■Chapter013 『夜の帳は下りていく』 【SIDE Yoshiko】
千歌「これでよし……」
善子「……思ったより、器用なのね」
包帯が巻かれ、応急処置を施された右足を見て思わず関心する。
千歌「えへへ……昔っから、生傷が絶えなかったから、応急処置くらいならね」
──私たちはあの戦いの後、音ノ木の太い枝の大きな葉の上で休息を取っていた。
千歌「思ったよりは傷も深くはないみたいだし……しばらくは少し痛むかもしれないけど、ひとまず大丈夫だと思うよ」
善子「そ……あ、ありがと……」
千歌「えへへ、どういたしまして♪」
千歌が無邪気に笑う。
さっきまでの泣き顔が嘘のようだ。
千歌「ポケモンたちも回復しないとね。ムックル、ヤミカラス、ムウマ、メテノ、こっちおいでー」
「ピピ」「カァ」「ムゥ」「~~」
千歌「ついでに善子ちゃん、ケロマツも回復してあげて」
善子「……そうね」
千歌が呼び寄せたポケモンたちに、順番にきずぐすりを吹きかける。
「~~」
その際メテノはHPが回復したためか、再び外殻を身に纏い、元の『りゅうせいのすがた』に戻っていた。
私もポーチから取り出した、げんきのかけらでケロマツを回復させて、ボールから出す。
「ケロッ」
善子「ケロマツ、お疲れ様」
自らのポケモンに労いの言葉を掛けていると、
千歌「ど、どうしたの!? ムックル!?」
隣で千歌が困惑の声をあげた。
善子「な、なに?」
私も釣られて、ムックルの方を見ると、
「ピィ…」
ムックルは声をあげながら、ぷるぷると震えていた。
千歌「ムックル? 寒いの……?? ど、どうしよ……!!」
善子「千歌、落ち着きなさ──」
うろたえる千歌を落ち着かせようとしたら、
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154 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:05:17.67 ID:oTWJbR4y0
「ケロロッ…!!」
善子「え!? ケロマツまで!?」
ケロマツも同じように震えだした。
次の瞬間
二匹は眩く光り。
千歌「…………あ」
善子「…………!」
一回り大きくなった、違う姿になっていた。
「ピピイーー」「ゲロ…」
千歌共々、二人で図鑑を開く。
『ムクバード むくどりポケモン 高さ:0.6m 重さ:15.5kg
森や 草原に 生息し むしポケモンを 狙って 飛び回る。
群れで 行動し グループ 同士が 出くわすと 縄張りを
懸けた 争いが 始まる。1匹になると やかましく 鳴く。』
『ゲコガシラ あわがえるポケモン 高さ:0.6m 重さ:10.9kg
器用で 身軽な ポケモン。 泡で 包んだ 小石を 投げ
それを 30メートル 先の 空き缶に 命中させる ほど。 また
その身軽さで 600メートルを 越える タワーも 1分で 登りきる。』
千歌「進化した……!!」
善子「あれだけの激しい戦いだったし……経験値が溜まって、進化したのね」
千歌「えへへ! ムクバードーっ!」
「ピピイ!!」
千歌が喜びの声をあげながら、ムクバードを抱きしめる。
一方で、
「ゲロ…」
ゲコガシラは静かに鳴き声をあげるだけだった。
らしいと言えばらしい。
私は思わず肩を竦めながら、図鑑をしまおうとして、
──画面に見慣れない表示が出ていることに気付いた、のだが、
千歌「ヨハネちゃん! 進化だよ! 進化ー!!」
千歌が有無を言わせず抱きついて来たため、詳しく確認する暇がない。
善子「わ、わかってるわよ! って、抱きつかないでって!!」
喜び勇んで抱擁に巻き込んでくる千歌をあしらう。
善子「と、とりあえず……」
千歌「はぇ……?」
嬉しい気持ちはわかるが、今は一旦確認することがある。
155 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:07:40.53 ID:oTWJbR4y0
善子「これからどうする?」
千歌「……あー、そうだね……」
音ノ木の枝は太く、しっかりとしているため、ここで一晩過ごしても問題はなさそうだが……。
辺りを見回すと、落ち着きを取り戻したメテノたちが、昼間と同じようにふよふよと浮遊している。
そこからも、恐らく今回の事件は解決したと見ても問題はないのだが、
千歌「うーん……とりあえず、私は凛さんのところに戻る方がいいと思う。心配してるだろうし……」
善子「連絡先はわかんないの?」
千歌「……聞くの忘れてた……」
善子「あっそ……」
私はゲコガシラをボールに戻しながら、立ち上がって東の方へ歩き出す。
千歌「あ、あれ? ホシゾラシティってそっちだっけ……?」
千歌が投げかけてくる疑問に
善子「いや、流星山ならここから見えるでしょ」
そう言って、南を指差す。
善子「私はちょっと、用事が出来たから……ホシゾラには戻らないわ」
千歌「用事? 一緒に戻らないの?」
善子「……まあ、ちょっとね」
千歌「ケガ……大丈夫……?」
千歌は心配そうに声をあげるが、
善子「お陰様で、痛みも大分落ち着いたから」
千歌「でも……」
善子「……東の方にある、サニータウンに付いたら、ちゃんと病院にも寄るから」
千歌「そ、そっか……」
千歌は少しシュンとしていたが……まあ、急用が出来たのは事実だし。
善子「あ、そうだ……」
千歌「?」
私は思い出したかのように振り返って、バッグから大量のダークボールを取り出して、千歌の前に一個ずつ置く。
1個、2個、3個……7個ほどある。
善子「捕まえたメテノよ。弱ってるから、ボールから出さないで、そのままジムリーダーに渡してもらえる? 私じゃ、この後どう処置するのかわかんないから」
千歌「あ、うん。わかった」
千歌はそう言って、いそいそと黒いボールをリュックに詰め込む。
私は今度は、一緒に戦ったメテノの方を見て、
善子「それじゃ、千歌の帰り道と……あのジムリーダーさんによろしく伝えてね」
156 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:08:38.23 ID:oTWJbR4y0
メテノに言伝する。
「~~~」
メテノは再び外殻の割れ目から光を点滅させる。きっと了承の返事だろう。
善子「……ま、ムックルもムクバードに進化して、飛行能力もあがったから大丈夫だとは思うけど」
千歌「あ、待って! ヨハネちゃん!」
善子「……まだ何かあるの?」
千歌「連絡先! 教えて!」
善子「……え?」
千歌「何かあったら、今度は私が助けるから!」
善子「…………」
少し考える。
善子「…………」
千歌「ね? ね?」
善子「……………………」
考えて……。
千歌「ね、ねねね? 教えて?」
善子「…………はぁ……わかったわよ」
根負けする。
お互い、ポケギアの番号を赤外線で手早く交換したあと。
私は背を向けて、再び東へと歩を向ける。
善子「あー……千歌」
千歌「ん?」
去り際に千歌に向かって、
善子「……できれば次会うときもヨハネって呼んでくれるかしら」
千歌「え? ……あ」
恐らくポケギアの登録名を見て、気付かれたと思うので──我ながら、なんで本名で登録しちゃったのかしらね──
善子「それじゃ」
私はヤミカラスに掴まり、ムウマを従えて、虹の夜空を飛び出した。
千歌「元気でねー!!!!」
背後から大きな声が聞こえてくる。
千歌「……またどこかで会おうねー!!! 善子ちゃーん!!!!」
善子「だから、ヨハネよー!!!!!」
157 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:11:21.39 ID:oTWJbR4y0
背後に怒声を浴びせながら、私たちは東へ向かって飛行する。
……だから、あんまり教えたくなかったのよね。
…………。
……まあ、それはそれとして。
私は図鑑を開く。
さっきの白いポケモン。あれだけ近付いたなら、データが登録されているはずだ。
善子「……えーっと……。あ、このポケモン……」
『アブソル わざわいポケモン 高さ:1.2m 重さ:47.0kg
アブソルが 人前に 現れると 必ず 地震や 津波などの 災害が
起こるという 言い伝えが あるため 災いポケモン という 別名で
呼ばれる。 普段は 山奥に 生息し 人前には 余り 現れない。』
善子「アブソル……って言うのね」
災いポケモン──そのワードがそもそも私好みではあるのだけど、
善子「借りも出来ちゃったし……」
図鑑をポチポチと弄ると、先ほど見つけた新機能──。
善子「追尾モード……」
動き回るポケモンを追跡することを想定されているであろう名前の機能を開くと、タウンマップ上にポケモンの所在を示す黒い点が東の方に表示されていた。
ちょうど方角的にも、サニータウンの方だ。都合がいい。
正直、特別コレと言った目的がある旅でもなかったが、一先ず目標が出来た。
善子「アブソルにもう一度会う……!!」
「カァー」「ムマ♪」
決意新たに飛び出して、
静かな夜空に、一人と二匹の闇色のポケモンの声が溶けて消えていくのだった。
* * *
158 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:12:30.30 ID:oTWJbR4y0
──ウチウラシティ。
一通り事務仕事を終えて、メレシーのボルツと共に教室の見回りをしていると、
「メレシ…」
ダイヤ「……あら?」
体育館──もとい、ジムの方の明かりが付いていることに気付く。
ダイヤ「……」
出来るだけ物音を立てないように、ジムの方へと足を運び、
「──コラン! “いわおとし”!」
ジムの中をこっそりと覗き見ると、
「ピーピー」
ルビィ「だ、だから、“いわおとし”!」
ルビィとメレシーのコランの姿が見えました。
ルビィ「ねーコラン……」
「ピ?」
ルビィ「ルビィのこと……嫌い?」
「ピピピ」
難しい顔をして、そう問い掛けるルビィに対して、コランは楽しそうに身を寄せる。
好きとか、嫌いと言うより、遊び相手という認識なのでしょう。
ルビィ「これから一緒に旅に出るんだよ?」
「ピピピ」
コランは鳴きながら、ルビィの周りをくるくると飛び回る。
ルビィ「はぁ……ホントにルビィが冒険なんかに出て、大丈夫なのかなぁ……」
ダイヤ「……」
ルビィはあまり言うことを聞いてくれないコランを見て溜息を吐く。
「メレシ…」
そんなルビィの許に、わたくしの近くにいたボルツがふよふよと飛んで行く。
「ピィ」
ルビィ「あ、ボルツ……」
ボルツが近付いてくることにいち早く気付いたコランの声を聞いて、ルビィもボルツの姿を認める。
わたくしもその後ろについていくように、ジムの中へと足を運ぶ。
ダイヤ「ルビィ。明日は早いのですから、そろそろ休みなさい」
ルビィ「お姉ちゃん……」
ルビィは弱々しい声を出す。
159 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:14:00.82 ID:oTWJbR4y0
ダイヤ「ダメよ……トレーナーがそんな不安そうな顔していては──」
──ポケモンが不安になってしまう。
そう続けようとしましたが、
ルビィ「──ルビィ、きっと才能ないんだと思う……」
ルビィは先ほどとは打って変わって大人しくなったコラン──ボルツが近くにいるからでしょうか──を抱き寄せて、そう言う。
ダイヤ「……始める前から、才能なんて言葉を使うものではありませんよ」
ルビィ「でも……」
気持ちはわからなくはない。お昼のことと言い、消極的なルビィに対してコランは少しやんちゃが過ぎるのは概ね同意できますし。
ダイヤ「最初は誰しも、うまく行かないものですわ。ましてや、貴方はまだ旅立ち前なのですから」
ルビィ「……うん」
ダイヤ「コランも貴方のことが嫌いなわけじゃなくて……遊んで欲しいだけなのでしょう。いざ旅に出たら案外頼もしいパートナーになってくれるかもしれませんわよ?」
ルビィ「……そうなの、コラン?」
「ピピ?」
ダイヤ「とにかく、そう言う諸々のことを確認するために、ポケモントレーナーは旅に出るのですから」
ルビィ「……うん」
ダイヤ「……今日はもう遅いですから、早く休みなさい」
わたくしはそう言って、ルビィの頭を撫でた。
ルビィ「……はぁい」
ルビィは弱々しく返事をすると、コランを抱えたままトコトコとジムを出て行った。
……それを見計らっていたかのように、
「ふふ、姉としても、教師としても、それらしいことが言えるようになりましたね。ダイヤ」
ジムの奥の方から、声がする。
声の方へ、目を配らせると、妙齢の女性が一人。
ダイヤ「……お母様、こちらにいらしたのですか」
私の母──名を琥珀。わたくしやルビィと同じように、メレシーを従えて、ジムの奥の倉庫でなにやら片付けをしていた。
琥珀「私が居ないと、ルビィがここで特訓をしている間の監督役が居ないでしょう?」
ダイヤ「確かにそれはそうですけれど……。戻るなら、一報を入れてくれれば、迎えを出しましたのに……」
琥珀「どちらにしろ、今日は一旦戻って仕事をしようと思っていたから大丈夫ですよ。昨日は入江の方が少しざわついていたので大変でしたが……」
ダイヤ「噫、えっと……それについては──」
琥珀「大丈夫よ、鞠莉さんから事情は聞いたから。千歌さんも曜さんも相変わらず元気なようで安心しましたわ」
件の入江での大立ち回りで、多少メレシーたちが動揺していたのかもしれない。
琥珀「お陰で……というわけではないですが、今回はそれなりにいろいろ石が採掘できましたし」
160 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:16:53.70 ID:oTWJbR4y0
お母様はそう言いながら、倉庫内へと目を配らせると、エレザードやレアコイルたちが石の仕分けをしている。
彼らはお母様の手持ちのポケモンなのですが、
それはともかく採掘──とは一体なんのことなのか、説明した方がいいかもしれませんわね。
クロサワの入江は、ただのメレシーの群生地というわけではなく、我がクロサワ家の私有地でもあります。
詳しい理由はわかってはいませんが、洞窟内では“ほのおのいし”や“みずのいし”と言った──所謂、進化の石や先刻、千歌さんと曜さんに手渡した“ほのおのジュエル”や“みずのジュエル”のような宝石。
そして、多種多様な鉱物が採掘できます。
他の街が天文観測や農業、工業などで経済を回しているように、わたくしたちの暮らす、ウラノホシタウン~ウチウラシティではこうした鉱物を採掘・出荷することによって、成り立っています。
『お陰で』と言うのは、千歌さんたちが戦闘をしたためか、いつもよりも鉱物が掘り返されていたということでしょう。
ダイヤ「……あまり、褒められた話ではないのですが……」
琥珀「ふふ、生徒はちゃんと見てなくてはいけませんよ? ダイヤ」
ダイヤ「……元はお母様の教え子でもあるのですが」
入江の管理を隠居されたお婆様から任されて、それに集中するために、お母様は教職を離れて、入江の正式な管理者になったのです。
そして、その教え子を引き継ぐ形でわたくしが受け持っているのが現状というわけです。
尤も、明日にはそんな教え子たちも全員が旅立ってしまうので、当分はジムリーダーの職務に集中できそうですが……。
琥珀「そういえば……今日、入江で珍しいヤミラミを見たのですが」
ダイヤ「……珍しいヤミラミ?」
──ヤミラミは、簡潔に言うとメレシーの天敵です。
捕食者と言っても差支えがない。宝石を食べるポケモンです。
入江内はメレシーの群生地なので、餌を求めてヤミラミが現れることはそこまで珍しくはないのですが……。
琥珀「普通ヤミラミの胸の宝石は赤いはずなのに、それがダイヤモンドになっている個体だったのです」
ダイヤ「……確かにそれは珍しいですね。わたくしも見たことがないですわ。それで、そのヤミラミはどうしたのですか?」
琥珀「一応、捕獲しましたわ。この通り」
そう言ってお母様がヤミラミの入ったボールを見せてくれる。
ヤミラミはメレシーが居れば、どこからともなく現れるので、それを捕獲して、メレシーたちの安全を確保するのも管理者の仕事というわけです。
ダイヤ「流石ですわね、お母様。後日、鞠莉さんに調査してもらいましょう」
琥珀「ええ、そうですわね」
──しかし、ダイヤモンドを持ったヤミラミ……。
ダイヤ「……何かの予兆でなければいいのですが」
思わず、そんなことを呟いていた。
──然し、千歌さんたちが暴れてくれたお陰(?)でお母様が緊急で様子見に出掛け、それによって、ヤミラミの変種個体を見つけることが出来た──と言うのはある種の『人間万事塞翁が馬』と言うことなのかもしれませんわね。
そんなことを胸中で嘯きながら、
ダイヤ「全く、あの子たちの周りではいつも事件ばかりですわね──」
そんなトラブルメイカー──というかトラブルヒッターでしょうか──な彼女たちは今頃何をしているのでしょうか。
……また、危ないことをしていなければいいのですが……。
……まあ、止まれと言って止まるなら、それこそ苦労はしないのですけれど──
161 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:18:14.03 ID:oTWJbR4y0
* * *
千歌「──へくしっ!!」
「ピィー?」
千歌「あ、ごめんごめん、大丈夫だよ、ムクバード」
突然くしゃみなんて、誰かが噂でもしてるのかな……。
……それはさておき、音ノ木で善子ちゃんと別れてから、私たちも空に飛び立ち、流星山を目指しています。
さっきの虹の流星群とは打って変わって、静かな夜空を風が切る音と、ムクバードの羽ばたきの音だけが聴こえてくる。
先ほどまでの激闘が嘘のようだった。
流星山が眼前に迫ってくると、山頂には飛び出してきたときと同様に──
凛「おーい!」
凛さんが手を振りながら待っていた。
「~~~」
相も変わらず私のリュックの下に潜り込んで飛行のサポートをしてくれていたメテノがぷるぷると震える。
主人の許に帰ってきたことを喜んでいるようだ。
地表近くで軽く、減速してから、
千歌「よっと……!」
ムクバードから手を離して飛び降りる。
千歌「ありがとね、ムクバード。ボールの中でゆっくり休んでね」
「ピィ~」
ムクバードに労いの言葉を言ってからボールに戻す。
凛「千歌ちゃん!」
そんな私に凛さんが駆け寄ってくる。
凛「よかったにゃ……無事に戻ってきてくれて……」
「~~~」
凛「メテノも、お疲れ様」
凛さんはメテノに労ってから、キョロキョロとあたりを見回す。
凛「千歌ちゃん、あの子……えーっと」
千歌「あ、善子ちゃん」
凛「そうそう、善子ちゃん……あれ、そんな名前だったっけ?」
千歌「善子ちゃんは用事があるからって、音ノ木から東の方に飛んでいきました」
凛「……まあ、言いたいことはあったんだけど、とりあえず無事ってことだよね?」
千歌「はい、ちょっとケガしたくらいで……」
そのとき突然、腰に付けたボールの1個がカタカタと震えて、
162 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:19:47.84 ID:oTWJbR4y0
「ワフッ」
千歌「わっ!? しいたけ!?」
しいたけが飛び出した。
千歌「急にどうしたの?」
「ワフッ」
ずっと控えが続いてたから、退屈で出てきちゃったのかな……?
私の足元に擦り寄ってくる。
千歌「……あ、そうだ」
それはともかくと思い出したかのように、リュックから黒いボールを取り出して。
千歌「凛さん、これ善子ちゃんから……」
凛「にゃ?」
凛さんに手渡す。
千歌「捕まえた瀕死のメテノたちだって……」
凛「……そっか。直接お礼言いたかったんだけどなぁ」
「~~~」
凛さんがそう言うと、メテノがチカチカと点滅する。
それを見て凛さんは何か納得したように、
凛「まあ、いっか! そのうちまた会った時にお礼しよっ」
強引に話を締めくくった。
凛「とりあえず、今回のことをまとめないといけないから、千歌ちゃんに聞きたいことがいくつかあるんだけど……」
千歌「あ、はい」
事後調査ってことだよね。
私が返事をしながら、前に歩み出ようとした時──
──カクン。
千歌「──え?」
突然膝が折れて、前に倒れる。
──バフ。
「ワフッ」
そこにはしいたけが居て。
凛「ち、千歌ちゃん!?」
千歌「あ、あれ……足に力が……」
考えてみれば、今日は本当に一日中ずっと動き回っていた気がする。
全てが終わって、緊張の糸が切れたのか、身体が体力の限界を主張し始めた。
163 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:20:57.93 ID:oTWJbR4y0
凛「……お話聞くのは明日にした方がいいかもね」
千歌「あはは、そう……みたい……です……」
疲れを自覚すると、今度は急激に眠気が襲ってくる。
千歌「う……ふぁぁ……」
「ワフ」
凛「天文所に仮眠室があるから、そこで休もっか」
千歌「はい……」
しいたけは私が限界なのに気付いて、出てきたんだね……なんだかんだ一番付き合いが長いだけはある。
そのまま、しいたけの背中にぐでっともたれかかったまま、
凛「すぐに付くからもうちょっとだけ頑張ってね」
「ワフッ」
長い一日が終わりを迎えるのでした。
* * *
──13番水道。
ぼんやりとした、意識の中、依然波の音が聴こえてくる。
うっすらと目を開けると、空が暗い。
私はギャラドスの背の上で横たわったまま、眠ってしまったんだと気付く。
近くには変わらず果南ちゃんの紺碧のポニーテールが潮風にはためいている。
果南「あーもしもし」
どうやら、電話をしているらしい。
『……果南、貴方今どこにいるのですか?』
ポケギアから通話先の人の声が、私の耳にも聞こえてくる。
はっきりとしていて、凜とした通る声だ。
164 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:23:00.46 ID:oTWJbR4y0
果南「13番水道」
『……はぁ、まあ自分から連絡を寄越してきただけ、いいとしましょう。13番水道からなら、見えたのではないですか?』
果南「虹色の流星群なんて、おだやかじゃないねぇ……」
『そうですね……。とりあえず、凛の報告待ちですが……。最近各地でポケモンの大量発生や異常行動が見られて、今度はメテノですか……またしばらく休めそうにないですね……』
果南「13番水道もヒドイデが大量発生してるよ」
『それもすでに他の方から、報告を受けていますよ』
果南「ついでに親玉らしき、ドヒドイデも見つけた」
『親玉、ですか……』
果南「とりあえず、捕獲したから、フソウに付いたら引き渡すよ」
『お願いします。……しかし、どうにも嫌な感じがします』
果南「……まあ、そうだなぁ」
『……同時に起こっている各地の異変……何者かの差し金なのでしょうか……』
果南「現状じゃ何も言えないかなぁ……」
『そうですね……。引き続き調査をお願いできますか?』
果南「はいはい、りょーかい。……まあ、私の目的はそこじゃないんだけど」
『そういえば、捜索の真っ最中でしたね……もし、どこかで会うことがあったら──なんですか?』
果南「……? どうかしたの?」
『……あ、すみません。凛からキャッチが入ったみたいです』
果南「さっきの報告かな」
『だと思います……。話の続きは、またいずれ──』
果南「んー」
ツーツーと電話が切れた音が聴こえる。
曜「……果南ちゃん、誰と電話してたの?」
果南「ありゃ、曜……起きてたの? んーまあ、偉い人?」
曜「……何か、起きてるの?」
果南「ま、それを調査中って感じかな。その定期報告」
曜「……そっか」
ヒドイデたちの動きから感じた、妙な悪意のようなもの──それを感じているのは私だけじゃないらしい。
この地方で何かが起ころうとしている、もしくは起きている。
曜「…………」
私が仰ぐ夜空には静かに月が光っているのに……波の音のすぐ下では何やら謀略が渦巻いているのかと考えると、少しだけ複雑な気持ちになる。
私の大好きな、海で……。
曜「…………」
なんか嫌だな……。
そのとき、またフワリと、果南ちゃんが私の頭を撫でる。
果南「……ま、どうにかなるよ」
曜「果南ちゃん……」
果南「……きっと、どうにかなるから」
165 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:24:43.52 ID:oTWJbR4y0
無責任な言葉だけど、果南ちゃんが言うと不思議とどうにかなってしまう気もした。
曜「うん……」
──夜の漣を聴きながら、私たちはフソウタウンへ向かう。
* * *
『……民間のトレーナーを巻き込んだんですか?』
凛「えーと……まあ、そうなるにゃ……なります」
『……まあ、いいでしょう』
凛「……え、いいの?」
電話口に向かって間の抜けた声が出る。
『なんですか?』
凛「てっきり、お説教されるかと思ってたから……」
『……まあ、褒められたことではありませんが、規模が規模でしたし……。結果どうにか収まったなら、必要以上に責任追及するのも頭の堅い考え方かなと思いまして』
凛「……海未ちゃん丸くなった?」
『丸く……なったのでしょうか。まあ、無茶苦茶する人に囲まれすぎたのでしょうか……』
凛「苦労人だにゃ……」
『……貴方もその一人ですからね?』
電話の先で溜息を吐く声が聞こえる。
『とりあえず……情報をまとめると、音ノ木上空へのオンバーンの襲来が原因。結果、音ノ木を休息場にしていたメテノたちが地上及び流星山に落下すると言う事態が発生したということですね』
凛「うん」
『原因となっていたオンバーンは現地に居合わせたトレーナー二人が撃退。……千歌さんと善子さんという名前だったでしょうか』
凛「うん、千歌ちゃんと……善子ちゃん?」
『……ふむ』
凛「あとは落ちてきたメテノたちは全部捕獲出来た……と思う」
『件の善子さんが捕まえた7匹……と凛が捕獲した19匹。26匹ですね。ただ、コメコの方からも報告があったのですが』
凛「え、そうなの?」
『数匹、町周辺とコメコの森に落ちたそうです。町のメテノはジムの方で保護したそうですが、森に落ちたメテノは夜が明けてからでしょうね』
凛「そっか……」
思わずシュンとなる。……メテノ大丈夫かな。
166 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:26:37.65 ID:oTWJbR4y0
『コメコの方で保護したメテノはポケモンセンターで治療した後、そちらに転送すると思いますので』
凛「了解にゃ」
『……さて、オンバーンについてなんですが』
凛「……オトノキ地方にオンバットもオンバーンも生息してないよね」
『せいぜい私は見たことがないですね……かなりの高高度を住処にしていると言う可能性もなくはないですが……』
凛「音ノ木の上の方から降りてきたってこと?」
『まあ、可能性はゼロではない……くらいですね。どちらにしろ、音ノ木の上層部はあまり調査も進んでいなかったので、今度調査隊を派遣します』
凛「そのときは声掛けてね。ホシゾラからも人出すから」
『助かります。なんせ人手不足ですからね……それに拍車を掛けるかのように各地でのポケモンの大量発生……猫の手も借りたい状況ですね。……む、またキャッチですね』
凛「大変そうだね……」
『お互い様ですよ。それじゃ、何かあったらまた連絡してください』
凛「うん、了解」
通信を切って、一息吐く。
職員「所長、まだお休みには……」
職員が気遣って声を掛けてきたけど、
凛「んー……もう少しだけ。あとちょっと仕事したら仮眠取るから」
職員「分かりました。無理しないでくださいね」
凛「ありがと」
電話口でてんてこ舞いの旧知の友人と話した直後だったからか、休む気にはあまりなれなかった。
凛「……よし、もう少しだけ、頑張ろう」
凛は自分に喝を入れて、普段は滅多にやりたがらない事務仕事に取り掛かることにした。
* * *
カタカタとキーボードを打ち鳴らしながら、本日の研究結果をまとめる。
鞠莉「これでよし……っと」
一通り、まとまった文章を軽く見直してから、わたしは伸びをする。
鞠莉「んー……」
さて、明日も早いし、そろそろ寝ようかしら……。
「お嬢様」
そう思って机に背を向けたところに声を掛けられる。
オハラ家の仕様人だ。
鞠莉「……研究所では博士と呼びなさいって言ってるでしょ」
167 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:28:32.41 ID:oTWJbR4y0
──兼、研究所の手伝いをしてもらっている。
メイド「失礼しました。博士、お休みになられるのですか?」
鞠莉「ええ、そのつもりだけど……どうかしたの?」
メイド「いえ、その先ほど郵便受を見たら、手紙が入っていまして……」
鞠莉「Letter...? 朝昼はそんな報告なかったと思うけど……」
メイド「見落としていたのかもしれません……申し訳御座いません」
申し訳なさそうに頭を下げるメイド。
鞠莉「別に大丈夫よ」
手紙を受け取り、宛名を見る。
鞠莉「……カヅノ・聖良……?」
メイド「送り主に心当たりがないのですか? ……でしたら、代読いたしましょうか?」
鞠莉「んーいや……確か、どっかの学会でチラッと見たことがあったような……。とりあえず、中は自分で確認するから、下がって大丈夫よ。ありがとう」
メイド「かしこまりました」
仕様人を下げて、再び椅子に腰を降ろして、机の上のペーパーナイフで便箋の入った封筒を開ける。
内容に目を通す。
『拝啓
風が春から初夏の香りを運んでくるのを感じる季節。お健やかにお暮らしのことと存じます──』
鞠莉「……」
目が滑る……。ダイヤの書く手紙みたいね……。
とりあえず、上から流し読みしながら、要点をかいつまんでいく。
鞠莉「……まあ、要約すると同年代の研究者の一人として、会って話したいってとこかしら……」
そう呟きながら、学会で見かけた彼女のことをだんだんと思い出してくる。
少し前に新しくポケモンを研究するために調査団を作ったカリスマ女性研究員がいるという話が話題になっていた気がする。
その頃、丁度研究所を新設するためのごたごたで、わたしは余り情報が追えていなかったのだけれど……。
──まあ、光栄な話ではある。同年代と言うことなら、わたしも会って話してみたい気もするし……。
168 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 02:29:20.63 ID:oTWJbR4y0
鞠莉「……って、約束の日取り、明日じゃない……」
手紙の後付を確認すると、書かれたのは数週間前だと思われる。
ポストマンの手違いで届くのが遅れたのかしら……?
鞠莉「うーん……明日か……」
朝に花丸とルビィにポケモンを渡して……その後だったら大丈夫かしら。
まあ、どちらにしろ今から返事を書くのは無理そうだし……研究所に来てくれるということだから、どっちでもいいか。
鞠莉「とりあえず……」
私は研究室の長机に並んだ、二つのボールと図鑑を一瞥してから、
鞠莉「明日に備えて本当に寝た方がいいわね……」
手紙を机に置いて、就寝するために寝室へと足を向けるのだった。
170 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:23:27.11 ID:oTWJbR4y0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ホシゾラ天文台】【9番道路】【13番水道】【ウチウラシティ】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
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||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
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||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂●|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥●: .||
||. /. ● .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ o回/ ||
口=================口
主人公 千歌
手持ち マグマラシ♂ Lv.15 特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
トリミアン♀ Lv.17 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
ムクバード♂ Lv.14 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:7匹
主人公 善子
手持ち ゲコガシラ♂ Lv.16 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい
ヤミカラス♀ Lv.15 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい
ムウマ♀ Lv.14 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:46匹 捕まえた数:22匹
主人公 曜
手持ち ゼニガメ♀ Lv.13 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:36匹 捕まえた数:9匹
主人公 ルビィ
手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
バッジ 0個 図鑑 未所持
千歌と 善子と 曜と ルビィは
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
171 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:25:52.10 ID:oTWJbR4y0
■Chapter014 『来訪者』 【SIDE Ruby】
ダイヤ「ルビィ、準備は出来ましたか?」
玄関でお姉ちゃんが訊ねて来る。
ルビィ「だ、大丈夫……」
旅の荷物はちゃんとまとめたし、コランもボールの中で大人しくしている……きっと大丈夫。
ダイヤ「……花丸さんはアワシマに直接行くとのことでしたので、わたくしたちも向かいましょうか」
ルビィ「う、うん」
お姉ちゃんの後ろをちょこちょことついていきながら、アワシマ行きの船が出ている港に向かう。
──今日からポケモントレーナー──
そんなワードが頭の中に浮かんでは消えていく。
大丈夫かな……。
ダイヤ「ルビィ」
ルビィ「……へ? あ、なに、お姉ちゃん?」
ダイヤ「緊張してる?」
前を歩くお姉ちゃんが少しだけ歩みを遅めて、ルビィの顔を覗き込みながらそう聞いてくる。
ルビィ「ぅ……その……うん……」
ルビィは正直に頷いた。
正直、昨日からずっと不安で堪らない。
ダイヤ「……そう」
ルビィ「ルビィに出来るのかなって……」
ダイヤ「……最初は皆そう思うものよ。次第に自信もついてくると思うから」
ルビィ「ホントに……そうなのかな……」
ダイヤ「大丈夫……コランも一緒でしょう?」
ルビィ「それが一番心配なんだけど……」
ダイヤ「大丈夫よ、あの子やんちゃだけど、ルビィのことが嫌いなわけじゃないから」
ルビィ「ぅ、ぅゅ……」
コランは本当にいたずらっ子で……だけど、生まれたときからずっと一緒に居る。お姉ちゃんとは違った意味で姉妹のように育った子だから、
お姉ちゃんが言わんとしてることの意味はわかる気はする。
だけど、ルビィは本当にコランのトレーナーとしてちゃんとできるのかな……。
ダイヤ「……ほら、定期船が来てしまいますわ。急ぎましょう」
ルビィ「……ぁ、うん……」
不安からか、ますます遅くなっていた歩みをお姉ちゃんに急かされ、ルビィは研究所に向かいます。
……ポケモントレーナーになるために。
172 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:27:04.04 ID:oTWJbR4y0
* * *
花丸「ルビィちゃん、おはよう」
ルビィ「花丸ちゃん……おはよう」
アワシマに着くと船着場には、花丸ちゃんがゴンベと一緒に待っていました。
花丸「ダイヤさん、おはようございます」
ダイヤ「おはようございます。花丸さん。ゴンベも、おはようございます」
「ゴン…」
ゴンベはもそもそとおにぎりを食べながら、お姉ちゃんに返事をする。
ダイヤ「それでは二人とも、研究所に参りましょうか」
花丸「はい」
ルビィ「う、うん……」
お姉ちゃんが再び先導する形で前を歩き出す。
その後ろを花丸ちゃんと並んで、のろのろと歩き出す。
花丸「ルビィちゃん、大丈夫?」
ルビィ「あ、うん……ちょっと緊張してる、だけだよ」
花丸ちゃんがさっきのお姉ちゃんみたいに、心配そうに顔を覗き込んでくる。
花丸「そっか……」
ルビィ「ねえ、花丸ちゃん……」
花丸「ん、何?」
ルビィ「花丸ちゃんは緊張……してない?」
花丸「……緊張はしてるけど」
ルビィ「……けど?」
花丸「ちょっと、ワクワクもしてるかな……」
ルビィ「ワクワク……?」
花丸「物語の中の登場人物みたいに、マルも旅に出るのかなって思ったら少しだけ、ね」
花丸ちゃんはそうおどけた風に言う。
ルビィ「そっかぁ……」
ルビィもそんな風に思えればいいんだけどな……。
そんなことを話していると程なくして研究所が見えて来ました。
* * *
173 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:28:25.70 ID:oTWJbR4y0
鞠莉「ルビィ、花丸。待ってたわ」
研究所に入ると、そんな言葉と共に鞠莉さんに出迎えられる。
ルビィ「き、今日はよろしくお願いします……」
花丸「お、お願いします……!!」
博士を前にして、改めて二人揃って緊張してしまう。
鞠莉さんはお姉ちゃんの幼馴染でもあるから、ルビィとは面識があるんだけど……。
こうして研究所を訪れたのは初めてで、鞠莉さんの研究所と言われるとなんだか身構えてしまう。
ダイヤ「ほら、二人とも、入口に立っていないで中に入ってください」
鞠莉「Yes. 奥の部屋までお願いできる?」
ルビィ「は、はい!」
花丸「ずら……」
鞠莉さんとお姉ちゃんに促されて、後ろをついていく。
言われるがままに奥の部屋へ通されると、
花丸「み、未来ずらぁ……」
ルビィ「う、うわぁ……」
見るからに研究所っぽい感じの、大きな装置が目に入る。
鞠莉「ふふ、それはポケモンの回復装置よ。ポケモンセンターに置いてるのと同じものね」
花丸「こ、こっちは転送装置ずら!?」
鞠莉「ええ、ボックス管理システムに繋がってるモノでポケモン転送が行えるわ」
花丸「み、未来ずらぁ……!!」
鞠莉「花丸はこの装置に興味があるの?」
花丸「あ、えっと……子供の頃から、そういう研究の本とかも読むことがあって……その、オハラ博士の──」
鞠莉「マリーでいいわよ。オハラ博士ってなんか堅苦しいし」
花丸「え、えっと……鞠莉さんの“どうぐ”についての論文もいくつか読ませてもらったずら……!! ……じゃなくて……もらいました。面白かったです!」
鞠莉「Really? そう言われるとなんだかこそばゆいわね」
花丸ちゃんがやや興奮気味に鞠莉さんと談笑している。
ダイヤ「花丸さんは勉強熱心ですからね」
そんな教え子の姿を見て、お姉ちゃんがクスクスと笑う。
……そのやり取りを見て、ルビィも少しは勉強とかしてくればよかったかなと、思ってしまう。
花丸「ミラクルシューターについての戦略研究とか、すごく興味深かったずら!」
鞠莉「Wao! そこに食いつくとは将来有望ね」
なんかすごい盛り上がってるし……。
ダイヤ「鞠莉さん、盛り上がるのはいいのですが、本題を忘れないでくださいね?」
鞠莉「Oh... そうだったネ」
174 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:30:34.55 ID:oTWJbR4y0
お姉ちゃんに言われて、鞠莉さんはツカツカと歩いて、ボールと板状のアイテムがそれぞれ2つずつ置いてある、長机に移動する。
鞠莉「さて、ルビィ、花丸」
鞠莉さんがそう切り出しながら、ルビィたちの方を振り返る。
鞠莉「あなたたちにはこれから最初のポケモンとポケモン図鑑を託すわ。初心者用のポケモン3匹──と言いたいところなんだけど、1匹は既に他の子が持って行っちゃったから、残りの2匹から選んでもらえる?」
ルビィ「は、はい」
花丸「ずら……!」
言われて二人しておずおずと机の前に進む
鞠莉「ボールのボタン、押してみて?」
言われるがまま、二人でそれぞれボールのボタンを押し込むと──
ゆっくりとモンスターボールが開き、
「チャモ」
「トル~」
ヒヨコのようなポケモンとカメのようなポケモンが飛び出した
鞠莉「ほのおタイプのアチャモと、くさタイプのナエトルよ」
ダイヤ「二人で相談して、どちらが欲しいか決めてください。……まあ、本当はみずタイプのケロマツもいるはずったのですが」
鞠莉「……」
事情はもう聞いてて納得してるけど、お姉ちゃんがそう言うと鞠莉さんはバツが悪いのか目を逸らす。
花丸「ルビィちゃんはどっちの子がいい?」
ルビィ「え、んっと……」
「チャモ」
「…zzz」
アチャモは見た目からして可愛いけど、ほのおタイプ……火はちょっと怖いかも。それにちょっと元気が良さそうでコランも居るルビィの手には余りそう……。
一方ナエトル。すごく大人しいポケモンみたいだ。というかむしろのんきすぎるくらいで、早速居眠りを始めている。くさタイプだから、ほのおよりは怖くないかな? ……あ、でも草で手切っちゃうかな?
