前回 千歌「白球を追いかけろ!!」 後編

3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 18:07:00.11 ID:odXovgsf0
果南「ありゃ」

果南(スライダーかな)

果南(駄目だね、私は考えたら)

果南(やっぱり来た球を思い切り振り抜く)グッ


野々村「ふぅ」シュッ


果南(喰らえ――あっ)ブン


 バッターアウト!

果南「しまった、チェンジアップ……」

引用元: ・千歌「白球を追いかけろ!!」2 



4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 18:07:51.73 ID:odXovgsf0
鞠莉「果南、ドンマイ」

果南「……私苦手、あの投手」

鞠莉「でしょうね」



『5番ライト小原さん』


鞠莉(さてさて、恒例の尻拭いタイム)

鞠莉(でも正直私も苦手なのよね、この手の掴みどころのないタイプは)


野々村「ほいっ」シュッ

 ストライク!

5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 18:08:18.34 ID:odXovgsf0
鞠莉(カーブ)

鞠莉(追い込まれる前に打ちたい)

鞠莉(次の球を思い切り)


 シュッ


鞠莉(外のボール気味だけど、私なら打てる――)ブンッ


 ガコッ

鞠莉「っ」

鞠莉(カットボール)


松村「また来たよ」パシッ

 アウト!

6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 18:08:51.43 ID:odXovgsf0
鞠莉「なるほど……」

鞠莉(私がボール球でも打つこともお見通しなわけね)

鞠莉(ここまでしっかりと研究されてるなんて、初めてね)

鞠莉(東洋高校、その辺りの抜け目なさも強さの秘訣のようね)


曜「ふぅ、なかなか苦労しそうだね」

鞠莉「曜、身体は大丈夫?」

曜「うん、ちょっと疲れてるけど、平気だよ」


鞠莉(……曜は明らかに本調子とはいえない状態)

鞠莉(どんな形でもいい)

鞠莉(早めに点を取って、せめて精神面だけでも楽にしてあげないと)

7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 19:13:03.88 ID:odXovgsf0
【5回表】 カーブ0-0Aqours


 ボールフォア!

曜「くっ」


千歌(先頭の8番にフォアボール)

千歌(ここまでノーヒットだけど、毎回の四死球かエラーで出塁を許してる)

千歌(球数は早くも100球近い)

千歌(飛ばすバッターばかりだから、なかなか気が抜けない、甘いコースにも投げられない)

千歌(露骨に待球してくる打者もいる)

千歌(曜ちゃん、大丈夫かな……)

8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 19:13:31.12 ID:odXovgsf0
善子「曜さん」

曜「ちょっと抑えがきかなくて」

善子(球の球速もキレもさらに落ちてる)

善子(汗も凄い、見るからに辛そうな状態)


善子「ランナーの足は遅い」

善子「次は打撃が上手くない選手だし、確実にバントよ」

善子「確実にアウトを取りましょう」

曜「分かった」

9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 19:14:00.13 ID:odXovgsf0
『9番ピッチャー野々村さん』


野々村「……」スッ


善子(当然最初からバントの構え)

曜(とにかく、ストライクに――)シュッ


 ボール!


善子(ちょっと、曜さん)

曜「くっ」シュッ


 ボール!

10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 19:16:14.21 ID:odXovgsf0
曜(どうしよう、全然入らない)

善子(軽く、もっと軽く投げていいから)


曜(軽く……)シュッ


 コンッ


曜(正面!)パシッ

善子(これなら!)

善子「曜さん、セカンド――」


曜「あれっ」ヨロッ


善子「っ――ファースト!」

曜「くっ」シュッ


 アウト!

11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 19:16:41.40 ID:odXovgsf0
善子「曜さん!」

曜「ごめんごめん、ちょっとこけた」

善子「ねえ、本当に大丈夫なの」


曜「……正直、ちょっときついかも」

曜「だけどほら、泣き言を言ってられる状況じゃないから」

善子「そうだけど……」

曜「とにかくワンナウト、頑張って抑えよう」

善子「……ええ、そうね」

12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 19:36:58.66 ID:odXovgsf0
『1番ショート田中井さん』


三角(曜はずっと、大切に育てられてきたタイプ)

三角(優秀な指導者、最新の科学理論)

三角(選手寿命を削って投げるような、学生野球とは無縁だった)

三角(だから当然、過度な連投にも、過酷な環境にも慣れていない)

三角(それに加えて、この異常な暑さ)

三角(決して大きくない身体を目いっぱい使って投げる、曜のスタイルには堪えるはず)

13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/16(木) 19:37:24.35 ID:odXovgsf0
 ボール!


曜(どうしよう、どうしよう)

曜(身体が上手く動かない、腕が振れない)


 ボール!


三角(梨子ちゃん、おそらく故障でしょう)

三角(彼女が投げられれば、何の問題もなかったはずなのに)

三角(運がなかったわね、浦の星は)

 
 ボール!


善子(駄目だ、入らない)

曜「くそっ」シュッ


 ボールフォア!

14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:20:38.11 ID:DOy9M7N10
『2番セカンド菊地原さん』


三角(初戦からの連投)

三角(40度近い炎天下)

三角(合計400球近い球数)

三角(それに加えて、噂に聞く廃校へのプレッシャー)

三角(疲れてくると感じるでしょ、色々な重荷を)



曜(重い、身体が)

曜(こんなプレッシャーは初めてだ)

曜(負けたら、打たれたら廃校)

曜(みんなの想いが、身体にのしかかる)


 ボールフォア!

15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:21:19.49 ID:DOy9M7N10
『3番センター三角さん』


三角(満塁――私が全員かえす)


曜「っ」シュッ


三角(ど真ん中!)


 カキ――――ン!


善子(センターオーバー!)


千歌「ランナー、全員帰ってきて――」

ルビィ「サード急いで!」


梨子(マズイ、思い切り返球はできない――)

 セーフ!

16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:21:45.57 ID:DOy9M7N10
善子「三塁打、走者一掃」

善子(曜さん、もう限界よ……)


鞠莉(初安打と初失点が同時に)

曜「……」

鞠莉(それどころじゃ、なさそうね)


曜「……くそっ」


三角(ここまで持ったのは流石だよ)

三角(だけどこうなったら、私たちは止まらない)

17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:22:16.10 ID:DOy9M7N10
『4番サード古井さん』


曜(3点)

曜(まだ取り返せる)

曜(止めないと、ここで止めないと)シュッ


古井(……もう限界かな、彼女は)


 カキ――――――ン!


曜「あっ……」

善子「やられた……」

千歌(広い球場をものともしない、ホームラン)

18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:22:43.30 ID:DOy9M7N10
梨子「ホームラン……」

千歌「曜ちゃん……」


果南「ツーラン、か」

ダイヤ「果南さん」

果南「ダイヤ?」

ダイヤ「投げるための、心の準備をしておいてください」

果南「……分かった」

19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:23:10.18 ID:DOy9M7N10
『5番ライト須々木さん』


善子(どうしよう)

善子(今のストレートは通用しない)

善子(それなら、変化球でかわす?)


曜(カーブを、低めに)シュッ


善子(マズイ、ど真ん中――)


 カキ―――――ン!


須々木「よっしゃ!」

20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:23:41.55 ID:DOy9M7N10
花丸「2者連続ホームラン……」

ルビィ「曜ちゃん……」

ダイヤ(潮時ですわね)



善子「曜さん――」

曜「……」

善子「……」


ダイヤ「曜さん」

曜「……ダイヤさん」

21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:24:34.15 ID:DOy9M7N10
ダイヤ「交代ですわ」

曜「……はい」

ダイヤ「もう限界なのは、自分でも理解できるでしょう」

曜「……」

善子「ごめんなさい、私のせいで……」


ダイヤ「曜さんも善子さんも、よく頑張りました」

ダイヤ「これは無理をさせてしまった私の責任です」

ダイヤ「今は果南さんを信じて、交代しましょう」

曜「……」

22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:25:02.55 ID:DOy9M7N10
【守備交代】

投:曜→果南
捕:善子→鞠莉
遊:ダイヤ→曜
左:果南→ダイヤ
中:梨子→善子
右:鞠莉→梨子


 変更後オーダー

1:左・ダイヤ
2:三・千歌
3:遊・曜
4:投・果南
5:捕・鞠莉
6:右・梨子
7:中・善子
8:一・花丸
9:ニ・ルビィ



24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:26:48.10 ID:DOy9M7N10


【5回裏】 Aqours0-7カーブ


曜「…………」

鞠莉「曜」

曜「……ごめん」

鞠莉「……」


善子(結局、果南さんも打たれて7失点)

善子(東洋の打線は強い)

善子(だけど私が、もっとしっかりしていれば)

25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:27:17.09 ID:DOy9M7N10
千歌(0-7、春の大会を思い出すような大差)

千歌(あの時と違うのは、今日は絶対に負けは許されない状況だってこと)

千歌(諦めるわけにはいかない)


花丸「善子ちゃん」

善子「……なによ」

花丸「落ち込んでる?」

善子「当たり前でしょ、私のせいでこんなことになって」

花丸「そっか」

26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:27:44.15 ID:DOy9M7N10
花丸「それなら、マルが善子ちゃんのミスを取り返してきてあげる」

善子「花丸?」

花丸「尻拭いは、幼馴染の役目だっていつも鞠莉ちゃんが言ってるでしょ」

善子「花丸……」

ルビィ「ルビィだって、善子ちゃんの為に打つよ!」

善子「ルビィも」


花丸「だからちゃんと応援してね」

ルビィ「ねっ」

善子「……ありがとう」

27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:28:32.47 ID:DOy9M7N10
『8番ファースト国木田さん』


花丸(マルにはここまで全球ストレート)

花丸(まともにヒットも打ったことがない選手なんだから、その対応は当たり前)

花丸(でも野々村さんの平均球速は120を切る)

花丸(この大会、今まで対戦してきた投手の中で、一番遅い)


花丸(大量点の後、気が抜けた状態)

花丸(バットに当てることぐらいできるはず)

花丸(当たりさえすれば、何かが起こるずら!)

28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:29:02.73 ID:DOy9M7N10
野々村「よっ」シュッ


花丸(マルだって頑張って練習してきたんだ)

花丸(自分を信じて、思い切り振りきれ!)ブン


 カキン!


千歌「打った!」

梨子「セカンド後方、面白いところに上がったわ!」


菊地原「!」ダッ


千歌「でも菊地原さん速い!」

梨子「追いつかれる――」

29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:29:31.87 ID:DOy9M7N10
花丸(落ちて!)

ルビィ「落ちて!」


善子「落ちろ!」


 ポトッ


花丸「!」


ルビィ「やった!」

善子「落ちた!」


菊地原(くそっ、追い風のせいで追いつかなかった)パシッ

30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:30:04.81 ID:DOy9M7N10
鞠莉「先頭出たわよ!」

果南「ナイスだよ、マル!」


ダイヤ「ルビィ!」

ルビィ「うん、続くよ!」



『9番セカンド黒澤ルビィさん』


 カキ―ン!


千歌「センター前!」

善子「ルビィ!」

31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:30:35.65 ID:DOy9M7N10
『1番レフト黒澤ダイヤさん』


ダイヤ(この流れを止めるわけにはいかない)

ダイヤ(打つのが難しくても、粘って――――)


 ボールフォア!

ダイヤ(よしっ)グッ

鞠莉「満塁よ!」

果南「次の千歌は今日当たってる、いけるよ!」

32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:31:11.46 ID:DOy9M7N10
千歌「よーし、この打席も――ってあれ」


梨子「投手交代?」

善子「みたいね」


果南「動くのがずいぶん早いね、定時退社はどうしたのかな」

鞠莉「決勝だから特別なんでしょう、今日は」

梨子「少しでも捕まる気配が見えた時点で、交代」

果南「選手層の差を見せつけられているみたいで、嫌になるね」

33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:31:39.89 ID:DOy9M7N10
『東洋高校――ピッチャー野々村さんに代わりまして、大瀬さん』


果南「大瀬さん?」

鞠莉「データは――ああ、いつも解説してくれる2人が塁上だわ」


曜「右の本格派だよ。ストレートとスライダーを中心に投げる」

果南「曜!」

善子「大丈夫なの?」

曜「うん、休んだら少し楽になった」

34: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:32:06.69 ID:DOy9M7N10
千歌「何を狙えばいいかな」

曜「スライダーはカットボール系と普通の、2種類ある」

曜「野々村さんと違ってストレートの割合が高いはずだし、そっちの方が無難かも」

千歌「分かった!」



『2番サード高海さん』


千歌(代わったところ、叩くよ!)


大瀬「ふっ」シュッ


千歌「やっ」キンッ


田井中「オーライ!」パシッ

 アウト!

35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:33:06.38 ID:DOy9M7N10
千歌(ショートフライ)

千歌(やっぱり、球の威力が違うな)


曜「球威はありそうだね」

千歌「うん」

千歌「でも曜ちゃん、このタイプの投手は好きだよね」

曜「そうだね」

曜「失点の分は、打って取り返す」

36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:33:52.89 ID:DOy9M7N10
『3番ショート渡辺さん』


善子「曜さん!」

梨子「頑張れ!」


曜(正直きつい)

曜(身体も心も正常じゃない)

曜(それでも、やるしかない)

曜(私のせいで試合が壊れかけたのに、みんなが頑張って持ちこたえてくれた)

曜(それに応えなきゃ、私は主軸失格だ)

37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:34:20.84 ID:DOy9M7N10
曜(球種的に、私なら投げてからでも対応できる)


大瀬「やっ」シュッ


曜(ストレート)

曜(思い切り――振り抜け!)


 カキ―――――ン!



千歌「大きい!」

梨子「でもこの球場は広いから――」


三角(捕れるか!)ダッ

38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:34:57.14 ID:DOy9M7N10
千歌「いけ、いけ!」

善子「いいわよ、風に乗ってるわ!」

梨子「伸びて――――入った!」


ダイヤ「満塁ホームランですわ!」


ルビィ「曜ちゃん!」

花丸「凄いずら!」


三角「フラフラの状態でこれ」

三角「追い風に見事に乗ったか……」

三角「やっぱり、曜はスターだね」

39: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:35:25.22 ID:DOy9M7N10
千歌「曜ちゃん、凄いよ!」

曜「あはは、風に助けられた」

善子「流石の幸運ね!」


果南「これで3点差、まだ余裕で射程圏内!」

鞠莉「私たちも続くわよ」

梨子「はい!」


千歌「よーし、ここから反撃だ!」

40: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:35:53.72 ID:DOy9M7N10
【7回裏】 Aqours7-10カーブ


梨子「やっ」カキーン!


果南「ヒットだ!」

千歌「流石梨子ちゃん!」


ダイヤ「3番手の古村さんもしっかり捉えられていますね」

鞠莉「乱打戦、マリーの好きな流れよ!」

41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:37:10.96 ID:DOy9M7N10
『7番センター津島さん』


善子(よしっ、私も続くわ――)


 ドスッ


善子「ぐぇ」


千歌「出た! 善子ちゃんの必殺技のデッドボール!」

曜「いやいや技じゃないから」


善子「痛い……」

逢沢「だ、大丈夫?」

善子「はい……」

善子(忘れてた、このパターンがあること……)

42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:37:37.38 ID:DOy9M7N10
『8番ファースト国木田さん』


ダイヤ(3点差ですがここはバント)スッ

ダイヤ(きっちり頼みますわね)

花丸(了解ずら!)


花丸(さっきはたまたまヒットを打てたけど、本来のマルの唯一の見せ場)


 シュッ


花丸(きっちり、転がす!)コツン


逢沢「ファースト!」

古井(上手いな)シュッ


 アウト!

