勇者「世界崩壊待ったなし」 前編

338: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:08:02.14 ID:ZhIBJlv5o



魔王「夢だったのか……?」

勇者「……よしんば本当だったとして末恐ろしい子どもだな。
    要するにそれ、死ねってことだろ」

勇者「まあ冥府にいる奴なんだから、死神みたいなもんだと思うが」

魔王「うーん……」

勇者「おい、やめろよ?死ぬなんてやめてくれよな。
   そんなの夢に決まってるだろ。早まるな」

魔王「……そうだな」

魔王「ところで、ここは……?洞窟?」

勇者「ああ、無事大河を渡れたよ。ここは元魔族領だ。
    だが魔王城に辿りつく前にひどい雨が降ってきて」

勇者「偶然見つけた洞窟に急きょ避難したってわけだ」

魔王「……」

魔王「勇者くん腕は?腕を見せてくれないか」

勇者「? なんでだよ。別になんともない」

魔王「何ともないなら見せられるだろう。
   ……あっ 怪我をしているじゃないかっ」

魔王「大丈夫か!? 痛くないか……? いや怪我だし痛いか……。
   やっぱり崖から落ちたときに怪我をしていたんじゃないか!なんで黙っていたんだ」

勇者「いや、ただちょっと捻挫かなんかで痣になってるだけだ、こんなん。すぐ治るよ」

魔王「いま治癒魔法……。……は使えないのだった。はあ……」

魔王「薬草をとってくる。すり潰せば捻挫に効く植物を知っているのだ。
   あと木の実とか果物キノコなど何か食べれるものもついでに獲ってくる」

勇者「待て待て!この大雨の中行く気か?俺は本当に平気だから」

勇者「お前こそ休んどけよ。さっきまで気絶してたんだぞ。
    食べ物は雨が止んだら一緒に獲りに行こう」

魔王「でも……これじゃ私は……」

勇者「あーーー、火つかねえ!なんだこれアホか!!石でほんとに火つくのかよ!」




引用元: ・勇者「世界崩壊待ったなし」 



339: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:10:32.20 ID:ZhIBJlv5o



勇者「……悪かったな、無理やり引っ張って」

勇者「泳げなかったのか」

魔王「……そうだ。笑ってもいいぞ。この年で泳げないなんて。
   でも私は水の中でなく陸上で生きる生物なのだから別に水泳なんてできなくとも構わんのだ」

魔王「私は陸上で生きる生物だからな別にいいのだ水泳能力などなくても生きていける」

勇者「言いたくないなら言わなくていいけど、」

勇者「……もしかして……それって、昔なにかあったのか」

魔王「……ん?」

魔王「ん……どうだろう…… わからん」

勇者「……」

勇者「ごたごたしててちゃんと謝ってなかったな。ごめん」

魔王「え」

勇者「魔族みんないい奴で明るいから、つい忘れそうになっちゃうけど
   魔王があの島で村をつくるまで、みんないろいろあったんだよな」

勇者「……お前も」

勇者「そういうの全然考えないで、あのときは軽率なことを言って悪かった」

勇者「確かに俺みたいなやつに、お前の気持ちが全部分かるなんて言われたら腹立つだろうな」





340: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:12:22.11 ID:ZhIBJlv5o




魔王「えっ……」

魔王「あ……ああ、あれか。いや、謝るのは私の方だ……」

魔王「私も意地を張って悪かった。
   ……人間と魔族の共存を願って、その隔てをなくしたいと思っておいて」

魔王「そのくせ一番種族の違いを気にしているのは私だったのかもしれない」

魔王「勇者くんは正しいことを忠告してくれたのに、あんなことを言ってごめんなさい……」


魔王「……それに、魔力をなくして人間になってはじめて分かったのだが、
   魔法が使えないというのはとても怖いな」

魔王「敵がいても太刀打ちできない、どうにもならない。
    魔法が使えないと、人とは、こんなにも無力なのだな」

魔王「そんな人間のそばに……魔法を使える者がいたら……
    外見も、みんなと違う異形の者がいたら」

魔王「怖がって自分たちから遠ざけるのも、分かる」

魔王「もし私が生まれたときから人間で……それで近くに魔王の私が住んでいたら
   やっぱり怖がっただろうな」

魔王「……分かるよ」




341: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:15:33.34 ID:ZhIBJlv5o




勇者「……そんなの全員が全員怖がるわけじゃないだろ」

勇者「お前がむやみやたらにわざと魔法を使いまくって被害を出す奴だったら、
   まあ……怖いかもしれないが、魔王はそういう奴じゃないだろ」

勇者「むしろいつも誰かのことを考えて魔法を使ってるじゃないか。
   つーか攻撃呪文自体それほど好きじゃないみたいだし……」

勇者「なんかわけ分からん魔法の研究してたし」

勇者「……まあ俺も!初対面でいきなり剣突きつけた俺が言えたことじゃないかもしれないけど!」

勇者「でもやっぱり、お前は何も悪くないと思うぞ……うん」

魔王「……」

勇者「もっと早く会いたかったよ。そしたら、友だちになってさ
   お前がもし困ってたら助けてやるし、誰かにひどいことされてたら俺がそいつ殴ってやったのに」

勇者「……魔王が言うように俺はお前の気持ち全部理解することはできないかもしれないけど」

勇者「やっぱ理解したいよ。知りたいって思ってるんだ」


魔王「…………」

魔王「……私も……」

魔王「私にとって、君は一番大事な友人だ」

勇者「へっ!? ……あうんそうだな。俺もお前のこと大事な、友人だって思ってるよ」




342: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:17:49.28 ID:ZhIBJlv5o




魔王「君ももう察しがついていると思うが、私が泳げないのは昔、水審判にかけられたから」

魔王「まだ魔力もうまく操れなかった頃のことで、色々迷惑をかけながら生きていた。
   誰も教えてくれなかったから、呪文も分からなくって……」

魔王「感情が高ぶると魔力が勝手に魔法に変わってしまって
   畑を凍らせてしまったり、空き家を燃やしてしまったこともある」

魔王「……というかそれは今でも極稀にある」

勇者「あんのかよ……」

魔王「だから……ひと所にずっといるところはあまりなかったな」

魔王「だがこんな私でも、姿を隠して人のフリをしていれば、
   行き倒れているところを助けてくれた親切な人はいたのだ」

魔王「あるときそんな風にして老夫婦に拾われた。二人ともすごく優しくて
   そこでしばらく畑の手伝いをしたり家事を手伝ったりして過ごした」

魔王「でもやっぱり少し様子が変だったのだろうな」

魔王「ある日目が覚めたら、ベッドで寝ていたはずなのに外にいて、
   足に枷がついてて、その先には大きな石がくくりつけられてて」

魔王「村のはずれにあったきれいな青い湖が目の前に広がっていた」






343: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:21:48.18 ID:ZhIBJlv5o





魔王「君が賢者の家で読んでいた本にあったように、
   水審判とは悪魔かどうか疑わしい者を水に沈めて審問するものだ」

魔王「石をつけて浮きあがってきたら悪魔、沈んだら人間」

勇者「ひどいな……」

魔王「神官の姿は見当たらなかったから村人が独断で行ったのだろう。
   私を湖に突き落としたのは、私を拾ってくれた老夫婦の妻の方だった」

勇者「……それでどうしたんだ」

魔王「湖の中で何とか枷を外そうとしたのだがうまくいかなくて
   それでもがんばっていたら最後に石の方が壊れた……」

魔王「……死に物狂いだったので許してほしいのだが、石どころか湖ごと大破したようだ……」

魔王「……これは申し訳なく思っている」

魔王「その騒ぎを聞きつけて、近くにいた竜人と魔女が私を助けてくれた。
   私は石にヒビが入るのを見た時に既に意識を失っていたから覚えてないのだが」

魔王「それから二人と行動するようになったのだ」


魔王「今でも水に入ると、突き落とされたときの肩の感触とか
   光も音もない水底で、一人で、どんどん息苦しくなっていったこととか思い出して」

魔王「だから泳ぐのはどうしてもできない」

勇者「……そうか」

勇者「…………ほんっと無理やり引っ張って悪かったな……」

勇者「…………俺を殴ってくれ!」

魔王「い、いい。別にそういうつもりで話したのではない」




344: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:23:36.84 ID:ZhIBJlv5o



魔王「それに……あのときあのまま橋や船を探していたら、影に追いつかれていただろう」

魔王「腕を怪我しているのに、気を失った私をここまで運んでくれてありがとう……」

魔王「……たすけてくれて……」

魔王「……ありがとう……。勇者くん」

魔王「やっと言えた」

勇者「……? 別にいいよ。気にすんな」

勇者「話してくれてありがとな」

魔王「この話を誰かにしたのは初めてなのだ。
   竜人や魔女にも、誰にも話したことはなかった」

勇者「……そんなひどい目にあって……よく人間に対して友好的になれるな。
   俺だったら、どうなるか分からん」

魔王「たすけてくれた人がいたからな」

魔王「だから……人のことも好きになれた」

魔王「人のことが好きになった」

魔王「いつもたすけてくれる人のこと……」





345: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:27:05.02 ID:ZhIBJlv5o




魔王「君は私の一番大切な友人だ」

魔王「だから、幸せになってほしいな……」

勇者「なんだよ……急に」

魔王「ずっと君の幸せを願っている」

魔王「勇者くんがずっと笑っていられるよう祈ってる」

魔王「祈ることは魔力がなくてもできるから」


魔王「雨があがったな」

魔王「進もう。城へ」

魔王「私が案内する」





346: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:28:43.82 ID:ZhIBJlv5o


魔王城 廃墟


勇者「ここか……」

魔王「君も来たことがあるのではないか?」

勇者「魔王の居場所を探す旅の途中でな。誰もいなかったけど」

勇者「あのときよりもすごい有様になってるな。木が生い茂って、ツタが壁を這って……
    まあ、魔王城っぽいと言えば魔王城っぽい」


ガタ……コツ……コツ……


勇者「中もひどいな。荒れ果ててなきゃそれなりに立派な城だったんだろーが。蜘蛛の巣だらけだ」

魔王「うん゛……早く進もう」

勇者「……」

魔王「何だその目は。魔王が虫など怖がるわけあるか。だんご虫なら平気だ」

勇者「そっかぁ……」


ガコッ


魔王「この階段の下に隠し通路があるのだ」

勇者「おお……けっこうでかいな」

魔王「行ってみよう」


勇者「一度、竜人と魔女とここに来たことがあるって言ってたよな。何しに来たんだ?」

魔王「魔王を探しに」

勇者「は? ああ、自分探しの旅とかそういう意味か?」

魔王「違う。文字通り魔王を探しに来た。ここが一番可能性が高かったから」

魔王「ある者から、魔王が存在することを聞いて……彼を探しに来たのだ」




347: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:30:38.60 ID:ZhIBJlv5o



* * *


「ほんとか?」

「ほんとにそう言ってたのー?」

「いってた……」

「魔王がいるって……でもどこに?」

「わかんない……」

「戦争で殺された魔王が復活したってことか……?」

「じゃ、探しにいこーよ!魔王がいるならあたしたちを守ってくれるっしょ。
 これで暮らしもちょっとは楽になるし」

「強い魔王がいたら人間たちもギャフンと言わせてやれるって!」

「探しに行くか。でも、その魔王がいるっていうのは、だれから聞いたんだ?人間か?」

「……人間」



「まあ、定石どおりにいくならまず魔王城に行ってみるか」

「人間どもが邪魔してくるかもしれないからしっかり準備しとかないとな」





348: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:33:46.99 ID:ZhIBJlv5o




「チッ……やっぱ手間取ったな。くそ邪魔しやがって人間全員死ね今すぐ死ね殺すぶっ殺す」

「うーわ、ここが魔王城かー。ボロッ」


「ひゃーん蜘蛛の巣いっぱいあってこわいよぉ」

「だれに対してやってんだそれ?見苦しいからやめろ」

「死ね」

「あ。 ――、腕になんかのぼってるよ」

「……!? とってとってとってとってとってぇ」

「イモリだ。薬の材料に使えるからビンに入れて持ってかえろーっと」ワシッ

「なにが蜘蛛の巣こわいだ、イモリ鷲掴みじゃねーかよ」

「両生類と昆虫はちがうんですぅー なによイモリの同類のくせして」

「竜とイモリをいっしょにするんじゃねえ」

「ねえもうかえろうよぉ……ここ、こわいよ……」

「魔王を見つけたらな……」

「手つないであげる。ほらおいで」




349: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:36:53.84 ID:ZhIBJlv5o



「なんかこの階段の下、怪しくないか。よく調べると魔法の痕跡がある」

「向こうにお宝があったり?」

「なんとかここ壊せないだろうか」チャキ


ギイン!


「……だめだな。どうやら普通に壊そうとしてもできないらしい。魔法がかけられてるんだろう」

「あんたの馬鹿力でもだめかー」

「火炎魔法…… だめだ。氷魔法、風魔法…… チッ」

「この魔法、この城に住んでた魔族が昔かけたものなんだろーけど、ずいぶん魔法が上手だったみたいね」


「……そうだ、――。この間教えた魔法ちょっとやってみるか?」

「――ならあたしたちより魔力強いみたいだしいけるかも」

「ていうか強すぎることが心配だけどね。この城崩れたらどうしよ」

「落ち着いて、集中するんだ。いいか? 別に魔法は怖いものじゃないから」


ガコッ……


「えっ……詠唱なし!? ひええ、すっごいじゃん!才能あるよ!」

「まだなにもやってない……」

「手を触れただけで魔法が解除された?俺たちがあんなにやってもびくともしなかったのに」

「……うーん……もしかして」

「……まあとにかく先に進むか。この先に魔王がいるかもしれない」

「魔王ってかっこいいかな?イケメンかな?」

「100年前に死んだ魔王が復活したってことなら、年くってんじゃねーのか」

「オジサマも素敵」

「言ってろ」




350: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:38:13.72 ID:ZhIBJlv5o


* * *



勇者「この部屋は?」

魔王「さあ……実は私にもよく分からんのだ」

勇者「なんだ、あの時計。変わってる……」

勇者「……ん、凝った装飾の台があるな。でも何ものってない」

魔王「ここに、今私がはめている指輪があったのだ」

勇者「へえ?そうだったんだ」

魔王「妙な隠し部屋だから、何か創世主を倒す道具でもないかなと思ったが、全然ないな」

魔王「残念」




351: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:41:43.46 ID:ZhIBJlv5o


* * *



カチ……コチ……カチ……コチ……


「部屋か?しかも随分広い」

「ほこりくさっ。 げっほけほ」

「この時計……動いてるのか。まさか、100年前からずっと?」

「……変だな。針が3本ある」

「一番外側の数字が0~100まで、真ん中が0~12、内側が0~365か」

「時間じゃなくて日をカウントしているんだな」

「逆……」

「逆?ああ、本当だな。針が反時計回りにまわってるのか」

「これじゃカウントダウンだな……なあ、見ろ。もうすぐどの針も0に……」

「ねえそんな時計よりこっちの指輪見てよ!ちょうきれいだよ!すっごい高そう!!」

「聞けよ」


「指輪ぁ?宝じゃなくて魔王を探しに来たんだろうが」

「でも、ほら。きらきら光ってる。なんか尋常じゃないって感じ。絶対重要アイテムだってこれ」

「内側に文字も彫ってあるよ。よく読めないけど」

「文字……。……王」

「oh?」

「魔族の言葉で『王』って彫ってある」





352: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:45:41.91 ID:ZhIBJlv5o



「……それって魔王の指輪ってことじゃん!?」

「ということはこの気持ち悪い時計は、魔王が復活するまでのカウントダウンか?」

「え?なにこの時計、なんか変じゃない?数字多い」

「だから、それさっき俺がやったくだりだ。聞いてろよ」

「3つの針全てが0になるのは、……明日だ」

「明日魔王が、この指輪を指にはめにここに来るはずだ」

「うひゃーまじで?やった、タイムリーじゃん。今日ここに来てよかったねー」

「やったな。もし魔王が復活すれば、人間どもに奪われた土地も国も全て取り返せる」

「俺たちの国が甦るんだ。誰も俺たちのことを疎まない、魔族の国に住める」

「明日かあ……楽しみだなー!!おばあちゃん、あたしやったよ~ 見てるかな、いえーい」

「今日はここに泊まろう。寝どこあるかな……」

「えーっ……クモの巣いっぱいあるからちょっとやだ……ねえもうかえろうよ」

「ねむいよぉ……だっこ……」グス

「ぐずるなって。疲れたのか?」ヒョイ

「ここ、こわい。かえろうよ……」

「魔王に会いたくないのか? ――を湖に沈めた奴らにも、いじめてきた奴らにも、仕返しできるんだぞ」

「そうだよー」

「…………んん……」




353: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:48:21.82 ID:ZhIBJlv5o



* * *


カチ……コチ……カチ……


「……」

「……」

「来ないな」

「もう、日付け変わっちゃいそうだけど」

「……いや、必ず来るはずだ。待とう」



「それにしても……この指輪の宝石さ……これなんだろね。
 ルビー?ガーネットかな? きれいな赤色」

「売ったらいくらになるかな」

「売るなよ。王の指輪だ」

「……。しかし……これ、 ――の目の色そっくりだな」

「あー 赤だもんね」

「……もしかして……」

「……ええ?……いやー……まさか先祖? まさかぁ」

「……」





354: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:49:15.74 ID:ZhIBJlv5o




カチ……コチ……カチ……


「あと……10分」

「あと5分」

「あと3分」



「あーーーーーーーもう早く来てよ魔王様なにやってんの!?寝坊!?寝てんの!?」

「遅いな……」

「ああっ! ちょっと指輪見て!!透け始めてる!!!」

「なに?」

「……時計のカウントが0になると同時に指輪が消滅する仕組みなのか」



「……あと1分」


「……どうする?」

「でもさ……絶対来るはずだよ!来なきゃおかしいじゃん。
 やっとあたしたち……やっと……取り戻せるって思ったのに」

「期待させておいて来ないなんて、ひどいよ…… 訴訟レベル」



「あと30秒……」

「29……」

「28……」

「27……」




355: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:50:51.50 ID:ZhIBJlv5o




「……だめだ。たぶん魔王は復活しないんだ」

「じゃあどうすんの?」

「……きっと100年前の魔王が復活するんじゃなくて、新しい魔王が誕生するまでのカウントダウンだったんだ」

「いまここにいる俺たち3人の中の誰かが……魔王になるんだ」




「えーっ!?急展開!」

「誰が……なるか?」

「魔王いないの……?」

「ああ、いないんだ。俺か、魔女か、――がなるしかない」



「あと24秒」

「どうするジャンケンする!?」

「……隠し通路の魔法解除……それから指輪の宝石……」

「…………俺は……、――があの指輪をはめるべきだと思うんだが」





356: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:56:56.35 ID:ZhIBJlv5o




「私……? なんで……?」

「魔女はどう思う」

「……あー、そうだね。……この中で一番あの指輪の宝石が似合うのは、やっぱ――かな」

「魔力も一番強いし」

「……でもっ竜人と魔女の方が強いし、大きいし、お兄ちゃんとお姉ちゃんだし……」

「お……お兄ちゃん!?今のもう一回…………いや時間があと15秒!ふざけてる場合じゃなかった」

「ほんとにな。――、大丈夫。あたしたちがちゃんとずっとそばにいてサポートするからね。二天王になってあげるから」

「……嫌なら今言うんだ。俺か魔女がなる。どうする?」


「……」

「……」


カチ……コチ……カチ……コチ…… 


カチ


「わかった」

「私がこの指輪をはめる」


魔王「私が王になる」

魔王「みんなを私がまもる」


カチ、コチ……カチッ。





357: ◆TRhdaykzHI 2014/06/19(木) 23:59:21.76 ID:ZhIBJlv5o




* * *


魔王「別のところに行こうか。ここには何もないようだ」

魔王「私は地下の書庫に行ってみようかと思う。魔族の言葉の本しかないから、
    勇者くんは別のところを探してみてくれ」

勇者「書庫?そんなものあるのか?でも、ここって戦争終結後……」

魔王「全て人に持ってかれたが、書庫は魔族でないと入れない封印がされていた。
    ほかにもそのような封印がされている部屋がいくつかあったんだ」

魔王「いまは、もう、封印自体なくなったかもしれん。世界から魔法が消えてしまったから」

勇者「じゃあ俺でも入……れッ!?」ズボッ


ゴシャッ バキバキ


勇者「うおおっ あぶねえ!床が抜けた!!」

魔王「気をつけるんだ、かなり老朽化が進んでいる」

勇者「ああ、全くどこもかしこもボロボロだ。先代の魔王城なのに、やっぱ時の流れには勝てないんだな」

魔王「……そうだな」

魔王「……そういえば私の先祖は、先代魔王の妹らしいのだ」

勇者「ふーん……  …………えっ!?」

魔王「頑固なところがよく似ているらしい……あと先代魔王も赤目だった」

勇者「……誰に聞いたんだ?」

魔王「先代魔王の亡霊」

勇者「先代魔王としゃべったんだ?」





358: ◆TRhdaykzHI 2014/06/20(金) 00:02:03.97 ID:mqDbHPu0o



魔王「あまり亡霊の部分には驚かないのだな」

勇者「まあ俺も……幽霊には会ったことあるからな。話すことはできなかったけど。
    言葉の代わりにアイアンクローかけられたけど……」

魔王「そちらの方が驚きだな」

勇者「そういやあの幽霊、成仏したかな。いつの間にか消えてたが」



勇者「ん?待てよ、先代魔王の妹が先祖ってことは……お前も王族だったのか!」

勇者「じゃあこの城は……」

魔王「うん……実家?」

魔王「もうこんなに荒れ果ててしまって……何も残ってない」

勇者「……魔王」


魔王「でも、ここは私の家ではない。私の帰るところはちゃんとあるんだ」

魔王「だから早く創世主を止めなければ」

勇者「ああ、そうだ!お前の家はあの島の城だ!早く取り返そう!」

魔王「うむ、そうだなっ。私はさっそく書庫に行ってくる、後で合流し……」ズボ

魔王「ふぎゃーーーーーーー」

勇者「まっ、魔王ぉーーーーーーーー!!」






366: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:09:42.58 ID:m9/jnbfBo


* * *


ガサガサッ


勇者(……なかなかないな……そんな簡単に行くわけないとは思っていたが)

勇者「もうすっかり日も沈んじまったから目も見えづらいし。
   せめて火がないと何をするにも不便だ」

勇者(夜になったから……影はもう地上から消えているだろう。
   また明日の朝には出てくるんだろうが……王都やみんなはどうしてるだろうか)

勇者「そういや、この城の付近には影がまだ出てないな」



スタスタ


勇者「……ああ、魔王。なんだその書の山は」

魔王「書庫だと暗くて読めぬから、窓のそばまで運んでいたのだ……。
   あと2往復くらいしてくる」

勇者「俺も行くよ。重いだろ」

勇者「…………………………ん!?」ピク

魔王「それは助かる。なかなか重くて……。勇者くん?」

勇者(この匂い……どこかで……)

勇者(どこかで……。もう少しで思いだせそうなんだが……)

勇者(多分……けっこう大事なこと……思い出さなければいけないことだ)





367: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:11:10.43 ID:m9/jnbfBo




勇者(うう……なんだっけ……なんだっけ!?)

