前回 千歌「ポケットモンスターAqours!」 その2

308 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:34:09.18 ID:ISz0KMwo0

■Chapter023 『犬ポケモンの楽園』 【SIDE Chika】 





──コメコジムでのジムバトルを終えた後……。 

コメコのポケモンセンターにて、 


花陽「千歌ちゃん、もう行っちゃうんですね……?」 

千歌「はい! あんまりのんびりしてると、梨子ちゃんに置いてかれちゃうんで!」 

花陽「梨子ちゃん……ちょっと前にジムでバトルしましたけど、あの子は千歌ちゃんのライバルなんですか?」 

千歌「ライバル……になるのかな? 同じときに図鑑とポケモンを貰った子だから、負けてられないなって!」 

花陽「そうですか……そろそろ日も暮れ始めると思うから、気をつけてください」 

千歌「はい、ありがとうございます!」 


花陽さんとそんな会話をしている千歌の足元に、 

 「ゼリュー」「ミィー」 


千歌「わわっ?」 


小柄なブイゼルが二匹寄って来る。 


千歌「なんだ、君たちか……」 
 「ゼリュ」「ミミィ」 


じゃれつく子ブイゼルの後ろからゆっくりと、 

 「ゼルゥ」 

この子たちの親のブイゼルが歩いてくる。 


花陽「巣や小川の修復は順調に進んでるみたいだから……何日かしたら野生に帰してあげられると思います」 

千歌「そっか、よかったぁ……ブイゼルくんたち、またね」 


私がそう言って、手を振ると。 

 「ゼル」 

ブイゼルは礼儀正しくお辞儀をする。 


千歌「ポケモンセンターの中では自由に動き回ってるのかな?」 

花陽「もう敵意もないみたいだし……町の人たちも事情を聞いてからは、ブイゼルに優しくしてくれてます。元々牧場の町なので、ポケモンが自由に歩き回ってることにも、皆慣れてますし」 

千歌「そうなんだ。じゃあ、もう心配なさそうですね」 

花陽「ふふ、そうですね」 


ブイゼルたちはまた自然に帰って、子育てを再開するんだろう。 

それを見届けることが出来ないのはちょっと残念だけど……。 


花陽「そういえば、千歌ちゃんはホシゾラシティから来たんでしたよね?」 

千歌「あ、はい」 

花陽「そうなると……次は北西のダリアシティのジムを目指すんですよね」 

千歌「そう、なるのかな?」 


正直道なりに進んでるだけだからよくわからないけど、次のジムがあるなら、そういうことだと思う。 

309 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:35:26.69 ID:ISz0KMwo0

花陽「それなら、手持ちの数を揃えた方がいいと思いますよ」 

千歌「数……ですか?」 

花陽「はい。ダリアジムはちょっと変わったジムで……ポケモンが6匹いないと挑戦できないので……」 

千歌「え、そうなんですか!?」 

花陽「だから、後回しにする人も多いんですけど……ストレートに進むならダリアに付くまでに6匹揃えた方がいいと思います」 

千歌「な、なるほど……」 


考えてみれば、捕獲はダイヤさんが付いてくれていたときに捕まえたムックルが最初で最後だ、 

いい加減新しい手持ちを増やさないととは思ってはいたんだけど……。 

 「ゼル?」 
  「ゼリュゥ」「ミィミィ」 

気付くと、ブイゼルたちが再び千歌の足元に近付いてきていた。 


花陽「そのブイゼルたち……千歌ちゃんによく懐いてるし、連れて行ってもいいんじゃないですか?」 

千歌「うーん……」 


そう言われて、私は少し悩む……が、 


千歌「子供の内はちゃんと自然の中で育った方が、いいと思います」 

 「ゼル」 

千歌「だから、子育てが終わって、二匹の子供が独り立ちしたら……また、戻ってこようかな。そのときまで、私のこと覚えててくれたら、またそのとき考えます」 

花陽「……ふふ、そうですか」 


……となると、この先でポケモンを3匹捕まえないといけない。 

そんな私の考えてることに気付いたのか、 


花陽「大丈夫ですよ、この先にはポケモンがたくさん生息してる場所があるから……」 


花陽さんはそう言うのだった。 





    *    *    * 





──4番道路。 


千歌「わぁー……!!」 


私は見渡す限りにたくさんのポケモンがいるのが一目でわかる、光景を目の当たりにして感嘆の声を挙げた。 

元気に走り回ってるのはガーディかな? 

反対にのんびりとしているブルーやロコンの姿。 

何匹か群れているのはポチエナだ。その群れの中心にはグラエナもいる。 

その群れを横切るように俊足で走りぬけるのは、ラクライたちの群れ。 

その後方から追いかけるように一直線に走るマッスグマ、それをじぐざぐと走りながら追いかけるジグザグマの群れ。 

ちょっと遠目にある、切り立った岩肌にポツポツ見えるポケモンも、犬のようなシルエットをしている。 
310 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:40:07.48 ID:ISz0KMwo0

千歌「ここが、ドッグラン……!!」 



──────── 
────── 
──── 
── 



千歌「ポケモンがたくさん生息してる場所?」 

花陽「はい、コメコの西の4番道路は犬ポケモンの楽園──通称『ドッグラン』って言われてる場所なんです」 

千歌「ドッグラン……」 

花陽「昔コメコの牧場犬を育てるために犬ポケモンを集めて放牧してた名残なんだそうです。今では、そういうことはしていないので全部野生ですけど……千歌ちゃんのしいたけちゃんも犬ポケモンだし、もしかしたら犬ポケモンが好きなのかなって思ったから……」 

千歌「はい! 犬ポケモン好きです!」 

花陽「それならきっといい仲間が見つかると思いますよ」 



── 
──── 
────── 
──────── 



そう言われて来た、ここ4番道路は本当に犬ポケモンの楽園だった。 


千歌「確かにここなら、新しい仲間に出会えそう……!!」 


ただ、あまり敵意がないのか、近くを通っても、吼えたり、襲い掛かってきたりする様子は全然ない。 


千歌「昔は放牧場だったって言ってたし……人に慣れてるのかな?」 


ブルーたちの群れの横を通りすぎながら、ぼんやりと呟く。 

私が周囲を見回していると、 


千歌「あ……あのポケモン……」 


一際大きな身体をした、犬ポケモンが目に入ってくる。 


千歌「あれって、確かムーランドだよね」 


私は図鑑を開く。 


 『ムーランド かんだいポケモン 高さ:1.2m 重さ:61.0kg 
  山や 海で 遭難した 人を 救助する ことが 得意。 
  長い 体毛は 包まれると 冬山でも 一晩 平気なほど 暖かく  
  レスキュー隊の 相棒と して 連れられる ことも多い。』 


どっしりと構えたムーランドの周りには、進化前のハーデリアとヨーテリーがたくさんいる。 


千歌「うちの手持ちは落ち着きがない子が多いから、ああいうどっしりとしたポケモンが居るといいかも……あ、でもしいたけは落ち着いてるか」 


しいたけの場合、どっしりというよりは、のんびりだけど……。 

そんなことをぼやきながら、ムーランド率いる群れを観察していると。 


千歌「ん……?」 
311 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:41:38.12 ID:ISz0KMwo0

ムーランドのすぐ近くに明らかに犬ポケモンとは違うシルエットが飛び出てるのが目に入る。 

──というか、あれって……。 


千歌「……人の脚?」 


なんだか綺麗な脚……女性の脚かな? 

ハーデリアやヨーテリーが群がっていて、それ以上はよくわからない。 

犬ポケモンたちと、じゃれてるのかな……? 

いや、その割には、ピクリとも動かないし…… 


千歌「……あの人、大丈夫かな……?」 


私は心配になって、その人影に駆け寄る。 


 「ウォフ…」 


私が走ってきても、ムーランドは毅然としたまま、そこに鎮座していた。 


千歌「ち、ちょっとごめんねー」 

 「ワンワン?」「ワォフ」 


その女性の安否を確認するために、ヨーテリーとハーデリアを手で掻き分けて、 


千歌「え」 


私はそこに倒れている人の顔を見て、驚きの声を挙げた。 


千歌「梨子ちゃん……?」 


ヨーテリーとハーデリアにもみくちゃにされて、気絶していたのは、 


梨子「…………」 


私よりも遥か先を旅してるはずのライバル──梨子ちゃんだった。 





    *    *    * 





千歌「梨子ちゃん、梨子ちゃーん?」 


ぺちぺちと頬を叩いてみる。 


梨子「……ん……」 

千歌「あ、よかった……息はあるね」 


それにしても、なんでこんなところに……まさかお昼寝してたとか……? 


千歌「うーん……梨子ちゃんって私の中で、そういうイメージじゃないんだけどなぁ……ムーランドくん、なんで梨子ちゃんこんなところで寝てたの?」 

 「ヴォッフ…」 
312 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:42:30.19 ID:ISz0KMwo0

ムーランドに訊ねてみるも、ムーランドは鼻を鳴らすだけだった。 

原因が全くわからず、頭が捻っていると、 


梨子「ん……あれ……わた、し……」 

千歌「あ、梨子ちゃん!」 


梨子ちゃんが目を覚ました。 


梨子「……あれ? 貴方……」 

千歌「貴方じゃなくて、千歌だよ! いい加減覚えて!」 

梨子「ぁぁ、うん……千歌、ちゃん……なんで私、こんなところ……に……」 


目を覚ました梨子ちゃんが見る見る青ざめていく。 


千歌「梨子ちゃん?」 


梨子ちゃんの視線を追うと、私の後ろにいるムーランドを見て、 


梨子「────」 


口をパクパクとさせている。 


千歌「梨子ちゃん?」 

梨子「……い──」 

千歌「……い?」 

梨子「いやああああああああ!!!!!」 


──突然、梨子ちゃんが絶叫して、私に抱きついてきた。 


千歌「え!? な、なに!?」 

梨子「いぬ!!!! 犬!!!!!」 


梨子ちゃんは半狂乱で何度も『犬、犬』と叫んでいる。 


千歌「り、梨子ちゃん落ち着いて……!!」 

 「ヴォッフ…」 

梨子「た、助けてっ!! か、噛まれるっ……!!」 

千歌「だ、大丈夫だからっ 梨子ちゃん!?」 


明らかに異常な脅え方。 


梨子「千歌ちゃん、助けっ……!!!?」 


すごい力で腕にすがり付いてくる。 

その騒ぎに周りのヨーテリーやハーデリアがわらわらと近寄ってくる。 


梨子「こ、来ないでっ……!!!? 来ないでぇっ!!!」 


それに反応するように、パニックはどんどん激しくなっていく、このままじゃ不味い。 
313 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:43:57.35 ID:ISz0KMwo0

千歌「ちょっとごめんね皆! いけ、ムクバード!」 

 「ピピィーーー!!!」 


腰のボールからムクバードを繰り出す。 


千歌「ムクバード! “ふきとばし”!!」 
 「ピィーー!!!」 


周囲一帯に強風を巻き起こし、 

 「ワフ!?」「ウォッフ!!」 

ヨーテリーやハーデリアを吹き飛ばす。 


千歌「梨子ちゃん、大丈夫だから!」 

梨子「はっ……!! はっ……!! 千歌ちゃ……っ」 


だけど、 

 「ワンワン!!!」「ウォッフウォフ!!!!」 

敵対行動と見做されたのか、追い払っても追い払っても、ヨーテリーとハーデリアが寄って来る。 


梨子「ひっ……!!」 

千歌「くっ……!!」 


そのとき、 

 「ヴォッフ!!!」 

近くで腰を据えていた、ムーランドが吼えた。 


梨子「ひ……!!!」 

千歌「む、ムーランドも……!?」 


ムーランドに攻撃される、と思ってマグマラシのボールに手を掛けたが、 

 「ワフ…」「ウォフ」 

予想に反して、周りのヨーテリーとハーデリアの動きがピタリと止まり。 


 「ヴォッフ…」 


ムーランドは再び鼻を鳴らして、その場に腰を降ろした。 


千歌「あ、あれ……?」 

梨子「ふー……ふー……っ!!」 


涙目でガタガタと震えながら、私の腕にすがりつく梨子ちゃん。 

ヨーテリーとハーデリアは、さっきとは打って変わって、のそのそとその場から離れていく。 


千歌「ムーランドくん……キミが助けてくれたの?」 

 「ヴォフ…」 


ムーランドは先ほど同様、鼻を鳴らすだけだった。 


梨子「千歌ちゃん……っ……!! い、今のうち……に、逃げなきゃ……っ……!!」 


梨子ちゃんがそう言って引っ張ってくる。 
314 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:45:00.96 ID:ISz0KMwo0

千歌「わわっ!?」 


ただ、激しく動揺していたためか、 


梨子「きゃっ!?」 


脚をもつれさせ、私を巻き込んで倒れそうになる。 


千歌「あ、あぶなっ!!?」 


そのとき、うつ伏せに倒れそうな背中を、何かに引っ張られる。 


千歌「っ!!」 


そのまま、腕に力を込めて、梨子ちゃんごと体勢を持ち直した。 


梨子「!?!?」 


梨子ちゃんの顔色がまた恐怖の色に染まるのを見て、 

ムーランドが転びそうなところを、服に噛み付いて持ち上げ、助けてくれたんだと気付く、と同時に、 


千歌「ごめん、梨子ちゃん!!」 


梨子ちゃんの口を手で塞いだ。 


梨子「!? むーっ!!! むーっ!!!?!?!?」 


このままじゃ埒があかない、 


千歌「ムクバード!! 手伝って!!」 
 「ピィーー」 


指示を待ってすぐ近くを旋回していた、ムクバードを呼び寄せ、リュックの上の部分を掴ませる。 


千歌「梨子ちゃん! すぐ、犬がいないところに連れてくから、少しだけ我慢して!!」 

梨子「……!!」 


梨子ちゃんが目を見開いて、コクコクと頷いた。 

そのまま、お姫様抱っこの要領で梨子ちゃんを抱きかかえる。 

梨子ちゃんは私の首に腕を回して、身を縮こまらせたあと目を瞑った。 


千歌「ムクバード!! 全速離脱!!」 
 「ピピィーー!!!」 


私はムクバードの揚力を借りる形で、梨子ちゃんを持ち上げて、その場から全速力で退散したのだった。 


 「ヴォッフ…」 


離れた背後で、ムーランドがまた鼻を鳴らした気がした。 





    *    *    * 


315 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:47:21.32 ID:ISz0KMwo0


千歌「梨子ちゃん……落ち着いた?」 

梨子「あ……うん……」 


4番道路の犬ポケモンの群生地から、やや東に戻り、コメコの町の近くにあった小さな旅人用の小屋で私たちは腰を落ち着けていた。 

時間はもう夕暮れ時を過ぎて、東の空からは宵闇が迫り始めていた。 

……あのあと、徐々に落ち着きを取り戻した梨子ちゃんは、小屋の隅っこで縮こまっていた。 

まだ少しだけ、震えている。 


梨子「あの……千歌ちゃん……」 

千歌「ん、何?」 

梨子「ごめんなさい……」 


梨子ちゃんは謝ってから、俯いてしまう。 


千歌「うぅん、気にしないで……それより、何があったか、訊いていい……?」 


どうして、あんな場所にいたのかもだけど、 

それよりもあの尋常じゃない脅え方。何もないわけがない。 


梨子「……私、犬ポケモンが苦手なの……」 

千歌「うん」 

梨子「4番道路にあんなに犬ポケモンがいるなんて知らなくて……他の犬ポケモンから逃げ回ってたら、ヨーテリーたちの群れに囲まれちゃって……その後はよく覚えてないんだけど……あまりに怖くて、あそこで気を失っちゃったんだと思う……」 

千歌「……そっか」 


そういえば、初めて出会ったときも私のしいたけを怖がってたような気がする。 

知らなかったとは言え、悪いことしたかな。 


千歌「でも、怪我とかしてなくて、よかったよ」 

梨子「……お陰様で……ありがとう……」 


梨子ちゃんは少しだけ照れくさそうにお礼を言ったあと、 


梨子「……今まで邪険に扱って……ごめんなさい」 


頭を下げた。 


千歌「あはは、チカは気にしてないから大丈夫だよ。顔をあげて?」 

梨子「でも……」 


梨子ちゃんはおずおずと顔をあげる。依然不安そうな表情を見て、 


千歌「ちっちゃい頃はお姉ちゃんから、もっと酷い扱い受けてたから……末っ子はそういう扱いには慣れっこなのだっ」 


私はそうおどけて返した。 


梨子「……ふふ、ありがと……」 


私の冗談を汲んでくれたのか、梨子ちゃんの表情が少しだけ和らいだ。 
316 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:48:58.82 ID:ISz0KMwo0

千歌「えへへ、やっと笑った」 

梨子「え?」 

千歌「梨子ちゃんいっつも苦しそうな顔してたから……」 

梨子「私……そんな顔してた……?」 

千歌「してたよ。しかめっつらで、来るもの全部を睨みつけるみたいな感じで……」 


千歌が眉を怒らせるような表情の真似をすると、 


梨子「い、いや……さすがにそこまで怖い顔じゃなかったと思うんだけど……」 

千歌「えーそうかなぁ? 結構睨まれてるなーって思ってたんだけど」 

梨子「というか、さっき気にしてないって言ったのに、気にしてるじゃない……意外と根に持ってる?」 

千歌「妹は姉からされた仕打ちを忘れることはないからね……そういうところあるかも」 

梨子「さっき慣れっこって言ってたじゃないっ!」 

千歌「あ、確かに……じゃあ、両立出来るってことだね」 

梨子「……ふふ、もう、それじゃなんでもありじゃない」 

千歌「あはは、そうだね」 


二人して、クスクスと笑ってしまう。 


梨子「千歌ちゃん」 

千歌「何?」 

梨子「最初に会ったとき、私ロクに自己紹介もしなかったから……改めて」 


梨子ちゃんが私を真っ直ぐ見て、 


梨子「私はサクラウチ・梨子。カントー地方から来ました」 


改めて、そう名乗りました。 





    *    *    * 





──日が完全に沈み、小屋の中にあったロウソクを見つけて、 


千歌「マグマラシ、“ひのこ”」 
 「マグ」 


明かりを灯す。 


梨子「……私ね、カントー地方のタマムシシティの出身なんだ」 

千歌「カントー地方……ここからずーっと東の方にある地方だっけ?」 

梨子「ええ」 


梨子ちゃんは相槌を打つ。 
317 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:55:48.26 ID:ISz0KMwo0

千歌「どうして、オトノキ地方に来たの?」 

梨子「うんとね……旅のやり直し、なのかな」 

千歌「やり直し……?」 

梨子「普通ポケモントレーナーが旅に出るのって、10歳くらいでしょ?」 

千歌「うん、らしいね。チカたちは近くに研究所もなかったから、10歳のときに旅に出れた人はあんまりいないんだけど……」 


果南ちゃんやダイヤさんが旅立って行ったのが、確か7年前とかだったから……前はウラノホシタウンでも10歳くらいで旅に出てたのかもだけど、 


梨子「私もね、10歳のとき、タマムシシティから旅に出ることになってたの」 

千歌「そうなの? ……なってた?」 

梨子「うん……結果から言うと、旅には出られなかった」 


梨子ちゃんは悲しそうにそう言った。 


梨子「旅の前日にね、下見をしようと思って、タマムシの近くある7番道路に一人で行っちゃったの」 

千歌「……」 

梨子「そのときにね……噛まれたの」 


梨子ちゃんはスカートの上から、左脚の内腿辺りをさすっていた。 

たぶんそこを噛まれたってことだと思う。 


千歌「……犬ポケモンに噛まれたってこと?」 

梨子「うん。デルビルってポケモン。“ほのおのキバ”で噛まれて、大怪我だった」 

千歌「……」 

梨子「なんであのとき、一人で下見なんてしようとしちゃったのかなぁ……旅立ち前で浮かれてたのかも」 

千歌「あはは……ちょっとわかるかも。チカもトレーナーの真似だって言って、ちっちゃいころから勝手に1番道路に出て怒られたことあるもん」 

梨子「ふふ……なんかトレーナーとして旅に出るなんていうとちょっと大人になった気分になるもんね」 


梨子ちゃんは自嘲気味に笑った後、話を続ける。 


梨子「とにかく痛くて……熱くて……怖かったことはよく覚えてる。実際怪我の具合も相当酷かったみたいで、それから1年間はまともに歩けなかったくらいでね。……もちろんトレーナーとして旅立つなんてもってのほかで、私はお母さんのポケモンと、昔から仲の良かったチェリンボとずっと家の中に居たわ」 

千歌「そうなんだ……」 

梨子「でもね……それでも私は、お母さんから見たら、旅に出たそうにしてたんだと思う」 

千歌「……そんなことがあったのに?」 

梨子「……お母さんがね、タマムシシティでもちょっとした有名な芸術家なの。最初旅に出るときは、お母さんの薦めで……旅に出て、いろんなものを見てきて欲しいって言われて……でも、私がバカなことしたせいで全部出来なくなっちゃって……」 

千歌「……」 

梨子「お母さんのツテで図鑑も最初のポケモンを貰う約束を取り付けてくれてたのに、全部無駄になっちゃって……それからは機会もなくて、気付いたら16歳。お母さんは、怪我が完治した後も、ずっと旅立ちの機会を探してくれてたんだけど……そんなときに」 

千歌「偶然、ここで条件に合う旅立ちの機会を見つけた……」 

梨子「そういうこと」 


言われてみれば、旅立つ3人は歳の近い人を選ぶって言ってたっけ……。 

本来10歳くらいで旅に出る人が多いから、16歳や17歳みたいな半端な年齢で旅に出る人はかなり珍しい。実際私たち4人も地元の人間だけじゃ数が集まらなかったわけだし。 
318 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 13:57:29.06 ID:ISz0KMwo0

梨子「これでやっと罪滅ぼしが出来るって……思ったの」 

千歌「罪滅ぼし……?」 

梨子「お母さんが、せっかく用意してくれた、舞台を私がめちゃくちゃにした……私の勝手で、めちゃくちゃに……」 

千歌「そんな……」 

梨子「お母さんの後押しで旅には出たけど……それでも、今回の旅立ち前もすごい心配してて……自分の育てたポケモンもたくさん持たせてくれた」 


そう言って梨子ちゃんは腰から3つのボールを放った。 


 「ブルル…」 

梨子「一匹はこのメブキジカ。いつも桜の花を咲かせてる不思議な個体なの」 


 「リコチャンリコチャン!!」 

梨子「二匹目はこのペラップ。その場その場でいろんな声や音を記憶出来る不思議なポケモン」 


メブキジカにペラップ……でも、私は三匹目に目を引かれた。だって……。 


 「ドブルー…」 

千歌「犬……ポケモン……」 


筆のような尻尾の先から、桜色のインクを滴らせたポケモン。 


 『ドーブル えかきポケモン 高さ:1.2m 重さ:58.0kg 
  尻尾の 先から にじみ出る 体液で 縄張りの 周りに 
  自分の マークを 描く。 5000 種類以上の マークが 
  見つかっており その 独創性から 芸術家に 好まれる。』 


梨子「三匹目はこの色違いのドーブル……芸術家のお母さんの相棒でね。三匹ともちっちゃい頃から私の面倒を見てくれてたから……犬ポケモンだけど、多少は平気なの」 

 「ドブル…」 


でも、ドーブルはペラップやメブキジカに比べると梨子ちゃんから距離が遠い。 


梨子「ただ……ちっちゃい頃はあんなに仲良しだったのに、あのときから触ることは出来ない……」 

千歌「……」 

梨子「どうしても、犬ポケモンに触られるとパニックを起こしちゃって……ダメなんだ」 


梨子ちゃんはそう言いながら、三匹をボールに戻す。 


梨子「それでも、お母さんがドーブルを持たせてくれたのは……期待なのかなって」 

千歌「期待……?」 

梨子「芸術家として、私が旅の中で何かを見つけてくることを期待して……ね」 

千歌「……そう……なのかな……」 

梨子「……きっと、そうなんだと思う」 


私はなんとなくもやもやとしたけど、梨子ちゃんがそういうなら、そうなのかもしれない。 

会ったことのない梨子ちゃんのお母さんが何を考えて、梨子ちゃんにポケモンを託したのかまではさすがにわからないし。 


梨子「だから、私は結果を出さないといけない……。まだ、芸術として残せそうなインスピレーションは見つけられてないし……正直それが見つかるのかわからない。……それなら、せめて他に何かの結果を……ジム制覇をしたら、こうして旅に送り出してくれたお母さんにも報えるのかなって」 

千歌「……そっか」 
319 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 14:01:00.28 ID:ISz0KMwo0

ここまで来て、やっと梨子ちゃんが何を焦っているのかがわかった気がした。 

全部ではないにしろ……お母さんのために、梨子ちゃんは精一杯なんだ。 


梨子「でも、それもここで終わりみたい……」 

千歌「え……?」 

梨子「だって……今日の私、見たでしょ? この地方にはデルビルは生息してないって言うのは先に調べてたんだけど……あんなに犬ポケモンが居る場所があるなんて知らなかったから」 


確かに私も知らなかったくらいだし、カントー地方から来た梨子ちゃんが知らなくても無理はない。 


梨子「さて……これから、どうしよっかなぁ……。私はこの先は進めないし……戻って、船で海路かな……」 

千歌「……梨子ちゃん」 

梨子「何?」 


私は思わず、立ち上がって、手を差し伸べていた。 


千歌「私と一緒に行こう」 

梨子「え……」 

千歌「あそこの犬ポケモンたち、人に慣れてるから寄って来ちゃうけど……変に刺激しなければ、十分素通り出来ると思う」 

梨子「……」 

千歌「それに、もしパニック起こしちゃっても、チカが近くに居れば今日みたいに助けてあげられるし」 

梨子「いや、でも……悪いよ」 

千歌「お互い目的地は一緒なんだし、折角ここまで来たのに、わざわざスタービーチまで戻るの?」 

梨子「それは……。……でも、千歌ちゃんにそこまでしてもらうわけには……」 

千歌「私たち、一緒に図鑑と最初のポケモンを貰った仲間……うぅん、友達でしょ?」 

梨子「友達……」 

千歌「困ったときはお互い様だよ!」 

梨子「千歌ちゃん……」 

千歌「だから、一緒に行こう!」 

梨子「……」 


梨子ちゃんがソロソロと手を伸ばす。 

私はその手を強引に、掴む。 


梨子「……!」 

千歌「一人で乗り越えられないなら、二人で乗り越えよう! ううん、私たちは二人だけじゃないよ。ポケモンがいる!」 
 「マグッ」 

梨子「……うん……うんっ!」 


精一杯想いを伝えたら、梨子ちゃんは私の手を握り返して、力強く頷いてくれたのでした。 


320 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 14:01:37.39 ID:ISz0KMwo0



    *    *    * 





小屋で夜を明かすために出した寝袋の中で、千歌ちゃんが寝息を立てている。 


千歌「……えへへ……なかまがいっぱいー……ふえたー……」 


というか、寝言を言っている。 

明日は千歌ちゃんの厚意に甘える形になるけど……。 

……明日を想像して、思わず震える手を、押さえつける。 


梨子「……きっと、今乗り越えなくちゃいけないことなんだ……」 


私は一人そんなことを呟きながら、 


梨子「千歌ちゃん、ありがと……おやすみ」 


少し遅れて、眠りに就くことにしました。 


321 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 14:02:53.58 ID:ISz0KMwo0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【4番道路】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |__●回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち マグマラシ♂ Lv.19  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクバード♂ Lv.20 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:68匹 捕まえた数:7匹 

 主人公 梨子 
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリンボ♀ Lv.19 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      メブキジカ♂ Lv.37 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい 
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:6匹 


 千歌と 梨子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



322 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:07:23.60 ID:ISz0KMwo0

■Chapter024 『ドッグランを駆け抜けろ!』 





──4番道路。夜が明けて、十分視界が確保できるようになった頃。 


千歌「梨子ちゃん! 行くよ!」 

梨子「う、うん!」 

千歌「マグマラシ、ムクバード、頑張って付いて来てね!」 
 「マグッ」「ピピィッ」 

梨子「メブキジカ、お願いね。チェリンボは振り落とされないように」 
 「ブルル…」「チェリリ」 


私と梨子ちゃんはメブキジカの背中に乗って。 


千歌「そういえば、私が前に座ってて良いの?」 


私は前でメブキジカに馬乗りする形、梨子ちゃんはそのすぐ後ろに座っている。 


梨子「それなりに慣れが必要で、いきなり後ろに乗ると振り落とされちゃうと思うから……」 

千歌「なるほど、了解!」 


時間を経るほど、ポケモンたちが起き出してくる。雑談もほどほどに出発しなくちゃ。 

もちろん、野生のポケモンたちも視界が確保され始めるこの時間帯にはすでに活動を始めてる子も多いけど、 


千歌「とにかく、最短時間で駆け抜けよう!!」 

梨子「うん! メブキジカ!」 
 「ブルル!!!」 


梨子ちゃんの合図でメブキジカが走り出した。 





    *    *    * 





千歌「──うわっとと!?」 

梨子「千歌ちゃん!?」 

千歌「だ、大丈夫! 確かに結構揺れるね……!」 


全速力で走るメブキジカに掴まったまま、ドッグランを駆け抜ける。 


梨子「ち、千歌ちゃんっ」 

千歌「何!?」 

梨子「う、後ろからっ」 
323 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:09:00.64 ID:ISz0KMwo0

言われて半身を捻ると、早速後ろからジグザグマが追ってきているのが見える。 

 『ジグザグマ まめだぬきポケモン 高さ:0.4m 重さ:17.5kg 
  好奇心 旺盛な ポケモンで 何にでも 興味を 持つため 
  いつも あっち こっちへ ジグザグ 歩いている。 そのためか 
  よく いろいろな ものを 拾ってくるため 探険家に 重宝される。』 

ジグザグに走っているため、そこまで速くないけど、 

メブキジカも二人を乗せている分スピードが落ちている。 

でも、一匹ずつ相手するのは効率が悪い、 


千歌「マグマラシっ!! “えんまく”!!」 

 「マッグッ」 


私たちの横を併走するマグマラシに指示を出す。 

 「ジグザ!?」「クマー!!」 

噴出した黒煙に目をくらまされて、何匹かのジグザグマの足が止まる。 



千歌「そういえば、ジグザグマは梨子ちゃん的に犬ポケモンに入るのー!?」 


風を切って走るメブキジカの背中の上で声を張り上げて訊ねる。 


梨子「い、一応タヌキポケモンかなって思ってるけどー! 犬と言われれば犬かもー!?」 


と、なると、他の犬ポケモンに比べれば犬っぽさみたいな怖さはあまり感じてないのかもしれない。 

なら、必要以上の迎撃は無用。前方に視線を戻す。 

その刹那──。 


 「ワンワンッ」 

梨子「ひっ!?」 


前方から鳴き声がして、梨子ちゃんの身体が大きく揺れる。 


千歌「梨子ちゃん!?」 


咄嗟に身を翻して、梨子ちゃんを抱き起こ──せずに、一緒に落ちそうになる。 


千歌「わわっ!? ムクバード!?」 

 「ピピィーーー!!!」 


咄嗟にムクバードを呼び寄せて、リュックを引っ張らせる。 

 「ピピピィーーーー!!!」 

ムクバードのパワーで後ろ向きに引っ張られ、 


千歌「……せ、セーフ!!」 


体勢を崩す、すんでのところで持ち直す。 


千歌「梨子ちゃんは!?」 

梨子「ち、千歌ちゃん……っ!!」 


腰に抱きついている。一先ずは落ちていない。 
324 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:10:55.03 ID:ISz0KMwo0

千歌「なら、とりあえず……!!」 


声の主を探す。 

ただ、私も犬ポケモンは好きだし、あの犬ポケモンの代表みたいな鳴き声は知っている。 

 「ワンッ ワンッ!!!」 


千歌「ガーディ!!」 


 『ガーディ こいぬポケモン 高さ:0.7m 重さ:19.0kg 
  嗅覚に 優れ 一度 嗅いだ 臭いは 何が あっても 
  絶対に 忘れない。 見知らぬ者や 縄張りを 
  侵す 者には 激しく 吠え立てて 威嚇 する。』 


ガーディの姿を認めると、同時に攻撃態勢に移ってるのが確認できる。 


千歌「マグマラシ! “ひのこ”で迎撃!」 

 「マグ!!」 

 「ウーーワウッ!!」 


ガーディの飛ばしてくる、“ひのこ”をマグマラシの同じ技で撃ち落す。 

ガーディは基本的に、縄張りからは動かない。 

攻撃さえやり過ごして、縄張りを抜ければ問題はない。 


 「ピィー!! ピィー!!」 


千歌「ムクバード!? どうしたの!?」 


今度はすぐ近くを飛んでいたムクバードが声を挙げる。 

ムクバードの視線を追うと、背後から──土煙を上げて一直線に追って来る影、 


千歌「つ、次から次へと……!!」 


 『マッスグマ とっしんポケモン 高さ:0.5m 重さ:32.5kg 
  獲物 目掛けて 一直線に 突っ走る。 時速 100キロを 
  超える スピードを 出すが 緩やかな カーブを 曲がるのは 
  苦手な ため 直角に 折れ曲がって 避ける。』 


千歌「100キロ!? それは無理ー!!?」 

梨子「ち、チェリンボ!!」 
 「チェリリ!!」 


図鑑を見て思わず叫ぶ私の後ろで、梨子ちゃんがチェリンボに指示を出す。 


梨子「“くさぶえ”!」 
 「チェリ~♩♪♬」 


チェリンボが自分の頭の葉っぱで音楽を奏でると── 

程なくして、土煙が止まる。 


梨子「よ、よかった……一発で眠った……!!」 

千歌「梨子ちゃん、ナイス!!」 

梨子「でも、あんまり命中しない技だから、あんまり迎撃に向いてないのー!」 
325 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:15:44.40 ID:ISz0KMwo0

──スタート地点から、岩山を目印にして、だいたい中腹くらいまで駆け抜けてきた、 

ジグザグマの群れと、ガーディの縄張りをやり過ごして……。 

ムーランドやグラエナが率いてる群れはもっと手前だったし、最初の山を抜けた感じだ。 


 「ブルル!!!」 

梨子「メブキジカ!?」 


今度は前方でメブキジカが声をあげた、視線を前方に集中すると、 


千歌「ブルーの群れっ!!」 


 『ブルー ようせいポケモン 高さ:0.6m 重さ7.8kg 
  顔は 厳ついが 実は 結構 臆病。 人に 
  よく懐き よく甘える。 必死に 威嚇する 仕草と 
  顔に ギャップが あり それが 女性に 人気。』 


今度はブルーの集団のようだ。 

猛進してくるメブキジカを見て、ブルーたちは散り散りに逃げているが、逃げ遅れた何匹かが前方でうろうろしている。 


千歌「避けられるっ!?」 

梨子「た、たぶん無理っ!!」 


ブルーたちはあちこちめちゃくちゃに走り回っているため、避けるのは難しいと判断し、 


梨子「ど、どうしようっ!! 千歌ちゃんっ!!」 


梨子ちゃんから焦りが見える。 

この速度で迂回も出来ないけど、引き帰したらもっと意味がない。 


千歌「梨子ちゃん! ちょっと、目瞑って、チカの背中に顔押し当てててっ!」 

梨子「ええっ!?」 

千歌「いいからっ!!」 

梨子「し、信じるからねっ……!!」 


梨子ちゃんが顔を押し付けた感触を背中で確認しながら、 


千歌「メブキジカ!!」 
 「ブルル!!!」 

千歌「“メガホーン”で走り抜けながらブルーを投げ飛ばせる!?」 
 「ブルル!!!!」 

千歌「お願いね!!」 


今までの行動を見ていても、梨子ちゃんを守りたい気持ちが一番伝わってくる、このメブキジカなら、“おや”じゃないチカの言うことも多少は訊いてくれるはず……!! 