ルビィがじーっと2匹を吟味していると、
「チャモッ!!」
アチャモが“ひのこ”を吐き出した。
ルビィ「ピギィッ!?」
びっくりして、思わず後ろに下がる。
鞠莉「こら、アチャモ? びっくりさせちゃダメでしょ~? ごめんね、ちょっとやんちゃで」
ルビィ「い、いえ……」
やっぱりほのおポケモンは怖いかも……そう思って、今度はナエトルに視線を向ける。
ルビィ「え、えーっと……ナエトルさん……こんにちは、ルビィです」
しゃがみこんで声を掛けてみるが、
「…zzz」
完全に寝ている。
175 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:33:45.80 ID:oTWJbR4y0
ルビィ「……ナエトルさーん……」
「…トル…?」
再び声を掛けてみたら、目を開けた──けど、
「…zzz」
すぐにまた居眠りを始める。
全く相手にされていない。
どうしよう……どっちとも気があわないかも……。
ルビィ「は、花丸ちゃんはどっちがいい?」
花丸「ずら?」
ルビィじゃ決められそうにないから、花丸ちゃんに訊ねてみる。
花丸「んー……マルは大人しい子の方が好きだから、どっちかって言うならナエトルかなぁ……」
ルビィ「そっかぁ……」
じゃあ、ルビィは消去法でアチャモかなぁ……。
そう思ってアチャモに視線を向けると、
「チャモッ!!」
ルビィ「ピギィ!?」
再びアチャモが口から“ひのこ”を散らす。
……どうしよう、こっちはこっちでダメそう。
鞠莉「まあ、ゆっくり決めてもいいから。これから旅を共にするパートナーだからネ」
そう言いながら鞠莉さんは机の上にあった板状のアイテムを手に取って、
鞠莉「先に図鑑……渡しておくわね」
そう言いながら、私に桃色の図鑑を、花丸ちゃんに黄色の図鑑を手渡してくる。
花丸「! こ、これが……ポケモン図鑑……!! 未来アイテムずらぁ~!!」
ルビィ「お姉ちゃんが使ってたやつとも、千歌ちゃんが持ってたやつとも形が違うね」
記憶の中でお姉ちゃんや千歌ちゃんたちが使ってたモノと形状が違うことに気付く。
鞠莉「ええ、わたしたちが貰った旧型はともかく、あなたたちに渡す3つのセットは千歌っちたちが持っていったものとは違う機種だからネ」
ルビィ「そうなんですか?」
鞠莉「千歌っちたちに渡したのは液晶が二つあるモデルね。イッシュ地方から取り寄せたものから橙色のものを千歌っちに、水色を曜に……そして、桜色を梨子って子に渡したわ。そしてあなたたちに今渡したものはホウエン地方から取り寄せたモデル。桃色、黄色、白色の3つで1セットよ」
花丸「共鳴音って言うのも鳴るんですか!?」
鞠莉「ええ、詳しいわね。3つのセットが近くに集まると音が鳴るわ。だから、ここにもう一個白色の図鑑があると音が鳴るわよ」
花丸「ずらぁ~!! 未来ずら~!!」
ルビィ「……それはそんなに未来感ないと思うけど……」
それはともかく……その白色の図鑑を持ってるのがケロマツを貰ったルビィたちと同じ図鑑の所有者。
旅をしてたら、会ったりするのかな……。そんなことを考えてたら、
176 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:35:47.18 ID:oTWJbR4y0
「チャモッ!!」
ルビィ「ピギッ!?」
後ろからふくらはぎ辺りを軽く突かれる。
ルビィ「あ、アチャモ……? ビックリした……」
「チャモ!!」
鞠莉「何、アチャモったら……ルビィが気に入ったの?」
ルビィ「気に入られたと言うか……たぶんからかわれてるんだと思います……。ルビィ、自分のメレシーにもよくからかわれるし……」
きっとそういう星の元に生まれた人なんだと思う。ますます自分がポケモントレーナーに向いてないんじゃないかと思ってしまう。
鞠莉「あら、イヤヨイヤヨモスキノウチって言うじゃない」
ダイヤ「それは言葉の意味が違います……」
鞠莉「好きな子をついイジめちゃうみたいな?」
ダイヤ「言い得て妙ですが、それも違うような……」
ルビィ、イジめられてるんだ……。
お姉ちゃんたちの会話を端で聴きながら、再びアチャモに目を配らせる。
「チャモッ!」
アチャモは目が逢うと、また鳴き声をあげる。
やっぱりやんちゃな子みたいだ。
……でも、嫌われてはないのかな?
そんな風に思っていると、
メイド「博士、今宜しいですか?」
鞠莉「ん? どうしたの?」
いわゆるメイドさんの衣装をした人が鞠莉さんに話しかけてくる。
メイド「博士にお客様が……」
鞠莉「来客……? ……あ、あー、そうだった」
ダイヤ「何か約束があったのですか?」
鞠莉「まあ、ちょっと昨日急にね……」
メイド「一先ず、応接室にお通ししました。もし、宜しかったらなのですが、ダイヤ様も一緒にお越しいただけませんか?」
ダイヤ「わたくしもですか?」
鞠莉「先方にダイヤがここにいることも言ったの?」
メイド「いえ、お客様がお嬢様──失礼しました。博士とダイヤ様を訪ねてウチウラシティに来られたと仰られていたので……この後、ダイヤ様の元へも足を運ぶのだと思いまして」
ダイヤ「なるほど……たまたまわたくしが居合わせていたから」
メイド「はい、僭越ながら声を掛けさせて頂きました」
ダイヤ「その人はどのような人なのですか?」
鞠莉「若い女性の研究者よ。同じ若い研究者として、話がしたいってことで……確か進化の石とか宝石とか、そういう方向の研究家だった気がするけど」
ダイヤ「なるほど……それならわたくしも同席しますわ」
鞠莉「いいの?」
ダイヤ「あの子たちも、もう少しゆっくりポケモンを選びたいだろうし……」
177 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:38:29.51 ID:oTWJbR4y0
そう言いながらお姉ちゃんがルビィと花丸ちゃんの方に目を配らせてくる。
ルビィ「あ、うん……しばらく二人でどっちがどの子を貰うか相談してるね」
花丸「ルビィちゃん! この図鑑、どうやって使うかわかる!?」
ルビィ「あ、えっと……それはね」
花丸ちゃんは図鑑に夢中でそれどころじゃないから、もう少し時間も欲しいし……。
鞠莉「そう? そういうことなら……少し席を外すわね。ここ少しお願いできる?」
メイド「承知しました」
メイドさんが鞠莉さんの言葉に頭を下げる。
ダイヤ「それじゃ、二人とも余り騒ぎ過ぎないようにね」
ルビィ「はぁい」
そう残して、お姉ちゃんは鞠莉さんと来客対応に向かっていきました。
* * *
応接室を訪れると、机を挟んで置かれている椅子のうち、ドアに一番近い席で彼女は待っていた。
わたしとダイヤが部屋に入ると、すぐに気付いてこちらを振り返り立ち上がる。
聖良「お初にお目に掛かります。オハラ・鞠莉博士。カヅノ・聖良と申します」
Ms.聖良は丁重に頭を下げて、挨拶をする。
鞠莉「初めましてMs.聖良。遅くなってごめんなさい」
聖良「いえ……こちらこそオハラ博士の返事も待たずに申し訳ありません」
鞠莉「Sorry. ちょっと手違いがあったみたいで、手紙を受け取ったのが昨日だったの……」
聖良「そうだったんですか……」
鞠莉「何はともあれ、同じポケモンを研究する学者の一人として、会えて光栄だわ」
聖良「そんな学者だなんて……私はまだ、博士のような地位や名誉を持っているわけではないので」
鞠莉「謙遜しないで? あなたの噂はここにも聴こえて来ているのよ」
社交辞令を交わしながら、失礼にならない範囲で彼女のことを観察する。
伸びた背筋に、キリっとした顔立ち
やや紫掛かった黒髪を左側頭部でサイドポニーにまとめている。
噂通りの真面目そうな女史であることがわかる。
鞠莉「調査団の設立おめでとう。わたしも同年代の研究者として、実績を挙げている人間がいるのは心強いわ」
聖良「オハラ博士も、研究所設立おめでとうございます。そのように言っていただけて光栄です」
二人でお互いを労いながら、握手をする。
そのとき、聖良はわたしの後ろにもう一人いることに気付き、
178 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:40:47.49 ID:oTWJbR4y0
聖良「もしかして……クロサワ・ダイヤさんですか?」
そう訊ねてくる。
一応ジムリーダーということで容姿くらいは予め調べが付いていたのかもしれない。
鞠莉「ええ、ダイヤにも用事があると仕様人に聞いたから……」
ダイヤ「話を聞いて、たまたまこの場に居合わせたので、わたくしも同席しようと思いまして……初めまして、カヅノ女史。クロサワ・ダイヤですわ。事後承諾みたいになってしまいましたが、ご一緒しても迷惑ではなかったでしょうか?」
聖良「いえ、とんでもないです……! むしろ、ありがたい」
彼女はやや面食らった様子ではあったが、本当にありがたそうに言う。
どうやら、ダイヤを通したのは良判断だったようだ。
鞠莉「とりあえず、立ち話も難だし、席に着きましょうか」
わたしは二人にそう促す。
机を挟んで奥の席にわたし、その隣にダイヤ、そしてわたしたちの向かいにMs.聖良と言う形でそれぞれ腰を落ち着ける。
鞠莉「今日は忙しい中、研究所までありがとう。島だからここまで来るの、大変じゃなかった?」
聖良「いえ、そんなことは……こちらこそ、不手際でアポがしっかり取れていなかったようで申し訳ないです」
ダイヤ「カヅノさん、そんなに気に病まれなくても大丈夫ですよ」
聖良「あ、私のことは聖良と呼んでいただければ」
ダイヤ「そうですか? では聖良さん。わたくしもダイヤと呼んでいただけると……」
鞠莉「わたしも鞠莉で大丈夫よ。オハラ博士はちょっと馴染みがないから……」
聖良「わかりました、鞠莉さん、ダイヤさん」
恭しく挨拶を交わして、ダイヤが話の続きを始める。
ダイヤ「不手際と言うのもきっと鞠莉さんが手紙を見落としていたと言うところでしょう。この人は自分の研究所を持っても、相変わらず机の上がごちゃごちゃで……」
鞠莉「ちょっとダイヤ! 手紙はポストマンの手違いで受け取るのが遅れただけよ!」
ダイヤ「机の上が汚いのは事実でしょう?」
鞠莉「む……いや、今は確かにばたばたしてて散らかってるけど……」
ダイヤ「ほら、みなさい」
痛いところをダイヤに指摘されて、少し膨れてしまう。
そんなやり取りを見てか、聖良さんがくすくすと笑っている。
鞠莉「もう! ダイヤが余計なこと言うから笑われちゃったじゃない!」
聖良「ふふ、すみません……お二人とも仲がよろしいんですね」
鞠莉「まあ、同郷の人間としていろいろ助けてもらってるけど……正直腐れ縁なんだけどね」
聖良「いいではないですか。私は同郷の友人と言うものには余り恵まれなかったので、羨ましいです」
その言葉を聞いて、ダイヤがやや神妙な顔をする。
それを見てか、聖良は、
聖良「ヒナギクシティの更に北の山間部の生まれで、あまりご近所付き合いというものがなかったので……」
そう答える。
179 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:42:56.96 ID:oTWJbR4y0
ダイヤ「そうなのですか……あの辺は気候も厳しいと聞き及んでいますわ。苦労なされたのですわね」
聖良「いえ……家族も居ましたので……。あ……すみません、身の上話をするつもりはなかったんですが」
鞠莉「ふふ、気にしないで。同年代同士気楽に行きましょう?」
聖良「ありがとうございます」
元気な子たちに囲まれていたせいか、こうして格式ばったやり取りは久しぶりな気がする。
とはいえ、一応ルビィと花丸を待たせている以上、必要以上にまったりと話しているわけにもいかないと思い本題に入ろうとすると、
ダイヤ「そういえば、聖良さんはどのような研究をされているのでしょうか? 一応、事前に石や宝石の研究をしている方と伺ったのですが……」
ダイヤが先に切り出した。
それを受けて聖良は、
聖良「厳密に言うなら……特定のポケモンに効果を現す道具の研究を行っています」
と、答える。
ダイヤ「それは進化の石のような?」
聖良「それもありますが……“でんきだま”や“ふといほね”と言った特定のポケモンを著しく強化するアイテムや──」
そのとき、彼女の目の色が少しだけ変わった気がした。
聖良「──伝説のポケモンに関わる道具についての研究をしています」
鞠莉「伝説のポケモンに関わる道具……」
わたしはそのワードを聞いて、少しだけ考えてから、
鞠莉「ジョウト地方の“とうめいなすず”や“うみなりのすず”。ホウエン地方の“べにいろのたま”や“あいいろのたま”。シンオウ地方の“こんごうだま”や“しらたま”のことかしら?」
聖良「……流石ですね、鞠莉さん。その通りです」
鞠莉「わたしも“どうぐ”の研究をしている以上、何度か触れることがあった議題だからね」
聖良「本日、こうして鞠莉さんを尋ねたのも、他でもない、それらの“どうぐ”についての博士の見解をお聴きしたいと思いまして……」
鞠莉「……と言うと?」
聖良「ピカチュウの持つ“でんきだま”や、カラカラ、ガラガラの持つ“ふといほね”はどういう仕組みでポケモンを強化していると御思いですか?」
鞠莉「……そうね。前者は群れの中でも特に強い力を持った個体が繁殖の過程の中で生み出したエネルギーの結晶体のようなものだと考えてるわ。後者はより強い子孫を残すために、より鍛え抜かれた武器を子供に引き継がせる過程で生まれた頑強な骨、と言ったところかしら」
聖良「はい。私も概ねそのように捉えています。つまりはそう言った世代を経て生まれたエネルギー体や、練度を持った武具に相当するアイテムが、ポケモンたちを強化している。それはポケモンたちが、自らの種族を繁栄させるために生み出した道具、ということになります」
鞠莉「……ふむ」
聖良「ですが、先ほど鞠莉さんに言っていただいたような、伝説のポケモンの道具はどうでしょう」
ダイヤ「? どうとは……?」
ダイヤも教職ゆえ博識ではあるが、専門の研究者ではないためか、表情に疑問を浮かべる。
わたしはなんとなく、話の意図を汲み取り、
鞠莉「……そういったアイテムと違って、世代交代をすることが確認されていない伝説のポケモンの道具は出自がわからないと……」
そう返した。
聖良「そういうことです。私はその原点を調べるために、調査団を立ち上げ研究をしているんです」
ダイヤ「なるほど……」
聖良「少し話が逸れてしまいましたね……博士はこれについて、どのようにお考えですか?」
180 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:47:58.21 ID:oTWJbR4y0
聖良さんに質問をぶつけられ、再び考える。
鞠莉「……いわゆる伝説のポケモンと言われるポケモンたちに関係のある道具と言っても、他地方に目を向けて見てみると結構な数があるわよね」
聖良「そうですね……ジョウトでは伝説のポケモンルギア、ホウオウに纏わる道具として、“にじいろのはね”、“ぎんいろのはね”、“とうめいなすず”、“うみなりのすず”」
ダイヤ「……確か、数年前にホウエン地方ではグラードン、カイオーガをマグマ団・アクア団と言う組織が復活させ、大災害を引き起こしたと言う話がありましたわね」
鞠莉「そのときにGroudon、Kyogreに対応した道具が“べにいろのたま”、“あいいろのたま”……だったわね」
(*Groudon=グラードン、Kyogre=カイオーガの英名)
聖良「他にもシンオウ地方でギンガ団という組織がディアルガ、パルキアをその手で御しようとした事案もありました。そんな彼らには“こんごうだま”や“しらたま”と言った道具が対応しています」
鞠莉「……“にいいろのはね”、“ぎんいろのはね”は文字通りHo-ohやLugiaの朽ちることのない羽根だと思うわ。二つの鈴は人間側が二匹の心を癒やすため、コミュニケーションを取るために作ったものと考えているわ」
(*Ho-ohn=ホウオウ、Lugia=ルギアの英名)
まあ、恐らく彼女が聞きたいのは羽やら鈴のことではないと思う。
鞠莉「わたしに見解を聞きたいって言うのは、珠ね……」
聖良「はい。聞いた話ではポケモンそのものを御したり、ポケモンの真の力を引き出す道具と言われています」
ダイヤ「……あの、それならその道具は元はそのポケモンの一部だったのではないでしょうか」
聖良「何らかの原因でポケモンが自分の体の一部だったソレを失って、結果としてパズルの最後のピースのように、ポケモンの真の姿を引き出す道具になった、と言うことですね。確かに……そう言う考えも出来ますが、説明出来ないことがあるんです」
ダイヤ「説明出来ないこと?」
鞠莉「……何故、その道具にポケモンを御する機能があるのか、ないし何故一匹しかいないと言われている伝説のポケモンたちが自分の真価を発揮する道具を手放してしまったのか……ね」
聖良「はい」
もし自分の一部位にそんな効果があるなら、普通は手放さないように細心の注意を払うとは思う。
仮に自分以外のものが持つことがあったとしても、自分の制御権を持つ部位と言うとほぼ脳とも言えるものだ。
簡単に切り離せると考えるのは些か不自然である。
ダイヤ「……確かに」
鞠莉「……考えられるとしたら、強すぎるポケモンの力を封じるために、人間が後から制御する機構を取り出した……か、もしくは作った?」
頭の中でそれぞれの珠を思い浮かべる。
──タマ?
鞠莉「......ball」
聖良「……!」
ダイヤ「……鞠莉さん?」
鞠莉「……もしかして、モンスターボール……?」
聖良「!! ……そうです!! やはり、鞠莉さんもその発想に至りますか!!」
ダイヤ「えっと……?」
聖良さんが興奮気味に同調する中、ダイヤは怪訝な顔をしている。
鞠莉「モンスターボールには大なり小なり、持ち主が誰かを認識させる力があるわ」
もちろんボールに入れて連れ歩くと言う過程でポケモンが“おや”を認識し、信頼すると言うことが大きいのだけれど。
鞠莉「実際、今のモンスターボールには他の“おや”が捕まえることが出来なくする機構もある。表現があまりよくないかもしれないけど、特定の人間がポケモンを所持・制御するための補助道具と言う面があるわ」
ダイヤ「……確かにそれを問題視したポケモン倫理団体が、脱モンスターボールを唱えたことがイッシュ地方でありましたが……プラズマ団でしたでしょうか」
聖良「まあ、その話自体は結果として、プラズマ団は解散。幹部達が今でも国際指名手配されているのが現状ですが……」
鞠莉「でも、モンスターボールに大なり小なりそういう影響があることは否定できない。……そして、もし伝説のポケモンの珠が同じような制御機構だとしたら……」
聖良「! そう! そうです!」
181 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:55:01.00 ID:oTWJbR4y0
聖良の考えが読めてきた、が、
ダイヤ「ち、ちょっと待ってください!」
ダイヤが割って入る。
ダイヤ「モンスターボールが出来てからまだ100年も経っていないのですよ!? しかも、あの発明は完全に偶発的なものだったと言われていますわ」
──モンスターボールの誕生は1925年、タマムシ大学にてニシノモリ教授が、研究中にオコリザルへの投薬量を誤り衰弱させてしまった際に、そのオコリザルが生存本能からか教授の老眼鏡ケースの中に小さくなって入り込んだことから、ポケモンは『衰弱時に縮小して狭いところに隠れる』と言う本能が判明する。
それを利用して、開発されたのがモンスターボールだ。
今ではカントー地方のシルフカンパニーやホウエン地方のデボンコーポレーション、カロス地方のクノエシティと言った場所で生産出荷。我らがオトノキ地方でもローズシティのボール会社から生産出荷をして流通している。
ダイヤ「伝説のポケモンの伝承は少なくとも数百年前……長いものは数千年前や紀元前からのものもあります。いくらなんでも、近代で開発された道具を引き合いに出すのは無理がありませんか?」
ダイヤらしい、優等生な意見だけど、
鞠莉「それは収納性や携帯性の話でしょ? モンスターボールに洗脳的な機能がある、なんて極端なこと言うつもりはないけど……ポケモンを制御する方法として、同じように道具で持って御そうとしたと言う説は否定できないわ」
ダイヤ「それは、まあ……そうですが」
聖良「真偽はともかく、もしそのような制御機構が人工物なんだとしたら、予めそういう機構や製造法を把握することによって、ホウエンやシンオウのような事変も、あそこまでの大きな被害を出す前に対処が取れたのではないかと私は思ったんです」
鞠莉「……そういうことね」
わたしだけでなく、ダイヤを尋ねてきた理由を図りかねてたが、やっと話が見えてきた。
鞠莉「……聖良はその秘密がここにあると睨んでる、と言うことかしら?」
ダイヤ「……え?」
聖良「……話が早くて助かります」
聖良さんはダイヤに向き直る。
聖良「ダイヤさん……クロサワの入江の調査をさせていただけないでしょうか」
ダイヤ「なっ……」
聖良「クロサワの一族が代々管理・保護してきた場所と言うのは重々承知しています。ですが、あそこからは貴重な鉱物や、何より特殊な宝石を纏ったメレシーが多く見つかっています。私は伝説のポケモンたちの宝珠のようなものを、人間が拵えたんだとしたら、そういう特殊な鉱物を発掘出来る神聖な場所から発祥したんじゃないかと思うんです」
ダイヤ「……」
聖良「科学の発展のために、調査を許可してもらえないでしょうか」
聖良さんは立ち上がり頭を下げる。
……だけど、ダイヤは、
ダイヤ「許可を取ろうとわたくしを尋ねて来てくださった手前、申し訳ないのですが……そのお話は承服致しかねます」
一蹴する。
ダイヤ「……地元の人間ならまだしも、外部の人間からの調査依頼はちょっと……」
聖良「…………。……そう、ですか……」
ダイヤに了承の意思がないとわかったのか、聖良さんが残念そうに顔をあげる。
ダイヤ「意に添えなくて申し訳ないですが、どちらにしろわたくし一人で決められることではなくなってしまうので……」
182 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:56:04.79 ID:oTWJbR4y0
……まあ、仕方ない。
地元のわたしでさえ、ある程度自由な出入りを許可してもらうまで、それなりの時間を要したのだ。
一朝一夕で外の人が入り込むことをダイヤが了解するはずがないし、仮にダイヤが了承したとしてもクロサワの家そのものを通すのにさらに時間もかかるだろう。
聖良「……不躾なお願い、失礼しました」
ダイヤ「いえ……」
鞠莉「……ある程度だったら、内部の調査はオハラ研究所でしているし、もし思い当たるサンプルが取れたら連絡するわ」
聖良「ありがとうございます……」
なんとなく、空気が重い。
まあ、交渉が決裂したわけだから、仕方ないか。
そんな沈黙を破ったのは──
──少し離れたところで派手に何かが壊れる音だった。
ダイヤ「!? な、なに!?」
驚いて声を上げるダイヤ。
わたしは咄嗟に立ち上がり、壁に掛けられている連絡用の受話器を取る。
鞠莉「セキュリティ? こちら応接室、何かあった?」
メイド『お、お嬢様、大変です!!』
受話器からは仕様人の焦った声。
その焦り様はわたしのことをお嬢様と呼んでしまっていることに全く気付いてないところからも伝わってくる。
鞠莉「落ち着いて報告して」
メイド『──け、研究所が、何者かに襲撃されていますっ!!』
──知らないところで事態が大きく急転していた。
183 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 12:56:31.72 ID:oTWJbR4y0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【オハラ研究所】
口================= 口
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口=================口
主人公 ルビィ
手持ち メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:9匹 捕まえた数:1匹
主人公 花丸
手持ち ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:9匹 捕まえた数:1匹
花丸は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
184 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:17:17.25 ID:oTWJbR4y0
■Chapter015 『襲撃』 【SIDE Hanamaru】
時は鞠莉さんとダイヤさんが応接室に行ったあとくらいのこと、
「チャモッ!」
ルビィ「いたたっ! アチャモ突かないでよ~!!」
花丸「ルビィちゃんのお肌はもちもちだから気に入られたのかもね」
ルビィ「嬉しくないよー!! いたっ!!」
アチャモはルビィちゃんのことがよほど気に入ったのか(突き心地がよかったのか)ずっと逃げ回るルビィちゃんを追い回している。
マルには目もくれないし……。
花丸「これはパートナー決定かな?」
「…zzz」
横で寝てるナエトルがきっとマルのパートナー
マルと同じのんびり屋さんだし、気は合うと思う。
「チャモォー!!」
ルビィ「アチャモ~! いい加減にして~!」
「チャモ」
ルビィ「……あ、あれ?」
ルビィちゃんが叫ぶと先ほどとは打って変わってアチャモは足を止める。
ルビィ「も、もしかして……ルビィの言うこと聞いてくれた?」
「…」
しかし、アチャモはルビィちゃんの方ではなく──天井を見上げていた。
「チャモーー!!!」
次の瞬間アチャモは天井に向かって叫びながら、“ひのこ”を吐き出した。
ルビィ「え、アチャモ!?」
何も無い場所に向かっての攻撃──と思ったんだけど、
その場から何かが音も立てずに素早く動くのが見て取れた、
花丸「え!?」
ルビィ「な、なに!?」
メイド「何かいる……? キルリア!」
メイドさんがすぐさま手持ちを繰り出す。
メイド「お二人ともお下がりください!」
天井を見上げると、依然何かが飛び回っている。
早すぎて見えない。
185 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:18:25.02 ID:oTWJbR4y0
花丸「この狭い室内を羽音もなく、縦横無尽に飛び回ってる……そんなの4枚羽根のポケモンじゃないと不可能ずら。……そうなるとアメモース、ヤンヤンマ、メガヤンマ、クロバット……あの大きさだと、メガヤンマかクロバット……」
メイド「キルリア! “サイコショック”!!」
マルがそんなことをぶつぶつと呟きながら考えていると、メイドさんは既に攻撃態勢に入っていて、指示を受けたキルリアから発せられ、実体化した念波がそのポケモンに向かって飛び掛る。
「“かげぶんしん”!!」
天井のポケモンの方から人の声がしたと思ったら、その高速の影はさらに数を増やし、“サイコショック”が透かされてしまう。
メイド「っく!!」
「ほっといてくれれば、見逃したのに」
そんな声と共に影の一つから、人影が飛び降りてくる。
──二つボールを放ちながら、
「ゴォーリ!!!」
巨大な氷の顔面がボールから飛び出す。
花丸「お、オニゴーリずら!!」
そんなマルの叫びは全く間に合わず、
「オニゴーリ!! “かみくだく”!!」
「ゴォーリ!!!」
キルリアに襲い掛かる。
「キルゥ!?」
メイド「キルリア!?」
大きな顎が噛み付いたあと、オニゴーリはその丸い体躯を回転させながら、キルリアを壁に向かって放る。
研究所の机ごと、その上にある書類やら書物を吹き飛ばしなら、キルリアが壁に叩き付けられた。
「キルゥ…」
メイド「くっ……!!」
メイドさんが次のボールを構える。
が次の瞬間、
「動くな」
背後から鋭い声がした。
ルビィ「え、え!?」
「コイツの首が飛ぶわよ」
花丸「る、ルビィちゃん!!?」
186 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:19:39.39 ID:oTWJbR4y0
気付いたら背後には上から飛び降りてきた声の主の姿。
全身を真っ黒な服で包み、口にまで布を当てている。
まるで訓練を受けた、特殊部隊の人間のような出立ちだった。
声から察するに若い女の子だということはわかったけど……。
それどころじゃない、
「マニュ…」
ルビィちゃんの首筋にはマニューラの鋭い鉤爪が充てられていた。
メイド「その方を離しなさい!!」
メイドさんが叫ぶ。この場を主人から預かった使命感からか、強い殺気さえ感じさせる剣幕。
謎の女「……動くなって言ったんだけど」
「ゴォォーリ」
その女性が一声あげると
メイド「……!?」
メイドさんの手足が凍り付いていた。
メイド「い、いつの間に……!!」
謎の女「モブに用はない」
「ゴォォーリ」
その台詞と共にメイドさんの体がどんどん凍り付いていく。
花丸「メイドさん!?」
マルが声をあげると、
謎の女「言ってる言葉の意味、わかんないの?」
花丸「!!」
今度はマルに向かって視線が飛んでくる。
ルビィ「は、花丸ちゃ……っ」
花丸「……っ」
ルビィちゃんはすでに恐怖でぽろぽろ涙を流しながら、オラの名前を呼ぶ。
──だけど、
足が動かない。
蛇に睨まれた蛙のように。
謎の女「…………」
目の前の黒尽くめの女の子は、マルとルビィちゃんを何度か交互に目を配らせたあと、
謎の女「……こっちか」
187 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:21:14.92 ID:oTWJbR4y0
そう言ってから、ルビィちゃんを小脇に抱えた。
ルビィ「ピギィッ!?」
同じくらいの体格──いや、ルビィちゃんよりも小さいかもしれないのに、ルビィちゃんを小脇に抱えて、
謎の女「クロバット」
「クロバ」
天井のポケモンを呼び寄せる。
すぐにその背中に紫の4本の羽根が生えて、クロバットに背中を掴まれた状態で飛び立つ──
花丸「だ、ダメ!! ゴンベ!! “なげつける”!!」
「ゴンッ!!」
ずっと研究所の端でご飯を食べていたゴンベに指示を出す。
咄嗟の指示を受けて、ゴンベが近くの分厚い本を投げつける。
──だけど、
「ゴォォォーリ」
オニゴーリの凍った体から突出するように突き出た氷塊によって、投げつけた本が弾き返され、
──バサリ、と近くに置いてあった機械に当たってから虚しく床に落ちる。
謎の女「……無駄な抵抗ね」
冷たい言葉──
「そうでもないロト」
──に返事をするかのように、本がぶつかった機械の方から声がした。
ルビィ「ピギッ!?」
謎の女「!? な、何……? ……電子レンジ?」
「ロト」
謎の女「!?」
「“オーバーヒート”ロトーー!!!!」
──部屋の隅の電子レンジが突然その蓋を開いて、熱波を噴出した──いや、あれは、
花丸「ヒートロトムずら!!」
電子レンジに乗り移ったロトムが、電子レンジに搭載されている合成音声で喋りながら、攻撃している。
「ゴォォォーリ…!!」
激しい熱波がオニゴーリの体表の氷を溶かしていく。
謎の女「この研究所は……珍妙なのがいるのね」
「ロトトトト!!!!!」
謎の女「マニューラ! “つららおとし”!」
「マニュ!!!」
188 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:22:50.94 ID:oTWJbR4y0
今度はロトムに向かって、攻撃を放つ。
氷のエネルギーがロトムの頭上に飛んで行ったかと思うと、次の瞬間には大きなつららが出来上がり、ロトムに襲い掛かる。
「ロトトトトトト!!!!!!」
続け様に熱波を発する、ロトムの頭上でつららが蒸発するが、
「ロトトトトトト…!???」
精製され続け、振り続けるつららは次第に勢いを増し、融解が間に合わなくなり始める。
──いや、
花丸「“オーバーヒート”は繰り返し使ったら威力が下がっちゃうよっ!!」
「そ、そうだったロトー!!!」
パタパタとレンジの蓋を開け閉めし、
「ロトムに出来るのはここまで、ロト…」
そう呟いた。
ルビィ「ロトム!! 逃げてっ!!」
謎の女「終わりね」
「ナムサン…」
ロトムが最後の言葉を残したそのとき──
「No problem!! 十分よ! ロトム!!」
聞き覚えのある博士の声が響いた、
鞠莉「スターブライト号!! “ほのおのうず”!!」
