杉下右京「ひぐらしのなく頃に」 前編

487: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 00:53:42.33 ID:rqG1ZhjAO
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某所

圭一「それで……俺たちに話っていうのは?」

詩音「何か……分かったんですか?」

右京「その前に……梨花さん、皆さんにはどこまでのことを?」

梨花「…………」

梨花「僕が殺されること……富竹と鷹野も同じく殺されること……敵の正体は分からないこと……敵は大きな力を持っていること」

梨花「……僕が話したのはここまでなのです」

亀山「…………」

亀山『梨花ちゃん、雛見沢症候群についての話はしなかったみたいですね』

右京『賢明な判断です……僕たちも、それに触れないよう話を進めましょう』

亀山『分かりました』


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1376140841

引用元: ・杉下右京「ひぐらしのなく頃に」  



488: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 01:10:08.02 ID:rqG1ZhjAO
魅音「一応だけど、私たちなりに犯人については色々と考えてたんだけど……どうしても分からなくてね」

レナ「村の中には梨花ちゃんを殺す動機のある人がいないから、もしかしたら外部犯の可能性もあるって……」

右京「なるほど……皆さん、本当によく考えていらっしゃるようですねぇ。僕たちとしても、心強い限りです」

梨花「それで……右京たちはどうなのですか? 何か新しいことが……?」

右京「ええ、少なくとも……確実に前進はしています」

亀山「今から俺たちで入江診療所へ行ってくる……だから、圭一たちは動かないで、少しだけ待っててくれ」

圭一「い、入江診療所って……!?」

魅音「まさか……か、監督たちが犯人なの!?」

右京「誤解しないでください。梨花さんの言う、今年の犠牲者には入江診療所の関係者が多かったものですから」

右京「その辺りの人間関係や事実関係を、少々確認しに向かうだけです」

489: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 01:17:15.83 ID:rqG1ZhjAO
詩音「何だ……単純に話を聞きにいくだけですか?」

亀山「そうそう、だからそんな大袈裟なことじゃないんだ」

詩音「良かった……監督たちが犯人だったら私、どうしようかと思いましたよ」

魅音「うんうん、監督も鷹野さんも良い人だからねぇ」

詩音「何だか私、緊張が緩んじゃいましたよ……少し顔を洗ってきますね」

魅音「こんな時に詩音ったら……」

亀山「まあまあ、わざわざ集めて緊張させといて、気の抜けた話をしちゃったからな」

レナ「…………」

レナ「でも……何だか不思議だよね」

魅音「ん? 何が?」

490: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 01:25:16.99 ID:rqG1ZhjAO
レナ「杉下さんたちがこの村に来たのは、本当に偶々でしょ?」

レナ「偶然、観光に来た二人が刑事さんで……偶然、レナたちと知り合って……そしてレナたちと行動を共にしてる」

レナ「ううん、それだけじゃない……誰にも言えなかったレナの家のことも解決してくれて」

圭一「ああ……沙都子を叔父から助けたのも、二人なんだろ?」

レナ「だから、思うんだよね。本当に、二人が来たのは偶然だったのかな……なんて」

魅音「確かにね……神様か何かが巡り合わせてくれたんだったりして」

梨花「…………」

梨花(そう言われてるけど……どうなの、羽入)

羽入『あ、あぅあぅ……少なくとも、この二人を呼んだのは僕ではないのですよ』

491: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 01:32:54.93 ID:rqG1ZhjAO
魅音「……もし、二人が来るのがあと一年くらい早かったら、ひょっとしたら悟史も……」

亀山「悟史……?」

右京「北条悟史……沙都子さんの、お兄さんでしたね?」

魅音「さすが、よく知ってるね……じゃあ悟史が四年目の鬼隠しに遭ったことも……」

右京「ええ……知っています」

魅音「あの時は……もう何がなんだか分からなくてさ、精一杯探したんだけどね」

魅音「それでも……結局、私じゃ何も出来なかった」

梨花「魅ぃ……」

レナ「魅ぃちゃんのせいじゃないよ……」

492: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 01:38:44.23 ID:rqG1ZhjAO
魅音「でも……悟史がいなくなったせいで沙都子は色々と抱え込むようになっちゃって……」

