1: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:21:02 ID:nYv

引用元: 【デレマスSS】森久保乃々「恩返しの日」 



2: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:24:13 ID:b9F


見上げていた

手の届かない場所で光り輝く

その星たちを見上げ

俺はなぜか泣きながら

星の光差す舞台を

見上げていた



3: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:24:50 ID:b9F


休日の朝 P宅にて


ドタドタドタッ


佐久間まゆ「あら?」

ガラッ

P「あああっ! やべぇ! 寝坊したっ!」

まゆ「……うふ。おはようございます。Pさん」

P「お。おはよう、まゆ。朝から洗濯してくれてるのか。ありがとな」

まゆ「いえいえ。好きでやってることですから♪」

P「あー、あとスマンが今朝は俺の分の朝ごはん無しにしておいてくれ。ちょっと人と約束があってな。食べてから出る時間が……」

まゆ「乃々ちゃんとデートですよね?」

P「おうっ!?」

まゆ「知ってますよぉ……。でも何も食べずに出かけるのは良くないですから……小さなおむすびを一つ作っておきました。途中で食べてください。……どうぞ♪」

P「お、おう。さんきゅな……。ていうかその……とがめないのな?」

5: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:26:02 ID:b9F

まゆ「?」

P「乃々とその……デート? みたいな?」

まゆ「ああ……! そうですね……乃々ちゃんですから♪」

P「な、なるほど?」

まゆ「それにまゆは……Pさんとの運命を信じていますから♪」

P「な、なるほど」

まゆ「それはさておき、お寝坊の原因は昨晩の飲み会ですよねぇ……。
だめですよぉ。せっかく乃々ちゃんが勇気を出してPさんを誘ってくれたのに前日に深酒なんて……」

P「う……。す、すまん。か……早苗さん達に強引に誘われて断り切れなかったんだよ。翌日の約束が気にはなってはいたんだがな……」

まゆ「うふ。謝罪と言い訳は……三時間前に待ち合わせ場所に向かった乃々ちゃん本人にしてあげて下さい♪」

P「げ!? そんな早くに出て行ったのか、あいつ」

まゆ「まぁ、他の皆さんに見咎められないように……っていうのが理由の半分くらいはあると思いますが……」

P「……他の皆さんというか……そこにまゆも含まれているのでは」

まゆ「まゆは含まれませんよぉ。事前に相談されてましたから」エヘン

P「……仲いいよなお前たち」

まゆ「マブですよぉ」

P「マブダチかー……」

6: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:26:47 ID:b9F

まゆ「あら。そうこうしてるうちに時間が……」

P「げ。マジだ。やっべ。全力で走っても間に合わないかも。じゃあ行ってく」

まゆ「あ、待ってください。携帯を忘れてますよぉ」

P「おお。ほんとだ」

まゆ「ハンカチとティッシュも」

P「おおう。すまん。すげー助かる」

まゆ「Pさんは忘れ物……物忘れが激しいですから……」

P「そ、そんなことはないぞ?」

まゆ「…………」

P「ま、まゆがっ! ハイライトの消えた笑顔でっ!?
ほ、ほんとだぞっ! ちょっとうっかりすることは多いかもしれないが、本当に大事なことは忘れないから! たぶん!」

まゆ「……うふ。知ってますよぉ」

P「と言いつつ微妙に笑顔が冷たいっ! 冷やしままゆ始めましたっ!?」

まゆ「なんですかそれは……」

P「ってこんなことしてる場合じゃなかった! 時間! 行ってきますっ!」

ガチャ

まゆ「ちなみに、ここにPさんの大事なお財布が……」

P「忘れてたぁ! っていうかやっぱりデートのこと微妙に怒ってません? まゆさん!?」

まゆ「うふ。怒ってませんよぉ♪」

7: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:27:20 ID:b9F


※   ※   ※   ※   ※


ズルズル……

星輝子「ふぁぁ……。うん? 行ったのか? 親友」

まゆ「ええ。ってそんなにパジャマの裾引きずって……もう」オリオリ

輝子「フヒ……すまない……。スンスン……。ん。なにか……いい匂いがする」

まゆ「朝ごはんですよ。ちょっと遅めですけど」

輝子「おお……」

まゆ「食べられるようにしておくので、二階のお姉さん達も起こしてきてください」

輝子「りょ、了解……! に、任務了解! フ、フフフ。あっさごはん……あっさごはん……♪」フラフラ

まゆ「さて、今日も一日、頑張りましょう」


9: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:28:51 ID:b9F

※   ※   ※   ※   ※


待ち合わせ場所
駅前広場


タッタッタッ……


森久保乃々「……あっ」

P「す、すまん! 遅れたっ!」ゼハーゼハー

乃々「い、いえ……。Pさん、少しだけ遅れそうだって、まゆさんから連絡があったので……。
むしろ思ったよりも早かったですし……お休みの日にお時間いただいたのはもりくぼのわがままですし……」

