1: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:09:10.91 ID:Jp5iERLWO



このSSは、キーボ 「砕かれた先にある世界」【BLEACH】【ロンパV3】の修正バージョンです。

大まかな話の内容は修正前と同じですが、細かい部分が変わってたりします。

構成としては、主に前編・後編に分かれており、このスレでは前編を投下します。

BLEACHとニューダンガンロンパV3のネタバレ及び独自解釈や独自設定があるので、注意をお願いします。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1568030950

引用元: ・【BLEACH×ロンパV3】キーボ 「砕かれた先にある世界」【前編】 



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2: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:14:35.55 ID:Jp5iERLWO



ー尸魂界・流魂街ー



キーボ「………」




ガヤガヤ……ワイワイ……




キーボ「…………」




ガヤガヤ……ワイワイ……




キーボ「……なんなんですか、ここは?」




3: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:17:10.90 ID:Jp5iERLWO



キーボ(……落ち着きましょう。まずは現状の把握からです)




ガヤガヤッ……ザワッ……




キーボ(……周囲の建造物や人の服装から見るに、ここは平安もしくは江戸時代の日本を再現したテーマパークか何かでしょうか?)




ザワザワッ……




キーボ(……ですが、なぜ、そのようなところに、ボクがいるのでしょう)




ヒソヒソッ……ヒソヒソ……




キーボ(そもそも、ボクは確かーーーー)




4: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:19:11.76 ID:Jp5iERLWO




「……あれれ? そこにいるの、ひょっとして、キーボ?」




キーボ「………っ、!?」




「……うん、キーボ君で間違いなさそうだネ」




キーボ「!??」




キーボ「……え? え? え?」




キーボ「ち、ちょっと待ってください! まさかキミ達はーーーー」




5: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:21:47.37 ID:Jp5iERLWO



アンジー(和服ver)「キーボ! 久しぶりー!」ダキッ

キーボ「アンジーさん!?」



真宮寺(和服ver)「……まさか、ここで、それも君と再会することになるとはネ……」



キーボ「真宮寺クン!?」



アンジー「……うんうん! このゴテゴテヒヤヒヤした鉄のカラダと服ーーーやっぱり、キーボだー!」ナデナデ




6: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:26:05.83 ID:mqKwt4SvO



キーボ(……ま、間違いない! 服装は浴衣のような着物に変わっているもののーーー紛れもなくボクの知るアンジーさんと真宮寺クン!)




キーボ「……で、ですが、どうして、キミ達が……!?」



アンジー「………」

真宮寺「………」



キーボ「キミ達は、何日以上も前に、既に……!」



7: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:28:13.85 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……それはーーー」



アンジー「……あのよー、あの世ー、ここが死後の世界だからなのだー!」



キーボ「……し、死後の世界!?」



真宮寺「……そういうことになるネ」



アンジー「………」



真宮寺「……ようこそ、尸魂界(ソウル・ソサエティ)へ」



8: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:31:06.02 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……そ、ソウル・ソサエティ?」

真宮寺「この死後の世界は、そう呼ばれているヨ」

キーボ「……そ、そもそも、死後の世界だなんて、そんなーーー」

真宮寺「そうでもなければ、僕達が再会するなんてあり得ない話だと思うけどネ」

真宮寺「というか、君もここに来ている以上、死後の世界に来る心当たりくらいあるんじゃないかな?」

キーボ「……あっ、いや、それは……」

真宮寺「……それが、ここが死後の世界であるという証拠だヨ」

キーボ「っ、」



9: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:32:56.68 ID:mqKwt4SvO



アンジー「……ところでー、キーボ、整理券はー?」

キーボ「……はい?」

アンジー「だからー、しにがみから貰った整理券はー、どこー?」

キーボ「……死神? 整理券? アンジーさんは何を言っているんですか?」



真宮寺「……一応確認しておくけど、君は死神から何も説明を受けていないーーー」



真宮寺「ーーーそういうことで、良いのかな?」



10: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:36:10.54 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……いや、説明も何もボクは気づいたらここにいてーーーそれに、死神って、いったい何の話をーーー」

真宮寺「……仕方がないネ。代わりに僕から説明させて貰うとするヨ」

キーボ「えっ、?」

真宮寺「本来なら死神に任せる話ではあるけれど、君には借りがあるし……それに君が死神と接触するとややこしくなりそうだからネ」

キーボ「はっ、? いや、でも……」

アンジー「キーボ? ここは、是清の言う通りにするべきだよー? 神さまもきっとそう言ってるよー?」

キーボ「あっ、えっと、その……」

アンジー「とりあえず、家までレッツゴーだよー!」

真宮寺「そうだネ。それにこの流魂街(ルコンがい)だと君は目立つし、こっちに来た方が良いヨ」

キーボ「うっ、あっーーーー」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー




11: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:40:54.03 ID:mqKwt4SvO



ー流魂街・志波家の屋敷ー



スタスタ……



キーボ(……言われるがまま、引かれるがままについてきてしまいました……)


真宮寺「………」



アンジー「えっほー、ほいさー」トテトテ



ガチャッ……ギイイッ……



キーボ「……どこなんですか、ここは? 屋敷の地下のようですが」

真宮寺「……ここは、【志波家】の屋敷。僕と夜長さんが世話になっているところだヨ」バタンッ

キーボ「志波家? 世話?」

アンジー「そうだよー! アンジーと是清は、この家に居候させて貰っているのだー!」



12: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:43:17.54 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……えっ……」

真宮寺「………」

アンジー「……どうしたー、キーボ?」

キーボ「……あっ、いや、その……」



アンジー「………」







キーボ「……平気、なんですか?」




13: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:44:58.25 ID:mqKwt4SvO



アンジー「……にゃはははー、大丈夫だよー」



キーボ「………」



真宮寺「………」



アンジー「……ここは、死後の世界なんだよー?」

アンジー「…… “ もう意味はない ” 、そうでしょー?」



キーボ「……それは、そうですがーーー」



真宮寺「……それに、この世界の住民から聞いたのサ」




14: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:47:17.50 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……何をですか?」

真宮寺「僕が執心していた “ あの人 ” のことを……」



キーボ「……その人が、どうかしたんですか?」



真宮寺「…… “ あの人 ” は、とうの昔に生まれ変わっていたそうだヨ」



キーボ「………!?!」



真宮寺「……あれは、幻だった」

真宮寺「そういうこと、だったんだろうネ……」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「今では何も、聞こえはしないヨ……」




15: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:48:55.90 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……たとえ、このマスクの、チャックを開いたとしてもーーー」スッ



キーボ「………」



真宮寺「ーーーもはや何も、聞こえはしないんだヨ」



16: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:51:01.37 ID:mqKwt4SvO



キーボ(…… “ あの人 ” は、実在していた?)


キーボ(……いや、絶対に、あり得ない話とは言いきれませんね)


キーボ(そう、“ 元々 ” 有していた血縁関係ーーー)




真宮寺「………」




キーボ(ーーーそうです。 “ 元々 ” 有していた血縁関係だとすれば、あり得ない話ではない……)




17: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:52:59.22 ID:mqKwt4SvO



アンジー「ーーーとにかく、もう大丈夫だからー」

キーボ「……ですがーーー」

アンジー「ーーーそれに、何かあったら、空鶴(くうかく)と岩鷲(ガンジュ)達が黙ってないからねー!」

キーボ「……?」

キーボ「それは、ひょっとして、人の名前ですか?」

真宮寺「……そうだネ。この屋敷の主とその弟さんの名前だヨ」

キーボ「………」

真宮寺「もし、妙な真似をすれば、彼女達が黙っていない」

真宮寺「彼女達は抑止力……その力の前では、何もできない……」




18: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:54:46.71 ID:mqKwt4SvO



キーボ「………」



真宮寺「……それに、そんなに心配なら、君の目で確かめて見れば良いんじゃないかな?」

真宮寺「空鶴さん達が帰ってきた、その時に」

真宮寺「抑止力になり得るかどうかを」



キーボ「……そうですね」

キーボ「……とりあえず、今は、ボクがキミを見ていることにしますよ」



真宮寺「……うん、それがいいネ……」



アンジー「………」




19: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 21:56:51.72 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「ーーーそれで話を戻すけど、僕達のいるこの部屋は、志波家の屋敷の一室、僕の部屋として使わせて貰っている空間サ」

キーボ「………」

真宮寺「……キーボ君、いろいろと混乱しているとは思うけど、まずは僕達のいるこの世界が死後の世界であるということーーー」



真宮寺「ーーーそのことを、しっかりと受け入れて貰うヨ」



キーボ「……死後の世界……」

真宮寺「そう、この世界は、尸魂界と言ってネ。紛れもない、正真正銘の、死後の世界なんだヨ」

キーボ「………」

真宮寺「現世……あァ、僕達がいた世界のことだけどーーーそこで死んだ人の魂が尸魂界に送られてくるのサ」

アンジー「一部を除いてねー!」



キーボ「……にわかには信じがたい話ですがーーーこうして、お二人と会ってしまうと、信じざるを得ませんね」




20: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:00:00.32 ID:mqKwt4SvO



アンジー「……アンジーねー! キーボには、本当にビックリしたよー!」

キーボ「……ビックリですか」

真宮寺「まァ、回覧板を渡しに行ったら、帰り際に生前の知り合いと……それもキーボ君と再会したわけだからネ……」

アンジー「本当の本当にビックリー!」

アンジー「どわー、って! おわー、って!」

キーボ「いや、そんなリアクションはしていなかったはずですが」

真宮寺「……夜長さんの反応はともかく、機械文明の産物が死後の世界に迎えられるという事実ーーー」







真宮寺「ーーーそれには、僕としても、驚愕せざるを得ないヨ」




21: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:02:42.19 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……死後の世界でもロボット差別を受けるとは……そっちの方が驚きですよ」

真宮寺「……ンー、差別する意図はなかったんだけどネ」

キーボ「どういう意味ですか?」

真宮寺「君は機械文明の産物でありながら、死後の世界に逝けるだけの器……魂魄を持っていた」

真宮寺「それだけ人に近いロボットもそうはいない。むしろ貴重な存在であることを誇るべきだと思うヨ」



アンジー「……うんうん! 是清の言う通りだよー、キーボ!」

キーボ「アンジーさん……」

アンジー「キーボは、『人』に近い、『すごいもの』だった……」

アンジー「……もっと、そのことを喜んでも罰は当たらないよー! にゃはははー!」



キーボ「………」



真宮寺「ーーーそう、君は尸魂界の迷いを振り切って、こうしてやってくることができた存在だ」



真宮寺「それは、充分に誇るに値することだと思うヨ」




22: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:04:21.77 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……はい?」



アンジー「………」



キーボ「迷う?」



真宮寺「………」



キーボ「それは、どういう意味ですか?」




23: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:07:27.52 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……それを話す前に、一応確認しておくけどサ」

真宮寺「さっき会ったばかりの君の発言から推測するにーーー君の認識では、僕達と何ヶ月かぶりに再会したわけではない……」



真宮寺「……そうだよネ?」



キーボ「? え、ええ……そうですけど……?」



キーボ「それが、何かーーー」



アンジー「うーん、不思議ミラクルだねー?」



アンジー「……アンジーたちは、二ヶ月ぶり、なのにー!」




24: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:09:09.50 ID:mqKwt4SvO



キーボ「ーーーなっ、二ヶ月!?」

真宮寺「そう、今日は、夜長さんと僕が尸魂界に来てから約二ヶ月となる」

真宮寺「その時に、君は来たんだ」

キーボ「そんな……あれから二ヶ月も経っているはずが……」

真宮寺「でも、実際に二ヶ月という時間が経過している」

真宮寺「それは確かな事実だ」

キーボ「……!」

真宮寺「そして、君はこの世界の管理者から、この世界の説明を受けていない」

真宮寺「つまり、夜長さんと僕のように、魂魄を説明会場に送られたわけではないことになる」

真宮寺「……事実として、君の認識では、死んだ後は、さっきのあの場所に直接魂魄を送られたんでしョ?」

真宮寺「気づいた時には、さっきの、あの場所にいたんだよネ?」



キーボ「………」



アンジー「なんでだろー? なんでだろー?」




25: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:11:02.27 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……死後の世界も迷っていた、ということなんだろうネ」

真宮寺「キーボ君を受け入れるべきかどうかを」



キーボ「………」



真宮寺「だから、魂魄の移動に時間がかかり、死者が住む街にいきなり送られることになった」

真宮寺「そうした不具合が起きてしまったんだろうネ」




26: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:12:44.62 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……世界が迷うだなんて、そんなことがあり得るんですか?」

真宮寺「……世界が、ある意味での生物だとすれば、あり得ない話ではないと思うヨ」

真宮寺「生物の免疫機能が、受け入れても良い菌と悪い菌の判断に迷うなんて、よく言われる話だからネ」

キーボ「ちょっと! ボクを菌と一緒にしないでください!」

真宮寺「……ごめんネ。菌は生物と無機物の中間って言うから、つい、ネ……」

キーボ「王馬クンみたいなこと言わないでください! 流石にロボット差別でーーー」







キーボ「ーーーえっ、?」




27: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:14:08.37 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……どうしたんだい、キーボ君? 急に止まってしまって?」

アンジー「ひょっとしてー、ガソリンが切れちゃったりー?」

キーボ「……違いますよ! そもそもボクのエネルギー源はガソリンじゃありません!」

キーボ「ーーーって、そんなことより、ここが死後の世界ってことはーーー」







キーボ「ーーー王馬クン達、他のみなさんもいるんですか!?」



28: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:17:53.23 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「………」



アンジー「……そうだねー。キーボの言う通りだよー」



キーボ「!?」



アンジー「……いるのは、小吉だけじゃないよー?」



アンジー「蘭太郎も、転子も、解斗も、ゴン太も、楓も、斬美も、竜馬も、美兎もーーー」



アンジー「ーーーみんな、尸魂界(こっち)にーーー」



キーボ「どこですか!?」



アンジー「えっ、?」



キーボ「みなさんは、どこにいるんですか!?」




29: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:22:13.09 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……キーボ君?」

キーボ「教えてください、二人とも! キミ達も含めて、みなさんには、早急にお伝えしなければならないことがーーー」

アンジー「……伝えなきゃいけないことって、どんなことー?」

キーボ「……!」

真宮寺「……まずは、それを、一番最初に僕らに教えてくれないかな? でないと、他の人にも、すぐに伝えるべきかどうか判断できないヨ」

キーボ「あっ…? いや、でもーーー」

アンジー「キーボ? まずはアンジー達に教えてー?」

アンジー「……ショックな話だったらー、最初に知る人は少ない方が良いと思うよー?」



キーボ「……!!」



真宮寺「……そういうわけで、教えてくれるかな、キーボ君」



真宮寺「君が知っていることについて」




30: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 22:23:54.05 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……わかりました。お教えします」



真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「実はーーーー」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー




31: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:03:39.87 ID:mqKwt4SvO



キーボ「ーーーということなんです」

アンジー「……なるなるー、よくわかったよー!」

真宮寺「それが、君の知っていることなんだネ……」

キーボ「ええ、まあ……」

キーボ「……なぜ、ボク達、【超高校級が集められて】【コロシアイをさせられたのか】まではわかりませんでしたがーーー」



キーボ「ーーー【黒幕を突き止め】【全て終わらせました】」



キーボ「それは、確かな事実です」



アンジー「………」



キーボ「……ボクはこの話を今すぐ赤松さん達に伝えるべきだと思います」



キーボ「そうでないと、赤松さん達はーーー」



真宮寺「ーーーその必要はないヨ」




32: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:05:16.85 ID:mqKwt4SvO



キーボ「え?」

真宮寺「今すぐ赤松さん達に伝える必要はないヨ」

キーボ「はっ? いや、でもーーー」

真宮寺「というか、君の語ったことは、赤松さん達としても大体検討のついていることだからネ」

キーボ「!?」

キーボ「それは、どういうことですか?」

アンジー「……実はねー、見てたんだよー」

キーボ「……見ていた?」

真宮寺「そう、『彼』が殺された時……魂魄が肉体から抜け出た瞬間ーーー」



真宮寺「ーーー【誰が】【どの部屋に入っていったのか】をネ……」



キーボ「………!!?」




33: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:06:49.11 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「そして、その後、どんな理不尽が起きたかは僕達も知っての通り……」

真宮寺「つまりは、そういうことだったんだろうネ……」

アンジー「だからねー? キーボがいま言ったことについては、みんな大体わかってるんだー」

真宮寺「【ずっと前から何度もコロシアイが起きていた】という話も、『彼』の証言から、ある程度は検討のついていたことーーー」



アンジー「ーーー【黒幕を突き止め】【全て終わらせた】っていうのは、今ここで、初めて知ったことだけどーーー」



キーボ「………!??」



アンジー「ーーーみんな、いつかそうなるってことは、信じてるからねー」

アンジー「だから、急いで伝えるような話でもないしー」

アンジー「……キーボの知ってること、すぐに伝える必要はないと思うよー?」



キーボ「………」




34: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:08:58.23 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……しかし、裏付けとなる証言は早めに知っておいた方が良いのではないでしょうか?」

キーボ「でなければ……同じく死んだ、あの人でなしが、赤松さん達のところに向かって、口八丁で騙して混乱させてくる可能性だって出てきます」

キーボ「ここが死後の世界である以上、あの人でなしに何かされる可能性はゼロではありません」

キーボ「ならば、早めにボクの証言を伝えた方がーーー」



真宮寺「その必要もないヨ」



キーボ「……それは、なぜでしょうか?」



真宮寺「……君の語ったことが真実なのであれば、君が恐れているような事態には絶対にならないからサ」



キーボ「?」



アンジー「さっき、アンジーは言ったよねー?」



アンジー「一部を除いて、って」




35: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:10:36.95 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……一部を除いて?」



真宮寺「……そう、現世で死を迎えたとしても、全ての魂魄が尸魂界に送られるわけじゃないんだ」



真宮寺「生前、非道な行為に手を染めた者は、地獄に送られる決まりだからネ」



キーボ「………」




36: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:11:41.55 ID:mqKwt4SvO









キーボ「……えっ、?」









37: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:12:58.78 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……何かな?」

