【芸術家の魔女 その1】



駅のベンチにさやかが座っている。
彼女は正面を見つめながら、淡々と言葉を続けていた。


さやか「結局私は、一体何が大切で何を守ろうとしてたのか…
    もう何もかも、ワケわかんなくなっちゃった」

さやか「確かに私は何人か救いもしたけどさ、だけどその分、
    心には恨みや妬みが溜まって、一番大切な友達さえ傷付けて…」

さやか「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。
    私たち魔法少女って、そういう仕組みだったんだね…」


ようやくこちらを見た時、さやかの目には涙が滲んでいた。


さやか「私って、ほんとバカ」


彼女の目から零れた涙が、頬が伝う。
流れた涙が落ちた先には―――



ゼロ人間体「さやかっ!?」


薄暗く狭い個室の中で、ゼロは声を上げて飛び起きる。

周囲を見ると、そこは彼が寝泊まりするネットカフェの一室だった。
夢であると理解し、大きな溜め息をついて椅子の背もたれに体を倒す。


ゼロ人間体「…夢オチかよ」


夢で涙を流していたさやかの姿が、深夜の出来事と重なって見えてしまう。
完全に目が覚めてしまったゼロは、再び体を起こした。

引用元: ・ウルトラ魔女ファイト【ウルトラマンゼロ×まどか☆マギカ】 




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156: ◆S3K5UapAso 2013/04/21(日) 10:44:11.46 ID:wR/5ubom0


ゼロ人間体「まったく、嫌な夢見ちまったぜ…
      これからあいつを助けなきゃならねえってのに」

ゼロ人間体「…いや、さやかだけじゃなかったな」


更に、さやか以外の少女達が脳裏をよぎる。
魔法少女同士の対立を見せ付けた杏子、目的のために手段を選ばないほむら、二人の顔が。


ゼロ人間体「俺一人の力だけでは、この世界は救えない…
      でも一カ月の中であいつらを守れるのは、俺しかいない」

ゼロ人間体「俺にあるのか?魔女退治以外にやれることが…」


頭を抱えるゼロは、何かを思い出したかのように時計を取り出した。
時刻は、既に午前十時を過ぎている。


ゼロ人間体「こんな時間まで寝てたのかよ…そろそろ魔女を探さないと」

ゼロ人間体「そういえば今日は土曜日だったな。あいつらも魔女を探しに出るんだろうか?」

ゼロ人間体「俺の戦いが魔法少女を傷付けるなら、鉢合わせないように……」


ドンッ!!


ゼロ人間体「!?」


突然、自室と隣室を隔てる薄い壁が揺れた。


ゼロ人間体(何だよ…)


ゼロの考え事は、本人の自覚がないままに言葉となって発せられていた。
どうやら苛立ちを募らせた隣室の客が、壁を殴ったらしい。

それに気付き、ゼロは思わず口元を押さえる。


ゼロ人間体(俺はいつの間に…悪かったよ)


幾ら苦悩しようと、他人にとっては独り言を呟く薄気味悪い客でしかない。
申し訳なさそうネットカフェを後にしたゼロは、魔女退治へと向かっていった。

157: ◆S3K5UapAso 2013/04/21(日) 10:46:01.92 ID:wR/5ubom0



さやか「ん…」


ゼロが街へ出て一時間が経った頃、さやかはベッドの上で目を覚ます。
寝ぼけ眼で周りを見渡すと、そこは自分の部屋ではなかった。


さやか「ここ、マミさんのマンション…」

さやか「そうだ、私ゼロさんに助けられ…た?」


浄化を受け、意識を失う直前までの出来事は鮮明に思い出せる。
ソウルジェムを改めて確認すると、溜め込んでいた穢れも綺麗になくなっていた。


さやか「また、守られたんだね」


ゼロや仁美のことを考えると、複雑な心境になることに変わりはなかった。
しかし、妬みや憎しみといった負の感情は、心の中で温かい何かに掻き消されてしまう。

その感覚を不思議に思っていると、様子を見に来たマミが部屋に入ってきた。


さやか「マミさん…」

マミ「目が覚めたのね。調子はどう?」

さやか「あ、うん…悪くはないよ。心配かけてごめんね」

マミ「無事で良かった。今日は魔女討伐もお休みして、ゆっくり休んだほうがいいわ」

さやか「………」


昨夜の出来事がなかったかのように、マミは普段通りの笑顔を見せる。

158: ◆S3K5UapAso 2013/04/21(日) 10:48:07.59 ID:wR/5ubom0


さやか「そういえば、ここに私を連れてきたのゼロさんだよね?あの人は…」

マミ「行ってしまったわ。貴方をここまで送り届けて、すぐに」


ゼロがマミのマンションを訪れたのは、彼女が眠りについていた夜中の二時半頃。
助けたさやかをマミに預けると、ゼロは辛そうな様子で早々に去って行った。

その際、何が起きたのかゼロは語らず、マミも触れることはなかった。


さやか「そうなんだ。私のこと何か言ってました?」

マミ「特には…ただ、貴方を頼むと言われただけよ。
   それよりも美樹さん、カレー作ってあるんだけどお腹は空いてない?」

さやか「ご飯は、今はいいかも」

マミ「やっぱり、寝起きにカレーはきつかったわよね。食べたくなったらいつでも言って」


その後もマミとの会話は続くが、彼女が返す言葉や態度は、
どことなく昨日の件を避けているようでもあった。

違和感を感じたさやかは、敢えて逃げようのない言葉を選ぶ。


さやか「ねぇ、マミさん」

マミ「どうしたの?」

さやか「昨日の事とか…私に何があったのかは聞かないんだね」


マミが一瞬、ドキッとした様子を見せた。
だが、彼女はすぐにいつもの様子で質問に答える。


マミ「それは…貴方が思い詰めてることを知ってたからよ」

マミ「今は、気持ちを整理する時間も、考える時間も必要でしょう?
   だから、私からは聞かない。貴方がここにいてくれるだけでいいの」

さやか「そっか、やっぱマミさんは優しいや。…でもその優しさ、逆に辛いっすよ」

マミ「…辛い?」

さやか「マミさんが聞かないなら、私から言っちゃうね」


さやかは昨日のような豹変こそ見せず、新たな呪いも生み出してはいない。
その代わりに、残された自己嫌悪が彼女を苦しめ続けていた。

159: ◆S3K5UapAso 2013/04/21(日) 10:49:52.00 ID:wR/5ubom0


さやか「ここに連れて来られる前、私ゼロさんに剣向けて襲ったんだ」

マミ「ゼロさんに!?」

さやか「あの人は反撃もせずに助けてくれたけど、それだけじゃない」

さやか「昨日の魔女に斬りかかった時、見えたんだ。魔女の姿が一瞬…恋のライバルにさ。
    ゼロさんにまで放っておかれてたら、本物の仁美に何しでかしてたかわかんない…」

さやか「恋も戦いも上手くいかずに、嫉妬に狂ったバカ女。それが本当の私なんだ。
    こんな奴、正義の味方失格ですよね」

さやか「これ以上私と一緒にいたら、いつかマミさんまで悪い影響受けちゃう。
    その前にさ……コンビ解消しよう」

マミ「なんで…」


突然の提案に、マミは大きく動揺していた。
彼女はさやかに近寄ると、その手を取って強く握り締めた。


マミ「私は…私はそんな事気にしないわ!
   貴方がどんな人間だったとしても、一緒にいるだけで心強いもの!」

さやか「私なんかがいなくても、マミさんは大丈夫っすよ。
    今まで、ずっと一人でこの街を守ってきたんですから」

マミ「…美樹さんしかいないの」

さやか「え?」

マミ「佐倉さんも離れて、ゼロさんも私達が肩を並べられるような存在じゃなかった…
   私には美樹さん…もう貴方しかいないの!」

マミ「もし貴方が正義の味方でいられないのなら、私も一緒にバカ女になってあげる」


マミから飛び出した思わぬ一言に、淡々としていたさやかまでもが焦り始める。


さやか「何言ってんのマミさん…違うよ!そんなのマミさんじゃないよ!」

さやか「マミさんは私やあいつらみたいな魔法少女とは違う!
    たとえ一人でも、正義を貫くような人であってほしいんだ!!」

マミ「勝手な理想押し付けないで…私はそんな強い人間じゃないわ。本当は―――」

さやか「ごめん、それ以上は聞きたくない!」

マミ「美樹さん!!」


さやかはマミの本心から逃げるかのように手を振り払い、立ち上がる。
部屋に置かれたままの鞄を掴むと、制止も聞かずにマンションを飛び出していった。

160: ◆S3K5UapAso 2013/04/21(日) 10:51:35.42 ID:wR/5ubom0

【芸術家の魔女 その2】



ゼロの魔女探しは、何の収穫も得られないまま昼を迎える。
あまり食欲が湧かないながらも、ゼロは昼食を買うためにコンビニを訪れた。


ゼロ人間体(少し無理してでも食っとかないとな。体は資本ってやつだ)


弁当類には手を出さず、おにぎりを二つ取ってレジの最後尾に並ぶ。
混み合う最前列に目を向けると、黒髪の少女が会計している最中だった。


ゼロ人間体(ほむらと同じくらいの歳か)


少女の姿に、ほむらの面影を見るゼロ。
声が外に漏れないよう注意しながら、彼女の事を考える。


ゼロ人間体(そういえば、明後日の夜はあいつと合流する予定だったな)

ゼロ人間体(さやかに起きた事、報告するべきなのか?
      でも、あいつは他の魔法少女にまるで関心を持ってねぇ…)

ゼロ人間体(いや、逆に俺から追及しておかないとな。さやかに何の目的で、一体何を言ったのかを)


客「チッ、早くしろよ」

客「後ろつっかえてるんですけどー」


ふとゼロの耳に入ったのは、心ない声の数々。
気付けば最前列の少女が小銭を落としており、それを黙々と拾っていた。

161: ◆S3K5UapAso 2013/04/21(日) 10:53:01.92 ID:wR/5ubom0


ゼロ人間体(何で誰も手を差し伸べようとしないんだ?客も、店員も…)

ゼロ人間体(皆で拾えば早く終わるはずなのに、陰口まで…)


周囲の無関心さに苛立ちを感じたゼロは、少女に手を貸そうと列を抜ける。
その時、ゼロよりも先に誰かが少女へと近付いた。


ゼロ人間体(あ…)


小銭集めを手伝い始めたのは、長身の少女だった。
その少女には、どことなく仁美を彷彿させるお淑やかさが感じられる。


ゼロ人間体(あるじゃねえか、優しさは)


先ほどまでの光景に、一瞬とは言え、地球人全ての感性を疑いかけてしまったゼロ。
二人の姿を見ながら、彼はそれを反省する。

自分まで手を貸すとかえって拾いづらくなると気付き、再び列に戻ろうとする。
振り返ると、作業服を着た中年の男が列を詰めており、戻ってきたゼロを睨みつけた。


ゼロ人間体(………)


突き刺すような眼差しに、助け合いの余韻は一気に冷めてしまう。
ゼロはおにぎりを棚に戻すと、コンビニを後にした。


ゼロ人間体「いつもと同じ見滝原…そのはずなのに」


人混みから目線を下げれば、誰かがゴミを投げ捨てる様子が。
目を閉じれば、雑踏の中から他人を貶める噂話が聞こえてくる。


ゼロ人間体「何故、地球人の悪い所ばかり見えちまう…?」


ゼロは歩くペースを早め、逃げるように市街から離れていった。

162: ◆S3K5UapAso 2013/04/21(日) 10:57:46.93 ID:wR/5ubom0


それから数時間、町外れを歩きながらゼロは戸惑い続けていた。
怪獣や侵略者との戦いとは、別の側面に立つことで見えてきた現実に。


ゼロ人間体(同じ人間とはいえ、ここはエスメラルダでもアヌーでもねぇ…『地球』だ)

ゼロ人間体(俺が関わった地球人といえば、ZAPって宇宙開拓者くらいか。
      あいつらの心にも、裏があったりするんだろうか…?)

ゼロ人間体(そして、こことは別の地球を守り抜いた親父やウルトラ兄弟達―――
      みんなは、地球人の心の闇とどう向き合ってきたんだ?)

ゼロ人間体(わからねぇ…冗談抜きにわからねぇ!)


アナザースペースやM78ワールド、それ以外の宇宙で、多くの惑星を訪れてきた。
今のゼロには、その中のどれよりもこの地球が異質に映ってしまう。

当てもないまま足を進めていると、どこからか穏やかな声が聞こえてきた。


??「そんなに悩むくらいなら、いっそ死んだほうがいいよ」

ゼロ人間体(死ぬ、か。確かにウダウダ悩むよりは楽なのかもな)

??「そう、死んじゃえばいいんだよ」

ゼロ人間体(そうだな、死んで―――)


何者かの誘導であることに気付き、ゼロは立ち止まる。
歩いていたはずの道路は見る影もなく、地面は絵画と化していた。


ゼロ人間体「――って、んなわけねえだろ!!」


背後を振り向くと同時に、ゼロはキックを繰り出した。
その蹴りは、背後から迫っていた人型の使い魔を勢いよく吹っ飛ばす。

ゼロは今、全く自覚のない内に魔女結界へと取り込まれていた。

163: ◆S3K5UapAso 2013/04/21(日) 11:00:00.26 ID:wR/5ubom0


蹴り飛ばされた使い魔が消滅するのを確認すると、再び正面へ向き直る。
そこには、門を模した姿の『芸術家の魔女』が現れていた。


ゼロ人間体「ウルトラマンゼロ、一生の不覚だぜ…
      こんな安々と引き込まれて、気付きもしないなんて」


門の中から使い魔達が現れる中、ゼロはキュゥべえの忠告を思い出す。

より強い生命力を求め、自分を狙う魔女が存在すること、
自分に生じた迷いが、魔女に付け込む隙を与えてしまうことを


ゼロ人間体「奴の言ったとおり、機会を窺ってた魔女が今になって出てきたわけか…」


手を伸ばして迫る使い魔を睨み、ゼロは拳を構える。


ゼロ人間体「上等だぜ…まとめてかかってきやがれ!!」


一人の青年が、人の形をした何かを殴り、蹴り、投げ飛ばす。
それはヒーローと怪物の戦いというよりも、一対多数の喧嘩に近いものであった。


ゼロ人間体「うおおおおぉーーーっ!!」


ゼロの人間体は、魔女や『影』の使い魔は不可能でも、大抵の使い魔を倒せるだけの格闘能力を持つ。
その力を存分に振るい、『芸術家』の使い魔は最後の一体を残すのみとなった。

使い魔の顔面に渾身のパンチを打ち込むとともに、伸ばした腕からゼロアイを召喚する。
最後の一体が仰け反りながら消滅すると同時に、ゼロアイを手に取って両目に装着した。


ゼロ「次はお前だ!!」


ウルトラマンの姿へ変身したゼロは、魔女に狙いを定めて駆け出した。

164: ◆S3K5UapAso 2013/04/21(日) 11:06:34.55 ID:wR/5ubom0


直後、空中へと跳躍したゼロの足が炎を纏う。


ゼロ「デアアァーーーッ!!」


魔女を目掛け、ウルトラゼロキックが正面から叩きつけられる。
地面に固定されていた魔女の体は、破片を撒き散らしながら後方へ倒された。


ゼロ「シャッ!」


着地したゼロは、倒れた魔女へと歩み寄る。
彼は門の支柱を掴み、抱え上げると、そのまま結界の上空まで飛び上がっていく。

真下に広がる、巨大な絵画。
その中心に狙いを定め、加速をつけて急降下する。


ゼロ「砕け散れよ……ゼェーロォッ!」

ゼロ「ドライバァァーーーッ!!」


魔女の体が一気に地面へと叩きつけられ、衝撃音とともに絵画に大穴が開く。
激突の威力に耐えられず、魔女は大穴の中で粉々に粉砕されていた。

本来、人型の敵にしか使わないはずの体術『ゼロドライバー』。
ゼロが抱える様々なマイナス要素が苛立ちとなり、格闘技ばかりを選択させていた。


ゼロ人間体「はぁっ…はぁっ…」


魔女の残骸が消滅するとともに、結界は解除された。
その中から、人間体のゼロが元の道路へと帰還する。

彼は息を荒げながらグリーフシードを拾い上げると、休む間もなく、次なる魔女を探しに駆け出した。





「反応を殺して貴方を狙う魔女、意外と多いみたいですよ?
 さっきの魔女の性質は『虚栄』。どうやら相当な自信家だったと見えます」

「とはいえ、所詮『ウルトラマン』の敵ではありません。
 ―――そう思ってたらこのザマ!貴方らしくないですねぇ~っ!」

「ですが、面白くなってまいりました…!」

 

165: ◆S3K5UapAso 2013/04/21(日) 11:17:40.64 ID:wR/5ubom0
つづく


おりキリにこれ以上の出番はありません。

時系列的には『サーガ』と同じですが、ダイナとコスモスも登場しませんので、
ゼロがストロングコロナとルナミラクルを入手するかは後の冒険次第ということで…

166: ◆S3K5UapAso 2013/04/25(木) 22:25:51.04 ID:2VE+9XY90

【芸術家の魔女 その3】



日曜日を迎えた翌日の昼。
マミは、普段あまり訪れない市内のある区域に足を運んでいた。

住宅街の並ぶ通りから外れ、人気のない道を進む。
やがて彼女は足を止めると、代わりに口を開いた。


マミ「精が出るわね。こんなに明るい内から、結界の外でその姿なんて」


建物の上から、ほむらが魔法少女の姿でこちらを見下ろす。

ここはほむらが見滝原市を訪れて以降、主に活動する縄張り。
彼女は今日も休息をとることなく、『目的』の為に徹底的な防衛を続けていた。


ほむら「以外ね。貴方は縄張り争いにはあまり興味がないと思ってた」

マミ「間違ってないわ、暁美ほむらさん。ちょっとお話いいかしら?」

ほむら「私も暇じゃないの。手短に頼むわ」


ほむらは高所から飛び降り、マミとの対話に応じる。
しかし態度は相変わらずであり、内容に全く関心を示していない。


マミ「貴方の行動は、私もキュゥべえも以前から警戒していたわ。
   色々あって黙認していたけれど、正直なところもう限界なの」

ほむら「貴方に危害を加えた覚えはないけれど、何か気に触るようなことしたかしら?」

マミ「呆れた…自覚がないのね。なら、先輩として教えてあげる」

マミ「キュゥべえを襲って、ゼロさんを利用して、
   …それに新人の美樹さんまで蹴落とそうとして、貴方一体何が目的なの?」


平然としていたほむらの態度が変わり始めたのは、ゼロの名が出てからであった。

167: ◆S3K5UapAso 2013/04/25(木) 22:30:25.45 ID:2VE+9XY90


ほむら「成程。で、それを知ってどうするの?」

マミ「内容次第で貴方を止める。この場で戦ってでも」

ほむら「事を構えたいだけなら、止めておいた方がいい。
    私は貴方の手の内を知っているけれど、貴方はその逆。勝ち目はないわ」

マミ「状況を荒立てようとしてるのはどちらかしらね。今から試してみる?」

ほむら「試すまでもなく、貴方の魔力を浪費するだけよ。
    折角分け与えてるグリーフシード、無駄にしないで頂戴」

マミ「グリーフシード?……そういうことね」


ゼロが提供するグリーフシードに、ほむらの思惑も関わっていると知る。
魔力のストックすら彼女が握っていたことに、マミは屈辱を感じていた。


ほむら「それに私が全て語ったとして、貴方は素直に信じるかしら?」

マミ「………」

ほむら「私が説得力を持たせて説明してあげてもいい。
    でも真実を知った時、貴方は『巴マミ』という人間を保てなくなる」

マミ「言ってくれるわね。どこにその根拠があるというの?」

ほむら「経験」

マミ「ふざけないで!これ以上私に関わる誰かを巻き込むなら、穏便には済まさないわ!!」


マミは怒りを露わにし、魔法で作り出した小銃を握る。

銃口とともにマミが向けたのは、警戒心ではなく明らかな敵意。
彼女は一見落ち着いているようで、普段の冷静さを欠いていた。

168: ◆S3K5UapAso 2013/04/25(木) 22:33:47.77 ID:2VE+9XY90


ほむら(まるであの時ね。忘れもしないわ)


只ならぬ彼女の様子は、ほむらにある過去を思い出させる。


『みんな死ぬしかないじゃない!』


記憶の中のマミはそう叫びながら涙を流し、自分に銃を向ける。

それは遠い以前の時間軸で、彼女に「殺されかけた」経験。
時間を巻き戻したことで正しい歴史ではなくなったが、実際に起きた出来事。


ほむら(確かに、貴方からは後輩として色々な事を教わった。
    魔法少女としての知識と経験、末路に至るまで)

ほむら(そして一番の教訓は、私の中で今も活きている)

ほむら(理解者なんて必要ない)


マミの視界から、ほむらの姿が一瞬にして消えた。


マミ(何、この速度!?)


すぐにマミは振り返って銃を構える。
彼女の背後にいたほむらは、冷たく鋭い形相でこちらを睨んでいた。


マミ「なっ…」

ほむら「私からも忠告しておくわ」

ほむら「ウルトラマンゼロと馴れ合いを楽しみたければ、好きにすればいい。
    …でも私達の目的を妨げるようなら、命はないわよ?」


気付けば銃を持つ手はほむらに掴まれ、その銃口は自分の顎に突き付けられている。

行動次第で、彼女は躊躇いなく引き金を引く。
そう感じるほどに底知れない威圧感が、マミを襲っていた。

169: ◆S3K5UapAso 2013/04/25(木) 22:36:34.86 ID:2VE+9XY90


ほむら「結局の所、貴方がここにいる理由は美樹さやかの件でしょう?」

ほむら「何が起きたかは彼に聞くとして、美樹さやかには明日学校で謝罪する。
    それで文句はないはずよ」


あまりにも強引な方法でマミを落ち着かせると、ほむらは手を放して何処かへと消える。

結果的に話は屈折し、彼女の言う『真実』については有耶無耶のままとなった。


マミ(そうよ…貴方の言うとおり)


今日マミが接触を図った理由、それはほむらが指摘した通り。

返答を求められれば、別の答えを返したかもしれない。
だが実際は、さやかの意識を変えた存在―――杏子でもゼロでもないもう一人に、
行き場のない感情をぶつけたい。それが全てであった。


マミ(でも、やっぱり彼女は普通じゃない…まるで、私たちと別の世界を生きてるみたい)

マミ(いや、別の世界を生きてるのはゼロさん、貴方もよね…)


その後、マミは夕方からの魔女捜索に備え、一度マンションへと帰宅する。

キッチンの鍋には、手作りカレーがマミ以外の誰にも口にされず、半分近くを残している。
マミは黙って昼食分だけを取り分けると、残りを袋に移し替え、ゴミ箱へと捨てた。
 

173: ◆S3K5UapAso 2013/04/27(土) 02:58:06.47 ID:PhZIi3Gc0



その日の夜遅く。
ゼロはネットカフェへ帰るべく、歓楽街を通り抜けていた。


ゼロ人間体(結局何もできないまま、一日が終わる)


今日の魔女探しは思うように行かず、代わりにまたもや魔女の襲撃に遭った。
撃退は容易だったものの、さやかの心を救う方法はこの日も見つかっていない。


ゼロ人間体(何が『ウルトラ魔女ファイト』だよ……俺には戦うことしかできねぇのか)


自問自答だけでは解決できないと、理解はしている。
だが迂闊に魔法少女と顔を合わせれば、更なる悪影響を与えてしまうかもしれない。

そんな恐れをゼロは抱いていた。


ゼロ人間体(………)


黙々と進むゼロの前に、二人のホストが歩いている。
意識が内に向いていたにもかかわらず、彼等の会話は自然と耳に入ってきた。


ホストA「言い訳とかさせちゃダメっしょ。稼いできた分はきっちり全額貢がせないと」

ホストA「女って馬鹿だからさ、ちょっと金持たせとくとすぐくっだらねぇ事に使っちまうからねぇ」

ホストB「いやー、ホント女は人間扱いしちゃ駄目っすね!」


ゼロ人間体(…何なんだ、コイツらは)


ホスト達の会話に耳を傾ける内、ゼロの目つきが険しくなる。


ホストB「犬かなんかだと思って躾けないとね。アイツもそれで喜んでる訳だし。
     顔殴るぞって脅せば、まず大抵は黙りますもんね」

ホストA「ちょっと油断するとすぐ付け上がって籍入れたいとか言いだすからさぁ、甘やかすの禁物よ」

ホストA「…ったく、テメーみてぇなキャバ嬢が十年後も同じ額稼げるかっての。
     身の程わきまえろってんだ。なぁ?」

174: ◆S3K5UapAso 2013/04/27(土) 03:04:16.40 ID:PhZIi3Gc0


ゼロ人間体(『躾け』だと?)

ゼロ人間体(自分と同じ人間を、人間とも思ってねぇのか…?)