P「いやいや本当にごめん。っていうか気配りすげーな。まゆ……」

乃々「……あ、あの。これ……どうぞ」

P「うん? おお。お茶か。助かる。ありがとう」

乃々「いえ……」

P「ん。落ち着いた。香ばしいお茶だな。美味い。水筒も小っちゃくて可愛いな」

乃々「黒豆茶です。は、肇さんにお勧めして頂きました……。水筒も美玲ちゃんお勧めの……おしゃれな輸入雑貨屋さんで買いました……」

P「ほー。色々あるもんだなー。サイズは500mlよりも小さいか?カバンにちょっと入れるのに良さそうだな」

乃々「…………」

P「うん? どうした?」

11: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:29:51 ID:b9F

乃々「い、いえ……。では行きましょう……」

P「おう。……そういえば今日はどこに行くんだ? 目的地諸々は考えてあるから特に何も用意せずに来てくれ…って話だったよな」

乃々「あ。はい。今日は色々と……。まずは映画を見る予定なのですが……まだ時間があるので……。
あ。……少し待ってて下さい」タッタッタッ…

P「うん?」

P「…………」

P「おいて行かれた」

P「…………」

P「あ。戻ってきた」

乃々「……お、お待たせしました。……どうぞ」

P「……えーっと。これは……クレープ? ……え? なんで?」

乃々「Pさん……朝からほとんど何も食べてないと聞いていたので……。
な、何もお腹に入れないまま映画を観るのはつらいかなと……思い……まして」

P「買ってきてくれたのか……」

乃々「…………」コクン

P「……ありがとうな。ちょっと驚いたけど……うん。助かる」

乃々「…………」ムフー

P(……なんか……満足気だ)

12: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:30:18 ID:b9F

P「お。バナナ多めだ。腹にたまりそうでいいな。それに美味そうだ」

乃々「かな子さんと志保さんに教えてもらった美味しいお店が近くにあったので……」

P「ほーう。あ。代金はいくらだ? えーっと、小銭あったっけな……」

乃々「お、お金は……いらないんですけど」

P「へ?」

乃々「も、もりくぼの……今日はもりくぼのおごり……です!」

P「いや、そういうわけにも」

乃々「映画のチケットもすでに買ってあります」フンス

P(ドヤくぼだ!)

乃々「他にも食べたいものや飲みたいもの……欲しいものがあったら言って欲しいんですけど。お、おごるので……!」

P「普通逆じゃない? 性別的に……はともかく年齢とか立場とか……」

乃々「で、でも……ほら……今日はもりくぼ……お、お金持ちなので!」パカ

P(……取り出したファンシーなお財布の中身は……一万円札一枚と五千円札一枚……あと千円札が何枚か。……なるほど確かに乃々くらいの子が持つにしてはそこそこ大金なのかもしれない)

13: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:30:44 ID:b9F

乃々「もりくぼお金持ちですから……なんでも買ってあげるんですけど」フンス

P「…………」

P「……ヒモかな?」

乃々「え?」

P「いやいや、何でもない。けどまぁ、うん。今の所、特に追加の希望はないかな」

乃々「……そうですか」シュン

P(落ち込むのか……)

P「……あれ? そういえばクレープ、乃々の分は?」

乃々「…………。はっ!」

P「忘れてたのかよ」

乃々「も、もう一度行って買ってきま…」

P「あー。じゃあこれ二人で分けようぜ。嫌じゃなかったらさ」

乃々「……ふぇ!? そそそ、それは……! い、嫌なわけが……でもそれはPさんの朝ごはんで……」

P「多分映画館内にも色々売ってるだろう。ドーナツとかポップコーンとかホットドックみたいなのとか。
これ二人で分けたらそういうのも食べられるかもしれないしさ。な?」

