するなよ。それに俺の都合でもあるし」

祥子「え?」

スクルメタ「もし塩谷が他の誰かに見つかったら問題になるかもしれないだろ?
      それで練習や大会に支障が出たら困るじゃないか」

祥子「あ! ご、ごめん。私そういうこと無神経だったよ」

スクルメタ「そう思うんだったら協力させてくれよ」

祥子「でも私の兄ちゃんは……」

スクルメタ「早くしないと先生来るぞ」

祥子「……」

スクルメタ「……」

祥子「……お願いしてもいいかな?」

スクルメタ「もちろん!」

 祥子の好感度が3上がった。

258: 6~9捜索イベント 2014/04/06(日) 12:24:12.07 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「さて、今日は塩谷を手伝うわけだけど……塩谷、俺って何をすればいいんだ?」

祥子「ええ? 考えてなかったの?」

スクルメタ「ああ。塩谷を手伝うのは思いつきで言ったからな」

祥子「うーん、それじゃあ見張りのほうお願いするよ」

スクルメタ「それだけでいいのか?」

祥子「しかたないよ。探し物について黙っているのは私だし。
   あっ、重い物とかあって動かさないといけないときとかは手伝ってね」

スクルメタ「わかった。で、どこを探すんだ?」

祥子「うーん、あっ、そうだ! スクルメタ君が決めてよ」

スクルメタ「ええっ、俺が!?」

祥子「うん、私が思いつくところはだいたい探し回っちゃったし、スクルメタ君が場所を選んでよ、方針委託」

スクルメタ「えーと、それじゃあ」

A.忘れ物部屋
B.野球部室
C.体育倉庫
D.今日は探さない

259: 職員室隣 2014/04/06(日) 12:28:09.12 ID:fMl1l5P60
A
スクルメタ「今日は職員室のほうに行ってみるか」

祥子「わかったよ。けど、どうして職員室なの?」

スクルメタ「職員室の隣に落し物置かれてる部屋があるだろ?
      あそこにいったものって基本捨てられずに溜められるらしいんだ」

スクルメタ「一応、行ってみたほうがいいんじゃないか?」

祥子「そうだね、合点承知」

・・・・・・・・・・・

 ガサゴソ、ゴソゴソ

スクルメタ「……見つかったか?」

祥子「……見つかったよ」

スクルメタ「そうか……って、ええ!?」

祥子「これがこんなところにあったなんてびっくりしたよ。ほら見てみて」スッ

スクルメタ「こ、これが……」ゴクリ

祥子「うん。これが…………校長先生のカツラ」

 どんがらがっしゃーん!

260: 職員室隣 2014/04/06(日) 12:30:32.81 ID:fMl1l5P60

祥子「あれ? スクルメタ君どうしたの?」

スクルメタ「どうしたはこっちのセリフだ! 塩谷先輩のじゃないのかよ!!」

祥子「そんなわけないよ。さすがに十代でカツラをしている人は少ないよ。
   それに兄ちゃんもスクルメタ君たちと同じで坊主頭だったでしょ? カツラなんて必要ないよ」

スクルメタ「それはそうなんだけど、お前は塩谷先輩の忘れ物探してるんだろ。
     わざわざいらないものを探すなよ」

 探し物の正体を知らないから、カツラを出されたとき通りで言えないわけだと納得しかけたのは秘密だ。

祥子「いらなくなんてないよ! 髪の毛は大事だよ。校長先生今頃カツラがなくて泣いているかも」

スクルメタ「そういう意味じゃないんだが……」

スクルメタ「それと校長のほうはさっきもバレバレのカツラをのせて歩いているのを見たから大丈夫だ。
      おそらくそれはなくしたやつだろ。目をつぶってやれ」

祥子「校長先生の頭がまぶしいから目をつぶれなんてスクルメタ君酷いよ!」

スクルメタ「酷いのはお前だ!! ……はあ、ふざけてるなら手伝わないぞ?」

祥子「ごめんごめん。ちゃんとするよ、捜索再開」

261: 職員室隣 2014/04/06(日) 12:33:21.25 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・

 ガサゴソ、ゴソゴソ

祥子「……なんかこうしているとあのときのこと思い出すね」

スクルメタ「あの時のこと?」

祥子「ほら、一年の頃に私がなくしものをして、放課後の教室を探し回っていたときだよ」

スクルメタ「ああ、そんなこともあったけ」

祥子「あのときもスクルメタ君は私を助けてくれたよね。
   あの後スクルメタ君すぐに練習に行っちゃったから言い忘れてたけど、本当にありがとう」

スクルメタ「どういたしまして……って、別にお礼を言われることじゃないけどな。
      あのときも結局見つけたのは塩谷だったし」

祥子「ううん、お礼を言うことなんだよ。
   だってスクルメタ君の前にも野球部の人たちはいたけど皆帰っちゃったし」

スクルメタ「……」

祥子「あっ、だからって別に悪く言うつもりはないよ。なくしたのは私のものだったし」

祥子「それにあの事件の後だから、しょうがないって感じかな。むしろ何もしてくれてないってだけで感謝だよ。
   恨み言を言われたっておかしくなかないもん」

スクルメタ「……塩谷が悪いことしたわけじゃないだろ」

祥子「うん、そうだね……でも、人ってそう簡単に割り切れないんだよ。割り切れる人はすごいんだよ」

祥子「だからスクルメタ君が一緒に探してくれたことが、普通に声をかけてくれたことが私には嬉しかったんだよ。
   ……ねえスクルメタ君、どうしてあの日一緒に探してくれたのかな?」

A.当然のことだから
B.同じクラスだったから
C.塩谷先輩の妹だったから
D.どうせ自主練習だったから

262: 職員室隣 2014/04/06(日) 12:35:26.44 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「困っていたら助けるのは人として当然だろ」

祥子「……やっぱりそうだよね、うん、スクルメタ君ならそう言うと思ってたよ」

 祥子の好感度が1上がった。


B
スクルメタ「同じクラスなんだし、別に探し物ぐらい手伝ってもおかしくないだろ」

祥子「……やっぱりそうだよね、うん、スクルメタ君ならそう言うと思ってたよ」

 祥子の好感度が1上がった。


C
スクルメタ「塩谷先輩にはお世話になったからな」

祥子「……兄ちゃんのこと、恨んでないの?」

スクルメタ「そりゃ少しは文句はあるけど、それとは話が別だろ。俺にとっては塩谷先輩は今でもいい先輩だったよ」

祥子「……やっぱりスクルメタ君はすごいよ」

 祥子の好感度が3上がった。


D
スクルメタ「あの日はどうせ自主練習だったからな」

祥子「えっ、それだけ……?」

スクルメタ「うん、それだけだけど、なんかおかしいか?」

祥子「う、ううん。やっぱりスクルメタ君だなあって思っただけだよ」

 祥子の好感度が1下がった。

263: 職員室隣 2014/04/06(日) 12:37:58.33 ID:fMl1l5P60

祥子「……私ね、当時転校しようと思ってたんだよ」

スクルメタ「それは野球部に塩谷先輩の件で罪悪感があったからか?」

祥子「うん。自己満足の罪悪感だったけどね、私は本気だったんだよ」

祥子「でもあの日にスクルメタ君に助けてもらってなんとなく転校に乗り気じゃなくなって、
  気が付いたらクラスの野球部の皆がいなくなっちゃった」

祥子「私がずるずる先延ばしにしてたせいで……ごめんね、スクルメタ君」

スクルメタ「塩谷せいじゃない。もし塩谷が転校していたとしても結果は変わらなかったよ」

祥子「うん、ありがとう……でも今はそいうことを言いたいんじゃないの」

スクルメタ「え?」

祥子「……あ、あのね、私がこの学校に残ったのはね、す、スクルメタ君が……」

スクルメタ「俺が?」

祥子「すっ、すす…す……」ボソ

 タタタタタタタタ

教師「スクルメタ! 塩谷! ここでなにをしているー!!」

スクルメタ・塩谷「「わ、わあ!?」」

 この後説教を受けました。

264: 職員室隣 2014/04/06(日) 12:39:55.28 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・・・

塩谷「……あはは、説教されちゃったね」

スクルメタ「あはは、じゃねえよ。塩谷、なんで先生のこと言わなかったんだよ」

 俺たちは監督者不在で落し物部屋にいたということで説教を受けた。
 どうやらあの部屋に入るには事前に先生の許可をとるのと、勝手に持ち物を盗み出さないように先生を一人監督につかせないといけないらしい。
 俺は鍵を取りに、塩谷はあの部屋への入室許可をもらいに別れていたので、俺はそのことを知らなかった。

塩谷「一応聞いたんだよ?
   そしたらあきらかに暇そうな先生に『今日は暇のある先生がいないから別の日にしなさい』って言われて。
   スクルメタ君は野球部の練習で忙しい中手伝ってくれているのに」

スクルメタ「だからってルールはルールだ。
      気持ちはわかるけど、気にくわないからって破っていい理由にはならないんじゃないか?」

塩谷「うん……ごめんね、スクルメタ君」シュン

スクルメタ「……まあ、塩谷は俺のことを気にかけてくれたんだろ?
      いけないことだけど、嬉しかったよ、ありがとう。次も一緒にあそこを探そうな」

塩谷「うん、次こそは校長先生のカツラを持ち帰ってみせるよ!」

スクルメタ「……目的が変わってないか?」

265: 野球部室 2014/04/06(日) 12:44:49.53 ID:fMl1l5P60
>>258

B
スクルメタ「今日は部室を探してみるか」

祥子「わかったよ、合点承知」

・・・・・・・・・・・・・・

 ガサゴソ、ゴソゴソ

スクルメタ「……見つかったか?」

祥子「まだ」

スクルメタ「やっぱりここにはなかったかなあ?」

祥子「うーん、ここが一番可能性が高いはずなんだけど……」

スクルメタ「でもここって荷物がそうあるわけじゃないし、何かあるならすぐに見つけられるはずだけど……」

祥子「もうちょっとだけ探させてよ、延長突入!」

スクルメタ「わかった」

266: 野球部室 2014/04/06(日) 12:50:05.79 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「……なあ、一つ聞いてもいいか?」

祥子「何を? 探し物の正体なら言えないよ?」

スクルメタ「それは知ってるよ。そのことじゃなくてさ」

祥子「私の好み? うーん、兄ちゃんみたいな人かな?」

スクルメタ「いや、それでもない」

祥子「私の性かんた……」

スクルメタ「それ以上は言わせないぞ!」

祥子「グフフ、いやらしいですなオマエら!」

スクルメタ「いやらしいのはお前だ!」

スクルメタ「それになんだよお前のその口調」

祥子「あれ? このセリフしらない?」

スクルメタ「え、何かのセリフだったのか?」

祥子「うん、最終兵器ジナイダってアニメだけど」

スクルメタ「知らないなあ、有名なのか?」

祥子「うん、最近の作品なんだけど、けっこう好きな人も多いらしいよ」

スクルメタ「へえ、まあ雑談寮にはテレビないからなあ」

祥子「大変だね」

スクルメタ「野球に集中するには良い環境だと思うけどな」

267: 野球部室 2014/04/06(日) 12:54:14.01 ID:fMl1l5P60

小波「ところでそのアニメはどんな話なんだ?」

祥子「えっとね、悪の組織にさらわれた少女が改造手術を受けてサイボーグになって」

スクルメタ「あ、わかったぞ! その悪の組織と戦うって展開だろ?」

祥子「違うよ」

スクルメタ「へ?」

祥子「悪の組織の一員として次々人を殺していくの」

スクルメタ「な、なんだって……!? そんなの普通に放送していいのか?」

祥子「さあ? 直接描写はないし、よかったんじゃないかな」

スクルメタ「そういう問題じゃないと思うが……」

祥子「その後はね主人公が次に命令されたところにいくんだけど、そこで家族を知って殺す対象のいる家庭の家族になろうとするんだけど」

スクルメタ「ああ、そこで悪の組織を裏切るのか」

祥子「いや、主人公はちゃんと命令通りに対象を殺したよ、任務遂行」

スクルメタ「……え!?」

祥子「葛藤はあったんだけどね。でも主人公は最後まで兵器であることを貫き通したんだよ」

スクルメタ「……なかなかダークな感じのSFだな」

祥子「SF? 違うよ、ギャグアニメだよ」

スクルメタ「ぎ、ギャグアニメ!? あきらかに設定も展開も暗すぎるじゃないか!」

祥子「なんかアニメの監督がせっかくのギャグアニメだから笑えるほど悲惨なほうがいいって言ったらしいよ」

スクルメタ「……なんてひねくれた監督だ」

268: 野球部室 2014/04/06(日) 12:57:47.98 ID:fMl1l5P60

祥子「ところでスクルメタ君が聞きたかったことってなにかな?」

スクルメタ「あっ、そうだそうだ、忘れてた」

祥子「もう、スクルメタ君から言い出したことなんだからしっかりしてよね! 若年健忘?」

スクルメタ「お前が脱線させるのが悪いと思うんだが」

スクルメタ「聞きたいことはあれだ……塩谷先輩は元気にしているか?」

 ピタッ

スクルメタ(え? 俺何か悪いこと言った?)

祥子「……どうしてそんなこと聞くの?」

スクルメタ「い、いや、別に深い意味はないんだ。
      ただお前が何を探しているのかは知らないけど、もしそれが野球道具ならまたいつか一緒に野球を……」

祥子「死んだよ」

スクルメタ「…………え?」

祥子「兄ちゃんは死んだよ。去年、夏に入る前に。首つり自殺だった」

A.嘘だろ?
B.本当なのか?
C.ごめん

269: 野球部室 2014/04/06(日) 13:00:32.98 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「う、嘘だろ?」

祥子「こんなこと、嘘で言えないよ!」

 祥子の好感度が3下がった。


B
スクルメタ「本当、なのか?」

祥子「……うん」

 祥子の好感度が1上がった。


C
スクルメタ「……ごめん」

祥子「ううん、しかたないよ。スクルメタ君は知らなかったわけだし」

 祥子の好感度が3上がった。

270: 野球部室 2014/04/06(日) 13:02:35.01 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「塩谷先輩はどうして……?」

祥子「罪の意識に耐えられなかったみたい。馬鹿だよね、自分がしたことなのに……」

スクルメタ「そんなこと……」

「……忘れ物をしてしまうとはな、うかつだった」……スタスタ

スクルメタ「あっ、誰か来るかも! 塩谷、急いで逃げろ!」

祥子「う、うん……ってどうしよう。ここから出るところ目撃されちゃったら意味ないよう!」

スクルメタ(あっ……そのこと考えてなかった)

 スタスタスタ

祥子「わわ……き、来ちゃう……!」

スクルメタ「くっ……塩谷、こっちだ!」

 グイッ

祥子「え?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

杏香「あれ? 鍵が開いてる……誰かいますか?」

 シーン

杏香「……鍵の閉め忘れか、不用心だな」

スクルメタ(まさか杏香ちゃんだったとは)

祥子「すすす、スクルメタ君、これは……」コソコソ、ワタワタ

スクルメタ「ごめん。きついと思うけどちょっと我慢してくれ」コソコソ

祥子「い、いや。そうじゃなくて、この体勢は…はうう……」コソコソ、モジモジ

スクルメタ(というか、俺まで隠れる必要なかったな)

271: 野球部室 2014/04/06(日) 13:05:26.85 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・・・

杏香「さて、用事はすんだし、部屋から出るとするか」

スクルメタ「……なんとかやりすごせそうだな」コソコソ

祥子「そ、そうだね、うう……」コソコソ、ドキドキ

杏香「……これはただのひとり言だが、問題が生じて試合に出れなくなるようなことを防ぎたいならもっと考えて行動するべきだな」

スクルメタ・祥子「!!」ビクン!

