前回 カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」 

1: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/02(金) 19:02:28.01 ID:DRDHDg8J0
アクア「……ごめんなさい。私の所為で」

カムイ「何を言ってるんですか、アクアさんの所為なわけないですから。でもよかったです、私以外に疑いが掛らなくて」

アクア「みんな、あなたのことを心配しているわ。マークスもガロン王に話をしているみたい」

カムイ「ふふっ、マークス兄さんらしいです。でも、私のことで無理はしないでもらいたいんですけど」

アクア「……はぁ、カムイ。あなたは自分の立場をよく理解するべきよ」

カムイ「はは、怒られてしまいました」

アクア「そんなに落ち着いているのを見ていると、心配していたのが馬鹿らしくなってしまうわ」

カムイ「ごめんなさい。でも、こういうときは気丈に振舞うものなんでしょう?」

アクア「元はと言えば私の所為よ、あなたに相談すれば済んだことなのかもしれないのに、それを」

カムイ「アクアさんは私にクリムゾンさんがあやしいって言いたくなかったんですよね?」

アクア「……ええ、交流しているあなたに、そんなことを言うのは嫌だったの。だから、気付かない場所でって思ったのに、裏目に出てしまったわ」

カムイ「ははっ、それでレオンさんに掛け合ったんですね」

アクア「どうして知っているの?」

カムイ「直接私の元にクリムゾンさんの件を話しに来てくれました。あとその前日、ゼロさんが注意するようにと託を。ふふっ、その話に出てくれた情報源、私を心配してくれていたのって、アクアさんだったんですね」

アクア「はぁ、レオンはあなたのことをとても心配していたから。当然かもしれないわ」

カムイ「はい……。でも今日、アクアさんが来てくれてよかったです」

アクア「?」

カムイ「いえ、そのこんな風に話していて何なんですけど、少しだけ不安になっているんです」

アクア「……ふふっ」

カムイ「わ、笑わないでくださいよ」

アクア「いいえ、ごめんなさい。あんなに気丈に振舞うものだなんて言ってたのに。おかしくて」

カムイ「はい……。その、アクアさん」

アクア「どうしたのかしら?」

カムイ「ちょっと手を握ってもらえませんか? その、心細いんです……」

アクア「……ふふっ、いいわよ。私にできることなら何でもしてあげたいから」ギュッ

カムイ「はい……ありがとうございます。アクアさんの手、とても温かくて柔らかいです…」

アクア「んっ、くすぐったいわ」

カムイ(……どうしてでしょうか、こんなにも心が不安で揺れてしまうのは。まるで……ミコトさんが死んでしまった時に戻ってしまったみたいです)

カムイ「……」ギュッ

アクア「カムイ?」

カムイ「すみません、今は。今の間はこのままでいさせてください」

アクア「ええ、わかったわ、甘えん坊さん」ナデナデ

「……ありがとうございます。アクアさん……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443780147

引用元: ・【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―2―

2: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/02(金) 19:15:32.11 ID:DRDHDg8J0
 
 個人妄想前回の暗夜ルートになっています。
 オリジナルで生きていたキャラクターが死んでしまったり、死んでしまったキャラクターが生き残ったりという状況が起きます。
 ご了承のほどお願いします。

 主人公のタイプは
 体   【02】大きい
 髪型  【05】ロング・セクシーの中間
 髪飾り 【04】ブラックリボン
 髪色  【21】黒
 顔   【04】優しい
 顔の特徴【04】横キズ
 口調  【私~です】

 長所短所には個人趣味の物を入れ込んでいます。 

 長所  心想い【心を好きになる(誰とでも結婚できる)】
 短所  盲目 【目が見えない(ただそれだけ)】
 

3: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/02(金) 19:18:09.21 ID:DRDHDg8J0
○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターC+
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリスB   
(一緒に眠ったことがあります)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC
(今度はカムイの弱点を探ってみせると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC→C+
(イベントは起きていません)
ゼロC+
(イベントは起きていません)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(イベントは起きていません)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)

4: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/02(金) 19:24:56.16 ID:DRDHDg8J0
○仲間たちの支援現在状況●

●異性間支援の状況

・アクア×ゼロC

・ジョーカー×フローラB

・ラズワルド×リリスB

・ゼロ×リリスC

・ラズワルド×ルーナC

・ラズワルド×エリーゼC

・レオン×サクラB

・レオン×カザハナC

・オーディン×ニュクスC

・サイラス×エルフィC

・モズメ×ハロルドC

●同性間支援の状況(男)

・ジョーカー×ハロルドC

・レオン×ツバキB

・ギュンター×サイラスC

●同性間支援の状況(女)

・フェリシア×ルーナA

・フェリシア×エルフィC

・フローラ×エルフィC

・ピエリ×リリスC

・ピエリ×カミラC

・エルフィ×モズメC

8: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/03(土) 22:23:21.96 ID:lsqBuRsR0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城『地下牢』―

サイラス「……嘘じゃなかったんだな、捕まったっていうのは」

カムイ「その声はサイラスさん? はは、すみません。心配を掛けてしまいましたか?」

サイラス「当り前だ! それにお前はシュヴァリエと結託して、王都で反乱を企てていたと……」

カムイ「ふふっ、どんどん尾がついて行きます。そのうち、私はすでに反乱を起こしていたが、王都守備隊が事前に制圧していたという話がつくかもしれませんね。私に付いていたといことで、皆さんに白い目が向けられないといいんですが」

サイラス「構うものか。カムイ、待っていてくれ。俺たちはお前の無実を必ず……」

カムイ「それはだめです」

サイラス「なぜだ、カムイ」

カムイ「サイラスさん、あなたは一介の騎士なんですよ。マクベスさんが私を嵌めたことに間違いはありません」

サイラス「だからこそ、俺は!」

カムイ「そう言う風に、私の無実を訴えるのをあの人は待っているんですよ。マークス兄さんやカミラ姉さん、エリーゼさんにレオンさんがそれを言うに問題はありませんが、サイラスさんのように背景を持たない人は、すぐに反逆者の烙印を押されることになるでしょう」

サイラス「そ、それは……」

カムイ「そんなことで、私はサイラスさんや他のみんなを失いたくはありません。ですから、静かに待っていてもらえませんか?」

サイラス「……わかった。お前がそう言うなら、俺は何も言わない」

カムイ「ありがとうございます。あと他の方たちにも出来る限り落ち着いて行動するように呼び掛けてほしいんです。ハロルドさん辺りは、大きな声で叫んでそうな気がしますから」

サイラス「ははっ、確かにな。わかった、みんなにも伝えておくよ」

カムイ「はい、よろしくおねがいしますね」

9: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/03(土) 22:38:15.44 ID:lsqBuRsR0
サイラス「………」

カムイ「サイラスさん、どうしました?」

サイラス「いや、その。あまり不安そうじゃないと思って、いきなり捕まってここに入れられたっていうのに、なんだかすごく落ち着いているから」

カムイ「そうでもなかったんですよ? 最初は不安でしたから、でもアクアさんに慰めてもらいました」

サイラス「そ、そうか……はぁ」

カムイ「?」

サイラス「いや、その……」

カムイ「なにか、悩みごとでもあるんですか?」

サイラス「あ、あるというか。現在問題で起きているというか」

カムイ「歯切れが悪いですね。サイラスさん、私とあなたの仲なんですから、気にせず話してください」

サイラス「……その、すごく女々しいことなんだ」

カムイ「女々しいことですか?」

サイラス「俺はカムイと再会するまで、あの頃と同じで泣き虫な人を想像してたんだ。それで……俺のことを頼ってくれるというか」

カムイ「………」

サイラス「その――すまない、おかしなことを言ってるのはわかってるんだ。でも――」

カムイ「ふふっ、それは昔みたいにもっと頼って欲しい、そう言うことですか?」

サイラス「……そういうことだ。すまない、こんなこと口に出すことじゃないとは思っていたんだけど」

カムイ「いいですよ。でも、そうですか。サイラスさんはそんなことを考えていたんですね」

サイラス「親友の力になりたいと思うのは当たり前のことだからな」

カムイ「ふふっ、サイラスさんはいい人ですね」

サイラス「いい人じゃないさ。ただ、親友に頼られたいっていう願望をもってる、そんな男だよ」

カムイ「そうかもしれませんけど、その思い確かに受け取りました。困ったことがあったら、頼らせてもらいます」

サイラス「……いや、そう言う意味じゃないんだけどな」ボソッ

カムイ「? サイラスさん?」

サイラス「なんでもない。それじゃ、俺は皆に伝えてくるから、カムイ必ず戻って来るんだぞ」

カムイ「はい、外で再会できるのを楽しみにしてますね」

10: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/03(土) 22:49:36.25 ID:lsqBuRsR0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
エリーゼ「カムイおねえちゃん、大丈夫? 痛いことされたりしてない?」

カミラ「変なことした兵士がいたら言ってちょうだい、三枚に下してあげるから」

カムイ「ははっ、到着早々に物騒な話は駄目ですよ、カミラ姉さん。特に何も悪いことはされていませんから、まぁ、所持品は取り上げられてしまいましたけど、命が助かったのは不幸中の幸いです」

レオン「はぁ、本当に姉さんは肝が座ってるね。だから心配の必要なんてないって言ったじゃないか」

マークス「……ふっ、そう言うのは急いで着てきた法衣を見直してから言うんだな、レオン」

レオン「!? こ、これは……ああ、もうっ!」

カムイ「ふふっ、皆さん変わりませんね。なんだか安心しました」

マークス「そう言うカムイ、お前もな。元気そうで何よりだ」

カムイ「はい、マークス兄さん。あの、アクアさんのことですけど」

カミラ「大丈夫よ、私たちは誰もアクアがマクベスにこのことを漏らしたなんて思っていないわ。あの子はカムイのこと、とても大切に思っているもの。私はそんなアクアが今回のことを仕掛けたなんて思わないわ」

エリーゼ「うん、あたしも。アクアおねえちゃんも可哀そうだよ、こんな風に疑われる立場にされるなんて」

レオン「……僕の責任でもあるからね。アクアにもカムイ姉さんにも迷惑を掛けてしまったから、ごめん」

マークス「マクベス達の動きには気づいていた。それを悠長に放っておいた私の責任だ、レオンが気に病むことではない。それにアクアはマクベスに巻き込まれたのこと、それを責めるつもりなどない」

カムイ「皆さん、ありがとうございます。アクアさんのことを信じてくれて」

11: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/03(土) 23:03:50.10 ID:lsqBuRsR0
エリーゼ「当然のことだよ。だって、おねえちゃんだもん!」

カミラ「そうね、私にとっては可愛い妹だもの」

レオン「うん、でも今はその話よりも大事なことがあるから、アクアのことはひとまずここまでにしておこう」

マークス「そうだな。カムイ」

カムイ「私の処遇について……ですね。私がクリムゾンさんと出会って、帰国した直後に起きた反乱、今では話に尾がついて、王都で反乱を企てようとしていたということになっているらしいですね」

マークス「ああ、根拠も何もない話だが、お前の台頭を面白く思っていない者たちはマクベスの話に賛同している状態だ。正直、芳しくない」

カムイ「そうですか……」

レオン「多くが父上に長く仕えてきた人たちばかりだから、影響力が強い。僕たちも色々と根回しはしてるけど、もうほとんどの者に息が掛ってる状態だ」

エリーゼ「そ、そんなのないよ。カムイおねえちゃんは悪いことなんてしてないのに」

カミラ「ふふっ、エリーゼ。そうすぐに声をあげるものじゃないわ」

エリーゼ「カミラおねえちゃん、どうしてそんなに冷静なの、このままじゃカムイおねえちゃんが、殺されちゃうかもしれないのに」

カミラ「ええ、そうね。でも、レオンとマークス兄様を見てると、まだ慌てるような場面じゃないと思えるのよね」

マークス「ふっ、カミラには隠し通せるものではないな」

レオン「そうみたいだね、兄さん」

12: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/03(土) 23:20:23.87 ID:lsqBuRsR0
エリーゼ「ど、どういうこと?」

マークス「確かにマクベスの意見に賛成する者は多いが、その多くがカムイの反逆の罪に踊らされている。不服ではあることだが、今はその幻想に多くの物が揺れ動かされているのも確かだ」

レオン「カムイ姉さんが暗夜に戻ってから最初に取り掛かった任務、フリージアの反乱平定だったよね?」

カムイ「そうですね」

レオン「その無血平定の話は反乱活動を始めようとしていた部族にも届いて、多くの部族村がその刃を納めた形になってる。実感できないかもしれないけど、姉さんの行動は多くの部族に認められてる。つまり、その姉さんが反逆を企てていたということがわかって、今起きているシュヴァリエ公国の反乱に躍動する形で動けば……」

カムイ「そんなおとぎ話みたいなことありえるんですか?」

レオン「だから言ったでしょ? これは幻想だって、そんなこと起こり得るはずもないよ。でも、保身の塊みたいな人たちは、その見えない脅威に怯えてる。マクベスもこんなことになるなんて思ってもいなかっただろうけど。現実問題、姉さんを処刑することによって地方部族が一斉決起したとしたら、シュヴァリエ公国にいる白夜軍は、すぐにでも祖国に連絡して無限渓谷から攻めてくるだろうからね。そう簡単に姉さんの処罰を決められない」

