#4.放課後の復活

 ――みんなが私達に期待をして、私達の復活を祝福してくれていた。


 確かに、照れくささはあったけど、不思議と悪い気は全然しなかった。

 多くの人が、私達の歌を楽しみにしてくれる事が誇らしかった。

 もう一度、みんなと音楽を奏でられるという事が、凄く嬉しかった。


 10年前、卒業してからもう二度と過ごすことは出来ないと思っていた、私達の放課後。

 もう一度、その放課後を過ごすことができる……それが、私達が今ここに集まっている理由だった――。

引用元: ・【バンドリ×けいおん】唯「バンドリ?」香澄「けいおん?」 




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183: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:33:28.25 ID:2rXBvp8co
【翌日 桜が丘ライブスタジオ】

 街に夜の帳が落ちようとしていた頃、桜が丘のライブスタジオ内に、彼女達の姿はあった。


唯「おいっす、みんな、昨日ぶりだね」

 愛用のレスポールを携え、唯がスタジオの扉を開ける。

 中には、既に楽器の調律を終え、唯を待つ律達4人の姿も見られていた。


紬「ええ、唯ちゃん、こんばんわ」

律「よー唯、やっと来たかぁ」

唯「えへへ、まさか、またみんなで演奏できるなんてね~」

紬「うんっ、私、昨日から凄く楽しみだったわ♪」

 和やかに話す唯と律、紬の3人だった。

 和気藹々とした彼女達に対し、澪と梓は急かすように声を投げかける。


澪「みんな、ライブまで時間がないんだ、唯も来たことだし……」

梓「ええ、そうですね。早速ですけど、練習……」

律「ああ、お茶だな、ムギっ! お茶の準備だ!」

紬「は~い、ちょっと待っててね~♪」

唯「ムギちゃん、私も手伝うねっ♪」

 『練習しましょう』と言いかけた梓の言葉を遮り、律は紬にお茶の用意を提案する。

 その言葉に合わせ、揚々とティーセットの準備をする3人に向け、澪と梓は呆れと怒りの声を上げていた。

184: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:35:39.38 ID:2rXBvp8co
澪「って!! おい律!!」

梓「皆さん、ライブまで時間がないって分かってますよね? もう今週なんですよ??」

律「言われなくてもわーかってるよ、でもさ、これが私達のいつもだったろ?」

唯「昔はいつもこうしてお茶飲んで……それから練習してたもんね~」

紬「ふふっ、うん、これでこそ放課後ティータイム……よね」

澪「ったく……3人とも……事の重大さが分かってるのか……」

梓「仕方ありませんね……唯先輩達、ああなったら止まりそうにないですし……ここは気持ちを切り替えるために、私達も一度お茶にした方が良いかも知れません……」

澪「ああもう……ただし、15分だけだからな! スタジオの時間もあるんだし、一息入れたらすぐに練習するからなっ!」

唯・律・紬「は~~い」

 焦る澪の声に向け、3人は生返事で返す。

 そして、紬の手により次々とティーセットが並べられ、かつて幾度となく過ごした放課後のお茶会が開かれるのであった。

185: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:36:16.03 ID:2rXBvp8co
律「あ~~~~……この感じ……すっっっっげえ久々……またこうしてムギのお茶を飲めるなんてなぁ……」

唯「うんうん、私もだよ……ほんと、懐かしいなぁ……」

唯「……あれ? ねえムギちゃん、もしかしてこの黒いのって……」

紬「ええ、最近流行りのタピオカを入れてみたのよ♪ なかなか美味しいでしょ」

律「へー、彩ちゃん達もよく飲んでるけど、意外と悪くない味だな……」

唯「うんうん、このマカロンもすっごく美味しいよ~~♪ ね、あずにゃんもそう思うでしょ?」

梓「はい……でもこの味、凄く懐かしい感じが……」

紬「あ、分かった? それ、憂ちゃんからの差し入れなのよ」

梓「やっぱり……」

唯「そだ、憂と純ちゃんからメール来てたよ、皆さん、頑張って下さいって」

 のんびりとした空気で唯達は談笑をする……。その中でただ一人、澪の表情だけが他の皆とは対象的に暗く、陰鬱に満ちていた。


紬「澪ちゃん、お茶のお代わりはいる?」

澪「ああ……ムギ、ありがとう……」

 その表情は僅かに焦りの色が伺えており、紬に返す声も、何処か余裕がない様に感じられる。


澪(ほんと、とんでもない事になっちゃったな……)

 差し出されたカップを口に運びつつ、澪は昨日の事を思い返していた……。

186: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:37:55.53 ID:2rXBvp8co
―――
――


【回想】

 ――昨日、まりなが皆に告げた頼み事は、ほろ酔い状態にあった唯達の酒を飛ばすには十分過ぎる程の衝撃があった。

 来週開かれるCiRCLE主催の大型ライブイベント、ガールズバンドパーティーのスペシャルゲストの枠に穴が空いてしまったこと。

 そして、まりなが今まさにそのゲストを探していたということ。

 困惑の表情を浮かべながら現状を話すまりなの言葉を、その場の全員が親身になって聞いていた。


まりな「……っていう事なんだけど……みんな、お願いできないかな」 

梓「ガールズバンドパーティー……そんな大きなライブに私達が……ですか……」

律「……………………」

 まりなの言葉に、唯、澪、紬の3名は何かを思い出し、また梓と律の両名は戸惑いの表情で俯いていた。

 そして、僅かな沈黙の後、唯が声を上げ……。

187: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:38:33.74 ID:2rXBvp8co
唯「ねえもしかして、それって……これの事?」

紬「私、その話、知り合いの子達から聞いたんだけど……」

澪「私も、今日花咲川に立ち寄った時に偶然そのライブに参加する子たちと知り合って……お客さんとして招待されたんだけど……」

 相次いでカバンの中から1枚の紙を取り出す3人。

 その手には、それぞれが今日知り合った少女達から手渡された、ガールズバンドパーティーの告知フライヤーが添えられていた。


まりな「え? みんな知ってたんだ?」

唯「すごい偶然だね……もちろんりっちゃんもこのライブの事、知ってたんでしょ?」

律「ああ……まぁ、な」

梓「すみません、そのフライヤー、少し見せてもらってもいいですか?」

唯「うん、いいよ」

 唯からフライヤーを手渡され、告知内容を見る梓。

 そこには、数時間ほど前に梓が知り合った少女達……Roseliaの名前も確かに記されていた。


梓「Roselia……友希那さん達も出るんだ……このライブ」

 梓の中に、昼間会った少女達の顔が思い出される。

 自分の音楽を、仲間を極限まで信じ、その仲間と共に最高の音楽を追求する少女達……そんな彼女達と同じ舞台で共演ができる……それは、この上なく喜ばしい事だ。

 だけど……。


 ――自分はこのライブに参加することができない。


 強い悔恨の念が、梓の心を支配していた。

188: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:39:42.10 ID:2rXBvp8co
まりな「お願い、みんなにしか頼めないの。もし良かったら、ガールズバンドパーティーに……ゲストとして、出演してくれないかな……」

 頭を下げ、再度懇願するまりな。

 そんなまりなの声に対し、唯と紬だけが嬉々として参加に乗り気でいた。


唯「うんっ! ねえやろうよ、みんなっ!」

紬「そうねっ、ねえりっちゃん、澪ちゃん、梓ちゃんも……もう一度、みんなでライブをやりましょうっ! 私、またみんなで演奏がしたいわっ」

律「あ~~~~……いや、実はさ……」

 言い出し辛そうに、歯切れ悪く律は返す。


律「その日、私……仕事の関係で出張入っててさ……」

唯「えええええ…………そ、そうなの?」

紬「そんな……残念だわ……」

まりな「あちゃーー……そっかぁ……」

律「ああ……だから、本当に悪いんだけど、私は参加できな……ん?」

 参加できない旨を伝えようとしたその時、律の携帯が着信を告げる。

 画面に表示されたのは、昼間に律の報告を酷評した社長からだった……。


律「悪い、ちょっと仕事先から電話……」

 言いながら席を立ち、会場を離れつつ律は電話を取る。


律「はい、もしもし、お疲れさまです」

律「はい……はい……え? 本当ですか??」

律「はい、あ、ありがとうございます……はい、じゃあ引き継ぎは明日メールで……はい、どうも、失礼します」

 電話を切り、驚きの表情で席に戻る律に向け、唯が声をかける。

189: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:40:17.33 ID:2rXBvp8co
唯「りっちゃん、大丈夫だった?」

律「ああ…………なんつーか、はははっ……運命ってこういうのを言うのかな……はははっ」

澪「律……何かあったの?」

 澪の問いかけに対し、手が震える感覚を覚えつつ、律は言葉を返す。


律「……ああ、さっき言ってた話だけど、出張……別の奴が行くことになった」

紬「えっ!? じゃあ……」

 律の声に、紬と唯が喜びの声を上げる。


律「うん、少なくとも私は出られるよ」

まりな「りっちゃん……! あ、ありがとう!」

律「ああ、私はいいんだけど……あとは……梓次第だな」

 梓の方を見つつ、律は言う。

190: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:40:47.19 ID:2rXBvp8co
梓「…………」

唯「あずにゃん……」

憂「梓ちゃん……」

菫「梓先輩……」

 全員の眼が梓に向けられる。

 プロのジャズマンとして音楽で生計を立てている梓の演奏……それは、根本的に唯達とは違う質を持つ演奏だった。

 プロとしてのその演奏は本来、相応の演奏料を支払ってこそ鑑賞できる価値があり、いくら知人に頼まれたからと言って、おいそれと気軽に聴ける程安いものではない。

 ソロでの活動をしているのならともかく、両親と共に音楽活動をしているのなら尚更だ。こればかりは梓だけの一存で答えが出るものではなかった。

 ならば当然、同じメンバーでもある両親への確認と了承が必要になるだろう。と、同じプロの道に関わる者として、律は梓の沈黙の意味を察していた。


梓「…………」

 また、全員でステージに立てるかも知れない……こんな機会、おそらく二度と訪れはしないだろう。

 出来ることなら、私も皆で……先輩達と、もう一度演奏がしたい……。

 あの人達に、私達の音楽を……聴かせたい。

 しばしの間、梓は思い悩み……そして決意する。


梓「すみません、少し待っててもらえますか、今から両親に……話してみます」

 立ち上がり、梓は携帯を手にテーブルを離れる。

 そんな梓の背を、その場の全員が心配の様子で見つめていた。

191: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:42:08.22 ID:2rXBvp8co
唯「あずにゃん……大丈夫かなぁ」

律「プロの世界のルールってのは唯が思う以上に小難しいんだよ、妙なしがらみばかりで、自分のやりたいことだって全部やれるってわけじゃないからなぁ」

直「はい……特に音楽の世界は尚更……ですよね」

澪(梓……)



梓「ああ、お父さん? うん、楽しんでるよ……それで、折り入ってお願いがあるんだけど……うん、実はね……」

梓「……って事なんだ……その……」

梓「うん、わかってます…………はい……もちろん、みんなに迷惑はかけないようにします、ジャズにも支障が出ないように気をつけます」

梓「お願いします、やらせてください……」

梓「………………はい……ありがとう……お父さん……ありがとう!」

 数分の電話の後、明るい顔で梓が戻ってくる。

 その顔を見た唯達の間に、安堵の溜息がこぼれていた。

192: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:43:24.07 ID:2rXBvp8co

律「あの感じだと、上手く行ったみたいだな」

紬「ええ、そうみたいね……」

梓「皆さんお待たせしました…………ふふっ、両親の許可、取れましたよっ♪」

唯「あずにゃん……っ!」

梓「父も言ってました、『若い連中に、お前の本気の演奏を見せつけてやれ』って……」

梓「ですからまりなさん……私も、ガールズバンドパーティーに参加させて下さい!」

まりな「梓……ちゃん、うんっ! ありがとうっっ!!」

 右手を差し出し、梓はまりなに向けて微笑む。

 差し出された梓の手を両手で掴み、歓喜の声を上げるまりなだった。

 ……そんな様子を、やや遠目に見つめる瞳が一つ……。


澪「………………」

 澪は、戸惑いの眼でその光景を見つめていた。


律「みーお、澪ももちろんやるよな?」

唯「澪ちゃんっ! 澪ちゃんもやろうよ! またみんなでライブしようよ!」

澪「……唯……律……私は……その……」

 確かに澪自身も、皆とまた演奏したいとも思っていた……でも、こんな大舞台に出るだなんて思ってもみなかった。

 まりなの口から直接参加して欲しいと頼まれた事自体は嫌ではなく、むしろ嬉しいとすら思えたのだが……。

 それと同時に、酷く巨大なプレッシャーが澪に襲い掛かっていた。

193: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:44:16.21 ID:2rXBvp8co

澪(……もうベースだって何年も弾いていないのに……こんな大きな舞台で演奏だなんて……)

澪(……それだけでも緊張するのに……それに、あの子達の前で失敗なんかしたら……)

 今日会った子達……Afterglowの5人の顔が澪の頭をよぎる。

 あんなにライブを楽しみにしていた子達の前で演奏だなんて……。

 昔の5人で演奏できるという楽しさ以上に、絶対に失敗できないという重圧が、人一倍責任感が強く、繊細な澪の心を埋め尽くしていた。


まりな「秋山さん……」

澪「あの……さ、みんな、ちょっと冷静に考えてみないか?」

 戸惑いながら、澪は言葉を続ける。


澪「律はさ、パスパレのみんなの前で演奏するの……怖くないのか? もし失敗したらって考えたり……」

 言いながら、酷く滑稽な事を自分は言っているということに澪は気付く。

 私の幼馴染は、その程度のことで怖気付くような奴じゃなく……むしろ、全力でその重圧に立ち向かおうとする強さを持っている……それが澪の知る、田井中律という人間だ。


律「あのな……私がそんな事でビビるとでも本気で思ってるのか?」

澪「わ、私は違うんだ……仕事や生活が忙しくて……ベースだってもう何年も弾いてないし……」

澪「そりゃあ、仕事で演奏してる梓や律はいいさ……勘だって鈍ってないだろうし、むしろ昔以上に腕も上がってるだろうしさ……」

澪「唯やムギだって……プライベートでよく演奏してるって言ってた……し……」

 言いながら、まるで子供の言い訳のようだと、澪は自身の言葉の薄さを感じていた。

 ……出来ない理由を正当化して、必死で逃げようとしている子供のような言い訳をする自分に、心底嫌気が差す。

 無言で澪の主張を聞く律達だったが、澪の軽薄なその言葉に……特に律は納得していなかった……。

194: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:45:02.84 ID:2rXBvp8co
澪「でも私は……違うんだ……きっと……いや、絶対にみんなの足を引っ張るに決まってる……」

律「あのなぁ……お前……いいかげんに」

 澪の言い訳に痺れを切らし、一喝しようと律が息を吸い込んだその時――。


女性A「え? なになに? 軽音部のみんな、ライブやるの?」

女性B「え~~、マジで?? いつ? 私絶対に行くよ!」

女性C「ああ……また澪ちゃんの演奏が見れるのね……私、絶対に行くからね!!」

女性D「ねえねえ、わかばガールズは? 憂ちゃん達はやらないの~?」

 どこからその話を聞きつけたのか、澪の周囲には人だかりができていた。

 殆どの声が放課後ティータイムの復活を望む声であり、中でも澪に対する期待の高さが一際目立っている。

 集まった人の数に先程までの怒りも吹き飛び、律は水を一口飲みつつ、座り直していた。


憂「凄いね、澪さんの周り、一気に人が……」

純「澪さんの演奏、凄く格好良かったもんね……私も憧れてたし、また演奏見たいなぁ」

和「澪、軽音部で唯一、ファンクラブもあったぐらいだからね……」

さわ子「ふふっ……ねーえ澪ちゃん、これだけ多くの人が澪ちゃんの演奏を聴きたいって言ってるのよ? ベーシストとして、これ程嬉しいことってないんじゃないの?」

澪「みんな……」

 唯やまりな達だけじゃなく、こんなにも多くの人達が、私の演奏を楽しみにしてくれる……。

 その気持ちは凄く誇らしく……嬉しい事だと思う。

 だが、いや、だからこそ尚更に怖くなる……みんなの期待に……重圧に、押し潰されそうになる……。

 勇気が出ない……あと一歩、前へ踏み出す勇気が出ない……っ!

195: ◆64sUtuLf3A 2019/10/02(水) 23:57:49.25 ID:2rXBvp8co
律「ったく……澪のやつ……」

唯「待って、りっちゃん」

まりな「あのさ……秋山さ……ううん、澪ちゃん」

 尚も怖気付く澪に喝を入れようと律が立ち上がろうとしたその時、まりなが再び澪に声をかけていた。


まりな「この曲、聴いてみてくれないかな……今度のライブに出る子達の歌なんだ」

 言いながらまりなは自身のスマートフォンから音楽アプリを起動させ、澪に手渡す。

 『Scarlet Sky』と書かれた曲名の隣には、偶然にも澪が昼間に知り合った、Afterglowの名前が表示されていた。


澪「…………この歌は、あの子達の……」

 無言でイヤホンを耳に入れ、澪は再生ボタンを押す……。


 ~~♪ ~~~♪


 軽やかに奏でられるギターとベースから始まるイントロに合わせ、凛とした歌声が澪の耳に流れ込んでくる。

 その歌声を、ただ静かに澪は聴いていた。

196: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:00:41.48 ID:10IwYkZZo
歌声『――当たり前のようにこんなにも近くでつながってて 欠けるなんて思わないよ』

歌声『――決めつけられた狭い箱 ジタバタぶつかっても どうにもなんないことは わかり始めたし……』

https://www.youtube.com/watch?v=kXL1MF-49V0




澪(この歌声は……蘭ちゃんかな……凄く前向きで、明るい声……)

 イヤホンから聞こえる蘭の歌声が……Afterglowの演奏が……重圧に押し潰されそうな澪の心に響き渡る。


『――戦うための制服を着て 勇み足で教室へ進む 開け放つドアを信じ、進め!』

『――あの日見た黄昏の空 照らす光は燃えるスカーレット 繋がるからこの空で 離れてもいつでも……』


唯「澪ちゃん……」

澪「…………」

 唯達が心配そうに澪を見つめる中……澪は眼を閉じ、無心で曲に聴き入っていた。

197: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:01:08.33 ID:10IwYkZZo
 …………。


 ……その歌は、あの子達の、純粋な想いを誓う歌だった。


 時の流れに負けず、仲間と共に今という日々を生きようとする誓いの歌。

 精一杯、彼女達の『今』を生きる輝き。


 それは、遠い昔、自分自身にもあった輝きで……。


 私が、みんなが持っていた、音楽に、仲間に対する純粋な想い。


 いいのだろうか……こんな私が、あの子達と同じ舞台に上がっても……。

 いや……きっとあの子達なら、私を受け入れてくれる……。

 こんなにも優しく……力強く、勇気づけてくれる歌が歌えるあの子達なら……きっと……。


 イヤホンから流れる歌声が、澪の心を支配していた恐怖心を振り払っていく。

 振り払われた恐怖心は次第に前へ歩む勇気へと変わり、彼女達の歌声に呼応するように、とくんと心臓が高鳴る。


 ――そして。 


『――あたしたちだけの居場所で どんなときも共に集まろう 叫ぶ想いは 赤い夕焼けに……』


 最後のフレーズが終わった時、余韻に浸る澪の眼が静かに開かれる。


 既にその眼は、恐怖に怯える者の眼ではなく……恐怖とは真逆の、ライブに対する強い決意と期待が込められた眼だった――。

198: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:01:58.36 ID:10IwYkZZo
まりな「澪ちゃん……」

澪「…………月島さん、ありがとう……良い歌だったよ」

 一言礼を言い、澪はまりなにスマートフォンを返す。


澪「すごいな、あの子達……こんなに素晴らしい歌を歌ってるんだ……」

唯「澪ちゃん……」

梓「澪先輩……」

 心配の声を上げる皆に向け、澪は一言、口を開く。


澪「なあ律、この後時間あるか? セットリストを考えようと思うんだけど」

律「……澪……っ!」

 澪のその言葉は、参加表明と同義の意を示していた。


まりな「澪ちゃん……ありがとう……本当にありがとう……っ!」

澪「……正直、まだ不安はあるよ……できるかどうかは分からない……ブランクもあるから、みんなの足を引っ張るかも知れない」

澪「でも……それでも、やってみたいんだ……みんなで…………あの子達に見せたいんだ……私達の音楽を……私達の輝きを……!!」

律「へへへっ、ああ……ライブに来る人全員に見せつけてやろうぜ……私達の青春を……放課後をさ!」

唯「うん……私も頑張るよ!」

紬「ええ……決まりね……!」

梓「はいっ! 放課後ティータイム、再始動ですね!」

さわ子「放課後の復活かぁ……いい響きじゃない、頑張りなさいよ、みんな」


 ――『放課後の復活』……さわ子のその言葉に、周囲からも次々と期待と歓喜の声が上がる。

199: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:02:25.47 ID:10IwYkZZo
女性A「やったーー! 私、最前列で応援するからねっ!」

女性B「で、どこでやるの? 唯ちゃん達のライブ」

女性C「花咲川だって! 私も有給使って行くから! みんな、頑張ってね!」

女性D「あ~もう、来週が待ちきれないよ~♪」

まりな「うん……うんっ、みんなっ……本当に……本当に、ありがとう……っ」

 ライブの開催が決定し、先程とは違った賑わいが唯達の周りで繰り広げられる。

 ある者は酔いの勢いで再びジョッキを開け、またある者は唯達にあらん限りのエールを送る。

 そんな周囲の反応に、目頭が熱くなる感覚を抱きながら、まりなは感謝の言葉を言い続けていた。

 ここだけでどれほどの人がライブに来てくれるのか……即座に数えるのが難しい程多くの人がライブに来てくれるのは、既に明白だった。


まりな「えへへっ……嬉しいよ……私、すごく嬉しい……」

律「まーりな、やったじゃん、集客効果バッチリだな」

まりな「あはははっ、ううん……それもだけど、私自身も……来週が楽しみになってきたよ」

まりな「高3の時の学園祭のライブ……みんなの演奏、私、今も覚えてるよ…………」

律「あははっ、懐かしい事覚えてるなぁ」

まりな「うん、だから……私も期待してるから……みんな、ライブの件、どうぞよろしくお願いします」

律「ああ、ま、私達に任せときなって」

律「出演するどの演者よりも、最高にカッコいいライブにしてやっからさ!」

 喜びと感謝、期待と興奮……様々な感情に涙ぐむまりなに向け、親指を立てて律は宣言する。

200: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:02:58.36 ID:10IwYkZZo
憂「えへへへっ……お姉ちゃん……良かったね……ん……っ ああもうっ……何だろ、この感じ……」

和「ふふっ……憂ったら……泣くのはまだ早いわよ?」

さわ子「さてさて……来週か……私も、久々に頑張るとしましょうかね……♪」

純「その日なら仕事休みだし、私も行くよ。もちろん直とスミーレも行くっしょ?」

菫「はいっ! もちろんです!」

直「ええ、私も……必ず行きますね……!」

 そして……。


律「よーーし!! みんな! グラス持ったなー! 放課後ティータイム……やっるぞーーー!!!」

一同「おーーーっっっ!!」

 律の掛け声に合わせ、彼女達は、掲げられたグラスを一気に呷る。

 その味わいは、今まで飲んだどの酒よりも美味く、深い味……。

 放課後の復活を祝う、奇跡の祝杯だった。

201: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:03:48.28 ID:10IwYkZZo
―――
――


 それから程なく、幹事の和の一声により同窓会は幕を閉じ……律と澪を除いたそれぞれの放課後が家路についた翌日。

 ライブの打ち合わせと音合わせの為にと急遽予約を取ったライブスタジオに5人は集結し、今に至るのだった。


澪「いきなりこんな感じで、本当に大丈夫かな……」

律「みーお、そんな顔すんなって、大丈夫だよ、私らならできるって」

澪「律……」

唯「……りっちゃんの言うとおりだよ澪ちゃん。私達、今までどんなに大変なことがあっても乗り越えて来たんだもん……だから、今度もきっと大丈夫だよっ!」

 一切の迷いなく放たれる唯の声に、澪は頭を振り、再度芽生えつつあった戸惑いを振り切る。


澪「唯……ああ、いつまでもウジウジしていられないよな……うん、私もやってみるよ」

紬「ふふふっ、じゃあ早速だけど、音合わせ、やってみよっか?」

梓「そうですね、まずはふわふわ時間からやってみましょう、先輩方、スタンバイお願いします」

律「よし、じゃあやるか!」

 律の声に合わせ、それぞれが所定の位置に立ち、楽器を構える。

 ……彼女達の、実に数年ぶりの演奏が始まるのであった。

202: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:04:57.83 ID:10IwYkZZo
律「……ワン、ツー、スリー!」

 ~~♪  ~~~♪

 唯のギターから始まり、それに合わせるように各パートが入り、イントロが始まる。


律(入りは完璧……あとは……歌の出だしだけど)

唯「…………」

律(おい唯! 歌!)

唯「あっ! キミを見てると、いつもハートDOKI☆DOKI……」

律(やれやれ……まぁ、久々だしな……)

 ~~♪ ~~♪


澪(律! ちょっと待って! 走りすぎだ!)

律(やべ! あれ……澪、なんか音違ってないか?)

唯(次、澪ちゃんのパートだよね?)

澪(っっ……ごめん…………歌詞飛んだ……唯、頼む!)

唯(ううん、大丈夫だよっ!)


唯「ふとした仕草に今日もハートZUKI★ZUKI……♪」

律(はははは……いやー、こりゃ相当練習しなきゃな……)

紬(ふふっ……でも、この感じ……)

梓(はい、凄く懐かしくて……)

唯(楽しいな……♪)

澪(…………っ……)

203: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:05:27.44 ID:10IwYkZZo
 彼女達の演奏は、途中何度か危うい場面を迎えてはいたものの、それでもどうにか最後まで続けられた。

 それは正直なところ、完璧とは程遠い出来栄えだったが……それでも止まることなく、最後までやり切ることが出来た。

 その確かな事実に、5人の中には危機感以上の安心感が生まれる。

 まだ……指は、手は、感覚は覚えている……昔、幾度となく演奏した自分達の代表曲は、完全に失われたわけではなかったのだ。


律「ふぅ……危なかったけどどうにか演奏しきれたな」

 額に流れる汗を拭いつつ、律は言う。


澪「ごめん、唯、あんなに歌ったのに……私、歌詞、飛んで……」

唯「ううん、大丈夫だよ、澪ちゃん」

律「私もかなり走ってたからなぁ……ま、何回かやってきゃ勘も戻ってくるよ」

紬「ええ、梓ちゃんもさすがね……ソロパート、凄く綺麗だったわ」

梓「あ、ありがとうございます」

律「でも、一番簡単なふわふわでコレか……やっぱセトリ考え直したほうがいいかな?」

唯「う~ん……でも、私はこのセトリが一番だと思うんだけどなぁ」

律「あ~~、他の曲の音源が無いのは痛いよなぁ……」

 昨日、全員が解散したその日の内に律は澪と共にライブで演奏する曲のセットリストを考え、メッセージアプリにあった放課後ティータイムのグループチャットに転送していた。

 全員がそのセットリストを見て律に賛同していたのだが……ふわふわ時間以外の音源が行方不明となっていたのは予想外のトラブルだった。

204: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:06:35.15 ID:10IwYkZZo
澪「音源か……たぶん私の実家にあると思うんだけど、やっぱり今からでも探して来た方がいいんじゃないか?」

律「今から行っても探してる時間ないだろ……ライブまで時間もないんだしさ……」

 律の言う通り、ライブまでの時間は刻一刻と迫ってきている。

 当然、ライブ当日までの間にも各々仕事があり、そして少しでも集まれる時間を作るため、今週いっぱいは全員の仕事も忙しくなることは既に決まりきっていた。

 本来、5人が2日も続けてこうして集まれる事自体が既に珍しいことなのだが……それでも、ライブまでに可能な限り時間を作り、仕上げに費やさなければならない。

 今現在も多忙を極める自分達が、どれ程過酷な道を歩もうとしているのか、今更になって律は実感していた。


紬「だ、大丈夫よ! みんなで力を合わせれば、きっとなんとかなるわ!」

唯「そ、そうだよ! あ、そうだ! もう一度演奏してみようよ!」

 気落ちしかけた皆の気を持ち直そうと、唯と紬が声を上げる。

 だが、その声も虚しく、全員の顔に僅かながら焦りの色が浮かんでいた。

 曲のマスターが無いということは、原曲を聴くことが出来ないということ。

 それは、手探りで曲そのものを構築しなければならないということ。

 譜面すらも無いこの状況でその時間を作り出すのがどれ程大変な事か……音楽に関わる仕事をしている者は特にだが、想像するだけで気が遠くなっていた。


律「あー、どうしよ」

 どうしようかと考えあぐねいていた時、がちゃりとした音を立て、スタジオの扉が開かれる。


直「お疲れさまです……あ、やっぱりやってましたね」

菫「お姉ちゃん、皆さん、どうも」

梓「直、それに菫も、どうしたの?」

 そこには、ノートパソコンなどの各種機材を手にした直と菫の姿があった。

205: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:07:24.70 ID:10IwYkZZo
菫「はい、私はお姉ちゃんに仕事のお話と……あと、先程お姉ちゃんから皆さんの事情を聞いて、私から直ちゃんに相談したんですよ、そしたら……」

直「ええ、既にお話は菫から伺ってます、放課後ティータイムの歌の音源なら、私全部持ってますよ」

律「……え、マジで?」

 直の言葉に驚愕の声を上げる5人。


直「はい……昨日もお話したと思うんですけど、私、今フリーの作曲家をやってまして……」

直「作曲家を志した時に私、練習と特訓を兼ねて、放課後ティータイムの歌と私達、わかばガールズの歌を全部パソコンに打ち込んでみたんですよ」

澪「全部って、あの何曲もある歌を全部?」

直「はい……菫や梓先輩に音源貰って……最初は大変でしたけど、でもやってくうちに楽しくなってきちゃいまして……」

菫「もし良かったら聴いてみて下さい、直ちゃんの作った曲、凄く丁寧に打ち込まれてるんですよ」

 そして、直はノートパソコンを起動させる。

 恐らく仕事用のパソコンなのだろう、作曲に関わる様々なアプリケーションのアイコンが雑多に並ぶ画面の中に『HTT』というフォルダを見つけ、クリックする。

 開かれたフォルダには、放課後ティータイムの全ての歌が一覧に表示されていた。


直「ふわふわ時間……あった、これです」

 直の指が、『ふわふわ時間』と書かれたMP3ファイルを起動させる。

 音楽再生アプリが立ち上がり、懐かしいイントロとともに機械的な歌声がスピーカーから聞こえ始め……。

206: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:08:20.58 ID:10IwYkZZo
『~~♪ ~~~♪』

律「うはっ、イントロは完璧だな……まるで昔の私達の音そのものだ……」

歌声「――キミを見てると いつもハートDOKI☆DOKI……」 

澪「凄い、歌声まで再現されてる……!」

唯「ねえ、これってもしかして……」

直「あ、わかります? ボーカロイドで打ち込んでみたんですよ」

菫「ふふふ、直ちゃん、たまに動画サイトにボカロの曲も投稿してるんですよね」

梓「驚いたよ……直にこんな才能があったなんて……」

 直の作ったふわふわ時間は、律達の想像以上の完成度を秘めていた。

 他にも、U&Iやふでペン、カレーのちライス等。過去に唯達が演奏した全ての曲が完璧な再現度で打ち込まれており、誰もがその出来栄えを絶賛するのだった。

 更に……。


紬「あの、この、OFF.RGtっていうのは?」

直「はい、リズムギターの音源のみをオフにしたバージョンです」

澪「えっ、そんなバージョンもあるの?」

直「はい……勿論他にも、ドラムやベース、リードギターやキーボードをオフにしたバージョンもありますよ」

直「それらとは逆に、各パートのみの音源もあります」

律「すげえ、これなら演奏のイメージも掴みやすいな」

直「あと、譜面も全曲分、全パートを揃えてありますので、必要なら仰って下さい」

紬「わぁ……直ちゃん、凄いわ……」

澪「なんかもう、感心で言葉が出ないな……ここまでやってくれてたなんて……」

 直のその手際の良さに感服し、溜息すらこぼれる5人だった。

 5人全員が今後の練習のために望んでいたもの、自分達が演奏する曲の音源……それは、律達の予想以上の形で眼前に並べられていた……。

207: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:09:00.48 ID:10IwYkZZo
律「これがありゃ、自主練もかなり捗るな……」

梓「あ、あの! 直、もし良かったらこの音源、貸してくれないかな?」

直「はいっ、そう思って、セットリストの曲は既にクラウドサーバーに保存してあります。後ほど梓先輩にURLをお送りしますので、皆さんで是非使って下さい」

直「スマートフォンやパソコンがあれば、すぐにでもダウンロードして聴けると思います」

唯「直ちゃん、ありがとう!」

梓「直、ありがとう! 直だって本当は凄く忙しい筈なのに、それでも私達のために、ここまでしてくれて……本当にありがとう……!」

直「いいえ……私も、皆さんのライブを楽しみにしてるんです……私にはこのぐらいしか出来ないですけれど……それでも、皆さんのお役に立てればと思いまして」

 笑顔を絶やさず、直は続ける。

 フリーの作曲家という、時間を自由に使える仕事を選んだとはいえ、それでも彼女はまだ駆け出しの身である。

 今日、これだけの準備をするのにどれ程直が自分の時間を割いてくれたのか……そこには梓の想像以上の手間があったことは、言うまでもないことだった。


澪「律……これなら……」

律「ああ、仕事の空き時間や家に帰ってからでも、十分各自で自主練できるな」

紬「あ、そうだ、菫ちゃん、私にお話があるって言ってたけど、何のお話?」

菫「はい、お姉ちゃ……いえ、『紬お嬢様』」

紬「……?」

 あえて『お姉ちゃん』ではなく、『お嬢様』という固有名詞を使い、菫は紬に向き合う。

 それは、これから発せられる言葉は、姉としてではなく、琴吹グループ役員であり、琴吹家令嬢としての琴吹紬に向けて投げ掛けられることを意味していた。

208: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:10:10.07 ID:10IwYkZZo
菫「お嬢様の今週の予定ですが、既に私の方で各方面の調整を済ませておきました」

菫「ですので、来週からは非常に忙しくなると思いますが、その分、今週は思う存分ライブに費やして下さい」

紬「菫……ちゃん……!」

菫「私も直ちゃんと同じです……皆さんのライブ、とても楽しみにしてますっ」

 明るい笑顔で菫は言う。

 その顔は直と同じ様に、ライブへの期待感で満ち溢れているように5人には感じられていた。


紬「すみれ……ちゃん……っ、うん、ありがとう。ありがとう……!」

律「ははっ……凄ぇ応援されてんなぁ、私達」

澪「ああ……皆の期待に応えるためにも、絶対に成功させなきゃ……」

梓「はい……そう、ですね」

唯「よーし、ねえみんな、もっかいやろうよ!」

紬「ええっ! もう一度、演奏しましょう!」

梓「直、菫、よかったら聴いてってくれる?」

直「はい、もちろんですっ」

菫「ええ、ありがとうございますっ」

律「よし、じゃあやるかっ!」

209: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:11:56.75 ID:10IwYkZZo
 律達はステージに上がり、楽器を構える。

 そして、再び彼女達の演奏が始まる。

 その演奏は先程までの演奏とは違う、不安から開放された、本来の彼女達の演奏だった。

 こうして5人で演奏するきっかけをくれたまりなに、昨日再会できた全ての人に、あの頃の懐かしさを思い出させてくれた5組の少女達に感謝の念を抱きながら、一心不乱に唯達は音を紡ぐ。

 どれ程の時間が過ぎようが変わらない、5人が集まれば、どこであろうが私達は放課後に戻り、あの頃と同じ音を奏でることができる。


 菫と直、憂に純、……また、和にさわ子達……自分達に関わる人全てがライブを楽しみにしてくれている。

 重圧以上の楽しみが、興奮が5人の中に宿る。

 その興奮が、彼女達の音を更に盛り上げる――!