杏香「それと、鍵のほうをよろしくな」

 ガラッ、スタスタスタスタ

祥子「……ばれてたみたいだね」

スクルメタ「ああ……とりあえずここから出るか」

 キイ、ガチャン

スクルメタ「塩谷、大丈夫だったか?」

祥子「う、うん。大丈夫だよ」

スクルメタ「それならいいんだけど……あれ?
      塩谷、顔が赤いようだけど本当に大丈夫なのか? 熱があるんじゃないのか?」

祥子「そ、それはスクルメタ君が……」ゴニョゴニョ

スクルメタ「ん? 俺がなんかしたか?」

祥子「や、やっぱなんでもない! 私なら本当に大丈夫、元気溌剌だから!」

スクルメタ「そっか? それならいいんだけど……で、どうする? まだ探すか?」

祥子「うーん、ここはもういいかな。それより他探してみるよ」

スクルメタ「わかった」

272: 体育倉庫 2014/04/06(日) 13:10:29.93 ID:fMl1l5P60

>>258
C
スクルメタ「今日は体育倉庫を探してみるか」

杏香「わかったよ、合点承知」

・・・・・・・・・・・

 ガサゴソ、ゴソゴソ

スクルメタ「……見つかったか?」

祥子「まだ」

 ガサゴソ、ゴソゴソ

スクルメタ「……なんとなくここに来たけどさ、ここにありそうか?」

祥子「うーん……正直に言うとね、ここにはないと思うよ」

スクルメタ「やっぱりそうか……って、そうなら早く言ってくれよ!
      可能性が低いならわざわざここを探す必要ないじゃないか」

祥子「それはそうなんだけど、今まで私が探していた場所にはなっかし……それに」

スクルメタ「それに?」

祥子「せっかくスクルメタ君が提案してくれたものだし、断りたくなかったんだよ」

スクルメタ「……それは、俺と塩谷先輩が同じ部活だったから、考えることが似ているとでも?」

祥子「違うよ。スクルメタ君の意見だから、だよ」

スクルメタ(恥ずかしいことを平気で言うなあ。せっかく逃げたのに)

273: 体育倉庫 2014/04/06(日) 13:12:12.49 ID:fMl1l5P60

祥子「それにしてもここは広いね。普段くることないからびっくりだよ」

スクルメタ「まあ授業で使うものだし、だいたいの球技は一式そろっているからな。
      気をつけろよ? 下手に積んである道具崩したらシャレにならないぞ?」

祥子「そのときは分校の弱小校にいって、甲子園優勝を目指すよ」

スクルメタ「お前はどこの野球選手だ」

祥子「えへへ、昨日テレビで特集やってたの見てたんだよ。
   すごいよね、怪我から立ち直っただけじゃなくて甲子園優勝までいくなんて、逆襲球児?」

スクルメタ「まあ、あの人はもとから才能があったからな。
      それでも努力したんだろうし、甲子園優勝なんてすごいことだけど」

祥子「……でもここの野球部も今はそんな感じだよね。
   強かったのに、どんどん人がいななくなって、落ちぶれて……お兄ちゃんのせい、だよね……?」

A.そうだ
B.そうじゃない
C.落ちぶれてなんていない

274: 体育倉庫 2014/04/06(日) 13:15:58.99 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「そうかもな」

祥子「……ごめんね」

スクルメタ「別に謝る必要はないさ。塩谷のせいじゃないんだし」

祥子「……うん」

 祥子の好感度が1上がった。


B
スクルメタ「そんなことない」

祥子「でも、兄ちゃんが……」

スクルメタ「たしかに塩谷先輩のやったことは許されないことだよ。
   けど、他の学校にいった人たちは自分の意志でいったんだ。塩谷先輩は関係ない」

祥子「……うん、ありがとう」

 祥子の好感度が1上がった。


C
スクルメタ「落ちぶれてなんていないさ」

祥子「あっ、ごめん……無神経で。言い方が悪かったよね……」

スクルメタ「そうじゃない。いいか塩谷、俺たちは去年の秋大会で準決勝までいった。
      高校野球知らない人はピンとこないかもしれないけど、それってけっこうすごいことなんだぜ?」

祥子「……本当?」

スクルメタ「もちろん!
      それに今年は甲子園出場候補の一つとして雑誌に載ったことあるし、皆だって本気で甲子園優勝を目指しているんだ。
      そんなチームが落ちぶれいているわけないだろ?」

祥子「……そうだね、頑張ってねスクルメタ君!」

スクルメタ「ああ!」

 祥子の好感度が3上がった。

275: 体育倉庫 2014/04/06(日) 13:18:23.59 ID:fMl1l5P60

 ガサゴソ、ゴソゴソ

スクルメタ「ないか?」

 グラグラ……

祥子「……うん、ここにはなさそうかも」

クルメタ「そうか。悪かったな無駄足を踏まさせて」

祥子「ううん、ここにはないとわかっただけで収穫だよ」

スクルメタ「そういってもらえると助かる。そろそろ戻ってこいよ」

祥子「うん」チョン

スクルメタ(あ! 塩谷の体が積み上げている段ボールに当たった。これは倒れる!)

 グラッ

スクルメタ「塩谷、危ない!」

祥子「え?」

スクルメタ(間に合え!!)

 ガバッ!

 がらがらがらっ!!

276: 体育倉庫 2014/04/06(日) 13:20:35.47 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「っ……塩谷、大丈夫か?」

祥子「う、うん。スクルメタ君は?」

スクルメタ「俺も大丈夫だ。ごめんな急に押したりして」

祥子「き、気にしてないよ。スクルメタ君は助けようとしてくれただけだし」

 急いでいた俺は塩谷を近くのマットへと押し倒し、その上に覆いかぶさるようにして塩谷を守った。
 その結果落下してきたものは全て俺にふってきたが、幸いなことにけがはない。

スクルメタ(しかし段ボールの中身は体育祭用のポンポンだったか。
      当然といえば当然か、重いものは上のほうには積まれないだろうし)

祥子「むしろ嬉しかったというか……」

スクルメタ(それにしてもはやとちりしすぎたな。おかげですりむいてしまった。
      まあ塩谷が怪我をしなくてすんだんだから結果オーライだけど、それよりも……)

 とりあえずの危機はさったが、俺が塩谷に覆いかぶさったままの今の状況は違う意味まずいだろう。
 だが俺は今の体勢上、後ろ側の様子がわからない。
 下手に動いて塩谷がまた危ない目にあったら意味がないのでまず塩谷に抜け出てもらうことにした。

277: 体育倉庫 2014/04/06(日) 13:22:32.62 ID:fMl1l5P60

祥子(はっ、今の状況って……まさか!)

スクルメタ「塩谷」

祥子「ひ、ひゃい!?」

スクルメタ「悪いけど先にどいてもらえると……」

祥子「だ、大丈夫!」

スクルメタ「へ?」

祥子「わ、私はもう心の用意はできてるよ、準備万端!」

スクルメタ「な、なにを……」

祥子「……」スッ

スクルメタ(なんで黙って目をつむるんだ……!?)

 ふんばっているが、体勢的に無理があるせいで筋肉がプルプルと震える。

 体の一部が熱くなってきた。

スクルメタ(これ、もうゴールしていいよね……?)

 ドクン、ドクン

祥子「……」ドキドキ

 ドクンドクン

スクルメタ「……」プルプル

 ドクンドクンドクン……

278: 体育倉庫 2014/04/06(日) 13:24:13.03 ID:fMl1l5P60

 ピンポンパンポーン

毒島『……三年スクルメタ』

スクルメタ・祥子「えっ?」

毒島『至急保健室に来るように以上』

 パンポンピンポーン

祥子「……呼ばれてたね」

スクルメタ「あ、ああ……行ってくる」

スクルメタ(なんとなく助かった気がする)

279: 体育倉庫 2014/04/06(日) 13:27:50.33 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「すみませーん」

毒島「……待ってた。怪我したところ見せて」

スクルメタ「あ、はい」

 塩谷には気付かれないように隠していたけど、ふんばっていたときから熱を持ちはじめた擦り傷からはそれなりに血が流れていた。

毒島「……このぐらいなら記憶を消さなくてすむ」ボソ

スクルメタ(なんか怖いことを言われた気がする……)ドヨーン

・・・・・・・・・・

 シュッ、シュッ、ペタッ

毒島「……これで終わり」

スクルメタ「ありがとうございます」

毒島「……場所は気を付けるべき。もしあの状況を誰かに見られたら、危なかった」

スクルメタ「いや、あれは……って、先生どうして知っているんですか?」

モブB「すみませーん。呼ばれたので来たんですけど……」

毒島「……あなたの治療は終わった。もう行って」

スクルメタ「は、はい」

280: 途中休憩 2014/04/06(日) 13:31:30.33 ID:fMl1l5P60

>>258
D
スクルメタ「今日は……」

 ピピピ、ピピピ

祥子「あっ、私の携帯……ごめん、スクルメタ君。探せないや」

スクルメタ「なにかあったのか?」

祥子「たいしたことじゃないよ。バイトの呼び出しだから」

スクルメタ「バイトの日を忘れてたのか?」

祥子「ううん、そうじゃないよ。お店が忙しいから来られる人は来て連絡受けたんだよ、任意出勤」

スクルメタ「そうか、頑張れよ」

祥子「うん。でもバイトまで少し暇あるし、もう少し話そう。いいかな?」

スクルメタ「ああ、もともと捜索に使う時間だったし。別にいいぞ」

281: 途中休憩 2014/04/06(日) 13:33:18.33 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「しかしいまさらだけど、塩谷バイトしてたんだな。あの店で塩谷と会ったときは驚いたよ」

祥子「私もビックリしたよ。まさかスクルメタ君にメイド趣味があったなんて」

スクルメタ「いや、あれは一緒にいた野球部のやつに連れられて……」

祥子「で、でもね、それくらいなら私は大丈夫だから……」

スクルメタ「何を言っているんだ!?
      ほら、あそこに行ったのは野球のユニフォームのほうが料金安くなるし、他の店だと高くなるんだろ?」

祥子「? たしかにうちの店は野球姿だと料金安くなるけど、他の店行くと高くなるなんてないよ?」

スクルメタ(……須田君め、嘘つきやがったな)

・・・・・・・・・・

 雑談寮の須田の部屋

須田(そういえば、スクルメタ君に嘘だと教えるの忘れてたでやんす。まあいいでやんす~♪)

・・・・・・・・・・

282: 途中休憩 2014/04/06(日) 13:35:38.01 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「ま、まあそれはおいといてさ、どうして塩谷はバイトしてるんだ?
      たしかにここはバイトを禁止されてるわけではないけど、一年のころはしてなかっただろ?」

 ピタッ

祥子「……」

スクルメタ(しまった、地雷だったか?)

祥子「……うん、そうだね」

スクルメタ「い、言いたくなければいわなくていいけど……」

祥子「ううん、大丈夫だよ……あそこでバイトをしているのは私が弱いから……」

スクルメタ「?」

祥子「弱いから家にあまり帰りたくないんだよ」

スクルメタ「どういう意味なんだ? 家に帰りたくないって……」

祥子「深い意味はないよ。事情がいろいろあって家に居づらいだけ」

祥子「あっ、いろいろっていっても、別に私が酷い仕打ちにあってるわけじゃないよ?
   むしろ家族は私に気をつかっていて優しいんだ。本当に、優しい……それがなんか居心地悪くて……」

スクルメタ「……」

祥子「贅沢な悩みだよね」

祥子「家族皆に優しくされていながらそれを居心地悪く思うなんて……スクルメタ君もそう思うよね?」

スクルメタ「……ああ」

祥子「やっぱり、そうだよね……」

スクルメタ「でもしかたないんじゃないか?」

祥子「……えっ?」

283: 途中休憩 2014/04/06(日) 13:38:04.80 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「家族なんて一番気をつかわれたくない存在なのに気をつかわれるとかえって居づらくなるよな」

スクルメタ「しかもそれが相手からの善意だとやめてくれって言い辛いし」

祥子「う、うん……」

スクルメタ「元気に振るまっていてもさ、逆に無理してるんじゃないかと心配されたりして、
      結局いつも通りにして時間が過ぎていくのを待つしかないんだよな」

祥子「スクルメタ君にも経験あるの?」

スクルメタ「まあ一応」

スクルメタ「俺の家、両親いなくてさ、育ててくれている人が授業参観来るんだけどその後いつも優しくされるんだ。
      俺はまったく両親のことなんて気にしてないのにさ」

祥子「そうだったんだ」

スクルメタ「俺の場合は口下手だから野球することで気にしてないってアピールしていたよ」

祥子「……スクルメタ君は強いね」

スクルメタ「そうでもないさ。偉そうに言ったけど、こういうものって今だから言えるだけで、
      当時はただ居心地の悪さに悶々してそのはけ口が野球しかなかっただけだし」

祥子「ううん、強いよ。そうやって弱さを引きづってでも前に進んだのは強い証拠だよ。私なんて……」

スクルメタ「塩谷も同じだろ?」

祥子「え?」

スクルメタ「親に大丈夫だって、平気だってと伝えたい。だからバイトを始めたんだろ?」

祥子「スクルメタ君は私のこと買いかぶりすぎだよ。私は……」

スクルメタ「買いかぶってなんていない。たとえ塩谷が違うって言っても、本当にそう思ったことがなかったとしても、
     心の中に俺の言ったような部分があるはずなんだ。気づいてないだけで」

