■Chapter034 『ダリアの街とグレイブ団』 【SIDE Chika】
──梨子ちゃんと別れたあと、育て屋にて。
にこ「まあ、こんなもんかしらね」
ルガルガンの検診を終えた、にこさんがそう言葉を漏らす。
千歌「ほとんど、健康診断みたいな感じだったけど……」
にこ「そりゃね、ここは別に研究施設じゃないから。他のルガルガンとの違いを軽く調べてただけだし」
千歌「何かわかりましたか?」
にこ「……まあ、正直なところ、“まひる”と“まよなか”の中間っぽい……くらいのことしかわからないかったわね。後は専門家の意見待ちかしらね」
千歌「専門家の意見……」
「ワォン」
にこ「とはいっても、今更あんたにルガルガンを返せとか言ったりしないわよ。別にわたしのポケモンってわけでもないし」
千歌「ほ……」
にこ「とにもかくにも……悪かったわね。付き合わせちゃって」
千歌「あ、いえ、大丈夫です!」
にこ「そのお礼と言っちゃなんなんだけど……ちょっと待ってて」
千歌「?」
にこさんはそう言って、育て屋内のポケモン育成スペースらしき場所に行ってしまう。
言われた通りに少し待っていると、
──あるものを抱えて、戻ってきた。
千歌「……タマゴ?」
にこ「……ええ、ポケモンのタマゴよ」
千歌「なんで育て屋にタマゴが?」
にこ「たまに、預けられたポケモンが知らぬ間にタマゴを持ってることがあるのよ」
千歌「そうなんですか……?」
にこ「どこから、持ってきたのか、タマゴがどこから来たのか、それを見た人はまだ誰もいないんだけどね。……まあ、それはいいとして」
にこさんはその抱えたタマゴを、
にこ「良かったら、貰ってくれないかしら」
そう言って、差し出してくる。
千歌「え、良いんですか?」
にこ「手持ち増やしたがってたし、それに何よりタマゴは元気なトレーナーが持って歩かないと孵化しないのよ。中から何が生まれるのかはわからないけど……」
千歌「そういうことなら……!」
にこさんからタマゴを受け取る。
千歌「……なんか、あったかい」
タマゴはなんだかぽかぽかとしている気がした。
【Amazon.co.jp限定】ラブライブ! サンシャイン!!The School Idol Movie Over the Rainbow (特装限定版) (録り下ろしドラマCD付) [Blu-ray]
posted with amazlet at 19.05.11
バンダイナムコアーツ (2019-07-26)
売り上げランキング: 12
売り上げランキング: 12
455 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:11:59.94 ID:bS2bQuBP0
にこ「そのタマゴが生きてる何よりの証拠ね。これがタマゴから生まれてくるポケモン用のモンスターボールよ」
千歌「あ、はい! ありがとうございます!」
にこ「大事に育てなさいよ」
千歌「はい!」
にこ「さて……それじゃ、私からの用事は終わりよ」
にこさんはそう言ってから、
にこ「千歌」
私の名前を呼ぶ。
千歌「なんですか?」
にこ「強くなりなさい」
千歌「!」
それは短いながらも、頼もしい激励の言葉だった。
千歌「はい……!」
* * *
にこ「……ってわけで、ルガルガンのトレーナーは送り出したわ」
パソコンに繋がれたテレビ電話の先にそう伝えると、先方はやや困った顔をした。
真姫『その件のルガルガンが居ないんじゃ、研究しようがないじゃない』
にこ「だから、それはこれから捕まえるって言ったじゃない」
真姫『ま……甘々なにこちゃんに、そこのところは期待してなかったけど……』
にこ「別に昨日伝えた通りでしょ!? なんで、にこがルガルガン取り上げられなかった、みたいな言われ方してるのよ!」
真姫『……結構、切羽詰ってるからよ』
にこ「何がよ?」
真姫『音ノ木のメテノ騒動から始まって、スタービーチのヒドイデ大量発生、クロサワの入江も襲撃を受けて全面封鎖。それに、今回のドッグランでのルガルガンの異常な抗争。これ全部、偶然だと思う?』
にこ「……何が言いたいの?」
真姫『……はぁ。私は全部どっかで繋がってる気がしてならないのよね』
真姫はカメラの前で溜息を吐きながら、毛先をくるくると指で弄っている。
にこ「野生のポケモンが各地で異常な動きをしてるってのは、聞いてるけど……クロサワの入江のことは人為的な話でしょ?」
真姫『……まあ、別なら別でいいんだけど。それだけに限定するなら、ローズシティとしては原材料が急に減るだろうから、困るといえば困るって話くらいかしら』
今度は私が顔を顰める。
にこ「真姫は、逆にこれが……全部人為的だとでも言いたいの?」
真姫『……可能性はなくはないって話』
にこ「発想が飛躍しすぎじゃないかしら」
456 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:14:47.38 ID:bS2bQuBP0
精々、私が見た限りでは、ドッグランには人の手が入った様子はない。
そんな私の考えを言い当てるかのように、
真姫『直接的には、関係ない問題も少なくないだろうけど』
そう付け足す。
にこ「? 間接的に人為的って何よ」
真姫『人為的の有無に限らないけど……野生のポケモンは私たち人間より遥かに敏感だから、何かの前触れを感じ取って、普通と違う行動をしてる可能性もあるって話』
にこ「……」
真姫『ルガルガンが“まひる”とも“まよなか”とも違う変異個体を突然産むようになったのって、種の多様性を拡げるための本能に見えない?』
にこ「……見えなくはないけど。つまり、種が途絶えかねないような、何かが起こってるってこと?」
真姫『……その前兆なんじゃないかって話。確かに、今の段階じゃ妄想の域を出ないけど』
にこ「けど……何よ?」
真姫『希から連絡があってね』
にこ「希から? 珍しいわね」
真姫『どうにも地方全体に最近ゴーストポケモンが多い気がするから調べて欲しいって言われたのよ』
にこ「ゴーストポケモン……?」
真姫『別にゴーストポケモンが居ることが悪いとは思わないけど……あの子たちは命がたくさん消えるときに、こぞって大量発生するし』
にこ「もしかして……真姫ちゃん、怖いにこ~?」
真姫『なっ!? 今そんな話してなかったでしょ!!? バカにこちゃん!』
にこ「って、誰がバカよ!?」
真姫『はぁ……。希の言うこと、馬鹿に出来ないの、にこちゃんも知ってるでしょ?』
にこ「まあね……」
あいつの言うことはいちいち、ものごとの中核を言い当てていることがあるから、今回も気には留めておかないといけないかもしれない。
真姫『……にこちゃんはこの後どうするの?』
にこ「一旦戻ろうと思ってるけど……そろそろ理事の方へ報告もしたいし」
真姫『ま、それが無難ね』
にこ「とりあえず、あと数日中にそっちの研究室にルガルガンは送るから」
真姫『わかった。出来るだけ急いでね』
にこ「はいはい」
その会話を最後に通話が終了する。
にこ「……。……全く、この地方で何が起こってるんだか」
私は窓の外から、ドッグランを見つめる。
そこでは今日もルガルガンたちがにらみ合いをしているところだった……。
* * *
457 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:16:59.01 ID:bS2bQuBP0
千歌「さて、これからどうしよっか」
「マグ?」
ダリアシティの街を一緒に歩くマグマラシは、私の言葉に小首を傾げた。
千歌「自転車が必要って言ってたけど……」
ダリアシティの北部で貸し出ししてるって言ってたっけ。でも……。
千歌「せっかくなら、自分用の欲しいよね」
「マグ」
サイクリングロードがすぐ近くにあるなら、レンタルショップだけじゃなくて、自転車屋さんもどこかにあるはず。
そう思って、ダリアシティを散策中。
表側の道はだいぶ見たけど、レンタルが主流なせいなのか、自転車屋さんは見当たらなかった。
ならば、裏路地も、と足を広げてみている。
千歌「それにしても……ダリアシティってホントに広いんだね」
「マグ」
裏路地まで足を伸ばしたのはいいけど、今日一日で散策しきることは出来なさそう。
ちょっと探してみて、見つかりそうになかったら、私もレンタルした方がいいのかな……。
そんなことを思いながら、キョロキョロと辺りを見回していると──。
「マグ!」
千歌「わっ マグマラシ、どうかしたの?」
マグマラシが急に声をあげる。
その視線を追うと──。
千歌「……あれって」
昼でも少し薄暗い裏路地の端っこの方で、なにやら見覚えのある、薄紫の帽子と襟付きの制服のようなものを身に纏っている女性が二人……。
千歌「グレイブ団……?」
それは、コメコの森で私たちを襲撃してきた女の人と同じような服装だった。
グレイブ団下っ端1「? なんだお前は」
人通りの少ない場所をふらふらしていたせいか、見つかってしまう。
千歌「……いや、たまたま通っただけです」
とりあえず、関わってもいいことがなさそうなので引き返そうとすると、
グレイブ団下っ端2「いや待て、お前。その服装とマグマラシを連れたトレーナー……報告があった気がするぞ」
千歌「……ひ、人違いじゃないですか?」
グレイブ団下っ端1「そういえば……コメコの森で我々の同士を邪魔した奴の特徴と同じじゃないか?」
あれ、私思ったより有名人……?
458 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:19:54.48 ID:bS2bQuBP0
グレイブ団下っ端2「なら、逃がすわけにはいかないな……プルリル」
「リル…」
グレイブ団下っ端1「バネブー」
「ブブ」
目の前で二人は手持ちのポケモンを繰り出す。
千歌「う……」
どうする? 戦う?
いや……。
千歌「マグマラシ、“えんまく”!」
「マグッ」
指示と共に、マグマラシがブシューと黒煙を噴出す。
千歌「逃げよう!」
「マグッ!!」
私はすぐさま踵を返して、走り出す。
グレイブ団下っ端1「ま、待て!!」
後ろから、呼び止める声が響くが、もちろん止まる理由はない。
千歌「とりあえず、路地裏から出ちゃえば人目がある……!!」
そう思った瞬間、
グレイブ団下っ端2「プルリル! “ナイトヘッド”!!」
視界が歪む。
千歌「っ!?」
頭に直接、恐怖感を滲ませるような、幻聴が聞こえる。
千歌「っ……相手の攻撃……」
「マグッ」
どうやら、トレーナーの私を直接狙ってきてる。
とにかく、路地の外へ……!
私が力を振り絞って、路地から飛び出すと、
すぐ目の前に人影、
千歌「わっ!?」
そのままぶつかる、
千歌「ご、ごめんなさ──」
「千歌さん?」
千歌「え?」
459 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:22:17.14 ID:bS2bQuBP0
名前を呼ばれて顔をあげる。
そこに居たのは、
千歌「聖良さん……?」
昨日、ダリア図書館で会った、聖良さんだった。
直後、路地から団員たちが追いついてくる、
グレイブ団下っ端1「待て……!」
千歌「……っ……!!」
不味い……! 聖良さんまで巻き込むわけには……!
思った瞬間。
聖良「……こっちです!」
千歌「え!?」
聖良さんは私の手を取って、走り出した。
──瞬間。
千歌「……っ!!」
足に痛みが走る。
視線を足元に配ると、確かに踝の後ろ辺りが切れて、軽く流血していた。
“ナイトヘッド”を食らいながら逃げていたから、その際にどこかにぶつけて切れたのかもしれない。
聖良「足、怪我してるんですか……!?」
千歌「……ち、ちょっと切っちゃったみたいで……っ」
聖良「……少しだけ我慢してください!! 近くに私の研究室があります、そこなら身を隠せますし、治療も出来ますから!」
千歌「は、はい……!!」
* * *
……どうにか、うまいこと追っ手は撒けたようで。
聖良さんを巻き込むことも、これ以上、追撃をされることもなかった。
研究室に着いてから、聖良さんは手際よく私の足に応急処置を施していく。
私を椅子に座らせ、すぐに止血。血を綺麗なタオルで拭き取ってから、消毒。
聖良「ちょっとしみるかもしれませんが、我慢してください」
消毒用のアルコールを吹き付ける。
千歌「あ、あの……見た目ほど痛くないんで」
聖良「足は知覚神経が少ないので、痛みに反して傷が深いことが多いんです。だから、甘く見ると重篤化しやすいんですよ。念には念を入れましょう」
千歌「は、はい」
460 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:23:55.79 ID:bS2bQuBP0
有無を言わせず、処置を続ける。
切り傷に合うサイズの大きめな絆創膏を貼り、その上から軽く包帯を巻く。
千歌「応急処置……慣れてますね」
聖良「小さい頃から妹がよく怪我をする子だったので……」
千歌「そうなんですか……」
確かに言われてみれば、お姉ちゃんたちも私がよく怪我をするせいで、気付けば傷の手当てに慣れていた気がする。
何処もお姉ちゃんは大変そうだな……などと、他人事みたいに思う。
聖良「……よし、これで大丈夫ですよ。動かし辛くないですか?」
言われて、足首を上下に動かしてみる。
千歌「大丈夫そうです」
聖良「腱も特に問題なさそうですね、よかった」
聖良さんは私の状況を確認して安堵したのか、立ち上がる。
聖良「災難でしたね」
千歌「いえ、お陰で助かりました……あの人たちなんなんですか……?」
聖良「グレイブ団ですね」
千歌「グレイブ団……」
確かに前会ったときも、そう名乗っていた。
聖良「研究団の一つなんですが、やり方が少し強引だと言われている節があるみたいですね」
千歌「そうなんだ……」
なんか、成り行き上とは言え、変な人たちに目をつけられちゃったかも……。
聖良「もし、特別急ぎでないなら、少しここで休憩していってください。今飲み物と、ポケモン用のおやつを用意するので」
千歌「あ、はい。ありがとうございます」
聖良「千歌さんにはコーヒーでも淹れましょうか」
千歌「あ、私……コーヒーはちょっと……」
聖良「ふふ、苦くて飲めませんか?」
千歌「う……はい」
……ちょっと恥ずかしい。
聖良「わかりました、ミックスオレを持ってきますね」
そう言って聖良さんは室内の冷蔵庫に飲み物とポケモンたちのおやつを取りに席を立つ。
千歌「みんな、おやつの時間だよ。出ておいて」
「マグ」「ワォ…」「ピピィ」「ワォン」
461 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:27:46.14 ID:bS2bQuBP0
皆をボールの外に出してあげる。
少し落ち着いてきた私は、改めて室内を見回してみる。
研究所内は片付いていて、整理が行き渡っている。
鞠莉さんの研究室はもっとそこらへんに物が転がってたから、研究する場所ってそういう感じなのかなってイメージだったけど……。
……いや、それよりも。
部屋のあちこちには試験管やビーカー、培養液のようなものに入れられたいろんな種類の宝石が棚のところどころに置かれていた。
聖良「珍しいですか?」
聖良さんが戻ってきて、私の目の前にミックスオレの入ったマグカップを、ポケモンたちの前にポフィンの乗ったお皿を置く。
すぐさま、ムクバードがポフィンを食べ始める。遅れてマグマラシが。その2匹の姿を見て、食べていいんだと悟ったルガルガンががっつき始める。
千歌「こんなにたくさんの種類の宝石初めて見たかもしれないです……しいたけも食べていいよ?」
「ワォ…」
しいたけは私がそう言うと、もそもそとポフィンを食べ始めた。
……えっと、それで宝石。種類だけで言うなら、クロサワの入江で見たものより多そう。
聖良「そうかもしれませんね。私の研究の主な分野なので、あまりこれだけの種類の宝石を置いている研究室は少ないかもしれません」
千歌「研究の分野……そういえば、昨日会ったときも、ディアンシーの研究してるって」
聖良「ディアンシーの……と言うよりは、ポケモンの伝説全般についてですが。宝石は何かとポケモンの伝承に度々登場するので、研究している内に自然と増えてしまって」
そんな風に話す聖良さんの胸元にも、ペンダント状になった、ピンク色の宝石が輝いていることに気付く。
なんだか、他の宝石よりも断然に美しく輝いている気がする。
聖良「ふふ、このペンダント、気になりますか?」
視線に気付いたのか、聖良さんはそう訊ねてくる。
千歌「綺麗な宝石だなって……」
聖良「そうですね。……世界一美しい宝石ですから」
千歌「世界一美しい宝石……?」
聖良「そう……世界一美しい宝石ポケモン。ディアンシーの宝石です」
千歌「……え?」
私はポカンとしてしまう。
聖良「ふふ。不思議そうな顔をされてますね」
千歌「いや、だって、ディアンシーはおとぎ話の中のポケモンで……」
聖良「いいえ、千歌さん」
聖良さんは私の瞳を覗き込みながら、
聖良「ディアンシーは実在しますよ」
そう言い切った。
聖良「私は幼少の頃、妹と一緒にディアンシーに会ったことがあるんです」
千歌「ホントですか……?」
462 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:29:44.00 ID:bS2bQuBP0
軽く疑いの眼差しを向けてしまうが……。
聖良「とは言っても……夢現の前に現れただけなので、確たる証拠があるわけではないですが──」
そう言いながら、聖良さんは胸に下げたペンダントを指で弄る。
聖良「これは、その夢から覚めた時に近くに落ちていた宝石の欠片なんです」
確かに、その宝石は他の宝石とは比べ物にならないほどに綺麗な輝きを持っているけど、
聖良「それだけじゃ、理由になってない……と言いたげですね?」
千歌「え、あ、いや、そんなことは……」
聖良「ふふ、気になさらないでください。にわかには信じがたい話ですからね。ただ──」
千歌「ただ……?」
聖良「この宝石はディアンシーがまた会うために残してくれたもの……なんだと思って、ここまで研究を続けてきたので」
聖良さんは、そう言う。
目を見れば、その声を聞けばわかる。その言葉はホンキの言葉だった。
なんだか、重みがあった。
──ただ、同時に、
聖良「どうして、そこまでディアンシーに拘っているのか、と考えていますか?」
千歌「えっと……はい」
この人にはなんだか見透かされている気がする。
聖良「──救われたからです」
千歌「救われた……?」
聖良「命を救われたんです」
千歌「命を……?」
聖良「雪山で、死に掛けていた私たちは、ディアンシーに出会ったんです。さっきも言ったとおり意識が朦朧としている状態だったので、それが本当にディアンシーだったのか、確たる証拠はありません。証拠らしい証拠と言えば、本当にこの宝石の欠片だけ」
聖良さんは再びペンダントを握り締めてそう言う。
聖良「ただ、何故だか自分の中には確信があるんです。あのとき感じた光や暖かさは、本物だったと」
──証拠はないけど、確実にそうだった。
聖良さんの言うことは矛盾してる気もするけど、わからなくはなかった。
聖良「って、これだと結局、信じてもらえる要素が全然ないですね……すみません、変な話をしてしまって」
千歌「あ、いえ……」
上手いこと返事をすることは出来なかったが、その話をする聖良さんが嘘を言っているようには思えなかった。
この人はホンキでディアンシーを追っている。また会うために、
千歌「……だから、昨日も熱心にディアンシーのことを」
聖良「そうですね……ディアンシーは目撃例はまさに幻と言うに相応しいほど情報がなかったので……。伝承の残っている場所で育った人の話は、なんであれ貴重なんですよ」
千歌「なるほど……私の話って何かヒントになりましたか?」
聖良「ええ、それはもちろん」
463 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:33:27.47 ID:bS2bQuBP0
そう言って聖良さんは笑う。
千歌「……それなら、良かったです」
ホンキで追い求めてる人の力になれたなら、それはきっと良いこと……だよね。
ただ──何故だか、何かが引っかかっていた。
それが何か、よくわからないけど……。
私はミックスオレに口を付ける。
甘くておいしい味が口いっぱいに広がる。
……まあ、いっか……。
* * *
──研究室から出る頃には日が傾き始めていた。
千歌「ありがとうございました、助けて貰った上に、休憩もさせて貰っちゃって……」
聖良「いえ、気にしないでください。私も久しぶりに人とディアンシーの話が出来て、嬉しかったので」
今は聖良さんに見送られる形でダリアシティから出るところ。
結局、自転車ショップは見つけたものの、高すぎてとてもじゃないけど、私の手持ちで買うのは無理でした。
だから、大人しく諦めて、先ほどレンタルショップで自転車を借り、やっと次の街に向かう準備が出来たところです。
聖良「次の街までは結構あるので、気をつけてくださいね」
千歌「はい、ありがとうございます」
自転車を押しながら、5番道路へ足を向ける。
──ふと、振り返ると、
聖良さんが小さくを手を振っている。
千歌「聖良さん」
聖良「?」
千歌「ディアンシー、会えるといいですね」
聖良「! ……はい!」
私は、きっとそれが良いことなんだと思って、聖良さんに向かってそう言っていた。
憧れていたポケモンに出会える。きっと、それが一番良いことだと……そう思ったから──。
464 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 20:34:34.28 ID:bS2bQuBP0
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【ダリアシティ】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. ● . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ o回/ ||
口=================口
主人公 千歌
手持ち マグマラシ♂ Lv.26 特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
トリミアン♀ Lv.21 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
ムクバード♂ Lv.24 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
ルガルガン♂ Lv.27 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
タマゴ ときどき うごいている みたい。 うまれるまで もう ちょっとかな?
