1 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:20:53.81 ID:WoQi+oWD0
......prrrr 

......prrrrrr 

pi!! 


 「あーあーテステス……これ繋がってるのかしら?」 

 「……ん、よし大丈夫そうね」 

 「Hi ! こんにちわ! 見えてるということは、あなたが今度旅立つ新人Trainerさんね」 

 「え? なに? どうしたの、キルリア? ……ああ、名乗るのを忘れていたわ」 

 「わたしは鞠莉。あなたの住むウラノホシタウンの外れの島──アワシマに研究所を構えるポケモン博士よ! って、言ってもまだ新人博士なんだけどね」 

鞠莉「この世界にはポケットモンスター──通称ポケモンと呼ばれる生き物たちが草むら、洞窟、空、海……至るところにいて、わたしたちはポケモンの力を借りたり、助け合ったり、ときにポケモントレーナーとして、ポケモンを戦わせ競い合ったりする」 

鞠莉「わたしはここオトノキ地方で、そんなポケモンと“どうぐ”の関わり合いについて研究しているの。ただ、まだまだ新人のせいもあってか、余りフィールドワークの情報が足りてなくてね……」 

 「キルキルゥー!!」 

鞠莉「って今度は何、キルリア……? ……わたしの話は後でいい? 確かにそれもそうね……それじゃあ、とりあえず、あなたの名前を教えてくれるかしら?」 


………… 


鞠莉「Hm...Your name is CHIKA。千歌、いい名前ね」 

鞠莉「それじゃ千歌。研究所で待っているから、また後で──」 


【ウラノホシタウン】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
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 口=================口 





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3 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:25:37.96 ID:WoQi+oWD0

私は志満姉の言葉で幼馴染を待たせてることを思い出して、外へ飛び出そうとする。そんな私の背中に── 


志満「千歌ちゃん」 


志満姉の優しい声。 


千歌「なに?」 

志満「いってらっしゃい」 

千歌「……いってきます!」 


私は返事をして、家を飛び出した。 





    *    *    * 





千歌「曜ちゃん、お待たせ!」 


外に出ると、曜ちゃんが眩しそうに手をかざしながら、お空の太陽を見つめていた。 


千歌「……曜ちゃん?」 

曜「いい天気だなって思って」 

千歌「……うん、そうだね」 

曜「いよいよ、始まるんだね」 

千歌「うん」 


私は幼馴染の呟きに、微笑みながら相槌を打つ。 

二人して、物思いに耽りながら、空をぼんやりと仰いでいると 


 「ワンッワォゥ!!」 


そんな鳴き声とともに、さっき自分が飛び出してきた家の方から、白い毛むくじゃらのポケモンが私の足元に擦り寄ってくる。 


千歌「わわ!? なんだ、しいたけか……」 

美渡「ほらさっさといきな、二人とも。博士が待ってるんでしょ?」 


しいたけの来た方向から、美渡姉がやってきて、私と曜ちゃんを促す。 


美渡「しいたけ、千歌をよろしく頼むぞー」 

 「ワフ」 

千歌「もう、大丈夫だってば」 

曜「美渡姉、行って来ます」 

美渡「おう、曜ちゃんも千歌のことよろしくね」 

曜「ふふ、はーい」 

千歌「むー……いつまでそのネタ引っ張るのさ……いこう、しいたけ」 

 「ワフ」 


そういって、私はしいたけと一緒に失礼な姉に背を向ける。 
4 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:26:49.90 ID:WoQi+oWD0

美渡「千歌ー!」 


それでも、まだ、声を掛けてくる姉に 


千歌「なにー?」 


振り返りながら、ぶっきらぼうに返事をすると 


千歌「……!」 


──美渡姉は親指を立てながら、私に向かって 


美渡「思う存分、暴れて来い!!」 


そう言ってから、私に向かって、ニカっと笑った。 


千歌「!! ……うん!!」 


──私は姉達に背中を押されて、思わず走り出す。 


 「ワフ」 


私に釣られて、しいたけが 


曜「あ、千歌ちゃん! 待ってよー!」 


曜ちゃんが 


千歌「えへへっ!」 


思わず笑みが零れる。 

これから、始まるんだ 


千歌「──私たちの冒険が!!」 





    *    *    * 





曜「しいたけ、連れてくんだね」 


曜ちゃんがそういって私の横を歩くしいたけに目を向ける。 


千歌「うん、美渡姉が旅に出るなら、連れて行けって」 
 「ワフ」 


しいたけ──はニックネームなんだけど……この子はトリミアンの♀で、子供の頃から一緒に育ってきた家族みたいな子。 

しいたけは毛むくじゃらで、カロス地方とかのオシャレなトリミアンから見たら、トリミアンに見えないらしいけど……。 

私は子供のころから見てるトリミアンと言えば、しいたけだから、そういわれても全然ピンと来ないんだよね。 

──海岸沿いを曜ちゃんと歩きながら、船着場に目を向ける。 


千歌「アワシマまでの定期便まで、もう少し時間あるかな?」 
5 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:28:18.40 ID:WoQi+oWD0

私たちの目的地──アワシマの研究所に行くためには、ここウラノホシタウンから船に乗らないといけない。 

いけないんだけど……。 


曜「そんなの待ってられないよ!!」 


そういって今度は曜ちゃんが走り出した。船着場の横の砂浜にめがけて一直線に 

そして、走りながら海に向かって── 


曜「ラプラスー!! いるーー!?」 


声を張り上げた。 

寄せては返す波の音が、絶えず聴こえるこの海いっぱいに、曜ちゃんの声が響き渡る。 

そのまま海に向かって── 


千歌「よ、よーちゃん!」 


──曜ちゃんは走る 

砂浜へ、 

そして、そのまま幅跳びの要領で海へと、 


曜「とうっ!」 


飛んだ── 


千歌「よーちゃん!」 


ザブン!! と海に水しぶきがあがる──ことはなく、曜ちゃんは水面に着地していた。 

いや── 


 「キュゥー♪」 
曜「ラプラスー! おはよー♪」 


曜ちゃんの着水地点に先回りした地点に、さっき呼んだラプラスが浮上していた。 


千歌「もう……びっくりさせないでよ……」 

曜「えへへ、ごめんごめん。昨日ラプラスと約束してたんだ♪」 

千歌「ラプラス、おはよー」 

 「キュウー」 


海の上に長い首を伸ばして、ラプラスは気持ち良さそうに伸びをした。 

この子は私としいたけの関係みたいに、曜ちゃんの家族のポケモン。曜ちゃんのお父さんのラプラスです。 

とっても人懐っこくて、私も昔からよく一緒に遊んでいたんだけど、曜ちゃんには特に懐いています。 


曜「千歌ちゃんと同じで、私もパパから連れて行くように言われてたんだ。せっかくだし、アワシマまで乗せて行ってもらおうと思って」 

千歌「なるほど。戻れ、しいたけ」 
 「ワフ」 
6 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:29:47.65 ID:WoQi+oWD0

私は曜ちゃんに返事をしながら、しいたけをボールに戻す。 

……あ、“モンスターボール”の説明って必要かな? 

ポケモンはモンスターボールって言う小さなカプセルに入れて、持ち歩くことが出来ます。 

ボールに入れたポケモンはポケットに入ってしまうから、ポケットモンスター──通称ポケモンって言うらしいんだよね。 

なんでこんなボールに入っちゃうのか、不思議だよね。確かその理屈を学校の先生が前に言ってたような── 


曜「千歌ちゃーん! いくよー!」 

千歌「あ、うん!」 


……ま、いっか。どうせ後で先生にも会うし。 

私は曜ちゃんに引っ張りあげて貰って、ラプラスの背に乗る。 


曜「ラプラス、いける?」 
 「キュゥ~」 

曜「よぉーっし! 全速前進! ヨーソロー!」 
 「キュゥ~♪」 


ラプラスは曜ちゃんの掛け声と共に海の上を走り出した。 





    *    *    * 





──ウラノホシタウンは海に囲まれた自然豊かな町です。 

まあ、自然豊かななんて言うと聞こえはいいけど、逆に言うなら周りには海しかない。 

そんなウラノホシだけど、離れの島には研究所があります。 

その名も『オハラ研究所』 

最近建ったばっかりの新設研究所で、そこの博士も最近博士になったと言うオハラ博士。 

何を隠そう、私たちはオハラ博士からの依頼で集められた選ばれた新人トレーナーなのです! 


曜「えへへ」 


ラプラスの背で揺られながら、空でみゃーみゃーと鳴いているキャモメの群れをぼんやり眺めていると、突然前に座っていた曜ちゃんが一人笑う。 


千歌「どしたのー?」 

曜「んー、なんかワクワクしちゃってさ!」 


曜ちゃんは目を輝かせながら、陽光をキラキラと反射する海に目を向けている。 


曜「やっと旅に出られるんだなって! それも千歌ちゃんと同じ日に!」 

千歌「曜ちゃん……うん、私も嬉しい」 


ラプラスの背の上で曜ちゃんが楽しそうにくるくると回る 


千歌「よ、よーちゃんっ 危ないよ」 


私の声を聞いてか、曜ちゃんは不安定なラプラスの背の上でピタリと止まって、今度は私の顔を見つめてくる。 
7 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:30:56.96 ID:WoQi+oWD0

曜「千歌ちゃん、覚えてる? 子供の頃、よく一緒に冒険ごっこしたよね」 

千歌「あ、うん! 隣のウチウラシティまで、しいたけ連れて冒険に行ってたよね!」 


幼馴染との在りし日のことを脳裏に思い出しながら。 


曜「子供の頃は野生のポケモンに襲われたら大変だからって言われて、あんまり遠くまでいけなかったけど……今度は違うんだって、そう思ったら何か嬉しくて!」 

千歌「そっか」 

曜「千歌ちゃんは旅に出たら何したい?」 

千歌「えっへへ、とりあえずなんかすごい感じになりたいかな!」 

曜「あはは、なんか千歌ちゃんらしいね! 私は船乗りのパパみたいに、世界中の海をラプラスと一緒に冒険できたらなーって思ってる!」 
 「キュー♪」 

千歌「そっかそっか! あとね、旅にワクワクしてるのは私も曜ちゃんと同じだよ。ずっと、憧れてたんだもん」 


ポケモンを貰って、旅に出る。それは子供たち、みんなの憧れ。 


千歌「この辺は研究所もなかったし、オハラ博士のお陰だよねっ」 

曜「研究所がないと、初心者用ポケモンってもらえないしね。普通の子は10歳くらいで旅に出るみたいだけど……」 

千歌「この辺あんまり人いないもんねぇ。10歳のときは研究所でポケモンを貰って旅に出る、なんて考えてもみなかったけど、まさに地獄に仏……!! あ、いや、でもウラノホシはいい町だから、天国に仏……?」 

曜「なんかいろいろごちゃごちゃだね……」 

千歌「と、とにかくっ! 今回はなんせ博士直々の御指名だもんねっ!」 


──そうなんです。今回の旅は博士直々にチカと曜ちゃんに依頼が来たのです。 


曜「って、言い切っちゃうと語弊があるけどね」 


曜ちゃんがそんな風に補足を入れる。 

正確にはウラノホシタウンの子供たちにオハラ博士から依頼されたんです。 


千歌「この辺、そもそも子供も少ないから、たまたまこの辺に珍しく住んでる子供たちってことでチカたちにお願いしてきたんだろうけど……でも、ラッキーだったよね!」 

曜「聞いた話だと、一応他の町からも何人か来るらしいけど……」 

千歌「そうなの?」 

曜「うん。隣のウチウラシティから一人。それと、もっと遠くから、もう一人って言ってたかな」 

千歌「えっと……確か、ウラノホシから旅立つのは私と曜ちゃんと……ちょっと遅れて花丸ちゃんとルビィちゃんが、ポケモンを貰うって話になってるんだっけ」 


共通の幼馴染の名前を挙げながら、指折り数える。 


曜「うん、私はそう聞いてるかな。だから、さっきの2人を含めて、6人だね」 

千歌「普通って、多くても3人くらいなんじゃないっけ?」 

曜「私もそう思ったけど……まあ、オハラ博士もいろいろ事情があるってことじゃないかな。それも含めて今から聞きに行こうってことだしさ」 

千歌「それもそっか」 


のんびりと海を行くラプラスの背中の上で、目線をあげると……その先に目的地のアワシマが近づいてきていました。 





    *    *    * 


8 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:31:57.47 ID:WoQi+oWD0

──アワシマ。 

ウラノホシタウンとウチウラシティを南北に繋ぐ道路──1番道路。その西側に面している海にその島はあります。 

ラプラスを岸に付けて、私たちはアワシマへと降り立つ。 


曜「ラプラス、じゃあまたあとでね」 
 「キュー」 


曜ちゃんがそう言うと、ラプラスは再び海へと潜って行く。 


千歌「ラプラス、ボールに入れないの?」 

曜「どっちにしろ島から出るときも乗るし。それに……」 

千歌「それに?」 

曜「普段ボールに入れてなかったから、ちょっと抵抗あって……」 

千歌「あーわかるかも……」 


私も、しいたけをボールに入れるのに抵抗があって、旅立ちまでに慣れておけって美渡姉に言われて、ボールに入れて持ち歩く練習とかしたなぁ……。 


曜「私も、しいたけみたいに慣れないとなんだけどね。それこそ、陸を行くときはボールに戻さないといけないし」 

千歌「ラプラスじゃ長距離歩けないもんね」 

曜「もともと海のポケモンだから、長時間陸を歩かせるとケガしちゃうかもしれないしね」 


そんな話をしながら、研究所に向かって歩を進めていると── 


 「ロトトトトトトト!!」 


……と、奇妙な鳴き声が目的地の方から聴こえてくる。 


千歌「……?」 

曜「……ポケモン?」 


次の瞬間。 

今度はガラスが割れるような、音が響き渡る。 

音と共に、 


 「ロトトトトトー」 


板状のポケモンらしきものが視界の先に見えていた研究所から飛び出してくる。 


千歌・曜「「!?」」 


そのポケモンは手……っぽい場所にモンスターボールを持っている。 

私たちが目の前で起こった状況を飲み込もうとしている場所に、更に 


 「ちょっと待ちなさーい!!」 


と叫びながら研究所を飛び出してくる若い女性。 


曜「今度は何……?」 


その容姿は金髪に左側頭部に特徴的な6の字のような形に髪を結んだ女性──というか見たことある。 
9 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:32:40.63 ID:WoQi+oWD0

千歌「……オハラ博士?」 

鞠莉「……え?」 


ビデオ電話で見たから、間違いない。オハラ博士だ。というかこんな特徴的なビジュアルなかなか忘れないし。 


鞠莉「あ、あー……えーっと」 


ビデオ電話だったということは博士も私たちの顔を知っていると言うことで…… 


鞠莉「……」 


博士は何故かバツが悪そうに目を逸らしていたけど 

少し悩む素振りを見せてから、諦めたように私たちに向き直って。 


鞠莉「……あなたたち、千歌と曜ね」 


そう切り出してくる。 


千歌「は、はい」 

曜「き、今日はよろしくお願いします……?」 

鞠莉「……こちらこそ、と言いたいところなんだけど……。Emaergency──ちょっと緊急事態」 


博士は一旦神妙な表情をしてから、 


鞠莉「……あなたたちに渡すはずだったポケモン……連れ去られちゃった……♪」 


そういって、いたずらっぽくペロリと舌を出した。 


10 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 12:33:23.27 ID:WoQi+oWD0



>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【アワシマ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
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  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
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  ||.      /.         回 .|     回  || 
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  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 


 主人公 千歌 
 手持ち トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
 バッジ 0個 図鑑 未所持 

 主人公 曜 
 手持ち ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
 バッジ 0個 図鑑 未所持 


 千歌と 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした! 


...To be continued. 


11 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:46:59.24 ID:WoQi+oWD0

■Chapter002 『パートナー』 





千歌「え」 

千歌・曜「「ええーーーー!!」」 


私たちは博士の言葉を聞いて驚きの声をあげた 


曜「え、え、それじゃ私たちポケモンもらえないんですか!? 博士!? せっかく、今日まで楽しみにしてたのに……!!」 


曜ちゃんが博士の両肩を掴んで前後に揺する。 


鞠莉「Oh... Wait a minute」 

千歌「うぇぃ……?」 

鞠莉「2人とも落ち着いて? あなたたちのポケモンはちゃんと私が連れ戻すから。あと私のことは博士じゃなくて、気軽にマリーって呼んでくれる?」 

千歌「え、えーっと……」 

鞠莉「はい、マリー」 

千歌「ま、まりー?」 

鞠莉「OK.それじゃ、ちょっとあのイタズラポケモンを捕まえてくるから、あなたたちはここで……」 


そういって私たちの前を去ろうとするマリー……えっと、鞠莉さんに、 


曜「ちょっと待ってください!」 


曜ちゃんが食い下がる。 


鞠莉「?」 

曜「さっきあの変なのが持ってたボールに入ってるのが、私たちが貰う予定だったポケモンなんですよね?」 

鞠莉「ええ、そうだけど」 

曜「それなら……取り戻すの私たちも手伝います!」 

鞠莉「え、ダメよ。あなたたち、新人Trainerでしょ? 野生のポケモンに会ったらどうやって戦うの?」 

千歌「あ、私たちポケモン持ってますよ! 家族に借りた子だけど……」 


私はそう言って、さっきボールに戻した、しいたけ入りのモンスターボールを取り出し放る。 

ボン、という特有の音と共にしいたけがボールの外に飛び出してくる。 


 「ワフ」 

鞠莉「……見たことないポケモンなんだけど」 

千歌「ト、トリミアンです!」 

鞠莉「Furfrou...? トリミアンってもっと、精悍とした顔つきだったと思うんだけど……」 
 (*Furfrou=トリミアンの英名) 

千歌「ちょっと、この子はのうてんきな性格なんで!」 

鞠莉「Hmm...? まあ、手持ちがいるなら、付いてくるのは構わないけど……あなたは?」 


鞠莉さんは今度は曜ちゃんに尋ねる。 
12 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:48:53.63 ID:WoQi+oWD0

曜「あ、はい! ラプラスー!」 


海に向かって名前を叫ぶと 

 「キュゥー」 

少し遠目の海岸にラプラスが顔を出したのが見える。 


曜「ラプラスがいます!」 

鞠莉「なるほど……」 

曜「どっちにしろ、さっきのポケモン……? アワシマの外に飛んで行きましたよね? それなら海を渡る手段が必要だと思います!」 

鞠莉「Hmm...OK. じゃあ、すぐに身支度済ませてくるから、二人とも海岸で待っててくれる?」 

千歌「はい!」 

曜「了解であります!」 





    *    *    * 





──アワシマの浜辺にて。 


千歌「なんか大変なことになっちゃったね」 

曜「あはは、そうだね……」 

千歌「さっきの……南の方に飛んで行ったよね。あれってポケモンなのかな?」 


これから海の上を運んでくれるラプラスを撫でながら、ぼんやり呟く私に、 


鞠莉「──半分ポケモンよ」 


研究所の方から戻ってきた鞠莉さんがそう答える。 


千歌「半分?」 

鞠莉「……あれはロトムって言うポケモンなんだけど。家電に住み着くゴーストタイプのポケモンなの」 

曜「ロトム? 千歌ちゃん知ってる?」 

千歌「うぅん……知らない」 

鞠莉「ちょっと珍しいポケモンだからねぇ……。最近カロスの方で開発された、ポケモン図鑑とロトムを一体化させた、ロトム図鑑って言うものの話を聞いて私も試してみたんだけど……」 


聞きなれない単語の羅列に私は眉を顰めた。 


千歌「ポケモン図鑑……? ロトム図鑑……??」 


カロスって言うのは地方のことだってわかるけど……確か、しいたけ──じゃなくて、トリミアンが主に分布してる地方だったよね。 

説明を聞きながら、私たちはラプラスの背に乗る。 


鞠莉「あ、えーっと……後で話そうと思ってたんだけど、ポケモン図鑑。自動で出会ったポケモンたちのデータを登録してくれる、ハイテクな図鑑よ。今回初心者Trainerを集めたのも、この図鑑のデータを収集してもらうためだったんだけど……」 

曜「じゃあ、もしかして、半分ポケモンって言ってたのは……」 

鞠莉「ええ、あなたは察しがいいのね。ポケモン図鑑を乗っ取ったロトムよ」 


話を聞いていて、私はあることに気付く。 
13 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:51:14.55 ID:WoQi+oWD0

千歌「え、それじゃもしかしてそのポケモン図鑑……って言うのも持ってかれちゃったってことですか?」 

鞠莉「ああ、それなんだけどね。あなたたちの分はここにあるわ」 


そう言って鞠莉さんが私たちにそれぞれ橙色と水色の板状の端末を差し出してくる。 


曜「え、じゃあさっきのって……」 

鞠莉「あれはわたしの……ついでに言うならロトムもわたしの手持ちなんだけど……なまいきな上にイタズラが好きな子でね……」 

千歌・曜「「…………」」 


私たちは思わずジト目で鞠莉さんを見つめる 


鞠莉「何、その目は?」 


軽く頭を掻いてから、鞠莉さんは頭を振って、言葉を付け足す。 


鞠莉「……コホン。とりあえず、あなたたちのポケモン図鑑。ここで渡しておくわ。ホントは使い方も含めて研究所で教えるつもりだったんだけど……これがあるとポケモンバトルも便利になるから」 

曜「便利、ですか?」 


私は橙色の図鑑を、曜ちゃんは水色の図鑑をそれぞれ受け取る。 


鞠莉「取り急ぎだけど……スライド式になってるから、画面を出して液晶を押してみて?」 

千歌「ここですか?」 


言われたとおり、図鑑の開いて、液晶を押す──と 


 『トリミアン ♀ Lv.15』 


というデータが表示されていた。 


鞠莉「……さっきの子、ホントにトリミアンだったのね」 

曜「私のラプラスは……Lv.20って表示されてる」 

鞠莉「この通り、図鑑があれば、自分の手持ちや周りにいるポケモンの詳細なデータがわかるわ。ポケモンの強さ、使える技とかもね。きっと戦闘の役にも立つと思うから、うまく使ってね」 

千歌「あ、ありがとうございます」 

鞠莉「ついでに……わたしの図鑑が発している固有電波も登録しておいたから、マップを開くと表示されると思うんだけど」 

曜「あ、ホントだ」 


言葉に釣られて、曜ちゃんの図鑑を覗き込むと、確かにマップが表示されていて、アワシマから少し離れた場所で赤く点滅している表示がある。 


鞠莉「そこにロトム……とわたしの図鑑があるってことね。……よりにもよって面倒くさいところに逃げ込んでくれたわね」 

千歌「ここって……」 

曜「うん……」 


曜ちゃんと二人で顔を見合わせる。 


千歌「クロサワの入江ですよね」 

鞠莉「あはは……さすが地元民。詳しいわね」 


──クロサワの入江。 

ウラノホシタウンの西端にある入江で、地元の人でもほとんど立ち入り禁止の場所だ。 
14 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:52:47.10 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「うーん……ここはちょっと手が出し辛いわねぇ……。まあ、止むを得ない、か……」 

曜「あんまり地元の人も近付かない場所だけど、大丈夫かな……?」 

千歌「でも、どっちにしろ入江の奥に逃げちゃったんなら、行くしかないよっ」 

鞠莉「……そうね、あそこの入江は水上からの出入り口は一つしかないし。むしろ、これ以上逃げる道がないと言う意味では助かるか……」 


鞠莉さんはそんな言葉に付け加えるように、ボソリと、 


鞠莉「──後でうまい言い訳考えておかないといけないわね」 


そんなことを呟いていました。 





    *    *    * 





──クロサワの入江。 


曜「……ここかぁ」 

千歌「相変わらず、おっきな入江だね」 


海岸の崖に出来た大きな横穴からは、海水が流れ込んでいて、中も水に浸かっている。 


鞠莉「奥の方に行けば陸があるわ。そこまでラプラスで進んでもらっていい?」 

曜「あ、はい。ラプラス」 
 「キュ」 


ラプラスの背に乗ったまま洞窟を進んでいく。 


千歌「鞠莉さん、入江の中、詳しいんですか?」 

鞠莉「ん、まあ、前に調査で入ったことがあるから」 

曜「地元の人でもあんまり入らないのに……」 

鞠莉「一応研究者だしネ。ここの野生ポケモンは基本臆病だから、考えなしに近づくなとは言われてるんだけど……」 


そんな鞠莉さんの言葉を耳の端に捉えながら、入江の洞窟を見回していると、 


千歌「……?」 


私の視界にキラリと光る物が飛び込んでくる。 


千歌「なに? ……宝石?」 


洞窟の壁や天井に小さな宝石のようなものが…… 


曜「い、いや、あれ動いてない?」 


曜ちゃんに言われて気付く。確かに僅かにぷるぷると震えている気がする。 


鞠莉「ふふ……早速役に立ちそうね♪ 二人とも図鑑を開いてみて」 

千歌「え、あ、はい」 
15 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:54:22.51 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんに促されて、二人で図鑑を開く。 


 『メレシー ほうせきポケモン 高さ0.3m 重さ5.7kg 
  身にまとう 宝石は 多種多様な 種類が ある。 
  また その宝石の 種類によって 性格が 異なる。 
  地の底には メレシーの女王が暮らす 国があるという。』 


図鑑にはそう表示されていた。 


曜「宝石はポケモンの一部……あれ、もしかしてメレシー?」 

千歌「先生とかルビィちゃんが持ってるポケモンだよね。……ウラノホシのおとぎばなしにもよく出てくるし」 


ウラノホシにある御話には何故かこの宝石ポケモンがよく出てきます。 

それがメレシーです。 

小さい頃から、メレシーは大切にしなさいと、おじいちゃんおばあちゃんたちから口酸っぱく言われて育った記憶があります。 


鞠莉「Yes. ここクロサワの入江はCarbink──メレシーの群生地なのよ」 
                (*Carbink=メレシーの英名) 


ここは洞窟だから、奥に進むほど外からの太陽の光が入ってこなくなるため、キラキラと光るメレシーたちの宝石の光がより一層眩く見える。 

それはまるで星空のようで── 


千歌「綺麗……」 


私は思わず、そう呟いていた。 


鞠莉「夜に宝石に溜め込んだ、月の光が漏れ出しているから、暗い洞窟の中でも光って見えるのよ。強い個体だと、その溜め込んだ光を一瞬で外に解き放つ“マジカルシャイン”って言う技が使える子もいるわ」 

曜「へぇー……」 

鞠莉「それと……わかるかしら、メレシーたちの光の色がそれぞれちょっとずつ違うんだけど」 

千歌「あ、ホントだ! あの子は青……あっちは赤」 

曜「あっちは緑に、黄色……水色……ピンクの子もいる」 

鞠莉「本来は水色から透明の水晶を身に纏っているんだけど、ここクロサワの入江のメレシーは特別で、いろんな宝石を身に纏っている個体がたくさんいるのよ」 


まるで夜空に輝く七色の星のようなその光景に私と曜ちゃんはうっとりしてしまう。 


鞠莉「……すごく綺麗なんだけど、こんな見た目だから、悪い人からしたらいい獲物になっちゃうの。見てのとおり、普段は体を岩にすっぽり嵌めて、大人しいから尚更ね。だから、ここは基本的に立ち入り禁止なのよ」 

曜「そうだったんだ……」 


幼い頃から近づいちゃいけないと言われていた、この場所だけど。そんな理由があったんだ……。 


千歌「それにしても、鞠莉さん! ホントに博士なんですね! すごいポケモンに詳しい!」 

鞠莉「あはは、ありがと、千歌っち。でも、わたしもまだまだ未熟でね。……こんな事態になっちゃったのもわたしのせいだし……」 

曜「そ、そんなこと……」 

鞠莉「ふふ、二人ともそんなに気を遣わなくて良いのよ? わたしこう見えて歳もあなたたちと一つしか変わらないのよ? トレーナー歴で言うならかなり先輩かもだけど」 

千歌「え、そうなんですか?」 

鞠莉「若い新人女性博士だなんて持て囃されるけど……その実は経験不足な若輩者なのよ。だからこそ、今回あなたたちに旅に出ることをお願いしたのだけれど」 

曜「鞠莉さん……」 

鞠莉「……って、新人Trainerちゃんたちにする話じゃなかったわね! 早くロトムひっとらえて、研究所に戻りましょう」 

千歌「は、はい」 
16 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:55:29.49 ID:WoQi+oWD0

ラプラスの背に揺られ、私たちは幻想な七色の星空を見ながら、ゆっくりと入江の奥へと進んでいく。 





    *    *    * 





鞠莉さんの言ったとおり、洞窟の奥に進むと陸が顔を出していた。 

私たちはラプラスから降りて、洞窟の地面に足を下ろす。 


曜「ロトムは更に奥に逃げ込んだみたいだね……。ラプラス、ちょっと窮屈かもしれないけど、ごめんね」 
 「キュゥ」 


曜ちゃんがそう言いながらボールにラプラスを戻す。 

私は改めて洞窟を見回してみる。 

薄暗い洞窟の中だけど、依然キラキラと光るメレシーたちが、天井に張り付いてぷるぷると震えているため、洞窟内は常に七色の優しい光に包まれている。 

辺りには私たちが入ってきた場所同様、海から続いているのか波打つ水辺がいくつかあるけど、陸地自体はしっかりとした足場になっていて、歩いて探すのに不安はなさそう。 

──ふと、そんな探索の視界の中に赤い欠片のようなものが落ちているのを見つける 


千歌「ん、あれ……?」 


私はそれに小走りで駆け寄って拾う。 


鞠莉「モンスターボールの破片ね……」 


私が手に取ったそれを、横から覗き込んで鞠莉さんがそう呟く。 


曜「どうしてこんなところに?」 

鞠莉「Hmm...」 


曜ちゃんの言葉を受けて、鞠莉さんが辺りを見回す。 


鞠莉「……二人とも、あそこを見て」 


何かを見つけたのか、鞠莉さんが指を差して、私たちを促す。 


千歌「……穴?」 

曜「穴というか……窪み?」 


鞠莉さんが指差した先には幅30cmほどの幅の窪みが壁に空いていた。 


鞠莉「たぶん、ふらふら飛んでるロトムがあそこに嵌ってたメレシーにぶつかったんだと思うわ」 

千歌「あ。あれって、メレシーが嵌ってた窪みなんだ!」 

鞠莉「Yes. 個体によるけど……メレシーの特性は“がんじょう”だから、運悪くボールがぶつかって砕けちゃったんだと思うわ。ぶつけられたメレシーはびっくりして奥に逃げちゃったんだと思うけど……」 


私の手からボールの破片を摘みあげて、鞠莉さんはそう言う。 


千歌「え……そ、それじゃ中のポケモンは……」 

鞠莉「たぶん外に放り出されてると思うわ。参ったわね……」 

千歌「! ……しいたけ!」 
17 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:57:36.84 ID:WoQi+oWD0

私は腰からボールを取り出して、しいたけを外に出す。 


 「ワフッ」 
千歌「鞠莉さん、その破片もう一度貸してもらえますか?」 

鞠莉「え、うん。いいけど……」 


私は再度ボールの破片を受け取って、しいたけの前に置く。 


千歌「しいたけ、“かぎわける”」 
 「ワフ」 


私の指示でしいたけはくんくんとボールの欠片の臭いを嗅ぐ。 


 「ワフ」 


しいたけが一回吼えてから、地面を嗅ぎながら歩き出す。 


鞠莉「ち、千歌っち?」 

千歌「たぶん、しいたけなら外に飛び出しちゃった子の臭いを嗅いで見つけられると思うんで! 曜ちゃんと鞠莉さんはロトムを探してください!」 

鞠莉「で、でも……」 

曜「鞠莉さん、ここって危険な野生ポケモンとかもいるんですか?」 

鞠莉「……たまにSableyeが出るとは聞くけど……基本的にはメレシーだけよ」 

曜「じゃあ、千歌ちゃんに任せましょう。千歌ちゃん、しいたけ、お願いねー!」 

千歌「任せて!」 
 「ワフッ」 


私はガッツポーズを作ってから、洞窟の奥へと歩を進めていきます。 





    *    *    * 





鞠莉「ホントによかったの?」 


鞠莉さんが私に尋ねて来る。 


曜「ターゲットが二手に分かれちゃったなら、その方が都合がいいかなーって」 

鞠莉「千歌っち、一人にしちゃって心配じゃないの? 幼馴染なんでしょ?」 

曜「心配じゃないわけじゃないですけど……。でも千歌ちゃんはこういうとき、どうにかしちゃうんです」 

鞠莉「どうにか?」 

曜「子供の頃二人でトレーナーごっこって言って、町の外まで出てたことがあったんですけど……そのとき、たまたまオニスズメに襲われたことがあって」 

鞠莉「……」 

曜「そのとき、私ビックリしちゃって、あれだけ大人にポケモンを持たずに外に出るなって言われてたのに……どうして言うこと聞けなかったんだろうって……すっごい後悔しながら逃げ回ってたんだけど」 

鞠莉「だけど……?」 

曜「オロオロしてる私の前で、千歌ちゃんったらオニスズメに自分の羽織ってる上着被せて、身動きを取れなくして……」 

鞠莉「それは……なんというか、度胸があるというか、無鉄砲と言うか……」 

曜「まあ、結果としては、オニスズメが怒って仲間を呼んじゃって、結局群れに囲まれて更にピンチになったんですけど……」 

鞠莉「Oh... よく無事だったわね」 

曜「あはは……千歌ちゃんのお姉ちゃんが駆けつけてくれて、しいたけと一緒に追い払ってくれたんです」
18 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 13:58:48.69 ID:WoQi+oWD0

その後、結局すごい怒られたんですけど、と私は笑いながら付け足す。 


曜「でも、あのとき千歌ちゃんにどうしてあんなことしたのって聞いたら、こう言ったんです」 

 千歌『チカも怖かったけど……曜ちゃんに何かあったら嫌だったから』 

曜「千歌ちゃん、誰かが困ってたら放っておけないんです」 

鞠莉「……」 

曜「それが人でも、ポケモンでも放っておけない。千歌ちゃんってそんな人なんです」 

鞠莉「……なるほどね」 

曜「それで今回もどうにかしてくれる──と言うか止めても聞かないんじゃないかなって……まあ、今回はしいたけも一緒だし」 

鞠莉「……確かにどちらにしろ、二手に分かれる必要はあったから、間違った選択ではないのだけれど……」 


鞠莉さんの話を聞きながら、私は図鑑の表示を見て足を止めた。 


曜「──鞠莉さん」 

鞠莉「? What ?」 

曜「近くに……います」 


私はサッと図鑑の画面を鞠莉さんに見せる。 

図鑑に表示されたマップには自分たちの現在位置を示すアイコンと、追いかけているロトム図鑑の赤い点滅が重なっていました。 





    *    *    * 





千歌「迷子のポケモンくーん?」 


私はしいたけの後ろを付いていきながら、反響する洞窟内で声をあげる。 


千歌「うーん……せめて、どんな名前かくらい、聞いて置けばよかったかな」 


ロトムが手に持っていたのは両の手にボールを1個ずつ。それなら、2匹のうちのどちらかが今現在、迷子になってる子だと思う。 

鞠莉さんなら、もちろん何のポケモンかは知ってるはずだから、それさえ聞けば……。 


千歌「まあ、名前聞いただけじゃ、どんな見た目かわからないけど……ん?」 


──ガンガン、 

何か硬いものを打ち付けるような音が聴こえてくる。 

その音を、辺りを見回しながら探していると──大きな岩の割れ目に、ガンガンと身体をぶつけているメレシーを見つける。 


千歌「あわわ……なんかすごい頭ぶつけてる……」 
 「ワフ」 

千歌「もしかして、ロトムにボールをぶつけられて、逃げてきたメレシーかな?」 
 「ワォ…?」 


そんな風にしいたけと会話していると、 

 「メ…」 

メレシーと目が合う。 
19 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:01:23.53 ID:WoQi+oWD0

千歌「……?」 


その目からは脅えてるような感じはしなかった。と言うか── 


千歌「……怒ってる?」 


次の瞬間、天井から──ゴッ、ゴッという重たい音が響く、 


千歌「え、何……?」 
 「ワオッ!!」 

千歌「うわっ!?」 


しいたけの声がしたかと思った途端、視界が揺れる。 


千歌「し、しいたけ!!?」 
 「ワフ!!」 


気付くと私の身体を庇うように、しいたけが覆いかぶさっていた。 

その上からは大小様々な石や岩が降ってきている。 

──もしかして、メレシーに攻撃されてる!? 


