前回 【艦これ】大鳳「一度入ったら抜け出せない鎮守府?」

11: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/05(木) 20:42:45.31 ID:olkHiPeAO
~白露型~

白露「一番白露、行っきまーす!」

時雨「次は僕だね、それっ!」

村雨「はいはーい、スタンバイオッケーよ。えいっ!」

夕立「夕立に任せる、っぽい!」

涼風「オーライオーライ、五月雨、行くよっ!」

五月雨「えっ、わっ、こっち? この辺で大丈夫かな……?――えいっ!」

白露「何でアタックでげふっ!」

時雨「白露!?」

村雨「おーナイスアタック」

夕立「クリーンヒットっぽい?」

涼風「アンダーでもオーバーでもなく何でアタックしちゃうのさ!」

五月雨「ごめんなさーい! 白露しっかりしてー!」

白露「い、一番、狙いやすかっ……」

五月雨「し……白露が死んじゃったー!」

涼風「気絶しただけだから落ち着きな五月雨! 揺らす度に頭打ち付けてるから!」




白露→毎日姉妹全員とあれやこれやと遊びまくっている。五月雨のドジが彼女に集中しているのは、一番狙いやすいからなのだろうか。

時雨→最近は儚げではない満面の笑みを浮かべるようになった。皆で遊ぶのにも乗り気で、夕立にイタズラをして追いかけられる一幕も見せたりしている。

村雨→時雨まではしゃぐようになり、一人で三人を相手にするようになった。いっそ涼風に全部フォローは任せて、自分もはしゃごうかと考えていたりするようだ。

夕立→ぽいぽい。ぽいぽいっぽい。ぽいぽいぽーいっぽい。そんな感じっぽい。

五月雨→戦いが終わってもドジッ娘は治らなかった。遊ぶ度に白露にぶつかったり、ボールをぶつけたりしているが、決して狙っているわけではない。秘書艦日に提督の勲章にコーヒーをぶちまけたのも、決してわざとではない。

涼風→五月雨のドジの第二の犠牲者。村雨までフォローをやめたら身が持たないと、必死に説得を続けている。五月雨に間違われないように、現在はショートヘアー。

引用元: ・【艦これ】大鳳「出入り自由な鎮守府」 



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12: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/05(木) 20:59:37.50 ID:olkHiPeAO
~最上型~

最上「三隈ードリンクバーでウーロン茶入れてきて」

三隈「くまりんこっ」

鈴谷「熊野のはアタシが用意したげるねー」

熊野「お待ちなさい鈴谷! この前の全部混ぜなどというのはもう御免ですわよ!?」

最上「アレ……? そういえば三隈ってドリンクバー初めてじゃ――」

三隈「もがみん、ウーロン茶ですわ」

最上「あっありがとう……ちゃんと入れ方分かった?」

三隈「? 見れば分かるはずよ?」

最上「あーうん、そうだよね」

三隈「変なもがみん」

鈴谷「また厨房までお代わりを要求しに行かれたら恥ずかしいし、困るじゃん?」

熊野「あっ、アレはちょっと迷っただけですわ!」

鈴谷「ドリンクバーに行くのに迷うって、流石に言い訳として苦しくない?」

熊野「迷うものは迷いますの!」




最上→“衝突禁止”のポスターを作り、鎮守府や街に張って回っている。子供達にも交通安全教室を開き、飛び出すことの危険性を教えている。だが、三隈とは相変わらずぶつかるようだ。

三隈→最上と共に、交通安全教室で子供達に交通ルールを教えている。でもやっぱり最上に衝突するのはやめられない、とのこと。

鈴谷→熊野と二人で毎日街をブラブラしている。あまり遊び等に詳しくない熊野に、色々な事を嘘を混ぜつつ教えている模様。

熊野→鈴谷とカラオケに行ったり、ゲーセンに行ったりしている。遊んでいる最中もたまに謎の奇声を発しているようで、周囲からの視線を集めているらしい。

13: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/05(木) 22:29:57.25 ID:olkHiPeAO
~初春型~

初春「暇じゃな」

子日「暇だねー」

初霜「暇ですね」

若葉「暇だな」

初春「鎮守府内でも散歩するかのぅ……」

子日「子日、ビスマルクさんのお店行きたーい」

初霜「私もまだ行ったことがないわ」

若葉「行くか」

初春「子日、先に行って席の確保をしてくるのじゃ」

子日「はーい」

初霜「私も行きます」

若葉「……初春」

初春「何じゃ若葉」

若葉「金がない」

初春「よいよい、妾が払う」

若葉「助かる」




初春→鎮守府内を散歩して回る日々。たまに気が向くと風景画を描いている。描いた絵は鎮守府の各所に飾られており、中々の評判のようだ。

子日→今でも子の日にはたまにワープして消える。一度ロシアにワープしてしまい、ヴェールヌイが迎えに行ったこともある。それでもめげずに今日は何の日と聞き続けるタフな艦娘。

初霜→戦いが終わって何かを護衛することも無くなり、最近は色々な事に興味を持ち始めた。ただ、秘書艦日は血が騒ぐのか、デート中についつい提督を護衛しながら動いているようだ。

若葉→フラりと何処かへ出掛けては、暫くすると帰ってくる。鈴谷がたまにゲーセンで見かけるらしい。“WKB”という名前でガンシューティングのランキング1位を総舐めしている謎のゲーマーと、何か関係があるのかもしれない。

14: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/05(木) 23:08:10.15 ID:olkHiPeAO
~とねちく~

利根「筑摩、何故吾輩の身長は伸びぬのだ?」

筑摩「利根姉さんはそのままでも威厳と風格がありますから、伸びなくてもいいんです」

利根「そうか? 筑摩がそういうなら、そうなのだろうな」

筑摩(利根姉さんは今のままの方が可愛いんですから、大きくなどなってはいけません)

利根「まぁ身長はこのままでよいとしても、胸は筑摩と同じぐらい欲しいのじゃ」

筑摩「提督に揉んでもらえばよいのでは?」

利根「年に二日では効果の程もたかが知れておる。やはり、何かしらのバストアップ術とやらを試してみるか……」

筑摩「……龍驤」

利根「吾輩が間違っておった。何事も無理は禁物だな」




利根→下着を毎日履くようになった。鎮守府に訪れる者に自分が妹と見られ、よく訂正して回っている。何故か秘書艦日だけはやっぱり履いていない。

筑摩→利根と毎日まったりと過ごしている。戦いが終わった後、間宮からだし巻き玉子の作り方を教わった。それを毎日姉に作って食べてもらうのが、今の彼女の幸せである。

15: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/05(木) 23:49:03.87 ID:olkHiPeAO
~夕張&明石、あきつ丸、間宮~

夕張「メカ夕張、お茶」

メカ夕張「はい、マスター」

明石「戦いが終わって開発もする必要無いし、修理も無いから、完全に私達暇人ですね」

夕張「そうですねー、たまに整備とかオモチャの開発ぐらいはするけど、後はこれといって特に無いし……」

明石「――いっそ、本気でオモチャ作っちゃいます?」

夕張「……やりましょうか」

メカ夕張「お手伝いします」




夕張&明石→メカ夕張を参考に、小型のメカ妖精さんを共同作製。一人作ってコツを掴んだのか、合計十八人作ったらしい。今はメカ妖精さんに色々な芸をさせようと、日夜研究中。




あきつ丸「今日はどこがいいでありましょうか……」

あきつ丸「やや? ちょうどイクのマッサージ店が目の前に」

あきつ丸「失礼、店舗経営に不正が無いかチェックするであります!」

あきつ丸「――ふぅ……良い気持ちでありますなぁ……」




あきつ丸→鎮守府内で何か不正な経営や、違法な事が行われていないかをチェックして回る日々。が、実際は全く問題が無いのは分かりきっているので、一日のんびりしているのと何ら変わりはない。




間宮「はい、カツ丼お待ち遠様!」

間宮「ざるそばと天丼お待たせしました!」

間宮「きつねうどんとおにぎりです!」

間宮「ありがとうございましたー!」




間宮→昼と夜の数時間だけ一般客向けにも食堂を営業しており、その時間帯は戦争状態。普通ならば不可能な量の客を、日替わり当番の艦娘と二人で捌ききっている。赤城相手に料理を作っていたからこそ、出来る芸当である。




全・艦・娘・後・日・談・終・了

21: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/06(金) 04:23:05.67 ID:VG+wscHAO
提督「――なぁ、大鳳」

大鳳「何ですか?」

提督「俺はもう既に毎日夜に寝て朝に起きるっていう、規則正しい生活リズムを取り戻してるんだが?」

大鳳「だから、何ですか?」

提督「何で執務室の椅子で膝枕されてんだ、俺は」

大鳳「どこかの正規空母が終戦まで守り抜いた位置を、一度でいいから奪ってみたかったんです」

提督「結局アイツ、秘書艦になってから一度も負けなかったもんな」

大鳳「正直、かなり羨ましかったんです。提督にずっと膝枕をしてあげられる権利」

提督「秘書艦業務忘れんなよ? 膝枕はオマケだオマケ」

大鳳「――今なら加賀の気持ちが分かります。こうして提督にずっと膝枕出来るなら、仕事なんて幾らでもこなせますし、誰かに秘書艦の座を譲りたくなんて絶対になりません」

提督「そんなもんか?」

大鳳「はい、そんなものです」

提督「……本当に、優しく笑うようになったな」

大鳳「月に三週間も寝っぱなしの提督と付き合っているうちに、気持ちにゆとりが出来ました」

提督「俺にそんな嫌味を言わなかった真面目な大鳳はどこへ行った」

大鳳「……嫌味を言う私は、嫌いですか?」

提督「そっと首に手を添えてそれを聞く辺り、ちょっと本当に毒され過ぎだぞ」

大鳳「加賀直伝ですから、絞めて三秒で楽になれます」

提督「なれんでいいわ!」

大鳳「――彼女には、まだ色々な面で勝てません。ですが、提督を好きだという気持ちで劣っているとは思いません。だから、少しでも彼女が独占していたものを、私も感じたい」

提督「大鳳……」

大鳳「提督、私に全てを与えてくれた貴方を、心の底から愛しています。不幸な運命から解放してくれた貴方の為なら、私は全てを捧げます」

提督「――俺も愛しているよ、大鳳」

大鳳「……はい」

提督「……ん」

大鳳「んぅ……ちゅ……んちゅ……」

提督「……うっ!?」

大鳳「ぷはっ! ど、どうしたんですか!?」

提督「せ……背中……つった……」

大鳳(一回絞め落としていいかしらこの人)

提督「ちょ、ちょっと待ってくれ……マジで痛い……」

大鳳「三秒以内にキスしてくれない場合、加賀にないことないこと吹き込みます」

提督「お前それは幾ら何でも酷くないか!?」

大鳳「3、2」

提督「無茶をい――んむっ!?」

大鳳「ん……三秒なんて、私が我慢出来ませんでした。――大好きですよ、提督」

23: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/06(金) 12:35:38.93 ID:VG+wscHAO
加賀との出会い編、了解です

30: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/06(金) 20:08:57.60 ID:VG+wscHAO
――――鎮守府に加賀が着任した時の話。

提督「俺がここの提督だ。それでこっちが秘書艦の吹雪」

吹雪「初めまして、よろしくお願いします」

加賀「初めまして、吹雪。これから共に頑張りましょう」

吹雪「はい!……あの、司令官にもご挨拶をした方が……」

加賀「必要ありません」

吹雪「へっ?」

提督「――だ、そうだ。吹雪、加賀にこの鎮守府の細かい説明をしてやってくれ」

吹雪「あ、あの、司令官」

提督「何時までもここで突っ立ってても仕方無いだろ、ほれ、さっさと行け」

吹雪「は、はい! では加賀さん、鎮守府内をご案内します」

加賀「お願いします」

提督(一航戦加賀。前の鎮守府で命令を一切聞かず、最後には大将と口論になってうちへ島流し、か……。戦闘や事務作業に関する能力はずば抜けて高いが、それ故に俺達へ要求するモノも桁外れってことなんだろうな)

提督「はてさて、どうやって信頼を勝ち取ればいいのやら……まっ、やれるだけやってみるか」




――――鎮守府内、施設群。

加賀「……一体何なのですか、この施設の数々は」

吹雪「明石さんが妖精さんと作った、艦娘の為の施設です。誰でも使っていいので、加賀さんも暇な時は利用して下さいね」

加賀「暇、とは?」

吹雪「今週は出撃がありますけど、来週からは三週間程、出撃は一切しません。次の出撃までは基本的に遠征担当の私達駆逐艦と、警護で付いてきて下さる軽巡の方々以外は待機です」

加賀「――頭に来ました」

吹雪「えっ? どうしたんですか加賀さん、何か私が気に障るようなことをしちゃいましたか……?」

加賀「あの無能な方に、現運営システムの改定案を作成して提出してきます」

吹雪「あの、それは非常に問題があるのでやめた方が……」

加賀「貴女も艦娘の一人なら誇りを持って行動しなさい。こんなことでは深海棲艦達に勝利することなど不可能です。――分かりましたか?」

吹雪「ひゃ、ひゃいっ!」

吹雪(この人物凄く怖いよぉ……司令官助けてぇ……)

加賀(こんな鎮守府が存在していたとは驚きです。やはり、私がこの力を全て委ねるに値する提督などはどこにも……)

~続く~

31: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/06(金) 21:01:02.98 ID:VG+wscHAO
提督「――却下だな、コレじゃ話にならん」

加賀「納得のいく説明を願います。月に一週間しか出撃しないなど、正気の沙汰とは思えません。あの数々の施設もはっきり言って無駄です」

提督「一週間しか出撃しないのは、俺が指揮を取れるのが一週間だけだからだ。あの施設についてはここの艦娘達が望んだものだから、お前がどう思おうが関係ない」

加賀「話になりませんね、これならば私が提督をした方がマシです」

提督「……そうか、その手があったか」

加賀「?」

提督「――加賀、明日1日お前が提督やってみろ」



――――翌日。

吹雪「司令官司令官、私、今日も秘書艦業務やらなきゃダメですか……?」

提督「ん、今日もしっかり頼んだぞ」

吹雪「ハ、ハイ……」

吹雪(加賀さんと1日一緒とかやだよぉぉぉぉっ! 怖いよぉぉぉぉっ!)

提督「じゃあ俺は横で見てるだけだから、吹雪に聞きながら提督業務よろしく」

加賀「……分かりました」

――――書類業務。

吹雪(て、提督より速いかも……)

提督「おー速いな」

加賀「当然です」

――――遠征スケジュール管理。

加賀「次は朧、曙、漣、潮、敷波――それから木曾に行ってもらいます」

吹雪「えっ!?」

加賀「吹雪、この編成に何か問題が?」

吹雪「いや、あの、その、司令官が……」

提督「まぁいいんじゃないか? 木曾もたまには遠征に出たいかもしれんし」

加賀(たまには……?)

――――演習見学。

提督「げっ、よりにもよってアイツ等かよ……」

吹雪「あはははは……」

加賀(演習? アレが……?)

北上「えいっ」

望月「そりゃっ」

提督「何で水鉄砲で演習やってんだよお前等」

北上「夕張が作ってくれた」

望月「模擬弾でも当たると痛いし、コレでもいいんじゃねーの?」

吹雪「後で私も混ぜて――」

加賀「吹雪」

吹雪「ひゃいっ!?」

提督(アレなら俺も一緒に遊べるかもな)

加賀(演習で遊んでいるようでは、艦隊全体の練度も期待は出来そうにありませんね……)

~続く~

34: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/06(金) 23:20:35.29 ID:VG+wscHAO
――――出撃。

北上「演習して疲れたのに出撃とか、何かやる気出ないなー……」

望月「だっるー……」

加古「……ぐぅ」

如月「お肌の手入れの途中だったのに……」

島風「天津風とかけっこの約束してたのにー!」

提督「加賀、お前何でこの艦隊編成にしたんだ?」

加賀「やる気が微塵も感じられませんでしたので、練度の上昇と意識の向上を兼ねて選出しました。幾らこの子達の練度が低くても、私が共に出撃する以上、万に一つも敗北はありません」

提督「あー、そうだな、オリョール海なら何の心配もいらんから俺も安心だ」

加賀「旗艦、一航戦加賀、出撃します」

提督「お前等も続けよー」

出撃隊一同「はーい……」




――――オリョール海。

加賀「――敵です」

提督「指揮も任せていいのか?」

加賀「当然です。各自目標を定め、単縦陣で殲滅、討ち漏らしは全てこちらで処理します」

北上「はいはい、分かりましたよーだ……そういえば提督、急な出撃だったけど、MVPのご褒美って今回もあんの?」

提督「ん? 欲しけりゃやるぞ?」

北上「へー」

望月「そっか」

加古「目、覚めてきた」

如月「うふふ……」

島風「ご褒美ほっしーい!」

加賀(何、この子達……急に様子が……)

北上「イ級は貰うよー」

望月「リ級はダルいからあたしもイ級」

加古「戦艦が居ないならあたしだって!」

如月「司令官とデート、いいわねぇ」

島風「速いのは速度だけじゃないよ! 連装砲ちゃんいっけー!」

提督「現金な奴等だな全く……まぁ今回は急な出撃だったし、仕方無いか」

加賀「――コレは、一体どういうことですか? どう見てもあの子達の練度は、大将達が保有している艦娘達と同程度……いえ、それ以上です」

提督「……お前が選んだコイツ等はな、お前と一緒で何かしらの問題を起こしたり、トラウマを抱えてここへ来たんだよ。他の大半の艦娘もそうだ、来た時には戦うこと自体を拒否した艦娘も居た」

加賀「そんな子達がどうしてこれほどの練度を……一体、何をしたというの?」

提督「全部受け入れて、信じて、一緒に頑張ろうと誓った。ただ、それだけだ」

加賀「そして、あの子達はそれに応えた……そういうこと?」

提督「出撃中、艦娘から常に百の力を引き出すのが提督の役目だ。お互いを知り、信じ合わなければ、それは出来ない。――だから、お前も俺を信じてくれないか?」

37: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/07(土) 01:49:21.11 ID:a3TTWrCAO
敗因:まだカッコカリ前だから

~~~~

――――翌日。

提督「結局ダメだったか……」

吹雪「元気出して下さい、司令官」

提督「あぁ、ありがとな、吹雪」

提督(“まだ信じるに値するとは認められない”、か。まだってことは、これから次第って捉え方でいいのか?)




――――加賀、鎮守府内を移動中。

加賀(今までに出会った誰とも違う……ですが、私は例え信じ合えなくとも百の力を出せます)

武蔵「む? お前が新しく来た加賀か」

加賀「武蔵、ですね」

加賀(大和型まで保有しているなんて、ただ者でないのだけは確かなようね)

武蔵「どうだ、これから一戦交えてみないか? その実力、私も少々気になっていてな」

加賀「――いいでしょう、受けて立ちます」




――――演習場。

武蔵「はっはっは! やはり本気で戦えるというのはいいものだ!」

加賀(くっ、コレが大和型の力……!)

武蔵「――鞘を無くした刀のような顔をしているな」

加賀「……どういう意味ですか?」

武蔵「いやなに、納まる場所が無いというのは悲しいものだと思っただけだ」

加賀「刀など斬れれば問題はないでしょう」

武蔵「鞘無き刀は、振るう者すら傷付ける……なぁ加賀よ、我等は所詮船だ。その身を誰かに委ねてこそ、存在する意義を見出だせるとは思わんか?」

加賀「自分の力と意思で動ける艦娘となった今も、ですか?」

武蔵「少なくとも、私はあの提督と共に戦えることを誇りに思っている。この身も魂も常に共にあると思えば、どんな逆境すら打ち砕く力が全身を駆け巡るのだ」

加賀「それだけのことを貴女に言わしめる、あの人は一体何なのですか?」

武蔵「ふむ……一言で言うならば、世界一の戯け者だ」

加賀「戯け者……」

武蔵「そうだ、戦いで傷付いた私達を見て私達以上に傷付く等、戯けと言う他に表現のしようがあるまい?」

加賀「確かに、バカですね」

武蔵「あぁ、だからこそ信じるに値する。疑う余地が存在せん」

加賀「――少し、貴女を羨ましく思えるようになりました」

武蔵「羨ましいと思ったならば、お前も鞘を見付けてみろ。まぁ既に目には入っているだろうがな……加賀、次は私を倒してみろ! 何時でも待っているぞ!」

加賀(完敗、ですね)

加賀「私も信じられるのでしょうか、あの人を……」

~続く~

38: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/07(土) 03:17:37.09 ID:a3TTWrCAO
――――提督執務室。

加賀「……」

提督「……」

吹雪(何この無言の空間、逃げたい……)

提督「……なぁ加賀」

加賀「何か?」

提督「俺が嫌なら、違う鎮守府へ――」

加賀「お断りします」

提督「まだ言い切ってないんだが」

加賀「そうですか、では続けて下さい」

提督「違う鎮守府へ異動――」

加賀「お断りします」

提督「喧嘩売ってんのかお前は! 最後まで聞け!」

加賀「聞くまでもありません。私は今ここから、というより貴方の傍を離れる気はありません」

提督「……どういう意味だ?」

加賀「まだ貴方の事を信じてはいません。――ですが信じたいとは思えるようになりました。ですから、お断りします」

提督「……そうか、じゃあひとまずはこれからよろしく頼む、ってことでいいのか?」

加賀「はい、それなりに期待していますよ、“提督”」

吹雪(今、初めて提督って……)

提督「じゃあ早速で悪いんだが、俺そろそろヤバイから寝る。後の業務は吹雪と加賀で頼むわ」

加賀「――はい?」

吹雪「えっもうですか!?」

提督「無理、限界、お休み」

吹雪「ちゃんとベッドに――ってもう寝てるし……」

加賀「吹雪、コレは何かの冗談なの?」

吹雪「正真正銘寝てます。艦娘全員の体調やその日の調子、今誰と誰を組ませれば最高の連携が出来るか、自分の作戦に不備が少しでもないか、ずっと頭がそれでいっぱいらしくて、緊張の糸が切れる瞬間まで動いた後、泥のように眠っちゃうんです……。一週間起きたら三週間寝る、それが司令官の生活スタイルであり、出撃が一週間しか出来ない理由ですよ」

加賀「本当にバカなのね、この提督」

吹雪「でも、私達にとっては最高の司令官です」

加賀「……そう」

吹雪「じゃあ私はちょっと雑務を済ませてきますから、書類をお願い出来ますか?」

加賀「分かりました、やっておきます」

吹雪「よろしくお願いします。えーっと、確かあの案件は――」

加賀「……ふふっ、本当におかしな提督。ここまでバカだといっそ清々しいわ」

提督「……ぐぅ」

加賀(だから執務椅子がこんなに横に広いのね、すぐに寝てもいいように)

加賀「……書類を書くのに提督が邪魔だわ、先にベッドへ――いえ、時間の無駄ですね」

加賀(後ろから見守るでなく、強引に引っ張るでなく、共に歩もうとする提督……私の、鞘)

加賀「……良き夢を、提督」

52: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/07(土) 17:34:53.81 ID:a3TTWrCAO
誇り編、投下開始します

今日は更新これだけになります

53: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/07(土) 17:35:30.60 ID:a3TTWrCAO
――――提督執務室。

加賀「提督」

提督「何だ?」

加賀「私の出撃回数を増やして下さい」

提督「理由を聞こう」

加賀「一航戦だからです」

提督「そうか、じゃあ却下する」

加賀「何故ですか?」

提督「義務で戦うな、自分の意思で戦え」

加賀「コレは自分の意思です」

提督「ふーん……やっぱり却下だ」

加賀「私の練度が足りないとでも?」

提督「いや、今のままでも練度だけならうちでもずば抜けて高い方だ。――だが、艦隊戦においてお前は今、うちの誰よりも劣ってる」

加賀「私が、劣っている……?」

提督「そうだ、そのことに気付かない限り、武蔵には勝てんぞ? 今この鎮守府で名実共に一番強いのはアイツだ」

加賀「……知っていたのですね、彼女に負けたことを」

提督「大和型二番艦は伊達じゃない、負けても何らおかしくはないさ」

加賀「完全な敗北というのを初めて味わいました」

提督「まぁ勝てるようになれと言いたい訳じゃないが、全く歯が立たなかった理由を知るのは必要だと思うぞ?」

加賀「負けた、理由……」

~続く~

54: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/07(土) 17:36:54.03 ID:a3TTWrCAO
――――鎮守府内、遊戯場。

加賀(ここに来ればその理由に気付くかもしれない、ですか。とてもそうは思えないのですが……)

文月「あー新しく来た加賀さんだーねぇねぇ文月と遊ぼー」

皐月「あっボクもボクも!」

弥生「遊びたい、です」

電「私も加賀さんと遊びたいのです!」

加賀「えっ? いえ、私は……」

天龍「遊んでやれよ、ここに来たってことは時間もあるんだろ?」

加賀「私はただ提督に言われて来ただけです。遊ぶ気など一切ありません」

文月「遊んでくれないのー……?」

皐月「そっか、残念だね……」

弥生「我慢、出来ます……」

電「嫌なら仕方無いのです……」

天龍「……おいアンタ、加賀とかいったな、一航戦だろうがなんだろうが、チビ共泣かせたらタダじゃおかねぇぞ。ここに来たならチビ共と遊ぶのが俺達のルールだ、黙って従いな」

加賀「……分かりました」

天龍「ほらチビ共、遊んでくれるってよ。今日1日好きに連れ回して遊んでいいぜ」

加賀「天龍、私は遊んでもいいとは言いましたが、1日付き合うとは一言も――」

文月「ホントー?」

皐月「じゃあ一緒にかくれんぼしようよ!」

弥生「当て鬼もやりたい、です」

電「お絵描きもしたいのです!」

加賀「あの、そんなに袖と袴を引っ張らないで、付き合いますから手を離して下さい」

天龍「そいつ等タフだから頑張れよな、1日本気で付き合わされるぜ」

加賀(小さい子と遊んだ経験など一切無いのですが、大丈夫なのでしょうか……)

文月「えいっ! お胸おっきいねー加賀さん」

皐月「袴ってカッコイイね!」

弥生「私もおんぶして欲しい、です」

電「こっち、こっちなのです!」

加賀(大丈夫じゃない気がしてきました)

~続く~

55: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/07(土) 17:41:15.50 ID:a3TTWrCAO
――――半日後。

加賀(ようやく疲れて全員寝てくれましたね……どんな訓練よりもキツイ1日でした)

天龍「お疲れ、チビ共の相手は楽しかったか?」

加賀「まだまだ鍛練不足だと実感しました」

天龍「そのうち嫌でも慣れるぜ、そっからは楽しいって感じるさ」

加賀「……貴女は、こうして遊んで過ごすことに疑問は無いのですか?」

天龍「前はあったぜ、第一線で戦うのが俺様の生き甲斐だったからな」

加賀「でも、今は違うのね」

天龍「戦いたいって気持ちは変わってねぇよ。でも、ここへ来て戦いってモノに対する考え方が変わったんだ」

加賀「どう、変わったの?」

天龍「第一線で強敵と戦うのも、近海警備で深海棲艦共を追い返すのも、遠征でチビ共を守るのも、全部俺様が求めてる戦いってことさ」

加賀「それがここで遊ぶことと、一体どういう関係が……」


天龍「……チビ共に囲まれて笑ってる時間が、敵を倒してる時よりも気分が良いって気付いちまったんだよ。だから、次も絶対に勝ちてぇって力がどんどん溢れてくるし、何があろうと一緒に帰りてぇって思えるんだ」

加賀(仲間を守りたい気持ちと、共に生き残るための勝利への活力……私の一航戦としての誇りはいつの間にか薄汚れて曇ってしまっていて、視界を狭くしていたのかもしれないわね)

天龍「今日はありがとよ、チビ共と遊んでやってくれて」

加賀「いえ、礼を言わなければならないのは私の方です。大切な事を思い出せましたから」

天龍「そっか……なぁ加賀、アンタもチビ共を守ってやってくれるんだよな?」

加賀「――無論です、一航戦の誇りにかけて」

~続く~

56: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/07(土) 17:43:06.54 ID:a3TTWrCAO
――――提督執務室。

加賀「提督」

提督「何だ?」

加賀「私の出撃回数を増やして下さい」

提督「またか……で、理由は?」

加賀「私が一航戦だからです」

提督「――嬉しい誤算だな。たった1日で別人みたいな顔してるぞ、お前」

加賀「……駆逐艦の子達に付き合わされて疲れたせいです、きっと」

提督「そりゃご苦労さん。アイツ等に一度捕まったら体力根刮ぎ持っていかれるからな」

加賀「それで、出撃の件は?」

提督「あぁ、これからはうちの鎮守府に居るたった一人の正規空母として、ガンガン出撃してもらう」

加賀「――はい、了解しました」

提督「お前の一航戦としての誇りは艦隊を率いる上で強い力になる、尊く気高いものだ。慢心や変な意地で、二度と曇らせるなよ?」

加賀「……提督」

提督「何だ?」





加賀「一航戦加賀、私は貴方を提督として認め、この力の全てをここに住む全ての仲間の為に捧げることを誓います。私は貴方を心の底から――」




――――信じます。

~誇り編・終~

62: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/07(土) 22:52:12.30 ID:a3TTWrCAO
――――摩耶、着任時。

摩耶(ここに高雄姉ぇに愛宕姉ぇ、鳥海が居んのか……酷い扱い受けてなかったらいいんだが)

?「散々な目に合ったわねー……」

?「今回の撤退に至る経緯は納得がいきません……」

?「あんなの想定外です……」

摩耶「アレは――間違いない、おーい! 高雄姉ぇ! 愛宕姉ぇ! 鳥海!」

高雄「摩耶、貴女もここへ着任したのですね。姉妹四人揃うとは、喜ばしい限りです」

愛宕「久しぶりねー元気してたー?」

鳥海「また会えて嬉しいです、摩耶姉さん」

摩耶「アタシも会えて嬉しいよ――ところで、何で三人共大破してんだ?」

高雄「コレは……ちょっとしたアクシデントの結果です」

愛宕「本当にびっくりしちゃったわー」

鳥海「アレは計算に入れようがありません」

摩耶「……要は作戦に問題があって、三人はそんな風になったってことだな?」

高雄「作戦というか何というか――」

摩耶「チッ、やっぱりここにもクソ野郎が居やがんのかよ……挨拶ついでにシメてやる!」

愛宕「あっ、ちょっと、摩耶!?」

鳥海「何か早とちりしたみたいですね……」

高雄「えーっと、えーっと、どうしましょうか?」

愛宕「加賀さんも居るし、大丈夫なんじゃないかしらー?」

鳥海「私達は入渠しましょう、明石さんに高速修復材をお願いしてきます」

~続く~

63: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/07(土) 22:53:37.36 ID:a3TTWrCAO
――――提督執務室。

摩耶「おいこのクソ野郎!」

提督「ん? あぁ、今日から着任の摩耶か。入れ違いにならなくて良かった、俺がここの提督だ、よろしく頼む」

摩耶「よろしくだぁ!? アタシの姉と妹を無茶な作戦立ててこき使っといて、何言ってやがんだ!」

提督「一体何の話だ……?」

摩耶「とぼけんじゃねぇ! 三人共大破するなんざ、無茶な作戦のせいに決まってんだろうが!」

提督「作戦? いや、アレは確かに俺も予測できずに悪かったとは思っているが――」

摩耶「言い訳なんざ聞きたかねぇ! 二度とアタシ達にそんな指示出来なくしてやる!」

加賀「――出来るものならどうぞ、達磨になりたいなら止めはしません」

摩耶(っ!? いつの間に後ろに……)

加賀「流星改か彗星一二型甲、好きな方を選ばせてあげる」

摩耶「やれるもんならやってみやがれ! 先にこのクソ野郎の胴体に風穴開けてやる!」

提督「おいやめろ加賀、摩耶もその連装砲を下ろせ。高雄達を大破させてしまったことは、本当に悪かったと思ってる。まさか鳥海の電探が掠っただけで陸奥の第三砲塔が爆発するとは、俺にも予測出来なかったんだ」

摩耶「…………はぁ!?」

~続く~

64: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/07(土) 22:55:39.48 ID:a3TTWrCAO
――――高雄型、私室。

高雄「ちゃんとお詫びしましたか?」

摩耶「……あぁ」

愛宕「提督のことだから、笑って許してくれたでしょー陸奥さんも土下座しかねない勢いで謝ってたし」

摩耶「……あぁ」

鳥海「次からはちゃんと最後まで話を聞いてください、加賀さんに喧嘩売るのも自殺行為だからダメです」

摩耶「……あぁ」




摩耶(初日からやらかしちまったあぁぁぁぁぁぁ! 明日からどんな顔して提督と顔合わせりゃいいんだよぉぉぉぉっ!)

――――提督の話を全員から聞かされ、後悔と自責の念で頭を抱える摩耶なのだった。




提督「あっ摩耶、ちょっと話が――」

摩耶「なっ、なななな何か用か!?」

提督「ははは、この前の件なら気にしてないから、そんなガチガチに固くならなくてもいいぞ?」

摩耶「わ、分かった……」

摩耶(高雄姉ぇ達にくれぐれも失礼の無いようにって言われたのに、普通になんか出来るか!)

67: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/08(日) 02:05:42.85 ID:xJhii1QAO
続きは起きたら、カードじゃ買い食いの時に使えない事あるから現金必須

実際にこんな場面に遭遇したら絶対に逃げる

