1 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:07:52.42 ID:XjDU3HX70
ゆきのんが直死の魔眼に目覚めちゃう話だよ
文章下手だけど許してね
ロード・エルメロイII世の事件簿9 case.冠位決議(中)【書籍】
posted with amazlet at 19.04.20
TYPE-MOONBOOKS (2018-12-31)
売り上げランキング: 82
売り上げランキング: 82
2 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:09:12.86 ID:XjDU3HX70
どこか分からない、暗い空間
天井も底も地平線も見えない深淵に私は浮かんでいた
雪乃「ここは・・・?」
ふと後ろを振り向くと、比企谷くんが無表情で突っ立っていた
雪乃「比企谷くん?ねぇ、比企谷くん、ねぇってば!」
何も答えず、ただ私の向こう側を見つめる比企谷くんを見て、私は不安になった
雪乃「耳まで腐ってしまったの?無視しないでちょうだい」
すると突然比企谷くんが吸い寄せられるように私から離れていった
いや、正確には私が吸い寄せられたのだ
雪乃「・・・って・・・待って!」
雪乃「比企谷くん、私を置いて行かないで!」
だんだん遠くなる比企谷くんに向かって走っても、それでもどんどん距離は離れていく
真後ろに何か気持ち悪いものが見えて、心の底から生理的な恐怖が湧いてきた
雪乃「いやっ・・・助けて、比企谷くん!」
5 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:11:17.92 ID:XjDU3HX70
_____________________
知らない天井が見えている
雪乃「ここは・・・?」
体が言うことを聞かず、自分で起き上がることができない
殺風景の部屋
どうやらここは病院の一室のようだ。私の腕には点滴が刺さっていた
雪乃「私、なんで・・・」
そうだ、思い出した
6 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:13:07.99 ID:XjDU3HX70
__________________
学校からの帰り道のことだった
その日、不運にも午後から雨が降り出して、帰る頃には大雨になっていた
八幡「もうこれ以上雨宿りしても激しくなるだけだろ。傘、貸してやるから早く帰れ」
雪乃「あなたはどうするのよ?今日は自転車もないのでしょう?」
比企谷くんは雨が降るのを見越して、歩きで来たらしい
八幡「濡れながら帰るさ。水も滴るイイ男、って言うの?憧れてたから」
雪乃「詰まらないわ。目が腐った男が濡れただけじゃない。そんな不審者は逮捕されるわよ」
八幡「ひでぇな。濡れてる人見たら普通同情するだろ」
雪乃「人、ならね」
こんな下らない会話が、雨のせいで憂鬱だった私を少しだけ元気づけてくれた
8 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:14:57.14 ID:XjDU3HX70
雪乃「・・・その気遣いは有難いのだけれど、断るわ」
歩いて帰れる距離とはいえ片道20分程度かかる道のりを、傘なしで濡れながら帰らせるのは気が引けた
八幡「じゃあ、俺がお前を家まで送ってやる。で、俺が傘を持ってそのまま帰る」
雪乃「嫌よ。あなたと一緒の傘に入るなんて死んでも御免よ」
八幡「じゃあお前どうやって帰るの?」
既に下校時刻は過ぎていて一般生徒はもう校舎にはいない
外もほとんど真っ暗だ
雪乃「・・・誠に遺憾であるのだれど、あなたに送ってもらうことにするわ」
八幡「うん、素直でよろしい」
してやったりの顔でうんうんな態度で言われたので、睨み付けてやった
本当にムカつくわね
9 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:16:28.79 ID:XjDU3HX70
雪乃「ねぇ、もうちょっとそっちに寄ってくれないかしら」
八幡「限界だって。肩ちょっと濡れてるし」
雪乃「ヒキガエルくんは濡れても平気でしょう?」
八幡「お前なぁ・・・」
つい心にもない矛盾したことを言ってしまうのは、私の心に余裕がないからだ
肩と肩が触れ合う距離。それを意識するだけで私の心拍数は一気に上がってしまう
なんで比企谷くんはこんな美少女がすぐ隣に居ても平然としていられるのかしら?
イライラとドキドキで余裕がなかった
11 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:17:59.43 ID:XjDU3HX70
雪乃「あれ、ねこ・・・?」
何故か横断歩道の真ん中で縮こまってる子猫がいた
冷たい雨に打たれて凍えているようだ
その先に見えるのは、大きなトラックだった
歩道信号の色は青だったので、急かさなくても保護できたはずだった・・・
ところがあのトラック、向こう側の赤信号を無視して走っているではないか
あのままだと、子猫がトラックに轢かれてしまう
気が付いたら体が勝手に動いていた
八幡「お、おい・・・雪ノ下?」
走ってくる私に驚いて逃げ去る猫の姿を最後に、私の意識は途切れた
八幡「おい、雪ノ下!返事しろよ!」
八幡「なんでだよ!なんでなんだよぉぉぉぉぉぉ!」
12 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:19:49.71 ID:XjDU3HX70
___________________
私は事故に遇った、と思う
多分私はあのままトラックに撥ねられたのだろう
我ながら、バカなことをしたと思う。でも、ちゃんと生きてる
体がうまく動かないということは、随分と眠っていたのだろうか?