千歌「そうだ、図鑑!」 


私はしいたけの下でうつぶせになりながら、ポケットに入れた図鑑を取り出した。 

鞠莉さんはポケモンの技とかもわかると言っていた。メレシーの使ってる技を調べて対策を……。 


 『メレシー 覚えている技 いわおとし』 


千歌「“いわおとし”……!」 


理由はわからないけど、メレシーが怒って攻撃してきている。 

当のメレシーは完全に私たちを敵と認識したらしく、先程まで激しく頭を打ち付けていた、岩の窪にすっぽりはまってこちらに“いわおとし”をして来ている。 


千歌「とにかく、どうにかしないと……!!」 


遠距離攻撃でこっちの行動を封じられてるのが不味い。ならこっちも遠距離で……! 


千歌「しいたけ! “つぶらなひとみ”!」 
 「ワフ」 


指示するとしいたけのもふもふの毛が軽く逆立って、目が露出する。 

くりくりの目が。 


 「メ…」 


可愛い目で相手の戦意を削ぐ技、“つぶらなひとみ” 

一瞬メレシーの攻撃が止む。 


千歌「いまだよ! しいたけ、“たいあたり”!」 
 「ワフッ!」 


私の指示でしいたけが飛び出す。 

大地を蹴って、 
20 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:02:39.68 ID:WoQi+oWD0

 「メッ!!」 


しかし、メレシーはすぐに正気に戻ったようで、しいたけに向き直って、岩を飛ばしてくる。 

──“うちおとす”だ!! 


千歌「しいたけ!」 
 「ワフッ!!」 


しいたけは私の声に反応して、首を一振り。飛んできた岩を頭で弾き飛ばす。 

しいたけの特性“ファーコート”は防御を著しく上昇させる特性。 

小さな岩くらいでは体当たりの勢いが止むことはない! 

 「ワォ!!」 

ゴツン!! と言う鈍い音がする。 

しいたけの“たいあたり”が炸裂した──んだけど 


 「メ…」 


岩の窪みにすっぽり嵌った、メレシーはびくともしない。 


千歌「しいたけ! 大丈夫!?」 
 「ワフッ!!」 


有り難い事にしいたけは、自慢のファーコートのお陰で堅い岩にぶつかってもダメージが跳ね返ってくることはない。 

だけど……。 


千歌「ここからどうしよう……」 


完全に膠着状態だ。 

そのとき── 


 「ヒノ…」 


戦っている真っ最中のメレシーの岩の下から、微かにだけれど……か細い鳴き声が私の耳に届いてきた。 





    *    *    * 





 「ロトトトトトト」 


──洞窟の中に鳴き声が響く。 


曜「研究所の前で聞いた鳴き声……!」 

鞠莉「ロトム!! どこにいるの!? 出てきなさい!!」 

 「いやロトー」 


鞠莉さんの声に返事が返ってくる。──返事? 
21 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:03:50.87 ID:WoQi+oWD0

曜「え、返事?」 

鞠莉「要求は何!?」 

 「週休8日制を要求するロトー あと、おやつを増やせロトー」 

鞠莉「あんた、わたしの手持ちで一番おやつ食べてるじゃない!? いつもスターブライト号からポフィン横取りして!!」 

 「あれは貰ってるだけロトー」 

曜「理由しょうもなっ! というか、喋ってる!?」 


機械の合成音声のような音で返って来る言葉が洞窟内に響き渡っている。 


鞠莉「図鑑の機械音声を使って喋ってるのよ。コミュニケーションが取れるのはありがたいんだけど……なまじ頭がいいから、手に負えないわね……」 

曜「鞠莉さんの手持ちなんですよね?」 

鞠莉「むかしっから、なまいきな子で困ってたのよね……あんまり懐かないし……」 

曜「…………」 


思わず再度ジト目になる。 


鞠莉「……最後通告よ、ロトム。ゲコクジョーなんて無駄な考えやめて、出てきなさい」 


鞠莉さんの声が、水気を含んだ入江の洞窟内で何度も反響する。 

私も改めて洞窟内を見回して、ロトムの姿を探してみる。 

随分奥まった場所まで来たけど、視界の端にはちらほらと別の場所から入り込んだ海水溜まりが目に入る。 

さっき千歌ちゃんが探していた子が、その水溜りに落ちていたらと考えると少しぞっとするけど……。 

そんなことを考えながら、ロトムを探して視線を彷徨わせていると── 


 「い・や・だ・ロトー!」 


突然そんな声と共に洞窟の岩がフワリと空中に浮かんだ。 


曜「!? な、なに!?」 


──いや、違う。浮かんだのは岩じゃない!! 


曜「メレシーが飛んでる!?」 

鞠莉「“テレキネシス”か……あくまで抵抗するっていうのね」 


どうやら、鞠莉さんの口振りからすると、ロトムが“テレキネシス”という技でメレシーたちを浮かせたらしい。 

 「ロトー!!」 

ロトムの声と共にメレシーたちが一斉にこっちに飛んでくる。 


曜「わわ!?」 

鞠莉「出てきて、キルリア、ポリゴン」 


そんな状況に臆することもなく、鞠莉さんは腰からボールを2つ放つ。 


 「キルゥー!」「ポリリ…」 


ボールから、飛び出したポケモンが方や元気な声をあげ、方や角ばったポケモンが静かな鳴き声で低空を浮遊しながら飛び出す。 


鞠莉「キルリア! “ねんりき”!」 
 「キル」 
22 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:04:49.11 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんが指示をするとこちらに飛んできたメレシーたちが空中で止まる。 


 「ロトトトト! 止められてしまったロト! でも、また逃げればいいロトー!」 


再び声が響き渡る。 


鞠莉「ふふ、ロトムったらおばかさんね~」 

 「ロト…?」 

鞠莉「せっかく隠れてるのに、“テレキネシス”で浮かせたメレシーをこっちに飛ばしてきちゃったら……飛んできた方向の先にいるって言ってるようなものよ?」 

曜「あ、確かに……」 


浮かび上がったメレシーはたくさんいたけど、それはほぼ私たちの前方で浮いていた。 

それが私たちに向かって飛んできたということは、そのメレシーたちを挟んで向かい側にロトムは潜んでいるということで……。 


 「ロ、ロト!?!?」 


メレシーたちが飛んできた方向の先に向かって、鞠莉さんは指を指す。 


鞠莉「ポリゴン! “じゅうりょく”!」 

 「ポリ…!」 


さっき指示を出さなかった角ばった方のポケモンが、一瞬鈍く光ったと思ったら、 

──鞠莉さんの指差した方向の天井から板状の何かが落ちてきた。 


 「ロ、ロトー!!」 

曜「ロトムだ!」 


左手……の様な部位にボールを1個持っている! 


鞠莉「ロトム……よくも好き勝手やってくれたわね……」 

 「ロ、ロトー! 来るなロトー!」 


ロトムはポリゴンの重力を受けて、地面でばたばたとのた打ち回っている。 


 「そ、そうだロト!! ポイー!!」 

鞠莉「なっ」 


ロトムは思いついたかのように持っていたボールを投げ捨てる 


曜「あ……!」 

 「さぁ、マリー早くボールを追いかけないとロトー」 

鞠莉「次から次へと……!!」 


そのボールはカツンカツンと音を立てながら転がり、入江内の洞窟に出来た大きな海水溜りへ── 


曜「ま、まずい……!!」 


私は思わず飛び出した。 

──“じゅうりょく”下だから、このままだとボールが沈んでしまう。 
23 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:05:36.74 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「よ、曜っ!?」 

曜「鞠莉さんはポケモンへの指示を!」 

 「ロト!? 邪魔するなロトー!!!?」 


私はロトムの脇にある海水溜りに一直線に走る。 

──走る。 

だが、転がったボールは縦穴の中にコロコロと 

転がって……。 

ポチャン── 


曜「……!!」 


私は思わず腰からラプラスのボールを穴に向かって投擲する。 

 「キュウゥー!!」 

ボールから飛び出したラプラスが本当にギリギリ入れるくらいの穴。 


曜「ラプラス!! 潜れる!?」 
 「キュゥー!!」 

曜「よし、いくぞー!!」 


私は走りの勢いのまま、水へ飛び込んだ。 


鞠莉「曜、待って──!!?」 


飛び込む最中に、背後では鞠莉さんが、声をあげたのが聴こえた気がした。 





    *    *    * 


24 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:06:30.21 ID:WoQi+oWD0


──水の中は静かだった。 

私はラプラスの背に掴まって、真っ直ぐに縦穴を潜っていく。 

この狭い穴では、身体の大きなラプラスじゃ、水底に落ちたボールを拾い上げて浮上することは難しい。 

そうなると── 

私が助けなきゃ……! 

海水の中で目を開ける。 

──暗い。 

ここにはメレシーがほとんどいない。 

つまりほとんど光源がない。 

いわタイプは水の中は苦手だからかな。 

私の中で焦りが芽生える。 

見切り発車過ぎたかもしれない。 

──でも、私も助けたい。 

無鉄砲に皆を助ける幼馴染のように。 

……ラプラスが止まる。 

水底に着いたようだ。 

私はラプラスの身体を伝いながら、水底に手を伸ばす。 

手で探る。 

手繰る。 

でも、私の手は砂や岩肌を攫うばかりで、ボールが見つからない。 

──お願い。 

お願い。 

息が苦しくなってくる。 

お願い、お願いだから──。 

──コツン── 

水底を攫う指に何かが当たる。 


曜「……!!」 


私はソレを掴む。 

後は戻──。 


 「メレ!!!」 


瞬間、何かの鳴き声と共に、目の前が突然激しく光る。 


曜「──!!!??!?」 


私は驚いて、思わず水中で息を吐いてしまった。 


曜「……がぼっ……!!」 
25 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:07:15.33 ID:WoQi+oWD0

口の中に海水が流れ込んでくる。 

とてつもない塩気が口内を満たしていく。 

──不味い。 

不味い。 

目の前が暗くなっていく。 

息が── 

…………。 

だ……め……。 

だめ……だ……!! 

この子は……この子だけは……助け……る……! 

手を伸ばす……。 

ラプラス……この子だけ……でも……。 

外に……連れて……。 

手の中でボールが揺れている…………。 

ごめん……わた……し……。 

……。 


──ボム。 


落ちていく意識の端で──聞き覚えのあるような音を聞いた気がした。 





    *    *    * 





鞠莉「曜……!! 曜!!」 


わたしは僅かに気泡の浮かぶ水面を覗き込んで叫ぶ。 


 「ロ、ロト…ここまでするつもりじゃ……」 


端で無責任な発言をしているロトムを振り返って、 


鞠莉「ロトム!! 曜の図鑑サーチ!!」 
 「ロトト!?」 


指示を出す。 


鞠莉「早く!!」 

 「た、たぶん縦穴の底に……」 

鞠莉「そ、そんな……」 


絶望的な言葉。わたしは……わたしはなんてことを……。 


鞠莉「今いくから……!!」 
26 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:08:25.68 ID:WoQi+oWD0

白衣を脱いで、海に飛び込もうとする。 

 「キ、キルゥー!!」 

キルリアが腰にすがりついてくる。 


鞠莉「キルリア!! 放しなさい!!」 

 「無理ロト…人間が一人で潜るのは」 

鞠莉「じゃあ、曜はどうなるの!!? わたしが、わたしが連れてきたから……!!」 


わたしは思わずへたり込む。 


鞠莉「何が……何が博士よ……。何も、何も出来てないじゃない……!!」 

 「ロト…」 

鞠莉「……一番足引っ張ってるの……わたしじゃない……」 

 「……マリー……。……!! 図鑑の反応!!」 


突然ロトムが声をあげた。 


鞠莉「!?」 

 「どんどん昇ってくるロト!!」 


ロトムの言葉と共に 

水面から──何かが顔を出した。 


 「ゼニィー!!」 

鞠莉「ゼニ……ガメ……」 


その水面からは水色のカメポケモン──曜か千歌に渡すはずだった最初のポケモン。 

そして、飛び出したゼニガメの頭上には── 


曜「…………ぅ……」 

鞠莉「……曜!!」 


わたしはすぐに、ゼニガメの掲げた両腕の上に持ち上げられている曜を、水から引っ張りあげる。 

曜は気を失い、ぐったりとしていた。 


鞠莉「曜!! 曜!! しっかりして!!」 

曜「ぅ……げほっげほっ……」 


ちゃんと、息はある……!! 


鞠莉「曜……!! よかった……!」 

曜「ぅ……鞠莉……さん……私……」 

鞠莉「もう……!! あんな無茶して……!!」 

曜「……光って、溺れ……て……あ……、……あれ……“マジカルシャイン”……かな……? 私……助かって……? ……ラプ……ラス……?」 
27 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:09:46.41 ID:WoQi+oWD0

途切れ途切れな言葉で曜はラプラスに呼びかける。 

気付くと水面に上ってきたラプラスが曜に首を伸ばして、曜の顔に頬ずりをしていた。 

 「キュゥゥ…」 

そして、ラプラスは首を振る。 


曜「じゃあ、誰が……」 


曜が力なく辺りを見回すと。 

 「ゼニィ」 

ゼニガメが水から出て、曜の傍に寄り添ってくる。 


曜「あ……そっか、君が、助けてくれたんだ……」 
 「ゼニ」 

曜「あはは……君、みずタイプだったんだね。……じゃあ、最初から大丈夫だったんだ」 
 「ゼニィ…」 


そうやり取りする一人と一匹を見て、わたしは驚きを隠せなかった。 


鞠莉「ゼニガメ……どうやってボールから……」 

 「……感情を強く揺さぶられたポケモンが、思わず自らボールを飛び出す、と言うのはよく聞く話ロトー」 


わたしの疑問にロトムが勝手に答える。 


曜「……ゼニガメ……ありがと」 
 「ゼニ」 


曜の助けたい気持ちを感じたゼニガメが、逆に曜を助けるためにボールから飛び出した……。 


曜「えへへ、よかった……」 


曜がくたりとする。 


 「ゼニィ…!」 「キュゥ…」 

曜「ごめん……少し疲れた……だけ、だから……。……」 


そういって、曜は静かに寝息を立て始めた。 

わたしはさっき脱ぎ捨てた白衣を拾って、曜の体に掛ける。 


 「いい話ロト…」 


未だ重力の影響を受けたまま、地面で感動しているロトムを見下ろす。 


鞠莉「……あなた、これで丸く収まったと思ってる?」 

 「…ロト!?」 

鞠莉「わたしも甘やかしすぎた……今後こんなことがないようにしないとね」 

 「ぼ、ぼぼぼ、暴力反対ロト…!!」 

鞠莉「…………言い残したことはそれだけ?」 

 「……。……仕方ないロト。罪を償う……ロト」 


ロトムが潮らしく萎縮する。 
28 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:11:00.64 ID:WoQi+oWD0

 「なんて言うと思ったロト!?」 


──刹那、わたしに両手を向けて、攻撃の態勢を取った。 

“10まんボルト”の姿勢。 

──……残念ながら、不発したけど。 


 「ロ、ロト!? な、なんで攻撃が出ないロト!?」 

鞠莉「ふふ、ロトム。せっかくの図鑑機能なんだから、それ使ってキルリアの技を確認してみなさい」 

 「? キルリアの技なら、“ねんりき”、“でんじは”、“10まんボルト”、“ふういん”。……“ふういん”?」 

鞠莉「“ふういん”ってどんな技でしょうか?」 

 「そんなの簡単ロト! 自分が覚えてる技が周りのポケモンも使えなくなる……ロ…ト…」 

鞠莉「はい、よく出来ました♪ さすがポケモン図鑑ね♪」 

 「“テレキネシス”!! “テレキネシス”!!」 


ロトムが叫ぶ。 


鞠莉「まだポリゴンが“じゅうりょく”を発動中だから、“テレキネシス”は使えないわよ」 

 「マリー、仲良くしようロト」 


わたしはロトムにニッコリと微笑みかける。 


 「鞠莉ちゃん」 

鞠莉「ロトム」 

 「鞠莉様」 

鞠莉「少し頭を冷やしなさい。ポリゴン“シグナルビーム”」 
 「ポリッ」 


ポリゴンから七色のビームが発射して、 


 「ロドドドドドド!!!?!!」 


洞窟内にロトムのイルミネーションが眩くShinyした。 





    *    *    * 





しいたけとメレシーが頭を押し付けあって、膠着している中。 


千歌「い、今の鳴き声、まさか……!?」 


私はメレシーの岩の下に目を向ける。 

──最初あのメレシーを見つけたとき、ガンガンと岩の隙間に向かって突進していたのを思い出す。 


千歌「……攻撃してたんだ……」 


自分にぶつかってきた、他所から来たポケモン。ボールから飛び出してきたポケモンに怒って……!! 


千歌「じゃあ、あの下には!!」 
29 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:12:07.33 ID:WoQi+oWD0

私は思わず、走り出す。 

そして、岩にくっついて声をあげる。 


千歌「ごめん……!! ずっと一人で逃げてたんだね……!!」 


岩の隙間に向かって。 


 「メ…!!」 


突然視界に現れた私の姿に、メレシーが驚いて攻撃の姿勢を取る。 

 「ワフッ!!」 

──ガスン!! 

それを止めるように、しいたけが頭を振って、メレシーに“ずつき”をしてひるませる。 


千歌「今、助けるからね……!!」 


私はメレシーの下に空いた僅かな岩の隙間に手を入れようとする。 


千歌「せ、狭っ……」 


けど、ギリギリ腕は入る。 

私は隙間の中を手で手繰る。 

すると──ふわりとした感触に当たる。 


 「ヒノ…!!」 


感触と共に鳴き声がした──と思った、その瞬間。 


千歌「熱っ……!!」 


──ボフっと、小さく“ひのこ”が爆ぜた。 

 「ワフッ!!」 

千歌「……大丈夫。しいたけ、もうちょっと」 
 「ワフ!!」 


しいたけは私の言葉に応えるように、今度は“かみつく”でメレシーをひるませる。 

それを確認してから、私は岩の隙間に向かって、出来るだけ優しく声を掛けた。 


千歌「ごめんね……。研究所にいたのに、突然こんなところ連れてこられて……初めて見る野生ポケモンに追いかけられて、怖かったよね……」 
 「ヒノ…」 

千歌「震えてたね……すっごい怖い思いしたんだよね……。ごめんね。もう少し早くチカたちが研究所に来てれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに」 
 「…………」 

千歌「……でも、もう大丈夫だから……今助けるから……!!」 

 「…メェ!!」 


──その瞬間、突然メレシーが激しく“フラッシュ”した。 

全く警戒していなかった為、激しい光によって至近距離で目を焼かれる。 


千歌「い゛……!!!」 


思わず声をあげそうになったけど── 
30 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:13:22.09 ID:WoQi+oWD0

千歌「……ぐっ」 


堪える。 


 「ワンッ!!」 

千歌「しいたけ……大丈夫……!!」 


私はしいたけを落ち着かせる。 

かくいう、しいたけは無事のようだ。普段から目が隠れてるのが功を成したのかも。 

私は霞む視界のまま、再び岩の割れ目に手を伸ばす。 

切り立った岩肌で、手や腕に引っかき傷が出来るのを感じる。 

でも、伸ばす。 

私がここで痛がったり、大声をあげたら、この子が不安になっちゃうから。 

今怖がってるこの子を不安にさせちゃいけない。 

今この手を引っ込めるわけにはいかない。 

だって、だって── 


千歌「私はキミのパートナーだから……!!」 
 「ヒノ…!」 


再び柔らかい感触が手を撫でる。 


千歌「これからは……私が守るから……!!」 


撫でた手の先で……キミの震えが止まる。 


千歌「私の言うこと……聞いてくれる……?」 
 「ヒノ…」 


岩の隙間で丸まったキミが、僅かにもぞもぞと動くのがわかった。 

……今度は熱くない。 


千歌「ありがとう……」 


私は岩の隙間からそっと手を引き抜いて。 


千歌「──私が合図したら、さっきの炎で思いっきり!! できる!?」 
 「ヒノォー!!」 


私の指示に呼応するように鳴き声が響く。 


千歌「よし、しいたけ!! “ほえる”!!」 
 「ワォンッ!!!!」 


しいたけが大きな声が吼えると、 

 「──!!!?」 

驚いたメレシーが一瞬勢いを止める。 


千歌「いまだよ!! 思いっきり!!!!」 


私は叫んだ、私のパートナーに向かって、 
31 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:14:10.49 ID:WoQi+oWD0

 「ヒノォーーーーーー!!!!」 

 「メメメ──!?!?!!!?」 


メレシーの直下の岩が赤く光ったと思った直後 

そこから激しい炎柱が立ち上り、 

 「メェーーー!!!?」 

メレシーを打ち上げた。 


千歌「いっけぇーーーー!!!」 


まるで“ふんか”のように噴出すその炎は 

 「ヒノォオオオオオ!!!」 

私の声に呼応するように更に勢いを増して、 


 「──!!!!!!!?!?!?!?」 

そのまま、メレシーを天井まで突き上げた。 

メレシーはガスン、と鈍い音を立てながら天井にぶつかった後、 

 「メ…レ…」 

床に落ちて、目を回してひっくり返り、大人しくなった。 


千歌「……か、勝った……」 


私はよろよろと岩の隙間に近づいて、手を伸ばす。 

炎の余熱で少し熱かったけど、それよりも今は……。 


千歌「ありがとう……キミのお陰で勝てたんだよ……」 


岩の隙間で丸まっているキミを抱き上げた。 


 「ヒノ…」 


もふもふとした、キミを抱き上げて。 


千歌「帰ろっか」 


優しく撫でながらそう語りかけた。 


 「ヒノ…」 


キミはもぞもぞと丸まった体を伸ばして、顔を出す。 


千歌「ふふ、キミの目もしいたけみたいだね」 


可愛らしくつぶったままの目を見て、私は思わず笑ってしまった。 





    *    *    * 


32 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:15:06.67 ID:WoQi+oWD0


鞠莉「千歌っちーーー!!」 


鞠莉さんの声が遠くから聞こえてくる。 


千歌「あ、鞠莉さーん!! こっちー!!」 


声をあげると鞠莉さんが、曜ちゃんをおんぶしたまま、私の元に走ってくる。 


千歌「って、よーちゃん!?」 

鞠莉「気を失ってるだけよ。それにしても、よかった……。爆発音が聴こえたから、心配したのよ?」 

千歌「あ、えへへ、ごめんなさい……」 

鞠莉「もう煤だらけじゃない……」 


鞠莉さんは私の身体についた黒い煤を見てから、 


鞠莉「……無事見つかったみたいね」 


私の腕の中にいる子を見て、そう言った。 


千歌「はい。……ちょっと怖い思いさせちゃったみたいだけど……」 
 「ヒノ…」 

鞠莉「……大丈夫よ」 

千歌「?」 

鞠莉「だって……“おくびょう”な性格のヒノアラシが、今あなたの腕の中でそんなに安心してるんだもの……」 


鞠莉さんはそう言ってから、私に向き直って。 


鞠莉「千歌……本当にありがとう……」 


そうお礼を言ってくれました。 


千歌「えへへ……はい!」 





    *    *    * 





曜「ん、んぅー……」 

千歌「あ、曜ちゃん!」 


入江の外へ繋がる海の上をラプラスで航行している最中、曜ちゃんが目を覚ます。 


曜「あ……千歌ちゃん……」 

千歌「曜ちゃん、お疲れ様」 

曜「うん……あ、あれ? ゼニガメは……」 


曜ちゃんが半身を起こして、辺りをキョロキョロとする。 
33 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:16:25.76 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「大丈夫、そこにいるわ」 


鞠莉さんが曜ちゃんの視界に入るように視線で、水面の方を指す。 

そこではゼニガメが、辺りを警戒しながら泳いでいた。 


曜「あはは、まだ警戒をしてくれてるんだね。……ありがとーゼニガメー!!」 


曜ちゃんが声を掛けると、気付いたゼニガメが背面泳ぎになって 

 「ゼニー」 

曜ちゃんに向かって手を振る。 


曜「……あ、そうだ! 千歌ちゃんの方は──」 

千歌「うん、大丈夫。ほら」 
 「...zzz」 


私の腕の中でのんびりお昼寝をしている、ヒノアラシを見せる。 


曜「ほっ……よかったぁ……」 


それを見て、曜ちゃんが安堵する。 

間もなく、入江の外が近くなってきて、外の光が洞窟の中に差し込んできた。 

そのとき、 


鞠莉「二人とも……」 


突然、鞠莉さんが立ち上がった。 


鞠莉「……今回は本当にごめんなさい。わたしの不手際のせいで……危ない目にあわせてしまって」 


鞠莉さんはそう言って頭を下げる。 


千歌「い、いや、付いていくって言ったのは私たちですし……!」 

曜「そうですよ! それにロトムを止めたのも鞠莉さんだったし……」 

鞠莉「そういう問題じゃないの……これは大人として、ちゃんと反省しなくちゃいけないことだから……」 


依然、頭を下げて謝罪する鞠莉さんを二人で必死にフォローしようとしていると── 


 「──全くその通りですわ」 

千歌・曜「「!?」」 


入江の外から、洞窟内に向かって、聞き覚えのある声が木霊した。 

声のする方に目を向けると、細長い体躯で海を悠然と泳ぐポケモンの上に、毅然と立ちながら黒いロングの髪を潮風にはためかせて、こちらを見据える女性が一人。 


 「……事情を説明して頂けるかしら? オハラ博士?」 

鞠莉「...Oh. 思ったより早かったわね……」 


──私と曜ちゃんはその光景を見て、思わず顔を見合わせて声をあげてしまった。 


千歌・曜「「──ダイヤ先生!?」」 

34 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 14:17:44.91 ID:WoQi+oWD0



>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【クロサワの入江】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./             .●回/         || 
 口=================口 


 主人公 千歌 
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.6  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:7匹 捕まえた数:2匹 

 主人公 曜 
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.5  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:9匹 捕まえた数:2匹 


 千歌と 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



35 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 17:52:25.74 ID:WoQi+oWD0

■Chapter003 『オハラ研究所』 





ダイヤがこちらに向かって鋭い眼光を向けている。 

長い付き合いだからわかるのだけど、あれは結構怒っているときの目だ。 

参ったなぁ……だから、ダイヤにバレる前にSolution──解決しちゃいたかったんだけど。 

良い言い訳も思い浮かんでないし……。 


ダイヤ「わたくしの可愛い生徒達に何かあったら、どうするつもりでしたの? 回答によっては──」 


ダイヤの冷たい声が響くと共に、ダイヤをここまで泳いで運んできたミロカロスが、トレーナーとシンクロするかのように冷たく睨みつけてくる。 


千歌「ま、待ってダイヤさん!」 

曜「これは私たちが勝手に付いて来ただけで……!」 


二人が再びフォローを入れてくれるが、 


ダイヤ「今は貴方達には聞いていません。これはあくまで監督者側の問題ですわ」 


そう言って、一蹴する。Umm...相変わらずVery hardだネ……。まあ、その意見はわたしも概ね同意なんだけど。 


鞠莉「……反省はしてるつもり。でもとりあえず、今はここを出てからにしない? 説教なら研究所で聞くから」 

ダイヤ「…………。……はぁ……まあ、いいでしょう」 


ダイヤは嘆息してから、ミロカロスに目配せする。 

言葉を発さずとも察したミロカロスが、ラプラスの横に付けて併走──いや、泳いでるから併泳かしら?──しだす。 


千歌「あ、あの……ダイヤ先生……」 

ダイヤ「学校の外ですから、いつも通りでいいですわよ」 

千歌「あ、はい、ダイヤさん」 


先生と言ってもダイヤは千歌たちとは一歳差。 

トレーナー歴ではかなりの先輩になるけど、基本は地元の幼馴染みたいなものだものね。 


ダイヤ「それにしても……二人ともずぶぬれに煤だらけ……危険なことをしては、ダメではありませんか」 

曜「ご、ごめんなさい……」 

ダイヤ「はぁ……貴方達は二人揃って昔から無鉄砲でしたわよね……。お母様も貴方達の先生をやっている間は手を焼いたと言っておりましたわ」 

千歌「うぅ……」 


ダイヤは息をするように生徒達に説教を始める。 


ダイヤ「ただまあ……」 

千歌「?」 
 「ヒノ……zzz」 


ダイヤは千歌っちの腕の中で眠るヒノアラシと、 
36 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 17:53:35.15 ID:WoQi+oWD0

 「ゼニガーー」 


ラプラスの前方を警戒しながら泳ぐゼニガメに目を配らせてから、 


ダイヤ「良き出会いに恵まれたようですわね」 


優しい口調で二人に語りかける。 


千歌「えへへ……」 

曜「ヨーソロー!」 


そんな三者の姿を見て、反省中にも関わらず、思わず笑ってしまう。 


鞠莉「──ふふ……なんだかんだで、すっかり良い先生じゃない」 


わたしはダイヤに聴こえないように、そんなことをこっそりと呟いたのだった。 





    *    *    * 





千歌「ところでダイヤさん」 

ダイヤ「なんですか?」 

千歌「どうやって、私たちが入江にいるってわかったんですか?」 


私はダイヤさんに疑問をぶつける。 


ダイヤ「噫……それはですね」 


ダイヤさんがそう言って腰からボールを放る。 

ボールからは、さっきから何度も目にしていたポケモンと同じ姿── 


 「メレ…」 

曜「あ、ボルツ」 


──ダイヤさんの手持ち、メレシーのボルツが顔を出した。 

その頭には目立つ真っ黒な宝石がキラキラと光っている。 


ダイヤ「この子が教えてくれたのよ。この子がタマゴから孵ったのも、この洞窟だからかもしれないのだけれど……この洞窟で何かあるとすぐに気付くのよ」 

千歌「そうなんだ……」 

 「メレ…」 


聞いてぼんやりと関心する私の傍にボルツがふわふわと近付いてくる。 

学校では先生の手持ちとして、授業のサポートもしていた子なので、私も曜ちゃんも顔見知りなわけで……。 

──でも、ここ最近は旅の準備で会ってなかったから、 


千歌「ボルツ、久しぶりだね」 


私はそう挨拶した。 
37 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 17:55:49.07 ID:WoQi+oWD0

