前回 千歌「ポケットモンスターAqours!」 その4

541 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:07:21.60 ID:IYa5VeT80

■Chapter041 『きらきら』 





梨子「きゃあああああああああ!!!!!?!!?」 


体が背中から自由落下している。 

──このまま、地面に激突……つまり、 

死。 

そのとき、腰のボールが揺れる。 


梨子「っ!!!」 


──ボム! ボールは音を立てて、 

 「ポポ!!」「チコッ!」 

ポッポとチコリータが飛び出す。 


 「ポッポー」 


ポッポは私の腕を掴み、羽をばたつかせる。 


 「チコ!!」 


チコリータは私に“つるのムチ”を巻き付け、 


 「チコッ」 


もう一方に伸ばしたムチで岩肌の出っ張りを掴もうとする。 


梨子「ポッポ! チコリータ!」 


だが、落下速度は僅かに緩んだだけ、 


梨子「ダメっ!!!」 


咄嗟に二匹を抱き寄せる。 

 「ポポ!?」「チコッ!!」 


このままじゃ一緒に地面に叩きつけられちゃう……! 

せめて、少しでも二匹への反動が減るようにと……。 

そしてそのまま、私は地面に──。 





    *    *    * 





梨子「──は……っ……は……っ……」 


天を仰向けで見ている私の視線の遠くの方に、今しがた私たちが落ちてきたであろう穴が見えた。 

視界にはキラキラとした、粉みたいなものが舞っている。 

542 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:09:00.07 ID:IYa5VeT80

梨子「いき……てる……っ……?」 


落下は止まっていた。 


梨子「そ、そうだ! チコリータ! ポッポ!」 
 「チコ」「ポポ」 


抱きしめられたままのチコリータとポッポが腕の中から顔を出す。 


梨子「はぁ……よかった……」 


ひとまず、無事を確認して、私は身を起こす。 

辺りは岩肌に覆われていて──まあ、洞窟に落とされたんだから、当然か……。 

ただ、不思議な点がいくつか。洞窟内が薄ぼんやりと明るいこと、 

そして、私たちが無事だった、理由。 

──白いふわふわとしたものが、私たちの下には広がっていた。 


梨子「これ……なんだろ……」 


しかも、光っている。 


 「チコチコ」 


気付くと、チコリータが口で私の服を引っ張っていた。 


梨子「な、何?」 
 「チコ」 

チコリータは頭の葉っぱで洞窟の奥を指す。そこには……。 


 「シュ…」「シュー…」 


ポケモンが岩の陰に隠れてこっちを見ている。 

ただ、そこも光るふわふわのせいで丸見えなんだけど……。 


梨子「そうだ……図鑑」 


私はポケモン図鑑を開いた。 

 『ネマシュ はっこうポケモン 高さ:0.2m 重さ:1.5kg 
  点滅しながら 発光する 胞子を 辺りに ばら撒く。 
  薄暗く 湿った場所が 好きで 昼は 寝ながら 
  樹木の 養分を 吸い 夜に 目覚めて 活動する。』 


梨子「ネマシュ、胞子……ってことはもしかして、これって……」 


──キノコ? 

気になって力を入れて押してみると、 

──ボフ。 


梨子「きゃ!?」 
543 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:11:30.45 ID:IYa5VeT80

胞子が飛び出して、キラキラと点滅している。 

やっぱり、大きなキノコみたいだ……。 

とにもかくにも、お陰で助かった。 

上を見上げると、先ほど同様、遠くに私たちが落ちてきた穴の口が見える。 

あそこから一直線に落ちてきたということだ。 


梨子「結構落ちたみたいだね……あの高さじゃポッポも飛べないよね」 
 「ポポ」 


……というか、ペラップでも無理。 

垂直に飛ばないといけないし……。 


梨子「ここから上に戻るのは無理……」 


視線を上から戻して、洞窟内を見回す。 

薄ぼんやりと光るキノコに照らされた洞窟内の岩肌には、あちこちに水晶のようなものが見える。 

キノコの灯りを反射して、僅かに光っていた。 

そういえば、真姫さん、水晶や鉱石を多く含んだ岩石で出来ているって言ってたっけ……。 


梨子「そうだ……真姫さん」 


真姫さんが合図を出した瞬間、メブキジカから振り落とされた。 


梨子「…………」 


正直、身体よりも心への精神的なダメージが大きかった。 

ずっと、私を見守ってくれていたメブキジカがこんな形で謀反を起こすとは思ってもみなかった。 

 「チコチコ」 

ぼんやりとしていると、チコリータがまた私の服の裾を引っ張っている。 


梨子「チコリータ……奥に進もうってこと?」 
 「チコ」 


……確かに、ここでボーっとしていてもしょうがない。 


梨子「とりあえず、いけるだけ行ってみようか」 
 「チコ」 


私はふわふわのキノコの上で立ち上がる。 

すると、足がずぶずぶと沈みこむ。 

キノコは上からの見た目よりもずっと大きく、かなり弾力があるようだ。 

歩き辛いキノコの上を転ばないように歩く。 

 「ポポ」 

ポッポが肩に止まり。 

 「チコ」 

チコリータはぴょんぴょんとキノコの上を跳ねながら軽快に前進する。 

私たちは洞窟を奥へと進んでいく。 


544 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:12:36.79 ID:IYa5VeT80


    *    *    * 





 「ブルル…」 

真姫「心配なら、追いかけてもいいのよ? 貴方のレベルなら、登攀することは出来なくても縦穴を降りることは出来るでしょ?」 

 「ブルル」 

真姫「……ま、好きにすればいいけど」 





    *    *    * 




 「チェリ…」 


一応チェリムも出してみたけど……。 

完全に“ネガフォルム”になってしまっている。 


梨子「洞窟の中じゃ、日差しがないからしょうがないか……戻れ」 


チェリムの特性“フラワーギフト”は晴れていれば花を咲かせて、元気になるが、反対に日差しがない場所では元気がなくなってしまう。 

それにしても……。 


梨子「ホントに真姫さん……どういうつもりなのかな」 
 「チコ?」 

梨子「理由があるにしても、普通いきなり落とす……?」 


自分の景色を見つけろ……って言ってたけど。 


梨子「ずっと洞窟だし……」 


確かに薄ぼんやり光ってるキノコは綺麗と言えば綺麗だけど……ちょっと不気味でもある。 

夜の虹の話もしてたけど……。 


梨子「洞窟の中じゃ、夜空見えないし……」 
 「チコ」 


私の独り言に相槌を打つようにチコリータが鳴く。 

ふわふわしたキノコの上を進むたび、岩陰に見切れていたネマシュたちが奥の方に逃げ、しばらく逃げたら、また同じように岩陰から覗いてくる。 

そんな光景の繰り返し。 


梨子「……ん……」 

 「ポポ」 


耳元でポッポが鳴く。 


梨子「…………?」 

 「ポポ、ポポ」 
545 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:13:46.28 ID:IYa5VeT80

──何か……変だ……。 

頭の中に靄が掛かってくる。 

視界に映る、ぼんやりとした光が点滅して……。 


 「チコチコ!!」「ポポ!!」 


梨子「あ……れ…………?」 


だんだん、力が抜け……て……。 


 「チコッ!!!」 

──チコリータが鳴くと同時に、ボンボンボンッ! と連続で破裂音がする。 


梨子「!?」 


音に驚き、意識が戻ってくる。 


梨子「な、なに!?」 
 「チコ!!」 


チコリータの方を見ると、自分の頭の葉っぱの上にタネが乗っていた。 

それを私に見せるように、放ると── 

──ボンッ!! 

音を立ててタネが爆ぜる。 

“タネばくだん”みたいだ 


梨子「わ、私……今寝てた……?」 
 「チコッ」 


チコリータが頷く。 

気付けば、大きなキノコの上でうつ伏せになっている。 

私は上半身を起こして、頭を振った。 

気付いたら眠っていた……いや、眠らされていた。 

キノコを踏むたびに、飛び出る、光る胞子を見ていたら、だんだん視界が──。 


 「ポポッ!!」 

梨子「……はっ!!」 


今度はポッポの鳴き声で戻ってくる。 


梨子「この光、見てると眠くなる効果がある……!?」 


私は立ち上がって、走り出す。 

このキノコ地帯は思ったより危険だ……! 

視線を前に戻すと、 


 「シュー」「ネマシュー」 


また岩陰からネマシュがこっちを覗いている。 


梨子「もしかして、あのネマシュたち……!!」 
546 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:14:51.57 ID:IYa5VeT80

ある疑惑が脳裏に浮かぶ。 


梨子「チコリータ! “はっぱカッター”!」 
 「チコッ!!」 


チコリータが頭の葉っぱを振るうと、そこから鋭く硬い葉っぱが飛び出す。 

その葉っぱは、ネマシュたちの隠れている岩にぶつかり、硬い音を立てる……が。 


 「シュー」「ネマシュ」 


梨子「やっぱり、逃げない……!!」 


私は勝手に臆病なネマシュたちが驚いて逃げてるんだと思っていたけど……違う。 


梨子「私が“キノコのほうし”で眠るのを待ってたんだ……!!」 


眠った後……養分にするために……! 

だが……わかっていても、 

視界が揺れる、 


 「ポポッ!!」 


耳元でポッポの大きな声。 


梨子「……!! ごめん、ありがとうポッポ」 


視界をどこに向けても光が目に入ってきて、気付くと眠りかける。 

ポッポがこうして起こしてくれるから、どうにかだけど……。 


梨子「ポッポが寝ちゃうのが一番まずい……チコリータ、ポッポに“なやみのタネ”」 
 「チコ」 


チコリータがポッポに向かって、タネを投げつける。 

そのタネがポッポの羽毛に紛れると、 

 「ポッポ…」 

ポッポが少しだけ苦い顔をする。 


梨子「ごめん、ポッポ! ちょっと我慢して!」 
 「ポポー」 


“なやみのタネ”は対象のポケモンの特性を“ふみん”にする技だ。 

チコリータはそもそもくさタイプだから、“キノコのほうし”で眠ることはないが、ポッポは別。 

だから、予め眠らないように対策を打つ。 

後は── 

 「シュー」「ネマシュー」 

よくよく見ていると、ネマシュたち自身も光る胞子を放っている。 


梨子「チコリータ、ネマシュたち、撃退できる?」 
 「チコッ!!」 

梨子「よし! “マジカルリーフ”!」 
 「チコッ!!」 
547 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:16:28.57 ID:IYa5VeT80

先ほどの“はっぱカッター”同様、葉っぱを飛ばして攻撃する。 

が、さっきの技とは少し違う。 

“マジカルリーフ”は周りこむように、一匹のネマシュに炸裂する。 

 「ネマッシュ!」 

この技は必中技。追尾式だ。 

攻撃を食らったネマシュはさらに洞窟の奥へと逃走する。 


梨子「よし、効いてる!」 
 「チコッ」 


私はそのまま一本道を埋め尽くす、光るキノコの上を全力で走る。 

すると、今走っている、通路の先の方で、キノコの道が終わり、開けた空間が見える。 


梨子「! 通路の出口……!」 


出口を見つけた拍子に、逸ったのか足に力が入る。 


梨子「きゃ!?」 


足場が悪いこともあったせいか、足がもつれて、身体が前傾のまま、宙を浮く。 

柔らかいキノコの上を転がりながら、 


梨子「きゃぁっ!!」 


通路の外に放り出され、開けた空間を転がる。 


梨子「──……痛……くない……?」 

 「チコチコ」 


チコリータの鳴き声を聞きながら顔をあげると、辺りに“グラスフィールド”が敷き詰められていた。 


梨子「チコリータがやったの?」 
 「チコ」 

梨子「そっか、ありがとう。怪我せずに済んだよ」 
 「チコ」 


改めて辺りを見回す。 

後ろには先ほど走ってきた通路が光っている。 

前方には比較的開けた空間が広がり、上方には──。 


梨子「何……これ……」 


大きな水の塊が浮いている……? 

その中を何か、魚のようなポケモンの影が泳いで……。 


梨子「いや、違う……これ、水晶……?」 


よく見てみると、それは水が浮いているんじゃなくて、透明な水晶の壁を隔てた先に、水が溜まっているだけだと気付く。 

まるで、天然の水槽のように。 


梨子「すごい……もしかして、クリスタルレイクの湖底……?」 
548 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:18:17.73 ID:IYa5VeT80

天然水槽の上の方からはわずだが太陽の光が差し込んで、洞窟内を仄かに照らしている。 

幻想的な光景だった。 


梨子「綺麗……」 

 「ポポ!」「チコッ!」 

梨子「!」 


見蕩れていたのも束の間、二匹の声で我に返る。 


梨子「ネマシュたちは!?」 


視線を下に戻すと、 

 「マシェー…」 

そこにはネマシュよりもさらに大きな傘のキノコを持ったポケモンが怪しく身体を揺らしていた。 


 『マシェード はっこうポケモン 高さ:1.0m 重さ:11.5kg 
  点滅する 胞子を 吹き出し 眠りに 誘う。 眠った 
  獲物の 精気を 腕の 先から 奪うことが 出来る。 
  仲間が 弱ると その 生気を 送って 助けてあげる。』 


梨子「ネマシュの進化系……! 群れのボス」 


 「マシェー」 

マシェード鳴き声と共に辺りいっぱいに“キノコのほうし”をばら撒く。 


梨子「!! ポッポ、“かぜおこし”!」 
 「ポポー!!」 


ポッポの羽ばたきによって巻き起こる風で胞子を吹き飛ばす。 

この開けた空間なら、さっきみたいに辺り一面を“キノコのほうし”に囲まれるということはない。 

好機を逃すまいと、マシェードに視線を戻すと、 

 「マッシェーー!!!」 

マシェードが激しく閃光した。 


梨子「きゃっ!?」 


咄嗟に目を庇って、腕を上げる。 


梨子「っ! ポッポ!? チコリータ!!」 
 「ポポ」「チコッ」 


名前呼ぶと声が返ってくる、どうやら無事みたいだ。 

ただ、 


梨子「今の“マジカルシャイン”……!」 


突然の激しい閃光を浴びて、目がちかちかする。 

落ちた視力の先でぼんやりとマシェードが揺れている。 


梨子「チコリ──」 


チコリータに指示を出そうとした瞬間、急に膝が落ちる。 
549 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:19:37.79 ID:IYa5VeT80

梨子「な、に……っ……!?」 


急に全身から力が抜けていく。 

 「マシェー」 


梨子「こ、れ……マシェードの攻撃……“ちからをすいとる”……?」 


どんどん力が抜けていく、 

すぐに上半身を起こしていることも出来ず、四つん這い状態になる。 

そのすぐ横を、光弾が飛んできて、 

 「ポポッ!!」 

ポッポを弾き飛ばした。 


梨子「ポッ、ポ……!!」 


恐らく今のは“エナジーボール”だ。 

私が体勢を崩して指示が遅れたところに、攻撃が飛んできた。 

 「マッシェー」 

ポッポが戦闘不能になったのをいいことに、マシェードは再び“キノコのほうし”をばら撒く。 


梨子「……く……」 


急激に眠気が襲ってくる。 

 「チコッ、チコッ!!」 

チコリータが私を葉っぱでぺしぺし叩いている。 


梨子「……っ」 


奥歯を噛み締めて、眠気を堪える。 


梨子「チコ、リータ……! “つるのムチ”……!」 
 「チコッ!!」 


チコリータの伸ばした蔓がマシェードを捕える。 
550 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:20:15.00 ID:IYa5VeT80

 「マシェ!?」 

 「チコッ!!」 

梨子「“しぼりとる”……!!」 
 「チコッ!!!」 

 「マシェシェ…!!」 


そのまま思いっきりマシェードを蔓で締めあげる。 


梨子「ぅ……だめ、だ……今、寝ちゃ……」 
 「チコッ!!!」 

 「マーシェー!!!!」 


霞む視界、意識がまどろみ始める。 

響き渡る鳴き声から、恐らくチコリータとマシェードの力比べ状態。 


梨子「チコ、リータ……」 
 「チコッ」 


この攻防を勝ちきらないと、恐らくマシェードの養分になる。 


梨子「おね……が、い──」 
 「!! チコッ──」 


……意識が落ちる瞬間。チコリータが眩く光った気がした──。 





    *    *    * 


551 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:22:29.44 ID:IYa5VeT80


──────── 
────── 
──── 
── 



 『梨子』 


懐かしい声が聞こえる。 


 『梨子はどんなトレーナーになりたい?』 


あれ、なんだっけ……これ……。聞き覚えがある……。 

これは……夢……? 


 『わたしはね! きらきらしたとれーなーになりたい!』 

 『キラキラしたトレーナー……素敵ね! お母さん楽しみにしてる!』 


ああ、そうだ……あの日、タマムシシティから旅立つ前日にお母さんとした会話だ……。 

これは、私の……記憶だ──。 




── 
──── 


 『いたい……っ……!! いたいよぉ……っ……!!』 

 『梨子、大丈夫だから!! すぐにお医者様が見てくれるから……!!』 


これは……デルビルに噛まれた後かな。 



── 
──── 


 『後遺症こそ残りませんが……痕はどうしても……深く牙が刺さったのは内腿だったので、目立つ場所ではありませんが』 



── 
──── 

552 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:23:21.37 ID:IYa5VeT80

 『梨子……』 

 『あ、何……お母さん……。ちょっと、ボーっとしてた……』 

 『梨子は今でも旅、出たい……?』 

 『……あはは、あんな目にあって、今更旅に出たいなんて言わないよ』 

 『……そう』 


……嘘だ。 

私はずっと冒険に憧れていた。 



── 
──── 


 『え、旅に出られるって……』 

 『遠くの地方でたまたま、貴方と同い年の子が旅立つってことで……梨子、行ってみない?』 

 『い、いや……でも、私は……』 


ホントは行きたい。 

私もいろんな世界が見たい。 


 『梨子がやりたいことなら、お母さん、応援するから……!!』 

 『お母さん……。……お母さんが、そう、言うなら……』 

 『ホントに……!? すぐに先方に連絡するわね……!!』 



── 
──── 


 『梨子、何かあったらメブキジカに頼ってね……!! この子はお母さんの相棒で、きっと梨子の力になってくれるから……!!』 
  『ブルル』 



── 
──── 


 『キレイな地方だって聞いたから、たくさんいろんなものを見てきて』 


 『梨子』 

──『キラキラしたトレーナーに』── 





    *    *    * 


553 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:24:37.57 ID:IYa5VeT80


 「ベイベイ…」 
梨子「……やっと、思い出した……」 
 「ベイ…」 

梨子「私……キラキラしたトレーナーに、なりたかったんだ……っ……」 


 真姫『──なんで、貴方のお母さんは、“この地方”に旅に出してくれたんだと思う?』 


──それは…… 


梨子「……わたし、が……っ……わたしが……きらきらを、ほしがったから……っ……」 
 「ベイ」 


思い出して、想わず、涙が零れた。 


梨子「……かがやきを……っ……ぅっく……っ……さがしたかったから……っ……」 


母の愛の深さを、想い出して……。 


梨子「……こんな、けしきを……っ……、……わたしに……っ……たくさん……っ……みつけて、ほしかった……から……っ……」 


だから、この輝きの地方──オトノキ地方だったんだ。 

──天を見上げると、 

水晶で出来た水槽の中で 

たくさんの光が──ケイコウオたちが、 

水の夜空を、 

踊っている。 

プリズムのように七色に光を乱反射させ、 

──タマムシ色の世界が広がっている。 


梨子「……おかあさん……っ……わたし……っ……わた、し……っ……」 


バカみたいだった。 

ちゃんと足を止めて、空を見ればよかった。 

私の欲しいものは、きっとここまでにもたくさんあったんだ。 

私が見ようとしなかっただけで、 
554 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:25:33.44 ID:IYa5VeT80

 「ベイベイ」「ポポ」 


──旅の仲間も。 

私が子供のとき夢見た、冒険も、こんなに近くにたくさんあったのに、 


梨子「……ベイリーフ……っ……ポッポ……っ……」 
 「ベイ」「ポポ」 

梨子「……いままで……っ……、ちゃんと、むきあえなくって……っ……ごめん、なさい……っ……」 
 「ベーイ…」「クルッポー」 


ベイリーフとポッポが顔を寄せてくる。 


梨子「……こんな……、じぶんかって、な……グス……っ……わたしに……っ……いまでも、ついてきてくれて……っ……ヒグ……っ……ありがとぅ……っ」 
 「ベイベイ…」「ポポッ」 


──ずっと私の欲しかった冒険は、すぐ傍にあったんだ。 

涙の先で、七色の光が、水中の夜空を踊っている。 

クリスタルレイクの虹が……夜の虹が── 


梨子「おかぁさん……っ……、……わたしっ……」 


──虹色の幻想に包まれて、しゃくりをあげて泣きながら、 


梨子「……きらきら……、……みつけたよ……っ……」 


私はやっと……。 

……やっと、 

自分の景色を見つけることが出来た。 

──そんな気がしました。 


555 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 05:26:57.25 ID:IYa5VeT80


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【クリスタルケイヴ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ●        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :  || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 梨子 
 手持ち ベイリーフ♀ Lv.18 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリム♀ Lv.29 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      ペラップ♂ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
      ドーブル♂ Lv.54 特性:ムラっけ 性格:しんちょう 個性:しんぼうづよい 
      ポッポ♀ Lv.17 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:80匹 捕まえた数:8匹 


 梨子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 


556 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:24:28.46 ID:IYa5VeT80

■Chapter042 『星』 





梨子「──よい、しょ……!」 


ひとしきり泣いた後、私はクリスタルケイヴを歩き回り、外に出る口を見つけ、 


梨子「よし……着いた……!」 


丘の頂にあるクリスタルレイクへと再び赴いていた。 

たぶん、場所的には大きな湖の東側だと思うから、最初に落ちた場所とはちょうど反対側……だとは思うけど、 

とりあえず、それはいいや。 


梨子「ベイリーフ!」 
 「ベイベイ」 

梨子「“つるのムチ”!」 
 「ベイ!」 


時間帯は既に深夜。静かな湖畔に釣り糸の要領でムチを垂らすと……。 


 「ベイ」 

梨子「! 引いて!」 
 「ベイ!!」 


すぐに、ポケモンが引っかかって、釣りあがる。 

 「キョキョッキョキョッ」 

野生のケイコウオが月夜の中で発光しながら、飛び出した。 


 『ケイコウオ はねうおポケモン 高さ:0.4m 重さ:7.0kg 
  太陽を いっぱいに 浴びた 尾ビレの 模様は 暗くなると 
  鮮やかな 色で 光りだす。 2枚の 尾ビレを 羽ばたかせて 
  泳ぐ 姿から 別名 湖の アゲハントと 呼ばれている。』 


梨子「いけ、ポッポ!!」 
 「ポポッ──」 


ボールから繰り出したポッポが、眩く光る。 


梨子「うぅん!!」 


マシェードの戦いを経て、経験が溜まったポッポも新しい姿に──。 


梨子「ピジョン!!」 
 「ピジョーーー!!!」 


私は、決めた。 

この旅を目一杯、楽しむんだって。 

いろんな景色を見て、いろんな場所を歩いて、経験して、 

戦って、勝ったり、負けたりしながら、 

仲間たちと、一人のポケモントレーナーとして……! 


梨子「ピジョン!! “つばさでうつ”!!」 
 「ピジョピジョオーーーー!!!」 
557 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:26:44.07 ID:IYa5VeT80

空中に飛び出した、ケイコウオを翼で弾く、 

 「キョキョッ!!!!」 

吹っ飛ばされたケイコウオは空中にいるまま、 

 「キョキョキョ!!!!」 

ピジョンを、自らが吹き出した水で狙い打つ。 

“みずでっぽう”! 


梨子「ピジョン! “オウムがえし”!!」 
 「ピジョッ!!!」 


ピジョンは羽を使って、その“みずでっぽう”をケイコウオに撃ち返す。 


 「キョキョ!!!」 

直後ケイコウオは空中に居るまま、尾ビレをたくみに使って、回転し始める。 

すると、その激しく振るわれる尾ビレから、強い風が吹き始めた。 


梨子「きゃっ!? 魚なのに、“かぜおこし”!?」 


強風に煽られ、打ち返した水は軌道を逸らされ、外れる。 

その隙にケイコウオは水へと潜り── 

──すぐさま、ピジョンへ向かって、“とびはねる”で距離を詰めてくる。 


梨子「ピジョン、“エアカッター”!!」 
 「ピジョォー!!!!」 


ピジョンの翼から空刃が撃ち出される。 

 「キョキョ、キョキョキョ!!!」 

ケイコウオはまたも尾ビレを使って器用に回転しながら、 

その尾ビレで“エアカッター”を薙ぎ消す。 


梨子「“アクアテール”か……!」 


攻撃的なケイコウオはそのまま、ピジョンに空中で突撃しようとしてくる、 


梨子「ピジョン! “たつまき”!」 
 「ピジョッピジョオォーーー!!!」 


ピジョンが力一杯羽を羽ばたかせると、目の前に竜巻が発生する。 

 「キョキョ!? キョキョキョ!?」 

その竜巻に飲み込まれた、ケイコウオはさらに高く打ち上げられて、 

 「キョキョ キョキョキョ」 

さすがにこれ以上の空中制御の手段を失ったまま、落ちてくる。 


梨子「ベイリーフ! お願い!」 
 「ベイ!」 
558 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:28:22.98 ID:IYa5VeT80

ベイリーフに空のモンスターボールを渡して、 

 「ベーイ!!!」 

“つるのムチ”を使っての遠投。 

大きく蔓をしならせて、振りかぶったボールは、ケイコウオに吸い込まれるように飛んでいく。 

 「キョキョ──」 

ボールがぶつかり、そのまま吸い込まれたケイコウオは、 

湖の水面にボールに入ったまま落ちたあと、 

──大人しくなった。 


梨子「……やった!」 

 「ピジョ」 


そのボールをピジョンが脚で掴んで持ってくる。 


梨子「ありがとう! ピジョン!」 
 「ピジョピジョ」 

梨子「ケイコウオ……ゲットだね」 
 「ベイベイ」 


1番道路でポッポを捕獲して以来の捕獲だ。 


梨子「……ベイリーフ、ピジョン……!」 


二匹を抱き寄せて、 


梨子「ありがとう……」 


お礼を言う。 

 「ベイベイ」「ピジョ」 

私が勝手に壁を作っていた二匹と、今こうして一緒に戦って、一緒に捕獲が出来たことが、なんだか嬉しかった。 

──パチパチパチ。 

背後から拍手が聞こえる。 


真姫「いいバトルだったわ」 

梨子「真姫さん……!」 


気付けば、背後に真姫さんが立っていた。 


真姫「吹っ切れたみたいね」 


ベイリーフとピジョンを抱きしめて喜ぶ私を見て、真姫さんはそう言う。 


梨子「はい……ありがとうございます」 

真姫「別にお礼言われるようなことじゃないけど……私は貴方を洞窟に突き落としただけだし」 


……まあ、確かにそうだけど。 
559 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:29:47.86 ID:IYa5VeT80

梨子「その……なんというか、お陰で目が覚めました」 

真姫「それは、メブキジカに伝えてあげた方がいいと思うわよ。貴方が落ちた穴の口で、まだ待ってるから」 

梨子「! ホントですか!」 

真姫「貴方のことを一番心配してたのは、きっとあのメブキジカよ。早く行ってあげなさい」 

梨子「はい!」 


私が走り出すと、 


真姫「メタング、出して」 
 「メタ」 


真姫さんは恐らく手持ちであろう、浮いているメタングに腰掛けたまま、後ろをついてくる。 





    *    *    * 





 「…!!」 

梨子「メブキジカ!!」 


メブキジカは言われたとおり、私たちが落ちた縦穴の口で待っていた。 

私が近付くと、声を掛けるよりも早く、私に気付いて顔をこっちに向けてくれる。 


梨子「メブキジカ……お待たせ……!」 
 「ブルル…」 


ずっと帰りを待っていてくれた、メブキジカを抱擁する。 


梨子「心配掛けて、ごめんね……ありがとう……」 
 「ブルル…」 


メブキジカはペロリと私の頬を舐める。 


梨子「私……もう、大丈夫だから……」 
 「ブルル」 

真姫「それで、これからどうするの? ジム戦、やる?」 


後ろから追いついてきた真姫さんが、そう訊ねてくる。 


梨子「……いえ、当分は鍛えなおしたいなって思ってます。私の手持ちたちと」 

真姫「そ……“私の手持ち”……ね」 

梨子「はい。だから、お母さんから借りていた、ペラップとドーブルと……あと、メブキジカはポケモンセンターに着いたら、返そうと思います。これは、私の冒険だから……」 

真姫「ま、いいんじゃない? 貴方がそれがいいと思うなら」 


真姫さんはぶっきらぼうな言葉選びだけど、心なしか嬉しそうに言っている気がした。 


真姫「ただまあ、メブキジカは不満みたいだけど?」 

梨子「え?」 
560 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:31:07.71 ID:IYa5VeT80