勇者「はあ……はあ……!」


ジリ……ジリ……


魔王「ど、どうしたのだ……具合が悪くなったのか?」

勇者「お前……その匂い……どこに行ってたんだ……?」

魔王「だから、書庫だと……さっき……」

勇者「頼む。もう少しで……大事なことが……お……思い出せそうなんだ」


ジリ……ジリ……


魔王「勇者くん、急にどうした」

勇者「頼むから匂いをかがせてくれ……!」

魔王「本当にどうしたんだっ!?」

魔王「匂いって……書庫行ったから埃臭い……」

勇者「かまわん……!!」

魔王「私がかまう」





368: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:16:08.44 ID:m9/jnbfBo




ジリッ ジリッ


勇者「おい……逃げるな!!!」

魔王「勇者くんがこっち来るから……!」

勇者「暴れるな……じっとしとけ!!」

魔王「分かった、分かったから一旦落ち着いてくれ。
    月明かりに照らされて軽くホラーだぞ勇者くん」

勇者「大人しくしてりゃすぐ済む……逃げるな……!!」

魔王「そんな犯罪者みたいなことを勇者が言っていいと思っているのか……っ」


ガシッ!!


魔王「ひっ ひぃっ」

勇者「はーっ……はぁー……うう」

魔王「こわすぎるっ」

魔王「ややややめろなにをする」

勇者「じゃかあしい……!!じっとしとけぇ……!!!」

魔王「こわい!! 離せ 頼むから離してくれっ」




369: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:18:47.21 ID:m9/jnbfBo



魔王「ひわーーーーーーーーーーーーーーー」

勇者「ふがふが」

勇者(あっそうだこの匂いだ。詰め所の机とか書類の山積みとか思い出す)

勇者(どこで嗅いだんだっけ、最近なんだよな……どこだっけ?確か外……
   なんでこんなところでっていう場面だったような)

勇者「うーーーーん……」

魔王「ひえーーーーーーーーーーーーーーー」

魔王「馬鹿者、こういうことしてあの子に失礼だと思わんのかっ」

魔王「こういうことは友人にやっちゃいけないのだぞっ!」

魔王「勇者くんってば!聞いてるのか」

魔王「……やだっ……」


勇者「ハッ! ご……ごめん」

勇者「でも思いだしたぞ!!そうだ、あのときだ!」

魔王「……何が?」



  「あーーーーーーーーっ いたーーーーーーっ!!!」




370: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:20:32.50 ID:m9/jnbfBo




魔王「えっ? この声……! まさか」

魔女「魔王様あーーーーーーーっ!!勇者も!!」

魔女「よかったぁ、無事だったんだね!久しぶりーーーーーーー!」

魔女「大丈夫?怪我してない?元気?あたしは超元気ーーーーーーーー!!!」

勇者「見て分かるぜ……!魔女、無事だったのか!」

魔王「ま……魔女っ よ、よかった……」

竜人「魔王様!勇者様! ご無事で何よりです」

魔王「竜人……! 二人とも大丈夫だったか?怪我は……」

魔女「全然どこも怪我なーい!」

魔王「よかった」ギュッ


竜人「勇者様……」

竜人「魔力がなく、致命的に運動能力が低い、ほぼ荷物と言っていい今の魔王様をお守り頂いて、どうもありがとうございました」グッ

勇者「お前けっこうズケズケ言うなぁ……。いや、そんな礼を言われるようなことじゃないって」

竜人「いえ……本当に感謝しているのです。さすがは勇者様、この国の英雄ですね」

勇者「だから別にいいって、二人も無事でよかった」

勇者「……で、何故押す?ちょっとあの……竜人」


コツ……コツ……コツ……コツ



魔女「ここの魔王城なつかしいね。相変わらずボロボロだ」

魔王「魔女、ここかすり傷があるじゃないか。大丈夫か?」

魔女「うん、全然平気だよー。 あれ、竜人と勇者どこ行くんだろ」







371: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:23:31.48 ID:m9/jnbfBo



勇者「手を離して頂きたいなって……その……ね」

竜人「そんな。まだまだ勇者様にお礼が言い足りません」ググッ


コツコツコツコツ

カッカッカッカッ……!


勇者「もう礼はいい!!いいよ!!お前の気持ちは十分伝わった安心しろ!!離せ!!」

竜人「いいえ、御謙遜はよしてください。ここで私どもが魔王様と再会できたのも、ひとえに勇者様のおかげなのです」

竜人「でもそれとこれとは話が別ですので」


カッカッカッカッ――ダンッ!!!


勇者「ひいいい落ち着け竜人!!瞳孔が開いてるぞ!!」

竜人「こんな暗闇に包まれる城の廃墟の廊下で、一体勇者様は何をなさっていらっしゃったのですかねぇ……KILL YOU」

勇者「待て……待つんだ、話せばわかる……」

竜人「分かりました。そうですよね……まさか勇者様が、あんなこと……私の目の錯覚に決まっていますよね」

竜人「私や魔女がいない間に、こんな暗がりで、嫌がる魔王様の動きを封じて
    息を荒げて無理やり迫るなどと言った男の風上にも置けないような所業……」

竜人「まさか勇者様がなさるわけないですよね! 弁解があると言うのなら今どうぞ」

勇者「……あれはっ、…………………いや………」

勇者「……」

勇者「……た……」

竜人「あ゛ぁ!?聞こえねぇんだよ!!!!」

勇者「しました……!!!」

竜人「右と左どっちがいい?」

勇者「右でお願いします……」





372: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:29:47.97 ID:m9/jnbfBo



魔女「おーい、こっちこっち。いたよーー」

姫「魔王さん!よかった、無事で」

騎士「お久しぶりです! 魔王さんも魔女さんもお元気そうでよかった。あれ、勇者さんは?」

忍「竜人さんが奥に連れてっちゃいましたが」

妖使い「やあ、俺もいるよ。なにやらえらいこっちゃだね」


勇者「おー、みんな生きててほんとに安心した」

姫「勇者……あなた右頬どうなさったの」

竜人「転んだそうです。この城は床が抜けやすくなっていますので、皆さまもお気を付け下さい」


魔王「よくここに私たちがいるのが分かったな。
    それに妖使いや忍、騎士がいるということは王都に行けたのか?」

姫「行けたことには行けたのだけど、あまり長くはいられなかったわ」

姫「あのあとのこと、順を追って説明します。
  魔王さんと勇者が去ったあと、私たちも健闘しましたが、影に囲まれてしまって」

姫「もう終わりだと思ったのですけど、急に周りの影が全て消えたの」

魔女「雨がね、降り出したんだよ。そしたら溶けるみたいに影が全部ざーって」

勇者「雨で……消えた?」

竜人「ええ。その間に私たちは王都に辿りつきました。ひどい様子でした……」

妖使い「じゃ、王都の様子は俺から説明しよう!」

妖使い「勇者と姫が魔王の元へ行ったあと、すぐに異変が起こった。
     なんと俺は妖術が使えなくなり、妖孤をはじめとする使い魔たちを呼びだすことができなくなった」

妖使い「俺だけじゃなく魔術師たちや神官たちも魔法が使えなくなったーつって大騒ぎしてたね」

騎士「それから国王様は大臣たちを集めて緊急会議をなさっていました。
    しばらくして、王都の上空に黒い雲が現れて、住民を避難させようとした矢先に……」

妖使い「城壁の向こうから影たちがわんさかやってきて、次々に王都の住民を消していたよ」

妖使い「まあ、勝ち目なんてなかったね。触れられた人から一瞬で消されちゃうんだから」







373: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:33:26.11 ID:m9/jnbfBo




妖使い「でもそこで雨が降って、姫が言う通り影が消えたのさ」

魔王「地下の扉は……?変化はあったか?」

騎士「いえ、一応見てみましたがやはり扉は消えたままでした」

魔王「……そうか」


姫「王都に辿りついて、お兄様に会いました」

騎士「あの人、止めたのに、剣持って前線に立とうとするんですよ。
    ほんっと……もう……しかも強いし……」

姫「私、王都に留まるつもりだったのですけど、もうここは危険だからってお兄様が……」

騎士「それで僕が護衛について、魔王さんと勇者さんに合流するために魔王城へ向かったわけです」

魔女「でも、迷いの森、消えてたね。白い砂漠になっちゃってた。
   せっかくあたしが素敵な森に仕立て上げたのに……」

勇者「素敵か? いやっそれより、森が消えていたのか?  
   俺たちが行った時には森はまだあったのに」

竜人「どうやらこれが創世主の本気みたいですね。私たちは今まで遊ばれていたに過ぎないと」

忍「お腹すきましたね。ご飯ないんですか?」




374: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:35:27.59 ID:m9/jnbfBo




竜人「魔王城があった城が消えてしまって……それでまた影がでて、
    追われるようにして大河を渡りました」

妖使い「ちょうど船があって助かった。俺カナヅチでさ!」

魔女「でここに辿りついたってわけ」


勇者「あの影……雨が降ると消えたり、大河を渡ってこれなかったり……」

勇者「水が弱点なんだな」

勇者「あと暗いところ……地下では、または夜には行動できない」

魔王「勇者くん。さっき何を思い出したというのだ?」

勇者「ああ。あの書とインクの匂い、どっか別の場所で嗅いだ記憶があって」

勇者「どこだったんだっけなってずっと考えてたんだが」

勇者「……影を斬った時だ」

騎士「そんな匂い、しました?」

勇者「俺は特別あの書とインクの匂いに敏感なんだ。
   机に積み重なった書類の山を思い出して、頭を抱えたくなるね!!」

忍「あぁ。勇者様って見るからにバカっぽそうですもんね!」

勇者「まあな!」


勇者「……でさ、創世主が劇だ脚本だなんだと言ってただろう」

勇者「……ちょっと思ったことが、あるんだけどさ。笑わないで聞いてくれるか」

魔王「何だ?」




375: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:36:06.52 ID:m9/jnbfBo



勇者「影は……黒インクなんじゃないかって」

勇者「だから雨で消えるし、川は渡れないんじゃないか」

勇者「……で、影に食われると俺たちは消える……」

勇者「あと、あいつが『主役』とか『悪役』とかとか言ってた」

勇者「ってことはだ」


パラパラ……


勇者「ここに、魔王が書庫から持ってきた本が山積みになってるわけだが」

勇者「俺たちはこれといっしょなんじゃないか……?」

姫「どういうことです?」

勇者「……この世界は、一冊の本なんじゃないか」

勇者「創世主は、その作者……」





376: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:37:44.71 ID:m9/jnbfBo



勇者「……っていうのを、ちょっと思ったんだけどさ」

勇者「はは……さすがにあり得ないよな」


魔女「…………きゃはははははは!なにそれおもしろーい!
    勇者って想像力あるんだねー、それ結構うけるよー」

竜人「すみません……強く殴りすぎてしまいましたかね、脳震盪か何かでしょうか……大丈夫ですか?」

騎士(やっぱ竜人さんがやったのかアレ)ゾッ

勇者「そうだよな、流石に妄想じみてるよな!ははは、忘れてくれ!」




魔王「いや……それほど荒唐無稽でもないかもしれない」

魔王「『創世記』によると空や海、太陽も星も雪も月も……命も死も、全て黒い水からつくられたらしい」

魔王「0日目に白い大地と黒い水を用意して、それから3日間で世界を創造したのだ」

魔王「白い大地というのが本のページだとして、黒い水がインクだとしたら、
   万物黒い水から生み出されたというのも納得がいく」

魔王「それから、ワールドエンドとふざけた立て札があったあの白い砂漠……
   あれは砂ではなく白い紙片で構成されていたのだ」

魔王「消された世界は白紙に戻される……インクで書かれる前の白紙に」




377: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:39:09.83 ID:m9/jnbfBo



魔王「間違えてしまった箇所は、インクで塗りつぶす」

魔王「そうしたら本に何が書いてあったとしても、
    それがたとえ『山』という文字でも『人』という文字でも」

魔王「何が書いてあったかはもう読めなくなる……存在が消されてしまうのでは?」

魔王「だから本当に影がインクだとしたら、影に呑まれると消えるという不可解な現象も分かる気がする」


魔女「なるほどね。確かに、分かる気がするなー。説得力があるよ」

竜人「ええ、信憑性がありますね。さすが魔王様、私はその説を信じますよ」

勇者「お前らほんっとブレないね」



騎士「……確かにそう言われるとこれまでの謎に説明がつくような気がしますが。
   しかし自分たちが本の中の存在というのは、実感がないというか」

姫「いきなり言われてもそう簡単に理解はできないけれど……」

姫「でもそう仮定して対策を考えた方がよさそうね。でないと先に進めないわ」




378: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:40:58.82 ID:m9/jnbfBo




忍「おなかすいたなぁ……」

妖使い「あははは!いやあ、おもしろいこと考えるな!」


妖使い「いいね、むしろそういうストーリーの本書いて売ればいいんじゃないのかい?あんまり売れなさそうだけど」

妖使い「俺もそういう馬鹿みたいな話好きだよ。信じることにする」

妖使い「……でもさ」パラパラ

妖使い「そうだとして、どうやって創世主を倒すんだい?」

妖使い「この本の登場人物も、そっちの本の登場人物も、普通本から出てきて作者を倒しに来たりしないだろ」

妖使い「そんなことになったら大混乱だ」



姫「……その手段を見つけなければいけないのね。
  あまり時間は残されていないわ。急がないと」

姫「……ふう」

騎士「急がなければいけないのは承知ですが、少し休憩しませんか?
   僕たちはずっと昨日から動きっぱなしで……」

魔女「そうだよ~ もう疲れちゃった。雨も降ったからまだ服濡れてるし。かわかしたいな」

竜人「一旦休憩した方が効率よさそうですね」

勇者「じゃ休憩ということで」




379: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:42:21.66 ID:m9/jnbfBo




忍「私もお腹すきました……あっ!?こんなところにおいしそうなハムがぁ」ガブ

勇者「いてえーっ!! 馬鹿そりゃ俺の腕だ!!離せ!」

忍「うへえ、このハム固い……若ー、何か切るもの持ってきてください」

妖使い「あいよ。刀」

勇者「おめーも渡してんじゃねえよ!護衛どうにかしろ!!」


魔王「妖使い。ちょっと話がある。こちらに来い」

妖使い「ん?いいけど」



魔王「……魔族が人間になってしまったのは、本当に君のせいではないのだろうな」

妖使い「あぁ、妖が人になってしまったら俺の商売あがったりだよ」

妖使い「君もあんなに強い魔力を持っていたのに、人になってしまって残念だ。チッ」

妖使い「俺じゃないよ。自分の首を絞めるような真似、するわけないじゃん」

魔王「そうか。妖を人にする秘術がどうのこうのと言っていたから、君が何かやったのかと思った。
   疑って悪かったな」

妖使い「やろうと思ってもできないって」

妖使い「大陸の魔族が何人いると思ってる?それを全部人に変えるなんて、俺には絶対無理だよ」

妖使い「俺はむしろ魔王がやったのかと思ったけどね」

魔王「なに?」

妖使い「だって、人間になりたいと少なからず思ってたのは君じゃ?」

魔王「わ……私がそんなことするわけないだろう。大体方法も知らん」




380: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:43:07.09 ID:m9/jnbfBo




妖使い「無意識で魔法を使ったことは?」

妖使い「気づいたら周りが自分の魔法で大変なことになっていたことは?」

魔王「それは…………滅多にないが」

妖使い「じゃあ稀にあるってことだろう」

妖使い「君の心の底に隠していた願いが、無意識に魔法となって暴走したんじゃないのかなぁ」

妖使い「君だけじゃなくほかの魔族や人間も巻き込んで」

妖使い「魔王ほどの魔力があれば不可能でもないんじゃないの」

魔王「まさか……そんなはずは」

妖使い「ないって言いきれるか?」


妖使い「もし魔法がこの世界から消えなかったら、もっと被害は少なかっただろうね」

妖使い「……」

妖使い「君がやったんじゃないのか? 魔王」

魔王「……」

魔王「……わ……私が?」





381: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:43:51.94 ID:m9/jnbfBo



忍「若ーーーっ どこ行ったんですか?ご飯ですよ!!」

妖使い「あ、呼ばれてる。じゃ、俺は先に戻るから」

魔王「……」





魔王(私が?)

魔王(……人になりたいと……少しは思ったけど、本当に一瞬だけで、そんな……)

魔王(……)チラ


魔王(鏡……)

魔王(耳が人と同じ形。八重歯も尖ってない。翼も生えない)

魔王(目の色が赤ではない。よくある普通の色……人と同じ色)

魔王(人間……。同じ……)




382: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:44:37.77 ID:m9/jnbfBo




魔王「……」


勇者「あれ、魔王は?魔王どこに行った?」

忍「さっき若といっしょにいましたよね?探しに行きましょうか?」


魔王(……そうだな、私は人になりたいと確かに思ったことがある)

魔王(でももう彼と彼女の幸せを見まもると決めた)

魔王「…………こんなことになってしまったのが私のせいなら
   私がリスクを冒してでも解決しなければ」



魔王(冥府に行かないと)

魔王(扉を開けに)





383: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:45:34.27 ID:m9/jnbfBo




ガサガサ……



魔王(魔女の荷物……確かここにさっき置いていた)

魔王(あった……)