43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:38:09.48 ID:DOy9M7N10
花丸「ルビィちゃん、あとはよろしくね」

ルビィ「う、うん……」

花丸「やっぱり、緊張してる?」

ルビィ「だって、終盤のこんな場面……」


花丸「大丈夫だよ」

花丸「もう昔のルビィちゃんとは違う」

花丸「今のルビィちゃんなら、大丈夫ずら」

ルビィ「マルちゃん……」


花丸「自分を信じて。そうすれば絶対に打てるから」

ルビィ「う、うん!」

44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:38:49.61 ID:DOy9M7N10
『9番セカンド黒澤ルビィさん』


ルビィ(古村さんはスプリット系のボールが決め球)

ルビィ(それまではストレートとスライダーが中心)


 ボール


ルビィ(1球外れた)

ルビィ(カウントを悪くしたくないだろうから、次はストライクのはず)

ルビィ(ルビィが得意なのはスライダーだから、たぶん来るのはストレート)

ルビィ(外野は前目だけど、上手く持っていけば――)


 カキーン!

45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:39:17.65 ID:DOy9M7N10
花丸「右中間!」

千歌「外野の間を抜ければサードまで――」


三角「っと」パシッ


曜「うわっ、あれに追いつくんだ」

千歌「だけど善子ちゃんも帰ってきた! 1点差だよ!」



『1番レフト黒澤ダイヤさん』


ダイヤ(1点差、1アウトランナー1塁)

ダイヤ(私がこの相手にヒットを打つ確率を考えればバントもありですが――)

46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:49:37.64 ID:DOy9M7N10
ダイヤ(間を抜かれて長打になる可能性を警戒して、定位置近くまで下がっている)

ダイヤ(ルビィ)チラッ

ルビィ(お姉ちゃん――うん!)


 ボール!


ダイヤ(本来、2人しかいない左打者を並べるメリットは薄い)

ダイヤ(しかし私は、わけもなくこの打順を選んだわけではない)


ダイヤ(ルビィは出塁率が高く足がある)

ダイヤ(前打者の花丸さんの打率を考えれば、1人で塁に出ている可能性が高い)

ダイヤ(そこに左打者の私がいれば、仕掛けやすいのです)

47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 02:50:19.66 ID:DOy9M7N10
古村「……」グッ

ルビィ「!」ダッ


逢沢「盗塁!?」


 シュッ


ダイヤ(盗塁はもちろん――)


 キンッ


逢沢「エンドランか!」

菊地原「くそ、抜かれた!」


果南「流石ダイヤ!」

鞠莉「この状況で仕掛ける度胸、バットコントロール」

鞠莉「もう脱帽ね!」

48: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:03:58.13 ID:DOy9M7N10
『2番サード高海さん』


千歌(1・3塁)

千歌(ここはスクイズをしたい場面)

千歌(でも警戒されてるなか、私が決められるかなぁ)


 ボール!


千歌(よし、カウントを1つ稼げた)


ダイヤ(千歌さん!)スッ

千歌(盗塁?)


ダイヤ(千歌さんがこの投手からスクイズを決める、または打てる可能性は低い)

ダイヤ(曜さんを敬遠されて、次の果南さんの所で技巧派の選手を出されたら絶望的)

ダイヤ(ワンナウトですが、ここは仕掛けたい)


ダイヤ(点差は1点、敵は動揺もしている)

ダイヤ(今なら――)

49: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:04:38.32 ID:DOy9M7N10
古村「――」シュッ

ダイヤ(ここです!)ダッ


逢沢(スクイズ――じゃない)

逢沢(単独の盗塁、舐めないで!)パシッ


菊地原「あっ」


ルビィ「――」ダッ

逢沢「えっ」シュッ


曜「ディレードスチールだ!」

50: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:05:19.01 ID:DOy9M7N10
菊地原「くそっ」パシッ――シュッ


梨子「迷いなく投げてきた!」

千歌「ルビィちゃん!」

ルビィ(ギリギリ――間に合え!)


逢沢「このっ」パシッ


 セーフ!


曜「やった!」

千歌「同点だ!」

51: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:06:34.20 ID:DOy9M7N10
花丸「ルビィちゃん、頑張ったずら!」

善子「ホント、よく走ったわねあんた!」バシバシ

ルビィ「えへへ、無我夢中だったよ」


鞠莉「さっきの、ダイヤとルビィで明確なサインのやり取りをしてないわね」

果南「えっ、本当に?」

鞠莉「ええ、警戒されないように敢えてだと思うけど」

果南「とっさにやったんだ、あれを」

鞠莉「姉妹の絆――とでも言うべきかしら」

52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:08:43.35 ID:DOy9M7N10
千歌(しかもダイヤさんが2塁に残った)

千歌(投手も動揺している今なら、私でも打てる!)カキーン!


花丸「ライト前!」

ルビィ「抜けたけど――」

須々木「このっ」シュッ


 バンッ


逢沢「いった……」ビリビリ


善子「す、凄い返球ね」

ルビィ「う、うゅ」

53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:10:13.81 ID:DOy9M7N10
『3番ショート渡辺さん』


曜(だけど1・3塁)

曜(単打で逆転のチャンス、犠飛でも十分)


曜(でも細かく刻む必要はない)

曜(私が一気に――決める!)


 カキ―――ン!


三角「!」ダッ


逢沢「センター!」

菊地原「三角!」

54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:10:45.72 ID:DOy9M7N10
三角(ホームランのときと違って風はない)

三角(私なら捕れる!)パシッ


曜「げっ」

千歌(と、とんでもない守備範囲)


ダイヤ(あれを捕りますか)ダッ


ルビィ「ファインプレーだけど、お姉ちゃんが帰って逆転だよ!」

花丸「やったずら!」


曜(疲れてる分かな、打球の勢いが足りなかった)

曜(1点じゃ、まだわからない)

曜(そう簡単に、勝負を決めさせてはもらえないか)

55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:11:12.42 ID:DOy9M7N10
【9回表】 Aqours12-11カーブ


 キンッ


果南「あっ」


菊地原「よっしゃ!」

田中井「ヒットだ!」


千歌(9回ツーアウト)

千歌(あと1人って場面だけど、菊地原さんにヒットを打たれちゃった)


鞠莉「果南、ドンマイ!」

果南「うん」

56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:11:40.05 ID:DOy9M7N10
『3番センター三角さん』


果南「嫌なバッターに回しちゃったなぁ」

鞠莉「あと1人、もし打たれても次のこっちの攻撃は上位から」

鞠莉「落ち着いて、気負わずにいきましょう」

果南「だね」


果南(どうせ直球を投げ込むしかできないんだ)

果南(余計なことを考えずに、思い切り――)


 カキ――ン! 


果南「おわっ」

57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:12:07.68 ID:DOy9M7N10
鞠莉「右中間抜けた――梨子!」


梨子「器用ね、全く!」パシッ――シュッ

ルビィ(ホームは――無理だね)


三角「……」グッ


菊地原「同点だ!」

田中井「流石三角さん!」


鞠莉「果南!」

果南「大丈夫、次だよね」

鞠莉「ええ!」

58: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:12:43.63 ID:DOy9M7N10
『4番サード古井さん』


果南(この人も典型的なパワーヒッター)

果南(曜の球をこの球場でホームランにした力は本物)

果南(でも力には力)

果南(球威で――抑え込む!)シュッ


古井(真ん中高め!)


 カキ―ン!

59: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:13:22.66 ID:DOy9M7N10
田中井「いい当たり!」

菊地原「だけど――」


善子「オーライ!」パシッ

 アウト!


果南「よっしゃ!」


三角「古井さん、切り替えていきましょう」

古井「うん」

古井(私が真っ向勝負で押し込まれるなんて、恐ろしい球威……)

60: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:13:52.26 ID:DOy9M7N10
【9回裏】 Aqours12-12カーブ


外崎「ふっ」シュッ


千歌「また投手代わっているね」

ダイヤ「クローザー的な役割を担っている、外崎さんですね」

ダイヤ「ツーシームとスライダーを武器、的の絞りにくい投球が持ち味です」

千歌「なるほど」


ダイヤ「あの投手から大量点は難しい」

ダイヤ「1点取ればいいこの回に試合を決めてしまいたいですね」

千歌「了解です!」

61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:14:18.82 ID:DOy9M7N10
『2番サード高海さん』


千歌(ビデオではみたけど、実際はどんな球を投げるんだろう)


外崎「ふっ」シュッ


千歌(ストレート――)

 クッ

千歌「わっ」


 ストライク!

62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:14:45.52 ID:DOy9M7N10
千歌(じゃない!)

千歌(インコースに食い込んできた)

千歌(これがツーシーム……)


 シュッ


千歌(えい)ブン


 ストライク!


千歌(これでも駄目)

千歌(だけど次は――)ブン


 バッターアウト!

63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:15:22.14 ID:DOy9M7N10
千歌「駄目かぁ」

曜「最後のは?」

千歌「スライダーだった」

千歌「でもその前のツーシーム、ちょっと凄いよ」

曜「みたいだね、注意するよ」



『3番ショート渡辺さん』


曜(ツーシーム)

曜(それだけ自信を持っているなら、あえてそれを打ち砕く)


 シュッ


曜(私ならできる!)カキーン!


ルビィ「ヒットだ!」

ダイヤ「サヨナラのランナーですわ!」

64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:15:51.39 ID:DOy9M7N10
『4番ピッチャー松浦さん』


果南(うーん、この人もどうも苦手な感じが)


曜(果南ちゃん)スッ


果南(おっと、盗塁か)

果南(確かにその方がいいかも)


外崎「――」グッ

曜(ここだ!)ダッ


 シュッ


逢沢(くっ)パシッ――シュッ


 セーフ!

65: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:16:27.29 ID:DOy9M7N10
千歌「曜ちゃん!」

ダイヤ「これでサヨナラのランナーが得点圏に」


外崎「……」

果南(表情は変わらない――少しは動揺してほしいんだけど……)


 バッターアウト!



果南「駄目かぁ」


逢沢「ツーアウト!」

66: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:16:55.73 ID:DOy9M7N10
『5番キャッチャー小原さん』


鞠莉(私はツーシーム系をアメリカで打ち慣れてる)

鞠莉(まともに勝負してくれれば打てる確率も高いでしょうけど――)


 ボールフォア!


果南「敬遠か」

千歌「梨子ちゃん! 頑張って!」

梨子「うん」

67: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:17:28.05 ID:DOy9M7N10
『6番ライト桜内さん』


梨子(さあ)

梨子(投げられなかった分、ここで仕事しないとね)


 ストライク!


梨子(この人のツーシームは確かに強力だけど、全球同じボールを投げるわけじゃない)

梨子(私が狙うべきは、アクセントに絶対投げるスライダー)


 ボール!


梨子(追い込まれるまでは、狙い球を絞って)


 ボール!

68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:18:25.90 ID:DOy9M7N10
外崎「……」シュッ


梨子(来たら――打つ!)


 カキーン!


千歌「センター前!」

ルビィ「曜ちゃんは――」


曜「っと」キキッ

曜(前進守備で三ちゃんは分が悪いね)

69: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:18:51.99 ID:DOy9M7N10
花丸「だけど満塁ずら!」

千歌「ここでバッターは――」


『7番センター津島さん』


花丸「……さて、守りの準備を」

善子「なんでよ!」

花丸「冗談だよ~」

善子「まったくもう!」

70: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:19:18.97 ID:DOy9M7N10
花丸「大丈夫、信じてるよ」

花丸「善子ちゃん、やる時はやる子だって」

善子「ふふん、見てなさい」

善子「華麗に試合を決めてきてやるわ」

花丸「うん、頑張れ!」



善子「さあ、来なさい!」


逢沢(この子はいい選手だけど、上位に比べれば打撃はまだまだ)

逢沢(インコースのツーシームで押し切れる)

71: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:19:52.36 ID:DOy9M7N10
善子(今日は守備でみんなに、曜さんに散々迷惑をかけた)

善子(女房役として、絶対に打つ!)


善子(……それに、最終回、同点、ツーアウト満塁)

善子(ここで打って、名門の東洋高校を破れば間違いなく目立てる)

善子(明日こそ、私がネット上で話題になる)

善子(くっくっくっ、この堕天使ヨハネの全国デビューは――)


 シュッ


善子(ってしまった、もう投げて――へっ)




 ドスン

72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:20:25.38 ID:DOy9M7N10
外崎「あっ」

逢沢「あっ」


善子「~~~~~~~」ジタバタ


千歌「え、えっと」

果南「これは……」

花丸「サヨナラ、デッドボール?」

ルビィ「そうみたい、だね」

73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:21:15.89 ID:DOy9M7N10
三角「ちょっと、嘘でしょ……」

菊地原「マジかよ……」

田中井「……」


梨子「……凄い空気になっちゃったね」

曜「うん」

梨子「こんなの、みたことある?」

曜「ない」

梨子「そうよね」


曜(善子ちゃん、君は本当に最高だよ)クスッ


善子(なんで)

善子「なんでこうなるのよ~~~~~~~~」




【試合終了】 Aqours13-12カーブ

74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:24:28.91 ID:DOy9M7N10
 ―試合後・高海家―


千歌「それでは県大会優勝を祝して――」


「「「「「かんぱーい!」」」」」


千歌「あー、みかんジュースは最高だね」ゴクゴク

花丸「でもジュースは禁止じゃなかったっけ?」

ダイヤ「今日だけ特別ですわ。めでたい日ですから!」

千歌「そうそう、今日は硬いこと言いっこなしだよ!」

75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:25:03.95 ID:DOy9M7N10
善子「……」

曜「おやおや、どうしたよーしこー」

善子「私、みかんジュース飲めない……」

梨子「それならほら、これ」


【哺乳瓶入りミルク】


梨子「善子ちゃん、これが好きなんでしょ」

曜「えっ、マジ……」ヒキッ

善子「いつの話してるのよ! 幼稚園の頃よ!」


曜「とりあえずほい、いちごミルク」

曜「さっき病院行った途中で買っておいたよ」

善子「あ、ありがとう」

76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:25:36.16 ID:DOy9M7N10
ダイヤ「曜さん、身体の方が大丈夫でしたか?」

曜「特に問題はなさそうで、単純に疲労みたいです」

曜「ごめんなさい、迷惑かけてしまって」


鞠莉「謝る必要はないわ、無理をさせたのは私たちの方」

ダイヤ「優勝できたのは、曜さんの力があってこそ」

果南「もっと胸を張っていいんだよ」

曜「……ありがとう」

ダイヤ「ただ今度からは、異変を感じたら早めに教えてくださいね」

曜「はい」

77: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:26:02.43 ID:DOy9M7N10
善子母「花丸ちゃん」

花丸「善子ちゃんのお母さん」


善子母「初めてのヒット、おめでとう」

花丸「あっ、そういえば」

善子母「気づいてなかったのかしら」

花丸「試合に夢中で忘れてました」

善子母「打った時の状況が状況だったものね」

花丸「ですね、大量失点の後で」

78: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:26:28.05 ID:DOy9M7N10
善子母「自主練をあれだけ頑張ったんですもの」

善子母「大会中の失策も1つだけ」

善子母「よかったわね、練習の成果が出て」

花丸「はい!」


千歌「コーチ、コーチ」

善子母「高海さん?」

千歌「私も実は、公式戦初安打でした!」

善子母「あら、そうだったかしら」

79: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:26:58.73 ID:DOy9M7N10
善子母「意外ね、練習ではそれなりに打っているのに」

千歌「あはは、なんか本番に弱いみたいで」

善子母「でも決勝の大舞台で2安打、大事な場面には強いのかもしれないわね」

千歌「えー、最終回はあっさり凡退なのに」


花丸「1番大事な場面に強いのは、間違いなく善子ちゃんずら」

善子「花丸……」


善子母「そうね、決勝で2死球――しかもサヨナラ死球なんて初めて聞いたわ」

花丸「ずら!」

善子「そっちかい!」

80: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:27:30.76 ID:DOy9M7N10
ルビィ「でも善子ちゃん、早速話題になってるよ」

