男「どこだよ、ここ」幽香「誰!?」 前編

334 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 19:09:45 uYu4Ihpw
美鈴「ウィルお嬢様!!」

そうだ、今は正邪のことを考えてる場合じゃない。

ウィルは大丈夫なのだろうか。

近くでも煙で見えない。衝撃からしてかなり強力な爆弾だろう。

煙の中へぐにょりとしたものを踏みながら手探りでウィルを探す。

男「ウィルか!?」

手に触れた何かを掴み引き寄せる。

それはがさがさとしていて

男「―――っ!!」

煙がはれた。そこにいたのは

ウィル「………………」

肌が黒く炭化し、ところどころの肉がなくなっているウィルだった。 





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335 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 19:15:32 uYu4Ihpw
また、また俺は守れなかったのか。

男「なんでだ、なんでなんだよぉおおおおぉおおお!!」

そのぼろぼろになった体を抱きしめる。

顔に生ぬるい血がつく。抱きしめた体は当たり前だがまだ暖かかった。

特にウィルに思い入れがあるわけではない。だが助けると約束したのに守れなかった。

この身を盾にすら出来なかった!!

ウィル「………………痛いぞ」

男「………え?」

ウィルが喋る。てっきり即死かと思ってたが。

ウィル「離してくれると助かる」

男「あ、あぁ」

ウィル「死ぬかと思った」

そういいながらウィルが歩いて砦へ向かっていく。

足の肉とかなくなって骨見えているのに大丈夫なのか? 


336 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 19:17:46 uYu4Ihpw
美鈴「………これはさすがに驚きました。あそこまで常識が通用しないんですか。レミリア様でも今のはさすがに即入院コースですよ?」

ウィルを呆然と見送ったあと美鈴さんがそう言った。

ウィルは炭化してところどころ肉がなくなっているという超スプラッタな外見で砦の中へ入っていった。

メイド妖精の叫びが響く。

ウィル「あ、追わなきゃ」

美鈴「そ、そうですね」

いくら普通に動いているとはいっても怪我は怪我だ。治療をしなければ」 


337 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:37:59 uYu4Ihpw
ウィルをつれてさっきいた建物へと入ると吸血鬼がウィルを見た瞬間に悲鳴を上げて俺に殴りかかってきた。

男「ぐべろっ!?」

吸血鬼のパンチは凄く痛かった。地面をごろごろといつもより多く転がりながらそう思った。

男「………しぬぅ」

立ち上がって服についた砂やらを叩いておとす。殴られた顔がやばいぐらい痛い。

骨折れてないよなぁと特に痛む鼻を押さえながら戻ると吸血鬼が甲斐甲斐しくウィルの手当てをしていた。

黒く炭化した場所に軟膏を塗っていく吸血鬼を見ていて思ったのだが力で屈服させられたのにその娘をずいぶん大切にしているな。

ウィル「いたい………」グスッ

吸血鬼「あぁ! 申し訳ありません!」

本当、なんでだろうな。 


338 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:43:20 uYu4Ihpw
ウィル「ん………治ってきた」

男「早いな、マジで」

見ると炭化した皮膚が剥げ下から新しい皮膚が除いている。肉も目に見える速度、といってもナメクジの歩行速度みたいなもんだがどんどん再生していっている。

吸血鬼「ウィル様にこれだけのダメージと再生の阻害を与えるなんていったいどんな神が儀礼を施したのだ?」

吸血鬼がウィルの傷口を見ながらそうつぶやく。意味は分からないがとにかく相手側に凄いのがいるのだろう。

吸血鬼は治ってきている傷を見て微笑むと念のためにと包帯を巻いた。両腕や顔にも巻いているのでミイラにしか見えない。

ウィル「いらないのだが………」

吸血鬼「駄目です」

ウィル「動きづらい………」 


339 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:48:38 uYu4Ihpw
レミ「ウィル!!」

治療が終わりウィルを一応安静にさせているとレミリアが扉を思いっきり開け中に入ってきた。

レミリアは持っていた傘を投げ捨てウィルに駆け寄る。

レミ「大丈夫? 痛くない? なにかして欲しいことはある?」

矢継ぎ早に繰り出される質問にウィルは嬉しそうに笑って大丈夫と答えた。

レミ「………ごめんなさい。戦わせてしまって」

ウィル「お母様守りたいから」

レミ「ありがとう。ウィル」

男「………」

この空間に部外者がいるのもなんなので俺はクールにこの場から去ろうと思う。

男(とりあえず大事がなくて本当良かったな) 


340 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:54:52 uYu4Ihpw
霊夢「そう。大変だったわね」

霊夢に今までのことを伝えると霊夢は言ってふわりと空中に浮いた。

霊夢「もう帰るわよ。ここにいてもすることがないから」

男「………それもそうか」

ウィルの様子を見ておきたかったが部外者が深くかかわるのも迷惑だろう。

男「げ、またマラソンかよ」

霊夢「………はぁ。仕方ないわねスピード落として飛んであげるわよ」

霊夢はもう一度長いため息をはいて俺の軽めに走る速さぐらいで飛んだ。

これなら時間はかかるが死ぬほど疲れるようなことはないだろう。

そういえば初めて霊夢が俺に優しくしてくれたような。

まぁ、気まぐれだろうがなんだろうがいいや。楽が出来る。 


341 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:16:03 uYu4Ihpw
霊夢「ウィルヘルミナの能力はね」

博麗神社まであと半分ぐらいのところで霊夢がいきなりそう話し始めた。

霊夢「運命を破壊する程度の能力。レミリアの運命を破壊する程度の能力もわけがわからないけど」

走っていて息が切れているので相槌は打てないが霊夢の話は真剣に聞いておいたほうがいいみたいだ。

霊夢「レミリアの能力が台本を読んで書き換える能力だとしたらウィルの能力はその台本を無視して行動を起こすことが出来る。アドリブで行動できるのよ。誰かが死ぬ運命ならばそれを変えるために行動が起こせる。といっても不治の病を治したりはできないわ。あくまで出来るのは自分主体。自分のことならば熱湯をかぶってもやけどをしないなんて因果を無視したことができるけど他人ならば自分が行動を起こさなければそのまま。起こせば確定したことを変えることが出来る。まぁ確実ってわけじゃないけれど」

………分かりやすく話してくれているみたいだけどあんまり良く分からん。つまりナイフを持ってやつに刺される人がいるとしてウィルはそれに割り込むことが出来るってことか? ナイフを持ったやつを倒せばその人は刺されないで済むけど倒せなければその人は刺される。こんな感じだろうか。

霊夢「それでも強力な能力ってことには変わりないわ。運命を切り開けるんだから」

男「でも、ウィル、怪我した、ぞ」

霊夢「儀礼してあるからよ。ウィルヘルミナは能力である程度は神の力を消せるみたいだけど強力な力を加えられると能力が追いつかないみたいね。因果を無視しようとする前に結果を確定させられる。銃弾と爆弾じゃこめられてる力の強さが違ったのよ」

ということは神の力をどうにかしないとまた同じことがおきるかもしれないってことか。

神となると、あの妖怪の山で出会った少女を思い出す。

相手にはいったいどんな神がついているのだろうか。 


342 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:23:06 uYu4Ihpw
男「や、やっとついた」

行きよりはだいぶましだがそれでも足が震える程度には疲れている。正直もうすでに休みたいが魔理沙と出かけなければならないのか。

仕方ない可愛い妹のためならなんのそのだ。

霊夢「それじゃ」

霊夢は飛んでどこかへ消えていった。何をするのかは知らないが今は魔理沙を探すことにしよう。

見た感じ境内にはいないようだが。

男「いったいどこに、いたぁっ!?」

背中に衝撃。しかもなぜかその衝撃は斜め上から来た。首に回された手と視界の端に見えた金色の髪で魔理沙だと判断する。

魔理沙「おかえりっ」

男「ただいま。重い」

魔理沙「乙女にそんなこと言っちゃ駄目だぜ」

乙女が空中からフライングアタックをかましてくるかよ。

男「で、もう行くのか?」

魔理沙「あぁ。兄貴がいいなら今すぐにでも」 


346 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:57:46 uYu4Ihpw

補足をいれますと

レミリアは確率操作でウィルは因果無視です。

レミリアの能力が台本を書き換えたように見えるだけで実際は起こる可能性のある事象を引き起こしてるだけです。

ウィルはこうなったらこうなるという因果を無視出来ます。 


351 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 00:13:21 vxLKOfUU
~俯瞰視点~

命を奪うことが悪だとしよう。なら私はどうしようもない神様ですら見捨てるような極悪人だ。

なぜなら私は他人の命を奪うことを毎日繰り返している。数人ではない。数十人数百人。

これではとても天国にいけそうにない。どうせ私には天国なんて似合わない。

そんな風に犬走 椛は諦めていた。

椛の仕事は軍の指揮をとっていかに効率よく、こっちの被害を抑えて殲滅するかだ。妖怪の森を監視して侵入者が来れば排除するだけの警備のような仕事しかすることができない白狼天狗がただの一般兵でなく軍を率いる指令官をするのは異例のことだ。

なぜ彼女がその地位についているかというと彼女は誰よりも大将棋が強い、おそらく妖怪の森だけではなく幻想郷の中で一番。普通の将棋よりも大きく駒の数が多い大将棋は当たり前だが将棋よりもはるかに難しい。なのにまだ天狗の中では幼い彼女がそれを自在に操り勝利している。

普通天狗というのはどんなことがあっても愚かに上下関係を守り続ける。たとえ上司が自分よりも弱く愚かでもそれが自分より上の身分なら従い続ける。下克上なんて言葉は存在しない、それが天狗の社会の基本だった。

なのになぜ大将棋が強い。そんな理由で白狼天狗なのに上の身分の天狗に命令できるような地位になれたのか。それは現在の天魔、山ン本五郎左衛門に大将棋で勝ったことがあるからだ。

自分よりはるか上の身分の天魔と大将棋をし、手を抜かず勝利したことで椛は山ン本に顔と名を覚えられている。それが今回に繋がった。

結果としては山ン本の選択は間違っていなかった。それどころか大当たりといってもいい。椛は個々の特性を見抜く観察眼と特性を上手く利用した策を使い、勝ち続けた。何より恐ろしいのが千里眼を使い戦いの全てを把握して最適の策に変えていく完全管理戦闘。いうなれば椛は将棋を打つように戦っていた。

しかし唯一の椛の弱点は彼女が心の弱い妖怪だったことだ。 


352 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 00:28:52 vxLKOfUU
椛は白狼天狗だが他の天狗よりは人里に近い生活を送っている。仕事ゆえに人間を見下すような態度を取ったりするが本人はあまり人間を嫌っていない。むしろ非番の日は人間の里に出かけることもあるぐらいだ。

だから彼女にとってはこの状況はあまりにも辛いことだった。

―――今死んだのはそば屋の若い店主だ。あそこのそばは美味しかった。その近くで死んでいるのはそこの従業員だろう。

千里眼を持った彼女は誰が死んだかを全て把握していた。そしてその中に知り合いがいるたび彼女は深く傷ついていく。

しかしだからといってこんなのはいやだといえるような性格を彼女はしていない。上の言うことには従わなければいけない。そんな天狗の一般的な性格だった。

椛「1番右下の隠れている敵を撃破後4番と挟み込んで撃破」

その命令でこの戦いは終わった。こっちは死者0名、怪我人3名。あっちは全滅。大勝だった。

しかし椛は喜べず近くの天狗に休むと伝え与えられた自分の家に戻る。

傷ついた心が血の代わりに流す悲しみを彼女は人の前で見せることは出来ず自室にこもり布団の中でむせび泣く。

そんな生活を繰り返していた。 


353 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 08:03:02 ES5DLv0c
こんこんと突然ドアをノックされ椛は布団から顔を出して誰なのかを扉の向こうに尋ねた

はたて「私」

声の主は椛のあまりいない友人の中の一人そして椛がいつも泣いていることを知る唯一の友人。姫海棠 はたてだった。

椛ははたてならばいいやと思い部屋に入っていいよと扉の向こうに言った。

その声が涙声だったためか扉は数秒おかれてゆっくり開かれた。

はたて「邪魔だった?」

椛布団から出し顔を横にふってその問いを否定する。

はたて「ならよかったわ」

椛「はたて………ありがとう」

椛ははたてが友人のため第三者がそこにいない場合敬語は使わない。それをはたては良しとしていたしはたてもまた友人に敬語を使われると心地が悪い、そう思う一般的ではない天狗だった。

椛はもう一度ありがとうと言って泣きすぎて赤くなった目をこすって布団から出た。 


358 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 15:25:46 PB1xg12A
はたては椛のベッドに腰掛け深いため息をはいた。

はたて「正直あんたの傷ついてる姿みたくないんだけど」

椛「でも、仕事だから」

はたてはその言葉を聞いて呆れたようにやっぱりねと呟く。

はたて「逃げない?」

はたてが椛の耳に口をあてて小声でささやく。その言葉を聞いて椛は小さく首を横に振った。

はたて「なんで? これ以上続けても」

椛「私は幸せになっちゃいけないんだよ」

皆の命を奪ったから。

椛のその言葉を聞いてはたてが軽く椛の頭を叩いた。

はたて「椛ももうちょっと気楽に生きたらどうなのよ。あいつみたいに」

あいつ、椛は自分もう一人の友人の顔を頭に思い浮かべる。今現在地底で幸せに暮らしている射命丸のことを。

はたて「あそこなら逃げ出した私たちも受け入れてくれるでしょ」

椛「………」

―――そのとおりだとは思う。だけどこんな私を受け入れられたくはないな。 


359 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 15:39:17 PB1xg12A
犬走 椛はすでに諦めている。

生きることから何から全てを諦め、ただ命令のままに動き、悲しんでいるだけだ。

そんな椛の唯一の願いは

―――死にたいな

そうすればもうこんなことをしなくてもいい。後は地獄で責め苦を受けるだけだ。

そのほうが殺すよりはよっぽどいい。

しかしその願いを叶えるのは難しい。自分を刺す刃は届かずに砕ける。

自殺をしようにもそれを実行する勇気は椛にはなかった。

椛「はたてが逃げなよ。私はいいから」

この血でべっとり塗れて飛ぶことの出来ない羽で逃げれるわけがない。はたてとともに逃げようとすればはたても巻き添えにしてしまう。

はたて「あんたが逃げないなら私も逃げないわよ」

椛「ごめん」

はたて「謝るぐらいなら一緒に逃げてよ」

椛「駄目」

はたて「はぁ………」 


360 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 15:56:08 PB1xg12A
はたて「別に自分が殺してるわけじゃないんだから」

椛「私がいなかったら生きてたのかもしれないんだよ」

はたて「でも結局それはそれで自分が駄目だったから味方の命を奪ってしまったとか言うんでしょ?」

椛「………うん」

あまり好きではないとはいえそれでも同じ天狗の命が奪われていくのも嫌だ。椛が一番良いと思うことは誰も死なないこと。もちろんそんなことは戦争時においては幻想にしかならない。

―――なんで世はこともなしにならないんだろう

平和主義者な椛はずっとそれを疑問に思っている。

なぜ戦いが起きるのかを、あまり欲を持たない椛は理解できなかった。

椛「………はたて」

はたて「何?」

椛「いや、やっぱりなんでもない」

殺してよと言おうとした。だけど友人にそんなことを言いたくはなかった。だから椛は疲れた顔でごまかす様に微笑む。

はたてはその顔をみて何か隠したんだと思ったがそれ以上追求しなかった。 


361 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 16:05:54 PB1xg12A
椛「そういえば今日はどうしたの?」

はたて「あ、ちょっと野暮用があって」

椛「野暮用?」

はたて「椛にね。ちょっと後ろ向いて目瞑ってて。プレゼント持ってきたから」

椛「え、本当? 嬉しいな」

椛は素直にはたてに背を向けて目を瞑った。

しかし椛にかけられたのはネックレスでもなんでもない、ただの猿轡だった。

椛「んー!? んー!!」

はたて「おとなしくして。お願いだから」

はたては椛に猿轡をし目隠しをした。椛はもちろん抵抗したが友人のため本気はだせず、その上身体能力ははたてのほうが上だったのですぐに動きを拘束されてしまう。

はたては用意していた手錠を二つ椛につけて椛の頚動脈を力をこめて押さえつける。

椛はしばらくもがいていたがすぐに意識を失ってぐったりとなった。

はたて「ごめん、椛」

はたてはいったん外にでて廊下に放置してあった大きな袋を持って入り、その中に椛を入れた。 


362 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 16:22:45 PB1xg12A
かたくなに自分を許さない椛を助けるためにはこうするしかなかった。

これは見つかれば殺されることは間違いない。綱渡りのような策だ。

自分のために椛を誘拐する。椛のためといいながらも結局は自分のためということをはたては理解していた。

はたての願いはいつの日か、またあの日のように三人で楽しく過ごせる日を迎えること。

はたて「うん、誰もいないわね」

このまま椛が起きず地底まで行ければはたての勝ちだ。地底にはあまり面識がないとはいえあの勇儀までいる。天狗は手出しができないはずだ。

窓を開け外を確認する。このほうが見つかりにくい。

はたては椛が入った袋を抱えて窓枠を蹴って飛んだ。

ここから地底までは距離がある。だけど見つからなければなんてことはない。はたてはあたりを見回しながら飛んでみたが巡回中の天狗は見えない。

今まで出したことのない最高速度で空を翔る。それでも射命丸よりはずっと遅い。引きこもっていた自分を恨む。

でもこの調子ならいけるはずだ。

はたて「待ってて椛。今文のところに連れて行ってあげるから」

はたては袋のなかで意識を失っている自分の大切な友人に微笑みかけた。 


363 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 16:36:05 PB1xg12A
~男視点~

男「あばばばばばば」

魔理沙「あわわわわ」

雨が降っている。しかも大雨だ。土砂降りの雷雨に打たれながら魔理沙と俺はは香霖堂へ向かって飛ぶ。

なぜだろうかさっきまでは晴れていたのにある境を越えるといきなりこの天気になった。遠くから見ればある一部だけ天気が荒れているというとても不思議な天気になってるだろう。

すでに服はびしょぬれで水を吸ってとても不快だ。絞るとさぞ大量の水が出てくることだろう。魔理沙もずぶぬれで白いシャツから肌が見える。

男「まだか!?」

魔理沙「もうすぐ!!」

そういいながら魔理沙が急激に高度を落とした。

森の入り口。そこに近づくにつれ更に雨が強くなる。

雨でうまく見えないが小さな店らしきものが見えた。あれが香霖堂だろうか。そうであってくれ。

魔理沙「着地するぜ!」

その言葉と同時に魔理沙が急激にブレーキをかける。そのまま地面ギリギリをすべる様に飛んだ。

店が近づく。しかし止まらない。このままではぶつかってしまう。そうすれば店の中を荒らしながらのダイナミック入店となるだろう。

それはいいんだがさすがに体が痛い。 


364 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 16:52:25 PB1xg12A
そう心配したが杞憂だったようで、ちゃんと入り口から1メートルぐらいのところで止まった。ギリギリだけども。

魔理沙「ここだぜ」

雨の音が強すぎて近くにいる魔理沙の声もよく聞こえない。とりあえず中に入ろう。そう思って扉を開ける。

香霖「………ん?」

剣を持った高身長の男が立っていた。

思わず両手を挙げる。

魔理沙「よっ、香霖」

香霖「魔理沙か。そっちの彼はいったい誰だい?」

男「えっと、男だ。外から来た」

魔理沙「あと私の兄だぜ」

香霖「へぇ、そうなのかい」

動じない。まったく動じていなかった。

ここではそんなに兄妹が増えることがあるのだろうか。 


365 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 17:14:57 PB1xg12A
香霖「今日はいったいどうしたんだい?」

魔理沙「ん、会いにきただけだぜ」

香霖「そうかい。お茶ぐらいしか出せないがゆっくりしていってくれ。もちろん何かを買うのは大歓迎さ。朱鷺子。お茶を入れてくれないかい?」

朱鷺子「分かったー」

香霖が奥に向かって声をかけると奥から声が返ってきた。声からしておそらく少女だろう。

男「今のは?」

香霖「朱鷺子。僕の妻だよ」

既婚者なのか。まぁ、見た目しててもおかしくないけど。

魔理沙「玉露で頼む」

香霖「冗談は壁にでもしたほうがいいと思うよ」 


366 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 17:28:28 PB1xg12A
朱鷺子「おまたせー」

奥からエプロンをした少女が出てきた。赤い羽根に白と青の髪をしている。

ずいぶん小さいが。まぁ、年齢は多分おれより上なんだろう。

香霖「自己紹介をしておこうか。僕は森近霖之助。この香霖堂の店主をやってる」

男「どうも。俺は男。外から来て今は博麗神社に住んでる。ところでなんで剣を持ちっぱなしなんだ?」

香霖「ん、あぁ………趣味なんだ」

魔理沙「そうだったか?」

香霖「あぁ、このフォルムがたまらなくてね。この剣は」

魔理沙「いやいい。長くなるからな」

香霖「そうだい残念だ」

そういいながらも香霖の顔はぜんぜん残念そうじゃなかった。むしろ安心したような顔だ。なんでだ? 


370 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 19:16:22 bOT/9XOw
日本刀みたいなやつです

詳しくは東方香霖堂をご覧ください 


371 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 20:49:41 bOT/9XOw
朱鷺子「どうぞー」

男「あ、ありがとう」

少女がお茶を手渡してくる。見ると茶柱が立っていた、何か良いことがあるだろうか。

魔理沙「ふはぁ。温まるぜ」

香霖「温まるのはいいがその格好で大丈夫かい?」

魔理沙「そう思うならタオル、またはお風呂をもらいたいね」

香霖「そうかい。じゃあ朱鷺子タオルを持ってきてお風呂を沸かしてきてくれるかい」

朱鷺子「わかったわ」

男「ありがたい」

香霖「そう思うなら何か買ってくれないかい?」

魔理沙「こんなときにも商売かよ」

香霖「お店は商売をする場所だからね。君や霊夢はここをお茶が飲めて好きなものを持っていける場所だと勘違いしてるんじゃないのかい?」

魔理沙「あぁ、思ってるぜ。へくちっ」

香霖「はぁ………風呂代でも取ろうかな」 


372 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 20:57:24 bOT/9XOw
男「なんかうちの妹が迷惑をかけているようで」

朱鷺子からもらったタオルで魔理沙を拭きながら香霖に謝る。しかし香霖は別にいいさといって肩をすくめた。

魔理沙「着替えはないのか?」

香霖「あるよ」

香霖が奥に引っ込んだかと思うと魔理沙が着ているような服を持って戻ってきた。ずいぶん似ているが。

香霖「君もいるかい?」

そしてもうひとつ男用の洋服。あまり派手ではないがまぁそこは関係ない。

男「でもこっちの金なんかないんだが」

香霖「こんど魔理沙に一仕事してもらうからいいさ」

魔理沙「うへー。お手柔らかに頼むぜ」

香霖「死にはしないから大丈夫さ」 


373 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 21:07:17 bOT/9XOw
朱鷺子「わいたよー」

店の中の商品を見ながら香霖といろいろ話をしていると朱鷺子がとてとてと走ってきた。

香霖「じゃあ二人とも入ってくるといいよ」

男「二人で?」

香霖「兄妹なんだろう。何を気にすることがあるんだい?」

いや、血は繋がってないわけだから気にする。魔理沙のほうも赤面して目をそらしてるし。可愛いなこいつ。

男「魔理沙が先に入ってこい。俺はいいから」

魔理沙の背中を押して無理やり奥に進ませる。俺は良いが魔理沙が風邪を引くといけないからな。

男「へくしゅっ!」

香霖「入ってきたらどうだい?」

男「いや、我慢する」 


374 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 22:11:51 bOT/9XOw
香霖「君は魔理沙を兄として支えるつもりなのかい?」

魔理沙が奥に入って少したった後、香霖がいきなりそう切り出した。

香霖「女の子を支えるのはたいていは恋人だと思うんだけどね。血のつながってない他人ならなおさら」

男「そのとおりだな。でも魔理沙が兄が欲しいっていってな」

香霖「だから兄になったのかい? 血の繋がってない赤の他人の君が、数日しかともに過ごしていない君が」

男「………」

香霖「別に責めても批判してるわけじゃない。ただ君は魔理沙のことを支えられるほど知っているのかい?」

知らない。ただ俺は魔理沙を守りたかっただけで、兄になれといわれたからなっただけだ。

支えようとは思うが何をすればいいかも分かっていない。ただそばにいることしかできない。

ただの案山子だな。まったく。

香霖「うん。じゃあ教えようか、魔理沙のことを。本人がいない場所で言って良いものかどうか悩むけど僕は残念ながら唐変木でね」

香霖が自虐気味に笑う。

どうやら日ごろから言われなれているようだ。 


375 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 22:45:38 bOT/9XOw
香霖「君は魔理沙が一人暮らしをしていることを知っているかい?」

知っている。魔法の森に家があるとかなんとか。詳しくは聞いてないが。

頷くと香霖は話を続けた。

香霖「僕が世話になった人が魔理沙の父親でね。だから僕と魔理沙は昔からの知り合いなんだ。まぁそれはどうでもいいけど彼女の父親は商人でね、商人としては立派だけどその商人としての立派さが魔理沙は嫌いだったんだ」

香霖「どうしてただの里の人間の魔理沙と霊夢が知り合えたか分かるかい? それは魔理沙の父親が霊夢がまだ小さいころ、つまり先代の巫女が存在していたときだね。霊夢と年齢が一緒の魔理沙を使って博麗の巫女との面識を作ろうとしたんだ」

男「それが嫌で家出か」

香霖「霊夢とは普通の友人でいたかったみたいだ。家出をしたときの年齢が8歳。そこからずっと彼女は一人だ。親に一番甘えたい、甘えなければいけない年代のころ魔理沙は一人で生きてきた。僕は半妖だから分かるとは言わないけどそれはそれは辛かっただろうね」

男「今まで出来なかった家族への愛情の代替品が俺か」

香霖「言い方は悪いけどそうだね。さてここでもう一度聞くけど君は自分の人生を代替品としてできるのかい? あの可哀想な彼女と数日しか過ごしていない君が」

香霖の鋭い目が俺を射抜く。言い方は穏やかだが目は偽善とか同情なんかじゃ許さないと物語っている。

男「あの魔理沙が。霊夢と並ぶために弱音を見せず努力して必死にその隣に立っている魔理沙が大好きなんだよ。だからその魔理沙のそばに入れるなら兄だっていい。代替品上等だろ。あの魔理沙が妹になってくれるんだぜ? 男冥利に尽きるだろ。朝起きると可愛い妹 昼にも可愛い妹 夜にも可愛い妹。俺の人生ぐらい払う価値あるだろう。いやむしろ俺の人生で足りるのか?  可哀想な魔理沙? 可愛い魔理沙ですよ本当。本当神様ありがとうございますだろ。まじありがとうございます。やべぇ興奮してきた」

香霖「………どうやら君も変人のようだ」

男「まぁな。男だもの」 


376 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 22:51:22 bOT/9XOw
香霖「まぁ君の覚悟は分かった………覚悟なのかな。まぁいい。それじゃあ魔理沙についていろいろ教えてあげよう。僕の知っていることでよければ」

香霖の顔が呆れたような顔になる。というか呆れているんだろう。しかしあの鋭い眼光はないから合格ということなんだろう。

男「おう」

なんだかいろいろ吹っ切れた。魔理沙の兄でいいのかと悩んでいたのが馬鹿らしい。魔理沙の兄なんだ。それでいい。むしろそれがいい。

香霖「じゃあ今までのことを話そうか。もちろん魔理沙が出てくるまでだから詳しくは話せないけどね」

男「ありがたい。痛み入る」

香霖「これは魔理沙が魔法を使い始めたころなんだけど―――」 


377 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 11:27:50 q2v6qv6k
男「さて、そろそろ帰るか」

魔理沙の後に風呂に入ってしばらくゆっくりしていると時間はすでに夕方。もう帰ったほうがいいだろう。

外は大雨で正直出たくはないが仕方がない。

香霖「これを着ていくと良い」

香霖が何かを投げて渡す。受け取るとそれは合羽だった。

男「いいのか?」

香霖「あぁ、サービスだよ」

魔理沙「珍しい」

香霖「ひどいな。商売にはサービスが重要なのさ」

魔理沙「これは大雨が、ってもう降ってるか」

朱鷺子「気をつけて帰りなさいよねー」

香霖と朱鷺子に見送られながら店の中で箒にまたがりそのまま外へでる。

魔理沙「うわわ、合羽があるとはいえ、厳しいな」

強い風に吹かれいきなり体勢を崩す。なんとか持ち直して空へ駆け上る。

そういえば結局香霖ずっと剣もってたな。 


378 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 11:43:48 q2v6qv6k
やっぱりあるところを境に雨がいきなり晴れる。

そこからは早く帰りたいがために魔理沙はどんどんスピードを上げていく。なのでどんどん体温が奪われていって博麗神社につくころには二人真っ青になってぶるぶる震えていた。

魔理沙「ふ、風呂!」

男「おおおおおう」

つくと同時に温泉に向かって走る。

さっきは一緒に入らなかったが今はそんなことを言ってる場合じゃない。このままだと死ぬ気がする。多分。

脱衣所で服を脱いで温泉に飛び込む。

霊夢「………」

男「OH………」

霊夢がこっちをにらんでいた。 


379 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 11:54:59 q2v6qv6k
男「OKOK目は瞑った。制裁カモン」

事故と言い訳するまえに一発殴られていたほうが対応がいいだろう。なので目を瞑って痛みを待つ。

霊夢「―――くせ」

男「なんだ?」

霊夢「その前に下を隠せっ!!」

ゴンッ

何か硬いものが頭にぶつかる。なんだこれ超いてぇ。

そして後ろに倒れて温泉のふちで頭を打つ。更にいてぇ。

たんこぶを撫でながら風呂へ浸かり行儀は悪いがタオルで下を隠す。

この間も目を瞑っているので霊夢が何をしているかは分からない。もしかしたら俺を殺す準備でもしているのだろうか。妄想が俺の手を離れてどんどん膨らんでいき最終的に俺が地面に埋められるところまで想像した。

が、霊夢は呆れたように

霊夢「変態」

といってくるだけでそれ以上はなにも言ってこなかった。

魔理沙「なんだか凄い音がしたんだがって霊夢いたのか」

霊夢「えぇ、いたわよ。自分の家だもの」 


380 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 11:59:39 q2v6qv6k
霊夢「ちょっと魔理沙。大きなタオルがそこにあるから取って」

魔理沙「おう。ほいよ」

霊夢「ありがと。んっと。男、もう目を開けていいわよ」

男「そういいながら見たわねとか言ってまた殴る気だろ」

霊夢「そんな●●みたいなことしないわよ」

その言葉を信じて恐る恐る目を開く。

霊夢はバスタオルを体に巻いていた。

霊夢の肌は温泉につかってほんのり赤くなっていて肩を伝っておちる水滴が

霊夢「凝視したら殺すわよ」

目をそらす。うん、まぁなんだ。霊夢も美少女だ。

魔理沙「あー生き返るー」

霊夢「どうしたのよそんなにびしょぬれになって」

魔理沙「香霖のところで凄い雨降っててな」

霊夢「それは災難だったわね」 


381 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 12:33:34 q2v6qv6k
温泉に浸かっているとじょじょに体温が戻り、肌に赤みが差す。温泉があって助かった。

男「あ、ちなみにさっきのは事故だからな」

霊夢「分かってるわよ。でもこっちは見られたのよ」

男「俺だって見られたからおあいこだな」

霊夢「あんたは見せ付けてきたんでしょうが」

男「面目ない」 


382 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 12:38:54 q2v6qv6k
そんな話をしていると霊夢がいきなり鳥居の方を向いた。

霊夢「あら、誰か帰ってきたみたいね」

男「? なんでわかるんだ?」

音とかは聞こえなかったのにと思っていたら境内から藍さんの声が聞こえた。

霊夢「私が張った結界だもの。誰が入ってくるかぐらい把握できるわ」

藍「霊夢!! 霊夢!!」

霊夢「こっちよー」

藍さんが霊夢を探しているようだ。何かあったのだろうか。霊夢が藍さんに声をかけるとすぐに飛んできた。

霊夢「どうしたのよそんなにあわてて」

歩くでもなし走るでもなし。飛ぶってことはよっぽどのことがあったんだろうな。魔理沙も俺も藍さんの言葉に耳をむける。

藍「妙蓮寺が崩壊!! やったのは神子達と古明地姉妹!!」

霊夢「………え?」 


384 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:00:43 PJvFUGC.
~時は数刻戻り少年視点~

大変です。こいしさんがいつのまにかいなくなってしまいました。このままでは大変なことになるかもしれません。

僕たちは途中博麗の巫女さんと一緒にいた人間の人と出会ったりしながら広い幻想郷を探し続けていました。

さとり「まったく………どこにいったのかしら」

少年(無事だといいのですが)

さとり「無事だと思うわよ。あの子のことだし」

こいしさんは感情と覚の能力を失う代わりに無意識を操る程度の能力を手に入れているので普通他人からは見えません。なので安心といえば安心なのですがそれでも家族のことは心配なようでこいしさんは何度もため息をつきながらずっと歩き続けています。

さとり「そんなことよりあの子が変に引っ掻き回してなきゃいいけど」

そういいながらもさとりさんはきょろきょろと心配そうに見回しています。さとりさんはまだ完全に素直というわけではなくこんな風に自分の好意をごまかしたりするのです。

男(周りに人はいないんですか?)