地球人の負の側面に対し、より敏感になっていたゼロ。
しかも、ここはそれらが日常茶飯事的に繰り返される歓楽街。

ホスト達が笑いながら語る女性観は、彼の怒りを一気に沸点へと到達させていた。


ホストB「捨てる時もさぁ、ほんとウザいっすよね。その辺ショウさん巧いから羨ま―――」

ゼロ人間体「おい」

ゼロ人間体「…本当に何も感じないのか?」

ホストA「あ?」

ゼロ人間体「テメェらが捨ててきた女達に、何も感じないのかって言ってんだよ!」


思わずゼロは、二人を呼び止めていた。


ゼロ人間体「愛ってやつは、一方的で空回りするものかもしれねぇ。
      だがな、愛する側はいつでも真剣なんだよ…」

ゼロ人間体「あいつも…さやかだってそうだ。
      心を壊しかけるくらいに悩んで、悩んで、悩み抜いて……」

ゼロ人間体「……許されねぇ」

ゼロ人間体「テメェらを想う一途な心を、小遣い稼ぎのために弄ぶとは―――絶対に許さねぇ!!」


ゼロもまた冷静さを欠き、勢いに任せて言葉を並べる。
知らない名前までもが飛び出し、ホスト達は内容を殆ど理解できていない。


ホストA「何言ってんのこいつ、知り合い?」

ホストB「いえ、さやかって女は俺知らないっす…」

ゼロ人間体「俺はこの世界と一緒に、テメェらみたいな連中まで守らなきゃならねぇ…それが使命だからな」

ゼロ人間体「…だからこそ言わせろ」

ゼロ人間体「テメェらが生きる世界だろうが!この世界の価値、自分で下げてんじゃねぇぇっ!!」


ゼロが凄まじい剣幕で、ショウと呼ばれていたホストの胸倉を掴む。

その時、彼の肩に何かが飛び乗った。
ぬいぐるみのような白い小動物、キュゥべえだった。

175: ◆S3K5UapAso 2013/04/27(土) 03:08:08.05 ID:PhZIi3Gc0


QB「やめておいた方がいい」

ゼロ人間体「今はテメェの相手をするような気分じゃねえんだ。さっさと失せ―――」

ホストA「放せコラァッ!!」

ゼロ人間体「ぶっ!?」


キュゥべえに気を取られた一瞬、ホストの拳がゼロの顔面を直撃していた。
殴り飛ばされた体は、道の中心で大の字となって倒れる。

ホストは更に追い打ちをかけようと迫るが、もう一人がそれを静止する。


ホストB「ショウさん、人も見てるしヤバいっすよ!下手したら警察沙汰に…」

ホストA「ケッ、雑魚野郎が」


二人組は、ざわつき始めた周囲から逃げるように立ち去って行く。
ゼロはゆっくりと体を起こし、鼻を押さえた。


QB「大丈夫かな?」

ゼロ人間体「ったく…テメェのお陰で、この俺が雑魚呼ばわりだ」

QB「まさかとは思うけど、君は彼等に手を出すつもりだったのかい?」

ゼロ人間体「それは…」


キュゥべえの言葉に、はっとしたような様子を見せる。
気づけば、周囲の人々がこちらを見ながら話をしている。


QB「移動した方がよさそうだね。このまま話を続けても、周囲には君の独り言だ」

ゼロ人間体「チッ」


腰を起こして立ち上がると、その肩に再度キュゥべえが飛び乗る。
ゼロはそれを振り落とさず、共にその場を後にした。

 

176: ◆S3K5UapAso 2013/04/27(土) 03:12:39.35 ID:PhZIi3Gc0



歓楽街の路地裏に場所を移し、腰を下ろすゼロ。
膝を抱えて黙り込む彼に、キュゥべえは尋ねる。


QB「ウルトラマンゼロ、君は故郷以外の惑星に長く滞在した経験はあるかい?」

ゼロ人間体「…当たり前だろ。何年か前まで、K76星でずっと修行してたんだ。
      あとは惑星チェイニーで、数週間ロボットどもとグダグダ戦ったっけか」

QB「チェイニーって惑星は、まだ僕も把握していないなぁ」

QB「でもK76星といえば、君の出身宇宙にある磁気嵐の凄い惑星だね。
   そこは生命体が殆ど存在しない、過酷な環境だったはず」

QB「つまり、異星の文明に溶け込んだ経験はないというわけだ」

ゼロ人間体「…悪いかよ」


今までに経験した異文明との深い関わり、それはアナザースペース来訪時に繰り広げた、人間達との冒険。
そしてマイティベースで今も続く、仲間達との共同生活。

ゼロは複数の宇宙を行き来できるが、長期的に一つの文明を守る任務は受けていない。
それこそが、彼と歴代のウルトラマン達との違いでもあった。


QB「どうだい?人間の心の闇は、深くて大きかったろう?」

ゼロ人間体「………」

QB「たった数人の暗黒面に触れただけで、君の心はこんなにも揺れている。
   本当にこの星を守りたいと願うなら、地球人の全てを受け入れる必要があるんだよ」

ゼロ人間体「んな事わかってんだよ!」

QB「君は僕達から見てもまだ若い。頭で理解していたとしても、
   汚れた世界に長く干渉し続ければ、君の心はその影響を受けてもおかしくないだろう」

QB「でも僕達と共に歩めば、それを直視することなく宇宙を守ることができる」


キュゥべえは俯いたゼロに近づくと、その顔を覗き込む。
両者の目線は一致するが、ゼロはすぐに目を逸らした。

177: ◆S3K5UapAso 2013/04/27(土) 03:19:50.92 ID:PhZIi3Gc0


ゼロ人間体「なんだ、俺を利用しようって魂胆か?」

QB「利用?とんでもない。僕達はこの宇宙を救う為、君に協力を求めたいだけさ」

ゼロ人間体「協力…エネルギー集めるパシリになれってのか?」

QB「いいや、君にしかできない役目だ」

QB「僕達は『ビートスター天球』の一件で学んだよ。
   この宇宙を滅ぼす脅威が、別の宇宙からも現れうるということを」


以前にもキュゥべえは、自分達の文明では天球に対抗できないと話していた。
しかし、少女達に『奇跡』を提供する彼等がその力を持たないことに、ゼロは疑問を感じていた。


ゼロ人間体「ヘッ…テメェらの商売道具は、そんな時何の役にも立たねぇのかよ?」

QB「その通りさ」

ゼロ人間体「あ?」

QB「真の意味で奇跡を起こすのは僕達じゃない。人間の方だ。
   少女達が背負った因果、そして感情から生まれる『祈り』の力が、不可能を可能にするのさ」

ゼロ人間体「人間が、不可能を可能に…」

QB「応用しようにも、僕達が感情を持たない以上、交渉材料として扱うことしかできない。
   僕達は、他の文明が超常的に捉えている物事を科学で解明したに過ぎないからね」


それが果たして事実なのか、ゼロには判断できなかった。

だが、ほむらは以前キュゥべえについてこう明言している。
「嘘は言わない」と。


QB「話を戻そう。『ビートスター天球』は、まさにその科学が生んだ脅威だった。
   僕達の文明が戦力を重視していないことが裏目に出てしまったけれど、
   いずれはあの規模の敵にも対抗が可能になるだろう」

QB「でもね、君の故郷…いや別の宇宙を調べて理解できた。それだけではまだ足りないんだ」

ゼロ人間体「わからねぇな。一体何が不安なんだよ?」

QB「科学だけでは届かない領域。『祈り』と『呪い』の更に上位に位置する概念。
   ―――『光』と『闇』の戦いだよ、ウルトラマンゼロ」
 

178: ◆S3K5UapAso 2013/04/27(土) 03:27:56.24 ID:PhZIi3Gc0


QB「多世界宇宙の中には、人の心に巣くうものより更に強大な『闇』が潜んでいる。
   それは、君もよく知るところだろう」

QB「その悪意の数々が、いつこの宇宙に矛先を向けるともわからない。
   そんな時、対抗し得る力は強大な『光』を除いて他にないんだ」

ゼロ人間体(『光』と、『闇』…)


ゼロは、腕に輝くイージスの光を見つめる。
キュゥべえが向ける関心の理由を、彼は完全に理解できた。


QB「でも、君はこうして現れた。エネルギーをはじめとした『科学』は僕達が、そして『光』を君が。
   この二つを補い合えば、この宇宙の平和は永久的に守られる」

QB「だからウルトラマンゼロ、僕と協力してこの宇宙の守護者になってよ!」


役割こそ違うが、少女達の運命を変えてきた売り文句が、ゼロにも向けられる。


ゼロ人間体「この宇宙の守護者に…俺が?」


間違いなく彼等の文明は、この宇宙の制覇ではなく、守護のために『科学』を行使している。
それを知り、ゼロは答えを見い出せない。

だが、直後に現れるもう一人の存在が、彼に更なる迷いをもたらすことになる。


ほむら「前に言ったわよね?口車には乗らないでって」


突如聞こえてきたほむらの声に、思わずゼロは顔を上げる。
目の前には彼女がキュゥべえを掴み上げ、その額に銃を突き付けている。


ゼロ人間体「ほむら、お前何故ここに…」

ほむら「こいつの監視よ」


ほむらは躊躇うことなく引き金を引き、飛散する血が彼女の体を汚した。

179: ◆S3K5UapAso 2013/04/27(土) 03:32:26.00 ID:PhZIi3Gc0


キュゥべえの死体を投げ捨てたほむらは、ゼロの元へ歩み寄る。

すぐに新たなキュゥべえの個体が姿を現すと、転がった死体を貪り始めた。
彼女はその光景を気にも留めず、話を続ける。


ほむら「奴の勧誘、いつもの暑苦しさで切り捨てないのね。
    貴方、まさかインキュベーターに寝返ろうなんて考えてる?」

ゼロ人間体「俺は…」

ほむら「はっきり答えて」


ほむらはゼロの胸倉を掴み、ぐっと顔を近付ける。
同時に、彼女は周囲の時を止めた。


ほむら「忘れてないわよね?奴の手段が、多くの少女の悲しみを生み出していること」

ほむら「そして、希望を失った魔法少女のなれの果てが『魔女』であることを」

ゼロ人間体「…忘れてないさ」


ほむらが口にした事実を、ゼロは忘れることなく胸に秘め続けている。
しかし、目の前で起こる出来事の数々に、気を取られ過ぎていたのも確かだった。


ほむら「最終的にどうするか、決めるのは貴方よ。
    でも、これ以上の戦いを望まないというのなら今すぐ教えなさい」

ほむら「私はこの銃で、左手を撃ち抜いて死ぬわ」

ゼロ人間体「なっ!?」


ゼロの表情が、驚きとも呆然とも取れないものに変わる。

彼女の右手には、キュゥべえを撃ち抜いた銃が。
ゼロを掴む左手の甲には、埋め込まれたソウルジェムが煌めいていた。

180: ◆S3K5UapAso 2013/04/27(土) 03:41:29.21 ID:PhZIi3Gc0


ゼロ人間体「何なんだお前、何で平然とそんな事が言えるんだ…」

ほむら「貴方と出会ったあの日、私は既に命を諦めてた。それが少し遅れるだけのこと」

ゼロ人間体「馬鹿言うな…命は一つきりなんだよ。そんな軽々しく投げ出していいもんじゃねぇ…!」

ほむら「その一つきりの命、握っているのは貴方よ。命だけじゃない――『希望』すらも」


ほむらは顔中に返り血を垂らしながら、ゼロを繋ぎ止めようとしている。
その姿を目の当たりにし、彼の背筋にぞくりと悪寒が走った。


ほむら「さぁ、どうするの?ウルトラマンゼロ」

ゼロ人間体「……決まってんだろ。俺は、お前を守る」

ほむら「それでいいのよ。当然、私から離れることは許されない。
    彼女の平穏を手に入れる、その日まで」


ほむらがゼロを掴んだ手を放すと、一時的に時は動き始める。
だが、ゼロの肩に手が置かれるとともに、再び時は止まった。


ほむら「そうね…明日合流する予定だったけれど、今からでも構わないわ。
    この数日間、一体何があったのか聞かせて頂戴」

ゼロ人間体「………」


ゼロは地球人の少女一人を前に、
魔女やキュゥべえにすら感じることのなかった『恐怖』を覚えていた。
 

181: ◆S3K5UapAso 2013/04/27(土) 03:44:01.76 ID:PhZIi3Gc0
つづく


設定に色々と制約をつけてるためか、
時折ウルトラでもまどマギでもない別の何かを書いてるような感覚に陥ります。

186: ◆S3K5UapAso 2013/04/29(月) 16:05:09.90 ID:HN8YiAvq0

【芸術家の魔女 その4】



翌日、登校する生徒達の中にさやかはいた。
新たな週を迎えたにも関わらず、彼女は朝から疲れを見せる。


さやか(サボりたい…)


ゼロを罵った金曜日の夜に始まり、マミの元を去った土曜日、それらを引きずったまま魔女を探した日曜日。
さやかが過ごした休日は、とても安息といえるものではなかった。

そしてこれから向かう先には、顔を合わせづらい人物が何人も待ち構えている。


さやか(………)


途中、何かに気付いた彼女は、ふとゼロが残した言葉を思い返す。


『さやか…今までずっと、そいつだけを見てきたんだろ?
 仁美よりも長く、仁美よりも近い場所で』

『相手もきっとそれを知ってる。
 お前のことを選んでくれてるはずだ。それを信じようぜ』


さやか(信じる、か)


目を細め、通学路の少し先に視線を向ける。
そこには松葉杖を突きながら登校する恭介、そして、彼と並んで歩く仁美の姿があった。


さやか(現実はこんなもんだよ、ゼロさん)


さやかは二人が気付かないよう、大きく距離を取って歩く。
気持ちを抑えきれなかった先週とは違い、今は冷ややかな目でそれを見ることが出来る。

だが、彼女自身が気づかぬままに、ソウルジェムには僅かに呪いが生まれ始めていた。

187: ◆S3K5UapAso 2013/04/29(月) 16:07:43.24 ID:HN8YiAvq0


その時、誰かがさやかの肩に手を置いた。


さやか「!?」


振り返ったさやかの前には、杏子が立っている。


さやか「あんた…」

杏子「ちょいと場所変えるぞ。話がある」

さやか「何言ってんのよ、これから学校が…!」

杏子「いいから来い!」


思わず身構えたさやかの手を、杏子が掴む。
杏子はその手を引くと、強引に通学路とは別方向へ歩き出した。

わけもわからず、さやかは手を引かれるがままに進む。
しばらく歩いた後、思い切って杏子の手を振り払う。


さやか「いい加減放せってば!一体何の用なの!?」


立ち止まったさやかに合わせ、杏子も同じように歩みを止める。


杏子「………」

さやか「何か言いなさいよ」

杏子「今まで突っかかってきたこと……悪かった」

さやか「は?」

杏子「だから…今までのことは悪かったって言ってんだ」


浄化前のような目を見せていたさやかが、きょとんとした表情に変わる。
 

188: ◆S3K5UapAso 2013/04/29(月) 16:13:04.37 ID:HN8YiAvq0


さやか「…ごめん、もう一回」

杏子「テメェぜってー聞こえてただろ!もう三度も言わねーからな!!」


杏子は腕を組み、さやかに背を向ける。
さやか自身もふざけてはおらず、本当に彼女の真意が理解できていない。


さやか「ちょっと待って。これ、どういう風の吹き回しよ?」

杏子「まんまの意味以外に何があるってんのさ…
   アタシはアンタに対して色々やりすぎた。だから謝った」


マミを戦闘に巻き込んだ辺りから、自分の責任は自覚していた。
その後目の当たりにしたさやかの豹変は、杏子に強い後悔を抱かせることになった。

二日間の迷いを経て、マミの示した方法でさやかと向き合うべく、杏子はここにいる。


杏子「伝えることは伝えたし、もう帰るからな」

さやか「…あーあ、あんたのお陰で完全に遅刻だわ。どうしてくれんの?」

杏子「はぁ?」


立ち去ろうとした杏子を、さやかは呼び止める。


さやか「今更学校行っても行かなくても同じようなもんだし…
    空いた時間、責任持って潰してよね」

さやか「どうせ暇なんでしょ?…例えば、あんたはキュゥべえに何を願ったとか、
    何で今みたいな戦い方してんのとか、色々聞かせてよ」

杏子「話題は他にもあるってのに、何でそんな事知りたがるのさ?
   アタシの過去なんて関係ないんじゃなかったのかよ?」

さやか「ただの心変わり。今のあんたと似たようなもんよ」

杏子「はぁ…」

杏子「……ちょっとばかり長い話になるぞ」


さやかは遅刻と言いながらも、内心は学校へ行かずに済むいい機会とも考えていた。

一方の杏子は、痛い所を突かれたとばかりに溜め息を漏らす。
杏子は再び歩き出し、さやかもその後に続いた。

189: ◆S3K5UapAso 2013/04/29(月) 16:16:18.86 ID:HN8YiAvq0


杏子はどこかへ向けて歩き出すと、自分の過去について語り始める。


杏子「アタシの親父はね、教会の神父をやってたんだ。とにかく正直で、優し過ぎる人だった」

さやか(だった?)

杏子「新聞やテレビで毎日のように事件を知っては心を痛めてさ、
   『信仰』で世の中を変えていきたいって、いつも言ってたよ」

杏子「それから、親父は教義にないことも説教するようになったんだ。
   次第に信者は途絶えて、本部からは破門されて、世間からはカルト宗教同然の扱いだ」

杏子「そのしわ寄せで、アタシの一家は食う物にも事欠く貧乏生活。
   当然だよね、人に共感を貰ってナンボの仕事で、誰にも理解されないんだから」

杏子「親父が信じて説いてたことは、何一つ間違っちゃいない。
   ただ『人と違うこと』を話してた。それだけで世間の目は途端に白くなったんだ」

杏子「悔しい…許せない…我慢できないと思っていた時、キュゥべえが現れた」

さやか「あんたの願いって、もしかして…」

杏子「そう、沢山の人に親父の話を聞いてもらう。それがアタシの願いさ」


その願いは、明らかに自分のためではなく、誰かの幸せを願ったもの。
今までの主張と矛盾する過去に、さやかは疑問を抱く。


杏子「その翌日から、信者はどっと増えていったよ。
   それが目的ってワケじゃなかったけど、アタシら一家の生活も持ち直した」

杏子「こうして魔法少女の仲間入りしたはいいけれど、
   魔女ってやつは、駆け出しのアタシにはどいつこいつも強敵でね」

杏子「ある日、危うくやられかけた所をある魔法少女に助けられた。
   そいつが巴マミだったんだよ」

杏子「それから色々と教わるうちに、マミとはコンビとして行動するようになった。
   といってもアタシは新人だったし、相方ってよりは弟子みたいなもんだ」

さやか(私と同じ、マミさんの『元』弟子…)

杏子「でも、あの頃は毎日が充実していたよ。
   アタシと親父で、表と裏から世界を救うって理想を持ってたし、
   何より魔女との戦いでも、一緒に戦う先輩がいるから心強かった」
 

190: ◆S3K5UapAso 2013/04/29(月) 16:22:30.33 ID:HN8YiAvq0


杏子「けどある日、魔法少女として戦ってるところを、親父に見られちまった。
   事情を分かってもらおうと説明したけど、親父の反応は間逆だった」

杏子「特に、信者を集めたのが魔法の力だって知ったときは酷かった。
   魔女と戦ってきたアタシを『魔女』だって、毎日のように責め続けたよ」

杏子「それから親父はどんどん不安定になって…壊れちまった。結果、どうなったと思う?」

さやか「どうなったって、私が知るわけ…」

杏子「かなり前に、どっかの教会で一家心中が起きたニュースは知ってるかい?
   それがアタシを除いた、佐倉家の末路さ」

さやか「………」


さやかは何も言えなかった。

同じような事件は、毎日のようにどこかで起きている。
その報道に覚えはなかったが、もしかすると、どこか見聞きしたことがあるのかもしれない。


杏子「誰かのために手に入れた魔法が、結果的に相手を不幸にした。
   なら、こう考えずにはいられないでしょ」

杏子「『全ては自業自得なんだ』、『自分の魔法は、自分のためだけに使い切るんだ』ってね。
   そんなこんなで、アンタが嫌ってる今のアタシがあるのさ」

さやか「…それから、マミさんとは?」

杏子「こうして開き直ったアタシが、『正義の味方』と同じように戦えるわけがない。
   だから、マミとも方針を巡って意見が食い違うようになった」

杏子「それに、アタシがどんなに自分を責めようと、『佐倉さんは悪くない』って笑顔で手を差し伸べる。
   その優しさが、あの時のアタシには苦痛で苦痛でたまらなかった」

杏子「だからコンビを解消した」


今のさやかも、かつての杏子と同じ事を考え、同じ行動を取ってしまっている。
マミに二度も決別を経験させたことを申し訳なく感じるが、それを撤回する意思はなかった。


さやか「…あんたの事、色々と誤解してた。その事はごめん。私からも謝るよ」

さやか「でも、あんたは他人なんてどうでも良くて、自分のためだけに生きてるんでしょ?
    何で私なんかに関わろうとするの?」


さやかは自ら謝るとともに、以前杏子が答えなかった質問を再度ぶつけてみる。

191: ◆S3K5UapAso 2013/04/29(月) 16:31:34.65 ID:HN8YiAvq0


杏子「…前にも言ったけど、アンタはまるで昔のアタシなんだよ。だから無性にイラついた。
   どうにも見てらんなくて、考え方を根本から変えてやろうと思った」

杏子「でもアンタは変わらなかった。だからアタシも余計に頭に血を上らせちまった。
   アンタ自身の事情も考えずにね…」

さやか「私だって、あの時は途中から殺すつもりで戦ってたんだ。
    あんたばかり非難出来ないし、そんな資格もない…」

杏子「………」


やがて、会話と共に杏子は足を止める。
道の先には一件の古びた教会――杏子の思い出の場所が見えてきた。

二人は遠目でそれを見つめるが、中にまでは踏み込もうとしなかった。


さやか「それよりさ、マミさんと和解する気ないの?
    あの人とても寂しがってる。また一緒に戦ってあげなよ」

杏子「アタシはもう戻れない。だから代わりにアンタとゼロがいるんだろ」

さやか「私、コンビ解消したんだ」

杏子「は?…何でだよ!?」


杏子は今回の会話で、一番の驚きを見せる。


さやか「この間の夜に見たでしょ…悪い意味で『変わった』私を。後は大体あんたと同じ理由」

さやか「私はマミさんやゼロさんみたいな『正義の味方』にはなれない。
    かといって、あんたのスタンスも受け入れられない…ホント、どうしたいんだか」

杏子「…だろうね。アタシだって、今更同意を求めてここに来たわけじゃない。
   でも魔法少女になっちまった以上、考えなしでも戦い続けるしかないのさ」

さやか「そうだね…」

杏子「こんな場所まで連れて来て悪かったよ。今度こそ本当に帰るからさ」


杏子はそう言ってさやかに別れを告げ、道を引き返していく。
さやかは一人で教会を見つめながら、物思いにふけっていた。


さやか(あいつの根っこは、思ってたような奴じゃなかった。
    私にも、向こうの考えを理解する姿勢が足りなかったのかもしれないね)

さやか(もしかすると暁美ほむらも、本当は―――)




同じ頃、見滝原市街の某ネットカフェ。
その一室で、人間体のゼロが椅子に体を預けていた。


ゼロ人間体(全く、駄目なウルトラマンだぜ…)

ゼロ人間体(まさかこの俺が、一歩も外に出たくないなんてよ…)


彼は既に目を覚ましていたにもかかわらず、椅子から体を起こせずにいる。
魔女探しに出かけたのは、それから一時間が経過してからの事だった。

197: ◆S3K5UapAso 2013/05/05(日) 15:23:59.62 ID:aSljJLVN0

【ハコの魔女 その1】



更に翌朝も、さやかにとって予想外の出来事が起きた。


さやか「あんたまで?」

ほむら「どういう事かしら?」

さやか「あ、いや…こっちの話」


一日の欠席を経て登校したさやかは、廊下で誰かに呼び止められる。
その相手は、彼女が歪む要因となった一人、暁美ほむら。


さやか(昨日といい今日といい…意外だわ)

さやか(まさか、こいつまで謝ってくるなんて)


彼女から告げられたのは、またしても『謝罪』だった。
立て続けの事態に、さやかも驚きを隠せない。


さやか(こうして謝ってくれたのは確かに嬉しい。でも、佐倉杏子の時とはちょっと違うんだよね…
    言葉も目つきも、どこか空っぽというか……)

さやか(…何か、別のこと考えてない?)


しかし彼女の対応には、素っ気無さとは別の違和感が残る。
さやかはその本心を見抜けず、会話を続けた。


さやか「でも、どうして急にこんな事…あんた、もしかして私に起きた事知ってんの?」

ほむら「ええ、知ってるわ。いずれこうなるのではないかと警戒していたから」

さやか「どっから情報が……大体、あんたの発言が原因の一つなんだけど…」

ほむら「そうかもしれないわね。でも、私が干渉するしないに関わらず、
    いずれ貴方は破滅に向かい、他の誰かにも矛先を向けかねなかった」

ほむら「私が指摘したのは、そういうことよ」

さやか「………」


自分の心理状況を省みるに、ほむらの話を否定することはできなかった。

198: ◆S3K5UapAso 2013/05/05(日) 15:29:22.32 ID:aSljJLVN0


ほむら「けれど、正直貴方がここまで思い悩むとは思ってなかった。
    気持ちまで汲み取れなかったのは、私の落ち度よ。だからこうして謝罪に来たの」

ほむら「最後に伝えたことさえ守ってくれれば、私をどう憎もうと構わないわ」

さやか「『親しい人達に救いを求めてはいけない』だったよね。
    良い意味には受け取れるんだけど……あんたの目的って、何なの?」

ほむら「詮索は無用よ。今は、私の謝罪だけでも受け入れて」

さやか「無用って…そうやって隠すから余計に誤解招くのよ」

さやか「でも…わかったよ。大半は私の責任だったわけだし」

ほむら「理解してくれて有難う。私はこれで失礼するわ」


杏子の件もあってか敵対心は薄れ、この謝罪を受け入れることに決めた。
表面上の和解を果たした二人は、それぞれ別方向へと別れていった。

さやかは振り返ると、黒髪を揺らす後姿を見つめる。


さやか(結局、あいつの心の内は読めなかった。最終的に何がしたいのかも、全然)

さやか(でも誠意は見せてくれたわけだし、責めるのはもう止めにしよう)

さやか(…本当の問題は、これから入る教室の方)


一方、ほむらの思考は『誠意』と全く無縁であった。


ほむら(これで少しは大人しくなるはず。でも、彼の報告とは随分違うわね)

ほむら(美樹さやかは、呪いを再発しかねない不安定な状態だと言っていた。
    なのに、持ち直してる?)

ほむら(いずれにしても、私には関係のない事。
    再度心を壊すような馬鹿であるならば―――魔女になった後で始末をつければいい)
 

199: ◆S3K5UapAso 2013/05/05(日) 15:41:48.62 ID:aSljJLVN0



その日の昼、ゼロは木陰に座り目を閉じていた。
一時の休息であったが、内心はこのまま休んでいたい、ネットカフェの個室に戻りたい…そう考えている。

その思考を振り払おうとする内、脳裏には杏子の言葉が蘇った。


『アタシは佐倉杏子。またどっかで会う機会があるかもな』

『見ての通り新人教育さ!邪魔すんな!』


ゼロ人間体(杏子…お前はきっと、さやかに昔の面影を見てるんだよな。
      それが原因で、後ろを振り返らずにはいられなくなってる)

ゼロ人間体(もしさやかが先に進めれば、お前も前を向いていられるのか?)


この数日で何度も繰り替えし、答えの出なかった自問自答が始まる。
続いて浮かび上がったのは、さやかの言葉。


『よーし決めた!私もゼロさんとマミさんみたいに、この街を守る正義の味方になってみせる!』

『もういいよ。ゼロさん一人で全部やっちゃえば?』


ゼロ人間体(さやか、お前を癒せる言葉が見つからねぇ。
      この世界は、今まで見てきた世界と何かが違う…俺の思いが、上手く届く気がしないんだ)

ゼロ人間体(一度会って話をするべきなんだろうな…
      でも答えのないままにお前と顔を合わせるのは、危険すぎる)


『危険』――その単語が連想させたのは、ほむらの二面性。


『この命、無駄にしないって決めたのに…何度でも繰り返して助けるって、そう決めたのに…』

『私はこの銃で、左手を撃ち抜いて死ぬわ』


ゼロ人間体(危険といえば、ほむらも考えてた以上にヤバい状況らしい。
      魔女とは違う意味で、俺が戦ってきた連中に近いものを感じるぜ…)

ゼロ人間体(『ワルプルギスの夜』を俺が倒せなければ、あいつは本当に…)


そして最後に思い出したのは、抱え込んだ全ての逃げ道となりうる言葉―――
キュゥべえからの誘いだった。


『僕と協力してこの宇宙の守護者になってよ!』


ゼロ人間体(そしてインキュベーター、テメェらは…)

ゼロ人間体(課題が多すぎるぜ…この世界。いや、俺自身の方か…)


ここでゼロは目蓋を開き、現実へと意識を戻す。
彼はその場から立ち上がると、木陰を出て日差しを浴びた。


ゼロ人間体(俺は、あいつらと一緒に新たな一カ月を迎えられるのか?
      そして、最後まで『仲間』として繋がっていられるのか?)

ゼロ人間体(『仲間』か。…たった何週間か会ってねえだけなのに、無性に懐かしく感じるぜ)

ゼロ人間体「なぁ…ミラーナイト、グレンファイヤー、ジャンボット、ジャンナイン。
      お前等は今、どうしてる?」


ゼロは青空を見上げ、遠く離れた仲間へと問いかけた。

200: ◆S3K5UapAso 2013/05/05(日) 15:46:41.26 ID:aSljJLVN0


QB「彼等も一緒だよ、君が望むなら」


微かな声を聞き取っていたキュゥべえが、背後から近づいてくる。
その姿を見た瞬間、ゼロは溜め息をつき、頭を抱えた。


ゼロ人間体「はぁ……テメェ、俺の頭をパンクさせに来やがったのか?」

QB「それは僕達との協力関係に関心を示し、悩んでくれている…という事かな?」

ゼロ人間体「バカ言え…」

QB「でも、五人の戦士で構成された宇宙警備隊『ウルティメイトフォースゼロ』。
   君の故郷の宇宙でも、随分と話題になっていたよ」

QB「君がこの宇宙に留まる意思を示してくれれば、残る四人の仲間達も歓迎しよう。
   僕達が技術を提供し、生活拠点も備えた基地を建造することだってできる」

QB「そう、君は一人じゃない」

ゼロ人間体「本当なら力が湧いてくるはずの言葉なのに、何でだろうな。
      テメェが言うと違和感しか感じねぇ…」

ゼロ人間体「それに今度は特典かよ…生憎だが、基地なら間に合ってんだよ」

QB「そうか。まぁ、すぐに結論を出す必要はないよ。
   この提案は強制ではないし、僕達は君の意見を尊重したい」

QB「だから自分の頭でよく考え、答えを出してほしい。
   ―――『ワルプルギスの夜』を迎える前にね」


最後の一言には、何らかの意図が含まれていたのかもしれない。
しかし今のゼロに、注意を向けるほどの余裕はなかった。

その内、キュゥべえは何処かへと消えた。


ゼロ人間体「あぁっ、クソッ!!」


魔法少女が戦えない平日の日中、キュゥべえの目は殆ど彼に向けられている。
いつ何処で見ているともわからない不快感を払拭するため、ゼロは走り出した。

体を勢いに任せながら、自問自答に挙がらなかったもう一つの繋がりを想う。


ゼロ人間体(お前は本当にスゴイやつだぜ。
      他の魔法少女だけでなく、俺までがこんなになっちまってんのに…)

ゼロ人間体(ただ一人、前向きに『正義の味方』として戦ってるんだからな―――マミ)
 

 

202: ◆S3K5UapAso 2013/05/06(月) 17:47:17.94 ID:UpiCL2Ss0

【ハコの魔女 その2】



もうすぐ日付も変わる、夜の見滝原市。
ある魔女結界の内部を、鳥と人間を掛け合わせたかのような使い魔が飛び回っている。

その真上から、鎖で繋がれた巨大な鳥かごが、勢いよく落下する。
かごの中には下半身だけの姿をした『鳥かごの魔女』が、何度も足を踏み鳴らしていた。

魔女が押し潰さんとする先には、ウルトラマンの姿でゼロが立っている。


ゼロ「ハッ!」


迎え撃つゼロは両手にゼロスラッガーを握り、素早くカラータイマーに装着する。
タイマーからはゼロツインシュートが放たれ、鳥かごと激しくぶつかり合った。


ゼロ「でぇあああぁぁーーーっ!!」


押し合いの形になるが、光線の威力によって底部は次第に穴が開き始める。

やがて光線は鳥かごを完全に貫通し、魔女を直撃した。

大爆発を起こして消え去る『鳥かごの魔女』。
彼女もまた、ゼロの精神につけ込もうとした魔女の一体だった。


ゼロ(これでいい…もう帰ろう)


結界の解除とともに、人間体へと戻ったゼロ。
彼はこの戦いを最後に、今日一日の魔女退治を終えた。
 

203: ◆S3K5UapAso 2013/05/06(月) 17:51:14.41 ID:UpiCL2Ss0



戦いを終えて歩くゼロの前に、生活拠点とするネットカフェが見えてきた。
疲れ切った心身を休めるべく、彼は足早に自動ドアをくぐり抜ける。


ゼロ人間体(いつにも増して空気が重いぜ…俺も相当疲れてやがるな)


毎日のように過ごす空間だが、今の店内には言いようのない居心地の悪さを感じる。
受付を済ませようとアルバイト店員を待つが、カウンターには誰も姿を現さない。


ゼロ人間体(遅いな)

ゼロ人間体(店員もそうだが、今日は何かおかし……!?)