千歌「ムクバード!!!」 
 「ピピーー!!!」 

千歌「飛んでった、ブルーお願いね!」 
 「ピピーー!!!!」 


それだけ伝えると、ムクバードはそのまま高度をあげていく。 

前方、進行ルート上に逃げ遅れたブルーが2匹! 

 「ブルル!!!!」 

メブキジカが走りながら、首を低く下げ、ツノで掬い上げる姿勢を取る、 
326 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:16:43.02 ID:ISz0KMwo0

梨子「……っ!!」 


 「ブルル!!!!」 

完全にびびって逃げ遅れたブルーをメブキジカのツノが掬い上げて、 

 「ブルー!?!?」 

上に向かって放り投げる。 

上空に放り投げられた2匹のブルー。 

 「ピピー!!!」 

その二匹は空中でパワーが自慢のムクバードがキャッチする。 


千歌「ナイス、ムクバードっ!! 安全な場所に降ろしてあげたら、追いついてきてー!!」 

 「ピピーッ!!!」 


千歌「梨子ちゃんっ! もう顔あげていいよっ!!」 

梨子「ぬ、抜けたの……っ!?」 

千歌「メブキジカのお陰でどうにかっ!!」 


全速力で駆けて来て、もうじき岩山だ、 

その瞬間──前方を稲妻の大群が走る。 


梨子「ら、ラクライの群れ……!!」 

 『ラクライ いなずまポケモン 高さ:0.6m 重さ:15.2kg 
  電流で 足の 筋肉を 刺激して 爆発的な 瞬発力を 
  生み出し 目にも 止まらぬ スピードで 走る。 その際 
  空気の 摩擦で 電気を 発生させて 体毛に 蓄える。』 


バチバチと静電気の音がする。 

稲妻がメブキジカを併走している。 

そのうちの一匹がバチリと“スパーク”する。 


梨子「きゃぁっ!?」 

千歌「い、威嚇してきてる!?」 


このドッグランの中ではかなり好戦的なポケモンのようだ。 


千歌「戦意があるなら、もうここからはバトルだよねっ! マグマラシっ!!」 
 「マグッ」 

千歌「“ニトロチャージ”!!」 
 「マグッ!!!」 


マグマラシが全身に炎をまとって、加速する。 

 「ライ!?」「ギャウ!?」「ラク!!!?」 

加速しながら、稲妻の閃光たちに炎の体当たりをし、一匹ずつ倒していく。 


千歌「いいよ! マグマラシ! このまま、岩山を迂回して──」 


瞬間、 


梨子「キャァッ!?」 


梨子ちゃんの悲鳴。 
327 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:17:41.26 ID:ISz0KMwo0

梨子「“マジカルリーフ”ッ!?」 
 「チェリリリ!!!」 

 「ギャウッ」 


千歌「梨子ちゃんっ!?」 

梨子「だっ……だいじょぶっ!! どうにか倒した……っ!!」 


どうやら仕留め損なったラクライが飛び掛ってきたようだが、梨子ちゃんがチェリンボで迎撃したようだ。 


千歌「うんっ!!」 


出来るだけスピードを維持しながら、岩山を迂回し始める。 

その際、チラリと岩山の山肌を見てみると、ドッグランに初めて訪れた際にも見えた、ポケモンたちが点々としていた。 


梨子「千歌ちゃんっ!!!!!」 


また梨子ちゃんが突然私の名前を叫んだ、 

──瞬間、 

視界が回転した、 


千歌「なっ!!?」 


──メブキジカから投げ出された!? 


梨子「──“グラスフィールド”ッ!!!!!!!」 


視界が回転するなか、梨子ちゃんの声が響き渡る。 


千歌「っ!!」 


草の生い茂った地面を身体が転がる。 


千歌「いったぁっ……!!」 


投げ出されて、全身を打ったけど、梨子ちゃんの機転で硬い地面に身体を打ち付けずに済んだ。 


千歌「そうだ、梨子ちゃんっ!!?」 


視界が揺さぶられたせいで、目が回っているが、どうにか身体を起こして、状況を確認する。 


 「ブルルッ…」 


少し離れたところで、メブキジカが蹲っているのが目に入ってきた。 


千歌「メブキジカ!」 


そして気付く、何かに“ふいうち”されたんだと、 

たぶん、岩山の影に隠れていたポケモンがいたんだ……!! 


千歌「梨子ちゃんはっ!?」 

 「チェリリリ!!!」 
328 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:19:23.07 ID:ISz0KMwo0

チェリンボの声がして反射的にそっちを見る。 

声のした方向に、 


梨子「……っ」 


梨子ちゃんが倒れてぐったりとしていた。 

そして、その近くに赤い体毛の狼のようなポケモンの姿があった、 

直感がそいつに攻撃されたんだと告げてくる。 


千歌「梨子ちゃん!!」 

 「ルガン…」 

梨子「……ぅ……」 
 「チェリリ!!!」 


そいつは赤い目を冷酷に光らせて、梨子ちゃんに鋭い爪を振り下ろそうとしていた、 


千歌「マグマラシーーーー!!!!」 


三半規管が混乱の中から戻ってきていない。 

今、マグマラシがどこにいるかわからなかったから、とりあえず指示が届くように叫ぶ。 

──バチバチと、音が聴こえる。炎熱を纏って加速したマグマラシが、先ほどの稲妻たちのように、今度は電気を纏って走っている。 


千歌「“ワイルドボルト”ーーーーー!!!!!!!」 

 「マッグゥ!!!!!!」 

 「ルガン!!!?」 


視線を梨子ちゃんに戻すと、そこにはパチパチと放電の余韻を残した、マグマラシ。 

そして、その少し離れたところにさっきの赤いポケモンが倒れていた。 


千歌「マグマラシッ! 信じてたよ!」 


足を踏ん張って立ち上がる。 

まだ少し足はふらつくけど、そのまま梨子ちゃんの元へ走る。 


千歌「梨子ちゃん!!」 

梨子「ぅ……っ……千歌……ちゃん……っ」 


蹲る梨子ちゃんに声を掛けると、ぼんやりとした瞳で私を捉えている。 

どうやら、意識が朦朧としているようだ。 

メブキジカから放り出された、私とチェリンボを庇って、軽く頭を打ったのかもしれない。 


千歌「あとちょっとだから……っ!!」 


梨子ちゃんに肩を貸す形で立ち上がらせる。 


梨子「千歌……ちゃん……」 

千歌「メブキジカ、戻してあげて……!! 戦闘不能だから……!!」 

梨子「う……ん……」 


メブキジカの近くまで梨子ちゃんに肩を貸しながら、移動する。 
329 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:20:03.65 ID:ISz0KMwo0

 「ブルルゥ…」 
梨子「メブキジカ……戻って……」 

千歌「よし……あとは、歩い……て……」 


私は周囲を見回して、 


千歌「……うそ……」 


愕然とした。 


 「ルガン…」「ガルルルル…」 


気付けば、私たちの周りには、前方に灰色の狼ポケモンの群れが、後方にさっきのと同じ赤色の狼ポケモンの群れが集まってきていた。 


千歌「囲まれてる……」 


完全にあのポケモンたちの縄張りに迷い込んだらしい、 


梨子「千歌……ちゃん……?」 

千歌「……っ……大丈夫、後ちょっとだから……っ」 


梨子ちゃんの意識が朦朧としてて、かえってよかったかもしれない。 

意識がはっきりしていたら、この状況だと、どうやってもパニック状態になってしまう。 


千歌「ふー……」 
330 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:20:59.50 ID:ISz0KMwo0

落ち着け。 

どっちにしろ脱出するなら後退はダメだ。 

なら前方の灰色のポケモンを倒すべきだ、 

勝算は? ……ないかも……。でもやるしかない、 


千歌「マグマラシ……!!」 


私が前方の群れに標的を定めた、瞬間。 


 「──そこのあんたたち!! 耳塞ぎなさい!!」 


よく通る、少し幼さを感じる声が一帯に響いた。 


千歌「!?」 


だけど、そんな一瞬で咄嗟に耳を塞ぐ余裕なんてなく、 


女性の声「ニンフィア!! “ハイパーボイス”!!!」 

 「フィイイアアアアアアアアア!!!!!」 


千歌「……っ!!?」 

梨子「……っ」 


ビリビリと大地を振るわせるような、轟音が響き渡る。 


千歌「……梨子……ちゃ──」 


手で塞ぐとか、そんなことは関係なしに、その轟音の衝撃で、私の意識はそこでプツリと落ちてしまった。 


331 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 15:22:33.84 ID:ISz0KMwo0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【4番道路】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  |●○_ __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち マグマラシ♂ Lv.23  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクバード♂ Lv.22 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:70匹 捕まえた数:7匹 

 主人公 梨子 
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリンボ♀ Lv.23 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい 
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:54匹 捕まえた数:6匹 


 千歌と 梨子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



332 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:12:14.05 ID:ISz0KMwo0

■Chapter025 『旅立ちの船』 【SIDE Hanamaru】 





──ウチウラシティ。早朝。 

ジムの前でこれから旅に出ると言うところで、 

マルたちの旅立ちの瞬間をダイヤさんと鞠莉さんが見送りに来てくれていました。 


ダイヤ「ルビィ、身体には気をつけるのですよ?」 

ルビィ「うん」 

ダイヤ「もし何かあったら、ポケギアにすぐ連絡を入れるのですよ?」 

鞠莉「ダイヤ、そんなに心配してたら、ルビィたちが旅に出づらいでしょ?」 

ダイヤ「それは……」 


鞠莉さんが過保護なダイヤさんを嗜めるようにそう言う。 


ルビィ「お姉ちゃん、心配しないで」 

ダイヤ「……」 

ルビィ「花丸ちゃんもいるし」 

花丸「ずら」 

ルビィ「何より、皆がいるから」 
 「チャモ」「ピピィ」「アブブ」「クーーマーー」 


ルビィちゃんの4匹の手持ちが鳴き声をあげる。 


ダイヤ「……わかりました」 


ダイヤさんはそれでも尚不安そうにルビィちゃんを見つめる。 


ルビィ「ぅ、ぅゅ……お姉ちゃん。ホントに大丈夫だから……」 


そんな、二人のやり取りを眺めていると、 


鞠莉「……マル。ちょっと」 

花丸「ずら?」 


鞠莉さんがこそこそと話しかけてくる。 


花丸「なんですか?」 

鞠莉「今回の旅、ルビィのサポートがメインになるとは思うんだけど……そのついでいいから、図鑑収集……してくれないかしら」 

花丸「図鑑収集……捕獲ってことですか?」 

鞠莉「Yes. 一応データ集めって名目で送り出してる割に、旅に出てる子、みんなちゃんと捕獲してくれてるのか怪しいのよね……」 

花丸「……言われてみれば」 


ルビィちゃんや千歌ちゃんは捕獲が苦手って言ってたし、先に旅に出た二人も話を聞く限り、あんまり図鑑収集に積極的なのかは怪しい。 

海のポケモンに関しては曜ちゃんに任せちゃってもいいのかもしれないけど。 


花丸「尽力するずら」 

鞠莉「お願いね、マルのこと頼りにしてるから……!」 
333 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:13:36.60 ID:ISz0KMwo0

鞠莉ちゃんは両手を合わせて、軽くウインクした。 

ホントに期待されてるみたい……頑張ろう。 


鞠莉「じゃ、マル。あなたも先生に最後の挨拶して来なさい」 

花丸「あ、はーい」 


そう言われて、ダイヤさんとルビィちゃんの元に駆け寄る。 


花丸「ダイヤさん」 

ダイヤ「花丸さん……」 

花丸「ルビィちゃんのことはマルがしっかり見守ってるから、心配しないで」 

ダイヤ「……頼もしいですわね」 


ダイヤさんは思いに耽るように一度目を瞑ってから、 

マルとルビィちゃんのことを抱き寄せた。 


ルビィ「わわっ、お姉ちゃん?」 

花丸「ダイヤさん……?」 

ダイヤ「ちょっと変な旅立ちになってしまったかもしれないけれど……二人とも、旅を楽しんできてくださいね」 


背中に回された腕に力が込められる。 


花丸「ダイヤさん……」 

ルビィ「お姉ちゃん……行ってくるね」 

ダイヤ「ええ……」 

鞠莉「ふふ」 


少し離れたところで鞠莉さんが微笑ましそうに笑う。 

──程なくして、恩師と旅立ち前の抱擁を終えて。 


ダイヤ「最後に……これは餞別ですわ」 


ダイヤさんが“ほのおのジュエル”と“くさのジュエル”を差し出してくる。 


ダイヤ「千歌さんと曜さんにも渡したものです。花丸さんなら、使い方も知っていますよね?」 

花丸「はい」 


“ほのおのジュエル”をルビィちゃんが、“くさのジュエル”をマルが受け取る。 


ダイヤ「……それと──」 

鞠莉「ダイヤ」 

ダイヤ「な、なんですか」 

鞠莉「名残惜しいのはわかるけど、いい加減送り出してあげましょ、ね?」 

ダイヤ「……そうですわね」 


ダイヤさんはマルたちに向き直って、 
334 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:16:32.26 ID:ISz0KMwo0

ダイヤ「二人とも……」 

ルビィ・花丸「「はい」」 

ダイヤ「いってらっしゃい」 

ルビィ・花丸「「行ってきます!」」 


マルとルビィちゃんの旅が、始まりました。 





    *    *    * 





花丸「ところで、ルビィちゃんはどこを目指すつもり?」 


そういえば、目的は聞いたけど、目的地を聞いていなかった。 


ルビィ「んっと……理亞さんの情報を集めたいから……とりあえず、人の多いところに行ってみるのがいいのかな……」 

花丸「人が多い場所……この地方だと、おっきな街はセキレイシティとローズシティ……次にダリアシティかな」 

ルビィ「あとフソウ島も観光地だから、人がたくさん来るって聞いたよ」 

花丸「確かに……そうなると、マルたちはまず船でフソウ島に渡ろうか」 

ルビィ「うんっ」 


と、いうわけでウチウラシティの東の港に足を向ける。 

その道すがら、ふとさっき鞠莉さんに言われた話を思い出す。 

──旅に出た他の子たちの話。 


花丸「そういえば、ケロマツを貰った人ってどんな子なんだろう」 

ルビィ「言われてみれば……まだ一度も会ってないよね」 


所謂、最初の三匹のうち、一匹を連れている、マルたちの同期。 


ルビィ「確か、ウラノホシタウンとかウチウラシティの外の人って言ってたよね」 

花丸「この辺り子供が少ないから……」 

ルビィ「あはは、そうだね……それこそ子供はルビィたちくらいしか……」 

花丸「……昔は居たんだけどね」 

ルビィ「昔?」 

花丸「うん、子供の頃ウチウラシティのはずれに友達が住んでたずら」 

ルビィ「そうなの……? ルビィは会ったことないけど……」 

花丸「ルビィちゃんは、ちっちゃい頃はウラノホシタウンの方の実家からあんまり出てなかったからじゃないかな?」 

ルビィ「確かに……そうかも……。花丸ちゃんのお家は1番道路の脇道にあるお寺だもんね」 

花丸「元気な子でね。よくウチウラシティから、マルを連れ出しに家まで来てたんだよ」 

ルビィ「そうなんだぁ」 

花丸「うん、いっつもムウマを連れてる子でね。『わたしはポケモンマスターになるんだから!』って言うのが口癖な子だったずら。9歳くらいのときに都会の街に引っ越しちゃったんだけど……」 


話が脇道に逸れてしまったけど……。ルビィちゃんと雑談しながら、歩を進めていると、波止場が見えてくる。 
335 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:18:34.31 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「あれ?」 

花丸「ずら?」 


そして、二人してその波止場の様相に、思わず疑問の声をあげた。 


ルビィ「お船……なんで、あんなに停まってるんだろう?」 


船着場に溢れんばかりに着けられた船の大群を見て、ルビィちゃんが首を傾げた。 





    *    *    * 





ルビィ「──え!? 船出てないんですか!?」 


港についたマルたちは早速出鼻を挫かれました。 


船乗り「13番水道でヒドイデが大量発生しててね……怪我人も出てるらしいから、安全を考慮して一旦定期便を止めてるんだよ」 

花丸「他にフソウ島へ行く方法はないんですか……?」 

船乗り「一応、ウラノホシタウンの南の港から船は出てるには出てるけど……」 

ルビィ「あそこの港ってちっちゃいし……お船って一日に一回あるかないかだよね……」 

花丸「それに13番道路を通る船に比べると、かなり遠回りだから、何倍も時間がかかるずら……」 

ルビィ「どうしよう……ウラノホシまで行ってみる……?」 


二人して、頭を抱える。 


船乗り「申し訳ないね……ただ、こればっかりは自然の問題だから」 

ルビィ「うぅ……大丈夫です……他を当たってみます……」 


口ではそうは言うものの、ルビィちゃんはガックリと肩を落として、落ち込んでしまう。 

マルはルビィちゃんと港沿いに停泊されてる海岸を沿うように歩きながら、 


花丸「……西に進んで、ダリアシティを目指す……?」 


そう提案する。 

まあ、選択肢はそんなにないし……。 


ルビィ「うーん、どうしよ……」 


二人して波止場に泊めてある船を眺めるが、確かに出港しようとする船は個人のものを含めてほとんどない。 

途方に暮れたまま、ぼんやりと船着場を歩いていたそのとき、 


 「あんれー? お嬢ちゃんたち、どうしたさー?」 


聞き覚えのある間延びした口調で声を掛けられた。 


花丸「あ、昨日の牧場おじさん」 


声の方に振り返ると、昨日メリープたちを運んでいた、牧場おじさんでした。 

見るとおじさんは、手持ちらしきガーディを使って、メリープを船に誘導しているところだった。 
336 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:23:36.84 ID:ISz0KMwo0

ルビィ「おじさんも、港で足止めされてるの?」 


ルビィちゃんがそう訊ねると、おじさんは首を振って、 


牧場おじさん「いんやー。メリープがみんな乗ったら、このままフソウ向かってに出るつもりさー」 


そう答える。 


花丸「大丈夫なんですか……? 今13番水道って、ヒドイデが大量発生してるって……」 

牧場おじさん「らしいなー。だがまー。仕事だし、しょうがないさー」 

ルビィ「で、でも危ないんじゃ……」 

牧場おじさん「それでも漁師たちは早朝に出て行ったしなー。行く人は行くのさー」 

ルビィ「ぅゅ……お仕事って大変なんですね……」 


そこで、ふと……マルの頭に妙案が浮かんだ。 


花丸「この船っておじさんのなんですか?」 

牧場おじさん「コメコシティの皆で共同で使うものだけどなー」 

ルビィ「おじさん、お船も運転……操縦……? 出来るんですね……!」 


船は操舵ずら。 

まあ、そんなことはどうでもよくて、 


花丸「ねーねーおじさん」 

牧場おじさん「なんだいー?」 

花丸「前言ってた、お礼って……今お願い出来たりしないですか?」 

ルビィ「花丸ちゃん……?」 


神様仏様閻魔様、ごめんなさい。マルは今からちょっとだけ、人の足元を見る悪い子になるずら──。 





    *    *    * 





──船に揺られて、数十分。 

ウチウラシティの港から、もうそれなりに離れた頃。 

 「メェー」    「メェー」 
ルビィ「それにしても、びっくりしたよ……マルちゃんが突然あんなこと言い出すなんて」 
  「メェー」 
                        「メェー」 
花丸「オラも普段なら、あんまりこういうことはしないけど……ルビィちゃんはフソウタウンに行きたがってたし、頼んでみようって思って」 
「メェー」 
             「メェー」 
ルビィ「花丸ちゃん……お陰で、島まで渡れそうだね。ありがとっ」 
   「メェー」                  「メェー」 
          「メェー」 
花丸「まあ、こういう無茶も旅の醍醐味かなって……」 


さて、マルが何をお願いしたのか。 

まあ、この鳴き声を聴いてれば、誰でもわかると思うけど……。 

337 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:24:52.49 ID:ISz0KMwo0

──────── 
────── 
──── 
── 



花丸「──マルたちもフソウ島まで、一緒に乗せてもらえませんか?」 

ルビィ「え、花丸ちゃん!? そんないきなりはおじさんに迷惑だよぉ……!!」 

牧場おじさん「別に構わないさー」 

ルビィ「いいの!?」 


ダメもとで頼んでみたけど、おじさんはすんなりと了承してくれる。 


牧場おじさん「ただ、何人も人が乗る用に出来てないからなー 乗るんだったらー……」 


おじさんはメリープたちを積んでいる、積荷室の方を見る。 


花丸「それでも大丈夫です。ね、ルビィちゃん」 

ルビィ「え!? う、うん! 大丈夫ですっ!」 


牧場おじさん「そうか、じゃあ、ちょっと窮屈かもしれないけどなー乗り込んでくれるかー?」 



── 
──── 
────── 
──────── 



──と、言うわけで。 

 「メェー」「メェー」「メェー」 

マルたちは、メリープたちと一緒に海の上を運ばれている。 


ルビィ「ぅゅ……それにしても、メリープさんたちって一匹一匹がなんか……もこもこなせいで……見た目以上に狭いかも……ボールに入れて運んだりしないのかな……」 
 「メェー」 「メェー」 
    「メェー」 
花丸「ボールに入れると、それがストレスになって毛の質が落ちちゃうらしいよ」 
   「メェー」         「メェー」 
ルビィ「この子たち、注文されて運ばれてるって言ってたもんね……ぅゅ……それじゃあ、ルビィたち一緒に乗っちゃってよかったのかな……メリープさんたちのストレスにならないかな……」 
               「メェー」 
花丸「あんまり考えすぎずに気軽にいくずら。どっちにしろ、何が起こっても、もう海の上に出ちゃった以上、泳げるポケモンを連れてないマルたちはどうにも出来ないし……」 
  「メェー」   「メェー」 
ルビィ「マルちゃん! さらっと怖いこと言わないでよっ!? ホントに沈んだりしたらシャレにならないよっ!?」 
      「メェー」                      「メェー」「メェー」 
花丸「それにしても、メリープの綿毛ってふわふわで気持ちいいずらぁ……」 
  「メェー」           「メェー」 
ルビィ「もう……のんきなんだから……」 
         「メェー」 
花丸「こういうのは、なるようになれだよ。それに……旅は“みちずれ”、あの世行きって言うでしょ?」 
  「メェー」             「メェー」 
ルビィ「聞いたことないよ!? そんなことわざ!?」 
       「メェー」 

どっちにしろ、ほとんど身動きが取れない状態で運ばれるんだし、考えるだけ無駄だよね。 


花丸「お昼寝でもして、のんびり待ってればそのうち着くずらー……」 
  「メェー」              「メェー」 
ルビィ「ぅゅ……まあ、完全に行く充てがないよりはいいけど……」 
           「メェー」 


マルがメリープたちの中で横になると、 

「メェー」 

一匹のメリープが、マルの顔の辺りに寄ってくる。 
338 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:26:19.71 ID:ISz0KMwo0

花丸「君も一緒にお昼寝するずら?」 
 「メェー」 


なんか気の合う子発見かも。 

ふかふかのメリープの身体に頭を乗せる。 
 「メェー」 


花丸「ルビィちゃんもお昼寝、するずら」 

ルビィ「……花丸ちゃん、たまに千歌ちゃん以上に肝が据わってるなって、思うことあるよ……」 

花丸「あはは、ありがとー」 

ルビィ「……はぁ」 


マルはもこもこに包まれて、目を瞑る。 

ちょっぴり、幸せな気分で、リラックスしていると──だんだんと意識がまどろんできた。 

……うん、このままフソウ島に着くまで一眠りしよう……。 

おやすみなさん。 





    *    *    * 





花丸「…………zzz」 
 「メェー」 

ルビィ「花丸ちゃん、ホントに寝ちゃった……」 


よくこんな状況で寝られるなぁと、もはや呆れるというより、関心してしまう。 


牧場おじさん「ルビィちゃんも寝てていいだよー?」 


前の操縦席からおじさんがそう声を掛けてくる。 


ルビィ「あはは……ルビィは何かあったら怖いから……」 

牧場おじさん「そうはいってもなー思った以上に今日の海は平和さー。ヒドイデも話に聞いてたほどいないみたいだしなー」 

ルビィ「そうなんですか?」 

牧場おじさん「大量発生の後の対処が早かったのかもなー。本当に今日定期便が止まってたのは、大事をとってだったのかもしれないなー」 


誰かすごい人がヒドイデの群れをやっつけてくれたのかな? それだったら、いいんだけど……。 


牧場おじさん「ほらー。もうフソウ島見えてきたさー」 


おじさんに言われて、 

 「メェー」 
ルビィ「ちょっと、ごめんね、メリープさん……」 


メリープを掻き分けて、船首の方に移動する。 

前方の窓から、外を確認すると、確かに前方に島が見えてきていた。 


ルビィ「あれが、フソウ島ですか?」 

牧場おじさん「そうさー ここまで来ればもう心配ないさー。窮屈かもしれんが、もうちょっとだけ我慢してなー」 

ルビィ「は、はい」 
339 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:27:53.89 ID:ISz0KMwo0

そう言って、ルビィはお船の窓から、ぼんやりと目的地の島を眺める。 

あそこがルビィたちの最初の目的地……まあ、たぶん経由するだけだけど。 

おじさんの言う通り、見えるところまで来てしまえば安心感はだいぶ増してきて。 

あとは徐々に近付いてくる、島でこれからどうするかを考えようかな。 

……とりあえず、理亞さんの特徴を伝えて、知ってる人が居るか探す、とかかな? 

お姉ちゃんや鞠莉さんの口振りだと、肖像画を元に作られた指名手配書が全国にばら撒かれちゃうから、その前に何か情報を得られればいいんだけど……。 

あ、でもそれはそれで情報を集めやすくなるのかな……? 

そんなことをぼんやりと考えながら、ルビィは再び前方の島に視線を戻す。 

さっきと変わらず、同じように、島が前方に見える。 


ルビィ「……?」 


何か、違和感を覚えた。 

なんだろう……? 


牧場おじさん「……? なんだー?」 


どうやらおじさんも何か違和感を覚えたようだ。 


ルビィ「どうかしたんですか──」 


ルビィがそう言った瞬間、 


ルビィ「ぴぎっ!?」 

牧場おじさん「ぬわー!?」 


──ガタンと船が揺れ、その振動で前につんのめって、貨物室の壁におでこをぶつける。 


ルビィ「い、いたい……」 


……いや、それどころじゃない。 

ルビィは、再び船内のメリープたちを掻き分けて、花丸ちゃんの居るところに駆け寄ってから、 


ルビィ「は、花丸ちゃん!! 起きて!!」 


花丸ちゃんを揺する。 


花丸「……ずら……?」 


花丸ちゃんは眠そうに目をこすったあと、 


花丸「ルビィちゃん、おはようずら……」 
 「メェー」 


寝起きの挨拶を言う。 


ルビィ「それどころじゃないよっ!!」 

花丸「ずら?」 


ルビィはそう言って、船の両側部についている、覗き窓を指さす。 

そこでは、景色がものすごいスピードで流れていた。 
340 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:28:20.95 ID:ISz0KMwo0

花丸「すごいスピードずらぁ……未来ずらぁー……」 

ルビィ「そうじゃなくって!!!!」 

花丸「ずら……?」 

ルビィ「逆なの!!!」 

花丸「逆……?」 


花丸ちゃんは寝起きの頭をふるふると軽く振ってから、もう一度窓の外を見て、 


花丸「え……ど、どうなってるの、これ?」 


ルビィに訊ねてきた、 


ルビィ「ルビィにもわかんないけど……!!」 


窓の外を見る。 

そこでは、景色がものすごいスピードで流れていた。 

──船の本来の進行方向とは……真逆に。 


341 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 17:28:47.56 ID:ISz0KMwo0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【13番水道】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥●  || 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 


 主人公 ルビィ 
 手持ち アチャモ♂ Lv.14 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい 
      メレシー Lv.14 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき 
      アブリー♀ Lv.9 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき 
      ヌイコグマ♀ Lv.12 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:31匹 捕まえた数:4匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ナエトル♂ Lv.13 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい 
       ゴンベ♂ Lv.13 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:30匹 捕まえた数:13匹 


 ルビィと 花丸は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



342 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 20:50:08.75 ID:ISz0KMwo0

■Chapter026 『開催! ビギナーコンテスト!』 【SIDE You】 





──さて、件の期待の新人、曜のデビュー戦を見ようと、久しぶりにビギナーランクの会場に私は訪れたのだが、 

観覧用の関係者席に見知った人物を見かける。 


あんじゅ「ことり……来てたのね」 

ことり「あー、あんじゅちゃん! 久しぶりだね~」 
 「ホーホ」 


彼女はモクロー抱きかかえながら、オペラグラスの度を調整していた。 


あんじゅ「全く、今週はいろんな人に会うわね……」 

ことり「いろんな人?」 

あんじゅ「一昨日くらいに、志満に会ったのよ。たぶん、今日も会場にいると思うわ」 

ことり「わっ! 志満ちゃんも来てるの? それなら、関係者席に通してあげればよかったのに」 

あんじゅ「志満は普通の観客席が好きだからね。誘っても断られると思うわ」 

ことり「んー……確かに関係者席って、ちょっと遠いもんね。ことりも前の席行こうかな~?」 

あんじゅ「随分のんきだけど……仕事は大丈夫なの?」 

ことり「んー? んー……どうかな……」 

あんじゅ「どうかなって……」 

ことり「まあ、これも仕事みたいなものだからっ! それにね、昨日急に衣装のアイデアが降って来ちゃって、メリープの綿毛を発注しちゃったから、届くまで帰れないんだ~」 

あんじゅ「わざわざ、フソウに送って貰う様に頼んだの……?」 

ことり「うん! 会場に届くと思うから、後で取りに行くね」 

あんじゅ「……そういうのは宿泊先とかにしてもらえないかしら……」 


長い付き合いだし、自由人だと言うのは知っているけど……。 

ここ数年でそれに拍車が掛かった気がする。 


ことり「ところであんじゅちゃんこそ、ビギナーランク会場に顔出すのって珍しいよね?」 

あんじゅ「志満の知り合いが今日コンテストデビューするから、見に来たのよ」 

ことり「え、ホントに? どの子かな」 

あんじゅ「たぶん、あなたなら見ればわかると思うわ」 

ことり「?」 


──さて、お手並み拝見と行きましょうか。曜。 



343 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 20:51:21.55 ID:ISz0KMwo0

    *    *    * 





司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、本日も新人コーディネーターたちの最初の羽ばたきの場!! ビギナーランク大会のスタートです!!!』 

司会『さあ、早速ですが、出場するポケモンとコーディネーターの入場です!!』 

司会『エントリーNo.1 クロバット! エントリーNo.2 ライボルト! エントリーNo.3 バタフリー! エントリーNo.4 ラプラス! となっております──』 

司会『……? エントリーNo.4のポケモンとコーディネーターが見当たりませんね……。……ん、何々? 準備に戸惑ってて、少し遅れてる……? 成程、こういうハプニングもビギナーランクならではで、微笑ましいですね!』 

司会『……ですが、ステージにあがれば、ここは勝負の場でもあります! 一組足りない状態ですが、早速一次審査を開始しようと思います!!』 





    *    *    * 





ことり「どの子が志満ちゃんの知り合いの子?」 

あんじゅ「……ラプラスのコーディネーターよ」 

ことり「ありゃりゃ、はじめてで緊張しちゃったのかな?」 





    *    *    * 





司会『さて、そろそろ集計の時間に──』 

曜『ち、ちょっと待ってくださーい!』 

司会『おっとぉ! ここでラプラスのコーディネーター、ギリギリ一次審査に間に合ったようです! アピールタイムは少ないですが、加点0ではなくなりまし──おお!? これは!!』 





    *    *    * 





ことり「!!」 


横で見ていた、ことりが思わず立ち上がった。 


あんじゅ「……丸一日できっちり、仕上げてきたわね」 





    *    *    * 

344 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 20:56:57.97 ID:ISz0KMwo0



私がラプラスと一緒に会場に踊りだした瞬間、会場中のペンライトが、続々と私たちへの投票色──青色に変わっていくのがわかった。 

──大成功だ。 


 「キュゥー」 


司会『こ、これは……!! ラプラス、全身に衣装があしらわれています!!』 


今日のイメージは──中世貴族。 

前に大きく鍔の伸びたボンネット帽子。右耳の辺りにアクセントとして、中央に宝石をあしらったコサージュ。 

全体にゆったりとした深い青色のドレスを纏い、首元に大きな白いリボンを拵えた。 

一日の突貫作業で作ったから完璧とは言えないけど……手応えはある……!! 


