1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:24:35.44 ID:XUkZd3y20
「逃がさないわよ!」
「いぃぃやあぁぁぁぁ!」
こんな始まり方はどうかと思いますが、軽音部はこういうところです。
もう慣れました。慣れたくなかったけど慣れました。
慣れました。中野梓です。
声の主は勿論、逃げ惑う澪先輩と、それをこれでもかと追いかけるさわ子先生。
音楽室から始まったその攻防は、廊下を経て、下のフロアにて繰り広げられていたようだけど、
結局、舞台を音楽室に戻したようです。
クールな澪先輩も素敵だけど、こういう澪先輩もなかなか……じゃなくて。
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:26:49.53 ID:XUkZd3y20
梓「あれ、なんとかならないんですかね……?」
律「無理だろ、ああなるとさわちゃんは服着せるまで諦めないからなー」
野生のカモシカを思わせるような、しなやかで可憐、
かつ一切無駄の無いフォームで軽やかに室内を駆け巡る音楽教師の手には、
白とピンクを基調としたフリフリの衣装。
そんな恥ずかしい衣装を喜んで着るのは、唯先輩かムギ先輩くらいなものだと思うのだけれど。
当の唯先輩はといえば、私の横でギターを練習していたりする。
この日は珍しく、教えて欲しいと私にせっついて来たので、素直に教えてあげているところなのである。
どうしてかは分からないけれど、唯先輩にやる気があるのは私としても嬉しい。
嬉しいけれど、一つだけ。今の私には気になることがある。
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:28:51.97 ID:XUkZd3y20
梓「あの、唯先輩」
唯「どうしたの、あずにゃん?」
梓「さっきから、ムギ先輩がものすごい笑顔でこっちを見てる気がするんですけど」
「女の子同士っていいわよね」という素敵な人生のスローガンを掲げる百合と沢庵の申し子は、
まるで女神のような笑みを携えて、明らかに許容量を超えたティーカップに、
ゴールデンティップを多量に含んだ高価なダージリンを淹れ続けている。
唯「そうかなぁ。ムギちゃん、いつもあんな感じだよ?」
梓「いや、それはそれで問題な気が……」
6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:31:08.42 ID:XUkZd3y20
私達の方と澪先輩達の方とを交互に、首だけを回転させて、とてもいい笑顔で見つめている。
せめて、零れ続けている紅茶にも目を向けて欲しいものだけど。
隣で「おーい、ムギー、帰ってこーい」と突っ込む律先輩の声など、何処吹く風である。
唯「それより、ここなんだけど」
梓「あ、そこはですね……」
意識を唯先輩の方に移した次の瞬間――。
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:33:51.51 ID:XUkZd3y20
ドカッ!
梓「きゃっ!?」
不意に、突然私の背中に強い衝撃が走った。
なにかが、ぶつかったような、なにかに、押されたような。
前方へと傾く体。
その先には唯先輩。
ああ、ぶつかるな。
そう思った時には、私の体は唯先輩に触れていて。
――ふわり、と良い匂いがした。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:35:49.30 ID:XUkZd3y20
唯「あ、ずにゃん……?」
梓「……っ!」
目を開くと、そこに唯先輩の顔があった。
唯先輩は、ギターをかばうようにして倒れ、
私は、倒れる瞬間にギターを背中に回していた。
そのくらいのことができなければ、軽音部猫成分は担当できない。
……本当は偶然だけど。
ともかく、唯先輩もギターも、無事のようだった。
いや、寧ろ問題は今の体勢なのであって……。
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:38:05.37 ID:XUkZd3y20
唯「……」
梓「……」
押し倒されて、仰向け状態の唯先輩は、薄らと頬を赤らめている。
嗚呼……、そんな顔をされると、唇を奪いたくなるじゃない。
今のこの体勢。これは純然たるマウントポジション。
抵抗のすべをなくした唯ちゃんは、もはや私の思うままッ……!
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:41:31.38 ID:XUkZd3y20
梓「……なに言ってんですか、ムギ先輩」
背後から、私のモノローグを模した声で喋るムギ先輩に、冷めた視線を送る。
紬「あ、あら。ごめんなさい」
ムギ先輩は、我に返ったようだ。
全くもう、それじゃあまるで私が唯先輩のこと好きみたいじゃないですか……。
私が好きなのは澪先輩であって、唯先輩のことは、べ、別に……。
……別に?
いやいやいや、何を考えているんだ私。
紬「続けて」
梓「うぉぉい!」
15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:47:44.40 ID:XUkZd3y20
寧ろ私が我に返った。
横には、さっきまでの攻防が嘘みたいに硬直している澪先輩とさわ子先生。
そして。
唯「あずにゃん、大胆……」
梓「ち、ちちちちがいます!」
言われてようやく、私は唯先輩の上から体を退け、乱れた制服を整える。
紬「落ち着いて、梓ちゃん。こういうときは息を早めに三回吐くのよ!」
梓「そ、そうですね。ハァハァハうぉぉい!!」
二回目のうぉぉい!
梓「これじゃただの●●親父ですよ!! 深呼吸でしょそこはー!」
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:50:27.97 ID:XUkZd3y20
ぽん、と肩を叩かれる。振り向けばそこにはおデコ。
律「梓もやるようになったな! まさかノリツッコミをも習得しているなんて!」
グッと、親指を立てる律先輩。
最高に嬉しくない賛辞だ。脳ミソもおデコみたいにトゥルットゥルになればいいのに。
紬「さっきの動きもすごかったわ。まさかあの一瞬でギターも唯ちゃんも怪我をしない(素敵な)体勢に持ち込むなんて」
梓「どうして頬を赤らめながら言うんですか」
あとさりげなく「素敵」っていうフレーズいれないでください。
もうこの軽音部ダメかもわからんね。と思いつつ、唯先輩に声をかける。
梓「すみません、唯先輩……、大丈夫でしたか?」
聞くまでもなく、けろっとしているのだが念のため。
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 21:55:25.63 ID:XUkZd3y20
唯「大丈夫だよ。ありがとぉ、あずにゃん」
さ「ごめんなさいね、二人とも。
先生、澪ちゃんに服着せることに夢中で周りが見えてなかったみたい」
梓「……反省してくれてるなら、別にいいです」
冷静になってくれたようだし、さわ子先生だって悪気があった訳ではない。
ただ、内に滾る欲望をほんの少し抑えきれなくなっただけなのだ。
それはさわ子先生に限った話ではない。誰にでもあることだ。
だから、この程度のことを咎めていては、私の器量が知れるというもの。
そう。例えば、愛すべき我が親友、平沢憂。
彼女に唯先輩の話題なんぞ振ろうものなら、「ゆ」の字を発した段階で目が光る。
比喩とかじゃなくて、こう、実際に色彩やら光度やらが八割強増す。
そして、光速の三百倍程度の速度で彼女の顔面は、私の息のかかるポジションへと移動するのだ。
私はそこでいつも思う。
『近い』と。
憂は、お姉ちゃんから風邪をもらうならやっぱりキスしかない!
と、平気でのたまうような生粋のスィスターコンプレックスだ。
あそこまで自分の欲望に正直ならば、もはや清々しい。
さ「まぁ、澪ちゃんには着せるけどね」
懲りてねえ。
19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:00:05.40 ID:XUkZd3y20
律「さて、それじゃ今日は解散にするかー」
ひと段落したところで、部長の律先輩がうまくまとめようと解散宣言。
実際は、ひと段落もしてないし、練習もしてないけれど、
この日の部活は終了となった。
澪「た、助かった……」
さ「ちっ」
澪「露骨に舌打ちしないでください」
律「唯~、帰りにアイス食おうぜ」
唯「おぉ~、いいね!りっちゃん!」
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:03:27.06 ID:XUkZd3y20
ダメだ。
私はようやく冷静になった。
梓「……」
これじゃダメなんだ。
なにがダメって、このだらけっぷりが。
私だって最近はこの空気に慣れて、それが心地良いとすら思っているけど。
でもいくらなんでもここ数日は練習してなさすぎる。
普段であれば、澪先輩が皆を説き伏せる所なのだが、今日はそれができない。
何故なら、さわ子先生に動きを封じられて、音楽室の隅で縮こまっているから。
だからこそ、私がしっかりしなくちゃいけないのだ。
そうでなければ、この人達は本当に練習しなくなる。
梓「あ、あの!」
律「どうしたー、梓?」
だから私は、ひとつの提案を持ちかけた。
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:08:34.57 ID:XUkZd3y20
梓「明日、朝練しましょう!」
律「へ?」
唯「ほえ?」
律先輩と唯先輩の首が、左右対称に傾く。
ちょっとキューンってなった。
梓「今日も全然練習できなかったし、このままじゃよくないと思うんです」
律「朝かー、起きるのしんどいんだよなぁ」
梓「じゃあ放課後しっかり練習してください」
律「うぐ……、どうした梓、目がマジだぞ?」
梓「マジです、大マジですとも」
23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:15:09.16 ID:XUkZd3y20
紬「まぁ、いいんじゃないかしら? 私は皆と一緒に居れる時間が増えるのはうれしいわ」
澪「そうだな、私も梓とムギに賛成。いくらなんでも、ここ最近だらけすぎてると思う」
澪先輩ならそう言ってくれると思ってました。
いつの間にかさわ子先生を退けてるところが素敵です。
唯「朝練かぁ、憂に起こしてもらわなくちゃ」
梓「たまには自分で起きてくださいよ」
唯「えへへ」
褒めてねえ。
律「仕方ないな、そういうことなら明日から朝練頑張ろうか」
澪「だな」
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:20:16.40 ID:XUkZd3y20
翌日。いつもの通学路。
朝練の為、少し早めに家を出た私は、そこでよく知る人影を見つけた。
唯「よーしよしよしよし」
梓「……」
唯「にゃあにゃあにゃんにゃん!」
えーと……。
梓「何やってるんですか、唯先輩」
唯「あ、あずにゃん! おはよ~」
屈託のない笑みで振り返る唯先輩。
それにつられて、自然と頬が緩んでしまった。
時折、この人は本当に私より年上なのか疑うことがある。
『お姉ちゃんってあったかくて気持ちいいよね』
愛すべき親友のそんな言葉を思い浮かべながら、私は挨拶を返した。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:27:41.23 ID:XUkZd3y20
唯「ほら、みてみて~」
そう言って、すっと立ち上がり、こちらへと向き直る唯先輩。
彼女の両腕に抱かれていたのは、黒い毛並みの猫。
子猫というには少し育ちすぎているが、首輪もしているし、どことなく品も感じられる。
少なくとも、野良猫とかではなさそうだ。
唯先輩の腕の中が心地良いのか、猫は目を細めて気持ちよさそうにしていた。
梓「かわいい……」
唯「でしょー!」
ここで、私の中にひとつの悪戯心が芽生えた。
梓「唯先輩も、かわいいですけどね」
33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:35:32.10 ID:XUkZd3y20
こてんと小首を傾げる唯先輩。
梓「唯先輩も、かわいいと思います」
いつもそう言って抱きついてくるのは唯先輩の方。
だから、たまには私の方から攻めてやるです。
唯「え~、そうかなぁ~」
意外なリアクションが返ってきた。
てっきり、「いやいや、あずにゃんには及びますまい」とか
関取風の声で返してくると思ってたのに。
しかし、照れくさそうにもじもじする唯先輩は、実際にかわいく見えた。
カッコよくて優しい澪先輩も素敵だけど、
唯先輩は唯先輩で、よく分からない魅力があったりする。
そんなことを考えていたら、すっかり忘却していた昨日の出来事が脳内にフィードバックした。
同時に、自分の顔が熱くなっていくのが分かる。
この展開はマズイ。
有体に言えば「やべえ」
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:39:07.86 ID:XUkZd3y20
唯「えへへ~、ありがとぉ」
だって
梓「っ……」
照れているのは
唯「あずにゃんもかわいいよぅ」
私の方じゃないか!
梓「あ、う、えーと、さ、さっきのはその……、違うんです」
少し考えたら、こういう展開になるのは予想できただろうに。
後悔する私と、よくやったという私が脳内で終わらない討論を繰り広げる。
すると、二人の私の間にムギ先輩がにょっきりでてきて、朗らかに手を振りだした。
そして、満面の笑みを浮かべたまま、後悔する側の私に駆け寄ってきて、
鼻の穴にゴボウをねじこもうとしてきたので、私は無理やり現実に意識を戻した。
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:43:39.72 ID:XUkZd3y20
梓「どう考えてもゴボウは入りませんから!」
唯「ご、ゴボウ??」
梓「あ、すいません。こっちの話です」
唯「は、はぁ」
梓「ともかくさっきのは、違うんですよ」
唯「え~。あずにゃんいけずぅ」
唯先輩に撫でられて紅潮する頬を隠すように、私は首を左右に振った。
梓「ちょ、ちょっとからかってみたくなっただけなんですよ!」
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:49:39.74 ID:XUkZd3y20
唯「からかうって、あずにゃんが? 私を?」
梓「私が、唯先輩を、です」
唯「……」
梓「……」
唯「ふっ」
至極嬉しそうに、ニヤリと笑う唯先輩。
梓「ムカっ! なんですか、その含み笑いはー!」
唯「ふふ、嘘だよ。ごめんね」
よしよし、と言ってまた頭を撫でてくる唯先輩。
ほら、またそうやって猫扱いする!