気付けば店内のあちこちから、暗い波動――マイナスエネルギーが漂っている。
それは明らかに魔女や使い魔が発するもの。

思わずゼロは店外へ飛び出し、イージスの光の中からウルトラゼロアイを手にする。


ゼロ人間体(やべぇ…俺の感覚、相当に鈍ってやがる)

ゼロ人間体(それに、立て続けとはな…)


一呼吸置き、ゼロは再び店内へと踏み込んでいく。

それぞれの個室から人の気配は感じられる。
一室を覗き込むと、狭い個室の中に三人の男が密集し、何かを呟いていた。


店員「わかってるよ…いつまでもこんな所でバイトしてるわけにはいかないって…
   でも見つからねぇんだよ…正社員で俺を雇ってくれる場所なんて」

客A「俺も似たようなもんだ…いい歳して、住む家もなく日雇いの生活だからな」

客B「もう、死ぬ意外に何かいい方法あるか?…ないだろ」


彼等が食い入るように見つめるPC画面には、『死』を憧れるかのような文章が並ぶ。
その内容は、所謂「自殺サイト」だった。

204: ◆S3K5UapAso 2013/05/06(月) 17:54:13.13 ID:UpiCL2Ss0


『自殺』という発想に、思わずほむらを思い出しかけるゼロ。
今はそれを押しとどめ、目の前の事態に集中する。


ゼロ人間体「おいお前ら、変なもの見てんじゃねぇ!しっかりしろ!」


ゼロの呼びかけにも応じず、男達は画面から目を放さない。
その画面の明かりは、男達の首筋にある刻印を微かに照らし出していた。

男達の個室を離れ、ゼロは店内を歩き回る。
他の部屋の客と店員も、『魔女の口付け』によって同じ状態に陥っていた。


ゼロ人間体(魔女の仕業で間違いないか。でも、この店の中には…いない?)

ゼロ人間体(……いや)


感覚を集中したゼロは、店外から迫る何かを察知する。
気配が彼の元へと辿り着いたとき、突如、目の前のPC画面が点灯した。


ゼロ人間体「…来やがったか!」


ゼロアイを構えようとした瞬間、周囲から水色の靄が溢れ出す。
同時に画面の中から、天使を象った人形型の使い魔が一斉に飛び出した。


??「うokiettoもmuotnnebオahodnnok」

??「ネiatik異atam」

??「えnatタkisona血nウotnnohahうoyk」

ゼロ人間体「!?」


不気味な声と共に、大量の使い魔がゼロを押さえ込む。
その隙を突き、一体がゼロアイを奪って画面の中へと帰ってしまった。


ゼロ人間体「ゼロアイが…しまった!!」

ゼロ人間体「おい!放せこの野……うおぁっ!!」


身動きの取れないゼロの体は、使い魔の力で細切れのように分解されていく。
その欠片は一つ残らず、使い魔によって画面の中へと引きずり込まれてしまった。
 

205: ◆S3K5UapAso 2013/05/06(月) 18:03:53.69 ID:UpiCL2Ss0




QB(緊急事態だ、暁美ほむら。君の力を貸してほしい!)


数分後の某所。
監視を続けていたほむらの頭に、突然キュゥべえからの念話が届く。


ほむら(力を貸す?何の冗談かしら)

QB(冗談を交わしている暇はないよ。君の相棒、ウルトラマンゼロが危機に陥っている)

ほむら(彼が危機?)

QB(彼はつい先程、魔女の策略で結界に引き込まれた。
   しかも変身に使う道具を奪われた状況にある。早く助けに行ったほうがいい)


やがてキュゥべえがほむらの元に辿り着き、その姿を現した。

ほむらは赤く小さな目を睨み、露骨な不快感を見せる。
キュゥべえが何らかの思惑を秘めていると察したからであった。


ほむら「本当は全部知りながら、彼に助言をしなかった。…違う?」

QB「確かに、そうとも言えるね。でも僕達は―――」

ほむら「…もういいわ。場所だけ教えなさい」

QB「彼がいつも寝泊りしているお店だよ。さぁ、行こう!」


その一言を聞いた瞬間、ほむらは全速力で駆け、ネットカフェへと向かう。
同じように、キュゥべえもその後を追いかけた。

208: ◆S3K5UapAso 2013/05/09(木) 22:11:53.08 ID:bsiowYsL0

「憧れは全てガラスの中に閉じ込めてしまう、筋金入りの引きこもり魔女。
 性質は『憧憬』といったところですか」

「う~む、引きこもりVS引きこもり予備軍…
 これ、対戦カードとしてどうなんでしょうねぇ?」

「ともかく…悩み続けたところで物語は進みませんよ、ゼロ。
 さぁ戦ってください。貴方の敵は、貴方自身―――!!」





【ハコの魔女 その3】



何段ものメリーゴーランドに囲まれ、木馬がPCのモニターを運ぶ魔女結界。
その異様な空間の中を、ゼロは呆然としたまま漂っていた。

結界に引きずり込まれる際に分解された体は、いつの間にか元に戻っている。


ゼロ人間体(ヘマしちまったぜ)

ゼロ人間体(あれさえ取り戻せればこっちのもの……だってのに)


彼の目線の先には、使い魔がゼロアイを持って飛び回っている。
手足を動かしてみるが、今の状態では体勢を維持することすらままならない。

やがて二体の使い魔が、真下から一台のモニターを運んできた。
モニターの両側面には、少女のような髪が伸びている。


ゼロ人間体(こいつが、この結界の魔女?)


ツインテールを生やした謎のモニター。
その正体である『ハコの魔女』は、画面の中に少女のようなシルエットを映していた。


ゼロ人間体(何としてでもゼロアイを取り戻して、ここを出るんだ…)

ゼロ人間体(俺は、早く『答え』を見つけなきゃならねぇんだよ!)

??「フハハハハハッ!!」

ゼロ人間体(なっ!?)


必死にもがくゼロの耳に、何者かの笑い声が響く。
覚えのあるその声、そしてモニターの画面に映った姿にゼロは驚愕する。

209: ◆S3K5UapAso 2013/05/09(木) 22:14:13.71 ID:bsiowYsL0


??「何言ってやがる。そんな虫ケラみてぇにちっぽけになっちまって!」


それは一人のウルトラマンの顔。
しかしゼロとは違い、体は黒色で、その目は大きく釣り上がっている。


ゼロ人間体(こいつは、まさか!?)

ゼロ人間体(いや、お前はあの時倒されたはずだ……俺達の『光』で!)


その姿は、かつて二度渡る戦いの末に倒され、今もなおアナザースペースに残党が潜む宿敵。
暗黒のウルトラマン『ベリアル』に間違いなかった。


ベリアル「お前にはもう何もない。絶望の恐怖を味わうがいい!!」

ベリアル「フハハハハハハッ!!」

ゼロ人間体(ふざけんな…俺にはまだ…)


画面の中のベリアルは、ゼロを指差して何度も動揺を誘う。
だが、発せられる言葉には一つの規則性があった。


ベリアル「お前にはもう何もない。絶望の恐怖を味わうがいい!!」

ゼロ人間体(待てよ…この台詞、どこかで……)

ゼロ人間体(そうか、ここは魔女の作り出した結界の中。このベリアルも本物じゃない)

ゼロ人間体(だが……悪趣味にも程があるぜ!)


発せられる言葉の数々は、聞き覚えのあるものばかり。
画面に映るベリアルの正体、それは魔女がゼロの精神に干渉し、見つけ出した過去の記憶であった。

ゼロがそれに気付くと同時に、映像は何度も巻き戻される。

210: ◆S3K5UapAso 2013/05/09(木) 22:16:53.13 ID:bsiowYsL0


ベリアル「絶望の恐怖を味わうがいい!…絶望の恐怖を味わうがいい!…絶望の恐怖を味わ…」

ベリアル「絶望の恐怖…絶望の恐怖…絶望の恐怖…絶望の恐怖…絶望の恐怖…」

ベリアル「絶望…恐怖…絶望…恐怖…絶望…恐怖…絶望…恐怖…絶望…恐怖…」

ゼロ人間体(!?)


巻き戻される間隔は徐々に短くなり、ベリアルは狂ったように同じ台詞を繰り返す。
やがてメリーゴーランドの木馬が乗せたモニターにも、別の映像が流れ始めた。

生気のない目で、自分を淡々と罵り続けるさやか。
涙を流しながら何度も剣を振るうさやか。

怒り狂い、槍を振り回す杏子。
自分の胸倉を掴み、顔中に血を滴らせるほむら。

そして、暗闇で光る赤い目。


ゼロ人間体(変なもん見せてんじゃねぇ…)

ベリアル「絶望恐怖…絶望恐怖…絶望恐怖…絶望恐怖…絶望恐怖…絶望恐怖…」

ベリアル「絶望恐怖絶望恐怖絶望恐怖絶望恐怖絶望恐怖絶望恐怖絶望恐怖…」

ゼロ人間体(やめろ)

ベリアル「絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望…」

ベリアル「絶望絶望絶望絶望絶望ぜtmんm、ccxじdl;ぽmzをkl、えs……」

ゼロ人間体(やめろ…!)

ベリアル「jんkdしい小戸f、kmf歩jvcしゅえんぢお;l、。rdp@p@l;・。s……」

ベリアル「sdtりえwmkれ眼rえれりおおいれkmmklれおいおいれmkmrw。・……」


ベリアル「本当の恐怖はこれからだ」

ゼロ人間体「やめろって言ってんだろ!!」

ベリアル「キャハハハハハハッ!!」
 

211: ◆S3K5UapAso 2013/05/09(木) 22:22:49.67 ID:bsiowYsL0


ゼロは目を堅く閉じ、頭を抱え出す。
対するベリアルの声は、突如として少女の高笑いに変わった。

画面にはノイズが走り、その映像は『ハコの魔女』の姿に切り替わる。

魔女が招集をかけたのか、飛び回っていた使い魔が一斉にゼロの元へ集まり、その体を押さえつけた。
ゼロアイを持つ、一体だけを除いて。


ゼロ人間体(そうだ…こいつらの狙いは俺の生命力。
      腑抜けた今の俺に勝ち目はねぇ……ここで仕舞いってわけか)

ゼロ人間体(はは…呆気ないったらないぜ)


逃げられないゼロの顔に、ギリギリまで画面が迫る。
その中に潜む魔女が、少しずつ画面の奥からこちらへ近づいてくる。


ゼロ人間体(結局俺は、色々な宇宙を飛び回って、力だけを振るっていれば良かったのか?)

ゼロ人間体(俺が守らなければならないものは、どうしようもなく大きくて広い。
      それなのに俺は、一つの宇宙の、一つの星の、一つの街の―――)

ゼロ人間体(たった数人の人間にこだわっている)


ゼロアイを奪ったままの使い魔に、ゼロは届かぬ手を伸ばす。
その手も、別の使い魔によって抑え込まれてしまう。


ゼロ人間体(これはその罰…なのかもな)


ゼロはいつの間にか抵抗することを止め、ここで消えることを受け入れていた。

その時、悠然と空を舞う使い魔目掛け、瞬時に鎖のような何かが巻きついた。
絡めとられた使い魔は、ゼロアイもろとも真上に引き寄せられていく。


ゼロ人間体「お前…」

杏子「無断でアタシの映像使うなんて、調子乗り過ぎだよねぇ?」


結界の上空から、舞い降りるかのように赤い魔法少女が現れた。

219: ◆S3K5UapAso 2013/05/11(土) 23:07:13.85 ID:3UnadFKn0

杏子はゼロを見下ろし、複雑そうな表情を浮かべる。
ゼロもまた、意外な人物の登場に驚いていた。


ゼロ人間体「…杏子?」

杏子「こんなとこで何やってんのさ、バーカ」


杏子は締め上げる槍の力を強め、使い魔を粉々に破壊する。
投げ出されたゼロアイを奪い返すと、それを一旦しまう。


杏子「それよりも肖像権…だっけ?
   その罰金、テメェのグリーフシードで払ってもらうおーか!」


杏子は槍の関節を元に戻すと、先端を魔女へ向けて挑発する。
ゼロを押さえていた使い魔達は、侵入者に狙いを定め、一斉に襲いかかった。


杏子「ハッ、チョロすぎだっつーの!
   そんなんでアタシを倒せるとでも思ってんのかよ!!」


迫ってきた天使の人形達を、振るわれた槍が一体二体と破壊していく。
杏子は大量の使い魔を相手に、たった一人でも余裕を見せる。

結界を漂うゼロは、その戦いを見守りながら何かを考えていた。


ゼロ人間体(さやかを殺そうとした、あの時のお前…あれは俺の見間違いだったんだろうか?)

ゼロ人間体(何故だろうな…今のお前にも感じるんだ)

ゼロ人間体(初めて出会った日と、同じものを…)


杏子は最後の一体を思い切り蹴飛ばすと、その反動を利用して魔女の元へ突き進む。


杏子「いつまでも閉じこもってんじゃねーよ!
   やる気ねーなら、アタシが引きずり出してやる!!」


杏子が擦れ違いざまに振るった槍が、ツインテールを伸ばすモニターの底を切り裂く。
底部分とともに、モニターの中から潜んでいた魔女が落下する。

画面では黒いシルエットしか見えなかったその姿は、まるで少女の人形のようであった。


杏子「食らいなっ!!」


杏子は落ちていく魔女に向け、魔力を込めて槍を投擲する。

槍は魔女の体を貫き、落下する以上の速度で結界の底へ叩きつける。
串刺しにされた魔女が抵抗する間もなく、魔力を解放した槍は爆発を起こした。

220: ◆S3K5UapAso 2013/05/11(土) 23:11:49.58 ID:3UnadFKn0


杏子「あー面倒くさ…」


戦いを終えてネットカフェを後にした杏子は、動けないゼロを抱えながら街を駆ける。
嫌々ではあったものの、変身した今の彼女ならば青年一人を持ち上げることは容易だった。

しばらくすると公園に到着し、ベンチにゼロを座らせる。
大きな荷が下り、杏子は魔法少女の姿から私服へと戻った。


杏子「ほらよ、大事なものなんだろ?」

ゼロ人間体「悪いな…」


杏子は俯いたままのゼロに、取り戻したウルトラゼロアイを差し出す。
ゼロは力なくそれを受け取ると、再び黙り込んでしまった。


杏子「じゃあな」


鬱屈したゼロの様子と自分の立場を考え、杏子は会話をすることなくその場を立ち去る。
しばらく歩いた後で振り返るが、ゼロは俯いたまま動こうとしなかった。


杏子「………」




ほむら「………」

QB「…おかしいね」


ほむらとキュゥべえがネットカフェに駆けつけた時、そこにゼロはいなかった。

店内には倒れた客達と、紙に印刷された自殺サイトのページが散乱している。
加えて、倒された魔女の微かな気配も残されていた。


ほむら(どうやら、先客がいたようね)


ここに居続ける理由がないことを確認したほむらは、無言で時間停止を発動する。

再び時が動き出すと、店内に彼女の姿は既にない。
そしてキュゥべえの額には、一つの穴が開いていた。

229: ◆S3K5UapAso 2013/05/12(日) 22:06:19.49 ID:TaoFUTsm0


『ハコの魔女』討伐から、数十分が経過した深夜の公園。
そこにビニール袋をぶら下げ、再び杏子が現れた。


杏子「やっぱりな」


杏子が向かう先には、ベンチから一歩も動いていないゼロの姿がある。
しかし彼女が歩み寄っても、彼は全く反応を示さない。


杏子「………」


杏子はベンチの裏に回ると、袋の中から缶ジュースを一本取り出した。
手を伸ばし、冷えた缶をそっとゼロの首筋に当てる。

途端に、ゼロは勢いよく俯いた顔を上げた。


ゼロ人間体「冷たッ!!」

杏子「何だ、ちゃんと意識あんじゃんかよ」

ゼロ人間体「杏子?お前、いつの間に…」

杏子「アタシと話がしたかったんだろ?時間作ってやるから、まぁ飲めって」


さやかだけでなくゼロとも向き合い、会話に応じる。
それは杏子自身も迷った末の行動であった。

杏子はゼロの横に腰掛けると、缶を手渡す。
彼女は袋からもう一本の缶を取り出し、その蓋を開けた。


ゼロ人間体「………」

杏子「調子狂うよな、テンション低いアンタを見てんのはさ。
   やっぱこの間のこと、まだ引きずってんだ?」

ゼロ人間体「まあな…」
 

230: ◆S3K5UapAso 2013/05/12(日) 22:09:35.44 ID:TaoFUTsm0


ゼロは普段の調子を保てないながらも、可能な限りの声で言葉を返す。


ゼロ人間体「…あれからずっと悩んでた。
      さやかだけじゃなく、どうやったらお前達を守れるのかを」

杏子「で、結局守られたのはどっちの方だよ…
   それに何度も戦ったアタシまで、わざわざ助ける義理があんのかよ?」

ゼロ人間体「あるさ…俺はみんなに、最後まで笑っていてほしい。
      お前の過去に何があったのかも、マミから聞いたんだ」

杏子「チッ、マミのやつ余計なことを…」


飛び出したマミの名前に、杏子はきまりが悪そうな態度を取る。


ゼロ人間体「マミを責めたりはするなよ。あいつだって、お前の事を本気で心配してるんだ」

杏子「知らねーよ、そんなこと…とにかくアタシはアタシでやってんだ。
   誰かに何かやって貰おうなんて望んじゃいないからな」

杏子「それより、まだ色々と抱え込んでんのはアンタの方だろ。一体何にビクついてんのさ?」

ゼロ人間体「………」


思わず言葉に詰まるゼロ。
彼はしばらく沈黙した後、その心中をさらけ出した。


ゼロ人間体「『闇』だ」

杏子「闇?…って、アンタが日ごろ戦ってる魔女も同じようなもんじゃん。
   そんなの怖がってて、正義の味方が務まんのかよ?」

ゼロ人間体「平和を乱すことが生き甲斐の悪党どもなら、俺は怖くねぇ。
      俺と仲間達で、全員まとめてブッ倒してやる」

ゼロ人間体「でも、そんなんじゃねぇんだ…」

杏子「ん?」
 

231: ◆S3K5UapAso 2013/05/12(日) 22:15:39.57 ID:TaoFUTsm0

ゼロ人間体「この世界では…今まで普通に笑ったり喜んでたりしてたやつが、
      何かのきっかけで、躊躇いなく自分や人を傷つける」

ゼロ人間体「何かに取り憑かれたわけでもなく、自分の意思で、突然な…
      そんな地球人の心の闇、俺はそれが怖いんだ」

ゼロ人間体「そして考えちまった。この世界を守る価値について…」

杏子「………」


ゼロが語る地球人の闇、その一人には自分も含まれている。

『ハコの魔女』が流していた映像を思い出し、それを理解した杏子は、
敢えて話題をさやかの件へと逸らした。


杏子「美樹さやか…アイツは道を見失っちまってるよ。
   アタシみたいに割り切ることもできずに、自己嫌悪に苛まれてる」

ゼロ人間体「お前、あれからさやかと会ったのか?」

杏子「まぁね、ついでに全部謝ってきた。
   その時に聞いたけど、アイツ…マミとのコンビを解消したらしい」

杏子「多分アイツが一番引きずってるのは、『正義の味方』を貫けないことなんだ」

ゼロ人間体「マミとも…」


杏子が良い方向へ変わっていることに安心を覚えるゼロであったが、
それ以上にさやかの行動が不安を煽る。

ゼロはマンションにさやかを送り届けて以降、一度もマミと顔を合わせていない。
彼女の周辺の出来事も、その心理状態さえ、全く把握してはいなかった。


ゼロ人間体「お前もさやかのこと、心配してくれてるんだな」

杏子「散々突っかかっといて、意味不明だろ?
   でも、これはアタシ自身が撒いた種でもあるからさ…」

杏子「だけど、アタシの言葉もマミの言葉も、アイツを変えるには不十分だった。
   そして残るは一人。やれるとしたら多分、アンタだ」
 

232: ◆S3K5UapAso 2013/05/12(日) 22:19:06.37 ID:TaoFUTsm0

ゼロ人間体「マミでも出来なかったのに俺なのか?
      それに、さやかにかける言葉が全く思いつかねぇ…」

杏子「まぁ…『ウルトラマン』の力、こんな時に使っても罰は当たらないでしょ」

ゼロ人間体「えっ?」

杏子「別に言葉でなくてもいいじゃんか。アンタは魔法少女じゃないんだ。
   やれる事の選択肢は、アタシ達よりも多いんだろ?」

杏子「どんな方法でもいいじゃん。
   アンタが信じてるものを伝えて、『正義の味方』の何たるかを教えてやればいいのさ」

ゼロ人間体「言葉以外の方法…そして、俺が信じてるもの…」

杏子「何もないのかよ?」


自分が強く信じ、力に変えているものは何なのか―――
ゼロが真っ先に思い浮かんだのは、今まで自分と関わってきた者達の姿。

ウルティメイトフォースゼロのメンバー。
M78のウルトラ戦士達や、宇宙開拓のクルー達。
アナザースペースで共に旅した人間達。
その他の星で出会ってきた多くの存在。

彼等との繋がり、そこに答えがあった。


ゼロ人間体「『仲間』…」

杏子「仲間、ねぇ」

杏子「要するに、『仲間がいるから戦える』ってことか。
   むず痒いね……まるで子供番組のノリだよ」

ゼロ人間体「……だよな」


『仲間』――それはゼロにとって心強い支えであるとともに、守るべきもの。

だが、杏子から返ってきた言葉は辛辣なものであった。
その反応に、ゼロは肩を落とす。
 

233: ◆S3K5UapAso 2013/05/12(日) 22:25:40.53 ID:TaoFUTsm0


杏子「でもアンタは、そこからブレちゃいけないんだ」

ゼロ人間体「ブレない?」

杏子「この世界、元いた世界と比べて相当な歪みっぷりなんだろうね。
   アンタがこうしてウツっちまうくらいだし」

杏子「でも、そんな世界で信じるものを貫けるヤツの姿は、希望になるんだ。
   迷路の中に閉じ込められたままの、誰かの希望にね」

ゼロ人間体「俺の生き方が、希望に…」


杏子を見ると、彼女は少しだけ寂しそうな表情を浮かべている。
彼女はゼロの視線に気付かないまま、言葉を続けた。


杏子「アタシも、親父にはそうあってほしかった」

杏子「正直に言うと…アンタには何となく感じてたんだ。
   親父がなれなかったものになれる、アンタはきっと、そういう存在なんじゃないか…ってさ」

ゼロ人間体「杏子…」


ゼロは静かに目を閉じる。


ゼロ人間体(…大事なことを忘れかけてたぜ)

ゼロ人間体(宇宙を守る神秘の盾――ウルティメイトイージス。
      この力は、腑抜け野郎じゃねぇ。『ウルトラマンゼロ』に授けられたものだ)

ゼロ人間体(俺が信念を見失わない限り、どんな世界だって守り抜ける。
      そう信じて、俺を使い手として認めてくれたんだよな)

ゼロ人間体(わかったよ…もう綺麗事と思われようが構わねぇ。
      杏子の言うとおり、今までどおりの俺で『心』と向き合うんだ)

ゼロ人間体(やってやる…最後まで『ウルトラマンゼロ』を貫いてやるぜ!!)
 

234: ◆S3K5UapAso 2013/05/12(日) 22:32:58.68 ID:TaoFUTsm0


それは、ようやく得ることの出来たゼロの答え。
同時に体中に力が漲り、数日ぶりに心を覆っていた暗雲が晴れたような気がした。


ゼロ人間体(それに…いつまでもクヨクヨ迷ってたら、イージス没収されて帰れなくなったりしてな)

ゼロ「…ははっ」


目を閉じたまま、ゼロは微かに笑う。
その様子を見て、杏子も少しだけ微笑んでいた。


杏子「フッ…」

ゼロ人間体「杏子、ありがとう」


ゼロが再び目を開けると、杏子はこちらに向けて手のひらを伸ばしている。


ゼロ人間体「何だよ、その手は」

杏子「レスキュー代にカウンセリング代。あぁ忘れてた、ジュース代もよろしくね」

ゼロ人間体「お前な…」


杏子が見せたのは、半分は本気の悪ふざけ。
ゼロが呆れ顔を作る裏で、彼女はささやかな期待を抱いていた。


杏子(何これ、まるでアタシが相談役じゃん。…でも、もっと早くに話をすれば良かったよ)

杏子(アンタなら見せてくれるのかな、アタシがずっと前に憧れてたこと―――)

杏子(最後に愛と勇気が勝つストーリーってやつをさ)
 

245: ◆S3K5UapAso 2013/05/25(土) 17:33:20.45 ID:QMFzYGxy0

【ハコの魔女 その4】



PC機器が並ぶどこかの暗い部屋。
照明の変わりに、モニターの明かりがほむらの姿を照らし出す。

彼女が再生しているのは、ゼロが滞在するネットカフェから持ち去った監視カメラのテープ。
画面には店のカウンターが映るが、店員の姿はない。

しばらく映像を眺めていると、一人の青年が入店した。


ほむら(彼ね)


それは一日の役目を終えた、人間体のゼロ。

カウンターで数分待機していたゼロは、突然、急ぎ足で外へ飛び出していく。
ゼロはすぐに再入店し、店内の奥へと踏み込んでいった。


ほむら(彼女は…)


更に数分後、何かに気付いたほむらは映像を停止する。
そこには、彼女よりも先に魔女討伐へ駆けつけた少女が映っていた。


QB「佐倉杏子だね。あの場所に残された魔力から、予想はついていたよ」

ほむら「………」


閉じられていたはずの部屋に、キュゥべえが姿を見せる。
しかし、ほむらは構わずPCの操作を続けた。
 

246: ◆S3K5UapAso 2013/05/25(土) 17:36:46.55 ID:QMFzYGxy0


QB「使い魔を見逃して魔女を育て、率先して縄張り争いを起こす。
   貪欲なまでに自分の損得を考えていた彼女だけど、ここ最近で随分と見違えたよ」

QB「何しろ、見滝原市へ頻繁に出入りしながら、
   拠点である風見野市でしか魔女を狩らなかったんだからね」
   
QB「恐らく、かつて師弟関係にあった巴マミに気を遣っていたのだろう」

QB「現状、この街は君とウルトラマンゼロによって魔女が激減している。
   杏子はそれを知りながら、マミの収穫になるかもしれない魔女を討伐した」

QB「これは何故だと思う?」

ほむら「あら、私に話してたのね。独り言だと思ってた」

QB「目的以外の物事に、本当に興味がないんだね。恐れ入ったよ」

QB「つまり、彼女は偶然見つけた反応を放置することができなかったのさ。
   複数の人間達が、魔女の犠牲になりかねないと気付いてね」

QB「ウルトラマンゼロも、杏子が見せた『正義』によって救われたわけだ。
   …そのお陰で、君について調べる機会も失われたけれど」

ほむら「抜け目ないわね」


関心を示す素振りこそ見せないが、ほむらは全て漏らすことなく聞き取っている。
ここで、彼女はようやくまともに言葉を返した。


ほむら「彼女が駆けつけずとも、私は彼を確実に救い出していた。
    その上で、私が取る行動を探ろうとしたのでしょう?」

ほむら「無駄な事を…お前にできるのは、私に全てを覆される様を見ていることだけよ」

QB「そこで僕の観察力が物を言うわけだ」

QB「君に何度も殺されたことで、攻撃の特性も既に把握できたからね」


マウスを動かすほむらの手が、一瞬止まる。
 

247: ◆S3K5UapAso 2013/05/25(土) 17:41:50.00 ID:QMFzYGxy0


QB「僕が契約した覚えのないイレギュラーな魔法少女。
   有り得ない知識量と僕への異常なまでの敵対心から、その正体も見えてきた」

QB「君が扱うのは、時間操作の魔術。
   そして君は魔法の力によって、別の時間軸からやってきた人間だ」

ほむら「……ッ」

QB「あとは君の目的を炙り出すだけさ」


ほむらは振り向くことなく、苛立った目つきでモニターを見つめ続ける。

度重なるループの中で、キュゥべえに魔法の性質を見極められたことは何度もあった。
しかし幾ら経験しようとも、秘密を暴かれる感覚に慣れることはない。


QB「本当は君のことだけでなく、『光』の確保にも全力を尽くしたいんだけどね。
   でも、本星が限られた数しか僕を送ってくれない以上、そうもいかないんだ」

QB「僕は僕に与えられた、本来の役目が待っている。
   バランスを上手く調整しながら、全て達成してみせるさ」

QB「それじゃあ僕はここで失礼するよ」


ほむらへの牽制という目的を終え、キュゥべえは部屋から去ろうとする。
その足を、ほむらの一言が止めた。


ほむら「また、誰かを絶望へと落とすつもり?」

QB「当然だ。利用できるものは何でも利用しないと、勿体ないじゃないか」

ほむら「下衆ね」

ほむら「……でも、同感よ」


相容れない互いの立場を表すかのように、背を向ける両者。
そしてほむらの目は、画面に映る杏子の後ろ姿を凝視していた。
 

250: ◆S3K5UapAso 2013/05/27(月) 22:43:14.02 ID:gmAOjPPS0

【ハコの魔女 その5】



さやか(あの日から、私はフリーの魔法少女。
    ゼロさんやマミさんとは、一度も顔を合わせてない)

さやか(それでもやってる事は変わらない。魔女から使い魔まで、全部倒すつもりで探してる。
    ま、全然見つけられてないんだけどさ)

さやか(変わらないのは、日常生活でも同じだね。
    仁美にまどか――そして恭介とも、今までどおりの『友達』関係)

さやか(全てはゼロさんやマミさんに出会う前に戻ったんだ。
    ただ一つ違うのは、私に魔法少女の使命が与えられたこと!)


