◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・北の城塞―

カムイ「舞踏会……ですか?」

ギュンター「はい、そこでカムイ様の儀も執り行うそうです。多くの貴族の方々が参加することでしょうな」

カムイ「そうですか……。お父様は私のことを多くの方に見せびらかしたいようですね」

ギュンター「カムイ様……」

カムイ「いいえ、気にしないでください。そうですか、それにしても舞踏会なんて……私は生まれて初めて体験するものかもしれませんね。どう振舞うのが良いのでしょうか?」

ギュンター「ふむ、そうですな。ワルツの一つでも踊れるようにしておくべきなのでしょう」

カムイ「踊りですか、空間把握とはまた違う技術が必要になりそうですね。情報ありがとうございますギュンターさん……」

ギュンター「いえ……カムイ様。本当によろしいのですか?」

カムイ「なにがでしょうか?」

ギュンター「ガロン王様があなたを表舞台にあげるという意味、わかっておいででしょう?」

カムイ「ギュンターさん。心配してくれてありがとうございます、でも、これに私は乗ることに決めたんですから……」

ギュンター「そうですか。では、もう何も言うことはありません。ですが、この老体、カムイ様に最後までついて行く所存でありますゆえ、何かありましたらご申しつけください」

カムイ「はい、ありがとうございます」

ギュンター「それと、マークス様が御越しになるそうです」

カムイ「マークス兄さんですか……。ふふっ、もしかしたら怒られてしまうかもしれませんね」

引用元: ・【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―2― 


333: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/04(水) 20:31:38.01 ID:lyYE0dr30
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―貴賓室―

カムイ「お待たせしました。兄さん」

マークス「カムイ……」

カムイ「ピエリさんとラズワルドさんは、今日はお連れしていないのですか?」

マークス「ああ、個人的なことにまで臣下を巻き込むわけにもいかないからな。それにピエリはリリスと仲が良かったと聞いている。まだ心の整理をつける時間もいるだろう」

カムイ「はい、私に誓ってくれましたから。リリスさんの分も守ってみせると。マークス兄さんを守るのがピエリさんの仕事なんですけどね」

マークス「……カムイ、なぜ父上の提案を受け入れたんだ」

カムイ「……いけなかったでしょうか?」

マークス「お前は、自分の立場を理解していない。シュヴァリエの反乱鎮圧まで、お前のことを慕った多くの者たちがいた」

カムイ「部族の方たちですね……。でも、実際、私が反乱運動を防いだのは、フェリシアさんにフローラさんの故郷であるフリージアだけなんですよ?」

マークス「そうだ。だが無血で反乱を終え、有効的な関係を築いてきたお前の行動に、多くの部族が剣を納めた。それは事実だ」

カムイ「レオンさんも言っていました。私のおかげで多くの部族が反乱の刃を納めたと」

マークス「ああ、お前の無血での反乱平定は、多くの者たちに新しい光を与えた。父上にはできない方法で、お前は成し遂げられたんだ」

334: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/04(水) 20:45:31.82 ID:lyYE0dr30
マークス「シュヴァリエ公国でのことは、耳にしている。お前が竜となり、多くのシュヴァリエ兵を殺したと」

カムイ「ええ、それは事実ですよ。うすぼんやりとですけど、ちゃんと覚えていますから」

マークス「だが、それをわざわざ表に出す必要はない。噂は広がっている、広がっているが、まだそれを疑っている者たちもいる」

カムイ「それは……私が大量に人を殺していないという意味でですか?」

マークス「そうだ。お前のことを信じている者たちがいる。ここでお前が父上から暗夜の王族としての箔をもらうことは、その信じている者たちを裏切ることになりかねない。暗夜は今多くの問題が一時的に終息している。いるが、白夜との戦争が終わった時にまた新しい問題が起こる。父上の武力での統治には意味があると信じている。だが同時に、お前の持つ平和的な行動にも意味があったはずだ」

カムイ「……」

マークス「だからこそ、お前に殺戮者としての印象を植え付けさせたくはない。お前をシュヴァリエ反乱鎮圧の首謀者として、表舞台にあげたくはないんだ」

カムイ「マークス兄さん、はっきり言ってくださいよ。そんな部族の方とか、そういう理由なんてものはいらないんですよ?」

マークス「……」

カムイ「……ふふっ、眉間に皺が寄ってる気がします。兄さんはいつも難しい顔をされてますけど、今は一段と強そうです」

335: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/04(水) 20:56:15.69 ID:lyYE0dr30
マークス「……そうだな。難しい話はなしだ。これはお前の兄、マークスとしての頼みだと思ってほしい。カムイ、私はお前にそのような血塗れの称号を背負ってほしくはない」

カムイ「どうしてですか? 人を殺して得る称号に奇麗なものなんてありませんよ」

マークス「……できれば、お前には戦いに身を投じてほしくはない。私たち兄妹、誰もがそう思っているが、そうはいかないということも皆理解している」

カムイ「兄さん。ふふっ、いつもは真面目なのに、そんなことを言うんですね」

マークス「この前のことも、お前は流されるままに受け入れているのかと思った。竜石の話、カミラから聞かされた……記憶のこともな」

カムイ「……そうですか。カミラ姉さん、話してしまったんですね」

マークス「すまない、私が無理を言って聞き出したようなものだ。カミラを責めないでやってほしい」

カムイ「いいえ、責めるつもりなんてありませんよ。これで家族で知らないのはエリーゼさんとレオンさんだけになりましたね」

マークス「……本当に父上を怨んでいないのか?」

カムイ「ええ、怨みを募らせるには、時間がたち過ぎていることですから……」

マークス「……カムイ」

カムイ「マークス兄さんはこの戦争が終わった時、私が人々から恐れられる存在になっていることを恐れているんですね?」

336: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/04(水) 21:16:49.09 ID:lyYE0dr30
マークス「ああ。この戦争、負けるわけにはいかない。だが、戦争の結果が勝利で終わったとき、カムイと言う名前がどのような意味をもつものになるのか。それが暗く恐ろしいものであってはならないと思っている。闘いが終わり、世が平和になった時、お前は一人の人間、いや一人の女として幸せな日々を過ごすことを許されなくてはいけないはずだ」

カムイ「ふふっ、一人の女としてですか。兄さんに言われると、なんだかむずかゆくなる言葉です」

マークス「そうかもしれないな」

カムイ「ええ、まるでプロポーズされているみたいですよ」

マークス「茶化すところではないぞ」

カムイ「はい……。この戦争が終わった時ですか……お父様はどうして戦争を続けるんでしょうね?」

マークス「……多くの国を取り込み始めたのは、シェンメイ王妃が亡くなられた頃からだったかもしれない」

カムイ「シェンメイ王妃……?」

マークス「ああ、父上にとっては最後の妻といえるだろう。カムイは知らないかもしれないが、シェンメイ王妃はアクアの母上だ」

カムイ「そうなんですか……それは知りませんでした」

マークス「ああ、だが、シェンメイが現れたことで、多くの問題が起きたのも確かだ。それゆえにアクアは暗夜王国に良い思い出など持っていないだろう」

カムイ「……マークス兄さん。そのことは無理に話さなくても大丈夫ですよ。アクアさんもそれを望んでいるとは思えませんから……」

マークス「そうだな」

337: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/04(水) 22:29:48.84 ID:lyYE0dr30
カムイ「話は戻りますけど。マークス兄さん、私は将来のことよりも今できることをしたいんです」

マークス「今できること?」

カムイ「はい。本当の私なんてものは私がいくら叫んでも理解されるものではありませんから。いくら私が人を殺したくなかったと叫んでも、現に多くの人を殺したのは事実です」

マークス「……」

カムイ「その場にいた方や、マークス兄さんのように私を知っている方なら、何か理由を考えてくれるでしょう。でも、私の名前や、行ったことを風の噂に聞いた程度の人たちは、そんなもの気にも止めませんし、良いことなんて悪いことにすぐ上書きされてしまいますから」

マークス「そのようなことは」

カムイ「それに、私がシュヴァリエで多くの命を奪ったことを今隠し通せても、それを隠し通すのは正直辛いのです」

マークス「……」

カムイ「偽りの情報で欺き続けるよりは、真実を知ってでも私を信じてくれる方のほうを私は取ります。今、こうやって私に話をしにきてくれた兄さんのように、私のことを考えてくれる人たちと、私は絆を繋いでいきたいんです」

マークス「……カムイ、それがお前の答えというわけだな」

カムイ「はい、兄さんのお心遣い、とてもうれしいです。でも、逃げるわけにはいきませんから、私のことを信じてくれた人のためにも」

338: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/04(水) 22:45:45.31 ID:lyYE0dr30
マークス「……水を差していたのは私と言うことか」

カムイ「いいえ、心配してくれてありがとうございます」

マークス「ふっ、気にするな。それより、舞踏会の話は聞いていると思うが」

カムイ「はい、ギュンターさんから聞いています。踊りをするなんて生まれて初めてのことですから……」

マークス「それもあるが、父上はあの白夜の者たちも出席させようとしているらしい」

カムイ「……サクラさん達をですか?」

マークス「ああ、その意図だけがわからないでいる。此度のことは、力を示すことにあったが。今回の舞踏会に白夜の捕虜たちを参加させるその意味がな」

カムイ「……私が殺戮をしたということをサクラさん達に示すためでしょうか?」

マークス「そのようなことをしたところで意味などないだろう。サクラ王女は、カムイのことを慕っているようだ。カムイを信じる心に曇りなどないだろう」

カムイ「それはサクラさん達が決めることですから……。でもそうですね、わざわざこんなことをする意味が私にはわかりません」

マークス「そうか、一応お前の耳には挟んでおくべきことだと思ってな。カムイよ、付き人として何人かを舞踏会に同行させるようにしておくといい」

カムイ「はい、ありがとうございます……。マークス兄さん、その舞踏会に出席する方は私が選んでもよろしいんでしょうか?」

マークス「ああ、父上からはその制限は入っていない。お前が好きに決めるといい」

カムイ「わかりました」

339: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/04(水) 22:57:17.18 ID:lyYE0dr30
◆◆◆◆◆◆
―マイキャッスル―

 シュオオオオンッ

カムイ「……私にはまだ、ここを使うことが許されているんですね。リリスさん……」

カムイ(何時の間にそうしてくれたんでしょうか……。私が、また歩み始めることをあなたは信じてくれたんですね)

カムイ「皆さん……お待たせしました」

ジョーカー「カムイ様、ここは?」

ギュンター「いきなり何が起きたかと思いましたぞ」

フェリシア「なんだか不思議な空間ですね。なんだか体がぽかぽかしますぅ」

フローラ「ええ。でも何が起きたのか説明していただけませんか?」

カムイ「はい、ここはですね―――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ジョーカー「そうでしたか、リリスがここに連れてきてくれたのですね」

フェリシア「リリスさん、ぐすっ。でも、リリスさんがいないのにどうしてここにこれたんでしょうか?」

カムイ「どうやら私に、ここへ来る力を託してくれたみたいなんです。だから、これを利用しないわけにはいきませんから」

フローラ「利用するとはどういうことですか、カムイ様」

ギュンター「あなた様がここに私たちを呼んだということは、外の世界で聞かれたくないことがあるから、ということですな」

カムイ「ええ、舞踏会の話は聞いていますね? 今回の舞踏会、地方部族の方や貴族の方、そして今暗夜に捕らわれている白夜の王族の方々も参加する大きなものとなっています」

フェリシア「ええっ、白夜の王女様も参加するんですか」

フローラ「おかしな話ですね。捕虜を参加させるというのは」

340: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/04(水) 23:06:27.78 ID:lyYE0dr30
カムイ「はい、ですから。最悪の場合、その場で暗殺、もしくは処刑と言う流れもあるのかもしれません」

ジョーカー「わざわざ大勢の前で見せしめにするということですか?」

ギュンター「考えられないわけではないですな。何が起きるかなどわかりませんので」

カムイ「まぁ、正直、暗殺の可能性はありますが。公開処刑というのはあり得ないと思います。私という殺戮の代名詞がいる場所で、そこまでの宣伝は過剰と言えますから。だから、サクラさんたちのことはそれほど気にする事ではないんです。それに、そんなことは場内警備の方たちが許さないでしょうから」

フローラ「? では、私たちをここに呼んだ理由と言うのはなんですか、カムイ様」

カムイ「はい、その前に皆さんに聞きたいことがあるんです」

フェリシア「カムイ様?」

カムイ「皆さんは、私を幼いころから支えてくれた家族のような方たちです。私はみなさんを信頼しています」

ジョーカー「もったいないお言葉、この身に余る光栄です」

カムイ「……信頼している皆さんだからこそ、ここに来ていただきました」

ギュンター「……」

カムイ「皆さん、これからどんなことがあろうとも、終わりまで私について来てくれますか?」

フローラ「えっと、カムイ様?」

フェリシア「そ、その、いきなり何を聞いてるんですか?」

341: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/04(水) 23:15:46.69 ID:lyYE0dr30
ジョーカー「そうだな。フェリシアの言う通りですよ、カムイ様」

ギュンター「ふっ、カムイ様。私たちはあなたに仕える臣下。その質問をすること自体、何の意味もないことです」

カムイ「皆さん……」

フローラ「カムイ様は、一度刃を向けた私たちをもう一度迎え入れてくれました。本当ならここに立っている資格なんてないはずの私達に」

フェリシア「そうですよ。私たちはカムイ様に仕えられることが嬉しいんです。だから、そんなこと聞かなくても大丈夫なんですよ」

ジョーカー「ご命令があれば、それに従う。それが臣下と言うものですから」

ギュンター「他の者に多く言葉を言われてしまいましたが、カムイ様」

カムイ「はい、ギュンターさん」

ギュンター「私は言ったはずですぞ。この老体、最後まで共について行くと」

カムイ「そうでしたね。失礼なのは私の方でした。もうしわけありません、皆さんの意思を疑うような問いかけを」

フェリシア「はわわわっ、顔をあげてください。むしろ、気遣ってもらえた気がして、とっても嬉しいです」

フローラ「ふふっ、カムイ様のそういう所、とてもよいと思います。ですから、御顔をあげてください」

カムイ「はい、ありがとうございます……では、本題に入りましょう」

「みなさんにしか頼めない、とても重要なことがあります」

347: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/06(金) 23:14:47.87 ID:XuHm7AwU0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

レオン「………」

コンコンッ

ツバキ『レオン王子ー?』

レオン「ああ、ツバキか。サクラ王女とカザハナはいるのかい?」

サクラ『は、はい』

カザハナ『来てるわよ』

レオン「そうか、入ってきてくれるかな」

 ガチャ

ツバキ「レオン王子のお部屋にお邪魔するのは結構久しぶりかな。この頃なんだか考え込んでたみたいだったかのもあるけど」

レオン「すまない。気を使わせちゃったみたいだね」

サクラ「いいんです」

カザハナ「そうだよ。それで、なにか用事があったからあたしたちを呼んだんじゃないの?」

レオン「ああ、正直僕も意図がつかめなくて困ってることだから、直接話しておこうと思ってね」

ツバキ「なんか俺達に密接に関係がありそうなこと、みたいだね?」

サクラ「まずは話してみてください。私たちに関係がある話なんですよね?」

カザハナ「そうそう、これでもあたしたちレオン王子のこと信用してるんだから……」

レオン「それもそうだね。なら、本題に入らせてもらうよ。姉さんの戦績を父上が認めてくださってね。今度、舞踏会の催しと同時に姉さんの王族表明が行われることになった」

ツバキ「うーん、それと僕たちに何の関係があるのかな?」

レオン「姉さんのことは大きく関係ないよ。問題は舞踏会のほうでね。父上はサクラ王女たちにもその舞踏会に出席するように言ってきている」

サクラ「私たちを……ですか?」

レオン「そう。正直、サクラ王女たちにとって暗夜は敵で、舞踏会に出席する暗夜の人間から見れば、あなたたちは敵でしかない。だから、正直な話をすると、父上の命令通りにあなたたちを舞踏会に参加させるのはできれば避けたい」

348: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/06(金) 23:27:46.84 ID:XuHm7AwU0
ツバキ「でも、そうはいかない。そうだね?」

カザハナ「どういうこと?」

ツバキ「難しく考えることじゃないかな。ガロン王の息子であるレオン王子が、命令に背いて俺たちを出席させなかったら、周りはどう思うか考えればいいだけだからね」

カザハナ「……それは」

ツバキ「当然、俺たちに対する目も悪くなるけど、レオン王子に対する印象はよくないものになるかもしれない。ただでさえ、レオン王子は俺達に良くしてくれてるんだから、それも重なったらレオン王子の立場としてはとってもまずいことになるはずだよ」

レオン「……できれば。とぼけてほしかったところなんだけど、僕としては出席するように頼むつもりで呼んだわけじゃないよ。サクラ王女にツバキ、カザハナも参加をしたくないというならそれでいい。無理に参加しても、いいことはないだろうからね」

カザハナ「……レオン王子はどっちがいいわけ?」

レオン「? どっちっていうのはどういう意味かな?」

カザハナ「簡単な話、あたしたちがいたほうがいいのか、いない方がいいのかってこと」

レオン「目の届く範囲にいてくれた方が安心できるのは確かだよ。カザハナは僕がいない間に屋敷の中を歩き回ってるらしいからね」

カザハナ「あ、いや、その……」

サクラ「ふふっ、一番我が物顔で歩いてる気がします。それにこの頃は―――」

カザハナ「あーっ、サクラ、それは言わないで。お願い、ね。今度、おやつに出たケーキ半分あげるから」

レオン「まぁ、自由に歩いて良いって言ったのは僕だからね。でも、確かに舞踏会の間、僕は城を離れられないからね……」

349: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/06(金) 23:41:07.15 ID:XuHm7AwU0
サクラ「そ、そのレオンさん」

レオン「なんだい、サクラ王女?」

サクラ「あの私、少し興味があります。その、暗夜の文化について知りたいんです。そうすれば、もしも戦争が終わった時に、人と人とをつなぐ何かの役に立つんじゃないかって」

レオン「……こんな状態でも、そういう風に考えるんだね」

サクラ「ここに私がいるのに意味があるなら、ここで背を向けるのは間違ってるって思うんです。暗夜も白夜も住んでる人は生きてます。私は白夜のこととはそれなりにわかってるつもりです。だから暗夜のことも同じように理解したいって思うんです」

レオン「……本当にサクラ王女は強い人だね」

サクラ「そ、そんなことないです」

カザハナ「でしょ、サクラはとっても強いんだから。幼馴染のあたしが言うんだから間違いないよ」

レオン「そうだね、カザハナみたいなのと長く付き合ってきたんだから、間違いないね」

カザハナ「なんでそこで茶化すのよ。意味わかんない!」

レオン「ごめんごめん。それで二人はどうする?」

ツバキ「主君一人を向かわせるなんて、臣下の恥だよねー」

カザハナ「答えは決まってるよ。あたしたちも一緒に舞踏会に参加するよ」

レオン「そう。舞踏会からここに帰ってくるまでは僕が必ず守り通すから安心して」

カザハナ「……ふーん。それじゃ守ってもらおうかなー」

レオン「ああ、任せてほしい」

カザハナ「……ま、真面目に返さないでよ。調子狂うから……」

350: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/06(金) 23:52:39.20 ID:XuHm7AwU0
レオン「で、ここからは舞踏会に関してのことなんだけど。一つ聞いてもいいかな?」

サクラ「はい、なんでしょう?」

レオン「三人とも社交ダンスの経験とかはあるのかい?」

カザハナ「あれでしょ、真中で太鼓を叩く人がいて、それに合わせてこう手を――」ヒョイヒョイ

ツバキ「ははっ、カザハナうまいねー。……でも多分だえど、それのことじゃないと思うよ」

カザハナ「どうしてそう思うのよ?」

ツバキ「レオン皇子の顔を見てみればわかると思うよ」

レオン「」

カザハナ「……//// ま、これも文化の違いだから……しかたないでしょ!」

レオン「なんでいきなり怒鳴るんだい。意味がわからないよ」

カザハナ「う、うるさい。ううっ、なんだかこれすっごく恥ずかしい。穴があったら入りたい……」

サクラ「でも、上手でしたよカザハナさん」

ツバキ「あー、サクラ様。今、褒めるところじゃないと思います」

レオン「…………。これはこれで問題だ」

サクラ「あ、あの。舞踏会って何時からなんでしょうか? その、私も舞踊の作法は抑えているんですけど……」

レオン「そうだね。もう準備は始まってるから、早ければ五日後かな」

カザハナ「こんな何もできないあたしたちに、どうやって舞踏会に参加しろって言うわけ!?」

レオン「……。話の順番、間違えたみたいだ。反省しないと……」

351: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/07(土) 00:02:10.74 ID:vxE/Iq6g0
ツバキ「……レオン王子はできるんだよね?」

レオン「まぁ、王族の作法みたいなものだから。嫌でもステップを踏まないといけないことだってある。教える側に回ることもあるし、あえて、下手にして教えてもらうように手を打ってくる奴もいるからね」

ツバキ「なるほど、つまり、俺達にレオンさんが指導すればいいんですよ」

レオン「……僕が?」

サクラ「で、でもレオンさん。忙しくないんですか? ご迷惑になるかもしれないのに……」

レオン「いや、今は舞踏会に関する準備だけしかないから。書類に目を通すくらいのことだし、それに参加してくれるのなら、サクラ王女たちにも楽しんでもらいたいのは本望だからね」