乃々「……! な、なるほど! そういうことならまかせて下さい」

P「じゃあ、適当に分け」

乃々「欲しいもの……全部買ってあげるんですけど!」グッ

P「…………」


※   ※   ※   ※   ※

14: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:31:15 ID:b9F

3時間後


乃々「……お、面白かったですね?」

P「おー。ハリウッドで実写化って聞いた時はどうなるかと思ったが、普通に面白かったな」ゲプッ

乃々「可愛かったですし……」

P「なー。技術の進化ってすごいわ」ウップ

乃々「……で、次は何を食べたいですか?」

P「……確かにお昼の時間だけど、めっちゃ色々食べさせていただいたんで、まだあんまりお腹空いてないですねぇ!」

乃々「じゃあお昼は軽く屋台やテイクアウトで済ませましょうか……。
この近くだと……ハンバーガー屋さんか、みくさんお勧めのたこ焼き屋さんですね……」

P「…………」

乃々「どっちが……あ。両方買ってきますね。近くに公園があるので……そこで待ってて下さい」キリッ

P「なんでそこまで餌付けようとするんっ!?」

乃々「ベンチの数は限られているので……席とりはお任せしました。では」

P「会話しよう!?」

乃々「たこ焼きの味付けは……全種類買ってこれば問題ないですね」

P「待って! ついていく! 某不安だからついていく!」

乃々「……でも席とり」

P「最悪公園の地面に直接座ってもいいから! 一緒に買いに行こう! な!」

乃々「…………」

P「なんで微妙に不服そうなん!?」


15: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:31:55 ID:b9F

※   ※   ※   ※   ※


大きな池のある公園にて


乃々「……本当にそれだけでいいんですか? もっと買ってもいいんですよ?」

P「十分っス! テーブル設置してある公園で助かったけど、この量広げてると目立ってしゃあないっス!」

乃々「たまに通りがかる人たち、大体2度見してますね……」

P「ハンバーガーのセット2人分に、たこ焼きのお舟、6つはさすがになー……」

乃々「つい張り切り過ぎてしまいました……」

P「俺がハンバーガー屋に並んでる隙にたこ焼き買いに行ってたのは予想外だった」

乃々「お醤油とワサビの和風たこ焼きも……美味しいですね」モグモグ

P「ソースとかマヨネーズとか出汁付きとかチーズ盛りとか、色々あるんだな~」モグモグ

乃々「あ。そういえば……ハンバーガーはおいくらでした? そっちももりくぼが……」

P「いやいや、これくらい自分に出させてくれよ。っていうかタコ焼き代も俺が払うぞ?」

乃々「……今日はもりくぼが全部出すつもりだったので……それは……」フイ

P「頑なだな!? さっきも聞いたけど、なんなん? 今日のゴチくぼはなんなん!?」

16: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:32:34 ID:b9F

乃々「……今日は……その……」

P「?」

乃々「……その……恩返しの日……なので」

P「恩返し?」

乃々「……はい。Pさんと出会って……Pさんにつかまって……今まで……色々なことがありました」

P「…………」

乃々「つらいことや……楽しいこと……面白いこと……悲しいこと……そして……つらいこと……」

P「つらいこと2回言った」

乃々「今まで流されるように……必死で……日々を過ごしてきたので……落ち着いて考えることもなかったのですが……。
先日、ソロのCDを出していただいて……。それを自分の手に取った時……そしてそのCDの感想を……お友達や家族やファンの方々……アイドルのみなさんからいただいた時……初めて、ふと思ったんです……」

P「…………」

乃々「ああ、恩返しをしたい……ここに連れてきてくれたPさんに……もりくぼに色々なものを沢山くれた……大切な居場所を与えてくれたPさんに……お礼をしたい……って」

P「…………」

乃々「だから今日は……みなさんに相談して……もりくぼなりに考えて……おもてなしを……ってなんでテーブルに突っ伏してるんですか……Pさん……」

P「……いや……ちょっと……」

乃々「?」ツンツン

17: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:33:07 ID:b9F

P「な、なんでもないです。なんでもないので気にしないで下さい……! ソースが目に入っただけなのです」

乃々「どんな食べ方したんですかっ!?」

P「…………」

P(……いやいやいや……不意打ちでそんなこと言われたら……恥ずかしいやら、驚くやら……涙腺にくるやらで、正面から顔を合わせられるかっつーの!)