ルビィ「今日の試合の善子ちゃんのプレー」

善子「えっ、本当に!」

ルビィ「うん、ほら!」


【皆が唖然とする中、死球の痛みで悶絶している写真】


花丸「『東洋高校まさかのサヨナラ負け! 最後は押し出し死球!』だって」

ルビィ「善子ちゃんの名前は出てないけど、写真はかなり広まってるみたい!」

花丸「流石善子ちゃんずら~」

善子「いやいやいや、こんな広まり方をしても嬉しくないんだけど!」

81: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:28:28.88 ID:DOy9M7N10
曜「でも2回もぶつけられて、痛くない?」

善子「痛いわよ! 痛いけど――それで勝てたんだから悪くないわ」

曜「そりゃそうだよね」

曜「やっぱり勝つのが1番!」


鞠莉「パパからもお祝いのメールをもらったわ」

鞠莉「廃校の有無はともかく、学校説明会の開催は前向きに検討するそうよ」

ルビィ「ネット上でも、統廃合の件が話題になり始めてるもんね」

鞠莉「まさか本当に優勝するとは思わなかったって、失礼しちゃうわね」


ダイヤ「あら羨ましい」

ダイヤ「私の両親は勝って当たり前だと、事務的な連絡程度」

82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:29:31.27 ID:DOy9M7N10
ルビィ「でもね、理亞ちゃんからお祝いのメールがもらったよ!」

善子「理亞ちゃん?」

花丸「理亞ちゃんって、あのSaint Snowの?」


ルビィ「うん」

ルビィ「遠征に来てくれた時に連絡先を交換したら、意気投合したんだ~」


梨子「いつの間に仲良くなってたのね」

曜「ビックリだね」

千歌「ルビィちゃん、すっかり人見知りじゃなくなってない?」

83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:29:57.60 ID:DOy9M7N10
花丸「うぅ、マルの元からルビィちゃんが離れて行くずら……」

善子「はいはい、いい加減ルビィ離れしなさいってことよ」


ルビィ「大丈夫だよ、ルビィはマルちゃんが1番だから」

花丸「ルビィちゃん……」


ダイヤ「ルビィ、それだと私は? 私はどうなるのですか?」

ルビィ「うーん、お姉ちゃんも1番かな?」

ダイヤ「まぁ~、流石ルビィ~」ギュー


善子「ちなみに私は?」

ルビィ「善子ちゃんも1番!」

花丸「みんな仲良く1番ずら~」

84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:30:25.27 ID:DOy9M7N10
ダイヤ「1番!」

ダイヤ「黒澤家に求められるのは1番のみ!」

ダイヤ「当然全国でも1番、ぶっちぎりで優勝ですわ~」


果南「ねえ、ダイヤの様子おかしくない」

鞠莉「そうね、いくら優勝でテンションが高まっているとはいえ」

果南「なんかさ、変な物でも――あっ」

鞠莉「どうしたの?」


果南「ダイヤ、間違ってコーチが飲んでた苦めの飲み物を……」

鞠莉「わぉ」

85: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/17(金) 03:31:09.53 ID:DOy9M7N10
ダイヤ「はぁ、このジュースは少し苦いですが美味しいですね」ゴクゴク

果南「マズいよダイヤ! ばれたら出場停止になるかも!」

鞠莉「そ、そうよ。ストップストップ」

ダイヤ「いーやーですわ!」


果南「こうなったら入れ物ごと没収――うわっ、凄い抵抗力」

鞠莉「ちょっと曜、手伝って!」

曜「よ、ヨ―ソロー!」

97: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:11:26.96 ID:HGd5x8Sk0

 ―夜・黒澤家― 


善子(はぁ、黒澤家のお風呂は大きくて快適だったわね……) 

善子(『お姉ちゃんがいないと寂しいから泊まりに来て』なんて言われたときは驚いた) 

善子(だけど結果的に、友達の家にお泊りなんてイベントを経験できたんだから、悪くないわね) 

善子(花丸はお風呂だし、とりあえずルビィと2人でなんかしていようかな) 

善子(ルビィは――んっ?)

88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 00:53:56.55 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「ふんふふ~ん♪」


善子「なによ、楽しそうね」

ルビィ「ピギャッ!?」

善子「ヨハッ!?」


ルビィ「な、なんだ、善子ちゃん」

善子「な、なによ、驚くじゃない」

ルビィ「ご、ごめんね」

89: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:03:12.54 ID:HGd5x8Sk0
善子「まあいいわ――それで何してるの?」

善子「さっきから、鼻歌を歌いながらスマホ画面とにらめっこだけど」

ルビィ「えっとね、色んな人からお祝いのメールが来てたから、お返ししてたの」

善子「へぇ、どんな相手と?」


ルビィ「日中高校の人たちが多いし、音ノ木坂のこころさんも」

善子「あっ、こころさんからは私もメール貰ったわ」

ルビィ「うゅ、まめな人だよね」

善子「曜さんには余計な一言が付いていたみたいで、怒ってたけど」

ルビィ「きっとそこだけ、板本さんが書いたんだろうね」


90: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:05:43.71 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「あとね、理亞ちゃんからながーいメッセージ貰った」

善子「マジで、どんな?」

ルビィ「うん、これ」スッ


善子「うわっ、文字数制限いっぱい、しかも複数……」

ルビィ「凄いよね~」

善子「凄いけど引くわよ、流石に……」

ルビィ「そう?」

善子(あの子、加減を知らないのかしら……)

91: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:06:20.07 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「今日はよかったよね、勝てて」

善子「そうね」


ルビィ「善子ちゃん、お疲れ様」

善子「デッドボールのこと? あんたもしつこいわね」

ルビィ「違うよ、キャッチャーとして」

善子「ああ、そっち」

92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:07:20.02 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「頑張ってたよ、善子ちゃんは」

善子「分かってるわよ」

善子「あの状況だと、私は何もできなかった」

善子「分かってる、だけど」


ルビィ「勝ったから、いいんじゃないかな」

善子「だけどまた、同じような状況になるかもしれない」

善子「もしそれが、今日より強い相手と戦うときに起こったら」

善子「今度は、私が解決する」

善子「それか未然に防ぐ、私が曜さんを助ける」

93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:08:37.14 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「よっぽど、曜ちゃんが好きなんだね」

善子「恩返しよ、色々な」

ルビィ「それに、完璧主義者だ」

善子「そうね、否定はしないわ」

善子「だけど、それはあなたもでしょ」

ルビィ「ルビィも?」


善子「完璧を目指すから、高い理想があるから、努力を重ねる」

ルビィ「そうかな? 別にルビィはそんな凄い考え持ってないよ」


ルビィ「ただ野球が好きで、楽しくて」

ルビィ「上手くなれば、もっと楽しくなるから、練習をする」

ルビィ「その練習も、楽しいから、もっとしたくなる」

ルビィ「あれ、よく分からなくなってきた……」

94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:09:13.32 ID:HGd5x8Sk0
善子(それなのに、本能では勝利を目指す)

善子(私はルビィより体格もいい、メンタルも強い)

善子(だけど、結果を残すのはいつもこの子)

善子(大きな弱さ、その中にある強さ)

善子(その強さは、どれだけ大きなものなんだろう)

善子(いったい、どこから来るんだろう――


花丸「2人で何を話しているずら!」

善子「うわっ、いつの間に」

95: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:09:46.41 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「ま、マルちゃん?」


花丸「ルビィちゃん!」

ルビィ「うゅ?」

花丸「これ、あげるずら」

ルビィ「お手紙?」

花丸「理亞ちゃんに負けないように、マルの全てを絞り出してお祝いの言葉を大量に書いたものずら」

ルビィ「そ、そうなの?」

善子「この短時間で――というかいつから聞いてたの?」

花丸「メールのくだりから全部」

善子「あんたねぇ」

96: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:10:13.70 ID:HGd5x8Sk0
善子「そもそも、張り合ってどうするのよ」

花丸「だって、ルビィちゃんとの絆で、ポッとでのどさんこなんかに負けられないもん!」

善子「……あんたも、強いわねぇ」

花丸「なんか、馬鹿にされている気がする?」

善子「気のせいよ」

花丸「むぅ、気になるずら」


善子「それより、三人揃ったら今日の振り返りをするんでしょ」

善子「早く始めましょう」

ルビィ「あ、うん」

花丸「そうだね」



98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:12:02.19 ID:HGd5x8Sk0
 ―同時刻・高海家―


曜「ふにゅぅ」スヤスヤ

千歌「あー、寝ちゃったね」

梨子「かなり、疲れていたもんね」


曜「ちかちゃん……」スヤスヤ


梨子「……寝言でも千歌ちゃんか」

99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:12:41.97 ID:HGd5x8Sk0
梨子「曜ちゃんはどうして、こんなに千歌ちゃんが好きなのかしら」

千歌「うーん、理由とかはあんまりないと思う」

千歌「ただずっと近くにいた。それで気も合って、お互いが大好きで」

千歌「だから自然と愛情が生まれて、こうなったの。仲良しの姉妹みたいな」


梨子「でも姉妹にしては、曜ちゃんは妹っぽいよね」

千歌「えっ、私がお姉ちゃんでしょ」

梨子「誕生日、曜ちゃんの方が早いじゃない」

千歌「そうだけど……」

100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:13:10.85 ID:HGd5x8Sk0
梨子「曜ちゃんは、千歌ちゃんを追って浦の星で野球を始めたんだよね」

千歌「うん」

梨子「どうして、それまで一緒にやったことはなかったの?」

梨子「今までも、誘われてたんでしょ」


千歌「まあ、私はそこまで野球に興味がなかったし」

梨子「だけど、遊びや練習に付き合うことはあったんだよね」

千歌「まあね、その時は果南ちゃんもいたけど」

101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:14:13.21 ID:HGd5x8Sk0
千歌「やっぱり、幼馴染でやる野球ごっこは楽しかったよ」

千歌「だけど、一緒のチームは考えられなかった、かな」

梨子(あんまり、聞かないでほしいのかな)


曜「ちかちゃーん」ゴロゴロ

千歌「もぅ、本当に甘えん坊だなぁ」ヨシヨシ


梨子「……面倒よね、本当に」

千歌「そうだね、曜ちゃんはちょっと変わってるから」

梨子「千歌ちゃんもよ」

千歌「ふぇ、私も?」

梨子「当たり前でしょ」

102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:14:51.92 ID:HGd5x8Sk0
千歌「うーん、納得いかない」

梨子「いいじゃない、その面倒臭さが可愛いんだから」

千歌「ぶーぶー、そんなこという旦那とは離婚だー」

梨子「おっと、それは困るわね」

千歌「ふっふっふっ、旦那にベタ惚れのようだね、奥さん」

梨子「まあ、浮気は許さないけどね」

千歌「わ、分かってるよ」


梨子「だけどね、一妻多夫制なら問題ないわよ」

千歌「……」

梨子「早く戻れるといいわね、曜ちゃんと夫婦に」

千歌「……うん」

103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:15:18.50 ID:HGd5x8Sk0
 ―同時刻・小原家―


ダイヤ「はっ、ここは」

鞠莉「私の家よ」

ダイヤ「鞠莉さんの、家?」

果南「そうそう、色々と収拾がつかないから引き取ったんだよ」

ダイヤ「はぁ」

104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:16:09.69 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「しかし不思議ですね、確か打ち上げの途中だったような……」

鞠莉「……あなた、何も覚えてない?」

ダイヤ「ええ」


鞠莉「怖いわね、苦い飲み物の力は……」

果南「本当に、あのダイヤの記憶がないとか」

鞠莉「気をつけましょうね、将来」

鞠莉「特に果南は不安だわ……」

果南「うーん、不思議と否定しづらい」


105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:18:18.11 ID:HGd5x8Sk0
果南「まーいいや、ダイヤも起きたし、私帰るね」

鞠莉「あら、泊まっていかないの?」


果南「父さんの面倒見なきゃだから」

鞠莉「ああ、怪我をされていたのよね。お父様の容体はどう?」

果南「もうほぼ問題はないよ」

果南「ただ最近、家の手伝いも疎かになってたからさ、そっちもやらないと」


ダイヤ「素晴らしい心掛けですね、流石果南さん」

果南「明日、朝には迎えに来るからさ。じゃあね」

鞠莉「バイバーイ」

106: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:18:45.62 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「さて、鞠莉さん」

鞠莉「うん」

ダイヤ「実際、鞠莉さんのお父様の反応はどうでした」


鞠莉「……褒めてはくれた、喜んでいたのも事実」

ダイヤ「はい」

鞠莉「だけどね、廃校の話は、さらに進んでいるらしい」

鞠莉「私に気を使って明言はしなかったけど、雰囲気で察することはできた」

107: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:19:20.54 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「……難しいですね」

ダイヤ「親としては、娘の願いを叶えたい、助けてあげたい」

ダイヤ「しかし家の立場が、それを許さない」

ダイヤ「親としての感情より、当主としての理屈を優先しなければならない」

ダイヤ「本当に、上手くいかないもので」


鞠莉「大人ね、ダイヤは」

ダイヤ「私自身、嫌というほど感じてきましたから」

ダイヤ「1人の身内より大勢の他人のことを考える、立派な父の隣で」

108: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:19:46.62 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「あー、でも私はそんな割り切れない」

鞠莉「もう飲まなきゃやってられないわよ!」

ダイヤ「ジュースを?」

鞠莉「大人のジュースよ!」

ダイヤ「駄目ですよ、お酒は」

鞠莉「あなたが言う台詞?」

ダイヤ「?」

鞠莉「……本当に覚えていないのね」

109: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:20:12.48 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「まあいいわ、珈琲でも淹れましょう」

鞠莉「どうせ今夜は眠れそうもないし、廃校阻止の対策についてとことん考えましょう」

ダイヤ「あら、私もご馳走になっても?」

鞠莉「当然でしょ」

鞠莉「もう苦いジュースは飲ませたくないもの」

ダイヤ「そうですわね――あっ」


鞠莉「……あなた、本当は」

ダイヤ「な、なんのことやら」ポリポリ

110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:21:59.36 ID:HGd5x8Sk0
 ―数日後・抽選会会場―


『……』


 カキーン!


 カキーン!