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:80匹 捕まえた数:9匹
千歌は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
466 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 23:56:02.70 ID:bS2bQuBP0
■Chapter035 『セキレイシティ』 【SIDE Ruby】
──さて、セキレイシティに着いたルビィたちですが……。
街に到着した頃には日が暮れてしまっていたので、一晩宿に泊まって。
次の日の朝。
ルビィ「あ、あのっ!」
通行人「? なにかしら?」
ルビィ「人を探してるんですけど……」
花丸「髪型はツインテールで、ツリ目が特徴的な女の子……見覚えないですか?」
通行人「うーん……さすがにそれだけじゃ……」
ルビィ「あはは……ですよね」
絶賛聞き込み中なんですが、
ルビィ「ありがとうございます……他を当たります」
全く手応えがありません。
ルビィ「やっぱり、言えることが漠然としすぎてるというか……」
花丸「じゃあ、やっぱりアレ見せるずら?」
花丸ちゃんが指差すアレ──掲示板に貼られている、指名手配書。
今日から本格的に指名手配が始まったらしく、朝起きてセキレイシティを歩いていたら、そこら中に理亞さんの似顔絵が描かれた紙が貼られていた。
ルビィ「それこそ、警察でもないのになんでそんなことしてるんだろうって疑われそう……」
当初の目的では、理亞さんの指名手配が始まる前にコンタクトが取れれば……と思っていたけど、
花丸「警察は優秀だってことだね」
花丸ちゃんの言う通り、指名手配は思ったより迅速だった。ウラノホシは田舎だから、もう少し時間がかかるかなと思ってたんだけど……。
ルビィ「でも、ホントにどうしよう……都会の街に来れば、手掛かり見つかると思ってたんだけど……」
花丸「実際問題、探してるのは手配書の子なんだし、見た目で聞き込みしてもあんまり意味ないかもね」
ルビィ「ぅゅ……それはそうかも……」
ある意味、皆探してるわけだし。
ルビィたちに言う暇があったら、警察に行ってる気もする。
ルビィ「でも、他の聞き方って……なんだろ」
花丸「うーん……例えば──」
* * *
467 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/04(土) 23:58:47.76 ID:bS2bQuBP0
花丸「すみません」
通行人「ん? なんだいお嬢ちゃん」
花丸「この辺りでメレシーを探してる人って居ませんでしたか?」
通行人「メレシーって……南の方の入江に生息してるポケモンかい?」
ルビィ「そ、そうです」
通行人「あの宝石みたいなポケモンだよね。むしろボクが見てみたいよ」
ルビィ「ぅゅ……そうですか」
理亞さんがやってそうなことで情報を集めてみる作戦に変更してみました。……が、今みたいな反応が圧倒的に多いです。
花丸「考えてみればメレシーって、この地方だとクロサワの入江にしか生息してないんだよね」
ルビィ「あんまりに身近すぎて、忘れてた……」
花丸「もうちょっと、漠然とした聞き方の方がいいのかな……?」
ルビィ「これ以上、漠然にするの?」
もう結構ふわふわした聞き方だと思うけど、
花丸「最近怪しい人見ませんでしたか、とか」
それは確かに漠然としている。
ルビィ「うーん……」
花丸「ただ、街中で聞いて回るより……もっと、情報が集まるところに行ってみた方がいいかも」
ルビィ「情報が集まるところって、例えば?」
花丸「ふっふっふ……これだけ都会なら、あるはずずら」
ルビィ「何が……?」
花丸「裏路地に入ると、そこにはスラム街が! そして、そこには非合法な手段で情報を仕入れている情報屋が!」
ルビィ「いないよ!」
花丸ちゃんの中で都会のイメージはどうなってるんだろう……。
ルビィ「そもそも、そういう情報屋さんがいたとして、ルビィたちに情報くれる理由がないよ……」
花丸「……確かに、それもそうずら」
やっぱり、足で探すしか……。
花丸「いや、待ってルビィちゃん」
ルビィ「花丸ちゃん……今度はなにかな……」
花丸「ルビィちゃんには都会の街なら、今探してる情報をくれるかもしれない場所があるよ!」
ルビィ「え……?」
……そんな場所あったっけ?
* * *
468 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:01:10.89 ID:IYa5VeT80
店員「いらっしゃいませ!」
店内に入ると深々とお辞儀をされる。
店員さんは顔をあげて、私たちと目が合うと、少し困った顔をした。
店員「えーっと……お嬢ちゃんたちは宝石に興味があるのかな?」
ルビィ「あ、えっとぉ……」
花丸ちゃんに連れてこられたのは、デパートの中にあるジュエリーショップでした。
花丸「ルビィちゃん、ほらコラン出して」
ルビィ「う、うん。出てきて、コラン」
「ピピ」
店員「あら? メレシー」
花丸「この子はクロサワの家の子ずら」
店員「クロサワの家の子って……あのクロサワ家?」
ルビィ「は、はい……ちょっと、聞きたいことがあって」
花丸ちゃんの読み通り、ここなら少しだけ、自分の身分が通る場所みたいです。
クロサワの入江で採掘された宝石の原石は、ローズシティで加工されてから、多くがセキレイシティの宝石屋に並びます。
宝石商であれば、直接関係ないとは言え、原産地を取り仕切っているお家の人間が訪ねてきたら、少しは聞けることもあるかもしれない、と。
ルビィ「最近この辺りで宝石とか、メレシーとかを集めてる人の噂って聞きませんでしたか……?」
店員「宝石やメレシー……それって」
店員さんは一瞬バックヤードの方を見た気がする。
商売柄、指名手配書が事務所にあるのかも。
花丸「指名手配のことはもう知ってる……と言うか、この子はクロサワの家の子として独自に犯人像を追っているところなんです」
店員「なるほど……」
微妙に嘘だけど、店員さんを納得させるには悪くない口実です。
ルビィ「もし、何か少しでも気になることとかあったら……教えてくれませんか?」
店員「そうね……」
店員さんは少し、考えた後。
469 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:02:47.00 ID:IYa5VeT80
店員「そういえば……ちょっと前から、オトノキ地方のあちこちで宝石を集めてる集団が居るって噂が……」
ルビィ「宝石を集めてる……集団?」
店員「グレイブ団って言うポケモンの調査団体らしいんだけど……サニーゴのツノを折ったり、パールルやバネブーから真珠を採取したりしてて、ちょっと前に宝石商の間では話題になったのよ」
花丸「ちょっと前に……今はどうなってるんですか?」
店員「最近は少し落ち着いたらしいけど……別に非合法な組織ってわけじゃないから、ダリアシティではたまに姿を見かけるって聞くわ。ダリアシティに団体の本部があるらしいし」
ルビィ「ダリアシティ……」
店員「ただ、指名手配の人と関係があるかはよくわからないけれど……何か手掛かりになった?」
ルビィ「は、はい! ありがとうございます!」
花丸「ありがとうございます。それじゃ、ルビィちゃんいこ」
ルビィ「あ、ちょっと待って、花丸ちゃん」
花丸「ずら?」
ルビィ「お店に入って、質問だけして帰ったりしたらお姉ちゃんに叱られちゃう……最近仕入れた、オススメの宝石とか、ありますか?」
花丸「……」
* * *
花丸「──クロサワ家恐るべし……」
ルビィ「花丸ちゃん? どうしたの?」
ルビィが宝石屋さんで買った宝石をポーチにしまいながら、店を出ると、花丸ちゃんが頭を抱えていた。
花丸「なんでもないずら……とりあえず、ダリアシティに行ってみる?」
ルビィ「うん。理亞さんに関係あるかはわからないけど……今のところ一番近い情報だし」
花丸「それなら、6番道路の風斬りの道を抜けて行けばそんなに時間は掛からないかな」
ルビィ「風斬りの道?」
花丸「うん。サイクリングロードのことで……あ」
サイクリングロード……自転車で通る道。でも……。
ルビィ「ルビィ……自転車乗れない……」
花丸「そういえばそうだったね……うーん、じゃあ下の道を通ろうか」
ルビィ「うぅ……ごめんね、花丸ちゃん」
文字通り、ルビィが足を引っ張ってしまっています……。
花丸「大丈夫だよ、ルビィちゃん。もしかしたら、道中で何か有益な情報が得られる可能性もあるし。焦らず行こう」
ルビィ「うん……ありがと、花丸ちゃん」
ルビィたちは、6番道路に向かうことにしました。
* * *
470 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:05:08.70 ID:IYa5VeT80
──6番道路。
いわゆる下道に下りてきたルビィたちの頭上には大きな橋が架かっています。
その下には川が広がっていて、上の橋を使えないルビィたちは、ここを渡らないといけません。
ただ、幸い6番道路には岸の両側に貸しボートもあるので、時間はかかるけど、行き来は出来ます。
花丸「よし、じゃあいこっか」
ルビィ「うん!」
先ほど貸しボート屋で借りたボートに乗り込み、二人でオールを漕ぐ。
花丸「……つ、疲れたずら」
ルビィ「花丸ちゃん!? まだほとんど進んでないよ!?」
なんなら、まだジャンプすれば岸に戻れる。
花丸「お、オラには……重労働すぎるずら……」
運動が苦手な花丸ちゃんがさっそくギブアップ宣言。
ルビィ「ぅゅ……えっと、コラン、ヌイコグマさん」
ルビィは2匹の手持ちをボートの上でボールから出す。
「ピピピ」「クーマー」
ルビィ「ヌイコグマさんはオール漕げるかな?」
「クマー」
掴むことはできないので、片側のオールを押したり引いたりするくらいだけど……。
花丸「なるほど……ポケモンに手伝ってもらうのはいい案ずら」
ルビィ「うん、コランは引っ張ってね」
「ピピピ」
コランには縄を括り付けながら、言う。
花丸「引っ張るだけなら、ゴンベ!」
「ゴン」
ゴンベが水しぶきをあげながら、着水する。
花丸「ゴンベなら泳げるし、重量があると効率がいいずら! お願いずら」
「ゴンッ」
花丸ちゃんが船の上から縄を投げ渡す。
花丸「よっし……マルももうちょっと頑張るずら」
ルビィ「うん、頑張って進もうか」
二人と三匹で頑張って船を前に進めます。
* * *
471 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:07:30.93 ID:IYa5VeT80
──さて、気付けば日も暮れてきました。
ルビィたちは……。
花丸「も、もう無理ずら……」
ルビィ「ボート……漕ぐのって……結構、大変……だね……」
二人して、完全にばてていた。
「クーマー」
ヌイコグマさんは相変わらず頑張って漕いでくれてるけど……。
花丸「でも……もう少しずら……」
ゴンベとコランが引っ張ってくれたお陰で、向こう岸まで残り4分の1くらいのところまでは来ています。
ルビィ「ち、ちょっと休憩したら……また漕ごうか……」
花丸「うん、そうだね……」
二人して、空を仰ぎ見ると、夕闇の迫る空の中を、ヤミカラスやホーホーが飛んでいる。
──ふと、その中に。
ルビィ「ん……あれ、なんだろ?」
花丸「ずら?」
鳥ポケモンに紛れて、何か丸い物体が飛んでいる。
ルビィ「ポケモン……かな?」
ルビィは図鑑を開く。少し距離こそ離れていたけど、サーチは出来るみたい。
『フワンテ ふうせんポケモン 高さ:0.4m 重さ:1.2kg
あてもなく 浮かぶ 様子から 迷える 魂の 道標と
伝える 昔話も ある。 幼い子供の 手を 握り
あの世へと 連れ去る という。 重たい 子供は 嫌い。』
ルビィ「フワンテさん……」
花丸「ゴーストタイプのポケモンずら。日が暮れてきたから、出てきたのかな」
そのフワンテさん。どうやら、ルビィたちに気付いたのか、風に乗りながらふよふよとこっちに近付いてくる。
ルビィ「こっち来るね……」
花丸「マルたちを連れ去ろうとしてるのかも」
ルビィ「え、それってまずいんじゃ……」
花丸「って言っても、連れ去られるって言うのはもっとちっちゃい子供のことだよ。マルたちは持ち上がらないと思う」
ルビィ「それならいいんだけど……」
そう言ってる間に、フワンテさんはすぐそこまで近付いてきていました。
「プワプワー」
フワンテは鳴きながらルビィたちのお船の周りを漂っています。
ルビィ「なんか近く飛んでるけど……」
花丸「でも、連れ去ろうって感じじゃないよ」
472 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:09:22.49 ID:IYa5VeT80
確かに、図鑑には手を握ってくると書いてあったけど、今のところ周りを浮いているだけ。
「プワプワー」
花丸「人が珍しくて、出てきただけかもね」
ルビィ「人が珍しくて?」
花丸「今ってサイクリングロードが出来て、この川を渡る人ってほとんど居ないから……」
確かに言われてみれば貨物船みたいなのはときどき通るけど、貸しボートを使っている人はルビィたち以外には見当たらない。
花丸「風斬りの道だと、すぐに通り過ぎちゃうし……フワンテも久しぶりに人を見たから、寄ってきたんじゃないかな」
「プワプワー」
花丸ちゃんの言う通り、フワンテは依然、近くを浮遊しているだけ。
ルビィ「もしかして、遊んで欲しいのかな……」
ルビィは冗談めかして言ったつもりだったけど、
花丸「ふふ、その話……案外的を射てるかもね」
花丸ちゃんは笑いながらそう言う。
花丸「ゴーストポケモンが子供を攫う……なんて伝説は昔から聞くけど、本当は遊んで欲しいだけなのかもしれないし。攫うなんて表現も、結局はどこか一点からの視点に過ぎないずら」
「プワプワー」
ルビィ「フワンテさん、ルビィたちと遊びたいの?」
「プワプワー」
敵意は感じない。
おだやかな性格なのかもしれない。
船も穏やかに岸に近付いている。
「プワプワー」
フワンテさんは、ルビィの疑問に答えるかのように、ボートの中心辺りに降りてきた。
「プワプワー」
あれ? でも、こういう方法で油断させて、子供を連れ去ってるのかな……?