キーボ「……あっ、いや、その……」

アンジー「………」

真宮寺「……このことで何か気になることがあるなら、言ったらどうだい? いつだって受け付けるヨ?」



キーボ「……いえ……」



キーボ「……もう、 “ 意味はない ” んでしょう……?」



真宮寺「………」



キーボ「なら、地獄に送る必要もない……」



キーボ「そういう……こと、なんでしょう……」



アンジー「………」




38: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:14:48.02 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……話を戻すけど、生前、非道な行為に手を染めた者は、基本的に地獄に送られる決まりになっている」

真宮寺「少なくとも……【その時代の現世】【罪を犯した場所に定着した倫理から見て】【あまりにも非道な行為に手を染め】【人を大きく傷つけ】ーーー」



真宮寺「ーーー【そうした罪を、罪とも思わず】【死後の世界でも非道を繰り返し行う気があるような者】ならば、間違いなく地獄に送られるという話だ」



キーボ「………」



真宮寺「そういう者は、 “ 地獄の鎖 ” に囚われ続けーーー」



真宮寺「ーーー “ クシャナーダ ” と呼ばれる地獄の管理者の手によって、責め苦を受け続けることになるのサ」



アンジー「………」



真宮寺「 “ 人でなし ” は地獄に送られる」

真宮寺「 “ 人でなし ” である限り、地獄から解放されることはない」

真宮寺「だから、赤松さん達が騙されてーーーなんてことには絶対にならないヨ」



キーボ「……なるほど、よくわかりました」




39: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:16:30.04 ID:mqKwt4SvO



キーボ「ーーーただ、真宮寺クン達の話で気になったことが二つあります」

真宮寺「……何かな?」

アンジー「なーにー? キーボ?」

キーボ「……まず、一つ目に気になったことですがーーー」



キーボ「ーーーキミ達は、なぜボク達、【超高校級が集められて】【コロシアイをさせられたのか】についてーーー」



キーボ「ーーーこの死後の世界から、何か突き止めることはできたのでしょうか?」



キーボ「もし、そうなら、どうか教えて貰いたいのですがーーー」



真宮寺「……いや、残念ながら、何もわかっていないままだヨ」

アンジー「……神さまも、きっとよくわかんないってー」




40: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:18:47.67 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……一応確認しておきますけど、この……ソウル・ソサエティにいる他の住民に対して、聞き込みはしていないんですか?」

真宮寺「……しているヨ」

真宮寺「……現在も過去も、僕達が巻き込まれた案件に関して何か突き止められることはないか、定期的な聞き込みは行っている」



真宮寺「 “ 現世で生き残ったみんながどうなったか? ” なども含めてネ」



キーボ「……それは、キミ達よりも前に亡くなられた方に対してだけですか?」

アンジー「いやいやー? そんなことはないよー?」

真宮寺「夜長さんの言う通りだヨ」

真宮寺「僕達は、僕達よりも……それこそ今日から見て何日か前に亡くなって、新しく尸魂界に来た人達にだってーーー定期的な聞き込みを続けている」

アンジー「……今日から一ヶ月前の人でも、十日前の人でも、三日前の人でも、新しい人が来るたびに、聞き込みしてーーー」



アンジー「ーーーおとといだって、そうしてたからねー?」



キーボ「……そうでしたか」




41: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:20:08.89 ID:mqKwt4SvO



キーボ「………」






キーボ「…………」









キーボ「………………」




42: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:21:53.79 ID:mqKwt4SvO



キーボ(……なるほど)


キーボ(どうやら、この死後の世界でも、『世界の管理者』が存在し、世界に住まう人々の記憶を操作しているーーー)




キーボ(ーーーそう、考えて、間違いなさそうですね)




キーボ(……この世界が、死後の世界ならば、そこにいるアンジーさん達が何も知らないままでいる……という状況が成立するはずがない)


キーボ(あれから二ヶ月も経過したというのならば、尚更です)


キーボ( “ あの事実 ” を考慮すれば、そのような状況が、成立するはずがないのです)


キーボ(この世界に、ボクやアンジーさん達以外の人がいないなら話は別ですがーーーボク達以外にも人は存在するようですからね……)


キーボ(その条件下で、アンジーさん達が何も知らないままでいる……という状況など、 “ あの事実 ” を考慮すれば、成立するはずがないのです。普通ならば)




43: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:23:18.16 ID:mqKwt4SvO



キーボ(……ならば、どうして、このような状況が成立しているのか?)


キーボ(……アンジーさん達が、ボクに真相を隠しているということはないでしょう)


キーボ(真相を知っているのならば、ボクに隠したところで意味がないことは知っているはずですからね)


キーボ(さっきボクが、とっさに誤魔化した時だって、もっと追求するようなことを言ったはず)


キーボ(それでも、今の状況が成立する理由があるとすればーーー)




キーボ(ーーーこの死後の世界に来た者達は、生前の倫理観をもって死後の世界を混乱させないようーーー)




キーボ(ーーー『世界の管理者』から、ある程度の記憶操作を受けていると考える他ない)




44: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:25:19.40 ID:mqKwt4SvO



キーボ(アンジーさん達とボクの記憶に食い違いがないところを見るに、個人レベルの倫理観ならば内容はどうあれ、いちいち記憶操作は受けないようですがーーー)




キーボ(ーーー民衆レベルで溶け込んだ倫理観は、それも偏ったものは、記憶操作の対象となる可能性は極めて高い)




キーボ(ボク達のように民衆から “ 外れた ” 存在とは異なる、ごくごく普通の民衆である他の死者達ーーー)


キーボ(ーーーすなわちボクがここに来た時に見た人々などは、きっと記憶操作を受けている)


キーボ(おそらくは、あの、 “ 人でなし ” の場合であっても、同じように記憶操作を受け、無害な存在へと変わるのでしょう)


キーボ(でなければ、時代によっては、偏った倫理観が死後の世界でもはびこり、無視できない混乱を発生させる可能性がある。それを避けるためには、記憶操作が必要となる)


キーボ(故に、アンジーさん達は、誰からも真相を聞くことができていないのでしょう。聞く対象の記憶が操作されているとすれば当然のこと)




キーボ(……さっき、とっさにああ言って誤魔化してしまいましたが、結果的には良かったかもしれませんね)


キーボ(何事も大勢に伝えるためには、最初に伝えるべき人、場所、状況を、よく考えなくてはならない)


キーボ(……そうです。アンジーさんと真宮寺クンに対し、ここでいきなり “ あの事実 ” を伝えるべきではーーーー)




45: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:26:56.81 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……また、止まってしまったネ、キーボ君」

アンジー「ひょっとしてー、石炭が切れちゃったりー?」

キーボ「……なっ、違いますって! ボクのエネルギー源は石炭でもありません!」

キーボ「……動きが止まったのは、単純に思考の処理に時間がかかったからです」

キーボ「人が考えごとをしている最中にじっとしているようなものです。大したことではありませんよ」



真宮寺「……そうかい? なら良いけどーーー」



アンジー「ーーーところで、キーボ? さっき言ってたことの、ふたつ目って、なーにー?」



キーボ「……ああ、二つ目に気になったことについてですね」



キーボ「それなら単純にーーーー」




46: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:28:11.99 ID:mqKwt4SvO



キーボ「ーーーひょっとして、キミ達は、赤松さん達とボクが再会することを、避けようとしているのではないか?ーーー」






真宮寺「………」

アンジー「………」






キーボ「ーーーそれが、二つ目に気になったことです」




47: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:32:01.49 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……確かに、僕達は、キーボ君が赤松さん達と今すぐ再会することを避けようとはしているヨ……」

キーボ「やはり、ですか」

真宮寺「だけど、それはーーー」

アンジー「それはねー! いま、楓たちは、大事な時期だからなのだー!」

キーボ「……大事な時期?」

真宮寺「……うん、最近の赤松さん達は、この死後の世界での生活基盤を形作るためにいろいろしていて、それで忙しくてネ……」

真宮寺「……故に、君と赤松さん達をいま会わせるわけにはいかない」

アンジー「もし、キーボが来たって知ったらー、楓たちは、無理にでも会おうとするだろうねー」

真宮寺「だから、みんなが落ち着くまで、我慢してくれると助かるヨ……」




48: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:33:53.96 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……わかりました。そういう事情があるのであれば、仕方のないことでしょう」



真宮寺「………」



キーボ「ですが、これだけは聞かせてください」

キーボ「赤松さん達は、どちらにいるのでしょうか?」



アンジー「………」



キーボ「……赤松さん達が現在いる場所で何かあった場合を考慮すればーーー赤松さん達の居場所は把握しておいた方が良い」

キーボ「なので、そこだけは聞かせて頂けませんか?」




49: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:35:27.82 ID:mqKwt4SvO



真宮寺「……いま、赤松さん達は、瀞霊廷(せいれいてい)の集合住宅に住んでいるヨ」



キーボ「……!」



真宮寺「……詳しくは、後で地図を見せて教えるとするヨ」



アンジー「………」




50: ◆02/1zAmSVg 2019/09/09(月) 23:37:19.80 ID:mqKwt4SvO



キーボ「……セイレイテイ……」



真宮寺「そう、瀞霊廷」

真宮寺「この尸魂界の中心部にある首都のことサ」



キーボ「首都……」

アンジー「………」



真宮寺「……ここから先の説明は、本来ならば、説明会場で、この世界の管理者から教えられる基本事項でもある」



キーボ「………」



真宮寺「……遅れちゃったけど、それをこれから僕が代わりに説明しようと思う」

真宮寺「基本事項について理解していた方が、これからの会話もスムーズに進むだろうからネ」

真宮寺「だから、君にはまず、その説明を聞いて欲しい」



キーボ「……わかりました、お願いします」




51: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 21:20:46.34 ID:cwtAYsKlO



真宮寺「ーーー尸魂界において、居住する場所は主に二つに分かれている」

真宮寺「一つは流魂街で、僕達のいるこの屋敷、君と再会した場所である、あの街は、流魂街に位置している」

真宮寺「そして、尸魂界に来た魂魄は、説明会場で世界の管理者から、この世界における基本事項を教えて貰った後、流魂街に住むことになる」

アンジー「整理券を貰ってねー!」

真宮寺「その通りだヨ。整理券を貰い、それに記された通りの区域に住むことになる」



真宮寺「基本的に、ネ」



キーボ「………」



真宮寺「だけど、条件を満たせるのであれば、瀞霊廷という、人が居住するもう一つの場所に住むことが可能となるんだ」




52: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 21:23:47.39 ID:D9Mxdk9oO



キーボ「……条件、ですか」

真宮寺「そう、条件」

真宮寺「その条件こそが、 “ 霊力 ” を有していることであり、それがあれば瀞霊廷の居住を許されるのサ」

キーボ「……霊力?」

真宮寺「霊力とは、霊的な力……いわゆる霊能力の略称サ」

真宮寺「また、そうした霊能力を扱う際に消費されるエネルギーの名称も、同じように霊力と名付けられている」

真宮寺「そうした力を、赤松さん達は死後に目覚めさせていた」



キーボ「……?」



キーボ「待ってください。どうして、赤松さん達にそんな力がーーーー」




53: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 21:25:32.20 ID:D9Mxdk9oO



真宮寺「ーーーそれは、わからない」



真宮寺「ただ、少なくとも、二ヶ月前、君を除いた僕達全員がこの世界に来た時には目覚めていたそうだヨ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「……僕達全員が、尸魂界の同じ時間の同じ場所に送られた時に、ネ」




54: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 21:28:03.02 ID:D9Mxdk9oO



キーボ「……時間や場所が同じだった?」



真宮寺「その通りだヨ」



真宮寺「……後から聞いた話だけど、【心中でもしない限り】【送られる時間や場所が同じになるなんて】【まずありえない】らしいんだ」

真宮寺「だけど、どういうわけか、僕達は全員、同じ時間の同じ場所にいたんだ」

真宮寺「それぞれ、死亡した時、はたまた死亡して肉体から魂魄が出て少し経った時に、意識を失いーーー」



真宮寺「ーーー気づいた時には尸魂界に来ていた」



真宮寺「……みんな、同じように、霊力が目覚めた状態で、ネ」



アンジー「………」




55: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 21:29:18.82 ID:D9Mxdk9oO



キーボ「……どうして、そんなことがーーー」



真宮寺「ーーーそれも、わからない」



キーボ「………」



真宮寺「……いま、わかることは、たった一つ」



真宮寺「君もまた霊力を持っているということだ」




56: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 21:30:20.91 ID:D9Mxdk9oO



キーボ「……はい?」






アンジー「………」

真宮寺「………」






キーボ「それは、どういうーーーー」




57: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:06:41.71 ID:DZOh/mOeO



岩鷲「おおーい、オメーら! 帰ったぞー!!」バタンッ!



キーボ「!?」



岩鷲「………っ、!?!?」



キーボ「えっ、あっ……」



岩鷲「………」



キーボ「キ、キミはいったいーーー」



岩鷲「うおおおおおおおおおおおおお!!!」




58: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:08:06.00 ID:DZOh/mOeO



キーボ「!?」

岩鷲「オメーか!」ダダッ

キーボ「!?!」

岩鷲「オメーが、アンジーちゃんと真宮寺の言ってた “ ろぼっと ” って奴だな!?」ガシッ

キーボ「え、あ、その……」

岩鷲「そうなんだな!?」キラキラ…




59: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:15:19.72 ID:DZOh/mOeO



アンジー「……そうだよー! キーボはロボットなんだよー!」

真宮寺「……彼こそが、 “ 超高校級のロボット ” キーボ君。紛れもなく僕達が話した存在サ」

岩鷲「……そうかそうか! よろしくな、キーボ!!」ガシッ

キーボ「えっ、あっ……」

岩鷲「いやー、それにしても、スゲーなおい! こんなスゲー “ ろぼっと ” なんて、俺はじめて見たぞ!」ベタベタ

キーボ「いや、ちょっと……」

岩鷲「この白髪! ゴテゴテヒヤヒヤした鉄の身体と服! 全部、アンジーちゃん達の言ってた通りだ!」ベタベタ




60: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:19:08.18 ID:DZOh/mOeO



キーボ「あっ、うっ……」

岩鷲「……ああ、そうだ! 俺の自己紹介がまだだったな!」

岩鷲「俺こそ、自称【西流魂街のーーー」



空鶴「うるっせえぞ、岩鷲!」ヒュンッ



ドゴオッッッ!!!



岩鷲「ぶほおっ、!?」



バッターンッッッ!!!




61: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:21:09.81 ID:DZOh/mOeO



岩鷲「……いてて、姉ちゃん! 何すんだよ、いきなり!?」ガバァッ



キーボ「………!?!」



空鶴「それはこっちのセリフだ!」

空鶴「汚ねえ手でベタベタ触ってんじゃねえ!! 礼儀を忘れたのか!? ああ!!」

岩鷲「あっ……!?」



キーボ「」ポカーン



岩鷲「……す、すまねえ! “ ろぼっと ” さん! この通りだ! 許してくれ!」ババッ




62: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:26:11.53 ID:DZOh/mOeO



キーボ(……この光景は、現実なのでしょうか?)


キーボ(細身の女性が一瞬で部屋の中に回り込み、体格の良い男性を一撃で部屋の外まで殴り飛ばすだなんてーーー)


キーボ(ーーーしかも、それだけの力を身に受けた男性の方もまた、すぐに立ち上がった……)




キーボ(……なるほど、この人達がーーー)




空鶴「おい、聞いてるか? “ ろぼっと ” っての」




63: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:28:01.55 ID:DZOh/mOeO



キーボ「……あっ……」



空鶴「……安心しろ。コイツには、おれがよーく言い聞かせておく」

岩鷲「………」



キーボ「……あー、はい。まあ、彼も謝っていることですし、ボクはもう別にーーー」



岩鷲「……お、おう! ありがとな、 “ ろぼっと ” さんーーー」

空鶴「黙ってろ」ゲシッ

岩鷲「ぶふぉう!?」ドザアッ!



キーボ「ーーーあのー……もしかして、あなた達がーーーー」




64: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:29:32.13 ID:DZOh/mOeO



空鶴「……おれの名は志波空鶴! この志波家の家主、そして流魂街一の花火師だ!」



キーボ「やはりあなたが、クウカクさん……」



空鶴「ああ、ついでに、この土下座してるのが、弟の岩鷲だ」カラッ

岩鷲「つ、ついで、って……」



キーボ「………」




65: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:31:31.12 ID:DZOh/mOeO



空鶴「……事情は真宮寺から全部聞いてる」



キーボ「……はい?」

真宮寺「……あァ、実はここに向かう途中で、空鶴さん達に連絡しておいたんだヨ」

キーボ「……なっ、!? そんなの、いつの間にーーー」



空鶴「ーーーしばらく、この家に泊めてやる」



キーボ「ーーー!?」

アンジー「!」

真宮寺「………」



空鶴「寝床は真宮寺に貸してる部屋を二人で使いな」




66: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:32:58.75 ID:DZOh/mOeO



キーボ「……いや、ちょっとーーー」



岩鷲「ん? ちょっと待ってくれよ、姉ちゃん。まずは俺の部屋じゃねえのか? 真宮寺の時はーーー」

空鶴「ベタベタ触る奴とされた奴を同じ部屋にできるか、バカ」

岩鷲「うっ……」



キーボ「……あのーーー」



空鶴「気にすんな、死神とのゴチャゴチャした手続きはこっちでやっておく」




67: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:36:05.00 ID:DZOh/mOeO



キーボ「……えっ、?」



空鶴「……今のテメエが、死神と会うわけにはいかねえだろ?」

空鶴「足元を示す手型一つ持たねえ今のテメエが死神と接触してみろ。不審者扱いで無駄に時間がかかることは目に見えてる」



キーボ「……ふ、不審者……」



空鶴「手続きが終われば、おれの元に通知が来る」

空鶴「テメエの手型が、おれのもとに来るんだ」



キーボ「………」

アンジー「………」



空鶴「瀞霊廷に住めるかどうかも、そこでわかるーーー」



空鶴「ーーーそんで住めるってなったら、実際に住める日まで、泊めてやる」



空鶴「……まあ、手続きなんざ普通は即日で済むんだが、テメエの場合はそうもいかねえだろうからな……」




68: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:38:12.50 ID:DZOh/mOeO



キーボ「……えーと……」



空鶴「実際に、テメエが瀞霊廷に住めるかどうかはわからねえがーーー」



空鶴「ーーーもし、この流魂街に住み続けることになったら、転生の日まで正式に居候させてやるよ」



アンジー「!!」

真宮寺「………」

キーボ「……あっ、えっ、?」



空鶴「……何年か前までは、居候が三人もいたんだ。また居候が三人になろうが、大したことでもねえ」

空鶴「まっ、なんにしろ、ここで食って寝る以上は、みっちり働いて貰う! そこは覚悟しとけ!」




69: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:40:58.33 ID:DZOh/mOeO



キーボ「ち、ちょっと待ってください!」

キーボ「ここに住むって、いきなりそんなーーー」



空鶴「ああ? なんだ、テメエ、おれの家に住めねえってか?」



キーボ「ーーーあっ、いや、そうではなく……」



アンジー「……キーボ、ここは空鶴の言う通りにした方が良いって、きっと神さまも言ってるよー?」

真宮寺「……そうだネ。彼女には逆らわないことを勧めるヨ」



岩鷲「そうだ! “ ろぼっと ” さん……いや、キーボ! 姉ちゃんに逆らったらそれはもう恐ろしいことにーーーぶべえっ!?」ドザアッ!