カザハナ「……ちゃんと踊れるようにしてくれるんだよね?」

レオン「それは僕だけが努力することじゃないよ。いくら教え方が良くても、教わる側にやる気がなかったら上達するわけもないから……」

カザハナ「そ、それはそうだけど。……はぁ、あたし出来る気がしないんだけど」

レオン「まぁ、まずは見てみたほうがいいかもしれないね。ツバキ、ちょっといいかい?」

ツバキ「ん、いいよー。何をすればいいのかな?」

レオン「少しだけステップをね。ツバキは物覚えが良さそうだから」

ツバキ「レオン王子にそう思ってもらえるのは光栄だなー。で、どんな感じにやればいいのかな?」

352: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/07(土) 00:13:22.25 ID:vxE/Iq6g0
~~~~~~~~~~~~~~~~~

サクラ「……」

カザハナ「……」

レオン「そう、その感じ。やっぱりツバキは覚えが早いんだね」

ツバキ「レオンさんの教え方がうまいんですよ。ここでターン。決まったかなー」

レオン「うん。いい感じだよ、ほとんど形は出来上がったんじゃないかな」

ツバキ「もっと難しいかと思ってましたから。ちょっと拍子抜けですー」

レオン「言ってくれるね。……それじゃ、少しだけ密着する奴にしてみようか」

サクラ「……あ、あのカザハナさん」

カザハナ「な、なんですか。サクラ様」

サクラ「いえ、その、なんか、二人とも色っぽいっていうか、その……」

カザハナ「……言わないでくださいよ。できる限り、意識しないようにしてたんですから」

ツバキ「レオン王子って、見た眼よりは筋肉あるんですね。魔術ばかりだから、てっきりあまりついてないのかと思ってました―」

レオン「乗馬も剣技も一通りこなすからね。人並についてないと役には立たないから。ツバキはどちらかと言うとあまり筋肉はないんだね」

カザハナ「……ちょ、ちょっと二人とも。密着して踊りながら何の話をしてるのよ」

レオン「ん、ツバキには色々とアドバイスをもらっているから……な?」

ツバキ「そうですねー。あの時のレオン王子、見てて弱そうでしたからねー」

レオン「あれはあまり見られたくなかったんだけど」

サクラ(あれ、あれってなんですか?)

カザハナ「ツバキからアドバイスって、一体何のアドバイス?)

353: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/07(土) 00:28:13.15 ID:vxE/Iq6g0
◆◆◆◆◆◆
―北の城塞・カムイの部屋―

カムイ「出来る限りの準備はできましたから、あとは舞踏会の日を待つくらいでしょうか」

 コンコン

カムイ「はい?」

 ガチャ

アクア「私よ、カムイ」

カムイ「アクアさん。どうしたんですか、こんな夜分に」

アクア「ちょっとね、舞踏会のことで聞いておきたいことがあったのよ」

カムイ「……なんですか?」

アクア「ねぇ、カムイ。あなたって誰かと踊れるの?」

カムイ「ふふっ、アクアさん。何を聞いてくるのかと思ったら」

アクア「そうね、無用な心配だったかしら?」

カムイ「そうですよ。今まで踊ったことなんて一度もないので、むしろ忘れていました」

アクア「……カムイ。さすがに今度の舞踏会の主役はあなたなのよ?」

カムイ「はい、そうなんですよね。舞踏会の主役にはなりたくないのですが」

アクア「それは無理でしょうね。武勲をあげたあなたと一曲踊りたいと思う人は大勢いると思うは。もちろん、良い意味でも悪い意味でもね」

カムイ「そうでしょうね。でも、私によって来るのは悪い意味ばかりでしょうね」

アクア「カムイ」

カムイ「でもそれでいいんです。今はそうあるべきなんですから。暴れて多くを殺した私に、良い意味が寄ってくることなどあってはいけないんですから」

364: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/08(日) 22:33:07.76 ID:9VYuUSdy0
アクア「それでも参加するのね、あなたは」

カムイ「はい、といってもアクアさんも参加するんですから、特に気にすることでもないですよ」

アクア「私とあなたじゃ背負うことになる物がちがうわ。あなたはこれから多くの物を背負う場所に行こうとしてるけど、私はただ……」

カムイ「それでいいんですよ。私が背負うべき咎は、多ければ多いほどいいことなんですから」

アクア「あなたはそんなものを背負うために生まれてきたわけじゃない。本当なら、あなたは白夜で育って生きるはずだった」

カムイ「でも、今生きている私がいるのはここです。それはどんなに瞼を閉じても否定できるものではありませんから、ならするべきことを私はするだけです」

アクア「それが今言っていた終わっている準備と言うこと?」

カムイ「はい、考える道を選んだ私のすべき義務ですから。この舞踏会が終わってから少しして、大きな選択を迫られる気がするんです。それは何かをしていても、何もしていなくても私の前に訪れる。そんな気がして、なら有益になることをしておくべきだと私は思うんです」

アクア「……そう、あなたはまだ希望を捨ててないのね。でも、本当のあなたはそれを望んでいるの?」

カムイ「……さぁ、それはわかりませんよ。竜石がアクアさんの推測通り、私の負の感情を代わりに吸い取ってくれているというのなら。それを調べるすべはもうありません。なら、今の私にできるのは、あるがままに事を進める、それだけです」

365: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/08(日) 22:41:28.43 ID:9VYuUSdy0
アクア「そう、あなたがそういうのなら、私はそれについて行くだけよ。あなたの視線の先に出来る光景を目にするためにね」

カムイ「そうですね。いつか必ずお見せしますよ」

アクア「でも、準備ができたという割には少しだけ、浮かない顔をしているけど」

カムイ「そうでしょうか」

アクア「ええ、さっきまで奇麗に決めていたけど、今のあなた眉間に皺が寄ってるわ。マークスみたいに」

カムイ「困りましたね。マークス兄さんほどに眉間が大変なことになっているなんて」

アクア「カムイ、なんだかんだでマークスに対して、失礼だと思うわ」

カムイ「まぁ、眉間の皺が中々戻らないのは、どんなに頑張っても私では解決できそうにない問題が一つだけあるからなんですよ」

アクア「……それ、本当?」

カムイ「どうして、疑問形なんですか? 私にだって解決できないことの一つや二つあってもいいと思いますが」

アクア「それもそうね。でも、今のあなたが悩むなんて相当なことのようね」

カムイ「はい、今まで生きてきてこれほどまでに困難な壁は初めてです」

アクア「それほどなんて、私にできることがあれば手伝うけど」

カムイ「本当ですか?」

アクア「ええ、あなたの役に立ちたいもの」

カムイ「では、早速なんですが」スッ

アクア「え? 突然手を出して、どうかしたの?」

カムイ「一曲、踊っていただけませんか?」

366: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/08(日) 22:49:11.98 ID:9VYuUSdy0
アクア「………よろこんで……と言いたいところなだけど、すでに間違っているわ」

カムイ「え、そうなんですか。マークス兄さんからは社交的に挨拶をするようにと言われたんですけど」

アクア「マークスの言葉は間違ってないけど。カムイの応対は申し込む側よ」

カムイ「?」

アクア「いい、次の舞踏会、あなたは進まずとも多くの人と一曲踊ることになるわ。どちらかと言えば……」

 スタッ スッ

アクア「カムイ王女、私と一曲、いかがでしょうか?」

カムイ「……」

アクア「……//// ねぇ、カムイ」

カムイ「あっ、はい」

アクア「その、私の手を取るとか、せめて返事くらいしてくれないかしら。その、二人きりと言っても、こうやって無言でなにもアクションがないと正直恥ずかしくて仕方ないわ」

カムイ「そういうことですか。では、はい喜んでアクア王女」

アクア「……ええ。それじゃ―――」

 グッ

アクア「……カムイ」

カムイ「はい」

アクア「……一歩目から私の足を踏むっていうのは、狙ってやってるのかしら?」

カムイ「いいえ、なんていうか気配を避けようとしてるんですが……。なんか動いている的を止めたい衝動に駆られてしまうんですよね」

アクア「……竜石、ちゃんと機能してる?」

カムイ「大丈夫でしょう。今、アクアさんに申し訳ないっていう気持ちが浮かびませんから」

 ギュウウッ

カムイ「イタタタッ!」

367: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/08(日) 22:56:32.63 ID:9VYuUSdy0
アクア「ごめんなさい、急に右足が重くなってしまったの」

カムイ「ううっ、全体重乗せてませんでしたか、今の」

アクア「女性に体重のことをいうのはマナー違反よ」

カムイ「それもそうですね」

アクア「でも、おかしいわね。あんなに空間把握ができてるのに、こういったダンスが苦手だなんて」

カムイ「やったことがないんですから……少しは察してくれてもいいと思いますけど」

アクア「察していても、舞踏会まではあまり時間がないの。咎の中にダンスがとても下手くそな王女っていう項目が入ることになるわよ?」

カムイ「それは個人的に嫌ですね」

アクア「愛嬌はあると思うけど。カムイにはそういうものがあまりないから、あとは人の顔を執拗に触る変な王女という肩書があるくらいかしら?」

カムイ「それは仕方ありませんよ。私が唯一相手の顔を知る方法なんですから」

アクア「だからって、相手が変な声をあげちゃうまで触ることはないと思うけど」

カムイ「皆さん感じやすいんですよ。私はいつも通りに触っているだけなんですけど」

アクア「……口元緩んでるけど」

カムイ「気の所為です。それで、続けてくれないんですか?」

アクア「そうね、私から誘ったんだから。踊り切らないといけないわね。それじゃ、ゆっくりと始めるわよ」

368: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/08(日) 23:09:42.97 ID:9VYuUSdy0
アクア「ねぇ、カムイ」

カムイ「なんですか、アクアさん?」

アクア「こんな風に踊るのは初めてなのよね」

カムイ「はい。だから楽しくもあります。それにアクアさんの手がとても温かくて、なんだか気持ちがいいです。わたしが温かく感じているということは、アクアさんの握ってる私の手はとても冷たいんですか?」

アクア「そうね。あまり温かくはないわ……でも、手が冷たいのは心が温かい証拠だというわよ」

カムイ「なら、アクアさんの心はとても冷たいことになってしまいますけど」

アクア「間違っていないわ。私はとても冷たくて酷い人間のはずだから」

カムイ「そんなことはないと思いますよ」

アクア「助言かしら?」

カムイ「はい、アクアさんが私に助言してくれたように、私も助言だけします。少しでも、そう思ってくれるようにって」

アクア「そう。次で、ターンするわよ」

カムイ「はい、えーっと、こ、うわっ」コテンッ

アクア「……ターン、練習しないといけないわね」

カムイ「はぁ、なかなか難しいですね」

アクア「私の足を踏まないでよく出来たわね。あなたの口ぶりじゃ、懲りずに踏むと思ってたけど」

カムイ「また踏んだらアクアさん、踏み返しますよね?」

アクア「ええ」

カムイ「なんだか、爽やかな返答ですね」

アクア「気のせいよ。カムイ、舞踏会に連れて行く人は決まっているのかしら?」

カムイ「それもまだなんですよ……。どうしましょうか……」

369: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/08(日) 23:23:54.54 ID:9VYuUSdy0
アクア「早く決めておいた方がいいわ。あなた自身、踊れるようにならないといけないのだから」

カムイ「そうですね。連れて行く人たちは、できる限り早く決めておきますから、安心してください」

アクア「ええ、マークスの皺が寄らないようにしてあげないといけないから」

カムイ「それもそうですね……」

アクア「カムイ?」

カムイ「なんでもなりません」

アクア「そう、それじゃもう一度やりましょうか。何回もやってコツをつかまないといけないから」

カムイ「それもそうですね。それじゃ、えっと……」

アクア「私から声を掛けるから、あなたは……」

カムイ「そうでしたね。……それじゃ、おねがいします」

アクア「ええ、んんっ……カムイ王女、私と一曲どうでしょうか?」

カムイ「はい」

「よろしくおねがいします。アクア王女」

 休息時間 2 おわり

392: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/10(火) 21:16:58.54 ID:KaqFVUN+0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

レオン「……どうして、こうなるんだい、姉さん」

カムイ「いえ、風の噂でレオンさんがサクラさん達に社交ダンスを教えているという話を聞いて、私も教えていただこうと思って」

サクラ「カムイ姉様も、その、踊れないんですか? とてもそうは見えませんけど」

カムイ「はい、何分初めてのことですから。サクラさん達と同じ、初心者ですね」

レオン「姉さんが初心者なのも、うまく踊れないことも分かったよ。その、頼りにしてくれるのはうれしいから」

カザハナ「レオン王子って、カムイ様には優しいよね」

ツバキ「そうだねー」

レオン「……それはもういいんだ。それより問題なのは……」

シャーロッテ「うふっ、お邪魔させてもらってますね。レオン様」

ハロルド「ここに来るのは二度目になるが。今回は道中事故も無くこれてよかったよ、はっはっは」

モズメ「ハロルドさん、少し静かにしたほうがええで。余所の家なんやし」

ラズワルド「舞踏会か、可愛い女の子といっぱい踊れるのが楽しみで仕方無いね。早く舞踏会の日にならないかな」

レオン「なんで、連れがいるのかな姉さん?」

カムイ「はい、私が選んだ舞踏会の参加者ですよ。踊りの経験はラズワルドさんくらいらしいので……」

レオン「だったら、ラズワルドに教えてもらうべきじゃないか。わざわざ僕が教える必要はないと思うんだけど」

393: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/10(火) 21:28:30.24 ID:KaqFVUN+0
カムイ「いえ、ある意味、サクラさん達と顔合わせをしておきたかったんです」

サクラ「か、顔合わせですか?」

カムイ「はい、サクラさん。私が勝手に進めてしまった今回の舞踏会の件ですけど、参加することにしてくれたんですね」

サクラ「は、はい。私にできることをしたいって、そう思って、ご迷惑だったでしょうか?」

カムイ「いいえ、そんなことはありません。サクラさんは一度決めたら引き下がらない頑固なところ、ありますから」

サクラ「そ、そんなこと……ううっ、そうかもしれません」

カザハナ「でも、あたしたちとそっちが連れて行くのと顔合わせすることに意味なんてあるのかな?」

カムイ「少しでも知り合いは多い方がいいです。レオンさんのことですから、その点の手まわしはすでにされているでしょうけど、会場で常に傍にいられるというわけでもありませんから」

ツバキ「確かにそうだねー。レオン王子も多くの人たちから一曲、申し込まれる立場にいると思うから」

レオン「わざわざ、そのことを察して?」

カムイ「少しはお姉ちゃんらしいこと、できたでしょうか?」

レオン「……はぁ、そういうことなら別に構わないけど。でも僕一人で残りのみんなに踊りを教えるのは、無理があるよ」

394: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/10(火) 21:43:40.80 ID:KaqFVUN+0
カムイ「そこは気合いでどうにかしてもらうしかないですね。大丈夫、レオンさんなら何とかできますから」

レオン「無理だよ……僕に、こんな人数どうにかできるわけない」

カムイ「レオンさん……」

ラズワルド「どうしたんだろう。レオン様がこんな風に弱腰な発言をするなんて……」

シャーロッテ「大丈夫ですよぉ、レオン様ならきっと教え切れますから。私にも――」

レオン「……あの……さ。君たちは僕の足を踏まないと約束できるかい?」

ハロルド「? 足を踏むというのはいったい……」

サクラ「あっ」チラッ

ツバキ「……あー」チラッ

カザハナ「……な、なによ。は、初めてやったんだから、大目に見てよ」

レオン「初めてのことだって? あんなに的確に親指を踏みつけて、わざと狙ってるんじゃないのかい?」

カザハナ「あ、あたしだって好きでやってるんじゃないよ。……悪いとは思ってるけど、うまくいかないんだから仕方ないじゃん」

サクラ「ふ、二人とも落ち着いてください」

ツバキ「そうだよー。いきなり俺ができたみたいに出来るわけじゃないんだから、無理に動く必要なんてないんだよカザハナ」

カザハナ「そ、それはそうだけど。なんでこんなにうまくいかないのかな」

カムイ「………思った以上に溶け込んでますね」

モズメ「ほんまやね。国同士が喧嘩しとるなんて悪い夢みたいや」

395: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/10(火) 21:54:42.39 ID:KaqFVUN+0
シャーロッテ「……」

シャーロッテ(社交ダンスはほとんど踊れるんだよなぁ。王城兵になる前にいろいろと仕込んでおいたし、レオン様に教えてもらってあわよくばとか思ったけど、ここはできる女を演出して点数稼ぎが良さそう。それに、人に教えることができて、気配りができるところを見せて、レオン様からの印象アップ……これしかないわ!)

シャーロッテ「あのぅ、レオン様」

レオン「ん、シャーロッテだよね。何かな?」

シャーロッテ「よろしければ、私がサクラ様たちに教えて差し上げますよぉ」

レオン「えっ、だってシャーロッテ、君はさっき……」

シャーロッテ「あれは、私にも――お手伝いできることがありましたら、手伝わせてくださいって、言おうとしたんですよぉ。私、これでも社交ダンスは一通りこなせるんですぅ」

レオン「え、そうだったのかい?」

シャーロッテ「はい、女性の嗜みですからぁ」

シャーロッテ(よっし、これでレオン様と一緒に教える側に回って、みんなにてきぱき教えられれば、さらに好感度アップが狙える。頑張るのよ、シャーロッテ!)

カザハナ「じょ、女性の嗜み……」ペタペタ

サクラ「カザハナさん? そんなに胸を触ってどうしたんですか」

カザハナ「な、なんでもないですよ、サクラ様」

396: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/10(火) 22:04:10.76 ID:KaqFVUN+0
レオン「そうか、となると。僕にラズワルド、そしてシャーロッテの三人が教えられるってわけだね。よかったよ」

カムイ「ああ、そうでしたねラズワルドさんがいましたね」

ラズワルド「えっ、カムイ様、僕のこと忘れてたんですか。ひ、ひどい」

カムイ「冗談ですよ。あともうひとつなんですが、舞踏会前日までここに滞在してもよろしいですか?」

レオン「いきなり飛躍するね。でもサクラ王女達も知り合いが増えたほうがいいとは思う。それに、後々それを指摘されても舞踏会で会ったとすれば問題ないだろうしね」

カムイ「そういうわけです。ご迷惑を掛けるかもしれませんが、少しの間よろしくお願いしますね」

レオン「はぁ、調子がいいんだから。それで踊りの練習についてだけど……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シャーロッテ「………」

サクラ「そ、その、よろしくお願いします。シャ―ロッテさん」

カザハナ「……よろしく」

モズメ「シャーロッテさん、よろしくたのむわ」

シャーロッテ「……なんで?」

サクラ「?」

シャーロッテ「なんで女子と男子で別れることになってんだよ、おいっ!」

カザハナ「えっ!?」

397: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/10(火) 22:15:34.22 ID:KaqFVUN+0
モズメ「シャーロッテさん、落ち着いて」

シャーロッテ「あらやだっ、ごめんなさい。持病の発作が起きちゃったみたいですぅ」

サクラ「え、そうなんですか。シャ―ロッテさん、ちょっと失礼しますね」ペタッ

シャーロッテ「えっ?」

サクラ「熱はないみたいですね。あの、教えてもらおうって矢先なんですけど、無理はされなくてもいいですよ」

シャーロッテ「……大丈夫ですよぉ。ふふっ、サクラ王女はやさしい人なんですねぇ。私、これでも暗夜の兵士なんですよ?」

サクラ「今の私には関係ないことです。それにもう、私とシャ―ロッテさんはお知合いなんです、その、何かあったら私とても悲しいから」

シャーロッテ「……」

サクラ「あ、あの」

シャーロッテ「ありがとうございますぅ。舞踏会でちゃんと踊れるように、私がきちんとお教えしますから」

サクラ「はい。えっと、その、よろしくお願いしますね。シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「さんは付けなくても大丈夫ですよ。それじゃ……サクラ王女、一緒に一度踊ってみましょう?」

サクラ「は、はい。その、おねがいします」

シャーロッテ「カザハナさんと、モズメさんは、ちょっと見ててくださいね」

398: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/10(火) 22:26:55.04 ID:KaqFVUN+0
 ♪~ ♪~

カザハナ「……サクラもやっぱりうまい。……あたしだって、うまく出来ると思ったのに……」

モズメ「あ、あの……」

カザハナ「んっ?」

モズメ「こうやって話するんは初めてやな。ちょっと、横ええかな?」

カザハナ「うん、いいよ。どうぞ」

モズメ「あんがと……」

カザハナ「……突然で悪いんだけど、あなたはさ。意味がないかもしれないことがあったとしたら、どういう風に考える?」

モズメ「……意味のないこと?」

カザハナ「うん……あたし、刀は誰にも負けるつもりないよ。実際の強さとかそういうのは置いてね、情熱っていうのかな。そういうのだったら誰にも負けたくない。サクラ様を守るために、あたしの刀はあるから」

モズメ「……」

カザハナ「だからさ、突然、違うことを出来るようになれって言われたら、同じように頑張るようにはしてる。今回の舞踏会の社交ダンスだって、早く出来るようになりたいって思ってる。思ってるのにさ、レオン王子の足はいっぱい踏みつけちゃうし、ツバキはすぐに慣れちゃうし、サクラも見たところ全然問題ないからさ……。あたしが出来るようになって、意味があるのかなって」

モズメ「せやな。意味が無いことがないわけじゃないのはわかるわ。あたいも村にいたとき、意味のないこと良くやっとたから」

カザハナ「……」

モズメ「でも、カザハナさんが言うてることは、意味のないことやないで。だって、カザハナさん、意味があるのかなってあたいに聞いてるから」

399: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/10(火) 22:36:37.11 ID:KaqFVUN+0
カザハナ「それは、だってみんな出来てるのに。あたしだけできないのは悔しいし。それに……レオン王子に下手くそだって言われたのが一番腹が立つから」

モズメ「ふふっ。なら意味あるで。正直、あたいが一番これを習っても意味のない人間だから。あたいは貴族なんて興味ないし、この戦いが終わって暮らすなら、前みたいに村でのんびりとした暮らしがしたいって思ってる。こんな社交ダンスなんて覚えても、畑は耕せへんから」

カザハナ「社交ダンスをしながら、畑を耕せばいいんじゃない?」

モズメ「カザハナさん、それはあかんわ。せっかく耕した場所、また踏んで固めてまうやん」

カザハナ「そ、それもそうか」

モズメ「でも、あたいがカムイ様に選ばれてここに来たのは、こうやってカザハナさんやみんなとお話しするためやって考えら、意味のないことじゃないって思えるんよ」

カザハナ「……そ、そういう風に考えるんだ。なんだか恥ずかしくなってきた」

モズメ「そ、そうやね。でも、カザハナさんもカザハナさんで目標があるんやから、この練習には意味がある。あたいはそう思うで」

カザハナ「…がんばれば、あいつの足を一回も踏まずに踊り切れるようになるのかな?」

モズメ「なら、カザハナさんとあたいで勝負せえへん?」

400: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/10(火) 22:52:40.00 ID:KaqFVUN+0
カザハナ「勝負?」

モズメ「せや、先にどっちが踊れるようになれるか」

カザハナ「あたし、もう練習してるんだけど」

モズメ「別に構わへんよ。だって、カザハナさん、全然踊れてないって言ってるから、ハンデにもならんやろ?」

カザハナ「ううっ、結構ズバッと言うのね。あなた」

モズメ「そうや。あたい負けるつもりなんてあらへんよ」

カザハナ「……そういうつもりなら受けて立つわ。えっと、モズメさん」

モズメ「さん付けせんでええよ。その、さんで呼ばれると背中がくすぐったいんよ」

カザハナ「そう、それじゃモズメ。勝負ね、どちらが先に一曲踊り切れるか」

モズメ「ふふっ、カザハナさん。その意気や、って言ってもあたいうまく踊れるかわからへんのに、こんな勝負仕掛けて大丈夫やろか?」

カザハナ「ふふんっ、もう勝負は始まってるから。あたし、結構ツバキとレオン王子が踊ってるの見てたから、資格的な経験値は多いよ」

モズメ「思ったよりも、結構ハンデあるみたいやな」


シャーロッテ「うん、少し不安な場所もありますけど、これならすぐに踊れるようになりますよぉ」

サクラ「は、はい。そのシャ―ロッテさん、教えるのすごく上手なんですね」

シャーロッテ「それほどでもないですぅ。それじゃ、次は……」

カザハナ「それじゃ、モズメ。まずは形覚えてきたら。流れがわからなかったら、勝負も何もないんだから」

モズメ「せ、せやな。え、えっとあたいでええかな?」

シャーロッテ「モズメね。それじゃ、私の手を取ってくださいね。軽く曲に合わせつつ、私と一緒に動いてくださいね」

モズメ「よ、よろしくお願いします」

 ♪~ ♪~

カザハナ(そうだよ。意味がないなんてこと、言っていいわけないよね……)

カザハナ(あたしにだってできるはずなんだから……)






 クルクルクルクル シュタッ!

シャーロッテ「飲み込み早過ぎじゃない?」

モズメ「なんやか、社交ダンスって面白くて楽しいもんやな」

カザハナ「」

サクラ「カザハナさん?」

カザハナ「」

406: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/11(水) 23:25:23.68 ID:Uua62gTm0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 クルクルクルクルクル シュタ

ラズワルド「ツバキはすごいね。本当にこの前始めたばかりとは思えないくらい踊れてるよ」

ツバキ「そんなことないよー。まだ、ターンも慣れたくらいだし。ラズワルドのほうが華麗に回れてると思うよー」

ハロルド「ううむ、私のはどちらもうまいようにしか見えないんだが。それにしても、ラズワルドくんにこのような特技があったとはね」

ラズワルド「これでも踊りは得意だからね。見られるのは、その慣れてないけど……」

ハロルド「ふむ、マークス様の臣下は腕は立つが、よく女性にばかり声を掛ける軽い男だと聞いていたのでな。少し見直したよ、ラズワルドくん」

ラズワルド「こういうことで見直されても困るんだけど」

ハロルド「で、早速だが私にもレクチャーしてくれないか。君たちのように私も一曲踊れるようになりたいのでね」

ラズワルド「もちろん。それじゃ、ツバキは少し休んでいてくれないかな」

ツバキ「いいよー。それじゃ交代っていうことでー」

ハロルド「うむ、私が踊りの流れを理解するまで、楽にしてくれたまえ」

ツバキ「そうさせてもらうよー。ラズワルドは休まなくていいのかい?」

ラズワルド「大丈夫だよ。それに、教えられるのは僕だけだからね」

407: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/11(水) 23:46:11.58 ID:Uua62gTm0
ハロルド「よし、ではよろしく頼むぞ。ラズワルドくん」

ラズワルド「うん、それじゃまずは。手をこうやって」

ハロルド「うむ、こうだね」

ラズワルド「そうそう、その感じで。それじゃ、足動かすよ」

ハロルド「う、うむ。うわっ……」

ラズワルド「えっ、ちょっ……」

ドサッ

ハロルド「す、すまない。足が絡まってしまったようだ」

ラズワルド「いや、こういうこともあるよ。踊りを始めたばかりじゃしかたないからさ」

ツバキ「大丈夫かい?」

ハロルド「ああ、なに。今度こそはうまくいくはずだ」

ラズワルド「その自信がどこから来るのかわからないけど」

ハロルド「よし、続きを始めようではないか、ラズワルドくん」

ラズワルド「そうだね。……それじゃ。あっ、靴ひもがほどけて……」

ガシッ

ハロルド「大丈夫かね、ラズワルドくん」

ラズワルド「ああ、ありがとう。靴ひもが切れてるのに気付かなくて、僕の失態だね」

ハロルド「うーむ、やはり私の不運がラズワルドくんに悪い影響を与えている気がする」

ツバキ「そうなんだー。たいへんだねハロルドは」ササッ

ラズワルド「いや、ハロルドの所為じゃないよ。転んだばかりなのに、身の周りを確認しなかったから」

ハロルド「いやいや、これは私の責任でもある。うむ、やはり皆に迷惑を掛けるわけにもいかないから、私は一人で鍛錬に励むことにするよ」

ラズワルド「えっ?」

408: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/12(木) 00:32:55.01 ID:HGBVl+tC0
ハロルド「ラズワルドくんやツバキくんにも迷惑が掛ってしまうからね。なに、心配しないでくれたまえ。舞踏会の会場で恥をかくのは私一人だけだ」

ラズワルド「……ハロルドはそれでいいのかい?」

ハロルド「……よくはないさ。だが、ラズワルドくんの靴ひもが切れたのは、間違いなく悪いことの前触れに違いない。仲間に不幸を与えてしまうような道を選ぶわけにはいかない」

ラズワルド「……困ったな。ハロルドに断られたら、僕は不幸になっちゃうんだけど」

ハロルド「むっ、少し意味がわからないのだが」

ラズワルド「僕はハロルドに踊りを覚えてもらいたいって思ってるんだ。なのに、それを断られるってことは、僕にはその力がないって言われてるようなものじゃないか」

ハロルド「ううっ、だが、私の所為で色々と苦労が増えるかもしれない」

ラズワルド「もともと、初めての人に教えるんだだから、苦労があるのなんて当たり前だよ。それに今度は靴ひもの心配はいらないよ。ほら、ちゃんと結んである」

ハロルド「……ラズワルドくん」

ラズワルド「大丈夫。ハロルドもちゃんとしたステップを刻めるくらい、教えてあげるからさ」

ハロルド「私の気遣いは、君の優しさを曇らせるようなものだったようだ。本当に申し訳ない」

409: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/12(木) 00:47:51.94 ID:HGBVl+tC0
ラズワルド「気にすることなんてないよ。それじゃ、もう一度最初から始めてみようか」

ハロルド「ああ、どんときてくれたまえ!」

ラズワルド「そうそう、その感じだよ」

ハロルド「うむ、この感じか」

ラズワルド「ああ、これならもう少しで通常の動きにも慣れてくるはずだよ」

ツバキ「ハロルドは体つきがいいほうだよねー。ここから見ても力強そうにみえるからさー」

ハロルド「正義の味方だからね。日夜、訓練に勤しんでいるよ。まぁ、エルフィくんには残念ながら劣るが」

ラズワルド「ははっ、でもハロルドは十分強いはずだよ」

ハロルド「そう言ってもらえると、とてもうれしいものだね。ところで、ツバキくん」

ツバキ「なんですかー」

ハロルド「なぜ、そんな部屋の隅にいるのかね?」

ツバキ「気にしないでだいじょうぶですよ。俺が好きで、ここにいるんですからー」

ハロルド「しかし、これではなんだか仲間外れにしているようではないか。ラズワルドくん、ツバキくんの場所まで踊りながら移動してみよう」

ラズワルド「いきなりだけど、大丈夫かな?」

ハロルド「大丈夫だ。ラズワルドくんがいる以上、大きな問題は起こらないはずだ」

ラズワルド「……そうだね。それじゃ、ツバキのいる場所まで――あっ、っと」

 ドタッ

ハロルド「すまない、ラズワルドくん」

ラズワルド「ううっ、ハロルド。できれば、早く退いてくれないかな。ちょっと重いから」

ハロルド「す、すまない」

ラズワルド「わわっ、ちょっと、そこ変な場所に手当たってるから!」

ハロルド「ああ、すまない」

ツバキ「……どうしよう、すごく不安になってきた」

414: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/12(木) 23:17:42.32 ID:HGBVl+tC0
~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「姉さん、嘘付いたんだね」

カムイ「なんのことですか?」

レオン「とぼけないでしょ、全然踊れるじゃないか」

カムイ「ええ、そうですね。でもターンはまだまだ苦手ですし、それに私に進んで教えるって言い出したのはレオンさんのほうじゃないですか」

レオン「それは……そうだったね、ごめん」

カムイ「謝らないでください。明日からはサクラさん達に合流させてもらいますから、レオンさんもツバキさんたちに合流することになるでしょうし」

レオン「そうだろうね。で、今日だけ嘘を吐いた理由って何かな」

カムイ「はい、その、クリムゾンさんの件についてです。皆さんの前で聞くわけにもいきませんでしたから」

レオン「……御免姉さん。僕は力になれなかった。色々と調べられることは調べたけど、何の痕跡も得られなかった。ごめん」

カムイ「そうですか……。レオンさん、気になったことなどはありませんか?」

レオン「気になったこと?」

カムイ「ええ、この話を最初レオンさんに持ってきたのはアクアさんだったんですよね?」

レオン「そうなるね。エリーゼと一緒に来てくれたときに話してくれたから……」

カムイ「マクベスさんと関わりのある臣下がレオンさんを尋ねに来たことはありますか?」

レオン「……その点は多くの人に確認を取ったけど、マクベスと関わりのある臣下が、クリムゾンの滞在期間中に来たことはないって言っていた。だからあやしい人物はいなかったってことになる」

415: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/12(木) 23:25:35.85 ID:HGBVl+tC0
カムイ「あやしい人物がいないとなると……あまり考えたくはありませんが」

レオン「姉さんは内通者がいるって考えているのかい?」

カムイ「悪魔でも可能性ですよ。だけど、そう考えるとアクアさんに白羽の矢が立ってしまいます」

レオン「まさかだと思うけど、アクアが姉さんを嵌めたって、本気で思っているわけじゃないよね?」

カムイ「ええ、そもそも、私の失脚を狙うメリットがアクアさんにあるとは思えませんし、私を亡き者にしたいと考えているなら、シュヴァリエで私が暴走したとき、助けるという選択を取ることもなかったでしょう。放っておけば、私は多くを殺して最後に味方に殺される運命にあったでしょうから」

レオン「……そう。じゃあ、誰が内通者だって思ってるんだい?」

カムイ「そうですね。この話を聞いたことのある人物、全員をあげれば私、アクアさん、レオンさん、サクラさん、カザハナさん、ツバキさんのいずれかになりますけど……」

レオン「ちょっと待ってよ姉さん。サクラ王女たちはこの屋敷から外に出たことはない、それにマクベスの臣下たちがここを訪れた形跡がないって言ったじゃないか」

カムイ「はい、だからサクラさん達が内通者という可能性は、捨ててもいいんです。で、そうなると私とレオンさんとアクアさんの三人だけがになってくるわけなんですけど……。正直、内通者などいないという状態になってしまいます」

416: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/12(木) 23:40:27.12 ID:HGBVl+tC0
レオン「あまり言いたくはないけど、僕に白羽の矢は立たないのかい?」

カムイ「そうですね。その可能性が一番濃厚でもありますから、アクアさんの話を聞いてマクベスさんに密告した。マクベスさんもレオンさんから来た話ですから無碍にすることはないでしょうし」

レオン「……じゃあ、なんで外すんだい。今一番裏切り者とも呼べる立場に僕はいるらしいのに」

カムイ「そうですね。確たる証拠はありませんが。あの日、私が捕らえられた日にマクベスさんはアクアさんが内通者だと言っていました。でも、もしもレオンさんが内通者だとわかっているのであれば、たぶんあんな通路じゃなくて、みんなの待っている部屋で私を捕らえたと思うんですよね」

レオン「……」

カムイ「そして、私にレオンさんが協力してくれたことを告げてくるはずですよ。それができなかったのは、たぶんアクアさんが内通者であるという情報しか知らなかったからなんじゃないかって思うんです」

レオン「それじゃ、まるでマクベスも内通者の正体を知らないみたいな言い方じゃないか」

カムイ「そこが不気味なところです。マクベスさんが私に対する疑念を持っていることを知っていて、かつクリムゾンさんが私に会いに来たこと、それを不審に思ってアクアさんがレオンさんに相談をしたことを知っている人物と言うことになりますから、そう考えるとやっぱり私たち三人の誰かとしか考えられないんです」

417: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/12(木) 23:47:28.81 ID:HGBVl+tC0
レオン「でも、それは」

カムイ「はい、私はレオンさんもアクアさんのことも信じていますから。それはないと思いたいです」

レオン「姉さんの自作自演っていう可能性は?」

カムイ「それができるんだったら、シュヴァリエでの暴走も私は自分の意思で行ったことになりますね。いや、確かに私は私の意思で人を殺したんですから、変わらないことかもしれません」

レオン「……ごめん、肝心な時に僕は何の役にもたてなかった……」

カムイ「いいえ、レオンさんはサクラさん達を守ってくれてるじゃないですか。私にとってはとても助かっています」

レオン「……姉さん。その、マクベスに情報を漏らした誰かは、また何かしてくるはずだよ」

カムイ「ええ、どういうものかはわかりませんがいずれはそうなるかもしれません。でも目的がわかりませんね」

レオン「……そうなんだ。僕たちを仲違いさせたかったような節は見られるけど、正直それをして何の得があるのか、それがわからない」

カムイ「そうですね。アクアさんが私を売ったという話でしたから、でも、それは杞憂に終わりましたし。となると、やはり私の失脚というのが一番の狙いだったんでしょうか?」

レオン「僕はそうだと考えるよ。というか、それくらいしか思い浮かばない」

カムイ「そうですね……。やはり面白くないものなんでしょうか?」

レオン「そういう人たちにとってはとても面白くないことだと思うよ」

424: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/14(土) 22:34:21.04 ID:hMBcOI3I0
レオン「どちらにせよ。姉さんも気をつけるんだよ」

カムイ「それはレオンさんも同じことですから。それに、今はレオンさんの方が危険な状態かもしれませんから」

レオン「わかってる。もう、国の内側で起きてる問題は終息する……。サクラ王女たちがこの先どうなるか、正直予想ができない」

カムイ「予想できない方がいいこともありますよ」

レオン「不確定なことを背負ってこの先を進めって、姉さんは言うのかい?」

カムイ「今まで、私は先を予想してそのように進んできましたけど。自分の思ったとおりに物事が進むように願うのは、筋が違うんですよ」

レオン「なら、何も考えず漠然と待ってるのが得策だって、姉さんは言うのかい」

カムイ「……まさか、それなら流されていた方が百倍幸せですよ。言われるまま、支持されるまま、そうあればいいんですから。でも、それに抗うことを決めたから、私はここにいるんですよ?」

レオン「……姉さんはどうあろうとしているんだい」

カムイ「ふふっ、決まっています」

カムイ「変わりませんよ。考え続けることをやめるつもりはありません。でも、考えた先はもう違います」

レオン「考えた先?」

カムイ「私は、それを必ず引き寄せてみせます。予想して流れを読むより、私にできる全てを尽くしてでも」

425: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/14(土) 22:44:00.79 ID:hMBcOI3I0
カムイ「だから、レオンさん。サクラさん達のことよろしくお願いします。私にできることは、私で何とかして見せますから」

レオン「……そう、わかったよ。姉さんのお願いだし、断ることもないからね」

カムイ「ええ……。ここでターンでしたね?」

 クルクルクル コテッ

レオン「……考えてるわりには、すぐに転ぶんだね」

カムイ「おかしいですね。こんなはずじゃなかったんですけど……。もっときれいに決まるとばかり……」

レオン「理想と現実の壁くらい考えてよ。さっきの言葉が突然薄っぺらく感じられちゃうじゃないか」

カムイ「ふふっ、弟の前では少し賢いお姉さんを演じたくなるんですよ。実際は駄目なお姉さんですね、これでは示しが付きません」

レオン「……駄目な姉さんでもいいと思うけど」

カムイ「? レオンさん」

レオン「いや、なんでもないよ。それじゃ、もう少し練習する?」

カムイ「はい、よろしくお願いします」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「で、一通り見てもらったみたいだけど、どうだった?」

ラズワルド「そうですね、ハロルドは初めてだけど、この調子なら本番までには形になるはずだよ」

ハロルド「ラズワルドくんのマンツーマンレッスンで、私も今日だけでステップを軽く刻めるようになったよ」

ツバキ「そうだねー」

ハロルド「そのツバキくん。なぜ私から距離を取ろうとするんだね」

ツバキ「いや、ハロルドのことが嫌いってわけじゃないんだ。ただ、近くにいると碌なことがなさそうだなーって」

ハロルド「ぐっ」

ラズワルド「大丈夫だよ。今度の練習はツバキに見てもらう予定だからさ」

ツバキ「……え、何言ってるのかなー?」

ラズワルド「ツバキはほとんど出来てるみたいだからね。僕が第三者視点でみて、少しおろそかになってる部分を指摘するべきだと思ったらさ。一緒にハロルドと踊れば、ハロルドも上達して一石二鳥だよ!」

ハロルド「流石ラズワルドくんだ。というわけでツバキくん、明日の練習ではよろしく頼むよ」

ツバキ「」

426: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/14(土) 22:50:09.70 ID:hMBcOI3I0
レオン「それで、女性陣のほうはシャ―ロッテが見てくれてたんだよね。サクラ王女とカザハナがどれくらいできるかはそれなりにわかってるけど、モズメは今日が初めてだったんでしょ?」

シャーロッテ「見た中だとモズメさんが一番上達が早かったですよぉ。ターンも全部できちゃうくらいになりましたから」

レオン「へぇ、すごいじゃないか」

モズメ「いややわ、シャーロッテさんの教え方がうまかったおかげやから……」

シャーロッテ「謙遜し無くても大丈夫、筋がいいんですよぉ。正直、数日で教える側に回れるかもしれませんよぉ」

モズメ「そ、そういうわれると照れてまうわ……」

カザハナ「……」

モズメ「あ、あの、カザハナさん」

カザハナ「なによ?」

モズメ「ごめんなさい、約束した直後なのに……」

カザハナ「いいのよ。どうせ、どうせあたしなんて……盆踊りしてるほうが似合ってる一般兵だから。みんなが華麗に社交ダンスをしてる横で、私だけ盆踊りしてればいいだけだから……」

サクラ「だ、大丈夫ですよ。まだ時間はありますから」

レオン「そういえば、サクラ王女はどんな感じだい?」

シャーロッテ「あ、サクラ様は順調ですよぉ。ふふっ、白夜で舞踊というのを嗜んでいただけあって、モズメさんほどじゃないですけど、飲み込みが良かったです」

サクラ「ほ、ほんとうですか。あ、ありがとうございます。……あ、その、カザハナさん」

カザハナ「……サクラ、よかったね。うん、やっぱり、サクラも才能あるんだから、うん、うん……うん」

レオン(カザハナもあんな恨めしそうな笑みを浮かべるんだな)

427: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/14(土) 22:57:08.15 ID:hMBcOI3I0
シャーロッテ「その、カザハナさんだけ、壊滅的ですぅ」

レオン「……そうか。姉さんはターンだけ重点的にやれば良さそうだから、女性陣に加わってもらう形にしようと思うけど。いいかな?」

カムイ「はい、ふふっ、レオンさんとのダンス。楽しかったですよ」

レオン「……まぁ、僕も楽しかったよ///」

サクラ「ふふっ、レオンさん。本当にカムイ姉様のこと大好きなんですね」

レオン「サクラ王女!? 何言ってるんだい、わけがわからないよ///」

サクラ「顔真っ赤です。いつものレオンさんじゃないみたいです」

レオン「ううっ」

カザハナ「……私と踊ってるときは怒り心頭な癖に……」

シャーロッテ「……」

レオン「それじゃ、明日からは男性、女性で別れて練習を――」

シャーロッテ「あのぉ、レオン様。すこしいいですかぁ?」

レオン「なんだい、シャーロッテ?」

シャーロッテ「流石に私で四人を見るのは、少し辛いなぁって」

レオン「そうかい? それじゃ……」

シャーロッテ「そこでなんですけど」ガシッ

カザハナ「えっ? ちょ、腕引っ張――」

シャーロッテ「カザハナさんのダンスレッスンをレオン様に頼めないかって思って」

カザハナ「ちょ、いきなり何を言って、あ、あなた」

シャーロッテ「シャーロッテって呼んでください」

カザハナ「シャーロッテ。一体どういうつもりよ」

シャーロッテ「どういうって、踏まれる私の身になれよ」

428: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/14(土) 23:05:22.34 ID:hMBcOI3I0
カザハナ「うっ、そ、それは……」

レオン「……シャーロッテ。もしかして、君も」

シャーロッテ「はい。すごいですよね、的確に足を踏んでくるんです」

レオン「痛かったかい?」

シャーロッテ「はい、すっげー痛かったですぅ」

カザハナ「……悪かったわね」

シャーロッテ「でも、動きはすごくいいんですよ。少しずれてるだけだから、そこさえ直したら、ぎゅぎゅんって伸びるって思うんです」

カザハナ「そ、そうなの?」

シャーロッテ「でも、私も足を踏まれつづけるのは辛いですぅ。教えられる方はラズワルドさんもいますけど……」

ラズワルド「僕は大歓―――」

シャーロッテ「いきなり初対面の男性と踊るのは抵抗がありますから、ここはずっと過ごしてきたレオン様が一番いいかなって」

レオン「……はぁ、そうだね。確かに女性の足が青痣だらけになるような事態は避けた方がいいね」

シャーロッテ「心配してくれてありがとうございますぅ」

カザハナ「ちょ、ちょっと。何話を勝手に進めてるのよ、あたしは……」

レオン「……嫌なら別に構わないよ。だけど、サクラ王女たちはやれることをやってる」

カザハナ「それは、そうだけど……」

レオン「それにシャーロッテが見抜いてくれたカザハナの特色があるんだ、僕には見えてなかったことだからね、それを踏まえて僕もカザハナが上達できるようにサポートはする。あとは、カザハナ次第だよ」

429: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/14(土) 23:14:23.43 ID:hMBcOI3I0
カザハナ「……足、結構踏むよ」

レオン「痛いだろうね」

カザハナ「転ぶかもしれないよ」

レオン「鳩尾に肘が来ないことを祈ってるよ」

カザハナ「ターンであんたの腕、グルってしちゃうかもしれないよ?」

レオン「どこまで、僕に心配要素を告げれば気が済むのかな?」

カザハナ「だって……、あたし壊滅的だから……」

レオン「……君はサクラ王女を一番大切に思っている臣下なんだよね?」

カザハナ「それは、そうだよ!」

レオン「なら、できない現実から逃げてないで。立ち向かうべきところだよ、ツバキはもともと天才肌で、サクラ王女は舞踊の鍛錬がある。スタート地点が違うのは当り前のことだよ」

カザハナ「……だったら」

レオン「諦めるのかい? はぁ、だらしないね」

カザハナ「なっ、言ってくれるじゃない! いいわ、あんたの足が青痣で真っ青になるまで踏みまくってやるんだから」

レオン「そうかい、なら、僕はその足をひょいひょい避けるだけだよ。さすがに二度目はもらわないからね」

カザハナ「今に見てなさいよ。あんたが見とれるくらい、きれいに踊り切ってやるんだから」

レオン「そうかい、楽しみにしてるよ」

サクラ「カザハナさん、うまく乗せられちゃってます。でもやる気が出たみたいで良かったです」

シャーロッテ「カザハナさんみたいなのは、張り合ってる相手と一緒にした方が、ぐんぐん成長すると思ったんですよぉ」

サクラ「シャーロッテさん、すごいです。これで、カザハナさんも徐々にうまくなっていきますね」

シャーロッテ「はい、そうですね」

シャーロッテ(でも、レオン様の足が真っ青になるのは避けられそうにないんですよねぇ)

440: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/16(月) 22:30:39.09 ID:WXWu4c3L0
◇◇◇◇◇◇
―白夜王国・イズモ公国―

リョウマ「すまない。ここは戦闘を禁じている中立国であるというのに、俺の無理な願いを聞き入れてくれて」

イザナ「いやいやリョウマ王子、気にしないで大丈夫だよ~。イズモ公国は争い御法度なだけで、来る人々は迎え入れるの方針だからね~。今はリョウマ王子もボクの大切なお客さんだよ」

リョウマ「そう言ってもらえると助かる。白夜王国の王子として礼を言わせてくれ、ありがとう」

イザナ「大丈夫大丈夫~。こんなところでも気を張ってると、もっと大事なところで線が切れちゃうから、今はゆっくり休んで療養しないとね~。これで倒れたら、一緒のお客人も安心しておやすみできないからね~」

リョウマ「……それもそうだな」

イザナ「そうそう、無理はしないのが一番。それにこれから先、選ばないといけないことが山済みなはずだよ」

リョウマ「……ふっ、それは占いによって導き出した助言か?」

イザナ「当たらずとも遠からじってところだよ。助言と言ってもリョウマ王子はすでにそこも踏まえているから、仲間の言葉に従ってここまでやってきたんだから。本来ならしたくなかった行動をとって、そうだよね?」

441: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/16(月) 22:39:55.52 ID:WXWu4c3L0
リョウマ「……俺に残された道があるとすれば、信じ貫くことだけだ。それを貫けと言ってくれた者がいた。それに甘えて俺は……カゲロウとスズカゼを見捨てて白夜に戻ってきた。ただそれだけのことだ」

イザナ「……」

リョウマ「俺にできることは決まっている。そのために戻ってきたのだからな。少ししたら、俺は白夜王国に戻る」

イザナ「なら、今はゆっくりと休まないといけない」

リョウマ「わかっている……。一つ、聞いてもらいたいことがある」

イザナ「なにかな?」

リョウマ「これはイズモ公国公王へ白夜王国の王子としての願いだ。無碍にするのも、どうするのかもすべて任せる」

イザナ「とりあえず、言ってもらいたいかな。ボクへのそのお願いっていうのを」

リョウマ「ああ、そのことだが―――」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

サイゾウ「………」

???「おやおや、何時も主君に付き添っているであろうあなたのような方が、ここで一人佇んでいるというのは珍しいこともあるものですね」

サイゾウ「……今、リョウマ様はイザナ公王とお話をされている。ただそれだけのこと、話せることならばリョウマ様が話してくれるだろう。俺が耳にしなくてもよい話なら、口を開かれることはない、ただそれだけのことだ」

???「なるほど、五代目サイゾウと呼ばれる方ではあります。好奇心はなんとやらということがありますが、やはり主従には厳格なのですね」

サイゾウ「サイゾウの名は伊達や酔狂ではないということだ、アサマ」

442: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/16(月) 22:50:37.84 ID:WXWu4c3L0
アサマ「そのようですね。しかし、お互いどうにか生きて白夜の地を踏むことができましたが、ここも大変陰湿な場所へと様変わりしてしまったものです。人というのはどうしてこうも、波に支配されてしまうのでしょうか?」

サイゾウ「そうかもしれないな。すでにリョウマ様が守ろうとしていた白夜は、その本質を大きく変えてしまっているのも確かだ」

アサマ「ほう。先ほどリョウマ王子への忠誠心を口にした臣下の言葉とは、思えませんが」

サイゾウ「確かにそうかもしれん。だが、お前も白夜は変わったとこぼしたばかりだろう?」

アサマ「そうですね。今はこのイズモ公国に身を置いていますから、嫌でもわかってしまうものですよ。いやはや、ここから見れば白夜に漂う暗夜に対する憎悪というのは、一種の疫病に他なりません。修行を始めたばかりの私、いやそうですね、子供でもその異様さに泣きだすほどでしょう」

サイゾウ「そこまでのものか。ふっ、神を信じぬ僧に言われてしまっては、説得力もケタ違いだな」

アサマ「まぁ、そう思わざるを得ません。それを認めることも、神の思し召しでしょう」

サイゾウ「ふん、……それで、ヒノカ王女の容体はどうだ?」

アサマ「傷は大したものではありませんよ、すぐにふさがる程度の傷です。しかし、心の傷はもう短時間で治せるものではないでしょう」

サイゾウ「……オロチとユウギリは、予定地に現れなかったそうだな」

アサマ「ええ、ヒノカ様はそのことを口に出してはくれませんが、お二人は戦死なされたと考えていいでしょう。そして、もう白夜へ戻ってきてしまった以上、助けに帰るという選択肢はないのですから」

サイゾウ「そうだな……」

443: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/16(月) 23:01:38.33 ID:WXWu4c3L0
アサマ「それを認めたくないからこそ、ヒノカ様は口を閉ざしているのかもしれませんが、すでに、それも含めて疫病に蝕まれているのかもしれません。この私が暗夜を怨んでしまっているように」

サイゾウ「ほう、ならばお前も疫病にその身を蝕まれているということにならないか?」

アサマ「認めたくはありませんが間違いないでしょう。私が仕えてきたヒノカ様は、もう疫病の虜となってしまっていますから……。それに私も魘されているのでしょう。私が仕えてきたヒノカ様は……そうですね、優しさの一方通行のような方でしたが、今ではその面影もありません。まるで別人と言ってもかごんではありません。そして、それを見て闇に私も触れて戻れなくなっているのやもしれません」

サイゾウ「俺もいずれ、その疫病に侵され、狂い落ちて行くのかもしれない。本当なら、俺は今すぐにでも二人を探しに行きたいと思っているが、それをどうにか留めている」

アサマ「話は聞いています。フウマ公国に洋上で襲撃されたと……」

サイゾウ「……カゲロウとスズカゼがフウマの船上に乗り移り、時間を稼ぎ俺とリョウマ様は難を逃れた。二人がどうなったかはわからない」

アサマ「そうですか……。フウマ公国をタコ殴りにしていなかったことが、裏目に出てしまったようですね。フウマはこれから白夜に攻め込んでくるのかもしれません」

444: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/16(月) 23:13:07.88 ID:WXWu4c3L0
サイゾウ「強硬派の連中にとっては、フウマ公国のことなど算段にも入っていなかっただけのことだ。リョウマ様は後続で白夜に戻るお前たちのことを考えて、近海を航行するルートを取った」

アサマ「……」

サイゾウ「嫌な話、見事に網を張っていたフウマの船舶と出くわして戦闘状態に入った。結果的にこれが最良の判断だったかどうかは、俺にはわからない」

アサマ「結果論で言えば、私たちは優雅に帰ってこれたということはありますが、そうですね。それをしていなくてもそうだったかもしれませんね」

サイゾウ「ふっ、そう言うと思ってはいた。だが、あの戦いの場でカゲロウもスズカゼも臣下としての任を果たした、リョウマ様の命を守ることとを優先したように、俺は二人の意思を継ぎ白夜王国までリョウマ様をお連れする。そうでなくては、二人に顔向けできない。疫病に身を窶すのはそれが終わってからでも遅くはない。

アサマ「終えてからは、身を窶すということですか?」

サイゾウ「それが成すべきことをした先にある俺の決断、ただそれだけのことだ」

アサマ「……」

サイゾウ「俺は戻ることにする、そろそろリョウマ様も話を終えたころだろうからな。また護衛を再開する」

アサマ「そうですか。貴重なお時間を取らせてしまいましたね」

サイゾウ「気にする必要もないことだ。もしかしたら、白夜に付いた後には、話すことが二度とないかもしれんからな」

アサマ「………それもそうですね」

サイゾウ「そういうことだ。ではな」サッ

445: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/16(月) 23:27:09.25 ID:WXWu4c3L0
アサマ「……はぁ、まさか、開戦当初からこんなことになるとは思いもしませんでした」

アサマ「怨み等というものとは無縁な人生だと思ってきましたが……。やはり、私もなんだかんだで人の子なのでしょう。私も今では神を信仰する存在ではなくなってしまったようですから」

アサマ「これは罰を天に任せるべきものではなありません。私自身で、御仏の元に送って差し上げないと気がすみません」

アサマ「なに……ヒノカ様を変えてしまった代償は高くつきますから。野蛮人の皆さんには覚悟してほしいものです」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

セツナ「……」

ヒノカ「うぅ、ううっ」

セツナ「ヒノカ様?」

ヒノカ「やめろっ、やめてくれ…………」

セツナ「……ヒノカ様。大丈夫ですか? ……すごい熱、新しい布、持ってきますから、待っててください……」

 タタタタタッ

ヒノカ「はぁ……はぁ……オロチ……ユウギリ……」

ヒノカ「……ううううっ」

 タタタタタッ

セツナ「……大丈夫ですよ、ヒノカ様」

ヒノカ「……はぁ、はぁ……んっ」ギュッ

セツナ「……ヒノカ様」

ヒノカ「……ぐっ、うううっ」

セツナ「……ヒノカ様、私はいつもそばにいますよ……」

ヒノカ「……はぁはぁ、ん……」

セツナ「……ヒノカ様」

ヒノカ「うううっ、うううううあああっ」

セツナ「ヒノカ様を苦しめる、悪い夢を射てたらいいな」

セツナ「全部、矢を当てて存在を消してあげられるのに。それに全部消せたら」

「前のヒノカ様に戻ってくれるはず、だよね?」

452: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/17(火) 22:47:52.91 ID:AxvjLEQO0
◇◆◇◆◇◆
―暗夜王国・南東湿地帯―
(シュヴァリエ公国反乱鎮圧直後)

???「来たようじゃな」

バサバサバサッ

???「ええ、どうやらあなたも、ここまでは来れたようですね。すでに市街で死んでしまっていると思っていましたから、再会できてうれしいですわ、オロチ」

オロチ「勝手に殺すでないぞ、ユウギリ。それで……ヒノカ様は?」

ユウギリ「こちらにおりますわ。正直、危ないところでしたから」

オロチ「すまぬ。じゃが、ユウギリならば何とかしてくれると思っておったからのう。わらわは敵に機会を与えられてしまったからのう、戦いを続けるわけにもいかなかったのじゃ」

ユウギリ「そうですか。どちらにせよ、海岸までの道は調べ終えているんですよね?」

オロチ「ああ、ぬかりないぞ。……じゃが、その様子では、ヒノカ様の天馬は」

ユウギリ「……残念ですけど、帰ってくることはありませんわ」

オロチ「そうか……」

ヒノカ「……ユウギリ、オロチ」

ユウギリ「ヒノカ様、気が付かれましたか?」

オロチ「まだ休んでおるのじゃ、もう戦いは――」

ヒノカ「私は……足りなかったのだろうか……」

453: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/17(火) 23:10:27.85 ID:AxvjLEQO0
ヒノカ「カムイへの思いも、純粋な力も、すべて足りなかったのだろうか……」

オロチ「結果だけでいえばそうなるじゃろう。残念じゃが、シュヴァリエは、いいや誤魔化すのは良くないことじゃのう」

ヒノカ「……」

オロチ「ヒノカ様、わらわたちは負けたのじゃ。それは認めなければならぬことじゃ。カムイ様の奪還に失敗し、反乱の後押しも芽生えぬじゃろう」

ヒノカ「ではどうすればよかったんだ……、ここまで来たことが無意味に終わらなかった、そんな可能性があるべきじゃないか……」

オロチ「それを言ったところで、何かが変わるわけではないことくらい、ヒノカ様もわかっておられるはずじゃ」

ヒノカ「だが!」

ユウギリ「ヒノカ様」

ヒノカ「もっと違う、違う形があったはずなんだ。私から、私から家族としての時間を奪った暗夜にカムイがいない、そんな形があったはずなのに。なんで私はそれを得ることができないんだ……」

ユウギリ「……それを言ったところで、今の状況が変わるのですか?」

ヒノカ「……もう私の愛馬は帰ってこない。薙刀の腕も暗夜の王女を倒すには至らなかった。そして、カムイは私の言葉に応えてはくれなかった。これ以上、何が変わるっていうんだ!」

454: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/17(火) 23:40:06.24 ID:AxvjLEQO0
ユウギリ「そうですわね。そう言って動かないままでいるのでしたら、変わらないままですわ」

オロチ「そうじゃな。ユウギリの言葉に乗っかることになるが、ヒノカ様がそのように駄々を捏ねているようでは、暗夜王女にその薙刀が達することもないじゃろう。その間にも、向こうはさらに力をつけて行くじゃろうからのう」

ヒノカ「……」

オロチ「はぁ、わらわの言葉にも無反応とはのう、悔しくないというのか」

ヒノカ「悔しいに決まっている!」

オロチ「……」

ヒノカ「悔しい、悔しいに決まっているだろう……」

オロチ「ぷくくっ」

ヒノカ「?」

オロチ「すまぬ、まさか、こんな簡単に悔しいとこぼすとは、ヒノカ様の刃はまだまだ折れてないと見える」

ユウギリ「ええ、そうですわね。もしもとは思ってましたけど、これなら大丈夫そうですわ」

ヒノカ「お、お前たち!負けた私をからかっているんだろう?」

オロチ「まあ、どう捉えるのかはヒノカ様しだいじゃからのう。どちらにせよ、まだまだ弓折れ矢尽きというわけではないということじゃな」

ヒノカ「? 何を言って――」

ユウギリ「そうですわね、ヒノカ様。天馬武者として歩んできたあなたにこんなことを聞くのはなんなのですが。金鵄に興味は御有りでしょうか?」

455: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/18(水) 00:06:37.93 ID:QOfe2g8f0
ヒノカ「金鵄にか? 興味がないわけではないが……なぜ、そのようなことを聞く」

ユウギリ「わかっているのに聞くのは感心しませんわ」

ヒノカ「……だが、私には金鵄の選び方はもとより、どう駆ればよいのかもわからないんだぞ?」

オロチ「それを教えるためにユウギリがおるのじゃ。わらわもヒノカ様を支えさせてもらおうかのう」

ユウギリ「あら、オロチ。この戦いが終わった時には死んでいる予定ではなかったのかしら?」

オロチ「そうじゃのう、その予定じゃったがすこし繰越じゃな。金鵄に乗って背中から落ちるヒノカ様を眺めるのは中々に面白そうじゃ」

ヒノカ「お、お前たち……私の力になってくれるのか?」

ユウギリ「ええ、この任務を終えた次はヒノカ様の金鵄の教官になりますわ。すぐにでも、戦えるほどに鍛えて差し上げますから、覚悟してくださいませ」

ヒノカ「しかし、私にできるだろうか? これほどまでに弱い私が」

オロチ「何度もいうようで悪いのじゃが、動かなければその弱いヒノカ様のままじゃ。なに、合わないと言ってくれれば、すぐにでもわらわと同じ呪い師を目指そうではないか。遠距離から暗夜の王女を呪うのも一興じゃぞ」

ヒノカ「……すまないな、二人とも」

オロチ「気にすることではないぞ。さて、まずは白夜へと戻ろうぞ。なに、ヒノカ様なら金鵄たちもすぐに気に入ってくれるはずじゃ。そうじゃろ、ユウギリよ」

ユウギリ「ええ、そうですわね」

オロチ「湿地帯を抜けた先の海岸線ほどに、アサマとセツナが船で待っておるはずじゃ………なに、シュヴァリエの反乱がまだ完全に終わっているわけではないからのう、追っ手はあっても待ち伏せなどはさすがに……」

 ピチャン

 ピチャン

 シュオン

 シュオン

 シュオンッ

???「……」チャキッ

???「……」カチャッ

???「……」チャキッ





オロチ「……嫌な予感というのは、どうしてこうも当たるのじゃろうな?」

458: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 20:50:50.35 ID:/7K6Uxen0
ユウギリ「姿が見えませんわね。でも、たしかに、気配はありますわ」

ヒノカ「! この者たちは、まさか……」

オロチ「ミコト様を襲撃したという姿の見えぬ敵というやつじゃな。やはり、あれは暗夜の攻撃であったということで間違いないようじゃのう」

ユウギリ「……今後の予定が決まった直後にこれでは、先が思いやられますわ」

オロチ「なに、任務は船につくまでじゃからな。最後の仕事納め、張り切らせてもらおうとするかのう」

???「……」ダッ

オロチ「ユウギリ、わらわが奴らを引き付けよう」

ヒノカ「オロチ、何を言っている! 先ほどの約束をもう忘れたというのか!?」

オロチ「大丈夫じゃ死ぬつもりなどありはせん。安心してくだされ、ヒノカ様」

ユウギリ「あまり心配されなくても大丈夫です、ヒノカ様。さて、オロチ、任せましたわ」

オロチ「うむ、それでは行くとするかのう!」

 カラカラカラカラ

???「!!!!!!!」ダッ

オロチ「……ユウギリ! 右端のを

459: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 21:02:44.78 ID:/7K6Uxen0
ユウギリ「ええ、姿が見えなくとも気配だけ分かれば十分ですわ!」

 パシュッ
 シュオンッ

 グサッ

???「……」ドサッ

ユウギリ「ヒノカ様、しっかり掴まってくださいませ」

ヒノカ「ぐっ、オロチ!」

オロチ「大丈夫じゃ、ほれほれ、わらわはここじゃぞ!」

 カラカラカラカラ シュオン!

???「!」サッ

オロチ「ふっ、さすがにバレバレの攻撃なら避けるじゃろうが、そこが穴じゃ! ユウギリ、そこを抜けよ!」

ユウギリ「さすがですわ。はい、抜けたところで反転して、やあっ!」パシュ!

 ザシュッ

???「……ドサッ」

オロチ「背中がら空きじゃのう。こんなことでわらわはたちを殺せると思うでないぞ」

ユウギリ「……そういうことですわ」パシュッ

???「!」サッ

 ピチャン ピチャン

???「……」カチャ

???「……」ジャキッ

オロチ「また新手じゃと。一体どこから現れたのじゃ!」

ユウギリ「オロチ。追手が迫っていますわ」

オロチ「わかっておる。一度わらわが牽制する、あいての陣形を崩したら、一気に距離を突き放すように動けるか、ユウギリ」

ユウギリ「一撃離脱は得意分野、先制させてもらいますわ」パシュッ

 ザシュ

???「………」ドタンッ

460: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 21:12:25.96 ID:/7K6Uxen0
オロチ「簡単に当たるとはのう。しかし、人数が多いが、真中のものを避けさせられれば、それでよい!」

 カラカラカラカラッ

オロチ「そらっ!」

 シュオン

???「………」スッ

オロチ(よし、動くつもりじゃな。それでよい、これほど真正面から撃ち込んでおるのじゃ、ど素人でも避けられるくらいまっすぐにのう。少しでも時間が稼げれば、ユウギリの到着に間に合うはずじゃ)

ユウギリ「オロチ、手を!」

ヒノカ「早く取るんだ!」

オロチ「ヒノカ様、安心するのじゃ。すぐに―――」

 ダッ
 ブチィ
 



 ザシュッ

オロチ「――な、なんじゃ」フラッ ドタッ

ユウギリ「オロチ……くっ」パシュ

 トスッ

???「……」ドサッ

オロチ「まさか、避けずに喰らって攻撃してくるとは。甘く見過ぎていたようじゃ」

ヒノカ「オロチ! ユウギリはやく!」

ユウギリ「わかっていますわ! オロチ、今向かいますわ」

オロチ「ぐっ、深く刺さっておるか、ぐっ……?」

オロチ(なんじゃ、水面が揺れておる?)

 ピチャン
 ピチャン

オロチ「!!!! ユウギリ、来るでない!」

ユウギリ「何を言って、もうすこしで」

オロチ「もう遅いのじゃ」

 シュオン
 シュオン

???「………」

???「………」

461: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 21:26:54.82 ID:/7K6Uxen0
ユウギリ「! オロチに手を出さないでいただけますか、あなたたち!」パシュ

???「……」ザシュッ ドサ

 ピチャン

 シュオン

???「………」

ユウギリ「!?」

ヒノカ「なんだ、なんなんだあいつらは、オロチ! 待っていろ、今助けに――」

オロチ「ヒノカ様、すまぬが吉凶通りに物事が進むようじゃ。ユウギリ、ヒノカ様を抑えて合流地点を目指せ!もう、わらわは助からん」

ユウギリ「しかし……」

オロチ「わらわたちの目的を思い出すのじゃ。わらわたちがすべきことは一つ……だけ、それだけじゃろう?」

ユウギリ「………」

オロチ「さっさと行くのじゃ!」