『駄目だ、抑えられない』

『身体が動かない、何を投げても打たれる気がする』

『投げるのが怖い、マウンドに立つのが――』

111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:22:26.49 ID:HGd5x8Sk0
善子「曜さん、曜さん」ユサユサ」

曜「……んぁ」

善子「いつまで寝てるの、そろそろ抽選始まるわよ」

曜「あ、あぁ、うん」

善子「なによ、緊張して眠れなかったとか」

曜「いや、そうじゃないんだけどさ……」


曜(最近、悪夢で起こされてずっと寝不足)

曜(今だってそうだった)

曜(東洋戦、打たれる光景、自由に動かない自分の身体)

曜(生々しく、思い起こされる)

112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:23:10.30 ID:HGd5x8Sk0
善子「しっかりしてよ、曜さんは注目されてるんだから」

善子「あなたは浦の星の顔なのよ、もう」

曜「あはは、ごめんよ」


『おい、あれ』

『もしかして、例の……』

『あのお団子――』


曜「あれ、だけど善子ちゃんもめっちゃ注目されてない?」

善子「……いや、私のは」

113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:23:41.19 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「今、ある意味話題の死球堕天使さんですからね」

千歌「死球堕天使?」


ルビィ「いやぁ、東洋との決勝の写真から、ネットの動画が特定されちゃったみたいで」

ルビィ「最近話題なんですよ、一部で」

花丸「そうなの?」

ルビィ「うん、善子ちゃんを含めてみんなのリアクションの面白さから、変なコラ画像もできたりしてね~」

花丸「それは気になるずら~」

ルビィ「ちょっと待って、いま写真を――」

善子「ストップ! 止めなさい!!」

114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:24:10.31 ID:HGd5x8Sk0
??「……ずいぶん騒々しいわね」

善子「この声は――」

ルビィ「理亞ちゃん!」


ルビィ「久しぶり、元気だった!」ピョンピョン

理亞「る、ルビィ」

ルビィ「会いたかったよ~」

理亞「ふ、ふん、別に私は」

ルビィ「……そっか」ショボン


理亞「う、嘘よ、会いたかったに決まってるでしょ」

ルビィ「わーい!」

115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:24:40.56 ID:HGd5x8Sk0
梨子「知らぬ間に手懐けてる……」

曜「あんな生意気だった姿はどこへ」


??「生意気なのはお前もだろ」


曜「板ちゃんほどじゃないよ」

板本「いやいや、私はそこまで酷くない」

こころ「そうですね、どんな方でもここあに比べればまだまだ」

ここあ「えー、そんなことないよ」

116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:25:08.03 ID:HGd5x8Sk0
千歌「な、なんか人が集まってきてる」

ダイヤ「有名になったものですね、私たちも」


曜「それにしてもさ、何の用?」

板本「少し紹介したい奴がいてさ」

曜「紹介したい人?」

板本「そうそう、他校の1年なんだけど、なかなか有望で――」


??「前置き長いっすよ、板さん」

板本「いや、長くはないだろ」

117: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:25:56.34 ID:HGd5x8Sk0
??「パーッとやってもらわないと」

板本「いや、意味わかんねえし」


曜「その子?」

板本「そうそう、こいつ」


田山「UTXの田山っす!」

田山「好きな物は野球――あとお金と女っす!」

曜「お、女?」

板本「こいつ、そういう趣味なの」

曜「そ、そう」

118: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:26:27.09 ID:HGd5x8Sk0
田山「曜先輩のこと、前からちょーリスペクトしてたんすよ!」

田山「まじすげぇし、守備も打撃もすげー参考にしてて」

曜「あ、ありがとう」


田山「それにめっちゃ好みなんすよね、見た目とか!」

曜「いや、そっちはちょっと遠慮したいというか」

田山「えー、そう言わずに~」ガシッ

曜「ちょ、顔近い、力強い」

田山「鍛えてますから!」


曜「た、助けて板ちゃん」

板本「やー、狼狽える曜を見るのは楽しいからなぁ」

119: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:26:55.71 ID:HGd5x8Sk0
善子「曜さんが圧倒されてる」

千歌「珍しい光景だね」

梨子「でもなんか、謎の既視感が――」


柳澤「理亞ー、聖良先輩が呼んでるぞ」

理亞「姉さまが?」

柳澤「そろそろ戻れ――って曜先輩!」

曜「げっ」

120: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:27:23.80 ID:HGd5x8Sk0
田山「柳澤、曜先輩と知り合いなの」

柳澤「そりゃそうよ!」

柳澤「すげーやべぇ曜先輩のこと、マジでリスペクトじゃん!」

田山「分かるわ! すげーしやべぇ、マジパネぇよな!」

柳澤「そうそう、パない!」


曜「板ちゃん、もしかして」

板本「そうそう、こいつら仲良いんだよ」

板本「ついでに下の世代ではトップクラスの2人組さ」

梨子「既視感の正体はこれね……」

千歌「会話で分かるよ、別次元なのは……」

121: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:27:55.10 ID:HGd5x8Sk0
板本「よう、梨子」

梨子「春以来ね、板本さん」

板本「少しはマシな球を投げられるようになったらしいじゃないか」

板本「まだまだ私たちに通用するレベルじゃないだろうけどさ」


梨子「それは、やってみなきゃ分からないわよ」

板本「ふぅん、自信あるんだ」

梨子「さあ」

122: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:28:47.39 ID:HGd5x8Sk0
こころ「実際、あのフォークボールは脅威でしたからね」

梨子「こころちゃん」

こころ「梨子さん、自分の投球を取り戻してきたようですね」

梨子「おかげさまでね」

こころ「渡辺さんと梨子さんを擁する浦の星は間違いなく強敵」

こころ「それは間違いありません」


ここあ「ふん、こっちだって私がいるんだからな!」

板本「一応、笠野もいるしな――頼りたくないけど」

123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:29:12.94 ID:HGd5x8Sk0
聖良「ずいぶんにぎやかですね、皆さん」

千歌「あっ、聖良さん」


聖良「理亞、柳澤さん、戻りますよ」

聖良「そろそろ抽選が始まってしまいます」

理亞「うん」

柳澤「了解っす」


聖良「曜さん」

曜「なんですか」

聖良「対戦、楽しみにしてますよ」

聖良「今度は真っ向から戦えそうですから」

曜「……私の方こそ」

124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:29:39.32 ID:HGd5x8Sk0
こころ「それなら2人とも、それなら早めの対戦を祈ることですね」

聖良「なぜ?」

こころ「どこのチームであろうと、私たちと戦う段階で敗退は決まったも同然ですから」

こころ「終盤になれば残っている確率が下がるでしょう、必然的に」


聖良「……言いますね、こころさん」

曜「挑発かな、それは」

こころ「あくまで客観的な事実ですよ――ねえ、板本さん」

板本「そうだな」

板本「どこだろうと、私たちが負ける気はしない」


曜「へぇ」

聖良「……素晴らしい自信ですね」


こころ「では、楽しみにしていますよ」

こころ「皆さんと対戦できるのを」ザッ


聖良「私の方こそ」ザッ

125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:30:07.42 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「熱いわね、ずいぶんと」

果南「いいじゃん、それぐらいの方が燃えるよ」

梨子「だけどあんなに挑発的なこころちゃん、珍しいね」

曜「それだけ気合いが入ってるってことかな」


千歌「でもくじ引きかぁ」

曜「千歌ちゃん?」


千歌「今回こそさ、誰か私の代わりに引いてくれない?」

千歌「ほら、ここまで2大会連続で外れくじを引いちゃってるし」

126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:30:59.51 ID:HGd5x8Sk0
曜「えー、けど主将が引くもんでしょ」

梨子「そうよね」


鞠莉「だけど、結果が出てないのも事実なのよね」

果南「悪いイメージしかできないのは、影響するかも」

千歌「そうそう」

ダイヤ「そうですね、千歌さんが気になるというなら、無理強いするのは」


花丸「じゃあ代わりは誰が?」

ルビィ「やっぱりお姉ちゃん?」

127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:31:25.54 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「私もそこまで運に自信は……」

鞠莉「幸運の持ち主の曜がいいんじゃないかしら」

曜「私?」


果南「創設メンバーの1人だし、無難な気もするよね」

千歌「そうだね、曜ちゃんならそんなに変な感じも――」


善子「待ちなさい!」


千歌「善子ちゃん?」

花丸「どうしたの?」

128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:31:57.06 ID:HGd5x8Sk0
善子「ここは私に任せなさい!」

善子「最高のくじを引いてくるわ!」


「「「「「…………」」」」」


花丸「……というわけで、やっぱり曜ちゃんでいいかな」

ルビィ「うん、いいと思う」


善子「ちょっと!」

花丸「なんずら」

善子「花丸はともかく、ルビィまでそんな反応しないでよ!」

129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:32:26.72 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「だって、ねぇ」

花丸「うん」


ダイヤ「善子さん」

鞠莉「これは遊びじゃなくて真剣なの」

千歌「そうそう、冗談は善子ちゃんだよ!」

果南「千歌、真面目に!」


善子「くっくっくっ、みんな愚かね」

善子「私は至って真面目なのに」

曜「そうなの?」

130: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:33:20.33 ID:HGd5x8Sk0
善子「これでもね、私は3回に1回は当たりを引きよせるのよ」

善子「今まで、私の力が通じずに、2回失敗している」

善子「つまりこれが3回目、間違いなく良いくじを引けるわ!」


花丸「おぉ、かつてないほど自信に満ち溢れた顔ずら!」

ルビィ「凄いよ! 根拠はないはずなのに信じられる!」


ダイヤ「……何だか、信じても大丈夫な気がしてきます」

鞠莉「……サヨナラ死球だって、ある意味ラッキーガールだったものね」

果南「今回は善子に賭けてみようか」

ダイヤ「……そうですわね」

131: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:34:05.36 ID:HGd5x8Sk0
善子「ふっ、これで決まりね」

善子「見てなさい、素晴らしいくじを引き当ててくるわ!」ダッ


梨子「……大丈夫かな」

曜「あの感じだと、信じていいんじゃない」

千歌「そうだね、善子ちゃんはやる時はやる子だもん!」

梨子「2人がそういうなら」


千歌(あれ、でも最初に私が当たりくじを引き寄せていたとしたら……

132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:34:34.10 ID:HGd5x8Sk0
―――
――




『UTX学園――18番』


鞠莉「順調に埋まっていくわね」


『音ノ木坂学院――32番』


ダイヤ「強豪校はばらけています」

ダイヤ「固まっているとすればUTXのいるブロック辺りでしょうか」


『函館聖泉女子高等学院――6番』

133: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:34:59.20 ID:HGd5x8Sk0
果南「私たちの番は」

千歌「そろそろだよ」


善子(いざ目の前にすると、緊張するわね)

善子(でも、私の真の力をAqoursのみんなに見せつけてやるんだから)


職員「浦の星女学院さん、次どうぞ」

善子「は、はい」


善子(とにかく引き寄せられたくじ――それを引けば間違いなく当たり)ゴソゴソ

善子(経験上、そろそろ幸運が訪れるはず!)

善子「これだ!」バッ

134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:35:35.67 ID:HGd5x8Sk0
『浦の星女学院――17番』


ルビィ「あっ」

千歌「これは」

梨子「UTXね、相手」


ダイヤ「UTX、説明するまでもなく、超名門校です」

鞠莉「そうね」

ダイヤ「音ノ木坂のライバル、ここ最近はやや低迷していますが、それでも毎年全国ベスト8以上には入ってくる実力の持ち主です」

果南「しかもこれ、勝ち進んだら準決勝で音ノ木坂、ヤバくない?」

鞠莉「あとの2試合も聞いた事のある高校がうじゃうじゃと……明らかに厳しい山に入ったわね」

135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:36:01.12 ID:HGd5x8Sk0
善子「え、えっと」

ダイヤ「善子さん……」ジト

善子「ちょ、ちょっと、そんな目で見ないでよ」


花丸「ああもう、善子ちゃんの馬鹿!」

花丸「あの自信は何だったのさ!」

善子「し、知らないわよ」


千歌(ごめん、善子ちゃん……)

千歌(もっと早く気づけばよかった……)

136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:36:33.68 ID:HGd5x8Sk0
梨子「ま、まあ、強い相手と当たる方が燃えるよね、曜ちゃん」

曜「ふぇ」

梨子「曜ちゃん」

曜「うん、そうだね……」


千歌(曜ちゃん、ちょっと元気ない?)

千歌(県大会の炎上を引きずってるのかな)

曜「ふわぁ」

千歌(いや、寝不足なだけ?)

137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 01:37:17.47 ID:HGd5x8Sk0
花丸「どうしよう、これで初戦敗退なんてしたら――」


ルビィ「大丈夫だよ」


花丸「へっ」

ルビィ「ルビィたちは負けない。絶対に最後まで勝ち進める」

花丸「ルビィちゃん……」


ダイヤ「……そうですね」

鞠莉「ここまで来たら相手なんて関係ない」

果南「どんな敵でも倒して、勝ち進んでいくだけ」


ダイヤ「宿舎に帰ったら早速作戦会議にしましょう」

千歌「はい!」

138: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:05:41.61 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎―


ダイヤ「さて、初戦のUTXのデータですが」

ダイヤ「東京は出場校数の関係で2枠に分かれているので、音ノ木坂とは別ブロックの代表です」


ダイヤ「今年のUTXは打撃のチーム」

ダイヤ「近年は有望な選手を音ノ木坂に奪われ続ける中、優秀な指導体制を生かし、圧倒的に爆発力のある打線を作り上げました」

ダイヤ「その中心は3番セカンドの田山選手」

ダイヤ「板本さんに近い打力に、盗塁成功率が100%近い俊足の持ち主」

ダイヤ「4番レフトの馬連さんは、男子のスラッガー顔負けの飛距離を持ちます」

ダイヤ「他にも、赤木さん、河端さん、畑山さん、坂田さん、高井さんなど、強力な打力を持った選手が控えています」

139: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:06:12.50 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「ただし、投手は別です」

ダイヤ「エースはライアンさん。独特なフォームから130近い伸びのある直球を武器にする投手です」

ダイヤ「変化球はカットボールとチェンジアップ、球速差のある後者は特に要注意」

ダイヤ「彼女は怪我が多いことを除けば一流の投手、しかし他に優れた投手はいません」

ダイヤ「つまりライアンさんを降ろしてしまえば圧倒的に有利な状況になる」

ダイヤ「実際、予選では2番手以下の投手が投げた試合、弱小校相手にも大量失点を喫しています」

千歌「それなのに、全国まで勝ち上がってきた」

ダイヤ「そうなのです」

140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:06:40.13 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「それだけ、異常な打力」

ダイヤ「地方大会6試合での合計得点は、100点を超えます」

千歌「100っ」

梨子「それは計算ミスとか、競技の間違いとかではなくて」


ダイヤ「紛れもない事実です」

ダイヤ「攻撃力だけをみれば、全国でも最強のチーム」

ダイヤ「その分、失点も50を超えていますが……」


ダイヤ「例え曜さんや梨子さんでも、彼女たちを完璧に抑えるのは難しい」

ダイヤ「試合は、いかにライアンさんを攻略して点を取るかがカギになります」

141: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:07:08.60 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「まず決めなければならないのは、先発投手ですね」

鞠莉「優勝までの試合数は5」

果南「詰まっている日程を考えると、やっぱり先発は交互かな」


梨子「普通に考えれば、曜ちゃんの先発の方が多めですよね」

千歌「つまり、曜ちゃんが1.3.5戦目、梨子ちゃんがが2.4戦目の先発?」


ダイヤ「しかし、対戦相手も考えなければなりません」

ダイヤ「トーナメントで最も強力、対策が必要な相手は準決勝の音ノ木坂、決勝の聖泉女子です」

千歌「そうですね」

142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:07:50.95 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「そして音ノ木坂はやや速球に弱く、聖泉女子は変化球に弱い」

ダイヤ「つまり音ノ木坂と相性がいいのは曜さん、聖泉女子は梨子さんです」

ダイヤ「そう考えれば、2、4が曜さん、1,3,5が梨子さんの方が無難でしょう」

ダイヤ「イニングなどは、継投で調整をすればいいですから」


果南「なるほどね」

鞠莉「確かにそれが無難かもしれないわ」

鞠莉「回復してきているとはいえ、体力的に消耗の激しい曜が初戦は、少し心配でもあったから」

143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:13:25.80 ID:HGd5x8Sk0
千歌「でも……」

ダイヤ「なにか問題でも?」

千歌「その、梨子ちゃんが音ノ木坂戦で先発しないのは」


梨子「千歌ちゃん」

千歌「梨子ちゃん――」


梨子「勝つためよ」

梨子「気持ちは嬉しいけど、私たちは勝たなきゃいけないの」

144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:14:04.27 ID:HGd5x8Sk0
梨子「何のための全国大会か、思い出して」

梨子「ここで勝利して、全国に浦の星の名前を轟かせ、廃校から学校を救う」

梨子「転校生の私でも覚えてるそれを、あなたが忘れちゃ駄目」

千歌(梨子ちゃん……)


ダイヤ「それに、梨子さんが中継ぎで投げる可能性は高い」

ダイヤ「リベンジの機会は、十分にあるはずです」


千歌「……そうだね」

千歌「感情や私情を挟んじゃいけないよね、主将の私は特に」

145: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:14:30.49 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「それとやはり打順です」

ダイヤ「全国で勝つために、最善の打順を組む必要があります」

千歌「最善?」


ダイヤ「ええ」

ダイヤ「もちろん、今までのままでも十分でしょう」

ダイヤ「しかし1か所、歪な部分があります」

曜「それは?」

146: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:17:26.94 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「ルビィ」

ルビィ「ピギッ!?」


ダイヤ「私はあなたを上位に配置するべきだと考えています」

千歌「ルビィちゃんを?」

ダイヤ「スタッツを考えれば、9番はおかしいでしょう」

ダイヤ「チームで曜さんに次いで打率、出塁率が高いというのに」

ルビィ「そ、それは」

147: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:18:05.65 ID:HGd5x8Sk0
千歌「でもやっぱり、メンタル面を考えると」

