男「…へ?」 魔娘「だから…」 前編

482: ◆doBINqA5W6 2013/01/13(日) 23:56:52.99 ID:YMePBMp5o
~翌日~

魔娘「…ふぁあ~あ…あら?」キョロキョロ

魔娘「いない…どこに行ったのかしら?」

男「zzz…」

魔娘「ちょっと男、起きなさい」ユサユサ

男「zzz…ん?…zzz…」

魔娘「男、起きて。子●魔がいないの」

男「ん…ん?…子●魔が?」ネボケー

引用元: ・男「…へ?」 魔娘「だから…」 



483: ◆doBINqA5W6 2013/01/13(日) 23:57:19.96 ID:YMePBMp5o
魔娘「そうなの。男、あなた知らない?」

男「いや、俺は今まで寝てたし…」

ガチャ

子●魔「あ、おはようございます」

魔娘「どこに行ってたの?心配したわよ?」

子●魔「あ、あの…お腹がすいたので何か食べるものをって…」

男「で、何かあったか?」

子●魔「あ、はい♪」ニッコリ

男「そうか。なにを食べたんだ?」

子●魔「…え?それは…その…」チラッ

魔娘「…ははーん…」ピン

484: ◆doBINqA5W6 2013/01/13(日) 23:57:46.40 ID:YMePBMp5o
男「ん?どうした?」

魔娘「ううん、なんでもないわ。私達も早く着替えて、朝御飯にしましょ?」

魔娘『口の横に…ついてるわよ』コソコソ

子●魔『え?…あ、あの…ごめんなさい』コソコソ フキフキ

魔娘『男のじゃ無ければいいわ。それに無茶な吸い方はしてないんでしょ?』

子●魔『う、うん。溜まってたぶんだけしか…』

魔娘『だったらいいわ。許してあげる』

子●魔『ホント?』

魔娘『羽を直すのに滋養がいるんでしょ?』

子●魔『…知ってたんだ…』

男「…なに話してるんだ?」

485: ◆doBINqA5W6 2013/01/13(日) 23:58:12.95 ID:YMePBMp5o
~商人の部屋~

商人「…ん?なんだか今朝はスッキリしてるなぁ…溜まっていたものが全部出たみたいな?」


486: ◆doBINqA5W6 2013/01/13(日) 23:58:39.73 ID:YMePBMp5o
~食事中~

商人「今日は皆さん、どうされますか?」

男「この町を散策しようかと」

商人「それはそれは。では、私が御案内しましょう」

男「え?それはさすがに悪いんで…」

商人「まあまあ。そうおっしゃらずに」

魔娘「では、お願いします」

商人「はい、こちらこそ。では、私は町を案内する準備をしてきます」

スキップスキップ…

487: ◆doBINqA5W6 2013/01/13(日) 23:59:05.91 ID:YMePBMp5o
男「…なあ、商人さんって、なんか動きが軽くなってないか?」

魔娘「そうね…」

従者「あのすっきりとした顔…軽やかなステップ…もしかして…私というものがありながら…」ワナワナワナ

男「おい魔娘…従者さんがすっごい顔になってるんだけど?」

魔娘「ホントね…」

魔娘『…ねえ、何回吸い取ったの?』コソコソ

子●魔『えっと…さ、3回?』コソコソ

488: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:00:08.48 ID:iMGk0JE4o
~市場~

商人「…本当にいいんですか?」

男「はい」

魔娘「ええ」

子●魔 コクコク

商人「しかし…ここには強力な武器や防具が揃っています。なのにお買いになったのは毒針だけとは…」

男「俺たちは出来るだけ平和に旅をしたいんですよ」

男「だから、強力な武器は必要ないんです」

商人「いや、しかし…」

489: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:00:42.65 ID:iMGk0JE4o
魔娘「私達に必要なのは身を守るものであって、武器や防具は最低限でいいんです」

男「俺にはこの長鉈があるし」

魔娘「私には鞭。そしてこの子にはさっき買った毒針」

男「これだけ装備が揃えば十分なんです」

魔娘「あとは道具とか食料とか…ね?」

商人「…失念していました。あなた方は冒険者でしたね」

商人「すみません。今日、新勇者様がこの町に来るとのことなので少し浮き足立ってしまいました」

490: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:01:19.06 ID:iMGk0JE4o
男「え!?」

魔娘「新勇者が来るんですか?」

商人「ええ。夕刻ぐらいに着くとのことですが?」

男「そうですか…それじゃ忙しいんじゃないですか?戻ったほうがいいんじゃ…」

魔娘「そうですよ」

商人「いやいや、そっちは従者に任せてますから。彼女は結構優秀なんですよ?ただ…今日はちょっとご機嫌斜めですけどね」

魔娘・子●魔「「…」」

商人「…どうされました?」

魔娘「い、いいえ、なんでもないわ。ね、買い物続けましょ?」

男「そうだな。あとは薬草とか道具とか…」
  ・
  ・
  ・

491: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:01:57.84 ID:iMGk0JE4o
男「…これで大体揃ったな」

魔娘「そうね。あとは…」

…トテテテ!

従者「た、大変です!」

商人「これこれ。お客様の前で失礼ですよ?」

従者「し、失礼しました」

男「いや、俺たちのことは気にしないでください」

商人「ありがとうございます。…なにをそんなに慌てているんですか?」

492: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:02:47.34 ID:iMGk0JE4o
従者「は、はい。今新勇者様御一行が到着されたのですが…」

商人「おお!もうお着きになられたのですか!!宴の準備を急がせなくては!!」

従者「い、いえ。宴より…医者を集めてください!戦士様と僧侶様と女魔導師様がサンドワームの毒にやられて!!」

商人「なんですと!?」

従者「女魔導師様は歩いてこられたのですが、後のお二方はサンドワームを倒した新勇者様が担いで来られて…今、町人が皆さんをこちらに運んでいます!」

商人「従者!すぐにでも医者を手配しなさい!!私の名前でね!!」

従者「は、はい!失礼します!!」

トテテテ…

493: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:03:24.68 ID:iMGk0JE4o
男「…商人さん」

商人「申し訳ありません。今日は一日ご一緒するはずでしたが…」

男「ええ。俺たちのことは気にしなくていいですから、早く行ってあげてください」

商人「ありがとうございます」

魔娘「私達でお手伝いできることがあれば遠慮なく言ってください」

商人「お気遣い、痛み入ります。それでは、失礼させていただきます」ペコッ

ダダダダ…

魔娘・子●魔・男「「「…」」」

494: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:04:08.81 ID:iMGk0JE4o
子●魔 クイクイ

男「ん?なんだ?」

子●魔「…サンドワーム…死んだの?」

男「…ああ。そうらしいな」

子●魔「…昨日の…あの子かな?」

男「たぶんな…」

子●魔「どうして?」

魔娘「新勇者は自分の身を守るために…でしょうね」

495: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:05:41.20 ID:iMGk0JE4o
子●魔「どうして?どうして殺しちゃったの?」

男「…新勇者様たちには巣が見えなかったんだろうな」

男「だから自分達がなぜ襲われてるかも分からなかったんだと思う」

子●魔「…仕方がないことなの?」

魔娘「ええ…これは生きるためなの。仕方ないわ」

子●魔「…そっか…」

魔娘「…私達は旅の準備をしましょう」

496: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:06:11.47 ID:iMGk0JE4o
男「…魔娘」

魔娘「なあに?」

男「サンドワームの毒って…治せるものなのか?」

魔娘「程度にもよるわね。症状が軽ければ毒消し薬で治るでしょう」

男「ふーん…もし症状が重ければ?」

魔娘「…解毒魔法でないと無理ね。でも、扱える人がいるのかしら?」

男「どういうことだ?」

魔娘「解毒魔法はね、習得が難しいの。だから魔法をつかえるからといって解毒魔法が使えるとは限らないわ」

男「…後で商人さんに彼らの様子を聞いてみるか」

497: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:06:37.89 ID:iMGk0JE4o
子●魔「…助けるの?」

男「ん?うん、たぶんな」

子●魔「どうして?」

男「え?」

子●魔「どうして助けるの?」

男「…死に掛けてるのを放って置くのは寝覚めが悪いだろ?」

男「それに…新勇者様たちが死ぬと悲しむ人が大勢いるだろうしな」

子●魔「…悲しむひとが?」

498: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:07:04.37 ID:iMGk0JE4o
男「新勇者様たちは人間を魔族の恐怖から解放するために旅をしている。つまり、魔族に恐怖する人々の希望なんだ」

男「だから新勇者様たちが死ぬと悲しむ人が大勢いる」

男「まあ、いずれ悲しむことになるかもしれないけど、とにかくそれは今じゃないはずだ」

男「それに…魔娘の魔法で助けられるんなら、そうすべきじゃないか?って言ってもわかんないか」

魔娘「…子●魔。どうしてそんなことを聞いたの?」

子●魔「だって…男さんは新勇者様達を嫌ってるんだと思ってたから…助けるのが不思議で…」

男「…そっか」

魔娘「そのことは置いといて…そろそろ買い物に行きましょうか」

子●魔・男「「はーい」」

499: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:07:37.99 ID:iMGk0JE4o
~商人の家~

バタバタ

男「…みんな大変そうだな」

魔娘「そうね…」

子●魔「あ、商人さん」

商人「…ああ、あなたたちでしたか。すみません。お構いもせずに…」

男「いえ、あの…どんな様子なんでしょうか?」

商人「…新勇者様は怪我はしていましたが無事です。お仲間のほうは…」

魔娘「酷いんですか?」

500: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:08:09.63 ID:iMGk0JE4o
商人「ええ…女魔導師様は毒消し薬がきいて回復に向かっていますが…戦士様と僧侶様は…」

男「解毒魔法を使える人はいないんですか?」

商人「ええ…以前はこの町にもいたんですが今は…」

男「…魔娘…」

魔娘「…しょうがないわね…商人さんにはお世話になってるし…」

商人「…どうされました?」

魔娘「私、使えますよ。解毒魔法」

501: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:08:35.52 ID:iMGk0JE4o
商人「え!?で、では!!」

魔娘「但し、条件があります」

商人「ええ!私で出来ることでしたら何なりとお申し付けください!!」

魔娘「簡単なことです。私達の素性を誰にも明かさないで欲しいの。特に新勇者たちには」

商人「…え?」

魔娘「私達はあんまり目立つようなことはしたくないから…約束できますか?」

商人「え、ええ…それぐらいでしたら…」

魔娘「それと…~~~」
  ・
  ・
  ・

502: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:09:03.26 ID:iMGk0JE4o
女魔導師「せんしぃ…せんしぃ…」

新勇者「僧侶…」

僧侶・戦士「「はっ…はっ…」」

女魔導師「あ、あたしを…おいてかないでよお…ねえ…」グスッ

新勇者「…」

コンコン ガチャ

商人「お邪魔します」

新勇者「…なんの用だ」

従者「解毒魔法を使える人を連れてきました」

女魔導師・新勇者「「え!?」」

503: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:09:30.41 ID:iMGk0JE4o
従者「お入りください」

トテトテ

魔娘「…」

新勇者「…フードで顔が見えないな…」

女魔導師「若いみたいね…大丈夫なの?」

魔娘「…」スッ

女魔導師「な、なによ」

魔娘「…“解毒呪”」

パァアアア…

504: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:09:56.17 ID:iMGk0JE4o
女魔導師「…え?身体から痺れがなくなって…苦しくない…」

新勇者「…治ったのか!?」

女魔導師「…え、ええ。信じらんないけど…治ったみたい…」

魔娘「…どいて」

女魔導師「え?」

魔娘「“解毒呪”」

パァアアア…

戦士「はっ…はっ…ぐ…ぐう…ん?俺は…どうしたんだ?」ムクッ

女魔導師「あ…ああっ!戦士ぃ!!」ガバッ

505: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:10:22.68 ID:iMGk0JE4o
戦士「おわっ!どうしたんだ一体?」

女魔導師「戦士…グスッ…あなた、サンドワームの毒にやられて…死に掛けてたのよ?」

戦士「なに!?…くっ!すまない…新勇者様をお守りすると言っておきながら、なんと言う無様な…」

新勇者「いや…それより…」

魔娘「…“解毒呪”」

パァアアア…

506: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:10:49.49 ID:iMGk0JE4o
魔娘「…帰るわね」

トテトテ…

新勇者「え?ちょっ、ちょっと待て!」

僧侶「はっ…はあ…ん…んん…はっ!?…ここは…どこ?」

女魔導師「新勇者様!僧侶が目を覚ましましたよ!!」

新勇者「あ…う、うん…」チラッ

魔娘 トテトテ…

新勇者「…いっちまった…」

507: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:11:16.84 ID:iMGk0JE4o
~小奇麗な宿屋~

ガチャ

魔娘「ただいま」

男「おかえり」

子●魔「おかえりなさい」

魔娘「ふぅ…疲れたわ」ドサッ

男「お疲れ様」

508: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:11:43.65 ID:iMGk0JE4o
商人「すみません。でも…本当によろしいんですか?こんなところで…」

魔娘「ええ。今まで泊まってきた宿屋に比べたら全然いい部屋です」

商人「ですが…」

男「さっき商人さんの家にいったとき、新勇者様御一行の件で忙しそうでしたからね」

男「御迷惑をおかけするのも心苦しいんですよ」

子●魔 コクコク

商人「ですが…いや、ここは御好意に甘えておきましょう。ありがとうございます」

509: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:12:10.12 ID:iMGk0JE4o
商人「しかし…一時はどうなるかと思いましたよ。この町で新勇者様のお仲間が亡くなったりしたら…」

商人「危うく不名誉な風評が流れるところでしたよ。ですが、もう心配要らないでしょう」

商人「ですので…宿代はこちらで持たせてください」

男「いや、そういうわけには」

魔娘「お願いします」

商人「ははは。承知しました。それと…お聞きしたいことがあるのですが」

男「どんなことでしょう?」

510: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:12:36.47 ID:iMGk0JE4o
商人「…あなた方を見ていると…どうも新勇者様たちを避けているような気がするんです」

商人「もしよろしければ…理由を教えていただけないでしょうか?お力になれるかもしれませんし」

魔娘「…一言で言えば考え方の違いね。私達は争い事は避けたいの。でも、新勇者は違うでしょ?」

男「彼らは自分達が強くなるために…必要以上に魔物を殺したりします」

商人「…」

男「俺たちはそれを受け入れることが出来ないんですよ。人も魔物も…同じ命じゃないですか」

子●魔 コクコク

商人「…なるほど。分かりました。そういうことであれば…」

男「すいません」

511: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:13:18.95 ID:iMGk0JE4o
商人「いえいえ!謝るのは私のほうですよ。命の恩人であるあなた方に気を使わせてしまいました」

男「いえ…」

魔娘「…ねえ、ご飯にしない?久々に解毒魔法を使ったからお腹が空いちゃったわ」

男「そうだな。もうすぐ晩飯の時間だし」

商人「でしたら、私の行きつけのお店があるのでそちらにお連れしますよ」

男「え?でも…新勇者様達のお相手をしなきゃいけないんじゃ…」

商人「それは従者に任せますよ。彼女ならうまくやるでしょうし」

魔娘「で、本音は?」

商人「…偉い人を相手にするのは面倒なんですよ」

512: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:13:44.75 ID:iMGk0JE4o
魔娘「…ぷっ」

男「あははは」

魔娘「あははは。分かるわ。あははは」

商人「あははは。ですから、私にお任せください」

魔娘「ええ。お任せします」

商人「あ、それと…」ガサゴソ

商人「これをどうぞ」カサッ

男「…なんですかこれは?」

商人「紹介状です」

男「紹介状?」

513: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:14:13.78 ID:iMGk0JE4o
商人「ええ。あなた方は魔界に行かれるんでしょう?だったら辺境の港に行かれますよね?」

魔娘「そうね。魔界に行く船があるとしたら、あそこぐらいしかないものね」

商人「ですから、そのときにこれをお使いください。これがあれば船に乗ることが出来ます」

商人「但し、あまりガラのいい船じゃないですよ?何しろ密輸船ですからね」

魔娘「…そんなのに加担したのがバレたら商人さんだってタダじゃすまないんじゃないの?」

商人「多少危険であっても、そこに商売の種があるなら行くのが商人ですよ」

商人「そこに書いてある“神官”って人を訪ねてください。きっと力になってくれますよ」

男「…ありがとうございます」

商人「なんの!私はあなた方に命を救われたのですから、当然ですよ。では、そろそろ食事に…」

男「はい」

514: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:14:44.32 ID:iMGk0JE4o
~翌朝・宿の部屋~

男「みんな、準備は出来たか?」

魔娘「ええ」

子●魔「はい」

男「…じゃあ、出発だ」

ガチャ

宿屋「おや、もう出発かい?」

男「ええ。お世話になりました」

515: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:15:11.07 ID:iMGk0JE4o
宿屋「次はどこに行くんだい?」

魔娘「辺境の港よ」

宿屋「辺境の港!?またえらいとこに行くんだな…」

男「ええ…」

宿屋「だったらちょっと寄り道だが、山岳都市に寄って行きな」

魔娘「山岳都市に?どうして?」

宿屋「ここから辺境の港までなら、大人の足で5日ほどだ。けど、あんたらにはその子がいるだろ?」

子●魔「?」

516: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:15:36.72 ID:iMGk0JE4o
宿屋「子どもがいるなら途中で休んだほうがいい。だから山岳都市に寄って行きなって」

宿主「日にちは余計に掛かるかもしれないが、休み無しなら子供にはつらい道のりだ。な?」

男「…わかりました。そうします」

魔娘「そうね。急ぐ旅でもないものね」

男「それじゃ、お世話になりました」

宿屋「ああ、毎度」

男「あ、そうそう。もし商人さんがきたらこれを…」カサッ

宿屋「ああ。分かった」

517: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:16:03.22 ID:iMGk0JE4o
子●魔「…貸して?」

宿屋「ん?どうしたんだお嬢ちゃん?」

子●魔 カキカキ…

子●魔「…はい」

宿屋「ははは。何か書きたかったんだな。よしよし」ナデナデ

男「…じゃ、行ってきます」

バタン
  ・
  ・
  ・

518: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:16:29.36 ID:iMGk0JE4o
商人「なんだって!?」

宿屋「ですから…早朝に出発されましたよ?」

商人「そ、そうか…」

宿屋「それから…手紙を預かってます」カサッ

商人「…手紙?私にかい?」

宿屋「はい」

商人「…」カサッ

519: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:16:55.47 ID:iMGk0JE4o
  商人さんへ

  黙って出て行くことをお詫びします。

  いつまでも商人さんに甘えるわけにもいかないので出発します。

  またこちらに来ることがあれば顔を出させていただきます。

  それでは、お世話になりました。ありがとうございます。


  男


520: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 00:17:21.78 ID:iMGk0JE4o
商人「…そうですか…仕方ありませんね…」

商人「お待ちしてますよ。また…必ず来てくださいね?」


  商人さんへ。勝手に精を吸ってごめんなさい。

  子●魔


商人「…え?」

商人「………ええーーーっ!?」

535: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 22:49:59.12 ID:iMGk0JE4o
~山岳都市~

男「なんだこれ…鉱石の露天掘りか?」

魔娘「すごい埃…」

子●魔 ケホケホッ

魔娘「子●魔、このタオルを口と鼻に当てておきなさい」

子●魔「うん…」ゴソゴソ

男「そこらじゅうで採掘してるし」

魔娘「…ここは鉱山で成り立ってる都市みたいね」

男「早く宿を探そう。雨が降ってきた」

魔娘「そうね」
  ・
  ・
  ・

536: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 22:50:51.95 ID:iMGk0JE4o
~宿の部屋~

男「この4人部屋…あんまり綺麗じゃないな」

魔娘「贅沢言わないの。子●魔、喉の調子はどう?」

子●魔「うん…よくなったみたい」

魔娘「よかったわ。雨が降ったおかげで埃が落ちたみたいね」

男「そうだな」

魔娘「…ねえ男」

男「ん?」

魔娘「ここには特に用は無いんでしょ?」

男「ああ。辺境の港に行く途中の町っていうだけだ」

魔娘「だったら明日出発しましょう?ここに居ると病気になりそうだわ…」

男「そうだな」

537: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 22:51:50.69 ID:iMGk0JE4o
ドドドドドドオオウン…

男「な、なんだ!?」

魔娘「かなり大きな音だったわね…待って。これは…採掘現場が崩れたみたいね」

男「え?」

子●魔「…どうして分かるの?」

魔娘「私は耳がいい種族なのよ」ニコッ

子●魔「そっか」

男「で、規模とかは…」

魔娘「そんなの分かる訳ないでしょ?」

男「…ちょっとみてくる」

魔娘「余計なことに首を突っ込んじゃダメよ?」

男「わかってるよ。いってきます」

パタン

538: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 22:52:24.12 ID:iMGk0JE4o
魔娘「…はぁ…」

子●魔「どうしたの?」

魔娘「いいえ。なんでも…また男は厄介事を持ってくるんでしょうねぇ…」

子●魔「だったら止めればいいのに…」

魔娘「男の場合はね、止めても聞かないから…」

子●魔「ふーん…」

魔娘「まあ、それはさておき…私達も行くわよ」

子●魔「…仕方ない?」

魔娘「そうね…ふふっ」

539: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 22:53:15.54 ID:iMGk0JE4o
~採掘現場~

ザー…

男(結構強い雨だな…ん?)

ザッ ザッ ザッ

男(みんな黙々と救助…じゃない!採掘してやがる!!)