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:54:34.54 ID:XUkZd3y20
梓「にゃぁ……」
聞いてますか、唯先輩!
梓「にゃあぁぁ」
私は猫じゃなくて……
梓「にゃん」
唯「よーしよしよしよし」
梓「ハッ!?」
会話してるつもりが、にゃあしか言ってなかった!
……わざとじゃないですよ?
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 22:59:20.87 ID:XUkZd3y20
唯「そういえばこの子、あずにゃんに似てるかも」
猫を見つめて、ほわ~ん、となりながら唯先輩。
梓「そうですか?」
唯「そうですさ」
梓「いや、そうですさって」
唯「そうでもない」
梓「どっち!?」
あれ、この人意図的にボケる人だっけ。
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 23:01:35.94 ID:XUkZd3y20
唯「でも、本当に似てると思うなぁ」
そう呟いた後、唯先輩は何かに気付いたように「はっ!」と声を上げた。
唯「もしかしてこの子、あずにゃんのこど」梓「違います」
唯「ぶー、あずにゃんが冷たいっ!」
梓「いや、そんなこと言われましても」
私を何だと思ってるんですかこの人は。
……だけど、不思議と悪い気はしないかな。
あずにゃん2号……じゃなくて3号か、ふふ。
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 23:07:01.93 ID:XUkZd3y20
梓「あ、撫でてもいいですか?」
唯「うん、どうぞ~」
そう言って、唯先輩は自分の頭を差し出した。
梓「よーしよしよしよ、ちげえ!」
唯「……」
梓「……」
唯「ちげえって言った」
梓「……」
唯「あずにゃんがちげえって言った……」
梓「なんで泣きそうなんですか」
唯「私のあずにゃんが……」
ていうか、私、何時の間に唯先輩の私物化されてるんですか。
52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 23:14:03.25 ID:XUkZd3y20
梓「……こほん」
梓「そうじゃなくて、猫ですよ! 猫を撫でて良いか聞いたんです!」
唯「分かってるよ~、かわいいなぁもう、あずにゃんは」
私は唯先輩の腕の中の猫にそっと手を伸ばす。
猫の可愛らしさに、自然と頬が綻ぶ。
なんか、ぽわ~んってなった。
唯「かわいいよねぇ……」
梓「えへ……」
唯「あずにゃんもね」
梓「そ、そんなことないです、よ……?」
あれ? この物足りなさはなんだろう?
なんかこう、いつもこのタイミングであるものが、無いような……。
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 23:19:26.61 ID:XUkZd3y20
あ、そうか。
唯先輩、猫抱いてるから、いつもみたいに私に抱きついて来ないのか。
梓「……」
唯「あずにゃん?」
梓「べ、別に残念だとか物足りないとか思ってないですから!」
唯「なにが?」
梓「え、いや……あ!時間!そろそろ行かないと朝練遅れちゃいますよ!」
唯「おぉぅっ!そうだった! またね、あずにゃん3号」
梓「ほら、走りますよ!」
唯「了解であります、あずにゃん先輩」
後輩です。
62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 23:28:14.39 ID:XUkZd3y20
余裕を持って家を出たはずだったのに、気付けば遅刻五分前。
猫は唯先輩の腕を離れると、どこか目的地があるかのように歩き出した。
朝の散歩コースだったのかもしれない。
それなら朝練のある日は、また会えるかな。
猫と別れた私と唯先輩は、朝練時間を十分程オーバーして音楽室へとたどり着いた。
唯「皆やっほー」
梓「おはようございます」
紬「おはよ……あら、一緒に登校なんて仲が良いのね、うふふ」
朝からいい笑顔のムギ先輩。
とりあえずゴボウは持っていないようで安心した。
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 23:35:21.34 ID:XUkZd3y20
律「遅いぞー、二人とも。言いだしっぺが遅れてどうするんだよ」
澪「唯は仕方ないとしても、どうしたんだ、梓?」
唯「澪ちゃんさりげなく酷いっ!」
梓「すいません、途中で唯先輩に会っちゃって……」
そう言って、ジト目で見る。
私も猫に夢中だったから、唯先輩に擦り付けるつもりはないけれど、
なんとなく、いじめてみたくなったりして。
唯「そんな……、あずにゃんまでひどいっ! 私を見捨てるのね!?」
よよよ、と泣き崩れる演技の唯先輩。
66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 23:41:08.99 ID:XUkZd3y20
律「ええい、言い訳など聞きたくないわッ!罰として今日の二人のお菓子は私がいただくッ!」
梓「そ、そんな!」
唯「え~、ずるいよりっちゃん!」
澪「唯、素になってるな」
紬「ふふ、演技よりお菓子なのね♪」
律「……ぷ、くくく……」
澪「何笑ってるんだよ、律」
律「いやー、梓もなんだかんだでティータイム楽しみにしてるんだなーって」
梓「う……」
そう言われると、返す言葉もない。
だって、ムギ先輩のお菓子はおいしいし……って、
いつの間にか私の中でも練習前のティータイムが当たり前になってる!?
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 23:45:46.33 ID:XUkZd3y20
律「冗談だよ、冗談。さて、皆揃ったことだし」
澪・梓「練習だな(ですね)」
律「おう、練習だ!」
澪「え?」
梓「え?」
律「なんだよ、そのリアクションは」
澪「いや、いつもの律だったらそこで『お茶にしよう!』って言うから……」
梓「そうです、律先輩らしくないですよ」
唯「どうしたのりっちゃん、熱でもあるの?」
律「お前ら本格的に失礼だな……」
いいえ、日頃の行いです。
71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/28(金) 23:51:54.77 ID:XUkZd3y20
律「いいか、私は部長としての責任に目覚めたんだ。これからはガンガン練習していくからな!」
澪「律……!」
梓「律先輩っ……!」
なんということでしょう。
まさか律先輩の口から、そんな真っ当な台詞が聞ける日がこようとは。
私、律先輩のこと誤解してたかもしれません。
本当はしっかりした人だったんですね。
紬「お茶入りましたよー」
律「……」
澪「……」
律「お茶にしようぜ?」
澪「うおおおぉぉい!!」
梓「……」
誤解してないわ。
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 00:04:19.44 ID:hRY/T06g0
とはいえ、練習させる気満々で朝練を企画したのに、
言い出した本人が遅刻してたら、文句を言おうにも言えない。
少しくらいなら構わないかと妥協し、私はお茶を飲みながら今朝の出来事を先輩達に話した。
紬「そう、それで遅かったのね」
唯「も~~、本当にかわいいかったんだよぅ!」
律「だからといって遅刻していい理由にはならないぞ」
唯「あ、そっか……。ごめんね、りっちゃん」
律「……唯」
唯「なぁに?」
律「気にするなよぅ、こいつぅ」
唯「やぁん、りっちゃんたらぁ、男前~」
指で突っつきあう律先輩と唯先輩。
律「誰が男か」
唯「あだっ!」
その光景を見ながら、やはり喜色満面の笑みを浮かべるムギ先輩。
これを見ると落ち着いちゃう私も、大分毒されてきてるのかもしれないなぁ。
81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 00:11:03.13 ID:hRY/T06g0
澪「ま、遅刻ギリギリだったのは私と律も同じだけどな」
律「ばっ! 澪、バラすなよ!」
唯「分かってたよ、りっちゃん!」
律先輩の肩をがしっと掴んで唯先輩が威張る。
律「……ちくしょう、なんだこの屈辱感」
唯「あずにゃんもごめんねー。私と会わなかったら間に合ってたのに」
梓「私は朝から唯先輩に会えて嬉しかったですから、何も気にしてませんよ?」
唯「あずにゃん……」
83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 00:17:35.10 ID:hRY/T06g0
心なしか、唯先輩の瞳が潤んでいる気がする。
私何か変なこと言ったかな?
反芻してみる。
私は朝から唯先輩に会えて嬉しかったですから、何も気にしてませんよ?
む。言われてみれば、なんか変な言い回しになったかもしれない。
梓「あ、ええと、そういう意味じゃなくてですね」
あたふた。
梓「あずにゃん3号とも仲良くなれたし、楽しかったし……っていう意味で、その……」
87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 00:22:17.82 ID:hRY/T06g0
律「梓」
私の肩をぽん、と叩くおデコ。
デジャヴだと思うけど、昨日同じことがあった気がする。
梓「な、なんですか」
律「見苦しいぞぉ?」
したり顔の律先輩。ちくしょう。
梓「くっ……」
唯「あずにゃん、大好き!」
ぎゅう、っと。
ようやく、いつものように抱きついてくる唯先輩。
あぁ、安心するなぁ。とか思ってる自分がちょっと悔しかったりして……。
梓「にゃぁ……」
89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 00:29:03.33 ID:hRY/T06g0
紬「ふふ、朝から良いもの見させてもらったわ♪」
澪「ムギ?」
ガシッ!
紬「澪ちゃん、私軽音部に入って本当によかったわ!」
澪「そ、そうか」
両手をがっちり掴まれて、されるがままに上下にぶんぶん振られる澪先輩。
ムギ先輩は今日も絶好調のようです。
律「さーて、せっかく朝早くから集まったんだし、練習するか!」
澪「そうだな」
唯「おーぅ!」
梓「はい!」
紬「ええ!」
でも返事はバラバラでした。
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 01:16:34.95 ID:hRY/T06g0
放課後。
律「勉強会ぃ?」
怪訝そうな顔でオウム返しにする律先輩。
しかし、ムギ先輩は怯まない。
紬「そう。勉強会♪」
いい笑顔だ。あの笑顔なら、カンボジアの恵まれない子供達が救われるかもしれない。
律「いや、確かに勉強教えてもらえるのは助かるけど、まだ期末までは時間あるし……」
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 01:21:46.61 ID:hRY/T06g0
紬「それじゃダメよ!全然ダメ!!」
ビシィッ!と律先輩を制する。
何に感化されたのかは分からないが、ムギ先輩はとにかく勉強会をやりたいらしい。
乙女モードのムギ先輩が通過した場所は草一本残らないといわれている。主に私が言っている。
残念だけど、律先輩には旗色が悪い。
澪「まぁ、いいんじゃないか? 律と唯はいつも追試ギリギリなんだし。 私は賛成」
紬「本当!? 澪ちゃん!」
澪「うん」
唯「え~、まだ早いよ~。普通に遊ぼうよぅ」
101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 01:28:21.52 ID:hRY/T06g0
意見が分かれる時は、大抵唯先輩と律先輩、そして私と澪先輩に分かれる。
多数決になれば必然、票を決めるのはムギ先輩なのだが、
今回に関してはそのムギ先輩が言いだしっぺにあたるわけで。
……残念でしたね、唯先輩、律先輩。
梓「私もムギ先輩と澪先輩側につきますよ?」
律「なっ!?」
唯「あ、あずにゃんに裏切られたっ!」
梓「そんな顔してもダメです」
唯先輩の為でもあるんですから。
103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 01:33:33.74 ID:hRY/T06g0
唯「むぅぅぅ」
澪「諦めろ二人とも。テスト近くなったら、どの道勉強はすることになるんだ」
律「……だ~、もう、仕方ないなー。こうなったらとことんやってやろうぜ、唯!」
唯「……そうだね! わかったよ、りっちゃん!」
がしっ!
友情を確かめ合う二人。
……悔しくなんかないもん。私は澪先輩と確かめ合うもん。
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 01:38:43.81 ID:hRY/T06g0
澪「とか言って、どうせ途中で飽きて遊びだすんだろ?」
梓「その光景が鮮明に浮かびすぎてフォローもできませんね」
律「なにおぅ!?」
唯「私もりっちゃんも、やるときはやる子だよ!?」
律「そうだそうだ!」
澪「はいはい」
がるるるる!といきり立つ律先輩を慣れた仕草で嗜める澪先輩。
105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 01:43:47.68 ID:hRY/T06g0
梓「でも、どこでやるんですか?」
澪「また唯の家でいいんじゃないか?」
紬「唯ちゃんのおうちも魅力的ではあるのだけど、……今回は私が提供するわ」
律「ムギが? 珍しいな。ていうか、ムギん家いくの初めてだよな」
唯「ムギちゃん家って、すっごい豪邸だったりするんだよね!?」
律「そうだぞ、唯。ホールには赤い絨毯が敷かれていて、門にはでっかいマーライオンがいるんだ」
唯「おおぅ!!」
澪「それはシンガポールだろ」
梓「唯先輩もナチュラルに信じないでください」
107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 01:49:04.57 ID:hRY/T06g0
紬「ふふ、ごめんなさいね。提供するのは家ではなくて、図書館なのよ」
律「と、図書館!?」
相変わらずスケールが違う。
唯「ねえねえ、澪ちゃん。ムギちゃんのお父さんって、なにやってる人なのかな?」
澪「……そこは、触れちゃいけないところなんじゃないか?」
紬「日程は、今度の日曜日でどうかしら?」
梓「……え?」
今度の休みと言うから、てっきり土曜日のことだと思っていたのに。
少しだけ、肩を落とした。
110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 01:54:30.65 ID:hRY/T06g0
律「梓、何か用事あるのか?」
梓「い、いえ。大丈夫です。……でも、土曜日じゃダメなんですか?」
紬「土曜日はちょっと用事が入ってるの。ごめんね、梓ちゃん」
梓「そうですか……。なら仕方ないですね、日曜日にしましょう」
唯「あずにゃんは、土曜日が良かったの?」
梓「はい。でもいいんです。本当にたいしたことじゃないですから」
唯「? そっか」
さすがにこんなことを、先輩達の前で言うわけにはいかない。
私にだってプライドはあるんだから。
145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 06:50:15.08 ID:hRY/T06g0
金曜日の放課後。
▼ SIDE 憂
私は足早に通学路を歩いている。
つい今しがた、走行する自転車を徒歩で追い抜いたところだ。
急いでいるのには訳がある。
今日は両親が旅行で、姉は部活。
つまるところ、私が家事を担当しなくてはならないのだ。
150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 07:02:30.74 ID:hRY/T06g0
……というのは表向きの理由。
今の私は、全人類の誓願、祈念、そして
この先地球で私たち人類が生き残っていく為に必要な、とてつもなく重要な使命を背負っている。
制限時間が限られている以上、なんとしてもこれを成し遂げなければならないのだ。
バンッ!