~~~~

――――銀行。

提督(加賀とデートするには財布の中が心許ないからと来てみれば、とんでもないことに巻き込まれたもんだ……)

強盗1「お前等全員動くなよ!」

強盗2「おら! さっさとここに金を入れれるだけ突っ込め!」

提督(平和になった途端にコレかよ……今は銀行強盗なんぞやってもハイリスクノーリターン、っていうか確実に捕まるだけなんだが)

提督「――それより何より、早く解放してくれなきゃ加賀待たせちまうな」

強盗1「あんっ!? 何か言ったかテメェ!」

提督「いやなに、これからデートの予定でね、相手のことが気になっただけだよ」

強盗1「悪いがデートはキャンセルだ兄ちゃん、諦めな」

提督「そうか、それはマズイな……」

強盗1「コレでフラれても恨むなよ?」

提督「恨まんさ。むしろ――これから起きるだろう惨事に同情する」

強盗1「はぁ? 一体何を――」

――――玄関シャッターから最初に聞こえてきたのは、ほんの微かな音。

強盗2「何だぁ? 玄関のシャッターの方から聞こえたぞ、サツか?」

強盗1「サツにしちゃ幾らなんでも早すぎるだろ」

提督「来たな……俺はもう知らん……」

――――シャッターが不自然に揺れ始める。

強盗2「おい、さっさと金を詰めろ!」

強盗1「ハンマーか何かでシャッターを破ろうとしてんのか……?」

提督(修繕費はコイツ等が払ってくれんのかなぁ……)

――――腕が一本、シャッターを突き破り生え出る。

強盗2「な、何だありゃ!?」

強盗1「人間の腕か!? どうやったらシャッターを素手でぶち抜けんだよ!?」

提督(ホラー映画みたいだな、この光景)

――――二本目の腕が更にシャッターから生え、開いた穴を広げていき、最後に足が一気に地面まで隙間を広げた。

加賀「――提督、女性を待たせるのは感心しません。早くデートに行きましょう」

――――私服の加賀が、何時もの調子でそこから姿を現した。

~続く~

73: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/08(日) 11:32:32.70 ID:xJhii1QAO
まだ手を出してないからセーフ、かすり傷あればアウト

~~~~

強盗2「な、何なんだテメェは!」

加賀「デートを前に気分が高揚しているうら若き乙女です」

強盗1「乙女がシャッター素手でぶち破る訳ねぇだろ!」

提督(強盗に同意、口にしたら巻き添え喰らうから言わないが)

加賀「――ところで、私の提督が後ろ手に縛られてるのは何故ですか?」

強盗2「見て分からねぇのかよ、人質だよ人質」

強盗1「どんな手品か知らねぇが、大事な彼氏をケガさせたくなかったら大人しくしな!」

加賀「“大事な彼氏”、良い響きですね。更に気分が高揚します」

強盗1「ふざけてんのか!? コイツがどうなってもいいのかよ!」

提督「あっバカ、俺に拳銃なんか向けたら――」

加賀「ふふっ……頭に来ました」

提督(手遅れだったかー……)

強盗1「な、何笑ってんだよ!」

強盗2「そろそろマジでサツが来るぞ! 早く逃げねぇと!」

加賀「逃がしてあげますよ、一番安全な場所に」

強盗2「彼氏と交換に逃走用の車でも用意してくれるってのか?」

加賀「いえ、ただの――地獄への片道切符です」

~続く~

75: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/08(日) 11:52:50.77 ID:xJhii1QAO
強盗1(っ!? 一瞬で目の前に!?)

強盗1「うぐっ!?」

加賀「顔を潰しましょうか? 艦爆で足を吹き飛ばしましょうか? それとも全身の骨を砕いて欲しいですか?」

強盗1(首が、絞まる、息が……)

強盗2「に、人間一人片手で持ち上げるとか化物かよ!?」

提督「頼むからそっちの奴は抵抗せずに大人しく投降しろ。加賀はやり過ぎだ、もうソイツ気絶して失禁してるから手を離してやれ」

加賀「はい、今日の為に用意した服が汚れるのは私も嫌です」

強盗2(い、今のうちに――)

加賀「あら、何処へ行く気なの?」

強盗2「ひっ!?」

加賀「提督からの優しい忠告を無視したのですから、“俺は別にお前なんて怖くない”という意思表示と捉えていいですね?」

提督(涙目で腰抜かしてる奴がそんな意思表示する訳無いんだがな)

加賀「一分一秒が惜しいです。表に放り出されるか、自分で表に出て警察を待つか、今ここで永久に捕まらない場所へ旅立つか、一秒で選んで下さい」

強盗2「た、立てねぇ……」

加賀「そうですか、では放り出します」

強盗2「おい、やめ、ぎゃあぁぁぁぁぁっ!? がっ!?」

提督「シャッターから首だけ向こうに出てるけど、生きてるよな、アレ」

加賀「私がそんな加減も出来ないとお思いですか?」

提督「もう一人を汚い物摘まむみたいに表へ投げ捨てながら言わなきゃ信じられた。顔面で着地してたけどマジで大丈夫か?」

加賀「死んでなければセーフです」

提督「まぁ……そうだな……さて、後は警察の事情聴取か」

加賀「――時間が惜しいので警察を爆撃してデートへ行きませんか?」

提督「頼むからやめろ、うちの鎮守府がテロリスト扱いされる」

加賀「では、帰ったら今日の不満を全て提督の身体で受け止めて貰います。後ろ手に縛られている提督をイジメてみるというのも良さそうですね」

提督(アイツ等恨む! マジで恨む!)

加賀「久しぶりの夜戦、流石に気分が高揚しまくります」

提督「頼むから明日に支障が出ない範囲にしてくれ……」




――――今日の教訓。この街で犯罪を起こすなら提督を巻き込んではいけない。

大鳳「提督、顔色が優れないですが大丈夫ですか?」

提督「アァ、ダイジョブ、ダイジョブ」

提督(一睡も出来んかった……)




加賀「次の秘書艦日は1日要求してみましょう。肌も心も潤います」

~終~

84: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/08(日) 18:16:18.26 ID:xJhii1QAO
そういえば青葉は最初に書き間違えたので、提督呼びで統一してます

続きは悩んでるので明日になりそうです

~~~~

――――青葉、デートで服試着中。

青葉「あのー提督?」

提督「ん? 着れたか、見せてみろ」

青葉「こういう格好は青葉には似合わないんじゃ……」

提督「人が選んだ服にケチ付ける気か? 選べって言ったの青葉だろ」

青葉「そ、それは提督が青葉が試着する服を全部イマイチとか言うから、つい売り言葉に買い言葉で言っちゃったんですよ!」

提督「なら、問題ないな。今日のデートはそれ着てろ、これは命令だ。後、このカメラはその服にゃ似合わんから没収」

青葉「そんなの横暴です! 青葉のカメラ返して下さいよ!」

提督「――その青のワンピース、良く似合ってて可愛いぞ」

青葉「へ? いや、あの、ども、恐縮、です……ってそんな言葉に騙されませんよ! カメラを返して下さいってば!」

提督「ほれ、一枚撮ってやるから笑え、怒った顔撮られたいか?」

青葉「青葉のカメラで勝手に青葉を撮らないで下さいよ!」

提督「撮られる側は慣れてないみたいだな、今日は1日撮られる側を味わってみるのもいいだろ」

青葉「提督のバカ! 変態! 変質者!」

提督「試着室前でそんなこと言ったら捕まるからやめろアホ! ほら、店員にタグ切って貰って会計するからさっさと行くぞ」

青葉「うぅー……青葉のカメラ……」

~続く~

86: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/09(月) 02:31:37.39 ID:feEfO0EAO
――――街の大通り。

青葉(カメラは奪われるし、髪留めも強奪されるし、今日の提督はちょっと強引過ぎますよ……)

提督「――青葉、着いたぞ」

青葉「着いた? どこに着いたんですか?」

提督「入りゃ分かるさ」

青葉「え、あの、ちょっと!?」

提督「行くぞー」

青葉(もうっ! 一体全体今日は何なんですか!)




青葉「ここって……」

カメラマン「今日はよっろしくお願いしゃーす」

提督「こちらこそ、よろしくお願いします」

青葉「て、提督? 何か青葉にはここが撮影スタジオに見えちゃってるんですが……」

提督「さっき、たまには撮られてみろって言ったろ。今日は二人で写真撮ってもらうことにしたから」

青葉「本気で言ってます?」

提督「あぁ、だからここに来たんだ」

青葉「青葉、ちょっと用事を思い出しました」

提督「まぁ待て、逃げたらカメラは戻らんと思えよ?」

青葉「提督の卑怯者!」

提督「はいはい諦めて一緒に撮影されような」

青葉「青葉にだって心の準備とか色々あるんですよ! いきなり撮影とか言われても困っちゃいますってば!」

提督「大丈夫だ、今のお前は見惚れるぐらいに可愛いから問題ない」

青葉「……そういう事を真顔で言うのが卑怯なんです。余計に撮られたくなくなっちゃいましたよ……」

提督「安心しろ、恥ずかしがってるのも新鮮で可愛い」

青葉「分かった分かった分ーかーりーまーしーたー! もうこれ以上は精神衛生上非常によろしくないのでさっさと撮影でも何でもしちゃって下さい」

カメラマン「寄り添ってお願いしゃーす」

提督「ほら、引っ付いて顔上げろ」

青葉「はいっ、コレでいいですかっ!」

カメラマン「はい、いいっす。じゃあいきゃーす、はいチーズ」




――――この日から、青葉の部屋には一枚の写真立てが増えることとなる。そこには提督の腕に抱き着き、真っ赤な顔で笑みを浮かべる彼女の姿があった。

青葉(よく考えたら初ツーショット……青葉、恥ずかしかったけど嬉しいです!)

99: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/09(月) 15:57:23.73 ID:feEfO0EAO
見た目は二十歳

~~~~

――――提督執務室。

提督「なぁ」

電「はい、お茶です」

提督「ん」

電「お煎餅でも食べますか?」

提督「いる」

電「……えへへっ」

提督「んー?」

電「座った司令官を見下ろせる様になりました」

提督「その分、俺は老けたがな」

電「今でもカッコイイですよ?」

提督「三十過ぎのただのオッサンだ」

電「それ、陸奥さんの前で言ってみて下さい」

提督「まだ死にたくないから断る。歳の話したら目付きが変わる奴が年々増えていきやがって……」

電「皆、司令官の前では綺麗で居たくて必死なんです」

提督「電もか?」

電「……約束、覚えてますか?」

提督「髪を上げてたら今日はいいですよのサイ――待て、今お前の魚雷マッサージ受けたら動けなくなる」

電「ふざける司令官は嫌いなのです!」

提督「その語尾も懐かしいな、怒った時ぐらいしか言わなくなったし」

電「子供っぽいから使わないようにしてるの知ってるくせに……」

提督「……約束、か。今の電に隣に立って並ばれたら、俺が不釣り合いで笑えるよ」

電「司令官以外はお断りしますから、比較されないので大丈夫です」

提督「おい、不釣り合いに対するフォローはどうした」

電「“電は俺には勿体無いぐらい可愛くて綺麗になった”、でしたね」

提督「さっきからかったの引きずりすぎだろ。いい加減機嫌直せ」

電「――電は、司令官の理想の女性になれましたか?」

提督「俺には勿体無いって言ったはずだ。お前はもう、立派な一人の女性だよ」

電「頑張ったのは全部、司令官に見合う女性になりたかったからです。そう言って貰えて、本当に私は嬉しいのです」

提督「――コレ、やる」

電「? この箱って、ひょっとして……」

提督「給料三ヶ月、って訳でも無いんだがな。結婚は無理でも、これだけは渡したいと思ってたんだ」

電「あの、司令官の手で私の指に、填めてくれませんか……?」

提督「……あぁ」




――――これからも、ずっと俺の隣に居てくれるか?

 ――――はい、なのです!

111: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/10(火) 00:56:34.36 ID:SBTuzVYAO
――――提督執務室。

北上「いいねー楽だねー」

提督「そりゃ良かったな」

北上「提督、アタシ重い?」

提督「重くはないが、軽くもない」

北上「えーそこは軽いって言うもんじゃないの?」

提督「お望み通りに膝枕してやってんだ、文句言うなら退け」

北上「ヤダよーだ」

提督「コラ、頭をグリグリするな」

北上「何? 変なとこに当たって興奮するとか?」

提督「魚雷発射管がガチャガチャ鳴ってうるさいんだよ!」

北上「ふーん、あっそ」

提督「もう少しだけ大人しくしてろ、この書類書いたら構ってやるから」

北上「ちょっと提督、頭撫でるのやめてよ。アタシ駆逐艦共みたいに喜ばないよ?」

提督「そういうことはにやけてる顔を引き締めてから言え」

北上「うっ……」

提督「――なぁ、北上」

北上「何さ」

提督「上から見るとお前もやっぱり平面ふぐぉっ!?」

北上「世の中には言っていい事と悪い事があるよねー。ねぇ、提督?」

提督「げほっごほっ! み、鳩尾にグーパンはやめろ。お前の顔にインクぶちまけるところだったぞ」

北上「寸胴で可愛いげ無いのなんて自分が一番良く知ってるってば、提督のアホ」

提督「寸胴かどうかはともかくとして、可愛いげはあるだろ。膝枕許可したら小さくガッツポーズしてたところとか」

北上「っ!? 提督あの時書類の方に視線向けてたじゃんか!」

提督「急に跳ね起きるなよ、頭ぶつけるぞ。反応が気になったから横目で見てただけだ」

北上「うわー忘れてよー……」

提督「で、可愛いげが何だって?」

北上「あーもう何さっ、嬉しかったら悪い?」

提督「いや、全然。お前が喜ぶんなら、俺も膝枕のし甲斐があるってもんだ」

北上「……提督はさ、アタシがここに来たときから何時だってアタシの全てを受け入れてくれたよね」

提督「それが俺の方針だったからな」

北上「面と向かって言うの照れ臭くってさ、今までずっと言えなかったけど――ありがとね、提督」

提督「俺の方こそ、お前の肩の力を抜いてくれる気楽な雰囲気に何度も救われたよ。ありがとな、北上」

北上「それ、褒めてんの?」

提督「こうしたら、伝わるか?」

北上「あっ……うん、伝わった」




 ――――何時までもこんな風に一緒に居ようね、提督。

113: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/10(火) 04:10:04.60 ID:SBTuzVYAO
――――飛鷹型私室。

飛鷹(そろそろ暑くなってきたし、衣替えしないと)

隼鷹「飛鷹ーあたしのもよろしくー」

飛鷹「酒飲む暇があるならちょっとは手伝ってよ」

隼鷹「だって暑いしさー飲んでなきゃやってらんないっての」

飛鷹「だから、今服を入れ換えてる訳なんだけど?」

飛鷹(とりあえず、わたしは先に夏服に着替えちゃおっかな)

隼鷹「そういえば春先ぐらいに買い物してる時から言おうと思ってたんだけどさー」

飛鷹「何?」

隼鷹「――去年の夏服、ちょっとキツいって言ってなかった?」

飛鷹「……え?」




――――百貨店、レディースファッションコーナー。

提督「おい飛鷹。秘書艦日だから買い物に付き合うのはいいんだが、この量はなんだ?」

飛鷹「……なくなってたの」

提督「ん?」

飛鷹「色々と事情があって、ほとんど服が着られなくなってたのよ……」

提督「あぁ、冬服はゆったりしたのが多かったから気付かなかったのか」

飛鷹「下着新調した時に気付くべきだったわ。ボタンが止まらないシャツとか、履いたら一歩も動けないデニムパンツなんてどうにもならないし……」

提督「それで今日はマキシワンピなんだな」

飛鷹「ピッチリしたのは全滅だもの。だから今日は荷物持ち兼財布係、よろしくね?」

提督「払うのは別にいいんだが、もう既に両手塞がりそうなこの状況でまだ追加する気か?」

飛鷹「ちゃんと後で良いもの見せてあげるから、つべこべ言わずについてきて」

提督「あーはいはい、付き合いますよお嬢様」




提督「良いものって、こういうことかよ……」

飛鷹「コレなんてどう? 似合う?」

提督「それも似合うが、さっきのヤツの方が俺は好きだ」

飛鷹「そう、じゃあ次は提督が自分で選んでいいわよ」

提督「お前は下着売り場で男が下着を漁ってたらどんな目で見られるか、分かってて言ってんだな?」

飛鷹「そんなの当たり前じゃない」

提督「店員さん、この中で一番ド派手で露出高いのどれですか?」

飛鷹「流石提督度胸が――ってそんなの持って来られても着ないからねっ!?」

提督「買い物に付き合った礼なんだろ? 観念しろや飛鷹」

飛鷹(あっ目が本気だ……)




――――結局、着せられた挙げ句に“似合わねぇな”と言われた飛鷹。勝負下着で夜戦を仕掛けて綺麗だと言わせることには成功し、女としての意地は守りきるのだった。

114: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/10(火) 05:15:47.46 ID:SBTuzVYAO
題から地獄耳は削除します

こんな奴等は居て欲しくない

続きは多分今日中に

~~~~

――――鎮守府、入口。

加賀「電」

電「あっ加賀さん、どうしたのですか?」

加賀「今日は鎮守府に見学に訪れている人数が多そうなので、見回りに来ました」

電「確かに今日は多いのです……」

加賀「危険区域は厳重に警備して立ち入り禁止にしてあるとしても、人混みは無用なトラブルを招きます。案内にも細心の注意を払って下さい」

電「はいなのです!」

客1「――ひょっとして、君達が噂の艦娘?」

加賀「そうですが、何か御用でしょうか?」

客2「評判通りに綺麗な人と可愛い娘ばっかりだね」

電「えと、お褒め頂きありがとうなのです」

客1「よかったらここ案内してくれませんか? 地図は見たけど広すぎてよく分かんなくって……」

加賀「私も仕事がありますのでそう長くは案内できませんが、それで良ければ」

客2「ホントに? じゃあちょっと案内の前にお願いがあるんだけど、写真を撮ってもいいかな?」

加賀「撮影禁止区域以外の建物や施設でしたら、御自由にどうぞ」

客1「いや、君達を撮りたいんだけど」

加賀「禁止されているのでお断りします」

客2「そういうサービスは無いの?」

電「私達艦娘に対する個人的な撮影は全面的に禁止となっているのです……」

加賀「無断で撮影してネットにアップした場合、厳罰に処されますので注意して下さい」

客1「何だ、艦娘が街を男と二人で歩いてるのが目撃されてるとか聞いたから、てっきりそういうサービスもあると思ってたのに……」

加賀「事実無根です」

客2「でも、上司である提督の命令なら何でもするって噂も聞いたよ? その人にお金払えば撮らせてくれたりしないの?」

加賀「……私達の提督は、そのような行為を許す方ではありませんので」

客1「こんな小さい子を働かせて、椅子でふんぞり返ってるような奴なら言い出しかねないと思うけどなぁ」

電「――加賀さん。電は今、初めて本気で怒っているかもしれないのです」

加賀「奇遇ですね電、私も少し頭に来ています」

客1「じゃあ写真は諦めるけど、案内をお願いするよ」

客2「オススメとかってある?」

加賀「――えぇ、ありますよ?」

電「ゆっくりと、堪能して行って欲しいのです」

~続く~

118: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/10(火) 12:58:44.22 ID:SBTuzVYAO
天使だからちゃんと身体の不調を気遣ってくれています、電は優しい子

~~~~

――――道場。

大和「――分かりました。やり過ぎなければいいんですね?」

加賀「えぇ、ついうっかり首の骨を折らない程度に」

武蔵「任せておけ」

電「お願いするのです」

客1(綺麗だ……)

客2(胸、すげぇ……)

大和「では、お手柔らかにお願いします」

武蔵「二人のどちらかから一本取れれば、お望み通り何か特別な奉仕をしてやろう。――取れれば、な」




客1「降参降参ギブギブ腕千切れるっ!」

客2「そこはそれ以上そっちには曲がらない痛い痛い痛い痛い痛いっ!」




――――マッサージ屋。

加賀「軽い運動の後は身体をほぐして休んでください」

客1(軽く死にかけた……)

客2「マッサージってどんなの?」

電「物凄く効く魚雷マッサージなのです。イクという艦娘が水着姿でやってくれるのです。今日は電もマッサージするのです」

客1「マッサージならさっきみたいにはならないか……」

客2「スク水……」

19「どうぞなのねー」




19(痛いだけのツボを押すって面白いのね)

客1「うぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」

電(ここをこの角度で――えいっ!)

客2「いっ!?」

電「骨が歪んでるので(強引に)戻しておくのです」

客2「ミシミシって、何か骨がミシミシっていってる!?」

加賀(あの子も提督の事になると容赦がありませんね……では、次は私も)

~続く~

121: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/10(火) 13:14:56.00 ID:SBTuzVYAO
非殺傷ゴム弾(痛くないとは言っていない)

~~~~

――――鎮守府内、陸上演習場。

加賀「ちょっとしたゲームをしましょう」

電「加賀さんと私がお二人を追いかけながら、ペイントボールをぶつけます。十分間で当たった回数が百回以下なら、司令官には内緒で私達がデートしてあげるのです」

客1「ど、どうする?」

客2「百回ならいけるんじゃないか?」

客1「デートしてくれるって言うし、ちょっと怖いけどやるか」

加賀(かかりました)

電(司令官以外とデートなんて絶対にしないのです)

客2「やるよ、始めて」

客1「約束は守ってよ?」

加賀「えぇ、守りますよ」

電「約束は大事なのです」

加賀「それでは始めます。――艦載機、全機発艦」

電「電の本気を見るのです!」

客1「艤装使うの!?」

客2「聞いてないよ!?」

加賀「あぁ、言い忘れていました。このゲームは“演習ごっこ”という名前です」

電「使用するのはペイントゴム弾なので安全なのです」

加賀「顔面はセーフですので、ご心配なく」

客1「は、反則だろそんなの!」

客2「とにかく逃げなきゃ!」

加賀「電、そちらは任せました」

電「はいなのです」




――――ゴム弾だって関節や脛、首に当たれば痛い。十分で合計六百三十七発。赤とピンクと黄色にまみれ、痣だらけになった二人がかろうじて動けるようになったのは、終了からおよそ三十分後のことだった。

~続く~

122: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/10(火) 13:52:40.71 ID:SBTuzVYAO
客1「いててて……こんな酷い扱いされるなんて聞いてないっての……」

客2「今日の事は全部ネット使って拡散するからな!」

加賀「――氏名〇〇〇〇、住所〇〇〇〇〇〇、職業〇〇〇」

客1「っ!?」

電「ちょっとマッサージの時に携帯から個人情報を抜き出して貰ったのです」

客2「は、犯罪だろそんなの!」

加賀「先に提督を侮辱したのは貴方達です」

電「電はこれで許してもいいのです。でも、他の皆さんがどう思うかは分からないのです」

客1「なぁ、何かヤバいぞ……」

客2「いつの間にか増えてる……」

――――北上・大井・木曾・ビスマルク・大鳳・金剛・榛名・利根・神通・霞・荒潮・夕立。笑顔と艤装をフル装備で待機中。

加賀「既に霧島がありとあらゆる個人情報を抑えています。ネットに流したければ、好きにして下さい。その後どうなっても知りませんが」

電「出来れば、こんな手荒な手段は取りたくなかったのです……。でも、私達の事を何時も考えてくれている司令官を、悪く言われるのだけは嫌なのです」

客1「……分かったよ、謝る」

客2「酷い事言ってごめんなさい」

加賀「――次来た時は、本当にオススメの場所を案内します」

電「お待ちしてるのです!」




――――事件終了後、提督執務室。

提督「アホかお前等は! 一般人相手に艤装持ち出すとか何考えてんだ! 挙げ句の果てには霧島にハッキングまでさせやがって……」

加賀「反省して貰えましたが?」

電「ご、ごめんなさいなのです……」

提督「……二人とも悪かったな、不快な思いさせて。その辺の対処もしっかり考えとく」

加賀「お気遣いは無用です」

電「嫌々やってる訳じゃないのです。良いことだって、たくさんあるのです」

提督「――そうか」




――――後日。

客1「俺と付き合って下さい!」

加賀「お断りします」

客2「電ちゃんにまた撃たれたいんだ!」

電「へ、変態さんなのです!?」

~終~

129: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/11(水) 00:03:11.97 ID:uv+DNdGAO
――――鎮守府内、入口へ向かう道中。

提督「服を着ろ、胸を隠せ」

武蔵「断る、暑い、サラシは巻いている」

提督「お前に女としての恥じらいってもんは無いのか?」

武蔵「あるぞ、眼鏡と髪型には気を遣っている」

提督「他にもっと気を遣えよ……」

武蔵「何だ、私の身体は見られて恥ずかしい体型だとでも言いたいのか?」

提督「自慢して良いぐらいの体型だから言ってんだ」

武蔵「ふむ、ならば何の問題もないな」

提督「――俺以外には見せて欲しくないと言えば、着てくれるのか?」

武蔵「それが世に言う、妬く、というヤツか? 悪い気はせんな、やはり着ない事にしよう」

提督「あぁ、そうかよ……」

武蔵「そうふてくされるな提督よ。自慢出来ると思っているならば、存分に自慢すればよいではないか」

提督「別に誰かに自慢したくて、連れて歩く訳じゃない」

武蔵「そう恐い顔で睨むな。お前はこの武蔵が認めた男だ、そのぐらいの役得があっても罰は当たらんさ」

提督「そんな役得はいらん。認めてんなら言うこと聞いて服を着ろ」

武蔵「ふっ、百を越す艦娘達と恋仲にある男の台詞とは思えんな。サラシを取って街を闊歩しろ、ぐらいは言っても良さそうなものだぞ」

提督「お前は俺の事を何だと思ってやがる」

武蔵「深海棲艦との戦いに終止符を打った英雄の一人。“常勝無敗提督”、だったか?」

提督「勝手に元帥が嫌がらせでそう呼びやがっただけだ。英雄はお前達であって、俺じゃない」

武蔵「全く、どうにもお前は名誉や栄誉といったものを嫌う節がある。少しは誇ってくれた方が、私達も気分が良いのだがな」

提督「お前達の提督が俺である事だけは、一生の誇りだと思ってる。それじゃ不満か?」

武蔵「……ふっ、やはりお前は世界一の大戯け者だな」

提督「お誉めに預かり光栄だよ、大和型二番艦武蔵殿」

武蔵「背筋が寒くなった、抱き締めて暖めてくれ」

提督「じゃあ服を着ろ」

武蔵「断る」

提督「――手でも、繋ぐか?」

武蔵「むっ、手か、良いだろう」

提督「ちょっと照れてるだろ、武蔵」

武蔵「黙れ、握り潰すぞ」

提督「洒落にならんからやめてくれ」




――――……一生、この手は繋いでいたいものだ。

 ――――安心しろ、放してなんかやらねぇよ。

134: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/11(水) 04:09:40.35 ID:uv+DNdGAO
――――提督執務室。

巻雲「司令官様、お茶をどうぞー」

提督「あぁ、貰う」

巻雲「巻雲、今日は一日お役に立ちますよー」

提督「別に役に立つ必要は無いんだぞ?」

巻雲「秘書艦日は司令官様の為に、一日尽くすと決めてるんです。……ご迷惑ですか?」

提督「いや、迷惑なんかじゃない。そういうことなら無理しない程度に頼む」

巻雲「はい!」

提督「――ところで巻雲、その袖、秘書艦業務には不便じゃないのか?」

巻雲「もう慣れちゃいました。ほら、このリンゴでこんなことも出来ちゃいますよー?」

提督「それ、練習したのか?」

巻雲「司令官様が退屈したらお見せしようかと思って、私のジャグリング、どうでしょー?」

提督「その袖でやってるとは思えないぐらい上手いぞ。他にも何か出来たりするのか?」

巻雲「そうですねぇ、例えばこのリンゴを上に投げて――てやぁ!」

提督(投げナイフ……)

提督「袖にナイフ仕込んでるの、危なくないか?」

巻雲「大丈夫ですよー? 他にも傷薬にドライバー、カロリーメイト、電池、トランプにー……」

提督「おい待て巻雲、その袖どうなってる」

巻雲「ふぇ? 明石さんに余った袖を有効活用したいって言ったら、便利に改造してくれました」

提督(なるほど、原理は木曾のマントと一緒か)

巻雲「夕雲姉さんが居なくても、巻雲はもう一人前です」

提督「あぁ、きっと夕雲だってそう思ってるよ」

巻雲「司令官様、巻雲はずっと、ずーっと、お役に立ちますからね?」

提督「そうか……巻雲、ちょっとこっち来てみろ」

巻雲「何でしょー?」

提督「ほらよっと。ありがとな、俺の為に色々と考えてくれて」

巻雲「はわわわわぅ!? 急に抱っこなんてされたらびっくりしちゃいますよー!」

提督「ははは、一人前でも抱っこしちまえば普通の可愛い女の子だな」

巻雲「もうっ、子供扱いしないで下さいよぉ! 司令官様のバカー!」

提督「がっ!? 何で、広辞苑、が……」

巻雲「あれれ? 司令官様? 司令官様ー!? ふぇーん、起きて下さいよー」




――――巻雲、ずっと、ずーっと、司令官様だけを見つめてます。絶対お役に立ちますから、居なくなったりしちゃ、嫌ですよ?