言われて、メブキジカに視線を戻すと、 

 「ブルル…」 

私の頬に鼻をこすりつけてくる。 

まるで、離れたくないとでも言わんばかりに。 


梨子「メブキジカ……」 


私は少しだけ、考えてから……。 


梨子「改めて……私と一緒に旅をしてくれる? 今度は保護者としてじゃなくて、仲間として……」 
 「ブルル!!」 


私がそう言うと、メブキジカは一鳴きしてから、私の頬を舐める。 


梨子「きゃっ くすぐったいよ、メブキジカ……!」 

真姫「決まりみたいね」 





    *    *    * 





深夜のポケモンセンターでボックスにペラップとドーブルを転送する。 


梨子「真姫さん、結局ローズシティまで送ってもらっちゃって……ありがとうございます」 

真姫「別にいいわよ……私が連れてったんだし」 


真姫さんは相変わらずぶっきらぼうに言葉を返してくる。 


梨子「ふふ……優しいですね」 


言葉とは裏腹な親切心に、思わず笑ってしまう。 


真姫「べ、別に……そんなんじゃないわよ」 


私がそう言うと恥ずかしいのか、真姫さんは腕を組んだまま、毛先をくるくると弄り始める。癖なのかもしれない。 


梨子「その……優しいついでに、わがまま言っていいですか……?」 

真姫「だから、私はそういうんじゃ……。……わがまま?」 

梨子「……私を鍛えてくれませんか」 

真姫「…………」 

梨子「今日一日でいろんな大切なことに気付けました。真姫さんと一緒に居ると、もっといろんな景色が見れるかもしれない……だから、もし迷惑じゃなかったら……私に少しの間、バトルを教えてくれませんか」 


私は頭を下げる。 


梨子「私の仲間の皆と……一緒に戦う術を」 

真姫「……。……ごめんなさい、そういうの柄じゃないの」 


……ダメか。さすがに虫が良すぎたかな。 
561 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:33:04.96 ID:IYa5VeT80

真姫「まあ、でも……」 

梨子「?」 

真姫「貴方が勝手にバトルの訓練してるところに、たまに横から口出しするくらいなら……別にいいけど」 

梨子「……!! 真姫さん……!!」 

真姫「ただ、ホント仕事の片手間よ? ジムに病院の研究の仕事に、私は忙しいんだからね」 

梨子「いえ、それでも十分です! これから、よろしくお願いします……!」 

真姫「……だから、私は貴方が勝手に訓練してるのを見てるだけって……ま、いいけど」 


真姫さんは、肩を竦めてから、歩き出す。 


真姫「ほら、行くわよ……梨子」 

梨子「はい!」 





    *    *    * 





千歌「──ん……トイレ……」 


深夜。海未さんの家で寝泊りしてた私は、布団から身を起こす。 

 「ワフ…zzz」「マグ…zzz」「スピィ…zzz」「ワゥ…zzz」 

辺りを見回すと、手持ちの皆は自分の好きな場所で丸まって寝ている。 

ルカリオだけは、部屋の出入り口の近くで座ったまま寝てるけど……。 

まあ、あれが好きなんだと思う。たぶん。 

私は皆を起こさないように、そーっとトイレへ行くために部屋を出る。 





    *    *    * 





──海未さんの家はアキハラシティの東端にある道場だった。 

今は門下生もいないので実質ちょっと大きい普通の住居らしいけど……。 


千歌「あれ?」 


トイレからの帰り道、庭で空を眺める海未さんを見つける。 


千歌「海未さん?」 

海未「千歌? どうしたんですか、もう夜中ですよ」 

千歌「んと……トイレから部屋に戻ろうとしたら、海未さんが居たから……」 

海未「ああ、そうでしたか……」 


海未さんの視線を追うと。 


千歌「音ノ木……」 
562 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:35:10.91 ID:IYa5VeT80

大樹・音ノ木がその存在感を示していた。 


千歌「庭から見えるんですね」 

海未「大きな樹ですからね。お陰で朝は日当たりが悪くて少し困るのですが……」 

千歌「あはは、確かにそれはそうかも……」 


二人で並んで、大樹を見上げる。 


千歌「ホントにおっきいなぁ……」 


何度見ても、その大きさに圧倒される。 


海未「千歌は……龍の止まり樹の話は聞いたことがありますか?」 

千歌「あ、はい。……流星山で凛さんから聞きました。メテノがぶつかる音、なんですよね」 

海未「龍の咆哮のことですね。確かに音はそうなんですが……」 

千歌「音は?」 

海未「あの大樹は、この地方のほぼ中心に位置しているんです」 


……確かに、地図はそんな感じだったかも。 


海未「それは、龍神様が空からこの地方全体を見守るため……と子供の頃から教わって来ました」 

千歌「龍神様……」 

海未「この地方には今、異変が起こっています」 

千歌「異変……メテノのこととかですか?」 

海未「……それをはじめとして、地方のあちこちで不穏な動きがあるんですが……この異変も龍神様は空から見守ってくれているのかな、と思いまして」 

千歌「どうなんだろ……」 


この町にもメレシーのおとぎ話みたいな話があるってことだと思うけど……。 


千歌「私の感覚では……神様は居ても見てるだけってイメージだけど……」 

海未「ふふ……千歌の故郷では、そういう感じなんですか?」 

千歌「んー……ウラノホシはホントにそういう感じ、かなぁ……。罰が当たるって、言われたことはあるけど……罰が当たったことないし」 

海未「確かに……それは、この上ない実体験ですね」 


海未さんはそう言ってくすくすと笑う。 


海未「子供の頃……よく三人で──穂乃果と、ことりと一緒に、龍神様に会うためにあの樹を昇ったものです」 

千歌「あの樹、子供だけで登るには高くないですか?」 

海未「そうですね……ただ、ことりの周りにはいつでも鳥ポケモンがたくさん居たので、意外と安全な木登りでしたよ。専ら音ノ木の周りの太い蔦や茎、葉の上を歩くわけなので、全然楽ではありませんでしたが」 


確かに、善子ちゃんと一緒に音ノ木に行ったときも、葉っぱの上で一休みした記憶がある。 

2~3人どころか、10人以上乗っても大丈夫そうな、そんなスケールだった。 


海未「そういえば、千歌……」 

千歌「なんですか?」 

海未「ことりのこと……恨まないであげてくださいね」 


海未さんは真剣な声音で言う。 
563 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:36:15.63 ID:IYa5VeT80

千歌「突然、どうしたんですか……?」 

海未「いえ……こうして今、千歌と並んで音ノ木を見ているのも、元はと言えば、ことりにいろいろなことを押し付けてしまったからなのかなと、思って……」 


……海未さんなりの、ことりさんへのフォロー、ってことかな。 


海未「ことりは……背負い込みすぎるきらいがあるので……」 

千歌「背負い込みすぎる?」 

海未「元からジムリーダー候補だった、私や……穂乃果の役割まで自分が果たさなくちゃいけないなと思っているんです。だから、厳しく人を導くことや、純粋に楽しさを教えることを同時に果たそうとしたりして、空回りしてしまうときがあって……」 


梨子ちゃんと私の挑戦に対して、両極端な反応をしていたことを言ってるのかも。 

こうして海未さんなりに、ことりさんを気遣ってフォローしてる辺り……。 


千歌「……海未さんって」 

海未「?」 

千歌「ことりさんのこと、大好きなんですね」 


ホントに大切な人だから、誰かに嫌いになっても欲しくない、って気持ちなら、わかる気がする。 

私も曜ちゃんが人から嫌われるのは、嫌だし。 


海未「……ええ、もちろん。大切な幼馴染ですから」 

千歌「大丈夫です! 恨んだりなんか、してないですよっ! むしろ、お陰で海未さんに稽古付けて貰えるんだから、感謝したいくらい!」 

海未「ふふ、そうですか。なら、安心しました」 


海未さんは微笑んでから、 
564 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:36:50.56 ID:IYa5VeT80

海未「稽古が始まっても同じことが言える根性があることを願っていますよ」 


不穏なことを言う。 


千歌「うぇ……? そ、そんなに厳しいんですか……?」 

海未「……まあ、それも、貴方次第ですよ」 


海未さんはそう言ってから、踵を返して、家の中に戻っていく。 


海未「長話になってしまいましたね。そろそろ、休みましょう」 

千歌「あ、はい!」 


私は返事をしながら、海未さんのあとについていく。 

そのとき、ふと── 

夜空の遥か向こう側に、何かの影が過ぎった気がして、 


千歌「……?」 


思わず振り返って、再び空を仰ぐ。 

でも、そこには星が眩しいくらいに光ってるだけで……。 


千歌「気のせい……かな……?」 

海未「千歌? 何してるんですか?」 

千歌「あ、なんでもないです!」 


海未さんに促されて、私も部屋へと戻っていく。 

夜には満天の星空が広がる、このオトノキ地方の中心で……明日からは、私の修行がスタートします。 


565 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 15:37:48.34 ID:IYa5VeT80


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【ローズシティ】【アキハラタウン】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       ● __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_●o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :  || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 梨子 
 手持ち ベイリーフ♀ Lv.20 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリム♀ Lv.29 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      ピジョン♀ Lv.19 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
      ケイコウオ♀ Lv.18 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:83匹 捕まえた数:10匹 

 主人公 千歌 
 手持ち マグマラシ♂ Lv.29  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.27 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクバード♂ Lv.29 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.28 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
      ルカリオ♂ Lv.20 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:109匹 捕まえた数:11匹 


 梨子と 千歌は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



566 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 16:52:36.77 ID:IYa5VeT80

■Chapter043 『開催! コメコたくましさコンテスト!』 【SIDE You】 





司会『さて……たくましさ大会ノーマルランク、優勝者は──』 


司会のお姉さんの声と共に、スポットライトが私の前に集まってくる。 


司会『エントリーNo.4! ゴーリキーとそのコーディネーターヨウさんです! おめでとうございます──』 





    *    *    * 





曜「さて……まずはノーマルランク突破だね! ゴーリキーお疲れ様!」 
 「ゴーリキ!!」 


今、私はコメコシティのたくましさ会場に一人。 

今回のことりさんからの任務は──。 



──────── 
────── 
──── 
── 


ことり「コメコシティのたくましさ大会をノーマル、ウルトラランク続けて一気に勝ち抜くこと!」 


そんな高いハードルだった。 

おさらいだけど……ノーマルランク優勝は+3ポイント。グレートランクは+6ポイント。ウルトラランクは+9ポイント。 

グレートランクはノーマルランク2位以上、ウルトラランクはノーマルランクで優勝すれば挑戦権が貰える。 

コメコで稼ぎたいポイントは最低でも+10……ウルトラランクの優勝は今からグランドフェスティバルを目指すなら必須条件だ。 

──そうなると、必然的にノーマルランクを優勝。グレートランクを飛ばして、ウルトラランクで優勝する必要がある。 


ことり「まあ、ノーマルランクは曜ちゃんなら苦戦しないと思うけど」 

曜「い、いきなりウルトラランク一発優勝は、ハードルが高いような……」 


お師匠様からの期待が重い……。 


ことり「でも、たくましさランクは開催頻度が1ヶ月に1回だし、これを逃すとチャンスはどんどん減っちゃうからね?」 

曜「それはそうだけど……」 

ことり「むしろ、どこまで行っても曜ちゃんはフソウ大会で絵里ちゃん──えっと、アローラキュウコンのコーディネーターさんね──に勝たないといけないから、他の4大会は出来るだけ早くパスしておかないと。……絵里ちゃん相手に10勝以上勝ち越す自信があるなら別だけど」 

曜「むむむ……」 


とは言うものの……ことりさんの言う通り、絵里さんは恐らくフソウ大会を今後も勝ち続けるだろう。経験者曰く、それくらい圧倒的に強いみたいだし……。そうなると毎週勝ち点+9ポイント。 

現在の持ち点が12ポイントらしいから……10週勝ち抜きで102ポイント。その時点でマスターランクへ昇級してしまう。 

つまり、最低でも後9週間……いや、もうあれから1週間弱は経過してるから、8週間ちょっとで他のランクをウルトラランクで抜けている必要がある。 


ことり「そのために曜ちゃんにはアドバイスをしておきますっ!」 

曜「アドバイス?」 

ことり「コンテストの戦い方、ね♪」 
567 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 16:54:17.90 ID:IYa5VeT80

── 
──── 
────── 
──────── 



さて、アドバイスをしてくれた張本人のことりさんは、仕事があって現在この場には居ない。 

朝にセキレイシティから、コメコシティまでチルタリスの背に乗って、送ってもらったあとは、私だけだ。 


 ことり『コメコ会場を制覇したら、そのまま4番道路を抜けてダリアシティに向かってね♪ 遅刻したら、次のかしこさ大会は3週間後になっちゃうから、ちゃんと辿り着くようにっ!』 


今週末は珍しく、たくましさ大会とかしこさ大会が同時に開かれる週らしく、それ故か、同日の開催ではなく日をずらしての開催らしい。 

これが好機だと、ことりさんに二つのコンテストを制覇してこいと送り出されたわけだけど……。 


曜「……まあ、言っててもしょうがない! 勝って、コメコシティとダリアシティの二つのウルトラコンテストリボンをことりさんに自慢するんだ!」 


ことりさんにはよくしてもらってる。今、私に出来る恩返しはコンテストで勝って、ポイントと優勝リボンを集めることだ。 


曜「行くよ! ゴーリキー!」 
 「ゴーリキ!!」 





    *    *    * 





司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、月に一回、ポケモンたちのたくましさを競う祭典、ポケモンコンテスト・コメコ大会のお時間です!!』 


司会の声と共に沸き立つ会場、 


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……ゴローニャ&ノボル! エントリーNo.2……バクーダ&タモツ! エントリーNo.3……ナゲキ&マコト!』 


一匹ずつ順に、スポットライトが当たる。 

対戦相手はやまおとこのおじさんがゴローニャ、キャンプファイヤーのお兄さんがバクーダ、バトルガールの女の子がナゲキを使っているようだ。 

ゴローニャ、バクーダ、ナゲキ……やっぱり、ウルトラランクともなると、他の3人は最終進化系……。 

でも、コンテストでは進化してることがイコールで強さには直結しない。 

とにかく、まずは一次審査だ……!! 


司会『エントリーNo.4……ゴーリキー&ヨウ! お、おおっと──!?』 


スポットライト共にゴーリキーが着ている白を基調とした衣装が光を反射する。 

──今回の衣装テーマは……ずばり船乗り……! 

真っ白な衣装に袖と襟に青いライン。水兵帽に青いスカーフをして、まさにザ・船乗りな自信作! 

やっぱり、たくましさの象徴と言えば船乗り……これしかないよね! 

……何故か、ことりさんは、 


 ことり『ええっと……船乗りさん? う、うーん、確かにたくましいけど……』 


と微妙な反応をしていたけど、会場を見ればそれははっきり── 


司会『これは……船乗りでしょうか!? たくましさコンテストで衣装まで用意してくるとはよほどの船好きでしょうか!!?』 
568 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 16:55:53.66 ID:IYa5VeT80

……あれ? 

概ね会場は盛り上がってるけど……なんかちょっとざわついてる? 


司会『さあ、一次審査の開始です!! ゴローニャは緑、バクーダは赤、ナゲキは黄色、ゴーリキーは青でお願いします!』 


会場審査が始まる。 

青は……たぶん会場の3分の1以上はある……! 


曜「あれ……おかしいな。ぶっちぎりで一位だと思ったんだけど……」 


思わず小さく呟いてしまう。 

……あれー? 


司会『さて、インパクトのある、船乗り衣装が気持ち優勢でしょうか!! 間もなく投票を締め切りますよー!!』 


……なんか思ってたのと反応が違う……けど、まあとりあえず滑り出しは悪くない、かな? 


司会『さて、ここで投票締め切りです! それではお待ちかね、二次審査・アピールタイムです!』 


それに今回はことりさんから二次審査の戦い方も教わったんだ── 


──────── 
────── 
──── 
── 



ことり「まず最初に、コンテストはどうしたら優勝できる?」 

曜「ポケモンの魅力を最大限に引き出して、会場のお客さんに見せることだと思うであります!」 


即答。 


ことり「うん、正解♪ ……でも、コンテストは競技だし、妨害もある。いつでも思い通りに自分のアピールが出来るとは限らないよね」 

曜「うん」 

ことり「特にたくましさ大会とかっこよさ大会では、妨害技も多いから……妨害特化、荒らし技で周りのアピールを邪魔しながら、結果として一番目立つって言う作戦が他大会に比べて多いの」 

曜「えっと……“かみくだく”とか、“のしかかり”とか?」 


確かこの二つはたくましさの技の中でも直前にアピールしたポケモンを大きく驚かす技だったはず。 


ことり「うん、曜ちゃんよく勉強してるね♪ それは本当に妨害のための技。たくましさだとアピールも両立出来るのは“いわなだれ”とか“だくりゅう”、“ダストシュート”とかかな」 

曜「じゃあ、そういうことも踏まえた対策は……」 

ことり「“てっぺき”、“とける”、“ワイドガード”とかだね。アピールを両立するなら、“あなをほる”、“かたくなる”とか……その分防御は薄くなっちゃうけど」 


こうして部門ごとに技がすらすら出てくるのはさすがことりさんと言ったところだろう。 


ことり「状況に応じて、自分も妨害したり、防御技も使える対応型のコーディネーターさんが自然と増えてくのも上位大会の特徴かな。ただね……」 

曜「?」 

ことり「曜ちゃんが目指すべき作戦はそういうのじゃなくて──」 


── 
──── 
────── 
──────── 

569 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 16:56:58.43 ID:IYa5VeT80

司会『さあ、二次審査はゴーリキー、ゴローニャ、ナゲキ、バクーダの順で始まります!』 


コンテストは妨害もあるから、アピールが万全に出来るとは限らないけど……。 


曜「ゴーリキー! “かいりき”!!」 
 「ゴーリキ!!!」 

 《 “かいりき” たくましさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ゴーリキー +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


ゴーリキーは床に指を付きたてた後── 

……ステージごと床を、引っぺがした。 


司会『おおっと!! いきなり会場をぶっこわしにきたー!!!』 


──たくましさをアピールすると、必然的に激しいアピールでコンテスト会場が壊れてしまう。 

故にたくましさ会場は開催数が極端に少ないのだ。 

頭の痛いジレンマだけど、ウルトラランククラスになったら、使えるアピールは最初から全力で……!! 


曜「持ち上げる!」 
 「リキッッ!!!!!」 


そのまま、さっきまで会場ステージの一部だった塊を持ち上げ、 

 「ゴーーリキッ!!!!!」 

音を立てて震脚しながら、ゴーリキーは岩塊を掲げる。 

……と、同時に会場が歓声で沸き立った。 


司会『もはや、たくましさコンテストでは名物の会場割りですが、やはり圧巻ですね!! 審査員の方々もこれを見に来たと言わんばかりの表情です!!』 


……よし! いける……!! 



────── 
──── 
── 


曜「──目指すべき……?」 

ことり「曜ちゃん自身は対応タイプのコーディネーターさんな気はするけど……やりたいことはそうじゃないでしょ?」 

曜「やりたいこと……」 

ことり「うん、コンテストライブで、どうしたい?」 

曜「……自分のポケモンに似合う衣装で、会場を魅了したい」 

ことり「うん♪ なら」 

曜「最初から最後まで、ポケモンの持ってる魅力で圧倒する……!」 

ことり「そういうこと♪ 曜ちゃんの目指すべきところは、とにかく魅力的な衣装と技で会場を沸かせることだけを考えるアピール特化!」 


── 
──── 
────── 

570 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 16:58:12.92 ID:IYa5VeT80

私が今回目指すのは、とにかくぶっちぎりで周りを置いていくことだ、 

ただ、ことりさん曰く──『アピール特化を狙い撃ちした妨害特化もいるから、あくまで方向性として、だけどね』──とのこと。 

状況を見て、あまりに狙い撃ちされるようなら、考える必要があるけど、 

あくまで第一目標は自分たちのアピールをしっかり決めること……!! 


ノボル「ゴローニャ、“てっぺき”だ」 
 「ゴローニャ」 

 《 “てっぺき” たくましさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆ 
   ゴローニャ◆ +♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


一方ゴローニャは初手は手堅く様子見。 


マコト「ナゲキ!! “やまあらし”!!」 
 「ゲキ!!」 

 《 “やまあらし” たくましさ 〔 どの コンテストで みせても 必ず 盛り上がる アピール 〕 ♡♡ 
   ナゲキ +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


そんなゴローニャをすかさず、ナゲキが背負い投げる、 

──ズン!! 

300kgの巨体が、コンテスト会場を揺らす。 


司会『おおっと、ナゲキがアピールのためにゴローニャを投げ飛ばしました!!』 


ノボル「はっはっは、元気だねぇ」 
 「ゴロー」 


一方でゴローニャは丸まったまま、全く動じない。 


司会『ゴローニャ、“てっぺき”による防御力を見せ付けます! 一方ナゲキも妨害にはなりませんが、素晴らしいたくましさですね……!』 


ぐらぐらとゴローニャの衝撃で揺れるなか、ゴーリキーは岩を持ったままだ。 


曜「ゴーリキー、大丈夫っ?」 
 「リキ!!!!」 


どうやら、平気だ。よし、好調なまま次のアピールに──。 

思った矢先、 


タモツ「バクーダ! “じしん”!」 
 「バクー!!!」 

 《 “じしん” たくましさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥~ 
   バクーダ +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


バクーダがさらに大きな揺れを発生させる。 
571 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:08:15.70 ID:IYa5VeT80

曜「わっ!?」 
 「リキ!!!?」 

 《 ゴーリキー -♥♥♥ 
   Total [ ♡♡ ] 》 

足元を揺らされた衝撃で、ゴーリキーは岩を手から滑らせる。 


 「ゴローニャッ」 

 《 ゴローニャ◆ 
   Total [ ♡♡ ] 》 

ゴローニャは“てっぺき”で防いでいる。 


 「ゲキッ」 

 《 ナゲキ -♥ 
   Total [ ♡♡ ] 》 

ナゲキもゴーリキー同様バランスを崩して減点。 


司会『おっとぉ!! ここで更なる妨害!! ゴーリキーが岩を落としてしまいました!!』 

曜「……!」 

タモツ「足元注意だな」 

司会『さあ、序盤から激しいアピールの応酬です!!』 

曜「……ゴーリキー、ドンマイ!」 
 「リキ…!!」 


……いや、最初から失敗の可能性は折り込み済みだ。 

その上で自分のアピールを優先する。 

──ペースを乱されないようにするんだ。 


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   ゴーリキー  ♡♡♡♡♡ ♥♥♥ [ ♡♡  ] 
   ゴローニャ  ♡♡        [ ♡♡  ] 
      ナゲキ  ♡♡♡ ♥     [ ♡♡  ] 
    バクーダ  ♡♡♡       [ ♡♡♡ ]                 》 


司会『さあ、二次審査2ターン目! バクーダ、ゴーリキー、ゴローニャ、ナゲキの順番にお願いします!』 

タモツ「バクーダ! “マグニチュード”!!」 
 「バグッ!!!!!」 

 《 “マグニチュード” たくましさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡ 
   バクーダ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


──再び、バクーダが会場を揺さぶる。 


司会『お、おおっととと、畳み掛けるように、バクーダが会場を揺さぶります!! これは大きな加点が期待できますね!!』 


“マグニチュード”は確か、会場の盛り上がりにあわせて評価が変わる技だったはず、更にエキサイトはMAXだから──。 


タモツ「バクーダ、ライブアピールだ! “強烈な縦揺れ”を起こせぇ!!」 

 《 “強烈な縦揺れ” たくましさ 〔 たくましさ部門 じめんタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   バクーダ +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


その名の通り、“強烈な縦揺れ”が発生し、それに伴いステージが大きくひび割れる。 
572 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:09:24.21 ID:IYa5VeT80

司会『たくましいライブアピールが決まりました!!』 


バクーダによる、かなりの加点が出来るアピール……しかも全てが噛み合った完璧なタイミングだ。 

いや、でもいい。関係ない。 

私の戦い方に周りの動きは関係しない。 


曜「……ふー」 
 「リキ」 


先ほど、ゴーリキーが手から取りこぼした、岩塊を目の前に、息を整える。 

“マグニチュード”の揺れが収まり、私のアピールが一番光る瞬間を見極めて── 


曜「“からてチョップ”!!」 
 「ゴーリキッ!!!!」 

 《 “からてチョップ” たくましさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ゴーリキー +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


──手刀を振り下ろす。 


司会『!! これは素晴らしいチョップだ!! 大きな岩が真っ二つです!!』 


目の前の岩が正中からバックリと割れて、そこから開くように崩れ落ちる。 

その光景を見て、会場が再び沸きあがる。 


曜「……よし!」 


大丈夫、負けてない。 


ノボル「ゴローニャ」 
 「ゴローニャ!!!」 


今度はゴローニャが、会場を殴りつけ、その反動で割れたステージの欠片が宙を舞う。 


ノボル「──“いわおとし"!」 

 《 “いわおとし” たくましさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ゴローニャ +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


そのまま、砕かれた破片は岩となって、降り注ぐ。 


司会『さあ、再び会場が破壊されています! 2ターン目でありながら、もはや会場はボロボロだぞぉ!?』 


──降り注いでくる岩。 

避けるか? いや……。 


マコト「ナゲキ!!」 
 「ゲキッ!!」 

曜「ゴーリキー、そのままで」 
 「リキ」 


横のバトルガールの女の子が動き出したのを見て、ゴーリキーに動く必要がない旨を伝える。 
573 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:10:33.37 ID:IYa5VeT80

マコト「“リベンジ”!!」 
 「ゲキッ!!!」 

 《 “リベンジ” たくましさ 〔 1番 最後に アピールすると アピールが すごく 上手くいく 〕 ♡♡~♡♡♡♡♡♡ 
   ナゲキ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 



ナゲキは会場中に降り注ぐ岩を拳で叩いて、割り砕き、 

──最後に振ってきた多きめな岩を背負い投げるようにして、 


 「ゲキッ!!!」 


会場に叩き付けた。 


司会『逆に“いわおとし”を利用してのアピール!! これはたくましい!!』 


これは確かにたくましい……! 

会場も盛り上がっている、高評価だ。 


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
    バクーダ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 
   ゴーリキー ♡♡♡♡♡         [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡          ] 
   ゴローニャ ♡♡♡♡♡         [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡          ] 
      ナゲキ ♡♡♡♡♡⁵♡♡       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡        ] 》 


司会『さあ、ウルトラランク!! 白熱してまいりました!! 第3ターン、バクーダ、ナゲキ、ゴーリキー、ゴローニャの順です!!』 

タモツ「バクーダ! “とっしん”!」 
 「バクッ!!!」 

 《 “とっしん” たくましさ 〔 とても アピール できるが このあと 驚きやすくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡ 
   バクーダ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


第3ターンの開始と同時にバクーダが飛び出す。 

ナゲキが最後に背負い投げした、岩に向かって。 

そのまま、岩に体をぶち当てて、バクーダがアピールをする。 


マコト「ナゲキ!!」 


──が、 

その岩陰にいた、ナゲキはバクーダをいなすように手を伸ばし、 


 「バク!?」 

マコト「“のしかかり”!」 
 「ゲキッ!!!」 

 《 “のしかかり” たくましさ 〔 自分の 前に アピールした ポケモンを かなり 驚かす 〕 ♡ ♥♥♥♥ 
   ナゲキ +♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


そのまま、押さえ込むように圧し掛かる。 
574 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:11:33.59 ID:IYa5VeT80

 「バクゥッ!!?」 

 《 バクーダ -♥♥♥♥♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》 

タモツ「!!」 

司会『おっと!!! 乗りに乗っていたバクーダをナゲキが手堅く咎めます!!』 


──今朝ことりさんとも話してた“のしかかり”。 

直前の相手のアピールを激しく咎める技だ。 

やはり、妨害合戦になってきた。 

加えて、エキサイトゲージはMAXに── 


マコト「ナゲキ! “屈強なる鉄砲玉”!!」 
 「ゲキッ!!!!」 

 《 “屈強なる鉄砲玉” たくましさ 〔 たくましさ部門 かくとうタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   ナゲキ +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


ナゲキが走り出し、周囲に落ちている岩石たちを、その勢いで一気に割り砕く。 


司会『さあ、必殺のライブアピールが炸裂しています!!』 


周りのポケモンたちが順調をアピールを重ねている。 

でも焦るな……いや、むしろ自分たちのアピールをしっかりと……! 


曜「ゴーリキー」 
 「リキ」 


ゴーリキーは割り砕かれた岩石たちの中で比較的大きいまま残っているものの前まで、のしのしと歩いていき、 


曜「“いわくだき”!!」 
 「ゴゥ!!!!」 

 《 “いわくだき” たくましさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ゴーリキー +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


岩に向かって、正拳突き……!! 

大きな岩は、 

時間差で、 

ヒビ入り──割れ崩れた。 


曜「……っし!!」 
 「リキッ!!!」 


あくまで私のアピールは手堅く。 


ノボル「ゴローニャ、“じならし”だ!」 
 「ゴローー!!!」 

 《 “じならし” たくましさ 〔 アピールが 終わっている ポケモン みんなを 驚かす 〕 ♡♡ ♥♥ 
   ゴローニャ +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 
575 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:13:36.83 ID:IYa5VeT80

ゴローニャがピョンと跳ねて、その体重で再び会場を揺さぶる。 

全体妨害技……!! 