魔王「…………」

魔王「魔女は薬でさえ不味くつくるのだから、毒は相当な不味さなのだろうな」

魔王「……背に腹は代えられん……いくか……」

魔王「………………っ」グイッ


ゴクッ ゴクッ ゴク


魔王「くっ……ぐ……この世のものとは思えないほどの不味さ……!」

魔王「う……うでをあげたな、まじょ……」





384: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:46:34.85 ID:m9/jnbfBo



* * *


魔女「ね、魔王様ほんとどこ行っちゃったの?ご飯だから呼んできて」

勇者「探しに行ってくるよ」

妖使い「さっきあっちの部屋で俺と話してたから、その部屋にいるんじゃない?」



勇者「魔王?」

勇者「あれおっかしいな。いない……あいつどこ行った?」

勇者「魔王!」



ガタッ



勇者「? 今の音……あっちか?」

勇者「……」ギィ

勇者「……!? おい!!どうした!?」

魔王「う……」





385: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:47:27.79 ID:m9/jnbfBo



勇者「しっかりしろ!大丈夫か……!?何が……」


カラン


勇者「! この瓶……魔女の?へったクソなドクロマークついてるから間違いない」

勇者「ま……まさか、あの洞窟で言ってた冥府がどうのこうのってやつを?」

勇者「馬鹿なにやってんだよ!!あんなの信じる奴があるかっ!!」

勇者「薬……!」

魔王「勇者くん……案ずるな。私は必ずもどってくる……」

魔王「必ず私が……なんとかしてみせる……!!」

魔王「だから……君はここで……っ ここで……」

魔王「……まってて………… ぅ……ぐ」

魔王「……」

勇者「魔王!!おい……うそだろ。目開けろよ」

勇者「脈が…………止まった」

勇者「………………………………っ」






386: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:48:19.77 ID:m9/jnbfBo



勇者「分かった」

勇者「もう冥府でもどこでも行ってやるよっ!!」

勇者「勝手に一人で決めやがって!!」

勇者「毒薬……!くそ、全部飲み干されてるか」



勇者「……っ」

勇者「許せっ」






387: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:49:13.37 ID:m9/jnbfBo



* * *


魔女「……勇者も遅いなあ」

忍「ミイラ取りがミイラ?」

騎士「何かあったのでしょうか。僕も探しに行ってきます」

姫「もうこの際皆で行きません? なんだか……一人ずつ姿を消すみたいで怖いわ」

魔女「そして誰もいなくなった」

姫「やめて?」




魔女「やーっと服乾いた。これだから雨ってきらい」

竜人「でもそのおかげで私たちは間一髪で助かったんですよ」

姫「……そのことなのですが、私はちょっと不思議です」

姫「創世主は言わば最上位の神でしょう」

姫「なら、雨なんて降らさなければいいのに。それくらい簡単にできそうなものです。そう思いません?」

竜人「確かに不自然なところは多々ありますね。
   そもそも、影などまどろっこしい手段とらずに、一瞬で世界など消せそうなものですが」

忍「……神様にもできないことはあるんじゃないですか?」

妖使い「ま、そのおかげで今俺たち助かってるわけだけど。神が万能じゃなくて助かったね」

妖使い「そんなんだったらすぐ終わってしまうよ」




388: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:50:06.07 ID:m9/jnbfBo




騎士「そうですよね。本当九死に一生を得たって感じ……」ギィ

騎士「でぇーーーーーーーー!? 勇者さん!!魔王さん!!どうしたんですかーーー!?」

竜人「なっ!? これは……!? 魔王様!勇者様!しっかりしてください!!」

忍「し、死んでます。心臓が動いてませんよ」

姫「どうして……?影が来たというの? ……ん?これは?」

魔女「…………!?」

魔女「あ……あ……あたしのつくった極悪ゲロニガ毒薬…………」

魔女「ひとつだけまだ荷物の中に残ってて……ちゃんとしまったはずなのに、なんで魔王様の手にあるの?」

騎士「毒薬……空ですね」

魔女「……まさか、二人は……毒を飲んで?」

竜人「魔王様も勇者様も、外傷は見られません。十中八九そうでしょうね……」





389: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:51:02.30 ID:m9/jnbfBo



姫「一体何があったというの?これは……まさか二人が自ら命を断つなど」

妖使い「……」

妖使い「そんなメンタル弱い二人には見えなかったけど、いろいろ参っちゃったのかな」

妖使い「自殺か……悲しいな」

忍「まじっすか……若、どうしましょう」



妖使い「どうするもこうするもないよ。どうしようもない」





390: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:52:05.21 ID:m9/jnbfBo




* * *


冥府



魔王「……うーーー……。 ハッ」

魔王「ここはこの間来た……そうだ、冥府だ」

魔王「ゲホゲホ……まだ口の中に毒のあの味が残ってて、不愉快極まりない」

魔王「……よし、まずはあの鍵守という子どもを探して、扉を開けないと」

魔王「頑張ろう」



ザカザカザカ


魔王「! 向こうから人影が」

魔王「鍵守かな」タッ

魔王「……」

魔王「……?背が高いな。あの子どもではないのか……?」


魔王「!?」

魔王「勇者くん……!?」

勇者「てめぇぇぇ……」ザカザカ

魔王(しかもすごく怒っている)ギク

魔王(こ、こわい)ダッ

勇者「逃げるな」ダッ





391: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:53:16.06 ID:m9/jnbfBo



勇者「お前ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

勇者「なにしてんだよっ!!!!!なに毒飲んで自殺計ってんだよ!!!!」

勇者「なんでお前が死ぬところ二度も見にゃならんのだ!!!!」

魔王「何故勇者くんまでここに……」

勇者「冥府に来るって決めたなら俺に一言断ってからにしろよ!!!!俺も行くわ!!!」

勇者「どこでもいっしょに行ってやるよ!!!!!勝手に一人で行くんじゃねえよ!!!!」

魔王「……」

魔王「……一人でできる!ちゃんと覚悟はしてきた。私一人で解決して見せる」

魔王「……何故ここに来たのだ!この大馬鹿者!全くもう!」

魔王「…………もし創世主を何とかして、世界滅亡を止められたとしても」

魔王「冥府に一度来てしまった以上、もうあちらの世界には戻れないかもしれない……」

魔王「……ばかか……君は。 どうするんだ……」





392: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:56:14.13 ID:m9/jnbfBo




勇者「お前こそ馬鹿か!!!ほんっと馬鹿!!!」

勇者「もう一度あんな真似してみろ、次は絶対許さないからな!!!!」

勇者「ふざけんな!!!!!ここに来たら戻れないかもしれないのはお前も一緒だろ!!!」

勇者「大体、今の魔王に何ができるんだよ。戦闘力-5000だろ!!!!
   なのになんでそんな自信満々なんだよ馬鹿かよ一人で何ができんだよ!!!」

魔王「できるもん!! 私に全部まかせてくれれば大丈夫なのにっ!ばかっ」

勇者「まかせられるかっ!!!だからっ意地張らないで頼れって言ってんだよ!!!!」

勇者「このやろーーーーーーーーーっ!!!!心臓止まるかと思ったわ!!!今もう止まってるけど」

勇者「俺の気持ちも ちったぁ考えろ この底なしアホ魔王ーーーーーーーーーっ!!!!!」

魔王「ぃ痛いっ 頬のびるっ」

魔王「……うう……。 ……ん? ……勇者くん……泣いてるのか」

勇者「は????????? 泣いてちゃ悪いか?????」

勇者「泣いちゃ悪いってのかよ!!!!!誰のせいだと思ってんだよ」

勇者「お前だよ!!!!!!!!」

勇者「何か言うことは?」

魔王「…………すまなかった」

勇者「何か言うことはっ!?」

魔王「えっ。 ご……ごめんなさい」

勇者「ちげーーだろ!!!もうしませんだろ!!!」

魔王「もうしませんっ」





393: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:58:47.23 ID:m9/jnbfBo




勇者「勘弁しろよ……ハァ」

魔王「……しかし、どうやって冥府に?」

勇者「どうやってって…… け、剣だよ」

勇者「剣でこう腹をぐさっとな。ハラキリだ。ハラキリ……痛かったぜ」


スタスタ


鍵守「えっ……剣でしんじゃったの?」

鍵守「どくの方が、いろいろよかったんだけどな……」

勇者「だれだ?」

鍵守「冥府の番人だよ……。あなたが勇者」

鍵守「もし世界崩壊を止めることができたら、ボクがせきにんもってふたりを元のところにかえします」

鍵守「そのとき、毒の方がつごうよかったんだけど……」

魔王「それは困ったな。どうしよう……勇者くんが剣で死亡してしまったのだが」

勇者「えっと、いや……剣という名の毒死かもしれない」

魔王「剣で死んだ場合、どうなる……?生き返ることは無理なのか?どうしよう……」

勇者「あのさ、もしかして剣じゃなくて毒だったかも……」

魔王「でも毒は私が飲みほしたのだ。それはあり得ないではないか」

鍵守「剣などの外傷でしんだばあい、いきかえったさいに
   のたうちまわるほどの痛みをともないます」




394: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 20:59:48.19 ID:m9/jnbfBo




鍵守「いきじごくといっていい痛みを経験することになります……
    もういっそころしてくれと言いたくなるような いたみが」

魔王「…………」

勇者「そ、そんな青ざめなくても、俺は大丈夫だ。
    いや、剣でやればよかったなと今思うが、あのときは咄嗟に……」

勇者「まあそんなことは創世主をどうにかしてから考えようぜ!!
    で鍵守、俺たちは何をすればいい?早く話してくれ!!」



鍵守「月へ」

鍵守「月にのぼって」

魔王「月?」

鍵守「あそこにみえるでしょう」

鍵守「ここには、いつも月がありません……それは月がセカイをつなぐトビラだから」

鍵守「いつかくるかもしれなかった日のための……今日のためのトビラ」

鍵守「ほんものの、トビラです……」

鍵守「彼に会いにいってね」




395: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:00:36.68 ID:m9/jnbfBo




鍵守「カギは、これ」

鍵守「このセカイでボクだけがもっている、あちらのセカイのもの」

勇者「……これ、おもちゃの鍵じゃないのか?」

鍵守「そうでしゅ……かんだ。そうですよ」


鍵守「……このセカイをすくってください……さあトビラをあけて」

鍵守「勇者。魔王」



カチャ……。


バタン。





396: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:01:06.26 ID:m9/jnbfBo




お兄ちゃんなんかだいきらい。






397: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:01:36.57 ID:m9/jnbfBo



『創世記』



今日は雨が降っていた。
空がどんよりと曇っているのはいつもだけど、雨が降るのは久しぶりだ。

家に帰ると汚れた窓に妹が張り付いて、外の雨を見ていた。
体が冷えるから窓から離れろと言ったのに聞かない。
結露して曇ったガラスに指で書いた自分の名前を得意げに見せてきたが
綴りが2か所も間違っている。


固いパンを二人で食べた後は、いつも通り妹に読み書きを教える。
僕も学校に行ったことはないからそんなにうまい方ではない。
街の外れにあるボロい教会のイカレシスターに教えてもらったんだ。

だけど病気で滅多に外に出れない妹は、歩いてほんの少しの教会にだって気軽に行くことはできない。
だから僕が教えてやる。




398: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:02:17.59 ID:m9/jnbfBo



もうすぐ妹の誕生日だ。
かと言ってケーキやおもちゃを買ってやれるわけではない。
そんな風に余分に使える金などないに等しい。

でもできれば妹の欲しいものをあげたい。
家から出られず、ポンコツの体をもって生まれてしまった妹の願いを叶えてやりたい。

訊くと本がほしいと言った。教会にあるような本。
僕が仕事に行っている間に、それで読み書きの練習をしたいってさ。

本なら教会にたくさんあった。
みんなが「不必要なもの」と考える本だ。
みんなは経済の本とか、数字の本とか、そういうのが「必要な本」で、
それ以外の「不必要なもの」や「ゴミ」をあのシスターは教会に集めている。

でも教会にあるのは、ページが抜けおちていたり、汚いシミがあるようなのばっかりだったから
できればきれいな新品の本をあげたい。

明日仕事帰りに本屋に行ってみよう。




399: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:03:06.41 ID:m9/jnbfBo



― ― ― ― ―


本はどれも高価だった。
一番値段が安いのでも、買ったら今月の薬に使う金がなくなってしまう。

仕方なくノートとインクを買った。
白いノートと黒いインク。二つあわせても本の半分の半分の値段。

帰り道、ゴミ置き場に、誰かが捨てたオモチャの箱があった。
まだそんなに汚れてもいないし、壊れてもいない。
小さな鍵も中に入っていた。
僕はそれも持ち帰ることにした。


妹の、7歳の誕生日。


オモチャの箱も鍵も、一生懸命掃除をするとなかなかきれいになった。
でもこんなものしかあげられなくて悲しくなる。

そんなことをしている間に妹が目を覚ました。
おめでとうと言うと、ありがとうと笑った。




本が高くて買えなかったと言うと、謝られた。
「べつにいいよ。ごめんね」
代わりにいっしょに物語をつくって、それを僕が本にすると言うと
そっちの方がおもしろそうだと言ってくれた。





400: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:04:15.53 ID:m9/jnbfBo



― ― ― ― ― 


どんな世界がいいだろうか。
きれいな空があるといい。

この街は僕たちが生まれるずっと前から灰色の雲に覆われている。
でも本当は、雲の向こうには青い空があるそうだ。
雲がなければ、夜には宇宙の色がそのまま見えるそうだ。

空気がもっときれいなら、雲も消えるだろうし、妹ももっと楽に息をできるはずなんだけどな。


それから海。
この惑星の半分以上を覆っていた塩水。
写真でしか、見たことない。


「いつか行ってみたいな。きっと街の外の砂漠を抜ければ、海があるのかもしれない」

「いきたいね……」

「そこにおかあさんとおとうさんもいるかもね」


青い空の下、青い海の中、家族4人でいる様子を思い浮かべた。
幸せな光景だった。




401: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:11:35.41 ID:m9/jnbfBo


― ― ― ― ― 


それから太陽と星と雪をつくったよ。
全部見たことないから想像。

太陽がでてれば今よりずっと暖かくなるそうだ。
そしたら上着もマフラーも必要ないな。
妹も風邪をたくさんひかなくなるかも。

星は宇宙にある別の惑星らしい。
あんまり遠く離れてるから小さく見えるんだって。
昔の人は星座なんてものもつくってたって聞く。
夜空に穴を開けたみたいにきれいなんだろう。

雪もいつか見てみたい。
たまに降る濁ったネズミ色のべちゃっとした霙じゃなくて
真っ白な雪が積もるところを見てみたい。
妹ははしゃぐだろうな。


太陽の国と、星の国と、雪の国を今日は考えた。
僕たちの理想の国。海に浮かぶ小さな大陸。

街にある偽物の植物なんかじゃなくて、本物の花や木や草があるところ。
車も走ってないから排気ガスもない。灰色の雲に覆われてない世界。
たぶんいまは、惑星のどこを探したって存在しない、夢の大陸。




402: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:13:53.17 ID:m9/jnbfBo



― ― ― ― ― 


それから月もその世界にはあることにしたよ。
暗い夜が怖いって妹が言うから。

さて本だから主人公がいなくちゃいけない。
やっぱり正義の味方が悪い奴をやっつけるのがいいと思った。

主人公、勇者。
悪役、魔王。

勇者が悪い魔王を倒しに行く本にしよう。
立ちふさがる悪の手下たちをバッタバッタをなぎ倒し、勇者は進む――。


「3日間にわたるたたかいの末、勇者はついに悪い魔女を倒したよ。
 魔女はつくった毒薬で村の人々を苦しめていたんだ」

「魔女の次は竜の谷へ勇者は向かった。
 そこに住んでるドラゴンに、王国の姫がさらわれてしまったんだ」

「勇者は聖なる山のてっぺんにあるドラゴンスレイヤーを引き抜いて、
 それを引っ提げて竜の谷へ……」




403: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:14:53.99 ID:m9/jnbfBo



「ねえ、お兄ちゃん。シスターさんのところにある本って」

「どうしていつも魔女と竜はわるものなの?」

「どうしていつも魔王は勇者のてきなの?」

「どうしてって……悪い奴がいないと盛り上がらないだろ」

「でも、やだな。みんななかよしがいいな……」

「お兄ちゃん。せっかくきれいな空と海があるセカイなんだから、みんななかよくしようよ」

「……それも、そうか」


妹の誕生日プレゼントだし、妹がすきそうな話にしたかった。
勇者は剣を持ってるけどあんまり使わない。ちょっと抜けてて、でも明るい。よくしゃべる。
魔王は角が生えてて青色の肌をした怖いおじさんじゃなくて、妹と同じ年くらいの女の子にした。

めったに外にでれないから、妹には同じ年の友だちがいない。
僕くらいしか喋る相手がいない。
だからせめてあっちのセカイに妹の友だちをつくってやりたかったんだ。




404: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:16:13.32 ID:m9/jnbfBo



それから夜寝る前に僕は思いつくまま妹に勇者と魔王の話をして
空いた時間にそれをノートに書いてった。

どこかで聞いた物語のストーリーや展開のつぎはぎ。
ご都合主義だらけの変な話。

それでもそれを話すと、妹が楽しそうだったから
まあ、いっかって。


こんなの読むよりもっと役に立つ実用書を読むべきだってみんな言ってる。
現実にはハッピーエンドなんて存在しないから。
夢を見てる暇があるなら、金を稼いだり、そのための勉強をするべきだって。

僕もそう思う。
金がないと何もできない。金はあればあるだけいい。
金があれば、妹の病気も治せるし、毎日お腹いっぱい食べれる。
金があったらお母さんとお父さんも出て行かなかっただろう。


でも妹が嬉しそうに僕が書いたノートをめくっているときだけ……
ちょっとだけ、本当にそうなのかなって思うよ。




405: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:16:54.12 ID:m9/jnbfBo


― ― ― ― ― 


最近、少しだけ妹の咳が多くなっている気がする。
夜ずっと咳が止まらず明け方まで続くこともある。


やっぱりこの薬だけではだめなんだろうか。
もっと効き目のある薬も売ってるけど……高い。

入院させたいけど、保険に入ってないし、そもそもそんな金もない。


でも明日には……明後日には、遅くても来週までには
きっと妹も以前のような体調に戻るはずだ。今、ちょっと調子が悪いだけ。
きっとそうだ。



406: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:17:44.58 ID:m9/jnbfBo


― ― ― ― ― 


妹が熱をだした。38度を超える高熱だった。
ずっとそばにいてやりたかったけど、仕事は休めなかった。

仕事を終えて、工場長の怒鳴り声を無視して走って帰った。
妹は眠ってただけだったけど、一瞬死んじゃってるように見えて
足に力が入らなくなって膝をついてしまった。


「ゆめみてたよ……。森があって……きれいな空で」

「太陽がきらきらしててあったかかった……お兄ちゃんが丘にいて」

「勇者と魔王もそこにいて、お父さんとお母さんもいて、みんなであそんだよ」


熱は数日後下がった。けれど咳をする頻度は減らなかった。
重たい咳が増えた。夜通し咳をするようになった。
苦しそうだった。
何もできなかった。





407: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:18:48.30 ID:m9/jnbfBo



― ― ― ― ― 


シスターみたいに神様を信じたことはなかったけれど
いつも気づけば手を握りしめて神様に祈っていた。
どうか妹が死んでしまわないようにって。


せっかくノートに書いたのに、夜寝る前に決まって
妹は僕に話をしてくれと頼んできた。

一応、僕がいない間にノートは見てるみたいで
ちょっとは読み書きも上手になっていた。
たまに字の書き間違いがあるけれど。

いつかちゃんと学校に行かせてやりたいな。
僕の分もいっぱい勉強して、いろんなことを知ってほしい。


でも、そんな日は本当に来るのかな。
枕をしきりに隠すので見てみると赤黒いシミがあった。
咳をしていて血を吐いたらしい。

次の日、仕事中にうっかり泣くと工場長に怒鳴られた。
妹じゃなくてこいつが死ねばいいのに。

なんで僕の妹なんだ?




408: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:19:25.01 ID:m9/jnbfBo


― ― ― ― ―


仕事から帰ると妹が、あの誕生日にあげたオモチャの鍵をもてあそんでいた。
箱に何かをいれて、鍵をかけたらしい。

何をしまったのかと聞くと、秘密だと言って教えてくれなかった。
気になったけど追及はしなかった。



最近、ふと気付くと妹が遠くを見つめていることが多い気がする。
その瞳がぞっとするほど澄んでいて
僕は妹がどこか遠いところに行ってしまうんじゃないかと怖かった。

声をかけるといつもみたいにちょっと笑った。
食欲が落ちて、腕が枯れ木みたいに細くなってしまった僕の妹。
まだ手も足も小さくて、これから大きくなるはずなのに。




409: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:20:10.90 ID:m9/jnbfBo


― ― ― ― ―


神様に祈ることより、別のものに祈ることが多くなった。


今日は僕の誕生日だった。
食堂の○○がこっそり高いパンや食べ物をくれた。嬉しかった。

でも帰り道、奪われてしまった。
殴られた頬がぱんぱんに腫れて、蹴られた腹はドス黒い痣になった。
口の中は鉄の味でいっぱいになった。鼻血を出したのなんて久しぶりだった。


――もし勇者がここにいたらやり返してくれただろう。
奪われたパンも取り返してくれただろう。



妹はどんどん顔色が悪くなった。
咳も止まらなくなった。
もういつも買っていた薬はあんまり効き目がないみたいだった。

パンひとつすら全部食べられなくなった。
元から小さい体が、どんどん小さくなっていく。

――もし魔王がいたら、魔法で妹の病気なんてすぐ治るに違いないのに。
魔法があったら、こんな苦しい思いさせずに済むだろう。


魔法があったら
妹は死なないのに。




410: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:20:48.55 ID:m9/jnbfBo



― ― ― ― ―


僕はずっと頑張っていた。
たくさん金を稼ぎたかったから仕事を頑張った。
いつか戦争で使うための武器をつくる工場で
怒鳴られながら、踏みつけられながら、ずっと頑張っていた。


