武内P「ラッキー●●●です」 前編

499: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 21:31:11.44 ID:uNR1xDDao
>>493
裏返すように>>481を書きます


武内P「ハンバーグは、お好きですか?」

引用元: ・武内P「ラッキー●●●です」 



THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS After20(3) (サイコミ)
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500: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 21:34:26.53 ID:uNR1xDDao
菜々「はい、好きですけど……?」

心「おいおい、いきなりどうしたー?」

美優「今の話と、何か関係が……?」

武内P「ああ、いえ」


武内P「安部さんと佐藤さんの、台本の読み合わせ」

武内P「その場所に、お困りのようでしたので……」


菜々・心・美優「……?」キョトン!


武内P「……」

武内P「宜しければ、ですが――」

501: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 21:38:02.10 ID:uNR1xDDao
  ・  ・  ・

菜々・心「お邪魔しまーす」

武内P「はい、どうぞ」

美優「あの……私も来て、良かったんですか?」

武内P「ええ、勿論です」


武内P「今日は、いつもよりひと手間かけよう、と」

武内P「……そう、思ったので」


菜々・心・美優「ひと手間?」


武内P「はい」

武内P「なので……せっかくですから」

武内P「食べて頂く人は多い方が良い、と」

502: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 21:44:47.21 ID:uNR1xDDao
菜々「あっ、クッションが増えてますね!」

心「いつ来ても片付いてるよな☆ えらいぞ☆」

美優「想像するような男性の一人暮らしとは……違いますよね」

武内P「そう、でしょうか?」


武内P「……いえ、確かに仰る通りかも知れません」

武内P「以前よりも、物が増え」

武内P「来客もあるので、掃除の頻度は上がりましたね」

武内P「昔は……最低限の物しか、ありませんでしたから」


菜々・心・美優「はー……」


武内P「どうぞ、ご自由にくつろいでいてください」

武内P「安部さんと佐藤さんが、台本の読み合わせをしている間」

武内P「その間に、夕食の準備をしてきます」

503: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 21:49:47.11 ID:uNR1xDDao
  ・  ・  ・

武内P「……」

タンタカタンタンタンタカタカタカ!


ガチャッ!

美優「あの~……」


武内P「三船さん」

武内P「どうかされましたか?」


美優「二人の邪魔をしないようにと思ったら……」

美優「……ちょっと、手持ち無沙汰になってしまって」


武内P「……成る程」

武内P「確かに……それは、考えていませんでした」

504: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 21:54:35.93 ID:uNR1xDDao
美優「えっと、それは今……」

美優「もしかして、ひき肉を作ってるんですか?」


武内P「はい」

タカタカタカタカタンタカタンタン!

武内P「今日は、肉々しいハンバーグにしよう、と」

サッ!

武内P「……そう、思ったので」


美優「お料理、本当にお好きなんですね……」


武内P「食には関心があります」

武内P「……しかし、そうは言っても」

武内P「自分一人のためでしたら、ここまではしませんが」

505: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 22:00:38.61 ID:uNR1xDDao
美優「包丁二本で……フードプロセッサーは?」

武内P「確かに、その方が楽ですが……」

美優「?」

武内P「……この方が、洗い物が楽で」

美優「……」

武内P「三船さん?」


美優「ふふっ! 面倒臭がること、あるんですね!」

美優「いつも真面目だから……なんだか、意外でした」


武内P「そう、ですか?」

武内P「……」

武内P「言われてみて……気づくこともありますね」

506: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 22:05:11.92 ID:uNR1xDDao
武内P「それに、不揃いの方が食感が楽しいですから」

美優「あっ、それはわかります」


チーンッ!


美優「っ!?」ビクッ!

武内P「ああ、すみません」

美優「電子レンジで……何を?」


武内P「洗って皮を剥いたジャガイモ、ですね」

武内P「良い感じになっていたら、スプーンで潰し」

武内P「牛乳、バター、生クリームを加えて、ブラックペッパー」

武内P「よく混ぜれば、マッシュポテトの完成です」


美優「……」

美優「せっかくですから、私がやりますね」

507: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 22:10:57.40 ID:uNR1xDDao
  ・  ・  ・

美優「あの……」

マッシュマッシュマッシュ…


武内P「はい」

武内P「こちらは、付け合せの人参のグラッセです」

武内P「味付けは、女性が多いので少し砂糖多めで甘く」

武内P「後は、緑が欲しいのでブロッコリーを……」


美優「ああ、いえ! そうじゃなくて!」

美優「……」

美優「お付き合いされてる女性とか、居ないんですか?」


武内P「……」

武内P「えっ?」

508: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 22:15:23.82 ID:uNR1xDDao
武内P「三船さん?」

美優「すみません、ちょっと気になったものですから」

武内P「……今は、仕事が恋人と言った感じですね」

美優「そうなんですか?」

武内P「はい」


武内P「仕事では、女性と関わる機会が多いので……」

武内P「……プライベートでは」

武内P「反動か、同性と飲みに行く事がほとんどでしたから」

武内P「その……とても、気楽で」


美優「……」

美優「あー……成る程」

509: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 22:19:35.71 ID:uNR1xDDao
美優「でも、今はこうしてますよね?」

武内P「えっ?」

美優「女性三人を自宅に招いてるじゃないですか」

武内P「……」

美優「プライベートでも、女性と……どうしました?」

武内P「あ、ああ、いえ……」


武内P「同じ会社の方達で……それも、アイドルの方ですから」

武内P「プライベートと言う感覚は、あまり無く……」

武内P「……ほとんど、仕事の感覚で居た事に気付きました」


美優「えっ?」

美優「そ、そういうものでしょうか……?」

510: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 22:26:34.42 ID:uNR1xDDao
美優「会社の人以外……女性を招くことは?」

武内P「ありません……ね」

美優「それじゃあ、‘こう’なる前って……」

武内P「そう、ですね……」


武内P「仕事を残業して、家に帰って……」

武内P「最低限の家事をして、明日の準備をし……」

武内P「……寝て、起きて、出勤」

武内P「休日は、たまった洗濯物等を片付け……」


美優「……」


武内P「……」

武内P「とても、充実していました」

511: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 22:34:01.83 ID:uNR1xDDao
美優「そ、それって……充実してるんでしょうか?」

武内P「私は、仕事が趣味のようなものですし……」

美優「か、彼女とか欲しくなったりしなかったんですか?」

武内P「そう、ですね……」


武内P「……仕事が、とても楽しく」

武内P「……それに、なんと言いますか」

武内P「あまりにも……一人の状態で、完結してしまっていて」

武内P「それに、お付き合いしても、他の女性と多く関わる仕事ですし……」

武内P「……あまり、考えたことはありませんでした」


美優「……」

美優「なる……ほど……」

512: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 22:42:19.28 ID:uNR1xDDao
美優「……そういう事だったんですね」

武内P「三船さんの担当も、似たような事を言っていませんでしたか?」

美優「えっ?」

武内P「ああ、いえ……」


武内P「皆さんが、来るようになる以前」

武内P「――たまには手料理が食べたい、と」

武内P「……そう、言って」

武内P「食材を持って来て、ここで飲んでいる時」

武内P「酔って、そう言っていた覚えがあるので」


美優「……」

美優「そうなんですか?」

513: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 22:48:36.67 ID:uNR1xDDao
美優「……と言うか、そんな事が?」

武内P「? はい」

美優「もしかして……他にも?」

武内P「ええ」


武内P「他の同期や先輩……後輩も、ですね」

武内P「――とても居心地が良い、と」

武内P「……良い、笑顔で」

武内P「それでは、ハンバーグを焼いていきます」

…ジュウウウ!


美優「……!」

美優「しょ、諸悪の根源……!?」


武内P「つなぎ無しの、牛肉のみで……」

武内P「……えっ?」

514: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 22:59:19.35 ID:uNR1xDDao
  ・  ・  ・

菜々「ん~っ ♡ お肉、って感じですね~っ ♡」モグモグ!

心「は~っ ♡ 肉汁、染み渡るわ~っ ♡」モグモグ!

美優「くっ……お、美味しい……!」ヌググ…!


武内P「ソースは、簡単なものですが」

武内P「フライパンに残った肉汁に、刻んだニンニクを入れて香りを」

武内P「そこに、ワインを入れ……ソースとケチャップ」

武内P「所謂、家庭の味ですね」


菜々「小さい頃、よく食べてた味ですよ ♡ 懐かしい~ ♡」モグモグ!

心「思い出補正ってやつだな ♡ 子供になっちゃうわ~ ♡」モグモグ!

美優「か……家庭の味だなんて……!」ムググ…!


武内P「店で食べるハンバーグも良いですが……」アーン!

武内P「……」モグモグ!

武内P「……この味は、外れないですから」

515: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 23:08:57.08 ID:uNR1xDDao
菜々「ピピッ! 人参のグラッセ……甘ぁ~い ♡」ニヘラッ!

心「パイセン、ウサミン星人的には平凡……シュガーきいてるぅ~ ♡」ニヘラッ!

美優「うぅ……これも、懐かしい……!」ヌググ…!


武内P「子供時代、人参が嫌いだったという方」

武内P「人参のグラッセがきっかけで、食べられるようになった、と」

武内P「……そういう方も、珍しく無いかと」


菜々・心「ん~っ ♡」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」


美優「……!」

美優(……間違いない)

美優(この人、同僚プロデューサーの胃袋を掴んでる……!)

516: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 23:15:48.28 ID:uNR1xDDao
武内P「マッシュポテトは、かなりなめらかにしてあります」

武内P「人参のグラッセにも使うので、良いバターを買ったので……」

武内P「そのまま、パンにつけて食べても美味しいですよ」


菜々「どれどれ……あっ、美味しっ ♡」パッ!

心「コショウでパンチもきいてて……いけてるわぁ~ ♡」パッ!


武内P「ソースが残ったら、一緒に付けて食べると良いかと」

武内P「緑の付け合せがブロッコリーなのは、それもあります」

武内P「栄養価も高く、ソースと絡めやすいですから」


菜々・心「幸せ~ ♡」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」


美優「…………」

美優「もう……美味しい……! ♡」…ニヘラッ!

518: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 23:23:17.20 ID:uNR1xDDao
  ・  ・  ・

菜々・心・美優「ご馳走様でした~ ♡」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」


菜々「キャハッ! 今日はラッキーでしたね☆」

心「困ってたら、助けがあるもんだな☆ オイシイ展開ってやつ☆」

菜々「でも、こういう風にお呼ばれする事になるなんて!」

心「ホントホント、男同士でばっかりつるんでたからな~」

菜々「ふっふっふ! ナナ達の、プロデュースの成果ですね☆」

心「ちょっと強引に誘ってきた甲斐があったわ~☆ イエーイ☆」


武内P「は、はあ……」


美優「!」

519: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 23:33:08.14 ID:uNR1xDDao
武内P「確かに……最近は、あまり男同士では」

菜々「良いじゃないですか、女の子と飲むのも♪ ナナは17歳ですけど!」

心「‘うちの’の相手は、はぁとに任せとけ! 任せろ! 任せて!?」


美優「!!」


武内P「しかし……そろそろ、カレーが食べたい、と」

菜々「良いですねぇ、カレー! 夏野菜カレーですか?」

心「どんなカレーが食べたいって!? おい、教えろ!」


美優「!!!」


武内P「以前、作った……ひき肉のカレー、ですね」


美優「あ、あのっ!」

美優「レシピ……教えてもらっても、良いですか!?」

520: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 23:41:44.51 ID:uNR1xDDao
  ・  ・  ・

菜々「それじゃあ、ナナはあっちなので……」

菜々「お疲れ様でした、おやすみなさ~い!」ブンブン!


心「おつかれ☆ おやすみー☆」

美優「お疲れ様でしたー」


心・美優「……」


心「パイセンは17歳だから、しょうがない☆ ねっ?」

美優「はい……美味しそうに食べてましたから」

心「男を落とすには、まず胃袋からって言うけどさ」

美優「……もう、掴まれてたんですね」


心・美優「はぁ……」

521: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 23:49:30.96 ID:uNR1xDDao
心「スウィーティーなシチュで落ちない理由がわかった? よね?」

美優「はい……あんなに、積極的に行ってるのに」

心「だから、ひっぺがす☆ 良い感じになってきたぞ☆」

美優「でも……男性向けの料理は、同じ男性の方が……」

心「っつーわけでさ? さっき聞いたレシピ、はぁとにもヨロー☆」

美優「! なるほど……!」


心「敵を知り己を知れば、百戦危うからず☆ ってな☆」

心「……まあ、相手は男だけどさ」


美優「……私達、勝ててませんからね」

美優「勉強だと思って、今後も頑張りましょう!」


心・美優「おー!」

522: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/13(土) 23:56:56.40 ID:uNR1xDDao
  ・  ・  ・

武内P「……」

武内P(プライベートで女性と……か)

武内P(立場上、意識して来なかったが……)

武内P(……彼女達のおかげかも知れない)

武内P(独り身でも、悪くないと思っていたが――)


  ・  ・  ・


菜々「~♪」ニコニコ!

菜々(カレーは何口だろう? 楽しみだなー! キャハッ!)


  ・  ・  ・


武内P「子供が居る生活も、悪くなさそうだ」




おわり

536: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/14(日) 22:31:29.99 ID:rrrJR14vo

「……」


 学校から帰って、仕事用のバッグに持ち替えて。
 玄関で靴を履き、視線が止まる。
 止まったその先は、傘立て。
 今日の予報では、夕方から雨が降るらしかったからです。


「……」


 傘立てには、何本もの傘が立てられています。
 お父さんもお母さんの、少し困った癖。
 予想していない雨に降られた時、ビニール傘じゃなく、ちょっと良い傘を買うんです。
 結果、我が家の傘立ては……とても、賑やかになっています。


「……」


 折り畳みの傘だと濡れてしまう程降ったから、だとは思います。
 大人にとっては、確かに手狭に感じるサイズですから。
 だけど、やっぱり使われない傘が出てきてしまっています。
 私は、そんな傘達から、目を離せずにいました。


「……」


 最初に手にとったのは、いつも私が使っている傘。
 水色の、子供用。
 だけど、私が傘立てから引き抜いたのは、別の傘。
 ネイビーブルーの、大人用。

537: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/14(日) 22:53:01.59 ID:rrrJR14vo

「……よし、と」


 玄関を出て、しっかりと鍵をかけたか確認します。
 これをやるのは、朝学校へ行く時と、夕方プロダクションへ行く時の二回。
 当然、それ以外にもありますが、基本的にはその二回です。
 小学生とアイドルの、切り替えをしている気分ですね。


「あ」


 学校から帰る時から、もう曇り空ではありました。
 地面を見ると、水滴がポツポツとアスファルトを濡らしていっています。
 雨が、降り出しました。
 私が駅のホームにつくまで待ってくれたら、なんて言っても仕方ありませんね。


「ん」


 傘を開くべく、バンドの部分に手をやって、一瞬。
 指先に触れた茶色いボタンを見て、この傘を選んで正解だったと思いました。
 マジックテープも、とっても便利だとは思います。
 だけど、こういう小さな所に、私は「大人」を感じます。


「よいしょ」


 開く時も、ワンタッチではありません。
 大きな傘の持ち手を左手で抑え、右手をグッと押し込んで傘を広げます。
 開いた傘を手に持って――わ、重い……これで良し。
 傘を肩に担ぐのは少し子供っぽいですが、アンブレラタチバナ、出勤します。

539: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/14(日) 23:09:40.43 ID:rrrJR14vo
  ・  ・  ・

「……ふぅ」


 駅の構内、雨が降り込んで来ない所まで進み、一息つきます。
 始めは、とても良い感じでした。
 何せ、いつも使ってる傘よりもかなり大きい訳ですから。
 雨の日にちょっとやそっとじゃ濡れないというのは、それだけで快適だと思います。


「……」


 失敗の原因は、私自身にあります。
 傘を真っ直ぐ立てて持つのが、大人っぽくて格好良い。
 そんな風には、いつも思っていました。
 なので、挑戦し……あえなく返り討ちにあいました。


「……よい、しょ」


 バランスをとって、このまま行けると思った時、風が吹きました。
 肩に担いでいたら、なんてことはなかった風。
 でも、そんな風にすら負けてしまう程度には、この傘は私の手に余る物でした。
 現に、今もこうして畳むだけでも大変な思いをしています。


「ん……これ、で……」


 よし。
 畳んだ傘のバンドのボタンを留めただけだと、傘の真ん中が膨らんでいました。
 だから、指で引っ張ってピシッと綺麗に形を整えました。
 アイドルなら、持ち物の細かい部分の見た目にも気を遣えないと。

540: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/14(日) 23:27:11.80 ID:rrrJR14vo
  ・  ・  ・

「……」


 改札をくぐり、エスカレーターに乗って駅のホームへ。
 雨だから滑らないよう、しっかりと手すりを掴んで。
 傘が大きくてどうしようと思いましたが、持ち手のもっと先を掴む事にしました。
 落っことしたら危ないですし……手が、ビショビショになりましたけど。


「……」


 電車を待ってる間に、ハンカチで手を拭きたいと思いました。
 でも、どうしても傘がその存在を主張してきます。
 腕に引っ掛けておくのは名案だと思いましたが、
ハンカチを出す時にどうしても床に触れてしまってカチャカチャ音が出るので、却下。


「……」


 私が尊敬する人達だったら、そうはしないと思ったからです。
 だって、変に音を出すのは格好悪いですし、それに、
動く腕に合わせて傘が動いて危ないじゃないですか。
 そうして迷っている間に、電車が来て……良いです、どうせ乾きますから。



「――あっ」



 ホームに停車するため、ゆっくり走っている電車の窓から。
 私の知っている人の姿が見えました。
 その人が乗っている車両は、私が乗り込む予定だった車両の、一つ隣。

541: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/14(日) 23:40:02.51 ID:rrrJR14vo

「……」


 見間違え無いと思います。
 でも、どうしよう。
 ……なんて、考えているのも束の間。
 停車した電車のドアが、プシュウと音を立てて開きました。


「……」


 私は、あの人に気付きました。
 だけど、あの人が私に気付いていたとは限りません。


「……」


 考えた結果、私はほんのちょっとだけ早歩きをして、隣の車両のドアへ。
 電車に乗り込む時、気づかない内に引きずっていた傘が、
電車とホームの隙間に当たってパチンと音を立てて跳ねました。
 ちょっとビックリしましたが、落としたりなんかはしません。



「おはようございます」



 電車内だからか、頷くような仕草をしながら、挨拶をされました。
 だから私も、



「おはようございます」



 それを真似て、しっかりと挨拶を返しました。
 ……気付いてて、くれたみたいです。

542: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 00:01:58.00 ID:FEMhkyywo

「もう、降り出しましたか」


 電車の座席と座席の間にある、高い吊り革。
 私では手の届かないそれに手をかけなおしながら、言われました。
 多分、これは私に気を遣ってくれているんだと思います。
 電車の中からでも、雨が降っているのはわかっていたでしょうから。


「はい。でも、あまり強くは無いです」


 この人は、あまりコミュニケーションが得意では無い、らしいです。
 お仕事で一緒になった時、この人が担当しているアイドルの人に色々聞きました。
 でも、優しい人だ、って。
 ……その前に、顔は怖いけど、って前置きがあったのは、内緒です。



「……――どうぞ、使って下さい」



 上着のポケットから取り出された、水色のハンカチ。
 低い声と一緒に差し出されたそれを見ながら、私は困ってしまいました。
 一方の手は入り口横のバー、反対の手は傘を持っていたからです。
 これじゃ、受け取るに受け取れません。


「傘は、私が持っていますから」


 そう言いながら突き出されたのは、薬指と小指。
 ハンカチは、残った三本の指に収まっていました。

544: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 00:20:51.22 ID:FEMhkyywo

「あ、はい……!」


 ガタンゴトンと揺れる、雨で床が濡れた電車内。
 片手には鞄を持っているので、反対の手はどこかを掴まないと危ないです。
 だから、すぐに傘を渡してハンカチを受け取らなきゃと思い、傘を差し出しました。
 すると、


「お預かりしておきます」


 大きな手の薬指と小指だけで、軽々と傘を。
 私が指の全部を使って持つのよりも、安定しているように見えました。
 それにちょっと驚きながら、ハンカチを受け取ります。
 これも、普段私が使っているのよりも、ずっと大きいハンカチです。


「……」


 渡した傘は、そのまま右手に居続ける事無く、左手に。
 鞄の持ち手と一緒に、危なげなく収まりました。
 私の手だと、どっちかを持つだけで精一杯だと思います。
 そうして、役目を果たしたと言わんばかりに、右手は吊り革に帰っていきました。


「あ……ありがとう、ございます」


 その動作は、とても自然で……大人っぽく見えて。
 ハッキリと言いたかった感謝の言葉が、どうしても小さくなってしまいました。

545: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 00:37:56.41 ID:FEMhkyywo
  ・  ・  ・

「あの……」


 手と――軽く髪を拭き終わったハンカチ。
 私は大丈夫だと言ったんです。
 それなのに、風邪をひくといけないから、って……受け取ってくれなくて。
 兎に角、借りたハンカチを返すべく、差し出しました。


「すみません、降りてからでも?」


 言われて、目線の先を追ってみると、次の停車駅が表示されていました。
 次の駅は、346プロダクションの最寄り駅。
 気づかない内に、もうすぐ着く所まで来てたなんて。


「停車近くになると、危ないですから」


 ほんの少しだけ、吊り革を揺らして。
 そう言われてしまったら、私からは、何も言えなくなってしまいます。
 電車内ですから、他の乗客の人も居ます。
 私に出来る事と言ったら、


「はい……」


 電車を降りた後。
 ハンカチを貸してくれたお礼と、ずっと傘を持っていてくれたお礼。
 どっちを先に言うべきかを考えること位でした。

548: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 01:01:58.95 ID:FEMhkyywo
  ・  ・  ・

「まだ……・降っていますね」


 電車から駅のホームに降りて、空を見上げて。
 私が何かを言う前に、低い声が雨音に消される事なく届いてきました。
 そこで、ふと気付きました。


「傘、持ってないんですか?」


 そんな私の、口をついて出た質問。


「いえ、大丈夫です」


 右手を首筋にやって、一旦言葉が途切れました。
 その言葉の続きを待っている間に、鞄の横から取り出されたのは――折り畳み傘。
 広げたらどの位の大きさになるのかわかりません。
 でも、大人でも大柄なこの人にとっては、ちょっと頼りなさげに見えます。


「……」


 左手に鞄と一緒に持たれている、ネイビーブルーの大きな傘。
 右手に持たれている、黒い小さな折り畳み傘。



「あの……良ければ――!」



 傘を持ってくれたお礼は、傘で。
 ハンカチを貸してくれたお礼は、この人が濡れないように。

549: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 01:30:28.89 ID:FEMhkyywo
  ・  ・  ・

「……」


 手に持っている傘は、とっても軽いです。
 大きさも、この位の雨だったら全然濡れずに済む位はあります。
 私にとっては、丁度良いです。
 それに、


「……」


 私が持っていた傘は、この人には丁度良かったみたいです。
 隣を歩く姿を傘をちょっと傾け、見上げて確認。
 折り畳み傘だと、傘を手に持ってるのと反対の肩が濡れてたかも。
 我ながら、良い提案だったと思います。


「……~♪」


 それに機嫌を良くして、傘をクルッと回し――そうになったけど、我慢。
 あまりにも子供っぽいし、水しぶきが飛んじゃいますから。


「……」


 無理に背伸びをするのは、良い事じゃないと思ってました。
 でも、背伸びをしてなきゃ、こうはなってませんでした。


「~♪」


 パチャン、と。
 長靴で水たまりを渡っていく、私の足取り。
 それは、大人の女性には無い。
 子供ならではの軽やかさがあるって思える、雨の日でした。



おわり

563: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 22:23:38.75 ID:FEMhkyywo

「っしゃあ! いくぞオラァ!」


 腕相撲。
 腕の力を競う遊びの一種であるが、互いの力を確かめ合うための儀式にも用いられる。
 私の眼前で瞳を爛々と輝かせている彼女が求めているのは、後者。
 何度も丁重にお断りしたのだが、結局聞き入れては貰えなかった。


「……はい」


 彼女が促すまま立ち上がり、右の肘をデスクに着け、構えた。
 それを見て、口の端を釣り上げて獰猛な笑みを浮かべる彼女は、何を思っているのだろうか。
 勝利への絶対の自信か、はたまた、勝負するという行為自体への喜びか。
 いずれにせよ、早々に決着をつけなければ、業務に支障が出てしまう。


「わざと負けるような真似したら……わかってんだろうな?」


 見透かされ、一瞬、体を強張らせてしまった。
 硬直したままの右の手の平が、戒められるかの如く、強く握り締められた。
 しかし、私と彼女は体格にかなりの違いがある。
 当然、手の大きさも差があるため、収まりの良い握り方を探すためか、
拘束は時間にするとほんの僅かの間だった。


「本気を出さねぇと、承知しねえ」


 グッ、グッ、と二回。
 やっとしっくり来る場所を見つけたのか、彼女は私の手の平をしっかりと握り締めた。
 顎を引き、射抜くような視線を向けてくる彼女に対して、私が出来る事。
 それは、彼女の想いに全力で応える事しか無い、と……そう、思います。


「はい、わかりました」


 私の返事を聞いた彼女は、


「へへっ! そうこなくっちゃな!」


 満面の笑みを浮かべた。


「……良い、笑顔です」


 これから行うのは、力と力の真剣勝負。
 真剣勝負の前に、これ以上の言葉は不要。


「……いくぜ」


 不覚にも、緊張し……勝負が楽しみになっている自分が居る事に気付いた。
 脇を締め、引き寄せるようにし、腕が鋼鉄の塊になったイメージで、そのまま――倒し切る。


「レディー……!」


 緊張の、一瞬。



「ゴ――ッ!」



 ――ブボウッ!



 ……どこへ?

564: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 22:57:58.05 ID:FEMhkyywo

「……」


 一瞬だけ、彼女の手には力が込められてはいた。
 だが、爆発音にかき消される様にして、雲散霧消。
 そのまま、何の抵抗もなく傾いた天秤は、勝敗の行方をハッキリと見せつけていた。
 私は、勝ったのだ。


「あの……」


 しかし、勝利の代償はあまりにも大きかった……らしい。
 敗者の表情を窺うのは、失礼に当たるのは理解している。


「……大丈夫ですか?」


 額を机にこすりつけている上に、
長い黒髪がカーテンの様になって、彼女の顔を隠している。
 両肩は震え、アイドリング中のバイクを彷彿とさせる。
 右手はテーブルに磔になったままで、左手は……私の視線の届かないテーブルの下で、
暴走してしまった何かを必死に抑えつけている様だった。


「あの……」


 返事が、無い。
 私は、彼女の異常を察知し、そのままになっていた右手を離そうとした。
 離れそうになる、手の平と手の平。
 引き上げた右手に……ピッタリと着いて来る、感触。


「えっ?」


 弱々しくだが、しっかりと。
 傾いていた天秤は、元の位置に戻り……勝負が始まる前の場所へ。
 振りほどこうと思えば、いとも容易くそれは完了するだろう。
 そうしなかった……いや、出来なかったのは、
掴んでいる手が、すがる様に震えていたからだ。


「あの……」


 ……まさか。



「へへっ……そうこなくっちゃな……!」



 つい先程も聞いた言葉。
 同じ台詞ではあるが、本当に楽しげだった初回に比べ、
今の声は負け戦に挑んでいく戦士の悲痛な叫び声の様だった。
 ……あの、まさかとは思いますが、



「へへっ! そうこなくっちゃなぁっ!」



 私に、何事も無かったかの様に振る舞え、と?