 「リキッ!!!」「バクゥゥゥ!!!!」「ゲキッ」 

 《 ゴーリキー -♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 バクーダ -♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 ナゲキ -♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》 


不安定な足場に全員が体勢を崩す。 


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
    バクーダ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ♥♥♥♥♥⁵♥♥♥♥♥¹⁰♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡      ] 
      ナゲキ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ♥♥            [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 
   ゴーリキー ♡♡♡♡♡ ♥♥              [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡     ] 
   ゴローニャ ♡♡♡                    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡      ] 》 


司会『さあ、混戦模様ですが、このまま4ターン目です! ナゲキ、ゴーリキー、ゴローニャ、バクーダでお願いします!』 


マコト「ナゲキ! “ちきゅうなげ”!!」 
 「ゲキッ!!!」 

 《 “ちきゅうなげ” たくましさ 〔 続けて だしても 観客に 飽きられずに アピール できる 〕 ♡♡♡ 
   ナゲキ +♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


ナゲキは会場に大量に落ちている岩の中から大きめのモノを選び、背負い投げるようにして、空に放り投げる。 

手堅くたくましいアピール。 

そしてゴーリキーは、さっきの“いわくだき”がうまく行った証拠か、4ターン目はライブアピールを決めたナゲキに付ける形で2番目のアピール。 

ここは最後の大技のことを考えて、 


曜「ゴーリキー、“がまん”」 
 「リキ…」 

 《 “がまん” たくましさ 〔 この次の アピールを 終わりの方に だすことが できる 〕 ♡♡♡ ④ 
   ゴーリキー④ +♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


ゴーリキーを落ち着かせる。 


司会『おっと、ゴーリキー。勢いに任せず、一旦体勢を立て直すようです』 


今は精神を集中させる。最後の一撃のために。 


ノボル「がっはっは、随分大人しいな! ゴローニャはもっとたくましいぞ!」 
 「ゴローニャッ!!!!!」 


言うと同時にゴローニャが最初のゴーリキーのように床に手を突く。 

 「ゴロォオーー!!!!!」 

そのまま、ゴローニャが鳴き声をあげると──ミシミシと、ヤバイ音が聞こえる。 

ステージ上に更なるヒビが入り、 
576 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:24:06.36 ID:IYa5VeT80

ノボル「ゴローニャ! “ばかぢから”ァ!!」 
 「ゴロオオオオォニャ!!!!」 

 《 “ばかぢから” たくましさ 〔 とても アピール できるが このあと 驚きやすくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡ 
   ゴローニャ +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


曜「うわっ」 

マコト「!」 


最初のゴーリキーが持ち上げたものよりも、遥かにでかい──と言うか、自分の身体の倍以上ある、さっきまでステージだったものを持ち上げる。 


ノボル「がっはっは!!」 

司会『4ターン目も会場がぶっ壊されていきます!! もはや、ステージ上に立つ場所がほとんど残っていません!』 


司会の人の言う通り、隅の方から指示を出す私たちの立ち位置以外、ほとんど残っていない。更に── 


ノボル「ライブアピールチャンスだなぁッ!! ゴローニャ!! “ロック&プリズナー”!!」 
 「ゴロォォーーー!!!!!!!」 

 《 “ロック&プリズナー” たくましさ 〔 たくましさ部門 いわタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   ゴローニャ +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


ゴローニャの周囲に巨大な石柱が競り上がり、ゴローニャを巻き込んで持ち上げる。 

その石柱を内側から穿つように割り砕き、ゴローニャが自らのたくましさをアピールする。 


司会『本日3回目のライブアピール!! 各々が自身をアピールするために、破壊の限りを尽くしております!!』 


タモツ「なら、さらに壊そう!! バクーダ! “じわれ”!!」 
 「バクウウウ!!!!!」 

 《 “じわれ” たくましさ 〔 アピールが 上手くいった ポケモン みんなを かなり 驚かす 〕 ♡♡ ♥~ 
   バクーダ +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


バクーダを中心に会場に亀裂が走る。 


ノボル「のわっ!?」 
 「ゴロッ!!!?」 

 《 ゴローニャ -♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

ゴローニャはせっかく大きくポイントを稼いだが、“じわれ”による妨害で大きく体勢を崩して、失点してしまう。 


 《 ナゲキ -♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡ ] 》 

 《 ゴーリキー④ -♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》 

 「ゲキッ」「リキ…ッ!!」 


ついでと言わんばかりに、ナゲキとゴーリキーも僅かな失点を貰う。 


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
       ナゲキ ♡♡♡♡ ♥♥                      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡ ] 
   ゴーリキー④ ♡♡♡♡ ♥♥                      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡     ] 
     ゴローニャ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ♥♥♥♥♥⁵♥♥♥♥♥¹⁰♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡        ] 
      バクーダ ♡♡♡                         [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡     ] 》 
577 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:25:51.00 ID:IYa5VeT80

司会『もはや会場はめちゃくちゃですが、泣いても笑っても、次がラストターン!! バクーダ、ナゲキ、ゴローニャ、ゴーリキーの順でラストアピールです!!』 


“がまん”していたため、ゴーリキーは後ろに回される。 

 「リキ──」 

最後の最後に向けて、集中を始める。 


タモツ「バクーダ!! “ヘビーボンバー”!!」 
 「バグゥ!!!!」 

 《 “ヘビーボンバー” たくましさ 〔 1番最後に アピールすると 会場が とても 盛り上がる 〕 ♡♡♡ 
   バクーダ +♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


一方一番手、バクーダが飛び出して、先ほどゴローニャが取りこぼした、会場を体重を乗せてさらに踏み砕く。 


マコト「ナゲキ!! “ギガインパクト”!!!」 
 「ゲキッ!!!!」 

 《 “ギガインパクト” たくましさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥ 
   ナゲキ +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


 「バグゥ!!!」 

 《 バクーダ -♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡ ] 》 


そのバクーダごと、殴り飛ばす破壊の一撃──“ギガインパクト”!! 


司会『最終アピール!! 大技です!!』 


会場を破片が飛び荒び、砂煙が立ち込める。 

そんな中、のしのしとボロボロの会場を闊歩する、ゴローニャは── 


ノボル「がはは──“だいばくはつ”だ!」 
 「ゴロ──!!!」 

 《 “だいばくはつ” うつくしさ 〔 すごいアピールに なるが このあと 最後まで なにも できなくなる 〕 ♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   ゴローニャ +♡♡♡♡♡♡♡♡ ExP-♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


──大きな破砕音を立て、会場の中心でゴローニャが爆発する。 


司会『やはり出ました!! ゴローニャのお家系、“だいばくはつ”!!!』 


ただでさえ、無茶苦茶な会場は爆炎を交えて、もはや前が見えない。 

このまま、ゴーリキーは存在を忘れられそうな勢いだが、 

──それでいい。 


曜「ゴーリキー」 
 「リキ」 


この激しいラストアピールの間、一切動かず、精神集中して待っていた。 

自分の順番が回ってきたゴーリキーは集中力を高め、 
578 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:26:38.48 ID:IYa5VeT80

曜「──たくましく……!!」 

 「リキッ!!!!!!!!」 


会場の煙も瓦礫も爆炎も全てを、掻き消すように── 

全てを拳圧で消し飛ばす、ただ一発の拳によるアピール……!! 


曜「“きあいパンチ”!!」 
 「ゴゥッッ!!!!」 

 《 “きあいパンチ” たくましさ 〔 1番 最後に アピールすると アピールが すごく 上手くいく 〕 ♡♡~♡♡♡♡♡♡ 
   ゴーリキー +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


気合いの拳は拳圧だけで、周囲の瓦礫などまるごと、 


司会『おぉっと!!?』 


全てを吹き飛ばした。 

会場が一瞬──シンとなったあと、 


司会『……は、破天荒極まる会場の中、最後はゴーリキーが拳圧で全てを吹き飛ばしましたー!!! 最後のアピールは文句なしの大成功です!!』 


静寂は司会者さんの実況を皮切りに、歓声に変わる。 


曜「──押忍!」 
 「リキッ…!!」 


私は歓声を受けながら、ゴーリキーと共に仁王立ちする。 


司会『さあ、これにて二次審査終了です!!」 

 《 5ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
    バクーダ ♡♡♡♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡          ] 
      ナゲキ ♡♡♡♡♡      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡ ] 
   ゴローニャ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡      ] 
   ゴーリキー ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡   ] 》 


司会『これより、最終結果に移らせていただきます!!』 


壮絶な光景になった会場の中、ドラムロールと共に、スクリーンに優勝者の名が── 


司会『……それでは、発表します。コメコたくましさコンテスト・ウルトラランク……優勝者は──!!!』 





    *    *    * 


579 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 17:27:36.49 ID:IYa5VeT80


──コンテスト終了後。 

改めて、観客席から会場を眺めてみると……。 


曜「あはは……確かにこれは、月イチ開催になるかな……」 


ステージ上はほとんどが割れ砕け、陥没している。 

アピール中は気づかなかったが、照明や他の大道具も傾いたり、曲がったりしている。 

むしろ、これ一ヶ月で直るのかな……? 


 「ゴゥリキ」 
曜「まあ、一個くらいはこういう大味な大会になるのかな……たぶん」 


……ポケモンの魅力はそれくらい奥が深い、と言うことにしておこう。 

そして、崩れかけの会場の大スクリーンには最終結果が映し出されていた。 


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査 
   【ゴローニャ】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡        〕 
   【 .バクーダ 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡            〕 
   【 ナゲキ  】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡       〕 
  ✿【ゴーリキー】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》 


曜「じゃ……ゴーリキー、いこっか」 
 「リキ」 


ゴーリキーと共に会場を後にする。 

4番道路を抜けて、ダリアシティに向かうために、私たちは歩き出す。 

私の横をのっしのっしと歩くゴーリキー。 

 「ゴーリキ」 

その胸には、黄色いリボンが──たくましさコンテストウルトラランクを優勝したことを証明するリボンが揺れていた。 

──さて、次はダリアかしこさコンテストだ……!! 



581 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 18:13:57.40 ID:IYa5VeT80



>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【コメコシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :  || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___●○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 曜 
 手持ち カメール♀ Lv.25  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.27 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.22 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
      ダダリン Lv.27 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん 
      ゴーリキー♂ Lv.31 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん 
      タマンタ♀ Lv.12 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:106匹 捕まえた数:18匹 コンテストポイント:12pt 


 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



582 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:38:29.32 ID:IYa5VeT80

■Chapter044 『グレイブ団と宝石と?』 【SIDE Ruby】 





──ダリアシティ。 

花丸ちゃんと一緒に辿り着いたこの街では、街中を研究者や大学の生徒さんが歩き回っています。 

ルビィはセキレイシティのときと同じようにコツコツと聞き込み調査をしているところでした。 


ルビィ「あの、すいません」 
 「チャモ」 

研究員「? 何かしら」 

ルビィ「グレイブ団って人たちがこの辺りに居るって聞いたんですけど……」 

研究員「グレイブ団……確かそこの裏道の奥に研究室があった気がするけど……。余り近付かない方がいいと思うわよ」 

ルビィ「そうなんですか?」 

研究員「宝石の研究をしてるらしんだけど……どうにも、その集め方がかなり強引だって悪い噂を聞くわ」 

ルビィ「そうですか……」 

研究員「貴方みたいに、ちっちゃい女の子が一人でウロついてたら攫われちゃうかもしれないし……あんまりフラフラしていちゃダメよ」 

ルビィ「ぅ……は、はい。ありがとうございます……」 
 「チャモ…」 


ルビィ、これでも15歳なんだけど……。 

さて──聞き込みの調査結果……。 


ルビィ「やっぱり、グレイブ団さんは街でもちょっと浮いてる人たちみたいだね」 
 「チャモ?」 


宝石に関連する人物像から理亞さんに結び付けようと、グレイブ団の聞き込みを始めて、半日ほど。 

グレイブ団はどうやら、宝石を集めていると言う噂が真実味を帯びている。 

その中にはポケモンの名前もいくつかあって、 

ダリアシティの学生さんや研究員さん曰く、バネブーやパールル、サニーゴと言った宝石を持っているポケモンを捕獲している。 

そして、何よりルビィが引っかかったのは、 


ルビィ「最近はメレシーやヤミラミの研究をしてるところを見たって人が結構居たこと……」 
 「チャモ」 


ダリアシティは学園都市だから、研究室間での交流が度々あるらしく、中にはグレイブ団の研究室を見に行ったことがある人も居るようで……。 

──ただ、気になるのは、人によって評価がわかれるところ。 

ポケモンの捕まえ方や、強引さに難色を示す人が多い反面、研究結果や実績などはこの都市内でもそれなりに良いらしい。そのため、同じ研究者として必ずしも悪いとは言い切れないって考えている人も少なくない感じだ。 


ルビィ「まあ、場所がわかったからって……一人で勝手に研究室に行くわけにはいかないけど……」 
 「チャモー」 


目の前をとことこ歩くアチャモを目で追いかける。 


ルビィ「はぁ……こんなとき、花丸ちゃんが居れば……」 


花丸ちゃんなら、ルビィよりもこの街に詳しいだろうし……。 

ルビィが一人、溜息を吐いていると── 

 「アブブ」 

アブリーが飛んでくる。 
583 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:41:00.08 ID:IYa5VeT80

ルビィ「あ、アブリー! おかえり」 
 「アブアブブ」 


アブリーは私が手を持ち上げると、掌の上に留まる。 


ルビィ「花丸ちゃん……どうだった?」 
 「アブブブ」 


アブリーは首──がどこかはわかんないけど、恐らく否定の意味で身体を左右に振る。 


ルビィ「はぁ……やっぱりかぁ……」 





    *    *    * 





さて、花丸ちゃんがどこに行ってしまったか……なんだけど、 

ルビィはダリア図書館に足を運び、そのまま2階に進んでいく。 

──見渡す限り、本、本、本──な館内を奥へと進んでいくと、 


花丸「…………」 


花丸ちゃんは図書館の奥の方で、本を自分の横に山積みにしたまま読書に耽っていた。 


ルビィ「花丸ちゃん」 

花丸「…………」 

ルビィ「マルちゃん、花丸ちゃーん」 

花丸「……ずら? ルビィちゃん、どうしたの?」 

ルビィ「どうしたのじゃないよ……聞き込み、そろそろ手伝って欲しいなって……」 

花丸「あ、そうだったね! えっと、この本が読み終わったら行くから……」 

ルビィ「う、うん……」 


それはさっきも聞いた。 

──と言うか、今読んでるのさっきの本じゃないし……。 

花丸ちゃんは本が大好きで、いつかダリアの大図書館に行ってみたいと言うのは前から、聞かされていたけど……。 

まさかここまでとは思わなかった。 


花丸「…………」 


確かに学校にある小さな図書室の本はほぼ全て読破しちゃったって言ってたし、『大図書館だったら何日も過ごせるね』なんて笑い話をしてたんだけど……。 


ルビィ「これじゃ、何日どころか……何年経っても読み終わらないよね……」 

花丸「…………」 


天井までそびえ立つ本棚を見て、思う。 
584 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:42:45.34 ID:IYa5VeT80

ルビィ「ねぇ花丸ちゃん」 

花丸「…………」 

ルビィ「ルビィ、グレイブ団さんのこといろいろ聞き込みしてきたんだけど……」 

花丸「……ずら?」 


とりあえず、このまま放っておいたら文字通り一生終わらない気がしたから、無理矢理会話を振ってみる。 


ルビィ「グレイブ団さんはこの街に研究室を持ってるみたいで、その人たちが宝石を集めてるのはホントみたい。ダリアシティの学生さんとか研究員さんがそう言ってた」 

花丸「……確かに研究室同士なら交流もあるだろうし、信憑性があるずら」 

ルビィ「うん。あとメレシーやヤミラミの研究もしてるみたい」 

花丸「……なるほど、それは確かにマルたちが追ってる人物像に近いね」 


ルビィたちが追っている人物像──理亞さん。 

ただ、これ以上は恐らく中に入らないとわからない。 


ルビィ「だから、花丸ちゃん」 

花丸「……わかった。一緒に研究室に行ってみようか」 

ルビィ「! うん!」 


どうやら、わかってくれたみたい。 

近くに積んであった本を棚に戻し始める。 


花丸「えっと……じゃあ、この本だけ借りる手続きしてくるから、外で──」 

ルビィ「一緒に付いてくね」 

花丸「え、大丈夫だよ。ルビィちゃんは先に──」 

ルビィ「ほら、早くカウンター行くよ? 花丸ちゃん」 

花丸「え、え? う、うん?」 


このまま一人にしたら、また花丸ちゃんはここに根っこを生やしちゃうから、 

ルビィはそう思って、花丸ちゃんを引き摺るように一緒に貸し出しカウンターに歩いていくことにしました。 





    *    *    * 





花丸「……グレイブ団は随分、街の目立たないところに研究室があるんだね」 

ルビィ「そうだね……」 


再び街往く人たちに聞いて、研究室の詳しい場所を教えてもらった。 

どうやら、研究室自体は一般開放してるところが多いらしい、 

もちろん研究の全てを完全公開したりしてるわけじゃないけど、基本的には来るもの拒まずで研究の同胞を増やすのが目的みたい。 

とりあえず二人でそこを目指すことに。 


花丸「ルビィちゃん……なんならマル一人で行くのもありだと思うんだけど」 

ルビィ「……うーん」 
585 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:44:42.83 ID:IYa5VeT80

その言葉を聞いてルビィは唸る。 

マルちゃんの懸念は、言うまでもない。ルビィの身の安全についてだ。 

ルビィは理亞さんに攫われた。その理亞さんを探して、手掛かりになりそうな場所にこれから行くのだから。 

──もし、仮に理亞さんがグレイブ団に所属している人間なら、ルビィは狙われる対象になる。 


ルビィ「でも、ルビィが言い出したことだし……危険なのはわかってるというか」 

花丸「……虎穴に入らずんば、虎子を得ず……ずらね」 


どっちにしろ、会えたからと言って、はい落ち着いてお話しましょうと言うことにはたぶんならないと思う。 

別に攫われたいわけじゃないけど……。 


ルビィ「前と違って、戦う手段はあるし……!」 


あのときとは違う。ルビィには4匹の仲間がいる。 


花丸「勝つことは出来なくても、騒ぎが起きれば人が来るもんね……」 


もし襲われるようなことがあれば手持ちで戦う。戦えば騒ぎになるから、誰かしら来るだろう。 

……ちょっと無責任な考え方かもしれないけど……どっちにしろ、探してる当の本人が指名手配犯なわけで……その人を探してる理由もルビィが『ただの悪い人だとは思えない』って言う曖昧な理由だし……。 

どうやっても、現状では万人が納得するような理由は、説明出来ない。 


ルビィ「それにもし、本当に理亞さんがいたら、花丸ちゃんだって安全とは限らないし」 

花丸「……まあ、マルも顔は見られてるもんね」 

ルビィ「だから、お互いがお互いを守れるように。一緒にいこ?」 

花丸「わかったずら」 


花丸ちゃんの了承を得て、ルビィたちはダリアの街を奥へと進んでいきます。 





    *    *    * 





ルビィ「し、失礼しまーす……」 


裏路地を抜けて、少しだけ開けた場所に研究室があった。 

言われたとおり一般開放されている場所で、扉を開けて中を覗く。 

……中には人気がなかった。 


ルビィ「……誰もいないのかな……?」 

花丸「無用心ずら」 


二人で室内へと入っていく。 

入ってすぐ目の前にあるホワイトボードには、 


ルビィ「『研究室に御用の方は奥の部屋までお願いします』……だって」 

花丸「なんか誘い込まれてる感じがするずら……」 

ルビィ「……そうだね」 
586 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:47:40.28 ID:IYa5VeT80

さて、どうしようか……もとから敵陣の可能性も考えてきてるわけだし、必要以上に立ち往生をする必要もないかもしれない。 

室内を見回すと、棚には宝石が置いてある。研究に使うものなのかも。 

そのとき、カタカタと腰のボールが震える。 


ルビィ「? コラン?」 


……また、コランがボールの中で暴れてる。 

こんな場所じゃなければ、出してあげるんだけど、 

──ボムッ 
 「ピ」 


ルビィ「っわ、勝手に出てきちゃダメだよぉ……」 
 「ピ…」 

花丸「ルビィちゃん、あんまり騒いだら……」 

ルビィ「う、うん……コラン今はボールに戻って……」 
 「ピ…」 

ルビィ「……? コラン?」 


ふと、コランの様子がいつもと違うことに気付く。 

勝手に飛び出た割に……大人しすぎる。 

そのまま、ふよふよとコランは奥の部屋のドアに近付いて、 

身体を使って、器用にレバータイプのドアノブを上から押して、ドアを開く。 


ルビィ「あ、コラン……!」 


どうしようか考えていたところだったのに、コランが入っていってしまったせいでルビィたちもなし崩し的に入ることに。 

……だけど、奥の部屋にも人気は感じられなかった。 


ルビィ「……留守なのかな」 


コランはそのまま、部屋の奥の方にある棚に向かってふよふよと飛んでいく。 


ルビィ「……?」 

花丸「コラン、宝石が気になるずら……?」 


コランは棚の前に着くと、その場で止まった。 


ルビィ「宝石、というより……棚そのものかな……?」 


コランの視線は棚──と言うか、棚の先を見ているようにも見える。 

……まあ、壁があるだけなんだけど……。 


花丸「それにしても、無用心だね……宝石がそのまま置いてあるなんて」 

ルビィ「ん……確かに無用心だけど、ここにあるのは言うほど高価じゃないよ……?」 

花丸「ルビィちゃんは金銭感覚がおかしいずら……確かにちっちゃい宝石ばっかだけど」 

ルビィ「……ううんそれだけじゃなくて……ここに置いてあるのはホントに安めの宝石だし……」 

花丸「……安めってどれくらい……?」 

ルビィ「うんと……ほとんど加工してない状態のが多いから、10円もしないくらいのもあるかな。高くても1000円くらい」 

花丸「え、そんなに安い宝石ってあるの……?」 

ルビィ「宝石って言っても加工してないとそこまでじゃないのも多いんだよ。シリトン、ターコイズ、ラピスラズリ、水晶なんかはあんまり値段しないし」 
587 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:50:05.79 ID:IYa5VeT80

もちろん大きさとか、状態によっても変わるけど……。 


花丸「さすがクロサワ家の子ずら……詳しいね」 

ルビィ「メレシーのこと知ろうとすると自然と宝石に詳しくなるから……でも、コラン、ここになにかあるの?」 


依然として、静止したまま棚を見つめているコラン。 

改めて棚を見てみると、そこにある宝石は普段から人が触っている痕跡が見られる。 

そういう意味でも状態の良い宝石とは言い難い。 

試しに手に取ってみてみるけど……。 


ルビィ「うん……やっぱり、店頭に並んでるものとは違って、そんなに高価な石じゃないと思うよ」 

花丸「じゃあ、実験用……とかなのかな?」 

ルビィ「……だと思う」 


宝石は工業用に加工されるものも多いし、何よりここは研究室だ。研究や実験用途と考えるのが自然だと思う。 

いくつか手に取って見て、棚に戻す。 


花丸「? ルビィちゃん、なんで並び替えしてるの?」 

ルビィ「え? ……あ、えっと……癖で」 


言われて気付く。なんとなく、希少性順に並び替えをしてしまっていた。お母さんから将来のために、と宝石目利きの授業を受けていた影響かも……。 

……とは言っても、これらの石はさっきも言ったとおりそんなに価値の高いものじゃないから、それなりに詳しくないと希少性順に並び替えたと言ってもわからないだろうけど……。 

最後の一個を戻したところで、 

──ガコン。 

音がした。 


ルビィ「ぴぎ!?」 

花丸「なんずら?」 


何かが外れるような音が鳴り、ガタガタと目の前の棚が揺れ始める。 

そのまま、宝石棚が奥側にスライドし始める。 


花丸「こ、これは……未来ずら……!!」 

ルビィ「え、え、なに……?」 


そして、きっちり棚一個分後ろに下がった後、棚が横にスライドし、 


ルビィ「こ、これ……」 


先ほどまで宝石棚があった場所はぽっかりと口を開けていた。 

棚の裏側に通路が出現した。 


ルビィ「隠し通路……?」 
 「ピ」 

ルビィ「あ、コラン……!」 


コランはふよふよと通路の中に入っていく。 


花丸「この先に何かあるずら……?」 

ルビィ「ち、ちょっと待って、コラン」 
588 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:52:27.40 ID:IYa5VeT80

コランを追いかけて、ルビィたちも通路の中へと進むと、 

──ガコン。 

再び音が鳴る。 


ルビィ「ぴぎ!?」 

花丸「ずら?」 


背後を振り返ると、宝石棚が元に戻ろうとしている──つまり、通路の出入り口が閉まろうとしていた。 


ルビィ「え、あ、しまっちゃう!」 


早くコランを、戻して外に出ないと……! 

……だけど、コランは既にさらに奥の方まで飛んでいってしまっている。 

コランを放っておくわけにはいかない。 

ルビィはコランを追いかけて、通路を奥に向かって駆け出す。 


花丸「あ、ルビィちゃん、待って!」 


──ガタン……。 

背後で棚が完全に閉まる音がした。 





    *    *    * 





ルビィ「コラン、どうしたの……!」 
 「ピ」 


コランが再び止まっていた、その場所には、 


ルビィ「……え?」 


大きく透明な硝子のシリンダー。 

そして、中には── 


ルビィ「メレシー……」 


メレシーが居た。コランとは違う、別のメレシー。 


花丸「……ル、ルビィちゃん……」 


後ろから花丸ちゃんが遅れて追いついてくる。 


花丸「え……こ、これ、メレシーずら?」 

ルビィ「う、うん……」 


その中でメレシーは固まったまま、動かない。眠っているのかもしれない。 


ルビィ「コラン……もしかして、このメレシーに引き寄せられたの?」 
 「ピ」 
589 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 19:58:14.89 ID:IYa5VeT80

肯定とも否定とも取り辛いけど……お姉ちゃんのボルツもコランに何かあると、離れててもわかるみたいだし、メレシー同士何か通じることがあるんだ。恐らくそういうことだと思う。 


花丸「このメレシー……クロサワの入江から……?」 

ルビィ「ううん、他の地方から捕まえてきたメレシーだと思うよ。入江にいる特殊なメレシーと違って、他の地方に一般的にいる種類だし……」 


目の前のメレシーが身に纏っているのは、特殊な宝石ではなく、まさにメレシーの原種とでも言うべきなスタンダードな宝石だ。 

……でも、なんでこんなところに……? 

改めて、辺りを見回すと、暗がりの中で硝子のシリンダーがいくつもあることに気付く。 

その中にはさらに数匹のメレシーに加えて……。 


花丸「バネブー、パールル……サニーゴ、ヤミラミ、これはヒトデマンずら……?」 


何種類かのポケモンが並んでいた。 

いずれも、大人しく眠っている。 


ルビィ「……」 


明らかに異様な場所だ。 

そんなことを考えていると、奥から、 

──足音が聞こえてきた。 


ルビィ「!?」 

花丸「ルビィちゃん!」 


花丸ちゃんが咄嗟にルビィの手を引く。 

コランを抱きかかえるようにして、そのまま大きなシリンダーの影に隠れるようにして、二人で身を屈める。 

程なくして、 


 「……どうした?」 

 「……通路の入口の方から音がした気がして……」 


女性が二人。 

影から、こっそり見てみると、淡い紫の制服を身に纏っていた。 


 「まさか……この通路への入り方は、団長と幹部、研究員クラスの人間しか知らないはずだ」 


……あの人たち、もしかしてグレイブ団……? 