空鶴「雑音はともかく、住むか住まねえかハッキリしな」ゲシゲシッ

空鶴「それで、テメエの今後が決まる……!」ゴオオッ




70: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:45:15.54 ID:DZOh/mOeO



キーボ「ーーーわ、わかりました! わかりましたから! どうか、ボクをここに住まわせてください!」



空鶴「よしっ、そんじゃあ、決まりだな!」




キーボ(……ううっ、勢いで言ってしまいましたが、大丈夫なんでしょうか………)




空鶴「……ただ、今日はもう夕飯時だ、ゆっくりしていけ。それに、今日はお前ら居候の休みの日でもあるしな」



キーボ「あっ、はい……」



アンジー「………」

真宮寺「………」




71: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:46:39.50 ID:DZOh/mOeO



空鶴「……しばらくしたら飯にすんぞ」



キーボ「………」

真宮寺「………」

アンジー「………」



空鶴「……おい、岩鷲! いつまでも土下座してねえで、しゃんと立ちやがれ! そんで、ベタベタした罰として飯の準備手伝え!」グイッ

岩鷲「わ、わかったよ、姉ちゃん! いてて! そんな引っ張んなって!」ズルズル…




72: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:48:57.25 ID:DZOh/mOeO



キーボ「………」



アンジー「……あらら! キーボ、また固まっちゃってるねー」

アンジー「今度は、ゼンマイがほどけちゃったりー?」



キーボ「………」



アンジー「……うんうん、ホントにカチコチだよー、何も返さないしー」

真宮寺「……まァ、空鶴さんも岩鷲君も、強烈な個性の持ち主だからネ。思考処理のために動作を停止させてしまうのも無理はないヨ」

真宮寺「ただ、彼女が言っていた通り、キーボ君にはしばらく、僕が貸して貰ってるこの部屋に寝泊まりして貰うからネ」

真宮寺「そこは記憶領域に残して欲しいかな。なぜなら僕らは空鶴さんにーーー」



キーボ「ーーーわかってますよ! あのクウカクさんに逆らうわけにはいかないのでしょう?」



キーボ「……だったら、泊まりますよ! 誰の部屋であっても!」



真宮寺「ククク……助かるヨ」




73: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:51:12.21 ID:DZOh/mOeO



浦原「……あー、あー、スイマセ~ン! ちょおっと、お時間よろしいでしょうか~?」トテトテ



キーボ「!?」



アンジー「……あー、喜助ー!」

真宮寺「これはこれは……もう到着したのかい?」



浦原「ええ、ただいま到着しました~! 毎度ご贔屓に~!」



真宮寺「今日は、商品を買うわけではないんだけれどネ」



浦原「わかってますよ~! これは、毎度、ウチを贔屓にして貰ってる真宮寺サンに対する特別サービスでもあるんスから!」




74: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:52:30.89 ID:DZOh/mOeO



キーボ「……え、えーと、すみません?ーーー」



浦原「………」



キーボ「ーーーあなたは、いったいーーー」



浦原「……ああっ、これは失礼しました!」

浦原「アタシ、浦原喜助という者っス!しがない駄菓子屋の店主ではありますがーーーどうぞ、よろしく!」パッパラ~!



75: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:54:53.78 ID:DZOh/mOeO



キーボ「あっ、これは、どうも……」

浦原「どうか、キーボさんも! アタクシ共、浦原商店をご贔屓に~!」

真宮寺「ククク……浦原さん、商売も良いけど、まずはメールで頼んだことをお願いするヨ」

浦原「わかってますよ~! それでは、キーボさん、さっそくーーー」スッ

キーボ「ち、ちょっと、急になんですか? 近づいてきてーーー」

浦原「……あー、スイマセン、失礼ながらこれから検査をさせて頂きます」



キーボ「……検査?」



浦原「ええ、検査です」







浦原「……そのステキなボディの中に、危険物でもあれば、大事になりかねませんから」




76: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:56:39.39 ID:DZOh/mOeO



キーボ「!?」

キーボ「き、危険物ってーーー」



浦原「ーーーいやあ~、だって、ロボットと言ったらドリルやミサイルってイメージあるじゃないっスか?」



キーボ「……あっ……」



浦原「そういったものが付いていたら、日常生活も大変でしょう?」



キーボ「……っ、」



浦原「……それにアタシ、こんな成りしてますが、科学者の端くれではありましてね」




77: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 22:58:50.48 ID:DZOh/mOeO



キーボ「科学者……?」

浦原「ええ、科学者です」

キーボ「……ここは、オカルトな死後の世界ではなかったのですか?」

浦原「確かにここは、オカルト現象の吹き荒れる死後の世界ではありますがーーー科学者は普通に存在していますよ」



浦原「実際に、入間サンという科学者の方が、こちらに来ているじゃないっスか♪」



キーボ「………」



浦原「それで、もしキーボさんの身に何か危険があれば、アタシの力でどうにか解決できたら、と思っています」



真宮寺「……大丈夫だとは思うけど、一応ネ」

アンジー「アンジーも、やった方が良いと思うなー」




78: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 23:01:08.21 ID:DZOh/mOeO



浦原「……というわけで、検査させては、頂けませんか?」



キーボ「っ、しかしーーー」



アンジー「……キーボ、大丈夫だよー」



キーボ「……アンジーさん?」



アンジー「……喜助はねー? ものすごーく、うさんくさいけど、信頼できる人だからー!」

真宮寺「そうだネ。非常に怪しい人物ではあるけど、信頼は大切にする人だヨ」

浦原「信頼第一、商売人として当然っス!」



キーボ「………」



真宮寺「ーーーどうか、彼を信じて、検査を受け入れてくれないかな、キーボ君?」




79: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 23:03:11.00 ID:DZOh/mOeO



キーボ「……わかりました」

浦原「!」

キーボ「……確かに、危険物をそのままにしては、迷惑をかけかねませんからね」

キーボ「検査、お願いします」

浦原「……ありがとうございます! それではーーー」



キーボ「ーーーただし!」



真宮寺&アンジー「「!?」」



浦原「………」



キーボ「……ボクの記憶領域には、決して干渉しないでください。それが検査の条件です」




80: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 23:04:05.22 ID:DZOh/mOeO



真宮寺「………」



アンジー「………」



浦原「………」



キーボ「……良いですね?」




81: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 23:07:03.72 ID:DZOh/mOeO



浦原「……もちろんっス。キーボさんの記憶領域には一切触れません。その条件で検査させて頂きます」



キーボ「……それでは、検査をーーー」



浦原「ーーーっと、その前に、場所を変えようと思います」



キーボ「えっ……」



浦原「……いやー、万が一、ここで “ ドガン! ” ってなったら大変でしょう? なので修練場……広く頑丈な部屋の方まで移動してから、検査させて頂こうかと思いましてね」

浦原「修練場とその付近の部屋は、現在、防音設備も充実していたりしますからねえ。音が廊下に漏れることは無い……」



浦原「……いろいろ話しやすくもあると思うっスよ?」



キーボ「………」



浦原「……構わないっスよね?」




82: ◆02/1zAmSVg 2019/09/10(火) 23:08:40.47 ID:DZOh/mOeO



キーボ「……わかりました。移動しましょう」



浦原「……ありがとうございます! それでは、修練場まで、レッツゴーといきましょう!」



キーボ「………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー




83: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:00:37.72 ID:xIUq6BSMO



キーボ(そうして、ボクは、アンジーさん達といったん別れて、浦原さんと共に修練場に行った)






キーボ(それから、検査が始まるーーー)






キーボ(ーーーそのはずだったんですがーーーー)



84: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:04:23.34 ID:xIUq6BSMO



ー志波家の屋敷・修練場ー



キーボ「………」

浦原「………」



キーボ「……あの、すみません」

浦原「……なんでしょう?」



キーボ「さっきからボク、浦原さんに言われた通り、ずっと目を閉じているんですけどーーーいつ検査は始まるんでしょうか?」




85: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:05:32.32 ID:xIUq6BSMO



浦原「……ああ、もう大丈夫っス」



キーボ「……? それはどういうーーー」







浦原「……既に検査は終わりましたから」



86: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:07:51.41 ID:xIUq6BSMO



キーボ「!?」パチリ

浦原「………」

キーボ「そんな、いつの間にーーー」

浦原「一応言っておきますが、インチキとかサギとかではありませんよ」

浦原「アタシは確かに、さっきキーボさんが目を閉じている間、検査させて頂きました」

浦原「というか、そうでもなければ、あのお強い空鶴さんからどんな目に遭わされるかわかりませんから」

浦原「いいかげんな商売は、できません」



浦原「……まっ、具体的な方法は、企業秘密っスけどね♪」



キーボ「………」



浦原「その上で検査結果を報告させて頂きますがーーーー」



87: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:09:32.61 ID:xIUq6BSMO



浦原「ーーー今のキーボさんには、危険な機能は、何一つ付いていませんでした」

キーボ「……!?」

浦原「入間サンからお聞きしていた通りの設計っス」

浦原「人と一緒に生活していても、何ら危険の生じない、安全安心の設計っスよ!」

キーボ「……ま、待ってください! そんなはずーーー」

浦原「おや、何かおかしなことでもあるんスか?」

キーボ「……っ、」

浦原「何か危険なものを取り付けたご記憶でも?」

キーボ「……っっ、!!」



88: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:22:40.62 ID:xIUq6BSMO



浦原「……ちなみに、尸魂界(こっち)で “ それら ” が付いていない状態になっていたとしても、何ら不思議は無いっスよ」

キーボ「……どういうことですか?」

浦原「尸魂界には、持っていけるものとそうでないものがあるんス」

浦原「最近着用したもの……いわゆる “ 外付け ” したような、身体との繋がりの小さいものは、基本的に持っていけない仕組みなんスよ」



キーボ「………」



浦原「……まあ、それが、生命活動の維持や精神の安定などに必要不可欠なものである場合、話は別なんスけどね」

浦原「それなら、身体との繋がりも別の意味で大きくなりますし、尸魂界への持ち込みも不可能では無くなるっスけどーーー」



浦原「ーーーそうした事情を持たない、身体との繋がりが小さい “ 外付け ” アイテムは、基本的に持ち込めないってわけっス」



89: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:25:34.83 ID:xIUq6BSMO



キーボ「……なるほど」

キーボ「しかし、そうなると、衣服なども持ち込めないということになりますけど……」

浦原「おっしゃる通り、衣服を持ち込むことはできません」

キーボ「………」

浦原「衣服は、定期的に着脱を繰り返すものですし、魂魄にその情報が完全に定着するだなんて、よほどのことが無い限り、あり得ない……」



浦原「まず、持ち込めないっスね」



浦原「故に、キーボさんのおっしゃる通り、衣服は尸魂界に持ち込めず、基本的に誰もが、ありのままの姿で送られるってわけっス」



90: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:28:26.47 ID:xIUq6BSMO



キーボ「ありのまま……つまりは、裸ってことですね」

浦原「ええ、現世で亡くなり魂魄となった者は、現世では魂魄が衣服を着た状態にありますがーーー」

浦原「ーーーその情報定着が不完全なため、現世から尸魂界に移動する際、衣服の情報が形を保てなくなってしまう場合がほとんど……」



浦原「そうして、裸になってしまう、ってわけっス」



キーボ「………」



浦原「とは言っても、別に人が目を覆うような、あられもない、ふしだらな事態にはなりません」

浦原「きちんと、衣服は自動的に着用されることになります」

キーボ「……?」

浦原「……尸魂界には、魂魄が来た瞬間、自動で和服を着用してくれるシステムがあるんスよ」

キーボ「!?」



91: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:33:55.99 ID:xIUq6BSMO



浦原(……まあ、魂魄に自動着用される和服は、色やデザインの統一された簡素なものになるのが普通なんスけどね)


浦原(逆に言えば、霊力を有する特殊な魂魄である場合、その人に合った色やデザインの和服が自動で着用されることになる……)


浦原(……そう、真宮寺サンとアンジーさんが現在着ているような、その人に合った色やデザインをした和服は、霊力ある魂魄のみ着用される仕組みというわけでして……)




キーボ「………」




浦原「……とにかく、そうした風に、瞬間的に服が着用されるシステムを、修多羅千手丸(しゅたら せんじゅまる)サンという科学者の方が形にしてくれたんス」



92: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:37:29.26 ID:xIUq6BSMO



キーボ「瞬間的に、着用……」

浦原「………」

キーボ「……そんなこと、どうやってーーー」

浦原「……残念ながら、秘匿技術でして、アタシも詳しくはわかりません」

キーボ「……そうですか」

浦原「ーーーですが、何はともあれ、無償で和服を貰えて、あられもない姿を晒すことが無くなったわけっスからね」

浦原「現世で亡くなられた方たちにとっては安心できる話だと思うっスよ」



93: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:39:34.01 ID:xIUq6BSMO



キーボ「……あれ? でも、さっきの真宮寺クンは、浦原さんの言う和服以外にも、マスクやバンダナを付けていたようなーーー」

浦原「ああ! あれはウチの商品っス!」

キーボ「……商品? 駄菓子屋ではなかったんですか?」

浦原「フフフ……駄菓子屋だからと言って、その名の通りのことばかりしていれば、時代に取り残されてしまいます」キラーンッ

浦原「浦原商店では、マスクやバンダナ……パンツだって売ってるんスからねー!」パッパラ~!

キーボ「……服屋も兼ねているってことですか」

浦原「服だけじゃあないんスけど……まあ、わかりやすく言うなら、そんな感じにはなるっスね」



94: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:43:26.42 ID:xIUq6BSMO



キーボ「……ですが、気になることがあります」

浦原「……なんでしょう?」

キーボ「なぜ、ボクは、この装甲を着用したままなのでしょうか?」

浦原「………」

キーボ「先ほど、あなたの返答から、このソウル・ソサエティに衣服を持ち込めないということを確認しました」

浦原「……ええ、そうっスね」

キーボ「しかし、そうだとすると、なぜボクは、この装甲を着用したままなのか……」

浦原「………」

キーボ「この装甲は、ボクからしてみれば服のようなものでーーー生前はメンテナンスのために定期的に着脱だってしていました」

キーボ「なのに、どうして、ソウル・ソサエティに来た今でも、着用したままなのかーーーー」



95: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:45:24.36 ID:xIUq6BSMO



浦原「……そこは、まあ、アレじゃないですかね?」

キーボ「…… “ アレ ” ? アレとはいったいーーー」

浦原「いや、単純に “ ロボットだから ” じゃないんスかね?」









キーボ「ーーーあなたも、ロボット差別ですか」



浦原「とんでもありません! アタクシ共、浦原商店では、ロボットだろうと宇宙人だろうとーーーお客様である限り、ステキな商品をお届けさせて頂く所存っスよ!」



96: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:47:12.50 ID:xIUq6BSMO



浦原「ーーーああ、それはそうとお気づきかもしれませんが……」

キーボ「?」

浦原「……キーボさんの、目のカメラと耳の集音器、どちらも情報伝達の際のフィルターがあったようですが、その両方が撤去されていますね」

キーボ「……フィルター、ですか」

浦原「ええ、キーボさんは、視力と聴力に関しては元から規格外の性能をお持ちだったようなのですがーーー」

キーボ「………」

浦原「ーーーそこから電子頭脳に伝達される情報が、フィルターを介して大幅に制限されていたそうです」

浦原「実際問題、入間サンから教えて貰った内部構造には、フィルターの存在がありましたから」

浦原「それが、どういうわけか、撤去されているという話です」



97: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:49:01.36 ID:xIUq6BSMO



キーボ「……なぜ、フィルターなんてあったのでしょうね?」

浦原「………」

キーボ「なぜ、視力と聴力だけ、元から規格外の性能があったのでしょう?」

浦原「……なぜ、それをアタシに聞くんですか? アタシに答えられるはずがないじゃないですか」

キーボ「………」

浦原「【キーボさんの製作者が】【どういう目的で】【視力と聴力だけ】【規格外の性能にして】【さらにはフィルターをかけて情報制限していたか】なんて、それこそ製作者の方しか答えられないことでしょう」

