千歌「白球を追いかけろ!!」 前編

510: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:56:30.67 ID:qk9fOFvI0
 ―黒澤家―


ルビィ「…………」


ダイヤ「ルビィ、早く寝なさい」

ダイヤ「疲れを取るのも、アスリートには大切なことですよ」

ルビィ「……うん」

引用元: ・千歌「白球を追いかけろ!!」 



511: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:56:57.35 ID:qk9fOFvI0
ダイヤ「やはり、試合のショックは大きいのですか」

ダイヤ「初公式戦があれでは、無理もありませんが――」


ルビィ「ううん、違うの」

ルビィ「考えてるのは、別のこと」

ダイヤ「別の?」


ルビィ「曜ちゃんね、野球部を辞めちゃうかもしれない」

ダイヤ「曜さんが?」

ルビィ「うん」

512: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:57:58.41 ID:qk9fOFvI0
ダイヤ「なぜ、そう思ったのですか」

ルビィ「……ずっとね、違うと思ってた」

ルビィ「他の皆と、見ている世界が、目指している場所が」


ルビィ「少し、ほんの少しだけど、噛みあわない部分があったの」

ルビィ「どんな相手でも常に勝利を目指す曜さんと、他のみんな」


ルビィ「東京の大会、曜ちゃんは全部勝つつもりで戦ってた」

ルビィ「けど他のみんなは、最初から勝ちなんて考えてもなくて」

ルビィ「善戦できればいい、楽しめればいいって」

ルビィ「それが、当たり前なんだけどね」

513: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:58:53.54 ID:qk9fOFvI0
ルビィ「たぶんね、曜ちゃんは耐えられない」

ルビィ「Aqoursの野球と、自分がやってきた野球とのギャップに」


ルビィ「それが分かっているのに、ルビィは何もできない」

ルビィ「曜ちゃんの助けにも、千歌ちゃんの助けにもなれない」

ルビィ「大切なチームの崩壊を、止められないの」

ダイヤ「そうですか……」


ダイヤ(それを感じ取れる)

ダイヤ(それはつまり、あなたも曜さんと同じ世界を垣間見ていたということ)

ダイヤ(自分では気づいてはいないのでしょうが)

514: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 07:59:29.04 ID:qk9fOFvI0
ダイヤ「大丈夫です、私に策があります」

ダイヤ「時間はかかるかもしれませんが、任せてください」

ルビィ「本当?」

ダイヤ「ええ」


ダイヤ「今までも私はそうやって、ルビィを助けてきた」

ダイヤ「今回も、私を信じなさい」

ルビィ「……うん!」


ダイヤ「では早く休みなさい」

ダイヤ「明日からまた、部活は始まるのでしょう」

ルビィ「ありがとう、お姉ちゃん」タッタッタッ

515: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 08:01:36.99 ID:qk9fOFvI0
ダイヤ(どうやら早急に、動き出さなければいけないようですね)


ダイヤ「もしもし」

ダイヤ「……ええ、やはり叩きのめされてしまったようで」

ダイヤ「現状、全国制覇は……」


ダイヤ「私ですか?」

ダイヤ「予定通り、動こうと思います」

ダイヤ「お父様とは、既に話し合いました」

ダイヤ「果南さんも問題ないそうです」

516: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 08:04:03.47 ID:qk9fOFvI0
ダイヤ「鞠莉さんも、やはり」

ダイヤ「……申し訳ありません、こんな形で」

ダイヤ「……ふふっ、そうですね」

ダイヤ「せっかくの機会、楽しまなくては」

ダイヤ「ではまた明日、細かい事については話しましょう」

ダイヤ「ええ、おやすみなさい――」



ダイヤ(さて、この選択は正しいのか」

ダイヤ(しかしもう、悠長なことは言っていられません)

ダイヤ(問題は、野球部だけではありませんから)ピラッ



【浦の星女学院、統廃合についてのお知らせ】

517: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:47:02.96 ID:7lELf0cH0
 ―某グラウンド―


コーチ「ラスト!」キンッ


曜「やっ」パシッ――シュッ

選手A「いいね!」パシッ


コーチ「OK、上がっていいわよ!」

曜「はい!」

518: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:47:30.56 ID:7lELf0cH0
曜「はぁ、疲れたぁ」

選手B「お疲れさん」

選手C「相変わらずいい動きしてるわね~」

曜「ありがとうございます」


選手B「今日はどうしたの、部活は休みとか?」

曜「そんな感じです」


選手C「あれ、そうなんだ」

選手C「私はてっきり、チームに戻ってきたのかと」

519: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:48:23.55 ID:7lELf0cH0
選手B「いやいや、流石に早いって」

選手B「少し心配ではあったけど、上手くやってんだろ」

曜「あはは、それなりに」

選手C「えー、期待して損したわ」

選手C「戦力的には、曜ちゃんがいるといないじゃ大違いなのに」

選手B「まあ、帰りたくなったらいつでも待ってるからさ」

曜「ありがとうございます」


曜「じゃあ私はこの辺で」

選手C「はーい」

選手B「お疲れさん~」

520: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:48:53.65 ID:7lELf0cH0
曜(……戻ってくると、安心するな)

曜(部活の練習を休むようになって数日)

曜(身体がなまらないように、監督に頼んでクラブチームの練習に混ぜてもらって)

曜(正直、物足りなさのあった部活より、しっくりくる)


善子母「渡辺さん」

曜「あっ、どうも」

善子母「大会、残念だったわね」

曜「……そうですね」

521: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:49:55.80 ID:7lELf0cH0
善子母「思ったより、頑張ったんじゃないかしら」

善子母「2戦目はともかく、音ノ木坂相手にコールドを回避できるなんて驚いたわ」

曜「いや、勝てなかったし、負けは負けなんで」

善子母「勝つ?」

善子母「あの面子じゃ、それは絶対無理だわ」

曜「……」


善子母「気持ちは分からなくはないわよ」

善子母「あなたは今まで、困難な状況を何度も覆してきた」

善子母「その成功体験があるから、いける気はしたんでしょう」

522: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:50:28.67 ID:7lELf0cH0
善子母「でもね、それは渡辺さん1人の力じゃない」

善子母「他のチームメイトの力もあってこそ」

善子母「あの場所、浦の星だとそれすら望めないもの」


曜「否定はできませんよ」

曜「たぶん、コーチの言うとおりでしょうから」


善子母「……えらい素直になったわね」

善子母「よほどショックだったのかしら」

523: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:51:19.68 ID:7lELf0cH0
曜「誰の所為だと――」

善子母「そうね、ごめんなさい」

善子母「こうなると分かっていて、そそのかしたのは私」

善子母「指導者――大人としてその点は謝るわ」

曜「コーチ……」


善子母「それで、戻ってくる気になったの?」

曜「……最初から、そのつもりで?」

善子母「まあね」

善子母「あなたが求める野球が、あそこにはないことは知っていたから」

524: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:52:09.04 ID:7lELf0cH0
善子母「早速手続きする?」

曜「少し、考えさせてください」

善子母「……分かったわ」

善子母「満足いくまで、ゆっくり考えなさい」

曜「ありがとうございます」


善子母「一応、理解してるわよね」

善子母「私が失礼な態度を取られてもあなたにやさしいのは、特別な才能を持っているからだって」

曜「ええ」


善子母「特別な人は、特別な場所で輝かなければいけない義務があるのよ」

善子母「それはちゃんと、理解しておいて」

525: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:52:41.62 ID:7lELf0cH0
―――
――



曜「はぁ」


曜(ずっと千歌ちゃんと一緒に野球をやりたいと思ってた)

曜(それができれば、満足だって)


曜(なのに自分の本能がそれを否定する)

曜(勝ちたい、負けたくない)

曜(その為には、千歌ちゃんと一緒に野球をやっていたら駄目)


曜(矛盾した2つの感情に、心を乱される)

曜(浦の星で野球部を始めたのは千歌ちゃん)

曜(千歌ちゃんが望まないなら、私は無理やり自分の考えを押し通すことはできない)

曜(あの場所にいることは、出来ない)

526: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:55:38.99 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「――曜さん」

曜「へっ」


ダイヤ「練習、お疲れ様です」

曜「どうして、こんなところに」

ダイヤ「あなたを待っていたのです」

果南「少し、話があるからさ」

曜「果南ちゃんまで……」


527: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 18:56:16.21 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「少しだけ、時間よろしいですか」

曜「えっと、その話で?」

ダイヤ「はい」

曜「サボりのお説教とかだったらまた今度に――」


果南「違うよ」

曜「違う?」

ダイヤ「今後の、浦の星のこと」

ダイヤ「野球部、そして学校全体について」

曜「はぁ」

528: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:04:47.83 ID:7lELf0cH0
 ―同刻・内浦海岸沿い―


千歌「はぁ」

千歌(気まずいなぁ、練習に出るのも)

千歌(曜ちゃんの件、ちゃんと説明ができていないまま)

千歌(みんな明らかに不審に思っているのに、適当に誤魔化して)

千歌(まともに会話すらしていないんだから、どうしようも――)

529: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:05:33.68 ID:7lELf0cH0
??「ハァイ」

千歌「へっ」


??「あなた、高海千歌よね」

千歌「そ、そうですけど」

千歌(何この金髪の人)

千歌(喋り方も含めて、怪しい雰囲気がプンプンする)

千歌(一応、外国人ではなさそうだけど)

530: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:06:03.38 ID:7lELf0cH0
千歌「あの、私に何か?」

??「そうなの」


??「今、時間あるかしら」

千歌「えっと、時間――」

千歌(ど、どこかに連れ去られるとか)

千歌(逃げた方がいいのかな)


??「その様子だと問題なさそうね」

??「では来てもらいましょうか」グィ

千歌「ちょっと、なにを――」

531: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:09:00.11 ID:7lELf0cH0
 ―浦の星女学院・野球部部室―


千歌「部室?」


??「連れてきたわよ!」

ダイヤ「鞠莉さん、いらっしゃい」


千歌「ダイヤさん、この人知り合いですか?」

ダイヤ「……その反応、説明さえしてなさそうですね」

鞠莉「あー、忘れてた」テヘペロ

果南「相変わらずだね、鞠莉は」


鞠莉「あら果南、シャイニー!」ハグ

果南「よしよし」ハグ

532: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:09:33.94 ID:7lELf0cH0
千歌「あのぉ」

ダイヤ「すみません、いつもこんな感じでして」

千歌「仲、良いんですね」

ダイヤ「私も含めて3人、幼馴染ですので」

千歌「へぇ」

千歌(面識なかったけど、果南ちゃんは他にも幼馴染がいたんだな)


ダイヤ「今さらですが紹介します」

ダイヤ「この方は浦の星の新理事長で、先日までアメリカに野球留学をしていた小原鞠莉さん」

鞠莉「よろしくね~」

533: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:10:03.36 ID:7lELf0cH0
善子「ちょ、ちょっと待って」

花丸「理事長って、どういうことずら?」


鞠莉「そのままの意味よ」

梨子「ダイヤさんたちと同い年、なんですよね」

鞠莉「ええ、だから生徒も兼任の理事長」

善子「そんなの聞いたことないわよ」

花丸「ずら」

534: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:10:40.51 ID:7lELf0cH0
ルビィ「え、えっとね」

ルビィ「鞠莉ちゃん、世界的にも有名な大企業のお嬢様だから」

善子「お嬢様」

花丸「それは未来ずらね~」

梨子(なにが未来なんだろう)


ルビィ「確かおうちが浦の星の経営にもかかわってるから、そんなにおかしい話ではないのかも」

ルビィ「元々、なんでもありの人だし」ボソッ

535: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:11:09.60 ID:7lELf0cH0
鞠莉「あらルビィ、ずいぶん立派になったわね」ハグ

ルビィ「ピギッ」

鞠莉「色々と成長して――小さいのは変わらないけど」ワシワシ


ルビィ「ピ、ピィ―――――」ダッ

ルビィ「マルちゃ~~~~ん」ダキッ

花丸「おー、よしよし、怖かったねぇ」ナデナデ


ダイヤ「鞠莉さん、妹をからかうのもほどほどにしてくださいまし」

鞠莉「ごめんごめん、可愛いからつい」

536: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:11:42.99 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「とにかく、全員揃いましたわね」


花丸「あの、曜さんは?」

ダイヤ「少し、お休みしています」

ダイヤ「東京でずいぶん疲れてしまったようなので」

善子「そうなの?」

ダイヤ「ええ」

花丸「それで最近の練習休んでたんだ」

537: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:12:19.89 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「さて、本題に戻りますが」

千歌「はい」

ダイヤ「今日皆さんに集まっていただいたのは、大事なお話があるからです」

千歌「大事な」

梨子「お話?」


善子「そこの鞠莉さんが理事長になったのと、何か関係があるの」

鞠莉「もちろん」

鞠莉「私が理事長兼任として戻ってきたのは、学校を救うためだから」

千歌「学校を、救う?」

538: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:13:04.02 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「……皆さんには話していませんでしたね」

ダイヤ「現在この学校には、統廃合の話が持ち上がっています」

梨子「えっ……」

鞠莉「相手は、沼津にある高校よ」


千歌「それは聞いたことあるけど、噂だって」

ダイヤ「今年の新入生の数が例年にも増して少なかった為、話が進行したのです」

鞠莉「新入生が1クラス分も確保できない現状では、仕方のないことだけどね」

鞠莉「今は私が新理事長として、その話を遅らせている状態」

539: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:13:40.27 ID:7lELf0cH0
千歌「でもどうして、私たちに?」

鞠莉「簡単な話よ」

果南「野球で廃校を覆して、学校を救うためだよ」


善子「野球で廃校を覆して」

花丸「学校を」

ルビィ「救う?」


鞠莉「ええ」

540: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:14:22.36 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「実は2年前、既にこの学校には廃校の話が持ち上がっていました」

鞠莉「それを聞いた私たち3人は、野球部を設立したの」

果南「人気上昇中の女子野球で有名になれば生徒が集まる、そう思ってね」


ダイヤ「鞠莉さんと果南さんの力もあり、私たちは創部間もなく頭角を現します」

千歌「ダイヤさんもいたんですか」

ダイヤ「もちろんです」

ダイヤ「2人のように、特別なものを持っているわけではないですが」

541: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:15:03.56 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「その野球部は私の実家の事情もあり、大手を振って活動はできませんでした」

果南「周囲にばれないように、出来るだけこっそりと」

果南「他の助っ人や先輩も含めて集まって、鞠莉の家ので練習したりさ」

ダイヤ「両親が野球自体に関心がないのも幸いでしたわ」


鞠莉「でもね、県予選を目前にしたところで事故が起きた」

鞠莉「念願の大会直前の練習試合」

鞠莉「当時キャッチャーだった私が、クロスプレーで負傷したの」

果南「投手だった私の球を捕れる人は、他にいなかった」

果南「さらに悪いことは重なって、黒澤家に部活のことがばれちゃったんだよ」

542: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:15:34.57 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「そして私は部を退部させられました」

ダイヤ「二度とプレーをしないという誓いと共に」

ルビィ「……」

千歌「そんな……」


ダイヤ「約束を破ったのは私、仕方のないことです」

ダイヤ「それに悪い話ばかりではなかったのですよ」

ダイヤ「退部以降、多少ガス抜きをするためにと、観戦については両親ともに寛容になりました」

ダイヤ「そのおかげでさらに野球に詳しくなり、曜さんの存在を認知して、野球部の再興に繋がったのです」

果南「当時も色々あって、統廃合の話は立ち消えになったしね」

543: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:16:03.96 ID:7lELf0cH0
鞠莉「私と果南もね、ダイヤから話を聞いて新生Aqoursのことは気にかけていたのよ」

千歌「新生Aqours?」

善子「どういうこと?」

梨子「Aqoursって、元々あったチーム名だったんですか」


果南「そうだよ、私たち3人で野球部を作った時にも使っていた名前」

ダイヤ「最初に聞いたときは驚きましたわ」

ダイヤ「いったい誰が、この名前付けてくれたのでしょうね」チラッ

ルビィ「……」フィ


千歌「あっ」

千歌(それで、ルビィちゃんは)

544: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:16:57.49 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「つまり話というのは、皆さんへのお願いです」

ダイヤ「全国大会で、優勝してほしいという」

花丸「全国優勝……」

善子「強豪校相手にあんな試合をしたばかりなのに……」


ダイヤ「もちろん全力で支援はするつもりです」

ダイヤ「優勝すれば、入学希望者は集まります」

ダイヤ「例え少なくても、窮状を知ったファンからの寄付金も期待できる」

ダイヤ「そのようにして、学校を救う」

ダイヤ「その為の協力は惜しみません」

545: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:17:23.32 ID:7lELf0cH0
千歌「でも、私たちが優勝できるとはとても」

ダイヤ「大丈夫です」

ダイヤ「みなさん、きちんと練習すれば上達します」

ダイヤ「すぐには無理でも、0から1へ、1から10へと積み重ねていくことはできる」

千歌「0から、1へ」


ダイヤ「もちろん、それだけではなく――」

果南「私たち3人も」

鞠莉「野球部に入りま~す」

546: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:18:10.14 ID:7lELf0cH0
千歌「だ、ダイヤさん達が!?」

ダイヤ「ええ」


ダイヤ「現実的に考えれば、確かに優勝は厳しい」

ダイヤ「強豪相手に手も足も出なかった現有戦力だけではなおさらです」


ダイヤ「しかし私はともかく、果南さんと鞠莉さんは全国クラスに匹敵する選手」

ダイヤ「Aqoursには元々、全国でも戦えるレベルの投手が存在するのです」

ダイヤ「私たちが加われば、可能性が0とは言えないでしょう」

547: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:18:49.51 ID:7lELf0cH0
ルビィ「だけどお姉ちゃん、野球は禁止されてるんじゃ」

ダイヤ「この夏だけ許可を頂けました」

ダイヤ「お母様は私の野球への情熱を買って」

ダイヤ「お父様も全国大会優勝者の肩書を手に入れると誓ったら、折れてくださいましたわ」


千歌「全国大会――」

梨子「優勝――」


ダイヤ「優勝です」

ダイヤ「黒澤家に敗北の二文字は許されません」


鞠莉「私と果南が戻ってきたのも、ダイヤが復帰することが決まったから」

果南「一緒に失ったあの時を取り戻し、大切なものを守り抜くために」

548: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:19:36.12 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「廃校を阻止するためには、冬の大会で結果を残すのでは遅い」

ダイヤ「夏に結果を出さなければおしまいです」


ダイヤ「これから求められるのは、勝利のための野球」

ダイヤ「楽しむ、それだけではいけません」

ダイヤ「辛い想い、苦しい想い、たくさん経験するでしょう」

ダイヤ「それでも、あなた達は協力してくれますか」

ダイヤ「一緒に、私たちと夢を追ってくれますか」

549: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:20:12.56 ID:7lELf0cH0
千歌「……私、やるよ」

ダイヤ「千歌さん」


千歌「私だって、本当は悔しかった」

千歌「負けたのも、何もできなかったのも、現実を突きつけられたのも」

千歌「でも立ち向かうのが怖くて、不可能だって逃げて」

千歌「それで無意識の内に、仲間を苦しめて」


千歌「本当は怖いよ」

千歌「ただ普通に、野球を楽しんでいたい」

千歌「でも母校の廃校、お世話になったダイヤさんの立場」

千歌(そして、曜ちゃんのこと――)

千歌「それら全てを背負えば、頑張れる気がする」

千歌「0から1へ、一歩踏み出せる気がする」

550: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:20:38.49 ID:7lELf0cH0
千歌「梨子ちゃんも、一緒に目指してくれるよね」

梨子「もちろん」

梨子「私は最初からその気よ」


花丸「マルも頑張る!」

善子「私だって!」

花丸「ルビィちゃんも、だよね」

ルビィ「うん!」

551: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:21:13.95 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「ありがとうございます、みなさん」

ダイヤ「さて、ということですがどうしますか――曜さん」

梨子「えっ」

千歌「曜ちゃん?」


 ガチャ


曜「……」チラッ

千歌「曜ちゃん……」


善子「隠れてるなんて、趣味悪いわよ」

曜「うん、ごめん」

花丸「心配してたんだよ、みんな」

善子「でもよかったわ、無事で」

善子「曜さんがいれば、今の話もあながち世迷い言とも言い切れないもの」

552: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:21:42.24 ID:7lELf0cH0
曜「いやその、私は……」


千歌「曜ちゃん」ガシッ

曜「千歌ちゃん」


千歌「一緒にやろう」

千歌「私、もう逃げない」

千歌「本気で勝ちたい、勝って廃校を阻止したい」

千歌「だからお願い、力を貸して」

千歌「その為には、曜ちゃんの力が必要なの」


曜(千歌ちゃん、真剣な顔)

曜(本気なんだな、きっと)

曜(でも私は、私は――――)

553: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:22:14.43 ID:7lELf0cH0
曜「……分かったよ」

千歌「曜ちゃん!」


曜「まだ、モヤモヤが晴れたわけじゃない」

曜「だけどやっぱり私は、千歌ちゃんと一緒に野球をやりたい」

曜「一緒に頂を目指したい」

曜「だから、やるよ」


千歌「うん、ありがとう!」

554: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:22:48.73 ID:7lELf0cH0
善子「なによ2人とも、喧嘩でもしてたの」

千歌「たいしたことじゃないよ」

善子「だけど今のは――」


梨子「善子ちゃん空気を読んで」ガシッ

花丸「そうずら」ガシッ

善子「ちょ、離しなさいよ!」

ルビィ「善子ちゃん、黙るビィだよ」クチフサギ

善子「むー」

555: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:23:16.63 ID:7lELf0cH0
果南「やれやれ、騒々しいね」

鞠莉「いいじゃない、これぐらい元気があるほうが」

ダイヤ「そうですよ、私たちは野球部なのですから」

果南「うん、それもそっか」


ダイヤ「ともあれ、これで正式な部員が9人揃いました」

ダイヤ「ある意味で、Aqoursが完成した日」

ダイヤ「きっとこれから、数多くの困難が待ち受けているでしょう」

ダイヤ「でもそれらを全員で一緒に乗り超えていく」

ダイヤ「その為によろしくお願いしますわね、みなさん」


ダイヤ以外「「「はい!」」」

556: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 19:24:59.83 ID:7lELf0cH0
3年生能力


ダイヤ:弾道2 ミD パG 走D 肩E 守D 捕D  右左  左(ニ・遊・中)
    アベレージヒッター 流し打ち いぶし銀 逆境○ チャンスA 粘り打ち

 鞠莉:弾道3 ミD パB 走D 肩C 守C 捕D  右右  右(捕・一)
    悪球打ち 連打

 果南:弾道4 ミE パA 走B 肩A 守E 捕E  右右  三(投・左)
   :球速138 コンG スタS
    強振多用 積極打法 プルヒッター 送球E 扇風機 盗塁F 走塁E
    四球 短気 闘志

557: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:10:12.84 ID:7lELf0cH0
 ―放課後・2年生教室―


 キーンコーンカーンコーン


千歌「よーし、練習だ!」


梨子「ちょっと待ちなさい」

千歌「なにさ」

梨子「今日は掃除当番でしょ」

千歌「そんなこと如きじゃ、この勢いは止められないよ」

梨子「勢いって……」

558: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:14:42.63 ID:7lELf0cH0
千歌「だって、今日はついに3年生が合流する日だよ」

千歌「一刻も早く練習を始めたいじゃん!」

梨子「やることはちゃんとやらないと――」


むつ「行ってきなよ、私たちが当番代わってあげるから」

梨子「い、いいのかな」

よしみ「いいよ、今度私たちが当番のときに代わってくれれば」

いつき「大事な日なんでしょ、今日は」

梨子「でも――」

559: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:15:12.43 ID:7lELf0cH0
曜「じゃあまかせたヨ―ソロー!」ダッ

梨子「曜ちゃん!?」

千歌「梨子ちゃんも行こうよ!」ダッ

梨子「千歌ちゃんまでっ」


いつき「いいから行ってきなよ、ね」

梨子「……ありがとう」

むつ「頑張ってね~」

梨子「うん!」

560: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:15:59.07 ID:7lELf0cH0
 ―部室―


ダイヤ「ついに、ついにこの日が来ましたわ!」

ダイヤ「私たちが野球部に復帰をする日!」

ダイヤ「大好きな野球を再開できる日が!」

ルビィ「わー!」

花丸「わー!」


善子「ちょっと花丸、なにしてるのよ」ヒソヒソ

花丸「ルビィちゃんに『お姉ちゃんに合わせてあげて』と頼まれて……」ヒソヒソ

561: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:16:52.70 ID:7lELf0cH0
梨子「て、テンション高いですね」

果南「ダイヤは野球が大好きだからね」

鞠莉「ずっと抑圧されていた物が解放された分ってところかしら」


善子「いや、でも」

曜「なんかイメージ壊れるよね、悪い意味で」

果南「善子、曜、慣れて」

千歌「ま、まあいいじゃん、テンション低いよりは」

562: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:17:20.38 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「さあさあ、早く着替えてグラウンドへ行きますわよ!」

果南「2年生は来たばかりなんだから、急かさないの」


ダイヤ「では――ルビィ! 花丸さん!」

ダイヤ「私たちだけでも先に行きましょう」

ルビィ「は、はい!」

花丸「ずら!」

鞠莉「私も行くわよ!」

果南「あっ、私も!」

563: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:17:45.98 ID:7lELf0cH0
 ガラッ――ダダッ


千歌「……凄い勢いだったね」

梨子「う、うん」

曜「善子ちゃんは行かなくてよかったの?」

善子「タイミング逃して」

千歌「私たちも急ごう、待たせちゃ悪いし」

梨子「う、うん」

564: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:19:01.71 ID:7lELf0cH0
 ―グラウンド―


千歌「アップも諸々の基礎練習も終了」

千歌「次は実戦形式の打撃練習」

千歌「ようやく見れるね、3年生の実力を!」


果南「待ってました!」

鞠莉「あら果南、自信ありそうね」

鞠莉「野球をするのは久しぶりじゃないの?」

565: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:19:37.99 ID:7lELf0cH0
果南「ちゃんと家にあるバッティングマシンで練習はしてたよ」

果南「いつかダイヤが、野球に戻って来れる日を信じてさ」

鞠莉「わーお、流石果南ね」

果南「まあね」

鞠莉「その一方で……」


ダイヤ「はぁ……」

ルビィ「お、お姉ちゃん」

ダイヤ「打撃練習なんてぶっぶーですわ……」

ルビィ「き、気持ちを強く持って、がんばルビィだよ!」

566: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:20:16.14 ID:7lELf0cH0
千歌「ダイヤさん、なんでテンション落ちてるの?」

梨子「さっきまであんなに元気だったのにね」

善子「打つのが嫌いなのかしら」

梨子「珍しいね、打撃が嫌いな人なんて」

曜「前に見たスイングは綺麗だったし、苦手なわけじゃないと思うんだけど」


鞠莉「見てれば分かるわ」

果南「ダイヤにとってあれは、深刻な問題だからねぇ」

千歌「はぁ」

567: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:20:47.27 ID:7lELf0cH0
曜「人数足りないけど、どうする?」

梨子「打たせるように軽い感じで投げて、3年生が優先的に打席に立つとか」

曜「守備は人数が足りないから、内野は3人だけでいいよ」

梨子「分かったわ」

曜「とりあえず私が投げるね」

曜「梨子ちゃん、まだ投げたくない感じでしょ」

梨子「うん、ありがとう」

568: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:21:23.12 ID:7lELf0cH0
曜(それで、最初はダイヤさんだけど)

ダイヤ「はぁ……」

曜(相変わらず暗い)

曜(まあいいや、とにかく投げてみれば分かるでしょ――)シュッ


ダイヤ「はぁ」キンッ


千歌(おお、相変わらず綺麗なスイング!)