菫「すごいな……お姉ちゃんも皆さんも、あんなに楽しそうに演奏してる……」

直「うん……ライブの当日、凄く楽しみだね」

 彼女達が紡ぐその音は、演奏を聴いていた菫と直の心にも確かに響いていた。

 かつての興奮が、懐かしさが二人の胸を打つ。

 自分達の中の時計が、まるで学生の頃まで戻される感覚を覚えながら、菫と直の二人はステージ上で奏でられる歌に聴き惚れていた。


 そしてその日、放課後ティータイムの数年ぶりの演奏は、日付を跨ぐギリギリまで続けられたのだった――。

210: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:12:35.54 ID:10IwYkZZo
#5.放課後と五色の輝き

 ――お祭りの準備は、日を追う毎にその賑やかさを盛り上げていきました。

 それと並行して、私達はみんなで学校に通って、放課後にライブの練習をして……。

 毎日が慌ただしくて、すっごく楽しくて、ドキドキの毎日でした。

 もちろん、それは私だけじゃなく、お祭りに参加するみんなの顔もそう、とてもキラキラして……ドキドキしていました。


 その頃の私達はまだ、知りませんでした。

 もうすぐ始まるそのお祭りで、一番のキラキラとドキドキに会えるなんて……きっと、誰にも想像できなかったと思います――。

211: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:13:05.54 ID:10IwYkZZo
―――
――


 花咲川、羽丘近郊で活動するガールズバンドにとっての一大イベント、“ガールズバンドパーティー”

 そのライブに遠く、桜が丘より放課後ティータイムのゲスト出演が決まり、翌日から彼女達は後輩達の力を借りつつも仕事の合間を縫い、自主練を重ねては揃って音合わせをし、各々が練習を行っていた。

 無論、ライブに向けて奮闘しているのは彼女達だけではない。主役の少女達を含め、出演する全バンドがガールズバンドパーティーに向け、その準備に取り掛かっていた。

 自分達の歌や演奏の確認に楽器の調整、MCの段取り、演出の仕上げ、衣装の最終チェックなど、大小様々な確認を済ませつつ。皆が皆、その日を待ち望んでおり……。


 各バンド共に、ライブの準備は、既に大詰めの段階へと差し掛かっていた――。

212: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:13:50.04 ID:10IwYkZZo
-ライブ5日前 Pastel*Palettes-

【某スタジオ】

 アイドル事務所から歩いて少しの所にあるスタジオ。

 そこではガールズバンドパーティーのリハーサルと並行して近日行われるアイドルコンサート、その両イベントに向けて、Pastel*Palettesの本格的な最終調整が行われていた。

 音合わせを終え、各々がしばしの休憩を取っていた時の事――。


彩「ライブの衣装、すっごく可愛い感じになってたね」

千聖「ええ、彩ちゃんのMCもあとは自主練で十分行けそうだし、みんな本当に頑張ったと思うわ」

麻弥「はい、ガールズバンドパーティーのスペシャルゲストの件もなんとかなったってまりなさんから連絡ありましたから、いよいよですねっ」

イヴ「ライブのゲスト……一体どんな人達が来てくれるのか、楽しみですっ♪」

日菜「うんうん、ルンっ♪って来る感じの人達だといいよね~♪」

千聖「ええ、そのゲストの人達に負けないためにも、私達ももっと練習をしておかなきゃね」

イヴ「はいっ! あの、みなさんっ、休憩が終わったら最後にもう一度演奏しませんか?」

麻弥「ええ、ジブンも少し確認したいところがあったので、是非お願いしたいと思ってたところです」

日菜「私は大丈夫だよー、やっぱみんなと練習するのって、こう、るるるんっ♪ って感じがするよね♪」

千聖「ふふふっ、毎回思うのだけれど……日菜ちゃんの『るるるんっ♪』には、一体何通りの意味があるのかしら?」

麻弥「あはははは……ええと、ジブンの知る限りでは、既に100通り以上の意味があったと思いますが……」

 リハもどうにか無事に終えられ、緊張から開放された5人が和やかに談笑をしていたその時。


律「よーっす、みんなやってっかー?」

 スタジオの扉が開かれ、律が姿を見せていた。

213: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:14:18.54 ID:10IwYkZZo
彩「律さん、お疲れ様です!」

一同「お疲れ様です!」

律「今休憩中か……じゃあちょうどいいや。ほい、さっきそこでスタッフさんにジュースとお菓子貰ってきたから、みんなで好きに食べていいよ」

彩「あ、ありがとうございますっ!」

麻弥「律さん、ありがとうございますっ!」

 各々が律に一礼し、好みのジュースと菓子類を開けては食べあっていた。

 そんな彼女達に向け、スケジュール帳を手に律は優しい声で続ける。


律「それと、食べながらでいいから聞いて欲しいんだけど。イヴちゃん、日菜ちゃん。再来月、FMラジオでリクエスト番組のゲスト出演決まったからよろしくね~」

イヴ「はい! ありがとうございます!」

日菜「はーい、律さん、いつもありがとうございまーす♪」

律「あと彩ちゃんと千聖ちゃん、麻弥ちゃん……おめでとう、来年やるドラマのオーディションの枠、3人分だけだけど、やっと取れたよ」

 にこやかに親指を立てながら、律は言い放つ。

 突然のその言葉に一瞬、思考が止まっていた3人だったが、すぐにその言葉の意味を理解する。

 彼女達の顔が驚きの表情から一変し、歓喜の色に染め上げられていた。

214: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:14:58.07 ID:10IwYkZZo
彩「……あ……あ……ありがとうございます! 私……精一杯頑張ります!!」

麻弥「ありがとうございます! オーディションに受かるよう、ジブンも全力で頑張ってみます!」

千聖「律さん、ありがとうございます! 必ず受かるように頑張りますねっ」

イヴ「アヤさん! マヤさん! チサトさん、おめでとうございますっ!」

日菜「みんなおめでとうー! オーディション、頑張ってね♪」

律「詳しいことはまた後日伝えるから、みんな根詰めすぎないように頑張ってね」

一同「はい!!」

 互いにハイタッチを決め、感激を顕にして喜び合う5人だった。

 そんな彼女達の表情を見て、律は以前社長に言った言葉を思い返し、改めて確信する。


律(……やっぱりパスパレは5人でいなきゃな……個人の仕事も大事だけど、それでも……なるべく全員一緒になれるよう上手く調整してやらないとな……)

 それは律の営業の功績か、パスパレの日頃の努力の賜物か、あるいはその両方か……着実にパスパレの全員が己の夢に、目標に向かい、その一歩を踏み締めていた。

 その一歩は、決して彼女達一人だけでは踏み出せなかった一歩……パスパレの5人と律が共に支え合う事で踏み出せた、大きな一歩だった。


日菜「それで律さん、何のドラマのオーディションなの?」

律「うん、来年の春頃にやる学園ドラマのオーディションだよ、ほら、あの有名少女漫画の実写化のさ」

彩「えっ? あの人気の俳優さん達が大勢出てるドラマですか?」

律「そそ、それの続編でさ……これでうまいこと主演掴み取れたら、パスパレも一気に有名になってくよなぁ」

彩「あのシリーズ、私も毎週見てました……そっか……あのドラマに……私達が……」

 彩はごくりと唾を飲み込み、自分がとても大きな舞台に立とうとしていると言うことを再認識する。

 そんな彩と同じように、オーディションへの参加が決まった麻弥と千聖もまた、緊張に顔を強張らせていた。

215: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:15:24.77 ID:10IwYkZZo
彩「オーディション……が、がんばらないと……もちろん、ライブも成功させなきゃ……!」

麻弥「ジブンがあの人気ドラマに……ですか……オーディション、今から緊張しますね……」

千聖「ええ、だけど……これも夢を掴む為ですもの……頑張って受かりたいわね……」

律(あちゃー、朗報だと思って話しては見たものの、これじゃ却って緊張させちゃったかな……)

 自分の言葉がライブ前の彼女達……特に彩に対して不要な緊張を与えてしまったことを律は反省する。

 この緊張をどうにか和まそうと思った矢先、一つの方法が律の頭の中に浮かび上がり……。

 その思い付きににやりと口角を上げつつ、悪戯をする子供のような顔で律は彩達にそっと呟くのであった。


律「……ひょっとしたら、キスシーンとかもあったりなんかして……」

彩「えええ?? き、キキキキキキス……ですか!?!?!?」

麻弥「そ、そそそそそそんな!!!! ジブンなんかがその……あわわわわわわわわわ……!!!」

イヴ「そ、そんなっ! フシダラですっ! ●●●●ですよっ!」

日菜「うわぁ~、私、すっごく楽しみになってきた♪」

千聖「………………」

 律の言葉に顔を紅潮させ、動揺の声を上げる2人だったが、女優歴の長い千聖だけは律の嘘を即座に見破っていた。

216: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:15:54.65 ID:10IwYkZZo
千聖「律さん、あまり二人をからかわないで下さい……大丈夫よ彩ちゃん、麻弥ちゃん……未成年の私たちにそんな過激なシーン、やらせる筈がないでしょ?」

律「ちぇ、バレたか」

彩「えっ!? ……あ、あははははははっっっ……そ、それもそうだよね……あ~~……びっくりしたぁ」

麻弥「も~~~~! 律さんも人が悪いですよぉ! ジブン……本気で信じる所でしたよぉー!!」

律「わーるかったって! 謝るから、そんなに怒らないでよ~」

 膨れる麻弥と涙目で座り込む彩に向け、律は両手を合わせて許しを乞いていた。


イヴ「ドッキリだったんですね……よかったです……」

日菜「な~んだ。キス、しないんだ」

千聖「……日菜ちゃんは何をそんなに残念がってるのかしらね…………」

217: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:17:04.56 ID:10IwYkZZo
―――
――


彩「うぅぅ……でも、ドラマの出演かぁ……嬉しいけど、やっぱり緊張するよ~」

律「まだ決まったわけじゃないけどなー、そのためにも、しっかりオーディションに合格しなきゃね」

日菜「うんうん。それにさ、映画の撮影なら前にみんなでやったし、もうお芝居なら大丈夫なんじゃない?」

千聖「あれはお芝居と言っても、ほとんど本人役だったからね……ドラマでやる演技は、映画の時の演技とは全然勝手が違うわよ」

麻弥「あ、ジブンにもそれはなんとなく分かります」

千聖「ドラマの演技は、それこそ脚本家さんや監督のイメージ通りの役をカメラの前で演じなければいけないから、かなり大変よ」

千聖「もちろん共演する役者さんや、プロの先輩方も大勢いらっしゃってるし、当然、スタッフ全員の予定だってあるから……結構大変なのよ」

律「さすが千聖ちゃん、長く女優やってただけのことはあるな……」

 千聖の言葉に感心しつつも、律は再度緊張している彩を励ますために言葉を投げ掛けていた。


律「ふふっ……大丈夫だよ彩ちゃん。こういう日のために、今まで頑張って演技のレッスン受けてきたんだろ? もっと自分に自信持ちなって」

彩「律さん…………」

彩(……うん……律さんの言う通りだよね、この時のために今まで頑張ってきたんだもん……こんな事で負けてなんかいられないよね……)

彩「……はいっ! 律さん、ありがとうございますっ♪」

 先程とは違う、律の素直な励ましに彩は緊張も解けたのか、彩は笑顔で返していた。

218: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:17:32.02 ID:10IwYkZZo
律「……あーそうだ。ドラマと言えばもう一つ話を聞いてさ、千聖ちゃん」

千聖「……はい?」

律「『はぐれ剣客人情伝』って昔あったでしょ、今度あれのリメイクもやるって話があるんだけど……千聖ちゃん、今度は子役じゃなくて主役でやってみない? 良かったら私、上に話してみるけど」

千聖「ま、また懐かしい作品ですね……ええ、ありがとうございます、喜んで受けさせていただきます!」

 律の声に照れ臭いような顔で千聖は俯く。

 それもその筈、律が口にしたそのドラマは千聖にとって縁の深い作品であり、デビュー間もない子役時代に一度だけ出演した事のある時代劇だった。


イヴ「リツさんっ! 私も時代劇、出てみたいです♪ 私のブシドーを、日本中の皆さんにお披露目したいです♪」

律「あははは……ま~、モノが時代劇だからな……うん、今度、制作会社に行った時にでも話してみるよ」

イヴ「はい♪ よろしくお願いします♪」

 内心難しいだろうとは思いつつ、それでもネガティブな事は言わぬよう、律はイヴに返していた。

 イヴの売り込みをどうしようかと頭の中で組み立てていた時、ふと壁にかけてある時計が目に止まる。

 時刻は既に、律がここに来てから1時間近くの時が過ぎようとしていた。

219: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:18:06.14 ID:10IwYkZZo
律「さてと……やべ、話し込んでたら結構時間経っちゃってたな……みんな、練習はもう良いの?」

麻弥「そうでした、あの律さん……もし宜しければ、少しドラムの事で教えて頂きたいところがありまして……」

律「うん、いいよー、まだ時間もあるし、私もちょうどドラム叩きたいなって思ってたところだから、せっかくだしみんなに手本を見せてやろっか」

麻弥「いいんですか!? あ、ありがとうございます!」

日菜「律さんのドラムって、本場のドラマーって感じがしてかっこいいよね、私好きだなー♪」

彩「うんっ♪ 私も……律さんのドラムって、本当にプロの人の演奏って感じがするよね」

律「ははははっ、みんなありがとねー。さてと……んじゃ、田井中大先輩によるドラムテクニック、とくとご覧あれっ! なんてな♪」

麻弥「はい! よろしくお願いします!」

 にこやかな笑顔でスティックを握り、律は意気揚々とドラムを叩く。

 複雑なリズム、ビートも容易くこなすその姿を、パスパレの全員が尊敬の眼差しで見ていた。

 そしてしばらくの間、律のライブの自主練も兼ねたドラムパフォーマンスは、その夢を追う輝きを持つ少女達の視線を一身に受けつつ、続けられるのだった――。

220: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:18:41.89 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ4日前 Afterglow-

【羽沢珈琲店】

 学校が終わってからの事、課題の片付けや各自委員会に部活など、高校生としての本分にその日の少女達は追われていた。

 瞬く間に時間は過ぎ、夕日が街を染め上げる頃……同じく夕日の名を冠する彼女達……Afterglowの5人は、貸切状態となった馴染みの喫茶店で課題の消化に奮闘していたのだった――。


巴「今日も疲れたな~、進級してから、勉強の量明らかに増えたよなぁ」

蘭「そうだね……課題も増えてきたし、今日は練習は一旦休んで、課題の片付けに回そっか」

つぐみ「うん、今日はお店も早く閉めるみたいだから、みんなでゆっくり勉強できるね」

ひまり「ほら、モカも座って課題やろうよ~」

モカ「ん~~、モカちゃんはもう終わってるよ~」

 ここに来る途中で購入した文庫本のページを捲りながら、モカは言葉を返す。


巴「だったらちょっと教えてくれないか? マンガはそれからでも大丈夫だろ?」

モカ「トモちんは分かってないなぁ~、これはマンガだけどマンガじゃないんだよ~」

蘭「え……でもその表紙のキャラクター、モカがたまに見てるアニメのキャラでしょ?」

モカ「ふっふっふー、原作は一緒だけど、これはちょっと違うんだよねぇー」

 モカが赤いギターを手にした少女のイラストが描かれた文庫本の表紙を見せながら蘭に返す。

 モカが今から読もうとしていた本、それは、モカが毎週見ているアニメ作品の原作小説だった。

221: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:19:24.37 ID:10IwYkZZo
つぐみ「そういえば、最近多いよね、マンガとかアニメの小説ってさ」

巴「あこもそういう小説……ライトノベルっていうんだっけ? 結構好きなんだけど……アタシはダメだぁ、文字が多いと頭ん中爆発しそうになるんだよなぁ……やっぱ、絵でスカッと見たいタイプだからな~」

蘭「漫画の小説か……それなら私も読めるかも……」

ひまり「まぁまぁ……その話は一旦置いといて、まずは課題の片付けやっちゃおうよ」

巴「ああ、そうだな……ほら、モカもここ座って、課題の片付け手伝ってくれ」

モカ「は~い」

 巴の言葉に従い、モカはテーブルに着く。

 それからしばらく、5人は互いに助け合いつつも、課題の処理に奮闘するのであった。

222: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:20:10.08 ID:10IwYkZZo

-数時間後-

巴「ん~~~~……なんとかキリの良いとこまで片付けられたな……みんなはどうだ?」

 背伸びをしながら巴は皆に問いかける

 その言葉に合わせ、各々が声を返していた。

 皆、巴と同じように丁度終わりの目処が着いていたようだ。


つぐみ「うん、私も、あとは自分でできそうだよ」

ひまり「蘭、モカ、ありがとね、あとは自分でやってみるよ♪」

蘭「ううん、私もひまりのお陰で助かったよ、ありがと」

モカ「いいえー、このお礼はひーちゃんの手作りお菓子でねー」

ひまり「うんっ、まっかせて♪」

モカ「さてさて……それじゃーモカちゃんはさっきの続きを~♪」

 筆記具を片付けるや否や、すぐさま読書の続きに取り掛かるモカだった。


モカ「お~、そっか~、この子、あの時はそーゆー気持ちだったんだ~、へ~~」 

巴「ふふっ、モカのやつ、楽しそうに読んでるな……」

蘭「私も、後で借りて読んでみようかな」

ひまり「でも、元は同じ作品なんでしょ? アニメと小説ってそんなに違うものなの?」

モカ「ぜ~んぜん違うよ~、小説だとマンガやアニメとは違って各キャラクターの心理描写も細かく丁寧に描かれてるしー、なんといっても情景が自分でイメージできるのがいいんだよね~」

モカ「それに、これはアニメとは設定が全然違ってるから、これはこれで別のお話って感じがしておもしろいよ~♪」

巴「へ~、そう言うものなのか」

 モカの言葉に感心したような素振りで巴は返す。

 巴と同じように、蘭もまた、モカの言葉に同意の意を示していた。

223: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:20:41.62 ID:10IwYkZZo
蘭「情景が自分で想像できる……か、うん、モカの言ってること分かるかも。私も小説読む時、結構イメージとか頭の中に浮かびながら入ってくるんだ」

ひまり「あ、だからなのかな? 蘭の書く歌詞って、割とイメージしやすいんだよね」

巴「ああ……きっと、読んだり書いたりしてるのに慣れてるから、アタシにも蘭の歌詞が伝わりやすいのかも知れないな」

ひまり「蘭って、実は小説家になれる才能があったりして……♪」

蘭「やめてよ……そんな訳ないでしょ」

 照れるようにそっぽを向きながら、蘭は返していた。


巴「はははっ、前にモカとつぐもマンガ描いてたし、今度は蘭が小説を書くってのも面白いかもな」

ひまり「うんっ♪ ねえねえ蘭、今度小説の新人賞狙ってみようよ、結構良いセン行くかもよ?」

蘭「やらないよ……小説書いてる暇があったら、一つでも多く歌詞書きたいしさ」

つぐみ「みんな課題お疲れ様ー、はい、どうぞ、紅茶淹れてみたよ」

蘭「うん。つぐ、ありがと」

モカ「おー、ありがと~……う~ん、今日もツグってる味がする~♪」

つぐみ「ふふっ、ありがとね」

 つぐみの淹れてくれた紅茶を口に含み、満足そうな顔で返すモカ。

 そんなモカの顔を見て、つぐみもまた笑顔で返していた。

224: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:21:29.65 ID:10IwYkZZo
巴「そういや、今モカの読んでるマンガ……いや、小説か、どんな話なんだっけ?」

ひまり「ええっと確か……女子高生ガールズバンドが主役の青春物語だと思ったけど」

つぐみ「笑いがあって感動もあって……私もこの子達みたいに頑張りたいなって思う所、結構あったんだぁ」

巴「へ~、なんだかアタシ達みたいな話だな……ちょっと興味湧いてきたよ、一体どんな話なんだ?」

 巴に振られ、その物語のあらすじを、皆にも伝わるようにモカは簡単に説明する。


モカ「うん、小さい頃、歌がとても好きだった、一人の女の子がいたんだ~」


 ――しかしその少女は幼い頃、その大好きな歌を馬鹿にされて以来、自分や歌に対して臆病になってしまい、一人寂しい高校生活を送っていた。

 そんな主人公の少女がある日、星の導きにより、一つの赤いギターを見つけた事をきっかけに物語は動き出す。


 音楽への情熱を取り戻し、大好きな歌を歌うため、バンドを結成するために邁進する少女。

 様々な困難を乗り越え、音楽にひたむきに、一生懸命に向き合う主人公の姿に感化され、次々とバンドメンバーが集まり、遂にそのバンドは結成され、少女達は更なる夢を追い続ける……という内容だった。

225: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:23:39.62 ID:10IwYkZZo
モカ「蘭も読んでみるー? ライブのシーン、結構面白いよ~」

蘭「……うん、ちょっと見てみるよ」

 モカから文庫本を手渡され、蘭は栞の挟んであるページを開く。

 そのページは、その物語の見せ場の一つ、ライブのシーンだった。

 少女達の音楽に対するひたむきな姿勢にどこか感情移入しつつ、蘭は一心に物語を読み進めていた。


蘭「…………」

 そしてしばらく、蘭はページを閉じ、文庫本をモカに手渡しながら口を開く。


蘭「…………うん、良かったと思う。モカ、ありがと」

モカ「いいえ~、どう、面白かったでしょ?」

蘭「そうだね……ライブの描写もそうだけど、演奏する登場人物の気持ちもしっかり書かれてて、結構本気で読めたよ」

モカ「うんうん~、この主人公の子、なんとなーく蘭に似てるよね~♪」

蘭「ふふっ……どうかな……あたしはここまで不器用じゃないと思うけど」


蘭「……なんだか演奏したくなってきた……っても、今からじゃ演奏できないし、帰ったら曲造り進めてみようかな」

つぐみ「私も、もう一度演奏の確認しとかなきゃ」

巴「そういえば、あこの自主練に付き合う約束してたっけな」

ひまり「ふふっ……結局、みんなバンドの練習はお休みでも、音楽そのものはお休みにはならなさそうだね」

 そしてしばらく、話題は読書の話から、音楽の話へと移行する。

 ひまりの言う通り、練習は休みでも、皆が皆、好きな音楽を休むことだけはしなさそうだった。

226: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:32:55.82 ID:10IwYkZZo
―――
――


蘭「そういえば、昨日の練習、なかなか良かったね」

巴「ん~、アタシはまだ少し不安かもな……もう少し自主練しとかないとな」

ひまり「あまり無理はしないでね? 巴、一人だと頑張りすぎる時あるから」

巴「大丈夫だよ、あこもいるし、そんな無茶しないって」

モカ「そういえばつぐ、なんだか昨日はいつもよりツグってたよね~」

つぐみ「うん、ライブも近いし、私も頑張らなきゃって思って♪」

蘭「そうだね、ライブまであと4日……もうすぐだね」

巴「ああ、アタシもだ、今からすっげー楽しみになってきた!」

モカ「お~、あついあつーい、蘭とトモちんが燃えてるー」

 ライブへの期待を顕にする蘭と巴。そんな二人の様子を見るモカ、ひまり、つぐみの3名また、ガールズバンドパーティーへの期待を確かに高めていた。


ひまり「ライブ……澪さんにがっかりされないように、私も頑張らなきゃっ……う~! やっるぞーーっ!」

 拳を上に突き出し、威勢良くひまりは叫ぶ。

227: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:37:04.94 ID:10IwYkZZo
モカ「あのねーひーちゃん、気持ちはわかるけど、ひーちゃんは頑張りすぎず、いつも通りでいいとモカちゃんは思うよー?」

巴「はははっ、モカの言う通り、ひまりはいつも通りが一番かもな」

蘭「うん、ひまりが頑張りすぎて空回りするの、よくある事だもんね」

ひまり「も~、みんなひどーい! せっかくやる気出したのに~!」

つぐみ「あはははっ。でも、ひまりちゃんの気持ち、分かるよ……あのお姉さん、私達の演奏楽しみにしてくれてたもんね」

ひまり「うん……だから、澪さんにも精一杯楽しんでもらえるように、私ももっと練習しとかないと……蘭もそう思うでしょ?」

蘭「…………」

 ひまりの問いかけに蘭はしばし口を閉ざし、自身の考えを巡らせる。


蘭「…………別に、誰が来てもあたし達のやる事は変わらないよ」

蘭「いつだって……どこでだって、あたし達はあたし達、『いつも通り』のあたし達で……ライブでも『いつも通り』、全力で歌う……そうでしょ」

 言葉を紡ぐ蘭の眼に、確かな決意が宿る。

228: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:38:03.16 ID:10IwYkZZo
巴「ああ……蘭の言う通り、だな」

モカ「あたし達はあたし達の、『いつも通り』の歌を……だね」

つぐみ「うん! ライブ、みんなで頑張ろうね!」

ひまり「えへへへ……うんっ! そうだね!」

 蘭の意思に呼応するように、4人の胸中に決意が宿る。

 それは、少女達が抱く純粋な想い。

 いつだろうと、何処だろうと、誰の前であろうとも変わらない、彼女達が今を生きる輝きだった――。



ひまり「よーし! みんなやるよ! えい! えい!……」

蘭「………………」

巴「いや……それは何か違わないか?」

つぐみ「あまり大声で騒ぐと、お母さんに怒られちゃう……」

モカ「ひーちゃん空気読めてな~い」

ひまり「も~~~~!!! みんなのばか~~~~!!」

 顔を膨らませ、ひまりは叫ぶ。

 そんな彼女を、4人の優しい笑い声が包み込む。

 静かな店内は、今日もいつも通り変わらない、5人の笑い声で賑わっていた――。

229: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:38:34.78 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ3日前 ハロー、ハッピーワールド!-

 それぞれの学校が終わってからすぐの事、こころ達ハロー、ハッピーワールド!もまた、CiRCLEでライブに向けての調整に勤しんでいた。

 こころの思いつきにはぐみと薫が便乗し、それを美咲(ミッシェル)と花音が宥めることの繰り返し。それが、普段のハロハピの練習光景であった。

 ……だが、その日の練習は普段以上に慌ただしく、和やかな練習となっていた。


【CiRCLE カフェテリア】

美咲「うぅ……今日は本気で疲れた……」

 着ぐるみを脱ぎ、私服に戻った美咲はカフェのテーブルで一息つく。


花音「美咲ちゃん、お疲れ様。アイスティー買ってきたんだ、良かったらどうぞ」

美咲「ああ、花音さん。……ありがとうございます」

 差し出されたアイスティーを有り難く受け取り、一口流し込む。

 程よく冷やされた紅茶が火照った身体をクールダウンさせ、練習で疲れた美咲の身体を内側から癒やしてくれていた。

230: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:39:23.80 ID:10IwYkZZo
美咲(そういえば……ここって何故か足湯があったっけ……あとで浸かってみよっかな)

花音「今日のこころちゃん達、すごく楽しそうだったね」

美咲「ええ……こころのやつ、いきなり予定にないことやるんですもん……抑えるの大変でしたよ……」

花音「あははは……本当にお疲れ様だったね……」

美咲「花音さんもありがとうございました、私一人じゃあの子達を抑えるのキツくて……」

花音「ううん、私は大丈夫だよ。でも、ライブまであと3日かぁ……なんだか、あっという間だね」

美咲「……緊張、してます?」

花音「うん……少しだけだけどね」

美咲「まぁ、私も全然緊張してないって言えば嘘になりますけど……あの3人を見てると緊張も吹き飛ぶと言いますか……そんな余裕もないって感じです」

 乾いた笑いを浮かべながら、美咲は隣のテーブルで話し込んでいる3人を見る。


こころ「演奏の最後には花火でドーン!ってやって、5人でお客さんの所に飛び込んでいくっていうのはどうかしら?」

はぐみ「うんうんっ! こころん、それ、すっごく面白いと思う!」

薫「ああ、なんて儚く、粋な演出だろうね……」

 美咲達の苦労を他所に、こころ達はライブの演出の話で盛り上がっていた。

231: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:40:54.28 ID:10IwYkZZo
美咲「こころってば……またとんでもない事言いだしてるし……」

花音「あはははは…………」

こころ「ねえ美咲! 私達の演奏が終わったら、最後にみんなで……」

美咲「却下だよ、花火やった上に客席にダイブだなんて危ないこと、できるわけないでしょ。誰かケガでもしたらどうすんの?」

こころ「……それもそうね、美咲、ありがとっ!」

はぐみ「みーくんすごいねー、こころんが言おうとしてた事、全部分かってたみたいだよ」

薫「フフッ……美咲には、人の心が読めるのかも知れないね」

はぐみ「えーー! すっごーい! みーくんってそんな能力があったの!?」

美咲「いやいや、私にそんな能力ないから。ていうか、あんだけ大きい声で話してりゃ誰だって聞こえるって」

 そんなやり取りも交えつつ、こころは再びはぐみと薫と共に演出の案を出し合っていた。


こころ「それじゃあこういうのはどうかしら? 演奏の途中で私とミッシェルが……」

花音「ふふふっ……みんな、本当に楽しみにしてるんだね」

美咲「多分ですけど……ほら、前にパーティーで会ったあの人達……」

花音「うん……紬さんと菫さん、だったよね」

美咲「あのお二人が来てくれるって言ってたからだと思います、こころ達がライブに向けてあんなにはしゃいでるのって」

花音「うん、きっとそうだね……あの人たちだけじゃなく、来てくれる人たち全員の期待に応えられるように、私達も頑張らないとね」

美咲「ええ……そうですね」

 互いに美咲と花音は頷き合い、ライブへの決意を固めていく。

 そして――。

232: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:41:48.01 ID:10IwYkZZo
女の子「ふぇぇぇん……おかーさん、おとーさん、どこにいっちゃったのー?」