浦原「その辺りについて、アタシから答えられることは何もありません」

キーボ「……それもそうですね」



98: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:50:30.57 ID:xIUq6BSMO



浦原「……ともかく、ここで大切なのは、【なぜ規格外の性能があったか?】【なぜフィルターがかけられていたのか?】などではなくーーー」



浦原「ーーー【規格外の性能を制限するフィルターが取り付けられていたものの】【それが撤去された状態にある】ってことっス」



浦原「実際に、今のキーボさんは、非常に高い視力と聴力を有し続けているのでは?」



キーボ「………」



浦原「キーボさん……アナタはその気になれば、この屋敷にいる小さな生き物たちの姿とその鳴き声がわかるんじゃないっスか?」



99: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:53:05.80 ID:xIUq6BSMO



キーボ「……言われてみれば、確かに、この屋敷では、小さな虫のような生き物の群れがさえずっているようですね」キュルキュル

キーボ「それらは主に、天井の穴と両わきの木枠の上にある植物らしきものから発生しているようですがーーー」ジー…

浦原「ご名答! その天井にあるのは、【ホタルカズラO】と言いまして、発光型の植物に品種改良を重ねて作り出した、浦原商店の自信作なんスよ!」

キーボ「発光……ああ、だから、こちらの屋敷は電球もなしにここまで明るいのですね」

浦原「その通り! ここが地下にありながらこうまで明るいのも、全ては【ホタルカズラO】のお陰っス!」

浦原「そして、そのOの花粉から生まれる変種の菌が、この空気中を漂う小さな虫みたいな生き物なんスよ!」



100: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:56:19.14 ID:xIUq6BSMO



キーボ「菌……」

浦原「この菌は、人の肉眼ではまず見えないサイズですがーーー」

浦原「ーーー有害となるような悪い菌、人や植物に悪影響を与える菌を捕食し、一瞬で無害なものに変換して取り込んでくれる良菌なんス!」

キーボ「………」

浦原「さらには、O本体の購入者の言葉一つで、本体の発光を止めるよう働きかけることもできます!」

浦原「【ホタルカズラO】! 少々、お値段は張りますが、当店イチオシの商品ですよ!」

キーボ「……あー、その、申し訳ないのですが、今はお金の持ち合わせはおろか、ゲームに使用するようなメダルすら持っていない状況でしてーーー」

浦原「いえいえ! 今回はあくまでキーボさんの視力や聴力が上がっていることの証明を兼ねて宣伝しただけっスから! 購入するかどうか決めるのはまた別の機会です!」



浦原「志波家で働けばご給金は充分に出ますしーーー」



浦原「ーーーもし、キーボさんにも個室が与えられる時があれば、ぜひ、ご一考を!」



キーボ「はあ……」



101: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 03:58:26.66 ID:xIUq6BSMO



浦原「さて、話を元に戻しますがーーーこの空気中の菌を、意識一つ切り替えることでキチンと認識できるくらいには、キーボさんの視力と聴力が規格外のレベルに達していることは証明されたわけです」

浦原「フィルターが撤去されたことについて、納得して頂けましたでしょうか?」

キーボ「……ええ、とてもよく理解しました」

浦原「……どうっスかね? 今なら、サービスで、無料で似たようなフィルターを付け直すこともーーー」

キーボ「結構です」

浦原「……良いんスか? 本当に」

キーボ「ええ、構いません」

キーボ「……このカメラと集音器の機能は、オート及びマニュアルの両方でいろいろと調整可能な状態にありますしーーー」キュルキュル



キーボ「ーーーそれに、今はむしろ、機能の高い状態がデフォルトである方が好都合ですから」



浦原「……そうっスか。それじゃあ、今回のサービスはーーー」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー



102: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:37:43.37 ID:xIUq6BSMO



キーボ(ーーーあれから、さらなるサービスとして無料でボクの身体を洗浄してくれた後、浦原さんは帰り、ボクは真宮寺クンの部屋に戻りました)




真宮寺(……布団には予備があるし、一応それも敷いた方が良いかな……)


真宮寺(そして、それからーーー)




キーボ(また、浦原さんは帰り際に、 “ 伝令神機 ” ……いわゆる携帯電話のプレゼントをしてくれました)


キーボ(もし、ボクの【機械の身体に異常が発生した時】【いつでも電話してくれて構いません】【いつでも修理に駆けつけます】と言伝と取扱説明書を残してーーー)


キーボ(ーーー浦原さん、あの人にはいずれ、しっかりとお礼をしなくてはなりませんね)


キーボ(……浦原さんに検査をお願いしてくれた真宮寺クンにもお礼をするべきでしょうかーーー)チラッ




真宮寺(ーーーよし、後は、この発明品をキーボ君にーーー)スッ




キーボ(ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)




岩鷲「おーい! オメーら、飯ができたぞ!」バタンッ



103: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:39:58.60 ID:xIUq6BSMO



真宮寺「……ありがとう、岩鷲君。すぐにでも行かせて貰うヨ」

岩鷲「おう! 先に行ってるぞ、オメーら!」スタスタ

真宮寺「さァ、キーボ君も」

キーボ「……ボクも行って良いんでしょうか?」

真宮寺「………」

キーボ「キミも、知っているはずでしょう……?」

キーボ「……ボクは、みなさんのように、食事をーーー」



真宮寺「ーーー大丈夫だヨ、キーボ君」



キーボ「……?」

真宮寺「この発明品があれば、ネ」スッ

キーボ「? それはーーー」

真宮寺「はい、キーボ君」ポンッ



104: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:41:44.87 ID:xIUq6BSMO



キーボ「……なんですか、この、メカメカしい蚊取り線香みたいなものは?」ジー…

真宮寺「……これは、入間さんが瀞霊廷で発明した、物質電力変換装置ーーー」



真宮寺「ーーーその名も【エレキイーター】だヨ」



キーボ「【エレキイーター】……ですか?」



真宮寺「……これが君の近くにあれば、特殊な波動が発生し、その影響で君は食事が可能となる」



キーボ「………」







キーボ「……はい?」



105: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:43:10.60 ID:xIUq6BSMO



真宮寺「……そして、君の口の中にある一定の物質……すなわち食料を電力に変換し、そのまま君の魂魄のエネルギーにできるのサ」



キーボ「………!?!?」



キーボ「ーーーな、なんなんですか!? その発明は!?」

キーボ「入間さんはそんなものまで発明したって言うんですか!?」



真宮寺「……そうだネ。入間さんの発明品であることに間違いないヨ」



106: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:45:03.43 ID:xIUq6BSMO



キーボ「………」



真宮寺「……本当に食事が可能かどうか気になるのであれば、食事場まで向かうことだヨ」



真宮寺「僕が案内するからサ」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー



107: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:47:22.20 ID:xIUq6BSMO



ー志波家の屋敷・食事場ー



金彦「食事の準備が」

銀彦「整いました」

キーボ「………」

空鶴「よし! 飯の時間だ、テメエら!」

空鶴「全員でーーー」

岩鷲「いっただっきまーす!」

アンジー「いただきまーす、だよー!」

真宮寺「ククク……今日も美味しく頂かせて貰うヨ」



キーボ「ーーーいただきます!」



108: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:49:11.98 ID:xIUq6BSMO



キーボ「………」ジー…



アンジー「……うんうん、ちゃんと美兎の機械持ってきてるね、キーボ」



キーボ「アンジーさん……」



アンジー「……でもでもー、食べないと、ご飯も機械ももったいないよー?」

岩鷲「そうだぞ、キーボ! この料理はウチの金彦(こがねひこ)と銀彦(しろがねひこ)が俺達のために! その機械は入間ちゃんがオメーのために! それぞれ真心込めて作ったもんだ!」

岩鷲「なのに、食わないってのは、人の心を大切にしないってことだ! 俺の目の黒いうちは、そんな真似、させやしねえぞ!」



109: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:50:37.29 ID:xIUq6BSMO



キーボ「……そうですね。キミ達の言う通りです」

キーボ「ありがたく、食べさせて頂きます!」



岩鷲「よく言った! さあ、食え! 遠慮はいらねえぞ!」

アンジー「パクッといっちゃえー! キーボ!」



キーボ「……はい!」

真宮寺「………」



110: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:52:10.66 ID:xIUq6BSMO



キーボ(……これで本当に食事がーーー)




キーボ(ーーーまずは、一口、いきましょうか)スッ…




キーボ「………」パクッ









キーボ「……はっーーーー」



111: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:54:02.51 ID:xIUq6BSMO



キーボ「………」



アンジー「んー? どうしちゃったー、キーボ?」

真宮寺「……もし、何か不具合が起きたのなら、浦原さんに修理を頼んでーーー」



キーボ「ーーー食える」



アンジー「……んんー、?」



キーボ「食えますよ……! 食えますよ、入間さん……!」



真宮寺「……キーボ君?」



112: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:55:35.39 ID:xIUq6BSMO



キーボ「ふはははははははははははははは!!!」



キーボ「食える、食える、食える、食えますよ!!!」



キーボ「これが、甘味か!!」パクパク



キーボ「これが、辛味か!!」ガツガツ



キーボ「これが、旨味か!!!」



113: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:57:11.41 ID:xIUq6BSMO



キーボ「そして、これが、旨味の染み渡る感覚……!」モグモグ



キーボ「ああ、思っていた以上に……」



キーボ「……素晴らしいーーー」






アンジー「ーーー静かにして、キーボ」

真宮寺「流石に叫ばれるのは、ちょっとネ」






キーボ「……すみません」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー



114: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 06:59:47.64 ID:xIUq6BSMO



空鶴「……食い終わったな、テメエら! それならーーー」



岩鷲「ーーーごちそうさまでした!」

アンジー「神ったごちそう、ありがとー! にゃはははー!」

真宮寺「ごちそうさま、だヨ」



キーボ「……ごちそうさまでした!」



空鶴「ーーーよし! あとは身体休めて明日に備えな! そんで、みっちり働いて貰うからな!」



115: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:02:05.62 ID:xIUq6BSMO



真宮寺「ククク……どうだい? 初めて食事を摂ったことに対する気持ちは?」



キーボ「………」



真宮寺「食事の終わった今なら、多少は声を張り上げても許されると思うヨ?」

アンジー「そうだねー。それに美兎が言うには、その機械で食べるとお口の中にご飯がぜんぜん残んないんだってー! 口の中が錆びるとか、それで異臭が発生するとか、気にしなくて良いんだってー!」



キーボ「………」



アンジー「だから、今なら口を大きく開けて元気な声出しても、大丈夫なんだよー!」



116: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:04:25.75 ID:xIUq6BSMO



キーボ「……冷静になってみると居た堪れなくなるので、声のボリュームは上げませんがーーー食事を摂ったことへの気持ちについては答えます」

アンジー「……どんな気持ちー?」

キーボ「……嬉しいに決まってるじゃないですか。初めての食事ですよ?」

キーボ「……どうも、ありがとうございました。コガネヒコさん……シロガネヒコさん」



金彦「……こちらこそ、味わって頂き光栄の極みです」

銀彦「それと、お礼の言葉は彼女の方にもお願いします」



キーボ「……そうですね」

キーボ「この美味しいという感覚……それをボクに味わって貰うため、入間さんはこの発明品を作ってくれたーーー」



キーボ「ーーー次にあなたに会った時には、必ずお礼を言わせて頂きます、入間さん!」



117: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:06:09.00 ID:xIUq6BSMO



金彦「……ふふふ、それでは、我々はこれで」

銀彦「仕事がまだ残っておりますゆえ、申し訳ありませんが、この場を離れさせて頂きます」



キーボ「いえ、こちらこそ、お忙しい中、引き止めてしまって申し訳ありません」

キーボ「これからも、よろしくお願いします! コガネヒコさん!シロガネヒコさん!」



金彦「……ええ!」

銀彦「こちらからも、よろしくお願いします、キーボ殿!」



118: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:09:51.97 ID:xIUq6BSMO



スタスタ……



真宮寺「……礼儀正しいんだネ、君って」



キーボ「……相手は知り合ったばかりで、さらには立派な社会人の方々でもあります」

キーボ「だとすれば、親しい関係になるプログラムではなく、礼儀を尽くすプログラムに切り替えるのは当然でしょう」



アンジー「……うんうん、ここで、そういうこと言っちゃうところ、キーボらしいねー」

真宮寺「……まさかとは思うけど、君は自分から行動するのを怠けて、そのプログラムに任せて機械的かつ自動的に礼義正しく振る舞っていたのかい?」

キーボ「そんなことしませんよ! 礼儀のプログラムも親しい関係になるプログラムも、あくまでも参考にしただけで、ボクはボク自身の意志によるマニュアル操作で動いています! 怠けてなんていません!」



真宮寺「……そう、それなら良かったヨ」

アンジー「そうだねー! そこでサボってたら、きっと神さまも罰を当ててたよー!」



119: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:16:44.17 ID:Pk9jS6GpO



キーボ「ーーーしかし、入間さんも、よくこんな、すごい発明ができましたね」

真宮寺「? まァ、確かに、すごい発明ではあるけど……」

アンジー「でもでもー、美兎ならこのくらい普通にできるんじゃないのー?」

キーボ「いや、入間さんがすごいことはボクも同感ですがーーー死後の世界でも生前と同じように発明できたことに驚いたんです」

キーボ「いくら、入間さんでも、自分の研究教室も無しに、ここまでの発明ができるとは思えません」



キーボ「……いったい、どうやって発明をーーー」



真宮寺「あァ……その説明は簡単だヨ」



キーボ「?」



真宮寺「さっきの人……浦原さんから、器具や機材を貸して貰ったんだヨ」



120: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:19:46.65 ID:Pk9jS6GpO



キーボ「浦原さんに、ですか?」



アンジー「そうだよー、喜助が美兎にサービスしてくれたのだー!」



キーボ「………」



真宮寺「……浦原さんは、入間さんに興味を持っていてネ」

真宮寺「自分の目の前で、入間さんの才能を確認させて貰う代わりに、霊的科学に関する知識を教え、器具や機材を貸して……つまりは、ほぼ無償で提供してあげたのサ」

真宮寺「そうして提供された知識……並びに器具や機材を用いて誕生した発明の一つが、【エレキイーター】なんだヨ」



121: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:23:13.88 ID:Pk9jS6GpO



キーボ「……発明の、一つ?」

キーボ「まさか、他にも発明があるんですか?」

真宮寺「そうだネ。たとえば、装着するだけで、片手の指の動きだけでメールを打てるようにするバングルがあるヨ」

キーボ「……なっ、!?」

真宮寺「バングルから読み取られた片手の動きでメールが作成され、その内容は脳内に転送され、内容を確認してからは伝令神機に転送後、そこからメール送信ができる」

真宮寺「これは、視覚や聴覚を阻害しないから、慣れてしまえば歩いている時に息をするようにメールの送信が可能となる」

キーボ「そんなものまで……って、まさか、それはーーー」

真宮寺「そう、僕が気づかれることなく、空鶴さん達と浦原さんにキーボ君のことを伝えることができたのは、その方法を使ったからなんだヨ」



キーボ「……なるほど、入間さんの発明品ならば納得です」



アンジー「………」



122: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:27:15.25 ID:Pk9jS6GpO



真宮寺「……他にも、君の身体を自動で洗浄する【ロボットウォッシャー】、自動でメンテナンスを行う【ロボットメンテ】にーーー」



真宮寺「ーーー最近発明したものの中には、霊力ある存在を感知する装置、【パワーセンサー】があるヨ」



キーボ「……【パワーセンサー】……」



真宮寺「……それは、モノパッドを小さくしたような形状をしていてネ。霊力ある存在が比較的近くにいれば、反応して振動しーーー」



真宮寺「ーーー霊力ある存在を示す印が、液晶画面の細かな地図の中に、映し出されるようになっている」



キーボ「!?」



真宮寺「……僕らはその装置を使って、君に霊力があることを確認したのサ」



123: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:30:59.48 ID:Pk9jS6GpO



アンジー「………」



キーボ「……ん? ちょっと待ってください。それって、もしかして今日、キミ達がボクと再会した時にーーー」



真宮寺「ーーーそうだネ。だいたい、君が察している通りだヨ」

真宮寺「僕らは今日、君に再会する直前の時、【パワーセンサー】で反応を確認した」

真宮寺「突如、流魂街の、あの場所に現れた、君の霊力反応を、ネ」



キーボ「………」



真宮寺「……普段は服の中にしまっている “ それ ” で、君に霊力が宿っていることを確認したのサ」



キーボ「……なるほど」



124: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:34:01.45 ID:Pk9jS6GpO



キーボ「……しかし、そのようなものまで発明するとはーーー」






アンジー「………」






キーボ「ーーー流石としか言いようがありませんね」



125: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:36:15.95 ID:Pk9jS6GpO



真宮寺(……本当に、彼女には恐れ入るヨ)


真宮寺(今の忙しい中、必死に時間をやりくりして、霊力ある存在を感知する装置を発明するなんてネ)




真宮寺(……僕達が持っている伝令神機にも似たような機能はあるけれどーーー)


真宮寺(ーーーあれで反応するのは、悪霊だけだからネ。他の魂魄……ましてやロボットの霊力感知なんてできるはずがない)




真宮寺(……他の発明と言い、ここに来るかどうかもわからないキーボ君がために、ここまでするとはネ……)


真宮寺(入間さん、彼女は、本当にーーーー)



126: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:37:20.83 ID:Pk9jS6GpO



キーボ「ーーーまた、それとは別に、驚きましたよ」



アンジー「………」



キーボ「まさか、ボクに、霊力などというものが宿っているとは……」



真宮寺「……どういう理由かまでは、わからないけどネ」



127: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:39:14.05 ID:Pk9jS6GpO



キーボ(……なぜ、霊力などというものがボクに、ひいては赤松さん達に宿っているのか大変気になるところですがーーー)




キーボ(ーーーここで思考を重ねたところで、おそらく結論は出ないでしょう)




キーボ(そういったことに時間を費やすくらいならば、そうーーー)


キーボ(ーーー赤松さん達の現状、それに加えてこの死後の世界のことを、もっと深く知るべきでしょう)


キーボ(その内容次第では、ボクがこの死後の世界でどう行動するべきかも変わってくるでしょうから)


キーボ(……これからしばらくは、情報収集に集中した方が良さそうですね)




キーボ(そうなると、まず聞くべきはーーーー)



128: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:40:37.44 ID:Pk9jS6GpO



キーボ「ーーーこれまでの話を振り返ると、赤松さん達は現在、セイレイテイという場所に住んでいて、忙しいんですよね?」



真宮寺「……まァ、そうだネ」

アンジー「………」






キーボ「……赤松さん達は、具体的に、いま何をしているのでしょうか?」



129: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:41:49.75 ID:Pk9jS6GpO



真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「………?」



キーボ「真宮寺クン? アンジーさん? どうかしたんですかーーー」






真宮寺「ーーー赤松さん達は、目指すもののために、日夜努力しているのサ」



130: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:44:19.28 ID:Pk9jS6GpO



キーボ「……目指すもの、ですか?」

真宮寺「そうだネ。それぞれ目指すものがある」

真宮寺「それを、この世界での生活基盤にして生きていくために、今を懸命に頑張っているんだ」



アンジー「………」



キーボ「……なんなんですか? 赤松さん達が目指すものって」



真宮寺「……本来ならば、そう簡単に話すようなことでもないけどーーー」



キーボ「………」



真宮寺「ーーー赤松さん達は、【もし仲間が来たら】【無用な心配をかけることのないよう】【自分達のことについて話してくれて構わない】って言ってたからネ」

真宮寺「だから、今回は特例で話すことにするヨ」



キーボ「……わかりました。ぜひ、お願いします」



131: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 07:45:53.80 ID:Pk9jS6GpO



