前回 【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;さつまいもの甘煮

1: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)18:57:52 ID:Dk7
腹ペコシスターを餌付けするシリーズの3つめです。
前半ふざけすぎて料理に入るまで長くなってしまいましたがご容赦ください。
金髪腹ペコシスターが恥じ入って赤くなるの良いですよねぇ……という趣味全開で書きました。
よろしければ、ぜひ。よろしくお願いします。

引用元: 【モバマスss】腹ペコシスターの今日の一品;豚キムオムライス 



2: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)18:58:53 ID:Dk7
【オードブル:雨上がりの来客】



「お腹がすきました……」
……今日初めての会話で、初めて話す言葉がそれか。
最近、彼女の腹ペコぶりは加速度的にその勢いを増し、今となってはこの有様である。
一応彼女の名誉のために付け加えておくと、彼女は人前では決してこういう姿を見せない。
周りに第三者がいる時はそれこそ清廉潔白、静にして聖である慈愛に満ちたニコニコほんわかシスターである。
その立ち振る舞いはまさしく聖人のそれであり、文句の付け所がない、どこに出しても恥ずかしくない完璧パーペキお姉さんである……ちと古いか。
では何故そんな彼女が今、給湯室の机に上半身を投げ出しながら期待と信頼に満ちた空気を醸し出しているのか。
お腹がすいたなら自分で調達すればよかろう。働かざる者食うべからず。そうでなくとも。最近、君は食という人生の楽しみの大きな部分を担う行為を他人に依存しすぎである。
主に、俺に。

3: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)18:59:50 ID:Dk7
「……クラリスさん、なんだってそんなお腹空いてるんですか。お昼だって野菜たっぷりサーモンサラダに明太ポテトグラタン、カルボナーラうどんを食べさせてあげたでしょう。」
「俺がとってきたお仕事はバラエティの収録だったはず。輿水さんみたいにエベレストの新たな登頂ルートの開拓なんてロケでもあるまいし、いったいお仕事で何があったんです?」
「お、お恥ずかしい限りです……そ、その。アイドルとしてのお仕事は、無事にこなせているのですが、あの……」
「ああ、悪魔祓いの方……」

4: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:00:01 ID:Dk7
簡単に説明しよう。
クラリスさんはシスターである。だから、悪魔を祓っている。
以上、説明終わり。
……いや、だって。俺だってそれくらいの情報しか持ち合わせていないんだからしょうがない。

5: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:00:29 ID:Dk7
「今日お仕事からの帰りに、強い魔力反応がありまして……急いで見に行きましたら、最近悪さをしていると評判の吸血鬼がいたものでしたから。」
「固有結界の中で42時間ほど戦い続けましたが、なんとか今代の転生者に関しては始末できたようです。しかし身体の方は消滅させましたが、存在までとなると……もう一度会ったら、次は必ず仕留めてみせますわ。」
「そうですかぁ。大変だったんですねぇ。」

シスターってすごい。教会生まれだからだろうか。

6: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:00:43 ID:Dk7
「なるほど。そんな事情があったんですねぇ。」
「普通に戦う分には、私はあまり魔力を消費しないのですが、固有結界の維持に魔力を必要としまして……」
「そうなんですかぁ。俺には魔力とお腹ペコペコの因果関係がイマイチわからんのですが……」
「消費した魔力は肉体の構成要素──この場合は、私のカロリーですね。これを材料にして補充できるのです。シスターですから。」

シスターってすごい。教会生まれだからだろうか。……クラリスさんは教会生まれなのか?