 カフェからやや離れた街道、そこを、一人の女の子が泣きながら歩いていた。


はぐみ「ねえねえこころん見て! あそこに泣いてる子がいるよ!」

こころ「あら……迷子かしら? みんなで笑顔にしてあげましょ!」

薫「ああ……笑顔パトロール隊、久々の出動だね♪」

こころ「ええ、そうね♪ 美咲! 花音! 行きましょ、笑顔パトロール隊、出動よっ♪」

花音「ふえぇぇ……みんな、ちょっと待ってよ~」

美咲「ちょっとみんなー、いきなり飛び出したらあの子もびっくりするでしょー! おーい、待ちなってばー!」


 こころ達は走り出す、一つでも多くの笑顔を咲かせるために。

 場所を、人を問わず、こころ達は、今日もありのままでいる。

 その笑顔が放つ輝きは、今日もまた、世界を笑顔に変えていくのであった―――。

233: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:42:41.29 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ2日前 Roselia-

 ライブに向け、個々のバンドの準備は着実に進んでいく。

 それは、青き薔薇の紋章を掲げた彼女達……Roseliaも同じである。

 彼女達の練習は連日のように行われており、他のバンドのそれとは比較にならない程の熱が込められていた――。


【某スタジオ】

 ――♪ ――――♪ ――……♪

あこ「……っ! あっ……」

友希那「ストップ。あこ、また外したわよ」

あこ「すみません! もう一度お願いします!!」

友希那「……これで3回目よ……もっと集中して貰わないと困るわ」

あこ「ごめんなさい……」

 あこの謝罪をやれやれと言った様子で受け入れ、友希那は再度マイクの前に立ち、息を整える。

 そんな友希那に向け、リサが声を上げていた。

234: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:43:14.51 ID:10IwYkZZo
リサ「待って友希那っ、あのさ……一度休憩にしない?」

紗夜「今井さんに賛成です、明らかにパフォーマンスが下がってきているようですし、一旦休憩を挟むべきだと思います」

友希那「リサ、紗夜も……でも、まだ始めてからそんなに時間は……」

リサ「初めたばかりって……もう2時間以上もぶっ通しで練習してんだよ? アタシもそろそろ限界だよー」

燐子「私も……できれば少し……休憩を……」

 皆の声に友希那は壁にかけられた時計を見る。

 確かにリサの言う通り、既に練習を始めてから2時間半もの時間が経っていた。


友希那「……そう、もうそんなに経っていたのね……全然気付かなかったわ」

 友希那が背後のメンバーを見る。すると、確かにメンバー全員の顔に、疲労の色が伺えていた。

 このまま無理に練習を続行するのは、却って演奏の質を落としてしまう事に繋がるだろう。

 練習を続行したい気持ちを抑え、友希那は3人の提案を快く受け入れていた。

235: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:43:46.87 ID:10IwYkZZo
友希那「……分かったわ、このまま続けても悪い流れになりそうだし……少し休憩にしましょう……あこも、さっきは悪かったわね」

あこ「そんな……あこの方こそすみませんでした」

リサ「はいはい、二人ともそのぐらいにしときなって。そうだ、アタシ、クッキー焼いてきたからさ、みんなで食べよ、ね?」

あこ「うんっ、リサ姉のクッキー、楽しみだなぁ♪」

 リサの言葉に先程の様子とは一変し、嬉々とした様子で準備に取り掛かるあこだった。

 その様子を見た燐子と紗夜もまた、テーブルを並べては休憩の準備に取り掛かっていた。


友希那「…………私もまだまだね……少し、外の空気を吸ってくるわ」

リサ「うん、お茶の用意しておくから、気をつけてね」

 スタジオの扉を開け、友希那は席を外す。

 普段とは違う、やや疲れを感じさせるその足取りを、静かにリサ達は見守っていた。

236: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:44:33.89 ID:10IwYkZZo
リサ「友希那……大丈夫かな……」

紗夜「湊さんに限って身体を壊す程の無理はしないと思いますが……それでも、少し心配ですね」

あこ「最近の友希那さん、特に集中してますよね」

リサ「あ~、それは、たぶん前にあの人に会ったからじゃないかな」

あこ「あの人って、前に桜が丘で会った……」

燐子「中野梓さん……の事だね」

リサ「うん、あの人と話してから友希那、前以上に音楽にのめり込むようになったみたいでさ……今度、ちゃんと身体休ませるように言っておかなきゃ」

紗夜「集中する事は悪いことではないですが……身体を壊してしまっては元も子もないですからね」

あこ「今度、みんなでどこか遊びに行きたいですね」

リサ「そうだねー、気分転換に旅行なんてのもいいよね♪」

 などと言った会話をしつつ、休憩の準備は進められる。

 それから程なくして友希那が戻ってきた頃、テーブルの上にはリサのクッキーと燐子の淹れてくれたお茶が並び、疲弊した身体と心を癒やす為の、ささやかなお茶会が開かれるのであった。


あこ「ん~~~~~……リサ姉のクッキーにりんりんのハーブティー、すっごく美味しい~~♪」

リサ「あはは♪ ありがと、たくさんあるからどんどん食べてね。ほーら、友希那も、可愛いネコさんクッキーだよ♪」

友希那「ふふっ……ええ、美味しいわ……ありがとう、リサ」

紗夜「今井さん、今度また、お菓子の作り方を教えてもらってもいいかしら?」

リサ「うん、いつでもいいよ♪ そだ、友希那も今度一緒にお菓子作り、やってみない?」

友希那「私は遠慮しておくわ、リサ程上手にできなさそうだもの」

リサ「こういうのは上手い下手とかじゃないよ、みんなで楽しくやるのが大事なんだって♪」

友希那「ふふふっ……そうね、機会があったら……是非見学させてもらうわ」

リサ「うん、それじゃあ近い内にね♪ 楽しみになってきたなぁ」

237: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:44:59.41 ID:10IwYkZZo
―――
――


燐子「そうだ……あこちゃん……今度のNFOのイベント……楽しみだね」

あこ「うんっ! ライブが終わった次の日に配信だったよね、確かタイトルは……」

紗夜「『黄昏の剣と蒼き荊棘の共闘』……ですね、私も少し興味があります」

リサ「それって、どんなイベントなの?」

あこ「うん、NFOの世界に黄昏騎士団っていうグループと、荊棘戦士団っていうグループが現れて。陣営を決めてその人達と対決したり、共闘したりして進めていくイベントなんだー」

あこ「……でも、『けいきょく』って、一体どういう意味なんだろう?」

紗夜「荊棘……いばらと読んで、中国語ではバラを差す言葉の事ね。『蒼き荊棘』とはつまり、青い薔薇っていう意味よ」

リサ「へ~、黄昏……つまり夕日と、青いバラの共演かぁ……はははっ、なんだか私達みたいだね」

紗夜「ええ、私達も以前、夕日を表す人達と共演したことがありましたね」

友希那「そうね、懐かしいわ……」

 友希那達の脳裏に蘇る、以前繰り広げられた2マンライブ。それは、AfterglowとRoseliaの初めての共闘ライブの事だった。

238: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:45:39.38 ID:10IwYkZZo
燐子「あの時の皆さん……凄く……盛り上がってましたね……」

リサ「またやりたいよね、対バンライブ」

あこ「うんっ! お姉ちゃんとライブで演奏、すっごく楽しかったな~」

紗夜「ガールズバンドパーティーが終わったら、また美竹さんに提案してみるのもいいかも知れませんね」

友希那「……もちろん、『FUTURE WORLD FES.』に向けての練習も欠かさずにね」

一同「………………」

 友希那のその言葉に、全員の表情が引き締まる。

 『FUTURE WORLD FES.』……それは先日、Roseliaが苦労の果てにようやく掴んだ夢への挑戦権であり、Roseliaの目標の一つ。

 そのイベントに出場することこそが友希那の以前からの夢であり、今の湊友希那が舞台に立ち、歌い続ける理由だった。


リサ「うん、みんなでようやく掴んだ夢だからね……!」

紗夜「はい、そのためにも、今以上に腕を磨かないと……」

あこ「はい! あこも、もっと、もっと練習します……いつか、お姉ちゃんにだって負けないぐらい……上手に……!」

燐子「私も……更に上を目指さないと……」

友希那「ええ……でもまずは、ガールズバンドパーティーを成功させることが先決よ、ライブまであと2日、みんな、最後まで気を抜かずに頑張りましょう」

 友希那の言葉に頷き、Roseliaの5人は決意を込めて立ち上がる。


リサ「うん、さーってと……練習頑張ろっか」

あこ「へへへ、リサ姉のクッキーとりんりんのお茶のおかげであこ、HP満タンだよ♪」

燐子「ふふっ……あこちゃん……ありがとう……」

紗夜「湊さん、曲の出だしはどうしますか?」

友希那「そうね、もう一度、さっきの所から始めましょう」

 再び彼女達は楽器を手に、音を紡ぐ。

 少女達の魂が、輝きが……楽器を、喉を通してスタジオ中に響き渡る。

 頂点を目指す少女達が放つその情熱の輝きは、今日も強く、また鋭く……研ぎ澄まされていく――。

239: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:46:11.26 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ前日 Poppin'Party-

 放課後になり、彼女達はすぐさま一つの場所を目指し、歩み始める。それが彼女達の、ここ最近の日常だった。

 ――Poppin'Partyの5人は、今日も市ヶ谷有咲の蔵に集まり、練習に明け暮れていた。


【市ヶ谷家 蔵】

 ――♪ ―――♪

香澄「やったぁー! 今の演奏、完璧だったね!」

沙綾「うんっ♪ みんな、歌も演奏も大丈夫だったと思うよ」

りみ「通しで演奏、緊張したぁ~……」

有咲「ああ、もう衣装も仕上がったし、あとは明日に備えてみんな、身体を休めておいた方がいいんじゃねーか?」

たえ「有咲の言う通りだね……どう香澄、大丈夫? 疲れてない?」

香澄「だいじょーぶ! 平気だよ、おたえ、ありがとうっ♪」

 たえの言葉に香澄は元気良く返す。

 ここ数日、学校生活と並行して練習しているにも関わらず、香澄は微塵も疲れた様子もなく、練習に向き合っていた。

240: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:48:40.52 ID:10IwYkZZo
りみ「ふふっ、香澄ちゃん、すごく気合入ってるね♪」

香澄「うんっ! 唯さんも見に来てくれるって言ってたし、もう明日が楽しみで楽しみで……♪」

沙綾「あははっ、香澄、ホント唯さんのことになると元気だよね」

有咲「元バンドのギタリストでしかもメインボーカル……まさに香澄からすりゃ大先輩ってとこだもんなぁ」

たえ「うん。そのおかげで、前以上に香澄の演奏、上手になったよね」

沙綾「そうだね、難しいリフもどんどん弾けるようになってたし……香澄、この1週間で凄く成長したと思うよ」

有咲「香澄ー、分かってると思うけど、お客さんは唯さんだけじゃないんだからなー、そこんとこ、ちゃんと覚えとけよー?」

香澄「だいじょーぶだよっ、唯さんだけじゃなくって、聴きに来てくれるお客さん全員のためにも頑張るからさっ!」

有咲「ならいいんだけどな……」

 元気に返す香澄を見やりつつ、やや寂しそうに有咲はぼやいていた。


たえ「やっぱり有咲、少し妬いてる?」

有咲「だから誰も妬いてねえっての! ……ったく、なんか一気に疲れて来た……なあみんな、明日に備えて、今日はもう早めに練習切り上げようぜ」

香澄「うん、そうだねっ」

沙綾「私、今日もいっぱいパン焼いてきたから、みんなで食べよっか」

りみ「わぁ……沙綾ちゃん、いつもありがとう♪」

有咲「私、お茶でも淹れてくるよ。おたえ、手伝ってくんねーか?」

たえ「うん、いいよ♪」

 有咲の提案に乗り、全員で休憩の準備に取り掛かる。

 和やかな空気が蔵全体に流れ込み、安らぎに満ちた一時が訪れる。

 それから程なく、香澄と沙綾は仲良く談笑をし、その傍らではりみとたえが課題の続きをやったりと、各々が自由に過ごしていた時の事だった。

241: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:49:32.74 ID:10IwYkZZo
香澄「それでね、その時あっちゃんがね~」

沙綾「あはははっ、そんな事があったんだ」

りみ「ねえ有咲ちゃん、数学のこの部分なんだけど……教えてくれないかな?」

有咲「どれ、ちょっと見せてみ……ああ、ここか、これはこのxの所をyでくくってだな……」

りみ「あ~、そっか、うん! 分かったよ、ありがとう有咲ちゃん♪」

たえ「有咲、この漢文なんだけど……」

有咲「あ~~、ちょっと待て、一旦ゲーム中断する」

 たえとりみの声に有咲はスタートフォンの画面を閉じ、二人の宿題に向き合うことにする。

 こうして各メンバーの勉強を見ることも、優等生としての有咲にはよくある光景の一つだった。

 そして、ひとしきり宿題も終えた頃――。


有咲「あーくそ、またフルコンミスった……」

たえ「ねえ有咲、さっきから何のゲームやってるの?」

有咲「ああ、音感の鍛錬になると思って音ゲーをな」

 有咲が画面を見せながらたえに返す。

 有咲がプレイしているゲーム……それは今、学生世代を中心に流行っているスマートフォン専用の音楽ゲームだった。

242: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:50:29.89 ID:10IwYkZZo
たえ「これ、今テレビでCMやってるやつだね」

有咲「ああ……最初は簡単だと思ってやってたんだけど、やってみたらなかなか本格的でな、ストーリーも結構面白いし、結構楽しくってさ」

香澄「それ、クラスの子もやってたよ、私も前から興味あったんだ~」

りみ「そのゲーム、前にテレビで特集してたけど、結構難しそうなんだよね」

沙綾「へ~、今はこういうゲームが流行ってるんだね」

 有咲のゲームに興味津々と、全員がスマートフォンの画面を覗き込んでいた。


たえ「あ、この曲知ってるよ、昔流行ったアニメの歌だよね?」

香澄「懐かしいなー、よくあっちゃんと一緒に見てたよ、このアニメ」

有咲「結構有名どころの歌もカバーされてるからなぁ。だからなのか、プレイヤー層も小学生から大人まで、結構幅広いんだと」

たえ「ふ~ん、ねえ有咲、ちょっとやらせてもらってもいいかな?」

有咲「別にいいけど……」

 たえは有咲からスマートフォンを受け取り、有咲の指示に従いながら画面を操作する。


有咲「演奏だけど、青いシンボルはタップで、緑はラインに沿ってスライド、赤はタイミングに合わせてフリックさせて、黄色は必殺技の発動で……」

たえ「……? うん、よくわからないけど、とりあえずやってみるよ」

 ゲームの簡単なレクチャーを受けたたえは『フリーライブ』と表示された部分をタップする。

 その画面には、ゲーム内に収録されている、様々な曲が並べられていた。


たえ「あ、この曲懐かしい、これにしよっと」

 たえの指が一つの曲で止まる。

243: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:51:04.24 ID:10IwYkZZo
有咲「っておいおたえ、そのレベル、私もまだフルコンできないぐらい難しいレベルなんだけど……」

たえ「え、そうなの?」

 そして、EX26と表示されたレベルの曲が始まり……。


たえ「えっと、こう……かな、あ、できた♪」

 有咲の心配をよそにリズムに合わせ、たえは的確にゲームを攻略していく。

 流れるように上から降ってくるシンボルをはじめ、慣れていても躓くような変則的な難所も容易くクリアし、着実にたえはコンボを繋げていく。


有咲「うわ……あの難所もあっさり攻略しやがった」

たえ「始めてやってみたけど、結構楽しいね♪」

 そのまましばらく、たえはコンボを途切れさせることなくゲームをクリアした。

 曲を完走させたゲーム画面には『FULL COMBO!』という表示と共にハイスコアが表示されており、有咲は眼を丸くしてその画面を見ていた。


有咲「初見でフルコンとかマジかよ……おたえ、本当にこのゲーム初めてなのか?」

たえ「うん、似たようなゲームならゲームセンターでたまにやるぐらいだけど」

香澄「おたえすっごーい! ねえねえ有咲、今度は私にもやらせてみて♪」

有咲「別にいいけど……ちょっ! 香澄、近いっての!」

 まるで抱き着かんかと言わんばかりに距離を詰める香澄に向け、有咲は顔を赤面させながら声を上げていた。

244: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:51:53.19 ID:10IwYkZZo
有咲「あ、そういや……イベガチャ今日が最終日だったな……おたえのおかげでスターも溜まったし……一応回しとくか」

香澄「可愛いキャラクターがいっぱいいるねー、ねえねえ、今度は何の画面なの?」

有咲「ああ、イベントガチャだよ、今日が最終日だから、回しとこうと思ってな」

香澄「……ガチャ?」

有咲「簡単に言えばこのゲームでできるクジみたいなもんだよ、欲しいキャラがいるんだけど、これがなかなか引けなくてな~……」

香澄「へぇ~、そうなんだぁ」

 ぼやきながら、有咲はイベントガチャの部分をタップする。


香澄「…………♪」

有咲「わかった! わかったからそんなに見るなって! 香澄、やってみたいんだろ?」

 眼をキラつかせながら自分を見つめる香澄の視線に赤面し、有咲は香澄にスマートフォンを手渡していた。


香澄「えへへっ♪ うんっ! 私にまっかせて! こう見えて、クジ運は結構良いんだよっ♪」

有咲「初めて聞いたぞ……まぁいっか、んじゃ頼むわ」

香澄「ここを押せばいいの?」

 有咲の言葉に従いつつ、香澄の指が10回ガチャの部分をタップする。


有咲「ああ、ま、そうそう当たんねえけどな~」

香澄「わ~、虹色だー、キレイだね~♪」

有咲「ってマジかよ!?」
 
 香澄の言葉に有咲は食い付くように画面を覗き込む。

 見れば、画面上には虹色のサイリウムが揺らめいており……レアキャラゲットの確定演出が表示されていた。

245: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:52:53.94 ID:10IwYkZZo
有咲「いやいやいや……いくら確定してるからってそうそう当たったりは……」

 どうせ被りだろうと思う反面、でも香澄ならもしかして……とも期待しつつ、有咲はガチャの結果を見守る。

 すると……。


有咲「おおおおお!! ☆4来た! しかも私が一番欲しかったキャラ!!」

香澄「あはははっ、有咲、すっごく嬉しそうな顔してる♪」

沙綾「なんていうか……この子、香澄みたいなキャラクターだね」

りみ「うんうん、声の感じとか、このポーズも、香澄ちゃんにそっくりだね~」

たえ「有咲が一番欲しかったキャラって、香澄の事だったんだね」

香澄「えへへへ♪ いいよ、有咲にならいつ貰われても平気だよ♪」

有咲「…………っっ! ご、ごご誤解を招くような言い方すんじゃねえ!! ……ああでも……香澄……あ、ありがとな……」

香澄「ううん、どういたしまして♪」

 顔を紅潮させつつ、有咲は香澄に感謝の言葉を告げる。


香澄「えっと……んじゃあ、私この曲やってみよっと♪」

りみ「あ、有咲ちゃん、その……わ、私もやってみてもいい……かな?」

たえ「私も、もう一度やってみたいな♪」

有咲「ああ、つーか、いちいち許可取らなくてもいいんだけど……沙綾はどうだ?」

沙綾「ううん、私は平気、みんなのやってるのを見てるだけで楽しいよ」

 そして、各々がスマートフォンを回しながら、ゲームに興じていた。

 それはライブの前日とは思えない程にリラックスした空気であり、ライブ前の心境としては、この上なく理想のコンディションでもあった。

246: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:53:35.20 ID:10IwYkZZo
有咲「ったく……おたえはあっさりフルコンするわ、香澄は余裕で☆4引くわ……このゲームを長くやってる私は一体……」

有咲「でもま、こういうのも悪くないのかもな……」

香澄「ねー有咲ー、このスターショップってなーにー?」

有咲「ちょっ……! それは課金の画面だ!! やめろーーー!!」

 みんなで仲良くゲームで遊ぶ、そんな日があってもいいと思いつつ、有咲は4人と共に笑い合う。

 誰よりも、何よりも音楽を愛する少女達の純粋な輝きは、今日もまた、5人の心を照らし続けていた――。

―――
――


香澄「そうだ! あのさ、帰る前に、みんなでCiRCLEに寄ってかない?」

有咲「いいけど……何か忘れ物か?」

香澄「そうじゃないんだけど……みんなで見ておきたいんだ、明日、私達が歌う場所を……」

沙綾「うん、いいと思うよ。ライブ前だし、気持ちが引き締まりそうだもんね」

たえ「じゃあ、もう遅くなってきたから、早めに出よっか」

りみ「うんっ♪」

 自分達の明日の舞台に向かい、少女達は歩き出す……。

 その先で思いがけない再会を果たせる事になるとも思わず、少女達の足はCiRCLEへと進んでいた。

247: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:55:02.59 ID:10IwYkZZo
―――
――



-ライブ前日 放課後ティータイム-

 香澄達が練習に励んでいたその時を同じくして、桜が丘のライブスタジオでは、放課後ティータイムの最後の練習が行われていた。

 社会人として仕事をこなしながらの練習は彼女達に想像以上の負担を強いていたが、それでも彼女達はめげずに集まり、ライブに向け、日々奮闘していたのだった。


 ――♪ ~~~♪

 最後のイントロを終え、唯が大きくフィニッシュを決める。

 そして音が鳴り終わったと同時、ステージ上の全員が大きな達成感を感じていた。


律「よっしゃああ!!! どうにか最後まで演奏しきったぞ!!」

澪「危ない所も多かったけど……なんとか当日までに完成できたな……あああ……良かったぁぁぁぁ……」

唯「わ……私、もうヘトヘト……」

梓「私も……ここまで大変だとは思いませんでした……」

紬「ええ……でも、これで終わりじゃないわ……」

梓「はい、いよいよ明日……ですもんね」

 流れる汗を拭いながら、明日への期待に胸を膨らませる5人だった。

 そんなステージの上の5人に向け、その練習風景を見ていた憂達からも労いの声が飛ぶ。

248: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:56:08.72 ID:10IwYkZZo
憂「皆さん、お疲れ様でしたっ!!」

純「梓も澪先輩もすっごい演奏だったなぁ……本当に久々なのかって思うぐらい凄かったですよ!」

菫「皆様お疲れ様です、すぐにお茶をご用意いたしますので、こちらへどうぞ」

直「先程の演奏、録画しておいたので見てみますね」

 そして、ステージを降りた唯達の眼前には美味しそうなお菓子とお茶が並び、かつて、幾度となく過ごした放課後が始まる。

 憂の手作りお菓子に菫の淹れるお茶……それは過去に、梓達わかばガールズが過ごしていた日の光景でもあった。


唯「ん~~~……憂のお菓子……お、おいしひ……」

憂「うんっ♪ たくさんあるからいっぱい食べてね、お姉ちゃん♪」

律「はははは……唯のやつ、泣きながら食べてる……」

梓「唯先輩と憂のこのやり取りも……凄く懐かしいですね……」

純「スミーレの淹れてくれたお茶も久々だなぁ……前よりもずっと美味しくなってるね」

紬「菫ちゃん、確かティーコンシェルジュの資格を持ってるのよね」

菫「はい、お陰様で、琴吹家にいらっしゃる来賓の方々にもご好評頂いております」

澪「さすが、琴吹家のメイド……」


直「すみません梓先輩、律先輩……動画のこの部分なんですけど……」

梓「あ……私も気になってたんだ、入りが少し甘かったよね」

直「ええ……私もそう思いまして」

律「ん~、だったら……唯のギターに合わせて、そこから梓が繋げてみるってのはどう?」

梓「そうですね、その方が良いかも知れませんね」

律「じゃあ、私もちょっとアレンジ変えてみっか……」

 直のノートパソコンを見ながら、音楽を生業としたプロによる、細かいチェックが行われていた。

 そんな3人を、純は尊敬の眼差しで見ながら呟く。

249: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:57:08.70 ID:10IwYkZZo
純「凄い……プロの会話って感じがする」

唯「りっちゃんも凄いよね、普段はあんななのに、音楽の事になると顔つきが変わるんだもん」

律「おーい、聞こえてるぞー」

澪「私もここ数日律と一緒に練習してきたけど、仕事の事になると急に真面目になるんだから驚いたよ」

紬「ええ……みんなで集まって練習してた時もよく携帯持ってお外でお話してたみたいだし、凄いと思うわ」

憂「芸能界のお仕事って、大変なんですね……」

律(だーから、聞こえてるっての……照れっからあんま褒めんなよな……)

 照れるような表情で律は頭をかく。

 尚も続けられる周囲の称賛の声を聞こえない振りをしながら、律は演奏のチェックを進めていた。

 そして、その作業も一区切りついた頃。


澪「いよいよ明日か……なんていうか、あっという間だったな……」

唯「うん……大変だったけど、でも、凄く楽しかったよね」

紬「……お祭りの前の楽しさ、そんな感じのする毎日だったわね」

律「個人的には、もうしばらく忙しいのは勘弁だなぁ……疲れすぎてお腹いっぱいだよあたしゃ」

梓「私もです……でも、唯先輩の言う通り、とても充実した1週間だったと思います」

菫「私、学生の頃の学園祭を思い出しました」

律「あ、それ私もだよ、クラスの準備に部活の準備……両方こなしながらもちゃんとできてたもんな、昔は」

唯「意外と、身体って動くもんだよね~」

律「べっつに、私達だってまだおばさんって呼ぶような歳でもないだろ……そりゃあ、明日の演者に比べたらかなり歳食ってる方だとは思うけどさ」

澪「はははは……確かにそうかも」

 律の声に笑いながら、澪は明日のことを考える。

250: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 00:57:55.85 ID:10IwYkZZo
澪「うん、確かに忙しかったけど楽しかった……でも、それも明日で終わりだと思うと、なんだか少し寂しい気もするな……」

律「みーお、それは違う、明日で終わりなんかじゃないよ」

唯「……うん、明日が終わったらまたそれぞれの生活に戻っちゃうけど、でも、それで終わりじゃないよね」

紬「ええ……またみんなで集まって、こうして演奏ができる日もきっと来るわよ」

梓「いつになるかは分かりませんけど、またやりたいですね……」

澪「みんな……」

澪(そうだ、明日で終わりじゃない……終わりにさせるのは、まだ早いよな)

 皆の言葉に、落ち気味だった気分をどうにか澪は食い止めていた。

251: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:00:01.71 ID:10IwYkZZo
律「でもまさか、最初はビビってライブに出るの渋ってた澪からそんな言葉が聞けるとはねぇ~」

澪「しょ、しょうがないだろ……? あの時はまだ決心がついてなかったんだし……」

律「ふふっ、けど、そんな澪をそこまで本気にさせたAfterglowの歌かぁ、パスパレのみんなとも仲良いみたいだし、確かに気になるよなぁ」

澪「私もライブを見たわけじゃないからまだはっきりとは言えないけど、あの子達の歌はきっと……ううん、絶対にみんなも盛り上がれる歌だと思うんだ」

律「Pastel*Palettesだって負けないぞー、澪もあの子達のライブを見れば絶対に盛り上がれるさ」

梓「……ふふっ、Roseliaの人達がどんな演奏をするのか、私、楽しみです」

紬「私も、こころちゃん達の……ハロー、ハッピーワールド!のライブ、今から楽しみだわ……♪」

唯「私、明日みんなでやる演奏もだけど、香澄ちゃん達の歌も楽しみなんだ~、Poppin'Partyのみんなにまた会えるの、楽しみだなぁ」

 皆が皆、明日のライブと、そのライブに出演する少女達の事を思い浮かべていた。


憂「ふふっ、お姉ちゃんたち、凄く良い顔してるね」

純「うん、私も、明日が楽しみになってきたよ」

菫「お姉ちゃん……皆さん、頑張ってくださいっ♪」

直「私達も、応援してます!」

 唯達と同じように、憂達4人もまた、明日への期待に心を踊らせていた。

252: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:01:16.08 ID:10IwYkZZo
―――
――


澪「それじゃあ、今日は早めに帰って、身体を休めとくか」

律「そうだなぁ……あ、待って、その前に私から一言いい?」

一同「……?」

 帰りの支度を始める澪を制し、律は立ち上がり、優しい眼差しを全員に向けつつ声を上げる。


律「みんな聞いてくれ。……もう私達にやれることは全部やりきったし、あとは明日、全部ぶつけるだけだ」

律「唯、澪、ムギ、梓……今日までお疲れさん、仕事も忙しい中、本当に頑張ってくれたと思うよ」

唯・紬「りっちゃん……」

澪「律……」

梓「律先輩……」

 
律「菫ちゃんや直ちゃん、憂ちゃんに純ちゃん達も本当にありがとう、こうして練習に付き合ってくれたり、色々と手伝ってくれたりして、凄く助かったよ」 

律「きっと、誰か一人でも欠けてたらこうはならなかったと思うんだ……だから私……いいや、私達、明日は全力で頑張るから……」

律「みんな……明日は、盛り上がってこーぜえっっ!!!」

一同「――うんっ!」

 その声に合わせ、皆が立ち上がり、大きく頷く。

 律の言葉……それはまさに、まさに宣誓と呼ぶに相応しい鬨の声だった。

 放課後ティータイムのリーダーとして、桜が丘高校軽音楽部の部長としての宣誓……。

 その言葉に込められた力は、疲労困憊にあった全員の気力を最大限まで引き上げ、明日への期待に大きく拍車をかけていた。


 そして、各々が帰り支度を済ませ、車で帰宅する為に駐車場へ向かい、歩いていた時。

253: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:02:20.30 ID:10IwYkZZo
澪「……まさか、律があんな事を言うだなんて思わなかったな」

律「ふふっ、あーゆー鼓舞はよくやるんだよ、私……まぁ、ライブ前の儀式みたいなもんだよな」

梓「パスパレの皆さん、幸せですね……こんな良い先輩にマネージャーやって貰えてるんですね」

紬「ええ、りっちゃんのおかげで私も、元気が出たわ……明日は頑張りましょうね」

律「へへへっ……ああ、楽しみだなぁ、明日の打ち上げのビールはきっと最っ高に美味いぞ~♪」

澪「……ふふっ、ああ、そうだな♪」


唯「あ、ごめんねみんな。私、ちょっと寄りたい所があるんだ」

澪「ああ……分かった。唯、明日は朝イチで花咲川に行くんだから、遅れるなよ?」

唯「うんっ! 大丈夫! 絶対に遅れずに行くから! じゃあ、また明日ね~!」

 別れの挨拶と共に唯は駅方面へ向かい、駆けていく。

 その背中を見送りながら、律達はそれぞれの車に乗り込んでいた。


澪「唯のやつ、一体どこに行くんだろう?」

憂「さぁ……お仕事の事で何か思い出したのかなぁ」

梓「……そういえば、本当に良かったんでしょうか、ライブへの参加のこと……演者の人達に言わなくても……」

律「ああ……いいんだよ、みんなライブの演者の子達とは知り合いなんだし、ならサプライズで驚かせるってのも面白そうだろ?」

澪「律のこういう子供みたいなところ、昔から変わってないよな」

憂「ふふっ、さっきの鼓舞もそうでしたけど、そういう所も律さんの魅力なんだと思います♪」

律「はははっ……今日はみんなよく褒めてくれるな~」

 そして、車は走り出す。

 そのハンドルを握る律の気分と同じように、軽快に夜道をひた走るのであった。

254: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:02:55.44 ID:10IwYkZZo
―――
――


【ライブハウス CiRCLE前】

 放課後が解散してからしばらく。

 明日のライブ会場、CiRCLEの前には唯の姿があった。


唯「なんとなくだけど来ちゃった……明日ここで、みんなとやるんだよね……」

 ライブハウスを前に、唯は一人、その決意を固めていた。


唯「あ……まりなちゃん」

 その時、フロントにいるまりなの姿を見かける。

 まりなに声をかけようと唯がドアの前に立ったその時、明日のライブの告知看板が目に入った。

 チョークで手書きされたそれにはRoselia、Afterglow、Pastel*Palettes、ハロー、ハッピーワールド!らの名前の他、明日出演する多数のバンドの名前が綴られており……。

 その中には、Poppin'Partyの名前と共に『スペシャルゲスト緊急参戦決定!』という煽り文句もはっきりと記されていた。


唯「ふふっ……スペシャルゲスト……かぁ♪」

声「あれ……? 唯……さん??」

 微笑みながらその看板を見ていた唯に向け、背後から声が投げ掛けられる。

255: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:03:40.64 ID:10IwYkZZo
唯「……? あ、香澄ちゃん♪」

 声に振り向くと、そこにはPoppin'Partyの全員が驚いた表情で唯の姿を見ていた。


香澄「びっくりしたぁー……唯さん、こんばんわっ♪」

有咲「どうも、唯さん、お久しぶりです」

沙綾「唯さんこんばんわ、先日はどうもありがとうございました♪」

りみ「でも、一体どうして花咲川に?」

たえ「何かお仕事の関係……ですか?」

唯「あ~いや……うん、ちょっと用事でね……それで明日、香澄ちゃん達、ここでライブやるんだなって思って、寄り道してたとこなんだー」

 出演について律に口止めされていた事を思い出し、咄嗟に話を誤魔化す唯だった。


唯「香澄ちゃん達は? もしかして……こんな遅くから練習?」

有咲「いやいや、さすがにそんな事は……、まぁ、香澄の思い付きで立ち寄っただけですよ」

香澄「明日になる前に一度……私達が歌う舞台をみんなで見ておきたいと思ったんです」

沙綾「ここに来たら、気が引き締まるって思って来たんですけど……でもまさか今日、ここで唯さんに会えるとは思いませんでしたよ」

唯「ふふっ、そうなんだ……」

唯(香澄ちゃんたちも、私と同じ事考えてたんだね……♪)

 そして、次第に談笑の雰囲気も夜風に流れたかのように静まり返った頃……。

256: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:04:23.44 ID:10IwYkZZo
香澄(――明日……ここで、唯さんに見てもらうんだ……私達の歌を……!)