「……」


 すみません、貴女の想いに応えたいとは思います。
 ですが、今は悠長にしている場合では無い、と……そう、考えています。
 先程から漂って来ている、異臭。
 その問題を片付けるのが、重要な事だと思うのですが……。

567: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/15(月) 23:33:29.27 ID:FEMhkyywo

「……」


 全力を出そうとした結果の、不幸な事故。
 不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまった……と、言っていましたか。
 不良は不良でも、素行ではなく体調の方が不良だったのかも知れません。
 なので、どうか、


「~~っ!」


 涙を溜めた状態で、笑顔を向けないでください。
 既に、貴女の特攻は成功しています。


「あっ、おっ!?」


 癖で、右手を首筋にやろうとしたが、その場に留められた。
 だが、その時咄嗟に力が入ってしまったのか、はたまた、偶然か。
 彼女は再び額をテーブルにこすりつけ、黒髪が波打つ。
 肩の震えは今までよりも大きく、原動機付自転車と大型二輪程のパワーの違いを感じさせた。


「……!……!」


 永遠とも思える、十数秒間。
 私は、ただ無言でその様子を見守る事しか出来なかった。
 そして遂に、震えは止まった。
 ゆっくりと上げられる、彼女の顔には、



「へへっ! そうこなくっちゃな!」



 何とも形容し難い、様々な感情を煮詰めて大量のミントを加えた様な、
どす黒い爽やかな笑顔が張り付いていた。
 瞳の奥に揺れる炎は、何を燃料として燃え盛っている華なのだろうか。
 ……願わくば、私に対しての恨み節では、ありませんように。
 私は、追突された被害者の側の人間だと……そう、思いますから。


「……良い、笑顔です」


 言いながら、右手に力を込めた。


「……夜露士苦」


 開始のコールをする気力は、無いらしい。


「レディー……」


 私のコールを聞いて、彼女がはほんの僅かにだが、右手に力を込めた。


 ――プッ!


「……ゴー」


 決着は、一瞬。
 地面に突き立てた棒が重力によって倒れる様にして、パタリと。
 空虚な勝利の味を噛み締めながら、三度突っ伏している彼女の後頭部を眺めた。

568: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 00:09:14.97 ID:sR3swdC7o

「……」


 力の緩んだ右手から、そっと自らの手を離す。
 そして、彼女に背を向け、一直線に窓へと行き、可能な限り開け放つ。
 排気ガスによって汚染された空気の、なんと美味い事か。
 通りを行き交う車のドライバーに、感謝の言葉を述べても良い。


「……」


 さて、これからどうしたものか。
 心の準備と今後のスケジュールの調整をしながら、背後にチラリと視線を向けた。


「えっ?」


 誰も、居ない。
 確かに、すぐ先程まで彼女はそこに居た筈だ。
 夢や幻で無い事は、未だ手の平に残る彼女の手のぬくもりと、
全開バリバリで私の嗅覚を痛めつけてくる臭いが、その証拠。


「……!?」


 まさか。


「っ……!」


 慌てて、彼女が居た場所へと走り寄った。


「……」


 ……良かった。
 体調不良で倒れている訳では、無かったようですね。


「……」


 落とした視線の先には、彼女が脱ぎ捨てていった衣類がまとめて置いてあった。
 残されているソレから察するに、彼女は今、下半身に何も纏っていない状態。
 誰にも見つからずに、走り切る事が出来るだろうか。
 ……いや、心配する必要は無いだろう。


「……」


 そんな義理は、無いと思います。


「……」


 茶色い線で書かれた、『夜露士苦』の四文字。
 画数が多い『露』を判別させるためか、大きく書かれていた。


「……」


 腕相撲には勝ったが、私が得たものは何一つ無かった。
 タイマンが決闘罪とされるのは、こういった理由があるのかも知れない。
 そんな考えても詮無い事を悲しみの栓としながら、掃除をするべく行動を開始した。
 鼻栓はもう不要だと思う程、私の鼻は曲がっていた。



おわり

572: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 13:46:54.83 ID:sR3swdC7o
書きます


武内P「ぱ ぱ 、ですか」

573: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 13:49:42.95 ID:sR3swdC7o
ありす「はい。ぱ ぱ 、って何ですか?」

武内P「あの……何故、それを?」

ありす「タブレットでゲームをしてた時に、出てきたんです」

武内P「……成る程」


美波「プロデューサーさん、詳しく教えて下さい♪」ニコッ!

文香「あ……あの……!///」オロオロ!


武内P「……」

武内P「待ってください」

574: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 13:56:17.80 ID:sR3swdC7o
武内P「橘さんを誘導しましたか?」

文香「す、すみません……止める事が、出来ませんでした……///」ペコペコ!

武内P「ええ、鷺沢さんの事は信じていました」

美波「誘導だなんて、そんな……」


美波「――弟がこのゲームが面白い……って言ってた、って伝えて」

美波「――プレイしてわからない事がある……って相談を受けて」

美波「――じゃあ、聞いてみましょ……って此処に来ただけです!」


武内P「……」

武内P「誘導と言うよりも、レールを敷いていますね」

575: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 14:01:49.75 ID:sR3swdC7o
ありす「ぱ ぱ 、って一体何なんですか?」

武内P「すみません、説明するのは難しく……」

ありす「えっ? そうなんですか?」

武内P「……はい、すみません」


美波「それって、つまり……」

美波「……――実際に、やってみせるって事ですか?」キランッ!

文香「っ!?///」ビクッ!


武内P「違います」

武内P「お願いします、そんな目で見ないでください」

576: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 14:07:32.54 ID:sR3swdC7o
ありす「ぱ ぱ 、ここでも出来る事なんですね」

武内P「察しが早くて、助けてください」

ありす「私にも出来ますか?」

武内P「駄目です、いけません」


美波「それじゃあ、私と文香さんなら?」

美波「プロデューサーさんは、どっちとぱ ぱ したいですか?」

文香「えっ、ええっ!?///」オロオロ!


武内P「……」

武内P「新田さん、後で話があります」

577: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 14:12:39.98 ID:sR3swdC7o
美波「えっと……ぱ ぱ したいのは、私って事でしょうか?」

武内P「違います。そういう意味ではありません」

文香「そ、そんな……その、困ってしまいます……!///」チラッチラッ!

武内P「この場で一番困っているのは、間違いなく私です」


ありす「ぱ ぱ って……困る様な事なんですか?」

美波「どうなんだろう……何となく、良い事な気がするんだけど」

文香「……!///」プシューッ!


武内P「……」

武内P「待ってください」

578: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 14:18:37.91 ID:sR3swdC7o
武内P「新田さんは、ぱ ぱ をご存知無いのですか?」

美波「? はい」

武内P「……本当ですか?」

美波「もうっ! だから、聞きに来たんじゃないですか!」

武内P「……」


美波「プロデューサーさん、ぱ ぱ って何ですか?」

美波「わからない事をそのままにしておくのって……」

美波「……お姉さんとして、良くないなと思ったんです」ニコッ!


武内P「……」

武内P「良い、笑顔です……」

579: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 14:25:52.49 ID:sR3swdC7o
武内P「鷺沢さんは、ご存知なのでしょうか?」

文香「えっ!?/// いえ、私は……その……!///」オロオロ!

武内P「その反応を見るに……」

文香「は……はい……///」コクリ


文香「じ、実際に……やってみた事は、ありません……///」モジモジ!

文香「ですが、どのような行為かは、わかっているつもりです……///」ソワソワ!

文香「書から学んだ知識ではありますが、ええと……その……///」オズオズ!


武内P「それ以上の説明は待ってください」

武内P「今の時点で、かなり赤裸々すぎます」

580: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 14:31:14.47 ID:sR3swdC7o
ありす「凄いです! さすが、文香さんです!」

美波「もうっ、文香さんはぱ ぱ が何か知ってたのね!」

文香「えっ!? あっ……!」チラッ!

武内P「待ってください! 今、助けを求める視線を向けられては――」


美波「ありすちゃん、知ってて黙ってたオシオキが必要じゃない?」

ありす「オシオキって……文香さんにですか?」

美波「そうよ、だって内緒にしてたなんてひどいじゃない」

ありす「でも……」

美波「だから、ぱ ぱ をここでやって見せて貰いましょ♪」ニコッ!

ありす「成る程! それは、とってもいい考えだと思います!」ニコッ!


武内P「――こうなります」

文香「……!?///」

581: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 14:38:43.10 ID:sR3swdC7o
美波「そういう訳で、お願いね文香さん♪」ニコッ!

文香「あの、私は……!///」ワタワタ!

ありす「文香さんのぱ ぱ 、楽しみです!」ニコッ!

文香「あ、ありすちゃん……!?///」オロオロ!


文香「っ……///」チラッ!


武内P「鷺沢さん?」


文香「明るいと、恥ずかしさで上手く出来そうにないので……///」モジモジ!

文香「……で……電気を消しても良ければ……///」カァァ!


武内P「鷺沢さん!?」

583: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 14:46:30.40 ID:sR3swdC7o
武内P「待ってください、その覚悟はあまりにも!」

文香「書の、知識の世界から……踏み出そうと思うのです」

武内P「状況を考えれば、踏み外すと言った方が正しいです!」

文香「道の脇に咲く花に目を奪われるのは……いけない事なのでしょうか」

武内P「側溝に足を奪われ、とても危険です!」

文香「そうならないよう……私の手を引いて頂けますか……?」ジッ…!

武内P「手を引きたいのは、この一件からです!」


美波「見逃さないように、動画を撮っておきましょ♪」ニコッ!

ありす「はい! 視点を変えて、二箇所から撮影しましょう!」ニコッ!


武内P「っ……!?」

585: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 14:55:47.63 ID:sR3swdC7o
武内P「――!」

武内P「鷺沢さんが、新田さんか橘さんにする……というのは!?」


美波・ありす「えっ?」

美波「そういうのも……アリなんですか?」

ありす「アリなら、その方がわかりやすいかも……」


文香「――いえ、それでは駄目だと思います」

文香「本当のぱ ぱ は、男性と女性が行ってこそ……」

文香「だから……が……頑張ります……!///」


武内P「鷺沢さん!?」

武内P「貴女の決意を無駄にはしたくない、とは思いますが!」

武内P「どうか、無駄な決意をしないでください!」

586: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 15:03:19.06 ID:sR3swdC7o
ありす「男性と女性が行ってこそ……」

美波「……それが、本当のぱ ぱ 」

ありす「一体、どんな行為なんでしょうか?」

美波「これまでの情報と、言葉の響きから察するに――」


美波「――男性と女性が触れ合うようなものね」

美波「それに、ぱ ぱ という言葉」

美波「――これは、ぱふりぱふり、って音から来てると思うの」

美波「ありすちゃんや、弟がやるゲームにも出てくるから――」

美波「――●●●そうで●●●くない少し●●●い行為」

美波「……だと思うけど、合ってますか?」


武内P「新田さんは、本当に知らないのですか!?」

588: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 15:12:42.30 ID:sR3swdC7o
ありす「え、●●●な事だなんて……文香さんは良いんですか!?」

文香「ありすちゃん……」

ありす「駄目です! 文香さんに、そんな事させられません!」


武内P「! 橘さん、その意気です!」


文香「……でもね、ありすちゃん」

文香「遅かれ早かれ、いずれは経験する事なの」

文香「その時に、上手く出来ないと……困ってしまうでしょう?」

文香「だから、今、この時……」

文香「見守って貰えていたら、とても心強いという……私の、ワガママ」

文香「ありすちゃんは……聞いてくれる?」


ありす「聞きます!」


武内P「待ってください!」

武内P「一分も保たないのは、あまりにも!」

589: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 15:18:46.08 ID:sR3swdC7o
美波「プロデューサーさん、私達に見せてください!」

ありす「ぱ ぱ 、しっかり見届けます!」

文香「よ……宜しくお願いします……///」モジモジ!


武内P「…………」

武内P「……」

武内P「わかりました」


美波・ありす「!」パアッ!

文香「っ!///」ドキッ!

文香「……!///」ドッキドキドキソワソワソワ!


武内P「逃げようとしても……回り込まれてしまうでしょうから」

武内P「……」

武内P「ぱ ぱ 、お見せします」

590: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 15:25:25.96 ID:sR3swdC7o
武内P「今までの皆さんの発言は、全て正しいです」

武内P「……なので、動画撮影は控えて下さい」

武内P「鷺沢さんは、アイドルです」

武内P「万が一の場合を考えると、映像が残るのは危険ですから」


美波・ありす「はいっ!」ニコッ!

文香「……!///……!///」ソワソワソワソワ!


武内P「有難うございます」

武内P「では……」

武内P「……鷺沢さんは、こちらの方へ」


文香「はっ、はひ!///」ビクッ!


武内P「……」

591: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 15:30:39.71 ID:sR3swdC7o
武内P「では、準備をしますので少々お待ち下さい」

文香「じゅっ、準備……?///」ドキドキ!

武内P「はい」

…バサッ!

文香「!?///」


美波「プロデューサーさんが上着を脱いだ……?」

ありす「それが、ぱ ぱ の準備なんですか?」


武内P「ええ」

…シュルッ!…プチリ、プチリ


ありす「ネクタイも外して、シャツのボタンを……」

美波「ヤダ…… ♡ なんだか、す……凄くセクシー…… ♡」


文香「……!?///……!?///」

592: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 15:36:41.71 ID:sR3swdC7o
武内P「ぱ ぱ 」

武内P「それは、胸で相手の顔をぱふりぱふりとする行為、です」

武内P「なので……」


美波・ありす「……!」ゴクリ!


武内P「……僭越ながら、私が」

武内P「鷺沢さんをぱ ぱ しよう、と」

武内P「……そう、思います」


文香「……」

文香「!!?///」

593: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 15:41:46.14 ID:sR3swdC7o
文香「いえ、あの……!?///」

武内P「どうぞ、鷺沢さん」

文香「でも、それは……!?///」

武内P「これが、限界ギリギリ笑顔です」

文香「だけど、そんな……!?///」

武内P「どうぞ」

文香「けれど、その……!?///」

武内P「鷺沢さん」

文香「は、はい……///」


文香「ふ……不束者ではありますが……///」

文香「よっ、よろしくお願い致します……///」ペコリ


武内P「……」

武内P「はい」

594: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 15:47:18.81 ID:sR3swdC7o
文香「し……失礼します……///」

武内P「はい」

文香「っ……!///」

…ぱふっ

文香「~~っ!///」

武内P「この状態から、相手の頭を抱え」

…きゅっ

文香「~~っ!/// ~~っ!///」

武内P「ぱ ぱ します」


ぱ ぱ ぱ ぱ ぱ ぱ ぱふっ ♡


ありす「……!///」

美波「も、もう……見てるだけで…… ♡」ビクビクッ!

美波「美波、●●ますっ ♡」ビクーンッ!

595: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 15:55:04.95 ID:sR3swdC7o
武内P「……ぱ ぱ は、以上になります」

ぱっ!


ありす「た、確かに……ちょっと●●●ですね……///」

美波「はぁ……はぁ…… ♡ ええ、本当に…… ♡」


文香「…… ♡…… ♡」ボーッ…

フラフラっ…


ありす「ふ……文香さん?」

美波「? なんだか、目線が定まってないような……」


文香「…… ♡…… ♡」ボーッ…

…トスン


ありす・美波「座って」


文香「……っぶふっ ♡」キュルンッ!

ブバァッ!


ありす「文香さん!? 文香さーんっ!?」

美波「白目を剥いて……は、鼻血が! 鼻血がっ!」

596: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 16:04:37.28 ID:sR3swdC7o
  ・  ・  ・

武内P「――この様に、ぱ ぱ は非常に危険な行為です」

武内P「皆さん……おわかり頂けましたか?」


ありす「はい……よく、わかりました」

美波「文香さん、もう大丈夫?」

文香「はい……すみません、ご迷惑をおかして……」


武内P「いえ、お気になさらず」

武内P「……皆さん」

武内P「ぱ ぱ の説明は、もう十分ですか?」


美波・文香・ありす「……はいっ!」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」

武内P「そして……良い、返事です」

597: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 16:23:26.67 ID:sR3swdC7o
  ・  ・  ・

ちひろ「……成る程、そんな事が」

武内P「すみません、鼻血の拭き残しがあったようで」

ちひろ「ああ、いえ……それは大丈夫です……」

武内P「では、私は会議がありますので……」

ちひろ「あ……あのっ!」

武内P「? はい」


ちひろ「……プロデューサーさん」

ちひろ「ぱ ぱ 、していきませんか?」


武内P「…………」

→NO

 いいえ


ちひろ「……何回でも聞きますからね?」




おわり

601: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 20:15:14.39 ID:sR3swdC7o
書きます


武内P「大ファンです」

602: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 20:18:28.75 ID:sR3swdC7o
小鳥「ピヨッ!?」

武内P「すっ、すみません、驚かせてしまった様で……」

小鳥「ええと、貴方は……」

武内P「わ、私は……こういう者で――」

ポロッ!

武内P「あっ、すっ、すみません、名刺が――」

小鳥「あっ、私が拾い――」


――そっ


小鳥「あっ」

武内P「っ!? す、すみません! すみません!」



未央・卯月・凛「……!?」

604: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 20:22:54.35 ID:sR3swdC7o
小鳥「えっと……はい、どうぞ」

武内P「す、すみません、お手数をおかけしまして……」

小鳥「ふふっ、そんなに謝らないで下さい」クスクスッ!

武内P「いっ、いえ、ですが……」

小鳥「346プロのプロデューサーさん、ですよね?」

武内P「はっ、はい!」


小鳥「ご存知みたいですけど……765プロの、音無小鳥です」

小鳥「この番組、一緒に盛り上げていきましょう♪」ニコッ!


武内P「はいっ!」



未央・卯月・凛「……!?」

605: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 20:26:37.79 ID:sR3swdC7o
  ・  ・  ・

未央「――第28回チキチキ!」

未央「ニュージェネ、緊急会議~!」

未央「イエーイ! 盛り上がっていこー!」


卯月・凛「……」


未央「ほら、テンション上げてこう!?」

未央「しまむー、しぶりん! 笑顔だよ、笑顔!」


卯月・凛「……」


未央「……!」

606: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 20:31:30.91 ID:sR3swdC7o
未央「どうしたの、しまむー! 元気無いじゃん!」

卯月「いえ……私には、何にもありませんから……」

未央「笑顔! キラキラ輝く、笑顔があるよ!」

卯月「笑顔なんて……誰でも出来るもん……!」

未央「出来てないよ! 出来ないよ!」


未央「しぶりん! 今日は、クールな感じはやめとこ! ねっ!?」

凛「…………なんで?」

未央「元気出してこう、って事! オッケー?」

凛「…………うん、オッケー」

未央「ノー! しぶりんが出してるの負のオーラだよ!?」


卯月・凛「…………」


未央「……!」

607: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 20:35:02.52 ID:sR3swdC7o
未央「二人共、元気無さ過ぎだってば!」

未央「この間の、765プロさんとのお仕事から!」


卯月・凛「っ!?」ビクッ!


未央「あああ、ごめんごめん!」

未央「怖いこと言ってごめんね、言ってないけど!」

未央「……とにかく、話し合お!? ねっ!?」

未央「このままじゃダメだって! マジで!」


卯月・凛「…………」…コクリ


未央「返事をする元気すら無いの!?」

608: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 20:41:20.10 ID:sR3swdC7o
未央「しょうが無いじゃん、私ら以外のファンだって!」

未央「そもそもさ、良い?」

未央「346プロのアイドル部門が出来たの、数年前だよ?」

未央「プロデューサーが進路を決める時にさ?」

未央「……346プロ、無かったんだもん!」

未央「他プロダクションの人のファンだって、しょうがないって!」


卯月「そんな事で悩んでるんじゃないもん!!」


未央「うっわ!? ビックリした!」


凛「ビックリしたのはこっち! 何、あの取り乱し方!?」


未央「私に聞かれても困るけど……オッケー!」

未央「良いよ、二人共! 声出てきた! 良いよ良いよー!」

609: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 20:49:32.45 ID:sR3swdC7o
未央「……しまむーは、何で悩んでるの?」


卯月「あんなの、絶対好きじゃないですか!」

卯月「……好きじゃないですか」

卯月「好きじゃないですか――っ!!」


未央「よく言ってくれたね、しまむー!」

未央「直球過ぎて、ビリビリしびれたよ!」

未央「……しぶりん、取り乱し方って?」


凛「名刺入れを落としたり! 手が触れて飛び退いたり!」

凛「何なの!? 相手は、事務員の人でしょ!? はぁ!?」

凛「握手してくだ、くだ、くださいっ!? ふざっ、ふざけないでよ!!」


未央「オッケー! オッケー、しぶりん!」

未央「しぶりんの怒り、伝わってきてるよ! すっげ怖い!」

610: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 20:56:16.42 ID:sR3swdC7o
未央「わかった! 二人の気持ち、よ~っくわかりました!」

卯月「わかったからって、何だって言うんですか!」

未央「しまむー、言葉のトゲが槍みたいだよ!」

凛「全然わかってない! アイドル辞める!?」

未央「今、アイドルの話は関係ないから! ノー、八つ当たり!」


未央「――敵を知り、己を知れば百戦危うからず!」

未央「この未央ちゃんの特技は?」

未央「さあ、しまむー、しぶりん! 答えてどうぞ!」


卯月・凛「うるさい!」


未央「ぶっとばすぞ!」

未央「あー、あー! せっかくなー! 765のアイドルさん達になー!」

未央「音無小鳥さんの事、色々聞いてきたのになー!」


卯月・凛「!!」

611: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 21:01:29.63 ID:sR3swdC7o
卯月「み……未央ちゃん……?」

未央「私の特技は、誰とでも仲良くなれる事です」

凛「ほ……本田さん……?」

未央「尊敬するのは良いよ。でも、その呼び方は距離を感じるよ」


未央「――敵を知り、己を知れば百戦危うからず」

未央「私が聞いてきた、音無小鳥さんの情報を元に!」

未央「緊急対策会議をする人!」

未央「この指止ーまれっ♪」ニコッ!


卯月・凛「……!」

バッ!


未央「あはは、よーしよしよ――よくない! よくない!」

未央「イタタタ! 折れる折れる! 指、指が折れるってぇ!!」

612: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 21:07:47.53 ID:sR3swdC7o
未央「う……おおおらあっ!」

未央「はぁ……! はぁ……!」

未央「落ち着いて! まず、二人共そこ座って!」


卯月・凛「はいっ、リーダー!」

ストンッ!


未央「……ゴホンッ!」

未央「――第29回チキチキ!」

未央「ニュージェネ、緊急会議~!」


卯月・凛「イエェェ――イッ!!」ゴァァ!


未央「圧が凄い!!」

未央「もうちょっとだけ盛り上がりを抑えて!?」

613: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 21:11:17.17 ID:sR3swdC7o
未央「では、どんどん説明していきます」

卯月・凛「……!」コクリ!


未央「音無小鳥さん……可愛い人だったよね?」


卯月「でも、わた……凛ちゃんの方が可愛いです」

凛「いや、わた……卯月の方が可愛いと思うけど」


未央「せめて、どっちかは私の名前を挙げなさいよ」

未央「そういう時こそ、リーダーに忖度してこうよ」

未央「……まあ、それは置いておいて」


未央「音無小鳥さん、彼氏募集中だそうです」


卯月・凛「…………」


未央「何か言ってよ」

614: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 21:19:15.07 ID:sR3swdC7o
未央「ねえ、二人共?」

卯月「凛ちゃん、接着剤持ってますか?」

未央「ん? どうしたの?」

凛「無いけど、針と糸ならあるかな」

未央「おやおや、そんな口の閉じさせ方ある?」


未央「付け加えておくとだね」

未央「彼氏居ない歴=年齢」

未央「……みたいだよ?」


卯月・凛「……」

卯月・凛「な~んだ!」ニコッ!


未央「もんの凄い笑顔だね、二人共」

未央「そんな心の底からの笑顔、今見たくなかったよ」

615: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 21:26:26.90 ID:sR3swdC7o
卯月「ふふっ! でも、安心しました♪」ニコニコッ!

未央「その笑顔、誰にでも出来る笑顔じゃないね!」

凛「ふふっ! 心配して損しちゃった♪」ニコニコッ!

未央「誰? いや、しぶりんだけど……ねえ、誰?」


卯月「だって、あんな素敵そうな人なんですよ?」

卯月「それなのに、彼氏居ない歴=年齢、って言う事は……」

卯月「きっと、何か致命的な欠点があるに違いないです♪」ニコッ!


未央「ふむふむ」


凛「かなり若く見えたけど、二十代の後半じゃないかな」

凛「それで、ずっと彼氏募集中だった訳でしょ?」

凛「条件が厳しすぎるんじゃないの、知らないけど♪」ニコッ!


未央「なるほどぉ」

未央「とりあえず、二人共一回笑顔は引っ込めようか」

616: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 21:35:15.35 ID:sR3swdC7o
未央「まず、しまむーの方からね」

卯月「はい?」

未央「欠点は、確かにあるみたい」

卯月「あっ、やっぱり♪」ニコッ!

未央「うっかりさんだったり、妄想癖があったりするらしいよ」

卯月「はい♪ それで?」

未央「それだけ」

卯月「……それだけ?」

未央「そう、それだけ」


卯月「そっ……そんなの!!」

卯月「346プロダクションじゃ、個性の一言で済むじゃないですか!!」


未央「はい、その通り」

617: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 21:40:07.52 ID:sR3swdC7o
未央「そして、しぶりんの方ね」

凛「へっ?」

未央「条件が厳しい、との事だけどさ」

凛「うん」

未央「例えば、高い条件ってどんなのがある?」

凛「えっ?」

未央「高学歴、高収入、高身長とかさ」

凛「……!?」

未央「もう、気付いたみたいだね」


凛「たっ、確かにプロデューサーは格好良いかも知れないけど!」

凛「でも、最初は怖く見えるっていうか、徐々に可愛い所もあるんだな、って!」

凛「ふっ、ふざけないでよ! 優しい笑顔もするって、知らないでしょ!?」


未央「何言ってんの?」

618: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 21:47:45.01 ID:sR3swdC7o
未央「とまぁ、現状はそんな感じ」

卯月・凛「……!」

未央「オッケー?」

卯月・凛「の……ノー!」

未央「二人共、その拒否には何の効力も無いからね?」

卯月・凛「い……イエス!」

未央「わかってるなら、最初からイエスって言いなさいよ」


未央「――しかぁしぃ!!」


卯月・凛「っ!?」ビクッ!


未央「これまで、彼氏が居なかった音無小鳥さん」

未央「相手の方が緊張してるから、自分はそんなに緊張しない相手でも……」

未央「……自分から、動き出せる方ではございません!」


卯月・凛「!!」

619: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 21:53:06.61 ID:sR3swdC7o
卯月「みっ……未央ちゃん!?」

未央「マジです! ピヨピヨ妄想して終わりらしいです!」

凛「だっ……だっさん!?」

未央「本田さんのあだ名バージョン? お願い、それはやめて」


未央「――そして!」

未央「私達のプロデューサーも、仕事が恋人という仕事人間!」

未央「いくら、相手が彼氏募集中の大ファンだったとしても!」

未央「……自分から、動き出せる方ではございません!」


卯月・凛「うんうんっ!!」パアッ!


未央「――何か無い限りは!!」


卯月・凛「……」

卯月・凛「うんっ?」

620: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 21:58:46.97 ID:sR3swdC7o
卯月「何か?」

未央「無い限りは!!」

凛「どういう事?」

未央「そういう事!!」


未央「いやー、何て言うかさ?」

未央「あんなに慌ててるプロデューサー見てたら、面白くなっちゃって」

未央「765プロのアイドルさん達と協力してさ?」


卯月・凛「……」


未央「連絡先、交換させちゃいましたとさ♪」テヘペロ!


卯月・凛「本田ぁ――ーっ!!」


未央「良かれと思って! 良かれと思って!」

未央「……はーい! 悪ぅござんした、とぅいまてんでしたー!」

621: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 22:06:57.07 ID:sR3swdC7o
未央「だぁって! お似合いに見えたんだってぇ!」

卯月「ふふっ♪ 未央ちゃん、目を食いしばって下さい♪」

未央「目を!? 私、目ぇ潰されるの!?」

凛「ふーん、それが嫌なら一機失う事になるけど」

未央「人間は残機無いよ! 一度きりだから、一生懸命生きるんだよ!」


未央「待って! 落ち着いて!」

未央「話には、まだ続きがあるから!」

未央「良いの!?……良いの!?」


卯月・凛「…………」クイッ!