乃々「…………」

P(今朝からのもりくぼの謎ムーブはそういうことだったのか……。まゆがああいう態度だったのもそういうわけか……)

P「…………」

P(……っていうかさー。嬉しいのは嬉しいよ。けど、恩返しってなんだよ。恩返しって……)

P「…………」

P(……そんなもん、俺の方がしたいくらいだっつーの!)

P(乃々に会って……乃々達、アイドル達と出会って、誰よりも幸せだったのは……幸せになったのは……救われたのは……俺だっつーの。
毎日毎日、今なお日々救われ続けてるのは俺の方だっつーの)

P(礼を言わなきゃならないのは……恩返ししなきゃならないのは……他でもない、俺自身だっつーの!)

18: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:33:52 ID:b9F

P(…………)

P「……あのさ……乃々……俺にも……俺からも言わせてくれ」

P(…………)

P「その……今まで……ありがとうな。本当にありがとう」

P(…………)

P「お前と会えてよかった。出会えてよかった。本当に、心からそう思う。……ありがとう」

P(…………)

P「そして……お前が嫌じゃなければ……これからもずっと……ずっと一緒に……」

P(…………)

乃々「ドネルケバブ売ってたので買ってきました」

P「いつから居なかったっ!?」ガバッ

乃々「? 『どんな食べ方したんですかっ!?』あたりから?」

P「最初からっ!? 恥ずっ! 恥ずかしっ! 俺一人でたこ焼きに囲まれながらぶつぶつ呟いてたんっ!?」

乃々「呟いてたんですか? ……何を?」

P「……! なんでもない! なんでもねぇよっ!」

乃々「? そうなんですか? ……あ。これも美味しいですね。さすがいつきさんのお勧めなんですけど」

19: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:34:15 ID:b9F

P「そして聞き逃すとこだった! また買ってきたんか! しかも結構ヘヴィそうなのを!」

乃々「だっていつきさん……ケバブは別腹って……」

P「体育会系の言うことを真に受けるんじゃありません!」

乃々「ちなみにタコ焼きは飲み物だって」

P「それは……いつきが? それともみくが?」

乃々「七海ちゃんが言ってました」

P「七海がかっ!」

乃々「……これ全部食べ終わったら……近くにアイスクリームのお店があるので買ってきて、そこの池の周りの原っぱで……しばらくのんびりしませんか?」

P「……デザートと休憩のお話は魅力的だが……まずはこのタコ焼き船団を片付けてから……だな」

乃々「……まぁずあたっく」

P「乃々のノルマは半分な。それくらい食べてくれたら……後はまぁ何とかなるだろう」

乃々「…………」

P「……うん? どうした? じっとこっちを見て」

乃々「いえ……」

P「?」

乃々「…………」

P「…………」

乃々「も、もりくぼも……」

P「…………」

乃々「もりくぼも……会えてよかったですよ」ポソ

P「…………」

P「…………」

P「!?」


20: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:34:50 ID:b9F

※   ※   ※   ※   ※


「……さん……さん……さん」

P「…………」

「……さん……Pさん……Pさん!」

P「ん……」

乃々「……む、無視しないで欲しいんですけど……」

P「……ああ、すまん。ちょっと寝てた」

乃々「……食後すぐ寝ると体に悪いそうですよ……」

P「……わかっちゃいるんだけどなぁ……。ふぁ……。あ。アイス買ってきてくれたんだ」

乃々「はい。……あの……原っぱに寝っ転がったままじゃ……渡せないんですけど……」

P「ん~~……。動きたくない」

乃々「えぇ……」

P「しかしここ、いい場所だな。結構都心……つーか繁華街近くにあるのに……四方分厚い樹木に覆われてて……車の音もほとんど聞こえてこない……。
聞こえてくるのは鳥の鳴き声と……水の音くらい……静かで……眠い……」