玄関のドアを思い切り開ける。躊躇なんてしていられないのだから。
「ただいまー」
151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 07:14:53.57 ID:hRY/T06g0
誰も居ないから返事は無い。当たり前だ。
ここからがこのミッションの最重要ポイント。
如何にしてタイムロスを無くせるか。私のこの足に、世界中の希望が詰まっている。
だから挫けることは許されない。
階段を駆け上がり、真っ先に自分の部屋――を通過して、お姉ちゃんの部屋の扉を開いた。
この部屋の構造は熟知している。だから、目的の物がどこにあるのかも。
ガラッ!
「……」
私は箪笥の一番上の引き出しを開け、
流れるような自然の動作で、何も言わず姉の下着を数枚、制服のポケットに忍ばせた。
え? 何に使うのかって?
異なことを仰る。
嗅ぐのだ。
155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 07:25:30.22 ID:hRY/T06g0
次に向かうのはベッドだ。姉が起きた時の状態がそのまま残る布団。
私はその乱れたシーツの上に景気良くダイブした。
そして姉の枕を抱きしめ、その香りを全身に感じながら右へ左へと回転する。
「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんっ!!」
156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 07:29:41.14 ID:hRY/T06g0
早く帰ってきて、お姉ちゃん。今日は、寝るまでの間ずっと撫でくりまわしてあげる!
……早く帰ってきてとは言ったが、姉が帰宅するまで、時間はまだ少しある。
それまでもう少しこの匂いを堪能し、
そののち最終ミッションへと移行す「ただいまうい~」うおぉぉぉぉかえりいぃぃl!?
159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 07:40:39.58 ID:hRY/T06g0
馬鹿な!私の計算が間違ったというの!?
いや、まだ急いで自分の部屋にもどれば、この醜態を晒すことは――
冷静さを取り戻そうとした私の脳は、次に聞こえた蕩けるようなキャンディヴォイスにより更なる混沌へと陥る。
「お邪魔しまーす」
なん……だと……?
梓ちゃんが来たというのか。何故? 英語で言うとWhy?
161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 07:52:43.51 ID:hRY/T06g0
私はハッとした。
そうか。今日は華の金曜日。それもこんな時間に来るということはまさか!
お泊りフラグ!? そうなの!? そうなのね!?
落ち着け私。このピンチをチャンスに変えるんだ!
ぐっ、とポケットの中の姉の下着を強く握り締める。
いつだってお姉ちゃんの下着は私に力をくれる。
だって、ほら。
お姉ちゃんと梓ちゃんと私とで、三人の甘く切ない夜がもう手の届くところまで―!
「はああぁぁぁん!!」
そう叫びながら勢い良く扉を開いたところで姉と親友に鉢合わせした。
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 08:06:09.80 ID:hRY/T06g0
同時刻。
▼ SIDE 梓
今日は、澪先輩と律先輩が寄るところがあるらしく、少しだけ早めの解散。
朝練を提案した甲斐あってか、練習は少しだけ充実したものとなった。
いつもの道を歩き、ムギ先輩と別れ、律先輩、澪先輩と別れ、
隣を歩くのが唯先輩だけになったところで、私は少しだけ陰鬱な気分になった。
唯「どうしたの、あずにゃん。なんか元気ないよ?」
梓「あ、いえ。たいしたことじゃないんですけど」
唯「あ。もしかして、土曜日が良かったって言ってたのと、関係してる?」
梓「……」
天然のくせになかなか鋭い。
168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 08:19:17.89 ID:hRY/T06g0
唯「ほら。先輩に話してごらん!」
先輩風を吹かせて、誇らしげに薄い胸を張る唯先輩。
なんだかそれが、とても暖かく感じる。
先輩たちの前では言えなかったけれど、唯先輩一人なら……。
梓「……実は今日明日って両親が泊まりで、うちに誰もいないんですよ」
唯「ほえ、そうなんだ。じゃあ、うちと一緒だね」
梓「唯先輩は、その……寂しくなったりしないんですか?」
169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 08:26:46.41 ID:hRY/T06g0
唯「んー、ならないかなぁ。だって、うちには憂もギー太もいるし」
梓「憂とギー太ですか」
唯「うん」
憂はともかく、ギターが居るから寂しくないなんて、並の人間にはできない発想だ。
梓「唯先輩らしいです」
唯「あずにゃん、寂しいんだったらうちに泊まりにおいでよ」
梓「えっ、でも……」
唯「嫌?」
梓「そんなわけないです! そうじゃなくて……」
171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 08:39:53.31 ID:hRY/T06g0
広い家に独り、寂しい週末。
唯先輩と憂と一緒に、楽しい週末。
どちらを選ぶか、なんて言われて、迷う筈もない。
だから、嫌だなんて、あるわけがない。
あるわけがないのに、言葉が続かないのはどうして――?
唯「そうじゃなくて?」
梓「えっと、だからその……」
唯「ん~??」
172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 08:47:54.83 ID:hRY/T06g0
梓「……」
唯「おぉ!」
唯先輩は、何か閃いた様に、ぽん、と手を叩くと
ぎゅっと私を抱きしめた。
唯「来てくれないと私が寂しいんだよぅ」
梓「……唯先輩」
さっき寂しくないって言った癖に。
本当に、この人は。
174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 08:55:13.46 ID:hRY/T06g0
梓「……全く、仕方ないですね。そういうことなら、泊まりに行ってあげてもいいですよ」
唯「……ふ」
梓「……ふふ」
二人、顔を見合わせて笑う。
なんとも滑稽なやり取りだったと思う。
だけど、話して良かったと心から思える。
頼りになるどころか、危なっかしくて見てられないし、
いい加減なところもあるけれど。
憂の台詞の意味がようやく氷解する。
初めて気付いた自分の気持ち。
私は、唯先輩のことが――
178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 09:12:28.69 ID:hRY/T06g0
「……ーん? あずにゃーん? おーい」
「!」
唯「なんだかぼーっとしてるよ。顔も赤いし……」
トンッ
梓「ふぇ!?」
唯先輩のおでこが私のおでこに触れる。
唯「熱は……ないみたいだけど」
梓「わ、わ、わ、私! 先に帰って準備してきますね!」
唯「え、うん。私も一緒にいくよぅ」
180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 09:22:40.88 ID:hRY/T06g0
――そのとき、私の第六感が何かを捕らえた。
梓「ッ!?」
なんだろう、この……
鼻の穴にゴボウを突っ込まれる感じ。
ゴボウ?
ムギ先輩か?
……まさか、ね。
紬「ビデオカメラ持ってくればよかったぁぁぁっ!」
ガン!
犬「キャイン!」
184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 09:32:32.14 ID:hRY/T06g0
着替え等の荷物をまとめ、私は唯先輩と共に、彼女の家へと向けて歩いている。
道中、さっきまでは無傷だったコンクリートの塀に何故か穴が空いていた。
梓「突然押しかけちゃっていいんですかね……、憂は迷惑なんじゃ……」
唯先輩は、事前にメールで連絡しようとしたらしいが、携帯の充電が切れていた。
私の携帯から連絡しましょうか、と提案もしたが、、どうせなら憂をびっくりさせようという
唯先輩のわけのわからない好奇心により、実行には至らなかった。
188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 09:47:31.47 ID:hRY/T06g0
唯「大丈夫だよぅ。憂はあずにゃん来たら喜ぶと思うなぁ」
梓「だと良いんですけど」
私の懸念は、憂が真性のシスコンであることだ。
唯先輩と二人の時間を邪魔しちゃったら、後々怖いイメージがある。
どうしてかは分からないけど、憂はそんな子じゃないハズなんだけど。
そういうイメージがある。
思い悩んでる間に、私たちは唯先輩の家へとたどり着いていた。
ガチャリ。
190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 09:57:25.71 ID:hRY/T06g0
唯「ただいまうい~。 ほら、あずにゃん。上がって上がって」
梓「はい。お邪魔しまーす」
ドサッ!ガタッ!
梓「な、何の音ですか?」
唯「憂かな……? 二階から聞こえたけど」
なんだか、物凄い嫌な予感がする。
私と唯先輩は、階段を上り、憂の部屋を覗く……が
唯「うい~……?」
梓「いないみたいですね」
193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 10:14:12.83 ID:hRY/T06g0
ガサゴソ。
唯「……」
梓「……」
唯「私の部屋から……だよね?」
梓「……みたいですね」
怖え!!
怖えけど分かる。
絶対に泥棒とか幽霊の類ではない。
だからこそ怖え!
196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 10:23:30.51 ID:hRY/T06g0
梓「あ、あの、唯先輩?」
唯「え?」
梓「さりげなく、私の後ろに隠れないでもらえますか?」
唯「だって、怖いし……」
梓「私だって怖いですよ!」
あなたの妹的な意味で。
梓「……。あ、開けますよ?」
唯「……うん」
私は、扉のノブに手をかけた。
200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 10:29:50.24 ID:hRY/T06g0
――次の瞬間。
扉は反対側から開かれ――
「はああぁぁぁん!!」
奇怪な雄叫びをあげ、前方宙返りを決めつつ、愛すべき親友が飛び出してきた。
スッタァーーーン!
と見事な着地を披露した憂は、スカートをぱんぱんと叩いて立ち上がる。
憂「……」
唯「……」
梓「……」
絶句した。
203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 10:40:00.62 ID:hRY/T06g0
正直、意味がわからない。
唯先輩も私の後ろで固まっている。
言葉を発することも憚れるような、微妙で珍妙で絶妙な空気。
私はこの沈黙に耐えられるだろうか?
梓「……」
唯「……」
憂「……」
「あ、あの!これは……」「うい、すっご~~い!」「う、憂、何してたの?」
三人同時に喋った。
誰が何を言ったのかまるで聞き取れない。
206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 10:49:59.56 ID:hRY/T06g0
梓「えーと、……落ち着きましょうか」
憂「う、うん」
唯「あ、ただいま憂」
憂「おかえり、お姉ちゃん」
梓「お邪魔してます、憂」
憂「いらっしゃい、梓ちゃん」
梓「……」
憂「……」
ぎこちねえ。
208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 10:53:29.81 ID:hRY/T06g0
唯「もう、返事がないからびっくりしちゃったよー」
憂「ご、ごめんね! ちょっと夢中になってて。聞こえなかったの」
梓「夢中って、憂、その……唯先輩の部屋で何を?」
憂「え!? あー……、散らかってたから掃除を、ね」
唯「そっかぁ、いつもありがとねー」
憂「ううん、こちらこそ!」
唯「こちらこそ?」
210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 10:58:35.66 ID:hRY/T06g0
憂「あ、私夕飯の支度があるから……」
唯「う、うい?」
憂「梓ちゃんも、自分の家だと思ってゆっくりしていってね!」
何故だか、脳裏に赤いリボンをつけた生首が過ぎった。
梓「あ、うん……」
そう言って憂は、足早に階段を降りていく。
梓「行っちゃいましたね」
唯「変な憂……」
218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 11:21:05.77 ID:hRY/T06g0
▼ SIDE 憂
紙一重だった。
お姉ちゃんだけならいくらでもごまかしは利くが、
梓ちゃんも一緒となると、そうもいかない。
若干、怪しい素振りになったかもしれないが、まぁ、及第点といったところだろうか。
憂「……泊まりかどうか聞くの忘れた」
まあいいか。
三人分の夕飯を準備しながら、思考する。
泊まりではないにしても、梓ちゃんの分を作っておけば
せっかくだから食べていってよという流れが自然に作れるのだから。
221 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 11:29:01.08 ID:hRY/T06g0
二人は今、何をしているんだろう。
お姉ちゃんの部屋で、二人きり……。
二人きり……。
憂「あっ」
力を入れすぎた為か、切った人参の欠片がものすごい勢いですっ飛んでいった。
……私には分かってしまうのだ。
梓ちゃんがお姉ちゃんを見る目。
あれは、恋する乙女の瞳。
223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 11:42:12.10 ID:hRY/T06g0
当然だ。
なにせお姉ちゃんは可愛いのだ。
だから、例え同性であったとしても、そういう感情を持ってしまうのは当たり前のこと。
もし、お姉ちゃんを見てそういう感情を抱かなかったとすれば、
そいつは、ケブカヒゲナガかイタヤモグリチビガのどちらかだろう。
225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 11:49:08.18 ID:hRY/T06g0
しかし、それだけではない。
確かにお姉ちゃんは可愛い。世界中どこを探してもお姉ちゃんの右に出る者はいない。
だが、それでも!!