妹を死なせないように必死に頑張っていた。
貧困区の隅の小さなアパート。
隙間風の通る灰色の部屋で、妹といっしょに夢を見ることだけが幸せだった。

「ただいま」と言って扉を開けると
「おかえり」と言って迎えてくれることだけが嬉しかった。




僕はいつか報われるはずだってずっと思っていた。




411: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:22:15.12 ID:m9/jnbfBo



― ― ― ― ―


妹がしんた゛


8さいのたんし゛ょうひ゛





412: ◆TRhdaykzHI 2014/06/23(月) 21:23:03.71 ID:m9/jnbfBo



『終末記』



頑張ったって報われることなどない。
魔法なんてものはない。奇跡もない。

「勇者」も、「魔王」も、僕たちを救ってくれるものは何もないんだった。
そんなことは分かっていたはずなのに。

ノートの最後のページの「ハッピーエンド」をインクで塗りつぶした。
全部ぐちゃぐちゃにした。
こんなもの、なんにもならなかった。

もういらない。見たくもない。

あいつが大事にしていたオモチャの箱にそれを入れて鍵をかける。
鍵は、墓にいっしょにいれた。
ずっと大切そうに首からぶらさげていたから、そのまま。


生きる意味はなくなった。
それからずっと、亡霊みたいに暮らしてる。
多分これから一生。




418: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:08:29.01 ID:UmxEe4WZo


シスター「アブラカタブラ、アバダケダブラ、チチンプイプイ」

シスター「さあ悪魔よ、我が呼び声に応え今こそ来られたし!!」



シスター「チッ……こねーな」

シスター「やっぱ本物の血じゃないとだめなのか?さすがにさわりたくねーなぁ」

シスター「とりあえずこの魔法陣は消すか……」

シスター「雑巾雑巾……」


ドサッ


   「ぐぁっ」

シスター「あぁん?」クル

勇者「いてて……ここは? あんた誰だ?」

シスター「…………」

シスター「……た……」

勇者「え?」

シスター「……ほんとにきた……」

シスター「……悪魔はいたのか……」

勇者「は?」




419: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:09:45.28 ID:UmxEe4WZo





―――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――


勇者「だから!何度も言うが俺は悪魔じゃなくて人間だ」

シスター「いやいや、じゃどっからお前現れたわけ?さっきまでこの部屋には私しかいなかったのに
     振り向いたら悪魔召喚の魔法陣の上にお前が立ってたんだぜ」

シスター「悪魔しかいねーだろ」

勇者「えっあれ魔法陣だったのか?ぐちゃぐちゃだったからただの落書きかと」

シスター「失礼な悪魔だな」

勇者「だから違うっつの。俺の姿かたちを見ろよ。どこに悪魔要素がある」

シスター「でも変な格好してる。とても一般人には見えんな。
      そんな馬鹿でかい剣なんて腰にぶらさげてんのは、役者か悪魔くらいのもんだろ」

勇者「変な格好……?普通だろ。俺は役者でも悪魔でもないよ。
   悪魔と似たような知り合いはいるが、俺は勇者だ」

シスター「で悪魔に頼みがあるんだけど」

勇者「人の話きけよ」

シスター「命と引き換えに何でも願い叶えてくれんだろ?」

シスター「ある会社を潰してほしいんだよね」

勇者「カイシャ? なんだそれ……?」

シスター「んー……。お金を稼ぐために存在してる組織。営利団体。かな?
     まあ見せた方が早いか。外いこーぜ」




420: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:10:36.93 ID:UmxEe4WZo


ブロロロロロ ……
  パッパー ゴトンゴトン……


勇者「……………………………………」

勇者「な……なんだここ……?」

勇者「……変な馬が走ってる……すげえ速い……」

シスター「あれ車っていうんだよ。悪魔にはカルチャーショックでかいんかな」

勇者「なんでみんな変な格好してんだ」

シスター「私的にはお前の方が変な格好だけど」

勇者「ごちゃごちゃしててうるさいな……それに、空気が……なんか臭い。ゲホッ」

シスター「もう慣れちまったから何も感じないよ。
     気になる奴はマスクしてるけどあんなもんじゃどうにもならねーな」

勇者「あとなんであんなにたくさん立て札が?見てて目が痛くなる」

シスター「ありゃ広告と看板だよ。そろそろ質問責めやめてくれる?自分で考えな」



勇者「うう……なんだここ。俺は確か魔王と扉を抜けて」

勇者「確か鍵守は彼に会えって言ってたな」

勇者「ここは俺たちの世界とはまた別の世界……なんだろうな。
   創世主が住んでる世界、なのか」

勇者「……ここにいるのか、あいつが」

勇者「……つーか魔王は?どこいった」


勇者「なあ、俺といっしょに女の子がいたはずなんだが知らないか?」

シスター「ふうん?しらね―けど。 魔法陣の上に立ってたのはお前一人だけだった」





421: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:11:40.86 ID:UmxEe4WZo




シスター「お、ここ止まって。これ見ろ悪魔。この会社を潰せ」

勇者「箱……? なんだこれ!?中にどんだけ小さい人間が入ってんだよ!?」

勇者「魔法か?」

シスター「魔法じゃあない。詳しい仕組みは私にも分からん。テレビっつーんだよ」

シスター「いま映ってる大企業潰してくれ。てっぺんに飾ってある緑色のえらそうな旗を焼いてくれ」

シスター「むかつくんだよ、ここのボス。きたね―商売しやがって」

勇者「これが魔法じゃないだと? じゃあ何だって言うんだよ……すげえ動いてるけど……」

勇者「頭痛くなってきた……もうわけわからん」

シスター「おい聞いてるか?この会社だぞ、間違えんなよ」



シスター「この会社はな、この街の外、砂漠を越えた先の都市にある」

勇者「はあ……そっすか。じゃあここはどこなんだ?」

シスター「ここは街の一番隅っこにある貧困区。ゴミ捨て場みたいなもんだ」

シスター「あっちにある大きな橋の向こうが一般区。豊かな連中が住んでるよ」

シスター「一般区が中央区をぐるっと囲んでるから、一般区を超えると中央区。
     私が想像もつかないくらい豪華な暮らしをしてる連中がいる」

シスター「都市に行くには中央区の駅へ行って列車に乗るしかないんだけど、
     この切符代が馬鹿だかい。貧困区の連中にゃとても買えない」

シスター「だからお前に頼んでる。あの会社を潰してこい」




422: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:12:11.10 ID:UmxEe4WZo




* * *


工場長「またヘマしたのか!!なんでお前はそう覚えが悪いんだ!?」

少年「すみません」

工場長「謝りゃいいと思ってんじゃねえだろうな!クビにするぞ!」

少年「すみません」

工場長「1時間で全部仕上げろと俺が言ったら何があろうと仕上げるんだよ!!」

少年「すみません」

工場長「てめーのせいで工場全体が不利益を被るんだ、わかってんだろうな」

少年「すみません」

工場長「今月の給料は減らす。文句はねーだろうなクソガキ」

少年「すみません」





423: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:13:05.39 ID:UmxEe4WZo



○○「……よっ。今日はなに食べる」

   「おう坊主。こっち来いよ」

   「俺も今日あのジジイに怒られちまったぜ、やんなるよな」

少年「……ああ」

少年「うん。別に」

少年「どうでもいいよ」

○○「……」

○○「妹さん亡くなって、もう1年……か?」

少年「そんな経ったっけ」

○○「まあ、なんだ、その……元気だせよ。 な?」

少年「元気だよ」

○○「……そうか? ならいいんだけどよ」




  「なあおい聞いたか今のラジオ?」

  「あの連続殺人犯が南に護送中に逃げたってよぉ。せっかく捕まったのにな」

  「それ結構前の話じゃねーか? こええなぁ。物騒な世の中だぜ」

  「ま、殺人犯がいてもいなくっても、クソみたいな街ってことは変わんないけどな」

○○「殺人犯ねぇ……。こええな」

少年「……ごちそうさま」

○○「もう行くのか? ああ、じゃあな……」





424: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:13:55.70 ID:UmxEe4WZo




スタスタ


少年「……」

少年「……」



キキーッ!!



警官「ちっ! おいあぶねーぞ坊主!!ふらふら歩いてっと引かれちまう!!」

後輩「や、先輩の運転も荒すぎますから」

警官「バッキャロー荒くもなるっつーの!!ちくしょう!なんで俺がこんな貧困区のパトロールなんかせにゃならんのだ!!」

後輩「先輩が、ずっと追っていてやっと捕まえた護送中の連続殺人犯を南で取り逃がしたからです」

後輩「そのヘマのせいで殺人課の刑事やめさせられて、ここの交番に配属されたからです」

後輩「中央区勤務でエリートだったのにも関わらず貧困区に配属になって、奥さんや子供に逃げられたのもそのせいです」

警官「うるせーっ!!いちいち冷静に返すんじゃねーよ!!!」

後輩「先輩が訊いたんじゃないですか」

警官「うるせーっ!!この●●!!殴るぞテメーッ!!」

後輩「●●じゃありません。警官がそんな言葉づかいやめてください。だから奥さんと子どもに逃げられるんですよ」

警官「そのことはもう言うな馬鹿野郎!!絶対復縁してやるクソが!!」





425: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:15:22.65 ID:UmxEe4WZo



警官「あいつは俺が絶対捕まえてやる。あいつは俺にしか捕まえられねーんだ」

後輩「一度都落ちした先輩にそんなことできるんですかね」

警官「できるに決まってんだろドチキショウ!!」


警官「おらおらどけガキども!!!車道に飛び出すんじゃねー邪魔だオラァ!あぶねーぞ!!」




426: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:15:57.65 ID:UmxEe4WZo



少年「……」

少年「……」

  
   「はい、これ」

少年「……?」

花屋の女「あげるよ。間違って切っちゃったんです」

少年「……別にいらないよ」

女「偽物の花でも、誰かにプレゼントされると嬉しいって、人間は思うものでしょ?」

女「そう思うはず」

女「なんだか君が暗い顔をしていたし、私も間違って切っちゃったことばれたら怒られるから、ちょうどいいじゃない」

女「受け取って」

少年「……じゃあ」

少年「……どうも」

女「いえいえ」





427: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:16:39.25 ID:UmxEe4WZo


アパート


少年「こんなのもらっても……な」

少年「飾ってもしょうがないし」

少年「捨てるか」


ドンドンドン!!


男「おい。いるのは分かってる。出て来い」

少年「……!」


少年「……帰れ!何度言われても僕はどこにも行かない」

男「立ち退いてもらわないと困るんですよ。こっちも遊びでやってるんじゃないんでね」

少年「急に現れて家から出て行けなんて勝手なことを言っておいて……」

少年「ここは僕の家だ。……僕たちの家だ」

男「もうここら一帯のほとんどの連中が立ち退いたんだぜ。あとはお前さんと少しだけだ。もう諦めろよ」

男「工事ももうすぐはじまる予定だ。そろそろ本格的に立ち退いてくれねーと困るよ」

男「はぁ。ここらへんで言うこと聞かないと、俺より怖い奴らが来るぜ。俺はまだ優しい方だ。
  うちのボスはそりゃあ金のためなら何でもやるからな。ガキでも容赦しねえぜ」

男「……また次は誰かが来る。そんときまでにどっか行っとけ」




少年「……」

少年「ここを出たっていくところなんかない……」

少年「この家だけは……」





428: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:18:22.05 ID:UmxEe4WZo



* * *




魔王「…………」

魔王「…………」

魔王「……ふう……いったん落ち着こう」

魔王(見慣れぬものばかりだ。どう考えても別世界……ここに創世主がいるのか)

魔王(人が多いな。どうやら魔族はこの世界に存在しないようだ。もしくはここが人だけの街なのか……)


がやがや がやがや


魔王(言葉は分かる。意志疎通は問題なさそうだ)

魔王(だが服装……かなり私はここで浮いているな。仕方ない)


ジロジロ……


魔王(視線をものすごく感じる。立ち止まっているより歩き続けていた方がよさそうだ)スタスタ

魔王(勇者くん……どこにいるのだろう)

魔王「わっ……?」


ビュン


魔王「なんだ、あの箱は? 馬車ではない。人が中にいた」

魔王「それに、こ、この中から人の声がする小さな箱は……?」

   「ちょっと!うちの店のラジオに勝手に触んないでおいとくれ!」

魔王「らじお?」

魔王(魔族はいないのに魔法はあるのか……。しかし一体どんな呪文の魔法なのだろう)

魔王(見たところこの街には魔法が溢れかえっているようだが、どれも全然仕組みが分からないものばかり。
    この世界はかなり魔法が発展しているようだ)

魔王(すごい……。落ち着いたら色々ここで魔法を学びたいな。こんな街があったなんて……)





429: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:18:56.54 ID:UmxEe4WZo



魔王(……でも)

魔王(魔法が発展している割には……街の様子がどうも変だな。
   皆貧しい身なりをしているし、道のいたるところにゴミが落ちているし)


男「……へへ」

女「ひそひそ……」


魔王(なんだか嫌な感じだ)

魔王(治安はよくないようだな。これほど魔法が発展しているのならもっと治安が良くてもよさそうなものだが)




ドゴッ


「おい……持ってんだろ?出せよ、金」

「持ってない……」



魔王「……ん?」





430: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:24:34.75 ID:UmxEe4WZo



男A「ウソつくのはやめろよ。今持ってる金全部わたしゃいいんだよ。
  お前、あっちの工場で働いてるんだろ」

少年「……金が欲しけりゃ自分で働けよ。盗みばっかしてないで」

男B「お前だってここらにいるって時点で、俺らと同じようなもんだろ!はは!」

少年「僕はお前らとは違う……」

男A「あんだと?生意気言うじゃねーか。スラム街の小僧が」

少年「それに本当に今は金がない。殴りたきゃ殴れよ」

男B「……ふん。じゃあお望み通り」


魔王「待て。何をしているのだ」スタスタ

魔王「大の男が子どもに寄ってたかって、恥を知れ」

男A「あぁ?誰だてめえ。邪魔すんじゃねぇよ」

少年「……?」

魔王「……君……どこかで私を会ったことがないか?」

少年「はあ……? ねえよ」

少年「誰だよアンタ。どっか行けよ」

男B「お前、そのガキの知り合いか?だったらそのガキの代わりに金出せよ」

少年「いや、知り合いじゃない。誰だよほんと」

魔王「……これを持って行け」ジャリッ

少年「おい!?」





431: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:27:04.49 ID:UmxEe4WZo



少年「なに余計なことしてんだよ!」

男A「ん?なんじゃこりゃ。おいこれどこの国の金だよ?こんなんじゃ使えねーな」

魔王「……あ、そうか。では私も金などない」

魔王「貴様らと同じ一文なしだ。この少年も金を持っていないと言っている。
    私たちからは金を巻き上げることはできんぞ。大人しくどこぞへ行け」

魔王「こんな真似をしていないできちんとした方法で金を稼ぐことだ」

男A「金がないくせにやたらと偉そうだぞ、この女……」

男B「俺らと同類のくせして……」


少年「おい、変なこと言ってないでどっか行けよ」

少年「こいつらは殴ってれば気がすむんだよ。余計なこと言うな」

魔王「彼らは気がすむかもしれないが、君は気がすまないだろう。殴られれば痛いはずだ。何故許容する」

少年「別に……死にはしない。ずっと我慢してればこいつらも飽きてどっか行くんだ。
   だから早くどっか行けよ。余計な世話だ」

少年「僕を助けたつもりなのかもしれないけど、僕はどうだっていいんだ こんなの」

少年「どうでもいい」





432: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:28:29.86 ID:UmxEe4WZo




魔王「どうでもよくない」

魔王「どうでもいいことなんて何一つないだろう」

少年「……アンタに何ができるんだよ。早く行かないとアンタが」

男A「ん?そういえばお前、高そうな服着てるな……中央区のお嬢様か?
   なんでそんな奴がここにいるのか知らないが、金持ってないってのはうそだろ」

魔王「先ほど渡したもので全てだ。一文なしだ。路頭に迷う予定だ」

魔王「悪いか?」

男A「だからなんでそんな自信満々に……!?」

男B「おい、こいつの服を売ればそれなりに儲けそうじゃあないか」

男A「確かにな」

少年「ほら、だから言っただろ。さっさとどっか行けよ、頭いってんのかアンタ」


魔王「ふざけたことを。後悔するのはそちらの方だぞ」

魔王「そこから一歩でも動いてみろ。泣いて許しを乞いたくなっても知らんぞ」

男A「なに……!?」

少年「え……?」

少年(まさか……銃とか?それとも武術?)

少年(全然強そうに見えなかったけど、何か奥の手があるのか……?こいつ何者だ?)

男B「ふん……ハッタリだろ!」

魔王「早合点はよくないぞ。後で自分の首を絞めることになる」

男A「こいつのこの様子……何かあるみたいだぜ……慎重にいかねえとな」







433: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:29:20.17 ID:UmxEe4WZo




魔王(……あ、杖を持っていなかったな)

魔王(まあいい。多少手加減ができなくなるだけだ。彼らに少々灸を据えねばな)

魔王(…………あれ?)

魔王(……あ。いま魔法が使えないのだった)


少年(何がはじまるんだ……?)

魔王「少年」

少年「えっ……?」

魔王「逃げるぞ」

少年「………………………………は?」



男A「おい逃げたぞあいつら!!!」

男B「やっぱりハッタリだったんじゃねえか!!コケにしやがって!!」

男A「捕まえたらタダじゃおかねえ!!ガキの方もぶっ殺してやる!!」




434: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:31:00.93 ID:UmxEe4WZo



ダッダッダッダ……


少年「……なんなの?お前馬鹿なの?」

少年「……結局煽るだけ煽っただけかよ?何もできないなら余計なことほんとにすんなよ。
   殴られるだけならまだしも、あいつらに捕まったら僕ぶっ殺されるそうなんだけど?」

少年「完全に状況が悪化してるんだけど?」

魔王「すまない。でも本当は何かできるはずだったのだ。
    今は魔力がなくて魔法が使えないだけで」

少年「……はぁ?魔法?」

少年(まずい…… 本当の本当に頭がいかれてる奴だった……妙な奴に絡まれた……)

魔王「それに、君が捕まることはないから安心してくれ」

魔王「君はそこを右に曲がれ。私は左に行く」

少年(よかった、これでこいつと離れられる)

少年「分かった」



少年「はあ、はあ……!」

少年「ってこっちに来たらどうするんだよ……!」


ドガシャーン!


男A「左だ!!追うぞ!!」

男B「分かってる!!」


少年「……!?」

少年「……あいつ……わざとやったのか?」




少年「……別に僕には関係ないことだ」

少年「……僕はあのとき、どっか行けって言ったのに、あいつが首つっこんできたから」

少年(自業自得だろ)

少年(変なこと言う奴だし、あんまり関わり合いたくない)

少年(……明日も仕事だ。早く帰ろう)





435: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:32:59.65 ID:UmxEe4WZo



* * *


魔王「……」

男A「っへへ追い詰めたぜ。行き止まりだ。おいあのガキはどこ行った?」

魔王「さあな」

男B「まあいい。お前の服もらうぜ。そうすりゃ一月は不自由しないで暮らせそうだ」

魔王「いまここで裸になれと言うのか?この私に、 女になれと?」

魔王「私に、こんな屋外で●●物を陳列しろと? ふざけるのも大概にしろ」

魔王「私の服を売る前に、自分の服を売ればよいではないか?それとも自分が服を着ていることに気付いていないのか?
   下を見てみろ、シャツをズボンとブーツがある。それを売れ」

男A「こ、こいつ馬鹿にしやがって……中央区の連中はこれだから腹立つぜ」

男B「俺たちのこといつもそうやって見下しやがる。思い知らせてやるよ、世間知らずのお嬢さんによぉ!!」

魔王「いいだろう、かかってこいっ! こちらとて今まで伊達に生き伸びてきていない。
    みくびったこと必ず後悔させてやる!」


ザバァァァァン!!


男A「ぶっ!?」

男B「なんだっ!?」

魔王「? 水? 空から……」

少年「逃げろ!」

魔王「さっきの少年。何故……」

少年「早くしろよっ! 横の建物に入れ」





436: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:35:01.48 ID:UmxEe4WZo





男A「あっくそ!女が逃げたぞ!」

男B「ビルの屋上から水ぶっかけやがったのはさっきのガキか……!あいつらもうただじゃおかねえ!
   俺はガキをとっちめてくる、お前は女を追え」

男A「ああ!」



魔王(横の建物、横の建物……これか!変な建造物だな……レンガでも石でもない)ガチャ

男A「どこ行った、うおおおおおお!」

魔王「通り過ぎたか。馬鹿で助かった。後もう一人……」


少年「一人こっち来たか……」

男B「へっ 馬鹿め。屋上なんてこの階段しか逃げ場がねえんだ。もう逃がさないぜ」カンカン

男B「大人しくまってやがれ……!」カンカン

少年「そろそろか」


シュルッ シュルルルル


男B「なっ パイプを伝って下りるだと!?てめえ、そんなアクション映画みたいなことしてんじゃねえよ!」

少年「ひぃぃっ 怖っ……!! くそもう二度とこんなことしないっ」スタッ


タッタッタ……


魔王「そのまま直進しろ。そこ1.5mほどジャンプして」

少年「なっ!!お前なにまだここにいるんだよ馬鹿かよ」

魔王「いいから」サッ




437: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:36:25.36 ID:UmxEe4WZo



男B「待てクソガキ!!!」ダダダ

魔王「……」クイ


ピン


男B「のわっ!? なっ、な、……」

男B「な!?」


 バキッ ドンガラガッシャーン

 ギャァァァァ……


少年「はあっ はあ…… え? あの男は? なにこの穴」

魔王「さあ。開いていたのだ。そこの建物にあった薄い板を上にかぶせて落とし穴にした」

少年「ああ、確かここ工事中だったな」

魔王「助かった。ありがとう」

少年「……いや……まあ……」

少年「……今回は無事に済んだけど、もうああいうのやめた方がいいと思うよ。じゃ、ここで」

魔王「待ってくれ」

魔王「君に妹はいないか?」

少年「…………!」

少年「なんで……」

魔王「私も何故だか分からないのだが、君のことをどこかで見た気がするのだ」

少年「……いないよ」

少年「いない。人違いだろ」





438: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:37:47.02 ID:UmxEe4WZo




魔王「……そうか」

少年「じゃあ、さよなら」

魔王「あっ 待ってくれないか。ここに来たのは初めてで、連れともはぐれてしまって……
   できればここのことを教えてほしいのだが」

少年「え……いやだよ」

少年「どうせアンタ中央区からきたいいとこのお嬢様なんだろ……こんなとこにいないでさっさと家に帰れば」

魔王「中央区?いや違う。その……記憶喪失で。どこから来たのか分からない」

少年「記憶喪失なのに連れがいたことは覚えてるのか?」

魔王「部分的記憶喪失なのだ」

少年(怪しい……)

魔王「頼む。この街である人物を探さないと、私の……街が危ないような気がする。だからこの街の知識がほしい」

少年(…………)

少年「まあ、少しの間だけ……なら」

少年「……名前は? アンタの名前」

魔王「私は魔王だ」

少年「は?」

魔王「魔王だ」

少年(……………うわ………………………)



少年「やっぱさっきのなしということで……じゃあ、ここで解散」

魔王「待ってくれっ、嘘ではない。本当のことなのだ」

少年「ついてくんな……」




439: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:39:14.78 ID:UmxEe4WZo



* * *


少年「ついてくんなって言ってんだろ!!」

魔王「ここが君の住んでいるところなのか?建物はたくさんあるが、人気が全くないな……。まるでゴーストタウンだ」

少年「聞けよ! 家までついてくるつもりかよ。絶対家には上げないからな」

魔王「家族がいるのか?」

少年「……いねーよ。わりーかよ。どうせお前には待ってる家族がいるんだろ、早く帰れよ。どっか行け」

魔王「いや、こちらでやらねばならんことがある。それに私も血の繋がっている家族はもういない」

少年「え?」

魔王「ところで、この街は夜でもとても明るい。火ではないな、何故あんなにも明るいのだ」

少年「あれは……電気だけど。火なんて街灯に使うのは何百年も前のことだよ」

魔王「でんき……」

少年(電気もしらねーのかよ……まじでこいつなんなんだ……早く縁を切りたい……)


魔王「でも、君の住んでるこの地区は全然灯りがないな」

少年「……もうほとんど誰も住んでないから」

少年「……!! 家の前に……あいつ……」





440: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:44:54.17 ID:UmxEe4WZo



黒服「やっとお帰りですか」

少年「……また来たのかよ。帰れよ!僕は立ち退かないぞ!!」

黒服「そんなに強情を張られると、こちらも強硬手段にでるしかなくなりますが」

少年「何をされようとこの家を渡すつもりはない。ほかのみんなが立ち退いたって僕は……」

少年「っ……!早く帰れ!!」ガチャ

黒服「社長のご命令ですので。早くこの書類にサインを頂きたいのです。
    家に上がらせてもらいますよ」ガッ

少年「なっ やめろ!勝手に入るな、この野郎!出て行け!!」

黒服「汚い家ですね。 で、お父様とお母様は?会わせて頂くまでここに居座り続けますよ」

少年「お父さんもお母さんもいねーよ!この家には僕一人だけだ……
    だから、この家だけが家族の思い出なんだよっ!壊されてたまるか!」

黒服「じゃお前がこれにサインすれば全部終わるわけだ。どうする、死ぬかサインするか?」チャッ

少年「……け……拳銃?」ゴク

黒服「……」

魔王「けんじゅう、とはなんだ?」

少年「……んなっ…… なんでお前まで入ってきてんだよ!!!っも帰れよ、お前ら帰れ!!」

黒服「ん……?家族はいないってさっき言わなかったか?誰だ」

少年「僕が訊きてえよ。誰だよこいつ」

黒服「部外者ならとっとと出てくんだな。拳銃っていうのは、引き金引いただけで人を殺せる便利な道具だよ」

魔王「では何故その危険な道具を少年に向ける?やめろ」

黒服「フン。……ん?よく見ればなかなかかわいい面してるお嬢さんじゃないか。こりゃいい拾いもん……」

魔王「さわるな。薄汚い豚め」

黒服「ぶ……豚!?」ゾクッ




441: ◆TRhdaykzHI 2014/06/27(金) 21:47:59.84 ID:UmxEe4WZo



黒服「この鍛え上げた体脂肪4%の肉体を持つ俺に……言うに事欠いて豚だと?」

魔王「貴様の内面が贅肉だらけの気色悪い豚だと言ったのだ。武器を子どもに向けるな」

魔王「こちらへ来い。4足歩行でな。首輪も必要か?しつけのなってない駄犬だ」

黒服「く、首輪!? だ……駄犬!?!?」ゾクゾク

黒服「な……なんたる屈辱……この俺に」スタスタ

魔王「犬は2足歩行しないだろう。私の話を聞いていたのか。とっとと屈め」

黒服「な、なんだとぉ……!?」ペタン

魔王「そうだ、いい子だ。さあそのまま外の手すりまで来い。……遅い。駆け足」

黒服「く、くそう……こんな娘に……」ゾクゾク

魔王「手すりから身を乗り出せ。もっとだ。もっと」

黒服「落ちてしまうじゃないか!」

魔王「犬ってどうやってなくんだっけ」

黒服「ワン!ワン! ワ……」

魔王「よくできたな」ドン


アーーーーーーーーー…


少年「馬鹿で助かった……」

魔王「馬鹿で助かったな」




446: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 20:59:40.28 ID:hfpVOjiho