21: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:35:18 ID:b9F

乃々「あ、あの……。はやく受け取っていただかないと……と、とけちゃうんですけど!」

P「こんな公園あったんだな……」

乃々「…………。初めて来たんですか?」

P「ん? どうだったかな……。どこかで見たことある景色な気も……いや、たぶん……初めてぇっ!?」

乃々「スプーン貰ってきて正解でした」

P「急に口に突っ込まれるとは思わなかった」

乃々「これで寝たまま食べられますね。むしろ動かないで欲しいんですけど」

P「……なんか介護されてる気分。ていうか……」

乃々「?」

P「……乃々におごってもらったりお世話してもらうのに慣れてきてる自分がいるな……」

乃々「……良い傾向です」

P「そうかぁ?」

乃々「はい。あーん……」

P「あーん」

乃々「…………」

P「美味しい」

22: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:35:43 ID:b9F

乃々「……ちょっと楽しい」

P「……やっぱり罪悪感と背徳感あるな。人として」

乃々「まぁまぁそう言わずに……」

P「乃々がノリノリだ!」

乃々「あーん……」

P「わかった! 起きる! ちゃんと一回起きて自分で食べるから!」

乃々「えぇ……」

P「このままじゃ人間ダメになる」

乃々「…………」

P「今更?って顔やめて」

乃々「手遅れだと思うんですけど」

P「言われた!?」

乃々「はい。あーん……」


※   ※   ※   ※   ※


23: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:36:13 ID:b9F

「……さん……さん……さん」

「…………」

「……お、お兄さん。そんなところに寝転がってたら……風邪をひきますよ」

「…………」

「…………」

自暴自棄だった。
むしろ寝たまま凍えて死んでしまいたかった。
自分が嫌で、現実が嫌で、全てが嫌で、独りになりたくて。
それで自分は、偶然見つけた公園のど真ん中、大の字になって寝そべっていたのだ。

「……む、無視しないで欲しいんですど……」

そんな俺に話しかけてきたのは……見知らぬ少女だった。

「うう……」

年のころは……よく分からないが……幼い。
まだ小学生くらいだろうか。
おどおどとした小動物のような雰囲気に、泳ぎ、落ち着かない視線。
ふわり柔らかそうな髪は、少しウェーブ掛かり、色素が薄い。
身に着けた衣服はひらひらとしたレースやリボンに彩られ……。
見るからに可愛がられていそうな、お人形さんのような少女だった。

24: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:36:39 ID:b9F

「…………」

「…………」

「お兄さんはな……今、死んでしまいたい気分なんだ……」

「へ?」

「……話せば長くなるんだがな……。昨晩飲み会で好きだった女の人にフラれたんだ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……ここは『短っ!』ってツッコむところだ」

「ええっ!?」

「…………」

「…………」

「……死にたい。いやまぁ、告ったわけじゃなく、告る前に手の届か居ないところに行っちゃうことが確定しただけなんだけど……。
もう大学行きたくない。引きこもりたい。
いや引きこもるのもツライ。やっぱりもう死にたい……」

「ええ……」

25: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:37:05 ID:b9F

「わかってはいたんだよ……。不釣り合いだしな……。高嶺の花ってことは……。
わかってたんだよ……。けどさぁ……あんなに優しくされたら……フランクに接されたら……惚れちゃうじゃん? 勘違いしちゃうじゃん?」

「はぁ……」

「ううう……。死にたい。もう死にたい。そこの端っこに落ちてる石で俺を殴って殺してくれぇ……」

「む、無理ですよ!」

「ああ、所詮俺なんて……何のとりえもないし……あの人は……あの人とは……住む世界が違うんだ……」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………!」ナデ