千歌「でも、あれ?」


ルビィ「うゅ……」パシッ

569: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:21:52.09 ID:7lELf0cH0
曜「セカンドフライ?」

善子「しっかりとらえたように見えたのに」


千歌(ぜ、全然飛んでない)


 キンッ


花丸「ずらっ」パシッ

千歌「今度はファースト……」


果南「ダイヤ、相変わらずパワーはないね」

鞠莉「変わってないわね、打撃練習を嫌がるところも含めて」


千歌「ちょ、ちょっとタイム」

570: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:22:48.60 ID:7lELf0cH0
千歌「あの、もしかして怪我とか――」

ダイヤ「いえ、していませんわ」

千歌「でもちゃんと捉えている感じなのに、打球に勢いがなさすぎるというか」


ルビィ「お姉ちゃん、おうちで筋トレとか禁止されてるんです」

千歌「そうなの?」

ダイヤ「ええ」

ダイヤ「黒澤家の長女に相応しい、細く美しい身体を保つ」

ダイヤ「そのように両親から厳命されていまして」

ダイヤ「余計な筋肉は見た目だけではなく、様々な習い事に支障をきたしますから」

571: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:24:58.64 ID:7lELf0cH0
千歌「えっと、よく分からないけど大変なんですね」

ダイヤ「すみません、余計な心配をおかけして」

ダイヤ「けど大丈夫ですわ」

ダイヤ「今は久しぶりなのでこの有様というだけ」

ダイヤ「金属バットですから、いくらパワーがなくても捉えれば飛ぶはず」

ダイヤ「じきに問題がない程度には合わせられます」

ダイヤ「とにかく今は練習を続けましょう」

千歌「了解です!」

572: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:26:14.25 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「ふっ」キン


曜「うおっ、センター返し」


 キンッ キンッ キンッ


千歌「わぁ」

千歌(確かにパワーがないせいで、打球の勢いも飛距離もあんまりない)

千歌(でもしっかりと、ゴロでヒットゾーンを打ち抜いてる)

千歌(嫌いだっていうのが不思議なぐらい、上手だなぁ)

573: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:26:40.76 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「ふぅ」

鞠莉「ダイヤ、そろそろ交代!」

ダイヤ「了解ですわ」


千歌(次は、鞠莉さんか)

千歌(この人は色々謎だらけ)

鞠莉「ふふっ、よろしくね」

千歌「あっ、はい」

千歌(体格良いし、飛ばしそうだな~)

574: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:27:13.40 ID:7lELf0cH0
曜「じゃあ行きますよ~」

鞠莉「カモーン!」


曜(……挑発されてるみたい)シュッ

曜「ヤバッ、高めに抜け――」


鞠莉「絶好球!」カキーン!

曜「えっ」


善子「わっ、急に大きいのきた!?」

575: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:29:09.10 ID:7lELf0cH0
千歌「あ、あんなボール球をセンターオーバー……」

果南「鞠莉は典型的なフリースインガーだからね」

果南「とにかく積極的に、多少のボール球は平気で打つ」

果南「というかむしろ、外れてる球の方が得意なぐらいかも」

千歌「そ、そんな人もいるんだね」


 カキーン! カキーン!


曜「ホント、何でも手を出すなぁ」

576: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:29:38.91 ID:7lELf0cH0
善子「打って変わって忙しいわねっ」パシッ

ダイヤ「……そうですわね」

善子「はっ、別にダイヤを責めたわけじゃ」

ダイヤ「分かっていますわよ」

ダイヤ「凄まじい差があることは、私自身が一番」


梨子(もしかして、打撃練習が嫌いな理由はその辺にあるのかな)

梨子(果南さんの方も、いかにも飛ばしそうな雰囲気だし)

577: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:30:41.56 ID:7lELf0cH0
果南「次は私ね」

千歌「あ、うん」


曜「外野、下がって!」


善子「どうしたのよ、急に」

梨子「既に結構後ろを守ってるのにね」


ダイヤ「いいから2人とも下がりなさい」

ダイヤ「それと全員レフト寄りで、クッションボールを処理する準備を」

善子「わ、分かったわ」

578: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:31:10.14 ID:7lELf0cH0
曜「いくよー」シュッ


果南「よっしゃ!」カキ――ン!


善子「うわっ」

梨子「本当に――」


 ガシャンッ


梨子「……ネット、超えたね」

善子「ま、マジで?」

ダイヤ「ここは女子用の仕様で距離も短く、ネットも低いので」

ダイヤ「とはいえ、流石は果南さんですわね」

579: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:32:44.62 ID:7lELf0cH0
梨子「ってまた――」


 バンッ


善子「今度はネット直撃……」

梨子「凄まじい打球ね」


果南「あー、打ち損じたっ」


梨子「えっ」

善子「う、嘘でしょ」

ダイヤ「早く慣れた方がいいですわよ、本当ですから」

580: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 20:33:35.19 ID:7lELf0cH0
梨子「ダイヤさん、やけに落ち着いてますね」

ダイヤ「慣れていますから」


善子「あの人、化け物なの?」

ダイヤ「そんなことはありませんよ」

ダイヤ「確かに身体能力は高いですけど、選手としては鞠莉さんにやや劣るといったところかと」

梨子「確かに昔、千歌ちゃんたちからも何とも言えない反応が返ってきたような」

梨子「考えてみると、代表でも見たことないし……」


ダイヤ「色々あるのですよ、それぞれの事情が」

ダイヤ「――おっと、次来ますわよ」

梨子「あっ、本当だ」

善子「も、もう勘弁して」

581: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:03:21.39 ID:7lELf0cH0
 ―部室―


ダイヤ「…………」

ルビィ「お姉ちゃん、大丈夫?」

ダイヤ「えぇ……」


千歌「ダイヤさん、お疲れだね」

鞠莉「だいぶはしゃいでいたものね」

果南「久しぶりの野球、よっぽど楽しかったんでしょ」

582: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:03:48.13 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「体力の落ちもありますわ」

ダイヤ「一応練習は重ねていましたが、目立った行動はできませんでしたから……」


鞠莉「その辺はゆっくり戻していけばいいでしょ」

果南「そうそう、実力的には問題ないはずなんだから」

ダイヤ「そうも言っていられません」

ダイヤ「9人で行なう初の練習試合も組んできましたし」

千歌「あっ、前に話してた」

梨子「相手は決まったんですか?」

583: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:04:17.86 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「星浜高校、神奈川にある中堅校です」

ダイヤ「基本的には県予選であっさり敗退しますが、時々全国にも顔を出す不思議な高校」

ダイヤ「日中高校よりやや劣る、ちょうどいいレベルの相手ですわ」


善子「えー、私たちは日中には初試合でも勝った――」

ダイヤ「過信はぶっぶーですわ!」

ダイヤ「あの試合の結果は相手が舐めてかかったから」

ダイヤ「それに当時と違い、2年生以下の情報は外部に出ています」

ダイヤ「あんな風に上手くいくとは思わないことですね」

善子「は、はい」

584: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:04:45.84 ID:7lELf0cH0
千歌「ちなみに試合日は?」

鞠莉「明日デース」

梨子「はい?」


ダイヤ「できるだけ早くと、頑張りましたわ」

千歌「いやいや、急すぎない?」

果南「善は急げって言うじゃん」

善子「使い方おかしくないかしら」

585: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:05:12.60 ID:7lELf0cH0
曜「いいじゃん、試合ができるなら」

ダイヤ「そのとおりですわ、曜さん」

ダイヤ「私たちに最も足りないのは経験」

ダイヤ「夏までに、出来る限り多くの試合をこなさなければなりません」


千歌「そうだよね、負けてもいいから経験を――」

ダイヤ「いけませんわ! 黒澤家に許されるのは勝利のみ!」

ダイヤ「私が入ったからには、目指すは全戦全勝です!」

千歌「は、はい」

586: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:07:28.37 ID:7lELf0cH0
 ―練習後・グラウンド―


ルビィ「マルちゃん、今日は居残り練習?」

花丸「うん」

ルビィ「善子ちゃんも一緒だよね」

善子「ま、まあ、付き合ってほしいというならね」

ルビィ「わーい、ありがとー」ダキッ

善子「べ、別にたいしたことじゃないわよ」

587: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:07:57.27 ID:7lELf0cH0
ルビィ「それじゃあ、さっそく室内練習場に――」


花丸「その前に」

ルビィ「うゅ?」

花丸「今日は特別な助っ人を呼んできました!」

善子「助っ人?」

花丸「うん、マルたちに野球を教えてくれる凄い人」

善子「……なんだか、嫌な予感が」

588: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:08:25.57 ID:7lELf0cH0
善子母「こんばんは」

ルビィ「ピギッ、善子ちゃんのお母さん」

善子「げっ」


善子母「ずいぶん失礼な反応ね、善子」

善子母「せっかく指導に来てあげたコーチに対して」


善子「な、なんでここにいるのよ」

善子母「花丸ちゃんに頼まれてね」

善子「ちょっと、ずらマル!」

589: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:09:00.09 ID:7lELf0cH0
花丸「マルが知ってる指導者、善子ちゃんのお母さんしかいなかったから」

善子「そうかもしれないけど……」


善子母「あら、私じゃ不満かしら」

善子「……私、お母さんの指導は受けないわ」

善子母「それなら結構よ。手伝いをしてくれれば」

善子母「お友達の為に、それぐらいはできるでしょ」

善子「……分かった」

590: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:10:06.43 ID:7lELf0cH0
善子母「それじゃあ、花丸ちゃんと――ルビィちゃんだったかしら」

花丸「ずら」

ルビィ「は、はい」


善子母「申し訳ないけど、私はあなたたちの実力を完全に把握しているわけではないの」

善子母「だからそれを知るためにも、早速練習してみましょうか」

ルビまる「「はい!」」


善子母「善子は球拾いをお願いね」

善子「ええ」

591: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:10:32.56 ID:7lELf0cH0
―――
――



ルビィ「はぁ、はぁ」

花丸「も、もう駄目ずらぁ」

善子母「バスの時間もあるから、今日はここまでにしましょうか」

ルビまる「「あ、ありがとうございました……」」


善子(2人ともフラフラ、なんて容赦のない練習……)

592: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:12:36.26 ID:7lELf0cH0
善子母「お疲れ様、頑張ったわね」

ルビィ「は、はい」


善子母「とりあえず2人とも、身体づくりをする必要はありそうね」

善子母「花丸ちゃんは練習をしっかりできるだけの体力面を」

善子母「ルビィちゃんは体力的には問題はなさそうだけど少しパワー不足、筋トレのメニューを渡すからそれをこなして」

善子母「あと――自信を付けることね」


善子母「技術を十分に持っているはずのあなたに足りないものは、間違いなくそこ」

善子母「メンタル面は、自信を手に入れればある程度は改善する問題よ」

593: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:13:02.48 ID:7lELf0cH0
善子母「そして花丸ちゃんは、まず守備を練習しましょう」

花丸「守備?」


善子母「今から夏までの期間で、戦力になるだけの打撃を身に付けるのは難しいわ」

善子母「センスがある子ならともかく、花丸ちゃんは運動神経からして人より劣るから」

善子「ちょっと、そんな言い方――」

花丸「善子ちゃん、いいから」

善子「でも……」

花丸「続けてください」

594: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:13:37.89 ID:7lELf0cH0
善子母「だけどね、守備ならある程度のレベルに達することはできる」

善子母「広い守備範囲は身に付かなくても、自分の捕れる範囲を確実に捕る」

善子母「状況に応じた動きを覚える」

善子母「ファーストというポジションの特性を考えれば、それができれば十分」

善子母「真面目なあなたなら、可能なはずよ」

善子母「幸い、捕球のセンスはありそうだから」

善子母「打撃も身体づくりで飛ばす力は上がる分、多少改善されるでしょう」

595: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:14:13.69 ID:7lELf0cH0
善子母「今後は、いま話した内容を意識して練習していきましょう」

ルビまる「「はい!」」


善子母「あと――善子」

善子「なによ」

善子母「もうこの練習に来なくていいわよ」

善子母「あなたの顔を見ると指導する気が無くなるから」

善子「な、なによ」

善子「手伝わせておいて。それはこっちの台詞よ!」

善子母「そういうふてくされた態度で手伝われても、迷惑なの」

596: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:16:31.23 ID:7lELf0cH0
善子母「でも自主練習はしっかりすることね」

善子母「例えば――せっかく家が近いんだから、渡辺さんに色々教えてもらいなさい」

善子「曜さんに?」


善子母「どうせ私が教えても、自己流の動きしかしないんでしょ」

善子母「それならチームで1番上手い選手を見て、自分の考えで吸収する」

善子母「その方がきっと、合っているはずよ」

善子母「ちょうど渡辺さんも練習相手を探してたみたいだから、ね」

善子「お母さん……」

597: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:16:59.11 ID:7lELf0cH0
善子母「さてと、後片付けは私がやっておくから、みんな着替えて帰りなさい」

花丸「えっ、でも」

善子母「明日、試合なんでしょ」

善子母「それに私は車で来たから平気だけど、あなたたちは終バスの時間もあるのよ」


善子「時間――うわっ、急がないとヤバい!」

善子母「今日この時間まで付き合わせたのは私だから、気にせず行きなさい」

ルビィ「あ、ありがとうございます」

花丸「急ごう、ルビィちゃん!」

598: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:17:29.72 ID:7lELf0cH0
善子「せめて私は手伝う? 一緒に車で帰ればいいんだし」

善子母「勘弁して、反抗期の娘と車で2人きりなんてごめんよ」

善子母「あなただって、友達と一緒の方が楽しいでしょ」

善子「……分かったわ」


善子母「善子」

善子「なによ」

善子母「よかったわね、一緒に野球ができる友達ができて」

善子「……うん」


花丸「善子ちゃん、急いで!」

ルビィ「乗り遅れたら走って帰らなきゃだよぉ」

善子「ま、待ちなさい、リトルデーモンたち!」

599: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:18:56.44 ID:7lELf0cH0
 ―星浜高校戦当日―


ダイヤ「ふぅ、流石に緊張しますわね」

鞠莉「果南とダイヤは久しぶりの実戦だものね」

果南「そ、そうかな、私は全然平気だけど」ブルブル

鞠莉「……果南、震えてるわよ」

果南「き、気のせいだよ!」


善子「案外情けないわねぇ」

果南「う、うるさい!」

善子「ひっ」

鞠莉「もー、八つ当たりしないし煽らないの」

600: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:19:23.72 ID:7lELf0cH0
千歌「ダイヤさん、星浜高校のデータは」


ダイヤ「昨日も言ったとおり、神奈川の中堅校です」

ダイヤ「外、ロイス、幸村、多町と長打力のある選手が揃っています」

ダイヤ「他にも倉田、川石の二遊間は魅せるスター性のある選手」

ダイヤ「投手では番長とも呼ばれる二浦さん」

ダイヤ「捕手の太山田さんの好物は牛丼ですわ」

曜「最後の必要ですか?」

ダイヤ「……ちょっとした豆知識コーナーです」

601: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:19:49.42 ID:7lELf0cH0
千歌「それで、今日のオーダーは――これ!」


1:中・善子
2:遊・ダイヤ
3:投・曜
4:三・果南
5:右・鞠莉
6:左・梨子
7:捕・千歌
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ

602: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:20:35.87 ID:7lELf0cH0
善子「私が1番のままでいいの?」

ダイヤ「暫定ではありますが、特に善子さんを弄る理由はないかと」


花丸「梨子ちゃんは投げないの?」

梨子「しばらくは登板せずに調整の予定」

梨子「こころちゃんに言われたとおり、高校向けの身体づくりに専念したいから」

曜「つまり私が最後まで――」


果南「ううん、私も投げるよ」

603: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:21:01.54 ID:7lELf0cH0
千歌「えぇ、果南ちゃんが」

果南「なにさ、不満?」

千歌「不満じゃないけど……」


鞠莉「ちかっち、気持ちは分かるわ」

鞠莉「でも実戦で一度は試しておかないと、いざという時に困るでしょ」

千歌「うん……」


花丸「酷い言われようずらねぇ」

善子「なにかあるのかしら」

梨子(謎が深まるわね……)

604: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:21:37.88 ID:7lELf0cH0
〔練習試合〕

【浦の星女学院『Aqours』(後攻)VS星浜高校『スターズ』(先攻)】


 先発メンバー

Aqours
1:中・善子
2:遊・ダイヤ
3:投・曜
4:三・果南
5:右・鞠莉
6:左・梨子
7:捕・千歌
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ


スターズ
1:二・川石
2:遊・倉田
3:右・多町
4:一・ロイス
5:三・外
6:左・幸村
7:中・銀城
8:捕・太山田
9:投・二浦

605: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:23:05.65 ID:7lELf0cH0
【1回表】 Aqours0-0スターズ


曜「……」シュッ

千歌(カーブ?)ポロッ

曜(駄目だ、ノーサイン投法が上手くできなくなってる……)


花丸「大丈夫かな、投球練習からあんな感じで」

ルビィ「うゅ……」

606: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:23:36.37 ID:7lELf0cH0
『1番セカンド川石さん』


 プレイボール!


川石「よっしゃ!」

曜(カーブは怖い、とにかくストレートを)シュッ


 コツン


曜「げっ」

千歌「いきなりセーフティ――果南ちゃん!」

607: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:24:12.21 ID:7lELf0cH0
果南「はいよ――おっと」スポッ

花丸「うわっ、送球がっ」

川石「ラッキー!」


鞠莉(これはセカンドまで行かれたわね)パシッ


千歌「いきなりランナー2塁……」

果南「曜、ごめん!」

曜「ドンマイ!」

608: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:24:39.28 ID:7lELf0cH0
『2番ショート倉田さん』


倉田「……」

千歌(次の倉田さんはチャンスに強い選手らしい)

千歌(たぶん打ってくる)


曜「っ」シュッ

千歌「あっ」ポロッ

曜「えっ!?」


川石「――」ダッ

千歌「くっ」シュッ


 セーフ!

609: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:25:10.35 ID:7lELf0cH0
曜(ストライクゾーンのストレートだったのに……)

千歌「ご、ごめん」

曜「ドンマイ」


曜(これでランナー3塁)

曜(2番だし、スクイズとかも――)シュッ


 キンッ


千歌「浅いフライ!」

曜「鞠莉ちゃん!」

610: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:25:39.37 ID:7lELf0cH0
鞠莉「OK」パシッ

川石(いける)ダッ


千歌「バックホーム!」

鞠莉「ロック――オン!」シュッ


千歌(いいボール!)パシッ

川石「やべっ」タッチ

 アウト!


善子「マリー、ナイスよ!」

鞠莉「ふふっ、これで幼馴染の尻拭いはできたからしら」

611: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:26:07.36 ID:7lELf0cH0
『3番ライト多町さん』


千歌(これでツーアウト)

千歌(これなら0で――)


 カキーン!


曜「あー、カーブすっぽ抜けた」


千歌「二塁打かぁ――あれ?」

果南「打った選手、足を抑えてるね」

曜「どこかで痛めたのかな」

ダイヤ「臨時代走がでるようですわね」


【2塁ランナー多町→倉田】

612: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:26:34.65 ID:7lELf0cH0
『4番ファーストロイスさん』


ロイス「カモーン」


 キンッ


千歌「サードゴロ!」

曜「よし、打ち取った――」


果南「あ、やばっ」トンネル

曜「ちょ、果南ちゃん!?」


倉田「もらった!」ダッ

613: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:27:02.55 ID:7lELf0cH0
ルビィ「3塁蹴った!」

ダイヤ「梨子さん、ホーム!」

梨子「はい!」シュッ


倉田「うわっ」

 アウト!


曜「た、助かった」

果南「あはは、ごめんよ」

曜「果南ちゃん、今日ヤバいよ」

果南「やっぱり緊張してるのかな~」

曜「打席回すから、そっちは頼むよ」

果南「はいよ」

614: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:28:51.80 ID:7lELf0cH0
【1回裏】 Aqours0-0スターズ


 バッターアウト!

善子「もう、嫌らしいところをついてくるわね」

曜「球威は普通だけど、凄く制球はいいね」

梨子「投球術もかなりのものよ」

千歌「でも、番長のイメージとはずいぶんかけ離れたスタイル……」



『2番ショート黒澤ダイヤさん』

ダイヤ「よろしくお願いいたします」

615: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:29:40.68 ID:7lELf0cH0
ダイヤ(正直得意ですね、この手の軟投派は)


 シュッ


ダイヤ(打てる!)カキン


ルビィ「センター返し!」

善子「でもあの打球の勢いだと――抜けた」

千歌「ショート、範囲狭めだね」

花丸「でもナイスバッティングだよ!」



『3番ピッチャー渡辺さん』


曜(ダイヤさんは走るタイプじゃない)

曜(長打で返せれば!)カキ――ン!

616: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:30:17.15 ID:7lELf0cH0
千歌「打った!」

多町「うおっ、凄い打球」


 バンッ


梨子「惜しい、フェン直ね」

善子「打球が強すぎてダイヤは帰れないわね」


『4番サード松浦さん』


鞠莉「果南、リラックスよ」

果南「う、うん!」

鞠莉(……駄目そうね、これは)


 シュッ


果南(おっ、いい球!)

果南「ふん!」ブルン


 ストライク!

617: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:31:00.01 ID:7lELf0cH0
千歌「あーあ、果南ちゃんの悪い癖が」

花丸「悪い癖?」

千歌「ボールになる外へ逃げる球に平気で手を出すんだよ」

ルビィ「外国人選手みたいだね」

千歌「当たった時のパワーも凄いから、間違ってはないかも」


 バッターアウト!


花丸「あぁ、あっさり三振」

千歌「あの投手とは相性が悪いから仕方ないよ」

梨子(果南さんの実力について微妙な反応をされる理由、少し分かったかも)

618: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:34:09.29 ID:7lELf0cH0
『5番ライト小原さん』


鞠莉「カモーン!」

二浦(さっきのブンブン丸に似たタイプ? また外スラでいいか)シュッ


鞠莉「ふっ」


 カキーン


千歌「外拾った!」

ルビィ「上手い!」

花丸「ダイヤさんも曜ちゃんも帰ってきて――2点先制!」

果南「ナイスバッティング!」


鞠莉「ふふっ、チャンスはマリーにお任せよ!」

619: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:34:44.92 ID:7lELf0cH0
【4回表】 Aqours2-0スターズ


千歌「か、カーブ!?」ポロッ

曜「あっ」

多町「ラッキー!」ダッ


ルビィ「あぁ、振り逃げされちゃった」

花丸「ノーアウト1塁……」



千歌「曜ちゃん……」

曜(……呼吸が合わない)

曜(パスボール、ワイルドピッチ、これじゃあ駄目だ)

620: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:35:11.43 ID:7lELf0cH0
曜「千歌ちゃん、今日はサイン出してみて」

曜「ノーサインより、そっちの方がいいかも」

千歌「うん、分かった」


『4番ファーストロイスさん』


曜(でも、いつもと違うリズム)

曜(なんか――投げにくい)シュッ


 ボール ボール ボール


曜(マズいよ、これ)


 ボールフォア!


曜「くっ」

621: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:35:57.99 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「曜さん」

曜「ダイヤさん……」

ダイヤ「一度果南さんに代わりましょう」

曜「いや、それは」


ダイヤ「リリーフの適性を試す為にもちょうどいいのです」

ダイヤ「彼女は肩を作るのが異常に早いから、緊急登板でもなんとかなりますわ」

曜「……分かりました」

622: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:36:28.44 ID:7lELf0cH0
【選手交代】

 投:曜→果南
 捕:千歌→鞠莉
 三:果南→千歌
 遊:ダイヤ→曜
 中:善子→ダイヤ 
 右:鞠莉→善子

623: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:37:03.67 ID:7lELf0cH0
果南「よーし、いくよー」シュッ

鞠莉「わぉ」パシッ


ルビィ「大丈夫かなぁ、酷い荒れ方だけど」

曜「いつものことだよ、気にしたら負け」

花丸「球速自体は速いもんね」

ルビィ「急な登板なのが、少し心配かも?」

曜「果南ちゃんだから、大丈夫だとは思うけど……」

624: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:37:48.89 ID:7lELf0cH0
鞠莉「また、果南とバッテリーを組む日が来るなんてね」

果南「不安そうだね」

鞠莉「だって治ってないでしょ、ノーコン」

果南「まあまあ、それでも抑えるのが私だから」

鞠莉「……ハイハイ、私の苦労も考えてよね」

果南「もちろん、鞠莉にはいつも感謝してるよ」ハグ


鞠莉「ハグは試合後に取っておいてちょうだい」

果南「うん、了解!」

625: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:41:27.93 ID:7lELf0cH0
『5番サード外さん』


外「……」ブンッ


果南(飛ばしそうな選手だなぁ)

果南(でもそんなの、私には関係ない!)

鞠莉(とか思ってるでしょうけど)


 ボールフォア!


果南「あれ?」

鞠莉「確かに関係ないわね」


626: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:42:32.71 ID:7lELf0cH0
花丸「あぁ、満塁だよ」

ルビィ「ピギィ……」バタン

花丸「る、ルビィちゃん、気を強く持って」


鞠莉「果南」

果南「ごめんごめん、ちょっと緊張してた」

鞠莉「相変わらず、気が強いんだか弱いんだか」

果南「あはは」


鞠莉「でももう、大丈夫よね」

果南「うん、任せて」

627: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:43:18.52 ID:7lELf0cH0
『6番レフト幸村さん』


幸村「こいっ」

果南「喰らえ!」シュッ


 ギン


幸村「ぐっ」

鞠莉「鈍い音――打球は」


曜「はい!」パシッ

曜(ホームは無理か)シュッ

ルビィ「わわっ」パシッ


 アウト!


ルビィ「えい!」シュッ

花丸「あっ、ちょっと逸れて――」ポロッ


 セーフ!

628: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:44:02.55 ID:7lELf0cH0
鞠莉「花丸! ホーム来てる!」

花丸「えっ、2塁ランナーが」シュッ


鞠莉(駄目、間に合わない――なら)パシッ


 セーフ!


曜「バッターランナーが2塁に!」

鞠莉「ルビィ!」シュッ


ルビィ「わっ」タッチ


 アウト!


曜「おー、強肩」

梨子「判断も早かったね」

千歌(……私だったら、きっとセーフだった)

629: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:44:35.57 ID:7lELf0cH0
ルビィ「ご、ごめん、マルちゃん」

花丸「ううん、あれは捕らなきゃいけないボールだから」

千歌「まだ同点でツーアウト取れたし、気にしない気にしない」

花丸「そ、そうですよね――あっ」


曜「むぅ」

曜(私のランナーで2点……)


果南「曜は相変わらず完璧主義者だねぇ」

鞠莉「あなたが笑わないの」

果南「はいはい、気をつけますよ」


630: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:45:04.86 ID:7lELf0cH0
 バッターアウト!