139: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/11(水) 18:18:42.37 ID:uv+DNdGAO
――――早朝、扶桑&山城の私室。

時雨「お邪魔するよ」

扶桑「すぅ……すぅ……」

山城「うぅん……姉様……」

時雨(畳に布団か、二人は和風がいいって言ってたね)

時雨「さてと、始めようかな」




――――扶桑&山城、起床時間。時雨、押し入れで待機中。

?『起きな! 地獄へ招待してやるぜ!』

扶桑「っ!? 何、敵襲?」

時雨(目覚ましボイスレコーダーには霧島に頼んだデスメタル)

山城「姉様、とにかく艤装――きゃあぁぁぁっ!」

扶桑「山城、どうしたの?」

山城「じゅ、襦袢が血だらけに……」

時雨(ただの血糊だけど案外バレないな。慌てる山城可愛いね)

扶桑「お、落ち着いて山城、怪我は?」

山城「怪我は……無いみたいです。ひょっとしてコレ――血糊?」

時雨(あっバレた)

扶桑「きっと誰かのイタズラね」

山城「全く、朝からこういうのは心臓に悪いからやめて欲しいわ」

扶桑「とにかく、着替えて洗濯しましょうか」

山城「犯人見付けたらタダじゃ置かないんだから……」

時雨(ちょっとやり過ぎたかな?)

扶桑「――あら? 髪飾りが……」

山城「これも犯人の仕業ね、三色団子型の髪飾りって何よ。私と扶桑姉様と時雨でお揃いになってるのに……頭に来た、見付けたら絶対に許さないわ」

時雨(……)

扶桑「とにかく、髪飾りだけは早く返してもらいたいわね」




時雨「――二人とも、ごめんね」

~続く~

140: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/11(水) 18:25:00.89 ID:uv+DNdGAO
扶桑「っ!? 時雨、なの……?」

山城「何で押し入れなんかに居たの? それに鍵は?」

時雨「マスターキーをちょっと拝借したんだ。それと、髪飾りを返すよ」

扶桑「このイタズラは、時雨がやったの?」

時雨「うん、ちょっと最近こういう事するのが楽しくてね。でも、少しやり過ぎちゃったかな」

山城「――はぁ、時雨なら別に良いわ」

扶桑「えぇ、そうね。流石に襦袢にイタズラは洗うのが大変だから、出来ればやめて欲しかったけど」

時雨「……怒らないのかい?」

扶桑「私達にとっては、貴女も妹みたいなものだもの」

山城「昔の事を気にして、気を遣われるよりはよっぽどマシよ。髪飾りも時雨なら大切に扱ってくれるって分かってるし」

時雨「――えへへ。何か、嬉しいな」

扶桑「この際だから、三人で朝食にしましょうか。山城、洗濯お願いね」

山城「はい、姉様。ほら時雨、自分がやったんだから貴女も手伝って」

時雨「わっ、血糊まみれで抱き着くのはやめてよ!?」

山城「自分がやったんでしょ、それぐらいは我慢しなさい」

時雨「コレ、お気に入りの服だったのに……」




――――また、ピクニックでも行きましょうか。

 ――――姉様が行きたいなら、私は行きます。

  ――――僕も行きたいな。今回はこの三人だけで、ね?

143: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/11(水) 20:58:27.79 ID:uv+DNdGAO
――――茶室横、水屋。

瑞鶴(干菓子と落雁よし、服紗よし、棗よし、茶筅よし、茶杓よし。翔鶴姉待たせてるし、早くしないと)




――――茶室。

翔鶴(ここはいつ来ても静かね……)

瑞鶴「翔鶴姉、準備出来たから始めるねー」

翔鶴「えぇ、いつでもいいわよ」

瑞鶴「今日は気楽にやるから、翔鶴姉も楽にしてて」

翔鶴「ふふ、それで練習になるの?」

瑞鶴「大丈夫、手順の確認みたいなものだから――よっ、はっ」

翔鶴「障子って、そんなかけ声出して開けるものだったかしら」

瑞鶴「ちょっと開けて、それから開けきるから、かけ声あった方がやりやすいんだ。本当は絶対にダメだけどね」

翔鶴「もう、瑞鶴ったら」

瑞鶴「じゃあ一礼してっと、まずはお菓子出すね」

翔鶴(一応、歩き方はちゃんと練習してるから様になってるみたいね)

瑞鶴「畳と畳の間を踏んじゃダメとか、面倒な決まりがあるよね、茶道って」

翔鶴「でも、提督におしとやかなところを見せたいから始めたんでしょ? なら、しっかりしないと」

瑞鶴「べ、別に提督さんの為なんかじゃ――」

翔鶴「間、踏んでるわよ?」

瑞鶴「あっ……れ、練習だからいいの!」

翔鶴「ちょっと集中しなさい」

瑞鶴「……はい」




瑞鶴「どうぞ、翔鶴姉。点てるのは上手に出来てるはずよ」

翔鶴「最初、ミキサーみたいにかき混ぜてたのは誰だったかしら?」

瑞鶴「ちゃんと今は八の字で飛び散らないようにしてるってば……」

翔鶴「じゃあ、お点前頂戴致します。――――うん、ダマもないし、粉とお湯の分量もちゃんとしてるわね」

瑞鶴「やった! 翔鶴姉に褒められた!」

翔鶴「後は、提督の前で緊張しないかどうかが心配だわ……」

瑞鶴「だ、大丈夫だよ、きっと……多分」



――――後日、提督を交えた時。

提督「――アッチィィィィ!?」

瑞鶴「うわっ、ごめん提督さん!」

翔鶴(準備早すぎて茶釜が熱かった上に、つまずいて頭からかけるなんて……はぁ)



――――翔鶴姉、どうしよう!?

 ――――とにかく、水屋でタオル濡らして来て。

――――分かったっ、とっとっとっとおっ!?

 ――――……あの茶碗、八十万はするのに……。

146: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/12(木) 00:32:59.42 ID:6PzTFwiAO
――――提督執務室。

名取「あ、あの……」

提督「ん? どうした?」

名取「手編みのマフラーとか、手編みの手袋って、重いって思いますか?」

提督「あぁ、そういう話は良く聞くな。手編みとか手作りってのは、気持ちが込められてるって感覚が強い」

名取「提督さんも、そう感じちゃいますか?」

提督「そうだな……貰う側と渡す側の意識の問題だし、俺は少なくともお前達から受け取れば嬉しいぞ?」

名取「……ホントに?」

提督「嘘なんて吐いてどうする。 薬や筋弛緩剤を混ぜたチョコとかは勘弁願いたいがな」

名取「じゃあ、あの、その……コレ!」

提督(コレは――手編みのマフラーか)

名取「きょ、去年も渡そうと思ったんですが、どうしても渡せなくて……」

提督「もう結構長い付き合いになるのに、遠慮し過ぎなんだよ、お前は」

名取「重い女って思われたら嫌われちゃうんじゃないかって、怖かったんです」

提督「それで、今日は何で言えたんだ?」

名取「朝、提督さんが寒そうにしてるのを見かけて、風邪引いたらどうしようって考えたら居ても立ってもいられなくて、それで……」

提督「――今、巻いてみていいか?」

名取「え? あの、室内だし暖房点いてますよ?」

提督「暖房は消す。寒くなるからマフラー巻く。何の問題も無い」

名取「それじゃ本末転倒になっちゃいます……」

提督「ついでにお前が抱き着いてくれたら暖かくなるんだが、嫌か?」

名取「えっ!? あ、あの、嫌とかじゃなくて――抱き着いても、いいの?」

提督「早くしてくれ。マフラーで顔と首は暖かいが、身体は寒い」

名取「……うん」

提督「――ん、暖かくなった。名取にこういう事してやるの、初めてだよな?」

名取「傍で見てられれば、満足、だったから」

提督「少しはワガママ言ったり、して欲しい事を言ったりしていいんだぞ?」

名取「じゃあ……今日は1日、このまま抱き締めてて下さい」

提督「分かった、明日までずっとこうしててやる」




――――夜戦も、が、頑張ります!

 ――――無理はしなくていいからな?

――――して欲しい事、言っていいってあなたが言ったんですよ……?

 ――――お、お手柔らかに頼む。

154: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/12(木) 11:35:39.14 ID:6PzTFwiAO
――――提督執務室。

提督「比叡」

比叡「どうしました?」

提督「自分で食える」

比叡「金剛姉様があーんしたって言ってました。私もしたいです!」

提督「こら、押さえ付けんな」

比叡「気合い! 入れて! 行きます!」

提督「こんな事に気合いはいらん!」

比叡「抵抗したって無駄ですよ。司令が私より力が弱いの知ってるんだから」

提督「分かった、分かったから!」

比叡「じゃあ、あーんして下さい」

提督「……あーん」

比叡「はい、たくさん召し上がって下さい」

提督「――ん、美味い」

比叡「今日は夏バテ対策に、夏野菜をたっぷり入れてみました」

提督「カレーだけは本当にバリエーション豊富だな。玉子焼きは焼けないのに」

比叡「れ、練習はしてるんですよっ!? ただ、何故か焦げたり変色したり叫んだりするだけで……」

提督「最後がなけりゃ笑って済ませてやれるんだがな……」

比叡「と、とにかく今はカレー食べて下さい! はい、あーん」

提督「全部それで食わせる気か、人参も乗っけろ」

比叡「人参ですね、どうぞ!」

提督「スプーンを勢いよく突き出すな! 喉に刺さる!――金剛をお前から奪った俺で、良かったのか?」

比叡「……喉、渇きませんか?」

提督「渇いては来たが今は――んぅ!?」

比叡「んむ、ちゅぱ……ふぅ……喉、潤いましたか?」

提督「お、おまっ、いきなり口移しで飲ませる奴があるか!」

比叡「――私は、司令もお姉様も大好きです。だから、今のこの関係にむしろほっとしてます。榛名や霧島だって、きっと同じ様に思ってますよ」

提督「……そうか」

比叡「それで、あの、司令?」

提督「どうした?」

比叡「もう少し水、いりませんか?」

提督「それ、欲しいのお前じゃないのか?」

比叡「……欲しいって言ったら、飲ませてくれます?」

提督「カレー食いたい」

比叡「ヒェー!? そこは飲ませてくれるところじゃないんですかっ!?」

提督「冷める、勿体無い、後で好きなだけ飲ませてやるから我慢しろ」

比叡「っ!? そういうことならどうぞ! さぁ、さぁっ!」

提督「だからスプーンを突き出すなって言ってんだろっ!」



――――司令には、私も、金剛お姉様も、たくさん愛してもらいます!

 ――――分かったからもう普通に食べさせてくれっ!

157: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/12(木) 12:19:25.41 ID:6PzTFwiAO
――――大阪。

赤城「提督! アレ、アレをお願いします!」

提督「買ってやるから落ち着け! 引っ張られたら転ける!」

赤城「一航戦赤城、目標を目の前にしてジッとしてなどいられません!」

提督「たこ焼きを前にカッコイイ事言ってんじゃねぇ!」




――――京都。

赤城「この和菓子、お持ち帰りで三十箱お願いします」

提督「お前の場合は持ち帰りじゃなくて食べ帰りだろ」

赤城「それは別にもう三十箱お願いします」

提督「来月のカード請求額見たくなくなってきた……」

赤城「提督、ここで食べる生菓子も八十個お願いします」

提督「店員さん、生菓子ここに並んでるの全部で九十個あります?――はい、食べますからお願いします」

赤城「提督も召し上がるんですか?」

提督「こうなりゃヤケだ。後で加賀には赤城が食ったと言えば、俺は怒られずに済む」

赤城「しっかり撮ってありますので、ご心配には及びません」

提督「お前は俺に何か恨みでもあんのか……」




――――奈良。

提督「鹿煎餅食うなよ?」

赤城「あまり美味しくなかったのでいりません」

提督(既に味見済みか……)

赤城「それよりもみかさが食べたいです」

提督「ジャンボみかさってのがあるから、それ食っとけ」

赤城「ジャンボみかさ……? アレが普通サイズで、小さいのは子供用とかでは無かったのですか?」

提督「そんなわけあるか!」




――――神戸。

赤城「提督、お願いがあります」

提督「肉まんの追加は流石にやめろ。せめてごま団子とかにしとけ」

赤城「はりま焼が食べたいです」

提督「既に気持ちは次に行く場所に移ってたか……」

赤城「神戸牛はその後でお願いしますね?」

提督「もう好きにしろ、とことん付き合ってやるから」




――――やはり一人より二人で食べる方が美味しいですね。

 ――――……そうか。

166: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/13(金) 00:19:22.49 ID:4Wq2RwOAO
――――陶器店。

「すいません、わざわざこんな買い物に付き合って頂いて」

「俺を含めて全員世話になりっぱなしだからな、買い物に付き合うぐらい苦じゃないさ。それに、たまには二人で出掛けるのもいいもんだ」

「……はい、そうですね」

「それで、今日のお目当ては何なんだ?」

「実は先日、龍驤がやけ酒を飲んでいる時に徳利を二本壊してしまいまして、その補充を」

(理由が容易に想像できるな……)

「数を揃えておかないと、来る子達も多いので、洗うのが追い付かないんです」

「すまんな、畑の世話から個人の頼み事まで引き受けてもらっている上に、居酒屋で愚痴聞きまでさせて」

「いいんですよ、全部好きでやっていることですから。お店を開くのは前からの夢でしたし、許可して頂いたのは本当に感謝しています」

「それだけ懐が深いと、“お艦”と呼ばれても仕方ないかもしれんな」

「うふふ、なら旦那様が居ないといけませんね」

「加賀や赤城が娘とか背筋が寒いぞ……」

「毎日が楽しいですよ、きっと」

「あぁ、それは間違いない」

「――あら、この徳利、良いですね」

「船と波の絵か……うん、いいんじゃないか?」

「じゃあこれに決めます」

「会計は俺が払うよ」

「でも、これは私のお店の物ですから……」

「ん? “二人の店”じゃなかったか?」

「あら、覚えていらしたんですね。滅多にお店に顔を出して下さらないから、一人で店はやってくれと思っているものだとばかり……」

「うぐっ……そ、その日その日の秘書艦を蔑ろにする訳にはいかなくてだな、その、何だ、すまん」

「ふふっ、冗談です。あなたがそんな薄情な方だなんて思っていませんよ」

「鳳翔にそういうことを言われると、罪悪感が津波の様に押し寄せてくるからやめてくれ」

「でも、店に来て頂きたいのは本当ですよ?」

「飲める奴が秘書艦の日は、誘って乗り気なら連れていく」

「よろしくお願いしますね」

「――とりあえず、この徳利で今日は二人で飲むか」

「……はい、飲み過ぎても大丈夫なように、帰ったら布団を用意しておきます」

「そりゃ安心だ」




――――お帰りなさい、あなた。

 ――――ただいま、鳳翔。

――――……ちょっと、気恥ずかしいですね。

 ――――……俺もだ。

168: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/13(金) 02:03:46.21 ID:4Wq2RwOAO
――――提督執務室。

「おはよ、クソ提督」

「おはよう曙、早速だが私服に着替えて来い」

「な、何でよ。仕事はどうすんのよクソ提督」

「昨日漣がお前の為にって物凄い勢いで終わらせたから、ほぼ無い」

(アイツ、余計な事を……)

「ここに居てもすること無いし、ケーキでも食べに行くか」

「……うん」

169: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/13(金) 02:05:04.70 ID:4Wq2RwOAO
――――街、大通り。

「――えへへっ」

「最近はよく笑うようになったよな」

「何さ、笑ったら悪い?」

「いや、笑ってる方が可愛いし、俺も嬉しい」

「……ふーん」

「そういえば、その服って俺が買ったヤツだな。後、帽子と靴――っていうか全部そうか」

「た、たまたま合わせてたらこうなったのよ。ジロジロ見んなこのクソ提督!」

「手を繋ぐのをやめて逃げれば、俺に見られずに済むぞ?」

「うっ……うーーーー!」

「やめろ、叩くな、悪かった、痛い、痛いって」

「……手を放して欲しいなら、そう言えばいいでしょ」

「涙目で睨むなよ。ほら、俺が悪かったから機嫌直せ」

「あっ……あ、頭なんか撫でられたって、嬉しくなんか無いわよ」

「じゃあ、やめた方がいいか?」

「やめていいなんて一言も言ってないでしょ、このクソ提督!」

「抱き締めてやりたいところだが、外だから勘弁な」

「……帰ったら、いっぱいだからね?」

「嫌がっても離さないから覚悟しとけ」

「――約束、だからね」

(この顔を見れるのは俺だけ、か)

「……やっぱり、お前は笑ってる方がいいな」

「あっ、うっ、いきなり真顔でそういう事言わないでよ……」

「帽子で隠すな、見えん」

「こっち見んなこっち見んなこっち見んなー!」

「恥ずかしがるのも可愛いな」

「だから可愛いって言うのやめてってば!」

「キュートならいいのか? プリティーとかでもいいぞ」

「流石にからかってるの丸分かりよっ!」

「残念だったな、全部本音だ」

「ちょっと黙れクソ提督!」

「断る」




――――……可愛いって言ってくれて、ありがと。

 ――――うん、やっぱりここで抱き締めるか。

――――だ・か・ら、恥ずかしがってるの分かっててやってるでしょ、このクソ提督!

 ――――(手をギュッと握り締めながら言われても、全然迫力無いな)

177: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/13(金) 04:47:09.36 ID:4Wq2RwOAO
――――提督執務室。

(司令官に膝枕司令官に膝枕司令官に膝枕!)

「吹雪、顔がにやけすぎて何か凄いことになってるぞ」

「はっ!? す、すいません司令官。こうして司令官に膝枕出来るのが凄く嬉しくて……」

「重くないか?」

「重くなんかないです。むしろ、一生このままでもいいぐらいです」

「それは俺が困る」

「で、ですよね、加賀さんじゃなくて私なんかの膝枕じゃ……」

「抱き締めたり出来ないし、俺が吹雪に膝枕も出来ないんだぞ?」

「そんなの嫌です! 今すぐ位置の交代を要求します! もしくはお姫様抱っこも可です!」

「“今日は私が1日膝枕しますからゆっくりしてて下さいね”、とか言ってなかったか?」

「あうっ……ダメ、ですか?」

「そんな捨てられた子犬みたいな目すんな。――ほれ、交代だ」

「よいしょっと……コレが司令官の膝枕……えへへ、えへへへへ」

「また顔が緩んでるぞ吹雪ー、後は撫ででもしたら満足か?」

「はい、撫でて下さい司令官」

「――髪、サラサラで気持ち良いな」

(このまま寝ちゃいそうなぐらい気持ち良くて幸せ……)

「寝ても良いが、イタズラするぞー?」

「い、イタズラ!?」

「よし、目が覚めたな。朝から何も食べてないのに膝で寝られたら堪らん」

「イタズラの内容について、詳しく教えて下さい司令官。内容によっては今から寝ます」

「寝てる間にイタズラするって言われたら、ちょっとは嫌そうにしろよ……。寝たらな」

「寝たら?」

「額にマジックでフユキって書いてやる」

「せめて書くなら吹雪って書いてくださいよ! 司令官のイジワル!」

「寝てる間にキス、して欲しいのか?」

「……出来れば、起きてる間がいいです」

「じゃあ、今するか」

「えっ、あの、急には――むぅ!?」

「んっ……ちゅ……」

「んー! んーー!……んぅ」

「――ふぅ。コレで、完全に目が覚めたか?」

「しれぃかぁん、もっとぉ……」

(あっヤバ、やり過ぎた……)

「キスはまた夜に、今はダメだ」

「むー……じゃあぎゅうってして下さい」

「こうか?」

「――ふへへ、司令官、大好きです」

「……俺もだよ、吹雪」

194: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/13(金) 15:09:43.08 ID:4Wq2RwOAO
――――映画館。

「何が見たいんだ?」

「えっと、アレ、アレが見たい!」

(……どう考えても純愛ラブストーリーだよな、アレ)

「一人前のレディーならこういう映画が相応しいわよね」

「一人前のレディーなら、ここは男に見る映画を任せるのもありだと思わないか?」

「し、司令官がそう言うならそれでもいいわ」

「そうか、じゃあ夕張から勧められたあの映画を今日は見るとしよう」

(あっ、何時も夕張さんが見せてくれるアニメの映画版……)

「子供向けのアニメ映画なんて興味ないけど、司令官が見たいなら一人前のレディーとして付き合うわ」

「ありがとうございますお嬢さん。さて、じゃあチケット買いに行くか」

――――チケット売り場。

「この映画の券二枚」

「大人一枚、小学生一枚でよろしいですか?」

「いや、大人二枚で」

「――かしこまりました。では大人二枚で3600円になります」

「はい、どうも」

「司令官、あの、良かったの……?」

「ん? 何がだ?」

「料金、高くなっちゃったわ」

「一人前のレディーなんだろ? なら、大人料金じゃないとな」

「――うん、ありがと、司令官」

195: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/13(金) 15:10:13.74 ID:4Wq2RwOAO
――――シアター内。

「席は……ここと、ここだな」

「先に司令官が座っていいわ」

「こういう時はレディーを先に座らせるものだろ?」

「暁は司令官が座ったら座るからいいの」「なら、先に座るぞ」

「――じゃあ、暁も座るわね」

「っと……なぁ、暁」

「何?」

「座り心地はどうだ?」

「一人前のレディーに相応しい、最高の座り心地だわ」

「そっか、ジュース溢さないように気を付けろよ?」

「もう子供じゃないんだから大丈夫よ!」

(膝に乗りながらだと説得力皆無だな。まぁ、溢しても拭けばいいか)

「司令官」

「何だ?」

「見てる間、ずっと抱き締めててもいいんだからね?」

「そりゃ嬉しいな、有り難くそうさせてもらう」

「――ふぅ……じゃ、じゃあ手が塞がってる司令官には、暁がポップコーンを食べさせてあげるわね。はい、あーん」

「ん、サンキュ」

「一人前のレディーならこれぐらい当然よ」

「あぁ、そうだな。そろそろ始まるみたいだから前向いといた方がいいぞ」

「わ、分かってるわよそのくらい」

(今一瞬、映画と俺の顔と悩んだな。さて、この周囲からの視線を一時間半堪えるとするか……)

196: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/13(金) 15:10:44.27 ID:4Wq2RwOAO
――――カフェ。

「映画、面白かったか?」

「ま、まぁまぁだったわ」

「そうか」

(身を乗り出したり、腕を振り上げたりしてたのは触れないでおいてやろう)

「お待たせしました。カップル限定……あの、お連れ様は?」

「この膝の上の子ですが、何か問題が?」

「あっ、いえ、あの、失礼しました。こちらがカップル限定メニューのパフェとトロピカルジュースのセットでございます」

「どうもー、じゃあ食べるか」

「あーん」

「いきなり口開けてスタンバイかよ……ほら、アイス」

「はむ――んー、甘くて美味しいわ。次は司令官に食べさせてあげるわね?」

「はいはい、あーん」

(鈴谷さんが言ってたみたいに、このポッキーを口にくわえて……)

「んー」

「っ!? アホ! 流石に出来るか!」

「い、一人前のレディーならこのぐらい当然って聞いたわ!」

「……このカップル用のジュースを二人で飲む。それで勘弁してくれ」

「むぅ……ちょっと不満だけど、それで許してあげてもいいわ」

(地味にコレも周囲の視線が痛いがな)

「――暁がもっと大きくなったら、その時はしてくれる?」

「……あぁ」




――――じゃあ今はコレで我慢してあげるわね、ちゅっ。

 ――――(頬ならまだ――ってやっぱり視線が痛い!)

198: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/13(金) 18:25:00.10 ID:4Wq2RwOAO
――――プール。

「水、冷たくて気持ち良い……」

「海とはまた違った良さがあるよな」

「ここなら溺れても、すぐに引き揚げてもらえます」

「縁起でもない事言うのはやめろ。それに、艦娘が足つって溺れたとか笑い話にもならん」

「ふふっ、それもそうね。――あっ提督、一緒にアレ滑りましょうよ」

「ウォータースライダーか、いいぞ」

「じゃあ早く行きましょ」

「あぁ」

――――ウォータースライダー。

「しっかり掴んでてね?」

「分かってるよ」

「二航戦蒼龍、行きます!」

――――ウォータースライダー、着水地点。

「きゃぁぁぁぁっ!」

「うわぷっ!?」

(抜け出すタイミングミスった! 蒼龍、早く水上にっ!)

(――水中で人からは見えないし、抱き着いてみよっかな)

(息が! 息がっ!?)

(あっ抱き締め返してくれた。嬉しいなぁ……)

(死ぬ! 死ぬーっ!)

(アレ? 何か顔色が……溺れかけてる!?)

「――ぶはっ!? はぁ、はぁ、あー死ぬかと思った」

「ごめんなさい! 苦しがってるんだと思わなくって……」

「まぁ、あんなに嬉しそうにしてくれると嬉し――蒼龍!」

「きゃっ!? あの、提督? 恥ずかしいので抱き締めるならまた水中とか、帰ってからベッドでたっぷり……」

「無いぞ」

「へ?」

「水着の上が、無い」

「――あっ、あぁっ……きゃあぁぁぁぁっ!?」

「落ち着け、動くな、見えるから」

「やだ! やだやだ! 見られたくないー!」

「だからって押し付けるなっ! 探すのに集中出来ん!」

「提督以外に見られるのやーだー!」

「子供じゃないんだから落ち着け、頼む、俺も男だから色々とキツい」

「……興奮、する?」

「する。するから押し付けるのは――何でさっきより力強めてるんだよ!?」

「弾力なら飛龍にも負けません」

「そんなこと言ってる場合か!……あっアレだ、拾うからそのままこっち来い」

――――……当たってる。

 ――――お互い様だからスルーしろ。

207: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/13(金) 21:58:50.65 ID:4Wq2RwOAO
――――こけし屋。

(付き合うと言った手前、一緒に楽しむべきなんだろうが……こけし見て、俺はどうすればいいんだ?)

