1 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 22:00:23 ID:iNBM803c
”ごちそう”というと皆さんは何を思い浮かべるでしょう。

ハチミツつきのパン? 骨付きのチキン? 味の濃いスープ?



私にとってのごちそう、それはオムライスです。 


2 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 22:05:31 ID:Bn9jCNv2
俺もオムライス大好き。カレーとかハヤシとか丼物より大好き。 

3 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 22:05:34 ID:iNBM803c
 小さい頃、私の家庭はほぼ狩猟の生活で、貧しかった。

 
 でも年に一回だけ、私の誕生日だけは特別でした。

誕生日の日だけは、”好きなものを何でも食べていい”という決まりがあって
、私は毎年決まって「オムライス!」と父にお願いをしていたのです。 

4 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 22:12:27 ID:iNBM803c
 スープなどとは違って、オムライスは一人分づつ卵でくるまなければいけな

いので、料理に関してはあまり、手先が器用でない父は大変だったと思います。

 父の作ったオムライスは、いつも卵の部分が少し破れていて少し焦げていまし

た。父の「焦げちゃってごめんな。」というのが毎年ありました。 

5 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 22:21:01 ID:iNBM803c
 でも父が、一番楽しそうにするのがそのあとの卵に、ケチャップで書くとき

です、手先が不器用なのにこの時だけはきれいな字で書くのです。

「オムライスに字を書くときは、食べてもらう相手のことを思いながら、書く

んだ。」そういいながら書いてくれた、『おめでとう』の光景が今も忘れられ

ません。 

6 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 22:27:53 ID:iNBM803c
 


 訓練兵になった今も、貧しかった当時のことはよく思い出し、エレンたちに

話したりもします。

 トロスト区の有名な焼き肉屋さんや、おいしいスープ屋さんなどに行っても

おいしいとしかおもわないのに、オムライス屋さんに入った時だけは、もの凄

い贅沢をしているような、何か悪いことをしているような、そんな気分になり

ます。 

9 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 22:46:19 ID:iNBM803c



 オムライスを食べるのは、ずっと”特別な日”でした。

 誕生日はもちろん、初めての狩りに成功した日 訓練兵に志願しに行く日の

前日などの、何か目標を達成したときです。



 現在私は、調査兵団に所属しています。

 人と人との壁があった私を、家族のように支えてくれているのが、今の調査

兵団の、仲間たちです。

「お前って、何かしらと見えない壁作ってるよな。でもさ、俺たちは仲間なん

だ、仲間なんだから俺たちをもっと頼ってもいいんだぞ。」

 そう言ってくれた仲間のために、私は強くなろうと思って必死に訓練をしま

した。



そんなある日、訓練中に教官に呼び出されました。 

10 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 22:54:26 ID:iNBM803c
 サシャ・ブラウス、気の毒だがお前の父親が亡くなったそうだ。



 私は、教官が何を言っているのか、わからなかった、わかりたくなかった。

嘘であってほしい!!必死にそう願った。

 お前には一週間の休暇をやる、早く会いに行ってやるんだ。

 呆然としてしまった。どうしていいかわからなかった。

 


 父と無言の再会を果たすことになった私。

 立派になるまで帰ってくるな。だからがんばったのに。

 でも結局、私を残して、父はいなくなってしまった。 

11 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 23:03:48 ID:iNBM803c
 「お父さんごめんね。」

 肉親の死に目にも会えなかった。私は一体何を、やっていたんだろうと思っ

た。

 突然の孤独感に襲われ、力が抜けていきました。

 父の友人によると「娘は立派になったら帰ってきてほしい。」とのことだっ

た、だから私は父が病に伏せていることも知ることはなかったんだ。

 でもいつまでも甘えてるわけにはいきません。

 私は調査兵団サシャ・ブラウス。肉親は、いなくなってしまったけど、私の

事を仲間だと言ってくれる人達がいます。 

12 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 23:13:21 ID:iNBM803c
 父の葬儀はその日のうちに行われた。

 

 葬儀を済ませた私は、『もう泣かない』と決め急いで戻った。

 そして3日ぶりに調査兵団の寮に戻ってきました。

 ドアを開け入ると、いきなり



 お帰りサシャ!!

 という声が聞こえてきました。テーブルの上には、黄色いものが乗ったお皿

がありました。もちろんみんなのもありました。ただ少し冷めてて、少しあっ

たかいそんなものの上には。

 

    ” が ん ば れ ” 

13 :以下、名無しが深夜にお送りします:2013/06/07(金) 23:21:30 ID:iNBM803c
  
 もう泣かないって決めたのに。

 私は、あふれる涙を止めることができませんでした。

 「オムライスにケチャップで文字を書くときは、食べてもらう相手のことを

すごく思いながら書くんだ。」

  どこかで父の声が聞こえた気がした。



 料理は手紙のようなものだ、そこに込められた気持ちとか言葉とかが、味を

通して心に届けられる。そして本当に贅沢なものには、誰かの強い気持ちが込

められている。しっかり心から味わって、初めてそれが”贅沢”だと解るのか

も知れない。                     



The end