果南「よし、三振」

曜「ストライクゾーンにいけば打てないね」

果南「おっと、皮肉かなん」

曜「うん」

果南「後輩の癖に生意気~」

曜「だって、私が出したランナー……」

果南「ノーアウトからのリリーフは自責つかなきゃセーフなのさ」


鞠莉「ふふっ、流石に幼馴染は仲良しね」

千歌「うん、果南ちゃんの緊張もいい感じにほぐれてきたみたい」

鞠莉「いつもの果南らしくなってきたわね」

631: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:46:59.08 ID:7lELf0cH0
【5回裏】 Aqours2-2スターズ

千歌(その後は果南ちゃんも順調、回は5回に入った)


『9番セカンド黒澤ルビィさん』


花丸「ルビィちゃん、ファイト!」

ダイヤ「ルビィ! 黒澤家の力を見せるのです!」

ルビィ「う、うん」


ルビィ「お、お願いします」ペコッ

二浦(可愛い子やなぁ)

太山田(癒される、いかにも打てなそうな9番だし)

632: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:47:29.98 ID:7lELf0cH0
ルビィ(うぅ、1打席目は緊張して酷い三振だった)

ルビィ(ここはちゃんと打たないと)


太山田(とりあえず変化球)

太山田(8番の子と同じで、ストライクゾーンでも打てないでしょ)

二浦(だろうなぁ)シュッ


ルビィ(あ、甘いスライダー)


 カキーン!


二浦「げっ」


花丸「一塁線抜けた!」

ダイヤ「長打コースですわ!」

633: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:47:55.25 ID:7lELf0cH0
ルビィ(サード!)


 セーフ!


花丸「三塁打!」

ダイヤ「ああ、流石我が妹! 可愛いですわね! よくできまちたわね!」


千歌「……ダイヤさんってさ」

梨子「思っていたより、酷いシスコンよね」

曜「真面目で頼りになるイメージが壊れていく……」

果南「あはは、ちょっとポンコツさんだから」

ダイヤ「ちょ、誰がポンコツですか!」

634: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:48:22.85 ID:7lELf0cH0
『1番ライト津島さん』


善子(うーん、ここは以前やったみたいにスクイズ暴投狙いかしら?)


千歌「善子ちゃん、かっ飛ばせー!」

善子(ううん、ヒッティングで良さそうね)

善子(ここまで2打席、何もできずに凡退。いい加減打たないと)


 シュッ――ブン


 ストライク!


善子(でも駄目ね、この人は私の狙い球の裏を見事についてくる)

善子(内野前目だし、スクイズしても読み負けそうだし――そうだ)

635: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:52:03.73 ID:7lELf0cH0
 ボール


善子(よし、1球外してきた)

善子(もう1球余裕はあるけど、別にルビィはスタート切らないんだから外されてもカウントは稼げる――)


二浦「……」スッ

善子(!)スッ

二浦「スクイズ!?」シュッ


外「オット」ダッ

ロイス「キタネ」ダッ


善子(よし、甘い!)スッ――カキン!


川石「バスターかよ!」

636: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:52:29.48 ID:7lELf0cH0
千歌「セカンドの横抜けて――ヒットだ!」

梨子「善子ちゃん、上手いわね」

花丸「流石ずら~」


善子「ふふっ、これぞまさに頭で稼ぐ津島式」

善子「私の理論は最高ね」


梨子「でも言動が余計ね」

花丸「やっぱり善子ちゃんは善子ちゃんずら」


ダイヤ(こうなると私は送りバント)コツン

 アウト!

ダイヤ(ランナー2塁でバッターは――)

637: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:53:48.47 ID:7lELf0cH0
曜「チャンスだヨ―ソロー!」


千歌「曜ちゃんにチャンスで回ってきた!」

梨子「いや、でも……」

ルビィ「敬遠ですね」


 ボールフォア!


曜「多いよこのパターン!」

果南「まあまあ、今度こそ返すから」

曜「頼んだよ、ホント」

638: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:55:19.25 ID:7lELf0cH0
『4番ピッチャー松浦さん』


二浦(ヤバい、この回捕まったな)

太山田(だけど、このバッターはストライクからボールになる変化球を投げれば)


二浦(それもそうか)シュッ

太山田(ストライクゾーンに――けど結果的にアウトローの絶妙なコース)


 カキ――――ン!


太山田「はっ?」


千歌「外の球を強引に!?」

梨子「あれを引っ張るの!?」

ルビィ「しかも上がった打球……」

花丸「伸びて――入ったずら!?」

639: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 21:59:03.05 ID:7lELf0cH0
二浦「う、嘘だろ……」

太山田「信じられない……」


鞠莉「かなーん!」

曜「果南ちゃん!」

果南「へへっ、どうだみたか!」


梨子「凄いホームランだったね」

千歌「口ではみんな文句を言いながらも、これがあるから憎めないんだよね」

梨子「ええ、私も見直したわ」


果南「よーし、この調子でもっと点取るぞ!」

みんな「「「おー!」」」

640: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:00:07.62 ID:7lELf0cH0
 ―試合後・部室―


曜「いやー、打ったねぇ」

善子「こんな乱打戦は初めてよ」


花丸「マルはノーヒット……」

ルビィ「し、仕方ないよ」

花丸「そうだけど……」

ルビィ「守備ではほとんどエラーなしだったから、頑張ってたよ」

花丸「そうかな」

ルビィ「うん!」

641: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:01:59.24 ID:7lELf0cH0
千歌(結局、その後は一進一退の攻防)

千歌(6回以降はお互いに点を取りあう展開だった)

千歌(でも5回までの築いたリードのおかげもあって12対7で勝利)


千歌(失点はほとんどが制球を乱しての自滅、あとは置きにいった球を外さんにホームランされたぐらい)

千歌(デッドボールを受けた多町さんが、1塁へ向かう途中に転んで負傷交代なんてこともあったけど)

千歌(私たちは怪我人もなく、3年生も活躍してくれた)

千歌(順調な新生Aqoursの練習試合初戦)

642: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:02:33.60 ID:7lELf0cH0
鞠莉「もー、試合後の果南のハグの味は最高だったわ~」

果南「ふふっ、もっとする?」ハグ

鞠莉「かな~ん~」


ダイヤ「鞠莉さん、目が惚けてますわよ」

鞠莉「えー、いいじゃないの勝利の後ぐらい」

ダイヤ「いいえ、駄目です」

ダイヤ「勝ちはしたものの、反省点の多い試合」

ダイヤ「試合後のミーティングはしっかりしなくては」

643: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:03:04.69 ID:7lELf0cH0
鞠莉「でもー、試合後に『ルビィ~』とか猫なで声を出していたダイヤさんには言われたくないで~す」

ダイヤ「なっ」

鞠莉「撫でまわし過ぎて、ルビィの顔が途中から無表情になってたし」

果南「本人も普通に引いてたよね、あれ」


ダイヤ「ぬ、ぬぬ」

ルビィ「あ、あはは……」

果南「全く、ダイヤは本当にお馬鹿さん」

鞠莉「本当に、お・ば・さ・ん」

ダイヤ「一文字抜けてますわ!」

644: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:04:53.64 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「――そんなことより真面目な話です」

鞠莉「はいはい」

ダイヤ「各自の課題がある程度明確になったところで、例の計画を実行に移します」

千歌「例の計画?」


ダイヤ「千歌さん」

千歌「は、はい」

ダイヤ「夏の大会前の野球部の練習といえば、何を連想しますか?」

645: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:08:35.69 ID:7lELf0cH0
千歌「え、えっと――大変?」

曜「特打!」

花丸「ノックとか?」

善子「ふっふっふっ、実は新しい津島式練習方が――」


ダイヤ「ぶっぶー! ですわ!」

ダイヤ「それになんですか、最後の意味不明なのは!」

善子「ひっ」

646: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:09:05.13 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「やれやれ、貴女たちはそれでも野球部員なのですか」

ダイヤ「野球部といえば合宿! 大会前の定番でしょう!」

曜「あー」

梨子「言われてみれば」


ダイヤ「朝から晩まで数日間野球漬け、ここの課題を改善するのです!」

鞠莉「幸い、近いうちに空いている日がありまーす」

ダイヤ「私たちはそこを使って、合宿をおこないますわ!」

647: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:13:00.60 ID:7lELf0cH0
 ―渡辺家―


曜「合宿かぁ」シュッ

善子「ええ」パシッ

曜「どう思う、善子ちゃん」

善子「いいんじゃないかしら、特訓は大事よ」シュッ

善子(合宿とか、いかにも『リア充!』って感じがするし)

648: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:14:35.51 ID:7lELf0cH0
曜「でも助かったよ、練習付き合ってくれて」

善子「そう? 急に押しかけちゃった感じだけど」

善子(お母さんがそれとなく話してはくれていたみたいだけど)


曜「やっぱり1人よりは2人の方がね」

曜「合宿に備えて、いつもより身体動かしておきたかったし」

善子「それなら千歌さんに頼めばよかったじゃない」

曜「それは……」

649: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:15:24.45 ID:7lELf0cH0
善子(やっぱり、喧嘩してたのかな)

善子(部に戻ってきた後も、2人が話しているのを試合以外ではほとんど見てない)

善子(試合でバッテリーを組んでも、ギクシャクしているのがよく分かる)

善子(あんなに仲良しだったのに、複雑なのね)


曜「善子ちゃん?」

善子「あ、ごめんなさい」

曜「大丈夫?」

善子「少し考えごとをしてただけよ」

650: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:16:57.69 ID:7lELf0cH0
曜「ボーっとしてると、また顔面でボール受けることになるよ」

善子「いい加減忘れてくれないかしら……」

曜「あんな衝撃、流石に忘れられないね~」

善子「黒歴史がまた1つ……」


曜「黒歴史――堕天使とかいうあれも?」

善子「な、なんで知ってるのよ」

曜「自分で時々話してるじゃん」

曜「それに最近、善子ちゃんの過去動画を漁っててさ」

善子「なにしてんよの……」

651: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:17:33.73 ID:7lELf0cH0
曜「だって気になるじゃん」

曜「私は善子ちゃんの野球理論、性に合うし」

善子「そ、そう」

善子(悪くないわね、曜さんに褒められると)

曜「でもさ、あの堕天使キャラはどこから出てきたの?」


善子「……最初は普通に生放送をしていたのよ」

曜「うん」

善子「でも視聴者が少なくて」

善子「女子中学生の野球動画ってことで、物珍しさから観る人はいたけど」

652: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:18:05.83 ID:7lELf0cH0
曜「まー、真面目に野球をする人はなかなか観なさそうだよね」

善子「そうそう、それで困っていた時に思いついたのよね」

善子「インパクトのあるキャラを演じれば、視聴者は増えるかもって」

曜「あ~」


善子「それで生み出されたのが堕天使」

善子「実際視聴者数は一気に増えたし、数が増えた分口コミで広がって純粋な野球好きの視聴者も増えた」

善子「だからずっと、あのキャラというわけよ」

曜「なるほどね」

653: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:18:31.73 ID:7lELf0cH0
曜「でも普段から時々出てるよね、堕天使」

曜「呪いが――とか、呪文が――とか言い出すし」

善子「……それはほら、やっている内に気に入っちゃって」

曜「ミイラ取りがミイラになったと」

善子「まあ元々、その手のことは嫌いじゃなかったし」

曜「変な子だもんね、善子ちゃん」

善子「曜さんには言われたくないわ」

曜「あはは、確かに」

654: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:18:59.95 ID:7lELf0cH0
曜「まあ話はこの辺にして、そろそろ座ってよ」

善子「了解」

曜「ちゃんと防具つけてよね」

善子「分かってるわよ」

善子(あんな痛いのは、もうごめんだもの)


曜「大丈夫かなぁ、善子ちゃんが壁役で」

善子「馬鹿にしないで。気を抜かなければ、私は選ばれし者よ」

曜「はいはい」

655: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:20:31.39 ID:7lELf0cH0
曜「とりあえず軽くね」シュッ

善子「はっ」バシッ


曜「おー、いいじゃん」

善子「これぐらい当たり前でしょ」

曜「少しずつ上げていくから、無理そうになったら言ってね」

善子「ええ」



曜「やっ」シュッ

善子「よし」バシッ

曜「ほっ」シュッ

善子「いいわよ!」バシッ

曜「よっ」シュッ

善子「いい感じ!」バシッ

曜「ヨ―ソロー!」シュッ

善子「ナイスボール!」バシッ

656: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:20:57.63 ID:7lELf0cH0
曜「次、カーブね」シュッ

善子「っと」パシッ

曜「おー、一発で」


善子「急に投げないでよ」

曜「いいじゃん、捕れたんだから」

善子「まあ、私にかかればこれぐらい――」

曜「よっ」シュッ


善子「あぶなっ」パシッ

曜「おー、上手い!」パチパチ

善子「遊ばないでよ!」


657: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:23:24.96 ID:7lELf0cH0
 ―高海家―


曜『ドンマイ、気にしないで』

千歌「……」ブン

曜『おー、鞠莉ちゃんは強肩だね』

千歌「……」ブン

理亞『馬鹿にしないで』

理亞『野球は、キャッチャーは遊びじゃない!』

千歌「……」ブン

658: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:25:43.09 ID:7lELf0cH0
千歌(私はまた、曜ちゃんの足を引っ張った)

千歌(果南ちゃんが投げるときもそう)

千歌(捕手を変更するために、みんな本職じゃないポジションに移った)

千歌(私がちゃんとした選手なら、鞠莉ちゃんと代わらなくてもよかったはずなのに)


千歌(守備のミスも、少し前まで素人だった花丸ちゃんより多い)

千歌(打撃だって、12点も取ったのにまともなヒットを打てなかった)

千歌(守備も打撃も、みんなより劣る)

千歌(これでも一応、キャプテンのはずなのに)

千歌(ちゃんと努力もしているのに)

659: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:26:18.99 ID:7lELf0cH0
千歌「あぁ――――もう!」ブン!


美渡「千歌! うるさいよ!」

千歌「あっ」

美渡「素振りは家の前でするなって、何度も言ってるでしょ!」

千歌「ご、ごめんなさい」

美渡「曜ちゃんの家にでも行って、一緒に練習してきな!」

千歌「は、はーい」

660: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:26:53.36 ID:7lELf0cH0
千歌(うーん、どうしよう)

千歌(以前なら曜ちゃんの家へ行ってたけど、最近気まずいし……)


千歌(梨子ちゃん誘って浜辺で練習しようかな、本人も投げたがってるかもだし)

千歌(こころちゃんにアドバイスを受けて以来、梨子ちゃんはほとんど投球をしていない)

千歌(曜ちゃん曰く投手は投げたがりのはずだし、そろそろうずうずしてくるはず)

千歌(それなら私も捕球の練習できるし、一石二鳥)

千歌(よし、とりあえず梨子ちゃん家だ!)

661: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:30:06.76 ID:7lELf0cH0
 ピーンポーン


千歌「おーい、梨子ちゃーん」


梨子母「あら、千歌ちゃん」

千歌「梨子ちゃんいますか?」

梨子母「梨子ならトレーニングルームにいるわよ」

千歌「へぇ」

千歌(家の中に専用のトレーニング部屋があるんだ)


梨子母「呼んでくる?」

千歌「あっ、私が自分で行きます」

662: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:30:55.17 ID:7lELf0cH0
千歌(途中で中断させたら悪いもんね)

千歌(トレーニングルーム、一度見てみたいし)


梨子母「そう? じゃあ上がって」

千歌「お邪魔しまーす」

梨子母「地下にある部屋にいるはずだから」

千歌「はーい――ちなみに今のは地下と千歌をかけた感じですか?」

梨子母「かけてないわよ」

663: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:32:47.69 ID:7lELf0cH0
 コンコン――ガチャ


千歌「こんちかー」

梨子「あら、千歌ちゃん」

千歌「あれれ、トレーニング中じゃないの?」

梨子「ちょうどひと段落ついたところよ」

千歌「へぇ――」キョロキョロ

千歌「凄い設備だね」

664: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:33:34.61 ID:7lELf0cH0
梨子「元はそこまで多くなかったんだけど、投げられるようになってからお父さんが奮発して揃えてくれたの」

梨子「お父さんも野球が大好きな人だから、娘が活躍するのは嬉しいみたいで」


千歌「流石梨子ちゃん、愛されてるね~」

梨子「それは千歌ちゃんもでしょ」

千歌「えー、でも素振りしてただけで怒られるし」

梨子「ふふっ、千歌ちゃんは人からの愛情に気づきにくい子なのかな」

千歌「むむむ、なんか馬鹿にされてる?」

梨子「そんなことないわよ」

665: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:37:17.57 ID:7lELf0cH0
千歌「それにしても梨子ちゃん」

梨子「なに?」

千歌「全体的に、たくましくなった?」

梨子「そう?」


千歌「筋トレの成果なのかな。一回り身体が大きくなってる気がする」

梨子「それなら嬉しいわね、順調な証拠だから」

千歌「今度さ、私も一緒に筋トレしていい? もう少しパワーつけたくて」

梨子「もちろん、1人より2人の方が私もありがたいから」

666: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:37:55.22 ID:7lELf0cH0
千歌「ちなみに、メニューはどんな感じなの」

梨子「これよ」ピラッ

千歌「ふむ、どれどれ――ふぇ」

梨子「どうしたの?」


千歌「これ、1週間分?」

梨子「ううん、1日分よ」

千歌「こんなにやるの……」

梨子「だって、大会まで時間がないもの」

梨子「予選までには、高校レベルで投げられるようにならないといけないから」

667: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:38:26.23 ID:7lELf0cH0
千歌(想像の数倍ぐらい厳しい内容)

千歌(流石にオーバーワークなんじゃ……)

梨子「大丈夫よ、ちゃんと知り合いの専門家に作ってもらったメニューだから」

千歌「ど、どうして考えてることがわかったの?」

梨子「顔に出てるもの」

梨子「千歌ちゃん、本当に分かりやすいんだから」

千歌「あ、あはは」

千歌(早まったかな、一緒に筋トレしようなんて)

668: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:38:52.79 ID:7lELf0cH0
梨子「今度、千歌ちゃんの分のメニューも作ってきてもらうね」

梨子「ポジションも体格も違うし、同じ内容じゃないほうがいいはずだから」

千歌(それなら、多少楽は――)

梨子「大丈夫、ちゃんと同じぐらいハードな内容にしてもらうから」

梨子「そこは安心して」

千歌「う、うん」


千歌(うぅ、これからは練習以外でも地獄が待っている予感)

千歌(だけど、ちょうどいいのかな)

千歌(きっと私は、それぐらい練習しないと駄目な普通怪獣だから)

669: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:39:18.55 ID:7lELf0cH0
梨子「そろそろトレーニングを再開しないと」

梨子「千歌ちゃんも一緒にやってく?」


千歌「ううん、今日は外で素振りしてくる」

千歌「素人の考えで練習して、怪我とかしても嫌だし」

梨子「そうね、その方がいいかも」

梨子「砂浜よね、私もこっちが終わったら行くわ」

千歌「うん、ありがとう」


梨子「頑張ってね」

千歌「梨子ちゃんの方もね」

670: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:46:26.15 ID:7lELf0cH0
 ―合宿当日・グラウンド―


千歌「晴れたね!」

梨子「そうね」

ルビィ「ポカポカ~」

花丸「ずら~」


鞠莉「ふふっ、雨が多い時期と考えれば幸先がいいわね」

果南「むしろ少し暑いぐらいかな」

曜「だね~」

671: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:46:51.95 ID:7lELf0cH0
ダイヤ「まずは全員揃ってこの日を迎えられたことがなによりです」

よしみ「そうですね」

むつ「はー、久しぶりのグラウンド」


千歌「むっちゃん達も参加できてよかったよ~」

いつき「私たちは基本的に補助に回るから任せてね」

善子母「しかし貴女たちも必要戦力、しっかりと練習しましょう」

よいむつ「「「了解です!」」」

672: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:47:19.91 ID:7lELf0cH0
善子「……ねえ、なんであの人がいるのよ」

ダイヤ「私がコーチをお願いしたからです」

善子「ダイヤ、お母さんと仲悪くなかった?」


ダイヤ「口論になった件ですか」

善子「そうよ」

ダイヤ「あの後、きちんと話し合った結果、意気投合しまして」

善子「意気投合って……」

ダイヤ「ただでさえルビィと花丸さんがお世話になっているそうではありませんか」

ダイヤ「いつまでも過去のことを根に持つ、そんな子どもじみたことはしませんわ」

673: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/15(水) 22:47:49.10 ID:7lELf0cH0
善子母「言われてるわよ、善子」

善子「……」


善子母「娘のことはともかく――今日は人数も揃っているから、まずは全体での細かい連携の確認など、普段は難しい練習からしていきましょう」

善子母「その後各自に指示を出すから、それに沿っての練習」

善子母「体力面のトレーニングなどは、普段から人数が少なくてもできるから少な目」

善子母「朝から晩まで濃密に、数日間しかないけど頑張っていきましょう」


全員「「「はい!」」」

674: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 00:09:34.30 ID:zy6uYR2k0
 ―ブルペン―


鞠莉「さてと、全体の練習は終わって投げ込みの時間ね」

梨子「キャッチャーは鞠莉さんですか?」

鞠莉「ええ、ちかっちは曜との感覚を取り戻さなきゃいけないから」

梨子「そうですよね」


鞠莉「私じゃ不満?」

梨子「そんなことはないですけど……」

675: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 00:10:10.15 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「気持ちは分かるわよ」

鞠莉「正捕手をあてがわれないと、2番手扱いされてるみたいだもの」

梨子「……最近は、まともに投げられてもいませんから」

鞠莉「そう、仕方ない部分ではあるわね」


鞠莉「もちろん、実力差もあるわ」

鞠莉「昔は小さかったかもしれないけど、今の曜と梨子の間には大きな差がある」

梨子「はい」

676: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 00:11:22.52 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「もちろん総合的な能力差はある程度埋められるはずよ。あなたはそのクラスの選手」

鞠莉「けどね、今のままだと絶対に曜には勝てない」

梨子「……それは、なぜですか」


鞠莉「梨子、自分の投球に足りないもの、わかる?」

梨子「球速、ですか?」

鞠莉「そうね、確かにそれも」

鞠莉「でもそれは以上に大切なものが、梨子には欠けている」

梨子「それは?」


鞠莉「決め球よ」

677: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 00:12:01.12 ID:zy6uYR2k0
梨子「決め球?」

鞠莉「器用に数種類の変化球を投げ分ける、それは凄いことよ」

鞠莉「私も少しだけ投手の経験はあるけど、そんな器用に投げられない」

鞠莉「果南もそうね。曜は性格的な問題もあるかもしれないけど」


鞠莉「だけど梨子の場合、分かっていても空振りが取れる、そんな球は一つもないの」

鞠莉「代表に呼ばれていた時代のあなたのスペックは、平均より上の球速、多彩な変化球」

鞠莉「中学までなら、それで相手を打ち取れたかもしれない」

鞠莉「でも、高校ではどうかしら」

梨子「…………」

678: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 00:14:20.07 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「高校トップクラスの相手を抑えられない理由、矢澤こころに言われたように球速もあるでしょう」

鞠莉「それでも、球速的には決して速くない矢澤ここあは名門校のエースとして君臨している」

鞠莉「それは決め球に鋭いスライダーを持っているから」

鞠莉「一流の選手が分かっていても空振りをする、一流の球を」

梨子「確かに……」


鞠莉「球種の多さは大切な要素の一つ。その分狙い球を絞りにくくなる、投球の幅も広がる」

鞠莉「でも一定のレベル以上の打者は、特別な球でなければ逃げる術を持っている」

679: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 00:15:25.17 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「曜は投げられる球種は少ないけど、梨子と比べれば1つ1つの球種の精度が段違い」

鞠莉「あの子はストレートでもカーブでも空振りが取れるスペシャルな投手」

鞠莉「高校レベル――それも初心者も混じっている私たちみたいなチームでは、空振りが取れるというのは大きなアドバンテージ」

鞠莉「三振は最も不確定要素の少ないアウトの奪い方だから」


鞠莉「例えばこの前の星浜戦」

鞠莉「相手の二浦投手はとてもいい投手だわ。決め球になる球は無くても、制球と駆け引きで相手を打ち取る」

鞠莉「高校に入ってからの梨子に、かなり近いタイプの選手ね」

梨子「ですね」

680: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 00:16:22.46 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「だけど結果は知ってるでしょ」

鞠莉「結局あのスタイルでは、よほど調子がよくなければ、私たちが大量得点をできるレベルが限界なの」

鞠莉「聖泉女子や音ノ木坂から、ヒットすら打てなかったチームなのに」

梨子「それは……」


鞠莉「このままだと、梨子が辿りつけるレベルはそこが限界」

鞠莉「要の二遊間、曜とルビィは守備が上手だから、ある程度の相手は抑えられるかもしれない」

鞠莉「だけど、因縁のある音ノ木坂にリベンジするなんて、夢のまた夢だわ」

梨子(確かに、トップクラス相手だとほとんどバットには当てられてしまう)

梨子(音ノ木坂との試合、三振どころか空振りさえほとんど奪えなかった)

681: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 00:17:12.64 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「どう、納得してくれたかしら」

梨子「は、はい」


梨子「だけど私、本格派になるのは難しいと思うし、今の変化球だってこれ以上――」

鞠莉「ノープロブレム、もう策は考えてあるわ」

梨子「策?」

鞠莉「私が今日梨子と組むのは、アメリカで習得した新しい球種を授ける為」

梨子「新しい、球種」

682: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 00:17:54.84 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「ねえ梨子、あなたの握力が果南と同程度なのは知ってる?」

梨子「そうですね、私はピアノを弾いたりもしますから」

鞠莉「そしてね、手の大きさ、特に指の長さは、日本人離れした私のそれよりも上」

梨子(手……)


鞠莉「素晴らしい手よね。力強さに加えて、器用に変化球を投げる感覚の鋭さまで持ち合わせて」

鞠莉「それは曜や矢澤姉妹、鹿角聖良だって持っていない特別な才能よ」

梨子「特別な、才能」


鞠莉「だから梨子ならできるはずよ」

鞠莉「普通の女子選手では扱うことが困難な球を投げることも、ね」

683: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 03:56:33.40 ID:zy6uYR2k0
 ―室内練習場―


曜「……」シュッ

千歌「くっ」ポロッ


果南「うーん、駄目だね」

曜(やっぱり息が合わない……)

曜(千歌ちゃんと、気まずいままだからかな)

684: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 03:58:14.56 ID:zy6uYR2k0
千歌「果南ちゃん、どうしよう……」

果南「うーん」


果南(これは流石にヤバいよね)

果南(技術的な問題もあるけど、一番は互いの精神面)

果南(正直、解決策は全然思いつかない)

果南(喧嘩しているならともかく、仲直り自体はできてる)

果南(ただ元のつながりが強かった分、反動も大きいのかな)

685: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 03:58:43.45 ID:zy6uYR2k0
曜「果南ちゃん……」


果南「……気分転換に、他の人とバッテリー組んでみたら?」

曜「他の人と?」

千歌「それは」


果南「別にバッテリーを解散しろってわけじゃなくてさ」

果南「そうすれば、客観的な問題点も見えてくるかな~みたいな」

千歌「……それは、そうかも」

686: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 04:01:41.71 ID:zy6uYR2k0
曜「でも他のキャッチャーか」

果南「そうだね、やっぱり鞠莉とか――」


善子「……」ジー


曜「ん?」

曜(外から覗き込んでいるのは、善子ちゃん?)


