1: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 00:19:40.09 ID:nq9m+CUS0
FEifの最初から系話です。
初プレイが暗夜だったので、暗夜ルートをベースにこういうのだったらよかったな的な妄想話です。

主人公のタイプは
体   【02】女性
髪型  【05】大きい
髪飾り 【04】ブラックリボン
髪色  【21】ロング・セクシーの中間
顔   【04】優しい
顔の特徴【04】横キズ
口調  【私~です】

私の好きな属性都合上、主人公に盲目と心想いという勝手に考えた属性を追加していますので、予めご了承のほどよろしくお願いします。

長所  心想い【心を好きになる(誰とでも結婚できる)】
短所  盲目 【目が見えない(ただそれだけ)】

時々安価があるかもしれません。もしかしたら無いかもしれません。

それでは、始めます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1438528779

引用元: ・カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」 



3: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 00:26:12.33 ID:nq9m+CUS0
カムイ(私が光を失ったのは幼い頃のことで、鍛錬の最中に目先を横切った剣先を避けることができなかったことが原因でした)

カムイ(今ではその目の傷は瞼の下に隠されている。人に見せるものでもないと幼心に分かっていたからでしょうか)

カムイ(それから私は感覚を鍛えることに必至になった。体に術式を施してもらえたのは僥倖で、私の感覚能力は高いものになって、今では光を知る人と同じほどに剣を振るえるようになった)

カムイ(でも、この力は一体何に使われるべき力なのか、今の私にはその答えを出すことなど出来るわけもなかった……)

4: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 00:35:59.80 ID:nq9m+CUS0
カムイ「お父様が私をですか?」

マークス「そうだ、ついにお前も自由になる時が来たんだカムイ。ここまで続けてきた鍛錬が実を結んだといってもいい」

カムイ「いいえ、これもマークス兄さんや支えてくれた皆さんのおかげです。私自身の力ではどうにもできなかったはずですから」

マークス「ふっ、カムイは謙遜してばかりだな。まぁ、そこがお前の良いところでもあるのだがな」

レオン「ほんと、最初に出会った時に盲目だって聞いた時はどうなるかと思ったけど、今じゃマークス兄さんの攻撃を受けることもできるようになったなんて、正直信じられないよ」

カムイ「マークス兄さんは、手加減がうまいんですよ。本気でこられたら一溜まりもありませんから」

レオン「はぁ、そういう冷静に分析するところとか、羨ましいよ、まったく。はい、これで汗を拭いて」

カムイ「ありがとうございます、レオンさん……ところで、いつも法衣のことを兄さんに言われてますけど、今日は大丈夫ですか?」

マークス「………」

レオン「大丈夫だよ、今日はちゃんと姿見で確認を……」

マークス「ははっ、寝起きはやはりつらいか?」

レオン「ちょっと、わかってるなら一言言ってよ兄さん! 恥ずかしいなぁ、もう……」

5: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 00:43:34.40 ID:nq9m+CUS0
カムイ「ふふっ、私も目が見えればレオンさんのが慌てている姿を見ることができるんですけど、感覚だけでは気配が慌てて動いてるようにしか感じられません」

レオン「もう、そこに記憶上の僕の顔をトレースしてるんだから、実際見てるのと変わらな……ごめん、悪気はないんだ」

カムイ「目のことで謝らないでください、それに先に口に出したのは私ですから、だからそう悲しい顔もしないでください」

レオン「……はぁ、見えないはずなのにそう言われると、なんだかからかわれているんじゃないかって時々思うよ」

カムイ「これでも一応お姉さんですから、弟のことはできる限り知っておきたいんです」

レオン「……あ、ありがとう」

マークス「照れているな」

レオン「あーもう、なんでこうも僕ばかり弄られないといけないんだ」

???「仕方ないじゃない、レオンは二人にとって可愛い弟なんだから」

6: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 00:51:25.84 ID:nq9m+CUS0
カミラ「もちろん、私にとっても可愛い弟だからね」

カムイ「カミラ姉さん」

カミラ「あらあら、マークスお兄様が外に出られるようになったことを先にカムイに伝えてしまったから、私の出番が無くなっちゃったじゃない」

マークス「すまないな、カミラ。だが、私の口から伝えてやりたかった」

カミラ「仕方ないわ。剣の鍛錬を続けてきたのはマークスお兄様、それは譲ってあげる。けど、最初にカムイを連れて旅をするのは私よ?」

カムイ「カミラ姉さん、旅というのは色々な場所を回るあれですか?」

カミラ「そうよ、もう行きたい場所は決めてあるの。温泉とか、温泉とか、あと温泉とか」

レオン「温泉しかないじゃないか」

カミラ「そこでどっちの胸が大きいのか勝負するの」

カムイ「うーん、レオンさん、私とカミラ姉さんどっちが大きいですか」

レオン「な、なんで僕に聞くんだい!?」

マークス「兄から見て、カムイ残念だがカミラの方が大きい。ざっと見ても2ランクは高い」

レオン「兄さんも何真面目に答えてるのさ」

???「カミラおねえちゃん、先に行かないでよー」

7: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 01:00:03.00 ID:nq9m+CUS0
エリーゼ「やっと追いついた、あっ、カムイおねえちゃんだ! カムイおねえちゃーん!」ダキッ

カムイ「おっと、ふふっエリーゼさんはいつも元気いっぱいですね」

エリーゼ「うん、あたしカムイおねえちゃん大好き! 世界でいちばん好き好きー」

カムイ「ええ、私もエリーゼさんが大好きですよ」

エリーゼ「うん。あっ、そのリボン。あたしがカムイおねえちゃんにプレゼントしたのだ、付けてくれてるんだ、うれしい」

カムイ「はい、ジョーカーさんやフェリシアさんに手伝ってもらいました。これを付けているとエリーゼさんがいつもそばにいてくれる気がして、とても嬉しい気持ちになるんです」

エリーゼ「えへへ、なんだか面と向かって言われるとちょっと恥ずかしい///」

カムイ「恥ずかしいんですか。ふふ、エリーゼさんは可愛いですね」

エリーゼ「えへへ、カムイおねえちゃんの撫で撫であたし大好きだよ」

レオン「まったく、ガキはこれだから」

カミラ「そういうレオンも、撫で撫でしてもらいたいんでしょ? 頼めばしてくれるわよ」

レオン「そ、そんなことあるわけないだろ」

マークス「まったく、お前たちは相変わらず騒がしいのだな。さぁ、もう少ししたら出発する、カムイ準備を始めてくれ」

カムイ「はい、皆さんは先に表口で待っていて下さい」

8: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 01:09:38.73 ID:nq9m+CUS0
ジョーカー「お待ちしておりました、カムイ様」

カムイ「はい、荷物の準備ありがとうございます、ジョーカーさん」

ジョーカー「いえいえ、お安いご用です。ささっ、ギュンターがすでに正門でお待ちです。それにしても突然決まりましたね」

カムイ「そうですね、お父様。ガロン王様の前に立つのは何年ぶりのことでしょうか。この城塞に入れられるわずかな間に一度見たのが最後でしたから……」

ジョーカー「そうでしたか、悪いことを聞いてしまい申し訳ありません」

カムイ「気にしないでください。むしろ、お父様にお顔を触ってもいいですかと聞くことのほうが恐ろしいプレッシャーなんですから」

ジョーカー「カムイ様、それはあまりにも無謀なことだと思うのですが」

カムイ「だとしても、私の記憶にあるお父様の印象はぼやけてしまっています。正直思い出せない領域にまで入っているのかもしれません」

カムイ「私は私のことを知っている人の顔をできる限り覚えたいんです。これだけは諦めません」

ジョーカー「はぁ、確かに私と初めて会った時も、そんなことを言って私の顔をいっぱい触りましたね。あの時は力加減がめちゃくちゃで、当時の私は涙を流したくらいです」

カムイ「すみません、でも今は優しく触れる自信があります、試してみますか?」

???「そういうわけにも参りませんぞ。カムイ様」

9: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 01:17:58.50 ID:nq9m+CUS0
ギュンター「皆さまがお待ちですぞ」

カムイ「そうですか、残念です。ギュンターさんとジョーカーさんが私について来るのでしょうか?」

ギュンター「あと厩舎係のリリスがお供します。リリスにはカムイ様の馬を任せておりますので」

カムイ「はい、わかりました。ところでギュンターさん、お父様のお顔に触れる件ですけど……」

ギュンター「それに関しては私もノーコメントです。しかし、カムイ様から突然『顔を触っても良いですか』と言われるガロン王というのは、一生に一度しか見れないものでしょうな。普通ならそうですな、死罪になるかもしれません」

カムイ「死罪ですか」

ギュンター「そう固く考えなくてもよろしいですよ。カムイ様のしたいようにしてもよろしいかと思います。もしも雷が落ちてきそうならば、私とジョーカーが見事な避雷針となって見せましょう」

カムイ「頼もしい、流石はギュンターさんです」

ジョーカー「ジジイが先に初撃を受けてくれるだろうから、その間に俺はカムイ様を連れて逃げる、この作戦プランでいいんだな」

ギュンター「ふっ、若造がよく言いよるわ」



10: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 01:26:24.91 ID:nq9m+CUS0
リリス「カムイ様、こちらです」

カムイ「ああ、リリスさん。では私はリリスさんの馬に乗っていきますので、また城で」

リリス「カムイ様、乗馬の方は大丈夫でしょうか?」

カムイ「ええ、といっても私はリリスさんに身を寄せるくらいしかすることがありませんので」

リリス「たしかにそうですね、すみません」

カムイ「どうかしたんですか、少し元気がないみたいですけど?」

リリス「声でわかっちゃいますか?」

カムイ「はい、誰か違う人に変わってもらいますか? フェリシアさんかフローラさんなら」

リリス「い、いえ、大丈夫ですから」

カムイ「そうですか、ではお願いしますね」ダキッ

リリス「ひぅ」

カムイ「力が強すぎましたか?」

リリス「い、いえ、何でもないんです」

カムイ「ふふっ、変なリリスさんですね。では、お願いしますね、馬に乗るのは一度試して以来ですから、少し緊張します」

リリス「ま、任せて下さ……んっ、カムイ様、手が私の胸に当たって」

カムイ「……リリスさんのは私よりは小さいみたいですね

リリス「……カムイ様行きますね」

カムイ「ちょ、いきなり発進しないでください。危なく落ちかけ、うわあ」

カミラ「リリスの馬、早いわねぇ」

11: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 01:40:21.27 ID:nq9m+CUS0
―暗夜王国・王都ウィンダム『クラーケンシュタイン城』―

ガロン「よく来たな、カムイ」

カムイ「はい、お父様。長い間、私のことを覚えて頂きありがとうございます」

ガロン「ふっ、我が子のことを覚えているのは当然のことだ。むしろ忘れられているだろうと思っていたというのは心外だ」

カムイ「はい、すみません。ですが、お父様一つ謝らせてはもらえませんか」

ガロン「何をだ?」

カムイ「私は幼い頃の記憶でしかお父様のお顔を知りません。今こうしてお目通しが叶ったというのに、私はお父様の顔が思い出せないのです」

ガロン「そうだったな、お前は光を失っているのであったか。ふっ、仕方あるまい。長きにわたりお前を閉じ込めてきたのは事実だ。しかし、なぜそのようなことを申すのか、黙っておれば良いことであろう」

カムイ「いいえ、私はお父様の顔を知りたいのです。お父様、お顔に触れてもよろしいでしょうか?」

ガロン「……」

ギュンター(どうなる?)

ガロン「ふっ、いいだろう。存分に触れるがよい」

カムイ「ありがとうございます。それでは……」

レオン(毎度思うが、これは見ているこっちも恥ずかしい、触られているお父様は……)

ガロン「……」

マークス(流石は父上だ、眉ひとつ動かすことはないとは……)

カミラ(さすがにここはお父様といえるわね)

エリーゼ(………おとうさまの指が少しぴくぴく動いてる気がする)

12: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 01:58:27.04 ID:nq9m+CUS0
カムイ「お父様、ありがとうございます……」

ガロン「うむ、お前をこうしてこのクラーケンシュタイン城に呼んだのは、日々の精進が実を結んだがゆえ。きくと、今ではマークスと互角に渡り合うほどに腕を上げたそうではないか……その力を私の前で見せてもらおう」