真宮寺「……ただ、その話は、僕が空鶴さんから貸して貰ってる、あの部屋で行うとするヨ」

真宮寺「いつまでも、食事場で話すわけにはいかないからネ」



キーボ「……そうですね。それでは移動するとしましょう」

アンジー「………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー



132: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:06:17.51 ID:Pk9jS6GpO



ー志波家の屋敷・真宮寺の部屋ー



真宮寺「ーーー部屋に戻ったし、さっそく、みんなについて順番に説明するネ」

キーボ「はい、お願いします」

アンジー「………」

真宮寺「まず……茶柱さん、東条さん、ゴン太君、入間さん、百田君の五人についてだけどーーー」



真宮寺「ーーー彼女達は、死神を目指しているヨ」



キーボ「……そうですか、死神にーーーー」



133: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:08:31.79 ID:Pk9jS6GpO



キーボ「ーーーって、死神!?」



アンジー「……んー? どうした、キーボ?」

アンジー「ここは死後の世界だよー?」



アンジー「しにがみがいても、おかしくはーーー」



キーボ「そういうことじゃありませんよ!?」

キーボ「確かに、ここは死後の世界! 死神がいてもおかしくはないでしょう!」

キーボ「ですが、死神って言ったら、生きている人を無理やりあの世に連れて行く恐ろしい存在じゃないですか!?」



アンジー「……あー、なるほどねー」



キーボ「なぜ、彼女達はそんな存在になろうとするんです!? というか、人が死神になれるんですか!!?」



真宮寺「……そうだネ。まずはそこから説明しないとネ」



134: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:12:44.73 ID:Pk9jS6GpO



キーボ「? どういうことですか?」

真宮寺「キーボ君、この世界の死神とは、君が想像しているようなものじゃあないんだヨ」

キーボ「???」

真宮寺「……この尸魂界における死神とは、尸魂界、ひいては現世を護るための存在ーーー」



真宮寺「ーーーいわゆる、世界の管理者なんだヨ」



キーボ「管理者……」



真宮寺「この世界が一つの国だとするならば、死神は兵士に該当するネ」



キーボ「………」



真宮寺「人をあの世に連れて行くというのも間違いではないけれどーーー」



真宮寺「ーーーそれは、何らかの理由で魂魄に不具合を起こし、現世に残ってしまった魂を昇華……わかりやすく言い換えれば、成仏させるということなんだ」

真宮寺「あの世に連れて行くのは、あくまでも、既に肉体が死んでいる人の魂魄だけサ」

真宮寺「だから、生きている人を殺して、無理やりあの世に連れて行くだとかーーー間違ってもそんな存在ではないヨ」



135: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:17:12.99 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「ーーーですが、茶柱さん達は、あくまでも人であって、妖怪などではありませんよね?」



アンジー「………」



キーボ「それが、死神になれるんですか?」



真宮寺「おそらく君は、死神とは……大鎌を手にした黒装束の骸骨であると、想像していると思うけどーーー」



キーボ「? 違うんですか?」



真宮寺「ーーー違うんだヨ」



136: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:19:38.97 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「確かに、死覇装(しはくしょう)と呼ばれる黒い和服は着ているけれどーーー大鎌を手にしているとは限らないし、骸骨でもない」

真宮寺「なぜなら、この、尸魂界における死神とは、人の魂魄が進化した存在を指すのだから」

キーボ「進化?」

真宮寺「そう、進化」

アンジー「………」

真宮寺「人の魂魄は、 “ 真央霊術院 ” ……死神の学校に入学して六年かけることで、死神の魂魄へと、進化を遂げることができる」

真宮寺「基本的に、ネ」

真宮寺「故に、人の魂魄である茶柱さん達も、死神になることは可能だしーーー」



真宮寺「ーーー元が人である以上、人と変わらない姿をしているってわけだヨ」



キーボ「………」



137: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/09/17(火) 13:22:20.55 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「キーボ君にもわかりやすく言うならーーー尸魂界における死神とは、バージョンアップした人の魂魄なのサ」

キーボ「……人のバージョンアップって、サイボーグか何かですか?」

真宮寺「……サイボーグというよりも、エスパーと呼んだ方が、僕としては適切だと思うネ」

キーボ「……エスパー?」

真宮寺「人から死神への昇華、それは人の魂魄が持つ霊能力、すなわち超能力を鍛えた末に起こる進化現象だ」

真宮寺「たとえば、霊能力を鍛えると、自らの霊力を消費することで、霊術……と呼ばれる超常能力を、扱えるようになる……」

キーボ「!」

真宮寺「……他にも【パワーセンサー】のようなものがなくとも、身体の感覚だけで、周囲に霊力ある魂魄がいるか感知することが可能になるしーーー」

真宮寺「ーーーその相手の霊力の “ 質 ” を感じ取り、相手が死神かそれとも別の存在か、細かく区別することも可能となる」

真宮寺「……それこそ、その霊力ある魂魄がどこの誰か? 個人レベルで区別することだって可能となるのサ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「……ならば、それはサイボーグというよりもエスパーと言った方が近い」

真宮寺「僕はそう思うヨ」



138: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:23:54.54 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「ーーーなるほど、勉強になります」



真宮寺「……僕の説明が役に立ったようで何よりだヨ」



アンジー「………」



キーボ「……しかし、なぜ茶柱さん達は死神になろうとしているのでしょうか?」



139: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:25:16.19 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「ーーーそうだネ。それについても詳しく説明するヨ」

キーボ「お願いします」

アンジー「………」

真宮寺「……まずは、茶柱さん、東条さん、ゴン太くんの三人について説明させて貰うネ」

キーボ「………」

真宮寺「茶柱さん達三人が死神になろうとしている理由ーーーそれは、恐怖で心の弱った人達を助けたいと思ったからサ」



140: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:27:17.27 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「恐怖、ですか?」



真宮寺「……そう、恐怖」

真宮寺「死神の仕事には、悪霊との戦いも含まれているからネ」



キーボ「………」



真宮寺「……魂魄は、何の処置もされないまま現世に残り続けてしまうと……どういうわけか悪霊に変化することがある」

真宮寺「また、そうして悪霊に変わった魂魄は、なぜか怪物のような姿となり強大な霊力に目覚め、強力な……霊術を扱えることもある」

真宮寺「そうした相手との戦いには、死の危険がつきまとうし、現実として殉職率も高い」

真宮寺「故に、恐怖に呑まれてしまう死神は、決して少なくないんだ」



アンジー「………」



141: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:28:58.53 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……死神って、真宮寺クンが言うには、死者の魂が進化した存在ですよね? 既に死んでいる人が死ぬとはどういうことなのでしょうか?」



真宮寺「……確かにおかしな話に感じるかもしれないけど、死者でも死ぬことはあるんだヨ」



真宮寺「そして、死者が死ぬということは、生身の肉体ではなく魂魄の死を意味している」



真宮寺「魂魄が死すれば、転生することも不可能だ」



アンジー「………」



142: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:31:31.79 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「……これが、動植物の魂魄なら、話は別なんだけどネ」

真宮寺「それなら、死んだ動植物の魂魄を食べるなりーーーもしくは、死んだ魂魄を取り込ませる……霊術の使用が許される」

真宮寺「そうして魂魄を、深く大きく、人体に取り込ませることが可能となる」

真宮寺「そういった風に、動植物の魂魄を、自分の魂魄が有するエネルギーなどに溶かして、混ぜ合わせることでーーー」



真宮寺「ーーーその人が転生する際、その人が体内に取り込んだ動植物も一緒に転生させることもできる」



アンジー「………」



真宮寺「……だけど、倫理上、人を動植物と同じように扱うわけにはいかないからネ」

真宮寺「故に、この尸魂界では、人の魂魄が転生する前に死んだ場合、基本的に火葬される決まりとなっている」

真宮寺「そうして、焼かれ、骨と灰だけが残りーーーそれ以外は空気と溶け合い、風に吹かれることになる」



キーボ「………」



143: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:34:07.50 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「……そういった死を、死神達は恐れている」

真宮寺「自分達が、骨と灰を残して……風に吹かれるだけの存在になることを恐れている」

真宮寺「絶望的な “ 死 ” を……終わりを迎えることを、とても恐れているんだ」

真宮寺「故に、その恐怖でおかしくなることだってあるし、時に間違いを犯してしまう人だっている」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「それは、覆しようのない、確かな事実なのサ」



144: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:37:01.73 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「……だからこそ、茶柱さん達は、誰よりも “ 死 ” を恐れる死神達のために、自分達も死神になろうとしているんだヨ」

キーボ「それは、茶柱さん達も、悪霊と戦う……ということですか?」

真宮寺「それも視野に入れているという話だけどーーー第一志望は死神を救護する部隊に入ることみたいだネ」

キーボ「救護部隊、ですか」

真宮寺「そうだネ。さっき述べた通り、死神と言っても決して不死ではない」

真宮寺「故に、死なせないよう、壊さないよう……霊術や話術で心身ともに支え、全身全霊を込めて救護する部隊も存在する」

真宮寺「そこを、茶柱さん達は第一志望として、入ろうとしているのサ」

キーボ「………」

真宮寺「茶柱さん達……彼女ら三人は、生前の時点で高い戦闘能力を有していた」

真宮寺「それに加えて霊力を持ち、恐怖から人を守ることの大切さを知っている人達でもある」

真宮寺「そんな自分達だからこそ、自分達も死神となり、他の死神達の気持ちと向き合って理解して、支えることも、できるはずだと……」



真宮寺「……そう、信じてーーーー」



145: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:39:10.97 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……茶柱さんらしいですね。生前も死後も、前向きに真っ直ぐ生きているなんて」

キーボ「彼女が死神になれば、影響されて元気になる人も、きっと多く現れることでしょうね」



真宮寺「……そうだネ。その通りだと思うヨ」



キーボ「………」



真宮寺「実際、東条さんも、ゴン太君も……茶柱さんに影響されて元気になった結果、同じ道を選んだわけだからネ」

アンジー「………」



146: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:40:53.22 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……やはり、そうだったんですか」



真宮寺「……そうだネ。君が察している通りだヨ」

真宮寺「東条さんも、ゴン太君も、茶柱さんに影響されて元気になった結果、自分達も同じ道を歩むことに決めたんだ」



キーボ「………」



真宮寺「……だけど、それは決して流されたわけじゃない」



真宮寺「東条さん達が、熟慮の末に、決めたことだ」



真宮寺「それは、わかって欲しい」



147: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:42:44.47 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「ーーーわかってますよ」

キーボ「東条さんも、ゴン太クンも、それぞれ懸命に、必死になって考え抜こうとする人です」

キーボ「そうした上で、茶柱さんと、そして多くの死神達と協力しあいながら、人を恐怖から守ることに決めたーーー」



キーボ「ーーー少なくとも、ボクはそう思っています」



真宮寺「……そうーーー」



アンジー「………」



148: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:44:00.61 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「ーーー以上が、茶柱さん達が死神を目指す主な理由だネーーー」



キーボ「………」



真宮寺「ーーーそして、次は、入間さんと百田君が死神を目指す理由について、説明させて貰うヨ」



キーボ「……お願いします」



149: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:46:25.27 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「それで、入間さん達が死神を目指す理由だけどーーーそれは、尸魂界の科学者となるためだヨ」



キーボ「……科学者? なぜ、科学者になるために死神になる必要があるんですか?」



真宮寺「それは、尸魂界の科学は、基本的に死神が発展させているからだネ」



真宮寺「……霊術を扱える死神でないと、物理的に不可能な実験もあるからサ」



150: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:48:07.07 ID:Vk1V6IAHO



キーボ(なるほど、そういうことでしたか……)




キーボ(……だとすれば、浦原さんも、おそらくは死神でーーー)




真宮寺「……霊術を用いた実験ーーーそうした研究を行う代表的な場所が、瀞霊廷の “ 技術開発局 ” であり、死神しか局員になることを許されない」



アンジー「………」



真宮寺「だから、入間さん達は、科学者になるため、死神を目指すことにしたのサ」



151: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:49:13.38 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……入間さんらしいですね。死後の世界でも研究に打ち込むだなんて」



真宮寺「………」



キーボ「研究のためなら、死神という未知数の存在にだってなれる……」



キーボ「流石は入間さんです」



152: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:50:23.64 ID:Vk1V6IAHO



アンジー「……まあ、美兎は、今まで……霊術のこととか知らなかったからねー」

アンジー「 “ そういう意味での遅れを取り戻すためには、やっぱり自分も、しにがみにならないとー ” って、思ったのかもしれないよー」



キーボ「確かに……入間さんは、科学者としての自分に誇りを持っている人ですからね」

キーボ「それを考えれば、知識面での遅れは、取り戻したくて仕方がないことなのかもしれません」



真宮寺「………」



153: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:51:44.30 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……しかし、入間さんだけでなくーーー百田クンまで科学者を目指すとは驚きでした」



真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「いったい、百田クンに何があったのでしょうか?」



154: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:53:08.42 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「……百田君には、新たな夢ができたのサ」



キーボ「新たな夢……?」



真宮寺「……それを達成するためには、科学者となる必要がある」

真宮寺「だから、死神となり、科学者を目指すことにしたんだヨ」



アンジー「………」



155: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:54:48.19 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……なんなんですか? その、百田クンの新たな夢って?」



真宮寺「……百田君は、行ってみたいんだヨ」

アンジー「………」



キーボ「……行ってみたいって、どこにーーー」



真宮寺「……尸魂界の空の上に、だヨ」



156: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 13:56:59.65 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「ーーー空の上って……もしかして宇宙のことですか?」

真宮寺「……この死後の世界に、宇宙があるとは限らないヨ」

キーボ「……そうなんですか?」

真宮寺「少なくとも、尸魂界が宇宙進出していることを示す文献は見当たらなかったネ」

キーボ「………」

真宮寺「だけど、尸魂界の遥か上空には、 “ 霊王宮 ” なるものが存在しているということは知った」

キーボ「……レイオウキュウ……?」

真宮寺「そこは、死神の王である “ 霊王 ” ……様とその血族であるとされる王族ーーー」



真宮寺「ーーーひいてはその守護者…… “ 零番隊 ” と呼ばれる死神達が暮らす場所なのサ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「しかも、霊王宮には、尸魂界、並びに現世が始まった根源があるとされている」



157: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:00:54.24 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「根源、ですか」

真宮寺「そう、根源」

真宮寺「それこそが、霊王様」

真宮寺「……霊王様は、全ての世界の始まりであり楔であり、遥か過去から現在に至るまで、尸魂界と現世を支え続けている存在とされている」

真宮寺「その霊王様を守護する場所が、霊王宮でもある」

真宮寺「そうした未知の場所に対し、百田君は、強く興味を惹かれたようでネ」

真宮寺「霊王宮がどういった場所なのか、霊王様がどういった存在なのか、世界を支えているとはどういうことなのか、それを知りたくてたまらないと、自分の直感が訴えかけて来たそうだヨ」

キーボ「………」



158: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:11:59.22 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「ーーーあァ、断っておくけど、百田君は宇宙に行くことを諦めているわけじゃないからネ?」

キーボ「……そうなんですか?」

真宮寺「そうなんだヨ」



真宮寺「……もっとも、現世の宇宙には行けないだろうけどネ。現在のあそこは、現世で生きている人間が管理運営すべき場所とされているから……」



キーボ「………」



真宮寺「……故に、百田君が行くとすれば、尸魂界の宇宙ということになる。あるかはわからないけどサ」

真宮寺「だから、百田君は、尸魂界の宇宙に行けるようになるために、霊王宮に行こうとしている……」

真宮寺「……そう、百田君が霊王宮に行こうとするのは、この尸魂界に宇宙が存在するか否か、霊王宮でロケットを発射するなどして確認するためでもあるんだヨ」



159: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:15:39.41 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……? いや、レイオウキュウという場所に行かずとも、入間さんに超高性能な天体望遠鏡を作って貰えば、宇宙があるかどうかわかるのでは?」

真宮寺「……残念ながら、現在の霊王宮は、厳重に守護されていてネ。絶対にそこに入れないように、尸魂界の遥か上空には、七十二層以上もの透明な障壁が際限なく広がっているらしいんだ」

キーボ「なっーーー!?」

真宮寺「その透明な障壁が、霊王宮より上の場所から降り注ぐ光の流れを、歪ませてしまう」

真宮寺「だから、どんなに高性能な望遠鏡を使ったとしても、地上から離れ過ぎている場所を細かに見ることはできないんだヨ」



キーボ「空に障壁って……そんなものがーーー」



真宮寺「ーーーその障壁のせいで、夜空や星の光のようなものを地上から見ることはできても、望遠鏡などで細かに見ることは不可能」

真宮寺「なお、障壁は、尸魂界の遥か上空に際限なく広がっているため、地上のどこにいようと、望遠鏡などで宇宙の存在を確かめることはできない」

真宮寺「それに加えて、障壁は非常に頑強で破壊はまず不可能だし……可能だったとしても霊王宮を守る障壁を勝手に破壊なんてすれば、死罪になりかねない」

真宮寺「故に、尸魂界に宇宙が存在するか否かを地上から確かめることはできないのサ」

キーボ「………」



160: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:18:24.23 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「宇宙が存在するか否かどうかを確かめるには、霊王宮の死神に障壁を突破するための……霊術を使って貰い、その力で霊王宮に行かせて貰うしか方法はない」

真宮寺「そうして、霊王宮に行かせて貰い、そこでロケットを発射するなどして確かめるしかない」



真宮寺「……現世において、宇宙飛行士になるためには、そのための試験に合格して宇宙開発局のロケットに乗せて貰う必要があるように」

真宮寺「霊王宮に行くには、霊王宮の死神に障壁を突破するための……霊術を使って貰い、その力で霊王宮に行かせて貰うしか方法はないんだ」

真宮寺「そうした理由もあって、百田君は、まずは自分も死神となって、技術開発局で科学者としての腕を磨き、霊王宮の守護を任される立場を得ようとしているんだヨ」



キーボ「………」

アンジー「………」



161: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:20:28.27 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……奇妙ですね。なぜ、王様やその場所の守護を任されることと、科学者になることがイコールで結ばれるのでしょうか?」