魔王「彼は?知り合いではなさそうだな」

少年「当たり前だろ。……あいつは……どっかの会社から派遣されてきた奴だよ。この間は違う奴がきてた」

少年「……このあたりは貧困区でも一番貧しいところなんだ。
   さっき僕たちがいたところは、その中で最も治安が悪いところ」

少年「お偉いさんたちは、掃きためを壊してここら一帯に楽しい楽しいテーマパークをつくるんだってさ」

少年「治安が悪くて、貧乏人ばっかり住んでる汚らしいところを壊して有効活用しようってわけだ」

魔王「てえまぱあく……?」

少年「……遊園地」

魔王「ゆうえんち……?」

少年「疲れる……とにかく、客がいっぱい来て金儲けできるところだよっ」

少年「もうこのあたりに人が住んでないの見たろ。あいつらが脅してここの住人を追いやったんだ」

少年「……」

魔王「そうか……。それはひどいな。家を奪うなんて。 では取引をしないか?」

魔王「またあのような者が来たら私が追い払う。そのかわり、私にこの世界のことを教えてくれ」

少年「……ハァ?次来る奴もさっきみたいな変態ドマゾ野郎とは限らないだろ」

魔王「大丈夫だ。自信がある」

少年「……なんの?」




447: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:00:41.11 ID:hfpVOjiho




魔王「だから明日も来ていいだろうか?頼む。君しか今頼れる人がいない」

少年「……いやだ。首つっこんでくんな。それに僕は明日仕事だから」

魔王「仕事をしているのか?君はいまいくつだ」

少年「……11。……」

魔王「……そうなのか。えらいな君は。よしよし」

少年「なんだよっ!やめろ。……お前みたいな金持ちにこんなことされたくない」

魔王「金持ちではないのだが、気に障ったのならすまん。でも明日また会いにきてもいいだろうか」

少年「……………………じゃ明日だけ……」

魔王「ありがとう。恩に着る。ではまた明日」ガチャ




少年「……どっか泊まるアテあるんだろうな」

魔王「ないが、別に外で寝ることには慣れている。昔はよくそうしたものだ」

少年「ないって……ここらへん特に夜は治安悪いって言っただろ。……どうするんだよ」

魔王「何とかなるはずだ。君は明日の仕事のため早く寝た方がいい」スタスタ

少年「……~~身ぐるみ剥がされるぞ!………………分かったよ、あがれよ!」

少年「黒服追っ払ってくれた礼だ。ただし今日だけだぞ。今日だけだからな」

魔王「いいのか?ありがとう。悪いな」

少年「ただこのベッドには触るな。戸棚も開けるな。クローゼットも開けるな」

魔王「分かった」




448: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:04:10.71 ID:hfpVOjiho





* * *


教会


勇者「そのカイシャ?っていうのを潰せって言われたって、どうすりゃいいんだよ」

シスター「文字通り悪魔のすごい力で物理的にぶっ潰してくれ」

勇者「いや、でも俺にはほかにやることがあって……そんな暇はない。都市って遠いんだろ?」

シスター「列車で数百キロ走るからまあ遠い。さらにこっから中央区の駅まで行かないといけないからもっとかかる」

勇者「れっしゃ?えき? はあ……」

勇者「とにかく無理だ。俺は今日街を歩いてくる。魔王と創世主探さないといけないんだ」


スタスタ


シスター「魔王……?創世主? そっちの方が強そうだな……」





449: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:07:09.88 ID:hfpVOjiho



勇者「妙な世界に来ちまった……」

勇者「どうするか。ま、適当に歩くか。しっかし治安の悪いところだなぁ。魔王大丈夫かな……」


キキーーーーッ!!


勇者「!?」

警官「おう兄ちゃん。なんだお前、変な格好してんな。旅行者か?こんな貧乏地区に」

警官「その腰にぶら下げてるもん見しちゃくれねえか?」

勇者「剣か?いいよ。はい」

警官「ほほう。本物か……かなりよく斬れそうだねい」

勇者「まあな、けっこう名のある剣なんだ」

警官「そうかそうか。で、両手を上げてくれるか?そう。揃えてな」

勇者「?」

警官「はい逮捕」ガチャ

勇者「あーーーーーーーーーーーーっ!?」

勇者「て、手枷!?おいなにするんだよ!!俺が罪人だって言うのか!?」

警官「バリバリ罪人だろうが!!こんな大型刃物、ぶらぶらぶら下げて歩きやがって!!銃刀法違反だバカヤロー!!
    おらパトカーに乗れ!!署に来い!!てめーみたいな不良犯罪者を捕まえて俺は地道に点数稼ぎしてんだよ!!」

後輩「こすいですね先輩」

勇者「剣持ってて何が悪い!?普通だろ!」

警官「あー?開き直んのか?さっさと乗れドアホ!!」

勇者「どわっ」ヒョイ

勇者「剣返せ!!」サッ

警官「あっ オイ待て犯罪者!!! くそ逃げやがった。追え後輩。車を出せ!!」

後輩「へいへい」


ギャリリリリリリリリ


勇者「うわーっ 何だアレはえーっ!!国王より速い!!」





450: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:10:32.09 ID:hfpVOjiho



警官「チッ! 逃げ足の速い野郎だ。次見たらタダじゃおかねえ」

後輩「そういえば先輩。聞きました?このあたりでまた行方不明者が出たって」

警官「あ?どうせ家出かなんか喧嘩に自分から首突っ込んだんだろ。ここじゃそんなんしょっちゅうだ」

後輩「さあ……どうですかね。でも最近いつもより数が多いんですよ」

警官「じゃ元から悪かった治安がもっと悪くなったってこった」

後輩「先輩鈍いですね。もしかしたら連続殺人犯、先輩がずっと追って、さらに捕まえたと思ったら逃がしたあいつが
   このあたりに潜伏してるかもしれないってことですよ。チャンスじゃないですか」

警官「へっ。んなわけあっかよ。そんな出来すぎた話そうそうないだろ」




451: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:12:03.14 ID:hfpVOjiho


教会


シスター「なんだ。もう帰ってきたんだ?」

勇者「はあはあ……なあ、これ外してくれ」

シスター「は?手錠なんて外せるわけねーだろ。なめてんのか」

勇者「くそっ! 邪魔だ!!」ガチャンガチャン



シスター「ああ、そりゃ剣とか銃は大っぴらに見せて歩いちゃだめだ。法律違反。ま、隠し持ってる奴も多いけど」

勇者「……剣持ってることが違反!?どうなってんだこの国は……」

勇者「……この国のこと、もっと教えてくれないか」

シスター「ここは国が持ってるいくつかある街のひとつ。ぐるっと囲んでる街壁の外には砂漠が広がってて、
     滅多なことじゃ外に行く奴も外から来る奴もいないよ」

シスター「金持ちと金なしがいる街。中央区はこの世の天国みたいに整っててきれいだが、ここら一帯は掃きためみたいなもん」

シスター「人が暦を数えだしてから1927年。
      惑星全域を巻き込んで勃発した第5次世界大戦後、いまは休戦中」

シスター「でもいつかはじまるWW6のためにどこの国も兵器を大量生産中だ」

シスター「なんか質問ある?」





452: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:13:46.46 ID:hfpVOjiho




勇者「世界大戦?戦争、だよな……」

勇者「この世界に魔族はいるのか?」

シスター「魔族はいない。私がお前を召喚したようにやらない限りね。
      まさかいるとは私も思ってなかったけど、世の中なにがあるかわかんねーな」

勇者「魔族がいない……人間だけの世界なのに、どうして戦争なんか?理由は?」

シスター「いや、普通に資源の取り合い合戦」

シスター「みんなが豊かな暮らしをするためにゃ高エネルギー物質が必要不可欠。
      まあそれも戦争でほぼ使っちゃって、この惑星からはそういうのどんどん干からびてってる」

シスター「資源を得るための戦争で資源を失っちゃうんだ、馬鹿だろ」

シスター「あと環境問題も深刻だね」

シスター「この間、お前森はないのかって聞いたけど、森なんてもう惑星どこ探してもないんじゃない。
     植物はかろうじて残ってるかもしれないけど中央区くらいかな、あるの」

シスター「めちゃくちゃ高いらしいよ。私は本物の花とか木見たことないね。大昔にもう全部枯れちゃったんだ」
 
勇者「え。でもそこらへんにあるじゃないか」

シスター「ありゃ偽物。外観用」

シスター「最初にこっち来たとき、空気がくさいって言ったな。大気汚染も進んでるよ。
      中央区や一般区は大気洗浄機できれいな酸素つくってるけど」

シスター「あっちもいつまで続くかね……いつかまかなえなくなっちまうだろーよ。植物も森もないんだから」


シスター「この街はいつも灰色だよ。ずっと何十年も前からあの灰色の雲が空を覆ってて、
      私は青い空や黒い夜を見たことがない。ずっと曇りの灰色だ」

シスター「太陽もね」



シスター「ここは少しずつ死んでいってる世界なんだ。近いうちに多分全部終わっちまうよ。もうほとんどなにも残ってない」

シスター「でも、みんなそのことに気付いてない。あんまり気にしてないみたいね」

シスター「私が大切じゃないのかなって思うものと、みんなが思うものはちがうみたい」




453: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:16:48.39 ID:hfpVOjiho



勇者「……正直難しくてよく分かんないんだが」

シスター「おいおい頑張って説明した私の身にもなれよ」

シスター「あとお前が魔法だって思ってるのは全部科学技術だから。魔法とか使える奴いねーから」

勇者「カガク……だと?また分からん単語が……意味分からん……」

勇者「じゃああといっこ聞いてきいか。あんたはシスターで、ここって教会なんだよな」

シスター「そだけど」

勇者「……ここに来てる人間、俺しかいなくねえか。本当に教会なのか……。シスターこんなだし」

シスター「教会だっつの。人が来ないのは仕方ない。もう今の時代、誰も神や信仰になんて時間をかけないんだよ」

シスター「近代化して、真っ先に切り捨てられたのが信仰だよ。今はみんな目に見えるものしか信じない。
     全員 物質主義者になっちまったのさ」

シスター「見返りのあるものにだけ時間をかける。まあ、合理的だ。無駄のない賢い生き方だよ」

勇者「……。もっと5歳児くらいにでも理解できるように話してくれないか」

シスター「お前それ自分で言ってて悲しくなんないの」


勇者「誰もこないのに、みんな信じてないのに、じゃあなんであんたはシスターになったんだ」

シスター「私はあまのじゃくだからさ。みんなが信じてないものを信じてみたくなったのさ」

勇者「……つーか今思うとシスターが悪魔召喚とかしていいのか?俺悪魔じゃないけど」

シスター「神様なんていないって言うから、じゃあ悪魔ならいるのかなって思って」

シスター「結果、神様はいないけど悪魔はいるらしいね」

シスター「いい世の中だ」





454: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:19:29.32 ID:hfpVOjiho



* * *


パラパラ……


勇者「なあ、なんで教会に本棚がある。礼拝堂におくか普通」

シスター「別にいいだろ誰もこねーんだから。読んでもいいけど」

シスター「読み終わったらそろそろ中央区の会社ぶっ潰しに行けよ。ちんたらしてんなよ」

勇者「だから俺は……大体あんなへたくそな魔法陣で召喚に成功するわけないだろ……」

シスター「あん?私が一生懸命書いた陣を馬鹿にするんだ?」ゴリ

勇者「お前ほんとシスターの鑑だよ。いてーよ」



勇者「えーなになに。英雄譚、冒険記、年代記……ふーん、神話なんてのもあるんだ」

シスター「この教会の宗教とは別のも混じってるよ」

勇者「それ、いいのか?異教って言うんじゃ」

シスター「別にいいんだ。どうせどの神様も信じられてない。だからここに置いといてやるの」

勇者「……」パラパラ

勇者「ふうん。全然俺たちの世界と違うな、やっぱ」

勇者「…………ん?」





455: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:20:18.34 ID:hfpVOjiho



シスター「いまは誰もほんとに来ないけどさ、前はちょくちょく来てた子どもがいたんだ」

シスター「兄と、たまに妹。妹の方は体が弱くて、あんまり来れなかったんだけどね」

シスター「兄の方は、今お前がいる席でよくそのボロッちい本たちを読んでたよ。
      暗記して家で妹に聞かせてやってたんだってよ」

シスター「貸してやるって言ったんだけど、全部持ち帰ると重いからって、ほとんど暗記してた。
      学校に行ってたら結構成績よかったんだろーな」

勇者「……俺と、この世界にいっしょに来た連れの名前がある」

シスター「ん? それは遠い昔の異国の神話だよ。どれ?」

勇者「これと、これ」

シスター「お前の名は太陽の神様、連れの名は月の女神様だね」

シスター「なにお前、悪魔じゃねーの。詐欺かオイ」

勇者「それは最初から言ってる。だけど人間だからな」

勇者「よく来てたっていうその子どもに会いたいんだけど、会えるかな」

シスター「1年前くらいからパッタリ来なくなったよ……
      まあ、家は知ってるから、案内してやることはできる」

勇者「案内してくれ」

勇者「多分そいつが俺の探してた奴だ」




456: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:22:07.76 ID:hfpVOjiho



* * *


騎士「ま、魔女さん。泣きやんでください」

魔女「無理だよぉ…… うううぅぅっ なんで黙って自殺なんかするの!なんなのも~~~……
   死んじゃったらもう二度と会えないんだよ……ひぐ」

姫「……」

竜人「……」

騎士「…………泣きやんでください魔女さん!」

騎士「僕はあの二人が、こんな時に何の理由もなく毒を飲んで死んだりしないと思います!!」

騎士「絶対何か理由があったんだって思います。そうしなければならなかった理由が!」

騎士「毒薬はまだつくれますか!?」

魔女「えっ…… うん……材料を集めれば……二晩もあればできるけど」

騎士「じゃあお願いします!僕が毒を飲んで、二人を連れ戻してきます!」

魔女「へっ……!? な、なに言ってんの!?」

魔女「死ぬっていうの……?」

騎士「……はい。でも、何とかなりそうな気がするんです。勇者さんと魔王さんがなんで毒を飲んだのか分からないけど
   ……でももし二人が死の先にある何かを探しに行ったなら、僕も手伝ってきます」

騎士「あの二人に比べたら非力な僕かもしれませんが、必ず二人を連れ戻してきます。
   だから、泣かないでください!大丈夫です!!」

魔女「……、……」

騎士「僕の名前は騎士です!」

魔女「騎士……本気?」




457: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:23:21.07 ID:hfpVOjiho




竜人「……私も毒を飲みます。そうですね、騎士さんの仰る通りです。
   これには何か理由があるはず。お二人を手助けせねば」

姫「私も……飲みますわ」

騎士「え゛っ……姫様は、さすがに……。やめた方が……」

姫「いいえ。私も勇者と魔王さんを信じます」

魔女「……だったらあたしだって信じるよ。ずっと信じてきたもん。 あたしも飲む」

忍「集団自殺か何かですか?」

妖使い「おもしろそうだね。俺らも飲むよ。できれば美味しい毒薬がいいんだけど」

忍「えっ、ちょっと勝手に」

竜人「魔女の薬である限り、その望みは捨てた方がよいでしょう」

魔女「うるさいな。美味しい毒なんてつくれるわけないじゃん!
   ま、いいや。今日からつくるから、みんな材料とるの手伝ってくれる?」




458: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:24:14.02 ID:hfpVOjiho


姫「……ふー……」

騎士「うわあ、すごい色……。あっいえとっても美味しそうですね魔女さん!」

魔女「でしょ? じゃあみんな……かんぱい」

竜人「……では一気に」


ゴク


妖使い「おえーっ まずっ!!!うわあこれはひどい」バタッ

魔女「でも効果は抜群でしょ?ほら、妖使いすぐ死んだ」バタッ

竜人「死ぬ間際までふざけてあなたたちは全く! うぐっ」バタッ

姫「そんな皆さんコントみたいに死ななくても…… ああ」バタッ

騎士「吐きそう……」バタッ

忍「ちょっと皆さん早いですよ、待ってくださいよーっ!!」




459: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:30:10.61 ID:hfpVOjiho



冥府


鍵守「……あれ」

鍵守「また」


竜人「ハッ!ここは!? 魔王様は!?」

魔女「……うう~ここはどこあたしはだれ」

姫「あんなコロッと死ぬなんて……風情も何もなかったわね」

鍵守「ええと……おおいな。ちょっとみなさんここにあつまって……」




鍵守「というわけで、勇者と魔王は月にあるトビラを開けて、あっちのセカイにいきました」

騎士「よかった!やっぱりあの二人がああしたことには意味があったんだ」

鍵守「あと4人なら、ボクもトビラの向こうにおくれます……さあ、いそいで。カギはあいています」

鍵守「彼に……会いに」

魔女「え?4人じゃないよー。あと二人いるんだよ。妖使いと忍はどこいったんだろ?」

姫「そう言えば……」

鍵守「えっ?あと2人……?」



    「……なるほど!」


妖使い「トビラは冥府の月にあったのか。どうりで見つからないはずだ!」

忍「前、彼が来たときには月が出てませんでしたもんね」

妖使い「そうか、君が隠し持ってたのか。ぬかったなぁ、ハッハッハ」

忍「ぬかりましたねー若。ははは」




460: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:31:28.62 ID:hfpVOjiho



騎士「……?なに言ってるんですか?」


鍵守「え…… え?あなたたちは……  ふわっ!」

忍「あなたはちょっと邪魔なので、とりあえずおとなしくしててくださいね!」

忍「こんなことなら、冥府から先に取りかかればよかったですね」

妖使い「全くだ。勇者と魔王が一緒に行動するのはできるだけ避けたかったんだけどな」

妖使い「そのために色々してきたってのに……つまらないな」

妖使い「おまけに扉を開けられてしまった」

妖使い「どうせ、無駄だと思うけどね。万が一ということもある……」


妖使い「ま、とにかく、過ぎてしまったことを嘆くより今できることをしよう。
     君たちは扉の向こうに渡さないよ」

忍「いずれこの冥府ももう少しで消えます。ここでその崩壊を待ってもらいますから!」

竜人「どういうことか、説明して頂けるんでしょうね」

魔女「君たち何者?」





461: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:34:25.70 ID:hfpVOjiho






妖使い「俺たちは道化役だ」

忍「もしくは観客?」

妖使い「邪魔者で」

忍「傍観者」

妖使い「トリックスター」

忍「悪役かも」

妖使い「あるいは、創世主の記憶を受け継ぐ写し身」

忍「彼がこの世界に覚醒したと同時につくられた、役割を持たない無干渉者です」



姫「創世主!?あなたたちは人間ではないの?」

騎士「東国からやってきたっていうのは、嘘だったんですか!?
   ずっと、僕たちを騙していたんですか」

妖使い「東国なんてこの世界には存在しない……
     いや、君たちにとっては在るものなのかな?」

妖使い「在ってもなくても、この世界の東国なんて俺は知らないね」

魔女「……敵なんだね。邪魔するつもりなら、押し通るよ」

竜人「そこをどいてください。私たちは扉の先に行きます」

忍「だから無理ですって。行かせないって言ってるじゃないですか?」

騎士「……どかねば斬ります」

妖使い「どうぞ」

騎士「……っ! はああああっ!」


ズバッ


騎士「!? なに!?」

妖使い「俺たち自身に君たちを消す力はない。消すのは影の専売特許だ」

妖使い「でも君たちの攻撃が俺たちを傷つけることは絶対あり得ない。そういう設定だからさ、ごめんよ」

妖使い「よいしょっと!」パッ

騎士「ぐ……っ!?」


ズダンッ!!