カムイ「見せるですか?」

ガロン「うむ、捕虜を連れて来るのだ」

衛兵「ハッ!」

~~~~~~~~~~~~~

リンカ・スズカゼ「………」

カムイ「あそこにいる方々は?」

ガロン「前回の戦闘で捕虜にした白夜の兵士だ。カムイ、暗夜王国と白夜王国で戦争を続けているのは聞いているだろう」

カムイ「はい、聞いています」

ガロン「我らはいにしえの神の血を継し王族である。神の力を持つ我ら王族にとって、雑兵との力比べなど意味の無いこと、王族の我らには単騎で一隊を……戦況を覆すほどの力がなくてはならない。マークス、レオン、カミラは既にその域にまで達している。カムイ、お前もまた暗夜の王族として成長してもらわなければならぬ」

カムイ「……はい」

ガロン「あの捕虜二人には、お前を倒した場合に自由を与える条件を付けている。むろん、手にしている武器は本物だ」

カムイ「それは私を殺した場合と考えていいんですね」

ガロン「そうだ。お前の死を持って、あの者たちは自由となる。そう契った王としての約束だ。そして、お前にはこの魔剣を授けよう、魔剣ガングレリだ。この剣を振るえば白夜の兵どもなどすぐに殲滅できるだろう」

カムイ「ありがとうございます………お父様、ひとつよろしいでしょうか?」



13: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 02:12:57.79 ID:nq9m+CUS0
ガロン「なんだ?」

カムイ「この戦いが終わった時、もしも私が勝利していたら一つ願いを叶えて欲しいのです」

ガロン「なんだと?」

マークス「カムイ! 父上に対して失礼ではないか。父上、カムイは出てきたばかりで、何も知らないだけなのです」

ガロン「マークス、黙っておけ。くっく、外に出た途端に手柄を要求するとは、城塞にいた間に欲というものが無くなってしまったのかと思ったが、そうでもないようだな。いいだろう、この戦いが終わった時、お前が勝利していれば、一つ願いを叶えよう」

カムイ「はい、ありがとうございます」

レオン「姉さん、無茶し過ぎだよ。見ているこっちがハラハラする」

エリーゼ「カムイおねえちゃんって怖いもの知らずなのかな?」

カミラ「わからないけど、寿命が縮まる思いだわ。また何か言うんじゃ無いかって思うと、口を押さえてあげたくなるくらいに」

マークス「カムイ……」

リンカ「話は終わったようだな?」

カムイ「ええ、時間を取らせました」

リンカ「お前か、あたしたちが倒す相手は、なんだか弱そうな小娘じゃないか」

スズカゼ「リンカさん、油断は禁物ですよ」

スズカゼ(話しに聞くと、あの方は目が見えないということですが。いくら従者がいようとも危険なことなのですが、何かあるのかもしれません)

リンカ「ふん、関係ない。力でねじ伏せてやればいいのさ。あたしはリンカ!炎の部族長の娘だ! お前の名はなんだ」

カムイ「暗夜……」

リンカ「?」

カムイ「暗夜王国王女、カムイです」

スズカゼ「カムイ……? まさか……」

カムイ「右にいる人、何かありましたか?」

スズカゼ「いいえ。私はスズカゼ。白夜王国に仕える忍です。私もここで死ぬつもりはありませんので、悪いですが命を奪わせていただきます」

カムイ「はい、わかりました」

ガロン「その力、我に見せてみよ。カムイ!」



14: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 02:15:41.07 ID:nq9m+CUS0
今回はここまでです。
 こんな感じで進行していきます。

 チュートリアルの部分から妄想変更してるので、暗夜ルート分岐に行くまでの間は退屈かもしれませんが、よろしくおねがいします。

15: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/03(月) 02:17:28.86 ID:nq9m+CUS0
よく見ると、最初のパラメータの項目が狂ってましたね。

主人公のタイプは
体   【02】大きい
髪型  【05】ロング・セクシーの中間
髪飾り 【04】ブラックリボン
髪色  【21】黒
顔   【04】優しい
顔の特徴【04】横キズ
口調  【私~です】

 正確にはこんな感じです。

19: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/04(火) 00:24:07.26 ID:tsav5yZ80
リンカ「スズカゼ、挟み撃ちにする。あたしは右、お前は左だ」

スズカゼ「はい、わかりました。私の攻撃の後にリンカさんが仕掛けてください。目が見えていない以上、飛翔攻撃に対してはこちらに部があります」

リンカ「ああ、わかった。あいつを倒して、白夜に戻ってみせる。そのためにはどんな手だって駆使してでもあいつを……」

スズカゼ「異論はありません、その手で行きましょう」



カムイ「ギュンターさん、ジョーカーさん。サポートをお願いいたします。ですが、出来れば攻撃は私だけに一任させてください」

ギュンター「仰せの通りに、我々はサポートに徹しましょうぞ」

ジョーカー「かしこまりました」

リンカ「ふっ、大した自信だな。その自信、伊達や酔狂ではないこと見せてみろ。でやぁ!」ブンッ

カムイ「……んっ」カキン!

リンカ「スズカゼ、今だ!」

スズカゼ「はい、すみませんがもらいましたよ」


レオン「なるほど、先駆けに先制させ、それを受けた所での死角からの攻撃、不意打ちの常套手段だね」

カミラ「ええ、普通の相手ならこれで上出来ね」

20: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/04(火) 00:46:54.34 ID:tsav5yZ80
カムイ「……リンカさん、足、失礼しますね」

リンカ「え?」
リンカ(目の前が回って……いや、違う、これは足を力強く払われた!? あの一瞬で……そんな馬鹿な。しかも、倒れた場所はスズカゼが投げた手裏剣の機動上……ここまで計算して……)

ザシュ――ザシュ

リンカ「ぐああっ」

スズカゼ「リンカさん、くっ、今度こそは」

ギュンター「させませんぞ。ジョーカー壁になれ」

ジョーカー「言われなくても分かってら」

スズカゼ「なら、違う方角から――」

カムイ「スズカゼさんのいる場所はわかっていますので、何度投げても無駄ですよ。それより、リンカさん、降参しますか?」

リンカ「ふざけるな!」


カミラ「カムイの感覚に対しての力は常人ではとてもたどり着けないわ。あれは光を知らないからこその領域、私だってカムイのあの高見には近づけないわ」

マークス「目が見えないという情報その物が、カムイにとっては武器になる。ふっ、わざわざ目が見えないという前提条件を聞かされているのだ、少しは警戒するべきこと、それを怠った時点であの二人の捕虜に勝ち目はない」


21: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/04(火) 01:00:16.01 ID:tsav5yZ80
リンカ「くっ、くそ! 目が見えていないはずじゃなかったのか。これじゃ、目が見えているのと何もかわらないぞ」

カムイ「目が見えていないという情報を有利に取るのは勝手です。でも、私にとってはそう思ってくれてる方が、とても戦いやすいんですよ」

リンカ「なら、単純に戦うだけだ!うおおおおおっ!」

カムイ「! ……すごい力……ですねっ!」

スズカゼ「遠距離がだめなら、至近距離でいかせてもらいます」

ジョーカー「カムイ様、背後に」

ギュンター「くっ、やはり早い。カムイ様、お気を付け下さい」

リンカ(よし、挟み撃ちなら避けきれないはずだ。あたしの棍棒で剣を抑えてある。空いた左手だけで何かできるわけでもない、受け流される気もない、あいつの足も踏ん張ってる。そう簡単に動けないはずだ)

リンカ「スズカゼ、そのまま後ろから殺れ!」

エリーゼ「カムイおねえちゃん!」

カムイ(背後から完全に一直線に来てる。なら、これくらいしかないですね)

カムイ「痛いのは苦手なんです」

リンカ「そうか、なら降参したらどうだ? まぁ、もう遅いがな」

スズカゼ「お命、奪わせていただきます」

 ――ドシュ

 ポタ、ポタタタタッ



22: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/04(火) 01:18:04.25 ID:tsav5yZ80

エリーゼ「!!!!!!」

リンカ「な、なんだと!?」

カムイ「……捕まえましたよ、スズカゼさん」

スズカゼ(ば、馬鹿な。私の刃を左腕で受け止めるなど、すぐにそんな判断できるはずが、第一自身の身を守るのであれば回避行動を取るはずだというのに……)

カムイ「やっと集まりましたから、纏めて二人ともお相手しますね。左手が痛いので速攻で終わらせてもらいます」

リンカ(なんだ、なんなんだお前は!?)

カムイ「リンカさん、手元が緩んでますよ?」ブンッ

リンカ「しまった、武器がっ……く、くそぉ!」ドタリ

スズカゼ「リンカさん!」

カムイ「これで、終わりです」

スズカゼ「しまっ……ぐっ、無念です」ガクリッ

カムイ「………ふぅ。左手がとても痛いですね」

ジョーカー「すぐに手当てを致します。動かないでください」

カムイ「ありがとうございます、ジョーカーさん」

ジョーカー「すみません、敵の接近を許してしまいました」

ギュンター「われわれの失態です。申し訳ありません」

カムイ「いいんです。サポートに徹して下さいと言ったのは私ですから、二人が気に病むことではありません」

ガロン「ふむ、見事だカムイよ」




23: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/04(火) 01:30:11.50 ID:tsav5yZ80
カムイ「お父様、ありがとうございます。中々手強い方たちでした、これが白夜の力ということですね」

ガロン「ふ、戦いは終わった。さあ、カムイ、その者たちを殺せ」

カムイ「………」

スズカゼ「さすがに、ここまでのようですね。ふっ、実質一人の相手に負けるとは、慢心した結果なのかもしれませんね」

リンカ「そうだな、認めるしかない。あたしたちの負けだ、好きにしろ」

ガロン「ふっ、諦めがよい者たちだ。カムイよ、お前の手で二人を葬るのだ」

カムイ「そうですね、お二人は死ぬことを望んでいるようです。ふふっ、なんだか羨ましいですね」

リンカ「何が羨ましい?」

カムイ「こちらの話です。だから私としてはその望を踏みにじってあげたくなります。お父様、この戦いは私の勝利で終わったと考えていいんですね?」

ガロン「そうだ、お前の勝利だ」

カムイ「では、お父様。私は、この二人を私の配下に加えさせてもらいたいのです」

一同「!!!???」

ガロン「………理由は」

カムイ「この二人には生き恥をさらしてほしい、それだけです。戦場で捕まり捕虜となった挙句に盲目の相手に負け、その相手の配下になる。こんな生き恥、早々体験できるものではありません」

ガロン「……わしがそれを許すとでも、思っているのか?」

24: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/04(火) 01:42:10.08 ID:tsav5yZ80
カムイ「私もお父様が約束を違える人だとは思っていません」

ガロン「………」

カムイ「それでも殺せというならば仕方ありません。彼らの望を叶えることに――」

ガロン「もうよい、約束は約束だ。その二人のこと、お前に全て任せよう。これがお前の初めての手柄だというのも、ある意味滑稽ではないか」

カムイ「いいえ、私には十分すぎる手柄です。ありがとうございます、お父様」

ガロン「わしは戻る……カムイよ、次の命令を城塞で待つがよい」

カムイ「わかりました、お父様」

~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「もう、姉さん。あまり心配かけないでくれないかな。僕たちみんなを早死にさせる気?」

カムイ「そんなつもりありませんよ。それよりも、私は何かおかしなことを言ったでしょうか?」

マークス「あんなことを言って、ただで済むわけがないだろう。最悪、私がお前に刃を向ける羽目になる、そんなことになってほしくはない」

カミラ「口を本当に塞いであげたくなるわ。私のカムイがこんなに世間知らずだなんて、正直信じたくないくらいだもの」

エリーゼ「おとうさま、すっごく怖い顔してた……、でも捕虜の人達が殺されないで済んでよかったね」

カムイ「………そうですね」

リンカ&スズカゼ「………」


25: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/04(火) 02:08:06.48 ID:tsav5yZ80
 ~王都ウィンダム~

リリス「カムイ様、このような場所にどういったご用事で」

カムイ「ええ、ちょっと来てみたかったんです。リリスさんに誘導されて歩くのは久々ですから、あと胸のことはすみませんでした」

リリス「もう、言わないでください。また言ったら、置いて帰っちゃいますから」

カムイ「謝ってるじゃないですか、リリスさん機嫌を直してくださいよ」

スズカゼ「なんだか……調子が狂いますね」

リンカ「ああ、本当にさっき刃を交えた相手なのかと疑いたくなる。こうやって無邪気に笑っている姿を見ると、あれが悪い夢なんじゃないかと思えるくらいだ」

スズカゼ「しかし、生き恥ですか。そんな理由で生かされるなんて、お伽噺のように感じます。白夜にそんなお話があった気がします」

リンカ「たしかに、こんな理由で生き残る人間はそう多くいない。正直、あたしは生き恥だと少し思ってるぞ」

カムイ「スズカゼさん、リンカさんもこっちに来てリリスさんの機嫌を直すの手伝ってください」

リンカ「そして、この差だ。あたしの自信は粉々にされたも同然だ」

スズカゼ「そうですね、私も同じ感想です。カムイさんのような方が暗夜の王族であるなら、戦いなど起こりはしないのでしょう」

カムイ「それは買い被り過ぎです、スズカゼさん」

スズカゼ「聞こえていましたか、すみません」

カムイ「いいえ、謝らないでください、さて、ここでいいんですか、リリスさん」

リリス「はい、ウィンダムの大門前です」


26: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/04(火) 02:18:42.31 ID:tsav5yZ80
リンカ「で、ここでどうするんだ? やはり、あたしたちを殺すのか?」

カムイ「ふふっ、リンカさんは面白い人ですね。そんなことをするなら、あそこでお父様にお願いなど頼んでいません。リリスさん、お二人の手掛けを外してあげてください」

リリス「かしこまりました、失礼しますね」

スズカゼ「……一体何の真似ですか?」

カムイ「何がでしょうか?」

スズカゼ「いえ、これではまるで無罪放免と言われているようではないですか。どこでも好きな場所へ行くように言われているように感じます」

カムイ「はい、その通りですね。私はお二人をここで解放することに決めていたので、スズカゼさんの考えであっています」

リンカ「正気か? 今ここであたしたちがお前を襲うかもしれないんだぞ?」

カムイ「その可能性もありますけど、リンカさんはそう言うことをしない人だと信じています。無論、スズカゼさんのこともです」

カムイ「ただ、お二人にお願いがあるのです」

リンカ(交換条件という奴か、なんだかんだ言ってもやはり暗夜の人間か、自由の代わりに欲しがるのは、やはり白夜の情報かなにかか?)

スズカゼ(ここまで温情を掛けていただきましたが、重要な情報を漏らすつもりは毛頭ありませんが……)

カムイ「二人のお顔を触らせていただけないでしょうか?」

27: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/04(火) 02:28:28.01 ID:tsav5yZ80
スズカゼ「えっ?」

リンカ「はぁ?」

スズカゼ「言っていることの意味がよくわからないのですが、なぜ私たちの顔に触れたいと?」

カムイ「はい、私は目が見えない故、まだお二人の顔を理解しているわけではないのです。私は、私のことを知ってくれている人の顔を知りたいんです」

スズカゼ「なるほど、そういうことですか……しかし、私は本当にあなたの目が見えていないのか、その確証がない。もしかしたら、顔に触れられた瞬間に首を切り裂かれる可能性も十分にあり得ます」

リンカ「そうだな。あたしもお前の目が見えないという話を信用していない、むしろ目が見えていると言ってもらえた方が、幾分か救われるといってもいいくらいだ」

カムイ「つまり、目が見えていないという証明がされない限り、顔を触らせないというわけですね。わかりました、あまり見せたくはなかったのですが……」

リンカ&スズカゼ「!!!!!」

カムイ「これでいいでしょうか?」

リンカ「……」

スズカゼ「……」

カムイ「すみません、見ていて気持ちのいいものではないですから」

スズカゼ「いいえ、私たちが言ったことです。カムイさんはそれに従っただけにすぎません。ですから、私の顔をを触ってください、これは交換条件ですので」

カムイ「スズカゼさん、では、失礼しますね……」

スズカゼ「……ん」


31: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/04(火) 23:53:04.01 ID:tsav5yZ80
カムイ「スズカゼさんって、きれいな顔立ちをしているんですね。でも、ところどころに男性らしい角張った部分もありますね。髪は何色なんですか?」

スズカゼ「み、緑で……す。くぅ……あ……」

カムイ「耳が弱いんですね、なんだか可愛い声が漏れてますよ」

スズカゼ「か、カムイさん。耳ばかり、触らないでくれませんか」

カムイ「そう言われると、無性に触りたくなります。ふふっ、顔も熱くなってますね、顔を赤くしたスズカゼさんが手に取るようにわかります。恥ずかしいんですね?」

スズカゼ「そ、そんなことは……」

カムイ「無理しないでいいんですよ。一緒に捕虜だった人の前でこんなに触られて、かわいい声まで上げているんですから、恥ずかしくて当然です。それともうれしいんですか?」

リンカ「……なぁ、お前リリスと言ったか?」

リリス「どうかしましたか?」

リンカ「なんだこれは、どうして顔を触るだけなのに、あんな言葉遣いなんだ。見ているこっちが恥ずかしくなるぞ」

リリス「カムイ様は顔に触れながら、相手の反応を見て楽しむのが好きな方なんです。私も最初に触られたときに色々と言われましたから、こうして初めて触られたる人を見るのは、なんだか楽しいんです」

リンカ「………」

リンカ(あたしは絶対に屈しないぞ)

32: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 00:01:09.18 ID:A2J2oZID0
スズカゼ「……ハァ、ハァ、ハァ」

カムイ「スズカゼさん、ありがとうございます。ふふっ、声可愛かったですよ」

スズカゼ「こんな拷問は初めてですよ」

カムイ「拷問っていうのはひどいですね。これでも気持ちをほぐすために話しかけているんですから」

スズカゼ「は、恥ずかしかったのです。言わせないでください」

リリス「美形な方が陥落する姿はいつ見ても様になります。私、カムイ様に拾われて幸せです」

リンカ「幸せの観点がずれている気がするぞ」

カムイ「さて、次はリンカさんですね」

リンカ「くっ、あのような光景を見せられて、素直に従うと思っているのか?」

カムイ「ダメでしょうか」

リンカ「あ、当たり前だ。あんな風に触るなんて聞いてないからな……」

カムイ「では、優しくしますから」

リンカ「そ、それなら考えないでもないが」

カムイ「はい、優しく触らせてもらいます。痛くしたりしませんから」

リンカ「ほ、本当だな、本当に優しくするんだな?」

カムイ「はい」ニコッ

33: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 00:15:48.80 ID:A2J2oZID0
カムイ「リンカさんは顎先が敏感なんですね。ふふっ」

リンカ「は、話がちが……ひぅ」

カムイ「何も違いません。優しくしてるじゃないですか。こうやって髪も頬も眼尻も、優しく触れてます。顎先だって」

リンカ「や、やめっ、……こ、このっ」

カムイ「リンカさんはとても温かい人なんですね。私の手、冷たいですか?」

リンカ「あ、ああ。ひんやりしてる……」

カムイ「頬がとても熱いですね、顔はもしかして真っ赤なんじゃないですか?」

リンカ「そ、そんなことは……あ、顎先はやめ…て…くれ……」

リリス「さすがはカムイ様の●●ハンドです! 触られた者の心をとらえて離しません」

スズカゼ「●●ハンドですか…」

リンカ「も、もう勘弁してくれ」

カムイ「駄目です、もう少し触らせてください。これは髪ですね、リンカさんの髪は何色なんですか?」

リンカ「や、約束を破った者に教える気など……あっ」

カムイ「約束は破ってないです。優しくしてます、でもこのままだと私の指がリンカさんの顎先を撫でてしまいますよ」

リンカ「し、白だ。い、言ったぞ。もうおしまいにして」

カムイ「そうなんですか、ありがとうございます。お礼に顎先を触ってあげますね」

リンカ「ひゃん……や、やめろ」

カムイ「なんですか、人がいるかもしれない市街地の真ん中で、そんな声をあげちゃうんですか? スズカゼさんは恥ずかしがり屋さんでしたけど、リンカさんは興奮しちゃう人なんですか?」




34: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 00:24:16.65 ID:A2J2oZID0
リンカ「こ、これはお前が。だああ、もう終わり、終わりだ!」

カムイ「すみません、少し意地悪が過ぎましたね」

リンカ「なんていうやつなんだお前は……///」

リンカ(くそ、触れられていた場所が熱い……)

スズカゼ「………」

リンカ「な、なんだ、なんなんだその眼差しは!」

スズカゼ「いえ、お互い恥ずかしい姿を見られた同志なので、少し親近感が増した気がします」

リンカ「そんな同志になんてなるつもりはないぞ。あたしは誇り高き炎の部族。こんなことで……屈しない」

リリス「えいっ」

リンカ「ひゃああああ――っ! な、何をする!」

リリス「いえ、ちょっと。面白そうだなって思いまして」

カムイ「リリスさん、悪戯はいけませんよ」

リンカ「本当にお前はなんだんだ。印象が目まぐるしく変わりすぎて、全く追いつけないぞ」

カムイ「そうですか、私は自然体のつもりなんですが」

リンカ「戦っている最中と今では雲泥の差だ……まぁ、その相手に対する優位を取ろうっていう姿勢には同じものを感じる」

スズカゼ「まったくです、捕虜になって死を覚悟していましたが、まさか恥ずかしいという感情だとは思ってもいませんでした」

リンカ「無自覚なら直したほうがいい、まさかとは思うが身内の王族たちにもあんなことをしているんじゃないだろうな?」

カムイ「………はい」

リンカ「それはどちらに対する返事だ?」

35: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 00:39:44.76 ID:A2J2oZID0
スズカゼ「しかし、そろそろ私たちも脱出したほうがよいでしょう、あまり長居していると何が起きるかわかりません」

カムイ「そうですね、そろそろお別れの時間です。これ以上、お二人がここにいる意味は無いのですから、このままウィンダムを抜けて白夜に戻ってください」

リンカ「本当にいいのか? 配下が脱走したとなれば、それはお前の落ち度になる。その意味がわからないわけじゃないだろう?」

カムイ「はい」

リンカ「見た限り、お前があの王から信頼を得ているとは思えない。信頼を勝ち取るためならあたしたちをあそこで殺すべきだった、違うか?」

カムイ「それは間違いないでしょう。リンカさんとスズカゼさんの命を奪えば、私は暗夜の王族として一歩を踏み出せたはずです。私がお父様を見たのは光を失う前に一度だけ、私ですらそんな考えですから、お父様の信頼を得るためには小さなことも大きなことも、すべてに従うことが正解です」

スズカゼ「わかっているのであれば、どうしてそうしないのですか? 私たちの命を奪うことで、あなたが得るのは信頼だけではありません。安全も手に入るはずです。私たちをこうして逃がすという選択肢を選ぶ必要もなかった……、あなたは難しい選択ばかりしている」

カムイ「元白夜の捕虜が行方知らずとなれば、いろいろと問題になることでしょう。形式的には除隊にして処理はしますが、快く思わない人々には売国奴のように見えるはずです。その結果として王族としての地位を剥奪され、死罪となるかもしれな、それが私の選んだ選択です」



36: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 00:47:33.83 ID:A2J2oZID0
カムイ「でも、それでいいんです。私は王族としての地位にまったく興味がないんです。ただそれだけなんですよ。しかし、死罪まで行ってしまったら、少しやりすぎたということになるんでしょうね」

リンカ「理解できないな、私は部族長の娘としての誇りがある、この立場にいる以上、さらに上に立ちたいと思っているというのに」

スズカゼ「リンカさんにはリンカさんの、カムイさんにはカムイさんの考えがあるということでしょう。いや、ある意味すべてを平等に見ているのかもしれませんね」

カムイ「スズカゼさん、それは買被りしているだけです。私は、そんな立派な人間じゃありません」

スズカゼ「ふっ、そういうことにしておきます。このご恩は忘れません。しかし、もしも次に戦場で出会った時は――」

カムイ「それ以上は大丈夫です、覚悟はしていますから。私も戦場に出ないことになればそれに越したことはないんですが、お父様はそれを許してくれないでしょう」

スズカゼ「……」

カムイ「ですから、敵として私と戦場で対峙したら、今日の恩など忘れてしまって構いません。私がスズカゼさんの、スズカゼさんが私の命を奪うことになったとしても、戦場である以上、それは何も不思議なことじゃないんです。だから、そのような苦悶な顔をするのはやめてください」

37: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 00:56:12.85 ID:A2J2oZID0
スズカゼ「目が見えていないというのに、私の表情を見抜いてしまうとは、あなたはとても不思議な方です。願わくば、戦場であなたと相見えぬことを祈っています」

カムイ「そうなるといいですね」

スズカゼ「リンカさん、それでは行きましょう」

リンカ「……」

スズカゼ「リンカさん?」

リンカ「スズカゼは先に行ってくれ、あたしは少し話してから白夜に向かう」

スズカゼ「リンカさん、カムイさんの指が名残惜しいんですね。わかります」

リンカ「誰が名残惜しいものか!」

スズカゼ「えっ?」

リンカ「え?」

スズカゼ「そういうことにしておきますね。では、お互い生きていましたら白夜の地でまた会いましょう」タタタタタタッ

リンカ「まったく、名残惜しいってそんなわけ……ないはずだ」

カムイ「リンカさん、私に話というのは?」

リンカ「カムイ、一つ聞いてもいいか?」

カムイ「呼び捨てで呼んでくれるんですね。ふふっ、なんだか友達みたいでうれしいです」

リンカ「いや、これは……、失礼かもしれないが、様やさんをつけて呼ぶのは柄じゃないんだ。本来、お前に助けられたあたしが呼び捨てにしていいわけなんてないんだ。でも……」

カムイ「いいえ、私としてはうれしいです。だから呼び捨てでいいですよ」

リンカ「そ、そうか」

38: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 01:09:11.77 ID:A2J2oZID0
リンカ「カムイ、元々お前はあたしたちのために約束を取り付けたわけではないんだろう?」

カムイ「なぜ、そう思うんですか?」

リンカ「いずれまた戦場で刃を合わせることもあり得る相手を逃がすこと自体があり得ないことだ。それにお前は王族としての立場に興味がないとも言っていた、そんなお前が手柄のために約束を持ちかけるのはおかしな話だ。お前は、最初違う願いのために、王に約束を持ちかけたんじゃないか?」

カムイ「……そうですね。リンカさんの考えは間違ってません、私は元々は他の願いのために約束を取り付けました」

リンカ「なら、なぜそうしなかった?」

カムイ「その理由は秘密です」

リンカ「ここまで引っ張っておいて秘密だと?」

カムイ「すみません、でもいつか話せる時が来たらお話しますね。そうですね、私がリンカさんともう一度出会って、友達になれた時にでも」

リンカ「ふん、あいにく炎の部族の教えで交流は禁止になっている。その願いは叶わないな」

カムイ「そうですか、ではスズカゼさんに私が友達になりたいと言っていたと伝えて貰えますか?」

リンカ「……なんか面白くないな」

カムイ「では、リンカさんも友達になってくれますか?」

39: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 01:15:01.46 ID:A2J2oZID0
リンカ「考えておく、いいか、考えておくだけだ。期待なんてするんじゃないぞ」

カムイ「はい、期待してます。それではお気をつけて、白夜までの道中は何も手助けできませんから」

リンカ「野垂れ死になどするつもりはないさ。しかし、本当にお前は不思議なやつだ。それに、顔をこんなに触られたのは初めてだった」

カムイ「恋しくなったら行ってください、すぐに顎先をやさしく触ってあげますから」

リンカ「あ、あの反応はたまたまだ! たまたまくすぐったかっただけだからな!」タタタタタタッ

リリス「顔を真っ赤にして走って行きましたね。カムイ様、本当によろしかったんですか?」

カムイ「リリスさん、心配はいりません。二人を配下として残したとしても、今の私に二人の人間を守れる権力なんてありませんから、これでよかったんです」

リリス「あの、リンカさんの質問の答えって――」

カムイ「リリスさん、今日はとても疲れました。城塞まで連れて行ってもらってもいいですか?」

リリス「……はい、わかりました」

◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇

???「俺に護衛をですか?」

エリーゼ「うん、おねえちゃんのこと任せられると思ったから。それに今は大きな仕事はないんだよね?」

???「たしかに、今は国内と王城の警備を行っているばかりですし、交代の人員も多くいますから、俺が抜けても問題はないと思いますよ」

エリーゼ「うん、そうだと思ってたんだ」

???「でも、カムイ様にも配下の方たちがいるのはずですが……」

40: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 01:23:10.29 ID:A2J2oZID0
エリーゼ「カムイおねえちゃん、今日お父様に刃向っちゃったの。直接じゃないの、でも……お父様とっても怒ってた。だから……」

???「わかりました。俺でよければ一肌脱ぎますよ。それにエリーゼさまの命令ですから、従わないわけにはいきません」

エリーゼ「うん、ありがとう。動いてほしい時になったら、命令証を渡すね。公の場を通さない秘密の命令証だから、最低限の人にしか見せちゃだめだからね」

???「はい、わかってます。日時が決まり次第、お呼びください。確実に遂行してみせます」

エリーゼ「うん、ありがとう」

ガチャ……バタン

???「カムイ、お前との約束、やっと果たせる日が来たのかもしれない……」

カムイ『私のせいなの、私が頼んだだけ、この子は悪くない、悪くないの! だからお願い、許して……目が見えない私のためにしてくれただけなの』

???「今度は、俺が守る番だ、それが俺の誓だ。待っててくれ、カムイ」

 第一章 おわり

42: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 01:31:33.96 ID:A2J2oZID0
 現在の信頼レベル
 
 スズカゼ  C
 リンカ   C
 ジョーカー C
 ギュンター C


 今日はここまでです。

 パルレに関しては、やっている当初からあまり馴染めなかったので、主人公は盲目で仲間になったキャラクターの顔を確認するために触っているという設定をつけてプレイしてました。
 話の流れは、各キャラクターの登場はここがよかったんじゃないかという感じに変えていきます。
 今回のラストの人物は???とかいていますが、誰かは正直プレイした人には丸わかりのレベルですね。
 彼はここで出てきたほうがよかったんじゃないかと思ったので、こういう配置になりました。

46: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 22:45:20.89 ID:A2J2oZID0
カムイ「ギュンターさんとジョーカーさんに王城へ来るように通達ですか?」

ギュンター「はい、すみませんがしばらくの間、空けることになりそうです。何も問題が起きなければよいのですが」

フェリシア「な、なんで私を見るんですか!?」

ジョーカー「食器は20枚までにしておくんだぞ。フローラの仕事を増やさないようにな」

フローラ「できる限り私がサポートするから、ジョーカーは気にしないでいいわ。そんなことより、カムイ様の傍を離れている間、ジョーカーは大丈夫なの?」

ジョーカー「くっ、カムイ様と共にいられないというのは辛いものがあります。すみませんカムイ様、しばらくの間、傍を離れることをお許しください」

カムイ「いいえ、お呼び出しですから仕方ありません。私は大丈夫ですから、二人とも頑張ってきてください」

ギュンター「ありがたいお言葉、恐縮であります。では、行ってまいりますゆえ、留守は任せましたぞ」

フローラ&フェリシア「はい」

◇◆◇◆◇
―暗夜王国『クラーケンシュタイン城』―

マクベス「ガロン王様、お呼びで」

ガロン「マクベス、よく来た」

マクベス「ガロン王様のご命令とあればすぐにでも」

ガロン「うむ、早速本題に入る、カムイのことだ」

マクベス「はい、耳にしております。この頃、北の城塞を出られたそうですな」

ガロン「うむ、だがあやつには問題がある」


47: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 22:56:40.32 ID:A2J2oZID0
マクベス「はい、その話も聞いております。なんでも捕虜の二人を配下に加えたとか、しかし城塞にはその二人の影はないと聞いています。大方、名目上すぐに除隊処理をしたのでしょう。まったく、どこでそのような知恵を覚えたのか」

ガロン「それで、首尾は?」

マクベス「はい、現在カムイ王女の配下であるギュンター、そしてジョーカーの二名を城に呼び出しております。ギュンターには五日間の軍議への参加、ジョーカーには社交界の給仕としての任を与えてあります。無論、すぐに放棄できる職務状況ではないでしょうな。外部からの情報も耳には入ってこないことでしょう」

ガロン「そうか、ではカムイをここに呼べ」

マクベス「今すぐで?」

ガロン「そうだ」

マクベス「承知しました……、ガロン王様も人が悪いですね。使えそうな配下を抜き出しておきながら呼び出すとは。しかし、どんな形であろうともガロン王様に逆らったカムイ王女に、逃れる術などあるわけもないですがな」

エリーゼ「……」

マクベス「おやおや、エリーゼ様。ガロン王様に会いに来たのですかな?」

エリーゼ「ち、ちがうよ。ちょっと考え事してただけ、失礼するね!」

マクベス「……ふん、いくら王族といえども所詮は子供ですな」

エリーゼ(おねえちゃんを呼び出すって言ってた。早くしないと)



48: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 23:05:47.57 ID:A2J2oZID0
フローラ「正直、カムイ様を送り出したくはないのですが……」

カムイ「いいえ、お父様から直接お声掛けが掛ったのです。従わないわけにはいきませんよ、二人ともここのことはお願いいたします。ふふっ、私がいないから紅茶を用意する準備が減って、フェリシアさんがお皿を割る回数が減りますね」

フェリシア「カムイ様ひどいです~。でも、私も姉さんと同じ意見です。とっても嫌な予感がするんです」

カムイ「フェリシアさん………心配症ですね」ナデナデ

フェリシア「か、カムイ様。な、なんですか」

カムイ「フローラさんもです、二人とも心配症なんですね」ナデナデ

フローラ「カムイ様、お恥ずかしいです」

カムイ「私は幸せ者です、こんなに私のことを気遣ってくれる人がいるんですから。大丈夫です、悪いことなんて起こりませんよ」

フェリシア&フローラ「カムイ様……」

カムイ「大丈夫です、もしも王族としての地位を剥奪されたら、二人とおなじ給仕係に転職しますから。その時は紅茶の入れ方を教えてください」

フローラ「カムイ様、どちらかというと戦闘職のほうがよろしいと思います」

フェリシア「私もそう思います。カムイ様、とっても強いんですから」

カムイ「ふふっ、姉妹揃って同じ意見なんですね。肝に銘じておきます、それでは行ってきますね」

フェリシア&フローラ「はい、行ってらっしゃいませ。カムイ様」

49: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 23:16:57.57 ID:A2J2oZID0
リリス「カムイ様、お城までご案内いたしますね」

カムイ「はい、よろしくお願いします。リリスさん」

リリス「はい、任せてください」

◇◆◇◆◇

カムイ「これで三度目ですね、クラーケンシュタイン城を訪れるのも」

リリス「……」

カムイ「リリスさん、ここまでありがとうございました。ここからは私一人でも大丈夫です」

リリス「……いいえ」

カムイ「どうかしましたか?」

リリス「ちゃんと玉座手前まではお連れいたします。カムイ様はまだここを完全に把握されているわけではないんですから、それに遅れたガロン王様に叱られてしまいます」

カムイ「……そうですね、一人で来るようにとは言われていませんからね」

リリス「はい、ではお手を失礼いたします。しっかり握ってくださいね」

カムイ「こうですか」

リリス「す、少し、痛いです」


リリス「この先を上がれば玉座になります。私はこれ以上行くことができませんので、ここからは……」

カムイ「はい、ここまで案内してくれてありがとうございます」

リリス「私はここでお待ちしておりますので、お気をつけて」

カムイ「玉座に向かうのに気をつけてというのは、なんだか面白いですね。実際そうなんですが」

カムイ「お父―――」

ガロン「ふははははははははははははははっ!」

50: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 23:26:59.98 ID:A2J2oZID0
カムイ「お父様の笑い声……?」

ガロン「誰だ、そこにいるのは?」

カムイ「失礼いたします、ただいま到着しました、お父様」

ガロン「カムイか、よし……入れ」

カムイ「はい、失礼いたします」

カムイ(……誰もいない? おかしいですね、誰かと話していたような気がするのですが)

ガロン「よく来た、カムイ」

ガロン「まずは先の戦闘、見事であった。お前の戦いの資質は十分にあると認めざるを得ない。さすがはわが子だ」

カムイ「ありがとうございます、お父様」

ガロン「うむ、してカムイ。お前に新たな任務を与えたい」

カムイ「はい、どのような任務でしょうか?」

ガロン「なに、それほど難しいことではない。お前には偵察任務を行ってもらう。わが国境沿い、今は白夜領となっている場所に、今は廃墟となっている無人の城砦がある。そこに向かい、付近の状況を調べてくるのだ。先に言っておく、戦いは不要だ、ただの偵察でよい――」

カムイ「お父様、私には目がありません。どうやって偵察など」

ガロン「ふん、話は最後まで聞くものだ。これはお前が部下を正しく使えるかを見極めるためのものでもある。部下はお前の目となり脚となる者たちだ。まず、信頼できる従者を一人連れて行くがよい。しかし、それだけでは足りぬだろうから、わしが選んだ部下を一人授けることにする。部下を使って任務を遂行しろ」

カムイ「……わかりました、お父様」

ガロン「うむ、では城門で待つがよい。最高の人材を用意してやろう」


51: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 23:36:18.76 ID:A2J2oZID0
カムイ「リリスさん、本当によろしいんですか? これから向かう場所は敵の領地、戦闘になる可能性は高いんですよ」

リリス「はい、構いません。それに今動けるのは私しかいません。今から城塞に戻るのも難しいようですから。大丈夫です、私にも魔法の心得はあります、それにカムイ様のお役に立ちたいんです」

カムイ「……」

リリス「カムイ様」

カムイ「できれば、城塞で私の帰りを待っていてほしいのですが。でも、見知った方がいてくれるのはとても心強いです」

リリス「では……」

カムイ「ええ、リリスさん。よろしくお願いします。しかし、まだお父様は現れないのでしょうか?」

エリーゼ「あっ、いたいた! カムイおねえちゃん!」

カムイ「エリーゼさん? どうしたんですか」

エリーゼ「どうしたんじゃないよ、お父様に呼ばれたって聞いたから、みんなで来てあげたのに!」

カムイ「みんな?」

レオン「そうだよ。まったく、外に出られるようになったからって勝手に話を進めないでほしいな。僕たちにも一言声をかけてよ、家族なんだから」

カミラ「レオンの言う通りよ。私たちは家族なんだからちゃんと話してほしいわ」

カムイ「レオンさん、カミラ姉さん。すみません、今度からはちゃんと報告しますね」

53: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 23:44:16.69 ID:A2J2oZID0
マークス「報告という固い言葉を使うようになったのだな、カムイ。だが、私たちは家族の間柄だ。もう少し砕けた言葉にしてもいいのだぞ」

カムイ「マークス兄さん。そうですね、ちょっと背伸びをしたくなってしまったのかもしれません、今度からはちゃんとみんなに伝えますね」

マークス「うむ、しかし白夜領にある無人となった城砦への偵察か……」

リリス「はい、私がお供させていただきます」

カミラ「リリスとカムイだけでなんて、不安すぎるわ。何かあったら対処するのだって、私も一緒に……」

マクベス「それはなりませんぞ、カミラ王女」

カムイ「……あなたは?」

マクベス「こうして話すのは初めてですね。名前は耳にしているかと思いますが、初めましてカムイ王女、私は暗夜国の軍師を任されているマクベスと言います」

カムイ「あなたが軍師のマクベスさんですね、よろしくお願いします。ところで、お顔を触ってもいいでしょうか?」

リリス「か、カムイ様……」

エリーゼ「おねえちゃんって、本当にすごいよね」

レオン「ああ、もう姉さんの行動を見てもだんだん動じなくなってきてる自分が怖く感じるよ」

マークス「しかし、あれがカムイらしさとも言えるな」

54: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 23:51:20.67 ID:A2J2oZID0