研究員1「今日ここにいるのは私たちだけだ。団長は出張中だし、理亞様も現在はクリフのアジトだ」 


ルビィ「……!」 


研究員2「だから、確認しに来たんじゃない……もしかしたら、通路の開け方が漏れたのかもしれないし」 

研究員1「それも今日入るときに変えたばかりだろう? 通路があることに気付く奴が仮にいたとしても、あんな安物の宝石を価値順に並び替えられる人間なんて、我々のような専門家でないと不可能だ」 

研究員2「……まあ、それもそうか」 

研究員1「早く成果を出さないと、いつまでもここの研究所勤務のままだぞ」 

研究員2「……そうね。早くアジトに行けるように、結果出さないと……」 
590 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:01:07.70 ID:IYa5VeT80

…………。 

二人の研究員はそのまま、奥へと引き返して行った。 

……ルビィたちの狙いはズバリ的中だった。 

先ほど出た名前──“理亞様”。 

グレイブ団と理亞さんは関係がある。 

その確信が得られた。 

更にクリフのアジトに居ると言っていた。居場所もわかった。 

成果は十二分、問題は……。 


ルビィ「どうやって、脱出しよう……」 


中に人がいる以上、開ける方法はあるんだと思うけど、 

開けたら、今度こそ、その音を聴きつけてさっきの団員たちが駆けつけてくるだろう。 


花丸「ルビィちゃん……」 


そう思って、困っていたところに花丸ちゃんが後ろから声を掛けて来る。 


ルビィ「は、花丸ちゃん……どうやって、脱出しよう……」 

花丸「それなら、こっち……」 

ルビィ「……?」 


花丸ちゃんはそう言って、身を屈めたまま、奥へと歩いていく。 

そこには……。 

取っ手のついた、鉄の板が壁に付けられている。 

大きさは一辺50cmくらいの正方形。 


ルビィ「これは……?」 

花丸「たぶんダスト・シュートずら」 

ルビィ「ダスト・シュート……?」 

花丸「この先がゴミ捨て場に繋がってるずら。ここが秘密の研究所なら、どこか外に通じる、一方通行のゴミ廃棄口があると思って」 

ルビィ「! それじゃ……!」 

花丸「たぶん、ここを抜ければ外に出られる気がするずら」 


どっちにしろ……このままじゃ、最初入ってきた出入り口からは出る方法がない。なら選択肢は一つ。 


ルビィ「……降りてみよっか」 

花丸「うん」 


ルビィたちは、ダスト・シュートを滑り落りることにしました。 





    *    *    * 





ルビィ「コラン、ちょっとずつね……」 
 「ピピ」 
591 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:03:11.47 ID:IYa5VeT80

ダスト・シュート内は狭いけど、身体を伸ばせば子供が通るには困らない大きさだった。 

頭の上に掲げるように、コランを持って、ダスト・シュート内の斜面に体を押し付けながら、コランの揚力を利用してゆっくりと降りていく。 

上を見ると、花丸ちゃんも同様に、フワンテに掴まって降りてきている。 

……そのまま、時間を掛けてゆっくりと降りると、 

ダスト・シュートのチューブが終わりを告げると同時に、視界が開け、 


ルビィ「……ぅ」 


……悪臭が漂ってくる。 

眼下にはゴミ袋の山。 


ルビィ「コラン、もうちょっと前に……」 
 「ピピ」 


パラシュートの要領で、出来るだけゴミ袋が少ない場所へ向かって、ふわふわと降りていく。 

そして、ルビィから少し遅れて、花丸ちゃんとフワンテも降りてくる。 


花丸「やっぱり、ゴミ集積所に繋がってたね」 


花丸ちゃんが周りを見回しながら、そう言う。 


花丸「いくつか、口が見えるし……何個かの研究室で共用してるみたいだね」 


確かに、結構な大きさのゴミ集積所みたいだ。 


花丸「この大きさだと……1ヶ月に一回くらいの頻度で回収に来るのかな……」 

ルビィ「う、うん……」 


花丸ちゃんは冷静に分析してるけど……。 

ルビィは耐え切れずに鼻と口元を抑える。 


花丸「る、ルビィちゃん!?」 

ルビィ「ご、ごめん……臭いが……」 

花丸「確かに……酷い臭いだね。早く脱出しよっか。たぶん、どこかに人が出入りするための通用口があるはずだから……」 

ルビィ「うん……」 


頷いて、歩き出した折に、 

──ガサ。 


ルビィ「……?」 

花丸「? ルビィちゃん?」 

ルビィ「今……何か動かなかった?」 

花丸「え?」 


暗がりの中、確かに何かが動いた気がする。 


花丸「こんな場所に何かいるわけ……」 
592 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:05:59.16 ID:IYa5VeT80

花丸ちゃんがそう言った、 

──刹那。 

何かがこっちに向かって飛んできた。 


ルビィ「!! コラン、“うちおとす”!」 
 「ピピピ!!!」 


咄嗟に指示を出し、コランが体から、石を飛ばしてソレを撃ち落した。 


花丸「ずら!?」 

ルビィ「やっぱり、何かいるよ!」 


撃ち落したものを確認すると──。 


花丸「ゴミ袋……?」 


ゴミ集積所らしいモノが飛んできていた。 

でも、ゴミ袋は勝手に飛ばない。 


ルビィ「何かが投げてきた……!」 


辺りを見回すと、普通のゴミ袋とは別に、いくつかの動いてるゴミ袋が……? 


花丸「! あれはヤブクロンずら!」 

ルビィ「ヤブクロン……」 


図鑑を開く。 

 『ヤブクロン ゴミぶくろポケモン 高さ:0.6m 重さ:31.0kg 
  不衛生な 場所を 好む。 ゴミ袋が 産業廃棄物と 化学変化を 
  起こした ことで ポケモンとして 生まれ変わったと 言われている。 
  ゲップのように 吐き出す ガスは 吸い込むと 1週間 寝込む。』 

 「ヤブ…」「ブクロン…」「ヤブクー…」 

ヤブクロンたちは、ゴミの影からこっちを睨んでいる。 


花丸「ヤブクロンはゴミを食べるポケモンずら! マルたちが急に降って来たから、餌を横取りしに来たんだと思ってるのかも……」 

ルビィ「や、ヤブクロンさん! ルビィたちは、たまたま通っただけで餌を奪ったりするつもりじゃ……」 

 「ヤブ!!!」 


有無を言わせず、ヤブクロンの口からなにかが飛び出す、 


花丸「ルビィちゃん! 危ない!」 

ルビィ「ぴぎぃ!?」 


花丸ちゃんの声と共に、咄嗟に転ぶように避ける。 

そして、その攻撃がさっきまでルビィがいた場所で弾けると同時に、 

──ジュウ……と何かが溶ける音がする。 


ルビィ「あ、あわわ!?」 

花丸「“アシッドボム”ずら!」 


酸による攻撃。完全に敵として認識されてる。 
593 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:09:29.80 ID:IYa5VeT80

ルビィ「と、とにかく逃げよう……!!」 


パッと起き上がって、出口を探して辺りを見回して、気付く。 


ルビィ「あ、あれ……もしかして……」 

花丸「……囲まれてるずら」 


さっきまでただのゴミ袋だと思っていたものがもぞもぞと動いている。 


花丸「四面楚歌ずら……」 


花丸ちゃんがそんなことを呟くと同時に── 


 「ヤブ!!!」 


ヤブクロンたちが一斉に飛び掛かってきました。 





    *    *    * 





ルビィ「コラン、“パワージェム”!! ヌイコグマさん、“ぶんまわす”!!」 
 「ピピ!!」「クーーマーーー」 


飛び掛かってくる、ヤブクロンたちを迎撃しながら、とにかく走り回る。 


ルビィ「出口はどこー!!」 

花丸「とにかく壁伝いに探すしかないずら!! フワンテ、“あやしいかぜ”! ナエトル、“はっぱカッター”!!」 
 「プワー」「トルッ」 


四方八方から飛び掛かってくるヤブクロンをとにかく撃ち落としながら、壁にドアがないかを探す。 


ルビィ「ここにもない……!!」 

 「ヤブ!!!」 

花丸「ルビィちゃん伏せて!!」 

ルビィ「うゅ!!?」 

花丸「ナエトル、“タネばくだん”!」 
 「トルッ!!」 


ルビィの頭上で“ヘドロこうげき”を“タネばくだん”の爆風が吹き飛ばす。 


花丸「ルビィちゃん、大丈夫!?」 


花丸ちゃんが声を掛けてくるが、その背後に飛び掛かる、別のヤブクロン、 


ルビィ「ヌイコグマさん! “アームハンマー”!!」 
 「クーーマーー」 

 「ヤブクッ!!!!」 


また一匹ヤブクロンを吹っ飛ばす。 


花丸「ずら!?」 
594 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:11:16.08 ID:IYa5VeT80

二人で死角をフォローしながら戦っているが……。 

まずい、キリがない。 

とにかく、出口を……!! 

そう思って、再び走りだそうとした、ルビィを、 


花丸「ルビィちゃんストップ!!」 


花丸ちゃんが腕を引いて止める。 


ルビィ「な、なに!?」 

花丸「“どくびし”が周りにばら撒かれてるずら!!」 

ルビィ「!!」 


気付けば、辺りに黒くトゲトゲしたものがばら撒かれている。 


ルビィ「身動きが……ぅっ……げほげほっ……!!」 

花丸「る、ルビィちゃん!? フワンテ、“きりばらい”ずら!」 
 「プワーー」 

ルビィ「ぅ……」 


しかも、ヤブクロンたちが“どくガス”を吐き出しているのか、徐々に呼吸も苦しくなってくる。 


ルビィ「コランッ……“しんぴのまもり”……!」 
 「ピピピ」 

花丸「る、ルビィちゃん……! 大丈夫……!?」 

ルビィ「う、うん……“きりばらい”で吹き飛ばしてくれたから、随分楽になったよ……」 


ついでに神秘のベールで毒対策……でも、ジリ貧だ。 


花丸「ナエトル! “タネマシンガン”!!」 
 「ナエトルルルルルル!!!!」 


ナエトルが飛び掛かってくる、ヤブクロンたちをタネの銃撃で連続して撃ち落す。 


花丸「フワンテはルビィちゃんと一緒に出口を探して!!」 
 「プワー!」 

ルビィ「え!? 花丸ちゃん!?」 

花丸「このままじゃ、二人ともやられるずら! ルビィちゃんは出口を……!!」 

ルビィ「で、でも!!」 

 「クーーマーーー」 

ルビィ「!? ヌイコグマさん!?」 


突然ヌイコグマが、ヤブクロンたちの集団に飛び込んで、 

 「クマァーーーーーーーー」 

“あばれる”!! 


 「ヤブーー!?」「ブクロー!!?」 


花丸「ルビィちゃん! ヌイコグマ借りるよ!!」 

ルビィ「……っ!! わかった……!! フワンテさん!!」 
 「プワー!!」 
595 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:13:20.05 ID:IYa5VeT80

フワンテを呼び寄せて、走り出す。 


ルビィ「コラン! “マジカルシャイン”!!」 
 「ピピピー!!!!」 

 「ヤブ!!?」「ヤブブ!!!!」「ブクロン!!!」 


前方のヤブクロンを光閃で怯ませ、その隙に通りぬける。 

とにかく出口……!! 

コランに照らされた集積所内部を見回してみるが……。 


ルビィ「見つからない……っ!!」 


とにかく、ルビィたちが見つけないと……! 早く……!! 


ルビィ「そうだ! フワンテさん!」 
 「プワー」 

ルビィ「ちょっとでもいいから、風が入り込んでくる場所、わからない!?」 

 「プワー!!」 





    *    *    * 





前方で暴れまわるヌイコグマ、 

その後方から“タネばくだん”、“タネマシンガン”で脇を固める。 

殲滅は無理でも、時間稼ぎくらいなら、どうにかマルにも出来る。 


 「ヤブクッ!!!」 


不意に飛び掛かってくる、ヤブクロンも、 


花丸「“かみつく”!」 
 「ナエッ!!」 


ナエトルがヤブクロンに噛み付きそのまま、地面に叩き付ける。 

どうにか、迎撃が間に合う。 

今どきダスト・シュートを使ってるのは珍しいとはいえ、緊急用の出入り口すらないなんてことは絶対ない。 

とにかく、マルたちが時間さえ稼げばルビィちゃんたちが、出口を見つけてくれるはずだ。 


 「クーーマーー!!?」 

花丸「ずら!?」 


声がして、前方に顔を戻すと、 


花丸「ヌイコグマ!!」 


何かに投げ飛ばされたヌイコグマを体で受け止める。 


花丸「ずらっ」 
 「クーーマーー…」 
596 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:14:36.35 ID:IYa5VeT80

突然、ヌイコグマが力負けした……? 

再び、視線を戻すと、 

 「ヤブ…」「ヤブクロ…」 

ヤブクロンたちが大人しくなって、道を開け始めた。 


花丸「いや、新手……!」 


 「ダス…」 

鳴き声をあげながら、奥から巨大なゴミの塊が歩いてくる。 


花丸「ダストダス……!!」 


 「ダス…!!」 

ヤブクロンの進化系──ダストダス。恐らくあいつが群れのボス……! 

ダストダスは長い腕をこっちに伸ばし、 


 「ナエッ!!!」 

ナエトルを手で押さえつける。 


花丸「ナエトル! “かいりき”!!」 
 「ナエェェ…!!!!」 


ダストダスはその長い手でナエトルをずるずると引き摺り始める。 

ナエトルはその場で踏ん張り、耐えているけど……。 

体重が違いすぎる。 


花丸「ダストダスは107kg……じゃあ、ゴンベで──」 


そう思い、加勢のゴンベを出そうとした瞬間。 


 「ナェ──!!!!」 
花丸「!」 


目の前でナエトルが光り輝く。 


花丸「進化ずら……!! これなら、いけるずら……!!」 


 「──ガメェ…!!!!」 

花丸「引っ張るずら!! ハヤシガメ!!!」 
 「ガメェーー!!!!」 


ナエトルが進化した──ハヤシガメ。進化して体重はナエトルの約10倍の97kg 

これならダストダスとの綱引きも一方的じゃなくなる。 


花丸「ハヤシガメ!! “ばかぢから”!!」 
 「ガーメェーー!!!!!」 

 「ダスダァ!!!!!!」 


完全な綱引き勝負。 

今度は逆にダストダスが腕ごと引き摺られ始める。 
597 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:15:41.68 ID:IYa5VeT80

 「ダストォ!!!!」 

ダストダスが強く足を踏ん張り、再び拮抗状態に、 


花丸「“くさむすび”!!」 
 「ガメ!!」 

 「ダストダ!!?」 


その瞬間を狙って、足元に“くさむすび”を使って、足を引っ掛ける。 

バランスを崩した、ダストダスは前のめりになり、そこに追い討ち 


花丸「“だいちのちから”ずら!!」 
 「ガメーー!!!」 


転んだダストダスの足元から大地のエネルギーが放出する。 


 「ダストダァアアアーー!!!!」 

ダストダスが怒りの声をあげているが、 

そのとき、背後から── 


ルビィ「花丸ちゃーん!!!!」 


──ビュウと舞い込む風の音と共に、ルビィちゃんの声。 

マルはヌイコグマを抱えたまま、踵を返して、 


花丸「ハヤシガメ!! 走るずら!!」 
 「ガメ!!!」 


ルビィちゃんの声のする方へと走り出した。 





    *    *    * 





ルビィ「花丸ちゃん!!」 

花丸「ルビィちゃん!!」 


ルビィは通用口の扉の外から手を伸ばし、花丸ちゃんの手を掴む。 

 「ダストダァアアア!!!!!」 

後ろから、大きなポケモンが腕を伸ばしてくるのが見える、 


ルビィ「!! コラン、“フラッシュ”!!」 
 「ピピィ!!!」 


咄嗟に、コランが花丸ちゃんの後ろに周りこみ、激しく閃光する。 

 「ダストダァ…!!!!」 

その光に怯んだのを見て、 


ルビィ「花丸ちゃん!!」 


花丸ちゃんを思いっきり引っ張った。 
598 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:16:45.25 ID:IYa5VeT80

花丸「ずら!!」 


そのままの勢いで二人して外に転がる、 


ルビィ「コラン!!」 


地面に転がったまま、声を張り上げて、コランを呼び戻す。 

 「ピピィ!!!」 


ルビィ「ドア!! 閉めて!!」 
 「ピピ!!!」 


指示に従い、コランは外開きのドアを内側に向かって、体を押し付け、ドアを閉める。 

 「ダストダァーー!!!!」 

集積所内から、再び怒りの声が聞こえるが、 


花丸「ハヤシガメ!! 手伝って!!」 
 「ガメ!!!」 


二匹がドアを体で押して、 

無理矢理、押し閉めた。 

その直後に──ガン!! と激しく何かがドアにぶつかったが── 


ルビィ「はぁ……はぁ……」 

花丸「ず、ずらぁ……」 


それ以降は音が止み、大人しくなった。 


ルビィ「は、……はぁ……」 

花丸「た、助かった……ずら……」 


地面に転がったまま、思わず二人して脱力する。 

ルビィたちは、どうにかヤブクロンたちの猛攻を掻い潜り……助かったようです。 


599 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:18:01.07 ID:IYa5VeT80


    *    *    * 





──数分後、やっと呼吸も落ち着いてきたところで。 


花丸「この辺りは……6番道路の南辺りみたいだね」 

ルビィ「うん」 


前方には河が、左手の少し遠方に、大きな橋──恐らく風斬りの道と思われる橋が見える。 

さっきまで居た、ゴミ集積場は後方にある切り立った崖の下に位置していて、その崖の上部にはダリアシティが見えた。 


花丸「とりあえず……次の目的地は、カーテンクリフかな?」 

ルビィ「……うん。理亞さん、そこにいるみたいだから」 


グレイブ団の人たちが言っていた通りなら、理亞さんはカーテンクリフにあるらしい、グレイブ団のアジトにいる。 


花丸「それなら、登山道具を街で調達しよっか……一日二日じゃ超えられないから」 

ルビィ「うん、わかった」 


……期せずしてかなり激しい戦いになってしまったけど、 

期待以上の情報を得たルビィたちは、次の目的地への赴くための準備と、休息を取りに……一旦ダリアシティへと戻っていくのでした。 


600 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 20:19:34.69 ID:IYa5VeT80


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【叡智のゴミ捨て場】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回●    . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :  || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 ルビィ 
 手持ち アチャモ♂ Lv.17 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい 
      メレシー Lv.21 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき 
      アブリー♀ Lv.16 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき 
      ヌイコグマ♀ Lv.18 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:69匹 捕まえた数:6匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.22 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい 
       ゴンベ♂ Lv.19 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
      モココ♂ Lv.20 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい 
      キマワリ♂ Lv.18 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき 
      フワンテ♂ Lv.22 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:69匹 捕まえた数:28匹 


 ルビィと 花丸は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 




602 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 23:51:51.71 ID:IYa5VeT80

■Chapter045 『修行』 【SIDE Chika】 





千歌「──……21……22……23……」 


……どうして、私はこんなことをしているんだろう。 

竹刀を振りながら思う。 


海未「千歌。集中が切れていますよ」 

千歌「……あのー海未師匠」 

海未「……貴方を門下にした覚えはないのですが……なんですか?」 

千歌「……なんで素振り?」 


私は意味もわからず、竹刀の素振りをしていた。 


千歌「ポケモンバトルの修行じゃないんですか……」 

海未「これも修行ですよ」 

千歌「ホントですか……?」 

海未「不服そうですね」 

千歌「これでバトルに強くなるのかと……」 

海未「基礎訓練は大事ですよ。トレーナーもポケモンも最終的には体力、集中力、判断力が必要ですから」 

千歌「……そういうもんなのかな」 

海未「わかったら、続けてください。貴方のポケモンたちは皆、真面目に訓練をしていますよ」 


言われて、道場の外を見ると、 

 「マグッマグッ」 
 「ピピィ!!」 
 「ハッハッハ!!!」 

マグマラシとムクバードとルガルガンがどこから持ってきたのか、体にくくりつけたロープでタイヤを引いている。 

 「……」 

ルカリオは片足を立てたまま、瞑想中。 

 「ワフ…」 

しいたけは寝てる。 


千歌「しいたけ、サボってるじゃん……」 


思わず、眉を顰める。 


千歌「こんなんじゃ、必殺技出来ないですって!」 

海未「そう言われましても……」 

千歌「なんか、すごいド派手に滝とか割ったりとかしないんですか?」 

海未「貴方は修行をなんだと思っているんですか……? 修行とは耐え忍ぶことから始まるのですよ。地道な訓練がいつか実を結ぶ、そういうものです」 

千歌「それにしても地味……」 


外はすごく良い天気なのに……私は室内で延々と竹刀を振っている。 

竹刀は意外と重く、確かにいい運動にはなるんだけど……。 

竹刀を振るたびに前髪が揺れる。 
603 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 23:53:55.00 ID:IYa5VeT80

千歌「髪……邪魔……師匠~……せめて、髪留め返してくださいぃ……」 

海未「……確かにやりづらそうですね」 


普段から顔の右側の髪を留めている、トレードマークのヘアピンは、何故か朝、師匠に没収されてしまった。 


海未「ただ、今日一日は待ってください」 

千歌「うぇぇ……?」 


思わず変な呻き声をあげてしまう。 


海未「ほら、とにかく。素振り、続けてください」 

千歌「はーい……」 





    *    *    * 





千歌「──……96……97……98……!!」 

海未「もう少し、頑張ってください」 

千歌「……99……100!!」 


やっと100回。 


千歌「はっ……はっ……も、もう……無理……っ……」 


竹刀を床に置いて、その場にへたり込む。 


海未「意外と根性がありますね。素人がいきなり100回も振るのは苦労するのですが」 

千歌「正直……50回くらい、から……ずっと、やめたかったです……」 

海未「まあ、初日ですから、100回でいいでしょう」 


ショニチデスカラ……? 


千歌「あのー……参考までに、何回やって欲しいんですか……?」 

海未「500回くらいが目標でしょうか」 

千歌「無理!! 絶対、無理です!!」 

海未「最初は皆、そう思うものですよ」 

千歌「師匠!! 私は剣道が強くなりたいんじゃないです!!」 

海未「千里の道も一歩からです。3~4ヶ月も続ければ500回なんて……っは」 


海未さんが突然……ハッとする。 


海未「……考えてみれば、3~4ヶ月も私が見てあげられませんね……」 

千歌「…………」 


これ、振り損なのでは? 
604 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 23:56:33.27 ID:IYa5VeT80

千歌「……さっきも聞きましたけど、これホントにバトルの修行なんですか?」 

海未「そうですよ」 

千歌「これで何が強くなるんですか……?」 

海未「こういうことはその意味を自分で見つけることに意義があります」 

千歌「そういうのはいいのっ!! 海未師匠も今さっきそんなに時間ないって言ってたじゃないですか!」 

海未「む……それはそうですが……」 


海未さんは少しだけ悩んだ後、 


海未「……さっきも言いましたが、トレーナーもポケモンと同様、体力、集中力、判断力は常に求められます」 


話し始めた。 


海未「激しいバトルを続けると、息が切れたりする経験、あるんじゃないですか?」 

千歌「……確かに、あります」 

海未「思った以上に戦局を意識し、常に自分のポケモン、相手のポケモンの状態を把握し続けることには体力が要ります。体力が尽きてくれば、自然と集中力や判断力も落ちますし、その分ポケモンへの指示の精度は落ちていきます」 

千歌「そのための体力作り……ってことですか?」 

海未「その通りです。常にトレーナーは状況を把握し、ポケモンに的確な指示を出せなくてはいけない。そういう総合した能力を鍛えるのに素振りは向いてるんですよ」 


なるほど、わからなくもない。 


海未「それにトレーナーは、ポケモンにとっての目です」 

千歌「目……?」 

海未「ポケモンの死角を常に把握し、的確に次の手を指す。その繰り返しによって、信頼関係を育むことが出来れば、ポケモンの判断も早くなる。技の出が早くなれば──」 
 「クワ」 

千歌「!?」 


へたり込んでいた私の額に、いつの間にか、カモネギのネギの先端が皮一枚くらいの場所にあった。 


海未「こういうことが出来ます」 

千歌「カモネギ、外に出してたんですか……?」 

海未「いえ、ボールに入れていましたよ。千歌の視界、私の視界、ボールから出たカモネギの攻撃がどこまで届くかを把握していれば、簡単なことです」 


確かにこうして実際にやっているのを見ると、達人技ではあるけど、バトルで強いと言うのは頷ける。 


千歌「……基礎訓練が大事なのはわかりました」 

海未「わかってくれましたか」 

千歌「でも、時間ないんですよね……? それなら、尚更ポケモンを使った訓練を早くした方がいいんじゃないですか?」 

海未「……軟弱な発想、と言いたいところですが……時間がないのは私の都合ですからね。確かに一理あります。……わかりました。ちょっと段階としては早いのですが、次のステップのため、裏山に行きましょう」 


海未さんはそう言って、身を翻した。 





    *    *    * 


605 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/05(日) 23:58:40.77 ID:IYa5VeT80


──さて、裏山。 

昨日ゴローニャたちを止めた場所。 

 「ゴローニャ」 


千歌「……というか、ゴローニャいるし……」 


そこらへんをゴローンやゴローニャが闊歩している。 


海未「さて、千歌。ここに岩がありますね」 


そう言う海未さんの横には直径1メートルくらいの岩がある。 

……運んできたのかな? 


海未「この岩、斬れると思いますか?」 

千歌「……たぶん無理です」 

海未「じゃあ、実際にやってみましょう。カモネギ」 
 「クワッ」 

海未「……“いあいぎり”!!」 


一閃。 

一息置いて、岩が縦に真っ二つに割れる。 


海未「実のところ、岩は斬れます」 

千歌「そんなの、海未師匠だけです!!」 

海未「まあ、聞きなさい」 

千歌「……はい」 

海未「今回はわかりやすいように、最初から縦向きに割れるように置いたのですが……岩にも砕けやすい向きがあります」 

千歌「向き?」 

海未「攻撃が一番通りやすい方向……とでも言うのでしょうか。それは岩に限らず、樹木、草木にも……それどころか、不動じゃないモノ──ポケモンにも存在します」 


……つまり、いわゆる── 


千歌「急所に当たる……ってやつですか?」 

海未「そうですね、概ねその理解で間違っていません。つまり私は岩の急所を突いた。だから、岩が簡単に割れた。と言うことです」 


簡単に言うけど……。そんなこと出来るのかな。 
606 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:01:21.39 ID:UvOtrYsw0

海未「もちろん、モノの強弱の性質を見抜くのは一朝一夕で出来る話ではありません。ましてや、実際のバトルでは相手は動いていますから、その見極めはさらに難しくなるでしょう」 

千歌「……それじゃ、やっぱり私には出来ないんじゃ……」 

海未「すぐには無理でしょうね。だから、最初はその要因を分解して考えることにしましょう」 

千歌「分解?」 

海未「まず、対象の弱い方向をなんとなくでもいいので見極めます。この岩で言えば縦向きの衝撃に弱く、横向きの衝撃に強い……というのはさっきなんとなく言いましたね」 

千歌「はい」 

海未「次に威力です。この岩を破壊できるだけの威力を見極めます。これは壊すだけなら、大きければ大きいほど良いです」 

千歌「壊すだけなら……?」 

海未「今回は動かない岩ですが……基本的には戦うのは意思を持って動くポケモンです。威力の大きな技はその分、隙も大きい。倒しきれなければ、その隙はリスクに変わってしまいます」 

千歌「……なるほど」 

海未「そして、三つ目は技そのものの速さです。これがあると攻撃が届くまでの時間も勿論早くなりますし、加えて副次的に威力も上がります。攻撃を外すリスクも攻撃の速度が速いほど下がります。ただ、これはポケモンごとによって根本的な得手不得手があるので、必ずしも技の速度を上げることが出来るわけではないのが、注意点でしょうか」 


海未さんが私に向き直る。 


海未「弱点の見極め、威力の向上、攻撃の速度。これが今の岩割りの大まかな三つの要素になります」 

千歌「えっと……めちゃくちゃすごい威力の技を、すごいスピードで、相手の急所に狙って当てるってことですか……?」 

海未「すごく大雑把に言うとそういうことですね。ただ、同時にこれら全ての能力を上げるのは難しいので最初は別々に訓練をします。千歌、もうちょっと岩に近寄ってもらっていいですか?」 

千歌「あ、はい」 


言われて岩に近付く。 


海未「岩の断面を直接、手で触ってみてください」 

千歌「? はい」 


とりあえず、言われるがままにやってみる。 

綺麗に真っ二つに割れた岩肌。すべすべしている。 


海未「どうですか?」 

千歌「……つるつるです。最初からこんな形だったみたい」 

海未「いいでしょう。じゃあ、少し離れてください。カモネギ」 
 「クワッ」 

海未「“いあいぎり”!!」 


今度は斜めに、岩が斬れて、ずり落ちる。 


海未「この表面はどうですか?」 

千歌「えっと……」 


つるつるなんじゃないのかな……? 

そう思って触ってみて、 


千歌「……あれ?」 

海未「気付きましたか」 

千歌「触ってみると……少しだけ、凸凹してる……?」 


見た目ではほとんどさっきと変わらない断面だけど……確かに手で、指で、撫でてみると、わずかに引っかかりを感じる。 


海未「さて……どうしてこんな違いが生まれるのかわかりますか?」 
607 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:03:11.41 ID:UvOtrYsw0

海未さんがそう問い掛けてくる。 


千歌「……目で見ただけじゃ、わからない違いがあるから……かな?」 

海未「そういうことです。それじゃ、縦と斜め、どっちが斬れやすそうか、想像できますか?」 

千歌「縦!」 


即答する。 


海未「正解です。岩は目で見ただけではわかりませんが、実は縦向きの力に弱かったということですね。これが岩の急所の方向です」 

千歌「岩の、急所……」 

海未「こうやって、とにかく触ったり、性質を知ることそのものが、トレーナーに求められる経験や知識です。それじゃ、実際にやってみましょうか。ポケモンを出してください」 

千歌「あ、はい! マグマラシ!」 


マグマラシをボールから出す。 

 「マグ!!」 


千歌「マグマラシ! “いわくだき”!」 
 「マグッ!!!」 


岩が上から下に向かって……!! 

──ピシピシと、音を立ててから、割れて崩れる。 


千歌「…………」 


砕けた岩を持ってみる。 


海未「これが、綺麗に割れるようになると、それだけ力のロスがない。よりダメージが通ったという証明になります」 


砕けた欠片はツルツルの面と、凸凹の面がある。 


海未「ただ、それこそ私がやったように、岩の性質を完全に見抜き、的確な角度に攻撃を加えるのは、トレーナーにもポケモンにもかなりの経験と知識が必要です。なので、それを補うために、威力を──」 

千歌「マグマラシ、さっきの“いわくだき”……炎を纏ったまま出来る?」 

海未「……千歌?」 


……出来るだけ、縦に真っ直ぐ。炎を纏って、振り下ろすイメージで……。 


千歌「マグマラシ! “いわくだき”!」 
 「マグッ!!!」 


──音を立てて、岩が砕ける。 

でも……さっきよりも砕けた破片が少ない。 


海未「…………」 

千歌「さっきよりうまく出来てるね! ……よし、じゃあ次はもっと下まで薙ぐ感じで……」 
 「マグッ」 

千歌「あ、えっと海未師匠」 

海未「え、は、はい」 


海未さんはハッとしたように私の声に応える。 
608 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:05:31.71 ID:UvOtrYsw0

千歌「? ……これどれくらい続ければいいですか?」 

海未「……そうですね、とにかく今日は時間の許す限りたくさんやってください。マグマラシだけでなく、手持ちの他のポケモンとも」 

千歌「了解です!」 

海未「ただ、トリミアン──しいたけというニックネームでしたか。あの子だけは恐らく、こういう戦い方は向いてないので、とりあえずは他の訓練メニューを用意しましょう」 

千歌「あ、はーい」 


私はボールから皆を出す。 


海未「それでは、しいたけ。着いて来てもらっていいですか?」 

 「ワフ」 


海未さんはそう言って、しいたけと一緒に走り出す。 

体力作りなのかもしれない。 


千歌「よし! じゃあ、皆! こっちはこっちでやってみよう!」 

 「マグ!!」「ピピィ!!」「ワゥ!!」「グゥォ」 


訓練──スタート……! 





