1: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 21:12:25.17 ID:jWHE2ejAO
※注意※
アベンジャーズ エンドゲームのネタバレを含みます!
・ラブライブ !サンシャイン!!(善子)とアベンジャーズ(ソー)との謎クロスオーバーSS
・上にも書きましたがエンドゲームのネタバレを含みます。鑑賞前の方はブラウザバックを推奨します!
・キャラ死にっぽいネタを含みます。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1556712745
引用元: ・【ラブライブ!サンシャイン!!】善子「傷だらけの雷神様と私」【アベンジャーズ】
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2: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 21:21:35.93 ID:3n0XnkeA0
善子(皆はアベンジャーズというチームを知っているだろうか?)
善子(数年前、ニューヨークの危機に対して唐突に現れたヒーローチーム)
善子(メンバーは以下の通り)
善子(鋼鉄のスーツを身に着けた大企業の社長に、第二次世界大戦の時代から復活を遂げた超人兵士)
善子(怒りに任せて暴れまわる緑の怪物と、雷のハンマーを操る神様)
善子(ロシアの凄腕スパイに、百発百中の弓の達人)
善子(……知っての通り、私は中二病的なところがある)
善子(元々堕天使や黒魔術だのが好きだった私は、見事に彼等にもハマってしまったのだ)
善子(漫画の中から飛び出したような超人達に、漫画の中から飛び出したような悪役達……私の中二病心をくすぐるには充分すぎた)
善子(ネットや雑誌で彼等のことを読み漁り、その人となりを知っていった)
善子(趣味の為ならというのが恐ろしい所で、彼等の事を調べるためなら、英語を勉強する事だって苦にならなかった)
善子(数年前、ニューヨークの危機に対して唐突に現れたヒーローチーム)
善子(メンバーは以下の通り)
善子(鋼鉄のスーツを身に着けた大企業の社長に、第二次世界大戦の時代から復活を遂げた超人兵士)
善子(怒りに任せて暴れまわる緑の怪物と、雷のハンマーを操る神様)
善子(ロシアの凄腕スパイに、百発百中の弓の達人)
善子(……知っての通り、私は中二病的なところがある)
善子(元々堕天使や黒魔術だのが好きだった私は、見事に彼等にもハマってしまったのだ)
善子(漫画の中から飛び出したような超人達に、漫画の中から飛び出したような悪役達……私の中二病心をくすぐるには充分すぎた)
善子(ネットや雑誌で彼等のことを読み漁り、その人となりを知っていった)
善子(趣味の為ならというのが恐ろしい所で、彼等の事を調べるためなら、英語を勉強する事だって苦にならなかった)
3: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 21:40:11.58 ID:3n0XnkeA0
善子(そして、彼等を知って何年かが経って、)
善子(何時の間にか私はスクールアイドルなんてものをやっていて、)
善子(大切な友達が、大切な仲間ができて、)
善子(廃校を阻止する事はできなかったけど……ラブライブに優勝すらできて)
善子(新たな学校生活に気持ちを向けていた―――そんな時の、事だった)
善子(……いつも通りの日々)
善子(新しい校舎でいつも通りの退屈な授業を受けて、いつも通りにスクールアイドルの練習をして、)
善子(いつも通りに、ずら丸とルビィと下校をしていた)
善子(その時、確か……私は空き缶を踏んで、転んでしまったんだった)
善子(どこからともなくコロコロと転がって来た空き缶を見事に踏んで、まるでお笑い芸人のそれのように盛大にすっころんだ)
善子(……私はこう見えて、とても運が悪い)
善子(だから、こんな事も日常的といえば日常的だし、今更凹んだりするような事じゃない)
善子(私は自分の不運っぷりに憤りながら、顔を上げる)
善子(そこには、苦笑するずら丸とルビィの姿がある―――筈だった)