7: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:00:55 ID:Dk7
「ははぁ。そりゃお腹もすくってもんです。」
「お、お恥ずかしい姿をお見せしてしまい、申し訳ありません……! で、ですが、その……プロデューサーさんになら…………少し、甘えても、いいかな、と……」
「クラリス、さん……」

8: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:01:28 ID:Dk7
俄に、雨の音が聞こえた。この部屋には窓などないというのに。
今日は晴れの予報だったはずだと驚いて廊下に出て、近くにあった窓を開ける。
天(そら)は黒く染まり、ビーズ細工の糸を切り落としたときのように、細かい雨粒が視界を遮る。
都会では感じられないはずの、独特の雨の匂いが感じられる。だからこれはきっと、遠い何処かから運ばれてきた雨雲だ────泣きながら歩いてきたのだろう。

9: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:02:53 ID:Dk7
「ああ、クラリスさん。これは早く帰らないといけませんね。車で送って行きますから、事務所に残っている女子寮組を何人か連れて帰りの用意を……」
彼女の顔を覗き込むと?は紅く色づく。目尻には、うっすらと涙が浮かんでいる。
呼吸が少し激しい。上気した表情は、わずかに憂いの影を見せる。

「プロデューサーさん……」

彼女の唇が普段以上に艶やかに輝く。俺はゴクリと唾を飲み込む。
その速度は、いつもの何倍も、遅く、緩(おそ)く、固(おそ)く。
体が重い。胃袋の底から、どす黒い熱を感じる。自分の体が、自分のものではないような錯覚を覚える。

だけど、彼女から目が離せない。

「クラリスさん……」

あたまがからっぽになる。そこに一本だけ、真横に白い光が走る。
その白線の幅は徐々に広くなり、透明だった「から」を染め上げる。

なにも、なにもかんがえられない。

「クラリス、さん……くらりす、さん……くら……りす……」

彼女は何も言ってはくれない。しかし、何かを待つかのように、わずかに顔をこちらに向ける。

10: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:03:25 ID:Dk7
彼女の後頭部に、左手を回す。
手が彼女に触れた瞬間に、彼女は少し怯えたように体を縮こめたが、もうここにきて、怖がることは何もない────────────もう、なにも。

11: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:04:03 ID:Dk7
「って何してるにゃ2人ともーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
「うわおああおああぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!? 」
「み、みくさん!?」
「わたくしもいるのでしてー」
「芳乃さんも……!?」

瞬間。頭の中にかかっていた靄のようなものがすっきりと晴れ、思考ははっきりと、速やかに流れる。
先ほどまで聞こえていた滝のような雨の音はもう聞こえない。心なしか少し暗々と感じた照明も、その LED の性能を遺憾なく発揮している。

12: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:04:18 ID:Dk7
「公共の場でオトナ・スキンシップは禁止にゃーー!!! みく達がいなかったらどんな展開になっていたことやら…… ただでさえ美優チャン達だけでも手に余ってるのにーーー! 」
「いやぁ、芳乃くんに引っ張られて事務所に帰ってきたら、とんでもない現場に遭遇したねぇ……」
「ぶ、部長!? いやあの、その、俺にも何が何だか……!? 」
「ああ、いいよいいよ。 芳乃くんから事情は聞いているからね。」
「事情……?」
「クラリスさんー。今回は、随分と性の悪い相手を引いてしまったようでー。」
「どういうことでしょう……お腹がすいていて、あまり頭が良く回らないのですが……」
「ふむー。それではわたくしが事の顛末を語りますゆえー。」

13: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:05:13 ID:Dk7
依田さんが語るところによれば。
クラリスさんは確かに吸血鬼を撃退した。しかしその怨念というか未練というか、依田さんによればそんな名前もつけられないほど弱い残留思念が、クラリスさんの身体にわずかにまとわりついた。
魔力に耐性のあるクラリスさんなら1日もすればなんの問題もなく消え去るそんな弱い存在だったらしい。
しかし、そこで俺という、魔力だとか悪魔だとか全く関係のない一般人が彼女の前に姿を見せた。
残留思念は俺という存在を媒介にし「コトを為す」という一点だけを達成するために力を増幅し、消えていった。俺の体が俺のものでないような気がしたのもそのせいらしい。
その「コト」とはどうやら、彼女への嫌がらせというか。詳しくは教えてくれなかったけど、そういう事のようだ。
あの雨は一種の結界のようなもので。結界が発動した空間に新たな人間が入ることができなくなるはずだったのだが、そこは依田さんがいてくれたおかげで助かった。
てかなんで依田さんはここまで事細かに知ってるんだ? 見てたのか?