未央「……ふーっ、とんだじゃじゃ馬だね!」

未央「顎で話の続きを促すなんて、珍しいものが見られてラッキー☆」

未央「……あっ、すみません! 今、話します!」

622: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 22:14:32.50 ID:sR3swdC7o
未央「良いニュースと、悪いニュース」

未央「……どっちを先に聞きたい?」


卯月・凛「……悪いニュース」


未央「はい、かしこまり」

未央「悪いニュースは――ピアノバー『「Unamela」』」

未央「そこで、音無小鳥さんが時々歌ってるらしく……」

未央「……今度歌う時、プロデューサーも見に行くみたいです」


卯月・凛「…………良いニュースは?」


未央「悪いニュースが、一つしか無い事です」


卯月・凛「…………」


未央「何か言ってよ」

623: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 22:28:27.96 ID:sR3swdC7o
卯月「……何かの間違いじゃ?」

未央「情報の出所は確かなんだよね」

凛「……それ、どこ情報?」

未央「ジュンジュン。765プロの社長さん」

卯月「ええっ!? そんな人と、知り合いに?」

未央「すっごいノリがいい人でさ~」

凛「あだ名で呼ぶなんて、未央らしいけど」

未央「でしょ? そこが私の良い所♪」


卯月「ガチの話じゃないですか――っ!」

卯月「バーって、オシャレな所ですよね!?」


凛「ふーん、そうなんだ」

凛「ふっ、ふっふ――ふうううぅぅぅんんんあぁ!?」


未央「ごめんて! だから、ごめんって!」

624: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 22:36:14.03 ID:sR3swdC7o
卯月「それ、いつの話ですか!?」

未央「なんと、今晩の話」

凛「どうして今まで黙ってたの!?」

未央「怒ると思って」

卯月「怒るわけないじゃないですか! 怒りますよ!?」

未央「どっち?」

凛「止める方法は!? 何か、考えがあるんでしょ!?」

未央「それじゃあ、このホワイトボードを使って」


未央「――第30回チキチキ!」

未央「ニュージェネ、緊急会議~!」

未央「議題は……」キュキュッ!


『プロデューサーの恋路を邪魔する方法』


卯月「いや、その書き方……」

凛「もうちょっと……何とかならない?」


未央「……今更格好つけようとしないでよ」

625: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 22:42:03.03 ID:sR3swdC7o
卯月「はいっ!」


未央「はい、しまむー!」


卯月「いっ、行かないで下さい!……って!」

卯月「プロデューサーさんに言います!」


未央「うん、良い案だと思う!」

未央「でもねぇ、今日はプロデューサーは出先から直帰」

未央「今日は、ここに来る予定はございません!」


凛「だっ、だったら!」

凛「その『「Unamela」』ってバーに、私達が乗り込めば!」


未央「おっと、こりゃまた大胆な案!」

未央「でもねぇ、予定では22時以降の話らしいんだよね」

未央「つまり、その案は私達には実行不可能でございます!」


卯月・凛「……!?」

626: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 22:53:46.70 ID:sR3swdC7o
卯月「もう……未央ちゃんは、どうしたんですか!?」

未央「幸せになりたいかなぁ」

凛「ふざけないでよ! 私が、未央の不幸になるよ!?」

未央「どゆこと?」


卯月「未央ちゃんには、何か良い案は無いんですか!?」

凛「未央の胸は、ただの飾りなの!? ねえ、どうなの!」


未央「いやね、しまむー。無い事も無いんだよ?」

未央「あとね、しぶりん。別に飾ってはいないよ?」

未央「……ゴホンッ!」

未央「とりあえず、今日を乗り切る事なら出来r」


卯月・凛「名案!!」


未央「言わせてよ」

627: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 22:59:30.42 ID:sR3swdC7o
未央「でもさ……ちょっと危険が伴うんだよね」

卯月「それでも! 明日を笑顔で迎えられるなら!」

未央「ものすごいヒロイン力だ」

凛「誰かの幸せが、私の幸せになると思ったら大間違いだから!」

未央「どこの小悪党?」


未央「良いんだね? 後悔しないね?」

未央「プロデューサーと、音無小鳥さんの仲……」

未央「それを邪魔するためなら、危ない橋も渡る」

未央「……その覚悟が、二人にはあるんだよね?」


卯月・凛「……!」ニコッ!


未央「……やー、良い笑顔だね」

628: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 23:05:04.77 ID:sR3swdC7o
未央「でも! 二人なら、そう言うと思ったよ!」ニコッ!

未央「――と、言う訳で!」

卯月・凛「?」

未央「ゲストを呼んであります」

卯月・凛「ゲスト?」

未央「うん、そろそろ来るはずなんだけど……」


コン、コン


未央「あっ、来た来た」

未央「はーい! 今開けまーすっ!」


卯月・凛「……誰?」


カチャリ

未央「はい、お待たせしました!」

ガチャッ!

未央「本日の、特別ゲストの――」


卯月・凛「……」

卯月・凛「……!?」

629: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 23:13:57.95 ID:sR3swdC7o
  ・  ・  ・

「Unamela」前


武内P「……!」ドキドキ!

武内P(このドアの向こうに、音無小鳥さんが……!)

武内P(……今日は、何を歌うのだろうか)

武内P(やはり、『空』を歌って頂けると――)


とんとんっ


武内P「あっ、ドアの前ですみません」

武内P「今――……」


楓「ふふっ! バーで、ばぁ……うふふっ♪」ニコッ!


武内P「…………」

武内P「……」


武内P「えっ?」

631: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/16(火) 23:27:33.40 ID:sR3swdC7o
  ・  ・  ・

未央「――計画通り!」

未央「昨日の夜は、何事も無く終わったそうだよ!」

未央「やったね、しまむー! しぶりん!」


卯月・凛「……」


未央「おおっと、待って待ってちょっと待って」

未央「その視線は、人に向けていいやつじゃないって」

未央「ましてや、私ら友達じゃん!」


卯月「昨日の夜は、不安で眠れませんでしたよ!」

凛「おかげで寝不足だから! 未央、代わりに寝る!?」


未央「あっはっは!」

未央「しまむーもしぶりんも、元気いっぱいじゃーん!」

未央「これも、私のリーダーとしての活躍のおかげだね!」ニコッ!



卯月・凛「もっと不安になっただけだから!」




おわり

641: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 22:05:49.05 ID:usN7Uy9eo
>>639
では、担当Pが居るだろうなと思うポジに


武内P「日野さんの担当プロデューサー、ですか?」

642: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 22:09:52.80 ID:usN7Uy9eo
未央「どんな人か気になってさ~」

武内P「……と、言われましても」

未央「プロデューサーと同期なんだよね?」

武内P「同期は、同期ですが……」

未央「ん?」


武内P「――日野さんの担当プロデューサー」

武内P「その方は、他の事務所からヘッドハンティングで来られた方で……」

武内P「……この業界では、先輩にあたります」


未央「えっ!? そうなの!?」

643: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 22:16:52.85 ID:usN7Uy9eo
未央「うっわ、全然知らなかった……!」

武内P「346プロダクションのアイドル部門は、新規に立ち上がったばかりです」

未央「まあ、確かにそうだね」

武内P「なので、新人プロデューサーだけと言う訳にも……はい」

未央「あー……確かに、言われてみればそうかも」


武内P「部長と、その方が中心となって」

武内P「立ち上げ時に起こった問題や、今後の方針」

武内P「更に、新人プロデューサーの育成等の多岐に渡って……」

武内P「……とても、ご活躍されていました」


未央「ええっ!? ねえ、どんな人なの!?」


武内P「……」

武内P「そう、ですね――」

644: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 22:22:58.26 ID:usN7Uy9eo
  ・  ・  ・

n年前


先輩P「――日野をスカウトした理由?」


武内P「はい」


先輩P「ままま、とりあえずカンパイしましょ」

武内P「あっ、はい」

先輩P「それじゃ、今日もお疲れ様」

武内P「お疲れ様でした」


先輩P・武内P「カンパイ」


先輩P「いやぁ、カンパイの時にこうスッとグラスを下に持っていくなんてね!」

先輩P「僕は良く出来た同期が居て幸せ者ですなぁ」


武内P「い、いえ……同期と言うよりも、先輩で……!」


先輩P「幸せ者ですなぁ~!」


武内P「……!」


先輩P「ハッハッハ! ま、飲みましょ飲みましょ! ん、美味い!」

645: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 22:30:45.63 ID:usN7Uy9eo
先輩P「やっぱり、仕事の後にはビールが合う!」

武内P「……はい、とても美味しいです」

先輩P「それで、何だっけ? 日野をスカウトした理由だっけ?」

武内P「はい」

先輩P「そうだねぇ、その時の話はしたっけ?」

武内P「いえ」

先輩P「まあ、一言で言っちゃうと――」


先輩P「――やべぇヤツが居る」


先輩P「と、こうなるんだけどね」

武内P「は、はあ……」

先輩P「はい、それじゃあ次の話題に移りましょうかね」

武内P「えっ!?」

先輩P「慌てなさんなって! もう、本当真面目なんだから!」

武内P「……」

646: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 22:37:13.36 ID:usN7Uy9eo
先輩P「そういう真面目なヤツ程、アッチの方はヴィーストなんだよなぁ」

先輩P「どうなの? ヴィーストなの? ん?」

武内P「い、いえ……!」

先輩P「まあ、からかうのはこの位にしといてあげましょ」

武内P「あ……ありがとうございます……?」

先輩P「あっはっは! お礼はおかしいでしょ!」

武内P「……」


先輩P「僕が日野を最初に見た時はねぇ……」

先輩P「海岸沿いの道をですよ」

先輩P「もう、Bボタン潰れんじゃねえかって位の勢いで走ってたの」

先輩P「……」

先輩P「まずいな、ちょっと言葉が多くなったけど……」

先輩P「やべぇヤツの、やべぇ具合の説明が増えただけだ、あっはっは!」


武内P「……」

647: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 22:42:40.64 ID:usN7Uy9eo
先輩P「まあ、それであんまりにもやべぇと思ったから声をかけて」

武内P「えっ?」

先輩P「ん?」

武内P「顔は……確認しなかったのですか?」

先輩P「してないね」

武内P「……?」


先輩P「だって、やべぇヤツだと思っただけだから」

先輩P「何なら、声をかけた後に自分にパンチしたくなった位」

先輩P「だって、今どき夕日に向かってフルパワーで走ってんだぜ?」

先輩P「どう考えたってまともじゃねぇし!」


武内P「は、はあ……」

648: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 22:50:29.60 ID:usN7Uy9eo
先輩P「あ、ちなみに」

武内P「?」

先輩P「夕日に向かって走るの元ネタってご存知?」

武内P「えっ? 昔の、青春ドラマでは……」

先輩P「無いんですよ」


先輩P「1970だったか……いや、確か69だな!」

先輩P「ふぅー! シックスティーナイン!」

先輩P「ちょっとティーを外したら、楽しい事になっちゃうね?」

先輩P「そんな、ゴキゲンな1969年の映画『夕陽に向かって走れ』」

先輩P「あ、邦題だと陽は陰陽の陽の字ね」

先輩P「内容は、まあ痴情のもつれで撃った撃たれたの話ですわ!」

先輩P「爽やかさなんか、一切ないドロッドロの内容です!」


武内P「成る程……」メモメモ!


先輩P「あっはっは! 良いよ、メモなんか取らなくて!」

649: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 22:59:16.39 ID:usN7Uy9eo
先輩P「それでまあ、話を戻しますと」

武内P「……声をかけて?」

先輩P「そしたら、何でしょうかって言いながら!」

先輩P「ま~たフルパワーで戻ってくんだもん!」

先輩P「その時点で、超やべぇヤツじゃん!」

武内P「……」


先輩P「そんなのもう、スカウトするしか無いでしょ!」


武内P「えっ?」


先輩P「その時の返しもまたぶっとんでてさ!」

先輩P「アイドルぅ~? それは何者ですかぁ~?」

先輩P「……だよ!? あっはっはっはっは!」

先輩P「アイドルを知らないって、いつの時代から走ってきたんだよ!」

先輩P「デロリアンだって乗らなきゃ時を超えられねえって!」


武内P「あっ、あの……!」


先輩P「ん? どしたの?」

650: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 23:05:53.26 ID:usN7Uy9eo
武内P「日野さんのルックスを見て……では?」

先輩P「おいお~い! 女の子を顔で判断するのか~!」

武内P「えっ!?」

先輩P「まあ、俺も病気かっつう位女好きだけど、まずは●●●●じゃね? じゃね?」

武内P「か、体を見て……ですか?」

先輩P「言い方がいやらしい! ぃやらしい! あっははは!」

武内P「……」


先輩P「……まあ、あの時はドすっぴんだったしねぇ」

先輩P「可愛くなるだろうとは思ったけど、そこよりも」

先輩P「――ぶっとんでやべぇヤツ」

先輩P「っていうのが、やっぱりスカウトしたきっかけかなぁ」


武内P「……」

651: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 23:15:27.28 ID:usN7Uy9eo
武内P「……何故、それが決め手に?」

先輩P「そうだねぇ、詳しく話すと長くなるからサクッとね」

武内P「はい」

先輩P「アイドル業界って、日高舞が一回焼け野原にした業界じゃん?」

武内P「……はい」

先輩P「まあ、それはそれで……765さんが、また業界を盛り上げてきた」

武内P「ええ」

先輩P「だけど――765さんすみませ~ん――個性の面では、少し弱い」

武内P「そう、でしょうか……?」

先輩P「でも、あそこのアイドル達は力をつけてる、凄いよねぇ」

武内P「……はい」


先輩P「――じゃあ、新規でアイドル部門を立ち上げたとして」

先輩P「そのすぐ後に、またあんなのが出てきたらですよ」

先輩P「アイドル業界は、核の炎に包まれる!」

先輩P「世紀末はまだまだ先なのに! ふざけんなー!」


武内P「……」

652: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 23:24:00.53 ID:usN7Uy9eo
先輩P「だから、核の炎に包まれても生き残れる子を選ぶ」

先輩P「『TOUGH BOY』、タッポイじゃなく、TOUGH GIRLをね」

武内P「経験の少なさを……個性でカバーする、と言う事でしょうか?」

先輩P「そゆこと! 良いねぇ、話が早い! ん、美味い!」ゴクッ!

武内P「確かに……日野さんは、個性的ですね」

先輩P「やべぇでしょ?」

武内P「いえ、その……」


先輩P「まあ、小日向の私服のセンスの方がやべぇんだけど」


武内P「っく……!」

先輩P「はい、今笑ったのは小日向に報告しておきま~す」

武内P「!? ま、待ってください!」

先輩P「あっはっは!」

武内P「……」

653: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 23:32:00.54 ID:usN7Uy9eo
先輩P「でもさぁ、日野のヤツ!」

先輩P「走り込み途中だったので失礼しますっつって行こうとすんの!」

先輩P「後から聞いたんだけど、アイツマネージャーじゃん?」

先輩P「意味がワカラナーイ! なんで一人で走ってんだって言うね!」

武内P「あの……」

先輩P「ん?」

武内P「走り去る日野さんを呼び止められたのですか?」

先輩P「全力ラーンとか言ってたけど……」


先輩P「トップを目指す仕事です!!!」


先輩P「……って言って呼び止めたね」

先輩P「急にでけぇ声出さなきゃいけなかったから、きちぃきちぃ!」


武内P「トップ……」

武内P「……アイドルのトップ、ですか」


先輩P「いや、違うんじゃない?」


武内P「……」

武内P「えっ?」

654: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 23:41:02.07 ID:usN7Uy9eo
武内P「な、なら……何のトップを……?」


先輩P「まあ、トップにも色々ありますよ」

先輩P「大体は、そのジャンルに置いての一番の事を言いますね?」

先輩P「他には、宇宙怪獣と戦ったりするのだったり」

先輩P「洗剤だったり、メガネトップ――あ、こちらは静岡のメガネサービス業ですね」

先輩P「などなど、色々なトップが世の中にはあんのよ」


武内P「……日野さんが目指した、トップとは?」


先輩P「これはズバリ、ラグビーです」


武内P「えっ!?」


先輩P「日本の社会人ラグビーの全国リーグ」

先輩P「こいつはですね、ジャパンラグビー・トップリーグって言うんですよ」

先輩P「それじゃ長いってんで、トップリーグとか言うんです、が」

先輩P「やべぇヤツだったら、トップって言ったら連想するかも知れませんなぁ!」

先輩P「あっはっはっはっは!」


武内P「……!?」

655: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/17(水) 23:52:06.37 ID:usN7Uy9eo
先輩P「ラガーシャツ着て、夕日に向かって走っていたぁ!」

先輩P「そして、何と言っても声がでかぁい!」

先輩P「試しにジャブ打ったつもりが、完全ノックアウト!」

先輩P「野球だったら、打順グぅリングリン回ってっから!」


武内P「そ、それは……」


先輩P「それで、事務所の方に自分から来てだ」

先輩P「何故か! 門を動かそうと!……ップハー!」ゴクッ!

先輩P「超やべぇでしょそんなん!」

先輩P「この時点で、やべぇヤツからやべぇバカに進化を遂げまして」

先輩P「何だこのやべぇバカ、くっそ面白ぇじゃねえか、となってからの――」

先輩P「――監督ではなくて、プロデューサーだ!」

先輩P「と、サラッと自己紹介をして」


武内P「……!?」

656: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 00:06:58.46 ID:AVlgjCYHo
先輩P「なんやかんやあり、ゴキゲンでアイドルやってんね」

武内P「日野さんは……それで、納得されたのですか!?」

先輩P「ど~だろうなぁ~! わかってない可能性も、まだ捨てきれない!」

武内P「……!?」

先輩P「でもま、お仕事って事は理解してるから大丈夫でしょ」

武内P「そ、そう……でしょうか……?」

先輩P「何だかんだ楽しそうにやってっから……うん、美味い!」ゴクッ!

武内P「……」


先輩P「ま、辞めるって言ったらその時はその時」

先輩P「代わりはいくらでも居る、って言ったらアレだけどさ」

先輩P「どっかでちゃんと切り替えないと、お仕事なんだから」


武内P「っ……!」


先輩P「ま、今日は飲みましょ!」

先輩P「長い人生、思い通りにならない事なんていっくらでもあんだから!」

先輩P「じゃなきゃ、むっさい男二人のサシ飲みなんて許されるわけがない!」

先輩P「……これはこれで楽しいと思っちゃうから結婚できな――ヤメロォ!!」


武内P「……」

657: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 00:11:32.50 ID:AVlgjCYHo
  ・  ・  ・

武内P「――……」


未央「? プロデューサー?」


武内P「っ、すみません……少し、考え事を」

未央「もしかして、あかねちんの担当プロデューサーの事?」

武内P「はい、とてもお世話になった方ですから」

未央「へえぇ……!」

武内P「そう、ですね……」


武内P「教師の様な方、ですね」



おわり

663: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 19:18:59.43 ID:AVlgjCYHo
書きます


武内P「センブリ茶、ですか」

664: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 19:21:19.85 ID:AVlgjCYHo
みく「そうにゃ! Pチャン、用意出来る?」

武内P「はい、それは可能ですが……」

李衣菜「えっ!? 本当ですか!?」

武内P「? はい」


みく「Pチャン、お願いにゃ!」

みく「みく達がもっと活躍するためには――」

みく「――センブリ茶を飲む練習が必要なの!」


武内P「センブリ茶を飲む……」

武内P「……練習、ですか?」

665: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 19:25:12.84 ID:AVlgjCYHo
李衣菜「センブリ茶って、よくバラエティで罰ゲームに使われますよね?」

武内P「ええ、そうですね」

みく「だから、ちゃんと練習しておきたいの!」

武内P「すみません、練習の意味が……よく」


李衣菜「もし、番組で罰ゲームでセンブリ茶を飲む時」

李衣菜「私はロック、みくちゃんはネコキャラなリアクションをすれば――」

李衣菜「――人気アップ、間違いないと思うんです!」


武内P「……成る程」

武内P「罰ゲームを受けた時の練習は……考えていませんでした」

666: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 19:30:21.71 ID:AVlgjCYHo
みく「どう? 名案でしょー!」

武内P「ええ、ですが……宜しいのですか?」

李衣菜「覚悟の上です!」

武内P「前川さん、多田さん……」


みく「あ! ナナチャンと夏樹チャンも誘ってあるにゃ!」

李衣菜「だから、用意するのは四杯で!」

みく「そう、四杯! センブリ茶、四杯!」

李衣菜「四杯、宜しくお願いします!」


武内P「……!」

武内P「……わかりました」


武内P「四倍で、四杯……用意させて頂きます」

667: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 19:36:42.94 ID:AVlgjCYHo
  ・  ・  ・

菜々・夏樹「で」


みく「ジャーン! 用意されたのは、こちらになりまーす!」

李衣菜「ありがとうございます、プロデューサー!」

武内P「いえ、当然の事です」


菜々・夏樹「何て?」


みく「みく達と一緒に、センブリ茶を飲む練習するにゃ~!」ニコッ!

李衣菜「四人一緒だったら、色んな事に気づけそうだもんね!」ニコッ!

武内P「……良い、笑顔です」


菜々・夏樹「……」

菜々・夏樹「何で?」

668: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 19:42:46.48 ID:AVlgjCYHo
菜々「いっ、嫌ですよ!? すっごく苦いんですよね、それ!?」

みく「だからこそ! 収録中に、変な顔出来ないでしょー?」ニコニコ!

菜々「確かに、それはそうかも知れませんけど……!」


夏樹「おいおい、だりー? なんでアタシを呼んだんだ?」

李衣菜「なつきちだったら、ロックな上に良いリアクションをすると思って!」ニコニコ!

夏樹「「ははっ、だりー? ロックと笑いの神様は別人なんだぜ?」


武内P「……練習、という事なので」

武内P「まずは、飲む順番を決めてはどうでしょうか?」

武内P「先の方は、後の方のリアクションを見て反省が」

武内P「後の方は、先の方のリアクションを参考に臨めますから」


みく・李衣菜「賛成ー!」


菜々・夏樹「待った待ったちょっと待った!?」

669: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 19:49:11.68 ID:AVlgjCYHo
菜々「本当に、ナナ達もやらなきゃ駄目ですか!?」

夏樹「飲むのは、年齢順っていうのはどうだい?」

菜々「!?」

夏樹「言い出しっぺのみくが最初で……」

菜々「あっ、あのっ!?」

夏樹「……とりあえず、そこで様子見しようじゃないか」

菜々「……!」ホッ!


みく「そうだね……確かに、夏樹チャンの言う通りにゃ!」

みく「最初は、みくがセンブリ茶を飲むね!」


夏樹「みくとだりーに先に飲ませて……」ボソボソ…!

菜々「! 成る程……なあなあで、終わらせるんですね……!」ボソボソ…!


李衣菜「? どうしたの、二人共?」


菜々・夏樹「……いや、何でも!」

670: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 19:54:00.40 ID:AVlgjCYHo
みく「初めて飲むから、ちょっとドキドキするかも……!」

李衣菜「みくちゃんは、どんなリアクションをする気なの?」

みく「勿論、決まってるにゃ!」


みく「最初はね、うえぇ、って顔をするの!」

みく「そうじゃないと、罰ゲームになってないもんね」

みく「……それで、目をウルウルっとさせて」

みく「――美味しいにゃん♪」ニャンッ♪

みく「って、可愛くネコチャンポーズ! どう?」


武内P「良い感じですね」

武内P「撮れ高としては、少し物足りない部分もありますが……」

武内P「前川さんの魅力が、十分に伝わる反応だと思います」


みく「えへへ、でしょー!」ニコッ!

671: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 19:58:54.04 ID:AVlgjCYHo
みく「それじゃあ……飲むにゃ!」


李衣菜「みくちゃん、頑張れー!」

菜々「飲んだら、味の感想を聞きますね! キャハッ!」

夏樹「ハハッ、なんだかちょっとワクワクしてきたな!」

武内P「水は用意してありますので、ご安心ください」


みく「水なんかに頼らないにゃ!」

みく「キュートなネコチャンは、センブリ茶には負けない!」

みく「――みくは、自分を曲げないよ!」


李衣菜・菜々・夏樹「お~っ!」


みく「いくにゃ~っ!」…ゴクッ!


菜々「みくちゃん、味h」



みく「――ごっふぅうああああああああ!?」



李衣菜・菜々・夏樹「!!?」

672: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 20:07:30.85 ID:AVlgjCYHo
李衣菜「みくちゃん!? それ、ネコチャン!?」

菜々「おかしくないですか!? えっ、そんなに!?」

夏樹「あの様子……演技にしちゃ、迫真すぎる!」


みく「あー! あー! あー!」ニャガア゙ア゙!

フラフラッ…!

武内P「! 前川さん、お水を……!」

みく「あ゙ー! あ゙ー! あ゙ーっ゙!」ニャガア゙ア゙!

ざりっ、ざりっ

武内P「!? な、何故私の上着を舐め……前川さん!?」


夏樹「おい、あれ……舌を拭いてるんじゃないか!?」

李衣菜「! きっとそうだよ! みくちゃん、すっごくネコっぽい!」

菜々「あんな苦しそうなネコ、電波に乗せられませんよ!」

673: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 20:14:19.84 ID:AVlgjCYHo
武内P「前川さん、お水です!」

みく「あ゙ー! ぅあ゙ーっ゙!」ニャガア゙ア゙!

武内P「どうぞ……!」

みく「ンッ! ングッ、ングッ、ングッ!」ゴクゴク!

武内P「大丈夫です、ゆっくり、落ち着いて……」

みく「……プハッ!」


みく「さいっ……あく! 最悪や!」

みく「何なん!? このセンブリ茶言うやつ、頭おかしいやろ!」


武内P「待ってください!」

武内P「今の前川さんは、ネコを通り越して……虎に!」

674: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 20:17:31.13 ID:AVlgjCYHo
みく「えっ?……あっ!」

武内P「前川さん」

みく「あっ、と……」


李衣菜・菜々・夏樹「……」


みく「……」

みく「――美味しいにゃん♪」ニャンッ♪


武内P「……良い、リアクションです」


李衣菜・菜々・夏樹「……」

675: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 20:25:18.57 ID:AVlgjCYHo
みく「……はい、それじゃあ次の人は」


菜々「嘘ですよね!? 今のを見て、続けろって!?」

李衣菜「17歳同士だから、私か菜々ちゃんだね」

夏樹「だりーは何で乗り気なんだ!? どうした!?」


みく「みくは、前からずっと思ってたの……」

みく「……ナナチャンみたいなアイドルになりたい、って!」

みく「という訳で、二番手はナナチャン!」


菜々「違いますよ♪ ナナは、27歳です♪ キャハッ!」

李衣菜「さっきのみくちゃんを見て、どうリアクションを変えてくるのかな?」

夏樹「だりー、目を覚ませ! クールが過ぎる!」

676: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 20:31:43.75 ID:AVlgjCYHo
  ・  ・  ・

菜々「――あんまああああああああ!?」

ゴロンッ!


李衣菜「! みくちゃんと違って、床に転がった!?」


菜々「んむにゅうううううううう!?」

ゴロゴロゴロゴロッ…


みく「口を抑えて転がりながら……叫び声がキュートにゃ!」


…ゴンッ!

菜々「~~っ!? あ゙ー! あ゙ー! 痛っ、苦ぁ~~っ!!」


みく・李衣菜「頭をぶつけて……て、天才!?」

夏樹「言ってる場合じゃないだろ!?」

677: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 20:40:49.21 ID:AVlgjCYHo
武内P「安部さん、大丈夫ですか!?」

菜々「水水水水みぃーず水水水ぅっ!」ササササッ!

武内P「はい、こちらに――」

菜々「――あったぁっ!」ゴクッ!

武内P「待ってください! そのコップの中身は――」


菜々「――うぶっふあああっ!」ブッフゥッ~!