「ブルル、ヒヒィーン!!!」
研究所の大扉を蹴破る形で飛び込んできた、ギャロップが、
──ゴォと、ロトムの周りを“ほのおのうず”が包み込み、
謎の女「!!」
頭上のつららを蒸発させる。
「マ、マリー!!!」
鞠莉「ロトム、よく堪えたわね! お手柄よ!」
謎の女「っち……」
謎の女性は、舌打ちする。
謎の女「マニューラ、迎撃──」
ダイヤ「──など、許すと思いますか?」
今度はダイヤさんの声が鋭く響く。
189 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:24:48.88 ID:oTWJbR4y0
ダイヤ「ジャローダ! “へびにらみ”」
「ローダ…」
「マニュ!!!?」
“へびにらみ”──睨んだ相手をまひさせる技だ。
ルビィ「お姉ちゃん……っ!!」
ダイヤ「ルビィ! 今助けますわ!」
謎の女「……くっ」
謎の女はまひしたマニューラを素早くボールに戻し、クロバットの肩に乗せたまま、後ずさっていく。
鞠莉「そっちは壁よ……チェックメイトね」
ダイヤ「観念していただけますか?」
謎の女「…………」
ダイヤさんのジャローダと鞠莉さんのギャロップがじりじりと謎の女に近付く。
──そのとき、
聖良「み、皆さんっ!!」
聞きなれない人の声が響いた。
──なんとなく、だけど、その瞬間、謎のトレーナーが、
謎の女「……ふ、あははは……っ!!」
突然笑い出した。
鞠莉「何、追い詰められておかしくなった──?」
聖良「そ、外に──」
ダイヤ「外──?」
──次の瞬間。
謎の女性が背にしていた、壁が、
刳り貫かれる形で、
引き剥がされた。
外に待機していた、大型のクマのようなポケモンによって。
鞠莉・ダイヤ・花丸「「「!?」」」
謎の女「リングマ!! “じならし”!!」
「グルゥォォオオ!!!!」
ルビィ「ピ、ピギィ!?」
大きな揺れが巻き起こり、一瞬怯んだジャローダが視線を外してしまう。
ダイヤ「──し、しまっ──!? 予め外に手持ちを!?」
謎の女性はその刳り貫かれた壁から、真後ろに飛ぶように外に飛び出す。
ルビィ「あ、あわわっ!!?」
190 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:27:31.26 ID:oTWJbR4y0
彼女はリングマたちを素早くボールに戻しながら、ルビィちゃんを抱えて。
花丸「ルビィちゃん!!」
マルは叫ぶ。
飛行体勢に入って飛び立とうとするクロバットとそのトレーナーに向かって、
鞠莉「に、逃がしちゃだめ!! スターブライト号!!」
「ヒヒィーン!!!!」
鞠莉さんがすぐに次の攻撃態勢に入るが、“じならし”の影響で足を取られてうまく進めない。
全員がルビィちゃんをその視界に捉えたまま、
今まさに目の前で連れ去られようとしている、その瞬間、
──小さくて身軽な影がルビィちゃんに向かって走り出していた。
「チャモォーー!!!」
ルビィ「ア、アチャモ!?」
鳴き声を上げながら、アチャモがルビィちゃんの足元に飛びついた。
もうそのときには、ルビィちゃんの身体は完全に中空に居て、
ルビィ「だ、ダメ、アチャモ!!? 来ちゃダメだよぉっ!!」
「チャモォーーー!!!」
ルビィちゃんの脚に器用に組み付いて、
謎の女「余計なのがいるけど……ま、いい。クロバット!」
「クロバットッッ!!!」
そのまま、飛び立つ体勢を整えたクロバットが翼を広げる。
鞠莉「ま、待ちなさいっ!!」
ダイヤ「ジャローダ!! “グラスミキサー”!!」
「ロローダ!!!!」
クロバットを追うように、ジャローダの尾から巻き起こる草の旋風も虚しく、
それを無視するかのように風を切って、
「クロバッ!!!!」
クロバットは猛スピードでその場を飛び立ってしまった。
花丸「ず、ずら……」
マルは思わずペタンと尻餅をついてしまう。
──この短い間にとてつもないことが起こった。
……ルビィちゃんが連れ去られてしまった。
メイド「申し訳……御座いません……お嬢様……」
そんな頭を現実に引き戻したのは、先ほどオニゴーリから直接攻撃を受けた、メイドさんの声だった
声の方に目をやると、メイドさんはいつの間にか首の辺りまで厚い氷で覆われていた。
鞠莉「!! じっとしてて、今溶かすから……!! スターブライト号、お願い」
「ヒヒン…」
191 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:28:50.89 ID:oTWJbR4y0
ギャロップが特性“ほのおのからだ”でメイドさんの氷を少しずつ溶かす。
鞠莉「スターブライト号……ゆっくり、ゆっくり溶かすのよ?」
「ブルル…」
改めて研究所を見回すと、それはそれは酷い有様でした。
室内には物が散乱し、戦闘不能のキルリアと、氷漬けのメイドさん。
それを溶かす鞠莉さんのギャロップ──スターブライト号という名前みたいです──
研究所の壁には大きな穴が空き、そこからは皮肉にも陽気な太陽の日が差し込んでいる。
ダイヤ「っく……」
ダイヤさんが唇を噛みながら、その壁に出来た大穴のところへと足を運ぶ。
ダイヤ「ルビィ……どうして、こんなことに……」
鞠莉「ダイヤ……」
聖良「……あの、皆さん、今しがた警察に通報しました。すぐに来てくれるそうです……」
鞠莉「Oh...Thank you...聖良さん」
聖良「い、いえ……その……何か私にお手伝い出来ることは……」
ダイヤ「……結構ですわ」
──ユラリと、怒気を感じさせるダイヤさんの声。
鞠莉「ダイヤ……?」
ダイヤ「ルビィは……わたくしが取り返してきます……」
ダイヤさんはそのまま、壁の大穴から、外に歩き出す。
鞠莉「ち、ちょっと、ダイヤっ!! 落ち着いて!!」
ダイヤ「これが、落ち着いていられますかっ!!?」
鞠莉「ルビィが連れ去られた先もわかってないでしょ!?」
ダイヤ「…………」
鞠莉「気持ちはわかるけれど……一旦Cool down...」
ダイヤ「……ごめんなさい。確かにその通りですわね……今ここで騒いでも、事態は解決しませんわね……」
花丸「……せめて、ルビィちゃんの居場所がわかれば……」
「わかるロト」
花丸「え?」
気付くと、図鑑モードになったロトムがふよふよとこっちに近付いてきていた。
鞠莉「わかるって……?」
「ルビイちゃんは図鑑を持っていたはずロト」
花丸「ずら?」
鞠莉「……あ、それなら」
ダイヤ「追尾が……!!」
ダイヤさんは咄嗟に上着のポケットから真っ赤な図鑑を取り出した。
192 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:29:52.35 ID:oTWJbR4y0
ダイヤ「追尾……追尾……」
鞠莉「ダイヤ、落ち着いて……あなたの図鑑は旧式だから、ルビィの図鑑を追尾する機能はないわ……」
ダイヤ「…………そう」
ダイヤさんは相当うろたえていた。
こんなダイヤさん見たことないってくらいに。
──そりゃそうだよね、目の前で実の妹が攫われたんだから……。
鞠莉「花丸、ちょっと図鑑貸して貰っていい?」
花丸「ずら!? は、はい!!」
言われて図鑑を差し出すと、鞠莉さんがポチポチと操作を始める。
ルビィちゃんの図鑑の行き先をサーチしているんだろう……。
花丸「ルビィちゃん……」
ルビィちゃん……無事で居て……。
そう祈りながら、結果を待つ。
程なくして、
鞠莉「──結果、出たわ……!!」
鞠莉さんの声にオラとダイヤさんが画面を覗き込むと、
鞠莉「Oh...」
花丸「ここって……」
ダイヤ「……またですか」
そのマップに表示されたルビィちゃんの居場所を確認して、マルたちは思わず顔を見合わせる──。
* * *
視界には太陽の光を反射している海面が凄い勢いで流れていく。
そんな中、宙ぶらりんのルビィの足元では、
「チャモォーーー!!! チャモォォォーーー!!!」
アチャモが声を上げて、しがみついている。
ルビィ「ア、アチャモっ!! 大人しくして!!」
謎の女「……そのアチャモうるさいんだけど、ボールにしまってくれない?」
ルビィ「ぴぎっ!?」
上空で小脇に抱えられながら、冷たい声でそう言われる。
193 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:31:26.50 ID:oTWJbR4y0
ルビィ「い、いやっその、ル、ルビィこの子のボール、も、持ってない……っ」
謎の女「別に落としてもいいのよ?」
ルビィ「ダ、ダメ!!」
研究所を飛び出したクロバットはとてつもないスピードで飛行し、すでにアワシマを抜け、海上を移動している。
ルビィ「ほのおタイプのポケモンなんだよ!? 海になんか放り出したら死んじゃうよっ!!」
そう叫ぶ。
謎の女「じゃあ、静かにさせて」
「チャモォーーー!!!」
ルビィ「アチャモ……!!」
足に必死にしがみついているアチャモにどうにか手を伸ばして、
「チャモッ?」
胸に抱きかかえる。
ルビィ「お願い……大人しくして……ね……」
「…チャモ」
ルビィ「……ありがとぅ」
全力でお願いしたら、アチャモは先ほどまでの様子からは信じられないくらい、スンと大人しくなる。
謎の女「……やれば出来るじゃない」
そんな声が上から降ってきて、思わずルビィはそっちの方に視線を向ける。
ルビィ「……な、なにが……も、目的ですか……っ……」
謎の女「そんな震える声ですごまれても怖くないんだけど」
ルビィ「……ル、ルビィのこと、さ、攫っても……い、いい、いいことなんか、ないです……よ……っ!」
謎の女「それはあんたが決めることじゃない」
必死に抵抗の声をあげたけど、振り絞った勇気も虚しく一蹴される。
海上まで連れて来られてしまった以上、どちらにしろ逃げ場はないから、落ちるか連れ去られるかしかもうないんだけど……。
高速で飛翔するクロバット、その進行方向に洞窟ようなものが見えてくる。
ルビィ「え」
ちょっと、待って……あの場所って……。
ルビィ「クロサワの入江……?」
* * *
図鑑に表示されたマップはクロサワの入江に妹が──ルビィがいることを示していた。
場所がわかれば次の行動は早い。
194 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:32:29.46 ID:oTWJbR4y0
ダイヤ「今すぐ、入江に向かって発ちますわ。鞠莉さん、花丸さんのことお願いできますか?」
鞠莉「わかった」
鞠莉さんは、今研究所から離れるわけにもいかないだろう。
そう思い、花丸さんを任せようと思った矢先、
花丸「ま、待ってダイヤさん!!」
花丸さんがわたくしと鞠莉さんに割って入る。
ダイヤ「……花丸さん?」
花丸「マルも連れてって!」
ダイヤ「……ダメです。……危険ですわ」
わたくしは花丸さんにそう伝えましたが、
花丸「そんな危険な場所に連れ去られたルビィちゃんはもっと怖い思いしてるずら……っ!!」
花丸さんは目にいっぱいの涙を溜めて、そう主張する。
ダイヤ「花丸さん……」
花丸「オラ、怖くて動けなかった……ルビィちゃんが泣いてたのに……オラに出来ることなんにもないかもしれない……だけど、だけど、ルビィちゃんのこと考えたら……待ってるだけなんて……っ……」
ダイヤ「…………」
目の前で、ずっと一緒に居た親友を連れ去られたのです。
今、彼女の中では猛烈な後悔が押し寄せて来ているのかもしれません。
ダイヤ「……すぐに仕度しなさい」
花丸「ダイヤさん……」
ダイヤ「ただし、勝手にわたくしの傍を離れないたりしないこと。約束できますか?」
花丸「はいっ」
ダイヤ「……そういうことですので、鞠莉さん」
鞠莉「OK. こっちは任せて……ってわたしの研究所だけど。何かあったらポケギアに連絡してネ」
ダイヤ「わかりましたわ」
そんなやり取りの中、
「ナェー」
気の抜ける声が足元からする。
花丸「ずら……ナエトル?」
「ナェー」
花丸「一緒に来るずら?」
「ナェー」
花丸さんがナエトルを抱きかかえて訊ねるとナエトルはまた気の抜けそうな声をあげる。
鞠莉「アチャモのことが心配なのかもね。研究所でずっと一緒に遊んでたわけだから」
花丸「そっか……! じゃあ、一緒に行こう」
「ナェー」
195 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:32:56.49 ID:oTWJbR4y0
ナエトルは依然気の抜ける返事をしながら、コクンと頷いた。
花丸さんはモンスターボールにナエトルを戻して、
花丸「ゴンベも」
「ゴン」
二つのボールを腰に携える。
ダイヤ「準備はよろしいですか?」
花丸「はいっ!!」
ダイヤ「では、行きましょう!」
わたくしたちは研究所を飛び出しました。
花丸「──ルビィちゃん……待っててね」
196 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 15:33:26.56 ID:oTWJbR4y0
>レポート
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【クロサワの入江】【アワシマ】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ○ |‥・ ||
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||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ ●‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ ●回/ ||
口=================口
主人公 ルビィ
手持ち アチャモ♂ Lv.5 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
メレシー Lv.5 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:14匹 捕まえた数:2匹
主人公 花丸
手持ち ナエトル♂ Lv.5 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:14匹 捕まえた数:2匹
ルビィと 花丸は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
197 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:28:15.74 ID:oTWJbR4y0
■Chapter016 『クロサワの祠』 【SIDE Ruby】
謎の女「クロバット、ここで降ろして」
「クロバッ」
研究所から連れ去られて僅か数分。
見慣れた場所です。
ここはクロサワの入江の内部……。
謎の女「さて……」
ルビィのことを小脇に抱えていたトレーナーは、突然ルビィをパッと放す。
ルビィ「え!?」
咄嗟のことに反応出来ず、ルビィは地面に身体を打つ。
ルビィ「ぴぎぃ!? い、痛い……あ、アチャモ? 大丈夫?」
岩肌がむき出しになった地面に落とされて、痛かったけど……胸に抱えたアチャモが押しつぶされてないか心配になって声を掛ける。
「チャモ」
……よかった、元気そう。
謎の女「さっさと立ってくれない?」
頭上から声が降ってくる。
ルビィ「……」
ほぼうつ伏せになるように落とされたルビィは、どうにか転がってお尻を付く形で地面に座り、アチャモを抱き寄せて、座ったまま後ずさる。
謎の女「どっちにしろ、もう逃げ場とかないから」
ルビィ「……な、何が……目的なの……?」
クロバットをボールに戻しながら、ルビィたちを見下ろすトレーナーさんを見ながら、声を絞り出すように訊ねる。
謎の女「祠に案内しなさい」
ルビィ「!」
──祠。その言葉に一瞬反応してしまう。
謎の女「その反応……やっぱり、ここには祠があるのね」
ルビィ「!? な、ない!! 祠とかないよ!!」
カマを掛けられたと気付いたときにはもう遅くて、
謎の女「私、あんまり気長い方じゃないから、さっさと教えた方が身の為よ」
ルビィ「ぴぎ……っ……」
布で覆われて目しか出ていないけど、その鋭い眼光で睨みつけられ、身体が強張る。
──でも、
198 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:33:27.82 ID:oTWJbR4y0
ルビィ「ほ、祠なんて……知らない、です……っ」
ルビィはそう答える。
謎の女「あくまでシラを切るつもり?」
ルビィ「だ、だって……知らないものは……知らない……です……」
謎の女「ふーん……」
トレーナーさんはルビィに冷たい視線を送りながら、腰からボールを放る。
「グォゥ…」
ボールからはさっき研究所の壁を引っぺがした大きな体躯のクマのようなポケモン──リングマが飛び出す。
ルビィ「ピ、ピギィ!?」
謎の女「リングマ、こいつ持って」
「グルゥ…」
ルビィ「ピ、ピギィーー!?」
今度はリングマさんにヒョイとつまみ上げられ、再び宙ぶらりんになる。
ルビィ「は、放してー……!!」
謎の女「とりあえず、このまま練り歩いてみて、あんたの反応を見ることにするわ。どうやら、顔に出るタイプみたいだし」
ルビィ「ぅゅ……っ」
そう言って、トレーナーさんが先導する形で歩き出すと、リングマさんもそのままルビィを掴んだまま、のしのしと歩き出す。
謎の女「……しかし、本当にメレシーだらけね」
ルビィ「……ぅゅ」
謎の女「色とりどり……普通のメレシーとは違う。まさにメレシーの楽園……」
ルビィ「……」
口は噤んだまま、ルビィもなんとなく周囲を見回す。
子供の頃から何度となく訪れたことのある入江の中は今日も七色の光に包まれて……。
七色の光が……あれ?
ルビィ「……なんか、足りない……?」
強い違和感を覚え、思わず声が漏れてしまう。
謎の女「足りない? 何が?」
ルビィ「……!? な、なにも言ってないです!」
うゅ……ルビィどうしてこう余計な事言っちゃうんだろう……
謎の女「……リングマ」
「グォゥ!!」
トレーナーさんが合図をすると、リングマさんがルビィを掴んだまま腕を上下左右に振るう。
ルビィ「ぴぎぃぃぃぃ!? や、やめてぇぇぇぇぇ!!?」
「チャモォー!!?」
199 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:37:40.99 ID:oTWJbR4y0
そのまま振り回される。抱きかかえたアチャモもろとも。
しばらく、振り回された後、
謎の女「リングマ、ストップ」
トレーナーさんの声で止まる。
謎の女「やめて欲しいなら話しなさい」
トレーナーさんはそう言うけど、
ルビィ「い、いや……です……」
ルビィは拒否します。
謎の女「……あんた自分の置かれてる状況わかってるの?」
ルビィ「……」
謎の女「……思ったより強情じゃない」
ルビィ「……こ、ここは……っ」
謎の女「?」
ルビィ「……ここは、大切な場所……なんです……っ……顔も見せない、自分の名前も、名乗ってくれないような人に……教えることなんて……ない、です……っ」
謎の女「…………」
精一杯睨みつけながら──ちゃんと睨めてたのか自信はないけど──ルビィはそう答えます。
謎の女「……一番弱そうだから、選んだけど……それでも良家の人間ってことね」
そういうと、トレーナーさんが突然顔や頭を覆う布を取り、素顔を晒す。
整った顔立ちに、赤みがかった紫色の髪をツインテールに縛っていた。
晒された素顔はまだ幼さを残していて、ルビィと同年代……うぅん、もしかしたら年下かも? と思ってしまうくらい。
こんな状況じゃなかったら、普段周りから子供っぽいと言われるルビィは親近感を覚えたかもしれません。
謎の女「これで信用できる?」
ルビィ「……か、顔見せられただけじゃ、信用出来ないよ……」
謎の女「……理亞」
ルビィ「……え?」
理亞「名前。理亞」
ルビィから信用を得るために名乗った、ってことかな……?
ルビィ「それ……」
理亞「?」
ルビィ「ホントの名前なの……?」
この状況で本名を出す理由がない。恐らく偽名のはず。
理亞「……あ」
──と、思った矢先、理亞(偽名?)さんは短く声をあげて、しまったと言わんばかりな顔をした。
200 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:38:59.95 ID:oTWJbR4y0
ルビィ「え」
理亞「ぎ、偽名よ……あ、いや……」
ルビィ「……」
理亞「……」
ルビィ「……くす」
この誘拐犯さん、思ったよりお間抜けさんなのかもしれないと思ったら、笑いが漏れてしまった。
理亞「……何笑ってんのよ」
ルビィ「ぴぎっ!? ご、ごめんなさい……!」
不機嫌そうな声に思わず謝ってしまう。
理亞「……あ、あんたが好きに判断すればいいじゃない……」
そう言ってプイっと顔を背けて、歩き出す。
その後ろをルビィを摘んだままのリングマがのっしのっしと付いていく。
理亞「……で?」
ルビィ「え?」
理亞「何が足りないのよ」
ルビィ「……」
理亞「あんたさっき私が名乗ったら喋るって言ったじゃない」
ルビィ「……言ってないけど」
理亞「……」
理亞さんはルビィの返答を聞いて、少し考えたあと、
理亞「…………」
バツが悪そうに再び顔を逸らす。
また、自分が勘違いしていたことに気付いたみたいです。
……うーん……やってることの割にちょっと可愛い性格なのかも……?
いや……とはいっても、現にルビィは攫われてるし……。
ルビィ「あの……理亞さん」
理亞「……何?」
ルビィ「……理亞さんはどうしてルビィをここに連れてきたんですか……?」
理亞「……はぁ? 祠を案内させるためって言ったでしょ?」
ルビィ「……ほ、祠なんてないですよ?」
理亞「そんなわけないでしょ」
ルビィ「……」
とにかくここにある祠に用があることはわかる。
ルビィ「……じゃあ、仮に祠があったとして……どうするつもりなの?」
理亞「それは……」
201 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:41:08.32 ID:oTWJbR4y0
──祠。
このトレーナーさん──理亞さんが探してるのは祠。
だけど、祠を見つけたとして出来ることなんてお祈りするくらいしかないんじゃないかな?
……あ、泥棒さんなのかな……。
いくらかやり取りしていて、少しだけ余裕が出てきたのか、さっきよりも冷静にいろんな考えが頭の中を回っている。
そもそも、気が長くないなどといいながら、結局のところルビィは傷一つ負っていない。ホントに悪い人ならもっと強引に脅して来そうなものだけど……。
……ちょっと振り回されて気持ち悪いくらいはあるかな……。
理亞「……あんたに言う必要はない」
ルビィ「……」
でもやっぱり、仲良くは出来なさそうです……。
リングマに摘み上げられたまま、ノシノシと洞窟を奥へと運ばれていく。
──そのとき、
カタカタカタカタ──と、ルビィの腰についている真っ白なボールが震えだした。
ルビィ「え!? コラン!?」
真っ白なボール──コランの入っているプレミアボールだ。
ルビィの次の言葉を待たずして、コランがボールから勝手に飛び出す。
「ピィー!! ピピィー!!」
ルビィ「ち、ちょっとコランーっ」
理亞「……」
理亞さんが怪訝な顔をしている。
ルビィ「え、えっと、ごめんなさいっ」
反射で思わず謝ってしまう。
ルビィ「この子やんちゃで……!! 今大人しく……」
「ピィー!!! ピピピピィーー!!!」
大きな声で鳴き声をあげるコラン。
生まれたときから一緒のこの子が出す鳴き声だから、わかる。
これは……。
ルビィ「威嚇してる……」
理亞「威嚇? 私を?」
敵を威嚇する鳴き声、周りの仲間たちに外敵がいることを知らせる鳴き声、
外敵? 誰? 理亞さん?
コランの視線を追うと、理亞さんは完全に無視している。
そのもっと奥、洞穴のもっともっと奥に向かって、激しく鳴いている。
ルビィ「…………」
目を凝らすと──闇の奥に、溶けるようにそいつは居た。
202 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:42:54.23 ID:oTWJbR4y0
ルビィ「……!」
闇の中に浮かぶ宝石のような硬い質感の目玉、闇色の体色をカクカクと不気味に動かしている、子供の頃から教えられてきた、メレシーの天敵──
ルビィ「……ヤミラミ……!!」
理亞「ヤミラミ……なんでこんなところに」
理亞さんもルビィの言葉で気付いたのか、闇に溶けるヤミラミに視線を送る。
そんなルビィたちを端に、外敵を排除したい一心なのか、
「ピピィーー!!!」
コランが飛び出した。
ルビィ「!? ま、待って!! コラン!!」
有無を言わさずにコランが突進をお見舞いするが、
「ピ、ピピィ!?」
その体はヤミラミをすり抜ける。
ルビィ「“たいあたり”はヤミラミには当たらないよぉ!!」
「ヤミィ」
ヤミラミはすり抜けたコランを振り向き様に爪を引っ掛けるように腕を振るう、
「ピィ!?」
ルビィ「コラン!?」
そのまま、コランはヤミラミに抑え付けられる。
──い、いけない!!
ルビィ「コラン!! 振りほどいて!!」
メレシーがヤミラミに抑え付けられる──即ち、それは捕食されそうになっているということだ。
コ、コランが食べられちゃう……!!
「ヤミィ」
「ピ、ピィ…!」
ヤミラミはコランを吟味するようにジロジロと宝石のような目玉で観察したあと、
予想外なことに、
ルビィ「……え!?」
「ピピィ!?」
コランをこちらに向かって放り投げてきた。
ルビィ「コ、コラン……!!」
「グォォ!?」
理亞「え!? ちょ、あんた!?」
203 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:44:38.32 ID:oTWJbR4y0
咄嗟にルビィが大きく体を捩ったのに驚いたのか、リングマの掴む力が一瞬緩む。
その隙にどうにか抜け出して、
こちらに向かって投げ飛ばされた、コランを全身でキャッチする。
ルビィ「ぴぎぃ!?」
とは言っても、実質岩の塊みたいなものだから、その勢いを殺しきれず、コランを抱きしめて、後ろにゴロゴロと転がる。
岩肌だらけの洞窟の地面を転がされ──
ルビィ「──い、いた……くない……?」
──たが、痛みはなかった。
全身擦り傷や切り傷、打ち傷だらけになると思っていたんだけど……。
気付くと周りにはオレンジ色の羽毛が敷き詰められていた。
「チャモォ」
ルビィ「も、もしかして……アチャモが助けてくれたの……?」
「チャモ!」
理亞「あんた何考えてんのよ!!」
ルビィ「ぴぎ!?」
アチャモと話していたら、すぐに理亞さんがルビィに駆け寄ってきて、大きな声をあげる。
理亞「飛んできたメレシー受け止めるとか、このポケモン岩の塊よ!? そのアチャモが“フェザーダンス”してなかったら、大怪我してたわよ!?」
ルビィ「ぅ、ぅゅ……」
確かに理亞さんの言う通り、ちょっと考えなしだったかもしれないけど……けど、
ルビィ「……この子はルビィのポケモンだから……」
「ピ…」
コランを強く抱きしめて、そう言った。
と言うか……なんでルビィこの人に叱られてるんだろう……。
理亞「……」
理亞さんは呆れたようにルビィを一瞥してから、今度はの方をヤミラミを見据える。
理亞「……んで、あいつ何? ここってメレシーしかいないんじゃないの?」
ルビィ「ヤミラミはメレシーの天敵なんです……メレシーを食べちゃうポケモン。メレシーがたくさんいる場所にはどうしても出てくるから、定期的にお母さんやお姉ちゃんが退治するんだけど……」
闇の先で依然カクカクと不気味な動きをしているヤミラミを見ていると、
ルビィ「あれ……?」
違和感に気付く。
ルビィ「あのヤミラミ……胸の宝石が……透明だ……」
本来赤いはずのヤミラミの胸の宝石が、透明。あの輝きは恐らく、
ルビィ「ダイヤモンド…………もしかして」
204 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:46:27.58 ID:oTWJbR4y0
ルビィは上下左右を見回す。
ヤミラミに驚いたメレシーたちが、“一種類だけ欠けた”玉虫色の宝石たちがもぞもぞと動いている。
理亞「なに?」
ルビィ「ダイヤモンドのメレシーが居ない……」
投げ飛ばされたコラン──真っ赤な宝石を持ったメレシー。
どこを見回しても、姿が見えない、ダイヤモンドタイプの宝石を持ったメレシー。
そして、奇怪なことにダイヤモンドを胸に携えたヤミラミ。
先ほどの違和感の正体が確信に変わる。
ルビィ「……た、食べたんだ……」
理亞「え?」
ルビィ「……あのヤミラミが……ダイヤモンドタイプのメレシーたちを……選んで食べたんだ……」
理亞「……な!?」
ルビィは図鑑を開いた。
さっき研究所で操作して試したように、ヤミラミのデータを表示する。
『ヤミラミ くらやみポケモン 高さ0.5m 重さ11.0kg
硬いツメで 土を 掘り 太い キバで 宝石を
バリバリかじる。 石に 含まれた 成分は 結晶となり
体の 表面に 浮かび上がってくる。 メレシーが 好物。』
「ヤミ…」
ここには獲物がいないと気付いたのか、ヤミラミはその身を再び闇の中に隠そうとゆっくり洞窟の奥へと歩き出す。
ルビィ「に、逃げちゃう……!!」
理由はわからないけど、執拗なまでにダイヤモンドタイプのメレシーに拘って襲っている、逃がしたらまたその子たちが捕まって食べられてしまう。
理亞「マニューラ!!」
そう思った瞬間、
理亞さんの元から、何かが高速で飛び出した。
理亞「“おいうち”!!」
「マニュ!!」
さっき、ルビィの首筋に鉤爪を立てていたポケモンだと気付いた頃には、
「ヤミィ!?」
ヤミラミにその爪を引っ掛け、転倒させていた。
ルビィ「理亞さん!?」
理亞「……あいつ、メレシーのこと食べるんでしょ」
ルビィ「え、うん」
理亞「メレシーがいなくなるのは私も困るのよ」
ルビィ「え?」
理亞「だから、あいつは私にとっても敵よ」
這ってでも逃げようとするヤミラミに、理亞さんとマニューラは、
205 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:47:28.66 ID:oTWJbR4y0
理亞「マニューラ!! “つじぎり”!!」
「マニュ!!」
追撃を叩き込む。
「ヤミィ!!?」
理亞「“ダメおし”!!」
「マニュ!!」
さらにもう一発。
「ヤ、ヤミィ…」
ヤミラミが大人しくなると、理亞さんは近付いて、
空のボールを投げつけた。
──カツーンとモンスターボールが弾むときの特有の音が洞窟内に響き渡ったあと、それを拾い上げ、
理亞「捕獲完了……」
そう呟く。
ルビィ「……」
その光景を見てルビィは、ポカンとしてしまう。
理亞「──何?」
この人の目的はなんなんだろう?
ただの悪人だったら、なんでメレシーを助けるんだろう?
ルビィ「あなた……一体……」
理亞「……変なのが割り込んできたから、忘れてたけど、リングマ」
「グルゥゥ」
理亞さんが指示をすると再びリングマがノシノシと私に近付いてくる。
──そこでふと気付く。
理亞さんはルビィに祠の場所を案内させようとしている。
だけど、ルビィは答えないから拘束して虱潰しをしようという魂胆だ、
──ならこれはチャンスです。
ルビィ「アチャモ! 付いてきて!!」
「チャモッ」
理亞「なっ!?」
ルビィは踵を返して、洞窟の奥に走り出す。
それなら、リングマの手を離れたこの瞬間に逃げてしまうのがベストだ。
理亞「この入江に逃げ場なんてないでしょ……!!」
後方で理亞さんはそう言うけど、
ここはルビィにとっては庭のような場所です。
子供の頃から、コランと一緒に何度も通ってきた。
206 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:49:06.85 ID:oTWJbR4y0
ルビィ「確か、この辺だったら……あった!」
洞窟内部はこれくらい入口に近い場所だったら、それなりに覚えている。
すぐ近くにある狭い横穴を見つけ、体を潜り込ませる。
理亞「っ……! マニューラ!!」
「マニュッ!!!」
小さな横穴にはリングマでは入れないと咄嗟に判断したのか、身軽なマニューラで追跡を試みようとしてくる。
ルビィ「コラン! “リフレクター”!」
「ピピィ!!」
その入口を遮るように、物理攻撃を防ぐ壁を張る。
──ガッ、とマニューラの爪が突き刺さるが、
攻撃は抜けてこない……!