依田さんの素性? 実はあまりよく知らないのだけど……きっとすごいお人なんだろう。なんていったって、鹿児島生まれなんだから。

14: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:05:35 ID:Dk7
「まったく、でもこれが給湯室で助かったにゃ。これが仮眠室とかだったらドアを開けるハードルが上がりすぎて間に合わなくなるところだったにゃ……てかなんで給湯室にいるの?」

あ、忘れていた。そうだ。俺たちが給湯室にいた理由。それは。

15: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:05:48 ID:Dk7
グゥ~~~…………

16: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:06:08 ID:Dk7
「……も、もうPチャン、お爺ちゃんになっても食いしん坊なんだから~。」

前川さん、幾ら何でもその擁護は厳しいのではないか。
部長と腹の音の主は、君を点対称の中心にした位置にいるのだ。
ほら、丸わかりだろう。彼女も小刻みにプルプル震えているではないか。

17: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:06:25 ID:Dk7
「え、確かに僕もお腹空いているけど、今の音は僕じゃないよ~。」
「だまらっしゃい! 貴様はお腹がすいているのにゃそうなのにゃ。たとえそんな気分じゃなかったとしても空気だけは読むのが大人の男性の振る舞いなのにゃ!! 」
「いい腹の音でしてー。きっとあいどるとしてのお仕事のみならず、本業のほうにも力を割いたのでしょうー。恥じることはないのでして、クラリスさんー。」
「ぁう……」
「ちょちょちょちょちょちょっと芳乃チャン! みくが何のために気を使って……!?」
「? わたくしもお腹がすきましたゆえー。何か、空腹を満たせるものなど、あればよろしいのですがー。」

…………さっきから依田さんが俺の方をチラチラと盗み見ている。結構、現金な性格してたんですね、依田さん……

まあ、でも。

真っ赤になって俯いたシスターもお腹の限界が近づいているみたいだし、パパッとお腹にたまるものでも作りますか。

18: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:06:41 ID:Dk7
「前川さん、つかぬ事を聞くけど」
「なんにゃ? 」
「肉は好きかい?」
「好き。」
「部長は」
「好き。」

……よし、つまり俺を入れて5人分……もとい、6人分をこしらえればいいんだな。
人数が合わない?そんなことはないさ。


だって彼女は、たくさん食べるからね。

19: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:07:04 ID:Dk7
【今日の一品:豚キムオムライス】





じゃあ今日は、しっかりお腹にたまってたくさん食べられるオムライスにしようか。でもそれだけだと芸がない(俺も初心者の割には強気で冒険するタイプだ、許せ響子と葵)から、教えてもらった最高のレシピ2つを悪魔融合させよう。
今日は人数が多く手際よくパパッと作らないといけないので、一気に二人前を。レシピの分量もそれに準じるが、一人当たりでも結構お腹にたまる量だぞ。

20: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:07:43 ID:Dk7
────まず、豚バラ肉の切り落とし 200g を塩胡椒で軽く味付けし、炒める。
今日は豚肉を使うが、鶏モモ肉でもいい。ポイントは、一口大に切り分けたお肉を、塩胡椒して炒めるということ。簡単でいいだろう。


────肉に火が通ったら、ここにキムチを 300g ほど投入し、さらに炒める。
この後人と会う予定がなければ、ここでニンニクひとかけ(チューブなどは小さじ1)を入れると味が芳醇になる。いいか、ニンニクを入れれば大抵のものはうまくなる。だが、くれぐれも使いすぎには注意してくれよ。……今日は女性が多いし、使わないでいいや。またの機会にしておこう。