ふと横を見ると、大きな窓が見えた。そこから見える、ここは千葉なのかと疑うほどの殺風景
殺風景な部屋から見える黄昏が、この世界には私しかいないのだろうかと錯覚させる
そして、窓の前にある花瓶に目が映った。窓から見える景色のインパクトが大きすぎて、気付かなかった
花瓶には花が生けてあった・・・ん?
何か、大きな違和感を感じる
13 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:21:39.70 ID:XjDU3HX70
雪乃「え・・・?」
なんとも言葉では表現しづらい違和感
言葉で表現できなくても、脳が理解していた
死が見える、と言うのが一番しっくり来る
私には、この花の死が見える。その花の死が分かる
理解できているのに、私は混乱していた
恐る恐る、その花の死に触れると、花は枯れ、あっけなく散った
突然怖くなって、恐ろしくなって、身悶えた
雪乃「いや・・・怖い・・・」
気が付いたら私は医者と看護婦達に囲まれていた
どうやら私が目覚めたことに気付いたらしい。そんな彼らの声が怯えた私には届かない
彼らの死が見える。見えてしまう。見たくないのに
雪乃「いや・・・見たくないっ・・・!」
こんな眼は、いらない
グチャ
14 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:23:25.55 ID:XjDU3HX70
________________
休日、俺は一人部屋で考え事をしていた
雪ノ下のことだ。雪ノ下が事故に遇い、昏睡状態になってから二か月が経っていた
いまだに俺は雪ノ下を救えなかったことに後悔している
何故あの時雪ノ下が飛び出したのかは知っている。轢かれそうな子猫がいたからだ
轢いたトラックの運転手も、寝ていて信号に気付かなかったらしい
何もかも不運だった。でも、彼女はまだ死んでいない
だから待ってやるのだ。あいつが戻ってきたときに、いつも通りに挨拶できるように
15 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:24:11.26 ID:XjDU3HX70
そんな事を考えていると、不意に俺の携帯が鳴った
マヌケな着信音が俺を自我の底から現実に引き戻す
平塚先生か。またどうせロクなことにならないだろうな、と思って一度は無視をしようとした
かと言って無視し続けたら後が怖いので仕方なく出ることにした
八幡「平塚先生ですか?何の用ですか?」
平塚『ついさっき、病院から雪ノ下が目を覚ましたとの連絡が入った』
平塚先生が早口で、重々しくも喜ばしそうに言った
八幡「え・・・?マジですか!?」
ついつい叫んでしまった
平塚『マジだ。今すぐ逢いに行くといい。由比ヶ浜にも連絡しておいた」
18 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:25:55.43 ID:XjDU3HX70
_____________________
看護婦「比企谷くんと、由比ヶ浜さんですよね?」
結衣「はい!今すぐ雪乃さんに会えますか?」
看護婦「はい。ですが、少し前まで錯乱状態だったので、あまり刺激しないようにお願いします」
八幡「錯乱・・・?」
そう言って俺たちは早々とその場を後にして、雪ノ下の病室に向かった
俺は少し緊張しながら病室の重たい扉を開けた
雪乃「・・・誰?」
久しぶりに聞いた、雪ノ下の冷たい声
ベッドに近寄った俺と由比ヶ浜は絶句してしまった
何故なら、ベッドに座る雪ノ下の目には包帯が巻かれていたからである
つまり、雪ノ下は包帯で目隠しをされていた
19 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:26:43.47 ID:XjDU3HX70
雪乃「誰なの?」
さっきよりも小さくて、消え入りそうな声だった
物も言わない侵入者に恐怖を感じたのだろう
八幡「俺だよ。比企谷八幡だよ」
結衣「ゆきのん、久しぶり」
雪乃「比企谷くん・・・由比ヶ浜さん・・・?」
疑問形だったが、その言葉からは安堵が感じられた
気まずい。こういう時ってどうしたらいいのだろうか
30秒ぐらい三人はお互いを見つめて(雪ノ下は目が見えていないのだが)いた
八幡「調子、どうだ?」
雪乃「今は平気よ。今朝方に目覚めたときは、起き上がることすらできなかったけれど」
雪ノ下はいつも通りに戻っていた
20 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:28:22.48 ID:XjDU3HX70
その様子を聞いて安心したかのように、俯いていた由比ヶ浜が顔を上げて喋りかける
結衣「ゆきのん、その、えっと」
喋りかけようとしたのはいいものの、何を話せばいいのか分からないようだ
感動の再開、といった空気ではなかった。でも俺たちは嬉しかった
雪乃「どうしたの由比ヶ浜さん?いつもならあなたなら私に抱き付くなりすると思うのだけれど?」
ふふっ、と雪ノ下は笑って優しく話しかけてきた