マークス「その間に、私は父上に掛け合っておく。どんな形であろうとも、私はお前をこの場所から出してみせよう。だから心配ゼスに待っていてくれ」

カムイ「そうですね、今は待つことしかできませんから。でも、あまり無茶はしないでください」

13: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/03(土) 23:33:59.33 ID:lsqBuRsR0
~~~~~~~~~~~~~~~
―クラーケンシュタイン城『作戦会議室』―

貴族「――であるからして、確かにマクベス軍師の考えは認めますが」

貴族「――地方部族とのパイプをもつかもしれない、カムイ様を処刑することで――」

貴族「私の領土は地方部族に囲まれている。もしも処刑を執り行い、反乱が起きたらどうやって守ってくれるのだ?」

マクベス「……貴族とあろう方々が、何を迷っているのかと思えば、そんなものは幻想です。カムイ王女が与える影響力など、微々たるもの。それに、まさか地方を納めるあなた方が、部族の反乱を抑えられないと?」

貴族「そ、そういうわけではない。白夜との戦いを考えれば、こんなところで大きな火種となることをする必要もない、そう言っているだけだ」

貴族「別にカムイ王女を殺すことに反対しているわけではない。今はシュヴァリエの反乱を抑えることの方が先であろう? 軍師マクベスともあろう方が、優先順位を間違えることなどないと思いますがな」

マクベス「そうですか。皆さんの考えはわかりました、一度休憩としましょう」

貴族「マクベス軍師、私たちの考えは変わりませんので、何度話し合おうとも結果は変わりませんぞ」

マクベス「………」

14: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/03(土) 23:51:17.00 ID:lsqBuRsR0
マクベス「くっ、どうしてこうも最後にうまくいかないのか。こんなところでも私の邪魔をするというのですね、カムイ王女」

マクベス「あの者たちもあの者たちだすね。そんなことが起こり得るわけないと、なぜ気付かないのでしょう。どちらにせよ、カムイ王女を処刑することは敵いませんな」

マクベス「………」

マクベス「……そうです。なぜ、気付かなかったのでしょうか。これほどにいい考えはありません。すぐにガロン王様に御話いたしましょう」

ガンズ「マクベス様」

マクベス「ん、ガンズですか。前回のシュヴァリエでの働きで、一軍を率いることになったそうですな」

ガンズ「へへっ、殺すだけで階級が上がるんだからな、これくらい同然のことよ」

マクベス「ふっ、そうですか。ガンズ、こんどのシュヴァリエ公国の反乱平定の件は聞いているでしょうな?」

ガンズ「ああ、シュヴァリエの奴らをぶっ殺せばいいんだろ? 簡単な作業じゃねえか」

マクベス「ええ、確かあなたの部下であるゲパルト兄弟も参加されるらしいですが、一つ妙案が浮かびました」

ガンズ「へっ、人を殺せるならなんでも構わねえよ。マクベス様よぉ」

マクベス「ええ、大丈夫です。どちらにせよ、多くの人を殺すことができますよ。そして、これはカムイ王女にとってはチャンスとなり得る話、ガロン王様もきっと聞いてくれるはずですからね。さて、カムイ王女、あなたは一体どういう行動をするのでしょうな?」

19: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/04(日) 22:29:01.61 ID:bx6Pas9U0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―クラーケンシュタイン城『王の間』―

マークス「父上、マクベスの話は信憑性に欠けている箇所があります。カムイが反乱の手引きをしたという証拠もねつ造されたものと考えるべきです」

ガロン「しかし、現にシュヴァリエ公国で反乱は起きた。カムイの客人がシュヴァリエの人間であったことは知っている。それを踏まえ、マクベスはカムイの捕縛を行ったとしている」

マークス「……ですが父上、シュヴァリエの反乱にカムイが加担していたという証拠はありません。それに、カムイが王都での反乱を企てていたという話。それが本当ならば、カムイの賛同者が既にことを起こしているはず」

ガロン「闇に隠れ、気を伺っているとも考えられる。マークス、カムイに掛った疑いは暗夜の規律にも影響を与えることになる、すべてを不問とし、終わりにするというのはあまりにも軽率なことだとは思わぬか?」

マークス「そ、それは……」

 コンコン 

ガロン「誰だ?」

マクベス「ガロン王様、マクベスです。本日はカムイ王女の件でお話に上がりました」

ガロン「ふん、入れ」

 ガチャン バタン

マークス「マクベス……一体何の用だ?」

マクベス「おや、マークス王子。どうやらカムイ王女の件でガロン王様にお話のようですね。どうやら私と同じようだ」

マークス「………」

ガロン「して、何用だマクベスよ?」

マクベス「ええ、ガロン王様。今回のカムイ王女の捕縛の件で、一つ謝らねばならないことが」

マークス「……なに?」

20: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/04(日) 22:39:36.76 ID:bx6Pas9U0
マクベス「マークス王子、申し訳ありません。シュヴァリエの反乱と同時にカムイ王女が王都で反乱を起こす。そう信じた上でこのマクベス、行動に出ざるを得なかったのです。ガロン王様のこと、そして暗夜王国で暮らす民のことを思えば、この私の考え抜いた末の判断、理解していただけると思います」

マークス「……よくもそのような詭弁を」

マクベス「詭弁ではありません。現にこうしてガロン王様に陳謝に訪れているのですから、マークス王子、私はカムイ王女にも謝罪したいと思っているのです。ですから、ここにカムイ王女をお呼びいただけないでしょうか?」

マークス「……」

マークス(何を考えている……。呼んでよいことなどあるわけがないことくらい理解できるぞ、マクベス)

ガロン「マクベスよ。お前は自身の行いに非があった、そう言うのだな」

マクベス「はい、ガロン王様。緊急事態であったとはいえ、カムイ王女を捕らえ拘束したことは事実です。カムイ王女に謝罪の一言を、ガロン王様、この王の間で行うことをお許しいただけますか?」

ガロン「……いいだろう」

マクベス「ガロン王様、御許しありがとうございます」

ガロン「マークス。カムイをここに連れてくるがいい」

マークス「父上……わかりました」

21: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/04(日) 22:49:00.60 ID:bx6Pas9U0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「マクベスさんが、私に謝罪を?」

マークス「正直、あの男がそんなことを心からするはずもない。何か狙いがあるのだろう……」

レオン「そうだね。これほど、信用できない謝罪を受けることになるなんて、姉さんに同情するよ」

カミラ「本当ね。謝るくらいなら、もともとこんなことをするはずないもの……」

エリーゼ「カムイおねえちゃん、大丈夫だよね?」

カムイ「はい、まずはマクベスさんの謝罪を受けてみましょう。話はそれからというものです」

マークス「父上、マークスです」

ガロン「うむ、入るがよい」

カムイ「お父様、このような格好で御前に立つことを、お許しください」

ガロン「ふっ、話はすでに聞いているだろう。此度、お前をシュヴァリエとともに反乱を企てる反逆者として捕らえたマクベスが陳謝したい、そう言っている」

マクベス「……これはこれは、少しばかり汚れてしまったようですなカムイ王女」

レオン(これが、謝罪をする人間の態度か? 反省の気配なんてどこにもないじゃないか)

カミラ(私のカムイに汚れてしまったなんて、その口を糸で結んでしまいたくなるわ)

カムイ「ええ、おかげさまで。それで、私に謝罪をしたいという話でしたが?」

マクベス「はい、このマクベス、国を思うあまり、暗夜王国で事が起きていないというのにカムイ王女を捕縛したこと、誠に申し訳なく思っております」

カムイ「……」

22: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/04(日) 22:59:40.77 ID:bx6Pas9U0
マクベス「しかし、これも暗夜の平穏を願うが故の行為、どうかお許しください。暗夜国内で反乱がおきていない以上、その点に関して言えば私の行為は間違っていたこと、これは認めなくてはいけません」

レオン「なら、一度くらい頭を下げたらどうなんだい? 姉さんを疑っておきながら、言葉だけを並べるだけ、頭を下げないで陳謝とは笑わせるよ」

マクベス「ええ、そうですね」

マクベス「ですが、陳謝をするには、まだまだ早いというものです。カムイ王女」

カミラ「……マクベス、どういうつもりかしら? お父様の前で、こんな茶番を演じてただで済むと思っているのかしら?」

マクベス「いえいえ、私は陳謝したいことがあったとは言いました。それはこの王都で何も起こっていないということに対してのものです。シュヴァリエで反乱が起きたのは事実、そうでしょう?」

カミラ「……それは」

ガロン「ふっ、マクベスよ。お前の考え理解した」

マクベス「ガロン王様」

ガロン「カムイよ」

カムイ「はい、なんでしょうか、お父様」

ガロン「マクベスが言っていること、お前は理解しているだろう」

カムイ「陳謝の完了は、私の疑いが晴れた時、そう言うわけですね?」

マクベス「流石はカムイ王女、とても聡明でいらっしゃる」

マークス(何が陳謝したいだ、マクベス……)

23: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/04(日) 23:09:04.45 ID:bx6Pas9U0
ガロン「カムイよ、お前のことを未だ信用していない多くの者たちがいる。言葉での申し開きに意味など無いことをお前は理解しているだろう」

カムイ「……結果を示せ、ということですか?」

ガロン「そうだ、言葉ではない。お前が反逆者でないということを、お前自身の働きによって示さぬ限り、いずれは処刑されることになるだろう」

カムイ「……マクベスさん。私に何を望むというのですか?」

マクベス「ふん、簡単なことです。カムイ王女、私はあなたがシュヴァリエと繋がっているという情報をもとにあなたを捕縛したのですから、あなたがシュヴァリエと繋がっていないという証拠を見せていただければよいのですよ」

エリーゼ「そ、それって……」

マクベス「エリーゼ王女でもお分かりになることですから、カムイ王女もわかっていると思いますが?」

カムイ「……私に、反乱を抑えろというのですか?」

ガロン「その通りだ。シュヴァリエ公国の反乱を鎮圧しろ。これほど簡単に身の潔白を証明できる方法はないとは思わぬか?」

カムイ「私が反乱分子だとするなら、そんな場所に送り込む理由がわかりませんよ。お父様」

ガロン「ふっ、確かにお前がもしも本当に反逆者だとするならば、そんな場所にお前を送るわしは無能な王となるだろう。だが、ただ行かせるつもりなはない」

カムイ「……?」

24: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/04(日) 23:19:47.27 ID:bx6Pas9U0
ガロン「カムイよ、これはお前に与える機会だ。そして同時にわしはここにいる息子、娘たちに問いたいことがある」

レオン「父上?」

エリーゼ「お父様?」

ガロン「カムイがシュヴァリエの鎮圧に失敗したとき、もしくはお前が寝返り反逆が真実であるとされたとき、死ぬ覚悟があるかということをな」

カムイ「……私の任務完了まで誰かに人質になれと、おっしゃるのですか?」

ガロン「うむ、お前に従える一介の兵士なら、安い命と投げ出すだろう。だが、ここにいる息子や娘は違う。それぞれに役割があり、暗夜王国にとって重要な人物であり、お前にとっては共に過ごしてきた兄妹だ。お前の身が潔白であることを証明するには、対等な存在と言えるだろう」

カムイ「……なぜ、このようなこと」

ガロン「ふっ、我が子を信じている、それだけのことだ……。だが、お前が暗夜を我を裏切ったとき、その時は容赦なく、人質となった者は死ぬことになるだろう。なに、お前が反逆者でないと証明されれば、何の問題もない」

カムイ「………」

マークス「父上」

ガロン「なんだ、マークス?」

マークス「その人質、私がなりましょう」

レオン「ちょっと兄さん。抜け駆けはよくないよ」

カミラ「そうよ。カムイにお姉ちゃんらしいところを見せられる絶好の機会じゃない。私も譲りたくないわ」

エリーゼ「あたしもなる! カムイおねえちゃんの役に立ちたいから、それにカムイおねえちゃんのこと信じてるもん」

カムイ「皆さん……」

25: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/04(日) 23:30:22.77 ID:bx6Pas9U0
マクベス「ふっ、生憎ですが。マークス王子以外に人質になってもらう必要などありません」

エリーゼ「な、なんで!?」

マクベス「マークス王子以外の方々は人質にはなりえないと考えています」

カムイ「……皆さんのことも反逆者だと疑っているのですか?」

マクベス「おやおや、私は何も言っていませんよ。それではまるで、そうであるかのように聞こえてきますな」

カムイ「……」

マクベス「まったく、王族すべてを巻き込もうとしているのは、あながち間違いではないのかもしれませんな。王族が疑われては、国の威厳にもかかわりますのでね」

ガロン「マクベスは、お前にこそ人質の価値があると言っている。マークスよ、お前はカムイのためにその命、掛ける覚悟はあるか? カムイが反逆者でないと信じ、ここで待つことができるか?」

マークス「はい、父上。その思いと先ほどの言葉に嘘偽りはありません。私はカムイの帰りを待ちましょう」

カムイ「マークス兄さん」

マークス「心配するな。それに久々に兄らしいことができる、少しは私のことを頼って欲しい」

ガロン「ふっ、マークス。お前の誓い、確かにわしは聞きとめた。よかろう、お前をカムイの任務が終わるまでの間の人質とする。その身柄、確保させてもらおう」

26: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/04(日) 23:40:17.89 ID:bx6Pas9U0
マークス「はい、父上。……カムイよ、お前にこれを授ける。すべての任を果たしたとき、これを私に返しにきてほしい」

カムイ「……これは、ジークフリート。これは兄さんの暗夜王子としての証です。今、反逆者と疑われている私が持っていいものでは……」

マークス「今の私は暗夜第一王子マークスではない。妹を信じるただの兄だ、お前が無事に帰ってきてくれたとき、私はもう一度、暗夜王国の王子に戻る」

カムイ「マークス兄さん」

マークス「これを預けることはその証と思ってほしい。お前を信じているという、その証としてな」

マクベス「……衛兵。マークス王子を」

衛兵「はっ。マークス王子、失礼いたします」

マークス「ふっ、このように腕輪をつけられるのも一興というものだ」ガチャ

カムイ「マークス兄さん、必ずジークフリートをお返しに上がりますね」

マークス「ああ、しばらく待たせてもらおう。カミラ、エリーゼ。カムイのこと、よろしく頼んだぞ」

カミラ「ええ、任せてマークス兄様、きっと守ってみせるわ」

エリーゼ「うん、あたしも頑張るからね!」

レオン「本当、かっこよく決めちゃって。そういうところずるいよ兄さん」

マークス「ふっ。少しくらいは格好良く決めさせてもらいたいのでな。レオン、お前はお前のできることをしろ」

レオン「わかってるよ。いろいろとやるべきことはあるみたいだからね」

マークス「そうか、ならもう何も心配することはない。待たせた、では案内をよろしく頼む」

衛兵「はっ」

 カツンカツンカツン ガチャ バタン

ガロン「では、カムイ。お前がすべきことを伝えよう」

カムイ「はい――お父様」

27: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/04(日) 23:47:40.86 ID:bx6Pas9U0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―暗夜王国・地下牢―

暗夜兵「よし、言われた通りに揃えられたか?」

暗夜兵「ええ、これで全部ですね。しかし、反逆者として連れてこられて、牢を出たと思ったら、今度はシュヴァリエ鎮圧とは、王女様はとても多忙だねぇ」

暗夜兵「別にどうでもいい話だがな。俺たちは言われたとおりに見張って、牢を出た奴の品を言われたとおりにそろえておくのが仕事だ」

暗夜兵「違いねえ。それにしてもおかしな剣だぜ。刀ってやつは見たことがあるが変わったものを振り回してるよな」

暗夜兵「そうだな、しかし、あんな格好で歩き回ってて、男の視線をってやつを感じないのかね? 俺なんて、食事を出すときすげぇみちまったよ」

暗夜兵「いいなお前、俺の時は真夜中だからよ。いつもぐっすり眠ってるし、王族が入る特殊牢には入る機会もないんだぜ?」

暗夜兵「へっへん、運だよ運。おれは運がいい方なんだよっと。さてと、それじゃ俺はこれをマクベス軍師に渡してくるから、しばらくの間、頼んだぞ」

暗夜兵「へいへい……それにしても、カムイ王女が捕らえられた時に持ってたものの中に変なのあったなぁ」

「少し黒くなった石なんて、一体何に使うんだろうねぇ?」

第十二章 前篇 おわり

 

32: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/05(月) 22:02:12.73 ID:pMCMs7eF0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・マカラス街道―

カムイ「………」

ガロン『カムイよ。お前の身の潔白の証明は反乱の鎮圧で証明される。だが、お前だけでそれを成し遂げるのは至難の業、そこでだ、お前に正規兵の指揮権を与える。これはマクベスよりの提案だ』

マクベス『ええ、無論監視の意味も兼ねていることは言わずもわかることでしょう。どちらにせよ、反乱の波は広がりつつあります故、迅速な指揮でシュヴァリエの鎮圧をよろしく頼みます。なに、私もあとから現地に向かいます故、よい結果を期待していますよ』

カムイ「鎮圧……ですか」

リリス「カムイ様、大丈夫ですか?」

カムイ「え、ええ。すみません、考えごとをしていたみたいで」

リリス「まだまだ、マカラスまで時間が掛るみたいですから、すこし気分転換に歩かれてはどうでしょうか?」

カムイ「……そうですね。リリスさん、目印になる紐をいただけませんか?」

リリス「はい、こちらを私が握ってますのでゆっくり歩いてください。それに行軍は思ったよりもゆっくりですから、大丈夫だと思いますから」

カムイ「はい、お手数を掛けます」

リリス「いいえ。あの日は御役に立てず申し訳ありません、私はまたカムイ様を守れませんでしたから」

カムイ「いいんですよ。無理をしてリリスさんに何かあったりしたら、そっちの方がおおごとです。では、あとはよろしくお願いしますね」シュタッ

リリス「はい、わかりました」

33: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/05(月) 22:20:51.60 ID:pMCMs7eF0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ギュンター「む、カムイ様。どうなされました、リリスと一緒だったはずですが?」

カムイ「ギュンターさん。いえ、気分転換に歩いてきたらどうかとリリスさんに言われまして、知っている気配を感じたので、ギュンターさんでしたか」

ギュンター「なるほどそういうことでしたか。昨日の件、申し訳ありません。マクベス達の強硬を阻止できず、カムイ様に不自由を強いる結果となってしまった、カムイ様に長く仕えておきながら……」

カムイ「いいえ、ギュンターさんの所為ではありませんよ。それにギュンターさんたちが私のために何かをして、その結果捕まってしまわなくて良かったです」

ギュンター「カムイ様、すでに私はこのような老体。命令さえあればこの命、喜んで差し出す所存ですぞ」

カムイ「ギュンターさんが死んでしまっては、あの小説の続きを読んでくださる人がいなくなってしまうじゃないですか?」

ギュンター「うっ、あれを読み聞かせることのほうが、私としては辛いものがあります」

カムイ「ふふ、たしか今は庭園で王子と姫が愛を語り合う場面でしたね。でも愛を語り合うとは一体どういうものなのでしょうか?」

ギュンター「そ、そうでしたかな?」

カムイ「『陶器のように滑らかな曲線』とは、一体どこの部位を指しているんでしょう? あの話に出てくる王子は姫のことをまるで芸術品の用に例えますから、少し難しいんです」

ギュンター「カムイ様」

カムイ「あと姫の『卑しい泉にあなたが口付をするたびに、私の愛があふれてきます』という発言の意味も私にはわかりません」

ギュンター「……」

カムイ「そもそも、二人はすでに結ばれているというのに、なぜ人の目に付きそうな庭園で愛を語るのでしょうか?」

ギュンター「……そこを理解できないようでは、やはりカムイ様にはまだ早い話と言えますな」

カムイ「そうなんですか? このような成り立ちですから、本を読むことは出来なかったので、やはり私にはあの本は早かったのでしょうか?」

ギュンター「ふむ。カムイ様には確かに早いかも本でしょう」

カムイ「そうなんですか。なら、なおさらギュンターさんに読み聞かせてもらわないといけませんね」

ギュンター「…理由をお聞かせください」

カムイ「だって、ギュンターさんなら私にわかりやすく教えてくれるはずですから。ギュンターさんの教え方はわかりやすので、だから理解のできない駄目な私にいろいろ教えてくださいね?」

ギュンター「……善処しましょう。では、私は隊列に戻りますので……」

カムイ「はい」

34: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/05(月) 22:38:30.63 ID:pMCMs7eF0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ゼロ「行軍中に変な話をするもんじゃないぜ。カムイ様、獣みたいに飢えた狼にパクッと食べられちまうぜ?」

カムイ「ゼロさん。変な話とは一体なんですか?」

ゼロ「……俺に焦らしプレイをさせておいて理解してないっていうんじゃないだろうな?」

カムイ「そうですね。私は手で直接触れる事ばかりなので、物体の名前が出てくると物体として想像してしまうので」

ゼロ「ほぅ、そりゃ面白いねぇ。あんな風に顔をペタペタと触って、言葉で責めてくるもんだから、そういう世界のことは知っているとばかり思ってたんだがねぇ」

カムイ「ははっ、なんだかんだで箱入りなんですよ。知らないことはたくさんありますから……」

ゼロ「……気に入らないねぇ。そうやって開き直るところとか、特にねぇ」

カムイ「それくらいしか出来ないんですよ。それに、そう言ったほうがゼロさんは私に興味を持ってくれると思いまして」

ゼロ「……そうかい。まったく、人をおちょくるのは一級品だねぇ。本来なら俺がカムイ様にちょっかい出して、困惑させる側だと思ったんだが」

カムイ「いいじゃないですか。あの日、顔を触ってからあまり話す機会もなかったんですし、それにゼロさんとしてはこんな振舞いのほうが気楽で良いでしょう?」

ゼロ「へっ、言ってくれるねぇ。それじゃ、今度話す時は、こっちがあんたに興味を持たせる番ってわけだ。やられっぱなしは面白くないんでね」

カムイ「はい、そう言ってもらえると私としては嬉しいです」

ゼロ「ああ、それじゃ俺も隊列に戻させてもらうぜ。カムイ様も飢えた狼に食べられる前に、さっさと元の場所に戻って置いた方が身のためだぜ」

カムイ「はい……」

ゼロ「……それじゃな」

35: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/05(月) 22:51:52.16 ID:pMCMs7eF0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・賭博の町マカラス『宿舎』―

エリーゼ「カムイおねえちゃん……」

カミラ「そう、マクベスが正規兵の話をしているのに、全く気に掛けなかった本当の理由は、すでに手回しが済んでいたからだったのね」

アクア「流石に予想できなかったわね。てっきりあとからマクベスと一緒に来ると思っていたから。いや、そもそも参加するかもわからなかった事だもの」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガンズ『待っておりましたカムイ王女』

カムイ『その声は……ガンズさん?どうしてこの場所に?』

ガンズ『おや、すでに話は聞いていると思いましたが。私も反乱鎮圧のためにシュヴァリエへと向かうことになっているのです』

カムイ『初耳ですね』

ガンズ『では、覚えておいてください。今回の戦い、私もお力添えしますゆえ、どうか大舟に乗った気持ちでいてください』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エリーゼ「大船なんて言ってたよね」

カミラ「どう見ても泥船よね……緩やかな川も渡れそうにないわ」

アクア「そうね、その考えに異論はないわ。でも、これは監視をしているというマクベス側からの脅しでしょうね」

カムイ「そうでしょうね。下手なことをすれば……。ふふ、仕方ありませんね。私は今反逆者として扱われているのですから」

36: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/05(月) 23:16:53.90 ID:pMCMs7eF0
エリーゼ「ねぇ、カムイおねえちゃん」

カムイ「なんですか、エリーゼさん」

エリーゼ「あのね……。カムイおねえちゃんはその、シュヴァリエの騎士さんのこと、どう思ってるのかなって……」

カムイ「……どうとは?」

カミラ「カムイ。それは私も聞きたいことよ」

アクア「カミラ?」

カミラ「どちらにしても、カムイが疑われる原因となったことだもの。それくらい、カムイはその騎士と共に過ごしたのでしょう?」

カムイ「そうですね。確かに少しの間ですが、一緒に過ごしました。私を訪ねてくれた人です、おもてなしはできる限りしたかったので」

カミラ「そう、でも、その客人が記憶した直後に反乱が起きたわ。でも、お姉ちゃんはそんなことを気にしてるんじゃないわ」

カムイ「?」

カミラ「カムイ、あなたにとってその客人はどういう人になったのかしら?」

カムイ「どういう意味ですか?」

カミラ「ふふっ、カムイ。本当なら、あの騎士を売ってしまえば丸く収まることなんてわかっていたはずでしょう?」

アクア「カミラ、その言い方は」

カムイ「……そうですね。これほどの大事にはならなかったでしょうから」

カミラ「そんなことわかってるはずなのに、どうしてしなかったの?」

カムイ「………」

37: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/05(月) 23:46:18.89 ID:pMCMs7eF0
カムイ「……約束をしたからです。その約束を違えるわけにはいきませんから」

カミラ「……それだけ?」

カムイ「それだけですよ」

カミラ「それじゃ、納得出来ないわ」

カムイ「そうですか……」

カミラ「カムイ、わかっているのに誤魔化しているの? それとも……」

カムイ「カミラ姉さん。今日はもうこんな時間ですから、そろそろお部屋に戻って休んでください」

カミラ「……そうね。こんな時間だもの、お肌に悪いわよね」

エリーゼ「カムイおねえちゃん……」

カムイ「エリーゼさんも、早く休んだ方がいいですよ。明日からは城壁を攻めなくてはいけませんから、長く休めるのは今日くらいなものです」

エリーゼ「うん、わかった……」

アクア「……カムイ」

カムイ「……アクアさんもです。私は大丈夫ですから、ゆっくり休んでください」

カミラ「ええ、それじゃおやすみなさい、カムイ」

カムイ「ええ、おやすみなさい」

 ガチャ バタン

カミラ「……はぁ」

エリーゼ「カミラおねえちゃん……」

カミラ「大丈夫よ」

アクア「カミラ、さっきの質問はどういうことかしら? まさか、カムイを疑っているの」

カミラ「いいえ、疑ってはいないわ。カムイは大切な妹だもの」

アクア「じゃあ、どうして」

カミラ「心配なの。今のカムイを見ているとね」

38: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/05(月) 23:58:22.47 ID:pMCMs7eF0
エリーゼ「うん、あたしも、よくわからないけど、心配だよ」

アクア「カミラ、カムイの何が心配だというの?」

カミラ「……カムイは自分の考えだけで、ここまでうまくやってきたわ。フリージアの反乱鎮圧、黒竜砦、港町ディアでの戦い、そしてマカラス奪還戦。だから心配なの」

アクア「カムイが浮足立ってる、そう言いたいの?」

カミラ「いいえ、違うわ……。私もうまく言葉にできないことで困ってるの。成功し続けて浮足立って失敗することは誰にだってあることよ。でも、カムイに対して思ってる心配はそう言うものじゃないの……」

アクア「……?」

カミラ「私たちが付いているの、カムイをむざむざ反逆者に仕立て上げるつもりはないわ。全力でサポートして、あの子の無実を証明して、マークスお兄様の元に帰る。これは変わらないことよ」

アクア「じゃあ、一体なにが心配だというの?」

カミラ「……カムイは失敗することを想定して動いてるわ。でも、それは自分自身が起こす失敗に対してのものばかりだから、私はそれが心配なのよ」

アクア「カミラ……」

カミラ「ごめんなさい、やっぱり長旅で疲れているのかもしれないわ。カムイにこんな風に突っかかるなんて、いつもの私じゃないもの。エリーゼ、一緒にお風呂に入りましょう?」

エリーゼ「うん……」

アクア「エリーゼも、カムイのことが心配なのよね?」

エリーゼ「……カムイおねえちゃん、あたしとカミラお姉ちゃんの質問にちゃんと答えてくれなかった。でもね、それはあたしたちのことを考えて答えなかっただけだと思うの……。だから、心配になるの。カムイおねえちゃん、自分が犠牲になればって思ってるんじゃないかって……」

アクア「……そう」

39: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 00:08:45.45 ID:u4h+dMTk0
カミラ「アクアも、心配なんでしょう?」

アクア「それはそうよ。今回の件は私に――」

カミラ「そうあなたが言った時もカムイは、アクアの所為じゃないって言ったんじゃないかしら?」

アクア「!」

カミラ「図星みたいね」

アクア「確かにそう言われたわ……。でも、あれは」

カミラ「カムイの優しさって考えれば、簡単かもしれないけど。私は違うんじゃないかって思えるてきたの。だから心配なのよ」

アクア「?」

カミラ「あの子の優しさは、後々に花開く結果が待っているものばかりよ。それが、もしも花開かないものになってしまった時、カムイがどうなってしまうのかと考えると……ね」

アクア「カムイ………」

カミラ「考え過ぎなだけかもしれないけど。そうならないように私はあの子を全力で守りたいけど、叶わない時がいつか来るはずだから」

アクア「……」

エリーゼ「カムイおねえちゃん……。一人で悩み詰めないといいんだけど……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「クリムゾンさん、大丈夫です。ちゃんと、あなたと剣を取りあえるように全力を尽くしますから……」

「だから待っていてください……」

40: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 00:18:13.85 ID:u4h+dMTk0
◆◆◆◆◆◆
―賭博の町・マカラス『下級宿舎』―

シャーロッテ「はぁ、休みの間に一度城壁が落ちて、また休みの間に城壁が落ちるって、どんだけ手抜きなんだよ」

ブノワ「だが、運が良かった。あの場にいたら、とてもじゃないが生き残れなかっただろうからな」

シャーロッテ「それはそうだけどよ。色目使ってた指揮官は無能ってことで階級下げられてるし、せっかくの苦労が水の泡じゃねえか」

ブノワ「ふっ、大変だな」

シャーロッテ「大変だな、じゃねえよ。大損だよ! それに、今はシュヴァリエと白夜の連中が乗っ取ってる所為で、食い扶持も厳しい状態だし、反乱するなら反乱するって事前に通達しろって話よ!」

ブノワ「律儀な奴らならそうするだろうさ。どちらにせよ、こうしてマカラスに身を置いて時間も経った」

シャーロッテ「何々、なんかいい話でもあるわけ?」

ブノワ「いい話、というわけではない。戦わなければならないからな、俺はできれば戦いなどしたくないが、生きるためには仕方がない」

シャーロッテ「そうね。実家への仕送りとか、目を付けた相手に送る弁当の材料とか、化粧費用とか考えたら、このままってわけにはいかないわよね」

ブノワ「ふっ、お金の使い道が色々とあって大変だな、シャ―ロッテは」

シャーロッテ「ええ、それで、その御金を稼ぐ仕事の話ってなによ?」

41: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 00:28:56.30 ID:u4h+dMTk0
ブノワ「夕方頃、シュヴァリエの反乱鎮圧のための部隊がマカラスに入ったらしい」

シャーロッテ「ああ聞いた聞いた。でも、高級士官クラスはいないんでしょう?」

ブノワ「そこまではわからない」

シャ―ロッテ「使えないわね」

ブノワ「そういうな」

シャーロッテ「で、それがお金になるのはなんでよ? もしかしてしばらくここに滞在するわけ、ならすぐに物色に行かないと!」

ブノワ「いや、明日には城壁攻略を始めるらしい」

シャーロッテ「……物色もできねえじゃねえか!」

ブノワ「ああ、物色をする暇はないだろうな」

シャーロッテ「はぁ、なによ。期待させるだけさせといてこんなオチ? さすがにそれはどうかと思うんだけど」

ブノワ「いや、シュヴァリエ公国の反乱鎮圧に加勢してくれる兵を募集しているらしい。報酬は歩合だそうだが、参加するだけでも一か月分の給料に相当するものを出すと言っている」

シャーロッテ「それ、本当でしょうね」

ブノワ「緊急の募集のようだからな。まだ多くの物は気付いていないだろう、定員も二人ほど――」

シャーロッテ「おっし、ブノワさっさと行くわよ。こんなうまい話、そうそうないし、もしかしたらとってもいい男に巡り合えるかもしれないじゃない?」

ブノワ「ふっ、そうやって顔をコロコロと変えるのを見ていると、ほんとうにたくましい奴だと思うよ」

シャーロッテ「たくましいって失礼ね。こんなにか弱い女子を見てたくましいなんて」

ブノワ「そうだな、だが早くしないと募集が締め切られてしまうかもしれないぞ」

シャーロッテ「それは困るっつーの!それじゃシャ―ロッテ、出動!」

ブノワ「……あまり、誰も倒さずに済むといいんだがな……」


42: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 00:42:14.83 ID:u4h+dMTk0
◇◇◇◇◇◇
―国境の城壁内部―

???「首尾は?」

???「ああ、偵察はすでに終えた。予想通り、マカラスに討伐兵が集まっているようだ」

???「そうか」

???「カゲロウ、どうした?」

カゲロウ「いや、カムイ様がもしかしたらいるのではないか、そう思ってしまってな。サイゾウはどう思う?」

サイゾウ「……奴は白夜を裏切ったのだ。前に現れるというならば、斬り倒すだけのことだ」

カゲロウ「……そうだったな」

サイゾウ「……だが、リョウマ様はそれを良しとしないだろう。命令を受ければ、その通りに俺は行動するまでだ」

カゲロウ「ふっ、なんだかんだ言ってはカムイ様のことを邪険にできないのだな」

サイゾウ「勘違いするな。命令を受けたならの話、何もなければ……」

カゲロウ「ああ、私もそのつもりだ。だから安心しろサイゾウ……それともなにか、まだ私の胸を好きにしていたカムイ様を許せないのか?」

サイゾウ「…そ、そんなことは」

スズカゼ「おやおや、そんなことがあったのですか。カムイ様の話でこのような雰囲気を見るのは久方ぶりですね」

カゲロウ「!? スズカゼ、いつからそこに」

スズカゼ「先ほどですよ。ここはあまり居心地がいい場所ではありませんので、どこか気を休められる場所をと思っていたら、柔らかい話し声が聞こえたので」

サイゾウ「……やはりスズカゼも感じているか」

スズカゼ「いえ、戦いというものを経験したことのある方なら、この空気は敏感に感じ取れることでしょう。ここに溢れているのは戦場とはまた異なるものですので」

43: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 00:53:21.25 ID:u4h+dMTk0
カゲロウ「そうだな。ここは同盟の中だというのに、誰しもが誰かを狙っている、そのように感じる。殺意の眼差しが張り巡らされているようだ」

サイゾウ「……とてもではないが同盟という空気ではない。できれば後続の到着を待つより前に白夜へと戻るべきだった」

カゲロウ「ふっ、リョウマ様がここに残ると仰られたのだ。それに従わずして、臣下が務まるわけがないだろう?」

スズカゼ「そうですね。私は兄さんとカゲロウさんに恩義がありますゆえ、お二人に付いて行く所存です」

カゲロウ「スズカゼ、カムイ様はあの町にいると思うか?」

スズカゼ「……勘を信じるなら、いると思いますが。カゲロウさんはもっと単純にいるかどうかわかると思いますよ?」

カゲロウ「?」

スズカゼ「リョウマ様がこの地に残ったこと、クリムゾンさんのこともありますが。たぶん、感じているのでしょう。カムイ様がここに訪れるという、その確信のようなものを」

カゲロウ「……そうだな。リョウマ様は確信をもってここにおられる。なら、カムイ様がここに来ることも必然か」

サイゾウ「……スズカゼ。お前はカムイ王女に会ったとして、どうする?」

スズカゼ「顔を見たいというだけでは駄目ですかね?」

カゲロウ「ふっ、そうか。なら、私も同じだ。どうあろうと、私とカムイ様が過ごした時間は変わらない。だからかもしれないが、私はもう一度あの方にお会いしたいと思っている」

サイゾウ「はぁ、二人して疲れがたまっているだけじゃないのか?」

スズカゼ「いいじゃないですか、それに。最後の顔合わせになってしまうかもしれないですからね」

44: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 01:04:16.96 ID:u4h+dMTk0
―城壁『屋外』―

リョウマ「………」

クリムゾン『リョウマ、ありがとう。私のために頑張ってくれて』

リョウマ「……俺は無力な男だ」

クリムゾン『もう、動いちゃったものは止められないからさ。リョウマは早く白夜に帰った方がいいよ。こんな戦いに参加なんてする必要ないんだからさ』

リョウマ「……俺は何もできない男だ」

クリムゾン『そうそう、カムイといっぱい話したよ。なんかいっぱい触られた、でさ、すっごく可愛く笑うんだよ。本当にさ、そんなカムイと一緒に戦えたら素敵だなって、素直に思ったよ』

リョウマ「……理想しか語れない男だ」

クリムゾン『でも、もうその夢も……消えて無くなっちゃった。リョウマ、もうここには何も残ってないんだ』

リョウマ「……そんな俺ができることは、これくらいだ」

クリムゾン『もう何もないけど、私はここでカムイを待つよ。約束したからさ、その答えを持ってあいつは来てくれるはずだから』

リョウマ「カムイ……力づくでも、お前をこの旗の下に従わせる。それくらいしか、俺にできることはもうない」

クリムゾン『だからさ、リョウマ。もう、こんな国のために頑張らないで』

リョウマ「俺は、俺自身の正義のために…………」

「誰も従ってくれない、正義のために、剣を抜くしか道がないんだ」

45: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 01:06:29.71 ID:u4h+dMTk0
○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターC+→B
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリスB   
(一緒に眠ったことがあります)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC
(今度はカムイの弱点を探ってみせると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロC+→B
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)

 

57: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 14:44:56.14 ID:u4h+dMTk0
―暗夜王国・国境線付近―

カムイ「……どうでしたか?」

暗夜兵「はっ、敵はすでに迎撃態勢を整えていると思われます。激しい戦闘が予想されるでしょう」

カムイ「わかりました……ガンズさんの部隊は弓の有効射程にぎりぎり届かない地点で待機してください。敵は上手にいますから、目測を誤らないように注意してください」

ガンズ「わかりました。それでは、次の指示があるまで待機いたします」

カムイ「さて、どうやって攻略したものでしょうか? 真正面からぶつかったところで、そうそうにうまくいくとは思えませんが……」

 スミマセーン チョットトオリマスネー

 ツレガスマナイ、ミチヲアケテクレルカ?

カムイ「? 何やら騒がしいですね……」

シャーロッテ「ふぅ、やっとたどり着けましたぁ。あなたが指揮官さんですかぁ?」

カムイ「一応はそうなります。えっと、あなたは?」

シャーロッテ「すみません、ご紹介もせずにお声を掛けてしまって、私はシャーロッテ。こっちの大きいのが」

ブノワ「ブノワだ」

カムイ「シャ―ロッテさんにブノワさんですか? よろしくおねがいします。ところで、私を探していた理由というのは?」

シャーロッテ「はい、私たち実は城壁防衛の任についていたんです。だから、内部構造についてよく知ってるんです」

カムイ「しかし、シュヴァリエ公国の方たちも城壁防衛に回されていたらしいですから……内部構造は把握しているのでは?」

ブノワ「ああ、確かにそうかもしれないが。俺達しか知らない、情報もある」

カムイ「どういった情報でしょうか?」

シャーロッテ「実はですね、城壁のある個所が脆くなってるんですよぉ。報告は上げてたんですけど、もしも修繕する前に城壁が落ちてたら」

カムイ「なるほど……そこを破壊すれば内部に入ることができるというわけですね。場所の方、案内していただけますか?」

シャーロッテ「はい、喜んで案内しますよ。あ、すみません、お名前を教えてもらってもいいですか?」

カムイ「すみません、名乗っていただいたのに私が返していなかったみたいで、私はカムイと言います」

シャーロッテ「カムイさんですね。……どこかで聞いたことがある名前」

暗夜兵「カムイ王女、すでに準備は整いました」

シャーロッテ「お、おう、王女、カムイ王女って……。これは最高の転機ってやつじゃないの!?」

ブノワ「そうか……良かったな」

カムイ「シャ―ロッテさん、ブノワさん。危険なことに変わりはありませんが、その個所へ私たちを連れて行ってくれますか?」

シャーロッテ「もちろん、カムイ様のために頑張っちゃいますから」

ブノワ「ああ、攻撃は俺が受け止める。任せてくれ」

カムイ「はい、頼りにしています。それではいきますよ、城壁に向けて進軍します!」

 
61: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 21:28:22.82 ID:u4h+dMTk0
◆◆◆◆◆◆
―城壁内部―

カムイ「本当に入り込めましたね。とはいってもすでに感づかれているでしょうね」

シャーロッテ「仕方無いですよぉ、大きな音もしましたから」

カムイ「はい、でもどうしてあの部分だけ脆くなっていたんですか?」

ブノワ「知り合いが手を滑らせて、壁を思いっきり叩いてしまったからだ」

カムイ「……すごい方なんですね」

ブノワ「ああ、だが頼りになる……」チラッ

カムイ「?」

シャーロッテ「はぁ、手がしびれちゃうわ」

カムイ「なるほど、そういうことですか。なら安心ですね」

シャーロッテ「? な、なんですか、そんなに見つめられると照れちゃいますよぉ」

カムイ「すみません。あと、シャーロッテさん、一つ提案なんですが」

シャーロッテ「はい、なんでしょうか。私にできることなら何でもしちゃいますよ」

カムイ「はい、こんなことを言うのは何なんですが……、そのように振舞っていただかなくても大丈夫ですよ?」

シャーロッテ「……え?」

ブノワ「……カムイ様には、通じていない?」

シャーロッテ「振舞ってるなんて、これが私の素ですよ?」

カムイ「……」

シャーロッテ「え、えっとぉ……」

ブノワ「シャ―ロッテ。カムイ様には、どうやら筒抜けのようだ」

シャーロッテ「ちっ、なによそれ、ここまで一生懸命繕ってきたってのに。これが私の素よ、文句あるかしら?」

カムイ「いいえ、むしろこっちの方が私は好きですよ。それに繕っているような暇は、あまりないみたいですから」

62: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 21:42:10.04 ID:u4h+dMTk0
白夜兵「くっ、すでに内部に侵入を許しただと!? 全員武器を抜け!」

シュヴァリエ兵「中に入ったのが運の尽きだ。絶対に生かして帰さん!」

シャーロッテ「ああ、そういうことね。か弱い女子を演じてブノワにまかせようって思ってたのに……」

ブノワ「そう軽口を叩いている暇はないようだ…」

カムイ「そうですね。とりあえず、まずはやるべきことをやりましょう。シャ―ロッテさん、一番近くの城門の位置はわかりますか?」

シャーロッテ「当り前でしょ、ここにずっと勤めてたのよ。ブノワだって知ってるわ」

ブノワ「ああ、先導は任せてくれ…」

カムイ「ええ、頼りにしています。皆さん、各個に敵を撃破、外で戦っている暗夜軍のために城門を開放します!」



ブノワ「うおおおっ!」ドガッ

シュヴァリエ兵「ぐぉっ、だがこれしきで!」

シャ―ロッテ「盾が外れればこっちのもんよ!」ドゴッ

シュヴァリエ兵「ぐああああああ」ドサッ

カムイ「……さすがに頼りにしてるだけありますね。息がぴったりです」

ブノワ「シャ―ロッテ、下がれ…」

シャーロッテ「わかってるっての。カムイ様はできる限り私たちの後ろで待機で」

カムイ「それは……」

シャーロッテ「ここは、私とブノワの職場なの、一番理解してるからまかせろって言ってんのよ」

ブノワ「そういうことだ。ここを抜ければ、少し開けた場所に出る。そこに出ないと、大きく動きもできない」

シャーロッテ「そういうこと、だから今は私たちに任せておけっていってんの!」

カムイ「……はい、ありがとうございます」

63: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 21:53:48.83 ID:u4h+dMTk0
シャーロッテ「えいっ!」ドゴン

白夜兵「ひえっ!」

 ガシャン

ブノワ「よし、通路を抜けた。この下に降りれれば……」

 ヒュンヒュンッ

ブノワ「!」キキンッ

???「そこです!」

 ヒュン

カムイ「でやぁ! 大丈夫ですかブノワさん」

ブノワ「…すまない。正面に気を取られていた」

カムイ「いいえ。他の皆さんも大丈夫ですか?」

リンカ「ああ、なんとかな。しかし、ここからどうするんだ?」

ブノワ「下が城門のあるフロアになっている。だが、封鎖は完了しているはず、それに屋上で攻撃を続けている敵兵が多くいる」

カムイ「二手に分かれましょう。半数は屋上の敵兵の一掃を、残りは私たちと一緒に城門の解放に向かいます」

???「そうはいきません!」

 シュッ シュッ

 キン

カムイ「簡単に進ませては貰えませんか」

???「そうですね。進ませるわけには参りません」

カムイ「……その声、まさかスズカゼさん?」

スズカゼ「覚えていただけているとは光栄です。カムイ様」

リンカ「スズカゼ、お前も暗夜王国に来ていたのか」

スズカゼ「リンカさん、無事だったようですね。先に送られた白夜の民のほとんどは死んでしまったと聞いていましたので」

リンカ「ああ、カムイに助けられたからな。だから、今はカムイのために戦う」

スズカゼ「そのようですね」

64: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 22:04:33.20 ID:u4h+dMTk0
カムイ「スズカゼさん」

スズカゼ「できればこのような場でお会いしたくはなかったのですが、仕方ありませんね」

カムイ「ええ、出来ればお会いしたくありませんでした」

スズカゼ「そうですね、ですが今は好都合というものです。その身柄、拘束させていただきます」

カムイ「拘束? 命を奪うのではないのですか?」

スズカゼ「今、私が受けている任務の中に、カムイ様の拘束も含まれていますので。他の皆さんの安全は保障できません」

カムイ「殺されないというのは魅力的な話ですが、捕まるわけにはいきません。私はシュヴァリエに行かなくてはいけない理由がありますから」

スズカゼ「あなたならそういうと思っていました。ですから、私も力づくであなたを止めさせていただきます」

 ザッザッザッ

白夜忍「……」

カゲロウ「スズカゼ。入りこんだ者たちは……。なるほど、そういうことだったか」

カムイ「カゲロウさん?」

カゲロウ「私のことを覚えてくれているのか、義理堅い御方だ。もう敵同士になったというのにな」

カムイ「あなたがここに来ているということは……」

カゲロウ「ああ、カムイ様の思っている通りだろう。ここにリョウマ様はいる」

65: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 22:20:54.42 ID:u4h+dMTk0
カムイ「……そうですか」

カゲロウ「ああ、そしてあなたの拘束が私達に課せられた使命。リョウマ様はまだカムイ様が戻ってくることを期待している、だから……」

カムイ「……リョウマさんには悪いですが、その期待に添えることはできません、カゲロウさん」

カゲロウ「そうか……」

サイゾウ「言っただろう、元々言葉で解決できるような相手では無いと」

カゲロウ「少し期待していたのかもしれない。カムイ様が耳を貸してくれるかもしれない、そんなことを…な」

サイゾウ「そうだな。だが、その意思がないとわかった以上、こちらは主の命令通りに事に当たるだけだ」

カムイ「シャ―ロッテさん、ブノワさん!」

ブノワ「…まかせろ」

 ザンッ

エルフィ「加勢するわ」

 ザンッ

ブノワ「…すまん」

エルフィ「気にしないで、カムイ様。今のうちに、シャーロッテ、奥の階段へ誘導して」

シャーロッテ「ええ、ブノワ。早く追いかけて来なさいよ」

ブノワ「わかっている」

カゲロウ「私はカムイ様を追跡する。サイゾウは他の者たちを釘づけに。後追わせないようにしてくれ」

サイゾウ「まかせろ、爆炎手裏剣!」

ブノワ「ぐっ……」

リリス「ブノワさん! これで」

ピエリ「我慢できないの! カミラ様、一緒に切り込むの!」

カミラ「ええ、ルーナ援護をよろしくね」

ルーナ「任せなさい。さぁフェリシアやるわよ、あたしたちの絆、見せつけてやるんだから!」

フェリシア「は、はい! ルーナさんとなら、なんだってできちゃう気がしますから!」

ルーナ「嬉しいこと言ってくれるじゃない、それじゃいくわよ!」

66: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 22:34:55.95 ID:u4h+dMTk0
カムイ「シャ―ロッテさん!」

シャーロッテ「わーってるよ! 邪魔よ!」

白夜忍「ぐっ、これしき」

カムイ「てやぁ!」

 ドサッ

カムイ「まだ下ではないんですね」

シャ―ロッテ「ええ、まだまだ」

スズカゼ「いかせません!」

カムイ「ぐっ!」

シャーロッテ「カムイ様! って、邪魔すんじゃねえ!」

カムイ「スズカゼさん」

スズカゼ「すみませんが、このまま押し切らせてもらいます」

カムイ「ぐっ……」

サイラス「カムイから離れろ!」ザンッ

スズカゼ「くっ、やはりただの兵士たちとは違うみたいですね」

サイラス「カムイに指一本触れさせないぞ」

カムイ「サイラスさん!」

スズカゼ「ですが、私も行かせるわけにはいきません!」

オーディン「そうはいかないぜ。出でよダークネスサンダー!」

スズカゼ「そのような攻撃では……!」

リンカ「でやぁ!」ブンッ

スズカゼ「リンカさん。力をあげましたね」

リンカ「ああ、カムイ、ここはあたしたちが何としても抑える。だから、早くいけ!」

カムイ「皆さん、ありがとうございます!」

白夜忍「スズカゼ様、加勢いたします」

スズカゼ「すみません、私だけでは手に負えない相手のようです」

カゲロウ「スズカゼ」

スズカゼ「すみません、カゲロウさん。カムイ様を下に向かわせてしまいました」

カゲロウ「わかった、ここを任せられるのか?」

スズカゼ「はい、向こうも下に降りる気は更々ないようですので」

67: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 22:47:24.14 ID:u4h+dMTk0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
カムイ「ここが一番下の広場ですか?」

シャーロッテ「そうだけど、誰もいない?」

ブノワ「すまない、遅れたようだ」

シャーロッテ「遅いわよ、ブノワ。敵がいないんじゃ、役になんて立てないわよ」

ブノワ「…そうかもしれないが、そのほうがいい」

カムイ「いえ、そうでもないようです」チャキ

カゲロウ「……カムイ様。逃がすわけにはいかぬ」

カムイ「カゲロウさん……」

カゲロウ「あなたには帰って来てもらなければならない。白夜のためにも、あなたのためにも、そしてリョウマ様のためにもだ」

カムイ「……それはできないと何度言ったらわかるんですか」

カゲロウ「私は、カムイ様と剣を交えたくはない。そう考えている、だからこそ、こうして訴えている」

カムイ「……その言葉は私にはとどきません。だから、私を従わせるには、力でどうにかしてください」

シャーロッテ「カムイ様……」

カムイ「シャ―ロッテさんとブノワさんは城門の解放に向かってください。私は、ここでこの方を足止めします」

ブノワ「ここは俺たちが……」

カムイ「いいえ、ここの施設のことはあなたたちが一番わかっているのでしょう? なら、早く開錠できる方が作業をすべきです。私がいては足手まといになります。なにせ、白夜軍の目的は、どうやら私のようなので」

68: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 23:04:54.76 ID:u4h+dMTk0
ブノワ「わかった。すぐに戻る、それまで持たせてくれ」

シャーロッテ「……わかったわよ。やられないでよね!」

 タタタタタッ ガシャンガシャンガシャン

カムイ「……カゲロウさん」

カゲロウ「……容赦はせぬ」

カムイ「ええ、わかっています……」




カゲロウ「いざっ!参らん!」

カムイ「すごいですね。見きれなかったら、あぶなかったです」

カゲロウ「避けられてしまったな。これで決めたかったのだが」

カムイ「カゲロウさんの力、まだまだ見せてください!」

カゲロウ「本当に信じられぬ。目が見えていないというのにその動き、忍者であるならば教授を受けたいほどに」

カムイ「そうですか」

カゲロウ「だが、それは敵いそうにない」

カムイ「どうしてですか? 私を拘束すれば」

カゲロウ「拘束したところで、あなたは私達に心を開いてはくれない、そうだろう?」

カムイ「……」

カゲロウ「その無言は肯定と受け取っておこう……やぁっ!」

カムイ「すみません、カゲロウさん」

カゲロウ「何を謝る必要がある。カムイ様はカムイ様の道を進んだ、ただそれだけのこと」

カムイ「ええ、だから、カゲロウさん。ここで負けるわけにはいかないんですよ!」

 ブンッ キィン

カゲロウ「くっ、しまっ……」

カムイ「はあああああああぁぁぁぁぁ!」ザンッ

69: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/06(火) 23:18:39.38 ID:u4h+dMTk0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
シャーロッテ「ブノワ、早くしなさいよ。カムイ様の加勢に戻らないといけないんだから!」

ブノワ「…以外に固くてな。もう少し時間が掛りそうだ」

シャーロッテ「……でも、本当に誰もいないなんて、一体どうなってるのよ」

 ザッ ザッ

ブノワ「?」

シャーロッテ「……って思ったとたんにこれとか、ブノワは開錠を続けて。私が何とかしとくから」

ブノワ「…わかった」

シャーロッテ「相手になるわよ」

???「………暗夜の兵士か」

シャーロッテ「ええ、そうだけど。城門を守る場所に誰もいないなんて、ちょっと手抜き過ぎじゃない?」

???「ああ、俺だけいれば十分だと思っている。ただそれだけのことだ」

シャーロッテ「……ちっ」

???「しかし、来たのがカムイではないのは予想外だ。いや、あいつのことだ、敵を引きつけているのかもしれないな」

シャーロッテ「カムイ様を知ってる?あんた誰だよ」

 ザンッ

リョウマ「白夜王国第一王子リョウマだ」

シャーロッテ「ツイテないわね、ブノワ。まだなの?」

ブノワ「最後の開錠が出来そうにない、特殊なものがつかわれているようだ」

リョウマ「そこのカギはここにある」

シャーロッテ「ご丁寧にどうも! たくっ、最悪よ。ブノワ、さっさとあいつ倒して、開錠終わらせるわよ」

ブノワ「ああ、悪いが、その鍵を渡してもらうぞ」

リョウマ「ああ、俺を倒せたならば、好きにするといい、もっとも」

「倒せるならな」

 
74: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/07(水) 22:36:18.75 ID:y3LNCXoh0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ブノワ「シャーロッテ、下がるんだ!」

シャーロッテ「ちっ、わかってるわよ」

リョウマ「どうした、鍵を奪うのではなかったか!」

ブノワ「……辛いな」

シャーロッテ「ええ、しかも余裕な顔して、あの場から一歩も動かないし、追撃もしてこないし、すっげえムカつく」

ブノワ「苛立たせてこちらから仕掛けさせるつもりだろう。しかし、待っていては友軍の犠牲が増える…」

リョウマ「……」

シャーロッテ「ほんと貧乏くじだけど、ブノワ行くわよ」

ブノワ「ああ、守りは任せろ」

シャーロッテ「おりゃあああああああ!」

リョウマ「そこだ!」

シャーロッテ「ブノワ!」

ブノワ「ぬんっ!」

 ガキィン

リョウマ「! やるな」

シャーロッテ「よそ見してる暇なんてねえ!」

リョウマ「浅い!」

 ドガッ

シャーロッテ「きゃぁっ!」

ブノワ「シャーロッテ!くっ、これで!」

リョウマ「……甘いな」

 ドガン ザシュッ

ブノワ「ぐおぁ……」ドサッ

シャーロッテ「ブノワ! ……もうゆるさねぇ!」

 タタタタタッ シュタッ

シャーロッテ「おりゃあああ!」

リョウマ「……終わりだ」

 ブンッ

75: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/07(水) 22:54:04.72 ID:y3LNCXoh0
 キィン

カムイ「さ、させません……。シャ―ロッテさん!」

シャーロッテ「言われなくても!」

 ドゴォン

リョウマ「ふっ、命拾いしたようだな。そして、ようやく来てくれたようだな、カムイ」

カムイ「リョウマさん……」

リョウマ「……その風貌、まさに暗夜の王女と言ったところだが、それももう意味を無くすことになる」

カムイ「捕まるつもりなんてありませんよ」

リョウマ「お前ならそういうだろうと思っていた。だからこそ、俺は力づくでお前を捕まえる。それだけのことだ!」

 ダッ

カムイ「!」

 キン

カムイ「リョウマさん、兵を引いてください。こんなところで戦うことに意味などありません」

リョウマ「ふっ、それを決めるのは俺だ。それにしても、お前がそんなことを言うとは思わなかったぞ」

カムイ「そ、それはどういう意味ですか」

リョウマ「あの日、暗夜を選び俺たちの元から去っていったお前なら、こんなことを俺に言うはずもない。ただ何も言わずに剣を交えていただろう」

カムイ「くっ、そ、そんなことは」

リョウマ「どうした、俺を倒さなければ、この城は絶対に落ちんぞ!」ドガッ

カムイ「っ! これで」

リョウマ「判断も甘いっ、あまり冷静とは言えないな。お前に暗夜は辛い場所でしかない、だからお前は俺を倒せない!」

カムイ「や、やってみなければ……」

リョウマ「たしかにそうだが。今のお前では、俺には勝てん! はあああああああ!」

76: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/07(水) 23:07:16.32 ID:y3LNCXoh0
カムイ「ぐっ」

リョウマ「戻ってこい、カムイ。お前が戻るべき場所は暗夜ではない、俺たちが過ごす白夜だ」

カムイ「そ、そんなことはありません! 私は、自分の意思で暗夜に付いたんです。それを、それを否定されるわけにはいかないんです!」

リョウマ「ならば、その迷いを抱いた剣はなんだ! 俺を殺そうとも思っていない、その剣でお前は一体何を得ようとしている!」

カムイ「私は迷ってなんていません!」

リョウマ「……カムイ。俺は俺の正義を貫くことしかできない、そんな男だ。だからこそ、お前を欲している。お前が白夜の旗の下に来ること、それだけが今俺が戦う理由だ!」

カムイ「……くっ」

リョウマ「その弱い意志で、俺と戦ったこと。それがお前が負ける理由だ!」

シャーロッテ「ゴタゴタうるせえんだよ!」
 
 ブンッ

リョウマ「!」

カムイ「シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「カムイ様、あんなやつのご託に付き合ってる暇なんてないの、わかるでしょ?」

ブノワ「シャーロッテの言う通りだ。カムイ様、俺たちが援護する。隙を突いてくれ」

リョウマ「そこをどけ!」

シャーロッテ「どくかっつーの! やっと王族関係者と知り合いになれたんだから、こんなビックチャンス逃せないし」

ブノワ「俺は仲間を守るために戦場にいる、お前が誰かは問題じゃない、仲間が危険に陥っているのなら、それを助けるのが俺の役目だ」

リョウマ「……そうか。良い部下たちだな、カムイ」

カムイ「……」

リョウマ「だからこそ、お前のその迷った剣が気に要らないな。お前は何を目指して戦っている? 何のためにここへ来た! 答えろ!」

77: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/07(水) 23:20:19.82 ID:y3LNCXoh0
カムイ「わ、私は……」

カムイ(どうして、こんなに心が揺れてしまうのですか……。私は、考えて選択しているはずなのに、どうしてこうも……)

シャーロッテ「へっ、くどい男は女に嫌われるってのがわからないの?」

リョウマ「あいにく、お前のような女に好かれるつもりはないのでな」

シャーロッテ「そうね、あんたと敵同士じゃなかったら、私のお弁当食べさせてあげたかったんだけど、それは無理そうです~」

ブノワ「相変わらずの変貌ぶりだな」

シャーロッテ「ええ、冥土の土産に見せてあげようって思いまして、満足しただろ」

リョウマ「ああ、嫌というほどにな。さぁ、カムイ、お前の答えを俺に見せろ!」

カムイ「私、私は、シュヴァリエに行って約束を果たすために、ここに来ています」

リョウマ「約束……か」

カムイ「だから、ここでリョウマさんに負けるわけにはいかないんです!」

 ダッ

リョウマ「ならばその片鱗、少しでも見せてみろカムイ!」

 ダッ

シャーロッテ「ブノワ、カバー!」

ブノワ「ああ!」

 カキィン

シャーロッテ「こっちだおらぁ!」

リョウマ「ふんっ」

ブノワ「そこだ!」

 サッ

リョウマ「ふっ、やるな」

シャーロッテ「ちっ」

ブノワ「ならば、馬鹿正直にいく うおおおおおっ!」

 ガシャンガシャンガシャン ドゴォ

リョウマ「盾を攻撃の手段に!?」

シャーロッテ「カムイ様、今よ!」

カムイ「ええ、リョウマさん、覚悟!」

 ブンッ 

リョウマ「……」

カムイ「………」

78: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/07(水) 23:36:35.82 ID:y3LNCXoh0
リョウマ「斬れぬのだな……」

カムイ「……」フル……フルフル

リョウマ「やはり、お前は弱くなったようだ」

カムイ「………わ、わた、私は……」

リョウマ「だが、お前の意思、その片鱗は確かに俺に届いた。もう、お前に白夜へと戻れと告げることもないだろう」

ブノワ「カムイ様!」

シャーロッテ「ちっ、踏み込みが足りなかったか」

リョウマ「いや、お前たち二人の連携は素晴らしいものだった。俺がここで死ななかったのは、カムイの心の問題だ」

カムイ「リョ、リョウマさん」

リョウマ「……サイゾウ」

サイゾウ「ここに」

リョウマ「兵を退くぞ。遅かれ早かれこの城壁は暗夜の物量の前に沈む、あとは後続に任せる」

サイゾウ「カムイ様を拘束しないのですか?」

リョウマ「……ああ、同じ旗を仰げないこともあるが、このように弱い心で、今の白夜に帰ったとしても、守ることはできないからな」

サイゾウ「……御意」シュッ

リョウマ「その城門の鍵だ。受け取れ」

シャーロッテ「おっとと、どういうことよ。あんた、反乱軍の仲間じゃないわけ?」

リョウマ「最初はそうだった。そして、俺の正義はカムイの弱さの前に崩れてしまった。それだけのことだ」

カムイ「……私は」

リョウマ「カムイ。お前が弱くなった理由はわからない。だが、覚えて置いた方がいい、ここに来るまでのお前の強さは、紛いものだったということな」

 タタタタタタタタタタッ

カムイ「……だったら今までの私は」

「一体なんだったというんですか………」

85: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/08(木) 22:08:17.66 ID:4Z2d3dK10
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「……どうにか、城壁の制圧は終わりましたね……」

アクア「カムイ……」

カムイ「アクアさん、そちらは大丈夫でしたか?」

アクア「ええ、突然敵が引き始めたから何事かと思ったけど、何とかしてくれたのね」

カムイ「……」

アクア「カムイ?」

カムイ「私は、私は弱くなってしまったのでしょうか?」

アクア「どうしたというの?」

カムイ「私の剣には迷いがあると、リョウマさんに指摘されました」

アクア「! ここを守っていたのはリョウマだったの」

カムイ「はい……、私はとても弱くなったと、今までの強さはただの紛いものだと言われてしまいました」

アクア「カムイ、気にしてはいけないわ」

カムイ「ですが! 私はリョウマさんを斬ることができなかった。おかしいんです、サクラさんの時も、ヒノカさんの時も、そしてタクミさんの目の前で剣を振り上げた時も、私の心は全く動じていなかったのに……。今は、手が震えて仕方がないんです」

86: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/08(木) 22:24:43.26 ID:4Z2d3dK10
カムイ「リョウマさんの体に、剣が達する瞬間に私は引いてしまった……。シュヴァリエに行ってやるべきことがあるなんて、大きな声で宣言しておきながら、私は……」

アクア「カムイ。それでも、今はシュヴァリエに向かうことになるわ。残酷なことを言うかもしれないけど、これからあなたは正規兵を指揮して反乱を鎮圧しないといけない。ここで立ち止まることはできないわ」

カムイ「はい……その通りですよね。ははっ、ごめんなさい。なんだか、アクアさんに話して少し楽になれたみたいです」

アクア「そう、それなら良かったわ。でも、カムイ、そうやって一人で考え込むのはよくないわ」

カムイ「………」

アクア「カミラもエリーゼも、いいえ、みんなあなたの力になりたいと思っているわ。一人で考えないで、私達に――」

ゲパルトP(パラディン)「カムイ様、こちらにおられましたか」

カムイ「あなたは……?」

ゲパルトP「ガンズ様に仕えさせて頂いております。ゲパルトといいます。捕らえた捕虜より、面白い情報が入手できましたので、その報告に」

カムイ「? 面白い情報ですか」

ゲパルトP「はい、向こうで我が弟から聞いていただければ」

カムイ「わかりました……」

アクア「カムイ……」

カムイ「大丈夫です、きっと、きっと大丈夫ですから」

 カッ カッ カッ

アクア「……カムイ」」

87: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/08(木) 22:37:51.49 ID:4Z2d3dK10
~~~~~~~~~~~~~~~~~
ゲパルトS(ソーサラー)「カムイ様、私が聞きだした情報によると、シュヴァリエ公国に繋がる隠し通路があるそうです」