ユウギリ「……ヒノカ様」

ヒノカ「ああ、早くオロチを助け――」

ユウギリ「申し訳ありません!」

 バサバサバサッ

ヒノカ「ユウギリ! なぜ、オロチから離れる。見えない奴らが、オロチに迫っているんだぞ!」

ユウギリ「わかっています」

ヒノカ「ユウギリ。頼む、引き返してくれ、引き返せ!」

ユウギリ「……行きます」

 バサバサッ

ヒノカ「オロチ!」

オロチ「はぁ……んぐっ、うぷぷ、泣きそうな声が聞こえるのう。まさか、こんな風に名を呼ばれることになるとは思わなかったから、いい土産が手に入ったというものじゃ」

ヒノカ「だめだ、諦めないでくれ、私の鍛錬をみると約束したばかりだというのに、諦めるなど、許すものか! 死ぬなど、ここで死ぬなど、そんなことあっていいわけがないんだ!」

オロチ「ヒノカ様………すまない」

???「………」チャキ

???「……」スッ

オロチ「やはり、吉凶通り、わらわの命は……」




 ザシュッ ザシュッ ザシュシュ

 グチャ



 ポタポタッ
 

 ………

ヒノカ「ああ、あああ……」

462: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 21:35:17.63 ID:/7K6Uxen0
ヒノカ「お、オロチ……。だめだ、ユウギリ! 戻れ! 今なら、今ならまだ助かるはずなんだ! だからっ!」

ユウギリ「なりません!」

ヒノカ「まだ、オロチは助かるかもしれないんだぞ、みすみすそれを見逃すというのか! 共に母様に仕えてきた仲間なんだろう! まだ、まだ生きて――」

ユウギリ「私の任務は、あなたを白夜に帰すことです。同僚を、オロチを生きて帰すことではありませんわ。ここで、死んでしまったらオロチが命を掛けた意味が消えてなくなってします。このまま、湿地帯を抜け切りますわ」

ヒノカ「私が、私が弱いから、私が弱いから、なにもうまくいかないというのか」

ユウギリ「ヒノカ様の所為ではありません。ここは耐えてください、必ず仇を打てる時が来ますわ」

ヒノカ「ユウギリ……うわああああ」

ユウギリ(オロチ、くっ、敵を甘く見過ぎていたということですわね。それに、あの執拗な姿勢、まだまだ私たちを逃がすつもりは毛頭ないように感じられますわ)

 ピチャン
 ピチャン

???「……」

???「……」

ユウギリ「!? 待ち伏せだなんて、どんな先読みをすればそう動けるのか、知りたいものですわ」

ヒノカ「ユウギリ……」

ユウギリ「心配なさらないでください。必ず合流地点にお連れいたしますわ」


463: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 21:47:17.23 ID:/7K6Uxen0
ユウギリ(と言っても、私とヒノカ様が乗っている以上、機動力で負けてしまいますわ。どういうわけかはわかりませんが、縦横無尽に彼らはどこにでも行けるようですから……)

ユウギリ「でも、あの先を越えられれば、湿地帯の節目ですわね……」スッ

ヒノカ「ユウギリ?」

ユウギリ「……。まだ、お前は飛べるのよね?」

 クエエッ

ユウギリ「ええ、まだ一緒にいられるかと思っていましたけど。あなたにすべてを託すほかないようですわ。今まで本当にありがとう」

 バサバサバサッ

ヒノカ「ユウギリ、金鵄に何を言っていたんだ……」

ユウギリ「……」

ヒノカ「やめてくれ、そんな決断をしないでくれ、私は、私に金鵄の駆り方を教えてくれるのではなかったのか? ここにきて、お前まで約束を反故にすると」

ユウギリ「ヒノカ様、この子も私が下りれば動きが幾分早くなります、合流地点はすでに教えてありますから、迷うことなくそこへと連れて行ってくれますわ」

ヒノカ「ユウギリ、私は……」

ユウギリ「弓は置いて行きますわ。後輩にささやかな贈り物になると嬉しいです」

ヒノカ「話を勝手に進めないでくれ、ユウギリ、まだ考え直してくれ。敵は前にしかいないんだ。何とかすれば」

ユウギリ「ヒノカ様、もう追手も迫っているのです。この中で、機動力が劣っている金鵄では、弓に対応できませんわ」

464: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 22:06:58.10 ID:/7K6Uxen0
ヒノカ「認めない、認めないぞ」

ユウギリ「……ヒノカ様」

ヒノカ「私は、お前たちを失うために……シュヴァリエに来たんじゃないんだ。カムイを取り戻して、お前たちと一緒に白夜に帰るために、ここまできたんだ。お前まで失ったら私は……」

ユウギリ「……優しいのですねヒノカ様は」ギュッ

ヒノカ「……」

ユウギリ「ミコト様もそう、私のことを心配してくれたことがありますわ。そしてその心配を私は返すことが来ませんでした。あの日、私の見ていないところで、ミコト様は逝ってしまわれたのですから」

ヒノカ「ユウギリ……」

ユウギリ「ですから、こうしてまた誰かに仕え、そして守るために命を掛けることができるのは、私にとってこれほどにうれしいことはないのですわ」

ヒノカ「やめてくれ、おねがいだから、おねがいだから」

ユウギリ「命を掛けて闘う時があるとするなら、今しかありません。ヒノカ様なら大丈夫、私がいなくてもきっと立派な金鵄武者になれますわ」

ヒノカ「ユウギリ、行かないでくれ。私を、私からこれ以上、奪われていくものを見せないでくれ」

ユウギリ「……」

ヒノカ「ユウギリ……」

ユウギリ「ヒノカ様、わずかな間ですが仕えられたこと、光栄でしたわ。……御元気で」パッ

ヒノカ「……ユウギリ!!!!」

 スタッ

???「……」チャキッ

ユウギリ「ごめんあそばせ」ザシュ ブチィ

???「……」ドサッ

465: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 22:13:48.14 ID:/7K6Uxen0
ユウギリ「やあああああっ!!!!」

ヒノカ「あんな、数の気配を相手にできるわけなんてない! おい」

 ガシッ

ヒノカ「金鵄よ、言うことを聞いてくれ、頼む、お前の、お前の主がこのままでは死んでしまう。死んでしまうんだ。今すぐ、今すぐにでいい、ユウギリの傍に―――」

ユウギリ「ふふっ、ヒノカ様。その子は私の命令に忠実なんです。だからあなたの命令には耳も貸しませんわ。そして、これが最後の命令ですもの……。いつも以上に張り切ってくれるはずですわ」

???「……」ブンッ

ユウギリ「そんなものですか!?」キンッ

 ザシュッ ドガッ 

???「!!!!」ドサッ

ユウギリ「……近接ばかり、いえ、どこかに弓兵が……!」

???「……」キリキリ

ユウギリ(弓の引く音!?)

???「……」パシュ

ヒノカ「ぐっ!」

ユウギリ「ヒノカ様! あなたたちの相手は、ここにいる私ですわ!」ブンッ

 ヒュンヒュンヒュン ザシュッ ドサッ

 パシュシュ
 
ユウギリ「ぐっ、まだまだ!」ザシュ

???「……」ダッ ブンッ ザシュッ

ユウギリ「はぁはぁ、そうですわ。逃げてる相手よりも、私と戦った方が楽しいはずですもの。さぁ、どんどん掛って来なさい」

???「……」チャキッ

???「…」ジャキッ

ユウギリ「……」

ユウギリ「ふふっ、まったく声をあげたほうに向かってくるなんて、単純な方たちですわね。でも、これで包囲に穴が空きましたわ」

466: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 22:21:02.04 ID:/7K6Uxen0
 バサバサバサバサッ

ヒノカ「ぐっ、ゆ、ユウギリ。はやく、こっちに……」

ユウギリ「……ヒノカ様」

ヒノカ「ユウギリ」

ユウギリ「無事に、白夜にお逃げくださいませ。私の役目はここまでですから」

???「……」ダッ

???「……」ダッ

 ザシュッ ポタタタタッ



ユウギリ「……殺しても殺しても、断末魔の一つも、あげないなんて、興醒め……ですわ……」ドサッ


 ザシュツ ドスッ 

 
ヒノカ「あ、あああ」

ヒノカ「ユウギリ……オロチ」

ヒノカ「私は、わたしは……」










ヒノカ「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

467: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 22:32:36.44 ID:/7K6Uxen0
◇◇◇◇◇◇
―白夜王国・イズモ公国―

ヒノカ「はっ!」

ヒノカ「はぁ……はぁ……ぐっ、うううっ」

ヒノカ(ううっ、私は、私は……なんでこんなに非力なんだ……

 スーッ

セツナ「! ヒノカ様、目が覚めたんですね」

ヒノカ「……セツナ……」

セツナ「はい。大丈夫ですか、お水、どうぞ」

ヒノカ「んっ、んっ、………あり、がとう」

セツナ「いいえ……。あのヒノカ様、まだ横になられていた方がいいです。リョウマ様からも、ヒノカ様にはできる限り休むようにいうように言われたので」

ヒノカ「……セツナは。なんでこんな私に仕えてくれるんだ?」

セツナ「……ヒノカ様?」

ヒノカ「私は弱くて脆い、そんな人間なのに、どうして私に仕えてくれるんだ?」

セツナ「…どちらかというと、私がヒノカ様に助けてもらってるから。仕えてるって言えるのかな」

ヒノカ「……私に仕えていても、命を無駄にしてしまう。ユウギリもオロチも死んでしまった……」

セツナ「それは、ヒノカ様の所為じゃ無いと思います」

ヒノカ「……私を守るために二人は死んだ……。死んでしまったんだ。これが私の所為じゃないとどうして言えるんだ?」

セツナ「悪いのはこんな争いが始まったことだから、みんなそれに巻き込まれてるだけ」

ヒノカ「……」

セツナ「そんなこと、アサマが言ってた」

468: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/19(木) 22:40:42.13 ID:/7K6Uxen0
ヒノカ「……セツナ」

セツナ「はい、ヒノカさ――」

ヒノカ「……」ギュッ

セツナ「あ、あのヒノカ様?」

ヒノカ「少しの間だけでいい、いいから、このまま、抱きしめさせてくれ……」

セツナ「……」

セツナ(ヒノカ様、震えてる)

セツナ「はい、わかりました。でも、このままじゃ寒いです、布団、入りましょう。あったかい方が、気持ちいいから」

ヒノカ「……ありがとう、セツナ」

セツナ「……褒められた、うれしい」



ヒノカ(どうして、どうして私はこんなに失い続けないといけないんだろう)

ヒノカ(母様も、サクラも、アクアも、白夜の平和だった頃も、ユウギリ、オロチ、……カムイもみんな私の元から消えていく)

ヒノカ「……」

セツナ「スゥ……スゥ」

ヒノカ(いつか―――)

(セツナやアサマさえも、私は失ってしまうというのか)


休息時間 3 おわり

476: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/21(土) 23:57:09.57 ID:VcnXLzD80
◇◆◇◆◇◆

カミラ「ねぇ、シャーロッテ。ちょっといいかしら?」

シャーロッテ「えへへ、カミラ様が私に声を掛けてくださるなんて、どうかしたんですか?」

カミラ「ええ、ちょっとね。この頃、あなたが駐屯地の団長とよく話してるって聞いたから、仲がいいのかしら?」

シャーロッテ「駐屯の……はい、とっても仲良しなんですよ。今日もお弁当を渡してあげたんですぅ」

カミラ「………ねぇ、シャーロッテ。あまり言いたくはないことだけど、その団長はやめておきなさい」

シャーロッテ「もしかして、カミラ様の好みの方なんですか?」

カミラ「ふふっ、天地がひっくりかえってもそれはないから安心して頂戴」

シャーロッテ「ならなんでですか?」

カミラ「……あまり良くない噂を聞いているわ。シャーロッテは知らないかもしれないけど」

シャーロッテ「良くない噂ですかぁ?」

カミラ「ええ、いろいろな女性に手を出してるって、酷い目にあわされた子もいるって聞いているから、ちょっとあなたの耳にも入れておくべきだと思ったのよ」

シャーロッテ「そうなんですか。でも、噂なんですよね?」

カミラ「そうね、悪い噂かもしれないけど……」

シャーロッテ「そうですか。ふふっ、いい男には悪い噂の一つや二つあるものですよぉ。特にお金持ちは」ペロッ

カミラ「えっと、シャーロッテ?」

シャーロッテ「なんでもないですぅ。あっ、そろそろ訓練の時間ですから、失礼しますね、カミラ様」

カミラ「あ、シャーロッテ」

カミラ「……大丈夫かしら? 心配ね」


【カミラとシャーロッテの支援がCになりました】

477: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 00:10:42.02 ID:M2ckrgK40
◇◆◇◆◇◆

ルーナ「……」

ラズワルド「やぁ、ルーナ」

ルーナ「ラズワルド……」

ラズワルド「……どうしたんだい。なんだか気落ちしてるみたいだけど」

ルーナ「ちょっとね……」

ラズワルド「まだ、不安に思ってたりするのかい?」

ルーナ「そう簡単に楽観的になれるもんじゃないわ。たしかにカムイ様について行くことを迷ったりしてないけど……」

ラズワルド「じゃあ、どうして不安なんだい?」

ルーナ「私たち、役に立ててるのかなって、思うの」

ラズワルド「……」

ルーナ「私たちが知っていること、口に出せないことはわかってる。だからカムイ様のためにできる限りのことをしてあげたいって思うのは確かよ。でも、それが結果的にカムイ様の役になっているかは、わからないから」

ラズワルド「ルーナ……」

ルーナ「カムイ様は否定はしないと思う。私たちが役に立ってるって言ってくれるはずだから……。でも、本当なら私たち、戦いを回避するために動くべき立場にいるのに、言われたとおりに戦ってるだけだから……」

ラズワルド「……ルーナはカムイ様の役に立ててないって思ってるってことかな?」

ルーナ「そ、そういうわけじゃないわ。カムイ様の命令には従うし、それが今できることだから」

ラズワルド「だったらそれでいいんじゃないかな。今、僕たちにできることはカムイ様の命令に従うことだけなんだから」

ルーナ「……そうね。ごめん、また弱気になってたみたい」

ラズワルド「いいよ、それに前約束したからね。気が滅入ったりしたら、力になるって。一緒に戦いを続けてきた仲間なんだから、困ったことがあったら力になるのは当たり前だよ」

ルーナ「ラズワルド……」

ラズワルド「それに、元気な時のルーナのほうが、やっぱり可愛いからね。うん、久しぶりにこれからお茶でもどうかな?」

ルーナ「……そういうところ直しなさいよ。まるで成長しないわね、あんた」

ラズワルド「えぇ……」



【ラズワルドとルーナの支援がBになりました】

478: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 00:16:50.76 ID:M2ckrgK40
◇◆◇◆◇◆

ピエリ「カミラ様!」

カミラ「あら、ピエリ。今日はどうしたのかしら?」

ピエリ「ピエリ、カミラ様にまたあれしてもらいたいの。だから来たのよ」

カミラ「あれ?」

ピエリ「あれなの、あーんっていうあれ、またしてもらいたいの」

カミラ「あらあら、嬉しいこと言ってくれるわね。ふふっ、少し待ってて頂戴。おいしい紅茶、準備してあげるわ」

ピエリ「うれしいの! カミラ様、ピエリにいっぱい用意してくれるから大好きなの」

カミラ「ふふっ、可愛いこと言ってくれるのね。サービスでお菓子も付けちゃうわ」

ピエリ「にひひっ、ピエリうれしいの!」

カミラ「でも、あーんしてもらいたいなんて、本当に子供みたいなことをいうのね」

ピエリ「なら、カミラ様はピエリのお母さんなの! お母さんは子供に甘いの!」

カミラ「お母さんね……ピエリのお母様は、私みたいな人だったのかしら?」

ピエリ「うーん、多分そうなの」

カミラ「多分?」

ピエリ「それよりも、お母さん、お菓子ほしいの。あーんしてほしいの!」

カミラ「……ピエリ、あーん」

ピエリ「あむっ、おいしいの! ピエリ、とっても嬉しいのよ」

カミラ「?」

ピエリ「こんな風にいっぱい甘えられらて嬉しいの。カミラ様は、ピエリのお母さんなの!」

カミラ「そう……まだいるかしら?」

ピエリ「うん、いっぱいいっぱいあーんしてほしいのよ」

カミラ「……そう、それじゃ、あーん」

ピエリ「あーん、んーっ、おいしいの!」

カミラ「……ピエリ」

カミラ「この甘え方は、駄目よ」





【カミラとピエリの支援がBになりました】

486: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 20:25:21.61 ID:M2ckrgK40
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

サクラ「……んんっ……ふぁ~。んー」

サクラ「朝、ですね。ううっ、ダンスの練習で、ちょっと体が重たいですけど……? あれ、シャーロッテさん、どちらへ?」

シャーロッテ「サクラ様。もう起きてるんですか、まだ眠っていても大丈夫な時間ですよぉ」

サクラ「それはシャーロッテさんも同じですよ。こんな朝早くからどうしたんですか?」

シャーロッテ「ちょっと、お湯浴びに行くところなんです」

サクラ「お湯浴びですか?」

シャーロッテ「メイドさんに聞いたら使ってもいいって言われたから、ちょっと楽しみなんです。まぁ、ちょっと疲れが溜まっちゃうから、今日だけにしようと思いますけど」

サクラ「そうなんですか。いいですね、私もしたことないからちょっとうらやましいです」

シャーロッテ「……よかったら、一緒にどうです?」

サクラ「え、でも、シャ―ロッテさんが聞いて許可をもらったんですから」

シャーロッテ「いいのいいの、今さら一人増えたところでレオン様が気にすることはないと思いますし……。それと、昨日サクラ様がお風呂に入るって言った時に、レオン様が浴室ギリギリまでついて来たことも気になってましたからぁ」

サクラ「あ、あれはですね……その」

シャーロッテ「心も体も裸にして話し合いましょう、サクラ様」

サクラ「……しゃ、シャーロッテさん。少し怖いです」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 チャポーン

サクラ「その、レオンさんは私たちの入浴の監視をされてるだけなんです」

シャーロッテ「え、なんなんですかそれ? レオン様ってそういうのぞき見趣味があったんですか?」

サクラ「そ、そういうわけじゃないんです」

シャーロッテ「いやいや、今の説明だけじゃ。『捕虜にした敵国の王女とその臣下の入浴を監視するむっつり王子』っていう印象しかないんだけど」

487: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 20:46:30.93 ID:M2ckrgK40
サクラ「ち、違います。レオンさんはそういうことをする人じゃないです。それに監視って言っても扉越しにですし」

シャーロッテ「ちょっと待てよ、それじゃ『扉越しに敵国王女の入浴中効果音に聞き耳を立てる変態』ってことに……。サクラ様の入浴音声で妄想してるむっつり王子じゃん」

サクラ「そ、それもないと思います。……思います」

シャーロッテ「自分で考えて不安になってるっていうことは、少し思い当たる節があるわけ?」

シャーロッテ(マジかよ。点数稼ぎしようと思ったけど、レオン様にこんな趣味があったなんて……いや、カムイ様を考えればある意味納得できるわね)

サクラ「そ、そんなのありません! あっ、ごめんなさい、その大きな声を出しちゃって」

シャーロッテ「ムキになっちゃう位なんて、レオン様のこと慕ってるんですねぇ」

サクラ「……レオンさんのおかげで、私たちはここまで生きてこれたんですから。私、泣き虫で怖がりで、白夜がしてることを知った時、とっても辛かったんです。でも、レオンさん、私の子と慰めてくれて……」

シャーロッテ「慰められたって……」

サクラ「……そ、そういう意味じゃないですよ!」

シャーロッテ「あれー、サクラ様。何顔を赤くしてるんですか、言葉で慰められたってことくらい、わかってますよ」

サクラ「ううっ、シャーロッテさん。なんか、全然昨日と印象違います」

シャーロッテ「……そうかも。あー、サクラ様はなんかからかい我意があるって言うか。ふふっ、どういう意味で考えちゃったんですかぁ?」

サクラ「……ううっ、今のはなんでもないんです、なんでもないんです////」

シャーロッテ「顔真っ赤にして、何この可愛い生物は」

サクラ「か、可愛くなんて、そんなことないです……」

488: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 21:03:02.00 ID:M2ckrgK40
シャーロッテ「でも、レオン様がそんな趣味じゃないとして、どうしてお風呂を監視することになったわけ?」

サクラ「それは、カザハナさんが私のことを考えて、毎日お風呂に入れるように交渉しに行ったんです。

シャーロッテ「へぇ、あの子ねぇ。足踏まれてすっげー痛かったけど」

サクラ「ご、ごめんなさい」

シャーロッテ「なんでサクラ様が謝るのかわからないんだけど。それで?」

サクラ「最初はレオンさんも私たちのことを捕虜として扱うつもりでしたから……」

シャーロッテ(カザハナがだったら入浴中を監視すればいいじゃない!的なこと言ったってことかな?)

サクラ「そこで、レオンさんが監視するならっていう条件を」

シャーロッテ「カザハナがレオン様に付きつけたってことよね」

サクラ「いいえ、レオンさんが提案してきたってカザハナさんが言ってました」

シャーロッテ「結局、レオン様が原因じゃん。え、レオン様ってそういう人なわけ?」

サクラ「カザハナさんの言葉に挑発されたんじゃないかってツバキさんが言ってました」

シャーロッテ「あー、レオン様も案外子供っぽいところがあるってことね。でも、結局、レオン様は浴室扉前で待機することになってたわけでしょ? 不安にならなかったの?」

サクラ「……不安でした。でも、レオン様、私の不安全部理解してくれて、いつもお風呂に入ってるとき話をしてくれるんです。だからとっても安心できるんですよ」

シャーロッテ「そう、なんだか想像してたのと違うわね」

489: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 21:18:48.29 ID:M2ckrgK40
サクラ「想像してたのですか?」

シャーロッテ「というよりも、昨日のこともそうだけど、サクラ様はどうして私もそうだけど、暗夜の人たちに、すぐ心を開けるのかって、すごく不思議なんです」

サクラ「……私にできることの中で、今できることは信じることだけですから。でも、信じるの意味も少し変えないといけないって思ってるんです」

シャーロッテ「信じる意味ですか?」

サクラ「はい、暗夜の人も白夜の人も、同じ人間なんです。私は暗夜の人とか白夜の人とかじゃなくて、私が信じようって思った人のことを信じたいって思うんです」

シャーロッテ「すごいお人好しね。私が、ここでサクラ様を殺しちゃう可能性だって――」

サクラ「……その時はすごく悲しいです。でも、シャーロッテさんはそんなことしないって信じられますから、昨日ダンスを教えてくれた時、とっても優しく教えてくれましたし」

シャーロッテ「そ、それは。私が素になった時に気を使ってくれたし、サクラ様がちゃんと踊れるようになればレオン様からの印象も上がるかなって」

サクラ「……素直に言うんですね」

シャーロッテ「……幻滅した?」

サクラ「幻滅はしませんけど……、大変だなって思いました」

シャーロッテ「大変よ。男が望む女性像っていう奴を追い求めるとね。まぁ、正直言えば、それを地で行ってるのはサクラ様なんだけどね」

サクラ「わ、私ですか。そ、そんなことないですよ。私……」

シャーロッテ「その仕草とか、自然にできるんだから、その気になればいっぱい男からモテるはずよ」

サクラ「え、シャーロッテさん」

シャーロッテ「決めた。サクラ様、今度の舞踏会で、いっぱい男の目を惹きつけましょう。私とサクラ様なら、楽勝ですから」

サクラ「そ、そんな恥ずかしいこと……」

シャーロッテ「そういうわけですから。舞踏会の日まで、一緒に頑張りましょうね」

サクラ「え、えっと、………はい」

490: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 21:30:36.01 ID:M2ckrgK40
◆◆◆◆◆◆

カムイ「衣装ですか?」

シャーロッテ「今までは、慣れた服で踊ってきましたけど。舞踏会ではそれぞれドレスを着ないといけませんから。ヒラヒラしてて、動き方もちょっと変わっちゃうと思うので」

モズメ「このままの恰好ででたらあかんの?」

シャーロッテ「さすがに社交場だからね。私だっていつもの服で行くわけにはいかないし、今回はカムイ様の王族としてのお披露目式も兼ねてるんだから、私たちはその主催に呼ばれてるってことも考えないといけないの」

モズメ「ドレスなんて着たことあらんよ」

サクラ「わ、私もです」

シャーロッテ「だから、今のうちに選んで慣れておかないとだめなんですよ」

カムイ「私はこのままの恰好になると思うので、大丈夫ですね。皆さんがどんな衣装に身を包んでいるのか、気になりますけど」

シャーロッテ「そうやって、手をワッシワッシ動かすのやめてくれませんか?」

カムイ「仕方ないじゃないですか。触って確認するくらいしか方法がないんですから。あっ、今回は全身を触らわせてもらいますね」

モズメ「カムイ様、にっこり笑顔やん」

サクラ「姉様でも、さすがにそれは駄目です」

シャーロッテ「そうそう。それじゃ、衣装はここにあるからまず、適当に選んでみて。ちなみに私はもう選んであるから」

491: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 21:42:23.24 ID:M2ckrgK40
サクラ「……」

モズメ「……」

シャーロッテ「どうですかぁ?」ボン!

カムイ「といわれまして、私にはわかりませんから。そうですね、少し触ってもいいですか?」ボン!

シャーロッテ「駄目です」ボン!

サクラ「……」ポスポス

モズメ「……」ポスポス

シャーロッテ「……二人とも奇麗に着飾れてるけど……胸元が寒々しいわね」

サクラ「ううっ、気にしていないと言ったら嘘になってしまいます。どうして、暗夜のドレスはこう胸元が……」

モズメ「悲惨や。これ着たら貧相さに拍車が掛るだけやのに」

サクラ「姉様とシャ―ロッテさんは。ふくよかだから、問題なさそうですね……」

シャーロッテ「まぁ、磨いて来たからね」

サクラ「磨けば大きくなるものなのでしょうか? だって……こんなに大きさに違いがあるなんて」

シャーロッテ「そうねぇ。揉むと大きくなるって聞いたことあるけど」

カムイ「そうなんですか。サクラさん、ドレスの確認をしてもいいですか?」

サクラ「駄目ですよ」ニコッ

モズメ「あたいもや」

カムイ「アッハイ」

シャーロッテ「でも、ドレスはちゃんと選べてるみたいだから。サクラ様にはこれを、モズメには……これでいいかしら?」

サクラ「これは花の飾りですか?」

モズメ「頭につけるんか?」

シャーロッテ「ちがうちがう、それ胸元に取りつけて見て」

492: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 22:00:39.36 ID:M2ckrgK40
サクラ「あっ……」

モズメ「なんか、きらびやかになった気がするんやけど」

シャーロッテ「足りない部分はこうやって補うの。ふふっ、二人とも可愛くなってるわ」

サクラ「えへへ、回るとドレスがふわってなります」

モズメ「んっ、でもやっぱりダンスを組み込みながら回るとなると、すこし勝手が違ってくるみたいやけど、なんやろ、あたいじゃないみたいや」

シャーロッテ「ふふっ、女の子は誰だって奇麗なドレスを着れば、お姫様になれるってだけのことだから。ふふっ、サクラ様は思った以上にはしゃいでるみたいね」

サクラ「あうっ、え、えっと……」

シャ―ロッテ「いつもと違う恰好をするのって楽しいでしょ?」

サクラ「は、はい。ありがとうございます、シャーロッテさん」

シャーロッテ「……どういたしまして。それじゃ、一度着たことだし、ちゃちゃっと練習してみましょう」

カムイ「はい、そうですね。それじゃ、サクラさん。一曲お願いできますか?」

サクラ「カムイ姉様……はい、おねがいします」

シャーロッテ「それじゃ、モズメは私とね」

モズメ「……」

シャーロッテ「モズメ?」

モズメ「やっぱりあたいじゃ釣り合わんよ。ドレスは奇麗やし、花も付けてもらえたけど、あたいの顔じゃドレスとかにあわへんよ。そばかすだってあるんや」

シャーロッテ「……まずは少し踊るわよ、モズメ」

モズメ「………」

493: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 22:13:28.04 ID:M2ckrgK40
モズメ「……」

シャーロッテ「やっぱりステップの刻み方とか完璧、もう教えること無くなっちゃったかもしれないわ」

モズメ「うまく踊れても、あたいみたいな子と一緒に踊ってくれる人なんておるんやろうか?」

シャーロッテ「どうしてそう思うわけ?」

モズメ「サクラ様もカムイ様もシャーロッテさんも、美人で可愛いのに、あたいはそこらへんにいるのと変わらへん。もしかしたらそれより下って言っても間違ってないんや。そんなあたいがみんなと一緒に踊ったら、迷惑になるんやないかって」

シャーロッテ「はぁ、何言ってんの。モズメは可愛いから自信持ちなさいよ」

モズメ「お世辞はええよ」

シャーロッテ「そうやって、自分のこと下に見たら、誰も見てくれなくなっちゃうわよ」

モズメ「あたい、戦争が始まる前まで畑耕してただけ、ど田舎の娘なんよ」

シャーロッテ「……」

モズメ「こんな風にきらびやかなドレス着て、ダンスの練習してること自体、本来ありえへんことやったから。田舎娘は田舎娘らしく……」

シャーロッテ「はぁ、モズメ。私も平民の出でね、あんたがいうところの田舎娘と大して変わらないの」

モズメ「え、そうなん?」

シャーロッテ「そう。色々頑張ってきて私はここにいる、あんたの言い分にそうですかって言ったら、あたしがここにいることが場違いってことになっちゃうじゃないの」

モズメ「そ、そんなつもりで言ったんじゃないんよ。あたいにはもったないないって――」

シャーロッテ「そんなことないって言ってんだろ! まったく、あ、ここでターン!」

モズメ「!」クルクルクル シュタッ!

494: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 22:28:17.25 ID:M2ckrgK40
シャーロッテ「ほら、ドレス着た直後なのに、もう華麗に回れる。この時点で、昔の私より全然うまく出来てるわ」

モズメ「それは、シャーロッテさんが教えてくれたからで」

シャーロッテ「だったら、私がモズメのこと評価してるんだから、ちゃんと胸張って頂戴。そうじゃないと、私の教えてきた時間が無駄になるから」

モズメ「……シャ―ロッテさん」

シャーロッテ「はいはい、踊ってる間はそんな顔駄目だから。ちゃんと、相手の顔を見てメロメロにしてあげるつもりで接しないと」

モズメ「そ、そんなことあたいできへんよ!」

シャーロッテ「冗談冗談」

モズメ「ふふっ、騙すなんてひどいわー」

シャーロッテ「ようやく笑ったわね。モズメは笑うととっても可愛いんだから、そこ忘れちゃ駄目よ。男を落とす一本目の武器だから」

モズメ「でも、このそばかすとかは、消せへんから」

シャーロッテ「そこは私に任せて。このあと、お化粧について教えてあげるから」

モズメ「お化粧か、初めてやから、おて柔らかにお願いや」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

サクラ「やっぱり、少し動きづらいですね。ちょっと、ステップがうまくいきません」

カムイ「そんなことないですよ。ふふっ、こうやってサクラさんとダンスをするなんて、世の中おかしなことになるものですね」

495: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 22:41:49.92 ID:M2ckrgK40
サクラ「そうですね……、でも、今こうやって一緒に踊ってることは、おかしなことじゃないんです」

カムイ「サクラさん?」

サクラ「戦争なんて起きてなくて、暗夜と白夜の交流が活発だったら、私たちはこうやっていたかもしれないんですから」

カムイ「……そうですね。となると、レオンさんが白夜の伝統舞踊の練習を皆さんから教わっているなんていう光景もあったのかもしれませんね」

サクラ「ふふっ、でもレオンさんなら簡単に覚えてしまう気がします」

カムイ「そうですね。いや、もしかしたら手こずるかもしれません。その時は私とサクラさんで支えてあげましょう」

サクラ「はい、もしもそんな日が来てくれたら……来てくれたら……」

カムイ「シャーロッテさん。サクラさんと一緒に、少しだけ外で休んできます」

シャーロッテ「わかりましたぁ」

カムイ「サクラさん」

 ガチャ バタン

サクラ「……」

カムイ「……失礼しますね、サクラさん」

 ダキッ

サクラ「……そんな日なんてのぞんじゃいけないのに」グスンッ

カムイ「サクラさん」

サクラ「わかってます。でも、ここはとっても優しい場所だから……ふと、そんなことを思ってしまうんです」

カムイ「……」

496: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/22(日) 22:57:05.54 ID:M2ckrgK40
サクラ「姉様」

カムイ「なんですか、サクラさん」

サクラ「姉様は何を目指して戦っているんですか?」 

カムイ「正直、それが今はわかりません。何を目的に戦えばいいのか、それを決めるにはまだ私には情報が足りないんです」

サクラ「レオンさんから聞きました……姉様の大切な従者の方が死んでしまったって」

カムイ「ええ、私のミスで死んでしまいました」

サクラ「私、とても怖いんです。いつか、レオンさんから姉様が死んでしまったって、聞かされる日が来てしまうんじゃないかって。レオンさんに私たちを託してくれた姉様が……」

カムイ「サクラさん……」

サクラ「姉様、この戦いに正義はあるんですか。白夜にも暗夜にも正義はあるんですか……」

カムイ「……そう言われると、どちらにも正義なんてものはもしかしたらないものなのかもしれませんね。先に白夜を襲撃した暗夜と、民や他の国を犠牲にして戦いを続ける白夜。どちらもやっていることは、正義と語るには、いささか血なまぐさすぎる気もします」

サクラ「なら、なんで争いは終わらないんですか。正義がないのに、なんで……」

カムイ「しかたないですよ。それが戦争で」

「私たちが今いる、現実なんですから」

499: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/23(月) 22:34:10.97 ID:Aqjcc+qO0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

ガロン王「マクベスよ。準備はどうだ?」

マクベス「はい、式典の準備のほうは整っております。ですが、地方部族の長たちへも出席を促すとは」

ガロン王「我が子の晴れ舞台を、多くの者に見てもらいたいだけのことだ。くっくっく」

マクベス「……なるほど。ところで、私をお呼びした本当の理由をお聞かせください」

ガロン王「そうであったな。マクベス、貴様に式典会場の護衛、その準備と当日の指揮を任せる」

マクベス「私にですか?」

ガロン王「不満か?」

マクベス「い、いえ。そんなことはありませんガロン王様からご命令とあらば」

ガロン王「そうか、お前が式典会場の護衛を全うすることで、カムイやその仲間たちがお前を見る目も変わるだろう」

マクベス「……ガロン王様の心遣い、ありがたく思います……」

ガロン王「ならば、すぐに準備に取り掛かるがよい。式典までの時間は短い故な」

マクベス「承知いたしました。それでは、ガロン王様。失礼いたします」

ガロン王「うむ」

 ガチャ バタン

マクベス「……ガロン王様、カムイ王女たちに私がどう思われているかくらい理解していると思いますが……」

マクベス「……会場の護衛程度で彼らが私を見る目を変えるとはとても思えない……いや、私が会場を護衛するという時点で疑心の目を向けられかねないのですが……。

マクベス「しかし、ガロン王様から直々に命令を頂いたのですから、最善を尽くす必要がありますね…。しかし、事前に話もせずに、物事を進めるというのは……」

マクベス「……仕方ありませんね。できれば話などしたくはありませんが、これもガロン王様のためです……」

500: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/23(月) 22:51:15.33 ID:Aqjcc+qO0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

レオン「……なんのようかな? 連絡もなしに来てもらっても、正直困るんだけど」

マクベス「すみません、レオン王子。私も事前に連絡できればと思っていたのですが、急に色々とことが決まりましてね。時間の関係もあって、すぐに至らなければいけなくなりましてね」

レオン「僕に用事なら手短にお願いできるかい。正直忙しい身なんでね」

マクベス「いいえいいえ、レオン王子の時間はとらせません。ご安心を」

マクベス(足を時々擦ってますが、膝でも打ったのでしょうか)

レオン「僕に用事じゃないのかい。なら、誰に……」

マクベス「カムイ王女です」

レオン「姉さんに」

マクベス「ええ、先ほど北の城塞まで足を運びましたが、カムイ王女は昨日からレオン王子の屋敷に泊まられていると聞いたので、こちらに伺っただけの話です」

レオン「そんなことを言って、何か探りを入れているつもりじゃないだろうね?」

マクベス「なんですか、私は何も言っていませんよ。それとも、何か思い当たる節でもあるというのですかな、レオン王子」

レオン「それはないよ。すぐに疑うマクベスの態度はどうなんだい? 僕たち王族に対する接し方とは思えないよ?」

マクベス「これは失礼いたしました、レオン王子。では、カムイ王女を呼んでは頂けませんか?」

レオン「………わかった。そこで待て」

マクベス「はい、お待ちいたしますね」

501: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/23(月) 23:05:14.90 ID:Aqjcc+qO0
マクベス「………」

マクベス「………ふむ」

メイド「マクベス様、どうぞ、紅茶です。ゆっくりお待ちください」

マクベス「これは、これは、ありがとうございます」ズズッ

マクベス(さて、カムイ王女とどうやって話をするべきでしょうか。まぁ、あまり良い話し合いになるわけはありませんので、手短に終わらせるべきでしょうが……)



マクベス「……遅いですな」


マクベス「……ふむ」




マクベス「……もう結構経っている気がしますが……」

マクベス「遅い、遅すぎますね……レオン王子は自宅でカムイ王女を見つけられないというのですか?」



???「やはり、ターンが難しいですね。もう少しうまく決められるといいんですけど」

マクベス「ん? この声は……」

カムイ「ふぅ、練習も一段落しましたから……?」

マクベス「……長いことを待たされましたが、ようやく来られたようですね」

カムイ「……マクベスさん」

マクベス(さすがに、警戒されますか。まあ仕方ありません、これも予想の範疇ですので)

カムイ「レオンさんに用事ですか? すぐに呼んできますけど」

マクベス「あなたに用事があってきたんですよ!」

カムイ「えっ、私にですか。すみませんが、何も話を聞いていないのですが」

マクベス「……レオン王子から、私が話をしたいと聞いてやってきたのではないのですか?」

カムイ「今初めて聞きましたよ。さっきレオンさんにあった時は、練習頑張ってねと応援されたくらいですね」

マクベス「そ、そうですか……」



502: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/23(月) 23:19:34.14 ID:Aqjcc+qO0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
カムイ「ふふっ、なるほど。レオンさんがそんな意地悪をしたんですね」

マクベス「笑いごとではありませんよ。まったく、こちらの苦労も考えていただきたいものですな」

カムイ「でも仕方ありませんよ。マクベスさんもそれは重々承知でこちらにいらしたんでしょう。というよりも、城塞ではもっと白い目で見られたんじゃないですか?」

マクベス「……それは別に良いことでしょう」

カムイ「見られたんですね。ふふっ、フローラさんやジョーカーさんに睨まれるなんて、罪な人ですね」

マクベス「……ともかく、そんなことはどうでもよいことです。私としては、こんな不毛な時間はすぐに終わりにしたいところですので」

カムイ「そうですか。それで、御用というのは一体なんでしょうか?」

マクベス「それですが――」



カムイ「式典会場の護衛ですか……」

マクベス「ええ、ガロン王様の期待に添えるためにも、主役であるカムイ王女には話を通しておこうと思いましてね。当日、私だとわかってあなたの機嫌が悪くなるなどあってはなりませんから」

カムイ「ふふっ、そんな風に気遣ってくれるんですか」

マクベス「別に他意はありません。私自身、ガロン王様の要望にお応えするために全力を尽くしたいと思っているだけの話ですのでね」

カムイ「……そうですか……。でも、マクベスさんが会場の護衛をするという話を聞いて、私のテンションは結構下がってますね」

マクベス「………」

503: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/23(月) 23:39:35.85 ID:Aqjcc+qO0
カムイ「はぁ、式典に出るのやめてしまいましょうか」

マクベス「それはなりませんよ、カムイ王女」

カムイ「どうしてですか?」

マクベス「ガロン王様は多くの方にカムイ王女の晴れ姿を見ていただきたいと思っておられます。その意思を汲むのが娘であるあなたの役目ですから」

カムイ「……偽りの娘だったとしても?」

マクベス「?」

カムイ「いえ、なんでもありません。でも、そうですね。私はマクベスさんの事を信用しているわけではないんですから、少し身構えてしまうでしょうね。ダンスもぎこちなくなってしまいますね」

マクベス「なら、どうすればよいのですかな? ガロン王様からの命令を反故にするつもりは、毛頭ないので、カムイ王女次第と言わざるを得ません」

カムイ「そうですね。でしたら、一つ提案があるんですが……」ズイッ

マクベス「? カムイ王女、なぜ私の横にくるのですかな?」

カムイ「あの日の続きをしてもいいですか? 私、まだまだマクベスさんのこと、よく知らないんです」

マクベス「な、なにをするつもりですか。ぐっ、カムイ王女」

カムイ「決まってるじゃないですか……」

カムイ「その仮面の下、ぜーんぶ触らせてくれればいいんですよ。ふふっ、あの時は跳ね除けられちゃいましたけど、今回は逃がしませんから」

マクベス「な、そんなことで、あなたは私を信用するというのですか?」

カムイ「ええ、そうですよ。安いものじゃないですか、私に顔を触らせるだけで、今回のことに協力するって言ってるんですから……」

マクベス「……約束、してくれるのでしょうな?」

カムイ「はい。ですから、失礼しますね」ピトッ

504: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/23(月) 23:48:09.56 ID:Aqjcc+qO0
マクベス「ぐっ……」

カムイ「ふふっ、やっぱりスベスベしてるんですねマクベスさんは、前は片方の顔しか触れませんでしたけど。今回は仮面の下まで触っていいんですよね」

マクベス「そ、そういうやくそく、ですから。は、早く済ませていただけ――はうっ!」

カムイ「ふふっ、眼尻、やっぱり弱いんですね。みんなの前で思わず息をもらしちゃったときと同じじゃないですか」

マクベス「か、カムイ王女、そ、そこばかり触るのは……あっ、ぐうっ!」

カムイ「そうですか、でも、もしかしたら、こっちにも違う弱点、あるかもしれませんね」カチッ

マクベス「ぐっ、仮面を人に外されるなど、何年ぶりかもわかりませんな」

カムイ「そうなんですか、なら。私がその久しぶりの人ということになるんですね。それはそれで、なんだか嬉しい気持ちになりますね。それじゃ、ふふっ、まず左目の眼尻、触っちゃいますね」

マクベス「!!!!!」

カムイ「ふふっ、やっぱりこっちも敏感じゃないですか。両方の眼尻で感じちゃうなんて、マクベスさんも中々に持ってるんですね」

マクベス「カムイ王女、も、もうこれだけでいいでしょう?」

カムイ「……だめです。まだ、私、まだマクベスさんのこと信用してませんから。もっともっと、触っちゃいますよ」

マクベス「はううっ! んぐっ」

カムイ「……ところで、マクベスさんはお父様のために戦っているんですか? それとも暗夜王国のために戦っているんですか?」

505: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/23(月) 23:56:23.46 ID:Aqjcc+qO0
マクベス「な、なんですか、その質問は……」

カムイ「答えてください。マクベスさんが戦うのはどちらのためなんですか?」

マクベス「……私はガロン王様のために戦っています。ガロン王様が暗夜王国を大国へと導いてきた御方ですからね」

カムイ「……そうですか。お父様のこと慕っているのですね」

マクベス「もちろん。ガロン王様の行く先には必ず、暗夜王国の発展が約束されていると言っても過言ではありませんから。私はガロン王様のために力となりつづけるでしょう」

カムイ「そうですか。ありがとうございますね、マクベスさん」

マクベス「?」

カムイ「もう大丈夫ですよ。これだけで十分ですから」

マクベス「カムイ王女?」

カムイ「式典の件、ちゃんと確認いたしました。私も式典の成功に全力を尽くさせていただきますね」

マクベス「そうですか。なにやら、もっと触られると思いましたが。では、今回の件、よろしく頼みましたよ」

カムイ「はい、もう帰られるんですか?」

マクベス「ええ、ここに長いしても、得るものはもうありませんので。それでは……失礼いたします」

 ガチャ バタン

カムイ「……」

511: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/25(水) 13:05:48.11 ID:y405HRCE0
◇◆◇◆◇◆
―暗夜王国・王都ウィンダン・エリーゼ邸―

エリーゼ「ふんふーん♪」

ハロルド「おや、エリーゼ様」

エリーゼ「あっ、ハロルド!」

ハロルド「鼻歌交じりに楽しいそうですが、なにやら良いことがあったのですかな?」

エリーゼ「えへへ、今日ね、一つお買い物しちゃったんだー!」

ハロルド「お買い物ですか、荷物を持つ必要がありましたら、このハロルドがお手伝いしましょう。エリーゼ様に多くの荷物を持たせるわけにはいきませんから!」

エリーゼ「ありがとうハロルド。でも、今回は業者の人にここまで運んで来てもらう予定だから大丈夫だよ」

ハロルド「運んでもらうとは、そんなに大きいものですか」

エリーゼ「うん。出来るのに時間もかかるけど、とっても素敵なものなんだ。いつも買ってるものとちがって、お金がいっぱい掛っちゃったけど……」

ハロルド「エリーゼ様は個人的なお買い物はあまりされないのですから、今回のことは多めに見てもらえるはず。むしろ、エリーゼ様自身がほしいと思ってお買い上げになった物のほうが少ないのですから」

エリーゼ「そ、そうかな。みんなから、ぶるじょわだーとか、けつぜいがーとかそんなことを言われないかな…」

ハロルド「大丈夫です。それにそんな風に考える人々を私が説得して見せましょう。ですから、ご安心ください」

エリーゼ「えへへ、ハロルド。ありがとう!」

ハロルド「ちなみに何を買われたのですか?」

エリーぜ「えっとね……。ううん、今は教えてあげなーい」

ハロルド「おや、そうきましたか」

エリーゼ「うん。準備ができたら教えてあげる。ハロルドのこと、びっくりさせてあげるんだから!」

ハロルド「なるほど、その時がとても楽しみです。では、準備ができたら教えてください、エリーゼ様」

エリーゼ「わかったよ、ハロルド!」

【エリーゼとハロルドの支援がCになりました】

512: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/25(水) 13:13:12.40 ID:y405HRCE0
◇◆◇◆◇◆
―暗夜王国・北の城塞―

ブノワ「……」

フローラ「あれ、ブノワさん?」

ブノワ「フローラ」

フローラ「どうされましたか? カムイ様なら唯今城塞にはおられませんが」

ブノワ「大丈夫だ、カムイ様に用があったわけではない。その…フローラに用があって来た」

フローラ「わ、私にですか?」

ブノワ「ああ……」

フローラ「……」

ブノワ「……」

フローラ「あ、あの。用というのは」

ブノワ「……先日の件だ」

フローラ「先日、ああ、熊のことですね……。もしかして根に持っておられるのですか?」

ブノワ「い、いや…そうではない。確かに俺はよく見た眼で怖がられることが多い、だからフローラが言ったことは…間違いではないからな」

フローラ「そうですか。では、先日の件とは一体なんでしょうか? そのこと以外でブノワさんが私を訪ねてくる理由を考えられません」

ブノワ「なぜ、そう思うんだ?」

フローラ「……少し言葉が過ぎましたから。私は従者として人に仕える身でありますけど、私個人は人に仕えるなんていうのがとても似合わない、そんな人間なんですよ」

ブノワ「……俺は…そうは思わない」

フローラ「えっ?」

ブノワ「フローラは俺を心配してくれた。熊と対峙している大男、しかもこんな人相だ。普通なら…誰も声など掛けてはくれない」

ブノワ「だが、フローラは声を掛けてくれた。熊に襲われているのではないかと心配してくれた、俺はそれが純粋にうれしかった」

フローラ「……そんな風に言われると、なんだか照れてしまいます。でも、それを伝えにわざわざここまで?」

ブノワ「ああ、迷惑だったか?」

フローラ「ふふっ、迷惑じゃありませんよ……。むしろ、私がお礼を言うべき側です。ありがとうございます、ブノワさん」

ブノワ「……礼を言うのはこちらだ……心配してくれて、ありがとう」

フローラ「ふふっ、これじゃいつまで経ってもお礼の言い合いが終わりませんね」

ブノワ「そうだな……その、また遊びに来てもいいか?」

フローラ「はい、いつでも遊びに来てください。今度はおいしい紅茶をお淹れしますね」

ブノワ「ああ……」

【ブノワとフローラの支援がBになりました】

513: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/25(水) 13:24:20.50 ID:y405HRCE0
◇◆◇◆◇◆
―暗夜王国・王都ウィンダム・カミラ邸―

ピエリ「カミラ様、急にピエリのこと呼んでどうしたの?」

カミラ「ええ、ちょっとね」

ピエリ「そうなの、いっぱいお菓子持ってきたから、今日もお母さんみたいにあーんしてもらいたいの」

カミラ「ええ、構わないわ。でも、私のことをお母さんって呼ぶのはもうやめにしましょう?」

ピエリ「……カミラ様、もしかしてピエリのこと嫌いになったの?」

カミラ「………」

ピエリ「ひどいの、ピエリ、まだカミラ様のことお母さんて呼びたいの。呼びたいのに、うううっ、びええええええええん。ピエリ、カミラ様に嫌われちゃったの……」

カミラ「嫌いになんてならないわ。むしろ好きよ、ピエリのこと」

ピエリ「ならどうしてなの? なんでピエリ、カミラ様のことお母さんって呼んじゃいけないの?」

カミラ「それはそうよ。ピエリにとってのお母様は一人だけ、あなたを産んでくれた人はこの世に一人しかいないの。それを私に置き換えるのはとてもよくないことだから」

ピエリ「カミラ様……」

カミラ「ピエリが私のことをお母さんのようだって言ってくれたのは嬉しいわ。けど、ピエリにだってお母様との思い出がちゃんとあるはずよ。それを私は奪いたくないの」

ピエリ「カミラ様……」

カミラ「ピエリは大切な仲間よ。甘えられることは嫌いじゃないわ。でも、こういう甘え方はピエリに取ってもよくないこと、だから私をお母さんと呼ぶのはもうおしまいにしましょう」

ピエリ「……」

カミラ「……」

ピエリ「わかったの……」

カミラ「ピエリ……ごめんなさい」

ピエリ「……カミラ様はお母さんじゃないの、それだけは今わかったの。カミラ様には無理言ってた気がするの、ピエリのほうこそ、ごめんなのよ」

カミラ「……いいえ、本当に謝らないといけないのは私の方よ。どうやら、あなたの心の傷に触れてしまったみたいだから」

ピエリ「カミラ様の所為じゃないの……。ピエリ、いつかお母さんのこと思い出せるの?」

カミラ「ええ、でも今はその時じゃないから、胸の中にお母様のことはしまっておきなさい」

ピエリ「どうしてなの?」

カミラ「いつか、あなたにお母様のことを思い出させるきっかけをくれる人がいるはずよ。その人があなたの辛い思い出も楽しい思い出も受け止めてくれるはずだから」

ピエリ「カミラ様はその人になってくれないの?」

カミラ「……ええ、ごめんなさい。私ができることは、はい、あーん」

ピエリ「……あーん」

カミラ「その人が現れるまで、ピエリと一緒に待ってあげることだから」

ピエリ「カミラ様……わかったの。ピエリ、その時が来るまでずっと待ってるのよ」

カミラ「そう……ピエリは強いのね」

ピエリ「ピエリ強いの、強いのが自慢なのよ! それじゃ、一緒に待ってくれるカミラ様にピエリがあーんで食べさせてあげるの! あーん、なのよ!」

カミラ「あーん。ふふっ、おいしいわ」

ピエリ「ピエリ、カミラ様のこと大好きなの」

カミラ「ありがとう、ピエリ」

【カミラとピエリの支援がAになりました】

514: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/25(水) 13:25:30.76 ID:y405HRCE0
本篇はいつもの時間くらいに


515: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/25(水) 23:41:09.11 ID:y405HRCE0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・王都ウィンダム・レオン邸―

レオン「姉さん。なんでマクベスと話なんかしたんだい。何の意味もないことくらい……」

カムイ「たしかにマクベスさんを信用しているかと言われれば、信用していませんよ。一度、貶められた身ですからね」

レオン「なら、尚更どうして……」

カムイ「今回は状況が違います。今回の式典は私を中心に行われますし、マクベスさんからすればお父様から直々の指名ですから、約束通り全うしてくれるでしょう」

レオン「やけにマクベスの肩を持つんだね……」

カムイ「肩を持っているわけではありませんよ。ただ、マクベスさんがお父様を慕っている以上……、今回の件で何かしらの邪魔をするとは考えにくいですから」

レオン「……なんで、そう考えられるのか不思議でしょうがないよ。信用してないって言っているのに」

カムイ「今回の件に限った話です。まぁ、マクベスさんとしては私が大きな脅威となりえない、そう考えているのでしょう。シュヴァリエの一件で私に対する部族の方たちの評価も右肩下がりです」

レオン「それを引き起こしたのがマクベスなのに、どうして」

カムイ「……そうですね。私が取るべきこと、それを選ぶためでしょうか……」

レオン「選ぶため?」

516: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/25(水) 23:49:38.19 ID:y405HRCE0
カムイ「私が戦う理由、この力を使う理由、それを私は探しています。今に至ってそんなことを言うなどと虫がよすぎる気もしますが、前に言いましたよね? これからは選び引き寄せると」

レオン「うん、姉さんはそう言ってたね」

カムイ「そのつもりですが、まだその引き寄せる方向が決まっていないんです。恥ずかしい話ですけど」

レオン「……その決まっていないことと、マクベスと話をすることになんの関係があるんだい?」

カムイ「……戦う理由というのを聞いてみたかったんです」

レオン「戦う理由?」

カムイ「はい、サクラさんから聞かれたんです。何を目指して戦っているのかと。それに私は答えを出せませんでした」

レオン「……」

カムイ「多くのことを聞かれました。暗夜と白夜に正義はあるのかと、無いなら戦争を続ける必要があるのかと」

レオン「サクラ王女らしいことを聞いて来たね」

カムイ「それに私は思ったとおりに答えました。でも、争いが続く理由そのものの意味、その答えを出せませんでした」

レオン「……」

カムイ「だから、マクベスさんに聞いてみたんです。何のために戦っているのかと、正確には選んでもらったと言ったほうがいいですね。お父様のために戦っているのか? それとも暗夜王国のために戦っているのか?と」

517: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/25(水) 23:59:20.69 ID:y405HRCE0
カムイ「マクベスさんはお父様のために戦っていると答えてくれました。マクベスさんからすればお父様のために戦うことは、暗夜王国のためとなっているのかもしれません。どちらにせよ、マクベスさんはマクベスさんの戦う理由を教えてくれました」

レオン「父上のためにマクベスは戦っている。でもそれがわかってどうなるっていうんだい?」

カムイ「マクベスさんが私を陥れようとしたのは、私がお父様に不利益を与える存在であると考えたからです。そこにはマクベスさんが信じる正義がある。私はそう思いました」

レオン「そんなものが正義だなんて、姉さんはそんなことを言うのかい、あいつはただ自分の地位を維持するために、姉さんを嵌めただけに決まってる」

カムイ「そうかもしれません。リリスさんを失うことになったマクベスさんの所業を、正義と呼ぶには血なまぐさいものがあります」

レオン「だったら!」

カムイ「でも、まだなにも掲げることのできない私に比べれば、マクベスさんはその正義のために人を、物事を、そして自身の感情さえ犠牲にできる方です。だから、わざわざ私に会いに来て、私の願いを聞き入れた。私なんかよりも自分の正義を貫ける、そういう人なんでしょう」

レオン「……ごめん、姉さん。少し一人にさせてくれないかな……」

カムイ「レオンさん」

レオン「お願いだ……」

518: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/26(木) 00:12:39.55 ID:GEnhNdlv0
カムイ「……はい、わかりました。今日はもう遅いですから、部屋に戻らせていただきますね。明日もダンスの練習頑張りましょう」

レオン「……」

 ガチャ バタン

レオン「……私情に流された僕は、マクベス以下だっていうのかい。姉さん……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「……」

ツバキ「あれ、カムイ様じゃないですかー」

カムイ「その声はツバキさんですか?」

ツバキ「そうですよー。どうしたんですか、なんだか顔色が優れないようですけど」

カムイ「いいえ、なんでもありませんよ。ツバキさんもどうしたんですか、こんな時間に」

ツバキ「珍しく寝付けなくて、それで邸内を少しふらふらしてたんですよー。今日は特に月が奇麗ですから、お団子とかあったら食べたくなりますねー」

カムイ「そうなんですか。月というのはどういう形をしているんでしょうか、もうかなり前のことで覚えていませんけど、丸いんですよね?」

ツバキ「丸だけじゃないですよー。半円だったり、ちょっと功を描くだったり、いろいろと形が変わりますから」

カムイ「月は一つだけなのにですか?」

ツバキ「そうですよー。月はその物体の名前ですけど、見方によって名前を変えるんですよ」

カムイ「ふふっ、そうなんですか。いろいろな形があるんですね」

ツバキ「そうですねー。ところで、なにか考え事でもしてたんじゃないんですかー。よかったら話、聞きますよー」

519: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/26(木) 00:23:24.13 ID:GEnhNdlv0
カムイ「いいんですか?」

ツバキ「いいですよー」

カムイ「……その、ツバキさんは、何のために戦っていましたか?」

ツバキ「面白い質問ですねー。んー、俺はサクラ王女を守るために戦ってましたよー。俺が守るべきはサクラ様ただ一人ですから、何時だって死ぬ覚悟は出来てます。でも、サクラ様よりも後に死ぬのだけは嫌ですねー。この体の命が尽きる寸前まで、主君を守るために俺はいるんです。だから、捕らえられて、カムイ様がサクラ様を最初に切ろうとした時は、怒りに狂うところでしたよー」

カムイ「……あの時は、申し訳なかったです。ごめんなさい」

ツバキ「いいんですよー。結果的に、俺たちはここで生きながらえてますから、でも、カムイ様のさっきの質問には異を唱えたいかなー」

カムイ「?」

ツバキ「戦っていましたか?じゃなくて、戦うにしてください。サクラ様の臣下じゃなくなってしまうこともあるかもしれないけど、その時までは俺はずっとサクラ様のために戦い続けるんですから。今、盗賊が襲って来て、そいつらがサクラ様の命を狙っていたとしたら、命がけで戦ってサクラ様を守ります」

カムイ「……そうですね。確かに質問の言葉は間違いでした」

ツバキ「いいんですよー。でも、残念です。こんなに奇麗な月は久々なのに、カムイ様はそれが見えないなんて」

カムイ「……見ることができないのは残念ですが、ツバキさんが教えてくれたから今は月が出ているってわかります」

ツバキ「そうですかー。そうだ、よろしければ隣座ります?」

カムイ「いいんですか?」

ツバキ「……はい。それに、一人で月見っていうのも、なんだか寂しいものですから」

520: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/26(木) 00:35:23.95 ID:GEnhNdlv0
カムイ「では、お言葉に甘えさせてもらいますね……」

ツバキ「本当にここにいると戦争なんてものを忘れそうになりますよー」

カムイ「サクラさんも言っていました。ここはとても優しい場所だと」

ツバキ「ええ、だからもしもなんてことを考えちゃったりもします。戦争なんて嘘なんじゃないかって、思わないわけじゃないんです」

カムイ「……」

ツバキ「でも、いずれ俺たちもそこに戻ってくことになるんです。いずれ巻き込まれちゃうことくらい理解してるんですよー。だけど、俺には巻き込まれても戦い続ける理由がありますから、迷うことはありませんよー」

カムイ「……ふふっ、サクラさんですね」

ツバキ「さっき言ったことだから、すぐにわかっちゃいますよねー。闘う理由なんて人それぞれ、まるで月みたいだなって思うんですよ…」

カムイ「月みたい……ですか?」

ツバキ「ほら、月は呼び方は同じだけど、いろいろと形を変えて、その度に呼び方も変わる。でも、どんなに変わってもそれは月だから」

カムイ「面白い例えですね。私も色々な形の月を見てみたいものですけど」

ツバキ「……そうだね。カムイ様、手を出してもらえるかなー」

カムイ「? どうぞ」

521: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/26(木) 00:43:13.50 ID:GEnhNdlv0
ツバキ「失礼するよー。えっと、これが……満月」

カムイ「んっ、くすぐったいです。ツバキさん」

ツバキ「ごめんごめん、でも、手のひらに書いて教えるのが一番かなって思って。これが……弦月って言って――」

カムイ「んっ、んくゅ」

ツバキ「!」

カムイ「ど、どうしました?」

ツバキ「いえ、なんでもないですよー。とりあえず、こんな感じで色々名前がありますねー」

カムイ「ふふっ、いろいろな形と呼び方があるんですね」

カムイ「…………」

ツバキ「カムイ様?」

カムイ「いいえ、なんでもありませんよ。ツバキさん、私はこれで失礼いたします。あと少しで、ターンが奇麗に決められそうなんです」

ツバキ「そうなんですか、がんばってくださいねー」

カムイ「はい、それでは……」

カムイ(月を正義に例えるなら、つまりはそういうことなんでしょう……)

カムイ「……でも、私が見つけることになる月というのは、一体どんな形をしているんでしょうか?」

522: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/26(木) 00:52:55.98 ID:GEnhNdlv0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・フリージア―

スズメ「クーリア様」

クーリア「スズメさんですか、どうかしましたか?」

スズメ「暗夜王国からこのような物が届いています。式典への招待状のようで、クーリア様宛てのようです」

クーリア「珍しいこともあるものですね。一体何の式典かはわかりませんが……多分、カムイ殿絡みのものでしょう」

スズメ「……カムイ王女の噂は本当のことでしょうか?」

クーリア「……そうですね、その噂で多くの部族は今回の件で彼女を見限るかもしれません」

スズメ「クーリア様はどうなされるんですか?」

クーリア「……確かにシュヴァリエの焼き払いと多くの死者の話は耳に届いています。そして、それを率いていたのがカムイ殿であること」

スズメ「……」

クーリア「これだけ聞けば、もうカムイ殿を信じ歩むことは難しいものでしょう。期待していた分だけ失望は山のように増えます、噂だけを鵜呑みにしてきた人々の興味は薄れていくことでしょう」

スズメ「……そうですね」

クーリア「ですが、噂がたとえ真実であったとしても、私たちはカムイ殿を信じることに疑いも迷いもありませんよ」

523: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/26(木) 00:58:52.73 ID:GEnhNdlv0
スズメ「クーリア様」

クーリア「大事な娘たちが暗夜に捕らわれているからではありません。カムイ殿は私達に自治を認める約束を取り付けてくれました。その時に私はカムイ殿を信じると決めています」

スズメ「……はい、私と共にここにやってきた白夜の人々も、クーリア様の決定について行くつもりです。白夜の人たちのことは任せてください」

クーリア「ありがとうございます、スズメさん。招待状は確かに受け取りました。明日にはウィンダムに向けて出発することにしましょう」

スズメ「はい、では私は少しばかり準備に取り掛かりますので、失礼いたします」

クーリア「カムイ殿が目指す先に何があるのかはわかりません。もしかしたら真っ暗な闇かもしれませんし、光り輝くものかもしれません。ですが、それは今は全くわからないものです。噂だけを信じる人には、それは真っ暗な闇だけの可能性になってしまうでしょう」

「でも、そんな闇の可能性を含めても、私たちはカムイ殿との絆を信じることを選びましょう。カムイ殿の行動と言葉を信じて」


休息時間 4 おわり

526: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/27(金) 00:46:40.12 ID:VezPjyko0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・王都ウィンダム・レオン邸―

レオン「……」

カザハナ「よっと、うっ、これで……」

レオン「……」

カザハナ「あっ」ムギュ

レオン「……」

カザハナ「ご、ごめん……また踏んじゃって……、レオン王子?」

レオン「…んっ、どうかしたのかい。カザハナ」

カザハナ「いや、その今足踏んじゃったから。ごめん」

レオン「あっ、うん。そうなんだ……」

カザハナ「? どうしたの、昨日までとなんか雰囲気違うよ?」

レオン「……そんなことないよ」

カザハナ「嘘ね」

レオン「……嘘って」

カザハナ「だって、昨日まで足踏んだら文句言ってたのに、今日に限ってだんまりなんてさ」

レオン「それは……」

カザハナ「とは言っても練習に集中してるってわけじゃないみたいだし。あたしが足踏んじゃったのに気付かない位なのに?」

レオン「……」

カザハナ「ねぇ」

レオン「その、心配してくれてるってことかな?」

カザハナ「そ、そうじゃないから、あんたが調子悪いと練習できないから、ただそれだけだから……」

527: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/27(金) 00:55:18.17 ID:VezPjyko0
レオン「それもそうだね……ごめん、少しだけ休んでいいかな。カザハナに踏まれたって思い始めたら、足が急に痛くなってきたからね」

カザハナ「休む理由をあたしが足を踏んだことにするのはずるいよ」

レオン「……それもそうだね、ごめん」

カザハナ「わかればいいの。それで、何考えてたの?」

レオン「はぁ、カザハナにも気づかれるなんて、思ってもいなかったから」

カザハナ「何よ、心配しちゃ悪かった?」

レオン「心配してないんじゃなかったのかい?」

カザハナ「うっ……そのさ、あたしじゃ、力になれないかなって」

レオン「?」

カザハナ「そのさ、あんたにはサクラ様のこと守ってもらってるし、こうやってダンスの手解きしてもらってるから。その、恩を返したいっていうか……その、役に立ちたいっていうか」

レオン「……」

カザハナ「な、何よその顔」

レオン「いや、まさかそんなことを言われるとは思っていなかったから……カザハナの方こそ、熱でもあるんじゃ」

カザハナ「熱なんてないから! なによ、人が心配してるのに、それとも、あたしじゃ力になれないってこと?」

レオン「……いや、そんなことはないよ。実際は考えてるっていうより、悩んでるって言ったほうがいいかもしれない。どうすればいいか、わからなくて」

528: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/27(金) 01:06:31.93 ID:VezPjyko0
カザハナ「うん、だったらあたしに話してよ。その……サクラみたいに答えなんて出せないかもしれないけど、ほら、悩みは口に出せばすっきりするって言うし、それにあたしが聞いて何か不利になることでもないでしょ?」

レオン「ははっ、なんていうかカザハナらしい言葉だね……他言しないでくれるかな?」

カザハナ「うん、約束する。だからさ、早く言ってよ。聞くだけならあたしにだってできるんだから」

レオン「……たしかにそうだね」

カザハナ「なんか、若干馬鹿にされた気がするんだけど」

レオン「さぁ、どうだろうね?」

カザハナ「ふーん。まぁいいけど、それで悩み事っていうのはなに?」

レオン「実は――」