梓ちゃんもまた、可愛いのだ。
見たか。あの高校生とは思えない身長と、甘々ロリフェイスを。
なんだ、あのツンデレの代名詞ともいえるつり目とキュートなツインテールは。誘惑してんのか。
今ゴキブリって言った奴。暗い夜道に気をつけろ。
憂「あ、お鍋吹き零れてる……」
私は考えるのをやめた。
230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 11:59:39.67 ID:hRY/T06g0
▼ SIDE 梓
唯先輩と私は、二人でギターの練習をしていた。
始めは唯先輩の部屋で練習していたのだけれど、
「お腹が空いたから下でやろう」
という超絶理論に従い、リビングでご飯を待ちながらの練習となった。
一階に下りても夕飯ができる時間は変わらないと思うのだけど、
そこは唯先輩らしいというかなんというか。
235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:08:31.53 ID:hRY/T06g0
練習はいい感じに進む。
教えれば教えた分だけ自分のものにしていく唯先輩は、やっぱり凄いと思う。
ただ……、記憶力がないというか集中力がないというか。
さすがに「Cってどう押さえるんだっけ」発言には絶句した。
238 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:13:34.28 ID:hRY/T06g0
唯「うい~、ごはんまだ~?」
憂「もうちょっとだから我慢して~」
憂も憂で、二階で会った時とは比較にならないほど上機嫌で料理をしている。
鼻歌が聞こえてきたかと思えば、それが『ふわふわ時間』だったりして、
唯先輩と顔を見合わせて微笑んだ。なんだかとても温かい気持ちだ。
しばらくして夕飯ができ、三人で食卓を囲む。
泊まらせて欲しいと告げると、憂は嬉しそうに承諾してくれた。
ごめんね憂。後で怖いイメージがあるなんて一瞬でも思っちゃって、ごめんね。
239 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:20:35.69 ID:hRY/T06g0
▼ SIDE 憂
食事を作り終え、梓ちゃんも交えて三人での夕飯。
そういえば、軽音部の皆さんが遊びにくることはあったけど、
梓ちゃん一人で泊まりに来たのは初めてだったかも。
お姉ちゃん達が部屋に篭っていた間は悶々としていた私だけど、
二人が下に降りてきてくれて、段々と気分は晴れていった。
上機嫌になった私は、料理をしながらついつい、
二人がそこに居ることも忘れて、鼻歌を歌ってしまっていた。
すぐに気付いて、恥ずかしいなぁ。なんて思っていたら、
私の歌にあわせるように二人が演奏してくれて、なんだかとっても温かい気分になれた。
242 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:24:56.74 ID:hRY/T06g0
食事中も会話は途切れず、お姉ちゃんも梓ちゃんも凄く楽しそう。
お姉ちゃんの話に爆笑しながら、ふとした違和感に気が付いて
自分のポケットを弄ると、そこにはお姉ちゃんの下着が入っていた。
憂「台無しだよ……」
聞こえない程度の声でつぶやいた。
245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:30:11.50 ID:hRY/T06g0
▼ SIDE 梓
夕飯を食べ終わり、唯先輩はごろごろ。憂は後片付け。
一方的に家事を任されて、憂は嫌じゃないのかなーって思ったこともあるけど、
決して一方的なんかじゃない。この二人にとってはこれがギブアンドテイクなのだ。
憂は、唯先輩に癒しをもらっているのだから。
247 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:34:13.81 ID:hRY/T06g0
梓「唯せんぱーい」
唯「な~あ~に~?」
梓「呼んでみただけです」
唯「あ~ず~にゃぁん」
梓「なんですかー?」
唯「呼んでみただけだよぅ」
梓「ふふっ」
唯「えへへ~」
後ろの方で奇声が聞こえた気がするけど、まぁ、気のせいだろう。
どうせなんだから、もう少しだけマッタリしていよう。
249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:43:10.65 ID:hRY/T06g0
▼ SIDE 憂
皆さん、聞いたでしょうか?
ご覧になりましたでしょうか?
たった今リビングで繰り広げられた光景を!
まさにマイナスイオン垂れ流し空間!
あの梓ちゃんが!
お姉ちゃんのペースで、名前を呼び合って、なんでもないってきゃはぁぁぁっ!!
「……」
悶えていたらお皿が一枚割れた。
251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:46:11.78 ID:hRY/T06g0
▼ SIDE 梓
このままじゃ私もダメになるなぁ~とか薄っすら思いながら、
テレビを観たり、ぼーっとしたりで、だらだらすること数時間。
ていうか、何回か意識飛んだ。
憂「お姉ちゃん、お風呂沸いたよー」
そんな声に意識を覚醒させ、憂の淹れてくれたお茶を口に含む。
ていうか、憂さん。あなた、私が泊まりに来ていても姉優先なのね……。
いや、別にいいんだけど。
253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:50:38.83 ID:hRY/T06g0
唯「ほいほーい」
梓「……」
唯「あ、そうだ」
梓「どうしたんですか?」
唯「あずにゃん、一緒に入る?」
梓「ブフォーッ!!」
盛大に吹いた。
254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:54:21.52 ID:hRY/T06g0
唯「ど、どうしたのあずにゃん、大丈夫!?」
梓「けほっ、けほっ」
やべえ。
梓「だ、大丈夫です。すみません」
甲斐甲斐しく、布巾で(私の口から)零れたお茶を拭く唯先輩。
ていうか、それはダメでしょう!?
合宿行った頃はさておき、今の私じゃ、確実に唯先輩を……
その、……そういう目で見てしまうだろうから。
唯「ねえねえ、一緒に入ろうよぅ」
梓「だ、ダメですってば!」
唯「どうしても?」
梓「どうしてもです」
257 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 12:57:13.55 ID:hRY/T06g0
唯「ぶー、あずにゃんのけち!」
梓「……なんて言われても入りませんから」
私は唯先輩から目を逸らし、テレビを観る(振りをする)
唯「……」
しばらくして唯先輩の声はしなくなった。
諦めて一人で入りにいったんだろう。
260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 13:02:12.91 ID:hRY/T06g0
梓「……全く、一緒になんて……恥ずかしいじゃないですか……」
そう呟きながら視線を戻すと、
唯「……」
ものすごい変な顔をしている唯先輩が隣にいた。
梓「……」
唯「……」
262 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 13:05:50.60 ID:hRY/T06g0
梓「……ふふっ。なんて顔してんですか」
唯「あずにゃんの負け!」
梓「にらめっこなんてしてませんよ」
唯「敗者にくちなしだよ!」
梓「死人ですからそれ」
唯「罰として一緒に入るのだ!」
梓「いやいやいや」
いやいやいや。
いやいやいやいやいやいやいや。
――気が付くと私は脱衣所に居た。
意思弱えなぁ。
263 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 13:13:13.38 ID:hRY/T06g0
うーむ。
流れに呑まれて、ここまで来てしまったけれど。
どうしても唯先輩の体に目がいってしまう。
いやいやいや。
おっさん思考じゃないか私。
別に、女の子同士でお風呂入るだけなんだから。
だから、なにも問題ないんだ。
うん、問題な―ガラッ!
梓「う、うわっ!! びっくりした……」
265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 13:17:43.22 ID:hRY/T06g0
脱衣所の扉を開いたのは、憂だった。
彼女は顔を半分だけ出して、覗き込むようにこちらを見ている。
怪し過ぎる挙動だ。
唯「どうしたのー、ういー?」
憂「お姉ちゃん……梓ちゃんと一緒に入るの?」
唯「そうだよ?」
憂「そうなんだ」
露骨に肩を落とす憂。
なんかもう、嫌な予感しかしない。
266 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 13:21:48.50 ID:hRY/T06g0
唯「憂も一緒に入る?」
憂「いいの!?」
いやいやいや。
そのリアクションはおかしいってばよ。
動揺のあまり語尾が忍者になった。
梓「で、でもほらあれですよ……」
考えろ。三人が納得する言い訳を考えるんだ私。
唯先輩と憂が納得できて、かつ私が一緒にお風呂に入らなくてもよくなる言い訳を。
脳内で精密なコンピュータの如く、次々と0と1の数字が舞い、刹那に計算式がはじき出された。
梓「三人だと風呂釜壊れますから」
考えつく限り最低の言い訳だった。
唯「壊れないよ」
憂「壊れないよ」
シンクロすんな平沢姉妹。
そんなことわかってるよ、私だって!
268 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 13:26:27.60 ID:hRY/T06g0
梓「いや、そうじゃなくて。 さすがに三人一緒だと狭いし、唯先輩と憂の二人で入って……」
憂「ダメだよ!!」
いやいやいや。
何故怒るのですか。
唯先輩と一緒に入りたいんじゃないんかい。ないんかい。
憂「お風呂が狭いなら……わ、私が拡張とかするから!」
梓「どうやって!?」
憂「するから!」
うい は なきそうだ!!
269 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 13:29:26.11 ID:hRY/T06g0
唯「まぁまぁ。それなら憂とあずにゃんの二人で入っ」
憂・梓「それはもっとダメ!!」
唯「ご、ごめんなさい……」
271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 13:37:35.01 ID:hRY/T06g0
▼ SIDE 憂
ルン!ルン!ルン! ぬウフフフ、たまげたかァああ!
ついにこの時がやってきた。
なんら違和感なく、一糸纏わぬ姿のお姉ちゃんをこの目に焼き付けられる瞬間だ!
え? 普段から一緒にお風呂入ればいいって?
やれやれだぜ。これだから無脊椎動物は。
梓ちゃんが一緒なのだ、これを忘れてもらっては困る。
元々、お姉ちゃんと梓ちゃんの二人だけで入る予定だったらしいけれど、
脱衣所覗き込んで上目遣い余裕でした。
272 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 13:40:34.36 ID:hRY/T06g0
憂「……」
……こんなキャラじゃないだろ。しっかりしろ私!
テンションが高まるあまり、自分を見失っていたようだ。
梓「えーと……、本当に三人で入るんですか?」
憂「そうだよ梓ちゃん、ほら脱いで」
唯「おっ風呂♪ おっ風呂♪ あずにゃんとおっ風呂♪ うーいとおっ風呂♪」
なんという破壊力。
歌いながら服を脱いでいくお姉ちゃん。
ここがヘヴンか。
273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 13:45:16.75 ID:hRY/T06g0
梓「なんなんですかその歌は」
憂「おっ風呂♪ おっ風呂♪ さあ脱げ今脱げ」
梓「う、ういまで……、って、ちょっと!じ、自分で脱ぐから!」
いけない。おててが暴走した。
これでは梓ちゃんに嫌われてしまう。
あ。そうだ。
ここから先は乙女の花園となります。
描写なんぞしようものなら、左右十本の指を一つ残らず
間接とは逆の方向に曲げた上、漬物石ですり潰しますのでご了承ください。
306 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 14:10:03.73 ID:hRY/T06g0
▼ SIDE 梓
さすがに湯船に三人は少し窮屈だったけれど、密着すれば入れるもので。
唯先輩も憂も細いし、背も高くないからなぁ。……自身の名誉の為に、一応私も。
憂のテンションが異様に高かったおかげで、私は意外と冷静で、
特に変な気を起こすこともなく、お風呂から上がることができた。
309 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 14:16:07.16 ID:hRY/T06g0
憂「はい、お姉ちゃん。イチゴ牛乳」
唯「おおぅ、さすが憂。気が利くねー」
憂「梓ちゃんもどうぞ」
梓「あ、ありがと」
腰に手を当て、三人で牛乳を飲み干す。
唯「ぷはー!」
憂「ぷはー!」
梓「……」
おっさんくせえ。
311 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 14:22:26.68 ID:hRY/T06g0
唯「……」
憂「……」
いや、そんな何かを期待するような眼差し向けられても。
私はやりませんから!!
決して私の心は折れませんからっ!!
唯「……」
憂「……」
梓「ぷ、ぷはー」
折れた。
唯「よくできましたー」
お風呂あがって一発目のスキンシップ。
なでなで。にゃあにゃあ。
313 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 14:28:00.86 ID:hRY/T06g0
唯「ういー、あずにゃん、ゲームでもやろっかー」
憂「私はいいよ?」
梓「いいですよ。なにやるんですか?」
唯「Wii」
梓「ああ、憂だけに」
憂「えっ?」
唯「えっ?」
梓「……ごめんなさい」
唯「……」
憂「……」
梓「ごめんなさいってばあああっ!」
唯「(あずにゃんかわいよあずにゃん)」
憂「(お姉ちゃんかわいいよお姉ちゃん)」
314 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 14:35:54.53 ID:hRY/T06g0
テレビ画面の中で、緑色の服を纏ったエルフの青年が
『しゃあああああ!』と回転しながらまっさかさまに落下していく。
唯「そっちじゃないよ!どこ行くんだよ!!」
梓「操作してるの唯先輩ですよ。完全に自爆じゃないですか」
憂「あ、子犬でてきた……」
唯「かわゆすのう かわゆすのう」
うっとりする二人。
梓「いや、二人ともサイズ!サイズよくみて!明らかにでかすぎるからこの子犬!!」
なんか、じゃれる振りして画面揺らしまくってるし。
315 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 14:41:41.68 ID:hRY/T06g0
唯「ああっ!また死んだ!!」
梓「近づきすぎなんですよ」
憂「梓ちゃんもね」
梓「うぐ」
ホームランバット携えたキャプテン・憂におもっきりしばかれた。
唯「むぅ、やっぱり憂は強いなー」
梓「……」
明らかに言わせようとしてますよね?