マクベス「それをして、私に何か利益があるのですかな?」

カムイ「いいえ、私が個人的にマクベスさんの顔を知りたいだけなんです。他意はありません」

マクベス「ふん、少しだけならよろしいですよ」

カムイ「ありがとうございます。では……」

マクベス「!?!?!?!?!?」

カミラ(マクベスの口元、上がったり下がったりしてるわね。ああ……カムイの奇麗な指がマクベスに触れているなんて、正直最悪な気持ちだわ)

マーカス(なんだろう、ほかの者なら気にしなかったのだが。マクベスの顔に触れているという事実を前に、兄としてとても複雑な心境になる)

カムイ「仮面を付けられているんですね。眉は鋭いのに、唇は……どうしたんですか、小さく震えてますよ。マクベスさん」

マクベス「も、もういいでしょう。離れてください、カムイ王女」

カムイ「はい、ありがとうございます。マクベスさん、結構スベスベしてるんですね」

マクベス「まったく、カムイ王女もおかしな趣味をお持ちのようですね。まあいいです。さて、カミラ王女。先ほどの質問への答えですが、ガロン王様はカムイ王女に対してこれを試練であると仰っておられます。王族であるカムイ王女が与えられたものだけでことを成すことができるのか、それを見定めようとしているのです」

55: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/05(水) 23:59:14.81 ID:A2J2oZID0
マクベス「これでまだ何かを望まれるというのであれば、王族としてガロン王様がカムイ王女を認めることはないでしょう」

カムイ「私は王族でなくてもいいので、十人くらい兵士がほしいのですが」

マクベス「……あのですね、カムイ王女。私の話を聞いておられましたか?」

カムイ「はい、聞いていました」

マクベス「なら、今の発言の意味わかりますよね?」

カムイ「はい、ただ言ってみただけです。冗談ですよ、マクベスさん」

マクベス「人をからかうのもいい加減に――」

カムイ「眼尻にゴミが付いてますよ」

マクベス「はふん……はっ!」

一同「………」

マクベス「と、とにかく、決められた援助以外は受けられないと理解してください。良いですね、カムイ王女」

カムイ「はい、わかりました。ふふっ、からかってしまってすみませんでした」

マクベス「そう面と向かって言われると非常に腹が立ちますが、もういいでしょう」

ガロン「話は終わったようだな。マクベスよ」

マクベス「ガロン王様、どうぞこちらへ」

ガロン「ああ。待たせたな、カムイよ」

56: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 00:08:26.95 ID:4yjHbdm40
カムイ「はい、お父様」

ガロン「では、約束の人材だ。この男を連れてゆけ」

ガンズ「………」

カムイ「この方は?」

ガロン「この男は、ガンズという。見ての通り怪力に心得のある者だ。お前の任務の手助けとなるだろう。無論、お前の命令次第であるがな」

カムイ「はい、ありがとうございます」
カムイ(しかし、偵察任務に怪力の男を宛がうのですか。どう考えても兵種の選択を間違えているような気がするのですが……、お父様は一体何を考えているのでしょうか? それに――)

マークス「……カムイ」

カムイ「マークス兄さん? どうしましたか?」

マークス「カムイ、あの男、ガンズには気をつけるのだ」

カムイ「……血の香りがしますね、あの方からはとても濃い」

マークス「察しがいいな、奴は元重罪人だ。過去に略奪や虐殺を繰り返してきた男で、本来ならば秩序の元で裁かれなければならなかった男だ。父上の手で兵に取り立てられたが……油断はするんじゃないぞ」

カムイ「そうですか。では、先に釘を打たせてもらいますね」

マークス「?」



57: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 00:13:19.40 ID:4yjHbdm40
カムイ「お父様、今回の偵察任務、私が最高指揮官ということでいいのでしょうか?」

ガロン「そうだ、他の者たちは、皆お前の部下だ」

カムイ「では、命令に反した部下の処遇は『私が下してもよい』そう考えてよろしいですね」

ガロン「そうだ」

カムイ「はい、ありがとうございます」

ガロン「では任務を遂行するがよい、カムイよ」


レオン「姉さんって本当に怖いもの知らずだね。だけど、あの肝の据わり方は見習いたくないよ、胃に穴が開く気がする」

カミラ「そうね。ふつう、お父様にあんなことを聞こうなんて思わないもの。ただ、あの男、ガンズをカムイとリリスでどうにかできるものかしら?」

マークス「普通に考えれば、難しいだろう」

カミラ「やっぱり私……」

エリーゼ「カミラおねえちゃん、大丈夫だよ。何とかなるはずだから!」

カミラ「エリーゼ?」

58: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 00:18:51.82 ID:4yjHbdm40
◇◆◇◆◇
―王都ウィンダム―

ガンズ「……」

リリス「……カムイ様」ボソッ

カムイ「ええ、困りましたね。いくらこちらに権限があっても、ガンズさんの手ほどき無しに城砦へはたどり着けません」

リリス「それに私とカムイ様が頑張っても、あの人を止められるなんて思えません」

カムイ「一度も行ったことのない場所で事を起こされては、私はあまりにも不利ですからね。お父様が私の返答に難色を示さなかったのはこういうことだったんでしょう」

ガンズ「カムイ王女、早くしてください」

カムイ「すみません、目が見えないのでもう少し速度を落とせませんか、リリスさんに手を取ってもらっている形なので」

ガンズ「そうはいきません、決められた期限までに偵察を終えて帰らねばならないのですから」

カムイ(……万事休すですね)

59: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 00:23:40.60 ID:4yjHbdm40
???「失礼します、カムイ王女でよろしいですか?」

ガンズ「誰だてめえは? おれたちはこれから大切な任務がある。邪魔するってんならタダじゃ済まさねえぞ」

カムイ「ガンズ! すみません、私の部下が失礼なことを。私がカムイで間違いありません、あなたは一体?」

???「申し遅れました。俺は王城で騎士をしています。サイラスといいます」

カムイ「サイラス……さん?」

サイラス「はい、この度王族の方から直属の命を受け、あなたの任務に同行する任務を与えられ、ここにやってきました」

ガンズ「馬鹿な、そんなことあるわけ……証拠はあんのか?」

サイラス「こちらが証明証です、カムイ王女は目が見えぬと聞きましたので、印に触れて確かめてください」


60: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 00:28:04.71 ID:4yjHbdm40
カムイ「はい、………!」

サイラス「………」

カムイ(これはエリーゼさんの印……。心配をすでに掛けてしまっていたんですね。帰ったらお礼を言わないといけません」

ガンズ「カムイ王女、これは何かの罠です。信じることは―――」

カムイ「いいえ、これは王族の印で間違いありません。あいにく私は文字が読めませんので、ガンズさん確認してください。確認を終えたらサイラスさんにお返しを」

ガンズ「ちっ、話がちげえじゃねえか」ボソッ

カムイ「では、サイラスさん、よろしくお願いしますね」

サイラス「ああ、よろしく頼む」

カムイ「………」

サイラス「………一つ聞いてもいいか」

カムイ「はい、なんでも答えますよ」









サイラス「カムイ、俺を覚えているか?」


61: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 00:42:21.08 ID:4yjHbdm40
カムイ「お顔に触れてもいいでしょうか?」

サイラス「はい、どうぞ」

カムイ「……昔、私なんかに付き添ってくれた友達がいたんです。目が見えない私のためにいろいろしてくれた、今なら親友という言葉をあげたい人が」

サイラス「……俺にもいるんだ。俺のしたことを捨て身で庇ってくれた友達。今なら親友と呼びたい人が」

◇◆◇◆◇

カムイ『サイラス、サイラス? どこ、どこなの?」

サイラス『カムイ、こっちだ。手を取って、あと足もとに気をつけて。ここを抜けたら外に出られるから』

カムイ『うん、サイラスの手、とっても安心できる』

サイラス『それは俺とカムイが友達だからだ。友がいれば、どこにだって行けるぞ』

カムイ『うん!』

サイラス『ぐっ、くそぉ。カムイごめん、俺友達失格だ。こんな怖い思いさせて、ごめん』

カムイ『ごめんなさい、私のせいなの! 私が頼んだだけ、サイラスは悪くない、悪くないの! だからお願い、許して……目が見えない私のためにしてくれただけなの。お願い、サイラスを殺さないで』

◇◆◇◆◇

サイラス「あの時は、すまない。怖い思いをさせてしまって」

カムイ「私の親友はそんな情けない声なんて出しません。首筋が弱くて、いつも元気で、私の手を引っ張ってくれるそんな人です」

サイラス「そうだな。久しぶりだな、カムイ」

カムイ「ええ、お久しぶりですサイラスさん。任務に同行してくれるんですよね?」

サイラス「ああ、必ず役に立って見せる。心に誓ってな」








ガンズ「………」

62: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 00:45:14.94 ID:4yjHbdm40
 第二章 前篇終わり

現在の支援レベル

 スズカゼ  C
 リンカ   C
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C
 リリス   C


65: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 23:19:54.12 ID:4yjHbdm40
◇◆◇◆◇
―暗夜王国『無限渓谷入口』―

カムイ「ここが無限渓谷の入り口ですか、往復の時間を考えれば今日中に偵察を終えないといけませんね」

サイラス「ああ、そう考えて変装したわけだな」しがない護衛風

カムイ「はい、流石に、無人という話ですが場所は白夜領ですから、暗夜の格好で行くわけにはいきません」旅商人風

サイラス「そうだな。でも、この剣だけは隠しきれそうにないぞ」

カムイ「そうですね。ガングレリは見える形で布に包んでおきましょう。これで装飾品の一種かと思われるかもしれませんから」

リリス「あの……私はそのままでもよろしいんでしょうか? この恰好で怪しまれたりしませんか?」

サイラス「リリスの恰好はそれで大丈夫だ。白夜の聖職着にするのもありかと思ったけど、暗夜側から白夜の服を来た人間が現れたら、逆に怪しまれる」

カムイ「着付けの際はリリスさんがいて助かりました。着なれた服以外の身につけ方なんて、わからなかったので」

リリス「いいえ、お安いご用です。でも、いきなり皆様の前で服を脱ぐのはやめてください。さすがに女性としてどうかと思いますので」

カムイ「はい、気をつけます……あとはガンズさんだけなんですが……」


66: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 23:28:40.91 ID:4yjHbdm40
ガンズ「変装なんてする必要はない」

カムイ「ですが、もしも白夜兵がいた場合は……」

ガンズ「事前に敵はいないと聞かされているんだ。なら、変装の必要はどこにもない、違うか?」

サイラス(敵がいないのならガンズみたいな男に声が掛るわけない)

カムイ(やはり、何かしらの意図があってお父様はガンズを宛がわれたのでしょう……)

ガンズ「それともなんですか、命令に背いたってことでここで殺しちまうか? 王女さまよぉ?」

サイラス「お前、言わせておけば!」

カムイ「いいえ、いいんです。すみません、ガンズさんのお父様への忠誠心に感心して言葉が出なかったのです。無理な提案をして申し訳ありませんでした」

ガンズ「へっ、面白くねえ王女さまだ」

サイラス「お、おい。いいのか?」

カムイ「はい、変装は私とサイラスさんだけで大丈夫です。それにリリスさんだって変装してませんから、ガンズの言っていることも一理あるでしょう」

リリス「ガンズさんと同じって、なんだか悲しいです」

ガンズ「ああ?」

リリス「す、すみません」

カムイ「大丈夫、何も心配いりません。では無限渓谷に入りますよ」

カムイ(……ガンズさんには悪いですが、仕方がないですね)

67: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 23:37:21.28 ID:4yjHbdm40
◇◆◇◆◇
―無限渓谷の吊り橋し―

リリス「谷底が全く見えませんね。空も真っ暗ですよ」

カムイ「時々雷の音も聞こえてきます。できればここを通らずに任務を達成できれば良かったんですが」

サイラス「カムイ、それは無理な相談だ。ガロン王様の定めた期限を考えると、ここを抜けるしかない」

リリス「難儀ですね」

サイラス「そろそろ吊り橋の終わりですから、白夜領に……あ」

カムイ「ん? サイラスさんどうかしましたか?」

サイラス「すまない、カムイ。久々の再会に浮かれてこの吊り橋の本来の意味を忘れてた。この橋は不可侵の証でもあるんだった」

カムイ「……それは、そもそも使うこと自体が問題になる橋、ということですか?」

サイラス「残念ながら、そういうことになる」

カムイ「………」

ガンズ(へっ、今さら気づいても遅いんだよ。あまちゃん王女さまよ。俺は言われたとおりに暴れるだけさ、まぁここで王女がその命令を出すんなら、喜んでやってやるさ)

カムイ「ふふっ、お父様は意地悪ですね。ここはガンズさんにお願いするしかないようです」


68: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/06(木) 23:46:42.21 ID:4yjHbdm40
カムイ「ガンズさん、武装の使用を許可します」

ガンズ「!?」

サイラス「カムイ、いったい何を言い出すんだ!」

リリス「カムイ様、それでは国家間の問題になってしまいます。どうしてしまったんですか!?」

ガンズ「おいおい、お前ら指揮官である王女さまが言ってんだ、従わない奴がどうなるかはわかってるんだろうなぁ?」

カムイ「ガンズさんの言っているとおりです。サイラスさん、私を馬に乗せてください」

サイラス「あ、ああ。別にかまわないぞ」

リリス「カムイ様、一体なにを?」

カムイ「では皆さん、一気に吊り橋を渡り切りますよ!」

サイラス「突撃か、ええい、わかったカムイ、振り落とされないようにしろよ」

カムイ「はい、ちゃんと抱きしめてますから大丈夫ですよ」

サイラス「よし……、じゃあ行くぞ!」

リリス「はい!」

カムイ「全員進んでください! 全速力です!」

ガンズ「そうでなくちゃ面白くねぇ……って、お前ら早すぎるぞ!」

サイラス「吊り橋を渡りきった瞬間に戦闘の可能性がある。カムイ、武器を抜くぞ」

カムイ「いえ、その必要はありません」

サイラス「な、何を言ってるんだ。カムイが吊り橋を渡るように命令したんじゃないか」

カムイ「ええ、ですがサイラスさんとリリスさんに武器の使用は許可してません」


69: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 00:00:35.24 ID:T+L8CJ0G0
サイラス「この先に白夜兵がいたらすぐに戦闘になるんだぞ! 何を悠長にして……」

カムイ「ガンズさんは流石に足が速いわけではないんですね。ちょうどいい距離感になりました」

リリス「……あっ」

サイラス「リリス、どうしたんだ?」

リリス「カムイ様……それはちょっと可哀そうだと思うんです」

カムイ「いえ、適材適所です。ガンズさんはすべての要素を満たしてますから」

◇◆◇◆◇

白夜兵A「……今日も異常はないか。さすがにこの吊り橋を越えてくるものなどいな――。ん、奥から誰かがやってくる!?」

白夜兵B「馬鹿な、ここは不可侵の証の橋だぞ……」

白夜兵A「前方に馬に乗った二人ともう一人、その後ろから一人の計四人です」

白夜兵B「モズ様、何者かがやってきます!」

モズ「暗夜軍か!? この橋は両国不可侵の証、誰であろうと知らないが、引き返すように通告しろ! 引き返さないようであれば。武力で追い返すんだ」

白夜兵B「はっ!」

サイラス「くっ、予想通り白夜軍だ」

カムイ「そうですね。いてくれて助かりました」

サイラス「カムイ、信じていいんだな?」

カムイ「はい、私を信じてください。サイラスさん」

白夜兵B「貴様ら、この場所から即刻立ち去れ! もしも押し通るというのならば武力をもってでも、対処させてもらう!」

ガンズ「へっ、逃げられると思うなよ! 死ね死ね死ねぇっ! 一人残らず殺してやる!」

白夜兵B「それがお前たちの答えというわけだな……全員武器を抜け、迎え撃つ!」

白夜兵たち「ああっ!」チャキン

71: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 00:11:20.62 ID:T+L8CJ0G0
サイラス「くそっ、ガンズの言葉で向こうはやる気みたいだぞ……」

カムイ「そうですね。では、そろそろ始めますか………」






カムイ「すぅ―――……」






カムイ「助けてください!」

サイラス「!?」

ガンズ「……はぁ?」

リリス「やっぱり……そういうことですよね、カムイ様」

72: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 00:23:25.30 ID:T+L8CJ0G0
白夜兵B「ど、どういうことだ。お、おい止まれ!」

カムイ「助けてください、あの人に追われているんです!」

ガンズ「な、なにがどうなって……」

白夜兵C「まさか、ここまで逃げてきたというのか?」

カムイ「はい、突然襲われて……すでに数人、私のために……お願いします、どうか助けてください」

サイラス「……………(悟った顔)」

サイラス「すまない、俺の力が及ばないばかりに……大切な人たちを……」

リリス「もう、すぐそばにまで来ています。私たちをお助けください、お礼は致しますから、おねがいします」

白夜兵B「……。しっかり、早くこちらへ。大丈夫、我々に任せて」

カムイ「ありがとうございます」

白夜兵AB「……」チャキ

白夜兵B「同じ国の民を襲うとは、人間の風上にもおけん」

ガンズ「は、話がちげえぞ………!?」

カムイ(ガンズさん、囮御苦労様です。一度吊り橋から撤退して待っていてください)口パク

ガンズ「て、てめぇ!」

白夜兵B「相手は賊一人だ。それも力持たぬ民を襲うような外道下衆、私とBで対処できる。Cはこのお方たちを城砦へお連れし、モズ様に報告だ」

ガンズ「く、くそおおおおおおおおおお」

73: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 00:35:27.64 ID:T+L8CJ0G0
白夜兵C「わかった、さぁこちらへ。急いでください」

カムイ「助かりました」

サイラス「すまない、恩にきるよ」

サイラス(ガンズ、心中お察しするよ)

リリス(カムイ様って、案外エグイことをしますね……)

ガンズ「こんなところで死んでたまるかってんだ、退かせてもらうぜ」

白夜兵A「逃げた先で吊り橋を落とされると厄介だ。B、追いかけるぞ」

白夜兵B「ああ」

ガンズ「覚えてやがれ!」

◇◆◇◆◇
―放棄された城砦内部―

カムイ「うまくいったようですね」

サイラス「ああ、でもなんて報告するんだ?」

カムイ「ガンズさんは囮役を引き受けてくれただけです。白夜からすれば賊が現れただけのこと。私たちはそれに追われて逃げ込んできた一般市民、国交問題になりえません」

サイラス「カムイ、俺がいない間どんな毎日を送ってたんだ」

リリス「ひたすら訓練ばっかりしてた印象ですね」



白夜兵C「モズ様、報告に参りました。賊は一人、残りの三人はその賊に追われて逃げ来た者たちです」

モズ「賊にだと……いや、もしかしたらその賊の仲間かもしれん。一般人を装い、ここに入り込むために一芝居演じただけの可能性もある」

カムイ(……鋭いですね)

74: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 00:45:15.90 ID:T+L8CJ0G0
モズ「念のために手荷物を調べるのだ」

白夜兵C「……すまないが」

カムイ「はい、調べていただいて結構です。服を脱いでも構いません。私たちの身の潔白が証明されるなら」

サイラス(エリーゼさまの印書はカムイの服の中だ……。あれを見つけられたら、誤魔化しきれないぞ)

モズ「ふっ、そこまで我々も鬼ではないが、状況によっては調べさせてもらう。C、調べるんだ」

白夜兵C「……失礼します」



白夜兵C「武器はありますが、何の変哲もない剣とロッドが一つずつ、とてもではないですがここを攻撃する装備とは思えません。明らかに護身用の範囲です」

モズ「そうか、あとはその馬につけられたその包みだが……なんだこの剣は」

白夜兵C「とてもじゃないですが切れ味が良いようには見えませんね。もしかしたら賊が狙っていたのはこれかもしれませんね」

モズ「そうか……」

サイラス(あとはボディチェックくらいだが……)

カムイ「あの、私は服を脱いだほうがいいでしょうか?」

モズ「おい、どこを見て話している? 私はこちらだ」

カムイ「そちらでしたか、失礼しました」

サイラス「カムイ、大丈夫か?」

モズ「カムイと言ったか。目を合わせようとせぬのは何故だ?」

カムイ「いえ、これは……」

75: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 00:56:21.10 ID:T+L8CJ0G0
モズ「目を合わせぬのは都合の悪いことがあるからではないのか?」

カムイ「……本当は見せたくは無いのですが……私の眼はこのような状態でして」

モズ&白夜兵C「……!!!」

カムイ「すみません、気色の悪いものを見せてしまって」

モズ「いや、こちらこそすまなかった。見せたくない傷なのであろう……。疑ったこと、すまなかった。服は脱がなくてもよい、流石に目の見えない相手を脱がすなんてことはできない」

サイラス(カムイはここまで計算してるのか。正直恐ろしいな)

カムイ「いいえ、お気遣いありがとうございます。ここまで必死に逃げてきて、皆さんに助けていただけだことは感謝しきれないくらいです」

モズ「礼などいい。だがあまり長居をさせることもできない、我らとてあの橋をむやみやたらに渡ることはできぬのだ。安全が確認され次第、戻ってもらうことになるが、それでもよいか?」

カムイ「はい、少しばかり休ませていただけただけでも、感謝しきれないほどですから」

モズ「そ、そうか……」

カムイ「?」

モズ「い、いや、私の名を名乗っていないと思ってな。私はモズという」

カムイ「モズさんですね」

白夜兵C「モズさん、何照れてるんですか」

モズ「いや、ここにも女子はいるんだが、こう静かなタイプはいないのでな……。そういうお前は大丈夫なのか?」

白夜兵C「私は女房一筋なんで、心揺らぎませんよ。ええ」

76: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 01:03:23.18 ID:T+L8CJ0G0
サイラス「目が泳いでるけどな。ところで、ここは? さっき城砦とか言ってたけど」

白夜兵C「作られた経緯は知らないが、ここは吊り橋を監視するのに一番適した場所なんだ。いち早く仲間も呼べるし、なによりこういった時には救護所だったり、一時の避難場所にもなる。他にも小さい砦がいくつかあるのさ」

サイラス「へぇ」

白夜兵C「ところでさ、あんたあの黒髪のお嬢さんとどんな関係なんだい?」

サイラス「大事な幼馴染さ」

白夜兵C「ほんとにそれだけかぁ?」

モズ「おい、あまり困らせるんじゃない。カムイ、水や食料などの援助が必要なら言ってくれていい。さすがに多くは出せないが三人が一日を越せる量は見繕える」

カムイ「はい、ではお言葉に甘えさせていただきます」

モズ「うむ、しばし待たれよ」

カムイ(ここは白夜の前哨地として使われているみたいですね。サイラスさんと白夜兵の会話を聞く限りでは砦の数も多くあるという話ですから、暗夜王国は相当警戒されているということになりますね)

リリス「……」

白夜兵D「ううっ……」

リリス「こちらの方は?」

モズ「うむ、数日前に寝込んでいてな。今日、応援の者と交代の予定になっている。大丈夫だ、必ず良くなる」

リリス「少し見せてもらってもいいですか?」

モズ「? ああ」

77: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 01:09:32.81 ID:T+L8CJ0G0
リリス「失礼しますね。ロッドを持ってきてくれませんか」

白夜兵C「ああ、これでいいか?」

リリス「はい、ライブ……」ポワン

モズ「いったい何を……顔色が良くなっている?」

リリス「はい、これで少しは楽になれたと思います」

モズ「これが暗夜の魔術か。すまない、疑ってしまった」

リリス「いいえ、私もいきなりに魔法を使ってしまってすみませんでした。大事な仲間なんですよね、心配に思うのは当然です」

モズ「ありがとう……賊はどうなっている?」

白夜兵E「はい、今は中継ぎの橋前にてAとBは様子を伺っています。賊はまだ居座り、橋の向こうからこちらを鬼の形相で睨んでいるそうです」

モズ「なんと執念深い」

カムイ「………」

サイラス「……殺されるかもな、俺達」

カムイ「そうかもしれませんね……」

78: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 01:20:52.10 ID:T+L8CJ0G0
◇◆◇◆◇
―無限渓谷・暗夜側吊り橋前―

ガンズ「くそっ、くそおもしろくねぇ。あの王女、戻ってきたら……」

カムイ『命令違反は重罪ですからね』

ガンズ「くそ、ガロン王にいっぱい食わされたのは俺のほうなんじゃねえのか?」

ガンズ(できれば撤退したいところだが、ここで帰ったら俺がガロン王に殺される。命令は絶対、けっ、こればっかりはあの王女の言う通りだぜ。だから待ってやるよ、カムイ王女)

ガンズ「けっ、睨みあいは性に合わせねえ。一芝居打たせてもらうぜ」

◇◆◇◆◇
―城砦内部―

白夜兵C「モズ様、報告です。賊は姿を眩ませたそうです。諦めて帰ったのかと」

モズ「そうか、しかし橋の向こうで待ち伏せしているだけかもしれん……。カムイ、お前さえよければ、白夜にて迂回の道を通れるように掛け合ってみるが」

カムイ「いいえ、今賊がいないのならこの機を逃すわけにはいきません。それに皆さんが私たちを匿ってくれたことで、賊も私たちを餌に罠を張られるかもしれないと、思っているかもしれませんから」

モズ「中々に考えるお嬢さんだ。目が見えていたら、違う職に就いていたかもしれないな」

カムイ「そうですね……そうだといいのですが」



79: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 01:23:47.14 ID:T+L8CJ0G0
モズ「?」

カムイ「いいえ、変なことを言ってしまいました。皆さん、ありがとうございます。サイラスさん、リリスさん。準備はできていますか?」

リリス「はい、大丈夫です」

サイラス「こっちも大丈夫だ」

モズ「よし、中継ぎの橋まで案内を頼んだぞ」

白夜兵C「はい、わかりました。では、ついて来てください」

カムイ「はい」

カムイ(どうやら、戦闘は無く無事に任務を終えられそうですね)

???「そこの者、止まれ」

カムイ「!」

84: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 23:05:53.68 ID:T+L8CJ0G0
モズ「サイゾウ様」

サイゾウ「賊が現れたと報告があった……そこにいる者たちか? それにしてはえらく寛いでいるように見える」

モズ「いえ、この者たちは賊に追われ逃げ込んできた暗夜の民。武装なども確認しましたが、護身の範囲であり、部下の治療までしてくれた方々です。それにあの女子は……その……」

カムイ「構いませんよ、モズさん」

モズ「目が見えておりません、我々が確認いたしました。そんなものを嗾けるほど、暗夜も馬鹿ではないでしょう」

サイゾウ「ほう、そうか……。名は何という」

カムイ「……カムイ、と言います」

サイゾウ「………そうか、カムイというのか」

カムイ「モズさん、お世話になりました」

モズ「はい、お気を付け―――」

サイゾウ「モズ、その者たちを捕らえよ。逃がしてはならん」

一同「!!!!!!」

85: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 23:17:00.76 ID:T+L8CJ0G0
カムイ「……」

モズ「な、なぜですか? 民間人を捕らえるなど……」

サイゾウ「民間人であるなら、俺とて盲目の人間を暗夜が送り込んでくるなど考えない」

モズ「……つまり、それを考えない事情があるわけですか……」

白夜兵CD「……」カチャッ チャキッ

カムイ「理由を聞かせていただけますか。サイゾウさん」

サイゾウ「少し前に捕虜となった者が戻ってきた。その者たちから面白い話を聞いた。暗夜に住む世間知らずの変わった王女の話をな」

カムイ「……」

サイゾウ「その王女は盲目でありながら、太刀打ちできぬほどに強く、人の顔をよく触る変わった奴だそうだ」

サイラス「………」

サイゾウ「捕虜の話によると、その王女はカムイと言うそうだ」

リリス「………」

モズ「ま、まさか……」

サイゾウ「盲目であり、名前が同じ。そんな偶然は早々ありえないことだ。そうは思わないか、カムイ?」

カムイ「……二人とも、走って下さい!」

86: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/07(金) 23:51:21.22 ID:T+L8CJ0G0
モズ「くっ、まさか本当に!?」

白夜兵C「逃がすか!」

サイラス「あぶない!」

カムイ「サイラスさん、ありがとうございます。すみません、モズさん」

モズ「くっ、これが真実だというのか。我々をたばかったのか!?」

カムイ「ごめんなさい」

サイラス「くっ、カムイどうする、戦うか?」

カムイ「いいえ、私達でどうにかできる数ではありません。このまま暗夜側に撤退しましょう。サイラスさん馬をお返ししますから、先導をお願いしますね」

サイラス「ああ、わかった。前方は任せてくれ」

カムイ「ええ、後続は私がどうにかします」

サイゾウ「逃がすと思っているのか、喰らえっ!」

カムイ「てやぁ!」キキン

モズ「サイゾウ様の攻撃を!?」

サイゾウ「ふん、スズカゼの報告は真実であったということか。尚更逃がすわけにはいかん」

モズ「くっ、しかしこのままでは逃げられてしまう……」

サイゾウ「心配いらん……」


87: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 00:03:10.23 ID:ujlGxm7M0
カムイ「! リリスさん、危ない!」

リリス「えっ、カムイ様、きゃっ!」

 グサッ

カムイ「……ぐっ、さすがにもらいましたか……」

???「む、直撃ではないか、私もまだまだということか」

カゲロウ「カゲロウ推参した。サイゾウ、あやつらが賊か?」

サイゾウ「いや、賊ではない。むしろ賊より厄介な連中だ。しかも殺してはいけないと注文が多い」

カゲロウ「ほう、そうか。しかし、私の攻撃で微少だが傷を負わせた。先より動きは鈍いぞ」

リリス「カムイ様、私なんかのために……」

カムイ「だ、大丈夫です。それよりも、早くつり橋へ向かいますよ」

リリス「怪我の手当を!」

カムイ「いえ、そんな余裕はないと思います」

サイラス「ああ、そうみたいだ。カムイ、南の砦からなんか飛んできてる。たぶん白夜の天馬部隊だ。追いつかれたら、流石に逃げきれない」

カムイ「一刻の猶予もありません。リリスさんは私よりも前を走ってください、飛んでくる攻撃は私が全部対処します」

リリス「そんな、怪我をされているのに無茶です。私が盾になりますから、カムイ様はサイラスさんといっしょにいち早く吊り橋を……」

88: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 00:13:30.09 ID:ujlGxm7M0
カムイ「駄目です。それにリリスさんじゃ、飛んでくる攻撃を受けたり避けたりなんてできないでしょう? すぐに追いつかれるだけでリリスさんが私を庇った意味がなくなってしまいます」

リリス「さらっと使えないって、言っちゃうんですね。カムイ様」

カムイ「はい、だから私に守られてください。いいえ、守らせてください」

リリス「……はい、お願いします」

白夜兵F「来たか、止まれ止まるんだ!」

サイラス「カムイ、前方に伏兵だ。武器の使用を許可してくれ!」

カムイ「はい全力でやってください! 武器の使用を許可します!」

サイラス「ああ、行かせてもらう!」

白夜兵F「通すわけにはいかない!」

サイラス「止まるわけにはいかない!道を開けろー!!!」ブンッ

白夜兵F「ぐっ、これしきの攻撃受け止める! 今だ左右の道を防げ!」

白夜兵GH「わかった!」

サイラス「くそっ、道をふさがれた!?」

カムイ「リリスさん、サイラスさんの援護に!」

リリス「は、はい! 私だって、できるんです!」

白夜兵H「ぐっ、追撃を落とされた」

サイラス「リリス、ありがとう」

リリス「はい!」

カムイ「右の兵士を叩いて!」

サイラス「ああ!悪く思わないでくれ!」

白夜兵H「ぐ、ぐあああああっ」

白夜兵F「み、道に穴が……!?」

カムイ「よそ見はいけませんよ」

89: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 00:24:39.27 ID:ujlGxm7M0
白夜兵F「しまっ――!!!」

カムイ「てやっ!」

 ドゴォ!

白夜兵F「か、かはっ!」

白夜兵G「ひぃ、ひぃいい!」

カムイ「じっとしていれば何もしません。サイラスさん、早く吊り橋を渡りきって暗夜領へ向かってください。リリスさんも早く!」

リリス「カムイ様はどうするんですか!」

カムイ「できる限り敵を引きつけます。大丈夫です、すぐに追いかけますから」

サイラス「……わかった。リリス馬に乗るんだ」

リリス「は、はい。カムイ様、すぐに追いかけて来てくださいね」

カムイ「わかっています。さぁ、早く!」

サイゾウ「くっ、吊り橋に逃げ込まれたか」

カゲロウ「ふむ、しかし王女がしんがりのようだ。捕らえることは出来るやもしれん。あまり気は進まないが」

サイゾウ「……いくぞ」



白夜兵A「ん、来たみたいだな。賊ならどこかに行ったみたいだぞ」

サイラス「ああ、世話になったよ。ありがとう」

白夜兵A「しかし、まだ安心できるというわけでは……んっ? 馬に乗っていたはずのお嬢さんはどこに?」

サイラス「それは……すまない、許してくれ」

白夜兵A「へっ?……ぐあぁ、いきなり何を……する……」ドサッ

サイラス「本当にすまない」

リリス「サイラスさん、ここで待ちましょう。カムイ様がまだ来ていません」

90: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 00:35:14.07 ID:ujlGxm7M0
サイラス「待ちたいところだけど、俺はカムイを信じる。正直、ガンズのことが気がかりだ、ここで三人合流してから向かうのはある意味危険だ。先に吊り橋を渡り切ってガンズと合流する」

リリス「………そうですね。わかりました、ガンズさんと合流しておきましょう」

サイラス「ああ、正直渡っている最中に吊り橋を落とされるかもしれないから、ガンズが出てくる前に暗夜領にたどり着こう」

ガンズ「……きやがったな。ちっ、カムイ王女はいねえみたいだ。くそっ、三人並んでればすぐに橋を落としてやるんだが、仕方ねえ」

サイラス「ガンズ囮の任務よくやってくれた。おかげで偵察は完了だ」

ガンズ「けっ、それで王女はどうした? しんじまったか?」

リリス「ガンズさん!」

サイラス「もうすぐ到着する。それまではここで待機だ」

ガンズ(とか言いながら剣を納めてねえし、俺に注意を向けたまま。こいつ、俺のことを信用してねえってことか、甘ちゃんな王女の部下だと思っていたが、けっ、まあいい)

リリス「カムイ様、ご無事で、ご無事でいてください」

91: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 00:40:19.40 ID:ujlGxm7M0
ガンズ「いくら祈っても、もすカムイ王女が死んでたら意味ないぜ。そうさ、カムイ王女はもう死んでるか、捕らえられているに決まってる。ここで待っていると俺たちも危険だろ? 追手が来れないようにこの橋を落とせば、丸く収まる」

サイラス「それを決めるのはカムイの役目だ。俺もお前も、今はカムイの部下だ。命令がない以上、それを行うことはありえない」

リリス「あっ、カムイ様! サイラスさん! カムイ様が来ました!」

サイラス「ああ、わかった」

ガンズ(こいつ、カムイが現れたと聞いても眼を俺から逸らさねえ…)

ガンズ「ん!? へっ、別にかまわねえか。こんな状態ならな!」

サイラス「ガンズ何を言って」

リリス「ああ、そんな! サイラスさん、カムイ様が!」

サイラス「なに

92: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 00:51:26.08 ID:ujlGxm7M0
カムイ「はぁ……はぁ……」

サイゾウ「なんという女だ。目が見えないという話が戯言にさえ思えてくるほどの動き、驚異的だ」

カムイ「ぐっ………力が……」

白夜兵C「……動くな、手荒い真似はしたくない」

モズ「……カムイ、もう終わりだ」

カムイ「……ここまでのようですね」

サイラス「カムイ! 待っていろ、今すぐ助けに行く!」

リリス「カムイ様、待っていてください」

サイゾウ「ふっ、暗夜の兵たちよ。この女の命、惜しくば武器を捨て投稿しろ。安心しろ、手荒なまねはしない」

サイラス「………わかった。指示に従う、従うからカムイに手を出すな! リリス、ガンズ武器を」

リリス「は、はい」

ガンズ「……」

サイラス「ガンズ、武器を捨てろ! カムイの命が掛っているんだぞ」

ガンズ「武器を捨てろ? そんな命令には従えねえな。俺は指揮官の命令にしか従わないんでね」

カムイ「ガンズさん!」

ガンズ「……なんですか、カムイ王女?」

サイゾウ(ふっ、命が危なくなれば仕方のないことだな。これで任務は――)

カムイ「命令です」

ガンズ(けっ、今さらどんな命令だろうと従う気はねえけどよ)

カムイ「吊り橋を………吊り橋を落としてください」

93: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 00:56:59.62 ID:ujlGxm7M0
ガンズ「……了解!」

サイラス「か、カムイ一体何を言って! ガンズやめろ!」

ガンズ「指揮官の命令は絶対、そうでしたねカムイ王女」

カムイ「ええ、その通りです。ガンズさん、お手数を掛けます」

ガンズ「いえいえ、では、命令通り落とさせてもらうぜ!」ブンッ

 ブチィ、ブチブチ、ガラガラガラ……

サイラス「そ、そんな……カムイ! こんなのは間違っている!」

カムイ「皆さんは、急いでウィンダムに帰還してください。サイラスさん、ここまでありがとうございます。命令もないのに私に従ってくれたこと、感謝しています」

サイラス「何を言っているんだ。俺はエリーゼ様から……」

カムイ「命令なんて、無かったんですよ」ビリッビリビリッ

サイラス(あれは、エリーゼ様の印書……、なんで、何でこんなことまでするん)

カムイ「ガンズさん、お父様への報告をお願いします。配置などを記した紙をサイラスさんから受け取ってください」

ガンズ「ちゃんと遂行してやるよ。おい、お前らさっさとここから逃げるぞ!」

94: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 01:05:07.18 ID:ujlGxm7M0
リリス「カムイ様! 待ってください! 私たちを置いていかないでください!」

サイゾウ「弓を奴らに向けて放て、威嚇でいい。どうせ何かできるわけでもない」

白夜兵C「はっ! 一斉射準備!」

サイラス「くっ、リリスこっちへ!」

リリス「嫌です、私はカムイ様をお守りするためにここまで来たんです! こんな、こんなことって!」

白夜弓兵たち「……準備できました」

白夜兵C「放て!」

 タタタタタタタンッ

サイラス「くっ、リリス、すまない!」ガシッ

リリス「いや、いやああああああ! カムイ様!」



サイゾウ「気配が消えた、さすがに逃げたようだぞ」

カムイ(皆さんはどうにか逃げられたみたいですね……。でも私が助かることはもうないでしょう」

モズ「……」

白夜兵たち「……」

サイゾウ「抵抗に意味はない。おとなしく投降しろ、手荒な真似はしない」

カムイ「投稿ですか、投降した先にいったい何があるのか? 正直考えるのも面倒です)

モズ「カムイ、武器を下せ。闘いは終わった。お前にもう勝てる状態ではない」

カムイ「……そうですね」

モズ「そうだ。それに、お前は私の部下の手当をしてくれた。お前じゃなくとも、お前の部下がしてくれたことは変わらない。現にお前は私の部下を一人として殺していない」



95: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 01:16:41.06 ID:ujlGxm7M0
カムイ「私が甘いだけですよ。その結果がこんなものですから、兄さんたちが聞いたら笑うかもしれませんね」

カゲロウ(サイゾウ……)

サイゾウ(カゲロウか……)

カゲロウ(単刀直入に言う。まずい状況だ)

サイゾウ(ああ……俺も同じことを考えていた。カゲロウ、これを持て)

カゲロウ(眩暈針……理解した)

サイゾウ(勝機は一度きりしかないはずだ。気を抜くなよ)

カゲロウ(御意……)

カムイ(あの二人、私の狙いに気が付いているみたいですね。くっ、体の痛みが強くなって動きが鈍くなっています。早めにケリをつけないといけませんね。チャンスは一度だけ……)

カムイ「そうですね、このまま抵抗しても何の意味もないでしょう」

モズ「では……」



サイゾウ「………」



カゲロウ「………」


カムイ「でも、死ぬことはできます」ザッ

サイゾウ「させん!」ヒュッ!
カゲロウ「させぬ!」ヒュッ!


 キィン……カキィン


カムイ「……残念でしたね」

カゲロウ(読まれていたということか。くそ、間に合え!)

カムイ(二人の再攻撃よりも、私のほうが早い)

モズ「ま、まて、早まるな!」

カムイ(これで、楽になれる……)

サイゾウ「ま、待て!」

カムイ「待ちません。これで終われるんですから」