そんな疑問も頭の中には浮かんだけど、
「プワプワー」
花丸「退屈だったのかもね」
ルビィ「退屈?」
花丸「技術がどんどん進歩して、そうすると皆移動も早くなるから」
ルビィ「うん」
花丸「フワンテみたいなのんびり飛んでるポケモンはあんまり人の視界に入ることもなくなっちゃったのかもしれないよ」
「プワー」
依然フワンテは船の真ん中でぼんやりとしている。
ゴーストポケモンとこういう風に一緒の船に乗ることがあるなんて、想像してなかったかも……。
473 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:11:00.42 ID:IYa5VeT80
花丸「せっかくだし、フワンテも一緒に広い世界を見に行かない?」
「プワ?」
花丸「のんびり過ごすのもいいけど……きっとこの辺りをのんびり渡る人は、また当分来ないずら」
「プワー」
花丸ちゃんの言葉を聞いて、何か思うところがあったのか、フワンテはのんびりと花丸ちゃんの膝の上に飛んでいく。
花丸「うん、じゃあ一緒にいこっか」
花丸ちゃんがリュックからダークボールを取り出すと、
「プワ」
フワンテはそのボールに自分から飛び込んで行った。
花丸「フワンテ、ゲットずら」
ルビィ「ふふ、こんな出会い方もあるんだね」
捕獲というには穏やかすぎる光景になんだか笑ってしまう。
花丸「旅に出てから、ずっと忙しなかったけど……こういうのんびりした旅路も悪くないずら」
あともうちょっとで、岸に着く。
そんな最中にボートの上でぼんやり過ごしながら、夜空を仰ぐ花丸ちゃんの声は、
そのまま闇に掻き消えていきました。
474 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 00:11:55.88 ID:IYa5VeT80
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【6番道路】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ●___ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ o回/ ||
口=================口
主人公 ルビィ
手持ち アチャモ♂ Lv.14 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい
メレシー Lv.17 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき
アブリー♀ Lv.13 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき
ヌイコグマ♀ Lv.14 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:62匹 捕まえた数:5匹
主人公 花丸
手持ち ナエトル♂ Lv.17 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい
ゴンベ♂ Lv.17 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき
モココ♂ Lv.17 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい
キマワリ♂ Lv.17 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき
フワンテ♂ Lv.17 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:61匹 捕まえた数:24匹
ルビィと 花丸は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
475 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:02:28.85 ID:IYa5VeT80
■Chapter036 『ことり』 【SIDE You】
──サニータウンでゴーリキーを捕まえた翌日。
ことり「よっし、到着」
ことりさんのチルタリスに相乗りする形で、昼前にはセキレイシティに到着する。
曜「うわ、建物……たか……」
ウラノホシシティ出身の私は、都会の様相に圧倒されてしまう。
ことり「そこのビルはセキレイデパートって言って、いろんなお店が中に入ってるんだよ♪ 衣装のための生地とかも、たくさん置いてあるからあとで見にいこっか」
ことりさんはチルタリスをボールに戻しながら解説してくれる。
ことり「えっと、それじゃ……一旦私の家に──」
「あーことりちゃんだー!」「ことりちゃんー!」「ことりちゃんが帰ってきたー!」
家に向かおうとした矢先、子供たちがことりさんの元に集まってくる。
ことり「あ、みんな♪ ただいまー♪」
「あら、ことりちゃん、帰ったのね」「ことりさん、お帰りなさい」「お帰りなさい、ことりちゃん」
子供だけじゃなく、街行く人々も、ことりさんを見ると声を掛けてくる。
ことり「みんな、ただいま~♪」
子供1「ことりちゃん、バトル教えてー」
子供2「わたしはコンテストー」
子供3「ほかくのこと教えてー」
セキレイシティに降り立って数分も経っていないのに気付けば、ことりさんの周りには人だかりが出来ていた。
ことり「わわ、そんなにいっぺんにいろいろ出来ないから、またあとでねっ 曜ちゃん、一旦家までダッシュ!」
曜「え、ヨ、ヨーソロー!」
ことりさんが急に走り出したので、その後を追いかけるのであります。
* * *
ことりさんの家は、10階建てほどのマンションの最上階らしい。
今はそのマンションをエレベーターで昇っている。なんか、シティガールって感じ。
それにしても……。
曜「ことりさん、人気者なんだね」
老若男女問わず、街の皆がことりさんにフランクに声を掛けていたのが印象的だった。
476 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:04:01.76 ID:IYa5VeT80
ことり「んーまあ、ちょっとだけ有名人ってだけだよ」
さすがに元コンテストクイーン。自分が有名人という自覚は一応あるらしい。
ただ、あの慕われ方は有名人だからってだけじゃない気がする。
──昇降機は間もなく、最上階に到着して、扉が開く。
ことり「ことりの部屋は一番奥だよ。たぶん、曜ちゃんは今後出入りもすると思うから、あとで合鍵作っておくね」
曜「え、いいの……?」
ことり「もちろん♪ ただ、ちょっと家の中が騒がしいから、そこは我慢してもらう感じになっちゃうけど……」
曜「騒がしい……?」
家族がたくさんいる……とか?
私が首を傾げているのを傍目に、
ことり「みんな、ただいまー♪」
ことりさんが開いた戸瞬間、大量の羽が私の視界いっぱいに飛び出してきた。
曜「わっ!? な、なに!?」
ことり「ほら、曜ちゃんも。中に入っちゃって」
ことりさんに腕を引かれて、部屋の中に踏み入れると……そこは──
「ポポ」「クルックー」「カァカァ」「ドードー」「クワ」「ケラッケラッ」
鳥ポケモンだらけだった。
* * *
曜「ポッポ、マメパト、オニスズメ、スバメ、ムックル、ヤヤコマ、ツツケラ、カモネギ、ネイティ、チルット、ペラップ、ワシボン、バルチャイ……」
視界に入るだけでもかなりの種類の鳥ポケモンがこれでもかとたくさん居る。
「クルッポー」
ことり「マメパト、ただいま」
「ティ、ティ」
ことり「ネイティ、ただいま」
さっきから、ことりさんの元にはご主人の帰りに喜んでいるのか、鳥ポケモンがひっきりなしに寄って来ている。
ことり「あはは……ちょっと皆元気すぎるから、隣の部屋いこっか」
曜「あ、はーい……」
言われて、奥の部屋にいざなわれる。
奥の部屋の引き戸を開けると──
「ズバ」「ホー、ホー」「クピピピ」「カァ…」
477 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:05:46.83 ID:IYa5VeT80
遮光カーテンの閉められた部屋の中で今度は別の鳥ポケモンたちが眠っていた。
中には鳥じゃないポケモンいるけど……たぶん、全員ひこうタイプのポケモンだ。
曜「こ、この部屋も鳥ポケモンだらけ……」
ことり「賑やかなのが好きで……なんか気付いたらこんな感じになってたんだよね」
そういえば、フソウタウンで見たことりさんのホテルの部屋も、モクローがたくさんいてこんな感じだったかもしれない。
ことり「とりあえず、荷物だけまとめて、衣装案出すための用意しててくれる?」
曜「り、了解!」
ことりさんはそう言うと、近くの木箱から何かを取り出してる。ちょっと部屋が薄暗いのでわかりづらいが──あれは餌箱かな?
ことり「確かドードーの餌が減ってるなぁ……買い足しておかないと。あとは豆と……あのきのみは──」
もしかして、あの数の鳥ポケモンたちの好みとかも把握してるのかな……。
ことり「あ、そうだ。曜ちゃん」
曜「?」
ことり「もし可愛い子が居たら、一匹くらいなら連れていってもいいよ♪」
曜「連れていってもいいって……?」
ことり「よく街の子供たちにも、小鳥ポケモンとかをあげることがあるから……」
──なるほど。ここでようやく、ことりさんがあそこまで子供たちに懐かれている理由が少しわかった気がした。
ことり「鳥ポケモンって、扱いやすいし、育てやすいし、その上で一緒に冒険とかしてると、移動でも戦闘でも、最後まで頼りになるから、最初に触るポケモンとしてはうってつけだと思うんだよね」
曜「だから、子供たちに?」
ことり「うん♪ 子供の頃から、ポケモンと自然に触れ合えるようになるための準備みたいな感じかな」
やっぱり、というか。ただの有名人じゃないとは思っていたけど、ことりさんが人からもポケモンからも好かれるのはある意味当然なのかもしれない。そう思わせるだけの説得力があった。
部屋だって、ポケモンの生態に合わせて部屋が区分されてるし、餌箱も部屋ごとに各種揃っている。
しかも、ドアが引き戸になってるのも、小さな鳥ポケモンたちが挟まれてケガをしないための工夫なんじゃないだろうか。
ことり「あ、そっか……あとでコンテスト会場とジムの方にも顔出さないと……」
しかも、多忙なスケジュールをこなしながら……そういえば、フソウタウンに来てたのはコンテストの観覧のためだっけ……?
とてつもないバイタリティ……。
ことり「うーん……とりあえず、ジムが先かな。挑戦者が来てたら悪いもんね」
曜「?」
挑戦者?
曜「ことりさんってコーディネーターだよね?」
ことり「? うん、そうだよ?」
曜「ジムってポケモンジムだよね……? バトル用の施設にも行くの?」
ことり「……? ……あれ? 言ってなかったっけ?」
曜「え??」
ことり「──わたし、セキレイシティのジムリーダーだよ?」
478 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:06:53.61 ID:IYa5VeT80
* * *
梨子「よし……行こうかな」
サイクリングロードを抜け、セキレイシティで一日宿を取って過ごした私は、昼過ぎ頃にジムへと足を運ぶ。
ポケモンたちはポケモンセンターでしっかり回復させ、準備万端だ。
割と街中にあるポケモンジムの入口の前に立つ。
……が、中から人の気配がしない。
梨子「留守……かな?」
幸先が悪い……と思いながらも、とりあえずジムリーダーを探しに行こうと踵を返したとき、
「あれ? もしかして、梨子ちゃん?」
どこかで聞き覚えのある声がした。
振り返ると、アッシュグレーの髪にパーマの掛かった女の子。
確か……。
梨子「曜ちゃん?」
1番道路で千歌ちゃんと一緒に居た女の子……曜ちゃんだった。
曜「うわっ ホントに梨子ちゃんだ! 偶然だね!」
梨子「う、うん」
曜「もしかして、これからジムリーダーに挑戦?」
梨子「あ、うん。そのつもりだったんだけど……今は留守みたいで」
曜「それなら、グッドタイミングだよ!」
梨子「え?」
曜「ちょうど今来るところだから……」
曜ちゃんが振り返りながら、そういう。
視線を追うと、
「ねー、ことりちゃーん」「ことりちゃーん」
ことり「ご、ごめんねー 今はちょっとジムに向かわないとだからー」
子供の群れの中を歩く特徴的な髪型をした女性が居た。
曜「ことりさん!」
ことり「んー?」
曜「ちょうど挑戦者の人、来たみたいだよ」
ことり「あ、うん」
──ことりさん。確かにセキレイジムのジムリーダーはそんな名前だったはずだ。
479 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:07:49.03 ID:IYa5VeT80
ことり「こんにちは、あなたが挑戦者さん?」
梨子「あ、はい。梨子です」
曜「梨子ちゃんは、私と一緒に最初の三匹と図鑑を貰った子なんだよ」
ことり「そうなんだー……。……そうなの?」
曜「? ことりさん?」
目の前にいる、ジムリーダーのことりさんはなんだか複雑な表情をしていた。
梨子「……?」
そのまま、私を凝視している。
ことり「…………」
梨子「あ、あのー……」
ことり「あ、ごめんね。いきなりジロジロみられても困っちゃうよね」
梨子「い、いえ……」
ことり「挑戦者って他に待ってる人とかいる?」
梨子「特に居ませんけど……」
ことり「ん、そっか……」
梨子「……??」
なんだろう、このやり取り。
梨子「えっと、その……ジムバトル、よろしくお願いします」
とりあえず、私はことりさんに向かって頭を下げた。
ことり「え? ああ、うーん……」
……うーん?
ことり「えっと、梨子ちゃんって言ったかな」
梨子「は、はい」
ことり「ごめんね」
梨子「……?」
ことり「──あなたとはちょっと、バトル出来ないかな」
梨子「……なっ」
曜「え!?」
ことり「じゃあ、待ってる人も他にいないなら、とりあえずコンテスト会場の方に……」
梨子「ち、ちょっと待ってください!!」
突然有無を言わさず、挑戦を拒否され、私は抗議の声をあげる。
梨子「ジムリーダーは原則チャレンジャーの挑戦を断らないんじゃないんですか!?」
ことり「一応そういう人は多いけど……断っちゃいけないわけじゃないよ」
いや、そういう問題じゃない。
480 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:08:35.48 ID:IYa5VeT80
梨子「ジム戦をしてもらわないと──」
ことり「バッジが貰えない?」
梨子「……っ そ、そうです!」
食い下がると、ことりさんは再び「うーん」と、何かを考えてから、
ことり「ジムバッジってさ、ジムリーダーがトレーナーを認めた証として、トレーナーに渡すものだよね」
梨子「そ、そうですけど……」
ことり「もし、今あなたと戦っても……あなたはわたしに勝てないし……わたしが認められるようなトレーナーでもないから、どっちにしろジムバトルをしたところで、バッジはあげられないよ?」
梨子「なっ!?」
──意味がわからない。
梨子「やってもいないのに、どうしてそんなことが言えるんですかっ!!」
思わず語気が荒くなる。
曜「ち、ちょっと、ことりさん……いくらなんでもそれは」
ことり「わかるよ。ジムリーダーだもん」
梨子「……な、なんですか、それ……!!」
頭に血が昇っている。いや、落ち着け……この人は何故か本気でそう思ってるんだ。
──なら……。
梨子「それなら……バトルで勝って認めさせます。とにかく、バトルを受けてください……!」
ことり「……はぁ、わかった。今ジムを空けるね」
梨子「……お願いします」
こういうときこそ、バトルで実力を誇示するしかない。
私はことりさんと一緒にジムへと入っていった。
* * *
ことりさんはバトルスペースに移動すると、
ことり「モクロー、お願い」
「ホホー」
早速ポケモンを繰り出した。
図鑑を確認すると、
『モクロー Lv.30』
ことり「えっと、梨子ちゃんが今持ってるジムバッジは3個だよね?」
梨子「はい」
481 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:09:12.59 ID:IYa5VeT80
おおよそ、繰り出してきたポケモンのレベルは適正値だ。
あんなことを言っていた手前だ。本気の手持ちを出されて負けるのは、あまりにチャレンジャーに優しくない。
だけど、とりあえず、そういうことはなさそうだ。
ことり「じゃあ、バトルのルール説明」
何か特殊なルールが来るのかと身構えていると。
ことり「ことりの使用ポケモン1体。このモクロー。梨子ちゃんは何匹ポケモンを使ってもいいよ」
梨子「……は?」
ことり「6匹全部使ってもいいし、3匹でも1匹でもいいよ」
梨子「……」
ことり「あ、心配しないで。梨子ちゃんが勝ったら、ちゃんとバッジはあげるから」
何故、この人はここまで私と向き合わないんだろう。
ずっとそれが頭の中をぐるぐるとしていたけど……。
梨子「わかりました……」
もういい。とにかく、
梨子「私が勝ちます……メブキジカ!!」
私はメブキジカのボールを放った──。
* * *
482 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:09:47.38 ID:IYa5VeT80
千歌「んーっ やっと着いた! 都会だー!」
「マグ」
サイクリングロードを抜けて、セキレイシティに着いた頃には、もう夕方前。
千歌「とりあえず、ジム! いこ、マグマラシ!」
「マグッ」
セキレイシティの街を走り出すと、割とすぐポケモンジムが見えてくる。
千歌「ジム! 早速発見!」
ジムの入り口に立った瞬間。
──pipipipipipipipi!!!!
千歌「わわっ!?」
ポケットに入れた図鑑が鳴り響く。
それと同時に、ジムのドアが開いて。
曜「り、梨子ちゃん……!」
梨子「…………」
そこには、見知った二人の女の子。
千歌「梨子ちゃん……曜ちゃん……?」
曜「ち、千歌ちゃん!?」
梨子「……千歌ちゃん……」
──pipipipipipipipipi......!!!!!
三つの図鑑が揃って共鳴音を響かせていました。
483 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:10:39.24 ID:IYa5VeT80
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ o回/ ||
口=================口
主人公 千歌
手持ち マグマラシ♂ Lv.28 特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
トリミアン♀ Lv.24 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
ムクバード♂ Lv.26 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
ルガルガン♂ Lv.28 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
タマゴ なかから おとが きこえてくる! もうすぐ うまれそう!
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:81匹 捕まえた数:9匹
主人公 梨子
手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
チェリム♀ Lv.28 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:7匹
主人公 曜
手持ち カメール♀ Lv.22 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
ラプラス♀ Lv.25 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
ホエルコ♀ Lv.20 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
ダダリン Lv.26 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
ゴーリキー♂ Lv.28 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:89匹 捕まえた数:17匹
千歌と 梨子と 曜は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
484 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:27:01.37 ID:IYa5VeT80
■Chapter037 『再会、幼馴染』 【SIDE Chika】
──pipipipipipipi......!!!!!!!
梨子「千歌……ちゃん……」
ジムから出てきた、梨子ちゃん。
だが、様子がおかしい。
千歌「梨子ちゃん……?」
私が梨子ちゃんに声を掛けると、曜ちゃんもハッとしたように梨子ちゃんに声を掛ける。
曜「あ、えっと……梨子ちゃん……その」
梨子「…………」
だけど、梨子ちゃんは暗い表情で俯いたまま。
曜「あ、あのね、ことりさん普段はああいう感じじゃなくて……」
梨子「ごめんなさい……」
取り繕うように言う曜ちゃんの言葉を振りほどくように、
梨子「……一人にして……」
梨子ちゃんは、その場から逃げるように走り去ってしまう。
千歌「梨子ちゃん……?」
会ってから、一度も私と目を合わせることなく、梨子ちゃんは行ってしまった。
……正直、何がなにやらと言ったところなんだけど、
曜「……」
千歌「……んと、曜ちゃん久しぶり?」
曜「う、うん……」
なんだか、変な空気になってしまっている。
どうしようかなと思っていると、曜ちゃんの後ろから──
ことり「ん、この音って……図鑑の共鳴音かな?」
胸には綺麗な光るネックレス。長い髪を頭の右側で特徴的な結び方をしている女性が顔を出す。
そう言えば図鑑……鳴りっぱなしだった。
曜ちゃんも同じことを思ったのか、二人で図鑑のボタンを押して音を止める。
485 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:28:27.64 ID:IYa5VeT80
曜「ことりさん……」
ことり「ん……じゃあ、その子が曜ちゃんが言ってた千歌ちゃんかな?」
千歌「え、えと……はい、千歌です」
ことり「ふふ♪ 曜ちゃんからお話は何度も聞いてたよ。わたしはことり。セキレイジムのジムリーダーです♪」
千歌「! ジムリーダー……!」
私はジムリーダーという単語に思わず反応してしまう。
ことり「あ、でも、ごめんね……もう今日はちょっと遅いから、ジム戦は明日じゃダメかな?」
言われて、気付いたが、夕日が沈んで夜の時間が始まっている。
千歌「わかりました」
私がことりさんの言葉に頷くと、
ことり「じー……」
ことりさんは何故か私のことをじっと見つめていた。
千歌「な、なんですか……?」
曜「…………」
ことり「マグマラシ、ムクバード、ルガルガン……それと、トリミアンだね」
千歌「……え?」
ことり「それじゃ、明日ジムに来てね」
千歌「え、は、はい……」
曜「ほ……」
何故か手持ちを言い当てられる。
誰かに教えてもらってた……のかな?