だけどもう『Wiiだけに』とか言いませんからね。
唯「言わないの?」
ぶっちゃけやがった。
梓「言いませんてば」
唯「ちぇー」
318 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 14:46:20.83 ID:hRY/T06g0
梓「次は負けないよ、憂」
憂「ふふっ、かかってらっしゃい……といいたいところだけど、もう二時半だよ?」
唯「あ、本当だっ!」
楽しい時間はあっという間というけれど。
私もまだ一時くらいかと思っていた。
梓「そういえば、明後日って勉強会やるんですよね?」
既に日付が変わっているので、正確には明日という。
321 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 14:52:43.57 ID:hRY/T06g0
憂「勉強会?」
唯「そうだよー。軽音部の皆でね」
憂「でも、期末までまだ一ヶ月はあるのに……」
梓「ムギ先輩がね。やりたいって言い出したの」
憂「ふーん、そうなんだ」
唯「憂も来る?」
憂「え、私軽音部じゃないけど……」
唯「いいんだよ。皆でやったほうが楽しいし、和ちゃんも誘ってあるんだー」
憂「そっか、それじゃあ私も行こうかな」
324 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 15:04:00.41 ID:hRY/T06g0
時刻は深夜三時過ぎ。
ベッドに三人は入りきれないので、布団敷いて三人で並んで寝ることになった。
唯先輩も憂も自分のベッドがあるんだから、私だけ布団でも良かったのだけど。
……どうして一緒に寝たがるかなこの人達は。
憂に至っては、横になった直後に唯先輩の布団に潜りこんでるし。
そしたら、敷かなくていいじゃん!!とか思ったり思わなかったり。
唯「ほら、あずにゃんもおいで」
梓「え、いや、私は……その」
325 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 15:10:34.21 ID:hRY/T06g0
唯「皆で寝た方が暖かいよぅ」
憂「お姉ちゃんのお布団、気持ち良いよ、梓ちゃん?」
唯先輩に甘えたい気持ちは勿論ある。
憂の言ってることも良く分かる。
今日は本当に楽しかったし、この二人に救われたと思ってる。
けれど、私はもう自分の気持ちに気付いてしまったから。
ちっぽけなプライドが、邪魔をする。
梓「私は、いいです……」
そう言うと、私は反対向きに寝返りを打って、唯先輩と憂を無理やり視界から外した。
326 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 15:20:32.68 ID:hRY/T06g0
憂「……」
憂は何も言わなかった。
或いは、姉のことに敏感な彼女だからこそ、
私の気持ちに気付いているのかもしれない。
唯「あずにゃん……」
梓「……」
沈黙が、場を支配する。
私は一体なにをやっているのか。
唯先輩なら、ここで私の布団に潜りこんできて、抱きしめてくれるだろう。
自ら拒絶しておきながら、そんな期待を抱いている自分が確かに居る。
330 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 15:33:02.29 ID:hRY/T06g0
傲慢だ。
唯先輩は女で、私も女だ。
確かに、超えてはいけない禁忌の壁がそこにある。
だから私の気持ちは唯先輩に伝わらない。伝えてはいけないのかもしれない。
けれど、今必要なのはそんなことじゃないだろう?
――だって、唯先輩が私を呼ぶ声は、あんなにも寂しそうだったじゃないか。
大好きな人を傷つけてまで、守りたいプライドなんて――。
梓「……き……です」
331 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 15:39:27.12 ID:hRY/T06g0
唯「……え?」
覚悟を決めて唯先輩の布団に潜り込む。
たった一言で良いんだ。
それだけで、きっとこの人は笑ってくれる。
だから――。
梓「好きです、唯先輩」
私はこの日初めて、自分から唯先輩を抱きしめた。
唯「……私もだよ、あずにゃん」
きっと、私の好きと、唯先輩の好きは、違うものだろう。
だけど、それでいい。
今はただ。
この人の笑顔をずっと隣で見ていたい。
一緒に居られれば、それで――。
334 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 15:45:28.08 ID:hRY/T06g0
すみません、一応おわりです。
終わらせ方を全く考えずに始めてしまったので、
最後ちょっと苦しいですねww
ここまで読んでくださった方、
保守してくださった方、ありがとうございました。
オマケとして、勉強会編が書き貯めてあるので、
読んでくださる方がいるようなら、このまま投下します。
340 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 15:54:22.21 ID:hRY/T06g0
時は流れて日曜日。
律「うわ~、でっけえ……」
澪「ムギ、本当にここでやるのか?」
紬「ええ。安心して、私たち以外には誰も居ないから」
梓「図書館を貸切……。あ、琴吹家私有物だから貸切とはいわないのか」
巨大な建造物を前に、あからさまに動揺する私。
憂「でも、軽音部じゃない私まで来ちゃってよかったんですか?」
梓「憂がいなかったら、私だけ試験範囲別になっちゃうでしょ」
律「そういうこと。 それに和や憂がいた方が効率あがるしな」
澪「和はまだ来てないみたいだけど……」
唯「ああ、和ちゃんちょっと遅れるらしいから。先にやってて欲しいって」
澪「そっか」
紬「それじゃ、皆あがって」
343 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 15:59:51.82 ID:hRY/T06g0
個人所有というには、あまりにも多い本棚と書物群を眺めつつ、
私たちは長方形のテーブルに案内された。
本当、ムギ先輩のご両親って、何してる人なんだろう。
澪「なるほど。確かにこれなら勉強も捗りそうだなー……って漫画を探すな!」
ポカッ!
律「なぜバレたし」
たんこぶを作った律先輩がぼやいた。
一同が席に着く。
配置は、左から律先輩、唯先輩、私。対面に澪先輩、和先輩(空席)、憂。
ムギ先輩は、その中間。律先輩の右手、澪先輩の左手になるように腰掛けた。
345 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:03:43.07 ID:hRY/T06g0
紬「さて」
徐に立ち上がるムギ先輩。
紬「皆聞いて」
律「どうしたんだ?」
紬「ここは図書館なの」
澪「うん、見ればわかるけど……」
紬「図書館で勉強するにあたり、社会では当然のルールが存在します」
梓「走らない、とか、騒がないとか、ですか?」
ていうか、なぜ敬語?
紬「そうよ梓ちゃん。さすがだわ」
そんなことで褒められても。
ムギ先輩が何を言おうとしているのかが分からない。
348 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:07:54.96 ID:hRY/T06g0
紬「琴吹家私有図書館で、守らなければならないルールはただ一つ」
唯「ムギちゃんなんかカッコいい」
紬「やん、唯ちゃんたら……」
梓「ルールはどうしたんですか」
紬「あら、いけない。私としたことが」
ムギ先輩もかわいい人だなぁ。と少しだけ頬が緩んだ。
紬「そう、そのルールというのは――」
執事らしき人が、図書館の照明を落とし、
スポットライトがムギ先輩を照らした。
いらん演出だ。
紬「この図書館では、決して笑ってはいけません」
ババーン!!
どこからともなく効果音が鳴り響いた。
重ねて言おう。
いらん演出だ。
350 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:13:46.47 ID:hRY/T06g0
律「……はぁ?」
憂「笑っては」
梓「いけない……?」
澪「要は静かにしろってことなんじゃないのか?」
紬「違うわ、澪ちゃん。多少騒ぎ立てしてもかまわないの。でも、笑ってはいけない」
唯「笑うと、どうなるの?」
紬「お仕置きが待ってるわ」
律「えー、なんだよそれー」
紬「そう言うと思ったわ。でもね、私もただ厳しいだけのゲームを強いる気はないの」
唯「と、いいますと?」
合いの手うめえなぁ。
紬「勉強会が終わった段階で、笑った数が一番少ない人には、ご褒美があります」
律「!!」
唯「!!」
分かりやすい二人が反応した。
354 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:17:53.72 ID:hRY/T06g0
紬「一番笑った回数の少ない人が、一番笑った回数が多い人を、一日だけ好きにしてかまわない」
律「!?」
澪「!?」
唯「?」
憂「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
全員、あと約一名が露骨に反応した。
357 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:23:09.19 ID:hRY/T06g0
律(自由にしていい、だと? なんて素敵なご褒美なんだ!
私が優勝すれば、澪に付きっ切りで勉強を見てもらうことも、あんな悪戯をすることも……いや。
最下位が澪と決まった訳ではない、か。しかし唯が最下位でも梓が最下位でも、それはそれで……。
となれば、この勝負、負けるわけにはいかない!)
澪(好きにしてかまわないって、どういうこと?
文字通りその人を好きにしてかまわないのかな?
好きに……。律に日ごろできないような、あんなことやこんなことをしてもらうことも……。
いやいやいや、何を考えているんだ私は!!
そして、ダメだ。最下位だけは絶対にダメだっ!!)
唯(好きにしてって言われてもなぁ……。
憂はいつも好き勝手してるし、うーん。
りっちゃんにみんなの前でネタやってもらったり、
澪ちゃんに可愛い服着せたり、あずにゃんに一日猫になってもらったり……あ。意外と楽しいかも!)
憂(お姉ちゃんと●●●●。お姉ちゃんと●●●●。お姉ちゃんと●●●●)
364 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:29:29.96 ID:hRY/T06g0
なんとなく、みんなの心の声が聞こえた気がした。
憂だけは、眼力というプロテクトが強固で、思考をトレースすることができなかった。
だが、私とて負けるわけにはいかない。
唯先輩が最下位になるように調節して、私が一切笑わなければ、ほら!
そこには私の目指した世界が――。
唯「ムギちゃんは参加しないの?」
紬「私は審判よ。皆の様子をずっと観察しなくてはならない、桃色のお仕事なの」
唯「そっかぁ。 あ、和ちゃんは? このルールまだ知らないんでしょ?」
紬「和さんには、既に連絡済みよ。そろそろ到着するんじゃないかしら」
照明がつき、ムギ先輩が時計を確認する。
そして――
紬「それでは、笑ってはいけない勉強会。スタートです」
決戦の火蓋は切って落とされた。
367 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:34:52.65 ID:hRY/T06g0
律「……」
澪「……」
唯「……」
梓「……」
憂「……」
澪「ま、まぁ、ムギから何か仕掛けてくるわけではなさそうだし、普通に勉強するか」
律「そうだな。じゃあ、数学からやろうぜ!」
唯「数学かぁ。私苦手なんだよねー」
憂「がんばって、お姉ちゃん!」
唯「がんばるよー!」
梓「憂、私たちもやろう」
憂「うん、そだね」
371 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:41:27.02 ID:hRY/T06g0
―――数分後。
澪「だから、そこは、xの共通因数を括って……」
唯「ふむふむ」
律「梓、これは?」
梓「んーと、この円の半径が1として、
sinθがy、cosθがxになるから……って、なんで私が先輩に教えるんですか!?」
律「かたいこというなよ」
ガラッ!
紬「あ、いらっしゃい、和さん」
373 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:47:02.54 ID:hRY/T06g0
律「お、来たみたいだな」
唯「和ちゃんおそ……、うぇ!?」
律「!!」
梓「!!」
何も言葉を発することなくドアから入ってきた和先輩。
和先輩といえば、メガネの良く似合う知的なイメージだ。
メガネの一つをとっても、それは見る人が見れば、お洒落アイテムといえる。
だから、和先輩だって、メガネを何種類か持っていたとしてもおかしくはないのだ。
だがしかし。
和先輩は、鼻眼鏡だった。
375 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:50:08.66 ID:hRY/T06g0
この間、刹那。
澪先輩と憂は、反対向きの席であるため、即座にダメージを負う事はなかった。
たかが、鼻眼鏡。
されど、鼻眼鏡。
ていうか、何か喋れ。 喋ってください。
和「……」
唯「……」
梓「……」
律「……」
和「……」
唯「……ブフッ!」
378 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:54:37.82 ID:hRY/T06g0
紬「唯ちゃん、アウトー」
やたらとかわいい声で、ムギ先輩がそう宣告すると、
サングラスをかけた黒服の、早い話がマ○リックスのエージェントだ。
エージェント数名が勢い良く現れ、唯先輩の両腕を掴み、ムギ先輩の方へと連行する。
唯「えええ、なになに!?」
エージェントはハリセンを取り出し、ムギ先輩に手渡した。
紬「唯ちゃん、こっちにお尻突き出して」
言うが早いか、エージェントは唯先輩がムギ先輩の方にお尻を向けるように
両手を反対側の壁に押し付けて固定した。
お尻にハリセン……だと?