曜「……」チラッ

善子「!」パァ

曜「……」ソラシ

善子「うぅ」ガクッ

687: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 04:02:14.00 ID:zy6uYR2k0
果南「あれ、善子じゃん」

善子「ギクッ」

曜「……善子ちゃん、おいで」


善子「な、なによ。別に私は通りかかっただけで、キャッチャーに興味とか全くないわよ」

曜「……キャッチャー、やりたいの?」

善子「別に、そんなこと」

曜「そっか、じゃあいいや」

善子「ちょ、ちょっと待って、嘘よ嘘」

善子「やりたい、やりたいわ、キャッチャー」

688: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 04:03:17.48 ID:zy6uYR2k0
果南「善子がキャッチャー?」

善子「そうよ、悪い?」

果南「悪くはないけどさ」


千歌「大丈夫なの? 前はまともに捕球できてなかった気が」

善子「あの後、何度か曜さんのボールは受けてるから平気よ」

千歌「そうなの?」

曜「……あくまでも受けてもらってるだけだよ」

689: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 04:08:31.92 ID:zy6uYR2k0
果南「まあせっかくの志願者だし、一度試してみる?」

善子「!」

千歌「う、うん」

曜「分かった」


果南「千歌、防具貸してあげて」

千歌「うん」カチャカチャ

千歌「はい、善子ちゃん」

善子「ありがとう」

690: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 04:11:49.77 ID:zy6uYR2k0
曜「じゃあ何球か投げてみるね」

善子「ええ」


曜「――」シュッ


 バンッ


善子「うわっ」パシッ

果南「おー、バウンドしたボールを」

千歌(善子ちゃん、上手い……)

千歌(本職じゃないはずなのに私より……)

691: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 04:12:47.29 ID:zy6uYR2k0
―――
――



曜「次、ラスト」シュッ


 バシッ


善子「どうよ!」

果南「おー、ちゃんと全部捕れたね」

千歌「……上手だね、善子ちゃん!」


善子「曜さん、どうかしら私の――」


692: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 04:13:14.27 ID:zy6uYR2k0
曜「うーん、なんか違う」

善子「えっ」

曜「もういいや、善子ちゃん」

曜「鞠莉ちゃんに頼むよ、キャッチャーは」


善子「ちょ、ちょっと待って」

曜「なにさ」

善子「私、ちゃんと捕球できてたわよね」

善子「ミスはしてないのに、なんで」

693: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 04:13:41.40 ID:zy6uYR2k0
曜「善子ちゃんはさ、捕るだけなんだよ」

善子「えっ」

曜「構えとか、捕球時のミットの動きとか、返球のリズムとか、色々気になる部分がある」


曜「受けてくれる壁ならそれでも良かった」

曜「でも捕手としては、正直投げにくいんだよね」

曜「単純に相性とかもあるのかもしれないけどさ」

善子「そ、そんな……」

曜「ごめん、私は鞠莉ちゃんの方に行ってくる」タタッ

694: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 04:14:07.49 ID:zy6uYR2k0
善子「…………」

千歌「…………」

善子「……どうして」


果南「いやまあ、曜は人一倍繊細というか、面倒な投手だから」

果南「私から見れば、上手くできてたと思うよ」

果南「少なくとも、千歌との差はそんなに感じなかった」

千歌「そ、そうだよ。たぶん私より善子ちゃんの方が――」


善子「っ」ダッ

695: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 04:14:34.23 ID:zy6uYR2k0
果南「あらら」

千歌「……善子ちゃん、ショックだったみたいだね」

果南「まあ人一倍プライドが高いのに、ボロクソ言われたしね」


千歌「曜ちゃんも、普段ならもっと気を使う子なのに」

果南「それだけ余裕がないんだよ、今の曜は」

千歌「……」

果南「……梨子が交代でこっちに来るまで、私の球を受けておいてくれる?」

果南「千歌は千歌で、ちゃんと頑張らなきゃね」

千歌「う、うん」

696: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:04:04.06 ID:zy6uYR2k0
 ―グラウンド―


善子母「ラスト、6-4-3!」キンッ


ダイヤ「はっ」パシッ


 シュッ――パシッ


ルビィ「えい!」シュッ

花丸「ずらっ」パシッ

697: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:31:31.93 ID:zy6uYR2k0
善子母「お疲れ様。ルビィちゃんと花丸ちゃん、休んできていいわよ」

ルビィ「あ、ありがとうございました」

花丸「ず、ずらぁ……」バタン


ルビィ「マルちゃん、シャワー浴びに行こっ」

花丸「むりぃ……」

ルビィ「で、でも」

花丸「ルビィちゃん、運んで……」

ルビィ「ぴ、ぴぃ」ズルズル

698: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:32:02.43 ID:zy6uYR2k0
善子母「あらあら、やりすぎてしまったかしら」

ダイヤ「いえ、私たちはまだ未熟者」

ダイヤ「可能な限り厳しい指導をしていただけるのは、ありがたいです」

善子母「もちろん、限界は見極めながらだけど」


ダイヤ「ありがとうございます、わざわざコーチに来ていただいて」

善子母「いいのよ。元々何らかの形でかかわりたいとは思っていたの」

善子母「娘もいる、その友達もいる」

善子母「そして何より、私が育て上げた最高傑作、渡辺さんがいるんですから」

699: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:32:55.69 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「曜さん……」


善子母「あの子は天才」

善子母「私は自分の持てる力全てを尽くして、育ててきた自負がある」

善子母「だからこそ最初は驚いた、彼女が私の元から離れる決断をしたとき」

ダイヤ「千歌さんが大好きですからね、彼女は」


善子母「そうね。まだ高校生、そのぐらい単純な話」

善子母「けど最初は結構辛かったのよ」

善子母「私は彼女に、全く慕われていなかったんじゃないかと考えたり」

善子母「実際私は、どれだけあの子の力になれていたのか分からなかったから」

700: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:33:34.94 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「曜さんは感謝していますよ、本当に」

善子母「……そうかしら」

ダイヤ「敵対しているようで、私たちを助けてくださったこと、みんな知っています」


善子母「結果的に、裏目に出てしまったようだけど」

善子母「東京の大会で受けた傷、そして――」

ダイヤ「曜さんと、千歌さんの関係ですか」


善子母「Aqoursに戻る気はない。強い意志を感じたから、私は再び彼女を自分の元に迎え入れようとした」

善子母「けど今の状態になるなら、最初に追い返しておくべきだったわね」

善子母「結果的に、空白の時間があの子たちの関係を複雑にしてしまったわ」

701: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:35:15.27 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「大丈夫です、あの2人の絆は深い」

ダイヤ「今は難しくても、いつか元の関係に戻るはずです」

善子母「そうね。渡辺さんにとって高海さんは、私より大切な人間ですものね」


ダイヤ「うふふ、まだ根には持っているのですか」

善子母「負けず嫌いなのよ、私は」

ダイヤ「流石は善子さんのお母様です」

善子母「……あの子、面倒な部分はしっかり受け継いだから困ったものよ」

702: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:36:12.44 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「さて、それでは私は片付けを――」

善子母「ダイヤちゃん」

ダイヤ「はい?」


善子母「よかったの、自分でやりたい練習もあったでしょ」

善子母「善子や渡辺さんほどではなくても、自己主張は必要なことよ」


ダイヤ「……私の伸びしろなど、たかが知れています」

善子母「そんなことは」

ダイヤ「なによりも野球をできるのはこの夏まで、未来もない人間です」

ダイヤ「それならば、大きな将来のある、あの子たちの糧になるのが最適なはずです」

703: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:36:48.58 ID:zy6uYR2k0
善子母「……いいお姉さんね、あなたは」

ダイヤ「いえ、いつも妹には迷惑をかけてばかりです」

善子母「それはお互いさまでしょ」

ダイヤ「……そんなことは」


善子母「不思議な姉妹よね、ダイヤちゃんとルビィちゃんは」

善子母「同じ環境で育ってきたはずなのに、全く似ていない」

善子母「優秀で心の強い姉、才能はあるけど心の弱さでそれを生かし切れない妹」

704: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:37:37.61 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「……ルビィは難しい子です」

ダイヤ「臆病でやさしすぎる、戦い向きではない性格」

ダイヤ「その性格が、あらゆる意味での弱さに繋がってしまっています」

ダイヤ「しかし力を発揮できれば」


ダイヤ「才能、意志の強さ、真面目さ、成長に必要なものを全て持っているのです」

ダイヤ「いつか誰にも負けない輝きを発することができる、私はそう信じています」

ダイヤ「あくまでも、姉の贔屓目かもしれませんが」

705: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:38:11.09 ID:zy6uYR2k0
善子母「そんなことないわよ。あの子は才能の塊」

善子母「渡辺さんはもちろん、桜内さん、小原さん、ルビィちゃん」

善子母「松浦さんも野球センスはないけど、身体能力は誰にも勝るとも劣らない」

善子母「高海さんも本人の意識に問題があるけど、十分な才能はある」

善子母「このチームには、寄せ集めとは思えないほどの大きな力が眠っているわ」


ダイヤ「それに、善子さんも」

善子母「あら、気を使ってくれなくてもいいのよ」

ダイヤ「彼女は特別な存在です、曜さんに近いポテンシャルを秘めているかもしれない」

706: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:40:04.43 ID:zy6uYR2k0
善子母「精神的に大きなムラがあるし、こだわりも強すぎる」

善子母「指導者としては、難しいタイプだけどね」

ダイヤ「けど少しずつ、変わっているでしょう」

善子母「そうね」


善子母「初めてできた友だち、目の当たりにした本物の天才」

善子母「刺激的な体験の数々が、あの子を新たな段階へと導いてくれているわ」

ダイヤ「いいチームです、Aqoursは。助っ人の3人も、素晴らしい方たち」


善子母「そして花丸ちゃん」

善子母「センスも体力もないけど、一番頑張っているのはあの子」

善子母「母親失格かもしれないけど、誰よりも活躍してほしい、成長してほしいのは彼女よ」

707: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:40:54.33 ID:zy6uYR2k0
善子母「高校に入るまでスポーツをしてこなかった、あの子に対する現実は厳しいわ」

善子母「アスリートに必要な、幼い頃に身体の動かし方を覚える経験をほとんどしていない」

善子母「いくら努力をしても、夏までとなればヒットすら打てないかもしれない」

善子母「エラーを繰り返して、いわれのないヤジにさらされる可能性だってある」

善子母「現状、助っ人の誰かの方が上だと言われても私は否定できない」


善子母「それでも信じてるわ、あの子が輝く日が来ることを」

善子母「その為に私は、努力を惜しまないつもりよ」

708: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:41:21.19 ID:zy6uYR2k0
 ―夜・体育館―


千歌「……」

梨子「……くぅ」スヤスヤ

花丸「……ずらぁ」スヤスヤ

ルビィ「……うゅ」スヤスヤ


善子母(全員寝たわね)

善子母(ずいぶんと疲れたはず)

善子母(明日は早い、せめて今はゆっくり休ませておいてあげないと――)

709: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:41:49.69 ID:zy6uYR2k0
善子「……ねえ」

善子母「善子? 早く寝ないと明日――」

善子「すぐ寝るわ、でも話したいことがあるの」

善子母「私に?」


善子「お母さん」

善子母「……ここではコーチと呼びなさい」

善子「はい、コーチ」

710: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:42:19.23 ID:zy6uYR2k0
善子母「ちょっと、どうしたのよ」

善子母「いつもと違ってやけに素直ね」

善子「……指導をお願いする立場だから」


善子母「指導!?」



曜「……コーチ、朝ですか?」

善子母「ご、ごめんなさい。まだ大丈夫よ」

曜「よ――そろ」スヤスヤ

711: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:42:49.30 ID:zy6uYR2k0
善子母「ちょっと、どうしたのよ」

善子母「冗談は善子ちゃんよ」

善子「冗談じゃないわ、茶化さないで」

善子母(……こんな真剣に頼みごとをする善子、初めて)


善子母「なにかしら、教えてほしいことは」

善子「私に、キャッチャーの基礎について教えてくれない?」

善子母「キャッチャー?」

善子「ええ」

712: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:43:15.28 ID:zy6uYR2k0
善子母「それは、どういう風の吹き回し?」


善子「曜さんが、キャッチャーを探してるの」

善子母「そうらしいわね」

善子「だから――」


善子母「自分がその役を引き受けたいと」

善子「そう、私は曜さんとバッテリーを組みたい」

善子「その為には足りないものが多すぎる。教わらないといけないことが多すぎる」

善子「だから、お願いします」

713: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:43:47.75 ID:zy6uYR2k0
善子母「善子に教えを請われるなんて、明日は雪でも降るのかしら」

善子「曜さんいわく、ちゃんと快晴よ」

善子母「……本気なのは理解できたわ」


善子母「けど分かっているのよね、今の状況」

善子母「あなたはまだ、本職の外野でもたくさんの練習が必要な立場」

善子母「捕手は小原さんに任せればいい」

善子母「余計なことを考えている暇はないでしょ」

714: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:44:14.55 ID:zy6uYR2k0
善子「それでも、それでも私はキャッチャーをやりたい」

善子「曜さんとバッテリーを組んでみたい」

善子「そうすれば、あの人に一歩近づける気がするから」

善子「新しい私へと、進化できる気がするから」

善子「お願いします、コーチ」ペコッ


善子母(あの子が人に頭を下げる)

善子母(これもまた、成長か)

715: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:44:40.28 ID:zy6uYR2k0
善子母「仕方ないわね」

善子「じゃあ」


善子母「専門ではないけど、出来る限りのことは教えてあげるわ」

善子母「ただし、他に影響のない範囲でね」

善子「あ、ありがとう!」


善子母「私は花丸ちゃんとルビィちゃんの練習をみなきゃいけないから、その練習後だけよ」

善子母「厳しいけど、できるかしら」

善子「ええ!」



曜(……善子ちゃん)


千歌(…………)

716: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:45:09.44 ID:zy6uYR2k0
 ―合宿最終日―


千歌(合宿最終日)

千歌(今日は曜ちゃんが元々所属していたチームに来てもらって、練習試合)


 バッターアウト!

曜「よっしゃ!」

選手A「あー、また三振かぁ」

717: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:45:37.44 ID:zy6uYR2k0
梨子「曜ちゃんは絶好調ね」

千歌「そうだね」

千歌(助っ人の3人も含めて交代で守備につくから、私と梨子ちゃんはブルペンで投球練習中)


選手C「へいへい、そろそろ打たないと恥ずかしいわよ!」

選手B「分かってる!」


 キンッ


曜「センター!」

善子「オーライ!」パシッ


 アウト!

718: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:46:06.13 ID:zy6uYR2k0
梨子「あっさりスリーアウトね」

千歌「うん」


千歌(曜ちゃん、いきいきと投げてる)

千歌(それもそのはず)

千歌(本来私がいるべき、キャッチャーのポジションには――)


鞠莉「曜、ナイスピッチングよ!」

曜「鞠莉ちゃんもナイスリード!」

千歌(私より頼りになる、鞠莉ちゃんが入っているから)

719: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:46:32.26 ID:zy6uYR2k0
善子母「順調ね」

曜「絶好調です!」

曜「今日はいくらでも投げられそうかも」


善子母「お楽しみのところ悪いけど、この回で交代よ」

曜「えー、まだ行けますよ」

善子母「今日はだいぶ投げてるでしょ。球数はちゃんと制限しないと駄目よ」

曜「……はーい」

善子母「善子、あなたも一緒に交代。クールダウンに付き合ってあげて」

善子「分かった」

720: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:47:13.16 ID:zy6uYR2k0
善子母「桜内さん、高海さん、予定通り次の回からいくわよ」

千歌「バッテリーごとですか?」

善子母「あなたはサードに入って。捕手は小原さんのまま」

善子母「例の球、試してみたいから」

千歌「分かりました」


梨子「まだ実践は早くないですか?」

善子母「試すだけだから大丈夫よ、これは本番じゃないんだから」

善子母「練習では驚くほど上手く投げられている」

善子母「そのままの感覚でいけば、問題ないわ」

721: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:49:33.55 ID:zy6uYR2k0
千歌「梨子ちゃん、頑張って」

梨子「うん」


千歌「……本当は、私が捕れればいいのに」

梨子「仕方ないよ」

梨子「落ちる球を抑えるのは、プロの捕手だって苦労するんだから」

梨子「練習すれば、千歌ちゃんなら捕れるようになるわ」

千歌「そう、かな」

722: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:50:01.92 ID:zy6uYR2k0
 バッターアウト!


花丸「速すぎるずら……」

ルビィ「だね……」


善子母「じゃあ桜内さん、頑張ってね」

梨子「はい」

曜「梨子ちゃん、リラックスだよ!」

梨子「うん」

鞠莉「それじゃあ、行きましょうか」

723: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:50:31.14 ID:zy6uYR2k0
梨子「――」シュッ


鞠莉「ナイスボール!」パシッ


鞠莉(さて、と)

鞠莉(私も頑張らないとね)


 プレイ!


選手C(曜ちゃんが交代してくれて助かったわ)

選手C(そろそろ打たないと、あとで怒られちゃうもの)

724: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:50:57.10 ID:zy6uYR2k0
鞠莉(初球はアウトローのストレート)


 ストライク!


鞠莉(いいところに決まったわね)

鞠莉(次は変化球を低めに――)


 ストライク!

選手C「えー、入ってたの」

鞠莉(ラッキー、追い込んだわ)


鞠莉(インハイに釣り球を1球――)


 ボール

鞠莉(まあ、振らないわよね)

725: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:51:24.58 ID:zy6uYR2k0
鞠莉(さて、次よ)スッ

梨子(きた――)コクッ


梨子(ちゃんと落ちるか不安だけど――えいっ)シュッ


選手C(真ん中! もらった――)ブン

選手C「えっ」

 バッターアウト!


梨子「お、落ちた!」

鞠莉「梨子、ナイスよ!」

726: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:51:52.65 ID:zy6uYR2k0
選手C「い、今のは?」

鞠莉「フォークですよ」

選手C「フォーク!?」

鞠莉「ええ」


鞠莉(驚くのも無理はないわね)

鞠莉(握りの浅いスプリット系ではなく、大きな落差のあるフォーク)

鞠莉(こんな球、女子野球ではみたこともないでしょう)


梨子「ふぅ」

鞠莉(大会に間に合えばと思っていたのに、もう自分の物している)

鞠莉(流石は元天才少女、素晴らしい才能ね)

727: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:52:28.87 ID:zy6uYR2k0
曜「はぁー、凄いね梨子ちゃん」

善子「ビックリしたわね、流石に」

善子母「私も驚いたわ」

善子母「本当に器用ね、あの子は」


曜「あれ、私も投げられないかな」

善子母「あなたは今の球で十分よ」

善子母「あれは桜内さんだからこそ投げられるボールなんだから」

曜「……はーい」


善子母(フォークは腕に負担がかかるボール)

善子母(ストレートとカーブだけで抑えられる間は必要ない)

善子母(……この子なら、投げられても不思議じゃないけど)

728: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:52:57.14 ID:zy6uYR2k0
千歌(真ん中から地面すれすれまで、凄い落差)

千歌(あんなの、私に捕れるのかな)

千歌(もし、捕れなかったら――)


 キンッ

千歌「!」パシッ

 アウト!


梨子「千歌ちゃん、ナイスキャッチ!」

千歌「う、うん」

729: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:53:25.58 ID:zy6uYR2k0
千歌(しまった。ぼーっとしてた)

千歌(ボール、危なかったな)


千歌(今はプレー中、集中しないと)

千歌(先のことは、試合が終わってから考えればいい)

千歌(もう諦めないって決めたんだ)

千歌(とにかく練習して、技術を身につけるしかない)

千歌(普通の私には、それしかできない)

千歌(頑張らないと、頑張らないと……)



梨子「千歌ちゃん……」

730: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:54:08.99 ID:zy6uYR2k0
 ―数週間後・室内練習場―
 

梨子「えいっ」シュッ

鞠莉「いいわね!」パシッ


千歌「完成してきたね、フォーク」

梨子「だいたい、ね」

鞠莉「飲み込みの速さは流石よ」


千歌「でも私、まだ捕れないんだよね……」

千歌「大会、どんどん迫ってきてるのに」

鞠莉「落ちる球は難しいから努力あるのみよ」

千歌「うん……」

731: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:54:39.45 ID:zy6uYR2k0
曜「それにしても」


 ザ―――――――


千歌「雨だねぇ」

鞠莉「そうねぇ」

梨子「梅雨だもの、仕方ないわ」

善子「くっくっくっ、この私が悪魔の力で雨雲を呼び寄せた結果――」

花丸「それならさっさと止めるずら」ビシッ

ルビィ「あはは……」

732: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:55:06.23 ID:zy6uYR2k0
曜「でも明日は晴れだよ」

果南「おっ、体感天気予報?」

曜「うん」

善子「流石曜さん。天を司る魔力を――」

曜「それは違う」


ダイヤ「しかし便利ですわね、曜さんの天気予報は」

千歌「船乗りのお父さん仕込みだもん」

果南「実際、よく当たるからね」

733: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:55:33.71 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「それなら一安心ですわね」

曜「なにがですか?」

ダイヤ「明日、練習試合を組んでいたのです」


曜「ずいぶん急ですね」

ダイヤ「東京へ遠征に来ていた強豪校が、諸事情で1日空きができたそうなので、我が校のグラウンドに招待したのですよ」

梨子「強豪校?」

善子「どこよ」

734: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:56:00.96 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「そうですね、私たちからすれば因縁の相手」

ルビィ「因縁?」


果南「最初に聞いたときは私も驚いたよ」

ダイヤ「ですわね、話を付けたのは千歌さんですし」

花丸「なんか意味深ずらね」

鞠莉「明日になれば分かるわ」

千歌「ふふっ、きっとみんな驚くよ」

735: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:56:28.19 ID:zy6uYR2k0
 ―翌日・浦の星グラウンド―


梨子「いや、まさか」

善子「あなたたちが相手なんて」


聖良「お久しぶりです、皆さん」

理亞「ふんっ」

聖良「理亞、またそんな態度を取って」

736: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:56:54.99 ID:zy6uYR2k0
千歌「聖良さん!」

聖良「千歌さん、今日は招待していただきありがとうございました」


梨子「いつの間に、仲良くなったの?」

千歌「えへへ、色々あって」

善子「気になる色々ね」

ダイヤ「そ、そうですわね」ポリポリ

果南(ああ)

鞠莉(ダイヤも一枚噛んでるのね)

737: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:57:21.52 ID:zy6uYR2k0
曜「……」ジッ

理亞「な、なによ」

曜「今回は煽ってこないのかなと」

理亞「だ、だってあなたは怖いし……」

曜「ふぅん」


善子(意外と素直なのね)

花丸(なんかこう、大人しいと案外)

ルビィ(可愛いかも?)

738: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:57:48.23 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「今日は2試合行う予定です」

ダイヤ「初戦のバッテリーは、梨子さんと千歌さん」


善子「リリーは久しぶりの実戦ね」

梨子「うん」

鞠莉「内容はあまり気にせず、気楽に行きましょう」

梨子「はい」

ダイヤ「もちろん勝利は――むぐっ」

果南「はいはい、プレッシャーかけないの」

ルビィ「お、お姉ちゃん」

739: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:58:18.21 ID:zy6uYR2k0
千歌「……」

鞠莉「ちかっち、どうしたの?」


千歌「キャッチャー、私でいいのかな」

千歌「フォーク、まだ捕球できないままなのに」

鞠莉「いいのよ。できる限り情報を与えないために、今日はまだ投げる予定もない」

鞠莉「ちかっちはいつもどおり、梨子を導いてあげればいいわ」

千歌「うん……」

鞠莉「フォークを除いても梨子は進化している、信じて力になってあげなさい」

740: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:58:48.99 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「そして2戦目は――曜さんと善子さんでいきます」


千歌「えっ」

ルビィ「よ、善子ちゃんが」

花丸「キャッチャー!?」


梨子「鞠莉ちゃんじゃないの?」

曜「前から密かに練習してたんだよね」

善子「ええ」

鞠莉「曜からの要望でね、ぜひ善子と組みたいって」

花丸「驚きずらねぇ」

ルビィ「うゅ」

741: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:59:31.08 ID:zy6uYR2k0
果南「驚いたね」

千歌「……そうだね」

果南「最初はあんなに嫌がっていたのに、なにがあったんだか」

千歌「善子ちゃんも天才肌だから。きっと波長とか合うんだよ」

果南「そんなもんかな」


ダイヤ「相応の努力もあってこそでしょうが」

果南「努力?」

ダイヤ「頑張っていたようですよ、練習後にお母様の指導を受けて」

742: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 05:59:57.35 ID:zy6uYR2k0
千歌「善子ちゃん、お母さんとあんなに仲が悪そうだったのに」

善子「べ、別に今だって仲は最悪よ!」

善子「ただ必要なことに、利用してやっただけ」


花丸「善子ちゃんは素直じゃないね~」

ルビィ「だね~」

善子「素直よ! これは本心なんだから――」


善子母「あら、そうだったの」

善子「げっ」

743: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:00:34.54 ID:zy6uYR2k0
善子母「お母さん悲しいわ。せっかく娘と仲直りできたと思っていたのに」

善子「こ、これは違くて、その、あの」


善子母「ふふっ、分かってるわよ」

善子母「少しからかってみたかっただけ」

善子母「素直じゃない娘なんだから」

善子「っ~~~~」


善子母「赤くなっちゃって、可愛いわねぇ」

善子「や、やっぱり、お母さんなんて嫌いよ!」

744: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:01:02.42 ID:zy6uYR2k0
―――
――



花丸「善子ちゃん、頑張れ~」


善子「このっ」ブン

 バッターアウト! 


善子「もぅ、この球はやっぱり反則よ!」

 ゲームセット!