カムイ「隠し通路、ですか?」

ゲパルトS「はい。入口は城壁近くの森にあるらしくて、シュヴァリエ公国内部にまで伸びてるらしいです」

カムイ「……同時に攻撃するのが得策ですよね」

ガンズ「さすがに、自分たちの作った隠し通路を使ってくるなんてことは思いもしないだろうな。国境線でシュヴァリエの気を引く陽動に、本陣を叩く本隊、これが一番でしょう」

カムイ「そうですね。私としてはできる限り早く、シュヴァリエにたどり着きたいですから。この隠し通路を使わないわけにはいきませんし、この反乱を早く鎮圧しないと」

カムイ(どんなことになっても鎮圧を完遂しないことには、マークス兄さんの命の保証がありませんからね)

カムイ「ガンズさん、腕に自信のある方を集めてくれますか?」

ガンズ「ああ、任せてください、カムイ様。ゲパルト兄弟、お前たちも来るだろ?」

ゲパルトS「いっぱい燃やせるなら、喜んで行くよ、ねぇ兄さん?」

ゲパルトP「ええ、暗夜に立て付くお蘆花どもを一人でも多く殺さなくてはいけませんからね」

ガンズ「がーっはっは、いい返事だ。それでは、カムイ様。俺はこれから部隊を仕上げますゆえ、失礼させていただきます」

カムイ「ええ、よろしくお願いします。残りは私達ですから、よろしくお願いしますね」

ガンズ「へっ、殺しまくって階級をあげるいい機会だ。活用させてもらいます、カムイ様」


88: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/08(木) 22:50:48.83 ID:4Z2d3dK10
◇◇◇◇◇◇
―シュヴァリエ公国『中心街』―
???「わらわもまさか異国の地に来ることになるとは思わなかったのう」

???「あら、すでにこうなることを占っているのではないのですか?」

???「わらわのまじないは人のためにすることがほとんどじゃからな。わらわ自身を占ったことなどほとんどないのじゃ」

???「そう、では今日だけは占ってみませんこと?」

???「ふむ、今日はやけに突っかかるのじゃな、ユウギリ」

ユウギリ「ふふっ、お酒が進んでいるからかもしれませんわ。ふふ、このところは月が見えない夜ばかりでしたもの、だからお酒を持って会いに来てくれたのでしょう? オロチ」

オロチ「はぁ、ユウギリには何もかもお見通しなのじゃな。というか、この戦いが始まってからは、そなたとばかり過しておったのう」

ユウギリ「ええ、本来私たちは城で待つだけの者、主君はに先立たれ、誰に属することもできずに、ただただ変わっていく白夜を眺めていただけですもの」

オロチ「……悔やみきれんのう。知っていながら、それを伝えることができなかったというのは、わらわの人生最大の汚点じゃし、同時にこの先死ぬまで拭えない罪の烙印なのじゃろうな。って、酒の席で湿っぽい話になってしまったのう」

ユウギリ「いいえ、今の私たちの現状を理解するには必要なことですから、それにオロチの悩みが聞けて私はとてもうれしいですわ」

89: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/08(木) 23:04:41.57 ID:4Z2d3dK10
オロチ「はぁ、ユウギリはあまり悩みなど無さそうじゃからのう……」

ユウギリ「そういうわけではありませんわ。私にも気がかりなことはありますから」

オロチ「ほぉ、そなたの気になることとはなんじゃ。酒の肴になりそうな話じゃといいのう。もしかして、あれか白夜に意中の男でもおったのか?」

ユウギリ「そんなものではありませんよ。白夜にいる両親のことです」

オロチ「そうかそうか。うぷぷ、ユウギリも人の子と言うわけじゃな」

ユウギリ「叉木から生まれたわけじゃないんですわ」

オロチ「それもそうじゃな……。はぁ、これがただの海外旅行であったらどれほど楽しかったことか」

ユウギリ「ええ、願わないわけではありませんもの。こうして違う場所の違う空気に触れて、旅にと持ってきた故郷の品で舌鼓を打つなんて、すごい贅沢ですもの」

オロチ「……ユウギリ」

ユウギリ「なんですの?」

オロチ「もう酒が切れそうじゃ」

ユウギリ「あらあら、結構な勢いでのんでいたんですね。もうお楽しみの時間は終わりになってしまうなんて」

オロチ「ああ、そうじゃ。この酒がなくなった時がわらわも切り替わらねばならんからのう」

ユウギリ「……そうですね。最後のいっぱい、いただけるかしら?」

オロチ「おお、これで最後じゃからな」

 トクトクトクッ

ユウギリ「……必ずお守りしましょう」

オロチ「もちろんじゃ。命に代えてでも、今度は守り通すと決めたのじゃからな。うぷぷ、今わらわたちの未来を占えば、必ず悪いものが見れるはずじゃぞ」

ユウギリ「そうですわね。でも、今の間くらいは、吉の日が出てほしいですわ」

オロチ「……ユウギリ、共に全力を尽すとするかのう」

ユウギリ「ええ、この杯はその約束ごとですわ」

 カンッ

 グビグビグビグビ……

オロチ「では、そろそろ準備に戻るかのう」

ユウギリ「ええ、そうですわね」

「暗夜の奴らを呪い殺すための準備をのう……」


 第十二章 おわり

 

90: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/08(木) 23:08:43.43 ID:4Z2d3dK10
○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリスB
(一緒に眠ったことがあります)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC
(今度はカムイの弱点を探ってみせると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワ →C
(イベントは起きていません)
シャーロッテ →C
(イベントは起きていません)

95: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/09(金) 22:21:04.85 ID:LTbtUpOS0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・国境城壁『内部』―

カムイ「……」

リリス「カムイ様、大丈夫ですか?」

カムイ「……」

リリス「カムイ様!」

カムイ「! り、リリスさん、いつからそちらに?」

リリス「先ほどからいたんですけど……」

カムイ「そ、そうですか。すみません、考えに耽っていたみたいで。それでどうかしましたか?」

リリス「陽動としてシュヴァリエに正面から攻撃を仕掛ける方々が出発しましたので、そのご報告に来たんです」

カムイ「では、そろそろ私たちも出なくてはいけませんね。シュヴァリエに続いているという隠し通路の場所は?」

リリス「はい、場所はもう見つかってます」

カムイ「これで、シュヴァリエに向かうことができますね。前線で陽動を引き受けてくれる方々のためにも、早く向かわないといけませんね」

リリス「はい」

カムイ「早く、反乱早期に終結させて、マークス兄さんを安心させてあげないといけませんから」

リリス「………」

カムイ「リリスさん?」

96: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/09(金) 22:38:22.33 ID:LTbtUpOS0
リリス「カムイ様……ここで待っていてくださってもいいんですよ?」

カムイ「な、何を言っているんですか!?」

リリス「シュヴァリエ公国の反乱鎮圧が完了すればいいんです。カムイ様が現場に行かなくても問題ないことなんですから」

カムイ「リリスさん、それはできません。私には果たすべき約束があるんです。リリスさんはその約束を知っているでしょう?」

リリス「知っています、だからこそ言えるんです。カムイ様が行っても行かなくても、何も変わらないって、そう思うんです」

カムイ「……リリスさん、どうしてそんなことを言うんですか。なんで、なんでそんな……」

リリス「カムイ様、クリムゾンさんと約束、それを思い出してください。クリムゾンさんはカムイ様を確かに待ってるかもしれません。でも、カムイ様の今やろうとしていることを、待っているわけじゃないんです」

カムイ「何が言いたいんですか……」

リリス「カムイ様は、クリムゾンさんを助けようとしているんですよね?」

カムイ「ええ、リリスさんには教えますが、そのつもりです。どんな詭弁を使ってでも、私はクリムゾンさんもマークス兄さんも救いたいんです。そのために私はシュヴァリエに向かわないといけないんです。クリムゾンさんと会って、話をしなくてはいけないから」

リリス「……カムイ様、本当に忘れてしまったんですか?」

カムイ「リリスさん、なんで私を迷わせるようなことを言うんですか?」

リリス「わ、私は……カムイ様を思って――」

97: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/09(金) 22:52:25.36 ID:LTbtUpOS0
カムイ「リリスさん、報告は以上ですか? もう、話すことがなければ、準備に取り掛かってください」

リリス「カムイ様!」

カムイ「私はシュヴァリエ公国に向かいます。私にしかできないことがあそこにはあるんです」

リリス「……今カムイ様のしたいことは夢物語じゃないですか!」

カムイ「もう、話すことはありません」

リリス「…………カムイ様」

カムイ「………」

リリス「……失礼、しました……」

 ガチャ バタン

リリス「………」

ピエリ「あっ、リリスなの! カムイ様に報告してきたの?」

リリス「ピエリさん……」

ピエリ「どうしたの。なんで、そんなに辛そうなの?」

リリス「なんでもないんです。本当に、なんでも……。ふふっ、ほら、いつもの私じゃないですか」

ピエリ「何があったの? ピエリ、リリスが悲しそうなところ見たくないの」

リリス「……本当に何もなんでもないんです。なんでも……なんで……も、ないんです……」

ピエリ「嘘なの、ピエリの眼は誤魔化せないのよ」

リリス「……」

ピエリ「カムイ様に何か言われたの? なら、ピエリがえいっ!てするの!」

リリス「……」

ピエリ「リリスは笑ってるのが似合ってるの! だから、リリスを泣かせるのはカムイ様でも許さないの!」

98: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/09(金) 23:05:56.91 ID:LTbtUpOS0
リリス「あはは、ピエリさんとっても怖い顔してます」

ピエリ「当り前なの! でも、よかったの。今のリリス、笑顔になってるの」

リリス「……ピエリさんにはいっぱいいろんなものもらってますね。こんな風に励ましてもらっちゃいました」

ピエリ「気にしないの。それにピエリが買ってあげたリボンちゃんと付けてくれてるからうれしいの!」

リリス「ふふっ、ピエリさんの馬に乗ってると血が付いちゃうか不安だから、こうやってカチーフに包んでるです。カムイ様も似合ってるって言ってくれたんです」

ピエリ「なら、大丈夫なの。カムイ様、今は気が立ってるだけなの。ピエリも気が立ったら、使用人をいっぱいえいっ、てしちゃうからわかるの!」

リリス「か、カムイ様はそんなことしないと思います。………多分ですけど」

ピエリ「やっと調子出てきたの。リボンがずれちゃってるの! 後ろ向くの」

リリス「は、はい……」

ピエリ「リリス、カムイ様のこと心配なの?」

リリス「はい、とっても心配です」

ピエリ「なら、ピエリが一緒にカムイ様を守ってあげるの。リリス、ピエリと一緒に行動するから問題ないのよ」

リリス「そうですね。言葉で聞いてくれないなら、実力行使しかないですよね」

ピエリ「だから、リリスも盾もって、剣も持つの!」

リリス「ふふっ、それはピエリさんにお渡しします。だって、ピエリさんは私もカムイ様も守ってくれるんですよね?」

ピエリ「そうだったの!」

99: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/09(金) 23:20:38.75 ID:LTbtUpOS0
ピエリ「でも、ピエリ、リリスと一緒に血みどろになりたいの。いっぱい奇麗になりたいのよ」

リリス「もうなってるじゃないですか。いつもベトベトになってますし、服とカチーフはいつも新調してるんですよ」

ピエリ「そうなの。ピエリも服はよく新調するの!」

リリス「もう、だからリボンは血塗れにならないように工夫してるんですよ。だって、ピエリさんからのプレゼントなんですから」

ピエリ「……リリス、大好きなの!」

リリス「わわっ、ピエリさん。恥ずかしいですよ」

ピエリ「恥ずかしくなんてないの! ピエリ、リリスのこと大好きだから、恥ずかしくないのよ」

リリス「も、もう……」

ピエリ「それじゃ、準備に戻るの。いっぱい準備して、カムイ様を守れるようにするの!」

リリス「その、ピエリさん」

ピエリ「どうしたの?」

リリス「あ、ありがとうございます///」

ピエリ「照れてる顔も可愛いの」

 タタタタタタタッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガンズ「ゲパルト兄弟。わかってるだろうな」

ゲパルトP「ええ。どちらにせよですが、そういう風に動けばよろしいんですね」

ゲパルトS「よかったー。兄さんと一緒に行動できるんだから……ガンズ様も色々と大変そうです」

ガンズ「へっ、何言ってんだよ。反乱兵だと思えば殺していい、そういう命令なんだからよ」

ガンズ「つまり言えばだ。もしもおかしなことをしたら、それは反乱兵ってわけだ。もっとも――」

「カムイ王女をシュヴァリエが殺してくれるなら、それに越したことはねえんだがな」

103: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 12:52:56.53 ID:8058bWOK0
◇◇◇◇◇◇
―シュヴァリエ公国『中心街』―

オロチ「さて、首尾はどうかのう」

シュヴァリエ兵「オロチ様。暗夜軍は現在国境線に展開している部隊と戦闘を開始したそうです」

オロチ「暗夜はまだ破っておらぬのじゃろ?」

シュヴァリエ兵「はい、どうしてお分かりに」

オロチ「勘じゃ。ただ、それだけとも思えぬ。確実にあやつら、何か企んでおるじゃろう?」

クリムゾン「何をたくらんでるって言うんだい? オロチ」

オロチ「なんじゃクリムゾン。思い当たる節くらいあると思うじゃがのう?」

クリムゾン「……隠し通路のことかい?」

オロチ「シュヴァリエの中心地まで伸びておる隠し通路の存在を、暗夜の連中が見過ごすわけないじゃろう。どうせ、誰かしら捕虜になって、尋問の果てに場所はばれておると考えるのが普通じゃ、国境で戦っているのはその目くらまし、そう考えるのが妥当じゃのう」

シュヴァリエ兵「では、地下通路を封鎖いたしますか?」

オロチ「うぷぷ、それはしない方がいいのう。こちらに向かってくる本隊を叩けば、またこちらが攻撃の時に仕えるじゃろ? それにまんまと裏をかいたと笑っておる暗夜の者たちを罠に嵌めるのも一興じゃ」

シュヴァリエ兵「確かにそうですね」

クリムゾン「……本隊ね」

オロチ「……そうじゃ、そなたはこのことを伝令本部に伝えてくるのじゃ」

シュヴァリエ兵「はっ、わかりました」

 タタタタタタッ

104: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 13:03:00.17 ID:8058bWOK0
オロチ「さて、クリムゾン。そなたとは一度話をしたいと思っておったのじゃ」

クリムゾン「……そうかい? 別に私はそんなつもりはないんだけどさ」

オロチ「そう牙を剥くような言葉遣いは感心しないのう。これでもそなたより年上なのじゃから、少しはいたわりを持ってほしいものじゃ」

クリムゾン「…それもそうだね。悪かったよ」

オロチ「ふむ、こちらも少し意地悪な言い方じゃった」

クリムゾン「良いってことよ。それで、話ってなんだい?」

オロチ「そなたは、長くリョウマ様と一緒にいたと聞いた」

クリムゾン「さぁ、どうだったかな?」

オロチ「茶化すでない。いや、茶化さないでほしいのじゃ」

クリムゾン「……何が聞きたいんだい?」

オロチ「そう怖い顔をするでない。リョウマ様から何か言われてはいないかと思うてな」

クリムゾン「……それを聞いて、あんたにどんな得があるって言うんだい?」

オロチ「得など何もない。ただ、聞いておきたいことがあるというだけのこと……いや、わらわは話を聞けたということじゃから得をするといえなくもないのう」

クリムゾン「ははっ、なんだそれ」

105: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 13:07:32.47 ID:8058bWOK0
オロチ「……わらわたちがここに来たのは、今ここで指揮をしている御方を生きて白夜に帰すためじゃ。リョウマ様から直々に頼まれてのう。本来ならリョウマ様自身がお守りするところじゃが、白夜の状況を緩和見るにそれは難しいというものじゃ」

クリムゾン「……白夜はそんなに悪いことになってるのかい?」

オロチ「……認めたくないことじゃが、こんな風にシュヴァリエの反乱に手を貸す暇などない程じゃ。無限渓谷での小競り合いは日に日にこちらの消耗ばかり増えておる。わらわも呪術の部隊を任されていたから、嫌と言うほどにでも悪い話は耳に入ってくるものじゃ」

クリムゾン「……じゃあ、どうしてシュヴァリエの反乱に協力なんて」

オロチ「………協力か、困ったのう。そこをそなたが勘違いして居るとは思わなかった」

クリムゾン「ちがうのかい?」

オロチ「人は大義なんかより、もっと単純なもので動くものじゃ。ここに来るまでのわらわが裏切り者を選定する役目に付いていたようにのう」

クリムゾン「……あんたが、あの民間人たちをここに送ってきたのか」

オロチ「そうじゃ。王城に仕えていたこともあって、多くの民の情報をわらわは見ることができたのでな……。選別していったのじゃ、つながりが強いものほど、離れ離れにしたりとな。わらわが主を失ったという悲しみや憎しみを、暗夜に手を差し伸べた連中にも味あわせてやろうと思うてのう」

クリムゾン「……」

106: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 13:14:22.27 ID:8058bWOK0
オロチ「今思えば、わらわは鬼じゃった。心を持たない暗夜のノスフェラトゥと何も変わらん。おかしいものじゃ、心がないから残虐なことをできるノスフェラトゥなんかより、心をもった人間のほうがいつでも非常な存在になれるとはのう……おっと、すまぬのう、このような話をしたかったのではなかったな」

クリムゾン「協力の話だよ」

オロチ「そうじゃった。この協力関係の話、いわば本質の話じゃ」

クリムゾン「本質って、一体何のことだよ」

オロチ「うぷぷ、食い付きがいいのう」

クリムゾン「もう、始まったことは戻せない、だから聞くよ。もう、私の知ってるシュヴァリエは帰ってこない、それはわかってるから」

オロチ「そう言ってもらえると嬉しいものじゃ。と、その前に質問じゃが、この反乱はいつ始まったとそなたは考えてる?」

クリムゾン「私が暗夜王国に行って、戻って来てからすぐに……」

オロチ「やはりそこも読み間違えていたようじゃな。クリムゾン、すでに反乱は始まっておったのじゃ。あの日、このシュヴァリエに裏切り者という名目で送られてきた白夜の民が来た時から」

クリムゾン「そんな、あの時はまだ反乱なんて」

オロチ「そなた、あの行為が暗夜王国に対して行われた謀反でないと、本気で言っているか?」

107: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 13:17:47.45 ID:8058bWOK0
クリムゾン「そ、それは……でも、私は皆に指示を出せる立場にいた……だから」

オロチ「お主のことは聞いておる。親のこともシュヴァリエの騎士だということは聞いておる。だからこそおかしいとは思わぬか、たかが二十年ばかり生きてきたその身、王族でもなんでもないその身に、多くの人々が従うこの状況がじゃよ」

クリムゾン「その言い方、まるで私には何もないって言ってるみたいに聞こえるよ」

オロチ「みたいではない、言っておるのじゃ。クリムゾン、そなたにシュヴァリエの人々をどうにかする力などありはせんのじゃとな」

クリムゾン「だ、だけど、みんな私に、私の言葉に一度、踏みとどまって……」

オロチ「それは踏みとどまるじゃろう。演じることで、そなたがしばらくの間、シュヴァリエを離れてくれるならのう。それに、元から言うことを聞くつもりがないとすれば辻褄が合う。結局、そなたのことを反乱の象徴と考えている者など、この国の人間には居はしないのじゃ」

クリムゾン「……証拠は。証拠はあるのかい?」

オロチ「直接的な証拠などないが、クリムゾン、そなたはリョウマ様に後を任せて暗夜王国の王都に向かったのじゃな。しかも一人と聞いた」

クリムゾン「そ、それがどうしたっていうんだい? あの時、まだシュヴァリエは混乱状態だった。だから一人で行くことくらい……」

オロチ「クリムゾン。わらわがそなたを慕っていたのなら、リョウマ様がわらわとユウギリを手配したように誰かをそなたに付かせるじゃろう。そなたが象徴となり得るのなら、それを敵国に堂々と、しかも一人で送るなど危険極まりない行為じゃからな」

クリムゾン「そ、それは……」

108: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 13:19:32.70 ID:8058bWOK0
オロチ「クリムゾン。リョウマ様がそなたに話をよくしておったのは、そなたに自分の境遇に似たものを感じ取ったからじゃ。だから、そなたの力になろうとした」

クリムゾン「境遇?」

オロチ「そうじゃ、そなたにシュヴァリエの者たちを従わせる力がないのと同じように、リョウマ様が持つ影響力はほとんどなくなっておるのじゃ」

クリムゾン「なんで、王子なんだろ? しかも、第一王子。みんな従ってくれるはずじゃないのかい。それに、このシュヴァリエへの協力を決めたのだって――」



リョウマ『お前の意見はお前がいる間だけ機能する』




クリムゾン「……」

オロチ「思い当たる節があるようじゃのう」

クリムゾン「……そういうことだったんだね」

109: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 13:26:05.24 ID:8058bWOK0
オロチ「最初に言ったように、わらわも暗夜への恨みが募った結果として、多くの民をこの地に送り見殺しにした。わらわは最初、強硬派の側にいた人間じゃからな。だからリョウマ様の決定には心が飛んだぞ。暗夜に関係する奴らを地獄に落とせる、そう思ったのじゃ」

クリムゾン「……」

オロチ「でも今ならわかること。たぶん、リョウマ様はわらわたち強硬派のことを信じておったのじゃ、一時の気の迷いで多くの者たちを見殺しにすることに意味があるわけがない。強硬派が目を覚ます可能性に賭けたんじゃ」

クリムゾン「……」

オロチ「リョウマ様にとって、この選択がどれほどの苦行か、わらわのような一介の呪い師には理解できん。じゃが軍を動かす腹心でもあるユキムラ様が幽閉され、軍というものが言うことを聞かない暴れ馬になることは何としても避けなくてはならんことじゃったからな。じゃが、リョウマ様はこちらに来てから一度も白夜に戻らなかった。信じておったからのう、わらわたち強硬派の目が覚めると、そして目が覚めた強硬派ともう一度徒党を組んで暗夜に立ち向かう。そうなればよかったのじゃ」

クリムゾン「……どういうことだい?」

オロチ「今、実質力を持っているのは王族ではない、暗夜の侵略と、裏切ったカムイ王女を出汁に使って王族も動かすような強硬派じゃ。謀反の本質が王族の失墜と考えるなら、白夜は見事にその模範となる形じゃな」

クリムゾン「……なんだよ、それ。みんな、白夜の兵はリョウマの考えに賛同して、ここに、シュヴァリエに来てくれたんじゃなかったのかい? 暗夜を、暗夜を倒して、多くの人たちを圧政から救うって、だから……」

110: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 13:35:23.80 ID:8058bWOK0
オロチ「……強硬派は意見が通ったこと、リョウマ様が不在なこと、そしてカムイ王女が王族の柵になってること、すべて理解していた。そして、此度のシュヴァリエの件、白夜はシュヴァリエの顔を立てると言って派兵を少なくしておるが、実際回せる兵などそうはいないというのが現実、本来なら足踏みが揃うのを待つべきところじゃ。しかも、無限渓谷との同時攻撃も考えていない。おかしいものじゃ、同盟国を助けるためなら、陽動の一つでも買って出る間柄であるべきなのにのう。たとえ、多く消耗していたとしても、それが暗夜打倒に繋がるというのであるならばじゃ」

クリムゾン「……」

オロチ「クリムゾン。悪いことは言わぬ、今すぐにでもこの戦場を離れるべきじゃ。このような戦いに参加することをリョウマ様は望んでおらんじゃろう」

クリムゾン「……」

オロチ「幸い、お主はカムイ王女と面識があるらしいからのう。それにカムイ王女の気は知らぬが、暗夜王国は反乱に参加したものを許しはせぬ。戦場で暗夜兵に顔を覚えられたら、どこに逃げようとも見つかれば殺されることじゃろう。だからそなたはほとぼりが冷めるまで――」

クリムゾン「ははっ、参ったね。こんな風に心配されるなんて思ってなかったよ。それもリョウマの指示?」

オロチ「いや、これはわらわの独断じゃ。リョウマ様の書簡にそなたのことがよく書かれておったからのう。話してみて、まっすぐなところが気に入った、だからこうして提案をしておる」

クリムゾン「そう、あんた、いいやつだね」

111: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 13:40:45.49 ID:8058bWOK0
オロチ「茶化すでない。わらわは――」

クリムゾン「心配してくれてありがとう。でもさ、こんな形になったけど、ここは私の祖国シュヴァリエだ。そしてここまでのことを見てきた人間だよ、けじめはつけないといけない」

オロチ「………」

クリムゾン「それに、カムイは私に約束の答えを持ってきてくれると信じてる。だから、私はここで待つよ。リョウマにもそう言ったんだから」

オロチ「……その時、何か言われたんじゃな?」

クリムゾン「ああ。ははっ、そういうとこは律儀だよねリョウマはさ。最後に、深々と頭下げてたよ」



クリムゾン「『俺の責任だ、俺を怨んでくれて構わない』ってさ。その時は何のことかわからなかったけど、オロチの話を聞いて理解できたよ。馬鹿だよね、そんな状況で責任だなんだって、わかるわけもないのに。リョウマは民を信じただけなのにさ」

112: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 13:49:52.89 ID:8058bWOK0
オロチ「クリムゾン、リョウマ様を――」

クリムゾン「責めるつもりはないよ。反乱は私たちの目標だったんだから、力を貸してもらったことに変わりない。だから大丈夫、私はどんなことがあってもリョウマを恨んだりしないさ。だって、私はリョウマのことイイ男だって思ってるんだからさ」

オロチ「むむっ、なんじゃなんじゃ。やはり、年頃もあってリョウマ様のことが気になってしもうたか?」

クリムゾン「……そうだね。ははっ、そうだったのかもしれない」

オロチ「……ならなおさら」

クリムゾン「だからこそだよ。私はリョウマにした約束通りにカムイを待つよ。約束守れるイイ女だって、リョウマに思われていたいからね」

オロチ「……馬鹿じゃのう、そなたは。じゃが、一世一代の告白を代わりに聞くことになるとは、思いもしなかった」

クリムゾン「良いってことよ。だって、あんた死ぬ気なんだろ? だったら、この話がリョウマに届くことなんてないよ。私とあんたとの間の秘密の話さ」

オロチ「……なるほどのう。それは愉快なことじゃな。……もっと違う形で、そなたとは出会いたかったものじゃ。そうすれば、わらわの幼馴染も紹介してやりたいくらいじゃ。とても独特な絵を描く奴じゃから、見ものじゃぞ?」

クリムゾン「へぇ、そうなのかい。だったら私の武器の下絵でも描いてもらいたいね」

オロチ「うぷぷ、それは見ものよのう。さぞかし愉快な下絵になること間違いなしじゃ」

クリムゾン「白夜とシュヴァリエの協力関係なんてこと、あんたの話を聞いて、結局全部泡みたいに消えちゃった。というか、こういう風に話をして私を戦場から遠ざけようとか、そんなこと考えたりしたのかい?」

オロチ「さぁ、どうじゃろうな……。では、わららは本部に戻る。もう、わらわはそなたを引きとめることはないからのう」

クリムゾン「ああ、わかってる。ありがと」

オロチ「ふむ、ではのう」

 バサッ……

クリムゾン「この中で抗っていたなんて、リョウマは強いね。結局、私はそれに気付けなかったなんてさ……ごめんよ、リョウマ」

116: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 22:40:12.11 ID:8058bWOK0
◆◆◆◆◆◆
―シュヴァリエの隠し通路―

カムイ「私の傍にいても意味なんてありませんよ。リリスさん」

リリス「だめです。私決めたんです、今回の戦いが終わるまでカムイ様の傍を離れないって決めたんですから」

カムイ「……リリスさん、あなたは戦闘ができないじゃないですか」

ピエリ「だからピエリが一緒にいるのよ。カムイ様もリリスもピエリが守るって決めたの、だからカムイ様は大船に乗った気持ちでいるの!」

リリス「怪我をしたらすぐに言ってくださいね。いっぱい準備してきましたから」

ピエリ「ピエリも少し持ってるの。あと盾も持ったから、これでエルフィくらい耐えられるの!」

カムイ「……」

リリス「カムイ様……。今度は守られる側になるんです。どこに行っても必ず追いついて守っちゃいますから、覚悟してください」

カムイ「…………勝手にしてください」

リリス「はい、勝手にさせてもらいますね」

ピエリ「やったの。了承得られたの。いっぱい殺して、カムイ様もリリスも守ってあげるのよ」

リリス「はい! ピエリさんのこと信じてますね」


カミラ「ふふ、ピエリもリリスも張り切ってるわね」

アクア「そうね……ある意味で士気が上がってるのがわかるわ、でも……」

カミラ「ねぇ、アクア。あなたはあんなカムイを見たことはある?」

アクア「いいえ、その質問はむしろカミラにしたかったことよ。あんなふうに不機嫌丸出しで言葉を返す所なんて」

カミラ「……白夜の王子が言っていたことは、本当なのかもしれないわ」

アクア「それって、カムイが弱くなったっていう話よね」

117: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 22:54:52.46 ID:8058bWOK0
カミラ「ええ、最初は白夜王子の剣技、純粋な力量差故の言葉かと思ったけど、やっぱり違うと思うわ」

アクア「私も、最初同じことを考えていたわ。でも、今のカムイはとても見ていられないくらいに、どこか不安定よ」

カミラ「まるで別人と言えばいいわね。前のカムイなら、リリスにあんな言葉で返したりしないもの」

アクア「……カムイの心は揺れているのかもしれないわね」

カミラ「でも、おかしいじゃない。今までのカムイを見て来たから、ここにきて心が揺れるのがわからないの。あの日、港町で白夜の王女を目の前にした時、あの子は顔色一つ変えてなかったカムイが、ここに来て何に対して動揺しているのか……」

アクア「カムイは昔からあんな感じだったの?」

カミラ「そうね……初めて会った時は、まだあんな感じじゃなかったわ、目が見えないこともあったから。でもそれを克服するように技術を磨いて、強い心が出来ていつも落ち着いている。そんな子だったから」

アクア「そう……」

カミラ「出来れば不安を取り除いてあげたいわ。でも、一体何を話せばいいのかわからないの、正直歯痒いわ」

アクア「……カムイは約束を果たすために、シュヴァリエに向かうって言っていたから、その約束が関係しているのかしら?」

カミラ「……それは間違いないでしょう。でも、その約束だけが問題じゃないのだけは、感じ取れるの」

118: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 23:15:05.24 ID:8058bWOK0
アクア「?」

カミラ「……だからわからなくなるのよ。一体何がカムイを苦しめているのか、それがまったく見当がつかない、すべてが問題だっていう結論には至れるけど……、それを言ったら元も子もないわ」

アクア「それもそうね。………カミラ」

カミラ「どうしたの?」

アクア「カムイが捕まった時、カムイは不安だって零したの。その時は気にしてなかったけど、今考えると不自然な気がして」

カミラ「……もう、その時からカムイの中で何か変化があったのかもしれないわ、アクアは何か思い当たる節はないのかしら?」

アクア「残念だけど、まったく見当がつかなの。正直、私の知っているカムイの印象と今の印象が違い過ぎてるのは確かよ。でも、だからと言って今いるカムイが偽物だなんてことはあり得ないわ。たぶん、私たちが知らなかった一面が出てきているだけ、それだけのはずだから。私たちはそれを受け止めてあげるべきなんじゃないかしら」

カミラ「……そう。アクアはカムイが落ち着くまで待ってあげる。そういうことね」

アクア「ええ、原因がわからない以上は、時間に任せるしかない、そうとしか言えないから」

カミラ「そうね。残念だけど、今私がカムイにしてあげられることなんて、無いに等しいもの。見守ってあげるくらいしかできないわ」

アクア「カミラ……」

カミラ「でも、アクア。もしも原因がわかったら、すぐに手を差し伸べるんでしょう?」

アクア「ふふ、当然よ」

カミラ「即答されちゃったわ。ありがとう、ますますアクアと仲良くなりたくなってきちゃったわ。闘いが終わったら、また一緒にお風呂に入りましょう? 今度はカムイも一緒にね」

アクア「……その……いっしょに入ってる時に触らないって誓ってくれるなら」

カミラ「ふふ、楽しみね、アクア?」

アクア「……」

119: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 23:24:21.26 ID:8058bWOK0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガンズ「おっと、ここが出口か。カムイ様、ここが出口のようです」

カムイ「はい。先導役ありがとうございます、ガンズさん。皆さん、ここはすでに敵地ですので、気を引き締めていきましょう。そしてこの中心街を制圧して、反乱を終わらせるのです」

ガンズ「へっ、てっとり早く行かせてもらうぜ、カムイ様。野郎ども、俺に続け!」

 ウオオオォ!!!!