さやか(…そう自分に言い聞かせて、取り繕うしかないんだ)


さやか(溢れ出てたドス黒い感情も、それをかき消してくれた温かさも、もうどこかに消えちゃった。
    残ってるのは、どっちにも染まれない抜け殻みたいな私だけ)

さやか(…恋愛に振り回されて、平然と誰かを傷つけられるやつが、
    よく『正義の味方』なんて目指せたもんだよね)

さやか(それに、あんなに憎んでた二人が急に謝るもんだから、
    あいつらへの憎しみとか、そんな感情を力に変えてた自分がクズに思えてくるんだ)

さやか(この先どうすればいいのか、全然わかんないよ)

さやか(そういえばキュゥべえの奴が言ってたっけ、私は『卵』だって。
    それは、こんな最低女でもまだ生まれ変わることができるって意味なの?)

さやか(…なんてね。さ、そろそろ出掛けよう。今夜こそ魔女を探してやっつけるんだ)

251: ◆S3K5UapAso 2013/05/27(月) 22:47:26.24 ID:gmAOjPPS0


その晩も、さやかは魔法少女の使命を果たすべく自宅を抜け出す。
静かに玄関のドアを閉じ、夜の市内へ向けて歩き始めようとした。

その時、さやかの動きが止まった。


さやか「!?」

ゼロ人間体「久しぶりだな、さやか」


自宅の前で、ゼロはさやかが現れるのを待っていた。
ずっと遠ざけていた存在を前にし、さやかの中で緊張が高まる。


さやか「ゼロさん…」

ゼロ人間体「魔女を探しに行くんだろ?付いて行ってもいいか?」

さやか「あ……うん…」


あまりにも突然の出来事に、さやかは拒むタイミングを完全に逃してしまっていた。


特に目的地を決めているわけでもなく、二人は並んで歩き出す。
さやかは会話の内容を必死に考えるが、何も思い浮かばない。


さやか「………」

ゼロ人間体「そう硬くなるな…ってのも、無理な話だよな」

ゼロ人間体「こうして会うのも、あの夜以来だ。
      俺も色々と思うところがあって、お前の事を避けちまってた」

ゼロ人間体「でも、もう逃げねぇ」

さやか「避けてたってのは私の台詞であって…ゼロさんは何も悪くないっすよ」

さやか「ズルズル行っちゃうよりは、こうして来てくれて良かったのかな…と思う」

ゼロ人間体「そうか」


数日前、マミが見せた依存から思わず逃げ出してしまったさやか。
同じように、本当はこの場からも逃げ出したくて仕方ない。

その葛藤は、さやかからある言葉を引き出した。

252: ◆S3K5UapAso 2013/05/27(月) 22:51:53.38 ID:gmAOjPPS0


さやか「恭介と仁美、上手くいってるみたい」


突然飛び出したのは、恭介をめぐる恋の結末。
ゼロは敢えてすぐに言葉を返さず、さやかが話を続けるのを待った。


さやか「仁美、私には遠慮してるっぽいけど、見てるだけで毎日が充実してるってわかるんすよね」

さやか「それに、まどかには結構ノロケ話してるみたいだし…」

さやか「………」

さやか「…ゼロさん、私は選ばれなかったんだよ」


さやかの言葉には、仁美への憎しみも祝福も含まれていないように感じられる。
それを聞きながら、ゼロは浄化を施した時、さやかにかけた言葉を思い出していた。


ゼロ人間体「…『信じる』ってことは、前に進むために必要なことなんだ。
      困難な道を乗り越えるための、原動力みたいなもんだからな」

ゼロ人間体「でも、幾ら強く信じたからといって全てが叶うわけじゃない」

ゼロ人間体「あの時の俺の言葉、無責任に感じるか?」


ゼロの問いに、さやかはどこか申し訳なさそうな素振りを見せていた。
しかし、ここで偽るべきではないと考え、小さく頷いた。


さやか「ごめん、前みたいにゼロさんを責めたいわけじゃないんだ。
    でも、自分でももうわけがわからなくなっちゃってる」

さやか「恋愛のことだけじゃない。
    『正義の味方』から外れた私は、この先何のために魔法少女を続ければいいんだろ…とか」

さやか「もし、こうして魔女を探すことさえやめちゃったら、
    私がこの世にいる価値なんてなくなるんじゃないか…とかさ」
 

253: ◆S3K5UapAso 2013/05/27(月) 22:58:54.42 ID:gmAOjPPS0


さやか「でもゼロさんにとって戦いは当たり前で、別に理由なんてない。
    たぶん、私のことなんてわからないっすよね…」

ゼロ人間体「確かに、平和を守る戦いに理由なんてねぇ」

ゼロ人間体「けどな、何のために強さを求めるのか、
      何が俺を強くするのか――その答えは持ってるつもりだ」

ゼロ人間体「俺が持ってる答えと、お前が手にするかもしれない答え。
      二つは全く違うものかもしれないけどな」

さやか「…こんな私でも、見つけられる?」

ゼロ人間体「前に自分の事をこう言ってたよな。『正義の側なのに、力を求めて闇に堕ちる奴』だって」

ゼロ人間体「もし一度闇に堕ちかけて、道を正せた奴が目の前にいたとしたら?」

さやか「それ、どういう事?」

ゼロ人間体「その前に…」

ゼロ人間体「いるんだろ?出てこいよ!」


ゼロは立ち止まると、建物の陰に呼びかける。
しばらくすると、その声に応えるかのように何者かが姿を現した。


さやか「あんた、毎回どこから湧いてくんのよ…」


隠れて二人の様子を窺っていた人物とは、杏子であった。


杏子「何だ、どっから気付いてたのさ?」

ゼロ人間体「俺が着く前からさやかの家の近くに隠れてたろ。そこからずっとだよ」

杏子「最初からバレバレかよ…こういうのは得意分野だと思ってたのに。
   自信なくすね、こりゃ」

ゼロ人間体「そう言うなよ。お前が目ェ覚ましてくれたおかげで、すげー冴えてただけだ!」

ゼロ人間体「だから自分に自信を持て、自信を!」

杏子「うっぜぇテンションだな…もう一度ウツって引きこもってろよ!」

さやか(この二人、微妙に打ち解けてる?)


初めて出会った日のような関係性を取り戻しかけていたゼロと杏子。
知らぬ間に変化している二人の様子に、さやかも驚いている。

そしてゼロは、さやかだけでなく杏子も交えた上で、何かを始めようとしていた。
 

254: ◆S3K5UapAso 2013/05/27(月) 23:07:29.66 ID:gmAOjPPS0


ゼロ人間体「さぁ、そろそろ始めるか」

さやか「始めるって、何を?」


腕を突き出すと、イージスの光からゼロアイが飛び出す。
ゼロはジャンプし、高く舞い上がったゼロアイを装着した。

彼の周囲に赤と青の光が収束し、その姿はウルトラマンではなく、白い光球へと変化した。
空へと上った光球は、直後にさやかと杏子目掛けて急降下する。


杏子「何で変身して――って、おい待ッ!?」

さやか「わっ!?」


光球が衝突すると同時に、二人は視界を遮るほどの光に包み込まれていった。


二人が再び目を開けると、辺り一面は真っ白な光に囲まれている。
その奥から、人間体のゼロが歩いてきた。


さやか「ん…?」

杏子「なんだここ、結界じゃあないよな?」

ゼロ人間体「ここは俺が作り出した光の空間だ」

杏子「光の?んなもん作って、一体何する気だよ?」

ゼロ人間体「言葉だけでは伝えきれないもの、『ウルトラマン』の力で補うだけさ」


ゼロが目線を向けた先に、一つの映像が浮かび上がる。
それは宇宙空間に輝く、緑色の惑星。


ゼロ人間体(言葉だけじゃなく、映像もあればより詳しく伝わるってもんだろ!な、杏子!)

杏子(……あー、そういう事ね)


杏子に向け、ゼロは一点の迷いもない凛々しい顔でテレパシーを送る。
一方の杏子は、何ともいえない表情で念話を返した。


杏子(何つーか、アタシが想像してたのとは随分違うんだけど…)

杏子(まぁ『どんな方法でもいい』なんて言っちまったのはアタシだし、
   とりあえず見守るしかないよな…)

 

255: ◆S3K5UapAso 2013/05/27(月) 23:17:19.07 ID:gmAOjPPS0
つづく


ちょい補足すると、ゼロが二人に使っている能力は
『ウルトラ銀河伝説』でメビウスがレイに協力を求めた時と同じものです。

262: ◆S3K5UapAso 2013/05/30(木) 23:39:50.63 ID:WXiit4YH0


ゼロ人間体「本当はさやかだけのつもりだったんだが…
      杏子、お前がこうして付いてきたのも何かの縁だ」

ゼロ人間体「あまり時間は取らせねぇ。だから二人には、最後まで見てほしい」

ゼロ人間体「俺の過去。そして、俺の心の内を」

さやか「わかったよ、私も逃げない」

杏子「しゃーない、アタシも最後まで見てやるよ」


二人の了承とともに、映像の視点は惑星へ向けてぐっと近づいていく。

その遙かな大地には、巨大な都市が広がっている。
建ち並ぶ建造物の数々は、まるで結晶で構築されているかのように美しい。

幻想的な街並みを、ゼロと同じ種族の人々が歩き、会話を交わし、空を飛ぶ。
地球とはどこか似ているようで大きく異なる、巨人達の暮らしがそこにあった。


さやか「綺麗…」

ゼロ人間体「これは、遠く離れた別の宇宙にある『光の国』。俺の故郷だ」

杏子「これが、アンタの故郷…」

ゼロ人間体「ああ、誰もが宇宙の平和を願い、犯罪者もいない。そんな世界で俺は生まれ育った」


都市の上空には、巨大な塔がそびえている。
視点は塔へと近づき、その入り口から内部へと踏み込んでいった。

しばらく上層へ上っていくと、塔の中枢と思われる場所に辿り着く。
そこには、祀られるかのように強い光が輝いていた。


ゼロ人間体「光の国は、太陽の爆発で一度は光を失った星なんだ。
      でも、科学者達が諦めずに作り上げた人工太陽が、この星を蘇らせた」

ゼロ人間体「この塔は、光の国を照らす人工太陽の本体。
      そしてあの光は、強大なエネルギーを秘めた人工太陽のコアだ」


しかし映像の中では、何者かが光に向けて手を伸ばす。
その姿は、二人にも見覚えのある戦士―――ウルトラマンゼロに他ならなかった。

263: ◆S3K5UapAso 2013/05/30(木) 23:42:01.80 ID:WXiit4YH0


さやか「ゼロさん?」

杏子「何しようとしてんだ?」

ゼロ人間体「俺はより強くなるために、この光を手に入れようとしたんだよ」

さやか「え…」


その時、何者かがゼロの腕を掴む。


セブン『待て!』


ゼロを振り払って制止したのは、同じように頭部にブーメランを装着した赤い戦士。
ウルトラ兄弟の一人・ウルトラセブンであった。


ゼロ『邪魔すんな!』

セブン『その光に近付くな。お前にはまだ早すぎるんだ』

ゼロ『舐めるなよ。俺はこの力を使いこなしてみせる!』


だが、セブンに続いて更に数人のウルトラマンが駆けつける。
彼等は一斉にゼロを取り押さえ、エネルギーコアの元から引き離した。


ゼロ『…ッ!?放せ……放せよぉっ!!』

セブン『残念だが…お前にはもう、ウルトラ戦士を名乗る資格はない』


聖なる光に触れることは、この国では大罪。
禁を破ったゼロは身柄を拘束され、連行されていく。

セブンはその様子から目を背け、悲しそうに俯いていた。
 

264: ◆S3K5UapAso 2013/05/30(木) 23:51:02.40 ID:WXiit4YH0


ゼロ人間体「ホント、我ながらありえないぜ…」

さやか「………」

杏子「………」


映像を見つめ、ゼロは自分の過ちを反省していた。
さやかと杏子もそれぞれ何かを考え、黙っている。

しばらくして、二人の反応に気付いたゼロは話を再開する。


ゼロ人間体「ああ…悪い。それから俺は故郷を追放され、辺境の惑星で修行を命じられたんだ」


ゼロ『こんなギア着けてたって、負ける俺じゃねぇ!!』

さやか(!?)


以前キュゥべえとの会話でも触れたことのある星『K76星』。
強い磁気嵐が吹き荒れる中で、二人の巨人が激しい戦いを繰り広げていた。

一人は訓練用の制御アーマーを架せられたゼロ。
そしてもう一人は、彼を鍛え上げる役目を受けたウルトラマンレオ。


レオ『イアァーーッ!!』

ゼロ『うっ…ぐあっ…』

レオ『お前はまだ、小手先の力しか信じていない。そんなものは、本当の強さじゃない!』

ゼロ『偉そうに…ゴタゴタ言ってんじゃねぇ!!』

ゼロ『デェアッ!!』


だが、ゼロは本来の力を発揮できず、一方的に叩きのめされるばかり。
その結果を受け入れられず、苛立ちを剥き出しにして再びレオに挑んでいく。

ヒーローとして、『正統派』とは言い難い性格をしているゼロ。
しかし映像が見せる過去は、現在の彼が想像できないほどに荒れていた。

 

265: ◆S3K5UapAso 2013/05/30(木) 23:58:53.25 ID:WXiit4YH0


杏子(何だろうね…笑えない)


自分の為だけに生きると誓って以降、他者を傷つけることに躊躇いのなかった自分。
怒りに身を任せ、隣に立つ少女を自らの手で殺そうとまでした自分。

杏子はさやかに過去の姿を見たように、荒れたゼロの過去も自分と重ねていた。


杏子「…大体アンタ、何でこんな事しでかしたんだ?」

ゼロ人間体「ずっと昔から、平和を守るために戦うのは当たり前のことだった。
      理由なんて考えたこともなかった」

ゼロ人間体「だからこう考えた。より強い力を手に入れて、
      片っ端から悪を叩き潰せば、平和は守られるってな」

ゼロ人間体「あの時の俺は間違っていた。力に見合う『正義』を持っていなかったんだ」


レオの猛攻を渾身の力で受け止め、投げ飛ばすゼロ。
すると、レオが叩きつけられた岩山がひび割れ、崩れ落ちていく。

それを目の当たりにし、ゼロは一目散に駆け出した。


ゼロ人間体「でも、この長い修行は俺に気付かせてくれた」

ゼロ人間体「今まで足りなかったもの…命を慈しみ、弱きものを助ける心を!」

さやか「あ…」


黙っていたさやかの口から、思わず声が漏れる。

映像の中では、ゼロは巨大な落石を持ち上げていた。
その足元には、人間ほどの大きさをした怪獣が跳ねている。

ゼロが咄嗟に助けようとしたのは、その小さな『命』。


ゼロ人間体「こうして俺は答えを手に入れた。
      守ることが『戦う』こと…そして、それこそが本当の『強さ』であり『正義』だってな!」

さやか(守る…それがゼロさんの答え)


さやかは一度映像から目を離し、俯いて考え込む。


さやか(私も、何かを守るためにキュゥべえと契約した。
    でも、魔法少女になって守りたかったものって…本当は何?)

さやか(病院にいた患者さん達?身近な人達?この街に暮らす人ぜんぶ?)

さやか(それとも―――)


頭の中で、一人の少年の顔が浮かびかける。
その時、杏子がゼロに訊ねた。

 

266: ◆S3K5UapAso 2013/05/31(金) 00:10:07.24 ID:zB15BXzi0


杏子「ちょっと水を差すようで悪いんだけどさ、一つ聞かせなよ」

杏子「もしアンタが変われなかったら、今頃どうなってた?」

ゼロ人間体「丁度、それについても話そうと思ってたところだ。
      俺が答えを手にした裏で、光の国ではとんでもねぇ事件が起きていたんだ」


映像はK76星の荒野から一転し、棍棒のような武器を手にした黒い巨人を映す。
更にその背後には、百体近い巨大な怪物たちがひしめいている。


杏子「何だよこりゃ…魔女より馬鹿でかいのがウジャウジャと…
   それに、こいつも『ウルトラマン』?」

ゼロ人間体「俺と同じ種族でありながら、闇に堕ちた暗黒の戦士――『ウルトラマンベリアル』だ」


ウルトラマンのようで禍々しいその姿に、違和感を抱く杏子。
『ハコの魔女』の結界でもベリアルの映像は流れていたが、杏子はそれを目にしていなかった。


杏子「でもさ、おかしくない?さっき故郷には犯罪者がいないって言ってたじゃん」

ゼロ人間体「こいつはその中で唯一の例外なんだよ。…まぁ、俺の件はもうノーカンらしいが」

ゼロ人間体「でも、こいつが犯した罪…それは俺と同じ、
      人工太陽のコアを手に入れようとした事から始まったんだ」

ゼロ人間体「失敗して故郷を追放され、憎しみに支配されたベリアルは、
      宇宙の闇に魅入られて暗黒の戦士へと変わり果てた」

ゼロ人間体「光の国に再び現れた奴は、破壊の限りを尽くした後に投獄されたんだ。
      俺の故郷の歴史じゃ『ベリアルの乱』だなんて呼ばれてる」

杏子「だとすると、アンタがあの光に触れていたら…」

ゼロ人間体「力に溺れ、身を滅ぼし、こいつのように闇に堕ちていたかもな。
      ベリアルは『こうなっていたかもしれない』俺の姿でもあるわけだ」

杏子「なるほど、ねぇ…」

ゼロ人間体「俺はあの時、道を踏み外しそうになった。でも、それを止めてくれた人がいた」

杏子「さっきのウルトラマンの事?」

ゼロ人間体「ああ、あの戦士の名前は『ウルトラセブン』。俺の親父だ!」

杏子(『親父』?)


その言葉に、杏子が思わず反応を示す。


杏子「…立派な親父じゃん」

ゼロ人間体「そう思うだろ?親父は俺の誇りだからな!」


父の存在は、ゼロにとって偉大なものであることが伝わってくる。
杏子は笑みを見せながらも、どこか羨ましそうであった。
 

267: ◆S3K5UapAso 2013/05/31(金) 00:12:08.58 ID:zB15BXzi0
つづく

270: ◆S3K5UapAso 2013/06/02(日) 20:27:42.70 ID:OZEuhZos0


ゼロ人間体「でも親父達はその頃、絶対絶命の状況に陥っていた。
      あのベリアルが復活し、光の国が壊滅状態に追い込まれたんだ」


すると、映像は塗り潰されるように『怪獣墓場』で繰り広げられる決戦へと切り替わる。

ベリアルと、百体から数を減らした数十体もの怪獣軍団。
対する光の勢力は、わずか数人のウルトラマンと地球人達という絶望的な状況。

更に、そこには重傷を負い、力なく地に伏したウルトラセブンの姿があった。


ベリアル『もう飽きた。そろそろ終わりだ!』


満身創痍の戦士達に、ベリアルはとどめを刺そうと動き出す。
その時、放たれた一筋の光線が、怪獣達を薙ぎ払った。

巻き起こる爆発が晴れた後、駆け付けた光がセブンを安全な場所へと運んでいく。


ベリアル『誰だ!?』


ベリアルの問いに、その戦士は拳を強く握り締めて振り返った。


ゼロ『ゼロ…ウルトラマンゼロ!セブンの息子だ!!』

ベリアル『セブンの息子だと?だったら親父同様、地獄に落としてやる!!
     行けぇぇぇーーーーっ!!』


光の国の危機を知り、駆け付けたウルトラマンゼロ。
一斉に襲い来るベリアルの怪獣軍団に、彼はたった一人で戦いを挑む。

エメリウムスラッシュ、ワイドゼロショット、ゼロスラッガー、
持てる力と技の全てを振るい、次々と怪獣を撃破していく。

271: ◆S3K5UapAso 2013/06/02(日) 20:31:18.55 ID:OZEuhZos0


ゼロ人間体「さやか、お前は力を求める意味を…『正義』を契約した時から持っていた。
      だけど俺は、手にするまでに長い時間がかかっちまった」

ゼロ人間体「それに気付けたとき、俺はやっと『ウルトラマン』になれたんだ。
      そしてこれが、本当の意味で最初の戦い―――」


圧倒的な力で怪獣軍団を全滅させたゼロ。
彼を倒すべく、ついにベリアル自らが立ちはだかる。


ベリアル『小僧、今度は俺様が相手だ!!』

ゼロ『貴様だけは、絶対に許さん!!』

ベリアル『ほざけ!今ブッ倒してやるからなァァッ!!』

ゼロ『シェーアッ!!』


ついに相対し、武器を交えるゼロとベリアル。
激しい攻防を見つめながら、さやかは自分が『守りたいもの』に対して一つの結論を出していた。


さやか(そうだ…私は恭介も他の患者さん達も、みんなを守りたかったんだよ)

さやか(そしてマミさんとゼロさんの戦いを見て、今度はこの街そのものを守ることに憧れたんだ)

さやか(どれか一つが正解ってわけじゃない…全部私の、本当の気持ちだった)

さやか(でも…)


戦いの末、放たれたゼロツインシュートがベリアルを直撃する。
その威力にゼロは反動を受け、ベリアルは押し飛ばされていく。

やがてベリアルは怪獣墓場の谷底まで吹き飛ばされ、流れる溶岩の中へと落ちていった。


杏子「これがアンタが『正義の味方』になるまでの顛末か」

ゼロ人間体「まぁ、この後もまだ少し戦いは続くんだが―――」


直後、ベリアルは余力を振り絞り、全長四千メートルにも達する怪物を作り出す。
……のだが、その回想はさやかによって遮られることとなる。
 

272: ◆S3K5UapAso 2013/06/02(日) 20:59:53.54 ID:OZEuhZos0


さやか「最終的にゼロさんは光を取り戻して、故郷を救って、
    みんなから一人前の戦士として認められましたとさ……めでたしめでたし」

さやか「…この後って、大体そんな流れっすよね?」

杏子「おい、どうしたんだよ?」


ゼロが回想を続けようとした時、さやかが突然口を挟む。
以前のように攻撃的ではないものの、その様子はどこかおかしい。


ゼロ人間体「俺から説明したかったが、確かにそんなところだ」

さやか「ゼロさんはほんとスゴいっすよ…
    スゴすぎて…スケール大きすぎて…自分がちっぽけに見えちゃうよ…」

さやか「私は無敵の『ウルトラマン』じゃない…弱い『人間』なんだ」

杏子(こいつ…また前みたいに?)


さやかは、立ち直ったゼロの姿と自分とを比較してしまっていた。
杏子はその精神状態を心配しながら、ゼロの言葉を待つ。


さやか「あんな簡単には変われない…やっぱり、私はゼロさんとは違うんだよ!」

ゼロ人間体「いーや違わねぇ!」

さやか「!?」

ゼロ人間体「確かに俺達の間には、種族として力の差がある。
      でもな…人間もウルトラマンも、同じ『心』を持った存在だ!」

さやか「私達が同じ…ウソだ」

ゼロ人間体「嘘なんかじゃない。ウルトラマンだって悩み、苦しむんだ。
      そして自分一人の力では、全てを変えられない」

ゼロ人間体「人間と同じようにな」


ゼロの能力が新たな映像を浮かび上がらせる。

広大な青い空間が広がり、巨大なシャボン玉のような粟粒が無数に浮かんでいる。
その美しい光景に、さやかのすべての意識が一瞬、引き寄せられた。
 

273: ◆S3K5UapAso 2013/06/02(日) 21:31:38.89 ID:OZEuhZos0


杏子「な……これが、別の宇宙ってやつ?」

ゼロ人間体「宇宙よりも更に上、多世界宇宙(マルチバース)の超空間だ」

ゼロ人間体「この泡の一粒一粒に、別の宇宙が広がってるんだ。
      俺の故郷や、俺が滞在する宇宙、そして俺達が今いる宇宙もな」


ゼロが作り出した光の空間、その全面を使って映し出されるマルチバース。
さやかだけでなく、杏子もその幻想的な光景に圧倒されている。


ゼロ人間体「『ウルトラマン』になれた俺にも、まだ足りないものがあった。
      それを戒めるため、俺は故郷とは別の宇宙へ旅立つ任務に志願したんだ」

さやか(ゼロさんに足りなかったもの?これ以上何が…)


ゼロはまだ、自分に何かを伝えようとしてくれている。
それが何なのかを見届けるまで、さやかはしばらく口を開かないと決めた。


ゼロ人間体「だが、辿り着いた宇宙で待ち構えていたのは、最悪の敵だった」

杏子「最悪の敵?一体どんなバケモンだよ?」

ゼロ人間体「ベリアルだ」

杏子「またかよ!?」


映像のゼロは、マルチバースの超空間から泡の一つへ飛び込んでいく。
次元の壁を潜り抜けると、そこには別の宇宙空間が広がっていた。

その宇宙こそ、ゼロの拠点とする『アナザースペース』の一年以上前の姿。


ゼロ人間体「ベリアルの野郎は、生き延びて別の宇宙へと流れ着いていた。
      そして皇帝を名乗り、宇宙全体を混乱に陥れていたんだ」

ゼロ人間体「前の怪獣軍団とは、比べ物にならない戦力を率いてな」
 

274: ◆S3K5UapAso 2013/06/02(日) 21:39:28.46 ID:OZEuhZos0
つづく

277: ◆S3K5UapAso 2013/06/05(水) 23:25:57.35 ID:f6h6HmFY0


ゼロが新たに見せたのは、ベリアルの手を模した超巨大な要塞、そして周囲を飛び交う凄まじい数の戦艦。
更には、光の国とは異なる緑の惑星が、要塞によって鷲掴みにされている。

敵勢力の名は『ベリアル銀河帝国軍』。
ゼロが今の宇宙を訪れる前に戦ったロボット達は、その残党であった。


ゼロ人間体「俺は自分の力を信じて、何でも一人でやろうとし過ぎていた。
      別宇宙への旅で改めたかったもの、それは『慢心』だ」

ゼロ人間体「最初は、この軍隊相手に俺一人で突っ込もうなんて考えてたからな」

杏子「この数をかよ?無謀過ぎんでしょ…」


燃え盛る炎の中から、赤いマントを纏ったベリアルが配下を引き連れて行進する。

だが、この時さやかの目に映っていたのは、ベリアルとは別のものだった。


さやか(勝てもしないのに一人の力で……私もそうだ)

さやか(強くなりたいからって、身の丈に合わない魔女と戦って、
    結局ゼロさんが倒しちゃって、それを見て私は……)

さやか(…駄目だ、思い出しちゃ駄目!)


それは、『影の魔女』と戦う自分の姿。
平然を装いながら、必死にその記憶を振り払おうとする。


杏子「でもさ、アンタの思い出話になってるってことは……あの悪トラマンに勝ったんだな?」

ゼロ人間体「ああ、今度こそ地獄へ送ってやったぜ!」

杏子「ヒーローのセリフじゃねーだろ、それ…」


ゼロが指を軽く鳴らすと共にベリアルの姿は消える。
周囲は、再び真っ白な光の空間へと戻っていった。
 

278: ◆S3K5UapAso 2013/06/05(水) 23:30:06.55 ID:f6h6HmFY0


さやか(そうだよ…負けてたらゼロさんはここにいないもんね)

さやか(ゼロさんはあんな敵にも勝っちゃうヒーローじゃん。
    私なんかと一緒にしたら駄目なんだ……)


ゼロと杏子の会話であっさりと判明した、戦いの結末。
それを聞き、さやかは再びゼロとの比較を始めてしまう。


杏子「おい、その過程は…」

ゼロ人間体「さっきも言った通り、俺は勝った。事細かく実況してたら長くなっちまう」

杏子「んな中途半端な…逆に気になんじゃん」

人間体「仕方ねぇ、ちょっとだけだぞ!」


空間上に、手のひらを広げたかのように展開した要塞が映る。
次の瞬間、要塞の中心に光が収束し、大爆発を起こす。

そして要塞は跡形もなく崩壊し―――映像は途切れた。


杏子「短ッ!?」

ゼロ人間体「インキュ…じゃなくてキュゥべえの野郎も言ってたろ?
      俺が一つの宇宙を滅ぼせるような相手と戦ってるって」

ゼロ人間体「そんな戦いを続けていられるのは、俺一人だけの力じゃない。
      心から信頼し、助け合える奴らがいてくれたからだ」

さやか(一人だけの力じゃ…ない?)