4: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 22:09:16.04 ID:3n0XnkeA0
善子(……なぜか、そこには誰もいなかった)
善子(まるで初めから二人なんて存在しなかったように、誰もいなくなっていたのだ)
善子(歩き去った様子も、何かの事故に巻き込まれた様子もない)
善子(音もなく、二人は―――消えてしまっていた)
善子(……最初は、二人のいたずらだと思った)
善子(だけど、呼べども探せども、二人はいなくて……)
善子(……質の悪いイタズラだと怒り始めても、二人は出てこなくて……)
善子(……携帯を鳴らしても繋がらなくて……暗くなるまで探しても、見つからなくて……)
善子(不安になった私はメンバーの皆に連絡をかけた)
善子(でも、誰も繋がらない)
善子(ずら丸達と同じ様に、コールだけが虚しく鳴り響くだけ)
善子(……まるで世界に私一人が取り残されたみたいだった)
善子(そして、それから少しして、私は知る)
善子(その想像が―――真実だったという事を)
善子(まるで初めから二人なんて存在しなかったように、誰もいなくなっていたのだ)
善子(歩き去った様子も、何かの事故に巻き込まれた様子もない)
善子(音もなく、二人は―――消えてしまっていた)
善子(……最初は、二人のいたずらだと思った)
善子(だけど、呼べども探せども、二人はいなくて……)
善子(……質の悪いイタズラだと怒り始めても、二人は出てこなくて……)
善子(……携帯を鳴らしても繋がらなくて……暗くなるまで探しても、見つからなくて……)
善子(不安になった私はメンバーの皆に連絡をかけた)
善子(でも、誰も繋がらない)
善子(ずら丸達と同じ様に、コールだけが虚しく鳴り響くだけ)
善子(……まるで世界に私一人が取り残されたみたいだった)
善子(そして、それから少しして、私は知る)
善子(その想像が―――真実だったという事を)
5: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 22:40:35.79 ID:3n0XnkeA0
善子(……家に帰った私は、帰るや否やママに抱き締められた)
善子(ママは言った)
善子(消えてなくてよかった、と)
善子(貴方だけは消えていなくてよかった、と)
善子(涙を零しながら、何度も何度も)
善子(ママは痛いほどに私を抱きしめながら、繰り返した)
善子(……異変は、私の周囲だけで起きた訳ではなかった)
善子(ママの職場でも、内浦全域でも、沼津全域でも……世界中で、同様のことが起きていた)
善子(曰く、突然塵になって消えてしまったのだという)
善子(直前まで隣にいた友人が、手を繋いでいた恋人が、共に食卓を囲んでいた家族が、)
善子(―――消えた)
善子(……ずら丸も、ルビィだって、そうだ)
善子(千歌も、曜も、リリーも、果南も、鞠莉も、ダイヤも……!)
善子(皆、皆、皆! 皆―――消えてしまった!)
善子(生き残ったのは……私だけ)
善子(……この日以上に、自分の不幸体質を憎く思うことはなかった)
善子(何で私だけが生き残ったのか……何で私だけが生き延びたのか……)
善子(どうせなら……皆のいない世界に取り残されるくらいなら……)
善子(―――私だって、消えてしまいたかった)
6: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 22:58:50.31 ID:3n0XnkeA0
善子(……この考えが、どれほど醜いものなのかは分かっている)
善子(消えてしまった人達は、こんな悩みを思い浮かべる暇すらなかったのだ)
善子(選択の余地すらなく、不条理に、理不尽に、命を奪われた)
善子(そんな皆と比べれば、生き延びただけで幸運だという事は分かっている)
善子(分かっていても……それでも)
善子(皆のいない世界で生きるという事が、私には想像もできなかった)
善子(……だから、私は扉を閉ざした)
善子(いつぞやと同じ様に、自分の部屋という狭い狭い世界に閉じこもり、)
善子(世界に扉で蓋を閉ざして、自分だけの世界に没頭する)
善子(言うなれば、引きこもりだ)