 ギィィィィ

カムイ「……それでは行きましょう」

リリス「はい! カムイ様」

ピエリ「なの、早くいっぱい殺して血みどろに変身するの。あと二人のこと守るの!」

カムイ「…………」

カムイ(大丈夫、私は大丈夫……。クリムゾンさんを助けて、反乱を鎮圧して、マークス兄さんを助けて、みんなが無事であればそれでいいんです)

アクア「カムイ、大丈夫?」

カムイ「アクアさん、大丈夫です。行きましょう」

アクア「……ええ」

カムイ「では、皆さん。進軍を始めましょう」

120: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/11(日) 23:37:09.99 ID:8058bWOK0
◇◇◇◇◇◇
―シュヴァリエ公国『中心街』―

シュヴァリエ兵「敵、暗夜軍。隠し通路から現れたようです。中心地と進軍を開始した模様です」

ユウギリ「そうですの。わかりましたわ、皆さんはそれぞれの持ち場におつきになってください」

シュヴァリエ兵「はっ。それとご報告が、話に上がっておりました容貌の人物を確認しました」

ユウギリ「そうですか。ふふ、いい知らせですわ」

シュヴァリエ兵「では、私はこれで。暗夜軍め、皆殺しにしてやる」

ユウギリ「あの人を殺すのは駄目ですわ。生け捕りにしませんと」

シュヴァリエ兵「そうでしたね。気をつけます」

ユウギリ「……気をつけます、ですか。確かにその通りですわ」

 チャキ バサバサッ

ユウギリ「戦争をしているのですから敵がいるならそれを射るまで、ふふっ、ずっと城にいたものだから、あまり聴けませんでしたもの」

ユウギリ「さて、暗夜の人々は一体どんな声を上げてくれるのか、楽しみで仕方がありませんわ」

ユウギリ「でも、その前にあの方にご報告しませんと。そのためにここまできたんですから、報告しないと後が怖いですわ」

 バサバサバサッ

ユウギリ「……おまえ、私を背に乗せてよくこれまで飛んでくださいましたわ」

 クルルー

ユウギリ「今日が私の最後の仕事になると思いますわ。でも、大丈夫、お前はまだまだ空を飛べるんですもの」

「だから、私の終わりまでは言うとおりに羽ばたいてくれること、それが私の願いですわ」


 十三章 前篇 おわり

 
128: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/12(月) 23:58:23.92 ID:CJU/4umR0
ニュクスと一緒に戦うキャラクター
 オーディン、ラズワルド

カミラと一緒に戦うキャラクター
 アクア、リンカ

 この組み合わせで行こうと思います。

 ちょっと、考えがまとまらなくて本篇は明日以降でおねがいします。


◇◆◇◆◇

カムイ「ふふ、レオンさんの息子さんと聞いていましたから、どんな人かと思ってましたけど、とっても可愛い声をあげるんですね」ピトッ

フォレオ「んっ、か、カムイさん。ど、どこをお触りになってるんですか……」

カムイ「どこって、顔ですよ。私の目が見えないことくらい、レオンさんから聞いていると思っていたんですが」

フォレオ「そ、それは知ってますけど……ひっ」

カムイ「なら、わかってますよね。私はフォレオさんのお顔が知りたいんです。だから……」シュッ

フォレオ「ひゃうっ」ゾクッ

カムイ「ふふ、御凸より少し上の部分が気持ちいいんですね。触れるとフォレオさんの髪と体が喜んでる気がします」

フォレオ「そ、そんなことありません。ありまっ、ひぅん! やっ、やめっ、そこ、あんまり触られたこと、ないんです」

カムイ「ふふっ、レオンさんは照れ屋さんですから、こうやって頭を撫でてあげることなんて中々してくれないでしょうからね。でも、時々撫でてくれたんじゃないですか?」

フォレオ「はい、小さい頃に秘境に会いに来てくれたときに撫でてくれましたから、とっても嬉しかったです」

カムイ「そうなんですか、ふふ、でも……」サワサワ

フォレオ「っ! か、カムイさん、そ、そこはぁ、駄目、駄目、ですよぅ……」

カムイ「こんなところ、触られたことあまりないんじゃないですか?」

フォレオ「や、やめてくださっ、んんっ!!」

カムイ「唇を噛みしめて我慢しても駄目ですよ。フォレオさんの息、とっても熱くなって、私の手に噴きかかって、とってもいやらしいです」

フォレオ「か、カムイさん。そ、そこ、そこにそれ以上、手を……ああっ!」

カムイ「左鼻筋から唇に掛けてが一番弱いことを知ってるのは、たぶん私だけですね。ふふっ、こんなに体をしならせて、すごく辛そう」

フォレオ「はぁ、はぁ、頭が、頭が何だかぼーっとして、んんっ、はぅんっ」

カムイ「ぼーっとしてますか、大丈夫ですよ。もう、そろそろフォレオさんのお顔、ちゃんと理解できますから……。唇はどんな形をしてるんですか?」ピチュ

フォレオ「んんっ」

フォレオ(カムイさんの指が、僕の唇に触れて……)

カムイ「柔らかいですね……フォレオさんの可愛らしい声にとっても御似合いで、とっても可愛いですよ」

フォレオ「こ、こんなことで可愛いって言われても……」

カムイ「仕方無いじゃないですか。だって、こんなに体をくねらせて、熱い息を漏らして、頬を熱くしてるのを想像したら、自然と可愛いって言葉が漏れちゃうんですから」

フォレオ「か、カムイさん……」

カムイ「あと少しだけ、フォレオさんのこと、私に教えてくれますか?」

フォレオ「は、はい……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

フォレオ「そんなことがあったんです、お父様……」

レオン「そう、いつもどおりみたいだね、姉さんは」

フォレオ「!?」


◇◆◇◆◇ 

 番外はこんな感じに落ち着きそうです。

131: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 14:39:15.55 ID:rpJkRFEX0
◆◆◆◆◆◆
―シュヴァリエ公国『中心地』―

カムイ「おかしいですね、全く敵の襲撃がないなんて」

カミラ「というよりも、町が静かすぎるわ。住人が一人も見当たらないなんて、異常な光景よ」

アクア「……そうね。私たちが進む足音くらいしか聞こえないなんて」

カムイ「まったく気配が感じられません。この先はどういう構造になっているんですか?」

エリーゼ「んっとね。大きな広場になってるみたいだよ」

カムイ「……先の広場には数名で入りましょう。大勢で入り込んで一網打尽にされるのは避けたいですから」

カミラ「そう、なら私も付いて行くわ。カムイだけじゃ心配だもの」

エリーゼ「あたしも一緒に行くー。アクアおねえちゃんも一緒に行こっ?」

アクア「ええ、いいかしらカムイ?」

カムイ「……ええ、どうぞ」

ピエリ「カムイ様、ピエリよりも後ろにいるの。しっかり守ってあげるから、期待してて欲しいの」

リリス「そういうわけですから、私とピエリさんより前に出ないでくださいね、カムイ様」

カムイ「……わかりました。他の皆さんはここで待機、武器はすぐにでも使えるようにしてください」

132: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 14:49:25.42 ID:rpJkRFEX0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カミラ「……広場にも人影はない……みたいね」

エリーゼ「うん、でも静かすぎて、なんだか怖いよ」

アクア「ええ、でも、微かに感じるわね」

カムイ「誰かに見られているのは確かですね」

ピエリ「……何もいなくてつまらないの」

リリス「何もいない方が嬉しいんですけど」

???「おいでなすったようじゃ」

 カラカラカラカラ シュビィン!

ピエリ「カムイ様、危ないの」キィン!

カムイ「!」

ピエリ「危なかったの。カムイ様、気をつけるのよ。でも、とっても弱い攻撃だったの……」

???「うぷぷ、やはり気絶させる程度の攻撃では、傷など与えられないということじゃな」

 ザッザッザッ

カミラ「あら、堂々と姿を現すものなのね」

???「そうじゃのう。ある種、礼儀みたいなものじゃ」

アクア「だったら、先に攻撃をしないことの方が重要じゃないかしら?」

オロチ「うぷぷ、暗夜に付いたアクア王女に言われたくはないものじゃが、確かにその通りじゃのう」

アクア「! あなた、オロチ……」

オロチ「久しいのう、アクア王女。こうして会うのは何時ぶりか?」

アクア「どうして、あなたがここに」

オロチ「何を言っておる、そなたとわらわたちは敵同士じゃ。それでも十分な理由とは思うがのう?」

???「そうですわ、オロチの言う通りでしてよ」

 バサッバサッバサッ シュタッ

133: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 14:56:17.81 ID:rpJkRFEX0
アクア「金鵄武者のあなたも来ているなんて……」

ユウギリ「御久し振りでございます、アクア王女。うふふ、予定の人物が二人も目の前にいるというのは幸先いいですわ」

オロチ「そうじゃのう。探す手間が省けたというものじゃ」

カミラ「あら、おとなしく妹たちを渡すとでも思っているのかしら」

カムイ「……」サッ

オロチ「ふっ、カムイ王女、今合図を送れば、隠れておる者たちの矢が降り注ぐぞ。うぷぷ、流石に多くの量じゃ、一人くらいは死んでしまうじゃろうが……。やりたければやるがよい」

オロチ(実際は数名の脅しじゃが、さて、どう出るかのう?)

カムイ「くっ……」スゥ

ユウギリ「理解力の高い王女で助かりますわ。罠とわかっていてこの広場に入ってくるのは、少し愚かではありますけど」

エリーゼ「ううっ、どうしよう……」

アクア「エリーゼ、今は動かない方が身のためよ。どうやら、向こうは私たちをすぐにでも殺そうと思っているわけではないみたい」

オロチ「飲み込みが早くてよいのう。さて、唐突な話じゃが、カムイ王女にアクア王女、今からこちらの旗を仰ごうとは思わぬか?」

アクア「……何を言い出すかと思えば、まさかそんなことを話すために、私たちを足止めしたって言うの?」

オロチ「うぷぷ、酔狂と思われて構わないこと、別にお主たちの返答に期待などしておらん、これもいわば流儀みたいなもの。じゃが、今こちらに付くというのであれば、すぐに反転して前線を攻撃に参戦してもらうことになる。無論、暗夜を倒すためにじゃ」

カムイ「……それは、できません。この反乱を鎮圧しなければならない理由があるんです。残念ですけど、そちらの旗を仰ぐなど――」

オロチ「そうか、残念じゃ。そなたの知り合いもこちらにおるというのに、聞く耳すら持たぬとはのう」

134: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 15:00:37.77 ID:rpJkRFEX0
カムイ「っ……なんのことですか」

オロチ「うぷぷ、何を動揺しておるのじゃ? わらわたちを倒しに来たにしては覚悟が足りぬように見える」

カミラ「あらあら、それ以上カムイを虐めるなら、容赦しないわよ」

ピエリ「カムイ様に牙をむくなら許しはしないのよ」

ユウギリ「せっかちはよくないですわ。それに、私たちの主がそろそろ到着しますもの」

アクア「主?」

オロチ「わらわたちが仕えていた元の主は、あの日に殺されてしまったからのう。こうして、また誰かに仕えるのは久々なことじゃ。その方の指示でそなたたちに、こうして提案しておるわけじゃ」

ユウギリ「ええ、新しい主はお二人が帰られるのを待っておられますから。大丈夫、白夜でも必ずお守りしてくれるはずですわ」

アクア「……信じられないわね。ここまでのことをしておきながら、その目的が私とカムイを連れ戻すことだなんて……」

オロチ「出来れば、先ほどの一撃でアクア王女からカムイ王女に倒れてもらって、片方を盾に交渉をしたかったのじゃが、中々うまくはいかぬものじゃ」

カムイ「……わたしは、戻れません。私はここに――」




???「クリムゾンと話をするために来た。そうだろう、カムイ?」

135: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 15:06:06.36 ID:rpJkRFEX0
カムイ「えっ?」

???「オロチから話は聞いてる。ふふっ、カムイらしいと思うよ」

アクア「……そう、あなたなのね。ここの指揮をしている人っていうのは」

???「ああ。だからこそお前は必ず来てくれると信じていた。それにアクアも一緒に来てくれたのはとても嬉しい、サクラも一緒にいてくれたらもっと良かったんだが。ふふっ、リョウマ兄様には悪いが、私がカムイとアクアを白夜に連れて帰る。そして、このままの勢いで暗夜を倒して、一緒に暮らそう。これからずっと、一緒に……な」

カミラ「泥棒猫も、ここまで来ると、清々しくていいわね。そうでしょ、ヒノカ王女?」

ヒノカ「……貴様のような目狐に名を覚えられたくはない。今日こそ、カムイを返してもらう。私はそのためにここにいるんだからな」



 バサバサバサバサ シュタッ

ヒノカ「カムイ。また会えたな」

カムイ「ヒノカさん……。あなたがこれを引き起こしたんですか」

ヒノカ「私はこの反乱に便乗しただけさ。カムイ、お前を暗夜の呪縛から解き放って白夜に連れて帰る、それ以外のことなど正直どうでもいいんだからな」

ピエリ「カムイ様に近――」

リリス「ピエリさん、動いちゃ駄目です!」

オロチ「命拾いしたのう……なにせ、今度は加減をするつもりなどないんじゃ、引き裂かれたくば、おとなしくしておくのだ」

136: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 15:10:54.80 ID:rpJkRFEX0
カムイ「ヒノカさん、私のことは忘れてくださいと、言ったはずです」

ヒノカ「カムイ。無理なことを言わないでくれ、それに私のことは姉さんと呼んでくれていいんだぞ」

ダキッ

ヒノカ「ああっ、カムイ。久し振りだ、お前をこうして抱きしめるのは。あの日、再びお前を失ってから二度と手に入らないと思っていた。あの日のまま、お前が変わっていなくてとても嬉しいよ」

カミラ「カムイ!」

アクア「カミラ、動いては駄目!」

カミラ「っ!」

ユウギリ「動いたら、命はないですよ。ヒノカ様からはアクア王女とカムイ王女以外の命はどうでもよいと言われておりますわ」

エリーゼ「カ、カミラおねえちゃん」

カミラ「私の後ろにいなさい。大丈夫、心配しないでいいわ」

カムイ「ヒノカさん、やめてください。私は……」

ヒノカ「カムイ。何を悩んでいるんだ?」

カムイ「何も悩んでいません」

ヒノカ「嘘だ。お前は悩んでいるはずだ、辛かっただろう。でも大丈夫だ、もう悩まなくていい」

カムイ「わ、わたしは……」

ヒノカ「リョウマ兄様の言葉を借りるわけではないが、お前が悩む必要はもうないんだ。私がお前の悩みをすべて解決する。さぁ、言ってくれ、今のお前の悩みを。大丈夫だ、悩みを吐露することは恥ずかしいことじゃない。私にだって悩みがあるようにな」

137: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 15:17:54.90 ID:rpJkRFEX0
カムイ「ひ、ヒノカさん。私は、何も……」

ヒノカ「大丈夫だ。小さい悩みでもいい、私はお前の小さい悩みにだって真剣に取り組む、だって、血の繋がった姉妹なんだから」チラッ

カミラ「むっ……最悪な気分ね」

ヒノカ「なぁ、カムイ。もうおまえはここまで頑張ってきた。でも、それもここで終わりにしよう。あとは、ゆっくり休んで待っていてくれればいい、今まで姉のようにふるまえなかった私に、姉としてお前に尽くす時間を……」

カムイ「ううっ、や、めて……」

ヒノカ「カムイ?」





カムイ「やめてください!」ドンッ




ヒノカ「カムイ……なぜ?」

カムイ「止めてください……」

ヒノカ「カムイ、怖がらなくてもいい。私ならお前の悩みを、すべて聞いてあげられる。怖いものからも守ってやれる」

カムイ「私が決めるんです。私が……」

ヒノカ「そんなに辛そうに言っているのに大丈夫なことがあるか。さぁ、カムイ私の手を取ってくれればそれでいい。さぁ」

カムイ「……ヒノカさん」

ヒノカ「さぁ、カム――」

 モウイイ、チャバンハオワリダ! ハナテ!

 ヒュンヒュンヒュン!

138: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 15:20:15.73 ID:rpJkRFEX0
カミラ「!? カムイ、逃げなさい!」

ユウギリ「動きましたわね」

 ヒュンッ キィン

アクア「カミラ、大丈夫?」

カミラ「ええ、ありがとう。先に手を出されたら黙ってられないわね!」ブンッ

ユウギリ「やりますわね」


ヒノカ「! シュヴァリエの兵たちが攻撃を!? 違うんだカムイ、これは」

カムイ「私はそちらに戻れません! はぁ、はぁ……皆さん、来てください!」スッ

 タタタタタタタッ チャキ ジャキッ

ヒノカ「くっ、カムイだけでも、私は!」

ピエリ「行かせないのよ!」ザンッ

 キィン

ヒノカ「そこを通せ!」ブンッ

 ガキィン

カミラ「あら、ごめんなさい。ここは通行止めよ。部外者は絶対に入れてあげないわ」

ヒノカ「どうして、私の邪魔をする!」

カミラ「愚問ね。カムイは私の家族だから、これ以上の理由が必要かしら?」

ヒノカ「黙れ!」

アクア「カミラ、あぶない!」

 キィン

ヒノカ「あ、アクア。なぜ、その女をかばう!?」

139: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 15:22:37.43 ID:rpJkRFEX0
アクア「ごめんなさい。でも、私は今の白夜に戻るつもりなんてない。これはその答えと思ってもらって構わないわ」

ヒノカ「カムイもお前も、暗夜に騙されているだけだ! いつか、いつかお前たちは――!」

アクア「ヒノカ……、あなたが私にくれた優しさもすべて覚えているわ。だから、今のあなたと一緒に私は過ごせない」

ヒノカ「……私は、お前たちを、お前たちと白夜でもう一度……」

アクア「ヒノカ、私は――」

カミラ「アクア、そこまでにしなさい……」

ヒノカ「カムイやサクラだけでなく、アクアまで……。なぜ奪うんだ、暗夜は私からすべてを奪い去ろうというのか!」

カミラ「すべてを奪うつもりなんてないわ。ただ、カムイもアクアも渡せない、それだけのことよ。そして、私は運が良かったって思えるわ」

ヒノカ「なら、お前を殺して、力づくで取り戻すだけだ!」ブンブンブン チャキ

シュヴァリエ兵「構わん、暗夜のものを皆殺しにしろ。正義はこちらにある!」

 ウオオオオォ! ドタドタドタドタ 

アクア「いっぱい入ってきたわ。エリーゼは後方のみんなと合流して」

エリーゼ「う、うん!」

アクア(ヒノカ……)

 アソコダ! 

 キリキリキリキリ バシュッ 

アクア「! しまっ――」

リンカ「アクア!」

 キィン

リンカ「ははっ、どうにか間に合ったみたいだ。……あんたはヒノカ王女だね」

140: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 15:27:51.72 ID:rpJkRFEX0
ヒノカ「お前は炎の部族の……、白夜の民でありながらお前も暗夜に付くというのか」

リンカ「正確には言えば違う。あたしはカムイに付いて行くだけだ。こうしてこう宣言するのは二回目になるな。だから、あたしはもう迷うつもりない」

カミラ「リンカ、アクアを援護して頂戴。私は、この泥棒猫をお仕置きして白夜へ帰ってもらわないといけないから」

リンカ「ああ、任せろ。アクア、あたしの後ろに付いてくれ。カミラ、できる限り援護はする」

カミラ「そう、期待してるわ」

アクア「皮肉なものね、リンカ」

リンカ「何がだ?」

アクア「同じ旗の元にいたはずの私たちが、こうして白夜と争うことになるなんて」

リンカ「……今さらそれを言っても始まらない。負い目があるのならヒノカと一緒に白夜に帰るか?」

アクア「……いいえ。もうあの白夜へは戻れない。リンカもそうでしょう?」

リンカ「ああ、そのとおりだ! せいっ!」ザシュッ

シュヴァリエ兵「ぐぶっ」ドサッ

カミラ「ふふっ、リンカも中々やるのね。さて、どう来るのかしらヒノカ王女?」

ヒノカ「どうもなにもない」

「ここで落ちるのはお前だ、カミラ王女」

146: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 23:40:32.21 ID:rpJkRFEX0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 カラカラカラカラ シュオンッ!

暗夜兵「くっ、くそ。近づけない!」

オロチ「うぷぷ、どうしたかのう。まだまだ、こちらの攻撃は終わらぬのに、これでは拍子抜けじゃ」

 カラカラカラカラ シュッ!

暗夜兵「ぐぎゃあ」ブチッ

オロチ「おっと、そちらから来るようじゃのう」

 カラカラカラカラ シュンッ!

暗夜兵「こちらから、近づければ――!? ひぎぃっ!」ビチャ

ユウギリ「ふふっ、いい声をあげますのね」

オロチ「あまり良いものではないのう。これが好きとは、やはりユウギリは変わりものじゃ」

ユウギリ「ええ。でも、仕方無いですわ。好きなものは好きなんですもの」

 パシュパシュ ドスッ

暗夜兵「ぐぎゃああああ、目が、あ、熱い、痛え!」

 バサバサバサッ

ユウギリ「ふふっ、良い声、ゾクゾクしますわ」

 クルクルクルクル ザシュ

暗夜兵「――っが――ふっ――はっ」プシャアアアアアア ドサッ

オロチ「ふむ、しかし、なんじゃろう、この敵の広がり方は。何か企んでおるようじゃ」

ユウギリ「そうですわね。でも、これは殺しやすくていいものですわ」ザシュッ

オロチ「ユウギリ、逃げたカムイ王女を探してきてはくれぬか? ヒノカ王女は動けそうにない、空を飛べるそなたのほうが見つけ安いはずじゃ」

ユウギリ「ええ、敵を摘まみながら、探してきますわ」

 バサバサバサバサッ

147: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/14(水) 23:52:56.06 ID:rpJkRFEX0
ラズワルド「金鶴がどこか違う場所に行くみたいだ。残ってるのは呪術師とアーマーナイトが三人の計四人か。でも、あの怖い人がどこかへ行ってくれて助かったよ」

ニュクス「そうね、できれば相手にしたくはなかったから、助かったわ」

オーディン「しっかし、変な感じに収まっちまった。ほとんどの部隊が散り散りじゃ、この反乱を抑えきれないぞ」

ラズワルド「ガンズの部隊がおかしな動きをしてたからね。何か企んでいるのかもしれないよ、あのゲパルト兄弟もその指示に従ってたみたいだし」

オーディン「一体何を企んでるかは知らないが、正直嫌な予感しかしないぞ」

ニュクス「そうね。でも、今は目の前のことに対処する時間よ」

ラズワルド「それもそうだね。それで、どうしようか?」

ニュクス「まずは、あのでかいの三人片付けるわ。そのあとにあの呪術師に攻撃を掛ける」

オーディン「そうかい。しかし、うまくいくのか?」

ニュクス「ふふっ、漆黒のオーディンって言われてるあなたが、こんなことで根を上げるのかしら?」

オーディン「まさか、今のは仮の姿だ。漆黒のオーディン、秘めたる力、アウェイキング・ヴンダーを駆使すれば、不可能なことなど何もない」

ニュクス「そう、頼りにしているわ。ラズワルド、どう?」

ラズワルド「対装甲のアーマーキラーを持ってきたのは正解だったね。どうにかして見せるよ」

オーディン「さすがは蒼穹のラズワルド、抜け目のない準備だ」

ニュクス「そう、それじゃラズワルド、ひとつ頼まれてくれないかしら?」

ラズワルド「いいけど、何をするんだい?」

ニュクス「それはね―――」

148: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/15(木) 00:00:57.53 ID:pTVpypf40
オロチ「ふむ、ここにはもういなさそうじゃのう?」

シュヴァリエ兵「オロチ様。次の場所へ向かいましょう」

オロチ「そうじゃのう……いや、まだいるようじゃ。その壁の向こうじゃな? これでどうじゃ!」

 カラカラカラカラカラ シュッ!

 ドガン!

ラズワルド「うえ、ばれてないこれ?」

オーディン「勘が鋭いようだが、呪術師以外はどうやらそうでもないみたいだ」

ニュクス「なら、よろしくね、ラズワルド」

ラズワルド「ああっ、行くよ! いっせーのっせ!」ブンッ

オロチ「何か飛び出した――!?」サッ

ニュクス「身軽なのが生きたわね。一番遠いやつを。これで!」

 ボウッ ボウッ ボウッ

シュヴァリエ兵「ぐえああああああああ。鎧、よろいの隙間からああああ、ひぎゃああああ、あづいああ」ドタッ プスプスプスッ

シュヴァリエ兵「!? くそっ、どこだ!」

オーディン「ここだっ!」

 シュオンッ ビリビリビリ

シュヴァリエ兵「ごあ、ああああがあああああ」ドサッ

ニュクス「んっ、流石にうまくは着地できな――」

シュヴァリエ兵「殺してやる!死ねええええ!」

 ザッ

ラズワルド「悪く思わないでね。せいっ!」

 ガギン ギギギギッ ガゴンッ ズシャ

シュヴァリエ兵「……」ポタポタタタッ ガシャンッ

149: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/15(木) 00:08:15.43 ID:pTVpypf40
オロチ「ふむ、護衛がやられてしまったのう。わらわも入れて四人いるからと油断した結果じゃな」

ニュクス「そうね……。さて、三体一よ?」

オロチ「うぷぷ、数は重要ではない。もう仕掛けは打っておるからのう」

ラズワルド「……負け惜しみかな? 降伏とかしてくれると嬉しいんだけど」

オロチ「うぷぷ、わらわはここで死ぬ気じゃからな。降参などした日には、この先ずっと思い出し笑いを続けることになる。それは御免じゃ」

オーディン「なんで、そんなに死にたがる? 意味がわからないな」

オロチ「意味など知る必要がないことじゃ。今から地に伏して死ぬものに、そんな託はちとサービスのしすぎというもの、そうじゃろう?」

ニュクス「そう。確かにそうかもしれないわね」バサッ

オロチ「うぷぷ、そなたは物わかりが良くて助かるのじゃ。むろん、勤めを果たすまで死ぬつもりはないがのう!」

 カラカラカラカラ シュッ
 カラカラカラカラ シュパッ
 カラカラカラカラ ドドドド

ラズワルド「三つ同時に展開した!?」

オーディン「なに、この、かっこいい出し方。俺もこれすっげえやりたいんですけど!」

ニュクス「仕掛けってこのことね」

150: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/15(木) 00:16:19.08 ID:pTVpypf40
オロチ「ついでにもう一つじゃ!」

 カラカラカラカラ ザンッ

オーディン「ラズワルド、ニュクス下がれ! 俺の漆黒の衣ですべて受け止めてみ――、うっ、ぐぼっ、ぐはぁ、ごはぁ!」ドサッ

オロチ「……うぷぷ、とても愉快じゃのう」

ニュクス「……何してるのよ。あなた」

オーディン「くはははははは! どうだ、俺の漆黒の衣の力を――いっつつ!」

ラズワルド「こんなところで、格好つけてないで、さっさと立ち上がってよ。次がもう来るよ」

ニュクス「すべて受け止めるなんて正気の沙汰じゃないわ、愚かね」

オーディン「ええっ? 体張ったのにこの仕打ち? ちょっとひどくないか?」

オロチ「くくっ、なんじゃそなたたち、とても息があっておるのう。凸凹しとる癖に、こうも見ていて笑えるものはないものじゃ」

ニュクス「一緒にされるなんて心外だけど。そうやって言葉でからかって術を仕掛ける時間稼ぎはやめた方がいいわよ」

オロチ「……よく見ておるのじゃな。普通、こんな暗い中では気づかないはずじゃ」

ニュクス「ええ、でも手から落ちる時、あなたの札はよく光に反射しているから見えないわけじゃないわ」

オロチ「……やはり即興の準備では駄目か。指摘までされるとは思わなかったぞ」

151: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/15(木) 00:20:37.55 ID:pTVpypf40
ニュクス「それに、あなたは展開が少し遅いみたいだから……。もともと人を殺すために呪術を習っていたというわけではなさそうだもの」

オロチ「人のことを詮索するのは感心せん」

ニュクス「そうね、心まで踏み入って悪かったわ」

オロチ「……いや、そうだったかもしれんな。それがこうして、こんなことに身を費やすことになるとは、本当にわからぬものじゃ!」

 シュシュシュシュ カラカラカラカラカラ

ラズワルド「次くるよ!」

オロチ「今回は追加はせん、次で三人まとめて仕留めじゃ」ハラ ハラ

オーディン「ここで引いたら、あいつは他の連中の場所に向かうはずだ。どうにかして止めるぞ」

ニュクス「ええ、そうね。だから、ラズワルド、オーディン。少し力を貸してほしいわ」

ラズワルド「別に構わないよ。で、どうするのさ」

ニュクス「少し、無茶するつもりよ」

オーディン「……いいだろう。力を貸す、だが奴を倒せるんだよな?」

ニュクス「勝算がなければやらないわ。そういうものでしょう?」

オーディン「それもそうだ。で、俺は何をすればいい。この俺にだけできる、栄光ある使命を期待する」

ニュクス「ええ、さっき見せてもらったから言わせてもらうわ」

「オーディン、盾になりなさい」

152: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/15(木) 00:26:06.66 ID:pTVpypf40
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「はぁはぁ、皆と散り散りになってしまいました。くっ、敵に圧されて……」

ピエリ「カムイ様、後ろに下がってるの」
 
 パシュ キィン

ピエリ「いたっ」

リリス「ピエリさん、えいっ!」シュオン

ピエリ「ありがとなの。えいっ!」ザシュッ

 ポタポタポタポタ ドサッ

ユウギリ「ふふっ、見つけました。みなさん、王女以外殺して構いません、行きますわよ」

 バサバサバサバサッ

ピエリ「……竜騎兵がいっぱいなのよ」

リリス「ぴ、ピエリさん……」

カムイ「くっ、こんな状態で狙われては」

 バサバサバサバサ

シュヴァリエ兵「くらえ!」ブンッ 

ピエリ「んぐっ! 怒ったの!」シュ ザシュ

 ドサッ

シュヴァリエ兵「その騎兵を殺せば、王女だけだ! たたみかけろ!」

カムイ「てやあ!」ザシュッ

シュヴァリエ兵「ぐっ、くそおお」ドサッ

ユウギリ「ふふっ、斬りかかってくるのですね。なら、その足の一本でも奪わせてもらいますわ」クルクルクル ジャキ

 ザッ

カムイ「!」キィン

ユウギリ「! 甘かったみたいですわ。でも、これなら!」グルン バシンッ

カムイ「ぐああっ!」

ピエリ「カムイ様! カムイ様から離れるの!」ブンッ
 
 サッ

ユウギリ「惜しかったですね。やはり、遊撃手を倒してからに限りますわ。これで、どうです?」パシュ

153: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/15(木) 00:34:56.99 ID:pTVpypf40
 キィン

ピエリ「んっ! まだまだ、負けられないの! リリスもカムイ様も守って、守ってみせるの!」

リリス「カムイ様。これで、大丈夫です」

カムイ「はぁ……はぁ、リリスさん」

ピエリ「ううっ、このままじゃ押し込まれちゃうの」

カムイ「だから言ったんです、私の近くにいても……」

リリス「カムイ様、後悔なんてしません。だから、そんなことを言わないでください」

ピエリ「……カムイ様にそんなこと言わせないの。今から全員八つ裂きにしてやるの」

リリス「カムイ様はここにいてください! ピエリさん、存分に暴れちゃってください!」

ピエリ「うん、いくの!」

ユウギリ「そう、では私たちも行きますわよ!」

カムイ「くっ、私も加勢しないと――」

???「でやぁ!」

カムイ「!?」

???「そこだっ!」ガシッ

カムイ「!」

カムイ(この敵、私に突進して……まさか)

???「悪いけど、一緒に下に落ちてもらうよ!」

 ガタンッ ゴロゴロゴロゴゴロ

ピエリ「!? カムイ様が下に落ちちゃったの!」

リリス「えっ、そんな!」

ピエリ「すぐに、助けに―――」

ユウギリ「よそ見している暇はありませんわ」ブンッ

ピエリ「くっ、しつこいの! ピエリはカムイ様の場所に行きたいの、邪魔しないでなの」

ユウギリ「それは無理な相談、それに今の状況は好都合ですわ、これであとはあなた方を殺して、下に降りるだけでいいはず。手加減のしようがなくなりましたわ」

ピエリ「……怒ったの、全員、地面に平伏してあげる。そしてすぐにカムイ様を追いかけるの。リリス、しっかりつかまってるのよ」

リリス「…………」

154: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/15(木) 00:41:29.44 ID:pTVpypf40
ピエリ「リリス?」

リリス「……ピエリさん、ごめんなさい」シュタッ

ピエリ「リリス、あぶないの!」

シュヴァリエ兵「逃げだした奴がいるな。あいつを先に殺してやる」バサバサ

リリス「はぁはぁ、ここから階段を下りて行けば!」

シュヴァリエ兵「背中ががら空きだぁ!」

リリス「!」

 ズビシャ!