ゼロ人間体「『仲間』の存在、それが俺のもう一つの答えだ!」


『守る』ことと並行して伝えたかったもの、
それはゼロの言葉とともに光の空間に姿を現した。

三人を囲むように浮かび上がったのは、大勢の巨人達の姿。
 

279: ◆S3K5UapAso 2013/06/05(水) 23:39:55.12 ID:f6h6HmFY0


杏子「こりゃあ、もしかして…」

ゼロ人間体「遠く離れていても、俺の心の中にいてくれるみんなの姿だ」


ゼロの指が空間の斜め上を指し示す。
二人が見上げると、筋肉質な戦士、スマートな騎士、二体のロボットの姿があった。


ゼロ人間体「燃えるマグマの筋肉バカ『グレンファイヤー』、鏡を作るのが得意な『ミラーナイト』」

ゼロ人間体「そして俺達と同じ心を持ったロボ兄弟、『ジャンボット』と『ジャンナイン』」

ゼロ人間体「俺が作った宇宙警備隊『ウルティメイトフォースゼロ』。
      普段はこいつらと騒ぎながら、宇宙の平和を守ってるんだぜ!」

杏子「何つーか、巨人達がワイワイ雑談してる様ってのも想像――――」


杏子はウルティメイトフォースの四人から視線を下ろすと、ゼロの顔をじっと見つめる。


杏子「…できるね」

ゼロ人間体「…何だよ?」

杏子「いや、別に」


その時、杏子は自分達と同じ目線の位置に、何者かの姿を見つける。

巨人達に気を取られて気づかなかったが、
そこには青年と少年、そして高貴な雰囲気を醸す少女が佇んでいる。


杏子「人間?さっき映ってた連中とは違うけど」

ゼロ人間体「その三人は、ベリアル軍との戦いで旅を共にした人間達。
      惑星アヌーの兄弟『ラン』と『ナオ』、そして惑星エスメラルダの王女『エメラナ』だ」

杏子「他の星なのに、アンタと違って元からこの姿なんだな……不思議だよ」

ゼロ人間体「それだけ宇宙は広いってことだ。もし地球人を探してるなら、ここにいるぜ」
 

280: ◆S3K5UapAso 2013/06/05(水) 23:53:00.37 ID:f6h6HmFY0


ゼロが向きを変えて別の場所を指差す。
その位置には、青い宇宙船を背に五人の男女が並ぶ。


ゼロ人間体「故郷の世界で、宇宙を開拓している地球人『ZAP』のクルー達。
      後ろにいるのが、そいつらの頼もしい相棒だ」


宇宙船の更に上を見上げると、恐竜のような姿をした怪獣の姿もある。
それはクルーの青年レイが操る、味方怪獣『ゴモラ』。


杏子「…こいつが、相棒?」

ゼロ人間体「ああ、絆に種族なんて関係ねえ。怪獣だって同じだ!」

ゼロ人間体「そして忘れちゃいけねえのが、親父や故郷の戦士達」


ゼロの背後では、父のセブンと師のレオが姿を見せる。
その二人を中心に、更に何十人ものウルトラ戦士達が立ち並んでいた。

彼ら以外にも、ゼロが様々な星で出会ってきた人々が、次々に浮かび上がってくる。


さやか「色んな人達が、ゼロさんを支えてたんだね」


ゼロの真意を理解出来たさやかは、ついに口を開いた。


さやか「ゼロさんと同じもの…本当は私のすぐ近くにもあるんだよね?」

さやか「そして、今の私には…見えてない」

ゼロ人間体「大丈夫だ。閉ざしかけてる心をもう一度開けば、きっとお前にも見えてくる」

ゼロ人間体「そうだな…杏子が今ここにいるのは何故だと思う?」

杏子「…チッ」


突然名指しされた杏子は、ゼロとさやかから目を背ける。


ゼロ人間体「お前を心から心配し、立ち直ることを願ってるからだよ」

さやか「私を…?」

杏子「……」

ゼロ人間体「杏子だけじゃない、俺だってお前の事を―――」


ゼロは二人の背後をそっと指差す。
 

281: ◆S3K5UapAso 2013/06/06(木) 00:12:17.24 ID:GjzXzwlD0


振り向くと、そこにはさやかと杏子、彼女達自身の姿があった。
そして、同じようにマミも笑顔で佇んでいる。


さやか「これ…私達?」

杏子「フン…」


さやかの顔が一瞬驚きを見せた後、少し綻んだ。
杏子も自身の姿を見つめながら、微かに笑う。


さやか「それにあいつまで?」

杏子(この間の結界でも映ってたけど、誰だ?)


二人が気付いたのは、少し離れた場所に立つ黒髪の少女の後ろ姿。
杏子にとって接点のない魔法少女、暁美ほむらであった。


杏子(『黒い魔法少女』…ってほど黒くないけど、もしかしてこいつが例のサボリ魔?)


杏子がほむらを目にしたのは、『ハコの魔女』の結界に映った映像のみ。
ホラー映画と見紛うような血だらけの顔を見せていただけに、印象に残っている。

又、その正体についての心当たりも持っていた。
それは以前マミとの会話に挙がっていたもう一人のイレギュラーの存在。

杏子は彼女が気になりつつも、今はそれを心に留める。



ゼロ人間体「『仲間』ってものに、関わってきた時間なんて関係ない」

ゼロ人間体「みんな、俺の大事な仲間達」


ゼロの心を映した空間に、自分は仲間として並んでいた。
さやかは彼の思いを目と耳で実感するとともに、ある言葉を思い出す。

仁美が感じていた、さやかが抱くゼロへの『信頼』を。


『上手く言えないのですが、私にはさやかさんがモロボシさんに、
 お友達や先生とは違う信頼を置いてるように見えました』


さやか(今ならわかる気がするよ。仁美が言ってたこと)

さやか(それは友情でも尊敬でも、恋愛感情でもなくて―――)

 

282: ◆S3K5UapAso 2013/06/06(木) 00:22:30.43 ID:GjzXzwlD0


ゼロ人間体「お前の存在は、俺を支える力の一つだ!
      だからお前も俺の事を…いや、俺達を信じて進んでみないか?」

ゼロ人間体「そしてもう一度、『正義の味方』に戻ろうせ!!」


思いの全てを最後の一言に乗せ、ゼロは勢いよく手を差し出す。

さやかはすぐに反応を返さず、夢中で思考をまとめていた。


さやか(強さを求めるのは、目の前の命を『守る』ため)

さやか(いつまでも強くいられる理由は、支えてくれる『仲間』がいるから)

さやか(そして『正義の味方』として戦う、それ自体に理由なんてなくて―――)

さやか(全部キッチリ教えてもらえたじゃん。後は私が一歩踏み出すだけ)

さやか(そうだ…変わるなら、今しかないんだ!!)


さやかは目を閉じると、拳を握って大きく力む。
ブルブルと震え始めた彼女の様子を、杏子は固唾を飲んで見守っている。


さやか「……本…の戦…………」

杏子「おい…?」

さやか「………当……いは……」

ゼロ人間体「ヘヘッ」

さやか「魔法少女さやかちゃん!本当の戦いはこれからだぁぁーーーっ!!」


迷いの全てを吹き飛ばすかのように、さやかは腕を伸ばし、声を張り上げる。
杏子は呆気に取られ、ゼロは親指で上唇を擦っていた。

283: ◆S3K5UapAso 2013/06/06(木) 00:26:27.37 ID:GjzXzwlD0


さやか「ありがと、ゼロさん」

さやか「…もう大丈夫。私、もう一度やってみるから!」

ゼロ人間体「おう!!」


二人は固い握手を交わし、互いに微笑みあう。
杏子は少しだけ距離を置きながら、満足げにその様子を見つめていた。

すると、さやかはゼロから手を離し杏子へ歩み寄っていく。


杏子「な…何さ?」

さやか「そしてありがと、杏子」

杏子「…どーも。アンタもこれ以上ブレんなよ?」

ゼロ人間体「オイオイ、まるで他人事みてーだな!」


照れ隠しに目を合わせず、適当な態度を取る杏子。
そんな彼女に、ゼロはニヤニヤと笑みを浮かべながら肩を押す。


ゼロ人間体「『アンタ』じゃねえだろ?名前で呼べよ」

杏子「は?何言ってんだ!?」

ゼロ人間体「ほら、言えよ!」

杏子「おい…アンタも何か言……」


杏子は狼狽し、助けを求めるかのようにさやかを見る。
だが、当のさやかも何かを期待しながらこちらを見ていた。

根負けした杏子は顔を赤くしながら、一言だけ呟く。


杏子「……さやか」

ゼロ人間体「よーし繫がったぜ!俺達はこの世界を守る、仲間だ!!」
 
 

284: ◆S3K5UapAso 2013/06/06(木) 00:38:55.11 ID:GjzXzwlD0


三人の間に強い信頼が芽生えたことを、その場の誰もが感じていた。

その一方で杏子は、二人を仲間として認めるとも、戦い方を改めるとも口にしなかった。
代わりに、どこか厳しい口調でゼロに言葉を投げかける。


杏子「でもねぇゼロ、アタシらにそこまでの信頼を求めるってんならさ…」

杏子「…言いたいことはわかるよな?」

ゼロ人間体「ああ、わかってる。いつまでも『仲間』に隠し事を続けるのは、俺も気が引けるしな」


杏子が求めるのは、ゼロが隠し続けているものに対する説明。
ゼロは真剣な眼差しで二人を見つめ、真実を語る時がやってきたのだと考えていた。


ゼロ人間体(さやか、杏子、そしてマミ。
      強い心を持った今のお前達なら、この現実にもきっと打ち勝てるよな)

ゼロ人間体(でも、そのためには―――)


しかしゼロが全てを語るには、相応の準備が必要だった。
そこで、日時と場所を改めることを提案する。


ゼロ人間体「明後日の夜、時間は空いてるか?」

さやか「土曜日だし、たぶん大丈夫」

杏子「アタシは年中暇だ」

ゼロ人間体「お前達に来てほしい場所がある。
      そこで、マミも交えて俺が知る真実を伝えたい」

さやか「真実?」

ゼロ人間体「それは魔法少女にとって、恐ろしい事実かもしれない。
      ……でも、これだけは忘れないでくれ」


ゼロ人間体「お前達にはまだ、輝く希望がある!!」
 

285: ◆S3K5UapAso 2013/06/06(木) 00:48:50.71 ID:GjzXzwlD0
つづく


『仲間』については、コネクトにもそれっぽい歌詞が含まれてるので、
まどマギ世界でも通用する前向きな要素だと思ってます。

290: ◆S3K5UapAso 2013/06/09(日) 15:39:07.81 ID:iUp8WQIX0



数時間後。
某所で一つの結界が消滅し、中から魔女討伐を終えたマミが現れる。

外界へ出てすぐに、彼女は疲れ切った表情を見せる。
溜め息とともに目線を落とすと、何かの存在に気付いた。


マミ「……あら?」

QB「やあ、マミ」

マミ「キュゥべえ…!」


マミの前には、待ちわびたかのようにキュゥべえが座っている。
その姿を目にした彼女を、安堵が包み込んだ。


マミ「そうだ、ほら見て?久しぶりに見つけられたの」


彼女はキュゥべえに向け、握られた手を差し出す。
開かれた手のひらにあったもの、それは戦利品のグリーフシードだった。


マミ「この街の魔女は殆どゼロさんが倒しちゃってるけど、
   だからといって魔法少女が手を抜くわけにはいかないものね」

QB「そうか、君なりに自分ができることを頑張っているんだね」


得意気に微笑むマミ。
しかしキュゥべえは、大きな関心を示すことなく別の話を持ち出した。
 

291: ◆S3K5UapAso 2013/06/09(日) 15:41:44.36 ID:iUp8WQIX0


QB「それはそうとね、マミ」

マミ「どうしたの?」

QB「ウルトラマンゼロと美樹さやか、どうやら二人は和解できたようだ」

マミ「え……」

QB「二人だけじゃない、あの佐倉杏子までもがその輪に加わっているよ」

マミ「佐倉さんまで…!?」


三人に生まれた繋がりを、この時既にキュゥべえは把握していた。
その事実を知り、マミの微笑みは一瞬にして掻き消される。


マミ「どうやって……きっかけは、何なの?」

QB「一体どんなやり取りが行われていたのか、それは僕にもわからない。
   でも、結果的に三人は『仲間』として繋がった」

QB「君一人だけが、取り残された形になってしまったね」

マミ「………」


思考が上手く働かず、無表情のまま硬直するマミ。
そんな彼女の様子を、キュゥべえもまた無表情で見つめている。


マミ「今日は…それを伝えに?」

QB「そうだよ。君は杏子とさやかの様子、随分と気にかけていただろう?」

QB「良かったじゃないか?もうその心配は必要なくなった。
   彼女達は彼女達で、これから上手くやっていくことだろう」

QB「君も先輩として負けてはいられないね。これからも一人で頑張ってね!」


それだけを伝え終えると、キュゥべえは物陰へと消える。

立ち尽くすマミの手からはグリーフシードが落ち、地面を転がっていった。
 

292: ◆S3K5UapAso 2013/06/09(日) 15:45:34.26 ID:iUp8WQIX0

【ウルティメイトフォースゼロ その3】



一方、ゼロの旅立ちから十二時間が経過したアナザースペース。
マイティベースでは、ゼロを待つ仲間達の間に驚きが走っていた。


グレン「はあぁ?ゼロが時空を超えただってぇーッ!?」

ミラー「成程、帰ってこないわけです」


中心にいたのは、ゼロの捜索から帰還したジャンボット。
彼が持ち帰った情報が、メンバー達を困惑させる。


ジャン弟「それは本当なのか、兄さん?」

ジャン兄「時間が経ってはいたが、間違いない。
     ベリアル軍の残骸とともに、時空を超えた痕跡が残っていた」

グレン「でもよぉ、一体何が起きたんだ?」

ミラー「ゼロが時空を超える一番の理由なら、里帰りでしょう。
    もしかすると、故郷からお声が掛かったのかもしれませんね」

グレン「まさか、バーベキューに呼ばれたとか?」

ミラー・ジャン兄「ないない」

ジャン弟「番組のナビゲーターを頼まれた」

ミラー・ジャン兄・グレン「ないない」

ジャン弟「違うのか…」

 

293: ◆S3K5UapAso 2013/06/09(日) 15:50:07.37 ID:iUp8WQIX0

メンバー達がそれぞれ心当たりを探す中、グレンはある言葉を思い出していた。

それはビートスター天球との戦いの終わり、
セブンをはじめとしたウルトラ兄弟が彼等に残した言葉。


グレン「ゼロちゃんの故郷といやぁ…
    天球の野郎と戦った後に、親父さん達が何か忠告してたよな」

ジャン弟「『今、宇宙に不穏な空気が流れている』―――確かそう言っていた」

ジャン兄「そしてゼロは、我々との合流を待たずに旅立った。
     帰郷なら、マイティベースに戻ってからでも遅くはないはずだな」

ミラー「つまり事態は一刻を争うという事。
    その不穏な空気が、正体を現したのでしょうか?」

グレン「だとすれば…ここは俺達ウルティメイトフォースゼロの出番ってこったな!」

ジャン兄「うむ」

ジャン弟「うん!」

ミラー「はい!」


拳をバキバキと鳴らし、自らの士気を高めるグレン。
彼だけでなく、残るメンバー達にも緊張が走る。


ジャン兄「では戦闘も想定し、各自出動の準備を整えるとしよう。そして―――」

ミラー「待機ですね」

ジャン弟「了解」

グレン「……って、結局そうなるのかよ!!」


宇宙警備隊『ウルティメイトフォースゼロ』は、アナザースペースの範囲内だけでなく、
別宇宙で起きた事件の解決にも力を尽くしている。

だが、それはゼロが持つイージスの力があってこそ。
今の彼等にできるのは、ゼロを信じ、その帰還を待つことだけであった。
 

310: ◆S3K5UapAso 2013/07/03(水) 22:40:04.72 ID:84Sjjyfq0

【暁美ほむら その1】



跡形もなく破壊され尽くし、水没した見滝原市。
荒れ果てた光景の中心には、山のような何かがそびえ暗雲を突き抜けている。

半分が水に浸かったビルの上には、目を見開いてそれを見上げるほむら、
そしてキュゥべえの姿がある。


QB「あの魔女は地球上のあらゆる生命を吸い上げ、結界へ誘っているようだ」

QB「そうすることで、全ての魂を絶望から救おうとしているのだろう。
   さしずめ『救済の魔女』といったところだね」

QB「この星はもう、収穫場として機能することはないだろう。
   だけど最後に有り余るほどのエネルギーを回収することができた」

QB「僕たちインキュベーターの役目はここまでだ。
   だけど君たち魔法少女には、魔女を討伐する使命が残っている」

QB「あの魔女だって例外ではないよ。まず勝てっこないだろうけど、頑張ってね!」


何の躊躇いもなく地球を切り捨て、キュゥべえは姿を消した。

それからしばらく間を置いた後、ほむらは力なく膝を折り、手をついた。


ほむら「また…失敗だった」

ほむら「この命、無駄にしないって決めたのに…
    何度でも繰り返して助けるって、そう決めたのに…」

ほむら「もう潮時かな…なんて考えてるの。馬鹿だよね…情けないよね…」


俯いた彼女の目から、涙が溢れ出す。

数えるのをやめる程に時間を巻き戻し、目的のために戦ってきた。
しかし何度繰り返そうと、それは叶わない。

自分の無力を痛感した時、彼女のソウルジェムを呪いが浸食し始める。


ほむら「う…うう……」


ソウルジェムの穢れが半分近くに達した時、ほむらは涙に濡れた顔を上げた。
眼前の『救済の魔女』を見上げ、彼女は何かを考える。


ほむら「でも、目の前にいるのも貴方なんだよね…?
    貴方が望むなら、地球と一緒に…私も……」

ほむら「…死んじゃおうかな」


やがて穢れは徐々に遅くなり、浸食は完全に停止する。

彼女が物言わぬ魔女に語りかけている間にも、着々と地球上の魂は吸い上げられていた。

311: ◆S3K5UapAso 2013/07/03(水) 23:04:25.71 ID:84Sjjyfq0


それから、約一日が経過した。

ほむらは膝を抱えながら魔女を見上げ、自分が救済される瞬間を待ち続ける。

彼女の心は、魔女に救われたいという思いによって繋ぎ止められていた。
だが期待に反して、魔女の能力が向けられる様子は全くない。


ほむら「まだ、連れて行ってはくれないの…?」

ほむら「私、ここにいるよ?こんなに近くで待ってるんだよ?」

ほむら「早く私を救ってよ…」

ほむら「まどかぁ…」


この状態が長く続けばどうなるか、ほむらは自分でも薄々理解していた。
救われる事さえ否定された彼女の心は、再び呪いを生むしかない。

時間を戻すという選択肢は既に彼女の中にはなく、
成り行きに任せようと再び俯き、膝に顔を埋めた。


その時、どこからか叫び声とともに眩い光が飛来した。


ゼロ「シェアアァーーーッ!!」

ほむら「!?」


光は少しずつ人の輪郭を形作ると、魔女の前に立ちはだかる。

顔を上げたほむらの目に映ったのは、鎧を纏った一人の巨人。
アナザースペースから時空を越えて駆け付けた、ウルティメイトゼロ。


ほむら(巨人?いや―――)

ほむら(『光』?)





ほむら(『光』…)


はっとしたように目を開けると、そこは自宅の部屋。
どうやらソファーの上で、うたた寝をしていたらしい。


ほむら(寝てた…いつの間に?)


時刻を確認したほむらは、ゆっくりとソファーから立ち上がる。


今日は土曜日。
ゼロとほむらが数日置きに行う、密会の予定日。

そしてゼロが、さやか達に全てを語ると約束した当日。
 

312: ◆S3K5UapAso 2013/07/03(水) 23:07:14.18 ID:84Sjjyfq0
つづく

今回は短くてすみません。
余裕があれば土日にまた投下します。

319: ◆S3K5UapAso 2013/07/07(日) 12:07:37.09 ID:1YOyVJE/0

【暁美ほむら その2】



約束を一時間後に控えていた頃、ゼロの姿は市内の路地裏にあった。
彼の前には、数日ぶりの再会となるほむらもいる。

ゼロが合流を約束していたのは、さやか達だけではない。
ほむらと最後に会った夜から、この日の密会は既に決まっていた。


ゼロ人間体「よお」

ほむら「………」

ゼロ人間体「さ、早いとこ時を止めて話そうぜ。今日は終わった後」

ほむら「一緒に魔女を捜すわよ」

ゼロ人間体「お前に来てほしい場所が―――」

ゼロ人間体「えっ?」


ほむらをさやか達に合流させ、共に真実を語る。
それこそがゼロが必要と感じていた準備。

しかしこの日は、いつも通りには終わらなかった。


ゼロ人間体「ちょっと待て。今日は報告し合って、
      グリーフシードと生活費を交換して…の流れじゃ終わらないのか?」

ほむら「貴方、今日という日がわかってる?」

ゼロ人間体「そりゃ今日は……何だ?」

ほむら「…『ワルプルギスの夜』の到来まで、残すところあと一週間よ」


いつもの調子から一変、ゼロの表情は真剣な面持ちへと変わる。

この密会を早々に終わらせるという考えは、改めざるを得なかった。
 

320: ◆S3K5UapAso 2013/07/07(日) 12:09:40.48 ID:1YOyVJE/0


ゼロ人間体「一週間…そうだったな」

ほむら「下準備として、今から魔女もしくは使い魔との戦闘に入りたいの。
    反応、探してもらえるかしら?」

ゼロ人間体「下準備?今後のために、何か必要な事があるんだな?」

ほむら「ええ。見つからなければ、長引くことも覚悟して」

ゼロ人間体「だとすれば、いつまでも突っ立ってるわけにはいかねぇな。行こうぜ!」


ゼロは深く追及することなく同意を示すと、まだ今日の探索を終えていない地域へ歩き出す。
その後を、ほむらも黙って続いた。


感覚でマイナスエネルギーを探りながらも、ゼロの中では二つの物事が気に掛かっていた。
一つはさやか達との待ち合わせ、そしてもう一つはほむらの提案について。


ゼロ人間体(いきなり魔女捜しとは…俺がヘタレてたとはいえ、何で前もって伝えなかったんだ?)

ゼロ人間体(気まぐれじゃないとは思いたいが、ほむらの計画と行動、何かがな…)

ゼロ人間体(相手の気持ちを無視したり、キリのねぇインキュベーターをわざわざ殺したり)

ゼロ人間体(本人は完璧なつもりなんだろうが……)


隣を歩くほむらの様子を、ゼロは横目で窺う。
彼女は気づいているのかいないのか、無表情でただ前を見続ける。


ゼロ人間体(…とはいえ、協力を惜しむつもりも毛頭ねぇ)

ゼロ人間体(あいつら待ちぼうけにする前に、早いとこ反応を探すとするか!)

 

321: ◆S3K5UapAso 2013/07/07(日) 12:18:56.48 ID:1YOyVJE/0


一方のほむらにも、気に掛かることがあった。

最後に会った夜、ゼロは迷い、打ちひしがれていた。
にもかかわらず、今は何事もなかったかのように明るく振舞っている。

同じように、今の協力関係も簡単に覆ってしまうのではないか―――
湧き上がったその疑心が、彼女の足を止めた。


ほむら「再確認するわ」

ゼロ人間体「ん?」

ほむら「私に全力で従う、その覚悟は決まったのね?」

ゼロ人間体「何かと思えばそんな事か。…ったく、心配性にも程があるぜ」

ほむら「そうかしら?あの時の貴方は、かなり不安定だった。
    すぐにでもインキュベーターに籠絡されそうなほどに」

ほむら「でも、今の貴方は何かが違う。
    その変化の過程に興味はないけれど、これだけは確信させて」

ほむら「貴方の協力が、揺るぎないものであることを」


ゼロ人間体「覚悟なら、俺達が出会ったあの日に見せた通りだ。
      それに、この間もキッチリ約束したはずだぜ?」

ゼロ人間体「俺はお前を守るってな」

ほむら「そう…」

ゼロ人間体「でもな、俺もこの間のお前を見てわかったよ。
      お前にとって俺は仲間じゃない。力さえあればそれいい…そうなんだろ?」

ほむら「…その通りよ」

ほむら「私は誰かに心を預けるつもりはない。理解される気もない。
    ただ一人、無事でいてくれればそれでいい。そのためには、手段も選ばない」

ほむら「代わりに、貴方も私を信用する必要はないわ。
    でも、それを理由に協力を拒むというのなら―――」


冷たい目線とともに彼女が口にし掛けた言葉、それはゼロによって阻まれた。
 

322: ◆S3K5UapAso 2013/07/07(日) 12:23:32.20 ID:1YOyVJE/0


ゼロ人間体「安心しな。俺がやるべき事は全部見えてる」

ゼロ人間体「ほむら、お前も俺の『仲間』だからな。その期待には応える」

ほむら「………」


どんな手を使ってでもウルトラマンゼロを従わせる。
ほむらの望み通り、今のゼロは動いている。

だが、ほむらの思惑と相反するように、ゼロは自分を信じ『仲間』と言い切る。
その感覚は、荒んだ今の彼女には理解できないものだった。


ほむら「…同意の上ならそれでいいわ」

ほむら「もはや私の力では、戦いを終わらせることは叶わない。
    たとえ巴マミ、佐倉杏子、美樹さやかの助力があったとしても」

ほむら「でもウルトラマンの力さえあれば、この永遠の迷路を脱することができる。
    そう、貴方は迷路の壁を打ち砕く『鉄槌』よ」

ゼロ人間体「『鉄槌』てオイ…何かもう少し正義の味方らしい表現はないのかよ?」

ほむら「意味のない喩えよ。貴方自身で好きに訂正すればいい」

ゼロ人間体「じゃあ俺は、そうだな―――」


ほむらの表現に納得できず、ゼロは自分なりの表現を考えてみる。
少し間を置いた後、閃いたかのように上唇を擦った。


ゼロ人間体「お前を出口へ導く『光』だ」

ほむら「………」

ほむら「……行きましょう」

ゼロ人間体「って、何か反応しろよ!?」


ほむら(『光』…)


軽く流されたかのように思えたゼロの言葉。
だが『光』という表現は、ほむらの中に引っ掛かっていた。

終末の世界で初めてウルトラマンを目にした、その瞬間の記憶とともに。
 

323: ◆S3K5UapAso 2013/07/07(日) 12:25:52.16 ID:1YOyVJE/0
一旦つづく

仕上がれば今日中にもう一度投下します。

324: ◆S3K5UapAso 2013/07/07(日) 17:46:37.54 ID:1YOyVJE/0



ゼロとほむらが、魔女の捜索を始めて数十分後。
陽も落ちた暗い夜道を、マミは一人歩いていた。

目的は魔女の捜索ではなく、その手にソウルジェムは握られていない。


マミ(…?)


無言のまま進むマミの前方からは、部活帰りの高校生達が歩いてくる。
彼等は談笑しながら、彼女の横を通り過ぎていった。

マミは立ち止まって振り返ると、その後姿を目で追いかける。


『君一人だけが、取り残された形になってしまったね』

『これからも一人で頑張ってね!』


同時に思い出されるのは、キュゥべえから伝えられたゼロ達の和解。
その時の言葉が、マミの脳裏に焼きついて離れない。


マミ(私には誰もいない…)

マミ(みんな、私から遠ざかっていく)

マミ(美樹さん…佐倉さん…私は先輩として貴方達を支える義務があった。
   なのに何故、重荷になってしまうの?)

マミ(私は…これから先も、誰とも繋がることができないの?)

マミ(見滝原市の平和のため、戦い続ける孤高の魔法少女…)

マミ(…そんなもの、一体いつまで続ければいいの?)


学生達から目を背け、マミは再び向き直って歩き始める。


マミ(違うの…私が求めてる関係は、クラスの友達やキュゥべえとは全然違うの!)

マミ(私が本当に求めてるのは―――)

マミ(なのに何故、歩み寄ってくれるのは貴方だけなの?)