284: 途中休憩 2014/04/06(日) 13:39:47.92 ID:fMl1l5P60

祥子「どうしてそこまで言えるの?」

スクルメタ「俺の知っている塩谷はそういうやつだからな」

祥子「!」

スクルメタ「まあ一年のころ同じクラスだっただけだった俺が塩谷のことをについて語れる立場じゃないと思うかもしれないけど……」

祥子「そ、そんなことないよ! むしろスクルメタ君が一番知ってるよ! よっ! 私博士!!」

スクルメタ「……フォローしてくれてるんだろうけど、その褒め方はどうなんだ?」

祥子「そ、それなら塩博士!」

スクルメタ「しょっぱそうな博士だな」

祥子「じゃあ女博士?」

スクルメタ「ただの●●●じゃねえか!」

祥子「……あっ、女泣かせ!」

スクルメタ「博士ですらなくなった!?」

 祥子の好感度が3上がった。

285: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:34:10.43 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「さて、今日も探すか」

祥子「ねえスクルメタ君、今日は校長室探してもいいかな?」

スクルメタ「校長室!? そんなところにあるのか?」

祥子「わからない……でもありそうなところは一通り探しちゃったし……」

スクルメタ(たしかに野球道具で可能性がありそうな場所はもうなかったけど……校長室か)

祥子「駄目かな?」

A.いいぞ
B.だめだ


B
スクルメタ「だめだ。野球道具なんだろ? そんなところにはないよ」

祥子「そう、だよね。うん、別のところさがそっか」

 しかし結局塩谷は探し物を見つけることができなかったらしい。

286: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:35:11.48 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「わかった。いくか」

祥子「やったー!」

・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「校長室に来たけど、何か策があるのか?
      さすがに探し物があるんで探させてくださいって言っても通じないと思うが」

祥子「私に任せてよ!」

 コンコン、コンコン

祥子「校長先生、いますかー? 宅配便ですよー」

スクルメタ「なんですぐばれる嘘をつくんだ!?」

祥子「誰にもばれないカツラお届けにあがりましたー」

スクルメタ「声に出してる時点でばれてるから!」

祥子「サービスとしてバリカンつけるので一ヶ月だけでも契約お願いしまーす」

スクルメタ「訪問販売になってる!? って、サービスの内容が悪意ありすぎだろ!」

 シーン

祥子「……どうやらいないみたいだね。よし、入ろう」

スクルメタ「……いたとしても出ないと思うけどな。というか、やっぱり無断侵入かよ」

287: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:36:20.58 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・

 カチャカチャ、ガラッ

祥子「よし、侵入成功」

スクルメタ「……おい」

祥子「なに?」

スクルメタ「この扉、鍵かかってたよな?」

祥子「うん、そうだね」

スクルメタ「なんで開けれたんだ?」

祥子「バイト先で教わったんだよ。なんでも鍵抜けはメイドの嗜みだとか、必須項目」

スクルメタ「ピッキングが必須ってどんなメイドだ! ……はあ、とりあえず隠れる場所を探そうぜ」

祥子「? どうして?」

スクルメタ「さすがに今回は見つかったらマズイからな。出口が一か所しかないここは逃げるのも難しい。
      部室のときのように運よく隠れられるとも限らないし」

祥子「そ、そうだね。部室のときみたいに、はうう……」

スクルメタ「ん? どうかしたか?」

祥子「な、なんでもないよ!」

288: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:38:08.86 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・

祥子「ここの物陰とかどうかな?」

スクルメタ「ああ、いいな。ここなら見つからなさそうだ。でも二人入るにはちょっとせまくないか?」

祥子「そ、そんなことないんじゃないかな?」アセアセ

スクルメタ「まあ、塩谷がいいなら何も言わないけど。
      隠れる場所も決まったし、俺は監視のほうに……」

 スタスタスタ

スクルメタ「早速きたな。塩谷、隠れるぞ」コソコソ

祥子「う、うん」コソコソ

 カチャ、ガラッ

スクルメタ(入ってきたのは校長先生と、教師先生……?)

教師「校長先生、どうしてですか!?」

校長「どうしてもこうしてもない。必要ないからいらないと言っているんだ」

スクルメタ(何の話だ? 校長と先生が言い争っている……ようには見えないな。
      先生が一人でヒートアップしているみたいだ)

教師「必要ないわけないでしょう!
   げんにスクルメタと塩谷の最近の行動は怪しいんですよ! 何かを探しているようですし」

スクルメタ(げっ、俺と塩谷のことがばれてる!?)

289: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:39:53.91 ID:fMl1l5P60

教師「きっと探しているのはあれの資料に決まってます。あれが見つかる前に対処するべきでは?」

校長「それは早合点しすぎではないのかね?
   彼らはれっきとした高校生だ。三年間をこの学び舎を過ごした普通の学生だよ」

スクルメタ(ん? 何の話だ?)

教師「どこかの組織のサイボーグという可能性もあります」

校長「それこそないな。塩谷祥子君はともかく、スクルメタ君は野球部のキャプテンなんだぞ。
   潜入捜査させるにはあきらかに不向きだ。
   だいたい、あれが狙いなら今動く理由はあるまい。二年前の夏の時点で動いてたはずだ」

祥子「!」

スクルメタ(二年前の、夏……?)

教師「……しかし万が一ということもあります」

校長「だから普通の生徒に監視をつけろと言うのかね?」

教師「少なくとも、牽制はしとくべきかと」

校長「ふう、あいかわらず君は頭がかたいねえ」

教師「かたくてけっこうです。もしあれがどこかの組織に渡れば私たちの二年間の努力が無駄になりますから。
   それに……」

 そのとき、塩谷がどんな顔をしていたのだろう。

教師「それに塩谷翔の犠牲も無駄になるんですよ?」

 塩谷翔(しおたに しょう)その名を聞いたとき俺は激しく動揺した。
 なぜならその人は塩谷祥子の兄であるのと同時に、二年前の夏、甲子園決勝を辞退させる理由になったアルコール事件の当事者なのだから。

290: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:41:29.03 ID:fMl1l5P60

スクルメタ(塩谷先輩が、犠牲? どういうことだ……はっ、塩谷!?)

校長「その件については……」

祥子「……どういうことですか」

校長・教師「!!」

 気付けば塩谷は物陰から飛び出していた。

教師「し、塩谷ぃ!?」

祥子「兄ちゃんが犠牲ってどういうことですか……」

教師「ど、どうしてお前がここに……」

祥子「私が聞いているんです!!」

教師「ひぃ!」ビクッ

校長「……」

祥子「教えてくださいよ、先生。兄ちゃんが犠牲ってどういうことなんですか?
   先生たちが兄ちゃんを自殺においこんだ……殺したんですか?」

スクルメタ「塩谷、落ち着け!」

 塩谷の様子が見ていられなくなったので俺も物陰から出る。

291: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:43:22.14 ID:fMl1l5P60

祥子「スクルメタ君? 落ち着いていますよ、私は……だから邪魔をしないでください」

スクルメタ「落ち着いているお前が教師先生をびびらせるほど怒鳴られるわけないだろ。
      それに顔も今まで見たことない表情だ。少なくとも落ち着いている時の顔じゃないな」

 話をすることで時間を稼ぐ。
 先生の言ったことは気になるがとりあえずは塩谷が優先すべきだろう。
 心の準備できていない今の状態ではどんな返事がきても塩谷はきっと受け止めきれない。

教師「こ、校長! やっぱりこいつら……」

校長「君も少し落ち着きたまえ。彼らはきっとここにもぐりこんだだけだろう。どういう事情かは知らないが。
   だが君の考えているようなことではあるまい。彼のことを知らなかったのだから」

祥子「その彼って兄ちゃんのことですか?」

校長「……どうして君たちはここにいるんだね?」

祥子「っ! 私が質問して……」

スクルメタ「塩谷待て。これは交換条件ってことですよね、校長先生?」

校長「好きに思いたまえ。ただし何も言わずにいた場合、今年の野球部はまた甲子園に挑戦する機会を失うかもしれないがな」

スクルメタ・塩谷「!!」

スクルメタ(勘違いしてた。俺たちと校長先生たちの立場は同じじゃない。こっちがお願いする立場か)

校長「さて、どうするかね?」

A.事情を話す
B.話さない

292: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:45:45.23 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「塩谷、話していいか?」

祥子「……うん」

スクルメタ「ごめんな」

祥子「しょうがないよ。スクルメタ君たちが甲子園にいく権利を私のせいで失ってほしくないし」

スクルメタ「塩谷、ありがとう……校長先生、俺たちは探し物をしているんです」

 祥子の好感度が1上がった。


B
スクルメタ(駄目だ! 俺が塩谷を裏切るわけにはいかない)

教師「ど、どうした! 言わないのか!」

校長「……」

教師「校長、やはりこいつらスパイですよ」

校長「そう決めつけるのは早い。
   ……だが、そちらが答えないのならこちらもそれ相応の対処をさせてもらおう」

祥子「……!」

スクルメタ「っ」ギリッ

祥子「……私たちは探し物をしていました」

スクルメタ「塩谷……!?」

祥子「しょうがないよ。スクルメタ君が甲子園にいくのを私が奪う権利はないし」

 祥子の好感度が3上がった。

293: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:48:33.60 ID:fMl1l5P60

教師「探し物だとお!?」

スクルメタ「……はい。先生がおっしゃっていたように俺たちは最近、いろんなところで探し物を探していました。
      けどそれはたぶん、先生たちが隠そうとしているものとは違うと思います」

校長「じゃあ、何を探していたというのかね?」

スクルメタ「それは……」

祥子「ボールです。野球のボール。
   二年前の夏、兄ちゃんが甲子園出場を決めたときのボールを探していました」

スクルメタ(! たしかに二年前、予選決勝で最後のバッターをピッチャーフライに打ち取っていた。
      しかし、まさか塩谷が探していたのはあのウイニングボールだったとは……)

祥子「いままで野球のボールがありそうなところは全部探しました。
   でも見つからなくて、もしかしてここならって思ったんです。
   ここにはいろんな部活の優勝旗やトロフィーがありますし」

教師「そ、それを信じろって言うのか! 証拠もないものを!」

校長「……事情はわかった。それなら君たちがここにいたことにも納得がいったよ」

教師「校長!? まさか、信じるんですか?」

校長「私の判断にケチをつける気かね?」

教師「そ、そんなつもりはないですけど……」

校長「なら黙っていたまえ」

教師「……はい」

294: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:50:59.74 ID:fMl1l5P60

校長「さて、君たち。その件についてだが、残念ながらここにそのボールはないんだ」

祥子「そうですか」

スクルメタ(塩谷が落胆してない……そりゃそうか、ボールより気になることがあるもんな)

祥子「私たちのことは話しました。次は……」

校長「ああ、わかっているよ。だが……」チラッ

スクルメタ(ん? 今、校長は誰を見たんだ?)

校長「今の状況はいささかよろしくないな。
   教師先生、スクルメタ君、悪いが外に出て周りの様子を見張っていてくれないかね?」

スクルメタ「えっ?」

教師「なっ? 校長先生、二人きりになるなんて危険です! もし何かあったら……」

校長「はっはっはっ、心配はいらないよ。
   その場合は死んでも口は割らないし、そのための処置もなされている。

校長「それに君の言うとおり、本当にこの学び舎にスパイがいるのだとしたら、外部からの盗聴にも気を付けるべきではないのかね?」

教師「ぐっ……わかりました。スクルメタ出るぞ」

295: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:52:12.44 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「お、俺は……」

祥子「大丈夫だよ、スクルメタ君。今度こそ落ち着いたよ。
   話を聞いたら後でスクルメタ君に教えてあげる。だからここは私に任せてもらえないかな?」

スクルメタ「塩谷……わかった。信じるぞ」

 スタスタスタ、ガラッ

教師「ちっ、老いぼれジジイめ」ブツブツ、スタスタスタスタ

スクルメタ「あっ、先生どこにいくんですか?」

教師「俺にはまだするべき仕事があるんだよ! 貴様はぼんやりとそこでも守ってろ!」スタスタスタスタ

スクルメタ「行っちゃったよ。勝手な人だなあ……」

スクルメタ「しかたない、俺だけでもここにいるか。塩谷を待たないといけないし」

296: 10.急転直下 2014/04/06(日) 16:53:06.01 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・

 ガラッ

祥子「……」

スクルメタ「塩た、に……?」

 数十分後出てきた塩谷の様子はおかしかった。
 おかしいとは言っても呆然としているとか、●●●目とかそういう感じではない。
 何か悩んでいるように見える。

スクルメタ(怒っているか、少なくとも泣いているとは思ってたけど……)

 予想に反して取り乱してはいなかった塩谷に安心半分、困惑半分。
 とりあえず今日は何も聞かないことにして何かおごってやることに決めた。

スクルメタ「塩谷、もしよかったらさ……」

祥子「スクルメタ君…………ごめん!」

 タタタタタタタ

スクルメタ「えっ? あっ、行っちゃった……何があったんだ……?」

297: 11.衝撃真実 2014/04/06(日) 16:57:29.25 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「塩谷と最近話してないな。
      探し物についても放っておいたままだし。どうしたんだろ……ん?」

 ヒョイ

スクルメタ「これは手紙……?」

手紙『放課後屋上で待ってます 塩谷』

スクルメタ「これは……」

A.あのことについてか
B.告白の手紙だ
C.塩谷らしくないなあ
D.見なかったことにしよう


A
スクルメタ「あのことについてだろうな……よし、放課後行ってみるか」

 祥子の好感度が1上がった。


D
スクルメタ「……見なかったことにしよう。
      これ以上厄介事を抱えてまた野球部が試合禁止処分になったら困るし」

 攻略失敗

298: 11.衝撃真実 2014/04/06(日) 16:58:59.64 ID:fMl1l5P60

B
スクルメタ「告白の手紙だ」ニヤニヤ

須田「スクルメタ君、下駄箱で一人ニヤニヤしてのは気持ち悪いでやんすよ」

スクルメタ「わっ、須田君!? いつの間に?」

須田「丁度今でやんすよ。それなんでやんすか?
   ……もしかしてスクルメタ君おいらを差し置いてリア充になるつもりでやんすか?」ギロッ

スクルメタ「そ、そんなわけないだろ! こ、これはあれだよ……ふ、不幸の手紙さ」アセアセ

須田「それなら良かったでやんす~♪」

スクルメタ(ふう、なんとか須田君をごまかせたぞ……けど冷静に考えるとやっぱりあの日のことだろうな)