 「メレ…」 


ボルツは軽く一鳴きすると、『千歌の反応は確認した』とでも言わんばかりに、ふわふわと私の傍から離れてダイヤさんの元へと戻っていく。 


ダイヤ「ごめんなさい、相変わらずぶっきらぼうな性格でして……」 

曜「あはは、なんかこの感じ懐かしいなぁ」 

千歌「あ、そういえば……“ボルツ”の名前って」 

 「メレ…?」 


私は振り返って入江の洞窟の奥の方を見る。 

出口に近付くほど数は減ってきたが、遠方に先ほど見た宝石の星達の瞬きが目に入る。 


千歌「不思議な響きだなって、学校にいるころから思ってたけど……もしかして、その子の体の宝石に関係があるのかなって」 

ダイヤ「……驚きましたわ。あの千歌さんがそのようなことに気付くとは……確かにボルツはこの子の宝石の種類が由来ですわ」 

千歌「む、それどういうことですか」 


私は先生の失礼な物言いに、怪訝な顔をする。 

一方ダイヤさんは鞠莉さんの方をチラリと一瞥。 

すると、鞠莉さんは、 


鞠莉「まあ、一応これでも博士だからね? ちょっとした課外授業よ」 


そうおどけて言う。 


千歌「メレシーたち、いっぱいいるけど……皆、個性的に光ってて……もしかして、ダイヤさんのメレシーも……うぅん、ルビィちゃんのメレシーも琥珀先生のメレシーもニックネームがあったから、そこから付けてるのかなって」 

曜「あー確かに……琥珀先生のオレンジの宝石のメレシーはそのまんま、アンバーだったもんね」 

ダイヤ「ええ、その通りですわ。少し考えはしたのですが……何せわたくしの名前がダイヤでしたので、ダイヤモンドと付けるのも分かり辛いかと思いまして」 

鞠莉「ブラックダイヤモンドって言う黒いダイヤのことをボルツって言ったりするのよ」 

ダイヤ「そこから名前を貰って、ボルツと名付けました」 

曜「じゃあ、ルビィちゃんのメレシーも?」 


そう言う曜ちゃん。 

ルビィちゃんの持っているメレシーは、コランと言うニックネームだ。 


ダイヤ「ええ、コランもルビーの含有物のコランダムから名前を貰って、ルビィが自分でそう名付けたようですわ」 

曜「へぇ……なんか学校のメンバー、花丸ちゃんと私以外、皆ニックネームの付いた手持ちがいるんだね……ラプラスにもニックネーム付ければよかったかな? ……ヨーソロー丸とか?」 

千歌「そ、それはどうだろう……」 

 「キュウゥゥ・・・」 


曜ちゃんのネーミングセンスを聞いて、ラプラスも困り顔になる。 


ダイヤ「ふふ……まあ、ニックネームですと、どのようなポケモンなのかは他の人には分かり辛くなってしまいますし。クロサワの家は代々メレシーも子へ継ぐと言う習わしがあるため、ニックネームがないと区別が出来ないから付けてるだけですのよ」 


そんな話を聞いて、しいたけもそうなのかな? ……と、少しだけ思ったけど。 

たぶん、トリミアンと呼んでも周りが混乱するからニックネームを付けていたんだろうな、などと思い私は一人で苦笑い。 

──さて、そんな話をしながら気付けば、私たちは入江を抜けて、アワシマへと再び辿り着こうとしていた。 

38 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 17:57:27.31 ID:WoQi+oWD0



    *    *    * 





──さて、オハラ研究所に戻るや否や。 

ダイヤさんは鞠莉さんを床に正座させ、 


鞠莉「Seiza? ここ床なんだけど……」 

ダイヤ「いいから正座なさい」 


……正座させ、私たちをほっぽりだして、説教を始めました。 


ダイヤ「今回のことに関して、貴方がどうしてもと頼むから、わたくしも承服したのですわよ? その辺り、わかっているのですか?」 

鞠莉「……」 


鞠莉さんが苦い顔をする。 


ダイヤ「そうでもなければ、わざわざ危険な旅に自分の生徒を送り出すと御思いなのですか? 貴方は?」 

鞠莉「それはわかってる……Sorry.」 


鞠莉さんが再び潮らしく謝罪する。ただ、一方的に捲くし立てられるのが気に入らなかったのか、 


鞠莉「……でも、ダイヤもこの話を持ちかけたときは喜んでたじゃない。生徒の門出だ、なんて言って」 


そう呟く。 


ダイヤ「……そ、そんなことあったかしら……?」 


ダイヤさんは図星を指されたのか、少し赤くなってホクロを掻く──ダイヤさんが誤魔化すときの癖です。 


ダイヤ「だ、第一、なんでわたくしの生徒四人、余すことなく皆旅に出るのですか!」 


重ねて誤魔化すように、ダイヤさんはそう言って声を荒げる。 

その口調に鞠莉さんは更にムッとした顔をして、 


鞠莉「それはダイヤの教え子が少ないからでしょ!」 


反論。 


ダイヤ「新米教師なんだから仕方ないではないですか!? それにこの辺はそもそも子供も少ないのです! それくらい貴方も知っているでしょう!?」 

鞠莉「だーかーら、ダイヤにお願いしたのよ!! この辺りで旅に出る子供紹介して貰うんだったら、学校しかないじゃない!!」 

ダイヤ「貴方も研究者なら、ここまでにコネの一つでも作れなかったのですか!?」 

鞠莉「しょうがないでしょ! 研究所設立のアレコレで手一杯だったのよ!? と言うか、そこらへんはダイヤも知ってるでしょ!?」 


二人が子供みたいな口喧嘩を始める。 


千歌「……」 
 「…ヒノォ…ッ…」 


私は腕の中であくびをするヒノアラシを撫でながら、博士と先生の口論をぼんやりと眺めていた。 
39 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 17:58:54.13 ID:WoQi+oWD0

曜「……それにしても、鞠莉さん、先生と知り合いだったんだね」 

千歌「あ、うん。それも結構仲良さそうだよね」 


横で私と同じように行く末を眺めていた曜ちゃんが耳打ちしてくる。 


ダイヤ「このような危険なことに巻き込むのでしたら、今後ルビィと花丸さんを旅に出すのは反対ですわ!」 

鞠莉「う……だから悪かったって言ってるじゃない……反省もしてるわ……」 

曜「あ、あのー……ダイヤさん、私はこの通りピンピンしてるから……」 


詰問され続ける鞠莉さんを見かねてか、曜ちゃんが割って入るが、 


ダイヤ「曜さんは黙っていてください! 今はこの人と話をしているので」 

曜「は、はいっ! 失礼しましたっ!」 


すぐに回れ右して戻ってくる。 


千歌「……長くなりそうだね……」 


ダイヤさん、お説教始まると長いんだよね……。 

 「…ヒノ」 

そんなことを考えていたら、腕の中でまたヒノアラシが眠そうにあくびをした。 





    *    *    * 





ダイヤ「──第一呼ばれて来てみたら、研究所には誰もいませんし、最初のボールも6つのうち4つがなくなっているし、最初と約束が全然違うではありませんか!」 

曜「……? なんの話だろう」 

千歌「……さぁ?」 

ダイヤ「……なんですって?」 


首を傾げる私たちに、ダイヤさんはピクリと反応して、こちらに視線を向けてくる。 


千歌「ひぃ!?」 

ダイヤ「まさか、鞠莉さん! そのことも説明していなかったのですか!?」 

鞠莉「Wait! Wait! それは予め説明してたヨ!」 

曜「なんの話ですか……?」 


このままじゃ本当に埒が明かないと思ったのか、曜ちゃんが質問する。 


ダイヤ「今回旅立つ新人トレーナーは6人……という話は前に話しましたわよね」 

曜「あ、はい」 

ダイヤ「それに当たって、人数分の初心者用ポケモンと図鑑を用意して頂いたのですが……」 

千歌「……あ、言われてみれば私たち、ヒノアラシとゼニガメにしか会ってないね」 

ダイヤ「その通りですわ。……わたくしは公平性を欠かないように最初のポケモン選びは3人ごとに集まって、相談して選んで決めて貰うようにお願いしたではありませんか!!」 

鞠莉「Wait! Wait! それもちゃんと理由があるのよ!」 
40 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:01:46.82 ID:WoQi+oWD0

激昂したダイヤさんに襟首を掴まれて、慌てて弁明する鞠莉さんとの会話を聞いて、私も今朝曜ちゃんとした話を思い出す。 


千歌「そういえば、最初のポケモンってどうして3匹のうちから1匹を選ぶんですか?」 


別に選ばせてくれるんだったらもっと多くてもいいし、貰えるって言うんだったら、いっそ選べなくても文句はないのに、なんで決まって『3匹から1匹』なんだろ? 


ダイヤ「まずはポケモンタイプ相性に慣れてもらうため、初心者でも扱いやすい、くさ、ほのお、みずの3つのタイプから選んで貰って渡す。これが理由の一つですわ。自身で決めてタイプを選ぶことによってポケモンに相性があることを強く認識してもらうためですわね」 

鞠莉「もう一つは、研究者側の理由なんだけど……最初にポケモンを渡すのはデータ収集の目的もあるから、育成のデータに初期状態から大きくブレが出ないように、出来るだけタマゴから孵化した時期の近い3匹を厳選する。更に出来るだけトレーナーも歳の近い3人に渡すのよ」 

ダイヤ「それがわかっていて、なんでここにくさタイプを選んだ子がいないのですか!?」 

鞠莉「Oh stop DIA!!」 


再び鞠莉さんを睨みつけながら、怒るダイヤさん。 


鞠莉「くさタイプを選んだ子は朝一番、研究所の戸を開けたらすぐ外で待っていたから、そのとき渡したのよ!」 

ダイヤ「あ・な・た……人の話を聞いておりましたの!? それが平等性に欠けると言う話をしていて……!!」 

千歌「ダ、ダイヤさん、ちょっと落ち着いて!!」 

ダイヤ「……考えてみれば、千歌さん! 貴方も貴方ですわ!! あれほど、クロサワの入江には近付くなと言っていたのに、どうして付いていったのですか!?」 

千歌「うわっ!? 飛び火した!?」 


思い出したかのように、突然話題を切り替えたダイヤさんに詰問される。 

びっくりして、私が飛びのくと腕からヒノアラシがころころと研究所の床に転がり落ちる。 


 「ヒノ…」 

千歌「あわわ、ヒノアラシ! ごめんね!」 


床の上で丸くなって、ヒノアラシがボールのようにころころと転がっていく。 

私はすぐにヒノアラシを再び抱き上げる。 


 「ヒノォ…」 

千歌「……大丈夫?」 


私が撫でるとヒノアラシは再び丸めた体を伸ばして、あくびをする。 

大丈夫みたいだ。 


ダイヤ「…………」 


気付くと、ダイヤさんが少しバツの悪そうな顔をしていた。 

自分が怒鳴った勢いでヒノアラシを落としてしまったからだろう。 


曜「とにかく、ダイヤさんも、鞠莉さんの話を一度聞きましょう? このままじゃ話進まないし……」 

ダイヤ「は、はい……そうですわね」 


ダイヤさんはやっとクールダウンしたのか、少し赤くなって俯く。 


鞠莉「──今回旅立つのは最初にも言ったけど、6人。そのうち2人はウラノホシの外から来た子なんだけど……」 

ダイヤ「まあ、ルビィと花丸さんがポケモンを貰ったという話は聞いていませんから、察するにそのお二方が先に貰いに来たということなのでしょうけれど……」 

鞠莉「ま、結論から言っちゃえばそうなるわ」 

ダイヤ「それで……納得の行く理由なのでしょうね?」 

鞠莉「んー……そうね」 
41 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:03:55.99 ID:WoQi+oWD0

鞠莉さんが少し、顔を顰める。 


鞠莉「とりあえず、千歌と曜がいるから、先にそっちの3匹のうち1匹についてね。さっきも言ったけど、ここにはいないもう一人の子が朝一で受け取りに来たのよ」 

ダイヤ「それで言われて渡してしまったのですか?」 

鞠莉「まさか。わたしも最初は断ったわよ」 

曜「それで引き下がらなかったってことですか……?」 

鞠莉「そういうことね。……今すぐにでも旅に出たい……というか、何か切羽詰ってる感じがしたから」 

ダイヤ「切羽詰っている感じ?」 

鞠莉「『私には時間がないんです』って」 

ダイヤ「……ああ、そういえば……その子は他の地方から来た良家のご子息と言う話だった気がしますわ」 

鞠莉「……なにそれ初耳なんだけど? なんでダイヤが知ってるのよ」 

ダイヤ「その子のご両親から、旅立ちの際に軽く指南して欲しいと依頼されていたのよ。まあ、来てみたら既に当人がいなかったのですが……」 

鞠莉「……ははーん……なんとなく、話が読めてきたわ」 

曜「……? ……。……あ、ああ、なるほど」 


皆が勝手に納得する中 


千歌「……?」 


正直、私は話がよくわからなかった。 


千歌「まあ、よくわかんないけど、とりあえず、その子がもう一人のトレーナーってことだよね?」 

ダイヤ「ええ、まあ、そうですね」 

千歌「今朝早く来て、先にポケモンと図鑑を貰って旅に出たってことだよね?」 

鞠莉「そうね」 

千歌「よっし!」 

曜「千歌ちゃん……?」 

千歌「じゃあ、まだ急げば追いつけるかも! 行こう! ヒノアラシ!」 
 「ヒノ!」 


そう言って私が声を掛けると、腕の中で寝息を立てていたヒノアラシが目を覚まして、もぞもぞと動く。 

私はそのままヒノアラシを床に降ろして走り出す。 


曜「え!? ち、千歌ちゃん!?」 

千歌「せっかく一緒に旅に出る子なんでしょ? 同期ってことだよね!? 挨拶しなくちゃ!」 


私の後ろをヒノアラシが走りながら付いてくる。 


曜「ええ!? ま、待ってよ千歌ちゃん! 私も行くから!! ゼニガメ!!」 
 「ゼニ!」 


曜ちゃんが研究所の出入り口の前で、律儀に外を見張り続けていたゼニガメに声を掛けて、走り出す。 


ダイヤ「あ、ちょっと千歌さん! ウチウラシティに着いたら、ポケモンスクールに寄るのですよー!?」 


背後でダイヤさんが、そう叫ぶ 


千歌「わかってまーす!!」 
42 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:05:47.19 ID:WoQi+oWD0

後ろに向かって手を振りながら、返事をする。 


鞠莉「あ、そうだ! 図鑑は3つで1セットで、近くに揃うと音が鳴るからー! それですぐに本人だとわかると思うわー!」 

千歌「はーい!」 

曜「い、いってきまーす!」 


──とにかく、曜ちゃんと一緒に、図鑑が鳴るところまでダッシュだ! 


千歌「いっくぞー!!」 
 「ヒノォー!!」 


せっかくの旅立ち前にずっと話聞いてられないもん! 

私はヒノアラシと研究所を飛び出した。 





    *    *    * 





突然弾けるように飛び出して教え子たちが去ってしまった。研究所内が突然静かになる。 


ダイヤ「……全くあの子達は変わりませんわね」 


そういえば、学校のいるときもお説教から逃げるときはこんな感じだった気がしますわ。 

今回はお説教していたわけではないのですが……。 


鞠莉「そういえば、7年前ウチウラシティでポケモンを貰ったときもこんな感じだったわね」 

ダイヤ「……もうそんなに前のことですか……」 

鞠莉「わたしたちが旅に出たのって、10歳のときだからね~ パパからポケモンを貰ったあと、いろいろ説明受けてるとき……」 

ダイヤ「……ああ……言われて見れば確かに、果南さんが我慢できずに飛び出して行ってしまったのでしたわね」 

鞠莉「そうそう、懐かしいわね……」 

ダイヤ「……7年ですか。……気付いたら貴方はポケモン博士になっているし」 

鞠莉「あら、あなたも気付いたら教師になってたじゃない」 

ダイヤ「そうね……ただでさえ忙しいのに、最近は“もう一個”大きなお勤めも増えてしまって、大変ですわ」 

鞠莉「……“そっち”は名誉なことじゃないの?」 

ダイヤ「もちろん、どちらの仕事も誇りを持ってやっているつもりですが……」 


なんだかセンチメンタルな気分になって、なんとなく机を撫でる。 

図鑑と二つのボールが残っている、机を。 


鞠莉「そういえば……もう一人なんだけど」 

ダイヤ「あ、ああ……そういえば話の途中でしたわね」 

鞠莉「こっちは、正直かなり強引に持ってかれちゃったのよね」 

ダイヤ「……貴方が強引と揶揄するとは、相当ですか?」 

鞠莉「理由は説明したんだけど……『依頼されたのは私なんだから、いいでしょ?』って言って、さっさと貰うもの貰って出て行っちゃったのよ」 


鞠莉さんが苦笑してから、 
43 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:07:14.08 ID:WoQi+oWD0

鞠莉「やっぱダメね……新人だからイゲンが足りてないのかしら」 


そう零す。 


ダイヤ「……。……らしくもない。貴方も随分謙遜するようになったのですわね」 

鞠莉「……今回の件も元はと言えばロトムのシツケの問題だからネ」 

ダイヤ「貴方のロトムは昔からトラブルメーカーでしたからね。一応、苦労は察しますわ」 


落ち込む幼馴染の姿を見て、なんだかこれ以上責めるのも憚られる。 

そんなわたくしの胸中を知ってか知らずか、 


鞠莉「……リューインは下がったの?」 


そう不安そうな顔をして訊ねてくる。 


ダイヤ「まあ……そうですわね。……トレーナーがポケモンを選ぶように、ポケモンにもトレーナーを選ぶ権利がありますから」 

鞠莉「……?」 

ダイヤ「……ヒノアラシも、ゼニガメも、よく懐いていましたし。……それが確認できたのなら、これ以上口出すのも野暮かと思いまして」 

鞠莉「……なるほど」 


……まあ、ルビィと花丸さんが貰うポケモンが不平等なことに関しては少し納得出来ていない節もありますが……。それはその本人を問い詰めたが良さそうですし。 


ダイヤ「さて……わたくしも仕事に戻りますわ」 

鞠莉「ん、今から学校?」 

ダイヤ「いえ──そちらではない方の仕事ですわ」 

鞠莉「ああ、なるほど。ダイヤも忙しそうね」 

ダイヤ「ふふ、お互いね……。まあ、もう少ししたら落ち着くと思いますから。そうしたら、またお茶でも飲みに来ますわ」 

鞠莉「OK. 頑張ってね──新米ジムリーダーさん」 





    *    *    * 





──汗が頬を伝う。 

目の前にいる小鳥ポケモンと何度目の対峙だろう。 


 「今度は、逃げられないように……」 


呼吸を整える。 

ちょっとずつ弱らせながら追いかけているのだ、そろそろ捕まえられるはず。 

私は件の鳥ポケモンの目の前で、不機嫌そうに待っているポケモンに指示を出す。 


 「チコリータ! “はっぱカッター”」 
  「チコッ」 
44 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:08:10.26 ID:WoQi+oWD0

指示と共に鋭利にとがった葉っぱが飛び出して、 

 「ポポッ!」 

目の前の対象を怯ませる。 

そこに向かって追い討ちを掛けるような強力な一撃、 


 「チコリータ! “やつあたり”!」 
  「チィィコッ!!!!!!」 

 「ポポォッ!!?」 


チコリータが葉っぱを振り回して、ポッポに攻撃する。 

貰ったばっかりでまだ懐いていないから、“やつあたり”の威力が大きい。 

強力な攻撃を受けてフラフラな状態になったポッポに向かって、 


 「……今だ!!」 


私は博士から受け取った空のモンスターボールを投げつけた。 

シュゥゥ──という音と共にポケモンがカプセルに吸い込まれる。 


 「お願い……いい加減、捕まって……」 


コンコン──と地面に落ちたモンスターボールが一揺れ……二揺れ…… 

三回目の揺れを確認した後、 

止まった。 


 「はぁ……やっとゲットできた……」 


私が溜息を吐いてへたり込むと、 


 「チェリリ」 


バッグから相棒のチェリンボが飛び出して、ポッポの入ったボールを拾って持ってきてくれる。 

  「チェリリ!」 
 「ありがと、チェリンボ……。チコリータもお疲れ様。戻って」 


そう言ってチコリータをボールに戻す。 


 「ブルル…」 


先ほどの戦闘を後ろで見守っていたメブキジカが、へたり込む私の傍にやってきて、鳴き声をあげる。 


 「あはは、ありがとメブキジカ……」 


メブキジカに支えられながら、私は立ち上がる。 


 「……はぁ、ポッポ一匹でこれじゃ……先が思いやられるなぁ……」 


そんな風に1人ぼやいていると── 

pipipipipipipi──!! 


 「きゃぁ!?」 


上着のポケットに入れた図鑑が激しく鳴り出す。 
45 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:08:38.19 ID:WoQi+oWD0

 「な、何!?」 


咄嗟に図鑑のボタンを押すと音が止まる。 

私は顔を顰めながら、今先程まで鳴っていた図鑑を睨む。 

……なにかの通知かな? 

そんなことを考えていると…… 


 「今鳴ったよー! この近くにいるみたい!」 

 「うん! あと一息かな!」 


背後から、私と同じくらいの歳の女の子の声が聞こえてきた。 

私が振り返ると── 


 「──もしかして、貴方!?」 


そこには、それぞれヒノアラシとゼニガメを連れた二人の女の子が、立っていました。 


46 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 18:10:45.89 ID:WoQi+oWD0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【1番道路】 
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 主人公 千歌 
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.6  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:2匹 

 主人公 曜 
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.5  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
     ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:2匹 

 主人公 ??? 
 手持ち チコリータ♀ Lv.6 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリンボ♀ Lv.6 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      メブキジカ♂ Lv.34 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:?????? 
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:?????? 
      ポッポ♀ Lv.5 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:14匹 捕まえた数:6匹 


 千歌と 曜と ???は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 

47 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 20:54:48.56 ID:WoQi+oWD0
■Chapter004 『梨子』 


  「ケロ…」 
 「……ケロマツ? どうしたのよ」 


上空を飛びながら、肩の上でケロマツが下方に何かを見つける。 

私はポーチからオペラグラスを取り出して、ケロマツの見ている方を覗き見る。 


 「女の子? ……しかもこんなド田舎に3人も。……もしかして、同業者?」 


我ながら素晴らしい考察。 


 「観察の余地ありね。ヤミカラス、しばらくこの辺り旋回出来る?」 
  「カァー!」 


脚に掴まった私を持ち上げ羽ばたく相棒に頼み、彼女らを観察することにする。 


 「……さて、どうなるかしら」 


対象から、やや角度と高度を保って、出来るだけ目立たないように、でも見失わないように、私は密かに彼女達を注視する──。 




    *    *    * 





 「──もしかして貴方!?」 


髪を片側で三つ編みにしている、明るい髪色の快活そうな女の子が問い掛けてくる。 


 「えっと……どちら様ですか?」 


私は怪訝な顔をする。 


 「千歌ちゃん、自己紹介しないと! 困ってるよ!」 


もう一人、癖っ毛のショートボブの子がゼニガメを抱えたまま、隣の子にそう言う──最初に私に問い掛けてきた子は千歌ちゃんと言うらしい。 


千歌「あ、そうだった! 私、千歌! 16歳! さっき、鞠莉さんからヒノアラシを貰った新人トレーナーだよ!」 
 「ヒノ」 


……『千歌』と名乗った子がそう言うと、足元でヒノアラシが声をあげる。 

鞠莉さん……? ……ああ、オハラ博士のことか。 


曜「私は曜。見てのとおり、私も鞠莉さんからゼニガメを貰った新人トレーナーだよ」 
 「ゼニィ」 


今度はもう一人の女の子──『曜』と名乗る子が自己紹介をする。そして、さっきの子の手持ちのヒノアラシ同様、今度はゼニガメが声をあげた。 


 「えっと……それで何の用ですか?」 

千歌「あ、うん! 貴方が最初の三匹を貰った最後の一人かなって思って! 図鑑、鳴ってたでしょ?」 

曜「図鑑は三つセットで揃うと音が鳴るんだってさ」 


二人の子がそれぞれ手に持った橙色と水色の図鑑を掲げる。 
48 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 20:56:03.38 ID:WoQi+oWD0

 「あ、あぁ……」 


先ほど、けたたましい音を立てて主張をしていた私の桜色の図鑑にはそういう仕組みがあったんだ……つまり、同期ってことだよね。 


 「えっと……私は梨子です。オハラ博士からはチコリータを頂きました」 


私──梨子はそう言ってペコリと頭を下げた。 


千歌「梨子ちゃんって言うんだね! えへへ、同じ新人トレーナーとしてよろしくね!」 

梨子「……よろしく。それじゃ、私急いでるから」 


そういって踵を返す。 


曜「え、あ、え?」 

千歌「え、ちょっと! 梨子ちゃん!」 


歩き出そうとした、ややうるさい方の子が私の肩を掴む。 


梨子「何?」 

千歌「いや、えっと……私たち同じときに同じ場所でポケモンを貰った仲間だよ? もっと親睦とか……」 

梨子「私は先に貰ったんだけど」 

千歌「あ、確かに……」 

曜「そこ納得しちゃうんだ」 

梨子「……ホントにそれだけなら行ってもいい? 私忙しいの」 


私が再び、歩を進めようとすると、 


千歌「──バトルしよう!」 


彼女はそう言った。 


梨子「……え?」 

千歌「ポケモンバトル! トレーナー同士は目があったらポケモンバトルだよ!」 


……確かにポケモントレーナー同士は、視線があったらポケモンバトルをする。 

……というのは多くの地方でも共通認識的なところはあるけれど、 


梨子「……それなら、そっちの子──えっと」 

曜「あ、曜だよ!」 

梨子「そうそう、曜ちゃんとバトルすれば?」 

千歌「曜ちゃんはいいの! いつでもバトルしてくれるから! 私は梨子ちゃんとバトルしたいの! 私すっごいトレーナーになるんだから、梨子ちゃんにだって負けないよ!」 


彼女は慌しく、そう捲くし立ててくる。 

……正直こういうタイプの子はめんどくさい。苦手だ。 
49 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 20:57:54.18 ID:WoQi+oWD0

梨子「…………」 

曜「梨子ちゃん」 

梨子「何?」 

曜「なんか、急いでるみたいだけど……私たちって最初の三匹を貰った三人で、それなりに縁があるわけだしさ」 

梨子「……まあ、そうね」 

曜「挨拶代わり、と言ってはなんだけど……トレーナー同士の流儀でもあるわけだしさ、ちょっと千歌ちゃんの相手してあげてくれないかな」 

梨子「…………」 


まあ、一理ある。 


梨子「……はぁ、しょうがないな」 

千歌「ホントに!? やったぁ!」 


千歌ちゃん、とやらが目の前でぴょんぴょんと飛び跳ねる。元気な子だなぁ……。 


千歌「よっし! いくよ、ヒノアラシ!」 
 「ヒノ!」 


千歌ちゃんの掛け声と共にヒノアラシが前に躍り出る。 

──さて、私は……。 


梨子「ん……?」 


そのとき、腰に納めたボールがカタカタと動いているのに気付く。 


梨子「……チコリータ」 


先ほど戻したチコリータのボールだ。 

チコリータからしても、ヒノアラシは同郷のライバル。やる気が出るのはわからないでもないんだけど……。 

……まだ、出会ったばっかりでこの子のことはよくわからない。先ほどポッポと戦闘を終えたばっかだし、今は── 


梨子「メブキジカ、お願いね」 
 「ブルル…」 


傍らのメブキジカにお願いする。 


梨子「チェリンボはバッグの中に居てね」 
 「チェリリ」 


私の言葉を聞いてチェリンボは再びバッグの中に潜り込む。 


曜「それじゃ、ポケモンバトルスタート!」 


曜ちゃんの合図と共に、 


千歌「ヒノアラシ! “ひのこ”!」 


ヒノアラシの背中から戦意を示す炎が噴出し、 


 「ヒノ!」 


開いた口から火の粉が飛んでくる。 
50 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 21:00:08.55 ID:WoQi+oWD0

梨子「そんな小さな炎じゃ効かないわ」 

 「ブル」 


メブキジカは首を振って、火の粉を軽くあしらう。 


千歌「あ、あれ!?」 

梨子「メブキジカ! “メガホーン”!」 
 「ブルッ!」 


地を蹴って、飛び出したメブキジカが、 

 「ヒノッ!?」 

ツノでヒノアラシを掬い上げるように、上空に投げ飛ばす。 


千歌「ひ、ヒノアラシー!?」 




    *    *    * 




観察していたら、ポケモンバトルが始まったわけだけど……。 


 「随分一方的……レベルが違うわね」 


二人とも新人トレーナーだと思ってたんだけど……。 

髪の長い子の方が圧倒的に強そうね。 


 「あっちの三つ編みアホ毛の方が弱いのね」 


バトルを見つめながら、私はふんふんと一人頷く。 


 「ん? ああ、ヒノアラシ、メガホーン一発で戦闘不能になっちゃったのね。次のポケモンが出てくるわ。……って、何あのポケモン。見たことないんだけど」 


思わず図鑑を開く。 


 「トリミアン……? ……トリミアン……。 ……トリミアン……??」 


私の独り言が空に消えていく中、バトルは進む。 




    *    *    * 




千歌「しいたけ! お願い!」 
 「ワォンッ!!」 


戦闘不能のヒノアラシをボールに戻して、千歌ちゃんは次のポケモン繰り出す。 


梨子「……ひっ! 犬!?」 


見たことのないポケモンだけど、私が滅法苦手な犬だと言うのは一目でわかる。 


千歌「しいたけ! “たいあたり”!」 
 「バゥッ!!」 
51 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 21:02:16.76 ID:WoQi+oWD0

梨子「こ、こっちこないでぇ!!」 


突撃してくる犬ポケモンに私が声をあげると。 

 「ブルル…」 

メブキジカが自慢のツノで“たいあたり”を押さえ込む。 


梨子「び、びっくりした……。メブキジカ、そのまま“ウッドホーン”!!」 


そして押さえつけたまま、そのツノを突き刺す。 


千歌「力くらべなら負けないもん! しいたけ! “ふるいたてる”!!」 
 「ワフッ!」 


しいたけと呼ばれたポケモンが鼻息を荒げて、気合いを入れる。 


梨子「……ふふ」 

千歌「む、何がおかしいの!」 

梨子「貴方、本当に初心者なのね」 

千歌「? それってどういう──」 
 「ワゥ…」 


私に疑問を投げかけるとほぼ同時に、しいたけが膝を付く。 


千歌「え!? し、しいたけ!?」 

梨子「“ウッドホーン”は相手のHPを吸う技なの。ただの力比べをしてたわけじゃないのよ」 

千歌「し、しいたけ、離れて!!」 

梨子「逃がさない! メブキジカ、“とびげり”!」 


一歩引いた、しいたけ──と呼ばれてるポケモン──に素早く背を向けたメブキジカが後ろ足で蹴り上げる。 


 「ワフ!!」 
千歌「しいたけ!!」 


その蹴りに吹っ飛ばされて、 

ドスンと音を立てて、 

──地面に落ちる。 


千歌「しいたけ!!」 
 「ワォ…」 

曜「えっと……ヒノアラシ、しいたけ、戦闘不能で千歌ちゃんの手持ちは残ってないから、梨子ちゃんの勝ち……だね」 

千歌「…………戻って、しいたけ」 

梨子「……これで気は済んだ?」 

千歌「……うん、ありがとう」 


お礼を言う千歌ちゃん。だけど、顔をあげない。 

まあ、ここまで惨敗したら、悔しいもんね。 


梨子「……それじゃ、私は行くから」 


そう言って踵を返したが、 
52 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 21:05:37.14 ID:WoQi+oWD0

千歌「……次」 

梨子「え?」 


千歌ちゃんの声に振り返る。 


千歌「次、会うときは……負けないから……」 

梨子「……そう、頑張ってね」 


私は、それだけ返して、メブキジカと共に歩き出す。 

そのとき、 


梨子「……?」 


またカタカタとチコリータのボールが震えた。 


梨子「……ごめんね、もう戦闘は終わったの。メブキジカが全部やってくれたから」 


私はそうボールに声を掛けるが、 

カタカタ、カタカタとボールは抗議をあげるように震え続ける。 


梨子「……もう、何?」 


そんなに戦いたかったのかな……。 

今日知り合ったばっかでこの子のことよくわかんないな……。 

早くなついてくれるといいんだけど……。 





    *    *    * 





 「……終始一方的だったわね」 


一部始終を見届けた私は嘆息してから、 


 「……しかし、いい情報が手に入ったわ」 


そう言って、一人ニヤリと笑う。 


 「……あいつには私のポケモンたちの良い経験値になってもらおうかしら。ヤミカラス、ホシゾラシティまでお願い」 
  「カァー」 


ヤミカラスに指示を出して、私は少し先の町へと向かう。 


 「クックック……全てはこの堕天使ヨハネの計画の礎に過ぎないのよ……!!」 


笑いながら北に向かって飛ぶ空は、そろそろ逢魔時が迫り、闇に呑まれ始めていた。 





    *    *    * 

53 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 21:08:55.46 ID:WoQi+oWD0


千歌「…………」 

曜「千歌ちゃん……」 

千歌「あはは、自分から勝負吹っかけた割に、全然歯が立たなかったね……悔しい」 


思わず拳を握る。 


千歌「負けるのって……悔しいんだね」 

曜「…………」 

千歌「……強く、ならなきゃ」 


戦闘不能になった2匹が眠るボールを撫でる。 


千歌「……一緒に強くなろう、ヒノアラシ、しいたけ」 


私は2匹のボールに……そう、語りかけた。 


54 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 21:09:53.85 ID:WoQi+oWD0


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 主人公 千歌 
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.7  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹 

 主人公 曜 
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.6  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
     ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹 

 主人公 梨子 
 手持ち チコリータ♀ Lv.6 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリンボ♀ Lv.6 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      メブキジカ♂ Lv.34 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:?????? 
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:?????? 
      ポッポ♀ Lv.5 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:15匹 捕まえた数:6匹 

 主人公 ヨハネ? 
 手持ち ケロマツ♂ Lv.7 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.9 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ?????? ?? 特性:????? 性格:???? 個性:?????? 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:22匹 捕まえた数:17匹 

 千歌と 曜と 梨子と ヨハネ?は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 

55 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:47:22.88 ID:WoQi+oWD0

■Chapter005 『姉妹とメレシー』 





研究所から“そらをとぶ”で飛び立ち、幾数十分。 

自らの勤める学び舎の隣に併設された、ポケモンジムへと戻ってくる。 

わたくしはジムの前へと降り立ち、 


ダイヤ「ありがとう、オドリドリ」 
 「ピィ」 


此処まで運んできてくれた“まいまいスタイル”のオドリドリをボールに戻す。 

──さて、ジムに戻って一仕事しましょうか。 

と思った矢先。 

腰に付けた真っ白なボールがカタカタと震える。 


ダイヤ「? どうしたの? ボルツ?」 


件のボールを放り、ボルツと言うニックネームを付けられたメレシーを外に出してあげる。 

 「メレ…!」 

ボールから飛び出したボルツは体中の漆黒のダイヤモンドに夕陽を反射させながら、声をあげてジムの隣のポケモンスクールへと飛んでいく。 


ダイヤ「?」 


わたくしが怪訝な顔をしていると、 


 「ま、まってー!! コランー!!」 


……と、学校の方から幼い少女のような子の叫び声。 


ダイヤ「……なるほど」 


わたくしは肩をすくめてから、一旦ポケモンスクールへと足を向けることに致しました。 





    *    *    * 





 「コランー!!」 
  「ピィー」 


コランと呼ばれた赤い宝石を煌めかせたメレシーが、元気そうに教室内を飛び回っている。 

その子の“おや”のルビィちゃんが追い掛け回しているけど、コランは楽しそうに逃げ回ってる。 

コランはおいかけっこしてるつもりなのかな? 