司会『ビギナーランクで遅刻から、まさかの自作衣装でのフルコーディネート!! 会場がどよめきから、歓声に変わっていきます!!』 


曜「よっし……!!」 


準備時間の短さにやや面食らったけど……逆に目立てて、よかったかもしれない。 


司会『おっと、ここで一次審査の投票締め切りです!! ここからは二次審査! 技によるアピールのお時間です──!』 





    *    *    * 





ことり「……!! ……!!」 


ことりが声にならない声を出している。 

内心叫びたくて堪らないのだろうけど、 

さすがにマナーを弁えているというか、興奮しても大声をあげて騒ぎ出したりしないのは、流石と言うべきかしら。 


 「ホー…ホー…」 


胸に抱かれたモクローが潰されないか心配だけど……。 





    *    *    * 





曜「二次審査、いくよ!」 
 「キュゥー」 


司会『さあ、アピールタイム開始です!』 


司会の人が、そう言うと、スポットライトはまっさきにラプラスを照らし出した。 

──アピールは私たちが一番最初のようだ。 

昨日、志満姉に叩き込まれた、コンテストの戦い方を思い出す。 
345 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 20:58:35.54 ID:ISz0KMwo0

曜「ラプラス! “いやしのすず”!」 
 「キュウー!」 

 《 “いやしのすず” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆ 
   ラプラス◆ +♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


綺麗な鈴の音が会場中に響き渡る。 

──もし、最初からアピール一番手に回るようなら、他の出場者から狙われやすくなる。 

だから、妨害に対する様子見。 

“いやしのすず”は他のポケモンからの妨害を受け付けなくなる防御の技だ。 


司会『これは綺麗な鈴の音です! 美しい! そのままアピールは二番手のバタフリーに続きます!』 


コーディネーター1「バタフリー! “ぎんいろのかぜ”!」 
 「フリーフリー」 

 《 “ぎんいろのかぜ” うつくしさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪ 
   バタフリー +♡ ExB+♡ ✪+1 
   Total [ ♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


“ぎんいろのかぜ”は確か自分自身の調子を上げる技。今後のアピールにより磨きを懸けるための布石の技だ。 

そのまま続くように、クロバットがアピールをする。 


コーディネーター2「クロバット! “ねっぷう”!」 
 「クロバッ」 

 《 “ねっぷう” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥ 
   クロバット +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


会場に“ねっぷう”が吹き荒ぶ。 

 「フ、フリー」 


 《 バタフリー✪ -♥♥ 
   Total [ ] 》 


司会『おっと、バタフリーの“ぎんいろのかぜ”が熱波で吹き飛ばされてしまいました!』 


バタフリーは“ねっぷう”に驚いて、技を中断させられる。減点だ。 

でも私のラプラスは、 

 「キュゥ」 

“いやしのすず”で守られている。 

 《 ラプラス ◆ 
   Total [ ♡♡ ] 》 


コーディネーター3「ライボルト! “ほうでん”!」 
 「ボルッ」 

 《 “ほうでん” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥ 
   ライボルト ♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


次に動くはライボルト、会場全体に稲妻が走る。 
346 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:02:24.36 ID:ISz0KMwo0

 「フリーッ!!?」 
 「クロバッ!?」 


 《バタフリー✪ -♥♥ 
   Total [ ♥♥ ] 》 

 《 クロバット -♥♥ 
   Total [ ♡ ] 》 

 《 ラプラス ◆ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 


妨害に集中していたクロバットも、バタフリー同様後続の技に脅かされてしまったようだ。 


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
      ラプラス   ♡♡      [ ♡♡  ] 
   バタフリー✪  ♡♡ ♥♥♥♥ [ ♥♥  ] 
     クロバット  ♡ ♥♥     [ ♥   ] 
     ライボルト   ♡♡♡     [ ♡♡♡ ]                》 



司会『1ターン目、妨害技が続きます! このまま2回目のアピールはライボルトから!』 

コーディネーター3「“かえんほうしゃ”!」 
 「ボルル!!」 

 《 “かえんほうしゃ” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ライボルト +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


ライボルトが薙ぐように、炎を吐くとその炎が散り散りになりながら、光のように、会場を舞う。 

度重なる、うつくしさ技の応酬によって、会場のボルテージが最高潮に達しエキサイトゲージがMAXになった瞬間──コーディネーターは“ライブアピール”を使用することが出来る……!! 


コーディネーター3「ライボルト!! “電影のアポカリプス”!!」 
 「ライボッッ!!!!!!!!」 

 《 “電影のアポカリプス” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 でんきタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   ライボルト +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》  


ライボルトが天空に向かって電撃を放つ──すると、天空に雷雲が発生し、ライボルトの周囲に雷が降り注ぎ、舞い踊る。 

会場中に電撃が走り、うつくしい火花を会場中に散らした。 


司会『ライボルト! 素晴らしいライブアピールです!! 会場の盛り上がりも最高潮に達しております!! さあ、この空気を引き継いだまま、次のポケモンのアピールです!!』 


二番手──ラプラスにスポットライト。 

速いけど、ライボルトが頭一つ抜けてることもある。仕掛けよう……! 


曜「“あられ”!」 
 「キュウーー」 

 《 “あられ” うつくしさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥~ 
   ラプラス +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


会場内に“あられ”が降り始める。 

 「ギャゥ…!?」 


 《 ライボルト -♥♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 
347 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:07:32.10 ID:ISz0KMwo0

激しく降り注ぐ氷の粒に、炎は掻き消え、更にライボルトを驚かせる。 


司会『おっと、これは布石でしょうか!? ラプラスの次の技に期待が集まりますね!』 

コーディネーター2「クロバット! “くろいまなざし”!」 
 「クロバッ」 

 《 “くろいまなざし” うつくしさ 〔 このあと アピールする ポケモン みんなを 緊張させる 〕 ♡♡ 
   クロバット +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


中空に出現する大きな黒い目。 

後続のポケモンを緊張させて、技を出させなくする技……だけど、 

 「フリーフリー」 


司会『おっと、“ぎんいろのかぜ”で調子をあげていた、バタフリーは緊張せずに済んだようです!』 


調子を上げる技は今後の展開を有利にする。攻防両立した技だ。 

そのままバタフリーがアピールに入る。 


コーディネーター1「“ちょうのまい”!」 
 「フリーフリー」 

 《 “ちょうのまい” うつくしさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪ 
   バタフリー✪ +♡ ✪B+♡ ExB+♡ +✪ 
   Total [ ♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


最初と同じく自身の調子をあげる“ちょうのまい” 


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
      ライボルト  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰ ♥♥♥♥♥ [♡♡♡♡♡⁵♡♡♡] 
       ラプラス  ♡♡♡                [♡♡♡♡♡   ] 
      クロバット  ♡♡♡               [♡♡      ] 
   バタフリー✪✪ ♡♡♡               [♡       ] 》 


司会『バタフリー、あくまで自己補強に努めます! 3回目のアピールもライボルトから!』 

コーディネーター3「えっと……“ほうでん”!」 
 「ボルル!!」 

 《 “ほうでん” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥ 
   ライボルト +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


ライボルトは二度目の“ほうでん” 


司会『再びうつくしい稲妻が会場を包みます!』 


最初と同じ技。うつくしさに該当する技が他になかったのかな? でも、連続じゃないから減点にはならない。一番手だから、妨害にもならないけど。 

さて、次の番は── 


司会『会場も大きな盛り上がりを見せ始めました! それではラプラスのアピールをお願いします!』 

曜「!」 


絶好のタイミングだ! 
348 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:09:09.95 ID:ISz0KMwo0

曜「ラプラス! “こごえるかぜ”!!」 
 「キュウゥゥーー」 

 《 “こごえるかぜ” うつくしさ 〔 盛り上がらない アピールだったとき 会場が とても しらけてしまう 〕 ♡♡♡♡ 
   ラプラス +♡♡♡♡ CB+♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


“あられ”を巻き込みながら、会場全体に凍て付く風が吹き荒び、 

会場のライトの光を反射しながら、キラキラと舞い踊る。 


司会『これは素晴らしい! 期待通り、“あられ”から“こごえるかぜ”へとコンボを繋げて来ました! 会場のボルテージも一気に最高潮まで登って行きます!!』 


──今だ……!! 


曜「ラプラス!! ライブアピール行くよ!! “アイシクルグレース”!!」 
 「キュゥーーー!!!!!」 

 《 “アイシクルグレース” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 こおりタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   ラプラス +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


合図と共にラプラスの周囲が凍て付き、周囲に浮かぶのは氷の結晶。 

その氷が砕けると共に、氷の結晶がライトの光を乱反射し、ステージを映えさせる。 

──そのアピールを見て観客の歓声が大きくなる。ライブアピール成功だ。 


曜「よっしっ!」 





    *    *    * 





あんじゅ「決まりかしらね」 

ことり「まだ3ターン目だよ?」 

あんじゅ「そういう割に……さっきからラプラスのことしか見てないじゃない」 

ことり「それは……だって、あの衣装……♡」 


衣装もそうだが、二次審査もかなり手堅い。 

初手の防御から、会場の盛り上がりにピッタリコンボをあわせてた。 

現時点でバタフリー♡1、クロバット♡2、ライボルト♡11だが……。 


あんじゅ「ラプラスは今のコンボだけで♡13……合計♡18」 


完全にコンテストの内側からの視点だけど、ここから他の出演者は勝ちきれるかしら? 




    *    *    * 


349 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:14:11.95 ID:ISz0KMwo0


コーディネーター1「バタフリー、“エナジーボール”!」 

 《 “エナジーボール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   バタフリー✪✪ +♡♡♡♡ ✪B+♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


バタフリーの手堅いアピールからの、 


コーディネーター2「クロバット、“くろいきり”!」 

 《 “くろいきり” うつくしさ 〔 アピールが 終わった ポケモンの 調子を さげる 〕 ♡♡♡ 
   クロバット +♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


他のポケモンが自己補強で上げた調子を元に戻す“くろいきり” 


 《 バタフリー✪✪ ⇒ バタフリー 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡ ] 》 


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   .ライボルト ♡♡♡              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡        ] 
    ラプラス  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 
   .クロバット ♡♡♡♡            [ ♡♡♡♡♡⁵♡              ] 
   バタフリー ♡♡♡♡♡⁵♡♡        [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡            ] 》 


司会『さて、コンテストも終盤に差し掛かって参りました! 4回目のアピールタイム!』 


かなり、他のコーディネーターに差を付けたとは思う、が。 


曜「最後まで、手は抜かない……ラプラス、“うずしお”!」 
 「キュウー」 

 《 “うずしお” うつくしさ 〔 このアピールの後 会場が しばらく 盛り上がらなくなる 〕 ♡♡♡ 
   ラプラス +♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


激しい“うずしお”が発生する。 


司会『おっと、ここでラプラス、“うずしお”を発生させました!』 


“うずしお”は会場全体の勢いを固定する。周りのポケモンのアピールによる、エキサイトの上昇を抑える効果がある。 


コーディネーター1「バタフリー、 “エナジーボール”!」 

 《 “エナジーボール” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   バタフリー +♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


コーディネーター2「クロバット、“ベノムショック”!」 

 《 “ベノムショック” うつくしさ 〔 1つ前の ポケモンの アピールと タイプが 同じなら 気に入られる 〕 ♡♡~♡♡♡♡♡♡ 
   クロバット +♡♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 
350 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:16:29.72 ID:ISz0KMwo0

コーディネーター3「ライボルト、“ほうでん”!」 

 《 “ほうでん” うつくしさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥ 
   ライボルト +♡♡ 繰り返しP-♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


 「キュウッ」 
 《 ラプラス ♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》 

 「フリィー!!?」 
 《 バタフリー ♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

 「クロバッ!!!!」 
 《 クロバット ♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》 


他のコーディネーターたちはここまで使った技、使ってない技を様々繰り出すが、 


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
    ラプラス  ♡♡♡♡ ♥♥   [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 
   バタフリー ♡♡♡♡ ♥♥   [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡          ] 
   クロバット  ♡♡♡♡♡♡ ♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡          ] 
   ライボルト ♡♡ ♥      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡       ] 》 


司会『さあ、最後のアピールです!』 


“うずしお”の影響で、変わらぬ雰囲気のまま、最後のアピールへと突入する。 


司会『クロバットからお願いします!』 

コーディネーター1「クロバット、“りんしょう”!」 
 「クロバーーーッ」 

 《 “りんしょう” うつくしさ 〔 1つ前の ポケモンの アピールと タイプが 同じなら 気に入られる 〕 ♡♡~♡♡♡♡♡♡ 
   クロバット +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


1番手、無難な技だ。 


司会『次はラプラスの最後のアピールです!』 


曜「ラプラス! “りゅうのはどう”!」 
 「キュウウー!!」 

 《 “りゅうのはどう” うつくしさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ラプラス +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


ラプラスが口から、渦巻く大きな衝撃波を繰り出し、それを薙ぐ。 


司会『さあ!! ここに来て再び会場のボルテージはMAXに達しております!!』 


──二度目のライブアピールのチャンス……!! 


曜「ラプラス!! “グレースブレッシングレイン”!!」 
 「キュゥゥゥーーーー!!!!!!!」 

 《 “グレースブレッシングレイン” うつくしさ 〔 うつくしさ部門 みずタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   ラプラス +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 
351 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:20:56.19 ID:ISz0KMwo0

ラプラスの鳴き声と共に水中が立ち上り、それは天空からうつくしい雨となって会場に降り注ぐ……。 


司会『ラプラス! 二度目のライブアピールもしっかり決めました! 雨がライトを照り返していてうつくしい光景が広がっております!』 


コーディネーター3「バタフリー、“しんぴのまもり”!」 

 《 “しんぴのまもり” うつくしさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても 一回 くらいは がまんできる 〕 ♡♡ ◆ 
   バタフリー◆ +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


コーディネーター2「ラ、ライボルト! “はかいこうせん”!!」 

 《 “はかいこうせん” かっこよさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥ 
   ライボルト +♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 



    *    *    * 





司会『──さあ、“はかいこうせん”によって最後まで波乱の展開となった、ビギナーランク二次審査でしたが、あとは最終結果を待つのみとなります!』 


最後の最後まで、盛り上げる流石の名司会だが──最終結果は見るまでもない。クロバット♡9、バタフリー♡13、ライボルト♡17、そして……。 

 《 5ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   クロバット  ♡♡♡ ♥♥♥♥          [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡                  ] 
    ラプラス  ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡ ] 
   バタフリー ♡♡♡              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡             ] 
   ライボルト ♡♡                [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡          ] 》 


司会『今大会、優勝は……。……エントリーNo.4 ラプラスです!! 皆様、出場ポケモンのラプラスとコーディネーターに大きな拍手を!』 


ラプラスは♡24で二次審査も大差をつけて圧勝。 

……それに加えて──。 

結果発表で、ある程度目に見える形で伸びた一次審査二次審査の得票率のゲージは、 


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査 
   【 クロバット】 〔 ♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                       〕 
   【ライボルト】 〔 ♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                〕 
   【バタフリー】 〔 ♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                                  〕 
  ✿【 ラプラス 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》 


一次審査の時点で周りのポケモンに既に大差を着ける形になっていた。 


あんじゅ「どうかしら、ことり。わたしがわざわざ見に来た理由はなんとなく、わかったんじゃ──」 


わたしがことりに声を掛けながら、振り返ると── 


あんじゅ「……? ことり……?」 


──既にそこに、ことりの姿はなかったのだった。 





    *    *    * 

352 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:22:43.11 ID:ISz0KMwo0



志満「曜ちゃん、優勝おめでとう!」 


控え室に戻ると、早速志満姉に出迎えられる。 


曜「えへへ、ありがとう志満姉」 

志満「やっぱり、私が見込んだだけあったわ!」 

曜「そんな……志満姉が昨日のうちに戦術を叩き込んでくれたお陰だよ」 

志満「それだけじゃないわ! あの衣装も……ギリギリまで調整してたのよね? 入場に遅れたときはちょっとひやひやしたけど……」 


確かにそこは反省点だ。 

あそこまで、準備に手惑うとは思わなかった……。今後はもうちょっと詰めて準備をしてこないと……。 


志満「とにかく、優勝したのは曜ちゃんとラプラスの実力よ」 

曜「えへへ……」 


志満姉に褒めちぎられ、なんだか照れくさくて、もじもじしてしまう。 

……そのとき── 


 「──あ、いたーーーー!!!」 
  「ホー」 


控え室の扉が開くと共に、胸にペンダントを煌かせ、同時に目をきらきらさせた女性が入ってくる。 

その人は、私の方に向かって、とてとてと近寄って来る。 


曜「え、誰……?」 

志満「……ことりちゃん?」 

曜「ことりちゃん……?」 


志満姉から、ことりちゃんと呼ばれた女性は、私の目の前まで来ると、 


ことり「あなたがラプラスのコーディネーターさんだよねっ!?」 
 「ホーホー」 


身を乗り出して、興奮気味にそう訊ねてくる。 


曜「え、えっと……はい、そうですけど……」 

志満「ことりちゃん……久しぶり……?」 

ことり「あ、うんっ 志満ちゃん久しぶりっ!」 


志満姉との挨拶もそこそこに、 


ことり「あなた名前は!?」 


名前を聞かれる。 


曜「えっと、曜です」 

ことり「曜ちゃんって言うんだね! わたし、ことりって言うの、よろしくね!」 

曜「よ、よろしくお願いします……?」 

ことり「服作るの好きなんだよね? いい素材があるの! ついてきて!」 

曜「え」 
353 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:23:30.17 ID:ISz0KMwo0

ことりさんはにこにこしたまま、私の腕を引いて、走り出す。 


ことり「れっつごー!」 

曜「え、えええええええ!?」 


そのまま全速力で連れ去られました。 





    *    *    * 





あんじゅ「遅かったか……」 

志満「あんじゅちゃん……」 


志満はポッポが豆鉄砲を食らったような顔をしていた。 


あんじゅ「ここに、ことり……来なかった?」 

志満「来た……そのまま、曜ちゃんを連れてっちゃった……」 

あんじゅ「ことり、興奮すると見境なくなるから……曜、大丈夫かしら」 


さて、頭の中がコンテストで埋め尽くされている、ことり女史……今度は何をする気なのかしら。 

わたしは曜を憂いて、思わず天井を仰いでしまった。 





    *    *    * 





曜「──あのー……」 


コンテスト会場から連れ去られた先は、ホテルの一室だった。 


 「ホー」 「ホーホ」 
  「ホー」 「ホー」 「ホーホーホ」 

 『モクロー くさばねポケモン 高さ:0.3m 重さ:1.5kg 
  狭くて 暗い場所が 落ち着く。 そのため トレーナーの 
  ふところや バッグを 巣の 代わりに することも  ある。 
  刃物の ように 鋭い 羽を 飛ばして 攻撃する。』 


ものすごい数のモクローのいる部屋。 


ことり「あ、ちょっと待ってね!」 


そして、恐らくその部屋の主である──ことりさん? は何やら大きなスーツケースの中をまさぐっている。 


ことり「あった、これ!」 


そう言って、ことりさんが取り出したのは──大きめのケープハット? 
354 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:24:39.31 ID:ISz0KMwo0

ことり「曜ちゃん、ラプラス出して」 

曜「え?」 

ことり「すぐ、仕立て直しちゃうから」 

曜「……?」 


ことりさんは帽子を構えて、こっちをじっと見つめている。 

──とりあえず、ラプラス出せばいいのかな? 


曜「出てきて、ラプラス」 


室内にラプラスを出す。 


 「キュゥー」 


ことり「こんにちは、ラプラスさん♪」 


ことりさんはメジャーと先ほど出したケープハットを持ち、ラプラスに近寄る。 


 「キュゥ?」 

ことり「ラプラスさん、頭少しさげてもらっていい?」 

 「キュウ」 


それだけ言うと、ラプラスは何故か初対面のはずのことりさんの言うことを聞いて、頭を下げる。 

そのまま、ことりさんは手際よく、メジャーをラプラスの頭部に当てて、寸法を測り。 


 「ホーホ」 

ことり「ありがと、モクロー」 


一匹のモクローが持ってきた、裁縫箱を受け取り、帽子を仕立て直し始めた。 


ことり「よし、完成」 

曜「え、はや!?」 

 「キュウ」 

ことり「んー……ケープハットもいいかなっておもったんだけど、やっぱりさっきのボンネット帽子が衣装にはマッチしてたよね……でも、服の組み合わせによっては、まだ全然可能性はあるし──曜ちゃんはラプラスの衣装についてどう思う?」 

曜「え、私!?」 


突然話を振られる。 
355 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:26:12.98 ID:ISz0KMwo0

曜「うーんと……今回はあくまで服に印象を持たせたかったから、人が着る服のリメイクって感じで中世の婦人が着ていたようなドレスをイメージしましたけど……ラプラス自体に合う衣装はもっと他にあると思います」 

ことり「ふんふん、例えば?」 

曜「もっと、ラプラス自身の持つ気品──みたいなのを生かすにはスパンコール……のキラキラはちょっと品がないかな。……そうだなぁ」 

ことり「シルクとか」 

曜「! そうですね、シルクのレース生地を基調として……」 

ことり「色合いは派手になりすぎず、かつ個性を殺さない白かな」 

曜「それ、いいかも……! ウェディングドレス風にしたら」 

ことり「! やーん♪ そんなの絶対可愛いよ~♪ じゃあ、帽子はケープハットじゃなくて、マリアベールとか──」 

曜「いい……すごくいいです!」 

ことり「よし、じゃあ作ろうっ 衣装のアイディアは鮮度が大事だから!」 

曜「了解でありま──」 


ハッとする。 


曜「ち、ちょっと待ってください……。そもそも私なんでここに連れて来られたんですか?」 


完全にことりさんのペースに飲み込まれてしまっていた。 


ことり「あれ、説明してなかったっけ……」 


ことりさんは小首を傾げたあと、 


ことり「アナタをことりの弟子に任命します!」 


そう言い放ってくる。 


曜「……え? 弟子」 

ことり「コンテストライブの弟子だよ~ 曜ちゃん今日がコンテスト初参加だったんだよね?」 

曜「は、はい……」 

ことり「将来有望すぎるので、ことりが一人前に育てることにしましたっ」 

曜「え、えっと……」 


話が唐突すぎる。困惑する私に、 


ことり「……わたしじゃ……ダメかな?」 


そう言って、上目遣いをしてくる……。なんか可愛い生き物がいるであります。 


曜「ま、まず自己紹介を……」 

ことり「! それもそうだね」 


ことりさんは、私の前に来て、 


ことり「私はセキレイシティのことり──前々回大会までコンテストクイーンをしてました♪」 


ニコっと笑ってお辞儀をした。 





    *    *    * 

356 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:29:07.75 ID:ISz0KMwo0



曜「……クイーン……?」 


完全に予想外の方向からのパンチを食らって呆然とする。 

……前々回大会までコンテストクイーンってことは、あんじゅさんは二連覇って言ってたから、前回のクイーン……ってことだよね……?? 

自分の中で自問自答がぐるぐるする。 


ことり「前々回のマスターランクであんじゅちゃん負けちゃって、今のクイーンはあんじゅちゃんに譲ってる形だけど……ことりじゃ役者不足かな?」 

曜「め、滅相もないでありますっ!!!!」 


一回頂点を取ったことのある人から、まさかの師事の申し出。 

──そんなことある? 


ことり「じゃあ、決定ね♪」 


ことりさんはニコニコと笑いながら、私のことをじーっと見た後、 


曜「え、えっと……」 

ことり「ゼニガメとホエルコだね」 

曜「……え?」 

ことり「その子たちにも衣装考えなきゃだから、ラプラスの後に考えようね♪」 


そう言って、部屋の中にいるラプラスの元へ戻っていく。 

──え、何今の……? 

私の手持ちを言い当てた……? 

ラプラス以外は会場では出した覚えがない……なんで? 

コンテストでクイーンを取るような人は、ボールからポケモンを出さなくてもわかるのかな……? 


ことり「ほら、曜ちゃん! ラプラスの衣装案出して!」 

曜「え、は、はいっ!」 


めちゃくちゃ気にはなるんだけど……今はそれを聞く空気じゃない気がする。 

後で、時間が出来たら聞いてみようかな……。 





    *    *    * 





ことり「おかしいなぁ……」 


ことりさんが時計を見ながら、首を傾げた。 

二人で衣装案を出し合ってる最中、ことりさんは何度か時計をチラチラと見ていた。 


曜「どうかしたんですか?」 

ことり「あ、ごめんね。今日はメリープの綿毛を注文してたんだけど……なかなか連絡が来なくてね。やっぱり急に注文はよくなかったかな……」 

曜「メリープの綿毛……」 

ことり「うん、ちょっとニットの衣装を作りたいなって思って、この場で発注しちゃったんだけど……」 
357 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:33:20.65 ID:ISz0KMwo0

そういえば、さっきも『衣装は鮮度』とか言っていたし、思いつきでそういうことをしてしまう人なのかもしれない。 

しかし、届かないとなると困った話だ。 

メリープの綿毛──だと、確かホシゾラの西に牧場があったはず。そこから来たんだとしたら、13番水道を越えて来るんだろう。 


曜「何かトラブルがあったんじゃ──」 


私がそう言い掛けたそのとき──prrrrr──とポケギアの着信音 


ことり「あ、よかったぁ、連絡来た……。──もしもし?」 


ことりさんが着信を受けると、 


 『た、大変さー! お客さんー! 船が引っ張られてー!!』 


ポケギアから、おじさんの焦った声が聞こえてくる。 


ことり「!? どうかしたんですか!?」 

 『船がー!!』 

ことり「一旦落ち着いてください……!」 


ことりさんから、先ほどのふわふわした雰囲気が抜けて、少し緊張感が走る。本当にトラブルがあったようだ。 


 『俺にも状況がわからんでさー!!』 


電話に耳を澄ませると……波の音と、船のエンジン音が聞こえる。 


曜「海の上……船上? これは小型の貨物船の音かな……? それもかなり限界ギリギリまでアクセル入れてる……」 

ことり「小型貨物……輸送中に船が引っ張られてるんですか?」 

 『おじさん、電話代わって欲しいずら!』 


すると、今度は女の子の声──あれ、この声? 


 『もしもし!! 今乗ってる船が、14番水道を北に向かって、何かに引っ張られてるずら!!』 


曜「花丸ちゃん!?」 

 『と、とにかく助けを──『ピギィィィィ!?』──ルビィちゃ──』 


──ブツ ツーツーツー 


曜「た、大変だ……!!」 


なんかよくわからないけど、ことりさんの頼んだ荷物を輸送してる船にトラブルがあって、何故かそれに花丸ちゃんとルビィが乗ってて、 


ことり「──曜ちゃん」 


焦る私の両肩をことりさんが掴む。 
358 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:35:21.59 ID:ISz0KMwo0

ことり「落ちて着いて? さっき電話を代わった女の子は知り合い?」 

曜「あ、はい……!! 同じ学校の後輩で……!」 

ことり「わかった、詳しい話は移動しながら聞くね、今は荷物まとめて」 

曜「え、えと」 

ことり「すぐに助けに出るから──」 


ことりさんは窓を開け放って、そこから飛び降りる。 


曜「!? こ、ことりさ──」 


そこに、風が吹き込んだ。 

気付くと、 


 「チルゥ~」 


目の前には綿のような羽を広げた、大きな鳥ポケモン。 

飛び降りたはずのことりさんは、そのポケモンの背に乗っている。 


 「ホーホ」 

そして、私の荷物をまとめた、モクローが近くに飛んでくる。 


ことり「行くよ! 曜ちゃん!」 

曜「! は、はい!!」 


頭が付いて行かないが、今はとにかく花丸ちゃんたちを助けにいかなきゃ……!! 

私は窓の外で、鳥ポケモンの上から伸ばされている、ことりさんの手を──取った。 





    *    *    * 





さて──私……ヨハネは、サニータウンで治療を受けた後、依然図鑑で徘徊するアブソルを追尾していた。 

ただ、困ったことに……。 


善子「ここ……どうみても海の上なのよね」 


私が今いるここは15番水道。 

スタービーチから始まり、コの字を左下から描いて続く、長い水道の果てだ。 


善子「アブソルは泳げるとか……?」 


とはいえ、あちこちに海岸の中に顔を出す岩や木の板が浮いているし……もしかしたら、その上を伝って来ているのかもしれない。 


善子「……図鑑が間違ってる可能性もなくはないけど、他に頼る情報もないしね……ヤミカラス、このまま東に」 
 「カァー」 


ヤミカラスと共に海上を飛ぶ。 


善子「それにしても……ここの海、随分ゴミが多いわね」 
359 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:37:58.87 ID:ISz0KMwo0

目下の海には、先ほどからも目に付いていた木の板をはじめとした、大きめのゴミが大量に浮かんでいる。 

さっき近付いて見てみたのだが、十分な浮力を持ったソレは、結構大きさがあり、軽いポケモンや人が乗っても簡単には沈まないほどだ。 


善子「まるで船みたいな……いや、逆かしら」 


──恐らく、船だったもの。 

船の残骸に見えた。 

東へと進路を向けるほどにその浮遊物たちは多くなっていく。 


善子「……なんか、嫌な感じがするわね」 


双眼鏡で遠方を覗き込みながら、東に向かって飛行を続ける。 

──このままだと水道を抜けて、沖に出ちゃうわね。 

さすがにヤミカラスの飛行だけで沖に出るのは自殺行為だ。 

水道の端まで捜索をしたら、一旦引き返したほうがいいかもしれない。 

東に移動しながら、アブソルらしきポケモンがいないか四方を確認する。そのとき、 


善子「ん……何アレ?」 


南の方角から、面妖な影が動いているのが目に入ってきた。 


善子「……小型の貨物船……よね……?」 


牧場で育てたポケモンなどを海路で運ぶのに使う用の船。 

ただ、酷く違和感があった。 


善子「あれ……逆に向かって進んでない?」 


バックで、14番水道の方から、こっちに迫ってきている。 

只事じゃない事情を感じ──。 


善子「ヤミカラス、一旦あの船に向かって、移動して」 
 「カァー」 


──堕天使は羽ばたく。 


360 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/03(金) 21:43:12.54 ID:ISz0KMwo0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【フソウタウン】【15番水道】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /     || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥ ●:o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :  || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     ●  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 曜 
 手持ち ゼニガメ♀ Lv.15  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.24 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.14 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:44匹 捕まえた数:9匹 

 主人公 善子 
 手持ち ゲコガシラ♂ Lv.20 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.21 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ムウマ♀ Lv.18 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:53匹 捕まえた数:28匹 


 曜と 善子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



361 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:06:43.05 ID:bS2bQuBP0

■Chapter027 『いかりの海上戦!』 【SIDE Hanamaru】 





──14番水道、貨物船内。 


 「メェー!!!」 「メェーーーー!!!!」 


メリープたちも異変に気付いたのか、貨物室はかなり混乱していた。 

そのメリープたちが驚いて出した“でんじは”や“かいでんぱ”のせいか、ポケギアの通話も切れちゃったし……。 


花丸「とにかく、状況確認ずら……!!」 


このままじゃ、不味いことは今のマルにもわかる。 


牧場おじさん「どうするさー!?」 


操舵室でアクセルを全開にしながら、おじさんが訊ねてくる。 


花丸「おじさんはそのままアクセルを全開にしてて!」 

牧場おじさん「わかったさー!?」 


後は貨物室。 


 「メェーーー!!!!」「メェー!!!!」「メェーーー!!!!」 

花丸「とりあえず、メリープを落ち着かせないと……!!」 


このまま放っておいたら、何か他の重要な機械も壊されちゃうかもしれない、 

一旦、完全にメリープを大人しくさせるには── 


花丸「捕獲するずら!」 

ルビィ「え!? でもさっきそれは不味いって……!」 

花丸「緊急事態ずら!」 


マルはリュックから、空のボールを取り出して、メリープにぶつける。 

 「メェー」 

まず一匹。このメリープは戦闘慣れしてないからか、ボールの素投げでも捕まる子は捕まる。 


花丸「次──」 


次のボールを構えようとした、瞬間──バチン、と火花と共に構えたボールが弾かれる。 

花丸「っ!」 


“でんげきは”が飛んで来たようだ。 


ルビィ「花丸ちゃん!?」 

花丸「……オラは大丈夫ずら!!」 
362 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:08:04.74 ID:bS2bQuBP0

捕獲に驚いた個体が攻撃してきたのかもしれない、暴れられるとそれこそ不味い……! 