さとり「いないわ。だから安全よ」

男(そうですか)

さとりさんは現在常に人や妖怪の心を読むようにしているので近くにいる人の存在を感知しているのでそれを避けるように行動できます。この能力がなければどれだけの戦闘を行わなければいけなかったでしょう。いくらもらった必殺の武器があるからといってあまり使いたくはないですから。 


385 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:10:45 PJvFUGC.
さとり「これは人間か妖怪の拠点に行くのも覚悟したほうがいいかしら」

男(かもしれませんね)

さとりさんの能力があるとはいえこいしさんを見つけるには僕もいかなければいけません。なのでしのびこむのは難しく最終手段として残していました。

さとり「諦める、ということも出来るけどどうしようかしら」

そう聞いてくるのは僕を心配してのことでさとりさんとしては妹のこいしさんが心配でしかたないのでしょう。おそらく、いやきっと僕がやめましょうといった場合僕を地底に戻してさとりさんはこいしさんを探し続けるでしょう。

その結果さとりさんがひどいめにあうのは嫌なので僕は心の中で探しましょうと思いました。

さとり「ありがとう………」

さっきからの僕の気持ちがさとりさんのは駄々漏れなのでさとりさんは少し顔を赤くしてそう答えました。僕達は結婚を前提にしているのですがさとりさんはまだ僕の好意になれてないようでそのたび顔が赤く染まり、とても可愛らしい様子を見せてくれるのです。

男(あれ、は)

森を抜けたところになにやら人が大勢集まっています。そしてその中に」

こいし「ふんふんふ~ん♪」

こいしさんがいました。 


386 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:26:33 PJvFUGC.
………男じゃねぇ。少年だ……… 何度も何度もすみません。

さとり「………あ………え………」

隣のさとりさんも凄く驚いています。しかしさとりさんが見ているのはこいしさんではありません。

ことり「『これから私たちは妖怪にとり憑かれた邪悪な神社を成敗します。私たちの手で神の名を。毘沙門天の名を騙る不届き者を打ち滅ぼすのです!』」

人間の中心にいるその妖怪はさとりさんと同じ覚の目を持ち、さとりさんよりも少し大きい。そしてさとりさんはこいしさんに似ている。似すぎていました。

さとり「おねえ………ちゃん?」

さとりさんのお姉さん。話には聞いていました。さとりさんにはいなくなったことりというお姉さんがいることを。そしてそのお姉さんはなぜか今人間の中にいるのです。

さとりさんがふらふらと歩いていきます草を音を立て掻き分けたため何人かの人間が気づき、やがてそのお姉さんがさとりさんのほうを見ました。

ことり「心配ありません。私の妹です」『あぁ、可愛いさとり。大きくなったのね』

声が二重に聞こえました。前者の声は耳から、後者の声は直接頭のなかに響いてきました。

ことり「さぁ、こちらへ来なさい。さとり」『怪我はしてない? おなかはすいていない? 大丈夫?』

頭の中に妹を心配する姉の思いが響き渡ります。それはずっと会えなかった姉の悲しいほどの深い愛を含んでいました。

ことり「あなたも一緒に戦うのです」『大丈夫。私が守ってあげるからずっとずっと。これからは私たちはずっと一緒よ』

さとり「おねえ、ちゃん。お姉ちゃん!!」

さとりさんがことりさんに向かって駆け出しました。僕もその後ろを走ってついていきます。 


392 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/05(水) 08:46:31 H6ImGs/o
さとり「お姉ちゃん!!」

ことり『さとりっ!』

さとりさんがことりさんに飛びつくように抱きついていきました。親によって捨てられた姉は捨てられなかった妹を恨んではないようで、ことりさんはさとりさんの頭を何度も優しく撫でていました。

こいし「ぶー、私も撫でてよー。ちゃんとお姉ちゃん連れてきたんだから」

―――え?

さとり「そうね、おいで」

男『こいしさんのさっきの言葉はいったいどういうことですか?』

その言葉を書いてことりさんに突きつけます。

ことり「あなたは………なるほど、あなたもさとりたちの家族なのね」『ありがとう、さとりの家族になってくれて』

男「っ………『質問に答えてください』」

こいし「私がお姉ちゃんにお願いされてお姉ちゃんをここまでつれてきたんだよー」

………だからこいしさんが外にいたのか。一緒に出てきたわけじゃなく。はじめから外に。

いつからこの二人は繋がっていたんだろう。

ことり「質問に答えるなら、『私はさとりたちが大好きだから』」

言葉が二重で強調されます。おそらく嘘ではないという感じはしますがどうでしょうか。 


393 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/05(水) 08:59:00 H6ImGs/o
少年『さとりさんはどうするんですか?』

さとり「私は………」

僕の顔をみてさとりさんが一瞬迷ったような顔をしました。

少年『分かりました。なら僕もついていきます。夫ですから』

さとり「………ありがとう、少年」

ことり「私としては歓迎します」

こいし「あはは皆一緒だね」

少年『ありがとうございます』

これが吉でも凶でも僕はずっとさとりさんと共にいます。見捨てられる怖さをしっているから僕は絶対にさとりさんを見捨てません。

神子「やぁ。どうやら感動の再開は終わったみたいですね」

ことり「えぇ、時間をとらせてすみません」

神子「では行きましょう。滅ぼすなら早いにこしたことはない」

人間達の間を縫って耳あてをして猫の耳のような特徴的な髪型をしている女性が出てきました。

布都「そのとおり。悪は早めに滅するが吉であろう」

そして灰がかった白髪の女性も出てきました。 


395 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/07(金) 09:48:09 /Oh9DGhY
神子「全員、目標は命蓮寺。出陣!!」

耳当ての人の言葉で人間達が動き始めます。

こいし「んじゃ、いこっかー」

こいしさんが僕とさとりさんの手を引っ張ります。それに僕では逆らえるわけがなく引きずられていきました。

ことり「がんばって戦いなさい」『後ろに隠れててね』

こいし「おねーちゃん、心の声駄々漏れだよー?」

ことり「ふふ、駄目ね。強く思いすぎると今でも出てしまうの」 


396 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/07(金) 09:53:13 /Oh9DGhY
さとり「あ………なんでお姉ちゃん眼が開いてるの?」

ことりさんの眼を見てさとりさんがそう言いました。そういえばそうです。ことりさんはさとりの能力を持っていないから眼が開いてない、はずだったのに。

そういえばさっき僕のこころを読んで答えた。今のことりさんは心が読める?

ことり「えぇ。頑張りました」

さとり「眼が開かなかったお姉ちゃんが心を読めるようになるなんて何をしたの?」

ことり「………」

さとり「っ!?」

さとりさんが目を見開いてこいしさんの顔を見つめます。

さとり「たべ、たの?」

ことり「えぇ。そうするしかなかったので」

それが何を意味するかは分かりませんでしたが、おそらく何かを食べたおかげでことりさんは強くなって、だけどそれは食べてはいけないもの。ことりさんはいったい

ことり「それ以上考えてはいけませんよ?」

ことりさんが僕の目をじっと見つめてそう言います。さとりさんも首を横に振りました。 


397 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/07(金) 15:07:49 /Oh9DGhY
思考を遮断することは嫌なことから逃避するために覚えた僕の特技で、僕の脳みそは今まで考えていたことをぶっつりと切捨て、この間会って、宴会に参加させていた命蓮寺の皆さ、道端の冬なのに葉をつけている木について考え始めました。

さとり「お姉ちゃん。少年だけは後ろに連れて行っちゃ駄目かしら」

ことり「駄目よ」『いいわよ』

さとり「どっち?」

少年『頑張ります』

ことり「………考えとしてはあまり妖怪になじんだ人間は信用できないけど、本心としてはさとりの夫だからかまわないわ」

こいし「大丈夫だよー」

さとり「?」

こいし「少年を無意識にしちゃえばいいんでしょ?」

さとり「………そうね。お願いするわ」

こいし「任せて!」

僕の知らない考えを一切許さず僕のことについて話が決まっていきます。ありがたくはあるのですが、おせわになった命蓮、いえこの考えはやめましょう。

僕がさとりさんより先に駄目になってはいけませんから。 


398 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/07(金) 15:20:17 /Oh9DGhY
現在命蓮寺があるのは幻想郷の人間の里から離れた場所。以前は人間の里の近くにありましたが、移動したらしいです。

命蓮寺は実は空飛ぶ船らしいので、戦争が始まってから飛んで位置を変えたらしいのです。

神子「もうすぐです。気を引き締めなさい」

「はいっ」

少年『ところであの人はいったい?』

さとり「豊聡耳 神子。神様みたいなものよ」

少年『神様なんですか?』

さとり「すばらしいものではないけどね」

神子「聞こえていますよ」

前を歩いていた豊聡耳さんが振り返らずに言いました。

さとり「えぇ、知ってるわよ」

布都「失礼であろう!」

さとり「私はお姉ちゃんについただけであなたたちについてないわ。だから礼を重んじる必要はないでしょ」

神子「まぁ、かまいはしません。戦力になるのなら」 


399 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/07(金) 17:41:37 /Oh9DGhY
響子「わわっ! 大変です大変です!!」

神子「私たちが来たことがバレない内に射殺しなさい」

布都「わかりました」

門前で掃除をしていた少女に矢が放たれます。それは到底目で追うには難しい速度で飛んでいきます。

聖「無用ですよ。そんなに殺気立たれては」

それをものすごい速さで走ってきた聖さんが受け止めました。

響子「聖さん!」

聖「一輪達を呼んできてね」

響子「はい!」

掃除をしていた妖怪が中へ入っていきます。それに向かって放たれた矢はすべて聖さんが受け止めました。 


401 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/07(金) 19:33:47 /Oh9DGhY
聖「ところで響はいったいどんな用ですか。帰依なら歓迎しますよ」

神子「君を殺しにきた………といえばいいかな?」

聖「………殺生は罪ですよ?」

神子「殺生じゃない。成敗さ」

ことり「少しいいですか?」

ことりさんが神子さんを遮って聖さんに話しかけます。

ことり「亡霊妹、という少女をご存知ですか?」

聖「いえ、私は知りませんが」

ことり「そうですか。亡霊妹は妖怪に殺されまして、私はその妖怪を『ぶっ殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したいっ!!』」

後半はいきなりことりさんからあふれ出た感情で聞こえませんでした。それほどの強い感情が今いる全員の頭の中に響きます。

聖「………話し合いは無用ということですか」

ことり「えぇ、今すぐそちらが匿う妖怪をすべて受け渡してくれるというならあなたは生かしておいてあげますが」『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

聖「その要求は受け入れられませんね」

ことり「では皆殺しということで」『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』 


404 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/07(金) 19:44:29 /Oh9DGhY
一輪「姐さんっ!!」

村紗「無事ですか!?」

門を開けて村紗さんと一輪さんが出てきました。

聖「皆さんは?」

一輪「星とナズーリンが守っています」

聖「なら安心ですね」

神子「では、参ります」

神子さんが剣を抜きながら素早く聖さんに接近して

こいし「男は見ちゃ駄目だよー」

こいしさんが僕の両目をふさいでそういうと 


405 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/07(金) 19:56:25 /Oh9DGhY
熱を感じ僕は我に返りました。めらめらと命蓮寺が燃えています。

そしてあたりにただよう火薬と生臭い血の臭い。

それは僕からもしていました。頬をぬぐうとどろりとした赤が手の甲につきました。

少年「っ!!」

周りを見渡すと立っていたのは神子さん、灰っぽい白髪の人。ことりさん、こいしさん、さとりさん………だけでした。それでも皆どこかしらを怪我しています。

周りには倒れた人間達と、聖さん、一輪さん、村紗さん

少年「――――っえっぷっ」

思わず吐いてしまい地面にぶちまけます。胃酸の苦味と痛みがのどに残り涙があふれ出てきました。

神子「人間達は皆死にましたか。まったく化け物ですね」

布都「でも我々の勝利ですぞ」

何度か咳き込み顔を上げると燃える神社のほうからことりさんが歩いてきました。

ことり「いませんでした」

神子「それは気の毒に」

少年「あの、さとりさんなんで僕は生きてるんですか?」

こんな激しい戦いなのになぜ僕だけ無傷でいるのでしょうか。 


406 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/07(金) 19:58:22 /Oh9DGhY
無意識でずっと立っていたというのに。

少年『さとりさんが守ってくれたんですか?』

僕のその考えをさとりさんは首を振って否定しました。

さとり「あなただけ、狙わなかったのよ」

男「っ!!」

聖さんたちの性格を考えれば分かること。

それでも僕は敵だというのに、それなのに

ことり「こいし」

こいし「分かったよー」 


407 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/07(金) 20:06:18 /Oh9DGhY
ぬえ「離して!! 離してよマミゾウ!!」

マミ「いかん! いまあいつらのところに行った所で出来ることなぞなんひとつないぞ!?」

ぬえ「やだ、いやだ!!」

マミ「今は耐えるしかない。それでいつの日か」

ぬえ「駄目なんだよう。あいつら皆殺されて」

ぬえ「死んじゃったらありがとうって言えないじゃないかぁ!!」

マミ「っ!! とにかく儂はお主まで失いたくない、分かってくれ」

ぬえ「聖!! 星!! 村紗!! 一輪!! ナズーリン!! 響子!!」

マミ「無理やりでも連れて行くぞ」

ぬえ「みんなぁ!! みんなぁああああっ!!」 


408 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/08(土) 09:25:40 oHOwEkCc
~男視点~

空気が重かった。夕食中一切言葉は発せられず、皆ただ食べることしかしない。いつも元気なチルノも今日は俯いて静かに食べていた。

詳しくはしらないが、一応霊夢たちの味方だった命蓮寺の皆が死んでしまったらしい。

今は落ち着いているが魔理沙は命蓮寺まで飛んでいこうとしたり、霊夢はずっと放心状態だった。

一応銃を使ってみたが弾は出ず時を戻すことができなかった。まだ異変は解決できるらしい。

霊夢「ごちそうさま」

霊夢が食べ終わり静かに出て行った。それに続いて魔理沙も食べ終わり出て行く。

映姫「男、後でいいですか?」

男「あ、はい。分かりました」

四季さんが俺を見て言う。それで会話は終わりまた黙々と夕食の焼き魚を食べる。味があまり感じられなかった。

命蓮寺とは付き合いがないとはいえ、それでも皆のこの様子を見るのは結構辛い。

結局全部食べるほど食欲は出ず、残りをチルノにあげて外にでた。

月が雲に隠れてぼんやりとした光しかとどかない。

男「?」

そんなぼんやりとした光の中に眼鏡をかけた女性と黒いワンピースを着た少女が立っていた。 


409 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/08(土) 10:03:07 oHOwEkCc
眼鏡の女性は俺をじっと見ているが、黒いワンピースの少女はずっと俯いている。

男「誰だ?」

マミ「驚かせてしまったようじゃな。霊夢はおるか?」

眼鏡の女性が一歩踏み出し、顔がはっきり見える。

男「どうやって中に入った?」

マミ「警戒するのも無理はないが、敵じゃない」

信じて良いものかどうか。もし霊夢を呼んで敵だった場合大変なことになる。それにこの奥には紫に四季さんもいる。二人は現在戦えないのだから襲われてしまってはひとたまりもない。

ぬえ「やっぱりいいよ。マミゾウ」

マミ「ここが一番安全なんじゃ」

どうやらここに匿ってもらいたくて来たらしいが。

男「………俺はあんまり詳しくないから直接取りつなぐことはできないからまず魔理沙を呼んできていいか?」

マミ「おぉ、それは助かる」

隙は見せるが、これで敵かどうかはっきりわかる。

俺は懐の銃に手をかけながら魔理沙の部屋に向かった。 


410 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/08(土) 10:17:27 oHOwEkCc
男「入るぞ魔理沙」

十秒ほど待ってみたが中から返事は返ってこなかった。仕方ないので許可はとらずに中へ入る。

魔理沙「………どうしたんだ?」

魔理沙が暗い部屋の中。ベッドにもたれかかって座っていた。

男「ちょっと用があってな。いいか?」

魔理沙「………あぁ」

魔理沙はゆっくりと立ち上がってぼんやりとした目でこっちへ歩いてきた。

その様子がとても危なっかしく思えて、腕を引いて抱きかかえた。

魔理沙「………」

いつもなら何かしらのリアクションを起こすが、今は黙って俺に抱きかかえられていた。

さっきの眼鏡の女性がいるところまで運んでいく。

魔理沙「………だ」

何かを言っていた気がしたが、小さくてよく聞こえなかった。 


411 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/08(土) 10:26:24 oHOwEkCc
マミ「手間をかけたな」

魔理沙を眼鏡の妖怪のところへ連れて行き縁側に座らせた。

魔理沙「マミゾウ?」

マミ「ずいぶんやつれてるな」

ぬえ「魔理沙………」

魔理沙「ぬえ………? なんで」

マミ「儂がぬえだけは助けた………ぬえだけしか助けれなかった」

普通に会話をしているところから見るとどうやら敵ではないらしい。

マミ「これで儂等が敵ではないことが分かったろう。霊夢をつれてきておくれ」

男「分かった」 


415 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/08(土) 19:22:54 iHWi5hBE
男「霊夢、開けるぞ」

霊夢の部屋も魔理沙の部屋同様に返事がない。なので霊夢の許可を得ずに中に入る。

部屋の中はやはり暗かった。

霊夢「勝手に入ってきて、変態………」

霊夢の罵声はいつもより覇気がなくて、囁くような声だった。

部屋のなかに踏み込むとアルコールの臭い。霊夢の近くに一升瓶が転がっていて、霊夢の手にも一升瓶が握られていた。この短時間で飲んだのだろうか。

男「お前、こんなに酒飲んだのか?」

霊夢「いいでしょ、別に」

男「良くないだろ。下手したら死ぬぞ」

霊夢「うん」

男「うんって………死にたいのか?」

霊夢「分かんないわよ。もう何も。………はぁ」

霊夢が酒を煽るように飲んだ。詳しいわけではないが、あのペースで酒を飲むのが体に悪いということは分かる。

男「もうダメだ」

霊夢の手から一升瓶を奪う。霊夢は鬱陶しそうな顔をして「返してよ」と言ったが近くにあった蓋を拾ってきつく閉める。 


417 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/08(土) 19:54:58 X5KqlmeY
男「もう少し自分の体を気づかえよ。自暴自棄になってないで」

霊夢「説教臭いわね。仕方ないじゃない、一気に知り合いがいなくなったんだから。しかもその知り合いを殺したのも知り合い。なんで皆そう簡単に人を殺せるのよ。死ぬってことはいなくなるってことなのよ?」

霊夢が小さく震える声でそう言う。

霊夢の気持ちは分かる。俺だって簡単に人の命を奪う奴の気持ちは理解出来ない。

でも、理解していたからといって霊夢にどんな言葉をかければいいのだろう。

俺は命蓮寺の人達を知っているわけでないし、殺した側の奴らを知ってるわけてはない。

霊夢「で、なんの用なのよ。説教でもしに来たわけ?」

男「説教はしたいが今は別の用だ。お前を訪ねてきた妖怪がいる。名前はマミゾウとか呼ばれてたな」

霊夢「マミゾウが?」

霊夢が立ち上がろうとしてふらついて俺に抱きついてきた。

霊夢「あ、ごめん」

いつもなら離れなさいこの変態とでも言ってきそうなものだが素直に謝ってきた。

男「肩貸すぞ。ふらつくぐらい飲んでるんだろ?」

霊夢「うん。お願いするわ」 


418 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/08(土) 20:03:47 5uQRuW32
マミ「霊夢」

マミゾウが霊夢を見ると少し眉を上げて驚いていた。

霊夢「久しぶりね、マミゾウ」

マミ「ずいぶんやつれたんじゃな」

霊夢「で、どうしたのよ」

マミ「ぬえを預かっては貰えないだろうか。礼はする」

マミゾウがぬえと呼ばれた少女の背中を押す。

魔理沙「マミゾウはどうするんだ?」

マミ「儂はやることがあるんでな」

ぬえ「マミゾウ………どこいくの?」

マミ「なぁに、ちょっとした用じゃよ」

ぬえ「戻って、来るよね?」

マミ「じゃああとは頼んだぞ、霊夢、魔理沙」

マミゾウが夜の闇の中へ跳んで消えていった。

ぬえがそれを追おうとして派手に転ぶ。 


419 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/08(土) 20:22:30 NxSf8Blw
ぬえはその場に座り込んでマミゾウが消えた方をずっと見つめていた。

霊夢「私は紫に伝えてくるわ。多分まだ食べてるでしょうし。あとはお願い」

霊夢が部屋の中へ入っていった。あとを任されたが何をすればいいのだろうか。

ぬえの近くに行きしゃがむ。ぬえは震えてまだ闇のなかを見ていた。

近づいてわかったが服も体もずいぶん汚れている。風呂にいれた方がいいだろう。

男「なぁ、大丈夫か?」

ぬえ「……………」

ぬえが静かに立ち上がり虚ろな目で俺の方を見ている。しかし俺を見てないように感じた。

魔理沙「兄貴、私は部屋の用意してくるから、ぬえを風呂に連れていってくれ」

男「それなら魔理沙のほうが」

魔理沙「この家のこと分かんないだろ? 兄貴がそんなやつじゃないって私信じてるからな」

魔理沙も走り去っていった。こんな状況で●●するほど下衆じゃないけどさぁ。信頼されてるのはいいが複雑だ。

男「ってことだけどいいか?」

ぬえ「………」

何も答えない。どうしたものやら。 


423 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/09(日) 21:19:20 nvPOhn2k
このまま放置しておくのもなんなので腹をくくって風呂にいれることにしよう。

嫌がったら、あとは魔理沙か霊夢にバトンタッチをすればいいだろうし。

そう結論付けてぬえの手を引き、温泉へと連れて行く。ぬえは抵抗せずについてきた。

何もリアクションを起こさない。すべて受身なのだ。ひっぱればついてくるが、ひっぱらなかったらずっとそこに立っている。これでは人形と変わらない。

何度も話しかけてはみるが、何もしゃべらない。これは俺が初対面のせいなのだろうか。もしかしたら霊夢や魔理沙なら反応が返ってくるかもしれない。

結局抵抗も反応もせずに温泉についてしまった。

扉を開けて脱衣所に入る。そういえば俺は今日二回目なんだが俺も入らないと色々不便だよな。この様子だと自分で入ってくれるとは思えないし。

男「服、脱がせるけどいいか?」

ぬえ「………………」

分かってはいたが反応はない。変態呼ばわりされてもいいから脱がそう。泥だらけのまま放置するほうが心が痛む。それにもう変態扱いなのは変わらないのだからかまいはしない。まさか変態扱いがこんなところで役に立とうとは………いや、役に立ってるのか?

ぬえのワンピースの首下のボタンを開ける。出来るだけ見ないようにしながら万歳させて服を脱がせようとするとなにかが引っかかった。なんだろうと何度かひっぱってその原因が分かった。背中に生えている赤と青の羽っぽいなんだかよく分からないもの。てっきり装飾だと思ってたが違うようだ。

よく見ればちゃんと背中から生えている物体にそって服に切れ目があった。黒く小さなボタンで留めているので気づかなかった。

ボタンをはずしてやっと服を脱がせることが出来た。

ずいぶん面倒な服だが、羽あり妖怪はみんなこんな面倒な服を着ているのだろうか。 


424 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/09(日) 21:42:21 nvPOhn2k
男「………つけてないのか」

妖怪に下着という文化があるのかそれともぬえが小ぶりなだけで必要ないのかどうかは知らないがつけていなかった。はずし方をあまりよく知らないのでそれはそれでありがたいのだが、なんだかなぁ。

男「あー、えっと、下脱がせていい?」

ぬえ「………………」

やはり返事もうなずきも返ってこない。仕方ないので目をつぶりながら脱がせる。あとはバスタオルでも体に巻いておけばいいだろう。

脱がし終わり、服を籠に突っ込んで俺も服を脱ぐ。一応視界に入らないようにして腰にタオルを巻く。マナーは別に公共の風呂じゃないからいいだろう。霊夢だって巻いていたし。

後はぬえにバスタオルを巻いて終わり。ぬえの背中を押して中へと入る。

冬、しかも夜なので裸で外にでるとかなり寒い。急いでぬえについている泥をお湯で丁寧に流し、浸からせる。続いて俺も温泉へ浸かる。

こうして落ち着いてぬえをみるとかなり可愛い。いやまぁだからどうしたという話なのだが。

もしかして幻想郷って美人ばかりなのだろうかと今まであった女性を思い出す。

うーん。見事に美人しかいないが偶然なのだろうか。

ぬえ「………………っ」

男「え!?」

ぬえがいきなり静かに涙を流し始める。表情を変えずに涙を流されるとこちらとしてはどう対応していいか分からずに困るのだが。

ぬえの前でおろおろしているとぬえがいきなりお湯に顔をつけた。ぶくぶくと泡がいくつも浮かんでは消える。え、なして? 


425 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/09(日) 22:02:59 nvPOhn2k
男「おいっ!」

慌てながらぬえの顔を上げさせる。

ぬえ「やめてよっ!!」

いきなり細い華奢な手で振り払われる。その動作だけで俺は水の抵抗もあるというのに少し吹っ飛んだ。胸を見ると一筋の赤。なんてこった。

妖怪が窒息死するのかどうかは分からないがとにかくとめるしかない。

再び近づいて抱きしめるように止める。とにかくこうでもしないとまた振り払われて終わる。

ぬえ「やだっ。やだぁっ!!」

駄々を捏ねる子供のようにぬえが抵抗する。駄々の割りにはなかなか力強いが。

男「俺に抱きつかれてるのがいやなのか止められるのがいやなのかは分からんが、離さんぞっ。前者だったら後でいくらでも謝ってやるよ!」

ぬえ「もういやだっ!!」

もういやだということは今の状況に絶望してるのか。だから突発的な自殺を起こした。

くそっ。霊夢でもいたら止められそうなんだが。 


426 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/09(日) 22:04:37 nvPOhn2k
男「うぐ、おっ」

頭突きがあごにヒットて一瞬意識が飛びそうになる。なんとか持ち直したが正直ジリ貧だ。

男「お前の理屈なんてしったことか!! 俺はもう誰も死なせたくないんだよ!! 俺にかかわったことを後悔するんだな!!」

ぬえ「………………」

ぴたりとおとなしくなる。あきらめてくれたのだろうか。

ぬえ「………うぇえええぇえんっ!!」

と思ったらいきなり子供のように泣き出した。

とにかくおとなしくなってくれたならそれでいい。これで泣き止んでおとなしくなってくれたならもっといい。

とにかくもう暴れないでくれ。体を見ると所々に小さな怪我がある。背中もずきりと痛む。どうやら背中にある程度大きな傷があるようだ。 


429 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 08:50:15 riBzP4ug
泣き声は夜空に響き、俺の鼓膜にも響く。抱きついた姿勢なので耳が痛い。

さてはてどうすればいいか悩み子供をあやすように頭を撫でる。子供みたいだから間違いではないと信じたい。

ぬえ「うわぁああああぁあああんっ!!」

泣きやまねぇ。どうすればいいものやら。もうこうなったら君の口を俺の口でふさぐっ!!

いや、冗談だけどさ。

とにかくこの状況を耐えなければ。

ぬえの目から大粒の涙がこぼれいくつも湯に落ちていく。ぽたぽたと。

男「あーくそっ。なんで戦争なんかおきるかね」

その様子がこないだの俺とダブって見えて強く抱きしめて頭を撫でる。

とにかくこんな時は誰かがそばにいてやらないといけない。俺だって四季さんにずいぶん助けられたんだから。

今回、俺がその役目にならないとな。

ぬえ「うぇええええぇええええんっ!!」

男「泣け泣け。泣くことは良いことだ」

それだけ大切だったんだろ。皆のこと。 


430 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 09:34:29 riBzP4ug
おそらく十数分間ほどぬえは泣き続けた。そしていきなり電池が切れたようにまたあの無表情に戻った。

男「よし、体洗うか」

ぬえ「………」こくり

まぁ、それでも一応頷いてくれるだけの進歩はあった。とりあえずは一歩。あとは会話をしてくれるといいんだけどな。

それでも動き自体は受動的でやはり俺が動かさないと動かない。なのでぬえを抱きかかえてお湯から出す。

椅子に座らせてとりあえず石鹸で髪を洗う。

髪は汚れのせいか傷ついておりごわごわしている。何度か洗わないと綺麗にならないだろう。

石鹸を泡立てて髪を洗い、流す。その作業を4回ほど繰り返してやっとぬえの髪が綺麗になった。

一応近づけて匂ってみるが匂いもない。これならいいだろう。

男「………はたから見ると変態だな、俺」

ぬえ「………………」こくり

呟いた一言に頷かれてしまった。

少し傷つくんだけど。 


431 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 10:07:00 riBzP4ug
髪が終わったんで次は体なんだが

男「体洗っていいか?」

ぬえ「………………」こくり

普通に許可でたがこれってもしかして俺の言葉に反応して頷いているだけとかないよな。

まぁ、うん。洗おう。一回お湯で流したとはいえ、細かな汚れは残ってるだろうし。

柔らかめのタオルに石鹸を泡立ててこする。

そういえば背中のこれどうすればいいんだろう。一応体の一部っぽいから洗ったほうがいいのかな。

根元からごしごししてみるが肌と違って硬い、というよりぷにぷにとした弾力性がある。本当なんなんだろうこれ。

ぬえ「………っ………っ」

こするたびにぬえの体がぴくぴくと震えるが大丈夫なのかこれ。やめておいたほうがいいのだろうか。手っ取り早く洗って他に移ろう。

男「腕ー。背中ー。足ー」

と洗っていきふと思うが前はいいのだろうか。下心はないがそれでも会ってすぐの男に触られていいものなのか?

男「………後で謝るからな」

ぬえと向かい合ってみる。タオルはなくて丸見えなのにノーリアクション。

………まぁ、俺には可愛い妹との約束があるんで●●しませんけどね! 


434 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 14:14:35 riBzP4ug
俺は髪が短いのですぐに乾くが、セミロング程度の長さのぬえはそうはいかない。

こんな時にドライヤーがあればなぁと文明の利器を懐かしく思う。

風邪をひいてはいけないのでタオルで念入りに拭いて服を着させる。寝巻きでもあればいいんだろうがさすがに背中が開いた寝巻きとかないからな。改造すれば別だろうが。

でも着替え作っとかないと汚れた服の問題とかあるからな。あとで四季さんにでも相談してみよう。

男「さて、魔理沙のところでもいくか」

ぱぱっと着替えてぬえの手を引っ張る。

魔理沙「お、もう出たのか」

外への扉を開けると外に魔理沙がいた。

男「ちょうどいいところに、ぬえのことを後は頼んだ」

魔理沙「おう。あと霊夢から伝言だ。ぬえの面倒はあんたにまかせた。だってさ」

男「………なんで俺?」

魔理沙「んー。一番頼りがいがあるから?」

男「たぶん一番戦力にならないからだろう。戦うだけならチルノのほうが俺の何倍も役に立つからな」 


435 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 14:31:17 riBzP4ug
男「というかさっき魔理沙返事したよな。だったら魔理沙がみれば」

魔理沙「一緒に面倒みればいいんじゃないのか?」

男「いや、まぁそうだけど」

使わせる部屋は魔理沙の部屋のほうがいいよなぁ。でも突発的になにかした場合のために俺の部屋のほうがいいのかな?