監督者「休むなよ!休んだら飯抜きだ!!」

男「ちょっとあんた!」

監督者「なんだテメエは!俺は見回りで忙しいんだ!!」

男「なんだじゃねえだろ!?救助しろよ!!」

監督者「はあ?…ああ、テメエ余所者か。いいんだよ。採掘してりゃあそのうち出てくらあな」

男「なっ!」

540: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 22:55:05.27 ID:iMGk0JE4o
監督者「いいか?よく聞けよ?ここじゃあ崩落事故なんて日常茶飯事だ」

監督者「そのたびにいちいち作業を止めてたんじゃ効率が悪すぎらぁ」

監督者「しかもこの崩落だあ。埋もれた奴隷はまず生きちゃいねえ」

監督者「崩落した所だっていずれは採掘するんだ。そのときに遺体が見つかるだろ」

男「そんな!まだ生きてるかもしれないだろ!!」

監督者「そんなことに構ってらんねえんだよ!早くしねえと採掘権の期限が来ちまうだろうが!!」

男「…え?」

541: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 22:56:21.23 ID:iMGk0JE4o
監督者「テメエは知らねえんだろうが、採掘権には期限があるんだよ!だから期限までに出来るだけ掘らなきゃ
なんねえんだ!!」

監督者「高い金払って手に入れた採掘権だ。奴隷が何人か埋まったのは痛手だけどよ…」

監督者「…それぐらいで作業を止めるわけにはいかねえんだよ!俺にも生活があるんだ!!」

男「…っ」

監督者「わかったら退いた退いた!」

男「なんで…」ポロッ

魔娘「あ、いたいた…え?」

子●魔「…どうしたの?」

男「…なんでもない。宿に帰ろう」

魔娘「え?いいけど…」

子●魔「…?」
  ・
  ・
  ・

542: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:05:19.71 ID:iMGk0JE4o
~宿の部屋~

魔娘「ひどいわね…」

男「なんでこんな風になったんだろ…」

魔娘「そもそも採掘権に期限があるなんて…変な話だわ」

男「そっちかよ!」

魔娘「採掘ってね、掘って終わりじゃないの。分かる?」

男「そりゃあ…」

543: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:05:45.88 ID:iMGk0JE4o
魔娘「出るかどうか分からない資源のために穴を掘って、たまたま運よく出たとするでしょ?」

魔娘「でも、それはそのままじゃ売り物にならないわ。精錬しないとね」

魔娘「精錬しても売り物になるまでには、いろいろ手を掛けなきゃいけないの」

魔娘「そうして売り物になったら今度はそれを流通させなきゃいけない…」

魔娘「それだけのことをしなきゃいけないの。規模で言えば国家事業クラスね」

男「そんなに…」

魔娘「そう。でもここは違う」

544: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:06:12.18 ID:iMGk0JE4o
魔娘「ここは採掘する場所を小さく分けて、それぞれに採掘権を割り当ててるわ」

魔娘「…ここで採掘しているのは採掘権を買った一般の人たちみたいね」

男「そうなのか?」

魔娘「たぶんね、それと…ここの資源は殆んど掘りつくされてるわ」

男「じゃあ何でみんな採掘してるんだよ」

魔娘「…おそらく利権がらみね」

男「利権?」

545: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:06:49.45 ID:iMGk0JE4o
魔娘「きっと、採算性が悪くなったこの鉱脈で儲けようとしたヤツがいるのよ」

魔娘「国から払い下げられたこの場所を小分けにして採掘権を設定して、それに期限をつけて…」

魔娘「一攫千金を夢見た人たちがその採掘権を買う…」

男「けどさ、資源はもう無いんだろ?」

魔娘「大規模採掘で採算が取れるほどじゃなくなっただけよ。まだ多少は残ってるわ」

魔娘「だから最初のうちはそこそこ採掘できたでしょうね。採掘した人もいいお金儲けになったんじゃない?」

魔娘「でも、時間がたつほどに資源は出てこなくなるわ。それでもここがまだ採掘されてるって言うことは…」

魔娘「…採掘権の利権で儲けてる人がいるってことよ」

546: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:07:17.56 ID:iMGk0JE4o
男「けどさ、資源が出てこなきゃみんな気付くだろ?もうここには資源は無いってさ」

魔娘「そうならないようにサクラを仕込むのよ」

男「サクラ?」

魔娘「そう。定期的に“資源が出た”って噂を流せば採掘権は売れ続けるわ」

魔娘「そして、もっと儲けようとして考えたのが、採掘権に期限をつけることね」

男「…」

魔娘「採掘権に期限をつければ、一定期間ごとに採掘権収入が得られる」

魔娘「そうすることで利権を持っているヤツは何もしなくてもお金が入ってくる…」

男「それって騙しじゃないか!」

547: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:07:48.18 ID:iMGk0JE4o
魔娘「はっきり言ってそうね。そのせいで苦しむのは最下層の人たち…」

男「理不尽だろそんなの!」

魔娘「利権や私欲に目が眩んだ人たち相手に、正論なんて通用しないわ」

男「けど!」

魔娘「それと…私に言わせれば、一番の被害者は奴隷達ね。出もしない資源のために命をかけて採掘してるんだもの」

男「…くそっ!そんなのってねえぞ!!」ガンッ

548: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:09:59.23 ID:iMGk0JE4o
魔娘「…ねえ、男」

男「なんだよ!」

魔娘「…あなたは今シスターを助けるために旅をしている。そうよね?」

男「あ、ああ…」

魔娘「だったら今は…それだけに集中して」

男「…どういうことだよ。おかしいことをおかしいって言ってなにが悪いんだよ!」

魔娘「落ち着いて。私だってこんなのおかしいと思うわよ。でも…優先順位を間違えないで」

男「優先順位?」

549: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:10:24.93 ID:iMGk0JE4o
魔娘「男、貴方が今、やらなきゃいけないことは何?」

男「そ、それは…」

魔娘「シスターの救出でしょ?だったらそれに集中して。他のことはそのあと。いい?」

男「…わかった」

子●魔「…」グスッ

魔娘「どうしたの?」

子●魔「…私も…もしかしたら…同じ目にあってたかもって思って…」

魔娘「…そうね」

男「…」

550: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:10:50.62 ID:iMGk0JE4o
~翌日~

男「…さて、出発するか」

魔娘・子●魔「「はーい」」
  ・
  ・
  ・
男(採掘現場か…)

監督者『サボるな!…どうした!?』

男「?」

監督者『…お前とお前、墓場に埋めて来い』

魔娘「…遺体が出たみたいね」

男「そうだな…墓場に埋めるって」

魔娘「あの人も少しは良心があったみたいね…さ、行きましょ」

男「ああ…」

魔娘(これで男が少しは救われるといいんだけど…)

551: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:12:04.06 ID:iMGk0JE4o
~辺境の港~

ザワザワ…ガヤガヤ…

魔娘「…なんだか良くない雰囲気ね…」

男「ああ…なんなんだろうな…」

子●魔 ビクビク

魔娘「…大丈夫よ。男がいるから」

子●魔「う、うん…」
  ・
  ・
  ・

552: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:12:34.21 ID:iMGk0JE4o
~宿屋~

男「4人部屋を頼む」

女主人「一番奥の部屋よ」チャラ

男「ありがとう」

魔娘「…ねえ、なんだか町の中の雰囲気が良くないんだけど…どうしてかしら?」

女主人「ああ。新勇者達がこの町に来てるからだよ」

男「新勇者様たちが!?」

魔娘「…私達が山岳都市のほうに回り道してる間に抜かされたみたいね」

男「そうみたいだな」

553: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:13:30.05 ID:iMGk0JE4o
魔娘「でも、それでなんで雰囲気が悪くなるの?」

女主人「さあてねぇ…」

男「新勇者様達って…ここに泊まってるのかな?」

女主人「…違うよ。港にある大きい宿に泊まってるよ」

男「そっか…よかった」

女主人「ん?」

554: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:13:56.19 ID:iMGk0JE4o
男「え?…なにか?」

女主人「いや…ところであんたらは何しにここに来たんだい?」

男「あ、その…船に乗りたくて…」

女主人「どこに行くんだい?」

魔娘「魔界よ」

女主人「魔界だって!?」ジロッ

子●魔「ひっ!」ビクッ

555: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:14:22.97 ID:iMGk0JE4o
女主人「ん?その子は…●魔かい?」

男「あ、はい」

女主人「魔界に行く理由は…その子かい?」

男「あ、違います。この子はついでって言うか…」

女主人「ふーん…そうかい。ま、がんばんな」

魔娘「ここから魔界にいけるんでしょ?」

女主人「誰から聞いたか知らないけど、そんなわけ無いだろ?」

魔娘「どうして?」

556: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:14:49.33 ID:iMGk0JE4o
女主人「…魔界との交流は御法度。それぐらい知ってるだろ?」

女主人「それにもし、そんなことが出来るとしてもあたしゃ知らないね」

男「そんな!ここまできたのに…」

キラッ

女主人「ん?…あんた、それ見せてみな」

男「え?」

女主人「それだよそれ。鉈の柄につけてるヤツ」

男「あ、はい…これですか?」スッ

女主人「っ!?なにこのクソ重たい鉈は!?っと…やっぱり」

557: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:15:15.31 ID:iMGk0JE4o
女主人「…あんた、これどこで手に入れた?」

男「え?あの…“盗賊”さんに貰ったんです」

女主人「“盗賊”って…前の勇者一行のかい?」

男「はい」

チャキッ

男「!?」

子●魔「!」バサバサッ シュッ

魔娘「男!」

女主人「動くんじゃないよ!」

558: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:15:41.54 ID:iMGk0JE4o
男(鉈の切っ先が目の前に…気を抜いたら切られそうなぐらい鋭い目だ…)

女主人「…正直に答えな。あんたと“盗賊”の関係は?」

男「お、俺の師匠です」

女主人「師匠だあ!?」

魔娘「そうね。それが一番近いかもね」

女主人「…盗賊はお尋ね者だよ。あんたら、それを知ってんのかい?」

魔娘「ええ。知ってるわ」

女主人「はっ!あんたら、お尋ね者の弟子かい」

559: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:16:08.41 ID:iMGk0JE4o
魔娘「盗賊さんはお尋ね者だけど、尊敬できる人だわ。今まで出会ったどの人よりもね」

女主人「…気に入らないね。その余裕ぶった態度。こいつがどうなってもいいのかい?」チャキッ

男「…」

魔娘「やって御覧なさい。でもあなたは男を傷つける気はないわね」

女主人「…どうしてそう思うんだい?」

魔娘「あなた、盗賊さんの身内だもの」

男「…へ?」

560: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:16:38.35 ID:iMGk0JE4o
女主人「…なんで分かった?」

魔娘「匂いよ」

女主人「匂い?」

魔娘「あなたからは盗賊さんと同じ匂いがするのよ。…かすかにだけどね。どう?」

女主人「…よく分かったね。盗賊はあたしの兄貴だよ」スッ…

魔娘「子●魔、もういいわよ」

子●魔「ん…」バサバサッ

女主人「まったく…毒針なんて人に向けるんじゃないよ」

561: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:17:05.61 ID:iMGk0JE4o
魔娘「もう羽は大丈夫みたいね」ナデナデ

子●魔「うん。でもまだうまく羽ばたけなくて…」

魔娘「後は時間の問題よ。ね?」

子●魔「うん…」

男「…あ、鉈返してもらえます?」

女主人「ほらよ」ポイッ

男「おっと」

562: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:17:32.07 ID:iMGk0JE4o
女主人「…あんた、魔族かい?」

魔娘「…ええ」

女主人「…なるほどねぇ。どうりで」

魔娘「勘違いしないでね?魔界に行きたがってるのは男のほうなんだから」

女主人「あんたが?なんでだい?」

男「シスターが竜にさらわれて…それで探しに行くんです」

女主人「また無駄なことを…」

男「…っ」グッ

563: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:17:59.20 ID:iMGk0JE4o
女主人「けど、そういう奴、あたしゃ嫌いじゃないよ」

男「…え?それじゃあ」

女主人「協力しようじゃないか」

男「ありがとうございます!」

女主人「けど今は無理だよ。新勇者達が居なくならないとね」

男「…なんで新勇者様がいるとダメなんだ?」

魔娘「そんなの決まってるじゃない。新勇者達は王都公認の“正義の人”だもの」

魔娘「そんな人たちが、一般人が魔界と交流することを許すと思う?国が禁止してるのに」

男「なるほど」

564: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:18:26.97 ID:iMGk0JE4o
魔娘「でも…こうなったら早く新勇者達にこの町から出てってもらわないと…」

女主人「ま、しばらくは無理だろうね」

魔娘「どうして?」

女主人「あいつら王都に行きたいらしいけど、王都から迎えの船が来るのにあと二日は掛かるからね」

男「なんで砂漠を通って帰らないんだろ?」

魔娘「懲りたんじゃない?サンドワームに襲われてね」

男「あ、そっか」

565: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:18:54.70 ID:iMGk0JE4o
魔娘「じゃあそれまではここで逗留ってことになるのね」チラッ

女主人「あたしゃ別にかまわないよ」

魔娘「じゃあ、お世話になるわ」

女主人「毎度ありぃ」

男「あとは…魔界に行く船だな」

女主人「…あんたら船に心当たりはあるのかい?」

男「いえ…」

女主人「ふうん…諦めたほうがいいよ」

男「なんでですか!?」

566: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:19:43.52 ID:iMGk0JE4o
女主人「さっきも言ったように、魔界に行くのは御法度なんだ」

女主人「だから余所者のあんたたちじゃ、どこを探しても魔界に行く船は見つからないだろうね」

女主人「それに、もし見つかったとしても、どこの誰とも分かんないあんたらを乗せるとは思えないからね」

男「で、でも、俺たち紹介状持ってます。これが役に立つはずだって!」

女主人「紹介状?」

男「は、はい…これです」カサッ

女主人「んー?…えっ!?」


567: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:20:16.87 ID:iMGk0JE4o
男「これを“神官”って人に見せれば何とかなるって言われて…」

女主人「…あんた、商人さんと知り合いだったのかい?」

男「え、ええ」

女主人「…とりあえず荷物を置いてきな。後で案内してやるよ」

男「ホントですか!?」

魔娘「ありがとう!」

女主人「けど!絶対大丈夫ってことは無いからね。ダメでも恨むんじゃないよ?」

魔娘・男「「はい!」」

568: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:20:43.91 ID:iMGk0JE4o
~町中~

ザワザワ…ガヤガヤ…

男「…なんか見られてるような…」

魔娘「見られてるのよ。間違いなく…ね」

子●魔 コソコソ

女主人「ここは脛に傷持つやつらが多いんだ。だから余所者には警戒するんだよ。我慢しとくれ」

魔娘「どうして?」

女主人「誰も好き好んでこんなとこに住みやしないよ」

男「どういうことですか?」

569: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:21:10.18 ID:iMGk0JE4o
女主人「海峡の向こうが魔界なんていう危なっかしい土地に住むんだ。それなりに理由はあるもんさ」

魔娘「じゃあ、あなたはなぜここに住んでるの?」

女主人「…兄貴がお尋ね者になっちまったからね…流れ流れてここに着いたのさ」

魔娘「…ごめんなさい」

女主人「いいさね」
  ・
  ・
  ・

570: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:21:36.48 ID:iMGk0JE4o
女主人「ここだよ」

男「え?ここって…教会!?」

魔娘「…ちょっと違うわね。神殿かしら?」

女主人「そっちのお嬢ちゃんの言うとおり、ここは神殿だよ」

子●魔「…すごく静か…」

男「初めて見た…これが神殿か」

女主人「そうだろうねえ。国は王都教以外は禁止してるからね」

571: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:22:02.84 ID:iMGk0JE4o
男「え?じゃあここは…」

女主人「表向きは教会だよ。けど、本当は神殿なのさ」

ガチャ

魔娘・子●魔・男「「「!?」」」

女主人「…ここから先はあたいが話すから、喋らないでおくれよ?」

魔娘・子●魔・男「「「はい」」」

コツッ コツッ コツッ

?『どなたかな?』

572: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:22:28.75 ID:iMGk0JE4o
女主人「あたいだよ。“お客さん”を連れてきたんだ」

男『…誰だ?』ボソッ

女主人「しっ!」

?「…私は神官です。“お客さん”ですか…」

魔娘(優しそうな表情…だけどあの眼光は只者じゃないわね…)

神官「…して、どのような“お客さん”なのでしょうか?」

女主人「この子らは冒険者で、“あっち”に行きたいんだってさ」

神官「ほう…」

573: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:22:54.97 ID:iMGk0JE4o
女主人「紹介状も持ってる。ほら、あんた。さっさと出しな」

男「あ、は、はい…これです」カサカサ

神官「…ふむ。商人さんの紹介状ですか…相当気に入られたみたいですね」

男「気に居られたかどうかは分かりませんが、よくしてもらいました」

神官「…よろしいでしょう。船に乗せてあげます」

男「ホントですか!?ありがとうございます!!」

神官「但し!」

魔娘・子●魔・男 ビクッ

574: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:23:24.33 ID:iMGk0JE4o
神官「ふたつ条件があります。一つ目は、このことは誰にも口外しないこと」

男「は、はい!」

神官「二つ目は…出発は新勇者様一行がこの町を出た後になります。彼らに見つかると厄介ですからね」

魔娘「…まあ、しょうがないわね」

神官「それと…ひとりにつき金貨10枚が必要です」

男「金をとるのか?」

575: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:23:49.58 ID:iMGk0JE4o
神官「これは慈善事業ではないのです。嫌なら結構」

魔娘「払うわ」

男「お、おい!」

魔娘「男、これは商売よ。私達は魔界に行きたい。この人は国の決まりを破ってそれを実現してくれる」

魔娘「だからこれは正当な要求だと思うの」

男「魔娘がそういうのなら…はい、金貨30枚です」

神官「…確かに。では、出航の準備が出来ましたら迎えのものをよこします。それまでは宿で待機していてくだい」

男「分かりました」

576: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:24:15.76 ID:iMGk0JE4o
~町中~

女主人「あんたら、飯はどうするんだい?」

男「あ、宿で」

女主人「ないよ」

男「…へ?」

女主人「うちは飯は無いんだよ」

魔娘「…食事は外で取れってことね」

女主人「そういうこと」

魔娘「で、どうするの?」

男「どうするって…どんな店があるのか知らないし…どこかいい飯屋を教えてくれませんか?」

女主人「いいよ。ついて来な」
  ・
  ・
  ・

577: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:24:42.55 ID:iMGk0JE4o
女主人「ここだよ」

魔娘・子●魔・男「「「…」」」

女主人「店は汚いけど味は保障するよ。さ、入んな」

男「えっと…おじゃまします…」

魔娘「…中は割りとマシなほうね」

子●魔「いい匂い…」

ガヤガヤ…

578: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:25:09.64 ID:iMGk0JE4o
店主「何人だ?」

男「あっと…3人です」

女主人「あたしゃ奥に行っとくよ」

店主「…で?なんにする?」

魔娘「メニューも無しじゃ決められないわ」

店主「メニューならホレ、壁に掛けてあるだろ」

子●魔「あ…わたしカレー!」

魔娘「じゃあわたしは…魔牛ステーキで」

男「俺は…怪鳥の串焼きで」

店主「おまえら…せっかく港町に来たってのに、魚は食べないのかよ…」

男「あ、すいません…」

579: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:25:39.83 ID:iMGk0JE4o
店主「いいよ。どうせまだしばらくこの町に居るんだろ?」

店主「明日は生きのいい魚を仕入れとくから注文してくれよ?」

魔娘「それは今日の料理の味次第ね」

店主「なに!?」

女主人「あははは。そっちの嬢ちゃんの言うとおりだ!あんた、あたいの顔に泥塗るんじゃないよ?」

店主「はいはいっと。そっちのやつ、持って行ってくれ」

女主人「あたしを使うんじゃないよ。まったく…ほら、カレーだよ」

子●魔「うわあ…おいしそー!」

580: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:26:14.61 ID:iMGk0JE4o
男「先に食べてていいぞ?」

子●魔「ホント!?じゃあ、いただきまーす」パクッ

魔娘「どう?」

子●魔「お…おいひいえふ!」

男「ははは。なに言ってるかわからんぞ」

子●魔 パクパク

魔娘「…まだかしら…」グゥウ…

女主人「ほら、おまたせ」ドンッ

魔娘「すごい…肉に網の目がついてる…」

581: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:26:41.35 ID:iMGk0JE4o
店主「うちは肉を焼くのに炭を使ってるんだ。焼けた炭の上に網を置いて肉を焼く」

店主「だから肉に網の目がつくんだ」

魔娘「そうなのね」パクッ

魔娘「…おいしい!火の通りも塩加減も完ぺきだわ!!」

店主「だろ?」ニヤッ

男「俺の串焼きもうまい!」

店主「そうだろそうだろ」
  ・
  ・
  ・

582: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:27:11.65 ID:iMGk0JE4o
~宿の部屋~

子●魔「…けぽっ」

魔娘「食べ過ぎたわ…量が多いのがいけないのよ」サスサス

男「そうか?」

魔娘「男にはあの量でちょうど良かったでしょうね…」

男「そうだな。味も良かったしな」

魔娘「そうね。他の料理も食べてみたいわね」

583: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:27:38.12 ID:iMGk0JE4o
子●魔「…ねえ」

魔娘「なあに?」

子●魔「あの人たち…夫婦?」

男「たぶんな」

子●魔「そっか…」

魔娘「…我慢しなさい」

子●魔「はーい…」

584: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:28:05.11 ID:iMGk0JE4o
男「なにを我慢するんだ?」

魔娘「オンナの子だけの会話よ。邪魔しないで」

男「えらい言われようだな…」

魔娘「今日は疲れたから、もう寝るわ。おやすみ」

子●魔「わたしも…おやすみー」

男「じゃあ俺も。おやすみ」

585: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:28:49.61 ID:iMGk0JE4o
~翌日~

男「港のほうに来てみたけど…」

魔娘「小さな漁船しか無いわね…」

子●魔「…」

男「…あっちの岬のほうに行ってみるか」

魔娘「そうね」

子●魔「うん」
  ・
  ・
  ・

586: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:29:16.44 ID:iMGk0JE4o
男「やっぱり何にも無いな…」

魔娘・子●魔「「…」」

男「ん?どうした?」

魔娘「…この水平線の向こうにあるのよ…魔界が」

子●魔 コクン

男「…そっか。いよいよだな…」

魔娘・子●魔・男「「「…」」」

587: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:29:45.93 ID:iMGk0JE4o
~町中~

男「昼飯はどうする?昨日の店に行くか?」

魔娘「任せるわ」

男「んー。昼はちょっと軽めのものにするか」

魔娘「アテはあるの?」

男「ああ。今朝、女主人さんに聞いてたんだ」

魔娘「ふーん…雰囲気のいい店だといいけど」

588: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:30:12.60 ID:iMGk0JE4o
男「それは行ってからのお楽しみっと。…ん?あれは…」

魔娘「あのむさくるしい顔…どこかで見たわね…戦士…だったかしら?」

男「あの胸…思い出した!女魔導師様だ!!」

魔娘・子●魔 ジトー…


589: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:30:43.10 ID:iMGk0JE4o
男「そんな目で見るなあ!」

魔娘「変態はほっといて…子●魔、後ろに隠れてなさい」

子●魔「はい…」コソコソ

男「変態認定ですかそうですか」

魔娘「男、あれ…」

男「ん?近づいてくる…ゆっくり離れよう」

魔娘「ええ」
  ・
  ・
  ・

590: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:31:48.62 ID:iMGk0JE4o
女魔導師「戦士、ご機嫌だねぇ」ニコニコ

戦士「ああ。新しい剣が手に入ったからな」

女魔導師「良かったねぇ」

戦士「だが、試し切りをするまではなんとも言えんな」

女魔導師「そっかー。じゃあ町の外に出て魔物でも倒してくる?」

戦士「一人じゃ何かあったら困るからダメだ」

女魔導師「あたしも一緒に行くからさぁ」

戦士「…ちゃんと支度をしてからにしよう。な?」

女魔導師「…慎重だねえ」

戦士「そうだ。…ん?あれは…」

魔娘・子●魔・男 コソコソ…

591: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:32:15.56 ID:iMGk0JE4o
戦士「おい!」

子●魔 ビクッ

男「…なにか?」

戦士「その魔物、わたしが切って進ぜよう」チャキッ

男「はあ?」

戦士「お前達、魔物憑きで大変だったろう?だからわたしが切り捨ててやろう」ニヤニヤ

男「止めてください!この子は大事な仲間なんですから!!」

592: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:33:11.29 ID:iMGk0JE4o
戦士「お前はその魔物に騙されているのだ。そのような危険な魔物、生かしておくわけにはいかん」イラッ

男「危険かどうかは自分で判断します。放っておいてください」

戦士「わたしが直々に切って進ぜるのだ。ありがたく差し出せ!」

男「いやです」

魔娘「走るよ!」

子●魔「うん!」

トテテテテ…

女魔導師「ふふふ。そうはいかないわよぉ?」

魔娘「!?…どいて」

女魔導師「っ!?その声…砂漠の都市であたし達を助けた!?」

魔娘「どいてったら!」

593: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:34:02.07 ID:iMGk0JE4o
女魔導師「…そうはいかないわ。少なくともあのケリがつくまではね」

魔娘「え?」

戦士「どうしても譲らぬか?」イライラ

男「仲間を差し出すわけ無いでしょ!?」

戦士「…わたしは正義だ…正義に逆らうものはみな悪だ…お前は悪だ…悪は…滅びろ!」

ガキィイイン!

男「危ないヤツだな!」

戦士「そんなっ!鉈でっ!防げるっ!わけがっ!ないだろっ!!」

カキン キン キン キン ガキィイン!

594: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:35:37.16 ID:iMGk0JE4o
男(遅い上に弱い…相当手加減してるのか?)

戦士「はあ、はあ、はあ…き、きさまぁああ!!」ガバッ!