ナエトルかゴンベで応戦する? 

でも、今ナエトルが船から投げ出されたら、救う術が無い。ゴンベは船の上に出すには重過ぎて船を沈めかねない。 

──思考をフル回転するけど、今のオラには手持ちが少なすぎる。 

そのとき──。 


 「メェーーーーーー!!!!!!」 


一際大きなメリープの声、 


ルビィ「ピギィ!?」 

花丸「なんずら!?」 


声のした方を見ると、先ほどより二周りほど大きくなった、メリープが立っていた。 

──臨戦態勢!? 

と、思ったけど……。 

 「メメェ…」「メェ…」 

急に他のメリープが大人しくなる。 


ルビィ「う、うゅ……?」 

花丸「! 今、捕獲ずら! ルビィちゃんも!」 

ルビィ「え、あ、うん!」 


二人で空のボールを投げて、大人しくなったメリープたちを捕まえる。 

だんだん貨物室にスペースが出来、あとはさっき鳴いたメリープだけ── 


花丸「助かったずら……」 


オラの声を聞くと、 

 「メェー」 

メリープはしゅるしゅると縮んでいく。 

“じゅうでん”で帯電し膨らませた綿毛から、空気中に電気を逃がしているのだろう。 

 「メェー」 

そして、マルの足元に顔をこすり付けてくる。 


花丸「ずら!?」 

ルビィ「もしかして、その子……さっき花丸ちゃんが気が合うって言ってた子じゃ……」 

花丸「あ……それじゃ、オラが捕獲しようとしてるのを察知して、皆を落ち着かせてくれたずら?」 
 「メェー」 


メリープは返事をするように鳴く。 

他のメリープたちと違って、一緒に戦ってくれそう……! 


花丸「“でんじふゆう”の応用で、逆に船にくっついたり出来る!?」 
 「メェー!!」 


メリープの足が一瞬バチバチと爆ぜたあと、床に吸着される。 
363 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:11:08.05 ID:bS2bQuBP0

花丸「ルビィちゃん! 一旦この子にしがみつくずら!」 

ルビィ「う、うん!」 


スペースが空いた分、ぼーっと突っ立っているだけだと、振り落とされる可能性はあがる。 

オラたちは磁石の要領で船の床に張り付いた、メリープを抱きしめるようにして、安定を図る。 

捕獲したメリープたちはボールごとリュックに詰めて、貨物室の端の方に括り付ける。 

足場は確保した、次は──。 

ダンッ!!!── 


ルビィ「ぴぎっ!?」 


今度は天板から大きな音がする。 

そして、それとほぼ同時にルビィちゃんのポケットから──pipipipipipipi!!!という機械音が鳴る。 


ルビィ「わわ、こっちからも!? なにっ!?」 pipipipipipi 

花丸「なんずら!?」 


思わず上を向くけど、もちろん天板は鉄の板に覆われていて、外は見えない……が、 


 「あんたたち何やってんの!? このままだと15番水道のどっかに岩にぶつかって海の藻屑になるわよ!!?」 pipipipipipi 


声が降って来る。 


花丸「人!? こ、この船何かに引っ張られるずらー!!」 

 「なんですって!?」 pipipipipipi 


上の人に声を掛けると、驚いた風にそんな返事が降って来る。 


 「ってか、うっさいわよ!! 今緊急事態なのよ!!」 pipipipipipi 

ルビィ「ぅゅ……鳴ってるの図鑑……!?」 pipipipipipi 


なにやら、ルビィちゃんが図鑑を開いてボタンを押している。 

程なくして、二つの電子音がほぼ同時に止まる。 

その後、すぐに、 


 「とりあえず、これ!!」 


貨物室の窓の隙間から、何かが投げ入れられる。 


ルビィ「ふぇ!? な、なんか来た!?」 

花丸「ロープ……!」 


ある程度頑丈そうなロープが何本か投げ入れられた。 


花丸「ルビィちゃん、自分と……あと、飛べるポケモンに、ロープを付けて!」 

ルビィ「! う、うん、わかった! コラン! アブリー!」 
 「ピピ」「アブブ」 


ルビィちゃんにロープの端を手渡し、 

オラはルビィちゃんに渡したのと逆側を船室内に結び固定する。 
364 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:13:17.91 ID:bS2bQuBP0

花丸「メリープも」 
 「メェー」 


メリープにもロープを括り付ける。 


 「今、船の周りぐるっと見てみたけど、特に目立った異常はないわよ!!」 


またさっきと同じ声が降って来る。 


ルビィ「じゃ、じゃあ……!」 

花丸「海の中から引っ張られてる……!!」 

 「みずポケモン持ってる!?」 

花丸「持ってないずら!!」 

 「──ずら……? ……とりあえず了解! 私は一匹持ってるけど、このままじゃ速すぎて、出してもおいてかれるだけだから、何か一瞬でも減速させられない!?」 

ルビィ「や、やってみるっ! アブリー……!」 
 「アブブ」 


ルビィちゃんが身体にロープを巻いた状態で、アブリーと一緒に船の後ろ側に踏ん張って歩く。 


花丸「メリープ! オラたちも!」 
 「メェー」 


 「貨物室の後ろのハッチ開く!?」 

牧場おじさん「ま、任せろさー」 


おじさんが操作して、貨物室の後ろのハッチが開き始める。 

開き始めの小さな隙間から、 


ルビィ「アブリー、“しびれごな”!」 
 「アブブ!!」 


アブリーが“まひ”効果を持った、攻撃。 

──した瞬間。 

船がガタンと揺れる、 


 「わっ!?」 

ルビィ「ぴぎっ!?」 


突然だったため、ルビィちゃんの身体が浮く。 


花丸「る、ルビィちゃん!?」 

 「ピピィ!!!」 
ルビィ「コ、コラン!!」 


すぐに気付いたコランが、ルビィちゃんが吹き飛んでいかないようにルビィちゃんごと身体を船内に押し付けた。 


花丸「……ほっ」 


どうやら、船を海中から引っ張ってるポケモンには効いているようだ。 

徐々にハッチが開いてきたところに、 

 「メェー」 

メリープと一緒に乗り出して、 
365 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:14:30.83 ID:bS2bQuBP0

花丸「メリープ! “エレキネット”!!」 
 「メェー!!!」 


素早さを下げる稲妻のネットを海中に放る。 

その際に、外に顔を出して船の上の方を見上げて、 


花丸「そっちは大丈夫ずらか!?」 

 「だ、大丈夫よ! それより自分たちの心配を──」 


ヤミカラスに掴まったまま、下を覗く顔と目が合った。 


花丸「よ、善子ちゃん……!?」 

善子「ずら丸……!!?」 





    *    *    * 





“しびれごな”と“エレキネット”が効いてきたのか、更に後ろに引っ張られるスピードが下がる中、 


花丸「善子ちゃん!? 本当に善子ちゃんずら!?」 

善子「よ、善子じゃなくて、ヨハネよ!!!」 


善子ちゃんらしき人に声を掛けると、謎の言葉が返って来る。 


花丸「ヨハネ……? 人違い……?」 

善子「! そ、そうよ、人違いよ! 善子なんて人知らないわ!!」 


同調される。 

──怪しい。 


ルビィ「花丸ちゃん! そんなことしてる場合じゃないよ!」 

花丸「ずら!」 


ルビィちゃんに言われて、船内に戻る。 

そういえばまだスピードは下がったけど、問題は解決していない。 


善子「っと……そうだったわね! ゲコガシラ!」 
 「ゲコッ!!!」 


近くの水面に向かって、ポケモンが放たれる。 


善子「“みずのはどう”!!」 


ヨハネちゃん? のゲコガシラが攻撃を放つと、 

──ガタンという揺れと共に、船を引っ張っていた力がなくなる。 

──そのまま、浮遊感に包まれる。 


花丸「ずら!?」 


その勢いで船が止まって、身体が前に投げ出される。 
366 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:16:50.64 ID:bS2bQuBP0

ルビィ「花丸ちゃん!」 


一瞬浮いた、マルの手をコランに掴まったままのルビィちゃんが掴んで、 


ルビィ「マル、ちゃん!!」 


ルビィちゃんが掛け声と、共にオラを船内に引っ張る。 


花丸「ずら!!」 

ルビィ「わっ!!」 


そのまま、ルビィちゃんにダイブするように船内に引き戻される。 


ルビィ「はっ……はっ……花丸ちゃん……よかった……」 

花丸「──ルビィちゃん、ありがと……助かったずら……」 


完全に、動きを、止めた、船の上で── 


善子「どうやら、あいつが原因らしいわよ……っ!!」 

花丸「あれは……」 


船から、やや後方の水面に、浮かぶピンクと水色の影。 


花丸「ブルンゲルずら……!!」 


二匹のブルンゲルのつがいの姿を認める。 


ルビィ「ブルンゲル……?」 

花丸「確か、船を引きずり込んで沈めるって言うゴーストポケモンずら!」 

善子「さっきの船の残骸……ここが縄張りなのね……ってか、あんた、そこまで知っててなんでブルンゲルの居る場所に船でのこのこ出てくのよ!?」 

花丸「ブルンゲルの生息域は15番水道以北の海ずら! オラたちが捕まったのは13番水道の辺りだから、そもそもそこにブルンゲルが居るなんて、予想出来ないよ!」 

善子「はぁ!? 野生のポケモンが水道二つ分移動してわざわざ船沈めに来たとでも言うの!?」 

ルビィ「二人とも、言い合いしてる場合じゃないよっ!!」 


 「ブルン…」「ゲル…」 


ブルンゲルたちはユラリと不気味に揺れた後、 

大きな海水の波を立ててくる。 

波の力によって、船が大きく揺れる。 


ルビィ「わわわっ!?」 

花丸「これは、“なみのり”ずら!?」 

善子「……っ! 話は後よ、ヤミカラス!!」 
 「カァー!!」 


ヨハネちゃんの指示でヤミカラスが船の開いた後部ハッチの前に飛んできて、 


善子「“オウムがえし”!」 
 「カァーー!!!」 


波を撃ち返す! 
367 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:19:40.38 ID:bS2bQuBP0

 「ゲル…?」「ブルン…」 


攻撃としての効果は薄いけど、波が相殺して船の揺れが収まる。 


花丸「今ずら! メリープ! “チャージビーム”!」 
 「メェーーー!!」 


電気を収束した光線が、ピンクのブルンゲルに向かって飛び、 

 「ブルンッ!?」 

直撃し、驚いたのか、ピンクのブルンゲルが海中に逃げていく。 


花丸「やったずら!」 
 「メェー」 


喜びも束の間、 

 「ゲル…」 

♀を攻撃されて怒ったのか、水色のブルンゲルが触腕を素早く伸ばして、 

メリープに“からみつく”。 


 「メェ!?」 
花丸「ずら!? メリープ、踏ん張るずら!!」 


咄嗟にメリープを掴むが、 


花丸「ずら!?」 

善子「ち、ちょっと!?」 

ルビィ「ま、マルちゃんっ!!!」 


メリープごと海に引き摺りこまれそうになる。 


善子「ヤミカラス!」 
 「カァー!!!」 

メリープごと、ブルンゲルに引っ張られるマルの背中を、ヤミカラスの脚が掴む。 


ルビィ「コラン! アブリー! 引っ張って!」 
 「ピピッ!!!」「アブブ」 


ルビィちゃんもオラの背中側から腕を回して、引っ張り、そのルビィちゃんに括り付けられた、ロープをコランとアブリーが引っ張る。 

メリープを基点に綱引き状態になる。 

──だけど、それでもずりずりと前方に引っ張られる。 


花丸「ち、力負けしてるずらぁ!!」 

善子「ちょっと何やってんのよ!!」 


そういいながら、船の上にいたヨハネちゃんも船内に飛び降りて、 

メリープを掴んで、引っ張る。 


善子「な、なんつーパワーなのよ、あのクラゲ……!!」 

花丸「ブルンゲルは135kgあるずら……!! それに海水も含むから」 

ルビィ「解説してる場合じゃないよー!!!」 
368 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:21:13.14 ID:bS2bQuBP0

──このままじゃ、沈む……!! 

もう一度踏ん張って、顔をあげると、 

──目の前に“このは”が舞っていた。 


ルビィ「木の葉……?」 

善子「ここ、海の上よ!?」 

 「ゲルゥ…」 


次の瞬間── 


 「──モクロー! “リーフブレード”!!」 


小さな影が一閃──ブルンゲルを袈裟懸けに斬り裂いた。 

 「ゲルッ!?」 

それに驚いたのか、ブルンゲルの触腕がメリープから緩む。 

急に引っ張る力がなくなったので、 


善子「なっ!?」 

ルビィ「えっ!?」 

花丸「ずらっ!?」 


──ガシャンッ!! 

後ろに向かって踏ん張ってた勢いを殺せず、3人と4匹で後ろに転がった。 


ルビィ「ぅゅ……痛い……」 
 「ピピィ…」「アブブ…」 

善子「つつ……っ」 

花丸「た、助かったずら……? メリープ、平気ずら?」 
 「メェー」 


メリープとコラン、アブリーは無事、 

 「カァカァ」 

ヤミカラスはちゃっかり、ヨハネちゃんの頭に止まっている。 

一応、綱引きをしていた全員、無事ずら。 

そのまま、船の後方に開いたハッチの前に、人を2人乗せたチルタリスが舞い降りてくる。 


ことり「助けに来ました! 大丈夫ですか!?」 


チルタリスの背に乗った女性の一人が、ブルンゲルを睨んだまま、そう問い掛けてくる。 


善子「……え、ちょ、なんでここに」 

ことり「え?」 

ルビィ「だ、大丈夫です、全員無事です!」 

ことり「そ、そう?」 


何故か、ヨハネちゃんがこそこそとマルの後ろに隠れているが、 

そういえば……もう一つの人影は──と思ったら、チルタリスから飛び降りて、船内に駆け込んで来る。 
369 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:22:36.55 ID:bS2bQuBP0

曜「花丸ちゃん! ルビィちゃん!」 

花丸・ルビィ「「曜ちゃん!?」」 


曜ちゃんが私たちをほぼタックルするように勢いよく抱きしめてくる。 


曜「もう、なんで貨物船になんて乗ってるの!?」 


出会い頭にそう問われる。 


花丸「あーいやー……かくかくしかじかで……」 

ルビィ「かくかくしかじかとか、本当に言ってる人、初めて見たかも……」 

曜「とにかく二人とも無事!?」 

花丸・ルビィ「「……うん!」」 

曜「じゃあ、よし……っ……!!」 


そのまま、ぎゅーっと抱きしめられる。 


ことり「人の貨物にいたずらしたら、めっなんですよ?」 

 「ゲルゥ…」 

ことり「反省してください! モクロー! “ブレイブバード”!」 

 「ホーホ」 


さっき突っ込んだモクローは、気付いたら再び飛び上がっていた。 

そして、上空から、再び弾丸のようにブルンゲルに一直線に落ちて、 


 「ゲルゥ!!!」 

激しい水しぶきをあげながら、ブルンゲルに強烈な突進攻撃をかます。 

どうやら、勝負あったみたい。 


善子「ゲコガシラ、戻りなさい……っ 撤退するわよ……!」 


気付くと船の端っこでヨハネちゃんがこそこそしている。 


花丸「ずら……?」 

曜「? 貴方も巻き込まれたの? 大丈夫? 怪我してない?」 


曜ちゃんが声を掛けると、ヨハネちゃんはビクリとして、 


善子「い、いえー!! お気になさらずー!!」 


と言って、何故かそそくさと逃げようとしてるところを── 


ことり「あれ? 善子ちゃん?」 


モクローのトレーナーさんに声を掛けられる。 
370 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:24:25.21 ID:bS2bQuBP0

善子「ぎ、ぎくっ!! ひ、人違いです……」 

ことり「……人違わないと思うんだけど……そのヤミカラス、わたしがあげた子だよね?」 

善子「こ、この子はヨハネが自分で捕まえて……」 

ことり「ヤミカラス、元気ー?」 

 「カァ! カァ!」 

善子「って、こらヤミカラス!! 返事してんじゃないわよっ!」 


どうやらこの人の知り合いみたいだ──と言うか、 


花丸「やっぱり善子ちゃんじゃん!」 

善子「……ぐっ!? り、離脱!! とうっ!!」 
 「カァーー」 


ヨハネちゃん──というか、善子ちゃんは船床を蹴って、飛び立ってしまった。 


ことり「ありゃりゃ? もう、善子ちゃんいつもすぐ逃げちゃうから……」 


 善子「──善子じゃなくてー!!! ヨ・ハ・ネーーーー!!!!!!」 


少し遠方から叫び声が聞こえた。 


ことり「曜ちゃん、お友達は無事?」 

曜「はい! ことりさん!」 

花丸「……ことりさん……?」 

ルビィ「うぇぇ……ありがとうございますぅ……助かりましたぁ……っ……」 


ルビィちゃんは緊張の糸が切れたのか、へなへなとその場にへたり込みながら、お礼を言う。 


ことり「うんうん、みんな無事でよかったね♪」 

花丸「ことりさんって……」 

ことり「ん?」 

花丸「あの、ことりさんずら?」 

ことり「うん♪ あの、ことりさんだよ♪」 


道理で強いわけずら……。 


ルビィ「あ……そうだ、おじさん大丈夫かな……?」 


ルビィちゃんの言葉で思い出して、 


花丸「おじさん! もう、大丈夫ずらー!」 


操舵室に向かって、声を掛ける。 


牧場おじさん「もうアクセル入れなくて大丈夫かー!?」 

花丸「うん、だいじょう……ぶ……──」 


……? 『もうアクセル入れなくて大丈夫』……? 


花丸「おじさん!! アクセル入れて!?」 

牧場おじさん「どっちさー!?」 
371 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:26:22.72 ID:bS2bQuBP0

判断が間に合わなかった──ガクン、と……先ほどとは比べ物にならない規模で、船が大きく傾く。 


花丸「ずらっ!?」 


バランスを崩す。 


ことり「わわ、危ないっ」 


ことりさんに抱きとめられる。 


ルビィ「え、何!?」 


ルビィちゃんはどうにか船内に掴まれたようだが、 


曜「何!? 解決したんじゃないの!?」 


曜ちゃんが叫ぶ。 

マルはそれに答えるように、 


花丸「アクセルはずっと入ってたずら……! なのに船はずっと『停まってた』──何故かずっと推進力と引っ張られる力が釣り合ってた……!!」 


言葉を返す。 


花丸「……ブ、ブルンゲルは最初から、便乗してただけだったずら……!」 


最初から、ちゃんと近くをサーチしなくちゃいけなかった。そのための道具も持ってるんだし……。 

船の端に括り付けていた、リュックを開けると──pipipipipipiとマルの図鑑がけたたましい音を上げていた。 


花丸「え、これどうやって止めるずら!?」 

ルビィ「マルちゃんもしかして、リュックに入れたまま、ずっと図鑑鳴ってたの!?」 

花丸「ル、ルビィちゃん、どうしよう……止め方わかんないずらぁー!!」 





    *    *    * 





──最初から便乗。花丸ちゃんの言葉を聞いて、 


曜「まだ、他にいるってこと……!?」 


私が代わりに図鑑を開いて、近辺をサーチする。 

他に、ポケモンが──居た!! 


曜「海の中……!!」 


私は傾く船の中をダッシュで駆け出す。 


ことり「曜ちゃん!?」 

曜「ことりさん、船のことお願いします!!」 
372 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:28:12.47 ID:bS2bQuBP0

私は走りながら、ゴーグルを装着して、 

そのまま船を踏み切って、海に飛び込んだ。 


──── 
── 


潜ると共に、 

 「ゼニー」「ボォー」 

ゼニガメとホエルコを繰り出す。 

この間は手持ちを全部同時に出して、やられた反省を生かそう、ラプラスは控えたままにする。 

 「ゼニ」 

ゼニガメに掴まって潜ると── 

船に向かって一直線に伸びる鎖のようなものが目に入ってくる。 

その鎖を伝っていくと、 

──居た。 

海底に舵輪のようなポケモンが、居た。 

私は先ほどサーチに使ったままの図鑑に視線を送る。 


 『ダダリン もくずポケモン 高さ:3.9m 重さ:210.0kg 
  鎖の ような 緑の 藻屑は 数百メートルも 伸びる。 
  でかい 錨を ブンブン 振り回し ホエルオーさえ 
  一撃で KOする。 緑の モズクが 本体だ。』 


13番水道から、“アンカーショット”で船を引っ張ってきたのはこのダダリンだったんだ──!! 

その途中でブルンゲルたちが、便乗して近付いてきただけで……。 

潜って、ダダリンに近付こうとする。 

…………。 

……。 


──いや、待って……。あのポケモン。 


めちゃくちゃでかくない? 

4メートル近い巨体のためか、潜っても潜っても、どんどん見た目が大きくなるだけで、遠近感がおかしくなる。 

これ以上の素潜りは不味い。 

私はゼニガメから手を放して、ホエルコに掴まる。 


 「ゼニ」 
──ゼニガメ、GO! 


水中で打つように前方に拳を出す。 


──“アクアジェット”!! 

 「ゼニーー!!!」 


飛び出したゼニガメがみるみる小さくなる。 

程なくして、ぶつかるが、ダダリンはビクともしない。 

ゼニガメはそのまま、身体に“かみつく”。 

だけど、無反応。ゼニガメは無視して、どんどんアンカーを巻き取っている。 
373 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:29:56.81 ID:bS2bQuBP0

──不味い。このままじゃ船が沈む。 


ゼニガメ、一旦戻ってきて、 

手を手前に引くようにハンドシグナルを送り、 


 「ゼニ」 


ゼニガメに戻ってくるように促す。 

さっきの図鑑の説明が正しいなら、本体はあの陀輪のような部分じゃなく、船と海底のアレを繋いでいる鎖にこびり付いている緑のモズクだ。 

攻撃対象を変更しよう。 

その最中に、 


 「ゼニガー」 

曜「!」 


ゼニガメの身体が光る。 


これは──。 


ゼニガメの丸い頭には耳が生え、尻尾はふさふさに──。 


──進化だ!! 

 「──カメーー!!!」 





    *    *    * 





ことり「モクロー!! 全員全力で持ち上げて!!」 
 「ホホー」「ホホーホー」「ホー」「ホーホー」「ホォー」 

花丸「おじさん! エンジン全開で!!」 

牧場おじさん「やってるさー!」 

ルビィ「曜ちゃん……!」 


ルビィちゃんが曜ちゃんが潜った水面を見つめている。 

でも、もうこうなるとマルとルビィちゃんは戦う手段がない。 

信じて待つ以外に──。 

──ガタンッ 


ルビィ「うゅ!」 

花丸「!」 


今日何度目かわからない、揺れ。 

直後── 

 「カメーーーー!!!!!!!」 

水中からポケモンが飛び出してくる。 

その口に鎖を咥えたまま、 
374 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:31:54.41 ID:bS2bQuBP0

曜「──ぷはっ!!」 


一息遅れて、曜ちゃんが水面に顔を出す。 


曜「カメール!!! そのまま、巻き取れ!!!」 

 「カメーーーッ!!!!」 


そのまま、鎖に噛み付いたまま、首を引っ込め、高速回転する。 

カメールの身体がリールを引くかのように鎖を巻き取る。 

──そして、鎖の上で回転しながら、加速していく。 


曜「いっけぇー!!! “ジャイロボール”!!!!」 


スピードをあげながら、力いっぱい、巻き上げる。 


ルビィ「は、花丸ちゃん!!」 


ルビィちゃんの声で海面に視線を移すと、 


花丸「海が……!!」 


海が盛り上がっていた。山のように、 

次の瞬間、 

激しい水しぶきをあげながら、 

大きな陀輪が飛び出してきた。 

海上に横向きに飛び出た、舵輪の上に、影一つ。 


曜「はぁ……はぁ……君の負けだよ」 


曜ちゃんはダダリンの中央の舵輪と鎖との継ぎ目の部分にルアーボールを押し当てた。 





    *    *    * 





ことり「本当にごめんなさい……っ! ことりがもう少し我慢してれば、こんなことにならなかったのに……」 

牧場おじさん「いやー。さっき連絡したら、13番水道の封鎖も昼前には解除されたらしいしなー。遅かれ早かれの問題だったさー」 

ことり「うぅ……ありがとうございます。このまま、一旦サニータウンまで船は牽引しますので……」 

牧場おじさん「助かるよー」 


夕焼けの中、牽引される船の横では曜ちゃんがホエルコに乗ったまま、寝転がっている。 

戦闘で疲れたのだろう。 


ルビィ「ぅゅ……」 


こちらも相当お疲れの様子。 


花丸「ルビィちゃん、大丈夫?」 

ルビィ「うん……どうにか……」 
375 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:33:02.54 ID:bS2bQuBP0

さて、船はこのままサニータウンに行くらしいけど……。 


花丸「ルビィちゃん、フソウには寄らなくてもいいずら?」 

ルビィ「……一番行きたかったのはセキレイシティだから、このままサニータウンに行けばいいと思う」 

花丸「了解ずら」 


マルは図鑑をポチポチと押しながら、いろいろなメニューの出し方を確認している真っ最中。 


ルビィ「あ、えっとね……そこは決定ボタンで……」 

花丸「決定……決定……」 

ルビィ「あ、そっちは戻るボタン……」 

花丸「……ずら」 


未来アイテムが使いこなせないずら……。 


ルビィ「そういえば、あの図鑑が鳴ってたのって……共鳴音ってやつなんだよね?」 

花丸「そうだと思うよ」 


3つセットの図鑑が揃ったときに鳴る音。 


ルビィ「じゃあ……あの子が」 

花丸「うん、たぶんそういうことずら」 


考えてみればゲコガシラもケロマツの進化系だし……。 

ただ、解せないのは── 


花丸「なんで逃げちゃったんだろう……?」 

ルビィ「うーん、何か理由があるのかも……?」 

花丸「……まあ、旅してればまたどこかで会うこともあるずら……」 

ルビィ「あはは、そうだね……」 

花丸「何より、今日は──」 

花丸・ルビィ「「もう、疲れたー……」」 


二人してメリープの居なくなった、船内に寝そべる。 

もうさすがに動く元気が残ってない。 

あとはサニータウンに着くのを大人しく待とう……。 

西から差す陽で真っ赤に染まった海の中、マルたちはやっと平穏な船旅に漕ぎ着けることが出来ましたとさ──。 


376 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:33:48.48 ID:bS2bQuBP0


    *    *    * 





善子「完全に誤算だった……失敗、大失敗よ……」 


なんでよりによって、難破しかけてる船に乗ってるのよ……。 


善子「しかも、なんでそこにあんなタイミングで、ことりさんが助けに来るのよ……」 
 「カァー」 

善子「カァじゃないわよっ!」 
 「カァーカァー」 

善子「ったく……」 


まあ、それはそれとして……あらためて図鑑を確認すると、お目当てのアブソルは水道を引き返し、サニータウンを抜けて、更にセキレイシティの方へと移動していた。 


善子「……でも、あの近くにアブソルがいたんだとしたら、船が襲われる現場をアブソルが察知したってこと……?」 


ある意味、また──導かれて出逢ってしまった──ということかしら……。 


善子「まあ、いいわ……追いかけるわよ。ヤミカラス」 
 「カァー」 


そしてまた、堕天使は羽ばたくのです。 


377 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 00:35:29.50 ID:bS2bQuBP0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【15番水道】【9番道路】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o●.回‥●‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 曜 
 手持ち カメール♀ Lv.18  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.24 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.17 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
      ダダリン Lv.25 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:49匹 捕まえた数:11匹 

 主人公 ルビィ 
 手持ち アチャモ♂ Lv.13 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい 
      メレシー Lv.15 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき 
      アブリー♀ Lv.9 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき 
      ヌイコグマ♀ Lv.11 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:40匹 捕まえた数:5匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ナエトル♂ Lv.12 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい 
       ゴンベ♂ Lv.13 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
      メリープ♂ Lv.14 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:39匹 捕まえた数:13匹 

 主人公 善子 
 手持ち ゲコガシラ♂ Lv.21 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.23 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ムウマ♀ Lv.18 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:59匹 捕まえた数:28匹 


 曜と ルビィと 花丸と 善子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



378 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:31:49.97 ID:bS2bQuBP0

■Chapter028 『まひるとまよなかとイワンコと』 【SIDE Chika】 





…………。 

……。 


 「この子大丈夫かな?」 


女の子の声がする。 


 「ここあ、揺すったりしたら、ダメだよ」 

 「こころこそ、うるさくしちゃダメなんだよ」 


ぼんやりと声を聞きながら、意識が覚醒するのを感じる。 


千歌「ん……ぅ……」 

 「「あ、起きた!」」 


近くで同じ声がユニゾンする。 


千歌「……ここ……は……?」 

 「「にこにー! 起きたよー!!」」 

千歌「……にこにー……?」 

女性の声「はいはい、わかったから、こころもここあも静かにするにこ。今は向こう行ってて?」 

こころ・ここあ「「はーい」」 

千歌「……?」 


今度は聞き覚えのある声。 

さっき聞いた声だ……。 

ぼんやりと目を開けると、そこには── 

真っ黒な髪にツインテールを揺らした。……女の子? 


女の子「おはよう」 

千歌「おはよう、ございます……?」 

女の子「受け答え出来るなら、そこまで深刻じゃないかしら……はい指、何本かわかる?」 

千歌「2……」 

女の子「はい」 

千歌「5……」 

女の子「これは?」 

千歌「……2……5」 

女の子「OK. 大丈夫そうね」 


なんで、2と5だけ? 

疑問には思ったけど、だんだん意識が鮮明になってきて、 


千歌「……!!」 


思い出す。 
379 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:34:52.97 ID:bS2bQuBP0

千歌「梨子ちゃんは!? 梨子ちゃんは──!?」 


起き上がろうとしたところ、女の子は私の唇に指を当てて、無理矢理私を静かにさせる。 


女の子「大丈夫、一緒に居た子なら無事よ。隣で寝てるから」 


そう言われて、隣に目線を移すと、 


梨子「……すぅ……すぅ……」 


言われたとおり、梨子ちゃんは静かに寝息を立てていた。 


千歌「あ……よかったぁ……」 


それを確認して安堵する。 

落ち着いて確認すると、梨子ちゃんの枕元にはチェリンボが寄り添って、床ではマグマラシとムクバードも休息を取っていた。 

つまり、全員無事のようだ。 


女の子「そこのムクバードが飛んでるのが見えて、何かと思って駆けつけたら、あんたたちがルガルガンの群れに完全に囲まれてて……驚いたわよ」 


そう言われて、私はこの人があのピンチから助けてくれたんだと確信する。 


千歌「あなたが助けてくれたんですよね……! ありがとうございます……!」 

女の子「気にしなくていいわよ、見ちゃったらほっとくわけにもいかないでしょ?」 

千歌「ホントに助かりました……! あ、私は千歌って言って、こっちの子は梨子ちゃんで……えっと……」 


矢継ぎ早に自己紹介をしながら、 

そういえば、まだこの人の名前を訊いてなかった。言葉に詰まった私を見て、 


女の子「わたしのこと知らないの? 全く田舎者はこれだから……」 


彼女は突然、辛辣な言葉を投げかけてくる。 


千歌「え、ご、ごめんなさい……」 


もしかして、有名人なのかな……? 