ピエリ「……背中ががら空きなの」

シュヴァリエ兵「ぐぼっ、ば、ばかなぁ……」ドサッ

ピエリ「リリス。ここはピエリが抑えるの。だから早くカムイ様も元に行ってあげるの。ピエリもすぐに追いかけるから、先に行って合流してて欲しいのよ」

リリス「ぴ、ピエリさん」

ピエリ「早くするの! もう乗せてる時間無いの!」

リリス「う、うん。ありがとう!」

 タタタタタタタッ

ユウギリ「ふふっ、健気ですわ。でも、一人でこの人数を相手にできるかしら」

ピエリ「できるかじゃないの、するの! あんたたちみんな殺して、すぐにリリスとカムイ様に追いつくの」

ユウギリ「あなた、面白い方ですわね。でもさっきの子に追いつけたとしても、カムイ王女に追いつけるかはわかりませんわ」

「着く頃には、残念なことに死体になっているかもしれませんから」

155: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/15(木) 00:53:35.85 ID:pTVpypf40
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ドサッ ドサッ
 
カムイ「ううっ」

???「くっ、いたたっ。少し無理し過ぎたか」

カムイ「! くっ、リリスさん、ピエリさんとはぐれてしまいました……。命知らずな攻撃ですね、それともこうして私と二人切りになるのが目的だというんですか?」

???「そうだね。まぁ、そうしたかったからこんな無茶をしたんだ。大目に見てほしいね、カムイ」

カムイ「!」

???「あはは、何驚いてんのさ。ここはシュヴァリエの中なんだ、私と顔合わせになることくらい予想してたでしょ?」

カムイ「え、ええ。そうですね。その声を忘れることなんてありませんから、お会いできて嬉しいです……クリムゾンさん」

クリムゾン「ああ、久し振りだね、カムイ」

カムイ「……あの、クリムゾンさん。その、この反乱は……」

クリムゾン「ごめんね。あんな大口叩いておきながら、結局反乱を止めることなんてできなかったよ」

カムイ「クリムゾンさんの所為ではありません」

クリムゾン「やさしいねカムイはさ。でも、私にはなんの力もなかったってことを突きつけられる結果だったよ。カムイの期待には応えられなかった」

カムイ「でも、クリムゾンさんは反乱をどうにか抑えてくれようとしたんですよね? なら、それでいいじゃないですか」

クリムゾン「止められなきゃ意味なんてないよ。そしてここに来てくれたってことは、私に答えを示してくれるってことでいいんだよね?」

カムイ「……そうですね」

クリムゾン「まぁ、カムイの答えなんて決まってる、そうなんだよな?」

カムイ「ええ」

クリムゾン「それじゃ―――」





カムイ「安心してください。私がクリムゾンさんと剣を取りあえるようにいろいろしてみせますから。この反乱を静かに終わらせて、一緒に剣を取り合っていきましょう」

156: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/15(木) 01:04:40.43 ID:pTVpypf40
クリムゾン「……えっ?」

カムイ「クリムゾンさんは、私の命令でシュヴァリエ公国の反乱を防ぐために向かって、それに巻き込まれたということにします。こうすれば、クリムゾンさんを助けられます。お父様はあなたの首を差し出せとは言っていませんから」

クリムゾン「………ねぇ、それ本気で言ってるのかい?」

カムイ「本気です。私はあなたに生きていてもらいたいんです。だから――」

クリムゾン「そう、そうかい。そうかよ……」ジャキッ

カムイ「? クリムゾンさん?」

クリムゾン「てやっ!」ブンッ

カムイ「い、いきなり何をするんですか!?」

クリムゾン「……カムイ。私はそんな答えなんて求めてない。求めてないんだよ」

カムイ「な、なんでですか。私は――」

クリムゾン「反乱が起きたから手を取り合う時になった……そんなこと言うつもりなら、やめてほしいところだね。私を幻滅させないでくれない? 虫唾が走るよ」

カムイ「わ、私はクリムゾンさんを助けるためにここに来たんです」

クリムゾン「……なんだよその姿。どうしたっていうんだいカムイ。あの日のお前は一体なんだって言うんだ。今のお前は一体何だ?」

カムイ「わ、私は、何も変わって、変わっていません」

157: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/15(木) 01:10:29.45 ID:pTVpypf40
クリムゾン「カムイは反乱を抑えて私を救うなんて出来ると思っているわけかい?」

カムイ「私、私はそのために!」

クリムゾン「なら、それは叶わないよ。残念だけどね」

カムイ「どうしてですか!」

クリムゾン「私がシュヴァリエの人間だからだ。祖国の戦いを見て、それに参加してきた私が、今さらになってシュヴァリエを裏切ってカムイに付くことはないよ」

カムイ「あなたは、この反乱に正義なんてないって」

クリムゾン「ああ、そうだね。この先には正義なんて見出せないよ。でも、正義がなくても私は祖国のために剣を取る。そして、散るつもりだよ」

カムイ「そ、そんな。なら、私、私は……私はどうすればいいというんですか?」

クリムゾン「……もう、私の進むべき道は決まってるんだよ。カムイ」

カムイ「決まっていません! 私はあなたを救って――」

クリムゾン「もう話は終わりだよ。カムイ……あんたの答え聞かせてもらった。私が望んだものじゃなかったのはとても残念だけど、もう関係ないからね」

カムイ「やめてください、クリムゾンさんと戦うために、来たんじゃないんです。お願いです、武器を、武器を置いてください……」

クリムゾン「それはできない相談だね」

カムイ「!」

クリムゾン「カムイ、私はあんたを殺すつもりだよ。今の私はシュヴァリエのために剣を握ってる、もう動きだしたものは止まらない。私は最後まで愚かなシュヴァリエの象徴であると、決めたんだ」

カムイ「……クリムゾンさん」

クリムゾン「さぁ、剣を取りなよ、一体一だ」

カムイ「……ぐっ」フルフルフル

クリムゾン「……そう、それでいい。それじゃ、始めよう」

「私の望んだ答えを、お前に提示してもらえるまでさ……」


165: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/17(土) 00:11:07.80 ID:Q5kycwdW0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~

オロチ「うぷぷ、仲間に盾になれとは。面白いことをいうものじゃ」

ニュクス「こっちは真剣そのものよ」

オロチ「真剣とな。その男の顔が引きつっておるは気の所為か?」

オーディン「そんなことはない。俺は与えられた使命に魂を躍動させていたところだ」

ラズワルド「足を震えさせながら言うことじゃないよね」

オーディン「……ふっ、これは武者震いだ」

ニュクス「ほら、本人もそう言ってるから、大丈夫よ」

オロチ「なるほど、ではその魂の躍動とやら、見せてもらおうかのう!」

 カラカラカラカラ 
 カラカラカラカラ 

ニュクス「オーディン!」

オーディン「ああっ、受け止めるだけが盾じゃないってことを教えてやる」ダッ

オロチ「ま、待つのじゃ! 動くなど聞いておらんぞ!」

オーディン「動かないわけないだろ、そのくらいわかるもんだ」

ニュクス「ラズワルド。言われたとおりにできるかしら?」

ラズワルド「任せてよ。でもさ、その本当にいいのかい?」

ニュクス「私が提案したのよ。でも、変なところを触ったら、後で覚悟しておいて」

オロチ「何を言っておるか知らぬが。なら、これで、一気に決めさせてもらおうかのう!」

 カラカラカラカラ シュオン
  カラカラカラカラ シュオン
   カラカラカラカラ 

166: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/17(土) 00:12:27.93 ID:Q5kycwdW0
ニュクス「来たわ」

オーディン「数は……さっきのを入れて五つ。ラズワルド、俺の背後にぴったりと付いてくるんだぞ」

ラズワルド「わかってるよ。それじゃ、ニュクス抱えるよ」

ニュクス「ええ」

オロチ「何をするかと思えば、抱っことは面白いことをするのじゃな。それでわらわの仕掛けを抜けるか?」

ニュクス「ええ、そのつもりよ。オーディン」

オーディン「ああ、行くぜ!」

 タタタタタッ バシン

オロチ「うぷぷ、自分から向かってくるとは愚かなものじゃ」

オーディン「その隙、もらった。リザイア!」

 シュオォォン

オロチ「!? ぐっ、これは……」

オーディン「よし、このまま二回目!」

 バシンッ

 シュオォォン!

オロチ「ぐあっ。くっ、ぬかったようじゃ。しかし、次からは当たらんぞ」

オーディン「構わない。もう、準備は整ったようだ」

オロチ「?」

ラズワルド「行くよニュクス」

ニュクス「ええ、放り投げて頂戴。できれば高くね」

ラズワルド「それじゃ、いくよ!」グッ

ニュクス「ふっ!」シュタッ

167: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/17(土) 00:16:05.34 ID:Q5kycwdW0
オロチ「なるほど、そなたが本命か。じゃが、当てられる物かのう?」

ニュクス「言ってくれるわね。それじゃ、狙わせてもらうわ」

 ボウ ボウッ ボウッ 

オロチ「どこを狙っておるのじゃ。そんな攻撃で、わらわの仕掛けをどうにかできるなどと――」

ニュクス「今よ、ラズワルド」

ラズワルド「ああ!」

オロチ(魔術で出した炎にまぎれて、正面からじゃと!?)

ラズワルド「これで、終わりだよ!」ドゴンッ

オロチ「ぐあああっ」ドタンッ……ドタッ

ラズワルド「よし、僕たちの勝ち、だね」

オーディン「まったく、少しは手加減してくれよー。一人に向かってあの量はさすがにないって」

ニュクス「ふぅ、どうにかなったわね」スタッ

オロチ「ぐっ……てっきり、そなたが決めに来るとばかり思っておったが。うまく裏を掛れたということかのう、っ……」フラフラ

ニュクス「いえ、本来なら逃げるべきところよ。あなた、面と向かって戦えるほど、器用には見えないから……人数差を考えれば撤退するところよ」

オロチ「うぷぷ、なに、どうにかなると思っただけ、しかし結果はこの様じゃ。辛いのう、最後の最後、この命を使う場所に至れぬというのは」

ニュクス「……」

ラズワルド「命は使うものじゃないよ」

オロチ「……」

オーディン「ラズワルドの言う通りだ。命ってのは使うとか使えないとか、決めつける存在じゃないはずだ」

168: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/17(土) 00:18:13.60 ID:Q5kycwdW0
オロチ「まさか、敵にそんなことを言われるとは思ってもいなかったのう。まったく、どうして最後の最後でこうも愉快なことが続くんじゃろうな」

ニュクス「……あなたは、命を使ったのね」

オロチ「……そこまで話すつもりはないのでのう」

ニュクス「そう……私もあなたのような歳で手を出していたのなら、命を使う道を選んだのかもしれないわ」

オロチ「なんじゃその言い方。まるでわらわよりも歳が上だと言っているように聞こえるが?」

ニュクス「そう、言っているつもりよ」

オロチ「……うぷぷ、面白い話じゃ。その話を鵜呑みにすると、どうやらそなたは違う道を選んだということじゃな」

ニュクス「ええ」

オロチ「なら、わらわが選んだ道をどう思うかのう?」

ニュクス「……何も言わないわ。あなたが選んだ道だもの。私たちが何を言ったって、選んだあなたの気持ちが変わらなければ、私たちにはどうすることもできないことよ」

オロチ「……」

ニュクス「命を使いたいんでしょう?」

オロチ「……そうじゃのう」

ニュクス「なら、その仕える場所に行けばいいわ」

オロチ「自由になった瞬間、そなたたちに牙をむくかも知れんぞ?」

ニュクス「その時は、容赦なく殺してあげる。でも、あなたから何かしてこない限り、私たちは手を出さない。約束するわ」

ラズワルド「……認めたくないけど、ニュクスの言う通りだよ。僕とあなたは今出会ったばかり、その考えを変えられるなんて思ってないよ」

オーディン「たしかに、そうだろうな。俺たちの言葉がお前に届くことはない、それくらい理解してるつもりだ」

オロチ「まったく、そなたたちは何とも愉快な者たちじゃ」

ニュクス「愉快っていうのは心外よ。早く行きなさい、間違っても私たちの前にまた立ちふさがらないで頂戴ね」

オロチ「そうじゃのう。また出会ってしまったら、この流れを一からやり直し、それはつまらないものじゃ。どちらにせよ、わらわの命を使う場所へ至れるのはそなたたちのおかげじゃ。ありがとう」

 タタタタタッ

ラズワルド「これでよかったのかな?」

ニュクス「答えなんてないわ。彼女が選んだ道だもの」

オーディン「……それじゃ、俺たちも次の場所に向かおう」

ニュクス「ええ、そうね。もう、出会うこともないんだから――」


176: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/18(日) 22:23:06.56 ID:OzoMPJUy0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ピエリ「てやぁ!」ズシャ

 ギャアアア! ドサッ

ピエリ「はぁ、はぁ……。まだまだやるの」

ユウギリ「ふふっ、まさかここまでやれるなんて思っていもいませんでしたわ」

ピエリ「ピエリ、通さないって決めたの。絶対にあなたたちをカムイ様とリリスの許になんて行かせない、ピエリが戦う場所で出来ることなんてこれくらいだから」

ユウギリ「そうですか。なら、その出来ることが出来なくなったとしたら、あなたはどんな断末魔をあげるんでしょうね?」

ピエリ「……そんなのあげないの。むしろ、そっちがいっぱいあげる方なのよ」

ユウギリ「たしかに、現状見る限りではそう言われても仕方ありませんわ。もうあまり兵が残っておりませんもの、ここまでやられるとは思ってもいませんでしたから、あなたの力を甘く見ていた報いですわね」

ピエリ「……」

ユウギリ「でも、あと一押しすれば、あなたを殺すには足りるでしょうから、そろそろ止めと行きますわ」チャキ

ピエリ(……馬を落とされたら終わり、でも馬は疲れてる。でもやらなきゃだめなの。そうじゃなきゃ、リリスもカムイ様の後も追いかけられなくなっちゃうのよ)

シュヴァリエ兵「ユウギリ様、援護をお願いします」

ユウギリ「ええ、あちらはどうやら疲れているようですから、矢を添えるだけですみますもの。それでは、行かせていただきますわ!」パシュッ

177: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/18(日) 22:34:17.24 ID:OzoMPJUy0
ピエリ「甘いの!」ダッ

ユウギリ「まだ動きまわりますのね。だからこそ、足を止めてしまった時の鳴き声が楽しみで仕方ありませんわ」

ピエリ「鳴かせてみせればいいの!」ヒュンッ

 サッ

シュヴァリエ兵「ハッ! 動きが鈍いぞ、暗夜の犬が!」

ピエリ(駄目なの。やっぱり、動きがぎこちないの)

ユウギリ「ふふっ、どこまで避けられるのか、見せてもらいますわ」パシュ
 
 パシュ
 
 パシュ

 パシュ

ピエリ「いたっ! ううっ、痛いの……」

シュヴァリエ兵「よし、今だ! くらええええ!」ザッ

ピエリ「させな――」スッ

ユウギリ「させませんわ」パシュッ

 ズシュ

ピエリ「っ!!!!」

 カランッ

ピエリ(! 武器が落ちちゃったの……。だめ、態勢が――」

 ドサッ

ピエリ「っ!」

シュヴァリエ兵「ははっ、武器がなければ何もできない女が。これでおわりだ!」

ピエリ(……駄目なの。今起きあがっても間に合わない。ピエリ、ここで死んじゃうの……)

ピエリ「リリス、ごめんなの………」


 タタタタタタタッ

178: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/18(日) 22:45:08.72 ID:OzoMPJUy0
シュヴァリエ兵「しねええ―――」

???「はああああああっ、おらぁ!」

 ドゴンッ

シュヴァリエ兵「―え、ぐぎゃっ」ドサッ

ピエリ「……ふぇ?」

???「てめぇ、武器をもってない女に手を出すとはいい度胸ねえ」

ピエリ「……あれ、ピエリ死んじゃったんじゃないの?」

ユウギリ「ええ、今、死ねますわ」パシュ

???「させんぞ……」キィン

ユウギリ「!?」

???「ちょっと、あんた大丈夫?」

ピエリ「ピエリ、大丈夫なの?」

???「なんで疑問形なのよ。それにしても、拳で殴ったのは久しぶりだから結構痛いわ。肌に傷がついたらどうしてくれるのよ」

???「ふっ、無茶をする……」

???「いいでしょ。それに眼の前で仲間、しかも武器も持ってない女が殺されるのなんて、見てていいもんじゃないし。ブノワだって、かなり急いでたじゃない。早く動けないくせに」

ブノワ「それもそうだな……、お互い無茶ばかりする」

シャーロッテ「さてと、武器が無いからって女を舐めてる奴から掛ってきなさい。今日の私は気が立ってるから、そんじゃそこらの拳とは一味も二味も違うのをお見舞いしてあげるわ」

ピエリ「えっと、何が起きたの。ピエリ、わからないの!」

ブノワ「混乱しているところ悪いが、これはお前の武器か?」

ピエリ「そうなの、あとあの馬もそうなのよ。二人とも誰なの?」

シャーロッテ「シャーロッテよ。っていうか城壁で一緒に闘ってたでしょうが!」

ピエリ「? そうだったの? ピエリ、全然気付かなかったの」

179: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/18(日) 22:58:26.14 ID:OzoMPJUy0
シャーロッテ「なによそれ、急いできた私たち馬鹿みたいじゃん」

ピエリ「死んだら会える鬼がピエリのことを迎えに来たのかと思ったの。金髪だって聞いてたから二人も来てくれるのかなって思ったの」

ブノワ「お、鬼か……」

シャーロッテ「けっ、こんな可愛い見た目の鬼がいるかっての」

ピエリ「確かにそうなの。でもなんで、ピエリを助けたの?」

シャーロッテ「あんた、カムイ様に付いてたでしょ?」

ピエリ「ピエリ、カムイ様を守るの」

シャーロッテ「それが理由よ。運よく巡り合えた最高の機会を、こんなちっぽけな反乱で失うなんてまっぴらなんだから」

ピエリ「? どういうことなの?」

ブノワ「一緒に戦おう。そういうことだ」

シャーロッテ「そういうこと」

ピエリ「なら手伝ってほしいの!」

シャーロッテ「そう言ってるでしょ。ブノワ、壁任せたわ」

ブノワ「元からそのつもりだ……」

ユウギリ「……」

シュヴァリエ兵「けっ、たかが三人でどうにかできると――」

ピエリ「えいっ!」ポイッ グサッ

 ドサッ

ピエリ「一人減ったの」

シャーロッテ「容赦ないわね。あんたが死んだとしても、迎えの鬼が裸足で逃げ出しそうね」

ユウギリ「現れて早々、一人を殴り倒したあなたが言うんですから間違いないですわ」

シャーロッテ「余計なお世話よ!」

180: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/18(日) 23:17:48.32 ID:OzoMPJUy0
ユウギリ「増えてしまっては、これ以上押し切れるとは思えませんね」

シャーロッテ「で、どうすんだよ。やるのかやらないのか、さっさと決めなよ」

ブノワ「……」

ピエリ「……」

ユウギリ「……そうですわね」

シュヴァリエ兵「ユウギリ様、問題ありません。はやくこいつらを始末して――」

ユウギリ「いいえ。このまま戦っても意味はないでしょう。どうやら、私たちでは一人に声を上げさせるので手いっぱいですわ」

シャーロッテ「……逃げる気かよ」

ユウギリ「癪ですが仕方ありません。それに、あなた方と相打ちになるもの悪くありませんけど、それは私に課せられた使命ではありませんから」

シャーロッテ「ごたごた抜かしてないで、行くならさっさと行けよ」

ユウギリ「そうさせていただきますわ。皆さん、引きますわよ。カムイ王女のことは彼女に任せましょう」

シュヴァリエ兵「しかし……」

ユウギリ「あなた方の指揮を任されているのは私ですわ。そこを勘違いしてもらっては困りますわ」

 バサバサバサバサ

ピエリ「……逃げたの?」

シャーロッテ「みたいよ」

ブノワ「ふぅ、戦わずに済んでよかった……」

シャーロッテ「まったく、なら最初から攻撃してくるなっての。それで、あんたピエリだっけ?」

181: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/18(日) 23:28:05.68 ID:OzoMPJUy0
ピエリ「そうなの。えっと、シャーロッテ?」

シャーロッテ「そうよ。それで、カムイ様はどこに行るわけ?」

ピエリ「そうなの! カムイ様、あそこから落ちて行っちゃったの」

ブノワ「ここから落ちたって言うのか……。助かるだろうか?」

シャーロッテ「ブノワ、シャレにならないこと言うんじゃないよ」

ピエリ「か、カムイ様、死んじゃったの? そんな、ピエリ、ピエリ、ふえええええええんん!!!!」

シャーロッテ「うわ、いきなり泣き出さないでよ」

ピエリ「えっぐ、でも、カムイ様、死んじゃったって」

ブノワ「すまない。死んだと決まったわけではない、今から確認に向かおう」

シャーロッテ「そういうこと。ピエリ、できれば馬乗せてもらえない? ちょっと、疲れちゃったの、いいでしょう?」

ピエリ「駄目、ここはリリス専用なの」

シャーロッテ「ええ……」

ブノワ「仕方無い、俺たちは走って追いかけることにしよう」

ピエリ「早くリリスも見つけて、カムイ様と合流するの。一人は危険がいっぱいなの」

シャーロッテ「リリスっていうのは一人で行動してるわけ。でも、腕っ節はあるんでしょ?」

ピエリ「ぜんぜん無いの。ロッドを使えるくらいなの」

ブノワ「それはとても不味いんじゃないのか?」

182: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/18(日) 23:37:49.14 ID:OzoMPJUy0
シャーロッテ「早く探さないとやばいわよ、それ」

ピエリ「そうなの。だから早く探しに行くの!」

シャーロッテ「なら、さっさと行くわよ。って、そのリリスっての、無茶するわね」

ピエリ「カムイ様のことを守るって言ってたの。リリス、カムイ様のこと大好きなの」

ブノワ「そうか……」

シャーロッテ「はぁ、だからって一人で飛び出すなんて無計画過ぎね。私なら媚打って男を何人か連れてくるのに」

ピエリ「そうなの? いっぱいいると的に思えちゃうから、要らないの」

シャーロッテ「……的って、あんたね」

ピエリ「こんなこと話してる場合じゃないの。早くリリスとカムイ様に追いつかないといけないの」

シャーロッテ「ちょっと、置いてくんじゃないわよ!」

ブノワ「くっ、あまり早く走れない……」

シャーロッテ「根性見せなさいよ、ブノワ!」

ピエリ「二人ともおいて行っちゃうの!」

ピエリ(リリス、今追いつくの、そして一緒にカムイ様を守るの!)

183: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 00:06:15.83 ID:3+Kd5xip0
~~~~~~~~~~~~~~~~~

リリス「はぁはぁ! たしかあの真下はこのあたりのはず――」

シュヴァリエ兵「いたか?」

リリス「!?」サッ

シュヴァリエ兵「いや、ここら辺にはいないみたいだ。所定位置にいつまで経っても現れないから来てみたが……」

シュヴァリエ兵「やはり、奴はシュヴァリエを売ったに違いない。そうだ、今頃憎き暗夜の王女とどこかに隠れているのかもしれないぞ」

シュヴァリエ兵「けっ、一人だけ生き残ろうって魂胆か? あれで、自分に皆が動かせているなんて思っていたなんて飛んだ勘違いの●●●●だな」

リリス(暗夜の王女……カムイ様のことですよね。でも、もう一人と言うのは……)

シュヴァリエ兵「まあ、いい、見つけ次第一緒に殺してしまえばいい。暗夜の王女も、あのクリムゾンっていう小娘もな。けっ、暗夜王国に行くなんて言わなければ、殺されることもなかっただろうに」

シュヴァリエ兵「ははっ、結局この反乱が終わったら暗夜に情報を漏らしたとか、そんなこと言って処刑するつもりだったんだ。刑が早くなっただけの話だろ?」

シュヴァリエ兵「違いない。なにせ反乱が確実になった瞬間に手のひらを反してきたんだ、まったく逞しい生き様だね。俺にはとてもまねできない」

シュヴァリエ兵「まったくだ。よし、ここら一帯は迷路みたいに入り組んでるが、一直線で逃げ場がない場所が多い。見つけ次第、どちらも殺してしまえ」

シュヴァリエ兵「わかってるさ」

 タタタタタタッ

184: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 00:15:17.78 ID:3+Kd5xip0
リリス「……カムイ様、まだ生きているんですね。それがわかっただけでも良かったです」

リリス「でも早く見つけないといけません。あの人たちは、見つけた瞬間に攻撃をしてくるような人たちのようですから」

リリス「大丈夫、私には星竜の加護があります……」

リリス「だから、カムイ様。どうか無事でいてください」

リリス「私がたどり着くまで、生きていてください」

リリス「必ず私が、あなたを守ってみせますから」

 タタタタタッ

185: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 00:23:50.45 ID:3+Kd5xip0
 今日はここまでです。この頃、話があまり纏まらなくて遅筆で申し訳ない。
 
 資料館でイベントシーンを見返せる機能が切実に欲しい……

 

 

187: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 21:59:41.90 ID:3+Kd5xip0
~~~~~~~~~~~~~~~~~

クリムゾン「どうしたんだい、カムイ。受けてばっかじゃ、私は倒せないよ?」

カムイ「私は、あなたと戦いたく――」

クリムゾン「いつまでそう言うつもりか知らないけど。なら、私に殺されるしか道はないよ、それでもいいわけ?」

カムイ「クリムゾンさんも、私に殺されてもいいって言うんですか?」

クリムゾン「今のあんたに言われてもまったくそんな気持ちにはならないよ。負けるつもりはないし、あんたの望みに応える気もさらさらないからね」

カムイ「どうしてですか、あなたに私は生きていてほしいと思っているのに」

クリムゾン「……それが本当のあんたなのかい?」

カムイ「な、なにがですか……」

188: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 22:10:26.55 ID:3+Kd5xip0
クリムゾン「私と話をした時のこと、覚えてるかい?」

カムイ「当然です。だから私はここに来たんです、あなたと剣を取るために、取れる未来を得るために。あなたを失わないために」

クリムゾン「……ははっ。面と向かって言われるとなんだか恥ずかしいセリフだね」

カムイ「なら」

クリムゾン「どうして、私と話をした時の面影と今のお前はこんなに違っているんだい? 私には、カムイがおかしくなったようにしか見えない。あんたはあの時言ってくれた、時が来たらって。そして今、反乱が起きたら剣を交える側になるって」

カムイ「そ、それは……」

クリムゾン「私はね。迷いもなくそう言い切れるあんたを信じた。信じたからこそ、私はシュヴァリエを……この反乱を止めるために戻ったんだ。遠回りしたところに、カムイの言葉があったから、こうしてこの反乱に加担した」

カムイ「……」

クリムゾン「でも、今のカムイからはなにも感じない。私と、リョウマが信じたカムイは、たぶん今のあんたとは別人なんだろうね……」

カムイ「私は私です! 私はあなたを助けることが出来る、出来ると思ったから――」

クリムゾン「出来ないって言ってるのがわからないのかい!」ドゴッ

カムイ「きゃあああっ」ズサーッ

189: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 22:24:13.56 ID:3+Kd5xip0
クリムゾン「私はあんたの操り人形じゃないんだ。私が選んだ道を否定するのは構わないけど、カムイの求める道に無理やり引き込まないでよ」

カムイ「操り人形だなんて……思って――」

クリムゾン「あの時のあんたが言ったら信じたよ。あのとき、カムイは私が言うべき台詞を先に潰してきたんだからさ。この反乱がもしも始まったら、敵同士だって私は言おうとしていたのを、先に剣を交えるって言葉で消した。私が反乱を止められなかった時に、それを止めてくれるって、あの時のあんたは言ってくれた気がした」

カムイ「うっ、くぅっ……」

クリムゾン「それがどうしたら私を助けるってことに繋がるんだい? そして、こうやって一騎打ちを望んでいるのに、戦う気もない素振りを見せて、何がしたいのかわけがわからないよ」

カムイ「クリムゾンさん……」

クリムゾン「ここに来ないでほしかった……」

カムイ「えっ……」

クリムゾン「こんな、こんな惨めな思いをするくらいなら……」

カムイ「クリムゾンさん?」

クリムゾン「カムイが来なかったことを悔やみながら、死んで行く方が、私には幸せだったのかもしれない。こんな、こんなカムイを見て、それを殺すことになるくらいなら……」


190: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 22:38:45.63 ID:3+Kd5xip0
クリムゾン「本当に、どうしてあの時のあんたは今みたいに振舞ってくれなかったんだ。なんで、すべてに分別が付くみたいな顔をしてられたんだ。今のカムイにそんな顔できるわけないのに、なんで、なんで……そんな迷ってる子供みたいに、私に助けを求めてくるんだ!」ブンッ

カムイ「クリムゾンさん、私は、私はどうすればよかったんですか……」

クリムゾン「その答えを私が持ってるわけないんだよ! わかってよ、ここであんたを待つことを選んだ私が、どういう人間なのかってこと、あんたならわかってくれるはず。私の願いに応えてくれるって……そう思って、こんな場所で待ち続けてたのに」

カムイ「わかるわけ、わかるわけありません! 私は、私自身のことさえわからなくなっているのに、わかるわけないじゃないですか!」

クリムゾン「そんななのに、なんで来ちゃったんだよ。ここに来て優しさも何も要らないって、わかってるはずなのに。なんで私に希望を与えようとするんだい? 私は希望なんて捨ててここにいるんだよ」

カムイ「な、何を言っているんですか?」

クリムゾン「この反乱が成功しようが失敗しようと私には先がないんだ。文字通りの意味でね」

191: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 22:52:09.09 ID:3+Kd5xip0
カムイ「なっ……何を言っているんですか?」

クリムゾン「傑作だよね。シンボル? 象徴? お笑いだよ。もう私は厄介箱なんだ、シュヴァリエのために戦える最後の機会は、私の最後の日。だから、もう先を私は求めない、希望を持たないって決めたんだ」

カムイ「ど、どうして。あなたはシュヴァリエを思って、私に会いに来たというのに――」

クリムゾン「その理由は話さないよ。話しても何の意味もないからね。だから、私はあんたが来たことに心が躍った。二人きりでこうして、あんたに殺されることを夢見てた。私が唯一、望めるものがあるとするなら、カムイに殺してもらうことくらいだからさ」

カムイ「それを……私に望むって言うんですか!」

クリムゾン「ああ、そのつもりだよ。ここまで誘導できたのは、あんたが受けてばっかりだったからかもしれないからね」

カムイ「!」

クリムゾン「袋小路だよ。背中には壁、正面には私。もう、逃がすつもりはないからさ。生きて帰りたかったら、私を殺す以外に道はないよ」

カムイ「……」フルフルフルフル

クリムゾン「ははっ、震える姿はなんだか可愛いね。できれば、あの時、泊めてもらってた時に見せてもらいたかったかな」

カムイ「……クリムゾンさん。わ、私は――」

クリムゾン「それじゃ、暗夜王国王女、カムイ。覚悟しな!」ダッ

192: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 23:04:32.38 ID:3+Kd5xip0
カムイ(クリムゾンさんが向かってきます。気配が、これは斧槍ですよね?)

カムイ(ああ……こんなに、あなたに生きていてもらいたいのに。届かないんですか?)

カムイ(私を殺しても、結局クリムゾンさんは生きられないと言っていました。そんなことあるのでしょうか?)

カムイ(いいえ、多分そうなんでしょう……。結局、私が何をしてもクリムゾンさんは助からない……)

 ドクンッ

カムイ(だめっ、頭が痛い……)

 ドクンッ

カムイ(この痛みをなくすにはどうすればいいんでしょうか?)

 ドクンッ

カムイ(こんなに悩んで、頭が痛いのに。どうにもできないなら、どうすればいいんでしょうか?)

 ドクンッ

カムイ(クリムゾンさん……そうか)

 ドクンッ

カムイ(終わらせてしまえば……)

 ドクンドクンッ

カムイ(クリムゾンさんを心配に思ってるこの心を……)





 ザシュッ





(終わらせてしまえばいいんだ……)

193: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 23:18:44.93 ID:3+Kd5xip0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ヒノカ「はああっ!」

カミラ「せいっ!」

 キィン

ヒノカ「く、これでどうだっ!」

カミラ「! 前より強くなったわね……」

ヒノカ「当たり前だ。お前たち暗夜からカムイを取り戻すためなら、私はどこまでも強くなれる」

カミラ「……そう。でもカムイは帰ることを望んでなんていないわ。さっきそう言われたでしょう?」

ヒノカ「ちがう! お前たちが、お前たちが誑かしているだけだ。カムイがいるべき場所はこんな暗い世界じゃない、もっと明るくて優しい世界であるはずだ」

カミラ「白夜がその明るく優しい世界だって、あなたは言うの?」

ヒノカ「明るく優しい世界だった……。もう変わってしまったがな」

 ブンッ

カミラ「ならあなたの言っていることは、矛盾しているわ。白夜がそうでないと今言ってしまったじゃない」

ヒノカ「ふふっ、だからカムイと一緒に、もう一度白夜を温かい世界に戻すんだ。私はカムイと一緒ならそれができると信じてる。そのためには、悩みの種は全部摘まないといけない」

カミラ「……カムイがそれを望んでいると?」

ヒノカ「……貴様こそ、カムイが望んでいることを理解しているのか?」

194: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 23:30:42.03 ID:3+Kd5xip0
カミラ「カムイが、望んでいること?」

ヒノカ「カムイは悩んでいた。私の問いかけに、一度は突き放した私の言葉に動じてしまうほどに。長い間一緒に過ごしていながら、悩みを理解できない貴様が、あの子を本当に理解していると言えるのか?」

カミラ「それは……」

ヒノカ「お前達にカムイの幸せを願う権利はある。それを願うことを誰も否定できないし止められない、私にも止められない。願う気持ちは貴様も私も同じほど持っているはずだからな」

カミラ「だったら、カムイが選んだ選択を尊重するはずよ。なんで、ここまで――」

ヒノカ「貴様にカムイを幸せにする力がない、それだけのことだ!」

カミラ「!!!!」

ヒノカ「暗夜はあの子にとって悩みの種になるだけの場所だ。そこにいるというのに、貴様は何をしてきた? 一緒にいるだけで、あの子の悩みに向き合ってきたのか?」

カミラ「っ!」

ヒノカ「一緒にいることで満たされているのはカムイじゃない。貴様だけが満たされ、カムイは満たされない」

カミラ「そんなことないわ!」

ヒノカ「なら、カムイの悩みをどうして汲み取れない! 貴様は、私が、私たちが得るべきだった多くの時間をカムイとともに過ごしてきたのに。どうして、どうしてそれが汲み取れないんだ!」

195: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/19(月) 23:51:10.99 ID:3+Kd5xip0
カミラ「残念だけどヒノカ王女の言うとおり、私はあの子が悩みを汲み取れない。でも、だから私はカムイを信じて待つ、そう決めたの」

ヒノカ「……その優しさを抱けるカミラ王女が羨ましい。私にはそう思い、待ってやる余裕さえ無い」

カミラ「どうして、どうして待ってあげられないの」

ヒノカ「……私はカムイを大切に思っている。思っているのに、私にはカムイがどんな人間なのかということをまるで知らない。知らないんだ」

カミラ「……」

ヒノカ「わかるか? 久々に会った妹から、他人のように振舞われる気持ちを。妹の言葉を素直に受け止められない辛さを。こうして、共に育ってきたことを見せつけられる苦痛を!」

カミラ「ヒノカ王女……」

ヒノカ「共に育っていくことが、ありふれた幸せがたまらなく大切だと気付いた時、もうカムイは白夜にいなかった。笑って泣いて、時に怒って、そういう積み重ねが、絆を育むことだとわかった時には、もうカムイには暗夜の兄妹がいたんだ」

カミラ「それは……」

ヒノカ「私たちは奪われてしまった。もうその時間は帰ってこない、だからあの日、白夜で再びカムイを抱きしめた時、流れた時間のすべてを取り返せるそう思った。時間は掛っても、再び笑いあえる日が来ると……」

ヒノカ「その思いさえ、お前たちの時間と言う壁の前に握り潰されてしまった。今になって私たちが再び家族としてカムイと歩んでいくのに、もう時間を掛けていくことはできない。お前たちがカムイと過ごしてきた時間、強い絆を断ち切るために、私は暗夜とその悩みの種をすべて取り除く。そう決めたんだ」

カミラ「……だとしても、カムイをあなたに渡すつもりはないわ。私にとってはかけがえのない妹だもの。たとえ血が繋がっていなかったとしても……私はカムイのお姉ちゃんだから」



200: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/20(火) 19:20:33.57 ID:AxCMzoJO0
ヒノカ「それも今日までのことだ。最初に摘まれる悩みの種は貴様だ、カミラ王女!」ブンッ

カミラ「くっ」

ヒノカ「そこだ!」バシッ

カミラ「っ! やってくれるわね。でも、まだまだよ」ブンッ

ヒノカ「! まだ足りないというのか?」

カミラ「足りる足りないで考えないで。あなたが私に言ったことは事実かもしれないわ。でも、それを真正面に受けて放棄するくらいなら、私は元からカムイの姉さんになろうなんて思いもしないわ」

ヒノカ「なら、その立場を私たちに帰すのが道理だ!」

カミラ「ええ、カムイがそれを望んだら返してあげる。でも、私はカムイの願いを知らないわ。だからあなたにやられてあげるつもりなんてないのよ!」

 ヒュンヒュンヒュン バッ!

 ザシュン!

