2: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:21:09.44 ID:SiWHWqXY0
総選挙の結果が出た。
その結果に涙を流すアイドルがいて、笑い合うアイドルがいて、やむアイドルもいて、いつものように結果を受け入れるアイドルもいて。
俺の担当アイドル、工藤忍は涙を流す側だった。
その結果に涙を流すアイドルがいて、笑い合うアイドルがいて、やむアイドルもいて、いつものように結果を受け入れるアイドルもいて。
俺の担当アイドル、工藤忍は涙を流す側だった。
引用元: ・【モバマスSS】工藤忍「本当に、悔しかったから」
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3: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:22:06.57 ID:SiWHWqXY0
――ありがとう!みんな!
壇上で靴とティアラを受け取った、未だ高校生のシンデレラガールは泣いていた。
最上と言えるほどの輝きを放ちながら、しかし風格なんて大仰な雰囲気ではなく。いつも通りの親しみやすくて明るくて、仲間からの祝福を嬉しそうに受け取る彼女がその目尻を光らせていた。
輝きはまるで星のよう。今、一番素晴らしいアイドルとしてファンに選ばれていた。
そしてその両隣。
呆れたように。しかしそれ以上に嬉しそうにしながら拍手を送るアイドルと、青ざめた顔でがちがちの拍手を行う新人が花束を抱えてその結果を祝福している。
そしてさらに脇では先程まで壇上で喋っていた子供たち――二人共アイドルだ――が同じく称賛の拍手を叩いていた。
かくして一人の物語が美しく花開き、これからを期待させる結果となったのだ。
俺もすばらしいアイドルだと思う。去年だってシンデレラガールになってもおかしくないアイドルの一人だったのだ。
周りを見ればその魅力を褒め称える人間ばかりだ。
だから、流れる涙だって喜びの涙だけだろう。
忍は涙が流れる前に出ていったのだから。
4: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:22:59.64 ID:SiWHWqXY0
P「……ここにいたのか」
346プロの敷地内。レッスン室へ向かう途中にある階段の、隙間のほう。
発表とパーティーと、更けた夜が明かりを消していた。
そんな中で吐息と、声だけが聞こえる。遠くで光る電灯と非常灯だけがここにある明かりだ。おかげで見つけるのに苦労した。
忍「Pさん……」
P「明るいところへ、はちょっと無理そうか」
忍「うん……」
凹んだとき、明かりを消したがる。楽なのだ、何も見えないのは。
P「大丈夫か?」
忍「大丈夫じゃないかも」
P「理由を聞いても?」
忍「……」
淀む。言葉も空気も、くろいものがへばりついて汚れてしまいそうだった。
346プロの敷地内。レッスン室へ向かう途中にある階段の、隙間のほう。
発表とパーティーと、更けた夜が明かりを消していた。
そんな中で吐息と、声だけが聞こえる。遠くで光る電灯と非常灯だけがここにある明かりだ。おかげで見つけるのに苦労した。
忍「Pさん……」
P「明るいところへ、はちょっと無理そうか」
忍「うん……」
凹んだとき、明かりを消したがる。楽なのだ、何も見えないのは。
P「大丈夫か?」
忍「大丈夫じゃないかも」
P「理由を聞いても?」
忍「……」
淀む。言葉も空気も、くろいものがへばりついて汚れてしまいそうだった。
5: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:23:34.65 ID:SiWHWqXY0
忍「……アタシ、さ」
P「うん」
忍「……悔しいよ」
P「うん」