咄嗟に謝ってしまう。 


女の子「じゃあ、よーくその耳に刻み付けなさい、わたしは──」 


にこ「大銀河宇宙No.1アイドルトレーナー! にこよっ!!」 


そう名乗りをあげた。 


千歌「だいぎんが……? ……アイドルトレーナー……?」 

にこ「……え、まさか本当に知らないの」 

千歌「す、すいません……」 

にこ「……。……はぁ、まあしょうがないにこ……」 


にこさんはガックリと肩を落として項垂れたあと、 
380 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:37:02.68 ID:bS2bQuBP0

にこ「──やっぱり、バトルで強くても、全然知名度上がらないじゃない……」 


小さな声でそんなことを呟いた。 


にこ「まあ、それはともかく……災難だったわね」 

千歌「あ、いえ……お陰で助かりました」 

にこ「ま、たまたまわたしが居るときだったのは、不幸中の幸いかしら」 


にこさんは両腕を組みながら、そう言う。 


こころ・ここあ「「あ、待ってー!! イワンコ逃げたー!!」」 


一方で部屋の外が騒がしい、 


にこ「また、あの子たち騒いでる……ちょっと待ってて」 

千歌「あ、はい」 


にこさんが部屋の外に注意をしようと、席を立つ。 


にこ「ちょっとー、こころ、ここあ! 騒がしくしないのっ!」 


そう言いながら、ドアを開けた瞬間── 

 「ワンッ!!!!」 

僅かに開いたドアの隙間を縫うように、灰色の子犬のようなポケモンが部屋に侵入してきた。 


千歌「!?」 


犬ポケモンを認識して、咄嗟に梨子ちゃんを守ろうと、半身を起こす。 


にこ「クレッフィ」 


だけど、それは不要だったようで── 


千歌「──鍵……?」 


いつの間に繰り出したのか、にこさんの手持ちらしきポケモンが私の前に浮遊していた。 


にこ「“フェアリーロック”」 

 「ワォンッ!?」 


逃げ回っていた、イワンコ? と呼ばれるポケモンの動きが急に止まる。 


こころ「イワンコ止まったー」 

ここあ「さすがにこにー」 

にこ「もう……ちゃんと、イワンコ見ててって言ったでしょ?」 


にこさんの近くに、にこさんをそのままちっちゃくしたような女の子が二人、駆け寄ってくる。 

歳は10歳を過ぎたくらいの子たちに見える。 

その二人は髪型こそ微妙に違うけど、顔は瓜二つ──双子の妹なのかな? こころちゃん、ここあちゃんって呼ばれてたよね。 

 「ワォゥ…」 

ベッドの下から、さっき飛び込んできた犬ポケモンの鳴き声がして、視線を戻す。 
381 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:39:06.79 ID:bS2bQuBP0

千歌「イワンコって言ってたよね……」 


私は傍らに置いてあったリュックを漁って、図鑑を取り出した。 


 『イワンコ こいぬポケモン 高さ:0.5m 重さ:9.2kg 
  昔から 人と 暮らしてきた。 よく 懐くので 初心者に 
  お勧めの ポケモンと 言われるが 育つに つれて 
  気性は 荒く 攻撃的に なるため 持て余す 人も 多い。』 


私が図鑑を確認していると、にこさんがこころちゃんとここあちゃんとのやり取りを終えたのか、こっちに戻ってきて、 


にこ「それポケモン図鑑ってやつ?」 


私にそう質問を投げかけてきた。 


千歌「あ、はい」 

にこ「確か、凛とか花陽が持ってたやつよね」 

千歌「凛さんと花陽さんのこと、知ってるんですか?」 


聞き覚えのある名前に思わず反応する。 


にこ「ま、コメコなんかは隣の町だしね。特に花陽とは牧場経由で育て屋の餌とかも仕入れてるから、昔からの付き合いなのよ」 

千歌「育て屋……?」 

にこ「ああ……そういえば、まだ言ってなかったわね」 


にこさんは軽く肩を竦めてから、 


にこ「ここはポケモン育て屋なの。ポケモン育成の代行サービスをする場所」 


そう説明してくれる。 


にこ「今はあくまで、家族が経営してるんだけどね。主にママが……ま、そんなことはいいんだけど……そこのイワンコ」 

千歌「?」 

にこ「あんたたちを襲ったルガルガンってポケモンの進化前よ」 

千歌「えっ!?」 


思わずベッドの上で身を引く。 


にこ「あの距離だったら、その図鑑にデータが登録されてるんじゃないの?」 

千歌「あ、確かに……」 


あの時はそれどころじゃなかったから、忘れてた。 

イワンコのすぐ下に、確かにルガルガンの項目を見つける。 


 『ルガルガン(まひるのすがた) オオカミポケモン 高さ:0.8m 重さ:25.0kg 
  素早く 動き 敵を 惑わす。 ツメや キバの ほか タテガミの 
  とがった 岩も 武器の ひとつ。 忠誠心が 強く しっかり 
  育てられると トレーナーを 裏切らない 頼もしい 相棒に なる。』 


説明文と一緒に図鑑に表示された姿を見て、 


千歌「あれ? 灰色のやつがルガルガン?」 


首を捻る。 
382 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:41:03.71 ID:bS2bQuBP0

にこ「赤いのもルガルガンよ」 

千歌「あ……ホントだ、もう一個項目がある……」 


図鑑を操作して他の“すがた”の項目に移ると、 


 『ルガルガン(まよなかのすがた) オオカミポケモン 高さ:1.1m 重さ:25.0kg 
  手強い 相手を 前に するほど 血が 昂ぶる。 肉を 
  切らせて 頭突きを くらわせ タテガミの 岩で 骨を 砕く。 
  非常に 好戦的で 勝つためなら 我が身を 顧ず 襲い掛かる。』 


確かにそっちは私たちを直接襲ってきた、赤いポケモンだった。 


千歌「同じポケモンなのに、姿が全然違う……」 

にこ「詳しいことはまだ研究中らしいけど……日光をたくさん浴びると“まひるのすがた”に、月光をたくさん浴びると“まよなかのすがた”になるって言われてるんだけどね」 

千歌「へー……」 

にこ「ま、今回はソレが問題なんだけどね」 

千歌「問題?」 


にこさんはそう言いながら、地面でへばっているイワンコを抱き上げ、 


 「ワォ…」 

にこ「このイワンコ……どっちのルガルガンに進化すると思う?」 


そう問い掛けてくる。 


千歌「どっちって……わかんないですけど……」 

にこ「そうなのよね……イワンコの状態じゃ誰にもわからないのよね」 

千歌「……? どういうことですか?」 

にこ「ルガルガンたちも、見分けが付いてるのか付いてないのか……イワンコの間は二つの“すがた”のルガルガンが共同で育てるのよ」 

千歌「えっと……それじゃ、進化して、どっちの姿かがわかったら、群れに入れてもらえるってことですか?」 

にこ「そんなところね」 


もしかしたら、図鑑なら何かわかる要素が見つかるかも? 

そう思い、目の前のイワンコの詳細なデータを呼び出してみる。 


『イワンコ Lv.26』 


千歌「レベルが私の手持ちのどのポケモンよりも高い……」 

にこ「そういえば、図鑑にはレベルを見る機能とかあるらしいわね。ちなみにルガルガンにはLv.25くらいで進化するの」 

千歌「……へー……。……ん? じゃあ、このイワンコ……なんでルガルガンに進化してないんですか……?」 


当然の疑問が沸いて来る。 


にこ「そう、問題はそこなのよ……」 


にこさんが困った顔をしながら、 


にこ「進化しないイワンコは……どっちの“すがた”のルガルガンの仲間なのか、ね」 


そう言葉を続けた。 


383 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:42:58.62 ID:bS2bQuBP0


    *    *    * 





 「ワンッ ワン」 

千歌「──待て」 
 「ワンッ」 


イワンコは私の言葉を聞いて、動きを止める。 


千歌「お手」 
 「ワン」 

千歌「よしよし、いい子だね。食べていいよー」 
 「ワンッ ワンッ」 


私が許可すると、餌をがっつき始める。 


にこ「へー……基本的な躾は教えてたつもりだけど……。随分慣れてるわね」 


その姿を見てか、にこさんが関心しながら、声を掛けてくる。 

あの後、部屋にイワンコが居たままだと梨子ちゃんが起きたときに大騒ぎになってしまうので、 

一旦部屋を移して……なんとなく、なりゆきでイワンコと遊んでいる。 


千歌「昔からしいたけ──トリミアンを飼ってたんで……犬ポケモンには慣れてるんです」 

にこ「なるほどね。でも助かるわ、ただでさえ妹たちがおてんばなのに、イワンコまで増えたら相手しきれなくて……」 

千歌「そんなこと言って、この子も保護してあげたんですよね? にこさんって世話焼きなんですね」 

にこ「……ま、そうかもね。どっちかというとほっとけないタチかもしれないわ」 


──保護した。 

このイワンコは、十分に成長しきったのに、一向に進化しないため、群れから追い出されてしまった子らしい。 

両方の“すがた”のルガルガンから、追い回されて、怪我をして弱っていたところを、にこさんが保護して、ここに匿っている。 

 「ワフッ ワフッ」 

餌をがっつく姿を見ながら、 


千歌「どうして、この子は進化しないんだろう……」 


思わず私は呟く。 


にこ「この子だけなら、イレギュラーだったってことで、済んだのかもしれないけどね……」 

千歌「……そうですね」 


──にこさんに話を詳しく聞いてみたところ、このイワンコだけでなく、最近ルガルガンたちの群れの中に何匹か進化しないイワンコが現れ始めたとのことで、 


千歌「最初の数匹はこの子みたいに追い出してただけだった……」 

にこ「だけど、数が増えてきて、異変を感じたルガルガンたちが今度は逆に群れ同士で子供の取り合いを始めた。困った話よね」 


その結果、“まひるのすがた”のルガルガンと“まよなかのすがた”のルガルガンが争いを始めてしまったと言うことだ。 

普段はその名の通り、活動している時間帯が違うから、群れ同士が衝突するなんてことは滅多にないらしいんだけど……。 
384 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:44:48.68 ID:bS2bQuBP0

 「ハッハッハッ」 

千歌「あ、もう全部食べちゃったの?」 
 「ワンワン」 

千歌「遊びたいの? じゃあ、ボール遊びしよっか」 
 「ワンワンッ!!」 

千歌「ボール……モンスターボールでいっか。それーとってこーい!」 
 「ワンワンッ!!」 


軽くボールを投げると、イワンコはボールを追って走っていく。 


千歌「結局この子どうするんですか?」 

にこ「そうねぇ……最初はこの子だけが特殊なだけなら、知り合いの研究所に連れて行くのが一番丸く収まるかって思ってたんだけど……」 

千歌「群れそのものに異変があるってなるとキリがないですよね……」 

 「ワンワンッ!!」 

千歌「あ、ちゃんと取って来れたね。偉いぞー」 
 「ワン」 

千歌「じゃあ、もう一回いくよー? それー!」 
 「ワンッ!!」 

にこ「地方のあちこちで野生ポケモンに異変が起こってるって、聞いてたけど……。いざ、目の当たりにすると、どうしたものかしら」 


──野生ポケモンの異変。 

音ノ木、流星山のメテノ騒動もだけど、にこさんの話を聞く限り、曜ちゃんの進んでいったスタービーチでも異変が起こってるらしい。 

そして、ここドッグランでも。 

今回の異変はイワンコとルガルガン。 

理不尽に傷つけられ追い出された、イワンコが今目の前に居る。 


 「ワンワン!」 
千歌「……このイワンコ自体にはなんの問題もなかったんですよね?」 

にこ「ポケモンセンターで治療のついでにいろいろ検査はしたけど……攻撃されて傷付いてた以外は健康体だったわ。強いて言うなら、進化しないことくらいかしら」 

千歌「なるほど……」 


私は少し考える。何か力になれないかな? 

 「ワンワン」 

この元気なイワンコ自体に問題は全くない。 

なら、 


千歌「進化さえすれば群れに戻れるってことだよね」 
 「ワォ?」 

にこ「まあ、そうだけど……」 

千歌「ちょっと、電話してきます!」 

にこ「? 誰に?」 

千歌「知り合いに進化に詳しい人がいるんで──!」 





    *    *    * 


385 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:48:26.02 ID:bS2bQuBP0


ダイヤ「──進化しないイワンコ、ですか……」 


突然教え子から掛かってきた電話口にぶつけられた質問。 


千歌『何かわかったりしませんか? ダイヤさんって、進化の石とか詳しいし、何か知ってるかなって』 

ダイヤ「……情報が断片的すぎて、なんとも言い難いのですが……“かわらずのいし”を持っていたりはしませんか?」 


“かわらずのいし”──ポケモンを進化させなくする石のことです。 


千歌『んー……イワンコ自身は何も持ってませんでした』 

ダイヤ「ミツハニーやヤトウモリのように、性別によって進化しないポケモンも居るには居ますが……イワンコはそういうポケモンではないですし。そうなると条件が満たされてない、と考えるのが自然でしょうか」 

千歌『条件が満たされてない?』 

ダイヤ「一応現在の考えだと、ポケモンの進化は、戦闘を経験して体内に蓄積されたエネルギーが進化の源になったり、外的なエネルギーを与えることで進化する、と考えられています。どちらもエネルギーが十分な場合ということですわ」 

千歌『外的なエネルギーって?』 

ダイヤ「それこそいい例としては進化の石のことですわね。“ほのおのいし”や“みずのいし”は見せてあげたことがあるでしょう? あれは該当するポケモンに近付けるだけで進化を促します。まあ、尤も進化させたあとはエネルギーを失ってただの石になってしまうのですが……」 

千歌『なるほど。他には?』 

ダイヤ「土地が関係しているポケモンも居ますね……お母様の持っているジバコイルのようなポケモンは特殊な磁場を帯びた場所でレアコイルから進化すると言われていますわ。あとは……」 

千歌『……あとは?』 

ダイヤ「……それこそイワンコなら日光や月光の有無でしょうか」 

千歌『……んーと?』 

ダイヤ「確か、資料があったはず……ちょっと待っていてくださいね」 


わたくしはそう言って、ポケギアを繋げたまま、本を探し始める。 


ダイヤ「例えばイワンコは日光を浴びたから“まひるのすがた”のルガルガンに進化するのでしょうか」 

千歌『? そうなんじゃないんですか?』 

ダイヤ「依然はそう考えられていたこともあったのですが……あ、この資料かしら」 


お目当ての資料を見つけ、手に取って中身を確認する。 

そこにはイワンコの進化について、実例が何ケースか載っている研究資料。 


ダイヤ「日光の下で十分に育てられたイワンコが進化をしなかったケースと言うのは何度かトレーナーから報告されていますの」 

千歌『え? あのイワンコが特殊だって、言ってたんですけど……』 

ダイヤ「話は最後まで聞きなさい。……その後、そのような報告があったイワンコは漏れなく、夜に月光の下で“まよなかのすがた”に進化したそうですわ。逆に月光の下で進化しなかったイワンコも漏れなく、日光の下で“まひるのすがた”に進化したそうです」 

千歌『?? んっと……実は夜になると進化するってことですか?』 

ダイヤ「と言うより、イワンコ自身は最初から進化する先が決まっていて、その進化の条件にそれぞれ日光下か、月光下か、と言うのが加わると言う考え方ですわね。ただ、話を聞いている限り、日光や月光では進化しなかったから、群れから追い出されてしまったんだと思いますが……」 

千歌『……じゃあ、もしかしたらそれ以外のなんか光を当てれば進化する可能性はあるってことですか?』 

ダイヤ「……可能性はあります」 

千歌『! わかりました! 試してみます!』 

ダイヤ「え、ちょっと千歌さん!? これはまだ可能性の話で──!!」 


──ツーツー。 


ダイヤ「切られてしまいましたわ……」 


全く昔から、人の話を聞かない子でしたわね……。 
386 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:49:58.65 ID:bS2bQuBP0

ダイヤ「はぁ……大丈夫かしら」 


わたくしは思わず、ポケギアを握り締めたまま、溜め息をついてしまった。 





    *    *    * 





千歌「──と言うわけで光を当ててみます!」 
 「ワォ?」 

にこ「光、ねぇ……」 


私はさっきダイヤさんから聞きだした話をにこさんに説明をして、イワンコを屋外に連れ出した。 

──梨子ちゃんは依然眠ったままだけど、こころちゃんとここあちゃんが看病してくれるらしい。 

心配には心配だけど、私が何かしたところで梨子ちゃんが突然元気になるわけじゃないし、イワンコはイワンコで心配だから、今は自分に出来ることをしよう、と。 


にこ「とは言っても、日光も月光もおなかいっぱいよ? 他に何か心当たりとかあるの?」 

千歌「……あー」 


言われてみて……特に思いつかない。 


千歌「にこさん、なんか光ありますか……?」 

にこ「ないんかいっ!! 全くしょうがないわね……クレッフィ、マネネ」 


にこさんが2つボールを放る。 

 「フィー」「マネマネ」 


にこ「技になっちゃうけど、この子たちなら何種類か光を出せるわ」 

千歌「じゃあ、ちょっとやってみましょう! イワンコ、ちょっと我慢できるかな……?」 
 「ワォ?」 


イワンコを抱きかかえる。 


千歌「手加減でお願いしますっ」 

にこ「はいはい……クレッフィ、弱めの“ミラーショット”」 
 「フィー」 


金属光沢のあるクレッフィの身体から光線が発射される。 

 「ワゥ…」 

出力を絞ってもらった弱めの光がイワンコに当たる、 


千歌「イワンコ、何か変化ありそう?」 
 「ワゥ…」 


イワンコには何も変化がなく、ぷるぷると首を振ってから、あくびをしただけだった。 


千歌「これじゃなさそうですね……次、お願いします!」 

にこ「これ意味あるのかしら……」 


387 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:51:19.60 ID:bS2bQuBP0


    *    *    * 





──数十分後。 


にこ「“ミラーショット”、“マジカルシャイン”、“ラスターカノン”、“シグナルビーム”、“サイケこうせん”……全部ダメそうね」 

千歌「うーん……やっぱ、違うのかなぁ……」 
 「ワォ?」 

にこ「私は最初から違うと思ってたけどね……」 

千歌「他にはなんかないですか?」 

にこ「……そうね、補助技で、加減が難しいから、降ろしてもらっていい? あんたも巻き込まれるわよ」 

千歌「あ、はーい」 


言われてイワンコを地面に降ろす。 
 「ワォ?」 


にこ「マネネ、“あやしいひかり”」 
 「マネマネー」 


にこさんの指示でマネネからなんとも言えない色の光球が発射され。 

 「ワォ?」 

イワンコの周りで揺れる。 


にこ「さすがにこれでネタ切れね……はぁ、無駄な時間だった」 

千歌「うーん……全く変化なしですね」 


イワンコは退屈だったのか、私の足元に擦り寄って、 
 「クゥーン」 

と、鳴き声をあげるだけ。 


千歌「あ、ごめんね、退屈だったよね……また、ボール遊びしよっか?」 
 「ワゥワゥ!!」 


さっきと何も変わらない。やっぱりダメそう……。 


にこ「……ちょっと待って……変化なさすぎじゃない?」 

千歌「え?」 

にこ「マネネ、もう一度“あやしいひかり”」 
 「マネ」 


再び飛んできた光の球がイワンコの周りで揺れる。 

 「ワォ??」 

だけど、イワンコは首を傾げるだけ、 


千歌「にこさん?」 

にこ「……千歌、あんたもしかしたら、お手柄かもしれないわよ」 

千歌「え?」 


今度は私が首を傾げる番だった。 


388 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:52:39.70 ID:bS2bQuBP0


    *    *    * 





にこ「マネネ、“フラフラダンス”」 
 「マネー♪」 


マネネが不思議な踊りを踊りだす。 

だけど──。 

 「ワゥ」 

イワンコは無視して、近くに生えた草をてしてしと叩いている。 


にこ「やっぱり……このイワンコ、“こんらん”しないわ」 

千歌「“こんらん”しない?」 

にこ「イワンコの特性は“するどいめ”か“やるき”、あとは“ふくつのこころ”の3つ……その中に“こんらん”を防ぐ特性はないし、そういう技も覚えないはず」 

千歌「……特性ってポケモンが固有に持ってる能力ですよね」 


──つまり。 


千歌「この子はイワンコじゃない……とか?」 

にこ「当たらずとも遠からず……じゃないかしら。ポケモン図鑑がイワンコって言ってるんだから、イワンコには違いないと思うわ。逆に、だけど」 

 「ワゥ?」 

にこ「たまたま、“まひるのすがた”にも“まよなかのすがた”にも進化しなかったんじゃなくて、進化先にどっちの“すがた”もないってことじゃないかしら」 

千歌「え、それじゃあなんの解決にも……」 

にこ「……いいえ、ちょっと大規模になっちゃうけど、群れのイワンコたちをまとめて“こんらん”させる技を撃てば、進化しないイワンコを見分けられるかもしれない……」 

千歌「……それって……あらかじめ特殊なイワンコだけ群れから、引き離しちゃえば、ルガルガンたちが争う理由もなくなる、ってこと……ですか?」 

にこ「そういうことね……ちょっと、協会の方に連絡してくるから、あんたは──」 

千歌「ま、待ってください!」 


嫌な予感がして、にこさんの言葉を遮った。 


にこ「……」 

千歌「それじゃ、この子は……この子はもう群れには帰れないんですか……?」 
 「アォ…?」 

にこ「……そういうことになるわね」 

千歌「そんな……」 


私は言葉を失った。 


千歌「……この子、何も悪いことしてないのに……」 

にこ「……そうね」 

千歌「そん……な……ことって……」 

にこ「……」 


 「ワォ…?」 
私の足元にイワンコが擦り寄ってくる。 

まるで、元気ないよ、どうかしたの? とでも聞いてるようにも思えた。 


千歌「……」 
389 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:53:30.80 ID:bS2bQuBP0

私は再びイワンコを抱き上げた。 


 「ワォ?」 
千歌「何か……何か他に……」 

にこ「……もしかしたら、あるかもしれないわね」 

千歌「! ホントですか!?」 

にこ「でも、その方法は現状じゃわからない」 

千歌「……!」 

にこ「その方法を探る方法を見つけた。……それだけで十分お手柄よ、千歌」 

千歌「で、も……それじゃ、この子は……」 
 「ワゥ…?」 


イワンコを抱き寄せると、 

 「ワゥ」 

頬を舐められる。 


にこ「……協会に連絡してくるから。あんまり建物から離れちゃダメよ」 


それだけ言うと、にこさんは育て屋の中に戻っていった。 





    *    *    * 





──ボールを放る。 

 「ワンワン」 

イワンコが取ってくる。 

──また、ボールを放る。 

 「ハッハッハッ」 

また、イワンコが取ってくる。 


にこ「千歌」 


体育座りしたまま、イワンコと遊んでいると、育て屋から出てきたにこさんに、声を掛けられる。 


にこ「いつまでしょげてるのよ」 

千歌「……」 

にこ「協会に連絡してきた。追って、それなりの規模の調査隊を派遣してくれるらしいから」 

千歌「そう……ですか……」 

にこ「ありがとね。あんたのお陰でこの異変はひとまず解決しそうよ」 

千歌「……はい……」 

にこ「……」 
390 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:55:04.93 ID:bS2bQuBP0

私は、ただボールを投げる。 

 「ワンワンッ」 

ただイワンコはボールを拾ってくる。 

ただひたすらに、マイペースに。 

理不尽に追い出されただけなのに。もう、元居た場所に戻れない。 


にこ「……あと、梨子が目覚ましたわよ」 

千歌「! ホント……ですか……?」 

にこ「……ただ、今戻ってこない方がいいわね。あんた酷い顔してるわよ」 

千歌「……あはは、そう、ですか……」 

にこ「…………」 


にこさんは何を思ったのか、無言で私の頭を撫でてくれた。 

なんだか、懐かしい感触な気がした。 


にこ「……なんか好きな食べ物ある?」 

千歌「……オレンの実」 

にこ「わかった。用意して待ってるから、日が暮れる前には戻りなさい」 


それだけ言うと、にこさんは再び屋内へと消えていった。 





    *    *    * 





──ボールを放る。 

ボールを拾ってイワンコが戻ってくる。 

何回繰り返したっけ。 

なんか、思い出せないかも。 


梨子「千歌ちゃん」 


背後から声を掛けられる。 


千歌「……! あ、梨子ちゃん、ち、ちょっとここには犬ポケモンが……!!」 

梨子「……だいたいの話は聞いたよ。だから、ちょっと離れた場所から、ごめんね」 

千歌「あ……うん」 


梨子ちゃんが2m程離れた場所に腰を降ろす。 


千歌「イワンコ、おいで」 
 「ワゥ?」 


ボールを取ってきた、イワンコを抱き上げる。 
391 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:56:29.87 ID:bS2bQuBP0

梨子「……いろいろ、ありがとね千歌ちゃん。あらためて」 

千歌「……ううん、私偉そうなこと言ってた割に、結局梨子ちゃんに怪我させちゃったし……」 

梨子「そんな大袈裟に捉えないで? さっき、にこさんがお医者さんを呼んでくれてね。軽い脳震盪はあったみたいだけど……ちょっと休めば問題ないって。あとは擦り傷くらいだったって言ってたよ」 

千歌「……でも、私が無理に連れ出さなきゃ、怖い思いさせることもなかったんじゃないかな……」 

梨子「そんなことないよ」 

千歌「……」 

梨子「現に私は前に進めてるもん」 

千歌「……ホントは梨子ちゃん、一人でどうにかしてたのかもよ」 

梨子「千歌ちゃんが居なくちゃ無理だったよ」 

千歌「……私に……そんな力、ないよ」 
 「クゥーン…?」 

梨子「どうしたの? 昨日は自身満々だったのに……らしくないよ?」 

千歌「……」 

梨子「最初に会ったときの、理不尽なほどの前向きさはどこにいったの?」 

千歌「あはは、理不尽なほどの前向きさって……。……私が自惚れてただけなんだよ」 

梨子「……」 

千歌「……とにかく、頑張ればどうにかなるって思ってたんだ」 

梨子「……うん」 

千歌「……だから、梨子ちゃんもあそこから無理やり連れてけた、それで失敗した」 

梨子「……」 

千歌「……それに……今度は本当に何も出来なかった……」 
 「クゥーン…」 

梨子「千歌ちゃん……」 


胸の辺りがじくじくする。 

旅に出て、初めての大失敗。本当にうまく出来なかった。何も出来なかった。 

ああ、そっか私……。 


千歌「私……悔しいんだ……」 


言葉にして、自覚する。 


千歌「ごめんね……イワンコ……」 
 「クゥ…?」 


私はイワンコを抱き寄せて、謝る。 


千歌「チカ、バカだから……キミに何もしてあげられない……」 
 「クゥーン…」 

梨子「……」 

千歌「……ごめん……っ……」 

梨子「……千歌ちゃん……あの──」 


梨子ちゃんが何かを言いかける。が、 


梨子「…………」 


言葉を詰まらせたあと、 
392 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 02:57:49.79 ID:bS2bQuBP0

梨子「……先に戻ってるね」 


それだけ言って、立ち上がったのがわかった。 


梨子「……そのイワンコ……懐いてるし、このまま千歌ちゃんの手持ちにしてもいいって、にこさんが」 

千歌「…………」 

梨子「知り合いの研究所に送るのは、他の個体を捕獲してからでも大丈夫だからって、言ってたよ」 

千歌「…………うん」 

梨子「…………」 


梨子ちゃんは静かに足音を立てながら、育て屋の中へと戻っていった。 


 「クゥーン」 
千歌「イワンコ……」 

 「クゥン?」 
千歌「一緒に来る?」 

 「クゥーン」 
千歌「あはは、そればっか……。君はホントにマイペースだね……」 


少しだけ顔をあげると、西の空に太陽が沈みつつあった。 

辺り一帯が茜色に染め上げられる。 


千歌「明日は良い天気になりそうだね……」 


沈む夕日を眺める。 

イワンコと、 


千歌「イワンコ、夕日好きなの?」 
 「…」 

千歌「夕日、綺麗だね」 
 「クゥン…」 


イワンコは私の胸の中で、大人しくなって夕日を凝視していた。 

そのまま、数十分。夕日が沈みきるまで、私たちはただ、ぼんやりとその茜に照らされて続けているのでした。 



394 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 03:02:32.53 ID:bS2bQuBP0




>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【4番道路】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | ●          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち マグマラシ♂ Lv.23  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクバード♂ Lv.22 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      イワンコ♂ Lv.26 特性:マイペース 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:8匹 

 主人公 梨子 
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリンボ♀ Lv.23 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい 
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:57匹 捕まえた数:6匹 


 千歌と 梨子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



396 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:48:32.51 ID:bS2bQuBP0

■Chapter029 『ダリアシティ』 





──翌日。育て屋にて。 


にこ「そういえば、あんたたち、コメコからダリアまで来たってことは、ジムに挑戦するの?」 


にこさんにそう訊ねられる。 


梨子「あ、はい。そのつもりで……」 

千歌「──あっ!!」 

梨子「!? ど、どうしたの? 千歌ちゃん……?」 


そういえば、花陽さんに言われたことを完全に忘れてた……。 


千歌「ポケモン6匹いないと……ジムバトル出来ないんですよね」 

梨子「言われてみれば、私もコメコのジムでそんな話されたかも……私は6匹持ってるけど」 

千歌「どうしよう、イワンコ入れても私、ポケモン4匹しか持ってないっ!」 

にこ「まあ、そんなことだろうと思ったけど……」 


にこさんは呆れたように肩を竦める。 


梨子「大丈夫だよ、千歌ちゃん」 

千歌「だ、だいじょばないよ!」 

梨子「『私たち』合わせれば6匹以上持ってるから」 

千歌「……ほぇ? どゆこと……?」 

にこ「あんた、ホントに下調べとかしてないのね。ダリアジムはダブルバトルなのよ」 

千歌「ダブルバトル……?」 

梨子「ポケモンを同時に2匹ずつ出して戦う公式ルールのことだよ」 

千歌「……んーと?」 

にこ「だから……二人で同時にジムに挑戦するなら3匹ずつでいいのよ」 

千歌「二人……同時……。二人同時……!!」 

梨子「うん、私も千歌ちゃんも挑戦するつもりだったから、それなら──」 

千歌「梨子ちゃんっ!」 


梨子ちゃんに向き直って、頭を垂れる。 


梨子「え、ちょっと千歌ちゃん!?」 

千歌「後生ですので、チカと一緒にジムに挑戦してください……」 

梨子「いや、そのつもりで話してたんだけど……」 

にこ「ちゃんと、人の話聞きなさいよ……」 

千歌「ホントに!? いいの!? 足引っ張るかもよ!?」 

梨子「あはは、足は引っ張らないでくれると嬉しいかな……」 





    *    *    * 

397 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:50:57.95 ID:bS2bQuBP0



さて、朝のやり取りを終えた後、私たちはダリアシティの中心街に来ていました。 


千歌「うわぁ……でかー……」 


田舎育ちの私からすると、人で溢れるこの街は未知の大都会。 


梨子「とは言っても郊外の学園都市だから、セキレイシティほどの大きな街じゃないらしいけど……」 

千歌「更におっきな街があるの……?」 


都会怖い……。 


梨子「千歌ちゃんは図書館行くんだっけ?」 

千歌「あ、うん。図書館で何すればいいのかよくわかんないけど……」 

梨子「……私もついてくね」 


──先ほど、にこさんに図書館に行くように勧められたので、行くことに。 

数十分前のことです。 


──────── 
────── 
──── 
── 


梨子「そういえば、わざわざこの話題をそっちから振ってきたってことは……このまま、ジムに案内してもらえたりするんですか?」 

にこ「んー、そうしたいのはやまやまなんだけどね。昨日の件の先行調査を午前中の間にしたいから、ジム戦は午後まで待って欲しいって話をしたくてね。状況周知のために、こころとここあも連れて行きたいし……」 

千歌「状況周知……?」 

梨子「そういうことでしたら……午後になったら、千歌ちゃんとジムの方に伺いますので」 

にこ「悪いわね」 


なんか、よくわからないけど、話がトントン拍子で進んでいく。 


にこ「せっかくだし、二人でダリアシティの観光でもしてきたら? 自分で言うのもなんだけど、結構大きな街だから時間はそれなりに潰せると思うし」 

梨子「ん……まあ、ジムリーダーが居ないなら、しょうがないかな……千歌ちゃんもそれでいい?」 

千歌「え、あ、うん!」 


なんかよくわかんないけど。 


にこ「千歌、あんたは特に行って置くべき場所があるわ」 

千歌「い、行っておくべき場所……?」 

にこ「ダリア図書館よ」 

千歌「……図書館?」 

梨子「あ、言われてみれば……ダリアには大きな図書館がありましたね」 

にこ「あんたは知識面が弱すぎる。事細かに下調べしなさいとまでは言わないけど、ちょっとは基礎知識を身につけなさい」 


── 
──── 
────── 
──────── 

398 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:52:46.60 ID:bS2bQuBP0

──ダリア大図書館。 

ダリア大学に併設された、オトノキ地方最大の蔵書量を誇る図書館で、毎日多くの学生さんが出入りしているそうです。 


千歌「こ、これ……全部本なの……?」 


中に入って、すぐ、高い天井までパンパンに本が詰まっている様子に圧倒される。 


梨子「噂には聞いてたけど……確かにこれはすごいかも」 

千歌「これだけあると、なんか襲ってきそう……」 

梨子「襲っては来ない……と言いたいところだけど、確かにこれだけの本があると圧倒されちゃうね」 


なんか、本棚を見上げてる首が痛くなりそうだ。 


梨子「何か調べたいこととかある?」 

千歌「特に……」 

梨子「……だよね。たぶん、そういうタイプだなって思ってた」 


梨子ちゃん、そう言って苦笑いしたあと、 


梨子「とりあえず、旅にすぐ役に立つ、地理とか地図とかを見てきたらいいんじゃないかな」 

千歌「地理とか地図かぁ……覚えられるかな」 

梨子「ちょっと見ておくだけでも、後で何かを思い出すヒントになったりすると思うから」 

千歌「……なるほど」 

梨子「地理と地図は3階の人文科学の本と一緒にまとめて置かれてるみたいだね。それじゃ、私は1階に居るから……」 

千歌「ほぇ? 梨子ちゃんは一緒に来ないの?」 

梨子「私も読みたい本があるから……美術書は1階にあるみたいなの」 

千歌「あ……確かに芸術の話、してたもんね」 

梨子「うん。お昼前になったら、また1階に集合ね」 

千歌「うん、わかったー」 


私は一旦、梨子ちゃんと分かれて、3階に向かうことにした。 





    *    *    * 





さて、3階の……人文科学? の階に来て、私は一人頭を抱えていた。 


千歌「……地図以外に読めるものがない」 


人文科学と言うのは、なんなのか──と思って来てみたはいいが、実際に読んでみても、何の本のコーナーなのかよくわからない自分がいる。 

ざっくり言うと、いろんな勉強の本がごったになってるような印象かな……? 