善子(変化した世界に向かい合おうともせず、私は自分の世界に閉じこもった)
善子(……ママは、何も言わなかった)
善子(最初は外に出そうと、励ましたり、声を掛けたりしてくれたけど、)
善子(最終的には……私の気持ちを尊重してくれた)
善子(……壊れてしまった世界に、折れてしまった私をそれでも見捨てずに、支えてくれた)
善子(引きこもる私に時々優しく声を掛けてくれて、ご飯だって毎日用意をしてくれて、自分の仕事だってこなして……)
善子(……ごめんなさい、と心の中で繰り返す)
善子(こんな娘で、こんなにも弱い娘で、ごめんなさいと)
善子(温かなご飯を食べながら、何度も涙を零す)
善子(……消えてしまった皆に対しても、そうだ)
善子(私だけが生き残ったのに、その筈なのに何もしようともせず、)
善子(引き籠り、自分を慰めるだけの日々を送る)
善子(彼女達がそんなことを望まない事は分かっていても、それでも)
善子(……それでも、無理だった)
善子(変わってしまった世界と向き合う事だけは―――どうしても無理だった)
7: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:01:21.11 ID:3n0XnkeA0
善子(……そして、更に数年の時が経つ)
善子(私はというと、何にも変わってはいなかった)
善子(引き籠り続け、ゲームとネットの日々を送るだけだった)
善子(この日もそう)
善子(最近流行りの対戦ゲームを楽しみながら、無駄な時間を過ごす)
ズガガガ、ドキューンドキューン
善子「何よこの敵、よっわw」
善子「名前からして海外勢かしら。ボイチャでちょっと煽ってあげましょw」
善子『ハロー、ハロー』
善子『あんたクソ弱いわね。このゲームの才能ないから辞めた方が良いわよ』
善子『ヨハネ様が忠告してあげる』
善子『早く中古ショップでゲーム機ごと売ってきた方が良いわ、時間の無駄よw』
善子(ヒーロー達を知るために勉強した英語で、相手を煽る)
善子(すると、返答が来た)
???『―――Yohane06と言ったな』
善子(の太く、力強い声)
善子(声色だけでも相手を威圧するだけの力があった)
???『あまり調子に乗っていると貴様が引き籠っている所に乗り込んで、お前の両手を斬り落としてやるぞ!』
善子「ヒッ……!」
善子(や、やばい人にチャット送っちゃった……)
善子『あ、あの、ごめんなさ……』
???『今更謝ったところで許されるか!』
善子(私の謝罪を遮り、ヘッドホンから声が響く)
『貴様は喧嘩を売ったのだ―――』
『―――雷神ソーの仲間に!!!』
善子(そして―――声の主は、そう言った)
8: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:02:48.00 ID:3n0XnkeA0
善子(……その名前を聞いた瞬間、時間が停止したように感じた)
善子(ソー)
善子(その名前は、知っている)
善子(かのアベンジャーズの中でも最強とされる人物で、雷を操る大男)
善子(世界がこうなる前は私もファンで、良く彼の姿が映るYouTubeを観たものだ)
善子(その名乗りが冗談なのか、ただの煽りに対する返しなのかは分からない)
善子(だけども……私は感情を抑えきれなかった)
善子(……あの世界の人口の半分が消え去る事件があってから少しして、ある噂がネットに流れた)
善子(この世界の危機に対して、実は裏でアベンジャーズが動いていたとの噂だ)
善子(人々の半分を消し去ろうとする強大な敵に、アベンジャーズは戦いを挑み―――だが、敗北を喫した)
善子(結果として敵の狙いは阻止できず、その目論見通りに、世界の半分の人々は塵となって消えてしまった……)
善子(……飽くまで噂だけど、それは何とも有り得そうな内容に思えた)
善子(これまでも世界の危機に対して何度も暗躍し、戦ってきたアベンジャーズ)
善子(彼等なら今回の出来事だって把握していて、阻止すべく動いていてもおかしくない)
善子(だけど……なら……)
善子(……どうして今回は阻止してくれなかったのだろう)
善子(何度も世界を救ってきたのに、何で今回は負けてしまったのか)
善子(そのせいで、世界はこんなにも変わってしまったのに)