ルビィ「アチャモ! “ひのこ”!」
「チャッモッ!」
入口で立ち往生する、マニューラに向かって“ひのこ”を放つ。
「マニュッ…!!」
レベル差があるとは言え、完全に反撃不能な状態で攻撃されたら、少しは怯む。
ルビィ「今……!!」
そのまま、ルビィは体を滑らせるように横穴を中腰になったまま、出来る限りのスピードで走り出す。
この横穴は少し先に行くと開けた空間がある。更にその先は迷路みたいになっている、逃げるには打ってつけだ。
──このまま、完全に撒いてしまえば、どうにか──
理亞「──舐めんじゃないわよ……!!」
ルビィ「……!?」
背後から怒声が響いた。
理亞「マニューラ! “かわらわり”!!」
「マニュ!!!」
理亞さんの指示の声と共に──バリン、と薄い硝子が割れるような音がする。
ルビィ「リ、“リフレクター”が……!!」
奥の大部屋には出ることが出来たが、壁が割られてしまう。
早く次の通路まで──
理亞「リングマ!! “いわくだき”!!」
「グォォォォル!!!!」
そんな余裕を許さない、とでも言わんばかりに、背後の岩壁が激しく音を立てて、
ルビィ「ぴぎぃ!!?」
207 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:50:28.37 ID:oTWJbR4y0
リングマによって、殴り崩される。
──ガラガラと音を立てながら崩れ、大きな穴を空けた岩の先では、
理亞「…………」
理亞さんがこちらを睨み付けていた。
理亞「ザコの遊びに付き合ってる暇はないのよ……」
ルビィ「う、うゅ……」
理亞さんがこちらに向かって歩いてくる、
理亞「さっさと祠に案内しなさい……」
苛立ちの篭った声で言う。
──そのとき、
「──その必要はありませんわ」
理亞「!?」
ルビィ「この声……!!」
子供の頃から、ずっと傍で聞いてきた、安心する声が響き渡る。
次の瞬間──リングマが、
「ガゥゥ!!?」
一直線に飛んできた水流が直撃し、吹き飛ばされる。
理亞「……っ……“ハイドロポンプ”か……!」
“ハイドロポンプ”の飛んできた方向に目を配ると、
艶やかな黒髪を揺らして、毅然と立つ女性。
ダイヤ「ルビィを……返してもらいますわよ」
ルビィ「……お姉ちゃんっ!!」
ダイヤお姉ちゃんの横ではミロカロスが戦闘態勢に入っている。
ダイヤ「先ほどは、油断しました」
理亞「……っ」
ダイヤ「ここからは……手加減なしですわ」
お姉ちゃんがスッと空を切るように手を真っ直ぐ上に振り上げると、
──地が揺れ始める。
理亞「な、何……!?」
──理亞さんの驚きの声も束の間、
理亞さんの足元の岩石を砕いて、
鋼の蛇が、飛び出した、
208 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:52:04.97 ID:oTWJbR4y0
「ンネェェェェーーーール!!!!!!」
理亞「!?」
ダイヤ「ハガネール!! “かみくだく”!!」
理亞「オニゴーリ!!!」
「ゴォォーーーリ!!!!!!」
ハガネールの大きな顎が理亞さんに襲い掛かる、
理亞さんは咄嗟に腰のボールからオニゴーリを出して応戦する。
理亞「“こおりのキバ”!!」
「ゴォォリ!!!!!」
ハガネールの開いた下顎に噛み付く形で牙を立てる。
ダイヤ「ハガネール!! そのまま“たたきつける”!!」
「ガネェェェル!!!!」
声と共に、ハガネールが噛み付いたオニゴーリをそのまま地面に叩き付ける。
「ゴォォォーーリ!!!!」
──バキャリ、と言う岩が砕けるような音と共に、噛み付いた顎ごと噛み砕かれたオニゴーリが崩れ落ちた。
理亞「……っ」
ダイヤ「…………」
攫われたルビィが言うのもアレなんだけど……お姉ちゃん、相当怒ってる。
怒ったときのお姉ちゃんは見境がなくなる。
このままじゃ、巻き込まれちゃうかも……。
そのとき、背後から、
「ルビィちゃん!」
肩を叩かれる。
ルビィ「ぴぎ!?」
一瞬驚いて声をあげてしまうが、
花丸「オラだよっ!」
それは、花丸ちゃんだった。
ルビィ「は、花丸ちゃん!」
花丸「ダイヤさんに裏から回るように言われたずらっ 後はゴンベの“かぎわける”でルビィちゃんの匂いを辿って……」
「ゴン…」
ルビィ「そ、そうだ……ここにいるとお姉ちゃんの戦闘に巻き込まれちゃうから……!!」
花丸「うん! ここに来るまでの間、道標を撒いてきたから!」
ルビィ「みちしるべ……?」
言われて、花丸ちゃんの視線を追うと、
岩肌に突き刺さるように蔓を伸ばした植物がそこらじゅうに生えているのが目に入る。
209 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:53:14.13 ID:oTWJbR4y0
ルビィ「え!? あ、あれどうしたの?」
花丸「ナエトルの“やどりぎのタネ”ずら!」
「ナエー」
場にそぐわない間の抜ける声が足元から聴こえる。
花丸「このまま、裏道を使って脱出しよっ」
そう言って花丸ちゃんがルビィの手を引く。
ルビィ「う、うん!!」
釣られてルビィも走り出す、最中
ルビィ「…………」
お姉ちゃんと戦う、理亞さんのことが何故だか、気になっていた。
メレシーやルビィたちを気にかけてくれる……悪い人のはずなのに、優しい人。
後でちゃんと──なんでこんなことをしたのか、理由が聞けたらいいな。
* * *
目の前の少女──先ほどしていたマスクを外してしまっているので、外見は多少違いますが、
服装が同じですし、何より状況証拠から、ルビィを攫った犯人だと断定できる。
理亞「マニューラ──」
ダイヤ「ハガネール!! “アイアンテール”!!」
「ンネェーーール!!!!」
その長い体躯を振り回すように動き出す前にマニューラに鋼鉄の一撃を食らわせる。
「ンマニュッ!!!!」
理亞「マニューラ!! ……っく」
目の前で戦闘不能になったマニューラをボールに戻している、少女に向かって声を掛ける。
ダイヤ「……今回わたくし相当頭に来ていますの……」
理亞「……クロサワの人間なのに、こんなに派手に入江ぶっ壊していいのかしら……?」
ダイヤ「人の妹を拐かし、それだけでは飽き足らず人様の庭を土足で踏み荒らしている人間に言われたくありませんわ」
理亞「…………」
ダイヤ「今更降伏など受け入れるつもりもないのですが……もう打つ手もないでしょう?」
マニューラ、リングマ、オニゴーリ戦闘不能。
逃げ道を作らないように彼女の周りをハガネールがその長い体躯で取り囲んでいる。
理亞「……ふふ、流石ジムリーダーね」
ダイヤ「……ハガネール、“ジャイロボール”!!」
「ガネェーール!!!!」
210 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:54:41.83 ID:oTWJbR4y0
最後の一撃を加えるために、ハガネールが全身の節を高速回転し始める。
理亞「──これは奥の手だったんだけど」
そのとき、目の前の少女はそう呟いた。
「ガネェェェーーーール!!!!!」
そのままハガネールが高速回転した頭で飛び込んでいく。
──瞬間。
彼女の腕に装備されたアクセサリーのようなものが七色の光りを発した。
ダイヤ「!! ……一筋縄ではいきませんわね」
「ガ、ネェ…!!!」
その光りが晴れると、そこには全身の節を凍らされ、回転を無理やり止められたハガネールの姿。
そして──
「ゴォォォォォオオオオオリ!!!!!!」
大きな顎を一際大きく空けた、オニゴーリが──
いや、メガオニゴーリが──!!
ダイヤ「メガシンカ……!」
理亞「オニゴーリ!!!」
「ゴォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!」
理亞「“だいばくはつ”!!!!!」
ダイヤ「…………!!!」
特性“フリーズスキン”により強力な冷気を纏って周り全てを吹き飛ばす破砕の一撃、
加速度的に膨張する冷気が、冷波となって襲い掛かってくる。
ダイヤ「っ!!」
咄嗟に顔を庇う。
──腕が足が、冷爆風とでも言えばいいのか、自分の体を凍りつかせていく、
その横を──
紫色の影が飛翔しながら通り過ぎる、
ダイヤ「!! お待ちなさいっ!!」
音速で飛び荒ぶ影は、更に爆風を“おいかぜ”にして、爆発的に加速し、飛び去っていった。
ダイヤ「…………」
気付けば洞窟内の灰色の岩肌は、霜によって白くなり。
すぐ目の前で爆風を受けたハガネールは凍ったまま横たわっていた。
案の定、その場には先ほどの少女の姿はなく、オニゴーリ、リングマを回収したのち、クロバットで逃走を測ったのだとわかる。
ダイヤ「……そうですわ、ルビィと花丸さんは……!?」
211 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:55:50.13 ID:oTWJbR4y0
先に脱出する手筈になっていた、もし脱出中のところを追いつかれていたら──
わたくしはすぐさま、入江の入口に走ろうとして、
「お、お姉ちゃーん!?」
声が聴こえて安堵する。
洞窟内を反響して、声が聴こえてくる。
キョロキョロと声がする方を探す形で見回すと、
花丸「ダ、ダイヤさん……」
花丸さんが洞窟内の通路から顔を出しているのが目に入る。
花丸「大きな音がして……壁が凍りだしたから、隠れてたずら……」
ダイヤ「その判断で正解ですわ。ありがとう……花丸さん」
花丸さんに礼を言った直後、
ルビィ「お姉ちゃん……!!」
ダイヤ「ルビィ……!!」
ルビィがわたくしの胸に飛び込んでくる。
ダイヤ「ルビィ……よかった……よく頑張ったわね……」
ルビィ「お姉ちゃん……っ……」
ルビィの頭を撫でながら、どうにか妹を無事、救出出来たことに胸を撫で下ろすのでした。
* * *
ダイヤ「クロサワの入江は当分は完全封鎖。今回の件に関しては……自己評価としては30点と言ったところね……」
鞠莉「それはStrictだネ……」
ダイヤ「ルビィは救出出来ましたが……犯人には逃げられてしまいましたし……」
鞠莉「でも、顔は見たんでしょ?」
ダイヤ「ええ、まあ……」
鞠莉「完璧じゃなかった、かもしれないけれど……ルビィが無事で何よりだったと思うわ」
ダイヤ「そう……ですわね」
鞠莉さんの言葉に同意しながらも、犯人を取り逃がしてしまったことを後悔している自分がいる。
鞠莉「ルビィの証言から、犯人の名前は理亞って言うこともわかったし……警察の方で指名手配になると思うから」
今現在、鞠莉さんは戻ってきたルビィから事情を軽く聞いて、警察へ提出するための情報を整理している。
わたくしもそれを一緒に手伝っていたら、もう日も暮れる時間になっていた。
212 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:57:25.07 ID:oTWJbR4y0
ダイヤ「そういえば、鞠莉さん」
鞠莉「What ? 」
ダイヤ「聖良さんはもう帰られたのですか?」
鞠莉「ええ……一通り落ち着いたところで帰ってもらったわ。軽く警察が事情聴取はしたけど……聖良はたまたま居合わせただけだし……」
ダイヤ「……そうですか」
鞠莉「ねぇ、ダイヤ……ルビィのことなんだけど……」
ダイヤ「……たぶん、同じことを考えていると思いますわ」
鞠莉「そ……なら、今回の旅立ちは当分先送りね……。しばらくは、ダイヤの目の届く場所で──」
残念ですが、こんな事態が起こってまで旅に出すわけには行かない、
と、思った矢先。
ルビィ「ま、待ってくださいっ!」
部屋に響くルビィの声。
ダイヤ「ルビィ!? 今は隣の部屋で大人しくしてなさいと……!!」
ルビィ「ルビィ、旅に出たい……!!」
ダイヤ「!? な、何を言ってるのですか!! あんなことがあった後なのですわよ!?」
ルビィの言葉を聞いて、わたくしは思わず強い語調で捲くし立ててしまう。
ダイヤ「貴方は当分は此方で……」
鞠莉「ダイヤ、落ち着いて。ルビィの意見も聞きましょう?」
ダイヤ「…………っ」
鞠莉「ルビィ、どうして旅に出たいの? ダイヤやわたしが止める理由は……言わなくてもわかるわよね?」
ルビィ「……研究所も入江も、こんなことになっちゃったのはルビィの所為だと思うんです……」
ダイヤ「ち、違いますわ! これはルビィのせいでは……!!」
ルビィ「聞いて、お姉ちゃん……」
ダイヤ「…………」
ルビィ「理亞さんの目的は……ルビィに入江の中を案内させることだったから……。ここにいたら、また襲いに来るだけだと思うんです」
ダイヤ「それは……」
ルビィ「だから、ルビィはここに留まるより、移動していた方がいいと思う……それにね」
鞠莉「それに……?」
ルビィ「祠を案内するだけなら、ルビィじゃなくても出来る人がいます……お姉ちゃんもお母さんも……それなのにルビィが攫われたのはルビィが弱かったからだと思うんです……」
ダイヤ「ルビィ……」
ルビィ「旅をしていれば……少しは強くなれると思う、だから、だからね……!!」
ダイヤ「……。……わかりました」
ルビィ「い、いいの……?」
……まさか了承してくれるなどと思ってなかったとでも言わんばかりの表情でルビィが確認をしてくる。
ダイヤ「但し、いろいろと準備が御座いますので、出発は明日以降で宜しいですか?」
ルビィ「う、うん! わかった!」
ルビィはぱぁっと明るい顔になり、嬉しそうにその場を後にした。
213 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:58:46.44 ID:oTWJbR4y0
鞠莉「ダイヤ……いいの?」
ルビィが去った後、鞠莉さんがわたくしに問うてくる。
ダイヤ「……敵方の目的がはっきりしている以上、クロサワの入江が近くにある、ここに留まるのも危険、と言うのは一理ありますし……。それに……」
鞠莉「それに……?」
ダイヤ「昨日まで、あんなに旅立つことに消極的だった、妹の決意を無碍にするのは……」
鞠莉「……そう、わかった」
もちろん今日のことも含め、お母様に報告・了解を得ないといけない。
わたくしは妹の願いを叶えるために、明日の準備を始めるとしましょう──。
* * *
花丸「ルビィちゃん、どうだった……?」
ルビィ「あ、うん。お姉ちゃんには許可貰えたよ!」
花丸「ホントに!?」
ルビィ「うん! 明日までは待ってって話だったけど……」
花丸「じゃあ、マルもそのときにルビィちゃんと一緒に行くね!」
ルビィ「ホントに!?」
花丸「うん! というか、実は最初からマルはルビィちゃんと一緒に旅したいなって思ってたし……えへへ」
ルビィ「えへへ、実を言うとルビィも……」
花丸ちゃんと明日のことを話しながらも、ルビィの中ではあることが引っかかっていた。
──理亞さんの言った言葉。
理亞『メレシーがいなくなるのは私も困るのよ』
あの言葉の真意はなんなのか。
悪い人だとは思うんだけど……ただの悪い人とは少し違う気がする。
ルビィは理亞さんにちゃんとお話を聞かないといけない気がする。
そのために、旅の中で強くなるんだ……アチャモとコランと一緒に……。
214 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/01(水) 23:59:13.06 ID:oTWJbR4y0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【オハラ研究所】
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主人公 ルビィ
手持ち アチャモ♂ Lv.7 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
メレシー Lv.7 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:18匹 捕まえた数:2匹
主人公 花丸
手持ち ナエトル♂ Lv.5 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
ゴンベ♂ Lv.5 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:17匹 捕まえた数:2匹
ルビィと 花丸は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
217 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:14:36.82 ID:bTwUl7S20
■Chapter017 『グレイブ団』 【SIDE Chika】
メテノ騒動の翌日。
ホシゾラ天文台に泊まった私たちは、朝一番最初のロープウェイで下山し、
千歌「それじゃ、凛さん! ありがとうございました!」
ホシゾラシティを発つところ。
凛「こちらこそ、ありがとね千歌ちゃん!」
凛さんはニコニコと笑いながら御礼を言うが、その目の下にはうっすらと隈が見える。
今朝はチカたちよりも早く起きていたし……もしかしたら、徹夜明けなのかもしれない。
凛「ホシゾラの近くに寄ったらまた星を見に来てね!」
「~~~」
そう言って手を振る凛さん。そして、一緒に戦ったメテノがチカチカと光る。
千歌「はい! また来ます! メテノも、元気でね!」
凛「またねー」
「~~~」
凛さんたちに見送られながら、私たちはホシゾラシティを後にします。
千歌「……よし、じゃあ行こうか!」
「マグ」「ワフッ」「ピィー」
マグマラシ、しいたけ、ムクバードと一緒に再び旅路を歩き出しました。
* * *
──コメコの森。
ロープウェイで降りる最中、凛さんがいろいろ教えてくれたんだけど、オトノキ地方南部に所在する、オトノキ地方最大の森林地帯がこのコメコの森です。
とはいっても、鬱蒼とした森と言う程でもなく、森の木々からは木漏れ日が差し込んでいて視界も良好。
道も森と言う割に歩きやすくて、
千歌「これなら、ホントにお昼前には抜けられちゃいそうだね」
「マグ」
私がそう言うと、足元をトコトコと歩くマグマラシが相槌を打つ。
道中には森特有のくさポケモンやむしポケモンが飛び出してきたけど、
「ピピィー」
やや先の方を旋回して飛ぶひこうタイプのムクバードと、ほのおタイプのマグマラシのお陰で難なく進めています。
ただ──
千歌「相変わらず、みんな加減苦手だよね……」
「マグ?」「ピィ?」
218 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:16:33.06 ID:bTwUl7S20
飛び出してきたクルミルやスボミーと言ったポケモンたちは一撃で撃退してしまうため、やっぱりここでも捕獲が捗らない。
千歌「そろそろ新しい仲間が欲しいんだけどなぁ……」
曜ちゃんだったら、簡単に捕獲しちゃうんだろうけど……。
やっぱりチカは捕獲が苦手みたい。
「ワフッ」
千歌「ん、どしたの、しいたけ?」
私の横をのそのそと歩くしいたけが軽く吼えたため、足を止める。
「ワフ」
しいたけは少し道から外れた森の奥を見つめていた。
──そこには大きな岩が鎮座していた。
千歌「うわ……おっきな岩……」
その岩は表面がコケに覆われていて 触るとなんとなく気持ちいい感じがします。
「ワフ」
しいたけはどうやらこの岩が気になるみたい。
千歌「あれ?」
なんとなく岩の周りを確認していると、たくさんのくさポケモンが集まっていることに気付く。
先ほども見かけたスボミーを始め、キノココ、タネボー、チェリンボ、チュリネ、ナゾノクサと言った小型のくさタイプのポケモンが岩の周りでお昼寝をしている。
千歌「くさタイプのポケモンの休憩所みたいな感じなのかな?」
「ワン」
野生のポケモンだけど、敵意などは全く感じられずほんわかとした雰囲気。
千歌「……新しい仲間は欲しいけど、ここは戦う感じの場所じゃないね」
「ワフ」「マグ」 「ピピ?」
しいたけ、マグマラシが相槌を打ち、少し離れた場所を飛んでいたムクバードが私の肩に留まりながら、首を傾げた。
千歌「んー……」
私はなんとなく胸いっぱいに空気を吸い込みながら身体を伸ばす。
森林浴ってこういう感じなのかな。なんだか気持ちがいい。
千歌「ちょっと、休憩にしよっか」
そういって大きな岩を背もたれに腰を降ろして、リュックを漁る。
千歌「ふふふ~ ホシゾラシティ名物スターシュガーだよ! 皆で食べよっか」
「マグッ!」「ピピィッ」「ワフ」
219 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:18:36.58 ID:bTwUl7S20
スターシュガー……まあ、いわゆるコンペイトウだけど、
ホシゾラシティでは星にちなんだお菓子として、いろんなところでカラフルなコンペイトが売っていたので、おやつにと思って買っていたのです。
袋から小さめのお皿に出してあげて、3匹はそれを身を寄せ合って食べている。
私も星型の砂糖のお菓子を口に放り込む。
千歌「甘い」
朝からずっと歩いていたせいか、甘さが身体に染みる。
千歌「おいしぃ……」
幸せの味がする……。
森の木々が風にそよいでかさかさと葉っぱ揺れる音が絶え間なく鳴り続け、高い木の上からは鳥ポケモンたちの鳴き声が微かに響いてくる。
森林浴を満喫しながら、ぼんやりと視線を泳がせいると……。
千歌「……ん?」
少し離れたところで、何かが集団で漂っているのが目に入ってくる。
白とピンク、黄緑もいる……ポケモン?
私はポケモン図鑑を取り出した。
『モンメン わたたまポケモン 高さ:0.3m 重さ:0.6kg
風に 吹かれて 気ままに 移動する。 集団で いると
落ち着くのか 仲間を みつけると くっついて いつも間にか
雲のように なる。 身体の ワタは 何度も 生え変わる。』
『ハネッコ わたくさポケモン 高さ:0.4m 重さ:0.5kg
とても 身体が 軽く そよ風が 吹いただけで ふわふわと
浮かんでしまう。 風に 乗って 漂う ハネッコが 野山に
集まりだすと 春が 訪れると 言われている。』
『ポポッコ わたくさポケモン 高さ:0.6m 重さ1.0kg
太陽の 光を 浴びるため 花びらを 広げるだけでなく
近付こうと 空に 浮かんでしまう。 温度に より 花の
開き方が 変わるので 温度計の 代わりを することもある。』
どうやら体重の軽いくさタイプのポケモンたちが集団で漂っているようだ。
千歌「何かあるのかな……?」
ハネッコやモンメンたちが流れてくる風上の方向に目をやると、
千歌「あれ……?」
なんだか見覚えのある光が、森の影の中で光っている。
チカチカと力なく光る、ソレは──
千歌「メテノ……?」
コアをむき出しにし、力なく漂うメテノだった。
* * *
220 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:21:06.48 ID:bTwUl7S20
昨日、音ノ木から落ちてきたメテノの一部かもしれない。
私はリュックを背負うと、森の奥に弱々しく逃げていくメテノを駆け足で追う。
千歌「っは……!! っは……!!」
歩きやすい道から外れたため、木の根っこや地面の凸凹に足を取られ、少し走りづらいが、
それでも弱ったメテノを追うには十分で、
千歌「こ、これなら追いつける……!!」
「マグッ」
手持ちたちと共にメテノに迫る。
──その次の瞬間。
後ろから私の顔を掠めるように、虹色の光線が一閃し、
千歌「!?」
「~~~!!?」
メテノを撃ち落した。
千歌「な、なに!?」
「ワフッ!!!!」
しいたけが身構えているのがわかる。私もすぐさま振り返り、光線の出元を見やると、
森の影で、頭の上に水晶玉みたいなものを乗っけた豚が跳ねていた。
咄嗟に図鑑を開いて正体を確認する。
『バネブー とびはねポケモン 高さ:0.7m 重さ:30.6kg
尻尾を バネがわりに して 飛び跳ねることで 心臓を
動かしているため 止まると 死んでしまう。 頭に
乗せていてる パールルの 真珠が サイコパワーの 源だ。』
どうやら、あのバネブーが攻撃したようだ。
その少し後方に、木に半身を隠した人間の姿が見える。
千歌「今のあなたが攻撃したんですか!?」
大きな声で訊ねると、
「……ちっ」
少し離れているため、わかりづらかったけど、たぶん舌打ちをされた。
千歌「……なに?」
チラリとメテノを見ると、飛ぶ体力も残ってないのか、とうとう地面に墜落して、力なく点滅している。
……とりあえず、ボールに入れないと。
私はバネブーの方向にも警戒しながら、半身を捩ってモンスターボールをメテノに向かって投げる。
──その瞬間、
221 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:22:59.51 ID:bTwUl7S20
トレーナー「バネブー! “サイケこうせん”!!」
「ブーー」
命令と共に七色の光線が飛び出して、私の投げたボールを弾き飛ばす。
千歌「! さっきメテノを攻撃したのと同じ技……!!」
トレーナー「そのポケモンは私が先に見つけたんだけど、横取りしないで貰える?」
バネブーのトレーナーが私に向かって、そう言葉をぶつけてくる。
千歌「じゃあ、早く捕獲してください! このままじゃメテノが死んじゃいます!!」
トレーナー「死ぬ? 別にいいけれど」
千歌「……なっ!!」
トレーナー「我々の目的は、メテノじゃなくて、そのポケモンの持ってる“ほしのかけら”だ」
トレーナーはそう言いながら、私に冷たい視線を送ってくる。
千歌「我々……?」
その不可思議な物言いに、トレーナーをよく観察してみると。
若い女性で、髪を薄紫の帽子の中に纏めている。
服は襟付きで帽子と同じ色のパンツルックを身に纏っていた。
……なんというか、色は少し目に痛いけど、その姿は、会社員……ううん、兵隊さん? のような印象を受ける。
胸には墓石……のようなシンボルの上にGと言うアルファベットがあしらわれたワッペン。
何かの団体なのかもしれない。
千歌「……」
トレーナー「さぁ、お嬢さん。わかったら、どいてもらっていい?」
高圧的な物言い。
千歌「……」
私はずり……っと、半歩後ろに足を下げてから、
千歌「ムクバード!! “すなかけ”!!」
「ピピィィィ!!!」
低空を羽ばたいてたムクバードが私の前に躍り出て、翼で起こした風によって砂を巻き上げる。
トレーナー「!?」
目の前のトレーナーがそれに怯んだ瞬間に、私は身を翻してポケモンたちと一緒にメテノの方へと走り出す。
千歌「しいたけ!!」
「ワフッ!!」
合図と共に、床に転がるメテノをしいたけが口に咥えて持ち上げる。
トレーナー「あくまで我々グレイブ団の邪魔をする気か……!!」
立ち込める砂の向こうからそんな声がする。
222 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:24:43.14 ID:bTwUl7S20
グレイブ団下っ端「バネブー! “パワージェム”!!」
砂の向こうから、光る石礫が飛んでくる。
千歌「わわっ!?」
「ピピッ!!」
あてずっぽうな攻撃であったが、無造作に飛んでくる石の一つがムクバードを掠める。
千歌「ムクバード、だいじょぶっ!?」
「ピピィ~…!!」
掠っただけなので大きなダメージではなかったようだが、いわタイプの技はこうかはばつぐんだ。
千歌「戻って!」
走りながらムクバードをボールに戻す、
そのとき──
千歌「──った!?」
身体が宙に浮く。
空を飛ぶムクバードに視線を向けていたため、足元への注意が疎かになっていた。
木の根っこに躓いたんだと気付いたときには、身体は既に前のめりに地面に転んでいた。
千歌「……いつつ……」
グレイブ団下っ端「バネブー! “じんつうりき”!」
「マグッ」
転んだ私のすぐ傍を吹き飛ばされたマグマラシが横切る。
千歌「! マグマラシ!」
グレイブ団下っ端「子供は黙って大人の言うことに従っていればいいのにね……我々に逆らった報いを受けてもらおうかしら」
もうもうと立ち込める砂煙の先から、声がする。
千歌「……」
私は体勢を立て直しながら、考える。
たぶんだけど……この人たちは、この弱ったメテノそのものが目的じゃないと言っていたし、ここで道を通しても助けたりしないと思う。
……逃げる余裕はない。
そうなると、
千歌「倒すしかない……」
手持ちは手負いのムクバード。
マグマラシは“じんつうりき”が直撃し、吹き飛ばされたまま木の下で蹲っている。
恐らく戦闘不能。
千歌「……」
そうなると残っているのはトリミアンのしいたけだけだ。
223 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:25:51.46 ID:bTwUl7S20
千歌「しいたけ……」
「ウォフ」
私は傍に居た、しいたけから口に咥えられたメテノを、受け取って胸に抱き寄せる。
そのまま、流れるように
千歌「いけっ!! しいたけ!!」
「ワフッッ!!!」
しいたけが飛び出す。
グレイブ団下っ端「なに!? “サイコショック”!!」
突然飛び出した、しいたけに動揺したのか、相手のトレーナーは咄嗟に攻撃を撃って来る、が
「ワォォォ!!!」
鳴き声を挙げて、勢い良く突撃するしいたけは全く怯まない。
そのままバネブーを至近距離に捉え、
千歌「しいたけ!! “かたきうち”!!」
「ワォォォ!!!」
マグマラシの、仲間の“かたきうち”、
全身全霊のパワーを込めて、突進する。
「ブブーー!?!?」
バネブーはしいたけに撥ね飛ばされて、
「ブブゥ…」
バネブーは少し離れたところに落ちた後、気絶した。
グレイブ団下っ端「……こ、こんな子供に……」
千歌「……」
私が軽く睨むと、
グレイブ団下っ端「……お、覚えてなさい」
バネブーをボールに戻しながら、そう捨て台詞を吐いたあと、そのトレーナーは逃げていきました。
千歌「はぁ……か、勝った……」
トレーナーがいなくなったのを確認して、安堵する。
どうやら相手の手持ちはバネブーだけだったようだ。
他にも居たらどうなっていたか……。
と、考えを廻らせてから、思い出す。
千歌「……そうだ、メテノ!」
胸に抱いたメテノを見ると、より一層点滅が弱くなっていた。
224 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:27:02.49 ID:bTwUl7S20
千歌「ボ、ボール!!」
慌てて、バッグから空のボールを取り出して、抱えていたメテノを捕獲する。
……これでひとまずは安心かな。
「ワフ」
気付くと、しいたけが私の近くに戻ってきていた。
長年の付き合いのせいか、その鳴き声だけで、しいたけが早く森を抜けることを促しているのがわかるような気がして、
千歌「……うん、森早く抜けちゃおうか」
私はそう答える。
木の根っこ辺りで倒れているマグマラシをボールに戻しながら、
千歌「早くポケモンセンターにいかないとね」
「ワォ」
満身創痍な手持ちたちを回復させるために、しいたけと歩き出しました。
千歌「……そういえば、あの人グレイブ団って言ってたよね」
「ワォ?」
団ってことは……他にも同じような人がいるってことだよね……。
──私はなんだか得も言われぬ不安を胸に抱きながら、コメコの森を抜けるのでした。
225 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 01:28:18.41 ID:bTwUl7S20
>レポート
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【コメコのもり】
口================= 口
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主人公 千歌
手持ち マグマラシ♂ Lv.18 特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
トリミアン♀ Lv.19 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
ムクバード♂ Lv.16 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:7匹
千歌は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
226 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 10:57:44.90 ID:bTwUl7S20
■Chapter018 『ポケモンコンテスト』 【SIDE You】
「ミャァミャァ」
──キャモメの声が聴こえる。
曜「ん……んぅ……」
果南「あ、曜。おはよ」
曜「果南ちゃん……おはよう」
目が覚めると、夜が開け朝日がこちらに向かって主張してきている。
果南「足の調子、どう?」
曜「えっと……」
果南ちゃんに訊ねられて、足を軽く動かしてみる。
痛みはほとんどない。
曜「だいぶよくなったみたい」
果南「それはよかった」
果南ちゃんはそう言いながら、優しく笑う。
果南「次の目的地も見えてきたし、またすぐ旅に戻れそうだね」
曜「次の目的地?」
果南ちゃんの言葉に反応して、彼女の視界の先を見ると、
曜「……島だ」
果南「あれが13番水道の先にある、フソウ島だよ」
新たな町が見えてきていた。
* * *
──フソウタウン。
さっき果南ちゃんが言っていたとおり、13番水道の先にある島の上の町だ。
曜「島なのに、アワシマとは大違いだね」
船着場にギャラドスを着けて貰って、降り立った私はそこに広がる活気に目を白黒させる。
港から、すぐに市場が広がり、まだ朝方だと言うのに、漁師や船乗りの人達が海沿いの道を行ったり来たりしている。
227 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 10:59:37.28 ID:bTwUl7S20
果南「魚市場は朝が勝負だからね。それにこの島自体はリゾート地だから、内地の方に進んでもそれなりに賑わいがあるよ」
曜「リゾート地……! 楽しそう!」
果南「それはいいけど、曜はまず病院」
曜「ん、いや、もう大丈夫だよ! 一人で歩けるし!」
果南「ダメ」
はしゃいで飛び出す私は服の襟首を掴まれ、
曜「ぐぇっ」
喉が絞まって、変な声を出してしまう。
果南「全く、千歌じゃないんだから……毒もまだ応急手当てしただけなんだよ?」
そう言いながら果南ちゃんは私をずるずると引き摺っていく。
曜「か、果南ちゃん……一人で歩けるから……」
果南「そ? じゃあ、ちゃんと歩いて病院行く。いいね?」
曜「は、はーい……」
気を取り直して、果南ちゃんと一緒に町の方へと歩き出す。
曜「……そういえばさ」
果南「ん?」
曜「果南ちゃんもここに用事があったの?」
果南「ああ、もともと目的があったわけじゃないけど……こいつをね」
果南ちゃんはそう言って腰につけたダイブボールを手に持って、私に見せる。
僅かに透けて見えるボールの中には、
曜「……ドヒドイデ」
私が戦って、勝てなかったドヒドイデが居た。
果南「明らかに普通の野生の強さじゃないからね。報告の意味も込めて、協会に送るつもりだから、ポケモンセンターに行こうかなって」
曜「協会?」
私は首を傾げる。
果南「リーグ協会のことだよ」
曜「リーグ協会って……確かポケモンリーグとか運営してる団体だっけ」
前に学校で習った気がする。確かジムリーダーは協会に所属している人間なんだっけ。
曜「果南ちゃんって、リーグ協会の人なの?」
果南「いや、違うよ~」
曜「でも、報告はするんだ」
果南「知り合いが協会の割と偉い人でね。その人に地方内で何か異常なことがあったら教えて欲しいって頼まれてるんだ」
曜「なるほど……」
果南「ポケモンセンターには人用の病院も併設されてるから、目的地は一緒ってこと」
228 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:01:10.54 ID:bTwUl7S20
果南ちゃんは自慢のポニーテールを揺らしながら、そう言う。
港沿いの魚市場を抜けて、そろそろ町が見えてこようとしている。
曜「そういえば、果南ちゃんって今何してるの? 人を探してる……とか言ってたっけ?」
なんか、うろ覚えだけど、何故か海に潜って人を探してた気がする。
果南「何って言われると、返答に困るなぁ……。まあ、現在進行形なのは人探しかな」
曜「どんな人なの?」
果南「……どんな人……一言で言うなら、めちゃくちゃ強いトレーナーかな」
曜「そうなんだ……? 会ってどうするの?」
果南「戦って、勝つ」
曜「ふーん……?」
そういえば果南ちゃんは昔からポケモンバトルが好きな人だった気がする。
強敵を探して地方中を旅してるってことは、それは今でも健在ということだろう。
果南「ま、これは完全に個人的な理由で探してるだけだから、そんなに深い話ではないよ」
曜「そう……?」
果南「それより、ほら。ポケモンセンター、見えてきたよ」
促されて、視線を向けると、ポケモンセンター特有の赤い屋根の建物が見えてきた。
* * *
ジョーイ「おまちどおさま! お預かりしたポケモンは、皆元気になりました!」
曜「ありがとうございます!」
ジョーイ「あなたのケガも問題ないですよ。応急処置がよかったみたいですね」
ポケモンセンターにポケモンを預けた後、病院で足を見てもらい、お墨付きを貰う。
曜「応急処置がよかったってさ」
果南「応急処置って言っても、どくけし使っただけだけどね」
ジョーイ「全身に毒が回る前に使ったのが幸を成したんだと思いますよ」
果南「まあ、そういうことなら、私の勘は間違ってなかったってことかな」
ジョーイ「ただ、次からは出来ればポケモン用じゃなくて、人間用の薬で消毒・解毒してくださいね」
果南「うへぇ……そうします」
曜「それじゃ、ありがとうございました!」
ジョーイ「またいつでも、ご利用くださいませ!」
ジョーイさんに注意され、複雑そうな顔をしている果南ちゃんと一緒にポケモンセンターの外に出る。
時刻は昼前でご機嫌な太陽が私たちを照らしつける。
果南「さて……」
229 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:04:11.21 ID:bTwUl7S20
果南ちゃんが切り出す。
果南「曜はこのあとどうするの?」
曜「うーん……島を見て周りたいかなって思うけど……」
果南「……けど?」
何気なく腰のボールに触れる。
その仕草を見て果南ちゃんは察したのか、
果南「……当分はバトルは避けたい感じ?」
曜「あはは……うん」
そう言う、果南ちゃん。先日の戦いでいたずらに手持ちを傷つけてしまったためか、またすぐに冒険の旅に繰り出す気にはならなかった。
果南「一緒に行動してあげたいのは山々なんだけど……私も頼まれごとがあるからなぁ……」
曜「あ、いいよ! 大丈夫! ポケモンたちと一緒にフソウタウンの観光してるからさ!」
果南ちゃんにこれ以上迷惑掛けるわけにもいかないし。
曜「この街、リゾート地なんでしょ? 見る場所いっぱいありそうだもん!」
恐らく繁華街なのであろう、島の奥地は日も高くなってきたためか、賑わいを見せ始めている。
果南「そう? ごめんね」
私が気遣ってそう言ってることもバレてるのか、果南ちゃんに謝られる。
しばらく会ってなかったとは言え、伊達に幼馴染ではないということだろう。
果南「何かあったら、遠慮せずにポケギアに連絡するんだよ?」
曜「うん、ありがとう」
果南「それじゃ、またね」
果南ちゃんはそう言って、再び港の方向へと足を向ける。
果南「……あ、そうだ」
──と、思ったら、何かを思い出したかのように振り返り、
曜「?」
果南「もし、今バトルをする気分になれないならさ」
曜「うん」
果南「この街にはうってつけの場所があるから、そこに行ってみるといいかもよ」
曜「うってつけの場所……?」
果南「ちょうど今日が上のランクの開催日だったと思うし。繁華街の先にあるから、興味があったら見に行ってごらん」
曜「う、うん?」
* * *
230 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:06:10.62 ID:bTwUl7S20
進むにつれて、数を増す人混みの中、
果南ちゃんの言った通り、繁華街を抜けた先に“ソレ”はあった。
曜「……うわぁ……!!」
絢爛豪華な装飾を施されたドーム状の建造物。
建物の近くには看板が置いてあり、私は思わず一人でそれを口に出して読み上げてしまう。
曜「ここが……ポケモンコンテスト会場……!」
──バトルをする気分じゃないときに来るにはうってつけの場所。
あたりを見回すと、トレーナーと一緒にキュウコンやドレディアと言った見栄えするポケモンたちが闊歩している。
……あ、この場合はトレーナーじゃなくて、コーディネーターって言うんだっけ?