~~~~~~~~~~~~~~~~~


カザハナ「戦う理由?」

レオン「戦う理由があるからマクベスは非道なことができると、姉さんは言っていた」

カザハナ「どうして、あんたがそれを気にするのよ。人は人で、それに戦う理由があるからってそれが非道なことを行う理由になるわけないじゃない」

レオン「……姉さんだって、非道な行動を容認してるわけじゃないよ。でも、マクベスにはその戦う理由があって、だから嫌なことも行える」

カザハナ「まさかだと思うけど、マクベスが無理して非道なことをしてるって思ってたり?」

レオン「それはないね。この場合の嫌なことって言うのは……、嫌な奴と話をするみたいなそういうことだよ。僕がマクベスと話をしたくないようにね」

カザハナ「前蹴られたことがあるから、それには同意かな、できればあたしも話したくないし」

レオン「マクベスは姉さんを嵌めたばかりで、それを考えたら姉さんの配下はマクベスに対して疑心の眼差しを向ける、普通なら近寄らない。でも、マクベスはここにやってきた。嫌なことなのにね」

529: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/27(金) 01:14:15.11 ID:VezPjyko0
カザハナ「ねぇ、レオン王子」

レオン「ん、何かな?」

カザハナ「まさかと思うけど、マクベスがカムイ様に話をしに来たけど、話したくないからそれを無視するようなことをしたとか?」

レオン「……ははっ」

カザハナ「まさかそんなこと――」

レオン「まぁ、その通りなんだけど」

カザハナ「」

レオン「その、憐れみを込めた眼で見るのやめてくれないかな」

カザハナ「……どうしてそんなことしたのよ。あんたに話があってマクベスは来たわけじゃないんでしょ?」

レオン「マクベスが何かするんじゃないかと思って、その姉さんのことを心配してそうした」

カザハナ「でも、結果的にカムイ様はマクベスと話をしたんでしょ?」

レオン「ああ。そして姉さんは嫌なことも受け入れられるマクベスの方が自分よりも優れている、そんなことを言ってた」

カザハナ「……優れているって」

レオン「だからかな。僕はマクベスよりも劣っているんじゃないかって思ってしまうんだ」

カザハナ「……」

レオン「僕はマクベスが気に入らない。シュヴァリエの一件でそれはもう揺るがない、姉さんを危険に晒したこともそうだし、何を考えているかわからない。そんな奴でも、私情に流されないで目的のために動いてる。僕は私情に流されて、マクベスを邪険に扱った。明らかに劣ってるじゃないか……」