魔理沙「ってことで今日から私は兄貴の部屋で暮らすぜ」

男「六畳一間に三人は狭いだろ」

魔理沙「どうせ荷物とか一切ないんだから大丈夫大丈夫」

いや、魔理沙とぬえがいいならいいんだけどさぁ。ぬえは返事しないからいいのかどうなのかは分からないけど。

男「やれやれ。じゃあ今日はもう寝るか。疲れた」

魔理沙「あぁ、もう寝よう」

ぬえを引っ張って自室へ向かう。魔理沙は言葉には出さないが、声色も顔も疲れているし早く寝かせたほうがいいだろう。

ぬえも寝たら落ち着くかもしれないし。

男「ふわぁ………」

明日は今日よりいい日になればいい。

もういい日なんてこないかもしれないけどさ。 


436 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 14:45:06 riBzP4ug
~俯瞰視点~

地底には月の光は届かない。しかし青白い月の光のようなものが地底を照らしていた。

お燐「え?」

そんな地底で暮らしている火車、火焔猫 燐は伝えられた言葉が理解できずに聞き返した。

文「さとりさんが………人間側につきました」

文は外にでた際に放った式が持って帰った情報をもう一度お燐に伝える。

―――自分でも信じたくはないですけどね。しかし事実は事実ですよ。どんな言葉を使っても捻じ曲げることはできないんです。

そう文は付け加えた。文はそもそも記者ゆえに誇大広告はしても嘘はつかない性分なのだ。

お燐「はは、嘘、だよね」

お燐の目が動揺して揺れる。自分の愛した主人が敵に回ったのだ。お燐はこれは夢だと心の中でなんども唱えた。しかし握り締めた手の痛みがこれが現実であることを伝える。

文はお燐が望む返答をせず、首を横に振った。

文「ですが、さとりさんにも考えが「ねぇ射命丸。ちょっとお願いがあるんだけどいいかい?」

文の言葉を遮ってお燐が泣きそうな笑顔で文に聞く。

文「はぁ、かまいませんが」

お燐「今すぐ地底の全員を集めてくれないかい。伝えたいことがあるんだ」 


437 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 15:00:12 riBzP4ug
地底なのでそれほどスピードは出せない。それでも文のスピードは他の妖怪よりもずっと早い。

地底の住民は少ないとはいえそれでも4桁はいる。それを文はおよそ1時間で終わらせた。

文「はぁ。冷たい飲み物でも飲みたいですね。それで結局なんなんでしょうか」

詳しい内容は聞かされていない。文はただ集めてきてとしか言われてないのだから飛びながらずっとなにがあるのかを考えていた。

―――お燐さんの性格だと自分から戦争をしかけにいくとは思えないですけどね。勇儀様もいますし。

となるとさとりを取り戻す話し合いでもするのだろうか。

お燐「おかえり射命丸。ちょうど今から始まるよ」

お燐はにこりと笑って全員から見えるように地霊殿の屋根に上った。

お燐は全員いるかを見渡して頷くと声を張り上げてこう言った。

お燐「今からここの全員で地上を制圧する」 


439 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 15:09:23 riBzP4ug
その言葉を理解したものはお燐に対して抗議の声を上げた。

その代表は水橋パルスィだった。お燐に近づくために空中へと浮く。

パル「そんn「やりな、お空」

空中に浮いたパルスィが地面に落ちる。胸に大きな穴を開けて。

お燐がいるところよりもさらに離れた位置にお空はいた。その体勢はお燐に近づくものを射抜くために右手の第三の足を向けている。

パルスィを射抜いたのはお空の核融合による熱線。直撃すれば鬼にすらダメージを通すそれをパルスィは胸に受けた。

無事ではすまない。地面に落下したパルスィの綺麗な緑色の目に今はもう光はない。

パルスィの死。それを認識した妖怪はおびえ、騒ぎ、お燐に向かっていこうとし、逃げようとした。

そのうち向かってくるものと逃げようとしたものはお燐の炎に焼かれパルスィと同様に死んでいった。

勇儀「おいっ!!」

勇儀が激昂し、お燐に向かって飛び掛ろうとする。そして飛んできた熱線を素手で弾いた。

あの鬼が自分に拳を振りかざしているのにお燐の顔は歪んだ笑みを浮かべる。

お燐「いいのかい?」

勇儀「なに?」

その言葉を聞いて勇儀の拳が一瞬止まる。そしてお燐の言葉が何を指すのかは後ろから聞こえる悲鳴で分かった。 


441 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 15:19:09 riBzP4ug
パル「いたた、た」

死んだはずのパルスィの声が聞こえた。勇儀が振り返るとそこには胸に大きな穴を開けているというのに平然と立ち上がったパルスィがいた。

どういうことだ、と呟いたと同時に理解する。

お燐は自分の能力を使いパルスィを生き返らせた。いや生きた死体に変えた。

その能力を使っているところは見たことがない。さとりにとめられていたのかどうかは知らないがこれまでのものとは。と勇儀が驚愕する。それと同時にお燐が近づいて耳元でささやく。

お燐「いいのかい? 逆らったらまた死んじゃうよ?」

そんな嬉しそうな声を聞いて勇儀はあぁ、お燐はどうやら狂ってしまったのだなと理解した。

その原因は知らないが友人であるパルスィを人質に取られたからには仕方がない。胸のなかでくすぶる怒りを抑えながら勇儀は拳を下ろした。

勇儀「どうする気だ?」

お燐「今まであたいたちからすべてを奪った地上に復讐をするんだよ」

お燐「まぁ、誰にも理解して欲しくはないけどね。明日がないかもしれないってことを知らないあんたにはとくにね」

お燐の手が後ろから回され勇儀の首を撫でる。

その触り方に勇儀の背筋はぞくりと震える。

お燐「あたいは今までずっと奪われる側だったんだ。もうそろそろ奪う立場になってもいいだろう?」

その笑いながら話すお燐の声が勇儀にはひどく不快だった。しかしどうすることも出来ない。 


442 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 15:25:26 riBzP4ug
勇儀「入り口の結界はどうするんだ」

お燐「他の入り口を作ればいいさ。あんたとお空がいればそんなに難しい話じゃないだろう?」

お燐の手が勇儀の頬を撫で、爪を立てる。

勇儀「………分かった」

お燐「うん、いい返事は大好きだよ」

お燐が勇儀から離れる。そして屋根の上に立ちぱちんと指を鳴らすとお燐とお空に殺されたすべての死体が立ち上がる。

お燐「ねぇ、皆。生きながらあたいに従うのと死んであたいにしたがうのどっちがいい? あたいにとってはそんなに変わらないからどっちでもいいけどさ」

その言葉に逆らうものはもういなかった。 


443 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 15:37:16 riBzP4ug
お燐の話が終わり、勇儀はパルスィの家に戻ってパルスィの体の手当てをしていた。

勇儀「大丈夫か?」

パル「痛くないから大丈夫よ。死んだって実感はわかないけどね」

パルスィは胸にあいた穴を見ながらため息をつく。

普通ならば怒るのだろうが勇儀が怒ってくれたのだからもういいかとパルスィは思っていた。

そもそも嫉妬を集める妖怪なのだ。負の感情には慣れている。

それに生きているという表現は適切ではないが死んでいないのならあまりかまいはしない。そんな風に怒りや恨みによって妖怪になったパルスィは普通とはずれた考え方をしていた。 


444 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 15:37:46 riBzP4ug
お燐「大丈夫かい?」

そんな気遣いではなく形式的な台詞をはきながらお燐が部屋の中に入ってきた。

パル「大丈夫よ。それにしてもいきなり殺さなくてもいいんじゃないの?」

お燐「死んでるか生きてるかなんて対して重要なことでもないじゃないかい。どうしてそんな心臓が動いているかどうかに関心を抱くのかね」

パル「普通は死んだら死にっぱなしだからよ」

拳を震えさせる勇儀を押さえてパルスィがそう返す。

自分を殺した張本人を目の前にしてもパルスィはほとんど怒りを抱かなかった。それがお燐のせいなのかどうかは分からないがそれならそれでいいかとパルスィは納得する。

パル「で、どうしたのよ」

お燐「一応友達だったから次攻める場所でも伝えておこうかなってさ。幹部待遇で受け入れるよ」

パル「それはありがたいわね。勇儀の酒もお願い」

お燐「考えておくよ」 


445 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/10(月) 15:46:14 riBzP4ug
お燐「で、次攻めようかと思うのは紅魔館のやつらかな。具体的にはフランドール。いくら死体を操れてもばらばらにされたら意味がないからね。あんたならいけるだろう? 勇儀」

勇儀「無理でもやらなくちゃいけないんだろ?」

お燐「まぁ、死んでも大丈夫だからさ」

パル「で、いつやるのよ」

お燐「明日か、明後日か。それにしてもずいぶんいい返事だねぇ」

パル「それほど吸血鬼にかかわってないからよ。地上に関わってないってのが正しいけど。それに迫害されて地底にきたやつらは大体私と同じ感じなんじゃない?」

お燐「皆がそうならいいんだけどねぇ」

パル「とにかく私は地底のやつらが元気ならそれでかまわないわよ。とくに勇儀が元気なら」

勇儀「………………」

パル「そんな目で見ないでよ。私はあんたと違って根暗なのよ」

勇儀「………分かった。私もパルスィのためにがんばるよ」

お燐「んじゃあ作戦はのちのち伝えるよ」

お燐は黒猫の姿になって窓から出て行った。それをパルスィは見送ってつらそうな顔をしている親友の頭にぽんっと手を置いた。 



460 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/12(水) 12:05:18 ksLUkAU6
お空「………」

お空はずっと上を眺め続けている。そこには空ではなくあるのは岩で出来た自分たちを封じ込める天井、地上がある。

お空はお燐ほど頭が良いわけではないし、現実を見ているわけではない。それが幸いしたのかお燐ほどはまだ狂ってはいない。

が、それでも仲間だった妖怪を手にかけれるぐらいには狂っている。おそらく大親友のお燐がいなければ手当たりしだいに破壊し続けただろう。

大親友から聞かされた話はさとり達以外を全て消すこと。もしそれが出来たらずっとさとりと一緒に暮らせて幸せなのだろうとお空はそう思った。

―――お燐は頭いいんだもん。きっとさとり様を取り戻してくれるよね。

親友を信頼して幸せな未来を思い描く。

それはお空がいてお燐がいてさとりがいてこいしがいて少年がいて。そして後は誰もいなかった。 


461 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/12(水) 12:13:55 ksLUkAU6
日が明けた。

外から差し込む光によってパルスィは目を覚ました。

パル「死人に口なしって言うけど、寝て夢みて喋ってご飯食べて。真っ赤な嘘じゃないの」

―――にしても嫌な夢を見たわね。

パルスィが見た夢は自分の過去。裏切られ捨てられ、そして人の身から妖怪になった。そんな思い出したくない嫌な過去を見ていた。

パル「起きなさい。勇儀」

隣で寝ている勇儀を蹴って起こす。勇儀に対してこんなことができるのはパルスィぐらいだろう。

勇儀「………んあー」

はだけた寝巻きを気にせず勇儀がのそりと起き上がる。そして何度か頭をかく。

勇儀「朝か………」

パル「さっさと朝ごはん食べるわよ」

勇儀「………んー」 


462 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/12(水) 12:21:50 ksLUkAU6
パル「今日、行くのかしらね」

勇儀「じゃなかったらいいんだけどな」

パルスィが作った味噌汁をすすりながら勇儀が眠たげな声で答える。

パル「ちなみにお燐がお酒持ってきてくれるみたいよ」

勇儀「本当に持ってきたのか。はぁ、パルスィといい酒といい、お燐は私を手ごまにしたいようだねぇ」

パル「私がお燐でもそうするわよ。ヒエラルキーの一番上にいる鬼だもの」

勇儀「親友を手ごまにするのかい?」

パル「親友なら手伝ってくれるもんじゃない?」

勇儀「………手伝うけどさぁ」

悪戯じみた笑みを浮かべるパルスィに苦笑いしながら勇儀は味噌汁を飲み干した。

勇儀「ご馳走様」

パル「お粗末様」 


463 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/12(水) 12:33:34 ksLUkAU6
お燐「ここに勇儀が亀裂を入れた後、お空が破壊する。良いね?」

お燐がそこをぽんぽんと叩いて二人に指示する。

勇儀「正気か?」

お燐「さぁね」

お燐が叩いた場所。それは昨日お空が見ていた場所。

天井だった。

勇儀は何を言っても止められないんだから腹をくくるしかないね。とため息をついてお燐が触れた場所に向かって構えた。

お燐「じゃあお願いするね」

お燐が二人から十分距離をとる。戦闘力をあまり持たないお燐なら巻き込まれてしまえば終わりだからだ。いくら死体を操れるといっても自分の死体は操れない。

勇儀「はぁっ!」

勇儀が握り締めた拳を前に出す。それ以外は特別なことを何もしていない。

それだけで天井にひびが入りいくつもの石や岩が落ちていく。

あと数発殴れば天井が割れ、太陽の光が見えるだろう。しかし今は後ろで急激に熱を放つお空がいる。それに巻き込まれないように勇儀は天井を蹴って一気に地底へと降りた。

お空「行くよっ!!」

お空は自分の体に宿る自分のではない力。太陽の化身の神の力を解き放った。その光は天井を焼き尽くして――― 


464 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/12(水) 12:35:51 ksLUkAU6
お燐「さすがお空。塵一つ残さなかったね」

十分な力を溜めて放ったお空の一撃は文字通り塵一つ残さず天井を焼き尽くした。

空に見えるのは燦燦と輝く太陽と冬の空。

追いやられ封印された妖怪たちが数年前までは憧れていた光景だった。 



471 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 14:53:17 HGpPp2Uw
~男視点~

男「な、なんだ!?」

ものすごい音がして飛び起きる。まるで何かが爆発したみたいな音がしたが。

魔理沙「いてて。いきなりどうしたんだ?」

ぬえ「………………」パチクリ

男「今の聞こえただろ?」

魔理沙「熟睡してたからわからん」

耳が痛いくらいの音だったのに寝れるってどれだけ熟睡してたんだよ。もしかしてあの爆音は夢?

男「とにかく外を見よう」

外に出ると同じく四季さんも外の様子を見ていた。やはり勘違いではないようだ。 


472 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 15:33:18 HGpPp2Uw
男「四季さん。さっきのって」

映姫「えぇ。何か起きましたね」

魔理沙「なぁなぁ。なんかあったのか?」

俺の後ろから魔理沙だけが顔を出す。

映姫「まだ分かりませんがものすごい大きな音がなりました。分からなかったのですか?」

魔理沙「寝てたからな」

男「のんきだな」

魔理沙「仕方ない。ちょっくら着替えてみてくるか」

魔理沙が後ろで服を脱いで着替える音がする。もちろん振り向かない。

映姫「気をつけて。一応小町にも行かせますが」

小町「あたいはいつでもいけますよ、っと」

声がしたかと思うと屋根の上から小町が降りてきた。服も着替えて準備万端みたいだ。

魔理沙「んっと。私も十分だぜ」

俺のわきを通って魔理沙が外へ出る。 


473 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 15:36:01 HGpPp2Uw
映姫「あ。待ってください」

魔理沙「? なんだ?」

映姫「絶対に見てくるだけで帰ってきてください。どんなことがあっても戦おうとはせずすぐに戻ってきてください」

男「そうですね」

………俺の銃を使えば魔理沙たちが死んでも戻せる。が、死なせたくはないし、戻せたところで情報が得られないのは変わらない。なら最悪見捨てても情報を手に入れたほうがいいか。

小町「了解です」

魔理沙「……おう」

魔理沙が不満そうな顔をしていた。まぁ、魔理沙だもんな。念のため釘を刺しておく。

男「絶対帰ってこいよ」

魔理沙「分かってるって。何回も言わなくても」

男「俺は魔理沙に傷ついて欲しくないんだ」

魔理沙「………ん。分かった。絶対帰ってくる」

うん。ここまで言えば帰ってくるだろう。さらに念を押して魔理沙と指きりをする。

魔理沙「指切ったっと。本当心配性だな」

男「全国のお兄さんはみんなそんなもんだ」 


474 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 21:15:44 HGpPp2Uw
魔理沙と小町が遠くへ消えていくのを見送り四季さんと一緒に中に入る。

魔理沙と小町には悪いが朝ごはんを食べよう。そう思って自室によってぬえを連れ出した。

ぬえ「………」

うーむ。やっぱり一日ぐらいじゃ駄目か。変わったことといえば無言で後ろをついてくることぐらい。手は引っ張らなくて良くなったみたいだけど。

映姫「………ぬえ。大丈夫ですか?」

四季さんの問いにも答えない。それどころか視線すら合わせない。ずっとぼんやりと俺を見ている。

映姫「………だめですか」

男「昨日の………えっとマミゾウがくればまだなんとかなるかも知れないですけど」

映姫「行方は分かりません」

男「ですよね」

どうせならマミゾウもここにいればよかったのになぁと思う。

男「とにかく朝ごはん食べましょう」

映姫「はい」 


475 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 21:24:38 HGpPp2Uw
ぬえ「………」

わかってはいたがぬえは自発的に食べない。口に運べば食べてはくれるがそれだけだ。

おかずを食べさせご飯を食べさせ、のどが渇かないように水を飲ませる。

まるで子供の人形遊びみたいだ………いや、そんなこと嘘でも思っちゃいけないことだ。

男「ほら、あーん」

ぬえ「………」

ぬえがぱくりとご飯を食べる。そしてゆっくりと咀嚼。その間に俺はほとんど丸呑みするようなかたちでご飯を食べる。

そしてぬえののどが動くのを見てから次を口へ持っていく。

そして咀嚼。

男「おいしいか?」

ぬえ「………」こくり

男「そうかそうか」

映姫「………変わります。男は自分のを食べてください」

男「いえ、いいんです。これぐらいしか俺が出来ることはありませんから」 


476 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 21:32:14 HGpPp2Uw
男「ごちそうさま」

亡霊男「おーう」

亡霊男が食器を下げてくれたのでぬえと共に外へ出る。

と同時に魔理沙が転がるようにして中に入ってきた。

魔理沙「紫はいるか!?」

映姫「紫は」

紫「ここにいるわよ」

魔理沙の後ろ。そこに紫が立っていた。

魔理沙「大変だ! 地底のやつらがレミリア達を襲いにいった!!」

紫「………そう」

紫はそれだけいうと興味なさげに朝食の前に座った。

魔理沙「そうって、助けなくて」

紫「無理よ。こっちは少数精鋭とはいえ数が少ない、向こうには鬼に八咫烏と凶悪な妖怪がたくさん………今行くのは分が悪いわ。全員を行かせてここが狙われる可能性もあるし。結界を張ってるからって絶対安全ってわけじゃないのよ?」

紫が鋭い目をして魔理沙の言葉をぴしゃりと遮る。それに対して魔理沙は声を荒げた。 


477 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 21:43:23 HGpPp2Uw
魔理沙「でも!!」

紫「私たちは何があっても霊夢を守らないといけないの。つまり霊夢以外は守らなくていいの。それでも犠牲は最小限にしたいけど」

魔理沙「………もう良い。私だけが行く!」

男「おいっ!!」

魔理沙「止めるな兄貴っ!!」

魔理沙が箒で空に向かって飛んでいく。

紫「藍」

藍「はい」

紫がいつの間にか立っていた藍さんの名前を呼んだ。すると薄青い光を放つ結界が一瞬光る。そして

魔理沙「っ―――!?」

魔理沙が空中で弾かれて地面に向かって落ちる。

男「魔理沙ぁあああ!!」 


479 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 21:49:31 HGpPp2Uw
外に向かって走る。間に合え!!

踏み出した足に尖った石が食い込むが気にしてる場合じゃない。魔理沙は妖怪でもなんでもないただの女の子だ。あんなところから落ちたら間違いなく死ぬ。

紫はそれを分かってるのか!?

………いや魔理沙が死んでも問題ないのか。俺がいるから生き返らせれる。

だとしても殺したくはない。大切な妹なんだから。

男「届けぇええええぇええ!!」

魔理沙までの距離は数メートルしかし魔理沙は地面に近いところまで来ている。間に合うかどうかギリギリな所だ。

俺の手が、魔理沙に近づいて

男「!!」

俺の手が届くよりも早く魔理沙は落ちていった。

駄目なのか。諦めかけて銃を引き抜こうとする。 


480 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 21:52:50 HGpPp2Uw
ぬえ「………………っ」

何かがものすごい速度で動いた。そう認識したときにはすでにぬえが魔理沙を抱きかかえていた。

男「ぬえ!!」

ぬえ「………」

ぬえがゆっくりと魔理沙を地面に下ろす。魔理沙は目を見開いて震えていた。

男「大丈夫か?魔理沙」

魔理沙「あ………あぁ………あ………」

返事はない。それどころか何も反応はない。

震える魔理沙を抱きかかえぬえに礼を言う。

男「………」

振り返って紫を睨む。しかし紫はこっちを見ておらず静かに朝食を食べていた。 


482 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 21:57:06 HGpPp2Uw
頭に血が上って紫をぶん殴ってやろうと歩き出す。

ぬえ「………」

しかしぬえが俺の袖を掴んだ。

男「なんだ?」

ぬえ「………」ふるふる

ぬえが首を横に振った。

男「駄目、なのか?」

初めてのぬえの頷く以外の意思表示に少し頭が冷える。

男「………そうか。勝てるわけないもんな」

ぬえ「………」こくり

紫ならどうにかなるかもしれない。でも藍さんがいる。それに四季さんも止めるだろう。

どうしようもない憤りを深呼吸をして沈め魔理沙を強く抱きしめて自分の部屋に戻った。 


483 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 22:09:46 HGpPp2Uw
部屋に戻って魔理沙を布団に寝かせ、俺は壁を背にして座り込む。その隣でぬえが体育座りをした。

魔理沙の様子はまだ震えている。今まで命の危機はあったかもしれないが今回はいきなりでそれも身内からだ。

死んでないとはいえぬえがいなければ死んでいた。

男「ぬえ。本当にありがとう」

ぬえ「………………」

ぬえがじっとこっちを見つめる。何を伝えたいのかはよく分からないがその目は少し潤んでいた。

男「魔理沙。大丈夫だからな」

震える魔理沙の手を掴む。すると魔理沙は強い力で握り返してきた。爪が皮膚に刺さり血が滲む。反射で振り払いかけたがここで振り払うわけには行かない。その魔理沙の手を両手で優しく包む。

魔理沙「………お、おにい………ちゃん」

魔理沙が青ざめた顔でこっちを見る。

男「なんだ?」

魔理沙「こ、こわ………こわか………」

男「無理して喋らなくていい。今はもう寝ろ」

魔理沙の手を撫でる。

こんな小さな手がこんなにも震えていることが許せなかった。そして助けることが出来なかった俺も。 


484 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 22:15:09 HGpPp2Uw
魔理沙「………すぅ………すぅ………」

魔理沙が寝息を立てるまで2時間ほどかかった。そして寝てる今でも俺の手を強く握っている。

ぬえ「………」

ぬえが魔理沙の頭を撫でていた。

男「ありがとうな。ぬえ」

ぬえ「………………」

男「なぁぬえ。良かったらお前のこと教えてくれないか?」

ぬえ「………………」

やっぱ喋れないか。ここまで行動してくれたのだからもしかしたらと思ったが。

ぬえ「……………あ」

男「!」

ぬえの口から声が漏れた。昨日のような泣き叫ぶ声ではない。ちゃんとした声だ聞こえた。 


485 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/18(火) 22:17:08 HGpPp2Uw
ぬえ「………う………あ」

男「なんだ?」

ぬえがなんどか喋ろうとしているがどうやら声がつっかえているらしい。ぬえを見つめて言葉を待つ。

ぬえ「―――」

男「―――!」

ぬえの声が聞こえた。

しかしそれは

ぬえ「あう、ああう」

言葉にならない、意味をもたない声だった。 




489 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/19(水) 07:31:04 l3Sa.JsA
男「喋れない、のか?」

ぬえ「あうう………」こくり

え、だって昨日は。

男「………ちくしょう。なんでこんな」

握られてないほうの拳で壁を殴りつける。低く鈍い音が鳴って拳が痛んだ。それでもかまわず殴り続ける。

男「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう」

ざらざらとした壁で皮膚が破け血が滲む。それでもかまわず殴り続けているとぬえが腕に抱きつくようにして止めてきた」

ぬえ「あううあう」フルフル

ぬえが悲しそうな顔をして首を横に振る。

ぬえにこんな顔をさせてしまった自分に苛立ったが腕を掴まれているので何も出来ず歯をきつく食いしばった。

映姫「………何か音がしていましたが」

四季さんが部屋に入ってくる。そして俺の状況を見て少し目を見開いた。

映姫「どうかしましたか」

男「ぬえが………ぬえが………」

映姫「ぬえが?」 


490 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/19(水) 08:11:31 l3Sa.JsA
映姫「………過度なストレスからくるものですね」

ぬえ「あう」

映姫「いずれ喋れるようになるでしょうが、それがすぐ治るのかしばらくかかるのかは分かりません」

映姫さん曰く失語症みたいなものだそうだ。厳密に言えば違うらしいがそこらへんは良く分からない。

とにかく治るのなら安心だ。このまま妖怪の長い一生喋れないままなんてあまりにも酷だから。

男「ありがとうございました」

映姫「いえ。結局私は何も出来ませんでしたから。それと男。手を」

ぬえが俺の手を強引に四季さんの前に差し出す。

映姫「血は出ていませんが痛めるので駄目ですよ」

そういいながら四季さんが懐から取り出した塗り薬を塗ってくれた。

………ん?

何か今違和感があった気が。 


491 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/19(水) 08:29:54 l3Sa.JsA
男「………四季さん。これからどうなるんでしょうか」

今この現状。何かが確実的に動き出している。

それはおそらく悪いことで逃げられないことだ。

そんな気がする。

映姫「分かりません。今はまだ」

ウィルは地底の妖怪に勝てるのだろうか。それが心配だが助けにいけないし、行った所でおそらく意味はない。

せめて結界さえなければ………

映姫「紫を………あまり責めないでください」

男「え?」

映姫「紫は霊夢を守りたい一身で行動しているのです。それが原因で冷たく思われるかもしれませんが本当の紫は優しいのですよ」

男「………でも魔理沙が」

映姫「もし間に合わないのなら藍さんがいましたから」

男「それでも」

映姫「お願いです」

四季さんのまっすぐな目。でも俺は紫を……… 


496 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/20(木) 10:40:48 ZPeMbdLc
………許せはしない。けど

男「分かりました。紫のことは恨みはしません」

映姫「ありがとうございます」

………四季さんがそこまでいうのならそうなんだろう。まだ犠牲者は出ていない。身内の中では。

でも、誰かが死んだとき。

その原因が紫だったとき。

そのとき俺は紫を許すことができるのだろうか。 


497 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/20(木) 11:00:22 ZPeMbdLc
~俯瞰視点~

嫌な風が吹いている。そうレミリアはため息をついた。

幻想郷中に飛ばしていた使い魔が持ってきた情報は地底の妖怪達がこの紅魔館を目指しているというあまり好ましくない情報だった。

レミ「まさかお茶をしにってわけじゃないと思うけど」

おそらく戦いに。というか十中八九そうなのだろう。しかし理由が分からない。どうすればいいものかとレミリアは頭を悩ませた。

今は朝で快晴。レミリアにとっては非常に嫌な天気だ。太陽の光が駄目なのはレミリアも例外ではない。唯一の例外といえばウィルヘルミナぐらいだ。

勝算は不明。咲夜や美鈴で鬼と八咫烏を止めれるか。止めれたとしてもまだ問題はいくらでもある。

レミ「逃げる………その方がいいかしら」

数年前のレミリアなら考えもしないこと。しかし幻想郷に来て変わったレミリアは家族を守ることこそ誇りとしている。

そのためならば泥を被り木の葉を纏うことも出来るだろう。

しかしこの人数で向かってきている相手から逃げるのはあまり現実的ではない。行動に移すには遅すぎた。

レミ「仕方ない。戦うしかないわね」

そうため息交じりに呟いてレミリアは自分の手を見つめた。 


499 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/21(金) 20:34:11 HsY8Knmc
美鈴「ほへ?」

うつらうつらと睡魔と仲良く遊んでいた美鈴が咲夜に何かを話しかけられ目を覚ます。

美鈴「ふわぁ。もう一度お願いします」

あくび交じりに聞き返すと咲夜はもう一度同じことを繰り返した。

普通ならばこの時点でナイフが刺さるだろうと思っていた美鈴はその言葉を聞いて完全に覚醒する。

美鈴「分かりました」

躊躇はしない。後は咲夜が命令を飛ばしてくれるはず。そう信頼して美鈴は外から門を閉じる。飛べるものが多い幻想郷では門を通らず越えることも出来るがそれでも空中と地上では動きやすさが段違いだ。

それに

―――空中はお嬢様の世界だから。

自分の主より空中で戦えるものはいないと確信している。天狗の速さと鬼に匹敵する腕力。空中ならば自分は勝てないだろう。

美鈴「よし。がんばりますか」

ポケットからグローブを取り出して着ける。そして思いっきり地面を踏みしめた。

それだけで砂煙が舞い、地震のような衝撃が響き渡る。

妖精メイドの慌てた声がしたが美鈴は気にせず敵が来るであろう方向を睨んだ。 


500 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/21(金) 21:42:08 HsY8Knmc
咲夜「弾幕構え! 近づく敵は私とウィル様が対処するから無理はせず足止めに専念しなさい!」

咲夜がメイド妖精に命令を飛ばす。メイド妖精は両手のひらを向け、構えた。

目測800メートル。空中に浮いた咲夜は服の中に仕込んだ銀のナイフを数本取り出し構えちらりと美鈴を見た。

美鈴の様子は普段とは違い隙がない。今ナイフを飛ばしたとしても容易に弾かれるだろう。

ウィル「咲夜」

パタパタとこうもりの羽を羽ばたかせウィルが咲夜に近づく。

ウィルはレミリアやフランとは違い自分専用の武器というものを持っていない。使えるものは素手か、レミリアやフランの武器に似せた魔力で編んだ武器ぐらいだ。威力も耐久力も本物には遠く及ばない。

それでも吸血鬼であるウィルは弱くはない。千の屍を築き、万の血を浴びることすら可能だ。

ただしそれは相手が普通の妖怪だった場合だ。相手は幻想郷の中でも忌み嫌われる者たちを集めた集団。苦戦することは容易に想像できる。

―――でも、負けてあげれない。

ウィルは魔力を解き放った。ウィルの濃い魔力は赤色を伴いあふれ出す。

その姿はレミリアが起こした紅霧異変に似ていた。 


501 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/21(金) 21:59:43 HsY8Knmc
お燐「あはは。チェックメイトだね。ちょっと圧倒的過ぎたかな?」

地底の集団を見ながらお燐が歪に笑う。

鬼に天狗に橋姫に土蜘蛛。その他たくさんの強力な妖怪。

それに今は朝だ。吸血鬼は動くことが出来ない。

ならば負ける要素は万が一にも存在しない。

お燐「これで吸血鬼の死体ゲット。あとはまぁどうでもいいか」

お空「何かおいしいものあるかなー」

お燐「さぁ。あるんじゃない?」

二人して笑う。その姿はいつもの二人と変わらない姿で、話の内容以外は微笑ましかった。

お燐「どうせすぐ終わるだろうし。今日はこんなに良い天………気?」

お空「?」

死体が手に入ることに喜びを押さえきれないお燐の笑みが凍りつく。

朝。太陽は見えている。

なのに紅魔館には一筋の光すら差し込んでなかった。 


502 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/22(土) 09:58:12 zgzgoDTI
ルー「これでいいのかー?」

レミ「上出来だな」

レミリアは紅魔館周辺の空を覆う闇を見て満足そうに笑う。

闇の規模は紅魔館周辺。専守防衛ならこれでいいだろう。しかし

レミ「だが、これだけではつまらんな」

ルー「でもこれが限界なのかー」

レミ「そんなわけないだろう? ウィル。ルーミアのリボンを取れ」

ルー「でもこれ触るとびりってなるのかー」

レミ「なに心配ない」

ウィル「これを取ればいいのか? お母様」

ウィルがルーミアのリボンに手を伸ばす。魔を封印し、それに触れた者を弾くリボンをウィルはたやすく解いた。

直後。ルーミアの体から闇が溢れあたり一面の視界を奪う。

ルー「あらあら。この子凄いのね」

闇が消え、そこにいたのはルーミアを成長させたような女性だった。 


503 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/22(土) 10:09:56 zgzgoDTI
ウィル「!?」

ウィルが驚いて目をぱちぱちと瞬かせる。ルーミアが消えてその代わりにいたのがルーミアのような女性。ウィルの理解は追いつかず、自分の頭を撫でてくる女性に混乱した。

レミ「それが封印ってことは知っていたが、そこまででかくなるのか。むかつくな」

ウィル「ルーミア、なのか?」

ルー「そうよ」

レミ「さーて。地底の妖怪だかなんだか知らないが吸血鬼四人に闇の妖怪が一人、メイドに門番に魔法使い」

レミ「勝てるとは思わないことだな! 閻魔よりも先に私が罪状をくれてやろう!!」

ルー「あらあら。テンション高いわね」

ウィル「………来る」 


504 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/22(土) 10:27:06 zgzgoDTI
門の前。両者の距離は50メートル。紅 美鈴と星熊 勇儀がにらみ合っていた。

勇儀「悪いが通らせてもらう」

美鈴「すみませんが無理ですね」

勇儀「わかってはいたが………怨むなよ。こっちも事情があるんだ」

勇儀が深く腰を落とし構える。

美鈴「そちらにどんな事情があろうともここを通すのは門番の名折れ。門番 紅 美鈴の誇りに賭けここは通しません」

対して美鈴が軽くフットワークをして構える。

勇儀「………はぁっ!!」

一歩。轟音と共に衝撃波が飛ぶ。

二歩。さらにそれよりも強い衝撃波。

三歩。50メートルの距離を埋め、地を砕く鬼の拳が最大威力で放たれる。

それを美鈴は受けた。そして強大な力を使って回転、勇儀のわき腹に肘を入れる。 


505 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/22(土) 10:33:45 zgzgoDTI
勇儀「ぐっ………」

美鈴「これを普通に耐えるってどんな体をしてるんです、かっ!!」

美鈴が受け流す柔の体勢から、腰を深く落とし地を踏みしめる剛の体勢へと変わる。

そしてダメージを受けよろめいている勇儀の腹に虹色の気を纏った正拳突きを放つ。

それは勇儀の鳩尾に綺麗に入り、勇儀は体をくの字に曲げた。

勇儀「まけれ、られないんだよ!!」

勇儀が美鈴の腕を掴む。そして後ろへ引こうとした美鈴を力任せに引っ張りよせ空いた手で殴りつけた。

さきほどよりも威力はないとは言え鬼の拳。それを美鈴は顔面に受ける。そのまま地面に叩きつけられ、美鈴の意識は一瞬飛んだ。

美鈴「こっち、もっ!!」

一瞬飛んだ意識の後迫り来る二発目の拳を地面を転がって避け背筋を使って立ち上がる。

美鈴(目が潰れなかったのは幸いですが、あれだけの威力をもう一回受けるとかなりやばいですね)

こちらから攻めるとまたやられてしまう。そう美鈴は判断してまた軽いフットワークの柔の体勢へと変えた。 


506 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/22(土) 14:29:05 j/N8YaOc
勇儀は驚いていた。本当ならば最初の一撃で仕留めるはずだったのにすでに二発も受けてしまっている。

出会いが違えば胸が躍っただろう。しかし今自分が負ければパルスィの命が危ない。一度失われた命を二度と失わせないために勇儀は負けるわけにはいかないのだ。

勇儀「うがぁあああぁあああっ!!」

勇儀の声は叫びを越えて咆哮となっていた。間近でそれを聞いた美鈴の体が一瞬止まる。

それを勇儀は見逃さずに近づく。

形もなにもない単純で最強の一撃を勇儀は繰り出す。

美鈴「あ、しまっ」

咄嗟に腕を十字にして美鈴が受ける。腕から伝わる音は折れた音ではなく砕けた音。

両手を犠牲にしても勇儀の一撃は威力を少し落としただけだった。

美鈴の体が吹き飛び門へぶつかる。

鉄製の門に強く体を打ち付け美鈴の体中から骨が折れる音がした。

地面にどさりと落ちた美鈴は生きているものの動ける状態ではない。

血が混じった呼吸を繰り替えしつつ美鈴は近づいてくる勇儀を見た。 


507 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/22(土) 14:49:55 j/N8YaOc
レミ「楽しいわねぇ!!」

文は後ろを同じ速度でついてくるレミリアから必至に逃げ回っていた。

出来るだけ遠く。レミリアを引きはがすために翼をはばたかせ飛ぶ。

地底の妖怪達の中にはにとりやみとり。そして自分の夫である白衣男がいる。

皆の生存率を上げるために文は自分の命を賭けていた。

文(幻想郷最速だと思っていたのですが)

天狗の中でも速い自分についてこれる存在なんているとは思っていなかった。初めて見たレミリア・スカーレットの実力と、久しぶりに出した自分の全力が近い。しかも相手は一撃でこっちを倒せるほどの力を持っている。

分が悪かった。手数で攻める文が手数で攻めることができない。それどころかレミリアとレミリアの使い魔が放つ弾幕で服が破けていっている。直撃はしていないがそれは時間の問題だった。

レミ「どうしたのよ。そんなに逃げ回って。ダンスのお誘い?」

そんな軽口を叩きながらレミリアは文についていく。付かず離れずの距離だがレミリアは遊んでいるわけではなくこれが限界の速度だった。

空が闇に包まれているとはいえ、その上は光射す世界だ。闇の上に行かせるわけにはいかない。

それにルーミアが倒れてしまうと闇が晴れ、日が射す。そんなことになるとレミリアとフランと吸血鬼はひとたまりもない。

レミ「ねぇねぇ天狗! 鬼ごっこより弾幕ごっこしましょうよ。手加減なしのね!!」

焦りが軽口となって出ていく。

そして焦りはレミリアの命中精度に影響した。 


510 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/22(土) 19:05:15 j/N8YaOc
レミリアが放った弾幕が文の20センチ隣を通り過ぎていく。それはレミリアにしては外れている。普通ならば10センチ以内を狙うことができるのにだ。

文(………さっきからレミリアさんの弾がぶれますね。疲れてるのでしょうか)

しかし誘いかもしれないと判断して文は攻勢に出ずに逃げ続けた。

それがさらにレミリアの焦りを産む。

気が付けば紅魔館から離れている。しかし今背を向けるわけにもいかない。

レミ(罠か………。早く倒さないと)

紅魔館の方からはなかなか激しい戦いになっている音がする。

もしかして誰かが傷ついたんじゃないだろうか。レミリアの中の不安はどんどん大きくなり、一瞬ちらりと後ろを向いた。

文(罠………いや、隙!)