ダイヤ「改善はされたはずです」

ダイヤ「今のルビィなら、問題なく上位打線を打てるでしょ」

鞠莉「そうね、理想は1番とか」


ルビィ「1番打者……」

ルビィ(プレイボールのコール、サイレンの音、集まる注目――)


ルビィ「む、無理、無理だよぉ」

ルビィ「ルビィには無理!」ダッ

148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:18:35.21 ID:HGd5x8Sk0
善子「あっ」

花丸「ルビィちゃん!」

善子「花丸、追いかけなさいよ」

花丸「う、うん――」


ダイヤ「花丸さん、待ってください」

花丸「ダイヤさん?」


ダイヤ「私が行きます」

花丸「でも」

ダイヤ「千歌さんを中心に、話し合いを進めておいてください」

149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:19:00.34 ID:HGd5x8Sk0
 ―グラウンド―


ダイヤ「さて、ルビィは」


ルビィ「……」


ダイヤ(あそこですか)



ダイヤ「ルビィ」

ルビィ「お姉ちゃん……」

ダイヤ「探しましたよ」

150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:19:30.89 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「やはり、上位打線を打つのは嫌ですか」

ルビィ「……うん」


ダイヤ「私は贔屓目抜きに、今の貴女なら問題ないと思っています」

ダイヤ「声をかけられただけで逃げ出し、試合前に気絶して」

ダイヤ「もう、そんな弱いルビィだった頃とは違うでしょう」


ルビィ「そんなこと、ないよ」

ルビィ「今のルビィが頑張れているのは、お姉ちゃんや花丸ちゃん、Aqoursのみんなが支えてくれるから」

ルビィ「本当はまだ何も変わっていない、弱いルビィのまま」

151: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:20:28.54 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「そんなことはありません」

ダイヤ「今までの試合、抽選会のくじの後」

ダイヤ「誰よりも早く、力強く、前を向いていたのはルビィです」

ダイヤ「今のルビィは、このチームの誰よりも強い心を持っている」


ルビィ「違う、違うよ。ルビィは、そんな――」


ダイヤ「立派になりましたね」

ダイヤ「ただ幼く、可愛らしかったのに、本当にたくましくなりました」ギュッ

ルビィ「お姉ちゃん……」


ダイヤ「大丈夫ですよ。ルビィならきっと」

ルビィ「…………」

152: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:21:37.75 ID:HGd5x8Sk0
 ―全国大会1回戦当日ー


千歌「提出するオーダーは、これでいいかな」


1:ニ・ルビィ
2:中・善子
3:遊・曜
4:三・果南
5:右・鞠莉
6:捕・千歌
7:投・梨子
8:左・ダイヤ
9:一・花丸

153: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:22:03.82 ID:HGd5x8Sk0
花丸「ルビィちゃんが、1番」

善子「本当に変わったのね」

ルビィ「うん」


花丸「ルビィちゃん」

ルビィ「花丸ちゃん?」


花丸「頑張ってね」

花丸「ルビィちゃんなら絶対に大丈夫」

花丸「誰よりも近くで一緒に野球をしてきたマルが言うんだから、間違いないよ」

ルビィ「うん、ありがとう!」

154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:25:18.76 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「さて、それじゃあ試合に向けて、気合いを入れていきましょうか」

果南「千歌!」

千歌「うん!」


千歌「全国制覇まで、あと5試合!」

千歌「私たちは県予選を勝ち進んで一歩進んだ」

千歌「全国でも、きっと勝てる!」


千歌「0から1へ!」

千歌「1から、その先へ!!」

全員「「「Aqours――」」」

全員「「「サンシャイン!!!」」」

155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:26:36.50 ID:HGd5x8Sk0
〔第10回全国女子高等学校野球選手権 1回戦〕


【浦の星女学院『Aqours』(先攻)VS UTX学院『A-RISE』(後攻)】


 先発メンバー


Aqours

1:ニ・ルビィ
2:中・善子
3:遊・曜
4:三・果南
5:右・鞠莉
6:捕・千歌
7:投・梨子
8:左・ダイヤ
9:一・花丸


A-RISE

1:一・板口
2:中・赤木
3:二・田山
4:左・馬連
5:三・河端
6:遊・南浦
7:投・ライアン
8:右・高井
9:捕・村中

156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:27:05.31 ID:HGd5x8Sk0
【1回表】 Aqours0-0A-RISE


ライアン「――」シュッ


ルビィ(130ぐらいは出てる?)

ルビィ(独特なフォームのせいでタイミングも取りづらい、初見で打つのは辛いかも)


ルビィ「やっぱり、緊張する」

善子「ルビィ、大丈夫?」

ルビィ「う、うん」

善子「気楽にね」

ルビィ「ありがと、善子ちゃん」

157: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:27:35.11 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ(でも早い段階でこの人をマウンドから降ろす)

ルビィ(その為には打ってプレッシャーをかけないと)


 プレイボール!



ルビィ(ひとまず初球は様子をみて)

 ストライク!


ルビィ(ストレートかな)

ルビィ(やっぱり基本はストレート中心)

158: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:28:22.09 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ(そこを狙って――打つ!)


 カキーン!


千歌「センター前!」

花丸「ナイスバッティングずら!」


善子「これだと私は送り?」

ダイヤ「A-RISE相手に弱気は禁物です」

善子「ヒッティングね」

ダイヤ「ええ」

159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:28:49.91 ID:HGd5x8Sk0
『2番センター津島さん』


 ストライク!

善子(セットに入ると流石に普通のフォームになるのね)

善子(カットボールは、ひっかけそうで怖い)


 ボール!


善子(ストレート)


 ボール!


善子(今のがカットかな)

160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:29:15.12 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ(ここで――)スッ


善子(ヒットエンドラン)

善子(ダイヤ、仕掛けるの好きよね)


善子(ランナーがルビィだからここでチェンジアップはない)

善子(当てるだけなら、難しくないはず――)


 シュッ

善子(いけ!)キンッ


板口「ほいほい」パシッ

 アウト!

161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:30:10.39 ID:HGd5x8Sk0
善子(ファーストゴロだけどルビィは進塁)

善子(最低限ね、一応)



『3番ショート渡辺さん』


曜(ルビィちゃんと善子ちゃんの1・2番コンビ)

曜(高確率でランナーがいることになるから、こりゃありがたいね)


曜(初球は直球の確率が高い)

曜(とにかく狙い撃ち――)キンッ


 ファール!

162: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:30:49.89 ID:HGd5x8Sk0
曜(押された、いい球)

曜(次は)カキン


 ファール!


曜(ピンチで投球変わったかな)


千歌「曜ちゃん、押されてるね」

梨子「流石名門校のエースね」

ダイヤ「ライアンさんは精神的に強いタイプ」

ダイヤ「ピンチを背負っても動じないので、打ち崩すのが難しいのです」

163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:31:15.32 ID:HGd5x8Sk0
曜(1球外すだろうけど、ゾーンに来たら打とう)

曜(ランナー2塁だし、併殺もない――)


 シュッ


曜(キタ――ってチェンジアップ!?)キン


田山「よっしゃ!」パシッ――シュッ

 アウト!


曜「やられたぁ」


千歌「セカンドゴロかぁ」

ダイヤ「タイミングを外されましたね」

梨子「でも進塁打、ルビィちゃんが3塁には行けたわね」

164: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:31:45.01 ID:HGd5x8Sk0
曜「果南ちゃん、球速差あるから注意ね」

果南「ほいよ」


『4番サード松浦さん』


千歌「だけどカットボールとストレートの組み合わせ」

千歌「どっちも威力があるから、捉えるのが難しいよね」

ダイヤ「そうですね、私たちはしっかり見極めて打たなければ」

梨子「私たちは?」

ダイヤ「関係ない――というか考えずに本能で捌く人もいるでしょう」


 カキ――――――ン!


ダイヤ「あの、果南さんのように」

165: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:32:13.26 ID:HGd5x8Sk0
千歌「ホームランだ!」

花丸「果南ちゃんのパワー――未来ずら~」


曜「ナイスバッティング!」

果南「ありがと」

曜「なに打ったの?」

果南「そりゃ硬式ボールだよ」

曜「そうじゃなくて、球種とか」

果南「うーん、わかんない」

166: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:33:16.48 ID:HGd5x8Sk0
千歌「だけどこれでライアンさん、動揺してないみたい」

ダイヤ「打線の援護が期待できるからこそかもしれません」


 バッターアウト!


花丸「鞠莉ちゃんはあっさり三振」


曜「でも2点先制は幸先がいいね!」

曜「このリード、しっかり守っていこう!」

千歌「だね!」

167: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:33:57.61 ID:HGd5x8Sk0
【1回裏】 Aqours2-0A-RISE


梨子「ふぅ」


千歌「緊張してる?」

梨子「それなりにね」

千歌「私はもうドッキドキだよ」

梨子「ふふっ、初めての大舞台だもんね」


千歌「でもね、梨子ちゃんとなら大丈夫」

千歌「信頼してるよ、私は」

梨子「うん」

168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:34:24.16 ID:HGd5x8Sk0
『1番ファースト板口さん』


千歌(いつもどおり変化球中心でカウントを稼ごう)

梨子(うん)シュッ

 ストライク!


梨子(もう1球)シュッ

 ストライク!


千歌(ボールになるカーブ)

 ボール

169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:34:51.60 ID:HGd5x8Sk0
千歌(ピクリとも反応しない)

千歌(流石、打撃が売りのチームのトップバッター)

千歌(でもこれはどうかな)


梨子(フォーク!)シュッ


板口「!」ブン


 バッターアウト!


梨子「よしっ!」

170: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:35:19.32 ID:HGd5x8Sk0
千歌「ナイスボール!」

千歌(これならいけそう)

千歌(やっぱり決めに行くフォークはみんな打てない)


 バッターアウト!


赤木「くっ」


千歌(この調子でいけばいくら強力打線でも――)


 カキ―――――ン!

171: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:35:57.42 ID:HGd5x8Sk0
梨子「!」

千歌「!」


田山「おー、これ完璧」


千歌「ホームラン……」

千歌(低めのいい変化球だったのに、無理やり持っていかれた)


千歌「梨子ちゃん!」

梨子「やられたわ」

千歌「あの人、やっぱり要注意だね」

梨子「今度は抑える、大丈夫」

172: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:36:25.73 ID:HGd5x8Sk0
【6回表】 Aqours3-3A-RISE


千歌(両投手の踏ん張りも合って、試合は中盤まで予想よりロースコアなゲームに)

千歌(梨子ちゃんは特に頑張っていたけど、前の回に2失点で追いつかれちゃった)


『UTX高校、ピッチャーライアンさんに代わりまして、水張さん』


千歌「あれ、交代?」

果南「みたいだね」

173: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:36:53.10 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「前の回から肩を気にしてたから、そのせいかな」

ダイヤ「元々身体に爆弾を抱えている選手ですから」

ダイヤ「いけるところまでいく、そんな方針だったのでしょう」

千歌「なるほど」


ダイヤ「私たちも次の回で投手交代です」

ダイヤ「3巡目に入って、相手も梨子さんの球に慣れてきましたから」

梨子「分かりました」

174: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:37:37.43 ID:HGd5x8Sk0
曜「よっ」シュッ

善子「……」バンッ


曜「善子ちゃん」

善子「どうしたの?」


曜「どうかな、今日の私の球」

善子「特に問題ないけど、気になることでも?」

曜「そういうわけじゃないんだけど……」

175: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:38:27.50 ID:HGd5x8Sk0
善子「前の登板があの炎上した試合だったから、気になってるのかしら」

曜「うん、まあ」


善子「大丈夫よ、あれは疲労のせい」

善子「元気なときは、とんでもない投球をしてたじゃない」

曜「そうかな」

善子「ええ、曜さんなら問題ないわよ」

曜「分かった、ありがとう」


曜(でもやっぱり、不安だ)

曜(治まらない、炎上した時の悪夢)

曜(この試合、抑えられればスッキリするのかな)

176: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:38:53.13 ID:HGd5x8Sk0
 カキ―――ン!


善子「あっ、マリーが打ったわね」

曜「二塁打、いきなりチャンスだね」


 カーン

曜「ありゃ、千歌ちゃん内野フライ」

善子「あの投手もストレートは結構良さそうね」

曜「プレッシャーだね、同点のままだと」

善子「……らしくないわね、本当に」

177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:39:39.18 ID:HGd5x8Sk0
『7番ピッチャー桜内さん』


梨子(水張さんは基本的に直球が中心)

梨子(でもライアンさんに比べるとその直球でもやや劣る)

梨子(ここで点を取れば、かなり勝ちに近づける)

梨子(ストレートに絞って、しっかり振り切る!)


 カキーン!

千歌「レフト前!」

ルビィ「でもレフトの馬連さんは強肩だから――」


むつ「鞠莉さんストップ! ストップ!」

鞠莉(いや、行けるでしょ!)ダッ

ダイヤ(すがすがしいまでのコーチャー無視、まったく鞠莉さんは)


南浦「馬連! ホーム!」

馬連「OK!」ビュッ

178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:40:06.99 ID:HGd5x8Sk0
千歌「凄い返球!」

ルビィ「でもこれ――」


村中「おわっ」

水張「なっ」


鞠莉「ラッキー♪」


曜「おー、カバーのさらに上を超える飛んでも悪送球」

善子「タイミングはアウトだったのに、ついてたわね」

曜「だね、打った梨子ちゃんもサードまで行けたし」

179: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:40:32.85 ID:HGd5x8Sk0
赤木「馬連!」

馬連「ソーリーソーリー」



『8番レフト黒澤ダイヤさん』


ダイヤ(ここは確実に加点を――)


 カキン!


千歌「叩きつけた!」

鞠莉「これでもう1点ね」


田山「ちぇっ」パシッ――シュッ

 アウト!

180: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:41:00.20 ID:HGd5x8Sk0
果南「ナイスダイヤ、上手いね」

ダイヤ「得意分野ですから。あまり誇れることではありませんが」

鞠莉「自信を持っていいと思うわよ、私は」

鞠莉「ダイヤのバットコントロールは、このチームはもちろん、全国レベルで見ても稀有なものよ」

ダイヤ「鞠莉さん……」


 バッターアウト!

花丸「ずらぁ……」


善子「さて、行きましょうか」

曜「だね」

曜(2点差、これなら多少気軽に投げられる)

曜(とにかく、頑張らないと)

181: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:42:15.32 ID:HGd5x8Sk0
【7回裏】 Aqours6-3A-RISE


曜「……」シュッ

善子「ナイスボール!」バシッ


善子(本人の反応的に不安だったけど、6回は普通に3者凡退)

善子(それどころか3者三振、むしろ調子はいいぐらい)

善子(さっきの打席も、タイムリーツーベースを打ってたし、少なくとも身体は問題なさそうね)

善子(この回の先頭も――)


 バッターアウト!

182: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:42:41.36 ID:HGd5x8Sk0
曜「ふぅ」

曜(いざマウンドに立つと、案外何とかなるもんだね)

曜(心配は杞憂だったかな)


『1番ファースト板口さん』

曜(この調子で、ちゃちゃっと最後まで――)シュッ


 ボール


曜(あれ)


 ボール ボール


善子(曜さん?)

曜(変だな)


 ボールフォア!

183: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:43:07.72 ID:HGd5x8Sk0
善子「曜さん!」

曜「善子ちゃん」


善子「大丈夫? どこか怪我とか」

曜「それは平気」

曜「なんかね、一瞬変な状態に入っちゃったみたい」

善子「変な状態?」

曜「とりあえず――ちょっと気分転換に」ギュー


善子「な、なによ急に抱きついて」

曜「へへっ、堕天使パワーいただきだよ!」

善子「……そんな馬鹿をやる余裕があるなら問題なさそうね」

善子「ここからはしっかり抑えるわよ」

曜「了解であります!」

184: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:43:37.30 ID:HGd5x8Sk0
『3番セカンド田山さん』


善子(……曜さん、少し震えてた)

善子(本人に自覚があるのかないのか、どちらにしても心配――)バシッ


 ストライク!