魅音「それに、詩音にも辛い思いをさせちゃったから……」

亀山「詩音に……?」

右京「…………」

魅音「うん……詩音は、悟史のことが本当に好きだったから」

魅音「悟史がいなくなってから、あの子は一生懸命探してた……本当に、草の根を分けるくらいに」

梨花「…………」

493: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 01:47:09.47 ID:rqG1ZhjAO
レナ「そういえば、詩ぃちゃん遅いね?」

圭一「ああ、顔を洗ってくるって言って、もう結構経つよな」

魅音「見てこよっか……詩音ー……あっれー、おかしいな」

右京「…………」

詩音『……あれが不幸な事故? そんなわけない……そんなわけあるもんか……』

右京「…………」

魅音『詩音は悟史のことが本当に好きだったから……』

右京「…………っ!」

その瞬間、何かを察した右京は

右京「僕としたことがっ……迂闊でした!」

そう言うと同時、一目散に外へ走り出した。

亀山「ちょ、右京さん!?」

梨花「!」

497: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 01:56:02.09 ID:rqG1ZhjAO
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入江診療所

詩音「こんにちは、監督……沙都子、まだ寝てます?」

入江「お見舞いですか……ありがとうございます、しかしまだ……沙都子ちゃんは」

詩音「そうですか……鷹野さんは?」

入江「ああ、鷹野さんは少し用事があるとかで……今は私一人ですよ」

詩音「なるほど、じゃあ都合がいいですね」

言い終わると同時、火薬の炸裂音が診療所内に鳴り響く。

入江「!?」

驚きで一瞬目を瞑った入江が再び目を開けると、そこには銃とスタンガンを両手に持った詩音の姿があった。

そして

詩音「……悟史くんは、どこ?」

511: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 19:38:44.03 ID:rqG1ZhjAO
入江「し、詩音さん……何の話をしているんですか!」

詩音「とぼけないで! もう分かってるんだ、優秀な刑事の二人があんたを犯人だって睨んでるんだ!」

詩音「今までの鬼隠しの犯人も、悟史くんを連れ去ったのも! 全部アンタなんでしょう!?」

入江「なっ……?」

詩音「信じてたのに……監督は沙都子の面倒だってよく見てくれて……私、すごく信頼してたのに!」

詩音「なのに……本当は悟史くんがいなくなって動揺する私や沙都子を見て、心の中で笑ってたんでしょう!?」

入江「そんな……だ、誰が一体そんなことを……!」

詩音「間違えているはずがない……レナさんのことも沙都子のことも、あの二人はすぐに解決したんだ!」

514: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 19:48:06.07 ID:rqG1ZhjAO
入江「沙都子ちゃんを……? まさか、その二人の刑事とは……杉下さんたちのことですか?」

詩音「そうですよ、監督も知ってるでしょう? あの二人がどれだけすごいのか」

入江「待ってください、本当に杉下さん達が私のことを鬼隠しの犯人だと言ったんですか!?」

入江「いや……それ以前に、あの二人が刑事だなんて私は初めて……」

詩音「何ですか! そうやって話を逸らそうとして、私の隙でも狙ってるんですか?」

入江「とにかく、落ち着いてください……私の話を……!」

その瞬間、再び火薬の炸裂音が診療所に響き渡る。

それは、入江の言葉を遮るために放たれた一発の弾丸……明確な脅しだった。

詩音「質問にだけ答えてください……悟史くんは、どこにいるの!」

入江「…………!」

入江「……わ、分かりました。ご案内します」

515: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 19:56:36.37 ID:rqG1ZhjAO
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入江診療所、地下

入江「……言われた通り、ここへ続く扉は閉じておきました」

詩音「それでいいです……右京さんたちが追ってきてるかもしれないですからね」

入江「…………」

詩音「それにしても……入江診療所にこんな場所があったんですね……知りませんでしたよ」

詩音「よくもこんな暗い所に悟史くんを……許せない……絶対にっ……!」

入江「詩音さん……あなたには辛い思いをさせてしまいました……」

詩音「ええ、そうですよね……そうやって良い人の仮面を被って、私を笑ってたんですよね」

入江「あなたが私をどう思っても構わない、憎んでも構わない……しかし、これだけは言わせてください!」

入江「私は決して、悟史くんを傷付けたりはしていない! 本当です!」

入江「あなたや沙都子ちゃんに悟史くんのことを黙っていたのも、全ては……!」

詩音「それ以上、何か言ったら頭を撃ち抜きますよ」

入江「…………!」

516: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 20:05:30.47 ID:rqG1ZhjAO
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入江診療所