 祥子の好感度が1上がった。


C
スクルメタ「塩谷らしくないなあ」

祥子「私らしくないってどういうことかな?」

スクルメタ「いや、塩谷なら手紙でも何か一つぼけてくるんじゃないかって」

祥子「たとえば……『放課後屋上で待ってます。首を洗って待っていてください』みたいな感じかな?」

スクルメタ「そうそう、そんな感じ……って、塩谷!?」クルッ

 シーン

スクルメタ「あれ? 誰もいない……」

 祥子の好感度が3上がった。

299: 11.衝撃真実 2014/04/06(日) 17:01:30.93 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「ふう、屋上まで来たの久しぶりだなあ。
      あれ? そういえば屋上は昼休みしか開いてない気がする」

 ガチャ

スクルメタ「開いた……」

祥子「スクルメタ君、待ってたよ。早くドアをしめて。誰かに見られちゃうよ」

スクルメタ「お、おう」

 ガチャリ

祥子「いやー、それにしても暑いよね。もう七月だよ。そろそろ夏が来るね、夏期到来」

スクルメタ「あ、ああ……ここの鍵を開けたのもお前か?」

祥子「うん、メイドの嗜みだよ」

スクルメタ「だからそんなメイドは普通いないって」

300: 11.衝撃真実 2014/04/06(日) 17:03:04.65 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「それでこんなところに呼び出してどうしたんだよ?」

祥子「ちょっとね……報告しようと思って」

スクルメタ「報告?」

祥子「うん……あっ、ごめんね、最近スクルメタ君を避けちゃってて」

スクルメタ「それはいいけど、わけぐらいは話してくれるんだろうな?」

祥子「もちろんだよ。その前にスクルメタ君、一つ聞いていいかな?」

スクルメタ「なんだ?」

祥子「野球部がなくなったらどうする?」

スクルメタ「えっ?」

祥子「やっぱり困るかな?」

スクルメタ「困る……というか、そんなこと考えたことないな。この学校には野球するために入学したもんだし」

祥子「そうだよね……うん、やっぱり間違ってなかったんだよ」

スクルメタ「何がだよ? さっきから思わせぶりな発言が多いぞ」

祥子「ごめんごめん。今から全部話すよ」

301: 11.衝撃真実 2014/04/06(日) 17:05:47.21 ID:fMl1l5P60

祥子「じゃあまず、スクルメタ君はこの学校のスポンサーがジャジメントだって知ってた?」

スクルメタ「えっと、たしか入学式で聞いたような……」

祥子「ジャジメントはね、ここ以外にもいろんな学校のスポンサーをやってたみたいなんだよ。
   その理由がね……人体実験。
   援助している学校の一部にしあわせ草から作った薬を生徒に服用させていたみたい」

スクルメタ「しあわせ草ってあの違法薬物に指定されているやつか?」

祥子「うん。一応しあわせ草は医療関係に使うことは許されているみたいだけどね。
   でもジャジメントがしていたことはしてはいけないことで、この学校では野球部が実験対象になってたって」

スクルメタ「嘘だろ……俺たち、そんなことした覚えなんて……」

祥子「自覚がないだけだよ。さすがに堂々と薬を使うと問題になるし、なるべくばれない形で摂取させていたみたい。
   例えば、食べ物や飲み物に薬をまぜたりね」

スクルメタ「! もしかして、雑談寮が……?」

祥子「……うん。さすがに個人の摂取量がコントロールできない購買や学食にはなかったみたいだけど」

スクルメタ「でも俺たちにはその薬が……」

祥子「ううん、それは違うみたいだよ。
   私たちが入学する前にジャジメントは解体してここのスポンサーおりちゃったみたいだから、スクルメタ君たちは平気」

 塩谷はそう言ったが喜ぶことはできない。だって俺たちが入学する前ってことは……

祥子「……だけど私たちの一つ上の代、そしてお兄ちゃんたちの世代は手遅れだった」

302: 11.衝撃真実 2014/04/06(日) 17:08:27.19 ID:fMl1l5P60

祥子「二年前に甲子園決勝戦辞退することになったアルコール事件の真相は、ドーピングした選手のいるチームを優勝させないためのカモフラージュだったんだよ。
   そしてお兄ちゃんはその犠牲になった」

スクルメタ「そ、そんなのおかしいだろ! 甲子園の決勝までいかせといて急に、そんな……」

祥子「実験のの真相を知っていたのは理事長とジャジメントから派遣された人たちぐらいで、
  そのほとんどはジャジメントの解体と一緒に消えちゃったから知りようがなかったんだって」

 NIP高校には俺が入学した時から理事長は不在ということになっている。

スクルメタ「校長は?」

祥子「知ったのは野球部が甲子園にいってから。
   それまではジャジメントに野球部のデータを渡すことで援助を受けていたことは知っていたけど、
  それがドーピングの人体実験の結果とまでは知らなかったみたいだよ」

 そういえば先輩たちの頃はやけに運動能力測定みたいなことをさせられるのが多くて、練習ができなかったという愚痴を聞いたことを思い出した。

祥子「ちなみに教師先生はジャジメントから派遣されて来たみたい」

303: 11.衝撃真実 2014/04/06(日) 17:10:31.97 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「事情はわかった。だけどってわざわざどうしてアルコール事件なんて」

祥子「甲子園の決勝だからね。それなりに理由は必要だったんだよ。
   最終兵器ジナイダにもあったセリフだけど、大きな嘘を守るためには小さな嘘をつく必要があるんだよ」

スクルメタ「塩谷先輩はそのことを知っていたのか?」

祥子「校長先生は当時の二、三年の野球部には話したって……確認することはもうできないけど私もたぶん知っていたと思うよ。
   お兄ちゃん気弱だから頼まれたら断れないし、気弱だからあえてかぶった汚名でも罪悪感や自分のしてきた努力の無力感に耐えきれなくて……死んじゃった」

スクルメタ「そんなの校長たちが塩谷先輩の気弱な部分につけこんだことの体のいい言い訳じゃないか。
      お前はそれで納得出るのかよ?」

祥子「納得できるわけないよ!! 納得なんて、できるわけ……!
   ……でもね、私が知るのももう遅すぎたんだよ。全てが終わった後だった」

304: 11.衝撃真実 2014/04/06(日) 17:13:50.53 ID:fMl1l5P60

祥子「……知ってる? この学校、来年にはなくなるんだって」

スクルメタ「えっ?」

祥子「ジャジメントがスポンサーおりてからこの学校はずっと赤字経営だったんだよ。
   ジャジメントの解体と一緒に理事長が消えてから校長は私財を売って借金してまで維持してきたけどもう限界みたい。、
   一応合併ということで他の学校に吸収されるから今の一年生や二年生はそこにいくみたいだけど」

スクルメタ「校長先生はどうなるんだ?」

祥子「合併した後に自首するって言ってたよ。
   それまで私が我慢できないなら告発してもいいって、この学校がしてた違法行為に関する証拠もくれた。
   だから、私がどうしたところでこの学校の寿命を縮めることしかできないんだよ」

スクルメタ(野球部がなくなるってそういうことか……)

 痛々しい笑顔をの塩谷になんて声をかければいいのかなんてわからなかった。

祥子「でもね、私、弱いから怒りが収まらなくて、校長先生から話を聞いてから告発しようかどうかずっと悩んでた。
   悩んで悩んで悩んで……そしたら、過ぎちゃってた」

スクルメタ「……何が?」

祥子「お兄ちゃんの命日。先週末、一周忌だったんだよ」

 塩谷は顔を下に向けて、体を震わせていた。泣いているのかもしれない。

祥子「私ね、野球のボール探していたのはお兄ちゃんの一回忌に供えるつもりだったんだよ。
   せめてお兄ちゃんが一番楽しそうにしていたときの物を置いてあげたかった……でも、私は見つけられなかった」

 でも俺には彼女に何もできない。

祥子「そしたらね、許せないって思ってた気持ちもどんどんなくなっていって、だったらそのままでいいかなって思ったんだよ。
   だって私が行動しても悲しい思いをする人が増えるだけだもん」

 だって塩谷が言わないでいてくれているおかげで野球ができていることに感謝している自分がいるのだから。
 今言ったことが世間の明るみに出たら間違いなく甲子園どころではなくなるだろう。

305: 11.衝撃真実 2014/04/06(日) 17:16:22.14 ID:fMl1l5P60

祥子「だから今日はその報告。
   スクルメタ君、長い話を聞いてくれてありがとう。それとボールを一緒に探してくれて本当にありがとう。感謝感激だよ。
   ……それじゃあね!」

 タタタタタタタ

スクルメタ「あっ塩谷……」

 ガチャ

スクルメタ「……いったか」

 たとえ塩谷がこの場にいたままだとしても俺が気のきいたことなんて言えないだろうからこの別れはある意味よかったのかもしれない。
 俺がこれからするべきことは塩谷に感謝しつつ野球に全力を尽くすことだろう。

 もちろんそれはする。それはするけど、

スクルメタ(……塩谷を放って置くことなんてできない!)

 塩谷に笑顔でいて欲しい。そう気持ちをなんていうのかは知っている。
 おそらく二年前に塩谷の失くしものを探した時だってきっと……

 しかしその気持ちを盾に何をしてもいいのではないとはわかっている。
 塩谷が出した答えに口を出すつもりはない。その資格もない。

 だから俺がやることは……

スクルメタ(塩谷を元気づける。何をしてでも……!)



説明下手なのでまとめ三行
ジャジメントが元スポンサーのNIP高校では人体実験が行われていた
そのことが原因で甲子園優勝は許されず。アルコール事件はカモフラージュ
スポンサーがいなくなったのでNIP高校は潰れることが決定

306: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:19:15.51 ID:fMl1l5P60

スクルメタ(さて、塩谷を元気づけると決めたはいいものの、どうするべきか……)

A.喫茶店に行ってみる
B.物で釣る
C.七夕祭りに誘う


A
スクルメタ「喫茶店に行ってみるか!」

・・・・・・・・・・・・・

 カランカラーン

祥子「お帰りくださいませ、ご主じ……あっ!」

スクルメタ「よ、よう塩谷」

祥子「……誰のことですか? 私はしょこりんですよ?」

スクルメタ「そ、そうだったな。案内頼む」

祥子「かしこまりました」

 ガヤガヤガヤ

スクルメタ(今日は客がなかなか多いな。なんとか隙を見つけて話しかけられればいいんだけど……)

 しかしその日、客のあしはなかなか途絶えることはなく、ようやく落ち着いた頃には塩谷のバイトの時間を終えて帰っていた。

 バッドエンド

307: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:21:37.81 ID:fMl1l5P60

C
スクルメタ「そいえば地元で七夕祭りがあるって聞いたことがあるぞ。誘ってみるか」

 プルルルル、プルルルル

祥子「もしもし」

スクルメタ「もしもし、塩谷か?」

祥子「そうだよ」

スクルメタ「今週の七夕祭り一緒に行かないか?」

祥子「お祭り?」

スクルメタ「ああ、どうかな?」

祥子「……いいよ」

スクルメタ「よかった。じゃあ、祭りの日に」

祥子「うん」

 しかし当日、大雨がふり、七夕祭りは中止になった。

 バッドエンド

308: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:26:00.30 ID:fMl1l5P60

C
スクルメタ「そういえば七月第一週は塩谷は誕生日だっていってたな。
      何かプレゼントしてやれないかな……って、女子に何をプレゼントしたら喜ぶんだ?」

*5週目にボールを拾ってない場合*

須田「おいらに任せるでやんすー!!」

スクルメタ「須田君!? いつの間に……」

須田「細かいことはいいでやんす。それより女の子にプレゼントをしたいならおいらに任せるでやんす」

スクルメタ「い、いや。遠慮しとくよ」

須田「気をつかわないでいいでやんすよ。おいらとスクルメタ君の仲でやんすから」

 ガシッ

スクルメタ「いや、本当に! いいから! やめろー!!」

 その後結局まともにプレゼントを選ぶことはできなかった。
 結果がどうなったかなんて言う必要もない。
 俺は撃沈した。フルーツ(須田)

 バッドエンド


C
スクルメタ「そういえば七月第一週は塩谷は誕生日だっていってたな。
      何かプレゼントしてやれないかな……って、女子に何をプレゼントしたら喜ぶんだ?」

*5週目にボールを拾っていた場合*

 ポロッ

スクルメタ「あっ、前(五週目)に拾ったボールが……あれ? 待てよ。
      塩谷が探していたのってボールだよな。もしかしてこれが塩谷先輩のウイニングボールなのか……?」

A.ボールを塩谷に渡す
B.渡さない

309: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:28:45.18 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「このボールを塩谷に渡そう。
      そうと決まればまずは塩谷を探さないとな。ボールはここに置いて、と。
      よし、行くか!」

・・・・・・・・・・・・・

須田「スクルメタ君に貸した漫画を返してもらうでやんす。
   ん? なんでやんすかこのボールは、ずいぶん汚れているけどなおし忘れでやんすかねえ?
   しかたない。おいらは優しいからスクルメタ君の代わりになおしておいてやるでやんす」 

・・・・・・・・・・・・・

スクルメタ「……塩谷、今日は見つけられなかったなあ。
      しかたない、明日こそ……あれ? ボールがなくなってる…………」ガビーン

 バッドエンド

310: バッドアルバム 2014/04/06(日) 17:31:03.48 ID:fMl1l5P60

祥子「お帰りくださいませ、ご主人様」

 ある日の午後、今日も俺はあの子のもとへと通う。

祥子「今日は何になさいますか?」

 彼女がいなくなってどれくらいたっただろうか。
 俺に何も言わずに学校を辞めたときは心配したが、この喫茶店であっさり見つけたときは少なからず安堵した。

祥子「かしこまりました。少々お待ちくださいね」

 ただそこにいたのは塩谷祥子ではなく、しょこりんだった。
 元気づけることを失敗して以来、俺は塩谷祥子とは一度も話せていない。

祥子「お会計千円になります。ご主人様、後少しでポイントがたまりますので頑張ってくださいね」

311: バッドアルバム 2014/04/06(日) 17:32:11.69 ID:fMl1l5P60

 彼女は自分のことを弱いと言った。そしてそれはたしかなのだろう。
 彼女は弱いからことのなりゆきをを時間に任せることしかできなかったし、その任せた結果さえ受け止めることができなかった。