ルビィ「コランー! お願いだから言うこときいてよぉー! またお姉ちゃんに叱られちゃうからー!」 
 「ピピピー!」 


マルは読んでいた本をパタンと閉じて、辺りをキョロキョロと見回す。 
56 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:49:19.53 ID:WoQi+oWD0

花丸「アンバー……いないずら?」 


そうルビィちゃんに訊ねる。 

アンバーと言うのは、黄色寄りのオレンジの宝石を身に纏ったメレシーで、ルビィちゃんのお母さん──琥珀さんのメレシーのこと。 


ルビィ「アンバーはお母さんと出かけちゃってて……」 


ルビィちゃんはそう言って、涙目になる。 

いたずらっこのコラン。 

いつもならアンバーかボルツが止めてくれるんだけど……。 


花丸「いないなら、しょうがないずら……ゴンベ」 
 「…ゴン?」 


横でパンを齧っている、マルの手持ちのゴンベに声を掛ける。 


花丸「どうにかできる?」 
 「…ゴン」 


尋ねてはみたけれど、ゴンベも困り顔。 

……カビゴンに進化すれば“とうせんぼう”が使えるんだけど……。 

──えっと、ゴンベが使える今役に立ちそうな技…… 

“いやなおと”、“おいうち”、“なげつける”……うーん、どれも微妙ずら。 


花丸「“ふきとばし”……は、どっか行っちゃうし。あ、行動を能動的に制御する技なら“おさきにどうぞ”とか……」 

ルビィ「“おさきにどうぞ”しても余計に暴れるだけだよー!」 

花丸「うーん……じゃあゴンベ、“ゆびをふる”」 

ルビィ「え!? は、花丸ちゃん!?」 

 「ゴン」 


“ゆびをふる”は何かの技がランダム出る技──ゴンベが覚えることの出来ない技もランダムで飛び出す。 

特に状況を打開できる技もないし、こうなったら運任せずら。 

マルの指示を出すとゴンベがチッチッチと指を振る。 

すると、ゴンベの指から火花が散って、教室中に緩く稲光が走る。 


ルビィ「ピ、ピギィ!?」 

花丸「いい技引けたずら? “でんげきは”かな?」 


広がる電撃を見て“でんげきは”かと思ったんだけど……。 

 「ピピピピピピー」 

コランは依然、その細い稲妻のネットの中を楽しそうに飛び回っている。 


花丸「んんー? “エレキネット”ずら? でも、それならすばやさが下がるはずだし……」 


そんなことをぶつぶつ呟いていると 

 「ピーピピー!」 

暴れまわっていたコランが、今度はこっちに回転しながら突っ込んでくる。 
57 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:51:47.16 ID:WoQi+oWD0

ルビィ「は、花丸ちゃん! 分析してる場合じゃないよっ」 

花丸「ずら!?」 


体当たりしてくるコランの体表には稲妻が絡み付いている。 

 「ゴン」 

咄嗟にゴンベがマルたちの間に立ち塞がったけど── 

その必要はなかったみたい。 

──気付いたら教室中に石の欠片が浮いていることに気付く。 


花丸「ずら? “ステルスロック”?」 


コランがその石にぶつかって、一瞬動きが鈍ったところに 


 「ボルツ! “パワージェム”!」 


そんな声と共に、光る石が飛んでくる。 

──ガスン 


 「ピー!?」 


鈍い音と声をあげながら、コランが教室の端の方に弾き飛ばされる。 


 「“リフレクター”で囲って、ついでに“じゅうりょく”」 
  「ミミミ」 


教室内でコランの吹き飛んだ逆サイドから、真っ黒な宝石を身に纏ったメレシーと一緒に女性が入ってくる。 


ルビィ「お、お姉ちゃん~……」 

ダイヤ「ルビィ? 学校では先生と呼びなさいと言っているでしょう?」 


ルビィちゃんが泣きつく先には、ルビィちゃんのお姉さん──ダイヤ先生が立って居たずら。 


 「ピーピピピピ!!」 


リフレクターの物理障壁に囲まれながら、赤い宝石を光らせならだ、コランがじたばたしている。 


ダイヤ「はぁ……全く元気ね、この子は……。それはそうと花丸さん」 

花丸「はいずら」 

ダイヤ「“ゆびをふる”で出た技……何かわかりましたか?」 

花丸「うーんと……“たいあたり”が電撃を纏ってたところからして……“そうでん”ずら?」 


“そうでん”は場の攻撃全てがでんきタイプになるっていう珍しい技ずら。 


ダイヤ「正解。よく勉強していますわね」 

花丸「えへへ、褒められたずら」 

ダイヤ「それに比べてルビィ……また、コランを暴れさせて……」 


ダイヤさんが溜息を吐きながら、泣きつくルビィちゃんに視線を落とす。 


ルビィ「ぅ……る、ルビィも……コランにやめてって言ったもん……でも、やめてくれなくて……」 

ダイヤ「はぁ……全く……」 
58 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:53:34.73 ID:WoQi+oWD0

ダイヤさんが溜息を吐くと 

 「ピピピピピピピピピピ」 

と声をあげて、コランが床で回転し始める。 


ルビィ「ふぇ!? 今度はなに!?」 

花丸「“こうそくスピン”……? ってメレシーは覚えないような」 

ダイヤ「ですわね。それに“こうそくスピン”なら先ほどボルツが撒いた“ステルスロック”を吹き飛ばせるはずですわ」 

花丸「じゃあ、あれって……?」 

 「ピピ!!」 


急に回転を止めたコランが気持ちスマートに見える。 

体を床に擦り付けて体表の岩を削ったみたい。 


ダイヤ「“ロックカット”で身軽になったみたいですわね」 

花丸「……ルビーの硬度で回転したから、床が抉れたずら」 

ルビィ「コランー!? もうやめてよー!!」 


ルビィちゃんの制止も虚しく、コランが小さな岩の欠片を飛ばす。さっきダイヤさんのボルツが使ったのと同じ“ステルスロック”。 


ダイヤ「……ふむ。確かに補助技ならリフレクターをすり抜けますわね。ボルツ、“マジックコート”」 
 「ミー」 


冷静に指示を出すダイヤ先生。 

飛び出してきた岩の欠片が、薄ピンクの透明な壁に反射されて、コランの元へと跳ね返っていく。 

変化技は“マジックコート”で反射できるずら。 


ダイヤ「はぁ……ただでさえ騒がしいのに、これ以上素早くなっても困りますわね……。“トリックルーム”」 
 「ミ」 


視界が一瞬ぐにゃりと歪む。 

 「ピ」 

それと同時にコランが速いのに遅くなる。 

──何を言ってるかよくわからないと思うけど、文字通り速いのに遅いずら。 


ルビィ「わぁっ すごぉい!」 

ダイヤ「“トリックルーム”下ではすばやさの遅いポケモンほど速く動き、速いポケモンほど遅くなる不思議な技ですわ。ルビィ、今のうちにボールに戻しなさい」 

ルビィ「あ、うん!」 


ルビィちゃんはダイヤ先生の指示通りにコランに近付いて、真っ白なコラン専用のボールを投げつける。 


ルビィ「ほ……よかったぁ」 


ボールを手に取って、ルビィちゃんが安堵でホッと── 


ダイヤ「……全然、よくありませんわ!」 

ルビィ「ピギィ!?」 


訂正、ホッと出来てなかったずら。 
59 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:55:18.52 ID:WoQi+oWD0

ダイヤ「教室も滅茶苦茶……わたくしが帰るまで大人しく自習と言ったではありませんか!」 

ルビィ「だ、だから……それはコランが……」 

ダイヤ「貴方はコランの“おや”でしょう? 手持ちの責任はトレーナーが取るものです!」 

ルビィ「ぅ、でもコランをルビィに持たせたのはお母さんだもんっ ルビィが決めたことじゃないもんっ」 


二人が姉妹喧嘩を始めてしまう。 


花丸「ずら……」 


困ってゴンベに視線を送ると 

もぐもぐとまたパンを食べている。 

我が手持ちながら、かなりのんきずら……。 


ダイヤ「だいたい貴方はこれから旅に出るというのに──」 


詰問口調の先生の前に 

 「ミィ…」 

ボルツが割って入る。 


ダイヤ「ボルツ……」 


妹メレシーのコランの失態を許して欲しい……とでもいいたげに。 


ダイヤ「……はぁ。……今日のところはボルツに免じて不問に致しましょう。……留守にしていたわたくしにも非がありますから」 


ダイヤ先生は「ルビータイプのメレシーは何故かやんちゃな子が多いのも事実ですし……」と呟きながら、めちゃくちゃになった教室を片付け始める。 

ボルツも妹の失態を取り返すかのように“サイコキネシス”で物を片付ける。 


花丸「マルたちも手伝うずら。ゴンベ」 
 「ゴン」 


ゴンベが自分の毛にパンを押し込んで──また後で食べるのかな──椅子や机を元の場所に戻し始める。 


花丸「ルビィちゃんも……ルビィちゃん?」 


そう言ってマルが振り返ると、ルビィちゃんは少し暗い顔をしていて、 


ルビィ「…………」 

花丸「ルビィちゃん……?」 

ルビィ「……あ、ごめんね、花丸ちゃん」 


そう言ってから、いそいそと片付けの輪に加わっていく。 


ルビィ「……こんなんで、ルビィ……冒険なんか出来るのかな……」 

花丸「……」 


自信なさ気にそう呟くルビィちゃんの独り言を、端で捉えながら、マルたちは散らかった教室の片付けに勤しむのでした。 

60 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/28(日) 23:57:48.52 ID:WoQi+oWD0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【ウチウラシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         ● .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 花丸 
 手持ち ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
 バッジ 0個 図鑑 未所持 

 主人公 ルビィ 
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき 
 バッジ 0個 図鑑 未所持 


 花丸と ルビィは 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 


63 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:08:31.61 ID:VhOLIMaZ0

■Chapter006 『ポケモンスクール』 





私たちが1番道路を抜けて、ウチウラシティに付く頃には日もすっかり暮れていた。 

歩いてそこまで掛かる道程ではないんだけど……。 

私は後ろを歩く千歌ちゃんを振り返る。 


千歌「…………」 


千歌ちゃんは俯いて、二つのボールを悔しそうに見つめながら、とぼとぼと歩いている。 

草むらを避けて歩いていたから、あのあと野生ポケモンに会うこともなかったけど、 

何かあったときのために手持ちが二匹とも戦闘不能な千歌ちゃんの前を私が先導する形を取っていた。 


曜「千歌ちゃん」 


私が声を掛けると、 


千歌「……え。あ、なになにっ?」 


笑顔を作って、駆け寄ってくる。 


曜「……大丈夫?」 


もう何年の付き合いだと思っているんだろうか。 

そんな作り笑顔で誤魔化せないよ。 


千歌「……あはは」 


私の胸中を察したのか、千歌ちゃんは頭を掻いた。 


千歌「……バトルで負けるのって……思った以上に悔しいんだね」 

曜「…………」 

千歌「それに……ヒノアラシにも、しいたけにも……申し訳なくて。私を信じて付いてきてくれてるのに……何もさせてあげられなかったなぁって……」 


そう言いながら、千歌ちゃんがその手いっぱいに握っている2つのボールに力を込めたのが私の目から見てもわかった。 

本当に悔しいんだ……。 


曜「千歌ちゃん……」 


私は思わず、千歌ちゃんの手を握る。 


千歌「曜ちゃん……」 

曜「これからだよ! まだ私たちの旅ははじまったばっかりなんだから!」 

千歌「えへへ……うんっ」 


千歌ちゃんは頷きながら、握った私の手に──二つのボールに──コツンとおでこを当てて、 


千歌「……私、強くなるから」 


自分のポケモンたちに言い聞かせるように、宣言するように、そして自分自信に誓うように、 
64 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:09:38.76 ID:VhOLIMaZ0

千歌「強く、なるから……」 


そう言いました。 





    *    *    * 





千歌「こんばんはー!」 


私はそう言いながら、かつて自分たちの通っていた教室の引き戸を開ける。 


ダイヤ「ごきげんよう。先程振りですわね」 


自分たちが通っていたあの頃と変わらない、ダイヤ先生の笑顔で出迎えられる。 


曜「遅くなりました!」 


曜ちゃんがそう言いながら敬礼する。 


ルビィ「千歌ちゃん! 曜ちゃん!」 

花丸「二人とも、お疲れ様ずら」 


そんな私たちに後輩二人が駆け寄ってくる。 


千歌「ルビィちゃん、花丸ちゃん、待っててくれたの?」 

 「ゴン……」 

千歌「あはは、ゴンベも」 


……もう外は暗いのに 


ダイヤ「帰って良いと言ったのですが……二人とも、残ると言って聞かなかったので」 


ダイヤさんはそんな風に言うけど、口振りに反してその表情は笑顔だった。 


花丸「先輩達の勇姿を見届けたかったずら! ゴンベもだよね」 
 「ゴンー」 

ルビィ「うん! 二人とも先に冒険の旅に出るんだもんね!」 

千歌「えへへ、ありがとっ 二人とも」 

曜「ヨーソロー! こんな後輩が持てて、私たち幸せだね!」 

ダイヤ「──尤も、先程までコランが散らかした教室の片付けをしていたのですけれど」 

ルビィ「お、お姉ちゃん……っ」 

曜「あはは、コランは相変わらずやんちゃなんだね」 


ダイヤさんのボルツとルビィちゃんのコラン。同じメレシーなのに、性格は真逆だもんなぁ……。 

それはそうと、と。ダイヤさんはパンと手を打って、 
65 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:10:53.66 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「さて……日は暮れてしまいましたが、千歌さん、曜さん。貴方達には旅に向けて、いろいろな基礎知識をおさらいしてもらおうと思います」 

千歌「はーい!」 

曜「了解であります!」 

ダイヤ「まあ、尤も……もうすでに千歌さんは悔しい思いをしたようですが」 


ダイヤさんが私に視線を向けて、そう言う。 

私は思わず両手に持ったボールをささっと背中に隠したけど……。 

流石、元担任の先生だけあって、お見通し……。私が梨子ちゃんに負けたこと……なんとなく気付いてる。 


千歌「え、あ、っと……」 


うろたえる私に、 


ダイヤ「……大丈夫よ」 


ダイヤさんはそう言って、優しく頭を撫でてくれる。 


ダイヤ「……貴方はきっと強くなりますわ。わたくしはそう信じています」 

千歌「……はい」 

ダイヤ「ですから、今はその悔しい気持ちをバネに、前に進み続けてください」 

千歌「……はい!」 

ダイヤ「ふふ、良いお返事ですわ」 


ダイヤさんは優しく笑ってから、 


ダイヤ「それでは、二人とも、一旦ジムのバトルスペースに移動しましょう」 


そう言って身を翻しました。 





    *    *    * 





──今、私たちがいる、ここウチウラシティには、ダイヤさんとルビィちゃんのお家、クロサワ家が代々ジムリーダーを努めている、ウチウラジムがあります。 

ちょっと前までは二人のお母さんの琥珀さんがジムリーダーだったんだけど……。 

つい最近、ダイヤさんが代替わりでジムリーダーに就任しました。 


曜「ここのバトルスペースも久しぶりだなぁ……」 


曜ちゃんが言うように、私たちはここには何度か来たことがあって──ウチウラジムの横に併設されたポケモンスクールの体育館的な役割も兼ねています。 


千歌「でも今日はただの生徒としてじゃないんだよ!」 


私は胸を張る。 
66 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:12:24.68 ID:VhOLIMaZ0

千歌「チカは今、一人のポケモントレーナーとして、ポケモンジムの門を潜ったのだ!」 

花丸「おぉー!」 

ルビィ「千歌ちゃんすごーい!」 


後ろから後輩達がやんややんやと褒めてくれる。 


千歌「さあさあ! ヒノアラシたちも回復したし、ダイヤさん! ジムバトルだよ!」 


カツンカツンとヒールを鳴らして、前を歩くダイヤさんがこちらを振り返る。 


ダイヤ「そうですわね。……トレーナーたるもの、ポケモンジムに訪れてすることは一つ──」 


ダイヤさんの表情が、普段の優しい先生から、ジムリーダーのソレに代わり、私は思わず身構える。 


ダイヤ「──と言いたいところなのですが」 

千歌「ふぇ……?」 


緊張したところに予想外の言葉を貰って、間抜けな声が出る。 


ダイヤ「本来ポケモンジムはある程度はトレーナーの持っているバッジの数に合わせて、ポケモンを変えるのですが……」 

千歌「ですが……?」 

ダイヤ「新人ジムリーダーのわたくしは、バッジの少ないトレーナーさんとのジム戦に使うポケモンの育成が終わっていませんの」 

千歌「えぇー!! そんなぁ!! じゃあ、せっかくのチカのやる気はどこにいっちゃうの!?」 

ダイヤ「申し訳ないのですけれど……このジムは現状では、ジムバッジ5つ以上のトレーナーのお相手をしていますわ。お陰で来客も少ないので、早く準備を整えたいのですが」 


ダイヤさんはそう言って溜息を吐く。 


ダイヤ「時に花丸さん。何故ジムリーダーはチャレンジャーのバッジの数によって、使用ポケモンを変えるのか、答えられますか?」 


唐突にクラスの優等生の花丸ちゃんに質問が飛んでいく。 


花丸「ジムリーダーは地方全体のポケモントレーナーを育成のために存在するポケモンリーグの公認機関ずら。だから、どこの町の出身の人でも段階を持って、ステップアップしやすいようにチャレンジャーのバッジの数を基準に、手持ちを変えているずら」 

ダイヤ「その通り。よく勉強していますわね」 

花丸「逆に本気の手持ちはちゃんと別に持ってる人が多くて、ジムリーダーは地方の中でもトップクラスの実力者。だからなのか、自然とジムのある町ではジムリーダーがそこのリーダー的な役割なことが多いみたい」 

曜「ここでも、クロサワのお家がいろいろ仕切ってるもんね」 

ダイヤ「ええ、そうですわね」 


ダイヤさんが得意気に頷く。 


花丸「ついでに言うと、もう一個理由があって……」 

ルビィ「あ、花丸ちゃんそれは……」 

花丸「ジムへの挑戦者の数はジムリーダー協会に通達されて、あまりに突破人数が多かったり、逆に少なかったり、そもそも挑戦者が少なすぎたりすると、上から注意を受けるずら。だからジムの難易度調整は臨機応変に対応しないといけない。公務員は大変ずら」 

ダイヤ「……よ、よく勉強していますわね……」 


ダイヤさんは今度は少し困ったような顔をした。気を取り直すように、一回コホンと咳払いして、 


ダイヤ「とにかく、そういうことですので、ジムに挑戦するなら、ここからだとホシゾラシティのホシゾラジムが一番近いポケモンジムになりますので、そこを目指すことになると思いますわ」 

千歌「うー……じゃあ、ジム戦デビューはお預けかー……」 


そう聞いて、私はうなだれる。 
67 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:13:25.83 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「今日トレーナーに成り立てで気が早いですわよ。ですので、ここからは旅立ち前の最後のおさらい。ポケモンバトルの実習と致しましょう。曜さん」 

曜「はーい!」 


ダイヤさんに呼ばれて、曜ちゃんがバトルスペースの奥の方へと駆けていく。 


ダイヤ「最初にポケモンを貰った、千歌さん、曜さんに実際にポケモンバトルをして頂きます」 

千歌「おお! だから、バトルスペースに来たんだね!」 

ダイヤ「ええ。ルビィ、花丸さんもすぐに後に続く形で旅立ちになると思いますので、よく見ておくように」 

花丸「了解ずら」 

ルビィ「…………」 

ダイヤ「……ルビィ?」 

ルビィ「あ、はいっ」 

ダイヤ「……。……コホン」 


ダイヤさんは二人の返事を確認してから、軽く咳払いをする。 


ダイヤ「それでは二人とも、バトルの準備は宜しいですか?」 

千歌「はーい!」 

曜「いつでも大丈夫であります!」 

ダイヤ「ルールは使用ポケモン1体。戦闘不能が1体出た時点で試合終了です。それでは──バトル、スタート!!」 





    *    *    * 






──空に二つのボールが放たれる。 


千歌「いけ! ヒノアラシ!」 

曜「行くよ! ゼニガメ!」 


ヒノアラシとゼニガメが対峙する。 


曜「やっぱり、ヒノアラシ!」 

千歌「曜ちゃんも!」 

曜「千歌ちゃんとの最初のバトルはパートナーの子って決めてたんだ!」 

千歌「えへへ、私もだよ!」 

ダイヤ「二人とも、バトル中ですわよ!」 


ダイヤさんが私語は慎めと言わんばかりに喝を飛ばしてくる。 


千歌「てへへ、叱られちった……。ヒノアラシ! “ひのこ”!」 

曜「ゼニガメ! “あわ”!」 

 「ヒノ!」 「ゼニッ」 
68 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:14:44.98 ID:VhOLIMaZ0

小さな火と泡が両者から飛び出し、ぶつかる。 

爆散した“あわ”のみずエネルギーと“ひのこ”が散りフィールドを毛羽立たせ、 

お互いが相殺し合って、バトルフィールドには湯気が立つ。 


ルビィ「あわわ……互角……」 

花丸「“ひのこ”も“あわ”も同じくらいの威力の技だから相殺したずら……」 


曜「ゼニガメ! “たいあたり”!」 


ゼニガメが甲羅に身体を引っ込めて、そのまま回転しながら突っ込んでくる。 


千歌「ヒノアラシ! “まるくなる”!」 

 「ヒノ……」 


──ガスンッ!! 

私の指示でヒノアラシがその場で丸まり、ゼニガメの体当たりでピンボールのように弾き飛ばされる。 


曜「ゼニガメ! そのまま吹っ飛んだヒノアラシを“みずでっぽう”で狙い打ちだよ!」 

 「ゼニィ!!」 


甲羅から首を出したゼニガメの口から、噴出す水流。 

空中にまるまったまま、浮いているヒノアラシは避けられない。 


千歌「ヒノアラシ! 背中の炎! とりあえず、おもいっきり!!」 


入江でメレシーを撃退したときの炎を指示。 

丸まった状態から、一本棒が生えるように前方に向かって火柱が伸びていく。 

水鉄砲とぶつかりあって、相殺しようとするが── 


ダイヤ「水と炎。水に軍配が挙がりますわね」 


火柱を押し返すにように、 

ジュウジュウと火柱を消火しながら水流が一直線に飛んでいく。 

気持ち威力は殺せたが、消しきることは出来ずにヒノアラシは水に飲み込まれ、 

そのまま、水流に押されるようにヒノアラシが更に天井近くまで突き上げられる。 


曜「よっし、ナイスゼニガメ!」 


ルビィ「あわわ、一方的……」 

花丸「攻撃が届かないと、水で圧倒されちゃうずら……」 


ダイヤ「ですが、千歌さん……何かたくらんでますわね。イタズラを思いつくのはいつも曜さんではなく、貴方なのですから」 


千歌「ニシシ♪ ヒノアラシ!」 


天井にぶつかるその瞬間── 

丸まったヒノアラシが激しく回転を始める 


曜「!?」 
 「ゼニ!?」 
69 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:16:04.76 ID:VhOLIMaZ0

回転したヒノアラシの身体は天井板の反動を借りて“ころがる”ことによって、ゼニガメに向かって射出される──!! 


曜「ゼ、ゼニガメ!? よ、避けて!?」 


咄嗟に起こったことに反応出来ず、曜ちゃんの指示が雑になる。 

──間に合わず、ヒノアラシの回転突進がゼニガメを吹き飛ばす。 


曜「ゼニガメッ!!」 

千歌「ヒノアラシ!! 畳み掛けて!!」 


ゼニガメを吹き飛ばして尚、回転を続けるヒノアラシ 

地面を転がり空や天井以上に大量の運動エネルギーを得た回転体は速度を増して、ゼニガメを追尾する。 


曜「ゼニガメ!! “こうそくスピン”!!」 


そのままじゃ防御が足りないと判断した曜ちゃんの指示でゼニガメが地面を転がりながら、甲羅に首を引っ込め回転する。 


ルビィ「回転と……」 

花丸「回転がぶつかるずら!!」 


ダイヤ「……! なるほど、考えましたわね」 


──えへへ、ダイヤさんは気付いたみたい! 


千歌「ヒノアラシ!!」 


回転するヒノアラシの身体が── 

ボン──という爆発音と共に 

──爆ぜた。 


曜「え!?」 


爆炎の中、 

ヒノアラシが回転したまま炎を纏って、 

ゼニガメに突っ込む── 


千歌「いっけえええええええええ!!!!」 


掛け声と共に勢いを増した炎の車がゼニガメを飲み込む──!! 

…………。 

──場が一瞬静まり返る。 


曜「…………!!」 

千歌「はぁ……はぁ……!!」 


──気付けば、フィールドには気絶して伏せったゼニガメと、 

──黒く焼け焦げた、一直線のレールを引いた先にヒノアラシが立っていた。 
70 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:17:51.91 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「……ゼニガメ戦闘不能。よって千歌さんの勝ちですわ」 

千歌「……ゃ、」 


千歌「いやったあああああああ!! ヒノアラシー!!」 


私はヒノアラシに駆け寄る。 


千歌「やったぁ!! 勝った!! 私たちの勝ちだよー!!」 
 「ヒノー!」 

喜びながら相棒を抱き上げると、ヒノアラシも嬉しそうに声をあげる。 


曜「……あはは、負けちゃったね。ゼニガメ、ありがと」 


曜ちゃんがそう言ってゼニガメをボールに戻す。 


ルビィ「ね、ねぇ、最後何が起こったの……?」 

花丸「爆発したずら……」 

曜「私も知りたい……千歌ちゃん、何か指示出してた?」 

千歌「えっとね……ヒノアラシをずっと撫でてて、思ったんだ……この子って、戦闘以外はこんなに大人しいのに、どうして背中から炎が出るんだろうって」 

曜「……?」 

ダイヤ「ふふ、確かに。常時、燃えているヒトカゲやポニータと違って、ヒノアラシは能動的に炎を出しますわね」 

千歌「それで私思ったんだ! きっとこの子の背中は爆発してるんだって! それで図鑑で確認したの!」 


私は図鑑を開く 


 『ヒノアラシ ひねずみポケモン 高さ:0.5m 重さ:7.9kg 
  ふわふわの 体毛の毛先は 可燃性の 火薬のような  
  成分を含んでおり 危険を 察知すると その体毛を  
  擦り合わせ 火花を散らし 引火させ 爆炎を巻き起こす。』 


ダイヤ「ヒノアラシが丸くなると、露出する部分はほぼ黒い毛で覆われる」 

花丸「……あ、もしかして空中であんなに回転できたのって……」 

千歌「うん! あのふわふわの毛なら、降ろしたての毛皮のコートが水を弾くみたいに、水を受け流せるかなって思って!」 


そして、それはまるで水車のように水を噛みながら、回転へのエネルギーへ 


ルビィ「で、でも爆発の説明が……」 

曜「……最初の“ひのこ”と“あわ”の撃ち合い……」 

ルビィ「え?」 

曜「……弾けた火の粉と泡がフィールドをちょっと毛羽立ててた」 

ダイヤ「まるでヤスリのように荒れた地面の上で、ヒノアラシが高速で回転したらどうなるかしら」 

ルビィ「……あ!!」 

花丸「火花と摩擦熱で毛先に着火するずら!」 

千歌「えへへ、そういうこと! まあ、最初は考えて“ひのこ”撃ったわけじゃなかったけど……」 

曜「それであの火力か……」 

ダイヤ「加えて、“まるくなる”から“ころがる”を出すことによって威力が上昇しますわ。それによってより大きな回転を得たヒノアラシは本来のレベルでは覚えていないであろう、“かえんぐるま”を擬似的に再現した」 

千歌「えっへへ!」 
 「ヒノ!」 

ダイヤ「よくヒノアラシを観察し、短時間でその子の特徴を把握して、尚且つ強い信頼関係を結んだ。千歌さん、貴方の勝利ですわ」 

千歌「はい!」 
71 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:18:48.60 ID:VhOLIMaZ0




    *    *    * 





曜「完全敗北だったなぁ……」 


千歌ちゃんが嬉しそうにヒノアラシを胴上げしている。 


ダイヤ「曜さん、貴方も初のバトルでよく健闘しましたわ」 


そういって、ダイヤさんに頭を撫でられる。 


曜「えへへ……」 

花丸「それにしても、千歌ちゃんがあんな頭脳戦を……」 

曜「頭脳戦……というか、なんとなく思いついたんだと思う」 

ルビィ「なんとなく?」 

ダイヤ「……戦いの場になると、そういう直感が強く働く人が稀にいますが、千歌さんはそういうタイプなのかもしれません」 


ダイヤさんは物思いに耽るように、 


ダイヤ「トレーナーの機転により、ポケモンの力を100%……いえ、120%引き出す。……千歌さんはもしかしたら、とんでもないトレーナーになってしまうのかもしれませんわね。──あの人たちのように」 


あの人たちが誰を指してるのかはわからないけど……。 


千歌「ばんざーい!! ばんざーい!!」 
 「ヒッノォ!! ヒノォ!!」 


千歌ちゃんとヒノアラシを見ながら、そう呟いていました。 


72 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 12:19:59.49 ID:VhOLIMaZ0



>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【ウチウラシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         ● .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.9  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.15 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:19匹 捕まえた数:2匹 

 主人公 曜 
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.7  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:19匹 捕まえた数:2匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
 バッジ 0個 図鑑 未所持 

 主人公 ルビィ 
 手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき 
 バッジ 0個 図鑑 未所持 


 千歌と 曜と 花丸と ルビィは 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 


73 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:11:16.89 ID:VhOLIMaZ0

■Chapter007 『はじめての捕獲』 





早朝のウチウラシティの家屋に、静かに響くコール音。 

──1コール……2コール……3コール…… 

早起きな鳥ポケモンたちの鳴き声に耳を澄ませながらぼんやりと回数を数え、 

大凡、30回を超えるくらいのところで── 


鞠莉『Be quiet!! 何時だと思ってるのよ!!』 


鞠莉さんがやっとポケギアを取る。 


ダイヤ「6時ですわ」 

鞠莉『ダイヤは早起きすぎ……』 

ダイヤ「幼馴染からのモーニングコールですのよ? もう少し有難がって頂きたいものですわ」 

鞠莉『はぁ……んで、何?』 

ダイヤ「あの子たちが起きる前に報告でもしようと思いまして」 

鞠莉『ん……ああ、千歌っちと曜のこと?』 

ダイヤ「昨日バトルについては一通り復習して……今日捕獲の実習をして、旅立つと思いますわ」 

鞠莉『相変わらず過保護ねぇ……』 

ダイヤ「そうでしょうか?」 

鞠莉『電話の一本も滅多に寄越さない、幼馴染もいるのよ?』 

ダイヤ「……まあ、確かに」 


紺碧の髪をポニーテールに縛った共通の幼馴染を思い出す。 


鞠莉『緊急時のポケギアの番号だけ教えといて、後は好きにさせてあげればいいのよ』 

ダイヤ「また、貴方はそのようなことを言って……」 

鞠莉『……でも、嬉々として連絡してくるくらいなんだから──そっちは順調なんでしょ?』 

ダイヤ「べ、別に嬉々としているわけでは……」 

鞠莉『声が弾んでいるわよ、幼馴染サン♪』 


そういって鞠莉さんは家庭用のポケギアの向こうでからからと笑う。 


鞠莉『大丈夫よ。あなたの見立て通り、勇気もあるし、自分たちのポケモンのことも信頼している』 

ダイヤ「……そうですわね」 

鞠莉『まあ、もっとも……梨子に関しては心配だけどね……』 

ダイヤ「梨子……例のチコリータのトレーナーですか」 

鞠莉『その感じだと、あの子ジムにも寄らなかったんでしょ?』 

ダイヤ「ええ」 


鞠莉さんは電話口で少し「Umm...」と唸り声をあげましたが、 
74 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:12:28.11 ID:VhOLIMaZ0