745: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:01:31.98 ID:zy6uYR2k0
曜「初戦は負けちゃったか」

ルビィ「聖良さんが投げていたから、仕方ないですよ」

曜「こっちも頑張ったんだけどね」

ルビィ「悔しいですけど、1対7は十分善戦だったと思います」

曜「まさか果南ちゃんがホームラン打つとはね」

鞠莉「しかも猛打賞」


果南「あの投手、タイミングが合うというか、相性がいい感じだったね」

ダイヤ「それが分かっただけでも収穫です」

ダイヤ「負けたのは悔しくて仕方がないですがっ」ギリギリ

746: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:02:08.44 ID:zy6uYR2k0
曜「次の試合、先発は2番手の間宮さんか」

ルビィ「聖良さんも出ないし、全体的に控え中心みたいですね」


ダイヤ「こちらは曜さんが先発」

ダイヤ「選手を変えられない分疲れはありますが、是が非でも勝ちたいですわね」

曜「はい、負けっぱなしは絶対に嫌です」

ダイヤ「全国制覇の為には避けられない相手、勝っていいイメージを持たなければ」

ルビィ「うん」

果南「実績と自信をつけるためにも、重要だね」

鞠莉「ええ」

747: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:02:41.61 ID:zy6uYR2k0
曜「善子ちゃん、準備しにいこう」

善子「ええ」


千歌(曜ちゃん、善子ちゃん……)


梨子「千歌ちゃん」

千歌「あっ、梨子ちゃん」

梨子「お疲れ様、結構打たれちゃった」

千歌「強かったね、やっぱり」

梨子「最初、緊張で制球が乱れてたのが痛かったかな」

梨子「守備のミスは少なくなったから、今度はもっと戦えるよ」

千歌「うん……」

748: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:03:10.75 ID:zy6uYR2k0
千歌(だけど考えちゃう)

千歌(もし捕手が私じゃなかったら、鞠莉ちゃんだったら)

千歌(もっと少ない失点で済んだんじゃないかな、やっぱり)


曜「おりゃっ」シュッ

善子「ほっ」パシッ


千歌(善子ちゃん、カーブをあんなに上手く)

千歌(私は必死に練習しても、まだ捕球が上手くならないのに)

千歌(ここでも感じる、センス、才能の差)

749: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:04:05.12 ID:zy6uYR2k0
千歌「ねえ、梨子ちゃん」

千歌「私は本当に、キャッチャーでいいのかな」

千歌「素直に他の人に、ポジションを譲った方がいいんじゃないかな」

梨子「千歌ちゃん……」


善子母「そんなことはないわよ」

千歌「善子ちゃんのお母さん」


善子母「現実的な話をすれば、今の高海さんと、小原さん、善子との実力差が最も少ないポジションは捕手」

善子母「他のポジションだと、全体の守備力に大きな差が出てしまう」

善子母「その時点で、あなたが正捕手でいてくれるのが最適解なの」

千歌「でも……」

750: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:04:41.33 ID:zy6uYR2k0
善子母「気持ちは理解できる」


善子母「努力なしの結果はあり得ない」

善子母「だけど、必要な努力の量は人それぞれ」

善子母「置かれた環境、生まれ持った才能によって大きく異なる」

善子母「指導者として、常にもどかしさを感じる部分よ」

千歌「才能の、差」


善子母「高海さんは努力をしている」

善子母「人より時間はかかるかもしれないけど、いつか花開く日は来る」

善子母「だからあまり、自分を追い込まないことね」

千歌「……」

751: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:05:08.36 ID:zy6uYR2k0
善子母「それにね、捕手は最も才能の差が出にくいポジション」

善子母「工夫次第で、一流の選手に近づくことができる」

善子母「配球に運動能力は必要ない。盗塁阻止だって、動作の俊敏性で肩の弱さは補える」

善子母「矢澤こころはその典型」

善子母「それらを極めた結果、世代最高の捕手になった」


善子母「鹿角理亞も同じタイプね」

善子母「今日の彼女の配球、一度しか対戦していなくて、データも少ない私たちのことをしっかり研究していたわ」

善子母「対するあなたは考えた? 聖泉女子の打者の弱点や対策を」

千歌「あ……」

752: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:05:36.47 ID:zy6uYR2k0
善子母「一流の選手と同じレベルのプレーはできない」

善子母「矢澤さんや鹿角さんに追いつくのは、現時点ではほぼ不可能」

善子母「でも野球はチームプレー、特に捕手には投手という相方がいる」


善子母「捕手の一番の仕事は、投手の力を引き出すこと」

善子母「その為には、特別な身体能力や運動センスは必要ない」

善子母「例え1人では敵わなくても、投手も合わせた2人の力で上回ればいい」

善子母「それを可能にしてくれるだけの投手が、このチームには2人もいる」

千歌「2人の、力で……」

753: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:06:22.85 ID:zy6uYR2k0
善子母「その為の方法、私でよければいくらでも教える」

善子母「人当たりのいいあなたなら、自分で師を探すこともできるでしょう」

善子母「落ち込んでいる暇があったら、その時間で努力をしなさい」

善子母「意識を高く持って、常に勝つために必要な方法を考えなさい」

善子母「それをせずに、今みたいに相方である投手に嘆きをぶつけるのは、論外よ」

千歌「それは……」


善子母「うじうじしていないで、上を向きなさい」

善子母「捕手はチームの中心、守備全員の目線が向けられる唯一のポジション」

善子母「その上に、あなたはキャプテンでもあるの」

善子母「自分の姿勢、感情がチームに与える影響を、もっと自覚しなさい」

千歌「自覚……」



善子母「……少しはいい顔になったわね」

善子母「しっかり頼むわよ、キャプテン」

千歌「――はい!」

754: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:06:54.43 ID:zy6uYR2k0
―――
――



ダイヤ「今日はありがとうございました」

聖良「こちらこそ、とてもいい練習になりました」

聖良「いいチームに、なりましたね」

千歌「あはは、それほどでも」

梨子「調子に乗らないの」

755: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:07:36.65 ID:zy6uYR2k0
柳澤「マジパねえっす、曜先輩!」

柳澤「ビューときて、バーンと入る球!」

柳澤「スゲェっす! パネェっす!」

曜「あ、あはは、そう?」


善子「変なのに懐かれたわね、曜さん」

花丸「同い年なんだよね、マルたちとあの人」

ルビィ「全然見えないよね……」

善子「身体、二回りぐらい違うもんね……」

756: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:08:16.59 ID:zy6uYR2k0
善子「しかし同い年といえば、あの理亞とかいう子は?」

花丸「そういえば、いないね」

ルビィ「そろそろ帰る時間みたいだし、探してきた方がいいかな」

花丸「そうだね、手分けして」

善子「はぁ、面倒ね」

花丸「そう言いながらも、一番真剣に探しそうだよね」

善子「な、なんでそうなるのよ」

757: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:08:47.24 ID:zy6uYR2k0
―――
――



ルビィ「ここにもいないなぁ」

ルビィ「どこにいるんだろう……」


『う、うぅ』


ルビィ「ピギッ」

ルビィ(へ、変な声――不審者!?)

758: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:09:16.26 ID:zy6uYR2k0
ルビィ(ど、どうしよう)

ルビィ(戻って、誰かに伝えた方がいいのかな)


??「どうして、あんなに研究したのに……」


ルビィ(あれ、この声――)



理亞「また打てなかった、それどころか勝てなかった……」

ルビィ(やっぱり……)

ルビィ(でもどうしよう、なんて声をかけたら――)ザッ

759: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:09:50.93 ID:zy6uYR2k0
理亞「誰!」

ルビィ「ピギッ!」


理亞「あなたは……」

ルビィ「え、えっと、理亞――さん?」

理亞「黒澤ルビィ」


ルビィ「覚えていて、くれたんだ」

理亞「一応ね」


理亞「春季大会、ふざけた浦の星のメンツの中で、あなたは別だったから」

理亞「粗削りだけど野球に真剣なのは、プレーを見てれば分かる」

ルビィ「あ、ありがとう」

760: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:10:17.63 ID:zy6uYR2k0
理亞「どうしたの、こんなところに」

ルビィ「えっと、そろそろ帰る時間だから、理亞さんを探しに」

理亞「もうそんな時間――ありがと、わざわざ」

ルビィ「う、うん」


理亞「あと、さんなんてつけなくていいわよ。私たちは同級生でしょ」

ルビィ「え、えっと、じゃあ、理亞――ちゃん?」

理亞「ふっ、なんで疑問形なのよ」

ルビィ「だ、だって、理亞ちゃんはルビィと違って大人っぽいし」

761: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:10:49.54 ID:zy6uYR2k0
理亞「そんなことない」

理亞「今も情けないところを見せちゃって」

ルビィ「あ、あはは」

理亞「じゃあ私は戻るわね」

ルビィ「うん」


理亞「でも忘れないで」

ルビィ「うゅ?」

理亞「泣いていたこと話したら、ただじゃおかないから」

ルビィ「ピギッ!?」

762: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:11:19.27 ID:zy6uYR2k0
 ―室内練習場―


 カキーン! カキーン!


曜「ふぅ」

曜「いい感じ、かな」


曜(135キロ)

曜(マシンだと簡単に打てる、はずなのに)

763: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:11:47.38 ID:zy6uYR2k0
曜「次、140に――


千歌「曜ちゃん」

曜「!」


千歌「ここで練習してたんだ」

曜「千歌ちゃん……」

千歌「今日も聖良さんから打てなかったもんね」

曜「……うん」

764: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:12:15.28 ID:zy6uYR2k0
千歌「私も一緒にやろうかな、今日は全然打てなかったし」

千歌「いや、千歌の場合はいつも打てないか、あはは」


曜「ごめん、私は帰る――」

千歌「待ってよ」

曜「っ」


千歌「まだ打つつもりだったんでしょ」

曜「それは……」

千歌「逃げないで、曜ちゃん」

765: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:12:45.54 ID:zy6uYR2k0
曜「逃げてるわけじゃないよ」

千歌「嘘だよ」


千歌「曜ちゃん、最近はいつもこんな感じ」

千歌「私のこと、避けてる」

千歌「必要なとき以外、話さない、目も合わせない」

千歌「ずっとそうだよね、私たち」

曜「それは……」

766: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:13:19.65 ID:zy6uYR2k0
千歌「気持ちは分かるよ」

千歌「あんな風に意見を言い合って、息がぴったりだった野球の方も全然上手くいかなくなって」

千歌「仲直りしたはずなのに、元に戻るどころか、どんどん悪化してる」

千歌「これじゃあ、よくないよ」


千歌「私たちさ、前みたいに戻ろう」

千歌「バッテリーは組めなくても、仲良しの友達に」

千歌「そうしないと、周りに迷惑がかかる」

千歌「私に言えた義理はないのかもしれないけど」


曜「……そうだね」

曜「そうしないと、駄目だよね」

767: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:14:31.23 ID:zy6uYR2k0
千歌「曜ちゃんは、嫌なの。私と前みたいに戻ること」


曜「嫌じゃない」

曜「千歌ちゃんのことが嫌いになったわけじゃない」

曜「今だって、大好き」

曜「でも私のせいで、私の捕手を出来ないせいで、千歌ちゃんが苦しんでいる」

曜「そう考えると、どう接していいのか、分からなくて」



曜「正直さ、他の人とバッテリーを組むことが決まった時、ホッとした」

曜「苦痛になってたから、千歌ちゃんと組むのが」

千歌「苦痛……」


曜「投手と捕手の関係としては、どんどん上手くいかなくなっていく」

曜「その度に、心の距離も離れていくみたいで」

曜「千歌ちゃんと積み上げてきたものが、否定されていくみたいで」

768: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:15:01.05 ID:zy6uYR2k0
千歌「どうだった、善子ちゃんとのバッテリーは」


曜「……すごく投げやすかった」

曜「善子ちゃん、本当に頑張ってくれていたんだ」

曜「私の要望を全部聞いて、投げやすいように合わせて」

曜「お母さんと一緒に練習して、私の細かい我儘にも答えてくれて」

曜「野球だけじゃない」

曜「わざわざ私の趣味についてとか、そんなことまで勉強してくれてさ」

曜「そんなの必要ないって言っても、頑張って――」

769: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:15:27.89 ID:zy6uYR2k0
千歌「そっか、よかった」

千歌「曜ちゃんは、相性のいい相手を見つけられたんだね」

曜「うん」

曜「ごめんね、千歌ちゃん」


千歌「謝る必要なんてないよ」

千歌「今の私じゃ曜ちゃんの助けになれないのは事実」

千歌「勝つためには必要なことだし、曜ちゃんの苦しみがそれで和らいだなら、私は嬉しい」

曜「……」

770: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:15:55.30 ID:zy6uYR2k0
千歌「ねえ、この後曜ちゃんのうちに行ってもいいかな」

曜「えっ?」


千歌「久しぶりにさ、遊ぼうよ」

千歌「2人だけで、パーッと」

千歌「野球のことは考えずに、幼馴染の親友として」

曜「千歌ちゃん……」


千歌「駄目かな、やっぱり千歌のことは――」

曜「だ、駄目じゃないよ!」

曜「私だって、千歌ちゃんと、千歌ちゃんと――」

771: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:16:23.83 ID:zy6uYR2k0
千歌「落ち着いて、曜ちゃん」ギュッ


曜「千歌ちゃん……」

千歌「周囲に気を使わせないように、我慢してたんだよね」

千歌「本当は、すごく悩んでいたのに」


千歌「嫌ったりなんてしないよ」

千歌「悪いのは、真剣に野球と向き合えていなかった私」

千歌「私も曜ちゃんのことが昔から大好きで、それは変わらない」

千歌「だから安心して、もう悩まないで」

曜「ちか、ちゃん」

千歌「なんて変かな、あはは」


曜「……変じゃないよ」

曜「ありがとう、千歌ちゃん」ギュッ

772: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:16:51.49 ID:zy6uYR2k0
 ―早朝・グラウンド―


梨子「抜く感覚、もう少し早く――」シュッ


 バンッ


梨子「少し違うかな……」

梨子「やっぱり細かく制球するのは難しい」

梨子「フォーク、もっと練習しないと」

773: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:17:20.88 ID:zy6uYR2k0
梨子(本当は誰かに受けてもらいながら投げたい)

梨子(でも千歌ちゃんはまだ上手く捕球できない)

梨子(鞠莉さんに頼むのも限界があるし、どうしたら――)


善子「ふわぁ、流石に私が1番乗り――あれ?」

梨子「善子ちゃん?」


善子「リリー、早いわね」

善子「まだ朝練の時間までだいぶあるわよ」

梨子「少し投げておきたくて」

善子「ふぅん」

774: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:17:46.78 ID:zy6uYR2k0
善子「フォークの練習?」

梨子「うん」

善子「1人で?」

梨子「だね」


善子「それなら私が受けてもいいわよ」

梨子「善子ちゃんが?」

善子「キャッチャーできるの、前の試合で見せたでしょ」

梨子「でも……」

775: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:18:12.87 ID:zy6uYR2k0
善子「大丈夫、落ちる球も曜さんのカーブで慣れてるから」

善子「しっかり捕れなくても、誰もいないよりはマシでしょ」


梨子(……それもそうね)

梨子(確かに壁に向かって投げるよりはいいかも)


梨子「じゃあ、お願いしてもいいかな」

善子「ええ」

善子「準備をするから、少しだけ待ってくれる?」

梨子「うん」

776: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:18:39.12 ID:zy6uYR2k0
―――
――



梨子「ふっ」シュッ


善子「よっ」パシッ



梨子「ナイスキャッチ」

善子「ふっ、私にかかればこんなものよ」

梨子「最初はこぼしてばかりだったけどね」

善子「それはまだ本気を出していなかっただけよ」

777: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:19:10.96 ID:zy6uYR2k0
梨子「ふふっ、そうね」

梨子「曜ちゃんのカーブを捕れるんだから、これぐらい簡単ね」


善子「確かにあれも相当厄介な球ね」

善子「しかも曜さん、リリーと違って制球が滅茶苦茶だから」

梨子「変化量の大きいボールは扱うのが難しいから仕方ないわ」

梨子「私だってフォークは全然コントロールできてない」

梨子「キャッチャーにはずいぶん迷惑を掛けちゃってる」

778: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:19:38.50 ID:zy6uYR2k0
善子「そうね、確かに大変かも」

善子「けどそれで困ってるようだと、全国で勝つことなんてできない」


梨子「……千歌ちゃん、大丈夫かな」

善子「あの人なら大丈夫よ。きっと」

善子「元々捕球センスはある方なんだから」

善子「最近だって、元気に練習してるでしょ」

梨子「そうね」

梨子「だけど今の状態だと、大会に間に合うか……」

779: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:20:12.38 ID:zy6uYR2k0
善子「その時はその時」

善子「いっそ、私とバッテリー組めばいいでしょ」

梨子「善子ちゃんと?」


善子「もちろん、千歌さんであるに越したことはないわ」

善子「でも私たちだって相性は悪くないでしょ」

善子「今だってこうやって、問題なく捕球できてるんだから」

梨子「……そうね、善子ちゃんの言うとおり」

780: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:20:39.34 ID:zy6uYR2k0
梨子「だけど、例えフォークを上手く捕球できなくても、私のキャッチャーは千歌ちゃんよ」

善子「あっさりフラれたわね」

善子「そんなに私とは嫌?」


梨子「ううん、そんなことはないよ」

梨子「だけどやっぱり、私は千歌ちゃんがいいの」

梨子「闇から救い出してくれた恩人だし――もちろん善子ちゃんもだけど」


梨子「千歌ちゃんとの出会いから、私は立ち直れた」

梨子「真っ暗だった世界に、小さいけど確かな光を当ててくれた人」

梨子「千歌ちゃんが受けてくれるだけで、私は安心して投げられる」

梨子「だからキャッチャーは、千歌ちゃんしかいないの」

781: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:21:06.70 ID:zy6uYR2k0
善子「……妬いちゃうわね、そこまで言われると」

梨子「善子ちゃんはもう、曜ちゃんを手に入れたでしょ」

善子「ふふっ、そうね」

善子「これ以上は、贅沢かしら」


善子「でもね、予感がするの」

善子「いつか曜さんも、千歌さんの元に戻ってしまう」

善子「そんな予感が」

梨子「善子ちゃん――」

782: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:21:33.20 ID:zy6uYR2k0
曜「おはヨ―ソロー!」


善子「あっ」

梨子「曜ちゃん」


千歌「おはよう!」

梨子「千歌ちゃんも」


曜「2人とも早いね。秘密の特訓?」

千歌「善子ちゃんが防具をつけてる――はっ、梨子ちゃんまさか」

梨子「ふふっ、どうかしら」

783: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:22:00.45 ID:zy6uYR2k0
千歌「だ、駄目だよ善子ちゃん。梨子ちゃんは千歌の!」

善子「知らないわよ、そんなの」

善子「世の中、実力がすべてなんだから」

千歌「むぅ……確かに」


千歌「これは負けられないね――梨子ちゃん、今度は千歌と練習しよう!」

千歌「これでも家で美渡姉に付き合ってもらって練習してきたんだよ」

千歌「今日こそ、フォークを完璧に捕れるようにするんだから!」

梨子「へぇ、それは楽しみね」

784: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:22:27.14 ID:zy6uYR2k0
曜「私たちも残り者同士、練習する?」

善子「そうね――」


ルビまる「「おはようございま~す」」

果南「おはよう、みんな」


曜「あれ、もっと来た」

果南「早起きし過ぎたから、走ってきたんだよ」

善子「みんなせっかちねぇ」

785: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:22:53.15 ID:zy6uYR2k0
曜「あとは鞠莉ちゃんとダイヤさんだけか」

善子「ルビィ、ダイヤは?」


ルビィ「分かんない、今日はマルちゃんのおうちにお泊りだったから」

花丸「久しぶりに2人で練習したり、ゲームしたりしてたんだ」

善子「仲良しねぇ、相変わらず」


曜「もう練習始めちゃう?」

果南「うん、それでもいいかも」

果南「じきに2人とも来るだろうし」

曜「そうだね」

曜「大会は目前に迫ってる、少しでも多く練習しないと」

786: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:23:20.18 ID:zy6uYR2k0
 ―朝練終了後・部室―


善子「ふわぁ、ねむぃ……」

梨子「善子ちゃん、これから授業なんだからしっかりしないと」

善子「どうしてリリーは平気なのよ」

梨子「私はほら、昔から慣れてるから」

善子「あぁ、流石は元エリート……」

787: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:23:49.55 ID:zy6uYR2k0
千歌「結局、ダイヤさんたち来なかったね」

曜「どうしたんだろう」

果南「何か聞いてる人、いないよね」

ルビィ「はい」

花丸「果南ちゃんが知らない時点で、たぶん」


曜「トラブルとかだったら嫌だね、大事な時期なのに」

千歌「だね」

梨子「ちょっと不安……」

788: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:24:19.97 ID:zy6uYR2k0
果南「大丈夫だよ、重大なことがあるなら連絡が来てるはずだから」

果南「とにかく着替えて準備しよ」

果南「あんまりのんびりしてると、授業に間に合わなくなる――」


 ガラッ


果南「んっ」


ダイヤ「……」

鞠莉「……」


果南「ダイヤ、鞠莉」

千歌「2人とも、遅かったね」

789: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:24:48.97 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「申し訳ありません、どうしても外せない用ができてしまって」

果南「そっか。でも無事だったなら――」


鞠莉「果南」


果南「鞠莉?」

鞠莉「少し話があるの」

鞠莉「みんなも着替えながらでいいから、聞いてもらえるかしら」

果南「う、うん」

790: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:25:15.44 ID:zy6uYR2k0
―――
――



千歌「学校説明会が、中止になるかもしれない」

ダイヤ「ええ」

曜「えっと、それはつまり」

ダイヤ「本格的に、廃校に向けて動き出したということです」

791: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:25:42.54 ID:zy6uYR2k0
千歌「そんな、まだ夏の大会も始まってないのに」

鞠莉「ごめんなさい、必死にパパたちを説得したんだけど」


ダイヤ「全国優勝、それが叶った場合の影響の大きさについてはある程度納得してもらえました」

鞠莉「だけど優勝の現実性については、認めてもらえなかった」

鞠莉「大人たちは誰も、私たちが全国制覇できるとは考えてないの」

果南「そんな――」


ダイヤ「仕方のないことではあります」

ダイヤ「創部初年度、部員9名、唯一の公式戦はヒットすら打てずに惨敗」

ダイヤ「数字だけをみれば、優勝など世迷言にしか聴こえないのでしょう」

果南「それは……」

792: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:26:09.70 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「私たちの目標が変わったわけではありません」

ダイヤ「全国優勝、それだけを目指していけばいい」


ダイヤ「まずは全国大会出場」

ダイヤ「少なくともそれが叶わなかった時点で、廃校は確定です」


千歌「廃校……」

曜「確定……」

花丸「そんな……」

ルビィ「うゅ……」

善子「……」

793: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:26:46.43 ID:zy6uYR2k0
千歌(廃校阻止、その為に私たちは再び立ち上がった)

千歌(現実として、廃校になる可能性の高さは理解はしていた)

千歌(理解はしていた、けど現実として突きつけられると……)


『あなたが周囲に及ぼす影響を――』


千歌(いや、駄目だ)

千歌(下を向くな、前を向け)

千歌(私が、みんなを引っ張るんだ)

794: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:27:15.10 ID:zy6uYR2k0
千歌「大丈夫だよ」


ダイヤ「千歌さん?」

鞠莉「ちかっち?」


千歌「私たちは負けない」

千歌「0だったあの時とは、もう違うんだ」


千歌「絶対に勝って、勝って、勝ち続ける」

千歌「最後まで勝ち残って、廃校を阻止できる」

千歌「絶対に、優勝できる」


曜「千歌ちゃん……」

795: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:27:41.62 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「……そうですね」

鞠莉「弱気になり、最悪の事態を想像する必要はない」

果南「ただ自分たちを信じて、突き進めばいい」

梨子「ええ」


善子「そうよ、この堕天使が居る時点で、Aqoursは最強のはずなんだから!」

花丸「その意気ずら!」

ルビィ「うん!」

796: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:28:07.69 ID:zy6uYR2k0
 キーンコーンカーンコーン


千歌「って、時間!」

曜「ヤバッ、そういやギリギリだったじゃん!」


ダイヤ「いけません! 生徒会長が遅刻は洒落になりませんわ!」

鞠莉「あはは、面白そうでいいじゃない」

ダイヤ「理事長のあなたはもっと問題でしょう!」


ルビィ「い、急ごう花丸ちゃん!」

花丸「善子ちゃんも早く!」

善子「分かってる――わっと」バタン

ルビィ「あっ、転んじゃった……」

797: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:28:51.30 ID:zy6uYR2k0
梨子「みんな、落ち着ついて――」


曜「お先ヨ―ソロー!」ダッ


ダイヤ「遅刻はぶっぶーですわ!」ダッ

果南「よく考えたらこれ以上遅刻や欠席したら留年に」ダッ

鞠莉「あはは、シャイニー!」ダッ


善子「うぅ、痛い……」

ルビィ「よ、善子ちゃん」

花丸「ほらおぶってあげるから早く行くずら!」


千歌「梨子ちゃんも急ごう!」ダッ

梨子「ああもう、どうしてこうなるの~~~~~」ダッ

798: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:29:17.64 ID:zy6uYR2k0
 ―室内練習場―


 シュッ

千歌「くっ」パシッ


 シュッ


千歌「やっ」パシッ


千歌(マシンのフォーク)

千歌(機械の球ではあるけど、だいぶ捕れるようになってきた)

799: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:29:43.29 ID:zy6uYR2k0
千歌「球切れかな、新しいのを補充しないと――」


鞠莉「はーい、ちかっち」

千歌「鞠莉ちゃん?」

果南「いい感じじゃん、だいぶ捕れるようになってきたね」

千歌「果南ちゃんも」


千歌「どうしてここに」

鞠莉「練習、手伝ってあげようと思って」

千歌「手伝い?」

800: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:30:12.24 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「実はね、最近ちかっちの練習にピッタリな道具を作ったの」

千歌「ピッタリな道具?」

鞠莉「それはね――これ」

千歌「ボール?」


鞠莉「小原家の特製変化球ボール」

鞠莉「普通に投げるだけで、ボールが鋭い変化をしてくれる優れもの」

鞠莉「実戦では使えないけど、練習でお手軽に変化球を体験できる」

鞠莉「種類は主だった変化球各種、もちろんフォークも取り揃えているわ」

801: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:30:42.92 ID:zy6uYR2k0
千歌「これ、私の練習のために?」

鞠莉「元々開発構想はあった商品だけど、試作段階でね」

鞠莉「これを使えばちかっちは練習ができるし、私たちからしてもちょうどいいテスターになるかなって」

千歌「そっか」


千歌「この球、マシンに入れればいいの?」

鞠莉「違うわよ、それじゃあ今の練習と変わらないわ」

鞠莉「練習のためには生きた球を受ける必要がある、だから――」


果南「投げるのは私だよ」

千歌「果南ちゃんが?」

鞠莉「ええ」

千歌「でもそれだと、結構大変なような」

802: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:31:11.61 ID:zy6uYR2k0
果南「平気だよ」

果南「私は数だけならいくらでも投げられる」

果南「どうせ控え投手としては役に立たないし、多少の無理は問題ないから」

千歌「そんなあっさり」


果南「まあノーコンなのは許してほしいけど」

果南「私だって軽く投げればストライクは入る。球速的には十分でしょ」

千歌「……いいのかな」

果南「いいんだよ」

803: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:31:38.89 ID:zy6uYR2k0
果南「もし千歌がフォークを完璧に捕球できるようになれば、チームとしては大きい」

果南「それに私だって、少しでも可愛い妹分の役に立ちたいじゃん」

千歌「果南ちゃん……」


鞠莉「まあ、というわけよ」

鞠莉「本当は他に投げられる人を手配しようかとも思ったけど、果南の強い希望なの」

鞠莉「ちかっち、できるかしら」

千歌「うん、やるよ」

千歌「果南ちゃんと鞠莉ちゃんの期待に、応えてみせる」

804: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:32:06.52 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「決まりね」

鞠莉「私も打席に立ってバットを振るわ」

鞠莉「その方が、より実践に近い形の練習になるでしょ」

千歌「ありがとう、鞠莉ちゃん」


果南「もうアップは済ませてきたから、すぐに始めよう」

千歌「分かった!」

果南「とりあえず、軽く投げてみるよ」

千歌「うん!」

805: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:32:35.38 ID:zy6uYR2k0
果南「じゃあ行くよ~」

千歌(軽くとはいえ、果南ちゃんの球速でフォーク)

千歌(いったい、どんな球が――)グッ


果南「それっ!」シュッ


千歌(最初は普通のストレートっぽいけど――)


 ストン

千歌「うわっ」ポロッ

806: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:33:01.83 ID:zy6uYR2k0
千歌「び、ビックリした」

鞠莉「おー、思っていたより鋭く落ちるわね」

鞠莉「現実の梨子のフォークと同じぐらい、しかも球速も早い」


果南「もう少し抑えて投げた方がいいかな」

鞠莉「そうね、これは流石に――」


千歌「大丈夫、このままでいいよ」

果南「千歌?」

807: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:33:47.87 ID:zy6uYR2k0
千歌「実際より少し厳しめの方が、いい練習になる」