「!?」

「…………」ナデナデ

「……見知らぬ女の子に撫でられた」

「…………」

26: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:37:36 ID:b9F

「…………」

「……難しいことは分かりませんが……死んじゃダメだと……思います」

「…………」

「離れたところにいる人なら……近づいて行ったらいいじゃないですか……」

「…………」

「がんばって背伸びをすれば……。ちょっとずつでも近づいていけば……そのうちきっと……」

「…………」

「だから……その……」

「…………」

「…………」

「うう……」

「…………」

「…………」

「……よし」ムクリ

「あ」

「……暗くなってきたし帰るか」

「…………」

27: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:38:03 ID:b9F

「ありがとう。少し元気出たよ」

「……!」

「明日からまた頑張ってみる。とりあえず彼女とは良き友人になれるよう心掛け……あとは勉強して業界に就職かなぁ……いやでも……芸能界はなぁ……」

「…………」

「ともあれ死ぬのはやめにするよ。怖いしな」

「……それがいいと思います」

「まぁ、俺の恋路が……人生がうまくいくように祈っておいてくれ。
ダメっぽかったらこの公園の真ん中の池に冷たくなって浮かぶかもしれん」

「ええっ!? そ、それはちょっと……」

「ははっ。たぶん冗談だ」

「たぶん」

「おそらくきっと!」

「…………」

「…………」

28: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:38:26 ID:b9F

「…………」

「…………」

「……じゃあ、帰るか。君は? 近くの子? 送っていくよ」

「…………」

「……どうしたんだ?」

「お兄さんは……」

「うん?」

「お兄さんはどうして私が声をかけたんだと……思いますか?」

「へ? どうしてって……えーっと……好奇心……とか?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……さぁ、帰りましょう」