530: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/27(金) 01:20:43.48 ID:VezPjyko0
カザハナ「……んかない」ギュッ

レオン「カザハナ?」

カザハナ「劣ってないって言ってんの!」

レオン「!!」

カザハナ「あんたがマクベスより劣ってるわけないよ。こうやって私たちのこと守り通せてるし、グラビティマスターなんてヘンテコな二つ名も持ってるし、あたしにダンス教えてくれてるし」

レオン「その二つ名はやめてくれないか」

カザハナ「いいじゃない」

レオン「よくないよ!」

カザハナ「なんで?」

レオン「そんな二つ名……恥ずかしいからに決まってるからだ」

カザハナ「だったら今回のことも同じように否定しちゃおうよ」

レオン「えっ?」

カザハナ「カムイ様の言葉で、自分の価値観決めちゃってるのに気づいてないの? 本当にカムイ様のこと大好きなんだね、レオン王子は」

レオン「そ、そんなこと……」

カザハナ「でも、何でもかんでもカムイ様の発言を基準に取るのは間違ってるってあたしは思う」

レオン「……」

カザハナ「それにあたしはレオン王子は優しい人だって思ってる。それにちゃんとしてるし、なによりそのかっこいいし」

レオン「……」

カザハナ「だから、その、あの、つまり、人からなんて言われてもレオン王子の価値はレオン王子自身にしか決められないってことを言いたくて……その」

531: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/27(金) 01:30:17.97 ID:VezPjyko0
レオン「それじゃ、カザハナの今の意見はどうなるんだい?」

カザハナ「い、今の……その、勢いで言っただけで、その……あー、今の忘れて!忘れないさいよ!////」

レオン「……ははっ、顔真っ赤で否定してるところを見ると、よっぽど恥ずかしかったみたいだね」

カザハナ「しょ、しょうがないでしょ。その、いろいろと変なこと言っちゃったんだから……優しいとか、カッコいいとか……。かっこいいはこの際置いておくけど、優しいって言うのは本当にそう思ってるから」

レオン「?」

カザハナ「だって、まだ私にダンス、ちゃんと教えてくれてるから。本当なら怒って帰ってるかもしれないのに」

レオン「出来ないことに立ち向かうって君は決めた。僕はそれを支える事にしたんだ。今回は、逆に支えられちゃったけどね」

カザハナ「…ははっ、そうかもね。今だけ立場が逆になってるもん」

レオン「だけど、カザハナの言う通りだよ。僕の価値は僕にしか決められない、こんな当たり前のことをずっと忘れていたなんてね」

カザハナ「ま、まあ、その、そういうわけだから。あー、なんかとっても暑いから、ちょっと外で風に当たってくるから、大丈夫すぐ戻ってくるから、追いかけてこないでよ!」

レオン「……ああ、わかったけど、すぐに戻るんだよ。練習を再開しないと、そうじゃないといつまでも立場がこのままだ」

カザハナ「うん、わかってるよ……。でもよかった」

レオン「?」

カザハナ「うん。レオン王子、昨日みたいな顔に戻ってる、やっぱりあんたはそうじゃないと、あたしも調子狂っちゃうから」

レオン「……なら、カザハナのおかげだね。ありがとう」

カザハナ「気にしないでいいよ。あたしは少し助言しただけなんだからさ」

 ガチャ バタン

カザハナ「……あたしってば、恥ずかしいなぁ、もう////」

540: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 11:21:47.78 ID:ltMG1j0F0
◇◆◇◆◇
―暗夜王国・王都ウィンダム・エリーゼ邸―

エリーゼ「ど、どうしよう……」

ハロルド「むっ、エリーゼ様? どうしました?」

エリーゼ「あっ、ハロルド。ううん、なんでもないの」

ハロルド「いえ、そんな悲しそうな顔で何もないといわれましても、ハロルド力になれることがありましたら、なんなりとお申し付けください!」

エリーゼ「でも……それじゃ、ハロルドとの約束、破っちゃうことになるから」

ハロルド「? どういうことでしょうか」

エリーゼ「……そのね、この前のお買いもの、実は絵画を一つ頼んだの」

ハロルド「絵画ですか。良いですな、一体どんな絵か楽しみです」

エリーゼ「うん、ありがとう。でも、このままじゃ飾れないって気づいちゃったの」

ハロルド「というと?」

エリーゼ「ここに飾りたかったんだけど、額縁の大きさが上回ってるから……」

ハロルド「なるほど、しかし、なぜここに? ここは私とエルフィくんがエリーゼ様に呼ばれた際にお使いになる各自の部屋の近くですが」

エリーゼ「うん、二人に見てもらいたいって思ってる絵だったんだ。きっと気に入ってくれるって思ったから、でも……このままじゃ飾れないから」

ハロルド「エリーゼ様。私たちのことを思って……。ですが、ここに置くのは難しそうです」

エリーゼ「うん」

ハロルド「ならば、エリーゼ様、一緒における場所をお探しします。このお屋敷にはまだまだ絵画を置けそうな場所はあります」

エリーゼ「で、でも、もともと二人に見てもらいたくて」

ハロルド「はい、そのお気持ち確かに受け止めました。ですが、飾れないことでエリーゼ様のお顔が悲しみに沈むことがあってはなりませんからね」

エリーゼ「ハロルド……ありがとー」

ハロルド「それでは、絵画を飾れる場所を探しに行きましょう」

エリーゼ「うん!」


【エリーゼとハロルドの支援がBになりました】

541: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 11:24:50.57 ID:ltMG1j0F0
◇◆◇◆◇
―暗夜王国・北の城塞―

エルフィ「フェリシア、前の戦闘でわたしを庇って前に出たのはなぜ?」

フェリシア「な、何のことですか?」

エルフィ「恍けてほしくないわ。あの時の攻撃、フェリシアが前に出てはじく必要なんてなかった、わたしなら問題なく受け切れた攻撃だったもの……」

フェリシア「そ、それは……」

エルフィ「フェリシア、わたしはそんなに頼りないかしら?」

フェリシア「そ、そんなことないです! エルフィさんはとっても強くて優しくて、どんな攻撃が来ても受け止めてくれるって思いますから」

エルフィ「それじゃ、どうして……」

フェリシア「私、まだエルフィさんに恩返しできてない気がするんです」

エルフィ「……それはあの時のことを言ってるの?」

フェリシア「……だって、一歩間違えたらエルフィさんの命を……」

エルフィ「ふふっ、フェリシアは引き摺りすぎよ。わたしはもうあの時のことをもう気にしてはいないわ」

フェリシア「でも……」

エルフィ「あの日、約束したでしょ?あなたが仲間になってくれるなら、わたしはあなたを守る盾になるって、わたしはその言葉の通りにフェリシアを守りたいわ。だからこの前は冷っとしたから…」

フェリシア「エルフィさん……」

エルフィ「フェリシアがもしも、あの攻撃で死んでしまっていたらわたしはとても辛い気持ちになってしまうから…」

フェリシア「でも、それじゃ、いつかエルフィさんが死んじゃいます……。わたしとか仲間とかじゃなくて、もっと自分のこと大切にしてもらいたいんです」

エルフィ「……」

フェリシア「あの時の攻撃が耐えられないものでも、エルフィさんは受け止めに行ってたはずだから……私だってエルフィさんが死んじゃったら……辛くて泣いちゃいます」

エルフィ「……フェリシア」

フェリシア「……ごめんなさい、失礼します」



【エルフィとフェリシアの支援がBになりました】

542: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 11:37:50.63 ID:ltMG1j0F0
 本篇はいつもくらいに

543: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 22:42:47.24 ID:ltMG1j0F0
◆◆◆◆◆◆
―レオン邸・女子レッスンルーム―

カムイ「ふぅ、これで一段落したところでしょうか?」

シャーロッテ「そうですね。思ったよりもカムイ様、ターン上達しませんでしたから、ようやく及第点ってところです」

カムイ「はぁ、モズメさんが羨ましいです。気配だけでもわかるくらい完璧じゃないですか」

シャーロッテ「飲み込み早いからもう教えること何も無くなっちゃいましたからねぇ。正直、もう教える側に回っても問題ないくらいになってますよ、あれ」

カムイ「そうですか、ところでサクラさんはどんな感じですか?」

シャーロッテ「サクラ様も問題なしです。ふふっ、結果的に言えば最後に形が出来上がったのはカムイ様になりますね」

カムイ「私が最下位ですか。ちょっと納得できませんね」

シャーロッテ「あれ、仕方ありませんって言うと思ってました」

カムイ「姉と慕ってくれるサクラさんに、それなりにお姉ちゃんらしい場所を見せたかったんですけど……」

シャーロッテ「そういえば、この前、サクラ様とダンスの練習してましたよね?」

カムイ「ええ、そうですが」

シャーロッテ「カムイ様、サクラ様に何したんですか?」

カムイ「なにって……」

シャーロッテ「とぼけてんじゃねえよ。あの時、戻ってきたサクラ様、涙我慢してたんだよ」

カムイ「……」

544: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 22:49:22.78 ID:ltMG1j0F0
シャーロッテ「一体何言ったんだよ……」

カムイ「……サクラさんの問いかけに、私としての答えを出せなかったのが原因だと思います」

シャーロッテ「問いかけ?」

カムイ「その内容は伏せさせてください。でも、私はそれに対する明確な答えを持っていなかった。だから、今の現状について思ったことを伝えるくらいしかできなかったんです」

シャーロッテ「カムイ様」

カムイ「ははっ、滑稽ですよね。お姉ちゃんらしい場所を見せたいなんて言っておきながら、結局はサクラさんを支える答えを用意できないんですから……」

シャーロッテ「はぁ……答えを用意することがサクラ様のためになるわけじゃないんですけど」

カムイ「え、だって――」

シャーロッテ「わかってねえな、おい。カムイ様って、身体つきはそれなりにいいですけど、なんて言うか考えが固すぎる気がします。こういう時は、もっとシンプルでいいんですから」

カムイ「シンプルって?」

シャーロッテ「そうですね、こういうのでもいいんですよ」

カムイ「……ひゃっ。しゃ、シャ―ロッテさん!? 何いきなり抱きついて――」

シャーロッテ「サクラ様はこれだけしてもらえればよかったはずですよ」

カムイ「……そ、そうなんですか?」

545: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 23:00:08.54 ID:ltMG1j0F0
シャーロッテ「言葉もあればいいですけど、その時カムイ様は何を言えばいいかわからなかったんですよね?」

カムイ「恥ずかしい話ですけど……その通りです」

シャーロッテ「なら、難しいことは考えないでいいんですよぉ。ただ、こうやって抱きしめて、大丈夫って言ってあげるだけでいいんですから」

カムイ「私はサクラさんに不安を与えていただけなんでしょうか?」

シャーロッテ「そう考えない、失敗は誰にだってありますから。転んで立ち上がるを繰り返して、上手な転び方を覚えるんですよぉ」

カムイ「転び方ですか?」

シャーロッテ「はい、私だって男で結構失敗してます……。でも、そういうの含めて今の私がいるんですよぉ」

カムイ「その媚びたしゃべり方も、転んだ練習の成果なんですか?」

シャーロッテ「ああもう! なんで茶々いれるんだよ。少しは素直に受け取れって言ってんの! まったく、少し隙を見つけると突いてくるその性格、良くないわよ」

カムイ「……それもそうですね。ごめんなさい」

シャーロッテ「……それに、カムイ様も女の子なんですから、こうやって抱きしめてもらいたいですよね?」

カムイ「どうでしょうか、私はどちらかと言うと抱きしめる側の立場が多かったような気もします」

シャーロッテ「まぁ、他人の顔触って喜んでるの見てると、そんな感じがしますけど」

546: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 23:11:03.20 ID:ltMG1j0F0
カムイ「うっ……その、御凸、触ってもいいですか?」

シャーロッテ「ふふっ、図星だからって人の弱点突くのは駄目ですよぉ? とにかく、カムイ様は女心を知るべきですよぉ」

カムイ「その、私が女泣かせみたいに聞こえる発言止めてくれませんか?」

シャーロッテ「仕方ないですよぉ、現にサクラ様を泣かせる寸前にしてるんですから。それに女の子は笑ってるのが一番可愛いんですよぉ、男たちがそう望むような笑顔は、とっても可愛いんですよぉ」

カムイ「男が望むようなですか?」

シャーロッテ「そうですよぉ。もちろん、カムイ様も笑顔が一番可愛いんですからぁ」

カムイ「……そ、そんなこと///」

シャーロッテ「あれれ、顔赤くしてますけど、どうしたんですかぁ?」

カムイ「抱きしめられてるから熱いだけです、あー熱いですね」

シャーロッテ「そうなんですか、それじゃ抱きしめるのやめますね」ニヤッ

カムイ「!!!! あ、あの!」

シャーロッテ「なんですかぁ? 熱いから離れるだけですよ?」

カムイ「……このままで。熱が引くまで、このままでお願いできますか?」

シャーロッテ「……はい、いいですよぉ」ニヤッ

シャーロッテ(ふふん、前回顔を触られたときはやられっぱなしだったけど、今回は私のペースに持ってきたわ。さてと、どれくらい顔を真っ赤にするかしら?)

カムイ「……シャーロッテさん」

シャーロッテ「なんですかぁ?」

カムイ「とってもあったかいです……」

シャーロッテ「ふふっ、そうで――」

カムイ「はい、手で触りたいくらいに」

 ピトッ

シャーロッテ「……え?」

547: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 23:19:39.92 ID:ltMG1j0F0
 ガチャ

モズメ「もどったでー、練習再開……せんと」

サクラ「すみません、今戻りました。あれ、モズメさん、どうしたんですか、何かあ――」

カムイ「ふふっ、シャーロッテさん、とってもあったかいですよ。とくにここら辺が一番あったかくて心地良いです」

シャーロッテ「ちょ、待ちなさいよ。そこは胸……、くひぃん!」

カムイ「どうしたんですか。熱が引くまで抱きしめてくれるって言ったじゃないですか……。約束守ってくださいよ。ほら、笑顔な私も付けますから」

シャーロッテ「へ、変なことするなら話は別――あっ、んっ、そんな手で触っちゃ……はふっ、いや、こんな、こんなはずじゃ……」

 バタン

モズメ「……」

サクラ「……」

 シャーロッテサン、ヤッパリトッテモヤワラカイデスネ
 ヤメ、カムイサ、ヒゥウッ、モウ、ユルシ―――

モズメ「壁越しでも聞こえるもんやな/// シャーロッテさん、カムイ様に何か言ったんかな?」

サクラ「……もしかしたら、私のことで姉様に何か言ってくれたのかもしれません」

モズメ「ん?」

サクラ「この前、姉様と話して戻ってきた時、すぐにシャーロッテさん話しかけてくれましたから。なんで泣きそうな顔してるのかって心配されました」

モズメ「そうなんか。シャ―ロッテさん、あたいのこともいっぱい褒めてくれて、ほんまええ人やなって」

サクラ「はい、その、やっぱり助けに入ったほうがいいんじゃないでしょうか?」

モズメ「せやな、ここは二人力あわせて、カムイ様からシャーロッテさんを―――」

 フフッ、ドウシタンデスカ、シャーロッテサンノカラダ、ワタシヨリアツクナッテマスヨ
 ナイ、ナイカラ、ワタシ、ソンナシュミ! フニュウウウウウ!!!!!

モズメ「……助けたいとこやけど、あたいたちには刺激強すぎる気がすんねん////」

サクラ「はい……シャーロッテさん、許してください/////」

548: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 23:25:29.63 ID:ltMG1j0F0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸・外―

~舞踏会当日~

カムイ「お疲れ様です。フローラさん、ジョーカーさん」

フローラ「カムイ様、ダンスの練習の結果はどうでしたか?」

カムイ「はい、どうにか今日の舞踏会までには間に合ったというところです。シャーロッテさんによく教えてもらえましたから」

ジョーカー「カムイ様のダンス、とても楽しみにしております。といっても、私は給仕としてお近くにいる以外にできることもないんですが」

カムイ「いいえ、皆さんには色々なことを頼んでいますから。ところでアクアさんたちは?」

ジョーカー「はい、先に舞踏会の会場へと向かわれておりますので、ご安心ください。またギュンターとフェリシアも、すでに会場に入っておりますので心配要りません」

カムイ「そうですか、わかりました」

フローラ「カムイ様、私たちはこちらでお待ちしておりますので。皆さんの準備が出来次第、声をおかけください」

カムイ「はい、わかりました。少しの間ですが、待っていてください」

 タタタタタタタタッ

549: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 23:35:46.64 ID:ltMG1j0F0
フローラ「……父さんも出席するらしいわ。ガロン王は部族の方々にも招待状を出しているようだから」

ジョーカー「表向きは娘の晴れ舞台と言ったところだが、実際は権力の誇示、カムイ様をこういうことに使われるのは胸糞悪いな」

フローラ「そうね。同時にカムイ様へに対する部族の方たちの目を潰そうと考えているのかもしれない」

ジョーカー「そうか……。お前の親父はどっち側だと思う?」

フローラ「……前だったなら、間違いなく向こう側の方だったと思うわ。私が一度カムイ様を裏切ったように、父さんも切り捨てたでしょうね」

ジョーカー「それは前の話だ、重要なのは今どうなのかってことだ」

フローラ「そうね。父さんがどう考えているかはさすがにわからない、だって私は父さんじゃないもの」

ジョーカー「頼りない言葉だな。そこは自信を持って言ってもらいたいところなんだが」

フローラ「ジョーカーのことを信用しているから、こうやって思ったことを言えるのよ。希望的観測で物を言えるほど、今はいい状態じゃないから」

ジョーカー「それもそうか」

フローラ「でも、そうね希望的に言っていいなら、父さんはカムイ様のこと信じているはずよ」

ジョーカー「なら、それでいい。またお前たちが敵に回るような事態は、ごめんだからな」

550: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/28(土) 23:44:19.22 ID:ltMG1j0F0
フローラ「……安心してそれはないわ」

ジョーカー「ほう、自信満々だな」

フローラ「あの日、星海に私たちをカムイ様が招待してくれた時に、私とフェリシアは覚悟を決めた。だから、父さんも私たちと同じ道を進んでくれるって信じられる」

ジョーカー「……カムイ様が俺たちを信用してくれたからこそ、こうして頼まれたんだ。しかし、お前に見抜けるのか?」

フローラ「父さんが来るなら、私はその近くで調べるつもりよ。部族には部族同士だからこそ、わかることがあるもの」

ジョーカー「なるほどな、それなら俺はカムイ様の傍で目を光らせるってことになる。ふっ、これはカムイ様から信頼されてる俺だけに許された特権だな」

フローラ「あら、そんなこと言ったらフェリシアも一緒にいるって話になってるから、フェリシアにもその特権があることになるわね」

ジョーカー「うっ、まあいいさ。何よりも重要なことは、俺たちの情報がおのずとカムイ様の今後に直結するってことだけだからな」

フローラ「ええ、私たちは多分、それと一緒にカムイ様に付いて行くことになる。だから、一度確認してくれた。付いて来てくれるかどうか」

ジョーカー「カムイ様らしいが、正直俺は傷ついたぜ。まさか、ここまで仕えてきたのに確認されるなんてな。まだまだ、奉仕の精神が足りなかったってことだろうな」

フローラ「ジョーカーで足りないなら、私とフェリシアじゃ、足もとにも及ばないわね」

ジョーカー「当り前だ」

フローラ「でも、聞かれたのは仕方ないことよ。だって、今から私たちが調べることは、極端に言えば切り捨ての選別に他ならない行為だから」

ジョーカー「……俺たちは主の仕事が円滑に進むように言われたことをきっちり調べるだけだ、そしてそのあとは一度カムイ様に任せるしかない。どんな決断、結果になっても俺はカムイ様に付き従い続ける、ただそれだけのことだ」

フローラ「……ええ、私も同じ考えよ。だから安心して、ジョーカー」

ジョーカー「なら、それでいいさ」

554: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/29(日) 00:53:12.73 ID:sc7F37/E0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ラズワルド「うん、この格好なら多くの女の子とお話しできる気がする」

ハロルド「ふむ、中々にかっこいいぞ、ラズワルドくん。だが、あまり多くの女性に声を掛けると主君であるマークス様に迷惑が掛るかもしれないこと、忘れてはいけないよ」

ラズワルド「……やっぱりマークス様も舞踏会に来てるんだよね。でもさ、今日はカムイ様のための場所だから、多めに見てくれるかもしれない」

ハロルド「むしろ、カムイ様の式典だからこそ、マークス様も十分に気を使うと思うのだがね」

ラズワルド「……ちょ、ちょっとだけだからさ、これだけ、これだけだから」

ツバキ「それって典型的に駄目な人の言葉だよねー。でも、よかったよー、ハロルドもうまくダンスができるようになって」

ラズワルド「うわっ、ツバキ、すごく似合ってるじゃないか……」

ツバキ「でしょ、着こなしも完璧にしないと駄目だからねー。一緒に一曲踊ってくれる人に失礼のないように気を配らないと」

ハロルド「うむ、その通りだな。私も良い感じに着こなせたので満足しているぞ!」

 ビリッ

ハロルド「……」

ツバキ「……ビリッ?」

ラズワルド「ハロルド?」

ハロルド「……なぜこういうタイミングに限って、布が破けるのか」

ツバキ「あー、これで何着目だっけ?」

ラズワルド「今日だけでも二十着は破いてる気がするよ。しかも、特に無理をしてるってわけじゃないのに破れるから、見ててとても不思議な気持ちになるよ」

ハロルド「ここで今日の不運をすべて帳消しにできるとよいのだが……。さすがに舞踏会の最中に破けてしまったら、カムイ様もそうだが、主君であるエリーゼ様に恥をかかせてしまう……」

555: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/29(日) 01:02:13.58 ID:sc7F37/E0
ツバキ「でも、すごい不運だよねー。暗夜一の不運の持ち主って言うのは伊達じゃないね、近くにいたら俺たちの服も破れかねないよー」

ハロルド「ぐっ……、酷いことを言われているが、なまじそうなるかもしれない分、何も言い返せない」

ラズワルド「不運なのは仕方ないことと割り切るしかないかな。でも、大丈夫、これ以上悪いことなんて起こらないよ、ハロルドも一生懸命練習を頑張ってきたんだから」

ハロルド「ラズワルドくん」

ラズワルド「………多分ね」

ハロルド「……」

 コンコン

シャーロッテ『すみません皆さん、私たちのほうの準備が整いましたぁ』

ハロルド「その声はシャーロッテくん……。さすがに迎えを待たせている以上、仕方無い。すぐに着替えていくとしよう、大丈夫だ、実際破いてしまった服の数は十九着ほど、これ以上はないはずだ」

ラズワルド「数えてたんだね、ハロルド」

ツバキ「うん、本当にそうだといいねー」

ハロルド「よし、破けたのは上着だけのようだ。これでよし」

 ガチャ

ハロルド「すまない、待たせてしまったようでもうしわけな――」

シャーロッテ「ふふっ、女の人を待たせるなんで駄目ですよぉ。でも、皆さんとっても似合ってますよ」キラキラ

モズメ「うわぁ、みんなかっこええな」キラキラ

サクラ「皆さん、すごく似合ってます!」キラキラ

カムイ「ふふっ、ハロルドさん達、皆さんから太鼓判を押されましたね、私も見れないのがとても残念です」

556: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/29(日) 01:10:16.03 ID:sc7F37/E0
ハロルド「シャ、シャーロッテくん。キミは、その……胸元が強調されたものを選ぶようだね///」

シャーロッテ「はい、これヒラヒラしてる場所とか可愛くて、えへっ。ハロルドさんもとっても似合ってますぅ」

モズメ(仮面付けるの速いわ。さっきまで話してたシャーロッテさんと、違い過ぎてびっくりしてまう)

ラズワルド「モズメも可愛いね。あと、薄く化粧してるのかな? いつも以上に可愛いよ」

モズメ「おおきに。でもシャーロッテさんに化粧教えてもろうて、ようやく少し出来るようになったんよ/// ラズワルドさんも、いつもよりかっこええよ」

ツバキ「サクラ様、すっごく似合ってますよー」

サクラ「ツバキさん、ありがとうございます。ふふっ、ツバキさんもとても素敵ですよ」

ハロルド「おや、カムイ様はドレスを着ないのですか?」

カムイ「はい、私には式典用にドレスがあるそうなので、それを舞踏会の会場で渡していただけるそうです」

ハロルド「なるほど、どうにか間に合ったようだ、あとはお互い全力で臨むまで……むっ? カザハナくんの姿が見えないが……」

カムイ「ああ、それなんですが。少しトラブルがあって……」

ラズワルド「トラブル? いったい何があったんだい、まさか怪我をしたとか?」

サクラ「いや、誰かが怪我をしたってわけじゃないんです。レオンさんも足は痛いけど問題ないって、朝仰ってましたから」

ツバキ「それは怪我してるって言うんじゃないかなー。まぁ、レオン王子が大丈夫って言ってるから大丈夫なんだろうけど、それじゃどんな問題が?」

シャーロッテ「その、実は―――」

557: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/29(日) 01:18:47.55 ID:sc7F37/E0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「……僕としたことが、なんてミスをしたんだろう」

レオン(姉さんのこととかにうつつを抜かしてて、まさかドレスの試着もさせてあげてなかったなんて)

レオン「はぁ、今日ぶつけ本番で踊るのと、これじゃ何も変わらないじゃないか……」

 コンコン

カザハナ『ね、ねえ……レオン王子』

レオン「カザハナ? どうだい、その…ドレスの方は……」

カザハナ『え、えっと。メイドさんに手伝ってもらえて、どうにか選べたけど……』

レオン「そうか、それじゃ見せてくれないかな?」

カザハナ『う、うん……』

 ガチャ

レオン「……」

カザハナ「ど、どうかな? その胸の花はあたしが選んだんだけど……えへへ」

レオン「あっ、うん……その、えっと」

カザハナ「や、やっぱり突然選んだのじゃ、似合ってないよね。あたし、そういうのって自信ないからさ……」

レオン「そんなことないよ、とても似合ってるよ」

カザハナ「それってやっぱり、お世辞なのかな?」

レオン「お世辞にするんだったら、そうだね。『まるで荒野に咲く一輪の華麗な花みたいだ』とか、そんな風に言ってあげるよ」

カザハナ「あはは、たしかにその言葉だとお世辞って感じする。でも、よかった。こういうの着るの初めてだから、全然似合ってないの選んじゃったと思ってたから」

558: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/29(日) 01:28:05.69 ID:sc7F37/E0
レオン「……ごめん」

カザハナ「何、いきなり謝ったりしてさ。もしかしてさっきの言葉、やっぱりお世辞だったってこと?」

レオン「ちがうよ、本当ならもっと選べるドレスがあったからもしれない、それにドレスでのダンスなんてまだ練習もしてない、なのにこんな形になってしまったから…」

カザハナ「そうだね。このまま、ぶつけ本番で誰かと踊るのってかなり難しい気がする。でも、仕方無いよ、ほら、あたし上達するの遅かったから……」

レオン「……いや、僕の教え方が良くなかったんだ。それに、姉さんのことでいろいろと考えてたこともあるし、本当にごめん」

カザハナ「なら、お互いに悪いところがあったってことで両成敗ってことにしよ。それで解決、この話はおしまい、ね?」

レオン「カザハナ……」

カザハナ「それよりも、会場についたらあたしのこと、ちゃんと支えてよ。さすがに練習もなしにいきなり踊るのなんて無理な話だからさ」

レオン「……両成敗で終わりじゃなかったのかな?」

カザハナ「それとこれとは話が別よ。だって、まだ完璧に仕上がってないんだから……あたしが完璧にできるまで見る約束だったでしょ?」

レオン「……仕方ないね。なら、僕の足にももう少し犠牲になってもらう必要があるってことかな。結構、これでも痛いのを我慢してるんだけどさ」

カザハナ「ここでそういうこと言うのやめてよ。まぁ、絶対踏んじゃうと思うけど」

レオン「まったく、悪びれないんだね」

カザハナ「それはあんたもでしょ?」

559: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/29(日) 01:36:53.06 ID:sc7F37/E0
レオン「……」

カザハナ「……」

レオン「あははっ」

カザハナ「うふふっ」

レオン「まぁ、精々転ばないように気をつけるんだね。さすがに転びそうなのは支えられそうにないからさ」

カザハナ「はいはい、わかってるわよ。足踏ん付けて踏ん張ってやるんだから」

レオン「それじゃ、いこうか」

カザハナ「うん。見てなさいよ、絶対成功させてやるんだから………」

レオン「ああ、楽しみにしてるよ」

カザハナ「えへへ…………あれ?」

カザハナ(なんかおかしい?)

レオン「どうしたんだい、カザハナ」

カザハナ「えっとさ、その、似合ってる?」

レオン「似合ってるよ」

カザハナ「……」

レオン「お世辞じゃないって言ったよね?」

カザハナ「いや、わかってるよ。その……ありがとう」

レオン「それじゃ、みんなを待たせてるから行こうか」

カザハナ「うん……」

カザハナ(やっぱり勘違いだったってことかな? 似合ってるって言われても全然ドキドキしないし……)

カザハナ「そうだよね……、そんなわけないよね……」

レオン『似合ってるよ』
 
 ドクンッ!

カザハナ「!?」

カザハナ(ど、どうして思い出すとドキドキするのよ……)

カザハナ「なにこれ、意味わかんない……」ボソッ

560: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/29(日) 01:44:21.37 ID:sc7F37/E0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城前―

 ガチャ

ジョーカー「カムイ様、クラーケンシュタイン城に到着いたしました」

カムイ「はい、ありがとうございます。……少し冷えますね」

ジョーカー「はい。すでに皆様の受け付けは、フローラが済ませに向かいましたので、どうぞ私について来てください」

カムイ「はい、わかりました」

ジョーカー「カムイ様。フリージアのクーリア様も来賓として招かれているそうです」

カムイ「そうですか、わかりました。これでフローラさんも作業がしやすくなりますね」

ジョーカー「はい……王族周りはギュンターが担当しています」

カムイ「そうですか。ギュンターさん一人で大丈夫でしょうか?」

ジョーカー「私たちもそこを気にしましたが。長く仕えている私にしか見えないものもあると言っておりましたので、一任することにしました」

カムイ「ギュンターさんらしいですね。わかりました、あとはフェリシアさんだけですが……」

フェリシア「あっ、カムイ様! お待ちしておりましたー!」

ジョーカー「噂をすれば影ですね」

カムイ「そのようです。すみません、フェリシアさん。先に会場へ向かってもらって」

フェリシア「いいえ、私にできることなんてこれくらいですから。アクア様や他の方はもう入られてますよ、カムイ様」

カムイ「わかりました。それじゃ、ジョーカーさん、フェリシアさん。私の付添、よろしくお願いしますね」

ジョーカー「おまかせを」

フェリシア「はい、まかせてください」

カムイ「はい……」

カムイ(さぁ、行きましょうか)

(これからの指針を決める第一歩になる、この舞踏会に……)


休息 5 おわり

561: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/29(日) 01:47:01.47 ID:sc7F37/E0
○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラC+→B
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキD+→C
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテC+→B
(返り討ちにあっています)

571: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 21:54:27.11 ID:r2P6YPdT0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

アクア「カムイ、遅かったわね」

カムイ「アクアさん。すみません、少し遅れてしまったようですね」

アクア「そうね……、でもよかったわ。土壇場で嫌になったのかと思ったから」

カムイ「さすがにそんなことはしませんよ。私のために色々な方が準備をしてくれて、この場に来てくださっているんですから」

アクア「ええ、部族、貴族、軍部の関係者。多くの人が来ているのは確かよ。ガロン王はやっぱり、あなたの力を多くの人たちに示したいみたいね」

カムイ「それが、お父様が目指すことの第一歩なのかもしれません。例の一件で、私がしたことを利用しない手はないでしょう」

アクア「……それが原因で多くの人から敵意の眼差しを向けられるかもしれない事態になるかもしれないのよ?

カムイ「望むところですよ。それにそうでなければ、お父様の話に乗った意味がありません。私は自分で道を選ぶために、ここにいるんですから」

アクア「……カムイ」

カムイ「ささっ、アクアさんも今日は舞踏会を楽しみましょう。いっぱいおいしいものも出るそうですから」

アクア「ねぇ、カム――」

 スッ

???「それっ!」

アクア「ひゃんっ!」

572: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 22:08:36.02 ID:r2P6YPdT0
???「ふふっ、やっぱり柔らかいわね、アクアは」

アクア「その声……カミラ?」

カミラ「ふふっ、会場で一番にカムイに声を掛けようと思ってたのに、アクアに先を越されちゃって、お姉ちゃん悲しいわ」

カムイ「カミラ姉さん、お久しぶりです」

カミラ「ええ、レオンのお屋敷で舞踏会の準備だったんでしょう? お疲れ様、それで結果はどうかしら?」

カムイ「シャーロッテさんに及第点と言われるくらいにはなりました。少しターンがうまく決まらなくて、ちょっとまだ不安です」

カミラ「ふふっ、カムイにも苦手なことがあるのね。お姉ちゃんならもっと親身になって教えてあげるのに」

カムイ「今度、舞踏会がある時はお願いしますね」

カミラ「ええ、……」

カムイ「カミラ姉さん?」

カミラ「本当はお父様がカムイを認めてくれたと喜ぶべきなのに、手放しに喜べないわ」

カムイ「……」

カミラ「だって、今日カムイは多くの知らない男たちと踊るのよ。拒否権が無いカムイは誘われるままに踊らないといけない、そう考えるとね……」

アクア「え、そっち?」

カミラ「他に何か心配することがあるかしら?」

アクア「カムイが権力の誇示としてつかわれるから喜べないってことかと思ったのだけど」

573: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 22:18:11.57 ID:r2P6YPdT0
カミラ「……それは確かにあるわ」

アクア「なら、どうして?」

カミラ「だって、カムイはこの道を選んだんだもの。なら、それを支えてあげるのが、お姉ちゃんの役目だから」

カムイ「カミラ姉さん……」

カミラ「ふふっ、カムイが選んだことに疑問を投げかけることは簡単よ。だけど、時には信じてあげないといけないから、私はカムイの道を信じることにしたの」

カムイ「ありがとうございます」

カミラ「ふふっ。でも、疲れたりしたらお姉ちゃんのことをちゃんと頼ってちょうだい、私はカムイのお姉ちゃんなんだから」

カムイ「はい……。もしも、その時が来たらいっぱい甘えさせてくださいね」

カミラ「ええ、甘えてもらえるのはお姉ちゃんの特権だからね」

アクア「なら、私もお姉ちゃんになれるわね」

カミラ「えっ?」

アクア「……あ」

カムイ「確かに、アクアさんには多く甘えてしまいましたから。アクアさんもある意味、お姉ちゃんと言えなくもないですね」

アクア「……ごめんなさい。な、なんのことなのか、さっぱりわからないわ」

カミラ「ふふっ、アクア、舞踏会が終わったら私のお屋敷で話をしましょう? そうね、お風呂に入りながらなんてどうかしら?」

アクア「その、うれしい誘いだけど。私は歌と踊りの練習があるか――」

カミラ「ふふっ、私はアクアのお姉ちゃんでもあるから、いっぱいいっぱい甘えさせてあげるわ。カムイの分もいっぱい甘えさせてあげる」

カムイ「カミラさんとアクアさん、とっても仲良しですね」

カミラ「ええ、だってアクアも大切な妹だもの、ねぇ?」

アクア「そ、そうね……」

カミラ「ふふっ、それじゃカムイ。中でまた会いましょう」

カムイ「はい」

574: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 22:29:06.68 ID:r2P6YPdT0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

マクベス「ふむ、持ち物の調査もこれほど厳重にしておけば大丈夫でしょうが」

カムイ「マクベスさん」

マクベス「これはこれは、カムイ王女。どうかなされましたかな?」

カムイ「いえ、会場の護衛の件もありましたので、ご挨拶に伺ったまでです」

マクベス「そうですか、ありがたく受け止めさせていただきますよ。しかし、これでようやく私も軍師としての采配をふるう機会を得るというものでしょう」

カムイ「……白夜侵攻ですね」

マクベス「流石にこれくらいは察することができるようですな。今や、白夜は風前の灯火と言っても過言ではないでしょう、カムイ王女の活躍で暗夜内の不穏分子は、一掃されたも同然ですからな」

カムイ「心置きなく、白夜侵攻の作戦を練ることができる……そういうわけですね」

マクベス「そうなりますな。しかし、最初は部族の者たちが多く参加すると聞いて、何かしてくるかと心配しましたが、どうやら杞憂に終わったようです」

カムイ「シュヴァリエの反乱と、他の部族の方々はなにも関係ないはずですよ?」

575: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 22:39:00.25 ID:r2P6YPdT0
マクベス「ふん、シュヴァリエの反乱に乗じて事を起こそうと考えていた者たちもいなかったとは言い切れませんからな。それに、彼らには信じる何かがあったようですが、それも今や掻き消えたということでしょう。当然といえば、当然のことですが」

カムイ「当然ですか?」

マクベス「ええ、ガロン王様が導く先にこそ、暗夜の発展と栄光があり得るのですから、それを見誤るような者たちが見た幻想は掻き消えて当然の物。炎の先に揺らめくだけの蜃気楼だけしか見えない者たちには、ガロン王様の見据える先の世界が見えていないのでしょう。嘆かわしいことですな」

カムイ「……お父様の見据える先ですか」

マクベス「長きにわたる暗夜と白夜の戦争も、ようやく終わりが見え始めたました。故に、その先にある新しい戦いをガロン王様は見据えておられることでしょう。そして、カムイ王女もガロン王様に認めてもらうのですから、同じように先を見据えられるようにならないといけませんな」

カムイ「……そうですね。確かにその通りですね」

マクベス「……おや、やけに素直ですな」

カムイ「いいえ、マクベスさんの言っている先を見据えられるようにならなければいけないということは、間違いなくその通りでしょうから」

マクベス「ふん、カムイ王女がガロン王様のように見据えられるには、まだまだ多くの時間がかかるでしょうな」

カムイ「そうですね。未熟な身ですが、頑張らせてもらいますよ」

マクベス「……長話はここまでです、早く中へお入りください」

カムイ「?」

マクベス「もう、舞踏会が始まります。私はまだ警護の任がありますのでね」

カムイ「そうですか、では失礼しますね」

マクベス「はい、それでは」

576: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 22:49:55.45 ID:r2P6YPdT0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ジョーカー「カムイ様、こちらです」