千歌「これが捕球できれば、梨子ちゃんのボールだって問題なく捕れる筈だもん」

果南「だけど怪我をする可能性だって」

千歌「平気だよ。これでも身体は丈夫だから」

果南「……わかった」


果南「もう組み合わせ抽選会も近い、時間もないもんね」

鞠莉「ええ――とにかく頑張っていきましょう」

千歌「うん!」

808: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:35:59.46 ID:zy6uYR2k0
 ―組み合わせ抽選会場―


  ザワザワ


千歌「わぁ、凄い人……」

果南「だね」


ダイヤ「静岡中の女子高校球児が集まっていますからね」

千歌「野球をやっている人、こんなにたくさんいたんだね」

果南「この中の頂点に立つ、それはとてつもなく大変なこと」

鞠莉「それでもここは、私たちにとって通過点にしなきゃいけない場所なの」

ダイヤ「改めて、全国優勝という目標の難しさが理解できますね」

809: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:36:40.47 ID:zy6uYR2k0
善子「それにしても――」


 ジロジロ


善子「なんか私たち、注目されてない?」

梨子「だね、すごく見られてる」

善子「はっ、やはりこの私の魅力に惹きつけられて!」


ダイヤ「曜さんですよ、原因は」

曜「私?」

梨子「あはは、ですよね」

ダイヤ「確かに善子さんも、ある意味では目を引きますが」


善子「くっ、この大会が終わるころには、皆が私に注目するようになるわよ!」

曜「その意気だよ、頑張れ!」

810: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:37:08.16 ID:zy6uYR2k0
千歌「でもこんなに注目されてると、ルビィちゃんはいつものごとくお休み中?」

梨子「そうね、さっきから姿が見えないし……」


ダイヤ「あぁ、ルビィなら――」


中野「相変わらず可愛いねぇ~」ナデナデ

梅井「髪、もふもふだわ~」モフモフ

ルビィ「ピギィ!?」

花丸「ず、ずらっ」


ダイヤ「花丸さんと一緒に、日中高校の選手に捕まってますわ」

811: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:37:47.17 ID:zy6uYR2k0
千歌「あはは、あれじゃあ気を失う暇もないね」

曜「でもさ、ある意味成長なんじゃない」

千歌「確かに、人見知りが改善された感あるよね」

曜「そうそう――」


??「久しぶり、渡辺曜」


曜「んっ?」

??「本当に、高校野球の世界に入ってくるなんてね」

812: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:38:17.54 ID:zy6uYR2k0
千歌「えっと、誰?」

ダイヤ「彼女は優勝候補の筆頭と評判の東洋高校の主力、三角さんですわ」

ダイヤ「曜さんとは、年代別代表で共にプレーした経験があります」


曜「ああ、三ちゃんか」

三角「反応薄いなぁ、久しぶりなのに」

曜「代表組とはよく会うからさ、一々リアクションするのが面倒になって」

三角「……相変わらず、変な奴だねぇ」

曜「三ちゃんには言われたくないんだけど」

813: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:38:46.14 ID:zy6uYR2k0
三角「なにさ、それは名前か、名前のことか?」

曜「あと顔の大きさとか」

三角「ぐっ、気にしていることを」

曜「ごめんごめん」

三角「色気なし変人ヨーソローの癖に……」

曜「あ、言ったなぁ~」


善子「……一流の選手は煽りあう決まりでもあるのかしら」

鞠莉「あれが彼女たちなりのコミュニケーションなのよ、きっと」

814: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:39:16.29 ID:zy6uYR2k0
梨子「三角さん、久しぶり」

三角「あぁ、梨子ちゃん」


三角「大変だったみたいだね、色々」

梨子「ずいぶん噂は広がってるのね」

三角「みんな驚いたからね、突然表舞台からいなくなったときは」


三角「だけどもう、治ったんだよね」

梨子「うん、おかげさまで」

三角「よかった、曜や梨子ちゃんとはちゃんと戦いたかったから」

梨子「そうね」

815: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:39:45.70 ID:zy6uYR2k0
???「おーい、三角~」


三角「おっと、そろそろ行かないと」

曜「そうだね、もうすぐ抽選が始まるから」


三角「じゃあまた、今度はグラウンドで」

三角「試合を出来ること、楽しみしているよ」

梨子「私も」

曜「対戦する前にこけないでよ」

三角「それはこっちのセリフだよ、まったく」

816: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:40:14.08 ID:zy6uYR2k0
ルビィ「あの、今の」

千歌「あっ、ルビィちゃんお帰り」


曜「なに、三ちゃん?」

ルビィ「そうじゃなくて、三角さんを呼んでいたほうの人」

梨子「有名な人だっけ」


ダイヤ「菊地原さんですね」

ダイヤ「広い守備範囲を誇る、セカンドの名手です」

曜「へぇ」

817: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:40:56.49 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「彼女とセンターを守る三角さん、それにショートの田中井さんを加えた3人が、東洋高校の主軸」

ダイヤ「一部では『タナキクさん』と呼ばれる、有名なトリオなのです」

千歌「へぇ」


ダイヤ「東洋はここ数年、全国へ出場し続け、結果も残しています」

ルビィ「去年は準決勝まで進出したもんね」

ダイヤ「全国出場の一番の壁になるのは、間違いなく彼女たちでしょう」

千歌「なるほど……」

818: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:41:23.03 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「だから抽選では、できるだけ彼女たちと対戦するくじを避けることです」

ダイヤ「この地区で強いのは東洋高校、そして日中高校」

ダイヤ「シードの2校と初戦で当たる形だけは避けなければ」


千歌「抽選……」

曜「どうしたの、千歌ちゃん」


千歌「ねえ曜ちゃん、私の代わりにくじを引いてきてくれない?」

曜「私が?」

千歌「春のときのトラウマがさ、蘇るというか……」

819: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:41:49.78 ID:zy6uYR2k0
曜「いやでも、普通キャプテンが引くものだよね」

千歌「そうだけどさ。ほら、曜ちゃんは幸運の持ち主だし」

曜「でもなぁ」


曜「そうだ、また善子ちゃんになにかもらったら?」

梨子「いや、それはまた二の舞になるような」

曜「前は外れたんだから、今度は大丈夫じゃない?」

曜「どうせなんか準備してあるんでしょ」

善子「ええ、もちろんよ!」

820: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:42:21.51 ID:zy6uYR2k0
善子「今回は――これよ!」バーン


千歌「これは、黒い羽根?」


善子「我が魔力が込められた特別な逸品」

善子「幸運を引き寄せる魔具よ!」


花丸「うわぁ」

善子「ちょ、露骨に引かないでよ!」

梨子「いや、でも見た目からして不幸しか引き寄せなさそうな……」

ルビィ「うゅ……」

821: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:42:49.70 ID:zy6uYR2k0
千歌「ま、まあ、なんか力は感じるし、大丈夫じゃないかな」

善子「でしょ!」

千歌(オーラはとてつもない、それがポジティブなものかは分からないけど)


『まもなく、抽選を始めます』

『くじを引かれる方は、舞台横に集合してください』


果南「ほら千歌、行っておいで」

千歌「うん」

ダイヤ「とにかく、日中高校と東洋高校だけは避けるのですよ!」

千歌「分かりました!」

822: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:43:24.46 ID:zy6uYR2k0
千歌(あぁ、緊張するなぁ)

千歌(前回はつい引き寄せられたのと違うくじを引いて失敗した)

千歌(今回はちゃんと、最初に思ったのを引かないと)

千歌(そもそも並んでる順番的に、外れくじの確率は1割程度)

千歌(流石に大丈夫なはずだよね)
 

『浦の星女学院さん、お願いします』


千歌「はい!」

823: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:44:06.56 ID:zy6uYR2k0
千歌(抽選箱、まだたくさん入ってる)

千歌(今回は注意して、引き寄せられたくじを――)


千歌「これだ!」バッ


『浦の星女学院、27番』


  おぉ~


果南「うわっ、日中高校じゃん」

鞠莉「見事に当たりくじを引いたわね」


千歌「あ、あれぇ」

824: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:44:34.98 ID:zy6uYR2k0
ルビィ「ぴ、ピギィ……」バタン

花丸「善子ちゃんのポンコツ!」

善子「し、知らないわよもう!」


ダイヤ「日程的にも、難しいところに入りましたね」

ダイヤ「試合間隔がもう1つの外れくじ、東洋より短い」

鞠莉「ポジティブに考えれば、いつかは当たる可能性が高い相手だから、順番が先になっただけとも言えるけど」

ダイヤ「ええ、そう考えるべきでしょう」

825: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:45:04.57 ID:zy6uYR2k0
千歌「ごめんみんな……」

曜「大丈夫だよ、強い相手とやれる方がお得じゃん!」

花丸「相変わらず、底抜けてポジティブずら……」


ルビィ「でも日中は過去に勝ってる相手、イメージはいいもんね」

梨子「そうね、プレッシャーのかかる初戦、いいイメージで入ることは大事だわ」

果南「そうそう、よく考えたら結構いいくじなんじゃないかな」


千歌「みんな……」

826: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:45:37.22 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「早速帰って対策を練りましょう」

ダイヤ「打順、先発の順番についても考えていかないといけません」

鞠莉「そうね」

ダイヤ「決勝は間違いなく東洋高校、そこから逆算していきましょう」

曜「ヨ―ソロー!」


千歌「よーし、みんな」

千歌「優勝目指して、頑張っていこうね!」

全員「「「おー!」」」

827: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:46:14.85 ID:zy6uYR2k0
 ―部室―


ダイヤ「早速ですが、確定させなければならないことがいくつかありますね」

ダイヤ「1つは打順とポジション」

ダイヤ「もう1つは、試合ごとの先発ピッチャーですね」


千歌「打順は私とダイヤさんで考えてきたんだよ」

ダイヤ「ええ」

828: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:46:42.90 ID:zy6uYR2k0
曜「どんな感じなの?」

千歌「えっとね、まず梨子ちゃんが先発のときはこんな感じ!」


1:中・善子
2:左・ダイヤ
3:遊・曜
4:三・果南
5:右・鞠莉
6:捕・千歌
7:投・梨子
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ

829: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:47:10.36 ID:zy6uYR2k0
千歌「曜ちゃんが先発の時はこっち!」


1:遊・ダイヤ
2:三・千歌
3:投・曜
4:左・果南
5:右・鞠莉
6:中・梨子
7:捕・善子
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ

830: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:47:37.37 ID:zy6uYR2k0
千歌「果南ちゃんが投げるときはこうね!」


1:中・善子
2:左・ダイヤ
3:遊・曜
4:投・果南
5:捕・鞠莉
6:三・千歌
7:右・梨子
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ

831: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:48:20.93 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「できるだけ切れ目のない打線を意識しつつ、先発捕手の打順は低めに設定しました」

果南「いいんじゃないかな」


善子「ほとんどダイヤが決めたんでしょ」

千歌「うん、そうだよ」

千歌「そうじゃないと安心できないでしょ」

梨子「自分で言っちゃ駄目だよ……」


ダイヤ「千歌さんは謙遜しているだけで、ちゃんと2人で決めましたよ」

ダイヤ「実際、ほぼ同意見ではありましたが」

832: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:49:00.77 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「もう1つ、先発投手についてね」

ダイヤ「日程的には、初戦がシード校との対戦になったのでやや楽になりました」

鞠莉「計4試合、初戦の日中、決勝の東洋も含めてそこは実質確定」

果南「先発は2人で交互に回す感じかな」

曜「そうだね」


梨子「そうなると、最大の難敵ある東洋相手には曜ちゃんが投げるべきだから――」

ダイヤ「初戦の先発は、梨子さんにお願いします」

梨子「はい」

833: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:49:27.39 ID:zy6uYR2k0
梨子「日中高校か……」

曜「前にHRを打たれたビィシーさんにリベンジだね」

梨子「うん、そうだね」

千歌「大丈夫だよ、今の梨子ちゃんは前より成長してるから」

善子「そうよね」

花丸「前回、久しぶりの実戦でも1失点だったんだから、今回は余裕ずら」


ダイヤ「いえ、そうとも言いきれません」

善子「そうなの?」

834: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:49:53.42 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「日中高校ですが、前回の対戦とは大きく違う点があります」

ダイヤ「他校の生徒といさかいを起こして謹慎していた主将の立波(たちなみ)選手」

ダイヤ「同じく部員間の金銭問題で謹慎していた福富(ふくとめ)選手の2人が戻ってきました」


千歌「……あの、日中高校ってもしかして結構ヤバめ?」

ダイヤ「……大きな問題を起こしたことは、ありません」

ダイヤ「数年前の主将が、自分の名前を漢字で書けない、ひらがなだらけのメンバー表を提出したとなどいう逸話は残っていますが……」

梨子「な、なるほど……」

曜(ツッコむなってことかな)

835: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:50:21.10 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「さて、話は戻ります」

ダイヤ「立波選手は強烈なキャプテンシーと高い技術、勝負強さを持ったセカンド」

ダイヤ「福富選手は三拍子揃った一流の外野手です」

千歌「かなりレベルの高い選手ってこと」


ダイヤ「はい。少なくとも他の日中高校の選手より格上といってもいいでしょう」

ダイヤ「2人の存在を考えれば、前回の対戦より打力、守備力共に圧倒的に高くなっているはず」

ダイヤ「新しいオーダーも、一応予想してきました」

836: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:50:48.69 ID:zy6uYR2k0
1:右・凸田
2:左・小島
3:中・福富
4:一・ヴィシー
5:ニ・立波
6:三・福井
7:遊・東田
8:捕・梅井
9:投・中野

837: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:51:26.38 ID:zy6uYR2k0
ルビィ「上位打線、厚みが増してるね」

梨子「前回の対戦でいい打撃をされた選手と、それより能力のある2人が揃ってる」


ダイヤ「そのとおりです」

ダイヤ「上位だけを見れば、十分全国レベルといえるでしょう」

ダイヤ「日中の堅守を考慮すれば、ほぼ間違いなくロースコアゲームになる」

ダイヤ「細かいミスが命取り、集中して試合に挑む必要があります」


果南「だから責任重大だよ、初戦のバッテリーは」

千歌「うん」

曜「信じてるよ、梨子ちゃん、千歌ちゃん」

梨子「任せて、しっかり押さえてみせるわ」

838: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:52:03.26 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「その意気よ、2人とも」

ダイヤ「今日のところはひとまず解散にしますが、明日から日中対策の練習です」

ダイヤ「大変ですが、頑張っていきましょう」

千歌「はい!」


曜「よーし、善子ちゃん帰って練習しよ」

善子「そうね」

ルビィ「ルビィたちもだね」

花丸「うん!」

梨子「私は残って日中の選手のビデオを見直しますね」

ダイヤ「それなら私もお付き合いします。解説も必要でしょうから」


鞠莉「私たちはまた特訓?」

果南「そうだね、千歌」

千歌「うん」

839: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:52:44.93 ID:zy6uYR2k0
 ―グラウンド―


果南「次、ラスト!」シュッ


千歌「!」バシッ


千歌「ふぅ」

果南「いいね、完璧!」

千歌「そうかな」

840: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:53:12.60 ID:zy6uYR2k0
果南「ちゃんと捕球できるようになったし、バウンドしたボールも後ろに逸らさなくなった」

果南「ケチの付けどころはない、完璧に捕れるようになったね」

鞠莉「この前の練習で梨子も感心していたし、頑張ったわね」

千歌「えへへ」


果南「これならもう大丈夫、安心して任されられる」

鞠莉「私の捕手も、お役御免かしら」

果南「それは分かんないよ、点差がついたときとか投げるかも」

841: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:53:39.32 ID:zy6uYR2k0
千歌「ねえ、果南ちゃん」

果南「んっ、どうした」

千歌「もう1つ、我儘言ってもいいかな」

果南「なに?」


千歌「カーブのボールも、投げてみて欲しいの」


果南「……千歌?」

千歌「私は諦めていない、善子ちゃんからレギュラーを奪うことを」

千歌「曜ちゃんと、もう一度バッテリーを組むことを」

842: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:54:06.74 ID:zy6uYR2k0
千歌「普通かもしれない、同じ量の努力では天才に敵わないのかもしれない」

千歌「けど私と曜ちゃんには、積み重ねてきた歴史がある」

千歌「一緒に育って、遊んで、笑って、泣いて」

千歌「曜ちゃんの力を誰よりも引き出せるのは、私のはずだから」


鞠莉「ちかっち」

千歌「鞠莉ちゃん」

鞠莉「気持ちは分かるけど、それは今、必要なこと?」

843: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:54:32.37 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「どちらにしても、この大会中は曜と善子のバッテリーが動くことはない」

鞠莉「私たちには時間がないの」

鞠莉「今は他の練習をしたり、数日後に始まる試合に備えて休んだりした方がいい」

鞠莉「その練習は大会が終わってからでも、遅くないんじゃないかしら」

千歌「それは……」


果南「いいじゃん、別に」

鞠莉「果南……」

844: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:55:03.87 ID:zy6uYR2k0
果南「思い立ったら即行動、千歌らしくて」

果南「私はそんな千歌が好きだし、浦の星の野球部はその行動力のおかげで復活できた」

果南「今回もさ、その勢いに任せたら上手くいくかもしれないよ」

鞠莉「そんな、根拠のない」


果南「いいじゃん、可愛い後輩の頼みを聞いてあげようよ」

果南「私たち、千歌のおかげでまた一緒に野球ができたんだから」

千歌「果南ちゃん……」


鞠莉「……もう、仕方ないわね」

千歌「鞠莉ちゃん!」

845: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:55:37.72 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「ちかっちが満足するまで、とことんやりましょう」

鞠莉「私も最後まで付き合うわよ、ここまで来たら」

千歌「ありがとう、2人とも!」


果南「鞠莉、カーブのボールは?」

鞠莉「用意してあるわよ、もう」

果南「さては予測してたでしょ、このパターン」

鞠莉「ふふっ、どうかしら」


果南「時間はない、今までより厳しめに行くからね」

千歌「了解!」

846: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:56:58.42 ID:zy6uYR2k0
 ―試合当日・グラウンド―


むつ「ラスト!」キン

千歌「オーライ!」パシッ

むつ「ナイス千歌!」


曜「むっちゃん、ノック上手くなったね」

むつ「へへっ、これでも結構頑張って練習したからさ」

千歌「合宿もそうだけど、部の活動にもよく参加してくれていたもんね」

847: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:57:39.93 ID:zy6uYR2k0
よしみ「なんかさ、千歌たちを見てたら熱くなっちゃって」

いつき「普段の部活には出れなくても、3人で集まって練習したりとかね」

むつ「特にいつき、守備上手くなったもんね」


いつき「出番があるかは分からないけど、もう前みたいなミスはしたくないから」

千歌「みんな……」


曜「3人とも、ほとんど正式な部員みたいなもんじゃん」

むつ「あはは、そうかも」

848: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:58:09.69 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「さて……」


〔スコアボード〕
【浦の星】
【日中】


曜「今日は先攻か」

ダイヤ「私たちのプラン的には好都合」

ダイヤ「とにかく先制点、それを奪うことが重要です」

ダイヤ「初回から私か善子さんが出塁して、曜さんが返す」

ダイヤ「中野さんは好投手ですが、私たちなら十分に可能なはずです」

849: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:58:36.07 ID:zy6uYR2k0
曜「でもあれ――」


 キンッ

立波「!」バッ――パシッ


 カキーン!

福富「オーライ!」ダッ――パシッ


曜「評判通り、上手いね2人とも」

梨子「前回より、チーム全体から引き締まった空気も感じる」

850: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:59:02.04 ID:zy6uYR2k0
曜「負けないようにさ、私たちも何か気合が入ることやりたいよね」

ダイヤ「そうですわね」

善子「それなら私の催眠術で、全員が自信に満ち溢れた状態に――」

花丸「それは駄目ずら」ビシッ

ルビィ「失敗して変なことになったら大変だよ……」


千歌「円陣でも組む?」

果南「いいね、定番じゃん」

千歌「じゃあダイヤさんを中心に――」

851: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 06:59:32.31 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「私ですか?」

千歌「だって、いつもみんなを引っ張ってくれてるのはダイヤさんですし」


果南「いやいや」

鞠莉「やっぱり、そういうのはキャプテンの仕事でしょ~」

千歌「うぇ、私!?」

曜「そうだよ」


千歌「で、でも」

ダイヤ「私はあくまでも裏方、チームを鼓舞するのは向いていませんわ」

千歌「……分かりました」

852: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:00:01.19 ID:zy6uYR2k0
曜「アドリブでもいいから、滑っても笑いになるし」

千歌「……一応ね、こういうときの為に考えていた言葉はあるんだけど」

曜「どんなの?」

千歌「えっとね――」ヒソヒソ


曜「おぉ、いいじゃんそれ」

梨子「うん、私もいいと思う」


千歌「じゃあ、いくよ」スゥ

853: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:00:29.99 ID:zy6uYR2k0
千歌「行こう! 全国大会へ向けて!」

千歌「私たちの、第一歩に向けて」

千歌「今、全力で輝こう!」


千歌「0から1へ!」

千歌「1から、その先へ!」

全員「「「Aqours――」」」

全員「「「サンシャイン!!!」」」

854: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:02:27.99 ID:zy6uYR2k0
現時点能力値

 Aqours


 
 千歌:弾道2 ミF パE 走E 肩E 守D 捕C  右右  捕(一・三)
    調子安定 チームプレー○ キャッチャーC

  曜:弾道3 ミC パB 走A 肩A 守B 捕B  右右  投/遊
   :球速134 コンE スタB カーブ5 スライダー1
    積極打法 積極盗塁 調子極端 チャンスB エラー 併殺 人気者 広角打法
    速球中心 テンポ○ 乱調 奪三振 ノビA 短気

 梨子:弾道2 ミD パE 走D 肩C 守D 捕D  右右  投(中・左)
   :球速123 コンC スタC カーブ2 シンカー2 スライダー2 フォーク4
    キレB 打たれ強さB

ダイヤ:弾道2 ミD パG 走D 肩E 守D 捕D  右左  左(ニ・遊・中)
    アベレージヒッター 流し打ち いぶし銀 逆境○ チャンスA 粘り打ち

 鞠莉:弾道3 ミD パB 走D 肩C 守C 捕D  右右  右(捕・一)
    悪球打ち 連打 チャンスC

 果南:弾道4 ミE パA 走B 肩A 守E 捕E  右右  三(投・左)
   :球速138 コンG スタS
    強振多用 積極打法 プルヒッター 送球E 扇風機 盗塁F 走塁E
    四球 短気 闘志

ルビィ:弾道2 ミC パE 走C 肩E 守C 捕D  右左  二(遊)
    積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C 
    エラー チャンスE バント職人

ルビィ(弱気状態)
   :弾道1 ミF パF 走C 肩E 守F 捕G 
    積極走塁 積極盗塁 選球眼 内野安打 盗塁A 走塁C 
    扇風機 チャンスG エラー バント職人

 花丸:弾道4 ミG パF 走F 肩F 守E 捕D  右右  一
    エラー バント○

 善子:弾道2 ミD パD 走D 肩D 守D 捕D  右右  中(捕・遊・右・左)
    選球眼 悪球打ち 意外性

 むつ:弾道1 ミG パG 走E 肩E 守E 捕F  右右  三
    
いつき:弾道1 ミG パF 走E 肩G 守D 捕E  右右  中(左)
    
よしみ:弾道2 ミF パE 走F 肩F 守F 捕F   右右  右(中)

855: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:03:33.33 ID:zy6uYR2k0
Aqours以外


 μ’s

こころ:弾道2 ミA パE 走D 肩C 守S 捕S  右右 捕
    キャッチャーA チャンスB 流し打ち 人気者

 板本:弾道3 ミB パC 走C 肩B 守A 捕C  右右 遊(一・ニ・三)
    チャンスB 流し打ち 固め打ち 広角打法 人気者

ここあ:弾道2 ミE パE 走D 肩C 守B 捕C  右右 投
   :球速126 コンC スタC 高速スライダー5 シンカー1 フォーク1
    対左C ピンチB

 笠野:弾道4 ミG パB 走F 肩A 守E 捕E  右右 投
   :球速137 コンF スタC カーブ2 チェンジアップ2
    速球中心 短気 乱調 四球 重い球 闘志

 
 Saint Snow

 聖良:弾道4 ミD パA 走D 肩A 守C 捕C  右右 投(一・右)
   :球速135 コンD スタS スプリット5 カーブ2
    パワーヒッター 威圧感 人気者
    重い球 キレC 打たれ強さE

 理亞:弾道2 ミC パD 走B 肩C 守B 捕C  右左 捕(左・中・右)
    キャッチャーB チャンスメーカー 三振 チャンスE エラー

 間宮:弾道3 ミE パD 走C 肩S 守A 捕D  右右 遊(投・ニ・三)
    守備職人 バント職人 チャンスE 粘り打ち
   
 柳澤:弾道4 ミB パB 走B 肩B 守E 捕E  左左 中(右)
    三振 パワーヒッター

856: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:05:07.35 ID:zy6uYR2k0
〔第10回全国女子高等学校野球選手権 静岡県予選1回戦〕

【浦の星女学院『Aqours』(先攻)VS日中高校『ドラゴンズ』(後攻)】


 先発メンバー


Aqours

1:中・善子
2:左・ダイヤ
3:遊・曜
4:三・果南
5:右・鞠莉
6:捕・千歌
7:投・梨子
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ


ドラゴンズ

1:右・凸田
2:左・小島
3:中・福富
4:一・ヴィシー
5:ニ・立波 
6:三・福井
7:遊・東田
8:捕・梅井
9:投・中野

857: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:05:53.88 ID:zy6uYR2k0
【1回表】 Aqours0-0ドラゴンズ


中野「よっ」シュッ

梅井「――」バシッ


善子(相変わらず球速はある)

善子(左で120キロ台後半)

善子(制球も特別に良い変化球もあるわけではないけど、これは厄介よね)

858: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:06:20.64 ID:zy6uYR2k0
 プレイボール!


  シュッ

 ストライク!


善子(初球は結構いいところ)

善子(前回と同じように、ぶつけてくれれば都合よかったのに――なんて)


中野「りゃっ」シュッ

善子(甘い!)

 カキーン!

859: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:06:47.60 ID:zy6uYR2k0
千歌「打った!」

花丸「これはヒットに――」


立波「おっと」パシ――シュッ

 アウト!


善子「駄目かぁ」


ルビィ「上手いねぇ、あの人」

梨子「セカンドは注意かな」

860: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:07:15.65 ID:zy6uYR2k0
『2番レフト黒澤ダイヤさん』


ダイヤ(それでも範囲は広いわけではないはず)

ダイヤ(私の打球速度を考えれば、範囲の広いショートの東田さんより、引っ張って一二塁間を狙うべき)


立波「……」ギロッ

ダイヤ(しかし、あの迫力)

ダイヤ(できることなら避けたいものですが)


 シュッ

ダイヤ(甘いコース!)キンッ


ヴィシー「ヨユウダネ」パシッ


 アウト!

861: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:07:44.11 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ(球威に押されてしまいましたか……)


曜「中野さん、調子良さそうですね」

ダイヤ「ええ、球はきてますね」

曜「分かりました」



『3番ショート渡辺さん』


曜(ここまでは2人とも全球ストレート)

曜(私にも球威で押してくるつもりかな)

862: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:08:16.75 ID:zy6uYR2k0
 シュッ

曜(これは――)


 ストライク!