唯(―――明日……ここで、香澄ちゃん達にも見てもらうんだね……私達の歌を……)

 胸に抱いた決意を確かめるように……唯と香澄達は、ただ無言でCiRCLEの建物を眺めていた。


唯「香澄ちゃん、明日のライブ……期待してるね♪」

香澄「……っ! はい! 私達、精一杯歌いますから、唯さんも応援、よろしくおねがいしますっ!」

唯「うんっ! 有咲ちゃんも、おたえちゃんも、りみちゃんも沙綾ちゃんも、みんな、がんばってねっ!」

一同「はーいっ♪」

 唯の声に明るい返事で応える香澄達だった。


香澄「それじゃ唯さん、お先に失礼します。明日、楽しみにしてて下さいね! あー、早く明日にならないかなぁ~、ねー有咲っ♪」

有咲「分かったからいちいち抱きつくな! ったく、浮かれるとすぐコレなんだから……」

唯「ふふっ……ほんと、みんな仲良しさんだねぇ」

 香澄達は足取り軽く帰路につく。

 その姿を静かに見送る唯に向け、今度は店内からまりなが声を掛けていた。

257: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:05:16.56 ID:10IwYkZZo
まりな「……あれ、唯ちゃん??」

唯「あ、まりなちゃん、お疲れ様~」

まりな「あれは香澄ちゃん達……そっか、そういえば唯ちゃん、香澄ちゃん達とは知り合いだったんだよね」

唯「うん、前に職場体験で私の務めてる幼稚園にあの子達、来てくれた事があって、それでね」

まりな「そうなんだ……あははは、世の中って案外狭いんだね~」

唯「そうだねー、もうびっくりしちゃってさ」

まりな「あ、よかったら入ってく? 立ち話もなんだし、良かったらお茶ぐらい飲んでってよ」

唯「ううん、私ももう帰るところだったから大丈夫だよ、ありがとね♪」

まりな「そっか……ねえ唯ちゃん、ガールズバンドパーティーに出演を決めてくれて……私達に力を貸してくれて、本当にありがとうね」

 唯に向け、まりなは深く感謝の言葉を述べていた。


唯「そんな……私の方こそお礼を言わせて! またみんなで……放課後ティータイムで演奏できるきっかけを作ってくれて、こらちこそありがとうっ!」

まりな「うん……明日……あの子達だけじゃなく、放課後ティータイムにも期待してるからね」

唯「……任せて、あの子達にも負けないぐらいの演奏をしてみせるよ」

唯「りっちゃんも、澪ちゃんも、ムギちゃんも、あずにゃんも、凄く頑張ってたんだ……だから、明日はきっと最高のライブになるよ」

まりな「うん……楽しみにしてる、頑張って……ね」

唯「……へへへっ、うんっ♪」

 笑顔で言葉を発する唯のその瞳には、確かな決意と意思があった。

 明日への期待に胸を躍らせながら、唯は足取り軽く、家路を進む。


 そして……皆が待ち望んだこの日が遂にやってくる。


 彼女達の……少女達の様々な思い、希望、期待に満ち溢れたライブ。


 放課後と五色の輝きが交差するライブ……ガールズバンドパーティーは、いよいよ開催の日を迎えるのであった――。

258: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:07:05.79 ID:10IwYkZZo
#6.放課後と輝きの交錯

 まさか、あの時の再会がこんなにも素晴らしい事になろうだなんて、あの時は誰にも想像できなかっただろうな……もちろん、私にだって想像できなかった。

 些細な偶然が折り重なり、そしてその偶然は、やがて運命と呼べる程に膨らんでいき、私達を巻き込んでいった。


 もうすぐ、始まる。

 私達の放課後が、始まる――!

259: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:09:47.66 ID:10IwYkZZo
【花咲川駅前】

 ガールズバンドパーティー当日の早朝、花咲川の駅前には。始発電車で移動を済ませた唯達5人の姿があった。


唯「ん~~……ねむい……」

律「おい唯、しっかりしろー」

澪「これからリハなのに、大丈夫か?」

梓「ほら、唯先輩、起きて下さい」

紬「唯ちゃん、おきて~」

唯「ん~~~…………」

 眠い目を擦りながら歩く唯を引っ張りつつ、律達は人通りの少ない道を歩き、CiRCLEへと向かう。

 彼女達が早朝から集まった理由、それは、主役の少女達が集まる前に、ライブに向けたリハーサルを行うためであった。

260: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:10:29.40 ID:10IwYkZZo
【CiRCLE ステージ】

まりな「や、みんなおはようー♪」

律「よ、まりな、今日は宜しくな」

まりな「うんっ♪ こちらこそよろしくね」

唯「んんん…………うわぁ~、広いステージだね~」

紬「唯ちゃん、やっと目が覚めたのね」

唯「うんっ♪ えへへへ、ステージ見たら一気に目が覚めちゃった」

律「唯も起きたことだし、それじゃー早速準備に取り掛かるか」

 律の声に合わせ、各々が楽器の調整に取り掛かる。

 そして数分後、演奏の準備が完了し、ステージ上にて放課後ティータイムのリハーサルが開始された。


まりな「それじゃあみんな、早速だけどお願いね」

律「ああ……みんな行くぞ。ワン、ツー、スリー!」

 ――♪  ―――♪

 楽器の具合、音の反響や照明のチェック、各メンバーの立ち位置など、細かい点を確認するようにリハは続けられる。

 途中、梓と律の確認により、中断を挟む場面も見られたが、それでも順調にリハーサルは行われていった。


 そして1時間程の時が流れ、5人の最後の曲も問題なく終えられた頃……。

261: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:10:57.65 ID:10IwYkZZo
 ――♪ ~~♪

唯「ふぅ……どうにか演奏できたね」

澪「ああ、でも安心するのはまだ早いぞ、本番はあと数時間後なんだから」

律「ん~……4曲目の照明、もうちょっと落としても良かったかな?」

梓「はい……でも、あまり暗すぎると手元が見えづらくなりそうですよね」

紬「私は平気だけど……澪ちゃんや唯ちゃんは大丈夫かしら?」

 入念にチェックを重ねる5人に向け、曲を聴き終えたまりなから、称賛の声が上がる。


まりな「みんなお疲れさまー。凄いね……本当にここまでやってくれるなんて」

律「ふふ……感動すんのはまだ早いぞ~、なんたって本番はこんなもんじゃないからな~」

唯「うんうん、本番はもっと凄くなるよ♪」

まりな「うんっ、楽しみにしてるね」

律「じゃあ、私はもう少し残ってまりなと話詰めとくから、みんなは先に上がっててくれ。あんまりここに長居して、あの子達と鉢合わせたらマズいだろうしさ」

澪「そうだなぁ……RoseliaやAfterglowのみんなももう来るかも知れないし、私達は先に上がってようか」

唯「うん、それじゃありっちゃん、まりなちゃん、また後でね~♪」

紬・梓「お疲れさまでしたー」

 そして律を残し、唯達4人は退出する。

 律とまりなが話を進めていたその10分後、澪の予想通り、早速一組のグループが楽器を手にスタジオの扉を開いていた。

262: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:11:23.88 ID:10IwYkZZo
友希那「おはようございます。Roseliaです、今日は宜しくお願いします」

律「っと、もう来たか……えらく早いな……」

まりな「あ、友希那ちゃん、おはよー。今日も一番乗りだね」

友希那「別に……ライブ当日の準備に念を入れるのは演者として当然の事ですから」

まりな「うんうん、感心感心。今日はよろしくねー♪」

律(ははは……すげぇやる気……)

 まだ開場まで3時間以上も時間があるというのに、彼女達は既に準備万端と行った様子でスタジオに入っていた。

 そんな友希那達……Roseliaの意識の高さに感心しつつ、律も退席を決めようと入口に向かう。


律「それじゃあまりな、後はよろしくね」

まりな「うん、それじゃあね」

律「っと、ちょっと失礼……」

リサ「あっ、すみません……」

 友希那達の横を通り、律はスタジオを後にする。

 そんな律の姿を片目で追いつつ、友希那達は本番前の最終チェックに臨んでいた。

263: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:12:20.73 ID:10IwYkZZo
リサ「……? あの人は……」

友希那「リサ、集中して」

リサ「あ、うん……ごめん」

律(さすがRoselia……貫禄もすげえな……)

 単に隣を通り過ぎただけでも伝わる、Roseliaの気迫……彼女達が纏うその気迫には、大人の律ですら威圧されかねない程の雰囲気が滲み出ていた。

 そんな彼女達に漂う空気に一瞬だけ身が竦むを感じつつ、律は唯達との合流のため、CiRCLEの建物を後にする。

264: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:13:00.76 ID:10IwYkZZo
―――
――


【ファミリーレストラン】

 朝食がてらに最後の打ち合わせをしようと集まったファミレス、そこに放課後ティータイムの姿はあった。

 まだ注文は済ませていないのだろう、各々の前には、未だに開かれたままのメニューが置かれていた。


律「よ、みんなお待たせ」

唯「りっちゃん、お疲れ様ー」

律「いやー、さっきスタジオでRoseliaと擦れ違ったけど……すげー迫力だったよ……ライブ前なのにあの気迫……もうプロ顔負けって感じでさ」

梓「……そんなに凄かったんですか、友希那さん達……」

律「ああ……ありゃー相当やべえぞ……私達も気合い入れて行かなきゃな」

澪「……律が珍しくやる気になってる」

律「あたしゃいつでもやる気十分だってのっ……てゆーか、腹減ったから早く何か頼もうぜ~」

紬「あ……私達はもう注文決めたのよ、りっちゃんは何にする?」

律「ああ、あたしカツ丼にする」

 朝食メニューとは別にあるメニューを開き、律は即答していた。


澪「朝からよくそんな重いもの食べれるな……」

律「早朝から深夜まで食い続けられる胃袋がなきゃ人気アイドルのマネージャーは務まらないんだよ」

唯「芸能関係のお仕事って大変なんだねぇ……」

 そして、呼び出しボタンを推し、店員にオーダーを済ませてからしばらく。

 朝食を済ませた彼女達は、最後の打ち合わせを始めていた。

265: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:15:05.49 ID:10IwYkZZo
唯「それにしても……本当に凄いライブだね、朝から夕方までずっと続くなんてさ」

 まりなから受け取ったライブのパンフレットを手に、唯は率直な感想を述べていた。


梓「はい……大人ならともかく、高校生が主体のライブでここまで長丁場なのも珍しいですね」

律「代表の5バンドなんかは特に凄いよな……朝の部に昼の部と出演数も多く割り振られてるし……一体1日に何曲歌うんだ?」

紬「それだけ……代表のバンド演奏には期待が持たれてるって事なのね」

律「ああ……出演するバンドの数も凄いよなー、この辺のガールズバンド、ほとんど全員集合してんじゃないかってぐらいの数だ」

澪「こ、これだけ大勢のバンドがいる中で、スペシャルゲストとして出るんだよな、私達……」

 澪の声色が僅かに震える。

 今更緊張で怖気付いたという訳ではないが、それでも……今日のライブに出演するバンドと、そのバンドを応援をするために駆けつけた人の数を想像するだけで、僅かに身が縮むような感覚がしていた。

 そんな澪の様子をよそに、他の4人はライブへの期待をより強めていた。

266: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:15:40.58 ID:10IwYkZZo
唯「ふふっ♪」

紬「うふふふっ♪」

律「へへっ……唯もムギもやる気だなぁ」

唯「うん♪ これだけ多くの人の前で演奏できるって考えると、なんだか楽しくなっちゃってさ」

紬「私もよ……私達の演奏を、私達が一番輝いてた頃の音をみんなに聴かせてあげられるのが、凄く嬉しくって」

律「はははっ、まー、ここで怖気づいてちゃ私ららしくないしなー、この日の為に散々練習もして来たんだし、今更緊張も何もないよなぁ」

梓「はい……精一杯、やってやるですっ」

澪「私も……もう怖くないぞ……ライブ会場の全員に見せてやるんだ、私達の演奏を……!」

 拳を握り込み、澪は決意を固める。

 そんな澪の姿に感化されたのか、唯と律は再びメニューを手に叫んでいた。


律「よーし! ライブの途中でバテない為にもまだまだ食うぞ~! トンカツ定食追加だぁ!」

唯「私もっ! チョコレートパフェもういっちょ!」

梓「……あの、お二人共……気合の入れ方、何か間違ってませんか……?」

 そうして、勢いのままにオーダーを済ませ、唯と律の2人は並べられた定食とデザートを瞬く間に平らげる。

 開場まで残り3時間……刻一刻と、着実にその時は近づいて来ていた。

267: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:16:29.75 ID:10IwYkZZo
―――
――


【CiRCLE】

 一方、所変わってCiRCLEには、既に数多くの演者達が揃い、相次いで開演前の準備とリハーサルに勤しんでいた。

 特に大きなトラブルもなく開演準備は進められ……それからしばらく、各バンド共にリハーサルも一通り済んだ頃……。


まりな「はーい! それじゃあみんな、一度フロアに集まって!」

一同「はーーい!!」

 まりなの声に、今回の主役であるバンド全員がステージのあるフロアに結集していた。


まりな「遂にこの日が来たね……みんな、本当にありがとう!」

香澄「はい!! 私達も、この日を凄く楽しみにしてました!」

こころ「私もよ♪ まりな、今日は笑顔の溢れるライブにしてみせるわ♪」

彩「香澄ちゃんやこころちゃんには負けないよーっ、私達、パスパレも頑張ります!」

蘭「うん、この日の為に練習だって欠かさず積んできたんだし……私達、Afterglowも、最高の歌を届けますよ」

友希那「ええ……Roseliaだけじゃない……ここにいる全員の力で、最高のライブにしましょう……!」

 皆が皆、ライブに向けての期待を最高潮に高めていく。

 そして――。

268: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:19:09.50 ID:10IwYkZZo
まりな「それじゃあみんな!! 今日はよろしく! これより、ガールズバンドパーティーを開催しますっ!!!」

全員「はいっっっ!! 宜しくお願いします!!」

 まりなの声に合わせ、ガールズバンドパーティーの開催が告げられる。

 そして、各メンバーの何人かが呼び込みや誘導、受付等に移り、次第にライブハウス内にも次々に人が入り乱れ、ますます賑わいを見せていく。

 そんな中、何人かの少女達は、今日来る筈のゲストの話をしていた。


美咲「そういえば、ゲストの方々はどうしたんでしょう、少なくとも、朝の打ち合わせには来てなかったですよね?」

麻弥「そうですね……一体、どんな人達が来てくれるんでしょう?」

有咲「まりなさんも教えてくれなかったし、まぁ気になるっちゃ気になるよなぁ」

ひまり「もしかしたら朝の内に会えるかもって思ったんだけど、残念だなぁ」

まりな「まぁ、せっかくのゲストだし、みんなにもギリギリまで秘密ってことでね。大丈夫だよ、心配しなくても、みんな来るからさ♪」

リサ(今日のゲストってもしかして……今朝すれ違った人じゃ……)

 顔に疑問符を浮かべる面々に向け、優しくまりなは答えていた。


蘭「……みんな、気になるのは分かるけど、いつまでも喋ってないで早く準備しようよ」

友希那「ええ、美竹さんの言う通り、今はゲストの方達の事よりも、自分達のライブに集中しましょう」

有咲「……友希那先輩の言う通りですね、それじゃ、私達も誘導行ってきます」

 友希那の声に同調するように各々は散会し、準備を進めていくのであった。

269: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:21:00.69 ID:10IwYkZZo
【CiRCLE カフェテリア】

 CiRCLEの外に隣接されるカフェテリアもまた、既に多くの人の姿で溢れ返っていた。


声「今日のライブ、ずっと待ってたんだ~、ポピパの演奏、楽しみだな~♪」

声「AfterglowとRoselia、またカッコよく決めてくれないかな~、前にやってた2マンライブ、超盛り上がってたしさ」

声「パスパレにハロハピも見逃せないよねー♪ あー、待ち切れないよ~!」

声「そういえば……スペシャルゲストって誰が来るんだろ? 私、そっちも気になってるんだ!」

声「私も! レベル高いバンドだといいねっ♪」

 ドリンクを手に、推しのバンドの演奏まで時間を潰す者や、ライブへも興奮を抑えきれずにいる者など、様々な人で賑わうカフェを眺めながら、放課後ティータイムの面々は静かにその時を待っていた。


唯「うわぁ……凄い数の人だねぇ」

澪「ああ……本当に始まったんだな……」

紬「ふふふっ、ええ……楽しみになってきたわね……」

梓「緊張……じゃないですけど、なんだか体が震える感覚がします……武者震いって言うんでしょうか」

唯「ん~……りっちゃん、早く来ないかなぁ?」

 唯達が用事で離れた律を待つことしばらく……ようやく律はその姿を現す。

270: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:23:58.06 ID:10IwYkZZo
律「よ、お待たせ」

唯「あ、りっちゃ……って、なーに? その格好」

梓「律先輩……随分雰囲気変わりましたね」

律「しゃーねーだろ、パスパレのみんなには今日出張でいないことにしてるんだし、変装ぐらいしないとすぐにバレちゃうからな」

 唯の指摘に律はワックスで整えた前髪をいじりながら言う。

 前髪を下ろし、服装も化粧も普段とは違う今の律の姿は、とても普段の彼女からは想像できない雰囲気を醸し出していた。


紬「うん、落ち着いた大人の女性って感じがして、私は良いと思うわ」

澪「ほんと、こういう格好してる時は律も別人だよな…………」

律「あの子達には普段スーツ姿で髪上げた格好しか見せてないからなぁ、これでグラサンでもかけりゃー……ほれ、ぱっと見で私とは分かんないっしょ」

 言いながら持参したサングラスをかけ、律は笑みを浮かべる。


唯「お~、りっちゃんかっこいい!」

律「へへんっ、だろ?」

 まるで有名モデルを前にしたような顔で唯は驚きの声を上げていた。


唯「そうだ! やっぱりあずにゃんもこうしようよ♪」

梓「ちょっ……唯先輩っ、何するんですか、やめてください!」

 おもむろにカバンからヘアゴムを取り出し、唯は器用に梓の髪を2本に纏めはじめる。

271: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:24:50.80 ID:10IwYkZZo
唯「ふふふっ、練習の時もずっと思ってたんだけど、やっぱりあずにゃんの髪はこうでなきゃね」

澪「はははっ、梓のその髪型も懐かしいなぁ」

紬「うんうん♪ まだまだツインテールも行けるわよ、梓ちゃん♪」

梓「まったく……皆さん、歳を考えて下さい……さすがにこの歳でツインテールなんて恥ずかしいですよー」

律「あーずさ、諦めろ、私だって恥を忍んで髪下ろしてんだからな」

梓「律先輩と違って変装するわけじゃ……ああもう、分かりました、分かりましたよ!」

 渋々ながら梓はヘアゴムで髪をきちんと2本に纏め、昔の髪型を再現していた。

 その姿を感無量といった表情で唯は見つめ、和やかな空気が5人の間に流れていくのであった。

 そして……。
 

憂「お姉ちゃん、皆さん、どうも♪」

唯「あ、憂! みんな~♪」


純「やっほー、梓、元気だったー?って……うわ~、懐かしい髪型だね」

梓「純……髪のことは放っといてよ……」


菫「お姉ちゃん、皆様、いよいよですね」

直「みなさん、頑張って下さいっ」

紬「菫ちゃん、直ちゃんも、来てくれてありがと♪」

 憂達わかばガールズの面々も揃い、唯達サイドの面子も相次いで集合してきていた。

272: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:25:27.09 ID:10IwYkZZo
和「みんな、先日はどうも」

唯・憂「あ、和ちゃん♪」

澪「和、和も来てくれたんだ」

和「ええ、秋山澪ファンクラブの会長として応援に来たわよ」

澪「ああ……ありがとう、和も楽しんでいってくれ」

和「そうだ、澪、あとで曽我部先輩も来るって言ってたから、来たら顔、見せてあげてね」

澪「曽我部先輩、懐かしいな……うん、必ず会いに行くって伝えといて」

 和の言葉に懐かしい顔を思い浮かべつつ、笑顔で返す澪だった。


梓「そういえば……純、頼んでおいた衣装は?」

律「そだそだ、私と澪がお願いしといた物も持ってきてくれたよね?」

純「はい、律先輩、澪先輩、こちらをどうぞ……梓も大丈夫、衣装はバッチリ仕上がってるよ♪」

 手に持った袋を澪と律に手渡しながら純は指で合図を送る。

 その指の先に視線を送ると、そこには、疲労困憊の様相でこちらに歩いてくる元顧問の姿があった。


さわ子「はぁ……はぁっ……みんなお待たせ……い、衣装なら……ここにあるわよ……」

律「うわっ、さわちゃん……どうしたのそのクマ……」

唯「髪もボサボサだし……一体何があったの?」

さわ子「これよこれ……今日までに仕上げるの大変だったわよ……」

 さわ子の手には大きめの紙袋が握られており、その中にはさわ子が今日の為に徹夜で仕上げた人数分の衣装が収められていた。

273: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:26:49.82 ID:10IwYkZZo
さわ子「せっかくの元教え子達の再結成の晴れ舞台だもの……憂ちゃんと純ちゃんにも協力してもらって、徹夜して作ったのよ……」

唯「さわちゃん、こんなになるまで頑張って作ってくれたんだね……」

律「気持ちは嬉しいけど……また、とんでもない衣装じゃないよな……」

澪「と、とりあえず開けてみよう……」

 高校の頃の記憶が全員の頭を過る。

 さわ子が作った軽音部時代のライブ衣装……それらのほとんどが人前では着られないような衣装であり、当時の唯達ですら着るのを躊躇うような代物が多かった。

 そんな心配が脳裏を過るのを自覚しつつ、澪は恐る恐る衣装を広げていた。


澪「これは……Tシャツ?」

律「な~んだ、何の変哲もない普通のTシャツじゃん、別にそこまで苦労するようなもんじゃないでしょ?」

 肩透かし感を喰らいつつ、澪と律は口々に感想を述べる。

 2人の言う通り、それは一見すると何の変哲もない、無地の白いTシャツに見えた。

 しかし……。


唯「あれ、でも裏になにかスイッチみたいなのがあるね?」

梓「これは電池……ですか? 裾の辺りに何か入ってますね」

さわ子「いいから、一回着てみてご覧なさいな」

 さわ子に誘われるがまま、唯はTシャツを着込み、裾にあるスイッチを押す。

 ……すると。

274: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:27:30.04 ID:10IwYkZZo
律「うわっ! ひ、光った!」

唯「えー? 私からじゃうまく見れないよぉ~」

澪「凄い……一見すると無地のTシャツなのにこんなに明るくなって……これ、LEDで光るTシャツだったんですね」

紬「このデザインは……懐かしいわ……学園祭ライブのTシャツですね」

梓「わぁぁ……凄く、凄く良い衣装ですよ、これ!」

さわ子「ふふっ、みんなのその顔が見たかったわぁ……」

 さわ子が用意した衣装、それは無地の白いTシャツに紫色の星が黄色く縁取られたデザインが施され、その前面には大きく『HTT』という文字が描かれた、唯達にとって思い出のTシャツだった。

 まさしくそれは10年前、放課後ティータイムが高校最後の学園祭で演奏した際に着ていた衣装を再現したものであったが……。

 しかし、それは単なる再現ではなく、Tシャツの各所にLEDが埋め込まれ、スイッチ一つで発光するという、10年前よりも遥かに進化した衣装となっていた。


さわ子「苦労したのよー、1週間しか時間なかったんだし、今日なんてもう寝ずに仕上げてそのまま来たってわけ」

律「さわちゃん……」

澪「先生……あ、ありがとう、ございます!」

紬「ステキな衣装ですね……ありがたく着させてもらいますっ!」

さわ子「ええ、私にここまでさせたんだから頑張りなさいよー? みんなの演奏、あなた達の元顧問として……軽音部の先輩として、しっかりと観させてもらうからね」

唯「さわちゃん先生……」

さわ子「唯ちゃん、あなたの歌も、楽しみにしてるわね」

 疲労の中にも確かな期待が宿るさわ子の眼に、全員の顔が強く引き締まる。

 それと同時に、さわ子と過ごしたかつての記憶が律達の中で思い起こされていた……。

275: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:28:24.54 ID:10IwYkZZo
律(……そういや、さわちゃんって昔っからこうだったよな……)

澪(ああ……3年間、いつも私達のことを見守ってくれていて……)

唯(ギターが下手だった私にいっぱいギターを教えてくれたり……ライブの衣装を人数分作ってくれたり、ロンドンにも応援に来てくれたよね)

紬(ええ……合宿に来てくれたり、夏フェスにも連れて行ってくれて……私の淹れるお茶をいつも美味しそうに飲んでくれてたのも、さわ子先生だったわ)

梓(どこか抜けてて、それでもかっこ良くて……先生っていうよりも、まるで歳の近い先輩みたいな感じで、気付いたらいつも私達と一緒にいてくれましたよね……)


さわ子「……? みんな、どうかしたの?」

律「ううん、いや、ちょっと昔を思い出して……」


律「……さわちゃん、ありがと……さわちゃんの想い、確かに受け取ったよ」

さわ子「……? ええ……私がいて、みんながいた頃の軽音部……桜高の軽音部魂を、会場中に集まってる若い子達に見せつけてあげなさいっ」

唯「うんっ! 私達に任せて!」

律「よーっし! みんな、準備は整ったし、行くか!」

一同「うんっ!!」

 眼前の恩師の言葉に、5人は力強く返す。

 その言葉に合わせ、憂達からもエールが送られる。

276: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:29:55.90 ID:10IwYkZZo
憂「お姉ちゃん、私達も応援してるからねっ」

唯「うんっ! 憂、純ちゃん、和ちゃん……ありがとう!!」

紬「菫ちゃん、直ちゃん、私達の演奏、最前列で見ててねっ♪」

直「はい! お気をつけて!」

菫「うん! それじゃあお姉ちゃん、先輩方、また後で!」

一同「皆さん、頑張ってくださーい!」

唯「はーい! みんな、行ってくるねー!」

 そして、さわ子から託されたTシャツを着たその上に上着を羽織り、放課後は歩き出す。

 揚々とした素振りでライブハウスへ進む放課後に向け、あらん限りの声援が投げ掛けられる。

 1人の先輩と親友、そして4人の後輩……多くの人々の期待を背に彼女達は、その舞台へと大きく足を進ませていた――。

277: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:30:31.81 ID:10IwYkZZo
―――
――


【CiRCLE 受付】

 CiRCLEの受付前、そこは既に多くの人で賑わっていた。

 引っ切り無しに人が往来する中、受付と誘導の手伝いに来ていたPoppin'PartyとPastel*Palettesの面々もまた、来る客の誘導と応対に追われているのが伺える。

 多くの人が入口付近で沙綾と有咲の誘導に従って列を作り、その先の受付では、彩と日菜の2人が笑顔を絶やさず接客を行っていた。


沙綾「はーい、皆さん列を乱さないようにお願いしまーす! って、あ、唯さん!」

唯「や、沙綾ちゃん、やっほー♪」

有咲「どうも唯さん、今日は遠くから来て下さってありがとうございます……そちらの方々は?」

唯「うん、私のお友達も呼んできたんだ、有咲ちゃんもお疲れ様、頑張ってるね」

 自分の後ろに並ぶ律達を軽く紹介し、誘導に従って唯も並び始める。


沙綾「皆さん、今日は早くから来ていただいてありがとうございます。唯さん、香澄ならもう下にいると思いますよ」

唯「うん、あとで顔見に行くよ、ありがとね♪」

 次第に列は進み、そして程なく、彩の前へと唯達は進んでいった。

278: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:31:16.49 ID:10IwYkZZo
女性「彩ちゃん、今日も応援してるよ、頑張ってね!」

彩「はいっ♪ ありがとうございますっ! では、奥へどうぞ♪」

唯「…………あ、あの! 丸山彩ちゃん……ですよね?」

彩「はいっ? あ、えっと……」

唯「あ、あのその……サ、ササササインをを……」

彩「え? あっ、はい」

律「うおっほんっっ! あの、詰まってるんだけど……」

 どこに隠し持っていたのか、唯が懐から色紙を取り出し、流れで彩がペンを持とうとしたうとしたその刹那、背後から物凄い剣幕で咳をする律の声が響いていた。


唯「あっ! す、すすすすみましぇんっっ!」

彩「……え? あ、特別客の方ですね、そのまま奥へどうぞ♪」

 その威圧感に押し出されるようにして、唯は予めまりなから手渡された特別チケットを彩に手渡し、背後の律に背中を押されながら受付を済ませていた。


律「ったく……あ、どうも」

彩「……??」

日菜「………あれは…………ふふふっ♪ ……おねーさん♪」

律「ん……?」

 律の姿を見かけた日菜が含み笑いを絶やさず、優しく声をかける。

279: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:31:56.78 ID:10IwYkZZo
日菜「ライブ、楽しんでってくださいね♪」

律「あ、ああ……ありがと……」

律(受付、日菜ちゃんもいたのか……バレてない……よな)

 努めて冷静に、クールを装いながら律は日菜に言葉を返す。

 そんな律に送られる日菜の視線を受け流しつつも、5人はライブハウスの奥へと歩を進めていった。


彩「……あの人達、なんだか不思議な人だったね」

日菜「あれ? 彩ちゃん、気付かなかったの?」

彩「えっ、な、何のこと?」

日菜「ふふふっ……♪ ライブ、頑張ろうね~♪ るんるんっ♪」

彩「…………???」

280: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:32:24.53 ID:10IwYkZZo
【CiRCLE ラウンジ】

律「ゆーーーいーーーーーっっ」

 ――ぎゅうううう………


唯「いひゃいいひゃい……! りっひゃん……ご、ごごごごごめんなひゃいいいいぃぃぃ!!」

紬「ほらほら……りっちゃんもそのぐらいにして……」

律「ったく……後で彩ちゃんにもキツく言っとかなきゃな……あんま安売りすんなっていつも言ってんのに……」

 先程の唯の問題行動に対し、怒り心頭の様相で律は唯の頬をつね上げていたが、紬の声により、その手は開放される。

 そして当の唯は、涙目で赤くなった頬を擦っていた。


唯「あーずにゃーん、みおちゃあぁぁん……痛かったよぉぉ」

澪「まったく……さっきのは唯が悪いと思うぞ」

梓「同感です」

まりな「あ、みんなー♪ 今朝はどうもね」

唯「あ、まりなちゃん♪」

 まりなの声に涙目から一変し、唯の顔に笑顔が戻っていた。

281: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:32:57.13 ID:10IwYkZZo
律「よ、まりな、どうかしたの?」

まりな「うん、もうすぐ最初のバンドの演奏が始まるんだけど、ポピパやパスパレの演奏まではまだ少し時間あるからさ」

まりな「今のうちにみんな、知り合いの演者の子達に挨拶とか激励とか、行ってきてあげたらどうかなって思って」

唯「え、いいの?」

まりな「うん、本当は関係者じゃなきゃダメなんだけど、放課後ティータイムのみんなは特別ってことでね」

律「そうだなぁ……って言っても私は行けないからな……あ、そうだ」

 思いついたように律は手に持った袋をまりなに手渡す。


律「まりな、これ、あの子達に差し入れ持って来たんだ、あとでパスパレのみんなに届けてくれないかな?」

まりな「うん、いいよー」

澪「私も、Afterglowのみんなに差し入れ持ってきたんだ、喜んでくれるといいけど」

紬「ハロハピの演奏までまだ時間あるし、私、こころちゃん達に挨拶してくるわね」

唯「私も、ポピパのみんなに挨拶してこよっと♪」

梓「じゃあ、私と律先輩はここで待ってますね」

唯「あれ、あずにゃんは行かないの? Roseliaのみんなと知り合いだったんでしょ?」

梓「あの人達には激励とか、そういうの不要だと思います、友希那さん達の演奏、1回目は最初の方ですし……今行ったら邪魔になると思いますので」

唯「あ、そうなんだね」

梓「はい、ですから私にお構いなく、唯先輩達は皆さんの挨拶に行ってきて下さい」

唯「うん、わかったよ、じゃあまたあとでねー!」

 そして、律と梓の2人を残し、唯、澪、紬の3人は、それぞれがそれぞれの縁ある少女達の元へと向かって行くのだった。

282: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:34:00.75 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ開始前 Pastel*Palettes-