レミリアが後ろを見た時間は1秒にもならない。しかしそれは文にとっては十分すぎる時間だった。

手に持った葉団扇を扇ぎ強烈な風を生み出す。それは大きな竜巻となってレミリアを飲み込んだ。

レミ(あ、やば………)

二回目の風がレミリアを直撃する。何とか態勢を保っていたレミリアも方向の違う強烈な風に煽られバランスを崩した。

そのまま風に飲まれる。そしてなすすべもなく飛んでくる鎌鼬や礫を体中に浴びた。 


515 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/24(月) 09:58:23 8VHamBw2
パチェ「げほっげほっ」

パチュリーの周りを白い粉が覆う。それはパルスィが撒いた灰だった。

パル「毒はないわよ。毒はね」

パルスィーがパチュリーの近づき五寸釘を突き刺す。

パル「っ」

パチェ「うちの、本は、げほっげほっ、そうそう貫けないわよ。シルフィホルン!!」

パチュリーが召還した風の精霊が灰とパルスィーを吹き飛ばす。パルスィは近くの家の壁を蹴って着地した。

パチェ「アグニシャインッ!!」

着地したところを狙い大きな火球がいくつもパルスィーに飛んでいく。それはパルスィーの体を焼き皮膚を焦がす。

パル「かはっ!」

パルスィーが空気を求め大きく口を開く。

パチェ「!?」

その口の中に見えたのは切られて短くなった舌だった。 


516 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/24(月) 10:08:55 8VHamBw2
ドスッ

パチュリーの背中に刃物で刺されたのとは違う鈍い痛みが走る。

パチェ「!?」

振り向こうとすると首を絞められそのまま片手で持ち上げられた。咳き込もうにも上手く咳き込めずパチュリーは蛙の鳴き声のような声をあげた。

パル「やっぱり魔法使いにはこれよね」

パルスィが空いた片手で鋏を取り出しのそれをパチェの口の中に刺し込んだ。そして鋏を閉じる。

パチュリーの口の中から大量に血があふれ出した。血はパチュリーの喉にも入り込みさらに呼吸を阻害する。

パル「はい。これで終わりよ」

パルスィーが手の力を更にこめる。パチュリーの細い首は枝を折るような軽い音を立て折れた。

パルスィーが手を離すとどさりとパチュリーの体が地面に落ちる。パルスィーは念のため心臓のあたりへ何本か釘を刺し、次の目標に向かって歩き出した。 


517 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/24(月) 10:14:39 8VHamBw2
フラン「えへへへへー」

フランが手を握るたびに妖怪が砕け散る。それを耐えることが出来るのは幻想郷でも数えるほどしかいないだろう。

鬼である勇儀がまだ来ていないため、フランの周りにはいくつもの骸が転がっていた。

能力を使い、また剣の形をした炎を使い敵を葬っていく。

そんなフランを止められるものはおらず、赤い目を爛々と光らせたフランも止まる気は一切なかった。 


518 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/24(月) 10:22:32 8VHamBw2
文「もう一発っ!!」

文がさらに風を起こす。それは竜巻をどんどん大きくさせ、今では竜巻の規模を大きく超えていた。

それに比例し、カマイタチや礫の威力もどんどん上がっていく。中に入ったレミリアはひとたまりもないだろう。

文は気を抜かずどんどん葉団扇を扇ぐ。

文「まだまだっ!」

そして文が葉団扇を振り上げた時だった。

不意に体勢を崩す。何が起きたかわからず文は自分の体を見た。

左わき腹がなくなっていた。そして大量の血を噴出させている。

パァンッ

そんな風船がはじけるような音がしてレミリアを閉じ込めていた風がはじけ飛ぶ。

レミ「やっと命中ね」

皮膚が裂け筋肉が露出し関節があらぬ方向へ曲がっているレミリアが赤い槍を持ち不敵に笑っていた。 


519 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/24(月) 10:34:25 8VHamBw2
文「!!」

文は恐怖を感じて葉団扇を強く扇いだ。起こすのは竜巻ではなく強風。

地面の礫を巻き上げるような風が吹きレミリアを襲った。

拳よりも大きな石が恐るべき速度でレミリアに飛んでいく。レミリアは避けれずそれを体中に浴びた。

首が折れ頭が後ろにだらりと垂れ下がる。それと同時にレミリアは手に持った槍を投げた。

グングニルと名づけられた赤い槍はそれほど強くは投げていないのに音速の壁を越えて文に飛来する。

懸命に回避しようとするが左足を掠めてしまう。レミリアの膨大な魔力を使って編まれた槍はそれだけで足の肉を弾け飛ばせた。

レミ「どうした。もっと楽しいことをしてくれるんじゃないのか?」 


520 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/24(月) 10:35:28 8VHamBw2
文「うわぁああああぁあっ!!」

文が叫びながら闇雲に葉団扇を扇ぐ。カマイタチや礫がレミリアを直撃し、レミリアの体を傷つけていく。

しかしレミリアはそれを気にも留めず再び手に持った赤き魔槍を投擲する。

再び音速を超える槍が文に突き刺さった。右腕の肘から先が吹き飛ぶ。

文「あ、あぁあああぁあああっ!!」

熱い痛みが文の意思を砕く。

文(やだ、白衣男さん、たすけ)

愛しい人を思い涙を浮かべた射命丸の顔を槍が吹き飛ばした。

レミ「烏ごときが夜空の王であるこの私に勝とうと思うことが間違いなのよ。逃げるんならともかくね」 

526 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/24(月) 20:25:45 mswSnWOc
勇儀「すまんな」

美鈴の視界には自分を見降ろす勇儀が見えた。

勇儀が腕を振り上げる。このまま拳を振り下ろされれば美鈴の命は途切れるだろう。

狼男「美鈴!!」

上から声がした。見上げた勇儀の視界にはこちらに向かって飛び降りてくる男。

勇儀「邪魔しないでくれ」

それを勇儀は片手で弾き飛ばした。狼男が空中を飛び、ごろごろと地面を転がる。

狼男「めい、りんっ」

狼男が地面をひっかき這って美鈴に近づこうとする。しかし距離は遠く、いくら手を動かしても次の勇儀の攻撃からは美鈴を守れない。

狼男の視界がぼやけてきた。鬼の一撃を腹部に受け内臓はボロボロになっている。折れた骨が体を動かすたびにさらに内臓を傷つけた。

血の泡が混じってかすれた声で美鈴の名前を呼び、腕を動かす。しかしその動きは次第に小さくなり、這おうと力を込めた腕は虚しくも地面の砂を掻くだけだった。

狼男「めい…り……」

狼男はもう声かどうかも怪しいぐらいの声で美鈴の名前を呼んだ。そして前に進もうと少し上げた手が力尽き地面へと落ちた。 


527 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/24(月) 20:39:03 mswSnWOc
美鈴「男さぁんっ!!」

美鈴がボロボロの体で立ち上がる。

そのままよたよたと狼男の亡骸へ歩み寄った。

勇儀は歩いてそれに近づきトドメを刺そうとする。

美鈴「狼男、さん」

美鈴が骸を抱きしめ泣く。

美鈴「なんで、なんでなんでなんでなんで!!」

美鈴が後ろに立つ勇儀を睨む。その眼は殺意に満ちていた。

その眼に少し勇儀は怯んだが相手は瀕死。トドメを刺そうと拳をふるった。

美鈴「殺してやる!!」

勇儀「!?」

その手を美鈴が掴んだ。

その様子はさっきまでの瀕死の妖怪ではなかった。そしてそもそも

美鈴「うああぁあああぁあああぁっっ!!」

頬や腕を覆う緑色の鱗は勇儀の知る紅 美鈴ではなかった。 


529 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/24(月) 20:46:38 mswSnWOc
鱗に覆われた拳で美鈴が殴りかかる。一瞬怯んで防御が遅れた勇儀の顔に拳が深く突き刺さった。

勇儀「がぁあっ!!」

今まで受けたことのない一撃を受け、勇儀の体が吹き飛んだ。

美鈴「殺す殺す殺す殺すころすっ!!」

吹き飛ぶ勇儀に美鈴が追いつき何度も殴打を加える。抵抗しようとするが防御をしたところで防御した箇所の骨が砕かれるだけだった。

今の勇儀を見て誰が鬼と信じれるだろう。それほどまでに戦いは一方的になっていた。

勇儀「あ、が」

勇儀の体はさきほどの狼男のように内臓が傷つきボロボロになっている。しかし美鈴の攻撃はやむことはなかった。

破裂した血管が肌をどす黒い紫に変える。

死ぬのだろうと勇儀は感じた。しかし勇儀は向かってくる死に恐怖しなかった。

ただ、残してしまう親友のことを強く思いながら勇儀は意識を手放した。 


541 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/26(水) 23:27:54 tq7qIQ3I
レミ「さて、皆を守りにいかなきゃね」

レミリアが落ちていった射命丸から砦に目を向ける。火や煙が上がっていることからどうやら戦いは激しくなっているらしいとレミリアは判断した。

ウィルに良く似た羽を羽ばたかせ砦に向かう。見下ろした地面では息絶えた妖怪や消えていく妖精。

そして自分の部下の狼男の姿と獣の吼えるような慟哭をあげる美鈴。

それを見て遅かったのだと理解して歯噛みする。

飛ぶ速度を上げて砦の中に着地し、槍を振り回して下にいた数体の妖怪を葬った。

周りを見渡すと咲夜、ウィル、フラン、吸血鬼の姿は見える。しかしパチュリーの姿が見えない。

槍を振り回しながら砦内をかける。

小悪魔「………」

そしてぼろぼろの小悪魔が何かにかけた毛布を守っているのを見つけた。

小悪魔に襲い掛かっている妖怪を一撃で葬り、嫌な予感を否定するために毛布をめくろうとする。

小悪魔「駄目ですレミリア様っ!!」

しかし小悪魔の制止は間に合わずレミリアは毛布をめくってしまった。 



543 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/27(木) 00:47:10 YKH3uRjk
レミ「………っ」

そこにあったのは口元から大量の血が漏れているすでに生きていない友人。

パチュリーの姿を見たレミリアが毛布を戻して胸の前で十字を切った。

レミ「地獄行きにしたら殴りこんであげるから安らかに眠りなよ」

小悪魔「レミリア、さま」

レミ「すぐ終わらせる。それまでパチュリーは任せたわよ」

パチュリーから背を向けレミリアが走り回りながら槍をむちゃくちゃに振るう。

レミリアは傷つくことを恐れず飛び道具を体で受け、相手を切り裂き。相手に切られながら相手を切り裂く無理やり押し通るような戦いをした。

相手と自分の血で周り一面が赤く染まる。あたり一面の敵を葬り、レミリアは目元についた血を拭った。 


544 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/27(木) 01:19:50 YKH3uRjk
咲夜は明らかにジリ貧だと思った。ナイフの本数は回収しながら戦っているとはいえ頼りないほどの数しかない。

しかし押し寄せる地底の妖怪はまだいる。我が主であるレミリアを信じないわけではないがこちらがやられていることは事実。咲夜はレミリア達を連れ逃げたほうがいいのではないかと思った。

咲夜「!」

襲い掛かってきた妖怪の後ろに時を止めて回り込みナイフを刺す。

抜いたナイフには血がべったりとついておりそれはなんど振り払っても取れなかった。近くにいた妖怪に投げ捨て新しいナイフを抜く。

ルー「無事かしら?」

咲夜「えぇ。なんとかね」

信じられないがルーミアは咲夜よりも多く敵を倒している。咲夜はルーミアが纏う闇の中でどのようなことをしているのかは分からない。ただ敵がルーミアの闇の中に入ると死んで出てくるということだけだ。

ルー「正直逃げたほうがいいんじゃない?」

咲夜「………それは出来ないわ。私はお嬢様の命令に従うだけ」

一瞬言葉が詰まる。現在の状況と外から聞こえる美鈴の声が邪魔をした。

ルー「そう。私は危なくなったら逃げるけどね。闇ぐらいは出すけど」

そう喋りながらもルーミアが纏う闇のドレスから闇が溢れだし近くの敵を包む。そしてやはり敵は死体となって出てきた。 


545 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/27(木) 01:29:26 YKH3uRjk
咲夜「別にいいわよ。闇さえあれば」

そういいながら咲夜は今ルーミアに抜けられると危ないということを理解していた。

ルー「それはありがたいわ、ね」

ルーミアが闇の中に手を向けたかと思うとその指と指の間に釘を掴んでいた。

パル「………やるわね」

ルーミアが釘が飛んできた方の闇を消すとそこにはパルスィが大きな釘を構えて立っていた。その釘の長さは30センチを越える。もはや釘よりは杭に近かった。

ルー「嫉妬を操る程度の妖怪ね」

パル「それが、どうかしたの?」

パルスィの目が怪しく光る。

その直後、咲夜はルーミアに向かって襲い掛かった。しかしナイフを持った手を掴まれ地面に倒される。その隙を突いて襲い掛かったパルスィも同様に地面に倒された。

パル「え」

ルー「嫉妬を持たない人間はいるけど暗い暗い闇を恐れない人間なんていないのよ」

あふれ出す闇にパルスィが包まれる。

逃げ出そうともがくが存在の無い闇に触れることは出来ずパルスィは飲み込まれていった。

悲鳴すらない。 


546 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/27(木) 01:39:47 YKH3uRjk
咲夜はルーミアに恐怖を覚えた。本当に全ての人間が恐れるとしたらルーミアのこの強さも分かる。それよりも悲鳴すら上げさせないあの闇の中が怖かった。

ルー「早く立って欲しいわね。一人でも出来るけど、面倒だわ」

咲夜「あ、ご、ごめんなさい」

ルー「あら、あなたの主人が来たわよ」

ルーミアが見る方向を見ても闇で見えない。が、その闇を突破して主人であるレミリアが現れた。

レミ「咲夜、これを持って博麗神社まで行きなさい。ウィルと一緒にね」

レミリアが懐から白い封筒を取り出す。確かに博麗神社の協力を借りればこの状況を覆せるだろう。咲夜はレミリアから封筒を受け取り、土と血で汚れたメイド服で優雅に一礼した。

咲夜「分かりました。すぐ戻ってきます」

咲夜が地面を蹴りウィルの元へ向かう。

それを見送りレミリアは少し片足を折った。

ルー「大丈夫?」

レミ「大丈夫だ」

レミリアは槍を支えにしてレミリアが立ち上がる。

ルー「そう。じゃあ頑張ってね」

レミ「あぁ、もう一頑張りしてくるよ」 


555 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 10:58:36 XK91XOIA
咲夜とウィルは飛んでいた。ウィルは全力で飛ぶわけにはいかないので咲夜のスピードに合わせていたがそれでもある程度の速さはある。しかしある程度の速さといっても人間の範囲だ。いくら時を止めれても速度は妖怪ほどではないのだから。

だから

ウィル「咲夜!」

妖怪に追いつかれ、咲夜を狙った妖怪をウィルが倒す。砦を出て数分しか立っていないが倒した数は十の位で指二本にまでおよんだ。

周りを見れば妖怪に取り囲まれている。今咲夜を逃がすと増援が来ることを分かっているのだ。

もちろんウィルならば倒せるだろう。しかしそれは時間のロスを出してしまう行動だし、咲夜だけを先に行かせたとしても咲夜が狙われないという保障はどこにもない。

そしていくら咲夜やウィルが近づけさせないように牽制していたとしてもいずれ距離をつめられる。そうなった場合もうどうしようもない。深刻な時間のロスを招いてしまう。戦闘により咲夜が命を落とすかもしれないし、このロスで紅魔館の誰かが命を落としてしまうかもしれない。

今取れる最善の方法は咲夜が命を捨てる覚悟で妖怪の足を止め、封書をウィルに託すこと。

それを咲夜は理解していた。しかしまだいけるのではないかという希望も捨てきれない。

紅魔館のメイド長であれど、まだ齢十とちょっとの少女。普段レミリアのために命を落とせると思っていてもいざとなると行動に移せるほどの覚悟はもっていなかった。 


556 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 11:20:53 XK91XOIA
それに対しウィルは二人とも生きられる策を考えていた。ウィルの運命を壊す程度の能力ならば追い詰められているという現況を切り抜けることが出来る。

現在起こりうる可能性はウィルが死ぬ。咲夜が死ぬ。二人とも死ぬ。二人とも生き残る。

確率としては咲夜が死ぬが一番高く、二人とも生きるが一番低い。しかし運命が確定されていないため破壊したところで可能性の再決定が行われるだけだ。意味はあるだろうが、結局咲夜が死ぬ可能性を否定できないため賭けにしかならない。もしレミリアがこの場にいれば話は別であっただろうがその仮定は現在何の意味もない。

ウィルは頭を悩ませる。二人が生きることに限定するのであれば逃げるのをやめて戦うことだが、それによって他の誰かが死ぬという可能性が高くなる。かといってその誰かを助けるのに砦に戻るのは本末転倒だ。せめて封書を届けるのが自分だけだったら良かったのにとウィルは思った。

そのときだった。黒い何かが疾風のごとき速さで近づき、妖怪を切り裂いていく。

その動きは天狗のように速度が速いというよりは素早い。跳ねるように次から次へと敵を倒していく。

いきなり現れた何かに妖怪達は驚き一瞬足を止めた。その隙を突いてウィルと咲夜が包囲から脱出する。

一瞬振り返ったところに見えたのは白を含まない漆黒のメイド服。吸血鬼がそこにいた。

吸血鬼「ウィル様! 生きてください!!」

吸血鬼が投げかけるのはがんばれでもなんでもなく生きろという願い。人にかける言葉の中で一番重く一番相手を思っている言葉を吸血鬼はウィルにかけた。その言葉は普通死地へ赴く者か自らの生を誰かに託すときの言葉。そしてこの場合

ウィル「吸血鬼!!」

後者であろうことは明白だった。吸血鬼が強いとは言え、すでにボロボロ。敵を倒せはするだろうが生きのこる可能性は低かった。

吸血鬼が舞う。切り裂き、切り裂かれ、他者の赤と自分の赤を撒き散らしながら舞う。自己再生も追いつかずいずれ息絶えるであろう。しかし吸血鬼は華麗に過激に舞った。

ウィルはそれから目を離せず、しかし足は止められなかった。

徐々に動きが鈍くなる吸血鬼を無視して妖怪がウィルたちに向けて走り出す。現在いるのは闇と光の間。光の方に入ってしまえば吸血鬼がついてこれないのを理解していた。人数の減った今ではウィルは倒すことが出来ない。しかし咲夜ぐらいなら道連れに出来るだろうと考えていた。 


557 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 11:26:44 XK91XOIA
吸血鬼「!!」

妖怪達が光から闇へ抜ける。そして闇の中のには誰もいなくなった。

吸血鬼「待ちなさい」

そう吸血鬼も含めて。

日の光が吸血鬼を焼き皮膚を焦がす一分もすれば吸血鬼の体は全て灰になってしまうだろう。今戻ればまだ重傷ながらも助かる。

しかし吸血鬼は戻らなかった。

吸血鬼は自分と相反する太陽光を受けなおも怯まず、それどころか更に力強く舞う。一匹一匹仕留めるその姿はとても美しかった。

ウィルは戻ろうとする。しかし一瞬自分に向けられた笑みに吸血鬼の決意を感じ、涙を拭いながら前を向いた。

自分を追ってくるものはもういない。

すべて吸血鬼が倒してくれるのだから。 


558 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 11:41:49 XK91XOIA
最後の妖怪を吸血鬼が倒す。

すでに右手は地面に落ち、そのまま灰になって消えた。左手がまだもっていたのは幸いだった。しかしそれでも足、頭を使って倒すつもりだったのだが。

ウィルが走っていった方向を見る。すでにウィルの姿は見えない。そのことに安堵する。

左足が灰になり砕け、吸血鬼は仰向けになって倒れる。

見えるのは憎らしいほどに輝く太陽と、すがすがしいほどに青い空。

吸血鬼「良い、天気」

腰から下が全て灰になった。あと十数秒で上半身も灰になるだろう。

自分の避けられない死がほんのそこまで迫っているのに吸血鬼は笑顔だった。

最初は吸血鬼の自分がレミリアのメイドとなって働くのは苦痛だった。

しかしそれは最初だけで紅魔館の忙しく楽しい毎日はずっと平等なものはおらず一人で生きてきた吸血鬼には凄く楽しいものになった。妖精ではあるが友人も出来て、レミリアの無茶振りに仲間と一緒に頭を悩ませる日々。笑顔が顔から離れなかったそんな日々。

もし狼男が逃げ出さず紅魔館に行かなかったのならばこんな楽しい日々は送れず、全てを見下す退屈な日々が続いていただろう。

だから自分の大好きな場所を守れたことに吸血鬼は笑顔を隠しきれなかったのだ。

吸血鬼「あぁ、楽しかった!」

吸血鬼は自分の人生をそう締めくくって灰になり、消えていった。 


560 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 12:59:34 XK91XOIA
お燐は焦っていた。

闇が現れ簡単に倒せると思っていた戦いがこんなにも長引いている。そして咲夜が増援を呼びに行ってしまった。

しかもこっちの切り札の鬼は負けてしまっている。もしかしたら自分が負けるのではないかという思いがお燐を焦らせた。

その結果

お燐「そうだ」

お燐の顔がニタァを歪む。お燐にしか出来ず、出来たとしても普通は考えない手段。狂ったものにしか取れない手段をお燐は思いついた。

お燐「お空。あそこに向かって全力で撃ちな」

お燐が指差した先は砦。現在味方が戦っている場所へ撃ち込もうというのだ。当たれば鬼ですら危ないお空の全力を。

味方もろとも敵を殺す。どうせ死体になれば操れるんだから何も問題はない。むしろ逆らうものが一気に消えて都合がいいくらいだとお燐は考えていた。

お空「でもちょっと時間がかかるよ」

お空の制御棒が光を放ち、その先端に小さな光の玉が浮かぶ。

お燐「別にいいさ。あいつらが命がけで時間を稼いでくれるだろうからさ」

お空「そっかー」

お空はあまり深く考えず、力をこめることに集中した。頭脳労働はお燐の役目で、肉体労働は自分の役目だ。そう判断する。

お燐「別に焦らなくていいんだよ。確実に殺せるように集中しなよ」 


562 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 13:55:05 XK91XOIA
咲夜とウィルは博麗神社にたどり着いた。しかし結界で覆われているため結界の知識を持たない二人は中に入ることが出来ない。

なので結界に向け弾幕を放った。

異常があれば誰かが来るだろう。その考えは当たり八雲 紫の式で結界を管理している藍が長い階段を下りてやってきた。

藍「どうかしたか?」

結界の向こうの藍は別に焦った顔もしておらず、どうやら咲夜が敵に回ったのではなくただ単に来客したということに気づいていたようだ。

咲夜「お嬢様からの封書を預かっているわ。紫に渡したいのだけど」

藍「………分かった、入るといい」

藍は周りに他の妖怪がいないのを確認して咲夜たちの目の前だけ結界を解く。そして二人が中に入ったのちにまた結界をした。

藍「紫様は中にいる」

藍が階段を上がる二人に言う。咲夜とウィルは藍に礼を言うと、階段を飛んで登り、そのまま神社の中へ入った。

中にはなにかの神が祭ってあるようだったが、知識の無い咲夜たちには分からない。今はそんなことよりも紫に渡すほうが先だった。

祭ってある何かの前にいる紫は咲夜達の来客に別に驚いた様子は無く、冷静に咲夜の用件を聞いた。

咲夜「これを」

咲夜に手渡された封書を空け、中の紙を一読する。そして紫が読み終わった手紙を戻すと二人にこう告げた。

紫「博麗神社は十六夜 咲夜。ウィルヘルミナ・スカーレットの両名を受け入れるわ」 


563 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 14:10:43 XK91XOIA
紫から出た言葉は援助ではなく二人の受け入れ。

到底言い間違えたとも読み間違えたとも思えないその言葉に二人は混乱した。

紫「あとこれ、あなた宛みたいよ」

紫がもう一枚入っていたらしい紙を取りだす。そこにはレミリアの命令が書いてあった。

―――生きて私達を伝えなさい。

そんな単純で意味が分からない命令だった。

しかし咲夜はその意味を理解していた。以前レミリアが語っていた言葉。伝説は死なない。だから化け物は永遠に生きるために騒ぎを起こすのだという言葉。

そして咲夜はレミリアが現在どんな覚悟をしているのかを理解した。

咲夜「了解、しましたわ」

咲夜は手紙を丁寧に折りたたんで懐に入れた。

自分の手で紅魔館を伝説へと変える。知ったものの記憶の中に残る永遠に覚めない紅い世界を作り出すために咲夜は決意した。

絶対に死なないということを。レミリア達を伝え続けることを。 


564 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 14:21:13 XK91XOIA
ウィル「お、お母様は、お母様達は」

ウィルがおろおろと砦のほうを見る。

助けてもらえないということは自分の母親が死ぬこと。いくら違う世界の母親だとはいえウィルはそれを受け入れたくなかった。

紫「………諦めなさい」

紫の冷たい言葉にウィルが激昂する。そして扉を破壊しながら外へ飛び出て行った。

しかし結界に阻まれ地面へと落下していく。

その直後に幻想郷中に爆音と衝撃波が響き渡っていった。 


565 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 14:30:33 XK91XOIA
紫「………」

結界を揺らす衝撃波と砦のほうに見える光を見て、紫は悲しそうに目を伏せた。

咲夜「お嬢様は」

紫「えぇ、そのとおりよ」

咲夜は胸が消えてしまったのではないかと思うほどの消失感に胸をぎゅっと押さえた。覚悟をしていたとは言え悲しいものは悲しかった。

しかし今はウィルのことを優先すべきだと判断してウィルが落ちたであろう場所へ向かう。

博麗神社の西に位置する結界に触れながらウィルは目を見開いていた。その目から流れる涙。

ぴくりとも動かず砦の方を見つめるウィルを咲夜は後ろから抱きしめた。 


569 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 14:46:54 XK91XOIA
お燐「あははははは!!」

死体を手に入れるという最初の目標はお燐の頭の中から消えていた。こんなことをしては生存者はもちろん死体すら残らない。

自分の配下が全て消えてしまったということにお燐は気づいていなかった。

衝撃波で吹き飛ばないようにしながらお燐は笑い続ける。

そして一通り笑った後、お燐を褒めるべく後ろを向いた。

お燐「凄いよお空!………お空?」

振り向いた先にはお空の姿は無かった。どこかにいってしまったのだろうかと思い探すために一歩踏み出す。

その直後体を抉るひどく鈍い痛みがお燐を襲った。

え?と言おうとした言葉がなぜかごぽっという音に変わる。そして自分の体を貫く茨と茨に咲く赤と血で所々赤くなった青の薔薇を見た。

認識したことにより痛みが更にひどくなる。

誰?という疑問は浮かび上がった瞬間に解決した。この薔薇を自分は見たことがある。ということは今自分を攻撃しているのは

こいし「めっ。だよ」

そんなペットをしかるような声が後ろから聞こえた。 


570 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 14:52:33 XK91XOIA
さとり「お燐」

自分の愛する者の声が聞こえた。

いつの間にかさとりが目の前にいた。

―――さとり様助けてください痛いんです。

その思いをさとりに伝えるがさとりは首を横に振る。

なんでという思いがあふれ出した。

さとりはこいしの名前を呼ぶとさらに次々と茨が体を貫く。

お燐は体を貫く痛みより心を砕く痛みのほうがずっと辛かった。

―――あたいはただ皆で暮らしたかっただけなのに。

茨が抜かれお燐の体が地面に落ち、人間の体から黒猫へと変わる。

涙を浮かべるお燐の頭をさとりが撫で、ごめんなさいと呟いた。 


574 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 15:08:40 XK91XOIA
~男視点~

魔理沙が泣いている。涙を流している。

ウィルも泣いている。涙を流している。

紅魔館の人たちが死んだ。ちょっと前に話した相手が死んだ。

運命は残酷でどうしようもない。意味もない悲劇を生み出していく。

なぁ四季さん。これでも紫は優しいのか? 霊夢を守るために仕方がなかったのか?

こんなことをして霊夢が救われたとしてもそのあとの世界はどうなるんだよ。

霊夢以外皆殺すつもりなのかよ。そんなことしたら霊夢が可哀想だろ。それで霊夢を救ったって胸を張って言えるのかよ。

どうしようもない怒り。破壊衝動が体を襲って地面を殴りつける。止めるぬえを振りほどこうとするが適わず地面に組み伏せられた。

男「あぁあああぁあああああぁあああ!!!!」

どうしようもなくて叫ぶ。叫び続ける。

怒りは減らない。それどころかどんどん沸いてくる。

このまま死んでしまうんじゃないかと思うほどの怒り。

それが止まらない。 


575 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 15:15:50 XK91XOIA
ぬえ「あう」

ぬえが懇願するような声で俺に言う。

多分落ち着いてとかそんな意味なんだろうがそれは無理で叫び続けた。

霊夢「男」

霊夢が近づいてきた。俺を組み伏せるぬえを手でどかし俺を立たせる。

男「霊夢………」

その直後にぱしんと頬を叩かれた。

霊夢「魔理沙を守るんじゃなかったの? そんなあんたがこんなようすで魔理沙を守れるの?」

男「でも」

霊夢「言い訳しない!」

二発目が飛んできた。避けられずに再び受ける。

男「………分かった」

霊夢「うん、良し。じゃあ魔理沙と私を守りなさいよ。全力でね」

理不尽な言葉のようだがこれも霊夢の励ましなんだろう。霊夢も悲しいのは一緒だろうしな。 


576 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 15:21:11 XK91XOIA
男「霊夢は強いな」

霊夢「当たり前でしょ。博麗の巫女だもの」

男「そうか」

霊夢「それより魔理沙とウィルを頼んだわ。あんたはなぜか人に気に入られるみたいだから」

男「………そうかな」

霊夢「私がそうっていえばそうなのよ。じゃあ後は任せたわよ」

霊夢がふよふよと屋根の上に上がっていった。

男「なぁ、魔理沙。ウィル」

魔理沙「な、うぁ。なんだ?」

魔理沙は嗚咽交じりで聞き返してくるがウィルに反応はない。

それもそうだ。自分の親だからな。

男「………ごめんな」

魔理沙「なんで、ひくっ。謝るんだ、よ」

男「俺が紫に言ってればなんとかなったかもしれないのに」

魔理沙「無理、だろ」 


577 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 15:35:31 XK91XOIA
男「でも行動を取らなかったことは事実だ」

魔理沙「でも無理だって」

男「無理とか無駄とかそんなことを言う権利は俺には無いんだよ」

行動してないのにそんなこと言えるわけが無い。

男「なぁ魔理沙。他の誰かを守るために力を貸してくれないか。俺ってどうしようもないほど弱いからさ。魔理沙がいなきゃ駄目なんだよ」

魔理沙「そんなこと、ない」

男「格好悪いけどさ。ヒーローなんてものにはなれないけどさ。それでも誰かを助けたいんだ。もう誰も悲しませたくはない」

嘘ではないと言いたい。でもこの言葉が大言で虚言に近いって事は理解している。それに出来ないことはどうであれ嘘だ。

紫「なら戦いなさい」

男「!?」

紫の声がいきなり後ろから聞こえた。

驚いて振り向くとそこには紫と咲夜がいた。

紫「今から博麗神社は最後の手段に出るわ。冥界に協力を仰ぎ、全勢力をかけ人里へ進行する」 


578 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 15:42:21 XK91XOIA
男「え、ちょっと待てよ、そんな危険な」

紫「危険な手段を取らないといけないほどこっちは追い詰められているの」

意味が分からない。なら紅魔館の人たちを助けに行けばいいだけの話で

紫はいったい何を考えている?