詩音が入江と共に地下へ向かって数分後

圭一「詩音! いるなら返事しろ! 詩音!」

レナ「詩ぃちゃん! 監督!」

魅音「本当に詩音のヤツ、ここにいるの!?」

梨花「早く、早く探さないと! そうでないと……!」

亀山「…………」

亀山「……あっ! 右京さん!」

診療所内を探していた亀山が何かに気付き、皆を呼び寄せる。

亀山の指差す先には

右京「弾痕ですね……ごく、最近できた物のようです……!」

517: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 20:21:28.20 ID:rqG1ZhjAO
魅音「嘘でしょ……詩音、本当に監督を!?」

レナ「詩ぃちゃん! どこにいるの!?」

圭一「ダメだ! 診療所の中は寝ている沙都子以外に誰もいない!」

梨花「まさか、外に連れ出して……!」

亀山「いや、窓からも正面の入口からも内から外へ出て行った形跡はなかった!」

亀山「第一、この診療所は見晴らしがいい場所にある! わざわざ外へ出ても目立つだけだ!」

魅音「じゃあ一体どこへ……!」

右京「…………」

喧騒の中、右京は思考を展開しつつ、床や壁を探っていた。

外へ出た形跡はない、園崎詩音は銃を持っている……死体や血痕がないことから、最悪のパターンである殺しをしたわけではない。

壁の弾痕、威嚇射撃、脅し……北条悟史の行方を追っていた……入江機関……

右京「…………っ!」

ふと、壁の前で立ち止まり

右京「風が通り抜けています……ここです!」

519: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 20:52:01.82 ID:rqG1ZhjAO
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入江「ここです……この扉の向こうに悟史くんはいます」

詩音「……確認します、監督はそこを動かないでください」

入江「…………」

入江に指示された壁の向こうを一つだけ付いている窓から覗き込む。

そこには

悟史「…………」

詩音「っ!」

体をベッドに固定され、眠り続ける悟史の姿があった。

詩音「悟史くん……やっと……やっと見つけた……!」

良かった、生きていた、死んでいなかった、また会えた……様々な思いが一度に沸き立つ。

それは、憎しみの心も同様だった。

詩音「……やっぱりアンタが犯人だったんですね、鬼隠しをやっていたのは」

詩音「悟史くんみたいに拉致した人をベッドに縛り付けて! 人体実験か何かをしていたんじゃないんですか!?」

入江「…………」

520: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 21:08:05.73 ID:rqG1ZhjAO
詩音「アンタへの罰は後で考えます……今は、悟史くんを解放することが先……」

詩音「早くこの扉を開けてください……そして、悟史くんの拘束を外してください」

入江「…………」

入江「……それは、出来ません」

三度目の銃撃、それは今までのような威嚇射撃ではなく

入江「ぐっ……!?」

入江の足を掠める一撃であった。

詩音「もう一度だけ言います、そこを開けてください……」

詩音「開けないのなら……今すぐにあなたを撃ち殺して、無理矢理にでも開けます」

入江「悟史くんは……悟史くんは病気なんです!」

詩音「……病気?」

入江「完治の難しい、治療法の確立していない病です……今の彼は、悟史くんであって悟史くんではないんです!」

詩音「な、何を言ってるんですか……?」

521: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 21:20:55.06 ID:rqG1ZhjAO
入江「詩音さん、あなたに悟史くんのことを教えなかったのは……本当にすまないと思っています」

入江「辛かったでしょう、苦しかったでしょう、必死になって彼の行方を探したんでしょう……!」

詩音「分かってるじゃないですか……それだけ分かってるのにアンタは!」

入江「しかし、知らせてどうなりますか! 今の悟史くんを見れば、あなたが辛くなるだけです!」

診療所の地下全体に響き渡る入江の叫び。

それは一点の曇りもない、医師としての、入江京介という人間としての魂を込めた、心からの言葉。

入江「悟史くんの病状は重い、今の状態から良くなる保障はない! もしかしたら二度と目覚めないかもしれない!」

入江「それでも……会いたい、触れ合いたいと思う気持ちは治まらない! それだけあなたの心は傷ついていく!」

入江「だから……私は医師として! 責任をもって悟史くんを完治させた状態で、あなたや沙都子ちゃんに会わせたかった!」

522: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 21:28:29.85 ID:rqG1ZhjAO
詩音「……何ですかそれ、こんな時まで良い人を気取るつもりですか」