結衣「ゆき、のん・・・!」
結衣「うええぇぇぇん!心配したんだよっ!ゆきのんのバカーーー!!!」
抑えていた感情が爆発したかのように、由比ヶ浜は大泣きしながら雪ノ下に抱き付いた
雪乃「ごめんなさい、心配をかけて・・・。でも、生きてあなた達と再会できてよかった・・・」
二人の様子を見て、俺もつい頬の筋肉が緩んでしまう
21 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:29:42.43 ID:XjDU3HX70
_______________
八幡「で、事故のことは覚えているのか?」
雪乃「えぇ、はっきりと・・・覚えているわ」
八幡「で、その目の包帯はどうした?」
俺と由比ヶ浜が知りたかったことをストレートに訊いてやった
さっきまで泣いていた由比ヶ浜もピシッっと真顔になって聞き入る
雪乃「その、えっと・・・」
いつもの雪ノ下らしくない、歯切れの悪さだった。その様子を見て俺たちは一層不安になる
結衣・八幡「・・・・」
雪乃「別に、失明したわけではないの。だから安心して」
空気を読んだ雪ノ下が忙しく言った
22 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:30:29.29 ID:XjDU3HX70
八幡「なら、なんで」
雪乃「その、目覚めたときにちょっと混乱してしまって。それで思わず自分で目を潰そうとしてしまったらしいの」
なんか雪ノ下の雰囲気となんだか違和感のある説明で、それは嘘だと分かった
雪ノ下が嘘をつくほどの知られたくないことなのだろうか
八幡「目が見えないわけでもないし、そのうち包帯も取れるんだろ?」
雪乃「え、えぇ・・・」
八幡「じゃぁ、そういうことにしといてやるよ」
静かに聞いていた由比ヶ浜もしぶしぶ納得したようだった
23 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:31:42.66 ID:XjDU3HX70
それから俺たちは暗くなるまでの2時間ほど、他愛のない話をしたりして過ごした
途中から雪ノ下の嫌味も復活して、二か月ぶりにヒキニートくんと呼ばれた
喜ばしいことなのか、喜ばしくないことのか・・・
雪乃「今日は、ありがとう」
結衣「いいって!そんなことより、ゆきのんが元気になって私嬉しいよ!」
雪乃「早く復帰できるように、努力するわ」
八幡「また明日も来る」
そう言い残して、俺たちは病室を後にした
26 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:33:49.54 ID:XjDU3HX70
______________________
私はこの部屋に一人でいるのは、好きではない
雪乃「はぁ・・・」
つい私らしくもない疲れと不安が混じった溜息が漏れてしまう
疲れと不安の原因はこの眼だ
包帯で巻かれてまったく見えていないのにもかかわらず、そこに死が見える
結局、眼を潰しても見えてしまうものは見えてしまうのだろう
いくら自我が強い私でも、この眼と一生付き合っていく自信はない
見たくもないものが見え、触れてしまうだけでそれは死ぬ
本当のことを言うと、比企谷くんと由比ヶ浜さんが部屋に入ってきたときは気が気ではなかった
28 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:34:48.81 ID:XjDU3HX70
目は見えないのに、そこに違和感が二つあったからだ
雪乃「私、これからどうすればいいのかしら・・・」
これからの人生に悔やんでいるいると、突然強引に病室の扉が開けられた
陽乃「ゆっきのちゃーん♪大丈夫~!?すごく心配したんだよ私!」
聞き覚えのある、というか覚えたくもない声が聞こえた
雪乃「姉さん?」
面倒な人が来た。今日はいろいろな人が来てくれた中、姉さんだけは来なかったので少し安心していたのに・・・
30 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:35:50.93 ID:XjDU3HX70
陽乃「え、何。私歓迎されてない?」
雪乃「はぁ・・・。久しぶり、姉さん。どうしてこんな時間に来たのかしら?」
比企谷くんと由比ヶ浜さんが帰ってからそれほど経っていない。恐らく七時過ぎといったところか
陽乃「雪乃ちゃんと二人きりで話したいことがあってね」
先ほどの気の抜けた声色とは少し違った、冷めた声
雪乃「何かしら?」
陽乃「雪乃ちゃん、目覚めてから何か体に変化あった?」
雪乃「別に何もないわ」
陽乃「じゃあ、その目の包帯どうしたの?」
心を見透かされてるようで気持ち悪かった
ギクッと一瞬なったが、あくまでも平常を装うため、冷たい声で言ってやった
雪乃「ちょっと混乱して、目に手が当たっただけよ」
陽乃「ふぅ~ん?」
31 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:37:04.03 ID:XjDU3HX70
雪乃「・・・」