男(んな訳ないか。必死だもんな)

キィイイイン…

戦士「…あ」

カラン

男「剣を弾き飛ばしました。もう終わりです」

戦士「…くっ!き、貴様なんかに負けるかっ!!」バッ

男(眼つぶし!?鬱陶しいやつだなあ)

ダッ

595: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:36:32.04 ID:iMGk0JE4o
戦士「逃げるのか!」

男「魔娘!子●魔!!」タタタタ

魔娘・子●魔「「男!」」ギュッ

女魔導師「ま、待ちなさい!」

男「“転移”!」

シュイン

女魔導師「…え?…消えた?」

戦士「女魔導師!奴らはどこに行った!!」

女魔導師「そ、それが…消えちゃったの…」

戦士「…なに?」

女魔導師・戦士「「…」」

596: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:36:58.90 ID:iMGk0JE4o
~宿の前~

シュイン ドサドサッ

魔娘「いたたた…着地はもっとゆっくりしてよ!」

子●魔「う~…おしり打った…」サスサス

男「ごめんごめん」

ガチャ

女主人「おや?あんたら、うちの前でなにしてんだい?」

男「と、とりあえず中で…」
  ・
  ・
  ・

597: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:37:28.33 ID:iMGk0JE4o
男「…で、急いで逃げてきたんです」

女主人「ふーん…で?どうするんだい?」

魔娘「…他に宿は…無いんですよね?」

女主人「そうだねぇ…」

男「…ここに居るしかないな」

魔娘「…あいつらが復讐しに来たら?」

男「そのときは…どうしよう?」

女主人「…ちょっとあんたら」

男「なんですか?」

女主人「お客さんだよ」

男「え?」クルッ






新勇者「初めまして」


598: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:37:59.35 ID:iMGk0JE4o
~宿の部屋~

新勇者「本当にすまなかった!」ドゲザー

男「い、いや。そこまでしていただかなくても…」アタフタ

新勇者「けど!」

魔娘「まあ、怪我もしてないし、あなたにそこまでしてもらうことは無いわ」

子●魔 コクコク

魔娘「ただ…どうせならあの人たちに謝って欲しかったわ。自分達は正義だから、なにをしてもいいなんて…トンだ思い上がりよ」

599: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:38:30.18 ID:iMGk0JE4o
新勇者「戦士と女魔導師には俺から注意しておくよ」

魔娘「もういいわ…でも…」

新勇者「ん?」

魔娘「あなた、本当にあの人たちと仲間なの?なんだか全然雰囲気が違うんだけど」

新勇者「彼らは今回の旅で、俺を守るためだけに国中から選りすぐられてきた、いわばエリート中のエリートさ」

新勇者「けど俺は王都の郊外で山仕事をしてた田舎者だから…」

新勇者「…俺、ホントはこういうの、苦手なんだ…」

600: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:38:56.81 ID:iMGk0JE4o
魔娘「そう…それと、子●魔のことなんだけど」

新勇者「それもちゃんと言っておくよ。手を出すなって」

子●魔「あ、ありがとう」ペコッ

新勇者「…いい子だな」

男「…ロリコン?」

新勇者「ちげぇよ!田舎に残してきた友達を思い出してたんだ!!」

男「友達?」

新勇者「…スラりんって言って、スライムなんだ」

魔娘・子●魔・男「「「え!?」」」

601: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:39:22.76 ID:iMGk0JE4o
新勇者「そ、そんなに驚かなくてもいいだろ…」

男「いや…新勇者様がスライムと友達だったなんて…意外だったから…」

新勇者「他の人には言わないでくれよ?」

魔娘「ええ。言わないわ。言ったところで信じてもらえないでしょうし」

新勇者「そうだろうな。それじゃ、そろそろ帰るとするよ。じゃあな」

男「あ、わざわざすいませんでした」

子●魔「ばいばーい」ノシ

新勇者 ノシ

602: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:39:50.47 ID:iMGk0JE4o
魔娘「…思ったより話がわかる人だったわね」

男「そうだな。それだけにあのお仲間のほうが残念だな…」

魔娘「そうね…でも、それはしょうがないんじゃない?」

男「なんでさ」

魔娘「新勇者が言ってたでしょ?“新勇者を守るためだけに選ばれたんだ”って」

男「あ、ああ…」

魔娘「彼等は新勇者を守るためなら何をしてもいいと思ってるのよ」

男「悪いことでもか?」

魔娘「法を破らないギリギリのことならしてるでしょうね。法を破れば彼らの正義もなくなるもの」

603: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:40:17.64 ID:iMGk0JE4o
男「じゃあ…子●魔を切ろうとしたのは?」

魔娘「“魔族を倒しただけ”って言い訳ができるからでしょうね。きっと」

男「最低だな…」

子●魔(新勇者様…ね)

魔娘「子●魔?」

子●魔 ビクッ

魔娘「やめといたほうがいいわ」

子●魔「はい…」シュン

604: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:42:16.33 ID:iMGk0JE4o
~夜・宿の部屋~

魔娘「今日も食べ過ぎたわ…」サスサス

男「今日の魚料理もうまかったもんな」

子●魔「白子おいしかった♪」

男「よかったな」ナデナデ

子●魔「えへへ」

バサバサバサ ホーッ ホーッ

男「お、使い魔が帰ってきた」カサッ

605: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:42:43.82 ID:iMGk0JE4o
  男へ

  もう辺境の港まで来ているのですね。

  この手紙が間に合うか分かりませんが送ります。

  男も分かっていると思いますが、人間のお金は魔界では使えません。

  ですから、魔界で価値のあるものを買い、それを魔界で売ってお金に換えてください。

  私達の時は砂金に換えていきました。

  多少価値は下がりますが、それが一番嵩張らなくていいと思います。


  これから先はなにが起こるかわかりません。

  くれぐれも用心し、身の危険を感じたらすぐに引き返しなさい。

  分かりましたね。


  賢者

606: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:43:10.74 ID:iMGk0JE4o
男「…賢者様も心配性だな」

魔娘「賢者様は魔界の経験者ですもの。心配もするわよ」

男「あー、そういえば…」

魔娘「そのせいでお尋ね者になって…」

魔娘・男「「…」」

子●魔「…ねえ」

男「ん?なんだ?」

子●魔「どうして…賢者様?はおたずねものになったの?」

男「それは…」

魔娘「犠牲になったのよ」

607: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:43:38.90 ID:iMGk0JE4o
子●魔「ぎせいに?」

魔娘「魔界に勇者を置いて帰っちゃったから…ね」

子●魔「どうして?」

男「…魔族に襲われた時に、勇者様が賢者様達を無理やり転移符で帰したんだ」

子●魔「それって勇者様が賢者様達を庇ったってこと?どうしてそれでおたずねものになっちゃうの?」

男「簡単に言うと…勇者様が死んだ責任を押し付けられたんだ」

子●魔「…それっておかしいよね?勇者様を魔界に行かせたのはだれ?」

608: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:44:13.73 ID:iMGk0JE4o
男「それは…王様だな」

子●魔「だったら、勇者様が魔界に行っても大丈夫になるように強くしなかった王様のせいじゃないの?」

男「…その通りだな。だけど王様は責任をとろうとしなかった」

男「その代わり…すべての罪を賢者様達に負わせたんだ」

子●魔「そんなの…おかしいよ…」

男「そうだな…けど…それが人の世なんだ…」

子●魔「賢者様がかわいそう…」

魔娘「…もう遅いからお風呂に入って寝ましょう」

子●魔「…うん」

男(子●魔の言うとおりだ…おかしいのは…)

609: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:44:40.41 ID:iMGk0JE4o
~翌日~

男「新勇者様はああいってたけど…」

魔娘「仲間達に会うのはやっぱり嫌ね…」

子●魔 コクッ

魔娘「と言っても…準備するものもあるし…困ったわね」

男「どうする?」

魔娘「…仕方がないから男、あなたが用意してくれないかしら?あなただけなら逃げることもできるでしょ?」

男「そうだな。そうするか」

魔娘「ちょっと待ってね。準備するものをメモするから」カキカキ

魔娘「…はいこれ。よろしくね」

男「わかった」

610: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:45:06.95 ID:iMGk0JE4o
~町中~

売り子「毎度ありー」

男「これで買うものは終わりだな。金貨50枚も砂金に変えたし…」

ガヤガヤ…

男「ん?港のほうが騒がしいな…行ってみるか」
  ・
  ・
  ・

611: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:45:33.09 ID:iMGk0JE4o
男「…すごい船だな…」

女主人「王都の船だよ」

男「あ、女主人さん」

女主人「ほら、新勇者たちだよ」

男「あ、ホントだ」

女主人「出発は明日らしいね」

男「そうなんですね」

612: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:45:59.52 ID:iMGk0JE4o
女主人「…これでやっと落ち着くねえ」

男「そうですね…」

女主人「…準備はできたかい?」

男「あ、はい。買い物は大体終わりました」

女主人「…明日は早めに晩飯を食っときな」

男「え?…あ、はい」

613: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:46:31.06 ID:iMGk0JE4o
~翌日・夜~

男「晩飯も食ったし…準備もできてる」

魔娘「いつでも行けるわ」

子●魔「おっけーです」

コンコン ガチャ

女主人「もういいかい?」

男「あ、はい。いつでもいいです」

女主人「そうかい…ついてきな」

男「…よし!行くぞ!!」

魔娘・子●魔「「はい」」

614: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:47:34.11 ID:iMGk0JE4o
~神殿~

女主人「…静かにしてなよ」

男 コクッ

神官「…来ましたか」

魔娘・子●魔・男 ビクッ

女主人「あたしゃここまでだよ。あとは神官さん、頼んだよ」

神官「分かりました。こちらへ」

ガチャ

男「裏口?」

神官「ここから先、しばらく森の中を歩きます。足元に注意してください」

男「分かりました」

615: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:48:06.62 ID:iMGk0JE4o
~森の中~

ガサガサ

魔娘「…なんだか怖いわ」

子●魔 コソコソ

男「…大丈夫だ。俺たち以外に気配はない」

神官「お金をいただいた以上、やることはちゃんとしますよ。商人さんの紹介状もあることですし」

魔娘「そう願いたいものね…」

ガサガサ…
  ・
  ・
  ・

616: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:48:35.67 ID:iMGk0JE4o
神官「…着きましたよ」

男「ここって…森の中だよな?」

魔娘「こんな森の中に入江があったなんて…」

神官「ここはまわりを大きな木々が覆っていますから、入江が見えないんですよ」

男「なるほど…」

神官「…あそこの船です」

男「あれか…」

魔娘「思ったより大きいわね」

神官「色々な品物を載せていますからね」

男「なるほど」

?「そいつらが“お客さん”かい?」

617: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:49:02.35 ID:iMGk0JE4o
男「!?」バッ

神官「身構えないでください。彼があなた方の面倒を見てくれる船長です」

?改め船長「ふーん…まだ若いな」

男「…」

船長「…で?どうすりゃいいんだ?」

魔娘「魔界に上陸できればいいわ」

船長「はっ!簡単に言ってくれるぜ」

618: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:49:28.89 ID:iMGk0JE4o
魔娘「無理なの?」

船長「…今は魔界も大変らしいんだ。だから洋上で荷物の受け渡しをする」

船長「あんたらをそいつらの船に乗せることはできるが…そっから先は保証できねえな」

男「そんな!」

魔娘「…それでもいいわ。相手の船に乗り込んだらそこから先は自分たちで何とかするから」

船長「ほう?あんた、見かけによらず、いい度胸してんな」

魔娘「男がいるからね」

男「へ?俺?」

子●魔 コクコク

619: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:49:55.75 ID:iMGk0JE4o
船長「…いいだろう。乗りな」

魔娘「ありがとう。さ、行くわよ」

男「あ、ああ…神官さん、ありがとうございました」

神官「いえいえ。私は自分の仕事をしただけです」

子●魔 ペコッ
  ・
  ・
  ・

620: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:50:22.40 ID:iMGk0JE4o
船長「今から出港する。明かりの類いは一切使うな。わかったな?」

男「ああ…」

船長「よし!錨を上げろ!!」

ガラガラガラ…

船長「俺が呼びに来るまでここで待ってな」

魔娘「…狭い部屋ね。金貨30枚も払ってるんだからもっとマシな部屋にしてよ」

船長「窓がついてるだけマシだと思え。じゃあな」

パタン

魔娘「…いよいよ出港ね」

男「ああ…」

子●魔「おうち…」
  ・
  ・
  ・

621: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:50:48.99 ID:iMGk0JE4o
ザザーン…

男「魔娘、大丈夫か?」

魔娘「ええ。今のところね」

男「そうか。思ったより揺れなくて助かるな」

魔娘「もっと小さい船だったら酔ってたわ」

子●魔「?」

男「子●魔は平気みたいだな」

子●魔「窓の外見てると平気だよ?」

男「そっか」

魔娘「私もそうするわ」

622: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:51:20.72 ID:iMGk0JE4o
ザザーン…ザン…チャプッチャプッ…

男「…止まったみたいだな」

魔娘「…」

男「…どうした?」

魔娘「…ちょっと緊張してるのよ」

男「そっか」

魔娘「男、いつでも鉈を振れるようにしておきなさい」

男「ああ」

623: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:51:48.01 ID:iMGk0JE4o
カチャ

船長「出ろ」

男「やっと外の空気が吸える…」

魔娘「そうね」

子●魔「んーっ!」ノビーッ

男「…ん?相手の船は?」

魔娘「そういえば…騙したの!?」

男 バッ

624: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:52:14.65 ID:iMGk0JE4o
船長「そう慌てるな。もう来てる」

魔娘・子●魔・男「「「え?」」」

船長「縁から下を見てみな?」

男「…あ」

魔娘「あれは…魚人族ね。あんな小さい船なの?大丈夫?」

船長「それはあいつらに言ってくれ。荷物はもう粗方乗せ換えた。あとはお前らだけだ」

船長「このまま帰るも、乗り移るも好きにしな」

男「…行くか」

魔娘「…それしかないようね」

子●魔 ギュッ
  ・
  ・
  ・

625: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:52:42.13 ID:iMGk0JE4o
男「お邪魔しますよ」

魚人族「…」

男「無愛想なやつ…」

魔娘「しょうがないわ。魚人族は人の言葉は分かるけど、人の声は持っていないから」

男「え?じゃあどうやって会話するんだ?」

魔娘「人間には聞こえないだけ。彼等はちゃんと会話してるわ」

男「それでよく密輸ができるな」

魔娘「おそらく筆談とジェスチャーでしょ?」

男「そうなのか?」

626: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:53:08.75 ID:iMGk0JE4o
魚人族「----」

男「…なんか言ってるみたいだけどさっぱりわからん…」

魔娘「私には聞こえるわよ」

子●魔「わたしも聞こえる」

男「え?なんて言ってるんだ?」

子●魔「“まったく厄介な荷物だ”だって」

魚人族「----」

魔娘「“とりあえず陸までは連れて行く。あとは勝手にしろ”ですって」

男「そっか…じゃあ、陸までは行けるんだな」

魔娘「そうね」

627: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:53:35.25 ID:iMGk0JE4o
船長「おいお前ら」

男「あ、船長」

船長「これで俺の役目は終わりだ。じゃあな」

男「ああ。世話になったな、ありがとう」

船長「けっ!礼なんてよせやい」

子●魔 ノシ

ザザーン…

男「…行っちまったな」

魔娘「ええ…」

子●魔「…」

628: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:54:01.72 ID:iMGk0JE4o
ギィ…ギィ…

男「こっちも動き出した!どうなってるんだ?」

魔娘「魚人族が水中で引っ張ってるのよ…結構早いわね…」

男「あ、ホントだ…なあ。彼等はどういう種族なんだ?」

魔娘「そうね。魚人族は泳ぎが得意で、1時間以上水の中に潜れるわ」

魔娘「その特技を生かして、魚や貝なんかを取って生計を立ててるの」

魔娘「でも、その容姿から他の種族との交流は少ないわね」

男「容姿って?」

629: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:54:29.81 ID:iMGk0JE4o
魔娘「彼等は体の表面が堅いの。そのおかげでかなり深い海の底でも行けるわ」

魔娘「そして手足には水かきがあって、背びれみたいなものがあるの」

男「顔は?」

魔娘「顔は…魚に似てるわね」

男「なるほど」

ザバッ

魚人族「----」

魔娘「----?」

魚人族「----」

魔娘「----」

男「…なんだって?」

630: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:55:14.65 ID:iMGk0JE4o
魔娘「“すぐに着くから大人しくしていろ”ですって」

男「わかった」

ギィ…ギィ…

ザバッ

魚人族「----」

魔娘「着いたそうよ」

男「え?…あ、桟橋」

魚人族「----」

魔娘「降りろって」

631: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:56:20.55 ID:iMGk0JE4o
男「わかった。ほら、子●魔」

子●魔「…よいしょっ」

魔娘「私にも手を貸して」

男「ほら」

魔娘「ありがと…よいしょ」

男「ほっ…」

テクテクテク

男「陸だ…ここが魔界か…」

ザッ ザザッ

632: ◆doBINqA5W6 2013/01/14(月) 23:56:47.83 ID:iMGk0JE4o
男「着いたんだ…」

魔娘「うん…グスッ」

男「ど、どうした!?」

魔娘「ううん…やっと…やっと…帰ってきたのね…」

子●魔「うん…」じわぁ

男「ああ…ついに…だな…」

魔娘「ええ…ヒック…」

男「これからが本当の冒険だな…」

魔娘「そうね…ねえ、男」

男「ん?」



魔娘「 ---ようこそ。魔界へ」ニコッ



651: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 22:57:09.93 ID:oqLaXfmko
~魚人族の倉庫街~

魚人族「----」

魔娘「----」

男「なんだって?」

魔娘「“夜道は危険だから今夜はそこの物置小屋を使え”ですって」

男「案外優しいんだな」

魔娘「前にも言ったでしょ?魔族は友好的なら歓迎するって」

653: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 22:58:32.59 ID:oqLaXfmko
男「あー…そういえばそんなこと言ってたな」

魔娘「今夜は好意に甘えましょ」

男「ああ。けど、警戒はしたほうがよさそうだな」

魔娘「その必要はないと思うわ。彼ら魚人族は水の外に出ると1時間ほどで死んじゃうもの」

男「そうなのか?案外不便なんだな…」

魔娘「そうね。だからさっきもあっちの倉庫まで素早く荷物を運んでたのよ」

男「なるほどなぁ」

655: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:00:01.09 ID:oqLaXfmko
~魚人族の物置小屋~

カリカリカリ…

.  ┌───┐
.  │鬼の国│
.  │┌──┴──┐
.  ││ 竜の国  ├───┐
.┌┴┴┐     ┌┴┐   │
.│碧眼├───┤山│ 巨 │
.│の国│王の国│脈│ 人 │
.│   ├───┴─┤ の │
.└─┬┘     ┌─┤ 国 │
.   │ 獣の国 │山│    │
.   │      │脈│   │
.   └─┬──┴─┴┬─┘
.      │ 妖精の国 │
.┌───┴┐      │
.│ 水の国 ├────┘
.└────┘


657: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:02:06.20 ID:oqLaXfmko
魔娘「…と。こんな感じね」

男「結構大きいんだな…魔界って」

魔娘「手書きだから大きさは適当よ?面積は人間界と同じぐらいじゃないかしら?」

男「そうなのか?」

魔娘「ええ。あと、私達は“魔界”じゃなくて“主王国”って呼んでるわ」

男「主王国?」

658: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:03:41.11 ID:oqLaXfmko
子●魔「えっと…この世界は部族ごとに小さな国を作ってます。そしてそれぞれの国は族長たちが治めてます」

子●魔「そして、その族長たちを取りまとめてるのが“主王様”です」

男「ふーん…“主王様”って?」

魔娘「…人間は“魔王”って呼んでるわね」

男「魔王…か」

魔娘「怖い?」

男「いや。どんな人なのかなって」

659: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:04:43.88 ID:oqLaXfmko
魔娘「そうね…民の生活を良くするために頑張ってる人だわ」

男「いいやつじゃん!」

子●魔「でも…」

男「ん?」

子●魔「今の王様は争い事がお好きで…軍隊?を鍛えたりしてるから…」

魔娘「…」

男「軍隊を鍛えるのはわかるけど…争い事が好きって…」

子●魔「軍隊はクラーケンや魔牛なんかの魔物から民を守るのが主な仕事ですけど…」

子●魔「最近は…人間の国を攻める噂もあったりして…ちょっと怖いです…」

男「人間の国を攻めるって!?」

子●魔「う、噂ですけど…」

※魔族:~人、~族など、言葉を話し文化的な生活をしているもの。 魔物:身体の大きな野生生物。

660: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:09:51.36 ID:oqLaXfmko
男「…ま、いいや。それは国が考えることだろうし」

子●魔「…え?それだけ?」

男「俺一人でどうこうできる問題じゃないだろ?」

魔娘「ふふっ。少しは成長したようね」

子●魔「でも…」

魔娘「子●魔、国同士の戦争なんてものは国長が対処する問題なの。男に期待するのはお門違いだわ」

子●魔「…」

661: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:10:24.03 ID:oqLaXfmko
男「…これでこの話はおしまいにしよう。それより、今どこら辺だ?」

魔娘「私の記憶が確からならこの辺りよ」

男「ふーん。で、これからどこに向かうんだ?」

魔娘「目的地は●魔族の町とエルフ族の町と竜の国ね」

魔娘「だけどまっすぐ行くことはできないから…まずは水人都市に行きましょ」

男「水人都市?」

魔娘「ええ。今いるのが魚人族の倉庫街だから、わりと近いはずよ?」

662: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:10:58.05 ID:oqLaXfmko
男「そっか。どんなところだろ…」

魔娘「そうね…水上に広がる都市…とでも言えばいいかしら」

男「水上に?」

魔娘「…水の国の国民は基本的に魚人族や人魚族のような水が無いと生きていけない種族が多いの」

魔娘「でも、他の種族とも交流があるから、交易用に建物を整備したの。それが水人都市なのよ」

子●魔「すごく綺麗なとこだって聞いたことがあるよ?」

男「そうなのか。楽しみだな」ナデナデ

子●魔「えへへ」

魔娘「…今夜はもう寝ましょう」

男「そうだな。おやすみ」

子●魔「おやすみなさーい」

663: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:11:36.79 ID:oqLaXfmko
~水人都市への道中~

テクテクテク…

男「もっと水だらけのところかと思ったら…普通に道も森や山もあるんだな」

魔娘「当たり前でしょ?交易に使う道も整備してあるし、水際で生活する種族もいるわよ」

男「けどさ、水の国の国民は水から出ると死んじまうんだろ?」

魔娘「すべてがそうじゃないわ。亀人族なんかは陸地でも平気だし、蛙人族の中には木の上で生活している種族もいるの」

男「そういうのもいるのか」

亀商人「おや珍しい。旅人かい?」

男「!?」バッ

664: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:12:13.97 ID:oqLaXfmko
魔娘「男、落ち着いて。ええ、そうよ。水人都市に向かってるの」

亀商人「そうかい。ま、気をつけてな」

魔娘「あなたはどこに?」

亀商人「魚人族の倉庫街さ。なにやら珍しいものが手に入ったらしいんでな」

魔娘「そう。気をつけてね」

亀商人「ああ。それじゃ」

665: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:12:41.87 ID:oqLaXfmko
男「…なあ、今の甲羅背負った亀っぽい人って…」

魔娘「亀人族よ。きっと商人ね」

男「あれがそうか…魚人族の倉庫街に行くってことは昨日の積み荷のことかな?」

魔娘「きっとそうね」

子●魔「嬉しそうだったね」

魔娘「珍しいものって言ってたからね。きっと商人の血がうずくんでしょ?さ、急ぎましょ」

男(魚人族もそうだけど、さっきの人も温和な感じだったな)

666: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:13:16.81 ID:oqLaXfmko
~水人都市~

子●魔「うわあ…きれい…」

男「…これはすごいな…大きな入り江っぽいけど水の上に建物が建ってて…どんな技術なんだろ?」

魔娘「子●魔は来たことないの?」

子●魔「うん…“村の外に行くのはもっと大きくなってから”って…」

男「魔娘は来たことがあるのか?」

魔娘「…ええ。小さいころにね…」

男「そっか…とりあえず宿を探そう」

667: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:13:56.25 ID:oqLaXfmko
魔娘「そうね。でもその前に砂金を硬貨に変えなきゃ」

男「あ、すっかり忘れてた」

魔娘「通貨が人間界とは違うからね。もっとも価値はあんまり変わらないけど」

男「そっか。じゃあ早く変えよう」

魔娘「この砂金の量だと金貨45枚分かしら?銀貨も混ぜとかないと…」ブツブツ…

男「頼りにしてます姐さん!」

魔娘「だから誰が姐さんよ!」

668: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:24:50.81 ID:oqLaXfmko
~宿~

男「4人部屋で」

人魚主人「では、銀貨15枚です」

魔娘「じゃあこれで」チャリン

人魚主人「はい。そちらの通路の突き当りのお部屋です。では、ごゆっくり~♪」チャポン

男「ビックリした…小船のままチェックインするって…それにしても」

男「…人魚って初めて見た…きれいな人だったな…」ニヤケ

子●魔「…」ツネッ

男「いてっ!なにすんだよ子●魔」

子●魔 プクーッ

男「…何むくれてんだよ…」

魔娘「…」ツネッ

男「魔娘も痛いって!」

669: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:25:17.03 ID:oqLaXfmko
~宿の部屋~

男「綺麗な部屋だな」

子●魔「見て見てー!窓の外もすごくきれい♪」

魔娘「…ホント。きれいな景色ね」

ヒトデ モゾモゾモゾ

男「おわっ!」

魔娘「どうしたの!?…あ、まだ掃除中だったのね」

男「え?」

670: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:25:43.99 ID:oqLaXfmko
魔娘「このヒトデは這いながらゴミとかをきれいに掃除するの。ほら、掃除が終わったから部屋から出ていくでしょ?」

男「そ、そうなのか…びっくりしたよ。あれも魔族か?」

魔娘「あれは魔物よ。小さいころから躾けて、掃除をするように教えるらしいわ」

男「ふーん…すごいな…」

子●魔「ね!ね!お外行こうよ」

男「そうだな。魔娘も来るだろ?」

魔娘「そうね。いろいろ買わなきゃいけないものもあるし」

男「よし。じゃあ行ってみよう」

子●魔「わーい♪」

671: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:26:12.98 ID:oqLaXfmko
~町中~

ギイコ ギイコ…

魔娘「…揺れが少なくなってきたわね」

男「小船を漕ぐのにも大分慣れてきたからな」

魔娘「その調子でお願いね」

男「はいはい…ところでさあ」

魔娘「なあに?」

672: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:26:39.81 ID:oqLaXfmko
男「魔娘は変化を解かないのか?もう魔界なんだし、人間に化けてる必要もないだろ?」

魔娘「…この方が楽なのよ。だからこのままでいるわ」

男「そっか。まあいいけどさ」

子●魔「あ!あそこ!!人がいっぱい!!」

魔娘「なにかしら?男、寄ってくれる?」

男「はいはい」
  ・
  ・
  ・

673: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:27:05.53 ID:oqLaXfmko
子●魔「うわあ…」キラキラ

魔娘「真珠に珊瑚石に金細工に…どれもお洒落だわ…」キラキラ

子●魔「いいなぁ…」

魔娘「…買っちゃおっか!」

子●魔「え?」

魔娘「わたしも少しぐらいお洒落したいもの。子●魔も一緒に選ばない?」

子●魔「…い、いいの?」

魔娘「ええ。あまり高いものは無理だけどね」ニコッ

子●魔「ありがとう!」

674: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:27:31.66 ID:oqLaXfmko
男「…すごいはしゃぎ様だな…」

チャポン

立●●●人魚「はあい、お兄さ~ん♪」

男「え?お、俺?」ドキッ

立●●●人魚「そうよぉ。あたしといいことしな~い?」

男「え、あっと…俺、足フェチなんで…」

立●●●人魚「あらぁ、残念ねぇ」パシャンッ

男「ビックリした…人魚にもああいう人がいるんだ…それにしても美人だったなぁ…」

675: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:27:58.64 ID:oqLaXfmko
魔娘「どうしたの?」

ビクッ

男「な、なんでもない!あははは…」

子●魔「?」

魔娘「ふうん…でね?これなんだけど」

男「これって…いくつ持ってんだよ二人とも…」

魔娘・子●魔「「えへへへ」」

男「…それで、全部でいくらなんだ?」

魔娘「金貨10枚よ」

男「じゅっ…!?」

676: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:28:25.32 ID:oqLaXfmko
子●魔「…だめ?」ウルッ

魔娘「ねえ…お願い…」ウワメヅカイ

男(ふ、ふたりともそんな顔されたら…)

男「…しょうがない。いいよ」

子●魔「ありがとー!」ダキッ

魔娘「さすが男ね♪」ダキッ

男(子●魔は残念だけど魔娘のは柔らかい!)