おい待て、沢庵。
貴様、唯先輩になにを――。
379 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:58:36.68 ID:hRY/T06g0
紬「いくわよー」
唯「ひぃぃぃ!」
さわさわ。
唯「ひゃう!?」
律「え?」
憂「おい」
澪「……ムギ、何やってるんだ?」
紬「罰ゲームよ?」
憂「おい」
梓「いや、その手のハリセンにはなんの意味が……」
憂「おい」
律「なんで満足げな顔で唯の尻撫でくりまわしてんだ」
380 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 16:59:49.32 ID:hRY/T06g0
紬「叩くのかわいそうじゃない」
律「……」
憂「おい」
ここで、ついに私に限界が来た。
梓「く……ふふ……」
紬「あら、梓ちゃん。アウトよ?」
梓「ちょ!いや、だって!!待って待って待って!!」
だって憂が! 真正面で、憂が!!
なんか私にしか聞こえない程度の声で「おい」って言い続けてるし!!
言い訳を聞いてくれる筈もなく、現れるエージェント。
そして、唯先輩と同様の体勢をとらされる。
このエージェント達、力すげえ。まるで振りほどけない。
384 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:04:33.33 ID:hRY/T06g0
紬「さあ、いくわよ」
ハリセンを構えるムギ先輩。
梓「いやあああああ」
さわさわ。
梓「にゃっ!?」
律「……」
澪「やっぱり触るだけなのね」
セクハラから開放され、私と唯先輩は自分の席へと戻る。
しかし、戻ったところに、堂々と座っている鼻眼鏡の姿。
唯「!!」
梓「!!」
私はともかく、唯先輩は正面だからなぁ。
同情を禁じえない。ていうか、私も堪えるのに割と必死だ。
385 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:12:13.34 ID:hRY/T06g0
和「……」
相変わらず言葉を発しない和先輩。
唯「あ、あのね、和ちゃん」
和「……」
こくん、と首をかしげる鼻眼鏡。
唯「……」
ダメです、唯先輩。気持ちは分かりますけど、自殺行為です。
普段の私なら止めていただろうけれど、
唯先輩には最下位になって欲しいので、ここはぐっと堪えて。
がんばれ、鼻眼鏡。
386 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:18:13.25 ID:hRY/T06g0
唯「和ちゃん、……それ、外して……欲しいんだけど……」
和「……」
反対側にこくん、と首をかしげる鼻眼鏡。
唯「……くっ、ふふふ」
紬「唯ちゃん、アウト」
唯「もおぉぉぉ!!馬鹿ぁ!和ちゃんの馬鹿ぁぁぁ!!」
和「あはは、ごめんごめ……、あ!」
普通に笑ってるじゃねえか鼻眼鏡。
紬「和ちゃん、アウトー」
389 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:23:04.59 ID:hRY/T06g0
エージェントにより連れて行かれる唯先輩と和先輩。
唯先輩は二回目のおさわりタイムだ。
唯「ムギちゃん、やっぱりやめよう!? なんかおかしいよコレ!!」
さわさわ。
唯「やあぁん!」
羨まし……って、ムギ先輩、まさか最初からこれが目的なんじゃ……。
紬「和さんは……、軽音部ではないし、あんまり無茶できないわね」
そう言って、ムギ先輩は、和先輩の耳元に「ふうっ」と息を吹きかけた。
和「ひゃっ!?」
え、それだけ!?
なんか待遇違くない!?
軽音部じゃないから!?
嗚呼、軽音部って恐ろしい!!
392 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:30:47.96 ID:hRY/T06g0
――さらに数分後。
紬「斉藤、お茶をお願い」
斉「かしこまりました、紬お嬢様」
しばらくして、執事さんがトレイにティーカップを乗せて戻ってきた。
紬「さぁ、皆。お茶にしましょう」
唯「やったー!」
澪「よかった、とりあえず笑わなくて済んだ……」
ムギ先輩の手により、各自のテーブルにティーカップが置かれていく中、
律先輩のテーブルには、缶ビールが置かれた。
律「……」
澪「っ!!」
律「え、いや……」
紬「……」
393 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:34:27.96 ID:hRY/T06g0
唯「……」
梓「……」
律「ふふ……なんで、私だけ……」
紬「りっちゃん、アウト!」
律「え、ええ!? 今私笑ったか!? 澪、おい、笑ってないよな私!」
澪「……」
目を逸らす澪先輩。
律「澪の裏切りものおおお!!」
澪「……知らない」
396 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:37:56.05 ID:hRY/T06g0
律先輩は、エージェントに引っ張られていき、そして
紬「いくわよりっちゃぁん」
律「ええいもう触れ、好きなだけ触れ!」
スッパーーーン!!
律「痛ってええええ!!」
澪「ぶふぉっ!」
紬「あらあら。澪ちゃん、アウト!」
澪「いや、なんで……ふふ、律だけ……くくく」
紬「じゃあいくわよ、澪ちゃん」
澪「ひっ!」
澪先輩も唯先輩と私同様、おさわりの刑に処される。
絶対、人によって待遇変えてるだろあの沢庵。
398 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:40:31.84 ID:hRY/T06g0
ハリセンで叩かれた律先輩は、尻を押さえながら席に戻ると、
ただでは終わらんとばかりに、唯先輩の方を凝視する。
律「唯」
唯「……」
律「唯、飲む?」
突き出される缶ビール。
唯「……」
ぶんぶん!と首を左右に振る唯先輩。
律「澪」
澪「……」
律「飲む?」
澪「……いらない」
顔を背ける澪先輩。
403 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:43:46.23 ID:hRY/T06g0
律「唯」
唯「……」
ぷしゅ!と、蓋を開けて、缶ビールに口をつける律先輩。
律「あ、これポン酢だ」
どうやって入れたんだよ。
和「……」
澪「……」
唯「……ふはは」
紬「唯ちゃん?」
唯「……」
紬「唯ちゃん?」
唯「ごめんなさい」
紬「ダメ。アウトー」
唯「うわああああん!!」
唯先輩、弱いなー。
406 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:50:00.48 ID:hRY/T06g0
ここまでの成績。
律 1
澪 1
唯 3
憂 0
梓 1
和 1
――さらにさらに数分後。
紬「では、ゲームをしましょう」
律「勉強会じゃないのかよ」
紬「息抜きも必要よ」
唯「なにやるの、ムギちゃん?」
紬「これよ」
そう言ってムギ先輩が取り出したのは、可愛らしい花柄のトランプ。
407 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 17:55:13.93 ID:hRY/T06g0
紬「今から皆にはポーカーをしてもらいます」
憂「ポーカーですか……」
紬「人数が多いので、一人二順までよ」
カード交換のチャンスは二回きりということだ。
最初のカードの運に左右されると言っていい。
紬「最下位の人は、笑い数+3のペナルティに処されるから、がんばってね」
律「もはや笑ってはいけないとか関係ないな」
紬「では、配ります」
ムギ先輩の手により、各自に五枚ずつのカードが配られる。
当然伏せたままなので、相手のカードは見ることができない。
410 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 18:00:07.42 ID:hRY/T06g0
紬「りっちゃんから時計回りでお願い」
律「はいよ」
私も手元のカードを取る。
ふむ。
ダイヤの4、ハートの4のワンペアに、
あとはクローバーの9、スペードの2、ダイヤの6と、バラバラ、か。
ふと正面に目をやると、唯先輩が、ぷるぷると肩を震わせていた。
どうしたんだろうか。まさか、トランプに何か仕掛けが……?
唯「……ふ、くくく……」
紬「唯ちゃん、アウト」
唯「あははははははは!!」
アウトという声に、我慢する必要がなくなったのか、普通に爆笑しだす唯先輩。
411 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 18:04:59.53 ID:hRY/T06g0
憂「お、お姉ちゃん?」
唯「ふふ、だってこれは、ふはは、ずるいもん」
そういって、唯先輩はカードを見られないように伏せて、
おとなしくエージェントに連行された。
さわさわ。
一人だけ四回とか。頑張りすぎです唯先輩。
だけど……。だからこそ、これは、絶対に負けられない。
そういえば。
心なしか澪先輩と憂、それに和先輩も笑いを堪えているような……。
やっぱり、カードに何か仕掛けがあるのかな?
413 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 18:10:07.10 ID:hRY/T06g0
一順目の私の番。
当初の予定通り、揃っていない三枚を切り、新たに三枚を取る。
クローバーの2、ダイヤの8、スペードの8。
これでツーペア。二順目は2を捨ててフルハウス狙いかな。
最後に順番の回る唯先輩は、一枚だけを捨てた。
私と同じツーペアでのフルハウス狙いか、あるいはストレートやフラッシュだろうか。
二順目でカードを拾った律先輩が、ちょっと笑いそうになっていた。
やはりか。
カードに何か仕掛けてあるのは間違いない。
二順目で8か4を期待したが、アタリは来ず。
結局私はツーペアで上がりとなった。
435 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 19:56:27.58 ID:hRY/T06g0
紬「全員終わったかしら。それじゃあ、りっちゃんからカードを見せてもらえる?」
律「分かった」
律先輩がカードをオープンして、皆に見せる。
律「私は、3のワンペアだ」
開かれたカードの中に、私の手には一度も渡らなかった『絵札』が存在した。
絵札は、「ジャック」、「クイーン」、「キング」の三枚x四種の計十二枚。
これらには、通常その名のとおり「王子」「女王」「王様」が描かれているものだが。
436 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 19:58:24.42 ID:hRY/T06g0
律先輩の手持ちカード「クイーン」には
『ナガレワ・ロス』という歴史上の偉人(或いは異人)が描かれていた。
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lili::::::::::::::i. .: 、._,..ィ /::::::::l!
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X:r、ミ:::::::::::::::i. !::::::::::ri:::::i `
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r'r ―‐-、ヽ:::::::::::ミi、 !:::::::::::::ミi:::li
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. ヽミ:::::::::::ヾヽ. ヾ::::::/l!
ナガレワ・ロス [Nagarewa Ross]
(1968~ アメリカ)
437 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 19:59:19.18 ID:hRY/T06g0
澪「……」
憂「……」
和「……」
唯「……」
梓「……ふふ」
紬「梓ちゃん、アウト」
梓「いや、これ誰ですか!! 何やった人なんですか!? 知らないですよ、こんなファニーな名前の偉人!!」
連行される私。
なるほど。だから皆笑いを堪えていたのか。
私の手には絵札が無かったから、他の人に高確率で絵札が渡っていたのは頷ける。
ていうか、耐性もてなかった分、私だけ不利だ。
でも、クイーンはもう大丈夫。残る絵札はジャックとキング。
気を引き締めな「ひゃん!」……いと。
お尻をなでなでされた。
今更だけどこの罰ゲームどこかおかしいと思う。
440 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 20:05:17.93 ID:hRY/T06g0
紬「じゃあ、次は澪ちゃんね」
澪「私は……クローバーのフラッシュ」
律「なっ!?」
憂「澪さんすごーい」
手札を公開した澪先輩。
言葉通り、クローバーが五枚揃っていた。
むぅ。この時点で私の勝ちは無しか。
しかし、澪先輩のカードの中には、
またしても『ナガレワ・ロス』が混入されていた。
441 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 20:09:14.54 ID:hRY/T06g0
梓「……」
澪「……」
憂「……」
和「……」
律「……ふふっ、お前……こいつでフラッシュ作るなよ……」
唯「……ふ」
紬「唯ちゃん、りっちゃん、アウトぉ♪」
唯「ああああっ!!」
律「ちくしょおおおおっ!!」
和「唯、本当弱いわね……」
それは私も思ってたこと。
だけど、そんなことより。
憂、強え!!
未だに0回とか。いや、ちょくちょく笑いそうにはなってるみたいなんだけど。
憂をここまでさせるのは、やはり勝利への執念か。
憂「お姉ちゃん……」
否。姉への執念だ。
444 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 20:14:03.94 ID:hRY/T06g0
前方ではおしおきされる唯先輩と律先輩。
唯先輩に至っては、すでに慣れてきている感じさえする。
紬「……唯ちゃん」
唯「ふぇ?」
紬「十回超えたら、おしおきもパワーアップするから」
唯「まじですか」
紬「大まじです♪」
嬉しそうだなぁ、ムギ先輩。
445 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 20:17:46.92 ID:hRY/T06g0
紬「次は、和さんよ」
和「私も律と同じ。ワンペアよ」
カードがオープンされる。
確率的に見て、ジャックかキングのいずれかが紛れ込んでいてもおかしくない。
私は、ゆっくりとオープンされたカードに目をやった。
揃っているのは5。この段階で最下位は律先輩となる。
446 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 20:21:30.59 ID:hRY/T06g0
そして私は、そこに混入されている絵札を見つけてしまった。
,.-─ ─-、─-、
, イ)ィ -─ ──- 、ミヽ
ノ /,.-‐'"´ `ヾj ii / Λ
,イ// ^ヽj(二フ'"´ ̄`ヾ、ノイ{
ノ/,/ミ三ニヲ´ ゙、ノi!