【控室】

 受付をCiRCLEのスタッフと代わり、彩達Pastel*Palettesの面々は控室でメイクのチェックに勤しんでいた。


まりな「みんな、いるかな?」

彩「あ、まりなさん。どうかしたんですか?」

まりな「うん、さっきそこでファンの人から差し入れ届けてもらうように頼まれたから、ここに置いとくね♪」

まりな「あ、もちろん中はちゃんとチェックしてあるから、そこは安心してもらっていいからね」

千聖「わざわざすみません、ありがとうございます」

 まりなに礼を言い、日菜と麻弥は差し入れの袋を開ける。

 袋の中には、以前日菜の話にも出た、桜が丘の喫茶店のパンが詰め込まれていた。

283: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:35:28.66 ID:10IwYkZZo
日菜「あ~~、これ、前に律さんと食べた喫茶店のパンだ~~♪」

麻弥「へぇー、それが日菜さんが前に言ってた、桜が丘の喫茶店のパンですか」

日菜「うんうん♪ 前にお姉ちゃんもおみやげに買ってきてくれたし、本当にここのパンって、ルンっ♪って味がするんだよね~♪」

イヴ「どんな味がするのか、楽しみですっ」

千聖「そうね、あとで休憩の時にでも頂きましょうね」


日菜「ふふふっ♪ あーー、そっか……そうだったんだね♪」

彩「……日菜ちゃん、さっきからすごくご機嫌だね……ほんと、どうしたんだろ?」

日菜「ねえ、みんなー♪」

千聖「日菜ちゃん、どうしたの?」

日菜「ライブ、がんばろうねっ!」

彩「日菜ちゃん……うんっ! もちろんだよ!」

イヴ「はいっ! 緊褌一番、私も頑張ります!」

千聖「ふふっ……日菜ちゃん、なんだか今日はいつも以上に燃えてるわね」

麻弥「ハイ……何か、良いことでもあったんでしょうか?」

日菜「……♪ 今日は楽しいライブになりそうだなぁ~♪」

 日菜の眼が一段と輝く。

 普段以上にやる気に満ちた日菜のその意図は4人には読めないが、それでも日菜の言う通り、今日は楽しいライブになるだろうと彩達は予感していた。

284: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:36:12.38 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ開始前 Afterglow-

【控室前】

澪「……差し入れ持ってきたはいいけど、ライブ前でみんな集中してるだろうし、私なんかが入ってみんなの邪魔にならないかな……」

ひまり「……あれ? み、澪さん!?」

澪「……? あ、ひまりちゃん、どうも」

 声に振り向くと、今まで髪のセットをしていたのだろう、ヘアスプレーを片手に衣装を着込んだひまりが澪の前に立っていた。


ひまり「やっぱり澪さんだ! お久しぶりです、今日は来て下さってありがとうございますっ♪」

澪「うん、久しぶり……ひまりちゃん、元気そうだね」

ひまり「はい、そりゃあもう……あ! そうだ、もし良かったら中へどうぞ、みんなもきっと喜んでくれると思います!」

澪「いいの?」

ひまり「はい、大丈夫ですよ♪」

澪「……ありがとう、それじゃ、失礼します」

ひまり「みんなー! 澪さんが応援に来てくれたよっ!」

モカ「も~、ひーちゃん騒ぎすぎー……って、お~~、澪さんだ~」

 勢いよく扉を開け、ひまりは澪を中に招く。

 既に準備は終えられたのだろう、控室には、衣装をバッチリと決めたAfterglowの姿があった。

285: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:36:54.03 ID:10IwYkZZo
澪「みんな久しぶり、ふふっ、準備万端って感じだね」

モカ「澪さん、どうも~♪」

蘭「……こんにちわ」

巴「どうも、ご無沙汰してます、今日は来てくれてありがとうございます!」

つぐみ「澪さんお久しぶりですっ♪ 今日は楽しんでって下さいね」

澪「うん。みんな、誘ってくれて本当にありがとう……はいこれ、差し入れ持ってきたんだ、良かったらどうぞ」

 律がまりなに手渡したのと同じ袋を澪はひまりに手渡す。

 その中は言うまでもなく、以前Afterglowとの話に上がった、桜が丘の喫茶店のパンが入っていた。


ひまり「わあぁ! ありがとうございますっ! みんなー! 澪さんが差し入れ持ってきてくれたよ!」

モカ「おぉぉぉ、これは……まさしく桜が丘の喫茶店のパン……あ、ありがとうございますーー♪」

巴「これ、前にあこが買ってきてくれて、それからまた食べたいと思ってたんだ……澪さん、ありがとうございます!」

つぐみ「これがモカちゃんの言ってたパンなんだね、私も気になってたんです……澪さん、ありがとうございますっ♪」

蘭「モカ、今食べちゃダメだからね……澪さん、本当にありがとうございます」

巴「今日はみんな精一杯やりますから、ぜひ最後まで聴いてって下さい!」

澪「うん、楽しみにしてるよ。みんな、頑張ってね!」

一同「はいっ!!」

 これ以上邪魔をするのも悪いと思い、早々に澪は控室を後にする。

 その姿を見送り、5人は口々に言葉を交わしていた。

286: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:37:28.56 ID:10IwYkZZo
ひまり「澪さん……本当に来てくれた……良かったぁ~」

つぐみ「ふふっ……ひまりちゃん、本当に嬉しそうだね」

ひまり「ぅぅ……だってぇ~」

巴「はははっ、ひまりがここまで誰かのことを気に入るなんて珍しいよな」

モカ「ねーねーひーちゃん、さっきから澪さんの事ばかり推してるけど、薫先輩はいいのー?」

ひまり「違うの! 薫先輩は薫先輩でカッコいいけど、澪さんはまた違う意味でカッコいいんだよー!」

つぐみ「うんうん、ひまりちゃんの言いたいこと、私も分かるよっ」

 そして……。


ひまり「今度はちゃんと決めるからね、みんな、いい?」

 今日に関しては拒否権は無いと、ひまりの眼がそう語っている。

 その様子に根負けし、やれやれといった様子でこれからやることを蘭達は承諾していた。


蘭「まぁ、今日ぐらいはいいか」

モカ「よかったねーひーちゃん、今日は蘭も乗ってくれるみたいだよ~」

蘭「モカもやるんだからね」

モカ「はーい♪」

巴「よっし、それじゃあやるか! ひまり、景気よく頼むぞ」

つぐみ「ふふっ、こうして揃えるのもなんだか新鮮だね」

ひまり「よーーし! みんな、行くよ! えい! えい……おーー!!」

一同「おーーっっ!!」

 ひまりの声にハモるように、活気の良い掛け声が控室に響き渡る。

 彼女達の出番は、すぐ近くまで迫っていた。

287: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:37:59.73 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ開始前 ハロー、ハッピーワールド!-

【控室】

紬「失礼しまーす、こころちゃん達、いるかしら?」

 紬はそっと控室の扉を開ける。

 扉の前に映る彼女の姿を見て、控室の中からは歓喜の声が上がっていた。


こころ「あら、紬……? やっぱりそうよ、紬だわ♪ みんなー! 紬が来てくれたわよ♪」

紬「こころちゃん、それにみんなもお久しぶり、お元気そうね♪」

花音「わぁ……紬さん、今日は来てくれてありがとうございますっ」

はぐみ「ムギちゃん先輩! こんにちわ!」

薫「これはこれは、紬さん、どうもご無沙汰してます……ああ、今日もお美しい……」

ミッシェル「薫さん、そういうのいいから……あ、ええと……」

 紬の姿を見ては若干言葉を詰まらせるミッシェル(美咲)だった。

 一応設定上は初対面だということもあり、どう反応すればいいのか迷っていたが、咄嗟にこころが双方のことを紹介していた。

288: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:39:02.82 ID:10IwYkZZo
こころ「そういえば、ミッシェルは初めてだったわね、紹介するわ、こちらは琴吹紬、私の小さい頃からのお友達なのよっ♪」

こころ「紬、この子はミッシェルっていうの♪ ハロー、ハッピーワールド!のメンバーなのよ、すっごく可愛いでしょ♪」

紬「ミッシェル……? あ、そういう事ね……」

 こころに紹介され、紬はまじまじとミッシェルを見る。

 そして、何かを察したのか、ミッシェルに近づき……。


紬「ええと……美咲ちゃん……よね? 今日は頑張ってね♪」

ミッシェル「あははは、紬さんには分かりますか? はい、どうもありがとうございます、紬さん」

 即座に気ぐるみの中に誰が入っているのかを当て、紬はミッシェルの中にいる美咲にそっと耳打ちしていた。

289: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:39:33.75 ID:10IwYkZZo
こころ「紬、今日は最高のライブにするから、ぜひ楽しんでいってね♪」

紬「ええ、私も菫ちゃんと一緒に応援するから、ハロハピのみんなも頑張ってね!」

一同「はいっ!」

こころ「ふふふっ♪ 出番が待ちきれないわ~♪ 早く来ないかしら♪」

花音「ふふっ、こころちゃん、凄く楽しそうだね」

薫「私も心と身体が震えるようだよ……ああああ……儚い……こんなにも儚いだなんて……最高の気分だ……!」

はぐみ「うんっ♪ はぐみもがんばるよ! ムギちゃん先輩とスミーレ先輩に、かっこいいとこ見せてあげなきゃ♪」

ミッシェル「はははは、みんな気合十分だね……かくいう私もちょっとだけ燃えてきた……かな」

 紬の激励により、いつも以上に活気に満ち溢れる様子の5人だった。

 そして……。


こころ「みんな、行くわよ~♪ ハッピー♪」

はぐみ「ラッキー!」

薫「スマイル!」

全員「イェーイ♪」

 手を取り合い、お決まりのフレーズを口にする5人。

 その表情は、会場にいる誰よりも眩しい笑顔で埋め尽くされていた。

290: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:40:07.48 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ライブ開始前 Poppin'Party-

【CIRCLE ラウンジ】

 客の誘導を終え、ラウンジの一角に香澄達は集まっていた。


唯「あー、いたいた……香澄ちゃん、こんにちわ♪」

香澄「唯さん! 今日は来てくれて本当にありがとうございます!」

 唯の突然の声に笑顔で香澄達は声を返す。

 その表情には先程の誘導の疲れは微塵も感じられず、むしろ活き活きとした表情に包まれていた。


たえ「唯さん、今日は精一杯演奏するので、ぜひ最後まで聴いていって下さい」

りみ「あの、みんなこの日のために一生懸命頑張ったんです、よかったら感想とかも聞かせてくださいっ」

有咲「わ、私達も頑張ってやりますんで、その……期待してて下さい……」

紗綾「あははは、有咲ったら顔硬すぎ、もしかして緊張してる?」

有咲「う、うっせー! ここまででっかいライブって初めてだし、なんか緊張すんだよ……」

香澄「あーりさ、えいっ!」

有咲「ひゃっ!」

 緊張で硬くなっていた有咲に向かい、背後から香澄が抱きついていた。

291: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:43:09.47 ID:10IwYkZZo
有咲「か、香澄!! 予告なく急に抱きつくな!」

香澄「そっか、じゃあ次からは予告してから抱きつくね?」

有咲「そ、そういう問題じゃねーっ!!」

紗綾「あはははは! 香澄のおかげで有咲の緊張も解けたみたいだね♪」

唯「ふふふっ……みんな楽しそう、私も前はそうだったなぁ~♪」

唯「私があずにゃんに抱き着いて、それで困った顔してて、澪ちゃんやりっちゃん、ムギちゃんがそれ見て笑ってくれてて……懐かしいなぁ」


有咲「ほら見ろ、唯さんに笑われてんじゃねーかっ」

唯「あ、ううん、違う違う……みんな凄く良い顔してるよ、うん♪」

香澄「唯さん……」

唯「私も客席でたくさん応援するから、みんな頑張ってね!」

一同「はい、ありがとうございます!」

唯「それじゃあ、またあとでねー♪」

 そう言い残し、唯はフロアへと戻っていく。

 その姿を見送った香澄達の中に、確かな熱が込み上げていた。

292: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:46:00.46 ID:10IwYkZZo
香澄「唯さん……ありがとうございますっ!」

たえ「ふふふっ……ねえみんな、少し早いけど、久々にあれ、みんなでやらない?」

沙綾「お、いいね♪ あれ、結構気合入るよね」

りみ「うん♪ じゃあ、円陣組んでやろう♪」

有咲「別にいいけど、何もここでやらなくても……」

香澄「ううん、私も今やりたいって思ってたんだ♪ じゃあ行くよ、せーのっ」

一同「ポピパ! ピポパ! ポピパパ! ピポパ!! いぇーい!!」

 5人の声が綺麗に重なり、それぞれの笑顔が咲き乱れる。

 香澄達の想いは一つになり、ステージでは、一組のバンドの演奏が始められる。


 少女達の待ちに待った宴が、いよいよ始まった瞬間であった――。

293: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:51:40.16 ID:10IwYkZZo
―――
――
― 


-ライブ開始前 Roselia-

【Roselia 控室】

 ステージの演奏が微かに聴こえる控室に、Roseliaの姿はあった。

 言葉を介する事もなく、静かに来るべき時を待つ彼女達の熱意と集中力は、既に極限まで研ぎ澄まされていた。


歌声「~~♪ ――――っっ♪」


紗夜「始まりましたね……皆さん、次で出番ですけど、調子はどうですか?」

燐子「はい……いつでも行けます……」

あこ「あこも準備オッケーです! こう……闇の波動があこの体中を駆け巡るっていうか、そんな感じです!」

リサ「あはははっ、あこは相変わらずだなぁ……うん、アタシもいつでも行けるよ」

友希那「私も、問題ないわ」

294: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:52:16.72 ID:10IwYkZZo
リサ「ああ、そういえばさっき、梓さんに似た人見かけたんだ」

あこ「え? ほんとに?」

リサ「うん、前に会った時みたいにスーツ姿じゃなくて私服姿だったけど……あの人、今日来てくれたのかなって思ってさ」

燐子「梓さん……確か……ご両親とジャズバンドをやってるって言ってましたね……」

リサ「うん、もしそうだったら、今日、本当の音楽のプロの人に私達の演奏を見て貰うってことだよねぇ……いやー、なんか緊張しちゃうよね」

紗夜「今井さん、それは違うと思うわ」

友希那「ええ、紗夜の言う通りよ、たとえ今日誰が来ようが、私達は私達の最高の演奏をするだけ……そうでしょう?」

リサ「そうだね……ごめん。友希那や紗夜の言う通りだね」

 今更何を言っているのかと、自身の言葉を反省するリサだった。


友希那「みんな、お喋りはそのぐらいにしましょう……そろそろだわ」

スタッフ「お待たせしました、Roseliaの皆さん、スタンバイをお願いします!」

友希那「みんな、行くわよ…………!!」

一同「はい!!」

 友希那の声に合わせ、リサ達は相次いで立ち上がり、ステージへと移動を開始する。


 そして、彼女達のライブの幕が今、大きく開かれる――!

295: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 01:59:24.28 ID:10IwYkZZo
#7.放課後と輝きの五重奏

 ――そこは、様々な輝きで満ち溢れていた。

 夢が、今が、笑顔が、情熱が……そして、純粋に音楽を愛する輝きがそこにあった。

 5つの輝きはやがて1つの大きな星となり……ステージを……そして、“彼女達”を照らしだす。

 “彼女達”の歌が会場中に響き、そこから生まれた新たな輝きは全てを照らし、想いが一つになる……。


 ステージの上で歌うみんなの姿に、私は何度となく感謝の声を上げる。

 みんな……本当にありがとう――!

296: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:00:48.11 ID:10IwYkZZo
―――
――


 ライブが始まってから既に3組のバンドによる演奏が終了した。

 演奏が終わってからの僅かな時間、ステージ上にはスタッフの手により、急ピッチで次のバンドの演奏準備が進められる。

 そして数分後、本日4組目となるバンドが登場した。
 
 今日の主役の一組であり、数多の観客が注目するバンド。


 ――青き薔薇を掲げし少女達、Roseliaである。


-4組目 Roselia-

【ステージ】

声「あ……! 見て、Roseliaよ!」

声「きゃああああっっ!! 友希那ぁーーーーっっ!!」

 Roseliaの登場にフロアは一気に沸き、飛ぶような歓声が会場中から飛び交う。

 その歓声に動じる気配を微塵も見せず、スポットライトを浴びる友希那の声により、Roseliaのライブは幕を開けた。


友希那「皆さん、今日は来てくれてありがとうございます、Roseliaです」

友希那「まずは一曲目、聴いて下さい……『BLACK SHOUT』……!」

https://www.youtube.com/watch?v=ALXxQffcZOk


297: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:02:04.39 ID:10IwYkZZo
 ――ワァァァァァァーーーー!!!!

 ――Roselia!! Roselia!!!


 Roseliaの演奏を皮切りにフロアは大熱狂に包まれる。

 そんな様子を後方で見ていた唯達5人もまた、会場の熱気に取り込まれていた。


梓「始まった……これが、友希那さん達の歌……!」

律「うおぉ……! 見ろよこの盛り上がり、さっきのバンドとは比べ物にならねえ熱狂……さすがRoselia、評判以上のバンドだ……!」

澪「ああ……歌だけじゃなく、演奏技術も恐ろしく高い……メンバー全員、この日の為に何度も練習を重ねてるのがよく分かるよ……!」

唯「うんっ! すごく……すごく……か、かっこいい……!!」

紬「梓ちゃん……前で食い入るように見てるわ、私達も行きましょう!」

梓(凄い……! これが本当に高校生の演奏なの……? 昔の私達とは比較にならない程のテクニックと歌唱力……これがRoselia……!! 友希那さん達の、目指す音楽……!!)

 友希那の歌だけでなく、その後ろで一心不乱に奏でられるリサ、あこ、紗夜、燐子の音は確実に会場中の心を支配していく。

 その歌の力は梓の心すらも強く揺さぶり、梓が心の奥底に抱えていた自身の音楽に対する迷いすら、容易く氷解させる程の力を秘めていた。


梓「…………!! 友希那……さん……!!」

 心臓の鼓動が抑えられない……! 鳥肌が止まらない……! 音が、声が、暴力的なまでに耳を通じ、心に入り込んでいく……!

 Roseliaの放つ強く、鋭く、眩しい輝きが、梓の音楽家としての魂を燃え上がらせて行く……!

298: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:03:40.85 ID:10IwYkZZo
梓「ロゼリア…………私も……負けない……っっ!」

梓「唯先輩!! 私も燃えてきました!! あの人達に……ここにいる全ての人に、私達の素晴らしさを……私達の輝きを、見せつけてやりましょう!!」

 ステージ上で熱唱する少女達を見つつ、音楽家としての矜持を掲げ、梓は高らかに言い放つ。


唯「あずにゃん…………っ うん! やるよ、私も……燃えてきたっ!」

梓(早く……この胸に灯った火が冷めない内に……私も……早く……ステージに上がりたい……!)

 1曲目が終わり、続いて始められる2曲目の演奏。これもまた、フロアにいる全員のテンションを最高潮に高めていく。

 途中でメンバー紹介を挟みつつ続けられる演奏は、観客の中に更なる興奮と感動を呼び――。

 その興奮に身を委ねながら出番を待つ梓の心もまた、完全に会場と一つになっていた。

 そして……。

299: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:04:12.75 ID:10IwYkZZo
友希那「ありがとうございました……! 引き続き、ガールズバンドパーティーをお楽しみ下さい!」

リサ・紗夜・あこ・燐子「皆さん、ありがとうございました!!」

 ――ワーワーワー!!

 ――Roseliaありがとうーーー! 昼の部も期待してるからねーーー!!!


声「いやぁ~、来て良かった! やっぱRoselia凄いわ!」

声「うんうん、確か『FUTURE WORLD FES.』にも参加決まったんでしょ、私、絶対に行く!」

声「くううぅぅぅぅっっ! 私、まだ鳥肌が止まらないよ~~!!」

澪「凄いな……お客さん、演奏が終わってからもまだあんなに興奮してる……」

律「ああ……ほんと、ここまでやるなんてすげーよ……いやマジで」

紬「私も燃えてきたわ! ねえ次は! 次は誰の演奏なの?」

唯「ちょっと待ってて……あ、次、パスパレだよ! りっちゃん! 前で見ようっ♪」

律「ああ……分かった……って唯! 引っ張るなーっ!」

300: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:04:56.61 ID:10IwYkZZo
―――
――


-5組目 Pastel*Palettes-

彩「皆さんどうも! Pastel*Palettesでーす!」

彩「いや~、Roseliaの皆さん、凄い演奏でしたよねー。でも私達も負けないから、みんなよろしくねっ♪」

彩「じゃあ一曲目、行きますっ♪ 聴いて下さい、『しゅわりん☆どり~みん』!」

https://www.youtube.com/watch?v=EF9905QrXQY




 先程とは一変し、和やかな演奏がフロアを賑わせる。

 色とりどりの照明に照らされ、楽しく歌う彩達に合わせ、会場の至る所で合いの手や掛け声が上がっていた。

 それはまさに、夢見る少女達のライブ……。

 彼女達のマネージャーである律も初めて見る、バンドとしてのパスパレが紡ぐ、大きな夢の輝きだった。


唯「彩ちゃ~ん♪ こっち向いて~!」

澪「パスパレのライブ、私も初めて見たけど、なかなかやるじゃないか」

紬「ええ……みんな、凄く楽しそう♪」

梓「演奏も凄く上手ですね、律先輩の教えが活きてるって感じがしますっ」

律「ははははっ、だろだろ~♪」

彩「ありがとうございましたー! それではここで、メンバーの紹介をさせていただきます♪」

 1曲目も終わり、彩のMCによるメンバー紹介が行われる。

 固くなく、それでいて砕けすぎでもない空気で場を和ませながら、彩はメンバー紹介を進めていった。

301: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:05:56.30 ID:10IwYkZZo
彩「えー、それでは最後は私、まんまるお山に彩を! 丸山彩でーす♪」

声「あははっ! 彩ちゃんかわいい~♪」

唯「ん~~、彩ちゃん今日もステキ……見れて良かったぁ~♪」

澪「ふふっ……唯も凄く楽しんでるな」

律「ああ……っ……まったく、会場中がこんだけ盛り上がってるのを見ると、ほんと、マネージャー冥利に尽きるよなぁ……っ……」

 涙腺が熱を帯びる感覚を覚え、口元を優しく綻ばせながら律は目元のサングラスをかけ直す。

 2曲目、3曲目と歌は続けられ、その度に歓声が響き渡る。

 会場全体が一つになってPastel*Palettesを応援するその光景は、誰よりも彼女達を近くで見守っていた律の胸に、熱いものを込み上がらせていた。


律(みんな、頑張れ……! 頑張れ……っっ!)

 決して声には出さず、それでも律は懸命にエールを送る。

 そのエールが届いたのか、Pastel*Palettesの演奏は、大盛り上がりの内に次のバンドへと繋がれていった。

 そして朝の部は終了し、より盛大な盛り上がりを見せる昼の部へと差し掛かるのであった……。

302: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:06:52.49 ID:10IwYkZZo
―――
――


 昼の部に入り、幾つかのバンドの演奏が終了したその時、突如として賑やかなマーチがフロア中に鳴り響く。

 その音色に合わせるようにして、彼女達はステージ上へと躍り出た。

 黄金色の照明に包まれる彼女達の笑顔に向け、会場中から黄色い声が飛び交う。


 音楽で世界を笑顔にする少女達の舞台が今、始まる――。


-10組目 ハロー、ハッピーワールド!-

こころ「みんなーーっ! 今日は楽しんでもらえてるかしら?」

声「こころちゃーん! 今日も可愛いよーっ!」

こころ「うふふっ、みんなありがとうー♪ それじゃあさっそく行くわよ♪ 『えがおのオーケストラっ!』ぜひ聴いてねっ♪」

https://www.youtube.com/watch?v=DmCPqYHyLos


303: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:07:39.24 ID:10IwYkZZo
律「こりゃまた……パスパレとは違うベクトルの賑やかさだなぁ」

澪「ああ……あの子達の演奏、私は好きだな」

律「なんつーか、昔の澪の歌を思い出すな、あの子達の感じ……」

菫「あっ、お姉ちゃん、良かった、やっと見つかりました」

紬「菫ちゃん! こころちゃん達よ、行きましょっ♪ 最前列で見ましょっ♪」

菫「はいっ♪」

 菫の手を引き、紬はステージの前へと移動する。

 先週、惜しくも見られなかったこころの歌を漏らさず聴き届けるため、紬と菫の2人は一心不乱にハロハピの奏でる音と歌に酔いしれていた。

 そんな時、唯達と離れた場所でライブを見ていた憂達も合流し、律達は一箇所に固まってライブを見届けていた。


憂「お姉ちゃーん♪」

唯「あ、憂! こっちこっち!」

純「やっと合流できた……ほんと、凄い賑わいですね……」

直「ええ……最初から見てましたけど、どの演者の方々も素晴らしい演奏ですっ!」

さわ子「いいわねぇ、これこそライブのノリってやつね……♪ 私もまだまだノるわよぉ~~♪」

和「私、あまりこういうライブには来ないんだけど……でも、楽しくて良い雰囲気ね……私は結構好きよ」

澪「和もさわ子先生達もみんな、楽しんでくれてるみたいだな」

律「ああ、特にトラブルもなく進行してるみたいだし、プログラムにも問題はなさそうだな……」

304: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:08:18.70 ID:10IwYkZZo
こころ「――つないだー手を つないでこー! 大きな輪になってー♪」

律「……はははっ、すっげー面白れぇ! 見てて飽きないなぁー、あの子達♪」

澪「ははははっ、私も……っ……まさかライブでこんなに大笑いできる日が来るなんて……お、思わなかったよ……っ」

こころ「みんな行くわよー♪ ハッピー! ラッキー! スマイル! いぇ~い♪」

 ――イェーーーイ!!!


紬「いぇ~~い♪ ふふふふっ、楽しいわぁ……こころちゃん達の歌、こんなに楽しいだなんて……♪」

菫「私、子供の頃を思い出しました……こころ様の前では、誰もが童心に戻れるんですね……本当に素晴らしい方です、こころ様……」

紬「私達の出番ももうすぐね……菫ちゃん、最後まで応援よろしくね♪」

菫「はいっ、もちろんです!」


 ――はははっ! すごーい! かわいい~♪

 ――ミッシェルも面白ーい! もっとやってーっ♪

 ――きゃあああっっ! 薫様!! ステキー!!


 ハロハピの演奏に会場中が笑顔で埋め尽くされる。

 それは、彼女達の持つ笑顔の輝きがもたらした奇跡に他ならなかった。

 まるで遊園地で繰り広げられるパレードのように煌めくステージは、フロアにいる全ての人を魅了して離さず、多くの人の心に幼い頃の気持ちを抱かせる。

 その瞬間、ハロハピのライブを見た誰しもが童心に帰り、彼女達の歌に聴き入っていた。


 そして程なく、夢の一時は終わりを告げ、次の演者へと引き継がれていくのであった。

305: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:09:09.47 ID:10IwYkZZo
―――
――


 軽快なギターの音色と共に、突如として彼女達は姿を見せた。

 その音色を聴いた全ての人の注目がステージへと注がれ、そのタイミングに合わせ、ステージの照明が真っ赤に染め上げられる。

 夕日のように紅い照明が彼女達を照らし出し、燃えるような興奮の熱が観客の心に広がり始める。

 まさにそれは、いつの日も変わらず人々を照らし続ける太陽の輝き……。


 ――Afterglow。

 不変の黄昏を抱く少女達の絶唱が今、始まる。


-12組目 Afterglow-

蘭「みんな、今日は来てくれてありがとう……Afterglow、行くよ!」

澪「来た……Afterglowだ! 律、前で見よう!」

律「ああ! 私も気になってたんだ、最前列で見ようぜ!」

 律の手を引き、澪はステージの前へと移動する。

 ステージの上で悠然と佇む少女達を前に、澪の胸は大きく高鳴りだしていた。


蘭「みんなに見て欲しい……私達の本気を、私達の輝きを……!」

蘭「行くよ、『That Is How I Roll!』!!」

https://www.youtube.com/watch?v=kPuZb-o9HPo


306: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:09:42.30 ID:10IwYkZZo
 ――!!! ーーーー♪♪

 重厚なサウンドに合わせ、蘭の力強い歌声が会場中に響き渡る。

 何者にも縛られず、何時の日も変わらずにいる事を誓うように蘭は歌い続け、その歌に呼応するように、会場中からは大きな歓声が飛んでいた。


 ――すっげええええ!! Afterglow! いいぞーー!!

 ――みんなかっこいいよ!! もっと燃えさせてぇぇぇぇ!!!


澪「蘭ちゃん……凄いな、これが、Afterglow……!」

律「ははははっ! すげー! 昔を思い出すなぁ、この感じ……♪」

澪「ああ……!」

律「澪が気に入るのも分かるよ、こんなロックな歌をここまで歌えるなんて、Afterglow、確かに良いバンドだわ」

澪「うん……私も思い出したよ……律と一緒に音楽をやり始めた頃の楽しさを……」

律「へへへっ、やっぱロックはこうでなくっちゃな……! うおおおーーーー!!! Afterglow!! いいぞーーーっっ!!!」

澪「うんっっ!! Afterglow!! さいっっこうだあああああーーー!!!」

 2人はあらん限りの声を上げ、会場の熱狂に乗じていた。

 自分達の『今』を歌う少女達の演奏は確実に澪と律、双方に心を鷲掴み、その耳を虜にしていく。

 『今』を生きるその輝きこそが彼女達の全てであり、その歌は、自分達の存在を世界に突き付ける、まさに決意表明とも言える歌だった。

 そのロックに溢れる歌詞は絶えず2人の心を強く揺さぶり続け、歳を取って落ち着いた筈の熱が胸に蘇りつつあるのを、この時、2人は確かに感じていた――。

307: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:11:09.69 ID:10IwYkZZo
梓「……凄い……! どのバンドも、昔の私達以上ですね!」

さわ子「うんうん♪ みんなも負けてられないわねー♪ 唯ちゃん、頑張りなさいよー?」

唯「うん♪ ふふふっ……私も、早くステージに上がりたいなぁ♪」

 会場中の興奮を一身に受け、Afterglowの演奏は続けられた。

 そして最後の曲も見事に演奏しきり、Afterglowのライブは盛況の内に幕を閉じたのであった。


 ――♪ ――――♪
 
蘭「みんな、今日はありがとう、ライブはまだまだ続くから、最後まで楽しんでいって!」

モカ・ひまり・つぐみ・巴「ありがとうございました!!!」

 ――ワアアアアアアアアァァーーー!!

 ――みんな良かったよー!! 次のライブも楽しみにしてるねーー!!

 ――Afterglow! Afterglow!! Afterglow!!!