真宮寺「その答えは簡単だヨ」

真宮寺「霊王宮を守護する立場を得るためには、尸魂界全体にとって “ 歴史そのものとなるほどの価値ある何か ” を発明し、霊王様に認められる必要があるからサ」

キーボ「発明、ですか」

真宮寺「そう、発明。入間さんの得意分野だネ」

アンジー「………」



真宮寺「……だけど、発明を成し遂げるには科学者として、相応の知識と実力を身につけなければならない」

真宮寺「そのために百田君は、努力して科学者になろうとしているんだヨ」



162: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:24:37.63 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……そうだったんですか」



アンジー「………」



キーボ「死後の世界でも、夢を叶えようとするだなんてーーー流石は百田クンですね」



真宮寺「……そうだネ。僕もそう思うヨ」



キーボ「……百田クンも、入間さんも、きっとそれぞれの長所をもって、ソウル・ソサエティの名だたる科学者にーーー」







真宮寺「ーーーそれは、まだちょっとわからないけどネ」



163: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:26:46.50 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「ーーーどういうことですか、真宮寺クン?」

真宮寺「………」

キーボ「キミは、百田クンの心の強さを、入間さんの才能のすごさを、信じていないのですか?」

真宮寺「……いや、彼らならば、実力的には信じることはできるヨ」

キーボ「だったら、どうして、二人の未来を疑うようなことを言ったんですか?」

真宮寺「……それは、技術開発局という場所と、百田君や入間さんの性質が合致しているようには思えないからだヨ」

キーボ「性質?」

真宮寺「まァ、正確には、性質というよりも、性格的な相性の問題になるネ……」







真宮寺「……それも、技術開発局の、現局長との、ネ」



164: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:28:17.89 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……?」



真宮寺「……その人と直接話したわけじゃないから断定するようなことは言いたくないのだけれどーーー」



真宮寺「ーーーただ、もし、技術開発局の現局長が、多数が証言する通りの人物だった場合ーーー」






真宮寺「ーーーその人の元で、百田君と入間さんがやっていけるとは、とても思えないネ」



165: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:29:49.00 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……ちょっと待ってください。入間さんならまだしも、百田クンとまで相性が悪いんですか?」

真宮寺「そうだネ。それも致命的なまでに」

キーボ「致命的なまでに百田クンと相性が悪いだなんて、そんなーーー」

真宮寺「百田君のような人だからこそ、だヨ」

真宮寺「……もし、技術開発局の現局長が、多数が証言する通りの人物だった場合、その人の元で百田君がやっていけるはずがない」



真宮寺「僕はそう信じているヨ」



キーボ「………」

アンジー「………」



166: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:35:22.44 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……その現在の局長って、どのような人なんですか? ものすごく気になるんですが……」



真宮寺「それは、言えないかな……」



キーボ「どうして、言えないんですか?」



真宮寺「さっきも言った通り、僕はその人と直接話すことができたわけじゃあない。だから、僕の口から断定するような……偏った認識を植えつけるようなことは、なるべく言いたくないんだヨ」



キーボ「………」



真宮寺「僕は、今を生きる特定の誰かを、デリケートな部分まで評する場合、可能な限りその人と直接話をした上で行いたい」

真宮寺「……そうでないと失礼な気がするんだ。たとえ、相手がどういう人であったとしても」

真宮寺「だから、僕の口から言うことは、とてもじゃないけどできないんだヨ」



キーボ「……そうですか。それなら仕方がないですね」

アンジー「………」



167: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:37:29.19 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「しかし、そうなると、入間さんも百田クンも、技術開発局に入るのは難しそうですね」

真宮寺「……そうだネ。しかも、技術開発局は、瀞霊廷における最先端技術の集まる場所」

真宮寺「そこに行かずして科学者として研究を行うのは、難しいと言わざるを得ないヨ」

キーボ「……他に、研究機関はないんですか?」

真宮寺「……他にあるとすれば、貴族が抱える独自の研究機関になるだろうネ」

キーボ「……貴族?」

真宮寺「……実は尸魂界には、王族だけでなく貴族も存在していてネ。充分な財源を確保できる裕福な家であれば、そこで独自の研究機関を抱えていることはある」

真宮寺「そこでなら、技術開発局のそれには及ばないまでもーーー科学者として研究を行うことはできるはずだヨ」

キーボ「なるほど……」

アンジー「………」

真宮寺「まァ、都合よく貴族の研究機関に勤められるとは限らないけれどーーー入間さんほどの才能や百田君ほどの心の強さがあれば、可能性は高いと思うヨ」

真宮寺「人事としても、あれほどの人材を遊ばせておくのは、避けたいことだろうからネ」

真宮寺「おそらくは、信頼できる貴族が抱える研究機関の元に、配属されるんじゃないかと思うヨ」

真宮寺「……もっとも、技術開発局ではない場所で、どこまで科学者として大成できるかはわからないけどネ」



168: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:38:29.67 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「……いや、入間さんなら、持ち前の才能でどうにかできるかもしれないけど、この場合は貴族の元で働くことになるわけだからネ」

真宮寺「どんなに才能があったとしても、あの言動の根本を改めないと、最悪、不敬罪で処断されかねない」

真宮寺「それらを考慮するとーーー」



キーボ「ーーー大丈夫ですよ、入間さんと百田クンならば」



真宮寺「………」

アンジー「………」



169: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:39:42.18 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……入間さんと百田クンなら、きっと上手くやっていけます」

キーボ「あの学園での経験が記憶に残っているのであれば、それと向き合い、己の糧にできる」

キーボ「お互いに必要なところを学び合って補い、支え合うことだってできる」



キーボ「……大変なこともあるかもしれませんがーーーそれでも、今の入間さん達ならば上手くやっていける」



キーボ「ボクは、そう、信じたいです」



170: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:41:11.82 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「……そうだネ」

真宮寺「実際、君の言う通り、入間さんと百田君は、今でもお互いに学び合っている」

キーボ「!」

真宮寺「百田君は、 “ 常識の範囲内で ” 可能な限り入間さんと一緒にいるようにして、彼女を通して発想力を学んでいる」

真宮寺「入間さんも百田君を “ 信頼して ” 、彼が自分と一緒にいることを許し、その上で百田君からコミュニケーション能力や精神論を教わっている」

キーボ「………」

真宮寺「……過去と向き合い、己の糧としている」

真宮寺「お互いに必要なところを学び合って補い、支え合っているんだ」

真宮寺「これからも、そう在り続けることを望むヨ」

キーボ「……そうですね」

アンジー「………」



171: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:42:18.82 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「ーーーとりあえずとして、以上が百田君達が死神を目指す主な理由だネーーー」



キーボ「………」



真宮寺「ーーー何か質問はあるかい?」




172: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:43:56.65 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……それでは、二つ、良いですか?」

真宮寺「何かな?」

キーボ「……まず一つ目の質問ですが、死神になろうとしているみなさんは、もう死神学校に入学しているのですか?」

真宮寺「……いや、それはまだだヨ」

真宮寺「みんなも熟慮の末に死神になる道を選んだからネ」

アンジー「………」

真宮寺「死神の学校に入学する手続きをしたのも比較的最近の話だから。まだ入学はできておらず、死神になるための勉強と生活のためのアルバイトを重ねているのが現状だヨ」

キーボ「……わかりました。ありがとうございます」



キーボ「……それでは、二つ目の質問ですがーーー」



キーボ「ーーーと、その前に確認しておきますが、真宮寺クンの話によると、死神はこの世界の管理者側に位置する存在ですよね?」

真宮寺「……そうだけど?」

キーボ「ーーーわかりました。それでは二つ目の質問に移ります」

真宮寺「………」

キーボ「……キミの話の通り、六年かけて死神になれば、現世に関する詳しい情報を得ることは可能なのでしょうか?」



173: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:45:11.39 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「……普通に可能だと思うヨ?」

キーボ「!」

真宮寺「どうしてそんなことを聞くんだい?」

キーボ「……いえ、単純に気になっただけです」



アンジー「………」



真宮寺「……まァ、詳しい情報を得るとしても、条件はあるだろうけどネ」

キーボ「条件、ですか?」

真宮寺「そうだネ。たとえば情報の伝達制限などが挙げられるネ」



174: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:46:38.05 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「貴族や死神は、現世の情報を得たとしても、それが尸魂界に混乱を引き起こすような内容である場合、その詳細を民間人に伝えることを禁止されている立場にある」

真宮寺「基本的に、ネ」

真宮寺「なお、これは、何らかの理由で貴族や死神を辞めた場合でも同じだ」

真宮寺「故に、何でも伝えられるわけではないんだヨ」

キーボ「……伝える相手が、一人だけでも、ですか?」

真宮寺「……一人だけでも、間違いなく問題になるヨ」

真宮寺「一人だけだろうと、ルールを破ることを許してしまえば、それが前例となってしまう」

真宮寺「そして、一度ルール破りを許すという前例を作ってしまったが最後、何度も繰り返されかねない。そうなれば、社会全体に致命的な破綻を引き起こす可能性だって生じてくる」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「だから、よほど特別な理由がない限りは、一人たりとも認められないだろうネ」



キーボ「……なるほど、よくわかりました」



175: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 14:47:35.16 ID:Vk1V6IAHO



キーボ(……浦原さんから、いろいろと聞くのは、難しそうですね……)




真宮寺「……さて、そろそろ赤松さん達についての説明に移っても良いかな?」



キーボ「……お願いします」



アンジー「………」



176: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:01:35.93 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「ーーーそれじゃあ、最後に赤松さん、天海君、星君、王馬君の四人について説明するヨ」



キーボ「……赤松さん達は死神になるわけではないんですよね? 何を目指しているのでしょうか?」



真宮寺「……赤松さん達は、芸人を目指しているのサ」



キーボ「芸人……ひょっとして、音楽芸人でしょうか?」



177: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:02:34.06 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「……その通りだヨ、キーボ君」



キーボ「………」



真宮寺「赤松さん達は音楽芸人を目指している」



178: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:04:02.18 ID:Vk1V6IAHO



アンジー「ーーー楓はねー、美兎が作ったピアノを弾いてるんだー!」



キーボ「……そうなんですか?」



アンジー「そうなんだよー!」

アンジー「その間に、小吉たちが踊ったり回ったり、いろいろ楽しいショーを見せてくれたりもー!」



真宮寺「……夜長さんの言う通りだヨ」

真宮寺「赤松さん達は、そういったことをして、生計を立てられるようになることを目指しているのサ」



179: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:06:09.69 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「ピアノで、ショー、ですか……」

キーボ「……一応確認しておきますが、この死後の世界において、ピアノとはどのくらい一般的なものなのでしょうか?」



真宮寺「……少なくとも、死神達にとっては、そこまで一般的なものではないネ」



キーボ「……確かに、この死後の世界の文化は、平安から江戸時代のそれに近いようですからね」

キーボ「逆にピアノが大流行りしているという方が驚きです」



アンジー「……でもでもー、それでも楓はーーー」



キーボ「ーーーわかっていますよ」



アンジー「……本当にー?」



キーボ「ええ、わかっています」

キーボ「演奏するのは、あの赤松さんですよ?」

キーボ「彼女なら、多少の文化の違いくらい、ものともしない……」

キーボ「『想い』のこもった演奏を、人々の心に届けようとしている。そうでしょう?」



アンジー「……にゃはははー! 大アタリだねー、キーボ!」

真宮寺「……まったくもって、その通りと言わざるを得ないネ」



180: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:07:33.97 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「ーーーただ、それでも気になるところはありますけどね」



真宮寺「……それは、ひょっとして、赤松さんが王馬君と一緒に芸人となったことを気にしているのかな?」



キーボ「ええ、その通りです」

アンジー「………」



キーボ「一緒に芸人になれるということは、今の王馬クンは無害なんでしょうけどーーー」

キーボ「ーーーどうすれば、王馬クンが無害になれるのか、少しイメージしづらいです」

キーボ「いったい王馬クンに、何があったというのでしょうか?」



181: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:10:17.51 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「……まァ、赤松さん達と仲良くなったとでも言っておくヨ」

キーボ「仲良く、ですか」

真宮寺「……もっとも、王馬君に、はじめはそんなつもりはなかったらしい」

アンジー「だから、最初はひとりで、どこか違うところに行こうとしてたんだってー」

キーボ「一人で……」

真宮寺「……もちろん、王馬君としては、みんなの気持ちを考えて、一人になろうとしたんだろうけどサ」

真宮寺「それに赤松さん達が気づいて、必死に引き止めたんだヨ」

真宮寺「……赤松さんは、今度こそ、みんなで友達になることを、望んでいたから………」



キーボ「………」



真宮寺「……僕はその引き止めた現場を見たわけではないのだけれどーーー赤松さん達は王馬君と向き合って、根気よく説得したようでネ」

アンジー「最後は、すごく仲良しになって、一緒に芸人になることに決めたんだってー!」

真宮寺「……ただし、王馬君が何を仕出かすかわからないということで、天海君と星君も、王馬君の監視という名目で一緒に芸人になることにはなったんだけどネ」



キーボ「なるほど……そういった事情が……」



182: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:12:05.83 ID:Vk1V6IAHO



真宮寺「ーーー以上で、みんなについての話を終えさせて貰うヨ」



キーボ「ありがとうございます。真宮寺クン、アンジーさんも……」



アンジー「………」



真宮寺「ククク……何かわからないところがあれば、いつでも聞いてくれて構わないヨ?」



183: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:13:22.95 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……それでは、一つ、良いですか?」

真宮寺「うん、何かな?」

キーボ「なぜ、キミ達は、赤松さん達のようにセイレイテイに住まないのでしょうか?」



真宮寺「………」

アンジー「…………」



キーボ「赤松さん達に霊力があったことから考えて、キミ達にも霊力があると考えるのが自然です」

キーボ「なのに、どうして、キミ達は赤松さん達のようにセイレイテイに住まないのでしょうか?」



キーボ「……キミ達は、ボクのように、存在自体がイレギュラーというわけでもないのですから」

キーボ「ならば、霊力さえあれば、問題なく住めるはずですがーーーー」



184: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:14:26.76 ID:Vk1V6IAHO






真宮寺「………」






アンジー「………」






185: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:16:23.62 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……? 二人とも、どうかされたんですかーーー」

アンジー「さあねー? アンジーはよくわからないやー! にゃはははー!」

キーボ「……わからない?」



真宮寺「……アー、とりあえず、僕については答えるヨ」



キーボ「真宮寺クン……?」

真宮寺「君の言う通り、僕は霊力を持っている。だけど、瀞霊廷には住めない」

キーボ「……え?」



アンジー「………」



キーボ「それは、どういうーーー」



真宮寺「近いうちに、消えるからサ」



186: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:17:30.75 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「消える……?」



真宮寺「……僕の霊力は、赤松さん達のそれと違って、期間限定のものなんだヨ」

真宮寺「だから、瀞霊廷に住むことはできないんだ」



キーボ「……期間限定って、どういうことなんですか?」



真宮寺「……詳しいメカニズムは知らない」



アンジー「………」



真宮寺「ただ、魂魄が酷く損壊すると、少しずつ霊力が消えていくこともあるようでネ」



187: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:18:42.22 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「魂魄が、損壊……?」



真宮寺「………」



キーボ「…………」









キーボ「………っ、!!!」



188: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:19:58.60 ID:Vk1V6IAHO



キーボ(ーーーそんな、まさかーーー)




真宮寺「………」




キーボ(ーーー “ あれ ” は、悪意による合成映像ではーーー)




