1: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:04:13 ID:fX2
・事務所が潰れて路頭に迷ったほたると地下アイドル時代の菜々さんが同居している設定です
・白菊ほたる、安部菜々のコミュ1以前の話として書いています
・冬の盛りに水着の話しとな?

引用元: ほたると菜々のふたりぐらし・つゆなつ 




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2: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:04:41 ID:fX2


【つゆぞら】

菜々「すっかり梅雨になっちゃいましたねえ」

ほたる「近頃雨ばかりです」

菜々「そういえば、ほたるちゃんは折りたたみ傘を持ってない日に限って雨に降られるとか」

ほたる「はい。いつもそうなんです」

菜々「えへへ、ナナと一緒ですね!」

ほたる「えーっ!?」

菜々「いやー、今日は大丈夫だろうって油断してた日に限って雨が」

ほたる「ああ、それで菜々さんちの傘立てにはビニール傘が何本も」

菜々「エフンエフン。まあ梅雨時はあるあるですよね」

ほたる「ふふ、そうかもしれません」

菜々「そこで提案なんですが、持ってるのが楽しくなるような可愛い折りたたみ傘を二人で買いに行く! というのはどうでしょうか」

ほたる「楽しそう……!」

菜々「持ってるだけで楽しいなら、きっと忘れることも無くなりますよ」

ほたる「それは確かに効果ありそうです……!」

3: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:04:59 ID:fX2
【さつきばれ】

菜々「知ってますか? 五月晴れって、元々は『梅雨の晴れ間』の事なんです」

ほたる「知らなかったです……!」

菜々「このごろは梅雨前の五月の晴れの日の事ともされているらしいんですが……まあどちらにしても、今日ナナたちがすべきことは変わりません」

ほたる「すべきこと、とは?」

菜々「ズバリこのカラッと晴れた日を利用して衣装をしっかり干しておくことです!(ズバーと押入れオープン)」

ほたる「ああっ! 押入れにこんな色々な衣装が……!!」

菜々「いやー、倉庫借りるお金もないんで仕方なく押入れに」

ほたる「うわー、きらきら……すてき……」

菜々「えへへー……まあ素敵なんですけど、いろんな布使ってるからおいそれとクリーニングに出せないし」

ほたる「ああ」

菜々「流石にアパート古いから押入れけっこうな湿気だし」

ほたる「ひいい」

菜々「大事にしてた衣装にカビはやしちゃった悲しみときたら……!!」

ほたる「わ、私も手伝います……!!」

菜々「太陽よ、願わくば長く輝き続けて……!」

ほたる「私、折り畳み傘を持ってお手伝いします!!」

菜々「ほたるちゃんのそれは本当に効きそうでちょっと恐い」

4: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:05:21 ID:fX2
【だいえっと】

菜々「夏と言えば海! 水着! そしてダイエット!!」

ほたる「ダイエット……?」

菜々「ああっ、普段から少食なほたるちゃんの『水着になるからってどうしてダイエットを……?』みたいな瞳がナナを責める!?」

ほたる「いえその別に責めてないのですが」

菜々「でもねほたるちゃん違うんですよほたるちゃんきいてくださいほらあれです」

ほたる「ナナさんが聞いたこともないくらい早口に……!?」

菜々「これはより上! を目指すということなんです」

ほたる「より上、ですか」

菜々「ほたるちゃんはとってもスマートで綺麗な身体してますが、それがほたるちゃん自身の理想とする体型かっていうとちょっと違うんじゃないですか?」

ほたる「はい、ええ、まあ……」

菜々「なんでそこでじーっとナナを見るんですかー!」

ほたる「お、お気になさらず……!」

5: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:05:34 ID:fX2
菜々「まあとにかく、普段の身体と、見てより美しいことを目指して作られた身体ってやっぱり違うわけですよ。だから人に見られることを意識して、自分の気になるところを」

ほたる「締め切りを決めてきちっと仕上げようと、なるほど……さすが菜々さんです……」

菜々「むしろほたるちゃんの場合、少し増量すべきかもしれないですね……これで菜々が油断してたわけじゃないって解ってくれましたか?」

ほたる「寒い季節は、一緒にたくさん焼き芋食べましたよね……」

菜々「うわーん! ……ま、まあそれはそれとして、ほたるちゃんもナナと一緒に挑戦してみませんか? 海に遊びに行く日を決めて、その日までに理想の体型を目指す感じで」

ほたる「海なんて随分行ってないから楽しみです……でも、肌を見られるのって恥ずかしいし」

菜々「アイドルは見られるお仕事ですよ」

ほたる「それに、きっと私と一緒に海に行く予定なんか立てたら雨が」

菜々「その時はこのアパートで一緒に水着ファッションショーをして、そのあとご馳走食べましょう」

ほたる「どうしよう、楽しそうです……!」

菜々「ふふ、決まりですね」

6: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:05:48 ID:fX2

【あめのひ】

ほたる(ざあざあ、ざあざあ。雨が降ります)