みく「凄いにゃ……! これが、ナナチャンのリアクション……!」

李衣菜「こんなの、計算して出来る事じゃないよ! ロックだね、なつきち!」

夏樹「感心してる場合じゃないぞ!? ある意味、ロックではあるけど!」

678: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 20:58:53.48 ID:AVlgjCYHo
  ・  ・  ・

菜々「――ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な~♪」


夏樹「おい!? まだ続けるのか!?」

みく「もーっ! ナナチャンが二杯飲んじゃったけど……」

李衣菜「……センブリ茶は、まだもう一杯残ってるんだから!」

夏樹「そりゃあそうだが――」


夏樹「――!」


菜々「飲みたいのは、どっちですかぁ~っ?」

菜々『道連れ……あともう一人だけでも、道連れを……!』


みく「練習は大事だからねっ! さっ、決めちゃうにゃ!」

みく『どっちでも良い……味わえ……味わえ……!』


夏樹「……!?」

679: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 21:03:47.69 ID:AVlgjCYHo
夏樹「おい、だりー……」

夏樹「……!?」


李衣菜「ん? なつきち、どうしたの?」

李衣菜『絶対! ぜっ……たいに嫌だ! 飲みたくない!』

李衣菜『二人のリアクション、明らかにおかしいもん!』

李衣菜『……だけど、センブリ茶はあと一杯!』

李衣菜『出来るだけ平静を装って、なつきちに任せる!』

李衣菜『……ごめん、なつきち!』


夏樹「だりー、ごめんじゃないだろ!」


李衣菜「えっ? 何が?」

李衣菜『まさか……心を読まれた!?』


夏樹「心というか、顔に書いてあるんだよ!」

680: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 21:09:24.89 ID:AVlgjCYHo
李衣菜「顔? あっ、顔と言えば……」

李衣菜「……なつきち、センブリ茶飲んだらどんな顔するんだろ?」


夏樹「!?」

夏樹(こっ、コイツ……!)


みく・菜々「……確かに、気になるかも」


夏樹「……は、ハハッ! 案外、平気だったりしてな!」

夏樹(アタシに飲ませるための、プレゼンを始めやがった!)


李衣菜「えーっ? もしかして、なつきちって苦いの平気?」

李衣菜「苦いの平気だったら――」

李衣菜「――二人みたいに、良いリアクション出来ないかも知れないね」


夏樹「……! ああ、残念な事にな」

夏樹(ハッ! そんな煽りをしても無駄だぜ、ぜりー!)

681: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 21:13:10.05 ID:AVlgjCYHo
李衣菜「だったら、やっぱり練習だから私が飲んだ方が――」


夏樹「ああ、その方が良いかもな!」ニコッ!

夏樹(……甘いぜ、だりー!)

夏樹(アタシは、そんな煽りなんかじゃ満足できn)


みく・菜々「――いやいや」

みく・菜々「いやいやいやいや!」


李衣菜「えっ?」

李衣菜「みくちゃん、菜々ちゃん……どうしたの?」…ニイッ!


夏樹「!?」

夏樹(まさか、さっきの煽りは――)

682: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 21:18:44.54 ID:AVlgjCYHo
  ・  ・  ・

夏樹「……」


みく「夏樹チャンでも、絶対良いリアクションするにゃ!」

菜々「その通りです! えへへ、楽しみですね~っ!」


夏樹「……ハハッ、あんまり期待しないでくれよ?」

夏樹(だりーのヤツ……)

夏樹(……アタシじゃなく、この二人を煽ってたんだな)

夏樹(良いぜ……今回はアタシの負けだ)


李衣菜「なつきちのリアクション、参考にさせて貰うね!」

李衣菜「熱いロックな魂が、センブリ茶に勝つ所を見せてよ!」


夏樹「……ああ、まあ見とけ」

夏樹(やっぱりお前はクールだよ、だりー)

683: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 21:24:25.10 ID:AVlgjCYHo
武内P「木村さん、どうぞ」

夏樹「すぐ水を飲むかもしれないから、近くに居てくれよ?」

武内P「はい、わかりました」

夏樹「……よし、覚悟は決まったぜ」


夏樹「皆、ロックな生き様――見せてやるぜ!」


みく・菜々「お~っ♪」ニッコニコ!

李衣菜「なつきち、ファイトー!」ニコッ!


夏樹「まっ、とりあえず……どんな味か見てみるか」

夏樹「ぁ……ぁ……ん~っ……」…ペロッ!

夏樹「~~っ!? 苦いっ!」

夏樹「苦い苦い……! うぅ、苦ぁ~い!」


みく・菜々「……」

李衣菜「…………なつきち?」

684: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 21:34:26.57 ID:AVlgjCYHo
夏樹「はい、水! 飲んだから、水水っ!」ネエネエ!

武内P「いえ、あの……」

夏樹「~~っ! ぁ……ぁ……」…ペロッ!

武内P「き、木村さん?」

夏樹「あぁ、もう、苦ぁ~い! みぃ~ずぅ~っ!」ネエネエ!

武内P「し、しかし……」


みく・菜々「かっ、可愛い……!」


李衣菜「な――つき――ちっ!?」

李衣菜「嘘でしょ!? それが、ロックなりアクション!?」

李衣菜「そんなの……!」

李衣菜「そんなの、アイドルのリアクションだよ!」

685: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 21:44:02.59 ID:AVlgjCYHo
夏樹「でもな、だりー……凄く、苦いんだ」

李衣菜「だからって!」

夏樹「試しに飲んでみろって、ロックが壊れる」

李衣菜「そんな筈ない!……貸して!」

夏樹「無理すんなって!」


李衣菜「無理なんかじゃない!」

李衣菜「私の、ロックに対する熱い想いは――」

李衣菜「――苦さなんて、ぶっとばすんだから!」


夏樹「……ああ、そうだな!」

夏樹「だりー! 後は任せたぜ……!」…ニヤッ!


李衣菜「!?」…ゴクッ!



李衣菜「――かっふぁあああああああああ!?」

686: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 21:49:46.23 ID:AVlgjCYHo
  ・  ・  ・

夏樹「――アッハッハ! 良いリアクションだったぜ、だりー!」


李衣菜「うぅっ……! まだ、舌が苦い……!」

みく「李衣菜ちゃん、舌を拭くと良いにゃ」

菜々「……上手く切り抜けましたね」

夏樹「ハハッ、何のことだい?」


武内P「――皆さん」

武内P「練習は、以上で宜しいですか?」


夏樹「全員やったから、今日はもう良いだろ」

夏樹「なっ、皆?」


みく・李衣菜・菜々「……」

687: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 21:55:29.21 ID:AVlgjCYHo
武内P「……これは、私の感想ですが」

武内P「先程の、皆さんのリアクション」

武内P「どれも、あまりに動きが大きすぎて……」

武内P「……アイドルとしては、事務所NGが出るでしょう」

武内P「なので、宜しければ……ですが」


みく・李衣菜・菜々・夏樹「?」


武内P「まだ、センブリ茶は用意出来ますが……」

武内P「……どう、されますか?」


みく・李衣菜・菜々「!」

夏樹「!?」

688: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/18(木) 22:08:40.00 ID:AVlgjCYHo
みく「持ってきて欲しいにゃ! センブリ茶、一杯!」

菜々「お願いします! 一杯で良いので!」

李衣菜「プロデューサー! 私、まだ納得出来てません!」

夏樹「おっ、おい! 本気で言ってるのか!?」


武内P「……いっぱい?」

武内P「あの……それで、本当に良いのですか?」


みく・菜々・李衣菜「勿論!」

夏樹「っ……!」

夏樹「ああもう、わかったよ! 飲むよ、飲む!」


武内P「……わかりました。少々お待ち下さい」


武内P「いっぱい、持ってきます」



おわり

702: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/19(金) 22:04:57.14 ID:3RXlrxHpo

「もうすぐ夏だから、ダイエットしなきゃ~!」
「うん……水着のグラビア撮影もあるしね」


 シンデレラプロジェクトのプロジェクトルーム。
 ソファーに座りながら、かな子ちゃんと智絵里ちゃんが真面目にお話中。
 レッスンまでの空き時間にまでお仕事の話なんて、頭が下がるよ。
 お給料も出ない時間だし、頭のついでに瞼も下げちゃおうかな。


「……」


 全身の力を抜いて、大きなクッションに沈み込む。
 なんて、体重が軽いからほとんど沈まないんだけどさ。
 食べても太らない体質で、ほんと助かったよ~。
 じゃなかったら、コーラもポテチも好きなタイミングで食べられないんだから。


「……」


 それにしても、水着のグラビア撮影か~。
 ユニット単位でのお仕事だから、二人のおかげって感じだよね。
 需要が無い事も無いんだろうけど、さすがに杏一人で水着のお仕事は厳しいんじゃないかな~。
 抱き合わせ商法、ウマー!


「……」


 ま、水着を着て写真を撮るだけだし、美味しい仕事だよね。
 上手くポーズを決めるのが大変?
 ダンスを踊るよりは、動かないから楽ちんだよ~。

703: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/19(金) 22:18:29.27 ID:3RXlrxHpo
  ・  ・  ・

「うぇ~? 面倒臭いなぁ~……」


 レッスンが終わって、クッションの上でゆっくりしてたらさ。
 この夏の水着グラビアの撮影に関して聞きたいことがあります、って。
 窓から差し込んでくる光が遮られて寝やすくなったー、と思ったらこれだよ。
 全くもう、何て答えるかはわかってる癖に~。


「プロデューサーが決めて良いよ」


 聞かれたのは、どんな水着が着たいか。
 何でも、『私が選んだ水着』がコンセプトなんだってさ。
 でも、ファンの人が何を求めてるかは、杏もわかってるつもりだよ。
 だから、いつも通りな感じので良いじゃん。


「いえ、しかし……」


 ほらほら、右手を首筋にやって困ったりしないで。
 杏に似合ってる、ピンクのフリフリが着いた可愛いのから見繕ってよ。
 杏はアイドル、プロデュースするのはそっちのお仕事だって。
 それとも、「プロデューサーが選んだのが着たいな」とでも言えば良かったかな~?


「……せめて、サンプルに目を通すだけでも」


 ……はぁ、しょうがないなぁ。
 そんな困った顔されちゃったら、杏が悪者みたいじゃんね?
 怠け者は、迷惑がかからないから怠け続けていられるのです。

704: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/19(金) 22:37:09.21 ID:3RXlrxHpo

「頭を使うから、アメが欲しいなぁ~」


 そう言って、ニヤリとプロデューサーに笑いかける。
 すると、ホッした顔をして、上着のポケットからアメが登場!
 大きな手に載せられているのは、クリアーレッドの包み紙。
 良いね、丁度甘酸っぱい苺味の気分だったんだよね~。


「両手に力が入りませ~ん」


 目を閉じて、はよはよ、とアピール。
 すると、微かに聞こえてくる包みを開ける音が。
 さすがに、プロデューサーも慣れてきたみたいだね。
 時間って言うのは、無駄遣いする位なら、ちょっとした遊び心に使った方が良い、って。


「……はい、どうぞ」


 舌の上に、アメがそっと乗せられた。
 指まで食べないように、少し待つ。
 ……ん、もう良いかな。
 ん~っ! やっぱり、アメは最高だよ~!


「さ~て、それじゃあサンプルを見ますか~」


 ほっぺたの横にアメを避難させながら、言う。
 寝たいという体にムチ打つなんて、杏は働き者だよね~。

705: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/19(金) 22:53:03.03 ID:3RXlrxHpo
  ・  ・  ・

「……」


 うつぶせに寝っ転がりながら、タブレットを操作して画像を見ていく。
 杏が選んでる間、プロデュサーは少し席を外します、って出ていった。
 ふっふっふ! これは、サボるチャ~ンス!……とも思ったけどさ?
 どうせ後でやらなきゃなら、パッとやって、スッと寝た方が良いっしょ。


「……」


 あ、この水着は、かな子ちゃんに似合うんじゃないかな。
 お腹を気にしてるけど、メリハリがきいてるから余裕余裕。
 むしろ、これくらい派手じゃないと! 水着が負けちゃうって!
 ダイエットは……ま、何とかなるんじゃないかな~。


「……」


 お、これは智絵里ちゃんにピッタリなんじゃない?
 大きなリボンがついてて、可愛い雰囲気に合ってると思うな~。
 コンセプトは、守ってあげたくなっちゃう可愛さ! どや!
 選ぶのに困ってるようだったら、教えてあげよっかな。


「……」


 ん~……ピンと来るのが無いなぁ。
 サクッと決めて寝たいのに、困るじゃんか。

706: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/19(金) 23:08:31.77 ID:3RXlrxHpo

「……」


 スッ、スッと、画像をスライドさせていく。
 自分が着た時に、似合う水着。
 それはいつもの、似通った格好。
 ファンシーで、この見た目に合った――


「……」


 ――……合わない。
 杏には、この水着は似合わない。
 リボンも何もついてなくて、凄くシンプル。
 カラフルなんてもんじゃない、真っ黒のビキニ。


「……」


 こういう水着が似合うのは、誰かな。
 頭の中に、どんどん候補が浮かんでくる。
 だけど、その中には杏の姿なんかは欠片も出てはこない。
 ……ま、当然だよね。



「――その水着、ですか?」



 突然かけられた、低い声。
 アメは、いつの間にか溶けて無くなってた。

707: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/19(金) 23:27:09.20 ID:3RXlrxHpo

「……違~うよ~」


 声のした方を見ずに、驚いてない風を装って平然と言う。
 追求されても面倒だから、スッと次の画像へと切替える。
 そもそも、プロデューサーは杏があの水着を選ぶと思う?
 ファンの人はさ、ああいうのを着た杏を求めてないって。


「ですが……」


 アイドルは、ファンの期待に応えなきゃ。
 それが仕事で、お金を稼ぐ一番の近道。
 稼いだ分だけ、休める時間も増えるわけだしさ。
 休みながらお金が入ってくるなら、それが最高だよね~。


「誰に似合うかな~……って、何となく考えてただけだよ」


 言いながら、見繕っていた内の一つを表示させて、タブレットを差し出す。
 映し出されてるのは、ピンクのフリルがついた淡い色の水着。
 これだったら、誰もが納得するんじゃないかな。
 どう? この水着、杏に似合うと思うっしょ?


「……そう、ですか」


 そうですよ。
 それじゃあ、決め終わったから……ふわぁ、おやすみ~……。

708: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/19(金) 23:50:01.96 ID:3RXlrxHpo
  ・  ・  ・

「……やってくれるじゃんか」


 スケジュールでは、ダンスレッスンだったんだよね。
 だけど、レッスンルームに行ったら、トレーナーさんから包みを渡されたんだ。
 最初はさ、「おっ、この包みに反応してればダンスの時間が減る!」と思ったよ。
 でも、杏がそういう反応をするって見越して、渡すタイミングを今にしたんだろうね~……。


「わっ! これが、杏ちゃんが選んだ水着?」
「す……凄く大人っぽい……」


 かな子ちゃんと智絵里ちゃんが、マジマジと見ている。
 何をかは、言うまでも無いよね?
 杏の顔と、手の中に収まってる黒いビキニだよ。
 ……そんな杏達の様子を見ているトレーナーさんの口元は、



「どうする? 今、着てみるか?」



 この事態を引き起こした犯人の一人だと、推理するまでもなく告げていた。
 ちなみにだけど、実行犯はこれから現れるかな。



「「杏ちゃんっ!」」



 はぁ~……やれやれ、だよ。
 体を動かさないのに、踊る羽目になるだなんて。

709: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 00:10:14.15 ID:h+W9Smybo
  ・  ・  ・

「……」


 少しでも時間を使うために、レッスンルームで着替える振りをしたり。
 更衣室に移動してからも、ゆ~っくり着替えたり。
 どうせ見せるにしても、時間はたっぷり使ったほう良いからね。
 そうしたら、ダンスレッスンがサボれるし。


「……」


 鏡の前に立って、自分の姿を確認してみる。
 ……うへぇ~、わかってはいたけど、全然似合ってないなぁ。
 無理をしてるって言うか、これじゃない感が凄い。
 ひどすぎて、さすがの杏も笑えないよ、こりゃ。


「ん~、髪型かな~」


 試しにヘアゴムを外し、髪を下ろす。
 くしくしと、癖がついていた髪を手櫛で梳いて整える。
 お、さっきよりは大分マシに見えるようになったんじゃない?


「……」


 ……危ない危ない。
 これじゃ、杏がこの水着を着たかったみたいに思われる。

710: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 00:24:27.76 ID:h+W9Smybo

「……」


 ちゃんと着替え終わってから見たい、って言われたから。
 かな子ちゃんと智絵里ちゃんは、更衣室の外で待ってるんだよね。
 さすがの杏も、待ちぼうけさせちゃうのは気が引ける。
 こんな所で、お披露目といきますか~。


「着替え終わったよ~」


 コンコン、と更衣室のドアを中からノックして、声をかけた。
 ドアが開いても大丈夫な様に、数歩後ろに下がって待つ。
 ゆっくりと開いて行くドアの隙間から、ひょこっと顔が差し込まれた。
 も~、そんな事してないで、普通に入ってくれば良いのに~。



「ふっふっふ! どや!」



 相手がかな子ちゃんと智絵里ちゃんだから、大サービスだよ!
 両脚を開いて立ち、右手でピース!
 どう? 決まってるっしょ~!


「「あ、あはは……」」


 格好とポーズが合ってない、って?
 合ってないのを合わせてみました~!

711: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 00:35:53.71 ID:h+W9Smybo

「まぁ、似合ってないよね~」


 肩をすくめて、笑いながら言う。
 二人は優しいから、似合わないとはハッキリ言えないだろうけど。
 だから、そういう時は自分で言っちゃうのが楽だし早いよね。
 はぁ……全くもう、


「こんなのさ、誰が見たいと思うんだろうね?」


 しっかりしてよ、プロデューサー。


「「えっ?」」


 ん?


「どうしたの? かな子ちゃん、智絵里ちゃん」


 向けられてるのは、疑問の視線。
 二人は、顔を見合わせて……そして、杏を見た。



「プロデューサーさんが見たいから……」
「その水着にしたんじゃ……無かったの?」



 ……えっ?

712: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 00:54:29.65 ID:h+W9Smybo

「杏ちゃんが更衣室に行ってから、プロデューサーさんが来て……」


 確かに、この水着は杏が選んだんじゃない。
 プロデューサーが勝手にやった、って感じだけどさ。
 それを説明したんだとしたら、あんまり良い判断とは言えないよ。
 杏はそのへんはわかってるけど、やっぱり印象が良くないもん。


「うん……言ってたよね?」


 はぁ~……何て言ったんだろ。
 一応、フォローはしておくけどさ。
 あんまり、こういう余計な仕事はさせないで欲しいな~。
 サービスじゃないよ、休みっていう形で請求させて貰うから!



「「双葉さんに似合うと思いました、って」」



 ……は~? もう、何言ってるのさ。
 どこからどう見たって、似合ってなんかないっしょ。
 こういう水着はもっと、それこそ……きらりみたいにスタイルが良い子とかさ。
 ああ、杏はあんまり外に出なくて肌が白いから、その点では黒は――


「……」


 ――あ~……今の、ナシ。
 鏡でもう一回確認してみたら、もっと似合わなくなっちゃってた。

713: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 01:14:13.24 ID:h+W9Smybo
  ・  ・  ・

「――どう、でしたか?」


 クッションの上に寝転がってる杏に、低い声がかけられた。
 閉じていた瞼をゆっくり開けて、


「全然ダメだね、いつもの感じでヨロシク~……おやすみ~……」


 と言って、また瞼を閉じた。
 杏は、アイドルだからね。
 今後の活動にも影響が出かねないもん。
 それじゃあ困る!


「しかし、三村さんと緒方さんが言うには……」


 プロデューサーは言葉を続けていたけど、聞いてない振りをする。
 横になって、背中を向けて、顔を背けて。
 全くもう……しっかりしてよ、プロデューサー。
 似合わない事は、するもんじゃないってば。



「……!」



 暑くなったら、グッスリ眠れなくなるんだからさ。
 お陰様で、熱くって寝られないじゃん。




おわり

719: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 11:35:17.06 ID:h+W9Smybo
書きます


武内P「バウリンガル、ですか」

720: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 11:38:58.83 ID:h+W9Smybo
凛「うん、番組の収録の時に貰って」

加蓮「凛だけズルいよねー?」

奈緒「いや、あたし達が貰っても意味ないだろ?」

加蓮「んー……」


加蓮「あ、そうだ!」

加蓮「バウリンガル、試しに使ってみない?」

加蓮「ね、良いでしょ?」


凛・奈緒「はいっ?」

武内P「……今、ですか?」

721: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 11:46:01.63 ID:h+W9Smybo
凛「でも、犬なんてどこにも居ないでしょ」

加蓮「これって要は、犬とコミュニケーションを取るための物だよね?」

武内P「……成る程、そういう事ですか」

奈緒「どういう事だ? なあおい、説明しろって」


加蓮「アタシ達で、犬の鳴き声をやってみてさ」

加蓮「バウリンガルが、正しく判定してくれるか」

加蓮「……どう? 面白そうじゃない?」


凛「それは……確かに、ちょっと面白いかも」

奈緒「そうかぁ? 上手く出来ても、なんか複雑じゃないか?」

武内P「……此処で、ですか?」

722: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 11:53:05.71 ID:h+W9Smybo
凛「プロデューサーって、よく犬に吠えられてるもんね」クスッ!

武内P「ええ、まあ……」

加蓮「アハッ! じゃあ、吠えられる役やってよ!」クスクスッ!

武内P「私が、ですか?」

奈緒「なんかごめんな? 二人、盛り上がってるし……良い?」

武内P「いえ、そうですね……」


武内P「……わかりました」

武内P「上手くいけば、何かの企画に使えるかも知れません」

武内P「皆さんの、バウリンガルを使用しての――相手役」

武内P「私が、勤めさせて頂きます」


凛「……いや、そんなに気合入れなくても良いってば」

加蓮「ちょっとした遊びだって、ねっ?」

奈緒「でもまあ、そう言われたら……頑張ってみるか!」

723: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 11:58:41.92 ID:h+W9Smybo
  ・  ・  ・

武内P「――では、私がバウリンガルを持ち」

武内P「皆さんの犬の鳴き真似を判定していこうと思います」


加蓮「とりあえず、最初は凛からで」

奈緒「だな、上手く出来そうだし」

凛「私から? まあ、良いけど」


加蓮「――何かの意図を込めて、鳴き真似をして」

奈緒「――バウリンガルに、判定して貰う」

凛「――それで、意図を発表して……答え合わせ、ね」


武内P「了解しました」

武内P「では……いつでもどうぞ」

724: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 12:03:32.50 ID:h+W9Smybo
凛「……なんか、ちょっと緊張するかも」

武内P「少し、リラックスした方が良いかも知れませんね」

凛「何で?」

武内P「緊張が乗って、判定結果が違ってしまう場合も」

凛「あ、そっか」


凛「すぅ……ふぅ……」

凛「……ん、もう大丈夫」

凛「いくよ?」


武内P「はい」


凛「――わんっ」


武内P「……」

判定中…

725: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 12:08:40.12 ID:h+W9Smybo
加蓮「ふふっ! 凛、犬の鳴き真似上手いじゃん!」クスクスッ!

奈緒「くくっ! まさか、あんな真面目にやるなんて!」クスクスッ!

凛「いや、だって! 付き合って貰ってるんだし!」

加蓮「それで、今のってどんな鳴き声?」

奈緒「お腹が空いた、とかか?」

凛「違うから」


凛「――信頼してる、かな」


加蓮・奈緒「おー!」


凛「ちょっと! そういう反応やめてくれる!?」


武内P「判定結果は――」



『好き』



武内P「……」

武内P「えっ?」

726: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 12:13:41.80 ID:h+W9Smybo
凛「? どうしたの?」

武内P「あ、いえ……」

凛「もしかして、エラーとか出た?」

武内P「! はい、すみません……」

凛「じゃあ、今度は大きな声でやってみるから」

武内P「……はい、お願いします」


凛「――わんっ!」


加蓮「う~ん、ちゃんとやってよ、とか?」

奈緒「声が大きくなっただけで、信頼してる、のままだろ?」

凛「奈緒が正解」



武内P「……」


『大好き!』


武内P「…………」

728: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 12:20:33.05 ID:h+W9Smybo
凛「どうだった?」


武内P「あ、いえ!」

武内P「どうしても、犬用なので細かいニュアンスは違いますが……」

武内P「同じ意味の言葉が出てきました……その、概ね」


凛「? なんか、ひっかかる言い方だけど……」

加蓮「へー! 凛、凄いじゃん!」

凛「え、あ、うん……そう、なのかな」

奈緒「ハナコに話しかける時は、犬語でも良いんじゃないか?」

加蓮「でも、信頼してる、だなんて……ふふっ! 凛~?」

凛「っ!?/// いや、今のは……!///」

奈緒「あはは! 照れるなって~!」


武内P「……!」ホッ!

729: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 12:25:21.69 ID:h+W9Smybo
加蓮「それじゃあ、もう一言だけやっとこっか!」ニコニコ!

奈緒「だな! 信頼してるプロデューサーさんに!」ニコニコ!

凛「私は、もう良いってば!///」

加蓮・奈緒「まあまあ!」


武内P「……」


凛「~~っ!///」

凛「――わんっ!」


加蓮「ねね、今のはどんな意味?」ニヤニヤ!

奈緒「なあ、早く教えろよ! り~ん~!」ニヤニヤ!

凛「……こういう時はフォローして、って意味!」


武内P「……」


『もっと構って~!』


武内P「…………はい、合っています」

730: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 12:34:44.27 ID:h+W9Smybo
凛「もう……! ほら、次は加蓮!」

加蓮「私? えー、キャラじゃなくない?」

奈緒「お前、その逃げ方はズルいだろ!?」

凛「加蓮?」

加蓮「あははっ、ジョーダンだって!」


加蓮「ん~……どんなのにしよっかな」

加蓮「……」

加蓮「よし、決めた。準備オッケー?」


武内P「……はい」

武内P「いつでもどうぞ……」

731: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 12:42:38.56 ID:h+W9Smybo
加蓮「それじゃ、いくよ~……」

武内P「……はい」


加蓮「――わんっ♪」


凛「ちょっと……それ、なんか違わない?」

奈緒「犬っていうか、思いっきり加蓮だろそれ」

加蓮「どう? 可愛かったでしょ?」ニコッ!

凛「加蓮……?」

加蓮「アハハッ! 今のは練習だって!」

奈緒「次は、真面目にやれよな~?」


武内P「っ……!」


『可愛いでしょ?』


武内P「……!!」

732: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 12:49:09.42 ID:h+W9Smybo
加蓮「それじゃ、本番ね!」ニコッ!

武内P「……あっ、あの――」


加蓮「――わんわんっ」


『もっと見て』


武内P「っ!?」


加蓮「――わんわーんっ」


『もっと知って』


武内P「ほ、北條さん……!?」


加蓮「――わぉ~んっ」


『好きになって』


武内P「……!?……!?」

734: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 12:57:56.99 ID:h+W9Smybo
加蓮「どう? ポン、ポン、ポンッ、ってやってみたんだけど」


武内P「え、ええ……」


凛「ねえ、今のってもしかして……長文?」

加蓮「そっ! 長い文章も出来るのかな~、って!」

奈緒「ちなみに、どんな意味だったんだ?」

加蓮「んー?」


加蓮「――担当じゃないけれど」

加蓮「――お仕事で絡むこともあるし」

加蓮「――宜しくお願いしま~す」


加蓮「って意味!」

凛「そんなの、犬が言う筈ないでしょ!」

奈緒「真面目なフリして、それはズルくないか!?」


武内P「……!」

735: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 13:05:17.70 ID:h+W9Smybo
加蓮「それで、判定の結果はどうだったの?」


武内P「あ、いえ!」

武内P「仕事等の単語は出てはきませんでしたが……」

武内P「似たような言葉が出てきて、はい……宜しくお願いします」


加蓮「えーっ! バウリンガル、超凄くない?」

凛「ふーん、よく出来てるね」

奈緒「気持ちを込めたら、言葉って通じるもんなんだな」

加蓮「私の犬の鳴き真似が上手かったのもあるんじゃない?」

凛「確かに、結構本格的だったかも」

奈緒「やめろよ~! なんかプレッシャーを感じるだろ~!」


武内P「……!」

736: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 13:11:03.89 ID:h+W9Smybo
凛「ふふっ! 奈緒、期待してるから」ニコッ!