善子(そのせいで、花丸やルビィは消えてしまったのに)
善子(そのせいで、皆いなくなってしまったのに―――)
善子(ソー)
善子(その名前は、知っている)
善子(かのアベンジャーズの中でも最強とされる人物で、雷を操る大男)
善子(世界がこうなる前は私もファンで、良く彼の姿が映るYouTubeを観たものだ)
善子(その名乗りが冗談なのか、ただの煽りに対する返しなのかは分からない)
善子(だけども……私は感情を抑えきれなかった)
善子(……あの世界の人口の半分が消え去る事件があってから少しして、ある噂がネットに流れた)
善子(この世界の危機に対して、実は裏でアベンジャーズが動いていたとの噂だ)
善子(人々の半分を消し去ろうとする強大な敵に、アベンジャーズは戦いを挑み―――だが、敗北を喫した)
善子(結果として敵の狙いは阻止できず、その目論見通りに、世界の半分の人々は塵となって消えてしまった……)
善子(……飽くまで噂だけど、それは何とも有り得そうな内容に思えた)
善子(これまでも世界の危機に対して何度も暗躍し、戦ってきたアベンジャーズ)
善子(彼等なら今回の出来事だって把握していて、阻止すべく動いていてもおかしくない)
善子(だけど……なら……)
善子(……どうして今回は阻止してくれなかったのだろう)
善子(何度も世界を救ってきたのに、何で今回は負けてしまったのか)
善子(そのせいで、世界はこんなにも変わってしまったのに)
善子(そのせいで、花丸やルビィは消えてしまったのに)
善子(そのせいで、皆いなくなってしまったのに―――)
9: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:04:21.35 ID:3n0XnkeA0
善子『なによ、それ……』
ソー『どうした、怖くて声も出ないか? 反省したなら大人しく―――』
善子『―――なによ、それーーーーーーー!!!』
ソー『なっ……!?』
善子『ふざけないで、ふざけないでよ!』
善子『あんた達が、あんたが負けたせいで、こんな世界になっちゃたのに!』
善子『あんたはのんびりとネットゲームなんてしてるって訳!?』
ソー『な、何を……』
善子『何であんた達は負けちゃったのよ!』
善子『世界の危機に立ち向かうのがアベンジャーズなんでしょう!? ヒーローなんでしょう!?』
善子『なのに! 世界の半分が消えちゃったのに! 何もしないでゲームなんてしてて!!』
善子『肝心な時に何もできない癖に、何が雷神よ! 何がヒーローよ!』
善子『ふざけないで! 皆を返して―――返してよ!』
ソー『………』
10: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:05:01.24 ID:3n0XnkeA0
善子(……私の酷い物言いに、ソーは何も返さなかった)
善子(沈黙だけが続き、少しして雑音が響き渡る)
善子(……多分、マイクがぶん投げられたのだろう)
???『あー、聞こえる? Yohane06』
善子(次に聞こえた声は、ソーのものではなかった)
善子(どこか気の抜けた、のんびりした声色だった)
善子『……何よ』
コーグ『俺っちはコーグ。ソーの友達で、今このゲームをプレイしてるんだ』
善子『ああ、アンタがこの弱っちい……で? 何の用よ?』
コーグ『君の気持ちもわかるけどさ。あんまソーの事を責めないでやってよ』
善子『何よそれ! あんた世界がどうなっちゃたか知ってるでしょ―――』
コーグ『勿論、知ってるよ。けどさ、俺っちはソーの事情だって知ってるから』
コーグ『アイツもさ、頑張ったんだよ』
コーグ『サノスと戦う前からずっとずっと大変な目に合い続けて、それでも戦い続けたんだから―――』
11: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:05:54.89 ID:3n0XnkeA0
善子(……そうして、コーグと名乗った男はボソボソと語り始める)
善子(……ソーの身に降りかかった悲劇……)
善子(父の死……姉との邂逅と殺し合い……)
善子(……故郷の地の滅亡……そして、サノスとの出会い……)
善子(親友を殺され……弟を殺され……それでもサノスに復讐を遂げる為に宇宙を飛び回り……)