677: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:29:07.96 ID:oqLaXfmko
~宿の部屋~

男「残金は金貨33枚と銀貨が50枚ほどか…」

魔娘「これだけあれば何とかなるわ」

男「そうなのか?」

魔娘「ええ。妖精の国まで船で行けば、●魔族の町まで歩いて2日ほどだからね」

子●魔「…あの…」

男「ん?なんだ?」

678: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:29:34.39 ID:oqLaXfmko
子●魔「ご、ごめんなさい…」

魔娘「いきなり…どうしたの?」

子●魔「あ…あの町で…もし男さんと魔娘さんに買ってもらえなかったら今頃は…」

子●魔「でも…そのせいでお金をいっぱい使わせちゃって…ごめんなさい」ペコッ

男「そんなのいいって」

魔娘「そうよ。気にしなくていいわ」

子●魔「うぅ…」ウルッ

679: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:30:07.65 ID:oqLaXfmko
男「…ま、まあなんだ。●魔族の町に着くまで気を抜かないようにしないとな!」

魔娘「気を抜かないって…どんな風に?」

男「そ、そりゃあ…いろいろだよ…」

魔娘「いろいろって?」

男「いろいろはいろいろだよ!」

魔娘「…男、あなた変よ?」

男「ソンナコトナイヨー」

魔娘「やっぱり変…」

680: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:30:44.76 ID:oqLaXfmko
子●魔 クスッ

子●魔「…やっぱりお二人はそんなふうに掛け合いしてるのが一番楽しそうです」

男「いやちょっとまてそれは違う少なくとも俺は魔娘に虐められてるんだ見ろこいつの意地悪そうな顔を」

魔娘「2倍速で喋らないで。なに言ってるか分からないわ」

子●魔「…ふふふ」

681: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:31:12.98 ID:oqLaXfmko
~翌日・船の上~

ザザーン

男「…日差しが強いな」

魔娘「そう言わないの。歩いていけば山越えしなきゃいけないの。そうすると5日は掛かるんだから」

魔娘「それがこの船だと2日で着くのよ?だから日差しぐらい我慢しなさい」

男「はいはい」

子●魔「…」

682: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:31:55.65 ID:oqLaXfmko
男「もうすぐだな…」

子●魔「うん…」

魔娘「…大丈夫よ」

子●魔「うん…」

男「まあ、船が着くまでのんびりしようぜ。な?」

子●魔 ギュッ

男「な、なんだ!?」

男(いきなり背中に抱きついてきやがった…)

683: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:32:22.89 ID:oqLaXfmko
子●魔「…スー…スー…」

男「え?」

魔娘「…昨夜は興奮して寝られなかったみたいだから。しばらくそうしてなさい」

男「…うん」

子●魔「…スー…スー…」

男「…まるで妹みたいだな」

684: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:34:55.25 ID:oqLaXfmko
~妖精の国・港~

男「なんか…可愛らしいと言うか…」

魔娘「…色使いがメルヘンチックね…」

子●魔「子供っぽい…」

男「え?子●魔はこの国の出身だろ?」

子●魔「そうだけど…ここはドワーフ族の町だから…雰囲気が違うの」

男「そっか」

魔娘「…とりあえず今夜はここに泊まりましょう」

男「そうだな。宿を探さないとな」

685: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:35:21.27 ID:oqLaXfmko
~宿の部屋~

男「なんというか…」

魔娘「部屋の中までメルヘンチックね…」

子●魔「か、かわいい…」

男「しかもところどころ細かい装飾があるし…器用だな…」

魔娘「ドワーフ族は手先が器用なのよ。この色合いだって身長が低いのを目立たなくさせるためだって言うし」

男「ふーん。そうなのか」

グゥウウ~

子●魔「あっ…//」

魔娘「ふふっ。そろそろ御飯を食べに行きましょ。このあたりはキノコ料理が名物みたいよ?」

男「そりゃ楽しみだ」

子●魔「楽しみー!」

686: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:35:49.17 ID:oqLaXfmko
~夜中・宿の部屋~

子●魔「スー…スー…」

魔娘「…ふふふ」

ソヨソヨソヨ…

魔娘「…」

男「…なにしてるんだ?」

魔娘「…起きてたの?」

男「寝てたけど今目が覚めた」

魔娘「そう…外を見てるの」

男「そっか…」

魔娘「…」

男「…」

687: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:36:20.36 ID:oqLaXfmko
魔娘「…何も聞かないのね」

男「無理に聞きだそうとするのは性に合わないからな」

魔娘「…久しぶりに感じる主王国の雰囲気だわ」

男「水人都市も魔界だろ?」

魔娘「あそこは海の上だったから…でもここは主王国の地よ」

男「…なあ」

魔娘「なあに?」

男「俺も“主王国”って言ったほうがいいか?」

魔娘「…はあ?」

688: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:37:05.11 ID:oqLaXfmko
男「いや、俺だけだろ?“魔界”って言ってるのはさ」

魔娘「…ぷっ…あはははは!ま、真面目な顔して、なにを言うかと思ったら、そんなくだらない事!!あははは!!」

男「くだらないって言うな!結構真面目に悩んでたんだぞ!?」

魔娘「あははは。はぁ…どっちでもいいわよ、そんなこと」

男「そんなことって言われた!」

魔娘「ごめんなさい。…ねえ?」

男「なんだy…んっ!」チュッ

魔娘「…これで機嫌直して?」

男「…まいっか」

子●魔「…いいなぁ…」ジー

魔娘・男 ビクッ

689: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:37:32.47 ID:oqLaXfmko
子●魔「ねえ、わたしもキスしていい?」

男「え?」

魔娘「絶対ダメ!」

子●魔「…ちぇっ」

魔娘「さ、みんな寝ましょう。もう遅いからね」

子●魔「はーい…」

男「おやすみー」

魔娘「おやすみなさい」

魔娘(本当は男も知りたいんでしょうね。わたしの正体を…でも…今はまだ…)

690: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:37:58.99 ID:oqLaXfmko
~●魔族の町への道中~

テクテクテク…

男「…のどかな所だな…」

魔娘「ええ…眠くなってきたわ」

子●魔「もうすぐ着きます!…もうすぐ…」

ガサッ

男「!?」

魔娘「どうしたの?」

男「…囲まれてる」

子●魔「え?」

691: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:38:41.07 ID:oqLaXfmko
魔娘「…ダメ。足音も聞き取れない」

男「…相手の出方待ちだな」

ガサガサッ

男「っ!」チャキッ

魔娘「上よ!」

子●魔「!!」

男「“転移”!」

シュイン!

男「…間に合ったな」

●魔兄「!?」バッ

子●魔「お兄ちゃん!」

魔娘・男「「…へ?」」

692: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:39:12.43 ID:oqLaXfmko
●魔兄「でりゃあああ!!!」

ガキィイン!

男「ちょ、ちょっと待った!あんた、子●魔の身内か!?」

●魔兄「うるさいっ!」

子●魔「お兄ちゃんやめてぇええ!!」

●魔兄「っ!?」

バサバサッ バサバサバサッ


693: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:39:38.67 ID:oqLaXfmko
子●魔「男さんたちはわたしを助けてくれたのっ!危ないことしちゃダメ!!」

●魔兄「お、お前はこいつらに奴隷にされてるじゃないか!そんなに荷物を持たされて!!」

子●魔「これはわたしの分だけだよ!ほら見てよ!!」

●魔兄「…なんだこれ?服にアクセサリーに…」

子●魔「ね?」

●魔兄「け、けど!こいつらはお前を売り物にした人間じゃないか!!」

子●魔「人間にもいい人はいるの!!」
  ・
  ・
  ・

694: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:40:06.18 ID:oqLaXfmko
男「…なんか、上のほうで喧嘩してるみたいだな…」

魔娘「そうね。ところで…」

チャキッ

男「いい加減出てきたらどうだ?」

●魔‘s ゾロゾロ…

魔娘「…で?なんで私達を襲おうとしたの?」

●魔1「そ、それは…あなた方が子●魔を奴隷にしてるって…」

魔娘「…誰が?」

●魔‘s ジー

●魔2「あ、その…えへへへ…ごめんね?」テヘペロ

695: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:40:35.44 ID:oqLaXfmko
男「どういうことかな?」

●魔2「あ、あの…あたしさぁ、たまたま港のほうまで買い物に行ってたのよ。そしたらさぁ」

●魔2「あんた達と子●魔が一緒に宿に入っていくのを見てさぁ…それで●魔兄に教えたら…」

●魔2「あいつが飛び出してっちゃって…」

●魔1「で、わたし達はあの子のあとを追いかけてここまできたって訳」

●魔1「別にあなた方をどうこうしようなんて思ってないわ」

男「…ってことは…」

魔娘「まあ、待つしかないわね。あの二人が落ち着いて降りてくるまで」
  ・
  ・
  ・

696: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:42:03.87 ID:oqLaXfmko
●魔兄「すまなかった!」ドゲザー

男「まあいいけどさ」

子●魔「お兄ちゃん、ホントにそそっかしくて…ごめんなさい」

魔娘「感動の御対面が台無しね」

男「ホントだな」

●魔兄「すまん…」

子●魔「ホントにもう…あ」

男「ん?」

697: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:42:31.41 ID:oqLaXfmko
子●魔「…ここで…お別れ?」

魔娘「そうねぇ…ここからならまだ引き返せるわね」

子●魔「うぅ…」じわぁ

●魔1「…ねえ、あなた方。今夜はわたし達の里に泊まらない?」

魔娘・男「「え?」」

●魔1「別にとって食おうってわけじゃないわ。この子を助けてくれたお礼をしたいのよ」

子●魔「…いいの?お母さん」

魔娘・男「「…へ?」」

698: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:43:11.36 ID:oqLaXfmko
●魔1改め●魔母「わたしはこの子たちの母親よ?だから持て成したいの。ダメかしら?」

男「…まあ、そういうことなら…な?」

魔娘「貞操の危機を感じるけど…仕方がないわね」

●魔兄「お、俺は相手との合意無しではしないぞ!?」

●魔母「わたしも無理にはしないわ」

魔娘「…念のため、男と同じ部屋にしてよね?」

●魔母「いいわよ。じゃあ、腕によりを掛けるわね♪」

699: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:43:37.62 ID:oqLaXfmko
~●魔族の町・子●魔の家~

子●魔「ここがわたしの家です!」

男「ふーん…2階建ての落ち着いた建物だな」

魔娘「そうね。男の家よりも立派じゃない?」

男「そんなこと比べるなよ…」

魔娘「ふふっ。ごめんなさい」

子●魔「お部屋、こっちだよー」トントントン

男「はいはい」
  ・
  ・
  ・

700: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:44:08.50 ID:oqLaXfmko
子●魔「…で、ベッドはダブルが1個だけなの。だから二人で使ってね?」

男「…へ?」

魔娘「…いいわよ」

男「え!?」

魔娘「な、なによ…」

男「いや…」

男(王都での出来事の再来か!?)
  ・
  ・
  ・

701: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:45:49.23 ID:oqLaXfmko
子●魔「お母さんの料理、おいしいね♪」

魔娘・男「「…」」

魔娘「…まあ、予想はしてたけどね…」

男「見事なほどに精がつく物ばっかり…」

●魔母「あら?どうしたの?お口に合わなかったかしら?」

魔娘「いいえ、そんなことは無いわ。ただ…」

●魔母「ただ?」ニヤリ

男「なんですかその含み笑い!やっぱワザとでしょ!!」

●魔母「ナンノコトダカ」

子●魔「どうしたの?」モグモグ

●魔兄「お前…やっぱまだ子供だな…」

702: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:46:16.68 ID:oqLaXfmko
~夜中~

魔娘「…」

男「…」

魔娘「…」

男「…」モゾッ

魔娘「…」ギシッ

男「だあああ!!!」ガバッ

魔娘 ビクッ

703: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:47:00.27 ID:oqLaXfmko
魔娘「急にベッドから飛び降りないでよ。ビックリするでしょ?」

男「うー…」

魔娘「…だから、私はいいって言ってるじゃない。そんなに意地を張らなくても…」

男「だから!魔娘とは成り行きなんかじゃなくてさ、もっとこう…あるだろ?…雰囲気とかさ…」

魔娘「…そう、分かったわ」

ボワン

●魔娘「これならどうぉ?」

男 ブッ バタン

704: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:47:26.39 ID:oqLaXfmko
●魔娘「あらぁ?大変だわぁ。鼻血が出ちゃってるぅ」

男「お、おまっ…も、もう辛抱たまらん!!」ガバッ

ボワン

オーク娘「…」

男「…おい」

オーク娘「ぶひ?」

男「…もういい!」

ボワン

魔娘「どこにいくの!?」

男「…トイレ。しばらく篭ってるから」

魔娘「あ…」

パタン

705: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:48:06.45 ID:oqLaXfmko
男「あんのやろー…絶対誘ってるだろ…」

●魔母「誘いに乗るのも男の甲斐性よ?」

男「おわっ!」

●魔母「そんなに驚かなくてもいいでしょ?」

男「な…な…何でいるんですか!」

●魔母「ここは私の家だもの」

男「じゃなくて!なんで俺たちの部屋の前にいるんですか!?」

●魔母「物音がしたから覗きに来たの」

706: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:48:56.09 ID:oqLaXfmko
男「…はぁ…もういいですよ。トイレに行ってから寝ますから」

●魔母「…ねえ、あなた」

男「…なんですか」

●魔母「あの娘…今頃反省してるわよ?」

男「そうですか。それで?」

●魔母「…早く戻ってあげたほうがいいわよ?」

男「戻りたいのは山々ですが、とりあえずこいつをどうにかしないことには…」ギンギン


707: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:49:34.18 ID:oqLaXfmko
●魔母「お手伝いしましょうか?」クスッ

男「遠慮します。そういうことは魔娘以外とはするつもりはないんで」

●魔母「あら。意外と身持ちが固いのね。どうして?」

男「あいつは…俺が気を許せる、数少ないヤツなんですよ。だから大事にしたいんです」

●魔母「ふーん、一途ねぇ。ねえ?」

魔娘「ばかなだけですよ…グスッ」

708: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:50:00.42 ID:oqLaXfmko
男「…へ?何で魔娘が?」

魔娘「…ヒック…男を追ってきたのよ」

魔娘「…ごめんね?変なことして…」

男「あ、いや…その…聞いてたんだよな?さっきの…」

魔娘 コクン

男(うわっ。急に恥ずかしくなってきた!)

魔娘「…ねえ。大変なんだったら…手伝うわよ?」

男 ブッ

709: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:50:28.88 ID:oqLaXfmko
●魔母「あらあら。若いわねぇ」クスッ

男「お、おまっ!なに考えてんだよ!!」ダラダラ

魔娘「は、鼻血でてるし苦しそうだから…ダメなの?」

男「ダメです!先に寝てろ!!」

タタタタ…

魔娘「あ…」

●魔母「あらあら。焦らし過ぎじゃない?」

魔娘「え?」

710: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:51:07.22 ID:oqLaXfmko
●魔母「直前でオークに化けるなんて…あれじゃ彼、女性恐怖症になっちゃうわよ?」

魔娘「見てたの!?」

●魔母「そんなことより…あなた、彼に抱かれるのが嫌なの?」

魔娘「そ、そうじゃないけど…」ゴニョゴニョ

●魔母「…覚悟、決めちゃいなさいな」

魔娘「え?で、でも…」

●魔母「なあに?」

711: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:51:50.36 ID:oqLaXfmko
魔娘「…男には目的があって…それが達成できるまではしないって…前に言われたから…」

魔娘「だから…」

●魔母「それを理由にあんな悪ふざけをしたのね?」

魔娘「う、うん…」

●魔母「そう…わかったわ。あなたは先に部屋に戻ってなさい」

魔娘「え?でも…」

●魔母「大丈夫よ。彼なら1時間もしたらスッキリして戻ってくるから。ね?」

魔娘「…わかったわ」

712: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:54:36.86 ID:oqLaXfmko
~トイレ~

男(3発抜いてもまだ治まらねぇええ!!!)

713: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:55:02.77 ID:oqLaXfmko
~翌日~

男「…」

魔娘「…ちょっと、大丈夫?」

男「…ん?ああ…」

●魔母「あらあら。精がつきすぎたのかしら」クスクス

子●魔「?」

●魔兄「見るからにキツそうだな…おい」

男「ん?」

●魔兄「これ飲んどけ」ポイッ

714: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:55:29.20 ID:oqLaXfmko
男「…なんだこれ?」

●魔兄『“賢者薬”だ。飲むと 欲が減退する』コソコソ

男「あ、ありがと…」ゴクゴクッ

魔娘「本当に大丈夫?なんなら出発は明日にする?」

男「あー、いや。行こう」

魔娘「そう?じゃあ…」

子●魔「もう行っちゃうの?」ウルッ

男「次の目的地があるからな」ナデナデ

715: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:55:56.08 ID:oqLaXfmko
魔娘「次はエルフ族の町ね」

●魔兄「歩いて2日ほどだな」

●魔母「でも、大丈夫かしら。エルフ族の町は…」

魔娘「たぶん大丈夫だと思います。」

男「…それじゃ、いってきます」

魔娘「またね、子●魔」

子●魔 トテトテトテ

男「ん?どうした?」

716: ◆doBINqA5W6 2013/01/15(火) 23:56:28.93 ID:oqLaXfmko
子●魔『魔娘さんにフラれても、わたしがいるからね?』コソコソ

男「…へ?」

子●魔「…待ってるから…ぜったい来てね?」グスッ

男「あ、ああ…また来るから」

●魔母「待ってるわよ」

●魔兄「今度はいいところに案内してやるよ」

子●魔「ばいばーい!待ってるからねー!!」

734: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:14:34.98 ID:xbslR45Do
~エルフ族の町の近く~

男「…なあ、さっきから同じところをぐるぐる回ってないか?」

魔娘「ええ。間違いなく、ね」

男「…結界か?」

魔娘「きっとね」

男「厄介だな…」

魔娘「…」

男「どうする?」

魔娘「…私は疲れたからここで休んでるわ。男、もう一度入口を探してきてくれない?」

男「え?また?」

魔娘「もしかしたら何か見落としてるかもしれないでしょ?」

男「…分かった。魔娘も気をつけろよ?」

テクテクテク…

736: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:15:01.19 ID:xbslR45Do
魔娘「…さて…と」チラッ

ザワッ

魔娘「…いるんでしょ?出てきなさい」

ザワザワ…

魔娘「…そう。じゃあいいわ」
  ・
  ・
  ・

738: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:15:47.16 ID:xbslR45Do
ガサガサ

男「あれ?魔娘?おかしいなぁ…一本道のはずなのに…」

魔娘「結界のせいじゃない?それより、どう?何か見つかった?」

男「いや、やっぱり何にも無かったぞ?」

魔娘「そう…」チラッ

男「どうする?このままじゃいつまで経ってもエルフ族の町にいけないぞ?」

魔娘「しょうがないわね。男、こっちに来て?」

740: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:17:19.65 ID:xbslR45Do
男「なんだ?」

ボワン

男「なんだそれ?」

エルフ娘(魔娘)「これがエルフよ」

ガサッ ザワザワザワ…

男「…なんか周りが騒がしくなってきたような…」

エルフ娘「…男、あそこを見て」

男「ん?…ただの木じゃん」

741: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:17:46.00 ID:xbslR45Do
エルフ娘「目を凝らしてよく見て?」

男「…あれ?なんか揺らいでるような…」

エルフ娘(やっぱり…男にもエルフの血が流れてるだけのことはあるわ)

男「おい、あそこって…」

エルフ娘「ええ。結界の抜け道よ。行きましょう」

男「え?ちょ、おい!…大丈夫なのか?」

エルフ娘「大丈夫よ。やっぱりエルフに変化すると結界の通路も良く見えるわ」

男「あ、それでエルフに変化したのか」

エルフ娘「ええ」
  ・
  ・
  ・

742: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:18:17.95 ID:xbslR45Do
エルフ娘「もうすぐ出口よ」

パァアア…

エルフ娘「結界を抜けたわ。もういいわね」

ポワン

魔娘「…ふぅ。この姿のほうが落ち着くわ」

男「やっと抜けたか…あ、あれがエルフ族の町か?結構でかいな」

魔娘「そう。ここg」

「止まれ!!」

ザザザザッ

743: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:19:15.68 ID:xbslR45Do
男「…なんか取り囲まれてるけど?」

魔娘「歓迎されてるんじゃない?」

エルフ1「誰が歓迎などするものか!」

エルフ2「エルフに変化して結界を通るとは…何者だ!」

エルフ3「余所者は帰れ!!」

男「…ずいぶん嫌われてんな…なんかしたっけ?」

魔娘「さあ?覚えが無いわ。行きましょ」

テクテクテク

744: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:19:43.11 ID:xbslR45Do
エルフ1「あ!おい!!無視するな!!」

エルフ2「ゆゆ、弓の餌食にするぞ!」

エルフ3「ささ、刺すぞ!」

魔娘「あれが町の入口ね」

男「いっぱい人がいるぞ」

魔娘「話が分かる人がいるといいんだけど」

男「だな。けどさ、エルフにも男はいるんだな」

魔娘「当たり前でしょ?でないとどうやって子孫を残すのよ」

男「それもそうか。…お、なんか出てきたぞ」

745: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:20:10.00 ID:xbslR45Do
エルフ老人「…何しに来た」

魔娘「わたしは付き添いよ。用があるのは男のほう」

男「あ、どうも」ペコッ

エルフ老人「…っ!?お主…おい!」

エルフ中年「はいっ!女子供は家の中に隠れろ!!オトコは武器を持って集まれ!!」

男「な、なんだ!?」

魔娘「さあ?少なくとも、あなたは歓迎されてないってことは分かるわ」

746: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:20:36.21 ID:xbslR45Do
エルフ老人「…今すぐ引き返すか、ここで死ぬか。どっちだ?」

魔娘「いきなりね。どうするの?」

男「殺される覚えがないんだけど?第一それはそっちの出方次第だし」ポリポリ

エルフ老人「…」サッ

ヒュッヒュッヒュッヒュン!

男「“念動”」

ピタッ

エルフ一同「「「!!」」」

747: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:21:05.87 ID:xbslR45Do
エルフ弓兵1「な、なんだ!?矢が空中で止まってるぞ!!」

エルフ中年「う、撃て!」

男「“念動”」

エルフ弓兵‘s「な、なんだ!?体が動かないぞ!」

男「じゃあ、行こうか」

魔娘「そうね」

テクテクテク

748: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:21:33.26 ID:xbslR45Do
魔娘「あ、男。あそこの火の見櫓?の上に行ったら町の中がよく分かるんじゃない?」

男「そうだな。“転移”」

シュイン

エルフ中年「き、消えた!?」

モブエルフ「あ!あそこだ!!火の見櫓の上!!」

ヒュー…

魔娘「へえ。エルフ族の町ってこうなってるのね」

男「人間の町とあんまり変わらないな」

エルフ一同「「「…」」」

749: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:22:04.81 ID:xbslR45Do
エルフ中年「…お、オジジ様…あいつは…」

エルフ老人「間違いない…ダークエルフの子供だ…」

エルフ中年「どどど、どうします!?」ガクガクブルブル

エルフ老人「…災厄が戻ってきおった…この村はもう終いじゃ」

シュイン

エルフ‘s ザワッ シーン…

男「…っと。じゃあ、こっちの通りから見ていこうぜ」

魔娘「そうね。…あら?」

エルフ若者「てりゃあああ!!」

750: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:22:44.06 ID:xbslR45Do
男「おっと」キィン

エルフ若者「せいっ!てりゃ!」

男「鬱陶しいなあ…衝撃波で…」ブォン!