陽乃「じゃあ、ぶっちゃけて言うよ。雪乃ちゃん、目覚めてから変なものが見えてるでしょ?」
雪乃「・・・なぜそれを・・・?」
殆ど呆けた声で聞き返した私の質問を姉さんが茶化して返した
陽乃「あはははっは!もう、雪乃ちゃんったら分かりやすいわ!あははは」
私の気も知らず大爆笑した姉さんを許すまじと、人生で数えるほどしかしたことのない、舌打ちをお見舞いしてやった
陽乃「おおっと、そんなに怒らないでよ。真面目に話すから」
耳元で声がしたので心底凍えた。この人は本当に人間なのだろうか
陽乃「で、ぶっちゃけ見えてるんでしょう?死が」
死が、という部分を強調して姉さんが言った。そこまで知っていたのね・・・
雪乃「・・・ええ、そうよ。うんざりしていたところよ」
陽乃「やっぱりね」
33 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:38:09.59 ID:XjDU3HX70
雪乃「姉さん、知っているのでしょう?私の体に何が起きたの?私は元に戻るの!?」
すがるように言った私を見て憐れと思ったのか、いつもより優しい声で姉さんは話を続けた
陽乃「あなたのその眼は、元には戻らない。一生そのまま」
雪乃「・・・」
陽乃「元には戻らない。でもその代わりに私が雪乃ちゃんに、その眼に使い方を教えてあげる」
陽乃「その眼が使いこなせるようになれば、あなたの苦しみは無くなるはずだよ」
雪乃「どういうこと?」
陽乃「その眼、ちゃんと制御できれば、見たくないものを見えないようにすることができるよ」
雪乃「本当?」
陽乃「うん、私は嘘をつかない」
一言で矛盾してるわよ、姉さん。でも姉さんの話を聞いて安心した
この忌々しい眼とうまく付き合っていける術を教えてくれるのだ
この人に助けられるのは癪だけど、そうするしかない
34 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:39:17.84 ID:XjDU3HX70
雪乃「で、姉さんはなんでそんなにも詳しいの?」
陽乃「ま、順番に説明していくから。ちゃんと聞いてるんだよ」
雪乃「・・・」
陽乃「まず、雪乃ちゃんのその眼について。その眼は≪直死の魔眼≫と呼ばれるものね」
雪乃「ちょくしの、まがん・・・?」
陽乃「雪乃ちゃんが身をもって体験してると思うから分かると思うけど、その眼には死が見えるの」
嫌というほど見た。初めは発狂してしまいそうになるほど。人の死が見えるなんて、感じたことのない気味の悪い感覚
今は少し慣れたけど、それでも今目の前に見える姉さんの死が、私の心を少しずつ蝕んでいた
陽乃「多分、死が線とか点になって見えていると思うよ。説明しづらいけど」
雪乃「ええ、分かるわ」
うんうん、と嬉しそうにうなずく姉さん。私は今も気が気ではないのだけれど
35 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:40:17.72 ID:XjDU3HX70
陽乃「その線を切るようになぞれば、材質や硬さに関係なく、その部分から先が死んでバッサリと切れる」
陽乃「その点を突けば、その物を殺すことができる」
殺す、ということを私は理解できていた
物を殺すということ・・・私は今朝方に花を突いただけでそれを理解してしまっていた
陽乃「大体わかった?直死の魔眼についてはこれぐらいだよ」
雪乃「ええ、分かったわ」
陽乃「次に、なんで私がこんなにも詳しいのかというとだねぇ」
ゴクリ、と喉を鳴らしながら真剣に聞き入る。姉さんも口調はいつも通りだが雰囲気から普段とは違うシリアスな感じがする
陽乃「雪ノ下家は古くから、この力を使って異形の化け物たちを退治してきたの」
雪乃「は?」
さすがにその言葉には耳を疑った。化け物?古くから?
雪ノ下家はそんなにもファンタジーな家柄だったのか
36 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:41:00.94 ID:XjDU3HX70
陽乃「ありえない、って顔してるね。でもホントだよ」
雪乃「化け物って・・・」
陽乃「化け物と言っても色々だったみたいだね。幽霊だったり、怪物だったり、怪獣だったり」
雪乃「ちょっと待って姉さん。幽霊って本当にいるの?」
陽乃「私は見たことないけど、いると思うよ」
陽乃「雪乃ちゃんのその眼なら、見えるはずだけど?」
その言葉には笑みが含まれていたが、反抗する余裕もなかった
さーっと顔から血の気が引くのが自分でもわかった
幽霊・・・。
陽乃「そういえば雪乃ちゃん、昔から幽霊が苦手だったよね?」
雪乃「い、いえ。そんなことないわ。」
陽乃「ふふふ、まあいいや。話を戻すよ」
雪乃「・・・」
37 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:42:37.51 ID:XjDU3HX70
陽乃「元々、直死の魔眼は雪ノ下家の中でも才能が強い子が生まれ持って来るものなの」
雪乃「じゃあ、なぜ私が?」
陽乃「雪乃ちゃん、事故に遇って死にかけたでしょ?