ことり「千歌ちゃんは今日の宿泊先とか決まってる?」
千歌「あ、いえ……」
ことり「じゃあ、わたしの家に泊まっていいよ♪」
千歌「え、いいんですか?」
ことり「うん♪ 同郷の子なら、曜ちゃんと積もる話もあるだろうし♪ 曜ちゃん、鍵お願いね」
曜「ヨ、ヨーソロー!」
そう言って、ことりさんは曜ちゃんに鍵を手渡す。
千歌「曜ちゃんもことりさんの家に泊まってるの??」
曜「ん、まあ、いろいろあって……」
ことり「ふふ♪ ことりはまだちょっと用事があって、帰りは遅くなると思うから、ベランダの窓だけ開けておいてくれると嬉しいな♪」
曜「り、了解」
ことり「それじゃ」
そう言って、ことりさんは歩き出してから、すぐに街角の脇道の入っていって、見えなくなった。
486 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:30:21.42 ID:IYa5VeT80
千歌「……」
曜「千歌ちゃん、とりあえず、移動しようか」
千歌「あ、うん」
私は曜ちゃんに促されて、ひとまずことりさんの家に向かうことになりました。
* * *
「クルッポー」「ホーホ」「ポポ」「カァー」
千歌「なにこれ……」
曜「まあ、そうなるよね」
ことりさんの家に辿りつき、鳥ポケモンの楽園を見て唖然とする。
千歌「これ全部ことりさんのポケモンなの?」
曜「そうみたいだよ。えっと、玄関の鍵閉めて──ってオートロックか……窓の鍵は開けておいて欲しいって言ってたっけ……どこの部屋の窓だろ」
曜ちゃんが、戸惑いながら戸締りをしていると、
「ホーホ」
一匹の丸っこいフクロウみたいなポケモンが近くに飛んでくる。
「ホーホ」
曜「あ、モクロー。案内してくれるの?」
「ホーホ」
モクローと呼ばれたポケモンはそのまま、室内を音もなく飛んでいく。
曜「千歌ちゃんはどっかに座って待ってて」
千歌「あ、うん」
とりあえず、リビングの中央に置かれているソファーに近付くと、
「ピピ」「ピピピィ」「ピピピ」
ムックルの群れがひしめいていた。
千歌「ムックルがいっぱい……ムクバードとなら、仲良く出来るかな?」
そう思ってムクバードをボールから出す。
「ピピピィ」
「ピーピー」「ピピー」「ピピピー」
鳴き声をあげて、コミュニケーションを取り出す。
何言ってるのかはわからないけど、悪い雰囲気ではなさそう。
程なくして、群れの中にムクバードが入っていく。
千歌「ふっふっふ……やっぱり、チカの目に狂いはなかったね」
曜「千歌ちゃんって、なんかそういうの得意だよね」
487 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:32:08.50 ID:IYa5VeT80
気付くと曜ちゃんがモクローと一緒に戻ってきていた。
千歌「そういうの?」
曜「なんか、仲良くなれそうな人とかポケモンとか、見つけるの?」
千歌「んー、どうだろ」
曜「ちっちゃい頃からあっちこっちで野生のポケモンと仲良くなってた気がするよ。……まあ、同じくらいケンカもしてた気がするけど」
確かに、家に帰るたびに美渡姉から、危ないことするなって叱られてた気はする。
千歌「あはは……確かに、そうなのかも」
毎日が冒険だったからなぁ、ちっちゃい頃は、
曜「だから、なんか安心した」
千歌「安心?」
曜「ああ、千歌ちゃんだ……って」
千歌「曜ちゃん……」
曜「千歌ちゃんの旅の話、聞かせてよ!」
千歌「うん! 私も曜ちゃんの話も聞きたい!」
ことりさんの言う通り、私たちには積もる話がたくさんあるみたいです。
* * *
──さて、二人で旅の近況を交えて話をする。
──私が3つのポケモンジムを突破したこと、
千歌「これがバッジだよっ」
曜「わ、本物! ダイヤさんに見せて貰ったのみたい」
千歌「みたいじゃなくて、本物だからねっ! ……コメットバッジ、ファームバッジ、スマイルバッジ──」
──
────
──曜ちゃんがポケモンコーディネーターになったこと。
千歌「コンテストかぁ……そういえば、お姉ちゃんたちが好きだったかも」
曜「うん、フソウタウンで志満姉に偶然会っていろいろ教えてもらったよ」
千歌「あー……志満姉、確かにおやすみの日はコンテスト見に行ってること多かったかも──」
──
────
──そして、ことりさんに弟子入りしたこと。
488 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:34:25.51 ID:IYa5VeT80
千歌「ジ、ジムリーダーの弟子……急に曜ちゃんが遠い存在に……」
曜「あはは……とは言っても、コンテストの、だけど。実戦はこれからだし」
千歌「でも、ことりさんって、コンテストでもすごい人なんでしょ? そんな人に見込まれたってことは、曜ちゃんきっと才能あるんだよ!」
曜「だといいなぁ……」
ことりさんの話題が出て、ふと思い出す。
千歌「そういえば、ことりさんにチカの手持ちを教えたのって、曜ちゃん?」
曜「え?」
千歌「ほら、ジムの前で手持ち言い当てられたから……」
曜「ううん、私じゃないよ。……というか、私さっきまで千歌ちゃんの今の手持ち知らなかったし……」
言われてみれば、そうだった。
別に連絡取り合ってたわけじゃないもんね。
千歌「じゃあ、梨子ちゃん……?」
私の手持ちを知ってる人だと、そうなるかな??
そんなことを考えながら、頭を捻っていると。
曜「えっとね……ことりさんは、なんかわかるみたいなんだよね」
千歌「なんかわかる……? 何が?」
曜「うーんと……ポケモンの持ってる独特の雰囲気とか気持ち、みたいなのって本人は言ってたけど……」
千歌「……? え、じゃあボールから出さなくても、なんとなく人の持ってるポケモンがわかるってこと?」
曜「そうみたい。ただ、ボールに入ってる状態だと、多少わかりづらくなるから、基本はボールの外に出してるのがいいんだってさ」
曜ちゃんがそう言いながら、室内を自由に飛ぶ小鳥ポケモンたちを目で追う。
千歌「だから、こんなことになってるんだ……」
曜「あはは……でも、それくらい強い感性だからこそ、一度はコンテストの大舞台で頂点に立てたのかもしれないなって思うと、ね」
千歌「感性かぁ……」
私はコンテストとか、芸術とか、なにか表現するみたいなことは今のところ考えてないからなぁ……。
……そういえば、芸術と言えば……。
千歌「……あのさ」
曜「うん?」
千歌「梨子ちゃん……何かあったの?」
曜「……」
曜ちゃんがこの話題を避けていたのは、なんとなく気付いていたけど、
千歌「別に言いたくないなら、無理には聞かないけど……」
曜「言いたくない、というか……」
曜ちゃんは目を泳がせる。
489 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:35:52.20 ID:IYa5VeT80
曜「……梨子ちゃん、セキレイジムに挑戦しに来たんだけど……」
千歌「うん」
曜「最初、ことりさんは挑戦を断ったんだよね」
千歌「? どうして?」
曜「それがよくわからなくて……結局、梨子ちゃんが勝って証明するって説得して、バトルを始めたんだけど──」
そう前置いて、曜ちゃんは梨子ちゃんのジムバトルの話を始めました。
────────
──────
────
──
梨子「メブキジカ!! “メガホーン”!!」
「ブルル!!!」
梨子ちゃんのメブキジカがモクローを下からツノで突き上げる。
メブキジカがブン、とツノを振り上げると、
「ホー、ホー」
そのツノの上にモクローが止まっている。
ことり「……」
梨子「なっ!?」
ことり「力任せに攻撃しても、モクローは身のこなしが軽いからダメージにならないよ」
そのまま、ツノを伝って、モクローがメブキジカの頭に降りてくる。
梨子「め、メブキジカ! 一旦下がって──」
ことり「モクロー、“おどろかす”」
「ホーー!!」
モクローはそのまま、顔を突き出すようにメブキジカの顔の周りに羽根をばら撒く。
「ブルゥ!?」
驚いて怯んだ、メブキジカの横っ面に、
蹴りを叩き込む、
「ブルルゥッ!!!!」
梨子「め、メブキジカ! 下がって!!」
メブキジカが指示を聞き、後ろに跳躍すると、何かに脚を取られたかのように体勢を崩したあと、
──ボンッ、と音を立てて地面が爆ぜる。
梨子「なっ!!?」
「ブルル…」
490 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:37:45.34 ID:IYa5VeT80
そのまま、メブキジカはユラリと地面に崩れ落ちた。戦闘不能だ。
梨子ちゃんが戦っている姿は、1番道路で見たけど……。
あのとき千歌ちゃんを圧倒していたのが嘘のように、一方的にやられてしまった。
梨子「…………嘘」
ことり「何されたか、わかんなかったって顔だね」
私はバトルをことりさんの後ろで見ていたから、なんとなくわかったけど……。
“おどろかす”際にフィールド上に“フェザーダンス”をばら撒き、そのまま“ふいうち”で蹴りをお見舞い。
下がったメブキジカの足元に“くさむすび”を使って、転ばせ“フェザーダンス”の中に紛れ込ませていた“タネばくだん”が爆発した。
ことり「……そのメブキジカ、梨子ちゃんが育てたポケモンじゃないよね」
梨子「……!?」
ことりさんの言葉で梨子ちゃんがビクッと体を震わせた。
ことり「……人から貰ったポケモンだね。ちっちゃい頃から、一緒だったのかな」
梨子「な、なにいって……メブキジカッ、戻って!」
メブキジカをボールに戻して、次に構えたボールから、
梨子「ペラッ──」
ことり「次はペラップかな?」
梨子「……!!」
「オハヨーオハヨー」
梨子ちゃんはぶんぶんと頭を左右に振る。
まるでことりさんの言葉を掻き消すかのように、
梨子「ペラップ!! “ばくおんぱ”っ!!!」
「オハヨーーーーゴザイマーーース!!!!!」
「ホホーーホッ!!」
ペラップから発せられるとてもつもない、爆音。
曜「う、うるさ……!!」
モクローが怯んだ隙を見て、梨子ちゃんのペラップは次の技。
梨子「ペラップ! “わるだくみ”!」
“わるだくみ”──特攻をあげる技だ。
ことり「“くろいきり”」
「ホー」
梨子「!」
一方ことりさんは“くろいきり”。
あげた能力を元に戻す技で対応する。
梨子「ペ、ペラップ、もう一発……!!」
491 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:39:54.26 ID:IYa5VeT80
即座に対応され、梨子ちゃんが僅かに動揺し、一瞬見せた隙に、
「ホー」
モクローが空を蹴って、弾丸のように飛び出した。
梨子「!!? ペ、ペラップ、避けてっ!?」
ことり「“はがねのつばさ”!!」
「ホーー!!!」
「ペラッ!!?」
そのまま、硬い翼で叩かれた、ペラップが後ろに転がる。
ことり「“ばくおんぱ”を使ってて、気付かなかったのかもだけど……モクローは“こうごうせい”で回復しながら、技を受けてたんだよ」
梨子「そん、な……」
自慢の音波攻撃もハナから避ける気がなかったモクローは回復を決め込んでいた。
梨子「……ペラップ」
ことり「“ばくおんぱ”に“メガホーン”……強い技だね」
梨子「だ、だったら、なんですか……」
ことり「ううん、いいと思うよ。バトルだもん。強い技で相手を圧倒して、勝ち続ければいいもんね」
ことり「──それが自分の育てたポケモンじゃなくても」
梨子「……!!」
また、梨子ちゃんの肩がビクリと跳ねた。
ことり「次は、ドーブル? チェリム?」
梨子「ペラップ、戻って……チェリム」
「チェリ…」
ことり「!」
ことりさんはチェリムを見て、少しだけ意外そうな顔をした、が。
梨子「チェリム、“にほんばれ”!」
「チェリリ!!!」
ことり「モクロー! “ついばむ”!」
「ホホー」
晴れと共に“フラワーギフト”で姿を変えるチェリムに、モクローが嘴を立てる。
「チェリ!!!」
チェリムは一瞬怯みこそしたが、すぐに攻撃の態勢を整え、
梨子「チェリムッ!!! “ウェザーボール”!!!」
「チェリッ!!!!」
チェリムから、メラメラと燃える太陽のような球体が打ち出された。
ことり「! モクロー! “つるぎのまい”!」
「ホホー」
492 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:41:15.43 ID:IYa5VeT80
モクローは回転し、舞いながら、炎球に包まれる。
その炎の中から、
梨子「!!」
切り裂くように、真っ黒な影のような爪が飛び出す!
ことり「“シャドークロー”!!」
「ホーー!!!!」
モクローは脚を叩き付けるように、上から下に薙ぐ。
梨子「チェリムッ!!」
「チェリッ!?」
その脚に上から蹴り込まれ、地面を跳ねて、中空に浮き上がり、
「チェリ…」
ジムの床を何度かバウンドしたあと、チェリムは気絶した。戦闘不能だ
ことり「……」
梨子「チェリム……戻れ……」
圧倒的だった。
ことりさんのモクローは梨子ちゃんのポケモン三匹を相手して、ほとんどダメージを負っていない。
ことり「ねぇ、梨子ちゃん」
梨子「……」
ことり「わかったかな」
梨子「…………」
ことり「……次出さないの?」
ことりさんに言われて、梨子ちゃんが弱々しく、ボールに手を掛けた、が……。
梨子「……っ……」
梨子ちゃんは次の手持ちを出すことなく……腕を下ろした。
ことり「……」
梨子「……こんなやり方、楽しいですか……」
曜「梨子ちゃん……?」
梨子ちゃんは声を震わせながら、ことりさんを見ていた。
ことり「楽しくないよ。だから、断ったんだもん」
梨子「……っ……!! ……貴方はジムリーダーで強いから……私の気持ちも焦りも……わかんないかもしれないですけど……!!」
ことり「……」
梨子ちゃんは自分のバトルスペースから、ことりさんに向かって肩を怒らせながら歩いてくる。
493 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:43:56.58 ID:IYa5VeT80
梨子「私は前に進むために、必死で……だから──!!」
ことり「それは理由にならないよ」
梨子「……っ」
ことり「……理由になってないよ」
ことりさんは梨子ちゃん、そう告げた。
正直、二人がなんの話をしているのか、わからなかったけど、
ことりさんが梨子ちゃんに話しかけるその声は、酷く悲しそうな声な気がした。
梨子「…………」
梨子ちゃんは俯いてから──重々しく踵を返した。
曜「え、り、梨子ちゃん!?」
そのまま、重い足取りでジムから出て行こうとしている。
私は咄嗟に梨子ちゃんを追いかける形でバトルスペースの脇を走る。
──その折に、背後からことりさんの声がした。
ことり「あなたは……何のために旅をしてるの……?」
その言葉に、一瞬、梨子ちゃんの足が止まった。
止まった、が。
梨子「…………」
梨子ちゃんはそれに答えず、また歩き出した。
ジムの出口に向かって。
──
────
──────
────────
曜「そのあとは千歌ちゃんの知ってる通りかな」
千歌「…………」
曜「正直、ことりさんの梨子ちゃんへの態度には私もちょっと疑問を感じたんだけど……」
千歌「けど……?」
曜「……ことりさん、梨子ちゃんを嫌って断った、って言うのとは少し違った気はした……かも」
千歌「そっか……」
千歌はソファーの上で腕を組みながら、
梨子ちゃんを追いかけるべきなのかを考えていた……が。
梨子『ごめんなさい…………一人にして……』
そう言って去る梨子ちゃんを思い出して、
千歌「……」
494 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:45:31.21 ID:IYa5VeT80
追いかけて、どんな言葉を掛ければいいのか、その答えがわからなかった。
……それに、ダリアジムのときもそうだったけど、
ここで梨子ちゃんを無理に追いかけても、それが梨子ちゃんの負い目になるんじゃないか、とか……。
千歌「曜ちゃんは……」
曜「ん……?」
千歌「曜ちゃんは、どう思ったの……?」
私の質問に、曜ちゃんは少しだけ難しそうな顔をして、
曜「……ほっといて良いのかは、私も迷ったけど……。事情がよくわからないし……何を言えばいいのかわからなかった、というか」
私と同じような感想を言う。
千歌「そう、だよね……」
とにもかくにも……梨子ちゃんを追いかけようが、追いかけまいが、
私にも自分の旅がある。目的がある。今やることは……。
千歌「今はセキレイジムに挑戦すること……だよね」
そう、自問自答していた。
* * *
梨子「……痛っ……」
日もとっぷりと暮れて、暗くなった道路をとぼとぼと歩く。
気付けば、靴擦れを起こしたのか、足が痛む。
「ブルル…」
メブキジカが、服を引っ張ってくる。
乗れ、ということだろう。
……けど、
梨子「……いい、自分で歩く……」
ことりさんの言葉が頭の中で木霊する。
『──それが自分のポケモンじゃなくても』
梨子「……っ」
悔しいが、返す言葉がなかった。
ただ……ただ、泣いてる暇なんてない。
ないんだ……。
セキレイジムが相手をしてくれないなら、次のジムへ進むしかない。
梨子「ローズシティに……」
495 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:47:45.28 ID:IYa5VeT80
私は夜の10番道路をとぼとぼと、ローズシティに向かって歩き続ける──。
* * *
にこ『──ルガルガンの件はそういう感じよ』
海未「そうですか……調査、御苦労様です」
現在、私──海未は、にこからの報告を受け、電話口に立っている。
海未「近日中に捕獲の人手を派遣するよう手配します」
にこ『お願いね、海未。あと、希の件も……』
海未「はい、順を追って理事長に伝えておきます」
にこ『助かるわ。そっち着いたら、仕事は代わるから』
海未「代わる……? 何の話ですか?」
にこ『あんた、働き詰めでしょ。ちょっと休暇取りなさい』
にこが電話口でそう言う。
海未「いや……こんな状況で休むわけには……」
そう返す私に、
にこ『こういうときだからこそ、休みなさい』
さらにピシャリと言い返される。
にこ『本当に何か起こったときにあんたが動けないのは、不味いのよ。わかるでしょ?』
海未「は、はい……」
普段は忘れがちだが、にこが自分より年上だったと、こういうときに思い出す。
にこ『じゃあ、出来るだけ早く戻るから、またね』
そう残して、にことの通話が切れる。
海未「…………」
通話の切れた電話を見て、顔を顰めていると、
「確かに、少し休んだ方がいいかもしれないわね」
背後から声がした。
海未「理事長……」
そこに居たのはポケモンリーグの理事。
理事長「休むことも仕事のうちですよ?」
海未「はい……」
496 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:49:29.61 ID:IYa5VeT80
人から見たら、そんなに私は仕事人間に見えるのでしょうか……。
そんな胸中を読んだのか、
理事長「最近ちゃんと寝ていますか?」
理事長にそう言われて、言葉に窮する。確かにここ数日、夜も忙しく、余り寝る時間が取れていなかった。
理事長「わかったのなら、今回のにこさんからの報告を整理するのを目処に、一旦まとまった休暇を取ってくださいね」
海未「……わかりました」
私が首を縦に振ると、理事長は踵を返して、
理事長「……たまには、ことりに会いに戻ってあげて?」
そう付け足してから、部屋を出て行った。
海未「……はぁ」
なんだか溜息が出てしまう。
次から次へと問題が浮上し、それに追われている。
地域のあちこちに人を派遣し、ジムリーダーたちからも密に報告を受けながら、本部で仕事をしていると、少し感覚が狂ってしまう。
──prrrrrrr....