当然、おバカなチカには理解できそうな本は全然なくて……。 


千歌「地図眺めてるのも飽きてきた……」 


地理の本とかも手には取ってみたけど……思った以上に文字が多くて、読むのをやめてしまった。 
399 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:54:49.62 ID:bS2bQuBP0

千歌「んー……もっと、読みやすそうな本、ないかな……」 


私は席から立って、自分に合いそうな本を探して、広い図書館の中を探索してみることにする。 


千歌「哲学……倫理……。うーん……」 


全然ピンとこない。 

こんなことなら、私も1階に残って、梨子ちゃんの隣で絵本でも眺めてた方がよかったかも……。 


千歌「ここからは、宗教、歴史……民俗学……ん?」 


そこの棚の中で懐かしい本を見つける。 

──『ディアンシー伝説』 

確か、メレシーの女王様のおとぎ話。 


千歌「わ、これ懐かしいな。子供の頃、よくウラノホシでおじいちゃん、おばあちゃんが話してくれてたやつじゃないかな……?」 


少し古ぼけた、本を棚から引っ張り出すと、本独特の臭いがする。 


千歌「絵本……にしては、分厚いかな……」 


パラパラと本をめくると、中にはメレシーの写真や、イラストがたくさん載っている。 

その中に、 


千歌「あ……クロサワの入江だ」 


見知った、土地の項目を見つけて、なんとなく視線がそっちに吸い寄せられる。 

『クロサワの入江 
 星と輝きの地方──オトノキの地の神、ディアンシーを祀る土地。 
 オトノキ地方の最南端に位置し、人が足を踏み入れる前はディアンシーがメレシーの王国を築いていたとされている。 
 公式の記録として、ディアンシーが確認されたことはないが、メレシーの特殊個体が多く生息し、その地下深くでは、今でもディアンシーを中心としたメレシーの王国があるのではないかと考えられている。』 


千歌「へー……」 


子供の頃、聞かされたおとぎ話に比べると、マイルドさはかなり削られてるけど、確かメレシーのおとぎ話はこんな話だった気がする。 


千歌「確か……メレシーと人間たちは最初は仲良く暮らしてたのに、ある日その美しさに我慢できなくなった人間が、メレシーたちを捕まえちゃうんだっけ……」 


──その結果、その人間たちの醜い姿に哀しみを覚えたディアンシーは人間たちの前から姿を消して……。 


千歌「最終的に人から、宝石の輝きが失われた……」 

 「──今ではその名残として、残されたメレシーたちを大事に保護している──という話でしたね」 

千歌「?」 


気付くと、後ろから、少し年上のお姉さんが、本を覗き込んでいた。 


千歌「あ、ごめんなさい……これ、探してましたか?」 


私は本を閉じて、手渡そうとするが── 


 「あ、いえ、その本は前に読んだことあるので大丈夫ですよ」 


そう言って、断られる。 
400 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:58:17.43 ID:bS2bQuBP0

 「……ただ、この辺りの棚まで来て、本を開いてる人は珍しいので、随分研究熱心な学徒さんがいるのかなと興味深くて」 

千歌「え、いや、学徒とかそんなんじゃ……ただ、故郷のお話だったんで、懐かしいなって思って」 

 「ウラノホシのご出身なんですか?」 

千歌「あ、はい。ウラノホシから来た、千歌って言います」 

 「あ、すみません。申し遅れました……私は聖良と言います」 


聖良さん──と名乗る女性はそう言って、恭しくお辞儀をする。 


聖良「あの……もしよかったら、その話もう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」 

千歌「え? その話って……メレシーのおとぎ話ですか?」 

聖良「はい。私はポケモン史学を研究していて……ちょうどディアンシー伝説について調べていたところなんですが、あまり資料がなくて」 

千歌「んー……私が知ってるのも、この本に書いてあることくらいですよ?」 

聖良「いえ、こういうのは案外、現地で育った人の口から聞くと発見があったりするので……もう一つ発見しましたし」 

千歌「?」 

聖良「千歌さんは手に持っている本には『ディアンシー伝説』と書いてあるのに、あくまで『メレシーのおとぎ話』と言うんですね」 


言われてみれば……。 


千歌「んっと……ディアンシー様の名前を出すと、警戒するから、あまり名前は口に出さないようにしなさいって……おばあちゃんから言われたことがあったかも」 

聖良「ほう……」 


子供の頃からの習慣だったから、そこまで意識はしてなかったけど……。 


千歌「どっちかというと、メレシーの女王様って言うことの方が多かったです」 

聖良「……ディアンシーは美しさに目の眩んだ人間から、身を隠したと言われていますから、その意思を尊重した伝承の名残なのでしょうか」 

千歌「あと、メレシーを見つけたら、すぐに入江に帰すようにも言われてたかな……野生のメレシーは何年かに一回くらいしか見たことなかったですけど……」 


つい最近入った、クロサワの入江に居たメレシーの数を考えると、あそこは私たちが思っている以上に厳重な管理をされていたのかもしれない。 

──まさか、あんな形で足を踏み入れることになるとは思ってなかったけど。 


聖良「しかし、不思議な話ですね」 

千歌「? 何がですか?」 

聖良「まるで、それだとディアンシーが世界の裏側から、私たちを見張っているみたいではないですか」 

千歌「言われてみれば……」 


あーえーと……それも、なんか似たような疑問を花丸ちゃんが町のおじいちゃん、おばあちゃんにぶつけてたような……。 


千歌「確か……ディアンシー様は今、どこにでも居て、どこにも居ないから、って言ってたっけ」 

聖良「──何処にでも居て、何処にも居ない……?」 

千歌「いつでも人々を観察できる場所に居て、いつか、綺麗な心の持ち主の前に現れる……なんて、言ってましたけど……」 

聖良「! それは、本当ですか?」 

千歌「え? は、はい……」 


変なところに食いつかれて、少し困惑する。 


千歌「でも、やっぱただのおとぎ話かなって」 
401 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 12:59:53.53 ID:bS2bQuBP0

話のオチとか、ディアンシーの今とか、ホントにふわふわしてて、よくわかんないし。 

本当にあったことなのかは結局、伝説の域を出ない。 


聖良「──本当にそうでしょうか?」 

千歌「……え?」 

聖良「本当にただの伝説なのでしょうか」 


そのときの聖良さんの顔を──瞳を見て、何故だか私は背筋がゾクリとした。 


聖良「……なら何故、あそこには今でも多くの特殊なメレシーが多く生息しているのでしょうか? 繋がりがない、あくまで御伽噺の中だけの幻と言い切れますか?」 

千歌「それは……わかりませんけど……」 

聖良「あ、すみません……興味のあることだと熱くなってしまうのは、研究者の悪い癖ですね。失礼しました」 


そう言って謝る、聖良さんの瞳からは、さっきの変な感じはなくなっていた。 


聖良「お時間を取らせてしまいましたね……ただ、非常に参考になる話が聞かせて頂けました。ありがとうございます、千歌さん」 

千歌「あ、いえ」 


聖良さんがまた恭しく頭を下げるので、私も釣られて軽く会釈する。 


聖良「また、ご縁がありましたら──」 


聖良さんはそう言って、図書館の棚の影に消えていった。 


千歌「……『ディアンシー伝説』……かぁ……」 


 『本当にただの伝説なのでしょうか』 

あんまり、考えたことがなかったかも。 

おとぎ噺はおとぎ噺、としか思ってなかったし……。 


千歌「……んー、やっぱチカには難しいことはよくわかんないや……」 


そう呟いて、私もその場を後にした。 





    *    *    * 





私は1階に降りて、集合場所に戻ってきたが、まだ梨子ちゃんが居ないことに気付き、 

1階の美術書のコーナーへと足を運んでみる。 

すると、本を食い入るように見つめている梨子ちゃんを見つけた。 


千歌「梨子ちゃん」 

梨子「あ、千歌ちゃん? ……もうこんな時間」 


梨子ちゃんは少しバツの悪そうな顔をする。 


梨子「ごめん、ちょっと集中してたから……」 

千歌「ううん、チカが飽きて降りてきちゃっただけだから」 
402 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:01:27.27 ID:bS2bQuBP0

そう言いながら梨子ちゃんの開いている本を見ると、 

──梨子ちゃんをそのまま大人にしたような、女性のインタビュー記事だった。 


千歌「梨子ちゃん、もしかしてこの人……」 

梨子「あ……うん。私のお母さんだよ」 


梨子ちゃんはそう言いながら、本を閉じて棚に戻す。 


梨子「お母さんへのインタビュー記事とかは割と目を通してるつもりだったんだけど……読んだことないのも、結構あったから」 

千歌「そっか。何かヒントは見つかりそう?」 

梨子「……ううん。お母さん、すごいんだなってこと再認識したくらいかな」 


梨子ちゃんはそう言って俯く。 


千歌「……」 

梨子「こんなんで、お母さんの期待に応えられるようになるのかな……」 

千歌「梨子ちゃん……」 

梨子「……って、こんな弱音呟かれても困るよね」 

千歌「いや、私は大丈夫だけど……」 

梨子「あはは、ありがと、千歌ちゃん。もうお昼前だし、どこかでご飯食べたら、ジムに行ってみようか」 

千歌「あ、うん」 


私は梨子ちゃんの言葉に頷いて、図書館を後にすることにした。 





    *    *    * 





──昼食を終えて昼過ぎ、ダリアシティを散策していると、程なくしてダリアジムを見つける。 


千歌「ここが三つ目のジム……!」 

梨子「えっと……この向きだと……西はあっちだよね」 

千歌「?」 


気付くと梨子ちゃんが建物の周りを観察していた。 


千歌「どうしたの?」 


私が声を掛けると、 


梨子「あ、うん。日当たりを見てて」 


梨子ちゃんはそう答える。 


千歌「日当たり?」 

梨子「私の手持ちってくさタイプが多いでしょ? くさタイプって日当たりによって、調子が変わるから……」 

千歌「なるほど」 


確かにくさポケモンって日光浴とかしてるイメージかも。 
403 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:03:27.37 ID:bS2bQuBP0

梨子「ただ、公式のバトル用施設だけあって、そんなに心配する必要はないのかも。東、南、西から日が差し込むような構造になってる」 

千歌「梨子ちゃんは偉いなぁ……そういうことに気が回って」 


私とか、とりあえず『タノモー』って突撃しちゃうのに。 

そんな私たちに、 


にこ「……全くね」 


にこさんが近付いて声を掛けてきた。 


千歌「にこさん!」 

梨子「調査の方は……」 

にこ「お陰様で順調に終わったわ」 

千歌「それじゃ……!」 

にこ「ええ、すぐにでもジム戦は始められるわ」 





    *    *    * 





にこさんに先導される形でジムに足を踏み入れる。 


にこ「バトル形式は6対6のダブルバトル。今回は千歌と梨子、二人で同時に挑戦だから、3匹ずつよ」 

千歌「はい!」 

梨子「わかりました」 


私たちが入口側のバトルスペースに二人で並び立つ。 

にこさんは奥へと歩を進めて行く。 


千歌「……にこさん、どんなポケモン使ってくるんだろ」 


私が見たのはクレッフィとマネネ。あ、私たちを助けてくれたときのポケモンもいたっけ……姿は見てないけど、 


梨子「? にこさん……」 

千歌「ん?」 


梨子ちゃんが不思議そうな声をあげて、首を傾げる。 


梨子「あれ……もしかして、千歌ちゃん勘違いしてる?」 

千歌「え……?」 

梨子「ここのジムリーダーは──」 
404 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:04:07.72 ID:bS2bQuBP0

にこ『これより、ジム戦を開始するわよ!』 


にこさんの声が響く。 

バトルフィールドの脇の審判の立ち位置から。 


千歌「え?」 


にこ『チャレンジャー、ウラノホシタウンの千歌とタマムシシティの梨子』 


フィールドを挟んで向かい側には── 


にこ『ジムリーダー、こころとここあ! 各人使用ポケモン3体のマルチバトル! 使用ポケモンが全て戦闘不能になった時点で試合終了よ!』 


こころ「じゃあ、ここあ」 
ここあ「じゃあ、こころ」 


こころちゃんと、ここあちゃんが立っていた。 


こころ・ここあ「「ダリアシティ・ジムリーダー『いたずらフェアリーツインズ』 こころとここあ。いっくよー!!」」 


千歌「え、ええー!!!!?」 

梨子「……確かにこれは下調べ不足って言われても仕方ないかも……」 


にこ『バトル──スタート!!!』 


驚きも束の間、試合の火蓋が切って落とされたのだった。 


405 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:05:57.77 ID:bS2bQuBP0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【ダリアシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  ●     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :  || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち マグマラシ♂ Lv.23  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクバード♂ Lv.22 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      イワンコ♂ Lv.26 特性:マイペース 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:8匹 

 主人公 梨子 
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリンボ♀ Lv.23 特性:ようりょくそ 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい 
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 2個 図鑑 見つけた数:57匹 捕まえた数:6匹 


 千歌と 梨子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



406 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:45:15.17 ID:bS2bQuBP0

■Chapter030 『決戦! ダリアジム!』 





四者揃ってボールを放る。 


千歌「ム、ムクバード!」 
梨子「ペラップ!」 

こころ「ピッピ!」 
ここあ「プリン!」 


相手は初手、ピッピとプリン。 

 『ピッピ ようせいポケモン 高さ:0.6m 重さ:7.5kg 
  月明かりを 浴びた 翼は 淡く 輝き 羽ばたかなくとも 
  宙に 浮かんで 舞い踊る。 愛くるしい 仕草で 老若男女 
  問わずに 人気だが その数は 非常に 少ない。』 

 『プリン ふうせんポケモン 高さ:0.5m 重さ:5.5kg 
  歌う ときは 一度も 息継ぎを しない。 12オクターブを 
  超える 声域を 持っていて 相手が 一番 眠くなる 
  波長で 歌を 歌い 続ける ことが 出来る。』 


梨子「千歌ちゃん! とりあえず、集中狙いで!」 

千歌「う、うん!」 


動揺している暇は無い。 

梨子ちゃんの視線を追うと、その先にいるのはプリン── 


千歌「ムクバード! プリンに“すてみタックル”!」 
 「ピピィー!!」 


風を切って、ムクバードが飛び出す。 


梨子「ペラップ、プリンに“エコーボイス”!」 
 「オハヨーオハヨー!!!」 


こころ「ピッピ!」 
 「ピッピー」 


一方プリンは動かず、ピッピが指を上げる。 

すると── 


千歌「あ、あれ!? ムクバード!?」 


一直線にプリンに突っ込んでいたはずのムクバードが、無理やり曲がりピッピの方へと方向転換をする。 


こころ「“このゆびとまれ”ー」 
 「ピッピー」 


まるでピッピに引き寄せられるように、 


千歌「う、もう、そのまま行っちゃえー!!」 


──ズンッ……と捨て身の一撃をピッピに食らわせるが、 


こころ「ピッピ、がんばれー」 
 「ピピッピー」 

千歌「嘘!? 受け止めた!?」 
407 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:47:57.62 ID:bS2bQuBP0

ピッピは少し後ずさっただけ、そのまま肉薄したムクバードの嘴を片手で掴んで止める。 

見た目よりもパワーがある。流石ジムリーダーもポケモン……。 

関心していたら、受け止められたムクバードの背後から、 


 『オハヨーオハヨー!!!』 
 「ピピ!?」 


ペラップの出した衝撃波が襲ってくる。 

驚いたムクバードは、すぐさま足でピッピを蹴ってどうにか空に離脱する。 

思わず、梨子ちゃんの方を見てしまう。 


千歌「ち、ちょっと梨子ちゃん!?」 

梨子「ご、ごめん!? 攻撃が吸い寄せられて──」 

ここあ「プリン!」 
 「プュ」 

千歌・梨子「「!?」」 


梨子ちゃんとの会話をしている、一瞬。指示が遅れた、 


ここあ「“ハイパーボイス”!!」 
 「プリイィィィィィィィン!!!!!!!!」 


千歌「だわっ!? う、うるさっ!!」 

梨子「っ……!!」 


プリンから放たれた大きな衝撃波に、 

  「ピ、ピィィィィ!!!?」 

空に逃げたムクバードが吹っ飛ばされて、ペラップの方に向かって吹き飛んでくる、 


梨子「!? ペ、ペラップ、避けて!?」 
 「リコチャン!? リコチャン!?」 


だが、動揺したペラップは避けきれず。 

二匹はぶつかって、 

 「オハーリコー!?」 
 「ピピィ!!!!」 

そのまま、地面を転がる。 


千歌「ムクバード!」 
 「ピィッ…!!」 


ムクバードは転がった勢いを残したまま、地面を蹴って空に逃げる。 


梨子「ペラップ、大丈夫!?」 
 「オハヨー!! オハヨー!!」 

梨子「ほ……」 


どうやら、ペラップも無事みたいだ、 


千歌「梨子ちゃん、ご、ごめんっ!」 

梨子「ううん、大丈夫──」 
408 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:51:09.76 ID:bS2bQuBP0

こころ「ピッピ、“じゅうりょく”!」 

ここあ「プリン、“うたう”!」 


 「ピピッ!?」 

息を吐く暇もなく、空を飛んでいた、ムクバードは地面に引き摺り堕とされ、 

 「…オヤスミー…zzz」 

ペラップはプリンの歌を聴いて、寝息を立て始める。 

梨子「ペ、ペラップ!」 


ま、まずい……。 

“じゅうりょく”に驚いて体勢を崩したムクバードと、眠ってしまったペラップ。 


梨子「く……ペラップ交代!」 
 「…zzz」 

梨子「メブキジカ!」 
 「ブルル!!!」 


梨子ちゃんがすぐさま行動不能なペラップを戻してメブキジカを出す。 


梨子「“しぜんのちから”!」 
 「ブルル!!!!」 


建物の床から飛び出すように、赤と青と黄色の三色をしたエネルギー弾が飛んでいく。 

──これはたぶん“トライアタック”だ。 


こころ「ピッピ! もう一回“このゆびとまれ”!」 
 「ピッピ」 


だが、ピッピが再び指を上げると、またしても攻撃はそっちに向かって吸い寄せられる。 


こころ「ピッピ! “コスモパワー”!」 
 「ピッピッピ~♪」 


“コスモパワー”で防御能力をあげたピッピは身体を張って“トライアタック”を打ち消してしまう。 


ここあ「プリン、“うたう”!」 
 「プープリー♪」 

 「ブ、ブルル…zzz」 

梨子「メ、メブキジカ!」 

千歌「ム、ムクバード、“からげんき”!」 
 「ピイィィィ!!」 


“じゅうりょく”の下で体勢を崩しているムクバードは根性で、地面を蹴って、ピッピに向かって低空を飛んでいく。 


こころ「ピッピ、“おさきにどうぞ”」 
 「ピピッピ」 

ここあ「プリン、“めざましビンタ”!」 
 「プユ!」 


ピッピの指先が再び光ると、今度はプリンが加速した、 


千歌「!?」 

409 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:52:22.05 ID:bS2bQuBP0

そのまま、プリンがメブキジカをビンタする。 

 「ブルルゥ…!!」 

梨子「メブキジカ!」 


ここあ「わっ!? まだ、立ってる!?」 


目も覚めるようなビンタだったが、梨子ちゃんのメブキジカは踏ん張る。 

それが予想外だったのか、 

 「プユ!?」 

驚いて動きを止めたプリンに、メブキジカが自慢のツノを突き立てる── 


ここあ「後ろに逃げてー!」 


勢いを殺すために、ここあちゃんが後ろに向かって飛ぶようにプリンを促す。 


梨子「“だましうち”!」 
 「ブルル!!」 

 「プギュッ!?」 


──と、見せかけて、蹄で踏み潰す。 


こころ「ここあ!?」 

 「ピィィイイイ!!!」 

こころ「わわっ!?」 


一瞬プリンに気を取られたのか、こころちゃんが驚きの声をあげる。 

“じゅうりょく”の中、根性でピッピの元まで辿り着いたムクバードが、 


千歌「“つばさでうつ”!」 

 「ピピィ!!」 


翼を振りかぶって、叩き付ける。 


 「ピッピー!?」 

こころ「ピッピー!」 


攻撃が直撃し、ピッピが床を転がる。 


千歌「たたみかけて! “すてみタックル”!!」 
 「ピピィーーーー!!!」 


再び地を蹴り、飛び出す。 

転がるピッピに追い討ちを掛けるように、突進をかます。 


 「ピピッ…!!」 


そのタイミングで“じゅうりょく”の効果が切れたのか、ムクバードは再び空中に飛び立つことを許される。 


梨子「! “じゅうりょく”が元に戻った!」 

 「プリィ…」 
410 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:57:30.12 ID:bS2bQuBP0

足元から逃げるようにもがくプリンに対して、 

 「ブルル」 

メブキジカをステップを踏むように一瞬脚を浮かせると、 


梨子「“とびげり”!!」 
 「ブルルル」 

 「プュ!?」 


ふわっと、ジャンプしたプリンを後ろ足で蹴り飛ばした。 

プリンは私たちの背後の壁と天井にぶつかり、ボールのように室内を跳ねたあと、 

 「プリィ…」 

ジムの中央当たりに落ちて気絶、ピッピも“すてみタックル”の直撃によって、戦闘不能となっていた。 





    *    *    * 





にこ「ピッピ、プリン、戦闘不能」 


審判の立ち位置から裁定を告げる。 


こころ「今のここあの判断ミス!」 
ここあ「でも、こころもあのタイミングだったら“めざましビンタ”するでしょ! こころこそちゃんとムクバード見てないからだよ!」 
こころ「ここあのミスに誘われたの!」 

にこ「二人とも、いいから次のポケモン出しなさい!」 


こころとここあがピッピとプリンをボールに戻す間に、ムクバードとメブキジカは定位置に戻る。 


千歌「な、なんとか、競り勝った……」 

梨子「こっちも……」 


ここあがメブキジカの力量を測り間違えたことで一気に形勢が逆転した。 

ただ、その分の代償も小さくない。 

梨子は手持ちが一匹眠っているし、メブキジカも少なくないダメージを受けている。 

更に、千歌のムクバードはもう慢心創意だ。 

さて、ダブルバトルの独特のゲームスピード、掴み切れるかしら。 





    *    *    * 





目の前では、ピッピとプリンが戦闘不能になって、言い争いを始めた、こころちゃんとここあちゃんがにこさんから注意されている。 

そんな中、 


梨子「千歌ちゃん……」 


梨子ちゃんが耳打ちで、 
411 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 13:58:32.12 ID:bS2bQuBP0

千歌「何?」 

梨子「今のうちにムクバードは交換した方がいいかも……」 


そう促してくる。 


梨子「さっきの攻防も一瞬で状況が目まぐるしく変わっちゃったし、お互い意思疎通をする暇なく状況が変わっちゃうから」 

千歌「……確かに」 


その隙を突かれるとせっかく逆転した形勢も、すぐにひっくり返されるかもしれない。 


千歌「ムクバード、戻って」 
 「ピピ…」 


ダメージを負った、ムクバードを戻して、 


千歌「マグマラシ!」 
 「マグッ」 


私はマグマラシに交代する。 

──私は梨子ちゃんの顔を見た。 


梨子「?」 

千歌「梨子ちゃん、勝とうね!」 

梨子「う、うん? ……もちろん?」 


今の私の控えを考えると、マグマラシは実質……。 

……。 

……ここで勝ちきらないと、 


梨子「千歌ちゃん、次来るよ……!」 


梨子ちゃんの言葉で視線を戻すと、口論が終わったのか、こころちゃんとここあちゃんは新しいポケモンを繰り出そうとしていた。 





    *    *    * 





こころ「エレキッド!」 
ここあ「ブビィ!」 

ジムリーダーの二番手はエレキッドとブビィ! 

 『エレキッド でんきポケモン 高さ:0.6m 重さ:23.5kg 
  腕を ぐるぐる 回して 電気を 発生させ 充電する。 
  ツノが 青白く 光ったときが 充電 完了の サイン。 
  触ると ビリリと 痺れるので 注意が 必要。』 

 『ブビィ ひだねポケモン 高さ:0.7m 重さ:21.4kg 
  小柄だが 体温は 600度。 ブビィが 落っこちると 
  小さな 池 くらいなら 干上がってしまう。 息を  吸ったり 
  吐いたり するたび 口と 鼻から 火の粉が 漏れる。』 


──相手はでんきタイプとほのおタイプ、相性から考えて……。 
412 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:00:01.02 ID:bS2bQuBP0

千歌「マグマラシ! ブビィに向かって“ニトロチャージ”!」 
 「マグッ!!!」 


──ブビィはチカたちがひきつける! 

マグマラシが火炎を纏って、走り出す。 


梨子「メブキジカ、エレキッドに向かって“エナジーボール”!」 
 「ブルル!!!」 


こころ「エレキッド! “エレキボール”!」 
ここあ「ブビィ! “はじけるほのお”!」 


一方、ジムリーダーは、 


梨子「!」 


攻撃をメブキジカに集中させている。 

空中で“エナジーボール”と“エレキボール”が相殺し、その後ろから“はじけるほのお”が続け様に飛び荒び、メブキジカを襲う……! 


 「ブルルッ!!?」 

梨子「メブキジカ!!」 


一方で、マグマラシは、 

 「マッグゥ!!!」 
 「ブビビッ」 

“ニトロチャージ”をブビィに炸裂させる。 


千歌「梨子ちゃん!」 

梨子「大丈夫! 千歌ちゃんはブビィを!」 

千歌「! うん! マグマラシ、“かえんぐるま”!」 


続け様に炎を身に纏って、回転したまま突進。 


ここあ「ブビィ、“ほのおのパンチ”!」 


マグマラシとブビィの炎の打撃がぶつかり合う。 

私の仕事はブビィをひきつけることだ……! 


梨子「メブキジカ! “こうごうせい”!」 
 「ブルル…!!」 


こころ「エレキッド、“でんこうせっか”から──」 


回復するメブキジカの元にエレキッドが飛び出して── 


こころ「“まわしげり”」 
 「レキッド!!!」 


エレキッドの捻りを加えた足がメブキジカの頭部を蹴り飛ばす。 

フィールド手前ではメブキジカとエレキッドが、 

奥側ではマグマラシとブビィが組み合っている。 

さっきと違って、うまく分断出来た……! このまま、個々で── 
413 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:01:19.02 ID:bS2bQuBP0

こころ「エレキッド!」 ここあ「ブビィ!」 

こころ「“ほうでん”!」 ここあ「“ふんえん”!」 

梨子「!」 

千歌「わわ!?」 


ジム内部の広範囲を、電撃と、灼熱の噴煙に包み込む。 


梨子「“ほごしょく”!」 

梨子ちゃんは咄嗟に防御の技を撃ったようだ、 


千歌「マグマラシっ! “ずつき”!」 

 「マグッ!!」 
 「ブビッ」 


マグマラシはブビィに“ずつき”をかまして、一旦距離を取る。 

──が、 

 「マグ・・・!!」 

噴煙と電撃にまみれるフィールドの中で、マグマラシは表情を歪める。 


千歌「マグマラシ!?」 

梨子「今の“ほうでん”でマヒした……!? メブキジカ、“アロマセラピー”!」 
 「ブルル!!!」 


噴煙の硫黄の臭いを、心地よい花のような匂いが上書きする。 

確か、周りのポケモンの状態異常を癒やす技だ。 


千歌「梨子ちゃん、ありが──」 

こころ「エレキッド、“ばくれつパンチ”!」 
 「エレキッ!!!」 

 「ブォッ!!!?」 

梨子「っ!!」 

千歌「!?」 


メブキジカがサポートするために出来た隙に、攻撃が叩き込まれる。 


ここあ「ブビィ! “からてチョップ”!」 
 「ブビィーー!!」 

千歌「──“かわらわり”っ!!」 
 「マグッ」 


今、意識を相手から外しちゃダメだ。 

メブキジカの助けが無駄になる。 

ブビィの手刀と、マグマラシの打撃がぶつかる。 

──スピードで押し切る! 

“かわらわり”で薙いだ反動を、そのまま返す刀で次に繋げる……! 
414 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:03:12.04 ID:bS2bQuBP0

千歌「“つばめがえし”!!」 
 「マグゥ!!」 

 「ブビッ!!!」 

千歌「よし、このままエレキッドも……!!」 

こころ「エレキッド──!」 


だが、振り返ったときには──遅かった。 


こころ「“かみなりパンチ”!!」 


電撃を纏った拳が、反応しきれなかったマグマラシに直撃する。 


千歌「マグマラシ!!」 

 「マグ…」 


にこ『……メブキジカ、ブビィ、マグマラシ戦闘不能ね』 


ここあ「うー……戻れ、ブビィ……最後の一匹になっちゃった」 


エレキッドが定位置に戻る中、ここあちゃんが恨めしそうにこっちを見ているが、 


千歌「……マグマラシ、戻れ」 

梨子「ありがとう、メブキジカ……」 


フィールドから三体のポケモンが手持ちの戻され、ここあちゃんと梨子ちゃんが次のボールを構える。 

中で──私は……。 


梨子「……? 千歌ちゃん……?」 


ダメだ、このタッグバトルで、梨子ちゃんと一緒に戦う上で……。 


にこ『千歌、次のポケモンを出しなさい』 


──犬ポケモンは、出せない。 


にこ『……次を出さないなら、戦意喪失とみなすわよ』 


私は──マグマラシまでで勝たなくちゃ、いけなかったのに……! 

腰につけたボールに手を当てたまま、これ以上動けなかった。 

思わず、唇を噛む。 


梨子「千歌ちゃん」 


その時、 


千歌「……!」 


隣の梨子ちゃんが、腰のボールを握る、私の手に触れた。 


にこ『……』 
415 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:03:56.84 ID:bS2bQuBP0

梨子「……私のことは気にしないで」 

千歌「でも……」 

梨子「……」 


梨子ちゃんは重ねたままの手で、私のボールのボタンを勝手に押し込む。 


千歌「あ!!」 

 「──ワンッ!!」 


ボールからはイワンコが飛び出し、元気に声をあげる。 


梨子「……っ!」 


梨子ちゃんがその声に反射的に身を竦めたのがわかった。 


千歌「……!」 


ダメだ、やっぱりダメなんだ、 

──チカが無理矢理に連れてきちゃったのに、 

梨子ちゃんに、これ以上── 


梨子「──これ以上、私に怖い思いさせちゃダメだって」 

千歌「え……」 

梨子「そう、思ってるんだよね」 

千歌「…………」 


にこ『…………』 


梨子「千歌ちゃんが背負わなくていいんだよ……」 





    *    *    * 





このまま、千歌ちゃんの優しさに甘えたままじゃ、ダメだよね。 

視線をゆっくり下に降ろす。 

──千歌ちゃんの足元にいる、イワンコに。 


千歌「梨子、ちゃん……」 

梨子「……すぅ……」 


息を吸う。 


梨子「…………ふぅ……」 


吐いて……膝を折ろうとして──脚が震えていることに気付く。 


千歌「梨子ちゃん、やっぱり……!」 

梨子「大丈夫……!!」 
416 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:04:58.68 ID:bS2bQuBP0

私は、笑う膝に無理矢理力を込める。……折って、中腰になる。 

そして、 

手を伸ばした、 

 「ワォ…?」 

イワンコに、 


梨子「……っ……」 


脳裏に過ぎるのは、 

あのときの記憶、 

あのときの、トラウマ、 

今でも痕の残っている、 

あの傷、 

心臓の音が自然と早くなる、 

──この子は違う、 

──この子はデルビルじゃない、 

 「ワン」 

自分にそう言い聞かせても、手が震える、 

でも、 

──私がこれ以上、足を引っ張ってどうするの。 

泣いて怖がる私を……助けてくれた、千歌ちゃんに、 

これ以上迷惑掛けて、どうするの……! 