田山「うおっ」


善子(くっ)ビリビリ

善子(とりあえず、球の勢いは戻ったわね)

185: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:44:07.87 ID:HGd5x8Sk0
曜「らっ」シュッ


 ストライク!


田山「す、すげぇ」

田山(こんなストレート、初めて見た)

田山(って感心してる場合じゃなくて――)


曜「ヨ―ソロー!」シュッ


田山「!」ブン


 バッターアウト!

186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:44:38.66 ID:HGd5x8Sk0
曜「ふぅ」

善子(これなら大丈夫ね)

善子(多少違和感はあっても、ひとまずこの試合は乗り切れそう)



『4番レフト馬連さん』


曜(ボールがいい感じに指にかかってる)

曜(このボールなら、打たれることは)シュッ


 カキ―――――――ン!


曜「!」

善子「!」


馬連「!?」

187: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:45:08.08 ID:HGd5x8Sk0
梨子「えっ」

鞠莉「同点スリーランホームラン……」


善子「う、嘘」


馬連「ラッキーラッキー」

馬連(アバウトに振ったら完璧に当たったね)


善子(ボール自体はよかった)

善子(偶然衝突しただけ、だとは思うけど――)

188: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:45:37.71 ID:HGd5x8Sk0
曜「……」ボーゼン


善子(どうしよう)

善子(声を掛けなきゃいけないけど、なんて言えば)



『5番サード河端さん』


 ボール ボール ボール


善子「曜さん……」

曜(…………)


 ボールフォア!


『6番ショート南浦さん』


曜「くそっ」シュッ


 ボールフォア!

189: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:46:02.71 ID:HGd5x8Sk0
善子「た、タイムを」


善子「曜さん」

曜「ちょっと、コントロールできない」

千歌「どこか痛めた?」

曜「……分からない」


曜「ダイヤさん、次の回で投手交代してもいいですか」

曜「この回は何とか投げ切るんで」

ダイヤ「分かりました」

190: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:46:29.84 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「しかし、どうしようもなさそうだったら無理なく言ってください」

ダイヤ「7回で同点、早めに処置をしないと取り返しがつかなくなりかねません」

曜「はい」


ルビィ「球自体は悪くないはずだから大丈夫だよ――ねっ、善子ちゃん」

善子「ええ」

ダイヤ「そうですね、打線は下位、頑張って切り抜けましょう」


『バッター水張さんに代わりまして、畑山さん』


畑山「しっ」

191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:47:01.20 ID:HGd5x8Sk0
善子(代打、打撃はいい人だっけ)

善子(だけど普段の曜さんの球なら平気――なはずなんだけど)

 
 ボール ボール


善子(どんなに威力のあるボールでも、ストライクが入らなきゃどうしようもない)

善子(だからといって、強力な打線相手に置きに行くのは怖すぎる)


 ボール


善子(1球、1球でいいからストライクが入れば――)


 ボールフォア!

192: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:47:34.65 ID:HGd5x8Sk0
善子(またストレートのフォアボール……)


曜(……どうしたもんかな、これ)



『8番ライト高井さん』


 ボール


善子(あぁ)


曜(……緊急降板で、また迷惑をかけそうだな)シュッ

善子(ああ、やっぱり酷いボール)


 ストライク!


善子「えっ」

曜(今のを振った?)

193: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:48:03.06 ID:HGd5x8Sk0
曜(助かったけど、まだ1-1)シュッ

善子(またはっきりとしたボール球――)


 キン――ファール!


曜(これは)シュッ

善子「っと」パシッ

 ボール


曜(ワンバウンドしたボールは流石に振らない)

曜(だけど――)シュッ


善子(アウトハイ、どう見てもボール――)


高井「!」ブン


 バッターアウト!


曜「た、助かった……」

善子(1球もストライク入ってないのに)

善子(振り回してくれるタイプの選手がいてよかった……)

194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:48:51.08 ID:HGd5x8Sk0
【9回表】 Aqours6-6A-RISE


千歌(再びマウンドに上がった梨子ちゃん何とか8回は抑えて同点のまま最終回)

千歌(この回先頭のルビィちゃんがヒット、善子ちゃんがデッドボールと、リリーフの岩山さんを攻めてノーアウト1・2塁)



『3番ショート渡辺さん』


千歌「曜ちゃん、頼むよ!」

曜「うん!」

195: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:49:25.34 ID:HGd5x8Sk0
曜(投げる方は散々だけど、打つ方はいい感じ)

曜(ここで一気に試合を決めたい)


曜(この人は梨子ちゃんと同じ、フォークボールを投げる貴重な選手)

曜(それで苦戦するチームが多いけど、私たちは日ごろから梨子ちゃんの球を見て慣れてるから打ちやすい!)


 カキ――――ン!


千歌「右中間破った!」


ルビィ「勝ち越し!」ホームイン

善子「もう1点!」ホームイン

196: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:49:56.84 ID:HGd5x8Sk0
梨子「タイムリーツーベース!」

千歌「曜ちゃんさっすが!」


曜「……」グッ


曜(これで乱調の分を少しは取り戻せたかな)

曜(これで最終回、守り切れれば勝てる)


田山「曜先輩」

曜「んっ?」

田山「まだ終わらせませんよ、この試合は」


曜(いい表情)

曜(まだ、気は抜けないね)

197: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:50:31.19 ID:HGd5x8Sk0
【9回裏】 Aqours9-6A-RISE


千歌(果南ちゃんの進塁打と鞠莉ちゃんの犠飛でもう1点追加して裏の守り)

千歌(何とかツーアウトは取ったけど、1点を取られて9-7、なおも満塁)

千歌(ここでバッターは――)


『3番セカンド田山さん』


果南「難しい状況だね」

ルビィ「うん」

曜「安易な勝負をするより、厳しく攻めて、最悪馬連さん勝負でもいいかもしれない」

果南「梨子は今日、馬連さんを完璧に抑え込んでいるから」

198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:51:04.99 ID:HGd5x8Sk0
千歌「梨子ちゃんはどう思う」

梨子「確かに、無理にカウントを取りに行くぐらいなら、とは思う」

梨子「でもそんな弱気だと、きっと足元をすくわれる」

梨子「田山さんで終わらせる、私はそのつもりで投げたい」


曜「そうだよね」

果南「私もその方が好きかな」

千歌「よし、決まりだね」

千歌「ここで試合を終わらせるよ!」


内野陣「「「「「おー!」」」」」

199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:52:13.81 ID:HGd5x8Sk0
田山「……」


千歌(狙いはきっと変化球)

梨子(初球はストレートで勝負)シュッ


 ストライク!


千歌「よしっ」

千歌(次はストライクからボールになるカーブ)


 ボール!


梨子(集中してるわね)

200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:52:48.16 ID:HGd5x8Sk0
千歌(次の球、ストライクが欲しい――)

梨子(フォーク、ストライクゾーンに)


千歌(立波さんに打たれた記憶はある)

千歌(でもしっかり狙いをつけられていなかったら、簡単には打たれないはずだよ)


 シュッ


田山(フォーク!?)キンッ

 ファール!

201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:53:17.92 ID:HGd5x8Sk0
千歌(次もフォーク? いやたぶん読まれてる)

千歌(このカウントだと余裕があるから、それでもいいけど――)


梨子「えっ」

梨子(ちょっと待って、それは1番危ない)フルフル


千歌(大丈夫、私を信じて)

千歌(今の梨子ちゃんなら大丈夫だよ)スッ


梨子(……分かった、信じるわ)コクッ

202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 02:53:52.83 ID:HGd5x8Sk0
梨子(思い切り腕を振って、高めに――ストレート!)シュッ


田山「っ」キンッ


果南「打ち上げた」

曜「キャッチャー――千歌ちゃん!」


千歌「オーライ!」

千歌(落ち着いて、ちゃんと練習通り捕球)

 パシッ


 アウト!



【試合終了】 Aqours9-7A-RISE

203: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:10:06.89 ID:HGd5x8Sk0
 ―試合後・宿舎―


千歌「はぁ、疲れた……」

ダイヤ「千歌さん、お疲れ様です」

千歌「ダイヤさん」


ダイヤ「曜さんを知りませんか?」

千歌「曜ちゃんなら、善子ちゃんと一緒に会議中です」

千歌「やっぱり試合中、違和感があったみたいなんで」

204: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:10:36.97 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「違和感――怪我ではないのですね」

千歌「はい」

ダイヤ「違和感……」


ダイヤ「試合中、明らかに様子はおかしかったですが」

千歌「ですよね……」

ダイヤ「突然の乱調、何があったんでしょうか」

千歌「怪我でないなら、やっぱり精神面」

205: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:11:06.90 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「東洋戦の影響は否定できませんね」

ダイヤ「しかし、このまま乱調が続くようだと……」

千歌「曜ちゃんのことだから立て直してくれる、と思いたいです」

ダイヤ「そうですね、楽観視はできませんが」

千歌「……」


ダイヤ「次の試合は曜さんが先発」

ダイヤ「何事も、起こらないといいのですが」

206: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:11:31.72 ID:HGd5x8Sk0
千歌「私、ちょっと様子を見てきます」

ダイヤ「ええ」


ダイヤ「……」


鞠莉「ダイヤ」

ダイヤ「鞠莉さん、どうでした」

鞠莉「……駄目ね」

ダイヤ「そうですか……」


ダイヤ(それに、問題は試合だけではない)

207: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:32:14.64 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎・曜の部屋―


曜「ふわぁ、いいねぇ」

善子「次、左側ね」

曜「ほいほい――んー、いいよぉ」


善子「変な演技臭いのはいらないわよ」

善子「見事に大根役者だし」

曜「あれ、そう?」

208: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:32:54.00 ID:HGd5x8Sk0
曜「せっかくマッサージしてもらってるから、雰囲気出そうとしたんだけど」

善子「いらないわ、その雰囲気は」

曜「ノリ悪いな~」


善子「今は真剣なのよ」

善子「大切な旦那の身体を触ってるんだから」

曜「えー、津島流マッサージ術とか言ってたのに」

善子「それも含めて真剣なの、私は」

曜「うむ、分かってるよ」

209: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:33:34.92 ID:HGd5x8Sk0
善子「――はい、終わったわよ」

曜「ありがとー」

善子「うん、とりあえず身体に異常はなさそうね」

曜「そりゃよかった、怪我だったら大会アウトだったかもだし」


善子「だけど、原因が分からないという意味でもあるわ」

曜「それなんだよねぇ」

善子「曜さん、心当たりはないの?」

曜「……まあ、あるっちゃある」

210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:34:00.32 ID:HGd5x8Sk0
善子「東洋戦?」

曜「うん、そうだね」

曜「あそこで滅多打ちにされてから、感覚が少し狂ってる」

善子「イップス、ではないわよね」

曜「……違うとは、思いたい」


善子「一応、催眠術やっとく?」

曜「あはは、考えとく」

善子「まあ、曜さんには効かなそうよね」

211: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:34:33.89 ID:HGd5x8Sk0
曜「2回戦の先発は私」

曜「迷惑をかけるかもしれないけど、頼りにしてるよ」

善子「え、ええ」


曜「それじゃあ、私は部屋に戻るね」

曜「疲れたから、そろそろ休むよ」

善子「わ、分かった」

曜「そうだ、戻る前に――ハグッ」ギュッ


善子「それ、試合中もやってたわよね」

曜「落ち着くんだよ、人に抱き着くと不思議と」

212: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:35:03.20 ID:HGd5x8Sk0
善子「曜さん……」

善子(また、震えてる)

善子(今はもう、試合中じゃないのに)


曜「……私ね、怖いんだ」

曜「打たれるイメージが、頭から離れない」

曜「投げられない自分の姿を想像しちゃう」

曜「段々、マウンドに立つのが怖くなってる」

善子「……」

213: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:35:31.97 ID:HGd5x8Sk0
曜「ごめんね、変なところを見せて」パッ

曜「今のことは、忘れて」


善子「……大丈夫よ」

曜「善子ちゃん?」

善子「私が助けてあげる、支えてあげる」

善子「だから、怖がらないで」


曜「……ありがとう、善子ちゃん」

214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:36:07.82 ID:HGd5x8Sk0
 ―夏季全国大会・二回戦―


千歌(今日は初回から幸先よく4点を先制)

千歌(曜ちゃんも完璧なピッチング、その後も追加点を重ねて、4回表まで6-0とリードしていたのに――)


 ボールフォア!


曜「……」

215: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:37:20.20 ID:HGd5x8Sk0
↑修正


 ―夏季全国大会・2回戦―


千歌(今日は初回から幸先よく4点を先制)

千歌(曜ちゃんも完璧なピッチング、その後も追加点を重ねて、4回表まで6-0とリードしていたのに――)


 ボールフォア!


曜「……」

善子「曜さん!」

曜「……どうしよう、また入らなくなった」


千歌(この回、初めて出した四球)

千歌(そこから突然崩れ出して、さらに2連続四球)

千歌(さらに2点タイムリー、そしてまた四球で満塁)


曜「感覚がおかしいんだ。ストライクが入らない」

曜「カーブをきちんと投げられる感覚がない」

善子「ワイルドピッチの連続、置きにいくストレートを狙い撃ちされて……」

千歌(いくら曜ちゃんでも、全国上位クラスの相手には、抜いたストレートだけじゃ打たれる)

216: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:38:07.30 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「その、もう限界、かな」

曜「……ごめん、そうかも」

千歌「梨子ちゃんに代わる?」

曜「うん」


善子「曜さん……」

曜「ごめんね善子ちゃん。君は悪くないから気にしないで」

善子「……うん」

千歌「……」

217: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:38:34.82 ID:HGd5x8Sk0
 ―試合後・宿舎―


善子母「……」


果南「あっ、コーチ」

善子母「松浦さん、久しぶりね」

果南「どうしたんですか、こんなところに」

善子母「呼び出されたのよ、あなたのお友達たちに」

果南「ああ、鞠莉とダイヤに」

218: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:39:40.77 ID:HGd5x8Sk0
善子母「私に用、おそらくは渡辺さんのことでしょうけど」

果南「ああ……」


善子母「あんなに分かりやすく、調子を崩した姿を見るのは初めてよ」

果南「ですよね、波はある方でしたけど」

善子母「このままだとマズい、それは確かね」

善子母「この大会中、調子を取り戻せないと、桜内さんは3戦連続1人で投げ切らなければならなくなる」

善子母「線の細い彼女に、炎天下の中でそれはなかなか酷でしょう」


219: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:40:33.44 ID:HGd5x8Sk0
果南「本当は、私が投げられればいいんですけど」

善子母「……そうね」


善子母「もし私が監督で、渡辺さんが今後投げられないと仮定したら、次の試合はあなたを先発で使う」

果南「私を?」

善子母「優勝する、それが唯一の目標ならね」

善子母「スタミナのない桜内さんだけでは、最後まで持たないでしょう」

果南「それは……」


善子母「まあ、参考にしておいて」

善子母「最後の大会、あなたたち3年は気合も違うでしょう。それなりに通用はするはずよ」

果南「……ですね」

220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:41:00.45 ID:HGd5x8Sk0
善子母「ところで、渡辺さんは?」

果南「曜なら、部屋にこもっちゃったみたいで」


善子母「試合には勝ってるし、自分でも打ってるんだから、気にすることないのに」

果南「完璧主義者なんですよ、あの子は」

善子母「ああ。そういえば松浦さんも渡辺さん、高海さんと幼馴染だったわね」

果南「そうです。だから姉貴分として、助けてあげたい部分もあって」

善子母「それならなおさら、あなたが先発かしらね」

果南「うーん、本気で考えて――」

221: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:41:26.80 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「ごめんなさい、遅くなって」

ダイヤ「お待たせしました」


果南「鞠莉、ダイヤ!」

善子母「遅かったわね」

ダイヤ「……申し訳ありません。少し、手間取ってしまって」

果南「なにかあったの?」

鞠莉「…………」

果南「鞠莉?」

ダイヤ「それは、後で話します」

果南「そう?」

222: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:42:03.20 ID:HGd5x8Sk0
善子母「今、待っている間にね、明日の先発について話していたの」