────全体に火が通ったら、ここにケチャップ大さじ3を入れ、全体になじませる。
そして、ここが今回の隠し味。顆粒のコンソメ、または鶏がらスープを、小さじ半分ほど入れ、さらに混ぜる。なければ入れなくても構わない。それでも十分に美味いからな。だが入れると……ふふ。ぜひ、試してみてくれ。


────充分に火が通ったら、ご飯を400gを入れ、さらに炒める。……さあ、これでケチャップライスの出来上がりだ。このまま食べてももちろん上手いが、オムライスと言ったら……な?


────そう。最後に、オムライスといったらオムレツだ。あれば小さめのフライパンで作った方が作りやすいが、今回はケチャップライスを作ったフライパンでそのまま作る。


────卵を三つほど割り、よくかき混ぜる。この時、空気を入れるように混ぜるのがコツだ。
そして、フライパンに油を小さじ1。少なくていいのだ、実は(響子は本当によくこういうことを知っている)。
フライパンの片側に寄るように卵を流し込む。流し込んだ後は、フライパンの端に卵を寄せ、その間卵液をぐるぐるとかき混ぜておく。固まってきたら成形し……ケチャップライスの上に、どんと。


さあ、できあがり。まずは、依田さんと前川さんにお出しするか。

21: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:08:06 ID:Dk7


「依田さん。前川さん。できましたよ。」
「おお……おおお……これは……これは、よき……よきもの……」
「芳乃チャン語彙力失いすぎにゃ。……いやでも実際めちゃくちゃ美味しそうにゃ、これ。もらっちゃっていいの?」
「もちろんさ。食べたら感想教えてくれよ。……クラリスさんのは今から作りますからね。部長と僕のは最後になりますが、いいですね?」
「もちろんさ。アイドル諸君に真っ先に美味しいものを食べて欲しいからねぇ。」
「ああ……ケチャップのみずみずしい香りに、キムチの野生的な香りがマッチして……ああ、私、私!」
「クラリスさん、今からつくりますからね……依田さん、前川さん、どうかな?悪くなかった?」
「…………悪くないどころか……最高にゃ、これーーーーー!!!!! こんなに、こんなにキムチとケチャップの相性が良かったなんて、知らなかったにゃー!!」
「きむちのふるーてぃーな味わいを、けちゃっぷがしゅっと引き締め……なめらかな卵と一緒に口に含みますれば、真、真。天上の味わいなのでしてー……はふ。」
「あああ、プロデューサーさん……私も、私も是非に……!」
「はいはい、もうすぐ出来ますよ……はい、どうぞ。」

22: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:08:20 ID:Dk7
ことりと皿を彼女の前に置く。彼女はオムライスを目にとらえ続けたまま、口を開きっぱなしのまま、スプーンを手に取る。オムレツの上からスプーンを通し、山盛りにケチャップライスをすくう。そのまま、あーんと、口の中いっぱいにほおばる。
一口、二口と、噛むたびに彼女の笑顔が深くなる。その姿は、この世の何よりも幸せそうで、誰よりも────いや。なんでもない。
でも、自分の作った料理を褒めてもらえるのって、嬉しいよな。それも、こんなに美味しそうに食べてもらえれば、料理人(駆け出しだけどな)冥利につきるってものだ。

おかわりだって、作ってあげるから。だから、いっぱい食べると良い。

さて、俺と部長の分も出来上がりだ。パパッと食べて、後片付けもしなきゃぁな。
それじゃあ。


────いただきます。

23: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:08:42 ID:Dk7
【デザート:よく食べる天使にラブソングを】