加蓮「奈緒~? 手を抜いたりはしないよね~?」ニヤニヤ!

奈緒「ぐっ!? にっ、逃げ道を塞ぐなぁ!」


武内P「……!」


奈緒「っ……!」

奈緒「――こんにちは!」

奈緒「――ワンッ!」


凛「えっ? 先に、答えを言うの?」

加蓮「それにしたって、こんにちは、って……」

奈緒「しょ、しょうがないだろ!? 思いつかなかったんだから!」


武内P「……」


『お腹空いた~!』


武内P「……成る程」

737: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 13:17:42.15 ID:h+W9Smybo
奈緒「なあ、どんな判定が出た? 合ってたか?」

武内P「あの……神谷さん、お聞きしても?」

奈緒「うん?」

武内P「……お腹は、空いていますか?」

奈緒「へっ?」

武内P「……」

奈緒「……」


凛・加蓮「……ぷっ!」

凛「なっ、奈緒……帰りにどっか寄ってこうか……ふっ、ふふふっ!」

加蓮「うっくくく……! あー、ダメ……お腹痛い、あははっ!」


奈緒「~~っ!///」

奈緒「お前ら、笑いすぎだろぉっ!?///」

738: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 13:23:51.98 ID:h+W9Smybo
奈緒「バウリンガルが間違ってるだけだって!///」

武内P「す、すみません……」

奈緒「謝るなってぇ!///」


凛・加蓮「あははははっ!」

凛「なっ、奈緒……もう一回、やってみたら?……ふふっ!」

加蓮「そ、そうだね……! そしたら、わかる……あーダメ、おっかしっ!」


奈緒「~~っ!///」

奈緒「――ワァンッ!」


『ゴハンちょうだい~!』


武内P「…………笑顔です」


奈緒「なんで申し訳なさそうに言ってるんだよぉっ!?///」

凛・加蓮「あはっ、あははははっ!」

739: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 13:28:16.37 ID:h+W9Smybo
  ・  ・  ・

その夜


奈緒「……くっそ~っ!」

奈緒「凛も加蓮も、散々笑いやがって……!」


奈緒「……」


奈緒「でも、まあ……」

奈緒「あの後、ゴハン連れてって貰えたし……」

奈緒「……結果的にはアリ、か?」


奈緒「…………」


奈緒「いや、なんか納得出来ない!」

奈緒「次の機会があったら、今度は絶対上手くやってやる!」

740: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 13:32:11.20 ID:h+W9Smybo
  ・  ・  ・

加蓮「何々~?」

加蓮「……へぇ、バウリンガルってよく出来てるんだ」

加蓮「……」

加蓮「ん? アプリもあるんだ」


加蓮「……」


加蓮「面白そうだし、入れてみようかな」

加蓮「犬の言葉で、ドキッとするような事言ってみたり?」

加蓮「……マズったら、翻訳がおかしいって言えるし」


加蓮「…………」


加蓮「ん、オッケ」

加蓮「それじゃ、寝る前にちょっと遊んでみよっかな~」

741: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/20(土) 13:38:55.67 ID:h+W9Smybo
  ・  ・  ・

凛「設定は……うん、これで良いかな」

凛「ハナコを驚かせないように、小さな声でやらないと」

凛「……でも、どうしようかな」

凛「最初は、どんな言葉を練習しようか……」


凛「……」


凛「……ありがとう、かな」

凛「今までもそうだし、それに今日だって……」

凛「……いや、プロデューサーは関係無いから」


凛「――わんっ」


凛「…………」



凛「嘘でしょ?」




おわり

757: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 20:36:02.52 ID:iGJ+U9/To
書きます


武内P「私の娘、ですか?」

758: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 20:39:44.42 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「ダー……間違いない、です」

武内P「いえ、ですが」

アーニャ「シトー?」

武内P「……」


のあ「真実は一つでも、見えているとは限らない」

のあ「……つまりは、そういう事よ」


CPアイドル達「…………」


武内P「……すみません」

武内P「高峯さん、話に乗らないで下さい」

759: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 20:44:25.35 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「プロデューサーとノアは……静かな人、ですね?」

武内P「いえ、ですが」

アーニャ「シトー?」

武内P「……」


のあ「思考を止めているのではないわ」

のあ「……ただ、それを全て伝達する術は、言葉だけに限らない」


CPアイドル達「…………」


武内P「……高峯さん」

武内P「アナスタシアさんの、話に乗るのは、やめてください」

760: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 20:48:42.10 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「プロデューサーとノアは……食べるのが好き、ですね?」

武内P「いえ、ですが」

アーニャ「シトー?」

武内P「……」


のあ「人が己の欲を満たそうとするのは、当然の行為」

のあ「食事というのは、当然、必要……そして、娯楽でもあるわ」


CPアイドル達「…………」


武内P「確かに」

武内P「……待ってください、食事に関して同意しただけです」

761: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 20:51:55.31 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「プロデューサーとノアが……好きな食べ物は、何ですか?」

武内P「えっ?」

アーニャ「トゥリー♪ ドヴァー♪ アジーン♪」

武内P「えっ、あっ」


武内P・のあ「ハンバーグ」


アーニャ「……ハラショー♪」


CPアイドル達「…………」


武内P「まっ、待ってください!」

武内P「咄嗟に出たのがハンバーグなだけであって……!」

762: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 20:59:17.94 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「プロデューサー、アーニャの趣味、知っていますね?」

武内P「天体観測、ですね」

アーニャ「ダー♪ ズヴィズダー、星を見るのが好き、です♪」

武内P「……」


のあ「私達の目に映る星の輝きは、遥か過去のもの」

のあ「けれど、それを見ている瞬間は、現在と過去が繋がっている」


CPアイドル達「……」


武内P「……いえ、確かに」

武内P「高峯さんの趣味も、天体観測ですが……」

763: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 21:09:13.74 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「オイ シトー ジェーラチ? ンー?」キョロキョロ!

アーニャ「あれ、どうしましょう? ンーッ?」キョロキョロ!

アーニャ「プロデューサー、大変、です!」

武内P「……何が、ですか?」


アーニャ「プロデューサーの子供が、ノアですね?」

アーニャ「アーニャとノアの趣味が、一緒ですね?」

アーニャ「オイ シトー ジィィェ~~ラチ?」ニコッ!


のあ「夜空に無数に存在する星を一人で見るのは、むしろ強欲」

のあ「でも、誰かと分け合う事が出来るのなら、より価値のあるものになるわ」


CPアイドル達「…………」


武内P「……すみません」

武内P「皆さん、何か言って下さい……!」

764: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 21:21:34.41 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「オーッ! アー! 大変、です!」ペチンッ!

武内P「……どうしましたか?」

アーニャ「ニェート! 言えない、です! ニェ~~ット!」フルフル!

武内P「は、はあ……」


アーニャ「アーニャ、ハンバーグを作る練習、しています!」

アーニャ「プロデューサーとノアが好きな、ハンバーグ!」

アーニャ「ニェート! ニェニェニェニェ――~~ット!」アチャー!


のあ「誰のためかは、さほど重要ではないわ」

のあ「重要なのは、貴女の感情が、どれだけ込められているかよ」


CPアイドル達「…………」


武内P「はい、料理は愛情と言いますから」

武内P「……」

武内P「……待ってください、今のは……待ってください」

765: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 21:33:07.50 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「ニェート……! そんな、まさか……!」

武内P「いえ、ですが」

アーニャ「ニェッ!」シ~ッ!

武内P「……」


のあ「……三人で、囲む食卓」

のあ「そこにハンバーグがあるのなら、私にとってはパーティーに等しい」

のあ「……ええ、味わい深い時間になりそうね」


アーニャ「ニェ~~~~ット!///」クネクネッ!

アーニャ「アーニャは、ホームパーティーが趣味、です!///」イヤンイヤン!


CPアイドル達「……」


武内P「まっ、待ってください!」

武内P「そこに、私の意見は何も反映されていません!」

766: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 21:42:26.46 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「シトー?」

アーニャ「プロデューサー、ハンバーグが好き、ですね?」

武内P「それは……ええ、まあ」


アーニャ「シトシトー?」

アーニャ「ノア、ハンバーグが好き、ですね?」

のあ「ええ、ハンバーグの持つ引力は、私を惹きつけてやまない」


アーニャ「シトシトシトー? ンー……パーティーは?」

武内P「……」


アーニャ「………………嫌、ですか?」ウルッ!


武内P「…………」

武内P「……」


武内P「嫌だとは、決して思いません」


CPアイドル達「プロデューサー!!!」


武内P「はい、土下座する心の準備は出来ています」

767: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 21:53:31.67 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「アー、家族水入らず、ですね?」

武内P「待って下さい、アナスタシアさん」

アーニャ「ニェート、時計の針、動き始めました」

武内P「その時計は修理に出してください」


武内P「パーティーならば……」

武内P「……三人である必要は、無いとは思いませんか?」


アーニャ「っ……!」


智絵里「でも……お父さんとお母さんと、三人でテーブル囲んで」

智絵里「美味しいご飯があって、会話が弾んで……笑顔があって」

智絵里「それだけじゃ……ダメ、ですか?」

智絵里「あったかい食卓なだけで……わたしは、幸せだと思うんです」


武内P「待ってください!」

武内P「緒方さん、その……待ってください!」

769: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 22:07:36.55 ID:iGJ+U9/To
CPアイドル達「……」スンッ…


武内P「皆さん! えっ、笑顔です!」

武内P「くっ……緒方さんの奇襲は、あまりにも……!」


アーニャ「オー! 今、気付きました!」

アーニャ「アーニャと、ノアの、髪の色!」

アーニャ「ハラショー♪ とっても、似ています♪」ニコッ!


のあ「似ているけれど、同じでは無い……」

のあ「混じり合い、溶け合って生まれた、新たな色」


アーニャ「ニェート/// ノア、いけません///」テレテレ!

アーニャ「プロデューサー、頑張りますか?///」チラッ!


武内P「何をですか!?」

武内P「……待ってください、言わないでください!」

770: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 22:22:00.03 ID:iGJ+U9/To
アーニャ「でも……アーニャはアイドル、です」

武内P「! はい!」

アーニャ「プロデューサーが……皆が、困ってしまいますね?」

武内P「はい、その通りです!」


のあ「困難や苦難は、どの道にも待ち受けているものよ」

のあ「しかし、それは実像ではなく、虚像の時もある」

のあ「実像だとしても、それを乗り越えていけるのが……アイドル」

のあ「歌と踊りは、それを助ける神と呼ばれる存在へ、奉納へされていたもの」


CPアイドル達「……!」


武内P「……」

武内P「待ってください」

771: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 22:27:14.72 ID:iGJ+U9/To
武内P「高峯さんは……この状況を楽しんでいませんか?」

のあ「私が? 楽しんでいる?」

武内P「はい」

のあ「どうかしら。判明している……三つの要素」

武内P「……それは、一体?」


のあ「――ハラハラ」

のあ「――ドキドキ」

のあ「――ワクワク」


のあ「……これらが、私の中で高まり、上手く感情を言葉に出来ないわね」


武内P「……成る程」

武内P「高峯さんが、私の想像以上に楽しんでいるのがわかりました」

772: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 22:42:10.42 ID:iGJ+U9/To
CPアイドル達「困難を……乗り越える……!」


武内P「み、皆さん!?」

武内P「何故、噛みしめるように……その言葉を!?」


アーニャ「ニェ――ット! ダメ、です! ムリ、です!」

アーニャ「プロデューサーは、子供が、います!」

アーニャ「アーニャが、お腹を痛めて、生みました!」

アーニャ「星の! 綺麗な! 夜でした!」


武内P「何故、そんなわかりきった嘘を!?」


のあ「世界には、無限の可能性が溢れているわ」

のあ「有り得ないという言葉は……」

のあ「……有り得ない事が起きた時にも、使われる」

のあ「なら、全ては有り得る、起こり得るのではないかしら?」


武内P「まず、貴女はアナスタシアさんより歳上です!」

773: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/21(日) 23:07:25.50 ID:iGJ+U9/To
  ・  ・  ・

のあ「――労いの言葉は、必要かしら?」


武内P「いえ、大丈夫です……」


のあ「貴方なら、そう言うとわかっていたわ」

武内P「……」

のあ「けれど、聞きたかった。いえ、聞いてみたかったのかも知れない」

武内P「何を……ですか?」

のあ「貴方が、自分から労って欲しい時は、何と言うのかを」

武内P「……」


のあ「――肩を揉ませて頂戴」

のあ「まだ、今の貴方には必要ないかも知れないけれど」

のあ「……これは、とても重要なコミュニケーションだから」


武内P「? はあ……いえ、しかし」



のあ「時を超えても、変わる事は無いわ」

のあ「そして……真実は、闇の中」




おわり

784: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 20:59:32.87 ID:VR1Mx8qmo
書きます


武内P「リップクリーム、ですか」

785: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 21:04:56.11 ID:VR1Mx8qmo
奏「そうなの。色々な所で貰って、余っちゃって」

武内P「それを頂ける……と?」

奏「ええ。使用期限もあるし、捨てるのも勿体無いでしょ?」

武内P「そう、ですね……」

奏「シンデレラプロジェクトの子に、渡してあげて」

武内P「はい、ありがとうございます」


奏「貴方には、使用済みのリップクリームを」

奏「すぐにでもわけてあげられるけど……どうする?」

奏「……ふふっ! なんて、ね」


武内P「は、はあ……」

786: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 21:10:57.80 ID:VR1Mx8qmo
  ・  ・  ・

フレデリカ「凄い数だね! 唇、プルプルで溶けちゃうね!」

志希「にゃはは! 使い切ろうとするだけで大変だよ~!」

周子「それにしても、二人共話し込んでるみたいだねー」

美嘉「クローネのリーダーでもあるし、色々あるんじゃない?」


フレデリカ「はい! フレちゃん、気になっちゃいました!」


志希・周子・美嘉「何が?」


フレデリカ「リップクリームの使い道です!」


志希・周子・美嘉「……」

志希・周子・美嘉「うん?」

788: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 21:16:58.15 ID:VR1Mx8qmo
志希「フレちゃんや、どういう事だね?」

フレデリカ「志希ちゃんや、そういう事だよ」

周子「余ったからあげる、で良いんじゃないの?」

フレデリカ「シューコちゃんや、そういう事じゃなくてだね」

美嘉「……唇に塗る以外の使い道、ってコト?」

フレデリカ「ピンポーン! 正解した美嘉ちゃんには、リップ一本!」

美嘉「いや、もうかなり余ってるし……」


フレデリカ「アタシ達が貰ったものだしさ」

フレデリカ「出来るだけ、アタシ達で使った方が良いと思うのです!」

フレデリカ「どうですか! フレちゃん、良い事言ってます!」


志希・周子・美嘉「おー……!」

789: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 21:22:07.82 ID:VR1Mx8qmo
志希「リップクリームの成分次第では、色々出来そ~!」

フレデリカ「さすがシキちゃん! リップで○を描いてあげましょう!」

周子「それは無駄遣いだから、ちょっと違うんじゃないかなー」

美嘉「ちょっと待ってねー★ 今、ケータイで調べてみるから★」


美嘉「えっと、何々~……?」


フレデリカ・志希・周子「あった?」


美嘉「………… 首に塗る?」


フレデリカ・志希・周子「……」

フレデリカ・志希・周子「そっかー」

790: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 21:26:12.92 ID:VR1Mx8qmo
美嘉「いや、マジで書いてあるんだって!」

美嘉「なんか、塗ると 首が瑞々しく……いや、わかんないケド!」

美嘉「ホント、書いてあるの!」


フレデリカ「シキちゃん? 判定や、いかに! たこに!」

志希「乾燥を抑える成分が入ってるから、効果はあるだろうね~」

周子「そっか……それじゃ、本当に書いてあったんだねー」


美嘉「変な疑いかけるのやめてくれる!?」

美嘉「マジで書いてあっ」


フレデリカ・志希・周子「誰から塗る?」


美嘉「マジで言ってるの!?」

791: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 21:35:23.61 ID:VR1Mx8qmo
フレデリカ「ミカちゃん! 今日のアタシ達は? そう、オシャレ!」

美嘉「オシャレと 首に何のカンケーが!?」

志希「すっごいグーゼンだよねぇ! 確率的にも低いし♪」

美嘉「えっ!? 何!? どういうコト!?」

周子「ほら、美嘉ちゃん。今日のあたし達の格好ってさ?」


フレデリカ「――キャミのレース!」キャルンッ♪

志希「――タンクトップ~♪」ニャンッ♪

周子「――シャツと見せかけての袖あり~」コンコンッ♪


美嘉「えっ? えーっと……キャミタイプッ★」ビシィッ♪


フレデリカ・志希・周子「ねっ?」


美嘉「うん」

美嘉「全員ブラトップだからって、何!?」

792: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 21:47:30.94 ID:VR1Mx8qmo
フレデリカ「普通のブラと違って、サッと塗ってサッと着られるよ!」

美嘉「待って待って! ここで塗るの!?」

志希「タイム・イズ・マネー! 皆でプルプルになろ~う♪」

美嘉「アタシらはLiPPS! NiPPLESじゃないから!」

周子「でもさ、どんな感じになるかちょっと気にならない?」

美嘉「実はケッコー気になってる! でも、ここで!?」


フレデリカ・志希・周子「――出さなきゃ負っけよ」


美嘉「!?」


フレデリカ・志希・周子「最初はグー♪」

美嘉「う、おおおっ!?」

グー!

793: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 21:53:17.49 ID:VR1Mx8qmo
美嘉「……!」

美嘉(ここで負けたら……!)

美嘉(絶対、アタシだけ塗るコトになる!)

美嘉(負けられない! このジャンケン、絶対に負けられない!)


美嘉「――!」カッ!

美嘉(唸れ★★★★ アタシのカリスマ★★★★★★)


フレデリカ・志希・周子「ジャンケン、ポン!」

パー!

美嘉「!」

チョキ!


美嘉「っ……しゃあいっ!」グッ!


フレデリカ・志希・周子「あー……」


美嘉「ホラ! アンタ達の、その反応! ホラ! ホーラね!」

794: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 21:58:48.50 ID:VR1Mx8qmo
  ・  ・  ・

フレデリカ「それじゃ、アタシから塗っちゃうねん♪」


志希「フレちゃんファイト~♪」

周子「応援するのも、なんかおかしい気がするなー」

美嘉「いや……てか、マジでやるんだ……」


フレデリカ「よいしょっ、と……」

ごそごそっ…

フレデリカ「まずはこっちで……」

もそもそっ…

フレデリカ「片方だけプルプルでも変だから……」

もそもそっ…


志希・周子・美嘉「……どう?」

795: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 22:01:35.48 ID:VR1Mx8qmo
フレデリカ「ん? んー……」

フレデリカ「……」

フレデリカ「シキちゃん、塗ってみて」


志希「あたし? はいは~い♪」

ごそごそっ…

志希「とりあえず左で……」

もそもそっ…

志希「次は、右~♪」

もそもそっ…


周子・美嘉「……」

796: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 22:04:23.39 ID:VR1Mx8qmo
志希「う~ん……ん~っ?」

志希「……」

志希「はい、周子ちゃん」


周子「使い回しって、どうなん?」

ごそごそっ…

周子「んー、こっちはこんな感じかなー」

もそもそっ…

周子「で、反対……と」

もそもそっ…


美嘉「……ど、どうなの?」

797: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 22:07:39.96 ID:VR1Mx8qmo
周子「どう、って聞かれもねー……」

周子「……」

周子「美嘉ちゃん、ほいっ」


美嘉「まあ、塗ればわかるか……」

ごそごそっ…

美嘉「んー、あ、ここで……うん」

もそもそっ…

美嘉「それで……こんなカンジ?」

もそもそっ…


フレデリカ・志希・周子「……」


美嘉「……?」

美嘉「どうしたの……?」

798: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 22:12:18.23 ID:VR1Mx8qmo
フレデリカ・志希・周子「どう?」

美嘉「いや、どう……って……」


美嘉「――っ!?」パプリ!

美嘉「あっ……はっ、ほわあっ!?」

美嘉「スースーする! あっ、スーッて! スーッて!」

美嘉「すっごいスースーする! スースーするんだケド!?」


フレデリカ・志希・周子「だよね!!」


美嘉「アンタ達! アタシだけ違うのを渡s」


フレデリカ・志希・周子「ひゅぐうぅ~っ……!」

フレデリカ・志希・周子「スースーするぅっ……!」


美嘉「アンタ達もスースーしてたの!?」

799: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 22:21:55.03 ID:VR1Mx8qmo
ガチャッ!


フレデリカ・志希・周子・美嘉「!?」


奏「……貴女達、何を騒いでるの?」

武内P「……スースー、と聞こえてきましたが」


フレデリカ・志希・周子・美嘉「ううん?」フルフル!

フレデリカ「リップクリームを使ってただけだよん♪」イヤンッ!

志希「そうそう! 何にも悪いコトなんてしてな~い♪」イヤンッ!

周子「せっかく貰ったものだし、暇だったしねー」イヤンッ!

美嘉「出来るだけアタシ達で使おうかなって★」イヤンッ!


奏「それは良いんだけど……何で、胸を抑えてるの?」

武内P「ええ……」

800: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 22:36:18.38 ID:VR1Mx8qmo
美嘉「ぶっ……ブラトップと手ブラが今年の流行り★ みたいな!?」イヤンッ!

周子「あたし達がやったら、本当に流行りそうだよねー」イヤンッ!

志希「んふっ♪ ど~う? セクシーでしょ~?」イヤンッ!

フレデリカ「セクシーだね! なんだか、ヒリヒリしてきちゃったね!」イヤンッ!


奏「何……?」

武内P「そのポーズは……少し刺激的すぎる、と」

武内P「……そう、思います」


フレデリカ・志希・周子・美嘉「はぁ~い……!」イヤンッ!


奏「……? 皆、やけに素直じゃない」

武内P「イメージに関する事ですから……はい」

801: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 22:41:37.59 ID:VR1Mx8qmo
奏「使ってみたリップって……コレかな?」

ひょいっ


フレデリカ・志希・周子・美嘉「はぁい……!」イヤンッ!


奏「ふふっ! 貴女達、いつまでやってるのよ?」クスッ!

武内P「……しかし、皆さんいつもより」

奏「ええ、大人しいわね。一体、どうしたのかしら」

武内P「ですが……私としては、助かります」

奏「……ふぅん?」


奏「貴方って、素直で大人しい子が好みなのかしら?」


武内P「いっ、いえ! 決して、そういう意味では!」


フレデリカ・志希・周子・美嘉「~~っ……!」イヤンッ!

802: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 22:47:12.59 ID:VR1Mx8qmo
奏「でも、助かるんでしょう?」

武内P「それは……」

奏「良いわ、私も貴方好みの女になってあげる」

武内P「えっ?」


奏「あの四人と同じ、このリップを塗って……」

キュ、ウッ…

奏「……唇に魔法をかけて、ね」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」


奏「ふふっ! どんな魔法か、キスして確かめてみる?」ニコリ!


フレデリカ・志希・周子・美嘉「な……なんかごめぇん……!」イヤンッ!


奏「……何が?」

803: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 22:59:50.61 ID:VR1Mx8qmo
奏「……でも、キスをしたら魔法が解けてしまう」

奏「それじゃあ、どんな魔法か確かめられない」

奏「だから――」


―スッ


奏「――私達、五人の唇に魔法をかけたこのリップ」

奏「どうするかは、貴方に任せるわ」

奏「……だけど、気をつけてね」

奏「逆に、貴方に魔法がかかるかも知れないから」クスッ!


武内P「……」


フレデリカ・志希・周子・美嘉「ほんとごめぇん……!」イヤンッ!


奏「……だから、何が?」

804: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/22(月) 23:08:38.76 ID:VR1Mx8qmo
奏「……まあ、良いわ。皆、行きましょ」

フレデリカ・志希・周子・美嘉「はい……」

奏「それじゃ、お邪魔したわね」


武内P「いえ、こちらこそありがとうございました」

武内P「この後も、お仕事頑張って下さい」


奏「ふふっ、ありがと」ニコッ!

奏「……でも、全員で来て良かったわ」

奏「貴方ったら、二人きりでも表情を変えないんだもの」

奏「……本当、つれない人」

奏「でも……かなり慌てた顔が見られたし、ね」


武内P「……そう、ですね」



奏「本当、スーッとしたわ♪」ニコッ!





おわり

813: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 20:49:18.82 ID:5wzv9qGHo
書きます


武内P「新田さん、道具を購入しましょう」

814: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 20:51:50.54 ID:5wzv9qGHo
美波「えっ? 道具……?」

武内P「はい」

美波「えっと、アイドル活動に必要なもの……ですか?」

武内P「いえ、違います」


武内P「新田さんが、プライベートで使用して頂くための道具です」

武内P「快適なプレーをするために、必須だと判断しました」


美波「……」

美波「えっ、ええっ!?///」

815: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 20:55:43.87 ID:5wzv9qGHo
美波「どっ、どうしたんですか!?///」

武内P「? 何が、ですか?」

美波「ぷっ、プライベートで……快適なプレーって、その……///」

武内P「はい」


武内P「――私は、新田さんのプロデューサーです」

武内P「貴女に、そういった指導をする義務があります」


美波「……そっ」

美波「そんな義務がっ!?///」

816: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 20:59:44.72 ID:5wzv9qGHo
美波「でも……そんな、お仕事なんて……///」

武内P「仕事だけでなく、私個人としてもです」

美波「えっ!?///」ドキッ!

武内P「……笑顔です」


武内P「――新田さんの、輝くような笑顔」

武内P「そのためのお手伝いが出来れば、と」

武内P「……そう、思っています」


美波「……にっ」

美波「ニヤニヤは!/// しちゃうと思いますけど!///」

817: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 21:03:55.34 ID:5wzv9qGHo
美波「でも、いきなり道具だなんて……!///」

武内P「新田さん、とても重要な事です」

美波「だけど、そんなっ……!///」

武内P「……宜しければ、ですが」


武内P「私も、購入の際は同行します」

武内P「一応ですが、一通り目は通しましたし……」

武内P「……購入した道具は、経費で落とせますので安心してください」


美波「一緒に選っ……!?///」

美波「……えっ!? ええっ、経費で落ちるんですか!?///」

819: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 21:13:17.40 ID:5wzv9qGHo
美波「346プロ……す、凄いですね……?///」

武内P「アイドルの皆さんの事は、第一に考えていますから」

美波「でも、そんな所までケアするなんて……///」

武内P「……新田さん、申し訳ありません」


武内P「本当ならば、もっと早く気付くべきでした」

武内P「……取り返しのつかない事になる前で、良かったです」


美波「取り返しのつかない事!?」

美波「どっ……道具を使わないだけで!?///」

820: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 21:17:20.66 ID:5wzv9qGHo
美波「どう、取り返しがつかなくなるんですか!?」


武内P「そうですね……指の骨折や」


美波「骨折!? えっ、ええと……疲労骨折……とか?」

美波「……いや、有り得ないです!///」

美波「そんなに激しくしたりしません!///」


武内P「プレー中によくある怪我の内の一つ、らしいです」


美波「よくある!?///」

美波「そんな……皆、どんな風にしてるの……!?///」

821: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 21:24:46.49 ID:5wzv9qGHo
美波「ほっ……他には!? 他に、どんな怪我が!?」


武内P「最も恐ろしいのは、失明ですね」


美波「失明!?」

美波「失明って……えっ、冗談ですよね!?」

美波「はっ、激しいプレーだからって……そんな事には!///」


武内P「その油断が命取りです」

武内P「常に集中し続けていても、危険はつきまといます」


美波「そんな……!?///」

美波「目を閉じてても、駄目なの……!?///」

822: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 21:31:40.86 ID:5wzv9qGHo
美波「……おっ、お言葉ですけど!///」

武内P「? はい」

美波「――お互い、立場と言うものがあると思うんです!」

武内P「だからこそ、です」


武内P「新田さんは、シンデレラプロジェクトのリーダーとして……」

武内P「……今まで、色々な場面で他のメンバーの方を助けてきました」

武内P「私は、そんな貴女の助けになりたい、と」

武内P「……そう、思っています」


美波「~~っ!///」キュンッ!