カムイ(首を切れば、生半可な回復では間に合わないくらいに切りつければ………)


カムイ「!?」

96: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 01:31:06.37 ID:ujlGxm7M0
カムイ(な、なぜ、手が動かかないんですか!? もう、首筋までわずかなのに。腕が? ちがう、これはガングレリが動きを止めている?)

カゲロウ(死の瞬間で怖気ずいたのか? いや、ちがう。しかし、この機を逃すつもりはない)

カムイ(早くっ………!早く動い………)

 ザシュッ……ザシュッ……カラン……

カムイ「う、うぁ。そ、そんな、なんで………なんで、なんですか……」ドサッ

カムイ(意識が……溶け落ち……る)

カムイ(………)

◇◆◇◆◇
―無限渓谷・放棄された城砦内部―

カムイ「すぅ………すぅ………」

サイゾウ「カゲロウ、よくやってくれた」

カゲロウ「ああ、私もよく間に合ったものだと驚いている。この方はどうする?」

サイゾウ「渓谷の下にある村に着くまでの間、カゲロウに運んでもらいたい。女は女に任せるのが一番問題がない」

カゲロウ「ふっ、わかった」

サイゾウ「モズ、ここら一体の監視を強化しろ。暗夜側に目を光らせておけ」

モズ「はい……カムイはこれからどうなるのですか?」

サイゾウ「わかっている。俺たちとて辱めを受けさせるために捕らえたのではない。また、情報を得るためでもない」

モズ「?」

サイゾウ「これは上からの命令だ。今はそれしか言えん」

モズ「そうでしたか。では、我々は監視を続けます」

サイゾウ「ああ、しっかり頼むぞ」

カムイ「う……うぅ……」

カゲロウ「すまない。こちらも任務故な」

カゲロウ(とても軽い。私よりも軽いくらいか。この体があのような動きをしていたなど、にわかに信じられぬ。そんな者があの土壇場で死の間際で止まるものだろうか?)

サイゾウ「カゲロウ、村へと向かうぞ」

カゲロウ「……御意」


97: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 01:38:44.11 ID:ujlGxm7M0
◇◆◇◆◇
―暗夜王国・無限渓谷入口―

ガンズ「俺は王女の命令通りウィンダムに戻る。ガロン王へ報告する命令を受けているからな」

サイラス「そうか、ならここでお別れだ」

ガンズ「なに?」

サイラス「俺には何の任務もない、自由に行動させてもらう。俺はただ個人的に手伝っていただけだからな」

ガンズ「そうかい、勝手にしな。リリス、お前は命令通りにするんだろうな?」

リリス「いいえ、私はカムイ様の従者です。カムイ様の無事を確かめるまでは、ウィンダムに戻るわけにはいきません」

ガンズ「けっ、好きにしな。俺にはカムイ王女に与えられた仕事がある。せいぜい、くたばらないように気をつけるんだな」タタタタタタタッ

サイラス「リリス、本当にこれでよかったのか?」

リリス「はい。ガンズさんとウィンダムまで二人きりなんて、恐ろしすぎます」

サイラス「それは言えてるな。男の俺でもそんなシチュエーションはごめんだからな」

リリス「でも、どうしますか? カムイ様は……もしかしたらすでに」

サイラス「正直、カムイは自害している可能背もあるけど。それを白夜の人間たちが許さないはずだ」

リリス「……取引の材料としてですよね」

サイラス「ああ、普通に考えればそうだ。ただ、ガロン王様がカムイのことで何か代償を差し出すとは思えない。だから俺達で探しに行くしかない」

リリス「はい、お供させていただきます」

サイラス「よし、渓谷を迂回して白夜領に向かう!」

リリス(カムイ様、無事でいてください……)

第二章 おわり

98: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 01:40:13.28 ID:ujlGxm7M0
現在の支援レベル

 スズカゼ  C
 リンカ   C
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C→C+
 リリス   C→C+

101: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 21:27:52.59 ID:ujlGxm7M0
―白夜王国・平原の村―

カムイ「……んっ、ううっ、頭がグラグラする」

カムイ「たしか私は……無限渓谷で…」

カムイ(腕の傷……そうでしたね。私は白夜軍に……)ハァ……

???「ああ、こちらは問題ない。彼女もまだ眠っている、少し時間を置いてからでもいいと思うが……、わかった」

カムイ(壁を隔てて、誰かの声が聞こえる。この声は女性、あの時に耳にした声ですね)

???「ん、目覚めたようだな」

カムイ「えっと、あなたは?」

カゲロウ「申し遅れた。私はカゲロウ、白夜王国に仕える忍だ。とりあえず、これを」

カムイ「これは……?」

カゲロウ「ただの水だ、毒など入ってはいない、安心しろ」

カムイ「……んくっ、んくっ。ありがとうございます」


102: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 21:40:42.84 ID:ujlGxm7M0
カゲロウ「起きて早々だが、無限渓谷でお前の身柄を拘束させてもらった。ここまでは私が運んだ、変な真似はしていない、安心しろ」

カムイ「そうですか……、私はこれから処刑されるのですか、それとも暗夜王国との交渉の材料に使われるのでしょうか?」

カゲロウ「ふっ、現実的に物事を見るようだが、それは無用な心配だ」

カムイ「どういうことですか?」

カゲロウ「お前に会わせたい御方がいる。まずはその方と話し合ってから考えても遅くないだろう。目的地着くまでの間、私が世話をすることになっているから、何かあるなら申してほしい」

カムイ「そうですか……あの、カゲロウさん」

カゲロウ「何用か?」

カムイ「お顔を触ってもよろしいでしょうか?」

103: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 21:48:07.49 ID:ujlGxm7M0
カゲロウ「……本当に報告のあった通り、おかしな御方のようだ。別に構わない」

カムイ「ありがとうございます。髪は右側が長いんですね、整った顔立ちですね」

カゲロウ「あ、ああ」

カムイ「唇は少し硬いんですね。でも言葉遣いと合ってるかもしれません。カゲロウさんからは、憮然としたイメージがあります」

カゲロウ「そうでもないが……ただ任務に忠実であるが故、そう思われているかもしれない」

カムイ「すみません、私はこれでしか人を知れませんから……」

カゲロウ「……優しい手つきだな」

カゲロウ(それに、どこか気持ちがいい)

サイゾウ「失礼するぞ、カゲロウ―――そういう趣味だったのか?」

104: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 21:54:30.34 ID:ujlGxm7M0
カゲロウ「サ、サイゾウ! いや、そういう趣味はない。私はいたって普通、この方に顔を触らせていただけだ」

カムイ「はい、そうですよ。ありがとうございました、カゲロウさん。そちらの方はサイゾウさんですか?」

サイゾウ「サイゾウだ。先に言っておく、顔は触らせん。お前を信用しているわけではないからな」

カムイ「………」

カゲロウ「すまない、サイゾウはこういった者でな」

カムイ「いえ、仕方ないことですから。それよりもカゲロウさん」

カゲロウ「なんだ?」

カムイ「カゲロウさんなら、私の姉さんといい勝負ができそうだなと思いました」

カゲロウ「?」

カムイ「これのことです」ガシッ モミ

カゲロウ「な、なにを/////」

サイゾウ「!!!!!!」

105: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/08(土) 22:03:08.12 ID:ujlGxm7M0
カムイ「柔らかいですね。それに重たいです」モミモミ タユンタユン

カゲロウ「……サイゾウ、私はこの者が全くわからぬ。非常識というか、無邪気というか、対応に困っている///」

サイゾウ「俺も全くわからん。わからんが、障られているお前を見ていると、少しばかり複雑な気持ちになってしまう」

カゲロウ「ふっ、私が誰かに触られていることが、気になるのか?」

サイゾウ「……そ、そんなことは」

カゲロウ「今でも気にかけてもらえるというのは、嬉しいことではあるがな」

カムイ「カゲロウさんくらいにならないと、姉さんには敵わないでしょうね」モミモミ

カゲロウ「……とりあえず、そろそろ止めてはくれないだろうか……///」

111: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/09(日) 22:32:52.61 ID:2hy0vcRw0
◇◆◇◆◇
―白夜王国・王城『シラサギ』王の間への道―

カムイ(初めて感じる気配ばかりですね。物の形のほとんどが違う、これが文化の違いでしょうか? それにしてもこの雰囲気、どこか穏やかな気持ちになります)

カゲロウ(王城に入ってから手を取っていないにもかかわらず、段差などに足を掛ける気配もない。これほどまでに気配を察しているとは、一体どのような修行をこなされたのか……)

サイゾウ(カゲロウ、手を取らずに平気か? あやつが何かする可能性も)

カゲロウ(サイゾウ、あの方がその気なら、私たちは道中で殺されていただろう)

サイゾウ(……奴の武器はこちらにあったというのにか?)

カゲロウ(誰かを殺めるのに武器など必要ないことくらいわかっていることだろう?)

サイゾウ(……)

カゲロウ(それにあの方に自由に歩いてもらうことも、緊張をほぐしてもらうための一つの手。サイゾウの心配はわかるが、私はあの方が何かをするとは思っていない)

サイゾウ(そうか、お前が判断したことだ。今は従おう……)

112: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/09(日) 22:42:27.00 ID:2hy0vcRw0
カゲロウ「こちらが王の間へと続く道だ」

カムイ「はい……あれ、この気配……」

???「……」

カムイ「そこの柱に陰にいる人、スズカゼさんじゃないですか?」

???「………よくわかりましたね」

 スタッ

スズカゼ「まさか見破られるとは思いませんでした。忍としては大変な落ち度と言えます」

カムイ「ふふっ、どこかで感じたことのある気がありましたので、お久しぶりですスズカゼさん。無事に白夜に戻られたんですね」

スズカゼ「はい、おかげさまで。その説は感謝してもしきれないことです。兄さん、カムイ王女様の護衛、ありがとうございます」

サイゾウ「一番苦労したのはカゲロウのほうだ。報告の通り、顔を触られた揚句……」

カゲロウ「サイゾウ、それ以上言えばどうなるか、承知で言うのであれば、覚悟はできていると理解してよいな?」

サイゾウ「……色々あった。とにかく、話に聞いた通りおかしな娘だった」

スズカゼ「カゲロウさんが兄さんの発言を制すほどのことですか、やはりカムイ王女様怖いもの知らずなのですね」

113: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/09(日) 22:49:04.43 ID:2hy0vcRw0
カムイ「あの、私は王女でも暗夜王国の王女、無理に呼ばなくても大丈夫です」

スズカゼ「いいえ、あなたを王女と呼ぶことに何ら問題はないんです」

カムイ「どういう……」

サイゾウ「しかしスズカゼ、お前がここにいるのはなぜだ? 何か問題が起きたということか?」

スズカゼ「特にこれといった問題はありません、カムイ王女様のことで呼ばれ参上した次第です。一度、本人であるかの確認を、私としてはカムイ王女様のお顔を拝見したかったというのが本当のところです」

カムイ「そうなんですか、うれしいです。耳を触ってもいいですか?」

スズカゼ「そ、それは、またの機会にお願いします」

カムイ「そうですか、残念です」

スズカゼ「それと、もう一人、あなたがカムイ王女様であるかの確認のために来ております」

カムイ「ふふっ、誰かは予想がつきます。でも、またお会いできるのはうれしいことですね」

スズカゼ「はい、ではこの先でお待ちですので……」

114: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/09(日) 23:03:28.96 ID:2hy0vcRw0
リンカ「やっと来たのか、待ちくたびれたぞ」

カムイ「やっぱり、リンカさんでしたか」

リンカ「ああ、久しぶりだなカムイ」

カムイ「私のこと、名前で呼んでくれるんですね。ということは友達になってくれる、ということでいいんですね?」

リンカ「ち、ちがう。言っただろ、あたしは『さん』や『様』を付けて呼ぶのはガラじゃない。ただそれだけだ」

カムイ「やっぱり、そうなんですか。残念です」

リンカ「そ、そんな顔するな。あ、あたしがわるかっ―――」

カムイ「あ、顎先に虫がいますよ?」

リンカ「ひゃんっ! ば、ばか! 皆の前触るやつがあるか!」

カムイ「二人きりならいいんですか? 私は一向に構いませんよ」

リンカ「そういう意味じゃない!」

スズカゼ「………」

リンカ「なんだその眼は!」

スズカゼ「いいえ、リンカさんがカムイ王女様との再会を楽しみにしていたことがひしひしと伝わってきまして、感動していた次第です」

リンカ「こ、これのどこが楽しんでいるんだ!」

カゲロウ「うむ、楽しいそうで何よりだ。炎の部族にもこういった一面もあるのだな」


115: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/09(日) 23:09:04.44 ID:2hy0vcRw0
サイゾウ「もういいだろう、その様子では間違いはないだろう」

スズカゼ「ええ、リンカさんの狼狽ぶりがその証明となります。リンカさん、もう少し素直になるのもいいと思いますよ」

リンカ「な、何をばかなことを言っているんだ////」

カムイ「スズカゼさん。リンカさんは素直じゃないところがいいんですよ? 顔を真っ赤にしながら否定してる姿はとても可愛いと思いますから」

リンカ「かわ、かわいいって侮辱してるのか! おまえ、あたしの顔見えないはずだろ!」

カムイ「それなりに触った人の顔なら想像できますから。かわいいというのは本心です、リンカさん、とってもかわいいですよ」

リンカ「……くっ、勝手にしろ!///」

サイゾウ「もういいだろう、王の間へ入るぞ」

116: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/09(日) 23:14:22.60 ID:2hy0vcRw0
―王の間―

???「待っていたぞサイゾウ、カゲロウ。わざわざ呼び出してすまなかったな、スズカゼ。そしてリンカよ」

カゲロウ「カゲロウ、任務完了した」

サイゾウ「こちらがカムイです。スズカゼ、リンカからの確認は終わっています」

???「そうか……では、カムイで間違いないのだな」

カムイ「……あの方は?」

リンカ「白夜王国の第一王子、リョウマだ。こうして目の前で見るのはあたしも初めてだ」

カムイ「リョウマさんですか」

カムイ(白夜王国の第一王子とあろう人が、私にいったい何の用なんでしょう?)

117: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/09(日) 23:22:48.57 ID:2hy0vcRw0
リョウマ「君が、カムイで間違いないか?」

カムイ「はい、私はカムイです。……と言っても、ここで話すことは意味のないことなのでしょう?」

リョウマ「……」

カムイ「後々、処刑されるのでしょうか? それとも暗夜との交渉材料として束縛されるのでしょうか? 早く答えを聞かせてもらいたいのですが」

リョウマ「……なぜ、そう考える?」

カムイ「私は白夜に不法侵入をしました。しかも形だけにせよ王族、使い方は如何様にもあります」

リョウマ「ふっ、安心しろカムイ。お前に罪が与えられることはない。吊り橋の監視を行っていたモズたちからの報告は受けている。一人も殺めることなく、自身の従者は暗夜へと逃がしたお前は素晴らしい人間だ。普通、命を狙われれば我が身可愛さに人を殺め、従者を見捨てる者ばかりだろう。その中で、お前は自身ではなく他の命を選んだ。できることではない」

カムイ「……それは、私が甘いだけです……」

118: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/09(日) 23:30:40.42 ID:2hy0vcRw0
リョウマ「……戦いでの自分の在り方に不安を覚えているということか?」

カムイ「………」

リョウマ「……大丈夫だ。そんなことを気にすることも無い、そんな日々をお前は手に入れることができる。たとえ、光を失おうとも、お前にはそれを得る資格がある。俺がそれを保守しよう」

カムイ「……なぜ、そう言い切れるんですか?」

リョウマ「そうだな、そろそろ来てくださるはずだ……」

???「……カムイ?」

カムイ「……?」

???「カムイ……なのですね……」

カムイ「……はい、私はカムイです」

???「やっと、やっと戻ってきてくれたのですね。私の、愛しい私の子」ギュッ

カムイ「……あの、いきなりのことで、意味がわからないんですが」

???「カムイ、帰ってきてくれた。よく無事で……良かった」

カムイ「すみません、ちょっと落ち着いてください。いきなりのことで状況がつかめません、説明してほしいんです」



119: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/09(日) 23:47:00.84 ID:2hy0vcRw0
ミコト「ごめんなさい、私はミコト、この白夜王国を治める者。夢に思っていたことが叶って、少し取り乱してしまって……」

カムイ(ミコトさんですか、お父様とは対極に位置する人のような気がします。この人からは血の匂いが全くしない、思考やあり方がお父様とは全く異なっているみたいに)

ミコト「カムイ、あなたの質問に答えます。でも、今から話すことはとても信じられない話かもしれません、あなたにとっては荒唐無稽な話だと思います。それでも、私の話を聞いてくれますか?」

カムイ「…………、話を聞く前にひとつよろしいですか?」

ミコト「……何でも言ってください」

カムイ「ミコトさん、あなたのお顔に触れてもいいですか?」

ミコト「………報告にありました。目が見えないのですね、カムイ」

カムイ「はい。証拠に私の瞼の下にあるものを、見ていただいてもよろしいですか……」

ミコト「ええ、私に見せてください」

カムイ「気色の悪いものだとは百も承知です。これを……」

サイゾウ「!!!!!」

カゲロウ「!!!!!」

リョウマ「…………」

ミコト「………」

120: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/09(日) 23:52:31.28 ID:2hy0vcRw0
ミコト「…正直、嘘であってほしいと思っていました。この日を私は待っていたからこそ、あなたに私の姿を見てほしかったから」

カムイ「はい、ですから私は、あなたがどのような顔をしているのかもわかりません。話を聞く前に、一度そのお顔に触れてもいいでしょうか……」

ミコト「……ええ、触れてください。あなたが私の顔を覚えてくれるなら」

カムイ「はい、失礼しますね。柔らかいんですね、そして暖かい、リンカさんみたいな温かさじゃなくて、もっとなんだか柔らかい温かさです」

ミコト「……ええ、ありがとう」

カムイ「髪もサラサラです。髪の色は何色なんですか」

ミコト「カムイとおなじ黒よ」

カムイ「……ミコトさん」

ミコト「ううっ……な、なんでもないの」

カムイ「泣いているんですか?」

ミコト「……ご、ごめんなさい。嬉しいのはずなのに、なんで、こうも悲しい気持ちになるんでしょう。私の子が、カムイが帰ってきてくれたはずなのに……」

リョウマ「カムイ、もういいだろうか」

カムイ「はい、ありがとうございます。ミコトさん」

ミコト「ええ、こちらこそ……」


122: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/10(月) 00:09:34.47 ID:ZTWg/5jB0
ミコト「ではカムイ、話をしてもいいですか?」

カムイ「はい、お願いします」

ミコト「カムイ、あなたは――」

◇◆◇◆◇
―白夜王国・シラサギ敷地内―

カムイ「………」

カゲロウ「………」

カムイ「………」

カゲロウ「カムイ様。そろそろ部屋へお戻りになりましょう」

カムイ「カゲロウさん、すみませんが一人にしていただいてもいいでしょうか?」

カゲロウ「それは……」

カムイ「おねがいします」

カゲロウ「……承知した」シュッ

カムイ「………本当の家族……ですか」

ミコト『あなたは私の子どもです』

リョウマ『シュヴァリエ公国を訪問していた父を、ガロンは騙し打ちで殺しお前を攫った』

ミコト『いきなりすべてを信じることはできないと思います。だから、少しずつでもいいんです。私と過ごした日々を思い出してくれたら、私はとてもうれしいのですから』

リョウマ『数日すれば、遠征しているヒノカとサクラ……、カムイにとっては姉と妹にあたる者が帰ってくる。城内には弟もいるが、あいつは少し気難しい性格でな。顔合わせはヒノカたちと一緒になるはずだ。それまでは自由にしてくれ、ここはお前の家なのだからな」

カムイ「こんな私を、迎え入れる必要なんてないのに―――」

 ――――タンッ!

カムイ「この音は……」

 ――――タンッ!

カムイ「矢の音でしょうか?」


129: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 00:18:48.16 ID:vjefeU+i0
???「―――くそ……、一本だけずれる。当たってはいるけど、これじゃだめだ。これじゃ……」

 ガサガサ

???「!」

 ガサガサ

???「誰だ! 出てきて姿を見せなよ!」

カムイ「声を出してもらって助かります。そちらですね、ちょっと待っててください。ふぅ、矢の音だけを頼りに藪を抜けるのは一苦労です。声を出してもらえなかったら、迷子になっていました。やっぱり感覚だけで把握するのには限度というものがありますね」

???「あんたは……」

カムイ「あなたの気配は知りませんから初対面ですね。初めまして、私はカムイと言います」

???「カムイ……。そうか、リョウマ兄さんに聞いて挨拶にでも来たんだ? でも必要ないよ、僕はあんたのこと信用しているわけじゃないから」

カムイ「別に挨拶をするために来たわけじゃないので構いません。矢を射る音が聞こえたので伺っただけですので」

???「……、じゃあ邪魔しないでくれないかな。集中できなくなる」

130: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 00:26:12.86 ID:vjefeU+i0
カムイ「はい」

???「………」

カムイ「………」

???「あのさ、邪魔しないでって言ってるよね?」

カムイ「邪魔はしませんよ」

???「なんでいるのさ。集中できないからどこか行ってくれない?」

カムイ「人がいると集中できないんですか?」

???(なんだよそれ、僕が未熟だって言いたいのか?)

???「……そんなことは、ないよ」

カムイ「なら私はいても構いませんね。音だけを聞かせていもらえればいいので、どうぞ続けてください」

???「……くそ、馬鹿にして。今に見てろよ……」

 タンッ! タンッ! タンッ!

カムイ「………」

???「よし、うまくいった。もう一度………うん、この感じか」

カムイ「……あの」

???「なんだよ、聞いてるだけじゃなかったの?」

カムイ「的は動かないんですか? 先ほどからずっと同じ場所に当たっているようなので」

???「実戦の訓練をしてると思ってるみたいだけど、これは実戦のための訓練じゃない」

131: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 00:33:30.99 ID:vjefeU+i0
カムイ「これは実戦の訓練じゃないんですか?」

???「今僕がやっているのは弓道だ、実戦とは違う。弓道は攻撃てなものじゃない、心を落ち着かせてやる技術の競い合いだ。実戦なら相手にあたるようにすればいい、当てるだけで相手に傷を与えられるからね」

カムイ「そうなんですか。暗夜にはあまりそういうものはないので、あなたがやっているものはなんだか新鮮に感じます。殺めるための技術ではないというのは、なんだか面白いものですね」

???「……タクミ」

カムイ「?」

タクミ「僕の名前、先に名乗ってもらったのに、名乗らないのは失礼だろ?」

カムイ「ふふっ、先ほどまで必要ないって言っていたじゃないですか。おかしな人ですね、でもいいんですか? 私は暗夜の王女ですよ?」

タクミ「あんた、やっぱり暗夜の人間なんだな。僕の臣下にもあんたの人間を怨んでいる者がいる。名前を教えたからって、信頼されているなんて思わないことだね。僕はお前を信用してない、それだけは伝えておく」

カムイ「それが普通の反応です、なんだか安心しました」

132: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 00:45:35.98 ID:vjefeU+i0
タクミ「な、なにがだ。僕をからかってるんだろ」

カムイ「いいえ、タクミさんはわかっているみたいで、それがとても安心できるんです。私は暗夜の人間、生まれは関係ありません。暗夜で育ち、暗夜に養われてきた私をいきなり同胞として迎えろと言われたらどう思います」

タクミ「正直、気色が悪いし、距離を置くよ」

カムイ「はい、私もそう思います。だから、タクミさんのように警戒するのは当然のこと、だから気にしないでいいですよ」

タクミ「……なんか全部受け止められると、僕が情けなくなる。それになんだか、うまくあしらわれてるみたいで正直面白くない」

カムイ「ふふっ、暗夜にタクミさんに似ている弟がいるから、どうもお姉さんになりたくなってしまうのかもしれません。そうやって、少し不機嫌になるところとか、とても似てます」

タクミ「僕は、あんたのことを姉だなんて思ってない」

カムイ「はい、それでいいんです。むしろ、そうあるべきなんですから……」

タクミ「それはどういう……」

カムイ「さぁ、練習を続けてください。私に矢を射る音をたくさん聞かせて欲しいんです」

タクミ「あんたのために練習してるわけじゃない……。だけど、静かにしてるなら別に聞いてて構わな――」

???「やっと見つけた、タクミ様!」

133: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 00:54:58.45 ID:vjefeU+i0
タクミ「んっ、どうしたんだヒナタ?」

ヒナタ「あれ、こっちのは?」

タクミ「暗夜の王女だ、話は聞いていると思うけど」

ヒナタ「ああ、捕虜になったっていう? すごく寛いでるじゃん。なんか、すでにここに住んでるって言われても違和感無いぜ」

タクミ「恐ろしいことを言わないでくれ、それで何かあったの?」

ヒナタ「はい、北と西の地域でノスフェラトゥの大群が確認されたらしいです。このまま放っておくと近隣の村に被害があるかもしれないって」

タクミ「……わかった。ヒナタ、すぐに出るよ。オボロは?」

ヒナタ「オボロはテンジン砦に用事があったらしくて、現場で待機してるみたいです。あとは、俺たちがテンジン砦に着くだけですよ」

タクミ「よし、なら早く向かわないと。僕はこれから出るから、弓道はお仕舞いだよ。それじゃ……」

 ガシッ

タクミ「なんだよ、僕はこれから――」

カムイ「私も連れて行ってもらえませんか?」

ヒナタ「ついてくるって、ついて来ても何もないぜ。ただのノスフェラトゥ狩りだからな」

タクミ「………なるほどね、暗夜と聞いたから合流して逃げようってことか。残念だけどノスフェラトゥにそんなものを期待するのは間違いだ。あれは心を持たない獣だからね」

カムイ「心を持たない獣……ですか?」

134: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 01:06:59.22 ID:vjefeU+i0
タクミ「そうだ。だから、あんたの望むような展開にはならないよ。もっとも、望んでノスフェラトゥに歩み寄るなら、止める気もないけどね」

カムイ「そうですね。止めてくれなくてもいいです、ですから私を連れて行ってもらえますか?」

タクミ「……本当に人の忠告を煽りで返す人だねあんたは……、わかった、同伴を許可するよ」

カゲロウ「タクミ様、それはいくらなんでも、何かあったらリョウマ様になんと報告するのですか」

カムイ「暗夜の王女はカゲロウさんとタクミさんの制止を振り切り、ノスフェラトゥを友軍と信じて駆け寄った結果、殴り殺されたとでも報告しておいてください」

タクミ「……」

カゲロウ「……カムイ様。そのような発言はやめてくださらないか。そんなことになったらミコト様や多くの方が悲しむことになる」

カムイ「………」

タクミ「……いいよ、許可してやる。だけど、もしも逃げだそうとしたらその時は……」

カムイ「はい、タクミさんの望むとおりにしてくださって構いません」


135: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 01:18:21.49 ID:vjefeU+i0
◇◆◇◆◇
―白夜王国・テンジン砦―

タクミ「オボロ、状況はどうなってる?」

オボロ「タクミ様、西の村ですけど、すでに襲撃にあった場所もあるみたいです。すでに出兵は始まってますけど、奴らの動きは不規則ですから、どこを狙われるかわからなくて、指揮系統に混乱があります」

タクミ「そうか。くそっ、もう少し早く気づけたなら……」

オボロ「あのー、タクミ様。そちらの方は?」

カムイ「………」

カゲロウ(オボロか、白夜一の暗夜嫌いと言っても過言ではないが、カムイ様だと知ったらどうなるか……)

ヒナタ「ほら、オボロ。あれだ、捕虜になったっていう王女様だよ」

オボロ「へぇ……」クワッ

カムイ(なんだか雰囲気が変わりましたね。完全に敵視しされている気がします)

オボロ「そう……あんたが捕虜になった暗夜の王女なのね」クワッ

カムイ「そうなりますね」

オボロ「大方、暗夜と聞いて合流して脱出するつもりなんでしょうけど――」

カムイ「その話はタクミさんから聞いてますので、それでこれからどうするんですか?」

タクミ「付いて来ただけのあんたに答えるつもりはないよ。それで、先に出兵した者たちはどこへ?」

オボロ「はい、襲われたとされる西の小さな集落より手前の、比較的大きな集落へと向かうと言ってました。そこから編成を組みなおして討伐を始めるらしいです」

136: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 01:28:17.25 ID:vjefeU+i0
タクミ「そうか、よし、まずは僕たちもその集落に向かおう。オボロ、馬は用意できているか?」

オボロ「ええ、用意できてます。ですが、タクミさまとヒナタの分だけです。残りはありませんよ」

カゲロウ「では、二人乗りで行けばいい。私はカムイ様を護衛するために、すまないが残りはそちらで決めてくれ」

タクミ「はぁ、仕方無い。オボロとヒナタはどうする?」

オボロ「そうですね――」

ヒナタ「タクミ様、オボロを一緒に乗せてやってくれよ。俺乗馬するなら一人のほうがいいんで」

オボロ「ちょ、ヒナタ何言って」

タクミ「仕方無い、じゃあオボロ、馬の場所まで案内してよ。早くしないといけないからさ」

オボロ「え、ええ……」

カムイ「……?」

オボロ(……少し感謝しとくわ)クワッ

カゲロウ「カムイ様、行きましょう」

カムイ「はい」

カムイ(ノスフェラトゥですか……、話にだけは聞いたことがありますがいったいどんな者たちなんでしょう……)

137: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 01:28:50.11 ID:vjefeU+i0
◇◆◇◆◇

138: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 01:36:07.69 ID:vjefeU+i0
―小さな村―
???「静かになってもうた…………」

???「どうすればええんや、あたいわからへんよ」

 ドスンッ ドスンッ ドスンッ!

ノスフェラトゥ「ぐあああおおおおおお!」

???「―――っ!!!!!!」

???(声漏らしたら殺されてまう。お願いや、気付かずに通り抜けてや……)

ノスフェラトゥ「……あああ……ああ」

???(……気付かんといて)

 ドックン……ドックン……ドックン……

ノスフェラトゥ「……ぐあああああおおおおおお!」

 ドスン ドスン ドスン ドスン……

???(た、助かった……ていうても、一先ずの話や。このままここにいても助かるわけあらへん。でも、飛びだしたところで……)


139: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 02:00:13.39 ID:vjefeU+i0
???「すぐに殺されてまうやろな……」

???(なんでこんなことになったんや。今日もみんなと一緒に畑を耕して、狩りをして、笑って、夕陽が落ちるのを見るだけのはずやったのに…)


村人A『だ、だめだ。こっちに向かってくる! みんな早く、逃げるんだ!』

村人B『モズメ、早く逃げるんじゃ!』

村人A『あっ腕を取られ……うわああああ、ぎゃあッ!』
 
 グチャ

村人C『くそっ、こんな農具じゃ、歯が立たない……ぐえっ』

 ベキッ バキャッ

村人B『はよ、はよ行くんじゃ! はわわ、ぐひゃっ……』

モズメ『はぁ、はぁ、はぁ……』

村人D『こっちじゃ、モズメ! ここに隠れておるんや。ええな?』

モズメ『お、おっちゃんとみんなはどないすんや?』

村人D『ほかのみんなを呼んでくるんや。ええか、俺がいいっていうまで、ここを絶対に空けるんやないで、わかったな! おらおら、こっちにきやがれ唐変朴! 悔しかったら追いついてみやがれ!』

ノスフェラトゥたち『ぐあああああああおおおおおお!』
 
 ドスンドスンドスンッ

モズメ『……な、なんでや。なんで、なんであたいだけ守られなきゃあかんのや! 一人に、あたいを一人にしないでや。お願いだから……一人は嫌や……』


140: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 02:01:17.17 ID:vjefeU+i0
モズメ「これまでやろな……。はは、これで死ぬんいうのに、変に落ちついとる」

モズメ(嘘や死にたくなんてあらへん。でも、仕方無いやんか)

モズメ「ぐすっ、みんなの命、無駄になってもうた……。もう助かるわけないんや……一人じゃ何も出来ひん……」

モズメ「だから、許してや……」


144: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 21:38:13.63 ID:vjefeU+i0
―小さな村を見下ろせる丘―

カムイ「あの、カゲロウさん。私たちはどこへ向かっているんでしょうか?」

カゲロウ「西に位置する小さな集落だ。ノスフェラトゥに狙われたと思われる最初の村と言ったほうがいいかもしれない。ここに至るまでの間、ノスフェラトゥを見掛けていないことから察すると、多くがその村に居座っている可能性が高いゆえ、気を付けていかねばなりません」

カムイ「……生存者はいると思います?」

カゲロウ「……村を襲ったのが人間であるならば、生存の可能性もありますが……」

カムイ「相手が心を持たない獣だからですか?」

カゲロウ「……ノスフェラトゥに襲われた遺体というのは常人が見るには耐えがたいものです。戦う術を持たない者では、逃げきることなど」

145: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 21:48:46.37 ID:vjefeU+i0
タクミ「二人とも、もう話はそれくらいで。あの村に多くのノスフェラトゥが居座っているみたいだ。後続の討伐隊は周辺を確認しながらここを目指してるから、到着の時間にはまだまだ掛る、到着前に僕達でどうにかするよ」

ヒナタ「わかりました。で、どうします、タクミ様」

タクミ「オボロとヒナタは大きく迂回して、下の林道から村へと入って、僕らは先に戦闘を始めているから、相手の背中を一気に襲撃してほしい」

オボロ「わかりました。行くわよ、ヒナタ」

ヒナタ「あいよ、それじゃまたあとで」タタタタタタッ

タクミ「さて、あんたは僕とカゲロウより前に出ないようにして、これは命令だよ」

カムイ「はい、わかりました。……風に乗って血の臭いが漂ってきますね」

146: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 21:58:35.84 ID:vjefeU+i0
タクミ「くっ、酷い……」

カムイ(動かない物体が……一つ、二つ……ざっと五つですか。血の臭いはこれから漂ってきていますから、たぶん人の死体ですね。とても人だったとは思えない形状をしていますが……。あと、動いている巨大な何かの気配が向こうにあります。これがノスフェラトゥの気配でしょうね)

カゲロウ「カムイ様、この剣を」

カムイ「ありがとうございます。これを使っても構わないのですね」

カゲロウ「はい、元の装備品は城で管理させてもらっています。少しの間、お許しを」

カムイ「いいえ、別に構いません。武器を持たせてもらえないかもしれないと思っていたので、助かりました」

タクミ「……」

カムイ「タクミさん、どうかしましたか?」

タクミ「いつでも、こっちは撃てる。忘れないでよ」

カムイ「……そういうことですか。理解しています」

147: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 22:10:52.79 ID:vjefeU+i0
タクミ「……わかってるならいいよ。じゃあ、作戦の説明だけどこの地には竜脈が通っているからこれを利用するから」

カムイ「竜脈ですか。私は目が見えないからあまり使ったことがないのですが……タクミさんは使えるんですか?」

タクミ「僕は王族だ。竜脈を使うことができるのは当たり前だよ。あんたに心配されることじゃない」

カムイ「……」

タクミ「とりあえず、あんたには触れてほしくないから、何もしないで。この竜脈は大きな揺れを引き起こせる、これであいつらの足を止めたところを一気に攻め込むのが、僕の考えだよ」

カゲロウ「タクミ様の作戦で異論はない」

タクミ「それじゃ、竜脈に触れるから、変化と同時に一気に行くよ。あんたは遅れないようにしてよね。ただでさえ、目が見えないのに、さらに足手まといはごめんだから」

カムイ「ふふっ、わかりました」

タクミ(なんだよ、その余裕な笑みは……だめだ、集中しないと)

タクミ「よし、始めるよ」

 ヒュオン! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ズズン!

タクミ「行くよ!」タタタタタタタッ

148: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 22:26:46.10 ID:vjefeU+i0
ノスフェラトゥ「グオオオオオオアアアアア!」

タクミ「動けないんじゃ、ただの的だね」シュパッ

 バシュッ! ドタン……

カムイ「なんだか、変わった弓の音ですね」

カゲロウ「ああ、タクミ様は神器を使われる。風神弓は普通の矢とはまるで違うもの、そしてとても強力だ」

カムイ「なるほど、弓道の時とは違って当てるだけでいいというのは納得です。強力なんですから、でもさすがに倒しきれない者も出てきます」

タクミ「もう一体、当たれっ!」シュパッ

カムイ「援護しますね」ダッ 

 バシュッ ザシュ

ノスフェラトゥ「オオオオオオオオオン」ドタン

タクミ「僕一人の力でどうにかできる、援護なんて必要ない、あんたは前に出てこないでくれ」

カムイ「それは相手が動けない状況の話です。相手が動けるようになったら……」

タクミ「まだ竜脈は沢山ある、いくらでも足を止めることができるだ。あんたの助けなんていらない」

カムイ「そうですか……」

 ドスンドスンドスンドスン!

ノスフェラトゥたち「グオオオオオオオアアアアアア!」

タクミ「よし、多く集まってきた。もう一つの竜脈を使うよ」

 ヒュオン! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ズズン!
 
 ガラガラガラガラ……ガサン

カムイ(大きな物の気配が消えました。揺れに耐え切れなかった建物が倒壊したんですね)

149: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 22:44:31.09 ID:vjefeU+i0
タクミ「ははっ、動けないこいつらに負けることなんてない。オボロとヒナタももう少しで合流するだろうし、楽に事が片付きそうだ」

カムイ(この村の惨状を見る限り、生存者がいるとは思えないとカゲロウさんも判断しているからこそ、タクミさんの行動を容認している……)

カムイ(多くのノスフェラトゥがこちらに向かってきています……。生者を見つけたからここに群がってきていると考えれば納得できますね……)

 アアア……ウウウ……

カゲロウ「んっ、これほどに大きく戦闘を始めたというのに蔵近くのノスフェラトゥは動かないようだ」

タクミ「そろそろ動き始める頃合い。よし、次の竜脈を……」

 ヒュオン! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ズズン!

 ガタガタタタタタタ………ガシャン

カムイ(また、気配が消えた……)

タクミ「あいつだけこちらに来る気配がないな。まあいい、蔵も大きく揺れてる、いずれ蔵の下敷きになるはずだ」

カムイ(多くが向かってきてる中で、一体だけ動かない者がいる? ノスフェラトゥは心を持たない獣。本能のままに行動するというのに?)

カゲロウ「タクミ様、援護に回ろう。数が多くなってきている」

タクミ「さすがに数が多い、すまないけど頼むよ」

カムイ(なら、何もいない蔵の前で待機するわけがない……)

150: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 23:01:31.56 ID:vjefeU+i0
オボロ「あら、背中がガラ空きじゃない。これなら思う存分倒せるわね」クワッ

ヒナタ「まったくだ。結構揺れてたけど、タクミ様が竜脈を駆使してたってことか。おかげでノスフェラトゥの奴ら、立ち往生してやがる」

オボロ「それじゃ、行かせてもらうわ」クワッ

ヒナタ「よし、いっくぜ!」

 ザシュザシュ

 ドタンドタン……

タクミ「よし、二人も合流した。今回はこれで勝ちだ。一気に攻める!」

タクミ(もう少しで殲滅できる。あともう一回か二回竜脈を使えば……)

カムイ「タクミさん、竜脈を使うのをやめてください!」