紫「あなたの持つ銃を使えば何度かはリセットできるわ。そのうち一度でも冴月 麟を倒せば異変は終了する」

男「………つまり何度か死ねと?」

紫「そういうことになるわね」

あっけらかんと紫が答える。

つまり生き返るんだから死んでもいいだろということで

男「ふざけるな!!」

紫の胸倉を掴む。紫はそれでも冷静な目で俺を見てくる。

男「死ぬんだぞ!?」

紫「時が戻ればそれは死んだことにはならないわ」

男「そんなこと」

紫「参加するかしないかはあなたの自由だけど、参加しなかったら死にっぱなしよ?」 


579 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 15:46:50 XK91XOIA
男「!」

さっきは振るえなかった拳を紫に向かって振るう。

しかしそれは

咲夜「やめなさい」

藍「それは許さないぞ」

咲夜に止められ、藍さんが俺の首に手を突きつける。

男「なんでだよ。なんで協力してるんだよ、咲夜!!」

咲夜「気持ちを優先して最悪な結果を迎えたくないからよ」

紫「現実を見なさい。理想とか夢とかそんなこと掲げて人は救えないわ。ただの人間にはね」

その言葉に何も言い返せない。

だってそのとおりなのだから。 


580 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 16:07:30 XK91XOIA
自分の部屋の前で考えていた。紫の言葉を。

たしかにこの銃で人は救える。魔理沙や霊夢達の博麗神社のメンバーだけだがそれでも救える。そう結果的に見れば救えたことになるんだ。

でもそれでいいのかという気持ちもある。ただそれは命の尊さとかそんな綺麗なことを語る偽善であり、紫の言葉を否定できない。

チルノ「入るぞ、師匠」

チルノが部屋の中に入ってきた。

壁にすがって考え込んでいる俺を見てチルノが慌てて近寄ってくる。

チルノ「どうした!?」

男「なぁチルノ正しいのに納得がいかないことってどうすればいいんだろうな」

チルノ「? 納得いかなくても正しいことは正しいんじゃないのか? だって納得いっても正しくないことは正しくないんだから」

チルノが首をかしげながら答える。

男「その選択をしたら皆が死んでしまうかもしれない。でも俺は皆を死なせたくないんだ」

チルノ「うん」

男「俺は誰かが死んでもそれを無かったことにできる。でも死んだということは変わらないだろ?」

チルノ「うんまぁ。その選択をしなかったら?」

男「皆は死なないかも知れない。けど何も解決しない」 


581 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 16:14:21 XK91XOIA
チルノ「何も解決をしないってことは間違ってることなのか?」

男「正しくは無い。現在目標としていることを達成できる行動を取らないんだからな」

チルノ「異変解決?」

男「あぁ、そうだ」

チルノ「じゃあ師匠が行かないって選択肢はないんじゃないのか? いくら師匠がその選択肢を取らなくても皆は行くんだから」

男「………だよなぁ」

何度も出ている結論だが、それ以外の答えをチルノは示してくれなかった。

男「あー。女々しいよな、俺」

皆の覚悟を否定して俺の夢を押し付けてるんだから。

嫌になる。

男「チルノ。俺を思いっきり殴ってくれないか?」

チルノ「?」

男「お願いだ」

チルノ「いいのか?」

男「おう」 


582 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 16:17:43 XK91XOIA
チルノ「えい!」

チルノの拳が俺の頬に触れた瞬間俺の体が壁にぶち当たる。

意識が飛びかけたが痛みで余計なことを考えなくて良くなったのですっきりする。

男「あーすっきりした。ありがとうなチルノ」

チルノ「? 師匠ってどえm「違う」

なぜか勘違いされていたので訂正する。

男「よーし、がんばるぞー」

チルノ「おー」 


583 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 16:22:20 XK91XOIA
部屋から出ると霊夢と遭遇した。

霊夢「あら、うじうじ考え込んでたんじゃないの?」

男「まぁな。ところで霊夢、俺がお前に戦うなって言って言うこと聞くか?」

霊夢「聞くわけないじゃない」

男「ん、そうだよな。ありがとう」

帰ってきた当たり前の返答に満足する。

とりあえず魔理沙とぬえを探しに出かけようか。もう考え事は終了したのだから部屋に入ってもいいと伝えなければ。

霊夢「………いきなりなにかしら、気持ち悪いわね」

俺を見送る霊夢が何か言っていたが小さくて聞こえなかった。 


584 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/28(金) 16:55:13 XK91XOIA
魔理沙「兄貴、もういいのか?」

ぬえ「………」

魔理沙とぬえは一緒にいた。

ぬえは岩の上で魔理沙を眺めて、魔理沙は魔法の練習をしていた。

男「あぁ。結局俺が馬鹿だったって話だ」

魔理沙「兄貴は馬鹿じゃないって」

男「そう言ってくれるのはありがたい」

でも結局は空回りしただけの男なんだけどな。まぁ自虐はやめて今度のことを考えよう。

男「冥界に協力してもらうって紫がいってたが」

魔理沙「あぁ、幽々子と妖夢に協力してもらうんだよ。というかむしろ協力してくれるのがそれぐらいしかいないからな」

男「………うん。だな」

魔理沙「でもだから人間が冥界を狙うという可能性もある。というか狙ってくるだろうな」

男「じゃあ急がないといけないんじゃ?」

魔理沙「そうだな。だから今夜冥界へ向かう」

男「今夜か………」 


592 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/29(土) 13:59:41 ZBTPmxX6
~俯瞰視点~

桜の木がいくつも並ぶ。後数か月もすれば見事な桜が一面に咲くだろう。

妖夢「………」

妖夢は楼観剣を構え瞑想する。目を使わずとも世界を見れるようになるにはまだ妖夢は幼い。

祖父である妖忌の教えは剣を通して世界を知る。剣が真実に導いてくれる。その言葉の意味が妖夢にはまだわからずとりあえず斬ってみればわかるのではないかと解釈してしまっていた。

実際はもちろん違う。しかし妖夢はいい意味でも悪い意味でも単純だった。

祖父が消えた理由も今なさなければならないことも剣とともに生きればいずれわかるのだろうと信じていたのだ。

こうして今日も妖夢は愚直に修業をする。

そんな様子を幽々子はほほえましそうに見守っていた。 


593 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/29(土) 14:35:28 ZBTPmxX6
幽々子「んー。おいしっ」

幽々子は手に持った団子を口で一つ串から抜いて食べる。

冥界は限りなく暇で妖夢も修業中、よって幽々子は食べることしか暇をつぶすことができなかった。

外の世界に遊びに行くのもいいかもしれないが、親友である紫が大変なのに遊びにいくのはちょっと冷たい気がしてやめていた。

幽々子としては幻想郷の異変に特に興味はなく、さっさと異変が終わって紫とお茶を飲みたいと思う程度であった。そもそも幽々子は幻想郷にあまり興味がない。食べ歩きに出かけたりもするがそれは外の世界でも同じでなくなったとしても気に入った店が少し無くなるだけだ。

幽々子「もぐもぐ。えいっ」

食べ終わった串を妖夢に向かって投げつける。それを妖夢は目を開けることもなく切り捨てた。

幽々子「さすがねぇ」

妖夢「お爺様なら今の串を縦に斬れますよ。当たり前のように」

幽々子「妖忌ならそうでしょうけど、ねぇ」

妖夢「幽々子様は相変わらずお爺様が苦手なようですね」

幽々子「嫌いじゃないんだけど、堅苦しいのは苦手なのよぉ」

妖夢「私としてはお爺様に戻ってきて欲しいのですがね」 


594 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/29(土) 14:58:54 ZBTPmxX6
幽々子「案外近くにいるのかもしれないわよ」

妖夢「だといいのですが」

妖夢は少し笑って再び集中し始めた。幽々子は二本目の団子に手を伸ばしそれを眺める。

団子を食べながら幽々子は考える。

今現在この冥界が襲われたらどうなるだろうか。こっちから参戦する気はない。だからといって攻めてこないわけではないのだ。戦力は二人。どうしようもない。

妖忌がいればまだ何とかなるかもしれないが、どこにいるかは誰も知らない。

頼れるのは紫だけ。かといって紫に援助を頼むと参戦したことになってしまう。

幽々子「ままならないわねぇ」

団子を食べながらため息をつく。

しかし今更どうすればいいかを考えるのは致命的に手遅れだった。 


599 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/30(日) 10:35:07 X6KUUtnE
白玉楼の広さは二百由旬、一日ぐらいじゃ到底着ける距離ではない。しかし

神子「私には関係がない」

白玉楼は建物なため隙間がいくらでもある。その隙間から豊聡耳 神子は出てくることが出来た。

幽々子「!?」

いきなり現れた神子に幽々子は扇子を振るって蝶を飛ばす。相手を死に至らしめるその蝶を神子は難なく掴み取った。

神子「神は死にませんよ。消えるのみです」

蝶を手放し腰の七星剣を掴む。

神子「まぁ、もっとも私は消えるつもりはありませんが」

七星剣による一閃。それで蝶を切り裂き、返す刀で

妖夢「!?」

斬りかかって来た妖夢を弾き飛ばした。

神子「さて、成仏してくれるとありがたいな」

幽々子「仏教を捨てた貴方が成仏、ねぇ」

妖夢「幽々子様! 二対一なら!」

神子「私が一人と言ったつもりはありませんよ」 


600 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/30(日) 10:47:34 X6KUUtnE
再び斬りかかって来た妖夢を横から誰かが蹴り飛ばす。

妹紅「これ、便利だな」

神子「修行をするつもりならいつでもどうぞ」

妹紅「妖術だけで十分だ」

幽々子「………私狙いね」

神子「あの子も狙っている」

神子が指を鳴らすと白玉楼の隙間からどんどん人間が溢れてきた。

神子「102対2だ」

幽々子「………」

幽々子は苦々しい顔をして後ろへ引いた。妖夢は幽々子の前に出て刀を構える。

妹紅「妖夢の相手は任せたぞ。私と神子で幽々子をやる」

妹紅はポケットから数枚の札を取り出し幽々子に投げつけた。札は空中で発火し小さな火の鳥となり幽々子に襲い掛かった。それを妖夢は剣で斬りおとす。その隙を突いて人間が妖夢に襲い掛かった。

幽々子「ねぇ妖夢。私知ってるのよ」

幽々子は迎撃しようとした妖夢の襟を掴んで引っ張る。妖夢が受けるはずだった刀を幽々子はその身を持って受けた。

生きてはいないのだから死なない。しかしどうやら神の恩恵を受けているらしいその刀は幽々子の体を傷つける。 


601 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/30(日) 10:56:36 X6KUUtnE
妖夢「幽々子様!?」

幽々子は刀を受けながら妖夢のほうへ振り返りにっこりと笑った。

幽々子「紫から聞いたのよ。あの後ね」

幽々子が足元から反魂蝶になっていく。反魂蝶は羽ばたきながら一番大きな桜の木へ集まっていった。

幽々子「お願い妖夢、逃げて」

一筋の涙を流して幽々子の体が全て消える。その光景に唖然としていた神子が我に返り、反魂蝶を倒せと人間に命令した。

しかし行動が遅く間に合わなかった。蝶が桜の木の中に吸い込まれていく。

一番大きな桜の木。西行妖へ。

どくんっという胎動が聞こえた。それは力強く何度も繰り返される、まるで心臓の鼓動のように。

そして時計の針を進めたかのように西行妖は変化する。蕾をつけ、それがゆっくりと花を開く。

その色は赤。血のような赤だった。 


602 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/30(日) 11:07:33 X6KUUtnE
人間「があぁっ!!」

西行妖の近くにいた不運な人間がまず犠牲になった。尖った根っこが首に刺さりそこから生を吸い取られていく。たったの数秒でその人間は老い、絶命した。

妹紅「なんだこれ!?」

自分を狙ってきた根っこを燃やしながら妹紅が逃げる。燃やされたはずの根っこは瞬時に再生して再び妹紅を追った。

神子「っ! 撤退しろ!」

しかしその言葉に反応する者は妹紅以外いなかった。

どさりどさりと人間達が蒼白な顔をして倒れていく。そしてそのたび西行妖が新たに鮮やかな花をつけた。

妹紅「逃げるぞ!」

妹紅が隙間に向かって逃げる。妹紅の体はするりと隙間に吸い込まれ消えた。それに神子も続く。

そして残ったのは咲いた桜を見つめる妖夢と西行妖だけだった。

ターゲットを失った西行妖が妖夢に根っこを伸ばす。

それを妖夢は避けようとしなかった。自らの主が消えてしまった事で妖夢は絶望していた。

咲かせようとしていた桜の木。それがこんなに恐ろしい木だったなんて。

そして幽々子様がもうどこにもいないだなんて。 


607 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/30(日) 23:38:07 X6KUUtnE
自分の首に向かって伸びる根っこがやけにゆっくりに見えた。

妖夢(死ぬ、のかなぁ。まぁ、それでもいいかも)

頭の中に妖忌、幽々子との思い出が流れていく。楽しかった思い出を胸に妖夢は目を閉じた。

妖夢「?」

しかしいつまでたっても覚悟していた衝撃が来ない。不思議に思い目を開くと根が首の手前で止まっていた。

幽々子「いつも真面目な妖夢が言うことを聞かないなんて珍しいわね」

声が聞こえた。消えた主の声。

しかし姿はどこにも見えない。

妖夢「幽々子様? どこにいるんですか?」

幽々子「私、死んじゃったのよ」

何を言っているのだろうか、幽々子は元から生きてはいない。その言葉の意味が妖夢には理解できなかった。

幽々子「だから私の分まで生きて、なんてね」

妖夢は理解できずに当たりを見回し続ける。そんな妖夢に幽々子は愛おしそうに声をかける。

幽々子「また会いましょうね。いつか。だから今は逃げて、お願いだから」

幽々子の声がどんどん辛そうになる。ここで妖夢が冗談でもなんでもなく幽々子が死んだということを認識した。 


611 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/01(火) 23:52:30 7HAzJeN.
妖夢「幽々子様。分かりました。私いきます」

妖夢が立ち上がって西行妖に背を向ける。

幽々子「ありがとう、よう、む」

幽々子の声がかすれるほどに弱くなる。そして妖夢の手前で静止していた根っこが妖夢に向かって再び伸びた。

それを妖夢は振り返らずに切り落とす。そのまま何事も無かったかのように歩き出した。

幽々子「………また、ね」

妖夢「えぇ。待ってますよ。ずっと」 



613 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 00:11:10 T0KwDz5s
~男視点~

男「何もみえねぇ」

なぜか霊夢が持っていた懐中電灯程度じゃ心もとないほどに闇が深い。外の世界がどれだけ明るいのかを思い知らされた。

今現在いるメンバーは俺と霊夢と魔理沙とチルノと萃香と小町。戦力は申し分ないのだがこの暗さだ、不意打ちを受ける可能性がかなり高い。

霊夢「あんたが先に偵察いけば?」

男「死ぬわ」

妖怪どころか野生動物に襲われてもたぶん死ねる気がする。情けないことだが。

チルノ「はいはい! あたいいくあたい!!」

霊夢「別にいってもいいけどあんた夜目効くの?」

チルノ「夜目?」

小町「暗闇で見えるかってことだよ。あたいは効くからいってくるよ」

そう言うやいなや小町の姿が消える。距離を操って消えたのだろう。

魔理沙「あ、八卦炉で照らせるぜ」

魔理沙がポケットから八卦炉を取り出す。カイロになったり武器になったり便利だな。 


614 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 00:23:10 T0KwDz5s
小町「問題なかったよ」

いきなり後ろで小町の声が聞こえた。せめて視界に入るところにでてきてもらわないと心臓に悪い。視界にいきなり出てこられても心臓に悪いが。

霊夢「人間の見回りぐらいいそうなものだけど」

魔理沙「なんか起きたのか私たちがラッキーなのか」

霊夢「後者に期待したいわね」

萃香「用心に越したことはないと思うけどねぇ」

小町「あたいがいる限りいざとなったら逃げられるから大丈夫だよ」

それもそうだが、小町が一撃でやられなかったらの話だな。やはり用心に越したことは無い。

そういえば俺って小町の強さ知らないな。

男「小町って強いのか?」

小町「自分で言うのもなんだけど弱くはないつもりだよ」

魔理沙「いや、強いだろ」

魔理沙が呆れた目で小町を見る。やっぱり強いのか。そりゃあ大きな鎌持っててこの中だと一番見た目的に強そうだけど。 


615 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 00:36:59 T0KwDz5s
萃香「男ももうそろそろ実戦に入っていいんじゃないかね。みっちり稽古はつけたんだし」

男「う、まぁ努力します」

霊夢「守ってくれるんでしょ?」

男「頑張る」

守るといっても補助にしか回れないのだけど。萃香から稽古はつけられて一般人相手なら勝てるはずなのだがそれでも不安は残る。そもそも相手に達人がいたら俺は役立たずになるしな。

魔理沙「危なくなったら兄貴は私が守ってやるぜ」

チルノ「あたいも!」

霊夢「良かったわね。良い妹とチルノがいて」

そういう霊夢の目が冷たい。なんでだろうか。

小町「ん、もうすぐ冥界の近くだ」

男「そうなのか」

しかし見回してみるが木しか見えない。いったいどこにと思っているといきなり小町が俺を抱きかかえた。さすが死神。力強い、じゃなくていきなりなんだ!?

目を白黒させているといきなり小町が飛んだ。そのまま景色が後ろへ流れていくどうやら距離をいじっているらしい。そのまま雲を突破して

小町「到着っと」

地面に着地した。 


616 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 00:49:44 T0KwDz5s
男「ここが冥界?」

小町「そうだよ」

まさか冥界が雲の上にあるとは思っていなかった。

地面を踏みしめてみるとちゃんと土の感触がある。いったいどうなっているんだろうと考えたが結局理解できそうになかった。

萃香「さすがに人間はいないみたいだね」

霧が集まって萃香が現れた。

魔理沙「まぁ、冥界まで来るには空を飛ぶか死ぬしかないからな」

魔理沙が箒で飛んでやってくる。その数秒後にチルノ、十秒後ぐらいに霊夢も現れた。

小町「さぁて幽々子達に会いに行こうか」

霊夢「でも力貸してくれるかしら」

魔理沙「紫と仲良いんだから貸してくれるだろ、ってあれ妖夢じゃないか?」

魔理沙が指を指した先には遠くてよく見えないが緑の服を着て髪が白の人が見えた。 


622 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 17:18:58 T0KwDz5s
やってきた少女の顔は明るくなく、何かあったのだろうと分かる。

それに抜き身の刀を持っている。まさか斬りかかって来るとかはないよな?

霊夢「何かあったの?」

妖夢「………幽々子様が亡くなりました」

霊夢「え? どういうこと?」

小町「………あー、そういうことかい」

小町が頭をかいて首をそむける。萃香も少しいらだったように手を握り締めた。

霊夢「そんな時に悪いんだけど力を貸してもらえないかしら」

その言葉に妖夢は言葉で答えず刀を正眼に構えて答えた。

霊夢「………なによ」

妖夢「剣にて正義を問わせていただきます」

霊夢「冗談でしょ?」

妖夢「………」

答えず妖夢は霊夢に斬りかかった。 


623 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 17:47:36 T0KwDz5s
小町「危ない、ね」

霊夢と妖夢の間に小町が割り込んで刀を鎌で受ける。金属と金属がぶつかる甲高い音が響いた。

妖夢は後ろに飛び、また素早く接近して刀を振るった。

身の丈には合わない長さの刀を軽々と振り回して小町と斬りあう。

妖夢の素早い攻撃を小町はいなす。しかし反撃は一切しなかった。

ただ妖夢が斬って、小町が受けるだけ。そんな戦いが延々と続く。

こっちのほうが人数は多いのに誰も邪魔をしない。ただ悲しそうな目で見ているだけだった。

妖夢「っ!!」

妖夢が剣を両手で振り下ろす。その隙に小町が刀を弾き飛ばした。

くるくると回って刀が地面に突き刺さる。それと同時に妖夢が崩れ落ちた。 


624 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 18:06:20 T0KwDz5s
妖夢「私は弱い、こんなにもっ!」

小町「………とにかくここは危ないから幻想郷に戻ろう」

その言葉に妖夢は小さく頷いた。

小町「チルノ、刀取ってきてくれないかい?」

チルノ「あいさー」

チルノが地面に刺さった刀を引き抜いて持ってくる。

妖夢「………」

それを妖夢は無言で受け取った。

小町「帰ろう。早く」

小町が妖夢が来た方向を見る。どうやら向こうに何かがあるらしい。

小町が妖夢を抱え、そのまま消えた。 


625 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 18:51:03 T0KwDz5s
男「いったい向こうに何があるんだ?」

萃香「いっちゃいけないよ」

霊夢「何があるのよ」

萃香「いいから、帰るよ」

萃香が霊夢の襟を引っ張って強制的に連れ帰った。どうやら触れてはいけないことのようだ。

魔理沙「帰るか兄貴」

男「だな」

チルノ「何があるんだろう」

魔理沙「いいから早く帰るぞ」

チルノ「うん………」 

628 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 21:55:00 T0KwDz5s
どうやら小町は一足先に妖夢をつれて帰っているようで帰りは一緒ではなかった。

月の光しかない静かな夜の空を魔理沙と飛ぶ。帰りは隠密じゃないので飛んでもいい。

魔理沙「早く帰るから、舌かまないでくれよ」

魔理沙は妖夢のことが心配らしく、飛ぶスピードを上げる。後ろにいるのは霊夢とチルノだけだが、あの二人なら大丈夫だろう。

どんどん加速していく風景に一瞬悲しそうな泣き声が聞こえた気がするがおそらく風の音だろう。もしくは幽霊か。

男「あれは」

下を見れば紅魔館が見えた。しかし今は無残に瓦礫になっている。あの紅く立派な屋敷の面影はどこにもなかった。

日に日にこの幻想郷は変わり続けているようだ。こっちにきて一週間ほどしかたってない俺ですら変化を感じるのだからここで育ってきた魔理沙達は恐ろしいほどの変化を感じるのだろう。

それはおそらくもう取り戻せないもので、全て思い出となり消えていく。

失われたものがやってくるこの幻想郷で失われたものはいったいどこへ行くのだろうか。 


629 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 22:02:55 T0KwDz5s
ぬえ「………」

神社に帰ると待っていたぬえが駆け寄ってきた。この寒空の下俺のことを待ってくれていたのだろうか。

ためしに触れた頬はかなり冷たくなっていた。もしかして俺達が出てからずっと待っていたのか。

魔理沙「兄貴はぬえと一緒に風呂入ってくるといいよ。私は妖夢に会ってくる」

そう言い残して魔理沙がどこかへ行った。見送って魔理沙の言うとおり風呂へ向かう。

まだ俺はいいとしてぬえが心配だ。妖怪が風邪を引くのか分からないが。 


630 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 22:18:39 T0KwDz5s
紫「………私達に協力はしないのね」

妖夢「申し訳ありませんが、お爺様を探しに行きます」

紫「あなたなら外へ出れるだろうから私達は手伝わなくてもいいわよね?」

妖夢「………止めないのですか?」

紫「えぇ、幽々子との約束だもの。個人的な事情になるけどね」

妖夢「分かりました。それではどうかご無事で」

紫「待ちなさい。少し休んでいきなさい。疲れてるのでしょう?」

妖夢「………お言葉に甘えさせていただきます」

紫「えぇ」 


631 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 22:49:40 T0KwDz5s
男「うおぉお」

冷たい体で熱いお湯に使ってしまったので思わず声を上げてしまった。となりにいるぬえがびっくりした顔でこっちを見てくる。

男「だ、大丈夫だぁあ」

ゆっくりと湯につかり、一息つく。冷たい体に熱いお湯がしみこんでくるようだ。

ぬえ「あう」

ぬえがぷるぷると震えながら湯に浸かろうとしている。いくら妖怪でも熱いお湯に浸かるのは難しいらしい。

そして俺と同じように息をついていた。

妖怪でもやっぱり人と変わんないのだなぁ。

見上げた夜空に雲はなく星が綺麗に見える。詳しい星座は分からないがなんとなく感動した。

男「それにしても昔の人はあれがさそりとか魚とかに見えたもんだなぁ」

魔理沙「想像力が強いみたいだからな。想像力が減ったから今妖怪は減っているって香霖が力説してた」

魔理沙の声が後ろから聞こえた。振り向くと魔理沙がタオルを巻いて立っていた。 


633 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 23:01:01 T0KwDz5s
魔理沙「あぁー良い湯だなぁ」

男「妖夢はいいのか?」

魔理沙「あいつは外に行くってよ」

男「出れるのか?」

魔理沙「半霊とか幽霊は外に出入りできるみたいだな。そもそも妖夢自体幻想郷の住民というわけでもないし」

魔理沙が足をぱしゃぱしゃと動かして空を見上げる。

魔理沙「私はそれでいいと思うんだ。さびしいけど死ぬよりはましだから」

ぽつりと呟いた言葉は寂しさよりも安堵を含んでいて魔理沙が妖夢のことを大切に思っているということがわかる。

そんな魔理沙の頭を撫でる。魔理沙は少し嬉しそうに笑った。

魔理沙「私は兄貴と霊夢がいてくれるならそれでいいんだよ」

男「嬉しいこといってくれるな」

魔理沙「可愛い妹だろ?」

男「あぁ、そうだな」 


634 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 23:07:55 T0KwDz5s
ぬえ「………」

魔理沙との会話を聞いてぬえがさびしそうな顔をしていた。

そうかぬえは死に別れだからな。

男「ぬえのそばにもいるよ。頼りないかもしれないけどな」

ぬえ「ああう」

ぬえが首を横に振った。その顔は悲しそうな顔から少し嬉しそうな顔に変わっていた。

ぬえは妖怪だからいずれ俺とも別れてしまうのかもしれないがそのときまでにぬえに数え切れないほどの知り合いを作ってあげたい。俺なんかどうでも良くなるくらいの友達を作ってあげたい。

それをするにはまず異変を終わらせなければいけない。異変が終わって大変かもしれないがぬえと俺と魔理沙で暮らして―――まぁそのときのことはそのとき考えよう。

つらい今よりは楽しい未来に目を向けたほうが少しは気が晴れる。でも今を見ないわけにはいかない。今を見ないと未来を見失ってしまうかもしれないから。

魔理沙「兄貴って結構なジゴロ?」

男「そんなわけないだろ」 


635 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 23:25:43 T0KwDz5s
魔理沙「明日か………」

男「だな………」

明日俺達は人間の里へ攻める。そこで何が起きるのかは分からない。

戦いは一日では終わらないだろう。数日はかかるはずだ。その戦いを撒き戻せる数は8。その数を越えた場合はもう戻せない。使いどころを見極めなければいけないがそれはつまり誰かを見捨てること。

無理、かもしれない。

誰が死んでも俺は引き金を引くだろう。一番良いのは誰も死なないこと。

でもそれはおそらく無理。結果俺のせいで負けることになる。

でも見捨てれないし。

そんな思考が頭をぐるぐる回って結論が出ない。

嫌になってお湯に顔をつけて叫ぶ。ごぼごぼと泡がはじけて音を立てた。

魔理沙「ど、どうしたんだ?」

男「なんでもない」

誰を見捨てるかなんてそんなこと相談できるわけが無い。それにこれは俺が答えを見つけなければならないことで、でも結局はどれを選んでも後悔をする。

大切なものがどんどん零れ落ちていく。俺の手のひらはこんなにも小さい。

持っていたいものはたくさんあるのに。 


636 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 23:36:10 T0KwDz5s
風呂上り、体を拭いていると外から霊夢と妖夢が中に入ってきた。とっさに下半身を隠すが霊夢に汚いものを見る目で見られた。俺はなにも悪くないというのに。

妖夢「すみません。外に出ています」

男「あー。後ろ向いててくれればすぐ着替えるから」

あまり体はふけてなくて濡れているところもあるが仕方ない。急いで着替える。

男「もう大丈夫だ」

後ろを向いている妖夢と目を瞑っているだけの霊夢に言う。

妖夢「? ぬえと魔理沙と一緒にお風呂に入っていたのですか?」

霊夢「あー、こいつ変態だから」

男「違う。言い訳をさせてもらうなら魔理沙は妹で、ぬえとはずっと傍にいると誓った中だからだ」

なんだかあまり言い訳になってはないが、俺としてはちゃんとした理由なんだ。

妖夢「魔理沙のお兄さん、ですか?」

男「義理だけどな」 


637 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 23:43:39 T0KwDz5s
妖夢「私の名前は魂魄 妖夢です。魔理沙とは親しくさせていただいています」

なんだか礼儀正しい子だなぁ。刀を持っていたし侍みたいだ。

なんて思っていると霊夢から着替えるからと蹴りだされた。

まだまだ霊夢の好感度が上がるのは先のことらしい。

男「さむ………」

外で魔理沙とぬえを待つ。濡れた体から冬の風が体温を奪っていく。

男「へっくしゅっ」

これは早くしてもらわないと風邪を引いてしまうかもしれない。

戦いの前日に風邪を引いてしまうのはさすがに洒落にならない。

魔理沙「さっさと布団に入って寝るか」

ぬえ「………」コクリ

男「そ、そうしよう」 


638 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/02(水) 23:49:04 T0KwDz5s
ぬえ、俺、魔理沙の順で川の字になって布団へ入る。すると魔理沙が寒いだろうからと俺の布団に入ってきた。ぬえも同じく俺のふとんに入ってくる。

三人入れるほど俺の布団は大きくないのだが布団と布団を上手く重ね合わせカバーしていた。

ぬえ「あう」

ぬえが何か言いたそうだったので見ると心配そうな目で見ていた。

明日ぬえは神社で俺たちのことを待つことになる。それは博麗神社にも戦力を残しておかないと紫や四季さんが危ないというのと、やはり喋れないのであれば戦えないということで判断された。

男「大丈夫。帰ってくるから」

魔理沙「おう。兄貴は私が守るからな」

左腕に魔理沙が抱きついてくる。魔理沙が守ってくれるのなら心強い。

何度も思うが情けない限りだけどな。

ぬえ「あう」

ぬえはその言葉を聞いて安心したらしく目を閉じた。俺も魔理沙も明日に備えて寝る。

体が疲れていたせいかあっさりと意識は深く落ちていった。 


641 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/03(木) 14:38:41 uOHMy5ao
暗い暗い闇の中。いつか来た覚えのあるここに俺は立っていた。

地面があるかも分からないほどの暗さなのにやはり俺の体は見える。

不思議な空間。でもなぜか自分でも驚くほど俺は落ち着いていた。

???「また会いましたね」

鱗の女性がいた。やはり俺と同じくこの暗闇だというのに見える。

男「今日は巫女服なんだな」

???「似合いますか?」

似合う似合わないというより違和感しか感じない。鱗のせいで。

男「似合ってるよ」

そう嘘をつくと鱗の女性は嬉しそうに微笑んだ。

男「で、結局ここはどこなんだ?」

???「幻想郷ですよ」

またこれか。幻想郷のどこどこかなんて教えてくれない。

もう少し情報が欲しいんだけどなぁ。 


643 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/03(木) 17:09:04 uOHMy5ao
???「とりあえずお茶にしましょう」

鱗の人がどこからともなくお茶とティーカップを取り出した。こぽこぽとティーカップに琥珀色の液体が注がれていく。

???「はい、どうぞ」

手渡されたティーカップを受け取り、一口飲む。アールグレイだった。

???「おいしいですか?」

男「うん、まぁ美味しい」

そう俺が答えると鱗の人はまた嬉しそうに微笑んだ。

普段ティーバックもしくはペットボトルのお茶しか飲んでないがそれと比べると美味しい。

いつの間にお湯を沸かしたのかとかは聞かないほうがいいのだろうか。

???「あのぉ、こんにちわ」

俺と鱗の人。どちらでもない人の声がした。振り向くと女の人が立っていた。

女の人は白と黒のドレスを着ていて髪が紫と金のグラデーション。そんな不思議な格好だった。いや鱗よりはましなんだけど。 


644 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/03(木) 17:13:55 uOHMy5ao
男「ど、どうかしましたか?」

いきなり話しかけられて少し戸惑う。なにせ美人で胸が大きいからだ。胸が大きいからだ。

???「ぬえをよろしくおねがいしますね」

男「え、それって」

聞き返す間も無く女の人は闇に消えていった。慌てて伸ばしたては虚空を掴むだけで何にも引っかからない。

消えてしまっていた。

ぬえをよろしくって、どういうことなんだろうか。

ぬえの知り合いなのかな?

???「明日から大変ですね」

いきなり鱗の人がそう言う。

男「知ってるのか?」

???「はい、知ってます」

良い笑顔でそう答える。

いったい何で? 