 ライブが終わってからもその声援は止む事無く、ステージは次のバンドへと引き継がれていく。

 そして、主役である5組のバンド、その最後の主役である少女達の演奏が開始されるのであった……。

308: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:12:10.89 ID:10IwYkZZo
―――
――


-13組目 Poppin'Party-

声「次は? 次はどのバンド?」

声「えっと……あ! Poppin'Partyだって!」

唯「Poppin'Party……香澄ちゃん達だ……!」

 フロアに期待の声が上がり、その声に応じるようにしてPoppin'Partyは姿を現した。

 周囲の声を聞いた唯は急いでステージのすぐ側まで向かい、香澄達の姿をその眼に焼き付けるように見つめ続けている。

 そして、会場中の注目がステージ上に集まりだし、香澄の大きく、一際元気な声がフロア全体に響き渡った。


香澄「……すうぅぅ……みんなーー!! 盛り上がってますかーー!!」

声「香澄ーー!! 待ってたよーー!!」

唯「香澄ちゃーーん!!!」


香澄「今日は来てくれてありがとう! 私達……」

香澄・有咲・りみ・たえ・沙綾「Poppin'Partyです!!」

 全員が揃った声に合わせ、会場中から再度声援が飛び交う。

 そして、香澄のMCにより、ライブは進行する。


香澄「今日は、どのバンドもすっごくかっこ良くて、楽しくって……キラキラドキドキしてて……もう、聴いてる私達もずっとノリノリでした!」

香澄「私達も負けないように歌うから、みんなも着いてきて!」

香澄「それでは早速ですが聴いて下さい、『ときめきエクスペリエンス!』!」

https://www.youtube.com/watch?v=hDzSjp8Q9XQ


309: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:13:32.82 ID:10IwYkZZo
 ~~♪ ――――♪ 

香澄「――祈る空に 弧を描く流星が ハピネスとミラクルを乗せて “はじまり”を告げている……!」


 香澄達の歌声は、瞬く間に会場中の心を取り込んでいった。

 純粋に音楽を愛する少女達のその輝きが、ときめきが聴く者全ての胸を打ち、心を解き放っていく。

 それは、最前列で歌を聴いている唯も同じであり、フロアにいる誰よりも唯は、香澄の歌声に聴き入っていた。


唯「香澄ちゃん……あんなに楽しそうに歌ってる……」

梓「あの子、唯先輩に似てますね……」

唯「あずにゃん……」

梓「ボーカルのあの子、本当に歌が大好きなんだっていうのがよく分かります……楽しそうに、迷いなく一生懸命に歌うあの姿……私が大好きな唯先輩の歌い方にそっくりです♪」

唯「ふふふっ……うんっ♪ あずにゃん、ありがとう……♪」

 時に楽しく、時に切なく、様々な感情を込め、一心に香澄達は歌い続ける。

 途中でメンバー紹介を挟み、2曲、3曲と歌が続く中、香澄達のライブは更なる盛り上がりを見せていく。


香澄「次でこの時間最後の演奏です、精一杯歌うのでぜひ聴いて下さい……『キラキラだとか夢だとか ~Sing Girls~』!!」

https://www.youtube.com/watch?v=c0sW-K3rhus



 会場が大いに熱を帯びる中、香澄達の歌が始まる。

 歌に乗り、コールや声援が相次ぎ、会場全体が活気づいていくのを、香澄達の歌を聴く全員が感じ取っていた。

310: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:14:19.48 ID:10IwYkZZo
香澄「――キラキラだとか 夢だとか 希望だとかドキドキだとかで この世界は まわり続けている――!」

声「ポピパーーー!! いいよーー!! もっとやってえええええ!!!」

声「感動だよぉー、もう私……っっ涙出てきた……っ!!」


憂「すごいな……あんなに泣いてる人もいて……ステージのみんな……本当に凄い……!」

純「私達も昔はあのぐらい元気だったのになー。あーー、高校生の頃に戻りたいーー!!」

直「あはははっ、でも純先輩、さっきのバンドの時、全力で前行って叫んでましたよね?」

菫「ふふっ、ええ、最前列でノリノリだったの、私も見てましたよ」

純「もーいいじゃん! 今日ぐらいはさー! みんなも盛り上がってこーよー!」

和「ふふっ……本当にみんな、凄く楽しそう……」

さわ子「私達の頃に比べたらまだまだだけど、あははっ……今の子達もなかなかやるじゃない♪」

さわ子「……さてさて……唯ちゃん達もそろそろかしらね?」

 そんな話がされる一方、さわ子はフロアの片隅へと視線を飛ばす。

 その目線の先では、まりなと放課後ティータイムによる最後の打ち合わせが行われていた。


律「いやー、あぶねーあぶねー。唯に合わせてノってたらまりなとの打ち合わせすっかり忘れてたわ」

唯「あははは、ごめんごめん、香澄ちゃん達の演奏、本当に楽しくってさ♪」

澪「二人とも、気持ちはわかるけど、次が私達の出番なんだからしっかりやらないと……」

律「ああ、悪かった悪かった……あ、もう変装解いてもいいよな?……これでよしっと」

 言いながら律はサングラスを外し、髪を掻き上げて普段の髪型に戻す。

 それから間もなく、まりなの元で演奏前の最終確認が始められるのであった。

311: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:14:47.56 ID:10IwYkZZo
まりな「みんな揃ったね……じゃあ、最後に確認するね」

律「ああ、頼む」

まりな「今歌ってる香澄ちゃんたちの演奏が終わって、フロアが暗転したらみんなは客席からステージに上がってくれる?」

まりな「みんなの楽器ももうセッティングしてあるから、香澄ちゃん達がステージを降りたらすぐに準備するね」

唯「うん、分かったよ」

まりな「みんなの演奏、私も楽しみにしてるから、精一杯やっちゃって♪」

律「ああ、任せとけ。よっし、じゃあライブ前に、最後にみんなで円陣でも組むか!」

紬「わぁ、いいわね! みんな、やりましょう!」

澪「ああ……あまり大きな声だと周りに気づかれるかも知れないから、こっそりとな」

梓「ええ……ほら唯先輩、行きますよ」

唯「うんっ!」

 律の言葉に5人は小さく円陣を組み、その右手を合わせ、声を上げる。

312: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:15:17.43 ID:10IwYkZZo
律「放課後ティータイム……いくぞ!」

一同「おーっ!」


 周囲の熱狂を掻き消さない程度の声が5人の間で響くその時……Poppin'Partyの歌が終わり、遂にその時が訪れる。


香澄「――ありがとうございました!! この次もよろしくお願いします!!」

唯「みんな……いよいよだね……!」

律「ああ、ここにいる誰にも負けない、最高の演奏を見せてやるぜ!!」

澪「私達でやるんだ……私達の手で……!」

紬「私もこの時をずっと待ってたわ……みんな、楽しんで行こうね♪」

梓「はい……行きましょう!」

 唯の声に全員の声が重なり、香澄達の撤収が始まる。

 放課後の再来は、もう目前にまで迫っていた――。

313: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:16:09.79 ID:10IwYkZZo
―――
――


 ――フッ

香澄「あれ……照明消えちゃったよ? どうしたんだろ?」

 突如会場が暗転し、微かなざわめきが観客席に広がり始める。

 その沈黙を縫うように、まりなの声がスピーカーから響き渡り……。


まりな「皆さんお待たせしました! ここで本日のスペシャルゲストの登場です!! どうぞ!!!」


 まりなの声を合図に、唯達5人は暗闇の中で上着を脱ぎ捨て、颯爽とステージ上に踊り出た。

 そして、暗転から一変。眩いばかりのライトがステージを照らし出す。

 そこには、光り輝くTシャツを身に纏い、楽器を構える唯達の姿があった。


 ――放課後が始まる。

 10年という長い月日を経て、彼女達の、一日限りの放課後が今、始まる――。

314: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:16:43.27 ID:10IwYkZZo
―――
――


-ゲストライブ 放課後ティータイム-

HTT一同「………………」

 静かにステージ上に佇む唯達の姿に、香澄達は思わず息を呑み込んでいた。


香澄「……………えっっ?」

蘭「う、嘘……………今日のゲストって……」

彩「……律……さん………??」

友希那「…………梓……さん………」

 唯達の姿を見た香澄達の間に沈黙が走る。

 予想外の人物のいきなりの登場に頭の整理が追いつかず、香澄達の間に動揺が駆け巡り、彼女達を知る全員が言葉を失っていたのだが……。

 そんな香澄達の沈黙をよそに、こころだけはステージに向け、嬉々とした表情で声を上げていた。


こころ「…………!!! すごいわ!! つむぎーー!! 紬が演奏するのねっ!!」

こころ「がんばって!!!! つむぎーーー!! 応援してるわね~~~~っっ!!」

 あらん限りの声量でこころはステージに向かい、声援を送り続ける。

 その声に応えるように、律がスティックを掲げ、放課後の演奏が開始された――。

315: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:17:46.22 ID:10IwYkZZo
律「ワンツスリーフォーワンツースリーフォー!」

-HTT1曲目 GO! GO! MANIAC-

https://www.youtube.com/watch?v=EV-bDK_aipw




 特に自己紹介もないまま、突如としてその曲は奏でられた。

 それは言葉による自己紹介ではなく、演奏による自己紹介と言っても過言ではない。

 あえて最初の挨拶はせず、一気にハイテンションの演奏を見せつける事で急激に観衆の心に飛び込んでいく。

 そんな律の目論見は見事にハマり、息もつかぬ程に奏でられる音は無条件にフロア全体の注目を浴び、放課後の存在を瞬く間に知らしめていくのだった。


声「うわ、いきなり凄い演奏……! 誰? あの人達?」

声「私達よりも年上っぽいけど、ねえ知ってる?」

声「ううん……でも、かっこいいなぁ~! リフも正確だし、あの人達、とってもライブ慣れしてるって感じがするね!」

声「ベース弾いてるあの女の人……かっこいいなぁ~」

声「でも、この人たち、どっかで見たことあるような気が……」

声「あー! 私あのギターの人知ってる! 前にジャズのライブやってた人だよ!」

声「えっ!? じゃあ、もしかしてプロの人なの?」

声「えー! 誰々?? 有名人???」

まりな(唯ちゃん達、凄いよ……初めて見る人も多いはずなのに、お客さん達みんなが放課後ティータイムに注目してる……!)


 ステージの上で奏でられる歌と音は着実に観衆の心を昂らせ、既に全身で演奏に乗る人も現れだす程だった。

 そして、放課後の演奏に聴き入る観客のその姿を見たこころ達もまた、相次いで紬達への感想を口にしていた。

316: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:18:33.16 ID:10IwYkZZo
はぐみ「ねえねえみーくん! 凄いよ! ムギちゃん先輩が演奏してるよっ!」

美咲「お客さん達もあんなに乗ってる……まさか……今日のゲストが紬さん達だったなんて……!」

花音「うん……私もびっくりして腰抜かしちゃうところだった……」

薫「フフフ……さすが紬さんだ……! あああ、私も心の高鳴りが抑えられない……儚い……なんて儚い演奏なんだろう……!!」

こころ「すごいわぁ……さすが紬ね♪ 放課後ティータイムーーー! さいこーよーー!!」

美咲「放課後ティータイム……ああああっ、思い出した……!!」

花音「み、美咲ちゃん?」

美咲「花音さん、前にこころの家にあったCDをアレンジしてみんなで歌った事あったの覚えてます?」

花音「そういえば……あったね、覚えてるよ」

はぐみ「あー! それって、今ムギちゃん先輩が演奏してるこの歌だったよね?」

美咲「うん、そのCDにはっきりと書かれてましたよ、『放課後ティータイム』ってタイトルが……でも、まさかそれが紬さん達の歌だったなんて……いくら何でも世間狭すぎでしょ……!」

はぐみ「すごい偶然だね……でもはぐみ、とっても嬉しいよ! はぐみ達、ムギちゃん先輩達と一緒だったんだね♪」

こころ「そうね♪ 凄いわ、凄いわ♪ 私達、音楽で紬達と繋がっていたのね♪」

薫「これこそまさに運命だね……ああっ、なんて儚いんだろう……!」

美咲「運命……ね。薫さんの言ってることも、さすがに今回ばかりは的を得てるって感じがするよ」

美咲「紬さん、頑張って下さい……! 私達、最後まで聴いてますから……!」

 柄にもなく、美咲は声を上げる。

 その声に応じるように、ステージ上の演奏はより一層の熱を増していき、フロアは更に盛り上がりを見せていくのであった。

317: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:19:12.92 ID:10IwYkZZo
憂「おねーちゃーん! かっこいいよーー!!」

純「懐かしいな……すっごく懐かしいよ、この感じ!!」

直「ええ……みんな、凄く生き生きしてる……!」

菫「お姉ちゃん! みんな! がんばれーー!!!」

和「唯……みんな、凄いじゃない……!」

さわ子「さっすがー、やるじゃないのあの子達♪ ……ほんと、よくやったわね……凄いわよ、みんな!!」


香澄「唯さんだ……唯さんが、歌ってる……!」

有咲「驚いたな……まさか、スペシャルゲストが唯さんたちだったなんて……」

香澄「有咲!! 前に行こう!! 前で、唯さん達の演奏、聴きに行こう!!」

有咲「ああ……! 香澄、行くぞ!!」

 有咲の手を引き、香澄達は強引にステージの前へと繰り出す。

 そこには既に蘭に彩、こころや友希那達の姿もあり、多くの演者が観客に混じって放課後の演奏を聴いているのが見えていた。

 そしてしばらく、絶好調で始められた放課後の1曲目の演奏が終わりを迎え、唯のMCが始まる。


唯「みなさんこんにちわ!! 私達が、放課後ティータイムでーす!!!」

 ―――ワアアアアアアアアアア!!!!

 唯の声に会場全体からは割れんばかりの喝采が巻き起こる。

 開始からハイテンポな曲を最高潮のテンションで歌いきった事もそうだが、それ以上に、唯達のその高い演奏力と歌唱力がスペシャルゲストとして観客の期待に応えていたのが何よりも大きい要因だった。

 フロア全体から期待と歓喜に溢れた称賛が唯達に送られる。それは突如姿を見せた唯達を、放課後ティータイムの存在を初見の観衆全員が受け入れた事実に他ならなかった。

318: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:19:45.53 ID:10IwYkZZo
唯「いきなりの演奏でみんなびっくりしたと思うけど、でも、こうした方がいいと思ったので、思いっきり演奏してみました。みんな、どうだったかな?」

香澄「唯さーん!! 素晴らしい歌でしたーー!!」

声「うんうん! サイコー! もっと聴かせてー!!」

唯「あははっ、みんなありがとー♪ でもせっかくだし、ここでメンバー紹介するね♪ まずはベースの、秋山澪ちゃん!」

 ――♪ ~~~~♪ ~~♪

 唯に振られ、自己紹介とともに澪の指がクールなベース音を奏でる。


澪「皆さんどうも! ここにいるみんなに負けないよう、私達も頑張るので……よかったら是非聴いてってくださーい!」

唯「澪ちゃんは私達のお姉さん的な感じで、練習の時はしっかりみんなを纏めてくれてました♪」

澪「ボーカルがもっと真面目に練習にしてくれてたら、私ももっと楽できたんだけどなぁ~」

 ――あはははっ!


唯「えへへへ……じゃあ次は、我らがリーダー、田井中律ちゃん!」

 ――タカタンッ! タタタタッ! ドコドコドコドコ――ジャンッ!!

 次いで律が器用にドラム捌きを披露し、最大音量の声で会場に向けて叫ぶ。


律「みんなーーー!! 今日はよろしくなーーーーっっ!!」

唯「りっちゃんは私達のリーダーで、みんなが困ってる時、すぐに助けてくれたり、支えてくれたりしてました♪」

唯「すっごく頼りがいのある子なんだけど、結構女の子っぽい所もありまして、なんと……!」

律「おーい! 知り合いがいんだからそれ以上言うなっ! 次行け次ー!」

319: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:20:18.39 ID:10IwYkZZo
唯「ふふふっ……はーい! そしてキーボード担当の、琴吹紬ちゃん!!」

 ~~~♪ ――――♪

紬「みんな~、盛り上がってるかしらー?」

唯「ムギちゃんはいつも練習の時にお茶とお菓子を持ってきてくれて、後輩の菫ちゃんも練習のお手伝いにも来てくれてました、ムギちゃん、菫ちゃん、本当にありがとうーっ!」

紬「こちらこそ、どういたしましてー♪」

菫「ふふふっ……唯先輩ったら……♪」


唯「お次は、ギターの、中野梓ちゃんです!」

 ――♪ ―――――♪

梓「皆さんはじめまして! 今日は楽しんでって下さーい!」

唯「あずにゃんは、なんとご両親と一緒にプロのジャズバンドを組んでるんです。もし良かったら、みんなも是非聴きに行ってくださーい♪」

梓「もー、ここで無理に宣伝してくれなくてもいいんですよー!」

声「梓さーん! 今度ライブ行くから、よろしくねー!」

梓「あ、ありがとうございまふっ! あっ……!」

 ――あはははっ おもしろーい!

 ――可愛いよー! 梓さーん!

 観客の声援に思わず噛んだ梓に笑い声が飛び、そして最後に、唯の自己紹介が始められる。


唯「最後に私、ギター&ボーカルの平沢唯です!」

 ――♪ ――♪ ――♪

320: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:21:29.14 ID:10IwYkZZo
唯「私達は、高校生の頃、軽音部で『放課後ティータイム』っていうバンドを組んでました!」

唯「大学を卒業してからみんな一度は離れ離れになっちゃったんだけど、でも先週あった同窓会でみんなで再会して……それで、ガールズバンドパーティーで演奏する事をきっかけに再結成したんです!」

唯「再結成のきっかけを作ってくれたまりなちゃん! 本当にありがとうーー!!」

 突如、フロアの隅でステージを眺めるまりなに向けてスポットライトが当てられる。

 いきなりの振りに照れながらもまりなは手を降り、その声に返していた。


まりな「私の方こそありがとう!! 放課後ティータイム! 最高だよーー!!」

唯「えへへっ♪ いやーしかし、みんな若いよねぇー、なんていうか……女子高生パワー恐るべし! だよねえ~」

律「あんまそーいうこと言うな! ただでさえこっちはここにいる全員と歳の差感じてんだぞ!!」

唯「でも、10年前は私達もみんなと同じだったんだよねぇ~♪」

律「だーかーら!! 歳がバレるような事言うなーーーっっ!!」

 ――あははははっっ!


蘭「凄い……ちゃんと会場の笑いも取れて、MCもしっかりこなしてる……これが、澪さんのバンド……!」

香澄「ふふっ……唯さん達、私達の10個も上だったんだね……全然見えなかったなぁ」

彩「……律さん……みんな、かっこいい……! 私も、あんな大人になれるといいな……」

友希那「さっきの演奏……梓さん達が全身全霊を賭けて自分達の音楽に向き合っているのがよく伝わって来たわ……」

こころ「うふふっ♪ 次の曲も楽しみよっ♪ 紬達、次はどんな歌を歌ってくれるのかしら♪」

唯「じゃあ、次は澪ちゃんのボーカルで行くね! 曲名は……『Don't say "lazy"』!!」

321: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:22:30.91 ID:10IwYkZZo
-2曲目 Don't say“lazy”-

https://www.nicovideo.jp/watch/sm8143460


澪「Please don't say "You are lazy" だって本当はcrazy――!」

 澪の歌声に乗せ、二度放課後の旋律が奏でられる。

 先程の唯とは対象的に鈴のように凛とした美声が会場中に響き、多くの観客の心を魅了していく――。

 そのクールな歌声はAfterglow全員の心を撃ち、初めて聴く澪の歌声に、誰もが酔いしれて行くのであった。


巴「やっば、澪さんすげえ歌上手い……!」

ひまり「うん……! 歌いながらあんなにベース弾きこなすなんて……か、かっこいい……! 凄くかっこいい……!!」

蘭「あれ、この曲って確か……」

モカ「うん、あたし達も一回演奏した事あったよねー」

つぐみ「確か、ひまりちゃんのお母さんに借りたCDに入ってたんだよね、この歌」

モカ「そうそう、ってことは、ひーちゃんのお母さん、澪さん達のこと知ってたのかな?」

蘭「それは分からないけど………そっか……あたし達、ちゃんと澪さんと通じてたんだ……」

322: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:23:45.41 ID:10IwYkZZo
ひまり「私、もう抑えきれないよ!! 澪さあああん!! ステキーーー!!!」

巴「放課後ティータイムーー! いいぞーーーー!!!!」

蘭「ふふっ……みんな、凄く盛り上がってるね」

モカ「蘭も、ちゃんと耳に残しておこーね、あたし達の先輩……になるのかな? あの人達の歌と音を……さ」

蘭「うん、そうだね……!」

蘭(澪さん……私達も、負けませんから……!)

 微笑みながら、蘭の瞳は一心に歌い続ける澪の姿を見つめていた。

 対抗心とも、競争意識とも違う感情が蘭の胸中で渦を巻く。

 それは、音楽を奏でるバンドマンとしての尊敬とも言える感情であり……人一倍高いプライドを持つ蘭が澪に対し、憧れの念を抱いた瞬間でもあった。


澪「皆さん、ありがとうございました!!!」

 ――ワアアアァァアァァァァ!!!

 2曲目の演奏が終わったと同時、二度歓声が沸き起こる。

 その称賛の声を唯達は一身に受け、続く3曲目の演奏が始められた。


唯「次は私と澪ちゃんの2人で歌います、『ふわふわ時間』、聴いて下さい!」

323: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:26:25.62 ID:10IwYkZZo
-3曲目 ふわふわ時間-

https://www.youtube.com/watch?v=ckv4PVgYRNk



 続いて奏でられる3曲目の歌。

 その聴き覚えのあるイントロに誰よりも強い反応を示したのは、他ならぬPastel*Palettesの5人であった。


彩「この歌は……!」

イヴ「はい……! リツさんが私達に教えてくれた歌ですっ!」

千聖「そっか……律さん……私達の事を信じてくれて、自分達の歌を……私達に託してくれていたのね……!」

日菜「私さ、この曲を初めて聴いた時、なんとなくだけどそんな気がしてたんだ……これ、律さんが叩いてるんだって、そんな気が……ね」

麻弥「やっぱりこの曲、律さん達の曲だったんですね……ジブン……っ……ぃ、今になって感動してます……っ…ッ!」

彩「ぅぅ……私、な、泣きそう……っっ」

麻弥「彩さん…じ………ジブンもです……うぅっ……!」

日菜「ふふふふっ♪ 私、今すごい、ルルルルルン♪ってなってる! 私この曲、ふわふわ時間が大好きっ!!!」

イヴ「はい、私もですっ♪ リツさんの歌だって知って私、この歌のこと、もっと……もっと好きになりました!」


日菜「ねえ、彩ちゃん! 麻弥ちゃん! 泣いてる場合じゃないよ! 私達も歌おう! 律さん達の歌を……律さん達の輝きを!」

千聖「ええ! 日菜ちゃんの言う通りね……今は泣くのを我慢して……私達も見届けましょう!」

彩「えへへへ……っ……日菜ちゃん、千聖ちゃん……うん、そう……だね!」

麻弥「……はいっ! 律さーーん!! かっこいいです!!! ステキです!! 最高ですよぉーー!!!!」

 パスパレの5人は互いに手を取り合い、重ねるように絶賛の声を送り、その歌を口ずさむ。

 目元から溢れそうになる涙を懸命に抑えつつ……彼女達は、ステージ上でドラムを打ち鳴らす律の勇姿をその眼に焼き付けていた。

324: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:27:28.16 ID:10IwYkZZo
律(彩ちゃん……麻弥ちゃん……みんな見ててくれ!!! これが、私達の……! 私達の輝きだ……!!)

 そんな彩達の姿が視界に入り、律のドラムは自身のテンションに合わせ、更に加速していく。

 額から滝のように流れる汗すら拭わず、眼前の2人の歌声に合わせ、一心不乱に律はドラムを叩き続けていた。


澪(ちょっと待て律、いくらなんでも走りすぎだ!)

律(悪い!! でも、このままやらせて! ……私今、すっげえ楽しいんだ!!!)

唯(私は平気だよ、りっちゃんの好きにやっちゃって!!)

梓(律先輩! とてもイイ感じです! このままお願いします!)

紬(私達も全力で付いていくわ! りっちゃん、行っちゃえ!)

律(みんな悪いな……それじゃあ、次のサビから遠慮なく行かせてもらうぜっっ!!)

 唯の合図を皮切りに、律の音は尚も加速する。

 それでも決して外すことなく正確に打たれるそのビートに観衆の注目は集まり、一層の熱を帯びていく。

 その迫力のあるパフォーマンスには、同じパートを担当するドラマー達も目を離せずにいた。


あこ「すごい……あの人のドラム、めちゃくちゃ凄いよ! お姉ちゃん!!」

巴「ああ……あんなに速くてムチャクチャに見えるのに全然音がズレてない……むしろ周りもしっかりドラムに合わせてる……! いや、なんってテクニックだ! あんなの、アタシだって見惚れちまうよ!」

沙綾「まるで、本当にプロのドラマーのみたいな打ち方だね……ははははっ! 唯さん達のリーダー、凄すぎだよ!」

花音「ふえぇぇ……わ、私には絶対にマネできないテクニック……でも、あんなに楽しそうに叩いてて……か……かっこいいです!」

麻弥「……律さああああん! いっけええええええ!!!!!」

 律の演奏はボーカル以上に注目を浴び続け、更にその勢いを増して行く。

325: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:28:16.69 ID:10IwYkZZo
唯・澪「――ふわふわタイム(ふわふわタイム)――ふわふわタイム(ふわふわタイム)――」

 ――♪ ―――♪

 演奏の最後、最も激しく、荒々しく豪快に叩かれた律のドラムは、最早アレンジにアレンジを重ねたふわふわ時間本来の演奏とは別の物となっていた。

 だが、決して乱れることなく、正確にビートを刻み続けるその音は、既にプロのドラマーの音とも呼べる程に魅力的に見え、多くの観客を虜にして行く。

 そして3曲目の演奏が終わったその時……。

 立て続けに曲を歌いきった唯と澪にだけでなく、終始行われた律の圧巻のドラムパフォーマンスに対しても、割れんばかりの拍手が巻き起こっていた――。


律「……っ……みんな……ありがとーーーーっっ!!」

 ――パチパチパチパチパチ!!!

 ――うおおおおおおおおおおお!!!!

 ――凄いドラムパフォーマンス!! 私、思わず震えちゃったよ!!

 ――やべええええ!! 放課後ティータイム、歌だけでなく演奏も凄ぇえええ!!


律「はぁ……はぁ……! き、気持ちよかった……!!」

 息も絶え絶えになる程の疲労感が律を襲う。

 水を被ったような大汗が顔中を流れ、腕は腫れ上がった様にむくみ、脚が鉛のように重く感じる……。

 だが、それでも構わないと言わんばかりに、律のその顔は笑顔で満ち溢れていた。


唯「みんなありがとう!! りっちゃんも凄かったね~♪ でも、まだまだいっくよーーー!!! 次は『ごはんはおかず』!!」

326: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:31:34.12 ID:10IwYkZZo
-4曲目 ごはんはおかず-

https://www.youtube.com/watch?v=qHaacTMlaqY



唯「――ごーはんはすーごいーよ なんでもあーうよ ホカホカ♪」

 軽快なサウンドに乗せられ、放課後の4曲目が始まる。

 それは実に放課後らしい、楽しさに溢れた一曲だった。

 唯の口から発せられる和やかな歌声は、先程の演奏で昂ぶっていた観客の激情を程よく落ち着かせ、気持ちを穏やかにしていく。

 そしてその音と歌は、梓の眼下で佇むRoseliaの少女達の心にも、確かに届いていた――。


あこ「あははははっ♪ りんりん! 梓さん達の歌……すっごく楽しいね!」

燐子「あこちゃん……ふふふっ……うん、そう……だね!」

紗夜「先程までとは違う、まるでコミックソングのような曲調なのに……何故でしょう、私も、心が跳ね上がるような感覚がしてきました……日菜達の歌を聴いてもこうはならないのに……っ」

友希那「私もよ……さっきまでの震えるような興奮は無い筈なのに……まるで別の感覚が押し寄せて来るようなこの感じは……」

友希那「一体、何なの……? さっきまでの興奮とは違う……この胸の高鳴りは……!」

327: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:32:06.99 ID:10IwYkZZo
リサ「友希那、紗夜……きっとそれが、『楽しい』って事なんだよ」

友希那「リサ……」

紗夜「今井さん……」

リサ「アタシ、思い出したんだ……小さい頃、友希那や友希那のお父さんと一緒にベースを弾いていた頃をさ……」

リサ「あの頃は上手いとか下手とか……そんな難しいことなんか考えず、純粋に音楽を楽しんでた……きっと友希那だって覚えてるはずだよ! あの頃の音を……あの頃の楽しさを!」

あこ「うんうん! リサ姉の言ってること、あこも分かるよ!」

あこ「ほら、音楽って、『音を楽しむ』って書くでしょ、梓さん達の歌って、まさにその通りですよ!」

リサ「あはははっ! そうだね、あこ、よく言った!」

友希那「音を……楽しむ……」

紗夜「ふふふっ……宇田川さんらしい考えですね……」

 厳密に言えば、あこのその理論は、友希那と紗夜の知る音楽の本来の意味とは違う考えではあった。が……。

 それでも、あことリサの言う『楽しむ』という感覚は、2人が久しく味わっていない感情でもあった。


 『音を楽しむ』という、音楽に対するアプローチ。

 それは『Roseliaに全てを賭け、目標に向かい突き進んでいく』という、彼女達が結成当時に掲げた誓いとはかけ離れた感覚であり。数多の音楽家が胸に抱く、音楽に対する向き合い方の一つでもあった。

 情熱や信念だけではない、『楽しむ』という感情。それこそが、何よりも夢や理想に向かう為の原動力となる。

 そしてその感情は、共有する人の数に比例し、何倍にも膨らんでいく。

 物事に対し、『楽しむ』という事の素晴らしさと大切さを、今この時2人は、梓達の演奏を通して思い出していた――。

328: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:32:53.95 ID:10IwYkZZo
紗夜「……私が音楽を始めた理由は……そもそもが妹の日菜に対する強い対抗意識からでした……だから、音楽に対する楽しさを感じたことなんて、Roseliaに加わるまではほとんどありませんでした……」

友希那「……私もよ……お父さんの夢が破れた時から、私が音楽をやる理由は、お父さんが成し遂げられなかった夢を叶えることに変わったから……それ以来、音楽を楽しんでやるなんて事、あまり考えなくなっていた……」

紗夜「思い出しました…………この胸の高鳴り……これが、『音を楽しむ』という事なのね……」

友希那「『音を楽しむ』……演者だけでなく、観客と演者が一つになる事で生まれる感情……これを私達の演奏に活かすことができれば、私達はまた一歩、前へ進めるかも知れない……」

友希那「梓さん、ありがとうございます……貴女達のおかげで……私達はまた一歩、目標へ近付く事が出来たと思います……!」


リサ「ほーら二人とも! 今は難しい事は考えずに梓さん達の音楽を楽しもうよ!! ほら、腕上げて! ねっ♪」

友希那「ふふっ……ええ……紗夜も、今はこの感覚に身を委ねてみるのも良いと思うわ」

紗夜「はい……少し照れますが……やってみますっ」

 ぎこちなく、辿々しく……2人は腕を上げ、身体を揺らし、自身の感情そのままに身を委ねていた……。

 今はまだ完全じゃない……それでも、普段はクールに徹しているあの2人が音楽に乗っている……。その姿が、リサの心を打つ。


リサ「も~、二人とも照れちゃってしょうがないなぁ……でもアタシ、嬉しいよ……。 梓さんありがとう!!! 私達、今すっごく楽しいよーーーー!!!」

あこ「いぇ~~~~い♪ 放課後ティータイム!! いっけ~~~♪」

燐子「ふふふっ……♪ 私も楽しいよ……あこちゃん……♪」


唯「――関西人ならやっぱり お好み焼き&ごはんっ♪ 私前世は 関西人っ♪」

律・澪・紬・梓「――どないやねん!」

329: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:34:22.72 ID:10IwYkZZo
律(あー、やべ……ヘトヘトなのに……超楽しい……!)

澪(ああ………ライブって、みんなで演奏するのって……こんなに楽しいものだったんだよな……!)

紬(懐かしい……熱くて、胸がドキドキして……今にも叫びだしそう……!!)

梓(終わって欲しくない……いつまでも、いつまでも、こうしてみんなで演奏がしていたい……!)

唯(私、今すっごく楽しいよ……またこうして、みんなで演奏できて良かった……本当に良かった……!)


唯「――1・2・3・4・GO・HA・N! みんなも一緒に!!」

あこ「1・2・3・4・ご・は・ん! あははははっっ!! すっごいおもしろ~い♪」

リサ「うんうん! 1・2・3・4・ご・は・ん!! ほら、友希那と紗夜も!」

友希那「……い、1・2・3・4・ご・は……ぅ、さすがにそれはちょっと……」

紗夜「わ、私もです……っ」

燐子「うふふっ……照れてる友希那さんと氷川さん……可愛いな……♪」

 和やかな場の空気に乗るという気恥ずかしさから、二人の顔が赤く染められる。……しかし、不思議と悪い気はなしかった。

 今はまだ、完全に理解できたわけでは無かったが……それでも、絶えず脈打つ心臓の音だけはそれを理解していた。


 ――その胸を打つ鼓動は、2人が確かに、放課後の歌を心から楽しんでいるということの証でもあったのだから。


唯「いぇええええええい!! みんな、あっりがと~~~~♪」

 ――ワアアアアァァァァーーーー!!!!

 HTT! HTT! HTT!!!!!

 放課後ティータイム!! さいっこーーだぜえええ!!!


 そして、笑いに包まれた4曲目の演奏が終わり、放課後の、最後の曲が奏でられようとしていた。

330: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:34:57.59 ID:10IwYkZZo
唯「みんなが楽しんでっ……くれて私達もすっごく嬉しいよ!! でも……んっ……ごめんね、次で最後の歌になっちゃいました!」

 ――ええええええ!!!

 ――そんな~~~~!!

 ――いやだっ! もっと聴かせてよ!! 放課後ー!


唯「ごめんっね……でも、私たちも最後まで全力で歌いきるから……げほっ、みんな゙、よろしくね゙ーーっっ!」


 ――ワアアアアァァァーーーッッッ!!!!

律(……唯も、そろそろ限界か……!)

澪(唯……!)

紬(唯ちゃん……)

梓(唯先輩……)

唯(ごめんねみんな……でも、最後までやらせて……! この歌だけは……!)

 ここまでMCを含め、長時間声を張り上げ続けて来た唯の声に微かな変化が生じていた。

 しかし、それでも声を上げることをやめることなく、唯は声を上げ、ギターを掻き鳴らす。


唯「――っそれじゃあみんな、聴いて下さい……大切なものは、いつもみんなのすぐ側に……『U&I』!!」

331: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:36:07.85 ID:10IwYkZZo
-5曲目 U&I-

https://www.youtube.com/watch?v=AhfZEDa7zMo



 僅かに声を枯らしながら、唯の最後の歌声が響き渡る。

 酸欠で目元がふらつき、気を抜くと倒れてしまいそうになるのを懸命に堪えつつ、唯は心のままに歌を歌い続ける。


 その姿を見る香澄達の眼には、それぞれ光るものが込み上げてきていた――。


香澄「……っっ……唯さん……っっ……ゆいさん……!!」

有咲「……っ……すげえな……唯さん……」

たえ「うん……あんなに歌って……もう疲れてヘトヘトな筈なのに……それでも、凄く楽しそうに歌ってる……」

りみ「……っ…うん……っ……みんな、すごくて……かっこよくて……うち、泣けてきちゃったよぉ……っ」

沙綾「明るくて、前向きで、暖かくて優しい歌……唯さんの想いが伝わってくる歌だね……」

香澄「…………唯さんっ…………がんばれ……がんばれ……っ…!」

 優しく紡がれる唯の歌……。

 それは、自分の大切な物全てに送られる愛の歌。

 自分の大事なもの。いつも傍にいてくれる大切な存在。……けど、それが当たり前になっていると気付かない。

 そんな大切な事に気付かせてくれる歌だった。

332: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:36:56.70 ID:10IwYkZZo
唯「――まずはキミに つたえなくちゃ―――「ありがとう」を!」

 ――♪ ~~~♪

声「すごい……いい歌だね」

声「うん……あはははっ……なんだか私、泣けてきちゃった……!」

声「楽しくって、切なくて……ああもう、よくわかんないけどいい! この感じ、すっごくいい!!」


純「っっ……っっ……わ、私、もう涙が止まらないよぉぉ……!」

直「純先輩……」

菫「っ……っっ……ああもう、私も……泣けてきちゃいました……っ」

憂「……お姉ちゃん……っっ……うぅ………ぉ……おねえちゃぁん……っっ!……っ」

和「憂……」

憂「和ちゃん……私……今凄く嬉しい………お姉ちゃん、あんなに輝いてる……!」

憂「お姉ちゃんの歌声が、色んな人の心に届いてるのが分かる……! お姉ちゃん! ……私、あなたの妹で良かった……! ほんとうに良かった……っ!」


 唯の歌声に、会場中の思いが一つになる。

 ある者はサイリウムを、またある者は携帯の画面を付け、横に振り続けている。

 その光景は、ライブを見る何人かの人の眼に、ある情景を思い描かせていた――。

333: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:38:21.08 ID:10IwYkZZo
香澄(……えっ?)

 ふと、香澄の視界が一瞬暗転し、別の景色が浮かび上がる。

 それは涙で目の前が滲んだせいか、唯達の演奏が魅せる幻なのか分からないが……香澄の眼は、自分が今までいたライブハウスとは違う風景を描き出していた。


香澄(ここは……?)

 そこは見知らぬ音楽室。

 目の前には、紺色のブレザーを着た、香澄と同年代ぐらいの5人の女の子達がそれぞれ楽器を手に、楽しく歌っている様子が見える。

 先頭で、学生服姿の女の子が赤いギターを弾き鳴らしつつ、陽気に歌い続けている。

 女の子の襟元で青いタイが僅かに揺れ、その女の子は香澄に微笑み、優しく手を差し伸ばしながら言う。


女の子「――私達のライブに来てくれてありがとう♪ 今日はたくさん楽しんでってね♪」

香澄「………うんっ……!」

 女の子の声に大きく頷き、涙で濡れた目元を拭う香澄。

 やがて視界が戻り、上を見ると、懸命に歌い続ける放課後の姿がしっかりと見えていた。


香澄「唯……さん……そっか…っっ……そうだったんだ……!」

香澄(さっきのはきっと、唯さん達だったんだね……私達と変わらない……音楽が、歌が大好きな……キラキラ、ドキドキしてる……唯さん達だったんだね……!)

香澄「……!! 唯さん……がんばれーーーーー!」

 会場の声援に負けじと香澄は声を張り上げる。

 その頬を伝う涙はもう止まっており、輝きに満ちた笑顔で香澄は声援を送り続ける。

334: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:40:18.92 ID:10IwYkZZo
香澄(泣いてなんかいられない……! 今は、この人達の輝きを見ていたい……! 誰よりも、何よりも近い場所で、唯さん達の放課後を見ていたい……!)

 香澄だけでなく、多くの人が歓声を上げ、放課後の演奏に心を沸かせ続けていた。

 そして……。


唯「――思いよ―――届け――――」 

 ~~~♪ ―――♪ ―――…………♪

 最後のフレーズを歌い切り、放課後の演奏が今、終わりを告げた……。

 程なくして照明が暗転し、暗闇が会場を包み込んでいく。

 演奏の余韻が、会場から送られる歓声が全員の耳の中に響き、感傷が5人の胸中で渦を巻いていた。


律(終わっちまったな…………)

澪(ああ…………)

紬(楽しかった……でも、もうおしまい……なのね)

 終わってしまったという寂しさが胸を打ち、涙が溢れそうになる。

 ――その時だった。

335: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:40:49.57 ID:10IwYkZZo
 ――ル! ――ール!