雪ノ下家の人間が臨死体験をすると、直死の魔眼に目覚める場合があるの」
雪乃「・・・」
陽乃「元々、直死の魔眼というのは、死が見える眼と死が理解できる脳がセットで機能するんだよ」
陽乃「死が見える眼、というのは特定の血筋を持つ人間なら誰にでも遺伝するんだよ」
雪乃「それでは、姉さんも?」
陽乃「見たことはないけど、私にも幽霊は見えるはずだよ」
雪乃「・・・」
39 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:44:38.32 ID:XjDU3HX70
陽乃「で、すごーく稀に生まれたときから死が理解できる人がいるの。でも私と雪乃ちゃんはそうじゃなかった」
陽乃「雪乃ちゃんの場合は臨死体験を通して二か月間の昏睡状態の間に、脳が死を理解できるようになったの」
雪乃「・・・」
陽乃「これで私からの説明は終わりだよ」
大体把握した。私に眼に特殊な力が宿ってしまったこと、雪ノ下家が実はとんでもない家系だったこと
私にも幽霊が見えるということ・・・。
とんでもないことに巻き込まれてしまったわ・・・。私はこれからどうなるのかしら
そんな私の不安を読み取ったのか、姉さんが気を遣ってくれた
陽乃「ダイジョブダイジョブ。眼の使い方を教えるだけで、別に雪乃ちゃんに化け物と闘え、とか言わないから」
雪乃「・・・それなら、いいのだけれど」
40 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:47:13.61 ID:XjDU3HX70
陽乃「ごめんね。変なことに巻き込んで」
雪乃「それで、雪ノ下家はその事実を隠してきたの?」
陽乃「いや、そうではないよ。今の時代化け物退治とか他がやってくれるから、もう雪ノ下家にこの真実は必要ないだろう
っていう方針みたいだよ」
雪乃「・・・」
いろいろな情報が頭の中を入り乱れて、混乱しそうだった
でもとりあえず、この眼の使い方さえ知れば元の生活に戻れる、というだけで安心できる。
陽乃「・・・それじゃ、話終わったし、私は帰るね。また明日来るから、お大事にね!」
と言うと姉さんはさっさと帰って行った。
42 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:48:51.84 ID:XjDU3HX70
_____________________
その夜、私は魘されていた
雪乃「うっ・・・うぐっ!?」
首を絞められる夢
なんとか振り払っても、その大きな灰色の手は再び私に迫ってくる
雪乃「なぜ・・・こっちへ来ないで!」
目が見えなくても感じる。そこに死がある
???「お前が、ほちぃぃぃぃぃい」
水気の感じられない枯れた低い声。とても恐ろしくなって、その場で足がすくんでしまった
雪乃「来ないで!」
???「んほぉぉぉぉおおぉ!?」
そこにある花瓶を投げつけると、それはうめき声をあげて消えた
雪乃「はぁ・・・はぁ・・・」
43 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:49:59.36 ID:XjDU3HX70
___________________
雪乃「・・・っ!?」
飛び上がって、あれが夢だと理解したら気が楽になった
そう、あれはただの悪夢なのよ。疲れのせいよ
目が塞がれているせいで、今が夜なのか昼なのかすら曖昧だった
44 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:50:51.07 ID:XjDU3HX70
_________________________
八幡「小町ー?準備できたかー?」
小町「準備完了だよっ!」
土曜日の昼過ぎ、そう言って小町が俺の自転車の後部に乗る
昨日、雪ノ下が目覚めたことを聞いて小町が涙を浮かべて喜んでいたなぁ
だから今日は小町も連れて雪ノ下のお見舞いに行く。由比ヶ浜も来るはずだ
八幡「うっし、それじゃ行くぞ」
自転車を必死で漕ぎ、最高速で上り坂をのぼる
小町「お兄ちゃん、何時になく張り切ってるねー!そんなに雪乃さんに会いたいのー?」
八幡「ばっかお前、そんなんじゃ・・・」
言葉に詰まってしまう。会いたくないと言ったら嘘になるし、会いたいと言うのもなんか恥ずかしい
小町「お兄ちゃん、照れちゃってー」
八幡「うっせ、振り落とされんなよ!」
45 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:52:55.86 ID:XjDU3HX70
________________
八幡「うす、いるかー?雪ノ下」
雪乃「いるわよ。来てくれて、ありがとう」
由比ヶ浜「げ、ヒッキーだ」
八幡「なんでお前あからさまに嫌そうな顔してんの?俺を殺したいの?」
小町「ゆっきのさーん!会いに来ましたよー!」
雪乃「その声は、小町さんね。小町さんも来てくれてありがとう」
雪ノ下が心の底から嬉しそうに言った。目は隠れてて分かりづらいが、笑っているのだろう
それよりも、雪ノ下が昨日よりも元気そうでなによりだった
昨日はどこか、思い詰めていた様子だったからな
46 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:55:00.62 ID:XjDU3HX70
4人で他愛もない話をし続けて、途中から小町が用事があると帰って行った
5時過ぎになると、由比ヶ浜もそれに倣うようにして帰って行った
今、病室には俺と雪ノ下の二人だけ
由比ヶ浜がいなくなってから、しばらく沈黙が続いていた
八幡「なあ、雪ノ下・・・」
雪乃「誰かしら?私目が見えないから誰なのかわからないわ」
八幡「おい、目が見えないからって言われたからマジだと思って死にたくなったじゃねぇか」
雪乃「比企谷くんね。まだいたのね。もういなくなったのかと思ってたわ。目が見えないから気付かなかった」