648 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/04(金) 00:05:58 WJ//pKm.
???「秘密です」

男「結局秘密なのか」

鱗の人が口に人差し指を当てる。結局何も出てこない情報に呆れて俺は頭をかいた。

???「とにかく霊夢をよろしくお願いしますね」

男「っていってもなぁ」

霊夢は俺のこと嫌ってるしなぁ。

男「あ、そういえば結局あんたはいったい誰なんだ?」

???「時間切れですよ」

男「は?」

思わず聞き返してみると鱗の人は俺の足元を指差した。

うっすらと消えていっている。

男「またこれか!!」

どんどん俺の体が消え、それが進むにつれ意識も薄れていく。

そして 


649 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/04(金) 00:14:48 WJ//pKm.
目を覚ました。何か夢を見ていたようだがどんな夢を見ていたのかは覚えていない。

なんかデジャビュを覚えるがなんだっただろうか。

まぁいい。隣を見ると魔理沙はおらずぬえだけが静かに寝ていた。

起こすのも悪いのでそっと布団から抜け外へ出る。

外は太陽がちょうど顔を出してくる頃だった。おそらく6時過ぎくらいだろう。

男「魔理沙はどこに行ったんだ?」

魔理沙「ここだ、ここ」

上から声がした。ということは屋根の上にいるのだろうか。そう考えていると魔理沙が屋根の上から飛び降りて着地した。結構な高さがあるが大丈夫なのだろうかと心配してみたが魔理沙は平気な顔でおはようと言った。

男「おはよう。何してたんだ?」

魔理沙「魔法の練習だよ。恥ずかしいから他の人に言わないでくれよ?」

男「恥ずかしくないと思うけどな」

努力をすることは悪いことではない。恥ずかしがることはないと思うのだが年頃というやつだろう。もしくは霊夢が身近にいるからか。

魔理沙「今日、行くんだな」

男「そうだな」

今日、この戦いで出る犠牲者の数は今までよりもずっと多いはずだ。それでもしなければならない。 


650 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/04(金) 00:20:37 WJ//pKm.
霊夢「あら、あんた達早いのね」

男「そういう霊夢も早いんだな」

霊夢が着替えて廊下を歩いていた。霊夢といえども緊張はするのだろうか。

霊夢「妖夢に起こされたのよ。正直まだ眠いわ」

そう言って霊夢があくびをする。霊夢らしいといえば霊夢らしい。

魔理沙「妖夢は?」

霊夢「もう出てったわ」

男「そうか。見送りぐらいはしたかったんだけどな」

霊夢「何? 妖夢にも手をだすの?」

男「そんな下心なんてもってないって」

やはり霊夢は俺をおかしな目で見ていると思う。 


651 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/04(金) 00:31:51 WJ//pKm.
三人で喋っていると日は上がり皆が起き出した。

橙「朝ごはんできましたよー」

橙に呼ばれ朝ごはんを食べに行く。部屋に入ると紫と四季さんと小町とチルノがいた。藍さんと咲夜の姿は見えない。

紫「男と霊夢。魔理沙と小町。萃香とチルノで分かれてもらうわ。藍と咲夜とぬえはここを守ってもらう。いいかしら?」

霊夢「結局私はこいつとなのね」

霊夢が嫌そうな目で俺を見る。無理も無い。普段はただの足手まといにしかなれないからな。

紫「理由はいえないけどそれが一番良いのよ」

霊夢「はいはい。紫はいつも秘密主義よね」

霊夢が嫌味を言いながら座る。魔理沙は小町とかぁと言いながら座った。俺はその横に座る。

紫「それで、進み方なんだけ―――」

外で音がした。全員が音をしたほうに注目する。何かが走るような音がこっちに近づいてきた。少し腰を浮かして構えていると勢い良く障子が開かれぬえが飛び込んできた。

ぬえ「っ!!」

ぬえが俺に飛び掛ってくる。腰を浮かしていたため上手く受け止めることが出来ずに体勢を崩して朝食をこぼした。

どうしたんだとだそうとした言葉はぬえの顔を見ると出なくなった。

ぬえは泣いていた。 


652 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/04(金) 00:45:01 WJ//pKm.
ぬえの体は震えていた。

ぎゅっと俺の胸元を掴んですがり付いてくる。

あ、そうか。

勝手にいなくなったからか。

男「ごめんな、ぬえ」

ぬえの頭を撫でる。ぬえは胸元を掴んでいた手を解き俺の首に回した。

若干痛いぐらいの力で抱きつかれ、少し息がしづらくなる。まぁそれはあまり重要なことじゃないからどうでもいい。

ぬえの細い華奢な体に手を伸ばし抱きしめる。服を通して感じる感触は俺が知る女性の中で一番儚げで、抱きしめていないと消えてしまうんじゃないかという印象を受けた。

俺よりほんの少し高い体温。どくんどくんと早めに動く鼓動。孤独という恐怖から来る震え。全てが直接俺に伝わってくる。

男「もう勝手にいなくなったりしないからさ。約束するよ」

ぬえがちいさく頷く。腕の力が少し緩まる。

男「朝ごはん食べるか」

ぬえが小さく頷くが腕は解かれない。このままじゃ食べれないなと苦笑しつつぬえの背中を撫でた。 

654 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/04(金) 00:56:05 WJ//pKm.
朝食で無事だったのはご飯だけで、残りは全て畳の上に落ちていた。家主である霊夢がこっちを半目で睨んでくるので頭を下げて謝っておく。霊夢は小さく別にいいわよと言って再び朝食を食べ始めた。

俺のひざの上に座るぬえが申し訳なさそうにこっちを見てくるので気にしてないよと言っておく。正直おなかが空いたのだがここでそれを口にだすわけにもいかない。

まぁ、一日ぐらいいいかとご飯をかきこんで食べ終わる。あとはぬえが食べ終わるのを待つだけなんだが。

亡霊男「片付けは俺がやっとくから」

亡霊男が気を利かせてこぼれたおかずやらを掃除してくれた。ついでにぬえのご飯を俺の前に持ってきてくれる。

男「ありがとうな」

亡霊男「気にすんな」

魔理沙「何か食べるか?」

隣の魔理沙がそう聞いて来るが魔理沙の方が圧倒的に動くので遠慮しておく。するとぬえがおかずの焼き魚を掴んで口元に差し出してきた。

食べろということだろう。お腹は空いているので素直に食べる。調味料は塩だけみたいだが美味しい。調理者の腕によるものだろう。

男「ありがとうな」

礼を言うとぬえは急いで他のおかずを俺の口元に持ってきた。

男「いや、自分で食べなさい」

ぬえ「………」

ぬえはじっと俺を見たあとこくりと頷いて俺の口元に持ってきたおかずを自分の口の中へ運んだ。 

673 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/06(日) 20:08:40 g3rTK6IY
男「んじゃあ行って来るからな」

ぬえ「………」

ぬえがこくりと頷く。ぬえと咲夜に見送られ俺たちは結界から出た。

ここを出れば自分の身を守るものは存在しない。出会うもの皆敵といっていっても過言ではないだろう。

魔理沙「んじゃ、行くか」

小町「だね」

チルノ「師匠! あたい達も行って来る!」

萃香「そっちもがんばりなよ」

男「おう」

魔理沙と小町。チルノと萃香がそれぞれ別の場所に飛んでいく。向かう先は人間の里だがルートは分けている。固まって動くと戦力は強くなるが動きづらくなる。それに戦力を固めたところであっちのほうが上なのだから結果負けるだけだ。

魔理沙と小町は妖怪の山に近いルートを回り後ろから人間の里へ。

萃香とチルノは魔法の森を抜け、紅魔館の近くを通り人間の里へ。

俺と霊夢はそのまま人間の里へ向かう。

ちなみに誰かがもし死んでしまったら分かるように霊夢が作った監視の札というものが全員に張られてある。誰かが死んでしまったら霊夢に伝わる仕掛けらしい。 


674 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/06(日) 20:36:09 g3rTK6IY
霊夢「ほら、ぼっとしてないで行くわよ」

男「ん、あぁ」

霊夢がふわふわと浮きながら俺に催促した。

俺が走り出すと霊夢は俺の少し前に位置して飛ぶ。どうやら珍しく俺に合わせてくれるようだ。

男「ありがとうな」

霊夢「別に、あんたが死ぬと魔理沙とぬえが悲しむでしょ。だからよ」

そう言って霊夢は顔少し赤くなった顔をそらした―――なんてことはなく真顔でそう言った。

結局俺自体の価値は霊夢にとっては皆無なようだ。 


675 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/06(日) 21:32:36 g3rTK6IY
~俯瞰視点~

萃香はチルノに合わせ走っていた。萃香一人ならば霧になり進むことができるがチルノを守らなければならない今霧になることはできない。

萃香は妖精に興味が無い。というよりは他人に基本的に興味が無い。あるとすれば自分が強者と認めたものだけ。

この考え方が現在の正邪を産んだのだが、萃香は直そうとしても今までの考え方がすぐ直るわけではなく萃香は少し後ろを飛ぶチルノのことを面倒だなと少し思った。

しかし見捨てることはなくチルノにいつ攻撃がきてもいいように気を配っている。

チルノ「萃香! 後ろは任せろー!!」

そんな萃香のことなど露知らずチルノは張り切っていた。そんなチルノの様子を見て萃香は少し微笑んだ。

萃香「?」

萃香は微笑んだ後、自分がなぜ微笑んだのか分からず首をかしげた。

それが萃香の変化だとこの時点ではまだ萃香は気づいていなかった。 


676 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/06(日) 21:48:20 g3rTK6IY
太陽が真上に上がり、昼になった。ここまでチルノと萃香は一度も止まらずに走り続けていた。二人は小さな戦いを繰り返していたが今のところ大きな戦いはなく、疲れているわけではない。しかし萃香は一度休憩は挟んだほうがいいだろうと判断して立ち止まった。

チルノ「?」

不思議そうな顔で見てくるチルノに萃香は念のために休憩すると告げる。するとチルノは

チルノ「あたいまだまだ大丈夫だよ!」

と答えた。

そんなチルノを萃香は無理やり座らせ水筒とおにぎりを握らせた。

萃香「このあと休憩できなくなるかもしれないんだから今休憩しといたほうがいいんだよ」

チルノ「なるほど! 萃香は賢いな!!」

そんなチルノの言葉に萃香は不思議と怒りを感じなかった。それどころかチルノらしいと苦笑する。

萃香「さて、私も食べようかね」

亡霊男が握った経木で包まれているおにぎりと竹筒に入った水を取り出す。

開けると塩むすびが二つとたくあんが3切れ入っていた。 


677 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/06(日) 21:53:56 g3rTK6IY
萃香(今のところ敵はいないみたいだけど)

水を飲みながら周りの気配を探る。こいしのような隠密性のある妖怪なら分からないが普通の妖怪、人間はどうやらいないようだ。

そんなことをしているとチルノがいきなり苦しみ始めた。

チルノ「うっ、ひっ」

萃香「チルノ!?」

慌ててチルノのそばに駆け寄る。チルノは萃香の腕を掴んで何か言いたそうにしていたので萃香はチルノの耳元に口を近づけた。

チルノ「み、水」

萃香「………」

萃香はぽかんとして停止する。胸を叩いているチルノを見て喉に詰まらせただけかと安心してため息をつく。

いまだもがき苦しんでいるチルノに萃香は自分の水筒の水を飲ませた。

ごくごくとチルノは萃香の分の水を飲み干した。萃香は自分の分がなくなったがいざとなれば酒を飲めばいいだろうと判断する。

チルノ「ぷはぁっ! 助かった!!」

萃香「少量を良く噛んで食べないからだよ」 


678 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/06(日) 22:06:49 g3rTK6IY
チルノ「あ、萃香の分全部飲んじゃった」

飲み干した水筒が萃香のものであることに気づく。申し訳なさそうに謝ってくるチルノに萃香は別に良いと言ったのだがチルノは気がすまないらしく少し考えた後こう提案した。

チルノ「こうすればいいなっ」

チルノが水筒を握って少し集中する。するとパキンとガラスの割れるような音が水筒からした。

チルノ「溶けないと飲めないけど」

チルノは水筒の中に空気中の水分を集めて凍らせたらしく、萃香が受け取った水筒はひんやりとしていた。

真冬にこんなくそ冷たい水なんか飲まないよという言葉を飲み込んで萃香はチルノに礼を言った。

チルノは得意そうな顔をして笑う。

元々チルノのせいなのだけどと萃香は思ったが言わないでおいた。 


701 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/08(火) 21:22:38 YvgvpyUc
萃香「さぁて。そろそろいこうか」

最後のおにぎりを食べ終わり萃香が立ち上がる。

それを見てチルノは急いで水を飲んで立ち上がる。そのまま元気良く進んでいこうとし、萃香に襟を掴まれた。

萃香「後ろにいな」

チルノ「あたいはさいきょーだから大丈夫だって」

萃香「最強が無敵ってわけじゃないんだからね」

チルノ「?」

萃香「分からないか。とにかく後ろにいな」

真面目な顔をしてそう言う萃香にチルノは納得はしてないようだが素直に後ろについた。 


702 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/08(火) 21:33:51 YvgvpyUc
森を抜け、霧の湖につく。

湖はその名前の通り霧に覆われ、あたりを見ることが出来ない。一寸先は闇というほどではないが数メートル先以降は何も見えなかった。

萃香(ちょうど悪いときに来たね。待ち伏せしてるならここかな)

萃香は警戒し、あたりの気配に気を配る。

萃香「!」

パシッと萃香がチルノに向かって飛んできたものを掴む。

それは矢だった。石の鏃がついており威力は鉄よりも高そうだった。

萃香「チルノ、行くよ」

この霧の中を正確に射抜いてきたものはおそらくなにかしらの能力を持っているのだろう。ならば数は一人、多くても二人程度、それが命令を飛ばして萃香たちを狙わせてくるのだろう。ならばそいつを倒せば後は簡単だ。そう萃香は判断して周りの霧を散らした。

チルノ「! 凄いな、萃香は」

萃香「喋ってる暇はないよ」

そう言いながら萃香は自分を狙って飛んできた矢を殴り飛ばす。そして飛んできた方向の霧を晴らす。

弓兵「!」

萃香「見つけた」 


703 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/08(火) 21:48:47 YvgvpyUc
弓を持った人間の周りには剣を持った人間が数人いた。

距離はおおよそ100メートル弱といったところだろう。普通ならば10秒以上はかかるその距離を萃香は1秒以下で詰めた。

反応が出来なかった人間の体を殴る。型もないただの拳を受け人間の体に大きな風穴が開く。

人間に怯えが入る。そのたった1秒の硬直が全ての人間の命を奪った。

萃香は自分の腕に繋がる鎖を振り回しまわりの人間の骨を砕く。あるものは首の骨を折り即死し、またあるものはあばらが全て折れ内臓をずたずたにし、絶命した。

これで大丈夫だろうと安心した萃香の耳にチルノの声が届いた。

チルノ「なっ!」

チルノの後ろの霧から人が飛び出しそのままチルノを羽交い絞めにした。

人間「動くな! 動いたらこいつの命が」

萃香「危ないのはあんたの命だろうね」

人間「は? なn」

言葉は発音の途中で強制的に止められた。息をし吸い込んだ霧。水を大量に含んだ霧が一気に凍結したのだ。

そして更に凍っていく。吸い込んだ霧が。血液が。人間の六割を構築する水が全て凍っていく。

体の外と中が同時に凍り付いていく。叫ぼうにも声が出ないその人間は心の中で叫び、絶命した。 


704 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/08(火) 22:51:42 YvgvpyUc
萃香「だからいったろう?」

萃香はチルノを羽交い絞めにしたまま氷の塊となっていった人間を見て呆れたように息をついた。

萃香(さて、あと何人いるか)

周りからする音。布がこすれるような音と荒い息を繰り返す音からまだ戦いが終わっていないことを知る。

おそらく問題はないだろう。紫のような妖怪がいるなら話は別だが、普通の妖怪じゃ萃香を足止めすることすらできない。

「うわぁあああ!!」

自分に向かってくる声に反射で攻撃する。その声がこの場所に似合わないほど幼いことに気づいたのは向かってきたものを殴ってからだった。

萃香「!?」

殴った感触は柔らかく筋肉質ではない。

感触に続いて視覚から情報が入る。

それは小さく、顔つきはまだ幼い。普通ならば親に守られるべき存在である

萃香「ここまで落ちたか人間っーーーーーーーー!!!」

子供だった。 


705 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/09(水) 09:12:01 eUhzjWz.
子供の悲鳴に反応し、半狂乱になった子供が霧から飛び出し萃香やチルノに襲い掛かる。

人数は6人。萃香とチルノは投げ飛ばしたり、凍らしたりして子供の動きを止めた。

萃香(この様子じゃ望んで来たわけじゃないと思うけど)

もしかして強制的に戦わせたのだろうかという考えが浮かび萃香は苛立つ。

曲がったことが大嫌いな萃香はこんな手を打ってきた人間に怒りを隠せなかった。

投げ飛ばした子供は腰が抜けたらしく萃香を怯えた目で見ていた。六名の怯えた目に対し、萃香は逃げろと言おうとし、口を開いた。

萃香「そんなおびえn」

パンッ

ぴちゃりと萃香の体に何かがついた。ぬるくぬめっているそれは何度も嗅いだことのある臭いで。

萃香「―――っ」

破裂した。人体が急速に膨らんで弾け飛んだ。結果血や桃色の内臓を周囲に撒き散らした。

六人同時に。

チルノ「! うぇ。おえぇえっ」

青い顔をしたチルノが昼に食べたものを全て戻す。つんとした胃酸によってなのかそれともこの現状になのかは分からないがチルノは涙を浮かべた。 


706 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/09(水) 09:18:35 eUhzjWz.
萃香「出て来い人間共っ!!」

萃香が腕を振って霧をはらす。

そこにいたのは一人の妖術師然とした格好の男。

頬はこけ、目はうつろ。

そんな男が立っていた。

やったのはこいつだと萃香が判断して近づいて組み伏せる。

抵抗できるはずなく男は地面に組み伏せられた。

萃香「なぜあんなことをした!」

その萃香の問いに男はくききと不気味な笑いで答える。その様子に苛立った萃香は死なない程度に男を殴った。

萃香「もう一度聞く。なんであんなことを」

しかし答えない。男は自分を簡単に殺せる鬼がすぐそばにいるというのに萃香のことを見ていなかった。

その様子を不思議に思った萃香が視線の先を追う。

そこにあったのは子供の残骸

ではなかった。 


707 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/09(水) 09:31:05 eUhzjWz.
ぐじゅりぐじゅりと熟れた果実を指でつぶすような音が聞こえる。それは断続的に鳴り、その音が響くたび子供の残骸が動く。

内臓がうねうねと、肉がゆっくりと、血がすぅっと動く。

チルノ「あ、あぁ、あ」

合計7人の屍骸が一つの場所へ集まっていく。

萃香「やめろ!!」

萃香が今から何が起きるか理解して男の頭をつぶす。ぱきゃりとした音の後にぐちゃりとつぶれる音がして男は死んだ。

萃香が集まる肉達を見る。しかしとまらない。不快な音がまだ響いている。

チルノ「うわぁああああぁっ!!」

チルノが叫びながら肉の塊を凍らせる。しかし音は鳴り止まない。

不快な不快な音がなっている。

ぐじゅりぐじゅりと 


712 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/10(木) 06:43:49 YIEceKjw
肉の塊は脈打つと一つの歪な人型となった。

それは頭がない大きな体に、小さな手足がついた形。そして色はじょじょに白くなっていく。

あたりに漂うむせるような死肉の匂いにチルノと萃香は吐き気を覚えた。

「うぉおっおお、お」

低くうなるような声がどこに発声器官があるのかも分からない肉塊から鳴る。

そして肉塊は体に不釣合いな小さな足を動かして、近くにいる生物。チルノに向かっていった。

チルノ「いぃ!?」

不自然なほどに速く音も無い移動。ぬらぬらと光る白い巨体がチルノに体当たりをしようとする。それをチルノは急上昇して避けた。

チルノ「あれ何なんだ!?」

萃香「………ぬっぺふほふ。だと思う」

萃香が今度は自分に向かってくる肉塊を見つつ自信なさげに答える。

萃香「死体の妖怪、だけどあんな妖怪変化の生まれ方は見たこと無い。おそらくなんらかの術を使ってるってことなんだろうけど」

萃香が肉塊に向かって鎖を放つ、鎖は肉塊に吸い込まれるように当たり

そして跳ね返された。 

714 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/10(木) 07:00:59 YIEceKjw
萃香「!」

自分に返ってきた鎖を片手で掴みとりながら突進を避ける。すれ違い様に肉塊を蹴ってみたが不気味な弾力によって跳ね返された。

チルノ「萃香危ない!!」

避けた萃香を追うようにして肉塊が急旋回して再び萃香に近づく。チルノは萃香と肉塊の壁に氷の分厚い壁を作り萃香を守った。

がしゃんと氷にヒビが入る。肉塊は何度も氷に体当たりをし、そのたびに氷のヒビが大きくなっていった。

萃香「死体と魂はまだ結びついてた。ってことはこいつを倒さなきゃ子供の魂が解放されないってことさね」

萃香が腰を低く落とし、拳を後ろに引く。

萃香「チルノ、こいつを全力で凍らせな」

チルノ「りょ、了解!!」

ばきんっ。氷の壁が壊れる。自分に向かってくる氷の欠片をものともせず萃香は足を一歩前に踏み出した。

チルノ「ダイアモンドブリザァアアアドッ!!」

キラキラと輝く触れたものを端から凍らせていく吹雪が萃香と肉塊を覆う。その吹雪を受け肉塊はぱきぱきと凍っていった。

萃香は体に霜を纏いながら拳をまっすぐに突き出す。単純な技である正拳突きは、鬼によって最強の技として放たれた。

凍らされあの不気味な弾力性は無くなり、あるのは氷の硬い体だけ。

ゆえに、砕けない理由はなかった。 


715 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/10(木) 07:13:17 YIEceKjw
肉塊が四方に砕け散る。

萃香は白い息を吐きながら警戒を解かず数秒間構えた。

そののち肉塊がもう動かないことを確認すると構えを解いて上空にいるチルノを見上げた。

萃香「終わったよ」

チルノがパタパタと氷の羽を羽ばたかせながら着地する。

周りに飛び散った肉塊に怯えつつチルノは悲しそうな顔をしていた萃香の瞳を覗き込んだ。

萃香「ん。あぁ。こんな時代は嫌だって思ってね」

萃香の目が光を受け、きらりと光る。

チルノ「あたいも。だから絶対終わらせよう」

萃香「………そうだね。これ以上戦う意思の無いものが巻き込まれたらいけない」

チルノ「よしっ。じゃあ行くよ。あたいはさいきょーだからすぐにぱぱっと終わらせて、そして皆で遊ぶんだ」

遠くを見つめるチルノの言葉の最後が嘘だということは萃香は気づいていた。

失われたものは取り戻せない。終わってもあの日々は戻ってくることは無い。戦争は妖怪と人間の間の溝を修復不可なまでに深くしたのだから。

それでもそんな嘘に縋りたいと萃香は思った。

それはきっと嘘ではなく希望だと萃香は思った。 


716 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/10(木) 07:30:26 YIEceKjw
暗い部屋。夢殿大廟と呼ばれるその場所の一室に妹紅は居た。

妹紅「で、話ってなんだ?」

暗闇に向かって妹紅が声をかける。

すると暗闇から艶やかな声が返ってきた。

青娥「あなたの教え子がいたわよね」

妹紅「あぁ。いたけどそれが?」

青娥「死んだわ」

あっさりと告げられたその言葉に妹紅は言葉が出なくなった。

青娥「あの子達妹紅先生を守るんだ。とか言って外に出たらしいのよ。そして伊吹 萃香によって殺された。可哀想なことにね」

妹紅「ま、待てよ。そんな冗談」

青娥「事実よ。あの無垢な子供達を萃香は一切の慈悲も持たずに殺害した」

妹紅「本当、なのか?」

青娥「えぇ、一切の偽りもなく本当ですわよ」 


717 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/10(木) 07:38:47 YIEceKjw
妹紅「あ、あ。そんな」

青娥「あの萃香なら殺さずとも無力化できたでしょうに」

妹紅「ちくしょう。なんであいつらがこんなことに。なんで死ななきゃいけないんだよ」

青娥「えぇ、許せませんわ」

妹紅「ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうっ!!」

妹紅が頭をかきむしる。美しい白髪がどんどん赤く染まっていく。

青娥「今のあなたでは萃香には勝てませんわ。そう、今のあなたでは」

妹紅「何か方法があるのか?」

美しい赤い目が暗闇を射抜く。その怒りに満ちた視線を受け青娥はぞくぞくと背筋を震わせた。

青娥「えぇ、準備がいるから明日になるけれど」

妹紅「あぁ、分かった」

妹紅は暗い部屋から出て行った。

それを見送った後、青娥は口元をにやりと歪ませた。

青娥「単純な馬鹿は使いやすくて助かりますわ」 


718 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/10(木) 08:25:04 YIEceKjw
慧音「妹紅………」

寺子屋の教室で一人佇んでいた妹紅に慧音が声をかける。

妹紅はゆっくりと慧音のほうに振り返り、微かな声で慧音の名前を呼んだ。

慧音「あ、すまない」

妹紅「いや、いいよ」

妹紅の瞳から涙が流れていることに気づいた慧音は慌てて外に出ようとしたが妹紅がそれを止めた。

目元を拭って妹紅が慧音のほうに向き直る。そして笑顔を作ろうとし、失敗した。

妹紅「ごめん、止めるからちょっとまってくれ」

妹紅の目から溢れる涙が止まらない。何度も妹紅は涙を拭うが、涙は次から次へと溢れていく。

慧音「無理、しなくていいんだぞ」

慧音はそんな自分より遥かに年上で、自分よりも小さな少女を抱きしめた。

妹紅は慧音に素直に抱きしめられ、その胸の中で泣いた。

妹紅「大好き、だったんだ。皆、大好きだったんだ。楽しかった、んだ。化け物の私に、微笑んでくれた、んだ」

嗚咽交じりに妹紅がそう自分の思いを慧音に吐き出す。

そんな妹紅に相槌を打ちながら慧音は妹紅の頭を撫で続けた。 


719 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/10(木) 08:31:38 YIEceKjw
妹紅「ん………ありがと」

泣き終えた妹紅が慧音に礼を言って離れる。

慧音の服は涙で濡れ、妹紅が強く慧音に抱きついたためしわになっていたが慧音は気にせずに微笑んだ。

慧音「私の胸でいいならいくらでも貸そう」

妹紅「ありがとうな。慧音」

慧音「私は妹紅のことを大切な友人と思っているからな」

妹紅「う………私も、だ」

慧音「そうかそうか。それはよかった」

慧音が嬉しそうににっこりと笑う。

妹紅はあまり言われなれてない好意的な言葉を受け、顔を赤く染めた。

慧音「………それで、どうするんだ?」

妹紅「戦うよ。化け物の私に似合うのはやっぱり復讐さ」

慧音「そんなこと」

妹紅「否定しないでくれ。私から私を奪わないでくれ」

慧音「………………分かった」 


720 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/10(木) 08:40:59 YIEceKjw
慧音「止めはしない、だが絶対無事に戻ってきてくれ」

妹紅「どうせ私は不死だし」

慧音「それでもだ」

妹紅「………ん」

妹紅が慧音のまっすぐな瞳にこくりと頷く。

慧音「じゃあご飯を食べよう。今日は自信があるんだ」

妹紅「そうだね。慧音のご飯は私は好きだよ」

慧音「私は妹紅のご飯のほうが好きだけどな」 


721 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/10(木) 09:45:56 YIEceKjw
太陽が真上に昇り輝いている。しかしまだ寒い冬の気温の中魔理沙は冷や汗を流していた。

魔理沙「おいおいおい、どんな冗談だこれ」

自分を狙った弾幕を避け魔理沙が逃げる。

天狗「待て!!」

魔理沙「待てって言われて止まるやつはいぃ!?」

突然目の前に現れた他の敵を上昇してかわす。しかしその先にも天狗がいた。

小町「っと、危ないなぁ」

目の前に飛んできた弾幕を避けれないと判断してきつく目を瞑った魔理沙を小町が横からさらいそのまま距離をとる。

小町「これは相手に椛がいるかな」

敵は遠く見えないがこの相手を追い詰めていく戦い方はおそらく椛だろうと判断する。

魔理沙「かもな、逃げるほうがいいか」

小町「逃げれると思わないけどね」

魔理沙「二人でがんばれば破れないか?」

魔理沙が四方を囲む巨大な結界を見る。

その魔理沙の問いに小町は首を横に振った。 


723 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/11(金) 08:17:34 hOfSa0mI
小町「あたいの力で一気に近づくことはできるけど、椛の周りにはしっかり天狗いるしねぇ」

魔理沙「ここからマスタースパークで撃ち抜けば」

小町「避けられるのがオチだろうね」

魔理沙「能力で近づいてマスタースパーク」

小町「効果はあるかもしれないね。でも外すと囲まれるよ?」

魔理沙「だけどそれが一番だろ?」

小町「………あたいとしてはあんまりリスクがある戦い方はしたくないんだけど」

魔理沙「他に手も無いならこれでいこう」

小町「しかたないね」 

728 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/13(日) 10:26:14 Q3hyW4mk
小町が鎌を一文字に振る。すると空間が少し歪んだ。

小町「気づかれる前にさっさと決めるよ」

魔理沙「おう!」

魔理沙が歪みの中へ飛び込む。それに続いて小町も飛び込んだ。

魔理沙の最大加速よりも速い景色の流れ。今回の結界の大きさは大きく縦横、1キロとなっている。しかし距離は小町の前では意味をなさず、1キロであろうと1メートルであろうと到着する時間に変わりは無かった。

魔理沙の移動が終わり、椛に近づく。両者の距離は20メートルほどで、マスタースパークを撃てばいくら天狗でもかわせない距離だった。

もちろん周りには他の天狗がいる。しかし椛を討てば後は烏合の衆。策の無い戦いに負けるほど魔理沙は馬鹿ではなく、天狗が強いというわけではない。

ミニ八卦路が熱を帯びる。輝きだしたそれを魔理沙は椛に向けた。いきなり現れた魔理沙に天狗が硬直していた天狗が魔理沙に向かっていこうとするがいくら速い天狗でも言葉よりは速くない。

魔理沙「―――マスタースパーク」

魔理沙の声にミニ八卦路が反応する。

その威力はスペルカード時の比ではない。山を焼き尽くすほどの熱量が放出された。

いや、されようとした。 


729 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/13(日) 10:33:07 Q3hyW4mk
魔理沙「う………な、なんだ」

下腹部に覚えた鋭い痛み。その痛みに魔理沙は集中を途切らせ、その結果熱量は放たれずミニ八卦路は光を失った。

自分の腹部に生える鋭い刃。それはずるりと抜かれ、そして今度は右胸から生えた。

魔理沙「がぁああぁあっ!!」

後ろには小町が居たはず。なのになぜと魔理沙は力を振り絞って後ろを見る。

いない。小町がどこにも。

いや、小町のようなものはいる。

―――体だけ。

その横に立つは好々爺然とした男。

名は山ン本五郎左衛門と言い、天魔、魔王と呼ばれる存在だった。 


730 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/13(日) 10:35:57 Q3hyW4mk
再び刃が抜かれる。そして魔理沙は力を失い落ちていく。

その際に見えた椛が泣きそうな顔をしていたのはおそらく失血しているがゆえの幻だろう。

魔理沙(くっそ。兄貴………無事で、いて)

地面に落ちる前に意識が途切れる。

そして魔理沙は二度と目を覚まさなかった。 


732 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/13(日) 10:49:10 Q3hyW4mk
山ン本「危ないところだったのう」

魔理沙の落下を見送った椛に山ン本が言う。

椛「ありがとうございます」

山ン本「ほっほ。天才指揮官を失うのは惜しいからの。それにまだ大将棋で勝ってないのでなぁ」

目を細めながらそういう山ン本に対し椛は表面上だけ微笑む。

心の中はあの時魔理沙のマスタースパークを受けて死んでしまいたいと思っていた。

はたてが椛を誘拐した後、地底の近くで椛は目を覚ました。

そしてはたてが何をしようとしているのかを聞き、ここまできては戻ることは出来ないと理解し、自分も地底に行くことを決心した。

しかし現実は非情で、地底には誰もおらず、天井には大きな穴が開いていた。

結果、追っ手に追いつかれ、はたてはその場で処刑された。

そして椛はもう一人の友、文の死も知ってしまった。

完全に生きる希望を失った椛はただ殺してくれる誰かを待ちながら生きていた。しかしやってきた機会もたった今奪われてしまった。

このまま生きていてもおそらく自分は死なないだろう。そう頭の中で結論に至ったとき椛の手は自然に動いていた。 


733 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/13(日) 10:55:11 Q3hyW4mk
他の白狼天狗よりもずっと立派な刀を抜き自分の胸に突き刺す。白い衣装が痛みと共に赤く染まっていく。そしてそれでもまだ死ねないので何度も何度も自分に刃を突き立てた。

唖然とする天狗が周りに見える。

何かを言ってるように口が動いていたが椛の耳には届かなかった。

文「馬鹿ですね、椛は」

はたて「ほんとよねぇ」

聞きたかった声が聞こえた。

目の前にいる二人は呆れた顔でこっちを見ていた。

―――文、はたて。

椛の目から痛みからではく涙が流れた。

自らの命を失ってやっと失ったものを再び掴むことが出来た。

たとえそれが幻でも椛は今までにない満足感と安堵感に包まれていた。

椛は笑顔で落ちていく。

空中に浮いた涙が日の光を受け、キラキラと宝石のように輝いていた。 


735 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/13(日) 11:01:33 Q3hyW4mk
~男視点~

霊夢「魔理沙と小町が死んだ………」

霊夢がいきなりそう呟いた。嘘を言ってるような声色には聞こえないし、霊夢がそんな洒落にならない嘘をつくようなやつではないということも知っている。

つまり

二人は死んだのだ。

ホルスターから銃を抜き、こめかみに当てる。

霊夢「え、あんたなにやって」

頭が痛み、パンという音が鳴った。

頭の中でカチッカチッという音が鳴る。

カチッカチッ

カチッカチッ

カチッカチッ

カチッ

ギュルルルルルルル 


736 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/13(日) 11:09:22 Q3hyW4mk
魔理沙「んじゃ、行くか」

小町「だね」

二人の声が聞こえた。

男「魔理沙!! 小町!!」

魔理沙「わぷっ。いきなりどうしたんだよ兄貴」

小町「いやぁ、いきなり抱きしめられるとあたいすっごい恥ずかしいんだけど」

男「まりさぁああ!!こまちぃいい!!」

霊夢「離れろこのド変態」

霊夢が俺の後頭部にチョップを入れる。

その痛みで我に返ったが、どうやら俺はちゃんと時間を巻き戻せたようだ。

ホルスターから銃を抜いて弾倉を見る。弾が一発減っていた。

霊夢「? ついに壊れたの? 45度で叩けば治るかしら」

萃香「じゃあ私が治そうかね。男ちょっとこっちにおいで」

そう言いながら萃香が俺の襟を引っ張って引きずる。

見事に頚動脈がしまって、意識が、と 


737 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/13(日) 11:16:26 Q3hyW4mk
萃香「ここでいいかね」

萃香が襟を放す。少し薄暗くなっていた視界が正常に戻り、俺は大きく息を吸った。

男「で、どうしたんだよ」

萃香「あの二人、死んだんだね?」

いきなり萃香が言う。慌てて周りを見るが誰も居ない。

萃香「大丈夫だよ。配慮してるから」

男「………知ってるのか?」

萃香「知ってなけりゃ言わないさ。それで、死んだのはあの二人かい?」

男「………あぁ」

萃香「そうかい………」

萃香は少し考え込んでそのまま皆のところへ戻っていった。

それを慌てて追う。

一緒に出てきた俺たちを霊夢が怪訝な目で見ていたがまぁいつものことだから気にしない。

萃香は小町と魔理沙を見てこう言った。

萃香「小町は霊夢と男といきな。魔理沙は私達とだ」 

748 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/15(火) 07:38:33 dDhFf4VA
霊夢「は? いきなり何言ってるのよ」

萃香「ちょっとこっちの事情でね」

魔理沙「?」

全員不思議そうな顔をしているが無理もない。いきなり俺が魔理沙と小町に抱き付いて萃香が二人のチームを解散させたんだからな。

萃香「ほらほら、さっさと行くよ」

何か言いたそうな顔をしていた魔理沙を引きずって萃香がチルノと共に歩いていく。

何か事情を知っている萃香が消えたので当然質問の矛先は俺に向かってきた。

霊夢「どういうことよ」

男「わからない」

まさか魔理沙と小町が死んだから時間戻しましたなんていっても通じるわけがない。どうにかしてごまかさなければいけないのだが気の利いた嘘がつけなかった。

霊夢「………ふーん」

霊夢がじとっとした目でこっちを見てくる。納得がいかないようだが答えるわけにもいかない。

霊夢の視線を受けながらも俺がだまっていると小町が「あー、それじゃああたい達も行こうか」と助け舟を出してくれた。

霊夢は俺から視線を外して「そうね」と言って歩き出した。今回は機嫌が悪いせいか俺のスピードに合わせてくれない。それどころか絶対ついていけない速度で飛んでいる。

どうすればいいかと思っていると小町が苦笑しながら俺を抱えて(普通逆だとは思うが)走り出した。 


749 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/15(火) 07:39:43 dDhFf4VA
小町にお姫様だっこをされながら考える。

時間は戻せた。魔理沙と小町のルートを変更したため、前回と同じ死に方はしないだろうが、その結果何が起きるのだろうか。

レミリアみたいに運命が見れればまだなんとかなるのかも知れないが残念ながらそんな能力は俺にはない。

ウィルを連れてきても一チームの運命を破壊できるだけで他のチームの危険性は残っているし、死ぬ運命を破壊したからといってその先、絶対死なないとは限らない。

もちろん連れてくるに越したことはないのだがそれは咲夜が止めたのでどちらにせよ連れてくることはできない。

結局動かせるのは霊夢、魔理沙、小町、チルノ、萃香だけということか。

負けるとは言いたくないが十分な戦力でないことはたしかだ。せめて妖夢でもいれば良かったのだろうが、すでに外の世界に行っている。

紅魔館や命蓮寺の人たちがいれば良かったのだが。

しかし銃が使えなかったのだからまだ勝てるということなのだろうか。

それにしても判断はどうしているのだろうか。この銃はレミリアと同じく未来でも見えるのか?