梓(……え?)

 ――コール!! ンコール!!


唯(まさか…………)

 ――アンコール!! ――アンコール!!


唯「みん……な……!」

 ――まだ終わらないでーーっっ! 放課後ーーー!!

 ――最後に一曲! お願いーーーっっ!!

 暗闇の中、止むことなく続くアンコール。

 その想いは声となり、意思となり、願いとなり、絶えず唯達に投げ掛けられる。

 会場中の誰もが願う『終わってほしくない』、『もっと放課後の歌を聴いていたい』という希望。

 まさにそれは、放課後の最後の復活を望む、期待の声だった――!


 ―――アンコール!! ――アンコール!!!!

唯「みんな………っ!」

律「マジかよ……はははっ! こんな事って!」

 演奏に集中していたこともあり、アンコールが振られるなんて全員が予想すらしていなかった。

 驚きとともに興奮が再度全員の胸に蘇り、身体中を締め付ける疲労を払拭していく。

 その時、大慌てでまりながステージの脇から唯達に向け、声を上げていた。

336: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:41:43.41 ID:10IwYkZZo
まりな「はぁ……! はぁ……! お、お願い! みんな……! みんなの期待に、応えてあげて!」

唯「まりな……ちゃん」

まりな「私も見たいんだ……最後にもう一度……私達の思い出を……放課後を……! 会場中に届けてあげて!」

唯「でも、時間が……」

まりな「大丈夫! この後一度休憩を挟むから! だからお願い! みんなキツいのは分かってる……でも……お願いっ!」

 頭を下げ、まりなは懇請する。

 観客、スタッフ、演者、会場にいる全ての想いを一身に受け、まりなはひたすらに頼み込んでいた。


澪「でも……今日やる5曲で手一杯で、アンコール用の歌なんて考えてる余裕は……」

梓「唯先輩の声も限界ですし……どうすれば……!」

紬「急いで何か、別の歌を考えないと!」

律「くそ、どうする……! どうする……!」

唯「……あの、さ……みんな!!」

唯「それなんだけど、……で……みんなでやるってのは……どうかな?」

 唯は立ち上がり、皆にそっと提案を耳打ちする。

 その声を聞いた4人全員の顔に笑顔がこぼれ、皆が皆、唯の案を受け入れていた。

337: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:42:20.66 ID:10IwYkZZo
律「はははっ……唯、それ、ナイスアイデアじゃん!」

澪「それなら唯の負担も減らせるし、会場のみんなも乗れるな!」

梓「ええ、教科書にも載るぐらい有名な曲ですから、皆さんもきっと知ってると思います!」

紬「さすがね唯ちゃん……私ももう一度、この曲を演奏したかったの……!」

唯「じゃあ、お客さんが待ってるから……最後にやろう! みんなっ!」

一同「――うんっ!!」


 唯の言葉に頷き、再度楽器を構える5人。

 割れんばかりの観客の声に応え、照明がステージを照らし出す。


 そして、正真正銘、彼女達の、最後の放課後が幕を開けた――!


唯「みんな……本当にありがとう……! アンコールまでもらえて、私達……すっごく、すっごく嬉しいです!!」

唯「……最後の歌は、きっと知ってる人も多いと思います」

唯「よかったらみなさんも一緒に歌って下さい……私達のはじまりの歌、『翼をください』!!」

338: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:43:18.68 ID:10IwYkZZo
-アンコール 翼をください-

https://www.youtube.com/watch?v=DA9UnKFxm9U



律「……ワンツースリーフォー!」

 ~~♪ ―――♪ ―――♪

紬「――いま 私の願い事が かなうならば――翼がほしい――」

唯「――この背中に 鳥のように 白い翼つけてくださーいー」

律「――この大空に 翼を広げ 飛んでゆきたいよ――♪」

紬「――悲しみのない 自由な空へ♪」

梓「――翼はためかせ ゆきたい――」

 唯だけに負担をかけぬよう、1フレーズ毎にパートを変え、その歌はバトンの様に5人の間を駆け巡っていく。

 ある時は観客の方へとマイクが向けられ、その歌はステージの上だけでなく、会場全てを巻き込んだ合唱となり、一層の熱を帯びていった。

339: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:44:15.94 ID:10IwYkZZo
 ――その歌は言わば、放課後の原点とも呼べる歌だった。

 13年前、高校に入学し、律が軽音部を立ち上げ、澪と紬が入部をし、3人で奏でたこの曲を聴いたことで唯は入部を決め、そこから全てが始まった。


 春にギターを買い、夏に合宿をし、やがて顧問が来て、初めての学園祭を迎え、クリスマスを幼馴染とみんなで過ごした。

 2年の春には後輩ができ、その年の2度目の学園祭で桜高軽音部は、放課後ティータイムへと名前が変わった。

 3年になり、マスコットが増え、修学旅行に行き、結婚式にも参加した。

 夏フェス、夏期講習、マラソン大会と、色んな行事に参加した。……そして最後の文化祭、ステージで歌を歌い、夕日に照らされた部室でたくさん泣いた。

 そして受験を迎え、大学に合格し、みんなでロンドンに行った。

 卒業式、後輩にみんなで作った歌を届けた。その時に見た後輩の涙は、今まで見たどの涙より輝いていた……。


 その年の春、大学へ入学し、沢山の素晴らしい人達に出会うことが出来た。

 それと同じ頃、妹とその友達が軽音部に入部をしてくれた。それから新しく二人の後輩も入部をしてくれて、わかばガールズが結成された――。

 それは、僅か4年に満たない、人生でほんの僅かな期間だったけど、これだけの思い出が軽音部にはあった。


 その全ての思い出を歌に乗せ、放課後の少女達は声を合わせて歌い続ける。

 過去から今へ、そして未来へと羽ばたく翼のように、いつまでもいつまでも、ここにいるみんなと歩いていけるように。


 そんな誓いを立てた少女達の歌声が一斉に響き渡る。


 世代を、時を、時空すらも超え、想いが一つになり、全てが眩く輝いていく――!

340: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:44:41.67 ID:10IwYkZZo
 ――この大空に 翼をひろげ 飛んで行きたいよ―――


 ――悲しみのない 自由な空へ 翼はためかせ―――


 ――行ーきーたーい―――――――――。


HTT一同「みんな……………あ………ありがとう…………っっ! ありがとうーーーーーー!!!」

 ――ワアァァァァアアアァァ!!!

 ――HTT! HTT! HTT!

 ――みんな最高だったよ! ありがとう!! ステキな歌をありがとうーーーー!!!!


 何度目か分からないほどの歓声と拍手が会場中にこだまする。

 喝采を浴び、少女達は笑顔を浮かべつつ、肩を支え合い、会場を後にする。


 その表情は、10年前のあの頃と同じように、大きな輝きで満ち溢れていた――。

341: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:47:50.01 ID:10IwYkZZo
最終章.放課後と輝きの絆


 ――高校生になってから、私の毎日には音楽があった。

 それは、これから先も変わる事なく続いていく……。

 私が今、私のままでいられるのは、きっと、音楽があるからだと思うんだ。


 あの日、何かがしたいと思っていた私に応えてくれた音楽が。

 キラキラ、ドキドキしたいと思っていた私を導いてくれた音楽が。

 あの頃の私を、みんなに会わせてくれた音楽が。

 今の私を、あの人達に会わせてくれた音楽が。


 私を、みんなと繋いでくれた音楽が私は……大好き―――!!

342: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:48:19.52 ID:10IwYkZZo
―――
――


【控室】

 静まり返った控室に、5人の姿はあった。

 疲労で全身は気だるく、腕が重い。酸欠で息は上がり、指先の皮は捲れ、僅かに血が滲んでいた。

 皆、まさに満身創痍の様相だったが……それでも、かつてのあの日の様に、並んで座り込む5人の顔は、充実感と満足感で満ち溢れていた。


唯「……やりきったね……私達」

律「……ああ……みんな、よくやったよ……澪もそう思うだろ……?」

澪「ああ…………本当に……」

紬「澪ちゃん……」

澪「うん、良かったよな……本当に……良かったよな……」

紬「うんっ……とっても良かった……」

梓「やっぱり私、皆さんと演奏できて……幸せです」

律「そのセリフ、前にも言ってたな……ははは、懐かしいや……」

唯「うん……そうだねー……」

 互いに手をつなぎ、過去の記憶が頭の中に蘇るのを自覚しつつ、唯達はしばしの安らぎに身を委ねていた。

 そしてしばらく、その静寂を破るように、控室の扉が大きく開かれる。

343: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:48:49.89 ID:10IwYkZZo
 ――ガチャッ!

声「皆さん! お疲れさまでした!!」

律「あははは……こりゃまた元気なお客さんの登場だ」


香澄「唯さんっっ! 唯さん……! 私、すっごく感動しました……皆さんのライブ……最高でした!!」

ひまり「っっ! 澪さん……すっごくかっこ良くて!! もう私、涙が止まらなくって……! っぅうぅ!」

麻弥「もーーー!! 律さん! ジブン、こんなドッキリ聞いてませんよぉ! でも……本当に凄いライブでした! ジブン、もう感動しっぱなしでした……!!」 

美咲「あははは、みんな泣きすぎ……。……紬さん、お疲れ様です。本当に、素晴らしい演奏だったと思います」

友希那「梓さん……お疲れさまでした、私も心の底から楽しめた……素晴らしいライブでした」

 香澄達はなだれ込むように控室へ入り、相次いで放課後のライブに対する称賛と労いの言葉が紡がれる。

 皆の言葉を、満更でもないといった様子で唯達は聞き入れ、言葉を返していた。

344: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:49:30.14 ID:10IwYkZZo

唯「香澄ちゃん……みんな……えへへへ♪」

澪「みんなの演奏も素晴らしかったよ……蘭ちゃん、ひまりちゃん……招待してくれて本当にありがとう……」

律「みんな、あたしが見てるって知らなくても、あんだけすげー演奏できてたんだもんな……もうみんな、十分立派なアイドルだよ……」

紬「こころちゃん、美咲ちゃん……私の方こそお礼を言わせて……みんなのステージ、本当に楽しかったわ」

梓「友希那さん……こちらこそありがとうございました。Roseliaの演奏のおかげで、私、迷ってた気持ちも綺麗に吹き飛びました」

 その言葉を聞く香澄達もまた笑顔で返し、和気藹々とした空気が控室に流れていく。

 そして……。


まりな「ほらみんなー、ライブはまだまだ終わってないよ! 次の演奏もあるから、ステージに行こう、ね♪」

香澄「……はい! 唯さん……私達のライブ、もっと盛り上げていきますから……最後まで、楽しんでいって下さい!」

蘭「あたし達の歌はまだまだ続きます、澪さんも、最後まで見ていて下さい……!」

彩「ふふふっ……私達も、さっき以上にステキなステージにしてみせますね♪」

友希那「ええ、皆さんのライブにも負けない……最高の演奏をお届けします」

こころ「ふふふっ♪ それじゃあみんな~、いっくわよ~♪」

 そして、観客の待つステージへと少女達は歩き出す。

 その背を追うようにして、唯達もまた、ゆっくりと足を進ませていた。

345: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:50:04.41 ID:10IwYkZZo
―――
――


【ステージ】

彩「皆さん聴いて下さい! 夢の輝きはここに……!『もういちど、ルミナス』!」

蘭「みんな、私達の今を見て欲しい……!『ツナグ、ソラモヨウ』!」

こころ「みんなー! 笑顔で盛り上がりましょ♪『キミがいなくちゃっ!』ミュージック……スタート♪」

友希那「響け、私達の情熱よ……『Neo-Aspect』!!」

香澄「みんなの思い……純粋な気持ちを心に込めて歌います……聴いて下さい、『二重の虹(ダブル レインボウ)』!!」

 少女達のライブは続く。

 休憩で一度は途切れそうになった観客のテンションも充分な程高まり、会場の至る所で歓声や掛け声が相次ぐ。

 その声に合わせ、少女達の輝きは、絶えず紡がれていく――。


唯「みんな……がんばれーーっ!」

律「全身ヘトヘトなのに不思議と身体は動くんだよな……やっぱみんな、すげえわ……!」

澪「ふふふっ……でも、悪くないな……この感じ!」

紬「うんっ! やっぱり、ライブって……音楽って……!」

梓「最高……ですねっ!」

 その輝きはフロアにいる全ての人の心を照らし、興奮の一時はその熱を落とさぬまま続いていく……そして、少女達の宴は、遂に最終章へと向かうのであった――。

346: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:50:32.16 ID:10IwYkZZo
―――
――


 長く続いたライブのエンディング、その最後の歌は、香澄達主役の5人によって始められようとしていた。

 香澄、蘭、彩、友希那、こころの5人はそれぞれ同じ衣装を纏い、ステージに佇み、ただその時を待つ。

 そして、最後の歌が始まる――。


まりな「それでは、本日最後の演奏になります! GBPスペシャルバンドによる演奏、どうぞ!!」

 ――ワアアアアアアアア!!!!


彩「みなさん……! 今日は私達のライブに来て頂き、本当にありがとうございます!!」

蘭「最後は、私達の歌で締めようと思います!」

こころ「どのバンドの演奏も素晴らしくって……とっても楽しい一日だったわ♪」

友希那「様々な思いや希望、感動で満ち溢れた、最高のライブでした……」

香澄「ぅん……でも、本当は私……まだ、終わりになんてしたくないです……っっ」

香澄「……今日は、本当に……キラキラやドキドキの連続でした……っ…かっこいい人達がいて……ステキな人達がいて……っ」

 声が上ずり、香澄の眼から大粒の涙が溢れだしていた。

 香澄のその姿を見て、会場からは次々とエールが送られる。


唯「香澄ちゃーーん!! がんばれーー!!」

律「しっかりやれー! 最後まで! やりきれーーー!!」

澪「みんなすごかった!! 私も感動したよ! 本当にありがとうーー!!」

347: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:51:05.16 ID:10IwYkZZo
 ――がんばれ! 香澄ーーー!!!

 ――私達、ずっと応援してるからねーーー!!

 その歓声は応援となり、香澄だけではなく、ステージにいる全員の気持ちを一つに纏め上げていく……。


香澄「みんな………っっ」

蘭「香澄……!」

彩「香澄ちゃん……!」

こころ「香澄っ♪」

友希那「戸山さん……!」

香澄「……うん、もう……大丈夫っ!」

 込み上げる涙を拭い、香澄は声を張り上げ、最後の曲が始まった。


香澄「最後にみんなで心を込めて歌います……聴いてください!――『クインティプル☆すまいる』!!!!」

https://www.youtube.com/watch?v=KTRoRay2ULs


348: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:51:44.76 ID:10IwYkZZo
 香澄達の歌は、まさに宴の最後を締め括るに相応しい歌だった。

 夢、今、笑顔、情熱、純粋……全ての輝きが一つの星となり、聴く人全ての心を照らし出す。

 その輝きは、かつて少女だった全ての人々を、一番眩しかった頃へと巻き戻す光。


 どれ程の時が流れようが決して変わることのないそれは、『絆』と言う、一つの新しい輝きだった――。


 ――♪ ――――♪ ――……♪

全員「……皆さん………ありがとうございました!!!!!」

 会場が大歓声に包まれる。

 そして、運命によって紡がれし共演の舞台は、喝采の中でその幕を降ろしたのであった。 

349: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:53:04.71 ID:10IwYkZZo
―――
――


【CiRCLE 入口前】


憂「お姉ちゃん……本当に、本当に今日は良かったよ、ステキな一日をありがとう」

和「私も、心の底から楽しめたライブだったわ」

さわ子「みんなお疲れ様、私も軽音部のOGとして鼻が高いわよ……ほんと、ステキなライブだったわね」

純「じゃあ先輩方、梓も、また近い内に会おうね♪」

菫「私も一足先に帰ってます。お姉ちゃん、打ち上げ、楽しんできてね」

直「皆さん、お疲れさまでした!」


唯「うん! みんな、またねー♪」

澪「行っちゃったな……」

紬「ええ……でも、また近い内に会えるわよ……」

律「さってと……んじゃ、早く行こうぜー。打ち上げ打ち上げ♪ ビール♪ おーいしいビールが待ってるぞ~♪」

梓「ふふふっ、律先輩ったら……」

 最後までライブを見ていてくれた憂達を見送り、唯達は再びライブハウスへ戻っていく。

 ライブの演者全員参加の打ち上げが、まもなく始められようとしていた。

350: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:53:39.99 ID:10IwYkZZo
―――
――


【CiRCLE 打ち上げ会場】

 ライブ会場は打ち上げ会場へと様変わりし、並べられたテーブルには様々な料理にジュース類、大人向けにアルコール類が並べられていた。

 各々がカップを手にし、大人組のカップにはアルコールが注がれ、まりなの掛け声により、音頭が始まる。


まりな「みんな、今日はお疲れ様!! 最高のライブをありがとう!!」

全員「――お疲れ様です!」

まりな「CiRCLEとしても、今日のライブはめでたく大成功を収めることが出来ました♪」

まりな「なので、ささやかですが、打ち上げとして今日の日を盛大にお祝いしたいと思います!」

まりな「じゃあ、早速ですが乾杯の音頭を……今日、スペシャルゲストとして来てくれた放課後ティータイムの代表と……そうだね、香澄ちゃんの2人で、乾杯の音頭を取ってもらおっかな♪」

香澄「はーい♪」

律「じゃー、ここは部長の私が……と思ったけど……唯、行ってきなよ」

唯「え、いいの?」

律「あの子と一番仲良いの唯だろ? ほら、待ってるぞ」

香澄「唯さん! 一緒にやりましょう♪」

唯「うんっ! じゃあ、行ってくるね♪」

 そして、唯と香澄が並び、乾杯の音頭が始められる。

351: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:54:33.72 ID:10IwYkZZo
香澄「皆さん今日はお疲れさまでした! たくさん笑って、感動で泣いちゃったりもしたけど……でも、とっても楽しい、最高のライブでした! 皆さん本当に、ありがとうございましたっ!」

唯「私も! 今日、ここに集まった誰か一人でも欠けてたら、こんなに素敵なライブにはならなかったと思います! 招待してくれた皆さん、手伝ってくれたまりなちゃん、一緒に歌ってくれたみんな、本当にありがとうっ!」

香澄・唯「じゃあみんな、飲み物持って……せーの……かんぱ~~い♪」

全員「――カンパーーイ!!」

 各々がカップを交え、慰労会を兼ねた打ち上げが初められた。


巴「今日は目一杯ドラム叩いたからアタシ腹ペコだよー、ん~~~っ♪ このピザ、美味そうだなぁ~♪」

モカ「……このパン、おいしひ~~……ん~、すっごくおいしいよ~♪」

ひまり「きょ、今日は食べるぞーー! 私も、今日はたくさん頑張ったから! だ、だいじょーぶ! なはず……!」


友希那「今日の演奏、まだまだ改善の余地があったわね……」

紗夜「ええ、そうですね……観客と一緒に『音を楽しむ』という事を踏まえて、今一度私達も自分の音を聴き直してみるのも良いかも知れません」

リサ「も~2人とも……今日ぐらいは反省会やめて打ち上げ楽しもうよ~」


日菜「いやー、麻弥ちゃんのドラム、本当に上手になったよね~」

麻弥「はい! でも、今日の律さんのパフォーマンスに比べたらまだまだです……ジブンももっと、腕を磨かないと……!」

イヴ「ハイ♪ 切磋琢磨……ですね♪」

 空腹を満たすように料理を食べはじめる者や、早速今日の反省会を行う者、あるいは互いの演奏を称え合う者など、様々な少女達の声で打ち上げは賑わっていく。

 それは、放課後ティータイムもまた同じであった。


律「んっ……んっっ……くはぁぁぁ…………一仕事終わった後の一杯……うんめぇ~~っ!! よし、おっちゃんもう一杯!」

澪「だからここは居酒屋か……!って、前にも聞いたぞそのセリフ!」

唯「ん~~~~……ごはんが美味しい……お酒も美味しいいいいいいい」

梓「ちょっ、唯先輩、こぼしてますよ!」

紬「うふふ……♪ いいわねえ、やっぱり♪」

352: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:55:36.72 ID:10IwYkZZo
―――
――


巴「っかし……ほんっと楽しいライブだったよな~」

モカ「うんうん、みんな盛り上がってたし、サイコーだったよね~」

巴「やっぱ、ライブって楽しいよなぁ」

あこ「うんっ♪ お姉ちゃんのドラム、今日も輝いてたよ!」

律(あれ、この声……)

 巴の声を聞いた律の頭にある事が浮かぶ。

 早速それを試してみようと、律は巴に声をかける。


律「ねえねえそこのおじょーさん、ちょっといいかしらん♪」

巴「はい? あ、アタシですか?」

澪「おーい律……あ、そんな所にいた……」

律「あー澪、ちょうどよかった。ちょっと2人とも並んで、『あめんぼ あかいな あいうえお』って言って声合わせてみてよ」

巴・澪「……?」

 律の声に顔に疑問符を浮かべながらも、巴と澪は並んでそのセリフを発する。


澪・巴「「……? 『あめんぼ あかいな あいうえお』これでいいの(ですか)?」」


律「うはっ! やっぱ似てる! お前ら2人声似すぎだろ!」

あこ「本当だ……おねーさん、お姉ちゃんに声そっくり!」

澪「え、そ、そう?」

巴「前に蘭にも言われたけど……そんなに澪さんとアタシって声似てるか?」

蘭「うん……初めて聞いた時はあたしもびっくりしたよ……」

巴「ん~、自分の聞く自分の声って分からないからなぁ」

律「それじゃあ……そうだな……」

 スラスラとメモに何かを書き、律は巴に見せながら続ける。

353: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:56:46.12 ID:10IwYkZZo
律「あの、巴ちゃん……だっけ、何も言わずにこの紙に書いてあるセリフ、ちょーっと感情込めて読んでみてくれない?」

巴「……? はい、えっと、なになに、『萌え萌え~……キュンっ♪』…………へっ!?」

モカ「お~~、トモちんの萌え萌え声だ~、ねえねえトモちん、録音するからもう一回~♪ アンコールー♪」

あこ「わぁぁぁ! お姉ちゃん、今すっごく可愛かったよ! あこももう一回聴きたいっ♪」

澪「りーつー、お前女子高生に何言わせてるんだーっ!」

 ――ごちんっ!


律「あいてっ! いきなり殴んなよなーもー!」

澪「黙れこの酔っぱらい! ほら、いいから行くぞ!」

律「だ~~! 分かったから引っ張んなって!!」

 澪に引きずられ、あえなく退場となる律だった。


蘭「……意外、まさか澪さんにあんな一面があるなんて……」

ひまり「澪さん……や、やっぱりか……かっこいい……!」

モカ「ひーちゃんひーちゃん、ちょっと何言ってるかモカちゃんわからないよー」

つぐみ「あははは……ひまりちゃん……」

巴「あれが澪さんの幼馴染……なんか、色々と凄い人だったな……」

354: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:57:31.37 ID:10IwYkZZo
―――
――


律「ったく……おー痛っ……澪のやつあんなに怒らなくたっていいだろ……」

彩「あ、律さん、お疲れ様ですっ!」

麻弥・千聖・イヴ・日菜「――お疲れ様です!」

 頭を擦りながら歩く律のその背に向け、パスパレのメンバーから声が投げ掛けられる。


律「ああ、みんなもお疲れ様~……ってか、今は仕事じゃないんだからそんな硬くならなくてもいいよー」

イヴ「リツさん、素晴らしいドラムでした♪ 私、本当に尊敬しますっ♪」

千聖「でもまさか、変装して会場に来ていただなんて……ステージで見た時は本当に驚きましたよ」

日菜「あれー、やっぱみんな気付いてなかったんだ?」

彩「え、日菜ちゃん気付いてたの??」

日菜「うん、受付で見た時から律さんだって気付いてたよ♪」

麻弥「あー、だから日菜さん、ライブ前からあんなにご機嫌だったんですね♪」

律「……ははは、やっぱりバレてたか……私もまだまだだな……」

355: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:58:11.36 ID:10IwYkZZo
律「あ、っていうか、受付っていや……彩ちゃんーーーっ」

彩「ひっ! は、はいっ!」

律「今朝流れでサイン書こうとしたの見てたぞー。自分を安売りすんなっていつも言ってるだろー! だいたいそーゆー所でアイドルってのはだな~!」

麻弥「ま、まぁまぁ律さん! 今は仕事じゃないって言ってましたし、今日は堪えてくださいっ、ね!」

律「それとこれとは話が違ーう!……たく。いいか彩ちゃん、ファンサービスってのはだなー!」

千聖「律さん、後で私からも彩ちゃんには言っておきますから……!」

律「次に私が見かけたら、もっと言うからな~!」

 そして意味深な事を強調しつつ、千聖と麻弥に宥められながら、律は渋々その場を後にしていた。


唯「うぅぅ……彩ちゃん、なんかごめんね、私のせいで……」

彩「え? あ、そんな、とんでもないですっ!」

彩「あれ……律さんさっき……あぁ……そっか……」

彩「……あ……あの、もし良かったら、サインじゃなくて申し訳ないですけど……握手でしたら♪」

 律に気付かれぬよう、彩はそっと唯の手を握る。

356: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:59:03.47 ID:10IwYkZZo
唯「え、彩ちゃん……い、いいの??」

彩「ええ……放課後ティータイムの演奏……すっごく感動しました……唯さん、いつも応援……ありがとうございます♪」

 唯の手を優しく包み込む彩の柔らかい手。

 その指の感触を忘れぬよう、唯は何度もその手を握り返していた。


唯「彩ちゃん……あ、ありがとう……! ありがとう……!!」

律「……ま、あれぐらいなら今日ぐらいは見逃してやるか」

麻弥「……? 律さん? どうかしました?」

律「……ふふふっ、いーや、なんでもないよ♪」

律(ったく……2人とも、やんならもうちょっとバレないようにやれってえの……)

357: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 02:59:54.20 ID:10IwYkZZo
―――
――


【ステージ前】

こころ「紬達、本当に凄い演奏だったわね~♪」

紬「うふふっ、こころちゃんもステキなステージだったわよ♪」

美咲「でも、ほんと……びっくりしましたよ……」

はぐみ「うんうん、ムギちゃん先輩、すっごくかっこよかったね♪」

薫「あああ……私も、まだ心が踊っているよ……この興奮はしばらく収まりそうもないね…………そうだ、紬さん、宜しければ、今からダンスでもいかがですか……?」

紬「ええ……いいわよ♪」

花音「あははは……薫さん、相変わらずだね……」

美咲「ほんと、薫さん紬さんも相当疲れてるハズなのに、一体どこにそんな体力があるんでしょうね……」

 そして程なくしてから、ステージ上で紬と薫による社交ダンスが繰り広げられる。

 見る者全てを魅了するかのようなそのダンスは瞬く間に会場中の注目を浴び、相次いで拍手が巻き起こっていた。


紬「~~♪ まぁ……お上手なステップね♪」

薫「はははは……いや、紬さんには及びませんよ……ああ、なんて儚い……最高の一時です……」

花音「薫さん、凄く楽しそうだね」

ひまり「わぁぁ……い、いいなぁ」

 そして、ステップを踏むことに調子を良くしたのか、紬の腕が薫の脇に伸び……そして。

358: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:01:04.08 ID:10IwYkZZo
紬「ふふふっ……そーれっっ♪」

薫「ふふふふふふふっっ……ふわっ……えっっ……!?!?!?」

はぐみ「うわぁ~♪ すごいすご~い♪」

こころ「まぁ……すごいわ♪ 薫が空を飛んでいるわ♪」

美咲「う、嘘でしょ!? 薫さんがあんなに軽々と! 紬さんって実は、かなり力持ち?」

澪「ムギ……やりすぎ……」

律「おーおー、飛んでる飛んでる……いや~、さっすがムギだなぁ」

紬「うふふふっ……もう一声~~っ♪」

薫「………………………」

梓「……あれ? あの人、白目向いてませんか?」

千聖「薫……完全に気絶してるわね」

美咲「ちょっ! 紬さんストップ! 薫さん身体だけじゃなくて意識まで飛んでますよ!」


はぐみ「ねーねームギちゃん先輩! 今度ははぐみにもやって欲しいな♪」

こころ「じゃあ、その次は私ね♪」

紬「ええ、いいわよ~♪」

律「ここは遊園地か!」

美咲「知らなかった……まさか紬さんが、こころレベルの天然キャラだったなんて……」

花音「つむぎさんがこころちゃんと仲良しな理由、なんとなく分かった気がするね……」

359: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:01:58.43 ID:10IwYkZZo
―――
――