真宮寺「ーーーとにかく、僕の霊力は期間限定のもの」



真宮寺「その消えていく『力』は、何をどうしようと、まず取り戻すこと叶わない」



真宮寺「消えていく速度も徐々に上がり続けーーーいずれは、跡形もなく消え失せるだろう」



キーボ「………」



真宮寺「……瀞霊廷への居住申請が通るはずがないんだヨ」



189: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:21:28.21 ID:Vk1V6IAHO



アンジー「……だからねー、アンジーは、是清もここに住めるよう、空鶴たちにお願いしたんだー」

キーボ「……アンジー、さん、が?」

アンジー「そうだよー、空鶴たちは優しくてねー。行くアテのないアンジーに、この家の掃除をお手伝いする仕事を紹介してくれたんだー」

アンジー「しかも、空鶴たちは、アンジーに仕事を紹介してくれたあと、もう一人募集してたからねー」

アンジー「それで、アンジーが、 “ 是清も ” ってお願いしたら、叶えてくれたのー!」



アンジー「……空鶴たちには感謝しかないよー、にゃはははー!」



キーボ「………」



190: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:22:40.86 ID:Vk1V6IAHO



キーボ「……なぜ、ですか?」






アンジー「………」






キーボ「なぜ、アンジーさんは、自分からーーーー」



191: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:24:22.34 ID:Vk1V6IAHO



アンジー「……あー、キーボ、ちょっとアンジーの部屋に来てくれるー?」

キーボ「えっ……?」

真宮寺「………」

アンジー「来てー?」

キーボ「いや、しかしーーー」

アンジー「いいから、来てー?」

キーボ「……はい」



192: ◆02/1zAmSVg 2019/09/17(火) 15:25:35.29 ID:Vk1V6IAHO



アンジー「……ごめんね、是清、ちょっと、キーボとふたりで話してくるから、男のお風呂にでも入っといてー」

真宮寺「……わかったヨ、夜長さん」

真宮寺「今のうちに入浴させて貰うとするヨ……」

キーボ「………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー



193: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:00:38.85 ID:o4EGf6bhO



スタスタ……



アンジー「とうちゃーく!」バタンッ

キーボ「……こちらがアンジーさんのお部屋ですか」

アンジー「………」ガチャリ

キーボ「ーーー思っていたよりも、さっぱりしているんですね」



ガラーン……



キーボ「アンジーさんの作品らしきものも見当たりませんしーーー」



アンジー「………」



キーボ「ーーー少し、意外でした」



194: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:02:22.26 ID:o4EGf6bhO



アンジー「……キレイに使わないと空鶴に怒られちゃうからねー」






キーボ「……あー、そういうことでしたか」






アンジー「ーーーって、そんなことよりも、さっきの質問の続きだけど……一応その先を聞かせてくれるー?」



195: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:03:39.85 ID:o4EGf6bhO



キーボ「……わかりました。続きを言わせて頂きます」

キーボ「なぜ、アンジーさんは、真宮寺クンと一緒に住まわせて貰うよう、お願いしたんですか?」



アンジー「………」



キーボ「……淋しさを埋めるためだとしても、それならこの家には、ガンジュ…クン達がいるじゃないですか」

キーボ「あの人達と一緒にいるだけでも、淋しさは吹き飛ぶんじゃないですか?」



196: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:05:14.90 ID:o4EGf6bhO



アンジー「……うんうん、それには島から見える海よりも深いものがあってねー」

アンジー「それを話すと、どうしても是清のことまで話すことになるんだよー。そうしないと意味が通じないからねー」



キーボ「………」



アンジー「まー、是清に聞けば、答えてくれるだろうけど……あの話を是清の口から言うのは、是清としても辛いだろうからねー」

アンジー「だから、今回だけ特別に、アンジーの口から、是清と居候する理由を話すことにするよー」



キーボ「……わかりました。お願いします」



197: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:06:17.89 ID:o4EGf6bhO



アンジー「……それで、アンジーが是清と一緒に住むことを頼んだ理由だけどーーー」






キーボ「………」






アンジー「ーーー “ もう意味はない ” からだねー」



198: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:09:23.60 ID:o4EGf6bhO



キーボ「ーーー “ もう意味はない ” ことは知っています」

キーボ「ここは死後の世界ですし……何より真宮寺クン自身が、 “ あの人 ” に縋ることをやめたようですからね」

キーボ「だとしたら、真宮寺クンが奇怪な行為に手を染める “ 意味はない ” 、故に今の真宮寺クンは無害ーーー」



キーボ「ーーーそう、仰りたいのでしょう?」



アンジー「……うんうん、その通りだよー、キーボ!」



キーボ「確かに、それならば、一緒にいてあげても構わないと、思えることもあるのかもしれませんがーーー」

キーボ「ーーーだからといって、信じられるんですか?」



キーボ「あの、真宮寺クンのことを」



アンジー「………」



キーボ「……ひょっとしたら、かつて自分の中にいた “ あの人 ” が幻だった事実にーーー真宮寺クンは耐えられなくなるかもしれません……」



アンジー「………」



キーボ「……それで、狂乱の果てに、また同じことをーーーー」



199: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:10:55.01 ID:o4EGf6bhO



アンジー「……それはないよ」

キーボ「……なぜ、そう言いきれるんですか?」

アンジー「だって、今の是清はーーーー」



アンジー「ーーー本当の “ あの人 ” のーーー」







アンジー「ーーーそして、みんなの『想い』のために、生きているから」



200: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:12:30.11 ID:o4EGf6bhO



キーボ「……本当の、 “ あの人 ” ?」



アンジー「是清はねー、聞いたんだー」

アンジー「しにがみ、から、 “ あの人 ” の伝言を」



キーボ「………」



アンジー「伝言の内容はねー、是清はー、【是清自身とその友達を大切にして欲しい】って話だったみたいだねー」



キーボ「真宮寺クン、自身の……?」



アンジー「そう、 “ あの人 ” は、それを、是清がこの死後の世界に来たら伝えるよう、しにがみに頼んだんだってー」



201: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:14:44.85 ID:o4EGf6bhO



アンジー「ーーーしにがみが言うには、 “ あの人 ” はどういうわけか、現世で生きていた時のことについて、ほとんど話さなかったみたいでねー」

アンジー「だけど、それでも、是清に言葉を送ることを選んだってー。それも、自分のことじゃなくてー、是清やその友達のことを大切にして欲しい、って、内容の言葉を」

キーボ「………」

アンジー「しかも、しにがみは、 “ あの人 ” は是清が言ってたような人じゃないって、根気よく是清に話したみたいだねー」

アンジー「……だからかなー」

アンジー「是清は、 “ あの人 ” からの伝言を受けてからいろいろ考えてー……人の心を、人の『想い』を、本当の意味で大切にする生き方をするって決めたんだってー」



キーボ「………」



アンジー「……本気の本気で、そう決めたみたいなんだ」

アンジー「だから、もう是清は、大丈夫なんだよー」



202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2019/09/18(水) 13:18:54.19 ID:bBDOsleWO



キーボ「ーーーですが、それは、よく知らない人からの情報ですよね? 真宮寺クンがそういった情報を信じたんですか?」

アンジー「……そうだねー、信じたんだねー」

キーボ「なぜ、信じたのでしょうか?」

アンジー「それはねー、是清が人を観察し続けてきたからなんだってー」

キーボ「……観察ですか」

アンジー「うん、是清は人を観察し続けてきた」

アンジー「だから、長く話しているとー、その人が誰をどう大切に想っているかがわかるみたいー」

アンジー「実際に、しにがみは、 “ あの人 ” はもちろん、伝言の相手の是清のことも、大切に想ってたんだってー」

アンジー「その気持ちが、是清にも伝わったみたいだねー」



203: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:21:03.82 ID:bBDOsleWO



キーボ「……大切って、その死神の人と “ あの人 ” は、いったいどんな関係だったんですか?」

アンジー「先生とー、教え子だねー」

キーボ「………」

アンジー「しにがみは先生でー、 “ あの人 ” は、見習いのしにがみだったんだってー」

キーボ「死神の……見習い?」

アンジー「……なんでもねー? しにがみ学校の生徒は、しにがみとしての『すごい才能』があれば、しにがみの見習いになることがあるんだってー」

アンジー「実際に、 “ あの人 ” は、しにがみとして、『すごい才能』があったみたいー」

アンジー「だから、 “ あの人 ” は、見習いのしにがみでーーー」



アンジー「ーーーその見習いを育てる先生が、是清と話をした、しにがみだったんだってー」



204: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:24:15.03 ID:bBDOsleWO



キーボ「……ちょっと待ってください。 “ あの人 ” は見習いの死神だったんですか?」

アンジー「んー? そう言ってるけどー?」

キーボ「だったら、どうして正式に死神となる前に生まれ変わったんですか?」

キーボ「真宮寺クンが言うにはとっくに生まれ変わったってーーー」



アンジー「ーーーそうしないと、いけない事情があったからだよー」



キーボ「……事情?」



アンジー「……なんでもねー? “ あの人 ” は、虚(ホロウ)……しにがみが言う悪い幽霊の名前なんだけど、その悪い幽霊に襲われて死にかけたみたいなんだよー」

アンジー「それで、なんとか、命は繋げたけど、代わりに魂がすごく傷ついたみたいでねー?」

アンジー「……そのせいで霊力を失ってー、しかも是清と違って、すぐに、ぜんぶ失ってー.……」

アンジー「……瀞霊廷に住む資格を失った後、生まれ変わることになったんだってー」



キーボ「………」



205: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:27:33.03 ID:bBDOsleWO



アンジー「…… “ あの人 ” は、瀞霊廷に住んでいた。だから、住めない人から、差別されやすかったみたいー」



キーボ「差別……」



アンジー「しかも、 “ あの人 ” は、すごい美人さんだったみたいでねー? そういうことを理由に襲われたりすることを、ものすごい、こわがったらしいんだー」

アンジー「……それで、瀞霊廷の外に住むんじゃなくて、すぐに生まれ変わることにしたんだってー」



キーボ「………」



206: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:30:24.41 ID:bBDOsleWO



アンジー「……あー、話を戻すけどー、ふたりはすごく仲の良い見習いと先生だったみたいでねー?」

アンジー「だから、しにがみの先生は、 “ あの人 ” を大切に想ってたしー、伝言相手の是清のことも、大切に想ってたみたいだねー」

アンジー「その気持ちが、是清にも伝わったみたいなんだよー」



キーボ「………」



アンジー「……それで、是清は、しにがみの伝言を信じて、いろいろと考えて考えてーーー」



アンジー「ーーー最後には、【もう人の心を、想いを踏みにじりたくない】って考えるようになって、これまでとは違う生き方を選んだんだー」



キーボ「………」



207: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:32:20.49 ID:bBDOsleWO



アンジー「……それから、是清は、やらなきゃいけないことを考えた」

アンジー「 “ あの人 ” だけじゃない、みんなの心を、想いを、どう大切にすべきか考えた」

アンジー「それで、是清は、アンジーに、みんなに、頭を下げた」

アンジー「いっぱい、いっぱい、頭を下げたんだよ」



キーボ「………」



アンジー「アンジーはねー? そんな是清なら、信じられると思ったんだー」

アンジー「そんな是清と一緒にいれば、それだけ淋しくなくなるって」



アンジー「そう、思ったんだー」



アンジー「だから、一緒に住むことを、空鶴たちにお願いしたんだよー」



208: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:33:56.39 ID:bBDOsleWO



アンジー「……それから、是清は、アンジーが退屈しないように、この家や図書館から借りた本を読んでくれたりーーー」

アンジー「ーーー難しい本で勉強して、アンジーにいろいろ面白い話してくれるようになったんだー」



キーボ「………」



アンジー「……今では、そういう意味でも、一緒にいたいって思える」



アンジー「……この気持ち、そんなにダメかな?」



209: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:34:53.85 ID:bBDOsleWO



キーボ「………」



キーボ「…………」









キーボ「………………」



210: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:38:21.49 ID:bBDOsleWO



キーボ「……それが、アンジーさんの望みならば、誰かが無理に止めるようなことではありませんよ」

アンジー「………」

キーボ「実際に、百田クン達からも止められていないのでしょう?」

アンジー「……うん、解斗たちは、止めなかった」

キーボ「………」

アンジー「……もちろん、最初は止めようとはしたけど、アンジーが良いならって、認めてくれたんだー」



キーボ「……それに加えて、ここの家主のクウカクさん達が、アンジーさん達を任せられる、信頼できる人だった」

キーボ「だからこそ、今の状況が成立している」

キーボ「きっと、そういうことなんでしょう……」



アンジー「………」



キーボ「……ならば、ボクも、アンジーさんの意志を尊重しますよ」



211: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:39:40.72 ID:bBDOsleWO



アンジー「……ありがと、キーボ……」



キーボ「ーーーただーーー」



アンジー「……?」







キーボ「ーーーただ、一つ、聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」



212: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:40:28.33 ID:bBDOsleWO



アンジー「ーーー何かな?」



キーボ「………」



アンジー「答えるよ?」



アンジー「それが、アンジーに答えられることなら」



213: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 13:41:16.72 ID:bBDOsleWO



キーボ「……ならば、聞かせて頂きます」



アンジー「………」



キーボ「ボクが聞きたいこと、それはーーー」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー



214: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:01:49.09 ID:bBDOsleWO



バタン……



キーボ「………」ガチャリ



真宮寺「……お帰りなさい、キーボ君」

真宮寺「これから僕達が夜を共にする、この部屋まで」



キーボ「……おかしな言い回しはしないでください」



真宮寺「……そうだネ。ちょっと誤解を招く表現だったかもしれないネ」

真宮寺「これからは、気をつけるヨ」



キーボ「………」



215: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:03:00.22 ID:bBDOsleWO



真宮寺「……それで、夜長さんとの話は終わったのかい?」



キーボ「……ええ、まあ」



真宮寺「……夜長さんは?」



キーボ「アンジーさんなら、女性用の風呂場まで向かうとのことでした」



キーボ「……入浴が終わり次第、就寝に移るそうです」



216: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:04:20.20 ID:bBDOsleWO



真宮寺「……確かに、そろそろ寝た方が良い時間だネ」



キーボ「………」



真宮寺「……うん、僕も、もうそろそろ寝ることにするヨ」



キーボ「……ボクも一緒ですからね」



217: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:05:06.12 ID:bBDOsleWO









真宮寺「……ごめんネ」









218: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:06:29.86 ID:bBDOsleWO



キーボ「……何に謝っているんですか」

真宮寺「……何もかもサ」

真宮寺「僕はーーー」

キーボ「ーーーボクにそれを言うくらいなら、これから “ しっかりと ” 生きてください。それが、キミが一番やり続けなければいけないことでしょう」



真宮寺「………」



キーボ「……これからもこの死後の世界について教えてください」



真宮寺「!」



キーボ「それが、ボクの、当面の望みです」



219: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:07:33.57 ID:bBDOsleWO



真宮寺「………」



真宮寺「…………」






真宮寺「………………」



220: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:08:11.06 ID:bBDOsleWO



真宮寺「……もちろん、だヨ」



キーボ「………」



真宮寺「僕に答えられることなら……なんだって、答えてみせるヨ」



221: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:12:24.17 ID:bBDOsleWO



キーボ「……それなら、今ここでボクの質問に一つ答えて頂けますか?」

真宮寺「……質問?」

キーボ「真宮寺クン」

真宮寺「……なんだい?」







キーボ「キミは、この死後の世界に来る前に、夢を見ましたか?」



222: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:14:31.93 ID:bBDOsleWO



真宮寺「夢……?」

キーボ「……実はボクの記憶領域には、この世界に来るより前に、夢ともエラーともわからない光景が刻まれているんです」

キーボ「そして、その内容は……ボクら死者が、みんな同じ場所に囚われているというものでした」

真宮寺「……囚われる? あの学園のことかい?」

キーボ「いえ、違います。もっと、暗くて、狭い空間でした」

キーボ「気づいたらそこにいて……囚われているみんなを見ていたら突然エネルギー不足に陥ったかのように力が抜けてーーーうつぶせに身体が倒れてしまいました」

キーボ「その後も、急に重力が倍になったかのごとく、上手く身体を動かすことができなくてーーー」



真宮寺「………」



キーボ「ーーーそうして、もがいている中、光が降り注いできたんです」



223: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:15:23.66 ID:bBDOsleWO



真宮寺「……光?」



キーボ「……ただの光じゃありません」



真宮寺「………」



キーボ「天使の光です」



224: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:17:35.53 ID:bBDOsleWO



真宮寺「……天使?」

キーボ「ええ、そうです」

キーボ「光が降り注いでくる中、見上げると光り輝く天使がいたんです」



真宮寺「……それは、死神の間違いじゃなくて?」

キーボ「……おそらく、違います」

真宮寺「……人型の黒装束ではないんだネ?」

キーボ「……明らかに、違います」

真宮寺「………」



225: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:18:29.71 ID:bBDOsleWO






キーボ(……それに、あの、あたたかな感覚ーーー)








キーボ(ーーーあれは、まるでーーーー)






226: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:19:53.19 ID:bBDOsleWO



真宮寺「……それ、写真にはできるかな?」

キーボ「………」

真宮寺「……あァ、何だったら、入間さんがここに置いていった、君用の現像機を使うかい?」

真宮寺「あれなら、外付けではあるけど、写真にできるはずーーー」



キーボ「ーーー残念ですが、写真にするのは難しいですね」



真宮寺「……そうなの?」

キーボ「ええ……急に倒れたことによる衝撃が理由かは不明ですが、記憶領域にある映像の解像度は高くありませんでした」

真宮寺「……なるほど、だから写真にすることは難しい、と」

キーボ「……そうですね」



227: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:21:03.53 ID:bBDOsleWO



キーボ「……ですが、それでも記憶領域に残された映像は、一般的にイメージされる天使のそれでした」



真宮寺「………」



キーボ「その天使を見上げていたら、どういうわけか空の暗闇にヒビが入りましてね」

キーボ「そのヒビから、さらなる光が降り注いできたと思ったら気を失ってーーー」



キーボ「ーーー気づいた時には、この世界にいたんです」



真宮寺「………」



キーボ「……もしかしたら、キミも、そうした夢をーーー」



真宮寺「……悪いけど、僕にそんな記憶はないヨ」



キーボ「……そうですか」



228: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:22:14.74 ID:bBDOsleWO



真宮寺「……ひょっとして、夜長さんにも、同じことを聞いたのかい?」

キーボ「ええ、去り際に、一応」

真宮寺「……夜長さんは、何て?」

キーボ「……実は、アンジーさんも同じように、夢を見ていたようでーーー」



真宮寺「!」



キーボ「ーーー先ほど話した “ 光 ” 」



キーボ「……あるいは、アンジーさんも、ボクと同じものを認識していたのかもしれません」



229: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:23:57.85 ID:bBDOsleWO



真宮寺「……かも、しれない?」



キーボ「……ええ……」

キーボ「アンジーさんは、夢の内容について語る際、ビカビカーという擬音語を出していましたので」

キーボ「同じ光を、認識していた可能性はあると思います」



真宮寺「………」



キーボ「ただ、アンジーさんは、その時意識が曖昧だったようで、光以外は認識できていなかったようですが」



230: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:25:19.62 ID:bBDOsleWO



真宮寺「ーーー興味深い話だネ」

キーボ「………」

真宮寺「実に、実に、知的好奇心を刺激させられる話だヨ」



真宮寺「想像力を掻き立てる」



キーボ「………」



真宮寺「……ただ、僕は早起きでネ。もうそろそろ寝ないといけない時間が来てしまう」

真宮寺「夢の考察は、またの機会にさせて貰うヨ」



キーボ「……そうですか」



真宮寺「……そろそろ部屋の明かり、消しても良いかな?」



キーボ「……どうぞ」



231: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:26:55.28 ID:bBDOsleWO



真宮寺「……ホタルカズラO」

真宮寺「今日も、照らしてくれて、ありがとう」

真宮寺「 “ お疲れ様 ” 」



フッ……



キーボ「ーーーキミが寝る前に断っておきますが、キミが寝ている間も、ボクは起きていますからね」

真宮寺「……まァ、君は寝る必要がなさそうだからネ」

キーボ「ええ、先ほど夢を見たかのようなことを言っておいてなんですがーーーボクはキミ達で言うところの睡眠が必要ではありません」

キーボ「身体の動きを止めているだけでも充分な休息になります」

キーボ「なので、キミが用意したこの布団の上で、そうさせて貰いますね」

真宮寺「………」



232: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:28:28.59 ID:bBDOsleWO



キーボ「また、今のボクの視力と聴力はとても高いです。そのため、この暗闇の中でもキミが何か妙な真似をすれば、すぐにわかります」

真宮寺「……初耳だネ」

キーボ「事実です」

真宮寺「……僕の指、何本に見える?」

キーボ「現在立たせている指でしたら、左手の親指、薬指、小指と右手の親指、中指、薬指、小指の計七本です。ああ、今急いで小指二本に変えましたね」



真宮寺「……正解だヨ」



233: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:29:56.47 ID:bBDOsleWO



真宮寺「………………ねェ、僕が今ーーー」

キーボ「ああ、今のキミが、うっすら呟いた言葉ならわかりますよ」

キーボ「 “ 一昨日の夕飯はおでん ” 、そうでしょう?」

真宮寺「……それも正解だヨ」

キーボ「わかって頂けました?」

真宮寺「……こわいほどにネ」

キーボ「そして、今のボクは大した力はありませんが、音声のボリュームを上げる機能は付いています」

キーボ「それで叫び続ければ、近くにいるキミの脳はダメージを受け身体の動きは鈍ります」

キーボ「その後、ボクにのしかかられた場合、キミはまともに身動きが取れなくなるでしょうね」



真宮寺「………」



キーボ「それからも叫び続ければ、キミの脳のダメージは増大し、あまりのうるささにクウカクさん達も起きて、ここに駆けつけてくるでしょう」

キーボ「そのことを決して忘れないよう、お願いします」



真宮寺「……肝に銘じておくとするヨ」



234: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:30:55.09 ID:bBDOsleWO



キーボ「……それと最後にーーー」



真宮寺「……何かな?」



キーボ「ーーーおやすみなさい、真宮寺クン」



真宮寺「………」



キーボ「そして、今日は休日の中、いろいろ気遣ってくれて、本当にありがとうございました」

キーボ「物理的なお礼をするかはまだ未定ですがーーー精神的なお礼はいま実行します」



キーボ「……ありがとう、ございました」



235: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:31:29.83 ID:bBDOsleWO



真宮寺「……そうかい」

キーボ「………」

真宮寺「喜んでくれたのなら、何よりだヨ……」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー



236: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:57:57.97 ID:bBDOsleWO



ー翌日・志波家の庭ー



真宮寺「ーーー以上で、今日の仕事……今日の、この夕方までに行う分の掃除は終わりだヨ」

キーボ「……お疲れ様です。真宮寺クン、アンジーさん」

アンジー「お疲れー!是清ー、キーボ!」

真宮寺「お疲れ様だネ。夜長さん、キーボ君」


キーボ(……ボクは疲れないのですがーーーそれでも、労わって貰うというのは、悪いものではありませんね、やはり)