とにかく敵にも味方にもわからないことが多すぎる。

なぜ敵はいきなり妖怪に宣戦布告したのか。おそらく妖怪に支配された世の中が嫌だからという理由だろうが、魔理沙から聞いた話によると最近は人間の里に暮らす妖怪もいたりして仲は悪くないはずだ。

そもそもいきなり全員が妖怪を嫌うことはないはずだ。そこにやはりなんらかの理由があるのだろうが、それは今はわからない。

そして紫はなぜ俺を選んだのか。外からやってきた見ず知らずの人間に時を戻すなんて重要な役割を与えるわけがない。たとえ銃にセーフティーがついているからだとしても俺がこの銃を捨ててしまうという可能性や、これを持ったまま人間に寝返るという可能性もあるんだ。

この疑問に紫は答えてくれないだろう。秘密主義の紫に俺は少しずつ不信感を抱いていた。それでも裏切ったりはしないが。 


750 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/15(火) 07:40:26 dDhFf4VA





時間は流れて、太陽が真上から少し傾いたころになった。ここで霊夢は昼飯を食べるべく休憩を入れる。

抱きかかえた俺を小町が地面におろす。抱きかかえられたままだったから体が固まっている。少し動かすとボキボキと骨がなった。

近くにあった地面から出てきている木の根に腰を下ろし、亡霊男から渡された弁当と水筒を取り出す。同じ昼食を二度食べるのだが、おなかは空いていたため苦はなかった。

みっつの塩むすびを食べ終え二人の方を見る。霊夢は案外女の子らしく少しずつ食べ、小町は大きな口を開けて食べていた。

体つきは小町のほうが女の子らしいんだけどなと言うと霊夢から半殺しにされるであろうから言わないでおく。

男「あとどれくらいで人間の里なんだ?」

戦闘を繰り返しながら進んでいたし、小町の能力を使いながらだったので、距離感はわからなくなっている。

おそらく結構な距離を進んだと思うのだが帰ってきた答えはまだ半分とのことだった。

もし人間の里につくころに夜だったとしてそこから進むのか? いや小町はともかく霊夢は人間だ。体力に限りがある。

となるとどうするのか。紫が何か考えているのだろうか。

霊夢「ん、それじゃあ行くわよ」

いつの間にか霊夢が食べ終えていたらしく立ち上がって服についた土を掃っている。

まぁ、結局何をするのかは俺が考えなくても夜になればわかるだろう。 


751 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/15(火) 07:41:15 dDhFf4VA
また小町に抱きかかえられながら進んでいく。近づいてくる妖怪や人間はすべて今のところ霊夢が倒しており、苦戦するような相手はいなかった。

そして今目の前にいる相手もおそらく苦戦することはないのだろう。

小傘「久しぶりだね、霊夢」

足の生えた傘を引き連れたオッドアイの少女が人間を引き連れていた。

霊夢「驚いたわ、小傘。あんたがいるだなんて」

小傘「えへへ。私が霊夢を驚かせれた。わちき驚いたーなんてね」

小傘と呼ばれた少女が少し嬉しそうに笑う。

霊夢「で、あんたが私になんのよう? 戦うの? あんたが?」

小傘「うん、そうだよ」

小傘が足の生えた傘を持って構える。

小傘「捨てられても私は人間の味方だよ。雨の日に差してもらえなくてもいい、雨じゃなくて霊夢たちから私は人間を守る!! それが私の、付喪神としての生き方だから!!!」

傘から雨のように水が噴き出す。それを霊夢は易々と避けて小傘の様子をみる。水は木にぶつかり表面に少し穴をあけた。

霊夢「本気なのね」

小傘「当たって砕けても、私は霊夢を倒すよ」 

764 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/19(土) 14:51:26 ePr8o1LY
霊夢「でも、あんたには無理よ」

霊夢がお札を放つ。おそらく数十枚はあるであろうお札は小傘を避け、人間に向かって飛んでいった。

それを止めるべく小傘は傘を投げお札を弾き、自分の体も使って札を止めるが防げなかったお札が人間に当たり弾ける。

おそらく骨が折れるであろう衝撃を受け、数人の人間が痛みに呻く。

小傘「っ!!」

小傘が霊夢をキッ、と睨む。その視線を受けながらも霊夢は怯まずに次の札を構えた。

霊夢「ほら、あんたじゃダメでしょうがっ!!」

小傘「やらせないっ!!」

小傘が霊夢に飛びかかる。その行動に面喰った霊夢は弾幕を放つタイミングが少しずれ、小傘を避けて放つはずだった弾幕はすべて小傘に当たった。

一枚でも相当な威力を持つ札を何枚も体に受け、小傘の体が地面へ弾き飛ばされた。

小傘が地面にぶつかった衝撃によってあたりに砂煙が舞う。

霊夢「さて、あとは人間ね」

空中で霊夢が砂煙が収まるのを待つ。 


765 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/19(土) 15:00:27 ePr8o1LY
男「なぁ、霊夢だけで大丈夫か?」

小傘は倒したかもしれないが、人間はまだ相当数いる。

それを霊夢だけで倒すことはできるかもしれないが絶対というわけではない。

またどこかに伏兵がいるかもしれないのだ。

小町「大丈夫だよ。霊夢なら」

男「そう、なのか」

ザァアアァア

音がした。雨の降るような音が。

砂煙が急速に消える。そして唐笠を杖替わりにした小傘が霊夢を睨みつけていた。

地面が濡れているところから見るとどうやら小傘は水で砂煙を消したらしい。

霊夢「あぁもう! 鬱陶しいわね!」

今だ自分に敵意を向けてくる小傘に向かって霊夢が札を放つ。

その量はさっきの倍以上。

ただでさえ傷ついている小傘がそれだけの札を受けたなら死んでしまうことは明らかだった。

しかし小傘はその大量の札を避けることもなく、それどころか両手を広げて止めようとした。 


766 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/19(土) 15:09:39 ePr8o1LY
霊夢「そんなことしても無駄死によ!?」

小傘「それでもいい!!」

小傘に大量の札が迫る。

向かってくる札から小傘は目をそらさず睨みつけた。そして

辺りが煙に包まれた。

霊夢「は!?なにこれ!?」

白い煙。砂煙ではない。もくもくと辺りに広がっていく白い煙。

小傘「きゃっ!!」

その中から小傘の悲鳴が聞こえた。

中で何が起きているか。それは霧よりもはるかに濃い煙で見ることができなかった。

敵なのか味方なのか、それとも第三者なのか。それすらもわからない状況なので小町が俺をひっぱり距離をとる。

霊夢「風でも起こせればいいんだけど」

空中にいる霊夢がそう言うが、風は吹かずどんどんと煙は範囲を増す。もしかしたらこの煙は有害なのかもしれない。そう思って口に袖を当てる。

霊夢「仕方ないわね。少し引くわよ」

そういって霊夢が今来た道をさかのぼり飛んでいく。小町もそれに続いて俺を抱きかかえながら移動した。 


767 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/19(土) 15:20:24 ePr8o1LY
白い煙が見えるが範囲ではないぐらいの位置で煙が晴れるのを待つ。

もしかしたらあれは敵が逃げるための手段なのかも知れないが小傘が自分を守ってくれているのに攻撃すらしない人間がそんなことをするのだろうか。

あの小傘という妖怪。人間を守る気持ちはあるみたいだが人間からは愛されていないのだろうか。

男「………」

小町「何難しい顔してるんだ?」

男「あの小傘って妖怪。可哀想だなって思ってさ」

霊夢「別にあんな馬鹿可哀想でもなんでもないわよ」

男「でも、あれだけ人間を大切に思ってるのに、人間からは」

霊夢「いちいち相手に同情なんかしてたら死ぬわよ。敵は敵。どんな立派な思想を持っていようが、どんなに可哀想でもそれは変わらないのよ」

男「どうにかならないのかな」

小町「ならないね」

霊夢ではなく小町がそうきっぱりと言う。

小町「自分の存在価値は妖怪にとっては命と同じなのさ。男が小傘の新しい存在価値を作ってあげるなら大丈夫かもしれないけど、たぶん無理だね。それともがんばって小傘と恋仲になるかい?」


小町「仕方ないことなのさ。自分のせいじゃないことにそんな男が気負うことないよ。やさしいところは好きだけどね」

霊夢「こんなところでやさしさ出されても足手まといにしかならないわよ」 


770 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/20(日) 08:33:31 .8lrkUlQ
十数分たってやっと煙がはれる。

霊夢「逃げられたのかしら」

小町「それとも誰かが連れ去ったかな」

そこには誰もいなかった。

最初の小傘の悲鳴以外何も情報がない。

悲鳴を上げたということは煙幕は小傘とは無関係なのだろうけど。

小町「どうする?」

霊夢「行くしかないでしょ。せめて人間の里の近くまでは行きたいわ」

小町「だねぇ」 


772 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/20(日) 10:24:47 .8lrkUlQ
それからは結局何もなかった。

もちろん人間の里に近づくにつれ戦闘は増え、霊夢も小町も疲れが増えていたがそれだけで、大きな怪我はしていない。

日が暮れ夜に戦うのはやめたほうがいいだろうと小町が言う。

それに霊夢も同意し、今日はここまでにすることにした。

しかしここまでと言っても戻ればまた初めからだろうと俺が思っていると小町が懐から竹の筒を取り出し、地面に刺した。

男「なんだそれ」

小町「あたいの能力を補佐するものかな。『冥土の旅の一里塚』って言って、博麗神社からここまでをつなぐことができるんだ」

一里塚を設置し終え小町が手についた土をぱんぱんとはたく。

小町「向こうも帰ってるだろうし、帰ろうか」

小町が俺を抱きかかえ走り出す。

男「一里塚で帰ればいいんじゃないのか?」

小町「博麗神社から一里塚の一方通行だからねぇ。一里塚から博麗神社に行けたら利用されるじゃないか」

男「あぁ、そうか」

毎回こうやって帰るのか。帰りにも敵に会うだろうし、距離は人間の里に近づくたび長くなっていく。日が進むにつれ、どんどん厳しくなっていくのか。

そう考えていると人間の里のほうから強い風が吹いて、木々を揺らした。ざわざわと葉同士が擦れ低い人のような声が聞こえた。 


773 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/20(日) 11:30:56 .8lrkUlQ
結界を通って博麗神社の中へ戻る。

長い階段を霊夢、小町に続いて登るとぬえが鳥居の横に立っていた。

男「ただいま。ぬえ」

ぬえ「………」

ぬえはこくりと頷くと、嬉しそうに笑った。

男「魔理沙は帰ってるのか?」

そう聞くとぬえは頷いて温泉の方向を指さした。

なるほど、汚れを落としているのか。

ぬえが温泉を見て、俺を見て、首を傾げた。

………たぶん風呂に行くのかと聞いているのだろうが、別に毎回魔理沙と風呂に入るわけじゃないからな。

男「いや、後にするよ」

ぬえ「………」

ぬえは頷いて俺の手を引いた。向かう先は俺の部屋。

たしかに着替えないとな、汚れてるしと思っているとぬえが微笑みながら障子を開けた。 


774 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/20(日) 11:34:25 .8lrkUlQ
男「これは」

中に入ると美味しそうな食事が小さなちゃぶ台の上に乗っていた。まだ作り立てらしく湯気がたっている。数は3つなので俺とぬえと魔理沙の分だろう。

魔理沙「すごいだろ、ぬえがそれ作ったんだぜ」

振り向くと魔理沙が髪をタオルで拭いながら部屋に入ってきていた。

男「美味しそうだな」

つやつやとした米に味噌汁。そして鳥の照り焼き。辺りに漂う美味しそうな匂いに、空腹を覚えた。

ぬえ「う」

ぬえがちゃぶ台のまわりにしかれた座布団を指さす。

男「そうだな。食べようか」

魔理沙「私もおなか空いた」

魔理沙が腹をさすりながら座る。

俺も続いて座布団に座ると、ぬえが両手を合わせた。

男「いただきます」

魔理沙「いただきます」 

779 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/21(月) 11:45:20 S5q2qK.c
男「お、美味い」

さすがに亡霊男までとはいかないが、それでも十分美味しい。

魔理沙「美味いな」

魔理沙も料理の味を褒める。

ぬえは照れ臭そうに笑っていた。

男「そういえば材料はどうしたんだ?」

ぬえ「あう」

ぬえが外の方を指さして弓を引くようなジェスチャーをした。

男「外にでて取ってきたのか?」

聞くとぬえは頷いた。

男(気持ちは嬉しいんだけど、外に出たら危ないよな)

魔理沙「あんまり遠くに行かないようにな」

ぬえ「う」コクリ

男「気を付けろよ。危なくなったらすぐに逃げる」

魔理沙「ぬえも子供じゃないんだからそれぐらいわかるだろ」 


780 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/21(月) 11:50:53 S5q2qK.c
でも心配なものは心配なんだよなぁ。

魔理沙「兄貴は心配性だなぁ」

そりゃあ心配性にもなるさ。帰ってきてぬえがいないとかなると洒落にならない。

誰もいなくなって欲しくはない。でも残りの弾丸は7発。

これが多いのか少ないのかはまだわからない。

魔理沙「ごちそうさま」

男「ん、俺もごちそうさまだ」

ぬえ「うー」

食べ終えると、ぬえが食器をまとめていたのでそれを受け取り台所まで持っていく。

台所では亡霊男が皿を洗っていたのであとは任せ部屋に戻り、風呂に入るべく支度をする。

着替えを持ち風呂へ向かうとぬえも同じく着替えをもってついてきた。

どうやら今日も一緒に入るらしい。

ご飯を食べ、一緒に風呂へ入る。思わず今が戦争中であることを忘れそうなほどの平和。

これが戦争が終わった後にもずっと続けばいいが。 


781 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/21(月) 12:07:09 S5q2qK.c
風呂を出てあとは寝るだけになった。

風呂で温まった体に夜風が心地いい。

橙「あ、男さん! ぬえさん!」

藍「こんばんわ」

自分の部屋に戻ろうとしていると着替えとタオルを持った橙と藍さんがいた。

男「今から風呂ですか?」

藍「はい」

橙「うー、橙はお風呂あまり好きじゃないんですけど」

藍「式が剥がれるからね。そういえばちょうど良かった、四季さんがあなたのことを呼んでいましたよ」

男「四季さんが?」

藍「えぇ。それでは」

四季さんが一体どうしたんだろう。

ぬえに部屋に戻ってるように告げ、俺は四季さんの部屋に向かった。 



789 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/24(木) 18:11:21 riEoBe7c
男「四季さん。来ました」

障子の向こうにいるはずの四季さんに声をかける。

映姫「どうぞ」

許可が出たので障子を開ける。

部屋の中では四季さんが正座をして机についていた。

男「何か用だと聞いたのですが」

映姫「えぇ。座ってください」

四季さんが手で対面の位置にある座布団を示す。その通りに座ると四季さんはこほんと一度息をついてからしゃべり始めた。

映姫「萃香から話を聞きました。使ったそうですね」

男「はい。あの銃は一体」

映姫「わかっているでしょう。時間を戻せる銃です」

それは使っているからわかっている。そのおかげで今は魔理沙も小町も無事だ。

今更かもしれないが本当に時間を戻せたのだ。知っていると経験しているでは全然違う。 


790 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/24(木) 18:12:20 riEoBe7c
映姫「ありがとうございます」

男「え?」

四季さんがいきなり頭を下げる。なにについて感謝されたのが分からず戸惑う。

映姫「小町を助けてくれたのですね」

男「あ、あぁ。どういたしまして?」

そのことについてか。

正直な話をすると小町はついでだったりする。いや小町だけが死んでいたのならもちろん助ける。

だけど今回は魔理沙も死んだ。俺は本当に最低なことに、二人が死んだことに対してではなく魔理沙に対して俺は引き金を引いたのだ。

だから俺は感謝をされる立場にいない。ごまかした気持ちがなんなのかを一番知っているのは俺なのだから。

映姫「? どうかしましたか?」

どうやら表情に出ていたらしく四季さんが不思議そうな顔でこっちを見てくる。

慌てて表情を笑顔にして話を続けた。 


791 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/24(木) 18:12:54 riEoBe7c
男「あの銃あと弾丸は7個しかないのですが大丈夫でしょうか」

そう四季さんに不安を聞いてみると四季さんは少し悩んだ。

映姫「私は未来が見えるわけではありませんから何とも言えませんが、やはり取捨選択は避けられなくなるかもしれませんね」

そう、足りなくなった場合俺は誰かを見捨てても弾丸を節約しなければいけないのだ。

こっちが勝つための条件は霊夢が生きている状態で相手を倒す。

そう霊夢が生きていなければならないのだ。

弾丸が一発の状態で魔理沙が死んでしまったならばそれはもう使うわけにはいかなくなる。

そうすると魔理沙は死んだままなんだ。

死んでいるということは生きていないということで 


792 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/24(木) 18:14:06 riEoBe7c


映姫「そんなに難しく考えないでください。まだ死ぬと決まったわけではありません。相手は強いですが私たちも弱いわけではないのですから」

それはわかっている。霊夢や小町の強さは見ていればわかる。しかしだ。戦いで重要なのは力と数。力が同等ではいけない。

トランプでいうところのジョーカーのようなカードがなければ力で数を覆すことはできない。

頭の中で考えて出る答えはやっぱり勝てないという結論。

この結論は俺が弱いからでてくるのだろうか。

映姫「ところで銃を使って体に異常はありませんか?」

男「いえ、今のところは」

映姫「一応頭を見せてください」

四季さんがぽんぽんと自分の太ももを叩く。

………膝枕?

そう思って躊躇していると四季さんが早くしてくれと急かすのでゆっくり移動して四季さんの太ももの上に頭を預けた。

四季さんの太ももは少し細いが肉質がないというわけではなく柔らかく気持ち良い。そしてどこか深い森のような匂いがした。

罵声が飛んでこないのでこれでおそらく間違ってはいないのだとは思うがそれでも少し不安だ。 


793 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/24(木) 18:15:06 riEoBe7c
四季さんの指が髪を掻き分け地肌に触れる。少しくすぐったい。

映姫「大丈夫、みたいですね」

男「えぇ、別に痛みなんか」

ん、時間戻ってるから傷は消えたんだよな。でも傷がなかったら撃ってないってことで、撃ってないのなら時間は戻らない………

男「タイムパラドックスってやつか?」

映姫「どうかしましたか?」

男「いや、なんでもないです」

映姫「頭はふらふらしませんか? 小さな異常は?」

男「大丈夫です」

映姫「そうですか。また何か異常があったら言ってください」

男「そんな心配しなくても大丈夫ですよ」

本当に四季さんは優しいなぁと思っているともういいですよと言われたので名残惜しいのだが頭を上げる。

映姫「それでは明日に備えて休んでくださいね」

男「はい」 


794 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/24(木) 18:16:07 riEoBe7c
自室に戻るとぬえと魔理沙がすでに布団をひいていた。

男「もう寝るのか?」

魔理沙「することもないからな」

ぬえ「………」コクリ

男「そうだな」

布団の中に潜る。まだ温まっていない布団は冷たかったが、寝れないというほどではない。

目を閉じてから一時間ほどたっただろうか。ぬえがもぞもぞと俺の布団の中へ移動してきた。

落ちかけていた意識が腕に触れる温かさによって引き戻される。

男「どうした?」

ぬえ「………あう」

腕が温かいもので包まれる。おそらく抱き付かれたのだということが分かるが 


795 : はは、苦手 :2014/04/24(木) 18:16:46 riEoBe7c
男「な、いきなりどうした?」

首だけをぬえのほうにむける。

ぬえ「………ん」

男「!?」

唇に温かいものが触れた。そして視界いっぱいに広がるぬえの顔。

キスされたということに気付いたころにはもう一度ぬえの唇が俺の唇に触れた。

男「んんっ。んー」

ぬえ「ん……ふ、んんっ」

最初は軽くだったはずの唇が強く押し付けられる。戸惑ったが、一生懸命抱き付いて唇を押し付けてくるぬえに愛おしさを感じた。

体の向きを変え、ぬえと向き合う。するとんぬえは腕に回していた手を俺の首に回した。 



804 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/26(土) 18:33:31 IOAy6epA
~俯瞰視点~

冬の朝日を浴びて体に雪をまとった向日葵が輝いていた。

その姿は幻想的とも不気味とも言える。そんな白い太陽の畑の中心に一人の少女が住む小さな家があった。

少女は風見 幽香と言い幻想郷では妖怪らしい妖怪との評価を受けている。

戦いは好きだがそれは殺し合いに限っただけの話であり、霊夢が考案したスペルカードルールには否定的である。もっともルールは破ったことはないので噂通りの悪逆非道かと聞かれるとそれは違うだろう。

しかし戦争が起きている今の殺し合いはなにか違うと幽香は思い戦いからは距離を置いている。能力を使って咲かせた四季を否定して咲く花は人間に対する警告であるが、領域を侵されない限り幽香から手を出すことはない。

そんな凶暴とはいかないまでも善良ではない少女は朝食と共に紅茶を楽しんでいた。

パンにサラダに琥珀の色を浮かべる紅茶。幻想郷では珍しい洋風の朝食を幽香は作っている。それは数少ない友人であるアリスの影響を少なからず受けているためだろう。

メディ「んぐんぐ。ぷはぁ」

幽香の対面に座る小さな少女。彼女もまた幽香の数少ない友人の一人だった。

メディスン・メランコリーという名を持ち、外見は無害な幼い少女だが本人の能力は毒を操るので有害である。

メディスンは幽香の作った朝食を笑顔を浮かべながら食べている。その笑顔につられてか幽香も小さく笑みを浮かべていた。 


807 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/27(日) 10:43:13 IkmQnYhg
メディ「ごちそーさまっ」

幽香はメディスンが食べ終わるのを見て、食器を持っていく。そして慣れた手つきで自分の食器とともに洗い始めた。

食器を洗う幽香の様子を見ながらメディスンは今日は何をしようかと考えていた。幽香はともかくメディスンはまだ暇を楽しめるほど大人ではない。今日はこの限られた空間で何をしようかと考えているが日ごとに減る出来ることを思いつくのはなかなか難しいことだった。

幽香「今日はちょっとアリスのところまで出かけてくるからお留守番お願いね」

メディ「えぇー」

自分は向日葵より外に出ることを禁止されているのでその不満は当然のことであるがそれはメディスンを心配してのことであり、そのことをメディスンも理解している。しかしそれでも溜まっていく不満をため込むことはメディスンにはできなかった。

幽香「何かもらってくるから」

メディ「うー。わかったわよぅ」

渋々メディスンが納得する。メディスンとしても本気で抗議しているわけではないので丁度良い提案だった。

幽香「それじゃあ行ってくるわね」

食器を洗い終わった幽香が愛用している赤いチェックのコートを羽織ると同じく愛用している花のような日傘をもって外に出た。

そして出て行ったあと一度顔だけ家の中に戻しメディスンに「向日葵から外には出ちゃだめよ」と釘を刺しておいた。

メディスン「はーい」

メディスンの返事を聞いて幽香が頷いて外へ出る。

メディスンはスーさんと呼んでいる人形の手を振って幽香を見送った。 


808 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/27(日) 11:12:02 IkmQnYhg
妹紅は微かに部屋に香る嫌なにおいに目を覚ました。

妹紅「………誰だ?」

部屋の中に気配を感じた。目を開けながらその誰かに問うと間延びした声が返ってきた。

芳香「せーががよんでるぞー」

あまり良くは知らないが自分と同じ死を亡くしたものがいた。

―――たしか、宮古 芳香だっけ?

頭の中で名前を探すもその名前に確信は持てなかった。まぁそれはどうでもいいと判断して布団の中から出る。

妹紅「やっと青娥の準備が終わったか」

妹紅は芳香の存在を気にせず寝間着を脱いで愛用している服に着替える。白い髪を結んだ赤いリボンがよく映えていた。

妹紅「んじゃ行くか」

まるで遊びに行くかのような軽さで妹紅が靴を履き外へ出る。

その言葉は別に芳香には向けられたものではなく、ただの独り言だった。

芳香はその言葉に反応して関節を曲げない不出来な人形のようなカクカクとした歩き方で妹紅に続いて外へ出る。

しかし芳香が外に出たころには妹紅の姿はすでになかった。 


816 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/28(月) 16:05:01 z/BSvQvc
道を走るのではなく屋根の上を飛んで妹紅が移動する。人間の里の住民はいつものことなので別段驚いてはいなかった。

十数件の屋根の上を移動して妹紅が里の外れに着地する。そこは元命蓮寺があったところだが今は別の場所へ飛んでいったためあるのは外壁だけだ。

その近くにある墓地の墓石の上に優しげな顔を浮かべて青娥が座っていた。

青娥「おはよう。待ちきれなくてこんなところまで来ちゃったわ」

妹紅「あぁそうかい。さっさとしてくれ」

人懐っこい笑みを浮かべている青娥を妹紅が急かす。青娥は少し頬を膨らませて「つれないわねぇ」と言っていたが冗談のようで、ふわりと墓石から飛び降りると墓地に入口がある夢殿大祀廟へ向かい歩いた。ゆっくりとした速度で足を動かしているが移動する速度はなぜか速い。妖術のたぐいかと妹紅は思ったが理屈まではわからなかった。

芳香「うおー、つーかーれーたーぞー」

そしていつの間にか芳香も青娥の横で歩いていた。ぴょんぴょんと跳ねる様子は可愛らしいものだがなぜあの動きでこの距離をこの時間で移動することができたのかは謎だった。

普通に歩いていたがいつのまにか青娥の姿が消えようとしている。妹紅は急いで墓地の地下に続く穴を降りて行った。 


817 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/28(月) 16:05:42 z/BSvQvc
地下に続く道は薄暗いが完全に視界が途絶えるほどではない。薄らぼんやりと苔が輝き、30センチほどなら見えた。

妹紅「いつ来ても薄暗いところだな」

青娥「お墓ですもの」

妹紅が取り出した札が燃え、妹紅の周りを回る。赤い炎の明かりが薄暗い闇を払う。少し肌が焼ける程度の熱が伝わってくるが妹紅は気にも留めず萃香のことを考えた。

妹紅(………萃香)

湧いてくるのは大量の怒りと一抹の悲しみ。

妹紅としては萃香のことは嫌いでも好きでもなく、偶然会えば話をする程度だった。

助けてやるつもりはない。しかし心のどこかでもしこんなことが起きていなければよかったのにと考える自分がいた。

そうすれば子供たちは生きていて、萃香とも敵対することはない。子供さえ、子供さえ無事ならばあとはどうでも良かった。

時間は戻らないし、起きてしまったことは変わらない。しかしどこかやはりあぁなっていればと無駄な思いが残る。

千年生きても自由にならない自分の心に妹紅は苛立ち、乱暴に頭を掻いた。

青娥「着きましたわ」

妹紅の前を行く青娥が足を止めた。

大きな門があり一見墓には見えない。しかしこれでもれっきとした墓で、聖人と聖童女が眠っていて、一人の悪霊が日々を過ごしていた。 


818 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/28(月) 16:06:18 z/BSvQvc
青娥が門を撫でると独りでに門が開いていく。中から「嫌な臭い」がし、妹紅は鼻を覆った。

その臭いは嗅覚ではなく感覚に訴えかけていた。どこか、いつか嗅いだことのある臭いに妹紅は心当たりがあった。

亡くして久しい死をさらに濃くした臭いだった。

青娥「入らないのかしら?」

妹紅「あ、あぁ」

息をしなくても頭の芯を侵す感覚に向かって妹紅が足を踏み出した。一歩踏み出すたびに頭がぐらりと揺れる。

門にたどり着いたころには妹紅は荒い息をついていた。

青娥「あなたにはこのにおいは辛いわよねぇ」

いつの間にか青娥が妹紅に顔を近づけていた。死の臭いとは違う甘い嫌な臭いがさらに妹紅の頭を掻き乱す。

妹紅「大丈夫、だから」

青娥「そう。なら早くついてきてねぇ」

甘い嫌な臭いが離れ、若干妹紅は余裕を取り戻した。

平気な顔をしている二人に汗をかきながら妹紅がついていく。

どんどん濃くなっていく臭いに体が拒否感を起こし震える。せり上がる嘔吐感を根性だけで抑え、足をするようにして前へ進んだ。 


819 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/28(月) 16:06:53 z/BSvQvc
青娥「ここよ」

青娥が部屋を開け、中へ入っていった。するとさらに臭いが濃くなり妹紅はついにへたり込んだ。

抑えきれなくなった嘔吐感に、妹紅が昨日の食事を吐き出した。吐瀉物の臭いと口に広がる胃酸の酸味がさらに妹紅の体力を奪っていく。

疲労困憊。まだ戦いもなにもしていないというのに妹紅をこのまま布団にもぐりこみ泥のように眠ってしまいたいという欲求が襲った。

芳香「だいじょーぶかー?」

首を傾げて心配そうに妹紅を見る芳香に返事を返す事はできなかった。

青娥「大丈夫よ。すぐに平気になるわ」

部屋から出てきた青娥は白く輝く何かが入った拳を二つ合わせた程度の大きさの瓶をもってきた。

それが例の臭いを放っていることに妹紅は本能的に気付いた。

―――あれ、飲むのか?

ぞくりと背筋が震える。臭いに対する嫌悪感で妹紅は瓶から顔を背けた。

青娥「あら、飲まないのかしら?」

妹紅「………………」

すぐに返事は出来なかった。飲むと言いたい。だがどうしても口が開かず、閉じたまま出た答えはもごもごとした言葉の出来損ないになった。 


820 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/28(月) 16:07:28 z/BSvQvc
そんな妹紅に近づき、青娥が耳元で囁く。

青娥「復讐、できないわよぉ」

その言葉に反応して口が開いた。

妹紅「やる」

本能よりも強い感情が妹紅を動かした。その返答に満足したような笑みを浮かべた青娥は瓶のふたを開けて妹紅の顎を指で上に向けた。

瓶を妹紅の口につけ中身を流し込む。味も温度もないが感触だけはあるという不思議なものが妹紅の中に広がる。

変化はすぐに起きた。

妹紅の髪の色が白から墨で染めるように黒くなっていく。

妹紅「あ、がぁああぁああああっ! な、なんだこれっ!!」

ぎちぎちと体中から音が鳴った。そして激痛が走る。今まで味わったことのない激痛に妹紅は体をくの字に曲げた。

青娥「どう? 生きるって痛いでしょ? 死ぬって痛いでしょ?」

その言葉の意味が理解できなかった。自分は死んでも生きてもいない。それらをとっくに亡くしたことは青娥も知っているはずなのに。

吸い込んだ空気すら体を痛めつける。風の流れすら妹紅を痛めつける。すべてのものが敵意をもって妹紅に襲い掛かっているようだった。 


827 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/28(月) 19:35:20 cANKJLvg
青娥「ほらほら深呼吸して」

妹紅「すぅ………かはっ、こひゅっ」

深呼吸をしようとするも肺が発する痛みによって咳き込む。吐き出した空気に赤い液体が混じっていた。

妹紅「お前、な、に………した」

青娥「んー、強くなりたいっていうから。協力?」

ちゃんとした答えが返ってこない。妹紅は青娥の首をつかんで聞き出そうとしたが、腕を上げる激痛に耐えれず断念する。

芳香「だいじょーぶかー?」

―――だい、じょう、ぶ、じゃな、い

思考すら痛みに阻害される。ぷちぷちと自分の脳細胞がつぶれる音が頭の中に響く。

視界がぼやけ、鮮明になり、またぼやける。

麻酔なしの手術ですらここまでの痛みはないだろう。

今、妹紅の体は壊れ再生し壊れ再生していた。それを繰り返し藤原妹紅という形を保つ。

彼女は今、生きながら死に、死にながら生きていた。 


834 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/29(火) 16:04:42 /h4kz8.E
十数分してやっと妹紅の痛みが話ができるぐらいに収まる。壁に背を持たれかけ微笑む青娥を妹紅は睨んだ。

妹紅「なに、した」

青娥「あなたを強くしたの」

妹紅「私に、なにをしたっ」

青娥「魂を入れたの。7人の子供。萃香に殺された子供の魂をね」

妹紅「っ!!」

青娥「人は怨みで鬼になる。あなたを含めて8人分の怨みを使えばあなたでも萃香に勝てるでしょうね」

妹紅「………勝てるんだな」

青娥「絶対とは言わないけど」

妹紅「可能性ができたなら、それでいい」

青娥「事後確認でごめんなさいだけどそれでいいわね」

妹紅「あぁ、十分だ」 


835 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/29(火) 16:19:52 /h4kz8.E
妹紅(お前ら、私の中にいるんだな。私に力をくれるんだな)

自らの心の蔵に手を当てるといつもより暖かかった気がした。

妹紅「おし、いくか」

壁に手を当て外に向かって歩き出す。最初の数歩は拙い歩き方だったが次第にしっかりとした足取りになった。

芳香「がーんーばーれーよー」

妹紅は芳香の声援が聞こえていたが振り向きはせず、そのまま歩き続けた。

いつの間にかあの臭いは消えていた。

と妹紅は思っていたのだがそれは勘違いで臭いは妹紅の体から溢れ出ている。

そんな妹紅を青娥は消えるまで見送り笑った。

青娥「あぁバカねバカ本当バカ。事前に何も聞かずあれだけのことが起きたのに詳しく話を聞かない。怒りで目と耳と曇らしたバカは本当扱いやすいわぁ」

芳香「? どうしたせーが」

青娥「禁忌『七つの子』 8人の魂を受け入れれるわけないじゃないの。強くなれるのは本当だけどすぐに破壊のほうが勝って死ぬわ」

青娥「これであの子が死んだなら月のお姫様もきっと殺せる。危険なものは仲間にならないなら殺しておくべきなのよ」

青娥「くすくす。あぁ嬉しいわ。死がたくさん」 


836 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/04/29(火) 16:33:14 hPTXHyYE
ずっと暗いところにいた為太陽はまぶしく妹紅は思わず目を覆った。

早く萃香を殺しに行こう。一緒に殺そう。

自分の胸を撫で妹紅が微笑む。

体に力が湧いていた。いつもの数倍どころではない。今ならなんでもできるんじゃないかと思うほどの力が体の中に満ちていた。

ためしに地面を蹴るといつも以上に飛んだ。十数秒の浮遊のあと着地に失敗して妹紅は地面を転がった。

妹紅「おし。いける」

博麗神社の方向は反対で広い人間の里を横切らなければいけない。しかし今の妹紅なら相当な速度で駆けることができる。

驚いている人間の横を潜り抜け妹紅が走る。すると見知った顔を見つけた。

慧音「………妹紅?」

慧音の顔は驚いていた。その理由を妹紅は数秒経ってあぁ髪の色かと理解した。

妹紅「今からちょっと萃香のところ行ってくる」

慧音「大丈夫なのか妹紅」

慧音が妹紅の肩を掴む。破壊と再生を繰り返しているせいで掴んだ肩は腐った桃のような感触をしていた。そして妹紅の臭いに一瞬顔を歪めた。

妹紅「あぁ、大丈夫だよ。それじゃあ」

慧音は大丈夫ではないと言おうとした。去っていく妹紅の手を掴もうとしたが妹紅の体は慧音の手からすり抜け黒い髪が靡いて遠くに消えていった。 


908 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/06(火) 19:13:22 cqIV0cgY
男「んじゃ、また夜に」

萃香「気をつけなよ」

昨日と同じく男と萃香のグループに分かれる。

それぞれのグループは小町が地面に引いた線を超え、昨日の場所まで移動した。



萃香「さぁて、今日はどこまで進めるか」

萃香が指の骨を鳴らしまだ森の先にある人間の里を見る。

森の中なので当然見晴らしは悪い。なので萃香は髪を少し霧状に変え、付近一帯へ散らしていた。

魔理沙「空、飛ばないのか?」

萃香「ん。あぁ天狗がいないとは限らないからね。目立つ行動はとらないほうがいい」

小町「天狗ねぇ。この三人なら大丈夫じゃないかい?」

萃香「………無駄な戦いはしないほうがいい。体力だって無限なわけじゃないからねぇ。魔理沙は特に人間だろう?」

その言葉に魔理沙は不服そうな顔をしたが鬼と死神に当然体力で勝てるはずがないのでそれ以上はなにも行動を起こさなかった。

萃香「とにかく確実に進むしかないんだ。命は一個しかないんだから………一個しかないんだ」

萃香の言葉がほんの少し揺らいだがそのことに二人は気付かず、そうだなと相槌を打って二人は萃香より先に歩き出した。 


909 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/06(火) 19:33:16 cqIV0cgY
風が強く吹く。木から木へ飛び移る妹紅には追い風になり、ただでさえ速い移動速度がさらに速くなっていた。

強くなりすぎた脚力が移動するたびに枝をへし折り、妹紅の移動した後は地面に枝が落ちていて移動先を教えてくれる。

妹紅「どこだどこだどこだ?」

妹紅はせわしなく首ごと視線を移動させているが立派な角を持った鬼の姿は見当たらない。

妹紅は枯れ木の上で立ち止まると懐から取り出した数枚の札を空中にばらまいた。札は風に乗るものもいれば逆らうものもありまるで生きているように四方へと広がっていった。

そのまま数十秒佇んでいると何かがひゅんという音を立て空を切って飛ぶ音が聞こえた。

妹紅(天狗か?)