 ヒヒーン! ドサッ

ヒノカ「そ、そんな……。私は強くなって……カムイを」ドサッ

暗夜兵「よし、今だ! 白夜の王女を殺せ!」

 ウオオオオ

ユウギリ「それはさせませんことよ」パシュパシュ

 グエェ ドサッ

ヒノカ「ぐっ……」

カミラ「まだやるつもりかしら?」

ユウギリ「……そうですわね」

アクア「カミラ!」

リンカ「さすがにこれ以上の戦いは無意味だ」

ユウギリ「いいえ、戦うつもりなどありませんわ。残念ですけど、もうこの場所にいても意味はないでしょうから」

カミラ「そう、ならさっさと連れて帰りなさい。その泥棒猫をね」

201: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/20(火) 19:30:15.82 ID:AxCMzoJO0
ユウギリ「ええ、そうさせてもらいますわ……。それより早くしないと大切な妹さんが危ないですわよ?」

カミラ「!? カムイに何をしたの」

ユウギリ「いいえ、私は何もしておりませんわ。ただシュヴァリエ兵の方たちがカムイ王女を捕縛するとは思えませんもの」

アクア「ヒノカがここの指揮を任されているんじゃないの?」

ユウギリ「形式的なものですから、すべての人間がヒノカ様の命令に従うわけではありませんから。それに、もうこの中心街は終わりでしょう。皆さんも早く川を渡ったほうが身のためですわ」

リンカ「何を言っているんだ?」

ユウギリ「私なりの最後のおせっかいと思っていただいて結構です。確かにここからじゃ見えないようですから、すぐに開けた場所から見てみるといいですわ」

 バサバサバサバサッ

ヒノカ「ううっ、私は、まだ……」

ユウギリ「いいえ、天馬を失った以上、もう何もできることはありませんわ」

ヒノカ「カムイが、待っているんだ……。だから……だから……」

ユウギリ「すみません、その命令に従うことはできませんわ。私の使命はあなたを無事に白夜へお返しすることですもの、命令違反とおっしゃるのでしたら、白夜で私を罰してください」

ヒノカ「……ううっ」

カミラ「……」

ユウギリ「それでは失礼いたしますわ」

 バサバサバサバサバサッ

202: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/20(火) 19:41:54.77 ID:AxCMzoJO0
リンカ「行ったようだな」

カミラ「早く、カムイを見つけましょう」

アクア「待ってユウギリの言っていたことが気になるわ。早く川を渡れといっていたけど」

リンカ「開けた場所に出れば、その理由がわかるって言っていたな。一体どういうことだ?」

カミラ「ここら一帯は大きな建物が多いみたいだから……」

アクア「とりあえずこの広場を抜けましょう、すぐに視界が開けるわ」

リンカ「ああ、そうだな。それにしてもシュヴァリエ兵をあまり見ないのはなんでだ。先ほどまでは多くいたというのに」

カミラ「確かにそうね。途中から横槍が全くなくなったから」

アクア「どうやら、それがユウギリの言っていたことと関係している気がするわ」

リンカ「よし、開けた場所に出るぞ」


アクア「! これは―――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガンズ「がーっはっはっは。片っ端から火をつけてやれ!」

シュヴァリエ兵「くっ、火を放ったというのか!」

ゲパルトP「本当にのこのことやってきましたね。そんなに死にたいんでしょうか?」

ゲパルトS「やっと人が来たよ、家ばっか燃やしてもつまらないからさ。やっぱり人間じゃないとね」

シュヴァリエ兵「貴様らあああああ!」

ガンズ「へっ、威勢がいいが、弱いんだよ!」ザシュッ

 グギャアアアアアアア

ゲパルトS「それっっと。ははっ、燃えてる燃えてる。いっぱい燃えてるよ兄さん!」

ゲパルトP「そうですね。まぁ、少々骨の無い相手と言うが癪ですが」

203: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/20(火) 19:59:28.94 ID:AxCMzoJO0
ガンズ「へっ、反乱の鎮圧が俺様がガロン王から受けた任務だからな。シュヴァリエの中心街がどうなろうと知ったこっちゃねえからな」

ゲパルトP「間もなく、川へと続く出入り口に兵が待機するころでしょう」

ガンズ「そうだな。それじゃ俺たちは追いかけるようにシュヴァリエの反乱軍の見つけて殺していく。へっ、町が燃えてるのに気が付いて殺されに来るのか、逃げた先の川手前で殺されるのか、どっちにしろ最高だ」

ゲパルトS「でも、火をつけること教えてない方たちもいますよね。あのカムイ王女の部隊とか知らないよね?」

ゲパルトP「そうですね。ガンズ様、その点はどうなさるつもりですか?」

ガンズ「何言ってんだ。この反乱で死んだのは全部反乱軍、暗夜の人間に死者なんて出てねえ。そうだろう」

ゲパルトP「なるほど、では気にする必要もありません。死んでしまったら反乱軍、生き残れば暗夜軍、ただそれだけですから」

ゲパルトS「そういうことなら別に問題ないね。兄さん、何人殺せるか競おうよ」

ゲパルトP「わかりました。弟の頼みですからね、ガンズ様。私たち兄弟は巡回殲滅に入ります」

ガンズ「ああ、好きにしな。俺も見かけ次第、ほかの奴らと一緒に殺しまわって川を目指すからよ。手柄を立てるチャンスは生かさねえといけねえ」

ゲパルトP「わかりました。では」

 パカラパカラパカラッ

ガンズ「へっ、さてと」

シュヴァリエ兵「ひっ、ひぃ!」

ガンズ「おっと、いきなり出てきやがったな」

シュヴァリエ兵「こ、降参。降参だ! も、もう俺は暗夜には逆らわない、逆らわないから!」

ガンズ「そうか、なら安心しな」

シュヴァリエ兵「そ、それじゃ」

 ブンッ ズシャ

シュヴァリエ兵「ぎゃああああああ!」ドサッ

ガンズ「ありがたく殺らせてもらうからよぉ、暴力最高だぜ」

ガンズ「簡単に行使できる、時間も掛らねえ。何よりも、気持ちがいいもんだからな。やめられる気がしねえ」

ガンズ「がーっはっはっはっは!」

204: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/20(火) 20:16:16.67 ID:AxCMzoJO0
◆◆◆◆◆◆

クリムゾン「……なんだ、ちゃんとできるじゃんか」ポタッポタタタタッ

カムイ「く、クリムゾンさん」フルフルフル

クリムゾン「はは、震えてるね。こんなことに巻き込んでおいてなんだけどさ……ごふっ」

カムイ「しゃべらないでください。なんで、私、こんな風に……」

クリムゾン「ははっ、もういいいよ。あのさ、カムイ」

カムイ「……な、なんですか」

クリムゾン「ちょっと、倒れてもいいかな」ドサッ ジワッ

クリムゾン「はぁ、もう曇ってたんだね……それもそっか。こんな酷い日に空が満点の星空なわけないか……」

カムイ「今、助けますから」

クリムゾン「もう、助ける必要なんてないって何度言わせるんだい」

カムイ「そんなだって」

クリムゾン「カムイ、私は感謝してるんだよ。結果的に私を殺してくれたことに。もうさっきまで、私はあんたを殺すことになる未来しか想像できなかったからさ。多分、本当なら立場は逆だったはずだからね」

カムイ「私は、逃げてしまっただけです。あなたを救うことを諦めて――」

クリムゾン「それは違うよ」

カムイ「……何が違うんですか。私は―――」

クリムゾン「あんたは結果的に私を救ってくれてるよ」

カムイ「どこがですか、わけがわかりません」

205: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/20(火) 20:27:59.67 ID:AxCMzoJO0
クリムゾン「私は背負えない人間なんだ。カムイと違って、私は背負って生きていくことができない」

カムイ「なにを言ってるんですか」

クリムゾン「白夜の民間人の死も、シュヴァリエのために戦ってきたことも、そしてカムイあんたを殺して生き続けることも、たぶん私にはできないことなんだ」

カムイ「私を殺しても、結局殺されてしまうからですか?」

クリムゾン「ははは、そんなんじゃないよ……。白夜の民間人を守らなかったことでさえ、私には重みだった。だからカムイに会いに行ったくらいに、私は心の中でその重みに耐えられなかった。そんな私がシュヴァリエを裏切って生きることも、カムイ、あんたを殺して生きることもできない。いずれ、私の心は擦り減って私じゃなくなる、そんな気がしてたんだ」

カムイ「私なんかより、クリムゾンさんは強い人じゃないですか」

クリムゾン「はは、目が節穴だね。私には、どれを選ぶかなんてできなかった。流されて、結局カムイの約束に、あの言葉に甘えて待っていただけの弱い女だよ。だからこうなってよかったって、ホッとしてるくらいだよ……」

カムイ「ホッとしないでくださいよ……私は全然安心できてなんていません」

クリムゾン「ははは、そう言えば私の耳朶かじる約束は果たせそうにないや。あの時、かじってもらってればよかったかな……」

206: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/20(火) 20:56:41.23 ID:AxCMzoJO0
カムイ「こんな時に何を言ってるんですか……」

クリムゾン「いいじゃないか、湿っぽいのはなんかあれだからさ……」

カムイ「……」

クリムゾン「はは……コフッ」

カムイ「クリムゾンさん?」

クリムゾン「―――」

カムイ「……どうして、こうなってしまうんですか。私にできることなんて、なかったって言うんですか……」

カムイ「……わかりませんよ。クリムゾンさん、私はどうすればよかったんでしょうか?」

カムイ「……応えてくれるわけないですよね……。みなさんと合流しないと……」
 
 タッ タッ タッ

カムイ「どこに行けば、いいんでしょうか……」

カムイ(構造は一直線……、途中に横に入る道があるみたいですね……。まずはあそこに―――)





 ヒュンッ!ザシュッ

カムイ「ぐあっ!」ドサッ

シュヴァリエ兵「見つけたぞ、暗夜の王女だ! よし、足を射ぬいた。そう簡単には動けないはずだ。おっと、下手に動いたらすぐに殺しちまうぞ?」

カムイ「ぐっ……くうぅぅ」

シュヴァリエ兵「へっ、最後の最後で大物を見つけられた俺たちはラッキーだな」

シュヴァリエ兵「さて、どうするよ? すぐに殺しちまうか?」

シュヴァリエ兵「いやいや、近づかなくてもいい、それより弓の的になってもらおうぜ。手元が狂って、なかなかとどめがさせないかもしれないけどな」

シュヴァリエ兵「それはいい考えだ。それじゃ、早速俺から……それ」パシュッ

 ザシュッ

カムイ「っ!!!!!」

シュヴァリエ兵「よっし、足を打ち抜いた。しかし声を我慢して、つまらねえなぁ。もっと痛そうに鳴くとかしないのかよ、サービス悪いな」

カムイ(……私もここで死ぬんですね。でも、別にいいですよね。シュヴァリエの反乱鎮圧は他の皆さんに任せても。私が死んでも、反乱鎮圧が完了すれば、マークス兄さんは助かるはずですから、やっぱり私は背負える人間じゃないんです。クリムゾンさんも目が節穴ですね)

シュヴァリエ兵「次は俺だ!」パシュ

 ザシュ

カムイ「………っ!」

207: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/20(火) 21:14:50.07 ID:AxCMzoJO0
シュヴァリエ兵「つまらねえ。興醒めだ、さっさと殺して違う場所に向かうぞ」

シュヴァリエ兵「そうですね。おっと、後続も追い付いたみたいだし、ここで蜂の巣にしてやろうぜ」

 チャキ チャキ チャキ チャキ

カムイ(……これで終わりですね……。はは、皆さんごめんなさい。私は何もできない、ダメな人間でした)

シュヴァリエ「射て!」

 シュン シュン シュン シュン

 サッ

???「させません!」スッ

 キキキキィン

カムイ「?」

シュヴァリエ兵「な、何が起きた!?」

???「カムイ様、ご無事ですか!」

カムイ「え、リリスさん?」

リリス「はい、間に合いましたね。星竜モローよ、私に力を」ブォン

シュヴァリエ兵「構わん、打ち続けろ!」

リリス「……そんなものですか。興醒めです」

リリス(あと三回までならどうにか受けきれそうです。それまでに誰かが来てくれれば……持ちます!)

カムイ「リ、リリスさん!」

リリス「大丈夫です、安心してください、カムイ様。私が守り切ってみせますから!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ザシュ

ピエリ「この街入り組んでてわかりづらいの!」

シャーロッテ「そうね。シュヴァリエの兵も所々にいるみたいだから、ここらへんにいるとは思うけど、手掛かりがないまま走り続けても意味はないわ」

ピエリ「……? なんか青い光が見えるの」

ブノワ「本当だな……」

ピエリ「リリスの色、あそこに行くの!」

シャーロッテ「って、いきなり動きだすなっての。ブノワ、行くわよ」

ブノワ「ああ、今日は走ってばかりだ」

シャーロッテ「まったくね」

214: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/23(金) 23:49:23.66 ID:Rl+uxYgv0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ヒュン ヒュン ヒュン

 キキキィン

リリス「そんなものですか?」

シュヴァリエ兵「くそっ、見えない壁でも張ってるみたいだ。矢が通らねえ、どうなってる!?」

シュヴァリエ兵「へっ、なら通るまで続けるだけだ。まだまだ矢はたらふくあるんだ、どうやら動けねえみたいだからな。休まず!」

カムイ「り、リリスさん。私のことは放っておいて逃げてください」

リリス「それはできません、ここまで来た意味がなくなっちゃいますから、足の怪我は深いんですか?」ブォン

カムイ「……ええ、這いずりまわるくらいしか……ううっ」ズキッ

リリス「そうですか、では誰か来るまでは私に任せてください。私にできるのはこれくらいですから」

カムイ「なんで、私はリリスさんに冷たくしたのに、どうして……」

リリス「守るって約束したじゃないですか、今日の私は頑固なんですよ、カムイ様」

シュヴァリエ兵「ちっ、斬りかかるのは癪だな。近づいたらどうなるか分かったもんじゃない」

リリス「ふふっ、近づいたら、もしかしたら通り抜けられるかもしれませんよ?」

シュヴァリエ兵「へっ、飛び道具があるのに近づくかよ。見たところ、ロッドナイト見てえだが、わけのわからない術を使うような奴に、近づく気なんてないんでね」

リリス「とんだ、腰抜けですね」

シュヴァリエ兵「小娘が……、後悔させてやる」

215: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/24(土) 00:01:12.94 ID:1Jz2+frQ0
リリス「カムイ様を殺しても、この戦況は覆りません。諦めて逃げたらどうですか?」

シュヴァリエ兵「はっ、もうどうだっていいんだよ。負けが決まってるなら、そこにいる王女の一人でも殺さねえと気が晴れねえ。だからツいてるよ、お前と王女を殺せば、気晴れは二倍になるんだからな」

リリス「……そんなことで、あなたたちの気が晴れるわけないですよね」

シュヴァリエ兵「なに?」

リリス「一人殺したら、また一人、もう一人、そういう風にしか、ならないでしょう?」

シュヴァリエ兵「さあ、どうだろうな」

リリス「まぁ、そもそもカムイ様にこれ以上、傷をつけさせるわけにはいきません」

シュヴァリエ兵「はっ、ならお前の奇妙な技が、どこまで耐えられるか見せてもらおうじゃねえか、次、射て!」

 ヒュン ヒュン ヒュン

 キキィン

リリス「っ!」

リリス(……力がすこし弱まってきちゃいました。あと二回くらいしか、耐えられないかもしれません)

カムイ「り、リリスさん!」

リリス「すみません、あと少しだけ待っててください。必ず、ピエリさんが来てくれるはずです。一緒にカムイ様を守るって約束したんですから。必ず持たせてみせますから」

カムイ「……私は守られてばかりですね」

リリス「……はい。今回は守られてばかりですよね。だって、私にも守られちゃってるんですから。あの無限渓谷で私に守られてくださいって言った時と全く逆です」

カムイ「……ははっ、本当にそうですね……」

216: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/24(土) 00:12:57.39 ID:1Jz2+frQ0
シュヴァリエ兵「何話してやがる! 余裕ってことか、ええっ?」

リリス「うるさいです。少し黙っててください……」

カムイ「リリスさん?」

リリス「大丈夫です、あと二回、二回はカムイ様に攻撃を当てさせたりしませんから。それに感じるんです、ピエリさんが急いで私たちの場所を目指してる、そんな気配がするんです。だから、安心してください、カムイ様……」

 ドクンッ

カムイ(……り、リリスさん? なんで、そんなに落ち着いた声なんですか……)

リリス「はああああああっ!」ブォン

シュヴァリエ兵「次、射て!」

 ヒュンヒュンヒュン!

 キキキィン………パキィン

 ザクッ

リリス「っ! ぐっ……」

カムイ「リリスさん、大丈夫ですか! リリスさん!」

リリス「だ、大丈夫です。少し、掠っただけですから……」

217: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/24(土) 00:25:15.33 ID:1Jz2+frQ0
シュヴァリエ兵「ああっ? なんだ、思ったよりも柔じゃねえか。どうした? 今の話じゃ、あと一回やれるんだろ? さっさと出したらどうだ」

リリス「……はぁ……はぁ」

カムイ「リリスさん、今、行きますから」

リリス「そこを動かないでください!」

カムイ「な、どうして……」

リリス「お願いです、カムイ様。そこを動かないでください……」

リリス(あと一回……)

シュヴァリエ兵「おら、出してみろよ。あと一回受けきるんだろ? 気分がいいからな、お前の最後の力、見せてみろよ? まぁ、今の見る限りじゃ、全然受けきれそうもないけどな」

シュヴァリエ兵「あははははっ、そうだな」

リリス「はぁ……はぁ……んっ」

カムイ「も、もう、いいんです。私は誰かを失ってまで、この命を繋げたくなんてありません。だから、リリスさん。はやく逃げ――」

リリス「……カムイ様。私はカムイ様に仕えて来ました。この命は、カムイ様をお守りするそのためだけに繋いできたんです……ここで、それを投げ出すことはできません」

 ドクンッ

カムイ「リ、リリスさん、何を言って――」

リリス「……」

 アノアオイバショ、アソコニイルハズナノ!

リリス(ピエリさんの声が……聞こえます。ふふっ、ちゃんと見てくれたんですね。私の力、青い光を……あと、一回受け切れれば……)

 バッ

リリス「……」

218: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/24(土) 00:38:19.26 ID:1Jz2+frQ0
シュヴァリエ兵「おいおい、両手広げて、何の真似だよ?」

リリス「これが私の最後の力です……」

シュヴァリエ兵「は?」

リリス「……」

シュヴァリエ兵「ははっ、こりゃ傑作だ。変な術を駆使するから何をするかと思えば……お前自身が最後の盾、そう言ってるのか。くっくっく、一発当たったくらいで倒れそうな、ひ弱な盾だな、こりゃ。そんなんで守りきれると思ってんのか?」

リリス「そうですね……。でも、これならあと一回は確実に受け切れます。貫通できるような、威力はないみたいですから」

カムイ「り、リリスさん。何を言っているんですか……そんな、嘘ですよね。何か方法があるんですよね……リリスさん!」

リリス「………」

カムイ「お願いです!殺すなら、殺すなら私を、私を殺してください。代わりにリリスさんを、リリスさんを助けてください。私はどうなっても構いませんから……リリスさんを助けてください」

シュヴァリエ兵「ははっ、こりゃいい。王女様からとてつもなく魅力的な提案だ」

シュヴァリエ兵「でも、そんな話は聞かねえ、そこで無力さを噛みしめてろ。その小娘が死んでく様を見ながらな。そのあとで、お願いされたとおり好きにさせてもらうさ」

リリス「……なら、さっさと撃てばいいじゃないですか」

シュヴァリエ兵「おらよっ」パシュッ

 ザシュッ

リリス「ううっ……」

シュヴァリエ兵「おらおら、少し肩が下がってるぞ、それで最後まで立ってられるのか? ああっ!?」パシュッ

 ザシュッ

リリス「ぐあっ……」

シュヴァリエ兵「へっ、弱いくせに虚勢を張りやがって、そのまま地面に這いつくばってれば、殺さないでいてやるよ。そちらの王女もそれを望んでいるみたいだからなぁ」

リリス「はぁはぁ、……そんなものお断りです……」フラフラ

219: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/24(土) 00:50:44.26 ID:1Jz2+frQ0
カムイ「やめてください、リリスさん、立ちあがらないでください。このままじゃ、あなたの命が!」

リリス「私には……私にはこれしかないんです。死んでしまうはずだった私が、命を永らえた私が、胸を張って生きていける理由なんて、これくらいしかなかったんです」

リリス「カムイ様を守り通すことが、私の使命です。この体が、どんなに傷つけられても――」

リリス「大好きな友達との約束を違えることになったとしても――」

リリス「カムイ様がそれを望まれなくても――」

リリス「私はカムイ様を守るためにここまで生きてきたんですから、それを否定されるわけにはいかないんです!」

リリス「だから死んでも、カムイ様に指一本触れさせるわけにはいかないんです!」バッ

シュヴァリエ兵「そうか。飛んだ忠誠心だ。怖れいったよ……」











シュヴァリエ兵「ご要望通り殺してやる。全員構えろ」

 チャキ チャキ チャキ チャキ チャキ

シュヴァリエ兵「さて、すべてが打ち終わるまで、立ってられるかな?」

リリス「……立っててみせます」

220: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/24(土) 00:57:10.19 ID:1Jz2+frQ0
カムイ「リリスさん、すぐに、すぐに退いてください! 今なら、まだ避けられます! だから――!!!!」

リリス「カムイ様……。大丈夫ですよ」

カムイ「何が大丈夫なんですか! ふざけないでください! ほかに、ほかに方法があるはずです! だから、だから!」

リリス「私が選んだんです。だから、カムイ様……私に守られてください、主君を守るのも臣下の仕事ですから」

カムイ「リリスさん! ぐっ、逃げて、逃げてください。お願いします、シュヴァリエに来た事は謝ります。胸だって突然触ったりしません、ちゃんとリリスさんの話を聞きます。聞きますから、逃げてください。私のために、命を捨てないで……」

リリス「…………」

カムイ「命令です! リリスさん、今すぐ路地に、路地に逃げてください! 主君の命令に従――」

リリス「カムイ様……」





「ごめんなさい……」


221: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/24(土) 01:03:33.11 ID:1Jz2+frQ0
カムイ「やめて……」

カムイ「やめて、お願いです、やめて……やめて……」

カムイ「やめてええええええ!」





シュヴァリエ兵「放てっ!」





 ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

 ザシュ ザシュシュ ザシュ ザシュ ザシュ ザシュ ザシュッ
 
 ポタポタタタタタッ
 
 カツッカツッ

 カツッ

 ………

 ……

 …
 
 ドサッ



カムイ「り、リリス……さん? ああ、ああああああ……」

シュヴァリエ兵「へっ、結局倒れちまったな」

カムイ「いや、いやあ」

「いやああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

227: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/24(土) 23:58:01.13 ID:1Jz2+frQ0
シュヴァリエ兵「傑作だぜ。無力を痛感して叫び声あげてやがる。さてと、さっさと近づいて、好きにさせてもらおうぜ。ご要望は叶えてやらねえといけないからな」

シュヴァリエ兵「そうだな。よく見たら別嬪だしな、これを好きにしていいとか、最後にすげえご褒美だぜ。死ぬ前だ、どんなことしたって構わねえよな?」

シュヴァリエ兵「ああっ、しかし、こいつ――」

リリス「」

シュヴァリエ兵「けっ、主君なんて見捨てて逃げればいいのによ。飛んだ馬鹿だよな、こいつ」

シュヴァリエ兵「ほんとほんと、そもそも、自分が死んだあとどうなるかくらいわかるだろうに、結局は少しだけ時間が延びただけの話だってのにな?」

シュヴァリエ兵「まったくだ。それじゃ、さっさと楽しませて――」



ガシッ




シュヴァリエ兵「?」

リリス「……い、いか……せま…せん……」ズルッ ズルッ

シュヴァリエ兵「邪魔だ」ガッ

リリス「あうっ……ハァ……ハァ…んっ」

ガシッ

リリス「……ハァ……ハァ」

シュヴァリエ兵「まったく、往生際の悪い死に底ないだ」

 チャキ

シュヴァリエ兵「女々しいんだ。さっさとくたばれ、この――」

 ブンッ

 ザシュッ

シュヴァリエ兵「は? なんで、俺が攻撃されて――」ドサッ

シュヴァリエ兵「!? なにが――」

???「死んじゃえっ!」ブンッ

シュヴァリエ兵「ぐべっ……」ドタッ

228: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 00:08:35.76 ID:MCuPS1cL0
ピエリ「死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえなの!」ザシュ ザシュ

シュヴァリエ兵「新手か! 弓を準備――ぐえあっ」ドサッ

シャーロッテ「甘いんだよ。ブノワ、ピエリとその子の射線を塞いで! ピエリ、この盾借りるわね」

シュヴァリエ兵「まだ負傷した仲間が」

シュヴァリエ兵「構わん、放て!」

 パシュ パシュ パシュ

 グエエア

ブノワ「うおおおおおっ」ガシン!

 キキキィン

シャーロッテ「おらああああああっ。間に合えっての!」ガシンッ

 キキィン

シャーロッテ「間一髪、カムイ様、だいじょ――」

カムイ「……ああ、ああああ」フルフル

シャーロッテ「……間に合ったはいいけど……これは駄目かもしれないわね……」

カムイ「………」フルフルフル

229: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 00:16:14.76 ID:MCuPS1cL0
 キキィン

ブノワ「ピエリ、俺が受け切っている間に。その子を……」

ピエリ「リリス!」スタッ

リリス「あ……ピ……エリさ……ん。よか……った、間に合った……んですね……ゴフッ」ビチャ

ピエリ「しゃべっちゃだめなの! 大丈夫、ピエリが来たから……助かるの。きっと助かるの」

リリス「はは……カ……ムイ……カム…イ様…は……」

ピエリ「シャーロッテが近くにいてくれてる。だからもう大丈夫なの」

リリス「よかった……」

 ポタポタッ

ピエリ「早く、血を止めるの。大丈夫なの、リリスもすぐ元気になれるの……」
 
 ギュッ

 ポタタタ……

ブノワ「……ピエリ」

ピエリ「血が、血が止まらないの、やり方……間違えてないのに、血が止まってくれないの」

 ギュッ

 ポタタタタタタタ

ピエリ「駄目なの、血は血でもリリスの血なんて見たくないの。止まって、止まって、止まるの!」

リリス「……ピ……エリさ……ん。もう……だ、だいじょ……ぶ……です……から」

ピエリ「大丈夫なわけないの。そうなの、杖、杖で治せるはずなの……」チャキッ

230: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 00:26:38.13 ID:MCuPS1cL0
 ブンッ ブンッ ブンッ

 ………

ピエリ「お願い、お願いなの……」

 ブンッ ブンッ ブンッ

 ………

ピエリ「……掛って、掛るの。早く掛って、なんで、言うこと聞いてくれないの!」

 ブンッ ブンッ ブンッ

 ………

ピエリ「リリスが、リリスが死んじゃうのに、なんでピエリの言うこと聞いてくれないの!」

 ブンッ

 ……

 カランカランッ

ピエリ「だめ……だめなの。剣と盾じゃだめなの……、リリスのこと助けられないの。ピエリ、何もできない」ポタッ ポタッ

ピエリ「ピエリの力じゃ、リリスを助けることなんてできないの……」

231: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 00:36:03.33 ID:MCuPS1cL0
リリス「ごめ……なさ……い。ピエリさ……んとの、やくそく、守れそうに…ありません……」

ピエリ「ピエリが、ピエリがいけないの。ピエリがもっと早くリリスを見つけられたら。こんなことになんてならなかったの」

リリス「いいんです。ちゃんと……来てくれたじゃ、ないですか……」

ピエリ「死んじゃだめ、まだピエリ、リリスと一緒にいっぱい過してないの。可愛いお洋服一緒に選びに行ったりしてないの……リボンに似合うお洋服、見つけに行くの」

リリス「えへへ……ピエリさんからもらっ……た。リボン、まだきれい……なんで…すよ」ギュッ

 ベチャ

リリス「あれ……カチーフでちゃんと……包んでた…のに、汚れちゃって……る」

ピエリ「また、新しいの買ってあげるの。だから、諦めちゃだめなの……」

リリス「ピエリさん……無茶…言わな……いでくださ…い」

ピエリ「無茶でもするの! 死んじゃだめなの、死んだら絶交なのよ! ピエリ、リリスの友達やめちゃうの! そんなの嫌なの」ギュッ

リリス「ふふっ……ピエリさん、それ矛盾してます……」

ピエリ「わからないの……」

リリス「ごめんな……さい。わたしにとっ……て、一番大切なの……、カムイ様だから……」

ピエリ「今はカムイ様が一番でいい、ピエリは二番目でもいいの! だから、ここで終わりにしちゃ駄目なの……いつか、カムイ様を抜かして、ピエリがリリスの中の一番になる、なってみせるの。だから――」

232: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 00:47:01.70 ID:MCuPS1cL0
リリス「ピエリさ……ん。恨まないで」

ピエリ「何を、何をなの? ピエリ、リリスのこと恨んだりなんてしない、するわけないの」

リリス「私が、ここで、死んでしまったことは……私が……決めたことだから…」

ピエリ「……そうなの、リリスをこんなにした奴、みんな殺してやるの! しないと気が済まないのよ」チャキ

リリス「だめ…です…」ギュッ

ピエリ「……だめ? なんで駄目なの? リリスの仇、打っちゃいけないの? なんで、止めるの!」

リリス「ピエ……リさんには。そんな理由で……戦ってほしく……ないから。ピエリさんには……恨みで戦ってほしくないんです。私のことで……ピエリさんがピエリさんで無くなってほしくないんです……」スッ ペチャ

ピエリ「リリス……」ポタ

リリス「ピエリさん、泣いて……るんですか」

ピエリ「当り前なの……ヒッグ」

リリス「ふふ、拭ってあげますね……」スッ ピトッ ペチャ

233: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 00:56:42.26 ID:MCuPS1cL0
ピエリ「リリスの手、温かいの……」

リリス「ピエリさん……大好きで、大切な最初の友達です……」ポタポタッ 

ピエリ「うん、友達なの……だから、ここで終わりにしちゃ駄目なの」

リリス「そう……ですよね。ピエリさん……お願い、いいですか?」

ピエリ「リリスのお願いなら、聞いてあげちゃうの……。治ったらいっぱい楽しいことする約束なの?」

リリス「えへへ、後ろから抱き締めて……くれませんか。前は……難しそうだから……」

ピエリ「うん」ダキッ ギュウッ

ピエリ「これでいいの?」

リリス「……はぃ……ピエリさんの鼓動が聞こえます。とっても、大きい音……」

ピエリ「うん……」

リリス「こういうのも、悪くない……かもしれませんね……」ポタ

ピエリ「今度、こうやって一緒にお月さま見るの。リリス、指切りするの……」スッ

リリス「えへへ……、楽しみで……す……ピエ……リさ――」

 トサッ

ピエリ「リリス? まだ、指切り終わってないの……」ユサユサ

リリス「―――」ポタタタタッ

ピエリ「冗談はやめるの……」ユサユサ

リリス「」

ピエリ「……ううううっ」ギュウウウッ

234: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 01:05:44.56 ID:MCuPS1cL0
「………」スッ

「リリス、ごめんなの。やっぱり、約束は守れないのよ」チャキッ

 ダッ

ブノワ「ピエリ! 前に出るのは――」

ピエリ「うるさいの! 一人残らず殺してやるの……。ピエリ、死ぬまで、殺し続けるの。あんたたち全員、ミンチにしてやるの。血だけじゃ足りないの……中身も全部引きずり出して、生まれてきたこと、後悔させてやるの」

ブノワ「頭に血が上っているのか。シャーロッテ、俺も一緒に前線に出る。カムイ様を連れて後退するんだ……」

シャーロッテ「そんなこと言っても、カムイ様の負傷じゃ、そんな簡単にここは抜けられないっての! それに、全く動いてくれないんだよ」

ブノワ「ぐっ、万事休すか……」

ピエリ「万事も、何もないの。一人でも多く肉片にしてやるだけなの。いっぱい、いっぱい切り刻んで、料理してあげるから」

シュヴァリエ兵「はっ、なら掛ってきやがれ。この矢の中を、これるもんならな!」

ピエリ「……死んじゃえ、死んじゃえ、みんな死んじゃえ。リリスを殺した奴、みんな死んじゃえばいいの!」

 ダッ

シュヴァリエ兵「はっ、あの馬鹿な小娘と一緒にしてやる!」

ピエリ「やああああああああああっ!」

ブノワ「くっ、これでは間に合わない……!」

 ピエリ! クソッ……エッ、カムイサ……ウワアッ!

235: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 01:17:10.82 ID:MCuPS1cL0
 シュオオオオオオオン

 ダッ

 パシュパシュパシュ

 ドサッ

 キキィン

ピエリ「!! な、なんなの……、前に何かいるの?」

???「コオオオオオオ……」ヒタッ ヒタッ

シュヴァリエ兵「……なんだ、ありゃ?」

竜「………コォォォォ」バサッ バサッ

シュヴァリエ兵「けっ、何かは知らねえが。殺しちまえば――」

竜「グオオオオオオオオオオアアアアア!」ダッ

 ブンッ 

 ブチィッ ドベチャ。グチャリ

シュヴァリエ兵「へっ?」

竜「グオオオオオオオッ」ブンッ

 グチャ ベキッ

シュヴァリエ兵「な、なんだ。なんなんだ。いきなり何なんだよ!」

竜「グオオオオオオオオオオオオオオッ」ガシッ

シュヴァリエ兵「ぐへあ……」

 グッ ボギャッ…… ビチャビチャ ボトボト グチャリッ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カミラ「見て、あそこ……」

リンカ「あれは、なんの光だ?」

アクア「竜化の光に似ていえるわね。もしかしてあそこにカムイが?」

カミラ「どちらにせよ、目印になるのはあれくらいよ。あそこにカムイがいると信じていくしかないわ。リンカ、乗りなさい。さすがに並走じゃ時間がかかる距離よ」

リンカ「ああ、すまないがそうさせてもらうさ。しかし、おかしなものだ。こうして暗夜の王女の竜に乗ることになるなんて思ってもいなかった」

カミラ「仲間じゃない。気にすることじゃないわ。アクアも、しっかり掴まっておきなさい。最高速で飛ばすわ」

アクア「ええ……。」

アクア(でも、あの光……。あれは通常の竜化とは違う。あれは暴走の時に似ているけど、それはあり得ないはず。だって、カムイの竜、獣としての衝動は白夜で竜石に収めた。だから、暴走することはないわ。ちゃんと肌身離さず携帯していれば―――)

アクア「! 迂闊だったわ、そんなことを見落としていたなんて……」

カミラ「アクア、どうしたというの?」

アクア「カミラ、急いでカムイを見つけましょう。取り返しのつかないことになるかもしれない」

カミラ「そのつもりよ。でも、その様子じゃ、なにか良くないことに気づいたみたいね」

アクア「ええ、でも説明をしている時間がいわ。早くしないと――」

「カムイが獣に成り果ててしまうかもしれない」

238: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 21:30:23.45 ID:MCuPS1cL0
◆◆◆◆◆◆

カミラ「ここらへんだと思ったのだけど……」

リンカ「ん? ……おい、あれ!」

 カミラサマー、ココナノ!

カミラ「……あれは、ピエリのようね。あと、城壁の時に加勢してくれた二人かしら?」

リンカ「あと、誰か倒れているみたいだ」

アクア「……とりあえず、降りてみましょう」

 バサバサバサッ

カミラ「……そう、リリスが」

ピエリ「……ピエリ、守れなかったの……」

カミラ「ピエリ……悲しい気持はわかるわ。でも、すぐに準備をして頂戴、もうしばらくしたらここも火にのまれてしまうわ」

シャーロッテ「えっとぉ、どういうことですかぁ?」

リンカ「ああ、町に火を放った奴がいるらしい。まぁ、誰かは簡単に予想できるが、それを指摘しても意味はないだろうからな」

ブノワ「そうだったのか。まったく気付かなかった」

カミラ「ピエリ、貴女はできる限りでいいから見かけた暗夜兵に声を掛けて、川を渡って頂戴。ちゃんとリリスも連れて行ってあげるのよ」

ピエリ「……うん、わかったの。ピエリ、リリスのことこんなにした人殺したかったの、でも、カムイ様が全部殺しちゃったの……」

アクア「カムイが?」

ブノワ「ああ、突然のことで何が起きたのか、俺にはわからなかったが、先ほどまでそこにいたシュヴァリエ兵を倒して、どこかへ向かってしまった」

シャーロッテ「いきなり、変身して飛び出して行っちゃったんですぅ、びっくりして頭を打っちゃいました。でもすごいんですね、竜になれちゃうなんて」

239: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 21:43:32.00 ID:MCuPS1cL0
アクア「ねえ、シャーロッテ。その時、カムイは石のようなものを持っていたかしら?」

シャーロッテ「石ですかぁ? 手には何も持ってなかったと思いますよぉ。剣も置いて行っちゃったみたいですから、でもここに石みたいなものは落ちてないみたいですね」

アクア「そう……。わかったわ」

カミラ「……石って、竜石のことかしら?」

アクア「ええ。正直希望を込めて確認したけど、逆に確信を深めることになったと言っていいわ。カムイが悩み始めた理由も、おのずとわかるはずだから」

カミラ「……そう。でもここには竜石は落ちていないみたいね」

アクア「ええ、まだカムイが持っていてくれたなら。施しようがあるわ。だから、まずはカムイを見つけ出さないといけない」

カミラ「……落ち着いたら話してもらえるかしら?」

アクア「ええ、必ず」

カミラ「約束よ……。三人は言われたとおりにお願いね、私たちはカムイを見つけてから川を渡るから、先に行きなさい」

ピエリ「わかったの……カミラ様」

カミラ「ええ、気をつけていきなさい」

 タタタタタタッ

240: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/25(日) 21:56:07.98 ID:MCuPS1cL0
アクア「カムイを早く見つけ出さないと」

カミラ「そうね。でも、すぐに見つかるとは思うわ」

アクア「そうかもしれないわね………」

リンカ「まるで食い散らかしたような跡だが、これを辿って行けばカムイに会えるはず」

アクア「ええ、あまり良い道標ではないけど、急いでる今はありがたいわ」

カミラ「そうね。さっ、二人とも乗って頂戴……。といっても、私とリンカにどうにかできることとはちょっと思えないわね」

リンカ「そうだな。アクア、お前ならどうにかできる、そう信じていいんだな?」

アクア「……ええ。どうにかしてみせるわ。ただ、すごく危険かもしれないけど、カムイを失うわけにはいかないから」

カミラ「そうね……。だからアクア、必要なタイミングで指示を出して頂戴」

アクア「カミラ……」

リンカ「あたしにも頼むぞ。見ているだけなんてのは癪だ」

カミラ「ふふっ、そういうことだからお願いね」

アクア「わかったわ」

カミラ「それじゃ、行くわよ!」

 バサバサバサ

アクア(まだ、カムイは殺すべき相手を選んでるはず。だからシュヴァリエ兵だけを殺して、それを追いかけていった)

アクア(だからこそ、ピエリたちは生きていられた。リリスを殺した人たち、いやシュヴァリエ軍そのものが、今の標的になっているはず)

アクア(その標的を倒す衝動が、違う衝動に変わってしまう前に、カムイを取り戻さないと……)

245: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/28(水) 12:39:58.91 ID:aJ4JX4Li0
◆◆◆◆◆◆

シュヴァリエ兵「た、たずげ……」

竜「…」

 グッ

 グググググッ グチャ

シュヴァリエ兵「」

竜「……アアアッ」

竜「」キョロ……キョロ

竜「グオオオオオオオオッ!」

 ドゴンッ

竜「……フーッ、フーッ」

アクア「カムイ」

竜「フーッ」ザッ

アクア「大丈夫、私よ。アクアよ」

竜「グオオオオオンッ!」ザッザザッ

アクア「もう戦う相手もあなたに危害を加える者もいないわ。私とあなただけ、だから安心して頂戴」

竜「……フーッ」

カミラ「……アクアの指示があるまでは動かないって約束したけど……」

リンカ「ああ、今にも飛びかかりそうで、見ていて胃に負担が掛るぞ、これは……」

カミラ「本当にね……。でも不思議なものね、こうやって肩を並べることになるなんて」

リンカ「ふっ、それもそうだな。炎の部族の一人だったのが今はこんな場所にいる。おかしなことだ」

カミラ「ふふっ、頼りにしているわリンカ。カムイを信じたあなたの力をね」

リンカ「ああ、あたしは向こう側に回ることにする。正直、丸く収まるとは到底思えないからな」

カミラ「ええ、お願いね」

 タタタタタッ

アクア(……カミラとリンカは所定の位置に付いたみたいね。それじゃ、始めないと)

246: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/28(水) 12:51:51.70 ID:aJ4JX4Li0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ(……)

アクア『カムイ、もう大丈夫。だから落ち着いて頂戴、私のことはわかるでしょう?』

カムイ(アクアさんですよね。声でわかりますよ、そのくらい)コクリッ

アクア「そう、よかった。大丈夫よ、時期にシュヴァリエの反乱も終わりを迎える。カムイが戦う必要はもうないわ」

カムイ(戦う必要がない? おかしいですね、敵を倒さないと、みんな死んでしまうのに……リリスさんみたいに)キョロキョロ

アクア「もう敵を探す必要はないの。さぁ、カムイ。もう終わりにしましょう。大丈夫、前と同じことだから、一緒に落ち着きましょう?」

カムイ(リリスさんは、私を守るために矢を受けて死んでしまったのに……今でも思い出せるんですよ? 私を庇ったリリスさんに矢が……)



 ザザーッ


カムイ(あれ……?)