曜「とにかく中に入ってみよう……!」
自動ドアから会場内に足を踏み入れると、
曜「わぁ……!!」
再び感嘆の声が漏れる。
落ち着いたオレンジ色の照明に照らされた、華美な装飾たちが会場内を彩っている。
内装を見渡すと、高いところに額縁が飾ってあり、そこにはチョウチョのようなポケモンが描かれている。
その絵に描かれたポケモンは小さな胴体のレース状の衣装を身に纏っているように見える。
曜「さすがに最初から服着てるわけじゃないよね……? ……あの服、自分で作ったのかな?」
エントランスでポカンと口を開けて、圧倒されていると──
「ごめんなさい、通してもらっていいかしら?」
後ろから声を掛けられる。
その声で我に返り、入口を塞いでしまっていたことに気付く。
曜「あ、ご、ごめんなさい! ……あんまりに豪華な内装にびっくりしちゃって」
私は横にずれて入口を開けながら、頭を下げる。
女の人「ふふ、そうでしょ~? なんせ、ここフソウ会場は地方最大のコンテスト会場だもの」
曜「そうなんですか……?」
私が顔を上げると、そこにはゆるふわロングなブラウンヘアー、加えてサングラスとマスクをつけた女性が一人。
変装……? ……有名人か誰かなのかな……?
女の人「あら~その反応……もしかして、コンテスト会場は初めてなのかしら?」
曜「あ、はい」
女の人「そう、それなら……」
お姉さんは肩に掛けたバッグに手をいれ、ケース状の物を差し出してくる。
231 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:07:33.60 ID:bTwUl7S20
女の人「どうぞ」
曜「え?」
女の人「これはアクセサリー入れよ。ポケモンコンテストの必需品」
曜「あ、いや……私は別に出場するつもりで来たわけじゃ……」
周りを見回すと、それはもう華美な様相のポケモンたちがコーディネーターと一緒にパフォーマンスの練習や打ち合わせをしている姿が見える。
女の人「そうなの? じゃあ、どうしてここに?」
曜「あ、えっと……ちょっとバトルから離れたい気分だったんですけど……そしたら、ここを案内されて」
女の人「なるほど、気分転換ってことね」
お姉さんは少し考えた後、
女の人「……やっぱり、これ渡しておくわね」
再び、アクセサリー入れを差し出してくる。
曜「え、でも……」
女の人「どうせ、受付に話したら初めての人は無料で貰えるものだしぃ……な・に・よ・り」
曜「何より……?」
女の人「今日ここでコンテストを見たら、きっとあなたも出場せずには居られなくなるから♪」
──そう言う顔はサングラスとマスクで隠れてるのに、何故だがお姉さんはいたずらっぽく笑っているのがわかるような気がした。
* * *
曜「……結局貰ってしまった」
「ゼニ?」
私は観客席でゼニガメと一緒に座りながら、アクセサリー入れを開けたり閉めたりしている。
先ほどのお姉さん曰く、
『あぁ、わたし会場の関係者でコンテスト普及の意味合いも込めてるから。遠慮せずに受け取ってくれると嬉しいわ~』
──と言われ、断るのも忍びなかったため、そのまま受け取ってしまった。
曜「まあ……タダで貰えるものなら、誰から貰っても同じ……なのかな?」
「ゼニィ」
ケースの中に最初から入っていた光る棒をチカチカさせながら呟く。そんな私の言葉に相槌を打つゼニガメとお話しながら、待っていると、
「あら? もしかして、曜ちゃん?」
曜「え?」
ふいに声を掛けられる。
──そこには見慣れた幼馴染の姉の姿が……。
232 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:08:38.94 ID:bTwUl7S20
曜「し、志満姉!? なんでここに!?」
「ゼニ?」
志満「それはこっちの台詞……と言いたいところだけど、曜ちゃんだったら確かに海を渡るルートを通りそうよね。その子最初に貰ったゼニガメね?」
曜「あ、うん」
「ゼニ」
志満「初めまして、ゼニガメ。千歌ちゃんのお姉さんの志満です」
「ゼニィ」
そう言ってゼニガメの頭を撫でながら、志満姉は私の隣の席に腰を降ろす。
志満「フソウまでって、ウチウラシティから定期船が出てるんだけど……好きでよくお休みの日に見に来てるのよ」
曜「そ、そうだったんだ……」
志満「でも、ばったり会うなんて驚いたわ」
曜「私も! 旅してると思いがけない出会いって結構あるもんなんだなーって」
志満「? 他にも誰かと会ったの?」
曜「あ、うん。13番水道で果南ちゃんと会って……さっきまで一緒だったんだけど」
志満「あら、ホント? 果南ちゃん最近ウラノホシにはあんまり帰って来てないから、私も会いたかったわ……」
そういって残念がる志満姉。
志満「それはそうと……」
曜「?」
志満「ここにいるってことは曜ちゃん、コンテストに興味があるのよね?」
曜「えーと、まあ、成り行きだけど……興味はあるかな」
志満「ふふ、じゃあお姉さんがコンテストについて教えてあげるわ」
曜「え? 志満姉が?」
志満「これでも、私ポケモンコーディネーターだったのよ?」
曜「え、そうなの!?」
志満「今は旅館の仕事があるから、そんなに頻繁に参加したりは出来ないけど……観客的で眺めながらいろいろ教えてあげることくらいなら出来るわよ」
曜「お、おぉ……頼もしい」
──まあ、考えてみればわざわざ休みの日に定期船を使ってまで足を運ぶくらいなんだから、出場経験があっても、なんらおかしい話ではない。
そんなことを考えながら、志満姉と談笑していると、次第に辺りの照明が落ち始め──
曜「お……」
志満「そろそろみたいね」
233 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:09:36.09 ID:bTwUl7S20
──ドルルルルルルルルル!!!!
というドラムロールと共に、マイク越しに司会の声が響く。
司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!!』
お決まりの口上と共に、
司会『本日はお集まりいただきありがとうございます!! ポケモンコンテストへようこそ!!!!』
その声と共にワアアアアアと会場が沸く。
曜「わわ、すごい歓声」
「ゼニ」
志満「ふふ、すごいでしょ?」
ステージ上に目をやると、落ち着いた栗色の髪をデコ出しポニーテールでまとめているメガネの似合う女性が、マイク片手に司会をしている。
志満「彼女コンテストでは名物司会者なのよ」
曜「へー」
司会『さて今週もやってまいりました、ポケモンコンテスト・フソウ大会のお時間です!』
曜「今週ってことは毎週やってるの?」
志満「フソウの大会は毎週やってるわね。他の会場はもうちょっと頻度が少ないけど……ここは地方で最大規模の会場だから」
曜「あ、さっきそんな話聞いたよ! とにかくおっきい会場なんだね!」
司会『さて、皆さんご存知の通り、このフソウ大会ではポケモンの“うつくしさ”を競う大会となっております』
曜「“うつくしさ”……かぁ」
志満「ポケモンコンテストには5つの部門があって、それぞれ“かっこよさ”、“うつくしさ”、“かわいさ”、“かしこさ”、“たくましさ”のそれぞれを競い合うの」
曜「今回は“うつくしさ”だけなの?」
志満「ええ、そういうことになるわね。この地方特有のルールになるんだけど……会場ごとに審査科目がわかれてて、ここフソウ会場は基本的に“うつくしさ”を競う大会なの」
司会『それでは皆様お待たせしました! 出場するポケモンとコーディネーターの入場です!!』
志満姉の説明を聞きながら、入場してくるポケモンたちを見る。
外で見た、キュウコンやドレディアに加えてドラゴンタイプのハクリューと言ったポケモンが出てくる中、
一際目を引く──白いポケモン。
そのポケモンを目視したと思った瞬間、大きな歓声が湧く。
曜「わわ!?」
志満「……珍しいポケモンね」
先ほどのキュウコンと同じ九本の尾を持つが……雰囲気が少し違う。
曜「あ、あれも……キュウコン?」
志満「アローラ地方にだけいるキュウコンね」
曜「へぇー……?」
志満「アローラ地方のポケモンを持ってるコーディネーターなんてそんなにいないんだけど……」
237 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:26:21.81 ID:bTwUl7S20
そういう志満姉の視線を追って、コーディネーターの方を見ると、
綺麗な金髪をポニーテールにまとめた女性だった。
司会『おーっと!!! エントリーナンバー4のアローラキュウコンに大歓声!! これは一次審査は圧勝かぁー!?』
志満「一次審査はポケモンの見た目や毛並みを見てお客さんが投票するのよ。アクセサリーいれの中にペンライトあったでしょ?」
曜「あ、この棒って審査に使うんだ」
志満「これで、第一印象で良かったポケモンに投票するのよ」
志満姉の言葉を聞いて背後を振り返ると──会場が水色一色に染まっていた。
志満「今回はキュウコンが赤、ドレディアが緑、ハクリューが白……アローラキュウコンが水色だから」
曜「うわ……圧倒的……」
志満「流石ね……」
曜「? 流石って……知ってる人?」
志満「実際に見たのは初めてなんだけど……アローラ出身の姉妹が気まぐれにコンテストに出てくることがあるって噂があってね。たぶん、その一人だと思うわ」
曜「ふーん……やっぱ、珍しいポケモン使う人はそれだけで目立つんだね」
司会『さてさてさて!! 一次審査の集計が終了しました!! それでは次はお待ちかねのアピールタイムです!!!』
志満「二次審査では、実際にポケモンが技を出してアピールするわ」
曜「バトルとは違うの?」
志満「妨害とかもあるにはあるけど……そこまでストレートに攻撃したりすることはないかしら」
そう言ってる間に二次審査を開始した、コーディネーターが指示を出す。
金髪のコーディネーター『キュウコン! “オーロラビーム”!』
『コォォォーン』
《 “オーロラビーム” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥♥
キュウコン(リージョン) +♡♡ ExB(*)+♡
Total [ ♡♡♡ ] 》 (ExB=エキサイトボーナス)
《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》
コーディネーターの指示と共にアローラキュウコンが口から放った“オーロラビーム”が会場の天井に散布され、広がる。
曜「うわぁ……!!」
司会『これは素晴らしい!! 初手から“オーロラビーム”によって、会場全体をオーロラで魅了しています!!』
志満「ポケモンのアピールにはそれぞれ得点と部門タイプがあって、大会部門と技の部門タイプが一致すると会場が盛り上がるから、少しだけボーナス点がもらえるのよ」
曜「へぇー!」
ドーム内が七色に光り、思わず目を奪われる。
オーロラビームは直線的なビームの技なのに、こんな風にわざと散らして美しく魅せてるんだ……。
コーディネーター2『ハクリュー! “れいとうビーム”!!』
『リュー』
《 “れいとうビーム” うつくしさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥
ハクリュー +♡ ExB+♡
Total [ ♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》
238 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:28:14.77 ID:bTwUl7S20
と、思ったら会場中のオーロラが上書きされるように冷凍光線で凍りつき、掻き消えてしまう
《 キュウコン(リージョン) -♥♥♥♥
Total [ ♥ ] 》
司会『おっと、ここでハクリューが妨害に出ました!!』
志満「出場ポケモンはそれぞれ順番に技を出すんだけど、全員の技が出し終わった時点でそのターンの審査をするから、こういう風に会場を彩る技を使っても、脅かされたり技そのものを妨害されることがあるの」
曜「妨害もあるって言ってたのはそういうことなんだ……」
コーディネーター3『ドレディア! “エナジーボール”!』
『レディ~』
《 “エナジーボール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
ドレディア +♡♡♡♡ ExB+♡
Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》
コーディネーター4『キュウコン! “かえんほうしゃ”!』
『コーーンッ!!!!』
《 “かえんほうしゃ” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
キュウコン +♡♡♡♡ ExB+♡
Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》
それを無視するように、キラキラとしたエネルギーの光と、火の粉がステージ上で舞い踊る。
志満「ドレディアもキュウコンも、氷技の流れを無視して自分のアピールに集中するみたいね」
《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
キュウコン(リージョン) ♡♡♡ ♥♥♥♥ [ ♥ ]
ハクリュー ♡♡ [ ♡♡ ]
ドレディア ♡♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡ ]
キュウコン ♡♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡ ] 》
司会『さて、2ターン目です!!』
司会者がそう言うと、ドレディアの足元がライトアップされる。
曜「あれ? 今度はドレディアからなの?」
志満「前のターンによりアピールが出来たポケモンから、次のターンのアピールが出来るの。だから、今回のターンはドレディア、キュウコン。妨害に走った分自分のアピールが出来てなかったハクリュー、邪魔されてほとんど技が目立たなかったアローラキュウコンが最後みたいね」
曜「そういう駆け引きもあるんだ……」
思ったより奥が深いかも、
コーディネーター3『ドレディア、“せいちょう”』
『ディディアー』
《 “せいちょう” うつくしさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪
ドレディア +♡♡ +✪
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》
ドレディアは陽光を浴びるように両手を広げる。すると、ドレディアの体が太陽の光に反応して光り輝く。
志満「あれは調子をあげる技ね。調子をあげると、このあとのアピールがいつもよりうまく出来るようになるの」
曜「ふむふむ」
239 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:29:29.97 ID:bTwUl7S20
司会者『ドレディア、うつくしい輝きです!! 度重なるうつくしさアピールの応酬により、会場のボルテージも最高潮まで高まっております!!』
志満「アピールが最高潮まで高まって、会場のエキサイトゲージが5つ溜まりきると、そのときにアピールしていたコーディネーターとポケモンは“ライブアピール”って言う特別な技を追加で使うことが出来るの」
コーディネーター3『ドレディア、“グレースフラワーガーデン”』
『レディア~~』
《 “グレースフラワーガーデン” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 くさタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
ドレディア✪ +♡♡♡♡ ExB+♡
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》
コーディネーターの指示でドレディアがその場でクルリと周る。
すると、ドレディアを中心にステージ上に一気に緑が広がり、花が咲き誇る。
曜「うわぁ……! すご……綺麗……!!」
司会者『“グレースフラワーガーデン”決まりました!! 花の香りに心が透き通るようですね……。さあさあ、ライブアピールの成功でエキサイトゲージはリセットされ、次のポケモンへと移りますよ!』
コーディネーター4『キュウコン、“にほんばれ”』
『コーン』
《 “にほんばれ” うつくしさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡
キュウコン +♡ ExB+♡
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》
出番が周ってきたキュウコンは空を見つめ、日を照らせる。
キュウコンのアピールから間髪いれず、
コーディネーター2『ハクリュー! “ふぶき”!』
『リュー』
《 “ふぶき” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥
ハクリュー +♡ ExB+♡
Total [ ♡♡♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》
突然、ハクリューの全身から冷気が吹雪きだし、アピールを終えたポケモンたちに襲い掛かってくる。
『コン!』
《 キュウコン -♥♥♥
Total [ ♡♡♡♡ ] 》
『ディア!』
《 ドレディア -♥♥♥
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》
司会『おぉーっと、補助技に集中していた2匹ですが、“ふぶき”に驚いて体勢を少し崩しました! これはマイナスポイントですね』
志満「あのハクリューは妨害特化みたいね」
曜「妨害特化?」
志満「うつくしさ部門だとちょっと珍しいんだけど……かっこよさやたくましさ部門だと、他のポケモンをびっくりさせてアピールの邪魔をする戦い方もあって、他のポケモンのアピールを掻き消すことで相対的に自分の順位を稼ぐのが妨害技なの」
しかし、そんな流れを意にも留めていないのか、
240 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:31:07.84 ID:bTwUl7S20
金髪のコーディネーター『キュウコン、“あられ”』
『ココーン』
《 “あられ” うつくしさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥~
キュウコン(リージョン) +♡♡ ExB+♡
Total [ ♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》
アローラキュウコンの高い透き通った声と共に会場内をハラハラと霙のようなものを降り始め、照っていた日を遮ってしまう。
ついでと言わんばかりに大量の氷の粒が他のポケモンたちに降り注いで邪魔をする。
《 ドレディア -♥♥
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》
《 キュウコン -♥
Total [ ♡♡♡ ] 》
《 ハクリュー -♥
Total [ ♡♡♡ ] 》
司会『おっとぉ!? 1ターン目の仕返しかぁ!?』
曜「うわ、すご……」
志満「後手に回った分、まとめて妨害を出来る技を選んだみたいね……」
《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
.ドレディア✪ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ♥♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ]
.キュウコン ♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡ ]
.ハクリュー ♡♡ ♥ [ ♡♡♡ ]
キュウコン(リージョン) ♡♡♡ [ ♡♡ ] 》
他のポケモンに大きく減点が付いたためか、今度はアローラキュウコンの足元が真っ先にライトアップされる。
司会『3ターン目です!』
金髪のコーディネーター『キュウコン、“オーロラベール”』
『コーーーーン』
《 “オーロラベール” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡♡ ◆
キュウコン(リージョン)◆ +♡♡ ExB+♡ (*)CB+♡♡♡ (*CB=コンボボーナス)
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》
コーディネーターの指示と共に、再び会場がオーロラに包まれる。
さっきの“オーロラビーム”のときとは非にならない規模で。
曜「ほわぁ……きれい……」
司会『おーっと!? これは前ターンの“あられ”から繋いだようです!! 審査員の方たちも思わずニッコリしています!!』
曜「……繋いだって?」
志満「技のコンボが成立したってことよ。次のターンを見据えて、前のターンに次の技が栄える技を使っておくの。これで大きくポイントを稼ぐのがコンテストの定石なのよ」
曜「そういうのもあるんだ……! それじゃ、“あられ”から“オーロラベール”を使ったからコンボになったんだね。……あ、でもこれまた妨害されて掻き消されちゃうんじゃ……」
志満「……“オーロラベール”なら、平気だと思うわ」
曜「え?」
241 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:33:02.46 ID:bTwUl7S20
コーディネーター3『ド、ドレディア! “ギガドレイン”!!』
『レディア~~』
《 “ギガドレイン” かしこさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥
ドレディア✪ +♡ (*)✪B+♡ (*)ExP-♥ (*✪B=調子アップボーナス、ExP=エキサイトペナルティ)
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》
ドレディアがアピールするアローラキュウコンにピンポイントで狙いを定めて“ギガドレイン”を使うが、
《 キュウコン(リージョン)◆
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》
志満「“オーロラベール”は防御の技……相手からの妨害を防ぐ能力の高い技だから、あれくらいの技じゃ妨害が成立しない」
曜「妨害を防ぐ技もあるんだね」
志満「それに、急な妨害が重なったせいでコーディネーターも焦ったみたいね」
曜「え?」
司会『おっとぉ? 審査員の皆さん、強引な妨害の“ギガドレイン”に少し苦笑い……うつくしさ部門でかしこさ技はあまり好まれませんねぇ。エキサイトが減少してしまいました』
志満「“ギガドレイン”は部門にあわないアピールだったから、エキサイトもさがっちゃったし、減点になっちゃったわ」
コーディネーター2『ハ、ハクリュー! “ふぶき”!!』
『リューーーー!!!』
《 “ふぶき” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥
ハクリュー +♡
Total [ ♡♡♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》
ハクリューは再び“ふぶき”を放ち、妨害を試みるが、
『レディーーッ!?』
《 ドレディア✪ -♥
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》
『コン』
《 キュウコン(リージョン)◆
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》
ドレディアは妨害を受けてしまうが、キュウコンは相変わらず“オーロラベール”で妨害を防いでいる。
志満「これまた、ことを急いたみたいね」
曜「?」
司会『おっと……ハクリューの“ふぶき”、これは前のターンと同じ技ですねぇ。同じ技の連発はあまり印象がよくなく、減点の対象になってしまいます。妨害合戦で判断を誤ってしまったのでしょうか』
《 ハクリュー -♥
Total [ ♡♡♡ ] 》
志満「同じ技を連続で使うのは基本的に減点の対象になるの。同じ技ばっかりだと見てる側も飽きちゃうから……この場合は部門と同じタイプのアピールでも、エキサイトはあがらないわ」
曜「なるほど……」
242 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:35:34.32 ID:bTwUl7S20
コーディネーター4『キ、キュウコン!! “ねっぷう”!!』
『コーーーンッ!!!!』
《 “ねっぷう” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥
キュウコン +♡♡ ExB+♡
Total [ ♡♡♡♡♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》
最後尾、キュウコンが“ねっぷう”を吹きつけ全力の妨害。
『コン』
《 キュウコン(リージョン)◆
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》
『レディアーー!!!?』
《 ドレディア✪ -♥♥
Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》
『リューーーッ!!!』
《 ハクリュー -♥♥
Total [ ♡ ]》
他の二匹が妨害を受けて減点されるが……やはり、アローラキュウコンは“オーロラベール”のお陰で平気な顔をしている。
曜「ん……皆なんで、アローラキュウコンは“オーロラベール”を使ってるのを見てるに、妨害技を使うんだろう……?」
志満「技はライブアピール以外はターンの最初に全員何を出しておくか予め決めておかないといけないのよ」
曜「え、そうなの?」
志満「そうじゃないと、防御技の駆け引きの意味合いが薄まっちゃうからね」
曜「言われてみれば……それもそうか。じゃあ、コーディネーターはターンが始まったときに決まったアピール順だけで、アピールするか防御するか妨害するか、考えないといけないんだね」
志満「ええ、そういうことよ。さすが曜ちゃんね、飲み込みが早くて、あんまり私が説明することがなくなっちゃうわね」
曜「いやそれほどでも……」
《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
キュウコン(リージョン) ♡♡♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ]
.ドレディア✪ ♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡ ]
.ハクリュー ♡ ♥♥♥ [ ♡ ]
キュウコン ♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》
司会『さあ、4ターン目はアローラキュウコン、キュウコン、ドレディア、ハクリューの順です!』
金髪のコーディネーター『キュウコン! “こなゆき”!』
『コーーーンッ』
《 “こなゆき” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
キュウコン(リージョン) +♡♡♡♡ ExB+♡
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》
アローラキュウコンが鳴き声をあげると共に細雪が辺りに舞い散り始める。
“こなゆき”は差し込む太陽の光や、会場内のスポットライトを反射して幻想的に光る。
その光景に思わず息を呑むオーディエンス。
そして、そこに畳み掛けるように、
243 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:36:39.85 ID:bTwUl7S20
金髪のコーディネーター『キュウコン! ライブアピール行くわよ!』
『コーーンッ!!!!』
金髪のコーディネーター『“アイシクルグレース”!!』
『コーンッ!!!!!』
《 “アイシクルグレース” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 こおりタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡
キュウコン(リージョン) +♡♡♡♡♡
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》
アローラキュウコンの息吹と共に、周囲が一気に冷やされ、空気が凍り、辺りに複数の氷の結晶が浮かび上がる。
その結晶は、同時に炸裂して、砕けた結晶が光を乱反射して、会場に七色の光を降らせる。
司会『決まりました!! ライブアピール!! 圧倒的な美しさです!!』
曜「うわぁ……綺麗……」
思わず見蕩れてしまう。
さっきのドレディアの技もそうだったけど、ライブアピールは本当に圧倒的な演技で会場を魅了している。
司会『さあ、コンテストライブは続行中です。次のアピールはキュウコン……えっと、ほのおタイプのキュウコンです!!』
コーディネーター4『キュウコン! “かえんほうしゃ”!!』
『コンコーン!!』
《 “かえんほうしゃ” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
キュウコン +♡♡♡♡ ExB+♡
Total [ ♡♡♡♡♡♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》
キュウコンが吐いた炎熱が会場に火の粉を散らす。
司会『これは手堅くうつくしい“かえんほうしゃ”! 文句なしの高評価ですね!』
志満「手堅いアピールね」
曜「ふんふん」
司会『次はドレディアの番です!』
コーディネーター3『ドレディア、“すいとる”』
『レディァー』
《 “すいとる” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡
ドレディア✪ +♡♡♡♡ ExB+♡ ✪B+♡
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》
《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》
司会『さあ、手堅いアピールが続きます!』
コーディネーター2『ハ、ハクリュー!! “はかいこうせん”!!!』
『……リュウウウウウウウウウ!!!!』
《 “はかいこうせん” かっこよさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥
ハクリュー +♡♡♡♡
Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》
曜「うわ!?」
不意に、破壊の一閃がステージ上を跳ね回る。
244 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:38:49.82 ID:bTwUl7S20
『レディッ!?』
《 ドレディア -♥♥♥♥
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》
『コーンッ!!!』
《 キュウコン -♥♥♥♥
Total [ ♡♡ ] 》
『コンッ』
《 キュウコン(リージョン) -♥♥♥♥
Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》
“はかいこうせん”と言うだけあって、その凄まじい威力に先ほどまで凛としていたアローラキュウコンまで僅かにその身を引いてしまう。
曜「ま、まさか、まだ逆転を狙って……」
志満「うーん……あれは破れかぶれかな」
曜「え?」
司会『目論見どおりか、大きく周りの妨害には成功しましたが、“はかいこうせん”は残念ながらかっこよさの技なので、エキサイトボーナスはありません……それに加えて──』
志満「反動で次のターンは行動不能」
曜「……あ、そっか」
“はかいこうせん”ってそういえばそういう技だった。
《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計)
キュウコン(リージョン) ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ]
.キュウコン ♡♡♡♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ]
.ドレディア✪ ♡♡♡♡♡⁵♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ]
.ハクリュー ♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡ ] 》
司会『さぁ、運命の最終ターン!! ここまで華麗にアピールを成功させているアローラキュウコンからのアピールです!』
金髪のコーディネーター『さて、キュウコン』
金髪のコーディネーターがアローラキュウコンと共にライトアップされる。
と、共に腕を目の前でクロスさせた。
曜「え?」
私は突然のその行動に驚いて、志満姉に解説を求めようとしたが、
志満「え……」
志満姉も驚いた顔をしていた。
金髪のコーディネーターの手首にしてあった腕輪が突然キラリと光り、そのまま、機敏な動きで腕の交差を何度か組み替え、
金髪のコーディネーター『行くわよ!!!』
掛け声と共に、横に、縦に、素早く、両腕を真っ直ぐ伸ばす。まるで鋭利な刃物のようなジェスチャー、
──と、共に腕輪はますます大きく光り輝き。
アローラキュウコンも光り輝いていた。
司会『おぉぉぉぉぉぉおおーーーーっと!!!? これはーーーーー!!!?』
245 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:40:29.20 ID:bTwUl7S20
金髪のコーディネーター『キュウコン!! 全力のZ技!! “レイジングジオフリーズ”!!!!』
『コォォォォォォーーーーン!!!』
キュウコンの透き通る雄叫びと共に、キュウコンの足元から巨大な氷柱が突き出し、自らの身体をステージの上部に持ち上げる。
『コオオオオオーーーン』
そして、高所からステージ状に向かって一気に冷気を放つ、
──バキリ
そんな、空気が凍りつく音と共に巨大な氷の大結晶が出来上がる。
曜「す……すご……!!」
金髪のコーディネーター『キュウコン』
『コォーン』
コーディネーターの呼び声と共にキュウコンは氷柱を滑らかな動きで駆け下りて、
金髪のコーディネーター『フィニッシュ』
『コン』
合図と共に氷の柱と大結晶が粉微塵に砕けて、キラキラとした宝石のようなダストが会場を包み込む。
会場は何が起きたのかわからなかったのか──静まり返っていたが。
パチ……
パチパチ……
パチパチパチパチ──
と、誰かが打った拍手をきっかけに、
──ウオオオオオオオオオオ
大歓声に包まれた。
曜「……すご……」
志満「まさか、コンテストZ技を使う人がいるなんて……」
Z技って言うのがなんなのかよくわからないけど、とにかくすごい技だったってことはわかる。
司会『……す、素晴らしいアピールに司会の私も言葉を失ってしまいました……!! これはすごい、コンテストでZ技を見ることになるとはー!!!』
司会のお姉さんもアローラキュウコンのアピールに興奮気味に喋っている。
司会『あ、っと……まだコンテストは終了していません! キュウコンのアピール、お願いします!!』
コーディネーター4『……え?』
原種キュウコンのコーディネーターは自分の番が回ってきたのに、完全にさきほどのZ技に見蕩れていたのか、
コーディネーター4『あ、え、えっと、キュウコン! “だいもんじ”!?』
ハッと我に返って、焦って技を指示する。
志満「……対戦相手すらも魅了する……。勝負あったわね」
私は志満姉の言葉を意識の端で聞きながら、未だ先ほどの余韻でキラキラとステージ上を煌くダイヤモンドダストの先で、
悠然と立つアローラキュウコンと金髪のお姉さんに、思わず見蕩れていた。
246 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:41:24.26 ID:bTwUl7S20
* * *
ステージ会場の外に出ると、
曜「うわ……あれ、何?」
ものすごい人だかりが出来ていた。
志満「ステージを見ていたファンの人たちだと思うわ。あれだけすごいパフォーマンスだったから、無理もないかな」
言われてみて、人だかりの中心部の方を見ると、確かに少しだけ金色の髪がチラチラと見える。
あの人、長身なんだなぁ……などと、どうでもいい感想を胸中に抱いていると、
志満「曜ちゃんはいいの?」
志満姉がそんなことを言って来る。
曜「え? わ、私は別に……」
志満「完全に見蕩れてたでしょ? すっかりファンになっちゃったのかなって」
曜「え、あ、うーん……確かに見蕩れてたのは否定しないけど……」
志満「……けど?」
曜「なんというか……私もコンテストに出たら、あんな風にキラキラ出来るのかなって……気持ちの方が……強いかも」
志満「……ふふ、そっか」
曜「ポケモンたちに服とか作ってあげて……綺麗に着飾って……どんな風に技を組み合わせたらいいかな……!!」
志満「……着飾って……」
ステージ状で美しく振舞う、ラプラスの姿が脳裏に浮かんでは消えていく。
志満「曜ちゃん」
曜「え?」
志満「すっかりコンテストの虜みたいね」
曜「あ、いや……なんというか……。……そうかも」
まんまとアクセサリーいれをくれたお姉さんの言う通りになっている自分がいる。
志満「……ねえ、曜ちゃん。さっきのアローラキュウコン……すごかったけど、あれでも、まだコンテストの頂点じゃないのよ」
曜「え?」
志満「コンテストクイーン」
曜「くいーん……?」
志満「本当の上位コーディネーターのみが参加出来る『グランドフェスティバル』で優勝した人だけが得られる称号なんだけど……」
曜「う、うん……」
志満「……もし曜ちゃんが今ホンキでコーディネーターになってみたいって思ってるんだったら……せっかくだし、会ってみない?」
曜「? 誰に?」
志満「コンテストクイーンに、よ」
曜「え?」
247 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:42:14.42 ID:bTwUl7S20
私は志満姉の言葉に眉を顰める。
それってつまり、この地方で最も優秀なポケモンコーディネーターということだ。
曜「会えるなら会ってみたいけど……でも、そんなすごい人ってことは有名人でしょ? そんなに簡単に会えるの?」
志満「会えるわ」
志満姉は私の目を見据えてそう言う。
志満「付いて来て」
曜「え、あ、はい!?」
私は志満姉に手を引かれて、言われるがままに付いて行くのだった。
* * *
──『STAFF ONLY』と書かれた扉の前に、黒服にサングラスを掛けて頭をスキンヘッドにしている怖そうなガードのお兄さんがいる。
私は志満姉に手を引かれて、そこに向かって一直線に進んでいた。
曜「え、ちょ、志満姉!?」
そのままずんずんと進んでいく志満姉。
ええ!? まさかの強行突破!?
曜「ちょ、それはまずいって……!!」
志満「こんにちは」
──と、思ったら普通にガードの人に挨拶してるし!!
スキンヘッド「ああ、志満さんですか。そちらの子は?」
志満「妹の友達なんだけど、コンテストにすごく興味があるみたいで……通して貰っても大丈夫ですか?」
スキンヘッド「ええ、志満さんのご紹介ということなら」
そう言ってガードのお兄さんがドアの前を開けてくれる。
曜「……ええ……?」
予想外の展開に呆けていると、
志満「ほら、曜ちゃん」
曜「え、あ、はい」
志満姉に手を引かれ、一緒に『STAFF ONLY』のドアを潜る。
曜「……??????」
完全に置いてけぼり状態の中、入った室内の奥の方から、女性の声が聴こえて来た。
248 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:43:08.02 ID:bTwUl7S20
「絵里さん、あのままだともみくちゃにされちゃうと思うんだけど……。あの人ステージ上やバトルだとビシっとしてるのに、プライベートはなんかヌケてるのよねぇ……。適当なところで救出してあげてもらっていい?」
「はい、承知しました」
そんなやり取りのあと、黒服の人が私たちと入れ替わるように外に出て行く。
──その先に、声の主が居た。
曜「……え?」
そこには見覚えのある、そこにはゆるふわロングなブラウンヘアーの女性が、
志満「あんじゅちゃん! 久しぶり!」
あんじゅ「あら? もしかして、志満?」
そう言いながら、志満姉はその女性──あんじゅさん?──と抱擁を交わす。
曜「ええ……???」
もう今日私は何回馬鹿みたいに口を開けて呆ければいいんだろうか。
状況についていけず、ポカンとしていると、
あんじゅ「あら? あなた……」
あんじゅさんがこちらに気付いたのか、
志満「あら? もしかして、あんじゅちゃん、曜ちゃんと既に知り合いなの?」
あんじゅ「知り合いと言うか……まあ、ちょっと運命的な邂逅を交わしちゃった子ってところかしら」
曜「え、えぇーと……?」
さっきアクセサリーいれをくれた自称コンテスト会場関係者のお姉さんと志満姉が知り合いで……???