そんなことを考えている端から、またジムリーダーの一人から電話が入っている。
ですが、その電話主の名前を見て、私は眉を顰めた。
海未「……ことり?」
今さっき名前が出た手前、タイムリーと言えばタイムリーなのですが……ことりの方から、連絡があるのは珍しい。
ことりは割と自分で解決したがる節がある。……誰に似たんだか。
海未「もしもし、海未ですが……」
ことり『うみちゃぁ~ん……』
受話器の先から聞こえる、甘ったるい声。
私はさっきとは別の意味で眉を顰めた。
海未「……ことり、もしかして飲んでますか?」
ことり『ちょびっとだけだよぉ~……』
海未「はぁ……貴方は酔うと片っ端から知り合いに電話を掛けるタイプですか……」
ことり『むー……いいもん、うみちゃんのいじわる……』
海未「はいはい……それでどうしたんですか?」
ことり『……うみちゃん……』
海未「はい」
ことり『……ことり……やっぱり、ジムリーダー向いてないかも……』
海未「……そんなことありませんよ」
最近は大分減ったのですが、ことりはたまにこういう電話をしてくることがある。
──正直、セキレイジムに関しては私は他人事ではないので、真剣に聞く義務があります。
497 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:54:15.67 ID:IYa5VeT80
ことり『そんなことあるよぉ……やっぱり、ジムリーダーはことりにはつとまらないよぉ……』
海未「あの大きな街で人からも、ポケモンからも信頼されているんですから、大丈夫ですよ」
ことり『そうかなぁ……ことり……海未ちゃんや……穂乃果ちゃんみたいに…………うまく……っ……できなくて……っ……』
海未「ことり……大丈夫ですよ。貴方がよくやっていると思いますよ」
ことり『……うん…………』
受け答えをしながら、本当に一旦休暇を取って──たまにはことりに会いに戻ろう。……私はそんなことを考えていました。
* * *
──夜。ことりさんの家。
千歌「……ん?」
曜「千歌ちゃん?」
腰に付けたボールが震えているのに、気付く。
千歌「このボール……」
ボールから、外に出すと、
曜「うわ、これポケモンのタマゴ?」
千歌「うん、育て屋さんで貰ったタマゴなんだけど……」
タマゴが揺れていた。
曜「こ、これってもしかして……」
千歌「生まれるところ……!」
初めて見るポケモンの孵化。
──パキ、パキパキ、と音を立てて、タマゴにヒビが入る。
タマゴが割れる瞬間。
千歌「わっ!?」
曜「まぶしっ」
タマゴが眩く光って、
千歌「ん──」
目を開けると、そこには……。
「リュオ…」
小柄の青いポケモンがちょこんと座っていた。
千歌・曜「「か、かわいい……!」」
498 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:55:23.92 ID:IYa5VeT80
思わず、曜ちゃんと声が揃う。
『リオル はもんポケモン 高さ:0.7m 重さ:20.2kg
体から 発する 波導は 怖いとき 悲しい時に
強まり ピンチを 仲間に 伝える。 感情を
波の形 として 見分ける 不思議な力を 持つ。』
「リュォ…?」
千歌「リオル……かわいい」
「リュオ」
私が声をあげると、よちよちとリオルは私の近くに寄って来る。
千歌「! チカが“おや”だってわかるんだね」
「リュォ」
長い長い風斬りの道をずっと一緒に連れ歩いていたからかもしれない。
産まれたてでも、私を“おや”だと認識して、近寄ってくるリオルを思わず抱き上げた。
千歌「リオル、よろしくね」
「リュオ」
こうして、また一人仲間が増えた私たちの夜は更けていきます。
明日の戦い──セキレイジムのことりさんのとのバトルを控えて……。
* * *
──翌日。朝起きると、リビングに書置きがありました。
曜「千歌ちゃん、おはヨーソロー……」
千歌「曜ちゃん、おはよ」
曜「ん、これ……」
千歌「うん、ことりさんから」
書置きには、こう書かれていた。
『ジムで待ってます♪』
* * *
書置き通り、セキレイジムを訪れると、
ジムの奥の方に人影が見える。
ことり「千歌ちゃん、いらっしゃい♪」
千歌「お、おはようございます!」
──昨日の梨子ちゃんの話を聞いた手前、少し緊張はしていたけど……。
499 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:56:14.94 ID:IYa5VeT80
ことり「それじゃ、早速対戦はじめよっか♪」
どうやら、その心配は必要なさそう。
ことり「曜ちゃんはどっちで見る?」
曜「え、えっと……千歌ちゃんの応援を……」
ことり「あー! 酷いなぁ、曜ちゃんは師匠よりも友達なんだね……」
曜「え!? ご、ごめんなさいっ!?」
ことり「うそうそ♪ 冗談だよ♪」
ことりさんは朗らかに笑いながら、バトルスペースに移動する私に視線を送ってくる。
ことり「使用ポケモンは3体。先に使用ポケモンが2体戦闘不能になった方が負けだよ」
千歌「はい!」
両者、ボールを構える。
ことり「ふふ♪ セキレイジム・ジムリーダー『ゆるふわハミングバード』 ことり、負けないよ~♪」
ことりさんの声と共に二つのボールが宙を舞った──。
500 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 03:57:36.72 ID:IYa5VeT80
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】【10番道路】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. |●| | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ o回/ ||
口=================口
主人公 千歌
手持ち マグマラシ♂ Lv.28 特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
トリミアン♀ Lv.24 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
ムクバード♂ Lv.26 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
ルガルガン♂ Lv.28 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
リオル♂ Lv.1 特性:いたずらごころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:107匹 捕まえた数:10匹
主人公 曜
手持ち カメール♀ Lv.22 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
ラプラス♀ Lv.25 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
ホエルコ♀ Lv.20 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
ダダリン Lv.26 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
ゴーリキー♂ Lv.28 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:93匹 捕まえた数:17匹
主人公 梨子
手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
チェリム♀ Lv.29 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:77匹 捕まえた数:7匹
千歌と 曜と 梨子は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
501 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:01:37.38 ID:IYa5VeT80
■Chapter038 『決戦! セキレイジム!』
千歌「行くよ! しいたけ!」
「ワフッ」
ことり「モクロー、お願いっ!」
「ホホー」
ことりさんの一匹目はモクロー。
対してこちらは最近出番の少なかったトリミアンのしいたけ。
千歌「しいたけ! 今日は思いっきり暴れていいよ!」
「ワフッ」
千歌「“かみつく”!」
「ワォッ」
しいたけが床を蹴って走り出し、口を開く
ことり「“フェザーダンス”!」
「ホホー」
その開いた口に向かって、モクローが大量の羽で牽制、
「ワゥ!!」
ことり「そのまま、“みだれづき”!」
千歌「くっ! “コットンガード”!」
攻撃が2撃3撃……連続で嘴が突き立てられるが、
「ワフッ」
自慢の防御力でそれを凌ぐ、
ことり「モクロー、一旦引いて、“かげぶんしん”!」
「ホホー!」
モクローが後ろに飛び退きながら、分身を作り出す。
千歌「しいたけ!」
「ワゥ」
逃がさない……!
千歌「“とっしん”!!」
「ワフ!!!」
「ホホー!?」
分身たちには見向きもせず、しいたけは本体に的確に突進をぶちかます。
ことり「! “かぎわける”……!」
ことりさんは一瞬で気付く、しいたけが自慢の鼻で本体をかぎ分けていたことに、
ことり「モクロー、“はねやすめ”」
「ホー」
回復に転じてきた、けどこの機会を逃さず、畳み掛ける……!
502 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:02:35.56 ID:IYa5VeT80
千歌「しいたけ! もう一発!」
「ワフッ」
しいたけが再度の“とっしん”で畳みかけようとした瞬間、
──床が爆発する。
「ワォ!?」
千歌「!」
昨日、曜ちゃんに聞いてたのに、抜かった。“タネばくだん”を撒かれていた。
ことり「“つるぎのまい”」
「ホー」
しいたけと距離を取ったまま、モクローがくるくると舞い踊る。
「ワゥ…」
千歌「しいたけ、一旦落ち着いて」
「ワフ」
これ以上、爆弾を踏み抜いて、わざわざ自分からダメージを貰うのは良くない。
その間にモクローはことりさんの攻刃の舞を終えて、一旦ことりさんの元まで引き返していた。
ことり「モクロー、“バトンタッチ”」
「ホー」
ことりさんが技を指示すると、モクローはボールに戻っていく。
千歌「……交代?」
ことり「ただの交代じゃないよ♪ いけ、モクロー!」
「ホホーー!!!」
千歌「!? また、モクロー出てきた!?」
二匹目のモクローがボールから飛び出すなり、突っ込んでくる。
ことり「“リーフブレード”!!」
「ホホー!!!」
千歌「!」
回転しながら、弾丸のように飛んでくるモクロー、
しいたけは足場が悪い状態だけど……。
千歌「撃ち合う! “アイアンテール”!」
「ワフッ!!」
鉄のように硬質化した、尻尾で迎撃する。
──ガキッ、
硬いモノがぶつかり合う音がジムに響く。
千歌「しいたけ、そのまま打ち返して──」
バットの要領で……と思ったが、
「ホーホ、ホーホ!!!!」
千歌「!?」
503 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:04:14.43 ID:IYa5VeT80
しいたけとぶつかり合ったモクローの攻撃は相殺するどころか、そのまま回転速度を上げ始める、
──ギャリギャリギャリ、と、
小気味の良かったヒット音は、段々金属をすり合わせるような不快な音に代わっていく。
このまま撃ち合っても負ける──そんな予感が頭を過ぎり、
千歌「しいたけ! 攻撃やめ!」
「ワォ!」
尻尾を引かせる。
しいたけは激しく回転するモクローに弾かれる形で少し後ずさる。
一方モクローは、
「ホーホホーホホー!!!!」
さらに回転速度を高めながら、もう一度上空からしいたけに突撃しようと準備しているところだった。
千歌「! “あなをほる”!」
「ワンッ」
咄嗟に、指示。
しいたけが素早く潜るための穴を掘り、潜り込むと、
──ギュン、
さっきまでしいたけの居た場所を風と共にモクローが切り裂いた。
千歌「セ、セーフ……」
間一髪避けたはいいが……。
ことり「ふふ♪ “あなをほる”じゃ、モクローには攻撃できないね♪」
ことりさんの言う通り、空を飛んでいるモクローには効果がない。
モクロー……明らかに最初の子よりも攻撃力が高い。
別段レベルが高いわけじゃなさそうだけど……。
千歌「攻撃力があがった状態だった」
曜「──千歌ちゃん!」
その折、後ろから曜ちゃんの声が飛んでくる。
曜「“バトンタッチ”は前のポケモンの上昇した能力を引き継ぐ技だよ!」
千歌「! それなら! しいたけ!」
「ワッフ…」
もこ……っと、穴から顔を出したしいたけが、
ことり「モクロー! そこ!」
「ホー」
千歌「“ほえる”!」
「ヴォッフ!!!!!!」
504 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:05:38.54 ID:IYa5VeT80
大声で吠え掛かる、
ことり「!」
「ホホ!?」
その大きな鳴き声に驚いたモクローは、そのままことりさんの手持ちに戻っていき、
「ホホー」
ことりさんの手持ちから別のモクローを引きずり出す。
千歌「え、えっと……それは新しいモクロー……?」
ことり「ううん、最初に出してた子だよ」
モクローはことりさんの周りをパタパタと飛んでいる。
ことり「もう、曜ちゃん酷いなぁ……バトル中の人へのアドバイスは厳禁ですよ?」
曜「う……失礼しました」
曜ちゃんは叱られて恐縮してるけど、助かった。
千歌「ありがとう、一旦戻って、しいたけ」
「ワフ」
私はしいたけを一旦ボールに戻す。
ことり「じゃあ、ことりも交換。この子は最初からサポート要員のモクローだから」
そう言いながら、ことりさんも交換、
「ホホー」
再び2匹目のモクローで戦うようだ。
……どっちにしろ、しいたけじゃ攻撃の範囲的に受け気味になる。
なら──
私は2匹目を繰り出した。
* * *
千歌「ムクバード! “すてみタックル”!!」
「ピピィーーー!!!!」
交換と共に、私の元からムクバードが飛び出す。
ことり「! モクロー、“リーフブレード”!」
「ホホー」
モクローは高速で飛び込んできた、ムクバードに対して、再び回転しながら放たれる斬撃で攻撃する。
──ガイン、と
再び大きな音をあげながら、ムクバードは弾かれる、が
505 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:07:36.52 ID:IYa5VeT80
千歌「もう一発!!」
「ピピィーーー!!!!」
今度は“つるぎのまい”の隙を与えない。
ことり「モクロー」
「ホホ」
ことりさんは切り返すムクバードを、目で追いながら、
ことり「撃ち抜け、“ブレイブバード”!!!」
「ッホーーーーー!!!!!!」
指示を出す。
今度は一直線にムクバードに向かって、モクローが飛び出してくる。
千歌「ムクバード!! いっけぇーー!!」
「ピィィーーーー!!!!」
──真正面から、技が衝突する。
二匹の嘴が正面からぶつかり合い、
「ホーーー!!!!」
「ピーーー!!!!」
嘴同士がぶつかりあう硬い音と共に、二匹はお互いの攻撃の衝撃で僅かに軌道をずらされる形で再び中空を舞う。
──互角……!
だが、
ことり「“このは”!」
ことりさんの次の指示は早かった。
「ホー」
モクローの飛ぶ軌跡に木の葉が舞い散る。
ことり「そのまま“はっぱカッター”!!」
そして、舞い散る“このは”はそのまま刃物のように、四方八方から、ムクバードに降り注ぐ、
千歌「ム、ムクバード!!」
「ピピ!?」
一方私は判断が遅れた、
ムクバードは回避しきれず、
「ピピ!!!」
“はっぱカッター”を全身に受けながら、地面に向かって墜落する。
千歌「ムクバード!」
ことり「“ブレイブバード”!!」
「ホホー!!!」
ことりさんはそこに向かって容赦なく追い討ちを掛けようと次の指示を出す。
506 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:08:48.56 ID:IYa5VeT80
千歌「……っ!!」
次の手を──。
墜落して、土煙に隠れて見えない、ムクバードに次の指示を──。
「ピィィィイイイイイ!!!!!!!!」
千歌「!!」
ことり「!?」
突然ムクバードが甲高い声をあげた。
迎え撃つ、戦意を感じる鳴き声。
千歌「“リベンジ”!!!!」
私は思いっきり叫ぶ、
後の先の技、
「ホーーー!!!!」
──ズドン、と
立ち込める土煙に向かって、撃ち込まれるモクローの一閃。
「ピィィィイイイ!!!!!」
それを吹き飛ばすような気合いの鳴き声──いや、実際に吹き飛ばした。
「ホーーー!!!?」
土煙から、モクローだけが吹き飛ばされて、飛び出す。
──劣勢だったけど、気合いで打ち返した。
ことり「モ、モクロー! 体勢立て直して!」
「ホホーホ!?」
私は中空を舞う、モクローを目で追う。
標的を真っ直ぐ指差して、さっきのお返し、
千歌「ムクバード!! 撃ち抜け!!」
見よう見真似の“オウムがえし”!!