 だから彼女は逃げたのだ。現実から。
 だから彼女は捨てたのだ。自分自身を。

スクルメタ「後五ポイントか……頑張らないとなあ」

 そしてそれは俺も同じ。
 たとえこのポイントをためて彼女と会ったところで彼女はしょこりんとでしか俺に会ってはくれないだろう。
 それでも、もしかしたら、きっとという言葉を信じずにはいられない。

 人は弱いからこそ希望にすがらないと生きてはいけないのだから。

312: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:34:33.09 ID:fMl1l5P60

>>308
B

スクルメタ「……確証のないものは渡せないよな。それよりも」

 プルルルル、プルルルル

祥子「もしもし」

スクルメタ「もしもし、塩谷か?」

祥子「そうだよ」

スクルメタ「今週の七夕祭り一緒に行かないか?」

祥子「お祭り? どうして?」

スクルメタ「今週誕生日だって言ったのお前だろ」

祥子「覚えててくれたんだ……うん、いいよ」

スクルメタ「よかった。じゃあ、祭りの日に」

祥子「うん」

スクルメタ「塩谷……俺、楽しみにしているから」

祥子「……うん、私も」

 祭り当日。天気予報では雨だったが、幸いにもはずれてくれて、祭りは計画通りに行われた。

祥子「わあ、お店がいっぱいだよ」

スクルメタ「ああ、そうだな。どこから行く?」

祥子「うーんと……あっ、田村さん!」

 タタタタタ

祥子「塩谷!? おい、どこに行くんだ!」

313: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:35:56.84 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・

田村「いらっしゃ……祥子ちゃん?」

祥子「おはようございますですよ、田村さん!」

田村「祥子ちゃん、ここは店じゃないからおはようじゃないよ?」

祥子「あっ、そうでした。では改めてこんばんわですよ、田村さん」

田村「うん、こんばんわ祥子ちゃん」

祥子「まさかここに田村さんがいるなんて思いませんでしたよ。これも料理の勉強ですか?」

田村「そんな感じかな。祥子ちゃんは一人?」

祥子「へっ? いや、ここにスクルメタ君が……あれ? スクルメタ君?」キョロキョロ

 ザッ

スクルメタ「ふう、ようやく追いついた」

祥子「スクルメタ君、私を放っておいてどこに行ってたの?」

スクルメタ「放ったのも、どこかに行ったのもお前だ! その人は?」

祥子「この人は田村さんっていって、私と一緒に働いているんだよ、料理担当」

スクルメタ「そうなのか。初めまして、俺、スクルメタっていいます」

田村「・・・ども」

スクルメタ(あれ? さっき塩谷と話していた時とは雰囲気が違うような)

314: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:37:44.37 ID:fMl1l5P60

祥子「た、田村さん、焼きそば一つお願いしますですよ!」

田村「うん」

 スタスタスタ

祥子「スクルメタ君、気にしないでね。
   田村さんは初対面はとっつきにくいところがあるけど、本当はすごく優しい人だよ」コソコソ

スクルメタ「あ、ああ、嫌われてるわけじゃないんだな。それなら大丈夫」コソコソ

祥子「あっ、でも田村さんを狙っちゃだめだよ? 田村さん、好きな人いるし」コソコソ

スクルメタ「へえ、あんな綺麗な人なのに恋人じゃないんだ」コソコソ

祥子「こ・な・み・く・ん?」キュピーン

スクルメタ「た、ただの感想だから……それより田村さんが好きになった人ってどんな人なんだ?」アセアセ

祥子「田村さんが前にお世話をした人みたいなんだよ」コソコソ

スクルメタ「お世話をした人? なった人じゃないのか?」コソコソ

祥子「うん、田村さんはお世話になったって言ってるけど、話に聞いているかぎりお世話をした人だと思うよ。
   だってその人、社会人なのに就職してないし、田村さんから定期的にご飯をもらってたって言ってたから」

スクルメタ(なんて駄目な大人なんだ……)

315: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:38:54.64 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・

「ハクシュン!」

桃井「ちょっと、あんた大丈夫? 夏風邪?」

「いや、そんな感じじゃないと思うんだけど」

桃井「それならいいんだけど……気を付けてよね。あたしにはあんたが必要なんだから」

「ぴ、ピンク……」ジーン

桃井(看病とか口実つけて漣とかいう女に来られたくないし)

「そ、それならさ、今日の晩御飯にエビフライつくってくれよ! そしたら……」

桃井「めんどくさいから嫌」

「うう……典子ちゃんのエビフライが恋しい…………」ボソ

316: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:41:42.01 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・

准「風来坊さん、気を付けた方がいいよ。
  今回は風来坊さんに向けてじゃないけど、風来坊さんにも当てはまっているんだから。
  いや、風来坊さんはむしろ悪口より悪い状態か」

風来坊「准、唐突に人の心をえぐるのは止めてくれ」

ゆらり「唐突でなければいいんですね。わかりました。
    次までに悪口を言うタイムスケジュール表と台本をつくっておきます」

風来坊「ゆ、ゆらり……それは冗談だよな?」

ゆらり「……」

風来坊「無言はやめてくれ。お前なら本当にしてきそうで怖い」

ゆらり「冗談ですよ。さすがにそんな台本を書いていたら手が腱鞘炎になりかねません」

風来坊「どんだけ俺への悪口があるんだ!?」

317: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:43:21.61 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・

田村「祥子ちゃん、お待たせ」

祥子「ありがとうございますですよ。あれ? 田村さんお箸二つ入ってますよ?」チャリン

田村「えっ、一つで良かったの?」

祥子「へ?」

田村「だってそこの人と一緒に食べるんでしょ? ……もしかして一緒のお箸で食べるの?」

祥子(スクルメタ君と一緒? スクルメタ君と一緒のお箸で食べる……はうう~~~)モジモジ

田村「ごめんね、気付かなくて。私そういうのに疎くて……」

祥子「ち、違いますですよ! こ、これは私一人で食べるやつなんです。
   だって私とスクルメタ君の関係はその……一言で言い表すには難しい、ただならぬ関係であるだけで……」

スクルメタ「間違いではないが、誤解を生むような表現を使うな!」

 その後パニックった塩谷を落ち着かせて田村さんと別れた。

 別れた後に気付いたのだが、塩谷の働いていた店の料理担当って言ってたし、塩谷さんがきっとのりこんなのだろう。
 須田君、ドンマイ。田村さん好きな人がいるってさ。

318: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:44:46.20 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・

祥子「ふう、お店がたくさんあって疲れたよ。でも楽しかったね。満足疲労」

 いくつか露天をまわった俺と塩谷は祭りの会場から少し離れたところにきていた。

祥子「スクルメタ君は七夕のお願い事なんて書いたの? やっぱり、甲子園出場?」

 七夕祭りということで露天の列の途中に願い事を書いた短冊を竹につるしていた神社があった。
 もちろん俺たちはそれに参加し、それぞれ願い事を書いた。

スクルメタ「まあ、似たようなもんだな。塩谷はなんて書いたんだ?」

祥子「私はね、家内安全、無病息災、商売繁盛かな?」

スクルメタ「……その願い事をするのは半年早いんじゃないか?」

祥子「違うよ。遅かったんだよ。一年と半年ぐらい……」

 塩谷はいつものボケを言い、笑顔を浮かべていた。
 だけどそれが本物ではないことぐらいいまさらわかる。

319: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:46:50.02 ID:fMl1l5P60

祥子「……スクルメタ君、お兄ちゃんのことを話していいかな?」

スクルメタ「どうしてだ?」

祥子「スクルメタ君に聞いてほしいから……今日スクルメタ君がお祭りに誘ってくれたのは私に気をつかってくれたんだよね?
   ありがとう、最高の誕生日プレゼントだった」

祥子「……でもね、許してくれるならもう一つお願いしたいことがあるんだよ」

スクルメタ「それが塩谷先輩のことを聞くことか?」

祥子「うん、愚痴っぽい話だし、聞いていても楽しくないかもしれないけど」

スクルメタ「どうして俺なんだ?」

祥子「だって私、スクルメタ君のことが好きだから」

スクルメタ「……」

祥子「……答えてくれないんだね」

スクルメタ「ムードもへったくれもないな」

祥子「あはは、そうだね……ダメかな?」

スクルメタ「愚痴くらいなら聞いてやる」

祥子「ありがとう。やっぱりスクルメタ君を好きになって良かったよ。
   それじゃあ、あつかましいけど愚痴らせてもらうね」

320: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:50:05.05 ID:fMl1l5P60

祥子「何から話そうかな……うん、決めたよ。まずね……」

 痛々しかった笑顔を消した後、二人きりの空間で塩谷はポツリと話し始めた。

祥子「……お兄ちゃんの遺体を最初に見つけたのは私だった」

 隣にいる俺にすらようやく届くほどの音量だっただがそれは聞かれないようにするためではなく、せいいっぱい声を絞り出してその大きさなのかもしれない。

祥子「アルコール事件の後のお兄ちゃんは意外と普通に過ごしていたんだよ」

祥子「普通に大学に入って、普通に野球を続けて、普通に私と会話して……だから気付けなくて」

祥子「……お兄ちゃんが死んだ日はね、私ね、お兄ちゃんをね、起こしにね、いったらね……死んでた」

祥子「前触れもなくて、遺書もなくて、最後にお兄ちゃんとの会話も私は覚えてなくて……」

スクルメタ「もういい。辛いならしゃべるな」

祥子「でも……」

スクルメタ「でももくそもあるか! 俺はお前の愚痴を聞いてやるって言ってやったんだ!」

スクルメタ「いいか、愚痴っていうのはな、自分に起こった不幸を誰かのせいにするために言うんだ!
      お前が言っているのは自分を傷つけるだけの自虐だ! 俺はそんなこと聞くと言った覚えはないぞ!」

祥子「……じゃあ、もう、私が話すことはないや……スクルメタ君、今までありがとうね」

321: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:52:22.97 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「何勝手に終わらせようとしてるんだ?」

祥子「え?」

スクルメタ「お前の話を聞いたんだ。次は俺の話を聞いてくれてもいいんじゃないか?」

祥子「……うん、そうだね。何のお話かな?」

スクルメタ「お前の勘違いについてだ」

祥子「勘違い?」

スクルメタ「ああ、誕生日だからお前を祭りに誘ったのは間違いじゃないが、誘ったこと自体はプレゼントじゃない。
      誕生日プレゼントは他にある」

祥子「でもスクルメタ君、何も持っていないよ?」

スクルメタ「今はないからな」

祥子「今、は……?」

スクルメタ「そうだ。俺はお前にもらった最後のチャンスで甲子園を優勝する。
      そしてそのときのボールをやるよ。それがプレゼントだ。
      見つけられなかった塩谷先輩のウイニングボールの代わりとしてそなえてくれ」

祥子「甲子園を優勝って、できるの?
   私そんなに野球に詳しくないけど、そんなに簡単なことじゃないはずだよね……?」

スクルメタ「たしかに簡単なことじゃないな。けどできる、いや、絶対にやる!
      そのために今まで練習してきたんだ。それとも塩谷は俺を信じられないか?」

322: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:54:16.80 ID:fMl1l5P60

祥子「……どうしてスクルメタ君は私にそこまでしてくれるの? 私がお兄ちゃんの妹だから……?」

スクルメタ「違う。塩谷先輩の妹だからじゃない、お前が塩谷祥子だからだ」

祥子「!」

スクルメタ「勘違いの二つ目だ。塩谷、俺はお前に気をつかってこの祭りに誘ったわけじゃない。
      お前に笑顔でいてほしいから、一緒にいたいから今日は誘ったんだ」

祥子「だ、ダメだよ、スクルメタ君、そんな言い方したら……私、勘違いしちゃうよ…………」

スクルメタ「何を勘違いするんだ?」

祥子「それは、その……スクルメタ君が、私のことを……好きだって…………」

スクルメタ「好きだぞ」

祥子「え……?」

スクルメタ「俺は塩谷のことが好きだ。友人としても、異性としても。
      高校を卒業してからもずっと俺と一緒にいて欲しいと思ってる。それくらい俺は塩谷のことが大好きだ」

祥子「……嘘」

スクルメタ「嘘じゃない」

祥子「だって私の告白には……」

スクルメタ「返事をしていなかっただけだ。断った覚えはない」

323: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:57:28.59 ID:fMl1l5P60

祥子「でも何も言ってくれなかった」

スクルメタ「好きだけど……今の塩谷とは付き合いたくないんだ」

祥子「?」

スクルメタ「だって今の塩谷は俺に気をつかっているじゃないか。
      負い目を感じて、気丈にふるまって、弱さを隠して……そんな塩谷と俺は付き合いたいわけじゃないんだ」

祥子「で、でも、私は……」

スクルメタ「なあ塩谷、俺って実はわがままなんだ。野球と、塩谷。どっちか一つってなんて、俺には選べない。
      だけど塩谷には俺と塩谷先輩のどっちかを選ぶとき俺を選んでほしいんだ」

祥子「……選んだよ、私はスクルメタ君を選んだよ! だから……!」

スクルメタ「違う、お前は選んでなんていない。逃げたんだ。
      俺からも、塩谷先輩からも逃げて、時間が経つのを待って、どっちにも良い顔をして、自分を傷つけていただけだ」

祥子「じゃあ、お兄ちゃんのことは忘れろっていうの?」

スクルメタ「ああ、そうだよ」

祥子「ひどい……ひどいよ、スクルメタ君……」

スクルメタ「なんとでも言えよ。
      どんなに大切な思い出だろうとそれが辛い思いしかさせないのなら、その辛い思いを受け入れる強さがないのなら俺は忘れるべきだと思う」

324: 12.青春贈与 2014/04/06(日) 17:58:45.25 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「……でもな、それでもお前が塩谷先輩を忘れたくないなら、俺にも背負わせろ」

祥子「え?」

スクルメタ「辛いことや悩み事があったら自分を傷つける前に俺に話せ。
      自分のことを弱いっていうのなら、一人で抱え込もうとするなよ」

祥子「でもそしたらスクルメタ君に重荷が……」

スクルメタ「そのくらい背負ってやるさ。お前のためならな」

祥子「……」

スクルメタ「だから塩谷、約束してくれないか?
      俺が甲子園を優勝して、ウイニングボールを渡したら俺を、俺だけを見てくれるって。
      告白の返事はそのときに聞くよ」

祥子「…………うん、わかったよ」

325: 13.奉仕精神 2014/04/06(日) 18:01:42.95 ID:fMl1l5P60

 グラウンド

スクルメタ(塩谷を元気づけるまではいかなかったけど、つなぎとめることには成功した。
      正しかったのかはわからないけど今の俺が甲子園優勝するだけだ。よーし! 頑張るぞ!!)