エルフ若者「うわぁあああ!!!」ヒュー…ドサッ

エルフ中年「エルフ若者が吹っ飛ばされた…ダメだ…勝てない…」

男「なに難しい顔してんだ?」

エルフ老人「!?」

エルフ中年「いいいい、命ばかりはお助けをぉおお!!!」

751: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:23:20.45 ID:xbslR45Do
男「じゃあさ、聴きたいことがあるんだけど?」

エルフ老人「…答えればこの町から出て行くか?」

魔娘「そうね。居心地悪そうだものね。ここ」

エルフ老人「…なにが知りたい?」

男「20年ほど前、ここにダークエルフが住んでなかったか?」

エルフ老人「…やはりダークエルフの子だったか」

男「住んでたんだな?どの家だ?」

エルフ中年「…ま、町はずれの一軒家です」

752: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:23:49.83 ID:xbslR45Do
男「身内はいるのか?」

エルフ中年「そ、それは…」

「ダークエルフはわたしの娘です」

ザワッ シーン…

魔娘「…あなたは?」

エルフ母「…ダークエルフの母のエルフ母です」

魔娘「あなたが…」

男「…」

753: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:24:18.93 ID:xbslR45Do
魔娘「…男、どうしたの?」

男(この人が…俺の…お婆さん?姉でも通用するんじゃね?)

エルフ母「…どうしました?」

男「いや…あんまりにも若いんでビックリしてます…」

エルフ母「…ありがとうって言えばいいのかしら」

男「あ、はい…」

魔娘「エルフ族は成人してからは老化が遅いのよ」

男「そうなのか?」

754: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:24:46.37 ID:xbslR45Do
魔娘「寿命の長い種族は成長も遅いって思われがちだけど、成人するまでは人間の成長速度とさほど変わらないの」

魔娘「エルフ族は成人してからは人間の1/10ぐらいの成長速度よ」

男「だからあんなに若いのか…」

ザワザワ…

魔娘「ねえ、どこか落ち着ける場所は無いかしら?ここはギャラリーが多すぎるわ」

エルフ母「…では、わたしの家に行きましょう。ついて来てください」

755: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:25:11.74 ID:xbslR45Do
~エルフ母の家~

男 ジー

エルフ母「…何かついてるかしら?」

魔娘「ちょっと男!みっともないわよ!!女性の顔をじっと見てるなんて…」

男「いやだって…初めての血縁者なんだぜ?」

エルフ母「…初めての?じゃあダークエルフは…」

男「…俺をシスター…俺を育ててくれた人ですが、シスターに預けてすぐに…亡くなったそうです」

エルフ母「そうですか…じゃあわたしにとってもあなたが唯一の血縁者になってしまいましたね…」

魔娘・男「「え?」」

756: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:25:39.85 ID:xbslR45Do
エルフ母「わたしの伴侶は先の反乱で亡くなりましたし…だから…」

魔娘「…」

男「…反乱?それって…」

魔娘「だまって」ジロッ

男「あ、ああ…」

魔娘「…あなたの旦那様は優秀だったのね。水人族や妖精族は徴兵されることはまず無いもの」

エルフ母「…よく御存知ですね。あなた…」

魔娘「魔娘よ。私はこっちで生まれたから」

757: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:26:06.72 ID:xbslR45Do
エルフ母「…失礼だけど、どの種族かしら?」

魔娘「そんなこと、今はどうでもいいでしょ?」

エルフ母「私の夫は幻術に長けていましたから…軍の教育隊に居たのです」

魔娘「やっぱり…」

男「…あの」

エルフ母「なにかしら?」

男「母は…どんな人だったんですか?」

758: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:26:35.80 ID:xbslR45Do
エルフ母「…やさしい子でした。一緒にいると穏やかな気持ちになれる…日溜まりのような娘でした」

男「そんな優しい人が…どうして殺されなければならなかったんですか?」

エルフ母「…人間…それも勇者との間に子供を作ったからです」

男「え?じゃあやっぱり俺の父親は…」

魔娘「…」

エルフ母「…エルフ族と他の種族との血交じりは異能者を生みます。エルフ族は異能者を極端に嫌います」

男「なんでですか?」

759: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:27:07.26 ID:xbslR45Do
エルフ母「…ずっと以前、エルフ族はもっと人口も多く、大きな町を作っていました。でも…」

エルフ母「たった一人の異能者によって…人口の四分の三を失うことになったのです…」

魔娘「“エルフの悪夢”ね。話には聞いたことがあるわ」

エルフ母「…きっかけは、ほんの些細なことだったと聞いています」

エルフ母「たった一言…“出来そこない”…その一言に腹を立てた異能者によって多くのエルフ達が…」

エルフ母「それ以来エルフ族は血交じりを嫌っているのです」

男「そうなんですか…」

760: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:28:02.79 ID:xbslR45Do
魔娘「…ばっかじゃない!?」

男「おい!」

エルフ母「…」

魔娘「だってそうでしょ!?たった一人の異常者よ!?そのときのことを未だに怖がってるなんて馬鹿げてるわ!!」

エルフ母「…私もそう思います」

魔娘「だったら!行動を起こすべきだわ!!」

761: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:28:38.89 ID:xbslR45Do
男「落ち着けって。な?」

魔娘「なに言ってるの!?自分の子供が過去の事件のせいで犯罪者扱いされたのよ!?」

魔娘「そのせいで!殺されたって言うのに!!」

エルフ母「…」

魔娘「それとも!もうそのときのことは忘れたから、思い出したくないって言うの!?」

エルフ母「…魔娘さん?」

魔娘「なあに?」

762: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:29:12.08 ID:xbslR45Do
エルフ母「わたしね、あのときのこと…未だに夢に見るんですよ?」

エルフ母「あの時…わたしは夫とともに交易のために妖精の国の港にいました。そして家に帰ると…」

エルフ母「…荒らされた部屋に所々血の跡が…そしてその跡を辿ると途中で消えてしまってて…」

エルフ母「あたり一面探したのですが姿が無く…」

魔娘「…」

男「それはあなたのせいじゃないです!」

エルフ母「で、でも…もしわたしが家を空けずにあの子と一緒にいたなら…そう思うと…」

763: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:29:42.17 ID:xbslR45Do
魔娘「…村人のことは恨んでる?」

エルフ母「正直に言うと…はい」

魔娘「じゃあこの村を出ればいいじゃない!こんな目に遭ってるのになんでこの村に居続けるの!?」

エルフ母「…娘は赤ん坊を連れて“いなくなった”のです。だから…いつかは帰ってくる。そう信じてましたから」

エルフ母「もし…娘達がここに帰ってきたら…“おかえり”といって迎えてやりたかったのです」

魔娘「あ…」

エルフ母「だからわたしは…ここを離れたくなかったのですよ」

魔娘「…」

764: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:30:46.35 ID:xbslR45Do
男「…ありがとうございます」

エルフ母「…え?」

男「…俺、もしかしたら母さんは親に見捨てられたのかと思ってましたから、今の話を聞いてなんて言うか…嬉しいです」

エルフ母「男…」

男「…お婆さん…とは呼びにくいな…エルフ母さん、俺は誰に似てますか?お母さんに似てますか?」

エルフ母「…ええ。顔立ちと表情があの子にそっくりよ」

男「よかった…嬉しいな。はは…」

男「…俺、エルフ母さんに会えてよかったです」

エルフ母「そんな…わたしのほうこそ…」

エルフ母「…ありがとう男。よく訪ねてきてくれました」

男「エルフ母さん…」グスッ

エルフ母「…おかえりなさい」ポロッ

765: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:31:12.74 ID:xbslR45Do
魔娘「…」

パタン

魔娘「…苦手だわ。感動の御対面ってやつは。それにしても…」

魔娘(生きてるか死んでるか分からないのに、それでも憎むべき人たちの中で大事な人の帰りを待つなんて…)

魔娘「…わたしに出来るかなぁ…」

魔娘「…」

魔娘「…お父様…」グスッ

766: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:31:43.74 ID:xbslR45Do
~エルフ族の町の出口~

男「ありがとうございました」

エルフ母「こちらこそありがとう」

男「…また会いに来てもいいですか?」

エルフ母「もちろんよ」ニコッ

男「…それじゃ、行ってきます」

エルフ母「あ、ちょっと待って」ゴソゴソ

エルフ母「これを持って行きなさい」

男「札が3枚…なんですか?これ」

767: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:32:49.41 ID:xbslR45Do
エルフ母「転移符よ。これを使えばいつでも行ったことがある場所に連れて行ってくれるわ」

魔娘「でもこの町にはエルフの結界が貼られてるでしょ?」

エルフ母「エルフが作る転移符は一度訪れたことがある場所なら、どんな結界が仕掛けられていても転移できるわ」

男「すごいな…」

魔娘「エルフ族は物に呪文を込めることができるの。もっとも、それができるのはごく一部の限られたエルフだけ」

魔娘「エルフ母さんはそれだけ優秀なのね。他のエルフが手出ししない理由が分かったわ」

768: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:33:37.77 ID:xbslR45Do
エルフ母「こういうのはあの子のほうが得意だったの。その3枚の札のうちの1枚はあの子が残していったものよ」

エルフ母「あの子は呪文が得意で、いろんな呪文が使えたの。転移呪文も使えたけど…この村から出たことがないから使ったことはないわ」

エルフ母「その代わり、こうやって札にいろんな呪文を封じ込めて…それを売って生活していたのよ」

男「そうなんだ…ありがたく頂きます」

エルフ母「…それじゃ、気をつけてね」

769: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:34:04.27 ID:xbslR45Do
魔娘「…ごめんなさい。いろいろ生意気なこと言って」

エルフ母「いいんですよ。男のこと、よろしくお願いします」

魔娘「はい」

男「また来ますから」

エルフ母「…ええ。待ってるわ」

魔娘「じゃ、行くわよ」

男「ああ」
  ・
  ・
  ・
エルフ母「…待ってるわ。男…」

770: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:34:36.02 ID:xbslR45Do
~街道沿い・テントの中~

男「この地図でいくと、王の国を通ったほうが早いんじゃないのか?」

魔娘「…王の国は避けたいわ」

男「なんで?」

魔娘「…治安がね?」

男「よくないのか?」

魔娘「ええ…最近反乱があったって言ったでしょ?王の国の手前の獣人の国もゴタゴタしてるみたいだし…」

男「…今は余計な争いは避けたいな…」

魔娘「でしょ?だからこっちの巨人の国を通って竜の国に入りましょ?」

男「ちょっと回り道になるけど…しょうがないか」

771: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:35:08.21 ID:xbslR45Do
~巨人の国・国境の町~

ズシーン ズシーン…

男「…すごいな」

魔娘「巨人の国ですもの」

男「けど…俺達の3倍ぐらいあるぞ?建物もでかいし」

魔娘「みんな大きいからね」

男「そのくせ身長は俺たちと変わらないからな…」

魔娘「あれは脂肪じゃないから、太ってる訳じゃないわよ?」

男「巨人の国って言うからてっきり背が高いもんだと思ってたけど…横幅とは意表を突かれた」

魔娘「キングサイズじゃ間に合わないわね」

772: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:35:35.34 ID:xbslR45Do
「ちょっとどいて!」ドドド

男「おっと!」

ドドドド…

男「転がってくると迫力あるなぁ」

魔娘「…そろそろ宿を探しましょ」

773: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:36:01.52 ID:xbslR45Do
~宿~

男「ツインで」

巨人女主人「はい。端っこの部屋にしといたわよ」

男「ありがとう」チャラ

魔娘「今日は早く寝ましょ?もう五日もベッドで寝てないから疲れが溜まってて…」

男「そうだな。じゃあ、今から晩飯食いに行くか」

魔娘「そうね。そうしましょ」

774: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:36:28.00 ID:xbslR45Do
~翌日・町中~

魔娘「買い物はこんなものね」

男「けど、ここのものって全部サイズがでかいのな。あそこの服なんて俺達二人で着ても余裕だぞ?」

魔娘「そうね。食べ物だってジャンボサイズだし」

男「でも値段は変わらないって…お得だよな!」

魔娘「そうね」クスッ

男「後は…あ」

775: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:37:05.45 ID:xbslR45Do
魔娘「どうしたの?」

男「あれって…口入屋だよな?」

魔娘「え?…あー、そうね」

男「ちょっと覗いてみるか」

魔娘「お金は何とかなるし、今は働かなくてもいいんじゃない?」

男「いや、魔界ってどんな仕事があるのか興味あるし」

魔娘「…ちょっとだけよ?」

776: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:37:39.20 ID:xbslR45Do
~宿の部屋~

男「っしょと。これで荷造りは終わったぞ」

魔娘「こっちもできたわ」

男「じゃあ、今夜は早めに寝て、明日に備えるか」

魔娘「そうね。明日の朝は早いものね」

男「うまい具合に竜の国との境の町までいく馬車に乗せてもらえることになってよかったな」

魔娘「口入屋に感謝ね」

男「ああ。俺達の目的地を知って、わざわざ巨人商人の荷物の警護なんて仕事を回してくれたんだもんな」

魔娘「でも…やっぱり治安が悪くなってるのかしら…」

男「まあ、人間の国でも野盗とか出るし、こんなもんなんじゃないか?」

魔娘(男は以前のこの国を知らないから…)

777: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:38:14.68 ID:xbslR45Do
~翌朝・商隊~

巨人商人「では、これからしばらくの間、警護のほうをよろしくお願いしますね」

男「はい。分かりました」

魔娘「でも、本当に私達でいいの?」

巨人商人「はい。腕もたつし魔法も使えるなんて、まさにうってつけです!」

男「いや、まあ…」ポリポリ

巨人商人「では、そろそろ参りましょう。あなた方は馬車の後ろに乗ってください」

男「分かりました」

778: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:38:58.67 ID:xbslR45Do
~夜・宿営地~

巨人商人「…この先はですね、最近野盗が出るって噂なんですよ…」

男「そうですか」

巨人商人「ここは街道の中でも最も獣の国に近いのですよ。最近そこに似蛇族が入りこんで…」

男「似蛇族?」

巨人商人「あなたは人間でしたね?なら御存じないのも無理はない」

巨人商人「彼らは500年ほど前に発見された種族です。原始的な生活をしていたのを当時の主王様が保護して教育や医療を施して新しい種族として認知された種族なんですよ」

魔娘「そして嘘つきでやたら矜持が高くてずるくて執念深い種族よ。他の種族からは嫌われてるわ」

魔娘「しかも歴史を捏造して自分達の祖先は蛇だって言ってるけど、本当はミミズだし。その似蛇族がこの辺りに?」

779: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:39:41.19 ID:xbslR45Do
巨人商人「そうです。で、“ここは自分たちの土地だ。通るなら積み荷を寄こせ”と…」

男「じゃあ、迂回すればいいんじゃないですか?」

巨人商人「そうもいきません。海路で行こうにもこのあたりの海はクラーケンがウヨウヨしてますし」

巨人商人「陸路ではこの街道を使わないとなると獣の国、王の国、竜の国を通る道しかないんですが…」

巨人商人「獣の国も今は治安が悪く…だったら護衛をつけてこの街道を通るほうがマシだと…そう言うことなんですよ」

魔娘(想像以上に獣の国の治安は悪いみたいね…)

780: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:40:21.14 ID:xbslR45Do
男「なるほど…それで俺たちを雇ったんですか?」

巨人商人「そういうことです。似蛇族は多人数で押し寄せて大声で威嚇してきます。ですが」

巨人商人「相手が自分達より強いと分かると逃げていきますからね」

男「ふーん…」

巨人商人「ところで…あなたはどうやって戦うのですか?」

男「俺はこの長鉈を使います。あとは魔法ですかね?」

781: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:40:53.87 ID:xbslR45Do
巨人商人「そうですか…ちょっとその鉈を見せていただけますか?」

男「ええ。どうぞ」スッ

巨人商人「ありが---!?」

男「だ、大丈夫ですか?」

巨人商人「な、なんですかこの鉈は!?尋常な重さじゃないですよ!?とても普通の鉈とは思えません!!」

魔娘「竜が鍛えた鉈よ。おそらくこの世にこの一本しかないんじゃないかしら?」

782: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:41:20.53 ID:xbslR45Do
巨人商人「竜が鍛えた!?そんなものがこの世にあったんですね…」マジマジ

男「それは…俺を育ててくれた人が作ったものなんです」

巨人商人「その人と言うのは…」

男「…」

魔娘「…竜よ」

巨人商人「そうですか…お返しします」

783: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:41:47.79 ID:xbslR45Do
男「…やっぱりこんな鉈しか持ってない奴は信用できませんか?」

巨人商人「…正直言って最初は…しかし、その鉈の正体を知った今は信用しています」

巨人商人「竜は武器を作りません。それは彼らが他に類を見ないほどに強いからです」

巨人商人「ですから、その鉈を持つあなたは竜が鉈を作るほど、特別に認められた強い方なのではないかと」

男「そんなことは…」

魔娘「…そうね。クラーケンを撃退したこともあったわね」

巨人商人「く、クラーケンを!?」

男「ええ、まあ…捕まえて食おうと思ったんですけど、足と耳しか取れなくて…」ポリポリ

巨人商人 ポカーン…

784: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:42:14.44 ID:xbslR45Do
魔娘「商人さん、大丈夫?」

巨人商人「え、ええ…クラーケンは海の悪魔です。それを撃退したなんて…私は運がいい!これで安心して旅ができます!!」

男「そ、そうですか…」

魔娘「よかったわね男。実力が認めてもらえて」

男「ああ…けど、期待が大きいとプレッシャーが…」

魔娘「何言ってるの?男、あなたにはそれだけの実力があるのよ?」

巨人商人「そうです!自信を持ってください!!わはははは!!」

男(商人さん安心しすぎだって…)

785: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:42:40.74 ID:xbslR45Do
~二日後~

巨人商人「…そろそろ似蛇族がいる土地に差し掛かります」

男「分かりました」

魔娘「警戒は私に任せて」

男「ああ。頼む」
  ・
  ・
  ・

786: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:43:07.45 ID:xbslR45Do
巨人商人「…何とか無事に通れそうですね」

男「そうですね」

魔娘「…しっ!」

男「どうした?」

魔娘「静かに!…10頭以上の馬の足音が追いかけてくる…きっと似蛇族だわ!」

巨人商人「ええ!?」

787: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:43:34.33 ID:xbslR45Do
魔娘「…右と左に4頭ずつ…真後ろから5頭…男、準備して」

男「分かった」チャキッ

巨人商人「たたた、頼みますよ!?」

男「はい…見えた!」

巨人商人「き、来ました!!」

似蛇族1「うらうらうらあ!馬車を止めろお!!」

似蛇族2「ここは俺達の土地だあ!積み荷を置いてけぇええ!!」

788: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:44:05.23 ID:xbslR45Do
男「商人さん。馬車をとめちゃダメですよ」

巨人商人「わ、わかりました!それっ!!」ピシィ!

魔娘「よく引き付けるのよ!」

男「分かってる!もうすぐ…もうちょっと…今だ!“中雷撃呪”!!」

バリバリバリ…ドォオオオン

似蛇族‘s「!?」

男「よし、右は片付いた。“中雷撃呪”!」

バリバリバリ…ドォオオン

男「…よし。左も消えたな」

789: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:44:39.93 ID:xbslR45Do
魔娘「後ろから来てるわよ!」

男「分かってる!衝撃波で…せえ…の!」

ブォン!ビシビシビシ…ゴゴゴ…

似蛇族‘s「「な、なんだ!?じ、地面が切れて…うわああああ!!!」

ズドォオオン…

男「…もういないか?」

魔娘「ちょっと待って…ええ。もういないわ。商人さん、スピードを落としてもいいわよ」

790: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:45:18.22 ID:xbslR45Do
巨人商人「助かった…それにしても凄まじい威力ですね」

男「大したことはしてませんよ」

巨人商人「いえいえ!魔法もそうですが…“衝撃波”?ですか?地面が切れるほどの威力だとは…」

男「…やりすぎちゃいましたか?」ポリポリ

巨人商人「とんでもない!ますます頼りになります!!」

魔娘「よかったわね、男」ポン

男「…ホントにいいのか?」

791: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:45:48.10 ID:xbslR45Do
~竜の国との境の町~

巨人商人「本当に行ってしまわれるのですか?」

男「ええ、まあ…」

魔娘「私達は人探しをしているのよ。竜の国にその人がいるらしいの」

巨人商人「そうですか…あなた方が一緒だと心強いのですが…致し方ありませんね」

男「すいません…」

巨人商人「いえいえ。見つかるといいですね」

男「ありがとうございます」

792: ◆doBINqA5W6 2013/01/16(水) 23:46:15.83 ID:xbslR45Do
巨人商人「いえいえ!御礼を言うのはこちらのほうですよ。ありがとうございました」ペコッ

男「じゃあ、そろそろ…」

巨人商人「仕事が必要になったらいつでもおっしゃってください。私が雇いますから」

男「ありがとうございます。さようなら」

魔娘「またねー」ノシ
  ・
  ・
  ・

814: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:04:19.16 ID:U3zD17zqo
~竜の国・小さな村~

魔娘「今日はここに泊まりましょう」

男「…」

魔娘「…どうしたの?」

男「いや…俺が見た竜とは違うなって…背丈も俺達の1.5倍ぐらいだし…わりと温和だし…普通に家に住んでるし…」

魔娘「竜人族はこれが普通よ?どんな想像してたのよ」

男「もっとこう…崖の穴倉かなんかに住んでて、縄張り争いとかしてるような…」

魔娘「そんな訳ないでしょ?原始時代じゃあるまいし…」

男「けどさ、俺が見た竜はホントにそんなイメージだったから…」

815: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:04:55.27 ID:U3zD17zqo
魔娘「ふーん…ねえ、男が見たのはどんな竜なの?」

男「黒くて三階建ての家ぐらいの大きい竜だったな」

魔娘「!?」

男「シスターは…同じぐらいの大きさで赤い竜だったし…」

魔娘「…」

男「そんな竜ばっかだと思ってたからさ…ん?どうした?」

魔娘「え?…な、なんでもないわ」

男「…変なやつ」

816: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:05:32.44 ID:U3zD17zqo
魔娘(黒い竜と赤い竜…しかも3階建ての家ぐらいって言ったら…4大竜人家のうちの黒竜人家と赤竜人家じゃないの!)

魔娘(確か黒竜人家と赤竜人家は反目し合ってたはず…)

魔娘(それなのに…黒竜と赤竜があの村で…何があったのかしら…)

魔娘(…黒竜人か…小父様に会うのは久しぶり…)

男「あ、あそこ、宿じゃないか?」

魔娘「…」

男「…魔娘?」

魔娘「…え?なに?」

男「…お前、さっきから変だぞ?」

魔娘「そ、そう?それより宿よ宿!」

男「…やっぱり変だ」

817: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:06:03.65 ID:U3zD17zqo
~宿の部屋~

男 キョロキョロ

魔娘「…なにしてるの?」

男「いや、普通の宿だなと思って…」

魔娘「あなたどれだけ偏見持ってるのよ…」

男「俺の竜に対するイメージが崩れていく…」

魔娘「…勝手にやってなさい。私は食事に行くわ」

男「あ、俺も行くからちょっと待てって」

818: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:06:37.10 ID:U3zD17zqo
~飯屋~

男「…なあ」

魔娘「なあに?」

男「なんで宿で食わないんだ?」

魔娘「情報収集も兼ねてよ」

男「…へ?」

魔娘「だから…」

フゥ…

魔娘「…あなたが言ってた黒い竜の情報を集めるのよ。そのためにここに来たの」

男「な、なるほど…」

819: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:07:08.65 ID:U3zD17zqo
店員竜「お待ちどうさま」コトッ

魔娘「ありがとう。ねえ」

店員竜「なあに?」

魔娘「私達、黒竜人のところに行きたいんだけど、何か情報はないかしら?」

店員竜「そうねぇ…黒竜人に会うのは難しいと思うわよ?」

男「なんで?」

店員竜「あなた達知らないの?何年か前に黒竜人の御子息が禁を破って人間の国に行ったことを」

男「ごしそく?」

820: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:07:35.14 ID:U3zD17zqo
魔娘「…それで?」

店員竜「その時に赤竜人の娘を連れて帰ってきて、両家で色々とやってたみたいだから」

男(赤竜人の娘って…きっとシスターのことだ!)