忍「……みんな、頑張ってたよ。未央ちゃんも、加蓮ちゃんも、りあむさんだって。ずっと、頑張ってた」
P「……そうだな」
知っている。同じように、毎日のように、同じ時間に帰っていたのだから。
今は暗いあの部屋を何度も一緒に見送ってきたのだから。
忍「でもさ。今回、さ。CDはだせなかったよ」
P「忍……」
忍「いつものことだって。だってそうじゃない。ずっと圏外だったし。順位表に載るのだって最近の話だから」
P「うん」
忍「……悔しいよ」
P「うん」
忍「……みんな、頑張ってたよ。未央ちゃんも、加蓮ちゃんも、りあむさんだって。ずっと、頑張ってた」
P「……そうだな」
知っている。同じように、毎日のように、同じ時間に帰っていたのだから。
今は暗いあの部屋を何度も一緒に見送ってきたのだから。
忍「でもさ。今回、さ。CDはだせなかったよ」
P「忍……」
忍「いつものことだって。だってそうじゃない。ずっと圏外だったし。順位表に載るのだって最近の話だから」
6: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:24:22.66 ID:SiWHWqXY0
でも、と。
声は段々とくぐもっていく。
忍「アタシさ。悔しいのもあるよ。でも、そうじゃない。今回は、そうじゃない」
暗闇の中で忍はどんな表情をしているのだろう。
暗くて、見えなくて助かったなんて薄情だろうか。
忍「だって、中間で、もしかしたらって。前と比べて、ずっと、ずっと」
忍「それで、もしかしたら、って」
P「もしかしたらっていうのは俺も感じていたよ」
忍「でも、ダメだったじゃん」
そうだ。彼女の声はとどこにも届けられなかった。
行く宛だけで、届けてくれるものはどこにもなかった。
忍「今日、さ。実は一人だったんだ。端の出口の近く。あずきちゃんたちに誘われたの断ってさ」
忍「しかた、ない、よね。だって、アタシ……」
P「……忍」
忍「笑っちゃうよね。アタシが一番、自分を疑ってた……」
結論から言えば、今回の結果だって胸を張って誇れるものだろう。
全体12位。cu部門でみれば4番目。間違い無く人気アイドルの一人として、数えられてもいい結果のはずだ。
疑っていたなんていうが、どちらかと言えばそれはもっと別のものだろう。
例えばそれは緊張であるとか。重圧であるとか。
期待、とか。
声は段々とくぐもっていく。
忍「アタシさ。悔しいのもあるよ。でも、そうじゃない。今回は、そうじゃない」
暗闇の中で忍はどんな表情をしているのだろう。
暗くて、見えなくて助かったなんて薄情だろうか。
忍「だって、中間で、もしかしたらって。前と比べて、ずっと、ずっと」
忍「それで、もしかしたら、って」
P「もしかしたらっていうのは俺も感じていたよ」
忍「でも、ダメだったじゃん」
そうだ。彼女の声はとどこにも届けられなかった。
行く宛だけで、届けてくれるものはどこにもなかった。
忍「今日、さ。実は一人だったんだ。端の出口の近く。あずきちゃんたちに誘われたの断ってさ」
忍「しかた、ない、よね。だって、アタシ……」
P「……忍」
忍「笑っちゃうよね。アタシが一番、自分を疑ってた……」
結論から言えば、今回の結果だって胸を張って誇れるものだろう。
全体12位。cu部門でみれば4番目。間違い無く人気アイドルの一人として、数えられてもいい結果のはずだ。
疑っていたなんていうが、どちらかと言えばそれはもっと別のものだろう。
例えばそれは緊張であるとか。重圧であるとか。
期待、とか。
7: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:24:59.68 ID:SiWHWqXY0
忍「……名前、呼ばれたくなかった。でも呼ばれたんだよ」
忍「……そっか、って。届かなかったんだって」
忍「……その後の、名前も聞いて、それで」
忍「……それで、飛び出していっちゃった」