フェリシア「ガロン王様の挨拶が終わったみたいです」

カムイ「すみません、ちょっとお話をしすぎてしまったようですね。お父様の元にすぐ――」

ジョーカー「いえ、カムイ様の王族としての儀は表向きには伏せられておりますので、まだカムイ様の出番ではないと思われます。時間になれば使いが来ることでしょう」

カムイ「そうですか、少し冷や冷やしましたが。それでは、それまでの間は私たちも中に入りましょうか」

フェリシア「はいっ」

 ♪~ ♪~

カムイ「多くの気配がありますね。私はえっと、待っている立場であればいいのでしょうか?」

ジョーカー「そうですね。誘われない限りは、特に動く必要もないでしょう」

カムイ「そうですか」

カムイ「……」

カムイ「……」

カムイ「待っていますけど、誘われませんね。魅力不足ということでしょうか?」

ジョーカー「カムイ様の魅力は素晴らしいものですよ。ですが多くはカムイ様の名前だけを知り、顔を知らない者たちばかりなのでしょう。仕方ありません」

カムイ「これでは、練習の成果をジョーカーさんにお見せできませんね」

???「なら、僕と一曲どうですか? カムイ様」

577: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 22:58:11.51 ID:r2P6YPdT0
カムイ「?」

ラズワルド「どうも、カムイ様。少しの間姿が見えなかったんで心配しましたよ」

カムイ「ラズワルドさん……。どうです、舞踏会で可愛い女の子を見つけられましたか?」

ラズワルド「それなら、今目の前にいますよ」

カムイ「…ふふっ、面白いことを言いますね、ラズワルドさんは」

ラズワルド「いいえ、カムイ様はとても可愛いですよ。どうです、僕と一曲踊ってみませんか?」

カムイ「ふふっ、何人の方に、こんな感じで声を掛けたんですか?」

ラズワルド「……その……四人です。全部袖にされちゃって、舞踏会の席だから踊ってくれるって思ったんですけど、おかしいですよね」

カムイ「ふふっ、ここで私がラズワルドさんの手を取っちゃったら、連敗記録にストップが掛ってしまいますね。どうしましょうか?」

ラズワルド「ううっ、だ、だめですか?」

カムイ「ふふっ、冗談ですよ」スッ

ラズワルド「!」

カムイ「今日、初めて踊ることになったのはラズワルドさんですね」

ラズワルド「えへへっ、そう言われると、なんだか嬉しくなります、カムイ様」

カムイ「それじゃ、よろしくお願いしますね」タッ

ラズワルド「はい、喜んで。では、こちらに」

カムイ「はい」

578: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 23:08:43.30 ID:r2P6YPdT0
ラズワルド「ターンだけが苦手なんですよね?」

カムイ「はい。ラズワルドさんのステップとっても軽やかですね」

ラズワルド「踊るのには自信があるんで、でも、まさか最初がカムイ様になるなんて思わなかった」

カムイ「ふふっ、でも奇麗に踊れているなら、私と踊り終わったあとに声をいっぱいかけてもらえるかもしれませんよ?」

ラズワルド「確かにそうかも。なら、カムイ様、奇麗に踊り切っちゃいましょう」

カムイ「ふふっ、あ、そろそろターンですね」

ラズワルド「うん、それじゃここで、それっ!」

クルクルクル カッ

カムイ「あっ……」

ラズワルド「カムイ様!?」

 ガシッ

ラズワルド「!」

カムイ「すみません、やっぱりまだまだみたいですね」

ラズワルド「いや、その、だ、大丈夫ですか?」

カムイ「はい、ふふっ、ラズワルドさんの心臓の音、とっても大きくなってますね……」

ラズワルド「そ、それはその密着してるからであって」

カムイ「それもそうですね。ふふっ、こうして触ってみると、ラズワルドさんもやっぱり男性なんですね」

ラズワルド「か、カムイ様。その言葉はなんだかとても危ない気がするのでやめてください」

カムイ「そうですか。ふふっ、からかってしまってごめんなさい」

ラズワルド「からかうのはやめてくださいよ。こんなのマークス様に見られたらどうなるかわからないんですから……」

579: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 23:18:27.14 ID:r2P6YPdT0
カムイ「はい、ごめんなさい。ラズワルドさんは、こんなことをする私のこと、ちゃんと支えてくれるんですね」

ラズワルド「……約束したよね、カムイ様よりも先には死なない、だから君を守るって」

カムイ「…ラズワルドさんの使命が果たされる日が来るといいですね」

ラズワルド「僕はカムイ様を守りつづける限り、その機会が必ず来るって信じてるから。使命もカムイ様も、一緒に守ってみせるから」

カムイ「ありがとうございます、ラズワルドさん」

ラズワルド「だからさ。今は心配せずに舞踏会を楽しんじゃおう。あっ、でもちょうど一曲終わるみたいだね……」

カムイ「そうみたいです。ふふっ、最後のターン以外はできたでしょうか?」

ラズワルド「はい、とっても上手にできてましたよ。ターンの失敗も注意すればなくなりますから、自信を持ってください」

カムイ「ありがとうございます……あの」

ラズワルド「なんですか?」

カムイ「ラズワルドさんも、お誘い頑張ってくださいね」

 タタタタタッ

ラズワルド「カムイ様……」

ラズワルド「最後の最後で厳しいことを言わないでほしいなぁ……」

580: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 23:28:25.26 ID:r2P6YPdT0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

サクラ「……はむっ、うん、甘くておいしいです。」

カムイ「……」

サクラ「あっ、こっちのケーキもおいしそうです。うーん、でもこれ以上食べちゃうとやっぱり、体重とか……でも、今しか食べられないかもしれませんし……」

カムイ「えっと、サクラさん?」

サクラ「ひゃいっ……か、カムイ姉様////」

カムイ「はい、てっきり舞踏会の中心で踊ってると思っていたんですけど……あの、何をされているんですか?」

サクラ「そ、その。ちょっと……ですね」

カムイ「とっても甘い香りがしますね、ここはデザートが並べられてる場所みたいですけど」

サクラ「そ、その、甘いものが食べたくて//////」

フェリシア「サクラ様、甘いものが大好きなんですね。先ほどからペロリ、ペロリッって、ケーキを食べちゃってますから」

サクラ「み、見てたんですか……」

カムイ「ははっ、意外と食いしん坊なんですね、サクラさんは」

サクラ「ううっ、恥ずかしいです。そ、そうです、姉様、今から一曲踊りましょう?」

カムイ「え、サクラさ――」

サクラ「新しく曲が始まるみたいですから、は、早く行きましょう!」

 タタタタタタッ

581: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 23:38:16.16 ID:r2P6YPdT0
カムイ「意外と強引ですね、サクラさんは」

サクラ「ふふっ、そうかもしれません。レオンさんにもよく言われましたから」

カムイ「そうですか」

サクラ「姉様……」

カムイ「どうしました、大丈夫ですよ、サクラさんがケーキをいっぱい食べてたこと、レオンさんやカザハナさんには……」

サクラ「そ、そういうことじゃないんです! その、この前シャーロッテさんに何か言われたんじゃないかって思って……」

カムイ「はい、サクラさんを悲しませるんじゃないって、怒られました」

サクラ「ごめんなさい、私、姉様を困らせるようなことを……」

カムイ「サクラさんが気にすることじゃありませんよ」

サクラ「でも……」

カムイ「ちょっと失礼しますね」

サクラ「えっ、ね、姉様いきなりどうしたんですか!?」

カムイ「すみません、ちょっとステップを間違えちゃったんです」ギュッ

サクラ「あっ……」

カムイ「………」

サクラ「………姉様」

カムイ「これくらいしか、今はできませんから」

サクラ「いいえ、ありがとうございます。姉様、もうステップ合わせられしょうですか?」

カムイ「はい、もちろんですよ」

サクラ「えへへ。私、姉様と一緒に踊れてとっても幸せです」

カムイ「そう言ってもらえて、とてもうれしいですよ。サクラさん」

サクラ「はい、私もです」

582: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/11/30(月) 23:43:47.18 ID:r2P6YPdT0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

カムイ「……」

ジョーカー「カムイ様……」

カムイ「はい、わかっています。時間のようですね」

 ザッザッザッ

衛兵「カムイ王女ですね」

カムイ「はい」

衛兵「ガロン王様があなたをお呼びです。同行していただけますか?」

カムイ「はい、ジョーカーさんはこちらでお待ちください。フェリシアさんは私と一緒に」

フェリシア「はい、わかりました」

ジョーカー「お気をつけていってらっしゃいませ。フェリシア、カムイ様のことは任せたぞ」

フェリシア「はい、しっかり着付けをさせてもらいますね」

カムイ「はい、よろしくお願いしますね。フェリシアさん」

衛兵「では、私の後について来てください、カムイ王女」

カムイ「はい……」

「わかりました」

588: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/02(水) 22:24:36.88 ID:1oNSGyk+0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・舞踏会会場―

マークス「ああ、その件は次回の議会で提出させてもらうことになっている。しかし、多くが実現するには時間掛るだろう、そして貴君らにも辛い時を過ごさせることになるかもしれない」

貴族「マークス王子、わたしたちもそれは覚悟の上でございます。マークス王子の取り計らいに農村部の方々も感謝しておられますから。それに与えられるだけでは人は疲弊し進めなくなるものです。マークス王子の行いは、必ずや多くの力となりましょう」

マークス「そう言ってもらえると私としても嬉しく思うぞ」

貴族「いいえ、それでは私は失礼いたします」

マークス「ああ……」

ギュンター「マークス様」

マークス「ん、ギュンターか。お前の執事姿を見るのは久々だな」

ギュンター「そうですかな。いや、そうでありましょうな。城塞にいる間はカムイ様に仕える騎士として過ごしてまいりましたので。ところで、今の御方は農村部の地域査察を行っている貴族の伯爵でしたな」

マークス「ああ、この頃になってノスフェラトゥによる被害が増え始めていることもあって、前から相談を受けていた。次の議会で地方の問題とともに提出することになっている。民が疲弊しては王国の繁栄はあり得んからな」

ギュンター「なるほど、ガロン王様も民に新たな豊饒な地を与えるために、白夜との戦争を続けてきましたからな。それが今叶おうとしているということでしょう」

マークス「……暗夜王国は土地に恵まれてはいない。白夜の地を手に入れることは暗夜王国に存在する、不満を解決しさらなる繁栄を連れてくるものだ。だが、父上はそれをこの頃口にしてはくれない」

ギュンター「……といいますと」

589: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/02(水) 22:34:11.08 ID:1oNSGyk+0
マークス「父上は、この頃侵略を成功させることを口にしているばかりだ。たしかに侵略の成功が一つの終わりであることは確かだ、父上に考えがある以上、私はそれを信じたい。だが、この頃の父上の口からは自国の民に対して行うべき政策は出ていない」

ギュンター「……」

マークス「そして、今回の件でカムイを表舞台に出すのは、権力の誇示でしかない。しかもこれではカムイが受けることになる視線の意味は……」

ギュンター「ガロン王様もこれからの白夜侵攻に向けて、国民の意思を一つにしようと考えているのでしょう。シュヴァリエの反乱鎮圧で、カムイ様のお名前は風の噂で多く広がっております、反乱を企てる者たちへの楔としてはこれほどに効果のある事はないでしょう」

マークス「楔……カムイが楔か……」

ギュンター「マークス様?」

マークス「いや、なんでもない。そういえばカムイを見ないが……」

ギュンター「お時間になったということでしょう」

マークス「……」

エリーゼ「あっ、マークスおにいちゃん!」

ハロルド「エリーゼ様、そのように走っては危ないですよ! これはマークス様、それにギュンターくん」

マークス「ふっ、エリーゼのお守か。世話を掛けるな、ハロルド」

ハロルド「いえ、エリーゼ様をお守りすることは当然のことです」

590: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/02(水) 22:43:15.79 ID:1oNSGyk+0
エリーゼ「えへへ、ハロルドってば過保護なんだよー。あたしだって、もう立派なれでぃなのに」

マークス「ふっ、自分でレディと言っているようでは、まだまだ背伸びをしたいお年頃ということだ」

エリーゼ「むーっ、マークスおにいちゃんまでそんなこと言うんだ! ふーん!」

ハロルド「エリーゼ様、こちらにおいしいケーキがありましたよ。これを食べて元気を出してください」

エリーゼ「え、いいの、わーい。ありがとうハロルド! うん、おいしー! これどこの棚にあるものかな?」

マークス「あの棚だな。ふっ、食べてる姿はさらに子供と言ったところか」

エリーゼ「うー、おにちゃんの意地悪」

マークス「ふっ、すまなかった」

エリーゼ「もう、じゃあ意地悪した罰で、あたしたちと一緒にケーキ食べよっ!」

ハロルド「それはいいですな。マークス様、ここのケーキはとてもおいしいですから一緒に食べに向かいましょう」

マークス「そうしたいのは山々なんだが……」

ギュンター「それがよろしいでしょう。多くの方とお話しされて、マークス様も少しお休みが必要でしょうからな」

マークス「ぐっ、見ていたのか、ギュンター」

ギュンター「そう思っただけですが、その通りでしたか?」

エリーゼ「仕事ばっかりしてると体壊しちゃうよ。大人は自分の体調管理もしっかりできて一人前だって、マークスお兄ちゃん言ってたよね」

マークス「ふっ、そう言われてしまってはお手本を見せないといけないようだな。よし、それでは向かうとするか」

591: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/02(水) 22:54:20.49 ID:1oNSGyk+0
エリーゼ「わーい!」

ハロルド「エリーゼ様、よかったですね」

ギュンター「では、私は戻らせていただきますゆえ、失礼いたします。マークス様」

マークス「ああ」

ギュンター「はい、それでは……」

エリーゼ「早く行こう、マークスお兄ちゃん!」

マークス「はしゃぐのもいいが、そんなに引っ張るものじゃないぞ」

ハロルド「そう言っている割には、マークス様もとても楽しそうですよ」

マークス「……エリーゼに心配を掛けるわけにはいかない。エリーゼの優しさは、カムイも持っていない純粋でまっすぐなものだ。いずれ、戦いが終わったときエリーゼの優しさが実を結ぶ時が来ると信じている」

ハロルド「マークス様……」

マークス「ハロルド」

ハロルド「はい」

マークス「これからもエリーゼのことを守ってやってほしい。これは暗夜王子としてではなく、エリーゼの兄であるマークスとしての願いだ」

ハロルド「……もちろんです。この正義の味方ハロルドにお任せください!」

マークス「ふっ、頼もしい返事だ」

エリーゼ「もう、二人とも! はやくしないとおいしいケーキ無くなっちゃうよ!」

ハロルド「エリーゼ様、棚の前で飛んではあぶないですよ!」

マークス「これでは大人の女性になるのはまだまだ先になるだろうな」

592: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/02(水) 23:04:52.78 ID:1oNSGyk+0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「はぁ、本当に思いっきり踏んでくれたね」

カザハナ「し、仕方ないじゃない……。その足滑っちゃったんだから」

ツバキ「ははっ、離れて見てたけど、レオン王子、足に穴とかあいちゃってるんじゃないかな?」

レオン「いや、今回は特注の靴を用意したから問題なかったよ」

カザハナ「特注の靴?」

レオン「ここ、叩いてごらん?」

カザハナ「……えいっ!」

 キンッ

カザハナ「なにこれ、レオン王子の凄く堅いんだけど……」

レオン「ああ、つま先から付け根に掛けて鉄板を入れておいた、これなら本気で踵落としでもされない限りは大丈夫だよ」

カザハナ「なにそれ、あたしどれだけ信用ないの」

ツバキ「仕方無いかなー。それにレオン王子のような立場の人が、舞踏会の場で苦痛な表情を浮かべるわけにもいかないし」

レオン「そういうことだよ。でも、カザハナを他の人と踊らせるのは無理そうだ。これじゃ、何人かを医務室送りにしかねないからね」

カザハナ「ううっ、悔しいけど全く反論できない」

ツバキ「もう五回は踊ってるけど、全部致命的に足を踏ん付けてるよねー。これはこれですごい才能だよー。うんうん、僕にはとてもじゃないけどできないなー」

カザハナ「他人事だと思ってるでしょ!」

ツバキ「実際他人事だからねー」

レオン「ツバキからしたら、そうだろうね。確かにドレスを着てダンスの練習ができなかったことは僕のミスだけど、その被害を真っ向から受け止める強度はないからさ」

ツバキ「カザハナのステップって早いからねー。レオン王子も流石に見切れなかったってことかな」

レオン「残念だけど、そうなるね。それを活かせれば、カザハナも戦闘面が強くなる気がしなくもないけどさ」

カザハナ「私だって、嫌でやってるんじゃないから。わかってるでしょ、ねぇ!」

レオン「はぁ……」

ツバキ「はぁ……」

593: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/02(水) 23:13:25.40 ID:1oNSGyk+0
カミラ「ふふっ、とても楽しそうね。レオン」

レオン「カミラ姉さん!」

カザハナ「え!?」

カミラ「ふふっ、二人とはこうして話すのは初めましてかしらね」

ツバキ「カミラ王女ですね、知ってますよー。俺はツバキって言います」

カザハナ「か、カザハナです。初めまして、カミラ王女様」

カミラ「ふふっ、カザハナは可愛いわね、なんだかとっても初心な反応で、様は付けなくても大丈夫よ。それと、あなたツバキだったわね」

ツバキ「はい、そうですよー」

カミラ「軽い感じで結構良いわ。みんな私と初めて話すときは堅苦しい人が多いから、ツバキみたいなのは新鮮に感じるもの」

ツバキ「そうですかー? こんなしゃべり方だから、どちらかというと無礼だ―とか言われることがほとんどなんですけどねー」

カミラ「ふふっ、ここは暗夜王国、白夜王国じゃないから、その口調でも問題ないわ。もしかしたら命が縮まるかもしれないけどね」

ツバキ「それは困るかなー」

カミラ「冗談よ。レオンがいっぱいお世話になってるって聞いたから、どんな人たちか興味があって、姿は見てても話したことなんてなかったから」

レオン「カザハナはいつもに比べたらしっかりしようとしてるみたいだけどね」

カザハナ「あたしだって、その初めての人にあいさつする時くらいは、ちゃんとするし」

レオン「そう? 初めて知ったよ」

カザハナ「なんですって!」

カミラ「ふふっ、愉快な子ね」

カザハナ「あ、あううっ////」

594: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/02(水) 23:22:36.33 ID:1oNSGyk+0
レオン「まぁ、こんな感じだよ」

カミラ「そう、やっぱりレオンが少し丸くなったように感じるのは、この子たちのおかげのようね」

レオン「ま、丸くなったって、僕が!?」

カミラ「そうでしょ、前まではカムイのことばかり気にしてたのに。今じゃ、こうやって違う人と時間を過ごしてるんだもの」

レオン「そ、それは……」

カミラ「前までのレオンなら、ずっとカムイの傍に寄り添ってたかもしれないわ。多分、シュヴァリエの件も、あなた達を置いて行っちゃう位だと思うから」

カザハナ「……言いたくなかったけど、やっぱりレオン王子ってシスコンですよねぇ」

レオン「家族のこと心配するのが悪いことだって言うのかい!?」

カザハナ「いや、そうは言ってないけど。なんていうか、この前しょぼくれてた理由も考えると……」

レオン「おい、それを言ったらさすがに怒るよ!」

カミラ「そうよカザハナ。妹のことを心配しちゃいけないってそれはひどいわ。私だってカムイのこと、とても心配しているもの」

レオン「カミラ姉さん……」

ツバキ「うーん、でもなんかカミラ王女が言う心配と、レオン王子が言う心配って意味が違う気がするなー」

カザハナ「うん、なんだかカミラ王女のほうが清く聞こえるなぁ。レオン王子の場合は、こう、ドロッとしてるっていうか」

レオン「……ぐうううううっ、お、お前たち、言いたい放題に言ってくれるね……」

ツバキ「あははっ、レオン王子、とっても怖い顔してるよー。うん、正直本当に怖い顔になってる」

カザハナ「じょ、冗談、冗談だから、……その、ごめん」

カミラ「ふふっ、こんな感情むき出しで怒って、本当に可愛くなったわねレオン」

595: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/02(水) 23:32:59.16 ID:1oNSGyk+0
レオン「可愛いとか、冗談はやめてほしいんだけど」

カミラ「冗談なんかじゃないわ、前に比べて表情がとっても豊かになってるから。とっても可愛いわよ」

レオン「……あーもう/////」

カザハナ「あっ、顔赤くしてる」

レオン「してないから!」

ツバキ「嘘ですねー。俺にはわかりますよー」

レオン「くそっ、おまえたち、現在進行形で捕虜なんだぞ」

カザハナ「そうだったね。すっかり忘れてたかも」

ツバキ「たしかにねー。でも、一番捕虜だってこと忘れてたの、レオン王子だったりしてー」

カミラ「こんな風に弄られてたら、そう思われても仕方ないわね、レオン」

レオン「ぐっ、言い返せない」

カミラ「ふふっ、ところで、ツバキ」

ツバキ「はい、なんですかー」

カミラ「よかったら一曲踊りましょう。私、ダンスの相手を探してるところなの」

ツバキ「え、俺とですか」

カミラ「あら、嫌だったかしら? それとも、私じゃ魅力が不足してるかしら」ボヨン

ツバキ「そんなことありませんよー。カミラ王女はとっても魅力的ですからー」

カミラ「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるのね」

ツバキ「本心ですよー」

カミラ「ふふっ、心のこもってない返事ね。でもいいわ、それじゃ踊りに行きましょう?」

596: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/02(水) 23:43:00.06 ID:1oNSGyk+0
ツバキ「というわけで、レオン王子。カミラ王女と一曲踊ってきますね」

カザハナ「うん、わかった」

レオン「ああ、行ってら――」

カミラ「何を言ってるのよ。レオンもカザハナと一緒に踊るのよ?」

カザハナ「え、えっとカミラ王女、私そのドレスで踊るの全然できなくて、レオン王子にも教えてもらったんですけど……」

カミラ「そうなの。ねぇレオン、女の子に恥を掻かせたままで終わらせるつもりなのかしら?」

レオン「僕のこと、いじってきた姉さんが言っていい言葉じゃないよね、それ」

カミラ「ふふっ、もう忘れちゃったわ。でも、カザハナだって奇麗に踊り切ってみたいはずよ」

カザハナ「……」

カミラ「ふふっ、先に行ってるわね」

レオン「そうなのか?」

カザハナ「……そりゃそうだよ。こんなに奇麗なドレス、この先着る機会なんてそうないと思うし、ちゃんと踊り切ってあんたを見返してやりたいし」

レオン「……たしかに僕はまだ、カザハナが奇麗に踊り切ってる姿、見てないね」

カザハナ「べ、別にいいのよ。その、無理して踊らなくても」

レオン「いや、僕としてはカザハナが奇麗に踊り切る姿を見てみたいからね。それに、今回はこの靴があるから問題ないし」

カザハナ「……そ、それじゃ、踊ってあげなくもないけど」

レオン「そう、なら、行こうか。もうカミラ姉さんとツバキは入ってるみたいだからさ」

カザハナ「うん!」

597: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/02(水) 23:53:18.49 ID:1oNSGyk+0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ラズワルド「はぁ、まったく引っかからなかった。どうしてだろう、これ以上ないってくらい声を掛けてるのに。全部袖にされて、戻ったらピエリに笑われるよ」

アクア「笑われるだけで済むといいわね」

ラズワルド「あ、アクア様」

アクア「こんばんは、ラズワルド。ところで、舞踏会が終わらないようにできないかしら?」

ラズワルド「突然の提案ですね。どうしたんですか?」

アクア「……舞踏会が終わったら、カミラに連行されてしまうのよ」

ラズワルド「一体何をしたんですか?」

アクア「若気の至りというやつよ。その、少し張り合ってみたい気持になった、そう多分嫉妬ね」

ラズワルド「カミラ様に嫉妬ですか……」

アクア「……どこを見ながら言っているのかしら?」

ラズワルド「いや、違いますよ。そういう意味じゃありませんから、その、無言で足を踏まないでください」

アクア「ふふっ、なんのことかしら」グリグリ

ラズワルド「ご、ごめん、ごめんって、ごめんなさい!」

アクア「どうしたの、ラズワルド。踊る相手がいないのに、こんなところでステップを刻むなんて、たのしそうね」

ラズワルド「アクア様、もう許して……」

598: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/03(木) 00:02:30.39 ID:aqHh14FC0
サクラ「あっ、アクア姉様!」

シャーロッテ「アクア様ぁ、それにラズワルドさんも一緒なんですねぇ」

アクア「サクラ、ふふっ、とても奇麗ね、似合っているわ」

サクラ「えへへ、そうですか?」

アクア「ええ、でも、驚いたわね」

サクラ「?」

アクア「サクラのことだからレオンやカザハナたちと一緒にいるかと思っていたから」

サクラ「今日は、シャ―ロッテさんと一緒に回るって前から決めてたんです」

シャーロッテ「はぁい。ふふっ、サクラ様、多くの人を釘づけにして止まないんですよ」

モズメ「シャーロッテさん、ちょっと待ってーな」

アクア「あら、モズメも一緒なのね」

ラズワルド「うんうん、やっぱりみんなとっても可愛いね、これから僕と一曲どうかな?」

モズメ「ラズワルドさん。そればっか言ってるから、ダンスの相手が決まらないんじゃないんかな?」

ラズワルド「そ、そんなこと、あるわけないと思うんだけど」

アクア「ねぇ、ラズワルド。あなた、声を掛けてすぐに近くの女性に声を掛けてるなんてこと――」

ラズワルド「破れたら即アタックだけど?」

モズメ「軽いわー。ラズワルドさん、とっても軽いわー」

シャーロッテ「軽過ぎて達成感とか皆無だぞ、おい」

サクラ「ちょっと、それは軽すぎる気がします」

アクア「小枝もびっくりの軽さね」

ラズワルド「えぇ……」

599: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/03(木) 00:12:19.74 ID:aqHh14FC0
シャーロッテ「ふふっ、それにしてもサクラ様、いっぱい殿方から声を掛けてもらえましたね。やっぱり、私の予想通りじゃないですか」

サクラ「そ、そんなこと、私待ってるばかりでしたから」

シャーロッテ「わかってねえな。待ってて寄ってきてくれるなんて最高じゃん?」

サクラ「で、でも。私、口べただから。シャーロッテさんが近くいてくれなかったら、右往左往してただけだと思います」

シャーロッテ「ふふっ私はサクラ様を利用させてもらってるだけですよ。自分で歩き回るより、効率いいんですから」

サクラ「そ、そうなんですか? でも、シャーロッテさん、あんまりお誘いに乗らないじゃないですか。どうして……」

シャーロッテ「そりゃそうよ。サクラ様に何かあったら、私の首が飛んじゃうし、それにモズメのことも見てあげないといけないから。ふふっ、でもちゃんと男たちとは話をして好感度をいっぱいあげてるから大丈夫。良いの見つけたらマークして玉の輿狙うんだから」

モズメ「大変やな、シャ―ロッテさん。でも、ありがとう、あたいのことも見てくれて」

シャーロッテ「ふふっ、大変だけどね。たしかにモテたいって言うのはあるけど、今日は二人のことちゃんと見てあげるって約束したからさ///」

モズメ「シャーロッテさん、少し顔赤いで」

サクラ「はい、そうですね」

シャーロッテ「ちょ、そういうところばっかり見ないでよ」

サクラ「ふふっ」

モズメ「えへへ」

シャーロッテ「ふふっ、やっぱり、二人とも笑ってるのが一番可愛いわよ」

600: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/03(木) 00:17:56.54 ID:aqHh14FC0
アクア「見なさい、ラズワルド。あれがモテるってことよ」

ラズワルド「おかしいな。僕と言ってることが似てる気がするのに……」

アクア「シャーロッテとあなたじゃ質が違うのよ。言葉の大安売りのあなたと、行動して相手を引っ張るシャーロッテじゃね」

ラズワルド「でも、女の子が可愛いって言ってるのは同じじゃないかな」

アクア「だから、あなたはそれをポンポンポンポン出し過ぎてるのが問題だってことに気づいてないのかしら?」

ラズワルド「当たって砕けろが信条なんですけど……」

アクア「少しは創意工夫した方がいいわ。じゃないと、本当の意味で軽い男になってしまうわよ?」

ラズワルド「アクア様、なんでそんな楽しそうに言うんですか」

アクア「ふふっ、そうかしら?」

ラズワルド「……やっぱり、嫉妬の理由って」

アクア「違うと言ってるでしょう?」グリグリ

ラズワルド「ご、ごめんなさっ、い……」

601: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/03(木) 00:25:21.46 ID:aqHh14FC0
◆◆◆◆◆◆

クーリア「……」

フローラ「父さん」

クーリア「フローラ、元気そうでなによりですね」

フローラ「はい、父さんも元気そうでなによりです」

クーリア「フェリシアはカムイ殿と一緒のようですね」

フローラ「はい」

クーリア「……お前が私を尋ねに来たのは、そういう意味だろう?」

フローラ「そうなります。父さんは、カムイ様のことをどうお考えなんですか」

クーリア「……フローラはカムイ殿のことを信じているのだな。その目と態度は、父に向けるものではありませんからね」

フローラ「今はこのような態度を取ることを許してください、父さん」

クーリア「お前の態度の理由、そしてお前たちが信じる道も、すべて理解しているつもりだ」

フローラ「……」

クーリア「一つだけ聞きたいことがあります」

フローラ「なんでしょうか」

クーリア「フローラ、フェリシア、お前たちは無理やり強制されて、カムイ殿の下で働いているのですか」

フローラ「いいえ、それは違いますよ、父さん」

クリーア「一度、カムイ殿を裏切った身なのにですか?」

フローラ「そうですね。確かに私とフェリシアは一度、カムイ様を裏切りました。そして、それを許していただきました」

クーリア「それを清算するために、仕え続けるということですか?」

602: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/03(木) 00:33:15.81 ID:aqHh14FC0
フローラ「違います。私はカムイ様だから付いて行くことを決めたんです。決して罪を清算するためじゃありません」

クーリア「……そうですか」

フローラ「……」

クーリア「安心しましたよ、フローラ」

フローラ「えっ……」

クーリア「もしも、ここで裏切りの清算のためと言われてしまったらと、心配していたところでした。ちゃんと選ぶべき道を選んでくれたこと、父として嬉しく思いますよ」

フローラ「と、父さん」

クリーア「安心しなさい。私はカムイ殿を信じています。それを伝えるために、私はこの場に来たと言っても過言ではありませんよ」

フローラ「……ありがとう父さん」

クーリア「?」

フローラ「私たちのこと、信じてくれて」

クーリア「娘のことを信じない親など、この世にはいませんよ。フローラもフェリシアも私の大切な娘なんですから」

フローラ「……父さん////」

クーリア「ふっ、照れた顔を見るのは久しぶりですね。では後は任せますよ。その柱の陰に隠れている方」

フローラ「えっ?」

???「ちっ、気付いてるなら、気付いてるって言ってくれてもいいだろうが」

フローラ「……ふふっ」

クーリア「ふっ、信頼されていないというよりは、少し心配だったということでしょうが。いい同僚にも恵まれているようで、うれしいですよ」

フローラ「確かにそうみたいです」

クーリア「フローラ、フェリシアにも伝えてください。私もお前たちと同じ道を信じ、付いて行くと」

フローラ「ええ、わかったわ。父さん」

603: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/03(木) 00:40:31.73 ID:aqHh14FC0
フローラ「……」

フローラ「そこにいるの、ジョーカーよね?」

ジョーカー「はぁ、お前の親父にはばれてたみたいだな。隠れていたのを指摘される、これほど恥ずかしいことはないな」

フローラ「ふふっ、心配してくれたのね」

ジョーカー「まぁな。実の親父に聞かなくちゃいけないってこともあるが、何よりお前が流されたりでもしたら、カムイ様の面倒が増える。結果的に俺の面倒も増えるからな」

フローラ「ふふっ、ありがとうジョーカー」

ジョーカー「カムイ様もちゃんと送り出して、時間があったってだけの話だ。気にするな」

フローラ「そう、でもありがとう」

ジョーカー「それより、そろそろ時間になる。正直気乗りはしないがカムイ様の晴れ舞台だ。ちゃんと見ないと損をする」

フローラ「そうね。どんな形であれ、カムイ様の晴れ舞台だもの。見ないのは臣下として失礼にあたるわ」

ジョーカー「それ以前に、見なかったら生まれてきたことを後悔することになる」

フローラ「ジョーカーはカムイ様のことになると大げさよね。それじゃ、行きましょうか」

「私たちが仕える、カムイ様の晴れ姿を見にね」

610: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 21:45:20.52 ID:/iyuOw2e0
◆◆◆◆◆◆

フェリシア「カムイ様、準備整いました~」

カムイ「ありがとうございます。すみません、本当なら私一人で準備できればいいことなんですが。こういった初めての服だと頼らざるを得ません」

フェリシア「カムイ様のお役にたてる数少ないことですから、私とっても嬉しいです。こうやってカムイ様のお洋服を着替えさせるのだけは、よくできますから」

カムイ「そうですね。最初に私の着付けを手伝ってくれたのは、フェリシアさんでしたから。ふふっ、最初の頃から考えるとすごく上達しましたよね」

フェリシア「カムイ様、会ったと出会ったころは、毎日毎日同じ服しか着てませんでしたから」

カムイ「ギュンターさんが一度だけ着付けをしてくれたことがありましたから、それにあの頃は目が見えないこともあって、服に興味なんてなかったんですよ」

フェリシア「そうですね。幽閉されてても王女様だって聞いてたから、しっかりしないとって思ってたのに、全然そんな感じしませんでしたから」

カムイ「フェリシアさんやフローラさんのこともあまり気にかけてなかったかもしれません。まだあの頃の私は、目が見えないことをマイナスにしか思っていませんでしたから」

フェリシア「そうですね。それに、私が近づいたとき、すごく怯えてましたから」

611: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 21:58:35.22 ID:/iyuOw2e0
カムイ「……ははっ、それにフローラさんとは距離を置かれていた気もしましたから。二人が私の元にやってきた理由を考えたら、私のことを警戒するのは当然だと思います」

フェリシア「多分、姉さんは最初からわかってたんです。私たちがウィンダムに行くことになった理由も、全部……だから、最初言われたんですよ、子供でも気を付けたほうがいいって」

カムイ「ははっ、フローラさんらしいですね。でも、ならどうしてフェリシアさんは私に手を差し伸べてくれたんですか?」

フェリシア「?」

カムイ「フローラさんのことを尊敬しているフェリシアさんが、その言葉に従わないのは、なんだかおかしいと思いますよ」

フェリシア「だってカムイ様、あの時、震えながら手をいっぱい振ってたんです。ギュンターさんもジョーカーさんも、あの日はいなかったから、最初は来ないでって拒絶されてるのかなって思ったんです。でも、違う気がして」

カムイ「……」

フェリシア「本当は寂しくて、怖いって、言ってる気がしたんです」

カムイ「……」

フェリシア「だから、こうやって手を握って、大丈夫ですよ~って。私、それくらいしかできることがなかったから、でも、その時カムイ様、とっても嬉しそうな顔してくれたから、傍で支えてあげたいって思ったんですよ」

カムイ「フェリシアさん」

フェリシア「えへへ、その改めて言うと、なんだか恥ずかしくなっちゃいます」

カムイ「その直後に私の着付けをして、見事に絡まり合う結果でしたけどね」

フェリシア「はうう~、な、なんで失敗をあげるんですかぁ!」

カムイ「ふふっ、ごめんなさい。でも、そのおかげでフェリシアさんにはなかなか仕事を任せられないって思えましたから」

フェリシア「ひ、ひどいです」

612: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 22:14:06.18 ID:/iyuOw2e0
カムイ「でも、私の着付けだけは、ちゃんとできるんですよね」

フェリシア「……だって、絡まっちゃったとき、カムイ様言ってくれたじゃないですか」

カムイ「?」

フェリシア「今度はちゃんと着せてね、って……」

カムイ「……そんなこと、覚えているんですね」

フェリシア「私が初めてカムイ様と交わした約束ですから。ごめんなさい、カムイ様、私にそんなこと言う資格なんて本当はないってわかってるのに」

カムイ「フリージアの一件はもう終わったことです。それにフェリシアさんは私に付いて来てくれると、星海で誓ってくれたじゃないですか。それは嘘ではないんでしょう?」

フェリシア「カムイ様……」

カムイ「そんな顔しないでください。フェリシアさんには、もっと柔らかくて微笑んでてほしいんですから」ペタ

フェリシア「んっ、カムイ様。唇、触らないでくださいよぉ」

カムイ「……フェリシアさんの顔がいつもみたいになるまで触るのはやめませんよ」

フェリシア「んんっ、カムイ、様……」

カムイ「どうしたんですか、フェリシアさ――」

フェリシア「もっと触ってもらっていいですよ?」

カムイ「……」

フェリシア「カムイ様、手が少し震えてます……」

613: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 22:26:50.23 ID:/iyuOw2e0
カムイ「そんなことはありませんよ……」

フェリシア「ふふっ、嘘は駄目ですよ。カムイ様の指、なんだかとってもぎこちないですよ。前はすぐに私の口に指を入れてきたじゃないですか?」

カムイ「こ、これから式典ですから、さすがに入れるわけはいかないだけ……ですよ」

フェリシア「ふふっ、カムイ様」ギュッ

カムイ「!?」

フェリシア「大丈夫ですよ~」ギュウウウッ

カムイ「……情けないです。この頃は皆さんの前で弱い姿を曝け出してばかりで、呆れられてしまいますね、これでは」

フェリシア「そんなことないですよ。どちらかというと、前までカムイ様は頑張り過ぎてただけです。これからは私たちのこと頼ってほしいんです。皆さんも、きっとそう思ってるはずですから」

カムイ「フェリシアさん……はい、そうさせてもらいますね」

フェリシア「ではでは、カムイ様、そろそろお時間ですよ」

カムイ「そうですね。ふふっ、唇のお触りは、また今度にしましょう。今度はいっぱい中まで触ってあげますから」

フェリシア「ふええっ、あ、あれまたやるんですか。その、口の中くすぐったくなって、その……、ちょっとだけなら」

カムイ「ふふっ、正直で嬉しいですよ。それじゃ、行ってきますね」

フェリシア「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ、カムイ様……」

614: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 22:38:25.12 ID:/iyuOw2e0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

エリーゼ「あっ、サクラ!」

サクラ「エリーゼさん」

エリーゼ「サクラも来てたんだね。ふふ、どう、あたしのドレス!」

サクラ「はい、とっても可愛いです」

エリーゼ「ううっ、大人の女性っていうイメージなんだけどなぁ」

サクラ「あうっ、そのごめんなさい」

エリーゼ「あはは、ごめんね。サクラのドレスも、とっても可愛いよー」

サクラ「あ、ありがとうございます……」

マークス「サクラ王女」

サクラ「マークス王子…ですよね。そ、その初めまして」

マークス「うむ、初めましてサクラ王女」

サクラ「はい」

マークス「……すまなかった」

サクラ「えっ?」

マークス「本来なら、このような場にサクラ王女を招くことは失礼極まる行為だというのに」

サクラ「そ、そんなこと……ありませんから、その、えっと」

エリーゼ「マークスおにいちゃん、サクラが困ってるから!」

マークス「うっ、すまない」

サクラ「……わ、私の方も、その、ごめんなさい」

ハロルド「ははっ、二人共謝ってばかりじゃないか。そうだサクラくん、これでも食べて元気を出したまえ」

サクラ「あっ、それ一番おいしいケーキじゃないですか」

ハロルド「むっ、そうなのか。最後の一切れをと思っていたが、ははっ、私に対しての不運がどうやらサクラくんの幸運に変わったようだ」

サクラ「そ、そんな、私のことは気にしないで召し上がってください。その、私……」

615: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 22:51:14.22 ID:/iyuOw2e0
ハロルド「そうか、ではエリーゼ様にお渡ししましょう」