 ザーッザザ ザザーッ


カムイ(おかしいですね。どうして私は、リリスさんが矢を受けるまでの姿をこんなに回想できるんでしょうか? 私は目が見えていないはずなのに……)

カムイ(あれ、リリスさんの輪郭がぼやけていく……シュヴァリエ兵の輪郭も……あれは暗夜の兵装?)

???『カムイに、指一本触れさせはせん!』

カムイ(……あれ? この人は誰、リリスさんじゃない、私の前で手を広げているこの人、男の人?)

???『くーっはっはっは。お前の体一つで何ができるというのだ? 白夜王スメラギよ』

カムイ(暗夜の兵とお父様……? そして、この人が白夜王スメラギ?)

247: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/28(水) 13:00:01.41 ID:aJ4JX4Li0
スメラギ『だが守り通すことはできる!』

カムイ(この背中を向けている人がスメラギさん? でも、なんで私を守るように両手を広げているんですか?)

ガロン『守り通すか。面白い、どこまで守り切れるか見せてもらうとしよう』スッ

スメラギ『……カムイよ。父を……浅はかな私を許してくれ』

カムイ(……父?)

ガロン『……』

カムイ(だめ、だめです。そこに立っていたら……やめてください、私のために死ぬ必要なんてないんです。お父様、合図を出さないでください。お父様……!)

ガロン『放て……』

カムイ(やめて……)

 ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン ヒュン

スメラギ『ぐおっ、うおおおおっ……ぐっ、ぐはっ』ガクッ

ガロン『このような罠に掛ったか、甘いな、白夜王スメラギよ……』

スメラギ『はぁ……はぁ、ぐっあ……』

ガロン『ぬんっ!』ブンッ

 ザシュッ 

 ドサッ

カムイ(……お父…様)

(スメラギお父様……)

248: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/28(水) 13:05:11.73 ID:aJ4JX4Li0
カムイ(なんで忘れていたんでしょうか……。お父様のこと、そして、お父様を殺した人のことを)

ガロン『お前……』

カムイ(ガロン王)

ガロン『お前は殺さぬ、生かしてやろう。我が子としてな……』

カムイ(私のお父様を殺して、私を娘として育てた人。そして……)

ガロン『だが、その瞳は気にいらん。お前に光など、この先必要ないのだからな』チャキッ

 ザシュ……

カムイ(私から光を奪った人……)

カムイ(何もかも私から奪っていったのは暗夜だった……あははっ、傑作じゃないですか……。そんな場所に戻って戦いをしてきたなんて……)

カムイ(でも、もうその必要もありませんよね。だって――」

カムイ(暗夜は私の敵なんですから。敵なら、殺さないといけません……それに殺してしマエば)

―モウ、ナヤマサレズニスムンデスカラ―

 
252: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/28(水) 22:01:17.47 ID:aJ4JX4Li0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
竜「グオオオオオオオオオオオッ!」ブンッ

アクア「!」サッ

 ドゴォン!

アクア「カムイ!」

竜「ウオオオオオッ!」

カミラ「アクア!」ダキッ

 ズザザーッ

アクア「! か、カミラ……」

カミラ「危なかったわ。これは冗談が過ぎるわよ、カムイ」

竜「ウウウウウウウウッ、グオォン!」
 
 コツン

竜「!」

リンカ「こっちだよ、カムイ!」

アクア「リンカ! 威嚇したら、あなたが狙われてしまうわ。今のカムイは正気じゃないわ!」

リンカ「わかってるさ。だからこそ、アクア。あんたを失うわけにはいかないんだ。あたしたちじゃ、カムイの暴走を止められないからね」

竜「グウウウウッ」

リンカ「ふっ、小突かれたのが悔しかったのか? なら追いかけて来い!」ダッ

竜「グオオオオオオン!」

カミラ「リンカの言葉は逞しいけど。正直、早くしないといけないわね」

アクア「ええ、このままじゃ誰かれ構わず攻撃してしまうようになってしまうわ」

カミラ「まだ止められるかしら?」

アクア「わからない。もしかしたら、私の歌は、もうカムイに届かないかも――」

 ギュッ

アクア「カミラ?」

カミラ「大丈夫。アクアの歌声、きっとカムイに届くはずよ。あんなにきれいな歌声だもの、響かないはずがないわ」

アクア「そ、そうかしら?」

カミラ「照れてるのね、そういうところ可愛いわ。でも、信じないと届くものも届かない、でしょ?」

アクア「ええ、そうね。ごめんなさい、少し弱気になっていたみたい。何とかしてみせるわ」

カミラ「それじゃ、追いかけるわよ」

253: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/28(水) 22:13:56.38 ID:aJ4JX4Li0

リンカ「はぁはぁ……。ふんっ!」ガシャンッ

リンカ「まさか、建物の窓から窓に飛び込んで移動することになるなんて思ってもいなかったぞ。これで撒ければ――」

 グオオオオンッ ドゴォン!

リンカ「ちっ、入ってもお構い無しか! うまくいかないが、面白い久々に体が熱くなってきたぞ」

 ガシャンッ

竜「グオオオオンッ!」

リンカ「もう追いつかれたか、なら」ズザザザザッ

リンカ「うおおおおっ!」ブンッ
 
 ヒュンヒュンヒュン カキィン!

竜「グオオオオオオっ」ブンッ

リンカ「そこだ!」ダッ

 ドゴン!

リンカ「どこを見てるんだい、こっちだよ!」

竜「!!!!!」ザッ

 バサバサバサッ

カミラ「いた、あそこよ。結構距離は離れてるみたいね」

アクア「ええ、なんとかできるかもしれないわ。リンカ、聞こえる?」

リンカ「アクア、カミラ! もしかして、あたしは追いつかれてしまっていたのか?」

カミラ「まだ追い付かれる程じゃないわ。すごいじゃない、こんなに逃げきれるなんて」

リンカ「お世辞はいい、アクアこれからどうするんだ?」

アクア「ええ、危険かもしれないけど、ある場所に誘導してほしいの」

リンカ「わかった、それでどこに誘導するんだ?」

アクア「この先の路地を右に曲がった先に、小さい広場があるわ。そこに誘導して頂戴。こっちは手筈を整えておくから。あと、できればだけど、カムイより先に広場に来て頂戴」

リンカ「広場だな、わかった!」ダッ

カミラ「ええ、おねがいね」

バサバサバサッ

竜「フーッ フーッ」キョロキョロ

リンカ「それっ!」ポイッ

コツン

竜「!」

リンカ「よし!」ダッ

竜「グオオオオオオオオオッ!」

254: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/28(水) 22:24:57.33 ID:aJ4JX4Li0
リンカ「よし、どうにかは広場に入ったぞ」

カミラ「お疲れ様、まだ路地から顔を出してないみたいね、上出来よ」

リンカ「ああ、鬼気迫る追いかけっこだったがな。それで、ここからどうするんだ?」

アクア「二人とも路地入口で待機して頂戴。私が中央に立っておびき寄せるわ」

リンカ「危険すぎると思うが、いったいどんな策がある? まさか正面から受け止めるつもりじゃないだろうな?」

カミラ「そのためのこれよ」

リンカ「これは縄? いや、いくらなんでも下手すぎやしないか? ちぎれなくても、動きを止められるようには思えないぞ」

カミラ「これは掛けるだけでいいのよ。さすがに持ったままにしたら私たち、二人とも腕を持っていかれてしまうし、ちゃんとした準備はすませてあるわ」

リンカ「下準備、気になるが、もう確認してる暇もないみたいだ……」

竜「」キョロキョロ

アクア「二人とも、身を隠して。合図は私に任せて頂戴」

竜「!」ザッ

アクア「カムイ、私はここよ」

竜「」ダッ

アクア「……」


竜「グオオオオオオッ!」


アクア「今よ!」

リンカ「そらっ!」

カミラ「それっ!」

 グッ ギギギギィ ブンッ

竜「!!!!!」

 ドゴォン!

255: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/28(水) 22:36:43.73 ID:aJ4JX4Li0
竜「グギャアアアアアアア!!!!」

 ゴロンゴロン

リンカ「縄に折れた大木が結び付けてあったのか!?」

カミラ「流石に痛そうね……あとでカムイのお腹、擦ってあげないといけないわ」

リンカ「これ、アクアが考え付いたのか?」

カミラ「ええ、もっと可愛らしい作戦かと思ってたから、真顔で大木を指差して縄で結ぶよう指示してきたからね。ちょっと……」

リンカ「見かけによらず物理的な作戦を考える。腕相撲したら負けるかもしれないな」

カミラ「まさか……」

竜「グギャア! グオオオオッ!」ドサッ

アクア「カムイ、今助けてあげるから」

アクア「~♪」

竜「グオッ。グオオオオオオオオオッ!」ジタバタ

リンカ「大木が二本も当たったんだ。それに前足と後ろ脚に縄が絡まってる、解く前に――」

アクア「~♪」

竜「!!!!」ブンッブンッ

カミラ「!? 尻尾が……! アクア!!」

アクア「!?」

 バチィン

アクア「きゃあっ!」ドサッ

カミラ「アクア! だめ、やめるのよカムイ!」

竜「!」ブンッ

アクア「あっ……」

アクア(カムイの尻尾……だめ、とてもじゃないけど避けられない。……ごめんなさい。私……あなたを救えないみたい)

竜「グオオオオオオオオオオッ!」

カミラ「アクア!」

256: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/28(水) 22:47:00.80 ID:aJ4JX4Li0
「必殺…アウェイキング・ヴァンダー!」シュオンッ

 バチィン!





竜「グギャアアア!」ドサッ

アクア「えっ?」

???「穏やかじゃないわね。でも、どうにか間に合ったみたいで良かったわ」

???「何がどうなってんだ? 意味がわからないぞ?」

???「どちらにせよ、今のはいい仕事だったよ、オーディン。アクア様を守れたんだからね」

オーディン「ああ、流石に仲間が仲間に殺されてるところなんて、見たくもないからな。そうだろラズワルド」

ラズワルド「うん、そうだね。ニュクス、次が来るみたい」

ニュクス「わかっているわ。カムイ、少し大人しくしてて頂戴!」ブォン

 ジリリリッ

竜「!!!!!!」ググッ

アクア「ニュクス!? それにラズワルドとオーディンも、どうしてここに……」

ラズワルド「話はあとだよ……まずはカムイ様をどうにかしないと」

オーディン「ああっ、俺たちは抑えることしかできないからな。アクア様に後は任せますよ」

ニュクス「ええ、あなたにしかできないことを早くして頂戴。このままじゃ、抑えつけるだけじゃ間に合わなくなるかもしれないわ」

アクア「みんな、ありがとう」

竜「グオオオオオオオオオオッ!」

アクア(私の歌よ、カムイに届いて!)

アクア「スゥ―――」

257: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/28(水) 23:02:37.33 ID:aJ4JX4Li0
◆◆◆◆◆◆

『闇へと』

カムイ(ダレ、ダレノコエ? うグっ、アタまが……割レる。心が染マッテ……)

『進み行く』

カムイ(ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ)

『虚ろな白亜の王座』

カムイ(やめて、お願い……やめて。やめてください。私から奪わないで……)

『己を』

カムイ(溶けてしまう。クリムゾンさんを心配に思っていたこの心も……)

『すべてを欺いて』

カムイ(リリスさんが死んでしまったという悲しみも……)

『紡ぐ理』

カムイ(暗夜軍を殺そうと思っていたこの憎悪も……)

『黒曜 鈍く 崩れ落ちて』

カムイ(全部空っぽになっていく。全部持っていかれてしまう。悩んでいたことも、結果を探ることも、人に対する個人的な感情さえも)

『光去り行く 黄昏』

カムイ(……クリムゾンさんもリリスさんも死んでしまった。思い出しているのに、もう悲しむことができない)

『独り思う』

カムイ(ああ、そうか。私の心は、前までこんなに穏やかで波も立たない――)

―とても殺風景なものだったんですね―



 第十三章 中編おわり

263: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 20:02:06.87 ID:tG7mqeA90
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・賭博の町マカラス『宿舎』―

カムイ「……んっ」

カムイ「ここは……」

カムイ(……確か私は……シュヴァリエ公国の反乱鎮圧を任されて――そこで……)


カムイ(そうでした……リリスさんとクリムゾンさんを失ったんでしたね……)

ガチャ
 
アクア「カムイ?」

カムイ「アクアさん?」

アクア「目が覚めたようね。心配したの、よかったわ」

カムイ「アクアさん……私はどれくらい眠っていたんですか?」

アクア「丸二日ほどね。シュヴァリエの反乱はもう沈静化しているわ」

カムイ「そうですか……。私は暴走してしまったんですね」

アクア「カムイ、覚えているの?」

カムイ「うすぼんやりとは。その……リリスさんは……」

アクア「……残念だけど」

カムイ「そうですか……はは、私はこんなに冷徹な人間なんですね。あのときはあんなに叫んでいたのに、今はその事実をありのままに受け入れてるなんて。私の心は一体どうなっているんでしょうか」

アクア「カムイ、そのことだけど。私はあなたに伝えないといけないことがあるの」

カムイ「?」

アクア「まずはこれを返すわね。あなたにとってはお守りのようなものだから」

264: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 20:13:37.99 ID:tG7mqeA90
カムイ「これは……竜石ですか?」

アクア「ええ、暴走したときも、私の助言通り肌身離さず持っていてくれたから、どうにかあなたを取り戻せたの」

カムイ「あの歌はアクアさんのものだったんですね……。ははっ、リリスさんの助言に従わないで勝手に事を進めて、その結果失って、その果てに衝動に振り回されて暴走、今はケロッとそのことを受け入れている。調子のいい人間ですね、私は……」

アクア「いいえ、違うわ。あのとき、カムイは年相応に悩んでいた。いや、悩むことができるようになった、ただそれだけなのよ」

カムイ「なんですかそれ、なら今までの私はなんですか? サクラさんの首に剣を振り下ろしたときや、港町でのヒノカさんへの対応、タクミさんへの攻撃、全部で私は揺れ動かなかったんですよ? そもそも、こんな弱い私があの白夜平原で選択をできるわけないじゃないですか」

アクア「だから、あなたに伝えて謝りたいの……。私はあなたから人間らしい部分を間接的に奪ってしまっていたんだから……」

カムイ「どういうことですか?」

アクア「そうね、まずは質問をさせて頂戴。カムイは、その竜石が何色になっていると思う?」

カムイ「見たことはありませんから。でも、灰色とかそういう色をしているんじゃないですか?」

アクア「……」

アクア「今、あなたの竜石は少しずつ、でも確実に黒く染まりつつあるわ」

265: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 20:23:33.92 ID:tG7mqeA90
カムイ「……それは、元々黒く染まっていなかったということですよね」

アクア「ええ。私も竜石に衝動を抑える行為自体、初めてだった。だからかもしれない、獣の衝動を突然起きる破壊衝動だけだと勘違いしていた」

カムイ「……説明してもらってもいいですか、アクアさん」

アクア「最初あなたに出会った時、私はあなたのことを何にも動じない、それでいて決定できる人と思っていたわ。ミコトが殺されてしまった時、衝動によってあなたがあなたでなくなってしまうこと、それがとてつもなく恐ろしいことに思えたし。純粋にあなたに死んでほしくなかったから、私はあなたの衝動を石に収めた」

カムイ「……」

アクア「竜石の作用で、あなたは最初の印象のように振舞っていたわ。だから、これで大丈夫って思えたの」

アクア「でも、あの日、マクベスに反逆者として捕らえられた日から、あなたはおかしくなった。私に不安だって零していたから、今思えばそこで確認をしておくべきだったのかもしれない。いえ、そこに至るまでに気づいておけばよかったのかもしれないわ」

カムイ「何にですか?」

アクア「獣の衝動というのがどういうものなのかということを」

カムイ「獣の衝動、それは本能的なものではないんですか?」

アクア「ええ、そうね。リリスが殺されてしまった時、あなたの心の中に渦巻いていたのは殺意だけだったと思うわ。そういったものが積もることで、破壊衝動に昇華していき、結果として獣に成り果てる」

カムイ「……」

266: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 20:34:38.23 ID:tG7mqeA90
アクア「でも、それだけじゃないってことが、少しだけわかったのよ。今のあなたを見ていると、それがわかるから」

カムイ「? どういうことですか」

アクア「カムイ、今あなたは何も感じていないのよね」

カムイ「ええ、そうですよ。事実を変えることはできませんから。私がいくら嘆いても、リリスさんやクリムゾンさんの命が帰ってくることはありません……。それにお父様のことも」

アクア「お父様?」

カムイ「思い出したんです。私の本当のお父様がスメラギさんであること、そして私から光を奪ったのがお父様だということも……」

 ガチャ

カムイ「?」

カミラ「……カムイ」

アクア「カミラ……」

カミラ「それは本当のことなの?」

カムイ「……思い出したことです。でも、それが本当のことであるという保証はありません……。だから、もう嘆くこともないんです」

カミラ「どうして、そんなに冷静でいられるの……」

カムイ「なぜって言われましても……本当に何も感じないんですよ。悲しいとか、悔しいとか、そういうのが全く感じられないんです」

カミラ「……カムイ」

カムイ「カミラ姉さん?」

カミラ「これが、これが、あなたの真実だっていうの? お父様が、あなたの目を奪った人だなんて。だって、私たちに出会う前の訓練で目を失ったって」

カムイ「そうですね。でももうアベコベでわからないんです。だけど、それでお父様を怨むようなことはありませんよ」

267: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 20:43:43.02 ID:tG7mqeA90
カミラ「カムイ。お願いよ、そんななんでもないなんて顔をしないで頂戴。少しでもいいから……、辛い顔をして頂戴……」

カムイ「……難しいです」

カミラ「こんなのあんまりじゃない……。まるで、なにも感じていないみたいに。こんなことって……」

カムイ「……やっぱり、私はおかしいんですよ。これじゃ死んでるみたいですね」

カミラ「そんなことないわ。カムイだって、ちゃんと生きているじゃない」

アクア「カミラの言う通りよ。カムイ、あなたにだって心はあるわ……」

カムイ「証拠なんてないじゃないですか」

アクア「……ちゃんとあなたの心は育っていたのよ。だって、育っていなかったら――あなたは反逆者となった瞬間に、命を絶っていたでしょうから」

カムイ「……それは、私が自分の命を愛く思うようになったということですか? そうかもしれませんね、こうやって生き残って、感慨も何も……」

アクア「違うわ」

カムイ「アクアさん?」

アクア「あなたはもともと、自分の命を大切になんて思っていない人だった。だから、簡単に自分を犠牲にできた、いろいろなことに刃向えた」

カムイ「それは……」

268: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 20:56:52.64 ID:tG7mqeA90
アクア「思い当たる節がないわけじゃないでしょ? あなたは、誰かのためなら自分を犠牲にできる人、本当はやさしい人だから。こうやって、人の死を悲しめない自分がわからないんでしょう?」

カムイ「アクアさんにはお見通しなんですね……」

アクア「ええ、あなたをそうしてしまったのは私だから」

カムイ「?」

アクア「獣の衝動は、私が思うに負の感情なのよ。悲しさや辛さ、恨みといった心を蝕むもの。単純に悪意と言っていいかもしれない」

カムイ「悪意ですか?」

アクア「ええ、そういった感情、獣の衝動をこの竜石がすべて受け止めていたの。それが一度離れた時があったのよ」

カミラ「カムイが反逆者として捕らえた時……」

アクア「ええ、その時、カムイと竜石は一度、引き離されたわ。そして、不安という獣の衝動が体の中で渦巻くことになって、繋がりのなくなった衝動は体を渦巻き続けて、カムイを揺らしていた。そして繋がりが完全に修復されていなかった……私がそれに気づいていれば」

カムイ「……」

アクア「ごめんなさい、私はあなたを竜石に縛り付けてしまった。それで安心してしまった。私がリリスを殺してしまったようなものよ、だから――」

カムイ「アクアさんは、私を助けるために、竜石をつなぎ合わせてくれたんですよね?」

アクア「ええ、あなたを失いたくなかったから、でも、知らなかったでは済まされないことを――」

カムイ「アクアさん……」ダキッ

アクア「!」

269: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 21:08:38.65 ID:tG7mqeA90
カムイ「ありがとうございます。私にそのことを告げてくれて……」

アクア「カムイ、なんでそんなことを言うの…」

カムイ「だって、アクアさんもこのことを私に告げるのは辛かったはずですから……」

アクア「やめて、そんな優しい声を掛けてもらう立場に私はいないわ。むしろ、恨まれるようなことをしたのよ?」

カムイ「ふふっ、そんな感情は竜石に送っちゃいます。ただ、私のことを心配してくれたアクアさんがいるって言うことでいいじゃないですか」

アクア「カムイ……」

カムイ「今回のことでわかりましたから。私はみんながいないと何もできない人だってことが。溺れていたんですよ。なににも揺れない自分自身に。それを知らないで歩み続けていたら、いつかもっと違う場所で大きな出来事を起こしてしまっていたでしょうから。それに、リリスさんが死んでしまったのは私が原因なんです。決して、アクアさんの所為なんかじゃありません」

アクア「……でも」

カムイ「でもも、何もありません。アクアさんは私の命を救ってくれたんです。そして、ちゃんと告げてくれた。だからそれだけで十分なんですよ。皆さんにもいろいろと心配を掛けてしまいましたから……」

カミラ「いいのよ。でもカムイ、これからは私たちのことをいっぱい頼って欲しいわ」

カムイ「カミラ姉さん、こんな私ですけど、これからも妹として接していただけますか?」

カミラ「……もちろんよ。カムイは大切な家族なんだから、遠慮しないで頂戴」

カムイ「ありがとうございます。あの、ほかの皆さんには私からお話しますので、大丈夫だと伝えていただけますか?」

カミラ「わかったわ」

アクア「カミラ、それは私が――」

カミラ「そんなに熱く抱擁しあってるのに、水を差すわけにもいかないわ。今はアクアに譲ってあげる」

アクア「譲るって……」

カミラ「そういうわけだから、カムイのことよろしくね」

ガチャ バタン

271: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 21:20:00.84 ID:tG7mqeA90
アクア「……え、えっと////」

カムイ「アクアさん、どうしました?」

アクア「いえ、その、改めて言われると、こうやって抱き合っているのって、なんだか恥ずかしいと思って……」

カムイ「はは、そうですか」

アクア「……その余裕の表情、気に食わないわ」

カムイ「そうしたのはアクアさんですよ?」

アクア「痛いところを突いてく――」

カムイ「アクアさん」

 トスッ

アクア「え、カムイ?」

 ダキッ

カムイ「少しの間、こうしていてもらえませんか……」

アクア「……」

カムイ「不安はないんです。でも、ないから……少し怖いんです。前も思ったことがあって――」

 サラッ

アクア「本当に甘えん坊なのね。カムイは」

カムイ「はい、本当は甘えん坊なんです。今日だけは――この血塗れた手であなたを抱きしめさせてください」ギュッ

アクア「ええ、私でよければ、傍にいてあげるわ……。だって、カムイの信頼できる人になりたいもの」ギュッ

カムイ「ありがとうございます……」

アクア「でも、カミラに羨ましがられるかもしれないわ」

カムイ「そうですね。ふふっ、アクアさん困った顔してます?」

アクア「わかっているのに言うのね……」

カムイ「ごめんなさい。……アクアさん、とても温かいです……ね……」

アクア「カムイ?」

カムイ「――スゥ スゥ」

アクア「……カムイ、港町ディアでした話、覚えているかしら?」

アクア「私はあなたと一緒に血に染まると約束したの。その先に光があるって思えたから。だから、私はあなたを支えるわ」

「あなたの求める答えが見つかるまで……」

272: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 21:29:24.68 ID:tG7mqeA90
◇◇◇◇◇◇
―暗夜王国・シュヴァリエ公国より南東方角の海岸―

 バサバサバサッ

アサマ「……ようやく来たようですね」

セツナ「そう。これでやっと帰れる……はやく、畳のお布団で寝たい」

アサマ「ええ。しかし、影が一つだけというのは……」

セツナ「あれは……金鵄みたいだね」

アサマ「天馬ではないのですか、ではヒノカ様は……」

セツナ「大丈夫、ヒノカ様が乗ってるみたい……」

 タッ

 クエエェ

アサマ「ヒノカ様?」

ヒノカ「ううっ……」

セツナ「怪我してるみたい、結構新しい」

アサマ「そのようですね、幸い軽傷のようですから、それっ」カララン

ヒノカ「……くっ……ううっ」

セツナ「うなされてる、船で横にしてくる」

アサマ「ええ、お願いします。しかし、ユウギリさんとオロチさんが護衛してくるという話でしたが……御二人の姿は……」

セツナ「これ、ユウギリの金鵄だよね。あとこの弓、ユウギリのもの。長刀は……ヒノカ様のみたい」

アサマ「……何があったかはヒノカ様から聞くことにして、もう離れることにしましょう。このような場所にいては、ヒノカ様の心身によくありません。それに、あまり良い話ではないでしょうから。まずは安全圏まで離れるとしましょう。追手もいるかもしれませんから」

セツナ「そうね……。ヒノカ様、失礼します」

アサマ「さぁ、あなたも、船にお乗りください。まだ、白夜にはたどり着いていません。ヒノカ様を白夜まで届けることが、あなたの任務なのでしょう?」

 クエエッ バサバサバサッ

273: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 21:37:14.20 ID:tG7mqeA90
セツナ「もう出られるよ」

アサマ「……」

セツナ「アサマ?」

アサマ「ああ、はい、そのようですね」

セツナ「どうかしたの?」

アサマ「いえ、シュヴァリエという国は、とても運のない国だと思ってしまいましてね」

セツナ「運のない国?」

アサマ「そうですよ。結局のところ、暗夜と白夜の戦争にただ巻き込まれただけの国ですからね。翻弄された揚句に得たものが何もないとは、全く意味のない戦いでしたでしょうに」

セツナ「……いつまで続くのかな、この戦い」

アサマ「さぁ、それを決めるのは私たちではありませんよ。私たちは兵士、上が戦うならそれに従うだけですから」

セツナ「私はできれば寝ていたい」

アサマ「それには私も賛成ですよ。ですが、結局のところ」

「巻き込まれていくしかないのでしょう……」


第十三章 おわり

274: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/30(金) 21:40:23.79 ID:tG7mqeA90
○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリスB→消滅
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC
(今度はカムイの弱点を探ってみせると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC
(イベントは起きていません)
シャーロッテC
(イベントは起きていません)

 
283: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/31(土) 22:23:17.91 ID:PnLE7a4W0
◇◆◇◆◇◆

ブノワ「……そうか、それはよかったな」

フローラ「……」

ブノワ「ああ、ではな……んっ?」

フローラ「…………」

ブノワ「どうかしたか、フローラ?」

フローラ「すみません、その熊の前で立ち尽くしているので、何をしているのかと思って、襲われているというわけでもなさそうでしたから」

ブノワ「……話をしていた」

フローラ「熊と……ですか?」

ブノワ「ああ、今日取れた魚の話だった。とてもおいしかったと言っていた」

フローラ「どこから疑問を投げ掛ければよいのかわかりませんけど、特に問題はないようですね」

ブノワ「ああ。それより、俺を心配してくれたのか?」

フローラ「ええ」

ブノワ「そうか、ありがとう」

フローラ「気にしないでください。それに私のように心が氷のような人間に、心配されても迷惑でしょう?」

ブノワ「いや、あまり心配されるような人相ではないからな。こうやって口に出して言ってもらえると、うれしいものだ」

フローラ「たしかに、普通の人が見たら熊の方が因縁を付けられているようにも見えますからね」

ブノワ「………」

フローラ「ふふっ、冗談です」

【ブノワとフローラの支援がCになりました】

284: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/31(土) 22:40:12.89 ID:PnLE7a4W0
◇◆◇◆◇◆

ベルカ「……」

エリーゼ「あ、ベルカ!」

ベルカ「……エリーゼ様」

エリーゼ「何してるの?」

ベルカ「何も、ただ待機していただけよ」

エリーゼ「そうなんだ。ねぇねぇ、今ケーキ買ってきたんだ、一緒に食べよっ!」

ベルカ「遠慮しておくわ……」

エリーゼ「ええー、ためしに食べさせてもらったけどとってもおいしかったんだよ! ベルカもきっと気に入るはずだよ!」

ベルカ「………」

エリーゼ「ベルカ、あたしと一緒にケーキ食べるの嫌なの?」

ベルカ「!?」

エリーゼ「ううっ……」

ベルカ「……そんな顔されても困るわ」

エリーゼ「……一口だけでもいいから、一緒に食べようよ」

ベルカ「………」

エリーゼ「こんなにおいしいのに……」

ベルカ「エリーゼ様、今はお腹が空いてない。それだけのことよ」

エリーゼ「え、そうだったの。ごめんね、じゃあ、今度は一緒に食べてくれるよね?」

ベルカ「…お腹が空いてたら」

エリーゼ「うん、じゃあ、今度はちゃんとお腹を空かせてね!」

ベルカ「ええ……」

【エリーゼとベルカの支援がCになりました】

285: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/31(土) 23:03:01.90 ID:PnLE7a4W0
◇◆◇◆◇◆
(前スレ888~889の続きになります)

リンカ「……まさか、こういうことになるなんてな」

アクア「……」

リンカ「いやいや、ちょっと待ってくれ。確かにそうだが……」

アクア「ふふっ」

リンカ「アクア。わ、笑うんじゃない!」

アクア「いいえ、ごめんなさい」

リンカ「くっ、だがこれは極端じゃないか。今までの自分を忘れて別人になりきるか、自分を貫くかなんて」

アクア「そうね、単純に見たらそういう選択しかないように見えるかもしれないわね」

リンカ「そういう選択しかないじゃないか。これじゃ……」

アクア「ねぇ、リンカ切り返すなんてこと、普通は行わないことなのよ。生きている以上、人は一つの道しか進めないから。リンカ、あなたは、炎の部族から離れるという選択を取ったのよね?」

リンカ「ああ、そうだ。それしか、部族に向けられる敵意の目を抑える方法がないと考えたから」

アクア「そうね。だから、その時点でリンカ自身、部族との折り合いを付けられてるはずよ」

リンカ「どういうことだ?」

アクア「あなたは切り替え出来るようになりたいと言っていたけど、本心ではそんなことを望んでいない、そう思えるからよ」

リンカ「あたしは、切り替えられるようになることを望んでない?」

アクア「ええ、正直なところ、この問いかけはね、あなたが悩んでいる理由を探るためのようなものなのよ」

リンカ「悩んでいる理由?」

アクア「ええ、そして向いてないこともね」

リンカ「……」

アクア「リンカ……」

リンカ「いや、アクア。お前に言われなくても、大体分かった気がする、だからいい」

アクア「そう?」

リンカ「ああ、たぶん、あたしはまだ迷っている。ただそれだけのことさ、ありがとうアクア。ちょっと、考えてみるよ、答えが浮かんだらまた話をきいてくれるか?」

アクア「……もちろんよ」

【アクアとリンカの支援がBになりました】

286: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/31(土) 23:19:35.70 ID:PnLE7a4W0
◇◆◇◆◇◆
(前スレ928~929の続きになります)

ジョーカー「っ! 俺としたことが……」

フローラ「ジョーカー?」

ジョーカー「フローラか、いやなんでもない」

フローラ「なんでもないわけないでしょう。それとも、私のこと信頼してないのかしら?」

ジョーカー「……それもそうだな。まぁ、見て笑ってくれてもいいぞ」

フローラ「……指を切ったのね。いつかの私みたいね」

ジョーカー「そう言われるだろうから、見せたくなかったんだが。まぁ、小さな怪我だ、大した問題はない」

フローラ「そういうわけにもいかないわ。指先の傷を人が見て快く思わないこともあるって言っていたのは誰だったかしら?」

ジョーカー「……嫌なくらい覚えてるんだなお前は」

フローラ「ええ、だって信頼してるから。ジョーカーの言葉も、ジョーカーの人柄もね」

ジョーカー「なんだそれ、聞いてるこっちが恥ずかしくなる言葉だな」

フローラ「そ、そうね。なんでこんなこと言ってるのかしら?」

ジョーカー「なら、俺も信頼してるフローラに任せて、ちょっと休むとするか。幸い傷は浅いからな、少しすれば治る」

フローラ「そうね、でもちゃんと拭いておいたほうがいいわよ。これを使って」スッ

ジョーカー「?」

フローラ「このタイミングで返せればよかったんだけど、今は私のハンカチしかなかったから」

ジョーカー「そうだな。前のをここで返してもらえれば、これを返すっていう面倒も省けたんだが」

フローラ「そういう口が叩けるなら大丈夫そうね。そのハンカチは別に捨てても――」

ジョーカー「いや、こういうのは借りたままにするのもあれだからな、洗って返す」

フローラ「私には返さなくてもいいっていったのにね」

ジョーカー「なら、そうだな。お互いの信頼の証とでもして、返さないっていうことにでもするか?」

フローラ「なにそれ、面白いことを言うのね」

ジョーカー「嫌なら別にいいぜ。奇麗にして返してやるよ」

フローラ「ふふっ、せっかくジョーカーに恩を着せられて、しかも信頼を得られるんだもの。私は構わないわ」

ジョーカー「ならこれで決まりだな。それじゃ、今日のことは色々と任せたぞ、フローラ」

フローラ「ええ、わかったわ、ジョーカー」

【ジョーカーとフローラの支援がAになりました】

287: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/31(土) 23:32:28.70 ID:PnLE7a4W0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・賭博の町マカラス・移送馬車倉庫―