タクミ「……はぁ、何を言っているのか意味がわからないよ」

カムイ「これだけいれば、竜脈を使う必要もありません」

タクミ「いや、みんなの命が掛ってる以上、安全に戦える方法を僕は取るよ。それに、あんたは今僕の指揮下にいるんだ。その意見に耳を貸すつもりはない」

カムイ「そうですか……わかりました」

タクミ「よし、もう一度竜脈を使う! みんな、攻撃の準備を!」

カムイ(注意が竜脈に向いた。今ならいけますね……)

 ダッ!

ヒナタ「んっ? お、おい! どこに行く気だよ!」

オボロ「あの女、やっぱり逃げる気だったのね。結局は暗夜の人間はこんなものなのよ」クワッ

タクミ「なに、くそ、止まれ! 止まらないと……」

カゲロウ「タクミ様! ノスフェラトゥが体の自由を取り戻しつつある。今は……」

タクミ「くそっ、竜脈!」

 ヒュオン! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ズズン!

151: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 23:19:53.30 ID:vjefeU+i0
モズメ「な、なんなん、なんなんや。いきなりすごい揺れて……。こんな揺れ、建物が耐えられへんよ」

ノスフェラトゥ「アアアア……オオオオオ………」

モズメ「また変なのが戻って来てから、ここに釘づけにされたままや。……仕方ないんやろな、一度生きること諦めてもうたから」

 ガタガタガタガタ、ガタン!

モズメ「!!!?」

ノスフェラトゥ「グオアアアアアアア!」

 ドゴンッ! ドゴンッ!

モズメ「ひいいいいいい」

モズメ(き、気付かれたんや。そうや、気付かれてもうたんや……)

 ドゴンッ! ドガッ! メキメキメキ……

モズメ(お、奥に、奥に逃げな……)

 ドガァン!

モズメ「きゃああ……。ぐっ、あ、足が痛……痛い」

モズメ(あかん、扉の壊された破片が足に刺さって、満足にもう動けへん……)

ノスフェラトゥ「グオオオオオオアアアアアアアアアア!!!!」

モズメ(……嫌、嫌や、誰でもええ、助けて…………お願いや。あたい、こんなところで死にたくあらへん……)

152: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 23:40:50.17 ID:vjefeU+i0
カムイ「んっ、てやぁ!」

 ザシュ

ノスフェラトゥ「グアアアアアアア」
 
 ブンッ ガキン!

カムイ「っ……もう一度!」

ノスフェラトゥ「グゴッ―――グオアアアア!」

 ブンッブンッブン!

カムイ「当たるわけにはいきません」

 スッ― スッ― スッ

モズメ(だ、誰やあの人……助けに来てくれたんか?)

カムイ「終わりです! でやぁ!」

 ザシュン!

ノスフェラトゥ「オオオオオオオオオオオン」
 
 ドサッ、バタリ………

カムイ「はぁはぁ、どうにかなりました。……誰かいますか」

モズメ「こ、ここに……おるよ……」

カムイ「! 待っていてください。すぐに―――」

 ミシミシミシミシ………バキィ!

カムイ・モズメ「!!!!」

モズメ「た、建物が……!」
 
 ドゴン……バキッ

モズメ(上から板が。だめや、避けられへん!)

 ガシャン……バタンバタン……

モズメ「―――あ、あたい生きとる? なんで……」

カムイ「大丈夫ですか……」

モズメ「!!!!! あ、あんた」

 ポタ、ポタタタタタタ

カムイ「すみません、私の血が顔に落ちてしまった気がします」

モズメ「そ、そんなこと気にせんよ。そ、そんなことよりあんたの怪我どうにかせな」

カムイ「はい、もう少しで皆が来てくれるはずです。それまでは、私があなたの盾になります。だから安心してください」

モズメ「だめや、この建物がもたへんかもしれへん。はやく、あんただけでも……」

カムイ「ここで、あなたを見捨てたら。私がここに来た意味がすべてなくなってしまいます。しばらくは、私に守られてください」

153: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/11(火) 23:58:31.89 ID:vjefeU+i0
カゲロウ「カムイ様、蔵の中に入るのは危険で――!」

カムイ「カゲロウさん、生存者です。早く、この方を……」

カゲロウ「御意!」

モズメ「つうっ………」

カゲロウ「痛むが我慢してくれるか。よし、カムイ様も早く」

カムイ「はい、っ……血だらけになってしまいました」

カゲロウ「何を悠長なことを、早く出ましょう。肩に手を」



 ドガシャン ガランガランガラガラガラ……ドスンッ



カゲロウ「間一髪、と言ったところか」

カムイ「そうで……す……ね」ドサッ

カゲロウ「カムイ様!?」

カムイ「し、心配しないでください。長く動き続けて疲れが溜まっただけですから」

カゲロウ「わかりました、少しお休みください。ノスフェラトゥは見える限り排除しましたゆえ、今は脅威となる者はおりません」

カムイ「はい、わかりました。それと私よりもそちらの方の治療を優先してあげてください。私はそう簡単には死にません、これでも悪運は強いほうなんです」

カゲロウ「悪運が強いのは、見ている限り理解できます。命令の通りにさせていただきます」

カムイ「ええ、お願いします……」

156: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/12(水) 22:25:23.34 ID:rUzcl0O00
モズメ「あ、あんた、だいじょうぶなんか?」

カムイ「なんとか。ふふっ、無事に外に出られて肩が一気に軽くなったみたいです」

モズメ「ほんと無茶しおる人や。でも、おかげで助かったわ、ありがとう」

カムイ「いいえ。私はカムイと言います」

モズメ「あたいは、モズメいうんや」

カムイ「そうですか……。モズメさん」ギュッ

モズメ「ふぇ、な、なにしよるん!?」

カムイ「すみません。もっと早く気づいていれば、こんな傷を負わなくて済んだはずなのに……」

157: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/12(水) 22:35:34.12 ID:rUzcl0O00
モズメ「……もっと早く来てほしかった。もっと早く来てくれたら、村のみんなも、あたい一人だけが守られることなんて、あたい、一人で……うわああああん」

カムイ「はい……」

モズメ「あたい、あたい、村のみんなに守られてばっかりやった。もっと早く来てくれたらなんて、あんたたちに責任転嫁してるだけや……」

モズメ(あの蔵から出ることが怖かったのは、死ぬかもしれないからじゃないんや)

モズメ「あたいは、村のみんなの命を背負って生きていくんが怖かった。あたいが生き残ったことが間違いなんやないかって思ったら、もう死んだほうがええって……」

カムイ「そんなことはありません。村の人たちはモズメさんに生き残って欲しいからこそ、頑張ってくれたんです。そして、私がモズメさんを見つけたのは生き残って欲しかったからです」

モズメ「あたい……生き残ってええんか?」

カムイ「はい、私が保証します。モズメさんは生き残っていいんです、これから先、村の人たちの分長く生きて、多くの人と出会うのがモズメさんがするべきことなんですよ」ナデナデ

モズメ(こんな風に慰められたのは、久しぶりや……。ああ、とり乱したら、なんか疲れが来てもうた。朝から何も食べてへんかったから……)

カムイ「少し休んでください。大丈夫、私がそばにいますから」

モズメ「うん、すまへん……」

モズメ「すぅー……すぅ」


158: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/12(水) 22:47:50.90 ID:rUzcl0O00
カゲロウ「疲れて眠りについたようで」

カムイ「はい、モズメさん以外の村の方々は?」

オボロ「残念だけど、他の人たちは……」

カムイ「そうですか、そう考えれば本当に奇跡的です、モズメさんが生きていてくれたのは。怪我をした甲斐があったというものです」

タクミ「……あんた、なんで生存者の可能性の話を僕にしなかったんだ?」

カムイ「すみません、あの時は竜脈を使用しないでほしいという進言を否定されて、頭に血が上っていたみたいです。知らせなかったことで、皆さんを危険にさらしたことになりますね」

タクミ「……あんたはどうして自分の所為だとすぐに言うんだ! 僕のことが気に食わなかったと言えばいいじゃないか!」

ヒナタ「ちょ、タクミ様! 落ち着いてくれよ。結果的にはノスフェラトゥ倒して、生存者だっていたんだ。もうそれでいいだろ?」

タクミ「くそっ! 僕の指揮が間違っていたと言ってくれたほうが、気持ちが楽になるのに!」

カムイ「誰も答えてくれないことだってあるんですよ……」

タクミ「なに?」

カムイ「いいえ、なんでもありません。忘れてください、モズメさんが起きてしまいますから」

カムイ(ああ、私も少し疲れで意識を保つのが辛くなってきました……。すこし、休ませてもらいますね)

159: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/12(水) 22:58:07.34 ID:rUzcl0O00
◇◆◇◆◇
―白夜王国・カムイの部屋―

カムイ「……ん、んんっ、ここは……」

ミコト「カムイ、目覚めたのですね」

カムイ「ミコトさん……リョウマさん……ん、手元に誰か……」

リョウマ「お前が救った者だ。名前はモズメというそうだが、カゲロウから聞いた起きるまでそばにいるとお前が約束したと、約束はちゃんと守らねばならないからな」

カムイ「リョウマさん。わざわざありがとうございます。あの、ノスフェラトゥの方は……」

リョウマ「ほぼすべての討伐が完了した。北の地区にはもともとサクラとヒノカがいたことあって村の被害はなかったが、モズメの村は全滅だったと報告を受けている。悔やみきれんな、こうも後手になるというのは」

カムイ「そうですか……痛っ」

ミコト「まだ動いてはなりませんよ。でも、なぜ戦いに出向いたのですか、無理に戦いに参加する必要なんてあなたには……」

リョウマ「カムイにも考えがあったのでしょう。母上、カムイが進んで選んだこと、それを否定するのはあまりいいことだとは思えない」

ミコト「……そうですね。久々の再会ということもあって、すこし過剰になっていたのかもしれません。でも、今日はゆっくり休んでください。ここはあなたの部屋なんですから」

カムイ「はい、心配させてしまって申し訳ありませんでした」

ミコト「私の子なんですから、心配するのは当たり前です。それではリョウマ、あとのことはお願いいたしますね」


160: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/12(水) 23:06:41.53 ID:rUzcl0O00
リョウマ「あまり母上を困らせてやるんじゃないぞ。まぁ、今まで困らせられたこともないだろうから、それも嬉しいと思っているかもしれん」

カムイ「リョウマさん、あのノスフェラトゥはどういった者たちなんですか?」

リョウマ「タクミ達から説明は聞いていると思うが、あれは心を持たない獣だ。敵味方関係なく狙うような者もいるとされている。カムイは、そんなものを暗夜がなぜ送り込んでいるのかわかるか?」

カムイ「いいえ」

リョウマ「この白夜王国は母上の結界によって守られている。邪悪な心を持つ者たちは、このテリトリーに入るとたちまち萎縮し戦闘することができなくなる」

カムイ「邪悪な心ですか?」

リョウマ「お前は邪悪な心ではないようだ。こうもピンピン動いているのだからな。話は戻るが、その結界故に暗夜は心を持たない生物を作り出して送るようになってきた。それがノスフェラトゥだ」

カムイ「心を持たないが故に、ミコトさんの結界の効果を受けない……ということですね」

リョウマ「そう言うことだ。暗夜は度々こういった嫌がらせを仕掛けている。モズメの村のように襲撃を受けて全滅した村もあった」

161: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/12(水) 23:14:42.70 ID:rUzcl0O00
カムイ「暗夜の目的は何なんでしょうか?」

リョウマ「ふっ、考えるのも結構だが。この先、それをお前が考える必要はなくなる。俺たち家族がお前を守ると決めているからな。お前には普通の女性としてこれからは生きてもらいたいと考えている」

カムイ「普通の女性ですか?」

リョウマ「ああ、そうだ。目のことはすでに変えられないことだが、これからのことは変えることができる。今度、サクラとヒノカにも会ってやってくれ、話をしたらヒノカは泣き出してしまったくらいだ。安い包容ではすまないと思っていてくれ」

カムイ「……リョウマさん、一ついいでしょうか?」

リョウマ「なんだ?」

カムイ「顔を触らせていただけませんか?」

リョウマ「……構わない。しかし、兜を付けたままになるがいいか?」

カムイ「はい。それじゃ、失礼しますね」

162: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/12(水) 23:24:41.10 ID:rUzcl0O00
リョウマ「……」

カムイ「……冷たいですね」

リョウマ「兜だからな」

カムイ「あっ、そうでしたか。じゃあ、ここが肌ですね」

リョウマ「ん……ああ」

リョウマ(柔らかい指先、それにどこか安心できる。カムイはとても不思議な存在だな)

カムイ「リョウマさんは髪がとても長いんですね。剣術の鍛錬に支障はないんですか?」

リョウマ「ふっ、これしきの事が気になるようでは強くはなれない。己のことを一番よく理解しているつもりだ」

カムイ「そうですか、なんだかチクチクする髪型ですね」

リョウマ「……その言葉はなんだか複雑な気持ちになる」

カムイ「……ふふッ、チクチク、チクチク、なんだか気持がいいです」ナデナデ

リョウマ「………平常心だ」

163: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/12(水) 23:36:17.61 ID:rUzcl0O00
カムイ「……」

リョウマ「……カムイ、今日のこと、カゲロウから聞いている」

カムイ「はい」

リョウマ「タクミに竜脈を使わないように進言したが、退けられた。その結果に行動したと」

カムイ「はい、その通りです」

リョウマ「カムイの行ったことは人を助けるという意味では正しいものだ。だが、タクミにもタクミの責務がある。あの場でタクミに課せられた一番の使命は同行者と仲間を守ることだ。だから――」

カムイ「リョウマさん、私はタクミさんに殺されてもいいという覚悟で動いていました……、すこし震えてますよ?」

リョウマ「そのようなことを言わないでくれ、また共に暮らせるというのに」

カムイ「そうですね、ごめんなさい。もういいですよ」

リョウマ「……もう、いいのか?」

カムイ「はい。あの、タクミさんはどちらにいますか?」

リョウマ「それは許可できない。今のあいつは落ち着く必要がある。お前の判断が結果的に民を一人救ったことは間違いない、あいつは自身の下した判断に苦しめられている」

164: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/12(水) 23:49:14.68 ID:rUzcl0O00
カムイ「そうですか……」

リョウマ「お前はどこか冷静だ、その立ち振る舞いはあいつにはまぶしく映っているのかもしれない。すまないが、今はそっとしておいてはくれないか」

カムイ「はい、私もタクミさんと喧嘩がしたいわけじゃないんです。ただ、話をしたいだけなんですよ」

リョウマ「そう言ってもらえると俺としては安心だ。話はこれくらいにしよう。夕食までは時間がある、今はゆっくり休むといい。それではな」



カムイ「………」

モズメ「なんか、難しい話しをしとったね」

カムイ「起きていたんですか?」

モズメ「へへっ、ごめんな。でも驚いたわ、カムイ様、王族の人なんやな」

カムイ「……結構前から起きてたんですね」

モズメ「うん、聞いたことは誰にも話したりせえへんから、安心してや」

カムイ「ははは」

モズメ「カムイ様。誰が何と言おうと、あたいはカムイ様に命を救ってもらったんやから、カムイ様のしたことが間違いだなんて思ってへんよ」

カムイ「モズメさん?」

モズメ「だから、そんなしょげとらんで心配せんでええよ。あたいはカムイ様の味方やから」

カムイ「ふふっ、モズメさんって面白い方ですね。助けた時はあんなに弱弱しかったのに、今はこんなに元気なんですから」

モズメ「カムイ様の前やからや。約束通り、あたいが起きる前でそばにいてくれたやろ? だから、カムイ様の前でなら平気でいられるんよ」

165: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/12(水) 23:58:24.46 ID:rUzcl0O00
カムイ「モズメさん。ふふっ、慰められてしまいましたね」

モズメ「そ、そんな大きなことしとらんから。もう、真顔で結構恥ずかしいこと言うんやな」

カムイ「はい、それじゃ一つお願いいいですか?」

モズメ「な、なんや?」

カムイ「モズメさんの顔に触ってもいいでしょうか? とてもかわいい顔をしてると思うんです」

モズメ「さ、さっきリョウマ様にしてたこと、あたいにするんか? そもそも、なんであんなに触ってるんや?」

カムイ「そうでした、モズメさんには説明してませんでしたね。私、実は盲目なんです」

モズメ「………」

カムイ「………」

モズメ「なんていうか、どう反応返せばいいのかわからへん。嘘だって思いつつも、本当だったらどうしようって、頭の中ぐるぐるなるんよ」

カムイ「では、ぐるぐるしたままでいてくださいね」

モズメ「あっ、まだ、良いって言ってへん。ふわぁ///」

カムイ「前髪は短いんですね。でも左右に流れるようにお下げと跳ねてる髪、これは髪飾りですか?」

モズメ「ん、そうや……んぅ」

モズメ(な、なんやこれ、触られてるだけやのに、なんでこんなに気持ちええんや!?)

カムイ「これは、なんの形なんでしょうか……」

モズメ(耳、耳裏に指が触れてぇ………)

カムイ「……耳裏弱いんですね」

166: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 00:08:08.01 ID:n3yNKAY60
モズメ「はぅぅぅぅぅぅ、だっ、ダメや。そんなとこ触らんといて」

カムイ「どうしたんですか? なんだかとっても顔が火照ってますよ」

モズメ(な、なんやこれ。とってもイケナイことしとる気がしてきた。あかん、このまま流されたらあかん、あかんのに……)

カムイ「ふふっ、今まで触ってきた人の中で一番可愛い反応をしてくれますね。とっても可愛いですよ、モズメさん」

モズメ「そ、そんなことあらへん。顔にそばかすだってあるんや、まだほかに可愛い子なんてたくさんおる」

カムイ「気にしてるんですね。そう言うところも可愛いですよ」

モズメ「そないなこと、ふにゃあああ」

カムイ「ふふっ、これ以上するとあれですから。これで終わりにしますね」

モズメ「あっ……」

モズメ(なんや今の声、あたいなに残念そうな声を出しとるんや)

◇◆◇◆◇
カゲロウ「……傍から見ていると、本当に恥ずかしい光景だな」

サイゾウ「まったくだな」

カゲロウ「………」

サイゾウ「………」

カゲロウ「サイゾウ……」

サイゾウ「なんだカゲロウ」

カゲロウ「いつからそこにいた」

サイゾウ「『……』のところからは、いくら返事をしてもお前が返事をせぬので、何を見ているのかと思えば」

カゲロウ「………////」

サイゾウ「……やはり、お前は」

カゲロウ「それは断じて違う!」

167: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 00:18:00.98 ID:n3yNKAY60
◇◆◇◆◇
―白夜王国・王城シラサギ内の湖―

タクミ「くそっ」

タクミ「確かに生存者の可能性を考えなかった僕にも非がある。でも、だったら口にしてくれてもいいじゃないか!」

タクミ「突然現れて、一体なんなんだよ」

???「タクミ、気が乱れているようだけど、なにかあった?」

タクミ「!」

???「私の接近に気付けないなんて、いつものタクミらしくないわね」

タクミ「……そうかもしれない」

???「話は聞いてるわ。暗夜の王女が来ているそうね。そのことと何か関係があるのかしら?」

タクミ「うるさい……一人になれると思ってここに来たのに、失礼するよ」

???「タクミ」

タクミ「なんだよ! アクア姉さん」

アクア「一度、すべての出来事を紙に記しなさい。そうすれば、すべてに理由があるとわかるはずだから。ひねくれているのもいいけど、いつまでもその先に歩めないんじゃ、成長なんてできないわ」

タクミ「なんだよ、僕を子供扱いして」

アクア「そうね、今の怒っているあなたは大きな子供そのものよ。だから、今のあなたよりは少し大人な私の意見に耳を貸してほしいの」

タクミ「………く、わかったよ。アクア姉さんの言うとおりにしてみるよ」

アクア「そう、ありがとう」

タクミ「でも、あいつのことを僕はそう簡単に認める気はないよ」


168: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 00:24:03.89 ID:n3yNKAY60
アクア「………暗夜の王女、私とは対極にいる人、そんな気がするわね」

アクア「暗夜で生まれ白夜で育った私、白夜で生まれ暗夜で育ったあなた。鏡合わせな私たちが出会ったら、何かよくないことが起きる気がする」

アクア「でも、何故かしら。あなたは私を尋ねに来ると思う。それが何かの始まりだったとしても……それに」

アクア「♪~~~~♪~~~~」

アクア(私も、早くあなたに会ってみたいと心のどこかで思っているのだから)


 第三章 おわり

169: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 00:31:06.02 ID:n3yNKAY60
現在の支援レベル

 スズカゼ  C
 リンカ   C→C+
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C→C+
 リリス   C→C+
 カゲロウ  C
 モズメ   C
 タクミ   D
 リョウマ  C

172: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 00:50:42.41 ID:n3yNKAY60
すみません、トリップつけ忘れました
 最初の安価
 第四章開始の際にカムイが話しかける人物、この中からでお願いします。
 
 スズカゼ
 カゲロウ
 サイゾウ
 モズメ
 ミコト
 リンカ
 リョウマ
 タクミ
 ヒナタ
 オボロ

>>174

174: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/13(木) 01:24:49.36 ID:8J5AFFRlO
乙です、いつも楽しく読ませてもらってます。
安価ならタクミで。

177: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 22:13:38.17 ID:n3yNKAY60
◇◆◇◆◇
―白夜王国・シラサギ城―

カムイ「リョウマさんの話では、今日の夜にサクラさんとヒノカさんが戻ってくるそうですね」

カムイ(それにしても、ここに身を置いてから数日が経ちました。マークス兄さんたちは、どうしているのでしょうか? 私がいなくなったことで、いらぬ心配を……かけているでしょうね。戻ったら何を言われるかわかりません)

カムイ「……ん、この気配は……」

タクミ「あっ……」

カムイ「……」

タクミ「あっ……あんた……」

カムイ「タクミさん、こんにちは」

タクミ「……ああ、それじゃ」

カムイ「ちょっといいですか?」

タクミ「なんだよ、僕は忙しいんだ」

カムイ「何か変な物をお持ちみたいですね。四角台みたいなものに、あと小さな子箱でしょうか? 中から何かがぶつかりあっている音がしますけど」

タクミ「……将棋だよ」

カムイ「将棋ですか? どういったものなんですか?」

178: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 22:23:20.58 ID:n3yNKAY60
タクミ「目が見えないあんたにできるようなものじゃないよ。知ったところで意味なんてないはずだから」

カムイ「それは知ってみなければわかりませんよ。タクミさん、ちょっと見せてもらってもいいですか? お時間は取らせませんので」

タクミ「なんで、勝手に決めてるんだよ」

カムイ「駄目でしょうか?」

タクミ「……わかったよ。くそ、これならユキムラと一指し終えてすぐに部屋に戻るべきだった」

◇◆◇◆◇

カムイ「へぇ、大小さまざまなものがあるんですね。これは……文字が彫ってあるんですね……」

タクミ「これはそれなりに高価なものだから、文字を彫ってある。一般に出回っているものは筆で文字を書いただけのものだったりする」

カムイ「奇麗に彫りこんでありますから、私でも何が置いてあるかはわかります。で、これを何に使うんですか?」

タクミ「将棋は駒とこの盤を使って争う。盤上で駒を動かして、相手の王将を取ったら勝ち、逆に取られたら負けっていうものだ」

カムイ「暗夜にはチェスという遊びがあります。私の弟がよく遊んでいましたから、基本的なルールはそれに似ているんですね」

179: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 22:32:44.81 ID:n3yNKAY60
タクミ「で、わかるよね。これが目が見えないとできない遊びだってこと」

カムイ「どうしてですか?」

タクミ「盤面を見ないでどうやって戦うっていうんだ。初期配置ならともかく、こういったものは場が目まぐるしく変わるだろ、情報を手に入れないで続けるのは難しいよ」

カムイ「できないということはないですよ」

タクミ「……変な自信だね」

カムイ「駒の動き方とかそういった情報があれば、スタート地点に立てたと思えますよ。もしかしたらタクミさんに勝てるかもしれませんし」

タクミ(何言ってるんだ、本当に癪に障る。でも、将棋なら僕の方が何枚も上手だ、そう簡単に出し抜かれたりしないはず)

タクミ「……その自信、確かめてみる?」

カムイ「といいますと?」

タクミ「僕と一回勝負をしよう。あんたが勝てたら、あんたの頼みを一つだけ聞いてあげるよ。まぁ、無理だと思うけど」

カムイ「その約束、本当ですね?」

タクミ「ああ、それじゃ始めようか」


180: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 22:44:59.85 ID:n3yNKAY60
タクミ「………」パチ

カムイ「………」パチ

タクミ「………」パチ

カムイ「えっと、王手と宣言するんでしたよね?」パチ

タクミ「………」

カムイ「………タクミさんの番ですよ?」

タクミ「……嘘だろ、なんでこんな」

カムイ「……」

タクミ「なんでこんなことに気付かなかったんだ? くそっ、どこに動いても結局は……」

カムイ「タクミさん、早くしてください」

タクミ「………けだ」

カムイ「?」

タクミ「僕の負けだよ! 二回も言わせないでよ」

カムイ「そうですか、では私の勝ちということで」

タクミ「……どうして負けたんだ。なにが、なにが間違えだったんだ」

カムイ「ふふっ、目が見えないことはハンデでもなんでもないんですよ?」

タクミ「こっちの手を尽くつぶされて、怒りとかそういうのを通り越して、もう何も出ないよ」

カムイ「盤面は初期配置からずっと頭に並んでますから、できうる限りの抵抗はできます。ただチェスとは違ってとった駒を使えるというのは曲者でした」

タクミ「本当に、目が見えたないのか疑いたくなってくる」

カムイ「そう言ってもらえたということは、昔から頑張ってきた甲斐があったというものです。さてと、それでは私が勝ったということで、タクミさん。私のお願いを一つ聞いてくれるんですよね?」

181: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 22:53:32.68 ID:n3yNKAY60
タクミ「……さきに条件を出したのは僕だ。ちゃんと従うよ。で、何をしてもらいたいわけ? この前のことに関しての謝罪でもすればいい?」

カムイ「この前のこと……モズメさんの村のことですか?」

タクミ「……僕がちゃんと耳を傾けていれば、モズメは怪我をしなかった。そう考えているんだろ」

カムイ「はぁ、私はそんなつまらないことにこのお願いを使う気はありませんよ」

タクミ「つ、つまらないことって……」

カムイ「やっぱり、あれですね。タクミさんはお願いしても触らせてくれそうにないので、今顔を触らせてください」

タクミ「い、いきなり何を言い出すんだ/// 顔なんて触らせるわけ」

カムイ「いいですよね?私が勝ったんですから、タクミさんがどんな顔の人なのか、とても気になっていたんです。それとも、負けたから勝負は無し、そういうことにしますか?」

タクミ「ぐっ……」

タクミ(そんなことできるか、これは僕の慢心が生んだ結果だ。こいつに顔を触られるなんて最悪なことだけど、ここで勝負の結果を反故にするような発言、恥ずかしくてできるわけがない)

カムイ「大丈夫ですよ。痛くしたりしません」

タクミ「す、好きにすればいい」

カムイ「はい、失礼しますね」ピトッ

182: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 23:01:26.28 ID:n3yNKAY60
カムイ「震えてますね。大丈夫、危害を加えたりしませんから」

タクミ「ぼ、僕が怖がっているって言いたいのか!?」

カムイ「そこまで言ってないですよ。それとも本当に怖いんですか? 無防備なまま、私に顔を触られることが」

タクミ「信用してないからね。―――っ!」

カムイ「後ろ髪は束ねてるんですね……。ふふっ、束ね髪の根元が弱いんですか? 触るたびにタクミさん、少し体が動いてますよ?」

タクミ「へ、変なことをするな」

カムイ「変なことってどういうことですか? 私に教えてください、いったいどんなことなんですか?」

タクミ「そ、それは……///」

カムイ「顔が熱くなってきました、もしかして恥ずかしいんですか?」

タクミ「こ、子供扱いするな!」

カムイ「そうですね、ごめんなさい。ちょっと、失礼しますね」

タクミ「な、何をするんだ、髪留めを……」ファサ

カムイ「リョウマさんの髪はチクチクしてましたけど、タクミさんの髪はどこかなめらかなんですね」

タクミ(くっ、髪を触らているのに、どうしてこうも気持ちがいいんだ。こんな奴に触られて、本当なら嫌悪感しかないはずなのに)

カムイ(ふふっ、サラサラで気持ちがいい)

183: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 23:23:37.99 ID:n3yNKAY60
タクミ「はぁ、はぁ、はぁ……」

カムイ「ありがとうございます。タクミさんの顔をこれで覚えられました」

タクミ「もう、最悪だよ。将棋で負けるし、顔を触られるし、髪をまた束ねなくちゃいけないし……」

カムイ「私はとても満足です。タクミさんの顔とサラサラの髪を知れましたから」

タクミ「このままで終わると思わないでよ。必ず、あんたを負かせてやる!」

カムイ「いいえ、その約束はいいです」

タクミ「僕はお前に勝てないっていうのか?」

カムイ「いいえ、まだ、そんな約束を軽くできる状況ではないからですよ。タクミさんはそれをわかっていますよね?」

タクミ「……そうだったね。勝負と顔を触られたから動揺して忘れてた、あんたは暗夜の人間なんだよな」

カムイ「はい、それは変わらないことです。だから、そんな約束をつけないでください」

タクミ「その言い方だと……あんたは、暗夜に戻るって言ってるようにも聞こえる」

カムイ「そうですね、大きなことが起きない限り、私の心は変わらないと思います。その大きなことが起きた時に私が考えることを放棄したら……」

タクミ「………もういい、変なこと聞いたよ。……夜にはサクラとヒノカ姉さんが戻ってくる。準備をしといた方がいい」

カムイ「はい、そうします。長い時間引き止めてしまって、すみません」

タクミ「……じゃあね」

カムイ「………」

184: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/13(木) 23:25:30.75 ID:n3yNKAY60
現在の支援レベル

 スズカゼ  C
 リンカ   C+
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C+
 リリス   C+
 カゲロウ  C
 モズメ   C
 タクミ   D→D+
 リョウマ  C

187: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/14(金) 23:15:19.14 ID:Jvz/QVCx0
◇◆◇◆◇
―白夜王国・シラザキ城・王の間―

リョウマ「来たか」

カムイ「はい、お待たせしましたか?」

リョウマ「少しくらいだな。まずは、中に入ろう」

カムイ「はい」

???「………!」

カムイ「えっと、こちらの方は?」

???「カムイ、カムイなのか?」

カムイ「……はい」

???「カムイ……やっと、やっと……」ダキッ

カムイ「え、えっと……」

???「カムイ、本当にカムイなんだな。私の妹の、このときを、どれだけ待っていたことか……うっ、うう」ギュウウウゥ

カムイ「え、えっと……い、痛いです」

???「ああ、すまない。その、感極まってしまったというか……ううっ、すまない。目の前にすると涙が止まらなくなる」

リョウマ「ヒノカ、あまりカムイを困らせてやるんじゃない。いきなり泣かれて、少し戸惑っている」

カムイ「この方が」

リョウマ「ああ、お前の姉だ。いつもはもっと凛々しいんだがな」

188: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/14(金) 23:35:00.20 ID:Jvz/QVCx0
ヒノカ「すまない、取り乱してしまって……大きくなったんだなカムイ。またこうして手を握ることができるなんて、嘘みたいだ」

カムイ「……」

ヒノカ「カムイ?」

カムイ「すみません、私はあなたの妹なのかもしれないのですが、私にはまったく身に覚えがなくて、どう反応を返したらいいのか」

ヒノカ「……そうか、すまなかった。だがカムイ、お前が帰って来てくれて私はとてもうれしい、これは私の本心だ」

カムイ「はい、ありがとうございます……あと、そちらにいる方は?」

???「あっ……」

ヒノカ「サクラ」

サクラ「は、はい。サ、サクラといいます。その、お会いできてとてもうれしいです」

カムイ「サクラさんですね、初めましてカムイと言います。なんだか、すみません。遠征されていたのに、私のために戻ってきてもらって」

サクラ「いいえ、その、私、カムイ姉様のことを聞いたことがあったので、早くお会いしたくて、その……」

リョウマ「サクラにしては珍しいな。そんな風に積極的に自分の思ったことを口にするなんてな」

カムイ「ふふっ、わざわざそこまで考えてくれてありがとうございます」

サクラ「そ、そんなことないです///」

189: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/14(金) 23:50:57.38 ID:Jvz/QVCx0
カムイ「サクラさんは、なんだかフワフワしてるイメージですね。可憐でなんだか癒されるようなイメージがあります」

サクラ「……あの、カムイお姉様」

カムイ「はい、どうかしましたか?」

サクラ「リョウマ兄様から聞きました、その……目が見えないと」

カムイ「はい、私は目が見えません。でも、気にしないでください。目が見えなくても全然大丈夫ですから」

ヒノカ「暗夜に攫われていなければ……。その目は何が原因で」

カムイ「訓練中に剣を避け切れなかったんです。顔にその時の傷が残ってると思います」

サクラ「カムイ姉様、すこしいいですか?」

カムイ「サクラさん?」

サクラ「………この傷ですよね……、顔にこんな傷、ひどいです」ピトッ

カムイ「ふふっ、そうかもしれませんね。でも、この傷はここまで私が生きてこられた証でもあるんですよ?」

サクラ「証……ですか?」

カムイ「はい、私には目が見えませんけど、多くの技術があります。それは目が見えていたら手に入れられなかった力ですから、たとえば、こうやって」ピトッ

サクラ「は、はわわっ、カムイ姉様!?」

カムイ「サクラさんのお顔に手を添えて調べさせてもらえるだけで、私はあなたの顔を知ることができるんです」

190: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/15(土) 00:01:09.00 ID:VRYrhGKq0
サクラ「……でも」

カムイ「悲しい顔をしないでください。可愛らしいサクラさんの顔が台無しになってしまいます。眼尻に涙をためて、泣き虫なんですね」

サクラ「だ、だって、カムイ姉様は……ずっと暗夜に捕らえられていて……」

カムイ「辛かったと思ってくれるんですか?」

ヒノカ「当たり前だ、生まれ故郷から見知らぬ地に連れてこられて、辛いわけがないだろう?」

カムイ「そうですね、辛いことがなかったと言ったら嘘になります。たしかに辛いことはありました、でもその分楽しいこともあった。それはどこにいても同じことなんじゃないかと私は思います」

ヒノカ「そ、それはそうだが……いや、すまないな。どうも、私自身まだ心が落ち着いていないみたいだ」

カムイ「いいえ、私の方こそすみません。ヒノカさんとサクラさんが私を大切にみてくれていることはわかりました。ただ、それにどう応えるべきか全くわからなくて」

ヒノカ「いいさ。これから、また一緒に暮らせるんだ。ゆっくりとでいい一緒の時間を重ねていこう」

サクラ「ヒノカ姉様……、私も、これからカムイ姉様と過ごせる日々がとても楽しみです」

194: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/15(土) 22:38:14.92 ID:VRYrhGKq0
カムイ「あの、ヒノカさん。ひとつ、お願いしてもいいでしょうか?」

ヒノカ「ああっ、何でも言ってくれ。といっても、私にできることは限られているから、あまり難しいこととなるとな」

カムイ「いいえ、その、お顔に触れてもよろしいですか?」

ヒノカ「ああ、いいぞ。むしろ触って欲しい、お前に私の顔を覚えてもらえるならな」

カムイ「ありがとうございます。じゃあ……」ピタリッ

ヒノカ「んっ……気持ちがいいな」

カムイ「ヒノカさんの髪は結構短めなんですね。なんだか、頼れる人っていう感じがします」

ヒノカ「そう言ってもらえると嬉しい。いつかこんな日が来ることを信じていた、お前とこうして話し合える日を」

カムイ「……はい」

ヒノカ「この日が来ることを信じて、ずっと鍛え続けてきたことが結ばれたみたいだ。確かに、ここにお前が来れたことに私は何も関わってはいない。でも結果として、お前が帰ってきてくれたのなら、今日までの日々は無駄じゃなかった。素直にそう思える」

カムイ「……強いんですね、ヒノカさんは」

195: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/15(土) 22:46:33.26 ID:VRYrhGKq0
ヒノカ「私は強くなんてない、ただがむしゃらに進み続けて来ただけだ。それにリョウマ兄様の臣下、サイゾウとカゲロウの追撃を振り切り続けたカムイのほうが、私なんかより強いさ。私も、お前を守るためにまだまだ強くなる必要が出てきた」

カムイ「私は強くなんてありません。ただ……」

ヒノカ「ただ、なんなんだ?」

カムイ「いいえ、なんでもありません。忘れてください、ヒノカさん」

ヒノカ「そうか、いつか話せる時が来たなら話してほしい。私はお前の姉なんだ、だからいっぱい頼ってくれ」

カムイ「はい、いつか、その時が来たのなら……」

196: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/15(土) 22:57:45.69 ID:VRYrhGKq0
◇◆◇◆◇
―シラサギ城・城内の湖―

カムイ「………」

カムイ(リョウマさん、タクミさん。サクラさんにヒノカさん)

カムイ(みなさんは、私のことをずっと覚えていたんでしょうね。私が覚えていない頃にあったという、父が殺され私が攫われた日から……)

カムイ(どうして、そうまでして私を覚えているのでしょうか? 覚えている必要などないような人間であるはずの私を……)

カムイ「水の音が心地いい……、ここは静かでいい場所ですね」

カムイ(北の城塞で、一人になりたい時は夜風の音だけに身を任せることが多かったですけど、この土地にいる間は私はここにいたい。ここはなんだか、あの小さな場所に似ている気がする)

 ♪~~ ♪~~~

カムイ「……歌声?」

197: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/15(土) 23:17:28.72 ID:VRYrhGKq0
アクア「♪~……。夜は空気が澄んでいて歌いやすいわ」

カムイ「………誰かいるんですか?」

アクア「! あなた……」

カムイ「初めまして、私はカムイ」

アクア「そう、あなたがカムイ王女。暗夜王国の捕虜と聞いていたけど」

カムイ「形式的なものだそうです。そうでなかったらこう歩き回ることはできないでしょう」

アクア「それもそうね」

カムイ「………あの」

アクア「私の自己紹介が済んでなかったわね。私はアクア」

カムイ「アクアさんですね。あなたも白夜王国の王族の方なのですか?」

アクア「それは少し違うわね。私は王族でも元、しかも国の名前が違うわ」

カムイ「国の名前ですか?」

アクア「ええ、国の名前は暗夜王国」

カムイ「……ということは貴女は」

アクア「ええ、元は暗夜王国の人間ということになるわ」

カムイ「……よろしければ話を聞かせてくれませんか?」

アクア「話?」

カムイ「はい、あなたがなぜこちらに来ることになったのか、その理由です」

198: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/15(土) 23:26:18.20 ID:VRYrhGKq0
アクア「……正直、私が流れで話すことになると思っていたのに、先に手を打ってくるのね。なんだか、先回りされているみたいで面白いわ」

カムイ「そんなつもりはないんですが、個人的に聞いておきたいことなので」

アクア「始まりの発端くらいは察しが付いていると思うけど」

カムイ「そうですね、たぶん私が原因なのでしょう?」

アクア「……ええ、あなたが暗夜王国に攫われたことは白夜王国の耳にすぐに入ることになった。王とその子供を同時に失うことがどれほどのものかはわからないけれど、白夜王国はあなたを取り戻すために手を尽くした。けど、それらはことごとく失敗に終わった」