志満「あ、えっと、曜ちゃん」
曜「は、はい」
志満「この人が、現クイーンよ」
曜「──は?」
もう、今日の私はダメかもしれない。
顎が呆けた形で固定されそうだ。
あんじゅ「ふふ、それじゃ改めて」
──フワリとスカートドレスとはためかせながら、一歩前に出て、彼女は、
あんじゅ「コンテストクイーンのあんじゅよ。よろしくね。えっと……曜、でいいかしら?」
そう自己紹介してくれました。
かくして、私は超有名人と簡単に知り合いになってしまったのであります──。
249 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 11:43:34.43 ID:bTwUl7S20
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【フソウタウン】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| ● ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ o回/ ||
口=================口
主人公 曜
手持ち ゼニガメ♀ Lv.13 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:9匹
曜は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
250 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:27:48.37 ID:bTwUl7S20
■Chapter019 『グランドフェスティバルを目指して』
あんじゅ「それで志満」
志満「?」
あんじゅ「確かに曜とは運命的な邂逅をしたところがあるから、ここに連れて来たその勘は流石だと思うんだけど……」
あんじゅさんはそう言いながら私のことをジロジロと観察し始める。
あんじゅ「そうは言っても、あなた素人よね……?」
志満「あんじゅちゃん、若い芽を摘むようなこと言っちゃダメよ……?」
志満姉はそう言ってくれるけど、
──そりゃそうだ。
私はコンテストの経験もない。志満姉があんじゅさんとどういう関係なのかはわからないけど、たまたま知り合いだったからという理由でこの地方の頂点にいる人の楽屋にタダで通して貰うなんて都合が良すぎる。
曜「い、いや……会えただけでも光栄なんで! 私、やっぱり失礼しますっ」
そういって、すぐさまスタッフルームを飛び出そうとする私を、
志満「待って、曜ちゃん」
志満姉が引き止める。
あんじゅ「……志満はその子に何か期待してるの?」
志満「曜ちゃんはきっとすぐに伸びるわ」
曜「えぇ!?」
あんじゅ「根拠は?」
志満「私の勘がそう言ってるの」
曜「えぇ……」
勘って……千歌ちゃんみたいな……。
落ち着いてるように見えて、やっぱそういうところは姉妹ってことなのかな。
あんじゅ「んー……志満の勘はバカに出来ないところがあるし……」
曜「ええ……」
あんじゅさんもあんじゅさんで、なんか納得しかけてる……。
私なんかただコンテストを見て、口開けて感激してただけだと思うんだけど……。
あんじゅ「曜、だったわね」
曜「え、あ、はい!」
あんじゅ「あなたコーディネーターを目指すに当たって目標とかあるのかしら?」
曜「え、目標……」
いきなりそう問われて、困ってしまう。
今さっきやってみたいなって思っただけだし、
251 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:29:27.87 ID:bTwUl7S20
志満「もちろん、コンテストクイーンよね!」
曜「え、えぇ!?」
さっきから私、『え』で構成された台詞ばっかり言ってるんだけど……。
あんじゅ「コンテストクイーン、目指すの?」
曜「え、えーと……まあ、やるんだったら、目指したい……かな?」
あんじゅ「……へぇ~♪」
言ってみてから、それが目の前にいるあんじゅさんを打ち負かすと言う意味なのに気付き、
曜「え!? あ!! いや!? な、なれたらいいなーみたいな話で、あんじゅさんに勝てるとかそういう話じゃなくて!!?」
そもそもデビューもまだだし。
あんじゅ「ふふ、わかってるから大丈夫よ~。でも、現役クイーン目の前なのに、思わずそんな言葉が出ちゃうところは嫌いじゃないわ」
曜「あ、あう……ご、ごめんなさい……」
あんじゅ「あなたなかなか面白い子ね」
あんじゅさんは縮こまる私を見ながら、くすくすと笑う。
……どうやら、悪い印象ではなさそうで安心したけど……。
と、思いながらチラっとあんじゅさんの方を見ると、
あんじゅ「……」
あんじゅさんが志満姉にアイコンタクトを送っているのがなんとなくわかった。
『まるで、ホントに理由はこれだけ?』とでも聞いてるような、
それを受けてか、
志満「ねえ、曜ちゃん」
志満姉が私に話しかけてくる。
志満「今日のコンテスト……どうだった?」
曜「え?」
志満「率直な感想でいいから」
曜「え、えっと……すごかった……かな?」
志満「他には?」
曜「え、えーと……そうだな……二次審査は戦略があって、奥が深かったなって感じたけど……」
志満「けど?」
曜「それに比べると、一次審査が地味だったような……それこそ、もっと工夫が出来るんじゃないかなって」
あんじゅ「……工夫?」
私の言葉に何故だか、あんじゅさんが食いついてきた。
曜「いや、その……アクセサリー入れがあるってことは、ルール上ポケモンにアクセサリーを付けるのはいいんですよね?」
あんじゅ「ええ、むしろ推奨されるわ」
曜「その割には、出場してたポケモンたち、ワンポイントのリボンとかをしてたくらいで……私だったら──」
252 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:31:20.14 ID:bTwUl7S20
──私だったら、
曜「もっと自分のポケモンをうつくしく魅せるために、衣装から全部考えてあげたいかなって……」
あんじゅ「……うふふ、なるほどね……」
曜「って、あ、ご、ごめんなさい! 生意気でしたよね!」
あんじゅ「志満がこの子をここに連れて来た理由、なんとなくわかったわ」
曜「……え?」
あんじゅ「まあ、気持ちだけでどこまであがってこれるかはわからないけれど……いつかグランドフェスティバルで会えること、楽しみにしてるわ」
曜「え……あ、はい……」
それだけ言ってあんじゅさんは、室内の時計を一瞥する。
あんじゅ「そろそろ次のお客さんが来ちゃうんだけど……同席する?」
志満「あ、ううん。他に用事があるなら、この辺でお暇しようかな。ごめんね、アポもなしに」
あんじゅ「全くよ……旅館継いで落ち着いたと思ったら、そういうところ昔と変わらないんだから……」
曜「昔……?」
志満「あー!! 妹の友達の前でそう言う話しないでー!! おしとやかなお姉さんで通ってるんだからー!!」
あんじゅ「おしとやかなお姉さんねー……」
志満「それじゃ、またね! あんじゅちゃん! 曜ちゃん行きましょ!」
曜「え、あ、はい」
再び志満姉に手を引かれ、退室を促される。
──その背に、
あんじゅ「志満」
あんじゅさんが呼び掛ける。
あんじゅ「楽しみにしてるわ」
志満「……ええ」
曜「……?」
意味深なやり取りを残して、私たちは現クイーンの楽屋を後にした。
* * *
──その後、日もとっぷり沈んで、志満姉と同じ部屋で宿を取ったところで……なんとなくさっきのやりとりを言及してみる。
曜「志満姉って昔は、なんというか……おてんばだったの?」
志満「え!? えーと、どうだったかしら、おほほ……」
雑な誤魔化しに内心苦笑する。こういうところもなんだか千歌ちゃんに似てるし、
きっと昔の志満姉は、今の千歌ちゃんみたいだったんだろうなぁ……。
やっぱり歳は離れてても、姉妹と言うことか。
253 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:34:51.36 ID:bTwUl7S20
志満「そ、そんなことよりも、曜ちゃんのデビュー戦についての話をしましょう!」
曜「え、デビュー戦!?」
私、今日見たコンテストライブみたいなパフォーマンス出来る自信ないんだけど……。
そんな考えが顔に出ていたのか、
志満「そうは言っても、初心者用のレギュレーションよ?」
そう補足される。
曜「そういえば、さっきもグランドフェスティバルに出られるのは上位コーディネーターって言ってたっけ……」
志満「いきなりあのレベルを求められると競技人口なんてあっと言う間に減っちゃうもの」
曜「……どうすれば、上位コーディネーターになれるの?」
志満「あら……さっきはあんじゅちゃんの前であんなに遠慮してたのに、実はやる気まんまん?」
曜「い、いや、そんなつもりじゃ……でも目標を持つなら高いほうがいいし、知っておいて損はないかなって……!」
志満「ふふ、冗談よ。それじゃ、それも含めてオトノキ地方のコンテスト大会の仕組みについて説明するわね」
そう前置きしてから、志満姉が説明を始める。
志満「まず、さっきも言ったけど、この地方では会場ごとに競う部門が決まっていて、ここフソウタウンは“うつくしさ”部門の会場になるわ」
曜「ふむふむ」
志満「他の部門はそれぞれ“かっこよさ”はサニータウン会場、“かわいさ”はセキレイシティ会場、“かしこさ”はダリアシティ会場、“たくましさ”はコメコシティ会場になるんだけど……いきなり知らない街の名前言われても覚えられないだろうから、これは今後街に訪れたらそこに行くくらいの気持ちでいいと思うわ」
曜「はーい」
志満「そして、次に階級。ビギナーランク、ノーマルランク、グレートランク、ウルトラランクの4つが開催されていて、ビギナーランクは随時各会場で行われているわ」
曜「まず私が出るのはビギナーランクってこと?」
志満「ええ、そういうことになるわね。ただ、ビギナーランクはホントに初心者向けのレギュレーションだから、上の階級を目指すなら普通はノーマルランクからエントリーすることになるわ」
曜「なるほど」
志満「それでここからがちょっとややこしいんだけど……それぞれのランクで昇級点って言うものがあるの」
曜「昇級点?」
志満「次のランクに挑むための権利を得るためにコーディネーターはこのポイントを溜めていくの」
曜「あ、じゃあ……いきなりウルトラランクとかに挑むことはそもそも出来ないんだ」
志満「そういうこと。昇級点はコンテストで勝てば増えるわ。部門ごとにノーマルランクは誰でも参加可能だけど、グレートランクは1点以上、ウルトラランクは3点以上昇級点を持ってないと参加出来ない」
曜「ポイントはどうやったら貰えるの?」
志満「ノーマルランク以上の大会で1位は3点、2位は1点、3位は0点、4位は-2点ね。グレートランクはそれぞれ昇級点が2倍、ウルトラランクでは3倍になる」
曜「あ、減ることもあるんだね」
志満「0点以下になっても持ち点がマイナスになることはないけど、例えばグレートランクで4位を取ると持ち点は-4点だから、ほぼ降級が確定で、ノーマルランクからやり直しね」
曜「うへぇ、厳しいなぁ……」
志満「逆に言うなら無理に上位ランクに進まずノーマルランクで3回2位を取ってウルトラランクを目指す人もいるし、ノーマル→グレートでそれぞれ2位を取ってもウルトラランクに昇級出来るわ」
曜「あ、ポイントは全ランクで共通なんだね……となると」
志満「ええ、ノーマルランクで1位を取ればいきなりウルトラランクへの挑戦権を得ることも出来るわ。もちろんウルトラランクにあがっても4位で負けたら-6点でノーマルランクからやり直しだけどね」
曜「ポイント獲得のチャンスも増えるけど、負けたときの点の減り方も大きいから、そこは考えてレギュレーションを選ばないといけないってことだね……」
志満「ただ、一回上のランクに参加したら、降級が決まるまで下のランクへの挑戦権もなくなっちゃうのは注意点ね」
曜「あ、そっか……そうじゃないと上位ランクの人が下位ランクでポイント稼ぎ出来ちゃうもんね」
志満「そういうこと。まあ、でも曜ちゃんはグランドフェスティバルを目指すんだから、全部1位を目指しましょう!」
曜「えぇ!? い、いきなりハードル高すぎない……?」
254 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:39:35.65 ID:bTwUl7S20
……全部1位って、今日始めてコンテストライブを見たばっかなのに、
……あれ? そういえば……。
曜「上位コーディネーターって具体的にどれくらいの人のことを指すの?」
いわゆる、グランドフェスティバルなるものに参加出来るレベルの人はどれくらい点を稼げばいいんだろう?
志満「年間での獲得ポイントの合計が100点以上のコーディネーターよ」
曜「え、100点も!?」
志満「100点以上ポイントを稼ぐと、マスターランクって呼ばれるランクに昇級して、最上位大会のグランドフェスティバルに参加出来るようになるわ」
曜「え、えーっと……ウルトラランクで勝つと3倍ポイントだから……優勝で9点だよね? それだと100点になるには……」
志満「最初のノーマルランク含めて、12連勝すれば最速で100ポイント以上溜まるわね」
12連勝……気が遠くなりそう。
まあ、最強を競う祭典なんだし、そんなもんなのかな……?
──あれ?
曜「そういえば、志満姉……会場によってコンテスト大会の開催頻度が違うって言ってなかった?」
志満「そうね。ノーマルランク以下はどこの会場でも週に1回以上はやってる。けど、グレートランク以上の開催は、一番多いここフソウ会場で週に1回、一番少ない場所だとコメコ会場で月に1回の開催になるわ。加えて同じ週に複数回、同会場、同ランクに出場することは出来ないから、ノーマルランクでコツコツ稼ぐのはかなり大変なの」
曜「んー? それだとコメコシティの大会……えっと」
志満「たくましさ部門ね」
曜「そうそう! たくましさ部門だけだと、ポイント溜めるの大変だよね?」
志満「だから全会場の合計ポイントを競うんだけど……逆に言うなら開催頻度の少ないコメコ会場は自然と競技人口も少ないから、ライバルも少ないの。だから、逆にここを狙い撃ちでポイントを稼ぐ人もいるのよ」
曜「な、なるほど……」
志満「そして、年間昇級点が100ポイントに到達したコーディネーター──つまり、マスターランクのコーディネーターが3人になると、その時点でのコンテストクイーンを含めた4人でのマスターランク大会、グランドフェスティバルが開催されるのよ」
曜「ふむふむ……え?」
──その時点で?
曜「じゃあ今はまだマスターランクの人って3人いないの?」
志満「3回連続でクイーンになると、永世クイーンで殿堂入り扱いになるの。それに加えてマスターランク大会は2位は持ち点を半分に、3位以下はその時点で0点になるから、その兼ね合いもあって、今期のマスターランクの人はあんじゅちゃんを除くとまだ2人しかいないわ」
曜「う、うわ……厳しい……」
志満「こうしないと、毎回同じ人たちがマスターランクでぶつかることの繰り返しになっちゃうからね。あ、ただ一度マスターランクにあがると年間ポイントを次の年に繰り越し出来るから、先にマスターランクになったら同ランクが3人揃うのを待つだけになるわ」
曜「なるほど……」
志満「ちなみにあんじゅちゃんは次が2回目のクイーン防衛戦。永世への王手になるわね」
曜「あんじゅさんってやっぱり強いんだ……と、言うか既に他に2人、マスターランクの人がいるんだね」
じゃあ、残りの椅子は一つ……。
志満「きっとこのままだと、今日出ていたアローラキュウコンのコーディネーターさんがここから10連勝して、マスターランクにあがってくると思うけど……」
曜「あ、そっか……フソウ会場は一番頻度が多いから……」
うつくしさ部門で周りを圧倒できる人だと、理論上一番早くポイントが稼げるから……。
曜「次のグランドフェスティバルは無理かぁ……」
大会の仕組みや志満姉の口振りからしても、グランドフェスティバル自体、数年に1回くらいしか行われない行事みたいだし、
私が出場するってなると、どれくらい先になるんだろう……。
255 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:41:08.74 ID:bTwUl7S20
志満「……と、思うでしょ?」
曜「え?」
志満「これだけだとうつくしさ部門をこなすメリットが大きくなりすぎちゃうから、特例措置があるの」
曜「特例措置?」
志満「かっこよさ、うつくしさ、かわいさ、かしこさ、たくましさ……この5部門全てのウルトラランク優勝経験がある場合、持ち点を倍にして扱うの」
曜「倍……」
ノーマルランク優勝で3点、そこからウルトラランクで9点加算されたら合計12点……ってことは、
志満「あのコーディネーターさんが毎週大会に参加するとは限らないし、仮にそうだったとしても、曜ちゃんがこれからオトノキ地方を廻りながら、全部門ウルトラランクでストレート優勝すれば全然間に合うってことね」
曜「お、おぉ!!」
志満「もちろん全部門制覇は簡単じゃないけどね。それぞれの部門ごとに戦略も変えなくちゃいけないし……でもグランドフェスティバルは全部門のコンディションが要求される特殊レギュレーションだから、無駄にはならないわ」
曜「なるほど……!」
じゃあ、一応私にもまだチャンスはあるんだ!
曜「それを聞いたら、ちょっとチャレンジしてみる気が起きてきたかも……!!」
志満「ふふ、それなら説明した甲斐があったわ」
曜「よーし! それじゃ早速ビギナーランクに──」
志満「あ、えーと……今日はもう参加受付が終わっちゃってるから……」
曜「……出鼻を挫かれた」
志満「明日以降の出場登録だけして、帰りましょうか。どっちにしろ基礎技術を教えないといけないから、今からコンテストの戦略についていろいろ教えてあげるわ」
曜「ヨーソロー! よろしくお願いします!」
* * *
「ハ、ハラショー……」
そう言いながら、金髪の女性が楽屋のソファーで項垂れている。
あんじゅ「絵里さん、大丈夫?」
絵里「……あ、ありがとう……あんじゅさん。ウルトラランク優勝となるとあんなに人に囲まれるものなのね」
あんじゅ「いや、あそこまでのは稀よ? Z技使うなんてびっくりしたわ」
絵里「……アローラ出身の人間の特権みたいなところがあるから、使わない手はないと思って」
あんじゅ「お陰様でいいものを魅せてもらったわ」
──ふと、わたしは先ほど新人のコーディネーターが言ったことが脳裏を過ぎり、今日と言う日の衆目を独り占めにした彼女にも聞いてみようと思った。
256 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:42:31.07 ID:bTwUl7S20
あんじゅ「絵里さん、ちょっと聞きたいんだけど」
絵里「? なにかしら?」
あんじゅ「絵里さんはキュウコンに服とか作ってあげないの?」
絵里「服……うーん、たまに考えるんだけど、いい案が浮かばないし……結局ルール的にも二時審査のウェイトが大きいから、そこを意識して重点的にトレーニングする方が効率的だと思うのよね」
あんじゅ「じゃあ、服はいらない?」
絵里「いらないとは言わないけど……アクセサリーでも十分こと足りてるし、キュウコンの魅力も引き出せてると思っているわ」
あんじゅ「そう……ありがとう、参考になったわ」
絵里「そう?」
やはり、と言った回答。
頭もよく回り、比較的効率主義な絵里さんらしい回答だと思った。
あんじゅ「きっとそういう効率的な考え方だとバトルも強くなるんだろうけれど……」
絵里「あんじゅさん、バトルはからっきしだものね」
あんじゅ「ホント……どっちも出来る人が羨ましいわぁ……」
ふと、バトルの話をしていて思いだす。
あんじゅ「それはそうと……仕事の方は大丈夫?」
絵里「仕事? ……一応休暇申請出して来たけど……?」
あんじゅ「ここ数日、オトノキ地方南部がざわついてるから、何か忙しいんじゃないかと思ってたんだけど……」
絵里「……え」
わたしの言葉を聞いて絵里さんはすぐにポケギアを取り出して、ポチポチと確認をし始める。
絵里「……ハラショー……」
そして、引き攣った笑いを見せてくれる。
やっぱり、この人プライベートは少しポンコツなところあるのよねぇ……。
絵里「海未から恐ろしい数の着信履歴が……」
あんじゅ「早く戻った方がよさそうねぇ……関係者用の裏口を開けるから、そこから出るといいわ」
絵里「ありがと、そうする……もう、せっかくの休暇なのにぃ……」
さっきのステージ上の凛とした姿からは想像できないような情けない声を出しながら、よろよろと裏口への通路へと向かっていく。
あんじゅ「そうだ、絵里さん」
絵里「? なにかしら?」
あんじゅ「ツバサに伝言して貰っていい? たまには顔くらい見せに来なさいってあんじゅが言ってたと」
絵里「わかった、伝えておくわ」
旧友へのお小言を添えて、絵里さんを見送ったあと、
あんじゅ「……」
ボールを放る。
「リリィリリィ」
257 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:44:28.80 ID:bTwUl7S20
綺麗な鳴き声と共に青と水色を基調とした上に黄色い放射状の羽模様を持つビビヨンが飛び出す。
あんじゅ「ビビヨン」
「リリィー」
手の甲を持ち上げ、名を呼ぶと、ビビヨンはそこに止まる。
チョウチョ型のポケモン特有の翅に比べて、小さいスケールの身体には衣服が纏われており、
それを見て、昔のことを思い出す。
『あんじゅさん、きっとこの服着せたら、ビビヨンちゃんもっと魅力的になると思うんですっ!』
敵であるはずの、ライバルであるはずのわたしに、そんな助言をしてきた彼女を思い出しながら……。
あんじゅ「真っ先にポケモンを着飾るなんて発想……わたしにはなかなか出なかったのに……もしかしたら、もしかするのかもしれないわね……」
「リィーー?」
わたしは天井仰ぎ見ながら一人呟くのだった。
258 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/02(木) 15:46:02.84 ID:bTwUl7S20
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【フソウタウン】
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主人公 曜
手持ち ゼニガメ♀ Lv.14 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
ラプラス♀ Lv.22 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
ホエルコ♀ Lv.13 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:9匹
曜は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
261 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:44:36.86 ID:ISz0KMwo0
■Chapter020 『コメコシティ』 【SIDE Chika】
千歌「──あ、あとちょっと……」
揺れる木々が続いた景色に切れ目が見える。
千歌「森、抜けたー!!」
「ワフッ」
満身創痍なまま、森を抜けた先にはすぐに町が見えて、ポケモンセンターの赤い屋根がすぐに視界に入る。
千歌「皆を早く回復しなくちゃね! メテノも」
「ワフッ」
凛さんからも忠告されたし、まずはポケモンセンターで回復!
千歌「いこ、しいたけ」
「ワフッ」
コメコシティで最初にやるイベントはポケモンセンターでの休息になりそうです。
* * *
ジョーイ「おまちどおさま! お預かりしたポケモンは、皆元気になりました!」
千歌「ありがとうございます! メテノも大丈夫でしたか……?」
ジョーイ「だいぶ衰弱していましたけど、回復をしたら外殻も復活しましたし、もう大丈夫ですよ!」
千歌「そっか、よかったぁ……」
これでひとまずは一件落着……かな?
さっき襲ってきたグレイブ団って言う人たちも気になるけど……それよりも、
千歌「なんか、さっきから人がいったりきたりしてる……」
ポケモンセンターで手持ちの回復を待ってる間も室内外関わらずあちこちで人が右往左往している。
千歌「なにかあったんですか?」
ジョーイ「町の北部に田園地帯があるんですけど……そこにもメテノが落ちたらしくて」
千歌「ここにも……そっか」
ジョーイ「幸い怪我人は出なかったし、家屋への被害もなかったんですけど……」
千歌「けど?」
ジョーイ「田園への道が……」
ジョーイさんが続きを話そうとしてくれたそのとき、
入口の方から、人の声。
牧場おじさん「今は無理に田園へ行くのは危険だよ、花陽ちゃん」
牧場おばさん「しばらく様子を見たほうが……」
262 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:46:17.41 ID:ISz0KMwo0
思わず振り返って見ると、農家の格好をしたおじさんたちとそれに囲まれた、小動物のような印象を受ける女の子が一人──花陽ちゃんと呼ばれたのは恐らくあの人のことだろう。
花陽「でも、田んぼの様子が心配だから……おじさんたちもそろそろ牧場のお仕事の時間でしょ? あとは花陽が一人でどうにかするので……」
牧場おじさん「いやぁ、でもなぁ……」
なにやら揉めている……?
千歌「あの……何かあったんですか?」
私はその集団に近付いて声を掛ける。
花陽「あ、えっと……大丈夫です。これからすぐにわたしが向かうので……」
牧場おじさん「いやぁ、でも今は無理に近付かないほうが……」
千歌「……?」
牧場おばさん「……はて、そういえばあなた見ない顔だねぇ? 旅人さんかい?」
千歌「あ、はい」
牧場おばさん「ならもしよかったらなんだが、花陽ちゃんについていってあげてくれないかねぇ……この子、田んぼのことになるとどんな無茶でもするから……」
千歌「え?」
花陽「お、おばさん! 関係ない人を巻き込むわけにいきません! これはコメコシティの問題であって……」
牧場おじさん「でも、止めても花陽ちゃん無理するだろぉ? 俺たちも仕事があるからずっとは手伝ってやれないし……」
花陽「大丈夫です! わたしこれでもコメコのジムリーダーなんですよ!」
千歌「え!?」
突然、飛び出した情報に私は驚いて声をあげてしまう。
花陽「え?」
花陽さんが不思議そうな顔でわたしの方を見つめてくる。
花陽「えっと……?」
困惑しているようだけど……。
これって前回と同じパターンじゃ……。
千歌「あのぉ……参考までに聞きたいんですけど」
花陽「な、なんでしょうか?」
千歌「今ポケモンジムに行っても……ジムリーダーの人、いないってことですよね」
花陽「……もしかして、挑戦者の方ですか?」
千歌「……はい」
花陽「ご、ごめんなさい……今はちょっと……」
ですよね。
263 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:48:39.14 ID:ISz0KMwo0
千歌「……わかりました! 私、千歌です! 花陽さん……でいいですか? お手伝いさせてください!」
花陽「え? えぇ?? でも……」
千歌「その代わり、解決したらジムバトルしてくれませんか!」
花陽「え、えぇーと……それは構わないですけど……」
千歌「だから、事情聞かせてもらえませんか?」
花陽「え、えーっと……」
花陽さんは私の申し出に戸惑っていたけど、
牧場おじさん「花陽ちゃん。こちらのお嬢ちゃんもそう言ってくれてるんだし」
牧場おばさん「手伝ってもらえるとわたしたちは安心だよぉ……」
花陽「……わかりました」
おじさんたちを納得させるためにか、花陽さんは渋々と了承し、
花陽「えっと……実はですね……」
事情を話し始めた──。
* * *
千歌「……あの子ですか?」
花陽「はい、あの子です……」
私は花陽さんに案内される形で、ポケモンセンターの北にある田園へと続く道に来ていた。
その道を横切るように流れる小川があり、そこには更に壊れた桟橋のようなものの残骸が見える。
花陽「近付くだけで攻撃されちゃうんです……」
そう言う花陽さんの視線の先には……薄茶色のイタチのようなポケモンが辺りを警戒しているのが見える。
私はいつも通り図鑑を開く。
『ブイゼル うみイタチポケモン 高さ:0.7m 重さ:29.5kg
2本の 尻尾を スクリューの ように 回して 泳ぐ。
首に ある 浮き袋は 空気を 溜め込む ことが でき
浮き輪の ように 膨らみ 水面に 出るときに 使う。』
──話を聞いたところによると、昨晩田園地帯にメテノが落ちたあと、そのメテノを保護しに行った帰り、突如桟橋を破壊しながらあのブイゼルが現れ、川に近付く人やポケモンを攻撃し始めた、ということらしい。
……でも、
千歌「うみイタチポケモン……海のポケモンじゃないんですか?」
花陽「普段は海の近くに暮らすポケモンなんですけど……何故だか、今はあんな風に川の一帯を警戒していて……」
千歌「これだと田んぼまで行き来が出来ないですね……」
花陽「田んぼだけなら、まだ……良い……いや、全く良くはないんですけど……!!」
千歌「!? は、はい!?」
花陽「あ……ご、ごめんなさい。ちょっとお米のことになると、興奮しちゃって……」
千歌「は、はぁ……」
264 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:51:15.77 ID:ISz0KMwo0
なんか独特のテンポを持った人だなぁ……。
花陽「あの小川から田んぼの水や、その他にも農園や畑に水を引いてるんですけど……その際に近くで仕事をしていた、ドロバンコやディグダも手当たり次第に襲われる始末で……」
千歌「戦闘で勝てないんですか……?」
花陽「うーん、最終手段はそれでもいいんですけど……出来れば、平和的に解決したいんです……お互い自然に暮らす生き物同士、排除すればいいと言うのは乱暴だと思うし……それに、海辺に暮らすブイゼルが小川を占拠するなんて何か特別な事情があるんじゃないかって思うので……」
千歌「なるほど……」
花陽「せめて、理由さえわかれば……」
理由……かぁ。
小川に近付かれたら困る理由がある……ってことだと思うけど、
千歌「水の中に何かがある……?」
花陽「……だとは思います」
そのとき、近くをふわふわとアブリーが小川の方に近付いていくのが見える。
恐らく野生のアブリーだと思う。
「ゼルルル!!!!」
「アブリ!?」
アブリーを視界に捉えたと思ったら、激しく威嚇し、
「ゼルゥ!!!!」
激しく“みずでっぽう”を撃ち出す。
「アブリリィ~~」
何もしていないのに突然攻撃されて驚いたアブリーはすぐさま反転して、森の方へ逃げていく。
花陽「あんな感じで水の中を確認するどころじゃないんですよ……近付くだけで、攻撃されちゃうんで」
千歌「うーん……」
……確かにこれは困った状態だ。
けど、ここで話していても始まらない。
千歌「平和的解決が目的なんですよね?」
花陽「は、はい……」
千歌「それじゃ、本人に聞いてみるしかないですよね! あ、この場合、本ポケモン……?」
花陽「え、えぇ?」
私は草陰から立ち上がる。
すぐにその草音に気付いたのか、
「ゼルルルルル!!!!!」
ブイゼルが威嚇してくる。
花陽「ち、千歌ちゃん!? 危ないから!」
千歌「大丈夫です! こういうの慣れてるんで!」
花陽「え、ええ!?」
自然の中でポケモンと遊んで育ったんだ、多少攻撃されるくらいなら──
265 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:52:20.39 ID:ISz0KMwo0
「ゼルーーー!!!」
千歌「──わぷっ!?」
──と、思っていたら顔面に思いっきり、水を吹き付けられ、しりもちを着く。
千歌「……いつつ」
花陽「千歌ちゃん!? 大丈夫!?」
千歌「大丈夫です……」
相当警戒している。
なら、とにかく敵じゃないことをわかってもらう必要がある。
千歌「よし、リトライ!」
花陽「えぇ!?」
私は今度は両手を挙げた状態──手に何も持っていないのをアピールしながら、草陰を飛び出す。
「ゼルルルルル!!!!」
依然激しく威嚇してくるけど、
千歌「敵じゃないよー!!」
「ゼルーーーー!!!!」
千歌「──どわっぷ!?」
再び水を吹き付けられる。
ただ、今度は予測出来ていたので踏ん張ることで転倒は防ぐ、
千歌「セーフ……!」
花陽「ち、千歌ちゃん!! ホント危ないですから」
そんなチカを見かねてか、花陽さんも飛び出してくる。
「ゼルルルルルルル!!!!!!!!」
未だ激しい威嚇。
花陽「そこまで身体を張らせるのは、町の人間として申し訳ないです……!! そこまでさせるくらいなら、一旦バトルで戦闘不能にさせるので……」
千歌「待ってください」
ポケットのボールに手を伸ばす花陽さんを静止する。
千歌「皆あの子と争いたいわけじゃないんですよね?」
花陽「そ、それは……そうですけど……」
千歌「なら、ちゃんと争わないで解決した方がいいと思います!」
花陽「……」
千歌「私は大丈夫なんで、野生のポケモンとケンカなんてちっちゃい頃からたくさんしてきたし、これくらいなら慣れっこだし!」
花陽「……でも」
千歌「大丈夫です!」
花陽「………………はぁ……わかりました。でも……ケガをさせたら、立つ瀬がないので」
花陽さんはそういって、後ろに向かってボールを放る。
266 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:53:20.41 ID:ISz0KMwo0
花陽さんはそういって、後ろに向かってボールを放る。
「メェーー」
ボールからはヤギのようなポケモンが飛び出す。
花陽「メェークル、“グラスフィールド”」
「メェー」
花陽さんが指示をすると一帯に草が生い茂る。
千歌「うわ……草が生えた」
花陽「これならちょっと転んでも、草が衝撃をやわらげてくれると思います……」
千歌「えへへ、ありがとうございます」
花陽「本当に無理しないでくださいね……? 本来はわたしたち町の人間が自分たちの力で解決しなくちゃいけない問題ですから……」
千歌「はい!」
私は足を踏み出す。
「ゼルーーー!!!!」
再び“みずでっぽう”が飛んでくる。
千歌「──わぷ……!! 大丈夫だよー!! 敵じゃないよー!!」
「ゼルルルル!!!!」
千歌「あなたがそこを守りたいのはわかったけど、そこを通れないと困る人たちがいるのー!」
「ゼルゥゥ!!!」
千歌「そこになにかがあるのー!? 別に取ったりしないからー!」
「ゼルーーーー!!!!」
千歌「──わぷっ!!」
さっきよりも気持ち強い勢いで水が飛んできて、再びしりもちをついてしまう。
花陽「千歌ちゃん!!」
千歌「だ、だいじょぶです!! “グラスフィールド”のお陰であんま痛くないんで!!」
「ゼルゥゥゥ!!!!」
私は依然威嚇し続けるブイゼルに向かって、両手を広げたままゆっくりと前進する。
千歌「ホントに敵じゃないからー!」
敵じゃないと必死に伝えながら。
一歩、二歩、ゆっくりと前に進む。
「ゼルル…!!」
三歩、四歩、足を前に、
「ゼルル!!!!」
ブイゼルが突然2本の尻尾を激しく回転させ始める。
花陽「!! 千歌ちゃん!!」
267 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:55:50.09 ID:ISz0KMwo0
背後から花陽さんの声が飛んでくる。
その声が届いてくるのと時を同じくして、前からは強い風が吹く。
私の頬を掠めるように、
千歌「いっつ……!!」
右頬に鋭い痛みを感じた。
──真空の刃が私を掠めたことに気付く。
花陽「“かまいたち”……!! こ、これ以上はダメです!! 下がって──」
千歌「ダイジョブですっ!!」
花陽「!?」
私はブイゼルを視界から外さないように、花陽さんに目を配りながら。
千歌「ダイジョブです」
そう、伝えた。
──私はさっきから、この光景何かに似てるな……とずっと思っていた。
それがなんなのか、切れた頬の痛みから思い出す。
あの時、爆ぜた“ひのこ”の熱さを、
あの入江で出会ったヒノアラシの炎を、
身を守るために必死にその場にうずくまっていたあの子のことを……。
今回もどんなに激しく攻撃をしてきても、ブイゼルは一歩もあの場所を動かない。
ヒノアラシのとき同様に何かを恐れてる。でも、今回は自身の身の安全だけじゃないと思う。
あれだけ激しい威嚇。仮にあの場所を独占したいだけなら、もっと動き回って、もっと思いっきり攻撃して、私を追い払ってもいいはずなのにだ、
千歌「そこに、キミの大切なモノがあるんだよね……!!」
何かはわからないけど、守りたいものがあるんだ
千歌「でも、周りをただ攻撃するだけじゃ、ダメなんだよ……っ!」
「ゼル…!!」
五歩、六歩、距離を詰める。
千歌「ここに暮らしてる、いろんな人たちと、ポケモンたちと、助け合って一緒に守ろう……?」
七歩、八歩、
「ゼル…」
九歩、
千歌「怖く……ないから……ね?」
十歩、
「ゼル…」
少し脅えた顔のブイゼルが手の届く距離にいる。
268 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:56:53.91 ID:ISz0KMwo0
千歌「大丈夫……キミの大切なモノはきっと、チカにとっても大切なモノだから……」
ブイゼルの頭を撫でる。
震えているのがわかった。
千歌「怖かったんだよね。でも、守らなくちゃいけないって……思ったんだよね」
「ゼル…」
大人しくなったブイゼル、そのお腹の下には、
「ミィー」「ゼリュー」
小さな小さな子供のブイゼルが2匹。首の浮き袋を膨らまして、顔だけ出した状態で。
千歌「よく頑張ったね……でも、もう一人で頑張らなくても大丈夫……皆で守るから……」
「ゼル…」
ブイゼルは、わかってくれたのか、
「ゼルゼル」
一言二言、子供たちに声を掛けると、
「ミィーミィー」「ゼリュリュゥ」
小さなブイゼルたちが小川からのそのそと私の足元まで這い上がってくる。
千歌「えへへ、信用してくれて、ありがと」
そういって、私はブイゼルを小川から抱き上げた。
「ゼル…」
千歌「う……思ったより、重いんだね、キミ……」
そういえば、さっき図鑑に30キロくらいあるって書いてあったっけ……。
花陽「千歌ちゃん……」
私の背後で草を踏みしめながら、花陽さんが近付いてくるに気付いて、
千歌「えへへ……解決しました」
後ろを振り返りながら、ブイサインをしてみせる。
「ミィミィー」「ゼリュリュゥー」
そんな私の足元では、ブイゼルの子供たちが元気にじゃれついているのでした。
* * *
「ゼルゼル」
千歌「こっち?」
ブイゼルに導かれて、田園の少し奥まった方向進むと、少し高めの草陰の中に、細くて柔らかい枝や落ち葉などを集めた痕跡が見られる、
269 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 00:59:31.46 ID:ISz0KMwo0
千歌「これって……もしかして、巣?」
「ゼル」
花陽「……まさか……ブイゼルがこんな場所で育児をしていたなんて……」
そこにはブイゼルの巣──だったものがあった。
千歌「海辺は天候によって荒れたりするから……子供を育てる間だけ、流れの穏やかな小川まで登ってきてたんだね」
「ゼル」
先ほどとは打って変わって、大人しくなったブイゼルは、事情を伝えるためか、
「ミィー」「ゼリゥー」
子供たちをその背に乗せながら、私たちをこの場所に案内してくれた。
花陽「ここは……ちょうど昨日メテノが落ちた場所の近くですね」
千歌「そのときの衝撃で、巣が吹き飛ばされちゃったから……焦って子供たちを連れて、安全な水中に避難してたんだね」
「ゼル…」
花陽「ごめんね……メテノを捕獲するのに必死だったから……たくさん人がいったりきたりしてて、びっくりさせちゃったんだね……」
「ゼルゥ…」
花陽さんがそう言いながらブイゼルの頭を撫でる。
もう敵意がないことがわかったのか、反撃はしてこない。
千歌「子供たちを守るために……一人で戦ってたんだよね、偉い偉い」
「ゼルゥ…」
花陽「千歌ちゃん……本当にありがとうございました。わたしだけじゃ、こんな風に平和的に原因は突き止められなかったと思います……」
千歌「えへへ……どういたしまして」
花陽「ブイゼルたちはポケモンセンターで健康を確認したのち、また小川に返してあげるので……」
千歌「ブイゼルくんたちもそれでいい?」
「ミィー」「ゼリュゥー」
千歌「ありゃりゃ……随分なつかれちゃったな……」
「ゼル……」
私の言葉がわかったのか、ブイゼルは小さく頷いた。
千歌「じゃ、いこっか」
「ゼル」
270 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 01:00:36.66 ID:ISz0KMwo0
* * *
──さて、ポケモンセンターでジョーイさんに3匹のブイゼルたちを引き渡したあと、
花陽「……先ほどは本当にありがとうございました」
千歌「えへへ、もういいですって」
約束通り、花陽さんとコメコジムに訪れていた。
花陽「ですけど……ジムバトルでは手加減するわけにいかないので……」
千歌「もちろん! 全力でお願いします!」
花陽「それでは……使用ポケモンは3体。先に相手の手持ち3体のうち、2体を戦闘不能にさせた方が勝ちです……っ!」
花陽さんは、ゆっくりとポケットから、黄緑色のボールを出し、構える。
花陽「コメコジム・ジムリーダー『陽光のたがやしガール』 花陽。よろしくお願いします……っ!!」
花陽さんがそう言いながら、構えて、
ボールが放たれました──。
271 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 01:01:34.69 ID:ISz0KMwo0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
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ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【コメコシティ】
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主人公 千歌
手持ち マグマラシ♂ Lv.18 特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
トリミアン♀ Lv.19 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
ムクバード♂ Lv.16 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
バッジ 1個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:7匹
千歌は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
272 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:23:14.99 ID:ISz0KMwo0
■Chapter021 『決戦! コメコジム!』
花陽「お願い! ドロバンコ!」
千歌「いっけー! ムクバード!」
お互いの初手が繰り出される。
花陽さんの一匹目はドロバンコ──確かじめんタイプのポケモンだ。
さっき持っていたメェークルから考えて、くさタイプを使うのかと思ってたけど、違うみたい。
ダイヤさんと同じで普段使うポケモンと専門のタイプが違うのかもしれない。
千歌「でも相性有利……! ムクバード! 上空で旋回しながら、体勢を整えるよ! “こうそくいどう”!」
「ピピィ!!」
じめんタイプの攻撃はひこうタイプには届かないもんね!