果南「そうそう。コーチは私が投げるのがいいんじゃないかって」

ダイヤ「果南さんが、先発?」

果南「うん」

善子母「優勝するためには、ここで桜内さんを休ませるべきだという提言よ」

果南「どうかな」

ダイヤ「それは……」


鞠莉「……いいと思うわよ――思い出作りの為にも」

223: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:42:31.17 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「ま、鞠莉さん」

善子母「思い出作り?」

果南「何を言ってるの?」

鞠莉「そのままの意味よ」

果南「いや、それじゃあ――」


ダイヤ「……果南さん」

果南「ダイヤ?」

224: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:42:59.57 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「話さなければならないことが、あります」

果南「えっ」

ダイヤ「コーチに来ていただいたのも、それを聞いていただく為」

コーチ「……」

果南「ちょっと待って、それは――」


鞠莉「お願いだから、最後まで、聞いて」

ダイヤ「先ほど、私たちは一つの決定を告げられました」

善子母「……」


鞠莉「……浦の星女学院は、正式に、沼津の高校との統廃合が、決まりました」

225: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:43:35.34 ID:HGd5x8Sk0
果南「統廃合、決定」

ダイヤ「鞠莉さんのお父様から、報告がありました」


果南「そんな、大会中に、なんで」

ダイヤ「一時的に生徒が増えても、継続は現実的ではないという判断です」

果南「いやでも、こんなタイミングで」

鞠莉「これでも、頑張って伸ばしてもらっていたほうなの」

果南「鞠莉……」


鞠莉「本当は、私が戻ってきた時点。ううん、この4月には、廃校はほぼ決まっていた」

鞠莉「それでもあきらめきれずに、無駄にあがこうとして、失敗して」

鞠莉「ごめんね。変な期待を持たせて」

226: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:44:03.92 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「もう優勝する必要もないの。この後は、ただの消化試合」

果南「だからって、そんな!」


鞠莉「ごめん、果南」

果南「鞠莉……」

鞠莉「ごめんなさい。頑張ったけど、もうどうしようもないの」

ダイヤ「鞠莉さん……」

鞠莉「ごめんなさい、ごめんなさい……」

227: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:44:29.74 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「あなたのせいではありません。だから、自分を責めないで」

鞠莉「……」


ダイヤ「鞠莉さんは、よく頑張りました。それは私がよく知ってます」

ダイヤ「元はといえば、内浦に残りながら何もできなかった私の責任です」

鞠莉「……そんなこと」


ダイヤ「……果南さん、鞠莉さんをお願いできますか」

果南「あ、ああ、うん――行こう、鞠莉」

228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:44:56.15 ID:HGd5x8Sk0
善子母「……あなたも、大変ね」

ダイヤ「慣れています、この立場は」

善子母「大人の前でぐらい、弱音を吐いてもいいわよ」

ダイヤ「気持ちはありがたいですが……」


善子母「……他の子たちには、話すの?」

ダイヤ「……どうすれば、いいのでしょうか」

ダイヤ「コーチは、どう思いますか?」

229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:45:27.25 ID:HGd5x8Sk0
善子母「間違いなく、知れば動揺は広がるわね」

善子母「少なくとも、次は試合どころではなくなる」

善子母「あの様子だと、小原さんはもう厳しそうだけど……」

ダイヤ「……」


善子母「……個人的な意見としては、話すべきよ」

善子母「外部から聞くより、信頼できる人間――特にあなたから聞く方が、ダメージは小さいはずだから」

ダイヤ「そうですね……」

善子母「だけど、無理なくね」

善子母「あなただって、まだ高校生なんだから」

230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:45:55.24 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎・曜の部屋―


曜「うーん」

梨子「曜ちゃん、どうしたの」

梨子「ビデオとにらめっこなんて、珍しいね」


曜「ちょっと、変化球を勉強」

梨子「変化球?」

231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:46:33.30 ID:HGd5x8Sk0
曜「1つでいいから、今から使える球を投げられないかなって」

曜「カーブもスライダーも、全然駄目そうだし」


梨子「短期間には、難しいんじゃないかな」

梨子「今投げられるのも、割と基本的な二つだよね」

曜「そうなんだよね~」


曜「過去にチェンジアップとか、練習したことはあるけど、全然だめだったし」

梨子「無理しないのが一番じゃないかな」

梨子「カーブの調子が戻れば、きっと十分だよ」

曜「だけどこの大会中に、それは難しいし……」

梨子「新しい変化球を覚える方が、大変な気もするけど」

曜「まあね……」

232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 03:47:01.03 ID:HGd5x8Sk0
曜「……でもさ、梨子ちゃん」

梨子「ん?」


曜「一応、握り教えてくれない。今投げられる球の」

曜「復調のヒントぐらいには、なるかもしれない」

梨子「……分かった、いいよ」

曜「ごめんね」

梨子「ううん、私もいつもみんなに助けてもらってるから、これぐらいはね」

曜「うん、ありがとう」

233: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:06:00.18 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎内―


千歌「あれ、果南ちゃん」

果南「あっ、千歌」


千歌「どうしたの、元気ないね」

果南「いや、別に……」

千歌「もしかして今日は練習できないとか?」

千歌「もう大丈夫だよ、捕球はできるようになったし――」

234: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:06:28.92 ID:HGd5x8Sk0
果南(どうしよう、誤魔化す?)

果南(でも嘘をつくのは、気が引けるな)

果南(ひとまず、廃校のことだけは隠して)


果南「次の試合さ、私が先発するかもしれないんだ」

千歌「果南ちゃんが?」

果南「ほら、曜は難しそうだし、梨子の3連投も避けたいからさ」

千歌「ああ、そっか」

235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:06:55.75 ID:HGd5x8Sk0
千歌「それで緊張してるんだね」

果南「うん、まあそんな感じ」


千歌「ちょっと練習する? 付き合うよ」

果南「いや、大丈夫」

果南「千歌と練習していたおかげで、ある程度投げ込めてはいるし」

千歌「そう?」

果南「私に気にせず、千歌は休みなよ」

果南「ちゃん寝ないと、この時期は持たないよ」

千歌「う、うん」


果南「じゃあね千歌、おやすみ」

千歌「おやすみ……」


千歌(果南ちゃん?)

236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:07:28.40 ID:HGd5x8Sk0
 ―準々決勝当日・ロッカー


ダイヤ「それでは、先発の果南さん、しっかりお願いしますね」

果南「うん」


千歌「よーし、じゃあ行こう!」

曜「おー!」

ダイヤ「……」


ダイヤ(結局、廃校のことは言いだせないまま)

ダイヤ(何かの冗談ではないか、もしかしたら覆るのではないか)

ダイヤ(そんな希望を持って、そして……)

237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:07:54.29 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ(いや、違いますね)

ダイヤ(結局、私の弱さ)

ダイヤ(皆に発覚して、動揺が走ることを恐れてる)


ダイヤ(どうしてこんなことになったんでしょうか)

ダイヤ(隠し通せるわけがないのに)

ダイヤ(情けない、これでまとめ役気取りなんて)

ダイヤ(しかし、弱音は吐けない)


鞠莉「……」


ダイヤ(少なくとも、鞠莉さんの分まで、私が――)

238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:08:21.80 ID:HGd5x8Sk0
『あっ、出てきた!』
『頑張れー!』
『私たちがついてるよ!』


ルビィ「ピギッ!?」

千歌「えっ、な、なにこれ」

曜「お客さん、いっぱいだね」

梨子「相手の応援? だけど――」


『浦女~!』
『頑張って沼津の星!』


善子「どう考えても、私たちの方ね」

花丸「ずら」

239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:08:57.40 ID:HGd5x8Sk0
千歌「だ、だけど、どうして」

梨子「準々決勝だから? だけど音ノ木坂の試合でも、こんな満員には……」

曜「そうだよね――んっ、なんか弾幕を掲げている人が?」


【廃校決定でも有終の美を】

【最後まで駆け抜けろ!】


千歌「廃校――」

曜「決定?」

ダイヤ「あっ……」

240: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:09:24.88 ID:HGd5x8Sk0
善子「ちょ、ちょっと待って! 廃校決定って……」

ルビィ「ど、どういうこと?」

花丸「き、聞いてないずら」


千歌「ド、ドッキリとかじゃないよね?」

曜「ダイヤさん、なにか知ってます?」

ダイヤ「それは、その……」


ダイヤ(ああ、なんてことでしょう)

ダイヤ(もう、世間に広まっていたなんて)

ダイヤ(ひとまず、ここは誤魔化さないと)

241: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:09:54.26 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「……おそらく、廃校の可能性があるという情報が、歪んで世間へ伝わったのでしょう」

ダイヤ「どこが発信したのか、早めに抗議しなくては……」


ルビィ「そ、そうだよね、ビックリしたぁ」

花丸「安心したね、ルビィちゃん」

善子「まったく、人騒がせな」


果南「ダイヤ……」

鞠莉「……」

242: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:10:22.34 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「とにかく、目の前の試合に集中していきましょう」

ダイヤ「詳細については試合後、きちんと調べて報告しますから」


ダイヤ(卑怯な女)

ダイヤ(だけど、ここはこうするしかない)

ダイヤ(あとでどれだけ罵られても構わない)

ダイヤ(だから今は、嘘をつくことを許してください)

243: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:10:59.15 ID:HGd5x8Sk0
〔第10回全国女子高等学校野球選手権 準々決勝〕

【浦の星女学院『Aqours』(後攻)VS 公園高校『あしも☆えーる』(先攻)】


 先発メンバー


Aqours

1:ニ・ルビィ
2:中・善子
3:遊・曜
4:投・果南
5:捕・鞠莉
6:三・千歌
7:左・ダイヤ
8:右・梨子
9:一・花丸


あしも☆えーる

1:遊・中之島
2:中・東川
3:左・近畿
4:一・ショー
5:三・寿司
6:二・田井
7:右・太田
8:捕・志水
9:投・ドーシー

244: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:12:00.95 ID:HGd5x8Sk0
【1回表】 Aqours0-0あしも☆えーる


『1番ショート中之島さん』


果南(鞠莉は今のところ、何とかプレーはできそう)

果南(だけどいつもみたいな捕球は期待できない)

果南(だからとにかく、ランナーを出さないこと)


果南(出したら最後)

果南(私のノーコンと乱れた精神状態の鞠莉)

果南(バッテリーエラーが止まらなくなるのは目に見えてる)

245: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:12:26.72 ID:HGd5x8Sk0
果南(だけど……)


中之島「……」


果南(小さな)

果南(150cmもない? 正直、投げにくい)シュッ


 ボール

 ボール 

 ボール


果南(先頭でこれは、凄く嫌だ)

果南(くそっ)シュッ


 ボールフォア!

246: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:12:53.69 ID:HGd5x8Sk0
果南「あぁ……」

果南(これだから、私は)


曜「果南ちゃん、ドンマイ!」

果南「うん」


『2番センター東川さん』

果南(とにかく、これ以上はランナーを出さないように)

果南(ストライクゾーンに投げ込まないと!)シュッ


 キンッ!

247: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:13:20.55 ID:HGd5x8Sk0
果南(打たれた――けどサード)


千歌「あっ」ポロッ

果南「げっ」

曜「どっちか――無理か」

ルビィ「1・2塁……」


千歌「ご、ごめん」

果南「ドンマイドンマイ」

248: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:13:46.97 ID:HGd5x8Sk0
『3番レフト近畿さん』


果南(この人はバットコントロールに優れた選手)

果南(三振は、期待できない)

果南(それならゲッツー、は難しいかな)シュッ


 キンッ


果南(転がった!)

果南「ショート!」

249: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:14:12.90 ID:HGd5x8Sk0
曜「ルビィちゃん!」パシッ――シュッ

ルビィ「わっ」パシッ


 アウト!


ルビィ「え、えい!」シュッ

花丸「そ、逸れたずら!」パシッ


 セーフ!


ルビィ「あ、あわわ」

果南「る、ルビィまで……」

250: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:15:22.25 ID:HGd5x8Sk0
果南(マズイ、みんな動揺してる)

果南(どうしても、疑念を拭いきれてない)

果南(廃校問題の方に気を取られて、集中しきれてない)


果南(リーダーで責任感の強い千歌は駄目。精神的に脆い1年生も同様)

果南(鞠莉は相変わらずだし、ダイヤも予想外の展開で揺らいでいる)

果南(比較的まともそうなのは、良くも悪くもドライな曜と、転校生で比較的地元への思い入れが少ない梨子だけ)



『4番ファーストショーさん』


果南(とにかく、私が抑えないと)

果南(これでも三振は取れる方なんだ、なんとか――)シュッ

251: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:15:49.31 ID:HGd5x8Sk0
ショー「しゃっ!」カキ―――――――ン!!!


果南「あっ」

ダイヤ「これは、追うだけ無駄ですわね……」


曜「スリーランホームラン、か」


果南「くそっ」


果南(駄目だ、球に力がない)

果南(動揺しているのは、私もか)

果南(落ち着かないと、なんとか落ち着かないと……)

252: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:16:36.97 ID:HGd5x8Sk0
【5回裏】 Aqours0-6あしも☆えーる


 バッターアウト!


果南「くそっ」


千歌「ドーシーさん、打てないね……」

曜「制球は滅茶苦茶だけど、球の威力は凄い」

梨子「みんな焦ってる所為で、ボール球に手を出して凡退している……」

善子「なによもう、試合前はスマホばっかり弄ってたのに!」

ルビィ「あの人、Twitter中毒で有名な人だから……」

花丸「だけど、鞠莉ちゃんなら――」

253: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:17:05.76 ID:HGd5x8Sk0
 バッターアウト!


善子「あっさり見逃し三球三振……」

ルビィ「うゅ……」

鞠莉「……」


ダイヤ「鞠莉さん、今のは流石に……」

鞠莉「……いいでしょ」

ダイヤ「いや、しかし」

鞠莉「廃校になるんだから、もういいでしょ!」

ダイヤ「鞠莉さん……」

254: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:17:55.61 ID:HGd5x8Sk0
花丸「廃校?」

ルビィ「今の言い方だと、もしかして、本当に」

善子「わ、分からないでしょ」

善子「ただ打てなくてイライラしてるだけ、かも……」


果南「鞠莉……」

果南(最悪だ……)

果南(もうこれは、どうしようも――)

255: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:18:29.13 ID:HGd5x8Sk0
曜「ねえ、果南ちゃん」

果南「曜?」


曜「やっぱり、廃校は決まったの?」

果南「それは……」

曜「……分かるよ、3年生の反応をみる限り」

果南「……ごめん」

256: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:18:59.48 ID:HGd5x8Sk0
曜「……私は嫌だな」

果南「曜?」


曜「廃校になるのは辛い」

曜「私だって地元っ子だし、思い出もたくさんある、大好きな学校」

曜「だけどさ、それは負けていい理由にはならないよね」

曜「私は勝ちたい。どんな状況でも」

曜「負けるより、勝つ方が嬉しい」


曜「ねえ、鞠莉ちゃん」

曜「鞠莉ちゃんはさ、負けたいの?」

鞠莉「それは……」

257: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:19:26.54 ID:HGd5x8Sk0
曜「梨子ちゃんは、勝ちたいよね」

梨子「ええ」

曜「1年生のみんなも」

ルビィ「う、うん」

花丸「もちろん」

善子「当たり前でしょ!」


曜「果南ちゃんだって、同じだよね」

果南「それは、もちろん」

258: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:19:58.20 ID:HGd5x8Sk0
曜「だったら、今は集中しよう」

曜「余計なことは考えずに、試合に勝つことだけを考えて、進もう」

曜「本来の力を出せれば、私たちならここから十分に逆転できる」

果南「曜……」


 ボールフォア!