姫「騎士!」

騎士「ぐは……!」




462: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:37:48.52 ID:hfpVOjiho



魔女「騎士が死んだ!仇をとるからね!妖使いめ、この野郎!」

騎士「じんでないでず魔女ざん……!!」

竜人「魔女と姫様は下がっててください! このっ……!」


ザシュッ ザク


竜人「くっ 何故だ……あたってはいるのにすり抜ける」

忍「だから、無駄ですって。勝てません。
  大人しくここで待っててくれれば、冥府に来てまで痛い思いしなくて済むんですよ」ゴキッ

竜人「っが……!  くそっ!」

忍「消す力はありませんが、再起不能にまで痛めつけるくらいの力はありますテヘヘ」ググッ

竜人「!! ぐあぁぁ…………っ」

姫「やめなさい!! 待って……訊きたいことがあるわ」

姫「……どうして東国からの使者だなんて嘘をついてまで、私たちと共にいたの?
  そんなに強い力を持っていながら、何故」

妖使い「勇者と魔王が結託して彼に歯向かうようなことは……少し避けたかった。
     崩壊は止められないとは思うけど、彼には僅かに不安があった」

妖使い「俺たちはあの二人の絆を壊すためにつくられた」

忍「二人は人と魔族であることをちょっと教えてあげれば、すぐ崩れてましたね」

姫「でも、そんなにあの二人を危惧していたなら、どうしてまず最初にあの二人を物理的にどうにかしなかったの?」

姫「心理的に二人を引き離すのは確実な方法とは言えないわ」

忍「……確かに。なんででしょうね? 若」

妖使い「その方法があったか。しくじったな!」

姫「……え。気づいてなかっただけですか」

魔女「とぼけないでよ。君たち二人ともさ、ほんとは……もしかして」

魔女「!! ぅ……」ドサ

騎士「き、貴様!」



妖使い「君たちは誤解してるよ」





463: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:40:47.51 ID:hfpVOjiho


妖使い「彼が大昔を起点に世界をつくったと思ってるかもしれないけど違う。
     世界の起点は今から数年前」

妖使い「あの和平の日がまずあって、そこから過去がつくられた」

妖使い「あの日まで、過去から未来がつくられたんじゃない、未来から過去がつくられていたんだよ」


妖使い「はぁ……それにしても、君たちに彼の気持ちが分かるかな」

妖使い「あの子のためにつくった戦いのない美しい世界だったのに
     蓋を開けてみれば……何だ?あの凄惨な百年前の戦争は?」

妖使い「彼はあんなことまでつくってなかった。あんなの望んじゃいなかったよ」

妖使い「たった一言「戦争が100年前にあった」ってことを書いただけで、あんな風になっちゃうなんて思いもしなかったさ」

妖使い「世界はとっくに創世主の手を離れてたんだ」


鍵守「でも……ボクは……」

妖使い「君は黙っててくれよ」

妖使い「そこの子どもがあの子の死をきっかけにこっちの世界で目が覚めたように」

妖使い「彼もあることをきっかけにこっちの世界で目が覚めたんだ」

竜人「さっきから彼と言いますが……彼って誰ですか。創世主?」

忍「ほんとの創世主は扉の向こうにいますよ」

忍「彼は、創世主の『この世界を拒絶する感情』」

妖使い「だから、ほんとのほんとにこの世界はもう捨てられたんだ。君たちの役目はもう終わった。
     劇はもう閉幕だ。役者はもう帰ってくれ。さっさと消えてくれよ」

姫「創世主が拒絶したって関係ないわ!私たちは私たちのために生きてるんだもの、そんな……」

忍「はいはい。もういいです」トン

姫「うっ……!」




464: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:43:13.12 ID:hfpVOjiho



忍「もう喋るの疲れちゃいましたよ」

魔女「うう 魔法が使えたら……」

忍「魔法なんて最初からなかった。みんな夢を見ていただけです」

妖使い「ドラゴンなんていない。魔女なんていない。姫なんていない。騎士なんていない」

妖使い「空なんてない。海なんてない。太陽なんてない。星なんてない。雪なんてない。森なんてない。月なんてない」

妖使い「勇者なんていない。魔王なんていない」

妖使い「剣なんてない。魔法なんてない」

妖使い「ハッピーエンドなんてない」

妖使い「全部、さいしょからなかった。こんなもの、なんにもならなかったよ」


鍵守「そんなことない……!!」


バリッ……


忍「……? あれ」

妖使い「体が……。へえ、何したんだ? 偽物のくせに……」

鍵守「ボクは確かに偽物だけど……でも、こんなのあの子がのぞんでないってことだけはわかる」

鍵守「みんなたって!はやく……月のトビラへ……」

鍵守「ボクも……ながくはこのふたりを、とめてられない……」

騎士「……! は、はい。魔女さん、姫様!しっかりしてください!」

竜人「鍵守さん……あなたは一体?」

鍵守「……はやくいって……」




465: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:44:09.55 ID:hfpVOjiho



ギィィ…… バタン


鍵守「はあ……はあ……」

忍「うげげ、どうしよう若。みんな行っちゃいましたけど」

妖使い「行っちゃったね……やべーよ」

妖使い「でも驚いたな。君がわずかな時間だけでも俺たちの動きを止められたなんて」

鍵守「トビラのカギはもうかけたよ。もう、彼らのじゃまはさせない」

鍵守「もうやめようよ……こんなのだれものぞんでないよ……」

鍵守「かなしいよ……」

妖使い「でもそれが俺たちの存在意義だから」


忍「鍵ですか。ふーん。時間をかければ解錠できそうですね」

妖使い「すぐ取りかかろう」

妖使い「全く厄介なことしてくれるなぁ。妖孤、ちょっと出て来い」

妖孤「はい?」

妖使い「お前、ちょっと鍵穴に突っ込まれろ」

妖孤「久々にかける言葉がそれですか!?無理言わないでくださいよ~~~」




466: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:46:03.33 ID:hfpVOjiho




* * *


少年「暇なら、その服どうにかしなよ。それ着てるだけでここらへんじゃ目立つ」

少年「それ売って、適当に服屋で買えば。じゃ僕は仕事に行くから……」




魔王(と言われて来てみたが……困った……)

魔王「頼む、私の服を返してくれ」

服屋「もうこの服は買い取ったんだ、返せないわ。
   銀のボタンがついた服なんて初めて見た。こりゃいい品だ」

服屋「金は渡したし、あなたが選んだ服はもう着てるじゃない。似合ってるけど?」

魔王「選んでない。君が勝手に押しつけて着せたんじゃないか……」

魔王「上はいいとして、なんだこれは。こんなものを着て外を歩けるか。これは服ではない。下着というものだ」

服屋「下着じゃないよ。ショートパンツっていうものだよ」

魔王「パンツじゃないか!」

服屋「ああもう面倒くさい。帰ってくれ。あざーした」


ペイッ





少年「ふう……やっと仕事が終わった……」スタスタ

少年「あれ?偶然だな。 ……ああ、服。そっちの方がやっぱ目立たなくていいよ」

魔王「よくない……」

少年「?」

少年「……で、あとこの街の何が聞きたいわけ。もうほとんど昨晩話したと思うけど」

魔王「そうだな…… む、このチラシは?」





467: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:51:41.68 ID:hfpVOjiho




魔王「そういえばここらへんでたくさん見かける」

少年「ああ、これは最近噂になってる連続殺人犯の指名手配書。
    中央区で何人も残虐な方法で殺した殺人犯だ」

少年「警察に一度捕まったのに、護送中に逃げたんだって」

魔王「ここでは、警察というものが秩序維持組織なのだったな」

少年「そ。 にしても警察知らないって…… まあいいや」

少年「いろいろ教えるのも今日までだからな。終わったらどっか行けよ」

魔王「分かった」

少年「とりあえず、家に……」


ガシ


少年「……え?」

魔王「!」

男A「よォ~~~~お二人さん。この間はどうも」

男B「やぁっと見つけたぜ……」

少年「……おっ……お前ら」

男A「お前たちのおかげでえらい目にあったぜ……今日はその借り、返そうと思ってさ」

男B「ちょっと来いよ」グイ

魔王「離せ」

少年「やめろよ、離せよ」




468: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:53:24.25 ID:hfpVOjiho



男A「なめた真似しやがって。今日はそうはいかねえぞ」

魔王「痛いぞ。離せ」

男A「そう言われて離す奴がいるかよ」

少年「……ん?」

少年「……お、おい。なんか、車が」

男B「ハッ、もうハッタリには騙されないぜ。パトカーが来たって注意を引くつもりなんだろ?
   ばーか、んな子ども騙しにひっかかハギュッ」


―――ドンッ!!!


男A「」

男B「」

少年「……!? だ、だれだ……?」

女「こんにちは」

少年「……ほんとにだれだ!?」

女「ああ、あなたはこの間店の前を通った子じゃない。私はあっちで花屋の売り子やってる者よ」

女「なんか……今轢いた? まあいいや。乗る?」

男A「ぐ、ぐぐ……て、てめえ……なにしやがる!」


女「どっちでもいいけど。大変そうなら乗せてあげてもいいよ」





469: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:54:54.62 ID:hfpVOjiho



* * *


女「ここが私の家」

少年「随分店から離れてるんだな……」

女「うん、まあね。ここらへん、隣の家とも数キロ離れてるから寂しいよ。じゃ入れば」


魔王「広いな」

女「お茶いれるよ。ええっと、カップあるかな」

女「……見つからないや。グラスしかないみたい。水でいい?」

魔王「……?」

少年「別に、いいです。……その、すぐ帰ります」

女「さっきも言ったけど、またあの男二人組はあなたたちのこと狙うと思うよ。
  この家、広いし。しばらくここにいた方が賢明じゃない」

少年「でも僕は明日も仕事だし、帰らないと……」

女「命と仕事なら、命の方が大事なんじゃないのかな。分からないけど」

女「とにかくしばらく泊まっていけば? 私は構わないから」




470: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:56:45.11 ID:hfpVOjiho



翌日


女「じゃ、私は出かけるから」

少年「ちょっと待ってってば……花屋に行くんだろ?僕も連れてってくれ。
   仕事に行かないと……クビになったらまずい……」

女「だめだよ。危ないでしょ。じゃあね」


ブロロロロ……


少年「なんて強引な人なんだ……」

魔王「でも、一日くらいなら仕事は休んでも平気なのではないか?」

少年「平気なわけないだろ……あのハゲジジイがなんて言うか……。
   僕みたいな子どもが働ける場所なんてそうそうないのに」

少年「クビになったらどうしよう……」

魔王「……この街では、君のような子どもが多いのか?」

少年「そりゃいるだろうさ。こんな街なんだから」

少年「あーもう……それに、家のことも心配だ。僕がいない間にまたあいつらが来たら」

魔王「確かにそうだな。私もずっとここにいるわけにもいかない。
    彼女が帰ってきたらもう一度頼みこんでみよう」




471: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:58:10.29 ID:hfpVOjiho



バシャバシャ


少年「はーっ……もう、なんなんだよ」

少年「このごろ変な奴ばっかり会うな……」

少年「あの男二人組にも目つけられたし……最悪だ……」

少年「ん?」

少年(これ……シェービングクリーム?あの女の人だけで住んでるんじゃなかったのか)



魔王「少年、これは一体なんだろう。鳴き声がするし、ぶるぶる震えているが、生き物なのか?」

少年「ハァ? そりゃ冷蔵庫だよ。生き物なわけないだろ……機械だ」

魔王「れいぞうこ? 象の仲間か?それにしては小さいが」

少年「だから生き物じゃないって。電気で中の物を冷やしてるんだ」

魔王「電気……雷で冷気をつくりだしているのか?それは一体どういう仕組みなのだ。
   こういったものは全て魔法ではなくカガクギジュツだと君は言ったが」

魔王「魔法なしでどうやってそんなことを実現させている?よく調べたいな……」

少年「だめだよ、あの人が冷蔵庫は開けるなって言ってただろ。
    それに人の家の冷蔵庫勝手に開けるのは失礼だ」

少年「あの人がテーブルの上に食べ物置いてってくれたから、食事はそれで済むし」

魔王「……でも開けたいな……」

少年「でもじゃねえよ。だめだってば」




472: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 21:59:50.47 ID:hfpVOjiho





少年(……こんな具の入ったスープなんて初めて飲むな)

少年(うまい……じゃなくて)

少年「なあ、明日こそあっちに車で送ってってくれよ。帰りたいんだ」

女「うん。いいですよ」

女「あなたたちは姉弟? あんまり似てないのね」

魔王「君はここに一人で住んでいるのか?」

女「そうだよ」

少年(……?あれ? じゃあ昼見たあれは別れた恋人のとかかな)

魔王「昼に庭を見させてもらったのだが、かなり凝っているのだな。
    花屋で働いていると聞いたし、植物が好きなのか?」

女「別に好きじゃないよ。たまたまね」

女「スープおかわりする?まだあるよ。少年くん、いる?」

少年「あ……はい、じゃあ」

女「よそってくるね」




473: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 22:00:54.02 ID:hfpVOjiho


キッチン


女「……?何、どうしたの?」

魔王「その……頼みがあるのだが」スタスタ

魔王「れいぞうこを見させてもらってもよいだろうか」

女「冷蔵庫?そんなもの見てどうするの?」

魔王「仕組みが気になる。中を見てみたいのだ」

女「仕組み……? うーん、よくわかんないけれど、中ごちゃごちゃしてるから
  見られるの恥ずかしいと思うの。だからだめ」

魔王「だ、だめか……どうしても?」

女「どうしてもよ」

魔王「………………どうしても?」

女「こんなに冷蔵庫に興味示す子初めてだな」

女「でも、だぁめ。絶対だよ。分かった?」

魔王「……ああ」シュン




474: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 22:05:39.17 ID:hfpVOjiho


―――――――――――――
――――――――――
――――――




少年「……」スースー

魔王(……)パチ




魔王「ふ、ふわぁ……お手洗いはどこだっただろうか」

魔王「慣れない家だから迷ってしまった。うっかりキッチンに来てしまった」


ブゥゥゥゥン……


魔王「あっ……れいぞうこがまた鳴いてる。触ると暖かいし、本当にこれは生き物ではないのか?」

魔王「寝ぼけてて、自分が何をしているのか、わ、わからないな」

魔王「しまった。寝ぼけてれいぞうこを開けてしまった。でも寝ぼけてるから仕方ない……」

魔王(本当に冷たいだと……?どうなっている。食材が色々入っているな。……どこから冷気が?
    雷を冷気に変換しているのは一体どこなのだ?どんな方法で?魔法なしでどうやって?)

魔王(もっと奥を見たら何か分かるかな?)ゴソ

魔王(………………………………ん?)

魔王(え? これ……え?)

魔王(……ひとの…………うで……?)








女「なにをしているの?」

魔王「!!」ビク




475: ◆TRhdaykzHI 2014/07/02(水) 22:08:25.76 ID:hfpVOjiho



女「そんなに冷蔵庫が気になるの?変わった子ね」

魔王「す、すまない。寝ぼけて……どうやらトイレの扉と冷蔵庫の扉を間違えてしまったようだ」

女「どんな寝ぼけ方なの」

魔王「悪かった。もう寝ることにする、おやすみ」

女「ねえ」

女「なにか見た?」

魔王「寝ぼけていたので何も見えなかった。私は寝ぼけると一切何も見えなくなることで巷で有名なのだ」

女「そう。すごいね」





スタスタ

……バタン



女「………………」




479: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:35:22.87 ID:D37hExuxo




魔王「少年少年少年少年少年っ 起きろ、起きろ起きろ」

少年「ん~~…… なんだよぉ……」

魔王「起きろ、今すぐここから逃げるぞ!」

少年「はぁ~~? 意味わかんねえよ……まだ夜だろ……」

魔王「いいから早くしろ!」


タッタッタッタ……


魔王「彼女は人殺しだ」

少年「お前、まぁた変なこと言って…… うぅっ寒い。夜は冷える……
    なあ戻ろうよ。こっから僕の住んでる家までどれだけあると思ってるんだよ」

少年「徒歩じゃ数時間かかるって……」

魔王「だめだ。とにかく、人のいるところまで行かないと」

少年「だから、それも遠いって。来る時見ただろ?ここらへんは店も家も何もない」

魔王「建物はあるではないか」

少年「でも人はいないよ。テーマパークの建設予定地だからさ……
   もうみんなどっか行った後。もうすぐ取り壊される予定の空き家だけしかない……」

少年「……寝ぼけて夢でも見たんだろ……どうせ」

魔王「夢ではない、確かに見た。れいぞうこの中に人の腕があったっ!
   男性の腕だった。多分、ほかの部位も奥に入っていたと思う。見れなかったが……」

少年「男性……? そういえば、あの人、一人で住んでるって言ってたけど、
   洗面台に髭剃り用のクリームが置いてあったんだ」

少年「何か事情があるのかなって思ったんだけど、もしかして……その男性があの家に元々住んでた?
   で、あの女の人が彼を殺して、成り変わったのか?」

少年「……でもなんで……そんなことを?」

魔王「少年、ひとつ聞きたい」




480: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:36:13.62 ID:D37hExuxo



魔王「花屋であの女性が働き出したのは、いつなんだ」

少年「……え……いつって、はっきりわかんないけど……」

少年「……さ、最近だよ、たぶん。その前は……男の人が店員だった。
    すごい毛深くて、背が高い人……」

魔王「…………」

魔王「私が冷蔵庫で見た腕も、とても毛深かったな」

魔王「……彼女が逃亡したという連続殺人犯だろう。あそこに隠れ住んでいたのだ。
   しかし、手配書と顔が違うが、それは一体……?」

少年「……整形……とか?」

魔王「んん? それはつまり変身術みたいなものか?」


タッタッタッタ……


魔王「とにかく、警察に行こう。警察に……ハァ……ハア」

魔王「あとどれくらいだ……? 随分……走ったが」

少年「まだ半分くらいだ。でも、多分朝まで僕たちがいないことには気づかないんじゃないか」

少年「夜明けまで時間はまだまだある。余裕で警察署に……」


ブロロロロロ……


少年「けいさつ、しょに……いけるかなっておもったんだけど」

少年「車の音が後ろから聞こえるのは気のせいかな……気のせいだといいんだけど」

魔王「……残念ながら空耳ではない」


キキッ バタン


女「別れのあいさつもなく、ひどいじゃない」

女「そういうの、悲しいと思うよ。わかんないけど」


ゴトン


少年「な、なんだよそれ?」





481: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:42:06.72 ID:D37hExuxo




女「……これ? チェーンソーって言う機械よ」

女「昔、木を切るのに使われてたの。でも、それ以外にも用途はあるのよ」

少年「……だ、誰にも言わないから……頼む」

女「死ぬのが怖いの? 生きてるのが楽しいの?」

女「いいね、感情があるって。私、分からないの。そういうの」

魔王「……人殺しなんて……何故そんなことをする?君が連続殺人犯か?」

女「そうでしょうね」

魔王「こんなことをして楽しいか」

女「楽しいわけないでしょ」

女「でも人を殺すときだけ私は人として何か感じられるんだ。
  ずっと静かだった水面に、その時だけ波紋が広がるの」

女「なんだろうね。罪悪感かな」

女「人をひどい方法で殺せば殺すほど、感じられるのも大きくなる」

女「だから、まず人の腕一本これで切るわ。そうすればほとんどの人は抵抗をやめるの。
  それからもう一本の腕は薄く輪切りにスライスしていきます」

女「足は桂剥きよ。皮膚はこっちのナイフで薄く切り取っていくの。筋肉は筋が切りづらいから専用のはさみで。
  そうやって肉全部切り落としたら骨はトンカチで砕くわ」

女「胴体は腹を開けて中をぐちゃぐちゃに混ぜてしまうわね。頭は……」

魔王「やめろ!! そういうことを言うのは本当にやめろ」ペタン

少年「な、なに座りこんでるんだよ……!逃げないと……っ」

魔王「体に力が入らないだと? 状態異常の魔法か?」

少年「お前の腰が抜けただけだろ!!」


カチッ ギャリリリリリリリ


女「チェーンソーって、四肢を切断できるのもいいけど、この大きさと喧しさがいいと思うわ。
  見た人全員、いまのあなたたちのような顔をするんだから」

魔王「…………上等だ。貴様ごときに私が殺せると思っているのか?めでたい頭だな。
   返り討ちにしてくれる。かかってこい!!」

少年「だからなんでお前はそういうこと言っちゃうの馬鹿なの?勝算ゼロだよ、絶望的だよ」

魔王「……こういうのは……どんなに勝ち目がなくても心意気で負けてはいかんのだ!」

魔王「少年。逃げろ。走れ。ここで私があいつを引きとめる」

少年「はあ!?無理に決まってんだろ、うすうす気づいてたけどお前全然運動能力ないし……」

魔王「う、うるさい!逃げろと言っているのが聞こえないのか、さっさとしろ」

少年「でも……」

魔王「早くしろ!!私にまかせろと言っている!!イエスかはいで返事しろ!!」

少年「うっ……は……はい……っ」タッ





482: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:44:14.90 ID:D37hExuxo



女「逃げたわ。まあ、どっちでもいいのよ」

女「じゃあ殺されてね。これが私の生きがいだから仕方ないの」

女「できるだけ悪く思って。憎んで悲しんで。それが大きければ大きいほど……私も辛いわ」

女「辛い、苦しいっていう感情をその時だけ持てるの。自分が無機物じゃない、人だって実感できるんだ」


スタスタ


魔王「……狂ってる」

魔王「貴様の感情のために差しだせる命など、一つたりとも持ち合わせていない!」






* * *




シスター「……ん?おかしいな。この時間、少年は仕事を終えて帰宅しているはずなんだがな」

勇者「ここがその少年の家? でかいな」

シスター「全部が全部そうじゃない。この扉がその少年の家。アパートっつーんだ」

シスター「どこかに出かけてるのかもしれねー。また明日来よう」

勇者「仕方ないか」


シスター「ここらへんには、近いうちに遊園地ができるそうだ」

シスター「お前に潰すよう頼んだ会社の社長がそれを企画した」

勇者「家を壊して遊園地? ……俺にはあんまりこの街の考え方は理解できないな」

シスター「あの少年の家もそのうち壊されてしまう」

シスター「……一度ね……たまたま会ったときに、教会に来ればって彼に言ったんだけど断られたんだ」

シスター「……彼には妹がいた。病気だった。
     その女の子のために彼は必死に働いて薬を買ってたんだけど」

シスター「その子は……薬で治る病気じゃなかったよ」

シスター「私は昔からそういうの分かるんだ」






483: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:45:08.66 ID:D37hExuxo




シスター「兄の方にも妹の方にも言えなかった……」

シスター「言えなかったよ」

シスター「全くさぁ……。ところでお前は少年の知り合いか?探してる人物が少年だって言ってたけど」

勇者「まぁ、知り合いというかそうじゃないと言うか……」

勇者「とにかく会いたいんだ」

シスター「ふうん。まあいいけど」

勇者「それにしてもこっちの服は動きづらいな。なんかギシギシする」

シスター「与えてやったんだから四の五の言わない。つーか動きづらいのは手錠のせいじゃねーのか」

勇者「一理ある。くそっ!いつまでこれつけてりゃいいんだよ!!」


ファンファンファンファン


勇者「はっ……!?」

警官「見つけたぞ!!この間の銃刀法違反野郎!!今日は逃がさねえからな!!!」

シスター「まずいな。私はサツに見つかると色々いやだ。逃げさせてもらう」

シスター「囮になれ」ドン

勇者「おいっ!!!」




484: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:49:26.81 ID:D37hExuxo




強盗団A「おい……見たか今の?あのボロアパートから去ってった男」

強盗団B「見た見た。すっごい宝石埋め込まれた剣持ってた」

A「ありゃ相当な値打ちものだ。服装は金持ちにゃ見えないが、
  何らかの事情があって身を隠してるんだろうさ」

B「あそこがあの男の家なのかな?行ってみようよ。いいのが見つかるかも」

A「鍵かかってるが、開けられそうか?」

B「こんなの、ちょろいちょろい」ガチャ


A「んん……?中もボロいな。ベッドとテーブルと……必要最低限のもんしかない」

B「お宝は隠されてるものだよ。戸棚とかクローゼットとか開けよう」


A「……うーん。しばらく探してみたが、僅かばかりの金しかないぞ」

B「大金は自分で持ち歩いてるのかもね。 あれ?この箱なんだろ。オモチャの箱」

A「なんじゃこりゃ、俺のピッキングスキルをもってしても開かねえぞ」

B「も、もしかして、オモチャの箱に入れることでカモフラージュしてるのかな。
  中に入ってる宝石とか宝石とか宝石とかを……!?」

A「おう、その可能性は大いにあるな!この箱だけ持ってこうぜ、アジトの専門の器具使えば開けられるだろ。
  こんなはした金は置いてっちまおう。とったって仕方ねーや」

B「FOOOOO 宝石宝石!お頭もびっくらどんだ!驚くぞー!」





485: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:50:44.66 ID:D37hExuxo



強盗団アジト


A「あ? なんだこの女?アジトの前に倒れてるが何者だ?」

B「気絶してるみたい……とにかくお頭に伝えてこよう」





―――――――――――――――――
―――――――――――――
――――――――



姫「うぅ~~ん…… ん?どこかしら、ここ?」

姫「確か妖使いさんと忍さんが創世主側で……でもなんとか扉を抜けたのよね」


がやがや がやがや がはははは


姫(……お店?私が横になっていたのはソファだわ。知り合いは……誰もいないわね)

頭領「ああ、目が覚めたか?」

姫「あ、あなた誰ですか?」

頭領「それはこっちが聞きたいね。でも先に聞かれたからにゃ答えよう。
   俺はこの強盗団のリーダーだ」

姫「ご……ご、強盗団!?」

頭領「ここは俺たちがアジトにしてる地下の店だ。あんたは店の入り口に倒れてた。
   随分いい身なりをしているようだが何者だ?」

頭領「答えようによっちゃあ、ここからあんたをお家に帰してやることもできなくなってしまうわけだが」

姫「わ、私は何も知らないわ。店の入り口で倒れていたというのも偶然よ」

頭領「ふーん……。お家は中央区か?」

姫「?? どこ?それ。知らないわ」

頭領「しらばっくれるか。そんな高そうなドレス着れる奴が中央区以外にいるかよ」

頭領「まあいいさ。あんたにはこの強盗団の一員になってもらうぜ。
   アジトの場所も、俺たちの正体も知られちまったからな」

姫「な……なんですって!?嫌よ!!私に犯罪の片棒をかつげというの!?ふざけないでちょうだい。
  アジトの場所も、正体も、あなたがベラベラ勝手にしゃべったんじゃないの!!」

頭領「あんたが聞いたんだろ?」

姫「聞かれたからって正直に答える犯罪者がどこにいるの!ごまかしなさいよ!
  とにかく私は絶対に強盗だなんて卑劣な真似はしないわ!!出て行きます」

頭領「待て待て」チャ

姫「何です?それは。 随分堅そうなチョコレートね」

頭領「銃をチョコだなんて言うなんて、肝の据わったお嬢ちゃんだ。
   気の強い女は嫌いじゃない」




487: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 19:56:19.32 ID:D37hExuxo



頭領「一歩でも動けば頭に風穴が開いちまうかもしれないな」

姫「……!? 武器?」

頭領「銃も見たことないのか。こりゃ筋金箱入り娘だ。とにかく俺たちの仲間になれ」

頭領「むさい男が多くてな、前々から俺はもっと女を仲間に入れたかった。歓迎するぜ。
   とくにあんたみたいないい体してる女をな」

姫「じろじろ見ないで。気色悪いわ」

頭領「やっぱり女は出るとこ出てないと魅力半減だな。あんたはその点目の保養になる。
   この間、あんたみたいに仲間になった女がいるが、俺からするとあんなまな板……」

ガシ

頭領「ん?」

ドゴッ!!!!!!