{V /ミ三二,イ , -─ Yソ
レ'/三二彡イ .:ィこラ ;:こラ j{
V;;;::. ;ヲヾ!V ー '′ i ー ' ソ
Vニミ( 入 、 r j ,′
ヾミ、`ゝ ` ー--‐'ゞニ<‐-イ
ヽ ヽ -''ニニ‐ /
| `、 ⌒ ,/
| > ---- r‐'´
ヽ_ |
ヽ _ _ 」
ググレカス [ gugurecus ]
(西暦一世紀前半~没年不明)
448 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 20:25:44.37 ID:hRY/T06g0
律「……」
唯「……」
梓「……」
澪「……」
憂「……」
和「……」
どっちだよ!?
ジャックなのかキングなのかどっちだよ!?
わかんないよ!!
だけど、クイーンの時とは違う。
覚悟していた分だけ、ダメージは低い。
奇しくも全員セーフとなった。
449 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 20:30:46.36 ID:hRY/T06g0
紬「じゃあ次、憂ちゃんね」
憂「はい。ええと、私も一緒で、7のワンペアです」
憂のカードは、7のワンペア。
『ググレカス』と『ナガレワ・ロス』が一枚ずつ混入していたが、
そこにキングの姿は無かった。
いや、『ググレカス』がキングなのかもしれないけど。
……となると、残り一種の絵札を所持するのは唯先輩か。
450 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 20:35:58.17 ID:hRY/T06g0
紬「次は、梓ちゃんね」
梓「はい」
私はゆっくりとカードをオープン。
絵札もないし、数字だけのツーペアだ。
これほどこのゲームに優しい上がり方はあるまい。
和「ツーペア。ということは、唯か律のどちらかが最下位になるわね」
律「唯、私はお前を信じてる」
唯「任せて、りっちゃん」
紬「では、最後。唯ちゃんお願い」
唯「私はねー」
唯先輩は、自分の手札を裏返す。
大丈夫。覚悟は十分できてる。
たとえどんな偉人が来ても、私は耐え切れる!
451 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 20:39:57.08 ID:hRY/T06g0
唯「ポーション高杉のフォーカード」
,r;;;;ミミミミミミヽ,,_ ,r;;;;ミミミミミミヽ,,_ ,r;;;;ミミミミミミヽ,,_ ,r;;;;ミミミミミミヽ,,_
,i':rミミミミミミミミミミミミ`ミ;;, ,i':rミミミミミミミミミミミミ`ミ;;, ,i':rミミミミミミミミミミミミ`ミ;;, ,i':rミミミミミミミミミミミミ`ミ;;,
彡 ミ ミ;;;i 彡 ミ ミ;;;i 彡 ミ ミ;;;i 彡 ミ ミ;;;i
彡 ,,,,,、 ,,,,、、 ミ;;;! 彡 ,,,,,、 ,,,,、、 ミ;;;! 彡 ,,,,,、 ,,,,、、 ミ;;;! 彡 ,,,,,、 ,,,,、、 ミ;;;!
,ゞi" ̄ フ‐! ̄~~|-ゞ, ,ゞi" ̄ フ‐! ̄~~|-ゞ, ,ゞi" ̄ フ‐! ̄~~|-ゞ, ,ゞi" ̄ フ‐! ̄~~|-ゞ,
ヾi `ー‐'、 ,ゝ--、' 〉;r' ヾi `ー‐'、 ,ゝ--、' 〉;r' ヾi `ー‐'、 ,ゝ--、' 〉;r' ヾi `ー‐'、 ,ゝ--、' 〉;r'
`,| / "ii" ヽ |ノ `,| / "ii" ヽ |ノ `,| / "ii" ヽ |ノ `,| / "ii" ヽ |ノ
't ←―→ )/イ 't ←―→ )/イ 't ←―→ )/イ 't ←―→ )/イ
ヽ、 _,/ λ、 ヽ、 _,/ λ、 ヽ、 _,/ λ、 ヽ、 _,/ λ、
_,,ノ|、  ̄//// \、 _,,ノ|、  ̄//// \、 _,,ノ|、  ̄//// \、 _,,ノ|、  ̄//// \、
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ポーション高杉【P.Takasugi】
(2006~ 日本)
アッサムティー吹いた。
456 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 20:45:42.08 ID:hRY/T06g0
紬「全員、アウトね」
ああ、唯先輩は、一発目からこれに出くわしていたのか。
カードを開けば、おんなじ顔した東洋のおっさんが四人で腕組んでコンニチワ。
そりゃ笑うよ。ずるいもん。
フォーカードって何気に凄いけど、
四人の英雄(ポーション高杉)のインパクトが強すぎてそれについて誰も触れない不思議。
お尻をさわさわされたり、耳たぶを甘噛みされたり、
息を吹きかけられたり、ハリセンでしばかれたりして、
各々が自分の席へと戻る。
461 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:02:19.55 ID:hRY/T06g0
すいません、さるさん食らってましたw
私も席に戻ろうとしたところで、
隣の席(唯先輩)のテーブルにおおっぴろげにされている四人の勇者と目が合った。
やべえ。
梓「あの、唯先輩」
唯「なんだい、あずにゃん?」
梓「それ」
唯「……どれ?」
梓「その、……四人の高杉さん」
唯「…………」
467 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:06:36.86 ID:hRY/T06g0
梓「そ……れ、片付けて……もらえませ……っく……ふふ」
唯「……ふふ」
紬「唯ちゃん、梓ちゃん、アウト」
梓「だああああ、もう、なんですぐ伏せてくれなかったんですかあぁぁ!!」
唯「だ、誰か笑うと思って……」
梓「自爆してるじゃないですか! もう、馬鹿!唯先輩の馬鹿ぁぁぁ!!大好き!!」
澪「……ふふっ」
紬「澪ちゃん、アウト」
澪「梓、爽やかに告白しないでくれ」
もはや泥試合だった。
476 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:14:55.01 ID:hRY/T06g0
ここまでの成績
律 3
澪 3
唯 7
憂 1
梓 4
和 2
紬「ポーカーの最下位はりっちゃんだから……ペナルティはこうなるわね」
律 6
澪 3
唯 7
憂 1
梓 4
和 2
唯「りっちゃん!! りっちゃんなら追いついてくれるって信じてた!」
律「うわあああ、最下位は嫌だぁぁっ!!」
澪「(律が最下位なら、私が頑張れば……)」
ていうか。
ていうか、地味にやばい。
唯先輩が最下位独走なのは願ってもない展開だけれど、
憂と和先輩が強すぎる。
二人の笑いのツボを見つけ出して、ピンポイントで攻撃でもしない限り、私に勝ち目がない。
479 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:19:57.18 ID:hRY/T06g0
紬「次は、大貧民をしましょう」
澪「トランプは……そのままなの?」
紬「ええ」
律「キツいなー」
紬「それに加えて、この大貧民では、日本語を禁止するわ」
唯「え?」
紬「会話は英語のみ。日本語を喋ったら、その時点で笑い数+1のペナルティを科すわ」
和「なるほど。遊び感覚で英語を勉強するのね。ステキな案だわ」
憂「絶対違うと思いますよ」
483 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:23:14.96 ID:hRY/T06g0
英語のみというのはなかなかきつい。
それ以前に。ひとつ聞いておかなくてはならないことがある。
笑いそうになるかもしれないけど、誰かが聞かなきゃゲームにならないのだ。
梓「質問、いいですか?」
紬「どうぞ、梓ちゃん」
梓「……絵札、の強さの順位がわかりません」
ナガレワ・ロス、ググレカス、ポーション高杉。
寧ろ、分かる方がおかしいと思う。
紬「ナガレワ・ロス<ポーション高杉<ググレカスよ」
梓「なるほど」
488 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:26:47.91 ID:hRY/T06g0
ナガレワ・ロスがジャックで、
ググレカスがキングだったか。
……あれ?
律「え?」
澪「……」
憂「……」
唯「……」
和「……」
梓「……」
誰も突っ込まないのなら、私がいきますよ?
そう考えたところで、澪先輩が口を開く。
澪「ムギ」
紬「なにかしら、澪ちゃん」
492 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:32:28.64 ID:hRY/T06g0
澪「ポーション高杉さんは、その……クイーンなのか?」
律先輩が、おい、やめろ!という目つきで澪先輩を睨む。
紬「Yes」
澪「いや、これ普通のおっさんだろ!!ていうか、僅か三年で老けすぎだろ!!」
憂「……」
唯「……」
和「……」
梓「……」
律「……くっ」
紬「りっちゃん、アウトー♪」
律「バカ澪ぉぉぉぉ!!言わなくていいのにッ!!」
スパーン!!
律「ってえええぇぇぇ!!」
律先輩、実質笑った回数は4回なのに、最下位タイ。
一人だけハリセン。
なんだか可哀想になってきた。
495 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:39:48.93 ID:hRY/T06g0
紬「他に質問がなければ、カード配るわね」
そして、偉人トランプ第二回戦『日本語禁止の大貧民』が開始された。
六人だから、一人当たり手持ちカード八枚か九枚ということになる。
短期決戦になるだろう。
紬「それでは開始します。 今度は、澪ちゃんから、反時計回りにお願いね」
澪「わかった」
紬「澪ちゃん、アウトー」
澪「あっ!!」
和「……ふふっ」
不覚にも。
かわいいなぁ、澪先輩。
日本語禁止って言われたばっかりなのに。
紬「和さんも、アウトね」
和「日本語ダメって言われたばかりじゃないの」
澪「そうだっ――ひゃっ!?」
さわさわ。
501 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:48:29.21 ID:hRY/T06g0
ゲーム終わんないで、皆さんもうちょっと頑張ってください。
英語で言おうとしたけど、間違えたくないので心の中だけにとどめた。
おしおきされた澪先輩と和先輩が戻り、大貧民再開。
澪先輩が最初に捨てたカードは、『3』を二枚。
和先輩は、『4』を飛ばして『5』を二枚。
憂は『9』を二枚。
ちくしょう。8出そうと思ったのに。
梓「pass」
唯「pass too !! I don't ...card」
梓「……」
澪「……」
和「……」
憂「……」
505 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:55:04.24 ID:hRY/T06g0
唯「りっちゃん's turn!」
律「……」
憂「ふふっ」
梓「……ふ」
紬「憂ちゃん、梓ちゃん、アウトー」
梓「うわああああ!!もう、やめてくださいよ唯先輩!!」
憂「お姉ちゃん、haveくらい分かるでしょ……」
せっかく憂が笑ったのに、私まで笑ってしまった。
隣で自信満々に『私は使わない』とか言い出すんだもん。
はむっ。
憂「きゃん!?」
さわさわ。
梓「ひっ!?……、あ、ちょっと慣れてきた」
507 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:58:03.07 ID:hRY/T06g0
しかし、マズイ。
こういう種目では、逆に唯先輩の英語力が脅威だ。
再開された直後。
律先輩が無言で『ポーション高杉』を二枚出し、即座に唯先輩が撃沈した。
ここまでの成績
律 7
澪 4
唯 8
憂 2
梓 5
和 3
508 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 21:59:40.42 ID:hRY/T06g0
律「All members pass?(全員パスでいいのか?)」
カタコトだなー。
澪「yes」
和「yes」
憂「yes」
唯「yeah」
梓「yes」
511 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:05:53.35 ID:hRY/T06g0
律「Please turn me for a long time!(長い間私を回してください)」
澪「ぶふぉっ!」
和「く、ふふ」
憂「……ふふ」
梓「……」
唯「?」
ずっと私のターン!と言おうとしたんだろうか。
紬「澪ちゃん、和ちゃん、憂ちゃん、アウトー」
なんてことだ。
このゲームは、頭が悪い方が有利ではないか。
唯先輩に至っては、多分律先輩が何を言ったのかすらわかってないし。
513 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:09:19.15 ID:hRY/T06g0
おしおきされた三人が戻り、ゲーム再開。
律先輩の出したカードは、『2』。
『2』……だと?
律「……」
ニヤリ、と笑みを浮かべる律先輩。
紬「りっちゃん、アウトー」
律「えええええ!?」
律「今のはそういう笑いじゃなくて、ほら、勝ちを確信してほくそ笑んだだけ……いってええええっ!」
見事な自爆です、律先輩。
澪「……く、ふふ」
紬「澪ちゃんアウトー」
澪「いや、今のは仕方ない」
さわさわ
澪「ひっ!……もう、なんなんだよこの罰ゲーム!」
517 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:14:51.94 ID:hRY/T06g0
律先輩が『2』を出したところから再開。
律「All members pass?(全員パスでいいんだよな?)」
唯「xxxx」
梓「……」
澪「……」
憂「……」
和「……」
521 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:17:26.05 ID:hRY/T06g0
律「Is there someone?(誰かいるかー?)」
唯「shit」
梓「……ふふっ」
澪「……く、ふふ」
憂「……っ!!」
和「……ふふ」
紬「梓ちゃん、澪ちゃん、憂ちゃん、和ちゃん、アウトー」
澪「唯!お前意味わかって言ってんのか!?」
憂「わ、私耐えましたよ、今!?」
紬「だーめ♪」
さわさわ。
木霊する少女達の悲鳴。
526 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:21:59.51 ID:hRY/T06g0
再び再開。
律先輩が出したカードは、『A』
澪「(律の手持ちは残り五枚……強いカードから捨てて革命上がりか……?)」
ていうか、律先輩手持ちカード強すぎませんか?