千歌「“ブレイブバード”!!!」
「ピィィイイイイ!!!!!!!」
ムクバードが健脚で地面を蹴って、飛び出した。
千歌「いっけぇーーー!!!!!!」
ことり「モクロー! “こうごうせい”!」
「ホー!!?」
モクローがコントロールを取り戻す前に、決める。
508 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:11:13.10 ID:IYa5VeT80
「ホ!!!?」
「ピピィイイイイ!!!!!!」
決死の一撃がモクローを捉えた、
「ホホ!!!!」
そのまま、突き飛ばされて、モクローがジムの天井と壁を跳ね回る。
千歌「そのまま、追撃!!」
最大の好機、最後の一撃を──
「ピ…」
千歌「!? ムクバード!!」
思った瞬間、攻撃を決めたムクバードはよろよろと力なく、地面に落ちて行った。
ことり「モクロー!? 大丈夫!?」
「ホ、ホー…」
モクローも慢心創意だったが、やはり最後の一撃が足りなかった。
千歌「ムクバード!!」
再びジムの床に墜落した、ムクバードに声を掛けるが、
「ピィ…」
ムクバードは弱々しく鳴き声をあげるだけだった。戦闘不能だ。
千歌「……っ……。ムクバード、ありがと、戻って」
私はボールにムクバードを戻す。
ことり「……“ブレイブバード”の反動がなかったら、こっちがやられてたね」
「ホホー」
見よう見真似で出した技だから、必要以上に反動が返って来てしまったのかもしれない。
でも、十分な仕事だ。
モクローを追い詰めてる、
このまま──
千歌「いけ、ルガル──」
次のポケモンを出そうとした瞬間。
腰のボールがカタカタと勝手に震えて、
千歌「??」
──ボムッという音とともに、
「リュォ!!」
リオルが飛び出した、
509 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:12:15.23 ID:IYa5VeT80
千歌「え、ちょ、リオル!?」
「リオー」
リオルはそのまま、フィールドで構えを取る。
千歌「リオルも、戦いたいの?」
「リオ!!」
リオルは私の問い掛けに元気一杯に答える。
──リオルは人やポケモンの感情に左右されるって図鑑に書いてあったし、もしかしたら私とムクバードの戦意をボールの中から感じて、戦いたくなったのかもしれない。
千歌「よっし……!! じゃあ、いこうか!! リオル!!」
「リオ!!!!」
一方で私とリオルのやり取りを見ていた、ことりさんが、
ことり「あのー、千歌ちゃん? 勝手に出てきちゃっただけなら、交換してもいいよ?」
そう提案してくる。
ことり「見たところ、そのリオル……タマゴから産まれたばっかりみたいだし」
確かに、産まれたてでレベルは低い、けど。
千歌「ダイジョブです!」
私は答える。
千歌「リオルのやる気、尊重したいから!」
「リオ!!!!」
ことり「! ふふ♪ そっか……!」
ことりさんは何故だか、その言葉を聞いて嬉しそうに笑った。
* * *
「リオ!!!!」
リオルが床を蹴って飛び出す。
ことり「モクロー! “このは”!」
「ホホー…」
一直線に突っ込んでくる、リオルに向かって、飛び出す木の葉。
だが、
千歌「リオル!!」
「リュオ!!!」
510 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:14:46.11 ID:IYa5VeT80
そのまま、地面を踏みしめて、体を捻る。
“このは”攻撃を迂回するように、外側に軌道をそらして、
滑るように、モクローの横側に素早く回りこむ。
ことり「“でんこうせっか”から“フェイント”!?」
「ホホ!!?」
モクローから見ると、この行動はリオルが消えたように見えるが、
ことりさんの視線が追いかける。
ことり「モクロー! 右!!」
「ホーー!!!」
モクローは言われたとおり咄嗟に自分の右側に翼を振るう、
力一杯足を踏み込んで、
「リオ!!!!!」
だが、産まれたてのリオルは、小さかった。
身を低くして翼を潜るように避けた後、
「リオォ!!!」
地面を擦るように、足を薙ぐ。
千歌「“ブレイズキック”!!!」
「リオォオ!!!!」
「ボッ…!!!」
深手を負って、動きが鈍っていたのもあっただろう、
力一杯踏み込んだのが、逆にリオルの攻撃を直撃させる要因になった。
いわば、“カウンター”だ。
「ホ…」
リオルの燃える蹴撃を食らった、モクローはコテンと力なく、床を転がった。
ことり「!」
ことりさんはその光景を見て、驚いたような顔をした。
ことり「モクロー戻って」
「ホ…」
戦闘不能になった、モクローをボールに戻す。
「リュオ…!!」
その場から、リオルが飛び退くように戻ってくる。
ことり「すごいね、そのリオル……産まれたばっかりなのに」
千歌「あはは……私も正直びっくりしてます」
「リオ!!」
ことり「……ふふ♪」
511 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:15:53.89 ID:IYa5VeT80
ことりさんは何故か笑いを漏らす。
千歌「?」
ことり「あ、ごめんね。久しぶりにすごく楽しいバトルしてるって思って」
千歌「ホントですか!?」
ジムリーダーにそう言われると、なんかむずがゆいかも。
ことり「うん♪ 千歌ちゃん予想外のこと、いっぱいしてきて、次何してくるかわかんなくて、ドキドキして、ワクワクして……」
ことりさんは一息吸ってから、
ことり「なんか、昔のこと思い出しちゃった♪ 私も旅してたときのこと」
ことりさんと目が合う。
千歌「えへへ、でもバトル、まだ終わってないですよ!」
ことり「うん♪ 最後まで楽しもう♪ お願い、チルタリス!!」
ことりさんの三匹目が繰り出される。
* * *
ことりさんの三匹目はチルタリス。
『チルタリス ハミングポケモン 高さ:1.1m 重さ:20.6kg
晴れた日 綿雲に 紛れながら 綿雲のような 翼で
大空を 自由に 飛び回る。 美しく 透き通った
ソプラノの 鳴き声で 心地の 良い ハミングをする。』
千歌「リオル、いける!?」
「リュオ!!!」
リオルが地面を踏みしめる。
千歌「よし、GO!!!」
「リオ!!!」
私の合図でリオルが飛び出す。
ことり「真っ向勝負、断れないよね!」
チルタリスはふわりと羽ばたいたあと、
ことり「“ドラゴンダイブ”!!」
「チルー」
そのまま、重力に身を任せて落下してくる。
千歌「迎撃! “スカイアッパー”!!」
「リッオ!!!」
512 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:17:46.49 ID:IYa5VeT80
リオルは地を蹴って、落ちてくるチルタリスにアッパーを繰り出す。
両者の攻撃がぶつかりあうが、
「リュオ…!!」
リオルはチルタリスの綿雲のような突撃に、押し負けるように、地面に向かって吹っ飛ばされる。
千歌「! リオル!」
「リォッ!!」
リオルは咄嗟に受身を取って、すぐに体勢を立て直すが、
ことり「このままいって!!」
「チルゥゥ!!」
吹き飛ばされたリオルを、そのまま押し潰す勢いでチルタリスが迫る。
千歌「“みきり”!」
「リュオ!!!!」
指示は出した、が、
リオルの上に──ズン、とチルタリスがのしかかる。
「チル…」
──いや……。
ことり「チルタリス! 羽の間っ!!」
「チル!!」
さすがに二度目は対応が早い、が
「リオ!!!」
小さな体躯を生かして、羽の隙間に潜り込んだリオルがジャンプで飛び出す。
千歌「“ダブルチョップ”!!」
「リオ!!!」
チルタリスの顔に向かって、連撃のチョップをお見舞いする。
「チル!!!」
千歌「よし、効いてる!!」
ことり「チルタリス! “ドラゴンクロー”!」
千歌「“バレットパンチ”!!」
チルタリスの爪とリオルの弾丸拳が弾けて、その反動でリオルは後ろに飛ぶ。
軽い身のこなしでうまく、攻撃をいなせてる。
このまま、畳み掛ける──
千歌「リオル! “クロスチョップ”!」
リオルに次なる指示を出す。
が、
そのとき、リオルに異変が起きた。
513 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:18:44.59 ID:IYa5VeT80
「リュオ…」
千歌「!? リオル!?」
──突然、リオルがぼんやりとフィールド上で立ち尽くす。
何かダメージを受けた……!?
ことり「! “りゅうのはどう”!!」
その隙をことりさんは見逃さない。
「チルゥ…!!」
チルタリスの口にドラゴンタイプのエネルギーが収束される。
千歌「リオル!! 避けて!!」
「リオ…」
千歌「リオル!!」
「チル…!!!」
チルタリスの攻撃がリオルに向かって、撃ち出される。
──瞬間。
「リオ…!!!」
リオルが光り輝いた。
* * *
千歌「な……」
ことり「なにが起こったの……?」
──確かに、ことりさんのチルタリスは“りゅうのはどう”を撃った。
が、その攻撃は捻じ曲げられるように、リオルを避けて……。
……いや。
「フー…」
千歌「進化……した……?」
昨日の今日産まれたばかりのリオルは、新しい姿になって、
“りゅうのはどう”を捻じ曲げた。
ことり「……うそ、そんな早くルカリオに進化……」
『ルカリオ はどうポケモン 高さ:1.2m 重さ:54.0kg
あらゆる ものが 出す 波導を 読み取ることで
1キロ先に いる 相手の 気持ちも 理解出来る。
波導を 操る 力は 戦いにも 利用 するぞ。』
ことり「ふふ……波導を操る能力で“りゅうのはどう”の軌道を逸らしたんだね」
ことりさんがまた笑う。
ことり「ホントに千歌ちゃんとのバトルは……ワクワクする!!」
514 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:19:31.86 ID:IYa5VeT80
ことりさんの声とともに、チルタリスの全身を激しい光が包み込む。
千歌「……!!」
目の前で起きた光景にぼーっとしていた私はそれで我に返る。
千歌「ルカリオ!!!」
「グォゥ!!!」
ルカリオを呼ぶと、一瞬で私の元まで戻ってくる、
千歌「って、はや!?」
「グゥ!!!」
進化して、より一層能力があがっている、
これなら、
千歌「いける……!! ルカリオ!!」
「グォゥ!!!」
ルカリオの拳が光る。
地を蹴り、飛び出した後、
ルカリオは流星の如く、パンチを繰り出す。
千歌「“コメットパンチ”!!」
降り注ぐ流星拳……!!
一方、
チャージが終わり闘志を漲らせた、チルタリスから、放たれる、全身全霊のエネルギー
ことり「チルタリス……!! “ゴッドバード”!!」
「チルゥゥウウウ!!!!!」
千歌「いっけぇええええ!!!!!」
“コメットパンチ”、“ゴッドバード”
お互いの最大級の攻撃がぶつかり合う。
ことり「……チルタリス!!」
千歌「ルカリオ!!」
「グゥゥ…!!! リオァア!!!!」
「チリュゥゥウウウ!!!!!」
お互いの攻撃のエネルギーが爆ぜ、
千歌「くっ……!!」
515 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:21:52.34 ID:IYa5VeT80
ジム内に旋風が巻き起こる。
──バチバチと、音を立てながら、
ぶつかる二匹。
決着が近い。
固唾を呑んで見守る中、
頭の中に声が聞こえた。
『負けたくない』
千歌「!?」
『負けたく……ない……!!』
次の瞬間、ぶつかり合っているチルタリスが、さらに大きな、大きな光に包まれた。
ことり「チルタリスーーー!!!!」
ことりさんの声にハッとなって視線を配ると、
彼女が首から提げている、ネックレスが眩く光っていた。
ことり「──メガシンカ!!!!!!」
千歌「!!?」
その叫び声と共に、バトルフィールドは七色の光に包まれた──。
* * *
──気付けば、
「グゥ…」
千歌「ル、ルカリオ……!!」
ルカリオが力負けして、吹き飛ばされていた。
千歌「ルカリオ……よく頑張ったね」
「グゥォ…」
どうやら、戦闘不能……みたいだ。
ことり「……はっ……!!……はっ……!!」
向かいのスペースに目をやると、ことりさんが肩で息をしていた。
そしてフィールド上のチルタリスは、
「チルゥ…」
さっきよりも綿雲が増えて、身体の色も水色から、もっと薄い色合いの体色をしていた。
千歌「あ……っと……」
516 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:23:26.34 ID:IYa5VeT80
視線を泳がせると、ことりさんと目が合う。
ことり「……え……?」
──ことりさんは、何故だか驚いた顔をしていた。
ことり「え……っと……」
私は戦闘不能になったルカリオをボールに戻す。
千歌「えっと……ルカリオが戦闘不能になったから……私の負け、です?」
ことり「……あ……えーっと……」
ことりさんは今度は急に焦ったような顔付きになる。
ことり「え、えーっと……な、なんというか……あ、えっと、そのね!」
千歌「……?」
ことり「う……その……。……こ、この勝負、ことりの勝ちかも……?」
何故か疑問符の付く勝利宣言に、
「──そんなわけないでしょう!!」
ジムの入り口の方から、凛とした声がジム内に響き渡った。
ことり「ぴぃ!!!!!!?」
その声を聞いて、ことりさんの肩がビクッと跳ねる。
思わず振り向くと、
そこには、長い青髪を携えた、女性が背筋を伸ばして立っていた。
ことり「う、海未ちゃん……なんで……」
海未「なんで、じゃないです……!!」
海未と呼ばれた人はそのまま、ことりさんの元へと一直線に歩いていく。
ことり「え、えっとね!!? これには事情があって!!? たまたま熱くなっちゃったというか、すごい盛り上がったから、思わずメガシンカしちゃったというかね……!?」
ことりさんが盛大にテンパり始める。
千歌「……えっと?」
状況に追いつけず、私は首を傾げる。
曜「千歌ちゃん」
そんな私の元に、観戦していた曜ちゃんが近付いてきた。
千歌「曜ちゃん……」
曜「えっと……お疲れ様」
千歌「うん……負けちゃった」
曜「うん、見てた……けど」
517 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:24:59.34 ID:IYa5VeT80
曜ちゃんがバトルフィールドを挟んで向かい側に視線を送る。
私も釣られて目で追うと、
海未「人が心配して、来てみれば……さっきのは、どういうことですか?」
ことり「だ、だから……その……バトル、負けたくなくて……っ……」
海未「貴方は子供ですかっ!!」
ことり「だ、だってぇ!!」
さっき入ってきた、海未という人とことりさんが口論をしていた。
いや、口論というか、ことりさんが一方的に叱られていた。
千歌「……どういう状況?」
曜「さぁ……?」
曜ちゃんも首を傾げている。
海未「はぁ……とりあえず、チャレンジャーの方」
向こう側から、声を掛けられる。
千歌「!! は、はい!!」
何故だか、背筋を伸ばしてしまう、そんな迫力があった。
海未「名前は?」
そう言いながら、こっちに向かって歩いてくる。
千歌「ち、千歌です!」
海未「千歌」
千歌「は、はい」
海未「このジム戦は貴方の勝ちです」
千歌「……え?」
思わず素っ頓狂な声が出る。
千歌「え、でも、私……手持ちが二匹戦闘不能になったから……」
負けのはず。
海未「確かにそうなんですけれど……」
海未さんが振り返って、再びことりさんに視線を送ると、
ことり「……っ」
ことりさんが全力で顔を逸らす。
518 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:27:23.58 ID:IYa5VeT80
海未「はぁ……貴方ジムバッジは何個持っていますか?」
千歌「え、えっと……3個です」
海未「ですよね……。ですが、オトノキ地方のポケモンジムでは、メガシンカは強力なため、バッジ5個以上の相手にしか使ってはいけないという決まりがあるんです」
千歌「……え、っと……つまり?」
海未「ことりのルール違反で千歌の勝ち……と言うことになりますね」
千歌「……そ、そうですか……」
なんだか、変な話になってきた。
海未「ことり」
ことり「ぅ……」
海未「……ことり」
ことり「ぅ……はい……」
ことりさんが海未さんに呼ばれる形で私たちの居るところに歩いてくる。
ことり「えっと……そういうことだから、4つ目のバッジは、千歌ちゃんに……」
千歌「……貰えません」
ことり「え?」
千歌「私、バトルで負けました」
海未「……それはそうですが」
ことり「……千歌ちゃん」
千歌「こんな形でバッジを貰っても……納得出来ないです」
私は抗議の声をあげた。
バッジがもらえるのは嬉しいけど……なんか釈然としない。
海未「千歌。今の試合、本来はルール上使わないという約束をしていた、メガシンカを引っ張り出した……ということで納得出来ませんか?」
千歌「……出来ないです」
海未「……そうですか」
ことり「あ、あの……千歌ちゃん……ことりが言うのはアレなんだけど……千歌ちゃんの勝ちでいいんだよ……?」
ことりさんが海未さんの後ろから遠慮がちに顔を出しながらそう言う。
ことり「ことりも使っちゃダメなことは知ってたし……でも、なんかうわーって熱くなって、メガシンカさせちゃったというか……」
千歌「バトルしてるときに……」
ことり「?」
千歌「声が聞こえました」
海未「……声?」
千歌「『負けたくない』って」
ことり「……」
千歌「あれって……ことりさんの声だったんじゃないですか?」
ことり「……ルカリオの波導を通して、感情が伝わっちゃったのかな……」
千歌「ことりさんも私と戦って、負けたくないって思って、全力で戦って、その結果、私が負けたんだったら……やっぱり、バッジは貰えません」
519 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:28:02.85 ID:IYa5VeT80
私の中での答えはそれ以上でも、それ以下でもなかった。
納得行かないものは納得行かない。
海未「……なら、こうしましょう」
海未さんは、困ることりさんと、釈然としない私の顔を順に見てから、
海未「再戦の機会を設けます」
そう提案する。
ことり「う、うん! それはもちろんだけど……!」
海未「ただ、次はメガシンカは無しで……と言ってもこのままでは千歌が納得できないでしょう」
千歌「……はい」
海未「ですが、現状メガシンカポケモンと戦うのは条件的にチャレンジャーに厳しすぎます。ですので……」
海未さんは私を真っ直ぐ見つめてくる。
千歌「?」
海未「メガシンカに対応できるように、私が稽古を付けましょう」
千歌「……え?」
なにやら、話が予想外の方向に舵を切り始めました。
520 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:28:49.05 ID:IYa5VeT80
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【セキレイシティ】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ o回/ ||
口=================口
主人公 千歌
手持ち マグマラシ♂ Lv.28 特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
トリミアン♀ Lv.27 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
ムクバード♂ Lv.29 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
ルガルガン♂ Lv.28 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ルカリオ♂ Lv.19 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:109匹 捕まえた数:11匹
主人公 曜
手持ち カメール♀ Lv.22 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
ラプラス♀ Lv.25 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
ホエルコ♀ Lv.20 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
ダダリン Lv.26 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
ゴーリキー♂ Lv.28 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:93匹 捕まえた数:17匹
千歌と 曜は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
521 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:31:47.27 ID:IYa5VeT80
■Chapter039 『海未』 【SIDE Chika】
──8番道路。セキレイシティの南の道路です。
私は今そこを歩いています。
……海未さんと一緒に。
海未「どうかしましたか? 千歌」
千歌「あ、いえ……」
前を歩く海未さんが振り返って聞いてくる。
海未「疲れたのなら、少し休憩しましょうか」
千歌「いや、そうじゃなくて……」
海未「?」
海未さんは不思議そうな顔をする。
千歌「あの……どうして、私を鍛えるなんて……?」
セキレイシティでの一件のあと、南のアキハラタウンで稽古を付けるという話をことりさんとしていたところまでは聞いていた。
そのまま、流れで付いて来てしまったけど……。
海未「どうして、ですか……。一言で答えるのは難しいのですが……」
海未さんは少し考えてから、
海未「一つは責任でしょうか」
千歌「責任……?」
海未「ことりがセキレイのジムリーダーをやっているのは……ある意味、私のせいでもあるので」
千歌「……?」
海未「もともと、セキレイシティのジムリーダーは私が就く予定だったんです」
千歌「そうなんですか?」
海未「はい。ただ、役職上ジムリーダーになれない立場になってしまって……もともと、ことりはコンテストクイーンの立場もありましたから、ジムリーダーよりもコーディネーターの道に進みたかったと思うのですが」
千歌「他に候補の人とか、居なかったんですか……?」
海未「居るには居ましたが……最終的には、セキレイシティの多くの人から望まれた、ということが大きいですね」
千歌「……望まれた?」
海未「ことりの親御さんが、ポケモンリーグの理事長なんですよ。元はセキレイシティのジムリーダーでした」
千歌「……ダイヤさんと同じ感じかな……?」
私は話を聞いてなんとなく、そう呟いた。
ダイヤさんもお母さんがジムリーダーだったから、ジムリーダーになったって言ってたし、そういうものだと言われればなんとなく納得してしまう。
海未「そうですね……ただ、ダイヤよりは強制力が強いものではないはずだったんですが……。セキレイは人口も多いので、望む人間の数が多いとなかなか……」
千歌「! ダイヤさんのこと知ってるんですか?」
海未「ええ、もちろん。ポケモンリーグ協会の人間なので。オトノキ地方のジムリーダーのことなら、よく知っていますよ」
千歌「ポケモンリーグ協会……」
522 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:34:30.06 ID:IYa5VeT80
ジムリーダーたちをまとめている人たちの集まりなんだっけ……?