    *    *    * 





──ローズシティ。 


梨子「ベイリーフ!! “マジカルリーフ”!!」 
 「ベイベイ!!」 


通信室から、ジムのバトルスペースを覗くと、梨子がジムポケモン相手に戦っている姿が見える。 


真姫「ふふ、随分生き生きしてるじゃない」 


思わず、笑ってしまう。 

後で、時間が出来たらアドバイスの一つでもしてあげようかと思う。 

──さて、それはそれとして。私には仕事がある。 

医者としての研究もそうなのだが……それ以外にもポケモンの生態研究や研究機材の取り寄せなどがある。 

私には他の人にはないコネクションがいくつかあって、それを利用して同業者たちに機材などの斡旋をしているのだ。 

最近はホシゾラシティに、ポケモンの持つタイプのエネルギーを感知できる装置を送りつけたところ。 


真姫「凛がまともに使ってるのかは知らないけど……」 


書類や研究資料、論文、送られて来ているメールに目を通しながら、有用そうなものがないかを調べる。 


真姫「あら……? これ、鞠莉からのメールね」 


鞠莉はお得意様だ。 

しかも、一方的にこっちから機材を斡旋しているだけじゃなく、最近はクロサワの入江から取れる鉱物取引の仲介もしてもらっている。 

装飾品としての加工はもちろんだが、鉱石や宝石はそもそも研究用途や工学的用途が多い。 

故に鉱石の取れるクロサワの家と、工業都市であるローズシティとは切っても切れない関係にある。 
609 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:08:43.56 ID:UvOtrYsw0

真姫「……出せる鉱石の量が減るって話みたいね……」 


メールに書かれていたのは、最近クロサワの入江が賊に襲撃されたこと、そしてそれに伴って採掘量がしばらく減ると言う報告だった。 


真姫「まあ、仕方ないわね」 


襲撃を受けたと言うのは、もうニュースになっていたし知っていたことだ。 

こればかりはしょうがないだろう。 

メール文章をスクロールしながら、目を通し。 


真姫「……は?」 


その末尾に、用途のよくわからない注文が、ついでのようにくっついているのを見つける。 


真姫「…………」 


少し悩んだが、私はとりあえずそのままパソコンから鞠莉へ直接電話を掛けた。 

──数コールの後、 


鞠莉『ハァーイ☆ 真姫さん、どうかしたの?』 


相変わらず、気の抜ける底抜けに明るい声が聞こえてくる。 

映像通話の画面には明るい金髪に特徴的な髪型の女性──オハラ・鞠莉博士。 


真姫「どうかしたの? じゃないわよ、マリー。何、あの注文……」 

鞠莉『Oh メールを見たと言うことデスネ。取り寄せ、無理かしら?』 

真姫「……無理ではないけど。アレって、基本的には警察が押収するような代物ものなのよ?」 

鞠莉『もちろんわかってマース! ただ、モンスターボールの機構の研究に使いたくてデスネ……』 

真姫「モンスターボールの機構?」 

鞠莉『正確にはモンスターボールの原型についての研究デスネ』 

真姫「……確か、ちょっと前に60年前のモンスターボールとか送ったわよね」 

鞠莉『Yes! その説は助かりました。まさか、あんなものまで手に入るなんて、真姫様サマサマだよネ!』 


60年程前のモンスターボール……開閉スイッチがまだ、ネジ式で今では全く流通していないものだ。研究者やマニアの間では“レトロボール”と言う通称で呼ばれている。 

確か取り寄せたソレは1960年が製造年だったかしら……。 

今のモンスターボールに比べると、即効性に欠けるし、使い勝手はかなり悪い……が、 

モンスターボールの基本理論の発見から、たった30年程であれだけポケモンの携帯性の高いものが流通していたと言うのは、素直に興味深い話だった。 


真姫「ま、それはいいんだけど……くれぐれも変な事に使わないでよね? 機材提供元ってことで、私まで嫌疑を掛けられたりしたら堪ったもんじゃないし……」 

鞠莉『それはもちろんデース! 真姫さんに迷惑を掛けないのは大前提だヨ』 

真姫「わかってるならいいけど……手配しておく」 

鞠莉『助かりマース!』 


まあ……マリーが仲介に入ってからは、クロサワ家から入ってくる鉱石の種類も前より増えたし。 

悪いことに使うのでなければ、構わない。それこそ、コネクションがないと手に入らないような代物だし。 

……ふと、鞠莉と連絡を取っていて、今すぐそこのバトルフィールドでトレーニングの真っ最中の梨子のことを思い出す。 
610 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:10:09.89 ID:UvOtrYsw0

真姫「そういえば……貴方のところから旅に出た図鑑所有者が来たわよ」 

鞠莉『Oh? ホントデスか?』 

真姫「梨子って子よ」 

鞠莉『梨子デスか? ...Hmm. それで梨子はどんな様子なのかしら?』 


鞠莉の反応からしても、図鑑とポケモンを貰うときも随分とふてぶてしかったのかもしれないわね。 


真姫「今は真面目にトレーニング中よ」 

鞠莉『...What? 真姫さんが面倒見てるの?』 

真姫「ま、成り行き上ね」 

鞠莉『どんな調子……?』 

真姫「“旅の仲間”と仲良くやってるわよ。チコリータも無事、ベイリーフに進化して、今はうまくいってるみたい」 

鞠莉『……そうデスか』 


画面の向こうで鞠莉が安堵するのがわかった。 


真姫「もともと真面目で、よく勉強もしてるし……あとは経験さえ積めば、強いトレーナーになるわよ」 

鞠莉『ジムリーダー様のタイコバンがあるのは、頼もしい限りデース』 

真姫「ま、そういうことだから」 


とりあえず、博士としてはこれだけ聞ければ安心だろう。 

この後、二三言葉を交わしてから、通話は終了した。 


真姫「……さて」 


一通り、メールチェックも終えて、私は立ち上がる。 


真姫「マリーにもああ言っちゃったし……少し真面目に面倒見てあげようかしらね」 


そう言って、私はバトルフィールドの梨子の元へ、向かうのだった。 





    *    *    * 





──アキハラタウン。 

夕方頃に、ポケギアが鳴る。 

相手は── 


海未「もしもし、ことりですか?」 

ことり『あ、海未ちゃん……そっちは大丈夫?』 

海未「ええ、問題ありませんよ」 


問題がないどころか……。 


海未「千歌は強くなりますよ」 


私はそう言い切っていた。 
611 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:11:33.25 ID:UvOtrYsw0

ことり『……! そっか』 

海未「好奇心が強いからでしょうか……実地に入ったら、凄い勢いでコツを掴んでいます。まるで──」 


まるで──私は思わず幼馴染の名前を言い掛けて、なんとなく言葉を飲み込んだ。 


ことり『……ふふっ そっか』 

海未「……え、ええ」 

ことり『とにかく、順調そうなら安心したかな』 

海未「安心したのなら、何よりです」 

ことり『うん♪ それじゃ、用事はそれだけだから……』 

海未「はい。再戦の目処が立ったら此方から改めて連絡するので」 

ことり『了解♪』 


通話が切れる。 


海未「……さて、そろそろ千歌を迎えに行きましょうか。しいたけ行きますよ」 
 「ワフ」 

そう呟いて、千歌を置いてきた、裏山の麓にしいたけと一緒に足を向ける。 





    *    *    * 





千歌「ふー……あ、師匠~!」 


海未さんの姿を認めて、私は思わず手を振る。 

海未さんは一度辺りを見回してから、 


海未「……岩、最初より増えていませんか?」 


怪訝な顔をした。 


千歌「あ、えっとですね……」 


私が説明しようと後ろを振り向くと、 

 「ゴローニャ」 

丁度ゴローニャが岩を運んできたところだった。 
612 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:13:35.24 ID:UvOtrYsw0

海未「ゴローニャ? 捕まえたのですか?」 

千歌「あ、いや……なんかトレーニングしてるうちになんか仲良くなりました! そしたら岩を運ぶのを手伝ってくれて!」 

海未「そ、そうですか……それで何個くらい割りましたか?」 

千歌「とりあえず、10個くらい」 

海未「……随分捗ったみたいですね」 

千歌「割れ方とか見てみると全部、岩ごとに微妙違って、なんか割るのが楽しくなっちゃって……」 

海未「ふふ、楽しみながら出来るのなら、それはいい傾向だと思いますよ」 

千歌「でも、なんか修行って、もっと辛い感じの想像してたから、これでちゃんと強くなれるのかなぁって」 

海未「……その辛い感じの素振りを投げ出してここに来ているんですが?」 

千歌「ぅぐ……まあ、それはーそのーそれはそれでー」 

海未「……冗談です。大丈夫です、確実に貴方の力になっていますよ、その証拠に」 

千歌「?」 

海未「マグマラシの様子を見てください」 


言われて、マグマラシの方を見ると、 


 「マグ…!!」 

マグマラシがぷるぷると小刻みに震えていた。 


千歌「! これって……!」 


ムクバードのときと同じ……! 

マグマラシはそのまま光り輝いて──。 

 「マグゥ──」 


新しい姿へと、 


 「──バグフー…!!」 


千歌「進化した……!!」 


ヒノアラシから2度目の進化……!! 

 『バクフーン かざんポケモン 高さ:1.7m 重さ:79.5kg 
  燃え盛る 体毛を 持っている。 燃え上がる 爆風は 
  全てを 一瞬で 焼き尽くすほどに 熱い。 灼熱の 炎で 
  周りに 陽炎を 作り出して 姿を 隠す ことが 出来る。』 


千歌「やったー!! バクフーン!!」 
 「バクフーン!!!」 


海未さんの言う通り、力になってるみたいだ……! 

新しい力を手に入れた、バクフーンに思わず抱きつく。 


海未「進化、おめでとうございます。努力の証拠ですね」 

千歌「はいっ! よっし、やる気が湧いてきた、明日も頑張るぞー!!」 

海未「やる気ついでに、これ返しますね」 

千歌「? あ、私の髪留め……」 


朝、海未さんに渡した髪留めを返される。 
613 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:15:32.12 ID:UvOtrYsw0

千歌「ん……?」 


よく見ると、髪留めの中心辺りに不思議な色で輝く石が付けられていた。 


海未「それはキーストーンと言います」 

千歌「キーストーン?」 

海未「メガシンカするときに使うものです」 

千歌「! メガシンカ……!!」 


ことりさんの使っていた、ポケモンを著しく強化する術のことだ。 


海未「もっとも、ポケモンごとに対応するメガストーンがないとメガシンカは出来ませんが……そのうち使うことになると思ったので、今日そのヘアピンを加工しました」 

千歌「も、貰っちゃっていいんですか!?」 

海未「ええ、勿論」 

千歌「えへへ、やったー! ありがとうございます!」 


マグマラシがバクフーンに進化して、さらにキーストーンも貰って……!! 

私の修行は順調に滑り出しました──! 





    *    *    * 





──その夜。 

私は千歌が眠ったあとに、再び裏山の麓に足を運んでいました。 


海未「10個……ですか」 


最初に用意した岩石は5個。これが全部割り砕ければ、初日としては十分だと思っていた。 

千歌が砕いたであろう破片を拾い上げる。 


海未「……やはり、ただ殴りつけただけではなく。うまいこと炎熱も使っていますね」 


岩自体を急激に熱して、割れやすくしている。 

私が教えたわけではない。 

千歌は直感で、すぐにこの答えに辿り着いた。 

勘が良い。 


海未「パワーの不足をトレーナーの考えた工夫で補う」 


今日は進んでも、弱点の見極めまでのつもりでしたが……パワー補強もトレーナー側から出来るアプローチはほぼクリア。 

予定よりも断然早く進んでいる。 


海未「……これは、もしかするかもしれませんね」 


誰に言うでもなく、私は夜空に向かって呟いていた。 


614 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 00:16:47.95 ID:UvOtrYsw0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【アキハラタウン】【ローズシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       ● __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  回     . |_●o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :  || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち バクフーン♂ Lv.36  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.33 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクバード♂ Lv.33 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.34 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
      ルカリオ♂ Lv.29 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:112匹 捕まえた数:12匹 

 主人公 梨子 
 手持ち ベイリーフ♀ Lv.26 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリム♀ Lv.30 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      ピジョン♀ Lv.25 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
      ケイコウオ♀ Lv.24 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      メブキジカ♂ Lv.38 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:86匹 捕まえた数:10匹 


 千歌と 梨子は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



615 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:10:13.29 ID:UvOtrYsw0

■Chapter046 『開催! ダリアかしこさコンテスト!』 【SIDE You】 





──ダリアシティについた私は、ささっとノーマルランクの手続きを済ませてから、 

セキレイシティで話した、ことりさんとの会話を思い出す。 


──────── 
────── 
──── 
── 



ことり「それじゃ、たくましさの後、かしこさコンテストのことも先に言っておくね」 


直前にアドバイスをする時間がないから、とのことで、 


ことり「まず、ダダリンは水棲のポケモンだから、申請を出せば水槽を用意してもらえるから、そこは安心してね」 

曜「それは助かるかな……地上にいると、錨があんまり動かせなくなっちゃうし」 

ことり「基本的に足がない水棲のポケモンにはそういう措置があるから、覚えておいてね♪」 

曜「ヨーソロー!」 

ことり「さて……かしこさ部門なんだけど……5部門の中で一番、第一印象で責め辛い部門なんだよね。わたしもこの部門は一番苦手かもしれないなぁ……」 

曜「確かに……かしこさってパッと見だけじゃわかりづらいかも……」 

ことり「かしこそうな衣装って言っても、限界があるからね」 


かしこそうな見た目……。安直だけどメガネとか、白衣とか、スーツとか……? 


ことり「だから、この部門は必要以上に一次審査に拘り過ぎないようにしよっか。どうしてもフーディンとかメタグロスみたいな、もともと頭がいいことで有名なポケモンが出てくると、第一印象をひっくり返すのは難しいから……」 

曜「ダダリンも頭いいんだけどな……」 


野生でもダダリンは待ち伏せをするため、船乗りやホエルオー使いにとっては警戒の対象だ。 

待ち伏せをするというのはそもそもある程度、頭のいいポケモンでないとなかなかすることはないだろう。 

実際、私のダダリンも、ブルンゲルに隠れて船を仕留めようとしてたし。 


ことり「それを皆に理解してもらうためのポケモンコンテストだからね♪ むしろ、曜ちゃんの腕の見せ所だよ?」 

曜「……確かにそれもそっか」 

ことり「かしこさ部門は対応型のコーディネーターさんがとにかく多いのが部門の特徴かな。普通のアピール、自分の調子上げ、防御、妨害、全部やってくるって思ってた方がいいかも」 

曜「でも、かしこさの技って、防御技があんまりなかったよね」 


記憶を辿る限り、ことりさんの家で見たコンテストライブの二次審査評定基準一覧ではそうなっていた気がする。 
616 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:12:03.18 ID:UvOtrYsw0

ことり「“かぎわける”、“くさぶえ”、“そらをとぶ”、“リフレクター”くらいかな」 

曜「あと“アロマセラピー”」 

ことり「うん、そうだね♪」 

曜「でも、この中でダダリンが覚える防御技は一つもない……」 

ことり「だから、防御をするなら他部門の技を使うことになるかな」 

曜「他の部門の技って、使うと評価下がっちゃうんだよね……」 

ことり「そうなんだけど……かしこさ部門で曜ちゃんが覚える必要があるテクニックはそこにあるんだよ」 

曜「?」 

ことり「コンテストにはエキサイトって言うのがあるでしょ?」 

曜「エキサイト……うん」 

ことり「これは簡単に言っちゃうとお客さんの盛り上がり、かな。評定自体は審査員がしてるんだけど……一次審査と同じで会場の盛り上がりも減点加点の対象なのは、もう知ってるよね」 

曜「うん」 

ことり「例外もあるし、お客さんのレスポンスは完全にコントロールできるわけじゃないから……あくまで目安なんだけど、いわゆる部門にあったアピールが5回くらい連続で続くと会場が一番盛り上がるタイミングになるって言われてて、それと連動してエキサイトゲージが最大値になる」 

曜「つまり……出来るだけそのタイミングを狙ってアピールしたいってこと?」 

ことり「そうだね。でも、これは逆にも使えるんだよ」 

曜「逆?」 

ことり「流れに乗ったアピールが高評価をされるってことは……逆に周りを流れに乗せないためにわざと勢いを切るって戦法もあるんだよ」 


……つまり、部門にあってない技で無理矢理流れを切る戦術ってことかな。 


曜「……なるほど」 

ことり「もちろん、さっき曜ちゃんが言ったとおり減点の対象になることも少なくないから、いつでも出来るテクニックじゃないけどね。それじゃ、詳しく説明するね──」 



── 
──── 
────── 
──────── 



曜「さて……」 


ノーマルランクが終わり、今はメイクルームでウルトラランクの開始待ち時間中。 

今回のことりさんからのミッションは『二次審査のテクニックを身につけること』だ。 

確かに私は一次審査を重視したいコーディネーターだけど……二次審査を適当にやっていいわけじゃない。 

絡め手を『使わない』はいいとしても、『使えない』は良くない。 

実地で覚えて来いというのは多少スパルタだけど……たくましさ部門に比べれば、かしこさ部門は開催頻度が多いので多少はプレッシャーも減る。 


 『──ウルトラランクの出場者様は会場裏までお越しください』 


楽屋に、そんな放送が流れる。 


曜「よし……行こうか、ダダリン」 
 「────」 


水槽の中で相変わらず無表情のまま揺れている、ダダリンと共に、いざ会場へ──。 


617 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:14:03.01 ID:UvOtrYsw0


    *    *    * 





司会『レディース・アーンド・ジェントルメーン!! お待たせしました、ここ学都ダリアシティにて、最もかしこいポケモンを決めるコンテスト……ダリアかしこさコンテスト・ウルトラランクのお時間です!!』 


毎度お馴染み、眼鏡がトレードマークの司会のお姉さんの声で始まる。 


司会『さて、早速出場ポケモンとコーディネーターの紹介です! エントリーNo.1……フーディン&アキト! エントリーNo.2……ギギギアル&テツ! エントリーNo.3……ビークイン&ヒトミ!』 


対戦相手はフーディン使いのサイキッカー。ギギギアル使いの鉄道員。ビークイン使いの研究員。 


司会『エントリーNo.4……ダダリン&ヨウ!』 


さて……今回の衣装イメージは博士。 

ダダリンは体の構造の問題や水中からの参加なため、あまり多くの衣装を作ってあげられなかったのは惜しむらくだけど……。 

目……に見える、コンパス部分にモノクル。舵輪には黒いガウンと上部にはモルタルボード──いわゆる、アカデミックドレスだ。 


司会『さあ、衣装を着せることで一部のコンテストマニアからは話題になっている、コーディネーターのヨウさん。今回も控えめながら、アカデミックなコーデを決めていますね!』 


……どうやら、マニアの間で話題になっているらしい。 


司会『さて、一次審査スタートです! フーディンは赤、ギギギアルは緑、ビークインは黄色、ダダリンは青でお願いします!』 


会場に色が灯り始める。色は……赤が多い。 

フーディン──知能指数5000とも言われる天才ポケモンの代名詞。 

ビークインやギギギアルも集団での行動を得意とする、かしこいポケモンだけど……完全にフーディンが目立っている。 

……とはいえ、これもことりさんから言われていた通りで、予想の範疇だ。 

と言うか……思ったより、 


曜「青、多いかも……!」 


良い方向に予想が外れた。 

司会の人が入れてくれた煽りが、良い意味で目立つ要因になったのかもしれない。これは追い風だ。 


司会『さて、そろそろ締め切りますよー? 色変えは大丈夫ですかー!?』 


間もなく、一次審査の終了と共に、二次審査だ。 


曜「ダダリン、行くよ」 
 「──」 


小さくダダリンに合図を送って……今大会の主戦場、スタートだ。 





    *    *    * 



618 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:22:10.64 ID:UvOtrYsw0


アキト「フーディン、“かなしばり”」 
 「フーディンッ」 

 《 “かなしばり” かしこさ 〔 このあと アピールする ポケモン みんなを 緊張させる 〕 ♡♡ 
   フーディン +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


曜「!」 


初手妨害技。“かなしばり”は後続を緊張させる技だ。 


司会『おっと!! いきなりの妨害です! どうやら、ビークインには効いているみたいです……!』 


ヒトミ「ビ、ビークイン!」 
 「ブーブブブブ…」 


ビークインは“かなしばり”にあって身動きが取れなくなってしまったようだ。 

 《 ビークイン 緊張して しまった 
   Total [ ] 》 


曜「ダダリンは……!?」 
 「──」 


一方でダダリンは、何事もなかったかのように、水中で錨を揺らしている。 

ギギギアルも同様にマイペースにグルグルとギアを回していた。 

無表情なポケモンには精神作用の妨害は通りづらいのかもしれない。 

今回二次審査は1ターン目はフーディン、ダダリン、ビークイン、ギギギアルの行動順。 

1番手の上からの叩きも定石だろう。 


曜「ダダリン、“シャドーボール”!」 
 「──」 

 《 “シャドーボール” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ダダリン +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


ダダリンが影の弾を撃ち出すと、それは水槽をすり抜けて、会場の中心で弾けて、黒い影を四方八方に散らす。 


司会「さあ、一方ダダリン、水槽内からでも出来る手堅くかしこい技ですね」 


テツ「ギギギアル、“ギアチェンジ”です」 
 「ギギギギ──」 

 《 “ギアチェンジ” かしこさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪ 
   ギギギアル +♡ ExB+♡ +✪ 
   Total [ ♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


ギギギアルは調子上げを優先するようだ。 

音を立てながら、ギアを組み替えている。 


 《 1ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   フーディン   ♡♡♡    [ ♡♡♡  ] 
   ダダリン    ♡♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡ ] 
   ビークイン   ×     [       ] 
   ギギギアル✪ ♡♡     [ ♡♡    ]                 》 
619 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:23:11.88 ID:UvOtrYsw0

──2ターン目。手堅くアピール出来たダダリンが一番最初のアピール。次いで、フーディン、ギギギアル、ビークインの順番だ。 


曜「ダダリン!」 
 「──」 


私の指示と共に錨を高く投げ上げ水槽から、錨を外に飛ばす。 


司会『おおっと!? 急にド派手な技がきたぞ!?』 


──ガンッ 

音を立てて、重量級の錨が地面に突き刺さる。 


曜「“すいとる”!」 
 「──」 

 《 “すいとる” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ダダリン +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


が、技としては地味だ。 

こうして地面の養分を“すいとる”技だ。 


司会『見た目は地味ですが……体の伸ばして水槽を傷つけずにアピールしている姿はダダリンにしか出来ない狩りの姿を彷彿とさせますね!』 


流石に会場内で100mも体を伸ばすわけにはいかないからね。 

ダダリンらしさをアピールするにしても、これが限界。 


アキト「フーディン、“スプーンまげ”」 
 「フー」 

 《 “スプーンまげ” かしこさ 〔 続けて だしても 観客に 飽きられずに アピール できる 〕 ♡♡♡ 
   フーディン +♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


今度はフーディン。どこから取り出したのか、大量のスプーンを自らの念力によって浮かせて、そのまま次々と折る。 


司会『出ました! フーディンのサイコパワーの代名詞、“スプーンまげ”です!』 


司会のお姉さんの声と共に、会場が湧きあがる。 


アキト「フーディン、“MINUET”」 
 「フーーーディンッ!!!!!」 

 《 “MINUET” かしこさ 〔 かしこさ部門 エスパータイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   フーディン +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


フーディンのライブアピール。 

フーディンが連続でテレポートした直後、光の弾が現われ会場内を舞い踊る。 


司会『フーディン! ライブアピールを成功させ、更なる加点を得ます!! さあ、この空気の中、次のギギギアルはどう動くか!!』 
620 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:24:38.47 ID:UvOtrYsw0

テツ「ギギギアル、“ギアソーサー”お願いします」 
 「ギギギギギ」 

 《 “ギアソーサー” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ギギギアル✪ +♡♡♡♡ CB+♡♡♡ ✪B+♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


ギギギアルは音を立てて、さらにギアの回転を加速する。 


司会『これは、ギアチェンジからのコンボですね! ギギギアル固有の技でアピールを決めます!』 


ヒトミ「ビークイン」 
 「ブブブブ」 


コーディネーターの合図でビークインの目が光る。 

──と共に、大量のミツハニーが飛んできて、会場の中空を舞い踊る。 


司会『これは“こうげきしれい”! ビークインがミツハニーたちの指揮を取り、攻撃の陣形を取らせる技です! ポケモンごと固有技の応酬です!』 


 《 “こうげきしれい” かしこさ 〔 続けて だしても 観客に 飽きられずに アピール できる 〕 ♡♡♡ 
   ビークイン +♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


……私も“アンカーショット”の方がよかったかな。 

いやでも、あの技は妨害技だし、一番手で打つ理由はない。 


 《 2ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   ダダリン     ♡♡♡♡♡      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡    ] 
   フーディン    ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 
   ギギギアル✪ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 
   ビークイン    ♡♡♡♡       [ ♡♡♡♡          ]   》 


司会『さあ、手堅い自己アピールが続きました、3ターン目はフーディン、ギギギアル、ダダリン、ビークインの順です!』 


3ターン目──ダダリンは3番目。現在のエキサイトは【☆☆★★★】 

このまま順調にアピールをすれば、このターンのエキサイト最高にあわせられるが……──仕掛けよう。 


アキト「“スプーンまげ”」 
 「フー」 

 《 “スプーンまげ” かしこさ 〔 続けて だしても 観客に 飽きられずに アピール できる 〕 ♡♡♡ 
   フーディン +♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


空中に浮いたままのスプーンにさらに追加でスプーンを増やして曲げる。 

技そのものが珍しい場合は数回出した程度では飽きられにくい。連発できる主力アピールとして機能する。 


司会『さあ、スプーン倍増です!』 


次にスポットライトが照らすのはギギギアル。 
621 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:25:58.99 ID:UvOtrYsw0

テツ「“ギアチェンジ”でお願いします」 
 「ギギギギギ──」 

 《 “ギアチェンジ” かしこさ 〔 アピールの 調子が あがる 緊張も しにくくなる 〕 ♡ ✪ 
   ギギギアル✪ +♡ ✪B+♡ ExB+♡ +✪ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


ギギギアルは再び“ギアチェンジ”。固有のかしこさの技が続く。 

今のエキサイト……前のターンのフーディンの“スプーンまげ”で最高潮……。 

そこから、“ギアソーサー”、“こうげきしれい”、“スプーンまげ”、“ギアチェンジ”……つまりこれが丁度5回目。 

絶好のアピールタイミングだけど…… 


曜「 ダダリン、“パワーウィップ”!」 
 「────」 

 《 “パワーウィップ” たくましさ 〔 会場が 盛り上がっている ほど アピールが 気に入られる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡ 
   ダダリン +♡♡♡♡♡♡ ExP-♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


ダダリンが再びアンカーを激しく振るう。 

だが、今回のはさっきと違った地味なアピールじゃない。激しい、たくましさ技だ。 


司会『おっと、これは……』 


ステージを割り砕くその火力。 

周りの期待を裏切ったと言う意味での評価は貰えるが── 


司会『インパクトのあるアピールです! ……ですが、これは“たくましさ”の技ですね』 


会場も“かしこさ”を求めて見に来ている以上、“たくましさ”の技への反応は薄い。 

つまり、盛り上がりが落ちる。 

すなわち、エキサイトが下がる。 


ヒトミ「ビークイン」 
 「ブブブブ」 


コーディネーターの合図と共に、ビークインの羽音が微妙に変わり、それに合わせてミツハニーたちが近寄ってくる。 

大群で押し寄せてくる、ミツハニーたちは浮いてるスプーンにぶつかっている。 

妨害技だ。 


ヒトミ「“かいふくしれい”」 

 《 “かいふくしれい” かしこさ 〔 同じ タイプの アピールを した ポケモンを 特に 驚かす 〕 ♡♡ ♥~♥♥♥♥ 
   ビークイン +♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆★】 》 


司会『これもまた珍しい、ビークイン固有の技ですね! “かいふくしれい”とは名ばかり、コンテストでは飛び交うミツハニーが他のポケモンの邪魔をします』 


 《 フーディン -♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡ ] 》 

 《 ギギギアル -♥♥♥♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

 「フーディ…ッ」 
 「ギギ、ギギギ」 
622 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:27:13.37 ID:UvOtrYsw0

ギギギアルにもミツハニーたちがぶつかってきて、回転の邪魔をしている。 

一方、ダダリンは激しいたくましさ技をしていたためか、ミツハニーはあまり寄って来れない。 

 《 ダダリン -♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 》 


 《 3ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   フーディン     ♡♡♡♡ ♥♥♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡    ] 
   ギギギアル✪✪ ♡♡♡ ♥♥♥♥  [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡      ] 
   ダダリン       ♡♡♡♡♡♡ ♥♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ ] 
   ビークイン     ♡♡♡       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡         ] 》 


司会『さあ、4ターン目に参りましょう! 激しいミツハニーたちの妨害の中、結果として目立ったのは水槽の中からアピールをしているダダリンです!』 


タイミングぴったり……!! 