曜「スライダー……」

曜(次は――)


シュッ


曜(打てる!)キンッ

 ファール!


曜(今の、シュートかな)

曜(マズイ、2球で追い込まれた)

863: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:08:42.92 ID:zy6uYR2k0
千歌「曜ちゃん、大丈夫かな」

善子「平気よ、曜さんならここからでも」


曜(1球外すかな)

曜(釣られないように注意して――)


中野「ふっ」シュッ

曜「!?」


梅井(よし!)バシッ


 ストライク、バッターアウト!

864: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:09:13.06 ID:zy6uYR2k0
曜「しまった、3球勝負か……」


鞠莉「完全に裏をかかれたわね」

果南「でもいい球だった。あれじゃあ打っても凡打だったと思う」


花丸「3者凡退……」

ルビィ「うゅ……」

千歌(マズイよ)

千歌(先制攻撃どころか、むしろダメージを受けちゃった感じかな)


千歌「梨子ちゃん、失点しないように頑張ろう」

梨子「ええ、そうね」

865: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:09:41.20 ID:zy6uYR2k0
【1回裏】 Aqours0-0ドラゴンズ


『1番ライト凸田さん』


凸田「しゃっす!」


千歌(……この人、前は太めだったのに痩せたな)

千歌(前はスラッガータイプだったのに、今日は1番起用)

千歌(スタイルとかも変わったのかな)

千歌(とりあえず、低めに変化球を)


 シュッ――カキーン!

866: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:10:18.63 ID:zy6uYR2k0
千歌「初球から!?」

善子「低めをすくい上げて、器用ね」パシッ


千歌(綺麗にセンター前)

千歌(あんな打撃をする人じゃなかったのに)


千歌「ごめん、軽率だった」

梨子「私もビックリしたわ、前は振り回す選手だったのに」



『2番レフト小島さん』


千歌(次はきっとバントだよね)

小島「……」


千歌(でも小島さん、前は1番を打ってた人)

千歌(何か仕掛けてきても、おかしくないかも)

867: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:10:47.61 ID:zy6uYR2k0
小島「……」スッ


千歌(バントの構え、流石に送るかな)

千歌(素直にアウトをもらおう――)

 シュッ


小島「!」キンッ


千歌(バスターで叩きつけた!?)

千歌「果南ちゃん!」


果南「くっ」

千歌「ファースト!」

果南(2塁は無理か)シュッ

868: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:11:28.36 ID:zy6uYR2k0
花丸「ずらっ」パシッ

 アウト!


千歌(これなら結果は同じ――)

曜「花丸ちゃん、サード!」

ルビィ「ランナー2塁蹴ってる!」


花丸「え、えっ」シュッ

 セーフ!


果南「やられた……」

梨子「は、早い」


曜(走塁意識が高い)

千歌(前から体格の割に足は速かったけど、ここまで変わるなんて)

869: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:11:55.35 ID:zy6uYR2k0
『3番センター福富さん』


千歌(しかもここでこの人)

千歌(過去の映像を見る限り、打撃は相当レベルが高い)

千歌(素行に問題がなければ、代表クラスかもしれない選手)


千歌(様子を見た攻めをしたいけど、初回からランナーは溜めたくない)

千歌(勝負をするしかない)


 シュッ――ボール

千歌(ギリギリだったのに、平然と見送られた)

千歌(選球眼は良さそう)

870: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:12:24.60 ID:zy6uYR2k0
千歌(次はストライクが欲しい)

千歌(スライダーを内寄りに)

 
 シュッ――カキーン!


千歌「ヤバッ」

ルビィ「鞠莉ちゃん!」


鞠莉「くっ」

 フェア!


曜「頭上超えた!」

ルビィ「セカンド!」


 セーフ!

871: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:12:51.47 ID:zy6uYR2k0
梨子「ツーベース……」

千歌(これもコースは悪くないのに持っていかれた)

千歌(早々に失点……マズいよ、思ったより日中の打線は強い)

千歌(しかもこの後、問題の――)


『4番ファーストヴィシーさん』

ヴィシー「~♪」


千歌(前回の対戦ではずいぶん苦労させられた選手)

千歌(……ここはもう、出し惜しみしている場合じゃない)

872: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:13:17.36 ID:zy6uYR2k0
梨子「やっ」シュッ

ヴィシー(甘いネ!)ブンッ


 ストライク!

ヴィシー「!?」


千歌(よしっ、上手くいった!)

千歌(フォーク、きちんと制球できてる)

千歌(これで次はストレートを――)


 キン

873: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:13:45.58 ID:zy6uYR2k0
曜「キャッチャーフライ!」

千歌「オーライ!」パシッ


 アウト!


千歌「ナイス梨子ちゃん!」

梨子「うん!」

千歌(これでツーアウト)

千歌(次を抑えれば、最少失点で済む)

874: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:14:12.79 ID:zy6uYR2k0
『5番セカンド立波さん』


立波「お願いします」


千歌(雰囲気、あるな)

千歌(見た目はスタイリッシュで格好いい感じなのに、謎の鋭さがある)

千歌(曜ちゃんと同じ? ううん、それとは違うまた独特な)


千歌(念のため、この人も初球フォークで)

千歌(まだ情報のない球なら絶対に打たれない)

千歌(意識させて、他の球で打ち取ろう)

875: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:14:38.68 ID:zy6uYR2k0
梨子「えいっ」シュッ


立波「ふっ」カキーン!


千歌「えっ」

花丸「右中間――抜かれたずら!」

鞠莉「くっ」シュッ


 セーフ!


曜「また、ツーベース」

千歌「な、なんで」

876: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:15:09.12 ID:zy6uYR2k0
立波(ふふふ、驚いた顔をしてる)

立波(私の情報収集能力を舐めないことね)

立波(浦の星と関係の近いチームを調べて、選手に『お願い』したら、あっさり教えてくれた)

立波(誰にも知られていないと思い込んでいる、新球の存在)


立波(追い込まれてからのフォークを警戒しての早打ち)

立波(早いカウントで使い始めたら、素知らぬ顔で狙い撃ち)

立波(理解できてなかった1名を除いて、しっかりハマった)

立波(ヴィシーは試合後、しっかり『指導』しないといけないけど……)

877: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:15:36.64 ID:zy6uYR2k0
千歌「梨子ちゃん!」

梨子「狙われていたみたいね、フォーク」

千歌「どうして、外部相手には見せないようにしてたのに」


梨子「……考えても仕方ないわ」

梨子「とにかくこの後の下位打線はしっかり抑えましょう」

千歌「そ、そうだよね」

千歌「この後、怖いバッターはいない。集中していこう」

梨子「ええ」

878: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:16:11.50 ID:zy6uYR2k0
【3回表】 Aqours0-2ドラゴンズ


花丸「ずらっ」ブン

 バッターアウト!


善子「先頭の花丸はあっさり三振……」

千歌「マズいね、ちょっと手がつけられないよ」


『9番セカンド黒澤ルビィさん』


曜「左対左、いつも緊張でガタガタな1打席目」

梨子「この場面のルビィちゃんは、流石に難しいかな」

千歌「だね」

879: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:16:51.36 ID:zy6uYR2k0
花丸「大丈夫ですよ、今のルビィちゃんなら」

千歌「どうして?」

花丸「今日は気絶してないですから」

曜「それ、基準になるの」


 カキーン!


曜「うわっ」

千歌「本当に打った――長打コース!」


 セーフ!

ルビィ「ふぅ」


曜「二塁打だ!」

花丸「流石ルビィちゃんずら!」

ダイヤ(……強くなりましたね、ルビィ)

880: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:17:19.12 ID:zy6uYR2k0
『1番センター津島さん』


善子(この試合初めての得点圏)

善子(私が返さないと!)


 カキーン!


花丸「抜けた!」

千歌「善子ちゃん!」

鞠莉「1・3塁、チャンスね!」


882: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:18:46.82 ID:zy6uYR2k0



『2番レフト黒澤ダイヤさん』


果南「ダイヤ、頼むよ!」

ダイヤ「ええ」


ダイヤ(さて、この状況)

ダイヤ(スクイズもありですが――)


千歌(打て、打て!)


ダイヤ(ヒッティングですか)

ダイヤ(私は特別バントが得意なわけではない)

ダイヤ(次は曜さん、できるだけランナーは貯めたいですからね)

883: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:19:14.60 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ(しかし、普通に転がしては併殺もある)

ダイヤ(ここは――)


 カキン


千歌「叩きつけた!」

梨子「これならホームとセカンドは大丈夫――」


東田「っと」パシッ――シュッ

 アウト!


果南「内野安打はならずか」

ダイヤ「そこまで都合よくはいきませんね」

884: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:19:41.56 ID:zy6uYR2k0
ルビィ「でも1点返したよ!」

千歌「しかも次が曜ちゃん!」

花丸「だけど、いつもみたいに敬遠されちゃうかも」


ダイヤ「おそらく大丈夫ですよ」

花丸「ずら?」

ダイヤ「中野さんは右打者から空振りを取れる変化球を持っていない本格派」

ダイヤ「つまり、果南さんが得意なタイプなのです」

ダイヤ「私たちをしっかり研究しているなら、おそらくここは勝負でしょう」

885: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:20:09.03 ID:zy6uYR2k0
『3番ショート渡辺さん』

曜(さて、どうかな)


立波「中野、梅井」

立波「勝負よ、分かってるね」

中野「はい」


曜(おっ、勝負っぽい)

曜(野球部に入ってからこのパターンは珍しい)

曜(第1打席、三振したのも悪いことばかりじゃなかったかな)

曜(あと、果南ちゃんには感謝だね)

886: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:20:34.15 ID:zy6uYR2k0
曜(さっきは上手くやられた)

曜(でも今度は――)


 シュッ


曜(しっかり打つ!)カキ――ン!


千歌「センターオーバー!」

ルビィ「長打コースだ!」


善子「これで――同点!」

花丸「善子ちゃん帰ってきた!」

887: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:21:02.78 ID:zy6uYR2k0
曜(これならサード行ける!)ダッ


千歌「2塁蹴った!」

梨子「曜ちゃんの足なら余裕で――」


福富「ふっ!」シュッ――ギュン

福井「うぉ」パシッ


曜「なっ」

 アウト!

888: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:21:30.52 ID:zy6uYR2k0
ルビィ「ピギィ!?」

ダイヤ「あれを刺すとは……」

花丸「す、凄い肩」


善子「曜さん……」

曜「驚いたよ、あそこまで肩がいいなんて」

鞠莉「これからは、センターには注意ね」


千歌「でも同点には追いついたよ!」

果南「ここから再スタート、しっかり守っていこう」

梨子「はい!」

889: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:23:41.02 ID:zy6uYR2k0
【6回表】 Aqours2-2ドラゴンズ


『2番レフト黒澤ダイヤさん』


千歌「5回終わって同点のまま……」

鞠莉「お互いに上位から始まるこの回は大事ね」

果南「先頭、頼むよ!」


ダイヤ(私はここまでノーヒット)

ダイヤ(ここで打って、最上級生の威厳を示さなくては)

890: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:24:07.41 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「よろしくお願いいたします」

ダイヤ(球筋は掴めてきている)

ダイヤ(捉えれば、強い打球も打てるはずです)


中野「やっ」シュッ


ダイヤ(外――イメージは三遊間!)キンッ


ルビィ「抜けたよ!」

花丸「ダイヤさん!」


ダイヤ「ふぅ」

ダイヤ(ひとまず公式戦初安打ですわね)

891: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:24:35.12 ID:zy6uYR2k0
『3番ショート渡辺さん』


曜「いいね、続かないと!」


 カキーン!


ルビィ「センター前!」

花丸「これで1・2塁ずら!」

千歌「まだノーアウト、大チャンスだよ!」


鞠莉「果南、私にランナーを残しておいても大丈夫よ」

果南「いやいや、私が全部返しちゃうから」

892: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:25:04.51 ID:zy6uYR2k0
『4番サード松浦さん』


果南「よっしゃ!」


梅井(変化球?)スッ

中野(嫌だ、直球)ブンブン

梅井(仕方ない――でも低め、低めに)

中野(了解!)シュッ


果南(ストレート!)カキ――ン!


千歌「痛烈!」

梨子「ゴロだけど強烈な打球――」

893: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:25:34.57 ID:zy6uYR2k0
立波「らっ!」バシッ!


花丸「ずらっ!?」

梨子「あれを捕るの!?」


立波「東田!」シュッ


 アウト!


東田「くっ」シュッ

ヴィシー「イイネ!」パシッ


 アウト!

894: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:26:01.69 ID:zy6uYR2k0
善子「ゲッツー……」

花丸「いいあたりだったのに……」


果南「マジか」

曜「果南ちゃん、ドンマイ」

果南「あれ捕られるかぁ……」

曜「届く範囲ではあるけど、あの打球速度に反応するなんて」


果南「鞠莉、悪いけどお願い」

鞠莉「分かってる、ちゃんと取り返してくるわ」

895: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:26:29.04 ID:zy6uYR2k0
『5番ライト小原さん』


中野「ふぅ」


鞠莉(安心しきった顔)

鞠莉(警戒しなければいけない打者の連続、ピンチでの併殺)

鞠莉(間違いなく、気が抜けた状態)

鞠莉(それは敵チーム全体に言えるわね――2人を除いて)


立波(少し、嫌な予感がするわね)

福富(……)

896: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:26:55.43 ID:zy6uYR2k0
鞠莉(狙うのは初球)

鞠莉(球種はストレート)

鞠莉(外れたらソーリーよ)


 シュッ


鞠莉(きた!)


 カキ――――ン!


中野「あっ」

立波「馬鹿……」

897: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:27:21.16 ID:zy6uYR2k0
千歌「完璧!」

曜「ホームランだ!」

果南「鞠莉、最高だよ!」


ダイヤ「鞠莉さん、ナイスバッティングですわ」

鞠莉「サンキューダイヤ!」


福富「あーあ」

凸田「やっちゃった」

898: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:27:49.21 ID:zy6uYR2k0
中野「……」

梅井「くそっ」


立波「中野、梅井!」

立波「下を向くな! まだ2点差だよ!」


中野「立波さん……」

梅井「そうだ、気合いを入れ直そう!」

梅井「まだ6回、反撃のチャンスは十分にある」

中野「……そうね!」

899: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:28:19.98 ID:zy6uYR2k0
『6番キャッチャー高海さん』


中野「らっ!」シュッ


 バッターアウト!


千歌「私、こんな役ばっかり……」

果南「ドンマイ、今のは相手が気合入ってたからね」

鞠莉「捕手の一番の仕事は抑えること、切り替えていきましょう」

千歌「う、うん!」

900: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:28:46.88 ID:zy6uYR2k0
【7回裏】 Aqours4-2ドラゴンズ 


千歌(7回)

千歌(そろそろ曜ちゃんと交代を考えてもいいタイミング)

千歌(でも今日の梨子ちゃんは2回以降、1人しかランナーを出していない好調ぶり)

千歌(曜ちゃんも自分から準備をする気配もないし)

千歌(このまま、最後までいけるかな)

901: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:29:12.81 ID:zy6uYR2k0
『5番セカンド立波さん』


立波(6回の攻撃はあっさり三者凡退)

立波(ここらで私が打たないと、このままいかれる)


千歌(初回はフォークを上手く打たれた)

千歌(ここは今日見せてないシンカーで様子を見よう)

梨子『コクッ』


立波(球種は気にしない、私なら打てる)


 シュッ

902: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:29:48.69 ID:zy6uYR2k0
立波(よし)

 カキーン!

千歌「センター前――」


梨子(先頭は出したくない!)バッ

 ビシッ


梨子「いっ」

千歌「梨子ちゃん!」


立波「右手に当てて――」

曜「くっ」パシッ――シュッ


 アウト!

ルビィ「曜ちゃん、ナイスカバー!」

903: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:30:16.03 ID:zy6uYR2k0
曜「梨子ちゃん!」

梨子「っ……」

千歌「だ、大丈夫!?」


梨子「ごめん、つい腕を出しちゃった……」

千歌「謝らなくていいよ、アウト取ったんだもん」

ルビィ「そ、それより腕」

千歌「そ、そうだよ、ちょっと見せて――」グイッ


梨子「っ」

果南「これは……」

904: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:30:53.20 ID:zy6uYR2k0
『治療の為、しばらくお待ちください』


立波「ついてなかったけど、ある意味それ以上の結果かな」

福富「また疑われますね、わざとやったとか、そんな感じで」

立波「相手が勝手に思い込むだけで、事実無根なんだけど」


立波「話しかけたら恐喝扱いで謹慎、普通に話を聞きにいったらビビッて何もせずともペラペラ話す」

福富「あなたの場合、その悪評を上手く利用するからたちが悪い」

立波「少しでも勝率を上げる為に使えるものは使う、それの何が悪いのかしら」

905: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:31:21.57 ID:zy6uYR2k0
医者「痛むかね」

梨子「……」コクリ


果南「……これは、交代だね」

千歌「いっちゃん、準備して」

いつき「分かった!」


ダイヤ「代わりの投手、普通に考えれば曜さんですが……」

千歌「今からじゃ準備もほとんどできないよね」

果南「私が投げるしかないね」

果南「肩を作るの、私の方が早いし」

906: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:31:54.05 ID:zy6uYR2k0
曜「いや、私が行くよ」

果南「でも」

曜「点差は少ない、緊急登板の果南ちゃんは怖い」

果南「それなら、私がいったん投げてから曜に代わるとか」


曜「どうせこの回を切らないと投球練習はできない」

曜「急いでボール触ってくるから、善子ちゃんにも伝えて」

千歌「う、うん」

曜「緊急だから苦労するかもだけど、バックよろしくね」

907: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:32:22.79 ID:zy6uYR2k0
【選手交代】

梨子→いつき


以下ポジション+打順

1:捕・善子
2:遊・ダイヤ
3:投・曜
4:左・果南
5:右・鞠莉
6:三・千歌
7:中・いつき
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ

908: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:32:56.76 ID:zy6uYR2k0
曜「やっ」シュッ

 バンッ


善子「わっと」パシッ

善子(またワンバン……)


曜「うーん」シュッ


善子「っと」パシッ

善子(今度は酷いボール球)

善子(緊急登板とはいえ、これはちょっと……)

909: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:33:27.59 ID:zy6uYR2k0
『6番サード福井さん』


曜(思ったより投げられないな……)

 ボール


曜(なんかこう、感覚が合わない)シュッ

 ボール

曜(左のバッターボックス通過したよ……)

曜(……ストレートでこれか)


 ボール ボールフォア!


善子(やっぱり全然球が来てないわ)

善子(制球も滅茶苦茶、これじゃあ)

910: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:33:53.46 ID:zy6uYR2k0
『7番ショート東田さん』


東田「しゃっす」

東田(荒れてるな、渡辺曜)


曜(どうしようもないね、こりゃ)

曜(この手の登板、慣れてないからかな)

曜(でも置きに行くわけにはいかないし、とにかく投げてみるしか)


 ボール ボール ボール


 ボールフォア!

911: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:34:20.49 ID:zy6uYR2k0
曜「ヤバい、かな」

曜(ちょっと大見得切りすぎたかも)


千歌(どうしよう)

千歌(2人のランナーが帰ったら同点、この調子だとそれ以上も――)


善子「曜さん!」

曜「マズいね」

善子「ええ」

曜「仕方ない、とにかく打たせよう」


善子「それならスライダーを使いましょう」

善子「普段ほとんど投げない分、警戒されていないでしょうから」

曜「そうだね、分かった」

912: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:34:46.13 ID:zy6uYR2k0
善子「そろそろエンジンかけないとマズいわよ」

曜「そうだね」

善子「曜さんなら問題ないと、信じてるけど」

曜「うん」

曜「そろそろ肩もできて、感覚も合ってきた」

曜「もう簡単には打たせないよ」


『8番キャッチャー梅井さん』

梅井「よしっ」

梅井(ここで少しでも守備の分を取り返す)

913: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:35:16.32 ID:zy6uYR2k0
曜(2点差、この人の打力を考えたら間違いなく送りバント)

善子(真ん中でもいいわ)

善子(当てられても、最悪アウトを1つもらう気持ちで)

曜(よし!)シュッ


梅井(これは――)

梅井「くっ」ギンッ

梅井(しまった、殺せてない上にピッチャー正面)


曜「よし!」パシッ

善子「サード!」

914: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:35:42.58 ID:zy6uYR2k0
曜「千歌ちゃん!」シュッ


千歌(捕ったらすぐに投げれば併殺いける)

千歌(ここで、確実に――)


『負けたら廃校です』


千歌(っ)

 ポロッ


千歌「あっ」

善子「なっ」


立波「落としてる、走れ!」


千歌「くっ」パシッ

千歌(駄目だ、どこも全部間に合わない)

915: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:36:08.94 ID:zy6uYR2k0
ルビィ「ま、満塁……」

花丸「千歌ちゃん……」


千歌「ご、ごめん」

千歌「私、焦って、つい――」

曜「大丈夫、落ち着いて」

千歌「で、でも」

曜「本職じゃない場所を守ればミスも出る」

曜「まだ点を取られたわけじゃないから、ね」

千歌「う、うん」

916: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:36:35.48 ID:zy6uYR2k0
曜(みんな、硬い)

曜(プレッシャーで追い込まれてる)

曜(責任感の強いダイヤさん、千歌ちゃん)

曜(経験の浅いルビィちゃん、花丸ちゃん)

曜(明らかに正常じゃない)


善子「どうしたのよ」

曜「んっ?」

善子「まさか曜さんまで飲まれてるわけじゃないでしょ」

917: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:37:02.77 ID:zy6uYR2k0
曜「……メンタル強いね、善子ちゃん」

善子「信じてるから、曜さんのこと」

曜「それはまた、ありがたいね」


曜(私はこのチームのエース)

曜(チームが苦しいときに、流れを変える役目を担ってる)


曜「善子ちゃん」

善子「なによ」

曜「三振、奪いにいくよ」

善子「了解!」

918: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:37:30.76 ID:zy6uYR2k0
『9番中野さんに代わりまして、高平さん』


曜(立波さんに押し出された高平さん)

曜(悪くないバッターではあったはず)


曜(――でも、そんなのは関係ない)

曜(相手が誰だろうと、私はねじ伏せる!)シュッ


 ストライク!


高平「なっ」

919: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:37:58.23 ID:zy6uYR2k0
善子(よし、いつもの曜さんに戻ってきた)

善子(それどころか、いつも以上に球が走っているかも)

善子(これなら――直球で押せる!)


曜「ふっ」シュッ

 ストライク!


善子(もちろん、3球連続――)

曜(ストレート!)シュッ


 ストライク! バッターアウト!


高平「さ、3球で……」

920: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:38:27.11 ID:zy6uYR2k0
ルビィ「曜ちゃん、凄い」

ルビィ(この状況で、プレッシャーを感じていない)

ルビィ(むしろ、それを力に変えてるみたい)



『1番ライト凸田さん』


凸田「……」グッ


善子(敵ながらいい表情ね)

善子(一打同点、長打で逆転)

善子(まだピンチは終わってない――けど!)

921: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:38:55.33 ID:zy6uYR2k0
曜「ふっ」シュッ

 ストライク!


善子(この球を、打たれるとは思えない)

善子(このまま、ストレートで押す!)


曜「――」シュッ


凸田「くっ」キンッ

 ファール!

922: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:39:21.76 ID:zy6uYR2k0
善子(当てられた、流石ね)

善子(それなら、カーブで簡単に――)

曜(……)フルフル


善子(……困った人)

善子(この場面で力勝負、自己主張)

善子(だけどこの人には、それが許されるだけの力がある)

善子(それでこそ曜さんね)スッ

923: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:40:04.08 ID:zy6uYR2k0
曜(ストレート)

曜(コースは気にしない――思い切り投げ込む!)シュッ


凸田「!」


 ストライク! バッターアウト!



曜「よっしゃ!」


善子「曜さん!」

曜「よーしこー!」

千歌「曜ちゃん、流石だよ!」

果南「凄いよホント!」バシバシ」

曜「あはは、痛いよ~」

924: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:40:32.61 ID:zy6uYR2k0
梨子「曜ちゃん、ナイスピッチ!」

曜「梨子ちゃん、怪我は?」

梨子「思ったより重症ではなさそうよ」

曜「そっか、良かった!」



立波「凸田が、ここで見逃し三振」

福富「半端ないね、ありゃ」

立波「相手が悪すぎるな、これは」

福富「流石のあなたでも、この空気は辛いね」

立波「でも諦めない、最後まで」

福富「ええ」

925: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:41:06.61 ID:zy6uYR2k0
【9回裏】 Aqours6-2ドラゴンズ


立波(9回表に2点、か)

立波(リリーフで投げた田馬、調子はよかったんだけどな)

立波(赤髪ちゃんに粘って出塁されて、渡辺曜のツーラン)

立波(結局、流れどおりの展開になった)



『5番セカンド立波さん』


立波(だけど野球は最後まで分からない)

立波(先頭の私が出塁すれば、十分にチャンスはある)

926: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:41:36.36 ID:zy6uYR2k0
善子(ここを切れば実質試合は決まる)

善子(この人の打撃技術は一級品)

善子(変化球に頼るより、力で押し切るわよ)スッ

曜(うん)コクッ

 シュッ


立波「っ」ブン

 ストライク!


立波(女子でこの直球は反則だ……)

立波(とにかくバットを短く持って、合わせて――)

927: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:42:03.93 ID:zy6uYR2k0
曜「ふっ」シュッ

立波「くっ」ブンッ


 ストライク!


立波(私が当てられない?)

立波(いや、まだだ)


曜「――」シュッ

 ボール!

928: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:42:29.88 ID:zy6uYR2k0
立波(ワンボール、次はカーブ?)

立波(いや、今日の調子だとストレート)


曜「やっ!」シュッ

立波(見える――いけっ)キンッ


善子「ルビィ!」


ルビィ「はい!」パシッ

ルビィ「マルちゃん!」シュッ


花丸「ずらっ!」パシッ

 アウト!

929: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:42:57.29 ID:zy6uYR2k0
立波(……当たりは悪くなかったんだけどね)

立波(運には完全に見放された、か)


曜「ワンナウト!」

曜(あと2人だ)

曜(あと2人抑えれば、私たちの勝ち)


『6番サード福井さん』


 シュッ

福井「くっ」ギンッ



千歌「オーライ!」パシッ

 アウト!

930: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 07:43:30.36 ID:zy6uYR2k0
曜(ツーアウト)



『7番ショート東田さん』


東田(まだ、まだ終われない!)


曜(ストレート)シュッ

 ストライク!


曜(ストレート)シュッ

 ストライク!


善子(もちろん最後も――)

曜(ストレート!)シュッ


東田「っ」ブンッ

 バッターアウト!