「ねぇねぇプロデューサーちゃん、クラリスさんたちにオムライス作ったんだって!? いいなぁ~唯も食べたいなぁ~」
「プ、プロデューサーって、オムライスとか作るんだ……! へ、へー。と、ところでさ、プロデューサー。アタシも最近料理にハマっててさ、だから今度、一緒に……その……」
「唯、美嘉。それを誰から……? クラリスさんか……?」
「え? んーん。みくちゃん!」
「……前川さんか……なんかどんどん事務所の中で俺が料理するキャラになっていっているのは何故なんだろうな……」
「あっははー気にすんなし! いいじゃんコンビニ飯ばっかよか、ずっとケンコーでしょ? ちなったんが言ってたよ、『唯ちゃんのプロデューサーさんはこのままだと長くはもたないわね……』って。」
オイオイ相川さん。怖いことを言うんじゃないよ。……しかしまあ、生活が改善されたのは確かだろう。決して自分のためではないのだが、そのきっかけを与えてくれた腹ペコシスターには深い感謝を。
「まあ、2人は今日はこの後何もないんだっけ? 俺もまだ昼食べてないし、いいよ。作ってやる。あんまり美味くて、腰抜かすんじゃないぞ? 」
「腰を抜かす!? え、え、え、そ、そんな、唯もいるのに……!?」

……最近美嘉の言葉の節々に言い知れぬ違和感がある。今回も、なんかあらぬ方向に誤解しているように思うのだが、はてさて。まぁ俺の思い過ごしだろうが、一応速水さんや周子あたりに相談しておくか。

相談といえば。真っ先に思い浮かぶのは彼女なんだが、こういうナイーブな話題は……向いてなさそうだな。なんてったって彼女、シスターだし。

24: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:09:11 ID:Dk7



窓の外の景色が流れていく。後ろに、背(うし)ろに、下(うし)ろに。
まだ秋の初めだというのに底冷えした空気が流線型に流れていく。車中には仕事を終えたアイドルが2人。金色の髪をした1人は助手席に、栗色の髪をした1人は後部座席に物言わず座している。ハンドルを握っている年老いたプロデューサーが沈黙を破った。

「そういえば、クラリスくん。君は彼のことをよく信頼しているみたいだね。」
「彼……プロデューサーさんのことでしょうか……? ええ、もちろんその通りですが……何故でしょうか?」
「いや、呼び方がね。君は私を呼ぶときはいつも、『様』と読んでいたと記憶しているんだけど。彼には少し砕けた言い方というか、それが微笑ましくてね。」
「あ……そ、それは、プロデューサー様が……プロデューサーさんが、そう、呼べと……仰っておられましたので……」
「そうなのかい。いや、君だけじゃなく、彼にもいい影響があったようで、何よりだ。」
「……? それは、どういう……」
「はっはっは。それを私の口から言うのは憚られるなぁ。でも、君たちが楽しく毎日を過ごしているのなら、僕はそれが一番嬉しいよ。」
「……? そう、なのでしょうか。」
「クラリスさんー、どうしても気になるようでしたら、わたくしからお教えすることもできますがー。」
「そ、そうなのですか……? でしたら……」
「あっダメだよ芳乃くん。……そういうのは、自分で見つけて、自分で受け止めるのが大事なのさ。……オッサンになってわかった、数少ないことの一つだね、これは。」
「……ふむー。では、きっかけだけー。クラリスさんー。」

25: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:09:23 ID:Dk7
────あの時そなたは気付いていたはず、動けたはずなのに、何故かの者の「悪しきもの」を振り払おうとしなかったか。

26: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:09:34 ID:Dk7
「……私に言えることは、これまでかとー。答えは自ずと自らの中に秘められるものでして。」
「んーーまぁ……そうだねぇ。芳乃くんのいう通り、答えは秘められてるのさ。それを探し当てるには多少の時間が……おや。そうか、そうか。はっはっは。」

27: 名無しさん@おーぷん 19/09/23(月)19:09:43 ID:Dk7
彼女の肩が小刻みに震える。両の手はスカートを強く握りしめたまま開かない。
その顔の色は、トマトより赤く。その金の髪は、恋の色をしていた。