知っている。涙が溢れる前に、出ていくのが見えたから。
P「……すぐ追いかけてやれなくてゴメンな」
忍「仕方ない、よ。お仕事だもん」
P「……俺も、忍の立場なら同じように感じていたかもしれない」
忍「……」
忍「……そっか、って。届かなかったんだって」
忍「……その後の、名前も聞いて、それで」
忍「……それで、飛び出していっちゃった」
知っている。涙が溢れる前に、出ていくのが見えたから。
P「……すぐ追いかけてやれなくてゴメンな」
忍「仕方ない、よ。お仕事だもん」
P「……俺も、忍の立場なら同じように感じていたかもしれない」
忍「……」
8: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:25:36.25 ID:SiWHWqXY0
だから。
忍がこの誇らしい結果を。
喜びではなく無念の涙で汚している事がわかってしまった。
忍「……Pさん。アタシさ」
忍「指がかかってたんだ……!」
忍「なんで……?アタシでも良かったじゃない!」
忍「だって、もう少しで……ッ!」
忍「その順位の人たちだって、もうCD、出してるじゃない!」
忍「なら、アタシで、よかったじゃん! アタシでもよかったじゃん!」
忍「アタシだって、よかった、じゃん……」
P「忍……」
血を吐くような言葉だった。
忍がこの誇らしい結果を。
喜びではなく無念の涙で汚している事がわかってしまった。
忍「……Pさん。アタシさ」
忍「指がかかってたんだ……!」
忍「なんで……?アタシでも良かったじゃない!」
忍「だって、もう少しで……ッ!」
忍「その順位の人たちだって、もうCD、出してるじゃない!」
忍「なら、アタシで、よかったじゃん! アタシでもよかったじゃん!」
忍「アタシだって、よかった、じゃん……」
P「忍……」
血を吐くような言葉だった。
9: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:29:46.90 ID:SiWHWqXY0
本来なら、口にしてはいけない言葉だ。
少なくとも、そんな事考えるだけでもダメな事だと思う
払ってきた努力も、彼女が勝ち得たすばらしさも、すべて台無しにしてしまうだろう。
止めなきゃいけない。その先を言わせてはいけない。
でも
P「……それでも、俺は忍が誇らしい。なんていっても慰めにもならないな」
顔を覆う彼女をどう救えばいい?
少女のように泣きわめく彼女をどう慰めればいい?
彼女の抱いた気持ちを、どうしてやればいい?
叱り飛ばすのは簡単だ。
なんてったって正しい。悔しい思いをして、悲しい気持ちになって、それでもそれを言うのはいけないことだと思うし、彼女の努力を彼女に否定させちゃいけない。
だから、叱り飛ばすのは正しいはずだ。たとえ今の彼女が救われなくたって、すでに忍は自分の気持ちがどういうものなのか気づいている。それがわかっているから会場を飛び出した。
少し時間がたてば愚かだったと。もっと大切にするものがあったと反省するだけの冷静さを取り戻すだろう。
ファンに向かって、素晴らしい結果を持ち帰ることができたのだと胸を張れる。
今ないがしろにした彼女のファンと、他にもたくさんの人を、大切にしなきゃいけないのだから。だから今回の結果に対して悔しさを感じてもそれをバネにして一層頑張るんだと。そう言える子だし、そうしてきた子だ。
少なくとも、そんな事考えるだけでもダメな事だと思う
払ってきた努力も、彼女が勝ち得たすばらしさも、すべて台無しにしてしまうだろう。
止めなきゃいけない。その先を言わせてはいけない。
でも
P「……それでも、俺は忍が誇らしい。なんていっても慰めにもならないな」
顔を覆う彼女をどう救えばいい?
少女のように泣きわめく彼女をどう慰めればいい?
彼女の抱いた気持ちを、どうしてやればいい?