エリーゼ「うん、ありがとうハロルド。それじゃ、サクラ、半分ずつ食べよっ!」

サクラ「えっ、だってそれはエリーゼさんがもらって……」

エリーゼ「そう、だからあたしの好きにするの、サクラと一緒に食べられたら、とってもおいしくなるはずだから!」

サクラ「エリーゼさん……」

 トントン

サクラ「あっ、シャーロッテさん」

シャーロッテ「ちゃんと見てるから、安心して食べて来なさいよ。同じ年頃の女の子同士で話し合って、リラックスしてきなさい」

サクラ「……はい! ありがとうございます」

エリーゼ「うわぁ、カミラおねえちゃんと同じくらいおっきい……」

シャーロッテ「初めましてぇ、私はシャーロッテっていいますぅ」

エリーゼ「シャーロッテね、あたしエリーゼ!」

シャーロッテ「知ってますよぉ。サクラ様のこと、お願いしますね?」

エリーゼ「うん、サクラ、あそこで座りながら食べよ?」

サクラ「はい! シャーロッテさん少し行ってきますね」

 タタタタタッ

マークス「エリーゼやレオン以外にサクラ王女と打ち解けている者がいるとはな」

シャーロッテ「初めまして、マークス様ですね」

マークス「ああ、シャーロッテと言ったか。この前まで国境線の防壁に勤めていたらしいな。シュヴァリエの反乱の件でカムイを手伝ってくれたと聞いている。窮地に駆け付けてくれたとな」

シャーロッテ「当然のことをしただけですからぁ。あっ、マークス様、お飲物がなくなってますぅ、入れて差し上げますね」

マークス「ああ、ありがとう」

616: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 23:03:40.54 ID:/iyuOw2e0
シャーロッテ「ふふっ、こうしてマークス様にお会いできて私、とてもうれしいです」

マークス「そうか」

シャーロッテ「はい、……でも駄目ですよぉ。サクラ様、ここに来るまで色々と抱えてることがあったんですからぁ」

マークス「そうだったのか……。すまないことをした、私の発言はサクラ王女に不安を与えてしまっただけのようだ」

シャーロッテ「でも、マークス様はサクラ王女のこと心配されてそう口にされたんですから、そんなに自分を責めないでください、でも、そんな風に人を心配できる男性って素敵だって思います、きゃは」

マークス「……あ、ああ」

シャーロッテ「ふふっ、とっても素敵ですぅ、マークス様」

マークス「……なぜ、体を摺り寄せてくる?」

シャーロッテ「気の所為ですよぉ」

マークス「……」

マークス(なんだこの感じは……先ほどと比べて、なんとも癇に障る言動だ)

シャーロッテ(おかしいわね、大抵の男ならこれで鼻の下伸ばすのに。カムイ様の変態的な行いを考えたら、これくらいでいいと思ったんだけど)

アクア「見なさい、ラズワルド。あれがあなたが失敗しているのと似たことをしているシャーロッテの姿よ」

ラズワルド「ううっ、なんだろう。同じって言われると、少し胃が痛くなってくる。シャーロッテ気づいてないのかな、マークス様の顔、なんだかすごく険しくなってることに」

アクア「そうね。途中まで良かったのに下手褒めしたからかもしれないわね。マークスはそういうことに厳しい性格だから」

ラズワルド「これ以上放っておいたらシャーロッテが危ない気がするから、ちょっと間に入ってくるよ」

アクア「そう、気をつけて行ってらっしゃい……」

ラズワルド「ありがと。マークス様、ちょっといいですかー」

617: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 23:13:50.57 ID:/iyuOw2e0
アクア「……はぁ」ポスッ

アクア「……」

アクア「カムイは大丈夫かしら……」

 ソロソロ、シキテンモオワリトイッタトコロデショウナ
 イヤハヤ、ビャクヤトノタタカイノサナカデアリナガラ、コノヨウナモヨウシ、ヤハリガロンオウサマノジシンハソウトウナモノデス
 マッタクデスナ。コノママ、ビャクヤヲセメホロボシテ、オオクノトチヲテニイレレバ、オオクノトミヲウミダセルデショウナ。

アクア(……誰も、これからの白夜との戦いが辛いものになるなんて思っていない……)

アクア(白夜の攻勢を幾つも打ち破ってきたことが、危機感を拭ってるのかもしれないけど。もう勝敗は決しているというのに、奪うことしか考えていないなんて)

アクア「……これ以上戦いを続ける意味なんてないのに」

 スッ

???「あまり感心しない独り言ですな、アクア様」

アクア「ギュンター、脅かさないで頂戴」

ギュンター「失礼いたしました。しかし、今の発言、このような場所で零すものではありませんぞ」

アクア「……そうね。ごめんなさい……」

ギュンター「いえ、ここに集まっている貴族の方々の耳にはあまり触れるべき言葉ではないでしょうからな。貴族、部族双方を招いているとは言っても、双方が手を取って踊るのは身内の者たちだけですからな」

アクア「よく見ているのね……」

ギュンター「お配りする飲み物もそれに合わせて選んでおりますからな。アクア様には、これを」

618: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 23:24:25.93 ID:/iyuOw2e0
アクア「……良い香りね」

ギュンター「お酒は初めてですかな?」

アクア「ううん、ただ、白夜にはこういった色のお酒は少なかったわ……」

ギュンター「あまり強いものではありませんので」

アクア「ごめんなさい。心配を掛けてしまったようね」

ギュンター「いえいえ、アクア様もこの舞踏会に参加されている大切なカムイ様のお客様、同時に私にとっては一緒に戦ってきた仲間ですからな」

アクア「ふふっ、ありがとう」

ギュンター「いいえ、アクア様とカムイ様はどことなく似ていると、ふと思うことがあります」

アクア「私、カムイみたいに誰かの顔を興味本位で触ったりはしないわ。それに、私はカムイほど自分を犠牲にしてるわけじゃないわ……。流されているだけよ」

ギュンター「……では、話に聞きました、白夜王国でカムイ様が暴走した時に助けたことや、シュヴァリエでの一件も流されただけとおっしゃりますかな?」

アクア「それは違うわ……」

ギュンター「流されているなら、私の問いかけにそうですな、わからないと答えていたことでしょう」

アクア「ギュンター」

ギュンター「ですから、ご安心ください。アクア様は強くそこにいることを選ぶことのできる御方です」

アクア「……ありがとう」

619: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 23:33:36.69 ID:/iyuOw2e0
ギュンター「ふっ、ようやく笑ってくれましたな。カムイ様を笑顔にするのに四苦八苦した昔の頃がとても懐かしく感じるものです」

アクア「今は、とても困らせられているようね。恋愛小説を読んでとカムイに頼まれているのでしょう」

ギュンター「……噂というのは色々なところに広がっているものですな」

アクア「ギュンターのその渋い声が奏でる恋愛小説、少し興味があるわ。私にも今度、何か本を読んで聞かせてくれないかしら?」

ギュンター「私が本を指定してもよいのであれば」

アクア「それじゃだめよ。私が読んでほしい本を音読してもらいたいわ」

ギュンター「……顔を触るのは似ていませんが、そういうところはとてもそっくりですな」

アクア「う……そ、そんなことないと思うわ/////」

ギュンター「はっはっは」

アクア「……ギュンター、そんなに笑わないでほしいわ」

ギュンター「それもそうですな。ですが、アクア様も今は城塞に住まう御方ですゆえ、もう家族のようなものでしょう」

アクア「家族ね……」

 ガロンオウサマダ!

アクア「!」

ギュンター「どうやらお時間のようです。私は仕事に戻らせていただきます故、失礼いたします、アクア様」

アクア「ええ」

620: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 23:43:25.22 ID:/iyuOw2e0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ガロン「ふっ、皆の者。宴を楽しんでいるようだな。今宵、集まってくれたお前達に、わしの大切な娘を紹介したい」

 ムスメ?
 エリーゼオウジョや、カミラオウジョノコトダロウカ?

ガロン「昨今の白夜の侵攻、そしてシュヴァリエ公国の反乱、多くの問題があった。白夜との大きな衝突が起きたあの日、白夜平原の勝利を手にしてから長きの時間、暗夜の混乱があった」

ガロン「それをすべて抑えたのを我であると零す者がおるようだが、それは誤りであることを伝えておこう。命令を下したのは確かに我である、だが、我の命令に従い、十分な結果をもたらした当事者こそ、皆に知られるべき真の愛国者であると」

ガロン「カムイ、こちらへ来るのだ」

カムイ「はい、お父様……」

 ダレダ?
 ワタシハハジメテミルガ

ガロン「多くの者は名前だけを知っているだろう。部族の者たちも、貴族の者たちもな。だが、その姿までを知る者は少ないことだ。暗夜の混乱収拾に貢献し、こうして皆が集まり至福に浸る時を引き寄せた、本当の貢献者を紹介させてもらうとしよう」

ガロン「我が子、カムイだ!」

カムイ「……」

ガロン「多くの問題を解決し、白夜侵攻への準備を進めることができる用になったのはカムイの功績があってこそだ。今まで、皆に姿を隠してきたのは、カムイに暗夜の王族としての力がなかったからでもある」

ガロン「だが、時は満ちた。今、ここにカムイを我ら暗夜の王族に正式に迎え入れることとしたい。皆の者、この決定を歓迎してくれるだろうか?」

621: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/07(月) 23:53:08.50 ID:/iyuOw2e0
 パチ
 パチパチパチ
 パチパチパチパチパチパチパチ

ガロン「くくくっ、はーっはっは」

ガロン「歓迎しよう、我が子よ」

カムイ「お父様、ありがとうございます」

ガロン「なに、皆もお前を歓迎すると言っているからこそだ。さぁ、跪くがよ」

カムイ「はい……」スタッ

 デモ、アレガカムイオウジョダトスルナラ、アノウワサハホントウナノカ?
 シッ、ベツニイイコトダ、リュウハサスガニウワサダロウ

ガロン「ふっ、カムイよ。お前のことをまだ疑っている者たちがいるようだ。これではこの飾りをお前に与えたところで、意味はないと思わないか?」

カムイ「はい、そのようですね……」

ガロン「噂が噂でないことを奴らに知らしめるのだ」

カムイ(やはり、そうなるのでしょうね……)

カムイ「わかりました、お父様……」

カムイ(……これが私の、新しい一歩というのも、滑稽な話ですね)

カムイ「……皆さん、驚かれるかもしれませんが。どうか、見届けてください」

 ナニヲイッテイルンダ?

 ギュッ

カムイ(……行きましょうか。新しい道を選ぶために)

 シュオオオオオオオオン!!!!

カムイ・竜「グオオオオオオンッ!!!!」

 ウワアアアアア!!!!リュウ、リュウニナッタゾ!
 ナ、ナニカマジュツテキナモノジャナイノカ!?
 シュヴァリエデオオクノイノチヲウバッタッテイウノハ、ヤハリホントウノコトナノカ!?

622: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/08(火) 00:03:23.64 ID:/xl71SIm0
ガロン「皆の者、見ての通りカムイの力は本物だ。そして、カムイの力は共に白夜を滅ぼすための刃である。この姿を見てもまだ、カムイの力を信じぬ者がいるのなら別であるがな」

 ………

ガロン「どうやら、異論はないようだ。カムイよ、姿を戻すがよい」

カムイ『はい、お父様……』

 シュオオオンッ

カムイ「……」

ガロン「カムイよ、もう一度我の前に跪くがよい」

 スタッ

ガロン「カムイ、お前に流れる血……、暗夜の血統、暗夜の王族としての誇り、それらを持ち合わせていることを示す証を」

ガロン「我が王族に名を連ねるもの、ダークブラッドの称号を与えよう」

 カチャン

ガロン「これでお前も、晴れて我が一族に加わることになる」

カムイ「ありがとうございます、お父様」

ガロン「うむ、カムイ、暗夜の血を継ぐものよ。これからのお前の働き、期待しているぞ」

カムイ「はい……ご期待に添えられるよう、頑張らせていただきますね」

ガロン「くっくっく、では残りわずかな時間を楽しむがよい……そう、今宵の宴をな」

カムイ「……はい」

カムイ(白夜を滅ぼすための刃……ですか)

カムイ「できれば、そうならないようになりたいものですね……」

623: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/08(火) 00:13:42.93 ID:/xl71SIm0
◆◆◆◆◆◆
―ノートルディア公国・港―

暗夜兵A「どうだ? 何かあったおかしなことでもあったかい?」

暗夜兵B「いや、何もない。穏やかって言ってもいいくらいだよ」

暗夜兵A「しかし、もう白夜軍の攻撃なんてあるとは思えないけどな」

暗夜兵B「確かに、ノートルディアに滞在してる兵も数少なくなってきたからな。それに、今さらノートルディアを白夜が落としたところで、ここが戦略的な重要地点になるとは思えないっていうのが、軍部の考えなんじゃないのか?」

暗夜兵A「無限渓谷で散発的起きてた小競り合いも終わりを向けつつあるって話だからな。こりゃ、いよいよ本格的に白夜侵攻が始まるってことだろ」

暗夜兵B「さぁどうだろうな。ただ、可能性は高いんじゃないか。ささっ、もう交代の時間だ、たく、夜は寒いから嫌なんだけどな」

暗夜兵A「助かるぜ。もう寒くてたまらねえからな。寒さに震えて倒れたりするなよ?」

暗夜兵B「へっ、そんな軟じゃ――」

 ヒュン

 ザシュッ

暗夜兵B「あぐっ、ぐあっ」ドサッ

暗夜兵A「? どうし――んぐっ! ん―ぐあああ!!!!!」

 ザシュッ

 ……ポタポタポタ

暗夜兵A「……ウアアア……」ドサッ

624: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/08(火) 00:22:24.89 ID:/xl71SIm0
???「ふっ、さすがに今さら白夜が攻めてくるとは思っていなかったようだ。守備兵もあまりいないようで楽に制圧できそうだ」

忍「アジロギ様。表をうろついていた警備の兵を一掃しました」

アジロギ「そうか、さて、ここからが忙しくなる。住民を叩き起し、ここに連れてこい」

忍「はっ!」

アジロギ「ふっ、命令とはいえこれほどの蛮行を行わせるとは、上も性質が悪い」

???「ならば、このようなこと、行わなければよいことです」

アジロギ「上の命令は絶対でな。それに、お前には表に立って見ていてもらねばならないのだ。多くの生き残りが、この蛮行を行った相手を知る証としてな」

???「くっ」

アジロギ「お前が来なければ、あいつもお前も死んでいたのだ。仲間思いのお前の行動が、あのくノ一を救ったと考えればいい。とてつもないほどに仲間思いの忍だ。おそれ行ったよ」

???「私は何も聞いてはいません。私に何をさせる気ですか?」

アジロギ「安心しろ。お前の最初の仕事は、少しばかりの住人が死ぬところを仏頂面で眺めていることだ」

???「反吐が出る仕事ですね。今までこなしてきた仕事の中で、最低の部類に入るのは間違いないでしょう」

アジロギ「そういうな、俺たちも無抵抗な者たちを殺すのは……。ふっ、どうでもいいことだな。そのあとは、お前には要人の暗殺を手伝ってもらう」

???「要人の暗殺……ですか」

アジロギ「ああ、目標は二人。一人は、この騒ぎを解決に来るという王女。そしてもう一人は七重の塔に身を置いているという人物……」

「虹の賢者を殺してもらうだけだ」



休息時間 おわり

625: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/08(火) 00:23:01.86 ID:/xl71SIm0
○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC→C+
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC→C+
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB→B+
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラB→B+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキDC
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテB
(返り討ちにあっています)

658: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 00:10:14.60 ID:4ZIhEfbH0
◇◆◇◆◇◆

 ピチャン

アクア「カ、カミラ、ちょっと、これは……」

カミラ「あら、どうしたのかしら。甘えられるのはいいけど、こうやって甘えるのは、いやかしら?」

アクア「そ、そうじゃないわ。でも、んんっ、ああっ」

カミラ「ふふっ、どうしたの、ただお風呂に入ってるだけなのに……。アクアはお風呂に入ってる時、いつもこんな声を上げてるのかしら?」

アクア「ち、ちがうわ。か、カミラの手が、んんゅ」

カミラ「私の所為にするなんていけない子ね。ただ、こうやって、洗いっこしてるだけなのに……」

アクア「そ、そこは、だ、だめっ」

カミラ「だめじゃないわ。ここはとってもデリケートなところだもの。優しく洗ってあげるのは当然じゃない」

アクア「あっ、んっ、か、カミラぁ。ゆ、ゆるして、おねがいよ」

カミラ「何の話かわからないわ」

アクア「か、カムイのお姉ちゃん、って、背伸びして、んっ、ごめんなさっ」

カミラ「ふふっ、カムイのこと、どうやって抱きしめてあげたのかしら。こんな風?」

アクア「んあっ、だめ、カミラ」

カミラ「ふふっ、カムイはどんな感じでアクアに甘えたのかしら?」

アクア「んーーー!!! っ! はぁっ……。か、カミラぁ」

カミラ「ふふっ、羨ましいわ。でも、アクアのおかげでカムイが立ち直れたんだもの」

アクア「わ、わたっ、ひうっ、しは、なにもぉ、んんっ、ああっ、指、触れて……ひぁっ」

カミラ「だから、今日はいっぱいお姉ちゃんにアクアが甘えていい日なのよ」

659: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 00:24:09.98 ID:4ZIhEfbH0
アクア「か、カミラ」

カミラ「ふふっ、体中、きれいにして――」




 ドタドタドタ ガチャ!




ルーナ「カミラ様! 大変で……すぅ?」

アクア「あっ、あふっ、る、ルーナ、た、たすけ、たすけてぇ」

カミラ「どうしたの、ルーナ?」

ルーナ「………えっと、カミラ様こそ、何してるわけ?」

カミラ「ふふふ、姉妹同士のスキンシップみたいなものよ。ルーナも久しぶりにどうかしら?」

ルーナ「……カミラ様、今はそれどころじゃないの」

カミラ「アクアの体を弄ることより大事なことって何かしら?」

アクア(弄られちゃった……)

ルーナ「あたしはベルカにドラゴンの準備をさせてるから、早く上がってきてください。」

 バタン

アクア「はぁはぁ……と、とりあえず、ルーナの言う通りにしましょう。なにか起きているみたい」

カミラ「そうね。この続きはまた今度、ふふふ、次はもっと甘えさせてあげるわ」

アクア「もう、遠慮したいわ」

カミラ「あら、お姉ちゃん悲しいわ」

アクア「笑顔で零しながら言われてもね……それにしても、どうしたのかしら?」

カミラ「ベルカにドラゴンの準備をさせるっていうことは、どこかに向かう必要がありそうね」モミモミ

アクア「……」

カミラ「昨日式典があったばかりで何か起きたとは思いたくないけど」サワサワ

アクア「ねぇ、カミラ」

カミラ「なにかしら?」

アクア「胸、いつまで触っているつもりかしら?」

カミラ「いつまでも触ってていいかしら?」

アクア「行き過ぎたスキンシップはダメよ」

カミラ「ふふっ、残念。だけど、何か困ったことがあったら甘えて頂戴。お姉ちゃんがいっぱい甘えさせてあげるから」

アクア「……できればお茶会という形でお願い」

カミラ「ふふふっ、前向きに考えさせてもらうわね。ただ、お呼びが掛った事を考えると、軽い用事では無さそうね」

アクア「……ええ」

660: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 00:35:55.27 ID:4ZIhEfbH0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城『謁見の間』―
(ルーナが浴室に突入する二時間前)


ガロン「ふむ……」




ガロン「なるほど」




ガロン「そうか、やはり―――」

 ドンドンドンッ

ガロン「―――誰だ?」

マクベス「が、ガロン王様、マクベスです。至急の要件に上がりました」

ガロン「マクベスか、入るがよい」

マクベス「失礼いたします。突然の訪問、誠に申し訳ありません」

ガロン「どうした、何を慌てている」

マクベス「はい。本日、港町ディアより伝令が届きました」

ガロン「ほう、何があった?」

マクベス「はい、ノートルディア公国が白夜軍に制圧されたとの情報が……」

ガロン「……ふっ、あの者たちか……やってくれる」

マクベス「如何なさいますか? 暗夜海域から同盟にあるフウマ公国を経由し、白夜へと侵攻する先行プラン成功のため、解放は必要かと」

ガロン「ふむ………」

マクベス「ガロン王様」

ガロン「舞踏会の件、多くの者がカムイのことを認識したが、その実力、ここでもう一度見せつけてやるのも悪くはない。そうは思わぬか、マクベスよ」

マクベス「ガロン王様がそう仰るのでしたら、ノートルディア公国の件、カムイ王女に解決していただくことにしましょう」

ガロン「うむ……」

661: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 00:46:08.32 ID:4ZIhEfbH0
マクベス「そういえば、ノートルディアには賢者がいると聞きますが」

ガロン「……賢者……虹の賢者のことか」

マクベス「……」

ガロン「ふっ、まあよい。好きにさせてやるのも悪くはない」

マクベス「ガロン王様?」

ガロン「マクベスよ。ノートルディア公国の件も含めて話がある。すぐに我が子らに集まるよう伝えよ」

マクベス「承知しました。……ガロン王様」

ガロン「どうした?」

マクベス「いえ、私が部屋に入る前、誰かと話をされていたような気がしまして……」

マクベス(誰かがいたと思いましたが……)

ガロン「ふっ、マクベスよ。少し疲労の色が見えるようだが」

マクベス「いえ、そのようなことは……」

ガロン「まずは礼を言おう、昨日の会場護衛の件、見事であった。そして、お前には白夜侵攻の計画を委ねている。そのような重要な立場であるお前に、この不測の事態への対処を任せるのは忍びない。お前が倒れることとなれば、白夜侵攻に支障が出ることになるであろう」

マクベス「ガロン王様。ありがたき言葉でございます」

ガロン「マクベスよ。此度の件、我に任せておくといい」

マクベス「かしこまりました。では、皆さまをお呼びいたします故、失礼させていただきます」

ガロン「うむ……」




ガロン「話は以上だ。此度の件、お前の好きにするがいい……」

662: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 00:55:06.43 ID:4ZIhEfbH0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・北の城砦―

カムイ「それで、わざわざ来てくれたんですか?」

ラズワルド「そういうこと。マークス様はすでに王城にいるみたいだったからね。ルーナから口伝手に聞いて、距離なら僕が一番近かったから、こうしてお迎えに上がったんだけど……。他は誰もいないのかい?」

カムイ「ええ、舞踏会が終わるまでは皆さん、好きに過ごすと言っていましたので。アクアさんはカミラ姉さんに連行されていきましたし、レオンさんの屋敷にまだ身を置いてる人もいると思いますから」

ラズワルド「そういうことだったんですね。てっきり、皆も王城に呼ばれているのかと……」

カムイ「城塞の皆さんにはちょっとやってもらうことがありましたから、例の場所で作業をしてもらっています」

ラズワルド「例の場所……?」

カムイ「はい、リリスさんが残してくれた場所です」

ラズワルド「!」

カムイ「……」

ラズワルド「カムイ様。そこに城塞のみんなを入れたっていうことは……」

カムイ「皆まで言うことはありませんよ」

ラズワルド「……進む道、見つかったっていうことかな?」

カムイ「いいえ、まだ見つかってなんていませんよ。ただ、もう歩み始めた身で、見つけに行かないのは少々怠け者が過ぎますから」

ラズワルド「すごいよね、カムイ様は」

カムイ「どうしたんですか突然」

ラズワルド「いや、昨日の今日なのに」

カムイ「昨日の今日だからですよ。それより、ラズワルドさん、私が最初で最後の相手だったって、みなさんから聞きましたよ?」

ラズワルド「ううっ、恥ずかしいこと言わないでくれないかな。まぁ、事実だけど」

663: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 01:05:19.88 ID:4ZIhEfbH0
カムイ「それで、どうしてそんな驚いてるんですか?」

ラズワルド「……なんていうか、心の根の切り替えが出来てるみたいだからさ。もう、しばらくの間、あんな風に心を休めなくても良いって言ってるみたいで」

カムイ「……私は竜石でズルをしてますし、この先のことを考えていたら思うこともあるんですよ。あそこで私のことを見てくれた人たちも含めて、何十、何百……もしかしたら」

ラズワルド「何千……かな」

カムイ「……そういうことです。だから、するべきことは考えないといけませんから」

ラズワルド「……できれば、僕はカムイ様の手が血に染まるようなことにならない、そんな道があってもいいはずだって、思うんだ」

カムイ「ラズワルドさん」

ラズワルド「……ごめん。本当はカムイ様が悩むことが無いように、僕たちがすべきことが多くあったはずなのに……」

カムイ「……」

ラズワルド「本当ならリリスが生きている世界もあったはずなんだ。それに近づけるように、僕たちは動くべきだったのに」

カムイ「もう、それは望んでも手に入らない世界ですから、悔やんでも何も始まりませんよ。それに、ラズワルドさんたちは私の指示に従ってくれたんです。だから今の現状はすべて私が引き寄せた結果なんです」

664: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 01:14:27.23 ID:4ZIhEfbH0
ラズワルド「カムイ様」

カムイ「だから、ラズワルドさんが気負うことはありませんよ。この結果も全部、私が背負っていくことになる罪なんですから」

ラズワルド「……そういうわけにはいかないよ、カムイ様」

カムイ「どうしてですか?」

ラズワルド「カムイ様は……僕たちの願いのため尽力してくれると約束してくれた。本当なら全部を聞かなくちゃいけないのに、僕たちのことを信用してくれたから。だから、そのすべてをカムイ様に背負わせるわけにはいかないんだ。僕たちはカムイ様にとって重しでいたくない。一緒に手を取って戦っていく仲間でいたいんだ」

カムイ「……ふふっ、ラズワルドさんは変なところで真面目なんですね。そんなにまっすぐに仲間だなんて改めて言われると、なんだか恥ずかしくなってしまいます」

ラズワルド「へ、変なところって。これでも真面目に考えてるんだけど。でも、それじゃ駄目かな? 僕たちが背負うのは、お節介なら……」

カムイ「いいえ。そんなことありませんよ……ありがとうございます、ラズワルドさん」

ラズワルド「……そう言ってもらえてうれしい。僕たちも、カムイ様と一緒に背負って行く、たぶんみんな同じはずだから、それを忘れないでね」

カムイ「はい……。それでは王城に向かうことにしましょう。私と一緒に来てくれますか?」

ラズワルド「もちろんだよ。それじゃ、行きましょうか」

665: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 01:25:02.48 ID:4ZIhEfbH0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

ラズワルド「やぁ、ルーナ! 今日も可愛いね」

ルーナ「はいはい、何時ものあいさつありがと。とりあえず、マークス様に報告してきなさいよ」

ラズワルド「うん、そうさせてもらうよ。それより、ルーナ、少し顔が赤いみたいだけど、何かあったのかい?」

ルーナ「な、何でもないわ。うん、何でもないわよ、ほら、ちゃっちゃと報告にいってきなさいっ!」

ラズワルド「? それもそうだね。それじゃ、カムイ様、僕は報告に行ってきます」

カムイ「はい、ここまでありがとうございました」

ラズワルド「うん。それじゃ、ルーナ。カムイ様のことよろしくね」

ルーナ「わかってるわ。きっちり、連れて行ってあげるんだから」

ラズワルド「うん、それじゃ」

 タタタタタタタッ

カムイ「では、ルーナさん。よろしくお願いしますね」ギュッ

ルーナ「ひゃっ、い、いきなり手握らないでよ。その、びっくりするから……」

カムイ「ごめんなさい。……何かあったんですか?」

ルーナ「え?」

カムイ「ラズワルドさんが、ルーナさんの顔が少し赤いって言ってましたから」

ルーナ「いや、その……」

カムイ「そういえば、アクアさんがカミラ姉さんに連行されたと思うんですけど、何か知りませんか?」

666: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 01:34:35.63 ID:4ZIhEfbH0
ルーナ「な、なんでそんなこと聞くわけ!?」

カムイ「え、だって……ルーナさんはカミラ姉さんの臣下ですから、何か知っているかと思ってきいただけなんですけど」

ルーナ「そ、その……アクアといっしょにカミラ様お風呂に入ってて」

カムイ「やっぱり仲がいいんですね」

ルーナ「それで、伝令が来たから、別にお風呂入ってるだけだし、って思って浴室にお邪魔したら」

カムイ「ふむふむ」

ルーナ「アクア様、すごく蕩けた顔でカミラ様に撫でまわされてて」

カムイ「……ルーナさん、それは問題じゃないですか」

ルーナ「そ、そうよね」

カムイ「大問題ですよ。アクアさんもカミラ姉さんも……」

ルーナ「そうよ、まったく、一緒にお風呂に入るだけなのに、あんな――」

カムイ「どうして私をそこに呼んでくれないんですか。三姉妹水入らずなお風呂に入りたかったのに。いえ、正確にはエリーゼさん呼ばないといけませんから、四姉妹お風呂ですね。うんうん」

ルーナ「一瞬でも、カムイ様ならわかってくれるって思ったあたしが馬鹿だったわ」

カムイ「わかりますよ。カミラ姉さんといっしょにお風呂に入りたかったんですよね?」

ルーナ「いや、たしかに、その、入りたくないかと言われれば一緒に入ってもいいけど、あたしが言ってるのは、その、カミラ様のスキンシップがちょっと……その……////」

667: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 01:44:27.56 ID:4ZIhEfbH0
カムイ「……スキンシップって、こんな感じのですよね」ピトッ

ルーナ「ちょっ! な、なにいきなり触って」

カムイ「いいじゃないですか。前はあまり触れませんでしたし。それに、私が触ってるのはルーナさんのお顔ですよ? ふふっ、ルーナさんの中で過激なスキンシップってどういうものなのか気になります。私のも過激なスキンシップに入るんでしたら、ルーナさんに勘違いを正してもらわないといけません」

ルーナ「そ、それは、うん、カムイ様は普通のスキンシップだと思うわ」

カムイ「そうなんですか」

ルーナ「そうそう、カムイ様のスキンシップは全然過激じゃないから、確かめなくても大丈夫」

カムイ「ふふっ、なら、このまま続けても問題ないですよね?」

ルーナ「えっ?」

カムイ「前回触った時は、あまり楽しめませんでしたから……。それに、これは普通なスキンシップなんですよね?」

ルーナ「た、楽しめなかったって……。ばしょ、考え……てっ」

カムイ「ふふっ、私目が見えませんから……」

ルーナ「目が見えないとか言っておきながら、なんで廊下の隅に移動して……んやっ、首筋、ばっか、!!!! どこ触ってんのよ!」

カムイ「すみません。ふふっ、やっぱりルーナさん、肌を触られるのはあまり好みじゃないんですね」

ルーナ「オーディンは情けなかったけど、あたしはそう簡単に落ちたりしないからね。ふふんっ」

カムイ「そうですか……。それじゃ、ここを触らせてもらいますね」

668: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 01:53:39.77 ID:4ZIhEfbH0
ルーナ「んっ、なに、頭撫でて、子供じゃないんだから……っ!」

カムイ「やっぱり、思った通りですね」

ルーナ「んやっ、……な、なんで。か、髪触られてるだけな、ひうううっ」

カムイ「ふふ、ルーナさん。そんな声あげたら、誰かに気づかれちゃいますよ?」

ルーナ「だ、だったら、やめればいいじゃ――っつぅう」

カムイ「別にいいじゃないですか。これは普通のスキンシップなんですから……、ルーナさんそう言ってくれたじゃないですか」

ルーナ「ううっ、そそれは……」

カムイ「それに、まだ本番じゃないんですから」

ルーナ「ふぇ?」

カムイ「ふふっ、ルーナさんは……ここ」

ルーナ「んくっ、あっ、ひぃ」

カムイ「ツインテールの付け根、やっぱり弱いんですね」

ルーナ「ひゃっ、ひいん、か、カムイ様、そこ、だめ、だめだからぁ。こ、こんなの、こんなのしらない」

カムイ「知らなくて当然ですよ。自分が知らないから弱点なんですから、ふふっ、付け根で感じちゃうなんて、猥らなツインテールですね」

ルーナ「やっ、先、先っぽ触らないでぇ。んふっ、あっ、ううっ、ひやぁ」ガシッ

カムイ「大丈夫ですか、足が震えてますよ?」

ルーナ「先、先ばっかり、やめ、なさっ、んんんっ、はぁ……」

カムイ「私に体を預けてしまうくらいに感じてるんですね。ふふっ、予想以上にここが敏感なんですね」

ルーナ「び、敏感、敏感だからぁ。んあぁああ///」

カムイ「……ふふっ、これ以上はルーナさんが持ちそうもありませんね……。残念ですけど……」パッ

669: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 02:05:41.21 ID:4ZIhEfbH0
ルーナ「はうっ、んんっ、はぁはぁ。ぐっ、ひどい辱めを受けたわ」

カムイ「すみません、ちょっと調子に乗ってしまいました」

ルーナ「謝るなら、最初からしなければいいじゃない!」

ルーナ(……ううっ、触られたからか、髪が揺れるだけでなんだか体中がムズムズする)

カムイ「それは無理な相談ですね。さてと、早くいかないと怒られてしまいますから、ルーナさん、案内お願いしますね?」

ルーナ「……わかったわよ。それと、手」

カムイ「?」

ルーナ「手握ってあげるから、出してって言ってるの」

カムイ「ふふっ、さっきまで触られてたのにですか」

ルーナ「カムイ様のわがままは今に始まったことじゃないでしょ? それに頼ってくれてるのに力添えしないのは約束を破ることになるわ」

カムイ「……ルーナさん」

ルーナ「な、なによ。感謝なんて――」

カムイ「もっと顔を触らせてくだ――」

ルーナ「そのわがままは却下よ」

カムイ「そ、そうですか」

ルーナ「……なんだか、安心したわ」

カムイ「? なにがですか」

ルーナ「シュヴァリエの件とか色々あったから、その、心配したから。カムイ様が落ち込んでるとみんなのやる気とかも、あるし、その……つまりそういうことよ!」

カムイ「ふふっ。ルーナさん、ありがとうございます」

ルーナ「……うっ、うん、まぁ……その……。あ、あたしに心配させたんだから、その」

カムイ「わかってます。安心してください、もう大丈夫ですから」

ルーナ「……」

カムイ「……」

ルーナ「そう、ならいいわ。それじゃ、さっさと行くわよ。遅れると色々何か言われるかもしれないから」

カムイ「はい」

670: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 02:15:46.89 ID:4ZIhEfbH0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

レオン「カムイ姉さん」

カムイ「すみません、また私が最後のようですね」

マークス「そのようだな。だが仕方あるまい、北の城塞は最も遠い場所にあるからな」

カミラ「ええ、急な呼び出しは困るわね。アクアと仲良くなりたいのに水を差してくるんだもの」

エリーゼ「カミラおねえちゃん、アクアおねえちゃんと一緒にいたんだー。ねぇねぇ、何してたの?」

カミラ「ふふふ、一緒にお風呂に入ってたのよ。エリーゼも今度一緒に入りましょう。きっとアクアも喜んでくれるわ」

エリーゼ「わーい。とっても楽しみだよ」

カミラ「その時は、もちろんカムイも一緒よ?」

カムイ「はい、とても楽しみです」

アクア「……もしもエルフィに知られたら、粉々にされてしまうんじゃないかしら?」

エリーゼ「どうして?」

アクア「どうしてって……。その、いろいろよ」

エリーゼ「なら、エルフィも一緒に入れば問題ないよね。」

カミラ「…………」

エリーゼ「だ、だめかな」

アクア「いいえ。むしろ歓迎したいわ。それに、エルフィも一緒なら心強いから」

カミラ「……ふふふ、仕方ないわね」

エリーゼ「わーい!」

レオン「まったく、一緒にお風呂に入るのが楽しみなんて、本当にガキだね」

エリーゼ「なによぉ、レオンおにいちゃんだって、カムイおねえちゃんやカミラおねえちゃん、それにアクアおねえちゃんとお風呂入りたいって思ってるくせに」

レオン「な、なんでそうなるんだ! 僕の年齢でそんなこと、恥ずかしくて出来るわけないだろ?」

671: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 02:25:44.72 ID:4ZIhEfbH0
カミラ「あら、レオンも一緒に入りたかったの?」

レオン「ちがうから!」

カムイ「レオンさんもやっぱり甘えたいお年頃なんですね。私は駄目なおねえちゃんですけど、その甘えてもいいんですよ?」

レオン「カムイ姉さんも乗っからないでよ」

アクア「レオン、流石に実の姉弟でも、こんなに年齢が高いと問題になるわ。早く姉離れしないと……ね?」

レオン「アクア、君まで僕のことをシスコンだって思っているのかい!?」

マークス「……」

レオン「兄さんも何か言ってよ!」

エリーゼ「ねぇねぇ、マークスおにいちゃん、しすこんってどういう意味かな?」

マークス「ああ、姉を大切に思っている、そういうことだよ」

マークス(流石に姉や妹のことが好き、と言うわけにはいかないからな)

エリーゼ「そうなんだ。じゃあ、あたしもシスコンだよ。だってカミラおねえちゃんも、カムイおねえちゃんも、アクアおねちゃんも大好きだもん。あたし、シスコンだね!」

カミラ「マークス兄様……」

カムイ「マークス兄さん……」

アクア「マークス」

レオン「兄さん……」

マークス「こ、これは……その、す、すまない」

672: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 02:35:27.02 ID:4ZIhEfbH0
エリーゼ「なんで、マークスおにいちゃんが謝るの。だって、シスコンってお姉ちゃんたちのこと、大切に思ってるってことだよね! それってすごくいいことだって思うの」

アクア「エルフィに粉々にされるのは、マークスになりそうね」

カミラ「そうね、こればっかりは受け入れるしかないわね、頑張ってね、マークス兄様」

カムイ「エルフィさんはエリーゼさんのことでは容赦ない人ですから、私もガバガ――ふごっ」ガシッ

カミラ「あらあら、何を言おうとしているのかしら?」

レオン「とりあえず兄さん、後は任せたよ」

マークス「お前たち……」

エリーゼ「でも、レオンおにいちゃんがシスコンなら、アクアおねえちゃん、それにカムイおねえちゃんも、シスコンだよね」

アクア「えっ?」

エリーゼ「だって、アクアおねえちゃんもカムイおねえちゃんも、カミラおねえちゃんの事、大切に思ってるんだから、シスコンだよ!」

カムイ「なるほど、それでは、私もエリーゼさんと同じ、シスコン王女なんですね」

エリーゼ「えへへ、シスコン王女だね! アクアおねえちゃんも!」

カムイ「そうですね、アクアさんも王女ですから、私たちと同じシスコン王女です」

アクア「…………マークス」

マークス「もう、弁解の余地もない。すまないが、受け入れてくれ」

アクア「……なら、レオンはシスコン王子っていうことになるわね」

レオン「なんで、また僕を巻き込むんだい?」

アクア「道連れは多い方がいいじゃない? 一緒にシスコンの渦に飲まれましょう?」

レオン「もう、シスコンシスコン言うのやめよう」

673: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 02:44:32.52 ID:4ZIhEfbH0