ほたる(人混み、夕暮れ、帰り道。菜々さんと私は買い込んだ食材を二人で持って、家路を急ぎます)

ほたる(私は、雨の日が好きではありませんでした)

ほたる(暗くて雨の多い故郷を思い出すから。そこで体験した出来事を思い出すから)

ほたる(足下が冷えると、なんだか不安な気持ちになってしまうから)

ほたる(――だけど)

菜々「ふんふん、ふふん♪」

ほたる(前を行く菜々さんの後ろ姿。いつもなら、ちょっと離れたら人混みに紛れて見失いそうになる小柄な後ろ姿を、今日は見失う心配がありません)

ほたる(おそろいで買った鮮やかなピンクの傘が道をゆく傘の群のなかでもくっきり目立って、菜々さんの居場所を教えてくれるからです)

ほたる(私はちょっとだけ、雨が好きになりました)

7: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:06:03 ID:fX2


【しちゃくしつ】

菜々「ほたるちゃん、着終わりましたかー?」

ほたる「(もそもそ)は、はいなんとか」

菜々「さあさあ、今年の初水着、ナナに披露してください」

ほたる「(カーテンを開けて)でもあの。私くらいの子がビキニって、大胆すぎるような」

菜々「わあ……」

ほたる「?」

菜々「……(そっ閉じ)」

ほたる「どうして目を閉じちゃうんですかー!(ガーン)」

菜々「まぶしい……」

ほたる「えっ?」

菜々「明るい照明の下で見るほたるちゃんのお肌がまぶしすぎて、ナナとても目をあけていられません……!」

ほたる「ええええ」

菜々「白い……白いだけでなくメッチャきれい……綺麗だ綺麗だとは思ってたけどこれほどとは……」

ほたる「い、いくらなんでも大げさでは」

菜々「大袈裟じゃありませんよ。いいなーいいなー。美肌の秘訣とか色々教えてくださいよ。若さ以外で!」

ほたる「そうですね。薄暗いところでずっと引きこもっていたからじゃないでしょうか(フッ)」

菜々「真似できない上に理由が暗い!?」

8: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:06:26 ID:fX2


【さいわい】

菜々「まさかデパートの試着室でほたるちゃんの切ない過去を知ろうとは」

ほたる「人にふれるのも、不幸にしてしまうのも、怖くて。段々外に出なくなって。日差しを浴びることも少なくて」

菜々「うう、悲しい話です……でも、何が幸いするかわからないものなんですねえ」

ほたる「え、幸い……幸い?」

菜々「はい、『綺麗な肌』って、こういうお仕事を目指すならすごい武器じゃないですか」

ほたる「そう、なんでしょうか。私、あまり目立たない顔だし」

菜々「顔立ちはそれこそメイクの力を借りることができますが、『綺麗な肌』には長い積み重ねが必要ですからね」

ほたる「な、なるほど」

菜々「デジタル放送が始まったとき、女優さんが慌てたって話があります。細かいものまでくっきり写るデジタル放送は、それまで目立たなかった粗までくっきり見せてしまうからです」

ほたる「こ、怖い話です……」

菜々「これからも映像技術はどんどん発展して、アイドルはメイクでごまかせない素材の善し悪しを見られるようになるでしょう。ほたるちゃんの肌は、ほかに真似できない武器なんですよ」