振り向くと右目に烏のような羽をはやした天狗が見えた。左目は暗く何も見えない。

妹紅「一匹か?」

左目に刺さった矢を引き抜くとでろりと白い眼球が矢じりに刺さっていた。矢を地面に投げ捨てる。その矢が地面に落ちたころにはすでに妹紅の新しい眼球は作られていた。

天狗「いや、全部合わせて15人だ」

妹紅が視線を上に上げると同じく黒い翼が見えた。 


910 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/06(火) 19:40:24 h.ubaI6c
妹紅「あー。まぁ準備運動ぐらいにはなるだろ」

天狗「何をふざけたことを」

妹紅「まずは―――お前ぇええぇええ!!」

一番低い位置にいた矢を射った天狗に妹紅が飛びかかる。

いつもと速さが違う妹紅に天狗は反応できず妹紅の左手が天狗の首をとらえた。

妹紅「これでも食ってろよ。火傷には注意だけどな!!」

右手で取り出した札を天狗の喉に無理やり押し込む。札を離し手を引き抜き吐き出そうとした天狗の口をふさいだ。

妹紅「燃えろっ!!」

妹紅の声に反応し天狗の体内にある札が炎へと変わる。更に炎は大きくなり爆炎と姿を変え妹紅ごと天狗の体を焼き払った。

出そうとした悲鳴も炎に焼き払われ炭化した天狗の体を蹴り上空の天狗へとまた飛びかかる。

新しい皮膚に代わり炭化した妹紅の皮膚が剥がれ落ち空中に舞った。

その姿は不死鳥のようで

妹紅「あぁ、確かにこれなら鬼にも勝てるかもなぁ!!」

ひどく醜かった。 


911 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/06(火) 20:00:15 Oxe1sR3o
妹紅「はいはい終了終了」

最後の天狗を炭へと変え妹紅は枯れ木の上に飛び乗った。

体に刺さった十本程度の矢を引き抜くと同時に傷口がふさがっていく。しかし腐った肌で止まりいつもの少女の肌には戻らなかった。

妹紅「あはは、すげぇ………すげぇ」

妹紅の肌は健康的な色から内出血をしたようなどす黒い肌に変わっていた。

妹紅「………変わるには代償がいるんだよな。知ってるよ」

普通の人間の人生と引き換えに変われない体へと変わったことのある妹紅のその言葉は自らの胸に重い存在となって留まった。

木の枝にしゃがみ込み手の甲を撫でる妹紅に一枚の札が東から戻ってきた。

妹紅「あっちか」

立ち上がり札が返ってきた方向を見る。

妹紅「見つけたよ。萃香」

蹴った木の枝が折れ、地面に落ちるよりも速く妹紅が木から木へと駆けていく。

速さに耐えられず切れた肌から一滴血の雫が垂れ風に流された。

壊れ治り結果異常なし。だが確実に破壊へと歩んでいく自分の体を妹紅はどこか感じ取っていた。 


912 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/06(火) 20:15:50 pomp6XqI
―――後悔はない。悲しみもない。喜びもない。恐怖もない。長い間罪に塗れた私に救いはいらない。ただ憎しみさえあればいい。萃香を殺せるのならそれでいい。それ以外を求めるな。亡くすことを恐れるな。

「まったく妹紅はしょうがないやつだなぁ」

―――っ! 思うな想うな想い出すな。私は人じゃない化け物でもない。そんなもんじゃない。生を捨て死を求めたものだ。私に安息はいらない。私は救われてはいけないんだ。

頭の中に浮かび上がろうとする思い出を消そうと感情で塗りつぶす。

千年生きた果てに得た肯定のうちの片方を無くし、その片方を捨てた。

妹紅「あぁああぁああぁあぁあああっっっああああっ!!!」

結果、得たすべてを無くした自分を愚かだとは思う。

復讐は何も生まないと人は言うだろう。

それでいい。何も生まなくていい。

虚ろでいい、空でいい、無駄でいい、意味がなくていい。

―――それが私だからな。 



914 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/06(火) 20:40:52 WdYJw3QU
辺りに散った霧が何者かの襲来を知らせる。

萃香は何者かが接近する方向を急いで見ると、薄汚れた人のようなものが見えた。

妹紅「見つけたぁ!!」

妹紅が放った札を飛んで避け、魔理沙と小町を突き飛ばす。

妹紅は地面に着地するとだらりと腕を垂らして萃香を見た。

萃香「………妹紅かい?」

妹紅「蓬莱の人の形。いや、蓬莱の人の殻? まぁ好きに呼んでくれ」

萃香「どうしたんだい。そんな」

妹紅「生まれ生まれ生まれ生まれて死に死に死に死んでなんども同じ私になって千年以上たった。そんな化け物をあの子たちは先生と呼んでくれたんだぞ? こんな私の手を小さな手で握ってくれるんだぞ? そんな、そんな子供たちはお前は殺したんだ。もう生き返らない。お前が殺したからあの子たちは生き返らない!!」

萃香「子供たち、それは」

妹紅「だからお前も死ね!! 生を賭して私が殺してやる!!」 


927 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/10(土) 00:15:05 XK1ZjLfg
魔理沙「おいちょっと待て妹紅。それはまちg」

萃香「一つ聞きたい。あんたは死ぬ気なのかい?」

魔理沙の言葉を遮って萃香が前に出る。妹紅は強く歯を食いしばって唸るような声で答えた。

妹紅「あぁ。もうすぐ私は死ぬ。だからその前にお前を殺す」

萃香「そうかい………」

萃香が伊吹瓢のふたを開け、中の酒を一口飲む。人はおろか大抵の妖怪すら飲めないそれを萃香は軽く飲み込む。

アルコールが入り少し熱くなった息をはいて萃香が妹紅に対し構えた。

萃香「あぁ、そうかい。なんだか妙なガキが突っかかってきたから殺したけど、あんたの教え子だったのかい。そりゃあお気の毒だねぇ」

魔理沙「はぁ!? お前なにいtt」

小町「下がるよ魔理沙」

ふたたび魔理沙の言葉が遮られる。小町は魔理沙の手首をつかむと引っ張り、一瞬で姿を消した。

妹紅「このド畜生がぁあああ!!」

萃香「何言ってるんだい。あたしは鬼。人を攫って食うのは当然。戯れに殺しだってする。それともなんだいあんたは私を宴会が好きなただの酔っ払いだと思ってたのかい? ちゃんちゃらおかしいねぇ。千年も生きていて知らないなんて言わせないよ、鬼の恐ろしさを。それに酒呑童子の名を忘れたわけじゃないだろう?」

怒りに身を任せ殴りかかってきた妹紅を軽くいなし、バカにしたような笑みを妹紅に向ける。

萃香「あひゃひゃひゃひゃ。たかだか子供が死んだくらいで復讐しようと自分の命までかけるなんて馬鹿じゃないのかい? 単細胞? 直情径行? そうか、蓬莱の薬って頭まで変わらなくなるんだねぇ だからずっとバカのまま」 


928 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/10(土) 00:29:09 XK1ZjLfg
妹紅「うるさいうるさいうるさい!!」

妹紅の放った札は小さな火の鳥となり萃香に向かっていく。しかしその通常の炎よりも熱い妖術の火を萃香はくしゃりと握りつぶした。

萃香「どうした。体を暖めてくれるのかい? それならこんなものより熱燗が欲しいね」

妹紅「だから黙れぇええぇええ!! クソ野郎がぁあああ!!」

萃香「だからバカみたいに叫んでも何も変わらないってわからないのかねぇ。せめて復讐するってんならもうちょっと頭を冷やしな。感情に身を任せると…こうなるんだよっ!!」

飛び込んできた妹紅の体に萃香の右手につながっている鎖が巻き付く。鎖を振り回し妹紅の体を木に叩きつけた。

何本の木をへし折り妹紅の体が吹き飛んでいく。体の骨が粉状になるほど砕けたが1秒もたたずに元通りに戻った。

妹紅は空中で態勢を立て直して木を蹴り着地する。口に溜まった血を地面に吐き出すと妹紅は木の上に上り、何枚もの符を放った。

萃香「だからこんなものは―――」

再び握りつぶそうと延ばした手の20センチほど前で符が爆発し、萃香を包む。

萃香「小細工じゃあ鬼は」

妹紅「倒せないよな」

萃香「!」

腕を振って炎を振り払った萃香の目の前に妹紅がいた。

妹紅はすでに拳を引いている。対する萃香は拳を振り払った状態であり、ここから攻撃に転じることは出来ても確実的に妹紅の一撃は当たる。 


929 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/10(土) 01:00:32 XK1ZjLfg
妹紅「もらったぁあっ!!」

萃香「速いっ!?」

防御しようとした腕の速度よりも速く妹紅の拳が萃香の右胸に当たる。異常なほど強化された妹紅の力は筋細胞をずたずたに引きちぎりながら妖怪すら殴り殺せるほどの威力を発揮した。

萃香「うぐっ……なんだい、その気持ち悪い力は」

腕を防御から妹紅の腕を掴むことに切り替える。

妹紅「ぐぎっ。まだまだぁぁああっ!!」

腕を掴んで投げ飛ばそうとした萃香の頬を妹紅が開いた腕で殴り飛ばす。萃香は掴んだ腕を離さず、その結果二人は絡まって地面を転がった。

妹紅「はな、せっ!!」

妹紅が萃香に跨り開いた手で萃香の顔を殴打する。しかし萃香の掴んだ手は一切緩まず萃香は跨る妹紅ごと体のばねを使って起き上がった。

すぐに妹紅が地面に足をつけ態勢を立て直そうとした。しかし地面に足が触れるか触れないかの時に萃香は掴んだ腕を大きく上に跳ね上げた。

まるで中身が綿のぬいぐるみのように妹紅の体が空高く浮く。そのまま重量に引かれ妹紅が萃香に向かって落ちていった。

萃香「いいねいいね楽しいねぇ」

萃香の体が大きくなってゆく。普段の十倍ほどの大きさになった萃香は妹紅の落下に合わせ拳を振り上げる。

妹紅「がぐぇっ」

妹紅のあばらがすべてへし折れ体から飛び出す。鋭い骨は妹紅の服を破り太陽の光を浴びててらてらと光った。 


930 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/10(土) 01:32:39 XK1ZjLfg
妹紅「あ―――ぐ、はふ………、ぐお、おぉ」

飛び出た骨を妹紅が手で引き抜く。妹紅は大量に血液を失い、少し意識が薄れたが急速に生成された血が過剰なほどに鼓動する心臓によって送り出され意識を失わずに済んだ。その変わり耐えきれなかった血管が破れ妹紅の肌をさらに青黒く染める。体外と体内の痛みに喘ぐ妹紅の姿を萃香がにやにやと笑い眺めていた。

萃香「生きるって痛いよねぇ」

妹紅「当たり前、だろ」

萃香「じゃあ死んだほうがましじゃないかね。楽だよ?」

妹紅「それでも、生きてなきゃ、いけないんっ!! だよ………げほっげほっ」

萃香「あぁ、そうかい」

最後の骨を抜き、地面に投げ捨てると妹紅は荒い息を整えるため深呼吸をした。

萃香「続きを始めようか」

妹紅「言われなくてもっ!」

再び目くらましの炎を放ち妹紅が飛び込む。

萃香「同じ手は食わないよ」

萃香は冷静に後ろへと飛んで炎から距離を取る。

炎を抜け、妹紅が前のめりになりながら萃香に向かって走った。その捨身の突進に萃香はタイミングを合わせ拳をふるった。

べきりと音がした。 


931 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/10(土) 01:46:29 XK1ZjLfg
萃香「!」

萃香の拳が当たるより先に妹紅がさらに態勢を低くした。不自然なその動き、その動きは妹紅が自分の足をへし折ったことで起きた。

妹紅「完全に捕まえ、たっ!」

妹紅が自分でへし折った足をさらに強く踏み出して萃香の腰を掴む。

妹紅「勝てねぇからさ、ちくしょう、こうするしか、ねぇよな」

妹紅「ごめんな、お前らの力借りても、ダメだった」

萃香「離しなよっ」

萃香が妹紅の体を蹴りあげる。しかし妹紅は腰に回した腕同士を掴み離さない。

妹紅「あぁ、本当かぁ? うん、わかったわかった」

妹紅が困った顔で笑う。そのままぶつぶつと短く何かを口の中で唱えた。

妹紅の体が弾け、辺りに爆炎と呼ぶには生易しいほどの熱量と衝撃がまき散らされる。それは辺りの草木を一切の例外を許さず灰へと変えていく。

それを間近で受けた萃香の体は無事では済まなかった。両腕と片足が千切れ飛び、立派な角のうちの一本は途中で折れていた。

そんな萃香の姿を肩から下をすべて失った妹紅がぼんやりとした目で見ていた。

妹紅「………たおし………た、よ。せん…せい……がんば………」 


932 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/10(土) 01:54:40 XK1ZjLfg
蓬莱の薬が失われた体を元に戻そうとするが破壊の速度が勝り、どんどん妹紅の体が壊死してゆく。

横たわる萃香の目に光は無く、妹紅の目の光は急速に失われていっている。

そんな濁っていく妹紅の目は何度か動き、そのたび妹紅は小さく口を動かした。

声は出ていない。しかし妹紅は誰かと話すかのように口を動かし続けた。

笑顔を作るほどの力も残っていないため少し頬の肉を動かすだけに留まった筋肉がほんの少しだけ口角を上げる。

そして何度か小さく頷くと妹紅はそのまま息を引き取った。 


933 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/10(土) 02:04:50 XK1ZjLfg
魔理沙「っうぅ」

爆音を耳に受けうずくまっていた魔理沙が数分かけようやく立ち上がる。

そんな魔理沙を労り小町が肩を貸した。

魔理沙「どうなった、んだ」

小町「………もういいだろうね。行ってみようか」

小町が魔理沙ごと一歩踏み出すと一瞬で先ほどまで妹紅と萃香が戦っていた場所まで移動する。

いろんなものが焼けた臭いに魔理沙は顔を歪ませ、そして二人の死体を見て更に歪み不器用な笑顔のようになった。

魔理沙「お、おい」

小町「………萃香、起きなよ」

萃香「…………………………………………………………………………………………ん」

魔理沙「!」

光を失っていた萃香の目に光が宿りゆっくりと顔を上げる。何度か瞬きをすると少し目を細めて妹紅の屍を見た。

萃香「逝ったかい?」

小町「あぁ、みたいだね」

小町が少し屈んで妹紅の瞼を手のひらで下す。そして小声でお経を唱え小町は萃香へと視線を戻した。 



935 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/10(土) 02:13:19 XK1ZjLfg
小町「体は大丈夫かい?」

萃香「多少はね。まぁまぁ痛手だけど」

魔理沙「痛手って両手と左足が」

萃香「あるよ、ちゃんと」

風も吹いていないのに萃香の元へ霧が集まってくる。集まった霧は小さな両手と小さな片足となり地面に転がった。

傷口をみて魔理沙がえずく。小町は魔理沙をゆっくりと地面に座らせ、両手と片足に近づきその三本を抱えた。

小町「本当バカみたいな体してるよね」

萃香「ありがとさんよ」

小町が傷口と傷口を合わせると二つは溶け合って継ぎ目がなくなってしまう。それを三度繰り返すと萃香は角と服以外は元通り変わらぬ外見へと戻った。

魔理沙「は、はぁ?」

萃香「これが鬼だよ」

立ち上がり萃香が何度か腕をぐるぐると回し、首を鳴らす。そんな萃香の様子を魔理沙は呆けた顔で見ていた。

小町「角は?」

萃香「これは治らない。霧に変える前に灰になっちまった」

小町「何年で元通りになるのかね」 


936 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/10(土) 02:29:27 XK1ZjLfg
呆けた状態から魔理沙が頭を振り意識を明瞭な状態へ戻す。そして魔理沙は立ち上がり二人へ詰め寄った。

魔理沙「おい待てどういうことだ」

萃香「どういうこととはそれだけじゃ質問としては不十分だねぇ」

萃香の飄飄とした態度に魔理沙が苛立って帽子の上から頭を掻く。

魔理沙「なんであそこで嘘ついた! ちゃんと話していれば」

萃香「私と妹紅は戦わず、そのまま妹紅は死ぬだろうね。あれはどうにもならないよ」

萃香「鬼を知っている人間だったからさ、ちゃんと死なせてやりたかったのさ」

萃香はどこか遠い目をし、片目を細めた。

魔理沙「妹紅を安らかに死なせるため? そのために大嫌いな嘘をついたのか?」

萃香「私だって嘘を絶対つかないわけじゃない。そうであってほしいと願うならそのようになってやるさ。悪逆非道の鬼でもなんでも」

萃香の声色は哀しげではなく、どこか慣れたような雰囲気を感じた。

萃香「嘘をつくのは人間だ。でも嘘を好むのも人間だろう?」

魔理沙「………………妹紅はどうする?」

萃香「そのままにしておこうよ。触れられるのは嫌だろうからさ」 

954 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/15(木) 18:10:42 FIT4fy8c
青娥「うふ、うふふふふふ」

仙術を使い妹紅が死んだのを確認した青娥は夢殿大祀廟の奥深くで笑っていた。

青娥「蓬莱の薬の服用者を殺し切ることができた。これで輝夜を人質にとって交渉ができますわぁ」

青娥の計画はなんとか輝夜を手中に収めて、永琳を操ること。

輝夜を手に入れる手段ならある。それは

鈴仙「んーっ!! んー!!」

鈴仙の拉致だった。重病者が出たと妖怪の名前を偽り呼び出し、その身柄をとらえた。

この兎を見捨てられては計画が達成しにくくなるがそれでも輝夜を捕まえる手段はある。

それが出来ないのなら当初の予定通り殺すだけだ。中立を破ったのだから敵になる前に。

青娥はある意味では機転が利いていた。見捨てるということと寝返るということに関しては青娥は幻想郷で誰よりも頭が回るのが速い。実際冷酷よりもひどいとされるその考えが何度も萃香や紫を困らせていた。

しかしその考えが一人の行動を生んだ。

慧音「………見つけたぞ」

青娥「あらぁ、うふふ、どうされましたかぁ? 上白沢先生?」

慧音「妹紅は、逝ってしまったのか?」

青娥「えぇ、残念ですが、鬼と立派に戦って破れてしまいましたわ」 


955 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/15(木) 18:21:18 FIT4fy8c
白々しい青娥の笑みを見て、慧音はぎりっと強く歯噛みした。

慧音「お前が妹紅殺したのか?」

青娥「それは間違ってますわ。死はあの子が選んだこと」

慧音「だが、子供たちの魂を持っていたのはお前だろう。そもそもなかった選択肢を作り出して」

青娥「あら、知ってるのねぇ」

青娥の目が笑うように細くなる。しかし少しの隙間から除く目は笑っていなかった。

青娥「貴方は歴史だけ知っていれば、良かったですのに。残念ですわぁ」

青娥の視線を通して慧音に底が見えないほどのどす黒い悪意が伝わった。性善説を信じている慧音の額から冷や汗がにじむ。

慧音「私を殺すのか?」

青娥「えぇ、でも大丈夫ですわ。あなたの魂を有効活用してあげますからぁ」

芳香「あー!」

慧音「うぐっ」

慧音の死角。薄暗い闇の中から突如現れた芳香の攻撃をなんとか慧音は受け止めた。しかし芳香の壊れた馬鹿力にずりずりと慧音が押される。

毒を含む長い爪が慧音の腕に食い込み血を流させた。 


956 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/15(木) 18:25:35 FIT4fy8c
慧音「あ、あぁっ、はぁはぁ」

いくつかある毒のうちの一つ。即効性のある麻痺毒が慧音を襲った。

腕にどんどん力を入れることが出来なくなり爪が深く慧音の腕に刺さった。

青娥「食べて良いわよ、芳香ちゃん」

芳香「あー、いーたーだーきーま」

芳香の口一杯に鉄の味が広がった。 



958 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/15(木) 18:45:15 FIT4fy8c
「ご苦労」

芳香の頬を剣が貫いていた。しかし芳香はそれでも悲鳴もあげず何事もなく動こうとしていた。

芳香「だーあー」

「あとは任せてくれ」

芳香「あがごっ」

剣を芳香が噛み砕こうとした瞬間使い手が剣を横に凪いだ。

頬から喉や頬骨をすべて切り裂かれ、芳香の頭は少し残った頬だけで保たれていた。

青娥「なぜ、なぜです、かぁ?」

芳香「あええああいあ」

噛みつくことができなくなった芳香が剣の持ち主に襲い掛かる。

「不老不死のなりそこない。大人しく土へ帰りなさい」

剣が光を放つ。17本の光が芳香の膝から上を全てを炭へ変えた。自重に耐えきれなくなった炭は砕け、地面に落下し細かな灰になった。

青娥「なぜ、貴方が」

神子「貴方を倒しにですよ。青娥」

そういって豊郷耳神子は蔑んだ顔で青娥を見た。 


964 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/15(木) 22:38:05 FIT4fy8c

青娥「………私は人間のために」

神子「貴方がどんな人間か知ってますよ。人間に直接危害を加えたあなたを許す事はできない」

青娥「うふっ、うふふふふふふ。あははははははははははっ!」

神子「………首を出しなさい。あなたがこの程度で死ぬかはわかりませんが」

青娥「私は死にませんわ」

青娥が髪から壁抜けの鑿を抜き大きく振りかぶった。

青娥「後悔しなさい、太子様。私が敵に回るってこと―――」

そしてそのまま自らの腹に突き刺した。

青娥「―――かふっ」

穴は空きはしなかったが、それは振り下ろした手、くの字に曲げた体は隙だらけだった。

その隙を逃す神子ではなく、抜き放たれた七星剣の刃は青娥の右わき腹から入り左肩に抜けていった。

神子「悪を懲し善を勧むるは、古の良き典なり。ここをもって人の善を匿すことなく、悪を見ては必ず匡せ。それ諂い詐く者は、則ち国家を覆す利器たり、人民を絶つ鋒剣たり。ならば私はそれすらを絶つ存在になりましょう」

青娥「く、くふふ。ご立派、ですわぁ」

肩に抜けて行った剣を水平にし、首に向かって薙いだ。骨を断つ音すらなく、青娥の頭部が胴体から離れ地面に転がる。 


965 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/15(木) 23:06:45 FIT4fy8c

青娥「人だけの味方ならあなたは聖人じゃない。大悪人ですわ。あは、あはははははははははははははっ!!」」

神子「………」

転がった首を巫女が踏み潰す。頭蓋骨が割れる音と柔らかいものを潰す音がし、青娥の笑い声が止んだ。

「『ご苦労様です』」

耳を震わす声と頭の中を震わす声が重なって響いた。

ことり「『無事ですか、慧音』」

慧音「あぁ、無事だ。協力たすか、った。くっ!」

ことり「『毒ですね、そこのあなた』」

ことりが地面に縛られて転がっている鈴仙の猿轡を解いた。

鈴仙「ぷはっ。な、なんですか」

ことり「『巻き込んでしまって申し訳ありません。お詫びをしたいのですが現在慧音が毒に侵されています。どうか助けてはいただけないでしょうか』」

鈴仙「は、はいっ。すぐに師匠のところに連れて行きましょう!」

ことりが縛っている縄を解くと鈴仙はぴょんっと立ち上がり慧音に駆け寄って肩を貸した。 


966 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/15(木) 23:20:01 FIT4fy8c
神子「こんな目に合わせてしまったのに助けてもらってすみません」

鈴仙「い、いえ人間たちが完全に敵にならない限りはうちはおそらく中立ですから」

慧音「はは、ありがたい、な」

毒で呼吸をするのすら難しい慧音がうっすらと笑みを浮かべる。

神子「事態は一刻を争いますから、こちらへ」

神子が二人を手招いた。

鈴仙は何が起きるのかを理解していなかったがとりあえずそれに従ってみる。

鈴仙と慧音が近くまで来ると巫女は二人を片手で抱きしめ、空いているもう一方の片手でマントを掴み三人を包んだ。

すると包み込んだはずの三人の形はマントから浮き出ず、それどころかマントだけがふわりと地面に落ち、部屋の中にはことり以外生きているものは存在しなくなった。

ことり「『私が後片付けですか、まぁいいですけど』」

ことりは床にばらまかれた灰と、血液、青娥の死体を見て小さなため息をつき、掃除道具を取りに地上へと戻っていった。 


968 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/16(金) 14:22:20 3OzK4RLY
~男視点~

男「やめろ、ってぇ!!」

前から迫る刃をかっこ悪く転がりながら避ける。それでも当たれば確実的に死ぬのだから無様でも生き延びたい。

チルノ「師匠!!」

チルノが氷柱を出してアシストしてくれるが、その氷柱は一秒も攻撃を耐えられず切り裂かれてしまう。

なぜ今俺がこんな目に合っているのか。

それは20分前の出来事だった。 


969 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/16(金) 15:05:28 qJgG8Rq2
男「………またか」

人間の里の近くまで行くとやはり人間とである確率が高くなる。

神社を出て2時間は経っているのに、距離はそれほど進んでいなかった。

そして今も目の前には二人組の人間。少人数なので戦いを挑みにきたわけではないだろうが、それでも逃げられ仲間を呼ばれると厳しい。

なので手早く気絶させよう。霊夢とチルノがいるのだからすぐに終わるだろう。

キンッ

ガラスを叩くような涼やかな音がして、霊夢の後ろ、俺とチルノの前に半透明の壁が現れた。

霊夢が守ってくれるために張ったのだろうか。でもたかが二人

霊夢「こんな結界じゃ私は―――っ!」

二人組の一人。がたいの良い男が結界のほうを振り返った霊夢に片手で幅が広い刀を振るった。霊夢はしゃがんで避け、札を放ち反撃するがもう片手で抜き放たれた匕首で札を切り落とされる。

そしてその隙にもう一人のフードをかぶった人間が結界を通り、こっちへ来た。

男「分断するためかよ」

霊夢に頼れないのならば、チルノと俺でどうにかするしかない。萃香にはしごかれたがしかし実戦はこれが初めてだ。相手が得物を持っていないのならばまだ何とかなるかも知れない、が

「………」

人間が外套の中から長さが1メートルにも及ぶかのような長い刀を取り出した、鞘は黒く、装飾はいっさいない。せめて儀礼刀ならばまだなんとかなったのかも知れないがこれはおそらく殺すための剣だろう。 


970 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/16(金) 15:30:37 iKZmvaFI
そう判断したのはいいが、一メートルの間合いの差があるならば空手や柔道ではどうにもならない。名人というほどには納めていない俺は懐に入ろうとする前に切り捨てられて終わるだろう。

出来ることは逃げ回って隙をつくことだけ。

あとはチルノに任せるしか。

「………」

鞘抜き捨てられ、地面に転がる。鞘の中から出てきた刃は自分が知っている日本刀よりもずっと反りが少なかった。

憑かれ屋「………憑かれ屋、参ります」

風が吹いて憑かれ屋と名乗った人間のフードを脱がせる。

その下から出てきたのは少年か少女かの区別ができない中性的な顔だった。

男「………伊吹流拳術、男」

なんとなく真似をして構えてみる。家の近くにあった道場の流派よりは萃香に習ったとしたほうが勇気が湧く。虎の威を借る狐だとしても、戦いを終えれるのならばそのほうがずっといい。

しかし伊吹の名は通用することがなく、憑かれ屋は左手を地面に対し水平にしそのうえに刃の背をのせた。大きく引かれた腕がまるで弓を放つかのように見える。

本で読んだ霞構えとは似ているが違う構え方。初手はおそらく、いや確実的に突き。上手く体を半身で避けることが出来るのなら懐に入り込むことはできるだろうが線ではなく点の攻撃のためどこに来るかが読みにくい。下手を打って首を突かれたならおしまいだ。光る剣先が死の恐怖をさらに加速させた。

冬の冷気の中なのに額から汗が流れる、冷や汗って本当にかくんだななんてことを頭の隅で考えてしまった。 


971 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/16(金) 15:37:34 F9R9L8lA
憑かれ屋「………っ!」

見合って感覚的に数分経っただろうか。憑かれ屋が短く息をはき、前へ深く一歩踏み出した。

パキンッ、チルノが目の前に大きな氷の壁を出した。よし、後ろに飛べば

男「ずあっ!」

刃が氷を綺麗に貫通し、わき腹の肉を数ミリ持って行った。刃がそのまま上に振られ氷から何事もなかったかのように脱出する。

もし後ろに飛んでいなかったら右腕とさよならをしていただろう。

自分の判断は間違ってなかったと安堵すると共に右腕がなくなっていたかもしれないということに恐怖する。

初太刀の速度と威力を見て思った。思ってしまった。

勝てない。

俺じゃあ勝てない、と。

傷口のわりには出血の量が激しい。服に滲む血が、脳をがつんと揺さぶった。

俺は霊夢たちの死をなかったことにできる。だけど俺の死はなくならない。

チルノ「師匠!!」

チルノの声で氷の壁を刀でバラバラにするという人間離れした技を繰り出し終わった憑かれ屋に気付いた。

思考の暇はない。たとえ数秒だったとしても後ろを向いて走っていればよかったと後悔する。 


972 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/16(金) 20:56:43 iaxii.Vw
疲れ屋「その命…もらい受けます!」

チルノ「し、ししよー!?」

強烈な踏み込みから繰り出される神速の諸手突き…その鋭い切っ先は俺の胸へと一直線へ吸い込まれ…

???「…待ちな」

疲れ屋「…!?…何奴!?」

…俺の鳩尾に突き刺さるはずだった刀はギリギリの所で、突然現れた謎の人物によって阻まれた

俺「壁殴り代行免許皆伝…俺!」ドーン!

男「あ…あんたは?」

疲れ屋「邪魔を…しないで下さい!」ブンッ!

俺「なってないな…戦いの厳しさってやつを教えてやるお」

俺「アースクエイク!(床ドン!)」ドムシーン!

疲れ屋「あーれー!強すぎるぅ…」 


978 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/19(月) 20:10:47 xJFp6Ys6

憑かれ屋「………」

憑かれ屋がさっきの構えで構える。氷すらも貫く神速の一撃。

さっきは運よく避けれたが今度もそう行けるかは分からない。というか避けれない可能性のほうが高い。

精神を研ぎ澄ますなんてできそうにない。落ち着くどころか頭の中が真っ白になる俺はどうやら主人公適正はないようだ。

目覚めろ不思議な力。なんて都合の事は起きそうにない。

結果残るのは、避けそこなう=死という単純な答え。

憑かれ屋「………っ!!」

さっきよりも時間は短く感じた。短い息とともに突き出されたその刀は

憑かれ屋「!」

俺に届くことはなく憑かれ屋は前のめり態勢を崩した。

チルノ「あたいったら、最強ね!!」

チルノの氷が憑かれ屋の足を凍らせていた。結果前に進むはずだった勢いだけが残り、態勢を崩した。

生きるための本能か、萃香との練習のたまものかはわからないが体が自然に動いた。

態勢を崩し、がら空きになった腕、刀を握る手を蹴り、刀を蹴り飛ばす。刀はそんなに飛ばず近くの地面に転がった。 



987 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/24(土) 14:22:45 buwbsZRs

憑かれ屋「あ………う。僕は」

憑かれ屋が今目覚めたような様子で目を何度か瞬かせる。

その様子はさっきまでの刀を振るっていた姿にはとても見えない。

憑かれ屋「ひっ!」

憑かれ屋が俺とチルノを見て怯える。

一体どういうことなのだろうか。 


988 : 以下、名無しが深夜にお送りします :2014/05/24(土) 14:26:19 buwbsZRs
霊夢「なるほど、妖刀使ってたのね」

「憑かれ屋!!」

霊夢「妖刀使ってまで、戦いたいなんてね」

「違うそういうことじゃないっ」

霊夢「おっと、ここは通さないわよ。向こうが方ついたなら私も本気でいけるもの」

「あいつが妖刀を選んだんじゃない、妖刀があいつを選んだんだ」