善子(最強の武器を手に入れ、地球に舞い降り……遂にはサノスの身体に刃を届かせ……)
善子(……だけど、その目的を阻止する事は出来なくて……)
コーグ『……一番悔やんでるのは、ソー自身なんだよ』
コーグ『あの時、胴体じゃなくて頭を狙っていれば、サノスを倒せていた』
コーグ『世界もこんな風にはなっていなかった筈だって』
コーグ『誰よりもソーが悔しいんだ。だって、そうだろ? 止められたのに、止められなかったんだ』
コーグ『その後だって、もう一度サノスに戦いを挑みに行ったらしいよ。地球の仲間と一緒に』
コーグ『だけど、世界を元に戻す最後の手段も、もう消されちゃっててさ』
コーグ『ソーは、折れちまった。ぽっきりとね』
コーグ『……でも、あいつは頑張ったんだ。ずっとずっと』
コーグ『だからさ、ここでくらいは、今くらいはゆっくりさせてやりたいんだよ』
善子「………」
12: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:06:42.94 ID:3n0XnkeA0
善子(コーグの話は、正直……壮絶すぎて現実感がなかった)
善子(ソーのヒーローとしての側面は知っていても、具体的にどんな事をしていたのかは知らない)
善子(……今のが、ヒーローの現実なのだろう)
善子(沢山の争いを宿命づけられて、戦い続けて、)
善子(傷付き、敗北し、それでも立ち上がって、)
善子(だけど、どうしようもない敗北を突き付けられて……)
善子(……私は、馬鹿だ)
善子(何も知らないのに、自分の感情ばかりをぶつけてしまった)
善子(……さっきの行動が八つ当たりなのは、誰よりも自分自身が知っている)
善子(自分は何もしないで引き籠っているのに……それを棚に上げて、恨みつらみだけを吐き捨てた)
善子(……最低だ……)
善子『……ねえ、ソーに変わってちょうだい』
コーグ『良いけどさ。もう酷い事は言わないって約束してくれよ』
善子『分かってるわ』
コーグ『じゃあ、変わるよ。おーい、ソー!』
13: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:07:22.21 ID:3n0XnkeA0
ソー『……何だ。まだ言いたい事があるのか、Yohane06』
善子『……えっと、その』
ソー『いいんだ。お前が言った事は何も間違えてはいない』
ソー『あの時、サノスを止められなかったのは事実だ』
ソー『なぜ頭を狙わなかったのか、後悔しない日はない』
ソー『加えて今やボロ小屋で引き籠って、ビールを飲んではゲームに興じる日々だ』
ソー『……父上にも、母上にも、ロキにも、顔向けできない』
ソー『俺は……俺は……!』
善子(……ああ、と思った)
善子(この人は、私に似ている)
善子(絶望的な世界に傷付き、向き合う事を恐れて、自分の殻に閉じこもる日々)
善子(……同じだ。何も変わりやしない)
善子『……ごめんなさい』
ソー『何を謝る? 言っただろう、お前は事実を告げたまでだと』
善子『違うの……違うのよ、ソー』
善子『私だって、そうなの』
善子『仲間を失った世界が怖くて、向き合う事ができなくて、引き籠って……』
善子『そうして、気付けば五年も経っていた』
善子『人の事なんて言えないの。戦わず、逃げて、逃げて……』
善子『私は……弱いから』
ソー『……そうか、お前も……』
14: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:08:01.94 ID:3n0XnkeA0
善子『……さっきはごめんなさい。カッとなっちゃって』
ソー『気にするな。それよりもどうだ? 時々こうして連絡をしても良いだろうか』
善子『いいわよ。引き籠り同士、傷でも舐めあいましょう』
ソー『そうか。それは良かった! 祝杯をあげたいが……声しか届かないな』
善子『引き籠りだしね(笑)』
ソー『それもそうだな(笑)』
ソー『お前の名前は何というんだ? Yohane06』
善子『ヨハネ……ううん、津島善子よ』
ソー『ヨシコか。良い名前じゃないか』
善子『そう? ダサい名前だと思うけど』
ソー『そんな事はない。自分の名前に誇りを持て』
善子『ま、神様にそう言われるなら悪い気はしないわね』