曜「ダダリン! “こうごうせい”!」 
 「────」 

 《 “こうごうせい” かしこさ 〔 だすときに よって アピールの 出来具合が いろいろと 変わる 〕 ♡~♡♡♡♡♡♡♡♡ 
   ダダリン +♡♡♡♡♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】 》 


ダダリンのモズクが空から日差しを浴びて光り輝く。 


司会『おっとぉ! 先ほどとは打って変わって、これは素晴らしいアピールです! 太陽の光から、エネルギーを得る植物の知恵の体現“こうごうせい”!! まさにかしこさ技です!!』 


司会のお姉さんの実況と共に、再び会場が沸き立つ。 

──会場のエキサイトを技コントロールして、任意のタイミングで大技を決める。 


曜「ダダリン! “災いの術式”! 行くよ!」 
 「──────」 

 《 “災いの術式” かしこさ 〔 かしこさ部門 ゴーストタイプの ライブアピール 〕 ♡♡♡♡♡ 
   ダダリン +♡♡♡♡♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆☆☆】⇒【★★★★★】 》 


砕け散った会場の欠片や備品と言ったものが、青紫の炎のようなものに包まれ、浮かび上がり、 

ポルターガイストのように飛び回る。 


司会『ゴーストタイプのエネルギーでモノを操り人を驚かせる……彼らゴーストポケモン特有のかしこさが光ります!』 


さっきも出来たはずのライブアピールを次のターンにうまく先送りできた。 

これによって、ライブアピールの機会を少しだけ後ろに回し、他の参加者が同じようにライブアピールをする機会を減らすことが出来たのではないだろうか。 


ヒトミ「ビークイン、“はねやすめ”」 
 「ブブ、ブ……」 

 《 “はねやすめ” かしこさ 〔 盛り上がらない アピールだったとき 会場が とても しらけてしまう 〕 ♡♡♡♡ 
   ビークイン +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 
623 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:29:16.39 ID:UvOtrYsw0

アキト「フーディン、“じこさいせい”」 
 「フー……」 

 《 “じこさいせい” かしこさ 〔 1つ前の ポケモンの アピールと タイプが 同じなら 気に入られる 〕 ♡♡~♡♡♡♡♡♡ 
   フーディン +♡♡♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


司会『さあ、回復技が続きます! 自己回復技はポケモンの持つかしこさの象徴ですからね! 手堅い!』 

テツ「ギギギアル、“ギアソーサー”お願いします」 
 「ギギギギギ」 

 《 “ギアソーサー” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ギギギアル✪✪ +♡♡♡♡ CB+♡♡♡ ✪B+♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


司会『一方ギギギアルはブレません! 自分に出来るギアとしての役割を真っ当する姿もこれはこれでかしこい選択です!』 


 《 4ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   ダダリン       ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 
   ビークイン      ♡♡♡♡♡            [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡                   ] 
   フーディン      ♡♡♡♡♡⁵♡♡         [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡            ] 
   ギギギアル✪✪ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡      [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡           ] 》 


──5ターン目。 


司会『さあ、ラストターン! ダダリン、ギギギアル、フーディン、ビークインの順です!!』 


エキサイトは【☆☆☆★★】……。 

“はねやすめ”、“じこさいせい”、“ギアソーサー”。 

あと2回のかしこさ技で、また会場のボルテージはマックスになる。残りアピールの回数は全部で4回。なら……。 


曜「“ゴーストダイブ”」 
 「──」 

 《 “ゴーストダイブ” かっこよさ 〔 ほかの ポケモンに 驚かされても がまんできる 〕 ♡ ◆ 
   ダダリン◆ +♡ ExP-♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


ユラリと、音もなくダダリンが消え去る。 


司会『おっと、今度は“かっこよさ”の技ですね!』 


自分の大技は決めた、あとは大技を決めさせない。1番目のアピールなら、最終ターンの攻撃も凌ぐことを兼ねられる防御技でエキサイトを下げる。 


テツ「ギギギアル、“ギガインパクト”お願いします」 
 「ギギギギギギギギ」 

 《 “ギガインパクト” たくましさ 〔 みんなの 邪魔を しまくって 次の アピールは 参加 しない 〕 ♡♡♡♡ ♥♥♥♥ 
   ギギギアル✪✪ +♡♡♡♡ ✪B+♡♡ ExP-♥ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆★★★★】 》 


やはり来た、妨害を兼ねた最後の大技。 


司会『今度は“たくましさ”の技です!!』 


ギギギアルが会場中を加速したギアで爆走する。 

その勢いは直接ぶつからなくても、衝撃だけで、 
624 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:30:50.24 ID:UvOtrYsw0

曜「!」 


水槽にヒビを入れる。 

回避していてよかった……。 


アキト「フーディン、“サイコキネシス”」 
 「フーディンッ!!!!」 

 《 “サイコキネシス” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   フーディン +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆★★★】 》 


そのひび割れた水槽に向かって、フーディンはサイコパワーを使って中の水をいくつもの小さいボール状にして取り出す。 


ヒトミ「“こうげきしれい”」 
 「ブブブブ」 

 《 “こうげきしれい” かしこさ 〔 たくさん アピール できる 〕 ♡♡♡♡ 
   ビークイン +♡♡♡♡ ExB+♡ 
   Total [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡ ] 》 

 《 エキサイトゲージ【☆☆☆★★】 》 


そして、その水玉をミツハニーたちが頭の上に載せて、外に運び出す。 

水槽は空になり──その後、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。 


司会『これは……! 水が零れずに済みました! ……開催側としては助かりますね!』 


そんなお茶目なコメントに会場がクスクスと笑う。 


司会『さあ、これにて二次審査終了です!』 

 《 5ターン目結果 ([ ]内はこのターンまでに手に入れた♡合計) 
   ダダリン      ♡ ♥       [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡²⁵♡♡♡ ] 
   ギギギアル✪✪ ♡♡♡♡♡⁵♡ ♥ [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡♡♡    ] 
   フーディン     ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡♡♡♡²⁰♡♡♡       ] 
   ビークイン     ♡♡♡♡♡    [ ♡♡♡♡♡⁵♡♡♡♡♡¹⁰♡♡♡♡♡¹⁵♡♡              ] 》 



司会『最終結果の発表に移りましょう!! スクリーンを御覧下さい!!』 


司会のお姉さんの声と共に、会場中の視線が大きなスクリーンに集まる。 

画面に表示された4本の数直線上を同時に4つのメーターが伸びていく。 


司会『一次審査はフーディン、次いでダダリン──』 


一次審査の得票を表す赤のゲージはフーディンに負けている。 

そのまま、二次審査の得票を表す、青のゲージが伸び始める。 

ビークインが最初に止まり、次にフーディン……そして──。 


司会『……決定しました。今大会、優勝者は──』 


 「──」 

ユラリと時間差でダダリンが戻ってくる。 

水槽がなくなったため、錨を上に上げて、舵輪の底で体を真っ直ぐ保つ。 


曜「ダダリン、お帰り」 
 「──」 
625 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:32:10.09 ID:UvOtrYsw0

戻ってきた、ダダリンにスポットライトが浴びせられる。 


 《   ポケモン    一次審査 | 二次審査 
   【.フーディン 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡  〕 
   【ギギギアル】 〔 ♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡           〕 
   【ビークイン 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡                〕 
  ✿【 .ダダリン 】 〔 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢ | ♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡ 〕 》 


司会『……ダダリン&ヨウさんの優勝です!!! 皆様、大きな拍手をお願いします──』 





    *    *    * 





コンテスト終了後、会場のロビーに行くと……。 


ことり「曜ちゃん、お疲れ様♪」 

曜「ことりさん!」 


ことりさんが待っていた。 


ことり「見てたよ~♪ “パワーウィップ”でタイミングを遅らせて、“こうごうせい”を使ってからライブアピールに繋ぐ作戦。うまくはまってたね♪」 

曜「えへへ……運がよかったかな」 


“こうごうせい”はときによってアピールの成功度合いが変わる技だ。今回はそれがかなりうまく行ったのが、勝利への大きな要因だろう。 


ことり「そうだね……“こうごうせい”がうまく行ってなかったら、総合得点でフーディンに負けてたかも」 

曜「ぅ……」 

ことり「うそうそ♪ 運も実力のうちだよ」 


ことりさんの冗談は基本不意打ちだから、正直心臓に悪い……。 


ことり「ともかく! ちゃんと、わたしの出した課題、こなせたね♪ さすが、わたしの見込んだ曜ちゃんです!」 

曜「よ、ヨーソロー! 頑張ったであります!」 

ことり「そんな偉い曜ちゃんにはお師匠様からプレゼントがあります♪」 


ことりさんはそう言いながら、私の手を取って何かを握らせる。 

手に握ったソレはどうやら、 


曜「アクセサリー……?」 


錨の形をしたアクセサリーのようだ・ 


曜「これ……」 


その錨状のアクセサリーのアンカー・リング──アンカーの付け根に当たる部分──の穴には不思議な色の石がはめられていて……。 


曜「ことりさんのネックレスと同じ石……?」 


ことりさんが身につけている、ネックレスの石と同じような色をしている。 
626 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:33:36.91 ID:UvOtrYsw0

ことり「うん♪ それは、キーストーン。メガシンカに必要な石なんだよ」 

曜「! メガシンカ……!」 


ことりさんのチルタリスが千歌ちゃんとの対戦でしていた、ポケモンの更なる力を解放するための手段、メガシンカ。 


曜「も、もらっちゃっていいの!? 貴重なんじゃ……」 

ことり「もちろん♪ 連日の2大会を頑張ったお弟子さんへの労いです♪ セキレイで作ってもらった特注品のメガイカリ。曜ちゃんにピッタリな感じにしてみたよ♪」 

曜「ことりさん……! ありがとう!!」 


思わずことりさんに抱きつく。 


ことり「ふふっ♪ ちょっとはお師匠様らしいこと、ことりもしないとだからね♪」 

曜「今まででも、十分お師匠様らしいよ!」 

ことり「えへへ、ありがと♪ じゃあ、そんなお師匠様から次のミッションも伝えるね?」 

曜「! う、うん!」 

ことり「メガシンカの条件をそろえるために、トレーニングをします!」 

曜「条件……?」 

ことり「曜ちゃんの手持ちだと、メガシンカが見つかってるのはカメールの進化系のカメックス。明日、セキレイシティに戻ってカメックスナイトを探すのと……カメールを鍛えてカメックスに進化するまで育成! それが次の目標!」 


つまり……。 


曜「メガシンカをコンテストに向けて?」 

ことり「うん! 来週のサニータウンのかっこよさ大会に向けて、急ピッチで調整するよ! ここからは本格的に競技人口も増えてくるし、激戦を勝ち抜くための力が必要だからね♪ この2日でパワープレイとテクニカルプレイの両方を実地で経験出来ただろうし、あとは基礎能力の向上だよ!」 

曜「……ヨーソロー!! 了解であります!」 

ことり「いい返事だね♪ でも、今日はもうお休みにして……おいしいものでも食べにいこっか?」 

曜「! うんっ! おなかぺこぺこ……」 

ことり「ふふっ ステージは緊張してお腹すくからね~ ダリアには、おいしいチーズケーキのある洋食店があるんだよ~」 

曜「洋食店……ハンバーグとかあるかな」 

ことり「あるよ♪ とびきり、おいしいのが!」 

曜「やった!」 

ことり「じゃ、いこっか♪」 

曜「うん!」 


ことりさんに連れられて、夕闇に紛れ始めた、ダリアシティを歩き出す。 

コンテストの連日はこうして、ひとまずの一区切りを見せることになりました。 


627 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 01:34:19.36 ID:UvOtrYsw0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【ダリアシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
  ||.  | |       回 __| |__/ :     || 
  ||. ⊂⊃      | ○        |‥・     || 
  ||.  | |.      | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\     || 
  ||.  | |.      | |           |     || 
  ||.  | |____| |____    /      || 
  ||.  | ____ 回__o_.回‥‥‥ :o  || 
  ||.  | |      | |  _.    /      :   || 
  ||.  ●     . |_回o |     |        :   || 
  ||.  | |          ̄    |.       :  || 
  ||.  | |        .__    \      :  .|| 
  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
  ||.      /.         回 .|     回  || 
  ||.   _/       o‥| |  |        || 
  ||.  /             | |  |        || 
  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 曜 
 手持ち カメール♀ Lv.28  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.29 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.25 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
      ダダリン Lv.30 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん 
      ゴーリキー♂ Lv.32 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん 
      タマンタ♀ Lv.16 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:120匹 捕まえた数:18匹 コンテストポイント:24pt 


 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



628 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:42:31.45 ID:UvOtrYsw0

■Chapter047 『霊彷徨う墓庭』 【SIDE Yoshiko】 




                                  と 
──堕天使ヨハネは今日もアブソルを追い求めて、飛翔び続ける。 


 「カァ…カァ…」 
善子「ヤミカラスあともう少しだから……お願い!」 
 「カァー」 


だが、その漆黒の羽は堕ちる寸前だった。 


善子「いや、むしろ元から堕ちてたわね……くっくっく……何故なら私は † 堕天使 † ──」 
 「カァ…」 


──ふわっと身体が浮遊感に包まれる。 


善子「!? きゃああああああ!? ヤミカラス飛んで!! お願いだからぁ!!?」 
 「カァーカァー」 


力一杯叫ぶとヤミカラスは再び力を振り絞って羽ばたき始めた。 


善子「し、死ぬかと思った……」 


──私が現在いるのは、カーテンクリフを飛び越えた先の12番道路。 

カーテンクリフは噂通りの絶壁。 

地方北部にまたがるカーテンとはよく言ったものだった。 


善子「お陰様で、超えるだけで3日も掛かったわ……」 
 「カァカァ」 


そのせいでヤミカラスはバテバテ。 

件のアブソルは、図鑑によると── 


善子「……今度は7番道路の方に行ってる」 


7番道路とカーテンクリフ、その北の12番道路と──この絶壁を何度も往復していた。 

軽く図鑑のバグを疑ってしまうが、どうせ追いかける手掛かりはこれしかない。 

……ただ、さすがにこのまま休息も補給もないまま、アブソルを追いかけて、カーテンクリフを行ったり来たりしていたら、遭難待ったなしだ。 

なので、一旦追跡は止め、ここからすぐ北にあるヒナギクシティを目指しているところだ。 


善子「見えてきたわね」 


ぼちぼち道路まで高度が下がってきたので、ヤミカラスから手を放して地面に降り立つ。 


善子「──着地!」 

 「カァカァ」 


その上からゆっくりとヤミカラスが旋回しながら降りてくる。 


善子「ヤミカラス、ありがと。あとはゆっくり休んで」 
 「カァ」 


ヤミカラスをボールに戻し、私はヒナギクシティに向かって歩き出す。 
629 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:46:39.60 ID:UvOtrYsw0

善子「……それにしても、まさかこんな形で、“あの”ヒナギクシティに訪れることになるとはね……」 





    *    *    * 





──ヒナギクシティ。 

オトノキ地方の北西部に位置する最果ての町。 

南をカーテンクリフ、西にも大小さまざまな山が並び、北にはあのカーテンクリフよりも頂点が高いと言われる大巨山が聳える。三方を山に囲まれた、試される大地なのだ。 

気候も地方の中では圧倒的に寒く、一年の半分は寒気と雪に包まれている。 

話だけ聞いていると、とても人やポケモンが暮らすような場所には思えないが……。 


善子「噂通りね……」 


セキレイシティほどではないが、町にはそれなりに人が居て、賑わっている。 


オカルトガール「そこの黒いの……占い、やってる」 


占い商のオカルトガールや、サイキッカーの姿。 

町中には、ユニランやムンナが浮遊し、ゴチミルやラルトスが歩き回っている。 

……この土地には誰が呼んだのか、オカルトマニアやエスパーの修行をする人たちで溢れかえっているのだ。 


善子「……まあ、強いて言うなら、呼んだのはアレか……」 


私が思わず仰望した。その先にあるのは──この町のすぐ北に見える、オトノキ地方最大の霊峰──グレイブマウンテン。 

噂通りの悪天候で、今も粉雪がパラついているこの町では、その山頂は全く見えないのだが……。 

それでも、町の先の方には山の裾野が広がっているし、北の空はほとんど雲の切れ間から見切れる山のせいで見えないくらいだ。 

この巨大な霊山を旗本に、オカルトマニアやサイキッカーの集う町となっている。 


 「──それもこれも、ローズシティから開拓してきたお陰なんやけどね」 

善子「そうそう……確か昔は町の東の11番道路もただの荒れ道で元はこんな賑わってなかったって……。……え?」 


急に町往く人に補足される。もしかして、声に出てた……? 


 「あ、ううん。声には出てないけど……キミはただのパワースポットの噂に集まってきただけやないんやなって関心してもうて」 

善子「えっと……」 

希「あ、ごめんね? ウチは希言うんよ」 

善子「え、あ、どうも……。……私の名は †堕天使──」 

希「善子ちゃんって、言うんやね」 

善子「善子言うな!! って、え!?」 


まだ、名乗ってないのに真名がバレた……!? 


希「あ、ヨハネちゃん……って言う設定なんか……ごめんっ、ウチそこまで気が回ってなかったわ……」 

善子「設定言うな!! ……と、言うか……」 


この人、エスパー……? 
630 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:49:03.17 ID:UvOtrYsw0

 「あ、ううん。声には出てないけど……キミはただのパワースポットの噂に集まってきただけやないんやなって関心してもうて」 

善子「えっと……」 

希「あ、ごめんね? ウチは希言うんよ」 

善子「え、あ、どうも……。……私の名は † 堕天使──」 

希「善子ちゃんって、言うんやね」 

善子「善子言うな!! って、え!?」 


まだ、名乗ってないのに真名がバレた……!? 


希「あ、ヨハネちゃん……って言う設定なんか……ごめんっ、ウチそこまで気が回ってなかったわ……」 

善子「設定言うな!! ……と、言うか……」 


この人、エスパー……? 


希「ふふ……確かにウチは世間一般に言うところのエスパーかな?」 

善子「や、やっぱり、脳内の声を直接……!!」 


そういえば、聞いたことがある。 

こんなアングラの聖地みたいな場所で、絶対的な支持を集め、纏め上げている人物がいると、 


希「ちょっと、絶対的支持を集めてるサイキックマスターなんて言われたら、照れるやん……」 

善子「誰もそこまで言ってないし、思ってもないわよ!?」 


……思って、ないわよね? 


希「あはは、ごめんごめん。けど、今ヨハネちゃんが考えてる人間は、間違いなくウチのことだと思うよ」 

善子「じゃあ、貴方……」 

希「せや──」 


希さんはニコニコと柔和な笑顔を浮かべながら、 


希「ウチがヒナギクシティのジムリーダー・希やんな」 


改めて、今度は役職付きで名乗ったのだった。 





    *    *    * 





──ジムリーダー希。 

キワモノばかり集まる尖った住民性のこの町の中心人物と言われるエスパー少女。 


希「ふふっ♪ エスパーポケモンと一緒に過ごしてると、ある日エスパーに覚醒する人って案外おるんよ?」 


確かに、エスパータイプのエキスパートとされる人間は、本人もエスパーだと言うのは噂には聞いたことがある。 

……あくまで都市伝説みたいなものだと思っていたのだけど。 


希「そうやねぇ……。確かに怖がられるところもあるし、自分から進んで表舞台に出て行く人は確かに少ないかもしれんね」 
631 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:51:16.78 ID:UvOtrYsw0

……じゃあ、そんな希さんは何故今こうして堕天使ヨハネと肩を並べて歩いているのだろう? 


希「ちょっと、いろいろ外で確認したいことがあってな。……と言うか、すぐそこにいるんだから、喋ってくれへんかな?」 

善子「どうせ、言っても言わなくてもわかるんでしょ……? と言うか、ホントにわかるのね……」 

希「言うても、全部が全部やないんよ?」 

善子「ここまでの会話、成立してたじゃない」 

希「日常会話くらいならね。ただ、本人がその場で考えてないことまで、見抜くことは出来ないし……そうじゃなくても、隠そうとしてることを見抜くには、こっちも本気出さないと読めないんよ」 


……本気出せば見抜けるのね。 


希「それに、強い感情や激しく思考してる状態みたいなのはノイズが掛かってて、うまく読み取れないし」 

善子「……強い感情?」 

希「激しい喜怒哀楽とか、それこそバトル中とか。全部が全部キレイに頭の中を透視できるわけやないってことかな。……それが出来たらウチはとっくにこの地方のチャンピオンやろうし」 

善子「……確かに」 

希「だから、気になっとるんよ」 


……? 何がだろう? 


希「ヨハネちゃん、その格好見ると、ただ観光に来たって感じじゃないよね?」 


格好──普段の動きやすい格好の上から防寒用の上着を羽織っている。 

カーテンクリフを超えるために調達したものだ。 


希「え? わざわざ、クリフを超えて来たん? ローズから来たんやなくて?」 


希さんが私の心を読んで、目を丸くした。 


希「ますます、気になるなぁ……なんでこの町まで?」 


希さんがこっちに顔を向けて、私の瞳を覗き込むようにしながら、訊ねてくる。 

この最果ての町まで来た理由──。 

……少し悩んだけど、別に隠すようなことじゃないか。 


善子「アブソルを追って……ここまで」 

希「……アブソル?」 


希さんは首を軽く捻ったあと、 


希「アブソルって……あのわざわいポケモンのアブソル?」 


質問を続ける。 
632 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:53:35.51 ID:UvOtrYsw0

善子「アブソルのこと、知ってるんですか?」 

希「知ってるには知ってるけど……この地方では本当に珍しいポケモンやからね。見たことある人なんて数えるほどしかいないと思うけど……追ってってことは何処かで会ったってこと?」 

善子「はい」 

希「そのアブソルは今ここに来てるってこと?」 

善子「いや……昨日とかには、グレイブマウンテンの方に行ってたみたいなんだけど……。気付いたらクリフに戻ってて……」 

希「……じゃあ、またクリフに戻るために、一旦ヒナギクに補給に来たってことなんやね」 

善子「まあ、そんな感じよ」 

希「ふーん……」 


希さんはそれだけ聞くと、顎に手をあてて何やら考えごとを始めた。 

……まあ、それはいいとして。 

今はとりあえず休みを取りたい。 


希「……あ、せやった。クリフ超えて来た言うとったもんね。ポケモンセンター案内するよ」 


そう言う希さんに、先導してもらう形で、ひとまずポケモンセンターへと向かうことになった。 





    *    *    * 





ポケモンセンターでポケモンを預けた後、フードコートで淹れて貰った、ブレンドコーヒーを啜る。 


善子「ほわぁ……生き返る……」 


携帯食料と水だけで過ごした数日間だっただけに、温かい液体が身体に染み渡っていく感覚が心地いい。 


希「マスター、ウチもブレンドコーヒー。あと、ケーキ……ヨハネちゃんは何か好きなものある?」 

善子「えっと……チーゴの実かしら……」 

希「じゃあ、この子にチーゴのショートケーキを」 

善子「え? い、いや、いいわよ」 


突然、私の分のケーキも注文されて面食らう。 


希「ウチの奢りだから、気にせんでええんよ」 

善子「む、むしろ、気にするわよ! なんでさっき知り合ったばっかの私に、ジムリーダー様がケーキ奢ってくれるのよ!」 

希「んー旅人は歓迎せんと。この町が急速に発展したのもここ10年くらい……外の町から人がたくさん来て、町が賑わったからやし。旅人さんを無碍に扱ったら、霊峰から罰が下ってまうよ」 


……確かに、ヒナギクシティはローズシティからの街道が通じたことによって、人が流れてきたと言うのは聞いたことがある。 


希「そゆこと。だから、気にせんでええんよ。軽い歓迎の印くらいに思って受け取ってくれれば」 

善子「まあ……そういうことなら……」 


コーヒーに再び口を付けながら、相槌を打っていると、すぐに目の前にケーキが用意される。 


善子「……いただきます」 

希「ふふ♪ どうぞ」 
633 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:55:22.58 ID:UvOtrYsw0

出されたショートケーキを、備え付けられた小さなフォークを縦に入れ、食べやすいサイズにして、口に運ぶ。 


善子「……おいし」 


疲れた身体にホイップクリームの甘味と、チーゴの実の絶妙な苦味のアクセントが溜まらない。 


希「それはよかった」 


希さんはそんな私を横目で見ながら、コーヒーを飲んでいた。 

……ついでだし、手持ちのポケモンたちも労ってあげたい。 


希「言えば、預けた手持ちもこっちのスペースに通してくれると思うよ」 

善子「ん……」 


……また、心を覗かれたようだ。 

私は一旦席を立って、ジョーイさんから、ポケモンを引き取る。 


ジョーイ「ごゆっくりどうぞ♪」 

 「ムマ~」「ゲロゲロ」「カァ」 


3匹の手持ちを引き連れたまま、再びフードコートに戻る。 

すると、そこには何種類かのポフレが、 

 「ムマ~」「カカァ!!」 

気付いた、ムウマとヤミカラスはすぐにポフレに飛びついた。 


希「ふふっ♪ 慌てなくても、たくさんあるから落ち着いて食べるんよ」 

善子「なんか……悪いわね、いろいろしてもらっちゃって」 

希「うぅん。むしろ、ポケモンたちを労ってあげてる姿に関心してるんよ? クリフ越えしたトレーナーは余裕がない状態の人が多いから、こうしてすぐにポケモンにまで気が回るのは偉いと思うよ」 

善子「ん……ま、まあ、堕天使である私がリトルデーモンたちを労うのは当然の責務だし……!」 


真っ直ぐ褒められて少し照れくさい。 

机の上のポフィンを手に取って、後ろで待っている、ゲコガシラに手渡す。 


善子「ゲコガシラも、食べなさい」 
 「ゲコ」 


ゲコガシラにポフィンを手渡していると、 

 「ムマァ~」 

ムウマが寄って来る。 


善子「あんたはさっき食べてたでしょ!?」 
 「ムマァ~」 


……手渡しずるい。みたいな感じで怒ってる。 


善子「ムウマ……あんたはもっと、慎ましさを身につけなさい。そうじゃないと、リトルデーモンの品格が──」 
 「ムマッ」 

善子「わっ!? ポ、ポケットに顔突っ込むな……!! そこにはなんもないわよ!!」 
 「ムマー」 

希「ふふ、仲良しさんやね」 
634 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 02:57:56.61 ID:UvOtrYsw0

ポケットに顔を突っ込んでいた、ムウマを無理矢理引き剥がすと、 

──チャリチャリと、金属の細い鎖が音を立てる。 

……ポケットに入れたままだった、御守りのロザリオを口に咥えていた。 


善子「あ、こら!」 
 「ムマ~」 


そのままロザリオを咥えて、ふよふよと飛んでいく。 


善子「はぁ……失くさないでよ」 
 「ムマ~」 


相手してたら、キリがない。 

私は席に戻って、再びケーキの続きを食べることにした。 

 「ヤミッヤミッ」 

一方ヤミカラスは、ポフィンを次から次へと貪っている。 

こっちはこっちで品がないが……まあ、ムウマに比べたら可愛いものだ。 


希「随分と懐かれてるんやね」 


希さんが私たちの様子を見て、クスクスと笑う。 


善子「……まあ、ムウマとは子供の頃から一緒だし。ちっちゃい頃から、いたずら好きで……」 

 「ムマー」 


名前を呼ぶと、机の上に降りてくる。 

このまま逃げても相手してもらえないと気付いたな……。 


善子「ほら、ムウマ。ポフィンあげるから、ロザリオ返して」 


ポフィンを手に取って、ムウマの口元に差し出すと、 

 「ムマ♪」 

口に咥えていたロザリオをその場に落として、ポフィンに齧り付く。 


善子「全く……」 


机の上に放られたロザリオを拾い上げる。 


希「それ、御守り?」 

善子「マ──……母親が、旅に出るなら持っていけって」 

希「へー……いいお母さんなんね」 

善子「……普通よ」 


普通に過保護なくらいだ。 

世話焼きで辟易してしまうくらい。 


希「親の心、子知らずやねぇ」 

善子「……そんなに子知らずではないと思うけど」 


感謝はしてるし……。 
635 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:00:37.12 ID:UvOtrYsw0

希「でも、そのロザリオ貴重なものみたいやん」 

善子「? そうなの?」 


セキレイのデパートあたりで買ってきたやつだと思ってたけど……。 


希「そのロザリオの真ん中にある宝石。キーストーンって言って、メガシンカに必要な道具なんよ?」 

善子「キーストーン……?」 


確かに、ロザリオの真ん中に不思議な色の珠がはまっているな、とは思ってたけど……。 


希「その石は貴重なんよ? 大事にせんと罰が当たるで」 

善子「……そうなんだ」 


私は改めてロザリオを眺めたあと……再び、それをポケットにしまった。 


善子「……大切にする」 

希「うん、それがええよ」 


……なんか、ホントに大事な御守り持たされてたんだとか気付かされると、柄にも無く、ちょっとホームシックみたいな気分になっちゃうじゃない……。 


希「……ふふっ」 


希さんはそれ以上は何も言ってこなかったけど、これも読まれてるんだろうか。 

……なんだか、意味もなく恥ずかしいので、 


善子「そういえば……」 

希「ん?」 


他の話を振ることにした。 


善子「希さん、なんのために町まで出て来てたの? 確認したいことがあるって言ってたけど」 

希「ああうん。そのことについて、ちょっとヨハネちゃんにも話が聞きたくてな」 

善子「?」 

希「……最近、野生のゴーストポケモンって見た?」 


希さんは真剣な面持ちでそう尋ねてきた。 


善子「ゴーストポケモン……」 


15番水道でブルンゲルと戦ったけど……。 


希「ブルンゲル……それ以外は?」 

善子「えっと……そういえば、セキレイの周辺は夜になると、いつもよりヨマワルとかゴースが多く居たような……。あとは、カーテンクリフを昇ってる途中、フワンテとかフワライドが居たかもしれないわね」 

希「そっか……」 

善子「……ゴーストポケモンがどうかしたの?」 

希「ん……最近地方のあちこちでゴーストタイプのポケモンが増えたって噂を聞いてな」 

善子「……」 


言われてみれば、多かったかも……? 