魔女「まな板?あの調理道具がどうしたの?何の話?」

魔女「ところで話は変わるけどさー、女の子の魅力を胸とかで判断する男ってさー、
   じゃあてめえの股についてるもんはどんだけ立派なのか見せてみろって感じだよね」

魔女「ていうか最低だし、万死に値するし、私刑に処せられても文句言える立場じゃないよねー」

姫「あ、ええ!? 魔女さん!?どうしてここに!?」

魔女「姫様久しぶり!強盗団のリーダーの魔女ちゃんだよ!」

頭領「お前、躊躇なく俺の頭をテーブルに叩きつけた上に、ちゃっかりリーダーの座を奪うんじゃないよ」

魔女「お頭の頭をテーブルに……ってちょっと洒落みたいでおもしろいね」

頭領「この俺の血まみれの頭部を見ても、おもしろいって思えんのか? 悪魔か お前は」





488: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:03:00.61 ID:D37hExuxo




A「ひえ~ お頭大丈夫か?魔女ちゃん相変わらず過激だな」

B「お頭の頭部なんてどうでもいいから、早くこの箱の鍵開けましょ。よそ見しないで」

頭領「オイ。てめーらも聞かない奴だな」ゴッ

A「いたーっ!!」

頭領「そりゃ貧困区のボロアパートから盗んできたって言ったよな。ふざけんな。返してこい。
   俺たちが盗るのは金持ちからだけだ。忘れたのか?死ぬか? ええ?」

B「違うんだってお頭!絶対あそこに住んでるあの男、金持ちだもん!訳ありであそこにいるだけ!」

B「しっかし、あれからずっと頑張ってるのに全然開かないわね、これ。
  オモチャだから簡単な仕組みのはずなのに変だなぁ」


姫「魔女さん、あなたどうして強盗団のメンバーになってしまったの!?」

魔女「だって姫様と同じようにメンバーになるよう脅されたんだもん。
    それになんか……楽しそうじゃん!」

姫「た、楽しそうって……ああ私あなたみたいに一度生きてみたいわ」

魔女「大丈夫、強盗って言ってもこの人たちそんなに悪い奴らじゃないよ。
   この街はどうやら私たちのいた世界と全然違うみたいなんだ」

魔女「下手に動くよりこっちの方が都合よくない?寄らば大樹の陰ってね」

魔女「強盗にいいも悪いもないです!犯罪よ!」

魔女「お金持ちからだけ盗むと言ったわね…… 義賊のつもりなのかしら?」

頭領「違うね。俺たちは貧乏人のためにやってるのでも、金のためにやってるのでもない」

頭領「ロマンのためだ」

姫「……」



魔女「ね?ほら、楽しそうでしょ?馬鹿みたいで」

姫「ええ、そうね……馬鹿みたいだわ」

強盗団「お頭ー、馬鹿みたいって言われてますよ ハハハ」

頭領「言われてるな。ハハハ」カチ


――ダァン!!




489: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:04:34.24 ID:D37hExuxo



姫「……? ええっ? か、壁に穴が……!!一体なんなのそのジュウシマツとか言うのは?」

頭領「ジュウシマツはかわいいよな。俺も飼いたいとは思ってる。
   でもやっぱまずはオカメインコからかなって……」

強盗団「お頭、話ずれてます。ジュウシマツじゃなくて、銃だぜ。お嬢ちゃん」

頭領「そう、これが銃。あんたにも扱いを覚えてもらうよ」

頭領「馬鹿みたいって言うが、馬鹿でいいんだ。俺たちは馬鹿やりたいだけなんだ」

頭領「この世界には夢がない。ロマンがない。
   なあ知ってるか、昔はどこぞの大陸に黄金が埋まってるとか、だれだれが残した財宝があるとか」

頭領「そんな情報ひとつで大勢の人間が身一つで動いたんだ。
   今はない海を渡って遠く離れた地へ、全てを捨てて、あるかどうかも分からん宝を求めてな」

頭領「昔は科学技術なんてなくて、医療も全然発達してなくて、それに比べりゃ今の世の中は天国なのかもしれない。
   でも、昔はそのかわり夢があった」

頭領「ないかもしれない宝を追い求められる、馬鹿やれるパワーがあった」

頭領「俺たちはそれをやりたいだけだ。
    目死んだまま手近にある金のために働いて生きるなら、夢追ってどこかでぽっくり死にたいね」

姫「……」

頭領「で、どうだいお嬢ちゃん。あんたはどうする。今だけ出口の扉を開いてやろう」

頭領「出て行きたいなら今しかない。俺たちに加わるってんなら、名乗りな」

姫「…………」

姫「……私は犯罪を肯定するわけではないわ」

姫「姫よ」

頭領「歓迎しよう」




490: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:08:51.42 ID:D37hExuxo


―――――――――――――――――
――――――――――――
――――――


姫「でも、早く勇者と魔王さんを探さなければね。魔女さん、手がかりは見つけた?」

魔女「ううん。外でて探してみてるけど、全然」

姫「困ったわね」

魔女「でも、私と同じところに姫様が現れたってことは、きっとみんな近くにいるんじゃないかなー」


強盗団「魔女はその子のことヒメ様って呼ぶけど、変わった名前だな」

強盗団「馬鹿、ヒメっていうのは昔いた偉い人だよ。オウサマの娘さんだろ」

姫「昔、いた……? どういうことですの。今はもういないのですか?」

魔女「今はいないんだってさ。びっくりだよね」

姫「いない!? じゃ、じゃあ……王族が国を治めないで、どなたが政治を行うの!?」

魔女「国民から人気投票で選ばれた人が、だいとーりょーになって政治やるんだってさー」

頭領「王政なんて何百年も昔に終わった。今じゃどこの国も共和制だが」

姫「きょうわ制って何!?だいとーりょーって何!!どういうこと!?」

頭領「落ち着け。こわい」




頭領「……というわけだ。政治の主役は国民。国民主権だ。
   大統領とは別に、国民から選ばれた代表者もいて、そいつらが議会つくって会議で法律やら何やら整備してる」

姫「……」フラッ

魔女「姫様はねー、本当の姫様だから、ちょっとショッキングだろうね」

頭領「本当の姫様って……んなわけないだろ。そういうごっこ遊びか?」

姫「し、信じられないわ。つまり、誰でも政治を行うことができると?
  王家に生まれた者ではなく、というかもう王家そのものが存在しない?」

姫「王制の次に来る共和制……議会……国民主権……いずれ私たちの世界もそうなるのかしら」

姫「私が王族ではなく、普通の人間……に」





491: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:13:11.49 ID:D37hExuxo







姫「……」

魔女「姫様ー、灯り消すよ? もう寝ようよ、ねむーい」

姫「……あ、はい」


パチ


魔女「どうしたの?昼から何か考えてるけど。やっぱ王家なくなるのショック?
   別にさ、あたしたちの世界までそうなるとは限らないじゃん。気にすることないよ」

姫「……あ、ええ……そうですね。……でも、私が考えていたのは……少し違うの」

姫「……も、もし……もしですよ?もし私が王族でなかったら……その~、
  魔族の男性の方とも、お、お付き合いできるのかな~って……」

魔女「別に今のまま、姫のままでも遊びならいいんじゃない?付き合うのは無理かもしれないけど。姫様かわいいし」

姫「あ、遊びって何です。そんなのできません。ややややっぱり正式にお付き合いしませんとそういうものはっ」

魔女「えーー、ごめん、そんな本気だったんだ。じゃあやめた方がいいよ。
   あいつの性格からして王家の女の子とは絶対付き合わないよ。駆け落ちなんて絶対しない」

魔女「ていうかマジ!? あんなののどこがいいの? 姫様……あいつ5枚くらい猫かぶってるんだよ?
    けっこう昔は荒んでたよ!?元ヤンだよ、あれ!!騙されちゃだめだよ!!」

姫「それは見ててうすうす分かりますね」

姫「で、でもでもお優しいですし……仕事熱心ですし、色々できてすごいなって思うし」

魔女「……姫様はさ~、せっかく王族っていうすごい一族に生まれたんだから、
   今持ってるものを大事にした方がいいよー。ずっと不自由なく暮らしてきたんでしょ?」

魔女「魔族の男なんかと噂が流れたら色々とマズイんじゃないの?
   ちゃんと人間の貴族を好きになって結婚した方がいいって。それでずっと幸せだから」

姫「な……確かに私は衣食住に困ることなく暮らしてきましたが……!
  でも、私にとって幸せが何なのかは私が決めることです」

姫「そんな風に王家の者全て、何も悩むことなく幸せだなんて決めつけられるのは、少々心外ですわ」

魔女「むかっ。あたしは姫様のためを思って言ったんだけど!」





492: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:18:24.58 ID:D37hExuxo




姫「ずっとずっと、父の期待や国民の期待通りに生きてきたのよ。
  枠から外れることなく、きちんとした一国の姫として」

姫「……い、一度くらい、私だって……私の思い通りにしてみたいって考えるのはいけないことなの?」

魔女「ていうか国王はなんて言ってるわけ?」

姫「お兄様は……好きにしたらいいと仰ってたわ。
  自分が昔やりたい放題やったから、とやかく言える立場ではないと」

魔女「だからって一時の、たかが恋ひとつで全部捨てるつもり?……はあーあ、ばっかじゃないの?」

姫「な!なんですって!」

魔女「姫様って誰にも嫌われたことないでしょ。国の王女として誰からも好かれて、
   いつもあったかい部屋で寝られて、おいしいご飯が食べられて……」

魔女「家族がいて、かわいい洋服着れて、何でも欲しいもの手に入れられて」

魔女「あたしが持ってないもの全部姫様は持ってたのに、それを捨てるなんてあり得ない」

魔女「ずっと羨ましかったなー。苦労しないで、何もしなくても好かれてさ。
    みんなの期待通りに生きてきたって言うけど、生きられるだけマシじゃん!」

姫「な、なによ!それなら私だって魔女さんのことが羨ましかったわ!
  いつも好きなことやって、誰にも縛られずに楽しそうで!何にも気にしないで……!」

魔女「なにそれ!姫様にあたしの何が分かるの!?」

姫「魔女さんに私の何が分かると言うの!?」

魔女「はああ? もう怒った!怒っちゃったもんね!じゃあ言っちゃうもんね!」




493: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:21:03.21 ID:D37hExuxo



魔女「どうせ姫様一目ぼれなんでしょ?」

魔女「優しいって言ってたけど、それって本当だったのかな?」

魔女「君は姫なんだよ。魔族にとってその立場が大事だったの」

姫「……!」

魔女「敵だった国王の娘で、探さなくちゃいけない王子の妹で、王族で、重要人物だったんだから」

姫「……」

魔女「……私もからかったりして悪かったよ。
   でも姫様が王族の立場まで悩みだすほど本気だなんて思ってなかったから」

魔女「まあ、人間にいい男いっぱいいるじゃん!お金持ちで優しくてイケメンよりどりみどりだよ」

魔女「ね、だから元気だしなよ」




494: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:22:03.55 ID:D37hExuxo





姫「…………~~もう寝ます!おやすみなさい!!」プイ

魔女「ちょっと、話はまだ」

姫「寝ます!」

魔女「……なによっ!あたしは君のために言ったのに!ばか!
   姫様のばーかばーか!ばーか!もう知らないもんねーだ!」

姫「私だって魔女さんのことなんかもう知りません!魔女さんのばかっ!」




翌日



姫「……」プイ

魔女「……」プイ

B「……?」

A「なになに?喧嘩?」

頭領「おいおい、昨日まであんなに仲良かったのにどうした?」

姫「仲良くなんてありません」

魔女「お頭の目って昨日まで節穴だったんじゃないの?」

頭領「まじかよ……眼科行かなくちゃな」

頭領「とまあ冗談はここらへんにして。喧嘩はいいが計画に支障は来たすなよ。
   チームの連携が大事なんだからな」

姫「……一体何をするつもりですの?」

頭領「次はかなりの大仕事だぜ」


頭領「……列車強盗だ」





495: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:22:45.12 ID:D37hExuxo



* * *


騎士「はぁ~……」

騎士「どこだ、ここ……」

騎士「ずっと歩いてるけど、勇者さんと魔王さんどころか、
   一緒に扉を抜けたはずの3人も見つからない」

騎士「おまけに……」


ヒソヒソ……ヒソヒソ


騎士(めちゃくちゃ見られてる……あああ……)

騎士(さすがに目立ちすぎたから、甲冑は脱いでどっかのベンチに置いてきたんだけど……
    それでも色々やっぱりほかの人たちと違うな)

騎士(剣も捨てられないし、ていうか捨てたら騎士として何かが終わりそうな気がするし)

騎士(困ったな……)


騎士(……ん?あれって…… もしかして竜人さん!?)





496: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:26:32.64 ID:D37hExuxo



ドン


竜人「あ、すみません」

チンピラ1「おうおういてーな兄ちゃん。骨折れちまったよ」

チンピラ2「新聞なんて読んで歩いてっからだよ、あぶねーだろーが!!
       どうすんだオイ、親分の腕が折れちまっただろーが、治療費払えよ!」

チンピラ1「治療費3000万払えよ」

竜人「え……!?この街の人は少しぶつかっただけで骨折してしまうのですか!?
    骨密度大丈夫ですか? ちょっと失礼」グイ

竜人「……?骨折したにしては腫れもないし……というか掴んでも痛がりませんね。本当に骨折ですか?」

チンピラ3「ごちゃごちゃうるっせぇんだよ!お前、この方を誰と心得る?
       ここら一帯を仕切るマッフィーアのそれなりの地位にいる方だぜ?」

チンピラ4「この方怒らせると怖いぜぇ。痛い目見たくなけりゃ治療費払いやがれ」

竜人「生憎金は持ち合わせていないのですが。そもそも骨折してませんよね……」

チンピラ5「げははは、中央区と一般区どっちから来たのか知らねえが、ここらへんのルールを教えてやるよ」

チンピラ1「俺が骨折したと言えばしてるんだ。どうやら、お前さんは頭の回転が悪いようだな。
       おい、お前ら。そこの路地に兄ちゃんを案内してやれ。サツに見つかると面倒だからな」

チンピラ1「最近こっちに来たあの警官、やたらと仕事熱心で困るぜ」

チンピラ2「おらっ こっち来い!!」

竜人「ちょっ……なんですか、金なら無いと…… やめっ……」


ドカッ! バキッ! ドスッ! ゴキッ!! ボグッ ボキギッ!! ドゴッ!




497: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:29:20.37 ID:D37hExuxo



路地裏



竜人「火」

チンピラ3「はいっ!!!」シュボ

竜人「…………」スパー


チンピラ1「あ、あのう……」

竜人「服」

チンピラ1「へっ……ふ、服…………?」

竜人「お前の服よこせ」

チンピラ1「はい!!今脱ぎます!! ではここに置いておきますので!」

チンピラ5「……俺たちは、じゃあ、ここで……し、失礼しても……」

竜人「有り金全部置いてけ」

チンピラ3「では、さ、財布をここに…………」



竜人「……」

竜人「ふざけてんのか?」ガッ

チンピラ4「ヒィィ!」

竜人「誰がこんな紙切れよこせと言った」

チンピラ4「えっ で、でもっ それが持ってる金全部だ!本当だ!嘘じゃない!!」

チンピラ1「もう許してくれ!悪かった!!金なら全部渡した……!」

竜人「本当だろうな」

チンピラ1「本当だ、信じてくれぇ」

竜人「……チッ……行け」

チンピラ1「ありがとうございますっ!!」ダッ



竜人(こんな紙が金……?)

竜人「……変わった世界だな」

竜人「…………」スパー





騎士「…………」ガクガク

竜人「ふぉあッ!?!?」




498: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:35:45.20 ID:D37hExuxo



竜人「き、き、騎士さん!? あ、あれっ偶然ですね!よかった、探していたんですよ」

竜人「いやですね、いたのなら声をかけてくれればよかったのに!
   いつからいらっしゃったんですか?」

騎士「す、すみません……助太刀に参ろうとすぐ駈けつけたのですが……」ガクガク

騎士「……お、お煙草……吸われるんですね……」

竜人「ああいえ、違います!昔ちょっとやってたので、懐かしいなぁと思っただけで!
   すみません今消すので。ハハハハ」ザリザリ

竜人「あ……!騎士さんの分の服も頂けばよかったですね。
   私たちの格好だと、こちらでは目立ちますから」

騎士「だ、大丈夫です。お気づかいなく……」ブルブル



竜人「……しかし、騎士さんに会えたのは幸運でしたが、
   一体ほかの方はどちらにいらっしゃるのでしょうかね」

竜人「魔王様はともかく、あの勇者様なら、どこかで大騒ぎを起こしているだろうと思って
    新聞を見ていたのですが記事になっていないようです。とても意外です」

騎士「確かに……勇者さん調子悪いんですかね。あんないつもトラブルの中心にいるような人が」

竜人「まあ、地道に探すしかないようですね。
   もう夜になりますし、どこかに宿をとりましょう。金ならさきほど頂きました」

騎士「そ、そうですね。しごく穏便に、平和的手段で頂いていましたね。では行きましょう」

騎士(ヤベーーーーーーーこっえーーーーーーーーーー)

騎士(早く誰かと合流してえーーーーーーーー誰でもいいから合流してえーーーーーー)





499: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:43:25.72 ID:D37hExuxo



* * *



勇者「ハァ……はあ……やっと撒いたか……」

勇者「くっそー なんで今日は剣持ってないのに追いかけまわされなきゃなんないんだ。
   完全に顔覚えられた、厄介だ」

勇者「まあいいや、また見つからないうちにかえろ」

勇者「……」

勇者「どこだ、ここ!!」


勇者「あ、あれっ!? そういえば全然人がいない。なんだここ……」

勇者「まずい帰り道が分からん!!教会どこだっけ!うおおおおお!」




少年「はあ……はあ……はあっ  だ、誰か……!」

勇者「あ、おーい!そこの子ども!道に迷っちゃってさ、ここどこか教えてくれないか」

勇者「教会に帰りたいんだけど」

少年「……助けて……!」ガシ

勇者「お、おい?どうした?」

少年「向こうに!あっちに殺人鬼が……!いっしょにいた変な奴が逃げろって!
   でもあいつも逃げなくちゃいけないからっ!た、頼む助けて……」

少年「……たすけてやってくれよ……!!」




500: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:45:12.84 ID:D37hExuxo




* * *

空き家


ズガッ!!


魔王「っ……!」

女「あれ。もう終わり?もういいの?諦めついた?」

魔王「貴様は、本当に何人も殺してきたのか」

女「そうだよ」

女「じゃあ、腕抑えるよ。右からもらう」

魔王「……何故?何故こんなことをするんだ」

魔王「君は人間で……私も人間なのに」

魔王「魔族ではないのに……」

女「……?そりゃそうでしょ。人間でしょうね」

女「別に何だっていいの。生きてればなんでも」

女「人間だろうが悪魔だろうが神だろうが、なんだっていいのよ」

魔王「……あ……はは」

女「? こんな状況で笑ったの、あなたが初めて。
  どうして?普通、こういうときには怖いって思うものじゃないの」

女「殺されるのが嬉しいの?死にたかったの?」

魔王「そんなわけ、あるかっ」タッ

女「逃げないで。教えて」グイ


ダンッ!!