『ポーション高杉』二枚に、『2』を一枚、『A』が一枚って。
『A』の後出せるのは『2』か、『ジョーカー』のみだが……。
あれ? そういえば、このトランプ、ジョーカーないのかな?
和「(Aから捨てるということは、2で追撃されてもそれを返せるカードを所持しているということ、かしら?)」
憂「(律さんが革命狙いなら、ジョーカー出されることを承知で、弱くなる『2』を捨てておいた方が得策……)」
澪「……」
和「……」
憂「……」
532 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:27:13.62 ID:hRY/T06g0
沈黙する三人。
私はそもそも、2もジョーカーも持っていないので、出しようが無い。
唯「(誰も出さないのかな?)」
ここで、憂が『2』を出した。
律「(勝ったな)」
律「It's your defeat(お前らの負けだぜ)」
バシィッ!
律先輩は、その上に一枚のカードを叩きつける。
538 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:30:57.01 ID:hRY/T06g0
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スッテーン・コ・ロリーン[Steen kou rorin]
(1872~1962 インド)
梓「……」
澪「……」
和「……」
憂「……」
唯「……」
え?これジョーカー?
541 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:34:24.45 ID:hRY/T06g0
律「……」
唯「……ふふっ」
紬「唯ちゃん、アウト~♪」
唯「いや、あの……絵札と一緒の柄だし。さっきのポーカーでこの人いなかったし」
必死に突っ込みにまわる唯先輩。
正直、かわいい。
澪「く……ふふ」
紬「澪ちゃんも、アウトー」
澪「ああ、もう!唯!ポーカーで居なかったとか言わなくていいだろ!?」
ここまでの成績
律 8
澪 8
唯 9
憂 4
梓 6
和 5
紬「唯ちゃん、リーチよ?」
唯「もう笑わないもん」
545 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:39:48.72 ID:hRY/T06g0
三度、再開。
ジョーカーを出した律先輩の手持ちカードは四枚。
これはおそらく、革命だろうと思う。
微妙なカードばかりの私にとっては、結構助かる。
思ったとおり、律先輩は、四枚のカードを突きつけた。
律「Revolution!!YEAH!!」
出されたカードは、『4』が四枚。
律先輩はこれで一位抜けし、強弱が反転する。
澪「(上がったのが律で助かったな)」
澪先輩の出したカードは、A。
和「……」
553 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:44:17.86 ID:hRY/T06g0
和先輩の出したカードは、ググレカス。
分かってはいても、この絵札を不意に出されると結構来るものがある。
憂「……」
続いて、憂がポーション高杉を出したので、
梓「……」
私がナガレワ・ロスをそっと重ねた。
558 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:48:20.67 ID:hRY/T06g0
唯「……!」
さあ、ムリせずに笑ってください、唯先輩。
梓「your turn, Ms. Yui」
そう言って、私は優雅にレモンティーを口に含み、余裕を見せつける。
唯「I am stupid」
梓「ぶふぉっ!」
思わぬカウンターパンチが返ってきてレモンティー吹いた。
澪「……ふふ」
和「……くっ」
律「……ふ、あははは!」
紬「梓ちゃん、澪ちゃん、和ちゃん、りっちゃん、アウトー」
梓「あの、唯先輩。そういうのやめてもらっていいですかね?」
I'mを丁寧にI amって言ってるところがまた手ごわい。
559 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:51:43.28 ID:hRY/T06g0
唯「ほえ?」
律「お前なー、意味わかってないのか?」
唯「ほら、なんとなく知ってる単語を」
澪「知ってるだけで意味はわかってないのな……」
さらに木霊する少女達の声にならない叫び。
ここまでの成績
律 9
澪 9
唯 9
憂 4
梓 7
和 6
唯先輩独走かと思いきや、肉薄してきた。
何気に私もやばい。
562 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:54:16.45 ID:hRY/T06g0
なかなか進まないカードゲームが、再開される。
唯先輩がナガレワ・ロスを覆い隠すように10を捨てる。
よくやったと言わざるを得ない。
……いや、ナガレワ・ロス捨てたの私だけど。
澪先輩が9、和先輩が8、憂が7と順当に捨てていき、私も6を重ねる。
続いて、唯先輩が5と4を飛ばして3を捨てた。
564 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:56:23.84 ID:hRY/T06g0
強さが逆転しているので、ジョー……スッテーン・コ・ロリーンを除けば最強カー……ド。
スッテーン・コ・ロリーン……。
梓「……く、ふふっ」
紬「梓ちゃん、アウトー」
澪「どうした梓、思い出し笑いか?」
梓「すみません、ちょっとジョーカーの名前がツボりました」
唯「ふはは……」
紬「唯ちゃん、アウト♪」
唯「あ。……笑っちゃいけないの忘れてた」
紛れも無くステューピッドだよあんた。
566 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 22:58:10.94 ID:hRY/T06g0
連行される私と唯先輩。
紬「梓ちゃんも夢の十回が見えてきたわね」
さわさわ。
梓「にゃぁっ!?」
冷静に考えると、これ普通に訴えていいレベルのセクハラですよね?
紬「唯ちゃんは10回目なので、おしおきレベルパワーアップよ」
唯「えー、なんか嫌だな……」
568 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:01:54.95 ID:hRY/T06g0
一足先に開放された私は、その場にとどまり、唯先輩の罰を見届ける。
ムギ先輩は、唯先輩のスカートの裾を摘むと、その素敵な花園に顔面を突っ込んだ。
唯「ちょ、ちょっとムギちゃ――」
憂「アァイ ディドゥ ストップゥ スタァァティングッ!!」
その刹那。
カタコトで『私は止まり始めました』と行動に矛盾する言葉を発しながら電光石火の如く飛来する一陣の風。
琴吹家所有図書館より発生したハリケーン『ウイ』が私の正面を掠め、
三人のエージェントを薙倒し、ムギ先輩を押しのけて、
唯先輩のスカートの中の楽園へまっしぐら。
憂「ふああああんっ!!」
もうだめだこの子。
573 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:06:16.91 ID:hRY/T06g0
唯「え、ええええ!?憂!?」
憂「ハッ!? いや、クンカクンカあの、これは……」
とりあえずスカートの中から顔を出してから喋れ。
律「……」
澪「……」
和「……」
ぽかーん、と口をあけて見ているギャラリー達。
横たわるエージェント。
本棚に頭からめり込むムギ先輩。
三文字で表現するならカオス。時空を超えたのはダオス。
梓「……」
私も動揺しているらしかった。
578 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:10:48.14 ID:hRY/T06g0
憂「違うの、ハグハグ。お姉ちゃん」
唯「いや、あの……、うい~……」
憂「お姉ちゃんがクンカクンカひどいことされるって思ったら、ハァハァ体が勝手に……その」
唯「う、うい、あのね。……恥ずかしいから、まずは……離れて欲しいんだけど」
頬を赤らめながら、弱々しくスカートを押さえて抵抗する唯先輩。
それでもスカートの中から顔を出さない憂選手。
転んでもただでは起きない淑女っぷりは賞賛に値する。
そしてなにより、その体勢で会話を続けてる二人はとてもシュールだった。
581 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:13:33.26 ID:hRY/T06g0
梓「く、……ふふ」
紬「梓ちゃん、アウト!」
復活はええ!?
ていうか、これだけ収拾つかなくなってるのに、続けるんスか!?
まじっスか!?
ようやく、意識を取り戻したギャラリーにより、憂は楽園から現実へと引き戻され、
ムギ先輩が、事態を収めるべく、マイクを手に取った。
この至近距離でマイクいらねえだろ。
紬「ごめんなさい、やりすぎました」
584 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:17:33.60 ID:hRY/T06g0
気まずくなるかと思っていた平沢姉妹は、特に何事も無かったかのように会話をしていた。
以下、仲直りの軌跡。
憂「ほっんとうに、ごめんなさいお姉ちゃん!」
唯「いいよ~ういー。 憂は私を助けようとしてくれたんだもんね」
違うと思います。
結局。
また憂に暴走されても困るので、
以後の罰ゲームはセクハラ以外で行うという条約がムギ先輩と私の間で密に結ばれた。
585 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:21:34.20 ID:hRY/T06g0
そんなワケで。
私がハリセンでしばかれるところから、ゲーム再開となった。
あ、しまった。墓穴を掘ったかもしれnスパーーーン!!
梓「うにゃああっ!?」
いてえ!
ここまでの成績
律 9
澪 9
唯 10
憂 4
梓 9 ←
和 6
優勝どころかブービー賞タイじゃねえかよ。
梓「……なんかもう、大貧民どこまでやったか記憶にないんですけど」
澪「……ああ、うん。私もだ」
和「唯が3を出したところよ」
律「おおー」
唯「おおー」
梓「おおー」
冷静だなぁ、鼻眼鏡。
588 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:26:26.39 ID:hRY/T06g0
もう何度目かわからないけれど、再開。
唯「ええと、じゃあ出せる人いないなら私からだよね?」
そうですね。
紬「唯ちゃん」
唯「ほい?」
紬「アウト♪」
唯「わ、笑ってないよ!?」
紬「ノンノンノン」
唯「Oh...」
紬「No No No No No No No No No No」
唯「カレー CHOPPiLi ライス」
律・紬・梓「TAPPULi!!」
あんだけ収拾つかなくなった後なのに、ノリいいなぁ、みんな。
澪「……(乗り遅れた)」
589 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:31:57.03 ID:hRY/T06g0
紬「唯ちゃん、English Pleaseよ♪」
心なしかムギ先輩のキャラが変わってきた気がする。
唯「そうでしたっ!!」
ぶっちゃけ私も忘れてた。
連行される唯先輩。今度はハリセンの刑に処されるのだ。
紬「いくわよー」
唯「こ、こいっ!」
紬「せーの!」
スパーーン!
唯「い゛でっ!!」
591 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:35:12.64 ID:hRY/T06g0
爽やかな罰ゲームに変わった、『笑ってはいけない勉強会』は
もはや何一つ勉強なんかしていなかったが、
この後も更なる盛り上がりを見せ、私も憂も、ムギ先輩を含めた先輩達も
思い思いに、この馬鹿らしいゲームを満喫しているようだった。
終始最下位を直走った唯先輩と、ブービーが定位置になった私による激戦が繰り広げられたかと思えば、
食事時についに笑いの限界を向かえた律先輩が、華麗な追い上げを見せ、澪先輩が巻き込まれて、じゃれあっていた。
トップ争いは冷静な和先輩と、姉の為にがんばる健気な憂の二人に絞られ、
私は18時くらいに勝負を投げた。
そして22時前、いよいよゲームはエピローグを迎える。
596 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:40:59.82 ID:hRY/T06g0
紬「みんな、お疲れ様。勉強会はこれでおしまいよ」
律「な、長かったぁ~」
和「勉強、殆どしてなかったけれどね」
澪「まぁ、たまにはいいんじゃない? それなりに楽しめたし」
和「……そうね。唯も楽しそうだったし」
唯「りっちゃん、お尻痛い」
律「ああ、私もだ……」
澪「唯と律は笑いすぎなんだよ」
唯「でもでも、あずにゃんも同じくらい笑ってたよ?」
澪「梓は殆どお前が笑わせてただろ」
597 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:49:27.72 ID:hRY/T06g0
唯「だってぇ~。あずにゃんかわいくてさぁ」
梓「もう、反論する気力もないです」
唯「あ~ず~にゃぁぁん♪」
ぎゅっ。
これが、戦いを終えた後の達成感というやつだろうか。
ずっと気を張っていた為か、
一ヶ月ぶりくらいに思える唯先輩のスキンシップがとても心地よく感じる。
私にとっては、このスキンシップこそがご褒美なのかもしれない。
梓「にゃぁ……」
思わず声が漏れた。
599 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:55:10.84 ID:hRY/T06g0
紬「さて、それじゃあ最終的な順位を発表するわね」
紬「各自思うところがあるとは思うけど、勝負は勝負。 罰ゲームは罰ゲームよ」
ムギ先輩はそう言って、成績表をホワイトボードに貼り付けた。
最終成績
1位 憂 15
2位 和 19
3位 澪 27
4位 律 43
5位 梓 44
6位 唯 47
憂「やったよ、お姉ちゃんっ!!」
唯「がんばったね、ういっ!!」
がしっ!
キラキラエフェクトを周囲に撒き散らして、抱き合う姉妹。
ついさっきまで姉のスカートに顔をつっこんでいた妹の所業とは思えない。
澪「結局、ご褒美も罰ゲームも、平沢家で行われるんだな」
律「まぁ、いいんじゃないか? あの二人、幸せそうだし」
なんで爽やかに締めようとしてんだこの人たち。
600 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/29(土) 23:56:14.50 ID:hRY/T06g0
律「梓も惜しかったな」
梓「嫌な言い方しないでくださいよ。私も律先輩も、最下位じゃなかったことを喜ぶべきなんです」
そして心の中で唯先輩にごめんなさい。
和「でも単純に、お尻叩かれた回数は、律が一番多いのよね」
律「んぁ!? そういわれてみればそうだな……。なんだろう、この釈然としない――」
律・梓「お尻の痛み」
澪「ハモるなよ」
そう、この類稀に見る名勝負が私たちに残した大切なモノ。
――それは、お尻の痛みに他ならなかった。
梓「もう二度とやりませんからね!?」
おわり。
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