【試合終了】Aqours6-2ドラゴンズ

931: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:41:09.62 ID:zy6uYR2k0
 ―試合後・部室―


千歌「初戦突破、おめでとう!」

曜「いやー、ドキドキだったね」


ルビィ「すぅ……すぅ……」スヤスヤ


花丸「ルビィちゃんも安心したのかな、寝ちゃったよ」

果南「こうしてみると、今日の試合で猛打賞の活躍をした選手とは思えないね」

善子「この子、地味に精神面強くなったわよね」

932: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:41:38.16 ID:zy6uYR2k0
千歌「そうそう、試合後に中野さんや梅井さんと連絡先交換してたときはビックリしたよ」

曜「でもさ、立波さんに話しかけられたときは気絶しかけてたよね」

千歌「それはほら、正直私も怖かったから、あの人」

曜「迫力凄いもんね」


千歌「でもエールを送ってくれたし、良い人なのかな」

曜「かもね」

果南「人は見た目で判断するなってことかな、やっぱり」

933: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:42:04.70 ID:zy6uYR2k0
  コンコン


曜「おっ」

千歌「きたかな」


鞠莉「ハーイ」

ダイヤ「みなさん、遅くなって申し訳ありません」

果南「ダイヤ、鞠莉」


梨子「ごめんね、道が少し混んでて」

曜「梨子ちゃん」

千歌「どうだった、検査の結果」

934: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:43:05.93 ID:zy6uYR2k0
善子母「幸い、骨に異常はなかったわ」

曜「あれ、コーチ」

善子「お母さん、どうしてここに」


善子母「桜内さんの送り迎えをしてたのよ」

善子母「試合も観戦してたけど、気づかなかった?」

善子「全然……」

曜「私も」

善子母「それだけ試合に集中していた証拠ということにしておきましょう」

935: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:43:37.71 ID:zy6uYR2k0
千歌「えっと、梨子ちゃんは次の試合は問題なく出れるの?」

梨子「次――流石にすぐには難しいかも」

善子母「無理をして悪化させるとマズいから」

善子母「万全を期すなら、少なくとも県大会の間は投球禁止ね」

曜「そっか……」

梨子「ごめんね、迷惑かけて」


梨子「でも野手としてなら、決勝には戻れるはずだから」

ダイヤ「曜さん、申し訳ありませんがここからは3連投でお願いします」

曜「うん、任せて!」

936: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:44:04.22 ID:zy6uYR2k0
善子母「気温も上がってきて、ここからの連投は大変だけど、無理なくね」

善子母「できるだけ抑えて投げること」

曜「えー、それは……」

善子母「……まあ、渡辺さんにそれは難しいわね」


ダイヤ「体力面も考えると、次の対戦相手、三島東高校にはコールドか大量点差を狙いたいですね」

ダイヤ「おそらく休む余裕があるのは、ここだけでしょうから」

善子母「ただ、野球はなにが起こるのか分からないスポーツよ」

善子母「とにかく油断せず、集中することね」

ダイヤ「はい」

937: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:44:30.39 ID:zy6uYR2k0
 ―数日後・2回戦―


 バッターアウト!


曜「ふぅ」

曜(暑いせいか、かなり疲れる)

曜(公式戦の緊張もあるのかな)


千歌「曜ちゃん、ナイスピッチ!」

千歌(回は7回表、ここまで8-0でリード)

千歌(既にツーアウト、あと1人押さえればコールド勝ち)


ルビィ「うぅ」

花丸「飛んでこないで欲しいずら……」

ダイヤ「……」

938: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:44:59.41 ID:zy6uYR2k0
千歌(そんな状況なのに、みんな固い)

千歌(無理もないか、だって――)


【三島東 000000  R0 H0 E0】


千歌(ここまで、2四球を除いて完ぺきな投球)

千歌(コールドになれば参考記録とはいえ、ノーヒットノーランがかかってるんだから)

千歌(もしここで変な守備をして、ヒットを記録されでもしたら――)

千歌(私も自分の所にボールが来るのは嫌だもん、正直)

939: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:45:26.90 ID:zy6uYR2k0
選手1「っ」


善子(震えてる――この状況じゃ無理もないわね)

善子(早く終わらせてあげましょう――ひたすら高めの直球よ!)

曜(おー、分かってるねぇ)


 ストライク! ストライク!


曜「そしてこれで――」シュッ


選手1「!」ブン


 バッターアウト!

940: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:46:13.42 ID:zy6uYR2k0
 ―試合後、部室―


曜「7回コールドかぁ」

梨子「残念だったわね、ノーヒットノーランが参考記録になったのは」

曜「正直助かったけどね、結構疲れてたし」

鞠莉「ノーノ―がなければ、点差的に果南のリリーフもありだったけど」

曜「次はお願いしようかな――あっ、やっぱ駄目だ」


鞠莉「なぜ?」

曜「次こそさ、参考記録じゃないノーノ―したいじゃん」

941: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:46:49.10 ID:zy6uYR2k0
果南「はいはい、冗談はそのぐらいでね」

鞠莉「流石にそれは無理よ、心意気としては買うけど」

曜「えー、本気なのに」

千歌「あはは、もしそんなことしたら、大変なことになるよ」


ダイヤ「次の準決勝、対戦相手の熱海南高校はエースの湯河原さん中心のワンマンチーム」

ダイヤ「打撃力だけで考えれば、今日の三島東より劣るかもしれませんが……」

花丸「それなら狙えちゃったり?」

ダイヤ「意識し過ぎて崩れるパターンが怖いので、あまり勧めはしませんね」

942: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:47:49.46 ID:zy6uYR2k0
曜「まあね、勝つのが目標なわけだし普通に完封を目指すよ」

梨子「完封が普通、スケールが違うわね……」

鞠莉「自信があるのはいいことね」

鞠莉「それが今日みたいな投球に繋がることもあるから」

ルビィ「うゅ」


善子「曜さん、絶対狙ってるでしょ」ヒソヒソ

曜「……今の私、かつてないほどに絶好調だからさ」ヒソヒソ

曜「不思議と打たれる気がしないんだよね、全く」ヒソヒソ

943: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:50:31.61 ID:zy6uYR2k0
 ―数日後・地方大会準決勝試合後―


湯河原「完敗、あなたには脱帽よ」

曜「ありがとうございます」


――――――――――――――――――――――――――
               R H E
浦の星 101000020  4 7 2
熱海南 000000000  0 0 1
 
――――――――――――――――――――――――――


千歌「本当に、ノーヒットノーラン……」

944: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:51:02.47 ID:zy6uYR2k0
ルビィ「凄いよ曜ちゃん!」

花丸「ゲームの最強投手みたい!」


曜「いやいや、たまたまだよ」

曜「今日は四死球6つも出したし、ファインプレーにも助けられただけだから」

善子「ルビィが2本ぐらいヒットをもぎ取って、マリーのライトゴロもあったわね」


千歌「これでツキが尽きてないといいけど」

果南「千歌」

千歌「あっ、今のはね、ツキと尽きてを――」

ダイヤ「最後まで言わなくてもいいですわ」

945: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:51:41.72 ID:zy6uYR2k0
曜「あはは、千歌ちゃんったら――おっと」ガクッ

善子「曜さん?」

梨子「大丈夫?」

曜「大丈夫、ちょっと疲れたのかな」


ダイヤ「130球以上投げていますし、炎天下での投球です」

ダイヤ「相当疲れは溜まっているのでしょう」

鞠莉「曜、今日は素直に帰りなさい」

善子「そうね、お母さんに車を出してもらって」

果南「善子も付き添ってあげなよ」

946: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:52:19.78 ID:zy6uYR2k0
善子「でも私は」

鞠莉「東洋戦に向けてのミーティングは明日にするから、今日は帰りなさい」

ダイヤ「バッテリーで今日の投球を振り返るのも一興ですよ」

果南「そうそう、せっかく2人で完璧な投球をしたんだから」

善子「そ、それもそうかしら」


ダイヤ「今日は解散にしますから、皆さんも早く帰って休みましょう」

ダイヤ「男子選手でも辛いこの炎天下、今は平気でも後から来る疲れが相当あるはず」

ダイヤ「決勝は明後日、今はできるだけ疲れを取ることに専念しましょう」

千歌「はーい」

947: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:52:48.43 ID:zy6uYR2k0
千歌「梨子ちゃん、私たちも帰ろ」

梨子「ええ」


花丸「ルビィちゃん、今日はマルのおうち来る?」

ルビィ「どうしようかな――そういえばお姉ちゃんは」

ダイヤ「私は、もう少し鞠莉さん達と話してから帰ります」

ルビィ「そう?」

ダイヤ「花丸さんの家でお世話になるのは構いませんが、きちんと疲れを取るのですよ」

ルビィ「はーい」

948: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:53:27.23 ID:zy6uYR2k0
ダイヤ「さて」

鞠莉「ダイヤ、どう思う」

ダイヤ「真夏に10日足らずで3連投」

ダイヤ「曜さんはスタミナがある方ですが、ずいぶん疲れているようですね」


果南「やれやれ、できるだけ休ませるつもりだったのに」

鞠莉「まさか本当にノーノ―をするなんて……」

ダイヤ「ずいぶん贅沢な悩みですがね」

949: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:53:54.72 ID:zy6uYR2k0
果南「あと心配なのは、調子の波かな」

ダイヤ「調子の波?」

果南「今のところ好調を維持しているけど、曜は割と調子が乱高下しやすいタイプ」

果南「決勝で突然崩れ出しても不思議じゃない」


果南「ここまで3試合で被安打は0」

果南「そうなると、逆に1つの安打から大崩れする可能性もあるよ」

ダイヤ「脆い部分がありますからね、曜さんには」

鞠莉「そうね」

950: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:54:53.96 ID:zy6uYR2k0
鞠莉「ただ、心配しても仕方ない」

鞠莉「今はとにかく、曜を信じるしかないわね」

果南「そうだね、私が東洋の打線を抑えられるとは、到底思えない」

ダイヤ「曜さんが打たれた時点で――厳しいですね」


鞠莉「駄目よ、そんな弱気は」

鞠莉「もし曜になにかあっても、私たちが助けてあげる」

鞠莉「それぐらいの気持ちでいないと」

果南「……そうだね」

ダイヤ「……杞憂に終わってほしいですね、こんなネガティブな予測は」

951: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 08:58:19.97 ID:zy6uYR2k0
 ―自動車内―


曜「ふわぁ」

善子母「お疲れみたいね」

曜「たはは、流石に今日はきつかったです」

善子「最後の方、制球が相当怪しかったものね」

善子母「まったく、だから抑え気味で投げるように言ったのに」

曜「やっぱり無理でした」

952: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 09:00:41.45 ID:zy6uYR2k0
善子母「着いたら起こしてあげるから、寝てていいわよ」

曜「そうですか? じゃあお言葉に甘えて――」ぽすっ

善子「ちょ、なんで私の膝を枕にしてるのよ」

曜「ちょうどいい感じの柔らかさだったから」

善子「なによそれ」


曜「善子ちゃん、いい感じに身体になってきたね」

善子「そう?」

曜「練習の成果かな~――ぐぅ」

953: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 09:03:29.26 ID:zy6uYR2k0
善子「本当に寝てる……」

善子母「それだけあなたが信頼されている証拠よ」

善子母「今は寝かせといてあげなさい」

善子「……まあ、そうね」


善子母「だけど、今日はよく頑張ったわね」

善子「本当にね、ビックリしたわ」

善子母「渡辺さんもそうだけど、あなたもよ」

善子「私も?」

954: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 09:07:23.42 ID:zy6uYR2k0
善子母「荒れている中、しっかりと投手の手を引き、正しい方向へ導いた」

善子母「成長したわね」

善子「……ありがとう」


善子母「だけど、感謝しなきゃ駄目よ」

善子母「ノーヒットノーランに立ち会わせてもらったこと」

善子母「超一流の投手とバッテリーを組めていること」

善子母「普通なら、まず経験できないことばかり」

955: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 09:10:11.56 ID:zy6uYR2k0
善子「分かってる」

善子「曜さんには感謝してもしきれない」

善子「だからこそ、最後まで力になりたい」

善子「最後まで、2人で進んでいきたい」

善子母「ええ、その意気よ」

善子母「成長した今のあなたなら、きっとできる」


善子母「決勝戦――そして全国も、2人で頑張りなさい」

善子「うん」

959: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:51:52.11 ID:odXovgsf0
 ―国木田家―


花丸「ねえ、ルビィちゃん」ブン

ルビィ「なぁに?」ブン

花丸「今日、お泊りだよね」ブン

ルビィ「うん」ブン

花丸「しっかり休むように言われた後の」ブン

花丸「それなのにどうして、マルたちは素振りをしてるんだろ」ブン

ルビィ「うーん、やっぱり落ち着かないもんね」ブン

960: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:52:18.30 ID:odXovgsf0
花丸「ふぅ、休憩」

ルビィ「うゅ~」


花丸「ルビィちゃん、スイングが鋭くなったね」

ルビィ「そうかな?」

花丸「外野の頭を越す長打も出るようになったし、流石ずら」


ルビィ「マルちゃんのスイングは、綺麗になったよ」

花丸「前はぐにゃぐにゃ波打ってたもんね」

ルビィ「頑張ったもんね、練習」

961: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:52:45.83 ID:odXovgsf0
花丸「だけど、まだヒットはないんだよね」

花丸「もう地方の決勝戦、やっぱり公式戦でヒットは打てないのかな……」

ルビィ「そんなことないよ、きっと打てる」

花丸「そう?」

ルビィ「惜しい当たりは出てるもん」

ルビィ「ルビィが保証するよ!」

花丸「……ありがとう、ルビィちゃん」

962: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:54:14.75 ID:odXovgsf0
祖母「2人ともお風呂湧いたから入っちゃいな」

花丸「はーい」


花丸「とりあえず、入ろっか」

ルビィ「あっ、そうだね」

花丸「日焼け、しみるかなぁ」

ルビィ「うゅ、それは嫌だよぉ」

花丸「でも汗と土まみれなんだから、踏ん張るビィだよ」

ルビィ「だねぇ……」

963: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:56:03.06 ID:odXovgsf0
 ―決勝当日―


曜「おはヨ―ソロー!」

千歌「おはよう!」


梨子「元気そうね」

曜「うん、休んだらだいぶ疲れは取れたよ」

梨子「よかった」

964: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:56:58.16 ID:odXovgsf0
善子「ふわぁ」

花丸「あれ、善子ちゃんは眠そうだね」

善子「曜さんの連続ノーヒットノーランがネットで少し話題になってたから、調べてたら夜更かししちゃって」

ルビィ「あー」

花丸「さては自分の名前が出てないか調べてたでしょ~」

善子「ぎくぅ」


梨子「ちなみにあったの?」

善子「曜さんのついでに、後姿が写った写真が1枚あっただけ……」

千歌「あらら」

965: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:57:28.89 ID:odXovgsf0
ダイヤ「さて、その辺でよろしいですか」

曜「あっ、はい」


ダイヤ「全員揃ったところでおさらいです」


ダイヤ「決勝の相手は、予想通り東洋高校」

ダイヤ「チーム名はカーブ。元から強豪校ではありましたが、近年さらに力を付けてきました」

ダイヤ「ここ数年、静岡から全国への切符をほぼ独占」

ダイヤ「日中高校が全国大会から遠ざかっているのは、彼女たちの存在も大きいです」

966: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:58:05.34 ID:odXovgsf0
ダイヤ「エースは右の野々村さん」

ダイヤ「定時退社の野々村という異名を持つ投手です」


千歌「定時退社?」

ダイヤ「必ず6~7回でマウンドを降りるからです。完投などはほとんどしません」

千歌「じゃあたいした投手じゃないんじゃ」


ダイヤ「いえ、そんなことはありません」

ダイヤ「彼女は序盤で崩れて降板することがまずない。決まったイニングを1~4失点ほどに確実にまとめてきます」

ダイヤ「強力打線を擁する東洋、監督としてはこれほど計算しやすい投手はいないでしょう」

梨子「そうですね……」

967: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:58:40.62 ID:odXovgsf0
曜「でもさ、それなら簡単じゃん」

曜「準決勝までみたいに、私が相手を抑え込めばいい」


ダイヤ「そう簡単な話でもありませんよ」

ダイヤ「以前にも話した『タナキクさん』のトリオはもちろん強力」

ダイヤ「田中井さんは俊足巧打、出塁率も5割近い驚異のリードオフマン」

ダイヤ「菊地原さんは打率こそ低いですが、バントを確実に成功させ、長打も打てる2番バッター」

ダイヤ「そして主役、3番の三角さん」

ダイヤ「高い長打力、守備力、走力。出塁率も6割を優に超える素晴らしい選球眼」

ダイヤ「日中高校の福富さんをさらにスケールアップしたような選手です」

968: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:59:07.61 ID:odXovgsf0
曜「そうだね、三ちゃんは確かに凄い」

曜「代表でも、よく助けられたよ」


ダイヤ「そして後続の2人もトップクラスの実力の持ち主」

ダイヤ「4番でチームを盛り上げるムードメーカーでもある古井さん」

ダイヤ「彼女は長打力と勝負強い打撃が持ち味です」


ダイヤ「5番は須々木さん」

ダイヤ「圧倒的な身体能力、飛距離」

ダイヤ「主力組の中で唯一の1年生ですが、才能はチーム1とも言われています」

969: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 16:59:46.93 ID:odXovgsf0
 ―試合前―


曜「よっと」シュッ


善子「……」バシッ

善子(流石に疲れているのかしら)

善子(いつもより球に勢いがない)


善子(それでも、十分な球威ではある)

善子(津島流配球術を使って、私が曜さんを助けてあげないと)

970: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:00:14.63 ID:odXovgsf0
 ジリジリ


果南「しっかし、今日は暑いね」

ダイヤ「40度近い気温になるかもしれないそうです」

果南「うへぇ、干からびちゃうよ」


千歌「梨子ちゃん、本当にスタメンで大丈夫?」

梨子「うん、もうほぼ治ってるから」

梨子「本当は投球してもいい感じだもん」

971: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:00:42.15 ID:odXovgsf0
花丸「ふぅ、緊張するずら……」

鞠莉「マル、あなたはここまできちんと守れてる」

鞠莉「とにかく落ち着いて、しっかりと集中することね」

花丸「うん」


千歌「そういえば、ルビィちゃんは?」

花丸「お手洗い、やっぱり緊張しちゃってるみたい」

千歌「そっか……」

梨子「そうよね、決勝戦だもんね」

972: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:01:12.87 ID:odXovgsf0
果南「この球場、改めてみると広いよね」

鞠莉「男子のプロ野球の試合もできる球場だから」


果南「ホームランを打つのは難しいね」

鞠莉「広い分、外野の守備は大変ね」

鞠莉「果南、梨子、集中していくわよ」

果南「もちろん」

梨子「はい」

973: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:01:40.03 ID:odXovgsf0
曜「はー、暑い」

千歌「曜ちゃん」

善子「日が当たってないだけベンチはマシね」


ルビィ「うゅ……」

花丸「ルビィちゃん、大丈夫?」

ルビィ「うん」

善子「催眠術かける?」

ルビィ「いらない」

974: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:02:08.52 ID:odXovgsf0
千歌「そろそろ試合、始まるね」

梨子「だね」


千歌「絶対に勝つよ」

千歌「勝って、全国へ行くよ」

千歌「ここはまだ通過点」

千歌「先へ進むために、未来を勝ち取るために、頑張っていこう!」


全員「「「おう!」」」

975: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:03:25.97 ID:odXovgsf0
〔第10回全国女子高等学校野球選手権 静岡県予選決勝戦〕

【浦の星女学院『Aqours』(後攻)VS東洋高校『カープ』(先攻)】


 先発メンバー


Aqours

1:遊・ダイヤ
2:三・千歌
3:投・曜
4:左・果南
5:右・鞠莉
6:中・梨子
7:捕・善子
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ


カーブ

1:遊・田中井
2:二・菊地原
3:中・三角
4:三・古井
5:右・須々木
6:一・松村
7:左・ドレッド
8:捕・逢沢
9:投・野々村

976: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:03:59.81 ID:odXovgsf0
【1回表】 カーブ0-0Aqours


『1番ショート田中井さん』


 プレイボール!


曜(初球……)シュッ


田中井「――」スッ


善子(初球から!?)

曜(セーフティバントっ)ダッ

 ストライク!


曜「っと」

曜(構えだけか)

977: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:04:28.00 ID:odXovgsf0
曜(東洋は足の速い選手多いんだよね)

曜(常に警戒しておかないと)シュッ


田中井「ふっ」キン


 ファール


善子(普通に当てる)

曜(今までとはレベルが違うね、これは)


 ボール ファール ボール ファール ファール

978: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:04:53.71 ID:odXovgsf0
善子(粘るわね)

善子(今日はやっぱり球がきてない)

善子(ストレートだけじゃ厳しそうだから――)

曜(ここでカーブ)シュッ


田中井「!」ブンッ


 バッターアウト!


曜「よしっ」

979: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:05:21.56 ID:odXovgsf0
『2番セカンド菊地原さん』


 シュッ

菊地原「!」キンッ


 ファール


曜(今度は初球から)

善子(1番と対照的に早打ちね)


曜(菊地原さんは直球に強い選手)

曜(カーブでカウントを整えよう)シュッ


 ファール!

980: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:05:48.26 ID:odXovgsf0
善子(ボール臭かったけど打ってきたわね)

曜(釣り球投げれば振るかな)

善子(そうね、1球試しに)

曜(了解!)シュッ


 ボール!


菊地原「ふぅ」


善子(反応なし、流石にそこまで簡単にはいかないわね)

曜(それでも、ストライクからボールになるカーブなら――)シュッ


菊地原「っと」ブン

 バッターアウト!

981: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:06:18.56 ID:odXovgsf0
曜(やった!)

善子「ナイスボール!」

曜「ツーアウト!」



『3番センター三角さん』


三角「お願いします」


曜「三ちゃん……」

善子(この人が最も警戒すべき選手)

善子(できるだけ、慎重――)


 ボール ボール

982: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:06:44.86 ID:odXovgsf0
善子(駄目、この路線は曜さん向きじゃないわね)

善子(最悪ヒットならいい、力勝負で)

曜(そうそう、そっちだよ!)シュッ


 ストライク!


三角「……ふぅん」

善子(流石に動じないわね)

善子(もう1球、ストレート)


曜「やっ」シュッ

 カキーン――ファール!

983: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:07:13.33 ID:odXovgsf0
善子(ファールだけど、捉えてる)

曜(続けるのは怖い、次はカーブで!)シュッ


善子(よし、いいとこ)

 ボール


善子(平然と見送った)

曜(フルカウント、むぅ)


善子(ゾーンにカーブは怖い)

善子(とにかくストレートで勝負――)


 ファール ファール ファール

984: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:08:03.88 ID:odXovgsf0
曜「粘るなぁ」

千歌「曜ちゃん、打たせていこう!」


善子(そうね、変に球数使っても嫌だし)

善子(最近得意の、甘めのコースに不意を突いたスライダーでゴロを打たせましょう)

曜(何か逃げてるみたいで嫌だけど――仕方ないね)シュッ


三角「っ」キン


 ファール!

985: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:08:35.02 ID:odXovgsf0
曜(カットした)

善子(狙い球が合わなかったからとっさにかしら)

善子(流石に打撃技術が高いわね)


曜(でもきりがない)

曜(こうなったら、渾身のストレートで――)シュッ


三角(おっと)


 ボールフォア!


986: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:09:06.78 ID:odXovgsf0
曜「あ~、外れた」

千歌「ドンマイ曜ちゃん」

ダイヤ「次で切れば問題ありません、落ち着いていきましょう」

曜「はい」



『4番サード古井さん』


古井「……」

曜(大きいなぁ)

善子(いかにも飛ばしそうな見た目ね)

987: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:09:34.31 ID:odXovgsf0
曜(これなら真っ向勝負しそうな――)


 ストライク! ボール ファール ファール ボール


曜(また粘られるか……)

善子(曜さんの球をまともに捉えるのは難しいからね)

善子(ここは少し抜いて、タイミングを外しましょう)


曜「ふっ」シュッ


古井「なっ」カツン

988: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:10:06.23 ID:odXovgsf0
ルビィ「はい!」パシッ――シュッ

花丸「ずらっ」パシッ


 アウト!


曜「ふぅ」

曜(やっと終わった)


善子「曜さん」

曜「ああ、お疲れ様」

善子「順調ね」

曜「うん」


善子(でも初回から26球)

善子(球数多いのは、少し気になるわね)

989: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:10:38.28 ID:odXovgsf0
【1回裏】 Aqours0-0カーブ


『1番ショート黒澤ダイヤさん』


菊地原「外野! もっと前!」

三角「この辺かな」

田中井「いいと思う!」


ダイヤ(極端な前進守備)

ダイヤ(どうやら、しっかりと研究されているようですわね)

990: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:11:56.71 ID:odXovgsf0
ダイヤ(平均的な球速、守備範囲の広い二遊間)

ダイヤ(ヒットゾーンは相当狭い)


野々村「よっと」シュッ

 ストライク!


ダイヤ(狙うなら一塁線、抜ければ3塁まで行ける)

ダイヤ(思い切り引っ張って強い打球を打つ)


 シュッ


ダイヤ(甘い――いや、これは)キンッ


松村「ほいほい」パシッ

 アウト!


ダイヤ(カットボールですか……)

991: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:12:51.20 ID:odXovgsf0
千歌「ダイヤさん」

ダイヤ「やはり野々村さんは球種が豊富」

ダイヤ「狙う球を絞るより、上手く合わせるイメージの方が良さそうです」

千歌「分かりました」


『2番サード高海さん』

千歌(野々村さんの持ち球はシュート、カットボール、カーブ、チェンジアップ、スライダー)

千歌(一級品のボールはないけど、ここまで豊富な人はそうそういない)

992: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:13:20.97 ID:odXovgsf0
千歌(右打者によく使うのは内に食い込むシュート)

千歌(追い込んでからはチェンジアップが多い)

千歌(追い込まれるまでは可能性が高いシュートを狙って――)


 シュッ

千歌(思い切り――叩く!)


 カキーン!


果南「打った!」

鞠莉「センター前抜けたわね!」

梨子「千歌ちゃん!」

993: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:13:49.29 ID:odXovgsf0
千歌「よしっ」

千歌(地味に公式戦初ヒット)

千歌(あの人、私と同じ地味なオーラが出てるからかな)

千歌(なんかタイミングが合ったよ)


『3番ピッチャー渡辺さん』

曜「あっ、私か」

果南「ちょっと、大丈夫?」

曜「ああ、うん。ちょっとぼんやりしてただけ」

994: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:14:32.66 ID:odXovgsf0
曜(せっかく千歌ちゃんが打ってくれたんだ)

曜(集中しないと)


 シュッ――ボール


曜(慎重な入り)

曜(力勝負、みたいなタイプじゃないよね)

曜(……それにしても内野、ずいぶん下がってるな)


 シュッ


曜「よっ」コツン

995: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:15:07.20 ID:odXovgsf0
ダイヤ「セーフティですわ!」


逢沢「しまった、無警戒――」

古井「くっ」パシッ――シュッ


 セーフ!


曜「はぁ、間に合った」


花丸「早いずら!」

ルビィ「流石曜ちゃん!」


曜(余裕だと思ったのに、危なかったな)

曜(暑さのせいか、身体が重い)

996: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:15:46.09 ID:odXovgsf0
『4番レフト松浦さん』


果南(あーあ、あんな全力で走っちゃって)

果南(いくつになっても猪突猛進、ブレーキが壊れてるまま)


鞠莉「果南!」

果南「分かってるよ」

果南(とりあえず、楽に歩いて帰れるようにしてあげますかね)


鞠莉(あの顔、絶対意図を理解してないわ……)

997: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 17:16:15.16 ID:odXovgsf0
果南(細かいボールとかよくわかんないし)

 シュッ


果南(とりあえず思い切り振ってやる!)カキン

 ファール!


果南(引っ張りすぎた、シュートかな?)

果南(そういやシュートが多いんだっけ)

 シュッ


果南(じゃあ次も同じ?)ブン

 ストライク!

次回 千歌「白球を追いかけろ!!」2