花陽「ドロバンコ、“すなあらし”!」
「ンバンコ」
一方花陽さんのドロバンコはフンと一回荒く鼻息を出した後、その場で地団駄を踏むように砂を巻き上げる。
「ピピッ」
千歌「ムクバード! ひるまないで! そのまま、“ふるいたてる”!」
「ピピピィ!!!」
花陽「ドロバンコ、“ステルスロック”!」
「ンバー」
今度はフィールド上に無数の石が漂い始める。
千歌「させない! “きりばらい”だよ!」
「ピィーー!!」
ムクバードは上空から力強く羽ばたいて、すぐに撒かれた石を吹き飛ばす。
花陽「ドロバンコ、“かげぶんしん”」
「ンバ」
今度はドロバンコの姿がぶれるように増える、回避をあげる技だ。
千歌「ぅ……“みやぶる”!」
花陽「なら、“てっぺき”です」
「ンバコ」
千歌「お、“オウムがえし”!!」
「ピィ~~」
“てっぺき”を奪う形、見様見真似で防御を上げるが……。
273 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:24:53.04 ID:ISz0KMwo0
千歌「ぐぬぬ……」
花陽「千歌ちゃん、攻めあぐねてますね」
千歌「うっ……」
花陽「ムクバードは“かぜおこし”も“エアカッター”も覚えませんから、上空から様子を見ているだけだと、“すなあらし”で消耗するだけですよ」
千歌「ば、ばれてる……」
流石ジムリーダー、自分のポケモンじゃないのに、使える技を把握してる……。
──そう、ムクバードには実はほとんど遠距離攻撃の手段がない。
あっても、“さわぐ”くらいで、あとは遠距離で使えるのは、ほとんどが補助技。
どうにか上空で攻撃を敬遠しながら、体勢を整えようと思ったんだけど……。
甘えた時間稼ぎを許さない、“すなあらし”がムクバードの体力をじわじわと奪っていく。
千歌「なら──!!」
花陽さんは完全に待ちの姿勢、ならノルカソルカ!
千歌「“すてみタックル”!!」
「ピピィ!!!」
──ムクバードの十八番!!
空中を軽くサマーソルトしながら、その勢いを乗せて、
「ピィーー!!!」
地上のドロバンコに向かって一直線に飛び込んでいく!!
花陽「ドロバンコ! “アイアンヘッド”!!」
「ンバンコ!!」
それに合わせる形で、鋼鉄の頭突きを繰り出すドロバンコ。
──ガキィン!!
打ち合って、硬い音がジム内に響く。
千歌「ムクバード!」
「ピピィ!!」
すれ違い様に一撃を叩き込んでそのまま空に離脱、
花陽「ドロバンコ、平気だよね」
「ンバコ」
先ほどの“てっぺき”の影響か、相殺しあった攻撃は余り効果を出していない。
千歌「ならもう一発!!」
「ピピィ!!!」
私の言葉に呼応するように、ドロバンコの背中向かって、一直線に『翼を立てる』
──まるで一刀の刃のように──
千歌「“はがねのつばさ”!!」
「ピィィィ!!」
274 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:25:45.40 ID:ISz0KMwo0
硬質化した鋼のような翼を上空から振り下ろす。
千歌「いっけぇえ!!!」
── 一閃
目一杯翼で斬り付ける。
「ピィィ!!!」
「ンバゴッ!!」
その勢いのまま、低空を伝って、離脱──
花陽「させません!」
「ンバ」
──と、思った瞬間。
ドロバンコの後ろ脚がムクバードを捉える。
花陽「“ローキック”!」
「ピピッ!?」
脚を掛けられ、ムクバードがよろめく、
──凛さんとの対戦のときにもやられた戦法だ。
千歌「まずっ!? ムクバード! とにかく離脱!」
「ピピ…!!」
花陽「逃がしません! “ふみつけ”!」
「ンバコ」
今度は正確にドロバンコの蹄がムクバードを捉える。
「ピギャ」
千歌「ムクバード!?」
踏みつけられて、ムクバードが普段聞かないような鳴き声を出す。
千歌「く……! “フェザーダンス!!”」
「ピィィ!!」
──でも、ここで私が動揺しちゃダメだ……!
指示を受けて、ムクバードがドロバンコの脚の下でもがくように暴れると、羽根があたりに舞い散る。
「ンバゴ…ッ」
纏わり付く鬱陶しい羽毛は、攻撃の阻害をする。
花陽「“のしかかり”!!」
それを無視するように、力が自慢のドロバンコは上から更に激しくプレスを掛けてくるが、
力が自慢なのはこっちも同じ──
千歌「“リベンジ”!!」
「ピィィィィィ…!!!」
地面を踏みしめて、
275 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:27:35.26 ID:ISz0KMwo0
花陽「……!」
ドロバンコを下から押し上げる、
「ンバコ…!」
花陽「ドロバンコ、無理に力比べしなくていいから!」
だが、花陽さんも切り替えが早い
押し返されると気取ったのかすぐさま、プレスを止めて次の攻撃に手を移す。
花陽「“にどげり”!」
「ンババッ!!」
一瞬の隙を突いて、隙間から逃げようとした、ムクバードを後ろ足で蹴り上げる。
「ピピ!!」
千歌「ムクバード!」
そのまま、蹴り飛ばされた勢いにまかせてどうにか空に離脱する。
千歌「大丈夫ー!?」
「ピィィ…!!」
まだ闘志は見えるが、ダメージは大きい。
降りたら、降りたでまた掴まっちゃうだろうし……。
千歌「なら、“さわぐ”!!」
「ピ!!」
私の合図で、
「ピイィィィィィィィ!!!!!!」
鳴き声がジム内を劈く、
花陽「わわ!?」
「ンバゴ!?」
狂乱状態になって、しばらく落ち着かなくなっちゃうけど、
千歌「掴まるくらいなら、全力で突撃ー!!」
「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!」
大きな鳴き声を挙げながら、再び上空からドロバンコに向かって飛び掛かる、
「ンババコ!?」
花陽「ド、ドロバンコ……!! 落ち着いて……!!」
一方ドロバンコは急な爆音に動転して、
意識が逸れている。
千歌「突っ込めぇぇ!!!」
「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!」
276 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:28:24.22 ID:ISz0KMwo0
花陽「ぼ、防御!! ドロバンコ!!」
「バゴッ!?」
──ズドン、と
上空からの杭のように、落ちてきた、
ムクバードの下で、
「バゴォ…」
花陽「……っ」
──ドロバンコが伸びていた。
千歌「……よっし!」
私は思わず拳を握り締める。
花陽「……ドロバンコ、戦闘不能です。戻って」
花陽さんの言葉と共にドロバンコがボールに戻される。
千歌「ナイス! ムクバード!」
「ピピィィィィ!!! ピピピピィイイイ!!!」
千歌「うわっ わ、わかったから」
そういえば、まだ騒いでる状態だった。
花陽「2匹目、行きます! ディグダ、お願い!」
ボム、と言う音と共に放たれたボールから飛び出す、小さなポケモン。
2匹目もじめんタイプ……!
「ディグディグ」
可愛らしい、見た目とは裏腹に力強く地面を掘り返しながら、俊敏な動きで、ディグダがムクバードに向かって突撃してくる。
千歌「ムクバード!!」
「ピイイイイイ!!!!!!」
狂乱状態のままだけど、どうにか動いてる敵を認識は出来てる、
千歌「よっし! そのまま!」
「ピィィィイイイイイ!!!」
──迎え撃つ!!
花陽「ディグダ! “ひっかく”!!」
「ディグ!!」
ディグダから放たれる斬撃を迎撃しようと思ったが、
「ピィィィイイイイ!!!?」
ディグダは小さな体躯を生かして、ムクバードの周りを俊敏に耕しながら、ちまちまと引っ掻いて来る。
277 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:29:09.06 ID:ISz0KMwo0
千歌「わわっ!? ムクバード!!! 落ち着いて、一旦空に逃げて!!!」
「ピィィピィィィ!!!?」
しかし、狂乱状態のムクバードは私の声が届いていない。
花陽「今度は逃がしません!」
花陽さんはそんな隙を見逃すはずもなく。
ディグダはもこもこと、周囲の地面を掘り返す最中、
だんだんと大きめの石塊が混じり始める
「ピィィィィ!?!!?」
千歌「やばっ!!? ムクバード!! 逃げて!!!」
「ピィィィィィ!!!!!!」
声が届いていない、不味い、
花陽「ディグダ!」
「ディグ!!!」
花陽さんの合図と一瞬地面に潜ったディグダが、
その頭で押し上げるように一層大きめの岩塊を地面から投げ飛ばす
千歌「ムクバード!!」
「ピピピピィィィィィイイイ!!!!!?」
混乱した、ムクバード
足を奪う石と岩、
そして、その頭上に、
落ちてくる──
花陽「“がんせきふうじ”!!」
岩塊の着陸と共に激しい砂煙がトレーナースペースまで吹き込んでくる。
千歌「わぷっ!!!?」
その勢いで砂が軽く口に入る。
千歌「うぇ……っぺっぺ……」
そして、少しの間を置いて砂塵が晴れた先では──
千歌「……くっ……」
「ピ…ピィ…」
ムクバードが気絶していた。
千歌「戻って、ムクバード」
“さわぐ”のデメリットが抑え切れなかった。
278 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:30:28.68 ID:ISz0KMwo0
花陽「これで戦闘不能はお互い一匹ずつ……」
千歌「……」
と、なると。
相性の悪いマグマラシだと、一方的に押し切られる可能性が高い。
まだ花陽さんの手持ちには裏もいる以上、様子を見たい。
なら……。
千歌「しいたけ! お願い!」
私はボールを放る。
「ワフッ!!」
しいたけが飛び出す──と、共に
「ワオッ!?」
しいたけの脚がずぶずぶと地面に埋まりだす。
千歌「え!?」
花陽「……よかったです」
千歌「……!?」
声のする方を見ると、“すなあらし”の先に花陽さんの笑顔が見えた。
花陽「飛んでいる子の相手はドロバンコでって決めてるから……やられちゃったときはどうしようかと思ったけど……ふふ」
千歌「……!!?」
その笑顔に背筋が一瞬ゾクリとする。
大人しく、優しく、怖い、笑顔。
千歌「し、しいたけ! “コットンガード”!!」
「ワフッ!!」
咄嗟に、しいたけの防御を固める。
花陽「動かないなら、それはそれで……」
千歌「……っ」
物静かな迫力に気圧される。
しいたけの足元はどんどん地面に……いや、砂に埋まり始めている。
そんな中──
花陽「わたし、たがやしガールなんて呼ばれてるんですよ」
千歌「え」
花陽「普段はこの、じめんポケモンたちと一緒に畑を耕すんです」
千歌「……」
花陽さんはにこにこしながら楽しそうに喋る。
279 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:31:53.57 ID:ISz0KMwo0
花陽「ドロバンコは硬い岩地でも踏み砕いて柔らかく……ディグダが動きやすい地面を作ります。そして、ディグダは地面を掘り返しながら、どんどん柔らかくするんです」
そういう間にもディグダがもこもこと地面を耕し、フィールドを形勢していく。
花陽「わたし本当はくさポケモンの方が好きだったんです……最初に貰ったポケモンもフシギダネだったし……だけど、一緒に過ごす間にくさポケモンや植物が育つためには、地面を耕して健康にしてくれる、この子たちがいるからなんだって」
繰り返し耕された地面は岩から石に、石から礫に、礫から……砂に、
花陽「だから、この子たちと作る“じめん”が好きなんです……いっぱい耕して、いっぱい実ります……♪」
──だから、
花陽「ここは、もう……わたしたちの作った“じめん”です……♪」
千歌「……しいたけ……!! 全力ダッシュで砂から逃げて!!」
「ワフッ…!」
花陽「無理ですよ……ディグダの特性“ありじごく”からは簡単に抜け出せません」
千歌「なら、交代……!!」
これなら、マグマラシの方が軽い分きっと動ける──
一旦引かせようとボールを投げるが、
「ワ、ワオッ…」
千歌「な……!?」
ボールはしいたけをその中に収納することなく、地面にポトリと落ちる。
花陽「特性“ありじごく”はひこうタイプかゴーストタイプのポケモン以外の交換を許しません」
千歌「……!!」
花陽「もう……千歌ちゃんにはそのトリミアン……? ……で戦うしか、選択肢はありません」
千歌「……なら!! しいたけ!!」
選択肢が無いなら、やるしかない。
千歌「“ずつき”!!」
「ワフッ!!」
周囲でぴょこぴょこと頭を出したり引っ込めたりしながら、地面を耕すディグダに向かって、その頭を振り下ろす。
──が、
ぼすっという間の抜ける音が砂の上に立つだけ、
「ディグディグ」
しいたけの真後ろでディグダが顔を出す。
「バウッ!!!」
そのまま首を捻って、後ろのディグダに再び頭を振り下ろす。
──ぼすっ
「ディグディグ」
今度は少しズレた場所でディグダが顔を出して鳴き声を挙げる。
280 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:33:05.48 ID:ISz0KMwo0
「ワフッ!!」
──ぼすっ
「ワフッッ!!」
──ぼすっ
──ぼすっ
──ぼすっ
…………
花陽「ふふ、まるでもぐらたたきですね」
「クゥゥーン……」
しいたけが情けない鳴き声を挙げながら私の方を見つめてくる。
千歌「ぐぬぬ……」
しかし、足を取られて自由が利かない、しいたけが出来ることは限られる。
花陽「でも、このまま持久戦をしていても埒が明かないので……ディグダ、準備できた?」
「ディグディグ」
花陽「よし。じゃあ、“すなじごく”」
花陽さんの指示と共に、しいたけがいるところを中心に砂が飲み込まれるように沈んでいく、
ディグダが移動し続けることによって柔らかくなった地面が土に、土はより細かくなって砂に──
千歌「し、しいたけ!!」
「ワ、ワオ……」
ずぶずぶとしいたけの体が砂に埋まっていく、
「ワォォ…」
千歌「とにかく、抜け出さないと……!! “からげんき”!!」
「……! バゥワゥ!!」
私の指示でしいたけは体を大きく動かして、少しでも砂から出るように身を捩る。
花陽「抵抗……しますよね。ディグダは防御力が低いポケモンなので、攻撃が当たるとすぐに戦闘不能になっちゃうので……ディグダ、戻って」
千歌「!」
“がむしゃら”に暴れるしいたけから、貰い事故を防ぐために一旦引いてくれた。
チャンス──
花陽「お願い、ナックラー」
「…ナク」
と、思った瞬間ボールから飛び出したそのポケモンは窪んだ流砂の中央の陣取り、
「ワフッ ワフッ!!」
花陽「“すなじごく”」
先ほどよりもアグレッシブに、しいたけをその砂に巻き込んでいく。
千歌「また、“ありじごく”!?」
「ワォォ…」
281 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:35:43.30 ID:ISz0KMwo0
そのまま、中心の方に引きずり込まれ、
花陽「ナックラー、“むしくい”」
「ナク」
ナックラーが大きな顎でしいたけの前足に噛み付く。
「バゥッバゥッ」
千歌「ぐぅ……“ずつき”!!」
「ワゥッ!!」
砂に足を取られながら、どうにか上半身を捻って、頭突く。
だが、体勢も悪いせいか攻撃に威力が乗らない。
花陽「ナックラーはディグダよりも力持ちなので、このフィールド上で力負けはまずしません。更に……“ギガドレイン”!」
噛み付いたままの顎から、体力を吸収してくる。
千歌「く……ど、どうしたら……」
花陽「勝負……ありましたね」
千歌「ま、まだ何か……」
思考を巡らせる。
組み合ったまま、体力を吸われるしいたけを見て──
──あれ、なんだろ
──デジャブ?
なんか、似たような光景が前にもあったような……。
──梨子『“ウッドホーン”は相手のHPを吸う技なの。ただの力比べをしてたわけじゃないのよ』──
千歌「……そうだ」
初めて梨子ちゃんとバトルした、あのときと同じだ。
千歌「あのときから、何も変わらない……? ……いや、そんなこと、ないよね……!!」
「ワフッ」
あのときは初めてのバトルだった、でも、
千歌「まだまだ、初心者かもしれないけど、もう初めてじゃないから……!! しいたけ! “わかるよね”!?」
「ワフッ!!」
しいたけが身を捩って硬質化させた、尻尾をナックラーに向かって突き立てる──
千歌「……“アイアンテール”!!」
「バゥッ!!」
花陽「……ナックラー、“ばかぢから”」
硬い尻尾に噛み付くように、ナックラーが受け止める。
282 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:37:02.42 ID:ISz0KMwo0
花陽「この足場で力比べをしても、ナックラーに分があります」
「ワフッ……!!」
花陽「“すなじごく”と“すなあらし”、それに加えてこっちは“ギガドレイン”でHPを吸収し続けます」
千歌「……」
花陽「……諦めないのは花陽も大事なことだと思います。だから、ジムリーダーとして、一人のトレーナーとして、千歌ちゃんのその姿勢は賞賛します」
千歌「……」
花陽「とてもじゃないけど、降参なんて、してくれなさそうですね……ナックラー、“かみくだく”」
千歌「……」
花陽「……?」
千歌「……」
花陽「ナックラー……? “かみくだく”……」
千歌「しいたけ、たぶんもうおっけーだよ」
「ワゥ」
花陽「え……?」
しいたけが尻尾をブンと上に振り上げると、
ナックラーが引き摺りだされ、空に放られる。
花陽「ナ、ナックラー!?」
花陽さんが放り出されたナックラーにすぐさま駆け寄って、
花陽「……!」
驚いた顔をした後、私の方に顔を向けた。
花陽「……やられました」
千歌「……はぁ……どうにか、間に合った……」
「ワフッ」
花陽「ナックラー……戦闘不能です。手持ち三匹のうち、二匹が戦闘不能……。このバトル、挑戦者、千歌ちゃんの勝利です」
こうして、私たちは静かに勝利を喫しました。
* * *
283 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:38:05.74 ID:ISz0KMwo0
花陽「……最初からあの“アイアンテール”は攻撃目的じゃなくて、ナックラーの内部に出来るだけ身体の一部を差し込むのが目的だったんですね……」
千歌「えへへ……目立つおっきな顎だったし、“アイアンテール”を指示したら、ナックラーは噛み付いて反撃してくるかなって」
花陽「まさか……それはフェイクで……」
──花陽さんはどくけしをナックラーに使いながら、
花陽「“どくどく”を使うのが目的だったなんて……」
そう言う。
千歌「えへへ……しいたけが私の思いつきに気付いてくれなかったら、絶対負けてたんですけどねっ」
「ワフッ」
──そう、“アイアンテール”はフェイク。
本当の目的はその尻尾の先から毒を注入することだったのだ。
花陽「言葉にしなくても、意図を汲み取ってもらえる自信があったんですか……?」
千歌「しいたけは……小さい頃からずっと一緒に育ってきたから……たまーに私の心を読めるのかな? なんて思っちゃうこともあるくらいで……だから、たぶんわかってくれるって思って!」
「ワフッ」
花陽「……信頼、しているんですね」
花陽さんは戦闘を終えたナックラーを撫でて労いながら、
花陽「その点に置いては……ジムバトル用に育てたこの子とのコミュニケーションが足りなかったことが、わたしたちの敗因なんだと思います……」
「ナック…」
花陽「ナックラーがもうどく状態になってるって……もっと早く異常に気付けば、負けていなかった。フィールドを完成させて、“ありじごく”の型を完成させたと思い込んでいた花陽の完敗ですね……」
千歌「い、いや、こっちもギリギリでしたし……!!」
花陽「いえ……今日は千歌ちゃんには教わってばっかりですね。……わたしももっと頑張らないといけないと思い知らされました」
花陽さんはそう言ってから、抱きかかえていたナックラーを降ろして立ち上がり、私の方に歩を進めてくる。
花陽「……そんなあなたに、千歌ちゃんに、コメコジムを突破した証として、この──」
花陽さんは上着の裏ポケットから、麦穂のようなシルエットをした“ソレ”を取り出して──
花陽「──“ファームバッジ”を進呈します。おめでとうございます……♪」
ニコりと優しく笑いながら、そう言いました。
千歌「えへへ……しいたけ、やったね♪」
「ワフッ♪」
──こうして、私たちは無事、2つ目のジムバッジを入手したのでしたっ。
284 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 03:39:18.85 ID:ISz0KMwo0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【コメコシティ】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___●○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ o回/ ||
口=================口
主人公 千歌
手持ち マグマラシ♂ Lv.18 特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
ムクバード♂ Lv.19 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
バッジ 2個 図鑑 見つけた数:57匹 捕まえた数:7匹
千歌は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
285 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:39:36.14 ID:ISz0KMwo0
■Chapter022 『旅立ちの条件』 【SIDE Ruby】
理亞と名乗る少女の襲来を受けてから、一連の話をお母様にしたところ、
琥珀「ルビィ本人が希望しているのでしたら、旅に送り出してあげれば良いのではないですか?」
お母様はそう言った。
ダイヤ「え」
わたくしはここまですんなり快諾されると思って居なかったため、逆に困惑してしまう。
琥珀「え……って、貴方がルビィを旅に送り出したいと言ったのでしょう?」
ダイヤ「それは、そうなのですが……お母様は心配ではないのですか?」
結果として未遂に終わったとは言え、ルビィは誘拐されたのです。
もう少し反論があってもいいものではないかと思ったのですが……。
琥珀「7年前のこと覚えていますか?」
ダイヤ「?」
琥珀「貴方の旅立ちの直前」
ダイヤ「……お、お母様、今はルビィの話をしていて……」
琥珀「一人で旅に出るなんて不安だ、ここに残ると泣き喚いていたのは誰ですか? そのあとボルツに引きずられるように旅立っていきましたわよね? それに比べたら、ルビィは随分と逞しいではないですか」
ダイヤ「ぅ……」
昔の話を出されて思わず、言葉に詰まる。
ダイヤ「で、ですが……わたくしのときとは少し状況が……」
琥珀「ダイヤ」
ダイヤ「な、なんでしょうか」
琥珀「貴方の旅は何のトラブルもなく、順風満帆、怪我一つなく終わることが出来ましたか?」
ダイヤ「それは……」
琥珀「何度も予想外の出来事が起こったり、危ない目に逢う事もあったのではないですか?」
ダイヤ「……」
琥珀「それに、貴方は本当に一人でしたか?」
ダイヤ「いえ……ツタージャとボルツがいつも傍に居ましたわ。旅の中で出会ったこの子たちも……」
なんとなく、腰に下げた6つのボールを撫でる。
相棒たちの入れられたボールを。
琥珀「その上で、旅に出て、後悔していますか?」
ダイヤ「いえ……あのとき旅に出て、よかったと思っています」
琥珀「その中で貴方は確実に強くなった。そして、今このオトノキ地方でも最上位の実力者である証として、ジムリーダーと言う立場に就いている」
ダイヤ「はい」
琥珀「ルビィはそんな貴方の背中を見て、自分も旅に出て強くなりたいと言っているのでしょう? なら止める理由はないではないですか」
ダイヤ「……」
286 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:41:27.52 ID:ISz0KMwo0
確かにそれはそうかもしれない。ですが、
ダイヤ「やはり、わたくしとは状況が違いますわ。もう少し慎重に考えても……」
琥珀「ダイヤ、貴方はルビィを旅に出したいのか出したくないのか、どっちなのですか」
ダイヤ「……」
琥珀「それに、あのルビィがなんで自分から旅に出たいと言い出したのか……」
ダイヤ「……? ですから、ルビィは強くなって自衛の力を……」
琥珀「それも理由だとは思いますが……たぶん口実だと思いますよ」
ダイヤ「口実? 何故そのような口実を……」
琥珀「ルビィ自身が頭の中で何を考えているかまではわかりませんが……ルビィなりに何か他に目的があるのではないですか?」
ダイヤ「目的……」
琥珀「確かに危険な旅になるのかもしれませんが……旅に危険は付き物です。それをわかった上で自分から旅立ちたいと娘が言うなら、それを見守るのが親の努めでしょう」
ダイヤ「そういう……ものなのでしょうか」
琥珀「そういうものなのですよ、貴方もいつか子を持つ親になれば、わかることですから……」
* * *
母との会話を反芻しながら、家の軒先に足を運ぶと、
ルビィ「あ、お姉ちゃん!」
花丸「ダイヤさん、おはようございます」
そこで、ルビィと花丸さんが待っていた。
ダイヤ「二人とも、おはようございます」
ルビィ「お姉ちゃん、お母さん……許可してくれそう?」
ルビィは少し不安げに瞳を揺らしながら、そう訊ねてくる。
ダイヤ「……ええ、お母様は許可をくださいましたわ」
ルビィ「ホントに!?」
ダイヤ「ええ」
ルビィ「えへへ、やったー!」
花丸「ルビィちゃん、よかったね」
ルビィ「うんっ!」
本当に嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる妹を見ながら、わたくしは思う。
噫、今この子は本当に旅に対して前向きなんだな、と。
唯、わたくしはどうしても自分の中にある不安がうまく消化しきれず、
ダイヤ「ですが、条件があります」
気付いたら、ルビィに向かって、そう言っていた。
287 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:43:35.58 ID:ISz0KMwo0
* * *
──2番道路。
ルビィは花丸ちゃんと一緒にウチウラシティの外に来ていました。
花丸「ルビィちゃん、やっぱりマルも協力した方が……」
ルビィ「うぅん、大丈夫。それに、お姉ちゃんのこと安心させてあげるためにもルビィが一人で達成した方がいいと思うから」
──さて、さっきお姉ちゃんから出された条件はこういうものでした。
『今日中に手持ちを4匹以上にすることが出来れば、旅立ちを許可します』
今ルビィの手持ちはアチャモと、メレシーのコラン、その2匹。つまり後2匹新しくポケモンを捕まえなくてはいけません。
ルビィ「ルビィも少しは戦えるところを見せないと!」
花丸「ルビィちゃんが燃えてる……珍しいずら」
花丸ちゃんがそう言うのを聞いて、確かに我ながら珍しくやる気に満ち溢れてる気がします。
花丸「そういうことなら、マルはあくまで見守ることにするずら」
ルビィ「うん、ありがとう」
花丸「ただ、方針とかはあるの?」
ルビィ「? 方針って?」
花丸「手持ちを4匹にするだけなら、捕まえやすいポケモンを狙う方が効率がいいと思うんだけど……」
ルビィ「捕まえやすいポケモン……」
花丸「コラッタとかオタチとかは、捕まえやすいポケモンだけど……」
なんとなく、花丸ちゃんの言いたいことはわかる。
これはルビィの実力試し。
ただ手持ちを4匹にするだけでも、お姉ちゃんは予め出した条件を引っ込めたりはしないだろうけど……。
ルビィ「ただ数をそろえるだけじゃ、実力を示したことにならないよね……」
花丸「うん」
ルビィ「強いポケモン? とか、珍しいポケモン? の方がいいのかな」
正直どんなポケモンが強くて、どんなポケモンが珍しいのかもよく知らないんだけど。
花丸「それなら、ここ2番道路で一番珍しいって言われてるポケモンは……たぶん、ヌイコグマずら」
ルビィ「ヌイコグマ……」
ヌイコグマなら、本当に数えるほどしかないけど、町の近くで見たことはある。
ピンクの体に黒い足のぬいぐるみみたいなポケモン。
288 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:48:53.96 ID:ISz0KMwo0
ルビィ「じゃあ、目標はヌイコグマともう一匹捕まえる!」
花丸「了解ずら! じゃあ、まずはウォーミングアップで一匹捕まえて、そのあとヌイコグマを探すといいと思うずら」
ルビィ「うん!」
花丸「あ、そうだ」
ルビィ「?」
花丸「今回この課題達成のためにルビィちゃんに秘密兵器を渡そうと思ってたんだ」
ルビィ「ひみつへいき?」
花丸ちゃんはそう言いながら、ごそごそとリュックの中を漁る。
花丸「あったずら!」
花丸ちゃんが取り出したのは、色とりどりのモンスターボールが収納されたボールケースだった。
花丸ちゃんは収集癖なところがあって、珍しいボールを集めるのが好きだったっけ、
花丸「ボールによって、いろんな効果があるから、きっとルビィちゃんの役に立つかなと思って」
ルビィ「え……ルビィが使っていいの?」
モンスターボールは基本的に消耗品です。
たまに繰り返し使うことが出来ることもあるけど、基本的には捕獲に失敗したら割れたり、砕けたりしてしまうし、
成功したらしたで、そのポケモンと紐付けされるので、あとでそのボールを空に戻すことは出来ません。
ルビィ「大事に集めてたのに……」
花丸「道具は使ってこそ意味があるんだよ。本来の用途で使わないまま、後生大事にしまっておくなんて、逆に道具が可哀想ずら」
ルビィ「花丸ちゃん……」
花丸「それに、マル一人でこれ全部は使い切れないから、ルビィちゃんと一緒に使えればいいかなって」
ルビィ「……えへへ、花丸ちゃん。ありがと」
花丸「どういたしまして。それじゃルビィちゃん、どのボールにする?」
ルビィ「えっと……」
ボールケースに整然と並べられたボールはかなりの種類がある。
……けど、ルビィには違いがよくわからない。
花丸「さすがにマスターボールとかサファリボール、パークボール、コンペボールは持ってないけど……」
マスターボールが一番すごいボールなのは聞いたことあるかも……他の3つはわかんないけど、
花丸「とりあえず、使いやすくて高性能なのはスーパーボールとハイパーボールかな」
ルビィ「それ高いやつじゃないっけ……お姉ちゃんのハガネールとかオドリドリはそれに入ってたよね」
花丸「ダイヤさんのボール選択は手堅いからね。リピートボール、レベルボールは今回は使いづらいかな……」
ルビィ「それってどんなボールなの?」
花丸「リピートボールは捕まえたことのあるポケモンが捕まえやすくなるボールで、レベルボールは自分のポケモンより相手のレベルが低いと捕まえやすくなるずら」
確かにそれだとはじめての捕獲向きじゃないかも。
花丸「ネストボールは……レベルの低いポケモンを捕まえやすいってボールだけど、今回はルビィちゃんの目的に沿ってないかも。でも、状況によって使い分けるボールなら捕獲の知識や実力の証明にもなるから……」
花丸ちゃんが一個ずつボールを指差しながら、
289 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:49:57.70 ID:ISz0KMwo0
花丸「ルアーボール、ムーンボール、ラブラブボール、ヘビーボール、スピードボール、タイマーボール、ネットボール、ダイブボール辺りかな。時間帯を考えてもダークボールは最終手段だね」
……確かにこれだけ使い分けられたら、捕獲名人かも。
花丸「どれにする?」
ルビィ「えっと……違いがよくわからないんだけど……」
花丸「それぞれ捕まえやすいポケモンが違うずら」
ルビィ「それ覚えるだけで日が暮れちゃうよ! 最終的に捕まえるポケモンはヌイコグマって決めてるんだから、そんなに使い分けを考えなくても……」
花丸「む……それは確かに……」
花丸ちゃんは少し眉を顰めてから、
花丸「じゃあ、これなんかどう?」
そう言って、花丸ちゃんが黄緑色のボールを手渡してくる。
ルビィ「これは?」
花丸「フレンドボールって言って、捕まえたポケモンがすぐになついてくれるボールずら」
ルビィ「あ、それいいかも!」
これから一緒に旅する仲間が、最初からなついて力になってくれる姿を見れば、お姉ちゃんも少しは安心してくれるかもしれない。
花丸「じゃあ、フレンドボールを持ってって。5個くらいしか持ってないけど……」
ルビィ「それだけあれば大丈夫! ありがと、花丸ちゃん!」
ルビィは花丸ちゃんからボールを受け取って、
ルビィ「アチャモ! コラン! 出てきて!」
腰からボールを外して放る。
「チャモ」「ピピィ」
ルビィ「よっし! 捕獲作戦スタートだよ!」