マミ(…ゼロさん)


ゼロが信頼に値する存在である事は、マミは十分に理解している。

彼は正義の味方として、この街を守ろうと戦っている。
それを知っているからこそ、ほむらとの関わりも黙認できていた。

しかし、ウルトラマンと魔法少女の戦力差から感じた『隔たり』。
それだけが、彼女の望む『仲間』の在り方と噛み合わずにいた。
 

325: ◆S3K5UapAso 2013/07/07(日) 17:58:06.24 ID:1YOyVJE/0


やがて見えてきたのは、公園の入り口。

この場所に来てほしいと、ゼロに告げられたのが昨晩の事。

マンションを訪ねてきたゼロからは、「話がしたい」と時刻と場所を伝えられただけ。
何を語るとも、誰が現れるとも彼は教えてくれなかった。


不安を残したまま入り口を抜けると、ベンチには誰かが座っている。
その人物の姿を目にし、沈んでいたマミの表情は驚きへと変わった。


マミ「美樹さん?それに…佐倉さん?」

さやか「!?」

杏子「………」


予定よりも早く、約束の場所で待っていたのは、さやかと杏子。
マミの登場にさやかは驚き、杏子は無関心な素振りを見せる。

敵対していたはずの二人の組み合わせを目にし、
マミはキュゥべえの話が事実であった事を改めて理解した。


マミ(この二人、本当に…)

さやか「来てくれたんだ…」

さやか「マミさん、本当にごめん!!」

マミ「えっ!?」


マミが歩み寄るより早く、さやかは彼女の元へ駆け、勢いよく頭を下げた。
突然の行動に、マミは状況がよく飲み込めていない。


さやか「本当はもっと早く会うべきだったんだろうけど、
    ゼロさんと相談して、この場を使って謝ろうって決めたんだ…」

さやか「この前は『正義の味方』が…マミさんの存在が眩しすぎて、
    自分も同じように戦っていく自信が持てなくてさ…」

さやか「だから、カッコいいマミさんがそんな自分に染まってしまうのが怖くて…逃げてしまったんだ」

 

326: ◆S3K5UapAso 2013/07/07(日) 18:07:27.28 ID:1YOyVJE/0


さやか「でも私、もう一度『正義の味方』としてやっていく決心がついたんだ」

さやか「マミさんが私に合わせる必要なんてない!私がマミさんみたいになってみせる!」

さやか「…だからもう一度、一緒に戦わせてください!!」


精一杯の謝意を込め、さやかは再び頭を下げた。


さやか「お願いしま…!?」


さやかが顔を上げると、マミの目からは一筋の涙が零れていた。
それに気付いたマミは、両手で顔を覆い隠し、鼻を啜る。


マミ「ぐす…」

さやか「え、マミさん?」

マミ「大丈夫。嬉しくてつい、ね…」


コンビを一方的に解消された後も、マミは何度かさやかと接触を持とうとした。
しかし、さやかはその度にマミを避けてしまっていた。

もう繋がることはできない…そう諦めていた相手が今、こうして手を差し伸べている。


マミ(キュゥべえが言ってた事なんて、気にする必要はなかったのよ…
   信じて待っていれば、傍で戦ってくれる誰かがきっと現れる)

マミ(そして、美樹さんはこうして帰ってきてくれた)

マミ(そうよ…私は一人なんかじゃない!!)

 

327: ◆S3K5UapAso 2013/07/07(日) 18:11:28.18 ID:1YOyVJE/0


マミ「ありがとう、美樹さん。改めてよろしくね」

さやか「はいっ!」

マミ「でも、罰として手作りカレーと食後のデザート、今度こそ食べてもらうわよ?」

さやか「カレーでもハヤシでも、もう何なりと!!」

マミ「ふふ…」

さやか「えへへ…」


マミは手をそっと放して涙を拭うと、笑顔でさやかを受け入れた。

涙を拭き取ったマミは、改めて今の状況について尋ねる。


マミ「貴方達もゼロさんに呼ばれてここに来たのよね。詳しい事、何か聞いてる?」

さやか「うん。今晩、私達に真実を伝えたいって。それが何なのか、私達もわからないんだ」

マミ「そう…美樹さん達も知らないのね」

さやか「でも、この間『恐ろしい事実』がどうとか言っててさ、ちょっと不安かも…」

マミ「恐ろしい事実…」


一つの心当たりを思い出し、マミの脳裏を不安がよぎる。

それは、ほむらと対峙した際に告げられた言葉、
マミが真実を知った時、彼女は自分を保てなくなるというものだった。


さやか「大丈夫っすよ、マミさん。ゼロさんはこんな事も言ってたから」

さやか「私達にはまだ、輝く希望がある!…ってさ!」

マミ「輝く…希望?」

さやか「だからマミさん、一緒に覚悟を決めよ?」

マミ「…ええ、もちろんよ」


杏子「………」


和解を果たし、再びコンビとして繋がることができたマミとさやか。

しかし杏子だけは、自分からマミに歩み寄ることもせず、
別方向を向いたまま平然を装い続けていた。
 

328: ◆S3K5UapAso 2013/07/07(日) 18:12:54.19 ID:1YOyVJE/0
つづく

今日の投下はこれで終わります。

333: ◆S3K5UapAso 2013/07/11(木) 00:22:30.90 ID:6WF2Q/2v0



夜景の明かりによって照らされた、夜の高速道路。
そこには不自然に看板が立ち並び、白線が道路ではなく空間上を流れていく。

ここはゼロの力で発見できた魔女結界。
比較的早い段階ではあったが、捜索開始から既に一時間以上が経過していた。


ほむら「…来るわよ」


既に変身を終えた二人の前には、足音とともに巨体の魔女が姿を現す。

敵は、全身が茶色に錆び付いた『銀の魔女』。
金属片やバイクのパーツで人型が形成されており、その胴体だけは黒煙に包まれている。


ゼロ「ようやっとのお出ましか。さて、俺は何をすればいいんだ?」

ほむら「貴方はそこで休憩していて。あの魔女は、私がやる」

ゼロ「何の用事かと思えば、お前の肩慣らしだったのか?
   そんじゃ、エネルギー食っちまう前に人間の姿に戻るか…」

ほむら「その必要はないわ。貴方はこのまま、ウルトラマンの姿でいて」

ゼロ「このまま?」

ほむら「そう、このままよ」

ゼロ「…まぁ何するつもりかは知らねぇが、気をつけろよ!」

ほむら「言われるまでもないわ」


ほむらは迫り来る魔女へ正面から向かっていく。
ゼロは少し離れた場所で腕を組み、彼女の戦いを見守ることにした。

魔女は拳を大きく振り下ろし、力押しでほむらを潰しにかかる。
どうやら特殊な能力を備えていない、完全な攻撃特化のようであった。

対するほむらは、何度も繰り出される打撃を軽快に回避していく。

334: ◆S3K5UapAso 2013/07/11(木) 00:24:59.99 ID:6WF2Q/2v0


ゼロ(俺が立ち直ってから、魔女の襲撃はぱったり止んじまったな)

ゼロ(今も不安がないといえば嘘になる…が、付け入る隙ならもう二度と与えねぇ!)

ゼロ(だが、見滝原の街一つでも、魔女はこうして現れる。
   今まで逃げおおせてきた奴らだけじゃない、新しい魔女もどこかで生まれ続けてやがる)

ゼロ(残り一週間か。早く、この馬鹿げた現状を―――)


戦いを眺めながら物思いにふけるゼロ。
彼が見守る前で、開かれた魔女の右手がほむらの体を捕えた。


ゼロ「おい、ほむら!?」


ゼロはほむらを救い出すべく、スラッガーを手にして魔女へと向かおうとする。
そして魔女も敵を握り潰すべく、右手に力を込め始める。

その瞬間、その手は爆発を起こした。


ゼロ(!?)


周囲には破片が散乱し、先端を失った魔女の手首から煙が上る。
悶絶する魔女の頭上には、いつの間にかほむらが立っていた。


ゼロ「余計な心配だったな」


立ち止まったゼロはスラッガーを戻し、再び腕を組み直した。

怒り狂った魔女は、ほむら目掛けて左手を伸ばす。
…が、動作より早く、左手も爆散した。
 

335: ◆S3K5UapAso 2013/07/11(木) 00:29:42.23 ID:6WF2Q/2v0



『銀の魔女』戦と同時刻の公園。
当然、約束の時間を過ぎてもゼロは姿を見せなかった。

さやかとマミの関係が戻ったにも拘わらず、彼女達を取り巻く空気は重苦しい。
その要因は、沈黙を続ける杏子にあった。


マミ(佐倉さん…)

杏子「………」


杏子とも関係を修復したい。
そう願うマミは、何度も杏子の様子を横目で窺う。

杏子もまた、それに気付きながら反応を返さない。


さやか「………」

さやか「……あぁもうっ!!」


この空気に耐え切れず、業を煮やしたさやか。
彼女はマミの背後に回ると、背中を押して杏子の正面まで誘導する。


マミ「え、美樹さん!?」

さやか「ちょっと杏子、いい機会なんだから強情張ってないであんたも―――」

杏子「うるせぇ」

さやか「んなっ!?」


さやかの気遣いも、杏子の冷たい態度によって一蹴されてしまう。

杏子はマミを前にしても、正面から向きを変えることはしない。
だが、その目は堅く閉じられたままであった。


さやか「あんたねぇ…!」

マミ「いいの、美樹さん。私は佐倉さんの気持ちを尊重するわ」

マミ「彼女が望まない事を、私が強制するわけにはいかないから。
   ……ごめんなさい、佐倉さん」

杏子「………」


杏子の顔は無関心そのもので、元いた場所へ戻るマミは寂しげに見える。
さやかは納得こそできなかったが、余計な世話だったのかもしれないと少し後悔していた。

代わりとして、さやかは溝を埋めるかのように二人の中間に立ち、ゼロの到着を待った。
 

336: ◆S3K5UapAso 2013/07/11(木) 00:39:23.64 ID:6WF2Q/2v0


それから数分が経過するが、一向にゼロが現れる気配はない。

しばらく続いた静寂、それを破ったのは何かを思い出したマミだった。


マミ「恐ろしい事実…」

マミ「…もしかして『ワルプルギスの夜』の事かしら?」

さやか「それって、マミさんが何度か話してた大物魔女っすよね?」

マミ「ええ。実は近いうちに、この見滝原市にやって来るらしいの。
   本当は美樹さんにも、その討伐に参加してもらおうと思ってた」

さやか「ええっ!?そんなの初耳っすよ!!」

マミ「もう少し強くなってから…と思って黙ってたの」

マミ「…だけど、その必要はもうなさそう」

さやか「それって、どういう事?」

杏子(は!?)


その言葉の真意が気になり、さやかはマミに訊ねる。
そして杏子は、無言を貫きながらも反応を示していた。


マミ「キュゥべえが言ってた事、覚えてる?
   ゼロさんと渡り合える魔女は、『ワルプルギスの夜』くらいだって」

マミ「ゼロさんと私達の間には、どんなに足掻いても届かない力の差がある。
   あの人と同等かそれ以上の魔女に、魔法少女が対抗できるとは到底思えないの」

マミ「…私達が加わったところで、足手纏いにしかならないはずよ」

さやか「マミさん…」


マミの考察を、さやかは好意的には受け取っていなかった。

理屈としては正しいのかもしれないが、
『正義の味方』の意義から、どこか外れているようにも感じたからであった。

その様子に気づいたマミは、宥めるように声を掛ける。


マミ「そんなに暗くならなくてもいいのよ?
   本当に現れるかどうかも怪しいんだから、そんなに深く考えちゃ駄目」

QB「『ワルプルギスの夜』の到来、それは紛れもない事実だよ」

さやか「キュゥべえ!?」

マミ「キュゥべえ…」


ゼロの代わりに姿を現したのは、キュゥべえだった。
 

337: ◆S3K5UapAso 2013/07/11(木) 00:43:46.42 ID:6WF2Q/2v0

突然の登場に、三人は驚きを隠せない。

特にマミは、二日前に掛けられた言葉を抱え込んでおり、
少し複雑な表情をキュゥべえに向けた。


QB「世界中を移動する『ワルプルギスの夜』の反応、
   その進路から考慮して、次に顕現するのはこの街とみて間違いない」

QB「そして当然、ウルトラマンゼロは立ち向かうつもりでいる。
   彼だけじゃない。もう一人のイレギュラー、暁美ほむらもだ」

マミ「彼女も一緒に?」

QB「ウルトラマンゼロを戦わせることで、大量のグリーフシードをストックできているし、
   以前には数日かけて、海外の軍事基地で武器も収集していた」

QB「用意周到だよ、彼女は」

さやか(暁美ほむら…)


以前ゼロが光の空間で見せた『仲間』のビジョン、その中にもほむらは姿を見せていた。
その関連性が気になったさやかは、思わずキュゥべえに訊ねる。


さやか「ねぇ、あいつとゼロさんって何か関係あんの?」

QB「おや、マミからは何も聞いていないのかい?」

さやか「いや、何も…」

マミ「………」

QB「マミは多分、君に気を遣っていたんだろうね。
   ウルトラマンゼロと暁美ほむらは、普段は別々に行動してるけど、裏で繋がっている」

QB「共通する何らかの目的を隠してね」

さやか「目的…」

QB「ところで、君達三人が揃っているのも珍しいね。
   『ワルプルギスの夜』の到来に備えての会議かな?」


偶然通りかかったかのように振る舞うキュゥべえ。
だが、魔法少女三人が集まるこの状況から、何かを嗅ぎ付けたのは間違いなかった。


さやか「ゼロさんと約束してるんだ。今日この場で、あの人が知ってる『真実』を教えるって」

QB「真実か」

QB「あのコンビが隠している真の目的―――それが明かされる事を期待してもいいのかな?」


キュゥべえは大きな関心を示し、三人とともにこの場に留まろうとする。
 

338: ◆S3K5UapAso 2013/07/11(木) 00:53:08.60 ID:6WF2Q/2v0

表面上は和解しているとはいえ、ほむらの内面まで理解することはできなかった。

ほむらの存在は不安だが、ゼロの事は信じたい。二つの思いは、さやかの中で葛藤を生んでいた。


さやか「信じていいんだよね、ゼロさん…」


さやかの口から零れた不安。
それを耳にした杏子が、ようやく重い口を開いた。


杏子「…なぁキュゥべえ」

QB「なんだい?」

杏子「ゼロだけじゃなくてアンタもさ、アタシらに何か隠してんじゃないの?」


その言葉は重苦しかった空気を一変させ、
代わりに緊張感をもたらした。


マミ「佐倉さん…貴方までキュゥべえを疑ってるの?」

杏子「…なんか腑に落ちないのさ」

杏子「ゼロの奴、『正義の味方』なだけあって善悪にすげー敏感だ。
   多分、一度でも良心を見た相手はとことん信じ抜くタイプだろうね」

杏子「散々悪いとこばっか見せてきたアタシの事まで、仲間だと思ってんのがいい例さ」

杏子「なのにゼロはキュゥべえ、アンタを敵視してる。
   アタシらをサポートして、魔女を倒す側にも拘わらずだ」

杏子「暁美ほむらとやらに唆された程度で、そこまでアンタを嫌えるもんなのか…?」

さやか「………」

マミ「………」


さやかとマミにも、思い当たる節は正直あった。
時折発せられる意味有り気な言い回し、そして自分を陥れようとしているかのような言葉。


杏子「…で、そこんとこどうなのさ?」

QB「いいや、僕は別に隠したりはしないさ」

マミ「そうよ、キュゥべえは私達の……」

QB「ただ、訊かれなかったことに対する説明を省いただけだよ」

マミ「…え?」

QB「ウルトラマンゼロが伝えようとしている真実、
   もしかすると、僕が省略させてもらった部分と関係があるのかもしれないね」

QB「だけどウルトラマンゼロがこの場で全てを語るのであれば、
   第三者である彼よりも、僕が説明したほうが遥かに正確だ」

QB「歪曲された事実が伝わらないようにする事も、
   君達にこの『システム』の素晴らしさを知ってもらう事も、僕の役目と言ってもいい」

QB「いいだろう。君達の疑問、僕が責任を持って答えてあげるよ!」


キュゥべえが見せた思わぬ反応。
魔法少女達を、更なる不安が包み込んだ。
 
 

339: ◆S3K5UapAso 2013/07/11(木) 00:58:09.94 ID:6WF2Q/2v0



その頃、ゼロとほむらが戦う結界内部。
焦げ付く匂いと黒煙が漂う中、ほむらの前には魔女の頭部のみが残されていた。

魔女は最後の抵抗とばかりに、頭部のライトを激しく点滅させている。


ゼロ「おい、何故とどめを刺さないんだ?」

ほむら「『ワルプルギスの夜』との決戦、その前に私と貴方の連携を試す必要がある。
    今日は言わば、リハーサルといったところね」

ほむら「そのために、この特別な空間が必要になるわ。
    死なない程度に生かしておけば、魔女は結界を張り続ける」

ゼロ「結界の中なら外にも影響はないってわけか。
   確かに…あの魔女には悪いが、一度やっておく必要はあるな」

ゼロ「そんじゃ、行くぜ!」


抑えていた力を解放したゼロは、瞬時に巨大化していく。
ほむらは、ゼロが完全なウルトラマンに戻った事を確認すると、その肩へ飛び乗った。


ほむら「見せてもらうわ、貴方の全力。そして―――」

ほむら「あの『鎧』の力を」






「暁美ほむら―――以下ほむほむ。
 その心の錆び付き具合、まるであの魔女の体と同じですねぇ」

「…ですが、魔女の性質は『自由』。
 強い目的意識に縛られている貴方とは、根本が大きく違います」

「何が貴方をそうさせるんですかぁ~~ほむほむ!
 気になっちゃうじゃありませんか、そのヒ・ミ・ツ!」

「そして、『時間操作』の力とやらも」
 

340: ◆S3K5UapAso 2013/07/11(木) 00:59:49.82 ID:6WF2Q/2v0
つづく

また少し期間が開くかもしれませんが、ご了承を。

348: ◆S3K5UapAso 2013/07/22(月) 22:13:39.27 ID:JJuAjBrG0

【暁美ほむら その3】



その後もゼロは姿を見せず、代わりにキュゥべえが魔法少女三人の視線を集めている。

地球に持ち込まれ、定着した魔法少女のシステム。
不要と切り捨てられていたその核心について、キュゥべえは語り始めた。


QB「願いの対価として魔法少女が担う、魔女討伐の使命。
   それを遂行するために魔力が与えられ、君達は常人を凌駕する力を得た」

QB「でも、生き残るために必要なものは魔力だけじゃない」

QB「人間の体はウルトラマンとは違い、弱点だらけだ。
   魔女との戦闘で受けるダメージは、人間を容易く死に至らしめてしまう」

QB「魔法少女になっても、ダメージを受ける肉体が元のままでは何の意味もない。
   だから少しでも安全に戦ってもらうため、君達の体にも大きな変化が与えてあるんだ」

マミ「その話、身体能力の強化や痛覚の調整とは別物という事?」

QB「関係がないわけではないけれど、この話は魔力の応用とは違う。
   体の構造そのものについてさ」

マミ「…続けて、キュゥべえ」

QB「まず契約を結んだ少女の肉体から、僕の力で『魂』を抜き出す」

さやか「『魂』?」

QB「人類の科学は『魂』の存在を立証できていない。だから実感が湧かないのも無理はないよ。
   でも『魂』は確実に存在し、君達の肉体に宿っている」

QB「そして僕達は抜き出した『魂』を固形化し、魔力を運用しやすい形を与えるんだ」

さやか「形を与えるって…私達の魂、目に見えるわけ?」

マミ「魔力の運用―――まさか」


自分の手に目線を落とすマミ。
見つめる指先には、填められた指輪が煌めいている。


QB「察しがいいねマミ。君達が持つ魔力の源、ソウルジェムさ。
   これこそが君達の本体というわけだ」

マミ「ソウルジェムが、私達の魂そのもの…!?」

杏子「んなアホな…違和感なんて何もなかったのに」


彼女達に、肉体の変化に対する自覚は全くない。
マミと杏子が驚く中、さやかは恐る恐るキュゥべえに訊ねた。


さやか「これが私達ってことは、今動いてるこの体は一体何なの?」

QB「魔女と戦うための、外付けハードウェアってところかな」

さやか「外付け…」


思わず言葉を失う三人。
その中でも、さやかが見せる動揺は特に大きかった。
 

349: ◆S3K5UapAso 2013/07/22(月) 22:21:37.94 ID:JJuAjBrG0


QB「みんな、何だか空気が重くなってるよ。この変化はもっと前向きに捉えるべきだ」

QB「魔力を応用すれば、知っての通り痛覚の調整は自由自在。
   それに回復魔法を使えば、どんなに肉体が損傷しようと修復することができる」

QB「つまり、君達は無敵といえる肉体を手に入れたんだよ!」

QB「例えばマミ、君は杏子の槍で体を貫かれた事があったろう?」

マミ「…それが、どうしたというの?」

杏子「………」

QB「あの程度の傷だって、君達の体では致命傷になり得ないんだ」

マミ「…!?」

QB「だけど、これらの話は君達のソウルジェムが破壊されない事が前提だからね。
   コンパクトで守りやすくなったとはいえ、注意は必要だ」

QB「マミの場合、ソウルジェムは髪飾りに付いているだろう?
   病院で孵化した魔女との戦いは、かなり危なかったね」

マミ(病院の…)


キュゥべえが言葉を続けるまでの僅かな間に、マミは思い出していた。

ゼロ、さやかと結界を進んだ数週間前の共闘。
その後に起きる不和の数々を、想像すらしていなかった自分の姿。

やがて、牙を剥き出しにして迫る『お菓子の魔女』の記憶が、彼女を現実に引き戻した。


QB「あの時ウルトラマンゼロが助けに入らなければ、
   魔女の牙によって、君の首から上はかじり取られていたよ」

QB「そして骨や血肉、脳と一緒に、ソウルジェムも魔女の口の中でミンチの具材と化していただろう」

QB「そうなっていたら、もはや再生は不可能だ。
   さやかの前で、無惨な姿を晒していたかもしれないね」


杏子はさりげなくマミの様子を窺う。
街灯の灯りだけでは顔色を確認できないが、その表情は明らかに青ざめていた。

だが、只ならぬ様子を見せていたのはマミだけではない。
さやかも両肩を掴み、体の震えを抑えようとしている。


しかし、キュゥべえに彼女達を慮るような『感情』は備わっておらず、
その精神を追い詰めるかのような暴露は続く。
 

350: ◆S3K5UapAso 2013/07/22(月) 22:30:03.04 ID:JJuAjBrG0


QB「続いて、ソウルジェムの仕組みについて補足させてもらおう」

QB「魂と肉体の現状は、先ほど話した通りだ。
   でも、ソウルジェムが身体をコントロールできる距離には制限がある」

QB「約100メートルの範囲を越えてしまうと、その肉体は活動を停止してしまうんだ」

さやか「酷い…」

QB「そこまで気にする必要はないさ。
   普段から離さず身につけているものだし、紛失による活動停止なんてそうそう起きるものじゃないよ」

さやか「そんなこと言ってんじゃないわよ…!」

さやか「私の心も魂も何もかも、この体には入ってないんでしょ…?
    それ、もう死体がラジコンみたいに動いてるようなもんじゃん…」

さやか「これじゃ私…只のゾンビじゃん…」


さやかの声は、生気を感じないほどにか細い。
だが、キュゥべえが見せる反応は「落胆するにはまだ早い」と言わんばかりであった。


QB「うーん、これでも全体の半分も終わってないんだけどなぁ。
   むしろ君達が気にするべきはもう一点、ソウルジェムの穢れの方だ」

QB「魔力を消費すれば、ソウルジェムには穢れが蓄積されていく。
   グリーフシードを入手して穢れを浄化しなければ、魔力は元に戻らない」

QB「ここまでは君達にとって基本中の基本だよね。でも、この先が本題だ」

QB「人間の精神は、自分や他者、この世界そのものに絶望した時、
   その対象へ強いマイナスの感情を生み出してしまう」

QB「魔女の力の源、『呪い』の事だね」

QB「でも魔法少女の場合、呪いはソウルジェムの中で生まれ、魔力の消耗を加速させてしまう。
   この点は、さやかは身を持って知っているはずだよ」

さやか「………」

QB「君達がこの先生き延びたいと思うなら、魔力だけでなくメンタルの管理も怠らないことだ」

QB「もし絶望に立たされた心が限界を超えた時、君達に命はない」
 

351: ◆S3K5UapAso 2013/07/22(月) 22:59:02.86 ID:JJuAjBrG0


杏子「つまり魔力が空になって、反撃できずに魔女に殺される…そういう事でしょ?」

QB「違うね」

杏子「は?」

QB「君の言う危険性も間違ってはいないよ。でも、僕が今伝えている事とは別件だね」 

杏子「じゃあ限界を超えたら…どうなる?」

QB「心は魔力を操る術を失い、その場には抜け殻となった肉体だけが残される。
   そして、穢れに満ちたソウルジェムはグリーフシードへと形を変えるんだ」


さやか「グリーフシード…!?」

さやか「まさか、卵だの何だの言ってたのって…」

QB「そういう事さ。グリーフシードから生まれるものが何かは―――わかるよね」

マミ「うっ…」

さやか「マミさん!?」

杏子「…やめとけ」


事情を察したマミは、口を押さえながら公園のトイレへと駆け込む。
心配して追おうとするさやかを、杏子が静止した。

ソウルジェムが魔女を生む―――
明かされたその事実は、マミには重過ぎるものだった。


QB「マミが戻ってくるまで、一時中断だね」

杏子「おい」

QB「何だい?」

杏子「テメェ…何で今まで隠してた!?アタシらの命、一体なんだと思ってやがんだ!?」

さやか「ゾンビにされた揚句に、最後は『魔女』…?
    あんた、私達を騙して一体どうしたいのよ!?」


キュゥべえに対し、怒りを露にする二人。
当然、キュゥべえに悪びれた様子はない。


QB「『騙す』か。理解に苦しむよ」

QB「僕は君達に、これらを強制したわけではないんだよ。
   対価として君達が一生努力しても成し遂げられない願いを叶えてあげた」

QB「双方に対等の条件が与えられている。これは『契約』だ」

QB「まぁ…いくら説明したところで、結局は理解してはもらえないんだよね。
   今までの魔法少女達もそうだったよ」

杏子「こいつ…」
 

352: ◆S3K5UapAso 2013/07/22(月) 23:03:45.25 ID:JJuAjBrG0
つづく

もう少し投下する予定でしたが、今日はここまで。

356: ◆S3K5UapAso 2013/07/28(日) 20:50:37.72 ID:Ug1iXQw00


キュゥべえは、理解されることを最初から諦めているように溜息をつく。

怒りに対する反応の数々で、さやかと杏子は理解できた。
彼等が、人間やウルトラマンとは全く相容れない存在であることが。


しばらくして、目元を赤く腫らしたマミが戻って来た。
マミの姿を確認すると、キュゥべえは説明を再開する。


マミ「けほっ…」

QB「ようやく戻ってきたようだ。それじゃあ、話を続けよう」

QB「さやか、君はさっき僕にどうしたいのかと訊ねていたね。その答えはただ一つだ」

QB「僕達はこの宇宙の寿命を伸ばし、守り続けたいと考えている」

杏子「ワケわかんねぇ…」

杏子「日常の裏に潜んでるバケモンとの戦いが、何で宇宙レベルの話になってんだ…
   テメェ、一体何なんだ!?」

QB「僕達の名は『インキュベーター』。
   地球とは異なる惑星で文明を築く、この宇宙の守護者だ」


『宇宙の守護者』という表現から三人が連想したのは、ウルトラマンの存在。

だが魔女の正体が明かされた今、キュゥべえがそれを自称することには強い抵抗を感じていた。


杏子「アタシらが死ぬように仕向けて守護?ふざけんな!!」

さやか「そうよ…何のためにこんな…」

QB「『エントロピー』」

杏子・さやか「はぁ?」

357: ◆S3K5UapAso 2013/07/28(日) 20:54:06.85 ID:Ug1iXQw00


QB「簡単に例えると、焚き火で得られる熱エネルギーは、木を育てる労力と釣り合わないってことさ」

QB「エネルギーは形を変換する毎にロスが生じる。
   宇宙全体のエネルギーは、目減りしていく一方なんだ」

QB「だから僕達は、熱力学の法則に縛られないエネルギーを探し求めてきた。
   そうして見つけたのが、魔法少女の魔力だよ」

QB「僕達の文明は、知的生命体の感情を、エネルギーに変換するテクノロジーを発明した。
   ところが生憎、当の僕等が感情というものを持ち合わせていなかった」

QB「そこでこの宇宙の様々な異種族を調査し、君達人類を見出したんだ」

QB「人類の個体数と繁殖力を鑑みれば、一人の人間が生み出す感情エネルギーは、
   その個体が誕生し、成長するまでに要したエネルギーを凌駕する」

QB「君達の魂は、エントロピーを覆すエネルギー源たり得るんだよ」

QB「とりわけ最も効率がいいのは、第二次性徴期の少女の、希望と絶望の相転移だ。
   ソウルジェムになった君達の魂は、燃え尽きてグリーフシードへと変わるその瞬間に、
   膨大なエネルギーを発生させる」

QB「それを回収するのが、僕達インキュベーターの役割だ」


宇宙のためエネルギー源として命を捧げ、その魂は魔女となって人々に牙を剥く。
キュゥべえが語った魔法少女の存在意義は、彼女達が目指す『正義の味方』とは、遠くかけ離れたものだった。


杏子「やっとわかったよ、ゼロが毛嫌いしてた理由…」

杏子「テメェはアタシらの敵だ!!」


杏子は激怒し、変身を行わないまま魔法を行使する。
その手には小さな槍が握られ、キュゥべえへと向けられた。
 

358: ◆S3K5UapAso 2013/07/28(日) 20:59:16.73 ID:Ug1iXQw00


対するキュゥべえが見せた冷ややかな反応は、
突き出されようとしていた槍を直前で食い止めた。


QB「やれやれ…僕を幾ら殺しても、この運命からは逃れられないよ。
   今ここで抗うより、少しでも先を生き延びる事を考えた方が賢明なんじゃないかな?」

杏子「黙ってろよ。アタシ達にはまだ―――」

QB「無駄だ、希望なんてないよ」

杏子「…!?」

QB「ウルトラマンゼロが何とかしてくれる―――君はそれを期待しているんだろう?
   でもね、ウルトラマンに出来るのは目の前の脅威と戦う事だけだ」

QB「祈りと呪いの概念は、人類が洞穴で暮らしていた遠い昔に持ち込まれたものだ。
   彼の力で、地球全体に定着したこのシステムを覆せると本気で思っているのかい?」

杏子「……ッ」


杏子は反論できず、槍を消して黙り込んでしまう。

彼女に代わりマミが、小さく掠れた声で問いかけた。


マミ「こんな事以外に、方法はなかったの…?」

QB「僕達はこの数週間、別の宇宙世界を幾つか訪れた。
   調査の中で、魔法少女のシステムと同等、それ以上に魅力的な手段は見つかっている」

QB「でも、別宇宙間の資源運搬、この宇宙での確立が難しいテクノロジーなど、
   成立までにクリアしなければならない問題は数多かったんだ」

QB「最大効率を考えると、結局は現状の維持に行き着いてしまう。今のところは諦めるべきだね」

マミ「…ふふ……そう…」


全てを諦めたような笑みを見せると、マミはベンチに腰を下ろした。

首を垂れて動かないマミ。
彼女を奮起させようと、今度はさやかが歩み寄る。
 

359: ◆S3K5UapAso 2013/07/28(日) 21:06:11.87 ID:Ug1iXQw00


さやか「マミさん…立って。立ち上がって、私達と一緒に何とかする方法を探そう…!」

さやか「ゼロさんって心強い仲間もいるんだ…きっと大丈夫だよ…!」


前向きな言葉で励ますが、その『大丈夫』に根拠はない。
その上、さやかの心そのものが、今回の暴露によって折れかけている。

更に、キュゥべえからの意図なき追い打ちが襲いかかった。


QB「それはどうだろう?」

さやか「…?」

QB「彼の使命は、全宇宙の平和を守る事だよ。
   この宇宙を見捨てずに防衛したいのなら、僕達の文明と協力を結ぶ他ない」

QB「僕からも既に協力は要請している。後は彼からの回答待ちさ」

さやか「そんな事…あの人が本気で応じると思ってんの?」

QB「それはまだわからないよ。でも、以前見た彼は迷っていた。
   僕達と手を組むか、組まないかの狭間でね」


ゼロもキュゥべえに手を貸しかねない。
ほむらの存在以上に不安を煽るその事実は、早くもゼロへの信頼を揺るがし始める。


さやか「きっと大丈夫だよ…あの時見た『仲間』に、こいつの姿なんて…」

杏子「おい…ブレんなって言ったろ!」

さやか「杏子…」


さやかからは、徐々に平常心が奪われていく。
それを止めようとしたのは、杏子の叱咤だった。


杏子「アイツを仲間って認めたんだろ?信じるって決めたんだろ?」

杏子「アイツはここに来てない…手のひら返すにはまだ早すぎんだよ!」

さやか「わかってる…わかってるよ…!!」


さやかは平常心を取り戻そうと内なる戦いを続け、マミは顔を伏せたまま何も話さない。

この場で現実を受け止めきれているのは、三人の中で杏子一人。
彼女は話の内容以上に、マミとさやかの反応に困惑を見せていた。


杏子(クソ…自分で決めたくせに、一体どこで何やってんのさ…!)