ソー『では、また連絡する』
善子『ええ、何時でも待ってるわ』
ソー『引き籠りだしな(笑)』
善子『そうね(笑)』
善子(……そうして、私はソーやコーグ達とボイチャ友達となった)
善子(話してみると、ソーは豪快な中に間の抜けたところがあって、)
善子(中々に面白い奴だった)
善子(ゲームをして、同じスポーツ番組をみて、そんな怠惰な日々を更に積み重ねていって……)
善子(そんな中だった)
善子(真夜中に、ソーからの着信があった)
15: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:09:13.18 ID:3n0XnkeA0
善子(もはや生活リズムもぐちゃぐちゃなので、何てことはなかったが、少し気にかかった)
善子(これまでこんな時間に連絡がきた事はない)
善子「……何かあったのかしら?」
善子(一人、そう呟き着信にでると―――)
ソー『ヨシコ、俺はどうしたらいい?』
善子(―――今にも泣きだしそうなソーの声が、聞こえてきた)
善子『どうしたのよ、一体?』
ソー『昔の顔馴染みが現れたんだ』
ソー『力を貸してくれと頼まれた。君の力が必要だと』
善子『………』
ソー『―――無理だ! 自信がない!』
ソー『今の俺に何ができる? 身体もダルダルだし、かつての力なんて出せない』
ソー『そもそもかつての俺だって何も出来なかった! 今更……今更何が出来るんだというんだ!』
善子『ソー……』
善子(これまでこんな時間に連絡がきた事はない)
善子「……何かあったのかしら?」
善子(一人、そう呟き着信にでると―――)
ソー『ヨシコ、俺はどうしたらいい?』
善子(―――今にも泣きだしそうなソーの声が、聞こえてきた)
善子『どうしたのよ、一体?』
ソー『昔の顔馴染みが現れたんだ』
ソー『力を貸してくれと頼まれた。君の力が必要だと』
善子『………』
ソー『―――無理だ! 自信がない!』
ソー『今の俺に何ができる? 身体もダルダルだし、かつての力なんて出せない』
ソー『そもそもかつての俺だって何も出来なかった! 今更……今更何が出来るんだというんだ!』
善子『ソー……』
16: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:10:32.34 ID:3n0XnkeA0
善子(……それは、悲痛な叫びだった)
善子(自信を無くしてしまった者が、それでも立ち向かえと現実に直面させられている)
善子(その恐怖は、知っている)
善子(ソーのそれとは比べ物にはならないだろうけど、それでも)
善子(現実と向き合う怖さは、私も知っている)
善子(だから、何と言えば良いのか分からなかった)
善子(優しい言葉を掛ければ良いのか、励ませば良いのか……分からない)
善子(彼の昔馴染みという事は、アベンジャーズのメンバーだろうか)
善子(話によると初期のアベンジャーズの面々は、殆どが生き延びているとのことだ)
善子(そのアベンジャーズが誘うという事は、再び地球に危機が訪れているのか)
善子(それとも、他の何か……例えば―――消えてしまった人達を元に戻す方法が発見された、とか)
善子(……もし、そうならば私が掛ける言葉は決まっている)
善子(戦って、と)
善子(逆襲をやり遂げ、皆を元に戻して、と)
善子(貴方なら出来る、と)
善子(アスガルドの王なら、オーディンの息子なら、)
善子(雷神・ソーなら、それが出来る筈だ―――と)
善子(その背中を、押さなければならない)
善子(皆を救う為に、この傷だらけの雷神様を戦場へと向かわせなければならない)
善子(そう、皆を救う為には、そうしなくちゃいけない筈だ)
善子(なのに、その筈なのに―――)
善子『―――馬鹿ね、そんな無理なんてする必要なんてないのに』
善子(―――気付けば、私はそう告げていた)
17: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:11:48.31 ID:3n0XnkeA0
善子『昔のアンタならいざ知らず、今のアンタは引き籠りの……傷だらけの雷神様よ』
善子『アンタだけが、全てを背負う必要なんてないの』