「チャモ!」「ピピ」
ルビィの旅立ち前の実力試しがスタートしました。
* * *
ルビィ「まずは一匹……試しに、だよね」
身を屈めて、こそこそと草むらを移動する。
──すると、
「タチッ」
尾を垂直に立ててその上で辺りをキョロキョロと監視しているポケモンがいる。
オタチだ。
290 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:51:23.09 ID:ISz0KMwo0
ルビィ「まずは図鑑で、相手がどんなポケモンか調べるんだよね……えっと」
身を屈めたまま、ポチポチと図鑑を押していると
「チャモ?」
アチャモが横から図鑑を突いてくる。
ルビィ「ぅゅ……アチャモ、今はちょっと大人しくしててね」
「チャモ」
『オタチ みはりポケモン 高さ:0.8m 重さ:6.0kg
遠くまで 見れるように 尻尾を 使って 立つ。 群れの
見張り役は 敵を 見つけると 鋭く 鳴いたり 尻尾で
地面を 叩いて 仲間に 危険を 知らせる。』
オタチのデータを確認していると、
ルビィ「あれ? 他のポケモンも近くにいる?」
図鑑が近くに他のポケモンを察知したようで、
『オニスズメ ことりポケモン 高さ:0.3m 重さ:2.0kg
食欲旺盛で 忙しく あちこちを 飛び回り 草むらの
虫などを 食べている。 羽が 短く 長い 距離を
飛べないため いつも 忙しなく 羽ばたいている。』
ルビィ「オニスズメ……」
顔をあげて、頭上を見回すと、確かにオニスズメが飛んでい──
「オタアアアアアアアアアアアアアアチ!!!!!!」
ルビィ「ぴぎぃっ!?」
ルビィがオニスズメの姿を認めると同時に、地上のオタチが甲高い声をあげた。
ルビィ「ぅ、うるさい……オタチもオニスズメを見つけて、威嚇してるんだ……」
このままだと野生のオタチとオニスズメが戦闘を始めるかもしれない。
どうしようかと考えていると、
「チャモーーー!!!!」
ルビィ「え、ちょ、アチャモ!?」
何故かアチャモが飛び出した、
「ピピィーーーーー!!!!」
ルビィ「え、コランも!?」
何故かコランも上空に飛び出した。
「チャモーーー!!!」
「タチッ!!!?」
草むらから突然飛び出して、アチャモがオタチに向かって“ひのこ”を放つ、
291 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:53:44.77 ID:ISz0KMwo0
「ピピー!!」
「オニィッ!!?」
上空のオニスズメも突然飛び出してきた、コランに“たいあたり”される。
ルビィ「ちょっと、二人とも! 勝手に行動しないでよぉ!!」
「チャモ!! チャモ!!」
一方、アチャモは“ひのこ”と“つつく”をオタチに向かって連打している。
ルビィ「あ、アチャモ! そんなにやったらオタチが戦闘不能になっちゃうから!! ほどほどに弱らせないと、捕獲出来ないからっ!」
そんなアチャモの頭上に、突然の落下物、直撃。
「チャモ!?」
ルビィ「わっ!? アチャモ!?」
先ほど上空でコランが突撃した、オニスズメだった。
「ピーピピピピッ!!!」
その上空ではコランが楽しそうに笑っている。
ルビィ「コランー!? 勝手に“うちおとす”使わないでよー!?」
「チャモ…」
アチャモは散々攻撃していた、オタチのことをもう忘れてしまったのか、
上空のコランを睨み付けた。
「ピピピ」
「チャモォ…」
ルビィ「ちょっと、二人ともそんなことしてる場合じゃ……!」
「オニ…!!!」
ルビィが指示を出すのを待たず、墜落してきたオニスズメが起き上がり、アチャモを標的に──
「チャモォ!!!」
──そのオニスズメの頭をアチャモが踏みつけて、
「オニ!?」
高く、高く、跳んだ。
コランのところまで、
“とびはねる”。
「ピピ!?」
オニスズメをその健脚で蹴り飛ばした反動を使って、前中をするように中空で縦回転しながら、コランに向かって鋭い鉤爪を立てる。
“ブレイククロー”だ。
「チャッモォ!!」
──ガキン。硬い爪と岩がぶつかり合う音のしたあと、
292 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:55:03.39 ID:ISz0KMwo0
「ピピ!!!!」
ルビィの顔の横を掠めるように、岩──もとい、コランが降ってきた。
ルビィ「……」
「チャモ…!!」
そして、地面にめり込んだコランの上にアチャモが着地する。
ルビィ「…………」
辺りを見回す。
戦闘不能で気絶した、オタチとオニスズメ。
めり込んだコランと、その上でふんぞり返るアチャモ。
ルビィ「……花丸ちゃん……やっぱりルビィ、ダメかも……」
ルビィの捕獲劇は、初戦から無事失敗で始まりました。
* * *
花丸「ナエトル! “たいあたり”!」
「トル!!」
「ポポ!!?」
ナエトルの“たいあたり”でポッポが怯んだところに、
花丸「いくずらー!」
マルはすかさずボールを投げつける。
そのボールは見事ポッポにぶつかる──ことはなく。1mも前に飛ばずに、マルの足元に落ちる。そしてテンテンと、音を立てて地面を転がる。
「ポポ…!!」
その隙にポッポが起き上がって、逃げようとするところ、
「ゴン…」
ゴンベがモンスターボールを拾い上げて、
花丸「ゴンベ! “なげつける”ずら!」
「ゴン」
ボールを投げつける。一直線に飛んでいくボールは、
「ポポッ!?」
ポッポに直撃して、そのままボールの中にポッポが吸い込まれた。
花丸「よし! ずら」
293 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:56:39.66 ID:ISz0KMwo0
ボールは無事3回ほど揺れたあと大人しくなった。
花丸「これで5匹目だね。ゴンベ、毎回外してごめんね」
「ゴン…」
ゴンベは慣れっこだと言う感じで鼻を鳴らした。
マルはどうしても運動が苦手だから、ボールがうまく飛ばないんだけど、そこはゴンベがうまくカバーしてくれているから、捕獲はかなり順調。
花丸「オタチ、ミネズミ、オニスズメ、ムックル、ポッポ……ホントに順調ずら」
この辺りにいるポケモンはもしかしたら今日中に大方捕まえきってしまうかもしれない。
花丸「あとはこの辺りだと、レディバとかアゴジムシとかコフキムシみたいな虫ポケモンがいたかな? ……夜にはコラッタとかホーホー、イトマルが出るはず」
夜行性のポケモンは日中の時間はあまり姿を見せないから、とりあえずお昼のポケモンを端から捕まえる。
花丸「実際やってみたら、捕獲って苦労するのかなって思ってたけど……案外平気だね」
「ゴン…」「ナエー」
そんな風に言ってると、前方からナエトルがとてとてと歩きながら戻って来る。
花丸「この分だと、ルビィちゃんも最初の捕獲は終えて、今はヌイコグマを探してるところかな?」
じゃあ、マルもヌイコグマを探してみようかな。
見つけたらルビィちゃんに教えてあげないと。
* * *
ルビィ「…………」
ルビィの目の前に広がる光景──黒こげの草むら、撃ち落とされ気絶している大量のポッポとオニスズメ、ムックル。その数は10匹以上。
遠巻きにオタチが巣穴からこっちを警戒している。
少し遠目に逃げ惑うミネズミ、日中の時間帯なのに、逃げるポケモンたちの中にはコラッタの姿も見える。
巣穴で寝ていた子たちが驚いて逃げているのかもしれない。
そして、ルビィのすぐそばでは、
「チャモォ!!!」
「ピッピピィ!!!!」
アチャモとコランが爪と岩をぶつけ合って、戦っていた。
ルビィ「……ぅゅ」
捕獲どころじゃない。
周りの野生ポケモンを巻き込みながら、手持ちの2匹が大喧嘩をはじめて、もう数十分経つ。
縄張りを荒らされたと思って攻撃してきたオニスズメを撃ち落とし、騒ぎに気付いて鳴きだしたムックルも撃ち落とし、ついでにたまたま近くを通り過ぎたポッポも撃ち落している。
ただ、アチャモもコランもケンカが第一のようで、野生のポケモンには目もくれない。
そんな状況で警戒心の強い陸上のポケモンたちは巣穴に逃げ込んだり、とにかくこの場からはほとんどが逃げてしまった。
294 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:58:39.30 ID:ISz0KMwo0
ルビィ「もうー!!! 二人ともいい加減にしてよぉ!!」
ルビィの言葉は虚しくも、そのまま空に飲み込まれていく。
ルビィ「ぅぅ……。クロサワの入江では言うこと聞いてくれたのに……」
ルビィは思わず体育座りをするように地面にへたり込んで、ぼんやりと二匹のケンカを眺める。
「アブブゥ」
腕に止まったアブリーがルビィに向かって、鳴き声を挙げる。
ルビィ「ありがと……慰めてくれてるんだね……」
…………。
ルビィ「え」
ルビィは自分の目を疑いました。
体育座りの姿勢の自分の手の甲から、膝を伝って、のんきに歩いている、小さなポケモンが一匹……。
ルビィ「えっと……」
「アブブゥ?」
大きさは10cmくらい。
割とよくそこらへんを飛んでいるので、知っているポケモン。
アブリーだ。とりあえず、図鑑を開く。
『アブリー ツリアブポケモン 高さ:0.1m 重さ:0.2kg
花のミツや 花粉が 餌。 オーラを 感じる 力を
持ち 咲きそうな 花を 見分けている。 また
花に 似た オーラを 持つ 人に 集まってくる。』
ルビィ「花に似たオーラって、なんだろう……」
「アブ?」
膝を伝って、アブリーがそのまま胸の辺りに潜り込もうとしてくる。
ルビィ「わわっ!? ルビィ、花粉とかミツとか出ないから!?」
驚いて、立ち上がると、
「ブブ」
コロコロと地面を軽く転がったあと、
ルビィ「あ、ご、ごめんねっ」
「アブブブ」
小さな翅を羽ばたかせて、空に浮き立つ。
そのまま、ルビィの頭の上に留まる。
ルビィ「……」
とりあえず、ポーチから空のフレンドボールを取り出して。
295 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 11:59:31.62 ID:ISz0KMwo0
ルビィ「えい」
アブリーに押し付けてみる。
「アブブ──」
鳴き声を残して、ボールに吸い込まれるアブリー。
ほとんど、ボールが揺れることもなく。
そのまま大人しくなった。
ルビィ「……えーっと」
ルビィは困りました。
ルビィ「これは捕獲成功でいいのかな……」
捕獲したにはしたんだけど……これって捕獲に入るのかな?
ルビィ「……とりあえず」
「チャモォ!!!」
「ピピピピピピ!!!!」
二匹のケンカを止めようかな……。それから考えよう。
* * *
ルビィ「考えてみれば、最初からこうしてればよかったんだよね……」
二匹を無理やりボールに戻してから、ルビィは2番道路の草むらを行ったり来たりしていました。
ただ、ルビィの手持ちが大暴れした情報が野生ポケモンの間で行き渡っているのか。
ルビィ「うぅ……ポケモンたちが近寄ってこない……」
思わず項垂れてしまう。
花丸「る、ルビィちゃーん!」
そんなルビィに遠くから名前を呼ぶ声。
ルビィ「花丸ちゃん……」
花丸「……は……はっ……!!……る、ルビィ……ちゃ……」
ルビィ「は、花丸ちゃん! ゆっくりでいいから!!」
運動が苦手な花丸ちゃんは少し走るだけで、肩で息をしていた。
花丸「る……ルビィ……ちゃんが……落ち込んでる……気が……した、から……」
ルビィ「ルビィは花丸ちゃんの方が心配だよ……大丈夫?」
花丸「ち、ちょっと休憩ずら……」
296 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:00:50.23 ID:ISz0KMwo0
花丸ちゃんはそう言ってルビィの傍でへたり込む。
ルビィ「もう……花丸ちゃんったら……」
花丸「えへへ、ごめんずら……」
ルビィもちょっと休憩しようかな。
花丸「捕獲は順調?」
ルビィ「えーと……あんまり」
花丸「そっかぁ……」
ルビィ「花丸ちゃんも捕獲してたの?」
花丸「あ、うん。さっきまで順調だったんだけど……急に野生のポケモンが出てこなくなって……」
ルビィ「あ、そうなんだ……なんか、ごめんね」
花丸「?」
たぶん当分、ここの一帯のポケモンはトレーナーに近付いてこない気がする。
花丸「あれ? 腰のボール一個増えてる? 捕獲したの?」
ルビィ「あ、うん。たまたまというか……」
言われて黄緑色のボールを放ると、中からアブリーが飛び出す。
「アブブ」
花丸「アブリーずら! マルはまだ捕まえてなかったんだよね」
ルビィ「この子、全然ルビィのこと警戒しなくて……」
「アブブ」
そのまま、頭の上に停まって来る。
ルビィ「捕まえる前から、こんな感じで……」
花丸「ルビィちゃんが優しいことに気付いてたんじゃないのかな?」
ルビィ「完全に運が良かっただけだよ……」
花丸「運も実力の内だよ?」
ルビィ「あはは、ありがと……花丸ちゃん」
他のポケモンの気配のしない2番道路に、そよそよと風が吹いて、ルビィたちの髪を揺らす。
花丸「ねぇ、ルビィちゃん」
ルビィ「なぁに? 花丸ちゃん」
花丸「どうして、旅に出たいって思うようになったの?」
ルビィ「え……」
花丸ちゃんが急に核心を突くようなことを言ってくる。
297 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:02:15.11 ID:ISz0KMwo0
花丸「うぅん、そうじゃないね。クロサワの入江で何があったの?」
ルビィ「な、何……って……」
花丸「ルビィちゃんを攫って行った犯人と関係があるのかな?」
ルビィ「……ぅゅ……」
花丸「あ、ごめんね……別に責めてるわけじゃないんだけど……」
ルビィ「……」
花丸「無理に聞き出したりはしないけど、気にはなってたんだよね」
ルビィはずっと旅に出ることに消極的だった。それを一番よく知ってるのは他でもない花丸ちゃんだ。
そんなルビィがなんで急に旅に出たいなんて言い出したのか、一番気になってるのも花丸ちゃんな気がする。
ルビィ「……花丸ちゃん聞いたら怒るかも」
花丸「怒らないずら」
ルビィ「本当?」
花丸「マルはルビィちゃんに嘘吐かないよ」
ルビィ「……うん、そうだね」
じゃあ、ルビィも嘘や隠し事は花丸ちゃんにはしたくない。
ルビィ「……理亞さん──あ、ルビィのことを攫おうとした人だけど……」
花丸「うん」
ルビィ「たぶんなんだけど……ルビィ、あの人は悪い人じゃないと思うんだ」
花丸「そうなの?」
ルビィ「たぶん……」
花丸「そっか」
ルビィ「メレシーたちを大切にしてたし……やり方は乱暴だったけど、ちゃんとお話すれば……もっと分かり合えれば誰も悲しい想いしなくて済むんじゃないかなって、たぶんなんだけど……」
花丸「……じゃあ、その人を探すために旅に?」
ルビィ「そう、なるのかな……でも、今のまま会っても意味ないから」
花丸「強くなって、なんであんなことをしたのか、ちゃんと聞きたいんだね」
ルビィ「うん」
花丸「やっぱり、ルビィちゃんは優しいね」
ルビィ「そんなんじゃないよ……ただ──」
花丸「ただ?」
ルビィ「メレシーを大切にする人に悪い人はいないから」
花丸「ふふ、そっか。昔からばあちゃんも同じようなこと言ってたずら。じゃあ、その……理亞さん? は悪者じゃないんだね」
ルビィ「信じてくれるの?」
花丸「ルビィちゃんはそう思うんでしょ? なら信じるよ」
ルビィ「花丸ちゃん……ありがと」
花丸「どういたしまして、ずら。そのためには、早くヌイコグマ探して捕まえないとだね」
花丸ちゃんはそう言って立ち上がる。
ルビィ「うん、そうだね」
298 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:03:33.08 ID:ISz0KMwo0
ルビィもつられて立ち上がる。
とは言っても、どうしようかな……。野生のポケモンたちはこの辺りからほとんど逃げちゃったし……。
「…アブブ?」
そのとき頭の上でアブリーが鳴き声をあげた。
ルビィ「アブリー? どうしたの?」
「アブブ」
パタパタと翅を動かして、ルビィから放れたアブリーは西の方を見ていた。
花丸「何か居たずら?」
ルビィ「ん……」
アブリーの見ている方向に目を凝らすと、
ルビィ「……お車?」
ポケモン輸送用の軽トラックがこっちに向かって走ってきていました。
* * *
「メェー」「メェー」「メェーメェー」
花丸「わ、メリープがいっぱいずら」
そのトラックには花丸ちゃんの言う通り、たくさんのメリープが輸送されていた。
確か西のコメコシティに牧場があったはずだから、そこから来たのかな?
『メリープ わたげポケモン 高さ:0.6m 重さ:7.8kg
ふかふかの 体毛は 空気を たくさん 含んで 夏は
涼しく 冬は 温かい 優秀な 服の 素材になる。 ただし
静電気が 溜まりやすいので 特殊な 加工を する。』
安全運転でのんびりと走る、トラックに積まれたメリープを二人で眺めていると、運転手のおじさんが窓から顔を出して、
牧場おじさん「お嬢ちゃんたち、この辺りの子なのかいー?」
そう訊ねてきた。
ルビィ「あ、は、はいっ」
花丸「こんなにたくさんのメリープ、どうしたずら……どうしたんですか?」
ルビィ「こ、この先には、港……しか、ないよね」
なんとなく、知らない人なのでルビィは花丸ちゃんの後ろに隠れてしまう。
299 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:06:40.32 ID:ISz0KMwo0
牧場おじさん「その港へのお届けなんだよー」
花丸「港に?」
牧場おじさん「なんでも、急にメリープの綿毛を発注した人がいるらしくってなー。拘りが強い人らしくて毛刈りも自分でってことさー。明日の朝一の船に載せてフソウタウンまでメリープを送らないといけないんだよー」
ルビィ「明日……随分急だね」
牧場おじさん「おじさんも長いことメリープやらミルタンクやら運送してるけどー。ホシゾラより東に運ぶのは久しぶりだよー」
花丸「大変ですね……」
牧場おじさん「まあ、これも仕事さーそれに今日は野生のポケモンも随分少なくて運転が楽だよー」
ルビィ「……あはは……」
なんとなく、目を逸らして苦笑いする。
牧場おじさん「2番道路は力の強い野生ポケモンがいるから、気をつけろー。なんて言うけど、この分なら問題ないなー」
ルビィ「力の強いポケモンですか?」
そんなポケモンこの辺りにいたっけ……?
牧場おじさん「なんでもぬいぐるみみたいな見た目してるわりにー。随分力が強いポケモンらしくてなー」
ルビィ「え?」
牧場おじさん「かわいい見た目の割に気性が荒くてー。縄張りに入られると機嫌が悪くなるっていうからなー。うっかり縄張りに近付かないようしないとなー」
ルビィ「え??」
花丸「……もしかして、ヌイコグマずら?」
牧場おじさん「確か、そんな名前だったなー」
ルビィ「え???」
牧場おじさん「ただ、普段はあまり表に出てこない珍しいポケモンさー。こっちから行かない限りは、他のポケモンが縄張りに侵入してきて、その拍子に表に飛び出してきたーなんてことがなければまず出くわすこともないさー」
ルビィ「…………」
ルビィは嫌な予感がして、あたりをキョロキョロと見回してしまう。
ルビィ「あの……」
花丸「ルビィちゃん、どうかしたの?」
牧場おじさん「お嬢ちゃん、顔色悪いけどだいじょうぶかー?」
ルビィ「ヌイコグマって……そこにいるポケモンですか……?」
花丸・牧場おじさん「「……え?」」
メリープを積んでいる、貨物車の後輪辺りに、ピンクと黒のぬいぐるみみたいなポケモンが、居ました。
* * *
牧場おじさん「ど、どわああああー!?」
「メェーー」「メェェーーー」
「クーーマーーー」
ヌイコグマが身体を車輪に潜り込ませるようにすると、トラックがいとも簡単に後輪から浮き始める。
300 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:07:49.52 ID:ISz0KMwo0
ルビィ「わ、わっ!?」
花丸「ずら!?」
牧場おじさん「た、倒れちまうー」
花丸「い、いけないずら! ゴンベ、ナエトル!」
「ゴンッ」「ナエー」
花丸ちゃんがバスを挟んで、ヌイコグマとは対角線上の車輪の方にゴンベとナエトルを繰り出す。
花丸「“かいりき”!」
「ゴンッ!!」「ナエー!!」
逆側から押すことで少しだけ、傾く速度が遅くなるが、
すぐにまた押し負け始める。
「メェー」「メェェー」
牧場「なんて“ばかぢから”だー!?」
ルビィ「あ、あわわ……!!」
ヌイコグマをどうにかしなきゃ……!!
「アブゥーー」
慌てるルビィの目の前にアブリーが飛んでくる、
ルビィ「! 指示を出せってこと!?」
「アブアブ」
花丸ちゃんは二匹の指示に精一杯だ、それなら、
ルビィ「ルビィがやるしかない……!! アブリー“ようせいのかぜ”!」
「アブーリィー!!」
アブリーから、放たれた風がヌイコグマを直撃する。
「クーーマーー」
ヌイコグマはアブリーに攻撃されたことを認識すると、
──ガン、とトラックに一発頭突きをかましてから、
「ゴンッ!!」
牧場おじさん「おわわー」
花丸「倒れるずらー!? ナエトル、“ワイドガード”!!」
「ナエー」
ヌイコグマがこっちに向かって、走ってきた……!!
ルビィ「アブリー! 一旦ここから引き離そっ!」
「アブブ」
ルビィは踵を返して、アブリーと一緒に走り出した。
トラックはたぶん、花丸ちゃんがどうにかしてくれる……。
だから、ヌイコグマはルビィが引き付けて……!!
振り向くと──
ちょっと走っただけで、ヌイコグマとかなり距離が離れていた。
301 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:09:53.73 ID:ISz0KMwo0
花丸「ルビィちゃーん!! ヌイコグマは脚が遅いずらー!!」
「クーーーマーーー」
ルビィ「ええええーー!!!!?」
全速力で走り出したせいか、ヌイコグマはすでにルビィたちを見失いかけて、トラックの場所へもどろうとしていた。
ルビィ「な、何かおびき寄せる技……!!」
ルビィは図鑑を開いて、アブリーの技を確認する。
ルビィ「こ、これ!! アブリー、“ないしょばなし”!」
「アブブー」
アブリーがヌイコグマの元へ近付いて、周囲をぶんぶんと飛び回る。
「クーーーーーーマーーーーーー…」
ヌイコグマの意識がまたアブリーに向いた。
ルビィ「よっし、アブリーまたおびき寄せようーっ!」
「アブブー」
またアブリーがルビィの元に戻って来るけど、
ルビィ「ぬ、ヌイコグマ……遅い……!」
さっきは全速力で走りながら背を向けたから見ていなかったけど、こうして見てみると確かに遅い。
でも、あの“ばかぢから”で暴れられたらトラックに被害を与えかねないし、出来るだけ引き付けたい……。
再び図鑑でアブリーの技を調べて──
ルビィ「! この技なら……! アブリー!」
「アブアブ」
ルビィ「“スピードスワップ”!」
「アブアブブ」
ルビィの指示と共にアブリーのスピードががくっと落ちる。
そして、
「クーマー」
ルビィ「ぴぎぃ!!?」
ものすごいスピードでヌイコグマがこちらに近付いてくる。
ルビィ「た、タイミング速すぎた!? アブリー頑張ってー!」
「アブー」
“スピードスワップ”でアブリーとヌイコグマの素早さを入れ替えた結果、ヌイコグマが猛スピードで追って来はじめた。
あの可愛い見た目とあのパワーのポケモンが猛スピードで迫ってくるのは、謎の迫力があって、正直怖い。
意図したことだけど、ヌイコグマに追い回される形になる。
ルビィ「は、はっ……!! アブリー!!」
「アブ」
302 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:11:20.81 ID:ISz0KMwo0
ルビィは素早さの下がったアブリーと併走する。
背後を見ると、ヌイコグマが後ろから迫ってくる。
引き付けるのには完全に成功したようだ。
視線を前に戻す。
すると、遠方に浜辺が見えてきた。
ルビィ「す、スタービーチ!!」
ここまで来れば十分、
ルビィ「アブリー、“ねばねばネット”!」
「アブブーーー」
アブリーがその場で粘着性のネットを散布する。
「クーーマーー」
そのネットに足を取られて、ヌイコグマの動きが少しだけ遅くなる。
ルビィ「ぬ、ヌイコグマさん! ルビィとバトルしてください!」
ここまでくれば、もう一対一。あとはルビィがヌイコグマを捕まえるだけ、
「クーマー」
と、思った瞬間、ヌイコグマが跳ねて、そのままの勢いでアブリーを前足で蹴り飛ばした。“メガトンキック”だ。
「アブゥーーー」
ルビィ「!? あ、アブリーッ!!?」
ルビィは蹴り飛ばされたアブリーをどうにか腕を伸ばしながらジャンプしてキャッチする。
「アブブ…」
ルビィ「アブリー、ありがと。あとは休んで」
アブリーをボールに戻す。
「クーーマーーー」
ヌイコグマの視線がルビィに向く。
ルビィ「ぅゅ……」
一瞬身が竦んだけど……。
ルビィ「ダメだ……戦わなきゃ……!!」
自分を叱咤する。ルビィの手持ちは残り二匹、アチャモかコランか、
腰からボールを選ぼうとしたら、
「チャモー」「ピピー!!」
アチャモとコランが同時にボールから、勝手に飛び出した。
ルビィ「!」
「チャモチャモ」「ピピィ」
303 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:12:29.12 ID:ISz0KMwo0
それぞれ、アチャモが“フェザーダンス”を、コランが“ステルスロック”を放つ。
二匹とも、ヌイコグマの足止めの技だ。
ルビィ「二人とも協力できる!?」
「チャモ!」「ピピ!」
やんちゃな二匹だけど、いざというときは心強い。
ルビィ「アチャモ! “ひのこ”! コラン! “たいあたり”!」
「チャモ!!」「ピピ!!」
アチャモの“ひのこ”と共に、弾けるようにコランが飛び出す。
「クーマー」
ヌイコグマは攻撃を避けようと、身体を横にずらそうとする、が。
「クーーマーー」
“ねばねばネット”に引っかかって、うまく移動が出来ていない。
そこに“ひのこ”がヒットする。
「クーーマーー」
ルビィ「効いてる!」
ヌイコグマが怯んだところに
「ピピーーー!!!」
そのままコランが突撃する。
「クーーーーマーーー」
ヌイコグマが鳴き声をあげながら、怯んだ──ように見えたが、
「クマー」
突撃してきた、コランを捕まえるように、前足で押さえつける。
「ピピ!?」
ルビィ「コラン!?」
そのまま、前足でコランを掴み、後ろ足で回りながら、コランを“ぶんまわす”
「クーーマーー」
ルビィ「コラン!!?」
ルビィがコランに向かって叫ぶと、
「チャモ!!」
アチャモが一歩前に出た、
ルビィ「あ、アチャモ!?」
「チャモ!!」
任せろと言わんばかりに、
ルビィ「!」
その姿を見てハッとする。ここでルビィが動揺しちゃダメだ……!
この前、千歌ちゃんが見せてくれたみたいに、トレーナーがポケモンの力を引き出すんだ……!!
304 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:13:21.25 ID:ISz0KMwo0
「クーーーマーー」
ヌイコグマが回転した反動を乗せたまま、コランを投げ飛ばしてくる。
ルビィ「コラン!! “かくばる”!!」
「ピピーーーー」
コランの身体をより攻撃的にして、
ルビィ「アチャモ! “ブレイククロー”で片足だけ、地面を踏みしめて!」
「チャモォ!!」
ルビィ「アチャモ! コラン!」
「チャモ!!」「ピピ!!」
一直線に飛んできた、コランをアチャモが片足で受け止め、踏みしめた逆の脚を軸足に回転して、コランをさらに投げ返す……!!
「クーーマーー!?」
ルビィ「いっけー!!!」
かなり特殊な形だけど、二匹の力を合わせて、ヌイコグマに攻撃を倍返しする! “カウンター”!!
「ピピーーーー!!!」
その激烈な勢いで、飛んできたコランに、
「クマーーー!?」
今度は受け止めることが出来ずにヌイコグマが後ろに大きく吹き飛んだ。
ルビィ「い、今だ……!!」
ルビィは地を蹴って走り出す。
「ク、マー」
ヌイコグマに近付いて、花丸ちゃんから貰ったフレンドボールを構えて、
投げた。
「クマ──」
──パシュン、カツンカツーン。
ヌイコグマを吸い込んだボールが音を立てて、地面で跳ねる。
ルビィ「はぁ……はぁ……!!」
ボールが一揺れ、二揺れ……三回揺れて……大人しくなった。
ルビィ「はぁ……はぁー……」
ルビィは思わずへたり込んでしまう。
「チャモ…」「ピピ」
そんなところに二匹が近寄ってくる。
ルビィ「えへへ……ちょっと、気が抜けちゃったね」
そうはにかんでから、アチャモとコランを抱き寄せる。
「チャモ」「ピピ」
305 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:14:17.07 ID:ISz0KMwo0
ルビィ「えへへ、みんなのお陰で捕獲出来たよ……アチャモ、コラン、アブリーも……ありがと」
「チャモ」「ピピ」
激闘の末、ルビィはヌイコグマの捕獲に成功したのでした……!!
* * *
あの後、ルビィたちがトラックの方に戻ると、花丸ちゃんとおじさんが待っていました。
牧場おじさん「いやーほんとに助かったー」
花丸「ルビィちゃん、怪我とかしてない?」
ルビィ「うん、大丈夫だよ」
牧場おじさん「何かお礼させて欲しいさー」
ルビィ「あ、えっと……お礼は大丈夫、というか……ある意味ルビィたちが原因というか……」
花丸「ずら?」
ルビィ「と、とにかく大丈夫なんで!」
牧場おじさん「そうかー? 最近の子は謙虚なんだなー この恩は忘れないさー」
「メェー」
おじさんはそう残して、港の方へとトラックを走らせて去って行きました。
ルビィ「花丸ちゃんは怪我してない?」
花丸「うん、ルビィちゃんがヌイコグマをひきつけてくれたお陰で無傷ずら」
ルビィ「そっか、よかったぁ……」
花丸「それで、あのヌイコグマは……」
ルビィ「あ、うん、ここにいるよ」
花丸「ずら!? あの状況から捕まえたの!?」
ルビィ「え? だって、最初からヌイコグマ捕まえるって話だったし……」
花丸「そうだけど……ホントにどこも怪我してないの? あのヌイコグマ、結構強かったんじゃ……」
ルビィ「強かった、けど……」
ルビィは、3つのボールを撫でながら、
ルビィ「皆が助けてくれたから……」
花丸「…………」
ルビィ「……? 花丸ちゃん?」
花丸「あ、ううん、なんかルビィちゃんすごいなって思っただけ」
ルビィ「え、えへへ……なんか花丸ちゃんに改めてそう言われると照れちゃうな」
ルビィは少しだけ恥ずかしくなって、頬を掻く。
……さて、
306 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:14:44.94 ID:ISz0KMwo0
ルビィ「後はお姉ちゃんに報告して、認めてもらうだけだね……」
花丸「ふふ、そうだね」
ルビィ「ぅ……なんで、笑うの、花丸ちゃん……ここが一番緊張するんだよ?」
花丸「そんな心配いらないよ」
ルビィ「そうかな……?」
花丸「だって、今日のルビィちゃん」
花丸ちゃんはニコっと安心する笑顔を作ってから、
花丸「100点満点通り越して、はなまる200点満点だったから! ダイヤさんも絶対認めてくれるずらっ」
そう言って笑うのでした。
307 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 12:15:55.21 ID:ISz0KMwo0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【2番道路】
口================= 口
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口=================口
主人公 ルビィ
手持ち アチャモ♂ Lv.13 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
メレシー Lv.13 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
アブリー♀ Lv.7 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
ヌイコグマ♀ Lv.11 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:30匹 捕まえた数:4匹
主人公 花丸
手持ち ナエトル♂ Lv.12 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
ゴンベ♂ Lv.13 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:29匹 捕まえた数:12匹
ルビィと 花丸は
レポートを しっかり かきのこした!
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