詩音「会えば辛くなるなんて誰が決めた、会えない苦しみよりも辛いなんて誰が決めた!」

詩音「今さら詭弁を使って、責任を逃れようとするな!!」

入江「責任から逃げるつもりなんてありません! 私はこの上なく重い罪を犯している人間です!」

詩音「だったら……」

入江「だからこそ! 私は、今の悟史くんをあなたに会わせるわけにはいかないんです!」

詩音「…………」

詩音「……最後通告です、その扉を開けてください。従わなければ、本当に撃ちます」

入江「…………」

入江「……撃ち殺されても、構いません」

今の詩音に逆らえば無事では済まないだろう、それだけ彼女は本気だ。

この扉を開くことを拒めば、彼女は躊躇なく引き金を引く……そうなることは分かっている。

それでも、入江は扉の前に立ちふさがり

入江「撃ちたいなら撃て……医師として! 私はここを決して動かない!」

523: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 21:38:13.86 ID:rqG1ZhjAO
詩音「そうですか……覚悟は出来てるってわけですね」

詩音は、銃口をゆっくりと入江の頭部に向けて照準を合わせ

詩音「じゃあ……さっさと死んでください……!」

撃鉄を起こし……引き金に掛けた指に力を込める……

その瞬間


右京「いけませんっ!! 詩音さん!!」

詩音「!」

少女の行動を制止する声が響き渡った。

541: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 23:00:54.28 ID:rqG1ZhjAO
詩音「右京さん……!」

右京「銃を下ろすんです! 今すぐに!」

亀山「そいつを渡せ、詩音!」

詩音「来ないで! やっと真犯人が分かった! 悟史くんだって見つかったんだから!」

魅音「えっ! さ、悟史がここにいるの!?」

詩音「そう……何もかも全部、この男が……!」

右京「あなたは、大変な思い違いをしています!」

右京「入江医師は、犯人などではありませんよっ!」

543: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 23:05:18.38 ID:rqG1ZhjAO
詩音「……なんでそんな嘘をつくんですか、監督しか有り得ないじゃないですか!」

詩音「今年の鬼隠しで富竹さんと鷹野さんが殺されて! 入江診療所が怪しいっていうなら!」

詩音「現にこうやって悟史くんまで隠してた! もう間違いないじゃないですか!!」

右京「詩音さんっ!」

詩音「動かないで!」

右京「では、銃を構えたままで結構! 僕も、ここから動くつもりはありません!」

右京「ですが……少しだけ、僕に時間をいただけませんか?」

詩音「…………!」

546: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 23:17:44.97 ID:rqG1ZhjAO
右京「入江先生……あなたのされた先ほど告白、離れた所にいた我々にもよく聞こえました」

右京「その言葉について……少し、お話を伺いたいのですが」

入江「……今はこんな状況です、私で答えられる範囲でしたら」

右京「…………」

右京「先ほど、あなたはこう叫ばれた……」

入江『悟史くんは……悟史くんは病気なんです!』

入江『今の彼は、悟史くんであって悟史くんではないんです!』

右京「一聞には意味の分かりにくい言い回しですが……とある人間が、その人間自身でなくなる病であるとすれば……」

右京「記憶障害……もしくは、精神病の一種と考えるのが最も合理的です」

右京「北条悟史くんの患っている病とは……その類のものですね?」

入江「……おっしゃる通りです」

547: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 23:32:15.43 ID:rqG1ZhjAO
右京「しかし、同時に疑問も浮かびます……単なる記憶障害や精神病であるなら、なぜ……彼は体を拘束されているのでしょう?」

入江「それは……!」

右京「医師であるあなたの判断によるものだとすれば……体を固定することで病人である彼を扱いやすくするため……」

右京「もしくは……どうしても拘束をしなければならない、何か特別な事情があるのか」

詩音「……何なんですか、その事情って。一人の人間を縛り付けても許される事情なんてあるんですか?」

右京「例えば……そのまま放置してしまえば、精神疾患を原因として自身または他人に対して攻撃を行ってしまう……」

右京「場合によっては、命に危険が及ぶ可能性も十分に考えられる……」

右京「そのような場合は……多少、強引にでも抑えつけるしかありませんね?」

入江「…………!」

551: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 23:40:30.22 ID:rqG1ZhjAO
右京「精神に関する病であり、研究が進んでいないため未だに明確な治療法が確立していないもの……」