魔王「っう……!」

女「腕切ってからじっくり聞こうかな。そうした方が素直に教えてくれますよね」スッ


勇者「!」

勇者「いたっ! おいお前っやめろ!!」

女「ん?」

勇者「おりゃああああ!」


バキッ


女「あ……あのチェーンソー高いのに。吹っ飛ばしてくれちゃって」




501: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:47:26.25 ID:D37hExuxo




勇者「……!? 魔王!? な……なにしてんだ!」

魔王「勇者くん……。見てのとおり殺されかけていた」

勇者「そりゃ見れば分かる!なんでお前が殺されかけてるんだ!」

女「ねえ、どいてくれる?私はその子に聞きたいことがあるの」

勇者「それはできない。お前は何者だ?」

女「何者か?私が聞きたい。私は何なの?人間なの?」

女「どきなさい」チャキ

勇者「できないっつったろ」

女「なめないことね」


ヒュッ…… ガキン!


女「手錠で戦うつもり?」

勇者「今お前が断ち切ってくれたらよかったんだけど、なっ!」ブン

女「そうだね、これならそれもできるかもよ」ビッ


ギュイィィィィン


勇者「あっ また…… つーか何だそれ!うるせえ」

女「いいでしょ」


―――バキバキバキバキッ!!


勇者「あぁっ!? 女なのになんて破壊力だ」

勇者「だが隙が多いっ!なめんなオラァァ」ガッ

女「!」グルッ


ガッシャーン!!




502: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:49:57.28 ID:D37hExuxo



魔王「やったか……?」

勇者「身柄を拘束してくる。下がっとけ」

魔王「勇者くん、彼女は何人も殺してきた殺人鬼だ。男性も殺している。油断はしない方がいい」

勇者「分かってる」



女「……」ムク

女「……ん」フラッ

女「……」

勇者「大人しくしてろ。今…… ん?」

勇者「……この音……もしや、クルマとかいう」


―――ドォン!! バキャァッ!


魔王「わっ!」

勇者「何だ何だ!? クルマが壁突き破ってきやがった……ってこれは!!」

警官「……後輩よ。俺はあの銃刀法違反野郎を追えと言ったが、壁をぶち破れとは言ってない。
   エアバック作動しちまったじゃねえかよ」

後輩「うっかり」

警官「まあいい!!そこのお前、手を上げろ!!両手を上げたまま跪け!!抵抗すれば撃ーつ!!!」

勇者「やっぱりお前らかよ!俺捕えるよりそこの連続殺人犯を捕えろ!!その女――あっ逃げやがったアイツ」

警官「ん!?彼女が連続殺人犯なわけねえだろ、顔が違う!怪我をしていたじゃないか、傷害罪も追加だああ!!
   後輩、彼女を追え!保護しろ!!」

後輩「いえっさ」

勇者「ちがーう!いや……たしかにあいつ手配書と顔が違うけど!でもこいつが殺されかけたんだ!」

警官「詳しい話は署で聞く!!パトカーに乗れーい!!」






503: ◆TRhdaykzHI 2014/07/12(土) 20:52:34.37 ID:D37hExuxo



* * *


プルルルル ガチャ


社長「なに?ガキが不在だと?探せ。もう工事の着工は目前だぞ」

社長「まあ不在なら不在で、家の権利を捨ててどっかに行ったのかもしれん。
   それならそれで構わない」

社長「もし工事が始まってから、ガキが現れたら……不慮の事故ってことで」

社長「どうせ貧困区のスラム街に住むガキ一人、もみ消すのは容易い。ああ、やれ」



* * *

警察署


後輩「というわけで家からは切断された遺体と凶器が見つかりました。
   さらにあの俺が半壊させた空き家に残っていた血液と、連続殺人犯の血液が検査の結果一致しました」

後輩「ここいらに潜伏していると見て間違いないということで、すぐ捜査本部が設置されるそうです」

勇者「じゃお前らも早く捜査に加われよ、俺なんかに関わってないで。
   俺はいつまでここにいればいいんだ?もう3日になるぞ!」

後輩「それはですね、先輩が捜査員に入れてもらえなかったからです。
    だから君の取り調べしかすることないんです」

警官「そうなんだ、俺が前にヘマしたから捜査に加えてもらえず、妻と子にも逃げられたんだ……ってやかましいわボケ!!
    つーかテメエ何だ?あの怪しげなイカレシスターの元にいたらしいじゃねえか?」

警官「大体身分証明書がないってどういうこった!!」

警官「絶対余罪あるだろ!!あんな大きい剣持ってたくらいだからなぁ、何やらかそうとしてたんだ!?ええ!?」

勇者「あーあーうるせー!余罪なんかねえよ!魔王と少年はどうした?どこにいる?」

警官「マオウ?ああ あのお嬢ちゃんか?変わった名前だな。少年もお嬢ちゃんも家に帰したが」

勇者「じゃあ俺も帰せよ!!!??」

警官「お前は犯罪者だろうが。身分証明もできてねーし帰せねえよ」



ガチャン


勇者「くっそがあ! ハッ、俺が何もせずここで捕えられてるとでも思ったか。
   こちとら牢屋に入れられるのも二度目だ 馬鹿め!!慣れてんだよ!!」

勇者「絶対プリズンブレイクしてやるからな見とけ!妻子に逃げられた不甲斐ないオッサンめ!!」ガチャガチャ

警官「聞こえてんだよ、死ぬかテメー」





507: ◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:43:29.90 ID:+xuj9T1xo


* * *


少年「……」ボー


魔王「はい」

少年「……?」

魔王「そこで買ってきた。疲れた顔をしているぞ、飲むといい」

少年「あんた、金……」

魔王「服を売ったと言っただろう。価値が分からなかったが、結構いい値段で売れたみたいだな。
   紙幣とやらをたくさん頂いた」

魔王「……これを全部君に受け取ってほしいんだ」

少年「え……? うわっ、こんな…… なんでだよ?」

魔王「世話になったからな。これで……君の生活はどうにかならないのか?
    君のような子どもが一人きりで働きながら暮らすというのは……その……」

魔王「この国のことは知らないが、あまりいいことではないと思う」

少年「僕みたいなのはたくさんいるよ。僕だけが特別悲惨な状況にいるわけじゃない」

少年「……。この金、いらないよ。あんた、誰か探してるって言ってただろ。そのために使えよ」

少年「食っていけるだけの金は……ある。仕事クビになりさえしなければ……」

少年「そんなに豪華じゃないけど毎食食べれるし。
   一人分なら、十分稼げるんだ……」


少年「……あの男あんたの知り合いだったの?」

魔王「ああ、そうだ。君があのとき彼を呼んでくれたんだな。ありがとう」

少年「別に……僕はなんもしてない」

少年「でもまさか、あの女の人が本当に殺人犯だったなんてな。
   やっぱり無償の優しさは警戒するべきだ」

少年「あんたも何か企んでたりしないだろうな」

魔王「……私は何も」

少年「……あの人、感情が分からないって言ってたけど、それ本当なのかな」

魔王「……」





508: ◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:45:24.22 ID:+xuj9T1xo



少年「感情がないってどんな気分なんだろう。悲しいのも苦しいのも分からなくなるなら……」

少年「ちょっとだけ、羨ましいって思うよ……」

魔王「でも、嬉しいのも楽しいのも分からなくなってしまうのだぞ。
   現に彼女も、それが原因で殺人行為を繰り返して……」

少年「これ、ごちそうさま。そろそろ僕行くよ。じゃ」

魔王「どこに?」

少年「工場」

魔王「警察から帰してもらったばかりだぞ。それにまだ君は顔色が悪い。今日は休んだらどうだ」

少年「休めるわけないだろ……」

魔王「……」

魔王「少年。ここを離れて、孤児院かどこかに保護してもらうことはできないのか?」

魔王「この国に王はなく、大統領という者や国会議員という者らが政治を行っていると聞いたが。
   教育制度や社会福祉は一体どうなっている?」

魔王「何故君のような子どもがそんな生活を続けることを強いられなくてはならないのだ。
   この国も街も、経済的に困窮しているわけではないのだろう」

少年「教育制度も福祉も、貧困区にはない言葉だよ。そういうのは対価を払った連中に振る舞われる」

魔王「それでは社会福祉にならない。上の者が弱き者を助けることを拒んでいるのか?そんなのは……」

少年「ほかの街はどうだか知らないけどさ……少なくともこの街は、平等なんだよ」

魔王「平等……? 馬鹿な。正反対だろう」

少年「身分や地位、年齢、人種に関わらず、金を払えば払うだけ恩恵が得られる。人はみな金の下に平等なんだ」

魔王「……」

少年「自由とは金で、金は労働の対価だ。だから貧乏は怠慢の代償なんだってよ」

少年「貧乏な奴は憐れな救済すべき人種じゃない。蔑まれるだけの罪人なんだ」

少年「ちゃんと働いてない奴が悪いんだからな……」







509: ◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:49:46.51 ID:+xuj9T1xo





少年「でもさ……そんなの言われたって、スタートラインが違っていたらどうにもならないよ」

少年「なんていうのもいいわけになっちゃうんだろうけどさ」

魔王「……私はこの世界に来たばかりだ。そのような制度や考えが形成されるまでの過程も歴史も知らないし
   もしかしたらそれは、なるべくしてなった結果なのかもしれない」

魔王「でもそんなのが平等だと言うのなら、私はその言葉を否定する」

魔王「君は怠慢などではない。十分頑張っている。
   それは言い訳ではなく、声を張って主張すべきことだ」

少年「……はは。僕みたいな子どもが何言ったって、結局なんも変わんないって」

少年「それに、今、金がほしいわけじゃないんだ。別にもう金なんてどうでもいいんだよ」

少年「今もらってもしょうがないんだ……」

少年「……じゃあ、本当にそろそろ行かなくちゃ」



* * *




少年(……やっぱクビかな……)

少年「……それならそれで、いっか。惰性で続けてただけなんだ」



工場長「! お前……!!」

工場長「どういうつもりだ?3日も無断欠勤しやがって」

少年「すみませんでした……」

少年「でも、事件に巻き込まれてて……警察が……」

工場長「つまんねー嘘つくんじゃねえ!!クソガキめ!!」

工場長「テメーはクビだ、クビ!!役立たずの上、雇ってやった恩を忘れるような奴はいらん!」

少年「……」

少年「……」

工場長「まあテメーが土下座して、どうしてもクビが嫌だって言うなら、
     また雇ってやってもいい。ただ給料は半分になるがな」

少年「……」

少年「じゃあ、クビで」スタスタ

工場長「……ああ!? ふざけんな、てめーみたいなガキ雇うところなんてここしかねえんだぞ!!」

少年「いいです」

工場長「おいっ 本気か!? じゃあ給料はマイナス25%にしてやる!これでいいだろうが!!」

少年「もういいです」




510: ◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:50:15.01 ID:+xuj9T1xo



スタスタ


魔王「少年……大丈夫か?」

少年「……」

少年「……もういいんだ」

少年「ま、こうなるだろうと思ってたし」

少年「これで食いぶちもなくなった。この間、助けてくれてありがとな」

少年「……なんで僕みたいなの助けたのか分かんないけど……」

少年「……じゃ。もう構わないで」

魔王「……」



―――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――――


ゴゴゴ……ゴトンゴトン バキャベキ
  ガガガガガ……ガガガガ



少年「……は」

少年「……あ」

少年「ああ……」

少年「工事が……はじまってる……」タッ


少年「……………………」

少年「……家が消える……」

少年「……僕たちの家が……」

少年「…………ちょうど、よかったのかもしれないな」

少年「これで僕も、いっしょにいける」




511: ◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:52:04.64 ID:+xuj9T1xo




黒服1「あー?子どもが家の前に?」

黒服2「ほら、最後まで立ち退かなかったあそこです」

黒服1「ああ。どっか行ったって聞いてたんだけどな」

黒服2「どうします?今日あそこの先まで進めないと予定が狂います」

黒服1「いい、いい。社長から言われてる。ガキが来たら、事故にしとけってさ」


黒服3「まじっすか。うわあ……俺がやるんすか」

黒服2「お前がショベルカー担当だろうが。頼むわ」

黒服3「グロイの苦手なんすけど。分かりました」


ガガガガガ……


黒服3「はあ……悪く思うなよ……命令だ」






512: ◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:53:02.33 ID:+xuj9T1xo




少年(家が残ってれば、妹もお母さんもお父さんも……いつか帰ってくるんじゃないかって思ってたんだ……)

少年(馬鹿だなあ……)

少年(ずっと、この家で妹と過ごしたな)

少年(……お前が死んだあの日……僕も……いなくなってればよかった)

少年「死ぬ勇気が……なかっただけ……」

少年「惰性で続けていた仕事もなくなった。生きる術を失った」

少年「生きる意味は……1年前にとっくになくしてた……」

少年「もう、いいよな……」


魔王「――少年!なにしてる、ここは危ないぞ。逃げないと」

少年「あんたまだいたのかよ……ほっとけっつったろ……。もう、いいんだ」

少年「僕はこの家と一緒に死ぬ。やっと決心がついた」

魔王「何を言って……。……止まれっ!ここに子どもがいる!それ以上動くな!」


ガガガガガガ……


魔王「……死んではだめだ!少年、頼む。ここから離れよう」

少年「この世界でもう生きる意味がない。僕はずっと……妹のために頑張ってきたんだ……。
   全部あいつのためだった……」

少年「でも、もういない」

少年「この先、一人きりで生きて、何になる?僕みたいなのが生きてたって、いいことなんかひとつもない」

少年「金もない。家族もいない。目的もない。何にも僕にはない」

少年「あいつはもう死んだんだ。僕も……あいつのところにいきたいんだ。
    もう…………つかれた…………」

少年「らくになりたい……」

魔王「……っ……でも……死んじゃだめなんだっ……!!」

魔王「大切な人が……死んで……生きる、のが、どんなに辛くても……」

魔王「……それでも、死んではいけない……」

魔王「い……生きていれば……必ず……きっと……いい、こと、が」


513: ◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:55:22.17 ID:+xuj9T1xo



ガガガガガガ


少年「……本当にそう思ってる?」

魔王「……!」

少年「自分が大切な人を亡くしたとき、本当にそう言える?」

魔王「……、……」

少年「ここにいればあんたまで巻き添えくらう……どっか行って」

少年「……さよなら」

魔王「…………っ」ギュッ

少年「……何だよ……」






514: ◆TRhdaykzHI 2014/07/13(日) 23:56:56.31 ID:+xuj9T1xo





魔王「魔法を使ってアレを止めることもできない」

魔王「言葉で君を説得することも、救ってやることもできない」


ガガガガガガ……メシャッ


魔王「私はなんて無力なんだろう……」

魔王「……ごめん……」

魔王「君はずっと頑張ってきたのだな」

魔王「私は君のこと、やっぱり知っていた。君が妹のためにずっと頑張ってきたことを知っている」

魔王「疲れてしまったのだな……うん……。うん。そうだな」

魔王「でも、君が私たちをつくってくれたんだ……」

少年「……? はぁ……?」

魔王「君は一人じゃない。ずっと私たちは君たちのそばにいたんだ」





魔王「私も、彼も――君に会いに、世界を越えてきたんだ」


ミシッ バキバキ ベキンッ




515: ◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:18:58.88 ID:sWebTHduo





黒服3「うわぁ~ 女と子どもごと家を潰すところなんて見たくねえよ。どんなグロ映像よ」

黒服3「社長もえげつないこと考えるぜ」


バリンッ!!


黒服3「……あ?」

黒服3「…………手?」

黒服3「……なにこれ……うおっ!?!?」グンッ


ガガガ……ガ……ガ


少年「……え……止まった?」

魔王「……」



黒服3「……おわぁぁ!? な、何だ!?一体……」 ズルッ

黒服3「て、てめえ!何しやがる!!離せ!」

勇者「……」バキッ

黒服3「ブッ!?」

勇者「見えてたよな?」バキッ

勇者「子どもと女があそこにいるの分かってたよな?」ガッ

黒服3「ちょ……やめ……」

勇者「なんで止めなかった?」ドスッ

黒服3「……ちが……俺は……めいれいされて……」

勇者「責任者どいつだ」




516: ◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:20:44.38 ID:sWebTHduo



勇者「お前か」

黒服1「オイオイ、工事の邪魔されると困るんだが。あんまなめた真似すると」バキボキ

黒服1「こうなるぜ……っと」バキッ

勇者「……」

勇者「どうなるって?」

黒服1「……」スッ

勇者「ケンジュウとやら出そうとしても無駄だ。今から両腕折る」

黒服1「は」


アギャーーー


黒服2「! 何事ですか? そこの男動くな!」チャ

黒服4「てめえ、俺たちに盾つくとどうなるか分かってんだろうな?
    お前みたいな貧乏人なんていつでも消せる。社会的にも、文字通りにもな」

勇者「撃ってみろ。こいつに当たってもいいんならな」

勇者「なるほどつまりお前らはあれか。
   ここに遊園地とかいうものを建てるためなら人を殺してもいいと」

勇者「貧乏人なら殺してもいいと」

勇者「貧乏人の家なら許可なく壊してしまってもいいって思ってんだな」バキッ

黒服1「ぐっ!! や、やめろ……社長がそう言ったんだ……俺たちが決めたわけじゃねえ」

勇者「あ?お前の服についてるその緑のマーク……そうか。
    あのシスターが俺に潰すよう頼んだ会社ってのはお前らのとこか」

勇者「オイ全員、この男がこれ以上痛い目に合わされたくなかったら武器を捨てて両手を後ろに組め」

勇者「で、歯ァ食いしばれ」




勇者「もう一度ここに来て同じことをしてみろ。次はどうなるか分からないぞ」

黒服2「わがっだ……」

勇者「あとお前。こっち来い。さっきのアレ操縦して、ここにあるキカイ全部壊せ」

黒服3「エ゛ッ!!ででででもこれ全部でいくらすると……」

勇者「しらねーーーよ。もう使わないんだから関係ないだろ。さっさとしろ」





517: ◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:21:37.27 ID:sWebTHduo



勇者「無事か? ……!?子どもは!?どうした、怪我したのか?」

魔王「……いや、気を失っているだけみたいだ」

勇者「なんだ……。とりあえず寝かせるか」



勇者「少年の家勝手に上がらせてもらったけど、仕方ないよな……」

魔王「彼の家が壊れずに済んで本当によかった」

魔王「彼にとってここはとても大事なものなのだ。どうもありがとう。勇者くん」ペコ

勇者「えっ、そ、そんな改まらなくていいって。プリズンブレイクが間に合ってよかった」

魔王「でも私は何もできなかった。……勇者くん。この子が創世主だ」

勇者「ああ。みたいだな。なんだ、魔王も知っていたのか」

魔王「さっき思い出した。私たちは、彼に会いにきたのだ」

勇者「……そっか。そうだな」




518: ◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:24:03.54 ID:sWebTHduo




翌日


少年「…………朝……。ハッ!!もうこんな時間だ、工場に行かないと!遅刻する……!」ガバ

少年「……じゃ、なかった。もうクビになったんだっけ」

勇者「よう、起きたか。邪魔してるぜ。おはよう」

魔王「おはよう少年」

少年「ファッ」

少年「な、なんだよお前ら……人ん家に勝手に! あんた誰だよ」

勇者「俺は勇者だ。よろしくな」

少年「ゆ、勇者? ……変なの増えた……最悪……」

少年「あ、あの殺人犯のときいた……あと、昨日ショベルカーを止めた奴……」

魔王「勇者くんが昨日助けてくれたのだぞ。
    パンとスープは食べられるか?私の服を売った金で買ったから遠慮せず」

少年「助けてくれたって……。…………余計なこと、しなくてよかったのに」

少年「もう、さ……どうしようもないんだって。どうせあいつらはまたここに来るよ……。
   ちょっと予定が狂っただけで、工事が中止されるなんてことはあり得ない」

少年「僕には仕事もない、金もない。家族もいない。行くところもない」

少年「生きたいとも……思わない……。もういいんだ」

魔王「……」

勇者「あのな」

勇者「俺たちは実はここの住人じゃない。だから、ずっとここにいることはできない。
    少年に仕事を紹介してやることもできないし、お前が大人になるまで代わりに稼いでやることもできない」

勇者「家族になってずっと守ってやることもできない。家を提供してやることもできない」

勇者「だけど一つだけできることがある」

少年「……?」

勇者「あの会社をぶっ潰して工事を止めてやる。お前と妹のこの家を、そのまま残す」

勇者「明後日、列車に乗って砂漠を越えよう。都市に行くぞ」




519: ◆TRhdaykzHI 2014/07/14(月) 00:30:18.72 ID:sWebTHduo


* * *


姫「列車強盗ですって?」

頭領「そうだ。中央区から都市に行く列車は一カ月に一度だけ」

頭領「乗るのは中央区の連中だけだ。切符が馬鹿高いからな。
    遠慮はいらねえ、なんかいいモンあったら奪い取れ」


わーーわーーー わーーーオカシラーーー


頭領「ただ、危害を加えるのはNGだ。警察は別だがな。あいつらは撃ってくるし別にいい」

姫「危害を加えないからと言って、国民から金品を奪うなんて……」

頭領「勘違いすんな、連中から奪うのはあくまでついでだ。本来の狙いはこれ」

魔女「なにこれ?……草?と花?水? 骨?」

頭領「都市から中央区の博物館に貸し出されてたものだ」

頭領「本物の生きてる植物に、海水一瓶と、恐竜の化石だ……。
   どれも値段のつけられないくらい希少なもんだ」

頭領「貧乏人にゃ見ることすら叶わない幻の宝だぜ。全部数日後には俺たちのもんだ。
    ま、植物だけはじっくり見たら返すがな。枯らしたら事だ」

強盗団「うっわ、本物の植物とか海水が見られるなんて、今からわくわくする!やべー!」

強盗団「恐竜の化石ってどんなのなんだろうな!」

魔女「植物に海水~~?そんなのどこにでもあるじゃん。本当に宝なの?」

頭領「ないから宝なんだよ。お前、異世界からやってきたのか?」

魔女「まあそうだけど」

頭領「とにかく列車が出る日まで各々準備しとけ。銃の点検を怠るなよ」

姫「えっ……本当にやるんですの?」
魔女「ええっ……本当にそれ盗むの?」

「「……」」

姫「……」プイ

魔女「……」プイ

頭領「お前ら仲直りしろよ……」




次回 勇者「世界崩壊待ったなし」 後編