男「それd」

魔娘「男はちょっと黙ってて。また揉めたの?」

店員竜「ううん。禁を破った処罰をどうするか決めてたみたいなの」

魔娘「それで…どうなったの?」

821: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:08:06.20 ID:U3zD17zqo
店員竜「どんな処罰が下ったのかは知らないわ」

店員竜「でも、それから両家とも他の人たちに会うのを避けてるみたいで…ね?」

魔娘「そう…ありがとう」

店員竜「どうしたしまして。追加注文してもらえると嬉しいなあ♪」

魔娘「じゃあ…食後にアイスクリームをちょうだい」

店員竜「はーい。ご注文いただきましたー」タタタタ…

男「…」

822: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:08:40.51 ID:U3zD17zqo
魔娘「…どうするの?男」

男「…とりあえず赤竜人のところに行こう。シスターは赤い竜だったし、居場所はそこに行かないと分からないんだろ?」

魔娘「そうね…でも、それなら黒竜人のほうが確実じゃない?」

男「なんで?」

魔娘「…男、さっきの話、ちゃんと聞いてた?」

男「あ、ああ。聞いてたけど?」

魔娘「だったら。シスターは黒竜人のところに連れて行かれたってことはわかるでしょ?」

男「あ」

魔娘「だから、行くなら黒竜人のところよ。分かった?」

男「はい。分かりました…」

823: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:09:10.00 ID:U3zD17zqo
~黒竜人のいる町~

男「大きい町だな」

魔娘「そりゃあね。竜の国の4大竜人家のうちの黒竜人が住んでる町ですもの」

男「いや、町の規模もだけどさ、あそこの建物…」

魔娘「…あそこが黒竜人の屋敷よ」

男「じゃあさっそく行くか」

魔娘「待ちなさい」グイッ

男「なんだよ」

824: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:09:36.59 ID:U3zD17zqo
魔娘「どうやって黒竜人に会うつもり?情報収集が先でしょ?」

男「うっ…」

魔娘「それに今夜の宿も決めておかないと。状況次第では長期戦になるのよ?」

男「けど!」

魔娘「…男、焦っちゃダメ。せっかくここまで来たのに無駄足を踏みたくないでしょ?」

男「…」

825: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:10:03.91 ID:U3zD17zqo
魔娘「こういうことはね、仕上げが肝心なの」

魔娘「男が早く行動を起こしたいっていう気持ちはわかるわ」

魔娘「でも、焦って今までの苦労を水の泡にしたくないのよ。わかってよ」

男「…分かった」

魔娘「ありがとう、分かってくれて。じゃあ、さっそく宿を探しましょ?」

男「ああ」

826: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:10:33.92 ID:U3zD17zqo
~口入屋~

魔娘「まずはここよ」

男「…仕事でも探すのか?」

魔娘「そうよ」

男「…そんなに金がないのか?」

魔娘「違うわよ。どんな仕事があるか調べれば町の状況もつかみやすいでしょ?」

魔娘「治安が悪ければ警備や用心棒の仕事が増えるし、治安が良ければ簡単な仕事しかない」

男「なるほど」

魔娘「わかった?なら、まずはここで大まかな町の状況を探るわ。男も手伝ってね」

男「ああ。まかせろ」

827: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:11:00.35 ID:U3zD17zqo
~飯屋~

魔娘「じゃあ、口入屋の仕事の内容と店主から聞いた情報を整理しましょ」

男「仕事の種類は…商隊の護衛が2件、店番が1件、それと…警備が5件。治安はあんまりよくないみたいだな」

魔娘「店主からの追加情報で、黒竜人の影響力が弱ってきてチンピラが幅を利かせてるみたいね…」

男「黒竜人の影響力が弱ってきた原因は?」

魔娘「おそらく例の件のせいでしょうね。そのせいで黒竜人が表舞台に出ることが少なくなったらしいわ」

828: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:11:28.33 ID:U3zD17zqo
男「それで、黒竜人に会う方法は?」

魔娘「それは私に考えがあるわ」

男「じゃあ任せる」

魔娘「…簡単に信じるのね」

男「まあ、魔娘のことは信頼してるからな」

魔娘「そ、そんなこと簡単に言うんじゃないわよ!//」ペシペシ

男「痛いって」

チンピラ竜「…ちっ。目障りなやつらだ」ガタッ

829: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:11:56.61 ID:U3zD17zqo
男「それd」

チンピラ竜「おい!てめえら!!」

男「はい?」

チンピラ竜「てめえら目障りなんだよ!」ブン!

男(尻尾で攻撃か…遅いな…)

パシッ

チンピラ竜「なに!?尻尾を掴んだ!?」

830: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:12:23.30 ID:U3zD17zqo
男「まあまあ。落ち着いて。な?」

チンピラ竜「くっ!は、離せ!!」ジタバタ

パッ ドタッ

チンピラ竜「…っ!おぼえてろ!!」タタタタ…

男「おーいって…行っちまった」

魔娘「あんまり問題を起こさないでよ?」

男「今のは正当防衛だろ?」

魔娘「そうだけど…今日はもう宿に戻るわよ」

男「なんで?」

魔娘「あいつが仲間を連れてくると面倒でしょ?」

男「それもそうか」

831: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:12:49.99 ID:U3zD17zqo
~翌日・黒竜人の屋敷の前~

男「でかい門だな」

魔娘「黒竜人は普通の竜より大きいのよ。だからよ」

男「ふーん…ところでさ」

魔娘「なあに?」

男「黒竜人ってどんな奴なんだ?」

魔娘「…」

男「どうした?」

832: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:13:16.45 ID:U3zD17zqo
魔娘「いいえ…男が今更な質問をしてきたから思考が停止したの」

男「だって俺、こっちのことは何にも知らないからさ」

魔娘「…まあいいわ。黒竜人は竜の中でも一番体が大きくて力が強いの。魔法は雷撃系が得意ね」

男「ふーん」

魔娘「ついでに言っておくと、黒竜人、赤竜人のほかに白竜人と青竜人がいるわ」

魔娘「赤竜人は力は黒竜人には若干劣るけど、火炎系の魔法が得意なの」

魔娘「白竜人は氷撃系が、青竜人は水系の魔法が得意ね」

男「竜人ってそんなに居たんだ…」

833: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:13:43.81 ID:U3zD17zqo
魔娘「ええ。それと、魔法が使えるのは竜人だけなの。それだけでも彼らが他の竜より優秀だってわかるでしょ?」

男「そうなのか…ところでさ、この町に居るのは黒竜人だけだろ?他の竜人はどこに居るんだ?」

魔娘「赤竜人は隣の町よ。白竜人は暑さに弱いから山の上に住んでるし、青竜人は体が渇くと力が出なくなるから水の中に住んでるわ」

男「ふーん。それで黒竜人家と赤竜人家だけが隣り合った町に住んでるってわけか」

魔娘「そういうことよ。でもね、近くに住んでるからって仲がいいわけじゃないの」

男「そうなのか?」

834: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:14:17.95 ID:U3zD17zqo
魔娘「以前はね、黒竜人家と赤竜人家はお互いに自分達が竜の中で一番強いって思ってて、しょっちゅう衝突してたわ」

魔娘「だから、小さな村の飯屋の店員竜から“両家が色々やってる”って聞いて、不思議に思ってたのよ」

男「そっか。だからあのとき魔娘の様子が変だったのか」

魔娘「…そう言うことよ。そろそろ行くわよ」

男「ああ」

トテトテトテ

835: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:14:48.80 ID:U3zD17zqo
魔娘「門を開けてください。黒竜人様に面会していただきたいのです」

門番竜「黒竜人様はご多忙だ。約束の無いものは通すことはできない」

魔娘「約束はしてないわ」

門番竜「なら通すわけにはいかない」

魔娘「どうしても会いたいの」

門番竜「ならん。約束を取り付けてからもう一度参れ」

魔娘「なら、伝言だけでも伝えて。“姫”が会いに来たって」

男(今“姫”って言ったよな…)

836: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:15:20.09 ID:U3zD17zqo
門番竜「…ご多忙だと言っただろ」

魔娘「…伝えて。でないとあなた、黒竜人様の御怒りを買うことになるわよ?」

門番竜「っ…しばし待て。おい。~~~~」

男『…本当に会えるのか?』コソコソ

魔娘『黙ってて!』

男「…」
  ・
  ・
  ・

837: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:15:50.79 ID:U3zD17zqo
ズシーン ズシーン…

男「な、なんかでかい足音が聞こえるんだけど…」

魔娘「…来たわね」

門番竜「くれぐれも失礼の無いようにな。開門!」

ゴゴゴゴ…

黒竜人「…“姫”はどこだ?」

門番竜「はっ!そこに」

黒竜人「…」ジロッ

男(すげえ迫力だ。でかいし…けど、シスターを連れて行った竜とは違う…)

838: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:16:18.98 ID:U3zD17zqo
魔娘「…私が“姫”です」

黒竜人「…ん?」

魔娘「…」

クンクン

黒竜人「…っ!?」

魔娘「お久しぶりです。小父様」

黒竜人「…お前など知らん」

魔娘「え?」

男「おいおい…」

839: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:16:52.45 ID:U3zD17zqo
黒竜人「追い返せ」

門番竜「はっ!そら、黒竜人様がお怒りにならないうちに帰れ」

魔娘「…わかったわ。あ、そうそう。私達はこの町の宿に泊まってます。何か思いだしたら使いの者を」

黒竜人「帰れ!」

魔娘「…では、失礼します。“黒い小父様”」

840: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:17:23.56 ID:U3zD17zqo
黒竜人「…門を閉じろ」

門番竜「はっ!閉門!!」

ゴゴゴゴ…バタン

魔娘「…」

男「…なあ」

魔娘「宿に戻るわよ」

男「あ、ああ…」

841: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:17:52.58 ID:U3zD17zqo
~宿の部屋~

男(あれから魔娘、一言もしゃべらないな…さっきのがよっぽど堪えたのか?)

魔娘「…」

男「…そろそろ晩飯にするか?」

魔娘「…うん」

男「何が食べたい?」

魔娘「…なんでもいいわ」

男「そっか…じゃあ肉にしよう。デザートのアイスクリームもつけて。な?」

魔娘「…うん」

男「じゃあ、頼んでくる」
  ・
  ・
  ・

842: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:18:19.82 ID:U3zD17zqo
魔娘「ごちそうさま」

男「ごちそうさん」

男(食欲はあるみたいだな。よかった)

魔娘「…ごめんね?」

男「…へ?」

魔娘「だから…」

魔娘「男が任せてくれたのに、うまく行かなくて…」

男「いいよ、気にしなくて。俺だって会う手立てがなかったし」

魔娘「でも…」

843: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:18:46.64 ID:U3zD17zqo
男「今までがうまくいき過ぎてたんだ。次の方法を考えよう。な?」

魔娘「…どんな?」

男「うーん…まあ、正面切って会うのは無理そうだから、こっそり会いに行くとか?」

魔娘「どうやって?」

男「それは…“転移”で屋敷の中に侵入するとか?」

魔娘「見つかったら殺されるわよ?」

844: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:19:13.62 ID:U3zD17zqo
男「じゃあ…手紙を書くとか?」

魔娘「読まないんじゃない?」

男「じゃあ…えっと…」

魔娘「…ほら、手詰まりじゃない」

男「なっ!魔娘だってそうだろ!?」

魔娘「…可能性はゼロじゃないわ」

男「…へ?」

845: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:19:40.88 ID:U3zD17zqo
魔娘「餌は仕掛けたわ」

男「餌?それで何とかなるのか?」

魔娘「…可能性は低いわ。でも何もしないよりはマシでしょ?」

男「うーん…」

魔娘「餌が利いたら、今夜にでも何か動きがあるはずよ?」

男「動きって…ヤバいことじゃないだろうな…」

魔娘「その可能性は否定できないわ。と言うか、その可能性のほうが高いぐらいね」

男「…鉈はどこだっけ?」

魔娘「…」

846: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:20:15.43 ID:U3zD17zqo
コンコン

魔娘・男 ビクッ

男「…はーい?」

竜主人「お客さんだよ」

男「客?」

竜主人「開けていいかい?」

男『魔娘!』コソッ

魔娘 コクッ コソコソ…

男「…はい」チャキッ

ガチャッ

竜主人「この人があんた達に用だってさ」

847: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:20:42.76 ID:U3zD17zqo
使者竜「お迎えに上がりました」

男「お迎え?」

魔娘「誰かしら?」

使者竜「ついて来ていただければ分かります」

男「…どうする?」

魔娘「…ついて行くしかないみたいね。外に何人もの竜がいるわ」

使者竜「手荒なことは致しません。どうかご一緒に」

男(ここで暴れてもどうにもならないな…)

男「魔娘…」

魔娘「…分かったわ。行きましょ」

使者竜「馬車を用意しておりますので、そちらへ」

848: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:21:16.72 ID:U3zD17zqo
~見晴らしのいい砂浜~

男「…海だ」

魔娘「けっこう長い時間馬車に乗ってたわね」

使者竜「降りてください」

男「はいはい。ほら、魔娘。手を出して」

魔娘「ありがとう」

849: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:21:44.05 ID:U3zD17zqo
使者竜「この砂浜のあちら側でお待ちになっております」

男「…何にも見えない…」

魔娘「…誰かいるわ」

男「そっか。じゃあ、行こう」

魔娘「ええ」

ザッ ザッ ザッ…

850: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:22:10.90 ID:U3zD17zqo
男「…餌が効いたか?」

魔娘「どうかしらね…」

男「…用心しておく」

魔娘「そうね…」

ザッ ザッ ザッ…

魔娘「…見えてきたわ」

男「黒竜人か?」

魔娘「…どうかしらね。潮の匂いが強くてよく分からないわ。近くまで行かないとね」

ザッ ザッ ザザッ

851: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:22:42.36 ID:U3zD17zqo
?「…」

魔娘・男「「…」」

?「…正体を明かせ」

男 チャキッ

魔娘「男、いいわ」

男「え?けど…」

魔娘「今そっちに行くわ。男はここに残ってて」

852: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:23:09.90 ID:U3zD17zqo
男「大丈夫か?」

魔娘「何かあったら逃げて」

男「何言ってやがる。何が何でも助けてやるさ」

魔娘「な、何かっこつけてるのよ…//」

男「盗賊さんならそう言うだろうなって…な?」

魔娘「…馬鹿//」

853: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:23:37.56 ID:U3zD17zqo
?「何をしている」

魔娘「あ、ごめんなさい」

ザッ ザッ ザッ

?「そこで止まれ」

魔娘「用心深いのね。いま変化を解くわ」

ボワン

魔娘「…これでいいかしら」

?「…御無事でしたか」

魔娘「無事かどうかはあなたの出方次第ね。『黒い小父様』」

854: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:24:04.33 ID:U3zD17zqo
?改め黒竜人「お久しぶりです。姫」ヒザマヅキー

男(“姫”?…いま“姫”って言ったよな?)

魔娘「…久しぶりね。小父様」

黒竜人「今までどちらにいらしたのですか?」

魔娘「…彼のところよ」

黒竜人「どういう御関係で?」

855: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:24:32.88 ID:U3zD17zqo
魔娘「…その質問に答える前に聞きたいことがあるの」

黒竜人「答えられるものであれば、はい」

魔娘「ありがとう。男も呼んでいい?」

黒竜人「…いいでしょう」

魔娘「ありがとう。男、こっちに来て」

ザッ ザッ ザッ

男「…なあ。今“姫”って言ってたよな?」

魔娘「あとで話すわ」

黒竜人 ジロッ

男(すげえ気迫だ…)

856: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:36:31.64 ID:U3zD17zqo
魔娘「男のことなら気にしなくていいわ」

黒竜人「しかし…こ奴、人間ではないですか!?」

魔娘「男はハーフよ。人間とエルフ…ダークエルフのね」

黒竜人「なんと!」

魔娘「わたしがお世話になった家で一緒に住んでたの」

黒竜人「それは…」

魔娘「…っ!?そ、そう言う関係じゃないから!」

黒竜人「は、はあ…」

男(俺、ここに居る意味あるの?)

857: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:36:58.66 ID:U3zD17zqo
魔娘「…それで、聞きたいことなんだけど」

黒竜人「…主王様のことですか?」

魔娘「それもだけど、その前に…周りに居る人たちのことよ」

黒竜人「え?」

魔娘「砂丘の影に3人、茂みの中に4人。海の中にも何人かいるわよね」

黒竜人「…気がつきませんでした。申し訳ありません」

魔娘「どうするの?」

858: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:38:25.90 ID:U3zD17zqo
黒竜人「場所を変えましょう。失礼します」

ボワン

男(黒竜に変身した!やっぱでかい…)

黒竜人「背中にどうぞ」

魔娘「わかったわ。男、お願い」

男「ああ。“転移”」

シュイン トサトサッ

859: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:38:52.56 ID:U3zD17zqo
魔娘「いいわよ」

黒竜人「では」バサバサッ

黒竜人「しっかり掴まっていてください」

バサバサバサッ

男(は、早い…!)
  ・
  ・
  ・

860: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:39:20.05 ID:U3zD17zqo
バサッ バサッ

黒竜人「ここでよいでしょう」

魔娘「ありがとう。男、降りるわよ」

男「ん。“転移”」

シュイン トサッ

ボワン

男(また人の姿になった…)

861: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:44:41.11 ID:U3zD17zqo
黒竜人「ここは湖の中の小島です。ここまで来れば大丈夫でしょう」

魔娘「そうね。でも、追手に気がつかないなんて…どうしたの?」

黒竜人「申し訳ありません」

男「あの…」

黒竜人「…なんだ?」ジロッ

男「さっきの連中はなんだったんですか?」

黒竜人「…魔王様のスパイだ」

魔娘「スパイ?」

862: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:45:08.36 ID:U3zD17zqo
黒竜人「魔王様は我々に協力を要請しています。ですが我々は誇り高き竜族。先代の主王様に忠誠を誓っておりますので、断り続けているのです」

魔娘「それでスパイを?」

黒竜人「はい。我々が姫を囲っているのではないかと疑っているようです」

魔娘「と言うことは…竜族は今も中立を守っているのね?」

黒竜人「はい。ところで…私に尋ねたいこととは?」

魔娘「何年か前に人間界から連れてきた赤竜の居場所を知りたいの」

黒竜人「…は?」

863: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:45:34.89 ID:U3zD17zqo
魔娘「その赤竜は…男の育ての親なの。教えてくれないかしら」

黒竜人「…てっきり先代様のことをお尋ねになると思っていたのですが…」

魔娘「…それも聞きたいけど、いまは…」チラッ

男「聞けばいいだろ?」

魔娘「え?」

男「“主王様”ってお前の親のことだろ?だったら真っ先に聞けよ」

魔娘「でも…」

864: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:46:03.07 ID:U3zD17zqo
男「俺はあとでいいよ。シスター…赤竜は生きてるんですよね?」

黒竜人「…うむ」

男「だったら焦る必要はないさ。すいません。“主王様”のこと、教えてくれませんか?」

黒竜人「…面白い者を見つけましたな」

魔娘「手がかかるだけよ…」

黒竜人「はっはっは。では、先代主王様ですが…先の反乱時に身罷られております」

男「…え?」

魔娘「…そう」ギュッ

865: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:46:29.48 ID:U3zD17zqo
黒竜人「申し訳ありません!我等竜人の到着が遅れたばかりに!!」

魔娘「気にしないで」

男「魔娘…」

黒竜人「…御遺体は白竜人の菩提所に安置されております」

魔娘「ありがとう。またいつか訪ねてみるわ」

黒竜人「主王様は最後まで御立派でした。しかし…ゴブリン族の従者を人質に取られ…なすすべもなく…」

黒竜人「…我々は奇襲により主王様を奪還したのですが…最後に“姫を頼む”といい残されて…」

魔娘「…っ!」ポロッ

866: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:46:56.14 ID:U3zD17zqo
魔娘「うぅ…ヒック…」フルフルフル…

男(まいったな…声かけづらい…)

黒竜人「…おい」クイクイ

男「…あ、はい」
  ・
  ・
  ・

867: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:49:12.32 ID:U3zD17zqo
男「…魔娘を一人置いてきたけど、大丈夫かなぁ…」

黒竜人「案ずる必要はない。声は届かぬが、ここからでも姫は見える」

男「いや…あいつ、自分の弱いところは見せたがらないから、結構貯め込んじゃうんですよね…」

男「だから気になって…」

黒竜人「…ほう?」

868: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:49:39.38 ID:U3zD17zqo
男「な、なんですか?」

黒竜人「いや…主は何者だ?赤竜のことを“育ての親”と言っておったが」

男「えっと…」

黒竜人「我は主を信用しているわけではない」

男「俺は…先代勇者とダークエルフのハーフです」

黒竜人「勇者だと!?」

男「知ってるんですか?」

黒竜人「…主は勇者がどうなったのか、知っておるのか?」

男「ええ。詳しいことは分かりませんが、なんでも魔族に殺されたとか…」

黒竜人「…」

869: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:50:07.50 ID:U3zD17zqo
男「…どうしました?」

黒竜人「いや…主からは竜の匂いもする。ただのハーフではあるまい」

男「ええ…俺、赤ん坊の時に母親を亡くしてるんです。それでシスター…赤竜に拾われて…」

男「その時にシス…赤竜の母 を飲んでたんで、竜の匂いがするんだと思いますよ?」

黒竜人「…信じられんな…我ら竜族は母 など出ぬ。いくら人化していたとはいえ…」

男「でも事実です」

黒竜人「ふむ…」

870: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:50:37.92 ID:U3zD17zqo
男「…それで、10歳の誕生日に黒い竜が現れて…シス…赤竜を連れて行ってしまったんです…」

黒竜人「…主と姫はどうやって知り合ったのだ?」

男「あ、はい。シ…赤竜が居なくなった後、賢者様が俺の面倒を見てくれてたんですが」

男「賢者様が盗賊さん…俺の父親代わりなんですが、その人を迎えに行った時に魔娘も連れてきたんです」

男「詳しいことは分かりませんが…町人に追われていたとか…」

黒竜人「なんと…」

871: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:51:06.13 ID:U3zD17zqo
男「それからずっと一緒に暮らしてました。俺にとって魔娘は…心を許せる、数少ない存在なんです」

男「…俺、魔娘のことが大事なんですよ」

黒竜人「…信じられんな。姫が主の様なものを信用するとは」

男「あ、あの…」

黒竜人「なんだ?」

男「…黒竜人さんは魔娘のこと…“姫”って呼んでますよね?それって…“魔王の娘”ってことですか?」

黒竜人「…そうだ。姫の父親は主王様…お前たち人間が言うところの“魔王”だ」

男「そうですか。やっぱり…」

872: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:51:34.16 ID:U3zD17zqo
黒竜人「…姫が憎いか?」

男「いいえ?そんなことぐらいで魔娘のことを憎むわけないじゃないですか」

男「俺、物心ついた時から友達がいなかったんですよ」

男「それで、初めてできた友達が魔娘なんです。俺達はどんな時も一緒でしたし、あいつの性格もよく分かってますし。だから…」

男「生まれを隠してたぐらいで憎んだり嫌いになったりするわけないじゃないですか」

黒竜人「…それだけか?」

873: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:52:02.57 ID:U3zD17zqo
男「…俺、魔娘のことが好きなんです。だからこれからもずっと一緒に居たいって思ってます」

男「その気持ちは魔娘の正体を知った今でも変わらないんですよ」ニコッ

黒竜人「…主は面白い奴じゃな」

男「はあ、すいません…」ポリポリ

黒竜人「で、どうされますかな?姫」ニヤニヤ

男「え?」クルッ

魔娘 //

874: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:55:16.23 ID:U3zD17zqo
男「…いつの間にここに来てたんだよ…」

魔娘「…何を恥ずかしいことをベラベラ喋ってるのよ!//」

男「いや!これはその…」

黒竜人「姫も満更ではないようですな。はっはっは!」

魔娘「お、小父様も!余計なこと喋らないでよ!!」

黒竜人「いや、失敬…こんなに笑ったのは久しぶりです」

魔娘「もう…」

875: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:56:38.27 ID:U3zD17zqo
男「あの…」

魔娘「あ、そ、そうそう!赤竜の居場所はどこなの?」

黒竜人「…また唐突ですな…」

魔娘「いいじゃない!早く教えなさい!!」

黒竜人「…あの二人は今…封印の島に居ます」

男「封印の島?」

876: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:57:06.16 ID:U3zD17zqo
魔娘「…どこにあるの?」

黒竜人「先ほどの海岸の沖、船で1日のところにある小島です」

魔娘「…ねえ。わたし達をその島まで連れて行ってくれないかしら?」

黒竜人「それはできません」

魔娘「なぜ?」

黒竜人「魔王様は姫を探しております。表だって動くのは危険かと…それに…」

黒竜人「…我ら黒竜人は…赤竜人もですが、禁を破った側の者。従って封印の島には行けないのです」

877: ◆doBINqA5W6 2013/01/18(金) 23:57:33.51 ID:U3zD17zqo
魔娘「なら…どうすればいいの?」

黒竜人「…青竜人に話してみます。が、時間が必要です」

魔娘「どれくらい?」

黒竜人「急いだとしても次に彼らと会うのは…十日ほど後になります」

魔娘「…分かったわ」

黒竜人「申し訳ありません。彼らに会見を申し込むには人魚族の力を借りなくてはなりませんので…」

男「そう言えば青竜人は水の中に住んでるんですよね?」

黒竜人「そうだ。よく知っておるな」

男「魔娘に聞いたんです」

魔娘「…これで話は終わりね」

878: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:00:30.79 ID:dxDLgvSzo
黒竜人「封印の島に行けるようになるまでどうされますか?」