まあ、13番水道から15番水道に渡って、ブルンゲルから船が襲撃されてたくらいだし、増えていると言われればそうかもしれない。 
636 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:02:05.31 ID:UvOtrYsw0

希「この町ってそういう噂が集まりやすいから、ちょっと調査してたんよ」 

善子「……なるほど」 


確かにオカルトガールが好きそうな話だ。この町にはそういうオカルトマニアが多いし、その手の話題は聞き込みが捗ることだろう。 

怪奇・地方に蔓延るゴーストポケモンたちの姿。 


希「もちろん、ゴーストタイプのポケモンが出たから悪い……とは言わないけど、明らかに大量発生してたら、異常事態を疑う必要もあるかなって思ってん」 


確かに、ゴーストタイプのポケモンは神隠しや魂を吸い取ると言った逸話が多い。 

比較的、忌避される傾向があるのは知っている。 


善子「とはいっても……私のムウマは普通、だし……?」 


気付くと、さっきまでテーブルの上でポフィンを食べていた、ムウマの姿が消えていることに気付く。 


善子「ムウマ? どこいったの?」 


キョロキョロと周囲を見回すと、 

 「ムマー」 

ムウマが一人でポケモンセンターの外に、出て行こうとしていた。 


善子「え、ちょ、ムウマ!?」 

 「ムマー」 


そのまま、ムウマは体を透過させて、ポケモンセンターの外に出て行ってしまう。 


善子「前言撤回……!! ヤミカラス! ゲコガシラ! 付いて来なさい!」 
 「カァ」「ゲコ」 

希「……あ、ヨハネちゃん!?」 


私は手持ちたちを連れ、ムウマを追って、ポケモンセンターを飛び出した。 





    *    *    * 





 「ムマー」 

善子「ちょっと、ムウマ!! 待ちなさい!!」 


ポケモンセンターから出て、辺りを見回すとムウマは北のグレイブマウンテンのある方角に向かって進んでいる。 


希「……よ、ヨハネちゃん!」 


少し遅れて、会計を済ませた希さんが出てくる。 


希「あっちは……“庭”の方やんな」 

善子「庭……?」 

希「ああ、えっと……“庭”って言い方は、外の人には馴染みがないよね」 

善子「……いや」 
637 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:04:31.60 ID:UvOtrYsw0

そういえば、ヒナギクの北、グレイブマウンテンとの間に庭を冠する名前の土地があったことを薄ぼんやりと思い出す。 

……それと同時に何故、ムウマが勝手に飛び出したのかも、なんとなくだけど推測できる。 


希「……たぶん、北の霊園に──グレイブガーデンに引き寄せられてる」 


私たちはムウマを追って……“庭”に向かって歩き出した。 





    *    *    * 





──グレイブガーデン。 

グレイブ──墓石と言う名前通り、多くのポケモンや人が眠っている、霊園だ。 

私たちはムウマを追って、霊園に向かって進んでいた。 


 「ムマー」 


幸いムウマはそんなに早く飛んでいるわけではないので、後ろから見失わないように付いて行くのはそこまで大変じゃなかった。 


希「グレイブガーデンはね……他の地方からお墓を作りにくる人もいるんやけど……大半はあそこの人だったんよ」 

善子「……あそこ?」 


そう言う希さんの視線を追うと、グレイブマウンテンに視線を注いでいた。 


善子「グレイブマウンテン……」 

希「正確に言うなら、この一体の高山地帯に点在してた集落の人やポケモン……なんかな」 

善子「……山に集落があるの?」 

希「この辺りは昔から気候が厳しくて、食料も十分やなかったから、不要な争いを避けるために山のあちこちに集落があったって言われてるんよ」 


──あった。過去形だ。 


希「……それでも、こんな雪山の山岳地帯。どこに居ても厳しい生活だったのには変わらない。勾配も激しいから、雪崩も少なくない」 

善子「……」 

希「町の開発は、雪が溶けてきた時期にやってたそうなんやけど……ローズから道を切り開いて、この辺りまで来たら、山の麓にたくさんあったらしいんよ」 


……いやな予感はするけど。 


善子「……何があったの?」 


訊ねる。 


希「……大量の骨」 

善子「……」 

希「人やポケモンの骨。……雪崩に巻き込まれた人たちや、飢餓で亡くなった人たちなんやと思う」 


彼らに弔意を表すために……ここに大規模な霊園が作られた。 

結果……なのかはわからないけど、そこに霊的な何かを見いだして、多くの人が集まってきて……。 
638 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:05:52.35 ID:UvOtrYsw0

善子「……それで、町が発展して……」 

希「……人は業深い生き物やね」 

善子「……そうね」 


 「ムマー」 

もうとっくに日が暮れてしまった、ヒナギクシティ。 

先程よりもいっそう寒気を増してきた、夜道を歩きながら、私たちは件の霊園に到着しようとしていた。 





    *    *    * 





希さんが霊園というだけあって、立派な墓石が規則正しく並んでいる。 


善子「……?」 


そんな霊園に入って、思ったのは──少し暖かいなと感じたこと。 

……いや、というか 


善子「あ、暑い……!」 


寒い、どころじゃない。気付けば、ぱらついていた粉雪が雨に変わっている。 


希「なんやの、この暑さ……!?」 


ふと、墓石に目をやると、 

──ポッ。ポポポッ、と。青い炎が燈る。 


善子「ポケモン……!」 


咄嗟に上着を脱ぎ捨て、図鑑を開く。 

 『ヒトモシ ろうそくポケモン 高さ:0.3m 重さ:3.1kg 
  ヒトモシの 灯す 明かりは 人や ポケモンの 生命力を 
  吸って 燃えているのだ。 道案内を するように 人や 
  ポケモンを 誘導しながら 生命力を 吸い取っている。』 


希「ヒトモシ……」 

善子「……ここ、ヒトモシの生息地なの?」 

希「……生息地ではあるけど、数が多すぎる」 


多すぎる。 

図鑑から霊園に視線を戻すと、そこは 

青い炎の海だった。 


善子「……嘘でしょ」 

希「ヨハネちゃん……! 一旦避難しよう、これは異常や……!」 


希さんが、腕を引っ張ってくる。 

一旦逃げるように促しながら、 

私は── 
639 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:07:31.74 ID:UvOtrYsw0

善子「ムウマッ!!」 

 「ムマー」 


霊園の空を飛んでいた、ムウマに呼びかけ、 


善子「“シャドーボール”!!」 
 「ムマー」 


空から、攻撃を撃ち落した。 

 「ヒト!?」「トトモシ!!」 

突然の攻撃にヒトモシが何匹か吹っ飛ばされる。 


希「ヨ、ヨハネちゃん!?」 


希さんが驚いた顔でこっちを見てくる。 


善子「たぶんムウマは、突然現れたゴーストポケモンたちの気配に気付いて、この墓地に吸い寄せられたんだと思う」 


理由はわからないが、ヒトモシたちは今のタイミングでこの霊園に現れた。 

ムウマが突然ここに向かいだしたのはそういうことじゃないだろうか。 

──見渡す限り、青い炎が揺れている。 

恐らく相当な数のヒトモシが居る。 

このヒトモシたちは、次にどこに向かうか── 


希「それは……」 


人の居る町だ。 

生命エネルギーを求めて、町に進んでくる。 


希「せやけど、ヨハネちゃんが戦う理由は……!!」 

善子「こんなのほっとけるわけないじゃない!」 

希「……!」 

善子「希さんも戦うんでしょ!? なら、私も手伝うわよ! ゲコガシラ! ヤミカラス! ムウマ! 行くわよ!!」 
 「ゲコ」「カァー」「ムマ」 


私はそう言いながら、霊園に向かって走り出し、低空でヤミカラスの脚を掴んで飛び出す。 


希「ヨ、ヨハネちゃん!! ダメや!! 危険なんよ!?」 


背後から希さんが声をあげるが、 


善子「危険なのは町に居たって時間の問題よ!! 希さんはヒトモシたちが“庭”から溢れないように対処して!」 

希「善子ちゃん!!」 

善子「善子じゃなくて、ヨハネよ!! ヤミカラス! 前進!!」 


私は希さんの制止を無視して、ヤミカラスとともに墓地の空を飛び出した。 





    *    *    * 


640 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:09:10.70 ID:UvOtrYsw0


善子「ゲコガシラ! “みずあそび”!」 

 「ゲコー」 


墓石の上を飛び周りながら、ゲコガシラが水を撒く。 

 「ヒト…」「トモシ…」 

ヒトモシたちはかなり数は多いが、一匹一匹はそんなに強くないようだ。 

さっきのムウマの攻撃でも数匹が戦闘不能になっていたし、それなら火力そのものを邪魔すればいい。 

ゲコガシラなら適任だ。 

……ゲコガシラで対応出来る事を確認したなら、次だ。 


善子「ムウマ! ゲコガシラ! 一旦任せる!」 
 「ムマッ」「ゲコッ」 

善子「ヤミカラス! 上昇!」 
 「カァ!!」 


ヤミカラスに指示を出し、一気に霊園の上空まで上昇する。 

──いくら、ゴーストポケモンが神出鬼没だからと言っても、限度がある。 

そうなると……呼び出したやつが居るんじゃないか? 

考察して、上空から霊園を観察する、と。 

青い炎の密度が明らかに濃い場所がある。 


善子「あそこか……!」 


図鑑を開いてサーチすると、 

 『ランプラー ランプポケモン 高さ:0.6m 重さ:13.0kg 
  不吉な ポケモンと 怖がられる。 死者の 魂を 
  求めて 街中を フラフラと 彷徨う。 臨終の 際に 
  魂が 肉体を 離れると すかさず 吸い取ってしまうのだ。』 


善子「ランプラー……! ヒトモシの進化系、たぶん群れのボス……!!」 


恐らく、あのランプラーがヒトモシたちを先導している。 


善子「行くわよ!! ヤミカラス!!」 
 「カァー!!!」 


上空から、炎の濃い地帯に向かって、舞い降りる。 

その際、地上から墓石の上を飛びながら、跳びながら、追いかけてくる影。 

 「ゲコ!!」「ムマー!!」 

ゲコガシラとムウマ。 


善子「ゲコガシラ! ムウマ! あそこに突っ込むわよ!!」 
 「ゲコ!!」「ムマァ!!」 

善子「ゲコガシラ! “たきのぼり”! ムウマ! “サイケこうせん”!!」 


ゲコガシラは水流を纏った体当たりを、ムウマは“サイケこうせん”でヒトモシたちを迎撃しながら、炎の中心に向かって突き進む。 


善子「……居た!!」 
641 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:12:12.99 ID:UvOtrYsw0

ヒトモシたちの群れの中に、一際大きな青い光を放つポケモンの姿。 

 「プラー…」 

ランプラーと目が合う。 

──瞬間。 

ランプラーから火球が飛び出した。 


 「カァ!!?」 
善子「!? ヤミカラス!!」 


判断が遅れ、ヤミカラスに“はじけるほのお”が直撃。 

──ガクンと高度が下がる。 


善子「っ……!!」 


高さは、それほどでもない……!! 


善子「ヤミカラス、戻って!!」 


ヤミカラスをボールに戻し、墓石の上に着地する。 

 「ヒト!!!」「トモシ!!!」「ヒトモー!!!」 

それと同時に私の居る場所に殺到してくる、ヒトモシたち 


善子「ゲコガシラ!」 
 「ゲコッ!!!」 


名前を呼ぶと同時に、私の立っている墓石の近くにゲコガシラが跳ねながら近付いて来る。 


善子「“みずのはどう”!!」 
 「ゲコッ!!!!」 


ゲコガシラを中心に、水気を持った波動が同心円状に広がり、ヒトモシたちを薙いでいく。 

 「ランプルゥゥー……」 

そんな私たちにランプラーが恨めしそうに鳴き声をあげた。 


善子「心配しなくても、相手してあげるわよ!!」 
 「ゲコッ──」 


そろそろ、いい感じのレベルだったゲコガシラは、 

眩い光に包まれ、最終進化系へと姿を変え── 


善子「行くわよ! ゲッコウガ!!」 
 「ゲコッ!!!」 


──ゲッコウガへと進化して迎え撃つ……!!! 


善子「ゲッコウガ!! “みずしゅりけん”!!」 
 「ゲッコガッ!!!」 


忍者のように墓石の上を飛び跳ねながら、ゲッコウガは水分を圧縮して、手の平の上に水手裏剣を作り出す。 

連続で手裏剣を投げつけ、 

 「ヒト!!」「トモ!!?」 

取り巻きのヒトモシたちを連続で撃ち落す。 

そのまま、着地したところに、 
642 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:14:18.17 ID:UvOtrYsw0

 「ランプル…」 

ランプラーが狙いを定めて、“ねっぷう”を噴出した。 


善子「“たたみがえし”!!」 
 「グワァッ!!!!」 


ゲッコウガは地面に脚を叩き付けて、器用に地面をめくり上げる。 


善子「ムウマ! 来なさい!」 
 「ムマァ!!」 


ムウマともども、その影に潜り込み、“ねっぷう”を凌ぐ。 

 「ルァァンプゥゥ……」 

ランプラーがさらに恨めしそうに声をあげるが、 

めくれあがって垂直に立っていた、地面を蹴り倒すと同時に 

ゲッコウガの姿が影に揺れる。 

──次の瞬間、 


善子「“かげうち”!!」 
 「ゲッコガッ!!!!」 


突然、ランプラーの背後に現れた、ゲッコウガがランプラーに回し蹴りを食らわせた。 

 「ランプゥウウ……」 

背後から、蹴り飛ばされたランプラーは、こっちに向かって墓石の間を転がってくる。 


善子「……これでチェックよ」 


私は地面を転がる、ランプラーにダークボールを投げつけた──。 





    *    *    * 





善子「ヒトモシたち、自分たちの住んでる場所に帰りなさい」 

 「ヒト…」「トモシ…」 

善子「あんたたちのボスはこの † 堕天使ヨハネ † のリトルデーモンになった」 
 「ランプル…」 

善子「その配下のヒトモシたち、貴方達も同様にリトルデーモン。無益な戦いはしないわ。引きなさい」 

 「ヒト…」「ヒトモ…」 


私がランプラーを横に統べたままそう告げると、ヒトモシたちは闇の中に溶ける様に消えていった。 

一通り辺りを確認して、青い炎がなくなったのを確認してから、 


善子「……ランプラー戻りなさい」 


ランプラーを再びボールに戻した。 

青白い炎が照らしていた墓庭が、夜の闇を取り戻して、暗くなる。 

──ふと、その闇の先に、 
643 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:15:32.98 ID:UvOtrYsw0

善子「……え」 


月光に照らされた、白い美しい、影。 


 「…」 
善子「アブ、ソル……」 


目を見開いた。 


善子「うそ……」 


私が呟いた瞬間、 

 「ソル…」 

アブソルが風のように私の横を駆け抜けていく。 

呆気にとられてしまった。 


善子「え、あ……!」 


気付いて、振り返ったときにはもう姿はなく。 


善子「……」 


確認のために図鑑を開くと、確かにアブソルの現在地はグレイブガーデンにあった。 

……あ、ヒナギクシティに移動した。 


善子「……アブソル、貴方は……」 


何故、アブソルは私の前に現れるのか……? 

アブソル、貴方の目的は……? 


善子「……追いかけるしか、ないわよね」 
 「ムマ」 

希「──その前に……ウチに言うことがあるんやない?」 

善子「……!!?」 


気付くと、目の前に希さんが立っていた。 

背後にフーディンを連れている。 

そういえば、流星山のときと同じように、またジムリーダーの制止も聞かず飛び出してしまった。 


善子「あ、えーっと……希さん」 

希「……善子ちゃん」 

善子「……その、善子じゃなくて……ヨハネで……」 

希「……はぁ。元気そうやね……怪我しとらん?」 

善子「だ、大丈夫でーす……」 

希「……危ないことしたら、ダメやん?」 

善子「う……その……」 

希「まあ、お陰でヒトモシたちは追い払えたし……怪我人も出さずに解決出来たけど」 

善子「な、なら……」 

希「でも、年長者の言うこと無視して飛び出したのは、よくないんやないかな?」 

善子「ぅ……」 
644 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:16:51.24 ID:UvOtrYsw0

勢いで飛び出してしまった手前、こう言われると縮こまるしかない。 


希「……まあ、なんにせよ町のために戦ってくれたことには感謝しないとあかんよね。ありがとうな」 

善子「……くっくっく…… † 堕天使ヨハネ † にとってはこの程度のこと造作もない──」 

希「調子乗らない」 

善子「あたっ!?」 


チョップされた。 


希「子供が元気なのはいいんやけどね……」 

善子「えっと、希さん」 

希「あんまりに言うこと聞かない子には……ちょっとお灸を据える必要があるんやないかなー?」 

善子「わ、私すぐにクリフへ用事がー……」 

希「ヤミカラス戦闘不能なのに?」 

善子「ぐっ……」 

希「ポケモンセンター行こうか」 


希さんが踵を返して、町の方へと歩き出す。 


希「ジムリーダーとして……いろいろ、お話してあげたいこともあるしなー」 

善子「……あ、あははー」 


ああもう……私ってば、不幸だわ──。 





    *    *    * 


645 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:17:55.07 ID:UvOtrYsw0


──7番道路。カーテンクリフ南側。 


花丸「フワンテ! “かぜおこし”」 

ルビィ「アブリー! “ようせいのかぜ”!」 


……花丸ちゃんとバトルをしていると、 

 「プワワ…!」 

フワンテが震えだす。 


花丸「やっとずらぁ……」 

 「プワ──」 


フワンテが進化の光に包まれる。 


 「──フワーー」 


花丸「フワライドに進化したずらー! これでクリフを登れるね!」 

ルビィ「うんっ」 


 『フワライド ききゅうポケモン 高さ:1.2m 重さ:15.0kg 
  人や ポケモンを 乗せて 運ぶ。 基本は 風に 
  流されている だけなので どこへ 飛んでいくのか 
  わからない。 体内の ガスの 原料は 魂 らしい。』 

私たちはカーテンクリフを登るための飛行手段として、フワンテを進化させるためにバトルでレベルあげをしていたところだった。 

無事に進化して、先に進めるようです。 

そんなことを考えていたら、 

 「アブブ──」 

アブリーも震えて、光を放ち始める。 


ルビィ「え!? も、もしかして、アブリーも!?」 


 「──アブリリ」 


花丸「アブリーもアブリボンに進化したずら!」 

ルビィ「うん!」 


 『アブリボン ツリアブポケモン 高さ:0.2m 重さ:0.5kg 
  花粉を 丸め 団子を つくる。 アブリボンの 花粉団子は 
  栄養満点の 食用の ものから 戦闘用の ものまで たくさんの 
  種類が ある。 サプリメントとして 売られることも ある。』 


花丸「それじゃいこっか! ルビィちゃん!」 

ルビィ「うんっ! ……カーテンクリフ、登ろう!」 


目指すは、カーテンクリフにあるらしい……グレイブ団アジトです……!! 


646 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 03:19:55.58 ID:UvOtrYsw0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【グレイブガーデン】【7番道路】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
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  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
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 口=================口 

 主人公 善子 
 手持ち ゲッコウガ♂ Lv.37 特性:げきりゅう 性格:しんちょう 個性:まけずぎらい 
      ヤミカラス♀ Lv.36 特性:いたずらごころ 性格:わんぱく 個性:まけんきがつよい 
      ムウマ♀ Lv.35 特性:ふゆう 性格:なまいき 個性:イタズラがすき 
      ランプラー♀ Lv.41 特性:もらいび 性格:れいせい 個性:ぬけめがない 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:94匹 捕まえた数:44匹 

 主人公 ルビィ 
 手持ち アチャモ♂ Lv.28 特性:もうか 性格:やんちゃ 個性:こうきしんがつよい 
      メレシー Lv.26 特性:クリアボディ 性格:やんちゃ 個性:イタズラがすき 
      アブリボン♀ Lv.25 特性:スイートベール 性格:のんき 個性:のんびりするのがすき 
      ヌイコグマ♀ Lv.28 特性:もふもふ 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:7匹 

 主人公 花丸 
 手持ち ハヤシガメ♂ Lv.30 特性:しんりょく 性格:のうてんき 個性:いねむりがおおい 
       ゴンベ♂ Lv.27 特性:くいしんぼう 性格:のんき 個性:たべるのがだいすき 
      モココ♂ Lv.29 特性:プラス 性格:ゆうかん 個性:ねばりづよい 
      キマワリ♂ Lv.26 特性:サンパワー 性格:きまぐれ 個性:のんびりするのがすき 
      フワライド♂ Lv.28 特性:ゆうばく 性格:おだやか 個性:ねばりづよい 
 バッジ 0個 図鑑 見つけた数:73匹 捕まえた数:30匹 


 善子と ルビィと 花丸は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



648 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 11:56:53.72 ID:UvOtrYsw0

■Chapter048 『それぞれの旅』 【SIDE Chika】 





──流星山、北側の傾斜にて。 


海未「千歌、準備はいいですかー!?」 

千歌「はい! 師匠!」 


私の声を確認した海未さんが、頷いてから……。 

程なくして──上から岩が転がってくる。 


千歌「ふー……」 
 「バクフ」 

千歌「バクフーン」 


転がってくる、岩の一点を捉えるように。 


千歌「“ほのおのパンチ”!!」 
 「バクフーッ!!!」 


斜面を転がる、岩に火拳が突き刺さり、 


千歌「振りぬけ!」 
 「バグ!!!!」 


そのまま、岩は3つほどの塊に砕け、私たちの後ろに転がっていった。 


千歌「……ふー」 

海未「だいぶ安定してきましたね」 


山の上から海未さんが声を掛けてくる。 


千歌「でも、まだ真っ二つには出来ないです……」 


海未さん曰く、これが綺麗に二つに割れたら、威力的に最大効率らしい。 

でも、修行を始めて数日経つが、まだ一度もそれには成功していない。 


海未「3つに割るのでも十分ですよ」 

千歌「うー、でも……」 

海未「いきなり欲張って結果を求めてはいけませんよ、千歌」 

千歌「はーい……」 

海未「それに、結果はちゃんと出ているではないですか」 


海未さんが上空に視線を向ける。 

私も釣られて視線を追うと、 

 「ピィィイイイイイイイ!!!!!!!!!」 

先ほどバクフーンと砕いたのと同じくらいの岩を大きな鳥ポケモンが持ち上げている。 


千歌「ムクホークー!! 調子どうー!?」 

 「ピィイイイイイイイ!!!!!!!!」 
649 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 11:58:39.41 ID:UvOtrYsw0

上空で、ムクバード──ではなく、ムクホークが鳴く。 

この修行でバクフーンに続いて、ムクバードも最終進化系へと進化したのだ。 


海未「手持ち5匹とも個々にレベルをあげていますし……3つ割りも成功率が9割を超えました。あとは……」 


海未さんの視線は近くで“めいそう”をしている、ルカリオに注がれる。 


海未「……メガシンカですね」 

千歌「メガシンカ……」 


私がことりさんに負けた理由。 


海未「メガシンカを会得してしまえば、ことりと条件は同じです」 

千歌「……でも、メガシンカってメガストーン……? が必要なんですよね?」 


確かルカリオのは、ルカリオナイトって言うんだっけ。 


千歌「メガストーンってどこで手に入れるんですか……?」 

海未「そうですね……貴重なものなので、多くは対応したタイプのエキスパートが持っていることが多いですね」 

千歌「タイプのエキスパート?」 

海未「花陽で言うところのじめんタイプ、ことりだとひこうタイプですね。ですので……」 

千歌「?」 

海未「今日は山を登りましょうか」 

千歌「……はい?」 





    *    *    * 





さて、流星山の北側から、山登りを始めて半日ほど、 


千歌「よいしょ……っと」 


手持ち5匹と一緒に山を登って行く。 


海未「もうそろそろ山頂ですね」 


前方をひょいひょいと登って行く海未さん。 

ただ……私も意外と付いていけてる自分に、内心驚いている。 

私だけじゃない、バクフーン、ムクホーク、ルガルガン、ルカリオ……しいたけも、しっかり付いてこれている。 


千歌「体力が付いた……?」 

海未「そういうことですね」 


私の呟きが聞こえたのか、海未さんが上から手を伸ばしながら答えてくれる。 

私はその手を掴むようにして、一個上の岩に持ち上げてもらう。 
650 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 11:59:54.64 ID:UvOtrYsw0

海未「なんだかんだ言いながら素振りも毎朝やっていましたし……今日は何回出来ましたか?」 

千歌「えっと……150回くらいです」 

海未「まだまだではありますが、前に比べて余計な力が抜けてきた感じはしますね。体力の配分や筋肉の使い方がわかってくると、疲労もしづらくなります。その成果でしょう」 


ポケモンたちも基礎トレーニングを積んでるし……いい感じに成長してるのかも。 

……その後5分ほど登ると、 

見覚えのある景色が見えてくる。 


千歌「流星山、登頂ー!」 


以前は南側からロープウェイで登った流星山を、北側から地力で登ることになるとは思わなかったけど……。 


海未「ええっと……ここで待ち合わせしていたのはずなんですが……」 


海未さんはそう言いながら、辺りを見回す。 


 「──海未ちゃーん!」 


……直後、声と共に人影が飛び出して、 


海未「きゃぁ!?」 


海未さんに背後から抱きついた。 


千歌「!」 


見覚えのある容姿。 


千歌「凛さん!」 

凛「やっほー千歌ちゃん! 久しぶりにゃ」 


頂上で待っていたのは、凛さんだった。 


海未「凛……離れてください……」 

凛「海未ちゃん、簡単に凛に捕まるなんて、腕がなまったんじゃないかにゃ~?」 

海未「崖に向かって投げますよ?」 


海未さんが首を捻って、凛さんに視線を向ける。 


凛「……じ、冗談だにゃ~」 


凛さんが海未さんからそそくさと離れていく。 


千歌「ところで、なんで凛さんがいるんですか?」 

海未「それなんですが……凛、用意してくれましたか?」 

凛「あ、うん。えっと確かここに……」 


凛さんはポケットに手を突っ込んで探し始める。 


海未「……あの貴重品なんですから、もうちょっと重用に扱えないんですか?」 

凛「凛は物々しいのは好きじゃないの! ……あ、あった!」 
651 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:03:29.14 ID:UvOtrYsw0

凛さんがポケットから取り出した手に摘ままれている、一つの石。 


凛「はい、千歌ちゃん」 

千歌「え? はい」 


それを手渡される。 


千歌「これは……?」 


色は橙。モンスターボール大くらいの宝石みたいな感じだ。 

太陽に透かして見ると、中に何か捻れた紋様みたいなものが見える。 


海未「それが、ルカリオナイトです」 

千歌「……え!?」 

海未「ルカリオがかくとうタイプでよかったですね。山を越えてすぐ向こう側に凛がいたので、用意してもらったんです」 

凛「まさか、この間、挑戦しにきた子が海未ちゃんと一緒に山の逆側から登ってくるとは思わなかったけどねー」 

千歌「……あ、そっか! 凛さんってかくとうタイプのジムリーダーだから……!」 

海未「ええ、凛はかくとうタイプのエキスパートです」 


つまり、海未さんが事前に入手手段は考えてくれてたということだ、 


千歌「し、師匠……!!」 


キーストーンもそうだし、『責任』とか少しよそよそしい言い方をしていた割に、根回しまでしっかりしてくれている。私はそんな海未さんになんだか感激してしまう。 


凛「へー海未ちゃん、千歌ちゃんに自分のことそう呼ばせてるんだー」 

海未「え!? ち、違います……! これは千歌が勝手にそう呼んでるだけで……!」 

千歌「師匠!! ありがとうございます!! 凛さんも!!」 

凛「うんうん、これからも存分に師匠に甘えるといいにゃ」 

千歌「はい!!」 

海未「二人とも、話聞いてますか!?」 





    *    *    * 





あの後、凛さんは研究所に戻っていった。 

どうやら、仕事が立て込んでいるらしい。 


海未「さて、千歌」 

千歌「はい」 

海未「……今回の稽古は次で最終段階になると思います」 

千歌「え……もう?」 

海未「もう少し、時間があればゆっくりやりたかったのですが……私もそろそろ本部に戻らないといけません。なので──」 


海未さんは私を真っ直ぐ見据えて、 
652 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:14:34.19 ID:UvOtrYsw0