 ダダダダダダ

スクルメタ「ウオオオオオオ!!」

 ブン、ブン、ブン。パシッ、パシッ、パシッ!

・・・・・・・・・・・・

 校舎

祥子「あっ、スクルメタ君……」

スクルメタ『ウオオオオオオ!!』

祥子「…………………………」

・・・・・・・・・・・・

 喫茶店

祥子「はあ……」

モブ店員「祥子、これ14番テーブルにお願い」

祥子「……」

モブ店員「祥子?」

祥子「あっ……は、はい! すみません!」

田村「……」

・・・・・・・・・・・

326: 13.奉仕精神 2014/04/06(日) 18:03:11.86 ID:fMl1l5P60

祥子「お待たせしました。こちらがご注文の……」

准「久しぶり、祥子。元気にしてた?」

祥子「じゅ、准さん!?」

准「そうだよ、私だよー。他に誰か見えた?」

祥子「そ、そういうわけじゃないですよ……お久しぶりです、准さん」

准「久しぶり。メイド術を教えて以来かな?」

祥子「その節はお世話になりましたですよ。准さんは今日はどうしてここに?」

准「宇宙開発チームの活動が一段落からね。ちょっと一息つきにきたんだよ」

祥子「そうですか……早く、完成できるといいですね」

准「早さよりも納得のいくものをつくりたいかな。もちろん早く完成させるにこしたことはないけど。
  次の火星への定期便に間に合わせないと少年の帰投に私のデザインした宇宙服を着てもらえなくなるし。
  焦ってはいないけど、結構忙しい毎日だね」

祥子「そう言っているわりには、准さん楽しそうです」

准「まあね。他の人から見たら枯れてるって思われるかもしれないけど、私的には充実していると思っているかな。
  大変だとしてもやりがいのあることをできているなら楽しいに決まってるよ」

祥子「そう、ですよね……」

准「それにストレス解消用のサンドバッグ(風来坊)もあるしね」ニヤリ

祥子「……」

准「……はあ、これはたしかに重症かな」ボソ

327: 13.奉仕精神 2014/04/06(日) 18:04:46.42 ID:fMl1l5P60

准「ねえ、祥子のほうは最近どうなの?」

祥子「わ、私ですか? ……ふ、普通ですよ、普通。
   もう普通すぎて毎日がエブリデイみたいな感じですよ!」

准「ふーん」

祥子(あっ、流された……!)

准「まあそれはいいとしてさ、祥子はどうして私を見たとき慌てたのかな?」

祥子「!」ギクッ

准「……もしかして私が教えたメイド術をつかって何かした?」ジト

祥子「そそそそ、そんなことあるわけないですよ」アセアセ

准「……まあ、祥子なら使うことはあっても悪用することはないと思って教えたから別にいいんだけどね。
  それより祥子、そっちに座ってちょっと私とおはなししない?」

祥子「い、いえ、仕事がありますし……」

328: 13.奉仕精神 2014/04/06(日) 18:06:16.48 ID:fMl1l5P60

田村「それなら大丈夫」

祥子「……へ?」

田村「私が代わりにフロアに出てるから」

祥子「た、田村さん!? ど、どうしたんですかですよ!?」

田村(准さん、祥子ちゃんのことよろしくお願いします)チラッ

准(はいはい、准お姉さんに任せておきなさい)コクリ

 スタスタスタ

祥子「あっ、田村さん……」

准「典子の許可も出たことだし、祥子はそっちに座ったら?」

祥子「う……は、はい……」オズオズ

329: 13.奉仕精神 2014/04/06(日) 18:07:51.18 ID:fMl1l5P60

准「さて、時間はあるからゆっくり話そうか」

祥子「わ、わりませんからね!」

准「ん?」

祥子「わ、私は准さんにメイド術の口撃を教わりました。対策はもうバッチリですよ!」

准「ほほー」

祥子「だから以前の私のように口をわらそうとしても……」

准「へえー、祥子は私に勝てるつもりなんだ。
  ……半人前のくせに師匠に勝てるとでも?」

祥子「ヒイッ!」ビクビク



田村「お待たせしました。ご注文のコーヒーになります」

須田「の、のりこんでやんすー! やったでやんすー! おいらは勝ち組でやんすー!」

田村(祥子ちゃん、私はこんな形でしか手助けすることできないけど、頑張って)

330: 13.奉仕精神 2014/04/06(日) 18:10:12.64 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・

准「なるほど、そんなことがあったんだ」

祥子「はい……准さん、私どうしたらいいんでしょうか……?」

准「……」

祥子「スクルメタ君に好きだって言ってもらえて、両思いだとわかって、私本当に嬉しかったんです。だけど私は……」

准「……どうにでもしたら?」

祥子「え?」

准「どうしたらいいって聞いたからね。答えてあげるよ、どうにでもしたらいいんじゃないかな?」

祥子「それってどういう……」

准「どういう意味もないよ。そのまんま。
  祥子が私に答えを丸投げしたから、私も祥子に投げ返しただけ。おかしい話じゃないでしょ?」

祥子「……そう、ですね」

准「私は当事者じゃないからね、責任の取れないことは言えないよ。
  だいたい、私が何か言ったら、その通りにしてたの?」

祥子「それは……」

准「しないでしょ? だったらどうしたらなんて軽々しく聞いちゃだめだよ」

331: 13.奉仕精神 2014/04/06(日) 18:12:03.02 ID:fMl1l5P60

祥子「でもスクルメタ君かお兄ちゃんのどっちかを選ぶなんて私には……」

准「そのどっちかで悩む必要はあるの?」

祥子「え?」

准「そのスクルメタ君って子が言ったんでしょ、『俺にも背負わせろ』って。
  だったら祥子が悩むべきは彼にも背負ってもらうか、あんたがいい顔をするために二人ともから逃げるかの二択じゃないの?」

祥子「でもそしたらスクルメタ君に負担が……」

准「スクルメタって子なら大丈夫だよ。祥子はまだわからないと思うけど、夢を持った人間は強いんだから。
  たとえ立ち止まったり、やめようかなって思うときがあっても、誰かの頑張れの一言で前に進めるんだよ」

祥子「……准さんの強さも夢を持っているからですか?」

准「……そうだね。夢を持っているから私は強いよ。
  私には手が差し伸べられることはなくても、頑張れって言ってくれる人もいるし。
  その一言で私はどこまでも頑張れるんだよ……たとえそれが強がりだとしても」ボソ

 思わず出た女性の最後の呟きは幸いにも少女に聞き取られることはなかった。

332: 13.奉仕精神 2014/04/06(日) 18:13:48.95 ID:fMl1l5P60

准「まあ、話を聞いただけの想像だから、スクルメタって子を過大評価しているかもしれないけど」

祥子「そ、そんなことありません!
   スクルメタ君は准さんに負けないくらい……いえ、准さん以上に強い人ですよ!」

准「へえー、私以上に強い人なんだ~。会ってみたいなあ、会ってみようかな~?」

祥子「……あ、あの、准さんよりとは言い過ぎました。准さんの次ぐらいかもですよ」

准「それくらいスクルメタって子を信じられるなら答えはもう出ているんじゃない?」

祥子「……」

准「この後は一人で好きなだけ考えて、悩んで結論を出すべきかな。
  最後に祥子言っておきたいことがあるんだけど」

祥子「な、なんでしょうか……?」

准「メイドの教えを忘れてない?」

祥子「メイドの教え……ですか?」

准「うん。メイド術を教える最初に言ったでしょ?
  メイドさんにはご主人様に仕える健気な心と、涙なしでは語れない背景が自動的に設定されてるって」

333: 13.奉仕精神 2014/04/06(日) 18:14:44.14 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・

風来坊「!」ゾク

維織「どうかした……?」

風来坊「い、いや、なぜか健気という言葉が黒く染まった気がして」

・・・・・・・・・・

「!」ゾク

紗矢香「……おにいちゃん、どうしたの? 大丈夫?」

「だ、大丈夫さ。紗矢香は健気だなあ……健気だよな……?」

334: 13.奉仕精神 2014/04/06(日) 18:16:24.67 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・

祥子「は、はい……たしかに教わりましたですよ」

准「あれはメイドとして相手に尽くすために教えたのに、今のあんたは逆に尽くされ過ぎてる。
  メイドとしては失格かな」

祥子「そ、それはそうですけど……」

准(まあメイドの教えなんてその場のノリで適当に考えただけなんだけどね)

祥子「でもどうして返したら……」

准「そこも自分で考えるべきじゃない? 今ここでスクルメタって子を一番知っているのはあんたでしょ?」

祥子「……」

准「さて、そろそろ私はいくね。いくところもあるし。次会うときはいつもの笑顔でいてほしいかな。じゃあね」

 スタスタスタ

祥子「……准さん」

 ピタッ

准「何?」

祥子「お願い……ううん、うまいお話があるんですが、聞いていかないですか?」

准「……へえ、祥子そんな目もできるんだね。いいよ、ちょっとだけ延長させてあげる」



 ざわざわ、ざわざわ

須田「……なんかお店の一角からどす黒いオーラが噴き出ているでやんす」

335: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:19:04.49 ID:fMl1l5P60

スクルメタ(今週は準々決勝から決勝まで試合がある……山場だな)

 夏大会が始まって数週間が経った。
 もともとこの夏に照準を合わせていたおかげもあって、NIP高校は破竹の勢いで勝ち続け、残るは去年の秋に負けた高校にリベンジをはたしていくだけである。

スクルメタ「今日はもう帰るとするか……あれ? 部室に誰かいるのか?」

 この日も試合があり、その後は休みとなっていたのだが、俺はどうにも落ち着けず、学校で一人練習をしていたのだが、なぜか部室から電気が点いていた。

 ガチャ

スクルメタ「おーい、誰かいるのか?」

祥子「……」

スクルメタ「し、塩谷!? ど、どうしてまたここに……」

祥子「……き」

スクルメタ「き?」

祥子「キャー!!」

スクルメタ「ええっ!?」

336: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:20:36.31 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・

 塩谷が叫んだことによって、俺たちはまた職員室に呼び出しをくらうことになった。
 もう夜のとばりが落ち始めていたせいか、そこには俺と塩谷、そして教師先生以外は見当たらない。

教師「またお前らか……今度はいったい何をしたんだ?」

 イライラを隠そうともせず先生は俺らをにらむ。
 だが、今回も俺にはまったくどういうことかわからないのだ。何も言えるわけがない。

祥子「じ、実は、不審者を見つけて」

 そんな中、塩谷はあの日と同じ口調でしゃべり始めた。

教師「それはおかしな。前の一件はお前のでっちあっげだと聞いたが」

祥子「今度は本当です!」

教師「そこまで言うなら、その不審者について教えてもらおうか。
   なんなら似顔絵を描いてもいいぞ? 描けるものならな!」

337: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:21:59.93 ID:fMl1l5P60

スクルメタ(塩谷、どうするんだ?)

 前回のときと同様に俺が来たから塩谷は悲鳴をあげたのだ。もちろん塩谷以外は誰もいなかった。
 だから似顔絵なんか描けるはずないと思ったのだが、

祥子「似顔絵なんて必要ありません。名前もわかってます。だって不審者の正体はこの学校の人だから」

 塩谷は自信満々にそう言った。

スクルメタ(あれ? 塩谷の口調が変わってる?)

 いつも俺と話すときとは違うのは当然だが、そうじゃなくても今の塩谷のしゃべりかたはいつもの塩谷らしくないと思った。

教師「……ほお、なかなか興味深いことを言うじゃないか塩谷。
   ではもちろんその人物を教えてくれるんだろうな?」

祥子「はい……というか、不審者は目の前にいます」

教師「はあ?」

祥子「不審者はあなたのことです。教師先生」

スクルメタ(ええっ!?)

338: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:23:27.98 ID:fMl1l5P60

教師「……ふざけているのか、塩谷?」

 先生はイライラを通り越してあきらかに怒りの様子だったが、塩谷は変わらず飄々としていた。

祥子「ふざけてなんかいませんよ。大真面目です。ね、校長先生?」

 スッ

校長「……ああ」

スクルメタ(! いつの間に……)

教師「こ、校長!? どうしてここに……いやそれよりも校長、こいつら……」

校長「……諦めたまえ。君のことに関して調べはもうついている」

教師「は、はあ……?」

校長「ジャジメントから派遣された君がどうしてジャジメントがなき今もここに残っているのか不思議だった。
   だがまさか、生徒を売っていたとはな」

教師「こ、校長、何を吹き込まれたが知りませんけどまさかこんなガキの言うことを信じるんですか?」

祥子「そのガキと呼んでいる人たちのデータを売りさばいたのはどこの誰ですか!!」

 そのとき一瞬見せた怒りは何よりす塩谷の気持ちを表していたと思う。

339: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:25:34.83 ID:fMl1l5P60

祥子「……教師先生、あなたが実験体とした人たちのデータをお土産に他の組織に取り入れようとしているのは知っているんですよ。
   そして、まだこの学校にいるのも、歴代最強と呼ばれたお兄ちゃんたちの世代のデータを手に入れるためでしょう?」

教師「で、でたらめだ! どこにそんな証拠がある!」

祥子「それはフラグですよ。証拠ならここに。見せてあげますよ。もちろんこれはコピーですが」パサ

 塩谷が渡した書類の束を教師はおそるおそる読み始める。
 そして読み進んでいくごとに教師の顔色が悪くなっていく。

校長「君の隠し事は薄々気付いてはいた。だが、このような結果になったのは残念だ。
   私としては勘違いであってほしかったがね……」

スクルメタ(あのとき(10週目)校長先生が見てたのは教師のことだったのか……)

教師「どうしてだ……どうして貴様のような小娘が俺のことを……」

祥子「伝説の情報屋」

教師「!」

祥子「私はたしかに小娘ですけど、どうやら周りの人たちには恵まれているみたいなんです」

教師「……」

祥子「他に何か弁解はありますか?」

教師「……はは、伝説の情報屋相手ならさすがにねえよ……だがな、いいのか校長?
   貴様が俺を疑ってでもこの学校に置き続けたのはそれ以外手がなかったからだろう?
   逃げた連中の残した実験の後処理、俺がいなくなったらお前一人でどうやってするつもりだ?」

340: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:26:46.91 ID:fMl1l5P60

祥子「それなら大丈夫です。
   NOZAKIグループから人を派遣してもらうことをお願いしましたから」

教師「……はあ?」

祥子「理解力の乏しい人ですね。もっと簡単に言ってあげましょうか?
   教師先生、あなたはもう必要ないんですよ」

スクルメタ(し、塩谷の後ろから暗黒のオーラが見える……)

教師「学校が潰れる前に俺を追い出すつもりか? そんなことして何の得がある、自己満足か?」

祥子「潰れる? ああ、ちなみにNOZAKIグループにはこの学校のスポンサーについてもらうことになりました。
   ですから、潰れるなんてことはありませんよ。ご心配なく」

 塩谷との付き合いを少し考え直そう。真剣にそう思った。

教師「なに!?」

祥子「だからあなたは後腐れも残さず出ていってくださいね、せ・ん・せ・い?」

教師「…………くそ…きが」

スクルメタ(ん? 教師の様子がおかしいぞ?)