鞠莉『まあ、なんとかなるでしょ……。最悪、ポケギアに掛ければ連絡も取れるし』 

ダイヤ「割と楽観的ですわね……」 

鞠莉『そういうことも含めての旅だからネ。可愛い子には旅をさせよって言うじゃない』 

ダイヤ「……一理あります」 

鞠莉『まあ、報告は素直にありがたいけどね。とりあえず──』 
 『マリー起きたロト!? そろそろ、反省したから解放して欲しいロト!!』 


通話の先でロトムが騒ぎ出す。 


ダイヤ「ロトム、相変わらず元気そうですわね」 

鞠莉『……とりあえず、また明日ね。研究所で図鑑とポケモン用意して待ってるから。ルビィと花丸によろしく伝えておいて』 
 『ロトー!! マリー!! 解放を要求するロトー!!』 

鞠莉『ポリゴン、“シグナルビーム”』 
 『ロドドドドドドド!!!?』 

ダイヤ「あははは……。了解しましたわ。……あと、あまりロトムを虐め過ぎないようにしてくださいませね」 

鞠莉『……まあ、善処するわ』 


そのような言葉を残して、鞠莉さんからの通話が切れる。 

……まあ、あれでロトムとは長い付き合いなので大丈夫でしょう。多分。 


ダイヤ「さて……」 


わたくしはポケギアをポケットにしまってから、身を翻してルビィの部屋へと歩を進める。 

──ルビィの部屋の襖を静かに開けると。 


ダイヤ「……ふふ」 


その光景を見て、思わず笑ってしまう。 


千歌「……わらひは……すごいとれーなーにぃ……むにゃ……」 
 「ヒノ…zzz」 

曜「すぅ……すぅ……」 
 「ゼニィ…zzz」 

ルビィ「ぅゅ…………」 
 「zzz…」 

花丸「……もう食べられないずら……」 
 「ゴン…zzz」 


ルビィの部屋で雑魚寝をしながら、眠る四人の生徒とそのポケモンたち。 


ダイヤ「可愛い子には旅をさせよ……ですか」 


先程、鞠莉さんに言われた言葉を思い出し、一人反芻するように呟く。 


ダイヤ「……あと一仕事して、しっかり見送らないといけませんわね」 


そうひとりごちてから、皆を起こすために敷居を跨ぎ、部屋の中へと──生徒達の元へと。わたくしは歩を進めるのでした。 





    *    *    * 



75 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:13:55.25 ID:VhOLIMaZ0

千歌「ふぁぁ……」 


朝の日差しに照らされながら、私は欠伸を漏らす。 


ダイヤ「もう、だらしないですわよ」 

千歌「はぁい……」 


ダイヤさんに注意されて、ぼんやりと返事をする。 

一方で、腕の中では── 


 「ヒノ……zzz」 


ヒノアラシが相も変わらず、おやすみ中で釣られて眠くなりそう。 


曜「ヒノアラシ、のんびり屋さんだよね」 
 「ゼニ」 


横で私たちを見て笑う曜ちゃんと相変わらず真面目そうなゼニガメ。 

私たちとは真逆かも……。 


ダイヤ「はい、二人とも、私語はおやめなさい」 


ダイヤさんがパンパンと手を叩きながら、私たちを注意する。 


ダイヤ「これから捕獲について実習致しますわ。これが貴方達にとっての最後の授業になると思いますので、心して受けるように」 

千歌・曜「はい!」 


元気に挨拶。ダイヤ先生の元での指導もこれが最後になると思うとちょっと寂しい気もする。 

そんな様子を見ながら、後ろで見守っていたルビィちゃんが私たちに、とことこと近付いてきて耳打ちする。 


ルビィ「お姉ちゃん、みんなが旅に出ること心配してたから……」 

曜「……まあ、そりゃそうだよね」 


曜ちゃんが苦笑いする。 

まあ、あれだけ苦労掛けた先生だもんね。 


千歌「よっし……!! そういうことなら、ここは華麗に捕獲を決めて、先生を安心させてあげるよっ!!」 


私はそう啖呵を切った。 


花丸「二人とも頑張るずら!」 
 「ゴン」 

ダイヤ「──だから、貴方達!! わたくしが喋っているときに私語は慎みなさーいっ!!!!!」 





    *    *    * 



76 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:15:29.31 ID:VhOLIMaZ0

──2番道路。 

ウチウラシティとホシゾラシティを繋ぐ道路で、両側を海にそれぞれ違う名前の海があります。 

西側はスルガ海、東側はスタービーチと呼ばれていて、まさに大自然の真っ只中にあるこの道路は、 

草むらにも、海にも、そして仰ぎ見る空にも、たくさんの種類のポケモンが生息しています。 

そして、私と曜ちゃんはこんな2番道路で捕獲の真っ最中なのです!! 

……なの、ですが── 


千歌「わー!! ヒノアラシ!! 火力強すぎ!!」 
 「ヒノ…?」 


ヒノアラシが私の方を不思議そうに振り返る。 

その先では戦闘不能になったコラッタが気絶している。 


千歌「うぅ……全然うまくいかない……」 


全然、捕獲出来ていませんでした。 


ダイヤ「戦闘不能にしてしまっては、捕獲できませんからね……。弱らせてボールを投げればいいのですが……」 

千歌「さっきから、やってるもん! なのに、逃げられたり、一発で倒しちゃったりで……」 
 「ヒノッ」 

ダイヤ「……どうにも貴方には捕獲の才能はないのかもしれませんはね……」 

千歌「うぅ……酷い……。……ん? 『捕獲は』ってことは、他の才能ならあるんですか……?」 

ダイヤ「それは言えませんわ」 

千歌「えーなんでー!!」 

ダイヤ「教えたら調子に乗るでしょう?」 

千歌「むー……ちぇっちぇっ……いいもん……」 


私は頬を膨らませながら、草むらを掻き分ける。 


千歌「……そういえば、曜ちゃんは?」 


気付いたら近くから姿を消していた曜ちゃんのことをダイヤさんに尋ねると、 


ダイヤ「曜さんなら、先程釣竿を持って、スルガ海の方へ行きましたわよ。少し沖に出てポケモンを探すみたいですわ」 

千歌「えーいいなー。チカもそっちの方がうまくいくかも……」 

ダイヤ「貴方はみずタイプのポケモンを持っていないでしょう。どうやって沖まで出るのですか」 

千歌「むぐ……じゃあそれはいいとして……。なんでダイヤ先生は私についてくるんですか。曜ちゃんは心配じゃないの?」 

ダイヤ「曜さんは昔から釣りが得意でしたし……何よりあの子は器用ですから。捕獲にもあまり苦労しなさそうだったので」 

千歌「……」 


──チカもしかして、信用されてない系? 

……まあ、悔しいけど、ダイヤさんの言う通り曜ちゃんの方が捕獲は上手いかもしれない。 

釣りも上手だし、あの真面目なゼニガメと穏やかなラプラスなら、いい感じに弱らせられるかもしれない。 

反面私の手持ちは…… 


 「ヒノ……?」 
77 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:17:31.57 ID:VhOLIMaZ0

ヒノアラシが小首を傾げる。 

どうやらこの子はフルパワーはすごいんだけど、火力の調整が少し苦手みたい。 

お陰で、近くにいたポケモンは焦げた草の臭いのせいか逃げちゃうしで、遭遇すら思うようにいかない。 


千歌「うぅ……前途多難だよぉ……」 


逃げ惑うオタチやポッポを見ながら、私はぼやく。 


千歌「ん……?」 


──ふと、逃げ惑うポケモンたちの中に、随分と堂々とその場に居座っている鳥ポケモンを見つける。 


ダイヤ「あれは……ムックルですか」 

千歌「ムックル……」 


私はおもむろに図鑑を開く。 


 『ムックル むくどりポケモン 高さ:0.3m 重さ:2.0kg 
  普段は たくさんの群れで 行動している。 
  身体は 小さいが 羽ばたく 力は 非常に 
  強い。 鳴き声が とても やかましい。』 


千歌「……群れてないじゃん」 


思わずポケモン図鑑にツッコミを入れてしまう。 


ダイヤ「珍しい個体ですわね……。わたくしもあのようなムックルを見たのは、初めてかも知れません」 


そのとき、 

 「ピィ…」 

そのムックルがその見た目に似つかわしくない目つきで私たちを睨みつけてくる。 


千歌「……なんか睨まれてる」 
 「ヒノ…」 


──次の瞬間、 

ムックルが地面を蹴って、低空を飛びながら、 

突っ込んできた── 


千歌「……!? ヒノアラシ! “えんまく”!!」 
 「ヒノッ!!」 


ブシュウウウ──と 

ヒノアラシの背中から黒い煙幕が噴出し、視界を塞ぐ。 

その煙幕から、ムックルがそのままの勢いで飛び出し、 

ヒノアラシ、そして私のすぐ横を掠めていく。 


千歌「……!!」 


私はすぐさま振り返ると、ムックルは空に飛び上がっていた。 

そして、バタバタと力強く羽ばたき始める。 

すると、撒いた“えんまく”が見る見る吹き飛ばされている。 
78 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:18:48.97 ID:VhOLIMaZ0

ダイヤ「先程の技は“すてみタックル”でしょうか? ……そして今度は“きりばらい”。あまり野生の個体が使う技ではないのですが……本当に珍しいですわ」 

千歌「ねえ、ダイヤさん!」 


少し離れたところでムックルを分析するダイヤさんに声を掛ける。 


ダイヤ「なんでしょうか」 

千歌「つまり、あのムックル……強いってこと?」 

ダイヤ「……まあ、そう言ってしまって差し支えないと思いますわ」 

千歌「なるほど……。……よし、決めた……!」 
 「ヒノ!」 


私は空から、私たちに向かって狙いを定めるムックルに対して、 


千歌「キミは絶対、チカが捕獲するんだから!」 


そう宣言した。 





    *    *    * 





曜「コイキング……シェルダー……メノクラゲ……」 


捕まえたポケモンをボール越しに透かしてみる。 


曜「うーん……なんか違うんだよなぁ……」 
 「ゼニ?」「キュゥ?」 


私のぼやきにゼニガメとラプラスが疑問の鳴き声をあげる。 


曜「なんか……せっかく一緒に旅するんだったら、海にきたぞー!! って感じのポケモンがいいんだけど……」 
 「……ゼニ?」 


再びゼニガメが不思議そうに首を傾げる。 

ふと顔をあげると、 

ザッブーン──と、大きな音を立てて水しぶきがあがる。 


曜「そうそう……あんな感じにド派手に水しぶきを上げて……ん?」 


少し間を置いて、丸い──丸いクジラが飛び出した。 


曜「……!!」 


ザッブーンと──再び大きな音を立てて水しぶきがあがる。 


曜「きたきたきた!! 曜ちゃんレーダーにピンと来たよ!!」 


海のポケモン──たまくじらポケモン、ホエルコ!!! 

パパに乗せてもらった船の上で見たことがある、あのとにかくおっきなクジラ、ホエルオーの進化前のポケモン! 


曜「あの子! 捕獲するよ! ゼニガメ!」 
 「ゼニ!!」 
79 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:20:44.76 ID:VhOLIMaZ0

私の指示と同時にゼニガメがラプラスの背中から飛び降りて海に着水する。 

そしてすぐさま、身体を甲羅に引っ込める。 


曜「“アクアジェット”!!」 
 「ゼニッ!!」 


指示と共にゼニガメが甲羅から水を逆噴射して、水中をロケットスタートする。 

私だって、千歌ちゃんに負けてられない! 

トレーナーとして、フィールドを利用したり、技を組み合わせて、ポケモンから本来よりも強い力や技を引き出すんだ! 


曜「そのまま“ずつき”!!」 


ロケットスタートした、ゼニガメの痛烈な頭突き──それ即ち、 


曜「“ロケットずつき”!!」 


ゼニガメが水中から抉り込むように、ホエルコへ頭突きする。 

──水中から、ホエルコが玉突きのように突き出される。 


曜「よっし!!」 


しかし、ホエルコは宙をくるくると舞いながら、 


曜「……?」 


ホエルコを突き上げた拍子に飛び出したゼニガメに向かって、 

落下しながら、 


曜「!? ゼニガメ!! “からにこもる”!!」 
 「ゼニ!!」 


私は咄嗟に指示する。 

突き飛ばしたはずのホエルコはその巨体のままゼニガメに向かって落ちてくる。 

“ヘビーボンバー”だ!! 

殻に篭ったゼニガメを海面にたたきつけるように、 

ホエルコが落下し、三たび、大きな水しぶきがあがる、 


曜「くっ……!! ゼニガメ!!」 


水上から海中を見る。 

だが、ホエルコの落下の際に発生した波が激しすぎて、全然見えない。 


曜「こーなったら!!」 


私はバッグから、水中メガネを取り出す。 

この前の反省を生かして、水中戦も考慮に入れて持ってきた秘密兵器! 


曜「とう!」 
80 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:29:14.60 ID:VhOLIMaZ0

素早くゴーグルを付けて、ラプラスからダイビング! 

ザブン──!! 

──水中に潜ると、ゼニガメが何度もホエルコに突進しては跳ね返されていた。 

よかった、ゼニガメは無事みたいだ……。 

……というか。 

──ホエルコ、大きくなってない? 

私は水中で図鑑を開く。 


 『ホエルコ たまくじらポケモン 高さ:2.0m 重さ:130.0kg 
  身体に 海水を 溜め込むことによって 大きく膨らむ。 
  丸く大きな 身体は 弾力性に 富んでいて 地上でも 
  高く 弾む。 但し 身体が乾くと 元気が なくなる。』 


海水を飲んで大きくなって弾力性があがってるんだ……。 

じゃあ、突進系の攻撃じゃダメだ! 

図鑑をポケットに押し込んでから、私は水中で両手の指を怪獣の爪のように立て、それを上下に合わせるように動かす。 

 「ゼニ…!!」 

それを見たゼニガメはコクリと頷いて、ホエルコに“かみつく” 

 「ボォォォォ……」 

ホエルコが苦しそうな鳴き声をあげて、少しずつしぼんで行く。 

よし! 効いてる! 

でも決定打に欠ける……。 

図鑑の通りなら乾けば弱る……。 

乾けば……。 

…………。 

そうだ……!! 

私は今度は水中で拳を突き上げるジェスチャーをする。 


 「ゼニ!!」 


痛みでしぼんだホエルコを再び海上に吹き飛ばすためにゼニガメの拳がホエルコを穿つ、 

“メガトンパンチ”!! 

私はすぐさま、上に泳ぎ出て、 

海上に飛び出したホエルコを指差し、 


曜「ぷは……っ!! ラプラス!! “フリーズドライ”!!」 
 「キュウッ!!」 


ラプラスに指示を出す 

ラプラスから放たれた、乾いた冷気がホエルコを一気に乾燥させる。 

 「ボォオォォォォォ……!!!!」 


曜「いまだ!!」 


私はラプラスの背中に片手を伸ばして手を付き、その反動を使ってボールを中空のホエルコに向かって投げつける。 

──でも、 


曜「……っ!! 届かない!!」 
81 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:30:50.46 ID:VhOLIMaZ0

僅かに投げたボールの勢いが足りない、 

──だが、 

 「ゼニッ!!」 

海中から回転しながら飛び出したゼニガメが、その勢いのまま尻尾でボールを打った。 


曜「ナイス!! ゼニガメ!!」 


乾いた身体でHPの減ったホエルコにボールが当たり。 


 「ボオォォォ……」 


ホエルコがボールに吸い込まれ、そのまま水面に落ちていった。 


曜「…………」 


ラプラスの背に乗ったまま、ボールの落下地点へと移動すると──。 


曜「……ゼニガメ、ラプラス、ありがと!」 
 「ゼニッ」「キュゥッ」 


私たちの新しい仲間を入れたボールが大人しくなってぷかぷかと浮かんでいました。 





    *    *    * 





──上空に羽ばたいたムックルがヒノアラシに向かって一直線に急降下してくる。 


千歌「また“すてみタックル”……! ヒノアラシ、“ひのこ”!」 
 「ヒノッ!!」 


私の指示で小さな火球が飛んで行く。 

──が、 


 「ピィィィィ!!!!!!!!!」 


ムックルは火球を突き抜けて、さらにそのまま突進してくる。 


千歌「わわ!! ヒノアラシ、前に向かってダッシュして……!」 
 「ヒノッ」 


──間一髪、ヒノアラシの上スレスレを通ってムックルが背後の地面に突き刺さる。 

その破壊的なタックルの威力によって地面が抉れていた。 


ダイヤ「……いくらなんでも、ただの“すてみタックル”にしては威力が高すぎますわね。あのムックルの特性は“すてみ”ですわね」 

千歌「それなんですか!?」 

ダイヤ「自分への反動を省みずに突っ込むことで、突進系の技の威力をあげる特性ですわ」 

 「ピィィィィ!!」 


なんて話をしていたら、ムックルが鳴き声をあげて、再びヒノアラシへの突進体勢を取っている。 
82 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:31:57.35 ID:VhOLIMaZ0

千歌「あの威力じゃ、“かえんぐるま”でも負けちゃうし……。……あれ?」 


──自分への反動を省みず? 

つまり、自分への反動は普段よりも大きくなる……。攻撃をすればするほど……。 

じゃあ、適任がいるじゃん! 


千歌「しいたけっ!!」 


私はボールは放って、しいたけを繰り出す。 


 「バゥッ!!」 


千歌「しいたけ、“いばる”!」 
 「ワフッ」 


しいたけはその場に堂々とお座りして、偉そうに鼻を鳴らす。 

 「ピッ…」 

それを見たムックルが、前方で戦っていたヒノアラシから注意を逸らされ、しいたけを睨みつけてくる。 

そして、地面を蹴って飛び出す、 

三たびの“すてみタックル”! 


千歌「しいたけ、“コットンガード”!」 
 「ワフ」 


しいたけの体毛が更にもこもこになる。 

これで防御力倍増……!! 

──ガスン!! 

と、ムックルがしいたけに突き刺さる。 

──が、ふわふわの体毛で受け止めたため、しいたけへのダメージは小さい。 

ここからは根競べだ! 

 「ピィピィ!!」 

ムックルは鳴きながら、距離を取るために空中でサマーソルトし、そのままの勢いで再び突っ込んでくる。 

──ガスン!! 

──ガスン!! ガスン!! ガスン!! 

鈍い音を立てながら、何度も突進を繰り返す。 


ダイヤ「……ですが、いくらトリミアンの防御力を持ってしても、これ以上は耐えられませんわよ?」 

千歌「わかってる! しいたけ! “ねむる”!」 
 「ワフォ…zzz」 


一旦あくびをしてから、しいたけが眠りだす。 

──ガスン!! ガスン!! 

依然ムックルの攻撃は止まないけど、 


ダイヤ「なるほど……眠って体力を回復して、その分更にムックルには反動を蓄積させる」 
83 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:34:43.03 ID:VhOLIMaZ0

 「ピッピッピッピ…!!」 

“いばる”の効果もあってか目に見えて、ムックルがイラついている。 

……と思った次の瞬間 

 「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!」 

とてつもなく甲高い声が、辺りを劈いた。 


千歌「うわわわわ!? 今度は何!!?」 
 「ワオッ!?」 


寝ていたはずのしいたけが思わず目を覚ます。 


ダイヤ「こ、これは……“さわぐ”ですか……!?」 


怒ったムックルが騒ぎながら、突撃してくる。 


千歌「う、うるさ……っ!! でも起きたなら丁度いいかも! しいたけ!」 


迫るムックル、 

私の言葉でもこもこと毛を増量するしいたけ、 

防御姿勢で乗り切る!! 


千歌「──と、見せかけて」 
 「バウッ」 


しいたけがお手をするように、ムックルを前足ではたく。 


 「ピイイイイィィィ!?!?」 


ムックルは予想外のことに反応出来ず、ゴロゴロと草むらの上を転がっていく、 


ダイヤ「これは良い“ふいうち”ですわね」 


そして、地面に転がったムックルに向かって、先ほど走り出た先から戻ってくるように、こちらに向かって、一直線に転がる、焔── 


千歌「ヒノアラシ!! “かえんぐるま”!!」 
 「ヒノォォォ!!」 

 「ピィィィィ?!?!」 


燃える車輪に弾き飛ばされ、大きなダメージを負って高く高く空に跳ねるムックル。 

 「ヒノォ」 

ヒノアラシは昨日同様、焼け焦げた黒いレールを地面に引きながら、私の前で停止する。 


千歌「いま!!」 


私は軽くボールを放る。 

──ヒノアラシの背中辺りに、 

 「ヒノッ」 

──ボンッ!! 

という爆裂音と共に、ヒノアラシの背中の爆発でボールがムックルに向かって一直線に弾き飛ぶ。 


 「ピィ…」 
84 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:35:28.87 ID:VhOLIMaZ0

ムックルは弱々しい鳴き声を残して 

──パシュン。 

という音と共にボールに吸い込まれた。 

ボールは高所から地面に落ちて、 

──カツーン!!! 

という大きな音を立てて、大きく一揺れした後、すぐに動かなくなった。 


千歌「……!!」 


私はそのボールの元に走り出して、 

それを手に取った。 


千歌「えへへ……ムックルゲットだよ!」 


それをヒノアラシとしいたけに見えるように前に掲げた。 

 「ヒノ!」「ワン!」 

──パチパチパチパチ 

気付いたら、傍で見ていた、ダイヤ先生が拍手をしていた。 


ダイヤ「お見事でしたわ」 

千歌「え、えへへ……」 


恩師からの賛辞に、思わず照れる。 

そして、いいタイミングで遠方から声が聞こえる。 


曜「──千歌ちゃーん!! ダイヤ先生ー!!」 

ダイヤ「曜さんの方も終わったみたいですわね」 


ダイヤさんは私に向き直って、 


ダイヤ「合格ですわ。おめでとうございます」 


そう言って、いつものあの優しい笑顔を向けてくれました。 


85 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:36:14.83 ID:VhOLIMaZ0



    *    *    * 





ダイヤ「二人とも、食事はちゃんと取るのですよ? 特に山や森に入るとき、海を渡るときは入念に食料を調達して……」 

千歌「もう、わかったからぁ……」 

ダイヤ「本当ですか? 曜さんはともかく、千歌さんは特にそういうところが心配ですわ」 

千歌「むー……大丈夫だって言ってるじゃないですか!」 

曜「あはは……」 

ダイヤ「……コホン。……まあ、確かに旅立ち前にながながしいお説教も野暮でしたわね」 


ダイヤさんは咳払いをしてから、そう付け足す。 


ダイヤ「二人とも、これを」 


ダイヤさんはバッグから、宝石のようなものを二つ取り出し、赤い物を私に、青い物を曜ちゃんに手渡す。 


千歌「……これは?」 

ダイヤ「ジュエル……というものですわ。一回限りしか使えませんが、それぞれほのおタイプとみずタイプの威力をあげる効果がある道具です。旅立つ教え子への餞別ですわ」 

曜「ダイヤさん……」 

ダイヤ「それでは改めて、千歌さん、曜さん」 

千歌・曜「はい」 

ダイヤ「ポケモンたちとの旅……楽しんできてくださいませね。いってらっしゃい」 


ダイヤさんの激励に、二人で笑顔になりながら── 


千歌・曜「「いってきます!!」」 


──私たちは元気にそう答えました。 


86 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 13:37:29.18 ID:VhOLIMaZ0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【2番道路】 
 口================= 口 
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  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
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 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.11  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.16 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムックル♂ Lv.10 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:24匹 捕まえた数:3匹 

 主人公 曜 
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.9  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.20 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.10 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:28匹 捕まえた数:6匹 


 千歌と 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



87 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:26:36.92 ID:VhOLIMaZ0

■Chapter008 『ホシゾラシティ』 【SIDE Chika】 




──ダイヤさんに見送られ、私たちは2番道路の先の分かれ道で立ち止まる。 


千歌「私はこのままホシゾラシティを目指して西に進むけど……曜ちゃんはどうするの?」 


私が訊ねると、曜ちゃんは、 


曜「私は、最初に言ったとおり海を旅したいから……東のスタービーチから海を渡ってフソウ島を目指そうかなって思ってるよ!」 


そう答える。 


千歌「じゃあ、ここで一旦お別れだね」 

曜「あはは、そうだね」 


私の親友は返事をし、笑いながら、拳を前に突き出してくる。 


千歌「! えへへ……!」 


私も同じように、拳を前に出して、コツンと合わせる。 


千歌「……次会うときは」 

曜「お互いもっとすごいトレーナーに!」 

千歌「うん!」 


ずーっと、曜ちゃんとは一緒に過ごしてきて……。 

離れ離れになるなんて、ほぼ初めてかもしれないけど── 


千歌「……今はこの子たちがいるから」 


──腰に付けた3つのボールに目の端で視線を送る。 


曜「うん!」 


お互いの拳が離れて、曜ちゃんはそのままトトッと後ろにステップし、 


曜「それじゃ! またね、千歌ちゃん!」 


敬礼のポーズをした後、踵を返してスタービーチに向かって走っていった。 


千歌「よーちゃーん!!」 


私は曜ちゃんの背中に呼びかける。 


千歌「わたしー!! 次会うときはホントにすっごいトレーナーになってるからー!! 楽しみにしててねー!!」 

曜「わたしもー!! いっぱい海の旅のお話、聞かせてあげるからー!!」 


そして、私たちの一人旅はここから始まります──。 





    *    *    * 
88 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:28:17.70 ID:VhOLIMaZ0




歩くこと数時間。 


千歌「ここが……」 


到着しました。ホシゾラシティ。 

大きな町ではないけど、ウラノホシタウンに比べればポケモンセンターやフレンドリーショップなど、いろいろな施設が揃っている町……。 

でも、右手には大きな山、左手には相も変わらずスルガ海が広がっている。そんな自然豊かな町です。 


千歌「とりあえず、ジムだよね!」 
 「ヒノ?」 


足元をちょこちょこ歩くヒノアラシが小首を傾げる。 

私は、そんな小さな町の中でも気持ち大きめな建造物を目指します。 

ポケモンジムは分かりやすいように、外観はどの町でも、さほど変わらないので、ウチウラシティで見た覚えのある建物を見つけ、そこに直行。 

ジムの前に辿り着き。扉を開こうとして、気付く。 


千歌「……張り紙?」 


ジムの扉には張り紙がしてあって、 


千歌「『所用により、『流星山』にいます。──ジムリーダーより。』 ……」 
 「ヒノォ…zzz」 

千歌「また、出鼻くじかれたー!!」 


──足元でヒノアラシ寝てるし! 


千歌「むー……ここで待つのもなぁ……。いつ帰ってくるのかわからないし……」 
 「ヒノ…zzz」 


流星山って──私はジムの更に向こう側に見える大きな山に視線を向ける。 


千歌「確か、あの山だよね」 


──どっちにしろ、ジムリーダーには会わなくちゃいけないんだし、 


千歌「じゃあ、いってみよっかな!」 
 「ヒノ…zzz」 


お昼寝中のヒノアラシを抱き上げて、町の北にそびえる山へ、歩を進めます。 





    *    *    * 





──流星山。 

その名の通り、流れ星や天体観測の有名なスポットで、ウチウラシティからそこまで離れていない観光地でもあります。 

そのため、山道と言ってもほとんどはロープウェイで山頂まで行くことが出来るので、行き来はそこまで大変ではありません。 

なんでこんなに詳しいのかと言うと。小さい頃、何度かお母さんや果南ちゃん──あ、果南ちゃんって言うのはアワシマに住んでた1個年上のお姉さんです──に連れていってもらって訪れたことがあるからです。 
89 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:29:38.31 ID:VhOLIMaZ0

千歌「そういえば果南ちゃん……今何してるんだろう」 
 「ヒノ…zzz」 


7年前にポケモンを貰って旅に出て以来、たまーに帰ってくることはあるんだけど、正直ほとんど会っていない。 

確かダイヤさんと一緒にポケモンを貰ったんだったよね。 

……じゃあ、そうなると果南ちゃん、ダイヤさん、鞠莉さんが一緒にポケモンと図鑑を貰った3人なのかな。 


千歌「そういえば、鞠莉さんも図鑑持ってたもんね」 
 「…zzz」 


お昼寝中のヒノアラシをもふもふしながら、先程乗り込んだロープウェイのゴンドラの外を見る。 


千歌「町、ちっちゃいなぁ……」 


子供の頃、お母さんや志満姉、美渡姉……そして、果南ちゃんと一緒に乗って見たこの景色。 

あのときは一人でここに来ることはできなかったけど、今はこうして一人でこの景色を一望出来る。 


千歌「私……今旅してるんだ」 


景色を目に焼き付けながら、私はそんなことを今になってやっと自覚する。 

──すると、さっきまで丸まって寝ていたヒノアラシが首を伸ばして、私の胸辺りに鼻をこすりつけてくる。 

 「ヒノ」 

千歌「あはは、ごめんごめん。一人じゃないね。皆が一緒だもんね」 
 「ヒノ…」 


そう言って、ヒノアラシの頭を撫でると、また丸まって、 

 「…zzz」 

お昼寝を始めた。 


千歌「キミは自由だね……」 


私はぼんやりと言葉を零す。 

ゴンドラは間もなく頂上に到着しようとしていた。 





    *    *    * 





千歌「……着いたっ!」 
 「ヒノ…zzz」 

千歌「そろそろ、起きてくれないかな……」 
 「ヒノ…?」 


ヒノアラシをそっと地面に転がすと、のそのそと歩き出す。 


千歌「よしよし」 


私はヒノアラシが起きたのを確認して、辺りを見回す。 


千歌「──確か、天文台があったはず……あ、あそこだ」 
90 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:31:37.22 ID:VhOLIMaZ0

山頂にある建物を見つけ、そこに数人の白衣を着た人達が集まっているのが見える。 

たぶん、あの中にジムリーダーもいるんだろう。 

そう思い、そっちに向かおうとしたとき── 

 「ヒノッ」 

ヒノアラシが声をあげた。 


千歌「? どうかしたの?」 


ヒノアラシの視線の先を見ると──どこかで見たような人影。 

メブキジカを連れて、長い葡萄色の髪の毛をバレッタ留めた女の子。 


千歌「あ、梨子ちゃん!」 

梨子「え?」 


私の声に梨子ちゃんが振り返る。 


梨子「ああ……貴方……」 


そして、少しめんどくさそうに応える。 


千歌「梨子ちゃんもジムリーダーを探しに?」 

梨子「違うわ」 


そう言って梨子ちゃんはポケットからケースを取り出して、それを開けて見せてくる。 

その中には流れ星のような形のバッジがはまっていた。 


梨子「この通り、私はホシゾラジムを突破した後よ」 

千歌「そうなんだ……! すごいね!」 

梨子「……1個目のバッジなんて、誰でも手に入るわよ」 


そう言って、梨子ちゃんは私の横をすり抜けていく。 


千歌「あ、あれ? もう行っちゃうの?」 

梨子「……ここにはないみたいだから」 


私が振り返りながら問い掛けると、梨子ちゃんは若干苦しそうな顔をして、そう言う。 


千歌「ない……? なにが……?」 

梨子「……なんでもない」 


そう言って、去っていく。 

 「ブルル…」 

その後ろでメブキジカが私に向かって、会釈をしてから、一人と一匹は去っていった。 


千歌「……なんだろ?」 
 「ヒノォ…」 


気付くと足元でヒノアラシがあくびをしている。 


千歌「あーもう……寝ないのー。いくよー?」 
91 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:34:26.64 ID:VhOLIMaZ0

私がそう言って天文台の建物に向かって歩き出すと、 

 「ヒノ」 

ヒノアラシは後ろをとてとてと付いて来る。 

このまま突っ立ていると、またヒノアラシがお昼寝しちゃうし。 

梨子ちゃんの言ってたことはちょっと気になるけど……。私もジムリーダーと戦わなくちゃだもんね! 