9: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:06:41 ID:fX2

ほたる「私の、武器」

菜々「はい」

ほたる「あのころ、本当に辛かったのに。何も出来てないと思っていたのに……何だか不思議な気持ちです」

菜々「何が幸いかなんて、後にならないと解らないものですから……だがしかしお肌を痛めるのは一瞬のこと! お肌の曲がり角は曲がったら戻れない地獄道(カッ!!)」

ほたる「菜々さんが血の涙を!?」

菜々「ゆめゆめ、若さにかまけてお手入れを怠けてはいけませんよ……!」

ほたる「なんて実感のこもった言葉……!!」

菜々「ぜいぜい……それにしても水着の準備はバッチリみたいですね」

ほたる「理想の体型というのにはまだ遠い感じですが」

菜々「だからそこでどうしてナナのあちこちをじっと見るんですかー!!」

10: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:06:54 ID:fX2
【ねつ】

菜々「37度6分。これは海水浴、中止ですね」

ほたるinおふとん「うう、楽しみにしすぎて熱を出すなんて子供みたい……!!」

菜々「まあまあ、海水浴もファッションショーも、日を改めればいいんですよ」

ほたる「だって菜々さん、お忙しい中お休みを合わせてくださったのに……」

菜々「なんのまだ夏は長いです。そしてナナは諦めない!」

ほたる「海水浴をですか?」

菜々「ほたるちゃんの可愛いビキニ姿を衆目にさらすことをです」

ほたる「うれしいような、恥ずかしすぎるような……」

菜々「とにかく、今日はなにも気にせずゆっくり休んでください。あとでおりんご食べましょうね……すりおろしがいいですか? 切って食べたいですか?」

ほたる「……ウサギに切ってほしいです……」

菜々「はいお嬢様、承知いたしました。キャハッ☆」

11: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:07:18 ID:fX2
【かたづけ】

ほたる(熱を出して、朦朧と眠って、目覚めると夕刻)

ほたる(窓からは、真っ赤な夕焼けの光。遠くからセミの声)

ほたる(そして、菜々さんのお部屋は、なんだかとっても殺風景でした)

菜々『あっ、ほたるちゃん、目をさましたんですか』

ほたる『ねえ、菜々さん、あの、菜々さん』

菜々『待っていてくださいね。ここをすませたら、おりんご剥きますから』

ほたる『菜々さんはどうして、お部屋の荷物を段ボールにつめこんでいるんですか?』

菜々『どうしてって、やだなあ、このアパートを引き払うことにしたんじゃないですか』

ほたる『どうして、アパートを引き払うんですか?』

ほたる(背中を向けて荷造りしてた菜々さんが、くるっと振り向きました)

ほたる(菜々さんは、笑っていました)

ほたる(だけどそれは、私の知ってる菜々さんの笑顔では、ありませんでした)

菜々『ナナ……ううん。私もうアイドルを諦めて、田舎に戻ることにしたんです。ほたるちゃんともこれでお別れですね』

ほたる(私は、私は)

ほたる(見知らぬ菜々さんの笑顔に射すくめられて、声を限りに悲鳴をあげました)

12: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:07:38 ID:fX2

【わからない】


ほたる「ひっく、ぐすん、ぐすん」

菜々「なるほどー。そんな夢を見たんですか(なでなで)」

ほたる「私、びっくりして。本当にびっくりして」

菜々「もの凄い悲鳴でした。ナナ飛び上がっちゃいましたよ」

ほたる「ううう、ごめんなさい」

菜々「気にしない、気にしない(なでなで)」

ほたる「菜々さんは、菜々さんは、絶対アイドルを諦めたりしませんよね?」

菜々「うーん、それはどうでしょう……なんですか鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔をして」

ほたる「……菜々さんは、絶対に諦めないって言うものだとばかり」

菜々「もちろん、絶対諦めたくない!っていつも思ってます。明日も明後日も、きっとナナはアイドルを目指します。でもね、ほたるちゃん」

ほたる「……はい」

菜々「ナナが見送って来た子の中に、諦めたくて諦めた子は、いなかったです」

ほたる「……!」

13: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:07:54 ID:fX2
菜々「絶対に叶えたくて、がんばってがんばって……それでも気持ちを折られてしまう時がある。想いが弱い子なんていなかったです。皆、本気で。誰よりアイドルが大好きで」

ほたる「……はい」

菜々「笑顔で去った子も、泣きながらいなくなった子もいました。でも一人だって、ああよかったって言ってた子はいない。大きな未練と後悔を抱えて、続けたくて……それでも、どうしようもなくて。皆、そんなふうでした」

ほたる「……」

菜々「何故かなあ。どうしてなのかなあ。みんなあんなにアイドルが好きで、真剣で。それでも乗り越えられない諦めが、どうして来てしまうんだろう。もしかしたらそれは、諦めた人にもわかんない事かもしれません……だから

ナナ、絶対に諦めないとは言えないです。だけど」

ほたる「……だけど?」

菜々「ナナにその日がいつか来るとしても、来ないとしても。ナナは毎日、全力でアイドルを目指します。真剣にアイドルを目指します。いつか時が過ぎて今を思い出しても、自分はやれる限りをやったと思えるぐらいに。あれじ

ゃきっとダメだった、なんて絶対思わないぐらいに」

ほたる「……」

菜々「それがナナの答えですよ、ほたるちゃん」

ほたる(――菜々さんが、笑いました)

ほたる(夕暮れの光に溶けるような笑顔があんまり綺麗で)

ほたる(私はいつまでも、その笑顔をみつめていました――)

(おしまい)

14: ◆cgcCmk1QIM 19/12/16(月)19:08:22 ID:fX2


【おまけ】

ほたる「ところで菜々さんのダイエットの首尾はどんな具合でしたか」

菜々「も、もちろんバッチリデスヨ、キャハッ☆」

(ほんとうにおしまい)