千歌「よしっ」


曜「今、千歌ちゃんがやったまま」

曜「しっかり見極めて対処すれば、私たちなら崩すのは難しくない投手」

曜「とにかく諦めないで、食らいついていこう」

259: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:20:29.96 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「でも、私は……」


『7番レフト黒澤ダイヤさん』


曜「……ねえ、鞠莉ちゃん」

曜「ここで負けたら、ダイヤさんはどうなるかな」

曜「きっと、責任を感じるよね」

鞠莉「……でしょうね」

曜「それに、優勝をするという条件で野球をすることを許してもらえたんだ」

曜「もし、それを叶えられなかったら」

260: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:21:06.96 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「……煽るわね」

曜「そうかな」

鞠莉「先輩への経緯はないのかしら」

曜「勝ちたいんだよ、それだけ」


 カキ―――ン


ルビィ「あっ、お姉ちゃん打った!」


曜「ほら、ダイヤさんも諦めてない」

曜「きっと鞠莉ちゃんと同じぐらい、動揺しているはずなのに」

261: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:21:33.57 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「……そうね」

果南「鞠莉」


鞠莉「ごめんなさい。確かに私は集中できていなかった」

鞠莉「試合後、みんなにちゃんと詳しいこと、なにが起こったかは話す」

鞠莉「私も余計なことを考えるのは止める」


鞠莉「だから今は、集中しましょう」

鞠莉「まず勝って、先へ進みましょう」

曜「――うん!」

262: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:21:59.20 ID:HGd5x8Sk0
『8番ライト桜内さん』


梨子(無事、解決したみたいね)

梨子(さて、そうなるとあとは――逆転を目指すのみ!)


 カキ――ン!


果南「センター前ヒット!」

鞠莉「梨子!」

曜「ナイス梨子ちゃん!」

善子「満塁よ!」

263: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:22:27.44 ID:HGd5x8Sk0
『9番ファースト国木田さん』


ルビィ「マルちゃん、お願い」

花丸「うん」


花丸(この人は元々制球に難がある)

花丸(打てなくても、手を出さずに見極めれば――)


 ボールフォア!


花丸「よしっ、押し出し」

千歌「これで1点!」

花丸「ルビィちゃん、続いて!」

ルビィ「うん!」

264: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:23:05.83 ID:HGd5x8Sk0
『1番セカンド黒澤ルビィさん』


ドーシー「くそっ」イライラ


ルビィ(動揺してる)

ルビィ(とにかく見極め、甘く入った球だけを――)


ルビィ「叩く!」カキ――ン!


千歌「右中間抜けた!」

果南「ツーベース! 2塁ランナーまで帰ってきて、もう2点!」

265: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:23:32.25 ID:HGd5x8Sk0
善子(3点差……)

曜「善子ちゃん、この流れに乗るよ!」

善子「ええ!」


『2番センター津島さん』


善子(一発出れば同点)

善子(公式戦初ホームランは、チームを救う一打)

善子(ふっ、私に相応しい――)


 ドスッ

266: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:24:00.30 ID:HGd5x8Sk0
千歌「よーし、また満塁!」

梨子「善子ちゃん、よくやったわ!」


曜「善子ちゃん、大丈夫?」

善子「え、ええ……」

善子(……今は個人よりチームよ)


善子「曜さん、私をホームまで導いてよ」

曜「任せて!」

267: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:24:28.69 ID:HGd5x8Sk0
『3番ショート渡辺さん』


曜(ホームランで逆転)

曜(だけど私はここまで2打席凡退)

曜(一発を狙うより、もっと確実な結果を)


 カキ――ン!


千歌「左中間だ!」

梨子「大きいわよ!」


 ドンッ


千歌「フェン直!」

梨子「花丸ちゃん、ルビィちゃんは帰ってきて――」

268: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:24:57.57 ID:HGd5x8Sk0
善子(私は――)

むつ「善子ちゃん行ける!」

善子(よしっ)ダッ


花丸「ずらっ!?」

ルビィ「3塁回った!」


善子(間に合うでしょ!)ズザッ

志水「ちっ」パシッ


 セーフ!

269: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:25:27.78 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「や、やった!」

花丸「同点ずら!」


善子「ふぅ……」

善子(あ、危なかった)

善子(コーチャーのむつさんが迷わず回してくれたから、何とか間に合ったわね)


果南「善子! ナイスラン!」ハグ

善子「か、果南さん」

果南「私も続くよ!」

270: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:26:13.84 ID:HGd5x8Sk0
曜(おっ、良い光景)

曜(割と距離のあった3年と1年なのに)


むつ「曜、ナイスラン」

曜「ん」

むつ「さりげなく3塁まできたのは流石だね」

曜「あはは、敵も味方も、みんなホームしか見てなかったからさ」

曜「むっちゃんもナイス判断、流石だよ」

むつ「まあね」

271: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:26:41.89 ID:HGd5x8Sk0
『4番ピッチャー松浦さん』


果南(この人は制球がアバウトなんだ)

果南(1球ぐらい、甘い球だって)


 ドスッ


果南「いてっ……」

果南(甘くはないか、うん)


ルビィ「で、デッドボール」

花丸「痛そうずら……」

善子「ねえ、なんか私の時と反応が違くない?」

272: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:27:09.02 ID:HGd5x8Sk0
花丸「だって善子ちゃんの場合、悲惨過ぎてもう笑うしかないし……」

ルビィ「うゅ……」

善子「言わないでよ!」

善子「というかどうしよう。今の死球、ハグして私の悪運が移った所為かも……」

花丸「それは気にし過ぎずら」


よしみ「大丈夫ですか?」

果南「うん、へーき」

273: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:27:35.04 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「果南……」

果南「鞠莉、逆転打は任せたよ」

鞠莉「……」コクリ


『5番キャッチャー小原さん』


鞠莉(みんな、強いわね)

鞠莉(私は弱い、いつも年上のお姉さんぶってるくせに)


鞠莉(……やっぱり、野球はいいな)

鞠莉(みんなで助け合える、1つのチームとして支え合える)


鞠莉(廃校は、阻止できなかった)

鞠莉(だけど戻ってきて、この素敵なチームメイトたちと野球ができた)

鞠莉(それだけで、十分幸せ――)


 カキ――――ン!

274: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:30:51.42 ID:HGd5x8Sk0
 ―準々決勝後・宿舎、千歌の部屋―


千歌(試合は、見事に勝利)

千歌(鞠莉ちゃんの豪快な一打で逆転)

千歌(その後は果南ちゃんをリリーフした梨子ちゃんが相手打線を見事に抑え込んだ)


千歌(困難な状況の中、みんなの力で掴んだ、会心の勝利)

千歌(試合後、他の事は忘れて、大はしゃぎだったな)

275: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:31:22.53 ID:HGd5x8Sk0
千歌(そして、宿舎に戻ってから)

千歌(鞠莉ちゃんとダイヤさんから説明された)

千歌(正式に廃校が決まったということを)


千歌(みんな、動揺は少なかった)

千歌(試合前の雰囲気、3年生の様子……、覚悟はできていたから)

千歌(ルビィちゃんは少し泣いてたけど、結果的にみんな試合で吹っ切れたおかげで、傷は浅く済んだかもしれない)


千歌(だけど、私は)

276: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:32:15.35 ID:HGd5x8Sk0
千歌(……喉乾いた、何か買いに行こうかな)ガチャ

千歌(みんな、どうしてるんだろ)

千歌(今日は各自、気持ちの整理をするために部屋で休んで、明日の朝にミーティング)

千歌(ルビィちゃんは花丸ちゃんが付き添ってくれて、あとは)


『違うかな』

『そっちの方が現実的じゃない?』

『リリーが言うなら、まあ』


千歌「ロビーの方から、声?」

277: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:32:41.89 ID:HGd5x8Sk0
千歌「誰かいるの?」


梨子「千歌ちゃん」

千歌「梨子ちゃん?」


善子「あら」

曜「どうしたの?」

千歌「曜ちゃん、善子ちゃんも」

千歌(3人だと、珍しい組み合わせ?)

278: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:33:37.50 ID:HGd5x8Sk0
千歌「なにやってるの?」

曜「DVDデッキ借りてさ、ビデオ観てるの」

曜「例の変化球について、梨子ちゃんとか、聖良さんとか、参考になるところはないかなって」


千歌「諦めてなかったんだ」

曜「諦めの悪さは私の取り柄の1つだから」

千歌「……凄いね、あんな話を聞いた直後に」


梨子「……千歌ちゃん、大丈夫?」

千歌「どうして?」

梨子「少し、様子がおかしかったから」

279: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:34:21.35 ID:HGd5x8Sk0
千歌「……まあね」

曜「やっぱり、ショックだった?」

千歌「うん」


千歌「私は、廃校を阻止するためにまた野球を始めた」

千歌「3人でもう一度野球をやるという目的も持っていた3年生」

千歌「純粋に勝利を目指している他のみんなとも違う」

千歌「廃校阻止は、私の原動力そのもので」

千歌「だから、その目的がなくなって、どうしたらいいか分からないんだ」

280: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:35:03.27 ID:HGd5x8Sk0
善子「大切な先輩――ダイヤの為じゃ、駄目なの?」

千歌「それでも、いいんだけど」

千歌「どうしても、ぽっかり穴が開いて」

千歌「前みたいに、勝ちに対するこだわりが薄れてきちゃう、そんな気がして」


曜「いいんじゃないかな」

千歌「曜ちゃん?」

曜「千歌ちゃんは野球が好きでしょ」

千歌「それは、もちろん」


曜「好きだから、ただ野球を出来れば満足。以前の私はそれに反抗した」

曜「だけど、今の千歌ちゃんは昔とは違う」

曜「きっと今なら、大丈夫」

281: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:35:56.50 ID:HGd5x8Sk0
善子「そうよ」

善子「たとえば今日、曜さんがみんなに渇を入れてるときに、1人打席でボールに喰らいついて、四球を奪った」

善子「あの姿は、あの場にいた誰よりも勝利への執念を感じたわ」


千歌「いや、あの時は夢中で」

曜「そんなことないよ」

曜「廃校になると分かっていても、大量点差で負けていても、最後まであきらめようとしなかった」

曜「それは千歌ちゃんが本気で勝ちたいと思っていたから」

曜「以前とは違う何かが、千歌ちゃんの中に芽生えたから」

千歌「曜ちゃん……」

梨子「自信を持って、千歌ちゃんならできるよ」

千歌「……うん!」

282: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:37:05.59 ID:HGd5x8Sk0
梨子「曜ちゃんはどうして浦の星で野球をやってるんだっけ」

曜「もちろん、千歌ちゃんと一緒に野球をするため」

梨子「ふふっ、正直ね」


善子「ちなみに私は、野球を極める為――」

梨子「あっ、善子ちゃんはいいわ」

善子「なんでよ!」



千歌「梨子ちゃんは」

梨子「最初は、大好きな野球を続けて、音ノ木坂の人たちを見返す為」

梨子「だけど、今はみんなと優勝する、それが一番の目的」

283: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:37:32.88 ID:HGd5x8Sk0
曜「でも、音ノ木坂に勝ちたい気持ちは、変わってないんでしょ」

梨子「もちろん」


千歌「じゃあ、勝とう」

善子「まずは音ノ木坂、その次の聖泉女子」

曜「絶対に負けない」


千歌「最後まで、私たちで駆け抜けよう」

梨子「ええ!」

284: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:38:08.48 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎・ルビィの部屋―


花丸「……落ち着いた?」

ルビィ「うん」

花丸「そっか、よかった」


ルビィ「ごめんね、また迷惑かけて」

花丸「いいんだよ」

花丸「マルはルビィちゃんの力になれるのが、嬉しいから」

ルビィ「ありがと、マルちゃん」

285: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:38:35.78 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「廃校、なんだよね」

花丸「……うん」

ルビィ「お姉ちゃんたち、どうしてるかな」

花丸「……大丈夫、みんな強い人たちずら」


ルビィ「……本当は、3年生には廃校なんて関係ない問題のはずなんだ」

花丸「そうだね、今年で卒業なんだから」

ルビィ「それなのに、お姉ちゃんも、鞠莉ちゃんも、果南ちゃんも」

ルビィ「廃校を阻止するために、ルビィ達のために、本当に頑張ってくれて」


ルビィ「だから、辛かった」

ルビィ「みんなの悲しそうな顔を見るのも、自分が何もできなかったのも」

花丸「……」

286: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:39:14.25 ID:HGd5x8Sk0
ルビィ「あと、2試合だね」

花丸「うん」


花丸「Aqoursとしては、冬の大会までは活動できる」

ルビィ「だけどお姉ちゃんは、最後の大会」

ルビィ「鞠莉ちゃんだって、きっとアメリカに戻る」

ルビィ「それに、もしかしたら他にも離脱するメンバーはいるかもしれない」

花丸「少なくとも、このメンバーでできるのは最後」

ルビィ「うん」


ルビィ「だから、私は最後まで進みたい」

ルビィ「絶対に、勝ちたい」

287: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:54:23.35 ID:HGd5x8Sk0
 ―宿舎・鞠莉の部屋―


鞠莉「全部、伝えたわね」

ダイヤ「ええ」


ダイヤ「とてもいい子たち」

ダイヤ「私は彼女たちを欺いていたも同然だというのに、責めることもなく、むしろ励ましてくれて」

果南「いい仲間だよね」

鞠莉「うん、本当に――」

288: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:54:59.23 ID:HGd5x8Sk0
果南「鞠莉」

ダイヤ「鞠莉さん」

鞠莉「……もう、いいわよね」

鞠莉「もう、我慢しなくても」


ダイヤ「……ええ」

果南「……頑張ったね、鞠莉」

ダイヤ「私たちの前では、無理をしないで」

289: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:55:37.77 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「……私ね、自分が子どもだって思い知らされた」

鞠莉「現実的に、無理だと分かっている」

鞠莉「口ではそう言っても、心のどこかでは本気で考えていた」

鞠莉「自分だったら、廃校を阻止できる」

鞠莉「認めたくない現実を、変えることができると」


鞠莉「本当に、恥ずかしい。馬鹿みたい」

鞠莉「ただの世間知らずのお嬢様の我が儘」

鞠莉「みんなに迷惑をかけて、ダイヤや果南を巻き込んで」


290: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:56:06.95 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「そんなことは」

果南「そうだよ――」


鞠莉「だけどね、我が儘を言って、よかった」

鞠莉「2人とまた野球ができて、大切な仲間が9人も増えて」

鞠莉「素敵なライバルたちとも出会えて、本当に、楽しくて、輝いていて」


鞠莉「そんな風に考えているのは、私だけなのかな」

鞠莉「みんなにはやっぱり、迷惑だったかな」

291: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:57:07.62 ID:HGd5x8Sk0
ダイヤ「そんなこと、ありません」

ダイヤ「私も同じ考え」

ダイヤ「きっかけを作ってくれた鞠莉さんに感謝することはあっても、恨むなんてあり得ません」


果南「そうだよ」

果南「私だって、野球は諦めていたのに」

果南「野球部ができたおかげでうちの店に資金的な余裕までできて、感謝しかない」


果南「それに1番は、鞠莉と一緒に野球をできたこと」

果南「それは私とダイヤが、何よりも、ずっと望んでいたことだよ」

292: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:57:33.81 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「……2人とも」

果南「あと、2戦」

ダイヤ「私たちが共にプレーできる、試合」


果南「鞠莉は、大会が終わったらアメリカに帰るんだよね」

鞠莉「ええ、廃校が阻止できなかった時点で、それは決定よ」

果南「ダイヤは野球ができないし、来年には受験で東京」

ダイヤ「はい」

果南「私がここに残ったとしても、3人バラバラだね」

293: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/05/19(日) 04:58:03.67 ID:HGd5x8Sk0
鞠莉「残酷よね、せっかく再会できたのに」

果南「きっともう、一緒にプレーすることはない」

ダイヤ「だからこそ、最後に思い出を作りましょう」

ダイヤ「永遠に消えない輝きを持った、最高の思い出を」

鞠莉「ええ」

果南「そうだね」



次回 千歌「白球を追いかけろ!!」2 後編