右京「そして、時には自分や他人の命にさえ関わることもある……そのような病の名をつい最近、僕は耳にしているのですよ」

入江「!」

右京「さらに言えば……あなたが、その病の研究をなさっていることも知っています」

入江「す、杉下さん……あ、あなたは……!」

梨花「入江、僕が教えました……右京も亀山も、既に雛見沢症候群のことは知っているのですよ」

入江「梨花さん……しかし……!」

梨花「……入江からも話してください、雛見沢症候群のことを。今の悟史がどのような状態なのかを」

入江「…………」

入江「……分かりました、お話します」

554: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/17(土) 23:56:28.39 ID:rqG1ZhjAO
入江「お察しのように……今の悟史くんは雛見沢症候群を発症しています、それも……最悪のレベルでの発症です」

詩音「何ですか……その雛見沢症候群って……!」

圭一「魅音……知ってるか?」

魅音「聞いたこともないよ……あたし、風邪もひかないし」

入江「雛見沢症候群を簡単に言えば……疑心暗鬼を発端として、極度に攻撃的な状態となる病です」

レナ「疑心暗鬼……?」

入江「そうです……発症すれば、他人の言葉、挙動、その他すべてが自らと敵対する行為に思えてしまう……」

入江「そして悟史くんの症候群は……末期のL5、自分以外の人間すべてが敵に見える、理性を完全に失った状態……」

入江「今の彼は、私も……詩音さんも……妹の沙都子ちゃんにすら手をあげてしまう……そんな状態なんです」

556: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 00:32:59.21 ID:z+Xu4paAO
右京「だから……あなたは、この診療所の地下に悟史くんを閉じ込めておかなければならなかったのですね?」

入江「……私には、こうする以外の方法が思い付きませんでした」

入江「非人道的であろうと、人体実験と言われようと、それで悟史くんの治療が可能なら……」

入江「それで……詩音さんや沙都子ちゃんに、悟史くんと再び会わせてあげることが出来るのなら……」

右京「なるほど……しかし、本当にそれだけなのでしょうか?」

入江「本当です、嘘じゃありません! 誓って、私はやましいことはしていないと……!」

右京「僕が言ったのはそういうことではありません……」

右京「あなたの行っている雛見沢症候群の『治療行為』は、果たしてそれだけなのでしょうか?」

558: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 00:44:53.27 ID:z+Xu4paAO
入江「……どういうことですか?」

右京「以前、僕は沙都子さんから……このような話を聞きました」


沙都子『ええ、栄養剤の研究に少しばかりの協力を……入江先生が紹介してくださいまして』

沙都子『朝晩に二回の注射を毎日して……週末には診療所で監督の検査を受ける、といった感じですわね』

亀山『へー、結構長いこと続けてるんだ?』

沙都子『そうですわね……もう何年かは』


入江「…………」

右京「朝晩に二回の注射を毎日、そして日曜日には診療所で検診……それらを長期間に渡って続けている」

右京「単なる栄養剤の研究にしては、かなり不自然です」

入江「…………」

右京「そこで、僕はある仮説を立てました。沙都子さんが毎日注射していると言っていた栄養剤……」

右京「あれは栄養剤などではなく……何らかの治療薬だったのではないかと」

入江「!」

559: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 00:57:30.07 ID:z+Xu4paAO
右京「何らかの原因で沙都子さんも雛見沢症候群を発症してしまった……あなたはそれを放っておくことが出来なかったのでしょう」

右京「しかし、その病の存在を幼い沙都子さんに、直接伝えるわけにもいきません」

右京「加えて彼女の周りには頼りになる身内もいない……金銭の面でも、彼女が生活していけるか不安に思えた」

右京「さらに……長期間に渡って治療薬を投与すれば、沙都子さんも自らの体に異常があるのではと考える可能性もある……」

右京「様々な要因があなたの頭を渦巻き……そして、それらを全て解決できる策をあなたは考えた」

右京「それが……『栄養剤の研究協力によるバイト』との名目を作ったことです」

右京「この方法ならば……沙都子さんに気付かれることなく治療薬を投与でき、協力費といった形で生活費の援助も自然に行える」

右京「……そうやって、あなたは陰ながら沙都子さんを助け続けた」

入江「…………」

入江「……まるで、一連の流れを実際に見てきたかのようですね。あなたの推理は」

560: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 01:11:21.12 ID:z+Xu4paAO
詩音「…………」