杏子(今だからこそ、アンタのテンションと、裏表のない綺麗事が必要なんだ…
   だから、早く姿を見せやがれ―――)

杏子(ウルトラマンゼロ!!)

 

360: ◆S3K5UapAso 2013/07/28(日) 21:10:58.64 ID:Ug1iXQw00



その頃、ゼロとほむらは『銀の魔女』の結界を後にしていた。

二人の間に会話は無く、ほむらの表情からは強い焦りと苛立ちが感じられる。
原因は、連携の中で起きた予想外の出来事にあった。


ゼロ人間体(まさか、こうなっちまうとはな…)

ゼロ人間体(イージスを切り札にと思ってたが、今回はどうするべきか…)

ほむら「………」

ゼロ人間体「ほむら…ちょっくら公園寄ろうぜ。そこで少し話そう」


ゼロはさりげなく、さやか達の待つ公園へとほむらを誘導していった。
小さな先客の存在など、知る由もなく…

 

362: ◆S3K5UapAso 2013/08/03(土) 23:42:11.77 ID:fMFAknvw0

【暁美ほむら その4】



ほむら「これ、一体何のつもり?」

ゼロ人間体「誰一人脱落させずにここまで来たぜ!
      ―――って、お前に言ってやるつもりだったんだ。本当ならな」

ゼロ人間体「なのに、何でテメェがここにいる…」

ゼロ人間体「…インキュベータァッ!!」


公園に到着したゼロとほむら。
二人の目に映ったのは、キュゥべえを前に愕然とする三人の魔法少女の姿だった。

予想だにしなかった状況にゼロは憤り、ほむらは冷たい口調で問いただす。


さやか「ゼロさん…」

杏子「…ゼロ!?」

マミ「………」


怒号を耳にし、さやか達もようやくゼロの到着を知る。
マミはその存在に気付きながらも、顔を伏せ続けている。


QB「やれやれ、遅かったのは君の方じゃないか。
   だから君が伝えようとしていた事を、僕が代理として説明してあげたというのに」

ゼロ人間体「余計なお世話だ!…それより、どこまで話しやがった!?」

QB「全部だよ」

ゼロ人間体「チッ…」

363: ◆S3K5UapAso 2013/08/03(土) 23:44:26.92 ID:fMFAknvw0


杏子「遅せーんだよ馬鹿ヤロウ!!」

ゼロ人間体「杏…!?」


キュゥべえを睨み付けるゼロの耳に、杏子の張り上げた声が突き刺さる。
振り向けば、怪訝な表情で杏子が立っていた。


杏子「こんな遅くまで待たせやがって…何してやがったんだ!?」

ゼロ人間体「すまねぇ、どうしても抜け出せない理由があったんだ。魔女もいたしな…」

杏子「……くそっ」

杏子「大体、隠し事の中身、黒過ぎるにも程があるつーの…
   アンタが遅すぎるから、先走って問い詰めたらこのザマさ…」

ゼロ人間体「…悪かった」

杏子「いいから、早く何か話せよ…」


ゼロはほむらを除いた三人の魔法少女に目を配る。

目の前の杏子は、普段と同じく強気に振舞いつつも動揺が隠せていない。
ベンチに座るさやかは、肩を押さえながら不安げな目でこちらを見ている。

そして、さやかと同じベンチに座っていたマミは、いつの間にかゼロの近くまで歩み寄っていた。


マミ「ゼロさん…」

ゼロ人間体「マミ…」


察するに、三人の中で精神的なダメージを最も受けているのはマミ、次点がさやか。

マミは心を強く持っている…そう考えていたゼロは、
彼女の様子を全く気にかけていなかったことを後悔した。


364: ◆S3K5UapAso 2013/08/04(日) 00:00:37.82 ID:3IAdLzry0


マミ「…教えて、ゼロさん」

マミ「貴方は前に、癒しの力で私の傷を治してくれた…
   私、あの時貴方が命を救ってくれたんだって、ずっと思ってた」

マミ「でも、本当は致命傷なんかじゃなかったの?あの程度では私、死ねないの…?」


マミは胸に手を添え、掠れた声で問いかける。

ゼロは少し戸惑いながらも、その答えを簡潔に示した。


ゼロ人間体「………」

ゼロ人間体「…ああ」

ゼロ人間体「俺は銀十字の――医療部隊の出じゃないからな。
      あの回復でも、命に係わる傷はまでは治せないんだ」

ゼロ人間体「俺が死にかけた命を救うには、そいつと融合して一心同体になるしかない」

ゼロ人間体「魔法少女の体は、その必要がないくらい簡単に治せたよ。
      お前の言うとおり…あの時のお前は、瀕死なんかじゃなかった」

マミ「何もかも本当だったのね…」


落胆を隠せず、マミは肩を落とす。

同じくゼロから治療を受けた杏子、間近で回復を目にしたさやかもまた、
キュゥべえの語った肉体の話が事実なのだと理解した。


マミ「キュゥべえから聞いたわ。この『体』と『魂』に関わる事、
   そして私達がこの先どうなるのか、何もかも…」

マミ「貴方は全てを知りながら、何故戦っていられたの?」

マミ「魔女が……魔女の正体が私たち魔法少女と知りながら、どうして平然と戦い続けていられたの?」

ゼロ人間体「………」
 

365: ◆S3K5UapAso 2013/08/04(日) 00:14:04.22 ID:3IAdLzry0

マミ「私、耐えられないの…」

マミ「平和を守るために続けてきた戦いが、同じ魔法少女を殺すことだったなんて…
   いずれ私自身が魔女になって、誰かを呪い続けるなんて…」

ゼロ人間体「俺だって平然なわけあるかよ…」

ゼロ人間体「けど、躊躇いなら全てを知ったその日にふっ切った。
      誰かが魔女を倒さないと、別の誰かが犠牲になる。俺はそれを見過ごすなんてできねぇ!」

マミ「確かにウルトラマンなら、この先も戦っていけるわ。
   でも私達は違う…常に死や魔女になる危険が付きまとってる…」

マミ「そういえば、美樹さんを立ち直らせたのもゼロさんよね…
   どうしてその時、あの子を戦いから遠ざけようとしなかったの?」

さやか「!?」

マミ「美樹さんをこんな絶望の道に引き戻す必要が、本当にあったの!?」


マミが言い放った指摘は、さやか本人が気にも留めていなかったもの。
それを初めて自覚した時、彼女の中で新たに疑心が生まれてしまう。


ゼロ人間体「正直に言うぜ」

ゼロ人間体「俺は、お前達にこの先も戦い続けてほしかった。だからだ」

マミ・さやか・杏子「!?」

 

366: ◆S3K5UapAso 2013/08/04(日) 00:21:36.18 ID:3IAdLzry0


マミ「…本当はゼロさんに少し期待していたの。
   魔女になった子を元に戻せる能力とか、何か持ってるんじゃないかって」

マミ「やっぱり、そんなに都合良くはいかないわよね…」


さやか「え……ゼロさんが仲間について語ってたのは…」

さやか「つまりさ…『輝く希望』って、慰め合って乗り越えようって精神論?」

さやか「ごめんゼロさん…本気で意味わかんない!!」


杏子「意味わかんねぇのはアタシだって同じさ。もっと納得いく説明、貰えるよな?」


ゼロが求めているのは、魔女と戦い続ける使命を背負い続けること。
そう解釈した三人の目が、一斉にゼロへと集中する。

ゼロは厳しい視線を受け止めながら、静観を続けるパートナーの名を呼んだ。


ゼロ人間体「…ほむら」

ゼロ人間体「ここに三人を集めたのは、魔法少女の事だけじゃない。
      俺達に関わる真実も一緒に伝えたかったからなんだ」

ゼロ人間体「だから、ほむらも一緒に全てを語ってくれ」

ゼロ人間体「頼む」

ほむら「………」


不機嫌を絵に描いたような彼女の顔を、ゼロは固唾を呑んで見守る。
全ての視線が集まる中で、ほむらは何かを考えている様子であった。

しばらくして、何かが吹っ切れたかのように彼女は態度を一変させた。


ほむら「いいわ」

ゼロ人間体「えっ」

ほむら「折角だから場所を変えましょう。私の家、招待するわ」


ほむらが簡単に承諾するはずはないと考え、後の説得に向けて身構えていたゼロ。
以外な反応を受け、ゼロは驚きとともに、引っかかる何かを感じていた。

 

367: ◆S3K5UapAso 2013/08/04(日) 00:27:10.30 ID:3IAdLzry0
つづく

今週中にこの章が終われるよう急ぎます。

371: ◆S3K5UapAso 2013/08/11(日) 21:25:57.98 ID:H0Zq8ijI0



公園からほむらの自宅へと、ゼロ達は改めて話し合いの場を設けることとなった。
誰にも心を許さないはずの彼女の部屋には今、主要人物の殆どが集っている。


ゼロ人間体(ここがほむらの家か)

ゼロ人間体(そういや、あいつと出会ってから一度も呼ばれたことなかったっけか…)


初めて訪れた部屋の光景を、ゼロは不思議そうに見渡す。

真っ白な部屋に浮かぶのは、ほむらが収集した多くの資料。
その一枚に近づいた杏子の目に、歯車と人形を掛け合わせたような奇妙な絵が映った。


杏子「何これ、魔女?」

ほむら「そう、こいつが『ワルプルギスの夜』」

ほむら「一週間後、こいつが見滝原市に現れて破壊の限りを尽す…
    私はウルトラマンゼロの力を借りて、奴に戦いを挑むつもりでいるわ」

杏子「その話ならとっくにキュゥべえの野郎から聞いたよ。問題はその先さ」

杏子「ゼロとつるんでる理由、イレギュラーだなんて呼ばれてる理由、気になる事は色々あるしね」

ゼロ人間体「確信に入りたいところだが…まず邪魔者を一匹追い出さねぇとな」

QB「ん?」


ほむらの部屋には、魔法少女達だけでなくキュゥべえも何食わぬ顔で同行している。

ゼロはアイコンタクトを送り、気づいたほむらは頷いて承諾を伝える。
すると、ほむらはソウルジェムを手に取り、魔法少女の姿に変身した。


ほむら「ここから先の話、他言することは絶対に許されない。
    もし計画に支障をもたらす者がこの中から出れば、私は容赦しないわ」

ゼロ人間体「おい…!」

ほむら「聞くか帰るか、選ぶのは貴方達よ。その覚悟があるのなら、この手を取って」


372: ◆S3K5UapAso 2013/08/11(日) 21:28:33.20 ID:H0Zq8ijI0


並び立つ杏子、さやか、マミに向けて、ほむらは盾を装備した左手を差し出す。
真っ先に関心を示したのは、三人中の誰かではなく、キュゥべえだった。


QB「僕にもその権利はあるかい?」

ほむら「愚問よ」

QB「だろうね。それじゃあ僕は、ここで見物させてもらうとするよ」


だが、ほむらがそれを認めるわけもなく、諦めたキュゥべえはその場に座り込む。
代わりに、ほむらの横に立つゼロが最初に手を重ね合わせた。


ゼロ人間体「安心してくれ。ほむらはキツい事言ってるが、もし何かあったら俺が止める」

杏子「その時はその時さ。妙なマネしやがったら、アタシの手で返り討ちにしてやるよ」

杏子「…でも、それ以前にアタシは何も知らなすぎる。
   アンタだけじゃなくて、相方の事も詳しく説明してもらわなきゃな」


ゼロの手の上に、続いて杏子が手を重ねる。


さやか「信じてたいからさ…」


折角取り戻した繋がりを、こんな形で終わらせるわけにはいかない―――
そう感じるさやかも、最後まで聞き届ける覚悟を決めた。

その手は杏子の上に重ねられ、残るはマミ一人となる。
答えを出さないマミに、ほむらの視線が向けられた。


ほむら「魔女化をその目で見ていないとはいえ、まだ自分を保てているのね」

ほむら「でも、随分と無理をしているようにしか見えないのだけれど」

マミ「馬鹿にしないで…!!」


気遣いなのか挑発なのか、ほむらのマミに対する態度は厳しい。
反発を抱いたマミは、勢いに任せてさやかの上に手を重ねた。


373: ◆S3K5UapAso 2013/08/11(日) 21:31:53.13 ID:H0Zq8ijI0


ゼロ人間体「ほむら、そこまで言う必要は…」

ほむら「彼女は自分の意思をこうして示した。同意と見なすわ」

ほむら「それに貴方も、全員に話を聞いてもらう事を望んでいるはず。違う?」

ゼロ人間体「そうだけどよ…」


最終的に、誰一人としてこの場を去る事はなかった。

そして本題に移るため、ほむらは盾に手をかける。
発動した魔法によって、五人を除いた全ての時が止まった。


杏子「空気が変わったね。一体何が起こったのさ?」

ゼロ人間体「時を止めたんだよ、ほむらの魔法でな」

杏子「時間の停止?」

ほむら「私の魔法の特性は『時間操作』。
    私が止めた時間の中に、力を与えたこいつでさえ踏み込むことはできない」

杏子「こいつ、ホントに止まってんのかわかんねーよ…」


ほむらが目線を変えた先には、キュゥべえが普段と変わらぬ表情でこちらを見ている。
時が止まっているにも関わらず、今にも動き出しそうな不気味さが漂っていた。


杏子「けどさぁその魔法、使い方次第で相手を一方的にタコ殴りできるわけじゃん。
   そんな強力な技、簡単にバラしちまっていいのかよ?」

ほむら「確かに、リスクは大きすぎるわね。誰がインキュベーターに情報を漏らすとも知れないのだから」

ほむら「でも私は、無駄な事ではないと思ってる」

ゼロ人間体「ほむら…?」

ほむら「長いこと待たせていたのでしょう?早く初めるわよ」

ゼロ人間体「ああ!ようやく話せるぜ、本当に伝えたかったことが…!」

ゼロ人間体「まずは、俺からで構わないんだよな?」

ほむら「好きにして」


円を作るように立ち、中心で手を重ね合わせている五人。
まるで団結を表すかのような光景であったが、それぞれの思いは未だ交わっていない。

そしてゼロは、その団結を現実にするべく語り始める。


マミ「………」

さやか(マミさん…)


一方、強がりを通したマミの手は微かに震えている。
彼女の手が重ねられたさやかだけが、それに気づいていた。

 

374: ◆S3K5UapAso 2013/08/11(日) 21:37:46.84 ID:H0Zq8ijI0


ゼロ人間体「まず、俺がこの世界にやってきたのは三週間前…」

ゼロ人間体「…いや、一週間後になるのか?」

ゼロ人間体「待てよ…どう説明すりゃいいんだ!?」


軽く混乱し、ゼロは空いた片手で頭を押さえる。
場を和ます意図も何もないリアクションであったが、誰一人反応を返すことはない。


ゼロ人間体「まぁいいか…俺が元いた宇宙で戦ってた時の事だ。
      俺の耳に、今すぐにでも消えちまいそうな誰かの声が聞こえてきた」

ゼロ人間体「不思議だろ?数ある宇宙の中から、一人の人間の声が俺に届くなんて。
      何故だかわからないが、確かにそれは聞こえたんだ」

ゼロ人間体「その声を辿って俺はこの地球に辿り着いた。そこで出会った最初の人間がほむらだったんだ」

ほむら「………」


ゼロが今回ほむらを呼んだのは、さやか達に秘密を語らせるためだけではない。
他にも、この合流に懸けていた事があった。

ここで真実を打ち明ける事が、ほむらが他の魔法少女達に心を開くきっかけになるかもしれないと。


ゼロ人間体「えーと、俺とほむらは『時間そこーしゃ』ってやつで―――」

ほむら「交代よ」

ゼロ人間体「なっ…俺まだ何も話してないぞ!?」


時間遡行に触れようとしていたゼロを遮り、ほむらは自ら説明を始める。


ほむら「私が持っている『時間操作』の魔法は、こうして時を止める以外にも用途がある。
    それは時間を巻き戻し、遡ること」

ほむら「私はこの力で何度も同じ時を繰り返し、
    『ワルプルギスの夜』の脅威、インキュベーターの策略と戦ってきた」

杏子「つまり…アンタは未来から来たってわけ?」

ほむら「私だけではないわ。ウルトラマンゼロもまた、前回の時間軸から連れてきた未来の存在」

杏子「ゼロもかよ…!?」

マミ「…つまり貴方達の目的というのは、歴史の改変?」

ほむら「その通り。敵は強大…過酷な戦いは避けられない。
    私の望む結末へ導くために、彼の力は必ず必要になる」

ゼロ人間体「とんでもねぇ強さの魔女とは聞いてるが、俺はまだそいつを見ても戦ってもいない。
      だが、どんな相手だったとしても俺は絶対に負けねぇ!」

ゼロ人間体「ま、勝つのは当然として……俺は決戦が終わったら、この宇宙を出ていくつもりだ」


ゼロがその言葉を発した瞬間、ほむらを除く三人は、
自分達の時までもが止まったかのような感覚に陥る。


杏子「…出ていく?」


意外にも、最もショックを受けていたのは杏子だった。

 

375: ◆S3K5UapAso 2013/08/11(日) 21:53:20.27 ID:H0Zq8ijI0


杏子「待ちなよゼロ…」

杏子「『ワルプルギスの夜』が魔女の親玉ってわけじゃないんだよな?
   倒したって、全ての魔女が消えたり、アタシらが元の人間に戻れるってわけじゃないんだよな!?」

杏子「ハッピーエンドの一つも見せないまま、そそくさ帰る気なのか…?」

マミ「佐倉さんも…ゼロさんの正体を知ってるなら想像はついたはず」

マミ「ゼロさんは様々な宇宙を守る守護者。この宇宙だけに固執することはできないわ。
   去った後は、残された私達の手で魔女と戦っていくしかない……そういう事よ」

杏子「……クソッ」


歪みきったこの世界に、ゼロの存在は何かをもたらしてくれる。
それを期待していた杏子の落胆は大きかった。

そしてマミの反応は、杏子と違いどこか冷めていた。


ゼロ人間体「確かにマミの言うとおりだ。
      この宇宙以外にも、俺の力を必要としている宇宙が他にもあるのかもしれない」

ゼロ人間体「でもな、それは目の前の命を…お前達を見捨てる理由にはならねぇ。
      後腐れを残したまま、次に進んでいいわけがねぇ!」

ゼロ人間体「…『希望』の事、忘れてないよな?」

さやか「!!」


さやかは俯いていた顔を勢いよく上げる。


ゼロ人間体「俺一人の力では、完全な形でこの地球を救うことはできない。
      …でも、故郷にいる仲間達の力があれば話は別だ」
 

376: ◆S3K5UapAso 2013/08/11(日) 21:55:08.38 ID:H0Zq8ijI0


杏子「故郷…『光の国』だな?」

ゼロ人間体「ああ、俺は一度『光の国』に帰る。そして魔法少女、魔女、インキュベーターの事、
      一ヶ月の間に体験してきた全てを必ず報告する!」

ゼロ人間体「俺が『ワルプルギスの夜』に勝って故郷に帰れば、
      全ての魔法少女を、この地球を、あるべき姿に戻せるかもしれない」

さやか「あるべき姿…ってことは、私たち今までどおりの日常に戻れるの?」

杏子「『光の国』なら、その方法があるってのか?」

ゼロ人間体「方法ならきっと見つかるはずだ。いや、絶対に見つけてみせる!」

ゼロ人間体「光の国では、昔から『命』の研究が行われててな…
      中には、『命』を形にする技術を作ったすげぇ科学者がいる」

ゼロ人間体「そのウルトラマンなら、ソウルジェムに変えられた魂の仕組みも解明できるかもしれない」


さやか「…その話、キュゥべえが言ってた『魂』を固形化するって話に似てるね」

ゼロ人間体「ああ、似てるな。でも『命』と『魂』、二つは別モンだ。
      『命』の技術ってのは、一度死んだ者に『命』を定着させて甦らせる医術だからな」

杏子「それ、魔法少女以上の不死身じゃんか!?」

マミ「貴方達…ウルトラマンは『死』さえも克服したというの?」


想像を超えた技術の存在に、魔法少女達も驚きを示す。
しかし地球人とウルトラマンの間に、『命』の価値観に対するズレは存在していなかった。


ゼロ人間体「そんな大層なもんじゃないし、良いことばかりとも言えねぇよ。
      蘇生だって必ず成功する保証なんてない―――結局、命は一つきりなんだ」

ゼロ人間体「それに昔、この技術が原因で戦争をふっかけてきた悪党もいたらしい。
      そいつらのせいで、『光の国』でも無関係な人達が犠牲になった」

ゼロ人間体「確か、情報をよこせと要求して、断られた逆恨みだったと聞いたな。
      名前なんつったっけか…バル…いや、バドじゃなくて……」

ゼロ人間体「ああ、思い出したぜ―――『バット星人』だ」

 

377: ◆S3K5UapAso 2013/08/11(日) 22:01:06.30 ID:H0Zq8ijI0


『バット星人』

それはゼロの記憶にもない遠い昔、命の技術を求めて『ウルトラ抹殺計画』なる計画を企て、
『光の国』を襲った侵略者の名前。
結果的にウルトラ戦士達の活躍によって、戦争は大敗に追い込まれてしまったと言われている。


しかし直接の関係がない魔法少女達にとって、その話は関心の外。
気付いたゼロも、話の起動を修正しようとする。


ゼロ人間体「…少し話が脱線しちまったかな」

ゼロ人間体「散々考え抜いたが、俺にできる最善策はこれしかない。
      だから絶対に方法を見つけて、もう一度この宇宙に帰ってくる!」

ゼロ人間体「お前らの未来は輝いてるんだ。燃料なんかにはさせねぇ…!!」


ゼロが今後成そうとしていることを、ようやく全員が理解できた。

しかし、マミはまだ何かが納得ができていない様子だった。


マミ(そんな不確かな希望、今の私達には―――)

杏子「アタシはさ…そういうのを期待してたんだ」

マミ(…佐倉さん?)


杏子「今まで、有耶無耶に信じてたものじゃない。
   確かなものだって、実感できる希望が欲しかったんだ…!!」

杏子「持ってんなら最初っから言えよ!このバカ!」

ゼロ人間体「いや、インキューベーターの野郎がいたしよ…」


さやか「ゼロさんがいつものゼロさんで安心したよ……私もいい加減しっかりしなきゃね」

さやか「まぁ…たとえ今がゾンビで、魔女の卵でもさ、
    終わりよければ全て良し―――そうだよね、ゼロさん!」

ゼロ人間体「さやか…!」


マミ(ゼロさんの話だって、上手くいく保証なんてまるでないじゃない…)

マミ(佐倉さん…美樹さん…貴方達はそこまでゼロさんの事を信じているの?)


さやかと杏子の表情は、ゼロの真意を知ることで大きく変化する。
ゼロが持っていた『希望』は、彼女達に間違いなくプラスの影響を与えていた。

その一方でマミは、後ろ向きな思考から抜け出すことができずにいた。


さやか「でもさ、『ワルプルギスの夜』が来る前に、一旦帰ることはできなかったの?」

ほむら「彼にはインキュベーターの関心を引き続ける役目と、私の代わりに戦ってもらう役目があった。
    そのために、私がこの街に留まり続けるよう引き留めたの」

ほむら「私と彼の目的が『ワルプルギスの夜』の討伐であることに変わりはないわ。
    でもそいつの存在は、後に起きる災厄のきっかけに過ぎない」

ゼロ人間体「『ワルプルギスの夜』を俺とほむらが止めないと、
      誰にも倒せない魔女が生まれてしまうかもしれない…」

ほむら「この地球の命運は、ある一人の少女が握ってる。彼女の名前は―――」


ゼロ人間体・ほむら「『鹿目まどか』」

 

 

378: ◆S3K5UapAso 2013/08/11(日) 22:01:51.77 ID:H0Zq8ijI0
つづく


説明だらけで思いのほか長くなりましたが、次回の投下でこの章は終わります。

380: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:07:44.19 ID:uZaRrppG0


さやか「は?」

杏子「誰よそいつ?」

さやか「ちょっと何よそれ…『鹿目まどか』って、あの『まどか』だよね!?」

杏子「だから誰だってんだよ!?」

ほむら「見滝原中学の二年生、私達と同じクラスの『鹿目まどか』よ」

さやか「んでもって、私の親友…」


『鹿目まどか』

さやかの親友であるその少女こそ、ほむらが戦い続けてきた理由であり、守るべきもの。
彼女の存在を知らないマミと杏子には、その意外性が理解できていない。


さやか「まどかが地球の運命を?ないない!
    どこからどう見てもフツーな中学生じゃん。そこまでの力あるわけないって!」

ゼロ人間体「まぁ、俺もさやかが親友だと知ったときは驚いたぜ」

ゼロ人間体「あまりに身近過ぎると、逆に実感湧かないのかもしれないな」

さやか「あ…」


さやかは思い出した。
以前、下校中に出会ったゼロが、『まどか』という名前に反応していたことを。


さやか「やっぱそれ、本当なんだ…」

ほむら「理由は不明だけど、鹿目まどかは通常では有り得ない程の素質を持っている。
    最強の魔法少女になれるだけの、膨大な因果が…」

ゼロ人間体「その素質がインキュベーターの目に留まれば、
      ヤローはあらゆる策を張り巡らせて契約を迫るはずだ」

ほむら「もし魔法少女になることを許せば、『ワルプルギスの夜』との激突は避けられない。
    その戦いの末、限界を迎えた彼女のソウルジェムは、最悪の魔女を生み出してしまう」

ゼロ人間体「俺達がやってきた事は、魔女やインキュベーターから、
      『鹿目まどか』を遠ざけるための戦いでもあったんだ」

ほむら「『鹿目まどか』は無関係な一般人。私達の戦いに巻き込むわけにはいかない」


381: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:10:23.29 ID:uZaRrppG0


二人が明らかにした目的を知り、
さやかは反省したかのように控えめな口調で話し始める。


さやか「…あんたの事、完全に誤解してたわ」

さやか「表向きは和解したつもりだったけどさ…結局は信用なんてできてなかったんだと思う」

さやか「でもこうして話してくれたから、今日からは違った目であんたの事を見れそうな気がする」

さやか「あんたも間違いなく『正義の味方』だよ、ほむら」


さやかは、笑顔とともにほむらの名を呼ぶ。
杏子もまた、ほむらの行動に理解を示した様子であった。


杏子「アンタについて、あまり良い評判聞かなかったからな。得体の知れない奴だと思ってたよ」

さやか「プッ……人の事言えんの?」

杏子「うっせーな!…とにかく、アンタの事情は大方理解できた。
   ソイツを守る事がこの世界を守る事に繋がるってんなら、できる限りは協力する」

杏子「改めて自己紹介だ。アタシは佐倉杏子、よろしくね」


そしてマミは、何も言葉を口にしない。
心の中では、また一つマイナスの感情が積み重ねられていく。


マミ(貴方はずっと、その子を守るために孤独な戦いを続けてきたというの?)