「こけし、お嫌いですか?」

「好きか嫌いかと言われたら、好きだ。ただ、眺める趣味は正直言ってない」

「そうですか。私は初風になんとなく似てると言われてから、こけしを見ていると落ち着くようになりました」

「似てるから、落ち着くのか?」

「はい、自分がたくさんいるような気がして」

「普通は嫌だと思うんだがな、自分がこんなにたくさん居るっていうのは」

「これだけ居れば、あの子達をずっと見守っていられます」

「もう戦うこともないし、そんなに心配する必要も無いんじゃないか?」

「――長女だからなのでしょうか、何時まで経ってもあの子達から目を離せないんです。でも、私は一人しか居ませんから」

「それで、自分の代わりにこのこけしをって訳か」

「えぇ」

(足柄は渡されたら嫌がりそうだ……)

「提督も一つ、お持ちになって下さいませんか?」

「こけしって携帯するものじゃないと思うんだが……まぁ、鞄にでも入れておく」

「では、五つ購入してきますね」

「あぁ」

(妙高だと思えば……うん、こうやって眺めてるのも悪くないかもしれんな)




――――翌日。鎮守府、妙高型私室。

「はい、初風」

「ありがとうございます、妙高姉さん」

「那智も、はい」

「い、良いこけし、だな」

「足柄もちゃんと持っててね?」

(本当に妙高姉さんに見られてるみたい……ちょっと怖いわ)

「最後は羽黒ね、はい」

「あの、ちゃんと大事にするね?」

「コレで、少し安心することが出来そうです」

208: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/13(金) 21:59:21.77 ID:4Wq2RwOAO
――――同日深夜、妙高型私室。

「すぅ……すぅ……」

「こけし型深海棲艦だと……左舷、撃て……」

「うぅ……妙高姉さんが……妙高姉さんがいっぱい……お説教はやめてぇ……」

「くー……すー……」

210: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/14(土) 00:31:07.90 ID:iFmc4rKAO
――――提督執務室。

「てーとく! 今日はゴーヤが秘書艦でち!」

「あぁ、よろし――って何て格好してんだよお前!?」

「飛鷹さんからコレが“提督指定の下着”って聞いたでち。だから着てみたでち! どう、ゴーヤに似合う?」

(飛鷹め、しっかり夜に仕返ししていっただろうが……)

「そんな格好で仕事出来んから、何時もの水着か普通の服を着てこい」

「えー? 感想ぐらい言って欲しいよぉ……」

「ほぼ紐で大半が透けてる下着に感想なんか言えるか!」

「てーとくはノリが悪いでち……こうなったら強行突入でち!」

「おいコラ、何やって――バカ、そんなとこに頭を突っ込む奴があるか! 服が伸びるからやめろ!」

「んしょ、んしょ……ぷはぁ、服の中からこんにちはー!」

「こんにちはー、じゃねぇ! お前自分がどういう格好か分かっててやってんのか!?」

「てーとくがゴーヤに夢中になれるように密着しただけだよ? 格好とか気にしちゃダメでち」

「夢中以前に身動きが取れん」

「このままゴーヤと1日二人羽織りで過ごしてくだちぃ」

「コレじゃ二人羽織りにすらなってねぇよ……」

「二人羽織りが嫌なら、ゴーヤをこのまま食べてもいいよ?」

「チャンプルーにしてやろうか?」

「痛いのは嫌でち、優しくしてくだちぃ」

「とにかく服から出ろ、俺の服着せてやるから」

「てーとくの服!? 着たいでち! そのまま貰うでち!」

(やっと出てきたか……はぁ、もうこのインナーはダメだな)

「早く着せて欲しいでち。服はどこでちか?」

「コラ、下着姿でうろちょろするな! 窓際に行ったら誰かに見られるだろ!」

「てーとくのおっきな服、早くくだちぃ」

「分かった分かった。ほら、コレでも着とけ」

「分かった分かった。ほら、コレでも着とけ」

(やった! てーとくのシャツ、ゲットでち!)

「全く、朝からドッと疲れた……じゃあ仕事するぞ」

「はいでち!」

「――で、当然の様に抱き着いてるのは何でだ?」

「てーとくのやる気が出るようにしてるんだよ?」

「手伝えよ」

「ゴーヤを食べてくれたら手伝ってもいいでち」

「でち型でもなのね型でもいいからチャンプルー食わせろ」

「てーとくはつれないでち……ちょっと待っててくだちぃ、すぐ作ってくるから」

「あぁ……って待て、その格好で外に出んな!」

(ついでに皆に見せびらかしてくるでち!)

211: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/14(土) 00:57:18.68 ID:iFmc4rKAO
小休止、???を投下します

212: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/14(土) 00:58:03.78 ID:iFmc4rKAO
――――イムヤ、遠洋を旅行中。

(今日は何を撮ろうかしら……。あっあんなところに鯨が居る、ちょっと近付いてみよ)

「近くで見ると鯨ってやっぱり大きいわね……ん?」

「鯨さん、運んでくれてありがとうございます」

(上に艦娘が乗ってる!?)




――――鎮守府。

「何かどっかの海で目が覚めたらしいわ。でも、どこ行けばいいか分からなくってあちこちをさ迷ってたみたい。そしたら急に通りがかった鯨が背中に乗っけてくれて、私が居た場所まで運んでくれたらしいわ」

「すまん、意味が分からん」

「あっ、あの、お邪魔でしたら出ていきます」

「いや、居るのは構わない。歓迎もする。ただ、鯨と仲の良い艦娘とか聞いたことが無くてな……」

「わたしもびっくりしました。名前のお陰でしょうか?」

「まぁ、とにかくゆっくりしていってくれ。色々と分からない事があれば、そこのイムヤに聞くといい。頼んだぞ、イムヤ」

「えぇ、分かったわ」

「はい、よろしくお願いします」




――――新艦娘が選択可能になりました。

215: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/14(土) 03:32:50.16 ID:iFmc4rKAO
――――提督執務室。

「邪魔するぞ!」

「どうした木曾、そんなに慌てて。別に秘書艦日だからって急ぐ必要は無いんだぞ?」

「いいからお前も来い、逃げるぞ!」

「どういうことだ? それに、いつものマントと服は――」

「ちょっと跳ぶから、しっかり掴まってろよ?」

「待て、ここ三階だし男が女にお姫様抱っこされるってどおっ!?」

――――鎮守府、中庭。

「――よし、流石に姉貴もここまでは追って来ないだろ。悪かったな、急に手荒なマネして」

「か、構わんが降ろしてくれ。幾らなんでもこの状態は示しがつかん」

「情けない声出してたクセに、今更何言ってんだよ」

「いきなり抱き抱えられて三階から跳ばれたら、誰でもびっくりするぞ」

「こっちだって、こんなヒラヒラした服で跳びたくなんかなかったさ」

「そういえば、たまに着てるのを見かけてたから特に気にしてなかったんだが、何でゴスロリファッションなんだ?」

「大井姉に最近着せられてるんだよ。全く、こういうことさせるのは北上姉だけにしてくれると有り難いんだが……」

「可愛いし、たまにはいいんじゃないか?」

「――そうか、お前はこういうのも好きなんだな」

「あぁ、結構良いと思う。普段の凛々しさも残しつつ女の子らしいって感じが出てるし、今の格好なら女だけじゃなくて、男からも声かけられるはずだ」

「別に有象無象はどうでもいい」

「有象無象とは酷い言い草だな。男より女の方が良いとでも言う気か?」

「そんなわけ無いだろ。俺はお前に女として見てもらえてさえいれば、それでいいってだけだ」

「こんな時までカッコイイってのは、ちょっと損かもな」

「何と言われようが俺は俺だ。そうだろ?」

「あぁ、無理に変わる必要は無いって言った責任は取るさ――ん?」

 ――――見付けた! 待ちなさい木曾、撮影がまだ終わって無いわ!

「やれやれ、しつこいな姉貴は……」

「――さっき格好悪いところ見せたし、次は俺の番だな?」

「どういう意味だ?」

「こういうことだよっ!」

(俺を抱き抱えて走る気か……たまにはありだな、こういうのも)





――――しっかり俺を掴んで離すなよ?

 ――――言われなくてもそのつもりだ。

  ――――ついでに提督も撮ってあげるから止まりなさいっ!

222: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/14(土) 12:14:53.78 ID:iFmc4rKAO
――――瑞鳳、私室。

「――ね? この脚、可愛いでしょ?」

「アア、ソウダナ」

(何百回目だ、このやり取り……)

「ねぇ提督、また九九艦爆増やしちゃダメ?」

「これ以上は流石にダメだ。祥鳳と相部屋のはずのところを、九九艦爆置くために一人部屋にしてやってるんだからな? 増やしたりなんかしたら、加賀にまた説教されるぞ」

「九九艦爆の脚、可愛いのになぁ……加賀さんも空母なんだから理解してくれてもいいのに」

「大事にしてはいても、眺めたりは普通しないだろ」

「可愛い物って、ずっと眺めていたくなるじゃない」

「まぁ、それは否定しない」

「――提督? 格納庫まさぐろうとしてない?」

「いや、そんなことはないぞ?」

「そっか、それならひゃわっ!?」

「足、いいよな」

「んぅっ、別に格納庫以外ならいつでも触っていいって訳じゃ、ないんだからね?」

「仕事してるんじゃないし、何かの邪魔してるわけでも無いから許せ。可愛いモノは眺めていたくなるんだろ?」

「私の足、好き?」

「ほっそりしててスベスベで好きだぞ」

「……また、一緒に温泉行かない?」

「温泉か、いいな。流石にこの何でもありそうな鎮守府でも温泉は湧いて無いしな」

「じゃあ次の秘書艦日、しっかり予約頼むわね」

「よし、混浴探すか」

「混浴は嫌、家族風呂にして。それと提督、いつまで触ってるつもり?」

「足好きだし、出来ればずっと」

「別にいいけど……どうかした?」

「無限ループする話を三時間聞かされてみろ、結構疲れる」

「でも、ちゃんと聞いてくれるじゃない」

「楽しそうに話してるのに、水を差す気にはならん」

「提督のそういうところが、私好きだよ」

「度が過ぎてるとかは抜きにして、ずっと一つのモノを大事に出来るお前のことが、俺も好きだ」

「……うん。好きに触ってて、いいよ」

「じゃあ遠慮なく足を」

「足だけ?……胸も、それなりに大きくなってきたと思わない?」

「それは誘ってると捉えるぞ」

「提督が足をずっと触るから、その……そういう気分になっちゃったのよ!――責任、取ってね?」




――――じゃあまずは話を聞かされた三時間分、瑞鳳の足を眺めるか。

 ――――ごめん、それは嫌。

224: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/14(土) 14:18:32.26 ID:iFmc4rKAO
――――利根型私室。

「姉さん、だし巻き玉子焼けましたよ」

「うむ、やはりコレが無くてはな」

「たくさん食べて下さいね」

「――うむ、今日も美味いぞ。しかし、毎食焼くのは大変ではないか?」

「私は姉さんが喜んでくれるなら、このぐらい苦でも何でもありません」

「そうか、吾輩は本当に良き妹を持ったな」

「利根姉さんの妹で、私も幸せですよ」

――――翌日。

「はい、出来ました」

「うむ」

――――翌々日。

「焼けましたよ」

「ちと昨日より大きいな」

――――三日後。

「頑張ってみました」

(更に大きくなっておる……)

――――四日後。

「はみ出したので、器を変えました」

「う、うむ……」

――――五日後。

「専用の焼き機を買ってきました」

「そ、そうか、大きくて便利そうじゃな」




――――六日後の朝。

「――大鳳、祥鳳、一緒に朝食をとらぬか?」

「どうかしたの? 急に朝食へ誘うなんて」

「私は構いませんが……利根さん、顔色が少し悪いですよ?」

「来れば分かる。――お主達、だし巻き玉子が好きだったな?」

225: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/14(土) 14:19:45.27 ID:iFmc4rKAO
――――利根型私室、朝食中。

「はい、出来ましたよ利根姉さん。どうぞ、お二人も召し上がって下さい」

「うむ」

「……えぇ、頂くわ」

(だし巻き玉子って、こういう形で食卓に並ぶものだったかしら……?)

「……頂きます」

(大皿に塊が五つ、食べきれるんでしょうか……)

「量が足りなければまた焼いてきますので、仰って下さいね」

「じゅ、十分だからもう大丈夫だぞ、筑摩」

「えぇ、足りないということは恐らく無いわ」

「とりあえず、冷めないうちに食べましょう」

「――あっ、美味しいわね。間宮さんの作るだし巻き玉子の味だわ」

「間宮さんに作り方を教わったんです。姉さんの好物ですから」

「鳳翔さんのとはまた少し違っていて、とても美味しいです」

「喜んで頂けて何よりです。姉さんも、しっかり食べてくださいね?」

「分かっておる。残したりせぬから安心するのじゃ」

「ふふっ。毎日作っていますから、お二人もまた食べに来てください。たまにはこうして姉さん以外にも食べて貰えたら、少し嬉しいです」

(利根が呼んだ理由はコレね)

(幾ら好きな食べ物でも、この量を毎日は……)

「のぅ筑摩よ、無理はしなくていいんじゃぞ? 毎日同じ物では、お前も飽きてくるだろ」

「そうね、バランスも大事だと思うわ」

「偏りすぎると身体にも悪いですし……」

「――それなら、他にも姉さんの好物を間宮さんに教わってきますね? 姉さん、何がいいですか?」

「そうじゃな……筑前煮と粕汁、柳川が我輩は食べたいぞ」

「はい、では後で間宮さんのところに行ってきます」

(コレで利根も安心ね)

(料理自体はお上手ですし、利根さんにリクエストされて嬉しそうですから、もう心配無いですね)

226: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/14(土) 14:22:01.05 ID:iFmc4rKAO
――――更に1週間後。

(く……苦しい……)

「姉さんの好物、また教えて下さいね? 間宮さんに教わってきますから」

「その前に筑摩、出来れば一品一品の量を減らしてくれると有り難いのだが……」

「あら、作りすぎていましたか? でしたら、次から少し量を控えるようにしますね」

(さ、最初から素直に言っておけば良かったのか……)

「姉さんが喜んでくれたら、私にはそれが一番の幸せです」

「――うむ、吾輩も筑摩が笑顔だと嬉しいぞ」




――――今日は久しぶりに、二人で何処かへ出掛けませんか?

 ――――そうじゃな、何処へ行くとするか……。

227: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/14(土) 20:04:12.48 ID:iFmc4rKAO
愛宕・全身マッサージ、投下します

228: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/14(土) 20:05:17.08 ID:iFmc4rKAO
――――提督私室。

「んっ、ふぁ、あんっ、そこ、いい……」

「ただのマッサージで艶かしい声出すな」

「だって、んぅ、出ちゃうんだもの、あっ」

「我慢しろ、変な気分になるだろ」

「うふふ、指が滑って色々なところを事故で触っても、私は気にしないわよ」

「激痛が走るツボをイクに教えて貰ったから、そこを念入りにしてやろうか?」

「私が痛みで苦悶の表情を浮かべるのが見たいのかしらー?」

「そんな趣味は断じて無い」

「提督、手が止まっちゃってるわ」

「次は腰でいいのか?」

「えぇ、お尻をお願いねー」

「腰な、腰」

「んっ、はんっ、ちょっと、痛いけど、気持ち、良い」

(絶対にわざとだな)

「ツボがあるから、尻触るぞ」

「揉んでもい――痛っ!? ちょっと提督、やり過ぎじゃないかしらっ!?」

「足が疲れてるんだな、よっ!」

「あんっ! そこ、あまり強くされると、痛っ……」

(そういえばマッサージってやる順番あったよな……まぁいっか)

「次、足首から行くぞー」

「優しく、して……?」

(俺の理性に優しくしてくれ)

「昨日何してたんだよ、足パンパンだぞ」

「ちょっと四人でハイキングに行ってたの」

「摩耶と鳥海をダイエットに付き合わせるのも程々にしてやれ」

「二人とも良い子だし、怒ったりしないから大丈夫よ。置いていったら逆に怒られちゃうわ」

「それもそうか。太もも揉むぞ」

「んっ、ちゃんと、いつものボディーライン、あんっ、でしょ?」

「ずっと見てる訳じゃないからそんなものは分からん。ただ、俺の為にそういう努力をしてくれるのは嬉しく思ってる」

「うふふ、マッサージが終わったらいっぱいご奉仕してあげるわね?」

「多分マッサージ終わったら、全身ダルくてそれどころじゃないぞ」

「なら、提督がもっとご奉仕して下さる?」

「さっきまで人の理性にガンガン攻撃してきてたお礼をしていいってことだな」

「あらやだ、怖いわー」

「全然反省してないだろお前……」




――――提督、今日は私のボディーラインをしっかり覚えて下さいね?

 ――――そんな余裕があったらな。

235: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 02:21:49.58 ID:2k2olcOAO
――――第六駆逐隊、私室。

「響、クッキー焼いたので一緒に食べるのです」

「うん、食べようか」

「ベルーこの前頼まれてたCD買ってきてあげたわよ」

「スパシーバ」

「ベリュ、ちょっと荷物を部屋に入れるの手伝ってくれない?」

「了解、少し待ってくれ」

「美味しいですか?」

「うん、上に乗ってるジャムが甘酸っぱい。コレはいいな」

「ベル、ジュースを入れてあげるわ」

「スパシーバ」

「ベリューまだー?」

「手を拭いたら行く」

「電も手伝うのです」

「はい、ジュース。暁、私も手伝うわね」


「い、一人前のレディーなら、部屋に観葉植物を一つは置くべき、よね……」

「お、重いのです……」

「ベル、そこ持って」

「了解、信頼の名は伊達じゃない」

236: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 02:22:19.37 ID:2k2olcOAO
――――風呂。

「皆、お願いがあるんだ」

「はい、シャンプーなのです」

「ありがとう電――ってそうじゃない」

「ベル、頭洗ってあげるわ」

「スパシーバ、シャンプーハットを着けてくれ」

「あっ雷ズルいわ。暁が一番お姉ちゃんなんだから、ベリュの身体は私が洗うわね」

「皆、気持ちは嬉しいんだが、まず一つお願いを聞いて欲しい」

「そんなに改まってどうしたのですか?」

「何か悩み事? ベルはいつも頑張ってるんだから、もーっと私に頼っていいのよ?」

「一人前のレディーとして、妹の悩みを聞くのは当然の義務よね」

「やっぱり呼び方を統一してくれないかな? 響でもベルでも、この際ベリュでもいいよ」

「電は響が一番しっくりくるのです」

「私はベルで慣れちゃったわ」

「私はちゃんとベリュニュイって呼べるけど、長いから短くしてるだけなんだから」

「すまない、響かベルにしてくれ」

「しょうがないわね、私も響って呼ぶわ」

「妹の意見に合わせてあげるのも、長女として当然のことよね」

「電はこれまで通りなのです」

「スパシーバ、これで少し気が楽になりそうだ。さぁ、身体を洗って早く出ようか」

「暁の出番ね。響、背中向けて」

「了解、あまり強く擦らないように頼む」

「じゃあ電は私が洗ってあげるわ」

「お願いするのです」




――――響、少し胸が大きくなってない?

 ――――そうかな? 自分では良く分からない。

  ――――電も私より大きくなってるわね。

   ――――はにゃあ!? つ、掴まないで欲しいのです……。

237: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 05:06:58.63 ID:2k2olcOAO
夕張&明石・寝て起きたら拘束されてた(夢)、投下します

何だか書いててコレでいいのかとなったけど、勢いでいきます

238: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 05:07:59.02 ID:2k2olcOAO
――――工廠、地下。

「――ん? ここは……?」

「提督、おはようございます」

「ご気分はどうですか?」

「おはよう二人とも。身体が拘束されてるってこと以外は至って良好だ」

「それは何よりです。体調が悪いと支障が出るかもしれませんしね」

「でも、その時は私が修理しますから大丈夫です」

「全く話が見えてこないが、俺がピンチなのは分かった。誰かー! 助けてくれー!」

「無駄ですよ提督、ここは完全防音にしましたから」

「メカ夕張も外を見張ってくれてますから、誰も来ません」

「お前等目が怖い」

「じゃあ提督の改造、さっさと始めちゃいましょう」

「そうですね、あまり長く提督が不在だと不審がられちゃいますし」

「改造? 今改造って言ったか?」

「メカ妖精さん、改造パターンA」

「痛かったら手を上げて下さいね? 手を握っててあげますから」

「見た目は妖精さんなのに、物凄く禍々しく見えるぞコイツ等!」

「気のせいです」

「はーい、麻酔打ちますねー」

「待て、やめろ、起きたら俺はどうなってるんだ!?」

「カッコ良くなってます」

「ネオ提督になってます」

「拒否する! 命令だ! はーなーせー!」

「はい、ちょっとチクッとしますよ」

「絶対お前等……後で……せっ、きょう……」

239: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 05:13:02.67 ID:2k2olcOAO
――――夜、提督私室。

「――はっ!?」

(アレは夢か? いや、感触はリアルだった……そうだ、鏡!)

「――何ともなって、ない、か……はぁ」

(あんな悪夢見るって、夕張と明石を心の底であんな奴等だと思ってんのかな……)

「とりあえず、水でも飲みに行くか」

 ――――ギュイィィィィン!

「・・・・・・は?」

『提督、目が覚めたみたいですね』

『今から改造内容について説明するので、動かないで下さい』

「おい、アレは夢じゃなかったのかよ。っていうか何で頭に声が響いてんだ」

『通信機を埋め込みました』

『安全ですから、大丈夫です。壊れたら私が直しますし』

「良く分かった。今すぐ元に戻せ」

『説明始めちゃいますね。足の裏はローラーになってますので、行きたい方向に重心を傾ければ自然に走れます』

『瞬間加速が凄いので、ぶつからないように注意して下さいね』

(話聞いてねぇし……)

『後、腕を握って猫手に――』

(こうか)

『しないで下さい。内蔵した機銃が発射されます』

「……もう遅い、壁が無くなった」

『威力実験は良好、と』

『壁はまた直しときます』

「俺の身体も元通りに治せ」

『続けますね? 目は意識すると八倍、十六倍、三十二倍まで拡大出来るように――』

(さらっと流しやがった……)

『……あっ』

「今度は何だ」

『あはは、通信ボタンと間違えて、起動スイッチ押しちゃったみたい……』

「何の起動スイッチだ? 自爆とか言うなよ?」

『百聞は一見に如かずです。窓の外、見てみて下さい』

「窓? 鎮守府全体に何か仕掛けて――」

 ――――シィレェエェェェ……。

「……雪、風?」

『対巨大決戦兵器、ユキカゼです。夢だったんですよ、こういうの作るの』

「何て物を作ってんだよ! ゴジラか何かか!」

 ――――シレエェェェェ?

(こっち向いた……?)

『その子、提督を認識すると飛び付くようにプログラムしましたから、注意して下さいね?』

「注意ってレベルの話じゃないし、今見付かったんだが」

『頑張って相手してあげて下さい、寂しがり屋ですから』

240: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 05:13:59.31 ID:2k2olcOAO
 ――――シレェェェェッ!

「あんなんに飛び付かれたら死ぬわ!」

『仕方ありません。首の後ろに突起があるので押して下さい』

「コレか。よし、押したぞ」

『自爆スイッチです。バラバラになっちゃいますけど、ちゃんと直しますから』

「事態が好転しないどころか最悪になったじゃねぇか!」

『3、2、1』

「ちょっと待――」




――――朝、提督私室。

「自爆は嫌だっ!?――アレ? 生きてる? それに何か上に……」

「しれぇ……大、好き……すぅ……」

(そうか、昨日雪風を抱き締めながら寝たんだっけか)

「はぁ、酷い夢だった……」

241: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 05:15:43.02 ID:2k2olcOAO
――――昼、提督執務室。

「こんにちは、提督」

「お邪魔しますね」

「っ!? ゆ、夕張は秘書艦日だが、明石まで何で来たんだ?」

「ちょっと改造に来たんです」

「か、改造……?」

「提督の――」

「俺の改造はしなくていい!」

「持ってる通信機……はい?」

「通信、機?」

「ちょっと感度が悪そうだったので、夕張が秘書艦日なのに便乗して二人で改造しようかと」

「普段工廠に居るから、提督に急な連絡を取りたいときに通信機の感度が悪いと不便ですし」

「あぁ、そうか、頼む」

「提督の改造ってさっき仰ってましたけど、人間の――ましてや提督を改造なんて、流石にしたくないですからね?」

「修理も冗談ですから、本気にされると困っちゃいます」

「悪い。嫌な夢を見たせいで、ちょっと気が動転してるみたいだ」

「きっと疲れてるんですよ。息抜きに、メカ妖精さんの演奏会でも聞きます?」

「疲れの取れる栄養剤もありますよ。辛いならコレ、飲んで下さい」

「いや、大丈夫だ、気持ちだけ受け取っとく。二人とも、ありがとな」




――――そういえばその夢、どんな夢だったんですか?

 ――――出来れば改造してる間に、話して下さい。

  ――――すまん、思い出すと二人から逃げ出したくなるから、勘弁してくれ。

244: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 11:56:03.33 ID:2k2olcOAO
山城・洋服でデート、投下します

245: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 12:01:38.43 ID:2k2olcOAO
――――街中。

「どっか行きたいとこあるか?」

「特に無いわね」

「そうか、じゃあ適当にブラブラして気になった店に入るとしよう」

「それでいいわ」

「なぁ、山城」

「何?」

「和服もいいが、洋服も似合ってるぞ」

「そ、ありがと」

(……朝から二時間も姉様と悩んだ甲斐はあったわね)

「お前と二人で出かけるとか、前は考えもしなかったな」

「何? 私じゃ不満? そりゃあ姉様に比べたら、私は見劣りするかもしれないけど……」

「そんなこと一言も言ってないだろ。扶桑もお前もそれぞれの魅力を持ってるし、どっちが、とかいう話じゃないさ」

「ホント、口だけは達者よね。あーあ、姉妹揃って変な男に捕まっちゃうなんて、やっぱり私達不幸だわ」

「全然不幸に聞こえないな」

「悪い?」

「いや、幸せそうで何よりだ」

「当然でしょ、不幸姉妹なんてもう二度と呼ばれたくないし」

246: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 12:02:13.11 ID:2k2olcOAO
「今じゃ美人姉妹って評判だしな」

「そう呼ばれるようになってから、姉様に近寄るゴミが増えて鬱陶しいわ」

「ゴミってなぁ……お前は嬉しくないのか?」

「今不幸なことがあるとしたらそれ、男に言い寄られたって嬉しくないし」

「一応俺も男なんだが」

「提督は別。むしろ近寄って来ないと姉様と二人で呪うわ」

「そりゃ怖いな、じゃあ距離をもっと縮めるために、腕組んで歩いてみないか?」

「組みたいなら、別にいいけど」

「組みたい」

「――はい、コレでいい?」

「あぁ、妬みの視線が集まってる気もするが、山城とこうして歩けるなら安いもんだ」

「腕組むぐらいで大袈裟過ぎよ」

「実際問題、俺の容姿じゃ不釣り合いとか聞こえてくると、ちょっと凹む時がある」

「……そう」

「自覚はしてるんだよ、そんなにカッコイイって訳じゃないしな」

「提督、ちょっとこっち向いて」

「なん――んっ!?」

「ちゅ……んむ、れろ……んぅ」

(見せ付けるようにキスとか、何考えてるんだ……?)

「はむ、んちゅ――ふぅ……どう、コレで少しは気にならなくなった?」

「どうって、いきなりキスしてきて何なんだよ」

「言ったでしょ、私は提督以外の男なんか興味ないって。下らない事気にしてる暇があったら、もっと私を幸せにする方法でも考えてよ」

「……そうする」




――――また気にしてたら、するから。

 ――――わざと気にしたくなるな。

248: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 14:41:25.09 ID:2k2olcOAO
――――提督執務室。

「――お主、本気で言っておるのか?」

「賭けに負けたんだから、潔く従ってもらう」

「くっ、この外道め!」

「何とでも言え」

「何故だ、どうして吾輩がこのような目に合わねばならんのだ!」

「だから、負けたからだろ」

「あんなの反則ではないか!」

「カードを切るのも、配るのも、俺に任せたのはお前だ。確認してもう一度切らない方が悪い」

「提督としてのお主の誠実さを信用していたのだ。それだというのお主ときたら……」

「“提督”? “お主”? 利根、今日は何て俺を呼ぶ約束か忘れたか?」

「ぐぬぬ……ご、ご主人、様」

「よし、それでいい、今日はお主も提督も禁止だ。別にコスプレさせる趣味はないが、たまにはこういうのも良いもんだな。似合ってるぞ、その猫耳とメイド服」

「人をオモチャにして楽しむでない!」

「撫でてやるから怒るなよ」

「吾輩は愛玩動物ではないぞ」」

「よしよし」

「人をおちょくっとるのかおぬ――ご主人様は」

「可愛いぞ、利根」

「……頭を撫でるだけで、よいのか?」

「何が言いたいかさっぱり分からんな、ちゃんと口にしろ」

(此奴、とことん今日はこの姿勢を崩さぬつもりだな。付き合ってやるのはちと癪に障るが、背に腹は変えられぬか……)

「だ、抱き締めて、欲しいのじゃ」

「前からか? 後ろからか?」

「後ろからで頼む」

「ん、分かった。ほら、ここに座れ」

「うむ、邪魔するぞ――のぅ、提督」

「ご主人様な」

「もうそれはよいではないか、この格好だけで我慢するのじゃ」

「下に履かずに生活してた奴でも、それは恥ずかしいのか?」

「人を痴女扱いするでない、ちゃんと今は履いておる。――って何をスカート捲っとるのだこの馬鹿者っ!」

「コラ、暴れるな、ちゃんと履いてるか確認しただけだ」

「そのようなことは確認したければ夜伽で幾らでも――待て、今のは忘れろっ!」

「無理だな。前に晴嵐で追い掛けられた時の事も思い出してきたし、その腹いせもしてやる」

「提督、吾輩はちと急用を思い出した。今日の秘書艦業務はコレで終いにする」

「逃がすかよ」

「こ、こら、離すのじゃ。ひぅっ!? くっ、首筋に吸い付くでないっ!」

249: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 14:42:33.10 ID:2k2olcOAO
「じゃあ耳だな」

「やっ、やめ――」

「分かった」

「……何?」

「やめたぞ?」

「本当に、止めてしまうのか?」

「やめろって言われたからな」

「……つくづく今日のお主は意地が悪いぞ」

「さて、何の事やら」

「今日1日、吾輩はお主のモノだ。好きにしてくれて構わぬ」

「言ったからには責任持てよ?」

「……優しく、して欲しいのじゃ」

「意地が悪いらしいから保証は出来ないな」

「もうそのノリはいい加減やめんか。――愛しているぞ、提督」

「……あぁ、俺も愛してる」




――――脱がすなら着せた意味無かったな。

 ――――借り物を汚す訳にはいかんのじゃ。

253: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 15:55:49.68 ID:2k2olcOAO
――――夜、鎮守府内客用和室の縁側。

「花火、綺麗ね」

「鎮守府でやりたいって言った長門に礼言わないとな、消防の許可取るのに俺もかなり苦労させられたが……」

「駆逐艦の子達に間近で見せたいからって、張り切ってたもの」

「アイツの駆逐艦娘への愛情には恐れ入るよ」

「――ねぇ、提督」

「浴衣、似合ってるぞ」

「あら、ちょっとは女心を理解したのかしら?」

「もう誰かに気兼ねする必要もないしな、歯が浮くようなセリフだって言えるぞ」

「あなたにキザなセリフを言われたら、少し笑ってしまうかもしれないわ」

「お前なぁ……」

「うふふ、そんな怖い顔しないで、冗談、冗談よ」

「あの時、押し倒されてマジで焦ったんだからな」

「何時まで経っても煮え切らないあなたがいけなかったんじゃない。私が誘っても眉間に皺寄せて逃げるし、女としての自信無くしそうだったんだもの」

「だからって実力行使は無いだろ」

「……もうやめときましょうよ、この話は」

「……そうだな」

「私、あなたと出会えて本当に幸せよ。終戦まで生き残れたし、あの変な爆発も起きなくなった」

「俺はあの爆発、最後まで嫌いにはなれなったんだけどな」

「どうして? 私の素肌が露になるから?」

「お前等は俺を変態かなんかだと誤解してないか?――アレがなけりゃ、陸奥がここに来ることは無かったからだよ」

「……あの爆発も、悪いことばかりじゃなかったってことね」

「引き合わせたのが爆発ってのもどうかとは思うがな」

「うふふ。確かに、ロマンチックな巡り合わせとは程遠いわ」

「でも、俺とお前達の巡り合わせなんて、大体そんなもんだ」

「提督と艦娘、だものね」

「今、幸せか?」

「えぇ、とっても」

「風、気持ち良いな」

「風鈴も良い音だわ」

「――今日は火遊び、するか?」

「い・や・よ」

「何で……って聞くまでもないか」

「あら、察してくれて嬉しいわ」




――――火遊びじゃないなら、いいよな?