「あれ? 答えは?」

「…………」

「…………」

「……さぁ、なぜでしょうね」


※   ※   ※   ※   ※


29: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:38:52 ID:b9F

「……さん……さん……さん」

P「…………」

「……さん……Pさん……Pさん!」

P「ん……」

乃々「……む、無視しないで欲しいんですけど……」

P「……ああ、すまん。ちょっと寝てた」

乃々「……ちょっとどころか……一時間近く寝てたんですけど……」

P「げ。マジ?」

乃々「アイスを食べきる前に、ぷっつりと……ぐっすりと……」

P「マジかー……。ほんとだ。もうこんな時間か」

乃々「……気持ちよさそうに寝ていましたが」

P「そうなん? ……確かに気持ちよかったかも。
っていうか夢を見たな……。それで、すげー大事なことを思い出した気がする」

乃々「……大事なこと?」

P「……おう。そうだな」ナデナデ

乃々「……撫でられた」

30: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:39:17 ID:b9F

P「…………」

乃々「…………」

P「あらためて、ありがとうな。乃々」

乃々「……こちらこそ……ありがとう……ございます?」

P「乃々にはいつも救われてばかりだ」

乃々「それは……もりくぼも……同じです……」

P「…………」

乃々「…………」

P「じゃあ……そろそろ帰るか」

乃々「……はい」

P「…………」

乃々「あ」

P「うん?」

乃々「ついつられて「はい」と答えてしまいましたが……まだこの後の予定が……」

P「あ。まだあったんだ。そりゃ、寝ちゃって悪かったな。
もう夕方だけど……時間大丈夫か?」

乃々「……むしろもういっそのこと……朝帰り……」

P「しないからね!?」

乃々「……冗談なんですけど」

P「そういうことは目を合わせて言って欲しいな!」

31: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:39:42 ID:b9F

乃々「……実はこの後、ゆっくりご休憩できる場所をとってあるんですけど……」

P「舌の根も乾かぬうちに肉しょくぼだなぁっ!?」

乃々「……大丈夫です。なにもしませんから?」

P「色々おかしくてもうどこにどう突っ込んでいいのか」

~♪

乃々「……あ。まゆさんから電話が」

P「ひぃっ!?」

ピッ

まゆ『……ダメですよぉ?』

P「なんで状況把握してるんっ!?」

まゆ『…………』

P「無言!」

まゆ『…………』

32: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:40:24 ID:b9F

ピンポーン

まゆ『あら、お客さん。じゃあ、まゆはこのくらいで……』

P「もうっ!? 何のために電話してきたん?」

まゆ『…………。……ああ、忘れるところでした。…………。
帰りにおネギを買ってきてもらえませんか。うっかり忘れてしまって……』

P「今考えなかった?」

乃々「りょ、了解、です」キリ

P「素直なのな」

まゆ『お夕飯はカレーとサラダと……すき焼きですよぉ』

P「ネギのためにすき焼きねじ込んでない?」

まゆ『……まゆとの電話中に他のアイドルの名前を出さないでください。それも……好きだなんて……』

P「凪じゃねーよ! そのハイライト消えてそうな声やめよう!? 理不尽っ」

乃々「Pさんは……姉派」

P「だーかーらー!」

まゆ『うふふ。それでは……お待ちしてますねぇ』プツ

P「あ。切れた」

乃々「……切れる……若者……」

P「………」


※   ※   ※   ※   ※

33: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:41:01 ID:b9F

P「………」

乃々「………」

P「………」

乃々「……で、結局……ゆっくりご休憩できる場所にやってきたわけなんですけど。
なんだかんだ言って……Pさんも……好きですよね……」

P「おう、たまにはいいよなプラネタリウム! 
博物館併設で本館には入らずに観られるところなんて、よく知ってたじゃないか!」

乃々「……岡崎先輩に教えてもらったんですけど」

P「なるほど。そういえば泰葉とも結構前に一緒に来たな!」

乃々「……デート中に他の女の子の話なんて……デリカシーがないんですけど」

P「さっきから理不尽じゃないっ!?」

乃々「……冗談です。あと館内は……お静かに」

P「ぐ」

乃々「………」

34: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:41:27 ID:b9F

P「あー、そんなに混んでないのな。席は……この辺でいいか」

乃々「………」

P「……この時間の上映作品は……『季節の星とオーロラ』……ふーん」

乃々「………」

P「………」

乃々「……幸子さん達とのお仕事を思い出しますか?」

P「思い出してたけど……実際オーロラ見たのあの時くらいだし。
……そっちから話題に出すのはセーフなのな」

乃々「今日の締めにここを選んだのはそれを意識してでしたから……」

P「うん?」

乃々「もりくは……意外と欲張りなんですよ」

P「………」

乃々「他の娘たちがPさんとどこかに行ったと聞けば……うらやましく思いますし……自分も一緒に行ってみたいと思います……」

P「………」

35: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:41:56 ID:b9F

乃々「いっぱい友達ができて……色々なお仕事をして……お洋服を作ってもらって……歌を貰って……可愛いって言ってもらって……大切にしてもらって……」

P「………」

乃々「それでも……まだ足りないんです。これからもまだ先が……欲しいんです」

P「………」

乃々「恩返しの日でも……欲張りなんです……どんよくぼです」

P「………」

乃々「Pさんは……どうですか? 欲張りですか? それとももう……まんぞくぼ……ですか?」

P「………」

P「………」

P「………」

P「………」

乃々「あ……始まりますよ」

P「………」

乃々「星たちの……物語……です」

36: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:42:21 ID:b9F

※   ※   ※   ※   ※


見上げていた

手の届かない場所で光り輝く

その星たちを見上げ

俺はなぜか泣きながら

星の光輝く舞台を

見上げていた


※   ※   ※   ※   ※


37: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:42:45 ID:b9F

P宅にて


P「ういーただいまー。帰ったぞー」

乃々「おネギ買ってきたんですけど」

まゆ「あら、おかえりなさい。待ってましたよぉ」

乃々「おネギ……どうしたらいいんでしょうか?」

まゆ「すぐに使うので、テーブルの上に置いておいてもらえますか?」

乃々「りょうかい」トトト…

P「………」

まゆ「……楽しかったですかぁ?」

P「う。お、おう。楽しかった……ぞ?」

まゆ「ふふ。そんなに警戒しなくも怒ったりしませんよぉ。
せっかく乃々ちゃんが企画したんですから……Pさんが楽しんでくださった方が、まゆも嬉しいです」

P「そ、そっか。うん。楽しかったぞ。いい気分転換にもなった」

まゆ「……それは良かったです♪」

38: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:43:19 ID:b9F

P「よし。いつまでも玄関で立ち話してても仕方ないし中に…」

まゆ「乃々ちゃん心配してたんですよ。『最近Pさんが元気ない。時々遠くを見ている』って」

P「!?」

まゆ「……『どこか遠くに行っちゃうんじゃないでしょうか』って……」

P「………!」

まゆ「まゆも……心配でした……」

P「………」

まゆ「……けど、確かにちょっと元気になったみたい……良かった」

P「………」

ドドドド

まゆ「あら?」

乃々「Pさん! たいへん! 大変なんですけど!」

P「お。おう。どうした血相変えて」

39: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:43:49 ID:b9F

乃々「て、テーブルにケーキが! おっきなケーキが!」

P「……ケーキ?」

まゆ「うふふ。お祝いですから……腕によりをかけましたよぉ」

P「お祝い……なんの?」

乃々「け、ケーキが二段重ねだったんですけど! 下がピンクで上が緑で!」

まゆ「技術協力、スイーツファイブのみなさんですよぉ」

P「……よくわからんが素人離れしてない?」

まゆ「ちなみにピンクの部分がまゆで、緑の部分が乃々ちゃんをイメージしています」

乃々「も、もりくぼですか!?」

まゆ「先週の乃々ちゃんのお誕生日、みんな忙しくてちゃんとしたお誕生日会できなかったから……今週末のまゆのお誕生日も先取りして、まとめてお祝いしてしまおうかなと……」