梨子「私が──私自身が乗り越えなくちゃ、いけないんだ……!」 

千歌「……!!」 


手を降ろすと、 

そこに、 

 「ワォ…?」 

イワンコが、居た。 

毛の質感がする。 

 「ワンッ!!」 


梨子「きゃっ!?」 


イワンコが鳴き声をあげた拍子に、驚いて尻餅を搗く。 


梨子「はぁ……はぁ……触れた……」 

千歌「……梨子ちゃん……!!」 

梨子「触れたよ……千歌ちゃん……」 

千歌「うん……うん……!」 


一瞬だけど、触ることが出来た。 


梨子「千歌ちゃん……勝とう!」 

千歌「……っ……!! ……うんっ!!」 
417 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:07:06.70 ID:bS2bQuBP0

にこ『千歌は、イワンコね……。……さ、梨子も。次のポケモンを』 


梨子「はい、失礼しました。チェリンボ!」 
 「チェリリ!!!」 

千歌「イワンコ、行くよ!」 
 「ワンッ!!」 





    *    *    * 





私がチェリンボと一緒に前を向くと、ここあちゃんが最後のポケモンを繰り出した。 

──様子を見て、待っていてくれたのかもしれない。 


ここあ「いけーマイナン!」 

ここあちゃんの最後のポケモンはマイナン。 

 『マイナン おうえんポケモン 高さ:0.4m 重さ:4.2kg 
  マイナンと プラスルの 電気を 同時に 浴びると 
  血行が 良くなり 元気に なる。 体から 発する 
  電気を ショートさせて 火花を 出しながら 応援する。』 


にこ『試合再開!!』 


梨子「千歌ちゃん! 少しだけ時間稼げる!?」 

千歌「ガッテン!! イワンコ! “がんせきふうじ”!!」 
 「ワンッ!!」 


イワンコが床を踏み砕いて、作り出した岩石を前方に飛ばす。 


こころ「エレキッド! “いわくだき”!」 

ここあ「マイナン! エレキッドを“まねっこ”!」 


一方相手は迎え撃つ形で、降り注ぐ岩を叩き割る姿勢。 


梨子「チェリンボ! “にほんばれ”!」 
 「チェリリ!!」 


私の指示、チェリンボの鳴き声と共に、ジムの西側から、日が差し込んで来る。 

──“ひざしがつよい”、晴れ状態だ。 


梨子「出来るよね、チェリンボ!」 

 「チェリリ…!!」 


差し込んできた光を吸収して、チェリンボが眩く光る。 

 「チェリリーー!!!!」 

チェリンボの頭上に即座に収束された光の球が打ち出され、 


こころ「わっ!? 狙われてる!?」 
 「エレキッ!?」 

梨子「“ソーラービーム”!!」 
 「チェリーーーー!!」 
418 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:08:30.69 ID:bS2bQuBP0

その光球から打ち下ろすように、光線が走る── 

そのまま、岩を砕くことに注力していた、エレキッドを貫く……! 

 「エ、エレ…キ…」 


にこ『エレキッド、戦闘不能!!』 


こころ「も、戻れ! いけ、プラスル!」 
 「プラァッ」 


 『プラスル おうえんポケモン 高さ:0.4m 重さ:4.2kg 
  いつも 仲間を 応援している ポケモン。 仲間が 頑張ると 
  身体を ショートさせて パチパチと 火花の 音を 立てて 
  喜ぶ。 電柱から 電気を 吸い取って 電気を 溜める。』 


こころちゃんがすぐさま、控えのポケモンを繰り出す。 

流れが来てる、好機を逃さない、 


梨子「もう一発──!」 


そのとき、 


梨子「!」 


チェリンボがさっきよりも、更に眩く光りを放つ。 

──この光……! 


千歌「進化……!!」 

梨子「……! うん、一緒に前に進もう!! ──チェリム!!」 
 「チェリーーーーー!!!!!」 


チェリムの鳴き声と共に、花びらが──フィールド上を舞い踊る。 

──チェリムの特性、“フラワーギフト”が日差しにより、花開く……! 





    *    *    * 





ここあ「マイナン、“てだすけ”!」 
こころ「プラスル、“でんげきは”!!」 
 「マイマイー」「プラァァァアア!!!」 


バチバチと火花をショートさせながら、派手に応援するマイナンと、それを受けて高められた気合いからより大きなエネルギーの電撃の収束させるプラスル。 


千歌「イワンコ! “いわおとし”!」 
 「ワンッ!!!」 

梨子「チェリム! “ソーラービーム”!!」 
 「チェリーー!!!!」 


フィールド上に立つのは恐らく、事実上の最後の4匹。 

強化された、電撃が乱れ飛び、降り注ぐを岩を破壊しながら、迫る。 

その電撃を収束された太陽光線が薙いで、相殺する。 

バトルは佳境……! 
419 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:10:09.44 ID:bS2bQuBP0

こころ「ここあ、任せるよ! プラスル、“じゅうでん”!」 
 「プラァッ!!!!」 
ここあ「OK! マイナン! “ワイルドボルト”!!」 
 「マイマイー!!」 


後ろで、電気を蓄えるプラスル。その隙を稼ぐためにマイナンが飛び出す。 


千歌「イワンコ、迎え撃つよ!」 
 「ワンッ!!!」 

千歌「“ロッククライム”!!」 
 「ワンッ!!!!!」 


岩山も駆け上る勢いで、敵に突撃する突進技で出迎える。 


梨子「チェリム、“せいちょう”!」 
 「チェリリーーー」 


一方チェリムは、“じゅうでん”したプラスルを迎え撃つための準備を始める。 


 「マイーーーー!!!!」 「ワンッ!!!!!」 


フィールドを駆け抜ける、イワンコとマイナンが衝突する! 

──二つの衝撃がぶつかり合い、 


ここあ「いけ、マイナンッ!」 

千歌「イワンコッ!」 


──鍔競り合う。 

後ろでは、チェリムの花びらが舞い踊るたびにより強く、日差しが差し込んでくる。 

ジムの中は、桜色の花びらと、夕日の茜色が交じり合い、幻想的な光景を作り上げていた。 


千歌「ふふ……」 


今は、バトルに集中しなくちゃいけないんだけど、 

その美しい光景に、私は思わず笑ってしまった。 


 「ワォンッ!!!」 

 「マイッ!?」 


突進対決は辛うじて、イワンコが制する。 

吹っ飛ばされて、宙を舞うマイナンに、 


ここあ「マイナン、“てだすけ”!」 
 「マイッ!!!」 


ここあちゃんがすかさず指示を出す。 

中空に居ながら、周囲をショートさせて、盛り上げる。 


こころ「プラスル! “10まんボルト”!!」 
 「プラァアアアアアア!!!!!!!」 


そして、プラスルから放たれる、渾身の電撃。 


梨子「迎え撃つよ、チェリム! “ソーラービーム”!!!」 
420 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:11:33.51 ID:bS2bQuBP0

三たび、太陽光線がバトルフィールドを走る。 


──……もう、イワンコは二度と仲間の元に戻れないって、それが何故だか、すごく悲しかった。 

何も悪いことしてないのに、気付いたら仲間外れにされて、追い出されて── 

どうにもしてあげられないのが、もどかしかった、 

だけど、だけどさ── 


“ソーラービーム”と“10まんボルト”がぶつかり合って、光が音が熱が、フィールドを駆けながら、飛び散る。 

 「ワンッワンッ!!!!」 


こうして、一緒にこの景色を見て、この景色の中を走って、この景色の中で戦って、 

もうそんなの、そんな風に出来たら、もう十分……── 


千歌「──私たちはもう、キミの仲間だよね……っ!!! イワンコッ!!!!!」 

 「ワンッ──!!!!」 


私の言葉に呼応するように、イワンコが眩く輝いた──。 

花が、岩が、電が、光が、音が、熱が……そして、茜が、舞い狂う戦場の中で──。 

 「ワォオーーーーーーン」 

一匹の『たそがれ色の戦浪』が“とおぼえ”をあげた。 


千歌「“アクセルロック”!!!」 
 「ワォーーーーン!!!!!!」 


421 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:12:24.52 ID:bS2bQuBP0


    *    *    * 





こころ「やられたにこー……」 

ここあ「にこー……」 


にこ『……プラスル、マイナン。戦闘不能』 


千歌「はぁ……はぁ……」 

梨子「ち……千歌ちゃん……」 

千歌「……うんっ!」 


にこ『ジムリーダーこころ、ここあは手持ちの全てのポケモンが戦闘不能。よって──』 


梨子「チェリム……ありがと……」 
 「チェリー」 

千歌「やったね……!」 
 「ワォーン」 


にこ『チャレンジャー千歌と梨子の勝利!』 


千歌「梨子ちゃん!」 

梨子「千歌ちゃん……!」 


私たちは、目線を交わしてから、 

──パァーン! 

自然とハイタッチを交わしていた。 





    *    *    * 





こころ「にこにー負けたー……」 
ここあ「負けちゃったー……」 

にこ「ちゃんと、見てたわよ、二人ともいい勝負だったわ」 

こころ「わーい」 
ここあ「にこにーもっと褒めてー」 

にこ「今日は夕食は二人の好きなもの作ってあげるから、先にジム戦の仕事を真っ当するにこ」 

こころ・ここあ「「はーい」」 


にこさんに言われて、こころちゃんとここあちゃんがこっちを向く。 


こころ「ダリアジムに勝った証として」 
ここあ「千歌ちゃんと梨子ちゃんの二人には、この──」 

こころ・ここあ「「──“スマイルバッジ”を進呈します!」」 





    *    *    * 

422 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:13:45.89 ID:bS2bQuBP0



──ジムでの激戦を終えたあと、私たちは本日も宿を貸してもらえるということだったので、育て屋に来ています。 

夕食も終わり……。 


こころ・ここあ「「……にこにーおかわりー……zzz」」 


こころちゃんとここあちゃんは疲れたのか、もう寝てしまった。 


梨子「寝言まで一緒……」 

千歌「さすが双子だね」 

にこ「……それはともかく、よ」 


にこさんがそう言って私の方を見る。 


にこ「千歌、もう一度見せてもらっていい?」 

千歌「あ、はい」 


私はボールから、そのポケモンを出す。 

 「ワォン」 

オレンジ色の、ルガルガン。 


にこ「このポケモンは……ルガルガン、でいいのよね」 

千歌「たぶん……そうだと思います」 


ポケモン図鑑には、姿自体はルガルガンとして登録されたんだけど……。 


千歌「『Unknown Forme』って出ちゃうけど……」 


フォルムの項目には、謎の姿として登録されている。 


にこ「“まひる”とも“まよなか”とも違う、更に別の“すがた”があるなんてね……」 


にこさんがルガルガンを見ながら、首を傾げている。 


千歌「ところで──梨子ちゃんはなんでそんなに離れてるの……?」 

梨子「えっ!? え、えーと……まあ、その、仲良くなるのはもうちょっとゆっくりでいいかなーとか思ったり、思わなかったり……?」 

千歌「大丈夫だよ、怖くないよー」 

にこ「そういう風に急かすんじゃないの」 

千歌「えー?」 

にこ「触れただけでも上出来なんでしょ? こういうのはゆっくり解決するんでいいのよ」 

千歌「はーい」 


私はルガルガンをボールに戻す。 
423 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:15:23.49 ID:bS2bQuBP0

梨子「ほ……」 

にこ「とにもかくにも、ジム戦突破おめでとう」 

千歌「ありがとうございますっ!」 

梨子「ありがとうございます」 

にこ「あんたたちが受け取った、スマイルバッジには手持ちのポケモンの防御力をあげる効果もあるわ。大切にしなさい」 

千歌「はい! ……それにしても、にこさんと戦うんだとばっかり思ってたんだけどなぁ」 

にこ「……まあ、旅してれば、そのうちどこかで戦うこともあると思うわよ」 

梨子「あはは……」 

千歌「?」 


梨子ちゃんは何故か苦笑いをしている。 


にこ「それで、あんたたち、今後はどうする予定なの?」 

千歌「今後……」 

梨子「ここからだと、北のヒナギクシティか、東のセキレイシティかですよね」 

にこ「このままジム巡りを続けるなら、そうかしらね。まあ、どっちにしろヒナギクシティに行くにはカーテンクリフを越えてかないといけないから、オススメしないけど……」 

千歌「カーテンクリフ?」 

梨子「オトノキ地方の北部を分断してる絶壁のことだよ、千歌ちゃん」 

にこ「かなり高高度まで飛べるポケモンが居るなら別だけど……基本的にはローズシティを経由して、迂回した方がいいと思うわ。どっちにしろ、セキレイにもローズにもジムはあるしね」 

千歌「じゃあ、次はセキレイシティかな?」 

梨子「少なくとも、私はセキレイを目指すことになると思います」 

千歌「あ、じゃあ、梨子ちゃんとはもうちょっと一緒に旅になるね」 


私が笑いながら、能天気に言うと、 


にこ「あー……それについてなんだけど……」 


にこさんが言葉を濁した。 


千歌「?」 

にこ「ルガルガンについての報告をしたいから、明日すぐに発つのは待ってもらえないかしら? 出来るだけ早く、調査は終わらせるから」 

千歌「あ、そっか……」 


もともとイワンコも、進化できないのが原因不明だったから、チカが引き取っていいって話だったけど……事情が変わっちゃったもんね。 


千歌「梨子ちゃんはどうする?」 

梨子「ん……私は……」 


梨子ちゃんは私の言葉に少し迷った素振りを見せたけど── 


梨子「私は、出来るだけ早めに……セキレイシティに向かおうかなと思います」 


まあ、梨子ちゃんは私よりも急ぎの旅みたいだし……お別れは残念だけど、仕方ないかな。 


にこ「そう……なんか悪いわね」 

梨子「いえ、そんな……」 

にこ「概ねの予定はわかったわ。それじゃ、わたしは先に休ませてもらうわね……明日も動かないといけないし、何より夜更かしは美容の敵だから──」 
424 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:16:16.86 ID:bS2bQuBP0

にこさんはそう言うと、私たちを残して自室へと戻っていった。 





    *    *    * 





──なんとなく、育て屋の外に出て、夜のドッグランを見つめる。 

建物の近くだと、ポケモンも寄ってこないから、安心して夜風に当たることが出来た。 


梨子「千歌ちゃん……ホントにありがとね」 


ぼんやりしていると、梨子ちゃんがお礼交じりに話しかけてくる。 


千歌「ううん、こちらこそ、ありがとうだよ」 


私は思わず立ち上がり、お礼を返して、梨子ちゃんの手を取った。 


千歌「もし、あの場で梨子ちゃんが勇気を出してくれなかったら、ジム戦には勝ててなかったし……それに私、イワンコのこと、ちゃんと自分の中で飲み込めてないままだったと思う」 

梨子「千歌ちゃん……それを言うなら、あの場で前に進めたのは千歌ちゃんのお陰だよ」 

千歌「……じゃあ、お互い様ってことで!」 

梨子「ふふ、そうだね」 


夜風が二人の髪を揺らす。 


梨子「明日からは、またお互いの旅が始まるけど……少しの間でも、千歌ちゃんと一緒に過ごせて良かった」 

千歌「私もだよ。それもお互い様だね」 

梨子「ふふ、うん」 


また、明日からはそれぞれの旅が始まる。 

梨子ちゃんと出逢ってから、一緒に過ごして、一緒に戦った激動の三日間が締めくくられようとしている。 

出会いと、別れの予感を感じながら、私たちの旅は、まだまだ……続くったら、続くのです──。 


425 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 14:16:43.50 ID:bS2bQuBP0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【4番道路】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | ●          ̄    |.       :   || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち マグマラシ♂ Lv.25  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクバード♂ Lv.24 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.27 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:80匹 捕まえた数:9匹 

 主人公 梨子 
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリム♀ Lv.27 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい 
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:64匹 捕まえた数:7匹 


 千歌と 梨子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



426 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:19:40.91 ID:bS2bQuBP0

■Chapter031 『サニータウン』 【SIDE You】 





──さて、船での激戦を終えて……辿り着いたサニータウンで宿を取った、翌日。 


花丸「それじゃ、マルたちは先に行くね」 


花丸ちゃんとルビィちゃんはセキレイに急ぐってことだったから、今は見送りの真っ最中であります。 


曜「二人とも、あんまり無茶なことしちゃだめだよ?」 

ルビィ「ぅゅ……ルビィも流石に海の藻屑にはなりたくないから……気をつける」 

花丸「当分は海から離れる一方だから、大丈夫だと思うけどね」 


……そういう意味じゃないんだけど。 


曜「とにもかくにも、何かあったら曜ちゃん先輩に連絡するんだよ?」 

ルビィ・花丸「はーい」 


……まあ、そういう私も果南ちゃんがいなかったら危なかったんだけどね。なんて、カッコが付かなくて言い出しづらいけど。 





    *    *    * 





曜「さて……じゃあ、私も活動を始めますか」 


私は昨日辿り着いた、サニータウンのサニー港へと一人足を向ける。 

──そう、今は一人だ。 

ことりさんは今朝方、牧場おじさんをコメコシティに送った後、フソウタウンに置いてきてしまった荷物を取りに行くとのことだった。 

……ちなみにここまで牽引してきたおじさんの船は、一旦メンテナンスをしてから、お返しするらしく、サニー港で入渠中だ。 

ただ、ことりさんが帰ってくるまでぼんやりおやすみ、なんてことはなく……ちゃんと今後のための活動方針を言い渡されているのであります。 



──────── 
────── 
──── 
── 


曜「手持ちの拡充?」 

ことり「そうです! 曜ちゃんにはグランドフェスティバルを目指してもらう以上、今のままじゃ、手持ちの数が全然足りてないんだもん!」 


確かに……昨日捕まえたダダリンを含めてもメインパーティとして扱ってるのは今のところ4匹だけだ。 


ことり「でもね、ただ手持ちを増やせばいいってわけじゃないからね」 

曜「? どういうこと?」 

ことり「コンテストの各部門については、もうわかってる?」 


──各部門。 
427 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:21:48.32 ID:bS2bQuBP0

曜「それは、志満姉から聞いたよ……かっこよさ、うつくしさ、かわいさ、かしこさ、たくましさだよね」 

ことり「そうそう。その5つの部門を渡り歩くための手持ちが必要だから」 


詰まるところ、手持ちの中にそれぞれの部門担当のポケモンがいた方が良いと言うことだ。 


ことり「ちなみに曜ちゃんは今の手持ちの中だと、どう役割分担するのか考えてるの? うつくしさはラプラスだと思うけど」 

曜「えっと……かっこよさはカメールに、かわいさとたくましさはホエルコ、うつくしさとかしこさはラプラスにお願いしようと思ってたんだけど……。かしこさは今回入ったダダリンに変わってもらおうかなって」 

ことり「部門兼ねかぁ……悪くは無いけど」 


ことりさんは難色を示す。 


ことり「かわいさとたくましさは、アピールの考え方が全然違うから、やめた方がいいと思うよ? それにホエルコはかわいさ部門の子にするのは……」 

曜「え? ホエルコ、かわいくないかな……?」 


正直、こういう反応されるのは予想外。 

まるっこくて、愛らしいフォルムだと思うんだけど……。 


ことり「ううん、わたしもホエルコはかわいいと思うよ」 

曜「?」 

ことり「でも……曜ちゃんその子、進化させたいって思ってるんだよね?」 

曜「……あー」 


そう言われて、納得してしまった。 

ホエルコの進化系のホエルオーは体長14mを超える巨体を持つポケモン。 


ことり「あの大きな体でかわいさコンテストに出ると、相対的に威圧してるっぽくなっちゃうというか……」 

曜「確かに……」 

ことり「それでも、ホエルコでかわいさコンテストを勝ちに行くって言うなら、ことりは全力でサポートするけどね!」 


ことりさんはそうフォローはしてくれるけど……。 

確かに私としてはホエルコはあくまで海の旅のお供として、ホエルオーに進化することを見据えた上で、手持ちに入れたところがある。コンテストの担当としては他を考えた方がいいかもしれない。 


曜「となると、最低でもかわいさ担当のポケモンは増やさないといけない……」 

ことり「もちろん、今の担当メンバーよりも相応しいなってイメージのポケモンが居るんだったら、そういう子を探してみてもいいと思うよ?」 

曜「……なるほど」 

ことり「とにかく、わたしが戻るまでに最低でも一匹は新しくポケモンを捕まえておくこと。出来る?」 

曜「ヨーソロー! 了解であります!」 

ことり「うんっ♪ いい返事だね」 


── 
──── 
────── 
──────── 



と言うことで、新たな仲間を探して散策をすることになったんだけど……。 

実のところ、ホエルコ以外にたくましさをイメージするなら、私の中では絶対にこのポケモンと言うポケモンが居る。 

サニー港を見回すだけでもそこら中に姿が見える。 
428 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:25:12.71 ID:bS2bQuBP0

船乗り「ワンリキー! そっちに積荷持っていってくれ」 
 「リキッ」 

船乗り2「今こっち手外せないんだ、ワンリキー、そっち支えてくれないか!?」 
 「リキッ」 

船乗り3「ワンリキー、そこの岩退けといてくれるか? 仕事の邪魔でな」 
 「リキッ」 


あちこちで、荷物を運ぶ姿──そう。 


曜「やっぱり、船乗りと言えばワンリキーだよね!」 


思わずに声に出ていた。 

港のあちこちで船乗りからの指示を受けながら、仕事をしているワンリキーたち。 

私にとってのたくましさを象徴するポケモンと言えばこの子たちだ。 


船乗り「なんだい、お嬢ちゃん。ワンリキーが好きなのかい?」 

曜「あ、はい!」 


港で仕事をしているワンリキーたちを熱心に監視していたら、船乗りさんの一人が話しかけてきた。 


曜「私、パパがフェリーの船長で、ちっちゃい頃から海の上での仕事に憧れてたんです! それで船上で働くワンリキーはずっと昔から見てたから……!」 

船乗り「はは! そうなのかい! 確かにワンリキーはいいぞ、体は小さいが、パワーがあって働き者だしな」 


 『ワンリキー かいりきポケモン 高さ:0.8m 重さ:19.5kg 
  全身が 筋肉に なっており 子供ほどの 大きさしか 
  ないのに 大人 100人を 投げ飛ばせる。 ゴローンを 
  何度も 上げ下ろしして 全身の 筋肉を 鍛える。』 


船乗り「お嬢ちゃんもワンリキーが欲しいなら、港の北側にある岩場に行ってみるといいぞ。あそこは昔からワンリキーがたくさんいるからな」 

曜「ホントですか!? ありがとうございます!」 


ことりさん、曜は幸先良く目標を達成出来そうであります──! 





    *    *    * 





──港の北の岩場。 


曜「ここ……だよね」 


岩の陰に隠れながら、顔を出す。 

確かにそこには、 


 「リキッリキッ」 
 「リキッ」 


ワンリキーたちが何匹も居るのが見える。 

ほとんどが、ゴローンやイシツブテを持ち上げながら、筋トレをしている真っ最中だ。 


曜「確かにたくさんいる……さて、どうしようかな」 
429 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:28:59.90 ID:bS2bQuBP0

ここのワンリキーたちは野生も含め、トレーニングのためにたまに港まで来て自主的にお手伝いをしてくれるらしい。 

元々、人とかなり密接に生きてきた野性ポケモン故に、人の集落の近くに生息していても、人はワンリキーを必要以上に怖がらないし、ワンリキーは人を必要以上に怖がらない。 

捕まえること自体はそこまで苦労しないかもしれないが、端から捕まえると言うのは少し躊躇われる。 


曜「でも、せっかく捕まえるなら、よりたくましい個体がいいよね……」 


そう呟きながら、じーっとワンリキーたちを観察していると── 


 「リキッ!」 
 「リキッ!!」 

曜「ん……?」 


ワンリキーたちは急に筋トレを止めて、岩場の奥の方へと走っていく。 


曜「どうしたんだろ……?」 


私はワンリキーたちを追って、岩場の奥の方へと足を運ぶ。 





    *    *    * 





曜「わ……ワンリキーがいっぱいいる……」 


奥の方へ進むと、そこには多くのワンリキーたちが集合していた。 

そのワンリキーたちの視線は一点の注がれ、 


曜「……あれって」 


少しだけ高くなった平らな岩の上に胡坐をかいているポケモンが一匹。 


曜「ゴーリキーだよね?」 


私は図鑑を開く。 

 『ゴーリキー かいりきポケモン 高さ:1.5m 重さ:70.5kg 
  疲れることのない 強靭な 肉体を 持つ。 その筋肉を 
  生かして 進んで 重労働を 手伝う。 自分に とって 
  いい 筋力 トレーニングに なると 知っているからだ。』 

ワンリキーの進化系。……群れのボスかな? 

と、考えながら見ていると、 

 「リキッ」 

一匹のワンリキーが、そのゴーリキーの前に躍り出てくる。 

 「ゴーリキ…」 

 「リキッ!!」 

──突然、ワンリキーがゴーリキーに向かって飛び掛ったと思ったら、 

 「ゴーリキッ」 

 「リキッ!?」 

ワンリキーはゴーリキーに片手で掴まれ、そのまま投げ飛ばされた。 


曜「力比べしてるのかな?」 
430 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:31:45.56 ID:bS2bQuBP0

順番にワンリキーたちがゴーリキーに向かって、立ち向かっていくが。 

 「ゴーリキ」 

ゴーリキーは苦もなく、ワンリキーたちを一匹一匹投げ飛ばしていく。 


曜「……あのゴーリキーがこの辺りで一番強いってことかな」 


程なくして、挑戦していくワンリキーがいなくなり、 

 「ゴーリキ…」 

ゴーリキーは退屈そうに鼻を鳴らした後、立ち上がる。 

ここには自分より強い相手は居ないとでも言いたげな── 

なら……! 


曜「ちょっと待った!!」 


 「ゴーリキ?」 


曜「その力比べ、私も混ぜてよ」 


私はその場で立ち上がり、手にボールを構える。 

野生のポケモンなら、戦って捕まえる、そのルールに則ろう。 

 「ゴーリキ」 

ゴーリキーは私の言葉を聞くとその場で、片手の平に、逆の手で拳を作って打っている。 

掛かって来いとでも言わんばかりに、 


曜「よし……!」 


私が岩の影から躍り出ると、群れを成していたワンリキーたちが私を避け、ゴーリキーまでの道が出来る。 

その道を走って、 


曜「行くよ! ダダリン!」 


手持ちを繰り出した。 

 「────」 

──ドスン。重量感のある音と共にダダリンが飛び出し、大きな舵輪の底が岩で出来た土俵の上に突き刺さる。 

私の手持ちは地上で動けるポケモンが少ない、がカメールだと確実にパワー負けしている。 

ならここは頑強さと重量を兼ね備えた、ダダリンで、 


曜「ダダリン! “アンカーショット”!」 
 「────」 


ダダリンは突き刺さった舵輪の底を軸に身体を回転させ、錨をぶん回しながら投擲する。。 

 「ゴーリッ」 

一方ゴーリキーは避けようという素振りは全くない。 


曜「あくまで真っ向勝負ってことだね……!」 
431 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:32:55.23 ID:bS2bQuBP0

なら、お望み通り……! 

ダダリンのアンカーがゴーリキーの周囲を飛び、ゴーリキーを鎖が捕縛する。 

──ズンッ! ゴーリキーの背後にアンカーが音を立てて、突き刺さると同時に、 

 「ゴーリッ!!!」 

ゴーリキーが力を入れて、ダダリンを引っ張る。 

 「────」 

すると、舵輪部分だけでも3m近い、200kgの巨体が一瞬中に浮く。 


曜「! “ヘビーボンバー”!!」 
 「────」 


咄嗟に指示を出し、ダダリンは再びその場に垂直落下して、踏ん張る。 


 「ゴーリ…!!」 

再びゴーリキーが力を入れると、ダダリンの巨体が岩板をバキバキと割りながら、引っ張られる。 


曜「流石に、すごいパワー……! でも」 


そもそも、そこはダダリンの『本体』じゃない、 

 「────」 


曜「ダダリン!」 

 「ゴーリッ!!」 


ダダリンの本体はあくまで鎖や錨に絡みついた、長いモズクだ。 

つまり、アンカーを飛ばした後でも、本体を使って無理矢理鎖だけを動かせる。 


曜「ダダリン、“まきつく”!」 
 「────」 


だから鎖だけを動かし、締め上げながら、 


曜「そのまま、“たたきつける”!」 


ゴーリキーを鎖でなぎ倒すように、横から地面に押し倒す。 

──が、 

 「ゴーリキッ!!!!!!」 


曜「!? う、嘘!?」 


ゴーリキーは足元の岩板に拳を突き立てて、無理矢理体勢を保つ。 

そのまま、 

 「ゴーーーリキッッ!!!!!!」 

腕の筋肉だけで、 

拳の突き立った岩板を揺さぶる。 


曜「わわっ!? これ、“じならし”!?」 
 「────」 


大きな地面の揺れにダダリンの舵輪部分が不安定になる。 
432 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:33:47.33 ID:bS2bQuBP0

曜「不味い……!」 


ダダリンが横向きに倒されたら、負けだ── 


曜「“こうそくスピン”!!」 
 「────」 


舵輪部分に残っているモズクが、舵輪のベアリングを使って、一気に鎖を巻き取る。 

 「ゴーーーリ!!!!!!」 

再び綱引き状態に、 

 「ゴーーーーーリキーーーーー!!!!!!!」 

ゴーリキーは今度は片足を前に出して、踏ん張りを見せる。 

──このまま、膠着してたら消耗戦。 


曜「ならっ! ダダリン!」 
 「────」 

曜「抜錨!」 
 「────」 


錨側をモズクの本体で引き抜く。 

 「ゴリ!?」 

ゴーリキーは突然背後から飛んでくる、錨を受け止め切れずに── 


曜「!?」 


──いや、 

 「ゴーリ…!!!」 

ゴーリキーは後ろ手に受け止めた。 

しかも、片手で。 


曜「“みやぶる”で見破られてる!?」 

 「ゴーーリ!!!!!」 


何度、攻撃を畳み掛けても、その“ふくつのこころ”で攻撃を真正面からねじ伏せる。 

それが、群れのボスたる所以か、 

 「ゴーーリキ!!!!!!」 

 「────」 

ついに次の手を失った、ダダリンは鎖を引っ張られ、再び中に浮く。 


曜「ダダリン!!」 


そのまま、鎖を引っ張られ、引き寄せられたところに、ゴーリキーの渾身の一撃が── 


曜「……っ! ……ゴーリキー、ごめん!」 
433 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:35:00.22 ID:bS2bQuBP0

──ダダリンの身体をすり抜けた。 

 「ゴリ!!!?」 

全力の拳を空振りし、前のめりになるゴーリキーに、一息遅れるタイミングで、 

 「────」 

ダダリンの巨体がぶち当たる──! 


曜「“ゴーストダイブ”!!!」 

 「ゴッ!!!」 


いくらパワーが自慢のポケモンと言っても、全身全霊の攻撃を振りぬいたあとに、数百キロの塊が降って来たら、対応は出来ない。 

ゴーリキーは鎖と錨を巻き込んだまま、ダダリンに吹き飛ばされた。 


曜「“ゴーストダイブ”は最初に幻影となって、消えた後に不意打ちで飛び掛かる技だよ」 

 「ゴーリ…」 


私は岩板をよじ登り、ゴーリキーの傍まで歩いていく。 


曜「ダダリン、ありがと。戻れ」 


ダダリンをボールに戻し。 


曜「バトルには勝った、けど……」 

 「ゴリ…」 

曜「純粋なパワー勝負では完全に私たちの負けだったね」 


私は頭を掻く。 


曜「なんか、ズルして勝ったみたいな感じだし……なんか君が望んだ力比べとはちょっと違ったよね」 

 「ゴーリ…」 

曜「もうちょっと力付けて、パワーで負けないくらいになったら、また挑戦に来るから、それまで──」 


私はそう言って、踵を返そうとしたら、 

 「ゴーリキ」 

ゴーリキーは私の前にのしのしと歩いてきて、 


曜「ゴーリキー……?」 
 「ゴーリキ」 


──膝を折った。 

まるで、忠誠でも誓うように。 


曜「え、いや……」 
 「リキ」 

曜「……認めてくれるの?」 
 「リキ」 


ゴーリキーは私の問いかけに対して、静かに首を縦に振る。 

ゴーリキーが何を思ったのかわからないけど、負けは負けということなんだろうか。 


曜「……わかった」 
434 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:35:32.42 ID:bS2bQuBP0

私はゴーリキーの前の、一個。モンスターボールを置く。 


曜「君が認めてくれるなら……一緒に行こう」 
 「ゴーリ」 


ゴーリキーは再び首を縦に振った。 





    *    *    * 


435 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:36:36.52 ID:bS2bQuBP0


曜「──と、言うわけで新しいたくましさ担当のゴーリキー!」 
 「ゴーリキ」 

ことり「うんうん♪ ちゃんと、課題はこなしたね、さすがことりが見込んだお弟子さんです♪」 

曜「えへへ……」 


夕方頃になり、ことりさんが戻ってきたところで今日の報告。 

実はあの後も何匹かサニータウン周辺の野生ポケモンは捕まえたんだけど……。 


曜「かわいさ担当でしっくり来るポケモンは居なかった、かな……」 

ことり「そっかー。まあ、でもどこかでビビッと来るポケモンとの出会いがあったりするから、今日はゴーリキーを捕まえただけで十分だと思うよ♪ それじゃ、明日は──」 

曜「明日は──!」 


サニータウンと言えば、 

志満姉の言葉を思い出す。 

かっこよさコンテストが──! 