教師「こっの、くそがきがー!!」

スクルメタ(あっ! 教師が塩谷のほうにつっこんだ!?)

A.塩谷をかばう
B.先生に突撃する

341: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:27:58.76 ID:fMl1l5P60

A
スクルメタ「塩谷! 危ない!!」バッ

祥子「えっ!? スクルメタ君!?」

教師「うおおおおおおおおお!!」

 グサッ!!

スクルメタ(ぐっ……あれ? 痛みがないぞ?)

祥子「准さん直伝!! しゃがみ足払い!」

 ガスッ、ドガッ!

祥子「アーンド、スタンガン!!!」

 ビリビリビリ

教師「ぎゃああああああ!!」バタリ

スクルメタ「……やったのか?」

祥子「……ううん、あいうち……かな」ガクッ

スクルメタ「塩谷!? お前……血が!」

祥子「これは……メイドの私でも、ちょっと……まずいかな……」

スクルメタ「校長先生! 早く救急車を!!」

校長「あ、ああ……」

 スタスタスタスタ

342: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:29:35.66 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「塩谷、塩谷!!」

 ギュウ

祥子「痛いよ、スクルメタ君……でも、良かった……スクルメタ君を守れて。
   これで……ようやく、メイドらしいこと……できたかな?」

スクルメタ「こんなこと普通のメイドはしねえよ! ……どうして、どうして俺をかばったりなんかしたんだ!」

祥子「だって私、弱いから……弱いから、好きな人が……傷つくのは……たえられないんだよ…………」

スクルメタ「弱くない! お前は弱くなんてない……だから……!」

祥子「え、えへへ……うれしい、なあ……スクルメタ君……に……つ、よい……って」

スクルメタ「もういい、もうしゃべるな!」

祥子「……く、ん…………だ、い……す……き…………」ガクン

スクルメタ「しお、たに……? 嘘だろ……? 塩谷……塩谷――!!」

 それから後のことは覚えてない。
 葬式の後も塩谷が死んだこと……いや、俺が殺したことを受け止めることはできなかった。

 ビターエンド

343: ビターアルバム 2014/04/06(日) 18:33:56.85 ID:fMl1l5P60

准「君がスクルメタ君?」

 何度目かわからない塩谷の墓参りを繰り返したある日、俺は一人の女性に出会った。

スクルメタ「……あなたは?」

准「私の名前は夏目准。祥子の師匠であり、あの子をNOZAKIに紹介した張本人。
  いわば、間接的に祥子を殺した人だよ」

スクルメタ「……」

准「へえ……怒らないんだ」

スクルメタ「塩谷を殺したのは俺ですから。
      ……それに、そういう相手を許すのを強さっていうんじゃないんですか?」

准「……そうかもね」

 女性といれかわるように俺は祥子が眠る墓地をあとにする。
 その途中、墓地から誰かの泣くような声が聞こえた気がするけど気のせいだろう。

 俺は塩谷が亡くなってから一度も泣いていない。
 泣いたところで死者はよみがえらないし、泣くことは弱さを意味するのだから。
 最後まで俺を強いと信じ続けた彼女のためにも泣くわけにはいかない。

スクルメタ「これが強さなんだよな、塩谷……」

 年々塩谷の死を受け入れられるようになり、俺は強くなっていくのを実感する。
 ただどうしてだろうか。年々塩谷との思い出が薄れていくのは。

344: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:35:33.48 ID:fMl1l5P60
>>340

B
スクルメタ「ウオオオオオオ!!」

教師「なっ!? じゃ、邪魔だー!!」

 グサッ!!

スクルメタ「ぐっ」ガクッ

祥子「スクルメタ君!? よくも、スクルメタ君を!!」

 ゴウッ

祥子「准さん直伝!! しゃがみ足払い!」

 ガスッ、ドガッ!

祥子「アーンド、スタンガン!!!」

 ビリビリビリ

教師「ぎゃああああああ!!」バタリ

スクルメタ「……やったのか?」

345: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:37:47.75 ID:fMl1l5P60

祥子「しゃ、しゃべっちゃだめだよ、スクルメタ君! ナイフで刺さされたんだよ!?」

スクルメタ「ああ、それなら大丈夫だ」スクッ

祥子「え? どうして?」

スクルメタ「これが守ってくれた」スッ

祥子「それって、野球ボール?」

スクルメタ「ああ。以前(5週目)にこれを拾っててさ、それをずっと持っていたら、ナイフがそこに来て助かったんだよ。
      まあそれでも突きの威力でだいぶ痛かったけど、怪我はないから」

祥子「……本当?」

スクルメタ「ああ、見ての通りピンピンしてるだろ? まあボールのほうは完全に駄目になったけど」

 ペタン

スクルメタ「お、おい、どうしたんだよ塩谷。急にすわりこんで」

祥子「……良かった」

スクルメタ「へ?」

祥子「良かった……スクルメタ君が無事で……本当に、良かった…………!」

スクルメタ「……心配してくれてありがとうな、塩谷」

346: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:39:36.90 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・・・

 それから俺たちは警察に連絡し、気絶している間に縄でしばった教師を引き渡した。
 もちろん事情聴取されたものの、未成年ということで校長先生が主に担当してくれることになり、俺たちはすぐに帰路につくことが許可された。

祥子「スクルメタ君、今日はごめんね。危険なことに巻き込んじゃって」

スクルメタ「まあ怪我人も出なかったし、結果オーライだな。
      それより塩谷があんなに強かったなんてびっくりしたよ」

祥子「まあね。でもメイドとしてはまだ師匠には程遠いんだよ?
   気配の消してくる人相手だとまだまだ遅れをとるし」

スクルメタ「気配を消す人と相手するのはメイドのすることじゃないと思うが……」

347: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:41:31.44 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「もしかしてさっきの塩谷のしゃべりかたもその師匠に習ったのか?」

祥子「そうだよ。口で戦うときは感情を出すといけないからね。
   まあ途中で破っちゃったけどね」

スクルメタ「ならあの挑発するような言い方もわざとだったのか?」

祥子「うん。教師先生の性格上素直に引いてくれるとは思わなかったからね。
   教師先生が会話でボロを出すように仕向けるつもりだったんだけ、誘導失敗」

スクルメタ「まあ追い詰められた人間がどうとるかなんて俺たちがそうそう予測できるものでもないしな」

祥子「一応、逆上されたときの切り札としてスタンガンは持ってたんだけど、まさかスクルメタ君まで突っ込んでくるなんてさすがに予想外だったよ」

スクルメタ「結局、ただのいらないお節介だったけどな」

祥子「ううん。私を助けようとしてくれたんでしょ?
   前にも言ったけど、スクルメタ君のそういうところが私にとって嬉しいんだよ」

スクルメタ「それなら頑張ったかいはあったな」

祥子「あっ、でももう二度とあんな無茶をしたらダメだからね!」

スクルメタ「それくらいわかってるさ」

祥子(本当かなあ……)

348: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:43:40.83 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「ところでさ、NOZAKIグループが学校のスポンサーについてくれるって本当なのか?」

祥子「それは……」

スクルメタ「……嘘なのか?」

祥子「ううん、半分嘘で半分本当。NOZAKIの偉い人とお話ししてスポンサーになってもらえないか頼んだんだ。
   そしたら条件があるって」

スクルメタ「条件?」

祥子「……NIP高校の野球部が甲子園で優勝すること。
   NOZAKIも企業だから慈善だけじゃスポンサーにはなれないって」

スクルメタ「まあそれくらいは当然か。いや、むしろ望むところだな。やることは変わってないし」

祥子「うん、スクルメタ君ならそう言ってくれると思ったよ」

スクルメタ「……」

祥子「ん? どうかしたかな?」

スクルメタ「いや、変わったなって思ってさ。
      ちょっと前の塩谷だったら甲子園を優勝するなんて条件じゃなくて、自分を犠牲にする条件にしてたと思うからさ」

祥子「……そうかもね」

349: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:44:54.97 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「何かあったのか?」

祥子「うん、ちょっとね……それに私は決めたから」

スクルメタ「決めたって、何を?」

祥子「スクルメタ君にいろいろ背負ってもらうことだよ。
   甲子園優勝の約束から、この学校の未来、そして私の弱さも……」

スクルメタ「それは大変だな」

祥子「大変だよ……でも、スクルメタ君なら背負ってくれるよね?」

スクルメタ「……いや、まだ足りないな」

祥子「えっ?」

スクルメタ「塩谷はまだ俺を頼りきっていないだろ」

祥子「そ、そんなことないよ! スクルメタ君には充分に……」

スクルメタ「だって塩谷は俺の前で泣いてないじゃないか」

350: 14.茶番騒動 2014/04/06(日) 18:46:00.03 ID:fMl1l5P60

祥子「! い、意外にスクルメタ君ってSなんだね。私の泣き顔をみたいだなんて。でもそのくらいなら……」

スクルメタ「どうせ塩谷先輩が死んでから泣いてないんだろ?」

祥子「…………どうして……?」

スクルメタ「家族の死んでいる姿なんてその場で見て泣けるもんじゃないしな。
      塩谷先輩が亡くなったって理解したころは家族を心配させないために泣かなかったんだろ?」

祥子「……」

スクルメタ「そして一周忌でもお前は泣けなかった……ボールが見つけられなかったもんな」

祥子「……ぐす」

スクルメタ「だから泣けよ、塩谷。俺を信じて背負わせるってそういうことだぞ」

祥子「う、う……う…………うわああああああああ」

 ダキッ

祥子「わああああああああん!!」

スクルメタ「……よし、これでようやくお前の弱さを背負えた。見てろよ、俺は必ず甲子園優勝するからな!」

351: 15.塩谷エピローグ 2014/04/06(日) 18:47:35.21 ID:fMl1l5P60

スクルメタ「やった! 勝ったぞ! これで甲子園だ!」

 その後も俺たちは破竹の勢いで勝ち進めた。
 そして、

スクルメタ「……やった。やったぞ! 甲子園優勝だー!!」

須田「ぐすっ、おいら野球やってきて良かったでやんす」

スクルメタ「俺もだよ須田君」

 こうして俺の最後の夏は最高の結果で終わった。


352: 15.塩谷エピローグ 2014/04/06(日) 18:49:52.65 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・

祥子(やりましたね、スクルメタ君!)

校長「信じられん……まさか本当に優勝するとは」

祥子「これでこの学校にNOZAKグループIがスポンサーにつくことが決まりました。
   約束通り、あなたには今後もこの学校の校長を続けてもらいます」

校長「それは、かまわん……が、良いのか私で?
   NOZAKIに頼めばもっと優秀な人材を派遣してもらえるかもしれないぞ?」

祥子「そうかもしれません……ですが、あなたほどこの学校を愛している人はいないと思いますから。
   理事長が消えてから私財を捨てて借金を背負うほどこの学校が好きなんですよね?」

校長「……この学校は私の青春だった。
   どうしようもないほどやさぐれていた私をこの学校での出会いが変えてくれた。
   今の私があるのはこの学校のおかげだ……だからどうしても潰したくなかった」

祥子「その言葉を信じます。だからもう二度と生徒が犠牲になるようなことは起こさないでください。
   そして、この学校にいたことが誇らしくなるような学校をつくってください」

校長「塩谷翔君のことはいいのか?」

祥子「……私って実は弱いんですよ。
   だから怒りや憎しみをいつまで持ち続けることはできませんし、母校を嫌な思い出として残すことなんてできません」

祥子「それに……涙なしでは語れない背景があるのはメイドの嗜みですから」

353: 15.塩谷エピローグ 2014/04/06(日) 18:51:27.93 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・

 甲子園から数日後、墓地

スクルメタ「はい塩谷、約束のボール」スッ

祥子「ありがとう……でもいいの? スクルメタ君にとっても大事なボールなんじゃ?」

スクルメタ「いいんだよ。ウイニングボールじゃなくて、甲子園の決勝で使われてたうちの一つってだけなんだから」

スクルメタ「それに俺のほうも嬉しいことにまだまだ野球との縁は続きそうだし。
      過去にすがらないって意味でもここに置いといてくれ」

祥子「うん、わかった。それじゃあもらっておくね」

 塩谷はボールを石碑の隣の袋に入れた。
 なんでもその中には塩谷先輩が生前使っていたグローブやスパイクが入っているだとか。

スクルメタ「……」

祥子「……」

 俺と塩谷は手を合わせ静かに黙祷をささげた。

 塩谷先輩、あなたのボールは見つけられませんでした、すみません。
 けどこれは塩谷先輩が野球部を残してくれたから取れたボールです……ありがとうございました。

354: 15.塩谷エピローグ 2014/04/06(日) 18:53:44.26 ID:fMl1l5P60

・・・・・・・・・・・・

 墓参りが終わり、俺と塩谷は二人でゆっくり緑が生い茂る並木街道を歩いていた。

祥子「……スクルメタ君、プロにいくんだよね」

スクルメタ「一応な、ドラフトがあるまではまだわからないけど、声はかけてくれている球団はいるから。
      でももしプロにいけなかったとしても俺は野球を続けるだろうなあ。俺にとって野球はもう生活の一部だし」

祥子「あ、あのね!」

スクルメタ「ん?」

祥子「わ、私ってけっこうお買い得だと思うんだ!」

スクルメタ「……は?」

祥子「ほ、ほら、私ってメイドだから奉仕精神たっぷりだし、メイド術だって習得してるし」

スクルメタ「メイド術ってなんだよってそれよりも、お前に何か奉仕された覚えはないんだが?」

祥子「料理は……これから田村さんに習うことにして」

スクルメタ(……つくれないのか)

祥子「よよよ、夜のほうももちろん頑張るよ!
   そういう経験ないし、メイド術にもそういうのはないから上手くできないかもしれないけど」

祥子「あっ、でも、最初からマニアックなのはちょっと……」

スクルメタ「お前にとって俺ってどういうやつなんだ……」ドヨーン

355: 15.塩谷エピローグ 2014/04/06(日) 18:55:38.15 ID:fMl1l5P60

祥子「だから……ダメ、かな……?」

スクルメタ「……」

祥子「……何も言ってくれないんだね」

スクルメタ「というか、俺が聞く側じゃないのか?」

祥子「えっ?」

スクルメタ「甲子園優勝の約束をしたときに告白の返事を聞くって言っただろ。忘れたのか?」

祥子「ううん、それは忘れてないけど……」

スクルメタ「けど……?」

祥子「主人公の心と秋の空、二人まで許すは罠ということわざもあるし」

スクルメタ「どんなことわざだよ。聞いたことないぞ」

祥子「じゃあ……!」

スクルメタ「ああ、俺の気持ちは変わってない。だから塩谷、返事をくれ」

祥子「……名前」

スクルメタ「え?」

祥子「名前で呼んでほしいな。そしたら返事をするよ」

スクルメタ「わかった……祥子、俺はお前が好きだ。
      お前の弱さも俺の弱さも二人で背負ってずっと一緒にいたい。だから俺と付き合ってくれないか?」

 タタタタタ、ダキッ!