P「すげー思い切った発想だな!?」

乃々「……そういえばまゆさんのお誕生日当日もPさん、出張でいなくなる予定でしたね……」

40: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:44:24 ID:b9F

P「……パーティーは開けなかったが乃々にはちゃんとプレゼントあげたぞ、一応な」

まゆ「……そうなんですか? ちなみに何を?」

乃々「く」

P「今年は乃々の希望でチョーカーにした」

まゆ「………。……まゆも同じものがいいです。もしくは……指輪……それも……特別な……」

P「……考えておく」

乃々「そ、それよりも! ケーキ! ケーキです! 見に行きましょう!
もりくぼとまゆさんが二段重ね! 二段重ねで!」

P「そうかー二段重ねかー」

まゆ「まゆを下にしてしまいましたが、Pさんは反対の方が良かったですか?
乃々ちゃんが下で……まゆが上の……二段重ね。
……Pさんは……どちらがお好みですか?」

P「ちょ、妖艶に耳元で囁かないで。
ケーキの話だよね? ケーキの話! なら特にこだわりはナイカナー!」

41: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:45:10 ID:b9F

乃々「ちょ、ちょっとウエディングケーキみたいでテンション上がるんですけど!」

P「わかったわかった。今行く今行く」

まゆ「切り分ける時の作業……最初の作業……Pさん……手伝ってくれますか?」

P「二人のケーキなんだし、乃々とまゆの共同作業でいいんじゃないかな!」

まゆ「………」

乃々「あ。あと、Pさんが驚くかもしれないことがもうひとつ……」ガチャ

P「うん?」

乃々「向こうの部屋に事務所のみんなが……全員がパーティーの準備をして待ってるんですけど」

P「家壊れる!」


※   ※   ※   ※   ※


42: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:45:41 ID:b9F


エピローグ




※   ※   ※   ※   ※


パーティーの輪の中で


乃々「……はっ! ……まゆさん。もしかしてこのパーティーの準備のために……もりくぼを今日一日追い出すために……Pさんとのお出かけにたきつけたのでは……!」

まゆ「うふふ……」


※   ※   ※   ※   ※


43: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:46:09 ID:b9F

パーティーの輪の外で


まゆ「……Pさん」

P「お。まゆ。なんだ? ケーキなら美味いぞ?」

まゆ「まゆ、Pさんにちょっと……お願いがあって……その……」

P「うん?」

まゆ「あの……まゆもいつか……今日の乃々ちゃんみたいに、二人でお出かけ……してみたい……です」

P「……おう。それくらいならお安い御用だ!
いつでも、とはいかないが、時間がとれたら可能な範囲でご一緒するよ」

まゆ「ふふ……。ありがとうございます♪」

P「………」

まゆ「………」

P「……そういえばお出かけと言えばさー」

まゆ「?」

44: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:46:35 ID:b9F

P「今日乃々と休憩に寄った公園で居眠りしちゃってさ……その時、夢を見たよ」

まゆ「………」

P「夢の中に……まゆによく似た、ちっちゃな女の子が出てきた」

まゆ「………」

P「すっかり忘れてたけど、あれは昔の記憶だなー。懐かしい。今頃あの子……どうしてるだろう……」

まゆ「………」

P「………」

まゆ「………ちがいますよぉ」

P「うん?」

まゆ「『よく似た子』じゃありません」

P「……へ?」

まゆ「………」

P「………」

まゆ「……仕方ありませんね……Pさんは忘れ物……物忘れが激しいですから……」

P「………」

まゆ「でも本当に大事なことは忘れない……忘れてしまっていても、きっと思い出してくれる……」

P「………」

まゆ「まゆ、信じてました」



おしまい。



45: 名無しさん@おーぷん 19/09/03(火)03:47:05 ID:b9F



蛇足


まゆ「……でも昨晩の飲み会……いくら相手が昔の憧れの人とは言え……二人きりで呑むのは……ね?」

P「なんでバレてるのっ!?」

まゆ「嘘は……ダメですよぉ……」


おしまい。