八幡「その『目が見えないから』を盾に俺のガラスのハートをかち割ってくんのやめろよ。死にたくなるだろうが」
雪乃「ふふっ。変わらないわね」
八幡「・・・お前こそな」
再び心地よい沈黙が始まった
47 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:56:58.50 ID:XjDU3HX70
まてまて、俺さっきなにか大事なことを雪ノ下の訊こうとしたよな。忘れちまった
沈黙の間、雪ノ下は何をしているのかと言うと、ただ沈黙しているだけ
目が見えないので本も読めないらしい
・・・でも、黄昏を背にベッドに寄りかかってただ沈黙しているだけの盲目の少女は、とても美しい絵に思えた
黙っていれば、美少女なのだ
雪乃「今、心の中で何か失礼なことを考えているわね」
八幡「なぜ分かったんだ!?お前エスパーか?」
雪乃「あら、適当を言っただけなのだけれど。図星だったようね」
雪ノ下が楽しそうに笑う。正直、とても可愛いと思った
ふと時計を見ると、もうすでに6時過ぎだった
八幡「雪ノ下。俺、そろそろ帰るけど」
立ちながらそういうと、雪ノ下が俺の袖を引っ張ってきた
48 :以下、VIPがお送りします:2014/04/07(月) 23:59:33.40 ID:XjDU3HX70
雪乃「・・・」
八幡「・・・不安なのか?」
雪ノ下はコクンコクンと、頬を赤らめながら言った
八幡「・・・。分かった。お前が眠るまで、俺がずっと傍にいてやる。安心しとけ」
ぶっきら棒に言ったが、当の雪ノ下はとても嬉しそうにこくこくと頷いていた
雪乃「それより、あの、えっと・・・」
雪ノ下が俺の袖をくいくいと引っ張りながら言った
なにこの可愛い生き物
八幡「ん、なんだ?何かほしいのヵ?」
俺もつい動揺して、へんな口調しなってしまった
49 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:00:17.75 ID:os+Ljem30
雪乃「その、出来れば、本を読み聞かせてほしいのだけれど・・・」
ぼそっと言った雪ノ下の顔は耳まで真っ赤だったと思う
八幡「い、いいよ?俺もすることないし」
雪乃「その、机の上に置いてあると思う。238ページから読んでほしいのだけれど」
八幡「お、おう」
そうしてしばらく雪ノ下に本を読み聞かせてやった
途中、噛んでしまうたびに雪ノ下がプッと笑う声が聞こえて、なんだか複雑な気分になる
でも、こういうのもいいかもしれなと思っていた時には、雪ノ下は既に眠っていた
そして気づいたら、俺の雪ノ下のベッドに突伏するようにして眠ってしまっていた
50 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:01:09.64 ID:os+Ljem30
____________________
何やら寒気を感じて、私は起きた
何か右側に違和感があったので、とりあえずベシベシと叩いてみた
八幡「んあ・・・?雪ノ下?」
どうやら私が眠ってしまった後に、比企谷くんも居眠りをしてしまったらしい
雪乃「あら、まだいたの?」
でもこの寒気は彼のせいではないと感じた
八幡「あ!しまった~、寝ちまったか」
雪乃「ねえ、今何時?」
八幡「えーっと、二時過ぎだな」
丑三つ時、というやつだ。それを聞くとゾッと寒気が押し寄せてきた
51 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:01:54.65 ID:os+Ljem30
八幡「つーか、さっきから肌寒いな。すげぇひんやり」
ブルゥと言うような呻き声をあげていたので、思わず笑いそうになった
雪乃「あなたも感じるのね、この寒気」
どうやらただ寒いだけではないとうのは二人とも分かっていた
ヒシ・・・ヒシ・・・ヒシ
扉の向こうから、何かがこちらに近づいてくる足音が聞こえる
52 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:02:33.55 ID:os+Ljem30
雪乃「ひっ・・・!?」
八幡「な、なんだこの足音!?」
またあの恐怖が蘇る。あんな夢は、早く忘れてしまいたかったのに
雪乃「いや、いや、いや・・・・来ないで・・・」
心底怯える私の体を、大きな暖かい身体が覆った
八幡「安心しろ、大丈夫だから・・・」
安心させるような、優しい声には少しの震えが感じられた
そして、その大きくなった足音は一瞬ピタリと止んで
大きな病室の扉は、ゆっくりと開かれた
53 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:04:24.87 ID:os+Ljem30
八幡「・・・なんだありゃ!?」
八幡の大きな怯えた声に、思わず私も震え上がってしまう
目は包帯に隠されているせいで、侵入してきたものがどんな姿をしているのかも分からない。見えるのは、死だけ
でも、その呻き声にだけは聞き覚えがあった
???「うぅぅうぅぅうぅぅぅ」
八幡「あれは・・・人間なのか?」
54 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:06:49.92 ID:os+Ljem30
_________________
八幡「あれは・・・人間なのか?」
俺から見ても、大よそ人間とは思えないナリをしていた。別に今ので自分を卑下したわけではない
灰色の肌に、骨がくっきり浮き出るぐらいに細い体、体中あちこちに黒い焦げ跡がある
焼死体なのだろうか。まるでそいつは生きているようには見えなかった
そしてそいつは、体に綻びかけた包帯を不器用に巻いていた
直感的に、こいつはヤバイと思った
こいつから逃げないと、殺される
でも、入り口は奴に塞がれている。そしてそいつはゆっくり、ゆっくり俺たちのほうへと歩み寄ってくる
雪ノ下は俺の胸元をがっちり掴んで、体を丸くして震えていた
どうする・・・・?