美波「そっ、そんな言い方……ズルいです……!///」

823: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 21:38:36.34 ID:5wzv9qGHo
美波「ちなみに……お聞きしますけど……///」

武内P「はい」

美波「プロデューサーさんが調べた道具、って……?///」

武内P「主には、二つですね」

美波「二つ!?/// どっ、どど、どんな道具ですか!?///」

武内P「はい」


武内P「先ず、欠かせないのは――アイガードです」

武内P「これは、頭に装着するものなので……」

武内P「購入の際に色々試し、新田さんに最も合うものにしましょう」

武内P「ビジュアル面はさておき、機能性を重視します」


美波「……れっ」

美波「レベルが高ぁい!!///」

824: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 21:45:48.70 ID:5wzv9qGHo
美波「もっと、こう……ぽっ、ポピュラーなものじゃ!?///」

武内P「えっ?」

美波「いえ、ですから……!///」

武内P「……?」


武内P「アイガードは、とても重要だとありましたが……」

武内P「……ああ、成る程」

武内P「ストラップは、イメージカラーのブルー系統にしよう、と」

武内P「……そういう事でしょうか?」


美波「……とっ」

美波「とても重要……!?///」

825: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 21:53:07.12 ID:5wzv9qGHo
美波「……あっ、アイガードはわかりました!///」

武内P「はい、デザインも色々あるようです」

美波「もっ、もう一つ!/// もう一つは!?///」

武内P「はい」


武内P「――グローブです」

武内P「フィット感が高く、シリコン製の滑り止めがついているものを」

武内P「指の付け根をしっかりとガードするのは、重要です」


美波「……」

美波「あれっ?」

826: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 21:59:00.71 ID:5wzv9qGHo
美波「プロデューサーさんが言ってる道具、って……」

武内P「? はい」

美波「もしかして……ラクロスの道具、ですか?」

武内P「? ええ」


武内P「ラクロスには必要だ、と」

武内P「……そう、思ったのですが」


美波「……ふふっ! もう、プロデューサーさんったら♪」ニコッ!

美波(……言えない)

827: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 22:06:23.58 ID:5wzv9qGHo
武内P「新田さん?」

美波「いいえ、何でもありません♪」ニコッ!

武内P「?……良い、笑顔です」


美波「うふふっ♪」ニコッ!

美波(……さっきまでの私の勘違いは、さておき)

美波(私が所属してるのが、和気藹々のラクロスサークルなんて!)

美波(……と、言うか)

美波(レッスンもお仕事もあって、ほとんど行けてないの!)


武内P「新田さん、貴女のやりたい事を――全面的にサポートします」


美波「プロデューサーさん……!」キュンッ!

美波(ごめんなさい……!)

美波(美波、ラクロスサークルの事、忘れてました……!)

828: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 22:17:28.27 ID:5wzv9qGHo
武内P「他に、何か必要だと思うものはありますか?」

美波「えっ、ええっと……その……」

武内P「遠慮せず、おっしゃって下さい」


美波「あの、ですね……!」

美波(プロデューサーさんに、言わなきゃ!)

美波(こんなに、私のためを思って言ってくれてるのに……!)

美波(水泳や、最近はゴルフとかにも――)


武内P「私に出来る事でしたら、何でも」


美波「…………」

美波「……」


美波「何でも?」

829: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 22:23:33.61 ID:5wzv9qGHo
美波「……」

武内P「新田さん?」

美波「あっ、すみません! ちょっと考え事してて……」

武内P「いえ、お気になさらず」


美波「――プロデューサーさん♪」

美波「私、新しい事にチャレンジするの……大好きです!」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」

武内P「……」

武内P「新しい事……ですか?」

830: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 22:36:08.16 ID:5wzv9qGHo
美波「それで……プロデューサーさん」

武内P「はい」

美波「……手伝って、くれるんですか?///」モジモジ!

武内P「新田さん……」


武内P「――はい、勿論です」

武内P「見た事の無い景色を見ようと、一歩踏み出そうとして」

武内P「……もしも、誰かの助けが必要だと思った時」

武内P「私が、その役目を担えるのは……プロデューサー冥利に尽きます」


美波「……!///」

美波「プロデューサーさん……!///」ジュンッ!

831: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/24(水) 22:43:37.01 ID:5wzv9qGHo
美波「良いんですか……?///」

武内P「当然です」

美波「……ふふっ♪ 美波、とっても嬉しいです♪」ニコッ!

武内P「……良い、笑顔です」


武内P「それで……新田さん?」

武内P「貴女が、必要だと思うものは何ですか?」


美波「プロデューサーさんが協力してくれるなら――」

美波「――他に、必要なものなんてありません♪」ニコッ!


武内P「えっ?」


美波「新しいことにチャレンジするんですから♪」

美波「だから、まずは――」



美波「プロデューサーさん、道具は使わずしましょう」




おわり

841: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 20:54:52.90 ID:65btjDTyo
書きます


武内P「昔からガイル使いです」

842: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 21:00:11.37 ID:65btjDTyo
杏(――ある、TV番組の収録で)

杏(杏達、『CANDY ISLAND』はゲームをする事になった)

杏(それまではさ、体を使ったゲームだったんだよ?)

杏(なのに、急に普通のゲームをやれって言うんだもん)

杏(智絵里ちゃんとかな子ちゃんが笑ってるのを見て、わかったね)


杏(――ゲームが好きな杏への、ちょっとしたドッキリ)


杏(本当、困っちゃうよね~)

杏(だから、それを仕組んだプロデューサーに意地悪するつもりで言ったのさ)


杏「え~っ? 杏、このゲームやった事ないから出来な~い」

杏「プロデューサー、代わりに戦って~」ニコッ!


杏(……なんてね)

843: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 21:06:34.61 ID:65btjDTyo
杏(そしたらさ、番組スタッフさん達も盛り上がったよねぇ~)

杏(智絵里ちゃんもかな子ちゃんも、何かを期待してる感じだった)

杏(杏?)

杏(そりゃあ勿論、笑顔でお願いしたよ~!)

杏(……それで、プロデューサーのさっきの言葉)

杏(そこから、あれよあれよと、プロデューサーがPのマスクを被って――)

杏(あ、そうしないと画面が怖くなるから、って話らしいよ)

杏(――いざ、ゲームスタート)

杏(からの……)


武内P「……すみません」


杏(ま、結果はボッコボコだった訳さ!)

杏(しょうがないよね、相手が男だからって接待無しっぽかったもん)

杏(それでまぁ、笑いが起きつつ収録終わり!)

杏(これで、帰ってゆっくり寝られるよ~)



杏(……なんて、思ってたんだけどね)

844: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 21:14:50.90 ID:65btjDTyo
杏「……」

杏(……あ~あ、ついてないなぁ~)

杏(うさぎを忘れたから、ちょっと戻っただけなのに)

杏(共演した人達が向こうから来るんだもん、とほほ)

杏(あの人達、な~んかやらしい目で杏を見てたしねぇ)

杏(……よし、隠れてやり過ごそう!)

杏(カメラが回ってないから、仕事中じゃありませーん!)



「――それにしても、アイツ弱かったよなぁ!」

「昔からガイル使いです……」

「ぶっは! 声低っ! 似てる! あっははは!」



杏「……」

845: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 21:19:54.15 ID:65btjDTyo
「アイツのせいで可愛い子と対戦出来なかったわー!」

「でも、強ーい、って褒められただろ?」

「当然! オッサンなんかに負けるかっつーの」

「知識がⅡで止まってんじゃね? あの雑魚」



杏「…………」



「おかげであの子達に良い所見せられたから、感謝感謝」

「どっちだよ! あっはははは!」

「また収録一緒にならねえかなぁ」

「それで、またあのオッサン処るんだろ?」

「「あっはははははは!」」



杏「………………」…ビカ!

846: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 21:24:21.01 ID:65btjDTyo
  ・  ・  ・

杏「ごめんごめん、お待たせ~」


かな子「杏ちゃん、遅かったね?」

智絵里「うさぎは見つかっ……あっ、手が……」


杏「手?」

杏「……あちゃ~、破けちゃってるね」


武内P「あの……双葉さん?」


杏「ん~? どうしたの~?」


武内P「何か、ありましたか?」


杏「……」

杏「いいや、別になーんにも」

杏「強いて言えば、早く事務所に帰ってゴロゴロしたい位かな~」

847: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 21:31:06.33 ID:65btjDTyo
武内P「いえ、ですが……」


杏「ふわ~ぁ! 早く車で寝た~い!」


武内P「……」


かな子「今日の収録は、体を動かしたもんね~」

智絵里「でも……最後のは、プロデューサーが」

武内P「いえ、番組のスタッフさんからの提案とは言え――」

武内P「――双葉さんに黙っていた、私の責任ですから」

かな子「でも、一緒にお仕事出来て嬉しかったです♪」

武内P「えっ?」

智絵里「わたしも、プロデューサーと……お、同じユニットみたいで……///」


武内P「三村さん、緒方さん……」


かな子・智絵里「えへへっ♪」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」


杏「…………」

848: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 21:36:35.81 ID:65btjDTyo
武内P「ですが、アッサリと負けてしまって……すみません」

かな子「それでも良いんです! だって――」

智絵里「――わたし達のために、頑張ってくれたんだから♪」

武内P「……はい、ありがとうございます」


杏「………………」


武内P「……ですが、一つだけ付け加えさせてください」

かな子・智絵里「えっ?」

武内P「私が、あのゲームをプレイしていたのは、大分昔の話で……」

武内P「……それに、簡単に負けてしまいましたが」

かな子・智絵里「……はい」

武内P「久々に、対戦が出来て――」


武内P「――私も、楽しかったですから」ニコリ


かな子・智絵里「……はいっ♪」ニコッ!


杏「……………………」

849: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 21:47:14.87 ID:65btjDTyo
  ・  ・  ・

杏「……」


紗南「う~ん、やっぱり地道に対戦とかトレモを繰り返すしか無いよ!」

紗南「簡単に強くなる方法なんて無いって!」

紗南「……あたしが練習相手になっても良いんだけどさ~」

紗南「格ゲーのメインは、鉄拳とかバーチャの3Dなんだよね」

紗南「2Dは、どっちかと言うとSNK派だし」

紗南「……」

紗南「でも、そんなエンジョイな感じじゃないんだよね?」


杏「うん」


紗南「……ん~、どうしたら良いんだろ」

紗南「ゲームに関して、的確なアドバイスが出来ないなんて!」

紗南「……」

紗南「あっ」


杏「?」


紗南「もしかしたら、だけど……」

850: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 22:00:10.64 ID:65btjDTyo
杏「何か、良い方法思いついたの?」


紗南「ほら、あたしってゲーマーアイドルでしょ?」

紗南「だから、ゲーマーの人たちのTwitterもチェックしてるんだ」

紗南「……というか、フォローしてるよね!」

紗南「その中には、プロの人も居て……」

紗南「……その人達の中には、当然さ?」


杏「……うん、わかった」

杏「ありがとね、あとは杏が自分で何とかしてみるよ~」


紗南「いや、でも!」

紗南「相手はプロだし! ゲームで忙しいだろうし!」

紗南「あたしも、何となく思っただけで……!」


杏「も~、何言ってるのさ~!」

杏「杏達も、アイドルに関してはプロだって忘れてない?」

杏「……ま、ちょっと表に出したくないから、こっそりやるつもりだけどね」


紗南「……やっ」

紗南「闇営業……!?」

851: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 22:12:07.00 ID:65btjDTyo
  ・  ・  ・

『――成る程』

『でもさ、それだとこっち側にメリットが無いんだ』

『――ゲームを教えるなら、それなりの利があるべき』

『じゃなきゃ、こっちが時間を使うだけ無駄になる訳だから』

『何かメリットがあるなら、考えない事も無い』


杏「……面白いと思わな~い?」

杏「杏みたいなのがさ、大の男をボッコボコにしたら!」

杏「……それを録画して見せるってのじゃ駄目~?」


『うん、それはそれでアリだと思う』

『だけど、それだけじゃ何かをするには足りないんだ』

『申し訳ないけど、こっちもゲームでメシを食ってる訳だから』

『……そもそもさ?』

『何で、こんな風に無理に連絡を取ったりしてまで強くなりたいのかがわからない』


杏「……」

杏「この通話、録音とかしてないよね~?」


『いやー! それはどうだろう!』

852: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 22:23:09.74 ID:65btjDTyo
『……まあ、それは冗談だけど』

『本音じゃないな、って思ったらこの話はもう終わり』

『やるってなった場合は、こっちも本気でやる訳だから』

『そこが釣り合ってないなら、断るのはわかるよね?』


杏「……杏はさ」

杏「このゲームが特に好きでも無いし、別に強くなりたい訳じゃない」

杏「ま、たまたまこのゲームだった、っていうのが本音かな~」


『うん。それで?』


杏「でもさ、杏の……お世話になってる人が、バカにされたんだよね」

杏「……そういうのって、ムカつくじゃんか」

杏「だから、バカにしたヤツをボッコボコにしたい」


『オッケー、引き受けましょう』


杏「へっ?」


『二度と格ゲーが出来ない体にするまである』

853: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 22:33:15.50 ID:65btjDTyo
杏「……今ので良いの?」


『良い理由か悪い理由かで言ったら、間違いなく悪い理由だと思う』

『誰かに憧れて~、とかが……まあ、良い理由の例えの一つかな?』

『だけど、悪い理由でも、その内容が強ければアリだと思うんだ』

『元々格ゲーなんて、‘相手より俺の方が強い’ってゲームなんだから』


杏「じゃあ……」


『さっきも言った通り、引き受けるよ』

『キミがどれだけ出来るかとか、俺も海外行くとかあるけど』

『ちなみに、どの位までやる予定?』

『話を聞いた感じだと、勝つだけならそんなにガチじゃなくて済む』


杏「そりゃあ、勿論!」

杏「二度と格ゲーが出来ない体にするまで!」

杏「ご指導、宜しくお願いしま~す♪」


『あっははは! オッケー、良いでしょう!』

『――ちょっと、乗りそうなのに連絡とかしてみるわ』

854: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 22:47:02.35 ID:65btjDTyo
  ・  ・  ・

杏「――はじめまして、宜しくお願いします」


「あぁ、どうも……はじめまして」

「えっ? そんなテンション?」

「いや、まさかマジだとは思わなかったからさぁ」

「マジに決まってるじゃないスか~!」

「それにしたって、普通急には来ないだろ」

「どうせ暇だったでしょ?」

「まあ、どちらかと言えば暇だった」


杏「……」


「あぁ、ごめんごめん」

「アイドルが居るのに野郎同士で盛り上がるってヤバいっスよ」

「ヤバいね。っていうか、お前が変に話振ってきたんだろ!」

855: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 22:55:14.03 ID:65btjDTyo
「それじゃあ、どの位やれるのか見たいから……」


杏「あっ、コントローラーは持ってきました!」


「あ、コントローラー派か」

「ちょっと待って。おかしくない?」

「何が」

「俺にはタメ語なんスよ?」

「さすがに?」

「いやいやいや!」

「まあ、俺にも敬語いらないけどね」

「えっ? じゃあ俺には使ってくれても良いよ」

「それはそれで話変わって来るだろ」

「まあ、そうですね!」

「「あっはははは!」」


杏「はぁ~……」

杏「杏、なんだか不安になってきたよ……」

856: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 23:07:06.94 ID:65btjDTyo
  ・  ・  ・

杏「……」

くっ……くっ、くっ……くっ、くっ……


きらり「? 杏ちゃん、指を動かして何してるのぉ~?」

杏「ん~、イメトレ~」

きらり「にょっわー☆ お仕事のイメトレなんて、とぉっても偉いにぃ~☆」

杏「残念だけど、違うんだなぁ」

きらり「にょわっ!? じゃあ、なんのイメトレなのぉ~?」

杏「ゲームだよ、ゲーム」

きらり「でもでも~、すっ・ごく! 真剣な顔してたゆ?」

杏「何言ってるのさ、遊びは真剣にやるものだよ?」

きらり「もぉ~! お仕事も真面目にやろうにぃ!」


杏「はいはい、気が向いたら頑張りま~す」

くっ……くっ、くっ……くっ、くっ……くっ、くっ……



『ソニックブーム! ソニックブーム! ソニックブーム! ソニックブーム!』

857: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 23:20:19.70 ID:65btjDTyo
  ・  ・  ・

「なんで! 俺には! 内緒にしてたの!」

「いや、ちゃんとお前の動画見て対策とかしてたから」

「おかしくない!?」


杏「ソニックモードって、いつなれば良いの?」


「それはですねぇ! ズバリ、相手がビビってる時です!」

「じゃあ、ちなみにどんな時にビビる?」

「跳びをしっかり落とされたり、地上戦が動き辛い時ですね!」

「おー、なるほど」

「そこで怖がらなくなるために! 空手やろう! 空手!」

「こういう事言い出すから黙ってたんだよなぁ~」

「ええっ!? でも、マジで効果あるから!」


杏「あ、ちょっと試してみたいから対戦して貰って良い?」


「オッケー、2先とかで良いかな?」

「いや、俺! ここに、豪鬼使いが居ますから!」

「お前の豪鬼と今やったって何の練習にもなんねえから」

858: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 23:30:23.01 ID:65btjDTyo
  ・  ・  ・

かな子「今日は、クッキーを焼いてきたよ~♪」

智絵里「うわ~、美味しそう~♪」ニコニコッ!

杏「お~、さすがかな子ちゃんだね~」

かな子「ふふっ♪」ニコッ!


かな子・智絵里「いただきま~す♪」ニコッ!


杏「……」


かな子「……って、どうしたの杏ちゃん?」

智絵里「あれ? 何か、指に……」


杏「あ~、これ?」

杏「ちょっと、ゲームのしすぎて親指が痛くなっちゃってさー」

杏「……本当、くだらない理由だよねぇ」

杏「でも、どうでもよくはないから、しょうがないか……って感じ?」


かな子「う~ん……えっ、と……」

智絵里「指が痛いなら……」


かな子・智絵里「あ~ん♪」ニコッ!


杏「……」

杏「それじゃ、お言葉に甘えちゃおうかな~」ニコッ!

859: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 23:40:26.62 ID:65btjDTyo
  ・  ・  ・

杏「……どうかな?」


「細かい部分を挙げるとキリが無いけど……」

「ガツンと言っちゃって下さいよ!」

「待てって、これから言おうとしてるんだから」

「はい、サーセン」


「ぶっちゃけ、思ってた以上に仕上がってビビってます」

「デスヨネー。それ、俺も思ってました」


杏「……!」


「何? アイドルやると、格ゲー上手くなりやすいの?」

「可能性としては相当低いけど、有り得なくは無い」

「これは俺もアイドルなった方が良いかな?」

「まず痩せましょ」

「お前に言われたくねえよ。つか、俺大分痩せてない!?」

「気のせいじゃないスか?」

860: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/25(木) 23:49:00.64 ID:65btjDTyo
  ・  ・  ・

コンコン


かな子・智絵里・杏「は~い、どうぞ~」


ガチャッ

武内P「――失礼します」

武内P「皆さん、準備の方は大丈夫ですか?」


かな子「はいっ! 今日は、前よりも良い結果を出しますね!」

智絵里「はい。プロデューサー、ちゃんと見てて下さいね」


武内P「ええ、勿論です」

武内P「双葉さんは、まだ準備が整っていませんか?」


杏「何言ってるのさ、プロデューサー」


杏「ちゃんとキメるために、杏が準備を怠る筈無いじゃん?」

861: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 00:04:49.43 ID:ltQKQvsfo
  ・  ・  ・

杏「今日は、杏が頑張りま~す♪」ニコッ!


かな子・智絵里「杏ちゃん、頑張って~!」


「杏ちゃんみたいに可愛い子が相手だと、本気出せるかな~!」


杏「えへへ、お手柔らかにお願いしま~す♪」ニコッ!


「お前、ちゃんと真面目にやれよー?」

「わかってるって! あー、でもなぁ!」

「おいおーい! お前も一応ゲーム好きで通ってるんだから!」

「一応ってなんだよ、一応って! 一応だけど!」


杏「…………」


ガイル『――御託はいい、始めよう』

862: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 00:21:49.09 ID:ltQKQvsfo
  ・  ・  ・

杏「――お疲れ様~」


『う~い、お疲れぃ』

『もう収録終わった感じ?』


杏「終わったよー」

杏「かな子ちゃんや智絵里ちゃん、プロデューサーは勿論だけど――」

杏「――スタジオの全員驚いてたし、本放送も盛り上がるんじゃないかな~」

杏「……ま、本当に一部の人は、だろうけどね」


『こちとらそういう業界ですから、しゃあない』

『どんな試合だったかは、放送楽しみにしときますよ』


杏「そういう意味じゃあ、悪い事しちゃったかな~」


『ん?』



杏「格ゲー人口が一人減ったからね」ニヤリ!




おわり

872: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 22:07:03.48 ID:ltQKQvsfo
書きます


武内P「台風の予報です」

873: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 22:14:30.22 ID:ltQKQvsfo
武内P「……なので、早目に帰った方が」

莉嘉「えーっ? もうちょっとだけ~!」

みりあ「お願い、プロデューサー!」

武内P「……」

美嘉「コラコラ~! あんまりワガママ言うんじゃないの!」


莉嘉「明日と明後日は、Pくんが仕事について来てくれるんだもん!」

みりあ「だから、晴れにするため頑張ってるの~!」

莉嘉・みりあ「――てるてる坊主作り!」


武内P「……」

美嘉「はぁ……しょーがないなぁ」

874: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 22:19:40.99 ID:ltQKQvsfo
美嘉「アタシも手伝うから、ちゃっちゃと終わらせちゃお★」

莉嘉「良いの!? お姉ちゃん、アリガトー!」

みりあ「美嘉ちゃんが作るなら……ギャルギャル坊主?」

莉嘉「お姉ちゃんなら、やっぱりぃ……カリスマ坊主☆」

美嘉「アハハ……坊主なのは変わらないんだ」


prrrr!prrrr!


武内P「……すみません、電話が」


美嘉「オッケー。それじゃ、静かに作ってよっか」ヒソヒソ

莉嘉・みりあ「はーいっ」ヒソヒソ!

875: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 22:24:23.11 ID:ltQKQvsfo
莉嘉「見て見て、このてるてる坊主チョーカワイイでしょ!」ヒソヒソ!

美嘉「まつ毛長っ! アハッ★ ギャルじゃん!」ヒソヒソ!

莉嘉「どーお? イケてるっしょ☆」ヒソヒソ!

みりあ「みりあも! みりあも~!」ヒソヒソ!

美嘉「みりあちゃんのは~……あっ、パンダ?」ヒソヒソ!

みりあ「ピンポンピンポ~ン♪」ヒソヒソ!


武内P「――えっ?」

武内P「私の明日の予定……ですか?」


莉嘉・みりあ「?」

美嘉「……あー、もしかして」ボソッ!

876: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 22:29:26.56 ID:ltQKQvsfo
武内P「担当アイドルに付き添う予定でしたが……はい」

武内P「はい……はい……」

武内P「……そう、ですか」


莉嘉「もしかして、って……何?」ヒソヒソ!

みりあ「美嘉ちゃん、何か知ってるの?」ヒソヒソ!

美嘉「ホラ、ちょっと前に新しい子が入ってきたでしょ?」ヒソヒソ!


武内P「――私が担当、ですか」


莉嘉・みりあ「……」

美嘉「……あー、やっぱりか」ボソッ!

877: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 22:36:58.14 ID:ltQKQvsfo
武内P「……明日から、ですか?」

武内P「はあ、挨拶に来る……と」


美嘉「それで、本格的にデビューするために」ヒソヒソ!

美嘉「担当をどうしようかー、って部長さんが言ってたんだよね」ヒソヒソ!

莉嘉・みりあ「そうなんだー」

…カキカキ!

美嘉「ん? てるてる坊主の顔が、二人共同じ……」


莉嘉・みりあ「似てる?」


美嘉「えっ? 誰に?」


莉嘉・みりあ「部長に」


美嘉「っ!?」パプッ!

878: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 22:41:06.62 ID:ltQKQvsfo
武内P「……すみません」

武内P「大事な話なので、あちらで話してきます」


莉嘉・みりあ「はーいっ♪」ヒソッ!


武内P「では、また後ほど……」

ガチャッ、バタンッ


莉嘉・みりあ「……」


美嘉「……!?」


莉嘉・みりあ「……さ、続き続き~♪」ニコッ!


美嘉「……まっ」

美嘉「待って待って! ちょっとストップ! タンマ!」

879: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 22:46:17.94 ID:ltQKQvsfo
美嘉「なんで部長さんの顔にしたの!?」

莉嘉「えーっ? 話が出たから、何となく!」

みりあ「うんうん! 美嘉ちゃん、どうしたの?」

美嘉「いや、何かタイミングが……!」


莉嘉「あーあ、Pくんと一緒だと思ってたのにな~!」

…カキカキ!

みりあ「でも、急な話みたいだからしょうがないよ!」

…カキカキ!

莉嘉・みりあ「……出来た~!」ニコッ!


美嘉「ソレ、また部長さんの顔だよね!?」

美嘉「明らかに意図を感じるんだケド!?」

880: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 22:51:18.54 ID:ltQKQvsfo
莉嘉「部長さんだったら、天気も何とかしてくれそうじゃん☆」

美嘉「そこまでの権限は無いから!」

みりあ「でも、みりあの明日の心は雨マークだよ?」

美嘉「そんなコト言われたら、お姉ちゃんじゃなくても辛いよ!」


美嘉「~~とにかく!」

美嘉「もう、部長さんの顔を書くのは禁止! 良い!?」


莉嘉・みりあ「……は~い」


美嘉「はぁ……」

美嘉「この4つのてるてる坊主、どうするの……」

881: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 23:03:14.40 ID:ltQKQvsfo
莉嘉「ぶぅ~! Pくんをノーサツする準備してたのに~!」

美嘉「アンタ、何考えてんの……」

みりあ「邪魔されないように、てるてる坊主も作ってたのに~!」

美嘉「台風にだよね? てるてる坊主、他に意味無いよね?」


莉嘉・みりあ「……えへへ♪」ニコッ!


美嘉「良い、笑顔じゃん★」ニコッ!

美嘉「……うん」

美嘉「二人共、ちょっとそこ座りなー」


莉嘉・みりあ「座ってるよ?」


美嘉「知ってるケド!」

美嘉「言わなきゃいけないカンジだったの!」

882: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 23:07:44.85 ID:ltQKQvsfo
ガチャッ!


武内P「――あの、城ヶ崎さん」


莉嘉「! 何、Pくん?」ニコッ!


武内P「あ、いえ……」


美嘉「アタシ?」


武内P「はい。城ヶ崎さんが、問題無いようでしたら……」

武内P明日、新人の方に城ヶ崎さんの仕事を――」

武内P「――見学させて頂いても、宜しいでしょうか?」


美嘉「へっ?」


莉嘉・みりあ「……」

883: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 23:12:07.86 ID:ltQKQvsfo
美嘉「そりゃ、別に構わないケド……」

武内P「ありがとうございます」

美嘉「でも、なんでアタシなワケ?」

武内P「えっ?」


武内P「それは……城ヶ崎さん、貴女が」

武内P「キラキラと輝く、とても素晴らしいアイドルで……」

武内P「……参考とするに相応しい、と」

武内P「……そう、思ったからです」


美嘉「……」

美嘉「そっ……そう?/// アンタ、そう思ってるんだ……///」

美嘉「まあ、アタシ……カリスマJKアイドルだし、トーゼンかな★」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」


莉嘉・みりあ「……」

884: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 23:16:27.28 ID:ltQKQvsfo
武内P「では、詳細はまた後ほど……」

美嘉「うん、オッケー★」ビシッ!


武内P「それでは、また席を外します」

ガチャッ、バタンッ


美嘉「……」

美嘉「アハハ★ アイツったら、急に何を言い出す――」


…カキカキ!

莉嘉・みりあ「……出来た~★」


美嘉「うっ、おおおおっ!?」ビクッ!

美嘉「ねえ! てるてる坊主の目が、全部★になってるんだケド!?」

885: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 23:24:04.03 ID:ltQKQvsfo
莉嘉「姉さんのカリスマなら、台風なんてぶっとんじゃうって☆」ニコッ!