カムイ「………」

アクア「ただ、失敗したという形で終わるわけにはいかなかったのよ。攫いに行った者たちも、何も得られずに帰ることなんてできるわけもなかった。だから、目に見える形として私が白夜に連れ去られることになった。対の人質としてね」

カムイ「そうでしたか……」

アクア「勘違いしないでほしいことがあるけど、私は酷い生活を送ってきたわけじゃない。むしろ、その逆だったわ。この国の人たちは私に優しくしてくれた、ミコト女王は私のことを自分の娘みたいに愛してくれたから。正直にいえば、私は暗夜にいた時より、幸せな生活を送れた」

199: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/15(土) 23:47:06.77 ID:VRYrhGKq0
カムイ「そうですか、私は暗夜の生活に関して特に言うことがありません。辛いことも楽しいことも平等にあったと思えますから」

アクア「………正直気を悪くしないでほしいのだけど、あなたの記憶はいじられてると思うわ」

カムイ「でしょうね……。正直、それは認めないといけないかもしれません。ここまで向けられてきた視線と私への態度はすべて本物で、わざわざ大がかりに嘘を作る必要もないことばかりですから」

アクア「なら、どうするの」

カムイ「さぁ、どうしましょうか?」

アクア「はぁ、ここで決めてはくれないのね」

カムイ「はい、それにこういうのは誰かに言うものでもないでしょう?」

アクア「………それもそうね。でも、信頼できる人がいるなら、言うべきかもしれないわ。一人でもそういう人はいるかしら?」

カムイ「……いませんね」

アクア「暗夜に兄妹は?」

カムイ「います。いますが……私の本心まですべてを曝け出せる相手はいません」

アクア「カムイ……あなたは」

カムイ「すみません。アクアさんの望む答えを私はまだ持ち合わせていないみたいです」

200: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/16(日) 00:09:17.46 ID:QMKDQ8Zu0
アクア「…………そう、ならいつか聞かせてもらえるのかしら?」

カムイ「そうですね、アクアさんの言う信頼できる人に、あなたがなれたらですかね?」

アクア「……タクミの言うとおり。なんだか気に触る人だわ。あなた」

カムイ「ありがとうございます」

アクア「褒めてないわ」

カムイ「怒られてしまいました。でも、アクアさん。あなたの言っていることは正しいことですよ。私は言葉を濁して答えを先延ばしにしているだけなのかもしれません。本当は、信頼できる人ができたとしても、口に出すことがないのかもしれない」

アクア「……それでいいと?」

カムイ「わかりません、私には何もありませんから……」

204: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 00:44:45.44 ID:pJaV6OPX0
アクア「何もないわけじゃないでしょ? 何もないなら、考えたり悩んだりなんてしないわ。あなたはちゃんと考えてる、だから私の質問に対して答えが出せない、ちがうかしら?」

カムイ「……はぁ、アクアさんは意外に意地悪な人なんですね」

アクア「会った瞬間から煽りを入れてくる人に言われたくないわ。それで、私の推測は当たっているのかしら?」

カムイ「答えは出しませんよ。答えが聞きたかったら……」

アクア「信頼を勝ち取りなさいって言いたいようだけど、あなた、私を信頼する気なんて今はないんでしょう? それじゃ永遠に答えを聞けないじゃない」

カムイ「そうですね、でも入口はありますよ?」

アクア「入口?」

カムイ「はい、ちょっと顔を貸していただければ」

アクア「……殴り合いかしら? 私としては平和的に信頼を得たいところなんだけど……」

205: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 00:52:56.26 ID:pJaV6OPX0
カムイ「殴り合いで信頼が生まれるんですか、すごく興味深い話ですね。相手の弱点を理解することで、お互いの理解が深まる、そういうことですか?」

アクア「え、顔を貸すってそういう意味じゃないの?」

カムイ「いいえ、顔をそのままこちらに貸してくれませんかという意味ですが……」

アクア「……具体的に何がしたいのかしら?」

カムイ「具体的に言うと、アクアさんの顔を触らせてくれませんか?」

アクア「最初からそう言ってくれれば変な誤解はしなかったんだけど」

カムイ「すみません、言葉が足りなかったみたいです。では改めて、顔を触らせてもらってもいいですか?」

アクア「………」

カムイ「………」

アクア「はぁ、仕方無いわね。少しだけよ」

カムイ「はい、ありがとうございます……とても長い髪なんですね」

アクア「ええ、あなたも長いわね、私よりは短いけど」

カムイ「この頃はあまり切ることができなかったので、伸び本題ですね。暗夜にいた時は定期的に切ってもらっていました」

アクア「そう……っ、眼尻も触るのね」

カムイ「アクアさんの顔を覚えるためです。他意はありません」

アクア「それにしては、時々眼尻とは違う方角に指が動くことがあるけど?」

カムイ「………気のせいです」

206: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 01:02:57.76 ID:pJaV6OPX0
アクア「あなたの髪、ミコト女王と同じ色なのね」

カムイ「アクアさんの髪は何色なんですか?

アクア「透明感のある青と言えばいいかしらね。母親と同じ髪の色だから、あなたと同じよ」

カムイ「同じですか?」

アクア「そう、同じ。私は暗夜から白夜へ、あなたは白夜から暗夜へ。私たちはまるで鏡映しのように入れ替わってしまっているもの」

カムイ「変なものですね。本来は出会うこともなかったんでしょうね」

アクア「だから、私とあなたが出会ったことには意味がある、私はそう思っているわ」

カムイ「アクアさんはどこかロマンチストなんですね。そんなこと考えたこともありませんでした」

アクア「私は白夜が好きよ。このミコト女王の平和を愛する心に共感していることもあるし、なによりここは私にとって家族と言える人が住まう場所だから」

カムイ「……そうですか」

アクア「あなたは暗夜に戻るつもりなのよね」

カムイ「いずれはそうなるでしょう」

アクア「白夜にいるつもりはないの?」

カムイ「私が白夜にいることは、たぶん間違っているんです。考えてみれば、そうだとだれもが気付くはずです」

アクア「その心は変わらないの?」

207: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 01:26:22.97 ID:pJaV6OPX0
カムイ「……今のままなら変わることはありません」

アクア「そう、それで、私の顔の形は覚えられたかしら?」

カムイ「はい、すみません。長い間、触り続けてしまって」

アクア「別に構わないわ。あなたに少しだけでも信頼されるならね」

カムイ「まだ入り口ですよ?」

アクア「入口でも構わないわ。だけど、気を付けたほうがいいわ」

カムイ「何をですか?」

アクア「あなたは考え続けてきた人のようだから、ここに来てあなたが意識を向けなければならない事柄が唐突に増えたと思う。あなたから見て、出会うはずのなかった事象さえあるのかもしれない」

カムイ「………」

アクア「あなたはここまで考え続けてきた人だから、もしも、考えることをやめてしまったら……」

カムイ「……」

アクア「あなたは流されるだけの人になってしまう気がする。今日、今ここにいるあなたは多分、どこにたどり着くこともなく、ただ流され朽ちていくことになるんじゃないかって、私は思っているわ」



208: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 01:34:00.59 ID:pJaV6OPX0
カムイ「心配してくれているんですか?」

アクア「ええ、初対面だけど心配したくなるような人なのよ、あなたは」

カムイ「なんだか、不思議な感覚です。ご忠告は心に受け止めておきますね」

アクア「そうしてもらえると助かるわ……。でも、私は助言ができるだけだから、決めるのはあなたよ」

カムイ「はい」

アクア「こういうところは素直ね。拍子抜けというか……、いえ、今回はわかっているからすぐに答えを出せただけでしょうけど……」

カムイ「ところで、アクアさん。私の部屋まで送っていただけませんか?」

アクア「道くらいわかるでしょう? ここまで歩いてこれたんだから」

カムイ「夜道は中々怖いものですから、それにアクアさんと少し一緒に歩きたい気分なんです」

アクア「良い誘い文句だけど、残念だけど私は女よ?」

カムイ「私も女ですから、私の部屋まで連れて行ってもらっていいですか?」

アクア「わかったわ。それじゃ、手を握って頂戴」

カムイ「はい」

209: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 01:42:57.05 ID:pJaV6OPX0
◇◆◇◆◇
―王の間―

カムイ「ここに呼ばれるのも、結構な回数になりましたね」

モズメ「ほんまやなぁ。今さらなんやけど、あたい、こんなところにいてええんやろか?」

カムイ「いいんですよ。モズメさんは私の従者なんですから、それにいやなら断ってくれてもよかったんですよ?」

モズメ「ううん、あたしにはもう何も残ってへんからな。カムイ様に命救われた時から、あたいはカムイ様に付いて行くしかないんよ」

カムイ「ありがとうございます、それじゃ中に入りましょう」

カムイ(今日はなんだか空気が違いますね。ミコトさんに呼ばれたのは何回かありますが、これほどまでに王の間に人がいないのも珍しいですね。リョウマさんも、ヒノカさんもいませんし。衛兵の方たちの気配もありません……)

ミコト「カムイ、それにモズメさんですね。城の生活にはもう慣れましたか?」

カムイ「はい。今日はいつもの皆さんがいないみたいですね」

モズメ「そうやね、リョウマ様もおらんのは珍しいことや」

ミコト「少し用事があるんですよ。少ししたら来てくれます」

カムイ「そうですか。それで、ミコトさん、私にどういった御用なんでしょうか?」

210: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 01:56:39.66 ID:pJaV6OPX0
ミコト「私の横にあるものはわかりますか?」

カムイ「気配だけです。大きなものみたいですけど」

ミコト「これは、白夜王国の玉座です。これには古の神である神祖竜の加護が宿っているものなんです」

モズメ「えらい大きな、椅子やね」

ミコト「ええ、私ではみたところ抱えられてるようにも見えてしまうかもしれません」

カムイ「その玉座が、なにか?」

ミコト「いきなり急なことなんですが、カムイ。これに座ってみませんか?」

カムイ「玉座にですか?」

ミコト「はい、この玉座には先ほど言った加護が宿っています。この玉座に座った者は真の姿を取り戻すと言われているのです」

カムイ「………つまり、ミコトさんは私が何かしらの術にかけられているから、記憶を持っていないと考えているわけですね」

ミコト「そ、そんなことは……いえ、ごめんなさい、その通りです・覚えていない理由が何かしらの術なら、私はそれを解きほぐしてあげたい、だから……」

211: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 02:00:20.37 ID:pJaV6OPX0
カムイ「そうですね、私はたぶん記憶をいじられていると思います」

ミコト「なら、座ってくれるのですね?」

カムイ「いえ、残念ですが。私はその玉座に座るつもりは、今はありません」

ミコト「今は……ということですか?」

カムイ「はい、少しの間だけ私に時間をくれませんか。まだ色々と整理がついていないことが多くて、これ以上のことを考えるのが少し辛いんです」

ミコト「はい、わかりました。私はカムイの味方ですから。その気持ちが固まったときにここに座ってくれるなら」

カムイ「もう少しだけ待たせることを許してください」

カムイ(私に弄られた記憶があることは間違いないです。でも、今それを知ったら私の頭は止まる寸前まで行ってしまう気がする。もしも止まってしまったら、私は……)

リョウマ「カムイ、悩むことはない。母上は待ってくださるんだ、あとはお前が踏ん切りをつけられるようになればいい」

カムイ「リョウマさん」

リョウマ「ふっ、母上。準備の方は大方整いました。ただ、もう少し時間が必要かもしれません」

ミコト「そうですか、仕方ありません。今日は記念すべき日になりますから、準備はきちんと行いましょう。準備している方々には無理をされないように伝えてあげてください」

リョウマ「わかった。カムイ、もう少し時間に余裕があるみたいだから、のんびりしているといい。俺は、まだやることがあるから、これでな」

212: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 02:07:23.16 ID:pJaV6OPX0
ミコト「リョウマの言っていた通りです。まだ時間がありますから、少し経ってからまた来てください」

カムイ「はい、わかりました。それでは、失礼しますね」

ミコト「ええ、また会いましょう」

ミコト「………やはり辛いものですね。我が子から母という言葉を貰えないというのは……」

ミコト「でも、カムイはいつかここに座ってくれると約束してくれた。私のいる目の前で、いつかこれに座ってくれるって……」

ミコト「……浅ましい、私は浅ましいのですね。我が子から母と呼ばれたいが故に、こうして我慢できずに話を持ちかけてしまうのですから……」

ミコト(もしも、あんなことが起きなければ、私の腕にはまだ、カムイのぬくもりが残っていたのでしょうか……)

ミコト「カムイ、私は……あなたに母親らしいことをすることができるのでしょうか? 何もかも忘れてしまっているあなたに、私は……」

第四章 前編おわり

213: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 02:09:20.82 ID:pJaV6OPX0
現在の支援レベル

 スズカゼ  C
 リンカ   C+
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C+
 リリス   C+
 カゲロウ  C
 モズメ   C
 タクミ   D+
 リョウマ  C
 ヒノカ   C
 サクラ   C
 アクア   C

214: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 02:13:51.46 ID:pJaV6OPX0
今日はここまでになります。
 
 安価です。
 次回の最初、空いた時間に話しかける人物、この中からでお願いします。
 
 スズカゼ  
 リンカ
 リョウマ   
 カゲロウ
 サイゾウ  
 タクミ
 ヒナタ
 オボロ  
 ヒノカ   
 サクラ   
 アクア   
 ミコト
 モズメ

>>215

215: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/18(火) 02:19:12.82 ID:aGe7YSTP0
乙です。
安価はミコト

217: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 22:24:17.98 ID:pJaV6OPX0
カムイ「モズメさんはどうしますか?」

モズメ「あたいは部屋で休ませてもらうわ。カムイ様はどないすん?」

カムイ「もう一度ミコトさんに会ってこようと思います。少し話してみたいことがあったので」

モズメ「わかったわ。あたいも少ししたら王の間に行くから」

カムイ「はい、それではまた……」

◇◆◇◆◇

カムイ(……しかし、あのあとだというのにすぐに来て良いものなのでしょうか? 少し考えさせてほしいといった手前、こうしてすぐに足を運ぶというのは……)

カムイ「悩んでいても仕方ないですね。時間は限られているんですから」

 コンコン

ミコト「………誰ですか?」

カムイ「ミコトさん、私です」

ミコト「カムイ? まだ部屋で休んでいてもいいのですよ?」

カムイ「いえ、特にやることもなかったので準備が済むまでの間、ミコトさんと話ができたらと思いまして……ダメでしょうか?」

ミコト「ふふっ、断るわけないじゃないですか。むしろ、うれしいです。さぁ、中に入ってきて」

カムイ「はい、失礼します」

218: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 22:31:57.14 ID:pJaV6OPX0
ミコト「ふふっ、正直時間になるまではここに来てくれないと思ってましたから、なんだか嬉しいものですね」

カムイ「そう思っていただけるとわたしもうれしいですよ」

ミコト「ええ、それで話というのはなんでしょうか?」

カムイ「はい、ミコトさんは私のお母様なんですよね?」

ミコト「そうですよ、記憶を持たないあなたには信じることが難しい話かもしれませんが」

カムイ「すみません」

ミコト「いいんですよ、それで聞きたいことというのは?」

カムイ「この白夜にいたころの私についてお尋ねしたかったんです。私は確かにここに住んでいた記憶を持っていませんけど、ミコトさんにはその頃の思い出はあるんですよね?」

ミコト「ええ、ありますよ。カムイと過ごしてきた日々は、死ぬまで忘れられない私の宝物ですから」

カムイ「その宝物を、少し私に分けてもらってもいいですか?」

ミコト「ええ、でも、この思い出があなたの重荷になるかもしれない」

カムイ「私が決めたことですから、ミコトさんが気に病むことはありません。それに聞いてみたいんです。私の知らない私の話を」

ミコト「カムイ……」ダキッ

カムイ「ミコトさん?」

219: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 22:45:20.69 ID:pJaV6OPX0
ミコト「カムイ、そんなことを言わないで。あなたはただ忘れているだけ、だから知らないわけじゃないの」

カムイ「ですが、私は……」

ミコト「言っていたじゃないですか、記憶をいじられているかもしれないと。なら、それは知らないわけじゃない、ただ忘れているだけだから。お願い、カムイから私の記憶を奪わないで」

カムイ「ミコトさん……」

ミコト「わかっています、あなたからすれば無茶苦茶なことを言っていることは。でも、私とあなたをまだ繋いでいるかもしれない思い出を、あなたの口から否定するようなことだけは、言わないで」

カムイ「……」

ミコト「おねがい……」

カムイ「すみません、私はミコトさんに話を聞きたかっただけなのに……」

ミコト「ごめんなさい。こんな風にお願いしてしまって、いきなりこんなことを言われても困るだけですよね」

カムイ「いいえ、その約束はちゃんと守ります。私はそれを思い出すまでは、一方的に否定したりしません」

ミコト「カムイ……、私が母親なのに慰められてばっかりですね」

カムイ「その言い方だと、ミコトさんは大きな子供みたいです。私のほうがまだ年も若いんですよ?」

ミコト「いいんです……。あのカムイ、一つお願いしてもいいですか?」

220: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 22:53:49.20 ID:pJaV6OPX0
カムイ「なんですか?」

ミコト「膝枕をさせてもらえませんか?」

カムイ「私がミコトさんにされる側でいいんですか? 私がする側でもいいですけど」

ミコト「ふふっ、少しは母親らしいことさせてください。さっきまで、そのことで悩んでいたんですから」

カムイ「わかりました。よいしょ、これでいいですか?」ポフッ

ミコト「はい。ふふっ、あのころから比べてやっぱり重くなりましたね。髪もこんなに伸びて、走りまわってた頃からは想像できません」

カムイ「ミコトさん、昔の私は今の私とどう違うんですか?」

ミコト「そうですね、数えれば切りがないくらいです。今度、時間があったらゆっくりお話しましょう。なんだか、楽しみになってきました」

カムイ「はい、ふあああ、すみません」

ミコト「ふふっ、少し疲れているのですか?」

カムイ「……そうかもしれません、ちょっとこの頃考えることが多かったので」

ミコト「なら、少し休んで。まだリョウマの準備も終わっていないみたいですから、誰かが来たら起こしてあげますよ」

カムイ「ですが………」

ミコト「……」

カムイ「そうですね、では甘えさせてもらいます」

ミコト「はい、お休みなさいカムイ」

カムイ「はい、お休みなさい、ミコトさん。……すぅ……すぅ」

221: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 23:07:38.19 ID:pJaV6OPX0
ミコト「……寝顔は昔のままですね。ねぇ、カムイ。本当はあなたが描いた似顔絵とか、文字の練習を見ながら静かに過ごしたかったんですよ」

ミコト「あなたがいなかった間に起きたこととか、それも全部くるめて、あなたと一緒に再び暮らせることをずっと待っていたんですよ」

カムイ「……んん……」

ミコト「ふふっ、母として接することばかりに気を向けていて触れかたを恐れていたのは私だったのかもしれませんね」

ミコト「あなたが私を覚えているのかは重要じゃないんですね。あなたと話をしたくて、あなたと心を通わせたくて、その思いの結果としてあなたと深い絆を作ることができたなら、それは確かな絆に違いないんですから」

ミコト「カムイ、愛しい私の子。戻って来てくれてありがとう……」

222: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 23:18:24.93 ID:pJaV6OPX0
◇◆◇◆◇
―白夜王国・王都入り口付近―

リリス「どうにかここまで来れましたね」

サイラス「ああっ、しかし、鎧じゃくてこのみすぼらしい行商人の恰好がに会うことになるなんて思わなかったよ」

リリス「でも、どこを見ても多くの人がいますね。何か催し物でもあるんでしょうか?」

サイラス「人の流れを見る限りだと、どうやら中心地に向かってるみたいだからな。もしかしたらそこに、カムイがいるかもしれない」

リリス「だといいんですけど、でもここまで来てなんですけど、これって立派な不法入国ですよね……」

サイラス「そんなことどうでもいいさ。まずはカムイの無事を確かめることの方が先だ」

リリス「カムイ様は無事なんでしょうか?」

サイラス「無事かはわからないけど、白夜王国の状況を見る限り、ここは大っぴらに処刑などを行う国には思えないから、この人だかりが公開処刑とかじゃないとは思う」

リリス「そうですね、白夜王国はなんだか穏やかな雰囲気がありますから」

サイラス「さぁ、広場までまずは向かわないと」

223: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 23:28:24.00 ID:pJaV6OPX0
リリス「それにしてもほんとにすごい人ですね。あの、すみません」

町人「ん、なんだい?」

リリス「すみません、旅をしてきたもので、これは一体何があるんですか?」

町人「ああ、王女様が見つかったという話でな。やっと外に出られるようになったらしく、これから皆に紹介されるそうなのだ」

サイラス「見つかった? 生まれたではなくて?」

町人「ああ、王女様はその昔暗夜王国に攫われてな、それは恐ろしい事件だった。当時の王、スメラギも凶刃に倒れたこともあって、多くの人々が悲しみに明け暮れたものだ。それも、ここにきて一つの区切りが来たというわけだ」

サイラス(暗夜に攫われた白夜の要人? そんな話は聞いたことないぞ……。いや、当然か、俺みたいな一兵、当時から考えれば一般の民衆の耳に入るはずもない情報だろうし)

リリス「かわいそうです」

町人「ああ、全くじゃ。しかも無事に帰ってきたというわけじゃないらしい」

サイラス「というと?」

町人「話によると、その王女は光を失っておると……」

サイラス「!!!!! すまない、その王女の名前は何と言うんだ?」

町人「たしか、カムイと」

リリス「あ、あの。皆さん、今広場に向かっていますけど、もしかして……」

町人「お譲ちゃん、察しがいいね。広場でそろそろ催し物が始まることになっているんだ。見に行くには遅かったな、もう人だかりで眼前で拝むのは難しいことさ」

サイラス「おじさん、たすかったよ。リリス行くぞ」

リリス「はい! おじさん、ありがとうございます」

224: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/18(火) 23:38:28.38 ID:pJaV6OPX0
サイラス「他人だと思うか?」

リリス「いいえ、そうは思えません」

サイラス「俺もだ。まったく、カムイは本当に不思議な奴で困るよ。とりあえず、まずは姿を確認する方が先決だ」

リリス「はい………あれ?」

サイラス「どうした?」

リリス「あれって広場の方角ですよね?」

サイラス「……あれは―――」

227: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 20:46:33.56 ID:IvhOrKkc0
◇◆◇◆◇
~数分前~
―白夜王国・炎の広場―

 ミコトサマー! ミコトジョウオウサマー!

カムイ「すごいですね……声だけでもわかります。ミコトさんが多くの人に慕われているのが」

リョウマ「ああ、母上の平和を願う心を多くの人々は理解している。俺もいずれは母上のような、人から信頼される人間になりたいものさ」

カムイ「リョウマさんなら大丈夫ですよ。ここに来るまでの間、多くの人に声をかけられていたじゃないですか」

リョウマ「ふっ、お前にそう言ってもらえるなら安心だな」

カムイ「それで、私がここに連れてこられたわけというのは?」

リョウマ「ああ、お前が帰ってきたことは多くの民が耳にしていることだ。しかし、その姿を確認できているのはごく一部にすぎない」

カムイ「ちゃんとした形で、私が帰ってきたことを示したい……そういうわけですね」

リョウマ「そうだ。お前が帰ってきてくれたことは今の白夜王国にとって良い知らせに他ならない」

228: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 20:56:23.14 ID:IvhOrKkc0
リョウマ「それにこれは暗夜に対する抑止力になると同時に、平和へとつなぐための足掛かりになると母上は言っていた」

カムイ「私がですか?」

リョウマ「ああ、ただそのやり方だが、俺には皆目見当がつかない。母上には母上の考えがあるのだとは思うが、大規模な争いが始まらないようにするためにいろいろ考えているに違いない」

カムイ「ミコトさんからは、お父様とは正反対の物を感じていましたから、そう考えて間違いないですよ。あの人はとても優しい人ですから」

リョウマ「ああ」

ミコト「カムイ、こちらへ来てくれますか?」

リョウマ「さぁ、母上がお呼びだ。行ってくるといい、皆にお前の姿を見せてやってくれ」

カムイ「はい、では失礼しますねリョウマさん」



リョウマ「ここまでは順調だ、何も起きなければいいのだが」

カゲロウ「リョウマ様、緊急の用件が」

リョウマ「カゲロウか、何があった?」

カゲロウ「はい、サイゾウから城の保管庫に何者かが侵入したようだと、死者も出ています」

229: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 21:05:31.53 ID:IvhOrKkc0
リョウマ「なんだと!?」

カゲロウ「現在確認したところ、カムイ様の所持品の剣が無くなっているそうです。それと死者は警備の者ですが……」

リョウマ「どうした?」

カゲロウ「信じたくはない話ですが、真正面から切り伏せられていたそうです。避けた形跡もなく、真正面からです。最悪、この国の者の中にこの狼藉を働いた者が迷い込んでいるかもしれません」

リョウマ「サイゾウは?」

カゲロウ「すでに周囲の監視を始めています。城内の探索はスズカゼが担当しています。後に合流する予定でありましたヒノカ様たちにもこの話は耳に入れてありますので、すでに戦闘の可能性を考えていると思います……」

リョウマ「すでに、この広場に入り込んでいる……」

カゲロウ「リョウマ様」

リョウマ「……狙いは明確か、俺はカムイと母上の元にいよう。カゲロウもできる限りでいい、周囲の監視を始めるんだ!」ダッ


230: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 21:12:11.23 ID:IvhOrKkc0
ミコト「カムイ、私はあなたの知っている暗夜の方々と友好的な関係が築けたならと思っています。そのために私はあなたの望むことをしてあげたいのです」

カムイ「私の望むことですか?」

ミコト「ええ、あなたが暗夜に戻りたいというなら止めることもありません。昔の時間は思い出すことがあっても作り上げることはできませんから、私は少し昔にこだわり過ぎていたんです」

カムイ「ミコトさん」

ミコト「でも、それは間違いでした。昔ばかりを見ていても前には進めません、だから皆さんにあなたを紹介させてください。そしてその時に、あなたの望みを母に聞かせてください。私のできる唯一のことは、あなたの選択の後押しをしてあげることなんですから」

カムイ「……はい、ありがとうございます」

ミコト「気にしないでいいの。必ず、あなたの選択を私は受け止めてあげます」




ミコト「みんな今日は急な話なのに、集まってくれてありがとう。今日は、みんなに改めて紹介したい人がいます」

???「………」ザッ

ミコト「さぁ、カムイ。皆さんに……」

カムイ「はい……?」

???「………」スッ

カムイ(これは……明確な殺意!? あの人ごみの中に、何かがいる!)

カムイ「みなさん、そこから離れて!」

???「………」ニヤッ

 ザシュッ グォォオオオオオン バシュウウウウゥゥゥゥン!!

231: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 21:23:38.07 ID:IvhOrKkc0
 ウワァァァァァァァ!!!!

カムイ(何かが浮遊している? これは私をそれとも……)

???「……」ブンッ

 ヒュヒュヒュヒュン

カムイ「ミコトさん、伏せて!」ガバッ

ミコト「か、カムイ!」ドサッ


カムイ「ミコトさん、大丈夫ですか?」

ミコト「は、はい。カムイのおかげで……。こんな、こんなむごいことを……」

カムイ(血の匂いがひどい。動かない人はもう駄目ですね、それよりも、あれは一体? 気配はあるようですけど、なんでしょうか、この感じは)

ミコト「地面が抉れています。リョウマたちと合流出来そうにありません」

カムイ「仕方ありません、私が敵を引き付けている間にミコトさんは、逃げてください」

ミコト「な、何を言っているんですか。一緒に、逃げましょう」

カムイ「ミコトさん、私の選択を後押ししてくれると約束してくれましたよね」

ミコト「それは―――」

カムイ「今がその時です。ミコトさん、早く逃げてください。だれだかわかりませんが、私が相手になります。てやぁ!」

???「………」キンッ

カムイ(くっ、純粋に強い……、ですが相手が一人なら……)

 シュオオォォォ 

カムイ(しまった、魔法を使う伏兵が!?)

 ガギン!

カムイ(ぐっ、右腕にあたって、うまく力が入らない………)

232: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 21:34:34.85 ID:IvhOrKkc0
???「……」

 ブンッ バシュッ!

カムイ「ああああああああっ!!!!」

カムイ(……膝を。これではもう素早く動けません、剣もうまく扱えず、敵は複数……八方ふさがりですね)

ミコト「カムイ!」

カムイ「来ないでください! そのままリョウマさんたちと放流してください! 私は大丈夫ですから――」

ミコト「そんなわけありません。カムイ、早くこちらへ、今ならまだ逃げきれるはずです」

カムイ「無理です、私のことは捨て置いてく―――」
 
 ドゴン!

カムイ「かはぁ……」ドサッ

カムイ(しまった。吹き飛ばされて、壁に追いつめられるなんて………。ふふっ、私の力ではこの者たちには勝てない……。わかってはいますけど少し悔しいですね)

???「………」スタスタスタ

カムイ(もう、眼の前に来てしまったんですね。私は剣も振れない、満足に動くこともできない……殺されるのを待つしかない」

???「………」チャキ

カムイ(……でも、これで、ミコトさんが生き残ってくれるなら、私の命は―――)






 ズシャ






 ドサリ――――



233: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 21:46:20.43 ID:IvhOrKkc0
カムイ(顔に暖かい何かが掛っている……)

 ヒュー ヒュー

カムイ(これは、私の呼吸の音? でも、違う。私の膝の上に誰かがいる感触、その何かの呼吸?)

 カ……イ カム……イ

カムイ(この声は、ミコトさん?)ピトッ

 ヒュー ヒュー

カムイ(とても弱弱しい呼吸音……)

カムイ(この暖かい水は? 血の匂いが…… ミコトさんの呼吸が…… あなたの声はなんで掠れているんですか?)

 ヤク……ヤクソク… ヒュー …マモ……レナイ……カアサン……デ ヒュー ゴメン……ネ

 ヒタリ

カムイ(ミコトさんの手のひらの感触……がする。もしかして、すべて終わったんですか?)

 ヒュー ヒュー ヒュッ ―――

カムイ「ミコトさん……。無事ですか……」

ミコト「…………」クタリ

カムイ「ミコトさん……」ピタリ

 ペタペタ

カムイ(頭……)

 ペタペタ 

カムイ(唇……)

 ペタペタ

カムイ(顎先……)

 ペタペタ

 ペタペタ









 グチャリ







カムイ(……………)



 グチャリ……グチャリ




カムイ(なんで……首に大きな傷があるんですか?)

234: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 21:56:56.72 ID:IvhOrKkc0
カムイ「ミコトさ―――」

 ドスッ

???「……」

カムイ「あ……こふっ」

カムイ(体が冷たい……。私はここで死ぬ。ミコトさんを殺した奴を目の前にしながら、何もできずに死んで行く?)

 ドクンッ

カムイ(………)

 ドクンッ

カムイ(許さない)

 ドクンッ ドクンッ

カムイ(殺してやりたい。殺してやりたい、八つ裂きにしてやりたい。顔を、体を、いや、お前という存在がただの肉片になるまで)

 ドクンドクンドクンッ

カムイ(殺しきってやる)

カムイ(今だけ光がほしい……八つ裂きにするために光が……)

カムイ「うあああああああああああああああああ!!!!!」

???「………」チャキ ブン




 グシャ



???「……くごっ、くごごごごぉ……おごっあが」

 プラーン

カムイ・竜人「……見えますよ。あなたの口に私の手が入っているのが。苦しそうですね……手で開きにしてあげますね」

 バチュ バキュバキ ビチャビチャ

 ブンブンッ ポイッ ズビチャ……

カムイ・竜人「足りない、タリナイ。まだ、全然足りない。これじゃ……足りない……」

???「……」スチャ チャキ



「お前ら全員……ミナゴロシダ」


235: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 22:09:09.45 ID:IvhOrKkc0
◇◆◇◆◇

リョウマ「くそ、母上とカムイは?」

サクラ「駄目です。広場の入り口が崩れていて、この先にいると思うんですけど、これじゃたどり着けません」

アクア「どうなっているかわからないんじゃ、どうしようもないわ。どうにかして向かわないと」

 バサバサバサ

ヒノカ「すまない、遅くなった。私の天馬が先行する」

アクア「ヒノカ、私を連れて行ってくれる? カムイ王女の様子が気になるわ」

ヒノカ「ああ、わかった。もう一度往復するから、リョウマ兄様は少しだけ待っていてほしい」

リョウマ「ああ、わかっている。それとアクア、気を抜くな。どこの手のものかわからないが、全く気付かれずにここまでのことをしたんだ、確実に手ごわい」

アクア「ええ、わかっているわ。ヒノカ?」

ヒノカ「ああ、行くぞ!」




ヒノカ「くっ、ひどい」

アクア「あそこで何かあったみたいね。残念だけど、あの付近にいた人たちは……」

ヒノカ「くそ、カムイに母様は!?」

アクア「……あれ、ヒノカ!」

ヒノカ「見つけたのか?」

アクア「崩れた竜の像の陰に、何かいるわ」

ヒノカ「あれは、母様の……!」

236: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 22:14:55.31 ID:IvhOrKkc0
アクア「………」

ヒノカ「……そ、そんな……母様……」

アクア「……残念だけど」

ヒノカ「くそ、なんで、なんでこんなことに! 私たちが何をしたというんだ!」

アクア「カムイ王女は?」

ヒノカ「くっ、カムイは? 母様だけでなく、カムイまでなんてことは信じたくないんだ。頼む……」

アクア「これは、血の跡。この先の道に続いているみたいだけど」

ヒノカ「くっ、すぐにこの跡を……」

アクア「いいえ、それよりも先にリョウマを連れて来たほうがいいわ。このままじゃ、ミコト女王が可哀そうよ……」

ヒノカ「あ、ああ、わかった」

アクア「私はこの跡を追うわ。大丈夫、無理はしないから、すぐに追いかけて来て」

ヒノカ「……わかった、すぐに追いかけるから任せたぞ!」


237: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 22:24:25.70 ID:IvhOrKkc0
アクア「この血の先に、カムイがいるの?」

???「ようやく、広場にたどり着いたみたいだな。黒い煙が見えた時から覚悟してたが、予想以上にひどい有様だな」

アクア「誰!?」

サイラス「ん、生存者か。そっちの倒れている人は」

リリス「すぐに手当てを……っ!」

アクア「……残念だけど」

リリス「そんな……」

アクア「それより、あなたたちは一般人でしょ? 早くここを離れたほうがいいわ」

サイラス「いや、そうもいかない。ここには大切な幼馴染がいるかもしれないんだ。無事を確かめるまで、帰るつもりはない」

アクア「もしも、この広場に来ていたのだとしたら絶望的よ。最初の爆発で多くが命を落としてしまったから」

サイラス「……そうか」

アクア「そういうことよ。後々、身元の確認が行われるはずだから。あなたたちはここから反転して、避難場所に行くといいわ」

サイラス「あんたはどうするんだ?」

アクア「私はやることがあるから、この先に進むわ」

サイラス「なら、それに同行させてもらうよ。ここは危険だ、護衛はいたほうがいいだろ?」

アクア「あのね……」

サイラス「それに馬っていう脚もある。すぐに行きたい場所まで行けるはずだ」

アクア「……、なんでそこまでするのかしら?」

238: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 22:29:24.39 ID:IvhOrKkc0
サイラス「俺はその幼馴染に命を救われた。そして、前にも同じように救われた。もらった恩を返さないままは嫌なだけ、ただそれだけだよ」

リリス「私も同じです。きっと、生きていてくれると信じているんです」

アクア「あなたたち……いいえ、なんでもないわ。じゃあ、その流れに私も混ぜてくれないかしら? 私が探している人のことを、私は知りたいとおもっているの。この前、やっと入り口に立てたばかりだから、ここでそれが終わるのは面白くないもの」

サイラス「なら決まりだな。俺はサイラス」

リリス「リリスと言います」

アクア「アクアよ」

サイラス「よし、リリス。アクアを頼んだ。一気に走り抜けるぞ!」

リリス「はい! アクアさん、私に掴まってくださいね」

アクア「ええ、わかったわ」

サイラス「それじゃ、行くぞ!」

239: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 22:37:28.29 ID:IvhOrKkc0



サイラス「よし、どうやら追いついたみたいだ……って、なんだあれ?」

カムイ・竜人「グオオオオオオオ」

???「………」

カムイ(モットハヤクウゴケルカラダガホシイ、コロシツヅケルコトノデキルカラダガ、イノチヲツミトルカラダガホシイ、ホシイホシイホシイホシイホシイ)

カムイ「ウギャアアアアアアアアアア」

 ズオオオオオオ!!!! バサバサ 

竜「グオオオオオオオオオオオオオン!」

サイラス「おいおい、何がどうなってんだ!?」

アクア「……カムイ」

サイラス「あれが、カムイなのか?」

リリス「カムイ様……」




タクミ「なんなんだよ、あれは」

オボロ「ど、どうします? 敵なのか味方なのかわかりませんけど」

ヒナタ「ただ、まっすぐ戦ったら負ける気しかしない相手だよな。一応、なんかよく見えない兵を殺しまくってるみたいだけど」

タクミ「くそ、ただ今さっきまでの服装を見た限りだと、あいつだってことは間違いないはずだ」

オボロ「どうします?」

タクミ「くそ、竜は撃つな。竜を囲んでいる気配を打て、少しでも当てたらこっちに飛んでくるって思ったほうがいい」

オボロ「わかりました、タクミ様」

タクミ「………くそっ、なんでこんな配慮してやらないといけないんだ!」

240: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 22:47:37.12 ID:IvhOrKkc0
アクア「ねぇ、サイラス」

サイラス「あ、ああ。すまない、突然のことで意識が飛んでいた」

アクア「ひとつ頼まれてくれないかしら?」

サイラス「頼まれる? 何を」

アクア「私をあの竜の前まで連れて行ってくれないかしら?」

サイラス「正気か? どう見ても今近づくのは間違ってる。見たところかなり興奮しているようだし……」

アクア「だめ、今すぐにでも止めないと。カムイはすべてを殺すために動き始めてしまうわ」

リリス「私もそう思います。今のカムイ様からは、優しいものがありません。見ているだけでわかるんです、あれはただ振り回されているだけだって」

サイラス「………」

アクア「あなたの幼馴染に対する思い入れは、その程度なの?」

サイラス「嗾けるのがアクアは上手いんだな。そう言われたらやらないわけにはいかないな」

アクア「感謝するわ。タクミ!」

タクミ「アクア姉さん!?」

アクア「周りの奴らをできる限り、あなたへと引きつけて!」

タクミ「どういうことか説明してくれないと」

アクア「説明する暇はないわ。とにかくやりなさい!」

タクミ「……ああっ、くそっ!」

オボロ(なんだかんだで、タクミ様って)

ヒナタ(アクア様にはまったく頭が上がらないよな~)