 ――――えぇ、いいわよ。これからはあなたの理性を爆発させてあげるわね。

271: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 23:14:36.43 ID:2k2olcOAO
タイトル間違えてた……

電『なかなか司令官が起きないのです』

投下します

電が食われます

272: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/15(日) 23:16:49.52 ID:2k2olcOAO
――――提督私室。

(司令官の寝顔をずっと見ていられるのは、幸せなのです……。でも、そろそろ時間ですね)

「司令官、朝ですよ。起きて欲しいのです」

「んー……んっ」

「うにゅっ!?」

(司令官の胸の中、暖かくて、気持ち……はっ!? 寝ちゃいけないのです!)

「司令官、そろそろ執務室でお仕事を始めなきゃいけない時間なのです」

「ん……もち」

「お餅が食べたいのですか? でしたら朝食にお餅を用意しますね」

「スベスベ……もちもち……」

「はわわっ! 服の中に手を入れちゃダメなのです!」

「んー?……あむ」

「電はお餅じゃないですよっ!?」

「――餅じゃなくて肉?……あぁ、なんだ夢か……」

「うぅ……かなり痛かったのです……。司令官、顔を洗って来て下さい。お腹が空いてるならすぐに用意するのです」

「あー……うん……おはよ、電」

「お餅でいいですか?」

「凄いな電。ちょうど餅を食べる夢をさっきまで見てたから、欲しかったんだ」

「……電はお餅じゃないのです」

「ん? その首筋どうしたんだ? 赤くなってるぞ」

「司令官のせいなのです!」

「俺のせいっ!? すまん、寝てる間に何かしたのか……?」

「教えないのです。でも、反省はして欲しいのです」

「何だか良く分からんが、気を付ける」




――――(……キスマークに、見えなくもないのです)

 ――――(最後に肉かじってる感触がしたが、ひょっとして電を……?)

280: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/16(月) 09:48:02.52 ID:M1vuPZqAO
――――提督執務室。

「どう? どう? どこからどう見ても、一人前のレディーになったと思わない?」

「身長は雷の勝ち」

「うっ」

「プロポーションは電の勝ち」

「あぅっ」

「大人の魅力という点では響の勝ち」

「うぅー……」

「ついからかってイジメたくなる可愛らしさでは、暁が一番だな」

「もうっ! 子供っぽいってはっきり言えばいいじゃない、司令官のバカ!」

「ははは、お前のそういうところが俺は堪らなく好きだぞ」

「子供っぽいのが好きって言われても、嬉しくないし」

「別に、ただ子供っぽいから好きな訳じゃないさ」

「――私はね、ずっと一人前のレディーになりたかったの。最初は、ただ背伸びがしたかっただけだった。でもね、司令官に私を大人の女性として見てもらいたいって気持ちが、いつ頃からかは分からないけど、私の全てになってたわ」

「俺はな、ずっと怖かったんだ。成長して大人になっていくお前達を見る度、自分はいつか不必要な存在になるんじゃないかって。そんな後ろ向きで暗い気持ちも、暁のあどけない笑顔を見てたら忘れられたんだ」

「子供っぽいのも、身長が低いのも、ちょっと胸が小さいのも、全部自分なんだって今は受け入れてるわ。一人前のレディーなら、当然よね」

「――そうやってたまに見せる大人の顔は、見惚れるぐらいに綺麗だ」

「ねぇ、子供っぽい私と、大人の私、司令官はどっちが好き?」

「どっちもだ」

「――うん。あのね司令官、恋心っていうのに一番気付くのが遅かったのは、ずっと背伸びしてた私だと思うの。だから、その背伸びしてムダにしてきた貴重な時間を、これからの時間の中で取り戻していきたい……ダメ、かな?」

「ダメなもんか、時間なんてまだまだたくさんある。これまで行った場所や一緒にしてきたこと、全部一から辿って行ったって、たかが知れてるさ」

「……ありがとう、司令官。大好きよ」

「俺もだよ、暁」




――――じゃあ、本当にこれからは一人前のレディーとして扱ってね?

 ――――いいぞ。その代わり、頭撫で撫で卒業な?

――――……もうしばらく子供扱いでもいいわ。

291: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/17(火) 09:15:04.23 ID:zzhy2jRAO
・夕雲『巻雲が甘えてくれなくなった』、投下します

「先に言っておくであります。憲兵は働かないであります」

292: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/17(火) 09:16:58.63 ID:zzhy2jRAO
――――提督執務室。

「はぁ……」

「どうした、溜め息なんか吐いて」

「提督、ちょっと失礼しますね」

「むっ……?」

「このままで少し、話を聞いてくださらない?」

(横から頭を抱き抱えられると、書類が書けん……。まぁ、柔らかくてこうされると落ち着くし、暫く好きにさせてやろう)

「最近、巻雲が前みたいに甘えてくれなくなったの。それが少し寂しくて……」

(来た頃は“巻雲さん”ってさん付けして厳しめに接してたのに、今じゃすっかり別人だな)

「前はずっと私の後ろをカルガモの子供みたいについて回っていたのに、今は用事が無いと別行動も当たり前になってしまったわ」

(最初は張り切って失敗することもあったが、今ではアイツもすっかり一人前になったし、それも仕方無いか)

「頼もしくなった巻雲もそれはそれで見ていたくなるのだけど、やっぱり私としては寂しいの」

(そろそろ息が苦しいな、胸の感触から意識を遠ざけるのも限界だ……)

「――だ・か・ら、提督が今日は私に甘えてくださらない?」

(っ!? 引き寄せられて体勢が戻せないっ!?)

「提督、頷いてくださるなら解放してあげるわ」

「んー! んーんー!」

「あんっ、息がくすぐったい……頷いてくれたってことは、甘えてくださるのね?」

(何でもいいから早くしろ、酸欠になるっ!)

「快く了承してくださって嬉しいわ。はい、息をしっかりと整えてくださいね」

「っはぁ、はぁ、ふ――むぅっ!?」
 

(コイツ、最初から    キスが狙いか……)

「――うふふ、もっとして欲しいですか?」

「はぁ、はぁ……コレじゃ甘えてるのは、俺じゃなくてお前だろ」

「私の胸の中で落ち着いて、私の口と舌の感触にリラックスしていたでしょ?」

「うっ、それは、その、だな……」

「息が苦しくないように、次は優しく抱き締めてさしあげますね。それとも、キス?」

「――降参。ちょっと休憩するから抱き締めてくれ」

「はい、この夕雲にお任せくださいね」




――――(まさか駆逐艦娘に手玉に取られるとはな……)

 ――――(このまま押していけば、最後の一線を越えてくださるかしら?)

293: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/17(火) 13:57:10.59 ID:zzhy2jRAO
・大和『口は災いの元』、投下します

294: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/17(火) 13:58:51.14 ID:zzhy2jRAO
――――街。

「その桜色の着物、似合ってるな」

「お褒め頂き、ありがとうございます」

「どうする? 宛もなくずっと歩いてたし、何処かで少し休むか?」

「大和はあなたと一緒なら、どれだけ歩いても疲れません」

「じゃあ俺が疲れたから、喫茶店にでも入ろう」

「えぇ、何処へなりとお付き合い致します」

――――喫茶店。

「すいません、サンドイッチとアイスコーヒー、それとアイスティー1つ」

「かしこまりました、少々お待ちください」

「何か食べなくて良かったのか?」

「帯をキツメにしているので、食事は鎮守府に戻ってからにします」

「そうなのか、あまり無理はするなよ?」

「はい、お気遣いありがとうございます。大和はその言葉だけで満たされます」

「――道場、引き受けてくれてありがとな」

「お礼を言いたかったのは大和の方です。皆さんのお役に立てるのなら、喜ばしい限りですから」

「お前を元帥から託された時を思い出すよ。“どうせ運用して頂けないのでしたら解体して下さい。”、が第一声だったか?」

「それはもう忘れて下さい。思い出しただけで、恥ずかしくて顔から火が出そうです」

「……結局、途中からはうちでも待機させることに決めたのは、悪かったと思ってる」

「謝らないで下さい。どんな不利な状況をも覆す為の六人、その一人に選んで頂いた事は、今でも誇りに思っています」

「俺の作戦でアイツ等を危険な目に合わせてしまった時、お前達が居てくれたお陰で誰も失わずに済んだ。感謝してもしきれないぐらい、感謝してるよ」

「“大和”の名は伊達ではありません。……それに、あなたの悲しむ顔など、皆決して見たくはなかったですから」

「……あぁ、本当にありがとう」

295: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/17(火) 14:01:57.10 ID:zzhy2jRAO
「この話はこれぐらいにして、次は大和とあなたの将来についての話を――?」

 ――綺麗だな、あの姉ちゃん。

 ――あんな気の弱そうな男には勿体無いよな。

「お待たせ致しました。アイスコーヒーとアイスティー、サンドイッチでございます。ごゆっくりお召し上がり下さい」

「なぁ大和、少しぐらいは食べた方が――大和?」

「はい? あっ、いえ、大丈夫ですからお気になさらず召し上がって下さい」

「分かった。じゃあ早めに戻って夕食にするか、これだけじゃ俺も足りないし」

「……実は少し、お腹が空いてきていました……」

「帯を少し緩めたらどうだ?」

「この帯、緩めると一気に崩れてしまうので」

「それじゃ無理だな……急いで食うから、ちょっと待ってろ」

「あまり急いで食べると身体に悪いですし、ゆっくりでいいですから」

「もがっ?」

「もうっ、口に詰め込みすぎですよ?」

 ――普通、女に食べさせずに一人で貪るように食うか?

 ――金無いんじゃねぇの?

「……提督、ちょっと席を外しますね」

「ん」




――――お客様、大変申し上げにくいのですが……お連れ様が他のお客様の頭を掴んで、引き摺りながら出ていってしまわれて……。

 ――――っ!?

301: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/17(火) 23:20:36.77 ID:zzhy2jRAO
・朝潮『おかゆが風邪を作って司令官で看病します!』、投下します


大和は店の裏で二人と一緒に正座しながら、提督の良いところを延々語っていただけです

まぁ……ここの艦娘は提督の事になると大抵見境が無いので……

302: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/17(火) 23:21:06.19 ID:zzhy2jRAO
――――提督私室。

「おはようございます司令官、本日はよろしく――司令官!?」

――――加賀私室。

「さて、今日の仕事を――」

「失礼します! おかゆが風邪を作って司令官で看病します! それでは!」

「……言いたい事は分かりましたが、あの取り乱し方で看病させて大丈夫なのでしょうか……」

303: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/17(火) 23:22:26.07 ID:zzhy2jRAO
――――提督私室。

「悪い朝潮、秘書艦日だってのにこの様で……」

「そんなことはどうでもいいんです。司令官は今日1日ゆっくり休んでいて下さい」

「あぁ、お言葉に甘えて今日はゆっくり休むよ」

「食事や飲み物が欲しくなったらいつでも仰って下さい。私はずっとここに居ますから」

「ずっとは居なくていいんだぞ? 立って歩くぐらいの体力はあるし、お前も俺を見てるだけじゃ退屈だろ」

「司令官には一秒でも早く、元気になってもらいたいんです。……朝倒れてるのを見た時は、心臓が止まるかと思いました」

「そんな顔するなよ、風邪で死にやしないんだから」

「風邪も悪化すれば命に関わります。風邪は万病の元です。ですから、今日は絶対に司令官から目を離しません」

(これは何を言っても無駄そうだな……)

「今、間宮さんと明石さんに頼んで、食材と水と調理用具を持ってきて頂いてます」

「本当にこの部屋から一切出ないつもりか? 俺も退引きならない事情で、部屋から出なきゃいけないこともある」

「その場合はついて行きます」

「女の子にこんなこと聞きたくないんだが、逆の場合はどうする気だ」

「その時は司令官をベッドにロープで縛り付けてから行きます。御心配には及びません」

「いや、別の意味で心配なんだが……」

「私は安心です」

「朝潮、因みに聞くけど拒否権はあるのか?」

「ありません。司令官は私達が体調を崩した時、同じ様な命令を出されていました。今日はそれを司令官にも守って頂きます」

(ここまでは俺も命令した覚え無いんだがなぁ……)

 ――朝潮ちゃん、食材持ってきましたよ。

 ――調理用具もここに置いときますねー。

「お二人ともありがとうございます!」

「何で二人とも部屋に入って来ないんだ?」

「面会謝絶にしてありますから」

「面会謝絶!? ただの風邪だぞっ!?」

「……今日は私が、秘書艦なんです」

(……そういうことか)

「おかゆ、作ってくれ。今日はまだ何も食べれてないから腹減った」

「――はい! すぐに調理に取りかかりますので待っていて下さい」

(顔が生き生きし始めたな。一緒に出掛けたりは出来ない分、今日は朝潮の望むようにさせてやるか)




――――風邪にはネギが良いと聞きましたので、たくさん入れてみました。どうぞ、召し上がって下さい。

 ――――(上のネギでおかゆが見えない、だと……?)

309: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 04:21:49.15 ID:hjkFryDAO
・大鯨『良く分からない人です』、投下します

ふわふわ弱気健気系でいいのかなこの子は……

310: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 04:22:58.22 ID:hjkFryDAO
――――鎮守府内、中庭。

「なぁ大鯨、鎮守府近海に何故か鯨が居るんだが、アレはお前の知り合いか何かか?」

「多分、わたしを乗せてくれた子です」

「信じてなかった訳じゃないが、鯨に乗って来たってのは本当なんだな」

「とっても優しい子でした」

(何故かは分からんが大鯨を心配してついてきたんだろうし、たまに海に出して会わせてやるか)

「えっと、一つ聞いてもいいですか?」

「何だ?」

「今日がわたしの秘書艦日って言われたのですが、わたしも提督にキスとかした方がいいんでしょうか……?」

「その認識は非常に問題だから待ってくれ。イムヤから秘書艦日について、何て説明されたんだ?」

「“司令官にキスしたりされたり、●●●な事をしたりされたりする日”、って……」

(アイツ何て説明をしてやがんだ……)

「ひ、拾って下さった恩もありますし、あの、その、そういう形で恩を返せと言われるなら……」

「待て待て、俺がお前を迎え入れたのはそういう事をさせる為じゃないし、秘書艦日は俺と1日居ていいってだけだ。仕事さえ手伝ってもらえたら、後は別に好きにしていいんだよ」

「ほ、ホントに?」

「あぁ、だから安心してくれ。この際だし、何か困った事や聞きたい事があれば聞くぞ?」

「でしたら……何かを運ぶお仕事って、無いですか?」

「運ぶ仕事?」

「はい、元々は補給物資とかを運んでたので、そういう仕事があれば拾って下さった恩返しも出来るかなと思って……」

「運ぶ、運ぶか……そういうことなら、ぴったりの仕事があるぞ」

「ホ、ホントですかあ?」

「あぁ、今から連れてってやるから、手伝いたいって言えばすぐに仕事貰えるはずだ。それで大鯨の気が済むなら、皆も助かるし一石二鳥だ」

311: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 04:24:14.68 ID:hjkFryDAO
――――鳳翔宅。

「――そういうことなら、こちらからお願いしたいぐらいです」

「はい、よろしくお願いします」

「じゃあこの馬鈴薯と人参、玉葱を持って行ってもらえますか?」

「分かりましたあ」

「ついでに間宮の所でも聞いてみるといい。料理を運ぶ人手も足りてるとは言い難いからな」

「はい、行ったら聞いてみます。――あの、提督」

「ん? どうかしたか?」

「どうしてわたしを拾って下さったんですか? その、戦いも終わったと聞きましたし、わたしなんか居ても邪魔なだけじゃないですか?」

「単純に仲間が増えたら嬉しがる奴が居て、うちの鎮守府には受け入れる余裕があって、大鯨は俺達に見付かった。ただ、それだけの話だ」

「……変ですね、提督って」

「そうか?」

「あんなにいっぱいの艦娘とキスしたりしてて、もっと女ったらしで軽薄な人かと思ってましたあ」

「お前、それ俺以外に言わない方がいい。何時間か正座させられて、延々と俺がああでこうでって話聞かされるぞ……」

「何かちょっと聞いてみたいです」

「お前も変わってるな」

「そうですかあ?」

「鯨に乗って来た時点で、変わってるよ」

「それは否定出来ないです」




――――提督、もし話を聞いて私も好きになったら、デート連れてってくれますかあ?

 ――――もしもそうなったら、な。

312: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 07:58:36.33 ID:hjkFryDAO
・ぜかまし『たまにはゆっくりもいいよね!』、投下します

313: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 08:01:25.28 ID:hjkFryDAO
――――鎮守府内、中庭。

「提督、風が気持ち良いね」

「そうだな」

「あのね、私と一緒にいっぱいかけっこしてた子が、運動会のかけっこで一番になったんだって」

「そうか、速い奴と走ってると自然に速くなるらしいからな。きっとその子が一番になったのは、島風のお陰だ」

「ううん、違うよ。あの子が頑張ったから、一番になれたんだよ」

「……そっか、そうだな」

「うん!」

「なぁ、島風」

「なぁに?」

「今、楽しいか?」

「うん! 毎日楽しいよ!」

「寂しくないか?」

「ちっとも寂しくないよ!」

「……そうか」

「提督、どうかしたの?」

「……島風、もう俺が一緒に居なくても、寂しくないよな」

「――え?」

「天津風も居るし、友達もいっぱい出来たみたいだし、“ずっと誰かと一緒に居たい”ってお前の願いは叶ったんだ」

「う、うん……」

「俺じゃかけっこには付き合えないし、今日は仕事ももう無いから天津風達の所に行っていいんだぞ?」

「……一緒が、いい」

「ん?」

「私、提督と一緒がいいもん!」

「うわっ!? ど、どうしたんだよ急に」

「天津風も大好きだし、かけっこ一緒にしてくれる友達も好きだし、ずっと皆一緒だから今は寂しくないよ。――でも、それは全部提督が居てくれるからだもん。提督が居なきゃ、また寂しくなっちゃうよ……」

(……やっちまったな)

「ごめんな、島風。もうさっきみたいな事は二度と言わないから、泣き止んでくれ」

「……うん。提督と一緒に原っぱに座って、お話して、お昼寝して、ご飯食べて、夜は一緒に寝るの。提督と居る時が、私は一番幸せだよ」

「俺も島風にそんな風に思ってもらえてて、幸せな気分だ」

「ホント?」

「あぁ」

「ずっと一緒に居てくれる?」

「あぁ」

「居なくなったら、世界中走り回って探すからね?」

「どこにも行かないから、安心しろ」

「うん。――大好きだよ、提督」

「俺もだよ、島風」



――――アレ? 天津風がこっち見てるよ? どうしたのかな?

 ――――(泣かせたの見られてたのか……次のアイツの秘書艦日がこえぇ……)

314: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 21:03:09.43 ID:hjkFryDAO
・響(ヴェールヌイ)『丹精込めて作ったよ』、投下します

315: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 21:05:10.03 ID:hjkFryDAO
――――提督執務室。

「司令官、ボルシチとピロシキを作ってみたんだ」

「あぁ、もらう」

「ボルシチはシンプルにしてみたよ」

「――うん、美味いな」

「少し肌寒くなってきたからね。それを飲んで身体の芯から暖まってくれ」

「向こうはやっぱり寒かったのか?」

「寒いというか、痛い」

(そういえば前に子日がロシアにワープして帰って来た時、涙流して日本は暖かいって言ってたな……)

「ピロシキも食べてみてよ」

「二種類あるな、何か違うのか?」

「片方は日本風、もう片方はロシア風だよ」

「じゃあこっちの揚げてるヤツもらう」

「それは日本風だよ。揚げたてで熱いから食べる時は――」

「あっちぃぃぃぃっ!」

「遅かったみたいだね。ほら、コレを飲むといい」

「す、すまん――ぶほっ!? げほっごほっ!」

「汚いよ司令官。少し顔にかかったじゃないか」

「何で水じゃなくてウォッカなんだよ!」

「ロシア料理を出してるんだから、ウォッカがあっても不思議じゃないさ」

「昼間っから酒飲まそうとするんじゃない!」

「司令官は酒に弱いと聞いたから、酔った姿が見られるかと思ったんだ」

「絶対に飲まんから、それは仕舞っとけ。後、ウォッカかかった部分拭いてやるからこっち来い」

「舐めとってくれてもいいよ?」

「舐めるかっ!」

 ――ペロッ。

「お前なぁ……」

「舐めてくれないなら、舐めるまでだよ」

316: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 21:05:37.59 ID:hjkFryDAO
「……こっちのピロシキも食うぞ」

「顔が赤いよ? 酔ったのか?」

「焼いてるんだな、コレは」

「無視か、まぁいいさ。具は挽き肉とチーズ、ジャガイモ、茸を入れてみたよ」

「――うん、コレもなかなかイケるな」

「スパシーバ、そう言って貰えると嬉しいよ」

「ほら、ベリュニュイも一緒に食えよ。二人分だろ、コレ」

「暁のマネで仕返しって、意外と子供っぽいところもあるんだね」

「……すっげぇ言ってから後悔した」

「じゃあ失礼するよ。立ちながら食べるのは行儀が悪い」

「膝に座りたいって素直に言え」

「口移しで食べさせてくれ」

「お前は雛か」

「……ピヨ」

「……一回だけだぞ?」

「早くしてくれ、口を開けて待っているのは結構恥ずかしいんだ」

「――ん」

 ――れろ、ちゅう、くちゅ、ごくっ。

「……もう一口、くれないか?」

「断る!」

320: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 23:43:12.14 ID:hjkFryDAO
・あきつ丸『報告書めんどくさいであります』、投下します

若干胸糞悪い展開ですが、こういうのを防ぐ役割もあるということで……

321: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 23:45:03.03 ID:hjkFryDAO
――――監査先鎮守府、入口。

(提督殿と鎮守府の維持費の為とはいえ、働くの面倒であります)

「この前みたいに楽しい鎮守府だといいでありますが……」

「コレはコレはようこそお越し下さいました」

「此度の監査役を仰せつかったあきつ丸であります。艦娘の人数と提督殿の素行を調査させて頂きたい」

「どうぞ、お好きなだけ確認していただいて結構です。やましいことは何もありませんので」

「……そうさせてもらうであります」

――――演習場。

(コレで、リストに載っているのは全員でありますな)

「皆に聞きたいであります。何か隠している事は無いでありますか?」

(――動揺はあれど、無言でありますか……。しかし、自分に嘘は吐けないであります)

「……本当に、ここに居るのはコレだけでありますか?」

 ――!?

「はぁ……もう分かったであります。何も言わなくともいいであります」

(やっぱり、面倒な仕事になったであります)

――――提督執務室。

「失礼するであります」

「おや、もう監査はよろしいので?」

「提督殿に話を伺えば終わりであります」

「そうですか。何なりとお聞きください」

「残りの艦娘、どこでありますか?」

「はて? 残りの、とは?」

「別に隠すならそれでいいであります。ただ、発見した場合は罪が重くなるであります」

「逆に言えば、証拠が無ければ罪には問えない。違いますかな?」

「――余計な仕事を増やして欲しくなかったであります」

「私を尋問でもなさるおつもりで?」

「ブタを躾る趣味は無いでありますよ」

「ブタ!?」

「証拠ならもう見付けているであります。地下に艦娘が五名、意識は弱々しく、●●bbと暴力の痕跡あり――虫酸が走るとはこのことでありますよ」

「ど、どうしてあの場所がそんな簡単に……」

「企業秘密であります。では、報告書の作成と艦娘の保護で忙しいので、これで失礼するであります」

「待て! 私は軍上層部にも顔が利く、こんなことをしてタダで済むと思っているのか!」

「――権力が無ければ何も出来ない者になど、私は臆しないでありますよ」

322: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/18(水) 23:46:01.40 ID:hjkFryDAO
――――報告、ブタが五月蝿いから処分しておいて欲しいであります。

 ――――ご苦労あきつ丸。ところで今度うちに遊びに来んか? そして、うちの艦娘になってくれ。

――――元帥、セクハラとパワハラで訴えるでありますよ?

324: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 06:48:09.29 ID:U6rJ+FPAO
・白露『提督にとって何かで一番になってみたい』、投下します

325: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 06:48:42.97 ID:U6rJ+FPAO
――――提督執務室。

「提督、私が一番な事ってなーに?」

「白露が一番な事って、一番艦とかそういうのか?」

「ううん、そういうのじゃなくって、提督にとって私が一番な何かってある?」

「例えばどういうのだよ」

「一番抱き心地がいいとか、髪が綺麗とか、そういうのでないのー?」

「俺にお前等を順位付けしろってのか?」

「ダメ?」

「……どんなのでもいいんだな?」

「うんうん、教えて!」

「――腕のラインだ」

「腕の、ライン?」

「白露っていつも“いっちばーん”って言いながら腕を突き出してるだろ? その時の腕のラインが綺麗だと思った」

「提督って、変態だったの?」

「真剣に答えたのにその反応は結構傷付くぞ。俺が腕を綺麗だって思うのは、かなり珍しいんだからな?」

「だって、何かあんまり嬉しくないんだもん」

「完全に言い損じゃねぇか!」

「……色々頑張ったら、他にも私が提督にとって一番なことって増えたりする?」

「そりゃ増える可能性はあるだろうが、そこまで一番に拘らなくても俺は白露のこと好きだぞ?」

「私も提督大好き! だから、今よりもっと好きになってもらう為に色んな一番目指してはりきっちゃうよー!」

326: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 06:49:37.15 ID:U6rJ+FPAO
――――五年後。

「あーん」

「白露、たまには自分で――」

「あーん!」

「はいはい分かったよ、あーん」

「コレで提督にあーんした回数いっちばーん!」

「お前も本当に頑張るよな。俺をそれだけ好きでいてくれるって証拠だから、嬉しくはあるが」

「次はキスした回数一番目指しちゃうよー?」

「頼むから前の“1日ずっとキスしながら過ごす”みたいなキス系統のことは、もうやめにしないか?」

「アレ、今度もう一回やりたい!」

「人の話を聞いてくれ白露ー……」

「提督はいつだって私の一番なんだから、私も提督の一番になりたいの!」

「一番困った奴に認定してやろうか?」

「んもぉー! 提督のイジワル!」




――――夜戦回数も一番目指しちゃうよー!

 ――――それだけは絶対にやめろ。

339: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 08:04:09.56 ID:U6rJ+FPAO
締め切ります

予想→朝だしsage進行だし誰も来なくて適当に一本

現実→オリョクル

「“この世はこんなはずじゃなかったことばっかりだ”って某執務官も言ってたでち」

341: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 08:21:32.41 ID:U6rJ+FPAO
・浦風『提督さんとデートじゃ』

・赤城『戦果は上々ね』

・大和『これからの話』

・榛名『一生分の感謝をあなたに』

・雪風『しれぇ! 雨です!』

・扶桑『提督と公園でランチタイム』

・大潮『大潮の月』

・ながもん『文月と街へ』

・古鷹『帰りたくないです』

・あきつ丸『提督殿、ミカンの皮剥いて欲しいであります』

・羽黒『ミ、ミニスカートでですか……?』

の、合計11本でお送りします

342: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 09:38:33.88 ID:U6rJ+FPAO
・浦風『提督さんとデートじゃ』、投下します

浦風居るところに彼女あり

343: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 09:40:21.52 ID:U6rJ+FPAO
――――街中、大通り。

「提督さん、このアイスぶち美味しいんじゃ」

「そうか、良かったな浦風」

「はい、一口食べてつかぁさい」

「いや、俺はいいよ」

「そんな遠慮せんで」

「浦風が全部食べ――っ!?」

(何で大鳳が路地裏にっ!?――た・べ・な・さ・い?)