ことり「セキレイシティにいこっか」 

曜「え?」 


思わず力の抜けた声が出てしまう。 


曜「コンテスト、行かないの!?」 


私は思わず抗議の声をあげてしまう。 


ことり「かっこよさ会場は開催頻度も比較的多いし、後回しかなって」 

曜「えー……」 

ことり「それに一日で衣装作れないでしょ? まだ衣装案も考えてないんだから」 

曜「う……それは、まあ……」 

ことり「とにかく、目下の目標は開催頻度の少ない大会を、押さえるところからだよ」 


確かに、グランドフェスティバルを目指す以上、開催頻度の少ない大会に勝っておかないと、結局のところ、意味がないのは確かだ。 


曜「……じゃあ」 

ことり「コメコシティのたくましさ大会、ローズシティのかしこさ大会が優先かな。その準備として──」 

曜「準備として?」 

ことり「セキレイシティのことりのお家で衣装作りしよっ♪」 


──と、言うわけで。 

次の目的地はセキレイシティになるようです。 


436 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 15:37:54.85 ID:bS2bQuBP0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【サニータウン】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.●‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :  || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 曜 
 手持ち カメール♀ Lv.20  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.25 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.18 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
      ダダリン Lv.26 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん 
      ゴーリキー♂ Lv.28 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:63匹 捕まえた数:16匹 


 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



437 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:37:06.09 ID:bS2bQuBP0

■Chapter032 『太陽の花畑』 【SIDE Ruby】 





──サニータウンを昼前に出て、今は9番道路です。 


ルビィ「結局、サニータウンでは特に情報は得られなかったね……」 

花丸「あんまり人の行き交う場所じゃないから仕方ないずら。どちらにしろ、セキレイシティに着いてからが本番だよ」 

ルビィ「うん……」 


朝、曜ちゃんと別れたあと、ルビィたちはサニータウンで理亞さんの情報を集めながら、町を西に進んでたんだけど……。 

結論を言うと収穫ゼロでした。 

そのまま町を出て、今は9番道路をセキレイシティに向かって歩いているところです。 

──ふと、 


ルビィ「ん……?」 

花丸「ルビィちゃん? どうしたの?」 


腰につけたボールが震えていることに気付く。 


ルビィ「ん、ちょっとボールがね……またコランかな」 


ルビィの手持ちは元気な子が多いから……。 

言いながら、ボールを手に取って 


ルビィ「あれ?」 


それがコランの入った真っ白なプレミアボールではなく、フレンドボールだと言うことに気付き、 


ルビィ「……アブリー?」 


そのまま、外に出してあげる。 

 「アブアブブ」 

すると、アブリーはそのまま一人で先に飛んで行ってしまう。 


ルビィ「え、アブリー!?」 


ルビィは慌てて、アブリーを追いかけます。 


花丸「この先って確か……」 

ルビィ「アブリー、待ってー!」 





    *    *    * 





しばらく、おいかけたところで、 


ルビィ「……な、なにこれ……!!」 
438 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:39:29.40 ID:bS2bQuBP0

ルビィは一面に広がる光景に言葉を失いました。 

──眼前にはとてつもない大きさの花畑が広がっていました。 


花丸「この辺りは日当たりがいいし、近くに川もある。土に栄養も豊富で、有名な花園なんだよ」 

ルビィ「へぇ、そうなんだぁ……」 

花丸「通称『太陽の花畑』ずら」 

ルビィ「そういえば、アブリーは……」 


キョロキョロと花畑を見回す。 

そこにはアゲハントやバタフリーのようなちょうちょポケモン、フラベベ、キュワワーといったお花に関係しているポケモンが多く見える。 

その中に紛れるように── 


ルビィ「あ、居た!」 

 「アブアブブ」 


花に止まって、蜜を集めているアブリーを見つける。 


ルビィ「もう……勝手に行っちゃうから、心配したよ?」 
 「アブアブ」 

花丸「アブリーは花の蜜や花粉が好物だからね」 


そういう意味ではごちそうなのかもしれない。 


花丸「それにしてもいい匂いずら~……。ここでお昼寝したら、気持ち良さそう」 

ルビィ「ぅゅ……そんな暇ないよぉ……」 

花丸「冗談ずら」 

ルビィ「花丸ちゃんが言うと、冗談に聞こえないよぉ……」 


二人で花畑を進んでいくと、 


ルビィ「……ほわぁ……」 


大きな、本当に大きなお花がそびえ立っていた。 


ルビィ「あれって……ヒマワリかな……?」 

花丸「そうずら。太陽の花畑の名前の由来にもなったと言われている、大輪華・サンフラワーずら」 

ルビィ「あのお花、ルビィの顔よりも大きいんじゃ……」 

花丸「高さは5mを超えてて、何よりも茎が太いのが特徴ずら」 

ルビィ「へぇ……」 


見上げていて、首が痛くなりそうだ。 

花丸ちゃんが居るだけで、ガイドさんが付いているみたいでちょっと楽しい。 

確かに言われて見てみると、ヒマワリの茎がかなり太いように見える。 


花丸「ここの花畑の花の中でも、特に太陽のエネルギーを多く浴びてるって言われててね。“たいようのいし”と似たようなエネルギー体なんじゃないかって言われてるずら」 

ルビィ「へぇ……?」 


サンフラワーの周りでは確かにナゾノクサや、ポポッコがひなたぼっこをしている。 

その中に居たチュリネが、 
439 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:41:08.65 ID:bS2bQuBP0

ルビィ「ぴぎっ!? マルちゃん! あのチュリネ!」 


チュリネが光っていた。 

程なくして、光が収まると、 

 「レディーア」 

チュリネは別の姿に── 


花丸「ドレディアに進化したみたいだね」 

ルビィ「ホントに“たいようのいし”と同じ効果があるんだ……」 

花丸「自然の中には、そういうエネルギーを帯びたものはいくつかあるんだよ。コメコの森の岩とか、ね」 

ルビィ「進化か……」 

花丸「ルビィちゃんのポケモンもそのうち進化するずら」 

ルビィ「ドレディアみたいに可愛いポケモンに進化するといいんだけど……」 

花丸「んー……皆が皆そういう進化をするわけじゃないからねー」 


ルビィの今の手持ちは見た目が可愛い子が多いし……ちょっと怖くなっちゃうなら、進化しないで欲しいかも……。 


花丸「進化が嫌なら、“かわらずのいし”を持たせると進化しなくなるよ?」 

ルビィ「ん、うん……でも、進化させなくてもいいものなのかな?」 


ポケモンは進化させると、基本的には強くなるってお姉ちゃんも言ってたし……。 


花丸「それはトレーナー次第だと思うよ? 拘りがあって進化させない人もいるし」 

ルビィ「そうなの?」 

花丸「ほら、ことりさんなんかはモクローを使ってたけど。あのモクローはとっくにフクスローに……ううん、その次の進化も出来るくらいのレベルだったと思うよ」 

ルビィ「言われてみれば……すごい強かったもんね、あのモクロー」 

花丸「要はどう扱うかだからね」 


じゃあ、ルビィも……アチャモのまま、一緒に旅をしようかなぁ……。 

なんだかんだ言って、アチャモの姿は愛らしくて、好きだし。 

やんちゃなのがたまに傷だけど……。 

……そういえば、進化もだけど、ルビィの手持ちはお姉ちゃんの課題でヌイコグマさんを捕まえてから、代わり映えしていない。 


ルビィ「そろそろ、新しい手持ちを捕まえた方がいいのかな……」 

花丸「気に入ったポケモンがこの辺に居たの?」 

ルビィ「うぅん、ただそろそろ手持ちも揃えた方がいいのかなって……」 

花丸「確かに4匹じゃ、ちょっと心許ないかもね。そういうマルも3匹だけど……」 


花丸ちゃんはそう言って苦笑いするけど……。 


ルビィ「でも、花丸ちゃん、ポケモン結構捕まえてたよね……?」 

花丸「それはそうなんだけど……」 


二人で道路を歩いている間も、花丸ちゃんは結構積極的に出会ったポケモンを捕まえている。 


花丸「気が合うかは別だからね」 

ルビィ「そういうものなんだ……」 
440 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:46:16.51 ID:bS2bQuBP0

花丸ちゃんは手持ちが3匹と言っても、この前、気の合ったメリープを加えた3匹をメインで連れ歩いてるだけで、別に6匹手持ちをそろえようとすれば問題なく揃うはず……。 

──正確にはルビィもあのときメリープの捕獲は手伝ったけど……結局、花丸ちゃんに懐いていたあのメリープ以外は、もともとことりさんのところに行くはずだったので、あのあと全部引き渡しました。なので、今はルビィの元には居ません。 

ただ、花丸ちゃんのメリープだけは、ことりさんが『懐いてるし、あなたと一緒に居た方がその子も幸せだと思うから』と言うので、譲ってもらったわけです。 


花丸「マルの手持ちはナエトルもゴンベもメリープものんびり屋さんだから……それこそ、ルビィちゃんみたいにアチャモやコランみたいな元気な子は持て余しちゃうよ」 

ルビィ「……ルビィも持て余してる気がするけど……」 

花丸「そうずら? マルはよく、楽しそうだなって思ってみてるけど」 

ルビィ「楽しくはない……」 


花丸ちゃんは、あのアチャモとコランの大喧嘩を見ても、楽しそうだなって思って見てるのかと思うと、少し複雑な気分です……。 


ルビィ「……でも、それこそ、ここなら気の合う子見つかるんじゃないかなぁ?」 

花丸「言われてみれば……」 


二人で話していると、気付けばさっき遠くに見えた大きなヒマワリの根元まで来ていた。 

そこには中央の巨大なヒマワリだけでなく、陽の当たる南側の周囲には普通のサイズのヒマワリたちも群生している。 


ルビィ「それこそ、ここで日向ぼっこしてる子とか……」 


ヒマワリの茎に手を当てながら、花丸ちゃんの方に振り返る。 


花丸「あ、ルビィちゃん、それ……」 

ルビィ「?」 


そのとき、触っていた茎が動く。 


ルビィ「……え、う、動いた!?」 

花丸「それはヒマワリじゃなくて、ポケモンずら」 

 「キマー…」 

ルビィ「ぴぎっ!? ご、ごめんなさいっ!?」 


反射的に謝ってしまう。 

どうやら、大きな茎のすぐ近くにいた、ヒマワリと良く似たポケモンと間違ってしまったみたい。 

そのポケモンは、ルビィが手を放すと、またすぐに日向ぼっこのために太陽の方に大きな花びらを向ける。 


花丸「キマワリずら」 

ルビィ「キマワリさん……」 


図鑑を開く。 

 『キマワリ たいようポケモン 高さ:0.8m 重さ:8.5kg 
  暖かい 日差しを エネルギーに 変換する。 
  そのため 昼間は ずっと 太陽の 方を 向いたまま 
  追いかけて 移動する 習性で 知られている。』 


ルビィ「この子も太陽の光が好きなんだね」 

花丸「ヒマナッツも“たいようのいし”で進化するポケモンだからね。さっきのドレディアと一緒ずら」 


……それにしても、 


ルビィ「このキマワリ、ルビィたちがこんなに近くにいても全然気にしないんだね」 
441 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:47:38.39 ID:bS2bQuBP0

キマワリはこうして近くでルビィたちがお話してても、夢中で太陽を浴びている。 

かなりののんびり屋さんだ。 


ルビィ「花丸ちゃん、この子となら気合うんじゃないかな?」 

花丸「……ふむ。悪くないずら」 


花丸ちゃんはそう言ってキマワリを見る。 

 「キマー…」 


花丸「……このまま捕まえられそうかも?」 


花丸ちゃんが至近距離でそのままボールを投げる。 

──パシュンと、言う音と共にキマワリがボールに吸い込まれた、が。 

 「キマー」 

ボールは1回も揺れることなく、中からキマワリが飛び出してくる。 


花丸「さすがに無理だったずら」 

 「キマー」 

花丸「ずら?」 


さすがにルビィたちを認識したのか、キマワリがこっちを見ている。 

──瞬間、キマワリの花弁が光り輝き、光線が一閃した。 


花丸「ずら!?」 

ルビィ「あ、あぶない!!」 


咄嗟に花丸ちゃんごと押し倒して、花畑に二人で転がる。 


ルビィ「……花丸ちゃん大丈夫!?」 

花丸「だ、だいじょぶずらぁ……今の“ソーラービーム”ずら」 

ルビィ「も、もしかして、怒らせた……?」 

 「キマー」 


転がった、頭上でキマワリが表情を変えずに再び光る。 


ルビィ「ぴぎっ!? ア、アブリーっ! “むしのていこう”!」 
 「アブブ」 


近くを飛んでいた、アブリーが小さな体でキマワリにぶつかっていく。 

 「キマー」 

一瞬怯みはしたが、 

 「キマー」 

キマワリはまたこっちに視線を戻すと、再び光る。 


ルビィ「わ、わっ!?」 

花丸「メリープ! いくずら!」 
 「メェー」 


花丸ちゃんがメリープを出し、 
442 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:48:41.22 ID:bS2bQuBP0

花丸「“かいでんぱ”!」 
 「メェェメメェー」 


メリープは指示と共に、不思議な鳴き声をあげながら、謎の電波を浴びせる。 

 「キマー」 

キマワリが再び怯んだところに、 


花丸「そのまま、“とっしん”!」 
 「メェー!!」 


キマワリに突進する。 

 「キマー」 

キマワリはメリープに突き飛ばされたが、すぐに起き上がって……。 

 「キマー」 

未だ表情を変えずに、両手の葉っぱを振る。 


花丸「“はっぱカッター”ずら!? メリープ、“コットンガード”!」 
 「メメェー」 


メリープがもこもこになって、鋭い葉っぱを受け止める、が。 

葉っぱがメリープにぶつかる度に、メリープの綿毛がふわふわと舞う。 

 「キマー」 

キマワリはそのまま、畳み掛けるように、攻撃を仕掛けてくる。 

葉っぱだけじゃない、四方八方から、花びらが舞い狂ってルビィたちに迫る。 

 「アブブ!!?」 

その攻撃に巻き込まれて、アブリーが吹き飛ばされそうになっている。 


ルビィ「あわわ!? アブリー戻って!」 


すんでのところでルビィはアブリーをボールに戻して、メリープの後ろに隠れた。 


花丸「今度は“はなふぶき”ずら……場所が場所だけに攻撃し放題だね」 

ルビィ「は、花丸ちゃん、冷静に言ってる場合じゃないよっ」 


メリープの影から、キマワリを見てみると、 


ルビィ「というか、キマワリさっきより大きくなってない……?」 

花丸「この日差しの下だから……“せいちょう”したんだと思う」 
 「メェェー」 


視界を舞い踊る花弁が埋め尽くす。 

その間も尚、葉っぱの刃がメリープの綿毛を散らしていく。 


ルビィ「こ、このままじゃまずいよ!?」 

花丸「ずら……」 

 「キマー」 

そして、防ぐ手段がないまま、再びキマワリが光を収束し始める。 

 「メェー」 

メリープはどんどん綿毛を削がれて、痩せ細っていく。 
443 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:51:57.94 ID:bS2bQuBP0

花丸「……?」 

ルビィ「は、花丸ちゃん! このままじゃ毛が……!!」 

花丸「違うずら」 

ルビィ「え?」 

花丸「毛、刈られてるんじゃないずら」 

ルビィ「な、何言ってるの!?」 

花丸「毛が抜け始めただけずら!」 


花丸ちゃんがそう言った、瞬間── 


「メェェ──」 


メリープも光りだした、 


ルビィ「!?」 

花丸「メリープ……ううん、モココ!」 
 「──メエェーー」 


メリープが後ろ足で立ち上がり、 


花丸「“ほのおのパンチ”!」 
 「メェェー!!!」 


そのまま綿毛から、ショートした火花を拳に纏って、 

光を集める、キマワリに叩き付けた。 

 「キ、マ…」 

姿勢を崩したキマワリの溜めた光は、行き場を失い上空に向かって一閃する。 


花丸「今ずら!」 


花丸ちゃんは立ち上がって、モンスターボールを投げつけた。 

 「キマ──」 

再びボールに吸い込まれた、キマワリは、一揺れ、二揺れ……三回揺れた後、大人しくなった。 


ルビィ「た、助かった……?」 

花丸「うん、助かったずら。モココのお陰で」 

ルビィ「モココ?」 

 「メエェェ」 


先程よりもメリープは綿毛がなくなって、すっきりしていた。 


花丸「メリープの進化した姿だよ」 

ルビィ「進化……」 

 『モココ わたげポケモン 高さ:0.8m 重さ:13.3kg 
  ふかふかの 毛に 電気を 蓄えすぎた 結果 体の 
  表面に 産毛すら 生えない 部分が 出来てしまった。 
  ゴムのような 皮膚の お陰で 自分が 痺れることは 無い。』 


花丸「何度も綿毛に電気を充電すると、性質が変わってモココに進化するずら」 

ルビィ「そ、そうなんだ……とにかく助かったよ……」 
444 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:52:29.94 ID:bS2bQuBP0

ルビィはほっと胸を撫で下ろす。 


ルビィ「モココさん、ありがとね」 
 「メェェー」 





    *    *    * 





──花畑でのトラブルもあったけど、花丸ちゃんは無事キマワリを捕獲し、 

ルビィたちは太陽の花畑を抜け、日が傾き始める頃には、 


花丸「ルビィちゃん、見えてきたよ!」 

ルビィ「うわ……すごい……!」 


9番道路の先に見える、大きな街を視認することが出来る。 


花丸「あれが、オトノキ地方最大の都市……」 

ルビィ「セキレイシティ……!」 


ルビィたちは次なる目的地に辿り着きました。 


花丸「あ、あんなにおっきな建物がたくさん……み、未来ずらぁ~──!」 


445 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 16:54:37.36 ID:bS2bQuBP0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【9番道路】 
 口================= 口 
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 口=================口 

 主人公 ルビィ 
 手持ち アチャモ♂ Lv.13 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい 
      メレシー Lv.15 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき 
      アブリー♀ Lv.9 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき 
      ヌイコグマ♀ Lv.11 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:52匹 捕まえた数:5匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ナエトル♂ Lv.14 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい 
       ゴンベ♂ Lv.14 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
      モココ♂ Lv.16 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい 
      キマワリ♂ Lv.15 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:51匹 捕まえた数:21匹 


 ルビィと 花丸は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



446 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:33:23.79 ID:bS2bQuBP0

■Chapter033 『風斬りの道』 【SIDE Riko】 





梨子「それじゃ行くね」 

千歌「うん! またね、梨子ちゃん!」 


ダリアシティでのジム戦を終えて──次の日。 

育て屋の前で千歌ちゃんとにこさんに別れを告げるところ。 


にこ「セキレイシティは5番道路と6番道路を越えた先だけど、6番道路は上の道を通った方が早いと思うわ」 

梨子「はい、上の道──サイクリングロードを使うつもりです」 

にこ「ダリアシティの北部にレンタルサイクルがあるから……って、梨子は大丈夫かしらね」 

梨子「はい。にこさん、何から何まで……ありがとうございました」 

にこ「ま、結果としてこっちもいろいろわかったし、気にしなくていいわよ」 


にこさんはそう言って、手をひらひらと振る。 

口調が少し強くて最初は面食らったけど、本当に優しい人でよかった……。 


梨子「千歌ちゃん……じゃあ、いくね」 

千歌「もう、梨子ちゃん、そんな顔してないで? 会えなくなるわけじゃないんだからさ。すぐに追いつくから!」 

梨子「うん! 先に行って待ってるね」 


私は振り返って、走り出す。 

先に進むために。 


千歌「梨子ちゃーん!! またねー!!」 


千歌ちゃんの声を背中に受けながら。 





    *    *    * 





──5番道路、6番道路。 

ダリアシティから、セキレイシティを繋ぐ道路でにこさんが言ったとおり、ダリアシティの北部で自転車の貸し出しを行っている。 

5番道路を北上していくと、分かれ道があり、そのまま北に進むと7番道路を経由して、カーテンクリフへ、 

そこで東に行くとセキレイシティへの道の6番道路に入ることになる。 

6番道路では道を横切るように比較的大きな川が流れている。水位そこまで高いわけではないから、水ポケモンさえ持っていれば渡ることは出来るが、そっちの道の利用者は少ない。 

何故なら、その上には大きな跳ね橋が架かっているからだ。 


梨子「ここを東に進むと……6番道路ね」 
447 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:39:31.60 ID:bS2bQuBP0

眼前には、噂通りの大きな橋が見える。 

サイクリングロードと呼ばれる自転車専用の道が通っている──通称『風斬りの道』 

セキレイシティとダリアシティのインフラの要であり、この大きな橋の下に流れる河は、ダリア・セキレイ・ローズの3都市を結ぶ重用な河とされている。 

その河を残したまま、陸路としても利用出来る形にしたのがこの風斬りの道だ。 

私はにこさんに言われたとおり、ダリアシティの北部で自転車を借りて、5番道路を抜けたところ。 

特に問題もなく順調に進んできて、ここから6番道路のサイクリングロードに差し掛かる。 

やや長い道路だが、舗装されている道故にセキレイまでは日が暮れる前に到着できるだろう。 


梨子「よし、行くぞ……」 


私はサイクリングロードを抜けるために、再び自転車を漕ぎ出した。 





    *    *    * 





──風斬りの道。 

何故このサイクリングロードがそう呼ばれているのかというと、 


梨子「うわ……すごい……!」 


大橋の左右の空には、たくさんの鳥ポケモンが風を切って飛んでいる。 

私も持っているポッポはもちろん、ムックル、オニスズメ、スバメ、キャモメ、マメパトと言った数多くの鳥ポケモンの姿が見られる。 

そんな風を斬るポケモンたちと共に走り抜けることが出来る為、このサイクリングロードには、そんな通称が付いたらしい。 

──話には聞いていたけれど……。 


梨子「確かにこれは気分いいかも……」 


開放感がある。 

風斬りの道に入ってからは、なんだかペダルも幾分か軽く感じる。 

これなら、本当にすぐにセキレイシティに着いちゃいそう。 





    *    *    * 





──堕天使ヨハネは今日もまた図鑑と睨めっこをしていた。 


善子「アブソル……このまま西に向かうのね」 


セキレイを超えた先、6番道路にいるらしい。 

この追尾機能、大まかに居る場所はわかるけど、完璧なリアルタイムで位置情報を表示してくれるわけじゃないから、気付いたら隣の道路に居たり、追い抜いてしまったりしていて、困るのよね……。 

でも、確かこの先って……。 


善子「風斬りの道よね……」 
448 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:41:51.56 ID:bS2bQuBP0

主要都市を結ぶインフラの要なのはいいとして……飛行を主な移動手段にする人間からすると、鳥ポケモンが多く飛ぶこの一帯は正直進み辛い。 


善子「ヤミカラス、ちょっと橋側に寄って飛びましょう。鳥ポケモンと正面衝突はご免だし」 
 「カァーー」 

善子「……ふぁ……」 


陽光を反射する川を遠目に見ながら、欠伸を噛み殺す。 

昨日は8番道路の脇の方で野宿だったせいか、やや睡眠不足だった。 


善子「……んー、せっかくセキレイの近くだったんだし……家に帰ったほうがよかったかしら」 


なんてことをぼやくも。 


善子「いや……家帰っても、ママが変な気回しそうだし……」 


自分の母親が大したイベントでもないのに、娘の帰宅を口実に豪勢な夕飯を作って出迎えてくる姿が目に浮かぶ。 

それに何より──。 


善子「ことりさんが戻ってくる可能性があるし……」 


昨日、15番水道で会ったということは、遠くないうちにセキレイにも顔を出す気がする。 

正直なところ、あの人は苦手だ。 

いつまで経っても、このヨハネのことを子供扱いしてくるし。 


善子「ま……感謝はしてるけど……」 


私が飛ぶ為の翼をくれたのは、間違いなくあの人だし。 


 「カァ?」 
善子「はいはい、なんでもないわよ」 


まあ、ホントに暇が出来たら……たまにはヤミカラスを連れて遊びに行くのも悪くないかもしれないけど。 

橋に寄ったまま、ヤミカラスは風を斬る。 

──ふと、橋の上に目をやると、 


善子「ん?」 


前方から、走ってくる自転車の1台がたまたま目に入った。 

長い葡萄色の髪をはためかせながら、自転車を走らせている少女の姿。 


善子「あれって……」 


ヨハネ御用達の双眼鏡を覗き込みながら、 


善子「1番道路で見た子よね。千歌と戦ってた……」 


少し、考えてから。 


善子「ヤミカラス、ちょっと橋に降りるわよ」 
 「カァカァ」 


堕天使は舞い降りる──。 

449 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:45:27.39 ID:bS2bQuBP0



    *    *    * 





6番道路も中腹くらいまで走ってきた。 

このまま、順調に進めるかな、と思った矢先、 


梨子「……? 人?」 


少し遠目に、橋の上の柵に立っている変な人が見える。 


梨子「……」 


関わらないでおこう。 


善子「くっくっく…… † 叡智の端末を扱いし者 † よ……」 


私はその前を自転車で通過する。 


善子「え、ちょ!? あんた待ちなさいよ……!!」 


なんか私に話しかけていた気もするけど……気のせいだよね。 


善子「──あんたよ! あんた! 無視しないでよ!」 

梨子「うわ!? 追ってきた!?」 


声が追走してきたのでそっちに顔を向けると、ヤミカラスに掴まったまま空を飛んでいる少女が私を追いかけてきていた。 

なんだか、嫌な予感がしたけれど、とりあえずサイクリングロードの端に寄りながら、自転車を減速させる。 


善子「くっくっく……」 

梨子「あの……どちら様ですか」 

善子「 † 叡智の端末を扱いし者 † よ……」 


なんか言い直してるし……。 

……叡智の端末って、もしかして──。 


梨子「ポケモン図鑑のこと……?」 

善子「! 貴方、堕天使の言葉がわかるのね? くっくっく……見込みがあるわね……」 


見込みがあるらしい。……見込まないで欲しい。 


梨子「それで、何の用……? というか、なんで私が図鑑を持ってるって知ってるの?」 

善子「私も同じく † 叡智の端末を扱いし者 † だからよっ!」 


そう言って、目の前の子は真っ白なポケモン図鑑を見せてくる。 

そういえば、千歌ちゃんと曜ちゃんとは別に他にも3人旅に出るって、オハラ博士から説明を受けたっけ。 
450 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:47:27.17 ID:bS2bQuBP0

梨子「貴方もオハラ博士にポケモンを貰った子なのね」 

善子「その通り──我が名は † 堕天使ヨハネ †」 

梨子「ヨハネ……? 変わった名前ね」 

善子「貴方のことは、この † 堕天使の曇り無き眼 † でずっと見ていたのよ」 


……うーん、微妙に言葉遣いが変だけど……そういう類の人なのかな……? 


梨子「……オカルトガール?」 

善子「誰がオカルトガールよっ!!」 

梨子「……ずっと見てたっていつから?」 

善子「貴方が1番道路で † 火鼠の衣の所有者 † と競い合っていたときからよ」 


火鼠の衣……ヒノアラシか。 

って、それ随分前からじゃないかな。 


梨子「……ストーカー?」 

善子「誰がストーカーよっ!!」 

梨子「それで……そのー、堕天使? さんが何の用?」 

善子「何の用も何も、私たちは時を同じくして、旅に出た言わばライバル……!」 


そうだったんだ……。初めて知ったけど。 


善子「一時顔を交えれば、その研鑽を披露しあうのは、もはや道理っ!」 

梨子「はぁ……」 

善子「さあ、行くわよ! ゲコガシラ!」 
 「ゲコゲコ」 


有無を言わさずバトルが始まる。 


梨子「……仕方ないなぁ……メブキジカ」 
 「ブルル…」 

善子「ちょっとタンマ」 

梨子「え、何……」 

善子「ここはメブキジカを出す場所じゃないでしょ」 

梨子「……?」 

善子「ここは最初に貰ったパートナーで戦い合う場面じゃないの!?」 

梨子「ん……チコリータは……」 


相手のゲコガシラを見る限り、私のチコリータはそれと張り合えるほど育成が進んでいない。 


善子「チコリータ……?」 


一方で、私の言葉を聞いて、ヨハネちゃんは訝しげな顔をした。 


善子「まだチコリータなの?」 

梨子「……」 


少しだけ刺さる言葉。 


梨子「別にいいでしょ……」 
451 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:49:21.19 ID:bS2bQuBP0

だって、未だになかなか懐かないし……。 


善子「ふーん、ま、いいけど……」 


そう言いながら、ヨハネちゃんは柵からサイクリングロード内の私の目の前に降りたつ。 


梨子「バトルするなら、バトル早く済ませようよ」 

善子「……ふん、最初のポケモンも満足に育てられないような人間が、私に勝てるとは思えないけど」 

梨子「……む」 


少しカチンと来る。 


梨子「メブキジカ! “ウッドホーン”!」 
 「ブルル!!」 

善子「あら、怒ったの? ゲコガシラ、“みがわり”!」 
 「ゲコ」 


メブキジカのツノが変わり身のように出てきて、みがわり人形を突き飛ばす。 


善子「案外、挑発に弱いのね」 

梨子「……“しぜんのちから”!」 
 「ブルル!!」 


周囲の空気が刃の形になって、ゲコガシラを襲う。 


善子「“アクロバット”!」 
 「ゲコゲコ」 


ゲコガシラは風刃をかいくぐるように軽い身のこなしで、かわしたあと、 

 「ブルッ!!!」 

その勢いまま、軽やかにメブキジカを蹴り飛ばす。 


梨子「くっ……」 


ふざけた口調のただの痛い子かと思ったけど、印象以上にこの子、強いかも。 


善子「風斬りの道だと、“しぜんのちから”は“エアカッター”になるのね」 


悔しいが、相手には余裕がある。 

いい加減にこちらからも攻め手を決めないと── 

そのとき、ふと。 

さっきまで、善子ちゃんも乗っていた、柵とは逆側の柵をこっちに向かって走ってくる物影── 


梨子「……何、あれ?」 

善子「余所見とは、随分余裕ね……!」 


まさに風を斬るようなスピードで──その真っ白な影が私たちの横を走り去った。 


善子「え!?」 

梨子「ポケモン……?」 


綺麗なポケモンだった。 
452 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:50:29.13 ID:bS2bQuBP0

善子「ア、アブソル!? いつの間に追い抜いてた!?」 

梨子「アブソル……?」 


ヨハネちゃんは自分の後ろから走ってきた、そのポケモンを見た瞬間、目の色が変わった。 


善子「こ、この勝負、次会ったときにお預けよ! ヤミカラス!!」 
 「カァー!」 

梨子「え、ちょ!?」 

善子「あ、一応名前だけ聞いておいてあげるわ!」 

梨子「え、ええ……梨子だけど」 

善子「覚えたわ、またどこかで会いましょう、堕天使リリー。ゲコガシラ、ついてきなさい!」 
 「ゲコッ」 

梨子「いや……リリーじゃなくて、梨子……」 


訂正も聞かずに、ヨハネちゃんは飛び立ってしまった。 


梨子「……もう、なんだったの……」 
 「ブルル…」 

梨子「ありがと、メブキジカ。戻って」 


ボールにメブキジカを戻しながら、再び自転車のペダルに足を掛ける。 


梨子「…………」 

 善子『……ふん、最初のポケモンも満足に育てられないような人間が、私に勝てるとは思えないけど』 


なんとなく、その台詞が頭の中で反響していた。 

あのままだったら、その通り負けてた……のかな。 


梨子「……気にしてもしょうがないか、とりあえず進もう」 


私は再びペダルを扱ぎ出した。 

日が沈む前にセキレイシティについておきたいもんね。もう一頑張り……──。 


453 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 17:51:43.30 ID:bS2bQuBP0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
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 でんげんを きらないでください... 


【6番道路】 
 口================= 口 
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 主人公 梨子 
 手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリム♀ Lv.28 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい 
      ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:71匹 捕まえた数:7匹 

 主人公 善子 
 手持ち ゲコガシラ♂ Lv.23 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.25 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ムウマ♀ Lv.19 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:60匹 捕まえた数:28匹 


 梨子と 善子は 
 レポートを しっかり かきのこした!