【ラウンジ】

 所変わって打ち上げ会場を離れたラウンジ、そこにはRoseliaの5名が集まって話をしていた。

 そこに梓も合流し、静かなラウンジ内に、少女達の笑い声が飛び交い始める。


梓「あ、Roseliaの皆さんどうも、今日はお疲れ様でした!」

友希那「梓さん……お疲れ様です」

梓「皆さん、本当に素敵な演奏でした……私もまだまだですね、もっと頑張らないと……」

あこ「そんな……放課後ティータイムの演奏も、ものすっごくかっこよかったと思いますっ!」

リサ「あはは、あこの言うとおりですよ、でも、プロの人にそこまで言われちゃうとなんだか照れちゃいますね」

紗夜「私達の方こそ、梓さん達のおかげで、大切な事を思い出せました……梓さん、ありがとうございます」

燐子「ありがとう……ございます」

360: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:02:52.85 ID:10IwYkZZo
梓「いいえ……私の方こそ、友希那さん達の演奏を聴いてたら、悩んでいた気持ちが吹っ飛んだ感じがします」

友希那「悩み……ですか?」

梓「はい……お恥ずかしい話なんですけど……私、少し前まで自分の音楽が分からなくなっていたんです……」

友希那「梓さんにも、そんな事があったんですね……」

梓「ええ……私もまだまだです、でも、これからはもう大丈夫……今日、先輩達と演奏して……皆さんのライブを見させてもらって……とても大切なことを学びました」

梓「今日、ここでRoseliaの……皆さんの歌を聴けて、本当に良かったです」

リサ「梓……さん……」


梓「……聞きましたよ、『FUTURE WORLD FES.』に参加するってお話……凄いと思います、頑張って下さいね♪」

友希那「はい……ありがとうございます。私達も、梓さんと父のステージ、楽しみに待ってます」

梓「――はいっ♪」

 友希那の言葉に、笑顔で梓は返す。

 そして、梓と友希那達は握手を交わし、互いが互いの未来を誓い合う。

 プロとして更なる飛躍を志す梓と、自身の夢に向かい、歩き続けるRoselia。

 互いの出会いに感謝をしながら、その手はしばらくの間、固く握られ続けるのであった――。

361: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:03:32.17 ID:10IwYkZZo
―――
――


【CiRCLE 店外】

 打ち上げの賑わいが僅かに聞こえる店外。

 上空に広がる夜空には星が煌めき、至る所で輝きを放っていた。

 夜空を照らす星々を見つめながら、香澄は静かに佇んでいた。


香澄「…………綺麗な星…………」

唯「香澄ちゃん、ここにいたんだね」

 満天の星を見上げる香澄に向け、唯が声をかけていた。


香澄「唯さん……今日は、お疲れさまでした」

唯「ううん、香澄ちゃんの方こそお疲れ様……すっごく頑張ってたね」

香澄「唯さん達もです……」

唯「ふふふっ……お星さま……綺麗だね~」

香澄「……はいっ」


 ………………。


 そうしてしばらくの間、2人は静寂に身を任せていた。

 互いの健闘を称え合うように、夜空の星は眼下の2人を優しく照らす。


 ――そして、香澄の口が静かに開かれた。

362: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:04:33.58 ID:10IwYkZZo
香澄「……あの、唯さんは、どうして、幼稚園の先生になろうって思ったんですか?」

唯「うん……私ね……高校生の頃、すっごく好きだった先生がいたんだ……今日、お客さんで来てた人なんだけどね」

香澄「…………その人、唯さんの憧れの先生だったんですね」

唯「まぁねー……私も、その先生みたいになりたくて……それで、大学も教育学部に入ってさ」

唯「結局、色々あって高校の先生にはなれなくってさ……それでも、どうにか先生になることはできたんだ」

香澄「………………」

唯「おかげで今、すっごく楽しい毎日を送らせてもらってるよ♪」

香澄「……唯さん、お話を聞かせてくれてありがとうございます」

香澄(憧れの人……かぁ、それじゃ、私にとっての憧れは…………)

 唯の笑顔に釣られるように、香澄の顔にも笑顔がこぼれる。


 そして……。


唯「あ、そうだ、香澄ちゃんが音楽をやってる理由、私も聞いてもいいかな?」

香澄「はい……私……小さい頃……『星の鼓動』を聴いたことがあったんです」

唯「星の……鼓動……?」

香澄「はい……その時、すっごくキラキラ、ドキドキして……それで私、高校生になったら、あの時みたいにキラキラ、ドキドキしたいって思って、色んな事に挑戦してみたんです」

香澄「そうしてく内に、私はあのギターに巡り合うことが出来て……有咲やりみりん、おたえ、さーやに会うことができて、バンドを組んで……おかげで、毎日キラキラドキドキできて……! 私今、すっごく楽しいですっ!」

唯「青春……だねぇ」

 どこまでも自分の今を明るく語る香澄のその姿は、唯には一際眩しく見えていた。

 高校に入学した当時の自分とは正反対な眩しさ……その輝きは、昔の自分にはなかったものだった。

 だがあの時、迷っていたからこそ自分は大切なものに出会うことが出来た、それもまた、確かな事実である。

363: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:05:03.30 ID:10IwYkZZo
唯「香澄ちゃんは凄いなぁ……私なんか、高校生になった時は、毎日何かしなきゃ何かしなきゃって、まるで何かに追われるように過ごしてたからさ……」

唯「香澄ちゃんみたいに、何かがしたいって前向きな気持ちで過ごしてなかったっけ……」

香澄「唯さん……」

唯「でも、そうやって過ごす内に、私も香澄ちゃんも、大切なものや仲間に巡り合うことが出来たんだよね♪」

香澄「……はいっ♪」


唯「やっぱり、バンドって……音楽って……楽しいよねっ♪」

香澄「はいっ! 私、バンドも音楽も、大好きです!」

 自分の誇れるもの、大切だと胸を張って言えるものに出会えた喜び。

 それは、世代を問わず皆が胸に抱く、掛け替えのない絆。

 出会いが紡ぐ、奇跡とも呼べるものだった。

364: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:06:10.83 ID:10IwYkZZo
―――
――


有咲「あ、いたいた! おーい!」

沙綾「香澄ー! 唯さん! 下で記念撮影するってまりなさんが!」

りみ「もう準備できてるって! い、急いでくださーい」

たえ「みんな、待ってますよー」

 CiRCLEから香澄と唯を呼ぶ声がする。


香澄「みんな……」

唯「記念撮影だって、行こっか♪」

香澄「……はいっ♪」

 遠くから聞こえるその声に2人は立ち上がり、打ち上げ会場へと戻るのであった。

365: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:06:39.03 ID:10IwYkZZo
【CiRCLE 打ち上げ会場】

まりな「じゃあみんなー、記念撮影、はっじめるよー」

有咲「さすがに、30人以上ともなるとちょっと狭いな……ちょっ! 誰だ今触ったの!」

たえ「あ、有咲、ごめん、私」

有咲「おたえかっ!!」


彩「記念撮影かぁ……何か、掛け声とかないかなぁ?」

まりな「ん~、そうだね、せっかくだし何か掛け声揃えたいよねー、どうしよっか?」

ひまり「あ! じゃ、じゃあ! えい!えい!おーで!」

モカ「いいけど、それ、ひーちゃんだけしかやらないと思うよー」

蘭「ふふっ……確かにそうかも」

ひまり「え~~~~、そんなぁ」

366: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:07:20.31 ID:10IwYkZZo
こころ「うふふっ、掛け声といえばやっぱり、ハッピー! ラッキー! スマイル! イェーイ! に決まりよっ♪」

美咲「こころ、それも却下だよ、それだとハロハピだけしか乗れないでしょ」

こころ「そうなのね、残念だわぁ」

律「いきなり掛け声っつっても、急には出てこないよな……」

唯「香澄ちゃん、何か良い掛け声ってないかな?」

香澄「う~ん……そうですね…………あ、あれなんかどうかな?」

 唯に振られ、香澄はカメラに向け、あるポーズを決める。

 右手の人差し指と親指を立て、人差し指をカメラに向けたその仕草は、まるで指で作った銃を撃つ動作にも見えた。


香澄「こうして、『夢を撃ち抜け! BanG Dream!!』っての思いついたんですけど、どうですか?」

沙綾「うんうん、香澄、それすっごく良いと思うよ♪」

友希那「『夢を撃ち抜け』……前向きで、いいんじゃないかしら」

千聖「ええ、今の私達にぴったりのフレーズね、悪くないと思うわ」

まりな「じゃあ決まりだね、みんなー、行くよー!」

 まりなの掛け声に合わせ、全員が指で銃を作り、香澄の言葉を口にする。


全員「――夢を撃ち抜け!――BanG Dream!!」

 ――カシャッ! 



 ――――そして、それぞれの日々が始まった――!

367: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:07:54.90 ID:10IwYkZZo
#9.エピローグ~放課後とそれぞれの輝き~

 夢のようなお祭りが終わってから数日、私達はそれぞれの生活に戻り、日常を過ごしていました。

 でも、なにもかも元に戻ったわけではなくて、そこには確かに、輝きがあった。

 あの時、あのライブでみんなが見た輝き。

 それはきっと、これからも続いていく――。

368: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:08:48.03 ID:10IwYkZZo
―――
――


-エピローグ Pastel*Palettes-


【アイドル事務所】

 ライブから数日が経ったある日、久々にPastel*Palettes全員が集まったということで、その日は事務所にて律とパスパレによるミーティングが行われていた。


律「おはよー、みんな先週はお疲れ様~」

彩「律さん、お疲れ様です!」

一同「お疲れ様です!」

律「ガールズバンドパーティーも終わってようやく一息と行きたいとこだけど、まだアイドルコンサートも控えてるから、みんな、これからも気を抜かず頑張ろうなー」

一同「はいっ!」


律「それじゃー、来週からのスケジュールを確認するけど……」

麻弥「律さん、前のライブから雰囲気変わった感じがしますね」

千聖「ええ……忙しい合間を縫って私達と一緒にいて下さることも増えてきたし……本当に心強いわ」

イヴ「マネージャーさんというよりも、お姉さんって感じがします♪」

彩「お姉さん……かぁ、確かにそうかも♪」

日菜「あ、あのねっ! 律さん、私達からいっこ、律さんにルンッ♪ ってなる発表があるんだ♪」

律「発表……? 一体どんな?」

 日菜の言葉に顔に疑問符を浮かべ、律は言葉を返す。

369: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:09:35.02 ID:10IwYkZZo
彩「はい、律さん達のライブを見て、私達、話し合って決めた事があるんです」

千聖「これからのパスパレの夢……その具体的な目標を立ててみました」

イヴ「私達の目標……目指すべきターゲットは……!」

麻弥「これですっ!」

 ばさっと、イヴと麻弥がカバンから一つの幕を取り出し、大きく広げる。

 そこには――。


一同「――武道館!!」


 とても力強い、『武道館』という一文字が書かれていた。


律「………………っっ……」

 その文字を見た律の眼が一瞬大きく見開かれ……様々な記憶と共に目頭が急速に熱を帯びて行くのを感じていた。


律「………ふっっ……ふふふっっっ………」

麻弥「……律、さん?」

律「っっっ! ……ぶ、武道館って……っっ! ……っっ!!………っっ!!」

 目元から込み上がってくる涙を誤魔化すように、律は顔を覆い、声を押し殺して笑い続ける。

370: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:10:53.01 ID:10IwYkZZo
彩「やっぱり……今の私達には無謀だったのかな……?」

千聖「ううん……きっと、そうじゃないと思うわ……」

イヴ「はい……リツさん、すっごく嬉しそうにしてくれてます」

日菜「あれー、もしかして律さん、泣いてない?」

律「な、泣いてなんかいねーっ! ……いやいや……ちょっとびっくりしたけど……けどお前らな~、今のまんまじゃ武道館なんて夢のまた夢だってーの!」


千聖「でも、私達なら、きっとどんな夢でも叶えられると思いますよ」

麻弥「そうですね、ジブンも、この5人ならきっと何だって乗り越えられるんじゃないかって思いますっ♪」

イヴ「一心精進、精一杯がんばります♪」

日菜「武道館かぁ……ふふふっ♪ 今からルルルンッ♪ ってしてきたなぁ~♪」

彩「私ももっともっと……もーーーっっと頑張らないと!」

律「みんな…………っ……」


律(なあ、みんな……私達の夢……いいかな、この子達になら、託してもいいかな……!)

 ここにいない“4人”に向けて、律は言う。

 仮に4人がここにいたら、きっと構わず良いって言ってくれるんだろうと思いながら、律は顔を上げ、少女達を見つめていた。


律「よーっし! それじゃあ時間まで音合わせやるか! 今日はあたしもとことん付き合うよ!」

彩「はいっ♪ よろしくお願いします♪」

律「目指せ武道館……! Pastel*Palettes、いっくぞーーっ!!」

全員「おーーっっ!」

 スタジオ内に、一際賑やかな音が鳴り響く。

 それは、自らが打ち立てた夢に向かい、邁進する輝き。


 少女達は今日も夢に向かい、歩いて行く――。

371: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:11:32.75 ID:10IwYkZZo
―――
――


-エピローグ Afterglow-


【羽丘女子学園 2-A教室】

 授業も一区切りつき、昼休みとなったある日のこと。


ひまり「う~~ん……やっぱ、私も黒髪ロングにしよっかなぁ……」

 ファッション誌を眺めながら、ひまりは一人、云々とぼやいている。

 そんなひまりの様子を見ながら、蘭達は机を並べ、各々が昼食を取っていた。


蘭「ひまり、今朝から何を唸ってるんだろ」

モカ「あ~、なんか、ひーちゃん黒髪にしようか悩んでるらしいね~」

巴「黒髪ロングって……やっぱり、澪さんに憧れて……か?」

蘭「ああ、なるほど……」

つぐみ「ふふっ、黒髪にしたひまりちゃんも、きっと可愛いんだろうね」

ひまり「やっぱりつぐもそう思う? いやー、私もそうだと思ってたんだよね♪」

モカ「でも、もしそうなったらひーちゃん、おたえちんや燐子さん、美咲ちん達と被っちゃわないかな~?」

ひまり「い、いいのっ! 私、澪さんみたいにクールでかっこいい大人になるって決めたんだもんっ!」

 勢いよく立ち上がり、ひまりは宣誓する。

372: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:12:39.27 ID:10IwYkZZo
巴「はははっ、ひまりがクールでかっこいい大人……ねぇ」

蘭「ふふっ……それじゃあ、まずはその性格も変えなきゃね」

モカ「あのねーひーちゃん、澪さんは間違っても『えい、えい、おー』をやる人じゃないと思うよー?」

つぐみ「あはははは……」

ひまり「も~~~、みんなバカにして~~! いいもん! ぜったい、ぜーったいに澪さんみたいなステキでかっこいい女性になってやるんだから~~っ! はむっ!」

ひまり「ん~~♪ 今日のご飯もおいしいっ♪」

 二度ひまりは叫び、昼食を口に運び続けていた。

 そして……。

373: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:14:14.27 ID:10IwYkZZo
ひまり「ごちそうさまっ♪ 今日もおいしかったな~♪」

モカ「やっぱり、ひーちゃんはいつになっても、『いつも通り』のひーちゃんだと思うよー」

ひまり「もー、モカったらまたバカにして~」

巴「ふふっ……ああ……でもさ、あの人達と知り合って、アタシ、ひとつ思ったことがあるんだ」

つぐみ「巴ちゃん?」

巴「……10年後……アタシ達は、どんな大人になってるんだろうなってさ」

モカ「10年後かぁ……あたしたちは27歳……ずいぶん先の話だね~」

蘭「……大人になったあたし達……か」

ひまり「想像もできないよね……ほんと、どんな大人になってるんだろ……」

巴「きっとその頃にはみんな、仕事したり、結婚したり、ひょっとしたら、子供が出来てたりしてるのかも知れないよな」

つぐみ「うん……そう、だね」

 そして、優しい顔で巴の言葉は続けられる。

374: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:15:04.99 ID:10IwYkZZo
巴「時には、前みたいに擦れ違ったり、環境が変わって、離れ離れになる日だって来るかも知れない」

巴「いつかそんな来ても、アタシ達はずっと同じ、『いつも通り』のアタシ達でさ、これだけは変わらないよな」

蘭「うん、もちろん……あの日、みんなで見た夕日のように変わらない、あたし達はいつまでも『いつも通り』のあたし達だよ」

モカ「ふっふっふ~、それじゃーあたしは、もし大人になった時に離れ離れになっても、蘭が寂しくならないように、お嫁さんにもらってあげよー♪ なーんてねー」

蘭「モカったら……今は茶化す所じゃないでしょ……」

モカ「えへへ~」

つぐみ「私達もなれるかな……あの人達みたいに……いつまでも輝いていられる、そんな大人にさ」

モカ「あの人達みたいに……かぁ~」

蘭「…………」

 つぐみの言葉に蘭はしばし考え込んでいた。

375: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:15:44.45 ID:10IwYkZZo
蘭「……違う、それじゃダメだと思う」

ひまり「そうだね、あの人達のようにじゃなくって……あの人達以上にならなくっちゃ……ね」

巴「ああ……誰にも負けない、『いつも通り』のアタシ達で……だよな」

つぐみ「うん……えへへっ、そう、だよね♪」

ひまり「ていうか……あ~、もうこんな時間! そろそろ次の授業の準備しなきゃ! 遅れちゃう!」

巴「え? あ、もう?」

つぐみ「私、次の授業の準備お願いされてるんだった、私ももう行かなくっちゃ!」

蘭「だってさ、巴、急がないと置いてくよ」

モカ「トモちん、はやく~♪」

巴「も~、待ってくれよー! みんな、アタシを置いてくな~~っ!」


 少女達の笑い声は休まず続き、教室は一層賑わっていった。

 既に幾度も立てた誓いを再度掲げ、少女達は未来へと向かい、今日という日を歩きだす。


 『今』を生きる少女達の輝き、その光はいつまでも色褪せることなく、広がっていく――。

376: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:16:55.24 ID:10IwYkZZo
―――
――


-エピローグ ハロー、ハッピーワールド!-


【琴吹グループ 役員室】

 ガールズバンドパーティーが終わった翌週のこと、紬と菫の2人はまた以前のように、相次ぐ仕事にその身を追われていた。


菫「お嬢様、午後からまた会議がありますので、お急ぎ下さい」

紬「ええ、いつもありがとうね、菫ちゃん」

 車に乗り込むと同時に菫の足がアクセルを踏み、車は発進していく。

 その車内では、携帯電話で通話をしながら得意先へのメールを打ち続ける紬の姿があった。


紬「はい……ええ、こちらこそありがとうございます。 はい、でしたら再来週、ええ、お待ちしてますね……」

 ――ピッ


紬「ふぅ……メールも打ち込んだし……あとは、今日の会議の資料の確認ね……」

菫「はい、ダッシュボードの中にタブレット端末がございますので、そちらをご覧ください」

紬「うん……ありがとう……」

菫「すみません、私の力が至らないばかりに、お嬢様に無理を強いてしまってます……」

紬「そんな事ないわ、菫ちゃんが頑張ってくれたから、私もライブに専念できたんだもの」

紬「菫ちゃんの苦労に比べたら、これぐらいなんてことないわ♪」

菫「お嬢様……」

 苦労を微塵も感じさせないほどの明るい顔で紬は返す。

 その顔に若干の罪悪感を感じながらも、菫の足はアクセルを再度踏み込んでいた。


 そして、長時間に及ぶ会議がようやく終わり、遠くに沈む夕日を見ながら、紬達がしばしの休息を取っていた時の事。

377: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:18:22.09 ID:10IwYkZZo
紬「んんん……なんとかまとまったわねぇ」

菫「ええ……お疲れ様です、お嬢様」

紬「でも、まだ終わりじゃないわ……帰ったら今日の会議のことで何点か確認しなきゃいけなくなっちゃったからね」

菫「はい……今日も、長くなりそうですね……」

紬「さて、そろそろ行きま…………あら?」

菫「……お嬢様、如何なさいましたか?」

 ――そろそろ移動を決めようとしたその時、ある光景が紬の視界に入り込んでいた。


紬「ねえ、菫ちゃん……もうちょっとだけ、寄り道してかない?」

菫「寄り道って言われても……あまり時間は……」

紬「いいじゃない、ちょっとだけ……ね」

 紬の指がある広場の一点を指し示し、その指の先を見た菫の顔に、優しい笑みが灯る。


菫「……ちょっとだけだよ、お姉ちゃん」

紬「うんっ♪」


 広場の方から遠く、賑やかな歌声が聴こえる。

 その歌声は、聴く者全てを子供の頃に返す、笑顔の歌……。

 音楽で世界を笑顔にする、輝きの音色だった――。


声「みんな、いくわよ~♪ ――ハッピー! ラッキー! スマイル! イェーイ♪」

 ――いぇーーーーーい♪

378: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:19:07.08 ID:10IwYkZZo
―――
――


-エピローグ Roselia-

【某ライブハウス】

 ガールズバンドパーティーの開催から既に数ヶ月の月日が流れた頃。

 夜の帳が降りる時刻、とあるライブハウスに、友希那達Roseliaの姿があった。


リサ「いよいよ来たね♪ 梓さんとおじ様のジャズライブ♪」

あこ「うんうん♪ 凄いな……お客さん、どの人も大人って感じがして、ワクワクしてきちゃった♪」

燐子「うん……あこちゃん……楽しみ……だね♪」

紗夜「皆さん、あまり騒がないように、いつものライブとは違うんですから、こういう所では慎みを持って行動しましょう」

あこ・リサ「はーい!」

友希那「時間はそろそろね……来たわ……梓さんとお父さんよ」

 友希那の言葉通り、ギターを手に梓がステージに姿を表す。

 その様子を見守るように、梓の両親と友希那の父もまた、ステージの脇で梓の様子を見つめているのが伺えた。

 そして、梓の司会により、ジャズライブの始まりが宣言される。


梓「皆さん、今日は集まってくれてありがとうございます! 最高の一時をお届けするので、最後まで楽しんでってくださいっ」

梓「そして、今日はなんとゲストの方にも来てもらってます、そちらの演奏も楽しみにしてて下さいね!」

 ――ぱちぱちぱちぱちっ

 決して歓声は上がらず、静かな拍手だけが梓の声に答えていた。

379: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:19:40.36 ID:10IwYkZZo
梓「それじゃあ、まずは一曲目、聴いて下さい♪」

 ――♪ ~~~♪ ―――♪

 静かに、ゆったりとしたジャズ特有のギターの旋律が紡がれる。


梓「~~♪」

リサ「凄いね、梓さん、楽しそうにギター弾いてる♪」

紗夜「ええ……ライブに来てくれた全てのお客さんに楽しんで行ってもらおうっていう気持ちが伝わってきますね」

あこ「いいなぁ……大人な感じがして、かっこいいなぁ」

友希那「梓さん……」

 軽快に奏でられる梓のギターの音は、以前のライブで聴いた音とは全く違う音色だった。

 だが、全身で楽しさを表現しようとするその音は、『音を楽しむ』という梓の気持ちが十二分に感じられる音でもあった。

 聴くだけで自然と身体が動くような感覚がし、それは、観客として聴く友希那達にもにも楽しさが伝わってくる程だった。

 そして程なく、一曲目の演奏が終わり、二度目の拍手が沸き起こっていた。

380: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:20:38.07 ID:10IwYkZZo
梓「―――――……♪」

 ――♪  ―――♪ ――……♪

 ――ぱちぱちぱちぱちぱちっ!!


 そして、拍手が静まった頃合いを見て、梓の後ろでメンバーが楽器を構える。

 今度はドラムにサックス、友希那の父のギターも交えた演奏となり。その音は、会場中に更なる興奮と、楽しさを響かせていくのであった。


梓「~~♪」

梓(ふふふっ……楽しいな……♪ 音を奏でるのが、こんなに楽しいだなんて……っ♪)

 そして、梓達の奏でる音は、観客の耳を絶えず虜にしていくのであった。

381: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:22:50.72 ID:10IwYkZZo
【帰り道】

リサ「いやー、ジャズもなかなか良かったね~♪」

あこ「うんっ♪ あこも今度お姉ちゃんと一緒に聴いてみよっと♪」

燐子「ですけど……やっぱり……途中で帰る事になってしまったのは……残念です……」

紗夜「仕方ないわ、未成年が入れる時間はこの時間までなんですもの」

紗夜「……でも、私も久々に、心が洗われましたね」

友希那「ええ……みんな、明日からまた猛練習よ」

 言葉を紡ぐ友希那の眼に、静かな闘志が宿る。


友希那「『FUTURE WORLD FES.』までもうすぐ……みんな、最後まで、気を抜かずに頑張りましょう」

一同「――はいっ!」

 そして友希那達は歩き出す。

 その眼が映す情熱の輝きは、その夢の舞台に立つその日まで、決して消えることはないだろう。


 Roseliaの夢への進撃は、これからも続いていく――。

382: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:23:42.09 ID:10IwYkZZo
―――
――


-エピローグ Poppin'Party-

【市ヶ谷家 蔵】

 放課後ティータイムとの共演から数カ月後のある日、市ヶ谷有咲の蔵では、久々にPoppin'Partyによるライブが行われようとしていた。


香澄「ん~~~♪ 蔵イブ、久々だね♪」

有咲「まさか、またここでやることになるなんて思わなかったけどな」

りみ「香澄ちゃん、今日の新曲はどうしても限定ライブで聴かせたい人がいるんだって言ってたもんね」

たえ「うん、私も楽しみだったんだ♪」

沙綾「さてと、そろそろ来る頃じゃないかな?」


声「すみませ~ん」

声「お、お邪魔しまーす」

香澄「あ……来た来た……♪」

 声のする方へ目線を送る。

 そこには、唯が妹の憂を連れているのが見えていた。

383: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:24:36.70 ID:10IwYkZZo
唯「香澄ちゃん、お久しぶりだね~」

憂「み、皆さんはじめまして、平沢唯の妹の、憂です」

香澄「唯さ~ん♪ 会いたかったです♪」

唯「あははっ、私もだよ、香澄ちゃん♪」

香澄「妹さんも来て下さってありがとうございます! 今日は、精一杯演奏するので聴いてってください♪」

憂「はい、こちらこそ、よろしくお願いします♪」


唯「いやー、しっかし、スタジオを自分で持ってるなんて、香澄ちゃん、すごいねぇ~」

有咲「まぁ、スタジオって呼べる程立派じゃないですけど、良かったらゆっくりしてって下さい」

憂「私、パウンドケーキを焼いてきたんです、良かったら皆さんでどうぞ♪」

りみ「わぁぁ、あ、ありがとうございますっ」

 唯と憂の来訪により、蔵はいつも以上の賑わいを見せていた。

 それから程なく、ライブの準備は進み、いよいよ唯と憂、2人の為の蔵イブが開かれる。

384: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:25:29.08 ID:10IwYkZZo
香澄「お二人とも、今日は来て下さって、ありがとうございま~す♪」

唯「いぇーい♪ 香澄ちゃん、こちらこそありがとー♪」

憂「ありがと~♪」

香澄「早速ですが聴いて下さいっ♪ 『キズナミュージック♪』」

 ――♪ ~~~♪ ―――♪


香澄『――教室の窓の外 はしゃぐ声――』

 優しい旋律に乗せられ、香澄の元気な歌声が響き渡る。

 少女達の音楽を愛する純粋な気持ちは歌となり、音となり、唯と憂の心を動かしていく。

 その心のままに、唯と憂の二人は、香澄達の奏でる歌に聴き入っていた。 


 ――♪ ―――♪

香澄「ありがとうございましたっ!」

 ――パチパチパチパチっ


唯「香澄ちゃん! いいよー! 良かったよー♪」

憂「うんうん♪ 私も、すっごく楽しいです♪」

香澄「へへへっ……ありがとうございます! それでは続いて、新曲、行きたいと思います!」

唯「わぁ……新曲だって!」

憂「楽しみだね、お姉ちゃんっ♪」

385: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:27:04.32 ID:10IwYkZZo
香澄「この歌は、私の原点……あの時のキラキラ、ドキドキした気持ちを思い出して作ってみました……それでは、聴いて下さい」


香澄「――『トゥインクル・スターダスト』!!」

 ――♪ ―――♪ ―――♪


 どこか聞き覚えのある音色とともに、その歌は始められた。

 それは、誰もがよく知る童謡『きらきら星』をベースにアレンジされた歌。


 ――唯と香澄があの日、職場体験実習で初めて共に奏でた歌だった。


唯(香澄ちゃん……)

香澄(楽しい……歌が……演奏が、こんなに楽しいだなんて……♪)

有咲(へへへっ……香澄のやつ、結構乗ってるな)

沙綾(私達も、負けてらんないね)

たえ(うんっ、そうだね♪)

りみ(みんな……♪)

 香澄達の意思は一つとなり、一心に音を紡いでいく。

 その光景は、唯と憂の心をより一層昂らせ、歌の虜にしていった。

386: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:27:40.70 ID:10IwYkZZo
唯「いぇ~い! 香澄ちゃん! いっけ~~♪」

憂(ふふふっ……お姉ちゃんもあんなに楽しそうにしてる……)

唯(香澄ちゃんの言ってた、キラキラ、ドキドキっていう感じ、私にもなんとなく分かるよ……!)

香澄(もっと……もっともっと……キラキラドキドキしたい! この感じを唯さんにも、もっと伝わってほしい……!)


唯(香澄ちゃん、音楽って……)

香澄(唯さん、バンドって………!)


唯・香澄((――最高……だね!))


 少女達の歌声が蔵に響き、幸福に満ちた一時が訪れる。

 誰もが笑いあい、奇跡の出会いに喜び、その歌を口ずさむ。

 音楽を愛するその純粋な輝きは、いつまでも、どこまでも……紡がれていく――。

387: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:28:44.76 ID:10IwYkZZo
―――
――


-エピローグ 放課後ティータイム-

 数多の客で賑わうとあるホールの前に、放課後の5人は集まっていた。


律「まさか、こうしてまたライブをやるだなんてな……」

澪「ああ、ほんと、人生って何があるか分からないよなぁ……」

唯「うん……まさか私達が『FUTURE WORLD FES.』のオープニングライブをやるだなんてね~」

梓「ガールズバンドパーティーで私達の演奏を見てくれた関係者の方から連絡があった時は驚きました……思わず腰抜かすかと思いましたよ……」

紬「ふふふっ……お客さんも凄い数ね……」

 開場までまだ時間があるというのにも関わらず、既に会場となるホールには多数の客で賑わっている。

 テレビの中継だろうか、辺りにはカメラを構えたクルーの姿も見え、まさに一大イベントと言った様相を呈していた。


紬「あ、ねえ……見て、ほら、ここの名前」

律「ああ……『桜が丘グレープホール』……ははは、何の因果だろうな」

梓「ふふっ……ええ、まさかの『葡萄館』……ですからね……もう、見た時は笑っちゃって……」

澪「形は違うけど、なんだかんだで私達の夢、叶ったな……」

唯「うん、確かに本当の武道館じゃないけど、でも……ここが今は私達の武道館だよ」

紬「あの時、まりなちゃんに出会えてなかったら……きっとこうはならなかったわね……」

梓「ええ……奇跡とか運命って……本当にあるんですね……」

 それからしばらく、それぞれの気持ちを胸に、5人は感傷に浸っていくのであった。

388: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:29:29.18 ID:10IwYkZZo
律「それじゃーみんな、今日も楽しく盛り上がっていこーぜ!」

澪「ああ! そうだな!」

紬「私達の演奏を……!」

唯「私達の想いを……!」

梓「会場のみんなに、届けてやりましょう!!」


律「放課後ティータイム………行くぞ!!」

一同「――おおーーっっ!」

 ホールの前で、少女達は勢いよく叫び出す。


 何よりも眩しく、輝きに満ちたライブが再び始まる。

 それは5つの輝きを受けた少女達により紡がれる、もう一つの輝き……。


 『絆』という輝きは、今日もステージの少女達を照らし出していた――。





唯「皆さんどうもーーーー!!! 私達が…………!」


 ――放課後ティータイムです!!!



 Fin...

389: ◆64sUtuLf3A 2019/10/03(木) 03:43:34.25 ID:10IwYkZZo
あとがき

 元々「けいおん!」と「バンドリ」をクロスさせたいという願望はありました

 ゲーム内でカバーされてるけいおんの曲も3曲ありますし、これらを物語の中でカバーするに至る経緯とかが語られたら面白いなというのもありました。


 ちょうどメインのバンドも5組いますし、それぞれのバンドに対し、HTTをどうアプローチして行くかを考えた時に浮かんだのが『もし大人になった唯達と香澄達が出会ったらどうなるのか?』でした。

 あとはその妄想を繋ぎ、こねくり回して出来たのがこの長文SSです。


 拙く、長い文章だったと思いますが、もし読んでくれたのであれば幸いです。


 読んで下さり、ありがとうございました。