マミ(自分の人間性を捨ててでも、世界を救おうとしていたというの?)

マミ(そんな貴方を目の敵にしてきた私は…)

マミ(『正義の味方』どころか……まるで『悪役』…)


382: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:14:08.55 ID:uZaRrppG0


一通りの目的を話し終えたゼロは、ほむらにテレパシーを送り、訊ねる。


ゼロ人間体(話さなくていいのか?)

ゼロ人間体(まどかとの事、みんなに知ってもらわなくて本当にいいのか?)

ほむら(………)










ほむら(全ての始まりは、私が東京から転校した初めての朝―――)


『私、鹿目まどか。まどかって呼んで』

『だから、私もほむらちゃんって呼んでいいかな?』

『せっかく素敵な名前なんだから、ほむらちゃんもカッコ良くなっちゃえばいいんだよ!』


ほむら(新しい環境に戸惑っていた私に、彼女は手を差し伸べてくれた。
    これが私と『鹿目まどか』の最初の出会い)


『いきなり秘密がバレちゃったね。クラスのみんなには、内緒だよ!』


ほむら(そして私は知ることになる。
    呪いから生まれた怪物『魔女』、その魔女を人知れず狩る『魔法少女』の存在を)

ほむら(そしてまどかが、魔法少女の一人であることを)


ほむら(魔女に殺されかけたところを救われて以降、
    私は彼女と、先輩である巴マミの魔女討伐に付き添うことにした)

ほむら(まどかと友情を育むうち、私も少しずつ自分に自信を持てるようになっていった)

ほむら(でも、その日々はたった一体の魔女によって壊されることになる)

ほむら(そいつこそが『ワルプルギスの夜』)


『ほむらちゃん…私ね、貴方と友達になれて嬉しかった。
 貴方が魔女に襲われた時、間に合って。今でもそれが自慢なの』

『だから魔法少女になって本当に良かったって…そう思うんだ』

『さよなら、ほむらちゃん。元気でね』


ほむら(彼女は、戦いに敗れて命を落とした)

ほむら(見ていることしかできなかった自分…その無力を痛感した私は、奴に願った。
    『彼女との出会いをやり直し、彼女を守る私になりたい』と)

ほむら(手に入れた力で時を遡り、同じ魔法少女の立場でまどかと再会を果たした。
    今度こそ、彼女をこの手で守るために)

ほむら(けれど―――)


 

383: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:18:02.07 ID:uZaRrppG0


『ひどいよ…こんなのあんまりだよ…』

『嫌だ……もう嫌だよ、こんなの…』


ほむら(明らかになってきたのは、『祈り』と『呪い』の真実。
    私たち人類を家畜程度にしか見ていない、インキュベーターの計画)

ほむら(私は、その全てから彼女を守ることができなかった)


『私にはできなくて、ほむらちゃんにできること、お願いしたいから…』

『ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね?こんな終わり方にならないように、
 歴史を変えられるって言ってたよね…』

『キュゥべえに騙される前の馬鹿な私を、助けてあげてくれないかな?』


ほむら(私は決めた。どんなに時を繰り返しても約束を果たすと…
    貴方を、必ず絶望の運命から救い出してみせると…)


『もう一つ、頼んでいい?』

『私、魔女にはなりたくない…嫌なことも、悲しいこともあったけど、
 守りたいものだって…沢山この世界にはあったから……』


ほむら(誓いとともに私は、初めて大切な人を手にかけた―――)



ほむら(あの日の約束から、一体どれほどの時間を繰り返してきたのだろう)










ほむら(………)

ゼロ人間体(…ま、言いたくなきゃいいさ)


最初の朝、ほむらはゼロの協力を得るために全てを語った。
しかし、三人に『鹿目まどか』との関わりを打ち明けることはなかった。

ゼロはテレパシーを打ち切ると、再び全員に向けて話し始める。

 

384: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:27:20.91 ID:uZaRrppG0


ゼロ人間体「俺が伝えたかったのはこんなところだ。
      でも全てを成功させるためには、お前達の助けが必要になる」

ゼロ人間体「お前達には、俺が帰った後も戦いを続けてほしい」

ゼロ人間体「この地球を救う方法を見つけて戻ってくるその時まで、
      魔女とインキュベーターから、街の人達を…少女達を…鹿目まどかを守ってくれ!」

ゼロ人間体「そしてこの中の誰も脱落することも、絶望することもないように、
      みんな『仲間』として繋がって、互いに助け合ってくれ!」


ゼロが求めるものに対し、思うところがあった杏子。
彼女は本人に気づかれないよう、さりげなくマミの様子を伺う。


杏子(簡単に言ってくれんじゃん。でも……)


杏子がマミとの間に感じる溝は、この数週間の事件を経てより深いものになっていた。
ゼロやさやかの時のようにはいかないと、杏子は視線を戻す。


ゼロ人間体「さぁてと…」


突然、ゼロは重ねた手を振り払った。
ほむらは時間停止の魔法を解除し、会話を強制的に終わらせる。


杏子「何だよ突然?」

ゼロ人間体「そろそろテメェも混ぜてやるぜ。感謝しな!」

ほむら「まさか…」

QB「戻ってきたようだね。でも、核心部分は既に終わっているという事だろう?
   今更僕に有益な情報が残っているのかい?」

ゼロ人間体「俺もこの場でハッキリさせなきゃならねぇ事がある。
      テメェが持ちかけた話の答え、俺の口から聞きたくないか?」


時の流れを戻し、ゼロはキュゥべえを呼ぶ。
その目的はキュゥべえの提案の答えを、魔法少女達の前で示す事。

 

385: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:36:14.69 ID:uZaRrppG0


QB「確かに、明確な返事は貰っていなかったね。君はどう答えを出すんだい?」

ゼロ人間体「テメェらが本気でこの宇宙を守ろうとしてるのはよくわかった。
      俺もテメェらも、最後に目指すものは同じなのかもな」

ゼロ人間体「だがその方法、気にいらねぇ…!」

QB「つまり、君は僕の側にはつかないと言うことかい?」

ゼロ人間体「当然だろ。誰がテメェの言いなりになるかよ」

QB「僕には、君が随分と葛藤していたように見えたのだけれど。
   …その心境の変化が理解できないよ」

ゼロ人間体「確かに、俺は人間の悪い面ばかりに目を向けすぎちまった。
      そのせいで、地球を守る事に疑問を感じたこともあった…」

ゼロ人間体「…でもな、テメェに手を貸すかどうかで迷った覚えは一度もねぇんだよ!」

ゼロ人間体「俺がテメェについて悩んだのはな―――
      どうすればテメェらを変えられるのか、それだけだ!!」


ゼロは思い切りキュゥべえを指さす。

ゼロは彼らの文明をを倒すべき敵とは見ていないらしく、
その考えにほむらは納得できていない様子だった。


ほむら「こいつを…変える?」

QB「わけがわからないよ」

QB「…僕達が行っているのは、この宇宙を守る最も効率的な方法だ。
   誰かが行動を起こさなければ、いつかの未来、この宇宙のエネルギーは枯渇することになる」

QB「それに、途方もない『闇』の脅威がこの宇宙を襲った時、立ち向かえるものは誰もいない」

QB「いずれにせよ、待ち受けるのは終焉だよ。
   君は、他の宇宙よりもこの宇宙の存在を軽視しているというのかい?」

ゼロ人間体「俺はこの宇宙に危機が訪れたら、必ず駆けつけて戦う。
      それくらい、テメェらとつるまなくたってやれるってんだよ!」

ゼロ人間体「それに、テメェらはまるでわかっちゃいねぇ…
      何故宇宙を守らなきゃならないのか、宇宙にとって本当の損失が何なのか」

ゼロ人間体「色々な星で息づいている命の一つ一つ、
      それを失うことがこの宇宙全体の損失なんだ!だから守るんだよ!!」

QB「損失?今現在で六十九億人、しかも四秒に十人づつ増え続けている地球人が―――」

ゼロ人間体「あーうるせぇ!命の価値に、大きいも小せぇもねえんだよ!
      長い時間かけてでも、テメェらの文明にその基礎を叩き込んでやるぜ!!」


ゼロが語る命の価値観を、キュゥべえは理解に苦しむ。

だが、その切り替えは意外にも早かった。

 

386: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:39:25.85 ID:uZaRrppG0


QB「…わかったよ。僕は、君に強制はしないと言った。
   これ以上、君に協力を求めるのは止めておくとしよう」

QB「君がさやかと杏子を説き伏せたあたりから、こうなるんじゃないかと危惧はしていた事だしね」

QB「余計な時間を使わせて悪かった。お詫びとして、君に助言を与えよう」

ゼロ人間体「助言だぁ?」


それが謝意なのか策の一つなのか、ゼロだけでなく魔法少女達もその話に耳を傾ける。


QB「この宇宙で最も強い感情を持つ種族――その少女達の『呪い』が、
   一体の魔女を中心に集合して生まれた存在。それが『ワルプルギスの夜』だ」

QB「この魔女の強さは、ウルトラマンをも凌駕する。
   舐めてかかれば、君ですら殺されかねない。腕輪の力は必須とみるべきだ」

ゼロ人間体「イージスの力が…?」

QB「でも腕輪の力を解放するのなら、小出しするような戦い方はオススメしないよ。
   機を窺い、全てのエネルギーを一撃に込めて仕留めるんだ」


ゼロが持つ腕輪、ウルティメイトイージスには二通りの戦い方がある。

一つはイージスを鎧として身に纏い、武装した状態で戦う『ウルティメイトゼロ』。
もう一つは、イージスを巨大な弓矢に変形させ、
全エネルギーを込めて撃ち出す最強技『ファイナルウルティメイトゼロ』。

キュゥべえの助言は、後者の戦法が該当した。


ゼロ人間体「要するに、俺に死なれたら困るってわけか。上等だ…有り難く受け取ってやる」

ゼロ人間体「必ず勝って、テメェにドヤ顔見せつけてやるぜ!」

QB「この情報、役立ってくれれば幸いだ。
   君が『ワルプルギスの夜』を相手にどこまでやれるのか、楽しみに待っているよ」


その助言を最後に、キュゥべえはほむらの部屋から去る。

傍で話を聞いていた魔法少女達にも、敵の脅威がどれほどのものか十分に伝わっていた。


ゼロ人間体「聞いての通り『ワルプルギスの夜』は危険だ。
      この戦いだけは俺とほむらに任せてほしい。みんなは―――」

ほむら「共に戦ってもらえるかしら」

ゼロ人間体「だそうだ。……って、はぁ!?」

 

387: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:42:01.91 ID:uZaRrppG0


当初、ゼロとほむらの二人だけで想定されていた『ワルプルギスの夜』との決戦。
ほむらは、その戦いにさやか達三人を加えようとしていた。


ゼロ人間体「おい、何言ってんだほむら!そいつの強さは、お前が散々教えてくれたはずだろ!?」

ほむら「強制はしないわ。参加したい者だけが加わればいい」

ほむら「奴のいう通り、『ワルプルギスの夜』の強さは桁違い。庇いながら戦えるような相手じゃない」

ほむら「ウルトラマンゼロはこの決戦の要。誰かが窮地に陥ったとしても、助けには向かわせない」

ほむら「その覚悟があるのなら、歓迎するわ」

ゼロ人間体「ダメだ…やっぱり行かせるわけにはいかねぇ!」


ゼロの意に反して、魔法少女達はこの戦いを前向きに捉えていた。

一番最初に、未熟なはずのさやかが名乗りを上げる。


さやか「…ゼロさん、私はやるよ」

ゼロ人間体「さやか?」

さやか「この前みたいな強がりじゃない。私は、私自身の気持ちでこの街を守りたいんだ。
    ジッと見守るだけなんて、できないから」

さやか「…それに、親友の危機とあっちゃあね!」

杏子「フン…利用されてばっかってのもシャクだもんな。
   元々『ワルプルギスの夜』はアタシが狙ってた獲物でもあるしね」

杏子「いいよ、一緒に行ってやるよ」

ゼロ人間体「杏子…」

 

388: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:46:36.12 ID:uZaRrppG0


杏子までもが賛同し、ゼロは残ったマミに目を向ける。
彼女はぎこちない表情ながらも、静かに頷いた。


ゼロ人間体「マミ…」

ゼロ人間体「本当にそれでいいのか…?お前らにもしもの事があったら…」

杏子「ゼロ」

ゼロ人間体「?」

杏子「アタシらを―――魔法少女を信じろ!!」


魔法少女達の身を案じるゼロは、杏子の言葉に驚いたような素振りを見せる。

やがて納得したように表情を緩め、親指で上唇を擦った。


ゼロ人間体「ヘッ…」

ゼロ人間体「…どんなに来るなって念押しても、どうせ勝手に来るんだろ?」

ゼロ人間体「わかったよ、お前らの思い…!!」

さやか「えへへ」

杏子「フン」

マミ「………」

ほむら「決まりね」

ゼロ人間体「俺達の力を合わせて、『ワルプルギスの夜』と戦おう!
      絶対に勝って、生き残って、またみんなでこうして集まろうぜ!!」


魔法少女の仲間達と決戦に臨む―――ゼロはそれを認めることにした。

この宇宙、地球、地球人、魔法少女の仲間達、
その全てを守るため、持てる力を尽くそうとゼロは決意を新たにしていた。


 

389: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:51:17.10 ID:uZaRrppG0















それから一週間後、『ワルプルギスの夜』は見滝原市にその姿を現した。

街全体を覆い尽くす暗雲、その奥に巨大な影が浮かび上がる。
同時に、大きな高笑いが街中に響き渡った。


魔女「アハハハ…アーッハッハッハ!」


迫る脅威を迎え撃つべく、青年と少女が空を見上げる。
一人は人間体のウルトラマンゼロ、そしてもう一人は暁美ほむら。

その場に、残る魔法少女三人の姿はなかった。


ほむら「さぁ行くわよ」

ゼロ人間体「……おう!」


『ワルプルギスの夜』こと『舞台装置の魔女』、
その完全な顕現を目前に、二人は市街へと歩き出す。

やがてその周囲を、立ち込めた霧が包み込んでいった。

 

390: ◆S3K5UapAso 2013/08/16(金) 20:52:21.29 ID:uZaRrppG0
つづく


次回から舞台装置の魔女編を始めます。

398: ◆S3K5UapAso 2013/08/25(日) 17:47:22.27 ID:szJY66cf0

【舞台装置の魔女 その1】



魔法少女だけでなくウルトラマンの力をも上回るという『ワルプルギスの夜』。

その強大な魔女の討伐に、さやかと杏子、
そしてゼロ達との共闘を否定的に考えていたマミまでもが参加することになった。

それぞれ異なる思いを胸に秘め、三人はほむらの自宅を後にする。


さやか「マミさん」

マミ「…?」


足早に去ろうとしたマミを、さやかが呼び止める。
振り向けば、そこに佇むのはさやか一人。杏子の姿は既になくなっていた。


マミ「…どうしたの?」

さやか「いやぁ、ちょっと気になってさ…
    キュゥべえのやつが言ってたこと、マミさんは上手く吹っ切れてるのかなって」

マミ「ふふ…」


さやかの気遣いに、マミはそっと笑顔を返す。


マミ「…私の事よりも、心配なのは美樹さんの方よ」

さやか「え、私なら今は大丈夫っすよ?最初はショック大きかったけど、今は―――」

マミ「そっちが大丈夫なのは知ってるわ。問題なのは、戦闘面」

マミ「全員の中で一番経験が少ないんだから、残り一週間は死ぬ気で特訓ね」


399: ◆S3K5UapAso 2013/08/25(日) 17:52:34.41 ID:szJY66cf0


さやか「だよね…気持ちだけ前向きでもダメだもんね。今よりももっと、もっと強くならないと」

さやか「でないと私、何も守れない…」

マミ「大丈夫、美樹さんはまだまだ強くなれる。
   だから、これからはもう才能がどうだなんて言い訳はなしよ」

さやか「…うん」

マミ「でも、残されてる時間は少ないわ。せめて回避の特訓はしっかりね。
   …それと伸ばしておくべきは、美樹さんだけが特化している治癒魔法かしら」

マミ「ゼロさんの助けも借りれない程の戦いなら、精度の高い回復はきっと必要になる。
   そして、その力を確かなものにできるかどうかは、美樹さん自身の努力に懸かってるわ」

さやか「それが、私にしか出来ないこと…なのかな」


マミは再び笑顔を返すと、さやかに背を向けて歩き出す。


マミ「…そろそろ帰らなきゃ。さよなら、美樹さん」

さやか「あ…呼び止めちゃってごめんマミさん。それじゃあ、また特訓お願いしますね!」

さやか「また明日ぁーーっ!!」

マミ「ふふ…」


自信を得たさやかも笑顔で手を振り、マミを見送る。
さやかの元気な声が聞こえなくなった後、マミはそっと呟いた。


マミ「…頑張ってね」


さやかはさり気なく話をすり替えられてしまった事、そして作り笑顔に気付かない。

そしてマミの足は、マンションと全く異なる方向へ進んでいた。

 

400: ◆S3K5UapAso 2013/08/25(日) 17:55:48.87 ID:szJY66cf0
つづく

お待たせした上に短くて申し訳ない…
続きは今日中か明日にでも投下します。

404: ◆S3K5UapAso 2013/08/27(火) 01:26:37.11 ID:stnzEijy0


さやか達三人が部屋を去り、残るゼロとほむらは最後の密会、そして決戦当日の合流について話し合う。

全てのやり取りを終えたゼロであったが、
このままほむら宅に泊まる事は許されず、普段通りにネットカフェへと帰っていった。


ゼロ人間体(誰一人脱落させずにここまで来たぜ!)

ゼロ人間体(…なんて言うには二万年、いや一週間早かったか。
      決戦の日は近ぇ…ここからが正念場ってわけだな)

ゼロ人間体(…にしても、今日は何から何まで予想外の連続だぜ)

ゼロ人間体(特にほむら、あのツンデレ具合は一体どうしたってんだ…?)


夜道を進む内に考えていたのは、ほむらが全てを語ることを簡単に承諾した理由、
そして彼女が「必要ない」とまで言い切った三人を決戦に招いた理由。

それらの疑問を本人が答えてくれるとも思えず、ゼロは自身の心当たりを辿っていく。
まず思い返したのは、ほむらが見せていた苛立ちの原因、『銀の魔女』の結界内で起きた出来事だった。

 

405: ◆S3K5UapAso 2013/08/27(火) 01:31:25.69 ID:stnzEijy0



ほむら「見せてもらうわ、貴方の全力。そして―――」

ほむら「あの『鎧』の力を」

ゼロ「『鎧』ときたか。お前が見たいのはつまり……これだろ!」


イージスは強い輝きを放ち、ゼロの腕を離れる。
ほむらを肩に乗せたまま、光はゼロに纏われていく。

光が消え去ったとき、ゼロの体は神秘的な鎧に包まれていた。


ゼロ「究極武装『ウルティメイトゼロ』―――この俺のとっておきだぜ!!」

ほむら「これが、あの時の…」


この宇宙を訪れて二度目の使用となる『ウルティメイトゼロ』。
ほむらは表情こそ変えないが、期待の眼差しでその姿を見ている。


ほむら「たとえその力が『救済の魔女』に届かなくても、『ワルプルギスの夜』なら、きっと……」

ゼロ「この姿に随分と期待してるみたいだな。で、連携って結局どうするんだ?」

ほむら「作戦と呼べるほどの作戦はないわ。私が止めた時の中で、貴方には存分に暴れてもらうだけ」

ゼロ「あんまりマジでやりすぎると、この街吹っ飛んでもおかしくないんだけどな…」

ほむら「力の加減は貴方に任せるわ。『ワルプルギスの夜』さえ倒せればいいのだから」

ゼロ「おう…」

ほむら「とにかく、始めるわよ」


ゼロの肩に乗ったまま、ほむらはイージスの鎧に手を置く。
その状態で自分の盾に触れ、時間停止の魔法を発動する。

魔法は巨大な状態のゼロでも有効らしく、止まった時の中を自在に動くことができた。


ゼロ「おっ、行けるぜ」

ほむら「これな………らッ!?」

 

406: ◆S3K5UapAso 2013/08/27(火) 01:34:28.80 ID:stnzEijy0


突如としてほむらは手を離し、時の流れを戻してしまった。
その時間は、停止を始めてからわずか数秒。

同時に彼女の体はふらつき、ゼロの肩から落ちていく。


ゼロ「危ねぇ!!」


ゼロが伸ばした巨大な手のひらが、ほむらの体を受け止めた。
彼女をそっと地面に下ろすと、彼女に声を掛ける。


ほむら「はぁ…はぁっ…」

ゼロ「おい、どうしたほむら!?」


ほむらは疲れ切った様子で左手の甲をゼロに見せた。
そこに埋め込まれたソウルジェムは、限界寸前にまで濁っている。


ゼロ「…嘘だろ?」

ほむら「それはこっちの台詞よ…まさかこれ程だなんて…」


それは「止まった時の中で、完全な状態のイージスを動かす」という行為が、
想像を遥かに超えた魔力を消耗することを意味していた。


ほむら「『ウルティメイトイージス』とは、一体何…?」


取り出したグリーフシードで魔力を回復させながら、ほむらは問う。

今まで、消耗する魔力に大きな変動はないと考えていた時間停止の魔法。
それを覆したイージスの力は、ほむらにとっても衝撃的であった。


ゼロ「…こいつは『バラージの盾』とも呼ばれてる、宇宙を守る秘宝だ。
   この中には、聖なる『光』だけじゃない…宇宙レベルでみんなの『心』の力が集まってる」

ゼロ「そしてこれを授けてくれたのは、全宇宙を見守ってる守護神で―――」

ほむら「…いえ、もういいわ。背景の壮大さなら、嫌というほど伝わった」


回復を終え、穢れを吸い終えたグリーフシードをゼロの足元へ投げ捨てる。
ゼロは軽く足を上げ、孵化に至らないようグリーフシードを踏み潰した。

 

407: ◆S3K5UapAso 2013/08/27(火) 01:40:10.81 ID:stnzEijy0


ほむら「私としては、魔法との連携なしでもその力を使えるようにしておきたい。
    他に、何か手立てはないの?」

ゼロ「まぁ、とっておきならもう一つ残ってるけどよ…」

ほむら「教えて」

ゼロ「…イージスのエネルギー全部をぶっ放す、最強の技だよ」

ほむら「最初からそれを撃ち込むわよ。一撃で全てを終わらせましょう」

ゼロ「でも、その技はエネルギーの充填に時間がかかっちまう。
   先にヤバい攻撃出されたら、俺達の方が終わるぜ…」

ほむら「……くっ」


次第にほむらの表情は焦りと苛立ちに満ちていく。

ほむらは黙って銃を取り出すと、激しくライトの点滅を繰り返す『銀の魔女』の顔面を撃ち抜いた。


ゼロ「要はイージスさえ使わなければ、さっきみてぇな消耗は抑えられるわけだろ?
   ここは俺自身の力で―――って、おわっ!ちょっと待て!?」


とどめを刺され、魔女の結界が消滅を始める。
ゼロは急いでイージスを腕輪の形態に変え、人間体へと戻っていった。


 

408: ◆S3K5UapAso 2013/08/27(火) 01:41:54.70 ID:stnzEijy0



ゼロ人間体(ほむらは、俺にイージスの力を使わせて一気にケリをつけるつもりだった。
      そしてインキュベーターの野郎も、そうするべきだと言っていた)

ゼロ人間体(やっぱり今回は敵が敵ってことか…)

ゼロ人間体(でも、エネルギーの充填に時間停止は使えねぇ。どうにかして時間稼ぎが必要になるな)

ゼロ人間体(ウルティメイトフォースの奴等と一緒にベリアルを倒した、あの時のように…)

ゼロ人間体(………)

ゼロ人間体(………待てよ)

ゼロ人間体「あいつ、まさか!?」


ゼロの心に引っ掛かっていた何かは、悪い予感へと変わっていく。

急いでほむらの自宅へ引き返すも、彼女は既にどこかへ去った後。
次に会うことができたのは、最後の密会となる夜だった。

 

410: ◆S3K5UapAso 2013/08/29(木) 23:04:59.65 ID:3rMDjGWE0


同じ頃、人気のない街外れにマミの姿はあった。
一人さまよう彼女の体は震え、その目からは流れる涙が止まらない。

魔法少女の真実を知った後、襲い来る絶望から必死に堪えてきたマミ。
さやか達に気を遣う必要がなくなった今、その我慢も既に限界を迎えていた。


マミ「うっ……くっ…」


やがてコンクリートの壁に手を付き、その場に膝を折る。

今にも心が押し潰されそうな彼女の元に、元凶は平然と姿を現した。


QB「真実を知って絶望したかい?マミ」

マミ「………」

マミ「本当なら顔も見たくないはずなのに、どうしてかな…
   もう何もかも、どうでも良くなっちゃった」

マミ「……その通りよ、キュゥべえ」


キュゥべえはマミを心配する様子もなく、彼女がどこまで魔女化に近付いているかのみに関心を示す。
最初は拒絶を貫こうとしていたマミだったが、やがて全てを諦めたかのように話に応じた。


QB「見たところ、もういつ呪いが生まれてもおかしくない状態だね。
   その命を宇宙に捧げ、魔女に生まれ変わる時は近いよ」

マミ「そう…このままだと私、魔女になってしまうのね。
   でもいいの。もう立ち直れる気がしないもの…」

マミ「これが貴方の望みなんでしょう?キュゥべえ…」

QB「僕としては、君達があの場でまとめて脱落しても、生き残って後々魔女になっても構わなかったよ。
   どちらにせよ、僕にとっては大きな意味がある」

マミ「まとめて脱落…?」

QB「君の精神面が、五人の中で誰よりも脆弱なのはわかっていた」

QB「だから可能性の一つとして考えていたんだ。
   真実を知った君が判断を誤り、さやかや杏子との殺し合いに発展するかもしれないとね」


411: ◆S3K5UapAso 2013/08/29(木) 23:13:11.34 ID:3rMDjGWE0


マミも薄々気が付いていた。
自身の心の弱さが、キュゥべえが話した通りの事態を招きかねなかった事。

それこそが、ほむらが語っていた「自分を保てなくなる」の意味なのだと。


マミ「…確かに、あの場でやっていたかもしれないわね。
   誰かが魔女になるところをこの目で見ていたら……多分」

マミ「今だって思ってるもの…契約から今日まで続けてきた戦いも、
   この先の未来も、私が求めてた繋がりも、全て無意味なんだって…」

QB「『彼』がいるじゃないか?」

マミ「………」


キュゥべえが口にしたのは、ゼロの存在。
彼自身に魔法少女のシステムを壊す術はなかったが、彼なりの方法で皆に『希望』を示した。

だが、マミにとっては唯一の『希望』よりも、目の前の『絶望』の方が大きかった。


QB「君にとって、ウルトラマンゼロの存在は『希望』になりえなかったんだね」

QB「僕にも教えてくれないかな?彼が伝えた『希望』とは何か、
   そして暁美ほむらと何を成そうとしているのか、その全てをね」


キュゥべえにはマミの様子を窺うだけでなく、時間停止の中で行われた会話を探る意図もあるらしい。
それを察し、マミは核心について口を噤む。


マミ「そう簡単に口を滑らせるわけにはいかないわ…
   今の私にできるのは、秘密を最後まで持って行くことだけだから…」

QB「マミ?」

マミ「皆、運命に抗おうと必死でもがいてる。あの子達も、ゼロさんも…」

マミ「だから一人俯いてばかりの私が、皆の足を引っ張るわけにはいかないじゃない……」


マミは涙で崩れたままの顔で笑みを作ると、ソウルジェムを手に取る。
更にもう片方の手には、魔法で作り出した小銃を握る。


そして辺りには、一発の銃声が鳴り響いた。


412: ◆S3K5UapAso 2013/08/29(木) 23:16:10.82 ID:3rMDjGWE0