    *    *    * 





 「──ですから! せっかく最新鋭のですね!」 

 「えー、でも実際目で見たほうが早くないかにゃ? ほら双眼鏡もあるし」 


天文台に近付くと、その外で白衣を着た人、数人と比較的明るい髪色のショートカットのお姉さんが何やら口論をしていた 


 「せっかくローズシティから頂いた観測機なんですよ!?」 

 「真姫ちゃんはすぐお金に頼るから……こーいうのは自分の目と足で確認した方がいいんだってばー」 


お姉さんは恐らく天文台のスタッフさんらしき人たちからプイっと顔を背ける。 


千歌「……あっ」 

 「……にゃ?」 


その拍子にお姉さんと目があった。 


 「? ……?」 


お姉さんは少し考える素振りをして、 


 「……あ、もしかしてキミ。ウラノホシ旅館トチマンの末っ子ちゃんかにゃ?」 


思い出したかのように、そう言った。 


千歌「え、あ、はい……?」 


私は突然、自分の正体を言い当てられて少したじろぐ。 


凛「あ、ごめんごめん。私のこのホシゾラ天文台の所長の凛って言うんだけど、あなたちっちゃい頃何度かここに来てたよね?」 

千歌「え、あ、はい。……何度か、親とか、友達と……」 

凛「やっぱり! よく子供の頃、果南ちゃんと一緒に遊びに来てた子だよね! 懐かしいにゃ~! ……って言っても当時はお母さんが所長だったけど」 

千歌「果南ちゃんのこと、知ってるんですか?」 


私は凛さんの口から飛び出した、聞き覚えのある名前に反応する。 


凛「うん! 7年前にも旅してる果南ちゃんに会ったし……そのときもこうしてお話したんだよ」 

千歌「そうなんだ……」 


果南ちゃんもここに来たんだ……。まあ、そっか。同じ場所から旅に出てるんだから、同じ場所に来てるのなんて全然不思議なことじゃない。 
92 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:36:09.11 ID:VhOLIMaZ0

凛「もしかして、あなたも……えぇっと」 

千歌「あ、千歌です!」 

凛「千歌ちゃんも冒険の旅に?」 


凛さんは私の足元で、もそもそと動くヒノアラシを見ながらそう問うてくる。 


千歌「あ、はい!」 

凛「……それじゃ、まずはこっちだにゃ!」 


凛さんが突然、私の腕を掴む。 


千歌「え!?」 

凛「レッツゴー!!」 

千歌「え、えええーー!?」 


凛さんがそのまま私の腕を引っ張って走りだす。 

 「ヒノ…」 

その後ろをヒノアラシがトコトコと付いて来る。 


千歌「ち、ちょっと……」 


突然の展開に動転して、一旦制止しようとするが、 


凛「にゃにゃ~!」 

千歌「ちょ、は、はやっ……!!」 


思った以上に腕を引いて走る凛さんの足が速いため、転ばないように頑張って足を動かすことで精一杯。制止の声を掛けるどころではない。 

──と思ったら、 


凛「到着!」 

千歌「わわ!!」 


すぐに目的地に到着したのか、凛さんが急に停止して、私は前につんのめる。 


凛「おっとと……」 


凛さんがつんのめった私をぐっと引っ張って、体勢を立て直させる。 

華奢で小さな体躯に見えたけど、思ったより力が強い。 

それはともかく── 


千歌「い、いきなりどうしたんですか……?」 


私は顔を顰めながら、凛さんに尋ねる。 


凛「えへへ……冒険に来たのなら、まずコレを見ないと──って思って!」 


そう言って凛さんが指差す先には、 


千歌「コレ……? ──うわぁ……!!」 
93 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:39:30.68 ID:VhOLIMaZ0

高い山の上から、一望出来る絶景。 

先に見える、豆粒みたいな町々や自然豊かな山、河、森もすごいんだけど……何より── 


千歌「あの木……すごい……」 


流星山よりもずっと高く伸び、雲さえも突き抜ける高さの大樹が目を引いた。 


凛「この山から北西に見えるあの木。あれが、ここ──オトノキ地方のシンボルとも言われている『音ノ木』だよ」 

千歌「音ノ木……!」 

凛「ちょっと遠いから、夜は意識しないと見えにくいけど、あれだけ大きな木だから、晴れた日にこの山から見るとその大きさに圧倒されるにゃ。……通称『龍の止まり樹』……」 

千歌「龍の止まり樹?」 

凛「昔から、あの樹の先から龍の雄たけびのような音がすることがあってね。あの樹のテッペンでは龍が休憩しているなんて言われてたんだよ。今では違うってことがわかってるんだけど……はいこれ」 

千歌「? ……双眼鏡?」 


次々と進んでいく話に多少頭が付いていかないながらも、とりあえず手渡された双眼鏡を覗いてみる。 


凛「──あ、もっと上の方」 


言われて、音ノ木の上の方を見ると。 


千歌「……岩?」 


岩のようなものがふわふわと浮いているのが見えた。 


凛「あれはメテノって言うポケモンだにゃ」 

千歌「メテノ……」 


言われて私は図鑑を開く。この距離でサーチできるかな? 


 『メテノ ながれぼしポケモン 高さ:0.3m 重さ:40.0kg 
  もともと オゾン層に 棲んでおり 身体の 殻が重くなると 
  地上に 向かって 落ちてくる。 とても 頑丈な 外殻だが 
  落下 したときの ショックで 木っ端微塵に 砕けてしまう。』 


凛「にゃにゃ? それポケモン図鑑かにゃ?」 

千歌「え? あ、はい」 

凛「凛が使ってたときよりも進化してるにゃ~……」 

千歌「凛さんもポケモン図鑑、持ってるんですか……?」 

凛「うん! 旅してたときにね! でも、もう結構前の話だけど……。──っと、いいタイミングだにゃ!」 


そう言って、凛さんが突然指を指す。 


凛「あっち! あそこのメテノを見てみて欲しいにゃ!」 

千歌「あっち!? どっち!?」 


双眼鏡を上に下に動かす。 


凛「もうちょっと、上にゃ」 
94 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:41:03.35 ID:VhOLIMaZ0

凛さんが私に手を重ねて微調整する。 

……というか、この人肉眼で見えてるんだ。すごい視力。 

すると、ちょうどいいタイミングで、 


千歌「!?」 


メテノが音ノ木にぶつかって──弾けとんだ。 

そして、数秒の後、その爆発音がここ流星山まで響いてくる。 


凛「あれが龍の咆哮の正体」 

千歌「え、メテノは……」 

凛「にゃ? ああ、大丈夫だよ もう一度、さっきの場所を見てみて」 


言われて、双眼鏡を覗き込むと 


千歌「……ピンクのがいる」 


シルエットは同じなんだけど、今度は岩ではなく、ピンクの柔らかそうな質感の物体が飛んでいる。 


凛「メテノの特性“リミットシールド”って言うんだけど……。ダメージを受けるとああやって外殻が割れて身軽になるんだよ。殻が割れて軽くなったら、あとはまた上空に向かって戻ってくにゃ」 

千歌「そうなんだ……よかった」 

凛「本来オゾン層にいるんだけど、いろんな理由で降りてきたり、休もうとしたメテノが音ノ木にぶつかった時の音が、昔からずっと鳴り響いてたんだろうね」 

千歌「それで音の木……」 

凛「そうそう、そういうこと」 


凛さんは嬉しそうに笑いながら、 


凛「そして、そんな音ノ木とメテノたちの観測をしているのが、ここホシゾラ天文台なんだよ。……あ、もちろん普通の天文観測もしてるけどね」 


そう続ける。 

──私は凛さんの言葉を聞きながら、再び大樹に目を向ける。 

とてつもなく大きい、雄々しい、大樹。 


凛「気に入ってくれたかな?」 


そう言って、凛さんが私の顔を覗き込んでくる。 


千歌「……はい!! とっても!」 

凛「それはよかったにゃ」 


凛さんはそう言って、からからと笑う。 


凛「ところで、千歌ちゃんはどうしてここに?」 

千歌「え?」 

凛「わざわざこんな時間に山頂まで来るなんて物好きだなぁって思って……」 

千歌「えっと……あれ? なんでだっけ……」 


言われて首を傾げる。 

 「ヒノ…」 

やっと追いついたヒノアラシが私の足元にトコトコと寄って来る。 
95 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:41:48.95 ID:VhOLIMaZ0

千歌「……あ、そうだ! ジムリーダー探しに来たんだった!! 凛さん、知りませんか!?」 

凛「にゃ? ……ああ、ジム!!」 


──瞬間。 

凛さんが何かを思い出したかのように突然走り出す。 


千歌「──え、ちょっと!? 凛さん!?」 

凛「ジムリーダーに挑戦だよね!? ジムで待ってて!!」 


そう残して、居なくなってしまった。 


千歌「……ってか、足はや」 


下手したらポケモンより速いんじゃないかな……。 


千歌「う、うーん……? 凛さんがジムリーダー呼んで来てくれるってことだよね? ……ジムで待ってよっか」 
 「ヒノ」 


騒がしくも明るい女性、凛さんとの衝撃的な邂逅を終え、 

私はヒノアラシと一緒にロープウェイへと戻っていくのでした。 





    *    *    * 

96 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:42:48.91 ID:VhOLIMaZ0



──ロープウェイを下り、ホシゾラシティのジムに戻ると、さっきまであった張り紙がなくなっていました。 


千歌「ジムリーダーさん、戻ってきたんだね!」 
 「ヒノッ」 


私はジムのドアを押し開ける。 


千歌「た、たのもー!!! ……でいいのかな?」 
 「ヒノ!!」 


私の声がジムの中に反響する。 

その奥で、女性が一人。 


千歌「──え」 

 「もう、遅いよ千歌ちゃん。待ちくたびれちゃったにゃ」 


先ほど流星山で会った人。 


千歌「凛、さん……?」 

凛「にゃ? どうかしたの?」 


凛さんが素っ頓狂な声を出す。 


千歌「え? ジムリーダー……え??」 

凛「あれ? 言ってなかったっけ? ……それじゃ、改めて」 


凛さんはそう言ってから、一歩前に出る。 


凛「ホシゾラジム・ジムリーダー『勇気凛々トリックスター』 凛! 正々堂々……お願いします、にゃ♪」 


私の目の前でジムリーダーが直々に頭を下げました。 


97 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/29(月) 15:43:58.66 ID:VhOLIMaZ0


>レポート 

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 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
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 主人公 千歌 
 手持ち ヒノアラシ♂ Lv.13  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムックル♂ Lv.11 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:26匹 捕まえた数:3匹 

 千歌は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



100 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:39:06.89 ID:8koyJWg30

■Chapter009 『決戦!ホシゾラジム!』 





凛「使用ポケモン2体! 先に2匹とも、戦闘不能になった方が負けだよ! 行け、バルキー!」 


そう言って、凛さんが放ったボールから、ポケモンが飛び出す。 


 「バルッ」 

千歌「え、えーっと……」 

凛「ほーら! 早く! 千歌ちゃんもポケモン出して!」 

千歌「あ、は、はい! 出てきて、ムックル!」 


倣う様に私がボールを放ると中空でボールが弾け、ムックルが飛び出す 


 「ピィィィ!! ピィィィ!!」 

凛「そのムックル、気合い十分だね! バルキー“マッハパンチ”!」 
 「バルッ!!」 


バルキーが大地を蹴る。 

──と、思った瞬間、 

ムックルに拳が迫っていた。 


千歌「!! “でんこうせっか”!」 
 「ピィィィ!!」 


音速の拳に対抗するように、 

素早く空を切りながら、拳と嘴が相対する。 

──しかし 

 「ピピッ!!?」 

一瞬遅れた指示のせいか、力負けしたムックルが吹き飛ばされる。 


千歌「ムックル!?」 
 「ピピィィッ!!」 

地面を転がったが、ムックルはその勢いのまま床を蹴って、再び空に飛び立つ。 


千歌「大丈夫だね!? よっし!! “すてみタックル”」 


勢いを殺さぬまま、ムックルが更に加速する。 


凛「真っ向勝負!! いいね、凛そういうの好きだよ!」 
 「バルッッ!!」 


──ダンッ!! 

凛さんの声に呼応するようにバルキーが震脚する。 

踏み込んだ足の反動を利用して、捻り出す弾丸拳。 


凛「“バレットパンチ”!!」 
101 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:40:30.60 ID:8koyJWg30

再び衝突する拳と嘴。 

──ガィン!と鈍い音と共に、 

軌道をズラされたムックルがバルキーのすぐ横の床に刺さる。 


千歌「ムックル! すぐ振り返りながら“つばさでうつ”!」 

 「ピピッ!!」 


すぐさま床から嘴を引き抜き、 

その勢いも載せて、翼を振るう 


凛「“ローキック”!!」 


バルキーも振り返りながら、その反動で低位のムックルに蹴りを繰り出す 

──今度は翼と脚が交差し、 

お互いの膂力がぶつかり合い、弾ける。 

 「ピピッ」「バルッ」 

威力はほぼ互角 

両者、お互いの攻撃を交えた反動で距離を取る。 

バルキーは私に背を向ける形でステップを踏み、 

ムックルは凛さんに背を向ける形で空へ。 


凛「かくとうタイプのポケモンにも劣らない筋力! すごいにゃー!」 


両者互角の真っ向勝負。 


千歌「ムックル、“みだれづき”!」 


再び宙空から、嘴を、 

──今度は連打で!! 


凛「バルキー “こらえる”!」 


一方、凛さんは防御を選択。 

──ガガガガガ!! 

嘴の連撃をバルキーは両腕で頭を庇うようにして、堪える。 

──でも確実にダメージは与えてる……!! 


千歌「そのまま押し切って!!」 
 「ピピ!!」 


私の声に呼応するムックル 

だが、 

一瞬声を掛けたのがかえって仇となった、 
102 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:41:38.41 ID:8koyJWg30

凛「いまにゃっ! “かわらわり”!」 

 「バルッ」 

 「ピギッ!?」 

私の声に反応した瞬間に生まれた隙を突いて、 

バルキーの手刀が振り下ろされ、 

 「ピピィ!!」 

ムックルが地面に叩き付けられる。 


千歌「!! ま、まだ!! “リベンジ”!!」 

 「ピィィィ!!」 


地面を蹴って、ムックルが全身を使った体当たりで応酬する。 

そのまま“がむしゃら”にぶつかって攻撃する。 


凛「バルキー! “こうそくスピン”!」 

 「バルッ」 


でも凛さんは冷静に対抗策を打つ。 

バルキーは指示に従い、右足を軸にして回転し、我武者羅に突撃するムックルを弾き飛ばす。 


千歌「ムックル!」 

 「ピピッ!!」 


──ザザッと、 

今度は地面を転がらないように、ムックルは自慢の脚の爪で床を踏ん張る。 


凛「そろそろ、お互い体力も限界かな?」 


──なら……! 

先に繰り出す、 

地を蹴り、 

飛び出す、 


千歌「“でんこうせっか”!!」 

 「ピピィ!!!!!」 

凛「“マッハパンチ”!!」 

 「バルッ!!!!」 


最初に選んだ技の応酬。 

神速の攻撃がすれ違い様に、ぶつかった後、 

先に指示を出した、ムックルが── 

──地に落ちた。 


千歌「ムックル!?」 
103 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:42:47.94 ID:8koyJWg30

私はムックルに駆け寄る。 

 「ピピィ…」 

千歌「ど、どうして……」 


戦闘不能になったムックルを抱きかかえながら、私は呟く 

攻撃は先に出したはずなのに……。 


凛「さっき当てた“ローキック”」 


──そんな私の疑問に答えるように 


凛「すばやさを下げる効果があるんだよ。その差が出たにゃ」 

千歌「……くっ」 


私はムックルをボールに戻す。 


凛「さぁ! まだ、バトルは終わってないよ!」 

千歌「……っ ヒノアラシ!!」 


私は元の立ち位置に戻るため走り出すと共に、バトルスペースの外で待っていたヒノアラシに声を掛ける。 

「ヒノッ!!」 

私の声を聞いて、スペースに走り出すヒノアラシ。 


千歌「“えんまく”!!」 
 「ヒノッ!」 


──ブシュウウウウ、と 

私とすれ違い様にバトルフィールドに立ったヒノアラシの背中から、黒煙が噴出す。 


凛「にゃ? ここで目晦まし? せっかく真っ向勝負だと思ったのに……」 


黒煙の先で凛さんの残念そうな声が聞こえる。 


凛「まあ、絡め手も対策済みだけどね! バルキー“みやぶる”!」 


凛さんの声が響く。 

…………。 

……だが、変化は無い。 


千歌「ヒノアラシ、警戒!」 
 「ヒノッ」 


ヒノアラシがキョロキョロと見回しながら、周りを警戒する。 

──瞬間、 

黒煙の中から腕が伸びてくる。 

 「ヒノッ!!」 

そして、ヒノアラシの背を掴む。 


凛「逆に、煙幕が仇になっちゃったね!」 
104 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:44:39.42 ID:8koyJWg30

煙の先で凛さんの声が響く。 

眼前には気付けばバルキーの姿、 

“みやぶる”で“えんまく”の先のヒノアラシの位置がバレていた。 


千歌「……えへへ」 

凛「……にゃ?」 


思わず笑いが漏れてしまった。 


千歌「ヒノアラシの警戒方向はむしろ背中側です!」 

凛「……!?」 

千歌「ヒノアラシ!! “はじけるほのお”!!」 
 「ヒッノッ!!」 

 「バルッ!!!?」 
凛「バルキー!!?」 


──ボンッ 

と音を立てて、 

ヒノアラシの背中が弾ける。 

その爆風によって晴らされた黒煙の先では── 


 「バ…ル…」 


吹き飛ばされたバルキーが気絶していた。戦闘不能だ。 


凛「しまったにゃぁ……。……まあ、さすがに一匹じゃ無理か」 


凛さんはそう言ってバルキーをボールに戻す。 


凛「ズルッグ!」 


二匹目のボールが放たれると同時に 


凛「“ねこだまし”!」 
 「ズルッグ!!」 


先制攻撃が飛び出す、 

ヒノアラシの眼前に飛び出た黄色い影が、 

彼の目の前で両手を叩いて、威嚇する。 

 「ヒ、ヒノッ」 

驚いて怯むヒノアラシに畳み掛けるように、 


凛「“グロウパンチ”!!」 


──拳が襲う!! 


千歌「ヒノアラシ!! 踏ん張って!!」 
 「ヒノッ!!」 


私の合図で背中から炎を吹き出し、その炎の反動で自身を地面に押さえつけ、踏ん張る。 


凛「“グロウパンチ”!!」 
105 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:46:07.32 ID:8koyJWg30

連打される拳! 


千歌「ひ、“ひのこ”!」 


ズルッグの腹部辺りに“ひのこ”を打ち込む。 

──だけど、 


凛「まだまだにゃ!! “グロウパンチ”!!」 


連打が止まらない、 

踏ん張りが追いつかず、ヒノアラシの身体が浮きかける、 


千歌「ヒノアラシッ!! 一旦距離とって!!」 
 「ヒノッ!!」 


拳にあわせるように“ずつき”して、その反動で後ろに下がる。 

──というか、軽く吹っ飛ばされる。 

たぶん、パンチをする度に威力が上がってる……さっきの“ローキック”みたいにそういう効果がある技なんだ、 


千歌「じゃあ、長期戦は出来ない!! ヒノアラシ!!」 
 「ヒノッ!!」 


再び背中に炎を宿し、 

そのままヒノアラシは身体を丸める 

十八番── 


千歌「“かえんぐるま”!!」 


地面の反動を借りて飛び出す、火炎車。 


凛「にゃ、大技!? ズルッグ“てっぺき”!!」 
 「ズルルッグ!!」 


ズルッグは指示と共に身体の皮を伸ばして、防御姿勢を取る。 

──でも、関係ない!! 


千歌「燃えろおおお!!」 
 「ヒッノオオオオオ!!!!」 


回転量と比例して、火勢を増しながら、 

炎球がズルッグに突撃する── 

 「ズルルッ」 

──勢いで吹き飛ぶズルッグ 

踏ん張ることなど、許さない威力……! 


千歌「よっし!」 
 「ヒノッ!!」 


炎を解除した、ヒノアラシが身体を伸ばして、着地する。 


凛「ズルッグ、大丈夫?」 
 「ズル…」 

凛「ありゃりゃ、やけどまでしちゃったにゃ……」 
106 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:47:19.46 ID:8koyJWg30

──効いてる! 


千歌「なら、もう一回! “かえんぐるま”!」 


………… 

……? 

しかし、何も起こらない。 


千歌「ヒノアラシ? “かえんぐるま”!!」 
 「ヒ、ヒノ…」 


ヒノアラシが困ったように頭を振る。 


千歌「ど、どうしちゃったの……??」 

凛「にゃはは♪ ねー千歌ちゃん。ジム戦の前にポケモンセンター寄った?」 

千歌「え?」 


突然そう尋ねられる。 

──言われてみれば行ってない。 


凛「ダメだよー 挑戦の前はちゃんとHPもPPも回復しておかないと」 


PP──技のパワーポイントが切れた……? 


千歌「え、そんな……すぐにPPが切れるような技じゃ……」 


私は急いで図鑑を開く。 

──見ると、ほとんどの技のPPが切れ掛かっている。 


千歌「……!?」 

凛「ふふん♪」 


得意気な凛さんを見て、何かされたんだと気付く。 


千歌「ヒ、ヒノアラシ! “まるくなる”!」 
 「ヒ、ヒノ」 

凛「んー……時間稼ぎ?」 


凛さんが問い掛けてくる。 


千歌「さっき、やけどしたって……!! それなら、防御に徹して──」 

凛「──じゃあ、遠慮なく。ズルッグ“だっぴ”のチャンスだよ」 

千歌「……え?」 


そう言うとズルッグが身体に纏う皮を脱いだ──下から、同じような皮が出てきたけど。 


凛「ふふん、状態異常を回復する特性にゃ」 

千歌「う……」 
107 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:48:15.17 ID:8koyJWg30

対策されてる……。 

それじゃ、次の指示、他の技を……!! 

図鑑に視線を落とすと、“まるくなる”のPPがどんどん減っている。 


千歌「!? 使ってる技のPPを削る技!? ヒノアラシ、元に戻って!」 
 「ヒ、ヒノ…!?」 

凛「えへへ、ばれちゃったにゃ。その技は“うらみ”って技だよ」 

千歌「ひ、“ひのこ”!!」 


僅かに残った小技でどうにか削りきるしか……!! 

──飛び出す“ひのこ”がズルッグを襲うが、 

 「ズルル…」 

ボーっとした様子で、まるで熱がらない。 


千歌「き、効いてない……?」 

凛「“ドわすれ”──これで熱いのも忘れちゃうにゃ」 

千歌「……そんな……」 

凛「終わりかにゃ? じゃあ、“ドレインパンチ”!」 
 「ズルッ─」 


──拳が、 

ヒノアラシを、 

吹き飛ばす、 


千歌「──あ……」 
 「ヒノッ…」 


ぼてっとヒノアラシが私の足元まで飛んでくる。 

 「ヒノ…」 

足元で弱々しく鳴く、ヒノアラシ 


千歌「……ヒノアラシ……!!」 
 「ヒ、ノ……」 

千歌「……っ」 


傷つき倒れたヒノアラシを見て──梨子ちゃんとの戦いを思い出す。 

私の力が足りないばっかりに、また自分の手持ちを傷つけてしまった。 

そんな後悔が襲ってくる。 


凛「……辛いなら、やめにしてもいいよ」 

千歌「……え?」 


凛さんが突然そんな提案をしてきた。 


凛「“ドレインパンチ”でヒノアラシの体力を吸収して、ズルッグは回復もしちゃったし。ヒノアラシももう打てる技がないんだったら、降参してもいいんだよ」 

千歌「──降参……」 

凛「ジムは何度でも、チャレンジャーの挑戦を受け付けてるから、もっと修行してから出直してきても大丈夫だにゃ♪」 

千歌「…………」 
108 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:48:57.66 ID:8koyJWg30

──まだ、私たちのレベルじゃ足りなかったんだ。 

これ以上、ヒノアラシを傷付けるだけなら── 


千歌「……こうさ──」 
 「──ヒノオオオオオオ!!!!!」 

千歌「!?」 


そのとき突然、ヒノアラシが、吼えた。 

 「ヒノオオオオオオ!!!!」 

背中から炎を吹き出して、 


千歌「あ、あっつ!!?」 


というか、私を炙っていた。 


凛「…………」 

千歌「ヒ、ヒノアラシ……?」 
 「ヒノッ!!!」 


声を掛けると、ヒノアラシが顔をこっちに向ける。 

相変わらずの無表情だけど──なんとなく、わかった。 

ヒノアラシはこう言ってる──「まだ戦える」と、 


千歌「──そうだよね……」 


──私、言ったもんね。 


千歌「── 一緒に強くなろうって……!!」 
 「ヒノッ!!!」 


──最後まで諦めるもんかっ!!! 


 「ヒノッ!!!!」 


ヒノアラシの背中にやる気の炎が燃え上がる。 


千歌「“ひのこ”!!」 
 「ヒノッ!!!」 


飛び出す“ひのこ”、 


凛「降参はしないってことだね」 

千歌「“ひのこ”!! ありったけの“ひのこ”!!!」 
 「ヒノッ!! ヒノッ!!」 

凛「千歌ちゃんのそういうところ凛は好きだよ♪ それなら、こっちも相応の技で──ズルッグ!! “もろはのずつき”!!」 
 「ズルッグッ!!!」 


──ダン、と床を蹴って、ズルッグが前傾姿勢で突撃してくる。 


千歌「“ひのこ”!!」 
 「ヒノッ!!!」 


その勢いで“ひのこ”を蹴散らしながら、 
109 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:49:58.60 ID:8koyJWg30

千歌「“ひのこ”!!!」 
 「ヒノッ!!!!」 


──迫る。 

最大の攻撃。 

──でも、 


千歌「──負けるもんかっ!!!!」 

 「ヒッノォ!!──」 


──瞬間、 

ヒノアラシが光り輝いた。 


千歌「“ひのこ”!!!!!!」 
 「──マグッ!!!」 

千歌「“ひのこ”!!!!!!!」 
 「マグッ!!!」 


私の声に呼応するかのように、 

飛び交う“ひのこ”は勢いを増して、 


千歌「ありったけの!!!!! “ひのこ”を!!!!!!」 
 「マグゥゥゥッ!!!!!」 


咆哮と共に、 

キミの口から爆ぜ出す炎は、 

辺りいっぱいに散らばった“ひのこ”たちと一つになり、 

それを凌駕する、 

大きな火炎へと、 


千歌「いっけえええええええええ!!!!!!」 


──昇華した。 


千歌「やきつくせえええええ!!!!!!」 
 「マグウウウゥゥゥゥゥ!!!!!!」 


ありったけの火の粉を集めて出来た火炎の中を、頭で裂きながら突き進むズルッグは── 

 「…」 

走った末に、 

私たちの目の前で、 

──ドサッ 

っと、崩れ落ちた。 


千歌「……はぁ…………はぁ…………??」 


一瞬、状況が理解できず思わず言葉に詰まる。 


千歌「……あ、あれ……?」 


凛さんが焼き焦げた、ジムの床を歩きながら、近付いてくる。 
110 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:51:22.70 ID:8koyJWg30

凛「ズルッグ、戦闘不能だにゃ。凛の負けみたいだね……」 

千歌「……嘘……」 

凛「嘘じゃないよ、ほら──」 


そう言って、凛さんが向けた視線の先を、釣られて追うと── 


 「マグ」 


ヒノアラシ──ううん、さっきまでヒノアラシだった子がそこに立っていた。 


凛「千歌ちゃんのマグマラシは、ちゃんとまだ立ってるよ」 

千歌「マグ、マラシ……」 
 「マグッ」 


そう鳴いて、マグマラシは私の足元に擦り寄ってくる。 


凛「諦めない気持ちが──ポケモンの力を引き出したんだね」 

千歌「──」 


私は未だ状況が飲み込めずポカンとしていたけど、 

だんだん、実感する。 


千歌「キミが──キミが助けてくれたんだね……」 


マグマラシが、私に応える為に、新しい力を解放したんだ──と。 


凛「千歌ちゃん」 

千歌「……はい」 

凛「その最後まで諦めない気持ち。これから先も、忘れちゃダメだよ」 


そう言って、何か小さな物を私に向かって差し出してくる。 


千歌「バッジ……」 

凛「あなたをホシゾラジムの勝者と認め、この“コメットバッジ”を進呈するにゃ」 

千歌「……はい!」 


──こうして、私たちは初のジム戦に勝利したのでした。 

111 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 01:52:09.72 ID:8koyJWg30


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【ホシゾラシティ】 
 口================= 口 
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 主人公 千歌 
 手持ち マグマラシ♂ Lv.14  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムックル♂ Lv.12 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:28匹 捕まえた数:4匹 


 千歌は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



112 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 12:54:32.78 ID:8koyJWg30

■Chapter010 『サニーゴの海で……?』 【SIDE You】 





千歌ちゃんと別れて、半日ほど。 

私はスタービーチから開けた海をラプラスの背に乗って移動中であります。 

──スタービーチはその名に相応しく、多くのヒトデポケモンが群生していることで有名な海。 

また、ちょっと潜ると色鮮やかな桃色と水色の二色のサニーゴを見ることができ、この光景はその煌びやかな名前に恥じない、この地方の名物と言われています。 

……言われているんだけど── 


曜「んー……」 


私は水中メガネを装着して、ラプラスから半身を乗り出す形で水面を覗く。 

ぶくぶくぶく── 


曜「……ぷはっ! ……聞いてた話と全然違う」 
 「ゼニ」 


水面に顔を出した、私の元に辺りを泳いでいたゼニガメが寄って来る。 


曜「ゼニガメ……どうだった?」 
 「ゼニゼニ」 


尋ねてみるも、ゼニガメも首を左右に振るだけ── 


曜「後は深くまで行ったホエルコ待ちだけど……うーん……」 


──私が何を唸っているのかというと、 


曜「──サニーゴ、全然居ないよね……」 


この星の海に、件のサニーゴの姿がほとんど見当たらないのだ。 


曜「……というか、アイツ多くない?」 


私はそうボヤキながら、水底に居る“アイツら”を調べるために図鑑を開く。 


 『ヒドイデ ヒトデナシポケモン 高さ:0.4m 重さ:8.0kg 
  頭 以外の 場所なら 千切れても すぐに 再生する。 
  サニーゴの 頭に 生える サンゴが 大好物で 
  獲物を 探して 海底や 海岸を 這い回る。』 


曜「ヒドイデ……」 


確かにこのポケモンも、ヒトデポケモンだけど……。 

 「ボォォォォ…」 

そんなことを考えていたら、海底まで潜ってくれていたホエルコが顔を出した。 


曜「ホエルコ、どうだった?」 
 「ボォォォォォ」 


尋ねるとホエルコは、頭部に付いた二つの鼻の穴から潮を噴出し、×を作って見せてくれた。 


曜「……ホエルコ、思いのほか器用だね」 
 「ボォォォォ」 
113 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 12:55:54.55 ID:8koyJWg30

……それはともかく。 

なんだか、嫌な予感がしてくる。 

そんなところに── 


 「おーい……!!」 

曜「?」 


女性の声が聞こえて来てその方向に振り返る。 

──とは言っても、もちろん海の上なので、立っているなんてことはなく、スターミーに掴まって泳いでいるビキニのお姉さんが視界に入る。 

どうやら一般トレーナーのようだ。 


ビキニのお姉さん「こんにちは」 

曜「こんにちは、何かご用ですか?」 

ビキニのお姉さん「あなたさっきから海の中を確認してたから、もしかしてサニーゴを見に来た人かと思って……」 


ズバリな話を振られる。 


曜「! はい、そうなんですけど……」 

ビキニのお姉さん「せっかく来てくれたのに残念なんだけど……今サニーゴが減っていて、ちょっと問題になってるの」 

曜「それって……もしかしなくても、あのたくさんいるヒドイデたちが原因ですか?」 

ビキニのお姉さん「ええ……貴重な観光資源……ってこともあるんだけど、最近フソウタウンからスタービーチの間で、ヒドイデが異常に増えてるの。有志を募って原因を探ってるんだけど……」 


つまり、このお姉さんはその有志のトレーナーの一人と言うことだろう。 


曜「何かわかりましたか……?」 

ビキニのお姉さん「うーん……ホントに突然増えたのよね。それと、今まで野生で見られてたヒドイデよりもサニーゴの捕食能力が高い個体が多いのよね……」 

曜「……捕食能力が高い?」 

ビキニのお姉さん「ヒドイデって、サニーゴを食べるんだけど……」 


確かにそんなことが図鑑に書いてあったっけ。 


ビキニのお姉さん「集団で一匹のサニーゴを囲い込んだり、異様にレベルの高い個体が居たり、ちょっと不自然なくらいにサニーゴが狩られてるのよね」 


……それって……。 


曜「……誰かが訓練されたヒドイデを逃がしてる……とか?」 


──いや、これはさすがに考えすぎかな…… 


ビキニのお姉さん「……そうじゃないかって考えてる人も少なくないわ。……だけど──」 

曜「──なんのためにそんなことを?」 

ビキニのお姉さん「……そうなのよね」 


サニーゴを減らすことに意味があるのか、ここが問題だ。 

私は図鑑を開いて、サニーゴの項目を確認する。 


 『サニーゴ さんごポケモン 高さ:0.6m 重さ:5.0kg 
  暖かく 綺麗な 海に 生息する ポケモン。 サンゴの  
  枝は 太陽の 光を 浴びると 七色に キラキラ 輝き 
  とても 綺麗な ため 宝物としても 人気が 高い。』 
114 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 12:57:35.93 ID:8koyJWg30

捕まえる……とかならともかく、食べられてしまったら、誰も得しない。 


曜「…………」 


私は思わず眉を顰めた。 


ビキニのお姉さん「結局誰かがやってるんだとしても、理由がわからないのよね。とりあえず、強い個体をどうにかこうにか、倒したり捕まえたりしてるんだけど、キリがなくて……」 

曜「……この数ですもんね」 


水底を蠢く、大量のヒドイデたち。 

僅かにポツポツと見えるサニーゴたちも脅えて、すぐに岩の隙間に逃げ込んでしまう。 

名物の景観は見る影もないと言ったことになっている。 


ビキニのお姉さん「だから、もしサニーゴの海を見に来たんだったら、残念だけど……」 

曜「そうですか……」 


せっかく、海に出たのに、幸先悪いなぁ……。 


ビキニのお姉さん「私たちも全力で原因は探るから……あなたも、もし何かわかったら、フソウタウンの本部に来てくれると助かるわ」 

曜「わかりました」 


そう返事をすると、お姉さんはスターミーに掴まったまま、離れていった。 


曜「……うーん」 
 「ゼニ」「キュゥ?」「ボォォ」 


ゼニガメ、ラプラス、ホエルコと一緒に海を進みながら頭を捻る。 


曜「やっぱ、明らかに不自然だよね」 
 「キュゥ?」 

曜「突然増えた。しかも強いヒドイデがたくさん」 


ヒドイデからしたら食事をしているだけ、かもしれないけど……。 

それもサニーゴを狩りつくしてしまったら、餌がなくなったヒドイデはどうなるか。 

明らかに自然のバランスを欠いている。不自然な程に。 

うまく言葉にならないけど……そうだなぁ── 


曜「……何か悪意──みたいなものを感じる気がする」 
 「…キュゥ」 


私の言葉にラプラスが静かに頷く。 


曜「ラプラスもそう思う?」 
 「キュゥ」 

曜「……そっか」 


私は少し、考えてから、 


曜「……できる範囲で私たちも原因を探ってみようか」 
 「キュゥ」「ゼニ」「ボォォォ」 


ヒドイデ対策に協力することにしたのだった。 



115 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:00:25.96 ID:8koyJWg30

    *    *    * 





曜「──とは言っても……」 


私は適当に捕まえたヒドイデを並べながら、ラプラスの上で頭を捻る。 


曜「……とりあえず、捕まえたりはしてみたけど、原因らしい原因もよくわからない……」 


私は、ポケモン図鑑を開く。 


『ヒドイデ♂ Lv.11 
 ヒドイデ♀ Lv.16 
 ヒドイデ♀ Lv.8 
 ヒドイデ♂ Lv.25』 


曜「レベルも性別もバラバラだし……。いや、むしろバラバラなのが問題なのか」 


通常個体よりも強い個体がうろついてるから、サニーゴが一方的に襲われるわけだし。 

でも、捕獲できるってことは、以前はどうだったのかはともかく、現在誰かのポケモンってわけではないだろう。 

人が所持しているポケモンは、逃がしたりしない限り、捕まえたときに使ったもの以外ではモンスターボールに入ってくれないのだ。 

そうなると、誰かから直接指示を受けてるとも考えづらいし……。 


曜「うーん……とりあえず、このままフソウタウンまで捕まえるなり倒したりするくらいかなぁ……」 
 「キュウ」 


気付くと、ラプラスが鳴きながら、私を振り返っていた。 


曜「ラプラス、どうしたの?」 
 「キュウ」 

 「ゼニ」 


私が訪ねると、ラプラスは近くを泳いでいるゼニガメを呼び寄せ、 


 「キュキュゥ」 
 「ゼニ」 

何か会話をしたあと、ゼニガメがラプラスの上に登って来る。 


曜「?」 
 「ゼニ」 


そして、ラプラスの背の上に並べたボールを、 

 「キュウ」 

ラプラスの指示でゼニガメが並び替える。 


曜「……ん?」 


図鑑でその順番を確認すると、 

『ヒドイデ♀ Lv.8 
 ヒドイデ♂ Lv.11 
 ヒドイデ♀ Lv.16 
 ヒドイデ♂ Lv.25』 


曜「レベル順?」 
116 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:01:32.41 ID:8koyJWg30

ラプラスは非常に賢いポケモンとしても有名だ。 

もしかしたら、何かに気付いたのかも……? 