「うちが口をつけたのは嫌なんか……?」

「そ、そんな訳無いだろ、一口貰うよ――うん、甘くて美味しいな」

「うん、二人で食べた方が美味しいけぇ」

(関節キスとか気にしてないんだろうな、この顔は……)

「――ふぅ、ごちそうさま。提督さん、次はドーナツが食べたいんじゃ」

「ドーナツか……。あっちに美味しいって評判の店があったはずだから、そこに行くか」

――――評判の店の前、行列最後尾。

「ドーナツ食べるのに並んでるのかこの行列……浦風、ちょっと時間かかるけどいいか?」

「うちは提督さんと二人なら退屈せんから平気じゃ」

「分かった、じゃあ気長に待つとするか」

344: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 09:40:53.48 ID:U6rJ+FPAO
――――十五分後。

「もうすぐだな」

「どんな味がするんか楽しみじゃ」

「浦風はどれが食べたいんだ?」

「フレンチクルーラー」

「そうか、じゃあ俺はオールドファッションにするかな」

「――提督さん、あそこ何か揉めとるようじゃ」

「揉めてる……?」

 ――割り込みすんなよ。

 ――さっきから並んでたよ、目悪いんじゃねぇの?

「割り込みか、店員が応対に追われて列が進まなくなっちまってるな……すまんな浦風、もうちょっとかかりそうだ」

「人気があるけぇ仕方無いことじゃ。うちは大丈夫じゃけぇ心配せんでえぇよ」

「そっか、入ったら好きなだけ食べていいからな」

「姉さんへのお土産もお願いしてえぇ?」

「勿論だ、アイツもきっと喜ぶよ」

 ――ちょっとそこの割り込みした男、こっちに来なさい。

 ――何だテメェは?

 ――いいからこっちに来なさい、あの二人の邪魔したら海に沈めるわよ。

 ――ちょっ、何なんだよ!? 離せ、離せって!

「……列動いたからすぐに食べれそうだな」

「今姉さんの声せんかった?」

「気のせいだ。――ほら、団体客が抜けたし入れそうだぞ」




――――このフレンチクルーラーぶち美味しいんじゃ。

 ――――ほら、こっちも食べていいからな。

  ――――(ドーナツ頬張る浦風可愛いわ……)

347: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 17:50:23.35 ID:U6rJ+FPAO
・赤城『戦果は上々ね』、投下します

※別鎮守府(多摩スレ)で赤城が猪を退治して持って帰ってきた話です

348: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 17:52:25.70 ID:U6rJ+FPAO
――――食堂。

「赤城さん」

「何ですか?」

「駆逐艦娘の一部の子達が怯えているので、あの猪は捨てて来て下さい」

「戦果ですので提督に差し上げようかと」

「いらんわ!」

「血も抜いて防腐もしましたよ?」

「そういう問題じゃねぇよ……」

「そもそも、何回無断で抜け出せば気が済むんですか? あ・か・ぎ・さん?」

「加賀、頭が痛いです。頭痛で牡丹鍋の味が分からなくなったら困ります」

(加賀のアイアンクローに動じない辺り、コイツも大概だよな……)

「皆さーん、牡丹鍋とすき焼き出来ましたよー」

(加賀のアイアンクローに動じない辺り、コイツも大概だよな……)

「皆さーん、牡丹鍋とすき焼き出来ましたよー」

「おっ出来たか。猪の肉は味に癖があるし、食べれない奴はすき焼きも用意したからそっち食え」

『はーい!』

「提督、加賀と一緒に私達は牡丹鍋を食べましょう。――はい、口を開けて下さい」

「珍しい事もあるものですね」

「……赤城、熱でもあるのか?」

「私だって、たまにはこういう行為をしたくなりますよ?」

「まぁ悪い気はしないし、貰う。――うん、やっぱり癖はあるがコレはコレでイケるな」

「それは何よりです。では私にも食べさせて下さい」

「お前本当に今日はどうした」

(頭強く握りすぎたかしら……)

「少し、若さに当てられたのかもしれませんね。提督、お腹が空いているので早くお願いします」

「あ、あぁ、ほら」

「――うん、上々ね」

「赤城さん、少し顔が赤いですよ?」

「……もぐもぐ」

「食べて誤魔化したな」

「少し赤城さんの可愛らしい一面が見られました」

349: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/19(木) 17:53:30.51 ID:U6rJ+FPAO
「二人とも食べないのでしたら、全部食べてしまいますよ?」

「待て待て、俺達に食わせる為に持って帰ってきたんだろうが、全部一人で食う奴があるか」

「このスペースの肉は譲れません」

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

「本当にちょっと待てお前等! 俺の食う分ちゃんと残せよっ!?」

「ここは戦場です。戦わざる者食うべからずです」

「流石に手が止まりません」

「赤城、そこの肉寄越せ! 加賀は葱を全部食うんじゃねぇ!」

「はい、どうぞ」

「そんなに欲しければどうぞ」

「むごっ!? むぐむぐ……誰も口に無理矢理突っ込めとは――」

「はい」

「どうぞ」

「むがっ!?」




――――食べさせて差し上げた分、後で提督を頂きますね?

 ――――頼むから物理的に食わないでくれよ?

350: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/20(金) 00:52:47.19 ID:nm4/dE+AO
・大和『これからの話』、投下します

351: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/20(金) 00:53:26.07 ID:nm4/dE+AO
――――客用和室、縁側。

「たまにはこういう場所で飲むのもありだな。と言っても、俺はあまり飲めんが」

「大和もそこまで強くありませんし、お酒を飲む雰囲気を楽しみながら、ゆっくり飲みましょう」

「あぁ、そうするか」

「今宵は、満月ですね」

「中秋の名月ってヤツか」

「こうしてあなたと月を眺めているだけで、大和は幸せです」

「……そうか」

「――提督は、大和のどこを好いてくれていますか?」

「髪、足、綺麗なくびれ、少しいじけやすい、優しい、気遣いが出来る、面倒見がいい、胸に徹甲弾」

「徹甲弾、今から着けてきた方がいいのかしら……」

「流石に冗談だ、お前が中破した時にドキッとしたのは事実だが」

「戦いの最中でしたし気にも留めていませんでしたが、そんなところを見ていらしたんですね」

「被害確認の為に仕方無くだ、やましい気持ちは無かったよ」

「――今でも、邪(よこしま)な気持ちはありませんか?」

「……魅力的な女性にしなだれかかられて意識しない程、鋼の精神は持ち合わせてない」

「大和はあなたをお慕いしています。これまでも、そして、これからも」

「どう、応えればいいんだろうな。月と酒とお前に酔って、言葉が出てこない」

「言葉で無くとも、いいんですよ?」

「――止まらんぞ?」

「あなたの、望むままに」

「その上気した頬も、潤んだ瞳も、少し汗ばんだ肌も、全部俺が好きにしていいんだな?」

「大和の身も、心も、あなたのものです」

「じゃあ、顔をよく見せてくれ」

「はい、ご存分にどうぞ」

「……酔ってるな、真っ赤だ」

「お酒の力を借りないと、恥ずかしくて上手に気持ちを伝えられませんから」

「酒の力なんか借りなくたって、お前は十分魅力的だ」

「……でしたら、このまま今日は大和に酔って溺れて下さい」

「言われるまでもなく、もう酔って溺れそうだよ」

「あなたのことを、愛しています」

「俺もだ、大和」

「――熱く、なってきました」

「……あぁ、そうだな」




――――やっぱり触ると柔らかくて徹甲弾とは大違いだな。

 ――――もうっ、徹甲弾と比べないで下さい。

352: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/20(金) 10:59:49.75 ID:nm4/dE+AO
・榛名『一生分の感謝をあなたに』、投下します

353: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/20(金) 11:00:28.66 ID:nm4/dE+AO
――――提督執務室。

「榛名」

「はい、榛名に何か御用でしょうか?」

「いや、特に無い。無いんだがその格好は何だ」

「御奉仕するならこの格好が一番相応しいと、漣に聞いたものですから」

「またアイツか……」

「榛名は、提督に感謝の気持ちを示したいんです」

「一応言っとくが、メイド服は感謝の気持ちを示したい人間が着る為の服って訳じゃないからな」

「でしたら、すぐに一番相応しい服に着替えてきます。具体的にはどのような服がよろしいのでしょうか?」

「別に格好は気にしなくていい。それで、感謝って何に対しての感謝だよ。身に覚えが無いんだが」

「――榛名を、一人にしないでくれました。お姉様達と霧島との悲しいお別れを、二度も経験させないでいてくれました。その、感謝の気持ちです」

「それなら俺じゃなくて、全力で戦った仲間達に示すべきだろ。俺はお前達に戦うことを命じていた側であって、感謝される対象には相応しくない」

「そんなことはありません。貴方が居てくれたから、榛名達は絶対に生きて帰りたいと思えたんです」

「……感謝したいのは、こっちなんだがな」

「加賀さんには結局一度も勝てないままでしたし、比叡お姉様の料理に苦しめられたりもしました。でも、そんな事も含めて、榛名は毎日が楽しかったです。いつもの何気無い日常に、お姉様達も、霧島も、他の皆さんも笑っていました。それ等全ての事にも、榛名は感謝しています」

「感謝する事が多すぎて大変そうだな」

「はい、ですから提督には、ずっと榛名から感謝され続けて頂きます」

「一生感謝し続ける気か?」

「いけないでしょうか?」

「いけなくはないが、疲れないか?」

「榛名は大丈夫です」

「そうか……まぁ、お前がそれで幸せならそれでいいんだろうな」

「この思いが尽きることなどありませんし、この思いがある限り、榛名は幸せです」

「――なら、感謝されとくよ」

「はい、そうして下さい」




――――提督は足が好きと伺ったので、今日は水着でお仕事をしますね。

 ――――足に目がいって集中出来ないから服を普通に着てくれ……。

354: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/20(金) 14:04:56.26 ID:nm4/dE+AO
・雪風『しれぇ! 雨です!』、投下します

355: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/20(金) 14:07:58.48 ID:nm4/dE+AO
――――とある店の軒先。

「突然降ってきやがるとはな……雪風、大丈夫か?」

「はい、少し濡れちゃいましたけど、雪風は大丈夫です」

「それなら良か――んっ!?」

(雨で服が透けまくってて全然大丈夫じゃねぇ……)

「雪風、とりあえずここ入るぞ」

「ここは何のお店ですか?」

「入りゃ分かるさ」

――――店内。

「しれぇ、洗濯機がいっぱいです!」

「コインランドリーだからな、いっぱいあって当然だ。――さぁて雪風、ちょっとこっちに来い」

「ゆ、雪風に何かご用でしょうか?」

(勘が鋭いな……)

「冷えただろ、暖めてやる」

「……しれぇがそう言うなら」

(小動物の警戒解いてる気分だ)

「あの、早くギュッてして下さい」

「あぁ、してやる。――その前に、タオルで拭くから脱げ!」

「し、しれぇ!? ダメです! 雪風これしか着てないんです!」

「乾燥機で乾かすから大人しく脱げ、タオルがそこにあるからそれ巻いてろ」

「パンツだけじゃ落ち着きません!」

「普段から服とパンツ一枚で過ごしてる癖に今更恥ずかしがんな!」

「雪風は脱ぎません!」

「濡れた服着てたら冷えるんだよ!」

「でも、脱ぎませんから!」

「雪風、胸見えてるぞ」

「えっ!? あっ、捲っちゃダメです!」

「一気に脱がすぞー」

「ず、ズルいですしれぇ!」

「はいはいタオル巻いてっと、そのままちょっと大人しくしてろ。暖かい飲み物でも買ってやるから」

「うぅ……しれぇに胸見られちゃいました……」

「他の奴に見られなかっただけマシと思え」

「帰ったら皆に、しれぇに脱がされたって言っちゃいますから!」

「理由を説明したら大丈夫……大丈夫、だよな?」

「……ギュッてしてくれないしれぇなんて、酷い目に合っちゃえばいいんです」

(あー、そういえばそうやって呼んだんだったな……)

「――雪風、コレでいいか?」

「まだ、許しませんから」

「もう少し強くした方がいいのか?」

「……もっと、ギュッてして欲しいです」

「あぁ、乾くまでこうしててやるよ」

356: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/20(金) 14:08:26.40 ID:nm4/dE+AO
――――乾いたぞ、雪風。――雪風?

 ――――……すぅ、すぅ……しれぇー……。

――――(仕方無い、服着せて家まで背負って帰るか……)

357: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/20(金) 15:34:55.82 ID:nm4/dE+AO
・扶桑『公園でデート』、投下します

358: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/20(金) 15:35:52.60 ID:nm4/dE+AO
――――公園。

「何ていうかこう、静かだな」

「そうですね」

「空、青いな」

「はい、青いです」

「……」

「……」

(――間が持たんっ! 山城から扶桑の良いところは死ぬほど聞かされたが、会話に使えるようなネタが無い!)

「あの、提督?」

「――ん? どうした扶桑」

「そろそろ、お昼にしませんか?」

「あぁ、もうそんな時間か」

「お弁当を作って来たので、一緒に食べましょう」

「悪いな、手間だっただろ」

「いえ、提督に食べて頂けるなら喜ばしい限りですし、最近はよく作っていますから。どうぞ、ゆっくり召し上がって下さいね」

「――なるほど、確かに作ってるみたいだな。久し振りだよ、こういうの」

(タコさんウィンナーにイヌやネコの顔に型抜きしたお握り、か)

「あっごめんなさい。ついあの子達に作る時みたいにしてしまって……」

「いや、いいよ。コレを皆で食べてる微笑ましい光景が想像できて和むし」

「提督、お味はいかがですか?」

「――うん、美味い。山城から聞かされまくった通りの味だ」

「山城から?」

「“姉様の料理は繊細な味付けと魅力的な飾り付けがされていて、味も見た目も楽しめる”、だったか」

「山城ったら、そんな事を提督に言っていたんですね」

「もう何百回聞かされたか分からん。まぁ、最近は自分の事を話すようになってくれたが」

「うふふ、あの子も今はとても幸せそうですから」

「あの子“も”ってことは、扶桑も今、幸せなんだな」

「えぇ、提督と二人でこうして一緒に居るだけで、私は幸せです」

「……その笑顔を見たら、大抵の男は落ちるよな。告白する奴が後を絶たないのも分かる気がする」

「妬いて、くれますか?」

「いや、相手の男に同情するだけだ。扶桑には俺しか見えてないのは、重々承知してる」

「少し、残念です。浮気をしてみれば、もっと夢中になって妬いてくれるのかしら……」

「絶対にやめてくれ、山城が怖いし俺も気が気じゃなくなる」

「ふふふ、冗談ですよ。私には貴方しか居ませんから」

「……弁当、美味いな」

「食後のデザートにはリンゴも剥いてきましたから、しっかり召し上がって下さいね」

「ウサギか?」

「ウサギです」



――――次は山城や時雨達も一緒にどうだ?

 ――――はい、またお弁当作りますね。

362: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 00:13:35.67 ID:4BOiK7rAO
・大潮『大潮の月』、投下します

ちょっとケッコンカッコカリボイスとは違います

363: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 00:14:40.04 ID:4BOiK7rAO
――――提督執務室。

「大潮」

「何ですか、司令官」

「上からだとな、その、見える」

「大潮は大丈夫です!」

「いや、大丈夫じゃないからな」

「ダメですか?」

「ダメだ」

「いいじゃないですか、服の下に魚雷仕込むぐらい」

「膝の上に乗っけてる俺がよくねぇよ! 何かやけに抱いた時に感触が固いと思ったんだ……」

「コレで司令官のハートをドーン!」

「ハートを射抜きたいならせめて爆発物以外にしろ」

「それはともかく、こうして抱きしめてもらってるとぽかぽかしますねー」

「そうだなー俺はドキドキしてるぞー」

「大潮にですか?」

「魚雷に決まってんだろ!」

「司令官は小さな身体より、大きな魚雷の方が好きなんですか?」

「どっちもイエスと言うと危ない目で見られる選択肢を出すなよ……。大潮の事は、好きだ」

「はうあぁー……」

「こら、あまり動くな」

「だって、何か身体の内側が物凄くぽかぽかしててじっとしてられないんです」

「じゃあとりあえず魚雷を服から出せ」

「……出したら、もっと抱き締めてぽかぽかさせてくれるんですか?」

「あぁ、してやるから今度から魚雷は無しだ」

「じゃあ、そこに置いときます」

(コレで安全……じゃないな)

「大潮、サイズの大きい服買うのはいいが、上からだと中が見えるって分かってるか?」

「司令官が見たいならどうぞ!」

「見ない。抱き締めたら見えないから、コレでちょうどいいだろ」

「さっきから胸の辺りがぽかぽかしっぱなしです」

「良い気分なら、何よりだ」

「――司令官は、大潮のお月様です」

「どういう意味だ?」

「どんなに遠く離れても、また引力で引き寄せられちゃうってことです。行ってこいって送り出してもらえて、帰って来た時にはお帰りって言ってもらえて、それが何より大潮は嬉しかったんです」

「……お帰りとかお疲れって言えることが、俺は何より嬉しかったよ」

「えへへ、大潮と一緒ですね」

「秘書艦日、お帰りって迎えてやろうか?」

「じゃあ、大潮はただいまって言いますね!」

「あぁ……とりあえず今日は、このまま過ごすか」

「はい!」

364: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 00:15:30.97 ID:4BOiK7rAO
――――やっぱり落ち着かないので魚雷を服に入れてもいいですか?

 ――――入れたら離れるからな。

365: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 03:18:48.16 ID:4BOiK7rAO
・ながもん『文月と街へ』、投下します

366: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 03:21:09.56 ID:4BOiK7rAO
――――街中。

「わーい、たかいたかーい」

「文月、どこか行きたいところはないか? この長門が今日はどこへなりと連れて行ってやるぞ」

「えっとねー、あたし、いっぱいケーキ食べたい!」

「了解だ! このビッグセブンに任せるがいい!」

――――ケーキバイキング。

「どうだ、美味しいか?」

「うん、おいしー。長門さんも食べて食べてー、はい、あーん」

(こ、この戦艦長門があーんをされる日が来るとは……胸が熱いな!)

「ねぇねぇ、食べないのー?」

「勿論食べるぞ文月。いざ、参る!――あぁ、確かに甘くて美味い」

「でしょー? あっ、あっちのケーキも美味しそー」

「待っていろ! 皿ごと持ってきてやる!」

「文月、そんなに食べれないよー? アレ? 行っちゃった……」

 ――お客様、困ります!

 ――離せ! 文月が食べたいと言っているんだ!

 ――大皿から1つずつお願いします!

「わーあんなに大きな皿片手で持ってるー。長門さん、すごいすごーい」

――――ペットショップ。

「長門さん、このにゃんこかわいいねー」

「そうだな、猫というのは可愛らしい生き物だ」

(そして、文月はもっと可愛らしい)

「あたしもにゃんこ飼いたいけど、もーっと大きくなって一人でお世話が出来るようになるまで、がまんするの」

「そうなのか。その志は立派だぞ、文月」

「うん、ありがとー」

(よし、この長門が一肌脱ごうではないか!)




――――鎮守府、睦月型私室。

「う、うーちゃんアレはちょっと飼いたくないっぴょん……」

「弥生も、ちょっと……」

「にゃあ!」

「長門さん、猫のマネへたっぴだねー」

「くっ……このビッグセブンの力を持ってしても無理だったか!」

(三日月からどうにかして欲しいと聞いて来てみれば……猫耳と猫尻尾に肉球グローブって、何やってんだよ長門……)

370: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 14:25:31.91 ID:4BOiK7rAO
・古鷹『帰りたくないです』、投下します

ちょっと指定と違ったかも……

371: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 14:27:03.82 ID:4BOiK7rAO
――――夜、旅館。

(ここからだと、朝に始発で帰るとかも厳しそうだよなぁ……そもそも、始発時間に起きれるかも分からんし)

「――提督、戻りました。温泉気持ち良かったです」

「そうか」

「あの、コレどうですか?」

「似合ってるぞ、浴衣」

「提督にそう言ってもらえると、とても嬉しいです」

「なぁ、古鷹」

「何ですか?」

「――帰らなくて、本当に良かったのか?」

「……鎮守府に帰ってしまうと、提督は皆の提督になってしまいますから」

「共有品扱いだからな、俺は」

「今日だけ……今日という日だけは、ずっと私だけの提督で居てもらいたかったんです」

「珍しいよな、古鷹がわがまま言うなんて」

「ご迷惑なのは分かっています。でも、どうしても気持ちが抑えられなかったんです」

(……今日、か)

「お前が優しくて皆に気を遣える奴だってのは、よく知ってる。だから、こうしてわがままを言っても俺は責めないし、わがままとそもそも思わない。お前達の良いところをいっぱい教えてもらった礼と思えば、こういうのも悪くないさ」

「提督……」

「この間、加古に聞いたから知ってる。毎年同じ日にうなされてることも、その時は必ず手を伸ばして何かを掴もうとしてるのも」

「そう、ですか」

「お前以外にも激しい戦いの末に沈んだ奴は、大勢居る。だからといって、遠慮する必要は無い。辛いなら、辛いって言え」

「……抱き締めて、下さい」

「いいぞ」

「泣いて顔がぐちゃぐちゃになっちゃうから、顔を見ないで……」

「あぁ」

「何処にも、行かないで下さい」

「ずっとここに居る」

「キス、して」

「……ん」

 ――ちゅ……はむ……ん……ちゅぱ……。

「――コレだけじゃ、足りないです。辛い事全部、忘れさせて下さい」

「……良いところも、悪いところも、全部含めて好きだ、古鷹」

「……はい、私の全部見て下さい」




――――明日、一緒に謝ってくれるか?

 ――――提督のカッコイイところ、私に見せてください。

――――情けない姿になる未来しか見えん……。

372: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 15:11:36.99 ID:4BOiK7rAO
・あきつ丸『提督殿、ミカンの皮剥いて欲しいであります』、投下します

あきつ丸さん@働かない

373: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 15:13:17.59 ID:4BOiK7rAO
――――あきつ丸、私室。

「提督殿、早くして欲しいであります」

「お前なぁ……秘書艦日は俺にみかんの皮剥かせてだらけていい日って訳じゃないからな?」

「そう言いつつも剥いてくれる提督殿は、優しいでありますな」

「ほら、食え」

「食べさせて欲しいであります」

「炬燵から手を出せ、そして自分で食え」

「その命令は拒否させて頂く」

「あーきーつーまーるー?」

「ほほほひっはははひへほひひへはひはふ」(訳:頬を引っ張らないで欲しいであります)

「良く伸びるな」

「暴力を受けたであります。提督殿を憲兵に引き渡すであります」

「みかん、いらないのか?」

「賄賂には屈するしかないでありますな」

「屈するなよ」

「大丈夫であります。元帥殿からの引き抜きには屈しないであります」

(あのクソオヤジいつかシメる……)

「喉が乾いた、お茶が飲みたいであります」

「ちょっとは自分で動けよお前」

「部下を労うのも提督殿のれっきとした業務であります。軍司令部に職務怠慢だと報告するであります」

「秘書艦日にこうしてゆっくり出来なく――」

「報告書作成めんどくさいであります」

「お前本当に監査役真面目にやってるよな? 不安になってきたんだが……」

「大丈夫であります。元帥殿への報告書は大抵三行以内であります」

「それは報告書と呼べる代物じゃないな絶対に、厳重注意か下手すりゃ懲罰モノだぞ」

「元帥殿から毎度セクハラとパワハラ紛いの誘いがあるので、お互い様であります」

「あのクソオヤジもいつか捕まるんじゃないかと心配になってきた……」

「――提督殿」

「何だ?」

「炬燵にずっと入っていたので、身体が熱くなってきたであります」

「じゃあ出ろよ」

「脱ぐであります」

「いや、だから出ろよ」

「部下の自由を認めない提督殿の横暴には屈しないであります」

「そこは屈しろ」

「次の秘書艦日に自分と海へ旅行すると約束すれば、この場は丸く収まるでありますよ」

「あぁ、約束してやる」

「では水着を新調するのに胸囲を測って欲しいので、脱ぐであります」

「お前来た頃と別人にすり替わってたりしないよな?」

「――自分は、提督殿の色に染められただけでありますよ」

374: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 15:13:43.45 ID:4BOiK7rAO
――――離れないとメジャーが背中に回せないんだが。

 ――――気合いでどうにかして欲しいであります。

379: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 17:53:01.33 ID:4BOiK7rAO
・羽黒『ミ、ミニスカートでですか……?』、投下します

足フェチ加速中

380: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/21(土) 17:55:05.03 ID:4BOiK7rAO
――――街中。

「あの、司令官さん」

「どうした?」

「もっと道の端を歩きませんか?」

「車道側を歩いてるんだが、それだけじゃ不満か?」

「い、いえ、そうじゃないんです。その、視線が気になって落ち着かなくて……」

「大丈夫だ、気にするな」

「あぅ……」

(流石にそろそろやめないと逃げ出しかねんか……)

「ありがとうな羽黒、本当にミニスカで来てくれて」

「し、司令官さんに見たいと言われたので、かなり頑張りました」

「ロングスカートも羽黒には似合ってるし可愛いんだが、たまにはミニスカ姿も見てみたいと思ってな」

「ご満足、頂けましたか……?」

「あぁ、大満足だ」

「――なら、頑張って着てみて良かったです」

「……手を繋ぎながらこの距離で会話が出来るなんて、来た頃は考えもしなかったな」

「あ、あの頃は本当にごめんなさい……」

「仕方無いさ。恥ずかしがり屋で男性恐怖症なんて、簡単にどうにかなるもんじゃなかったし」

「……今は、こんなことだって出来ますよ?」

(腕組みか、顔真っ赤だけど大丈夫なのか……?)

「司令官さんはとても優しい人だって知ってます。私の、大切な人です」

「近付いてお前が涙目になる度、妙高から震え上がりそうな冷たい目で見られた甲斐があったよ」

「妙高姉さんは少し過保護なところがありますけど、優しい人ですから」

「あぁ、羽黒が俺の事を怖がらなくなった時、深々と頭を下げられた。“妹をどうかよろしくお願い致します”って」

「――私のこと、これからも大事にしてくれますか?」

「嫌だって答えるわけないだろ。これまでは俺が守ってもらってたんだ、これからは俺が大事にしてやる番だ」

「……はい、お願いします」

「――さて、喫茶店にでも入って少し休憩するか」

「あそこ、喫茶店ですよ。前に足柄姉さんと二人で来ましたし、紅茶が美味しかったです」

「そうか、ならあそこにするか」




――――あの、司令官さん。あまり足ばかり見ないで下さい……。

 ――――無理だ。

395: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/22(日) 09:17:34.46 ID:SxrB0VlAO
出掛ける前に書きかけが完成しました、茶葉は長くなったので省きます

・鶴姉妹『茶菓子と着物が見たい』、投下します

396: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/22(日) 09:18:31.17 ID:SxrB0VlAO
――――百貨店、地下。

「翔鶴姉ぇ、あのお店閉店しちゃったみたい」

「あら、残念ね……かま風呂美味しかったのに」

「鶴屋吉信で寶ぶくろと紡ぎ詩、つばらつばら辺りでも買う?」

「そうね、そうしましょうか」

「お前達、選ぶのにほとんど迷いがないな……」

「だって通い慣れてるもん」

「あまり提督をお待たせする訳にもいきませんし、他にも回りたい場所がありますから」

「そうか、荷物持ちとしては助かる」

「提督さん、ひょっとして女の買い物は長いとか思ってる?」

「そんな風には思ってないぞ。ただ、翔鶴も瑞鶴もお互いの考えてることが分かっているみたいに店と商品を決めるから、感心しただけだ」

「何度も通っていると行き付けのお店というのはやはり決まってきますし、あそこは名前に惹かれるものがありますから」

「何てったって“鶴”って入ってるし」

「――鶴の和菓子は売ってないのか?」

「あるけど……何か嫌だから買っちゃダメ」

「そうね、わざわざ買わなくても鶴ならここに居るもの」

(あるなら食べてみたいだけだったんだが……)

397: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/22(日) 09:21:01.77 ID:SxrB0VlAO
――――着物呉服店。

「提督さん、選んで」

「提督、選んで下さいますか?」

「おい待て、入店直後に言うセリフか?」

「だって、それが目当てで来たんだもん。ね、翔鶴姉ぇ」

「えぇ」

(即断即決の嵐はそういう理由かよ……)

「真剣に選んでくれないと爆撃しちゃうから」

「私達姉妹に似合うと思うものをお願いします」

「難易度だけ跳ね上がっていくんだが、俺に着物を選ぶセンスなんか無いぞ?」

――――1時間後。

「翔鶴にはコレ、瑞鶴にはコレ、もう限界だからそれで我慢してくれ……」

「我慢だなんてそんな……こんなに真剣に選んで頂いて、本当にありがとうございます」

「――ねぇ、何で、コレ?」

「最近は翔鶴と一緒に居る時間が増えた分、どっかの一航戦が演習以外でお前が来ないって言ってたんでな。それ着て行ってたまには茶入れてやれ、喜ぶぞ」

「……提督さんがそこまで言うなら、着たげる」

「私のは縁起が良い柄ですね」

「名前と華やかさで選んだ。翔鶴なら柄の迫力に負けずに着こなせると思ったからな」

「あら、綺麗だと暗に仰って下さってるんですか?」

「言うまでもないだろ、そっちでむくれてる瑞鶴も可愛いぞ」

「む、むくれてなんかないってば! 変なこと言うと爆撃しちゃうんだからね!」

「ははは、まぁ気に入ってもらえて何よりだ。会計してくるから待ってろ」

「え? いいの?」

「そんな、選んで戴いた上にお会計までお任せする訳には……」

「俺が選んだなら俺が払うべきだろ。不満なら両手に華で歩けた俺からの礼だと思っとけ」

「……うん、ありがとね、提督さん」

「この感謝はまた何かの形でお返し致しますね?」

「それ着て見せてくれりゃいいさ。じゃあ行ってくる」




――――……着物で夜戦はダメだよね?