ピエリ「……」

 ガチャ

ピエリ「誰なの?」

カムイ「ピエリさん、私です」

ピエリ「カムイ様?」

カムイ「はい、こちらにリリスさんがいると聞いたので……」

ピエリ「こっちなの」

 カッ カッ

ピエリ「……もう、施しはおわちゃってるの。だから、蓋は開けられないの」

カムイ「はい……」

ピエリ「………」

カムイ「ピエリさんは、私を怨んでいないのですか?」

ピエリ「……カムイ様も、ピエリのこと恨んでないの?」

カムイ「なんで、私がピエリさんのことを怨むんですか。私に、そんな資格なんてありませんよ」

ピエリ「あるの、だって、ピエリ、リリスのこと守ってあげられなかったの……。あれだけ守るって、いっぱいいっぱい言ったのに、結局守れなかったの」

カムイ「ピエリさん……」

ピエリ「リリス言ってたの、カムイ様が一番大切だって。それは当然なの、だから思うの、ピエリがもっと早くあそこに行けたら、リリスは生きていられたんじゃないかって。もしも、カムイ様が下に落ちなければ、リリスは生きてかもしれないって、そう思っちゃうの」

カムイ「……」

ピエリ「でも、リリスはそんなこと望んでないの。ピエリ、リリスに言われたから」

カムイ「何をですか?」

288: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/31(土) 23:45:33.44 ID:PnLE7a4W0
ピエリ「恨まないでって、リリスがピエリに言ってくれたの。今ね、リリスの言ってくれたこと、少しだけわかる気がするの。ピエリ、リリスの言葉がなかったら、たぶんカムイ様をえいっってしちゃってたと思うから」

カムイ「……」

ピエリ「リリスね、ピエリにピエリのままでいてほしいって言ってくれたの。戦うのに恨みとか、そういうのを持ってほしくないって言ってくれたの。だからピエリは大丈夫なの」

カムイ「ピエリさん……」

ピエリ「カムイ様、もう、ピエリいっぱい泣いちゃったから平気なの。もう、恨みなんてないの。だって、残ってたらリリスとの約束破っちゃうことになっちゃうの」

カムイ「ピエリさん……」

ピエリ「リリスの思いはピエリの思いなの。だからカムイ様、ピエリはカムイ様を守るためにいっぱい戦うの。敵は殺すの、これは変わらないの、だって戦わないとカムイ様のこと守れないの」

カムイ「……ピエリさんは、こんな私について来てくれるんですか? リリスさんが死んでしまった原因でもある私に」

ピエリ「カムイ様の所為じゃないの。ピエリ難しいことはわからないけど、でも悪いのはカムイ様の所為じゃないって思うの」

カムイ「どうしてですか?」

ピエリ「うー、わからないの。でも、そう感じるの。だから、ピエリはカムイ様を守るために戦い続けるの、リリスの分もきっと守ってあげるの」

289: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/10/31(土) 23:55:39.88 ID:PnLE7a4W0
カムイ「ありがとうございます」

ピエリ「えへへ。だからカムイ様にも早く元気になってもらいたいの。そうしないと、リリスに怒られちゃうの」

カムイ「そうですね……」

カムイ(リリスさん、あなたに助けられたこの命が、一体どういった道を得ていくのか、それはまだわかりません)

カムイ(でも、私はもう一度考えてみようと思います。私がするべきことを……)

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン『王の間』―

ガロン「そうか、シュヴァリエの反乱鎮圧は終わりを迎えたか」

マクベス「そのようです。話によると、ガンズの部隊、そしてカムイ王女が多くの反乱軍の命を奪ったと聞いております」

ガロン「そうか……。ふむ、暴走し、そこで朽ちると思っていたが……まだまだ、壊れぬということだな」

マクベス「? ガロン王様?」

ガロン「くーっはっはっはっはっは!」

マクベス「!? い、いかがされました」

ガロン「マクベス、ガンズたちの昇進はお前に一任する。そしてカムイのことについてだが、マクベスよ、お前の中にある疑念、それはもう晴れたと見ていいのだな?」

マクベス「そうですな」

マクベス(カムイ王女が率先して反乱軍の命を奪った事実は、多くの部族に知れ渡っています。もう、部族もカムイ王女に夢を見ることもないでしょう)

290: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/01(日) 00:07:24.89 ID:TZMVvjY30
マクベス「ええ、此度の件、私の疑惑はすでに晴らされております。その点、謝罪せねばなりませんね」

ガロン「ならば、奴には我が暗夜の血を受け継ぐものとしての称号を与えねばならんな」

マクベス「称号ですか?」

ガロン「ああ、カムイも我が一族に本当の意味で組み込まれることとなるだろう。ささやかな催しを行ってやろう、我が子の晴れ舞台を祝ってやらねばな」

ガロン「マクベス。カムイが戻り次第、我が元へ来るように伝えよ」

マクベス「承知いたしましたガロン王様、では、私はこれにて」

ガロン「うむ……」


ガロン「くっくっく、お前の心はどのように曇っていくのだろうな。どこまで知った、どこまで恨んだ、どこまで耐えた」

ガロン「まだまだ、お前には肥えてもらわねばならない。そうでなくては意味がない」

ガロン「お前が黒く育つことこそが」

「我の最大の願いなのだからな……」

 
297: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/01(日) 22:23:30.91 ID:TZMVvjY30
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

レオン「……結局、何もわからずじまいだなんて……」

レオン(……伝令はもう来てる、姉さんがシュヴァリエの反乱を平定したことも……、リリスが死んだということも……)

レオン「くそ……」

レオン(姉さんを嵌めたのがマクベスなら、それを手引きした奴がいるはずなのに、その痕跡も何も見つけられない。僕は姉さんと一緒に戦うことも、兄さんのように身代わりになることもできなかったのに、なにも得られていない。ここで、ただ無様にもがいてただけだ……」

レオン「結局、僕にできることなんて……」

 コンコンッ

レオン「誰だい、今は――」

サクラ『れ、レオンさん。私です……』

レオン「サクラ王女……どうしたんだい? まだお風呂には早い時間だと思うけど?」

サクラ『いえ、お風呂じゃないんです。そ、その、夕食の時から、その考え込んでるみたいでしたから……』

レオン「……なんでもないよ。なんでもない」

サクラ『嘘です、レオンさん、とても辛そうじゃないですか……』

レオン「本当に何でもないよ」

サクラ『レオンさん』

レオン「放っておいてくれないか!」

サクラ『っ!』

レオン「……ごめん。でもお願いだ、部屋には入ってこないでくれないか、今は人と会って話せる顔じゃないんだ」

サクラ『……わかりました』スッ ピタッ

レオン「なに、僕が部屋に入れるまでいるっていうのかい?」

サクラ『違います。面と向かって話ができないのでしたら、その、扉越しじゃだめでしょうか?』

レオン「……」

サクラ『あ、あの。その……、私、レオンさんに前こうやって話しかけられた時に、とても勇気づけられたんです、だから』

レオン「……」

サクラ『……』

サクラ(やっぱり、私なんかじゃ、誰かを支えることなんてできないのでしょうか……)

サクラ「……」

 カッ ガタンッ

サクラ「!」

レオン「……」

サクラ「あ、あの」

298: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/01(日) 22:38:49.70 ID:TZMVvjY30
レオン「サクラ王女は、あれからツバキとカザハナに甘えてるのかい?」

サクラ「……はい。いろいろと甘えさせてもらってます。レオンさんに言われるまで、そんなこと思いつかなかったかもしれませんから」

レオン「……」

サクラ「だから、その、そうするべきだって言ってくれたレオンさんが辛そうにしているのを見るのは嫌なんです」

レオン「どうしてだい?」

サクラ「だって、レオンさんが私たちをここまで守ってくれたから、カザハナさんもツバキさんも、レオンさんにとても感謝してるんです」

レオン「仕方ないことだよ。だって、サクラ王女たちは僕の捕虜なんだから」

サクラ「それでもいいんです。私はレオンさんを信じてるんですから、だから信じているレオンさんが辛そうにしているのを黙って見ているわけにはいかないんです」

レオン「そう、やっぱりサクラ王女はどこか頑固だね」

サクラ「が、頑固でしょうか?」

レオン「ああ、普通。自分たちを捕らえたような奴に、そんな感情を抱くことなんてありえないことだからね。僕がサクラ王女の立場だったら――」

サクラ「ふふっ、レオンさんは同じように捕虜になっても、そういうことをしない人だって思えます」

レオン「どうして、そう思うんだい?」

サクラ「……だって、レオンさん。カムイ姉様と同じで、とても優しい人ですから」

レオン「……やさしい」

サクラ「……あ、あの、その、カムイ姉様と同じくらい優しいっていう意味で……その、比べてるわけじゃないんです」

レオン「わかってる。サクラ王女が、そういう風に考えてる人じゃないってことくらい、もうわかってるからね」

299: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/01(日) 22:57:53.88 ID:TZMVvjY30
サクラ「レオンさん、なんだか声に元気が出てきた気がします」

レオン「そうかもね。はぁ、他国の王女に支えられてるなんて、王子失格だよ僕は」

サクラ「え、支えてなんて」

レオン「いや、ありがとう。その、心配してくれて……」

サクラ「えっ?」

レオン「僕はあまり心配される立場にいなかったから、そう言ってもらえること自体珍しくてね……」

サクラ「そうなんですか?」

レオン「うん、と言うよりも、心配されることを子供の頃は恐れてたのかもしれない……」

サクラ「恐れていた、ですか?」

レオン「ああ、心配されるっていうことは弱みを見せることになる。弱みは付け込まれる隙で、そう言う隙を突いてくるような奴らはどこにでもいる」

サクラ「……大丈夫です、今は大丈夫ですから」

レオン「?」

サクラ「だって、ここには私しかいないんです。だから、少しだけ弱いところを見せても大丈夫なはずですから」

レオン「なに、少しだけ感謝されたからって、良い気になってるみたいだね」

サクラ「は、はわわわわ。ご、ごめんなさい、その、調子にのっちゃったみたいです……」

レオン「ははっ」

サクラ「わ、笑わなくても……」

レオン「そうだね。でもこのありがとうっていう気持ちは僕の本心だよ。サクラ王女、少しだけあなたに甘えさせてもらったよ」

サクラ「あ、甘えてたんですか?」

レオン「? サクラ王女の思う甘えるっていうのはどういうものなんだい?」

サクラ「……そ、それは////」

レオン「サクラ王女?」

サクラ「も、もう大丈夫そうですね。わ、私はこれで失礼しますから……」

レオン「わかったよ。二人も僕のこと、気にかけてくれたのかな?」

サクラ『はい、カザハナさんもツバキさんも、心配してましたから』

レオン「なら、二人にも伝えてくれないかな。心配を掛けてすまないってさ」

サクラ『はい、伝えておきますね。レオンさん、無理はしないでください』

レオン「わかってるよ。ありがとう」

サクラ『いいえ、気にしないでください。それでは……』

レオン「……」

レオン(姉さんに疑いが掛るようにマクベスに情報を流した奴がどういう風に、話を耳にしたのかはわからないけど。こうやって悩み続けること自体、その奴の術中にはまってることになるのかもしれないな)

レオン「目的は、なんだろう?」

レオン(姉さんを貶めるため? それとも殺すため? どちらにせよ、まだそいつの姿が見えない以上は、気をつけていくしかない……)

レオン「だけど、誰に聞いても不審な人物を見てないっていうのは……」

「少しおかしな話だ」

300: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/01(日) 23:09:22.96 ID:TZMVvjY30
◆◆◆◆◆◆
―港町ディア・宿舎―

ブノワ「……」

ブノワ「ここがカムイ様の部屋か……」

 コンコンッ

ブノワ「カムイ様、ブノワだ……」

カムイ「はい、どうぞ、お入りください」

 ガチャッ バタンッ

ブノワ「カムイ様、何か用か?」

カムイ「はい、まずはお礼を言いたかったのです」

ブノワ「お礼、一体何のだ?」

カムイ「はい、ありがとうございます。国境のこともそうですが、シュヴァリエでの戦い、そして私の部隊に入ることを志願していただけたこと、そのすべてです」

ブノワ「…ふっ、同僚がついて行くと言ったのでな。あいつはそれなりに長い」

カムイ「そうだったのですか」

ブノワ「だが、俺がもっと早くピエリと合流していれば、あのリリスという仲間は……」

カムイ「そう言ってくれるんですね、ブノワさんは」

ブノワ「人が死ぬのはできる限り見たくはない。だが、俺は戦うことを仕事にしている。なら、仲間が死ぬことを抑えることはできるはずだからな」

カムイ「ブノワさんはとても優しい方なんですね。気配だけ察すると、とても大きな人なのに」

ブノワ「……本当なのか?」

カムイ「何がですか?」

ブノワ「カムイ様は目が見えないと、聞いたのでな……」

カムイ「はい、だからブノワさんのお顔を確認したくて、お呼びしたんです」

301: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/01(日) 23:20:29.40 ID:TZMVvjY30
ブノワ「か、顔を触るのか?」

カムイ「はい、大丈夫ですよ。みんなとても気持ちがいいって言ってくれるんです」

ブノワ「……」

ブノワ(指を解している。なんだあれは……とても嫌な予感がする……)

ブノワ「カムイ様、俺の顔を触っても面白くなどない……」

カムイ「いいえ、私はブノワさんのお顔を知りたいんです。私のことを知ってくれている人のことを、私は知りたいんです」

ブノワ「カムイ様……そういうことなら、仕方無い……」

カムイ「ブノワさん……ありがとうございます」スッ ピトッ

ブノワ「っ!」

カムイ「ふふっ、とっても固いんですね。これは、傷ですか?」

ブノワ「あ、ああ……」

カムイ「そうなんですか。失礼しますね」

ブノワ「くっ、うぅ……」

カムイ(瞼と眼尻、口元に顎鬚のあたり……ですね。ここは……)

ブノワ「ははっ、くすぐったいな……」

カムイ「そうでしたか。すみません、ちょっと触る場所を間違えているみたいです……」

カムイ(どうやら、目から下にはなさそうですね……)

カムイ「……」

ブノワ「カムイ様? もう、終わりに――」

カムイ(あとはここですけど……)スッ

ブノワ「っ!」

カムイ「……」スッ

ブノワ「くぉおっ!!!!」

カムイ「……」ニヤッ

302: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/01(日) 23:29:22.11 ID:TZMVvjY30
ブノワ「か、カムイ様……」

カムイ「どうしたんですか、ブノワさん。くすぐったいんですか?」スッスッ

ブノワ「うううっ、な、なんだこれは……」

カムイ「ただ触ってるだけですよ、どうしたんですか、そんなに戸惑ったように振舞って……まるで、気持ちがいいって言ってるみたいですよ」

ブノワ「そ、そんなことは……っ!」

カムイ「大きく口を開けて、どうしたんですか?ふふっ、ブノワさん、盛り上がった髪の毛の淵を触られるのが、そんなにいいんですか?」

ブノワ「い、いや。よくヒヨコみたいだと……ぐっ、いわれたことのある頭だから……。こう、触ってもらうのは……んぐっ!」

カムイ「そうなんですか、ヒヨコみたいなんですね。私が、ブノワさんのヒヨコを優しく撫でてあげてるんですね……」

ブノワ「!!!!」

ブノワ(その表現は、なんだか危ない気がしてならない……」

カムイ「どうですか……ヒヨコ、とても気持ち良いですか?」

ブノワ「ぐっ、き、きもちが、いい……」

カムイ「そうですか、なら」

ブノワ「?」

カムイ「後ろから失礼しますね」

ブノワ「か、カムイ様……一体何を!?」

カムイ「ふふっ、後ろから触ると、ヒヨコさんの形が取ってもよくわかります……ふふっ、ブノワさんのヒヨコ、もっともっと気持ち良くしてあげます」サスサスッ

303: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/01(日) 23:43:46.77 ID:TZMVvjY30
ブノワ「!!!!っ!!!!!」

カムイ「ふふっ、ヒヨコの形ってこうなんですね……。触ったことがないので、ブノワさんのはとても参考になります」

ブノワ「いや、似て、いるだけだ。実際のヒヨ、コでは、はぐうっ!」

カムイ「ふふっ、育ってきましたよ。ブノワさんのヒヨコ……。ふふっ、頭がとっても熱くなってますよ。私の手、ブノワさんのヒヨコの形覚えちゃいました」

ブノワ「か、カムイ様……。こ、これいじょうは、頭がクラクラして……」

カムイ「そうですね。これいじょうすると、ブノワさんが持ちそうにありませんから」パッ

ブノワ「ぐっ、はぁはぁ……くっ、一体なんだったんだ……」

カムイ「ふふっ、とっても楽しい時間でしたよ。ブノワさん……」

ブノワ「た、楽しかったのか?」

カムイ「はい、私の楽しみの一つですから」

ブノワ「そうか……。まぁ、気持ちが良かったのは事実だ」

カムイ「はい、また今度、ヒヨコ触らせてくださいね?」

ブノワ「……善処させてもらう」

カムイ「はい、楽しみにしてますね」

304: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/01(日) 23:54:17.02 ID:TZMVvjY30
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ブノワ「では、失礼します。カムイ様……」

カムイ「ええ、明日も朝早いですからお休みください」

ブノワ「はい、では……」

 タッ タッ タッ

カムイ「さて、私も眠ることにしますしょう……」

カムイ「……」チラッ

カムイ「……」

 バタン


 ………


 ササッ

シャーロッテ「ふぅ、ブノワが私のことを何か話すんじゃないかって思って聞き耳立ててたけど」

シャーロッテ「これが王族的挨拶って言うやつなのかよ。ブノワのヒヨコって……表現もそうだけど、これただのセクハラじゃねえか」

シャーロッテ「見つからないうちに、さっさと自室に帰って、今後は呼び出しがあっても行かないようにしないいけないわね」

シャーロッテ「じゃないと、何されるかわかったもんじゃ―――」

 ガチャ キィィィィ

シャーロッテ「?」

 グイッ

シャーロッテ「!?」サッ

 バタン

シャーロッテ「な、何が起きて――」

カムイ「シャーロッテさん。わざわざ来てくれたんですね?」ニコッ

シャーロッテ「あ、あらやだ。たまたま偶然ですよぉ。私、ブノワさんとお話があるので、これで失礼しますわ」

カムイ「ブノワさんはとても疲れてるみたいですから」

シャーロッテ「それはあんたがブノワに変なことしたからでしょうが!」

カムイ「ふふっ、やっぱり聞いてたんですね。いけませんよ、聞き耳を立てるなんて……」スッ

シャーロッテ「……ちょ、なにす――」

カムイ「大丈夫です……。シャーロッテさんがどんな顔をしている方なのか」

「知りたいだけですから」

313: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/02(月) 22:34:08.65 ID:/3MChtUM0
 パシッ

シャーロッテ「……」

カムイ「?」

シャーロッテ「あんたさ、もう大丈夫なの?」

カムイ「何がですか?」

シャーロッテ「何がじゃねえよ……」

カムイ「……シュヴァリエでのこと……ですか?」

シャーロッテ「正直、心配したんですよ?」

カムイ「?」

シャーロッテ「私が駆け付けた時、どんな状態だったかわかります? ずっと俯いて、嗚咽しかあげてなかったんです。もう、私の声も周りの声も聞こえてないみたいに」

カムイ「……」

シャーロッテ「正直、ここで生き残っても精神的に立ち直れるかわからないって思ってたんですから……」

カムイ「あの……シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「……」

カムイ「もしかして、私のことを心配してくれていたんですか?」

シャーロッテ「……そうよ。悪い?」

カムイ「いえ、その……」

シャーロッテ「だから、数日で元気になったあなたを見てたら、もしかして無理してるんじゃないかって……まぁ、今日はブノワの奴がなにか変なこと言うんじゃないかって探ってただけですけど……」

カムイ「ふふっ……シャーロッテさんって、口調の割にとっても心づかいのできる方なんですね」

シャーロッテ「心遣いしないと男が寄ってこないから、あいつら女に理想求めすぎなんだよ」

カムイ「そうなんですか?」

シャーロッテ「そうよ。カムイ様には一回で見抜かれちゃったけど、これでも猫かぶるのは得意で何人も骨抜きにしてるんです、えへっ」

314: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/02(月) 22:48:52.44 ID:/3MChtUM0
カムイ「ふふっ、シャ―ロッテさん。猫なんてかぶらなくても、とても素敵な方だと思いますけど?」

シャーロッテ「はぁ、そう言ってくれるのはありがたいけどね。でも、そう、大丈夫なんだ」

カムイ「はい……、私は二人も失ってしまいましたから」

シャーロッテ「二人? あのリリスって子だけじゃないんですか?」

カムイ「はい……、失ってしまいましたから。その方とした約束を奇麗に果たすことができなかったんです」

シャーロッテ「果たせたならいいじゃない」スッ

 ピトッ

カムイ「シャーロッテさん?」

シャーロッテ「ほら、触りたいんでしょ? なら始めてよ。カムイ様がもう大丈夫って言うなら、もう逃げるつもりもないから」

カムイ「……いいんですか?」

シャーロッテ「何遠慮してんのよ。最初は触る気満々だったくせに」

カムイ「だって、手を伸ばしたら、それをはねのけられたんですよ?」

シャーロッテ「今、あんたの手を持って、私の頬に当ててあげたんだから、触ってもいいサインだって気づきなさいよ」

カムイ「……シャーロッテさん」

シャーロッテ「あっ、でも。ブノワみたいに触るのは駄目だから」

カムイ「………」

シャーロッテ「あれ? カムイ様、その返事は」

カムイ「ごめんなさい」

 ピトッ シュッ

シャーロッテ「んっ!」

315: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/02(月) 23:00:43.65 ID:/3MChtUM0
シャーロッテ「か、カムイ様。いきなりそんな、首筋に……ひゃっ、つぅぅ……」

カムイ「仕方ないじゃないですか。こんなに心配してくれて、いつもは男らしい口調のシャーロッテさんが、どんな声をあげるのか気になって仕方無いんですから……」

シャーロッテ「ちょ、私の顔を理解するためじゃな――あぅ、ふにゅん」

カムイ「もちろん、それもありますから。でも、こんなにわかりやすく、声を上げてくれるなんて思ってなかったんですよ?」

シャーロッテ「ひゃっ、か、カムイ様……。そ、そこ、だ、だめ、っ、ぇ……」

カムイ(……首筋が弱いのはわかりましたけど……ここだけじゃない気がしますね)

カムイ「お顔に触りますね」

シャーロッテ「は、はいぃ……んぅ」

カムイ(顎、唇、眼尻、眉……耳、鼻、シャ―ロッテさん、とっても可愛い方なんですね)

シャーロッテ(はぁ~、首筋危なかったわ。でも、これで流石に首筋に手を伸ばすことはないはず、このまま顔を触らせて脱出すれば……)

カムイ(あと、残っている場所は……ここでしょうか?)チョン

シャーロッテ「はひゅっ……!!!」

カムイ「……ふふっ、今の感じ、初めてですか?」

シャーロッテ(な、なに今の……)

カムイ「御凸がいいんですね……ふふっ」チョン

シャーロッテ「いやんっ」

316: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/02(月) 23:10:49.54 ID:/3MChtUM0
カムイ「ふふっ、シャ―ロッテさん、髪の毛ちょっと上げさせてもらいますね」サラッ

シャーロッテ「ん、少しひんやりする……」

カムイ「はい。柔らかいですよ、ふふっ、でも全体が感じやすいって言うわけではないんですね」

シャーロッテ(私、何やって……これ以上探られたくないって考えたら、拒否すればいいのに……)

カムイ「さっき触ったのはここらへんでしたね」ピトッ ツゥー

シャーロッテ「んっ」ピクッ

カムイ「ふふっ、ここと、ここと……ここですね? ふふっ、御凸に三カ所も、気持ち良くなれる場所があるなんて……」ピトッ ピトッ ススッ

シャーロッテ「か、カムイ様。ううっ、背中、ムズムズして……やっ……」

カムイ「こんなに御凸に弱点があるのに、シャ―ロッテさんが御凸にキスをされたらどうなっちゃうんでしょうか?」

シャーロッテ「か、カムイ様……?」

カムイ「どうしたんですか? シャ―ロッテさん、大丈夫ですよ、許可もなくそんなことしたりしませんから」

シャーロッテ「え、えっとその……」

カムイ「まだ足りないんですよね、大丈夫ですよ。まだ触ってあげますから、首と一緒に……」ツンツン サワッ

シャーロッテ「くひんっ! はぁ、んっ! ひゃっ、だめ、二か所、同時なんて、聞いてな、っっぅ!」

317: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/02(月) 23:24:26.42 ID:/3MChtUM0
カムイ「可愛いですよ、シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「ひゃ、ゆ、指で御凸の弱い場所、的確に突いちゃ………んんっ!」

カムイ「シャ―ロッテさん、今とっても赤い顔をしてるんですよね……」

シャ―ロッテ「は、恥ずかしくて、し、死にそうだよ……」

カムイ「はい、これ以上触ってしまうと。明日の朝に支障が出てしまうかもしれませんから、ここまでですね」パッ

シャーロッテ「ううっ、ここまで弄ぶのかよ。割に合わないわ」

カムイ「そうですか?」

シャーロッテ「そうよ。ここまで恥ずかしい声上げさせられるなんて思ってなかったんだから……」

カムイ「そうですね……。あの、シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「なに。私、今すごく機嫌が――」

カムイ「とっても可愛かったですよ」

シャーロッテ「……そ、そう/////」

カムイ「あと、ありがとうございます」

シャ―ロッテ「?」

カムイ「私のことを心配してくれて」

シャーロッテ「……別に気にしないでいいから。それにカムイ様は重要なパイプ、そうそう縁を切るつもりなんてないんだから、覚悟しておいてほしいわ」

カムイ「そうですか、ではこれからもよろしくお願いしますね?」

シャーロッテ「ええ……、カムイ様」


318: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/02(月) 23:32:35.30 ID:/3MChtUM0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城『王の間』―

カムイ「帰ってきましたね……ここまで」

エリーゼ「うん、カムイおねえちゃん。本当に大丈夫?」

カムイ「ええ、ありがとうございます。でも、報告は済ませないといけませんから、それにマクベスさんから、すぐにお父様に会いに行くように言われたこともありますし……」

カミラ「……カムイ」

カムイ「大丈夫です。言ったじゃないですか、恨むことはないって」

カミラ「でも……」

カムイ「私を信じてください」

エリーゼ「んっ、二人で何話してるの?」

カミラ「そうね、エリーゼにはまだわからない話よ」

エリーゼ「えー、ずるい。あたしも混ぜてほしいな」

カムイ「はい、いずれその時が来たら……御話しますよ」

エリーゼ「?」

カムイ「それに、早くこれを兄さんにお返ししないといけませんから。ずっと私が預かっていても意味がありません」

アクア「ジークフリートね。マクベスはマークスも王の間で待っていると言っていたわね」

カムイ「らしいですね。そろそろ、入りましょう」

カムイ「………」ドンドン

カムイ「お父様、カムイ、ただいま任務を終え、戻りました」

ガロン『戻ったか、カムイよ。では入るがいい』

319: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/02(月) 23:44:17.14 ID:/3MChtUM0
 カッ カッ カッ

カムイ「……」

レオン「姉さん!」

マークス「カムイ、無事だったのだな」

カムイ「レオンさん、それにマークス兄さん。はい、色々とありましたが……。皆さんのおかげでどうにか生きて帰ってくることができました」

レオン「どうにかは余計だよ。姉さんなら問題なく帰ってこれたはずだからね……でも」

マークス「話は聞いている。リリスが戦死したと……」

カムイ「はい……。それは私の落ち度です、リリスさんが死んだのは私の未熟さゆえですから……。兄さん、こちらをお返しいたします」

マークス「……カムイ、すまない。考えてみれば、お前を戦場に送ったのは私だったのかもしれない」

カムイ「兄さん、あの時はあれしかなかったんです。だから、そのようなことを言わないでください。足りなかったのは私の覚悟なんですから」

マークス「……強くなったのだな」

カムイ「……いいえ、たぶんそれは……」

マークス「?」

カムイ「いいえ、なんでもありません。積もる話もありますけど、まずはお父様に報告をしないと」

レオン「それもそうだね。こっちだよ姉さん」

 カッ カッ カッ

ガロン「………」

カムイ「お父様」

ガロン「ふむ、いい顔になったなカムイ。暗夜の血を継ぐ王族としての貫録が、出てきたというところかもしれないな」

320: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/02(月) 23:52:57.82 ID:/3MChtUM0
カムイ「いいえ、私にはまだまだそのような箔などありません。仲間を失う未熟者ですから」

ガロン「そうか、シュヴァリエ反乱鎮圧、御苦労であった。お前の戦果、わしの耳にも入っている。一人で多くの反乱分子を駆逐したそうではないか」

カムイ「はい……お父様。先によろしいですか?」

ガロン「なんだ?」

カムイ「この任務を終えた以上、マークス兄さんは解放されたと考えてよいのですか?」

ガロン「ああ、お前はわしの命令通り、その任務を終えた。誓は守られた以上、わしも息子を処刑せずに終わること、喜ばしく思っている」

カムイ「ありがとうございます、お父様」

ガロン「さて、カムイよ。先ほど、述べたようにお前には暗夜の王族として生きることを許す時がやってきたようだ」

カムイ「暗夜の王族……ですか?」

ガロン「ああっ、マクベスもお前に対する疑惑がなくなったと告げた。もう、お前に対して反逆者の烙印を押すものはいないだろう。そして、お前が竜となれることも、多くの者が知る事実となった。わけは話す必要もないだろう?」

カムイ「………はい」

レオン(シュヴァリエの反乱軍を蹂躙した竜が姉さんであることは、多くの人々に知れ渡ってる。マクベスは部族が姉さんに向けていた印象が反転したことを理解してる。だから疑惑を取り払ったということか)

321: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/03(火) 00:06:28.19 ID:Hg0BhEYh0
ガロン「すでに反乱や、部族の動きも停滞を迎えつつある。白夜を攻め滅ぼす準備を始める時が来たのだ」

レオン「父上! それはまだ――」

ガロン「……レオン。これ以上、脅威となり得るものなど何一つあり得ん、すでに内部を蝕む反乱の芽は潰えた今、もう待つことはない。それとも、レオン。お前にはまだ、暗夜を転覆せしめる何かが存在するとにらんでいるというのか?」

レオン「……それは」

レオン(姉さんを嵌めた誰かがいる。でも、それを父上が気にするはずもない……)

レオン「いいえ、父上の言う通りです。もうしわけありません」

ガロン「ふっ、まあよい。今の我は機嫌がよいのでな……。カムイよ、お前はこの状況まで、暗夜を導いた、いわば先導者だ」

カムイ「そんな、私はなにも……」

ガロン「お前が望まなくとも、そうなっただけのことだ。ならば、お前は先導者にならねばならない。それが、お前の使命となるだろう」

カムイ「? それは一体……」

ガロン「その自覚がなくとも、お前はにはそうなってもらうことになるというだけのことだ」

マークス「父上?」

ガロン「白夜との争い、それが目まぐるしく動いたのはカムイによってだ。マークスよ、そうは思わぬか?」

322: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/03(火) 00:18:12.51 ID:Hg0BhEYh0
マークス「……確かにそうですが」

ガロン「カムイよ。お前には正式な場で、多くの人間に暗夜の王族であるということを示さなくてはならん」

カムイ「……」

カムイ(私に、暗夜を象徴する存在。いや、ちがいますね、クリムゾンさんと同じようにマスコットになれと言っているんですね)

ガロン「白夜を滅ぼした先の戦い、レオンの言う通りだ。闘いは終わらない、わしはそう考えている。お前が多くの者に与える影響は膨大だが、多くはお前のことを殺戮を好む、狂った戦闘家と勘違いしているようだ。これは暗夜王族の威厳を示す行為でもある」

エリーゼ「……カムイおねえちゃん。そんな風に思われてるんだ、なんだか嫌だな……」

カミラ「……エリーゼはやさしいのね」

カミラ(……これが威厳を示す行為なわけないわ。ただ、カムイっていう強い力の象徴を、持っていることを示そうとしている行為……お父様は何を考えているの?)

マークス(父上、そのようなことをしては、カムイに対する印象はますます悪くなるだけではないか……。なぜ、そのような立場にカムイを置こうとするのですか!)

マークス「父――」

カムイ「お父様……」

マークス「!」

ガロン「カムイよ。どうかしたのか?」


323: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/03(火) 00:25:48.08 ID:Hg0BhEYh0
カムイ「お心遣い、感謝いたします。私のためを思ってそこまでしてくださるのですね」

ガロン「ああっ、我が子のために尽くすのも悪くはないからな」

カムイ「お父様。私はお父様の提案、受けさせてもらおうと思います」

カミラ「カムイ、まって」

ガロン「カミラ、今はカムイが話をしている。口出しをするな」

カミラ「……はい、お父様」

カムイ「お父様が私にそうあって欲しいと望まれているのですから、それを無碍にすることはできません。それに、こうしてお父様に認めてもらうために、シュヴァリエの反乱を鎮圧し、ここにもどってきたのですから。これは報酬と考えてもいいくらいです」

ガロン「くっくっく。面白い例えをする。カムイよ……、お前の暗夜の血の流れ、しかと感じられた」

ガロン「ダークブラッドと呼ぶにふさわしい、そのあり方をな」

カムイ「お父様。ありがとうございます」

ガロン「日時は後に伝えよう。カムイよ、しばしの休息に入るがよい、長旅の疲れを癒し、時に備えるのだ」

カムイ「はい、お父様……」

カムイ(ダークブラッドですか……)

(あながち、間違っていないのかもしれませんね)

324: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/03(火) 00:48:29.33 ID:Hg0BhEYh0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

カザハナ「……また着替えてるし、私何してんだか」ヒラヒラ

レオン『似合ってるよ』

カザハナ「くっ、まさかこんなことになるなんて。いやいや、違うし、そういうのじゃないはず」

 あのー

カザハナ「ひっ!」

サクラ「はわわわわ」

カザハナ「サ、サクラ?脅かさないでよ」

サクラ「カザハナさん。また着てるんですか? レオンさんが出掛けてる間だけって言っても、ちょっと着てる時間多くないですか?」

カザハナ「そ、そうかな。そんなことないと思うよ?」

サクラ「いいえ、その、この頃よく着てますけど、どうしたんですか。たしかに似合ってるとは思いますけど……」

カザハナ「……」

カザハナ(サクラに言われても、やっぱりドキドキしない)

サクラ「カザハナさん?」

カザハナ「あ、うん。なにかな、サクラ?」

サクラ「いえ、やっぱりほどほどにした方がいいですよ? レオンさんだって、全部許してるわけじゃないんですから」

カザハナ「わかってる」

サクラ「はい、レオンさんのおかげで私たちどうにかなってるんですから……。でも、心配してくれてることに、ありがとうって言ってました。私たち、レオンさんの支えになれてるみたいですから」

カザハナ「……サクラ」

サクラ「はい、どうかしましたか?」

カザハナ「……なんでもないよ。ごめんね、もう私部屋に戻るね。確かに、こんなに自由にしすぎるのもよくないよね」

サクラ「え、えっと、カザハナさん?」

カザハナ「それじゃ……」

325: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/03(火) 00:53:26.84 ID:Hg0BhEYh0
ガチャ バタン

カザハナ「……」

カザハナ(おかしいところなんてないよね……)

カザハナ「でも、今日はカムイ様が帰って来たからその話し合いだって言ったから帰ってこれるわけないもんね」

 ポフッ

カザハナ「……本当に、どうしちゃったんだろ。私……」

カザハナ「これじゃ、まるで………」

カザハナ「やめとこ、それはないはず。だって、私がここにいるのは捕虜としてだから……」

レオン『似合ってるよ』

カザハナ「………」ドキドキ

カザハナ「あー、あーーーー! もうなんなのよ。意味わかんない」

「本当に、いみわかんない……」


―休息時間 1 おわり―

326: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/03(火) 00:54:54.03 ID:Hg0BhEYh0
○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC
(今度はカムイの弱点を探ってみせると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC→C+
(イベントは起きていません)
シャーロッテC→C+
(イベントは起きていません)

327: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/03(火) 00:58:49.53 ID:Hg0BhEYh0
○仲間たちの支援現在状況●

●異性間支援の状況

・アクア×ゼロC

・ジョーカー×フローラA

・ラズワルド×リリス(消滅)

・ゼロ×リリス(消滅)

・ラズワルド×ルーナC

・ラズワルド×エリーゼC

・レオン×サクラB

・レオン×カザハナC

・オーディン×ニュクスC

・サイラス×エルフィC

・モズメ×ハロルドC

・ブノワ×フローラC

●同性間支援の状況(男)

・ジョーカー×ハロルドC

・レオン×ツバキB

・ギュンター×サイラスC

●同性間支援の状況(女)

・リンカ×アクアB

・フェリシア×ルーナA

・フェリシア×エルフィC

・フローラ×エルフィC

・ピエリ×リリス(消滅)

・ピエリ×カミラC

・エルフィ×モズメC

・ベルカ×エリーゼC

次回 【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―2― 中編