私は目の前のボールの開閉スイッチを押す。 


「ヒド」「ドヒ」「ヒドド」「ドイデ」 


飛び出したヒドイデ達を見て、 


曜「……あ」 


あることに気付く。 


曜「レベルが高いほど、体が大きい」 


考えてみれば当たり前のことだった、 

強い個体ほど多くの餌が捕食できるってことだから、その分身体も大きくなるということだ。 


曜「…………」 


元々この海には大なり小なりヒドイデは生息していた。 

しかし、最近になって突然強い個体のヒドイデが増えた。 

──もし、さっきお姉さんと話した通り、誰かが意図的に強いヒドイデを放っていたのだとしたら、 


曜「……相変わらず理由はわからないけど、確認したいことは出来たかな」 


ヒドイデ達をボールに戻して、 

私は近くでぷかぷかと浮いている、ホエルコに飛び移り、再びゴーグルを装着する。 


曜「ゼニガメ、ラプラス、付いてきて」 
 「ゼニ」「キュゥ」 


私の言葉でゼニガメが再び海に飛び込む。 


曜「ホエルコ、“ダイビング”」 
 「ボォォ」 


そして、私たちは海へと潜っていく──。 





    *    *    * 





視界が深い蒼色に染まる。 

その海底には未だ、大量のヒドイデ。 

──だけど、 

岩場──サニーゴの隠れ場──に群れている、ヒドイデと、 

その輪から外れていてるヒドイデを見比べると……。 

…… 
117 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:03:19.79 ID:8koyJWg30

明らかに、輪の外にいるヒドイデは身体が小さい。 

逆に言うなら、大きいヒドイデはより多くのサニーゴを狩る事が出来る強い個体、それが何故か“群れている”。 

つまり、小さいヒドイデたちと大きいヒドイデたちはそもそも“違う群れ”なんじゃないだろうか? 

何故そんなことが起きるのか? 大きくて強いヒドイデたちはなんらかの原因で“外から混じり込んだ群れ”だからでは? 

──つまり。 


今回の事件。イレギュラーなのはあくまで大きなヒドイデたち。 

元から居たヒドイデたちが大量発生したのではなく、大きなヒドイデがサニーゴを狩るために、どこかから混入したと考えた方がいいのかもしれない。 

相変わらず『何故?』の部分に回答は出ないが、とにもかくにも、体の大きなヒドイデを優先的に捕まえるなり、倒したりすることが、解決への近道だと言うヒントにはなっている。 

私はパッとホエルコから放れる。 

そして、ホエルコに指示を出す。 

──水中で腕を振り下ろす。 


“のしかかり” 
 「ボォォォオ」 


ホエルコがヒドイデたちの群れに圧し掛かる。 

 「ドヒ!?」「ドドヒ!?」 


突然、真上からの物陰に驚いたヒドイデたちがのそのそと岩場から離れる。 

 「ボォォォォ」 

ホエルコの“のしかかり”が、すんでのところでかわされて、水底の岩の上をホエルコが跳ねる。 

ヒドイデ達が驚いて散り散りになって逃げる中、 

それでも、堂々と残って戦闘態勢を取っている個体達も居る。 

ことごとく大きい個体。 

──今度は拳を作って、下に向かって打ち付けるように腕を下ろす。 


“ヘビーボンバー” 
 「ボォォォォ」 


今度は逃げない、気の強いヒドイデ達を薙ぎ払いながら、 

ホエルコが岩に向かって落ちていく。 

そして、再び岩にぶつかり跳ね── 


 「ボオオオオオ……!!!」 


と、思ったらホエルコが苦しみ始めた。 


曜「!?」 


私は咄嗟に図鑑を開くと『どく』の表示。 

……毒? ヒドイデ達に刺された? 

でも、攻撃姿勢とかは見られなかったし……。 

 「キュウ」 

やや混乱した、私の肩をラプラスが突っつく。 

ラプラスの方を振り返り、彼女の視線を確認して、その先を見ると、ホエルコがぶつかった岩──いや、岩だと思っていたものがもぞもぞと蠢いていた。 

あれ──岩じゃない……!! 
118 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:04:11.50 ID:8koyJWg30

 「キュゥゥゥ~~♪」 


私が指示をするまでもなく、ホエルコのサポート姿勢に入ったラプラスが“いやしのすず”でホエルコのどくを回復する。 

その間に私は図鑑を開き、動き出した岩だと思っていたものを確認する。 


 『ドヒドイデ ヒトデナシポケモン 高さ:0.7m 重さ:14.5kg 
  12本の 足で 中身を守る ドームを作る。 その  
  ドームは  頑丈で 更に その表面に 毒針を 持つ。 
  近付いてきた 相手は 足の 先端にある 爪で 追い払う。』 


ポケモンだ──!! 

ヒドイデの進化系、ドヒドイデ。 


──恐らく、あれが群れのボス……!! 


恐らく今ホエルコが毒を受けたのは、ドヒドイデの“トーチカ”のせいだろう。 

攻撃を防ぐと同時に接触した相手をどく状態にする技だ。 


──なら、あいつさえ倒しちゃえば── 


そう思って図鑑を開くと── 

『ドヒドイデ♂ Lv.51』 

──と、表示されていた。 





    *    *    * 





──レベルが高すぎる。 

そう思った瞬間、 

私のすぐ横を何かが掠める。 

 「キュウゥゥ!!?」 

声で気付き振り返ると、 


 「キュ、キュゥ…」 


ラプラスが一撃で戦闘不能になって、水中を力なく漂っていた。 

恐らく今の攻撃は“ミサイルばり”……! 


──真っ先に回復手段を潰してきた……!? 不味い……一旦退却……!! 


ゼニガメとホエルコに指示を出そうと、辺りを見回すと 


曜「!?」 


気付かないうちに、紫色のトゲトゲの機雷のようなものがそこら中に浮遊していた。 


──たぶん、ヤバイ。何かわからないけど、かなりヤバイ!! 
119 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:05:57.08 ID:8koyJWg30

ラプラスをボールに戻しながら、ゼニガメとホエルコの様子を確認すると、 

二匹とも既に水中でふらふらとしていた。 

立て続けに起こる予想外のことに対処するべく図鑑を開こうとした瞬間── 

──自分の左足辺りにビリビリとした、激痛が走った── 


曜「……っ……!?」 


思わず息を吐きそうになったが、すんでで堪える。 

痛みの先を見ると、先ほどから漂っていたトゲトゲが私の左足に接触していた。 


──これ、“どくびし”……!! 


ラプラスに気を取られているうちに、辺り一体に“どくびし”を撒かれて、 

ゼニガメもホエルコもそれに触れて、毒で弱らされている。 


──ホンットに不味い!!! 


私はすぐさま、海上に浮上するように、手を下から上に振って、ゼニガメとホエルコに指示を出す。 

──が、 

 「ゼ、ゼニィ…」「ボォォォ…」 

ゼニガメもホエルコもいつもの調子で泳げていない、 

ふと、ドヒドイデの方を見る、と 

ドヒドイデはドーム状の触手を少しだけ持ち上げて、 

──笑っていた。 

不気味に。 

嘲るように。 

そして、想った。 


──完全に相手の方が格上だ── 


そんな言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、左足の激痛が勢いを増して主張を始める。 

本格的に毒が回ってきたのかもしれない。 


──あはは。……これ、もう……ダメ……かも…… 
 「ゼ、ゼニィ…」 


ゼニガメが近付いてきて、私の口元で“あわ”を出す。 

息継ぎに使えってことかな? 

ありがと……ゼニガメも毒で苦しいのに……。 

落ちていく意識の中で、 


──ごめん……未熟な……トレーナー……で…… 


あのときと同じように、 

ゼニガメのボールを、皆底で拾い上げた取ったあのときと、同じように。 


──ゼニガメ……ホエルコ……逃げ……て…… 
120 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:07:27.34 ID:8koyJWg30

──逃げて──と、 

キミたちだけでも助かって、と 

祈って──。 

私は力なく手を振る。 

──瞬間。 

脇の辺りを何かが、 

掴んだ。 

そのまま、 

引っ張りあげられる── 





    *    *    * 





──ザバァ、 


曜「……ぁ……っ……は…………??」 


霞む視界に、太陽の光が見える気がする。 


 「“どくびし”から“ベノムトラップ”、野生にしては、あんまりに手際がいいね、あのドヒドイデ」 


消えかけの意識の外から、何処か懐かしい声がする。 


曜「だ……れ……」 

 「今、毒消し使ったから。……あーこれポケモン用だけど……まあ、大丈夫でしょ」 

曜「…………??」 

 「曜、後は私がどうにかするから、そこで休んでるんだよ?」 

曜「……ぅ…………」 


その声を最後に、私の意識は──プツリと落ちた。 





    *    *    * 





 「ギャラドス、曜のことお願いね」 


シュノーケルを口に咥え、再び海中へと潜る。 

そしてすぐさま、腰からボールを三つ放つ。 

 「ボ~ゥ」「ボンッ」「…」 

それぞれ、ママンボウ、ニョロボン、ドククラゲ 

私は両手を広げるように動かし、 


──散!! 
121 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:09:04.65 ID:8koyJWg30

三匹を散開させる。 

 「ボ~ゥ」 

ママンボウは“いやしのはどう”でホエルコとゼニガメの回復、そして回収。 

 「…」 

毒タイプのドククラゲには“どくびし”の回収をしてもらう。 

そして、ニョロボンは、 


 「ボンッ!!!」 


動かないドヒドイデの触手に“ばくれつパンチ”を叩き込む。 


 「ドイヒ…」 


効果はいまひとつのようだ……。 

忌々しそうに、ドヒドイデが僅かに開いた触手のドームに、 


 「ボンッ!!」 


すかさず、ニョロボンが手を差し込む 


 「ドヒッ!!?」 


驚いたドヒドイデはすぐさま、ニョロボンに自らの“どくバリ”を突き立てて応戦してくる、が── 


──上等!! でも技はもう決まってるから、 


私はそれだけ確認して、海上にあがっていく。 


 「ぷはっ……」 


シュノーケルを外す。 

そして、その背後で、 

ザバァ──と音を立てて、ドヒドイデが水中から飛び出した、 


 「“ともえなげ”はそっちが組み付いてくれた方がうまく行くしね」 


続け様、宙を舞う、ドヒドイデに向かって 


 「ギャラドス!! “はかいこうせん”!!」 
  「ギシュァァァア!!!」 


ギャラドスの咆哮と共に飛び出した、破壊の一閃が、 

空を突きぬけ、 


 「ドヒッ!!!!!!」 


無抵抗なドヒドイデを貫く。 


  「ドヒ…」 

 「よっし」 
122 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:12:16.42 ID:8koyJWg30

私はそのままギャラドスに飛び乗り、 

その背の上から、振りかぶって、空のダイブボールを放る。 

──パシュン。 

音と共にドヒドイデはボールに吸い込まれて、海面に落ちていった。 





    *    *    * 





 「──ミャァミャァ」 

──と、キャモメが鳴く声が聞こえる。 

そして、水を切りながら、進むいつもの波の音、 

──いや、ラプラスのそれよりは力強い、かな。 


曜「──う……ん……」 


私が目を開くと、差し込んでくる赤い夕日が眼を焼いた。 


曜「……まぶし……」 

 「あ、気が付いた?」 


すぐそこから、聞き覚えのある声がした。 

私は上半身を起こそうとして、 


曜「……っ゛……!!」 


左足に痛みを感じて、思わず声にならない声が漏れる。 


 「まだ動いちゃダメだよ。ドヒドイデの毒は猛毒なんだから……。応急処置はしたけど、ちゃんとポケモンセンターで見てもらってからだね」 

曜「あ……うん……」 


横たわる私の頭上の方。藍色のポニーテールを海風に靡かせながらギャラドスに指示を出すトレーナー──果南ちゃんに向かって、私は力なく返事をした。 


曜「……また、助けられちゃった……」 


自分から解決のために飛び出したのに、ゼニガメのとき同様──また誰かに助けられた。 


果南「また?」 

曜「……あ、ゼニガメとホエルコは!!? ……っつぅ……!!!?」 


思い出して、跳ねるように身体を起こそうとして、再び主張してきた痛覚に悶える。 


果南「だから、動いちゃダメだって。二匹とも無事だよ」 


そう言って果南ちゃんが私に二匹が入ったボールを差し出してくる。 


果南「二匹とも、ママンボウが回復したけど、一応ポケモンセンターで見てもらってからの方がいいかな」 

曜「あ、ありがと……」 

果南「二匹とも、随分“どくびし”に触れてたからね」 
123 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:13:22.21 ID:8koyJWg30

曜「……」 

果南「余りに多く毒を受けてたけど……きっと、曜のところに“どくびし”が行かないように、してたんだろうね」 

曜「……そっか」 


私は話を聞きながら、空を仰ぐ──まあ、動けないから必然的に空を仰いでるんだけど。 

そして、思い出したかのように、 


曜「──果南ちゃん……久しぶり」 

果南「ん? ……ああ、言われてみれば随分久しぶりかもね」 


そんな私の言葉に、果南ちゃんはあっけらかんと返事をする。 


曜「……助けてくれて、ありがとう」 

果南「いや、ホント……たまたま通りかかってよかったよ」 

曜「よく海の中にいる私たちに気付いたね……」 

果南「あーまあ……ちょっと人を探しててね」 


──なんで、人を探して海に潜るんだろう。 

……そう疑問には思ったけど、今は正直そんなことよりも── 


曜「果南ちゃん……」 

果南「んー、なに?」 

曜「……私……弱いね……」 

果南「……。……あれは完全にイレギュラーだよ。あのレベルのポケモン相手によくやったよ。今回は運が悪かっただけ」 


横になったままの私の頭を、ふわりと果南ちゃんが撫でる。 


果南「まあ……旅をしてれば、いろんなことがあるから」 

曜「……でも……果南ちゃんがいなかったら、今頃……」 

果南「……ゼニガメやホエルコが、頑張ってたから、案外どうにかなったかもよ」 

曜「…………」 


彼女の言葉に、私は思わず押し黙ってしまう。 

そんな私の様子を見てか、果南ちゃんは一度頭を掻いてから、 


果南「まあ……こんなとき、なんて言ってあげればいいのか……。……私こういうの得意じゃないからさ。ごめん」 

曜「あはは……やっぱり果南ちゃんだ……」 


私は変わらぬ先輩トレーナーを見て、力なく笑った。 


果南「……でもね、曜」 

曜「何……?」 

果南「今回は運が悪かったけど、その勇気は大切なものだから。誇って良いと、私は思うよ」 

曜「果南……ちゃん……」 

果南「……明らかに格上だってわかってても、ずっとポケモンたちに指示を出し続けていたのを私は見てたから」 

曜「…………ぅ……っ……ぐす……っ……」 

果南「……フソウタウンに着くまで、まだ時間あるからさ。……今はゆっくり休んでていいよ」 
124 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:14:07.11 ID:8koyJWg30

そう言って、再び前を向いて、私に背を向ける。 


曜「……っ……ぅ……っ……」 


──自分が情けなくて、悔しくて、ポケモン達にも申し訳なくて、声を殺して泣く私に気を遣ってくれたのかもしれない。 

滲む視界の先で、 

熱い目頭の先で、 

夕暮れの背景に揺れる、紺碧のポニーテールが、とても印象的でした。 


125 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 13:15:07.54 ID:8koyJWg30



>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【13番水道】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥●‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 曜 
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.13  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:36匹 捕まえた数:9匹 


 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



126 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:20:01.82 ID:8koyJWg30

■Chapter011 『 † 堕天使 † 』 【SIDE Chika】 





凛「千歌ちゃーん! 早く早くー!」 

千歌「ち、ちょっと待ってください~……」 


ロープウェイから降りるやいなや、弾けるように飛び出した凛さんが、私に向かって早く来るように促している。 


千歌「ジム戦の後なのに、体力ありすぎ……」 
 「マグ…」 


同調するように足元でマグマラシが呻く。 

凛さんを追いかけるために、顔をあげると、 


凛「これから、旅を続けるのにそんなこと言ってる場合じゃないにゃ!」 

千歌「わわっ!」 


目の前に戻ってきていた。 


凛「いつでもどこでもポケモンが指示を出せる場所にいるとは限らないんだから、トレーナーはフットワークが軽くないとダメだよ!」 

千歌「……は、はい……」 

凛「じゃあ、天文台に先に行ってるから、早く来てね!」 


凛さんはそれだけ残して、再び走り去って行ってしまう。 


千歌「え、えー……」 


──正直、今日だけで二度目の登山。 

しかも途中にジムバトルを挟んだし……。 

いい加減、膝が笑っている。 


 「マグ…」 


そんな私を心配してか、マグマラシが私の足先に頭をすりすりと擦り付けてくる。 


千歌「あはは……大丈夫だよ、マグマラシ。ありがと」 
 「マグ」 


マグマラシにそう伝えてから、私はお昼にも近くを通った、天文台を目指して歩き始めた。 



127 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:21:20.14 ID:8koyJWg30

    *    *    * 





──さて、私たちは再び流星山に登っています。 

ジムでのあの闘いの後のことなんだけど……。 



──────── 
────── 
──── 
── 


バトルに勝利し、凛さんから手渡された、バッジ──コメットバッジ。 


千歌「……」 


初のジムバッジを手にした感慨に浸っていたところ、目の前の凛さんから、 


凛「ジムバッジはただ勝った証ってだけじゃないから、大切にしてね」 


そうアドバイスを受ける。 


千歌「? どういうことですか?」 

凛「ジムバッジはポケモンリーグ公認の特注品でそれぞれ不思議な効力を持ってるものが多いにゃ。そして、そのコメットバッジもその一つ。持っているだけで手持ちのポケモン素早さがちょっとだけ上昇するんだよ」 

千歌「……そうなんだ」 


じゃあ、ダイヤさんのバッジにもそういう効果があるのかな……。 


凛「他にもポケモンがトレーナーの実力を認める基準にもなるから、バッジの数に応じて他人から貰ったポケモンが言うことを聞きやすくなるとも言われてるよ」 

千歌「なるほど……」 

凛「えーっと、ここが初めてのジムだよね?」 

千歌「あ、はい」 

凛「じゃあ、このバッジケースも渡しておくから、大切に保管してね!」 


そう言って凛さんから、ケース状のものを手渡される。 

早速開いてみると、窪みが8つあり、一番左端には先程貰ったばっかりのコメットバッジのシルエットが見て取れた。 

──カチリ 

コメットバッジをそこに納めると、なんだか心地のいい音がした。 


千歌「えへへ……」 


なんだか嬉しくなってニヤけてしまう。 


凛「えっへへ、改めてジム攻略おめでとう」 

千歌「はい! ありがとうございます!」 


ジムバッジの説明と激励もそこそこに、 


凛「そういえば、千歌ちゃんはこの後どうするの?」 


凛さんは私にそう訊ねて来る。 
128 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:23:44.97 ID:8koyJWg30

千歌「この後ですか?」 

凛「すぐにコメコに向かうのかなーって」 

千歌「こめこ……?」 


余り聞きなれない単語に首を傾げる。 

──そう言えば先生が授業で言ってたような気もしなくはないけど── 


凛「あ、えっとね。ホシゾラシティの西にある町、コメコタウンのことだにゃ」 

千歌「あ、そうだ! ダイヤさんが授業で言ってた! モーモーミルクの町!」 

凛「そうそう! あそこのモーモーミルクは絶品だよね!」 


凛さんが楽しそうに同調する。 

確か牧場の町って言ってた気がする。 


凛「それで、どうするにゃ?」 

千歌「んーっと……どっちにしろ、東は海だから、西のコメコタウンに行くとは思いますけど」 

凛「それじゃ、ここを発つのは明日の方がいいかもね」 

千歌「? 何かあるんですか?」 


私が訊ねると、 


凛「うん。コメコタウンに行くには、『コメコの森』を抜けないといけないから」 


凛さんはそう答える。 


千歌「森……」 

凛「穏やかな森ではあるんだけど……それなりに広いし、大きくはないけど川も流れてるから。暗がりの中、初心者が歩くにはちょっと大変なんだよ」 

千歌「なるほど」 


ふと、ジムの窓から外を見ると、日が傾き始めている。 


千歌「──それなら、今日はこの町で休もうかな」 


私がそう呟くと、 


凛「じゃあ、今日はこの町で過ごすってことだよね! なら、星! 見に行こっ!」 


凛さんはご機嫌になって、声をあげた。 


千歌「え、星?」 

凛「せっかくホシゾラシティに来たんだから! 流星山から夜空を見てかなくちゃ損だよ!」 


矢継ぎ早にそう捲くし立てて、私は手を引かれる。 


凛「さぁ! レッツゴーにゃ!」 

千歌「え、ちょ、まっ……!! せ、せめて、ポケモンセンターによらせてくださいぃーーーっ!!」 


── 
──── 
────── 
──────── 

129 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:25:22.02 ID:8koyJWg30


──というわけで、ポケモンセンターで手持ちを回復させたあと、この流星山に再び登ってきたわけです。 

天文台の前では凛さんが、その場に留まったまま、忙しなく足踏みをしていた。 


凛「千歌ちゃん! 遅いにゃー!」 

千歌「す、すいません……」 


この人、元気すぎる……。 


凛「じゃあ、もうちょっと高いところまで行くよー。お昼に音ノ木を見た場所まで」 

千歌「あ、はーい」 


──とは言っても、 

私は夜空を仰望する。 


千歌「……綺麗」 
 「マグッ」 


すでに満天の星空が煌いている。 

子供の頃、果南ちゃんやお母さん、お姉ちゃんたちと見た、あの星空と同じだ。 

今はこうして、自分のポケモンたちと共に、見れていることがなんだか不思議な気分。 

ぼんやりと空を仰ぎ見ながら、歩いていくと、程なくして件の場所に到着する。 

──もう既に爛々と輝く星空は堪能した、と思っていたんだけど── 


千歌「……わぁ……っ!!」 


夜空の中に薄暗く聳え立つ一本の大樹──音ノ木。 

その周りに色とりどりの光がイルミネーションのように輝く、幻想的な光景がそこにはあった。 


千歌「あの光……もしかして、メテノですか?」 

凛「うん、そうだよ! 今はちょうどメテノの発生期だからね! 世界の中でもこんな風にメテノが見られる場所は珍しいんだよ!」 


満天の星空をバックにひっそりと暗闇の先に聳える大樹と、たくさんのイルミネーション。 

確かにこれは絶景かも……! 


凛「朝一番でジムに挑戦しに来た子にもオススメしたんだけどにゃー」 


凛さんがそう呟く。 


千歌「……あ、それってもしかして梨子ちゃん?」 

凛「ん、知り合い?」 

千歌「一緒に最初のポケモンと図鑑を貰った一人です」 


──厳密にはちょっと違うけど 


凛「なるほど……」 

千歌「梨子ちゃんもジムは突破したんですよね」 

凛「うん、割とあっさり」 

千歌「そっか……負けてられないな」 
130 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:26:24.14 ID:8koyJWg30

そう呟く私に反して、凛さんは 


凛「……」 


少し複雑な顔をしていた。 


千歌「……どうかしたんですか?」 

凛「ん、うーん……ちょっと梨子ちゃんを見てると、焦りすぎてて心配に思ったと言うか……」 

千歌「……?」 

凛「……ま、こういうのはきっと取り越し苦労だよね」 

千歌「は、はぁ……」 


なんだろう……? 

……そういえば、ジムリーダーは地方のトレーナーを育てる機関でもあるって花丸ちゃんが言ってたっけ。 

私も含めて、ジムリーダーは戦いながら、そのトレーナーがどう成長するのかを見守ってくれる人たちなのかもしれない。 

そんなことを考えていたら── 

──すんすんと、 


千歌「?」 

凛「……?」 

千歌「人の……声……?」 


女の人がすすり泣くような……。 


凛「誰かいるのかにゃ?」 


凛さんが辺りを見回していると、今度は 


 「キィアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」 

千歌「!?」 


それは泣き叫ぶ声に変わる。 


千歌「な、なに!!!?」 

凛「……これって」 


凛さんは心当たりがあるみた── 

突然、頭──いや髪を後ろから何かに引っ張られる 


千歌「!!!?!?!?」 


驚いて、叫びにならない叫び声が出る。 


 「マグッ!!」 


主の急変にマグマラシが臨戦態勢になるが、 


凛「落ち着いて千歌ちゃん」 


落ち着いた調子のまま、凛さんが声を掛けてくる。 
131 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:27:18.66 ID:8koyJWg30

千歌「り、凛さん……い、今……」 


私は恐る恐る後ろを振り返ると、 


 「ムマァァァァァッ!!」 

千歌「わひゃぁっ!!?」 


闇に溶けるかのよう体色で、浮遊している何かが眼前にいた。 

私は驚いて尻餅をつく。 


千歌「いったぁ……!!」 
 「マグッ!!」 


軽く涙目になりながら 


千歌「マ、マグマラシ……お、おばけ……」 


マグマラシに抱きつく。 


凛「うにゃ!? 大丈夫!? お化けじゃなくて、ポケモン……あ、でもゴーストタイプだから、ある意味お化けかな……?」 

千歌「ポ、ポケモン……?」 


私はポケモン図鑑を開く。 

 「ムマァ~」 


 『ムウマ よなきポケモン 高さ:0.7m 重さ:1.0kg 
  夜中に 人の 泣き叫ぶような 鳴き声を 出したり 
  いきなり 後ろ髪に 噛み付き 引っ張って 人の 
  驚く 姿を見て 喜んでいる イタズラ好きな ポケモン。』 


千歌「な、なんだ……びっくりした……」 

 「ムママ♪」 


ムウマは驚かせるのに成功したことに満足したのか、ご機嫌そうに飛び回っている。 


凛「……でも、ムウマなんてこの辺りで見たことないにゃ」 

千歌「え? ……じゃあ、これって誰かのポケモンってことですか?」 


私がそう言った直後、 


 「よくぞ見破ったわね!!!!!」 


上空から声が響く。 


千歌「こ、今度は何……?」 

 「とうっ!!」 


声と共に、人影が飛び降りてくる。 


 「シュタッ!!」 


自分で着地音言ってるし……。 
132 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:28:50.45 ID:8koyJWg30

 「ふ、決まった……」 

千歌「…………」 

 「全く待ちくたびれたわよ、『 † 火鼠の衣の所有者 † 』よ」 

千歌「え、えーと……どちら様ですか……」 

 「相手に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀じゃないかしら? 堕天使ヨハネの前でそのような狼藉が許されると思っているの?」 


いや、そう言いながら自分から名乗ってるし、 


千歌「えーっと……千歌です。ヨハネ……ちゃん? って言うのかな?」 

ヨハネ「さぁ、トレーナー同士、目が逢ったら始まることと言えば!!」 

千歌「え、えぇ?」 

ヨハネ「……クックック……!! さぁ、サバトをはじめましょう……!!」 


全然会話が成立しない。 


凛「……オカルトガールかにゃ?」 


ヨハネちゃんを見て、凛さんが一言。 


ヨハネ「誰がオカルトガールよ!! と・に・か・く!! そこの三つ編みアホ毛!!」 

千歌「三つ編みアホ毛……?」 


私のことかな……。 


ヨハネ「ヨハネとバトルしなさい!!」 

千歌「え、あ、はい……」 

ヨハネ「ムウマ!! “サイコウェーブ”!!」 
 「ムマッ」 

千歌「え、い、いきなり!?」 


ボールから出てきたムウマと呼ばれたポケモンが、念波を発し、マグマラシを襲う。 


 「マグッ」 

千歌「マグマラシ!」 


少しふらついたけど、ダメージは少ないみたいだ。 


千歌「ふ、不意打ちなんて卑怯だよ!」 

ヨハネ「勝負の世界に卑怯もへったくれもないわ!! ムウマ!! “くろいまなざし”!」 
 「ムゥー」 


ヨハネちゃんの指示でムウマの紅い瞳が、黒く染まる。 


ヨハネ「クックック……これでもう、マグマラシは逃れられない──」 

千歌「マグマラシ! “やきつくす”!!」 
 「マグッ!!」 


マグマラシの口から火炎が吹き出し、ムウマを焼き焦がす。 


 「ムマッ!!? ムマァッ!!?」 

ヨハネ「ちょ!!? ムウマ!!?」 
 「ム…マ…」 
133 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:30:09.01 ID:8koyJWg30

炎で焦がされ、ムウマが地に落ちる。 


ヨハネ「何してくれてんのよ!!」 

千歌「……えー」 


この子、理不尽……。 


凛「ムウマ戦闘不能にゃ。他に手持ちは?」 

ヨハネ「まだ居るわ!!」 


凛さんもしれっと審判してるし……。バトルしているはずなのに、何故かチカだけ置いてかれている……。 


ヨハネ「目覚めなさい『 † 変幻自在、激流の水蛙-スイア- † 』よ!!」 

凛「……ちょっと、寒くないかにゃー」 


口上と共に、ヨハネちゃんがボールを放る。 


 「ケロッ」 


出てきたのは水色のカエルポケモン。 


 『ケロマツ あわがえるポケモン 高さ:0.3m 重さ:7.0kg 
  胸と 背中から 出る 繊細な 泡で 身体を 包み 肌を 
  守る。 弾力のある 泡で 攻撃を 受け止めて ダメージを 
  減らす。 のんきに 見えて 抜け目のない 性格。』 


千歌「ケロマツ……みずタイプのポケモン……!」 


マグマラシの弱点タイプのポケモンだ 


ヨハネ「よくぞ、見破ったわね…… † 叡智の端末を扱いし者 † ……ケロマツ! “みずのはどう”!!」 
 「ケロッ」 

千歌「マグマラシ! “かえんぐるま”!」 
 「マグッ!!」 


波状に広がるみずエネルギーに、炎を纏って回転したマグマラシで対抗する。 

水と炎がぶつかり、 

──ジュウウウウ、 

と言う、水が煮える音と共に、 

 「マグッ!」 

マグマラシが波動に弾き飛ばされる。 


千歌「マグマラシ!?」 
 「マグッ…!!」 


戦闘不能にはなっていないようだけど、さすがに相性不利。 

分が悪い。 


ヨハネ「“みずあそび”!」 
 「ケロッ」 


ヨハネちゃんの指示でケロマツが辺りに水を散布する。 
134 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:31:00.53 ID:8koyJWg30

ヨハネ「クックック……これで、炎の威力は更に半減よ……」 

千歌「なら……!!」 


マグマラシの技はほのおタイプだけじゃない……!! 