55 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:08:08.83 ID:os+Ljem30
八幡「雪ノ下、安心しろ。だからちょっとの間、離れててくれ」
うん、と返事を震える声でして、俺の体から離れた雪ノ下は、ベッドの上でへたっと倒れた
イチかバチか、俺はそいつとのリアルファイトに持ち込んだ
でももし相手が幽霊だったらどうしようか
ぐっと拳に力を込めて、風のようにヤツの懐に潜り込んで、重い一撃を食らわせてやった
実際は、震える足を抑えながらヘナヘナを走り寄って顔面にパンチを食らわせた、と表現するのが正しい
効果は抜群だったようだ
56 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:10:07.69 ID:os+Ljem30
???「がおおおおおお!?」
そいつは気持ち悪い呻き声をあげて、顔面を抑えながら床に倒れた
今がチャンスだ
急いで戻って雪ノ下を抱きかかえた
雪乃「きゃっ!?」
可愛らしい声をあげていたが、今はそんなことはどうでもいい
俺たちはダッシュで病室を出た
病室を出ると、後ろから呻き声と足音が聞こえてきた
タフなやつめ
俺は雪ノ下を抱きかかえながら長くて暗い病院の廊下を走った
57 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:12:21.03 ID:os+Ljem30
だがしかし
クソッ、なんでだ。走っても走っても、ヤツの呻き声と足音が鳴りやまない
走る足を止めたら、追いつかれる
廊下を疾走し、階段を転がるように降り、受付を通り過ぎて、入り口を出て、前庭に出た
こんな時間だからか、それとも何か別の力が働いているのか、一切人と会わなかった
足を止めると、暗がりからヤツが歩いてきた
どういうことだ。走る相手に歩いて追いつくなんて
俺は完全に息を切らし、今にもその場に倒れそうだった
でも、雪ノ下を抱きかかえている以上、そうはいかない
俺はコイツを守る
59 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:21:11.13 ID:os+Ljem30
______________
耳元でただただ、比企谷くんの荒ぶる呼吸が聞こえるだけだった
恐怖で声も出ないが、様子を察するに、ここはおそらく外
そしておそらく絶体絶命
比企谷くんは一歩も動かなくなった
私は恐怖を薙ぎ払って、必死に声を絞り出した
雪乃「比企谷くん、私を置いて逃げて・・・」
八幡「はぁ!?ここまで来て何言ってんだ」
雪乃「あれは恐らく私を狙ってる。だから、比企谷くんだけ逃げればきっと助かる」
雪乃「私を抱えたままだと、逃げづらいでしょ?」
八幡「・・・黙ってろ」
比企谷くんはあくまで私を離す気がないらしい
60 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:22:22.79 ID:os+Ljem30
もしかしたら、私のこの力を使えば、なんとかできるかもしれない・・・
雪乃「比企谷くん、とりあえず離して。もう動けるわ」
八幡「お、おい」
比企谷くんの返事を待たず、私は自分から降りた
閃いたときから、もう恐怖は薄れていた。体は自由に動く
そう、この力を使えば、なんだって殺せる
私には、目の前にいる敵の死が見える
私は合気道の達人なのよ?それなりに強いのよ?
そう思えば、思うほど、恐怖は消え、自信が湧いてくる
私は比企谷くんのほうへ振り向いた
そして、ゆっくりと、目の包帯を外した
61 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:23:03.05 ID:os+Ljem30
八幡「お前・・・」
ゆっくりと目を開く・・・
雪乃「ちゃんと、見えるわよ。比企谷くん」
久々にみる、比企谷くんの顔
雪乃「相変わらず、目が腐っているわね」
不敵な笑みとともに言ってやった
八幡「お前、その眼・・・」
比企谷くんは唖然としていたけれど、私は真後ろの恐怖を殺さなければならない
すっと振り向くと、それはいた
雪乃「大よそ、人ではないわね」
一言でいうと、ゾンビ
62 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:23:47.12 ID:os+Ljem30
雪乃「よくも私を苦しめてくれたわね。きっちり殺してあげるわ」
私ってこんな物騒なことを言う人間だったかしら、と自分でも思う
でも、そんな自分も嫌いじゃないわ
トッっと、素早い動きで敵に近づく。そして相手が掴みかかってくるのを避け
腕に見える死の線を指でなぞった
???「んほぉぉぉおぉぉぉおぉぉ!?」
相手は苦痛に怯んで倒れるが、流石にバッサリと切れるわけでもなかった
やっぱり浅いわね・・・
正直、合気道だけでこの化け物に勝てる自信はない
ちょっと困っていたところに、思わぬ助け舟が入る
陽乃「おーい!比企谷くん!ゆきのちゃーん!」
何やら長いものを背負いながら、姉さんが息を切らせて走ってきた
陽乃「ゼェ!ゼェ!」
64 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:25:35.23 ID:os+Ljem30
八幡「なんで陽乃さんがここに!?」
陽乃「二人が、危険だと聞いて・・・」