美嘉「姉さん!? 心の距離が開く程の風が吹いたの!?」

みりあ「見て見て~! み~んな、顔を描き直したんだよ♪」ニコッ!

美嘉「元部長のてるてる坊主とか、愉快なサングラスみたいじゃん!」


美嘉「莉嘉もみりあちゃんも、そんなに残念!?」


莉嘉「残念だケドぉ~、ワガママ言ってPくんを困らせたくないもん」

みりあ「だから、みりあ達は出来る事を頑張るんだ~!」

莉嘉・みりあ「ねー♪」ニコッ!


美嘉「あっ、ん、んんっ……! んんんっ! 呪いじゃん!!」

美嘉「言いたくなかったケド、呪ってんじゃん!」

886: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 23:33:06.92 ID:ltQKQvsfo
莉嘉「も~っ! そんなんじゃないって~!」ケラケラッ!

美嘉「ホントだね!? マジ、嘘じゃないよね!?」

みりあ「美嘉ちゃん、信じる者は救われるんだよ?」ニコニコッ!

美嘉「救いを求める状況になった時点で、信じられないから!」


莉嘉「……だって! お姉ちゃん、明日はPくんと一緒なんでしょ!?」

莉嘉「台風が来るんだったらノーサツし放題じゃん!」

莉嘉「お姉ちゃんばっかり、ズルイ!」


美嘉「っ!?」

美嘉「どうノーサツし放題か、詳しく言ってみな!」

美嘉「……言ってみな!」


みりあ「みりあ……すっごく楽しみにしてたのに……」…ウルッ!


美嘉「あああ、みりあちゃん泣かないで……!」

美嘉「莉嘉、帰ったら詳しく……!」

888: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 23:42:04.79 ID:ltQKQvsfo
みりあ「朝からお仕事に一緒に行って……!」ウルウルッ!

美嘉「うん……うん」

みりあ「お昼ゴハンの時も、あーん、とかしたりして……!」ウルウルッ!

美嘉「うん……うん?」


みりあ「午後に、みりあ達がやろうとしてた事とかも!」ウルウルッ!

みりあ「美嘉ちゃん、全部やっちゃうんでしょ!」ウルウルッ!


美嘉「まっ、待って待ってみりあちゃん!」

美嘉「確かに、アタシはカリスマだケド!」

美嘉「そこまで期待される様なコトは、さすがn」


莉嘉「大人の階段上っちゃうんでしょ!? 夏だもん!」

莉嘉「……お姉ちゃんなんか知らない!」


美嘉「知らない知らない!」

美嘉「その階段の上り方、お姉ちゃんも知らないって!」

889: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/26(金) 23:51:56.82 ID:ltQKQvsfo
ガチャッ!

武内P「あの……何か、騒がしいようですが」


莉嘉・みりあ「……」

莉嘉「Pくぅ~ん……!」ウルウルッ!

みりあ「プロデューサ~……!」ウルウルッ!


武内P「!?」

武内P「一体、何が――」


美嘉「えっ、ええ~っ……!?」ブツブツ…!

美嘉「台風が来たらノーサツし放題で……でも、てるてる坊主を……」ブツブツ…!

美嘉「つまり、晴れた方が良いんだから……ほっ、ほあぁ……!?」ブツブツ…!


武内P「――……何が?」

890: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 00:00:07.21 ID:3agrlnsvo
莉嘉「……明日は、新人の子が挨拶に来るんでしょ?」ウルウルッ!

武内P「えっ? ええ……」

みりあ「……みりあ達と一緒にお仕事に行くって約束したのに」ウルウルッ!

武内P「えっ?」


武内P「当然、そのつもりですが……」


莉嘉・みりあ「……えっ?」


武内P「新人の方は、夕方に挨拶に来られるそうなので……」

武内P「……お二人の仕事の間は、問題ないかと」


莉嘉・みりあ「……」

莉嘉・みりあ「えっ?」

891: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 00:09:20.68 ID:3agrlnsvo
武内P「スケジュール的には、午前中から夕方にかけて」

武内P「そこまでは、お二人と行動し……」

莉嘉・みりあ「うん」

武内P「一度、社に戻って……新人の方とお会いし」

莉嘉・みりあ「はい」

武内P「城ヶ崎さんの、写真集の撮影の見学に行く、と」

莉嘉・みりあ「そっかー」


武内P「晴れた場合は、買い物に……との事でしたが」

武内P「……予報では、台風ですし」


莉嘉・みりあ「うんうん」

892: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 00:16:08.10 ID:3agrlnsvo
莉嘉「はーい! アタシも、お姉ちゃんの仕事の見学したーい!」

みりあ「みりあも! みりあも! サンコーにしたーい!」

武内P「えっ?」

莉嘉・みりあ「良いでしょ~?」

武内P「……」


武内P「……との事ですが、どうでしょうか?」


美嘉「…………」ブツブツ…

美嘉「……えっ? なっ、何が?」


武内P「帰りは、私がお送りしますので……」


美嘉「なっ……何!?///」

美嘉「わかんないわかんない!/// どういうコト!?///」ワタワタ!

893: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 00:26:32.96 ID:3agrlnsvo
莉嘉「やったじゃん、姉ちゃん☆」

美嘉「まだだケド!?///」

みりあ「ねえねえ、晩ゴハンも一緒に食べたりする?」

武内P「はい、宜しければ……ですが」

美嘉「よっ、よろしいです!/// うふぃー、何コレぇ!?///」


莉嘉「明日、チョー楽しみだねっ☆」ニコッ!

みりあ「うん! ステキな夏のはじまりになると良いな~!」ニコッ!


武内P「……良い、笑顔です」


美嘉「……たっ、楽しみ!///」

美嘉「夏はこれからだし……さっ、サイコー!///」

美嘉「あ、アハ、アハハ……えー、マジでぇ……?///」

894: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 00:36:16.64 ID:3agrlnsvo
  ・  ・  ・

武内P「あの……」

美嘉「……」

武内P「お伝えしていた通り、撮影の見学に……」

美嘉「……」

武内P「城ヶ崎さん?」

美嘉「……」

武内P「皆さん、撮影前に挨拶をしたい……と」

美嘉「……」


美嘉「いっぱい居たケド?」


武内P「はい、先程早目の夕食をとったのですが……」

武内P「……その時も、とても大変でした」



美嘉「…………すぅ……っ――」



武内P「? 何故、息を吸い込んで――」




おわり

896: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 11:57:33.48 ID:3agrlnsvo
書きます


早苗「シンデレラ達の」瑞樹「飲み会」

897: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 12:05:10.87 ID:3agrlnsvo
早苗・瑞樹「『MAGIC DRINK』の飲み会へ、ようこそ♪」

早苗「は~い皆、こんばんはー!」

瑞樹「真夜中の飲み会へ、ようこそお越しくださいました」

早苗「このラジオは、346プロダクションのプロデューサーの家から」

瑞樹「その場で飲んでるメンバーで、楽しいお喋りをお送りするわ」


早苗「今日のパーソナリティは、あたし! 片桐早苗と」

瑞樹「川島瑞樹で、お送りさせて貰うわ」


早苗「夜はまだまだこれから! 飲むわよ~!」

瑞樹「皆さんも、グラス片手に楽しんで頂けたら嬉しいわ」



武内P「あの……何を始めて……?」

楓「ふふっ♪ トークをとーくと聞きましょう……うふふっ♪」

898: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 12:13:47.29 ID:3agrlnsvo
瑞樹「それじゃ、『MAGIC DRINK』メール、略して――」

早苗「――LINEが来てるから、読んでみるわね!」

瑞樹「えーっと、ラジオネーム……どうする?」

早苗「Pラブさん、で良いんじゃない?」

瑞樹「そうね、Pラブさんにしておくわ」

早苗「さっ、どんどん読んで行きましょ!」


瑞樹「――お仕事、お疲れ様です」


早苗・瑞樹「お疲れ様で~す♪」


瑞樹「――今晩は、予定が入ってしまい行けそうにありません」

瑞樹「――せっかく以前からお誘い頂いたのに、すみません」


早苗「良いのよぉ、気にしなくても!」

瑞樹「担当と飲みに行くのよね、わかるわ」



武内P「あの……誰のLINE、ですか?」

楓「えーっと……あ、美優さんですね」

899: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 12:24:22.22 ID:3agrlnsvo
瑞樹「――次の機会には、参加したいと思います」

瑞樹「――皆さん、今日は楽しんで下さい」


早苗「そんな事言っちゃって、ねぇ?」

瑞樹「自分はお楽しみする気ね、わかるわ」

早苗「でも、み……Pラブさん、お酒弱いのよね~!」

瑞樹「ちょっとずつ慣れてきてはいるんだけどね」


早苗「そういえば――」

早苗「瑞樹ちゃんは、お酒で失敗した事とかある?」


瑞樹「――あるわ」

瑞樹「と言うか、お酒を飲む人だったら一度はあるんじゃない?」

瑞樹「一度失敗して、そこから失敗しないよう気をつけるようになったり、ね」


早苗「あたし、失敗した事無いのよね~」

早苗「もし失敗しても、失敗する位飲んでるから忘れちゃう、って感じ!」


瑞樹「ふふっ、早苗ちゃんらしいわ」



武内P「……放送は、していないのでしょうか?」

楓「ほう、そういうの気になっちゃいますか?」

900: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 12:34:49.03 ID:3agrlnsvo
早苗「でもね、Pラブさんは間違ってる!」

瑞樹「あら、どこが?」

早苗「お酒弱いのに、二人で飲みに行くのよね」

瑞樹「そうは言ってないけど、そうでしょうね」


早苗「あ~ん、今日は酔っちゃった~ ♡」

早苗「って、毎回言ってるんだろうけどね」

早苗「次の飲みの時、毎回――何もありませんでした――って!」

早苗「この流れ、何度あった事か!」


瑞樹「何度もあったわ」

瑞樹「Pラブさんの担当って、Pラブさんの事を大事にしてるもの」

瑞樹「お酒に弱い貴女が、酔って弱っている所……」

瑞樹「……そこにつけ込む様な人じゃないわよね? Pラブさん」



武内P「あの……本当に、放送していませんよね!?」

楓「今は、プライベートですから♪」

901: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 12:47:57.73 ID:3agrlnsvo
早苗「そんなPラブさんに~、バキューン!」

瑞樹「はーい、バキューン入りました~♪」


早苗「酔って弱った所を見せて、待つ」

早苗「それじゃ、進展なんかしない!」


瑞樹「でも、二人でお酒を飲みに行くのはアリよね」

瑞樹「時間帯的にも、シチュエーション的にも」

瑞樹「早苗ちゃんとしては、どうしたら良いと思うのかしら?」

瑞樹「Pラブさんが、担当さんと良い仲になる方法は?」


早苗「ズバリ!」

早苗「酒は飲んでも飲まれるな!」

早苗「飲まれてしまうなら、それを逆に利用するのよ!」

早苗「お酒の力を利用して、自分からいくの!」



武内P「あの、本当に危険なので……!」

楓「ふふっ♪ 危険で、聞けん?……うふふっ♪」

902: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 13:01:54.66 ID:3agrlnsvo
瑞樹「でも、それが出来たら苦労はしないわ」

早苗「と、思ってるシンデレラに紹介するのが――」


早苗「――『ドランクモンキー 酔拳』」

早苗「ジャッキー・チェン主演の、香港映画よ!」


瑞樹「ジャッキー・チェンは、アクションスターよね?」

瑞樹「その映画が、どう役に立つのかわからないわ」


早苗「酔拳はね、酔えば酔う程強くなるの」

早苗「お酒をいっぱい飲んで、足元がフラフラになってもね」

早苗「……あたし、酔って有香ちゃんに負けたことがあるのよ」

早苗「次はそうならないよう、この映画から学んだの!」


瑞樹「お酒を飲まない、って選択肢はないのね、わかるわ」



武内P「待ってください! そもそも、戦うのは!」

楓「ふふっ♪ 階段を上ったんですね」

903: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 13:11:54.97 ID:3agrlnsvo
早苗「気になる内容は、是非見て確かめて!」

早苗「この映画を見ると、体を動かしたくなるから!」


瑞樹「『酔拳』、実は2は見た事あるわ」

瑞樹「ほら、前はテレビでよくやってたじゃない?」

早苗「でもさ、2は敵役の方が印象に残ってるでしょ」

瑞樹「あ、確かにそうかもしれないわ」

早苗「スーツ姿で、もうすっごい足技で!」

瑞樹「早苗ちゃん、パンツ見えてるから」

早苗「ラジオだからへーきよ! へーき!」

瑞樹「それもそうね」


瑞樹「キックをする時、スーツの太ももがピチッとなるのよね」

瑞樹「あれ、すっごくセクシーだと思ったわ~」


早苗「わかるわかる~!」



楓「…………見ました?」

武内P「み、見ていません! 見ていませんから……!」

904: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 13:20:52.91 ID:3agrlnsvo
早苗「Pラブさんは、『酔拳』を見て」

早苗「それで、今度担当と飲みに行った時」

早苗「酔ったら、この曲を頭で再生すると良いわよ!」


瑞樹「その曲は?」


早苗「『ドランクモンキー 酔拳』の挿入歌」

早苗「――酔八仙」


https://www.youtube.com/watch?v=tCVOkMSK5W8




瑞樹「本当、中国~って感じの曲ね」

早苗「途中で急に音が大きくなるから、注意してね!」

瑞樹「それじゃ、しばしの間静かに……」

早苗「この音に、酔っちゃいましょ」



武内P「……」

楓「……」

905: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 13:35:23.18 ID:3agrlnsvo
  ・  ・  ・

早苗・瑞樹「カンパーイ♪」

早苗「あーっ、なんだか酔って来ちゃった~ ♡」

瑞樹「嘘ばっかり」

早苗「女の嘘は、甘い罠」

瑞樹「酔ってる?」

早苗「全然! まだまだ、夜はこれからじゃない!」

瑞樹「ビックリしたわ。急に、早苗ちゃんらしくない事言い出すんだもの」

早苗「あたし、嘘はつかないからね~」

瑞樹「試しに、今ちょっと嘘ついてみて」

早苗「へっ? う~ん……」


早苗「あたし少食だから、もうお腹いっぱいになっちゃった」


瑞樹「おつまみ追加お願い出来る?」



武内P「はい、少し待ってください」

楓「ふふっ♪ きちんと、キッチンで作るんですね!……うふふっ♪」

906: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 13:57:18.02 ID:3agrlnsvo
早苗「それじゃ、『MAGIC DRINK』メール、略して――」

瑞樹「――LINE、って……このくだり、要る?」

早苗「まあ良いじゃない、なんかノリで」

瑞樹「それもそうだわ」

早苗「沢山貰った質問の中で、一番多かったものに答えていくわね!」

瑞樹「その中で、一番誰かわからないのを読むのね、わかるわ」


早苗「――急な相談で、すみません」


瑞樹「良いのよ、気にしないで」

瑞樹「相談をされる程頼られるのは、特権みたいなものだわ」


早苗「――気がつけば、目で追ってしまう人がいます」

早苗「――だけど、私はアイドルです」

早苗「――どうしたら良いのか、わからないんです」


瑞樹「成る程ね~」


早苗「瑞樹ちゃん、コイバナよ! コイバナ!」


瑞樹「早苗ちゃん、そのテンションの上がり方はどうなの?」

907: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 14:06:07.38 ID:3agrlnsvo
早苗「アイドルの恋愛って、難しいわよね~」

瑞樹「お仕事でアイドル、プライベートで恋愛」

早苗「って、切り離せるものじゃないもんね」

瑞樹「それじゃ、私の意見を言わせて貰うわね」

早苗「オッケー、どんと来い!」

瑞樹「早苗ちゃん?」

早苗「うん? あっ、ダジャレじゃないわよ!?」

瑞樹「良かったわ」

早苗「ほら、早く続き! アイドルの恋愛は?」


瑞樹「悪い影響が出るなら、すっぱりやめるべきね」


早苗「おおう!? 瑞樹ちゃん、バッサリいくわね!?」

瑞樹「お茶を濁すと思ってたんでしょ? わかるわ」

早苗「あ、次は緑茶ハイにしよっかなー」

瑞樹「ちょっと、聞きなさいよ」

908: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 14:15:35.88 ID:3agrlnsvo
早苗「悪い影響って、例えばどんな?」

瑞樹「ファンの人をガッカリさせる事ね」

早苗「おー! わかりやすい!」

瑞樹「相手が居るお仕事なんだもの、当然でしょう」

早苗「それじゃあ、恋はしたら駄目って事?」

瑞樹「早苗ちゃん、それは違うわ」

早苗「その心は?」


瑞樹「恋は、するものじゃなくて、落ちるものでしょ」


早苗「酔ってる?」

瑞樹「割と」

早苗「ごめんごめん! 続けて!」


瑞樹「例えば、その恋を無理やり諦めて!」

瑞樹「その結果、笑顔が出来なくなってしまうのなら……」

瑞樹「それは、悪い影響と言えるんじゃないかしら!」


早苗「はー! 成る程成る程、そういう事ね!」

909: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 14:24:07.26 ID:3agrlnsvo
瑞樹「何事も、うまくやりなさい、って事よ」

早苗「でもさ、うまくいかない時もあるでしょ?」

瑞樹「まあね、でもそれは仕方ないんじゃない?」

早苗「そういう時は?」

瑞樹「飲んで忘れる」

早苗「わかるわ」

瑞樹「ちょっと」

早苗「あっははは!」


瑞樹「でも、飲んでも忘れられない事ってあるわよね~」

瑞樹「そういった、色々な経験があったからこそ、今の自分がある」

瑞樹「……なんて、格好つけすぎかしらね?」


早苗「それが、歳を重ねる、って事で良いんじゃない」

早苗「溢れ出る大人の魅力、セクシーさの源よ!」

910: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 14:35:22.52 ID:3agrlnsvo
瑞樹「そんな恋をしている貴女、わかるわ」

早苗「はーい、わかるわ入り……まくってたわね」


瑞樹「恋をすると女は綺麗になる、って言うでしょう?」

瑞樹「だから、無理に答えを出す必要は無いと思うの」


早苗「無理に答えを出して、間違ってたら大変だしね!」

早苗「ちゃんと証拠を揃えてから、タイホする!」

早苗「誤認逮捕なんかした日には、目もあてられないもの!」

早苗「そうならないためには?」


瑞樹「ズバリ」

瑞樹「自分を見つめ直す事ね」

瑞樹「だって、生きているのは自分の人生なんだもの」

瑞樹「答えはきっと、自分の中にあると思わない?」


早苗「……あたしの時に比べて、なんかかっこよくない?」

911: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 14:47:13.24 ID:3agrlnsvo
早苗「まあ、相手だけじゃなく自分も見ろ、って事ね!」

瑞樹「そんな、悩めるシンデレラに紹介するのが――」


瑞樹「――『千年女優』」

瑞樹「今敏監督の、アニメ映画ね」


早苗「え~っ、アニメ~?」

早苗「もうちょっとさぁ、大人っぽい恋愛映画が良いんじゃない?」


瑞樹「早苗ちゃん」

瑞樹「恋愛は、子供も大人も、年を取ったって関係無いでしょ?」

瑞樹「この映画は、それを教えてくれるわ」

瑞樹「大事なものを学ぶのに、教材は関係ないわよ」


早苗「そうねぇ……確かに、その通りかも」

早苗「それじゃ、早速内容の紹介に移りましょ!」

912: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 14:57:16.82 ID:3agrlnsvo
瑞樹「内容の紹介は、ネタバレになるから出来ないわ!」

瑞樹「予備知識無しで見て欲しい映画だから!」


早苗「ちょっと! 少し位は良いじゃないの!」

瑞樹「それじゃあ、ヒロインの特徴を」

早苗「んー、まあ、とりあえずはそれで良いから!」

瑞樹「『千年女優』のタイトルの通り、主人公は女性なんだけどね」

早苗「うんうん」

瑞樹「左目の下に、泣きぼくろがあってそれがセクシーなの」

早苗「はー、どこかの誰かさんみたいね」


早苗「なんだっけ、左目の下の泣きぼくろの意味……」

早苗「……自分の魅力をわかってるとか、ダメ男を放っておけない、とかよね?」


瑞樹「誰かさんが、担当にストライキされた時とかね」

瑞樹「頼りにされたりするのも、特徴だわ」


早苗・瑞樹「……続けましょ!」

913: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 15:08:32.87 ID:3agrlnsvo
瑞樹「……と、思ったけど」

早苗「そろそろオツマミが来そうなのよね~」

瑞樹「さすがに、食べながらの放送とはいかないわ」


瑞樹「だから」

瑞樹「恋に関する悩みを抱える貴女には」

瑞樹「壮大な曲を聞いて、自分を見つめ直して貰いながら」

瑞樹「エンディングにしましょう」


早苗「シンデレラ達の飲み会、『MAGIC DRINK』」

早苗「パーソナリティは、あたし――片桐早苗と」


瑞樹「私、川島瑞樹でお送りしました」


早苗「聞いて頂くのは」


瑞樹「『千年女優』から」

瑞樹「平沢進さんの――『ロタティオン(Lotus-2)』で」


早苗・瑞樹「バイバ~イ♪」


https://www.youtube.com/watch?v=8rNUPVWPquE


916: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 15:20:33.18 ID:3agrlnsvo
  ・  ・  ・

楓「――ふふっ♪ とっても美味しそうです♪」

武内P「えっ? ええ……」

楓「今、一口頂いても?」

武内P「それは、構いませんが」

楓「あっ、お箸が向こうに……」

武内P「そう、ですね」

楓「んー……」


楓「あーん♪」


武内P「えっ?」


楓「熱々が、良いと思いませんか?」ニコッ!


武内P「……火傷をしないよう、少し待って冷ました方が」


楓「……」…プクッ!

…パシッ!




おわり

922: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 21:23:30.76 ID:3agrlnsvo

「おはようございます」


 真っ直ぐ姿勢を正して、お辞儀。
 今までと変わる事の無い、朝の挨拶。
 表情は、勿論――笑顔で。
 一日の始まりがそれ以外だと、何だか勿体無いですから。


「おはよう、ございます」


 彼も、真っ直ぐこちらを見て、低い声で挨拶。
 今までと違うのは、その表情。
 シンデレラプロジェクトを担当してからの彼は、表情が柔らかくなった。
 無表情と言うよりも、とても静かで、穏やか。


「……あの、何か?」


 そんな彼を見つめ続ける私へと、疑問が投げかけられる。
 けれど、聞かれても、答える事は出来ない。
 だって、私自身、どうしてそうしていたかわからないんですから。
 わかるのは……ただ、何となく、


「いいえ、何でもありません」


 寂しいと感じるだけ。
 でも、それを言っても仕方ありませんから。


「本当に、何でも無いんです」


 ……良い事を寂しいと思うなんて、どうしちゃったのかしら。

923: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 21:33:45.90 ID:3agrlnsvo

「そう、ですか……」


 彼が、右手を首筋にやって、困った顔をした。
 相変わらずのその仕草に、どうしても口元が綻んでしまう。
 ああ、変わってないんだな、って。


「ふふっ!」


 困らせておいて笑っちゃうだなんて、失礼ですよね。
 けれど、おかしくって。
 もしかして、頭の寝癖もそのままなんじゃないかしら。
 笑いを隠すために口元に運んだ左手が、その言葉を通せんぼ。



「プロデューサー」



 後ろから、声が聞こえた。
 プロダクションの玄関口から聞こえたその声の主は、
磨き抜かれた床をカツカツと音を立てながら、こっちへ向かってくる。
 彼の視線が、その子の方へと向く。
 私も、振り返ろうとした、その時、



「おはよう、ございます」



 笑顔。
 とても優しい笑顔が目に映り、振り返るのがちょっと遅れてしまった。

924: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 21:46:57.64 ID:3agrlnsvo
  ・  ・  ・

「……」


 午前中のボイスレッスンは、何故かあまり集中出来なかった。
 何かを言われるような事は無かったけれど。
 自分では、わかる。
 午後のダンスレッスンは、しっかり集中して臨まなくっちゃ。


「……」


 そのために、気分転換。
 ちょっとだけ、プロダクションの敷地内を散歩して。
 それから、カフェで美味しい紅茶を頂こうかしら。
 頑張るって決めたから、先にご褒美として甘いケーキも……ううん、迷う。


「あっ」


 少し離れた所に、背の高い、見覚えのある人影。
 この距離だと、頭の後ろに寝癖があるかは見えないけれど。
 でも、間違いなく、あの後ろ姿は彼だと思うの。
 どこかに向かってるようで、こっちには……気付いてない。


「……ふふっ!」


 こっそり、こっそり。
 サンダルだから、足音を立てないように。
 ふふっ! 忍者みたいに近づいて、驚かせても、堪忍じゃ……うふふっ!

925: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 21:59:26.71 ID:3agrlnsvo

「……」


 私が、声を掛ける前に。
 彼は、目的の場所に辿り着いていた。
 敷地内にある、芝生の上。
 その上に広げられたシートの上が、彼の居る所。


「……」


 まだまだ、お日様の見えない天気が続くらしい。
 その合間の、ぽかぽかした陽気の良い日。
 ちょっと、照りつける日が暑く、眩しいけれど。
 今日は、とっても良い日ですものね。


「……」


 シートの上には、彼と……彼の担当する、アイドルの子達が。
 皆、とっても良い笑顔で。
 そんな笑顔を向けられたら……ええ、そうでしょうとも。
 貴方も、そんな顔、しちゃいますよね。


「……」


 その場で、クルリと踵を返す。
 お邪魔しちゃ、悪いですから。


「……」


 ……なんだか、カフェに行く気分じゃなくなっちゃった。
 自販機でコーヒーを買って、一息つこう。

926: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 22:17:42.22 ID:3agrlnsvo
  ・  ・  ・

「私が、ですか?」


 紅茶を一口飲んだ後、カップとソーサーが小さく音を立てた。
 ダンスレッスンが終わった後、早苗さんと瑞樹さんに連れられて来た、カフェ。
 そこで、二人に言われた一言。


 ――今日は何だか、様子が変。


「何よ、自分で気付いてなかったの?」


 そう言って、早苗さんはストローでアイスティーを一口飲む。
 私の答えが意外だったのか、大きな目をいつもよりちょっと見開いている。
 冷えたグラスの表面には、オープン・カフェ特有の温度差で、水滴がいっぱい。
 落ちそう……あ、落ちた。


「何かあったの?」


 瑞樹さんが、小さなフォークをスッとチーズケーキの表面に突き入れる。
 小さく分けられたそれを……パクリ。
 今日のダンスレッスンは激しかったから、そのご褒美だと言っていた。
 ブルーベリーのソースが、キラキラと輝いている。



「「誤魔化すのは無しね」」



 私が口を開く前に、二つの声が重なった。


「はあ……」


 そう言われても……どうしたら良いのかしら。

927: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 22:32:00.13 ID:3agrlnsvo

「でも……特に、思い当たる理由が無くて」


 正直に答える。
 本当に、何も無かったんだから。
 強いて言うなら、久々に暑い日だった位。
 今までが涼しかった分、焼かれてしまうような、そんな暑さ。


「シロね」
「わかるわ」


 二人は、そう言ってため息をついた。
 早苗さんは、両腕を組み、人差し指で二の腕をトントンと叩いてる。
 瑞樹さんは、右の手で口元を隠し、私を見つめながら考え事をしてる。
 そして、私は、



「――まっ、待ってください!」



 こっちへ向かってくる、彼に気付いた。


「……」


 担当のアイドルの子達に、両手を握りしめられて。
 急かされるようにして、楽しそうに、騒がしく。
 それは、とてもキラキラと輝いて見えて。
 まるで、手の届かないパレードみたい、なんて感想が浮かんでいた。

928: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 22:44:55.67 ID:3agrlnsvo

「……」


 彼の手を引く子達は、無邪気な、とびっきりの笑顔。
 あっ、手じゃなくて、腕を。
 彼も、それには驚いて声をあげるが、聞き入れて貰えない。
 あの子達には、そうしても良いと思えるだけの、信頼関係があるのだろう。


「……」


 本当に、楽しそう。
 見ているこっちまで、笑顔になっちゃう。


「……」


 ……でも。
 あぁ、どうしてなのかしら。



「「――見てられないわ」」



 私が答えを出す前に、また二つの声が重なった。


「えっ?」


 早苗さんと瑞樹さんの視線は、私を捉えていた。
 二人は、私の反応を見てため息をついた。

929: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 23:01:15.42 ID:3agrlnsvo

「氷が溶ける前に、ちゃっちゃと済ませましょ」


 クルリと体を横に向けて、早苗さんはパッと立ち上がった。
 そのまま腕を前にし、両手を組んで指の関節を伸ばす。
 あの……何か、するんですか?
 なんて、問いかける間も無く、


「ここの支払い、任せるわ」


 瑞樹さんは、そう言って伝票をツイとこちらへ寄越してきた。
 それは構いませんけれど……どうして?
 まだ、ケーキもほとんど残ってるんですけど……。
 どうして、瑞樹さんも立ち上がってるんですか?