叱り飛ばすのは簡単だ。
なんてったって正しい。悔しい思いをして、悲しい気持ちになって、それでもそれを言うのはいけないことだと思うし、彼女の努力を彼女に否定させちゃいけない。
だから、叱り飛ばすのは正しいはずだ。たとえ今の彼女が救われなくたって、すでに忍は自分の気持ちがどういうものなのか気づいている。それがわかっているから会場を飛び出した。
少し時間がたてば愚かだったと。もっと大切にするものがあったと反省するだけの冷静さを取り戻すだろう。
ファンに向かって、素晴らしい結果を持ち帰ることができたのだと胸を張れる。
今ないがしろにした彼女のファンと、他にもたくさんの人を、大切にしなきゃいけないのだから。だから今回の結果に対して悔しさを感じてもそれをバネにして一層頑張るんだと。そう言える子だし、そうしてきた子だ。
10: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:30:16.40 ID:SiWHWqXY0
でも。救われないのだ。
魅力的だと今だって思ってる。涙を流して苦しいと呻く彼女を見ると自分の力不足を呪いたくなる。
悔しいって、思う。
だけどなにより。
忍「くやしいよぉ……」
泣き腫らすその目に指を落としたい。目尻の涙をすくって、このどこへ向ければいいのかわからない気持ちをどうにかしてあげたい。
無力を嘆く彼女に何をしてやれるのかはわからない。
けれど、このどこにも向かえない感情を、切り捨ててしまいたくはなかった。
11: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:30:45.33 ID:SiWHWqXY0
P「……歌わせてあげたかった」
忍「……うん」
P「……忍は、魅力的なんだ。それを証明してあげたかった」
忍「……うん」
P「ごめんな。泣かせたよ」
忍「……アタシこそ、ごめんなさい」
P「違う。忍が謝る必要なんてない」
もし力が足りないのだとしたら俺の方。
だから、だけど。
忍「……うん」
P「……忍は、魅力的なんだ。それを証明してあげたかった」
忍「……うん」
P「ごめんな。泣かせたよ」
忍「……アタシこそ、ごめんなさい」
P「違う。忍が謝る必要なんてない」
もし力が足りないのだとしたら俺の方。
だから、だけど。
12: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:31:24.83 ID:SiWHWqXY0
P「なぁ、忍」
忍「……うん」
P「明日から、どうする? レッスンと、3日後には仕事だ」
忍「……やる」
P「休みにできる。しんどいだろ」
忍「…………やる」
P「……つらくないか?」
忍「……つらい」
P「苦しくはないか?」
忍「……しんどい」
P「……アイドル、続けられるか?」
忍「……続ける」
P「……頑張れそうか?」
忍「……頑張る」
P「そっか……」
泣きわめきながら、彼女は歩こうとしている。それが答えだった。
つらくて、苦しくて、確証はなくて、心が折れそうになって。
それでも、努力する。
ゴールの見えないマラソンだというのに足を止めようとはしない。
夢のために立ち向かえる彼女だから俺は――
忍「……うん」
P「明日から、どうする? レッスンと、3日後には仕事だ」
忍「……やる」
P「休みにできる。しんどいだろ」
忍「…………やる」
P「……つらくないか?」
忍「……つらい」
P「苦しくはないか?」
忍「……しんどい」
P「……アイドル、続けられるか?」
忍「……続ける」
P「……頑張れそうか?」
忍「……頑張る」
P「そっか……」
泣きわめきながら、彼女は歩こうとしている。それが答えだった。
つらくて、苦しくて、確証はなくて、心が折れそうになって。
それでも、努力する。
ゴールの見えないマラソンだというのに足を止めようとはしない。
夢のために立ち向かえる彼女だから俺は――
13: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:31:52.96 ID:SiWHWqXY0
忍「……でも、今は頑張れないから」
P「……うん」
忍「……ちょっとだけ、泣かせて……」
明日から、一層努力するだろう。きっと今日の気持ちを胸に秘めたまま。
間違いで、しかしどうしようもない気持ちを美しいものに変えられるように。
その後、肩から大きな鳴き声があがった。
P「……うん」
忍「……ちょっとだけ、泣かせて……」
明日から、一層努力するだろう。きっと今日の気持ちを胸に秘めたまま。
間違いで、しかしどうしようもない気持ちを美しいものに変えられるように。
その後、肩から大きな鳴き声があがった。
14: ◆3xQXQ8weeA 2019/08/25(日) 02:32:24.43 ID:SiWHWqXY0
-fin-
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