魔娘「それは…」

男「あ、ほかにも行くところがあるので、そっちに向かいます」

魔娘「え?」

黒竜人「…なるほど。なかなかに面白いやつですな」ニヤッ

魔娘「もう…」

879: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:01:04.39 ID:dxDLgvSzo
~黒竜人のいる町・宿の部屋~

男「よっと…これで荷物はまとまったな。あとは足りないものを明日買って出発だ」

魔娘「…男」

男「ん?」

魔娘「…ありがとう」

男「どうしたんだ急に?」

魔娘「だって…白竜人のところに行くんでしょ?」

男「ああ。地図で見ると三日もあれば着くみたいだしな」

魔娘「うん…」

880: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:01:45.86 ID:dxDLgvSzo
男「魔娘が言ってたろ?ここまで来て、焦っても仕方がないって。それに…」

男「魔王が魔娘を探してるって言うことは…一カ所に留まるのは危険だしな」

魔娘「…そうね」

男「…お前も父親に会いたいんじゃないのか?」

魔娘「…正直…分からないわ」

男「え?」

881: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:02:23.56 ID:dxDLgvSzo
魔娘「もし生きているなら…何をおいても会いに行きたい!でも、お父様は…」

男「…」

魔娘「…だから、会いたい気持ちもあるけど、怖い気持ちもあるの…」

男「…大丈夫だ。俺がついてる」

魔娘「…」

男「どうした?」

魔娘「…また盗賊さんのマネ?」

男「今のは本心だよ」

882: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:02:50.30 ID:dxDLgvSzo
魔娘「っ!?だ、だから!そんな恥ずかしいセリフを真顔で言うんじゃないわよ!!」ペシペシ

男「ちょっ!痛い!痛いって!!」

魔娘「まったく…ちょっとキュンってしちゃったじゃないの…」ブツブツ…

男「…へ?」

魔娘「な、なんでもないわ!もう寝る!!」バサッ

男「あ、ああ。おやすみ」

883: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:03:17.34 ID:dxDLgvSzo
~深夜・宿の部屋~

魔娘「男、起きて」ユサユサ

男「zzz…ん?…どうした?」

魔娘「取り囲まれてるわ。それも結構な人数よ」

ガバッ

男「おいおい…マジかよ…黒竜人め…」

魔娘「黒竜人は関係ないわ。この匂い…似蛇族ね」

男「似蛇族?」

884: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:03:44.85 ID:dxDLgvSzo
魔娘「たぶん魔王の差し金ね。わたしを狙って…」

男「荷物を持つんだ」

魔娘「どうするの?」

男「逃げるしかないだろ」

魔娘「無理よ!すぐに見つかるわ!!」

男「大丈夫だ。町の入り口まで転移する」

男「そのあとはできるだけ転移で遠くに逃げる。5,6回も転移すれば町から相当遠くまで行けるだろう」

魔娘「でも!それじゃ男の体力が!!」

男「その時は魔娘の回復魔法で回復してくれ。とにかく急ごう」

魔娘「わ、わかったわ」

885: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:04:18.30 ID:dxDLgvSzo
~町から離れた街道の上~

シュイン

男「…ふぅ。ここまで来れば大丈夫だろう」

魔娘「“大回復呪”」

パァアアアア

男「ありがとな」

魔娘「いいえ、わたしのせいだもの…これぐらいは」

男「魔娘のせいじゃねえよ」

魔娘「でも…」

男「それより、もうちょっと先に進もう。テントを張るにしても林の中のほうが見つかりにくいしな」

魔娘「…そうね」


886: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:04:48.03 ID:dxDLgvSzo
~三日後・白竜の住む山上の町~

男「うぅ…さ、寒い…」

魔娘「だらしないわねえ…ほら、ごらんなさい。他の人はあんなに薄着なのに」

白い竜「ふぅ…今日は暑いな…雪でも降らねえかなぁ…」ザッ ザッ…

魔娘・男「「…」」

男「これで暑いのかよ…」

魔娘「…彼らは雪の中で生活してるから、これぐらいだと暑く感じるのね…」

887: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:05:20.10 ID:dxDLgvSzo
男「うー、我慢できない!“小火炎呪”」

ポワッ

男「…これで少しはマシだな」

魔娘「わたしにもあたらせてよ」

男「やっぱり寒いんじゃねえか…」

魔娘「当たり前でしょ!?早く宿を探しましょう」

男「そうだな」

888: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:05:46.65 ID:dxDLgvSzo
~宿の部屋~

男「暖かいなぁ」ホワーン

魔娘「ちょうど商人用の部屋が空いててよかったわね」

男「ああ。他の部屋は暖房が無いって言ってたもんな」

魔娘「ほんと、助かったわ」

男「…で、いつ行くんだ?」

魔娘「それは…白竜人次第ね」

男「会いに行くのか?」

889: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:07:55.47 ID:dxDLgvSzo
魔娘「それしかないわ。菩提所に行くには白竜人の許可が必要だもの」

男「…いつでも逃げられるようにしておく」

魔娘「悪いわね…」

男「気にするなって。というかさ、こういうことにも慣れてきたな」

魔娘「慣れていいものじゃないとは思うけどね」

男「とりあえず今夜は早く寝よう。追っ手が来るまでに十分休んどかないとな」

魔娘「そうね。寝られるときに寝ておかないと、もたないものね」

890: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:08:22.18 ID:dxDLgvSzo
~翌日・白竜人の屋敷の前~

魔娘・男「「…」」

男「なにあれ?」

魔娘「…白竜人に凍らされた人たちみたいね」

男「え!?」

魔娘「ちょっと聞きたいんだけど?」

門番白竜「なあに?」

魔娘「そこの氷の塊って…」

門番白竜「ああ、あれね。あれはこの屋敷に入り込んだスパイよ」

891: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:08:49.51 ID:dxDLgvSzo
魔娘「彼らはなにをしたの?」

門番白竜「さあ?あたし達は詳しいことは知らないの。ただ、門の外に出しておけって言われたから…」

魔娘「…獣人みたいね。氷が歪だから種族は分からないけど…竜に化けていたのかしら?」

門番白竜「ええ、お札を使ってたみたいね。ところで…あなたたち、何者?」

魔娘・男「「え?」」

門番白竜「まさかその塊を見るために、ここに来たわけじゃないわよねえ?」

男「えっと…菩提所って言うところを探してるんですけど…」

門番白竜「…っ!?」チャキッ

892: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:09:19.84 ID:dxDLgvSzo
魔娘「男!余計なこと言わないの!!ねえ」

門番白竜「…なあに?」ジロッ

魔娘「白姉様に伝言してもらえないかしら。“姫が来てる”って」

門番白竜「っ!?う、動くな!!」

ゾロゾロゾロ チャキーン

男「…囲まれたな」

魔娘「そうね…」

893: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:09:46.25 ID:dxDLgvSzo
門番白竜「大人しくしてたら乱暴なことはしないわ。兵士達についていきなさい」

男「あんたは?」

門番白竜「あたしは門番だもの。ここで門を守ってるわ」

男「…魔娘、どうする?」

魔娘「…大人しくついていきましょう。白竜人に会えるかもしれないし」

男「ん、了解」

竜兵1「黙って歩いてください」

男(なんで丁寧語なんだろ?)


894: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:10:13.05 ID:dxDLgvSzo
~大広間~

男「でかい部屋だな…」

魔娘「…」

男「…とりあえず警戒しておくか」

?「その必要はない」

男「!?」

ヒュルルル…フワッ

?「…」

男(真っ白な竜だ。黒竜人に比べると小さいけど…それでも二階建ての家より大きいな…)

895: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:10:39.72 ID:dxDLgvSzo
魔娘「…白姉様?」

?改め白竜人「…その呼び名、久しぶりですね」

魔娘「最後に会ったのは…10年近く前ね」

白竜人「…その変化、解いていただけますか?」

ボワン

魔娘「これでいい?」

白竜人「…」

男(気付かれないように…後ろに回って…)

896: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:11:09.29 ID:dxDLgvSzo
白竜人「その角と顔立ち…お久しゅうございます。姫」

魔娘「白姉様も…ね」

白竜人「はい。ところで…このものはいかがいたしましょう?」ジロッ

男「うおっ!?ばれてた!?」

白竜人「淑女の背後に回るなんて、駆除されても仕方ないですよ?ふふふ」

男 ゾクッ

魔娘「ふふっ。相変わらず鋭いわね。男、こっちに来て」

男「あ、ああ…」

897: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:11:41.90 ID:dxDLgvSzo
白竜人「さて…姫がここに来られたという事は…御用向きは菩提所ですか?」

魔娘「ええ。その前に…どうしてこんなことを?」

白竜人「黒竜人より密書が届いたゆえ…いずれはここに来られると分かっておりました」

魔娘「密書?」

白竜人「はい。そこには…“封印の島に姫達を送りたい”ことの他に、スパイのことについても書いてありまして」

白竜人「姫をお迎えするために、屋敷内を捜索して駆除しているところだったのですが…」

白竜人「まだ“片付け”が終わっておりませんでしたので、お目汚しにならぬよう兵士を盾にしました」

男(片付けが終わってないって…こわっ!)ブルッ

898: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:12:10.21 ID:dxDLgvSzo
魔娘「…そうなのね…」

白竜人「はい…ところで、密書の中にあった、姫の想い人とはこの者ですか?」ニヤニヤ

男「…へ?」

魔娘「そっ!そんなことどうでもいいでしょ!?//」

白竜人「そうでございますか?」ニヤニヤ

魔娘「そ、それより!早く菩提所に連れてってよ!!」

白竜人「今日は無理です」

魔娘「どうして?」

899: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:12:36.32 ID:dxDLgvSzo
白竜人「姫の安全を確保するためです」

魔娘「どういうこと?」

白竜人「…我等も平和ボケしていたのでしょう。まさかスパイがここまで増えていたとは…」

白竜人「ですので、今宵のうちにスパイを殲滅し、安全を確保いたします」

魔娘・男((せ、殲滅って…))

白竜人「…如何でしょうか?」

魔娘「わ、分かったわ…」

白竜人「ありがとうございます。では、今夜は我が屋敷にお泊りください」ニコッ


900: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:13:03.05 ID:dxDLgvSzo
~寝室~

魔娘「…」

男「…同じ部屋っていうのはいい。ダブルベッドで…っていうのも、まあいいとしよう。けど…」

サムザムー

魔娘「…もう一枚毛布ちょうだい」

男「はい」

魔娘「ありがとう」

男「…暖房を使うとスパイに見つかるからって…これじゃ寒くて寝れないだろ」ガチガチ…

魔娘「白姉様なりに考えた結果でしょうから…外でテントで寝るよりはマシでしょ?」

男「そうだけどさ…」

901: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:13:29.73 ID:dxDLgvSzo
魔娘「男も早く寝なさい。明日は菩提所に行くんだから」

男「…わかったよ」

モゾモゾ

男「うぅ…なかなか温まらないなぁ…」

ギュッ

男「うわっ!?」

魔娘「動かないで。こうやってくっついてると暖かいでしょ?」

男「…あ、ホントだ」

902: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:14:04.98 ID:dxDLgvSzo
魔娘「今夜はこうやって寝ましょ?おやすみ」

男「はいはい。おやすみ」

魔娘「…」

男「…」

魔娘「…ねえ」

男「ん?」

魔娘「男は…自分の母親が殺されたって聞いて…どういう気持ちになったの?」

男「ん…俺はあんまり実感がわかなかったなぁ。母親の記憶が無かったから」

903: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:14:31.67 ID:dxDLgvSzo
魔娘「…薄情ね」

男「そうかもな…けど、腹が立った」

魔娘「どうして?」

男「だってさ…理由が理由だもんな…」

魔娘「そうね…」

男「ああ…」

魔娘「…」

904: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:15:01.02 ID:dxDLgvSzo
男「…不安なのか?」

魔娘「…うん。だって…」

魔娘「わたしには…お父様との思い出があるし…」

魔娘「…泣き崩れて…もしかしたら怒りに任せて暴れちゃうかもしれない…」

男「…」

魔娘「どうなるかなんて…わたしにも分からない…怖いの…」

クシャ

魔娘「あ」

男「悲しかったら泣けばいい」

魔娘「…え?」

905: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:15:28.23 ID:dxDLgvSzo
男「腹が立ったら怒ればいい。悔しかったら憎めばいいし、苦しかったら休めばいい」

魔娘「…」

男「…大丈夫だ。俺がいるから」

男「何があっても、俺がついてるから。な?」ナデナデ

魔娘「…うん」グスッ

男(不安なんだな…こんな魔娘、初めて見た…)

906: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:16:41.96 ID:dxDLgvSzo
~翌朝・菩提所~

白竜人「ここが菩提所です」

男「小高い丘みたいだな…」

魔娘「…」

白竜人「この中に安置しております。こちらが入口です」

ギギギ…

白竜人「…中は迷路状になっております。逸れないようについてきてくださいまし」

魔娘「…」

ギュッ

男「!?」

魔娘「…行くわよ」

男「あ、ああ…」

男(すげえ怖いんだろうな。手まで震えてるし…)
  ・
  ・
  ・


907: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:17:08.56 ID:dxDLgvSzo
~菩提所の中・扉の前~

白竜人「…ここでお待ちください」

男「はい」

魔娘「…」

ゴゴゴ…

白竜人「こちらへ」

男「いくぞ?」

魔娘 コクン

908: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:17:35.25 ID:dxDLgvSzo
ゴゴゴ…

男「!?」

白竜人「あの扉は自動で閉まるのです。この先は我が御先祖様の菩提を弔ってありますので」

男「そ、そうですか…ちょっとビックリしましたよ」

白竜人「…この先です。どうぞ…」
  ・
  ・
  ・

909: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:18:10.88 ID:dxDLgvSzo
~菩提所・最深部~

白竜人「着きました」

魔娘「っ!?」

男「…あそこに見えるのが?」

白竜人「はい…主王様です」

魔娘「…」ギューッ

男(痛い痛い!魔娘、力入れすぎ!!)

910: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:18:35.88 ID:dxDLgvSzo
男「…行けるか?」

魔娘「…ゑヱ」

フラフラ…

男「声が上ずってんぞ。しかもふら付いてるし…途中まで一緒に行こうか?」

男(緊張してるんだろうな…体中がガチガチに固くなってやがる)

魔娘「…ぉねガゐ」

男「…ほら、肩を貸して」
  ・
  ・
  ・

911: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:19:22.13 ID:dxDLgvSzo
魔娘「…」

男「…手を離すぞ?」

魔娘 コクン

男(これが魔王…主王か…角とか耳とかは魔娘と同じだな…けど…身体はでかいな…)

魔娘「…お父…様…」ポロッ

男「…」スッ…

男(しばらくは二人っきりの方がいいだろうしな。入口に戻って待っていよう)

魔娘「…ヒック…うぅ…ヒック…」
  ・
  ・
  ・

912: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:19:48.71 ID:dxDLgvSzo
男「…あ」

白竜人「あら?…姫は?」

男「中で二人っきりになってます」

白竜人「そう…」

男「…あの」

白竜人「なあに?」

男「聞きたいことがあるんですけど…」

白竜人「なにかしら?」

男「魔娘の父親って…どんな人だったんですか?」

白竜人「え?」

913: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:20:15.00 ID:dxDLgvSzo
男「あ、いや。怖かったとか、喧嘩っ早かったとか、気が短かったとか…」

白竜人「…」

男「あ、あの…」

白竜人「…あなたは主王様のこと…知らないの?」

男「はあ…俺、人間界にいましたから」ポリポリ

白竜人「…そうなのね。いいわ。教えてあげる。あなたがさっき言ったのと正反対の人よ」

男「…へ?」

914: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:20:43.37 ID:dxDLgvSzo
白竜人「優しくて温和で、物静かな方だったわ」

男「はあ…そうですか…反乱があったって聞いてたからもっとこう…暴君的な人かと…」

白竜人「主王様はその人望で国を収めてらしたの。もっとも、理不尽なことに対しては全力で解決に当たったりすることもあったけどね」

男「じゃあ…何で反乱なんかが起こったんですか?」

白竜人「…勇者よ」

男「…へ?」

915: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:21:10.83 ID:dxDLgvSzo
白竜人「以前この国にきた勇者パーティーが獣の国に入ったところで、待ち伏せていた師団と衝突して…勇者を討ち取ったの」

白竜人「主王様は勇者と話し合うつもりだったから軍には手を出さないように通達していたのにね」

男「…」

白竜人「元々その師団は過激派が多くて、主王様の命令に背いて武力を行使したり、人間界への侵攻を提案してたこともあって…」

白竜人「そう言うことが何度もあって、挙句に勇者まで討ち取った。それで主王様は師団長の中将を解任したの」

白竜人「それで軍部内に不満が募っていったみたいね。そして…7年前に反乱が起こったの」

男「そうですか…でも、主王様って強かったんですよね?」

白竜人「ええ…でも…人質を取られていたのよ…」

男「…え?」

916: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:21:42.79 ID:dxDLgvSzo
白竜人「主王様はとてもお強い方よ。でも…とても優しい方だったの」

白竜人「ゴブリン族の従者たちを人質に取られて…それで自ら反乱軍に投降されたの」

男「…そのゴブリン族も辛かっただろうな…」

白竜人「そうでもないわ。だってそのゴブリン達は…反乱軍に寝返ったスパイだったんだもの」

男「…へ?」

白竜人「だから、全ては計画通り。我々竜人たちが駆けつけたときには主王様はすでに投降されてて…」

男「なんだよそれ…」

917: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:22:16.69 ID:dxDLgvSzo
白竜人「我々はスパイから主王様の居場所を聞きだして救い出そうとしたけど…」

白竜人「主王様はもうそのお力を殆んど失われ…何とか救出したのだけれど…」

白竜人「“姫を頼む”と言い残されて…身罷られたのよ」

男「…」

白竜人「我々はそのお言葉を守り、何年も姫を探したわ。でも…」

男「見つからなかったんですね」

白竜人「ええ…まさか人間界に行ってるとは思いもしなかったもの」

白竜人「それで、姫を見つけ出せない我々は、主王様をここに安置したという噂を流して…姫が来られるのをお待ちしていたの」

918: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:22:50.99 ID:dxDLgvSzo
男「あいつを守るために…ですか」

白竜人「ううん…主王様を守れなかった罰を…姫に下していただくためにね」

男「…あいつはそんなこと、望まないですよ」

白竜人「でもね、そうしていただかないと我々竜人は…誇りを失ったままになるの」

白竜人「もし姫が罰してくださらなければ…我らは自害するつもりです」

男「なんで!?」

919: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:23:17.62 ID:dxDLgvSzo
白竜人「…竜人は代々主王様をお守りしてきたの。そしてそのことを誇りにしていたわ。でも…」

白竜人「あの反乱で…我々は主王様を守れなかった…誇りを失ったのよ」

白竜人「竜人にとって誇りとは…それほど大事なものなのよ」

男「…」

ゴゴゴゴゴ…

白竜人・男「「!?」」バッ

920: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:23:45.01 ID:dxDLgvSzo
男「何の音だ!?」

白竜人「中から聞こえるわ!」

男「くっ!魔娘!!“転移”!」

白竜人「え?きゃあ!」

シュイン

白竜人「な、なに?いきなり場所が変わったんだけど!?」

男「“転移”です。魔娘は…」キョロキョロ

ドヨドヨドヨ…

男「…なんだあの黒い霧は…」

921: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:24:14.83 ID:dxDLgvSzo
白竜人「魔力が…暴走してるわ」

男「え!?」

白竜人「あの霧は魔力が暴走して勝手に術式化してるみたいね。迂闊に近づけないわ」

男「…俺、行きます」

白竜人「無理よ。あの霧に触れたが最後、いろんな魔法で攻撃されるのよ?あなたなんてあっという間に…」

男「…大丈夫ですよ」ニコッ

白竜人「…え?」

922: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:24:41.25 ID:dxDLgvSzo
男「俺、あいつと約束したんです。何があっても、俺がついてるからって」

白竜人「でも!」

男「じゃあ、行ってきます」ダッ

白竜人「あっ!」

タタタタ

923: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:25:18.52 ID:dxDLgvSzo
男(あの霧のせいで魔娘の位置がよく分からないけど…きっと元の場所にいるだろう)

男(なら…そこよりちょっと右を狙って…)

男「…“転移”!」

シュイン

白竜人「消えた!?」

924: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:25:48.06 ID:dxDLgvSzo
~黒い霧の中心付近~

シュイン

魔娘「…」ブツブツブツ

男「よし、いた!おい、魔娘!」

魔娘「…」

男「俺だ。分かるか?」ペチペチ

魔娘「…」ブツブツブツ…

男「…しょうがない。許せよ?」

バッチーン!

魔娘「…え?…え!?」

925: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:26:15.44 ID:dxDLgvSzo
バッチーン!

男「おい、まむs」

バチーン!

魔娘「い、いきなり何するのよ!!」

男「いってえ!よかった。正気に戻ったんだな?」

魔娘「…はい?」

926: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:26:42.51 ID:dxDLgvSzo
男「お前、さっきまでおかしくなってて、魔力を暴走させてたんだぞ?ほら」

魔娘「…何この黒い霧は?」

男「お前が出したんだ。触るなよ?勝手に術式化してるから、触ったら攻撃されるぞ?」

魔娘「…物騒ね。どうするの?」

男「とりあえずここから出よう。転移するぞ?」

魔娘「ええ」

927: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:27:09.12 ID:dxDLgvSzo
~黒い霧の外~

シュイン

白竜人「っ!?」

男「っと。あ、ただいまです」

白竜人「姫!」

魔娘「心配掛けたわね」

白竜人「姫!御無事で!!」

魔娘「ええ。男のおかげよ」

男「それより…あれ、どうする?」

ゴゴゴゴゴ…

928: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:28:07.61 ID:dxDLgvSzo
白竜人「…これを使いましょう」

男「…なにこの氷柱?さっきまでは無かったけど?」

白竜人「あなたが消えてから、外に取りに行ってきました」

魔娘「…竜が凍ってるみたいだけど?」

白竜人「昨日捕まえたスパイです。これをあの中に放り込みましょう」

魔娘・男((結構残酷な人だ))

白竜人「では、行きますよ?…えいっ!」ポイッ

ヒュー…ボウッ バチバチバチッ キンキンキン…
  ・
  ・
  ・

929: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:28:59.39 ID:dxDLgvSzo
白竜人「…消えたみたいですね。霧」

男「すごい…燃えカスしか残ってない…しかも凍ってるし」

魔娘「雷と炎と凍結…結構な威力だったわね」

白竜人「…主王様も無事ですね。よかった…あ、大丈夫ですか?姫」

魔娘「ええ…とりあえずここから出ましょう。話はそれから。ね?」

白竜人・男「「はい」」

930: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:29:26.59 ID:dxDLgvSzo
~白竜人の屋敷~

白竜人「暖かいお茶を用意しました。どうぞ」

魔娘「ありがとう…はぁ。美味しい」

男「ホントだな。暖房も効いてるし」

白竜人「スパイを殲滅しましたからね」ニコッ

男(人化したらすごく綺麗なんだけど…言うことが怖い)

魔娘「…はあ」

男「大丈夫か?」

931: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:29:58.92 ID:dxDLgvSzo
魔娘「ええ…一度に魔力が抜けたからちょっとフラフラするけど…大丈夫よ」

男「いやそれ、大丈夫じゃないだろ…」

白竜人「本当に大丈夫ですか?姫」

魔娘「大丈夫よ。白姉様」

白竜人「ちょっとお休みになったほうがよろしいのでは?」

魔娘「…そうね。そこのベッドで休ませてもらうわ」

白竜人「…私は所用がありますので席を外します。ごゆっくりお休みください」

932: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:30:26.80 ID:dxDLgvSzo
パタン

白竜人「…ふぅ」

男「疲れてます?」

白竜人 ギクッ

男「どうしました?」

白竜人「…悪趣味ね。人を脅かすのは良くないことよ?」

男「はあ、すいません」

白竜人「危うくさくっと駆除するところだったわ」クスッ

男 ゾクッ

933: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:30:58.99 ID:dxDLgvSzo
白竜人「…で?どういう用件かしら?」

男「あ、はい。荷物を取りに行ってこようと思いまして」

白竜人「荷物?」

男「ええ。荷造りして、宿に置いたままなんですよ」

男「それを取りに行くので門番さんに言っといて欲しいんですけど」

白竜人「分かったわ」

934: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:31:25.71 ID:dxDLgvSzo
男「じゃあ、魔娘のこと、お願いしますね」

白竜人「ええ」

タタタタ…

白竜人「元気だわ…私も頑張らないと」

白竜人「スパイを凍結処分して、黒竜人の密書に返事をして、青竜人に状況説明しなきゃいけないし…」ブツブツ

白竜人「…私も一休みしたいわ…」

935: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:31:52.69 ID:dxDLgvSzo
~昼食時・白竜人の屋敷~

コンコン ガチャ

白竜人「姫はお目覚めかしら?」ソー…

魔娘「スゥ…スゥ…」

男「zzz…」

白竜人「あら?二人とも寝てるのね」

白竜人「…私も休もうかしら?よいしょっと…」

白竜人「ソファーで寝るのは行儀が悪いけど…ちょっとだけだし、大丈夫よね?」

ゴロン

白竜人「ふぅ…」
  ・
  ・
  ・

936: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:32:19.10 ID:dxDLgvSzo
魔娘・男 ガチガチ…

白竜人 スヤスヤ…

男「さ、寒さで目が覚めたら…竜化した白竜人が冷気を吐きながら寝てるし」ブルブル…

魔娘「…そ、外に出たほうがマシみたいね」ブルブル

男「とと、とりあえず…熱い飲み物をもらいに行こう」

魔娘「はは、早く行きましょ…」

937: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:32:45.38 ID:dxDLgvSzo
~数日後~

男「お世話になりました」

白竜人「気をつけてね?」

魔娘「ありがとう。…お父様のこと、お願いします」

白竜人「…はい。お任せください」

男「…じゃあ、行ってきます」

938: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:33:23.66 ID:dxDLgvSzo
白竜人「一緒に行ければよかったんですが…すみません」

魔娘「ううん。白姉様にはここまでやってもらって…本当に感謝してるわ」

白竜人「もったいないお言葉…青竜人には話はついてるから心配ないわ」

男「あ、はい」

魔娘「それじゃ、行きましょうか」

男「…ああ」

943: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:38:02.57 ID:dxDLgvSzo
~海岸・青竜人との待ち合わせ場所~

黒竜人「ここでしばらくお待ちください」

魔娘「ありがとう」

男「…」

魔娘「…どうしたの?」

男「…ん?あ、いや…」

魔娘「緊張してる?」

男「…そうだな」

魔娘「今から緊張してると、島に着く頃には動けなくなってるんじゃない?」クスクス

944: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:38:29.95 ID:dxDLgvSzo
男「…」

魔娘「…」

ギュッ

男「!?」

魔娘「…いよいよね」

男「…ああ」

魔娘・男「「…」」

黒竜人「…来たようです」

945: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:38:56.40 ID:dxDLgvSzo
ザザーン ザザザーン

男「音はするけど…船はどこだ?」キョロキョロ

ザッパァアアアアン!!!