千歌「マグマラシ!! “スピード──」 


私が指示を出そうとした、 

瞬間、 

──ドォーーーン!! と、 

轟音が辺りに鳴り響き、地が揺れる。 


千歌「!?」 


その轟音は、余りの衝撃からか、周囲の空気をビリビリと震わせている。 

──ケロマツが何か……!! 


ヨハネ「え、ちょ、え!? な、なに、今の!!?」 

千歌「ほぇ……?」 


予想外にも、ヨハネちゃんもその爆音に驚いて取り乱していた。 


凛「二人とも! バトル中止!」 

千歌「凛さん!?」 


私たちの間に凛さんが割って入ってくる。 


千歌「い、一体何が……」 


辺りを見回してみるが、爆音は周囲の上空全体に轟き、あまりに音が大きすぎて、どこからの音なのかがよくわからない。 


凛「……緊急事態にゃ」 


そう言って凛さんは──夜の闇の先にある、音ノ木の方を指差した。 


千歌「……え」 

ヨハネ「……嘘」 


その指差す先には、 

こちらに向かって、猛スピードで降り注ぐ、 

七色の隕石たちだった。 


135 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 15:32:16.67 ID:8koyJWg30



>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【流星山】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|●⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち マグマラシ♂ Lv.15  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムックル♂ Lv.12 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:33匹 捕まえた数:4匹 

 主人公 ヨハネ? 
 手持ち ケロマツ♂ Lv.14 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.12 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ムウマ♀ Lv.10 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:37匹 捕まえた数:20匹 


 千歌と ヨハネ?は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



136 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:47:50.72 ID:8koyJWg30

■Chapter012 『龍の咆哮……?』 【SIDE Yoshiko】 





──こちらに向かってくる七色の隕石。 

あれは、恐らく……。 


凛「メテノたち……」 


私はポケットから白色のポケモン図鑑を取り出した。 

 『メテノ ながれぼしポケモン 高さ:0.3m 重さ:0.3kg 
  コアは とても脆く 剥き出しの ままだと  直に 消滅してしまう。  
  急いで ボールに 入れれば 無事。 野生の モノは 外殻を 作るため 
  餌である 大気中の チリを 求めて オゾン層へと  戻っていく。』 


千歌「あ、あれ!? それポケモン図鑑!?」 


三つ編みアホ毛が、私──ヨハネの図鑑を見て驚きの声をあげた。 


千歌「もしかして、私たちより先に、最初のポケモンと図鑑を貰って旅に出た、梨子ちゃんと別の子って……!」 

ヨハネ「ふふふ……バレてしまっては仕方ないわね……私は──」 


──ドォオオーーーンと、 

名乗りを掻き消すように再び大地が揺れる。 


ヨハネ「ちょっと! 今ヨハネがかっこよく名乗ってるところなのに……」 

凛「だから、緊急事態なんだって!」 

千歌「そうだった! 一体何が……」 


三つ編みアホ毛──もとい千歌はそう言う。 


凛「メテノたちが降って来てるんだよ!」 

ヨハネ「降って来てるって……」 

千歌「じゃあ、さっきの揺れって……」 

凛「メテノが地上にぶつかって“だいばくはつ”したんだと思う……。危ないから一旦バトルは中止、二人とも建物の中に避難して──」 


凛と呼ばれていた人──えーっと、確か割と有名人。ホシゾラシティのジムリーダーだったかしら──の話を聞きながら、考える。 

──“だいばくはつ”。 

現在確認されているポケモンのわざの中では最も威力の高い技だったと思う。 

その代償に、ポケモンは戦闘不能に……。 

……? 

ちょっと待って、さっきの図鑑の通りなら……。 


ヨハネ「……!!」 


私はとあることに思い至り、咄嗟に駆け出して、 


千歌「ヨハネちゃん!?」 

凛「!? ち、ちょっと待って!?」 

ヨハネ「ヤミカラス!!」 
 「カァッーーー!!」 
137 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:49:03.53 ID:8koyJWg30

千歌「ヨハネちゃん!?」 

凛「!? ち、ちょっと待って!?」 

ヨハネ「ヤミカラス!!」 
 「カァッーーー!!」 


先ほど、上空から飛び降りたときに、その場で旋回しながら待っているように指示を出した、ヤミカラスを呼び寄せ、 

その脚を掴んで飛び立つ。 

──ぐんぐんと地表を離れ、山肌を上空から観察すると、 


ヨハネ「……いた!」 


さっきの爆音に相応しく、山を穿ったクレーターの中心に、メテノを見つける。 

──そのメテノは、弱々しく光っていた。 


ヨハネ「……っ!!」 


私は考えるよりも先にメテノに向かってボールを放っていた。 





    *    *    * 





千歌「ヨ、ヨハネちゃん……??」 


突然飛び立ってしまった、ヨハネちゃんを見て呆然とする。 


凛「千歌ちゃん!!」 

千歌「……! は、はい!」 


すぐに凛さんの声で意識を呼び戻される。 


凛「危ないから、一旦天文所に避難してて。いい?」 

千歌「え、えっと……」 


凛さんから二回目の避難警告を受ける。 


千歌「ヨ、ヨハネちゃんは……」 


私の言葉に対して、凛さんは両肩を掴みながら、私の目を真っ直ぐ見て、 


凛「あの子は凛が連れ戻すから!」 


そういう。 

具体的な説明ではなかったけど、その剣幕でわかる。 

それくらい危険な事態が起こっているんだ。 


千歌「は、はい……!」 
138 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:50:39.85 ID:8koyJWg30

私が頷くのを確認すると、凛さんはすぐさま、ヨハネちゃんが飛び立った方向に駆け出した。 

私は言われるがままに天文所に向かって駆け出す。 

……でも、なんでヨハネちゃんは、飛び出してしまったんだろう……? 

さっき図鑑を見てたけど……。 

小走りで天文所に足を運びながら、改めて図鑑のメテノのページを確認する。 


千歌「……あれ?」 


すると、メテノの図鑑の項目に『りゅうせいのすがた』と……『コア』という項目があるのに気付く。 

──そして、コアの項目を見ると……。 


千歌「……!!」 
 「マグ?」 


──私は踵を返す。 


千歌「マグマラシ、戻って」 
 「マグ」 


マグマラシをボールに戻し、 


千歌「出てきて、ムックル!」 


代わりにムックルを出す。 

 「ピピピッ」 


千歌「ぶっつけ本番だけど……!! ムックル!! 私を持ち上げて飛べる!?」 
 「ピピィ!!!!」 


私の無茶振りにムックルは、任せろと言わんばかりに頼もしく返事をしてくれた。 





    *    *    * 





──パシュン。 

メテノがボールに吸い込まれる。 

クレーターを見つけたら、とにかく片っ端からボールを投げつける。 


ヨハネ「次……!!」 


私は次のクレーターを探す。 

 「ケロッ!!」 

そのとき、肩の上のケロマツが鳴き声をあげる。 


ヨハネ「何!? 新しい子、見つけたの!?」 


ケロマツの視線を追うと、上空を覆わんばかりの大量の七色の煌き。 

次のメテノが降って来る。 

──キリがない。 
139 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:51:44.83 ID:8koyJWg30

ヨハネ「……っく」 


腰に下げたポーチから、げんきのかけら──戦闘不能のポケモンを回復させるアイテムを取り出して、 


ヨハネ「ムウマ! ちょっと、忙しないかもしれないけど、手伝って!」 


ムウマにアイテムを使い、空にボールを放る。 

 「ムマー」 


ヨハネ「“あやしいかぜ”で……どうにか勢いやわらげられる……?」 
 「ムマァ~」 


ムウマは私の指示に従って、落ちてくるメテノたちに向かって風を起こす。 

正直、怪しい技の使い方だけど……。 

いや……。 

──メテノたちを助けるには元の原因を絶たないと── 

考えるのよ、善子……。……。 


善子「……メテノたちは音ノ木から、山に向かって落ちてきてる……」 


本来なら、音ノ木にぶつかって“リミットシールド”が剥がれたら、オゾン層に戻っていくはず。 

なのに、それが何故か山に落ちてくる……。 


善子「……原因は音ノ木にある?」 





    *    *    * 





凛「ハリテヤマ、“ふきとばし”! コジョンド、“アクロバット”!」 


ハリテヤマが大きな両手で風を生み出し、メテノたちの勢いを殺したあと、 

 「コジョッ」 

クイックボールを持たせたコジョンドがメテノたちが着弾する前に、軽い身のこなしで山肌を飛び跳ねながら、ボールを当てる。 


凛「サワムラー! 手伸ばして届く限界までボール投げられる!?」 
 「シェェイ!!」 


同じようにサワムラーにも捕獲を手伝って貰う。 

視線を空に戻す。 

已然、夜空は七色の光はこちらに向かって、いくつも落ちて来ている。 

こういうとき自分を運びながら飛べるポケモンを持ってれば違うんだろうけど……!! 


凛「……って!! 凛が弱気になってどうするにゃ!!」 


パンと気合いを入れるために両の頬を叩く。 

それと同時に、鳴き声が聞こえてくる。 
140 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:52:43.36 ID:8koyJWg30

凛「……にゃ?」 

 「ピピピピピッ!!!」 


聞こえた声の先に振り返ると、 


千歌「頑張れ! ムックル!!」 


先ほど、避難するように言ったはずの千歌ちゃんが居た。 

少しだけ浮いた状態で、 


凛「千歌ちゃん!? 凛、避難するように言ったよね!?」 

千歌「言われました!! けど、このままじゃメテノたちが……!!」 

凛「……!」 


せっかく、言わないでおいたのに気付かれてしまった。 


凛「千歌ちゃん、あのね……!!」 


すぐさま、千歌ちゃんを説得しようと、言葉を発するが、 

それを阻止するかのように、『pipipipipipipi』と、ポケットから音が鳴り出す。 


凛「もう!! 今度は何!?」 


ポケギアの着信音だ。 

乱暴にポケギアを取る。 


凛「今、緊急事態!!! 後に──」 

 『所長!! 音ノ木からメテノたちが降って来ています!!』 


天文所の職員からだった。 


凛「知ってる!! それだけなら切るよ!?」 

職員『それが音ノ木の方に素早いポケモンの影を確認しまして……!!!』 

凛「ポケモン!? 種類は!?」 

職員『調査中ですが、観測機によるとドラゴンタイプであることがわかっていまして……!!』 

千歌「──凛さん!!」 


通話に気を取られていたら、千歌ちゃんが凛の近くまで来ていた。 


千歌「メテノたち、そのドラゴンポケモンにびっくりして、落ちてきてるんですか!?」 


凛はその問いに一瞬迷う。 

──どう答えるべきか。 


千歌「凛さん!! 教えてください!!」 


千歌ちゃんは叫ぶ。 


千歌「今、チカに出来ることはないですか!?」 

凛「……っ」 
141 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:53:43.58 ID:8koyJWg30

ジムリーダーなら、わざわざ目の前の子供を危険に晒してはいけないと思う。 

だけど、 


千歌「メテノたち!! 助けたいんです!!」 


真っ直ぐな想いと言葉。それは皆、同じなんだ──そう感じて。 

凛は腰からボールを放る。 


 「~~~」 


そこからふわふわと私の手持ちのメテノが飛び出す。 


凛「千歌ちゃん……!」 

千歌「は、はい!」 

凛「凛が今持ってる手持ちだと、千歌ちゃんやさっきの子みたいに空を飛べないから……せめて、お供に凛のメテノを連れて行って……!!」 

千歌「!」 

凛「敵はたぶん音ノ木の周辺を飛んでるドラゴンポケモン! 途中ヨハネちゃんにもそう伝えて!」 

千歌「……はい!!」 
 「ピピィー!!!」 

千歌ちゃんがムックルに掴まったまま、飛び出す。 

それを補助する形で凛のメテノが、千歌ちゃんのバッグの下から持ち上げる。 

飛行の補助として。 


凛「無理はしちゃダメだよー!! 追い払うだけでいいからねー!!」 

千歌「はーい!!」 


飛び立つ千歌ちゃんに向かってそう叫んだ。 


凛「……はぁ。こんなの海未ちゃんにバレたらお説教待ったなしだよね……」 


そうボヤキながらも、 


凛「──ま、後で考えよっと」 


七色の隕石たちに向き直る。 


凛「……ここからは一匹たりとも、地上には落とさせないから」 


──凛はボールを構えた。 





    *    *    * 





落ちてくるメテノたちを避けながら、 


善子「ムウマ! “サイコキネシス”!」 
 「ムマー!」 


メテノのたちの勢いを殺して 
142 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:55:23.64 ID:8koyJWg30

善子「よし! てりゃ!」 


ボールを投げて、捕獲する。 


 「ケロッ」 


肩の上でケロマツが鳴いたら、クレーター発見の合図 


善子「ケロマツ!? どこ!?」 
 「ケロッ」 


ケロマツの指差す先を見ると、今にも光が消えそうなメテノが見える。 


善子「……っ!! ヤミカラス!!」 
 「カァー!!」 


ヤミカラスに指示を出してクレーターまで、飛行するが── 

どんどん光は弱くなる。 

──間に合わない……!! 

そう思った瞬間。 


 「コジョッ」 


機敏な動きの何かが、今にも命の灯火が消えそうなメテノに覆いかぶさった。 


善子「な、何!? コジョンド……?」 

 「コジョッ」 


コジョンドは私を一瞥してから、軽い身のこなしで山肌を登っていく。 

その手にはクイックボールを持っていた。 


善子「! あのジムリーダーのポケモン!」 


どうやら、この場はジムリーダーに任せてしまった方がいいのかもしれない、と思った矢先、 


 「ヨハネちゃーん!!」 


名前を呼ばれて、振り返る。 


善子「アホ毛!?」 

千歌「む、チカだよ! ……ってそれどころじゃなくって」 

善子「それどころじゃなさそうなのは、あんたのムックルだと思うんだけど……」 


ムックルは力が強いポケモンではあるけど、30cmほどの大きさで人間を運ぶのは、ビジュアル的にかなり重そうに見える。 

──まあ、それを言ったらヤミカラスも大変そうだけど。 


千歌「ダイジョブ! この子気合いならあるから! それに、凛さんのメテノもいるし!」 
 「~~~」 


言われて、よく確認してみると、千歌の背負ったリュックの下から持ち上げるように『りゅうせいのすがた』のメテノがいる。 
143 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:56:28.21 ID:8koyJWg30

千歌「っと、それよりも! メテノたちが落ちてきてる原因!」 

善子「何かわかったの?」 

千歌「音ノ木の近くでドラゴンポケモンがメテノたちを脅かしてるみたい」 

善子「……わざわざヨハネにそのことを伝えに来たってことは──」 

千歌「うん! ヨハネちゃん! 止めに行こう! 音ノ木まで!」 


真っ直ぐな瞳で、千歌はそう言う。 


善子「──しょうがないわね。今回は特別に貴方をこのヨハネ様のリトルデーモンにしてあげるわ!」 

千歌「……ほぇ?」 


…………。 


千歌「……えっと?」 

善子「……一旦休戦して、共闘しようってことよ!!」 

千歌「あ、うん!」 





    *    *    * 





善子「メテノたちにぶつかったら、一発アウトだからね!?」 

千歌「うん! ってヨハネちゃん、前!!」 

善子「!? ヤミカラス、左!!」 
 「カァカァ!!」 


すぐ横をメテノが過ぎって行く。 


善子「……し、死ぬかと思った」 

千歌「ヨハネちゃん! ダイジョブ!?」 

善子「へ、へーきよ、これくらい!」 


虹の閃光の中を2人と5匹で前進する。 


善子「ケロマツ! “あわ”!」 
 「ケロッ」 


ところどころで泡を散布しながら、メテノの素早さを下げて進む。 

気休め程度だけど、ないよりマシでしょ。 


善子「そういえば、千歌!」 

千歌「何ー!?」 

善子「あんた、スカイバトルの経験は!?」 

千歌「すかいばとる……初めてー!!」 


まあ、そうよね。自分のポケモンだけで飛べないんだから。 


善子「相手も飛んでる以上、完全に空中戦だから、マグマラシやトリミアン……? は使えないから、それは頭に入れて置いた方がいいわよ!!」 

千歌「わかった!」 
144 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:57:21.30 ID:8koyJWg30

ヒノアラシのままだったら、ギリ肩に乗せて戦うのもアリだったかもしれないけど……。 

まあ、そんなことは言っても仕方がない。 

程なくして、虹の流星の先から、 


千歌「……? 音……?」 


驚いて騒々しいメテノたちの“それ”とは違った、叫ぶような甲高い音が聴こえる。 


善子「……明らかにメテノの鳴き声じゃない……!!」 


私は図鑑を開く。 


善子「……どうやら、ボスキャラのお出ましのようね……」 

千歌「……あれが、ドラゴンポケモン……!」 


虹の光の先に、素早く飛び回るポケモンの姿を捉える。 

薄い翼膜と鋭い眼光。そして、何より目を引くのは、頭に付いた大きな耳のような部位。 


 「キィーキキキキキキ!!!!」 


そして耳に不快感を与える甲高い鳴き声。 


善子「……オンバーン!!」 


 『オンバーン おんぱポケモン 高さ:1.5m 重さ:85.0kg 
  月明かりすら ない 闇夜を 飛び回り 獲物を 襲う。 耳から  
  発する 超音波で 巨大な 岩をも 粉砕する。 非常に  
  乱暴な 性質で 目に 入る もの 全てに 攻撃する。』 

ついで言うなら図鑑曰く、あのオンバーンはLv.51 


 「キィーーキィーーー!!!」 


私たちに気付いたのか、オンバーンがこちらに進路を向けてくる。 

──ってか、 

気付いたら、眼前に迫っている。 


千歌「は、はやっ!?」 


前歯を剥き出しにして、噛み付いてくる気満々だ 


善子「!? ケロマツ! “えんまく”!!」 
 「ケロッ!!」 


ケロマツが白煙を噴出す。 

 「ギィイイイ!!!」 

耳障りな叫び声をあげながら、オンバーンが煙を突き抜けてくる。 


善子「ムウマ!!」 
 「ムー!!」 
145 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:58:21.75 ID:8koyJWg30

オンバーンが飛び出し、ムウマに前歯を立てる──が、 

すり抜ける 

 「キィィィイイ!!!!」 

善子「やっぱり“いかりのまえば”ね! ゴーストタイプには不発よ!」 

千歌「ヨハネちゃん、すごーい!」 


でも、このスピードは厄介。レベルが高いだけはある。 


善子「でも手の打ち様はいろいろあるわよね! ムウマ、“トリックルーム”!!」 
 「ムマァー」 


ムウマを起点にして、周囲の空間の時間が逆転する。 


善子「格上相手には、やっぱりこれに限るわ!」 

 「キィィィィィィイイイ!!!」 


だけど、もちろん相手が止まるわけではない、 

オンバーンは口をガバっと開けて、ムウマに“かみつく”姿勢を取る。 


善子「千歌!! あわせなさい!!」 

千歌「おっけー!!」 

善子「ヤミカラス!!」 
千歌「ムックル!!」 

千歌・善子「「“フェザーダンス”!!」」 


 「ギギキィィイィイイイ!!?!?」 

二匹の羽が舞い踊り、オンバーンに纏わり付く。 

“フェザーダンス”は相手の攻撃を著しく下げる技だ。 

 「ギィィィィィイイイ!!!」 

重なるデバフと歪んだ時空の中で、尚も激しく威嚇の声をあげ、噛み付く意思を見せてくるオンバーン。 


 「~~~」 

千歌「? ヨハネちゃん! 凛さんのメテノが何か言ってる!!」 

善子「!! その気があるなら、盾役任せるわよ!!」 


そう声を掛けると、千歌のバッグの下で、メテノ外殻の割れ目からチカチカと光が漏れ出るのが見える。 


善子「了承と受け取るわ! ムウマ、“サイドチェンジ”!!」 
 「ムマァッ」 


ムウマが叫んだ瞬間、ムウマとメテノの位置が『入れ替わった』 

──ガキッ!! 

オンバーンの牙がメテノの頑丈な外殻に噛み付き、鈍い音が響く。 

 「~~~」 
 「キィェィィィイイイイ!!!!」 

オンバーンが予想外の硬さに歯を立ててしまったためか、また激しく鳴き声をあげる。 
146 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/04/30(火) 23:59:32.16 ID:8koyJWg30

千歌「す、すごい!! って、あれ? これチカ落ちない?」 
 「ムゥ~」 

千歌「あ、こっちにはムウマがいるんだ」 

善子「感謝しなさいよ! リトルデーモン!」 


まあ、正直相性が悪いムウマであくタイプの“かみつく”を受けるのは、よろしくなかったし、メテノと入れ替わるは助かるんだけど。 


善子「距離も取れたし、悪くないわ! ムウマ! “いたみわけ”!!」 

 「ムー」 


千歌のバッグの下で、ムウマの目が光る。 


 「キギッ!!?」 


途端、オンバーンは動きが目に見えて重くなり、メテノから離れて距離を取る。 


千歌「な、何したのー!?」 

善子「“いたみわけ”はお互いのHPを足して平等に分け合う技よ。こっちの方が圧倒的にレベルが低いから、オンバーンは相対的に大ダメージを受けたはずよ!!」 

千歌「よ、よくわかんないけど、ヨハネちゃんすごい……!!」 


オンバーンは距離を取りながらも旋回して、こちらを睨みつけてくる。 

まだ戦意はあるようだ。 


善子「なら、ケロマツ、“うちおとす”!」 
 「ケロッ」 


──バシュン、と 

道中でメテノの砕けた殻でも拾ったのか、小さな石礫を泡で包んで相手の翼目掛けて撃ち出す。 


善子「これでチェックよ……!!」 


飛行の制限も加わればさすがに── 

そう思った瞬間── 


 「──ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 


──それは── 

──空気が裂けるような音だった。 

ケロマツの飛ばした礫を消し飛ばすほどの空気の振動。 


千歌「……!!!?!?」 

善子「……っ!!!?」 


途端、身体が浮遊感に包まれる。 


千歌「……!!!」 


何故か、視界の上の方で千歌が私の方に腕を伸ばしてきて、私の腕を掴む。 

メテノも戻ってきて、私の下に潜り込む。 


千歌「──!!! ──!!!!!」 
147 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:01:36.60 ID:oTWJbR4y0

千歌がパクパクと何かを言っている。 

──そこでやっと気付く。 

ヤミカラスがオンバーンの撃った“ばくおんぱ”で気絶しかけている。 

千歌の方もムックルが相当ダメージを負ったらしく、かなり我武者羅に翼を振っているのが目に入る。 

──千歌、あんた、私を助けてる場合じゃないわよ……!! 


善子「──!!」 


そこで気付く。声が出ない。 

──いや、“ばくおんぱ”で一時的に耳が聴こえ辛くなっている。 

咄嗟にポーチに手を伸ばし“いいきずぐすり”を二つ取り出し、 

一個を千歌に投げ渡す。 


千歌「!?」 


説明してる暇は無い。 

戦闘不能になったケロマツをボールに戻しながら──見て真似ろ、と言わんばかりにヤミカラスにスプレー状の回復アイテムを使う。 


千歌「!」 


それを見て気付いた千歌も倣うように、ムックルを回復させる。 

それに伴い、赤い顔をして頑張っていた、ムウマの表情が緩むのを確認する。 

ムウマがゴーストタイプで“ばくおんぱ”を透かせていなかったら、本当にやばかったかもしれない。 

──いや、それでも結果が先送りになっただけだ。 


千歌「──!!! ──!!!!」 


わかってるわよ。 

めちゃくちゃ不味い状況なのは。 

 「────」 

オンバーンがこちらを睨みつけている。 

私は咄嗟に、掴んだヤミカラスの足先、叩く。 

『トンツー トントンツートン ツートントンツートン トンツートンツートン』 

うまく声が出せないし、ヤミカラスも聴覚をやられている可能性を考慮して、モールス信号を出す。 

ヤミカラスが文句を付けるようにオンバーンを挑発する。 

“いちゃもん”──同じ技を繰り返し出すことを封じる技だ。 

とりあえず、これでオンバーンは“ばくおんぱ”を連発できない。 

……まあ、これも問題の先送りでしかないけど。 

私は一旦、チラリと千歌のムックルに目を配らせる。 

 「──」 

何言ってるか、聴こえないし、聴こえてもわからないけど、あんたはご主人様を守りなさい。 


善子「──」 
148 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:02:44.70 ID:oTWJbR4y0

私は今度はムウマを一瞥して、手の平を後ろに向けて見せた。 

 「──」 

私のハンドシグナルを見て、ムウマが嫌そうな顔をした。 

ご主人様の命令だから、聞きなさい。 


善子「……」 


そして、今度は人差し指と中指の二本だけ立てて、前を指す。 

オンバーンに。 

まるで銃口を向けるように、 

この合図を確認した、3匹は、 

動く── 

ムックルが振り返り、ムウマと共に千歌を後退させる。 


千歌「!!?!?!? ──!!!!? ──!!!!!!!」 


そして、私とヤミカラスは前へ。 

ムウマ、ごめんね。 


千歌「──!!!!! ──ヨ──ネ──ん!!!! ──待──だめーーーっ!!!!!」 


千歌の絶叫が途切れ途切れに聴こえてくる。 

全く、今更戻ってこなくていいのよ、聴力。 


善子「──ヤミカラスッ!! “ちょうはつ”!!」 


私も声──出るじゃない。 


 「カァーーーー!!!」 

ヤミカラスが全力でオンバーンを挑発して、惹き付ける。 


 「ギキィイイイイ!!!」 

オンバーンが私たちに注意を向けてくる。 

その横をすり抜けて、ヤミカラスは風を受けて、一直線に滑空する。 

──言っておくけど、ヨハネは誰かのために生贄になってあげるほど、お人好しじゃないんだからね? 


善子「ヤミカラス!!! 全速力で音ノ木まで飛んで!!!」 
 「カァーーー!!!」 


無茶は承知。 

でも、現状全員が無事に生き残るにはこれしかない!! 

 「~~~」 

さっきまでは私の身体の下に潜り込んでいた、メテノが今度は背中を押してくる。 

背後で──パキパキと、何かが割れる音がしてから、一気に加速する。 


善子「“ボディパージ”? 洒落た技持ってるじゃない! 貴方、私のリトルデーモンにならない!?」 
 「~~~」 


自ら外殻を脱いで身軽になった、メテノに背中を押されて、音ノ木まで一直線に進む。 
149 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:03:52.71 ID:oTWJbR4y0

 「キシャアアアアアアアアアア!!!!!」 


そろそろ、“トリックルーム”も切れた頃だろう。 

背後からはオンバーンが猛追してくるのが気配でわかる。 

スピード比べ……!!! 

雲の隙間を抜け、闇に溶けていた大樹の樹皮がだんだんと鮮明に見えてくる。 


善子「あと、ちょっと──!!」 


そう言葉を零した、 

瞬間、 

──ガブリ、 

体内に響く嫌な感触と音、 

そして、右足の脹脛に激痛が走る。 


善子「──っ!!!!!」 


痛みの方向に目を向けて、 

見ない方が良かったと後悔する。 

──後ろから右足の脹脛にオンバーンが噛み付いていた。 


善子「……っ!!!」 


私は咄嗟に左足の踵で、オンバーンの顔を蹴る。 


 「キィィィ」 


オンバーンの発声体である、耳からまた耳障りな音がする。 


 「~~~」 


今度は背中を押していたメテノがオンバーンを小突く。 

だが、牙は抜けない。 

──痛い。 

──あ、やばい。 

──オンバーンって“きゅうけつ”覚えたっけ 

──“すいとる”だったかしら。 

いろんなことが頭の中を過ぎる。 

あとちょっとで音ノ木なのに── 

そう思って、目を配らせた音ノ木から 


──刃が飛んできた。 


何を言ってるかわからない? 

……私も何が起きたかわからないから、おあいこよ。 


 「ギシャアアアアアアア!!!?」 


空を薙ぐ刃がオンバーンに直撃し、オンバーンの牙が私の脚から離れる。 
150 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:04:45.58 ID:oTWJbR4y0

善子「……っ!! な、何が起きたの……?」 


今の何……? 

刃が飛んできたであろう方向を見ると、 


善子「ポケ……モン……?」 


音ノ木の太い枝の上に、 

白い体毛と、頭の先に黒い鎌のような刃を生やしたポケモンが、四足で堂々と、立っていた。 

初めて見るポケモンだった。 


善子「…………」 


──その毅然とした姿に、思わず息を呑む。 

月に照らされる、そのポケモンの姿は余りに美しく、一瞬怪我の痛みすら忘れてしまう程で。 


善子「……今のは……あのポケモンの“かまいたち”?」 


 「ギシャアアアアアアアア!!!!」 


そんなことを呟いていたら、私の横をオンバーンが猛スピードで、通り過ぎていく。 

攻撃をされて、怒り狂っている。 


善子「ま、まずっ!! 逃げて!!」 


私は叫ぶが、オンバーンは猛スピードで音ノ木に近付き、 

 「ギシャアアアアアアアアアアア!!!!!」 

白いポケモンに噛み付こうとする、 

──が、 

 「……」 

そのポケモンはひらりと身を交わす。 


善子「“みきり”!?」 


華麗なステップのまま、オンバーンの胸部を、自らの頭から生えている鎌の先で 

一突きした。 

 「キィァ!!」 

オンバーンはよろけたが、頭部の耳を白いポケモンに向かって構える。 


善子「……あっ!! 他の攻撃挟んでるから、“いちゃもん”の効果切れてる!! “ばくおんぱ”を撃ってくるわよ!! 逃げて!!」 


私は白いポケモンに向かって叫んだ、 

──が、それは不要だったことを知る。 


 「キィァ…」 

善子「え」 


何故か、オンバーンの“ばくおんぱ”が……攻撃が不発した。 


善子「い、今の……もしかして、“じごくづき”……?」 
151 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:06:03.00 ID:oTWJbR4y0

──“じごくづき”──受けた相手が音を発する技を出せなくなる技だ。 

 「……」 

白いポケモンがオンバーンを睨みつけると、 

 「キィ…」 

オンバーンは勝てないと思ったのか 

 「キィー」 

已然速いあの飛行速度のまま 

逃げ出して、闇夜に消えていった。 

オンバーンが見えなくなったのを確認してから、大樹に視線を戻す。 


善子「…………」 

 「……」 


白いポケモンと目が逢う。 


善子「……貴方は……」 


名を問おうとしたら、 


「──ヨハネちゃーん!!!」 


後方から声が聞こえた。 


千歌「ヨハネちゃん!!!」 

善子「千歌……!! なんでこっちくるのよっ!!」 


思わず振り返りながら、怒鳴る。 


千歌「それはこっちのセリフだよ!! いや、こっちのセリフじゃないけど!!! なんで、囮になんかなったのっ!!!! 脚も怪我してるしっ!!!!」 

善子「……それは」 


更に言い返そうと思ったけど、 


千歌「……あんなことしないでよ……っ……共闘するって……っ……言ったじゃん……っ……」 


千歌は泣いていたから、それ以上の追い討ちは憚られた。 


善子「悪かったわ……でも、あのポケモンが助けてくれて……」 

千歌「……ぐす……っ……あのポケモン……?」 


私が再び、音ノ木を振り返ると 


善子「あれ……?」 


既にそのときには、そこにはあのポケモンの姿はなかった。 


善子「……一体……なんだったの……?」 


私の呟きが、先ほどまでの絢爛なイルミネーションの奔流が嘘のように、 

澄んだ闇夜の先──月と大樹だけの背景に、 

静かに溶けて消えていった。 
152 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 00:08:50.71 ID:oTWJbR4y0



>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【大樹 音ノ木】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回● |    |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち マグマラシ♂ Lv.15  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムックル♂ Lv.14 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ムウマ♀ Lv.14 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:34匹 捕まえた数:6匹 

 主人公 善子 
 手持ち ケロマツ♂ Lv.16 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.15 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      メテノ  Lv.49 特性:リミットシールド 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:41匹 捕まえた数:21匹 


 千歌と 善子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 


次回 千歌「ポケットモンスターAqours!」 その2