姉さんが息を整えながら言う
八幡「なんでそれを?」
陽乃「今はどうでもいい!とりあえず、雪乃ちゃん、これを!」
ぶんと姉さんが両手で投げてきたそれを両手でつかみ取る
とても重いのだけれど
布で包まれたそれを急いで取り出すと・・・
雪乃「なにこれ、刀?」
そう、中から正真正銘の日本刀が出てきたのだ
陽乃「雪乃ちゃん、昔に剣道と居合やったことあるでしょ?」
そんなニッコリ言われても困るのだけれど
でも、ないよりはマシみたいね
65 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:26:11.97 ID:os+Ljem30
雪乃「ありがとう、姉さん」
鞘からヒュっと刀を抜いて、鞘は横へポイっと捨てる
刀なんて持つの、いつぶりかしら
二年前、剣術の達人に刀を教わったことがあった。しかし三日でその達人よりも上手になってしまい、すぐ飽きた
今でも、振り回せるかしら
目の前の敵が、今まさに立ち上がり、再び攻撃態勢に入っていた
雪乃「これの切れ味、確かめさせてもらうわ」
ものすごい勢いで掴みかかってくる相手の右腕を、死の線を見事に見切って斬り落としてやった
斬った感覚がなく、そのまま勢い余って刀を投げ飛ばすところだった
顔に汚い血が付いたが、気にする必要もない
清々しいものね
???「んほぉぉぉだ!?」
66 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:27:10.80 ID:os+Ljem30
怯んだゾンビに畳みかけて、左腕、左足、右足を順に切り落とし、宙に浮いた五体不満足をバッサバッサと二回薙ぎ払った
結果、首と胸の部分へと華麗に刃が入って、三等分にした
???「んごつぅ、ふっ、おヴぉおお」
気持ち悪い声をあげて、それは砂のように消えた
その場から、青い火の魂の様なものが四散していった
あれが幽霊というやつなのだろうか
雪乃「ふふっ・・・」
無意識に気持ち悪い笑いを漏らしてしまい、げんなりした
67 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:28:03.79 ID:os+Ljem30
___________________
今の戦闘、雪ノ下の動きは、多分人間の動きではないと思う
半分人間やめてる
長い黒髪を靡かせ、蒼く輝く瞳で相手を見切り、目にも留まらぬ動きでゾンビ野郎を捌きまくっていた
っていうかグロっ
終いには、気持ち悪い笑いを浮かべていた
雪ノ下ちょーこえーよ。なんでも出来るとは言っていたが、まさか刀も振り回せるとは・・・
それにしてもあの眼、雪ノ下の眼ってあんな蒼かったっけ?しかも発光してて眩しいぐらいだ
写輪眼みたいなヤツなのだろうか。それなら雪ノ下の人間やめましたの動きも納得できる
とりあえず、危機は去った
68 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:28:42.02 ID:os+Ljem30
俺は疲れのあまりその場にへたり込んだ
すると黙って突っ立っていた雪ノ下がこちらへ戻ってきた
血に濡れた刀を持って、血に濡れた顔でこちらを見つめてくる
正直怖すぎる
でも直ぐに雪ノ下は天使のように微笑みながら
雪乃「ありがとう、助けてくれて」
そんな雪ノ下の笑顔を見てドギマギしてしまった
八幡「なんつーかお前、とんでもねぇのな。動きが人間じゃねぇ」
雪乃「そう?剣術を少し齧ったことがある程度よ」
絶対嘘だろ。ゾロみたいな動きしてたぞ
八幡「あなたもとんでもないわよ。目が人間じゃないもの」
八幡「うっせ・・・・」
69 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:29:20.99 ID:os+Ljem30
陽乃「いやーお見事!まさか化け物退治、本当に出来るとは思わなかったよ!」
俺の後ろからずっと様子を見ていた陽乃さんがひょこっと出てきた
お前ら姉妹そろっておかしいだろ。絶対
雪乃「雪ノ下家はああいう化け物を殺してきたの?」
陽乃「そうだね。ああいう感じで結構身近にいるみたいよ」
雪乃「そう・・・」
ニヤニヤすんな。こえーよ
70 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:30:15.68 ID:os+Ljem30
こんな事があって数日後、雪ノ下は退院した
一週間ぐらい、学校が終わるとすぐに帰って遅れた二か月分の授業を補っていたらしい
それを一週間でやるとか、どういうことだよ
その間に俺はあの陽乃さんに雪ノ下について話を聞き、大体事情は把握した
ともかく雪ノ下は直死の魔眼なんていう厨二匂全開の能力を得てしまったらしい
一週間経って、雪ノ下はいつも通り奉仕部へ顔を出したが、相変わらず本ばかり読んでいる
しかし、最近おかしな依頼が舞い込んでくるようになった。要するに、化け物退治だ
その度に雪ノ下は
雪乃「行くわよ、比企谷くん」
と、眼を蒼色に輝かせて、悪魔のような笑顔を浮かべるのだった
71 :以下、VIPがお送りします:2014/04/08(火) 00:30:56.87 ID:os+Ljem30
これにて終了
日本刀振り回すJKっていいなぁって考えてたら思いついた
コメントする
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。