祥子「……えへへへへへ」

スクルメタ「抱き着いてくれるのは嬉しいけど……祥子、返事は?」

祥子「もちろんОKだよ! これからずっと一緒だよ! よろしくね、スクルメタ君!」

356: ハッピーアルバム 2014/04/06(日) 18:57:42.42 ID:fMl1l5P60

 新たな花が咲く季節。
 桜舞う並木街道を三つの影が歩いていた。

「ねえねえ、お母さん、今日はどこに行くの?」

祥子「今日行くのはね、お父さんとお母さんの母校だよ」

「ぼこう……?」

祥子「うん。お父さんとお母さんが出会った大切な場所。できればあなたにもいってもらいたいな」

「? 今向かっているんじゃないの?」

スクルメタ「たしかにそうだけどな、お母さんはもう少しお前が大きくなってからまたそこに行ってほしいんだよ」

「大きくなっていくと良いことあるの?」

祥子「ふふふ、そうだね。きっとあなたにも幸せが訪れるから」

 桜舞う並木街道を三つの影が歩いていた。ただ、それだけの話。

357: 准アルバム 2014/04/06(日) 19:00:00.64 ID:fMl1l5P60
 火星への定期便が無事についたと連絡が来た翌日、とある女性は久しぶりに親友のところに身を寄せていた。
 女性が職場から離れるのは年に数回あるかどうかなので、普通なら家に帰るのだが、残念ながら彼女に家はない。
 彼女が彼女の親友を助けると決め、裏の世界に踏み込むことになってから巻き込まないために自ら繋がりを断ったのだ。
 親友を助けるためとはいえ、何が彼女をそこまで駆り立てるのかというとそれは一つしかない。

 彼女は生まれながら仕えし者……メイドなのだから。

准「ふふ……今頃私のデザインした宇宙服が少年に届いたころかな?」

風来坊「准が笑ってる!? 今度はどんな悪巧みを思いついたんだ……?」

准「風来坊さん、宇宙服にしてあげようか? それともぞうきんがいい?」ニコニコ

風来坊「ご、ごめん。普通の人間でいさせてくれ」

358: 准アルバム 2014/04/06(日) 19:01:09.63 ID:fMl1l5P60

風来坊「……しかし顔を合わせるのは久しぶりだな。今回はいつまでいるんだ?」

准「明日の朝には帰るよ」
 
風来坊「明日の朝!? それはまた早いな」

准「少年に宇宙服を着て姿を見せてもらう約束をしているからね。
  見るだけなら録画でもいいけど、いろいろ動いて確認したいこともあるし」

風来坊「それならしょうがないか。しかし准、お前はよく働くよなあ」

准「ヒモの誰かさんとは違うからね」ジト

風来坊「い、今は働いているだろ!」

准「ほぼ一日中、家に維織さんといるだけなのに?」

風来坊「それは維織さんが家を出ないだけで……」

准「しかもそれすら夜にはパトロールとか言ってどっかに出かけているくせに?」

風来坊「ぐっ……」

359: 准アルバム 2014/04/06(日) 19:02:25.54 ID:fMl1l5P60

風来坊「ま、まあそれはおいといて、体には気をつけろよ。
    そういう俺もお前のことは応援することしかできないが……」

准「大丈夫」

 生粋のメイドである彼女は今後も誰かに尽くすために一生を使うだろう。
 それを可愛そうという人もいるかもしれない。
 しかし彼女は止まらない。彼女には叶えるべき夢と、

准「メイドさんは最後に望みが叶うようになってるから」

 彼女を応援してくれる人がいるのだから。

360: 雑談 2014/04/06(日) 19:07:09.45 ID:fMl1l5P60

野田「暇つぶし雑談コーナーを担当する野田でやんす。さっそく今日のゲストをお呼びしたいと思うでやんす。
   第一回のゲストはもちろんこの人、主人公ことパワポケ君でやんす!」

パワポケ「……野田君、久しぶり」

野田「久しぶりでやんす。
   ん? どうかしたでやんすか? 浮かない顔でやんすが……」

パワポケ「いやさ、見ている人が野田君のことわかるかなあって。結局話には登場機械なかったし」

野田「察しがいい人ならわかるんじゃないでやんすか?
   まあ、結局はこのスレのオリジナル眼鏡ってだけだし、たいした存在ではないでやんす。
   それより、パワポケ君文句があるそうでやんすが、なんでやんすか?」

パワポケ「ああ、うん。根本的な話なんだけど……野球させろよ」

野田「無理でやんす」

パワポケ「即答かよ!」

野田「……しかたないでやんす。SSで野球は無理でやんす。ルール考えるのめんどくさいでやんすし」

パワポケ「じゃあせめて野球している様子かけよ! 彼女攻略だけさせてんじゃねえよ!
     ギャルゲーじゃないんだぞ! 野球部分の話をまずはつくれよ!」

野田「文句が多いでやんすね」

パワポケ「言っていることは一つだ! 野球させろ!」

野田「前向きに検討することを前向きに検討するでやんす」

パワポケ「おい、それってあきらかに考えるつもりないよな?」

野田「じゃあ今回はこれで終わりでやんす」

パワポケ「おい! ちょっ、まっ……野球させろー!!」

プロフィール No.1
パワポケ(主人公)
両親行方不明。現在はNIP高校の雑談寮に住んでいる。
野球は育ての親の影響で始め、中学校の部活の監督と出会い、本当に野球が好きになる。
父親の手がかり……なし
母親の手がかり……好みのタイプは島流しに会った後、潰れた工場を再建させるような人らしい

361: 雑談 2014/04/06(日) 19:10:00.12 ID:fMl1l5P60

野田「大不評、暇つぶし雑談コーナーでやんす。司会はもちろんオイラ、野田が担当するでやんす。
   第二回のゲストはこの人、毒島さんでやんす。よろしくお願いするでやんす」

毒島「……よろしく」

野田「さて、さっそく雑談といきたいでやんすが、あんたも何か文句あるそうでやんすね?」

毒島「……当然」

野田「意外でやんすね。三人の中では一番文量が多くて優遇されてるでやんすのに」

毒島「そうだけど……メインパートのはずの私の出番、少ない。特に後半」

野田「……言われてみればたしかにそうでやんすね」

毒島「……12週目以外10週目からどんどん出番が少なくなっていって、14週目はゼロ。
   酷い。パートのメインヒロインなのに……」

野田「しかたないでやんす。出てくるキャラが一番多いやんすからね。
   話を進めたり、まとめたりするためにはわりをくうキャラも出てくるでやんす」

362: 雑談 2014/04/06(日) 19:11:20.22 ID:fMl1l5P60

毒島「……そのわりには最後は力技。正直、どうかと思う」

野田「ぐっ……で、でもあんたのパートに出ていた主人公が一番まともな性格しているでやんすよ。
   杏香パートの主人公と祥子パートの主人公は話のために性格が安定してないでやんすし」

毒島「……それとこれとは話が別。十五週目だって頑張ればもっと出番増やせたはず。あれだけじゃ納得いかない」

野田「まあそこは目をつぶってもらうしかないでやんす。他には何か文句あるでやんすか?」

毒島「他……? …………ない」

野田「えっ? 名前のほうはいいでやんすか?」

毒島「……あれは別に」

野田「そ、そうでやんすか。それならオイラから何も言うことはないでやんす。
   今回の雑談コーナーはこれでおしまいでやんす」


プロフィール No.2
毒島 冽華(ぶすじま れつか)名前の元ネタ……ブス、劣化
元ジャジメント研究員で第二世代型アンドロイド
能力は催眠による特定時間の記憶を忘れさせたり、思い出させたりするいわば劣化友子
友子たちの脱走時、あえて一緒に行かず能力を活用して研究員の一人になりすました
学校の保健医をしているが、学校に通った記憶はないのでどの程度やればいいかわからずはりきってしまう。

名前の元ネタはあくまで名前だけの元ネタであり、本人の設定とは無関係
ただ勘違いされると困るので名前はパート中にはださなかった。

363: 雑談 2014/04/06(日) 19:13:12.37 ID:fMl1l5P60

野田「つまらんと言われても決してやめない、暇つぶし雑談コーナーでやんす。司会はもちろんオイラ、野田が担当するでやんす。
   第三回のゲストはこの人、須田杏香さんでやんす。よろしくお願いするでやんす」

杏香「ああ、よろしく」

野田「で、どうせあんたも何か文句あるでやんすよね?」

杏香「当然だな。むしろあのできでないと言うほうがおかしい」

野田「じゃあさっさと言うでやんす」

杏香「まずはあれだな、私のパートは引用が多すぎる」

野田「まああんたの場合設定が設定でやんすからねえ」

杏香「それにしてもあれは以上だろ。
   選択肢はもちろんのこと、会話の大部分を丸々引用していたところもあったじゃないか」

野田「しかたないでやんす。本物っぽさを出すためには本物と同じセリフを使うのが一番でやんすから」

364: 雑談 2014/04/06(日) 19:15:13.37 ID:fMl1l5P60

杏香「次にあれだ。私が彼女になるにはおかしくないか?」

野田「どういう意味でやんすか?」

杏香「いや、だって普通は回を重ねていくごとに親密になっていくものなのに、私のパートではむしろけんかしているじゃないか」

野田「な、なんでも言い合える仲ってことじゃないんでやんすか?」

杏香「そういうのが悪いとはいわないが、少なくとも私の場合は当てはまらないと思うが……
   そして最後はまた力技だし。これも問題じゃないか?」

野田「ぐっ……それは反論できないでやんす」

杏香「そしてなにより一番どうかと思ったのは」

野田「思ったのは……?」

杏香「私の妹設定はなんのた……」

野田「今回の雑談コーナーはこれでおしまいでやんす!」

プロフィール No.3
須田 杏香(すだ きょうか)名前の元ネタ……素手、強化
神条紫杏の影武者としてつくられたアンドロイド
うまれて間もないうちに用済みになりツナミに捨てられた
だから本来ならまだ高校生ではないが体の年齢に合わせた生活している。朱里とは中学生のころ偶然出会った。
ちなみに彼女の育ての父親はめったに帰ってこないため、何の仕事をしていたのかは聞かされていない。

最初の設定は名前の元ネタ通り、格闘系少女だった。

365: 雑談 2014/04/06(日) 19:16:49.63 ID:fMl1l5P60

野田「作者イタイ、作者キモイはなんのその、暇つぶし雑談コーナーでやんす。司会はもちろんオイラ、野田が担当するでやんす。
   第四回のゲストはこの人、塩谷祥子さんでやんす。よろしくお願いするでやんす」

祥子「よろしく!」

野田「ごめんなさいでやんす!」

祥子「ええっ? ど、どうしたの急に」

野田「あんたの言うであろう文句はわかっているから先に謝っておくやんす」

祥子「あっ、やっぱりわかってるんだ。いいんよ、謝らなくて」

野田「……本当でやんすか?」

祥子「うん。だって謝られたって結局は文句言うしね」

野田「やっぱりそうでやんすか……」

祥子「だいたいおかしいよ! 私のパートに出てくる人たち誰一人としてキャラ安定してないよ!」

野田「あんたが一番展開をいろいろ変えたからしかたないでやんす」

祥子「それにしても酷いよ。教師先生なんて名前が同じだけで出てくる週ごとに性格が変わってるし。
   校長先生もギャグキャラかと思ったらいい人でカツラネタでいじくって罪悪感がいっぱいだよ!」

野田「まあ、二人は完全にモブキャラとして考えていたでやんすからね」

366: 雑談 2014/04/06(日) 19:19:15.35 ID:fMl1l5P60

祥子「私のなぞの四字熟語キャラも後半になったらほとんど使われないし」

野田「代わりに週つぶしネタだっただけのはずのメイドキャラがたってたからいいんでやんす」

祥子「それとさ、一番の疑問なんだけど」

野田「なんでやんすか?」

祥子「ナイフで刺されたけど実はボールに刺さって助かった展開だけどさ、おかしいよね?
   あれってボールはどこにあったの?」

野田「……」

祥子「野球のユニフォームってさ、上着のほうにポケットないよね?
   最悪ズボンに入れてたとしても下半身めがけてナイフ突き出すってすごく不自然だよね」

野田「……あー、いやだいやだ。細かい設定を気にして話を楽しめない大人にはなりたくないでやんす」

祥子「いや、あれは設定とかいう問題じゃ……」

野田「これで終わるでやんす!」

プロフィール No.4
塩谷祥子(しおたに しょうこ) 名前の元ネタ……塩、コショウ
NIP高校の元エース、塩谷翔の妹。兄妹仲はそれなりに良かったが、別にブラコンと呼べるほどではない。
兄が死んでいこう、優しくしている両親と距離を測りかねてしまい、お互い気のつかう毎日をおくっている。
そんな中なんとなく入ったバイト先でメイド神に会い、様々なメイド術を教わる。

兄の名前の元ネタは塩、しょうゆ

367: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/04/06(日) 19:22:55.92 ID:fMl1l5P60
これで終わりでやんす。もし読んでくれた人がいるならありがとうでやんす
パワポケのリメイクでもいいからでないでやんすかねえ

じゃあ、依頼出してくるでやんす