 シスコンオウジョ!
 ハァ、マークスニイサマノオシエタシスコンダト、ワタシハシスコンニナレナイワネ。
 タシカニソウナルナ

マクベス「……何をやっているんですか、あなた方は……」

カムイ「あっ、マクベスさん」

マクベス「厳正厳粛な城の中で、なんですか。シスコンシスコンと……そのような趣味があったというのは初耳ですね」

レオン「マクベス」

マクベス「おや、どうされましたか、レオン王子?」

レオン「……いや、なんでもないよ。すまないね、ちょっとうるさかったのは認めよう」

マクベス「まあいいです。謁見の間でガロン王様がお待ちです。皆さまが遅いようなので、私が迎えに上がった次第です」

マークス「そうか。すまなかったな、では行くとしよう」

エリーゼ「うん! でも、なんだろうね。もしかして、またカムイおねえちゃんに何かあるのかな?」

アクア「あまりいいことがあるとは思えないわ」

カミラ「ええ、私もそう考えてる」

レオン「多分、そうだろうね……」

カムイ「どちらにせよ。まずは、お父様からお話を聞いてみましょう」

アクア「カムイ……」

カムイ「何をするべきか分からないままでは、何も始まりませんから」

674: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 02:56:02.86 ID:4ZIhEfbH0
◆◆◆◆◆◆
―港町ディア―

暗夜兵A「これはひどいな……」

暗夜兵B「ノートルディアに滞在していた兵士もそうだが……なによりも、民間人に対してこれか……」

暗夜兵A「手裏剣の的にしたって話だ……顔色一つ変えずにそれを見てる奴がいたってよ」

暗夜兵B「こんなこと、カムイ王女なら許さないだろうな」

暗夜兵A「ああっ。あの人ならな、そういえば昨日、公に発表があったって話らしいぞ」

暗夜兵B「そうか、これであの方も周知の人物ってことになるのか」

???「おい、そこの」

暗夜兵B「んっ、なんだ。今は民間人は出歩かない方がいい。それにこれは見て気分のいいものでもないぞ」

???「ひどいな……これがノートルディアから見せしめに送られてきた遺体か?」

暗夜兵B「ああ、非戦闘員、民間人だよ。話によればあと十数名は殺されたらしい、その中でも一番むごいのを選んで送ってきたんだよ。これ以上は晒すのは可哀そうだ。エルベ、布を持ってきてくれ」

エルベ「わかった。あんたも、早く家に戻るんだ。ここにも、もしかしたらノートルディアを襲った連中が来るかもしれないからな」

???「俺のこと心配してくれるのか、ありがとよ、兵隊さん」

エルベ「気にするな」

暗夜兵B「んしっと。……刺さったらそう簡単に抜けない形をしてやがる。ひどい武器だな、これは」ポイッ

 カラン……

???「ん……こいつは」

暗夜兵B「ああ、ノートルディアに現れた奴らの武器らしい。白夜の野郎、本当に何考えてやがるんだ」

???「へぇ。白夜がねぇ……」

暗夜兵B「さぁ、それを返してくれ。重要な証拠だ。それに、エルベの言っていたとおりいつ襲撃があるかわからない。早く家に戻るんだ」

???「わかったよ。それじゃ、仕事頑張ってな」





???「……まさか、あの形をここで見ることになるとは思わなかったぜ」
 
「これは、予定を変えねえといけねえようだな」

675: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/13(日) 02:56:48.23 ID:4ZIhEfbH0
○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC+
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドC+→B
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+
(イベントは起きていません)
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB+
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナC+→B
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラB+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキDC
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテB
(返り討ちにあっています)

681: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/15(火) 22:49:42.52 ID:OiP7xt5R0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・クラーケンシュタイン城―

ガロン「先ほど港町ディアより、ノートルディア公国が白夜に攻撃を受け、支配されたという連絡があった」

マークス「それは本当ですか、父上」

ガロン「ああ、ノートルディアから逃れてきた……というよりは、それを知らせるために解放された者たちがいたようだ。話によると、民間人と警備にあたっていた兵に死者が出たと聞いている」

エリーゼ「そ、そんな……」

ガロン「現在も監視を続けているが、奴らがノートルディアから暗夜領に入る気配はないと聞く」

レオン「……今さらになってと思えるけどね。でも橋頭保を作るためにノートルディアを襲撃したのに動かないなんてね」

マークス「援軍の到着を待っているのかもしれないが……。どちらにせよ、このまま野放しにしておくわけにはいかない問題だ」

カムイ「そうですね。今は何もしてこないとしても、いずれは何かしてくるでしょうから……」

ガロン「皆の言うとおり、現在の状況はノートルディアへの攻撃で納まっている。しかし、すでに白夜侵攻への作戦は動き始めている以上、不安となる事象は正すべきことだ」

レオン「海路を使用するとなると、ノートルディアの現状はとてもじゃないけど無視できることじゃないね」

ガロン「海路の使用を考えればノートルディアの奪還は為すべきこととなるだろう。そこでだ、カムイよ」

カムイ「はい」

ガロン「お前にノートルディア公国の解放、その任を与えよう」

682: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/15(火) 23:02:08.96 ID:OiP7xt5R0
カムイ「わかりました。まずは港町ディアへと赴くことにします」

ガロン「うむ、カミラ、エリーゼ。お前たちは引き続き、カムイを支え動くことに努めよ」

カミラ「ええ、わかったわ」

エリーゼ「うん、カムイおねえちゃんのこと頑張って支えるね!」

ガロン「そして、マークスよ」

マークス「はい、父上」

ガロン「港町ディアにて、襲撃に備え準備せよ。カムイの出立と共に、入れ替わりで侵攻される可能性がある以上、ディアの防衛はお前に任せよう」

マークス「わかりました、父上」

ガロン「最後にレオンよ。お前は王都で待機せよ。できれば、兄妹で共にことに当たりたいと願っているだろうが――」

レオン「いいえ、父上。僕が動いたらそれは過剰な采配と言えるでしょう。父上の言うとおりに、王都でみんなの帰りを待つよ」

ガロン「ふっ、待つだけではない」

レオン「え?」

ガロン「レオンよ、お前は白夜の捕虜を生かした時に言っていたな。お前なりに捕虜を使う考えがあると」

レオン「……はい、父上」

ガロン「白夜侵攻の計画は進みつつある。そこにお前が得たカード、それを役立てよ」

レオン「……侵攻作戦の会議に参加、そういうことだよね」

ガロン「うむ、わしからお前たちへの話は以上だ。それぞれが成すべきこと、それを速やかに遂行せよ。特にカムイよ……」

カムイ「はい」

ガロン「ノートルディアの一件、その結果、期待しているぞ」

カムイ「お任せください、お父様」

683: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/15(火) 23:12:27.77 ID:OiP7xt5R0
◆◆◆◆◆◆
―北の城塞・カムイの部屋―

カムイ「ノートルディアに襲撃ですか」

カミラ「白夜も元気ね。シュヴァリエの一件で策もない、そう考えても不思議じゃない状態なのに」

カムイ「そうですね。ところで、カミラ姉さん」

カミラ「ふふふ、何かしら」

カムイ「どうして私を膝の上に載せているんですか?」

カミラ「あらあら、不思議なことを言うのね」

カムイ「いえ、乗せられてる私の方が不思議に思っているんですが」

カミラ「いいじゃない。昨日はあんまりお話しできなかったんだもの」

カムイ「お姉ちゃんとして、ですか?」

カミラ「あら、鋭いわね。鋭いのもいいけど、できればそこは気付かない感じで接してほしかったわ」

カムイ「すみません……。背中、温かいですね」

カミラ「そう?」

カムイ「はい、昔はいっぱいこんな風にしてもらいましたよね。さすがに大きくなってからは、カミラ姉さんも忙しくなって、私からも頼むことはあまりなくなりましたけど」

カミラ「ふふっ、あの頃のカムイは温かいものなら手当たり次第に触ってたものね。まだ、こんなに大きくなかった時に触られたから、びっくりしたけど」

カムイ「そうでしたか?」

カミラ「口元、嘘吐いてるわよ」

カムイ「ふふっ、ばれちゃいましたか」

カミラ「ええ、バレバレよ。でも、そういうところもカムイの可愛いところよ」

カムイ「ありがとうございます。カミラ姉さん」

684: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/15(火) 23:22:36.78 ID:OiP7xt5R0
カミラ「……それで、何を考えていたのかしら?」

カムイ「それもバレてました?」

カミラ「ええ、お父様との話の後から、ずっとね」

カムイ「そこからですか。うまくはぐらかせていたと思ったんですけど」

カミラ「ふふっ、お姉ちゃんの目はごまかせないわ。それで、カムイの悩みごとは何かしら、お姉ちゃんに話して」

カムイ「……そうですね。私だけで考えても仕方がないことですから、すみません意見をくれませんか?」

カミラ「ええ、任せて頂戴。それで、カムイ、何に対しての意見がほしいのかしら?」

カムイ「単純な話です。このノートルディア公国襲撃に、何か感じませんか?」

カミラ「……何か? そうね……」

カムイ「……」

カミラ「私はノートルディア自体が落ちたことに関して言えば、それほど不思議なこととは思ってないわ。現に、守備隊のほとんどは王都に帰還していたもの。そこを狙われたとしたら、落ちること事態はあり得ることだから」

カムイ「そうですか」

カミラ「落ちたことは不思議じゃないけど、それを白夜が……っていうのが少しだけ気に掛ることね」

カムイ「というと?」

685: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/15(火) 23:31:58.54 ID:OiP7xt5R0
カミラ「シュヴァリエの一件を考えたらだけど、そもそもこのノートルディア襲撃は、あの時に同時に起こるべきものじゃない? 本当なら無限渓谷に攻撃を仕掛けてシュヴァリエの手助けだってあり得たのに、それを白夜はしなかった」

カムイ「それが今さらになってノートルディア襲撃に動いたことに、違和感がある。そういうことですね」

カミラ「ええ、レオンが言っていたけど、今さらになってノートルディアを落としたって、戦況が覆ることはそうそうないわ。最初の黒竜砦の占拠と同じで陽動と考えるなら話は別だけど……」

カムイ「お父様の口調からは、ノートルディア以外で何か問題が浮上しているような節はありません。それに、今は暗夜本土の海岸線は多く監視の目がありますから。前回の用にはいかないはずです」

カミラ「……だから、このノートルディア襲撃には、戦況を覆す意図が見えない。これが私の感じることかしらね」

カムイ「カミラ姉さんも、やはりそう考えますか」

カミラ「というよりも、マークス兄様もレオンも感じているはず。特にレオンは意味のない白夜の行動に困惑しているかもしれないわね」

カムイ「そうですね……」

カミラ「……ふふっ、やっぱり心配かしら?」

カムイ「それは、そうですよ。まだ、解決していない問題もありますから」

カミラ「……内通者の件ね」

カムイ「はい……。正直、内通者の狙いが見えないことが一番の問題です」

686: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/15(火) 23:42:27.59 ID:OiP7xt5R0
カミラ「それはカムイを陥れるためじゃないの? シュヴァリエの件がそれを証明しているじゃない」

カムイ「……そうだといいんですが」

カミラ「……心配なら行って来なさい」

カムイ「カミラ姉さん」

カミラ「そうやって抱え込むことはよくないことよ。それに、レオンだって本当はカムイと一緒に行動したいって思っているはずよ」

カムイ「……そうですね。まだ、不安の種は刈り取れていませんから……ですが」

カミラ「?」

カムイ「レオンさんには白夜侵攻の作戦会議に参加するように言われていますから」

カミラ「……そうね。サクラ王女たちのこともあるわ」

カムイ「どちらにせよ、一度レオンさんに会いに行くべきでしょうね。ノートルディアの一件が終わってからのことも考えないといけませんから」

カミラ「ふふふ、そう。それじゃ行ってらっしゃい」

カムイ「はい」

 ガチャ バタン

カムイ「……さて、レオンさんのお屋敷までどうやって向かいましょうか……」

「必殺アウェイキングヴァンダーーーッ! ズガガガガ! バビューン! ふっ、俺に挑むには力不足だったようだな……。よし、次はこんな感じで行こう!」

カムイ「中庭の訓練広場からですね。ちょうどいいタイミングです」

 タタタタタタタッ

687: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/15(火) 23:52:18.82 ID:OiP7xt5R0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―暗夜王国・王都ウィンダム大通り―

カムイ「……この大通りを歩いて進むのは久しぶりですね」

オーディン「いや、別に歩かなくてもいいと思うんですが」

カムイ「良いじゃないですか。こうやって歩いてレオンさんのお屋敷に向かうのも」スッ

オーディン「ひええっ。やめてー、触らないでー」

カムイ「なんですか、まだ触ってないじゃないですか」

オーディン「さっき、後ろから現れて触ってきたじゃん! ああいうのやめてくださいよ? セクハラですから、あれ!」

カムイ「そんな、私の 靡手でオーディンさんに触れるのが、そんな●●な行為だって言うんですか?」

オーディン「ああ、●●だ。特に、首筋から耳に掛けて触るのは、俺の尊厳にかかわる。選ばれし者である俺の強固な仮面を、その手は――」

カムイ「えいっ」

オーディン「ひゃはあああっ! やめてー、やめてください、おねがいします、なんでもしますから!」

カムイ「ふふっ、オーディンさん駄目じゃないですか。こんなに大声をあげて」

オーディン「カムイ様が触ってくるのが問題で、あー、なんでカムイ様の 靡手もスパパパって攻略できるって思ったのに。返り討ちにあう始末とか、情けねえよ」

カムイ「ふふっ、なら、 靡手に対して態勢をあげるのが一番ですよ。そう、毎日私が触ってあげれば、いつかは……」

オーディン「……戻れなくなりそうだから遠慮させてもらう。ふっ、攻撃を受け続けての態勢を越える。この体に宿る力が――」

カムイ「 靡手タッチ」

オーディン「―――っ!!!!! もうやだ……」

688: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/16(水) 00:02:15.94 ID:vNPxBuEg0
カムイ「ふふっ、ごめんなさい……。でも、オーディンさんが城塞に来てくれてて助かりました」

オーディン「?」

カムイ「いや、カミラ姉さんにレオンさんのお屋敷に行くと言ったのは良いものの、どう行こうか悩んでいたので」

オーディン「ふっ、迷える子羊を送り届けるのも、選ばれし俺の役目だからな」

カムイ「子羊に触られて変な声を上げてるのにですか?」

オーディン「……もう、殺してくれよ。もう、カムイ様の前で繕う度に壊されて、心が折れそうだよ」

カムイ「……ふふっ、オーディンさんは楽しい人ですね」

オーディン「茶化さないでくださいよ。俺結構悲しんでるのに」

カムイ「茶化してなんていませんよ。……普通初対面の女性に 靡手の使い手なんて、そんなこと言える人そうそういませんから」

オーディン「……もしかして、怒ってますか?」

カムイ「いいえ。むしろ、●●ハンド以外の呼ばれ方は初めてだったので、新鮮でしたよ」

オーディン「ほ、本当ですか?」

カムイ「はい、だから元気出してください。私に 靡手の称号をくれたオーディンさん」

オーディン「……なんだろう、全然嬉しくない。なんでだ、名前を授けてそれを認められたというのに、この敗北感漂う感じは……」

カムイ「そうですか?」

オーディン「よし、決めた。カムイ様、その 靡手の名前一度俺に返還してください」

カムイ「嫌です」

689: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/16(水) 00:12:07.06 ID:vNPxBuEg0
オーディン「ええっ、そこは素直に返してくださいよぉ」

カムイ「駄目です。だって、オーディンさんに私が触れる前に考えてくれた、繋がりなんですから。私はずっと大切にしたいです」

オーディン「い、 靡手ですよ? ●●ハンドより、厭らしい名前なんですよ」

カムイ「構いませんよ。それに、決めた名前を変えるよりは、新しいものを考えた方が、ずっと建設的ですよ」

オーディン「そ、それもそうですね。うん、たしかにそうだ」

カムイ「じゃあ、そうですね。今度一緒になったとき、二人で何かの名前を考えましょうか」

オーディン「えっ……」

カムイ「あっ、オーディンさんが遠慮するなら、話は流しますけど」

オーディン「いえ、その……。そんな時間、本当に作ってくれるんですか?」

カムイ「はい。ですから、今はレオンさんのお屋敷まで、私を連れて行ってくれますか?」

オーディン「……ふっ、任せろ。この漆黒のオーディン、すぐにレオン様の元に連れて行ってみせます」

カムイ「はい……」

オーディン「それじゃ――」

カムイ「あっ、首筋に虫の気配……」ペタッ

オーディン「ひゃひっ!」

カムイ「ふふっ、やっぱり、オーディンさんは楽しい人ですね」

オーディン「……みんな。俺、もうめげそうだよ」

696: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/18(金) 23:01:09.84 ID:KxKq3N4U0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・レオン邸―

シャーロッテ「サクラ様、ちょっと食べ過ぎじゃない」

サクラ「んっ、んっ、ええっと、そ、そんなことないと思いますけど////」

モズメ「んー、あたい、まだ半分も食べてへんのに、サクラ様のケーキ、もう苺の部分くらいしかないから、結構食べるペース速いって思うわ」

サクラ「ううっ////」

カザハナ「ふふっ、ほら、サクラ、口元にクリーム付いてるよ。慌てるといつもこんな感じにしちゃうんだから」

サクラ「か、カザハナさん。み、みんなの前で恥ずかし――んんっ、んーっ」

カザハナ「よし、きれいになったよ、サクラ」
697: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/18(金) 23:11:44.72 ID:KxKq3N4U0
シャーロッテ「ふふふ、サクラ様、私のケーキ食べていいわよ」

サクラ「え、でも、これすっごく美味しいですよ……」

シャーロッテ「少し制限しないといけないから、昨日の舞踏会で結構口にしたから、気にしないで」

サクラ「で、でも」

シャーロッテ「それに、話のわずかな時間を見つけてケーキを食べつくしてるじゃない」

モズメ「うわっ、本当や。さっきまであった苺も無くなってる」

サクラ「あううっ。じゃ、じゃあお言葉に甘えて」

カザハナ「むーっ……サクラ! あたしのケーキもあげる」プルプル

シャーロッテ「差し出す手、震えてるわよ」

カザハナ「これは武者震いよ」

モズメ「侍だけに?」

サクラ「カ、カザハナさん!? 大丈夫ですよ、それにカザハナさんが一番ケーキ楽しみにしてたじゃないですか」

カザハナ「あ、あたしも制限しないといけないから、ほら会場でいっぱい食べたからさ」

シャーロッテ「離れて見てたけど、あんた会場の料理に全然手を出してなかったと思うけど?」

カザハナ「―――っ!!!! 今、今制限しないといけないの!」

モズメ「……あー、そういうことなんやな」

シャーロッテ「モズメもわかっちゃった?」

モズメ「うんうん、せやな。あたいもこういう立場になったら、妬いてまうかも」

サクラ「え、えっと? モズメさん? シャーロッテさん?」

698: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/18(金) 23:21:22.07 ID:KxKq3N4U0
カザハナ「な、なんでもないから! それよりサクラ、あたしのケーキ食べて。うん、さ、サクラに食べてもらえるなら、あたしうれしいから」フルフルフルフル

シャーロッテ「やせ我慢して、可愛いわね」

カザハナ「ううっ。サクラぁ、早く貰ってよぉ」

サクラ「は、はい。そ、そのシャーロッテさん」

シャーロッテ「カザハナがどうしてもって言ってるんだから、もらってあげなよ」

サクラ「え、えっと、カザハナさん。その、ありがとうございます」

カザハナ「うん! ……はぁ」

カザハナ(……食べたかったなぁ)

 カチャ

カザハナ「えっ?」

シャーロッテ「ほら、カザハナの分」

カザハナ「な、なによ。あたしは欲しいなんて」

シャーロッテ「私がいらないって言ってんの。だからカザハナにあげる」

カザハナ「……」

シャーロッテ「それとも、敵の情けは受けないって言う方針だったり?」

カザハナ「……ふんっ! でも……あんたが食べないって言うなら、もらってあげなくもないけど」

シャーロッテ「ふふふ、それじゃそういうことにして、さっさと食べなさいよ」

サクラ「カザハナさん、一緒に食べましょう」

カザハナ「サクラ……うん!」

シャーロッテ「ふふふ」

699: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/18(金) 23:33:20.06 ID:KxKq3N4U0
カザハナ「え、えっと、あのさ……」

シャーロッテ「どうかした?」

カザハナ「その、あ、ありがと」

シャーロッテ「まぁ、私もその気持ち分からないわけじゃないから、伊達に女やってないし。それに一番でいたいって思うことは不思議なことじゃないし、自分を磨くのに一番必要な心構えだからね」

カザハナ「……なんか見透かされてるみたいで腹立つけど……、今は許してあげるわ」

モズメ「カザハナさん、多分見透かされとるで」

サクラ「それじゃ、カザハナさん。あーんです」

カザハナ「ちょ、サクラ。何してんの!? ちょっと、恥ずかしいよ」

サクラ「ふふっ、だって本当は食べたかったんですよね? だから、カザハナさんのを、一口お返ししたいなって思って、駄目ですか?」

カザハナ「………さ、サクラがそう言うなら」

サクラ「それじゃ、カザハナさん。あーん」

カザハナ「……あー、あむ。……おいしー! うん、これ本当においしいよ。あ、それじゃ、サクラにもお返しするね。はい、あーん」

サクラ「あーん、んっ、とってもおいしいです」

シャーロッテ「仲いいわね……ところでさ、一つカザハナに聞きたいんだけど」

カザハナ「ん、なによ」




シャーロッテ「カザハナってレオン様のこと好きだったりするわけ?」

700: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/18(金) 23:41:53.32 ID:KxKq3N4U0
サクラ「……」

カザハナ「……」

サクラ「……」

カザハナ「……へ?」

シャーロッテ「へ、じゃねえよ。一緒にダンス練習できるように取り計らってやったてのに」

カザハナ「な、ななな、何言ってんの。意味わかんないから!」

シャーロッテ「……気付いてなかったのかよ。」

カザハナ「あたしが、レオン王子のこと、その好きって、どこをどう見ればそういうことになるのよ!」

シャーロッテ「だって、ねぇ、レオン様の発言が入るたびに、何かしら愚痴零してるし、なんていうか気になって仕方無いって言う感じにしか見えねえよ」

サクラ「そ、そうだったんですか。カザハナさん」

カザハナ「サクラまで、違うから。第一、あいつはあたしには厳しいし、思ったより思い悩むことも多いし、でも面倒見いいし」

モズメ「混乱して、褒めが入っとるな」

シャーロッテ「ふっふっふ、正直気になってたのよ。白夜の王女とその臣下を屋敷に住まわせてる暗夜王国第二王子、そんなのと生活を共にしてるのに色恋沙汰の一つもないわけがあるかってね」

カザハナ「な、ならサクラに白羽の矢が立っても!」

シャーロッテ「サクラ様はいいの。あっても多分、親愛的な方角だから。今、私が欲してんのは恋愛の方角、カザハナからはそんな香りがして仕方無いのよ」

カザハナ「そ、そんなことないから!」

サクラ「あっ、そういえば、アクア姉様がレオンさんに話があってここに来たとき、扉に張り付いて盗み聞きしようと―――」

カザハナ「さ、サクラぁ!?」

701: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/18(金) 23:49:44.55 ID:KxKq3N4U0
シャーロッテ「さてと、状況証拠も揃ったようだし、本格的に尋問開始ね」

カザハナ「………う」

モズメ「う?」

カザハナ「……うえ」

サクラ「うえ?」

カザハナ「うえ、うええええええ!!!!!」ダッ

サクラ「あ、カザハナさん!」

シャーロッテ「甘いわ、モズメ!」

モズメ「もろうたで!」ガシッ

カザハナ「あぐっ、は、放して、放しなさいよぉ!」

モズメ「カザハナさん、ゆるしてな。シャーロッテさんの命令なんや」

カザハナ「従わなくてもいいから! いいからぁ!!!!」

サクラ「カザハナさん、まずは落ちつきましょう。それに悩んでることがあるなら、話してください。私、カザハナさんの力になりたいんです。だって大切な幼馴染なんですから」

カザハナ「サクラ……。いやいやいや、だったらあたしを助けてよ! 今の悩みってそれくらいだから!」

サクラ「えっと、その……ごめんなさい」

カザハナ「サクラーーー!!!!」

シャーロッテ「っていうわけだ。さて、で、いつから意識し始めたの。包み隠さず教えなさいよね」

カザハナ「うっ、ううううううううっ―――」

702: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/19(土) 00:01:58.53 ID:7zvefw+Z0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 ナニモナイ、ナニモナイカラァ!
 カザハナサン、ワタシオウエンシマスヨ!
 デモソウナルト、ナンヤカロマンチックナハナシヤナ
 オラ、ハケ、ハケ、ハクンダヨォ!

カムイ「なんだか騒がしい部屋が一つありますね」

レオン「……あの二人は、帰ろうとしないからね。まぁ、二人にとっては気の許せる話し相手になってるみたいだから、居てもらって構わないけど」

カムイ「それも、今日までになります。帰りに、モズメさんとシャーロッテさんに出撃の話をしておきますから」

レオン「うん、お願いするよ。でも、ノートルディアのことは伏せておいてくれないかな。サクラ達に聞かせるべきことじゃないからさ」

カムイ「はい」

 ガチャ バタン

レオン「それで何の話かな?」

カムイ「はい、ノートルディアでの一件が終わってからのことについてです」

レオン「ノートルディアの一件ね……。ところで姉さんは――」

カムイ「この襲撃をどう考えているか、ですか?」

レオン「……最後まで言わせてほしいんだけど」

カムイ「すみません、カミラ姉さんにすでに質問していたことだったので、本当は誰かに意見を求めるべきか悩んでいたことでしたから」

レオン「そう……。それでカミラ姉さんはなんて?」

カムイ「ノートルディアが制圧されたことに関しては不思議なことではないと、ただそれを白夜がという部分に違和感を覚えているみたいです。私もその意見と同じです」

703: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/19(土) 00:13:10.04 ID:7zvefw+Z0
レオン「やっぱりそう考えるよね……。僕も二人と同じだ。仮にこれが陽動だとしても、今の白夜に無限渓谷まで前線を押し戻す力があるとは到底思えない」

カムイ「……やはり、メリットなしですか……」

レオン「だから、僕は姉さんがノートルディアを奪還してくれる前提で侵攻作戦の立案を行うよ」

カムイ「いいんですか、私の指揮でノートルディア奪還が成功するという保証はないんですよ」

レオン「……姉さんはそういうけど、結局成功させるつもりでしょ? 自分で引き寄せる、そういったじゃないか」

カムイ「ふふっ、レオンさんに言われてしまっては仕方ないですね。ご期待に添えられるように頑張りますよ」

レオン「うん、期待してるよ」

カムイ「それで、もう一つの話です。これはまだ解決してないことに関してなんですけど……」

レオン「解決してないこと……」

カムイ「今回のノートルディア襲撃と同じで、その目的が不明瞭な例の件です」

レオン「……内通者の正体と、その目的のことだね。でも、目的は姉さんの失脚だろうって、この前も話したじゃないか」

カムイ「ええ、カミラ姉さんからもそう言われました……」

レオン「……また何かされると思ってるなら、それはしばらく大丈夫だと思うよ」

カムイ「え?」

704: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/19(土) 00:24:11.55 ID:7zvefw+Z0
レオン「舞踏会で、姉さんのことを父上が公に認めてくれたから、もう下手に失脚させることはできなくなったはずだ。なにせ、今姉さんは誰もが認める父上が注目している人物、そんな姉さんに何かすること自体、首を絞めかねない」

カムイ「そ、そういうものですか?」

レオン「そうだよ。それに舞踏会の挨拶後、姉さんにすり寄ってきた奴らの顔、全員媚び諂ってばかりだったからね。あの中には、姉さんが拘留されていたときマクベスと話し合ってた貴族もいた。結局、あいつらが求めてるのは自身が肥えることだけだ」

カムイ「……その貴族の方々が手を引いて、マクベスさんも当面は何もしてこない、そういうことですか」

レオン「姉さんがシュヴァリエの件で終わると考えていたんだろうけど、それは失敗に終わった。姉さんへ何かをする場合、リスクは高くなった。それに内通者も白夜との戦争には勝ちたいはずだからね」

カムイ「……そうですか」

レオン「そういうことだから、内通者が望んだ最初の目的は達成されないままに終わったって考えてもいいはずだよ。その正体がつかめないままなのは、正直癪だけど、そう簡単に新しく事は起こせないはずだ」

カムイ「……ですが、もしも、内通者の狙いが私じゃなかったとしたら」

レオン「それは前も話し合ったことだよ。でも、姉さんを狙う以外の目的なんて、まったく想像できなかったわけだし……」

カムイ「それもそうですね。考えられることは考えているのですが、やっぱりきっちり嵌るような、そんな目的を描けません」

705: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/19(土) 00:33:12.97 ID:7zvefw+Z0
レオン「僕だって同じだよ。最初、このノートルディア襲撃も、その内通者が仕掛けたことなんじゃないかと一瞬疑った」

カムイ「レオンさん、それはちょっと」

レオン「……わかってる。さすがにこれはスケールが大きすぎる話だから、それに今回のことは一人でできるようなことじゃないからね」

カムイ「たしかにそうですね」

レオン「内通者のことはノートルディアの一件が済んでから、もう一度話し合って絞り込むことにしよう。このまま白夜侵攻が始まるとそれこそ厄介だからね。その時になったら、マクベスから例のことを聞きに行くつもりだよ」

カムイ「レオンさん……」

レオン「だから、ノートルディアのことは任せたよ。これが終われば、僕も姉さんたちと一緒に行動できるようになるはずだから」

カムイ「はい、そうですね。では、私はこれで失礼します」

 ガチャ

レオン「……姉さん」

カムイ「どうしました?」

レオン「あの……」

カムイ「?」

レオン「……ううん、なんでもない、ごめん、引きとめたりして……」

カムイ「そうですか、それじゃ、失礼しますね」

レオン「うん」

 バタン

レオン「……はぁ」

706: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/19(土) 00:43:20.20 ID:7zvefw+Z0
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シャーロッテ「えっと、要約するとメイド服姿を見られて、似合ってるって言われたのが始まりってことね」

カザハナ「だから、なんでそれが始まりになるの。っていうか、好きなのが前提なのはなんでよ!」

モズメ「でも、今でもメイド服着てる時があるんやろ?」

カザハナ「うっ、そ、それは、結構好きな服なだけ、それだけだから」

サクラ「ふふふ、でもそう考えるとアクアさんとレオンさんが何を話してるのか気になりますよね」

カザハナ「サクラまで、だから違うって言ってるでしょ。それに、前言われたとき、全然ドキドキしなかったから」

シャーロッテ「前って何時よ」

カザハナ「舞踏会の日。その、ドレスに着替えて見てもらった時、似合ってるって言ってもらえたのけど、全然ドキドキしなかった」

モズメ「でも、あの時はドレス着て練習してないってこともあったから、気が動転してたんやないの?」

カザハナ「そ、そんなことないと思う。だって、その、言われたこと思い出したら――って、今の無し!」

シャーロッテ「あぁん? なに今さら恥ずかしがってんのよ。さっさと白状しなさい」

カザハナ「ううっ、そ、そんなこと言われても……」

 ガチャ

シャーロッテ「!!! はぁい、どなたですかぁ?」

カムイ「私です」

シャーロッテ「あれ、カムイ様? 今日来てたんですか?」

707: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/19(土) 00:51:37.93 ID:7zvefw+Z0
サクラ「カムイ姉様。来てるんでしたら声を掛けてもらっても」

カムイ「いいえ、なんだかとても楽しそうな声が聞こえてましたので、邪魔をしてはいけないかと」

シャーロッテ「なら完全に邪魔されちゃったわ、いいところだったんだけどね。命拾いしたわね、カザハナ」

カザハナ「な、だから違うって言ってるでしょ!」

モズメ「照れとるな。けど、カムイ様、どうしてここに来たん。レオン様になにかお話なんか?」

カムイ「………それもありますけど、本題は違いますね」

シャーロッテ「……そういうこと」

モズメ「わかったで」

カムイ「すみません。ですが二人がまだ、休んでいたいというのでしたら――」

シャーロッテ「ふふっ、仕事もこなしてこそ、いい女なんですよ」

モズメ「あたいはカムイ様に付いて行くって決めてるんや。ここで悠長に休んでるつもりなんてあらへん、力になれるんなら喜んで行くで」

カムイ「ありがとうございます、二人とも」

708: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/19(土) 00:58:28.36 ID:7zvefw+Z0
サクラ「カムイ姉様」

カムイ「サクラさん」

サクラ「……気を付けて、無事に帰って来てください」

カムイ「はい、必ず」

シャーロッテ「それじゃ、サクラ様。お仕事終わったら、またお話しましょう」

サクラ「はい!」

シャーロッテ「あと、カザハナ」

カザハナ「な、なによ」

シャーロッテ「帰ってきたら、話の続きするわよ」

モズメ「あたいも楽しみにしとるで、カザハナさん」

カザハナ「だから…違うって言ってるのに」

シャーロッテ「ふふふ、でももしかしたら何か進展あるかもしれないし、楽しみにしてるわ」

カザハナ「も、もう……。でも、気をつけてね。怪我とかないようにね」

シャーロッテ「任せろっての」

モズメ「うん、気をつけるわ」

カムイ「では、これで失礼しますね。あ、それとカザハナさん」

カザハナ「?」

カムイ「戻ってきたら、私にもその話聞かせてください、なんだかとても面白そうですから」

カザハナ「カムイ様……」

カムイ「はい」

カザハナ「絶対嫌です」ニコッ

709: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/19(土) 01:09:41.78 ID:7zvefw+Z0
◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・港街ディア―

マークス「すまない、できれば私も共にノートルディアへと向かいたいが」

カムイ「いいえ、もしもの可能性がある以上、お父様の采配は間違っていません。ですから、暗夜本土のことはマークス兄さんにお任せします」

マークス「うむ、任せておけ……。カムイよ、ノートルディアには虹の賢者と呼ばれる方がいる」

カムイ「虹の賢者ですか?」

マークス「ああ、厳しい試練を乗り越えた者に力を授けてくれる。私と父上も賢者殿から力を授かった」

カムイ「そうなんですか。ですが、今のノートルディアの状況を考えるに、賢者様の安否が気になります」

マークス「ああ、もしかしたら、この襲撃は賢者殿が狙いであるかもしれない」

カムイ「……ふふっ、マークス兄さんも意地悪ですね。私に、その虹の賢者様にできれば会うことを進めているんですね」

マークス「ああ、お前には賢者殿も力を授けてくれる、私はそう思っている」

カムイ「……わかりました。ノートルディアの奪還と同時に賢者様の安否の確認も行うことにします」

マークス「ああ、私も力を授かった身だ。賢者殿の無事を祈っている。だから、カムイ、よろしく頼む」

カムイ「はい、わかりました」

???「カムイ王女様。出港の準備が整いました」

カムイ「はい。えっと、すみません、あなたは?」

エルベ「今回カムイ様と共にノートルディアに上陸します。エルベといいます」

カムイ「はい、エルベさんですね。では、よろしくお願いいたします」

エルベ「それではこちらへ」

マークス「カムイ、気をつけてな」

カムイ「はい、行ってきます、マークス兄さん」

カムイ(さて、向かいましょう。ノートルディア公国へ……)









???「……さて、本当に奴らかどうか、確かめねえと」

???「もしもそうなら」

「借りを返すだけだ」


第十四章 前篇 おわり

710: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/19(土) 01:10:30.40 ID:7zvefw+Z0
○カムイの支援現在状況●

―対の存在―
アクアB+
(カムイからの信頼を得て、その心の内を知りたい)

―城塞の人々―
ジョーカーC+
(イベントは起きていません)
ギュンターB
(恋愛小説の朗読を頼まれています) 
フェリシアC+
(イベントは起きていません)
フローラC
(イベントは起きていません)
リリス(消滅)
(主君を守り通した)

―暗夜第一王子マークス―
マークスC+
(イベントは起きていません)
ラズワルドB
(あなたを守るといわれています)
ピエリC+
(弱点を見つけると息巻いています)

―暗夜第二王子レオン―
レオンC+
(イベントは起きていません)
オーディンC+→B
(二人で何かの名前を考えることになってます))
ゼロB
(互いに興味を持てるように頑張っています)

―暗夜第一王女カミラ―
カミラB+
(白夜の大きい人に関して話が上がっています)
ルーナB
(目を失ったことに関する話をしています)
ベルカC+
(イベントは起きてません)

―暗夜第二王女エリーゼ―
エリーゼB
(イベントは起きていません)
ハロルドB
(ハロルドと一緒にいるのは楽しい)
エルフィC
(イベントは起きていません)

―白夜第二王女サクラ―
サクラB+
(イベントは起きていません)
カザハナC
(イベントは起きていません)
ツバキC
(イベントは起きていません)

―カムイに力を貸すもの―
サイラスB
(もっと頼って欲しいと思っています)
ニュクスB
(イベントは起きていません)
モズメC+
(イベントは起きていません)
リンカC+
(イベントは起きていません)
ブノワC+
(イベントは起きていません)
シャーロッテB
(返り討ちにあっています)

723: ◆P2J2qxwRPm2A 2015/12/21(月) 22:43:05.17 ID:YMg0j3fv0

サクラ「もう……恥ずかしいって言ったのに」

シャーロッテ「そういえば、サクラ様とカザハナって仲いいけど、どういう関係なわけ?」

サクラ「えっと、カザハナさんは私の幼馴染なんです」

カザハナ「ふふ、そういうことだから」

シャーロッテ「……なんで、そんな得意げなのよ」

カザハナ「べ、別にそういうんじゃないから、気の所為、気のせいよ、うん」

モズメ「ふふっ、なんやか、好きな人の前で背伸びしたがってるみたいやな」

シャーロッテ「はっはーん、そういうことね」

カザハナ「な、なによ」

◆◆◆◆◆◆
―暗夜王国・ノートルディア公国・港―

民間人「うう、うううっ」

エルベ「救護隊は救助した者の手当を優先、他の者は空の住居に気をつけろ、罠が張られてる危険性がある。十分に気をつけるんだ」

カムイ「……」

カミラ「カムイ」

カムイ「カミラ姉さん」

カミラ「港の調べは終わったけど、どこにも敵はいないそうよ」

カムイ「そうですか、となると、ノートルディアを襲った理由は拠点占拠というわけではないようですね」

ピエリ「島の警備してた暗夜の人、みんな見つけたの」

カムイ「どうなっていましたか」

ピエリ「首だけになって並んでた、体はどこにあるかわからなかったの」

リンカ「こんなことをして何になるって言うんだ!」

カミラ「それはこれをした奴らにしかわからないことよ。どちらにしても、白夜の印象が極度に悪くなるような行為であることは間違いないわね」

カムイ「……白夜なりの報復のつもりかもしれませんが、そうだとしたらつまらない理由ですね……。見た限り、彼らは街を放棄したようですが、ノートルディア公国を脱出したというわけではないでしょう。入れ違いになったという可能性はなさそうですから……」

カミラ「これで脱出したなら、本当に何のための襲撃かわからないわ……。今、この間に無限渓谷の前線が押し返しているのなら、見事な手腕だけどね」


次回 【FEif】カムイ「私の……最後の願いを聞いてくれますか?」―2― 後編