237: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:58:52.33 ID:bBDOsleWO



キーボ「……それで、真宮寺クン」

キーボ「今日の、朝食前に交わした約束についてですがーーー」

真宮寺「わかっているヨ。この世界についての説明を改めて行う」

真宮寺「それに、昨日は、流魂街や瀞霊廷などについて、そこまで詳しく話せたわけじゃなかったからネ」

真宮寺「今日はそうしたことを、しっかりと説明させて貰うヨ」



キーボ「……ありがとうございます、真宮寺クン」



238: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 14:59:49.31 ID:bBDOsleWO






アンジー「……ねーねー、キーボ、是清、よかったらーーー」






岩鷲「おおう! オメーら、終わったか!」







239: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:04:35.65 ID:bBDOsleWO



アンジー「………」

キーボ「あっ、岩鷲クン」

真宮寺「お帰り……薪拾いは終わったのかい?」

岩鷲「おう! そのくらい、朝飯前よ!」

キーボ「?」

キーボ「待ってください。朝食でしたら、朝の時点で終わっていてーーー夕刻を迎えた現在、今日の食事は夕飯を残すだけのはずですよ?」

キーボ「なのに、どうして、朝飯前なんてーーー」



アンジー「……キーボは、アンジー以上に日本語の勉強が必要みたいだねー」

真宮寺「……君の言語データには、朝飯前という言葉の使い方がないのかな?」



240: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:05:54.89 ID:bBDOsleWO



キーボ「えっ、あー、ちょっと待ってください……」



キーボ「……ああ、ありますね。申し訳ありません。データの認識が不充分だったようです」

岩鷲「なっはっは! 気にすんな! 誰にだって失敗はある!」

岩鷲「俺だって、ここに来る前、うっかりオメーのこと話しちまったからな!」

キーボ「……なっ、!?」

岩鷲「いや、そいつらは昔の居候共なんだがよ。流魂街に現れた謎の “ ろぼっと ” について聞かれてな」



岩鷲「そうしたら、話の流れでポロっとーーー」



空鶴「ーーーどういうつもりだ、岩鷲?」



241: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:06:59.35 ID:bBDOsleWO



岩鷲「ーーーね、姉ちゃん!」

空鶴「なんで、そんなことをした?」

岩鷲「あっ、いや、だから、そのーーー」

空鶴「テメエの今の狼狽えっぷりからして、キーボ本人が、 “ そうしてくれて構わない ” って言ったわけでもねえんだろ?」



岩鷲「うぐっ……」

キーボ「………」



空鶴「……それをする必要があっても、まずは、家主のおれに許可を取れっつったよな?」

空鶴「なのに、どうして、勝手に話した? ああ?」



242: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:08:07.35 ID:bBDOsleWO



岩鷲「……あ、いや、でも、あいつらは、無駄に話が広まんないように “ 工夫 ” してくれてーーーその上で俺は話をしたんだ」



真宮寺「………」

アンジー「………」



岩鷲「それに、あいつらなら、口だって固えしーーー」






空鶴「ーーーそれが、おれの “ 決まり付け ” を破った言い訳か? 岩鷲?」



243: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:08:40.42 ID:bBDOsleWO



岩鷲「あ……」



空鶴「…………」









岩鷲「……びゃああああああああああああ!!!」



244: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:09:16.39 ID:bBDOsleWO



ーGAME OVERー






ガンジュくんがクロに決まりました。おしおきを開始します。



245: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:10:44.14 ID:bBDOsleWO



岩鷲「どわああああああああああああああ!!?」



チュッドーンッ!!



キーボ「岩鷲クーーーン!!?」ガガーンッ



アンジー「あー、これまたよく飛んだねー」

真宮寺「そうだネ。毎度のことながら、空鶴さんの花火師としての腕には感心するヨ」

キーボ「な、何を言っているんですか、二人とも!?」

アンジー「んー? どうしたー、キーボ?」

キーボ「どうもこうもありませんよ!?」

キーボ「目の前で処刑が行われたというのに、どうして、お二人はそんなーーー」



真宮寺「ーーー心配はいらないヨ」

アンジー「そうだねー、だってーーー」



ドサッ……



キーボ「ーーーえっ、?」



岩鷲「……いたたたた」ムクッ



アンジー&真宮寺「「普通に生きてるから」」



246: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:11:54.75 ID:bBDOsleWO



岩鷲「ケホッ……うおおっ、煤まみれ……」



キーボ「……!?」



岩鷲「……あっ、すまねえ、オメーら! 掃除したばっかだってのに、煤で汚しちまった!」



アンジー「……あー、大丈夫だよー、気にしないでー」

真宮寺「……それに、いま汚してしまったところは、今日清掃した場所じゃあないからね」

真宮寺「とりあえず、また気をつけてくれればそれで良いかな……」



岩鷲「悪いな、本当……!」



247: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:13:24.85 ID:bBDOsleWO



キーボ「………?!!?」

岩鷲「……それとは別に、すまなかった、キーボ! 勝手にオメーのこと話しちまって!」

キーボ「あっ、えっ……」

岩鷲「でも安心しろ! あいつらは口の固い連中だ! だから、オメーのことを知ったとしても、むやみに話したりはしねえし、おかしな真似はしねえ! 心配すんな!」

キーボ「うっ、あっ……」

岩鷲「……自称【数多の通り名を持つ男】の名にかけて、そこは保証ブゲオォッ!?」

空鶴「それ以上は、風呂と掃除の後だ! 岩鷲! 煤まみれで長話してんじゃねえ! 無駄に汚れるだろうが!」ズルズル

岩鷲「ええっ!? 煤まみれなのは、姉ちゃんがーーー」

空鶴「………」ズルズル

岩鷲「ーーーわ、わかった! わかったから! ちゃんと風呂も入るし、煤で汚したとこも、俺だけで今日中に掃除するから! 大砲の方まで引きずんのはやめてくれ、姉ちゃん!」



248: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:25:24.68 ID:bBDOsleWO



アンジー「……あー、行っちゃったねー」

真宮寺「まァ、あれだけ派手に打ち上げられたことだし、これ以上はフリだとは思うけどネ」



キーボ「ーーーなんですか、これは」



アンジー「んー?」

真宮寺「何ってそれはーーー」



キーボ「なんで大砲で打ち上げられた人が、生きているんですか!?」



249: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:28:11.07 ID:bBDOsleWO



真宮寺「ーーーあァ、それについては、簡単だヨ」

キーボ「??」

真宮寺「それは、岩鷲君の “ 霊圧 ” がとても大きいからサ」

キーボ「……レイアツ?」

真宮寺「霊圧とは、霊力ある魂魄が持つ圧力のことだヨ」

キーボ「圧力……ですか」

真宮寺「そう、霊力ある魂魄は圧力を持っている」

真宮寺「霊力があればあるほど、その圧力は大きくなる。故に、霊的な鍛錬を積んで、霊力の全体量を増やせば、霊圧も大きくなる」

真宮寺「そして、霊圧は、時に “ 気 ” のようなものとなって、それで周囲にいる人を叩きつけたり、押し潰すことも場合によっては可能だしーーー」

キーボ「!」

真宮寺「ーーーさっきの岩鷲君のように、ただ霊圧を持っているだけで、ほぼ自動的に身体の強度が高まり、損傷を防ぐことも可能なのサ」

キーボ「……そんなことがーーー」

真宮寺「現世じゃあり得ないような現象ではあるけどーーー “ 霊子 ” が基本の尸魂界では当たり前のことなんだヨ」



250: ◆02/1zAmSVg 2019/09/18(水) 15:34:57.53 ID:bBDOsleWO



キーボ「……レイシ?」



真宮寺「霊子とは、僕達のこの魂魄など、霊的な物質を構成する原子のことサ」

真宮寺「霊子は、入間さん曰く、信じられないくらい自由度の高い原子のようでネ。彼女も、その存在を知った時には、あまりの衝撃に卒倒しかけたそうだヨ」



キーボ「………」



真宮寺「そういった原子が基本となる世界であるが故に、現世で普通に生きる人間の常識ではあり得ないような……いわゆる超常現象が当たり前に起きてしまうのサ」



251: ◆02/1zAmSVg 2019/09/20(金) 14:39:20.88 ID:pU3OgjCOO



真宮寺「……いや、まァ、正確には、現世でも多かれ少なかれ超常現象は起こり得るんだけどネ。霊子は現世にもあるわけだからサ」

真宮寺「だけど、それらのものを、現世で普通に生きてる人達が見て記憶することは “ 基本的に ” 不可能だ」

真宮寺「霊子やそれによって引き起こされる超常現象を、認識しきれないのが現状なんだヨ」



アンジー「………」



真宮寺「……【生前の時点から相応の霊力を持ち】【その影響で霊子などを、ある程度知覚可能になっている】などといった状況にあれば話は別だけど、そういうケースはとても少ないしーーー」



真宮寺「ーーーもしも、なんらかの理由で、本来霊力を持たない人達でも霊子などを知覚できることがあったとしても、それらは混乱防止のため、記換神機(きかんしんき)と呼ばれる記憶操作技術をもって、別の記憶に書き換えられてしまうだろうネ」



キーボ「………」



真宮寺「だから、現世で生きる、普通の人達の常識では、霊子やそれによる超常現象を、当たり前のものとされていない」

真宮寺「……もちろん、知らないもの、目に見えないものに対して、想像を働かせることはできるだろうけどーーー」



真宮寺「ーーー全容を知り、記憶し続けることが困難である以上、自分達の想像が実状と一致しているかどうか、死ぬまで確かめることはできない……」

真宮寺「……そう、実際に死亡して魂だけの状態になり、死の側の存在とならない限りは、霊子やそれによる現象を確かめるなんて、まず不可能……」



真宮寺「……故に、現世で普通に生きる大多数の人達は、自分達が死ぬまでの間、霊子やそれによる現象を、当たり前のものとして認識できない運命にあるのサ……」



キーボ「………」



252: ◆02/1zAmSVg 2019/09/20(金) 14:43:22.38 ID:pU3OgjCOO



アンジー「…………うんうん、今日も絶好調だねーーー【鰤清劇場】!」



真宮寺「……【ブリキ劇場】? どうして、そこでキーボ君が出てくるんだい?」

キーボ「なっ、違いますよ! アンジーさんは、【ブリキ劇場】ではなく、【ブリキヨ劇場】と言ったんです! ロボット差別に繋がるような聞き間違いはやめてください!」



アンジー「……そうだよー! キーボの言う通り、ブリキじゃなくて、ブリキヨなんだよー!」



アンジー「魚の “ 鰤 ” に、是清の “ 清 ” で、 “ 鰤清 ” なのだー! にゃはははー!」



253: ◆02/1zAmSVg 2019/09/20(金) 14:44:56.33 ID:pU3OgjCOO



キーボ「……ん? でも、なんで、そこで魚の鰤が登場するんですか?」



アンジー「んー? なんとなくー?」



キーボ「………」



真宮寺「……まァ、どういう考えをもって命名したかはともかく、夜長さんが付けてくれた名前であることに変わりはないからネ……」







真宮寺「……うん、僕は良いと思うヨ? 【鰤清劇場】」



254: ◆02/1zAmSVg 2019/09/20(金) 14:46:48.49 ID:pU3OgjCOO



アンジー「……にゃはははー! 是清のお墨付きだねー! これからも【鰤清劇場】よろしくだよー!」



真宮寺「……そうだネ。ちなみに、この後は、キーボ君にこの世界について更に詳しく説明するつもりだから、もし良ければ夜長さんもーーー」



アンジー「うんうん! アンジーも聴くよー! 何度聴いても飽きないからねー!」



キーボ「!」



255: ◆02/1zAmSVg 2019/09/20(金) 14:47:40.36 ID:pU3OgjCOO



アンジー「……そういうわけだからー」



キーボ「……?」



アンジー「……アンジーも、キーボと一緒に、聴いてもーーー」







アンジー「ーーー良い、かな?」



256: ◆02/1zAmSVg 2019/09/20(金) 14:48:36.59 ID:pU3OgjCOO



キーボ「……ええ、もちろんですよ! むしろ、こっちからお願いしたいくらいです!」



アンジー「!」



真宮寺「………」




キーボ(……アンジーさんと一緒の方が、和やかな気持ちで聴けそうですからね……)



257: ◆02/1zAmSVg 2019/09/20(金) 14:51:01.70 ID:pU3OgjCOO



アンジー「……ありがと、キーボ」



キーボ「? どうして、アンジーさんがお礼をーーー」



真宮寺「……アー、ちょっと良いかな?」



アンジー「……?」



キーボ「……真宮寺クン?」



真宮寺「……劇場を開く前に、留意しなければならないことがある」



真宮寺「その説明のため、いったん話題を岩鷲君の頑強さの件に戻させて貰うネ?」



258: ◆02/1zAmSVg 2019/09/20(金) 14:54:42.31 ID:pU3OgjCOO



真宮寺「……岩鷲君が空鶴さんに打ち上げられた件についてだけどーーーそれは誰であっても決して真似してはいけないヨ?」

真宮寺「それが、僕から伝える話サ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「……さっき、打ち上げられても死なないとは言ったけどーーーそれはあくまで岩鷲君のような非常に大きな霊圧の持ち主だからこそ、起こり得ることだ」

真宮寺「霊的な鍛錬を重ねて……霊力の全体量を増やし、霊圧を上げた者だからこそ、可能なことなんだ」

真宮寺「僕達のような、小さな霊圧であんなことをやれば間違いなく死ぬだろうネ」



アンジー「………」



真宮寺「仮に、僕達に岩鷲君ほどの霊圧があったとしても、やり方を大きく誤れば死ぬことだってあり得る」

真宮寺「僕達だけじゃない、下にいる人も巻き込まれ、死ぬかもしれない」



キーボ「………」



真宮寺「……空鶴さんの岩鷲君に対する折檻ーーー」

真宮寺「ーーーそれは、岩鷲君が非常に大きな霊圧の持ち主であること、そして空鶴さんの花火師としての腕が優れているが故に、死を乗り越えて成立しているんだヨ」

真宮寺「……花火とは、時には人の命を奪う可能性を秘めた危険物であり、爆発物に他ならない。故に、花火師とは命の危険の伴う仕事だ」

真宮寺「花火師として、相応の腕を持たなければ、絶対に務まらない」



259: ◆02/1zAmSVg 2019/09/20(金) 14:57:13.91 ID:pU3OgjCOO



アンジー「………」

キーボ「………」



真宮寺「……もし、花火師としての小手先の技術を鍛えて小器用になれたとしても、命の……人の心や想いの大切さを知らない者には務まらない」

真宮寺「打ち上げられる存在に込められた心と想い、そして地上に残された存在に宿る心と想いーーー」



真宮寺「ーーーそれらの重みを誰よりも知っている人でなければ、油断して、加減を誤るかもしれないからネ」



真宮寺「死を乗り越えられないかもしれない」



真宮寺「……あの折檻は、岩鷲君が空鶴さんの弟であり、空鶴さんが岩鷲君の姉で、お互いの命ーーー」



真宮寺「ーーーお互いの心と想いの大切さを誰よりも知っている間柄だからこそ、成立していると言って良い」



260: ◆02/1zAmSVg 2019/09/20(金) 14:58:39.02 ID:pU3OgjCOO



真宮寺「……だから、あの折檻は、絶対に真似してはならない」

真宮寺「そのことを、絶対に忘れてはいけない」

真宮寺「以上が、僕から伝える話サ」



キーボ「……なるほど、よくわかりました。ボクの記憶領域にもしっかりと記録しておきますね」

アンジー「……アンジーも、改めて覚え直したよー!」

真宮寺「………」



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次回 【BLEACH×ロンパV3】キーボ 「砕かれた先にある世界」【前編】 その2