海未「メガシンカを完成させましょう」 

千歌「! ……はい!」 


最後の修行が始まるのだった。 





    *    *    * 





──ローズシティ。 

夜、真姫さんに呼び出されて、真姫さんの部屋に来たんだけど……。 


梨子「し、失礼しまーす……」 


なんだかんだで、ローズジムで鍛えている間は、真姫さんの家にお世話になっている。 


真姫「何、今更緊張してるのよ……さっさと入って、ドア閉めなさい」 

梨子「は、はいっ!」 


さっと入って、さっと閉じる。 


真姫「……はいこれ」 

梨子「……?」 


真姫さんはぶっきらぼうに何かを差し出す。 

手の平に乗っけられたソレは……。 


梨子「ブレスレット……?」 


細いチェーンのようなもので、輪を作っている腕輪だった。 

そのチェーンの中央には宝石が飾られている。 


真姫「……ん」 

梨子「えっと……」 


真姫さんは私の手の上にそれを置くように渡してくる。 


真姫「あげる」 

梨子「あ、ありがとうございます……でも、いいんですか? 高いんじゃ……」 

真姫「高い……と言うか、特注品よ」 

梨子「え、特注品……?」 

真姫「真ん中にあるのはキーストーンよ」 

梨子「キーストーン……」 


確か、それって……。 
653 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:16:19.62 ID:UvOtrYsw0

真姫「メガシンカに使う道具よ」 

梨子「!」 

真姫「いつか使うかと思ってね。……まあ、メガストーンは自分で調達しなさい」 

梨子「は、はい……!!」 


最初は面倒見るなんて、柄じゃないとか言っていたのに……なんだかんだでやっぱりすごく優しい人だ。 

思わず感激して、真姫さんの顔をじっと見つめてしまう。 


真姫「……これ以上は何もないわよ」 

梨子「……い、いや、そういう意味じゃ……とにかく、ありがとうございます……!!」 

真姫「……ま、うまく役立てなさい」 


真姫さんは髪の先を指でくるくるしながら、椅子に腰掛け、脚を組む。 


真姫「……用事、これだけだから」 

梨子「は、はい! じゃあ、私部屋に戻ります!」 


私が部屋を出て行こうとすると、 


真姫「梨子」 


呼び止められた。用事終わりじゃないんだ……。 


梨子「なんですか?」 

真姫「……いつごろ、旅に出る?」 

梨子「……あと2日もしたら出ようかなって、思ってます」 

真姫「……そ」 

梨子「……はい」 

真姫「…………」 

梨子「…………」 


なんとなく、お互いの間に沈黙が走る。 


真姫「……明日」 

梨子「?」 

真姫「……明日、夜……クリスタルケイブに行きましょ」 

梨子「え……はい」 





    *    *    * 





──翌日。 

昨日言われた通り、日が傾き始めたころに、ローズシティを発って、クリスタルレイクを目指す。 


真姫「メタング、出して」 
 「メタ」 
654 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:18:01.66 ID:UvOtrYsw0

私も真姫さんのメタングに相乗りさせてもらう形で、クリスタルケイブに向かう。 

……クリスタルレイクへの丘を登ったころには、日は完全に沈み、夜の時間帯が始まっていた。 


真姫「メタング、ここ垂直に降りて」 
 「メタ」 

梨子「……ここ、私が落とされた穴……」 


ついこの間、私が自由落下した縦穴を、メタングが垂直に降りていく。 


真姫「ここ通るのが一番近いのよ」 

梨子「……知ってます」 


身をもって体験したので……。 

思った以上に長い縦穴を抜けると、ネマシュのキノコ地帯。 


真姫「メタング戻りなさい」 


狭い通路をメタングに乗ったまま進むのは難しいためか、メタングをボールに戻して、 


真姫「ちょっと歩くわよ」 

梨子「あ、はい」 


真姫さんに促されて、あの時同様、キノコの上を歩き始める。 


梨子「……あ」 


そして、前回同様、岩の陰からネマシュが数匹こっちを見ている。 


真姫「トゲデマル」 
 「デマルッ」 


いつまに出したのか、キノコの上をトゲデマルが駆けていき、 


真姫「“びりびりちくちく”」 
 「デマルッ」 


トゲデマルが背中の針を伸ばしながら、放電してネマシュたちを威嚇し、怯ませる。 

 「シュー…」「ネマシュ…」 


真姫「進むわよ。あんまり光見過ぎないようにね」 


二人して、奥に進む。 

キノコ地帯を抜けると、 

──虹があった。 


真姫「相変わらず……絶景ね」 

梨子「……はい」 


思わず言葉を失ってしまう。夜の虹。 

二人で隣り合って腰を降ろし、眺める。 

そんな中で、 
655 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:20:39.85 ID:UvOtrYsw0

真姫「……私、子供の頃ね、旅に出るのを反対されてたの」 


真姫さんはそう話を切り出した。 


梨子「……え?」 

真姫「親の方針でね。私は子供の頃からバトルの訓練も受けていた、座学も家庭教師がマンツーマンで、10歳になる頃にはまずバトルに負けることはなかったわ」 

梨子「……」 

真姫「手持ちも全部親が揃えて、私はレールに乗せられるようにジムリーダーになるはずだった。でもね……そんな私を凛が無理矢理連れ出したの」 

梨子「凛さんが……?」 

真姫「凛と花陽とは、あの街で一緒に最初のポケモンと図鑑を貰ったのよ。凛がニャビー、花陽がフシギダネ……そして、最後の一匹ポッチャマを私が連れて行ってね」 

梨子「でも、旅に出るの反対されてたんじゃ……」 

真姫「だから、もともと旅に出るのは凛と花陽だけだったんだけど……さっきも言ったけど連れ出されたのよ。親にナイショで」 


真姫さんは懐かしむように、話を続ける。 


真姫「でもすぐに親にバレて街中探し回られてね。でも、凛は私と花陽の手を引いたまま、クリスタルレイクまで逃げてきたの。丘の上の湖について、このままじゃ見つかる、ってなったときに凛、どうしたと思う?」 

梨子「……どう、したんですか?」 

真姫「縦穴から飛び降りたのよ。しかも、私と花陽の腕を掴んだまま。……あのときはホント死んだと思ったわよ」 

梨子「あはは……」 


私も同じことを思ったし、たぶんあの時と同じ感じだったんだろう。 


真姫「キノコの上を転がって、生きてるってわかったときは……大声で泣きながら、凛の胸倉を掴んで揺すってやったわ。殺す気かって。そしたら、凛がね、こう言ったのよ」 


真姫「──『真姫ちゃんもそういう表情するんだ』って」 

梨子「……」 

真姫「……そのときは張っ倒したけど」 


張っ倒したんだ……。 


真姫「後になって考えてみたらね……生きてるってこういうことなのかなって思ったのよ」 

梨子「生きてる……」 

真姫「自分で見て感じて、理解することなんじゃないかって。どんなに本を読んで知ってても、人から聞いても、実際に自分がやってみたら、うまく出来ないことがたくさんあった。正直自分が死に掛けて、あんなに泣いて怒鳴って、人に張り手するなんて、想像も出来なくて。……実際、穴に落ちたら想像の出来なかった自分が出てきて」 


──嗚呼、やっとわかった……。 

どうして、この人が私にここまでしてくれたのか、 


真姫「ジムに来た貴方を見て、話を聞いて……境遇は違うけど、この子はあのときの私と同じなのかなって……思ったのよ」 

梨子「真姫さん……」 


そして、導いてくれたんだ。 


真姫「……またいつか、ことりの場所にもう一度行きなさい」 


真姫さんはそう言いながら、隣に腰を降ろしていた私の手を握る。 
656 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:22:13.33 ID:UvOtrYsw0

真姫「こんなに色んなものを見て、旅をして、最高の仲間と出会ったって、自慢して、見返してやりなさい」 

梨子「……はい……!」 

真姫「あと……勝って来なさい。もう何も出来ずに負けるなんてことないから、貴方は強くなった」 

梨子「……強く、なったかな」 

真姫「強くなったわよ。だって──」 

梨子「だって……?」 

真姫「──私が育てた自慢の生徒が、弱いはずないでしょ?」 

梨子「……!」 

真姫「上手くできなかったら、また挑戦すればいい。相手にされなかったら、強くなって見返してやりなさい。どうしても、うまくいかなくて苦しくなったら……」 

梨子「……真姫さん……っ……」 

真姫「……またローズジムに来なさい。私が鍛え直してあげるから」 

梨子「……はい……っ……」 


……ホントにこの人は優しいんだから……。 

私の先生は……本当に、優しいんだから……。 





    *    *    * 





──翌朝。 


真姫「ローズジムのジムリーダーが認めたトレーナーとして、恥じない旅を謳歌してきなさいよね」 

梨子「はい!」 

真姫「それじゃ、いってらっしゃい」 

梨子「行ってきます!」 


そう残して、旅路に戻る彼女の背中を追いながら、私は思った。 

何よ、梨子ったら……。 


真姫「いい顔するようになったじゃない」 


私の初めての生徒といえる彼女は、思わず、そんな言葉を零してしまうほど、精悍で逞しい顔付きだった。 


真姫「旅……楽しんできてね」 


私は見送る背中に向かって、ひとりごちるのだった。 









    *    *    * 


657 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:23:12.09 ID:UvOtrYsw0





──数日後。 

セキレイシティ。 


海未「千歌、行きますよ」 

千歌「はい、師匠」 


海未さんに促されて、ジムの扉を開ける。 


ことり「……千歌ちゃん、久しぶりだね」 


ジムの奥のジムリーダー側のバトルスペースにはことりさん、そしてその奥には曜ちゃんが座っている。 


千歌「……再戦、よろしくお願いします!」 


私は頭を下げて、チャレンジャーのバトルスペースに入る。 


海未「……審判は私が行います。二人ともいいですね?」 

ことり「もちろん」 

千歌「大丈夫です」 

海未「それでは……。……これより、チャレンジャー千歌とジムリーダーことりの再戦を取り計らいます。特別ルールとして、使用ポケモンは1体。ジムリーダーはメガチルタリスを使用してください。戦闘ポケモンが戦闘不能になった時点で決着とします」 

ことり「はい、お願いチルタリス!」 
 「チルゥ」 

千歌「行こう、ルカリオ!!」 


私はボールを放った、再戦──スタート。 


658 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 12:24:33.36 ID:UvOtrYsw0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
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 ポケモンレポートに かこんでいます 
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【セキレイシティ】【ローズシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
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 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち バクフーン♂ Lv.40  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.38 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクホーク♂ Lv.38 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.39 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
      ルカリオ♂ Lv.39 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 3個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:13匹 

 主人公 梨子 
 手持ち メガニウム♀ Lv.39 特性:しんりょく 性格:いじっぱり 個性:ちょっぴりみえっぱり 
      チェリム♀ Lv.37 特性:フラワーギフト 性格:むじゃき 個性:おっちょこちょい 
      ピジョット♀ Lv.38 特性:するどいめ 性格:ひかえめ 個性:ものおとにびんかん 
      ネオラント♀ Lv.32 特性:すいすい 性格:わんぱく 個性:ちょっとおこりっぽい 
      メブキジカ♂ Lv.39 特性:てんのめぐみ 性格:ゆうかん 個性:ちからがじまん 
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:95匹 捕まえた数:13匹 

 主人公 曜 
 手持ち カメックス♀ Lv.39  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.39 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.37 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
      ダダリン Lv.41 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん 
      ゴーリキー♂ Lv.38 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん 
      タマンタ♀ Lv.35 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:121匹 捕まえた数:19匹 コンテストポイント:24pt 


 千歌と 梨子と 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした! 

...To be continued. 



659 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 14:56:40.21 ID:UvOtrYsw0

■Chapter049 『再戦! VSことり!!』 【SIDE Chika】 





ことり「チルタリス!! メガシンカ!!」 
 「チルゥ──」 


ことりさんが首から提げる“メガネックレス”が光ると同時に、チルタリスが七色の光に包まれる。 


千歌「ルカリオ!! いくよ!!」 
 「ガゥッ!!」 


私の合図と共にルカリオが飛び出す。 

前方では七色の光が晴れると同時に、綿状の尻尾が広がりを見せ、 


ことり「“ハイパーボイス”!!」 

 「チィーーーーーールッ!!!!!!!!」 


その光景と共に、爆音が飛んでくる。 

一方、飛び出したルカリオは地面を健脚で蹴り、加速する── 


 「グォゥ!!!」 

千歌「いけっ! ルカリオ!!」 


──音ごと置いていく!! 

ルカリオの姿が、ブレる。 


ことり「!」 


──刹那。 

気付けばメガチルタリスの背後まで走り抜けている、ルカリオの姿。 


千歌「“しんそく”!!」 

 「グォゥッ!!!」 


そのまま、ルカリオはメガチルタリスのすぐ後ろで踏み込み、“しんそく”の勢いを載せたまま、回し蹴りに派生する。 


ことり「“コットンガード”!!」 
 「チル!!!」 


メガチルタリスは咄嗟に防御の姿勢。もこもこと体毛が膨れ上がる。 

その綿毛に、ルカリオの蹴りの衝撃は吸収されてしまうが、 


千歌「正面で打ち合わなくていい!」 


ルカリオには蹴りだした脚をコットンの上を滑らせるようにして、インパクトよりも次の攻撃への勢いを選ばせる。 


千歌「“アイアンテール”!!」 
 「グォ!!!」 


そのまま、身を捩るようにして、尻尾を振るう──メガチルタリスの頭部目掛けて、 
660 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 14:57:41.69 ID:UvOtrYsw0

ことり「“ついばむ”!」 

千歌「!?」 


だが、ことりさんは冷静だった。 

メガチルタリスは長い首をしならせながら、ルカリオの尻尾を嘴で啄ばみ受け止める。 


千歌「嘘!?」 


そのまま、勢いを利用して、ルカリオを空中にぶん投げる。 


 「グォァ!!!?」 


中空に放られて、無防備になったルカリオに、 


ことり「“りゅうのいぶき”!!」 


すかさず、追撃。 


千歌「ルカリオ! 瞑目!」 
 「フ──」 


瞑目──予め、決めていた咄嗟に目を瞑る合図だ。 

少しでも早く状況判断が伝えられるように、 

目を瞑ったルカリオは、視覚情報を落とし、近くのポケモンの波導がより鮮明に読み取れるようになる。 


千歌「“はどうだん”!!」 
 「グワォァ!!!!」 


目を瞑ったまま放たれた、エネルギーの弾は一直線にメガチルタリスの方へ。 

そのまま、“りゅうのいぶき”と正面衝突し、 

──バチバチと、フィールド上をエネルギーが弾け飛ぶ。 

いきなり息を付かせぬ攻防、 


千歌「……はっ」 


今後の呼吸を乱さないために、この隙に息を整える。 

その間に地面に降り立った、ルカリオは再び地を蹴って、弾丸のように飛び出す。 


千歌「“バレットパンチ”!!」 

ことり「っ!! “つばめがえし”!!」 


両者の攻撃が再び相殺する。 


ことり「“みだれづき”!!」 

千歌「“ボーンラッシュ”!!」 


メガチルタリスの素早い連続突きを、波導を骨状に固めた武器を作り出していなす。 


ことり「っ!! “そらをとぶ”!!」 
 「チリュゥ!!」 
661 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 14:58:57.03 ID:UvOtrYsw0

近接戦は分が悪いと判断したのか、空中に逃げるメガチルタリス。 

──逃がさない! 


千歌「“なげつける”!!」 
 「グァォ!!!」 


“ボーンラッシュ”で使った骨をそのまま、投げ飛ばす。 

──が、 


千歌「!」 


狙いが定まってなかったのか、綿毛に弾かれてしまった。 


ことり「……はぁ……はぁ……すごい猛攻だね……」 


ことりさんが息を切らせて話しかけてくる。 

その間、メガチルタリスは──空中で舞い踊っている。“りゅうのまい”だ。 

攻撃力と素早さを上昇させる補助技。 

そして、続け様に 


ことり「……“ドラゴンダイブ”!!」 


上空から襲い掛かってくる。 


千歌「受けて!」 
 「グォ!!!」 


上空から、全身の勢いを乗せて、落ちてくるメガチルタリス。 

その身体の下に自身の身を滑り込ませように、仰向けになる。 


千歌「“ともえなげ”!!」 

ことり「!!」 


そのまま、メガチルタリスをことりさんのいる方向に投げ飛ばす。 

 「チル…!!」 

空にふわふわと逃げるメガチルタリス、ダメージは少ないが、 

組み合うことは許さない。 


 「グゥォ…!!!」 

ルカリオはすぐさま身を起こし、両手を後ろに引いて、波導のエネルギーを収束させ始める。 

一方メガチルタリスも口を開いて、ルカリオに狙いを定める。 


千歌・ことり「「“りゅうのはどう”!!!」」 


同技対決──だが、 


千歌「押されてる……!!」 


エネルギー同士が弾けて、フィールド上を散り散りに駆け回っているが、 

真正面からぶつかった波動の本線は、僅かにメガチルタリスが優勢だった。 
662 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:00:11.58 ID:UvOtrYsw0

ことり「いけっ!!」 
 「チリュゥゥゥ!!!!!」 


そのまま、撃ち下ろされた、“りゅうのはどう”は、 

 「グォ!!!」 

ルカリオに直撃して、彼の身体を後方の中空に向かって浮かした。 


千歌「ルカリオ!」 
 「グゥッ!!!」 


ルカリオは後ろに吹き飛ばされながらも、受身を取って、体勢を立て直す。 


千歌「……!」 


その間に、メガチルタリスが激しい光に包まれる。 

──前と同じ、最大の技。 


千歌「“ゴッドバード”……!!」 


一瞬、自分の指が髪留めに──“メガバレッタ”に触れたけど。 

いや……。 


千歌「この力は……今じゃない」 


海未「…………」 


千歌「ルカリオのままで勝たないと、再戦した意味ないよね!」 
 「グォゥ!!!!」 


ルカリオが片足を立て太極拳のように、右手を前に構える。 


ことり「……!! 受け止める気……!?」 


──バチバチと音を立てながら、エネルギーを充填したメガチルタリスが、ルカリオに狙いを定める。 

私たちは上空のソレを見据えて、 


千歌「──来いっ!!!」 
 「グォァ!!!!!!!」 


声を張り上げた。 


ことり「チルタリス!!! “ゴッドバード”!!!!」 
 「チリュゥウウウウウ!!!!!!!」 


空から、落ちてくる。 

──高速の神鳥が、 

私は目を見開いた。 

一点、 

メガチルタリスの一点を見極めろ、 

修行のときのように、 


右手を構えた、 

ルカリオと同じように、 
663 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:03:09.40 ID:UvOtrYsw0

ルカリオと波導を同調させて、 

見極めろ── 


千歌「──“はっけい”!」 


──フィールドが静まり返る。 

高速で堕ちて来た、メガチルタリスはルカリオの右手が刺さったまま、動きを止めていた。 


ことり「……うそ」 


──ユラリ。 

メガチルタリスが揺れた。 

 「チ、ル……」 

そして、崩れ落ちる。 


海未「──勝負あり!!」 


千歌「……は……、……はぁ……はぁ……っ……」 


ほとんど息もせずに集中していたことに気付いて、動悸が襲ってくる。 

激しく集中したせいか、脳がオーバーヒートを起こしそうだし、息も切れて、勝手に肩が上下している。 


千歌「でも……見えた」 


一点、打ち抜いた。 


海未「メガチルタリス戦闘不能!! チャレンジャー千歌とルカリオの勝利です!!」 


千歌「ルカリオ……ナイスファイト!」 
 「グォゥ」 


私はルカリオに向かって親指を立てて見せた。 


ことり「…………そっか、負けか」 


バトルを終えた、ことりさんがぼんやりと、そう呟いたのが聞こえてきた。 


ことり「……今度はメガシンカでも負けちゃった……ことりの完全敗北だね」 


メガチルタリスをボールに戻しながら、フィールド上をことりさんが歩いてくる。 

バッジを手に持って。 


ことり「ここまでされたら、もう誰も文句言えないね。千歌ちゃん」 

千歌「は、はい!」 


正直、脚は笑っていたけど、どうにか力を入れて立ち上がる。 


ことり「あなたをセキレイジムを突破したこと認定して──」 


私の目の前にバッジが差し出される。 
664 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:05:09.31 ID:UvOtrYsw0

ことり「この“ハミングバッジ”を進呈します。……受け取って貰えますか?」 

千歌「……はい!!」 


自分でも納得の行く勝利だった。 

私はこうして、4つ目のバッジ──ハミングバッジを受け取ったのでした。 





    *    *    * 





曜「千歌ちゃん……!!」 


バトルが終わって、曜ちゃんが私のところに駆けて来る、 


千歌「えへへ、曜ちゃん。見ててくれた?」 

曜「うん……!! というか、すごかった……!!」 


曜ちゃんが目をキラキラさせている、一方で、 


海未「さて……これで私は御役御免ですね」 


海未さんがそう言って、ジャッジの立ち位置を離れる。 


千歌「! 師匠!」 


審判の位置から歩いてきて、そのままジムを出て行こうとする海未さんに声を掛ける。 


海未「千歌、最後の一撃……見事でした」 

千歌「! 師匠が訓えてくれたお陰です!!」 


私は、思わず頭を下げた。 


千歌「ありがとうございました……!!」 


そんな私の頭を──フワリと、海未さんの手が撫でる。 


千歌「……!」 

海未「弟子を持つのも……存外、悪くないかもしれませんね」 

千歌「……し、師匠……」 

海未「千歌」 

千歌「は、はい!!」 


頭を上げて、海未さんの──いや、師匠の目を見る。 


海未「……全てのジムを突破してきてください」 

千歌「え」 

海未「……私も本気で貴方と戦ってみたく、なりました」 


師匠は踵を返す。 
665 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:06:20.90 ID:UvOtrYsw0

海未「──ポケモンリーグで待っています」 


師匠は最後にそう言い残して、ジムを去って行きました。 





    *    *    * 





──ジム戦後、ことりさんの家にて。 


ことり「二人ともーご飯だよー」 

千歌「わーい♪」 

曜「ハンバーグだ!」 


ことりさんの用意してくれたハンバーグを曜ちゃんと並んで頬張りながら、 


千歌「師匠も一緒に食べていけばよかったのに……」 


なんて思わず言ってしまう。 


ことり「ふふ……いつまでも一緒に居たら離れづらくなっちゃうからね」 


ことりさんはそういうけど……。 


千歌「師匠はもっとドライな人だったような……」 


修行の日々を反芻していると、そう思ってしまう。 


ことり「そんなことないよ? 海未ちゃんあれで寂しがり屋なんだから♪」 

千歌「ホントですか……?」 

ことり「ホントだよ~♪」 


怪訝な顔をする私に反して、 

ことりさんはなんだか、嬉しそうだった。 


曜「ことりさんのハンバーグおいしい……私ことりさんの家の子になるっ」 

ことり「もう曜ちゃんはウチの子みたいなもんだよ♪ おかわりもあるからね」 

曜「やった!」 


曜ちゃんも随分ことりさんに懐いてる。 

……というか、餌付けされてる? 


ことり「千歌ちゃんは、次はローズシティかな?」 

千歌「あ、はい! ここから一番近いジムはローズシティにあるんですよね」 

ことり「うん♪ 真姫ちゃんって子がジムリーダーだから、会ったらよろしく伝えておいてね♪」 

千歌「はーい!」 





    *    *    * 
666 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:08:45.40 ID:UvOtrYsw0




ご飯も食べ終わって、曜ちゃんと二人で寝室。 

ことりさんは他の部屋で寝るとのことだった。またしばらくお別れだから……気を使ってくれたのかな? 


曜「……ねえ、千歌ちゃん」 

千歌「ん?」 

曜「梨子ちゃん……どうしてると思う……?」 

千歌「……ん、どうしてるかな」 


あの後、追いかける暇もなく修行に突入してしまったから、心配ではある。 


曜「あのね……実は……ことりさん、平気なように振舞ってるけど、梨子ちゃんとのバトルのこと……結構、気にしてて」 

千歌「……海未師匠から、なんとなく聞いたよ」 

曜「そっか……」 

千歌「皆、上手く出来てるように見えても……不器用なんだね」 

曜「……そうだね」 


梨子ちゃんも、ことりさんも……海未師匠も、 


千歌「師匠が言ってた」 

曜「?」 

千歌「皆、必死なんだって」 

曜「……」 

千歌「言葉が足りないってわかってても、力が足りないって感じてても……どうにか伝えないといけないときがあるって」 

曜「そっか……」 

千歌「そういうとき人もポケモンもすれ違っちゃうけど……いつか、伝わるときがくるから、信じて前に進むんだって……言ってた」 

曜「いつか伝わる……。……ちゃんと伝わるといいな」 


……梨子ちゃんへ、ことりさんの想いが、かな。 

私も最初は師匠を疑っていたけど、最終的には信用して、訓えを受けたように、 

曜ちゃんも、ことりさんと過ごして、近くに居て、ことりさんのもっと深い一面を感じて出た言葉なのかもしれない。 


千歌「……寝よっか」 

曜「……うん」 


私たちは目を瞑る。 


千歌「……」 

曜「……」 

千歌「……あ……曜ちゃん……そういえば、コンテスト」 

曜「! ……うん! 実は二つの大会で優勝して──」 


寝ると言ったはずなのに、何故か話し始めてしまう。 

こういうところは旅立つ前とちっとも変わってない。 

夜はどうやら、まだまだ長くなりそうだ── 


667 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:11:07.26 ID:UvOtrYsw0


    *    *    * 





ことり「千歌ちゃんと曜ちゃん……盛り上がってるなぁ」 


曜ちゃん……明日はコンテストがあるんだけど、大丈夫かな……? 

あんまり遅くまで話し込んでるようだったら、寝るように言ったほうがいいかな……。 

──ピコン。 


ことり「ん……?」 


デザイン案をまとめるために開いていたパソコンから、メールの受信音がした。 


ことり「……真姫ちゃんから?」 


メールを開くと、 


『不器用な、ことりへ 
 私の自慢の生徒がそのうち貴方を見返しに、 
 ジムにまた行くと思うから。 
 安心して。 
                       真姫より』 


そんな短い内容のメールだった。 


ことり「……私の自慢の生徒……これって」 


……そっか。 

わたしが上手く導いてあげられなかったあの子は、真姫ちゃんの許で何かを見つけたのかもしれない。 


ことり「良かった……」 


少しだけ、重かった肩から力が抜ける気がした。……それにしても、真姫ちゃんに『不器用』と言われるとは思わなかったけど……。 


ことり「……早くデザインまとめて、曜ちゃんに寝て備えるように言わなくちゃだね」 


盛り上がる隣の部屋の雑談をBGMに、わたしはデザインに集中する。 

わたしも真姫ちゃんや海未ちゃんみたいに……自分の弟子くらいは、ちゃんと導かないとね。 

明日のサニータウンのコンテストを見据えて、ね── 


668 : ◆tdNJrUZxQg [saga]:2019/05/06(月) 15:12:12.48 ID:UvOtrYsw0


>レポート 

 ここまでの ぼうけんを 
 レポートに きろくしますか? 

 ポケモンレポートに かこんでいます 
 でんげんを きらないでください... 


【セキレイシティ】 
 口================= 口 
  ||.  |⊂⊃                 _回../|| 
  ||.  |o|_____.    回     | ⊂⊃|  || 
  ||.  回____  |    | |     |__|  ̄   || 
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  ||.  | ____ ●__o_.回‥‥‥ :o  || 
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  ||.  回     . |_回o |     |        :   || 
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  ||.  | ○._  __|⊂⊃|___|.    :  .|| 
  ||.  |___回○__.回_  _|‥‥‥:  .|| 
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  ||./              o回/         || 
 口=================口 

 主人公 千歌 
 手持ち バクフーン♂ Lv.40  特性:もうか 性格:おくびょう 個性:のんびりするのがすき 
      トリミアン♀ Lv.38 特性:ファーコート 性格:のうてんき 個性:ひるねをよくする 
      ムクホーク♂ Lv.38 特性:すてみ 性格:いじっぱり 個性:あばれることがすき 
      ルガルガン♂ Lv.39 特性:かたいツメ 性格:わんぱく 個性:こうきしんがつよい 
      ルカリオ♂ Lv.40 特性:せいぎのこころ 性格:ようき 個性:ものおとにびんかん 
 バッジ 4個 図鑑 見つけた数:113匹 捕まえた数:13匹 

 主人公 曜 
 手持ち カメックス♀ Lv.39  特性:げきりゅう 性格:まじめ 個性:まけんきがつよい 
      ラプラス♀ Lv.39 特性:ちょすい 性格:おだやか 個性:のんびりするのがすき 
      ホエルコ♀ Lv.37 特性:プレッシャー 性格:ずぶとい 個性:うたれづよい 
      ダダリン Lv.41 ✿ 特性:はがねつかい 性格:れいせい 個性:ちからがじまん 
      ゴーリキー♂ Lv.38 ✿ 特性:ふくつのこころ 性格:まじめ 個性:ちからがじまん 
      タマンタ♀ Lv.35 特性:すいすい 性格:むじゃき 個性:こうきしんがつよい 
 バッジ 1個 図鑑 見つけた数:121匹 捕まえた数:19匹 コンテストポイント:24pt 


 千歌と 曜は 
 レポートを しっかり かきのこした!