 ――――脱がすのを楽しんで頂くとかなら……。

  ――――(この会話に飛び込むと大変な目に遭いそうだな、もう少し待つか)

400: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/22(日) 17:29:32.73 ID:kLb+yqVSO
乙デース
加賀は自分の名前のついている着物を瑞鶴が着ているのをどう思うんだろう?


401: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/22(日) 22:55:23.14 ID:SxrB0VlAO
>>400

――――茶室。

「着ることを許可した覚えはありませんが?」

「加賀さんに許可してもらう必要ないでしょ?」

「――まぁ、それなりに似合ってはいます」

「……ありがと。何か落ち着くんだよね、コレ着てると」

「落ち着かないの間違いではないの?」

「落ち着くよ。私、加賀さん好きだし」

「……そう」




こんな感じ

明日また更新します、今日は入渠ドックにドボーンして寝ます

404: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/23(月) 11:07:38.16 ID:ZDrAGx8AO
・飛鷹『いつ何がどうなるかなんて分からない』、投下します

会話のみだとしんどかったので、最初みたいに地の文ありで書きました

読みづらかったらすいません

405: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/23(月) 11:09:12.18 ID:ZDrAGx8AO
――――提督私室。

 四角いガラスのテーブルを挟んで座り、二人は酒を酌み交わす。いつもならば笑い声や怒声などが廊下まで聞こえてくるのだが、この日に限っては静かなものだった。

「――で、酒を飲みながら少し話したいことって何だ?」

「アバウトであるけど、ここの今後についてってとこかな」

 目の前のグラスの縁を指先でなぞりながら、飛鷹は一度目を伏せる。
 普段は隼鷹共々騒がしくしている事も多く、彼女からはがさつな印象を受けやすい。しかし、たまに見せるこういった仕草や立ち居振舞いは、内に秘めた上品さを感じさせた。

「今後って、本当にアバウトだな」

「どこがどう、って話をしててもきりがないでしょ?」

 今度は視線と視線を合わせ、飛鷹は軽く微笑む。真面目な話でもしていなければ、思わず目を奪われそうな魅力的な笑みだと、不真面目な事を提督は考えていた。
 だが、返す言葉を考えていなかった訳ではない。

「……ずっと今のままの状態を維持することが難しいのは、分かってるさ」

「経営的に言ってる? それとも、私達のことについて言ってる?」

「後者しか無いだろ」

 今度は迷わず、提督は即答する。逆に言えば、迷う余地の無い、即答出来る選択肢しか用意されていなかったということだ。

「そう……提督の考え、聞かせてもらっていい?」

「成長しているって事は、老衰もする。お前達が人間に近付けば近付く程、鎮守府としての体裁を保つのは難しくなる。……それと、唐突に世界に現れたお前達や妖精達が、ある時不意に世界から消えない保証も、無い」

「……」

 訪れた沈黙。飛鷹が何も言葉を返さずにいるのは、同じ事を考えていた証拠だ。
 ――カラン、とグラスの中の氷が音をたてて静寂を破り、彼女もそれに続いて口を開く。

「私は貨客船になるはずだった。でも、こうして今は軽空母としてここに居る。運命なんて誰にも分からないし、この先私達がどうなるかなんて、考えるだけ無駄じゃない?」

「だが、一人でも誰かが欠けた時点で、この場所に意味は無くなる」

「――意味なら、ちゃんとあるわ」

406: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/23(月) 11:09:46.07 ID:ZDrAGx8AO
 提督は意味が無いと言い、飛鷹は意味ならあると言う。柔らかいその声音に、提督は続く言葉を待った。

「私達は意思を持つことが出来て、提督や仲間達と思い出をここでたくさん作った。それは例えここが無くなったり、私達が消えてしまったとしても、決して無かったことにはならないわ」

「……怖く、ないのか?」

「お酒が飲めて、毎日騒げて、好きな相手ともこうして一緒に居られる。一瞬一瞬を楽しんでいれば、怖さなんてどこかへ行っちゃうもの」

 だから貴方も楽しんで、そう言外に伝え、飛鷹はグラスに口をつける。氷が溶けて冷えきったカクテルが体を巡り、自然と熱を帯びていた体も一度は冷えていく。

「――いっそ軍から買い取るか、ここ」

「……え?」

 同じようにグラスに注がれていたカクテルを一気に飲み干し、提督はとんでもないことを口にする。今まで冷静に話をしていた飛鷹も、流石に呆気にとられてしまい、返す言葉を失った。

「俺はずっとこのままでないと嫌だ。ここに居たいし、ここでお前等とずっと過ごしたいし、お前等に消えて欲しくなんかない」

「まるで子供のわがままじゃない……」

「悪いか?」

 酔っているのか真面目に言っているのか、飛鷹には判断がつかなかった。しかし、その子供の様に願いを口にする姿を見て、それを叶えてあげたいと思ってしまっている辺りが、惚れた弱味というやつなのかもしれない。




――――何だ、コレは……?

 ――――霧島とかに作ってもらった買い取りの計画書よ、読んでおいて。

407: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/23(月) 22:01:18.74 ID:ZDrAGx8AO
北上『提督、ちょっとごっこ遊びに付き合ってよ』、投下します

気が向けばでいいので、以前までの会話のみ形式と、今回の様な地文ありの形式と、どちらが良いかお聞かせ下さい

特に無ければ、その時の気分で形式は決めようかと思います

後、省いた最終決戦を今書き溜めてるので、読みたい方居るか分かりませんが、書き終えたらまとめて投下します

408: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/23(月) 22:06:03.69 ID:ZDrAGx8AO
――――???

 “ごっこ遊びに付き合ってよ”、そう北上に言われ、提督は内容を聞かずに了承する。彼女がそんな子供らしい事を言うのは珍しく、付き合うのも吝かではないと思ったからだ。
 ――その結果、彼は現在、目隠しとロープと耳栓で自由を奪われ、とある場所へと連れて来られていた。

(俺、北上に何かしたか……?)

 こんな扱いを受ける心当たりが、彼には無い。むしろ、愛情表現が最近は過多になりつつある彼女ならば、今の提督を見れば心が痛むとさえ思っていた。 だが現実問題、提督を縛ったのは北上だ。

(何か忘れてたとか、気付かないうちに怒らせたとか……ダメだ、分からん)

 暗闇と無音に包まれながら冷静でいられるのは、こんな状況でもやはり北上が自分を好いてくれているという自信があるからだ。
 しかし、何か原因はあるのだろうと北上に関連する日付や行動を一から順に頭の中で追っている最中、音が彼の元へと急に返される。

「提督、今からちょっと着替えて欲しいんだけどいいー?」

「ロープで体を巻かれてるから無理だな」

「今からほどくから大丈夫だよー。あっ、目隠しはそのままね」

「なぁ、ごっこ遊びの話はどこへいったんだよ」

「これからするんだよ、これはその準備。はい、コレ着てコレを上に羽織って、コレ履いてねー」

 三つ衣類が手渡され、提督はその感触を確かめる。シャツとジャケットのようなもの、それとスラックスのようなモノだ。

「サラリーマンの格好でもさせる気か?」

「んー、まぁそんな感じー。着替えたらちょっと待ってて、後で大井っちが呼びに来るから」

「はぁ……付き合ってやるけど、後でちゃんと説明しろよ?」

「説明の必要はないから大丈夫だよ。じゃあまた後でねー」

 声がドアの向こうへと消え去り、提督は着替えを開始する。

(この感じ、まさか……)

 段々と袖を通していく内に、最初の予想が間違いであったとすぐに気付く。
 少しこのままコレを着ていいのかという考えが頭を過るが手は止めず、暗闇の中での着替えは特に問題なく終わり、提督は黙って迎えを待つのだった。

409: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/23(月) 22:08:08.71 ID:ZDrAGx8AO
 ――二十分後。

「あら、ちゃんと目隠ししたまま待ってるなんて律儀ね」

「北上が理由も無くこういう事をする奴じゃないって、お前が一番知ってるんじゃないか?」

「当然です。北上さんについてなら提督より詳しいですよ?」

「張り合う気は無いさ。良いところなら大体知ってるしな」

「――魚雷、撃っていいですか?」

「北上相手に妬くのはやめろ、流石に身が持たん」

「じゃあ冗談はこれぐらいにして、行きましょうか」

「あぁはいはい、何処へなりと連れていけ」

 提督は大井に腕を引かれ、何処かも分からない場所をひたすら進んでいく。今から何のごっこ遊びをするか既に予想出来ていたが、本当にそうだった時にどうすればいいかを、必死に頭の中でシミュレートする。

「――着きましたよ」

 大井の手が腕から離され、目の前で大きな扉が開く音がしたことに提督は気付く。これからどうすればいいのかを、まだ近くに居るであろう案内役に確認しようとした瞬間、背中に軽い衝撃を受けて、二三歩前へと彼の体が進む。

「提督、目隠し外して下さい。後はお二人でごゆっくりどうぞ」

 背後で閉まっていくドアの向こう側に大井の声が消えていくのを感じながら、提督はようやく出された指示に従った。
 暗闇から解放された直後の人間には少し眩し過ぎる光に目を細めながら、彼は前方に立つ待ち人を視界に収める。




「待たせた、馬子にも衣装、何でこんな手間のかかるマネをした。どれが一番最初に言って欲しい?」

410: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/23(月) 22:12:17.38 ID:ZDrAGx8AO
「ちょっと提督、イジワルやめてよ」

「――綺麗だぞ、北上」

「……うん、ありがとね」

 純白のウェディングドレスに身を包んだ北上。いつもとは全く違う可憐で清楚な彼女の姿に、提督は平静を装う為、最初はからかい混じりの言葉を口にした。
 しかし、それを聞きそっぽを向いて頬を膨らます姿を見て、今度は素直な感想が彼の口から発せられる。

「提督も――うん、まぁ、そこそこ?」

「そこはお世辞でもカッコイイとか言えよ」

「えー? 正直微妙だし」

「着替える、帰る」

「わーていとくかっこいいなー」

「言えばいいってもんでもないからな?……まぁ、主役は俺じゃないしいいか」

 結婚式場を使った、二人きりのごっこ遊び。神父も参列客も居ないその静かな空間で、二人は隣り合って立つ。

「指輪なんて用意してないぞ」

「コレ、填めてくれればいいよ」

「本当にコレでいいのか?」

「ごっこ遊びって言ったじゃんか」

 手渡された指輪は、ケッコンカッコカリの時の物。既に“ごっこ遊び”と言い張るには苦しい状況で、本当にコレでいいのかと提督は悩む。

(――ん? そういえばコレ渡したの四年以上前だったよな……)

 葛藤の最中、指輪が未だに渡した時の光を失っていないのに気付き、北上がそれを大事に扱っていた事を知る。

(普段は結構適当な癖に……)

 相手役が指輪を見つめて固まってしまい手持ち無沙汰だったのか、ウェディングドレスを引っ張ったりヒラヒラさせながら待つ彼女へと、提督は視線を戻す。つい今しがた知った嬉しい事実も相俟って、彼はより目の前の人物をいとおしく感じた。

411: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/23(月) 22:14:02.37 ID:ZDrAGx8AO
「指輪、填めるぞ」

「え? あぁ、うん、はい」

 背中の方が気になっていたのか、提督から首を背けていた北上は、弾かれたように彼へと顔を向ける。そして、左手を突き出すように差し出した。

「誰も居ないと締まらないよな、このやり取り。そもそも指輪一つだし」

「いいのいいの。堅っ苦しい誓いの言葉とか、あたし言いたくないしね」

「恥ずかしいからか?」

「うるさいなーいいからさっさと填めてよ、ほら」

「はいはい、分かったよ」

 プラプラさせている左手を掴み、指輪を薬指へと填めていく。ジッとその様子を見つめる北上の顔は、ほんのりと紅潮していた。

「――これからも、一緒に居てくれるか?」

「……うん、居る」

「俺の事、好きか?」

「好き、かな」

「誓いのキス、するか?」

「……遊びじゃなくて本気で誓ってくれるなら、したいよ」

「――ん」

 返事は言葉ではなく、行動で示される。例え本当に結婚出来なくても、自分だけを見てくれるのが今だけであっても、彼女はこの瞬間を一生の大切な思い出として、胸に刻み込むのだった。




――――あっ、衣装と式場の使用料、よろしくー。

 ――――おい、請求額七桁あるんだが……。

414: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/24(火) 03:14:19.46 ID:gCxvKsIAO
・でち公『海の中を一緒に見たいでち』、投下します

415: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/24(火) 03:15:15.31 ID:gCxvKsIAO
――――海上。

「提督、準備はいい?」

「あぁ、いつでも大丈夫だ」

「じゃあ行くでち!」

 海上から髪と同じ色のビキニを着たゴーヤが消えたのを確認し、提督もその後を追う。
 PUKAPUKA丸が正常に航行できるかの確認という名目で海上に出た二人。その真の目的は、海上ではなく海中にある。

(――凄いな、コレは……)

 深海棲艦が現れて以降、戦いが終わって今に至るまで、提督は海へと潜ったことがなかった。
 ゴーヤに誘われて再び足を踏み入れた海の中。そこは、幻想的という言葉が相応しい世界だった。

『海の中はどう?』

『凄いって言葉しか出ないな』

『良かったでち。もっと提督にいっぱい見て欲しいでち』

 筆談を交わしながら、ゴーヤは提督を先導して泳いでいく。
 透き通った水、悠々と泳ぐ色とりどりの魚、様々な形をした岩、そして、時折振り返りながら笑顔を見せる彼女の姿。

(海の中が似合うな、やっぱり)

 まるで、一枚の絵を見ているような感覚。海の中というだけで、提督にはゴーヤが人魚のように思えてきていた。

『どうしたの?』

『お前を見てた』

『ゴーヤはいつでも見れるよ?』

『今のお前を、この眼に焼き付けておきたいんだ』

 二人の筆談は、唐突にそこで一度終了する。
 水底へと沈んでいくゴーヤのボードを見送った後、提督は更に文章を書いて彼女へと見せる。

『海の中でも顔って赤くなるんだな、そういうところも可愛いぞ』

 それを見た瞬間、流石潜水艦娘と言うべきなのか、ゴーヤは物凄い勢いで提督の元へと泳いで戻る。そして、ボードを強奪して筆を走らせた。

『そういう事は海の上で提督の口から聞きたいでち!』

 顔を隠すように突き出されたボード。提督はそこへとまた返事を書いて裏返し、ゴーヤへと見せた。

『背中のを外しても助けてくれるなら、今すぐに口でこの気持ちを伝えてやるぞ』

 ――裏返してからおよそ十秒後、ボードの裏から顔を覗かせたゴーヤは、小さく頷いて返事をする。

(こういう姿も可愛いな、本当に)

 息を大きく吸い込んだ後、提督は口につけていた物を外し、こっちへ来いと指で合図を送る。
 次の瞬間には、身体に密着する柔らかい身体の感触と、髪を揺らめかせながら見上げるゴーヤの瞳に、彼は心を奪われていた。そして、徐々に訪れる息苦しさの事も忘れて、口で気持ちを伝えるのだった。

416: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/24(火) 03:16:35.25 ID:gCxvKsIAO
――――PUKAPUKA丸、甲板。

「マジで死ぬかと思った。やっぱ水中で外したら危ないな、うん」

「提督、キスは嬉しいけど、海の中で力抜ける程激しいのはしちゃダメだよぉ……」

「悪い、いつもと雰囲気が違うから気分が乗って止まらなくなった」

「今度からは気を付けてくだちぃ」

「――ゴーヤ、ここなら海の上だよな?」

「正確には船の上でち」

「甘いゴーヤが食べたい」

「……食べても、いいよ?」




――――しょっぱい。

 ――――そりゃそうでち。

419: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/25(水) 00:16:02.52 ID:sOvYp5mAO
タイトル変更

・隼鷹『あたしはアンタのモノ』、投下します

ここまでで今回は堪忍してつかぁさい……

420: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/25(水) 00:17:49.62 ID:sOvYp5mAO
――――???

 隼鷹からの誘いを受け、提督は鎮守府内のとある場所へと来ていた。

(いいこと、ねぇ……)

 案内された先は、少し前まで懲罰房として使われていた部屋。使われていたといっても、半ば冗談半分の反省部屋と化していたので、提督すらそんな部屋があったことを今の今まで忘れていた程だ。
 そして、現在は――。

「なぁ隼鷹、元懲罰房が酒の保管庫になってるとか聞いてないんだが?」

「そりゃー言ってないからね。加賀は鳳翔さん経由で話を通したから黙認してくれてるし」

「はぁ……酒の事となると手回しが良くてほとほと感心させられるよ、お前には」

 つくづく呆れたという表情を浮かべながら、提督は近場にある酒を順番に眺める。いまいちピンと来ない名前のモノから、有名なモノまで、数多くそこには並べられていた。

「それで、今日呼んだ目的は何だ。俺があまり酒飲めないのは知ってるだろ」

「ちゃんと最初にいいことしたげるって言ったじゃんか。まぁ座って座って」

 促されるままに、提督は木の椅子に腰掛けた。すると、その椅子の前の机へと隼鷹は徐(おもむろ)に、液体の入ったコップを幾つか並べていく。

「おい、だから飲めないって言ってるだろ」

「まぁまぁ待ちなって」

 コップを並べ終えると、今度はもう一つある椅子を提督の横に置き、そこへ隼鷹も腰掛ける。そして、怪訝そうに一連の行動を眺めていた彼に、彼女は飛鷹が以前見せたような笑みを見せながら、こう言った。




――――ゲームに勝てたら、あたしを今日1日好きにしていいよ。

421: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/25(水) 00:20:20.04 ID:sOvYp5mAO
 ゲームの内容は至って単純。五分以内に目の前のコップに入っている全ての酒に口をつけられたら提督の勝ち、出来なければ隼鷹の勝ちというものだ。
 賭けるのは互いを1日好きにしていい権利。制限を設けて然るべきだろうが、互いに一切制限はない。

「なぁ、一つ聞いていいか?」

「酒の種類なら飲むまで教えないからね、口に入れてからのお楽しみってやつさ」

「酒の種類なんか俺に言われても分からん。お前の言う“いいこと”は勝った時限定ってことなのか?」

「さぁ、どうだろうねぇ? まぁそれも後のお楽しみってことで」

 別にいいことに執着しているわけではない。だが、提督は負けた場合の隼鷹からの要求が、女装をしろだとか着ぐるみを着ろといった系統であった場合の事を恐れ、是が非でも勝とうと決意する。コップは全部で八個、あまりにもアバウトなルールの穴とその対策を考えると、勝負は最初の一瞬にかかっていた。

「じゃあ準備はいいかい?」

「いいぞ」

「よーい――始め!」

 開始と同時、提督は目の前のコップを一ヶ所に集める。そして、行儀や形振りに構わず、持ち上げないまま舌先で一つずつ舐めていくという作戦に出る。

(――っ!?)

「ごほっげほっ!」

「あはははは! 予想通りの行動と反応してくれたねぇ」

「おまっ……コレ……」

「おっ、気付いちゃった? それ、前に提督が一回飲んでのたうちまわったスピリタスだよ」

(こんな遊びで出すもんじゃねぇよ!)

 声にならない怒りを隼鷹にぶつけながら、残りの七つのコップに視線をやる。提督が今危惧している通り、残りも全てスピリタスが入っている。

「後四分だね、どうする? 降参しちゃうかい?」

「お前、最初から勝たせる気無かっただろ……」

 妨害してはいけないと言ってないにも関わらず、隼鷹はゲームが開始されてから少しも動こうとはしなかった。それは、提督ではコレを飲めない事がはっきりと分かっていたからだ。
 逆に、無理して飲もうとすれば止めようという考えはあり、二つ目以降に口をつけ始めたら動こうとしていた。

「こんなもんに後七回も口をつけられるかってんだ……」

「へー意外にあっさりと諦めるんだね」

「明日に差し支えるようなのは勘弁なんだよ」




「ふーん、じゃあまだ時間には早いけど――」

422: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/25(水) 00:23:40.29 ID:sOvYp5mAO
 提督が見ている前で、隼鷹はコップに一つずつ口をつけていく。そして、残りのコップ七つ全てに口をつけると、横に居る不機嫌な男の顔をがっちりと掴んだ。

「待て、お前何を――んぅ!?」

 口付けと共に酒を流し込まれ、強烈な酔いが身体を駆け巡り、提督は動きを封じられる。そして、深く絡められた舌の感触もまた、自由を奪っていた。

「――よし、勝負はこれでアンタの勝ち、あたしを好きにしていいよ?」

「っ……最初からそのつもりなら、飲ませなくて、良かっただろ……」

 フラつく思考と身体を何とか支えての、精一杯の虚勢。しかし、既に半分隼鷹に抱き着いているような体勢では、格好がつく筈もない。

「全くだらしないなぁ。あたしが好きにしていいって言ってるのに、押し倒す気力も無いわけ?」

「わざとか? 嫌がらせか?」

「――ん」

 ――ちゅ、れろ、はむ、ちゅっ。

「ほら、早くしないとこんな風に、負けたあたしの好きにしちゃうからね?」

「――どうしたんだ? いつもと少し違うぞ、お前」

「……何でそうやって気付くかなぁ、アンタは」

 バツが悪そうに、胸に提督の頭を抱きながら、隼鷹はいつもの雰囲気とは違った声を出す。 徐々に抱く力も強くなっていき、その豊満な胸に顔が埋もれきる前に、提督は呼吸が出来るように顔を下向きにする力

「何かあったなら、話聞くぞ」

「――提督、私を解体せずにこうしてお側に置いてくださり、心よりお礼申し上げます」

「……ふっ」

「ちょっと、人が真面目に礼を言ったのに鼻で笑うって失礼じゃないのさ」

 癪に触ったのか、隼鷹は提督の顔を掴み、目線が合うように持ち上げる。見えてきた顔は、酔いで真っ赤だ。

「昔の事に思いを馳せるのもいいが、お前はいつもみたいにバカ騒ぎしてろよ。でなきゃ落ち着かん」

「人がいつも騒いでるみたいな言い方は酷くない? まぁ、強ち間違っちゃないけどさ……」

「心配すんな、お前の綺麗な部分も可愛い部分もちゃんと知ってる」

「かなり酔ってるね、アンタ――ん?」

 唇を押し付けるようなキス。隼鷹が支えなければ、そのまま床に倒れ込んでいる勢いだ。

「頭突きじゃないんだから、もっと優しくしてよ」

423: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/25(水) 00:25:00.39 ID:sOvYp5mAO
「……脱げ」

「いきなりだね」

「脱ーげー」

「はいはい……愛してるよ、世界でただ一人、アンタだけを」

「……誰かに渡す気は無い、お前は俺のだ」

「――あぁ、あたしはアンタのモノだ。これからも、この先も、ね」




――――さっさと脱ーげー。

 ――――(酔うと若干幼くなるね、コレはコレでいけるかも……)

430: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/25(水) 11:21:05.59 ID:sOvYp5mAO
頑張らずに書きました

・大井『北上さんとしたなら、私ともして下さい』、投下します

431: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/25(水) 11:21:33.31 ID:sOvYp5mAO
――――提督執務室。

「提督、次は私の番ですよね?」

「待て待て待て待て、アイマスクと耳栓は分かるが、手錠と足枷って何だ」

「だって、逃げられたら嫌じゃない」

「逃げないからそれは置いてけ」

 最初から使う気は無かったのか、持ってきた物を全て放り出し、大井は提督の腕を取って歩き出す。口調は相変わらずキツいものの、態度や行動は以前にも増して優しくなっていた。

「それで? またごっこ遊びに付き合わされるのか?」

「私とが嫌なら、このまま執務室に帰ってもいいんですよ?」

「そんな勿体無いマネはしたくないな」

「――ふふっ」

 少し腕を掴む力を強めながら、大井は上機嫌で提督を引っ張るように歩き出す。こんな姿を見せられては、部屋に帰ろうなどと思うはずもない。
 鎮守府の外でタクシーを拾って移動する最中も、その腕が離されることはなかった。

432: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/25(水) 11:22:24.02 ID:sOvYp5mAO
――――???

「……こう来たか」

 以前はタキシードを着せられた挙げ句、北上に散々な事を言われた提督。今度も、その道は避けて通れそうになかった。

(タキシードもだが、紋付袴も一生着る機会は無いと思ってたんだがなぁ……)

 こういった礼装を苦手とする彼からすれば、ほとんど日を置かずに和と洋両方のものを着させられるなど、拷問にも等しかった。

「提督、着替え終わったー?」

「あぁ、大井は?」

「大井っちの方はもうちょいかな、女の子の方が時間かかるからねー」

「そうか。そういえば北上、神主には何て言って来たんだ?」

「お金だけ払って、細かいの全部無しで自由にさせてって言っといた。凄い顔してたよー提督にも見せたかったなー」

(だろうな……)

 金は払う。場所だけ貸せ。本当に結婚するわけじゃないし、雰囲気を味わって満足したら帰るから邪魔するな。
 はっきり言って滅茶苦茶な要求だ。コレで許可してくれたのだから、ここの神主は心が相当広い。

「んー……そろそろいいかな。私は大井っちの花嫁姿見たら帰るし、後は二人でごゆっくりー」

「あぁ、またな」

 提督の暇潰しに付き合っていた北上は、大井の元へと戻る。それを見送ってすぐ、彼もまた部屋から移動するのだった。

433: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/25(水) 11:23:45.63 ID:sOvYp5mAO
――――神社、境内。

「――提督」

 声のした方向に提督は視線を向ける。そこには、日の光の中でさえ眩しく感じる程優しい笑みを浮かべた、花嫁が立っていた。

「……」

「黙ってないで、何か言ったらどうですか?」

「――ん? あぁ、うん、綺麗だ、もっと近くで見たい」

「はい」

 歩み寄る大井。普段はキツめの口調や行き過ぎた行動などに隠れて目立たなかったが、ずっと彼女は彼を献身的に支えようという姿勢を見せていた。
 だからこそ、この白無垢という衣装に身を包んだ大井に、提督は一瞬言葉を失うほど目を奪われていた。

「タキシードもだったけど、やっぱりいまいちね……」

「今ぐらいは毒吐くのやめないか?」

「だって事実だもの」

「相変わらず容赦無いよな、お前」

(まぁ、今はそのお蔭で助かってるんだがな……)

 目の前まで歩み寄って来ての第一声が予想していた通りのもので、若干提督は平常心を取り戻す。辛辣な言葉を有り難いと感じるなど、滅多に無い経験だ。

「提督」

「何だ?」

「今、幸せですか?」

「……あぁ」

「じゃあこれからも幸せで居て下さい。でないと、私は貴方を恨みます」

「……あぁ、分かってる。今の日々に後悔は無いし、お前にまたケツを叩かれなきゃならない状態にはならないさ」

「――もう、私の支えはいりませんか?」

「急に不安になるからそういう事を言うのはやめてくれ」

「……ふふっ、しょうがない人ですね、提督は」

「チキンだからな」

「純情●●は卒業しちゃいましたけどね」

「――初夜はごっこ遊びに含まれるのか?」

「魚雷、何本いっときます?」

「今は魚雷無いだろ」

「チッ……」

「――大井」

「はい?」




――――今までずっと支えてくれてありがとう、愛してる。

 ――――……ずっと、これからも愛してますよ、提督。

440: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/26(木) 17:49:06.56 ID:mS8YYX1AO
――――海水浴場。

「司令、この水着どうですか?」

「あぁ、似合ってるぞ」

「コレ、金剛お姉様に選んでもらったんです。そう言ってもらえると悩んだ甲斐がありました!」

 常に元気で明るい印象の比叡。そのイメージをより際立たせる、健康的な白色のビキニ。
 フリルで可愛らしさを出しつつ、その引き締まったボディラインで魅力的な女性らしい部分もしっかりと披露していた。

(サラシで普段は押さえ付けてるからだが、改めて見ると比叡も結構胸あるよな……うん、足もスラッとしてていい)

「あの、司令? あんまり見つめられると流石に私も恥ずかしいというか、なんというか……」

「減るもんじゃないから気にするな。――で、どうする?」

 ここへ来たのは海で遊ぶ為であって、眼福な水着姿を見る為ではない。提督の言葉にグルリと辺りを見回し、比叡はある一点を指差した。




「あそこへ泳いで行きたいです!」

441: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/26(木) 17:50:46.59 ID:mS8YYX1AO
――――???