241: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 22:56:47.65 ID:IvhOrKkc0
タクミ「全員、気配を誘導する。できる限り竜の周りから、あいつらを引き離せ!」


サイラス「よし、場は出来始めたみたいだ。アクア覚悟はできているんだな?」

アクア「ええ、すぐにでも発進してもいいわ」

リリス「アクアさん、頑張ってください」

アクア「……ええ、まかせて」

サイラス「よし、カムイがあと一人倒せば……」

竜「グギャアアアアアア!」ズブシャ

サイラス「行くぞ!」

アクア「!!!!」

アクア(流石に大きく揺れるわね。馬に乗ったことなんてあまりなかったから体の負担が……)

サイラス「よし、このまま懐に入るぞ!」

竜(ダレダ、ダレデモイイ、ニギリツブセバ、ウゴカナクナル!)

アクア「来るわ!」

サイラス「わかってる。よっと!」

 ズガシャアアアン

サイラス「当たったら、一発アウトだな、これ」

アクア「もう一回来るわよ」

サイラス「ああ! よし、抜けた!」

アクア「できるかぎりカムイとの距離を維持して頂戴」

サイラス「わかった、で何時前まで運べばいいんだ?」

アクア「私があなたの背中を叩いたらよ………」

アクア(カムイ、私にどこまでできるかわからないけど……。必ずあなたを止めてみせるから)



 すぅ………



アクア「♪~ ♪~」

242: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 23:17:52.03 ID:IvhOrKkc0
サイラス「これは、歌?」

タクミ「アクア姉さん……」

リリス「この歌は………」

竜「グゴォ! ウウウウウウウウ」

サイラス「苦しんでる……のか?」

 ポス

サイラス「わかった……」

竜「ウオオオオオオ!」

サイラス(歌に苦しんでいるんじゃない、怯えているんだ。でも、一体何に……いや、そんなことどうでもいい。今はアクアの考えを信じるしかない)

アクア「♪~ ♪~」

サイラス「………」スタッ

竜「ガウゥ! ウガァ!」

アクア「……カムイ」

竜「グアアアアアアアア!」

 ガシッ!

アクア「ぐっ……」

サイラス「アクア!」

タクミ「ちっ、全員、武器を!」

アクア「タクミ!」

タクミ「……くそっ!」

竜「グウウウウウ」

アクア「カムイ、この前話したこと、覚えてる?」

竜「………」

アクア「私、まだあなたのことを知りたいの、あんな短い話だけであなたと別れるのはとても嫌なの」

竜「……」

アクア「おねがい、だから戻ってきて。そして私に、信頼できる人になる機会を与えてほしいの」

 ピキピキピキ パリィ
 
 シュオオオオオオオ

 ドサリッ

243: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 23:23:15.94 ID:IvhOrKkc0
カムイ「……こ、ここは」

アクア「カムイ、もう大丈夫、大丈夫だから」ダキッ

カムイ「アクアさん………、なんだかひどい夢を見ていた気がします。目が見えるようになって、多くの人を殺す夢でした」

アクア「そう、それは悪い夢よ」

サイラス(よし、カムイは無事みたいだ。だけど、ここに居続けると問題が起きるかもしれない……)

リリス「サイラスさん。私たちは……」

サイラス「ああ、一先ずここを離れよう」タタタタタッ


カムイ「あれ、今……。すみません、なんでもありません」

タクミ「何も覚えていないのか?」

カムイ「……覚えているのは……」

カムイ(ミコトさんの首にあった大きな傷の感触と、どす黒い心の流れだけ。そう言えば目は―――)

 パチリ……

カムイ「……やっぱり、何も見えない―――」

 第四章 おわり

244: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/19(水) 23:24:30.77 ID:IvhOrKkc0
現在の支援レベル

 スズカゼ  C
 リンカ   C+
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C+
 リリス   C+
 カゲロウ  C
 モズメ   C
 タクミ   D+
 リョウマ  C
 ヒノカ   C
 サクラ   C
 アクア   C→C+

252: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/20(木) 23:16:47.41 ID:DZhJuZke0
◇◆◇◆◇
―白夜王国・炎の広場―

カムイ「……ぐっ、頭が」

アクア「見たところ怪我は無いわ。たぶんその頭の痛みは竜化したのが原因よ。少しすれば治るはずだから」

カムイ「はい……アクアさん。ミコトさんは……」

アクア「残念だけど……」

カムイ「……そう、ですか…」

タクミ「なんで、そんなに冷静なんだよ、お前は……」

カムイ「タクミさん……」

タクミ「どうしてだ。母上が死んでしまったのに、なんでそんなに冷静でいられるんだ。お前は!」ガシッ

サクラ「タクミ兄様、やめてください!」

リョウマ「タクミ! カムイから手を放せ!」

タクミ「うるさい! 母上はこいつに殺されたようなものじゃないか! お前が、お前が現れなければ、こんなことに、こんなことになんてならなかったんだ!」

ヒノカ「タクミ、落ち着くんだ!」

 バッ

タクミ「くそ、くそおおおおおおお!」

リョウマ「………」

253: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/20(木) 23:27:09.68 ID:DZhJuZke0
カムイ「町の方たちは……」

リョウマ「全体に大きく被害が出ている、広場周辺はもう瓦礫ばかりだ。同時に多くの人々が命を落としたのも確かだ」

カムイ「………」

リョウマ「カムイ、これが暗夜王国のやり方だ。おそらく、城内に忍び込みお前の剣を奪い、事を起こすこの運びも。お前がここにたどり着くこと、そして母上がこうした場を設けることさえ」

カムイ「すべて、計算されたこと……。ははっ、だからガングレリは私を殺してくれなかったんですね」

カムイ(あの時、無限渓谷で死ぬことができなかったのは、私が駒としての役割を果たしていなかったから……、でもこうしてミコトさんが倒れた今、私の役割は……)

カムイ「わたしには、どこにも至れる場所など、最初からなかったのかもしれません」

アクア「どこに行くつもりなの?」

カムイ「私がここにいる意味はもう無いんです。暗夜に帰る意味も、白夜にいる意味も、何もかも……、もう無くなってしまったんですから」

???「お待ちください」

カムイ「?」

タクミ「ユ、ユキムラ……」

ユキムラ「カムイ様、お初にお目にかかります。私はユキムラ」

カムイ「ユキムラさんですか。一体何を待てというんですか? 私がここいることがそもそもの間違いだったんですから、もう構わないでください」

ユキムラ「いいえ、今回の事をミコト様は予感していたのです。これは避けられぬ運命なのだと……」

カムイ「でも、この運命を引き寄せたのは私です。私が現れたことで………」

ユキムラ「それは違います。ミコト様は暗夜王ガロン……いえ、もっと恐ろしい悪魔のなせる所業だと仰っておられました。カムイ様、あなたの所為ではないのです」

254: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/20(木) 23:37:36.55 ID:DZhJuZke0
ユキムラ「そして、あなたに試してもらいたいものがあるのです」

カムイ「私に……ですか?」

ユキムラ「カムイ様、像の場所に何か気配を感じませんか?」

カムイ「気配ですか………」

カムイ(これは……剣? いえ、どちらかといえば刀でしょうか?)

タクミ「あれは、黄金の刀?」

リョウマ「ユキムラ、まさかあれは伝説の?」

ユキムラ「はい、この世に救いのもたらす者、資格無き者は手にすることを許されない刀、『夜刀神』です」

カムイ(……救いをもたらす刀……)

 チャキィン ヒュンヒュンヒュンヒュン ガキンッ

カムイ「!」

タクミ「……あいつの前に、刀がやってきた? 刀が選んだっていうのか?」

リョウマ「カムイには資格があるということだろう。世界に救いをもたらしえる、その力が……」

サクラ「カムイ姉様」

ヒノカ「カムイ……」

カムイ「………」ガシッ

カムイ(こんな私に、何をさせたいんですか? もう、考えることさえ辛いのに……。でも、それが望みなら……)

255: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/20(木) 23:50:49.31 ID:DZhJuZke0
サイゾウ「失礼する、リョウマ様」

リョウマ「………サイゾウ、何があった?」

サイゾウ「はい、たった今入りました情報を、国より暗夜王国の大軍勢が出現、白夜王国に攻め入ってきたようです」

リョウマ「……こうして母上を殺め、町を破壊し、見計らったように侵攻とはな。これ以上好きにさせるつもりはない!」

サイゾウ「すでに多くの兵が出陣の準備を整え、あとは命令を出していただければ」

リョウマ「ああ、仇は討たねばならない。討たねばこの怒りが晴れることはない! 皆のもの、これより国境に赴き、暗夜と刃を交える!」




カムイ「……私は」

アクア「カムイ……、大丈夫?」

カムイ「アクアさん」

アクア「まるで迷子みたいな顔をしているわ」

カムイ「迷子、そうですね間違ってないと思います。私にはこの夜刀神が何を思って私を選んだのかさえ、皆目見当がつかないんですから」

アクア「なら、それは自分で見つめるしかないわ。この前言ったわよね、私は助言できるだけだから」

カムイ「はい……」

アクア「助言のこともあるけど、それよりもあなたの中にある竜の血について教えておくべきだと思ったの」

カムイ「私が、竜化したという話ですよね……」

256: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/20(木) 23:58:29.75 ID:DZhJuZke0
アクア「あなたの中にはとても濃い竜の血が流れているわ。だからこそ、あなたは竜へと姿を変えられた。そのことを覚えていないかもしれないけど」

カムイ「………」

アクア「あの時のあなたは衝動のままに行動した。今は戻ってきているけど、このままだといずれ支配されて……」

カムイ「殺しを続ける……ということですか?」

アクア「ええ、その力は強大なもので、何物をも殺せる力になるかもしれない。でも酷使すれば、いつかあなたが獣に成り果ててしまう……」

カムイ「獣……ですか」

アクア「ええ、見えるものをただ殺し続けるだけの、本能だけで暴れまわる存在になってしまうわ」

カムイ「なにか、手はあるんですか?」

アクア「ええ、あなたの衝動を封印するわ」

カムイ「……何にですか?」

アクア「竜石と呼ばれるものよ。この中に封印すれば、あなたは意志をもったままでも竜の力を使えるようになる。ただ、その力は劣るものになるわ。目だって見えないままよ」

カムイ「……それでも構いません、アクアさん、お願いできますか?」

アクア「……すべての説明が終わってないけど、いいの?」

カムイ「はい、心の中がもやもやしていて、今はほとんど考えることができないんです。それが少しでもマシになるなら……」

アクア「そう、それじゃ始めるわね……」

257: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 00:09:23.32 ID:U8x+Co9A0
アクア「…………」

アクア「良かった。これでひとまずは大丈夫。この竜石はあなたの一部、大切に持っていて」

カムイ「はい………」

アクア「ねぇ、カムイ」

カムイ「なんですか?」

アクア「私は確かに、あなたに対しては助言しかできない……。でも、考えることに疲れてしまったなら、そこでもう休んでしまってもいいとは思っているわ」

カムイ「………流されてしまうのも、悪くないかもしれませんね」

アクア「それで、カムイ。これからどうするの?」

カムイ「私も、国境へと向かいます。暗夜が攻めてきているというのなら、多分そこに暗夜の兄妹たちが来ているはずですから」

アクア「そう……私も一緒に行くわ。今のあなたじゃ、うまく歩けそうにないもの」

カムイ「そうですね、すみませんが連れて行ってくれますか………」

アクア「ええ、といっても私の他にもあなたを支えてくれる人はいるみたいよ?」

カムイ「え?」

モズメ「カムイ様、大丈夫なんか?」

カムイ「モズメさん、どうしたんですか。これから向かう場所は危険ですから、ここで待っていてください」

モズメ「何言うとんの、あたいはカムイ様についていくって決めたんやから、付いて行くに決まってるやろ」

258: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 00:16:10.19 ID:U8x+Co9A0
カムイ「……そうですか、それじゃモズメさん。付いて来てください」

モズメ「ええよ。それより……」

アクア「あら、どうかした?」

モズメ「えらい別嬪さんや。なんか、ちょっと自信無くなってまう」

アクア「ふふっ、よかったら私の代わりにカムイに肩を貸してあげてくれないかしら? ちょっと疲れてしまって」

モズメ「顔色一つ変えてへんやん。でも、代わらせてもらうで」

カムイ「モズメさん、ありがとうございます」

モズメ「ええよ。それより、早くせんと馬が全部出てまうから、急ぐで」

カムイ「はい……それじゃ行きましょう……」

259: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 00:29:37.31 ID:U8x+Co9A0
◇◆◇◆◇
―白夜王国・白夜平原―

 イクゾォーーー! ウオォォォー!

サイラス「まさか、ここまで暗夜軍が来ているなんて思わなかったな」

リリス「白夜でのあの騒ぎに乗じてきたんでしょうか?」

サイラス「さぁ、だけどどちらにせよ今すぐ暗夜に合流はできない。しばらくは様子を見るしかない。それに、カムイは必ずここに来るはずだ」

リリス「はい………カムイ様。私はどちらに到ろうとも、あなたに仕え続けます。必ず……」



カムイ(多くの人たちの声が聞こえる……とても大勢の声が聞こえる。白夜にいる間に起きた出来事は、すべてに悪意が込められていた……)

モズメ「………いた、リョウマ様や!」

カムイ(誰が見ても……白夜に光がある……)

リョウマ「やるではないか、暗夜の王子よ! だが、悪であるお前たちに俺は負けん!」

マークス「ふっ、口だけは威勢がいい。しかしいつまで続くか見せてもらおう!」

カムイ「モズメさん、あの二人の元へ行けますか?」

モズメ「ええよ。いくで!」


リョウマ「はぁ!」

マークス「ふんっ、これで、どうだ!」

リョウマ「まだまだだな………誰だ!?

マークス「……!」

カムイ「マークス兄さん……」

マークス「カムイ! 無事だったようだな。よく、よく生きていてくれた。さあ、こちらに来るんだ。お前もこの戦いに加われ、そうすれば無駄な犠牲を出さずに戦争を終わらせることができる」

リョウマ「ふっ、ここまで大軍で攻め込んできながらよくそんな御託を並べられる物だ。カムイ、耳を貸すことはない。お前は俺たちとともにいるべきだ」

マークス「気安く、妹の名を呼ぶな!」

260: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 00:38:54.47 ID:U8x+Co9A0
カミラ「そうよ、誰だか知らないけど。妹を呼び捨てにするなんて百年早いわ……」

レオン「ほんと、悪運強いね、カムイ姉さんは。だけど、あの場所で何をしてるんだろう?」

エリーゼ「そんなことどうでもいいよ。早く、カムイおねえちゃんの元に行かなくちゃ!」

ヒノカ「何を言う、カムイは私の妹だ。お前たちのように、攫っていった暗夜の者にその名を呼ぶ資格はないと知れ!」

サクラ「カムイ姉様は、私たちの大切な家族なんです!」

カミラ「あら、何を言ってるのかわからないわ。カムイは家族よ、それも私にとっては妹、誰にも渡さないわ。絶対にね」

リョウマ「カムイ、口車に乗せられるな。見てきただろう、暗夜の者が行ってきたことを、俺たちはお前を守る、守りぬいてみせる」

カムイ「リョウマさん………」

マークス「カムイ、戻ってこい! またきょうだい一緒に暮らそう。お前とともに長き時を過ごしてきた私たちとともに、また時を過ごそう」

リョウマ・マークス「カムイ!」


暗夜兄妹「………」


白夜軍兄妹「………」



カムイ「………………」

261: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 00:51:06.94 ID:U8x+Co9A0
カムイ(白夜が受けた被害の甚大さ。そして私の駒としての役割が終わった時点で、私が暗夜に戻ることに意味はない……)

カムイ(光の中を私は進めばいい、なにも決めなくていい……。休むことができる……)

カムイ(私は……………)






 
 
 (本当にそれでいいのか?)













カムイ(ミコトさんは私の決める道を後押ししてくれると言ってくれました………)

カムイ(考えることをやめて、ただただ流されるままに、白夜に行くことがミコトさんの望んだことなんでしょうか?)

カムイ(いいえ、ミコトさんが望んだことは、私が選んで選択すること……。最後に決めるのは自分自身)

カムイ(ミコトさんのいなくなった白夜で、私ができることは……おそらく無いでしょう。文字通り流されるままに、私は進むことになる)

カムイ(それは、私の生き方じゃない……。最後まで、考えて私は歩みたい……自分が決めた道を進みたい)

カムイ(私が選ぶべき道は光あふれる道じゃなくていい……)





(私が選ぶべきは………光の見えない闇を進みゆく、今までと変わらない世界で構わない……)

(私がするべきことは、光に甘えることじゃない……。今はそれがわかっただけで十分ですから)




 第五章 前篇おわり





262: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 00:54:32.67 ID:U8x+Co9A0
 スズカゼ  C→消滅
 リンカ   C+
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C+
 リリス   C+
 カゲロウ  C→消滅
 モズメ   C
 タクミ   D+→消滅
 リョウマ  C→消滅
 ヒノカ   C→消滅
 サクラ   C→D+
 アクア   C+

   ↓ 
 
現在の支援レベル(暗夜)

 リンカ   C+
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C+
 リリス   C+
 モズメ   C
 サクラ   C
 アクア   C+

264: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 01:05:58.21 ID:U8x+Co9A0
今日はここまでです。
 白夜は流されるままに戦いを続けつつ、戦争を終わらせるために動き始める話で、暗夜は最初から考えて行動する話だったらいいなという考えで始めたのがこの話なので、強制的に暗夜ルートです。

 DLCで色々と設定が増えてくると怖いですね……、今回は運が良かった。

 とりあえず安価です。
 五章後編入って少ししたら、カムイと話をするキャラクターを決めたいと思います。

 サイラス
 リリス
 マークス
 レオン
 カミラ
 エリーゼ
 モズメ


265: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 01:07:16.16 ID:U8x+Co9A0
安価番号をつけ忘れました。

>>267

で、おねがいします。

267: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/21(金) 01:29:36.10 ID:BAKMS0xbO
かみら

270: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 22:16:10.51 ID:U8x+Co9A0
◆◆◆◆◆◆

リョウマ「………それがお前の答えだというのか、カムイ!」

カムイ「はい、これが私の答えですリョウマさん……」

リョウマ「なぜだ、なぜだカムイ。お前にだってわかるだろう、暗夜のやってきたことが! 母上を殺し、王国を蹂躙した者たちなのだぞ!」

カムイ「私には私の考えがあります。リョウマさん、それを言ったところであなたが納得することはないと思います。だから何も言いません、ただ私は暗夜王国に戻らなければいけない理由がある、ただそれだけなんです」

リョウマ「くっ、やはりお前は……暗夜の人間ということなのか」

カムイ「私は私です。モズメさんはどうしますか?」

モズメ「答えくらいわかっとるやろ?」

カムイ「そうでしたね、私の後ろへ」

モズメ「わかったわ」

ヒノカ「おい、お前は白夜の民じゃないのか!? お前は村をノスフェラトゥの攻撃で失ったのに、なぜ暗夜に付くんだ!」

モズメ「あたいの命を救ってくれたんは、白夜王国やなくてカムイ様や」

タクミ「……っ!」

モズメ「あれは誰のせいでもあらへん。でも、あたいはあの時からカムイ様のために戦う決めたから、カムイ様の向うところにあたいは付いて行く。ただそれだけや。城ではいろいろありがとな。でも、これだけは変えられへん」

271: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 22:26:44.96 ID:U8x+Co9A0
マークス「ふっ、自国の民からこのように言われては、面目も何もあったものではないな」

リョウマ「カムイ……、お前は自身を殺そうとしたガロンの元へと帰ろうというのか。そんなこと許すわけにはいかん。暗夜に行けば、お前は殺されることになる。それをみすみす行かせてなるものか!」

マークス「カムイ………それは本当のことか?」

カムイ「そうですね。たぶん、私が戻ったところでお父様は良い顔をしないでしょう。でも、私には暗夜に帰ります」

リョウマ「ならば、力づくでもここでお前の願いを砕くしかあるまい」チャキ

カムイ「………斬りますか?」

リョウマ「殺しはしない。ただ、もう自由に歩ける体ではいられぬと思え………おまえは白夜にいるべき人間だ。その夜刀神が白夜に牙をむくことがあっては、母上に何と言って詫びればいいのかわからん。それゆえに、お前から自由を奪わせてもらう」

マークス「そうはさせん。白夜の王子よ」

リョウマ「邪魔立てするか!」

マークス「当り前だ。カムイは私にとって大事な家族……たとえ、この血が繋がっていないとしても、家族と信じる者の決断を邪魔するものを私は許さん」



272: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 22:33:24.08 ID:U8x+Co9A0
カミラ「……マークスお兄様の言う通りよ。大事なカムイに手を出すつもりなら、容赦しないわ」

レオン「はぁ、姉さんと血が繋がってないからって言って、僕たちの絆が切れることはないよ。残念だったね、白夜の王子」

エリーゼ「うん、カムイおねえちゃんをいじめる悪い人をはやくやっつけて、みんなで暗夜に帰ろっ!」

カムイ「………そういうことです、リョウマさん。私は暗夜に戻ります」

タクミ「そうかい……、ならここで、討たせてもらうよ!」ヒュンッ

サイラス「そうはいかない!」キンッ

タクミ「!? あんたはあの時にアクア姉さんを乗せていた!? くそ、暗夜の人間だったっていうのか!?」

エリーゼ「ええっ、サイラス。今までどこに行ってたの!?」

サイラス「すみません、やっと合流できたみたいで。サイラス、ただいまカムイ様と合流しました」

カムイ「……やっぱりサイラスさんでしたか、あのとき感じた気配は誰かに似てると思いましたから」

リリス「私もいますよ、カムイ様。少し怪我をしてるみたいですから、治療しますね」

カムイ「リリスさん、ウィンダムに帰ったんじゃなかったんですか?」

リリス「ガンズさんと一緒に歩いて帰るなんて、ひどい仕打ちですよ」

カムイ「ふふっ、そうかもしれませんね。ここまで追ってきてくれる人を持てて、私は幸せです」

ヒノカ「カムイ……嘘だろ。なら、私は何のためにここまで頑張ってきたんだ……」

サクラ「カムイ姉様……行かないでください」

カムイ「ヒノカさん、サクラさん。すみませんが、私の居場所はこちらなんです」

273: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 22:42:37.41 ID:U8x+Co9A0
サイラス「よし、カムイ。乗ってくれ、すぐにここを――」

レオン「サイラスだっけか、それは無理だ」

サイラス「レオン様? なぜですか、カムイはずっと白夜にいて………」

カムイ「レオンさん、わかっています」

レオン「ここで一度、カムイ姉さんにはちゃんと白夜と戦ってもらう必要がある。周りの兵は、まだカムイ姉さんのことを認めているわけじゃない、カムイ姉さんの意思を見せつける必要がある」

カムイ「わかっています。その代り、殺す必要はありませんよね?」

レオン「ああ、むしろここで誰か一人でも殺してしまったら、引き際が難しくなるからね。僕たちも協力する、早く終わらせて暗夜に帰ろう」

カムイ「はい、それじゃ。行きましょうか、リリスさん、サイラスさん、モズメさん」

白夜兵「裏切り者のカムイ王女を討ち取れ!」


マークス「ふっ、白夜の王子よ。一騎打ちと行こう……」

リョウマ「いいだろう、『雷神刀』の錆になりたければ、かかってくるがいい!」


ヒノカ「カムイを返してもらうぞ!」

カミラ「あらあら、威勢のいいお嬢さんね。でも、呼び捨てにするのは聞き捨てならないわ」


タクミ「どけよ、そいつを殺せないじゃないか」

レオン「生憎だけど、それは無理な相談だね。あんたはここで無様に逃げかえることになるんだから」


エリーゼ「みんな、負けないでー!」

サクラ「み、皆さん、無茶はしないでください……」



274: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 22:53:31.75 ID:U8x+Co9A0
マークス「ふん、まだまだだな白夜の王子よ」

リョウマ「くっ……ヒノカ、タクミ、大丈夫か」

ヒノカ「大丈夫だ、大丈夫だが……」

カミラ「中々だったわよ。でも、まだまだ力不足ね。ふふっ」

タクミ「く、くそ……」

レオン「ふぅ、案外手ごわいんだね。でも、これ以上やっても結果は見えていると思うよ」

カムイ「そうですね。白夜兵の方々には悪いですが、これ以上戦っても時間の無駄ですし、わざわざ死傷者を増やす必要はないでしょう」

白夜兵「ぐっ……馬鹿な、なんだこのでたらめなうごきは……」

リョウマ「……退くしかないというのか」

マークス「賢明な判断をするのだな。まだやるというのならば、容赦せん」

リョウマ「くっ、皆の者、一度下がる……カムイ、お前はいずれ後悔することになるぞ」

カムイ「………」

ヒノカ「カムイ……私は……くっ」

タクミ「覚えていろ、いつか必ず、お前を殺してやる」

サクラ「……カムイ姉様……」

ユキムラ「サクラ様、ここは危険です。早く後方へ」

サクラ「………」

アクア「カムイ」

カムイ「アクアさん」

アクア「あなたの選んだ道を見せてもらったわ。でも私は白夜とともにありたいと思う。だから……」

カムイ「はい、わかっています」

アクア「ええ、もしもまた出会うことがあったら……、いいえ、なんでもないわ。それじゃ」


暗夜兵「白夜の軍勢、すべてが撤退を開始しました!」

マークス「よし、今回の戦い、私たちの勝利だ!」

 ウオオオオオオオオオオオオ!!!!

275: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 23:01:58.87 ID:U8x+Co9A0
◆◆◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・無限渓谷へと続く道―

カミラ「カムイ!」ギュッ

カムイ「カミラ姉さん、少し痛いです」

カミラ「だめよ、久しぶりに妹の体温を感じたいんだから。よかったわ、無事でいてくれて」

カムイ「はい、長いこと心配をかけました」

カミラ「白夜で変なことされなかった? 何かされたならすぐに言ってね、数十倍にして白夜にお返ししてあげるから」

カムイ「いいえ、特にこれといって何かされたわけではありませんから……。それより、もう姉さんと呼ばない方がいいのかもしれませんね」

カミラ「………どうしてかしら?」

カムイ「私と皆さんは本当の兄妹じゃなかったんですから……、そう考えたらこうして姉さんと呼ばれるのは嫌なことなのかもしれないと」

カミラ「……それはだめよ。私はカムイに姉さんと呼ばれたい。あなたを初めて知ったとき、目が見えないことを気にしないあなたを見た時に、あなたのことを守ってあげたいって思ったの」

カムイ「気にしてないように見えたのにですか?」

カミラ「そう、気にしてないように見えたからよ。どんなことがあっても、気にかけないカムイを見ているとね。少しだけ心配になるから、カムイはすべてを自分の中でどうにかしようとするから」

カムイ「あはは、それほどでもないですよ?」

276: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 23:12:12.44 ID:U8x+Co9A0
カミラ「褒めてなんていないわ。ねぇ、カムイもっと私たちを頼って頂戴。前にも言ったけど私たちはあなたの家族、そこに血の繋がりなんてありはしないわ。これからいろいろと何かが起こる、その時に少しでも困ったことがあったら相談して、可能な限りカムイの力になってあげるわ」

カムイ「………はい、ありがとうございます」

カミラ「ええ……」

カムイ「……」モミモミ

カミラ「んっ、カムイ? 胸に手を当ててどうかしたのかしら?」

カムイ「やっぱり、そうですね……いい勝負だったかもしれません」

カミラ「……何の話かしら?」

カムイ「いえ、白夜にカミラ姉さんと良い勝負ができそうな人がいたんです……」

カミラ「………へぇ、そうなの」

カムイ「あれ、カミラ姉さん? どうしたんですか?」

カミラ「……もう少し大きくなった方がいいのかしら?」

カムイ「………」

277: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 23:24:01.60 ID:U8x+Co9A0
◆◆◆◆◆◆

マークス「よし、白夜からの追手はいないようだ。このまま無限渓谷を通って王都へと戻る」

エリーゼ「うん、お城に帰って早く休みたいよ」

レオン「まったく、まだ敵地なんだから気を抜くにはまだ早いよ」

エリーゼ「わかってるよ。でも、本当に良かったカムイおねえちゃんが帰って来てくれて、。私、とっても嬉しい」

カムイ「心配をかけましたね」クシャクシャ

エリーゼ「えへへ、頭撫でてもらっちゃった」

マークス「よし、もうそれくらいでいいただろう。さすがに無いとは思うが、待ち伏せされている可能性もある。エリーゼと私の部隊は先の様子を見てくる。レオン、カミラどちらかは周辺の確認を頼む」

レオン「わかったよ。さてと、どうしようか?」

カミラ「私はできればカムイの近くにいてあげたいわ。といってもレオンもカムイと一緒にいたいのよね?」

レオン「そんなことあるわけ……」

エリーゼ「レオンおにいちゃん、白夜におねえちゃんがいるって聞いたとき、一番慌ててたんだよ」

レオン「ば、ばかっ////」

エリーゼ「えへへ、それじゃマークスおにいちゃんと先見てくるね!」

レオン「まったく……あっ、カムイ姉さん、そのこれは……」

カムイ「心配してくれたんですね、レオンさんありがとうございます」

レオン「う、ううう。その、無事でよかった。それだけだから!」

カムイ「はい、ありがとうございます」

カムイ(でも、帰ってからが大変ですね。私がするべきことが、まだはっきりと考えられません、でも今は重荷は何もない方がいい……)

レオン「それで、どうするんだいカムイ姉さん」

カミラ「そうね、カムイに選んでもらいましょう。どちらと一緒にいたいのか?」

カムイ「………そうですね」

278: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 23:34:43.73 ID:U8x+Co9A0
◆◆◆◆◆◆

サクラ(カムイ姉様……、やっと出会えたのにこれでお別れなんて嫌です)

サクラ(カムイ姉様が、このまま暗夜に行ってしまったら殺されてしまうかもしれないって、リョウマ兄様は言ってました)

サクラ「そんなの絶対に嫌です。なんとかしてカムイ姉様を……」

サクラ(でも、私に一体何ができるんでしょうか? 私は非力で、力なんて全くない……)

サクラ「うっ……ううっ。どうしたら」

???「サクラ、なに泣いてるの」

サクラ「! ガザハナさん、泣いてなんかいません……」

カザハナ「……あの王女のこと?」

サクラ「やっぱり、カザハナさんには隠しきれませんよね……」

カザハナ「サクラはあの王女が白夜を出ていったから泣いているってわけじゃないみたいだね」

サクラ「カムイ姉様は暗夜に行くって言ってました。すごく悲しかったです、また離れ離れになってしまうから」

カザハナ「……」

サクラ「でも、暗夜に戻ったらカムイ姉様は、もしかしたら殺されてしまうかもしれないって聞いて、そんな場所に帰っていこうとするカムイ姉様を思うととても辛いんです」

カザハナ「そう、サクラはやさしいんだね。みんなはほとんど裏切り者としか王女のことを言ってないのに、サクラはまだ王女のことを姉様って呼んでる。すごいよ」


279: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 23:44:22.78 ID:U8x+Co9A0
サクラ「そんなことありません。私は結局心配しているばかりで、何もできない、ただの子どもなんですから………」

カザハナ「サクラ……」

???「それで、サクラ様はどうしたいんですかー?」

サクラ「え、ツバキさん?」

ツバキ「カザハナ、サクラ様のしたいこと聞いてくるって行ったのに、一緒にしみじみしてちゃだめだよ」

カザハナ「だ、だって幼馴染としてサクラの話はできる限り聞きたいの。あたしはサクラが優しい人だって知ってるから、まずは心から解せたらって」

ツバキ「うん、カザハナらしいと思うよー。でも、今は時間に余裕がないから、すぐにでもサクラ様に聞かなくちゃいけない」

サクラ「えっ、ツバキさん? カザハナさん? いったい何の話なんですか?」

カザハナ「……うん、そうだね。ここはツバキの言う通りかも。よし、サクラ!」

サクラ「ひゃ、ひゃい!」

カザハナ「サクラ、サクラはどうしたいの? このまま、ここで待っているだけでいいの?」

サクラ「か、カザハナさん?」

ツバキ「サクラ様。俺とカザハナはサクラ様の臣下です。サクラ様の命令には絶対に従います」

カザハナ「ねぇ、サクラ。これが最後のチャンスになっちゃうかもしれないんだよ? それでもいいの?」

280: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 23:48:05.41 ID:U8x+Co9A0
サクラ「………」

サクラ(……二人とも、ごめんなさい。私のわがままに、巻き込んでしまって、でも二人がそう言ってくれるなら)

サクラ「ツバキさん、カザハナさん」

ツバキ・カザハナ「はい、サクラ様」

サクラ「………」






サクラ「私………」









サクラ「私を…………」












「カムイ姉様の元へ、連れて行ってください!」






第五章 おわり

281: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 23:51:32.49 ID:U8x+Co9A0
現在の支援レベル(暗夜)

 リンカ   C+
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C+
 マークス  C
 レオン   C
 エリーゼ  C
 カミラ   C→C+
 リリス   C+
 モズメ   C
 サクラ   C
 アクア   C+

282: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/21(金) 23:55:32.65 ID:U8x+Co9A0
今日はここまでになります。ここから個人妄想が全開になってく感じです。

 安価でカムイと一緒に待機するのをどちらにするか決めたいと思います。

 レオン
 カミラ

 のどちらかになります。

 安価指定の番号は

 >>285
 
 になります。
 


285: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/22(土) 00:11:20.45 ID:Cn2cP4JJ0
乙!
ここからがFEifっていう題材の醍醐味やね
安価はレオン

289: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/22(土) 22:24:55.42 ID:UJ6IctII0
◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・無限渓谷入口―

レオン「……」

カムイ「……」

レオン「姉さん、なんで僕を選んだんだい?」

カムイ「どちらでもいいと言われたので、私のことを一番心配してくれたレオンさんにしただけですよ?」

レオン「そ、そう。……だけど、無事に帰って来てくれてよかったよ」

カムイ「……無事ですか。そうですね、よく生きてここまでこれたものです」

レオン「ねぇ、姉さん。さっきの話だけど」

カムイ「……お父様のことですね」

レオン「父上が姉さんを殺そうとしたって……」

カムイ「そうですね。殺そうとしたというよりも、用が済んだという考えがいいでしょう」

レオン「……」

カムイ「どうやら、私はお父様が与えた役割をすべて終えたようなので、正直帰ったところで歓迎されません」

レオン「その心配はしなくていいよ。僕が何とかしてみる。それに悪運の強い姉さんなら、なんだかんだどうにかできる気がするよ」

カムイ「ふふっ、悪運だけでどうにかなるならレオンさんに手は掛けさせませんよ。でも、無理はしないでくださいね。レオンさんの立場が危うくなるようなことはやめてください」

レオン「そんなことにならないように考えてるから大丈夫だよ……。そろそろ僕たちに最後尾の部隊が合流する頃だと思う。マークス兄さんとエリーゼもそろそろ戻ってくるはずだよ」

290: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/22(土) 22:35:23.75 ID:UJ6IctII0
カムイ「はい、ではそろそろ移動の準備を……」

 ……サ……バ………サ……

カムイ(………これは何の音?)

カムイ「モズメさん」

モズメ「なんや?」

カムイ「あちらの方角、何か見えますか?」

モズメ「あちらって、白夜の方角やけど………」

サイラス「……!」

リリス「何か、こっちに来てます」

レオン「………天馬みたいだね。誰かが僕たちを追ってきたみたいだけど、あれだけ?」

カムイ「………」

カムイ(無謀すぎる行為、とてもじゃありませんが場数を踏んでいる人がする行為じゃないですね)

レオン「敵である可能性は高いよ、姉さん」

カムイ「まずは、待ちましょう。こちらの人数なら、少しで事足りますから。相手の目的が知りたいところです」

レオン「同感だね……」

 バサバサバサバサ

カムイ(いったい誰が……こんな危険場所にやってきたというんですか?)

カムイ(天馬ということはヒノカさんでしょうか? でも、ヒノカさんはすでに幾度となく戦いを経験している人、こんな死にに行くようなことをそう簡単には行わないでしょう)

カムイ(では……)

291: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/22(土) 22:47:39.99 ID:UJ6IctII0
カムイ「一体誰が……」

 バサッ……バサッ…… スタッ シュタッ

カムイ(天馬に一人、降りたのが二人……。そのうちの一人……この人は、まさか)

サクラ「ハァ……ハァ……カムイ姉様!」

カムイ「サクラさん……あなたがどうしてここに? 撤退したはずじゃなかったんですか」

サクラ「私は………カムイ姉様を連れ帰りにきました。私たちと一緒に白夜に帰りましょう。今なら、リョウマ兄様やみんなの誤解を解けるはずです」

レオン「わずか三人で何しに来たかと思えば、寝言は眠りながら言ってほしいね」

カザハナ「ちょっと、誰だか知らないけど聞き捨てならないわね! 私たちは本気でここまで来たんだから」

レオン「ふん、白夜の一般兵に興味なんてない。僕はそこにいる白夜の王女に言っている。さっさと尻尾を捲いて帰るんだね。ここにいたって勝ち目はない」

カザハナ「ふん、暗夜の王族っていうのはこんな奴らばっかりなのね。それと、あたしにはカザハナっていうちゃんとした名前があるんだから」

レオン「そうかい。で、その一般兵のカザハナが僕たちに一体何のようなわけ?」

カザハナ「いちいちムカってする言い方、あんたに話すことなんて何もないわ。あたしたちの用事はカムイ王女、あんたよ!」

292: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/22(土) 22:58:43.72 ID:UJ6IctII0
カムイ「………カザハナさんでしたか、残念ですけどその願いにうなずくことはできません」

カザハナ「サクラのことを思うんだったら、今すぐこっちに戻ってきなさいよ!」

レオン「お願いする側の態度じゃないね」

カザハナ「暗夜の奴にお願いなんて死んでもごめんよ。あたしはサクラの命令に従うだけ、ただそれだけなんだから」

ツバキ「うんうん、カザハナの考えに僕も賛成だなー」

カムイ「天馬の方ですか」

ツバキ「初めましてー。サクラ様の臣下、ツバキって言います。カムイ王女、平原で戦った方たちはあなたのことを目が見えないと油断してましたけど、俺は手を抜いたりなんてしませんから……」

カムイ「……サクラさん、頼みます。今すぐ引き返してくれませんか、まだここの包囲は完成していません。今ならどうにか見つからずに白夜の陣営に帰ることができます」

サクラ「か、カムイ姉様……」

カムイ「お願いしますサクラさん。あなたはここにいてはいけないんです。無理に戦う必要は今どこにもありません、だから……」

サクラ「駄目です!」

カムイ「………」

サクラ「今ここでカムイ姉様を止められなかったら、暗夜で殺されてしまうかもしれない……。それを見送るなんてできません!」

293: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/22(土) 23:08:53.65 ID:UJ6IctII0
カムイ「ふふっ、とても頑固なんですね。サクラさんの見た目からは想像できません」