善子『今までずっとずっと頑張ってきたんでしょう? なら、良いじゃない』
善子『もっと休んでたって、もっと引き籠っていたって』
善子『それでも良いと、私は思うわ』
ソー『ヨシコ……』
善子(ソーは、それきり何も言わなかった)
善子(ただ静かな息遣いだけが、ヘッドホンを通して聞こえてくる)
善子(……結局、私は彼を励ます事はできなかった)
善子(彼の悲しい道のりを知り、引きこもりとして共に過ごして……)
善子(彼の事を知ってしまった私に……戦えなんて、言える訳がない……)
ソー『……良いのか……?』
善子『何がよ?』
ソー『俺が戦えば、お前の仲間も元に戻るかもしれないんだ……それでも―――』
善子『それでも、言える訳ないでしょ』
善子『アンタがこれ以上傷付け所なんて、見たくない』
善子『アンタは―――私の友達、なんだから』
ソー『……友……』
善子『そうよ、ゲームが下手で、怒りっぽくて、引きこもりで……でもね、そんなアンタが、私は気に入ってるわ』
善子『昔の雷のハンマーを振るうヒーローじゃない』
善子『引きこもりで、傷だらけで、そんなが貴方が……私の友達なの』
18: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:12:35.73 ID:3n0XnkeA0
ソー『……そうか。ああ、そうだったな』
善子『ソー?』
ソー『ヨシコ、ありがとう……思い出せた気がするよ』
ソー『俺が戦う理由……復讐や逆襲のためだけじゃない』
ソー『何のために―――俺は戦っていたのか』
ソー『それを、ヨシコは思い出させてくれたよ』
善子『ソー……』
ソー『そう、君は友だ』
ソー『ならば、友の助けをするためなら―――俺は戦える』
善子『戦えるって、アンタまさか……』
善子『また傷付くかもしれないのよ? もっと酷い目にあるかもしれない。なのに……』
ソー『それでも、行くさ』
ソー『こんな俺を友と呼んでくれた者のために、こんな俺と友になってくれた者のために、』
ソー『俺は、戦う』
ソー『どこまで役に立てるかは分からないが、大丈夫さ』
ソー『俺は―――マイティ・ソーだからな』
19: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:22:59.03 ID:3n0XnkeA0
善子(……それは、決意に満ちた声だった)
善子(恐怖に震え、息を荒げていても、)
善子(それでも、言葉に迷いはない)
善子『無理、しないでね』
ソー『心配するな。全てを取り返してみせるさ』
善子『……辛くなったら、いつでも戻ってきなさい』
善子『私は……いつでも待っているから』
ソー『……ああ』
ソー『君が待っていてくれるというのなら―――安心できる』
善子(―――その会話を最後に、通信は切れた)
善子(その後ソーに連絡が付く事はなく、こちらが掛けてみてもコーグが出るだけだった)
善子(そうして数日が経過する)
善子(私はというと、何も変わりはしない)
善子(ゲームをして、ネットをして、漫画を読んで、眠る)
善子(そんな日々を送っていた、ある日)
善子(ここ数年、鳴る事のなかったスマフォが鳴り響いた)
善子(その宛名は―――)
善子「……お疲れさま、ソー」
善子(鳴り続けるスマフォを見ながら、数年ぶりの彼女達の名前を見ながら、私は呟く)
善子(この着信は、彼が成し遂げた事を示す何よりの証拠だった)
善子(あの傷だらけの雷神様が、それでもと戦った果ての結果……)
善子(……熱い何かが頬を伝うのを感じながら、私は着信に出る)
善子(聞き慣れた、それでいてとてもとても懐かしい声が、聞こえてくる)
善子(……これは、私だけが知る物語)
善子(傷だらけの雷神様と私の、)
善子(友達同士で慰めあっただけの、そんな何処にでもあるような―――)
善子(―――ありふれた、物語)
20: ◆eCiylz7cJ3E4 2019/05/01(水) 23:24:58.32 ID:3n0XnkeA0
以上で終了となります。
エンドゲームが最高過ぎて思い付いたSSです。
エンドゲーム、本当に最高でした!
HTML化依頼だしてきます。
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