「え~っ? 瑞樹ちゃんだけケーキ頼んで、ずるいじゃないの!」
「美味しかったわ~! 奢りだと思うと、また格別」


 そんなやり取りをしながら、二人は向かっていく。


「……」


 私が、見ているだけだった光景に。
 堂々と、颯爽と、遠慮なんて欠片もなく、踏み入っていく。



「はーい、そこまで!」


「何やってるの! タイホよ、タイホ!」



 私には、絶対に出来ないだろう事。
 それを二人は、いともアッサリとやってのけた。

930: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 23:19:26.02 ID:3agrlnsvo
  ・  ・  ・

「はー……どっこいしょ」
「早苗ちゃん、オヤジ臭いわ」


 戻ってきた二人が、再び席についた。
 その表情は、いつも通りで、何一つ変わることは無い。
 当たり前の事を当たり前にしてきた。
 早苗さんと瑞樹さんにとっては、それだけの事なのかも知れません。


「……」


 過度なスキンシップをするアイドルに、注意。
 それを止められなかったプロデューサーに、叱責。


「「何?」」


 私は、二人をじいっと見つめ続けていた。
 だって、


「格好良いな、って」


 そう、思ったんです。
 私は、あの子達よりも歳上だけど。
 嫌われちゃうかも知れないって思うと、そういう事が出来なくて。
 だから、二人をとっても格好良いと思ったんです。


「なーによ、知ってた癖に」
「友達でしょ、当然よ」


 そう言って、二人は照れくさそうに笑った。

931: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 23:33:03.71 ID:3agrlnsvo
  ・  ・  ・

「……」


 今晩は、飲みに行く。
 早苗さんと瑞樹さんにそう言われ、二つ返事で頷いて。
 プロダクションの玄関で三人揃った段階で、いざ出発……とは、いかなくて。
 もう一人来るからと、お喋りしながら笑っていたら、



「――すみません、お待たせしました」



 慌てた様子で、彼が来た。


「遅い! 女を待たせるなんて、ギルティよ! ギルティ!」
「待たせた分、何かしてくれるのよね? わかるわ」
「えっ?」


 上手く事態が飲み込めないでいる私を置いて、会話がどんどん進んでいく。
 どうやら、二人から、彼にお説教があるらしい。
 もしかして、カフェでの事かしら?
 けれど、せっかくなんだから――



「ふふっ! 遅れないでおくれ……うふふっ!」



 楽しく、飲みたい。

932: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/27(土) 23:48:53.40 ID:3agrlnsvo

「は、はあ……」


 彼が、右手を首筋にやって、困った顔をした。
 相変わらずのその仕草に、どうしても口元が緩んでしまう。
 けれど、違いを発見。
 よっぽど急いで来たって、わかっちゃった。


「ふふっ!」


 つい、と一歩踏み出し、彼の近くに寄る。
 背の高い彼の視線が、私の頭上から降り注いでいるのがわかる。
 寝癖は、立って無いでしょう?
 あっ、これが終わったら、彼に寝癖があるか確認しなきゃ。


「ネクタイ、曲がってますよ」


 身だしなみには、気をつけないと。
 真っ直ぐ、体に対して一直線に。
 ちょっぴり緩んでる?……はい、これで良し。
 最後に、ネクタイの上から彼の胸をポンッと叩いて、


「はい、完成」


 笑顔。



「あーっ、もう! 今日は飲むわよ!」
「そうね、でなきゃやってられないわ」



 何か言いかけた彼に、クルリと背を向けて、言う。



「はーい♪ ビールを浴びーる程飲みたいでーす♪」



 ……もうっ!
 貴方に照れくさそうにされたら、私まで恥ずかしくなっちゃうじゃないですか!




おわり

947: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 21:50:52.96 ID:ax9yaK6jo
>>941
書きます


武内P「アロマディフューザー、ですか」

948: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 21:55:19.21 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「はい、そろそろ必要な時期かと思って」

武内P「はい、そうですね」

ちひろ「蒸し暑いのに加湿器だなんて、皆ビックリしますかね?」

武内P「……かも、知れませんね」


ちひろ「夏でも、冷房のせいで空気が乾燥しますもんね」

ちひろ「……乾燥すると、夏風邪を引きやすいですから」

ちひろ「元気で、頑張ってお仕事して貰わないと!」

ちひろ「ねっ♪ プロデューサーさん♪」ニコッ!


武内P「え、ええ……そう、ですね……」

949: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 22:03:31.07 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「んー……オイルは何にしようかしら」

武内P「千川さんにお任せします」

ちひろ「そうですか? それじゃあ……コレに!」

武内P「……」


…フオオォォ


武内P「……この香りは」


ちひろ「バニラの香りがするオイルにしてみました♪」


武内P「……良い、香りです」

武内P「これは、仕事が捗りそうですね」

950: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 22:07:34.71 ID:ax9yaK6jo
ガチャッ!

未央「おっはようございまーす!」

凛「……暑いのに元気だね。おはよう」


武内P「本田さん、渋谷さん、おはようございます」

ちひろ「おはようございます♪」ニコッ!


未央・凛「? この匂い……」


武内P・ちひろ「?」


凛「もしかして、さっきまでかな子が居た?」

未央「私達の食べる分とか、あったりしないの?」


武内P・ちひろ「……」

武内P・ちひろ「えっ?」

951: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 22:12:26.29 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「えっと……どうしてそう思ったの?」

未央「へっ? だって、お菓子の匂いがするし」

武内P「アロマディフューザーで使用しているオイルがバニラだから、ですね」

凛「んっ? あ……」


…フオオォォ


未央・凛「あ……あははは……!」

ちひろ「ふふっ! 二人ったら、もう!」クスクスッ!

武内P「……」


武内P「しかし……言われてみれば」

武内P「この香りは、三村さんを思い起こさせますね」


ちひろ・未央・凛「……」

ちひろ・未央・凛「えっ?」

952: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 22:18:11.93 ID:ax9yaK6jo
未央「プロデューサー、どういう事?」

武内P「三村さんの最近作ってくるお菓子は、バニラの香りが……はい」

凛「それで、バニラの香りを嗅いだだけで?」

武内P「……そう、なりますね」


武内P「三村さんは、まだ来ていませんが」

武内P「この、バニラの香りに包まれていると――」


…フオオォォ


武内P「――まるで、彼女がこの部屋に居るようだ、と」

武内P「……そう、思えてきます」


ちひろ・未央・凛「……」

953: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 22:23:21.01 ID:ax9yaK6jo
  ・  ・  ・

未央「……な~んて事をプロデューサーが言っててさ」

凛「かな子はどう思う? ちょっと失礼じゃない?」


かな子「えっ!?///」


CPアイドル達「……?」


かな子「あっ、ええっと……全然、嫌じゃないよ?///」

かな子「むしろ、一緒に居ると思って貰えるのは、その……///」

かな子「あ、あはは……まっ、マシュマロ美味しい~!///」


CPアイドル達「……」

954: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 22:28:24.82 ID:ax9yaK6jo
  ・  ・  ・

武内P「……すみません」

ちひろ「もうっ、あんまり迂闊な事を言わないで下さい!」

武内P「……はい」

ちひろ「どうするんですか?」


ちひろ「……この、沢山のアロマオイル」


ドッサリ!


ちひろ「全部使い切るのに、どれだけかかるか……」

武内P「……申し訳、ありません」

955: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 22:32:58.11 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「しかも、プロダクション内で流行っちゃったみたいですよ」

武内P「えっ?」

ちひろ「担当プロデューサーに、自分のイメージに合ったオイルを贈るのが」

武内P「そ、それは……」


ちひろ「ふふっ、凄いですね! プロデューサーさん!」

ちひろ「女の子の気持ち、バッチリ掴んじゃうなんて!」

ちひろ「アロマディフューザーの効果、早速出ましたね♪」ニコッ!


武内P「っ……!」

武内P「本当に、申し訳ありません……」

956: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 22:43:08.02 ID:ax9yaK6jo
武内P「ですが……本当に、そこまで……?」

ちひろ「聞きますか?」

武内P「えっ?」

ちひろ「これは、ある子と……ある担当の話です」


ちひろ「アイドルに、香水を選んで欲しいと言われたみたいなんです」

ちひろ「……担当プロデューサーは、その位ならお安い御用、って」

ちひろ「選ばれた香水を手にとったアイドルは、笑いながら言いました」


ちひろ「――うふ……これが、まゆにつけさせたい香水なんですねぇ」

ちひろ「――この香りのアロマで、離れていてもず~っと一緒……うふふ」


武内P「あ……ある子とある担当、と」

武内P「ぼかして言った意味が……なくなっていますね……!」

957: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 22:48:52.15 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「他にも、似たような話が沢山」

武内P「た、沢山……ですか」

ちひろ「楽しんで、ならまだ良いとは思うんです」

武内P「……はい」


ちひろ「プロデューサーさん」

ちひろ「――明日は、絶対このオイルを使って欲しい」

ちひろ「なんて、恥ずかしがりながらオイルを差し出されたんです」


ドッサリ!


ちひろ「私、どうしたら良いと思いますか?」ニコッ!


武内P「……え」

武内P「笑顔以外の……その、何かでお願いします……」

958: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 22:57:21.72 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「プロデューサーさん、責任を持って決めて下さい」

武内P「えっ!?」

ちひろ「驚いてないで、ちゃんと選んで下さい」

武内P「し、しかし……!」


ちひろ「安心して下さい」

ちひろ「誰が、どのオイルを持ってきたか、名前は書いてませんから」

ちひろ「パッケージを見て、パッと選べば良いんです」

ちひろ「ねっ、簡単な話でしょう?」ニコッ!


武内P「……!」

武内P「わ……わかり、ました……」

959: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 23:00:30.10 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「そうと決まったら、早くしましょう」

武内P「ええ、そうですね……」

ちひろ「仕事が捗る所か、滞っちゃってますから」

武内P「……面目ありません」


武内P「しかし、パッケージで選ぶとなると……」

スッ…


『カリスマ★』


武内P「…………」

武内P「……」


武内P「待ってください」

961: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 23:06:45.62 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「? どうかしましたか?」

武内P「このパッケージは、あまりにも」

ちひろ「これ……手作りシールですね」

武内P「中身も、オリジナルなのでしょうか……?」

ちひろ「これは……よく見てませんでした」


武内P「まさかとは思いますが、他の物も……」

スッ…


『○クロス大好き女子大生のイケナイ香り』


武内P「…………」

武内P「……」


武内P「とりあえず、候補は一つ減りました」

962: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 23:12:30.17 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「……よく見れば、これ全部」

武内P「同じ様に、手作りのシールが貼られていますね」


ちひろ「……」

スッ…


『プリンセスブルー』


…トンッ

ちひろ「選んで下さい♪」ニコッ!


武内P「待ってください!」

武内P「あの……どう考えても、角が立つのでは!?」

963: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 23:19:37.74 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「大丈夫ですよ、プロデューサーさん!」

武内P「何がですか!?」

ちひろ「アロマテラピーで、リラックス出来ますから♪」

武内P「正に、それがストレスになっている状況です!」


ちひろ「もうっ! じゃあ、コレにしましょう!」

スッ!


『カブトムシ☆』


ちひろ「…………」

…トンッ

ちひろ「どうして私も巻き込まれなきゃいけないんですか!?」カーッ!


武内P「すっ、すみません! すみません!」

964: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 23:32:39.34 ID:ax9yaK6jo
武内P「! 複数のオイルを使用する、というのは!?」

ちひろ「アロマディフューザーに垂らすのは数滴で良いんです!」


ドッサリ!


ちひろ「ブレンド、ってレベルじゃありません!」

武内P「待ってください……現在、企画中です」

ちひろ「……何をですか」


武内P「どんなに長く、暗いトンネルでも……出口は、きっとあります」

武内P「夜空に輝く星を隠す雲が、いつか晴れるように……」

武内P「……信じていれば、きっと道は開けるはずです」


ちひろ「プロデューサーさん……」

ちひろ「すみません、叩いて良いですか?」

965: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 23:39:51.68 ID:ax9yaK6jo
武内P「そもそも、アロマディフューザーを使用する目的」

武内P「それは、冷房による乾燥を抑えるため……ですね?」


ちひろ「でも、冷房を切ることは出来ませんよ」

ちひろ「暑さで体調を崩したら、元も子もありませんから」

ちひろ「……こんなにややこしくなる方がおかしいんです!」


武内P「……はい」

武内P「同僚プロデューサー達にも、迷惑をかけてしまいました」

武内P「なので……」


ちひろ「……?」


武内P「……すみません、千川さん」

武内P「全ての責任を取ろうと思います」

966: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 23:46:16.50 ID:ax9yaK6jo
  ・  ・  ・

ガチャッ!

CPアイドル達「おはようござ――」


ムワッ!


CPアイドル達「――蒸し暑っ!?」


武内P「皆さん、おはようございます」


ちひろ「……おはようございます」

ズラアア~ッ!


CPアイドル達「……それって」

CPアイドル達「全部、アロマディフューザー!?」

967: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 23:52:23.69 ID:ax9yaK6jo
武内P「……皆さん、すみません」

武内P「頂いたオイルを全て使用しよう、と」

武内P「……そう、考えたですが」


CPアイドル達「全て!?」


武内P「はい」

武内P「一人一人、違う個性を持つ皆さんが集まった時の……大きな輝き」

武内P「それをイメージした時、全て使用するべきだ、と」

武内P「……そう、思ったのですが」


CPアイドル達「……」


武内P「……湿度が上がりすぎてしまい、はい」

武内P「今、こうして換気をしている所です」

968: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/28(日) 23:58:28.47 ID:ax9yaK6jo
ちひろ「ごめんね、皆。暑いでしょう?」

CPアイドル達「あ、いや……」

武内P「素晴らしい香りでしたが、短時間で換気をする必要が」

CPアイドル達「……」


CPアイドル達「……ぷっ!」

CPアイドル達「あはははっ!」


未央「それでこんなに暑くなっちゃうなら、やめとこうよ!」

凛「そうだね。これじゃ、汗の匂いの方が気になっちゃう」


「えー!? ヤダー!」

「暑いのより、涼しい方が良いー!」


武内P・ちひろ「…………」

武内P・ちひろ「……!」グッ!

969: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/29(月) 00:09:22.27 ID:aAY9Mg7Uo
  ・  ・  ・

ちひろ「……一件落着、ですね!」

武内P「一時は、どうなることかと思いましたが……はい」

ちひろ「もう、発言には気をつけてくださいね?」

武内P「はい、肝に銘じておきます」


ちひろ「アロマディフューザーに囲まれた甲斐がありました」

ちひろ「……ただ、囲まれただけですけど、ね」


武内P「夏で、外の湿度も高いので何とかなりましたが……」

武内P「……秋から冬にかけての乾燥した時期でなく、良かったです」


ちひろ「オイル、どうしますか?」


武内P「……皆さん、気が済んでいた様子だったので」



武内P「蓋をして、しまっておきましょう」





おわり

979: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/29(月) 22:31:53.03 ID:aAY9Mg7Uo

「すみません……お手数をおかけしてしまって」


 夏合宿に向けて、プロジェクトクローネのメンバーで話し合いがありました。
 皆、それぞれ意見を出し合い、とても充実した合宿になるだろうと、
他人事の様にその光景を見ていた私に……声がかけられたのです。
 ニコニコと、照りつける太陽の様に眩しいその笑顔の方は、


 ――課題、一緒にやろー♪


 と、私がアイドルである以前に、大学生だったという事を思い出させました。
 ……忘れていた訳では無かったのです。
 ただ、日々の過ごしている時間が、今までの私が歩んできた人生と、
あまりに違いすぎるため、その刺激の前に霞んでしまっていたのでしょう。


「いえ、お気になさらず」


 通っている大学が違うので、彼女の申し出は丁重にお断り……出来ず、
合宿中の空き時間に、同じ机を囲むという約束が、
結ばれ、揺れた右の小指に、感触として未だ残っています。


「重要な事だと思いましたので」


 コミュニケーションを取る事はとても大切だと知り、
それ自体は問題なかったのですが……。


「……そう言って頂けると……」


 私は今、大学へと車で向かっています。
 助手席に座り、視線を彷徨わせながら。

980: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/29(月) 22:48:51.93 ID:aAY9Mg7Uo

「もう、夏季休業に入っているのでしょうか?」


 恐縮している私に、気を遣ってくれているのでしょう。
 あまり、こういった世間話をするイメージではありませんし、
私が言うのも何なのですが、どことなく、ぎこちなさを感じるからです。
 けれど、そうした気遣いには報いるべきだと思うので、
なけなしの社交性を振り絞り、会話を成立させるべく、言葉を紡ぎます。


「はい……私は、授業の関係上、もう……はい」


 ……何と、そっけない言葉でしょうか。
 紡ごうと思った筈の言葉は、がさつな少女が始めて編み上げたマフラーの様に、
穴が開き、段違いで不格好なものにしかなりませんでした。
 視線は膝の上に落ち、羞恥に頬が熱を帯びていくのがわかってしまいます。


「大学では、どの様な事を学んでいるのですか?」


 ……運転に集中しているからでしょうか。
 私のたどたどしい答えを意に介した様子は見られず、
続けて、次の質問が低い声で投げかけられました。
 それが、メンバーの方に聞いていた、ある場面の様で思わず、


「……オーディション、でしょうか?」


 と、自然と聞き返してしまっていました。
 ……後悔したのは、言うまでもありませんね。

981: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/29(月) 23:00:45.86 ID:aAY9Mg7Uo

「……」


 車が、その速度を落とし、ゆっくりと止まりました。
 それ程までの不興を買ってしまったのかと、恐る恐る、
下から覗き込むようにして様子を伺うと、


「っ!?」


 少し見開かれた目が、私へと向けられいたのです。


「す……すみません……」


 謝罪の言葉は、とても小さく、弱々しいものでした。
 ボイスレッスンの時、トレーナーの方にもしばしば注意されているのですが……。
 どうして、よりによって今……その失敗をしてしまうのか。
 変わりたいと思ったのに、これでは結局何も変わっていないのと同じ事です……。


「あ、いえ……こちらこそ、驚いてしまってすみません」


 えっ?


「驚いて……?」


 謝っていた筈なのに、逆に謝られてしまって。
 その驚きが、私に鸚鵡返ししか選ぶ事を許してはくれませんでした。

982: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/29(月) 23:20:51.49 ID:aAY9Mg7Uo

「はい」


 ゆっくりと、車が動き始めました。
 運転席側の窓からは、同じ様にゆっくりと動き出す別の車の姿が見て取れます。
 ……ただ、信号が赤だっただけ。
 そんな事にも気が付かない程、私は周りが見えなくなってしまっていたのですね……。



「まさか、冗談を言われるとは思っていなかったので」



 反省と、思考の海に潜ろうとしていた私の意識は、
予想していなかった言葉に、空中へと放り出されました。
 くるくると回転し、上下左右を確かめるのも困難な状態で、
助けを求められるものは何一つ、誰一人此処には存在していません。


「あ、いえ……」


 こういった誤解を解く時に、書の世界ではどんな会話があったか。
 考え、考え、考えていると……シートベルトの締め付けが、
私の体の向きが、いつの間にか前から横へとなっていたのを告げていました。
 慌てて、離れていた左肩をシートに付け、首だけを横に向けたのですが……。


「……」


 とても穏やかな、優しい笑みが目に飛び込んできたのです。
 それは、否定の言葉を紡ぐのを躊躇ってしまう程の衝撃で、
私をシートに深く座り直させる程のものでした。

983: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/29(月) 23:37:40.78 ID:aAY9Mg7Uo

「……とても、真面目な方だと思っていましたが」


 この言葉が、続きのあるものだとはわかっているのです。
 けれど、それを聞きたくないと思ってしまうのは、
ページをめくったその先に、悲劇が待ち受けている時の感覚に似ているかも知れませんね。
 書ならば、手を止め、心を落ち着かせる事も出来ます。


「……!」


 しかし、会話はそうはいきません。
 心の準備をする暇も、それを要求するだけの勇気も無いのですから。
 ただ、唇を引き締め、待つ。
 私に許された、出来るだけの行動は、他にはありませんでした。



「お茶目な面もあるのか、と……そう、思いました」



 放たれた言葉が、意外すぎて、



「ん゙っ゙!?」



 私の肺は悲鳴をあげ、空気が砲弾の様に打ち出され、



「だっ、大丈夫ですか?」



 引き締めていた唇に阻まれ、鼻腔に少し抜け……大きく、むせてしまいました。

984: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/30(火) 00:04:46.01 ID:IM/mAzJHo
  ・  ・  ・

「……落ち着かれましたか?」


 とても心配そうな声を聞いて、
先程のような失敗は、もう二度と繰り返すまいと心に誓いました。
 大きく息を吸って、吐き……呼吸をしっかりと整えます。
 そして、慌てることなく、ゆっくりと口を開きます。


「はい……ご心配をおかけしました」


 それが功を奏し、普段通りの調子で答えることが出来ました。
 本来ならば、何と言う事の無い、簡単なやり取りなのでしょうね。
 なのに、あんな失態を演じてしまったのは――


「もう、大丈夫です」


 ――申し訳なさが、重い枷となって身動きを取れなくしていたからでしょう。


「すぅ……ふぅ……」


 だから、今、ここで。
 その枷を外し……変わろうと思うのです。



「……オーディションなら、失格だったでしょうね」



 嘘から出た真……フィクションをノンフィクションに。
 事実は小説より奇なりと言いますが、
これは、私にとって……どんなファンタジーよりも信じられない冒険なのです。

985: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/30(火) 00:36:12.24 ID:IM/mAzJHo
  ・  ・  ・

「……」


 学内で、最も落ち着ける場所。
 沢山の書に囲まれ、喧騒とは切り離された静謐な空間。
 学ぶ、という目的のために存在する此処は、どこか厳かに感じられます。
 夏季休業に入り始めていて、人も普段より多くありません。


「……」


 目的の書架へと向かう足取りが軽いのは、自分でもわかっています。
 絨毯が、トス、トスと音を立てているのは、足がいつもより上がっているから。
 勿論、レッスンで鍛えられてきたから……という理由もあります。


「……」


 ……帰りは、どんなお話をしよう。
 さっき話した書の話の続き……?
 けれど、もしかしたら……他にも、同じ書を読んでいるかも知れないから……。
 ……早く、本を借りて戻ろう。


「~♪」


 合宿で練習する予定のクローネの全体曲が、自然と零れ出ていました。



「……」



 ……俯きながら、通路を引き返します。
 目的の書架を通り過ぎているのに……気付きませんでした……。
 出来るだけ体を小さくして……心の中で、謝罪を繰り返しているのですが。
 図書館の静けさは……しんっ、と私を叱りつけているようでした……。




おわり
 

990: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/30(火) 15:22:16.73 ID:IM/mAzJHo

「本当、最悪……!」


 梅雨も明けたって言うのに、突然のにわか雨。
 もうすぐ事務所に着く、と思ってた所へのどしゃ降り。
 逃げ込むようにして玄関ホールへと駆け込んだら、
それまで雨が降ってたなんて信じられない位、陽の光が照っていた。


「……何なの、もうっ!」


 ホールに他に誰も居ないのがわかり、悪態をつきながら鞄からタオルを取り出す。
 とりあえず、髪を拭かないと。
 外と違って、社内は全館冷房がきいてるから。
 こんなんで夏風邪を引くなんて、馬鹿みたいだし。


「……!」


 不機嫌で、指に力が入りそうになるのをこらえる。
 指の腹を使って、マッサージするように。
 ……とりあえず、これで平気かな。
 体を右に傾けて髪をまとめ、タオルで挟んで毛先の水分を吸収させていく。



「――渋谷さん?」



 遠くの方から、低い声。
 ちょっと驚くようにして調子が跳ねてたのは、何で?
 私が、ずぶ濡れだったから?
 それとも、こんな所で髪を拭いてるから?


「……おはよ」


 どっちにせよ、どうでも良いかな。
 今は、そんな事よりも濡れて貼り付いたシャツが気持ち悪い。

991: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/30(火) 15:43:55.67 ID:IM/mAzJHo

「おはようございます……」


 革靴と床が立てる音が、少し早足なのを教えてくれる。
 ……ちょっと、拭きにくい。
 左肩にかけた鞄が、今にもずり落ちそう。
 床に置けば良いんだろうけど、ここまで来てそうするのは、なんか負けた気分だし。


「ごめん、ちょっと持ってて」


 左手で鞄を持ち、前に差し出す。
 それに対する返事は無かったけど、すぐに左手が軽くなった。


「ありがと」


 ちょっと素っ気無かったかな、なんて思ったけど。
 別に、それでも良いかと思い直し、髪を拭くのを再開する。


「丁度、降られてしまいましたか……」


 ほら、ね?
 プロデューサーは、そういう細かい事、あまり気にしないから。
 それよりも、担当するアイドルの状態を気にするタイプ。
 だから私が今するべきなのは、髪を拭く事。


「……走ったんだけど、雨宿りすれば良かった」


 何て、ちょっと後悔はするけどね。
 この位の愚痴だったら、聞いてくれても良いと思う。
 だって、アンタ私のプロデューサーでしょ?


「……」


 鞄を持ってるから、右手を首筋にやれずに困ってる。
 ……別に良いでしょ、他の子には言わないから。

992: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/30(火) 16:02:34.06 ID:IM/mAzJHo

「あの……すぐに着替えた方が、良いのでは……」


 何だか、妙に歯切れが悪く言われた。
 そりゃ、確かにかなり濡れたけど……そこまでする必要ある?
 レッスンまでは、まだ時間があるし。
 着ておいて、ちょっとは乾かしたいんだけど。


「……いや、何?」


 なんて言おうと、プロデューサーの方を見ると。
 視線は合わず、どこか、違う所を見ているのがわかった。
 何を見ているのかと、その視線の先を追ってみても、何も無い。


「……?」


 ……意味がわからないけど、とりあえず他の場所を拭こうかな。
 髪を拭く時にタオルが当たってたけど、腕もしっかり。
 うわ、シャツの袖とか、絞れそうじゃない?
 プロデューサーの言う通り、レッスン着に着替えて、これは乾かして貰おう。


「うん、ちょっと先に着替えてくる」


 ネックレスが絡まない様に、首の後から沿うようにして首筋、鎖骨――



「――っ!?」



 プロデューサーを見る。
 その視線は、逸らされたまま。

993: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/07/30(火) 16:21:12.73 ID:IM/mAzJHo

「……鞄、ありがと」


 左手を差し出しながら、じいっと見つめる。
 相変わらず、こっちを見ようとはしない。


「い、いえ……当然の事です」


 それが、


「うん」


 なんだか、面白くなくて。



「――黒って、大人っぽすぎるかな?」



 ちょっと、からかってやろうと思った。


「えっ?」


 プロデューサーが、こっちを見る。
 そしてすぐに、慌てて横を向く。



「●●●」



 ……まあ、そうだよね。
 だって、黒じゃないし。
 ひったくるようにして鞄を受け取り、早足でその場を立ち去る。


「……」


 振り返られないのは、その必要が無いから。
 「見なくて良い」とか、「目を離さないで」とか……その、何て言うか。


「……!」


 ……そんなの、どっちだって良いでしょ!




おわり