花丸ちゃんがそんなことを言ってた気がする。
海未「えっと、話を戻すと……ことりは私の代わりにジムリーダーになったわけですから、ジムでの失敗は私も責任を取る義務があると思うので」
千歌「なるほど……」
海未「後は、感謝です」
千歌「?」
海未「ことりがあんな楽しそうにバトルをするのは、久しぶりに見たので……」
海未さんは少し遠い目をしながら、そう言う。
海未「就任理由が理由だけに、ジムリーダーではあるものの、本人はもともとバトルが特別好きという人じゃないんですよ。そんなことりが、思わず本気で相手をしてしまう程の何かを持っている貴方に、私自身が興味を感じた、というのもありますが」
千歌「……あんなにバトルが強いのに、ことりさんはバトルが好きじゃないんですか?」
私は疑問に思う。あんなに強いんだし、バトルも好きなんじゃないかなと思ってしまうけど……。
海未「そうですね……。確かに勝てることによって楽しいと感じる人は多いと思いますが……」
海未さんは難しい顔をしながら、
海未「なんと言うか、ことりは普段はあまり勝敗に興味がない節があるんです。根本的に強いからなんだと思いますが……」
そう続ける。
千歌「根本的に強い……?」
海未「正直、私はあまりピンとこないんですが……直感がいいんです。ポケモンの気持ちがわかる、と言えばいいのでしょうか」
千歌「……そういえば、そんなこと言ってたかも」
海未「世界にはポケモンを見ているだけでなんとなくそういうことがわかる人が居るらしい……と言うのは耳にしたことがあるのですが、ことりはその中でもさらに特別な気がしますね」
千歌「特別?」
海未「確か、千歌はポケモン図鑑を持っていますよね」
千歌「え、は、はい」
また、ことりさんのときみたいに言い当てられたのかと思って、ビクっとする。
そんな私の様子を見て、海未さんは申し訳なさそうに、
海未「ああ、えっと……貴方が図鑑を持ってることはことりから聞いただけですが……」
そう続けた。拍子抜けはしたけど、ちょっと安心する。
海未「……その図鑑で手持ちのポケモンのいろいろな情報が見れますよね」
千歌「ん……はい」
海未「ことりはそういう情報を図鑑なしでほぼ把握できるらしいんです」
千歌「え……」
海未「レベル、性別、性格、個性……この辺りは観察次第ですが、どれだけ懐いているか、そのときポケモンがどんな気持ちか、果てはどこで出会ったか、ポケモンが持っている潜在的な能力もわかるみたいです」
そんな人が居るのか。と、言いたいところだけど……実際、私も手持ちを言い当てられてるし、曜ちゃんも同じようなことを言ってたし……。
海未「ことりはそれが子供の頃から自然に出来るんです。それゆえにことりは強い」
千歌「そう……なのかな……?」
523 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:35:52.02 ID:IYa5VeT80
いまいち、それを強さの基準にされてもピンと来ないけど……。
海未「そうですね……例えば」
海未さんは近くにある小石を拾い上げる。そして、右手で握り締めてから、両手をグーにして前に出す。
海未「今私が拾った石はどっちの手に入ってるか、わかりますか?」
千歌「?? 右手?」
海未「はい、そうですね」
そういって、海未さんは右手を開いて石が乗っているところを見せる。
海未「それでは……」
今度は両手を後ろに回してから、再び両手を出す。
海未「今度はどっちかわかりますか?」
千歌「えーっと……じゃあ、左手」
海未「残念、右手です」
──それを何度か繰り返す。
海未「10回中7回……そこそこですね」
千歌「???」
これで何がわかるんだろう……?
海未「今度は千歌がやってください。私が当てるので」
千歌「え、は、はい」
言われたとおり、小石を受け取って、後ろ手でシャッフルしたあと前に出す。
海未「右」
千歌「正解」
海未「左」
千歌「正解」
海未「左」
千歌「せ、正解」
海未「左ですね」
千歌「……正解」
海未「右」
千歌「せ、正解……」
──結局……。
千歌「──10回やって、10回正解……」
海未「人によって、出す順番の癖、みたいなものはあるのですが……今、私は千歌が後ろ出で石を入れ替える動きを、前から観察して当てました」
千歌「え、うそ!?」
海未「訓練次第ですが、観察力さえ身につければ、千歌にも出来るようになりますよ。……さて、これが出来る人はバトルで強いと思いますか?」
524 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:39:09.63 ID:IYa5VeT80
──バトルで強いか。そういえば、そういう話だった。
千歌「強い……かな。相手が何しようとしてるか、先読み……みたいなこと出来るし。少なくとも出来ない人よりは」
海未「そうですね。普通のトレーナーはこういう勝負勘みたいなものを経験で手に入れます。私も例外ではありません。ただ、ことりはそういう次元じゃないんです」
千歌「そういう次元じゃない……?」
海未「元から10回のうち9回くらいは正解が言い当てられるんです」
千歌「な、なるほど……」
確かにそう言われれば強い……のかな?
海未「だから、ことりは本気でバトルに傾倒すれば、かなり上まで行ける可能性すらあります。ただ、本当の勝負勘、みたいなものを持っているのはさらに別の次元みたいですが……」
まあ、とりあえず、ことりさんが強いってことはわかった。けど……。
海未「バトルが好きじゃないことの説明になってないって顔をしていますね」
千歌「まあ、はい……」
海未「この力は応用が利きます。ことりはそれをコンテストで生かしている、故にバトルに強く興味を惹かれなかったんだと思います。後は……」
千歌「後は……?」
海未「ことりよりもポケモンバトルが強い人間が近くに居たからでしょうか」
海未さんは前をゆっくり歩きながら、まるで何かを懐かしむような声で、そう言う。
千歌「えっと……海未さんが、ってことですか?」
海未「え? ……ああ、まあ、確かに公式戦だけなら、私はことりに勝ち越してますね。ただ、私よりも圧倒的に強い人が居たんです」
圧倒的。
海未「穂乃果……と言う、私とことりの幼馴染なんですが……。私は穂乃果よりも強いトレーナーには会ったことがありません」
千歌「穂乃果、さん……」
海未「調子にムラがあると言えばあるんですが……ここぞと言うときの勝負の強さと言うのでしょうか。公式戦での穂乃果はほぼ負け無しでした」
さっき言った圧倒的と言うのは、本当に言葉通りの圧倒的な強さを指しているということだろう。
海未「私は穂乃果と競い合って居ましたが……ついに、公式戦で勝つことは一度も敵いませんでした。そんな、私たちと一緒に育って、ポケモンと触れ合ってきたことりが、バトルとは違う道で才能を開かせたのは、ある意味道理だったのかもしれませんね」
海未さんは話を終えて、ふぅと一息吐く。
海未「随分話し込んでしまいましたね。お陰で町が見えてきました」
話しながら、歩き続けていたら、気付けば私たちはアキハラタウンへと辿り着いていた。
* * *
──アキハラタウン。
海未さんに付いてきて、辿り着いたその町は、正直田舎だった。
海じゃなくて、山に囲まれていること意外はウラノホシタウンとそっくりかも。
ただ、近くには、流星山でも見た音ノ木が、巨大な存在感を放っている。
525 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:41:02.13 ID:IYa5VeT80
海未「この町は、私と、ことりと……あと、穂乃果の出身の町なんですよ」
そう言ってから、海未さんは音ノ木を見上げる。
海未「この景色も久しぶりですが……やはり、何度見ても音ノ木は存在感がありますね」
千歌「あ、あの」
海未「? なんですか?」
千歌「私はその……ここで修行をするんですか?」
海未「ええ、まあ、そうなりますね」
千歌「そう……ですか……」
海未「? 何か言いたそうな顔をしていますね」
千歌「えっと……その……」
さっきの話を聞く限り、この人がかなりの実力者らしいことはわかった、けど……。
千歌「海未さんって……どれくらい強いんですか……?」
海未「……なるほど。自分を鍛えると豪語する私がどれだけ強いのか、気になるんですね」
千歌「まあ、その……はい」
海未「そうですね……簡単に強さを証明すると言うのは少し難しいですが……」
海未さんはそう言いながら、懐に手を入れた、
そのとき──
背後から大きな音が聞こえてきた。
千歌「!?」
大きな岩が、落ちてきたような、そんな重々しい音。
千歌「な、何!?」
音の方に視線を向けると、そこは南の流星山から続く山が連なっていて、
その斜面を何か、大きな岩がたくさん町の方に向かって転がってきている。
千歌「ら、落石!?」
海未「いえ、あれは……ゴローンとゴローニャですね。ポケモンです」
千歌「え、ポケモン!?」
咄嗟に図鑑を開く、
『ゴローン がんせきポケモン 高さ:1.0m 重さ:105.0kg
山道を 転がりながら 移動する。 その際 通り道に
何が あろうと 気に 留めず 邪魔な ものは どんどん
押し潰しながら 進む 豪快な 性格。 岩を 食べて 成長する。』
『ゴローニャ メガトンポケモン 高さ:1.4m 重さ:300.0kg
大きな 地震が 起こると 山に 住んでいる ゴローニャが
何匹も ふもとまで ごろごろと 転がり 落ちてくる。
岩石の ような 硬い 体は ダイナマイトでも 傷付かない。』
千歌「300kgって……!!」
海未「最近、大きな地震なんてなかった気がしますが……」
千歌「そ、そんなこと言ってる場合じゃ……! 止めなきゃ!!」
526 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:42:22.71 ID:IYa5VeT80
私は思わず、山に向かって走り出す。
海未「え、千歌!? 待ちなさい!」
海未さんの制止を背中で聞きながら──。
* * *
山の斜面のふもとに辿り着くと、ゴローニャたちはいよいよ町に飛び込んでくるんじゃないかという場所まで転がってきていた。
千歌「と、とにかく、全員気絶させないと!!」
このままじゃ、町が危ない。
千歌「マグマラシ!」
「マグ!!」
千歌「“かえんほうしゃ”!!」
「マッグゥ!!!」
マグマラシが勢い良く炎を吹き出す。
この勢いで押し返せれば……!!
が、ゴローニャどころか、ゴローンすら止まらない。
炎を押し返しながら斜面を転がってくる。
千歌「ど、どうしよう!!?」
猛スピードで斜面を転がるゴローニャたちは、あっと言う間に眼前に迫る。
海未「──千歌!! 伏せなさい!!」
千歌「!!」
「マグッ!?」
背後から声が響き、咄嗟にマグマラシごと地面に伏せる。
海未「カモネギ!!」
「クワッ」
海未「“いあいぎり”!!」
千歌「…………っ……。…………?」
急に周りから、ゴロゴロという音が消えて、
顔をあげると、
千歌「え、うそ……!?」
「ゴローン…」「ゴローニャァ…」
山から転がってきていた無数のゴローンとゴローニャが、引っくり返って目を回していた。
海未「全く……急に飛び出すから、驚きましたよ」
千歌「え、これ……海未さんが、一瞬で全部……!?」
527 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:43:26.98 ID:IYa5VeT80
──ドクン。
何故だか心臓が高鳴って、熱くなった。
私が攻撃しても、全く止まりそうもなかったのに……これだけの数、さっきの一瞬の指示で……?
ポケモンもトレーナーも、こんなに強くなれるの……?
海未「大丈夫ですか? 立てますか?」
海未さんがへたり込んでいる私に、手を差し伸べてくる。
千歌「え、あ、はい……!!」
海未さんの手に引っ張られる形で、立ち上がる。
千歌「あ、ありがとうございます……!」
海未「勝手に飛び出してはダメではないですか」
千歌「え、その……ご、ごめんなさい……」
海未「止める算段もないのに、突っ込むのは勇気ではなく、無謀ですよ」
千歌「ぅ……はい……」
海未「まあ……」
海未さんは肩を竦めてから、
フワリと私の頭を撫でる。
千歌「……!?」
海未「町を守ろうとしてくれた、その心意気には感謝しますよ。ありがとうございます」
千歌「海未さん……」
海未「それで……強さの証明ですが……」
海未さんは、さっきの話の続きを始めようとするが、
千歌「いや、大丈夫です!!」
私はそう返してから、
海未「え?」
千歌「むしろ、失礼なこと言ってすいませんでしたっ!!」
腰を直角に曲げて、頭を下げる。
海未「い、いえ……」
千歌「私にも……」
海未「?」
千歌「私にも、さっきみたいな必殺の技、出来るようになりますか……!!」
海未「!」
もし、あんなことが私の仲間たちと一緒に出来るようになるんだとしたら、やってみたい。
海未「ええ、最初からそれを教えるつもりでしたので」
528 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:46:08.96 ID:IYa5VeT80
さっきみたいな、一瞬で戦況をひっくり返す、一撃必殺……!!
海未「ただ、必殺技というレベルまで辿り着けるかは、千歌。貴方次第です」
千歌「は、はい!!」
さっきまで少しだけあった海未さんへの不信感は、気付いたら吹き飛んでいた。
それどころか、海未さんの技のキレに、私は一目惚れしていたのだった。
* * *
曜「千歌ちゃん……大丈夫かな……」
心配そうに呟く私は、今現在、ことりさんの家で衣装作りの真っ最中。
ことり「曜ちゃん、そこ間違えてるよ」
曜「え? わ、ホントだ!?」
ことり「集中だよ! 今週中にたくましさと、かしこさはやっつける。それが目標なんだから!」
──今週開催される、たくましさコンテストとかしこさコンテストをストレートでクリアする。
それが、ことりさんから提示された次の目標だった。
千歌ちゃんとの再戦に関しては、海未さん曰く、少し稽古を付ける時間が欲しいとのことだったので、
その間は私と一緒にコンテストに専念するとのことだった。
……もちろん、ことりさんは仕事と平行しながらだけど……。
ことり「そういえば、曜ちゃん。かわいさ担当の子は決まった?」
ことりさんは手際良く衣装を繕いながら、訊ねてくる。
曜「あ、えっと……ベイビィポケモンがいいかなって」
ことり「ベイビィポケモン?」
曜「千歌ちゃんのリオル見たとき……すごい可愛いって思わず言葉が漏れちゃったくらいで……」
ことり「なるほど……よし、わかった! 曜ちゃん付いて来て!」
曜「え、う、うん!」
* * *
ことりさんに言われて連れて行かれたのは、
曜「……お風呂?」
ことりさんの家のバスルーム。
私も何回か使わせてもらったけど……。
529 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:48:00.48 ID:IYa5VeT80
ことり「うん。夜は、曜ちゃんも使うと思って、ボールに戻してたんだけど……。お昼の間は水を張ってて、ポケモンたちが泳いでるの」
言われて浴槽を見てみると、
「クワクワ」
コアルヒーが泳いでいる。
ことり「えっとね。ことりが持ってるポケモンは全部ひこうタイプなんだけど……ひこうタイプで、プラス曜ちゃんの好きなみずタイプのポケモンが居てね」
言って浴槽に向かって、
ことり「出ておいでー」
声を掛ける。
「タマ~」
飛び出したのは、青色の小さなマンタのようなポケモン。
曜「! タマンタ!」
ことり「うん♪ 正解」
『タマンタ カイトポケモン 高さ:1.0m 重さ:65.0kg
2本の 触角で 海水の 微妙な 動きを キャッチする。
人懐っこく 人間の 船の 近くまで 近寄ってくる。
テッポウオの 群れに 混ざって 泳ぐことが 多い。』
この地方では、フソウ島よりもさらに南の海いるらしく、パパに載せて貰った船以外で目にしたのは初めてだ。
ことり「このタマンタ、曜ちゃんにプレゼントするね♪」
曜「いいの!?」
ことり「うん♪ 曜ちゃんのイメージにピッタリあうのは、この子くらいだろうし……お師匠様からのプレゼントです♪」
曜「ありがと、ことりさんっ!!」
ことり「いえいえ♪ 人懐っこいから、すぐになつくと思うよ」
曜「うん! タマンタ、よろしくね!」
「タマ~」
ことりさんから譲り受ける形で、最後の担当も決まり、あとは次のコンテストに備えて、衣装を完成させるだけであります……!!