サクラ「……本当は私は強情なんです。だから、ここは引けません」

カムイ「ええ、そちらがその気ならやるしかありません……」

レオン「カムイ姉さん、サポートするよ」

カムイ「ありがとうございます……。すみませんが、皆さん。サクラさん、ツバキさん、カザハナさんを殺さないようにお願いします」

レオン「姉さんに従うよ。でも、後続が到着する前に決着をつけないといけない。他の兵たちは、容赦なく三人を殺すはずだ」

カムイ「はい、わかりました。行きますよ、皆さん!」



カザハナ「サクラ、早く命令してよ。ここまで来たらもうやるしかないんだから!」

ツバキ「サクラ様、命令をお願いしますー」

サクラ(……行きます。カムイ姉様!)

サクラ「ツバキさん、カザハナさん。カムイ姉様を取り戻してください、おねがいします」

カザハナ・ツバキ「サクラ様、わかりました!」




カムイ「サイラスさんはモズメさん、リリスさんと陣を組んでツバキさんを牽制してください。私はサクラさんの元へ、レオンさんと向かいます」

サイラス「わかった。モズメ、後ろ任せたぞ!」

モズメ「まかせとき!」

リリス「はい、怪我をしたら言ってください」

ツバキ「へぇ、馬で相手するのかい? なら、さっさと君たちを倒して、カザハナと挟み撃ちにするのがいいかもねー」

サイラス「ふん、ならさっさと倒して見せるんだな」

ツバキ「言ってくれるねー。後悔しても知らないよ」

294: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/22(土) 23:20:44.70 ID:UJ6IctII0
レオン「そっちからこっちに攻めてくるなんて。いい度胸してるじゃないか」

カザハナ「うるさい、むしろカムイ王女からこっちに来てくれるなんて、走る手間が省けたって感じ」

カムイ「カザハナさん」

カザハナ「……あたしはあんたを倒して連れ帰る。ただそれだけ、サクラのためにここまで来たんだから負けるわけにはいかない!」

レオン「ふん、一般の兵がどこまでできるのか見せてもらおうかな。失望させないでよね」

カザハナ「ムカつく、すぐにその余裕を吹き飛ばしてやるんだから!」

カムイ「では、行きますよ。カザハナさん」

 タタタタタタッ

カザハナ「!?」

カザハナ(こんなに入り組んでる場所なのに、すごい急接近。本当に目が見えてないって先入観捨てないとだめだ」

カザハナ「えい!」

カムイ「てやぁ!」

カザハナ「まだっまだああ!」

 キンッ キンッ 

カザハナ「負けてたまるかぁ! えい、やぁ!」

カムイ(思った以上に攻めが強いですね……。後続の到達までの時間があやしくなってきました……)



ツバキ「あれー、なんでこうもしぶといのかな」

サイラス「ハァ……ハァ。幼馴染から頼られてるんだ、そう簡単に倒れるわけにはいかないんだ」

ツバキ「なら、これで!」

モズメ「させへんよ! サイラスさん、大丈夫?」

サイラス「ああ、まったく。ここまで強い相手を任せるなんて、カムイも意地が悪いよ」

モズメ「本当やね。でも、負ける気なんてあらへんよ」

295: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/22(土) 23:31:54.83 ID:UJ6IctII0
カザハナ「このまま、押しきれば! てやぁ!」

 ザッ 

カムイ(また距離を戻されてしまいました。すごい気迫ですね……。早くしないといけないというのに、なかなかうまくいきませんね)

レオン「カムイ姉さん、この子は僕が引き受けるよ」

カムイ「いいんですか?」

レオン「この二人はサクラ王女のために戦ってる。なら、そのサクラ王女に危害が向かう状況になれば……」

カムイ「そうするしかなさそうですね。では、一気に私が抜けますから、私の出発地点に向けて魔法をお願いします」

レオン「ああ、せいぜい。僕が撃った魔法に当たらないようにしてよね」

カムイ「わかってます。私を信じてください」

カザハナ「何ごちゃごちゃ話してるの! こないならこっちから!」

カムイ「………でやぁ!!!!」ブンッ
 
 ガキン!

カザハナ「ううっ……! すごい振り下ろし、手が痺れ……って、あんた!?」

カムイ「すみません、戯れている時間はないので」

カザハナ「行かせない! それに背中ががら空きよ!」

レオン「ブリュンヒルデ!」

カザハナ「えっ、カムイ王女に向けて!?」

カムイ「……!」サッ

 ドォン

カザハナ「避けた……! しまった、サクラ!」

レオン「余所見をしてる暇はないよ」


296: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/22(土) 23:43:19.62 ID:UJ6IctII0
カザハナ「えっ、きゃああああ」

レオン「ふん、こんなものかい?」

カザハナ「う、ううっ、まだまだ……あうっ」ドタッ

レオン「死にたくなければ、そのままにしているんだね」

カザハナ「サクラ……サクラぁ、ごめん、ごめんね……」ポロポロ……


ツバキ(! カムイ王女がカザハナを抜けた!?)

ツバキ「サクラ様!」

サイラス(視線が逸れた!)

サイラス「今だ! 当たれぇ!」

ツバキ「しまっ……」

天馬「ヒヒイイイン!!!!」

ツバキ(馬をやられた!? 態勢が崩れて……)

ツバキ「ぐぁ…… くっ!」

 チャキン

サイラス「無駄な抵抗はするな」

ツバキ「………俺が負けるなんて、サクラ様……」




サクラ「………ツバキさん! カザハナさん!」

 タタタタタタタタッ

カムイ「見つけましたよ、サクラさん」

サクラ「カムイ姉様……」

カムイ「サクラさん……いいえ、白夜王国の王女、サクラ。もうあなたを守るものはいません」

サクラ「……ううっ」

カムイ「投降してください」

サクラ「………カムイ姉様。どうして、白夜に戻って来てくれないんですか……」

カムイ「………」

サクラ「………どうして、どうしてですか姉様……」

カムイ「白夜に帰るという答えを私は持っていない。ただそれだけなんですよ」

サクラ「………」

カムイ「……」

サクラ「私の……私の負けです……カムイ姉様」


297: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/22(土) 23:55:29.49 ID:UJ6IctII0
◆◆◆◆◆◆
~戦闘後~

カザハナ「………」

ツバキ「………」

サクラ「………」

レオン「で、姉さんどうするの?」

カムイ「できれば、何もなかったことにして処理したいところなんですが、もうそうはいかないんですよね」

レオン「もう向こうには後続部隊の影が見える。そしてここに隠れられるような場所はどこにもない。このまま、三人を置いて行けば確実に殺されるだろうね」

サクラ「!!!!」

カムイ「もう少し早く終わらせることができればよかったんですが、こうなっては―――」

カザハナ「ねぇ……」

カムイ「はい?」

カザハナ「サクラだけでも助けてよ、あたしはどうなっても構わないから、サクラだけでも助けてよ」

ツバキ「俺からもお願いだ。こんなこと言えた義理じゃないことはわかってる。わかってるけど、サクラ様だけはどうか助けてほしいんだ」

レオン「さっきまでは連れて帰ると粋がっていたくせに、ずいぶん調子が良すぎるんじゃないかな?」

カザハナ「それくらい、あんたに言われなくたってわかってる! でも、サクラだけは、サクラだけは助けてほしい。お願い、なんだってするから……」

サクラ「そ、そんな。私の命令に二人は私の命令に従ってくれただけなんです。カムイ姉様、私の代わりに二人を助けてください! お願いします」

カムイ「………残念ですけど、私にはどうにもできない問題です」

サクラ「そ、そんな……」

カザハナ「なんでよ! あんたは暗夜の王族なんでしょ! 王族ならそれくらいどうにかできるんじゃないの!? なんでできないの」

298: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 00:04:32.90 ID:L6yI1+U30
カムイ「カザハナさん。私は、お父様に絶対に歓迎されることのない人間なんです。この意味がわからないわけじゃないですよね?」

カザハナ「………」

カムイ「私が持っている暗夜の王族という肩書に効力なんて無いんです。ただの名札と同じです、そんな私が白夜の、しかも王女を捕虜にして所有権を主張したところで、そんなものが認められるわけはないんです」

カザハナ「な、なんで、なんですぐに決めるの。もしかしたら………」

カムイ「もしかしたらという過程は私の立場を考える限り無意味です。私があなた方を捕虜として得たとしたら『もしも』はありません、絶対的に屈辱的な終わりが待っているだけでしょう」

カザハナ「そ、そんな。そんな、そんなこと!」

カムイ「だから、帰って欲しかったんです。その忠告をあなたたちは無視してしまった。無視してしまった以上、その結果がどうなるか、覚悟していたはずです。サクラさんも、それは考えていたことでしょう」

サクラ「ううっ、ごめんなさい。ツバキさん、カザハナさん、私が、私が我慢をしなかったばっかりに」

カザハナ「サクラの所為じゃない! 悪いのは……悪いのは、あたしだよ。あたしが、あたしがサクラに決めるように迫ったから」

ツバキ「俺も同罪だよ。ほんと、二人ともごめん」

299: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 00:15:04.70 ID:L6yI1+U30
レオン(本当にまずいことになった。ここで白夜の王女が殺されたとなれば、白夜は防衛をかなぐり捨てて、暗夜に攻めてくるはずだ。暗夜はまだ国内に問題を抱えているから、それをどうにかしたかったんだけど。でも、流石にこれはどうにもできない。あのとき、サクラ王女が帰るという選択肢をしなかった時点で――)

 チョンチョン

レオン「ん?」

カムイ「………」

レオン「姉さん、どうかした?」

カムイ「いいえ、サクラさんとカザハナさん、そしてツバキさんについてのことなんですが」

レオン「姉さんだって言っていただろう、姉さんの捕虜として扱っても絶対に殺される。父上はすぐにそう決めるよ。これはいくらなんでも変えられないことだから」

カムイ「………レオンさん。なんでサクラさんたちを殺さないように指示を出したと思いますか?」

レオン「……言いたくはないけど、サクラ王女が妹だから、でしょ?」

カムイ「それは全体の一割程度の理由ですね」

レオン「……姉さん。何を考えてるの?」

カムイ「ええ、私の最初するべきことを考えていました。まずはお父様の信用を勝ち取るのが一番だと考えました。重荷がないのでいろいろとやることがあるかと思いましたが、ここで重荷が増えましたので、それを使おうと思います」

レオン「まさか、カムイ姉さん………」

カムイ「……レオンさん、協力してもらってもいいですか?」

レオン「……わかった。協力するって言ったからね。で、僕は何をすればいいの?」

カムイ「はい……それはですね」


第六章 前篇 おわり

300: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 00:17:05.33 ID:L6yI1+U30
現在の支援レベル(暗夜)

 リンカ   C+
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C+
 マークス  C
 レオン   C→C+
 エリーゼ  C
 カミラ   C+
 リリス   C+
 モズメ   C
 サクラ   C
 アクア   C+
 カザハナ  D
 ツバキ   D

仲間たちの支援
 
 今回の戦闘でサイラスとリリスの支援がCになりました。
 今回の戦闘でサイラスとモズメの支援がCになりました。
 今回の戦闘でリリスとモズメの支援がCになりました。

305: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 20:32:01.03 ID:L6yI1+U30
◆◆◆◆◆◆◆◆
 ―暗夜王国・王都ウィンダム『クラーケンシュタイン城』―

マクベス「………」

ガロン「………」

マークス「父上、ただいま戻りました」

ガロン「うむ、マークスよ。敵国での戦闘、御苦労であったな」

マークス「ありがたきお言葉。それと、もう一つ良い知らせが。無限渓谷にて行方不明となっていたカムイが、無事に戻りました」

ガロン「…………」

カムイ「お久しぶりです、お父様」

ガロン「ふん、今さら何をしに戻ってきたのだ……」

エリーゼ「お、お父様……? カムイおねえちゃんが帰ってきてくれたのに、どうしてそんな言い方……」

カムイ「エリーゼさん、仕方ありません。言ったでしょう、私は歓迎される立場にいないと」

エリーゼ「……そんな」

ガロン「カムイ、お前はこの行方不明になった間、白夜の王城にいたと聞く……」

カムイ「はい、間違っていません」

ガロン「お前はそこで白夜女王より、出自を聞かされたのであろう? 自分が我が娘ではないこと、幼い頃に攫われた白夜の王女であることも。そして、我が暗夜王国が憎き敵国であることも、すべて理解しているのだろう?」

306: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 20:42:50.97 ID:L6yI1+U30
カムイ「はい、よく聞かされました」

ガロン「にも拘らず、この城に戻ってきたのは何故だ?」

カムイ「なぜって、もしやお父様は私があなたを殺すために送られてきたとお考えなんですか?」

マクベス「自分の口でいうとは、自覚があるようですな。カムイ王女、私たちはあなたを信用していないというわけです」

マークス(カムイの予想通りだな……。やはり、歓迎されることはなかったというのか……ここは)

マークス「父上、カムイが父上を討つために送られてきたというのは、あり得ないことです」

ガロン「なんだと? なぜそう言い切れる」

マークス「その証拠をお持ちしましょう。レオン、捕虜をここへ」

レオン「……わかったよ」




カザハナ「放せ、放しなさいよ!」

サクラ「カザハナさん! 二人に乱暴しないでください!」

ツバキ「無防備な女の子に乱暴とか、本当に暗夜は救いようがないね」

マクベス「ほぅ、これは良い土産ですね……」

ガロン「………こやつらは」

マークス「はい、白夜王国の王女とその臣下たちです。カムイは平原の戦闘の後、あとを追ってきたこの者たちを打倒し捕らえました。カムイが父上を暗殺しようというのなら、ここに彼らがいることはありえません」

マークス(いくら、父上といえど、こうして王女を捕らえた事実を踏まえられれば、カムイを見る目を変えてくれるはずだ)

ガロン「ふっ、それがわしに対する忠誠の証……、そう言いたいのだな?」

307: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 20:54:08.16 ID:L6yI1+U30
サクラ「カムイ姉様………まさか、私たちを殺さなかったのは、そんなどうして!」

カザハナ「カムイ王女、絶対、絶対あんたのこと許さないんだから! 絶対に……」

マクベス「黙りなさい」ドスッ

カザハナ「うっ、ぐぁ……」ドタッ

マクベス「それ以上騒ぐと、今すぐにでもその口が開けないようにしてしまいますよ?」

カザハナ「ううっ……こんな、こんな終わり方なんて……」ゴホッゴホッ

ツバキ「カムイ王女………君はこの状況をどうも思わないっていうのか。サクラ様は君をずっと思っていたというのに!」

カムイ「うるさいですね。少し静かにしていてもらえますか」バシッ

ツバキ「ぐっ……」ポタッポタッ

サクラ「ツ、ツバキさん!」

カムイ「捕虜の分際で、何を懇願しているんですか。少しは立場を分けまえてください」

エリーゼ「カ、カムイおねえちゃん……、なんだか怖いよ」

カミラ「………そうね。でもカムイの言う通りよ。捕虜はここでは口をふさいでおくこと、それが唯一できることなんだから」

エリーゼ「カミラおねえちゃん?」

レオン「そうだよ。今はカムイ姉さんを信じるしかないから……」

レオン(本当に、うまくいくんだよね。姉さん………)

308: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 21:03:01.32 ID:L6yI1+U30
カムイ「すみませんお父様、時間を取らせてしまったようです。どうですか私の忠誠心の形はこの捕虜三人、これで私を認めてはくれませんか?」

カザハナ(なによ、結局私たちを使って、安全を確保しようって魂胆じゃない! サクラが、サクラが昔から、こんな奴のために悩んできたなんて、こんなひどいことって……)

ガロン「くっくっく、カムイよ……お前の考え見せてもらった。確かに手土産見せてもらったぞ……」

マークス「では………父上」






ガロン「だが、これだけでは足りんな」






マークス「な、父上何を言って」

ガロン「黙れ、マークス。今わしはカムイと話をしている、お前の意見は聞いておらん」

マークス「………くっ」

カムイ「足りないとは、どういう意味でしょうか。お父様」

ガロン「お前の忠誠心は確かに見せてもらった、しかし、それだけではお前を信用することはできぬ、そう言っておるのだ」

カムイ「そうですか……」

ガロン「カムイ、命令だ。その三人の首を、今ここで跳ねよ」

サクラ・カザハナ・ツバキ「!!!!!!!」

マークス「父上!」

ガロン「カムイ、お前の暗夜への忠誠心は、その三人の血によって証明される。さぁ、白夜ではなく、この暗夜にいることを選んだその意思、ここでわしに見せつけよ!」

カムイ「………」










カムイ「はい、わかりました」ジャキ

309: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 21:13:01.88 ID:L6yI1+U30
サクラ「ひっ……カムイ姉様」

カムイ「衛兵の方々、三人を動けないように拘束してください」

衛兵たち「し、しかし……」

ガロン「カムイの命令に従え!」

衛兵たち「ハ、ハイッ!」

カムイ「……白夜で手に入れた夜刀神が、白夜の王女とその臣下の命を奪う刀になるなんて。おもしろいことですね」

カザハナ「やめて、サクラは……サクラだけは! サクラだけは!」

サクラ「カザハナさん、ツバキさん。ごめんなさい、ごめんなさい……」

ツバキ「ほんと、絵に描いたような鬼だよ君は、絶対に許さないからね」

カムイ「そうですか、別に許さなくて構いませんよ。私はお父様から信頼を回復したいだけですから。そのためなら何だってします。その最初が、皆さんの命を奪うことになった。ただそれだけです」

エリーゼ「い、いや。カムイおねえちゃん。そんな、そんなことしちゃ――」

カミラ「………」

マークス「………」

レオン「………」スッ

カムイ「結局こうなるから、殺しておこうと言ったのに。まったくとんだ時間の無駄遣いです。やはり、首だけ持ってくるのが一番でしたね……」

サクラ「カムイ……姉様……」

カムイ「臣下が死ぬのを見るのは辛いでしょう、私なりの慈悲です。サクラさんから、送って差し上げますね」

ツバキ「サクラ様!」

カザハナ「サクラぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

カムイ「さようなら、サクラさん」ヒュンッ!

サクラ「!!!!!!!!」




 ガキンッ!!!!

310: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 21:24:15.82 ID:L6yI1+U30
カムイ「――っ!」

 ヒュンヒュンヒュンヒュン カランカラン

マクベス「んー? これは一体何の真似ですかな?」

ガロン「……」

マークス「なぜ、こんなことを」

エリーゼ「ど、どうして……」

カミラ「……ふふっ、そういうことね」



レオン「カムイ姉さん、そこまでだよ………」

サクラ「……えっ?」

カザハナ「な、何が起こって」

カムイ「レオンさん、なんで邪魔をするんですか?」

レオン「まったく、姉さんがここまでずる賢い人間だなんて思わなかったよ。まさか、僕が手に入れた捕虜を自分の手柄にして、お父様からの信頼を勝ち取ろうなんて、筋書きを作るんだから」

カザハナ「えっ、えっ? ど、どういうこと、あたしたちって確か――って、痛ぁ! ツバキ何すんのよ!」

ツバキ「カザハナ、今は何も言わない方がいい。捕虜は捕虜らしく、黙っておくほうがよさそう」

ガロン「どういうことだ。レオン……」

レオン「はぁ、確かにカムイ姉さんはこの三人を倒す戦闘に参加はしたけど、全く役に立ちませんでした。むしろ怯えて逃げるばかり。そこで僕と他の兵でこの三人を捕らえた。そしたら、本当に笑っちゃうことだけど、姉さんはこれを献上すれば、暗夜での地位を回復できる、そんなことを言い出したんです」

311: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 21:32:52.18 ID:L6yI1+U30
カムイ「………誰にも言わない約束だったじゃないですか」

レオン「僕が聞いたのは、捕虜で父上が認めてくださるまでの話だよ。僕には僕なりに捕虜を有効的に使う方法を考えてる、それを台無しにされるわけにはいかなかった」

カムイ「お父様、私は――」

ガロン「カムイ、黙っておけ。レオン、この者たちを生かしておく必要があると、お前は言うのだな」

レオン「はい、父上」

ガロン「その理由を申してみよ」

レオン「氷の部族の反乱のことは、父上も耳にしておられると思います」

ガロン「うむ、反乱は抑えねばならない。しかし、それとその捕虜たちと何か関係があるというのか?」

レオン「現在暗夜王国は白夜王国という大国との戦争に入っています。そのためには暗夜王国全体としての結束を強めることが急務です。今、暗夜の各地には表面上化しているだけでも、多くの国々が反乱を起こしている。ここを白夜に付け込まれると、内側で活動する反乱軍に油を注ぐ行為になります」

カザハナ(なに、こいつ。難しいこと言ってるけど……。もしかして、あたしたちを庇おうとしてるの?)

312: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 21:41:48.69 ID:L6yI1+U30
レオン「白夜の王女と臣下を材料に白夜を牽制している合間、それらの問題を解決すべきだと僕は考えている」

ガロン「………」

マクベス「なるほど、内部の問題を片付け暗夜の力を確かなものにする。レオン王子らしい考えです。王女が捕らえられていると知れば、白夜の腰抜けたちは、そう簡単に暗夜へ攻め入ってこれなくなることでしょう」

ガロン「レオン、お前は暗夜王国に白夜を倒すほどの力がないといいたいのか?」

レオン「今の力だけでも白夜を征服、支配することは簡単でしょう。現に――」チラッ

カザハナ「な、なによ!」

レオン「この一般兵は僕の一撃で地に倒れましたから」

カザハナ(………なんであたしのことを例に出すのよ!)

レオン「ですが、犠牲は最小限にとどめようと考えるのが僕のやり方です。お父様、白夜を倒したあとでも戦いはあります。それを考えれば、多くの戦力を維持し、被害を最小限にすることは大きな課題となるでしょう。僕は、それを考えてこの捕虜三人の命を奪うべきでないと進言します」

カムイ「お父様。ここで捕虜を残しても意味などありません、ここで斬り伏せてしまうことが、暗夜のためです」

マクベス「どうしますか、ガロン王様……」

ガロン「ふっ、そうだな。カムイ、一度確認する。レオンの言っていたこと、それはすべて本当か?」

313: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 21:55:57.10 ID:L6yI1+U30
カムイ「くっ、はい。私はお父様から信頼されたい……ただ、そのためだけに」

ガロン「くっくははははははははははははは!」

一同「!!!!!!」

ガロン「くっくっ、そこまで小賢しいことを考えるとは、お前のことを少しばかり誤解していたようだ。お前のその悪だくみ、わしには愉快に見えた。ここまで人の心を踏みにじる真似ができるお前は、やはり暗夜の王族なのだろう……」

カムイ「お父様……」

ガロン「カムイ、お前を我が子として、もう一度迎え入れてやろう」

カムイ「ありがとうございます」

ガロン「して、レオン」

レオン「はい、父上」

ガロン「お前の考えは理解した。すぐに王女とその臣下を捕らえたこと、白夜へ伝えよ」

レオン「ありがとうございます、父上。捕虜は捕らえた僕が面倒を見ますので、手は煩わせません」

ガロン「構わん、好きにするがいい。皆の者、御苦労であった。各々休息に入るがよい……」

カムイ「………」コクリッ

レオン「………」コクリッ

マークス「一体、何が……」

エリーゼ「ほ、ほんと。よくわからなかったよ」

カミラ「ふふっ、そうね。でも、よかったじゃないすべて丸くおさまったみたいだから」

314: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 22:08:37.96 ID:L6yI1+U30
◆◆◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・レオン邸―

レオン「カムイ姉さん。今はどこにも監視の目はないよ。優秀な部下がすべて確認し終えたみたいだから」

カムイ「そうですか……。レオンさん、ありがとうございました。おかげでサクラさんたちの命をどうにかつなげました」

レオン「べ、別にカムイ姉さんのために頑張ったわけじゃないから。僕にだってやるべきことがあった、ただそれだけだよ」

カムイ「いいえ、お礼を言わせてください。ありがとうございました」

レオン「でも、これからが大変だよ。父上に言ったとおり、僕はあの三人を白夜への抑止力として引き取ったにすぎない。もしも、すべての反乱が終息して、白夜へと攻める準備が整ってしまった時は……」

カムイ「わかっています。それまでに色々と考えるべきことが出来てくると思います。でも、レオンさんの演技は中々でしたよ」

レオン「そんなこと言ったらカムイ姉さんの演技のほうがすごいというか、本当にサクラ王女の首を落としてしまうかと思ったよ」

カムイ「がんばりましたから」

???「何が頑張りました、よ!」

レオン「ん、一般兵か。少し静かにしてほしいね。姉さんと大事な話の最中なんだ。さっさと、与えた部屋に戻ってよ」

カザハナ「一般兵じゃない、あたしにはカザハナって名前があるんだから!」

315: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 22:17:51.75 ID:L6yI1+U30
カムイ「カザハナさん、すみません。怖い思いをさせてしまいましたね」ピトッ

カザハナ「ええっ、なんでいきなり人の顔……触って」

カムイ「カザハナさんの顔を知りたいだけですから。他意はありませんよ」

レオン「カザハナ、諦めるんだね。姉さんはそれを始めたら、お前を調べ尽くすまでやめないはずだから」

カザハナ「な、そ、そこは眼尻……ひぅ」

カムイ「カザハナさんは眼尻が弱いんですね。なんだか威勢が良かっただけに、そう言う弱弱しい声が出るというのは、なんだかとてもいいですね」

カザハナ「な、何がいいのよ! ひゃうっ!」

カムイ「ふむ、このまいてあるものはなんですか?」

カザハナ「それは鉢巻、って解かないでよ! ああっ、髪が前に掛って」 

カムイ「すみません。ちょっと力を入れすぎちゃったみたいです」

カザハナ「もうっ……」

レオン「で、何の用? 特に話すことは今ないんだけど」

カザハナ「……ありがとう」

カムイ「?」

カザハナ「あたしたちのこと、どうにか助けてくれて……」

カムイ「そんなことですか……。別に気にしないでください、サクラさんたちを利用して、私がどうにか地位を回復したことに違いないんですから。結局、私はあなたたちを売ったんです」 

316: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 22:29:10.52 ID:L6yI1+U30
レオン「そうだよ。それにお前たちの命が絶対に助かる保証なんてない。僕は自分の考えを通すために、お前たちを利用しただけだよ。お礼を言われる筋合いはない」

カザハナ「そうかもしれないけど、お礼は言いたいの。ありがとう。それに牢屋じゃなくて、こんな立派な場所に置いてくれるんだから、少しだけ見直したよ」

レオン「ふん、カザハナは立ち回りを見直したほうがいいよ。戦場であんな倒れ方したら無様でしかないからね」

カザハナ「………なんで、そうやって人をコケにする発言するわけ? あたしはお礼を良いに来ただけなのに……」

カムイ「ふふっ、カザハナさん。レオンさんは、照れてるんですよ」

レオン「ちょ、カムイ姉さん!」

カザハナ「……へー、そうなんだ」ニヤニヤ

レオン「………こいつだけ打ち首にしとけばよかった。なんで姉さん、こいつから始めなかったの?」

カムイ「順序っていうものがありますから……。それでは私はこれで失礼しますね。お二人の……いえ、レオンさんの邪魔をするわけにはいきませんから」

レオン「姉さん、なんでそこ言いなおしたの?」

カムイ「他意はありませんよ。それよりもレオンさん、今度教えてほしいことがあります、お時間をいただけますか?」

レオン「連絡をしてくれれば出来る限り時間は取れるようにするよ」

カムイ「ありがとうございます」

317: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/23(日) 22:39:02.93 ID:L6yI1+U30
カムイ「レオンさん、カザハナさんやツバキさん、そしてサクラさんをお願いしますね」

レオン「わかってるよ。心配症だね」

カムイ「すみません。それでは、失礼いたしますね」

レオン「うん。おやすみ、姉さん」

◆◆◆◆◆◆
―白夜王国・北の城塞・カムイの部屋―

カムイ「…………」

カムイ(このベッドの上に倒れられるのが、夢のようですね)

カムイ(本当に、今日までのことが夢だったらと望まぬことはありません)

カムイ(…………)

カムイ(どうしましょうか……。思った以上に辛いですね……)

 コンコン

カムイ「ん? 誰ですか?」

 ギィ

???「カムイ様」

カムイ「あれ、どうしたんですか……」

リリス「カムイ様、少々時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

カムイ「リリスさん?」


322: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/25(火) 00:17:15.62 ID:61R++ivL0
リリス「はい、カムイ様に少し付いてきていただきたい場所があるんです」

カムイ「別に構いませんよ。でも、できれば城塞から出る場所でない方がうれしいんですが」

リリス「はい、大丈夫ですよ。この部屋から一歩も出たりしませんから。少しだけ失礼しますね」ダキッ

カムイ「リリスさん、抱きついてどうかしましたか?」

リリス「はい、今からカムイ様をご招待する準備みたいなものです」

カムイ「これがですか? ベッドの上で抱き合ってるところをジョーカーさんたちに見られたら、いらぬ誤解を生みそうですね」

リリス「そ、そういう意味じゃありませんから!/////」

カムイ「ふふっ、ではリリスさんにお任せしますから。どうぞ、私をそこに連れて行ってください」

リリス「はい。 神祖竜よ、汝が地に、我らを迎え入れたまえ」

 ヒュオオオオオオオオ 

カムイ「!?」

 トスッ

カムイ「……ここは一体?」

リリス「すみません。驚かせてしまいましたか?」

カムイ「えっと、さっきまで私とリリスさんはベッドの上にいたはずなのに……、あのここはどこなんですか?」

リリス「はい、ここはカムイ様が先ほどまでいた大陸、いえ世界とは異なる場所、星界と呼ばれる場所です」

323: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/25(火) 00:26:31.80 ID:61R++ivL0
カムイ「星界? リリスさん、あなたは一体?」

リリス「まだ人の体は保てるみたいです。もう少し無理をすることになっていたら、維持できなかったかもしれませんね」

カムイ「維持ですか?」

リリス「はい。カムイ様、私は人間ではないんです」

カムイ「奇遇ですね。私も人間ではなかったみたいですから、お揃いです」

リリス「………」

カムイ「……?」

リリス「……あの、一世一代の告白だったんですけど?」

カムイ「それに目が見えない私が今さら形で嫌うことなんてありません。リリスさんはリリスさんですよ」

リリス「はぁ、覚悟をきめてきたんですけど、全部カムイ様に台無しにされた気分です」

カムイ「すみません。ところでこの星界というのは、どういう場所なんですか?」

リリス「……本当にカムイ様は動じない人ですね。なんだか少し寂しいです」

カムイ「そんなことはないですよ。リリスさんにさびしい思いをさせていたわかってしまったら、顔を撫でてあげなくちゃと思うくらいには、人のことをよく考えてますから」

リリス「それって、私の顔を触って反応を確かめたいってだけの話ですよね?」

カムイ「……」

リリス「まぁ、その話はもういいです。ここは星界、時空を司る星竜の加護を受けた世界です」

324: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/25(火) 00:37:34.22 ID:61R++ivL0
カムイ「加護を受けた世界ですか?」

リリス「はい、ここでは時間の流れが少し異なります。感覚的にはこちらの方が無効の世界より時間の進みが早いとだけは言えます。それに、竜脈も満ちています」

カムイ「へぇ、どういうものができるんですか?」

リリス「そうですね……。ちょっと待っていてください。えいっ!」

 ドォン!

<マイルーム>

カムイ「いきなり何かができたみたいですね」

リリス「はい、こうやって何かを建てたりできます……けど、この建物は駄目ですね」

カムイ「どうしてですか?」

リリス「その、カムイ様のためにとお家を作ってみたんですけど……、その梯子で登らないといけないものにしてしまったので」

カムイ「別にいいですよ。梯子を登るくらい造作もありませんから、訓練で梯子から一気に下りるのもこなせますから」

リリス「いいえ、木を伐採しますね」

 スパーン!

<マイルーム(地)>

リリス「これで大丈夫になりました。積もる話もありますので、中で話をしましょう」

カムイ「はい、わかりました。しかし、私の家ですか。なんだか柄にもなくワクワクしてしまいますね」

325: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/25(火) 00:49:04.39 ID:61R++ivL0
◆◆◆◆◆◆
―マイルーム―

カムイ「それでリリスさん、私にこのような場所を提供した理由というのは何なんですか?」

リリス「カムイ様は、これからどうするつもりなんですか?」

カムイ「……これからというのは、暗夜で何をするかということですよね?」

リリス「はい。今回はどうにかなりました。でもこれはガロン王様の目が届いていなかった場所で準備ができたからですよね?」

カムイ「そうですね。お父様は私が死んでいると仮定していたようですし、たぶん生きていたとしても白夜に付くだろうと思っていたのかもしれませんから」

リリス「ここは、あの世界とは違う場所です。そして、ここで話したことは当の本人たち以外知ることはない場所です」

カムイ「なるほど、そういうことですか」

リリス「はい。この先、多くのことを考える必要が出てくると思います。その度に誰にも邪魔されない場所を見つけるのは難しいことですから。私はカムイ様が進む道を信じています。だから、私はカムイ様にこの場所を提供したいんです」

カムイ「それで、無茶をしたんですか?」

リリス「もしかしたら人ではない本来の姿になってしまうかもしれませんでした。でも、そうなったとしても私は、カムイ様をこの場所に連れて来たかったんです」

326: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/25(火) 00:58:15.10 ID:61R++ivL0
カムイ「リリスさん……。ありがとうございます。実は少しだけ辛かったんです、何を考えるにしても監視されている可能性が否めない場所に居続けるというのは。この世界、有効的に使わせてもらいますね」

リリス「はい、カムイ様にお役に立ててうれしいです」

カムイ「といっても、今はやることの選択肢はないんです。それに、次にやることは決まっているでしょうから」

リリス「そうなんですか?」

カムイ「はい。だから、まずはそれにどう対処するべきなのかを考えているのが、今の実情です。あと、私は暗夜について知らないことが多すぎますから、それをどうにか補わないことには、暗夜に来た意味が何もなくなってしまうでしょう。いろいろと大変な日々が始まりそうです……」

リリス「カムイ様は強いんですね」

カムイ「皆さんによく言われますけど、全くそんな気はしないんですが」

リリス「ふふっ、カムイ様はいつも謙遜されますから。それが美徳だとマークス様は言っていました」

カムイ「ここにはいつでも来れるんですか?」

リリス「はい、私に言ってくだされば、すぐに門を開きます。ただ、門を開いた場所からどこかへ移動することはできませんから、そこだけはお願いしますね」

カムイ「この先、利用することが多くなると思います。そして、使うことがなくなった時が、すべてが終わったときなんでしょうね」

リリス「はい、そうなるといいですね」

327: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/25(火) 01:11:07.77 ID:61R++ivL0
リリス「私からの話は以上です。では、そろそろ元の世界に戻りましょ――あ、あれ……」

 ポフッ

カムイ「リリスさん、大丈夫ですか」

リリス「えへへ、ごめんなさい。少しだけ無理をしてしまったみたいです。元の世界に戻って部屋で休みますから……」

カムイ「いいえ、ならここで休んでいきましょう。ベッドは……大きいのがあるみたいですから」

リリス「カムイ様? ひゃっ」

カムイ「やっぱり、リリスさんは軽いですね。ちょっと、ベッドまで移動しますね」

リリス「す、すみません。私、人間じゃないのにあまり体力ないんです」

カムイ「気にしないでください。平原で私の元に来てくれたこと、とてもうれしかったです。これくらいは甘えてもいいんですよ。そうだ、何かしてもらいたいことはありますか?」

リリス「し、してもらいたいことですか?」

カムイ「はい、私のできる範囲でしたら。リリスさんの望むことをしてあげたいです」

リリス「え、えっと……じゃあ、カムイ様……一緒に、寝てもらっても……いいですか?

カムイ「一緒にですか?」

リリス「そ、その、だめ……ですか?」

328: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/25(火) 01:23:51.85 ID:61R++ivL0
カムイ「いいえ。それじゃ、横失礼しますね」

リリス「んっ」ギュッ

カムイ「ふふっ、リリスさんは甘えん坊ですね」

リリス「……良かったです。無事でいてくれて、カムイ様」

カムイ「はい、私もまたリリスさんに会えてうれしいですよ」ナデナデ

リリス「私が、今度はちゃんと守って見せます、だから……今だけは甘えさせてください」

カムイ「はい、でも。無理はしないでくださいね。リリスさんにもしものことがあったら、私はとても悲しくなりますから」

リリス「そう言ってもらえるだけで、私はとっても嬉しいです。お休みなさい、カムイ様」

カムイ「ええ、ゆっくり休んでください……」

リリス「はい………。すぅすぅすぅ」

カムイ「………」



カムイ(今日、サクラさんの首を剣で斬ろうとしたとき………)

カムイ(私はどこかで、人が死ぬことに喜びを感じていた。私は本気でサクラさんを殺そうとしていた。あの時、レオンさんの攻撃が遅れていたら、その時は………)

カムイ(アクアさんは言っていた。獣に成り果てると本能のままに動くようになってしまうと……)

カムイ「衝動は封印されているけど、私の中に流れる竜の血は、まだ脈打ち続けているんですね……」

カムイ(いつか、私の中の衝動がすべてを殺すことを望んでしまったら……その時、私はどうなってしまうのでしょうか?)

カムイ「少し辛いですね。これを抱えながら過ごさなければいけないというのは……」

リリス「う、うーん。カムイ様………」

カムイ「……ふふっ」ナデナデ

カムイ(今は休みましょう。今日はさすがに疲れましたから………)

カムイ「……お休みなさい」






カムイ(目覚めた時、私が私でありますように……)

329: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/25(火) 01:26:50.20 ID:61R++ivL0
◆◆◆◆◆◆

―暗夜王国・王の間―
ガロン「くっくっくはははははははははははははは。あれで我を出し抜いたつもりであろうな」

ガロン「カムイよ、つくづく面白いことをしてくれる。すべてが我が掌の上だということを知らずにどうもがくのであろうな?」

ガロン「これもあの方のご意思があってこその采配、さぞ面白いことになるのであろう」

ガロン「例の件、カムイに任せよう。彼の部族の反乱、その鎮圧をな………」

ガロン「さぁ、どう我を楽しませてくれるのだろうか」

「………我が子よ」



 第六章 おわり


330: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/25(火) 01:29:27.75 ID:61R++ivL0
現在の支援レベル(暗夜)

 リンカ   C+
 ジョーカー C
 ギュンター C
 サイラス  C+
 マークス  C
 レオン   C+
 エリーゼ  C
 カミラ   C+
 リリス   C+→B
 モズメ   C
 サクラ   C
 アクア   C+
 カザハナ  D→D+
 ツバキ   D→D+

仲間たちの支援
 

 カザハナとレオンの支援がCになりました。

331: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/08/25(火) 01:32:34.96 ID:61R++ivL0
今日はここまでです。リリスは星界をつなぐだけなら人間状態を維持できるんじゃないかなとか思ったので、人間形態で進行します。
 
 安価で第七章開始時にレオン邸に着いたとき、レオンと話をしているキャラクターを決めます。

 カザハナ
 サクラ
 ツバキ

 >>334でおねがいします。
 

334: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/08/25(火) 02:43:51.51 ID:gmuHSDUb0
カザハナ


次回 カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」 中編