「……」

「司令? 砂浜に顔を埋めたら口に砂が入りますよ?」

「分かってるよそんなことは……」

 うつ伏せから仰向けになり、顔に付いた砂を払い、提督は空を見上げる。雲一つ無い快晴に、身体には日の光がこれでもかというぐらい降り注いでいた。

「こんなにまだ日が高いのに体力使いきった挙げ句、死にかけるとは思わなかったぞ……」

「一キロ程度なら司令は楽勝だと思ってたんですが……」

「生憎体育会系じゃないんでな、帰りはずっとお前に背負って泳いで欲しいぐらいだ」

 途中で足がつり溺れかけた提督を比叡が背負って泳ぐというアクシデントを乗り越え、二人は海水浴場から見える無人島へと来ていた。特に何かがあるわけでもないので、地元の人間も滅多に訪れない場所だ。

「林と砂浜以外、何もないな」

「はい、清々しいぐらい何にも無いですね」

「何でここに来たかったんだ?」

「……ふ、二人っきりになりたいなーなんて」

「ほーそうかそうか――比叡、ちょっとここに座れ」

 寝転がったまま、提督は自分の傍へと座るよう比叡に指示する。膝枕でも要求されるのかと喜んで彼女はそこへと座るが、待っていたのは全く別の事態だった。

「ヒェー! 頭をグリグリしないで下さい!」

「二人になりたいならもっと他にも場所があっただろうが!」

「だってここが良さそうに見えたんですよー!」

「見えただけで選ぶんじゃねぇ!」

 少し身体を起こし、こめかみ辺りに拳を当てて提督は比叡へお仕置きを開始する。確かに二人にはなれる場所だが、戻らないと食事も出来ず、疲れきってしまっていては遊ぶことすらままならないのだ。

「はぁ……まぁ止められなかった俺も悪いか。少し休みたいから膝貸せ」

「はい! どうぞ!」

 今の今までお仕置きされていたとは思えない元気な返事に苦笑しながら、提督は比叡の太ももに頭を預ける。肌で温もりを感じながら間近で顔を見れるこの状況に、見下ろす彼女の顔はとても満足そうでにこやかだ。

442: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/26(木) 17:52:31.15 ID:mS8YYX1AO
「司令と無人島で二人っきり……いっそこのままここに住んじゃいたいです」

「金剛はどうするんだよ」

「お姉様も呼べば万事解決ですね!」

「金剛だけじゃなく、全員この島に来るだろうけどな」

「それだったら鎮守府の方が暮らしやすいですから、鎮守府でいいです」

「だろうな」

「……司令は、私と二人っきりは嫌ですか?」

「そんなしょげた顔は似合わんからやめろ。嫌ならこんなところまで付き合うかバーカ」

「何もバカって言わなくてもいいじゃないですか! 司令のっ――うーん……えっと……」

 とっさに悪口が出てこず、眉を寄せて悩む比叡。その可愛らしい姿を見て、提督は顔を綻ばせる。

「比叡」

「うーん……司令の悪いところ……悪いところ……」

「ひーえーいー!」

「はいっ!? な、何ですかっ!?」

「お前と居ると退屈はしないし、可愛い部分がいっぱい見れて良いことだらけだ。ありがとな、比叡」

「――司令は、ズルいです。そんなこと言われたら、もっと好きになっちゃいますよ……」

「悪口言う奴にはこうだ」

「ん……」

 甘い蜜の様なお仕置きを、比叡は目を閉じて受け入れる。そのまま、お仕置きは二分程続くのだった。




――――気合い! 入れて! 泳ぎます!

 ――――(本当に背負われて帰ることになるとは思わなかった……)

443: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/26(木) 17:54:10.25 ID:mS8YYX1AO
・比叡『気合い! 入れて! 泳ぎます!』、投下しました

先にタイトルを書くの忘れてました……

444: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 00:46:49.50 ID:AjAqnLUAO
・鳥海『眼鏡で合わせるか、コンタクトで合わせるか』、投下します

445: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 00:47:25.77 ID:AjAqnLUAO
――――服屋。

「鳥海って大人しい見た目の割に、服はちょっと派手なの持ってるよな」

「摩耶姉さんとお揃いで買ったりしていますので……」

(背中が丸見えなのとか持ってたのはそれが理由か……)

「今日は折角ですし、司令官さんに一着選んでもらいたいです」

「別にそれは構わないんだが、最近コンタクトをしてるんだよな?」

「はい、していますよ?」

「でも、今日は眼鏡なんだな」

「その日の服や気分によって変えています。どこか、おかしいですか?」

「いや、おかしくないし似合ってるぞ。ただ、選ぶなら眼鏡かコンタクト、どっちに合わせようかと思っただけだ」

「司令官さんは、どちらの方が好み――」

「眼鏡」

「そこは即答するんですね」

「百五十人近く居る中で、鳥海を含めて眼鏡かけてるの五人しか居ないからな、出来ればかけてて欲しい」

(司令官さんは眼鏡もお好きの様ですね、しっかりデータを収集しないと)

「正直、いつもの戦闘用の服がかなり似合ってて個人的には好きだ」

「司令官さんの好みを把握しておきたいので、好きに選んでもらっていいですよ」

「分かった、ちょっと待ってろ」

446: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 00:48:08.41 ID:AjAqnLUAO
 ――十分後。

「上はコレとコレ、下はコレでどうだ?」

「ちょっと待ってて下さい、試着してみますね」

 ――試着中。

「――着れました」

「見ていいか?」

「はい、その為に着ましたので――どう、でしょうか?」

 試着室のカーテンが開かれ、提督の選んだ服に身を包んだ鳥海が姿を見せる。少し自信が無いのか視線は横に向けられているものの、ちゃんと見てもらいたいという意思の表れが、後ろに回された両手から見て取れた。
 上は身体のラインがはっきり分かるTシャツに短めのデニムジャケット、下は普段の服によく似たプリーツスカート。背伸びでもしようものなら、思わず見てしまいたくなるヘソと、触り心地の良さそうなむっちりとした太ももが顔を覗かせる組み合わせだ。

「うん、いいな。その格好で眼鏡の位置を直す仕草とかされたら、結構グッとくる」

「……こういうのですか?」

 鳥海は片手を腰の後ろに回したまま、もう片方の手で眼鏡を軽く持ち上げる。今度は、視線をしっかり提督へと向けていた。

「――やっぱりいいな、眼鏡も」

(反応は上々、これからは少し意識してやってみましょうか)

 彼女の提督に関して集めているデータが、また更新される。提督に関してのデータとはいっても、好かれる為のデータであって、脅せる様な秘密などを知っている訳ではない。

「今日はそれで一緒に出掛けないか?」

「はい、司令官さんがそうして欲しいのでしたら」

「あぁ、じゃあそうしてくれ」

「――でも、その前にまだやることが残っています」

「……早く会計を済ませよう鳥海、そっちは紳士物で今は関係無いから引っ張るのをやめろ、俺はこのままでいい!」

「私も選びたいので、付き合ってもらいます」

「カッターシャツにジーパンが一番楽だから、これでいいんだよ俺は」

「デニムって言ってください、まだ若いんですから」

「そういうのが面倒だから、自分の着る服はどうでも良くなったんだ」

「この際ですからしっかりコーディネートしてあげますね。後、伊達眼鏡も買いましょう」

「やーめーろー!」




――――お互い選んだ服で歩くって、少し気恥ずかしいですね。

 ――――(試着室に一時間も押し込まれたのは地獄だったが、照れてる鳥海を見られたからよしとするか……)

448: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 06:23:09.45 ID:AjAqnLUAO
>>447
眼鏡っ娘艦隊が武蔵が居ないから作れない提督と話をしていた影響ですごめんなさい

六人全員使ってて間違えるとか本当にすいません……

449: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 07:54:34.63 ID:AjAqnLUAO
・初霜『かすり傷一つ負わさせません』、投下します

450: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 07:55:13.28 ID:AjAqnLUAO
――――街中。

「なぁ初霜」

「はい、何でしょうか?」

「お前なりに考えての行動っていうのは分かってるんだ。――でもな、曲がり角の度に壁に張り付いて、進行方向の安全を確認するのはやめろ」

「護衛術が身に染み付いているので、つい……」

 肩がぶつかりかければ相手を投げ飛ばし、鳥の糞が頭上に落ちかければ袖に仕込んだ警棒で弾き飛ばし、光を反射する何かが視界に入れば射線を塞ぐように立ちはだかる。
 それもひとえに提督を守りたいが故の行動であり、彼女に一切悪気はなかった。

「お前の気持ちは凄く有り難いが、これじゃ手も繋げないだろ? そうそう俺だって簡単に死にゃしないから大丈夫だ」

「手を、繋ぎたかったんですか?」

「嫌か?」

「いえ、そんなことはないわ」

(片手でも、護衛は出来るわね……)

 手を繋ぎ、二人は再び歩き始める。しかし、やはり周囲が気になるのか、初霜の視線は背後や物陰へと注がれている。
 その小さいながらも凛とした姿を見て、提督は頼もしさを感じると同時に、少し物悲しさも感じていた。

「――初霜、俺と一緒で楽しいか?」

「えぇ、楽しいわ」

「そう、なのか……?」

 予想外の素早い返答に、提督は言葉を詰まらせる。それに対して初霜は、真っ直ぐに彼の目を見つめて柔らかな笑みを浮かべた。

「今こうして二人で街を歩いている。それだけで、私は満足なの」

「――“もしも戦いが終わったら、街を二人で歩いてみたい”、だったか」

「そう、ちゃんと提督は私との約束を守ってくれた。だから、貴方の護衛には尚更気が抜けない――のっ!」

 提督の後頭部付近を飛んでいた蜂が、警棒により叩き落とされる。片手が塞がっていても、彼女の動きは全く鈍ってはいなかった。

「何か国のお偉いさんにでもなった気がしてくるな」

「提督は誰かに狙われる可能性が十分にあるわ。外を出歩く際は細心の注意を払ってね」

「大抵一人では出歩かないし、そんなに心配しなくても俺は誰かに狙われたりしないさ」

(狙撃されかけたのは一度や二度ではないのだけど……)

「――でも、いつも守ってくれるのには本当に感謝してる。ありがとな、初霜」

「あっ……」

 頭を優しく撫でられ、初霜は少し嬉しそうに頬を染める。一緒に歩くだけで満足とはいっても、それ以外を全く望んでいないわけではないのだ。

451: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 07:56:07.36 ID:AjAqnLUAO
「これからも、提督のことは絶対に私達が守るわ」

「守られっぱなしってのは歯痒く感じるが、無茶して余計に心配かけないよう気を付ける」

「無茶しようとしたら気絶させて運びます」

「肝に銘じとく」

「それならまず、物陰を歩くよう心掛けて。後、私から半径1メートル以上離れないで」

「離れたら?」

「気絶させるわ」

「じゃあ手をしっかりと繋いでおくか」

「うん、逃げる時にちょうどいいわ」

「逃げなきゃならんような目には遭いたくないな……」




――――今度から外出の際は防弾チョッキを着用してね。

 ――――そこまでしなくてもよくないか……?

463: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:02:13.09 ID:AjAqnLUAO
読みたい方居るのか分かりませんが、前スレで省いた部分の導入をば投下します

リクエストも随時書いてますのでご安心を

464: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:02:41.69 ID:AjAqnLUAO
 ――その報は突然にもたらされ、全世界へと広まった。





“深海棲艦の発生源を突き止めました!”






465: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:03:39.06 ID:AjAqnLUAO
 ――――提督執務室。

「――謎の結晶?」

「はい、恐らくは未知の物質かと」

 手元の資料を捲りながら、加賀は淡々と説明を続けていく。

「現在到達可能な海域付近から、空母数百名の超大編成で更に先の海域を艦載機に偵察させたところ、一つの海域から大量に溢れ出る深海棲艦を発見。無数の艦からの対空放火によりほぼ全機撃墜されたものの、その中の一機が、海上に浮かぶ謎の結晶から深海棲艦が生まれるのを確認したそうです」

「発生源……」

 提督も加賀の報告を聞きながら、手元の資料を捲っていく。最近確認されたレ級や、姫や鬼といった主力級も多数確認され、二度目の偵察部隊は近付く間すら与えられず迎撃されたと、そこには書かれていた。

(軍全体があれだけの戦果を挙げているにも関わらず、深海棲艦が減る気配が無いのは、時間が経てば復活するからだと思っていたが……)

 何度海域を制圧したとしても、時間が経てばまた何処からともなく現れ、圧倒的な物量で一定のラインまで押し戻される。当然、大規模な作戦の度に少なからず犠牲は出てしまい、新しく艦娘を建造したとしても、練度の問題が出てきてしまう。
 一方、大半の深海棲艦は意思を持たず、沈むことに何の抵抗も無く、艦娘を誰か一人道連れに出来れば上々という戦い方だ。更に、統率する意思を持った艦が居れば、高度な戦術を用いてくることもあり、余計に質が悪い。
 それが無尽蔵に湧くというのだから、問題は更に深刻となる。

「例えこの情報が正しかったとしても、その結晶が破壊出来るかどうかは不明。世界に一つだけなのかも不明。また出現するかも不明。破壊すれば戦いが終結するかも不明。――それでもやるしかない、か」

「はい、この一縷の希望に、大本営は餌に群がる鯉のように食い付きました。主だった鎮守府には既に、全戦力を“結晶破壊作戦”へと投入するよう、命令が下されています」

「で、当然うちにも来てる、と」

 執務机に広げられた一枚の書類。そこには作戦への参加命令と、大雑把な作戦内容が書かれていた。

466: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:04:24.52 ID:AjAqnLUAO
(こんな馬鹿げた作戦に付き合わせたくはないが、先々の事を考えればそうも言ってられんな……)

 日に日に敵の戦力は増すものの、艦娘の強化や補充には限度がある。いつかはじり貧になり、打つ手が一切無くなるのは目に見えているのだ。

「――提督」

「あぁ、分かってる」




「全艦へ通達! “結晶破壊作戦”に俺達も参加する! 傍迷惑な結晶を破壊しに行くぞ!」

467: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:08:39.45 ID:AjAqnLUAO
 ――作戦決行日。

「待機は夕張と明石だけって……大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。工厰に籠って普段は出てこないけど、夕張だって強いもの」

「あの人の目が届かんからって、鎮守府を爆発させるようなことやらかさんか心配やけどな」

 着任した時とは全く別の不安を漏らす大鳳。それを、瑞鳳と龍驤は明るく笑い飛ばす。

「……そうね。ありがとう、二人とも」

「今回もいつもみたいに戦って、いつもみたいにただいまーって帰るだけだよ」

「ちゃっちゃとぶっ倒して帰るで!」

 ――また勝って、ここへ帰る。

 今回の作戦に参加する者全員の心の中には、この思いがどこかに必ず存在していた。例え今回の作戦について、“最後は各自の持てる力を尽くして帰って来い”という抽象的な指示以外、事前にされていなかったとしても……。

468: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:09:59.89 ID:AjAqnLUAO
 ――提督執務室。

「俺もPUKAPUKA丸で、作戦海域の近くへ後から向かう。出来る限り状況を把握して、全艦に指示は出す。だが――」

「勝つと信じて戴けていれば結構です。あとは、私が何とかします」

「……そうだな、“信じる”のが俺の仕事だ」

「えぇ、いつものように、御自分の責務を全うして下さい」

 普段の出撃と今回の作戦。そこには何の違いもないのだと、加賀は提督の焦りや不安を見越して口にする。その言葉の一つ一つが、彼の眉間に寄っていた皺を消していく。
 絶対的自信、信頼、誇り、絆。それらの全てが、彼女の言葉に確かな安心感を持たせていた。

「では、私も準備がありますのでコレで失礼します」

「あぁ」

 踵を返し、執務室のドアへと手をかける。そこで、彼女の動きは一度停止した。

「……提督」

「何だ?」

「全部終えたら、今度は私に膝枕をして下さい」

「……あぁ、お安い御用だ」

「――コレで気分が高揚しました。失礼します」

 答えに満足し、今度こそ加賀は執務室から姿を消す。廊下には暫く規則正しい足音が響き、次第にそれも提督の耳には届かなくなった。

(全員無事で帰って来てくれさえすれば、何だってしてやるさ。――だから、帰って来い)

469: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:10:48.13 ID:AjAqnLUAO
 ――第一出撃艦隊、待機場所。

 第一艦隊の主な役割は、退路の確保と挟撃への警戒にある。駆逐と軽巡、重巡、航巡、軽空母、そして戦艦と揚陸艦一名で編成されており、総数はおよそ五十名程。敵の足止めと主力艦隊のバックアップを同時にこなさなければならず、いかに砲撃と雷撃と爆撃の雨を止ませる事無く持続できるかが肝となる。
 第一艦隊所属艦は、吹雪型、綾波型、初霜を除く初春型、朝潮型、秋雲を含む夕雲型、長良と五十鈴を除く長良型、阿賀野型、天龍型、球磨と多摩、古鷹型、青葉型、最上型、飛鷹型、祥鳳型、あきつ丸、長門という大所帯。
 これに更に他鎮守府の艦娘も多数加わるというのだから、そうそう簡単にこの布陣が崩れる恐れは無かった。

「皆、絶対に勝つよ!」

「天気もいいですし、頑張りましょー」

「妾達の力、余すこと無く見せてやるのじゃ!」

「この大勝負、司令官の為に受けて立ちます!」

「提督が気兼ね無く甘えてくれる日々の為に!」

「て、提督さんの為に、頑張ります」

「提督さんと毎日お昼寝する為に頑張る!」

「一番長く戦えるなんてツイてるじゃねぇか!」

「優秀な球磨と多摩に任せるクマー」

「性能だけじゃない重巡洋艦の良いところ、見せてあげる!」

「勝利インタビューって誰にすればいいんですかね? やっぱり司令官?」

「皆、衝突禁止だよ!」

「景気良く派手にやっちゃいましょ」

「小柄な私だって、やる時はやるんです!」

「これが終わったらゆっくりするであります」
「この長門がここに居る限り、何も臆することはない!」

 第一艦隊は最も長く戦闘を継続しなければならず、その負担は計り知れない。しかし、誰一人としてその目に恐れや不安は見せる者はいなかった。

470: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:14:44.31 ID:AjAqnLUAO
 ――第二艦隊、待機場所。

 第二艦隊の役割は、敵を撹乱することにある。小回りの利く艦と潜水艦で敵の隊列を乱し、一部の主力艦でそこを突き、どこか一点へ敵が集中して進行することを防ぐのだ。
 第二艦隊編成は、島風、天津風、雪風、睦月型、長良、潜水艦娘全員、翔鶴型、伊勢型。
 第一艦隊に比べれば小規模ながら、連携と瞬間的な火力については申し分ない。彼女達の働き次第で第一艦隊と第三艦隊へかかる負担が相当減る為、なるべく長く被弾をせず回避し続けることが、彼女達の最重要事項となっていた。

「出撃おっそーい!」

「島風、先行しすぎちゃダメよ?」

「絶対、勝ちます!」

「睦月達だってやる時はやるんだから!」

「持久力なら私だって負けないわ!」

「運河じゃないけど攻め落としてやろうじゃない!」

「瑞鶴が隣に居てくれるなら、私に怖いものは無いわ!」

「日向じゃないけど、晴嵐飛ばして突撃すればいいだけよ!」

 囮としての役割が強く、一人一人が引き受ける敵の量もかなりの数が予想される。しかし、積み重ねてきた経験と絶え間ない努力、そして自分達へ向けられた信頼が、彼女達に恐れぬ勇気を与えていた。
 その心が折れぬ限り、彼女達を捉えるのは、容易ではない。

471: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:17:47.70 ID:AjAqnLUAO
 ――第三艦隊、待機場所。

 第三艦隊の役割は、所謂露払いというものだ。敵陣に風穴を開け、消耗させることなく第四艦隊を送り届けるのを目的に編成されており、層的には一番ここが厚くなっている。
 第三艦隊編成は、暁型、白露型、残る陽炎型全員、北上、大井、川内型、妙高型、高雄型、鳳翔、龍驤、千歳型、二航戦、金剛型、扶桑型、陸奥、独艦娘三人。
 敵陣を切り開いていく以上、姫や鬼、フラグシップ級も多数相手にせねばならず、かなりの激戦が繰り広げられることはまず間違いない。だが、それを十分に可能とするだけの戦力が投入されていることも確かだった。

「一人前のレディーとして頑張るんだから!」

「一番先に、敵陣突破します!」

「陽炎の戦い、見せてあげるわ!」

「大井っちー酸素魚雷撃って撃って撃ちまくろうねー」

「えぇ、北上さん。冷たくて素敵な魚雷で、冷たい海の底に還してあげないと」

「夜戦になったら私達の出番だね!」

「終わらせましょう、全てを」

「あの方が笑っていられる未来の為に!」

「畑の手入れもありますし、なるべく早く終わらせましょう」

「舐めとったら痛い目見せたるでぇ!」

「帰ったら鳳翔さんのお店で一杯飲みたいわね」

「多聞丸、見ててね……」

「飛龍と私のコンビネーションは凄いんだから!」

「パーフェクトな勝利をテートクにプレゼントするヨー!」

「私も、山城も、欠陥戦艦なんかじゃないっとことを証明して見せるわ」

「あらあら、コレは私も頑張らないといけないわね」

「私達ドイツ艦も負けていられないわ、やるわよ!」

 勝利を疑う者はなく、気負う者もない。その統一されきった意思は、槍のように鋭い。

472: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:18:21.25 ID:AjAqnLUAO
 ――第四艦隊、待機場所。

 第四艦隊の役割は当然ながら、敵陣最奥部の結晶を破壊することにある。破壊後は第三艦隊と合流しながら残存勢力を蹴散らす仕事も担っている。
 第四艦隊編成は、木曾、利根、筑摩、大鳳、加賀、赤城、大和、武蔵の八名。
 島風を除く待機組と、利根と加賀との連携に適した二人、そして一航戦の二人をバックアップする大鳳という布陣だ。

「あんまり潜水艦の相手は得意じゃないが、居たら俺に任せろ」

「有象無象の雑魚共は吾輩と筑摩が引き受けよう」

「姉さんの後ろは、私が守ります」

「加賀と赤城の二人には、敵を一切近付けさせないわ」

「制空権は譲りません」

「間宮さんがご馳走を作って待っているそうですので、手早く片付けましょう」

「大和と武蔵は戦艦級のお掃除ですね」

「大和型二隻が揃って相手をしてやるのだ、多少は歯応えのある相手が居ることを期待しよう」

 一騎当千の強さを持つ者達と、その力を更に引き出す者達。出鱈目の強さを誇り、然れど傲らず、もたらすのは常に勝利の二文字のみ。
 溢れんばかりの闘志を内に秘め、いつもの気楽さを崩さず、来るべき時が来るまで、彼女達は力を蓄えるのだった。

473: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 12:18:58.17 ID:AjAqnLUAO
 ――そして、時は来る。




 ――――“全艦抜錨、出撃せよ!”

481: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 14:11:06.98 ID:AjAqnLUAO
・夕張『工廠から引っ張り出された』、投下します

昼に蕎麦食べたのでちょうど良かった

482: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 14:14:25.75 ID:AjAqnLUAO
――――工廠。

「夕張ー」

「提督? 今から執務室に行こうと思ってたんですけど、何か急ぎの用件ですか?」

「飯食いに行くから着替えろ」

「……はい?」




――――京都。

「夕張が蕎麦好きってのを思い出したら、急に蕎麦が食いたくなってな」

「蕎麦を食べに来たんですか?」

「あぁ、祖母に良く連れてこられた店があるんだ。お品書きに“みそぎ蕎麦”っていうのがあってな」

「みそぎ蕎麦?」

「ざるそばなんだが、ちょっと普通とは違う。――白い蕎麦だ」

「白い蕎麦、ですか?」

「一番粉を使っててな、元々は献上品だったものらしい」

「更科蕎麦とはまた違うのね」

「……次は更科蕎麦食いに行きたくなったな、今度は大阪行くか」

「とりあえず、今日はそのみそぎ蕎麦っていうのを早く食べてみたいです」

「それもそうだな。――着いたぞ」

483: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/27(金) 14:14:51.80 ID:AjAqnLUAO
 ――店内。

「良い雰囲気のお店ねー……」

「蕎麦を食べに来る店だからな、自然と客層も落ち着いててゆっくり出来る」

「提督もみそぎ蕎麦を?」

「いや、俺は今日は普通のざるそばと木の葉丼にしとく」

「それは、私に他のメニューも食べさせてくれるってことかしら?」

「食べ比べてみるのもいいだろ?」

「えぇ、せっかくだから色々なメニューを味わいたいわ」

「じゃあ注文するぞ」

 ――十五分後。

「コレがみそぎ蕎麦ね、いただきます」

「どうだ?」

「――美味しい。あっさりしてて、のど越しも軽いわね」

「そうか、気に入ってもらえたなら何よりだ」

「あの、そっちのも食べてみたいんだけど」

「ん? じゃあ、ほれ」

(意図せずあーん状態ですって!?)

「早く食え、俺も食いたいんだ」

「え、えぇ……あーん――うん、こっちは蕎麦の風味を感じられて美味しいわね」

「じゃあそっちのも食わせろ」

(デ、デートっぽい……)

「おい無視すんなコラ、海老天食うぞ」

「へっ!? あっ、はい、どうぞ!」

「蕎麦くれって言ってんのに、海老天を尻尾側から差し出されてどうしろってんだよ……」

「し、尻尾も試してみればいいんじゃないかしら!?」

「俺は尻尾は食わない派だ!」




――――木の葉丼って木の葉が入っているの?

 ――――そんなわけあるか。

484: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/28(土) 12:05:33.97 ID:8e/6w9oAO
・川内『あの忍者っていうの夜戦得意そうだよね!』、投下します

485: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/28(土) 12:06:57.09 ID:8e/6w9oAO
――――提督執務室。

「提督、こうするとカッコ良くない?」

「クナイみたいにそれ使ったら自爆すんぞ、お前。まぁマフラーとそのポーズは決まってるな」

「えへへ、この前見た漫画でこういう格好したくの一っていうのが夜戦してたから、私も真似してみたくなったの」

 夜戦バカ、五月蝿い5500t級、夜行性艦娘等々、様々な呼ばれ方をしていた川内。しかし、夜戦が好きという部分以外に目を向けて見れば、妹思いの優しい艦娘という面が見えてくる。
 主君と仲間を守る為、日のある内は身を潜め、夜を駆ける忍者。目の前で嬉しそうに話す川内を見ながら、彼女に忍者は似合うかもしれないと提督は考えていた。

「この格好で那珂のライブに“川内参上!”とか言って、乱入したら受けるかな?」

「あぁ、面白いと思うぞ」

「海での夜戦は出来なくなったけど、那珂のライブ見てると夜戦してる時みたいな不思議な高揚感があって、ちょっと参加してみたくなる時があるよ」

「――じゃあちょっと演出考えてやるから、本当に忍者みたいな事をやってみないか?」

 最初は軽いノリと、夜戦が出来なくなったと話す彼女が少し寂しそうに見えたというだけの理由から、それは始まった。

486: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/28(土) 12:08:08.11 ID:8e/6w9oAO
――――鎮守府裏手の山。

(冗談のつもりだったんだがな……)

「コレで良かったの?」

「あぁ、バッチリだ。っていうかよく出来たな、凄いぞ川内」

 二本の木の幹を交互に蹴りながら上へと登り、枝に飛び乗るという技。提督は冗談でやってみろと言っただけだったのだが、彼女は見事に十メートル上の枝まで到達して見せた。

「提督にそう言ってもらえるなら、もっと色々やってみたくなるね」

 思ったことを隠さずに伝える傾向のある川内。枝の上に座り本当に嬉しそうにしているのを見て、自然と提督も笑みを浮かべる。

「魚雷の代わりにクナイっぽいのを用意させるから、それ投げる練習をしてみろ。後、枝から枝へ跳び移ったりするのと、マフラーが引っ掛からない動きもな」

「任せといて、すぐにマスターして提督に見せてあげるよ!」

「そりゃ楽しみだ。本当にこの感じならライブの演出として参加も出来そうだし、那珂と神通、後ステージ設営やってる明石にも話をしとかないとな」

「那珂、怒らないかな……?」

「お前と一緒ならむしろ喜ぶと思うぞ、何だかんだお前等仲良いし」

 妹のライブの邪魔になるのではと、川内は少し躊躇いを見せる。しかし、普段の三人の和気藹々とした雰囲気を見る限り、それは無いと提督は優しく諭す。

「――うん、後で私も那珂にお願いしてみるよ。提督、ありがとう」

「俺もちょっと楽しみになってきたからな、協力は惜しまないさ」

「じゃあもっともっと頑張るね!」

 枝の上で立ち上がり、川内はやる気をアピールする。
 ――その時、不意に風が吹き抜けた。

「あっ」

「……今、見た?」

「綺麗な白いのが――って危なっ!?」

「不発にしてあるから大丈夫」

「不発でもその高さから投げられたらヤバイわ!」

「見たの忘れてよ! 夜戦以外で見られるのは流石に恥ずかしいんだから!」

「だからって魚雷投げるのは止めろ! っていうかさらっと跳び移りながら追いかけて来てんじゃねえか!」

「はーやーくーわーすーれーてー!」




――――夜戦、いっぱいしてくれるなら許してあげるよ?

 ――――そういう時もストレートだよな、お前。

487: ◆UeZ8dRl.OE 2014/06/28(土) 12:09:01.81 ID:8e/6w9oAO
――――深夜、裏山。

「やっぱり、夜はいいよね」

「もう夜戦は出来ないけど、こうしてゆっくり夜を感じることが出来て、提督や妹達と楽しく過ごせるだけで、私は今幸せなの」

「――だから、邪魔しないでよ」




『加賀さん、裏山で五人倒れてるから、後処理お願いしてもいいかな?』

『分かりました。夜間警備、引き続きよろしくお願いします』
『こうしてると本当に忍者になったみたい』

『そうね、静かになった今なら忍者というのも似合うかもしれないわ』

『だって、騒いだら忍者っぽくないもの』




 夜戦忍者川内が居る限り、鎮守府の夜の平和は安泰です。


次回 【艦これ】大鳳「出入り自由な鎮守府」 後編