530 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:48:35.57 ID:IYa5VeT80
* * *
梨子「……着いた」
「ブルル…」
10番道路をひたすら北に向かって歩いて、辿り着いた街。
梨子「ローズシティ……」
新しいバッジを手に入れるために、辿り着いた街。
梨子「ローズジムに……っ」
私は真っ先にポケモンジムに足を向ける。
「ブルル…」
後ろからは心配そうに、メブキジカが付いて来る。
……次こそ、次こそ勝って、前に進むんだ。
私は靴擦れの痛みを誤魔化すように、心の中で自分を奮い立たせて、また歩き出す……。
531 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:49:32.04 ID:IYa5VeT80
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【アキハラタウン】【セキレイシティ】【ローズシティ】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | ● __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ○ |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_●o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ o回/ ||
口=================口
主人公 千歌
手持ち マグマラシ♂ Lv.29 特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき
トリミアン♀ Lv.27 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする
ムクバード♂ Lv.29 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき
ルガルガン♂ Lv.28 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい
ルカリオ♂ Lv.19 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:110匹 捕まえた数:11匹
主人公 曜
手持ち カメール♀ Lv.22 特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい
ラプラス♀ Lv.25 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき
ホエルコ♀ Lv.20 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい
ダダリン Lv.26 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん
ゴーリキー♂ Lv.28 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん
タマンタ♀ Lv.11 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい
バッジ 0個 図鑑 見つけた数:93匹 捕まえた数:18匹
主人公 梨子
手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
チェリム♀ Lv.29 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:77匹 捕まえた数:7匹
千歌と 曜と 梨子は
レポートを しっかり かきのこした!
...To be continued.
532 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:52:41.54 ID:IYa5VeT80
■Chapter040 『旅の意味』 【SIDE Riko】
──ローズシティ。オトノキ地方ではセキレイに次ぐ大きな街で、この地方のモンスターボールはここにある工場から出荷されているらしい。
他にも製品工場や会社などがあるらしく、確かに少し辺りを見回すだけでもビルが目に入ってくる。
……ただ、私の目的は工場見学じゃない。
梨子「ローズジム……」
街に着いて真っ先に向かう場所は、もちろんポケモンジム。
ドアを開けて、中に入る。
梨子「失礼します……」
ジムの中には見慣れたバトルスペースと……その周りにはたくさんの機械が置かれていた。
そして、その更に奥。ジムリーダーの立ち位置の少し後方にある、大きな椅子に、
彼女は座っていた。
真紅の髪を揺らして、まるで玉座に座すように。
確か……名前は、
真姫「……挑戦者?」
ローズジム・ジムリーダー……真姫さん。
梨子「はい……!」
真姫「……」
梨子「今すぐ挑戦……始められますか!?」
私はジムの向かい側に向かって声を張り上げる。
真姫さんは私を軽く観察したあと、
真姫「……ちょっと待って」
立ち上がって、こっちに向かって歩いてくる。
梨子「…………」
──ここでもか。なんだかそんな思いが頭を過ぎる。
私はここでも相手にしてもらえないのかな。
そんなことを考えていると、真姫さんは目の前まで近付いてきていた。
梨子「……わ、私……ジムバトルが早くしたくて……!!」
真姫「……ちょっと触るわよ」
梨子「え?」
真姫さんはおもむろにしゃがみこんで、私の足に触れる。
533 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:53:54.91 ID:IYa5VeT80
梨子「痛っ……!」
真姫「まあ、そりゃ痛いでしょうね……酷い靴擦れじゃない。貴方それでも冒険してるトレーナーなの?」
梨子「……っ」
真姫「手当てするから、こっち来なさい。……そこのメブキジカ」
真姫さんはおもむろに、私の後ろで大人しく待っているメブキジカに声を掛けた。
真姫「この子のポケモンよね?」
「ブルル」
梨子「え、いや……このメブキジカは……」
真姫「? 野生が付いて来ただけとか言うの?」
梨子「い、いえ……」
真姫「すぐそこに医務室があるから、貴方も運ぶの手伝って貰えるかしら」
「ブルル」
私は真姫さんとメブキジカに運ばれるように、医務室へと連れて行かれる……。
* * *
医務室の椅子に座らされ、靴を脱いでみると、
真姫「……はぁ。なんでこんなになるまで放ってたの?」
踵の少し上の辺りの皮膚が捲れてしまって、真っ赤になっている。
真姫「とりあえず、消毒するわよ。沁みるからね」
真姫さんはそう言って、治療用の台の上に乗せられた私の足に消毒用のスプレーを掛ける。
梨子「痛っ!!」
真姫「自業自得、我慢しなさい」
梨子「…………」
真姫「小指の方もちょっと炎症起こしてるわね……。こっちはそこまでじゃないけど」
真姫さんは手馴れた風に手当てを施していく。
梨子「あ、あの……」
真姫「……気にしなくていいわ。私、こう見えても医者だから」
……そういうことが聞きたいんじゃないんだけど。
梨子「ジ、ジム戦を……!」
真姫「は?」
梨子「ジム戦……してくれませんか」
真姫「…………」
真姫さんは眉を顰めて、私の顔を見つめてくる。
534 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:55:23.79 ID:IYa5VeT80
真姫「そういえば、貴方どこかで見たことある顔してるわね……」
藪から棒に、真姫さんは突然そんなことを言い出す。
……と言うか、今の今まで顔を見てなかったんだろうか……。
足に目が行ってたのかな。
真姫「……タマムシのサクラウチさん?」
梨子「え!?」
真姫「でも……こんなに若かったかしら……?」
そう言われて気付く。
梨子「あ……た、たぶん、それは母で……私は娘の梨子です」
真姫「なるほど……娘か。道理で似てるわけね」
梨子「お母さんのこと……知ってるんですか?」
真姫「まあ、有名な芸術家だし。貴方のお母さんの作品、私は好きよ」
梨子「そ、そうですか。ありがとうございます……」
再び、真姫さんは私を観察し始める。
真姫「それで、カントー地方の子が、なんでオトノキのローズにジム戦しに来てるの?」
梨子「えっと……お母さんの薦めと言うか、お陰と言うか……たまたまこの地方で旅をすることになって」
真姫「ジムを巡ってるの?」
梨子「はい……」
真姫「……もしかして、鞠莉のところから図鑑とポケモン貰って旅に出た子って貴方かしら?」
鞠莉──確かオハラ博士のことだ。
梨子「は、はい。なんで知ってるんですか……?」
真姫「医者も大雑把に言えば研究職だし、よく連絡取って情報交換してるのよ。その時に聞いた」
真姫さんは簡潔に答える。
真姫「バッジはいくつ?」
梨子「……3つです」
真姫「3つ? アワシマの研究所で貰ったなら、海路を通らない限り、ここまでジムは4つあるはずだけど?」
痛いところを付かれる。
真姫「どっかのジムで負けて、再戦もしないまま、ここまで来たの?」
梨子「う……」
追い討ちを掛けられて、言葉に詰まる。
梨子「その……セキレイジムで挑戦を断られて……」
真姫「! あー……なんか、悪かったわ」
真姫さんがバツの悪そうな顔をして目を逸らす。
535 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:56:57.65 ID:IYa5VeT80
梨子「あ、いえ……それでも食い下がってジム戦はしてもらいました……」
真姫「……負けたのね」
梨子「……はい」
思わず俯いてしまう。
完敗以外に言う言葉がないくらいの負け方だった。
真姫「…………」
真姫さんは言葉に窮したのか、少し視線を泳がせたあと、
「ブルル」
メブキジカと目が合ったようで、
真姫「……」
おもむろに懐から、何か機械を取り出した。
……いや、形は違うけど、私も同じようなものを持っている。
梨子「それ……ポケモン図鑑ですか?」
真姫「そうよ。……って、そのメブキジカ随分レベルが高いわね」
梨子「あ、いや……この子はお母さんが貸してくれたポケモンなんです」
真姫「……ちょっと他の手持ちも見せてもらっていい?」
梨子「え……」
ジム戦の前に手持ちを相手に見せるのは……。
真姫「別にバトルの前に貴方の手の内暴こうなんて思ってないわよ」
胸中を見抜かれたのか、真姫さんはそう補足してから、
真姫「たぶん……ことりが貴方の挑戦を断った理由がそこにあると思うから」
梨子「……」
私は5つのボールから手持ちを外に出す。
「チェリ…」「リコチャンリコチャン!!」「ドー…」「チコ」「ポポ」
真姫「チェリム、ペラップ、ドーブル、チコリータ、ポッポ……ね」
図鑑に表示された情報と目の前の一匹ずつを見比べながら、
真姫「ま、確かにことりはこういう手持ち好きじゃないかもね」
パタンと図鑑を閉じる。
真姫「ことりはこういうとき、ポケモンが出てこなくても手持ちとどう接してるのか見えちゃうから、気になっちゃうんだろうけど」
梨子「あの……」
ことりさんが、私の挑戦を拒んだ理由。
一応なんとなくは察している。
536 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 04:58:37.89 ID:IYa5VeT80
梨子「人から貰ったポケモンで戦うのは……悪いことなんですか……?」
ことりさんはお母さんから貰ったポケモンで戦っている私が気に食わなかったんじゃないか、と……。
その一方で真姫さんは、
真姫「別に悪いことじゃないわよ」
さも当然のことのように切り返す。
真姫「ポケモンバトルである以上、強いポケモンで相手を倒せばそれで勝ちだし。貰ったポケモンでも自分の言うことを聞くなら、それで勝つことが悪いなんてことはないでしょ」
ここまで断定的な答えが返ってくるのは正直予想外だった。
梨子「じ、じゃあ、なんでことりさんは……」
真姫「はぁ……ことりは言葉が足りないのよね」
真姫さんは椅子に腰掛けて、脚を組みながら溜息を吐く。
真姫「たぶん、逆よ」
梨子「逆……?」
真姫「貴方が人から貰ったポケモンを使ってるから、というか……自分で育てたポケモンを使う気が感じられなかったからじゃない?」
梨子「……? えっと、それにどんな違いが……?」
私は首を傾げる。
真姫「チコリータ。鞠莉から貰ったポケモンでしょ?」
梨子「は、はい」
真姫「それがここまで一緒に旅してて、メガニウムどころか、ベイリーフにすらまだ進化してないのはどうして?」
梨子「それは……」
ヨハネちゃんにも道中同じようなことを言われた気がする。
真姫「初心者用ポケモンって、すごく人に慣れてるし、バトルにも抵抗をあまり持たない。逆に言うなら、元からそれなりに闘争心が強いのよ」
梨子「闘争心が強い……?」
真姫「今まで、チコリータが戦いたがることって、あったんじゃない?」
梨子「…………」
言われてみれば、最初千歌ちゃんと戦ったときもチコリータのボールが震えていた。
改めて、思い返してみると、ホシゾラジムもコメコジムも……もしかしたら、そうだったかもしれない。
真姫「それは、ポケモンからしてみたら、結構なストレスなのよ」
「チコ…」
梨子「で、でも……チコリータじゃ勝てないバトルもあったかもしれないし……」
真姫「そうね。ダリアジムまでは順調に進んでたなら、それはそれで間違いではないと思うわ。ただ……」
梨子「ただ……?」
真姫「ことりはその状況が健全じゃないって思ったんじゃないかしら」
梨子「……?」
健全じゃない……?
537 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:00:16.38 ID:IYa5VeT80
真姫「一緒に旅してるポケモンは置いておいて……まるで、ジムをクリアするためだけに旅をしてる」
梨子「……それってそんなに悪いことですか?」
ポケモンに気が回ってないのは確かによくないかもしれない。
だけど、目標を持って旅をすることが悪いこととは思えない。
真姫「……梨子……って言ったかしら。貴方はなんのためにジム制覇をしようとしてるの?」
梨子「それは……旅に送り出してくれた、お母さんを安心させてあげるために……」
真姫「……なるほどね」
真姫さんは椅子から、立ち上がって、私を見下ろしながら、
真姫「梨子──貴方は根本的に勘違いしてるわ」
再び断定的な口調で、言い放った。
* * *
梨子「あの……真姫さん。どこに行くんですか……?」
真姫「行けばわかるわ」
私はあの後、メブキジカに乗せられて10番道路まで引き返してきていた。
梨子「行けばわかるって……」
真姫「すぐ見えてくるから」
黙って後ろを付いていく。
10番道路を東に逸れて……坂道を登って行くと、視界が開けてくる、
梨子「湖……?」
そこには大きな湖が広がっていた。
真姫「クリスタルレイク。オトノキ地方最大の湖よ」
梨子「は、はあ……」
真姫「──……オトノキ地方はね。輝きの地方って呼ばれてるの」
梨子「?」
真姫「星がよく見える地方で、それ目当てに観光に来る人も少なくないわ」
梨子「な、なんの話ですか……?」
突然始まった話に私は顔を顰める。
真姫「その中でも、夜の虹と賞される三大スポットがあるの」
梨子「あの真姫さん! 私は観光に来たわけじゃ……」
真姫「一つはクロサワの入江。一般人が立ち入りすることはほぼ出来ないけど……洞窟の天井にはいつも、七色の宝石が光っている」
私の言葉を無視して、真姫さんは続ける。
538 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:02:36.51 ID:IYa5VeT80
真姫「二つ目は大樹・音ノ木。季節になると、メテノの群れが集まってきて、まるで大樹が七色の実を宿らせている様だって言われるわ」
梨子「…………」
真姫「そして、三つ目はここ──クリスタルレイク」
梨子「あの……私はジム戦を」
真姫「──梨子」
私の言葉に被せるように、真姫さんに名前を呼ばれる。
真姫「貴方はなんで、貴方のお母さんが、この地方に旅に出してくれたんだと思う?」
梨子「それは……」
──10歳のとき、大失敗した私への最後のチャンスとして……。
真姫「貴方はたぶん、その意味がわかっていない」
梨子「……?」
真姫「メブキジカ、こっちよ」
「ブルル…」
真姫さんに先導される形でメブキジカは私を乗せたまま湖に近付いていく。
真姫「ここはただの大きな湖じゃなくて……大昔に海底が地殻変動で隆起して出来た丘上の塩湖。しかも、水晶や鉱石を多く含んだ岩石で出来ているのよ」
梨子「はあ……」
真姫「水深が深い湖じゃないから、湖の丁度真下には、ポケモンたちが長い年月を掛けて掘ったトンネルがいくつもある。通称『クリスタルケイヴ』。そして──」
真姫さんの足が止まる。
そこには縦穴がぽっかりと口を開けていた。
真姫「ここはその入口の一つ」
梨子「あ、あの……だから、それとジム戦になんの関係が」
抗議の声をあげると、こっちを向いた真姫さんと目が合う。
真姫「ねぇ、梨子」
梨子「な、なんですか……」
真姫「……親の期待って、重いわよね」
梨子「え……?」
真姫「こっちはたった十数年しか生きてないのに、それに20年とか上乗せした価値観で、成功して欲しいとか、素敵な経験をして欲しいとか、立派に育って欲しいとか、子供に押し付ける」
梨子「……そんな、こと……」
真姫「私は正直、嫌だった。こうしたらうまく行くなんて、親の勝手な思い込みみたいなレールをたくさん敷かれて。その道から外れたら、お前の為を思ってるんだって、お説教されて。余計なお世話よね」
梨子「…………」
真姫「ただ、少しだけ大人になってわかったことがいくつかある」
風が吹く、赤い髪が風に揺れている。
539 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:03:42.98 ID:IYa5VeT80
真姫「親の言葉も、受け止めたり、受け止め切れなかったりしながら、その中で見つけた景色が、自分が、私なんだって。感謝とか、親がどう思うかとか、そういうのはその後のこと」
梨子「…………」
真姫「だから、梨子。貴方も誰かの為とかは置いておいて──まず貴方の景色を見つけなさい」
梨子「私の……景色……」
真姫「……ま、たぶん、そんなに怪我はしないと思うから──」
梨子「……? 何の話──」
「ブルル」
突然、私を乗せたままのメブキジカが穴に向かって背を向け、急に前足を上げて立ち上がる。
梨子「!?」
もちろん、背中に乗ったままの私はそこから滑り落ちるように、
先ほど言われた、縦穴に、吸い込まれる──
梨子「え、まっ……!!!?」
思わず前に出した手が、宙を掻く。
そのまま、全身がフワリと浮遊感に包まれ、
梨子「────きゃああああああああ!!!!!!!??!!?」
私は重力の言うがままに、縦穴を垂直に落下する。
真姫「……もし怪我したら、そのときは私が責任を持って、治療するわ」
540 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:04:36.62 ID:IYa5VeT80
>レポート
ここまでの ぼうけんを
レポートに きろくしますか?
ポケモンレポートに かこんでいます
でんげんを きらないでください...
【クリスタルレイク】
口================= 口
||. |⊂⊃ _回../||
||. |o|_____. 回 | ⊂⊃| ||
||. 回____ | | | |__|  ̄ ||
||. | | 回 __| |__/ : ||
||. ⊂⊃ | ● |‥・ ||
||. | |. | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ||
||. | |. | | | ||
||. | |____| |____ / ||
||. | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o ||
||. | | | | _. / : ||
||. 回 . |_回o | | : ||
||. | |  ̄ |. : ||
||. | | .__ \ : .||
||. | ○._ __|⊂⊃|___|. : .||
||. |___回○__.回_ _|‥‥‥: .||
||. /. 回 .| 回 ||
||. _/ o‥| | | ||
||. / | | | ||
||./ o回/ ||
口=================口
主人公 梨子
手持ち チコリータ♀ Lv.7 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり
チェリム♀ Lv.29 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい
メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん
ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん
ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい
ポッポ♀ Lv.7 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん
バッジ 3個 図鑑 見つけた数:77匹 捕まえた数:7匹
梨子は
レポートを しっかり かきのこした!
コメントする
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。