男「っ!?海の中から竜が!?」

魔娘「青竜人よ」

青竜人「…待たせたようじゃの」

黒竜人「なんの。爺様」

青竜人「久しぶりに姫にお目にかかれると聞いて急いできたんじゃが…こいつを引っ張っておったもんでの?」

プカプカ

946: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:39:29.18 ID:dxDLgvSzo
男「…なんだあのでっかい樽みたいなのは?」

魔娘「私たちが乗る船よ」

青竜人「おお!姫!!お久しゅうございます」

魔娘「本当に久しぶりね。元気だった?青爺」

青竜人「はい。これこのとおり…っ!」

ゴキッ

青竜人「あいた!こ、腰が!!あいたたたた…」

魔娘「ちょっと大丈夫!?“大回復呪”」パァアアア

947: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:39:56.66 ID:dxDLgvSzo
青竜人「…ふぅ。おかげで助かりましたわい」

黒竜人「年を考えてください。爺様」

青竜人「ふぉっふぉっふぉ。お主等よりほんの300歳ほど年上なだけよ。要らぬ心配じゃ」

魔娘「ふふふ。相変わらずね。そろそろ船に乗ってもいいかしら?」

青竜人「これはこれは。忘れておりました。ささ、どうぞお乗りになってください」

魔娘「ありがとう」

ヒョイ ヒョイ

948: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:40:34.57 ID:dxDLgvSzo
男「…これ、どうやって乗るんだ?すごく不安定なんだけど…」

魔娘「それは中に乗り込むのよ」

男「中に?」

魔娘「そう。この船は水の中にも潜れるって聞いた事があるわ」

男「へぇ…どこから入るんだ?」

青竜人「ここじゃよ」パカッ

男「あ、どうも。後ろから入るんですね」

949: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:41:01.57 ID:dxDLgvSzo
魔娘「へぇ…中はもっと狭いかと思ったけど…結構広いわね。水晶の窓のおかげで明るいし」

男「よくできてるな…」

魔娘「…でも、なんでこの船なの?普通の船じゃダメなの?」

青竜人「…姫は封印の島に行かれるとお聞きしました」

魔娘「…ええ」

950: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:41:27.43 ID:dxDLgvSzo
青竜人「封印の島は元々犯罪者を閉じ込めるためのものです」

青竜人「島の回りは断崖絶壁。空から逃げようにも魔方陣による結界に弾かれます」

青竜人「泳いで逃げようにも周りはクラーケンの営巣海のため海に入った途端やつらの餌食に…」

青竜人「唯一の出入り口は外海と島の中を結ぶ海底トンネルのみ」

青竜人「従って、この船でないと行けないのですよ」

魔娘「そういうことなのね…わかったわ」

青竜人「では出発しますので、扉を閉めます」

魔娘「ええ」

パタン

951: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:41:54.12 ID:dxDLgvSzo
黒竜人「爺様。姫をよろしく頼みます」

青竜人「わかっておる。我が命に代えてでもお守りいたす」

黒竜人「我等竜人は一度誇りを失っている。またそのようなことがあれば我等竜族は…」

青竜人「黒竜人…お主の息子は強いかの?」

黒竜人「…全盛期の私より…強いです」

青竜人「やれやれ…厄介じゃの。まあ、何とかするわい」

黒竜人「お願いします」ペコッ

952: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:42:21.59 ID:dxDLgvSzo
青竜人「…で、どこまでが許容範囲じゃ?」

黒竜人「姫に危害が及ばなければ…男のほうは死なない程度まで…」

青竜人「…ちがう。危険なのはお主の息子のほうじゃ」

黒竜人「…爺様、呆けましたか?あのような小僧、我が息子に傷ひとつつけることはできないでしょう」

青竜人「呆けておるのはお主の方じゃ。あの小僧、エルフとの血交じりじゃろうが」

黒竜人「それがなにか?」

青竜人「お主は…“エルフの悪夢”を忘れたか?」

黒竜人「…っ!」

953: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:42:54.30 ID:dxDLgvSzo
青竜人「エルフの血交じり…ハーフエルフは特異な能力を持っておる」

青竜人「どのような能力に目覚めるかはエルフでないほうの親の資質によるが…どのハーフエルフにも共通して言えるのは…」

黒竜人「“ハーフエルフはその寿命と引き換えに巨大な力を得ることが出来る”」

青竜人「…そうじゃ。わしがまだ若かった頃、わしは実際に“エルフの悪夢”の現場を眼にした。それは…凄まじいものじゃった…」

青竜人「あのときのハーフエルフは500年分の寿命をたった10日で使いきりおった…」

黒竜人「それはよく聞かされました。“エルフの悪夢”でエルフ族は人口の四分の三に当たる10万人を失った。しかもたった一人のハーフエルフのせいで…」

黒竜人「そしてそのハーフエルフは戦いの中心地で…老衰で死んでいたと聞いています」

青竜人「そうじゃ…」

黒竜人「…」

954: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:43:32.41 ID:dxDLgvSzo
青竜人「…黒竜人よ。あの小僧…ハーフエルフじゃろ?」

黒竜人「…はい」

青竜人「うむ。して…許容範囲は?」

黒竜人「出来れば…五体満足のまま…」

青竜人「…ふむ。では、行ってくるぞい」

黒竜人「よろしくお願いします。爺様」

青竜人「…うむ」

955: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:44:00.27 ID:dxDLgvSzo
コンコン

樽の中の声:『なあに?』

青竜人「これから出発しますでな。しっかり掴まっておいてくだされや」

樽の中の声:『分かったわ』

青竜人「…では」

ザザザザー!!

黒竜人「…」

956: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:44:26.68 ID:dxDLgvSzo
~封印の島の手前~

コンコン

青竜人「島が見えましたぞ」

パカッ

魔娘「どこ?」

青竜人「あそこですじゃ」

男「あの島が…」

957: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:44:53.02 ID:dxDLgvSzo
魔娘「…ずいぶん早かったわね。まだ2時間ぐらいしか経ってないわよ?相当無理したんじゃない?」

青竜人「なんの。わしが本気を出せばこんなものじゃて。ふぉっふぉっふぉ」

魔娘「そうなの?疲れてるなら回復魔法をかけようと思ってたんだけど?」

青竜人「…お願いします」

魔娘「やっぱり。無理しちゃダメよ?」クスッ

男「…あとどれぐらいで着きますか?」

958: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:45:20.01 ID:dxDLgvSzo
青竜人「そう急くでない。海底トンネルを通らねばならんからの…あと1時間ほどかの?」

男「あと1時間…」

チュッ

男「!?」

魔娘「落ち着いて。ここまで着たらもう着いたも同然だから。ね?」

男「…うん。わかった」

青竜人「…では行きましょうかの?」

男「はい。お願いします」

959: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:45:58.61 ID:dxDLgvSzo
~封印の島・海水湖~

プカプカ

男「…森の中?」

魔娘「…みたいね」

青竜人「ここは島の中にある海水湖じゃよ」

男「長いトンネルだとは思ったけど…まさか島の中に出るとは…」

青竜人「この島への出入り口はここだけじゃ。島の周りはクラーケンだらけじゃからの」

960: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:46:24.96 ID:dxDLgvSzo
青竜人「この海水湖は海底トンネルで外海と繋がっておる。じゃからクラーケンもここにはおらんのじゃ」

男「クラーケンか…」

魔娘「男、狩りに行っちゃだめよ?」

男「行かないって。あんま美味くないし」

青竜人「…なんじゃと?」

魔娘「男はね、クラーケンと戦ったことがあるの。食べるのが目的でね」

男「あいつ焼いてみたけど固くて食べ辛かったからなぁ。それに逃げ足が早いし」

青竜人 アングリ

961: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:46:50.68 ID:dxDLgvSzo
魔娘「…どうしたの?」

青竜人「いえ…ワシら竜人でさえ手古摺るクラーケンを…こやつは…」

魔娘「それより、ここからどこに向かえばいいの?」

青竜人「…まず上陸しましょう。そこの岸まで移動しますぞ」

男「…いよいよ上陸か…」

963: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:51:34.26 ID:dxDLgvSzo
~封印の島~

カンッ カンッ カンッ

男「…ふう。これでテントは出来たな」

魔娘「…変ね」

男「なにが?」

魔娘「わたし達が上陸したことはもう分かってるはずよ。なのに…」

青竜人「確かに妙じゃな…いや、気配はある」

964: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:52:01.57 ID:dxDLgvSzo
魔娘「気付いてはいるのね。じゃあ…」

青竜人「こちらの出方を伺っておるんじゃろ」

男「…なら、今のうちに休もう。腹も減ったし」

魔娘・青竜人「「…」」

青竜人「…こやつは大物なのか馬鹿なのか…」

魔娘「後者でしょ。間違いなく」

男「ひでえな!」

965: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:52:32.88 ID:dxDLgvSzo
魔娘「…ふふっ」

男「なんだよ」

魔娘「なんでもないわ。いつもの男で安心したの」

青竜人「…では、わしはひとまず水の中に…」

バシューゥゥ…

魔娘・男「「黒い影!?」」

青竜人「来たようじゃな…」

バサッ バサッ バサッ ズゥウウン…

男「…魔娘は下がってろ」

魔娘「うん…がんばってね」

男「ああ…」

966: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:52:59.28 ID:dxDLgvSzo
黒竜「…迎えに来るには早すぎないか?」

青竜人「なあに、こやつらを送ってきただけじゃよ」

黒竜 チラッ

男「シスター…赤竜はどこだ!」

黒竜「…何者だ?貴様」

男「覚えてないのか?…7年前に一度あってるだろ…」

黒竜「7年前?…っ!貴様あの時の!」

男「やっと思い出したか…」

967: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:53:46.41 ID:dxDLgvSzo
黒竜「あの時の小僧か…何しに来た?」

男「シスターを返してもらおう」

黒竜「…赤竜は我が娶った。それを返せなどと…失礼だぞ、貴様」

男「盗人猛々しい!力ずくで無理矢理奪っていったくせにっ!!」

黒竜「それの何がおかしい?竜族は妻を娶るとき、力でねじ伏せ●●けをする。古来からの慣わしだ」

男「なっ!?」

青竜人「…その通りじゃ。我等竜族はより強い子を残すためにそうしてきたんじゃよ」

魔娘「そ、そんなことって…」

968: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:54:19.13 ID:dxDLgvSzo
男「そんな馬鹿な!それじゃ俺は何のためにここまで旅してきたんだ!?」

黒竜「…ふっ。我に勝てば赤竜は返してやらんでもないがな」

男「…なに?」

黒竜「貴様では我には勝てぬ。諦めて帰るがよい」

男「…おい」

黒竜「ん?」

男「お前に勝てば…シスターは返してくれるんだな?」

黒竜「…正気か?」

青竜人(まずいの…落としどころがないわい。こやつを赤竜と会わせて話をさせておとなしく帰らせようと思っとったんじゃが…)

969: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:54:45.91 ID:dxDLgvSzo
男「じゃあ早速やろうぜ」チャキッ

黒竜「…止めておけ」

男「怖気づいたのか?」

黒竜「違う。邪魔者がいるから場所を変える。ついて来い」バサッ バサッ

青竜人「邪魔者とは酷いのお…」

魔娘「男!」

男「…行ってくる」

魔娘「…後から行くわ。無理しないで」

男「分かった」

970: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:55:24.75 ID:dxDLgvSzo
~拓けた岩場~

バサッ バサッ

黒竜「ここでよかろう」

男「はあ…はあ…」

黒竜「…息切れか?身体が揺れておるぞ」

男「はあ…はあ…うるせえ。これぐらい…ハンデがあったほうがいいだろ…はあ…」

黒竜「…なに?」

男「はあ…はあ…どうした?…俺が怖いのか?」

黒竜「貴様…」

971: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:55:51.50 ID:dxDLgvSzo
男「お前、前も油断して俺に切られたよな?分かった!怖いんだろ!!」

黒竜「“雷撃”!」

ピカッゴロゴロ…ドォオオオン…

黒竜「…馬鹿者め。おとなしくしておれば死なずにすんだものを」

男「ふーん。その程度か」

黒竜「!?」バッ

黒竜(いつの間に後ろに…こいつ…)

972: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:56:29.82 ID:dxDLgvSzo
男「どうした?もう終わりか?」

黒竜「…舐めるな!」ブォンッ!

男「おっと…尻尾を使ったか。7年前と戦い方が一緒だな」

黒竜「…ちっ」

男「今ならまだ許してやる。シスターを返せ!」

黒竜「…調子に…のるなぁああ!!“雷球”!!」

ジジジジ…

973: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:56:56.08 ID:dxDLgvSzo
男「なんだあの球は?」

黒竜「ふんっ!」ブンッ

男「おっと」ヒョイ

ジジジ…バチバチバチ!

男「なんだ!?地面が焦げたぞ!?」

黒竜「くらえ!!」ブンッ ブンッ ブンッ

男「くらって!たまるか!よっと!!」ヒョイッ ヒョイッ ヒョイッ

974: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:57:22.61 ID:dxDLgvSzo
黒竜「ちょこまかと動きおって!…ならば!!“雷剣”!!」

バチバチバチバチ…

男「手から光の剣が出てきた!?」

黒竜「ふんっ!」ブンッ

男「うおっ!」ガキッ!

バチバチバチ!ブォン!!

男「っ!“大氷壁呪”!!」

メキメキメキ

975: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:57:49.05 ID:dxDLgvSzo
黒竜「無駄だあ!!」

ベキベキッ ガキィイイン!

男「氷壁が!?うがあああ!!」バキイ!ドサッ

男(くっ…氷壁ごと岩場まで吹っ飛ばされた…)

魔娘「男!」トテテ

男「来るな!!」

魔娘 ビクッ

976: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:58:21.41 ID:dxDLgvSzo
男「…まだケリはついてない…まだいける!」ヨロッ…

黒竜「ほう?あれを食らってまだ動けるか」

男「…さっきのはしびれたぜ」

黒竜「今ならまだ許してやる。帰れ」

男「ここまで来て手ぶらで帰れるかっての!」シャキン

黒竜「ならば…死ね!」ブォン!

男「“念動”!」

ピタッ

黒竜「なにい!?う、動けん!!」

977: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 00:58:52.03 ID:dxDLgvSzo
男(くっ…さすがに体力の消費が激しい…一か八か…解除して懐に飛び込む!)

黒竜「ぬ?動ける!小癪な…“大雷撃”!!」バリバリバリ…ズドォオオオン…

黒竜「…やったか?」

男「誰が!!」

シュイン

黒竜「懐に入られ…くっ!?」

黒竜(防御が間に合わん!まずい!!)

978: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:00:58.23 ID:dxDLgvSzo
男「そっちこそ!いい加減にっ!!倒れろってーの!!!」ブォン!ブォン!ブォン!

黒竜「衝撃波!?ぐおっ!」ドンッ ドンッ ドン!

黒竜(ま、まずい…一旦下がって体制を…)バサバサッ

シュイン

男「もらった!」

黒竜「な!?後ろに!?」

979: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:01:24.59 ID:dxDLgvSzo
男「せいやああ!!!」バキィイイイン!

黒竜「がはっ…だ、“大雷撃”!」

男「なっ!?」

バリバリバリ…ビシャアアン!

黒竜「げほっ…ごほっ…や…やったか?」

男「…残念だな」

黒竜「なにっ!?がはっ…き、貴様…直撃したはず!?」

男「ああ。けど…コイツが助けてくれた」ボロッ

980: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:02:29.61 ID:dxDLgvSzo
黒竜「…鉈か」

男「苦し紛れに投げたら雷撃がそっちにいったんだ。おかげで助かった」

黒竜「…ふっ。悪運の強いやつめ…」ズシーン…

男「やっと倒れたか…けど、あんたもタフだよなぁ」

男「至近距離で腹に衝撃波の3連発を食らった上に、頭に鉈をお見舞いしたのに…まだ意識が残ってるとはな」

黒竜「…何を言うか。鉈で峰打ちなど…手加減しおって…」

981: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:03:10.95 ID:dxDLgvSzo
男「…シスターの教えを守っただけだ」

黒竜「…」

男「“無益な殺生はするな”…あの時、もう勝負はついてただろ?だからさ」

黒竜「…我の負けだ。好きに」

「だめーーーー!!!!!」

982: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:03:37.19 ID:dxDLgvSzo
男「な、なんだ!?」

パタパタパタパタ

子竜「おとーさまをいじめちゃダメなの!!」

男「子供の…竜?まさか…」

子竜「おとーさま…だいじょーぶ?」

黒竜「下がっておれ…これは戦いなのだ」

子竜「いやなのーーー!!おとーさまのかわぃにたたかうの!!」

983: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:04:44.78 ID:dxDLgvSzo
男「え?ちょ…ええ?」

子竜「“かえーん”!!」ポゥ…

男「小さい火の玉!?あちっ!…お、おい!」

黒竜「よさぬか!…すまぬ」

男「いや…これってもしかしてお前の…」

黒竜「…我が娘だ」

男「そ、そうか…」

984: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:05:10.36 ID:dxDLgvSzo
魔娘「男!」トテテテテ

男「魔娘」

魔娘「大丈夫?怪我はない?」

子竜「こぁーーー!こっちむけーーー!!」

魔娘「…子供の竜?」

男「ああ。黒竜の子供らしい」

魔娘「身体は真赤で手足と尻尾が黒いって…ひょっとして」

男「…やっぱりそう思うか?」

魔娘「それしかないでしょ!?」

985: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:05:36.69 ID:dxDLgvSzo
子竜「もーーー!!“ぁいげきぃ”!!」パチッ パチパチパチ…

男「な、なんだ?線香花火か?」

魔娘『ワザとやられてあげなさいよ』コソコソ

男『何でだよ!確かにやりにくいけどさ…』コソコソ

魔娘『あの子、シスターの子供でしょ?だったら男の妹になるんじゃないの?』

男『…え?』

986: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:06:03.11 ID:dxDLgvSzo
魔娘『血はつながってないけど、あなたもあの子もシスターの子供。だったら兄妹でしょ?』

男「兄妹…俺に妹…」

子竜「“ぁいげき”!“ぁいげきぃ”!!」パチパチ…ジジジジ…

男「うわーやられたー(棒)」パタッ

黒竜「…なに?」

子竜「やたー!おとーさま、やったよー!!」ピョンピョン

987: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:06:29.98 ID:dxDLgvSzo
黒竜「…おい貴様」

魔娘『しっ!ここはこの子の好きなようにやらせてあげて?』コソコソ

黒竜「しかし…」

魔娘『あなたは負けを認めた。もう戦いは終わってるのよ』

魔娘『男はね、この子に認めてもらうためにやってるの。わかって』

黒竜「…」

988: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:07:07.47 ID:dxDLgvSzo
魔娘「あ、それと…“大回復呪”」パァアアアア!

黒竜「…ぬ?」

魔娘「後遺症とかが出ちゃうと厄介だから…ね」

黒竜「…変わった奴らだ…」

男「いてて…強いなあ。名前は?」

子竜「“こぃゅう”だよっ!」

989: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:07:46.82 ID:dxDLgvSzo
男「“子竜”かあ。ところで…お母さんは赤い竜かな?」

子竜「そーだよ!おかーさまはひのまほーがとくいなんだよ!!」

男「…そっかー。会ってみたいなー」

子竜「…いまはだめだよ」

男「…へ?なんで?」

990: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:08:13.27 ID:dxDLgvSzo
黒竜「今は卵を守っているのでな。気が立っておるのだ」

男「お、動けるようになったのか。さすがだな」

黒竜「この人が回復魔法をかけてくれた。我の完敗だ」

魔娘「男は?回復しておく?」

男「そうだな。頼む」

魔娘「任せて。“大回復呪”」パァア…

991: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:08:41.95 ID:dxDLgvSzo
男「ありがとな。ところで…」

黒竜「ん?」

男「何とか会えないものかな?その…シスターに」

黒竜「…我とともに行けば大丈夫であろう」

男「じゃあ…お願いします」ペコッ

黒竜「…うむ」

992: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:09:08.48 ID:dxDLgvSzo
青竜人「どうやら決着がついたようじゃな」

男「あ、はい」

黒竜「…どこに隠れておった、この爺が」

青竜人「まあまあ。よいではないか。そろそろ終わったかと思って見にきただけじゃから」

青竜人(一部始終を水陰から監視していたなどとは言えんからの)

993: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:09:34.78 ID:dxDLgvSzo
男「あ、俺達、これからシスターに会いに行くんです」

青竜人「…行ってくるがええ。にしても…また子供か?」

黒竜「ふんっ。ここには他に楽しみがないのでな」

男「あ」

魔娘「…//」カァ…

青竜人「ふぉっふぉっふぉ。姫はまだ未通女と見える」

魔娘「う、うるさい!!」

994: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:10:02.09 ID:dxDLgvSzo
~赤竜のいる洞窟~

黒竜「赤竜はこの中にいる」

男「ここに…」

魔娘「…」

黒竜「我が様子を見てくる。しばし待たれよ。子竜もな」

子竜「はーい」

ズシーン スジーン…

995: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:10:27.59 ID:dxDLgvSzo
魔娘「…いよいよね」

男「…」ギュッ

魔娘(手が痛い…男ったら相当緊張してるのね…)

黒竜「…入って来い」

男「あ、ああ…行くぞ?」

魔娘「ええ」

子竜「こぃゅうもー!」
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996: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:10:54.84 ID:dxDLgvSzo
子竜「ここをまがぅとおかーさまがみえぅの」

男「…っ!」

魔娘「…」

男(こ、怖い…どうしよう…けど…みなきゃ!)

ソー…

赤竜「…」

男「あ…」

男(あのときのままだ…村から居なくなったあの時の…)ポロッ

997: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:11:20.85 ID:dxDLgvSzo
男「…シスター…俺です…男です」

赤竜「…男?」

男「そうです…会いたかった…シスター…」ポロポロ…

赤竜「…」

黒竜「卵は我が見ていよう。彼らと話し来るがよい」

赤竜「しかし…」

998: ◆doBINqA5W6 2013/01/19(土) 01:11:48.95 ID:dxDLgvSzo
子竜「こぃゅうもいっしょにいくー!」

男「シスター…」

赤竜「…黒竜、お願いします」

黒竜「うむ。任せておけ」

赤竜「…ついて来なさい」

男「あ、はい!」
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次回 男「…へ?」 魔娘「だから…」 後編