詩音「……そんなの、嘘です」

梨花「詩ぃ……?」

詩音「悟史くんが……もう二度と目覚めないかもしれない? 治らないかもしれない?」

詩音「……絶対に嘘です。そんなこと、嘘に決まってます」

魅音「詩音、アンタ何を……!」

詩音「こんな……悟史くんが生きていることを黙っているような……沙都子にさえ教えないようなこんな男の話が……!」

詩音「本当なはずないじゃない!」

梨花「…………」

561: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 01:20:16.74 ID:z+Xu4paAO
梨花「詩ぃ……ならば、入江に向けているその銃は、僕に向けてください」

詩音「…………?」

梨花「悟史のことを黙っていた入江が悪だというなら、僕も同罪なのです」

詩音「…………」

詩音「何ですか梨花ちゃま……あんたも知ってたんですか、悟史くんのことを」

梨花「…………」

詩音「沙都子の一番近くにいて! あの子が苦しんでいるのを誰よりも知っていながら黙ってたんですか!」

梨花「…………」

梨花「……そう。私は誰よりも罪が深い、沙都子には辛い思いばかりさせていた」

梨花「そしてあなたにも……助けられたはずのあなたも、何度見捨てたか分からない」

詩音「…………?」

梨花「でも、今は違う……遅過ぎたかもしれないけれど……それでも、私は教えてもらったから……!」

亀山『ただ守ってもらうだけじゃなく--』

梨花「私もあなたを守る! あなたの、大切な仲間として!」

589: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 21:56:55.82 ID:z+Xu4paAO
入江「り、梨花さん……!」

梨花「…………」

詩音「何ですか、その悪党を庇うつもりですか……ああ、アンタも同罪なんでしたね」

詩音「同じ悪党同士! そうやってお互いを庇い合って仲良く死んでいけばいい!」

圭一「やめろ詩音!」

右京「…………!」

興奮状態となっている詩音はいつ、引き金を引いてもおかしくはない。

張り詰めた空気の中

亀山「……えっ?」

一人、何かに気が付いた亀山は

亀山「……右京さん、少しだけここ頼みます!」

右京「!」

右京たちにその場を預け、走り去っていった。

魅音「ちょ、亀山さん!?」

右京「魅音さん! 我々が今、注意を向けなければならないのは詩音さんです!」

魅音「いや、でも……」

右京「何か考えがあってのことでしょう……彼はこのような場から、理由もなく背を向ける人間ではありません」

590: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 22:03:07.79 ID:z+Xu4paAO
梨花「…………」

詩音「……何ですか、もう反論することさえないんですか? だったら……」

梨花「…………」

梨花「詩音……あなたはとても優しく、強くあろうとし、苦しさにも耐え続け……想い人を待ち続けた」

梨花「私が千年分の死を築いてきたのならば……あなたは、千年間の届かぬ想いに苦しみ続けてきた……」

それは、積み重ねてきた事実を知っているか否かの違いだけ。

今までの世界において、梨花が未来を迎えられずに涙を流した回数と同じだけ

詩音も、自らの想いを遂げられずに絶望してきたに違いないのだ。

それがどれほどに辛いことなのか、一人で戦いを続けることがいかに苦しいのか……梨花は誰よりも知っている。

梨花「だから……私は、あなたを救いたい」

詩音「…………」

591: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 22:12:14.91 ID:z+Xu4paAO
圭一「詩音、仮にお前が梨花ちゃんを許せず、どうしても撃たなきゃ気が済まないってんなら……」

圭一「その代わりに、俺を撃て」

レナ「レナも、詩ぃちゃんにだったら撃たれたって構わないよ」

詩音「…………」

魅音「ねえ詩音……私さ、分かったつもりになって分かってなかったんだよ……詩音がどんなに辛かったのか」

魅音「仮に圭ちゃんがいなくなったらって想像してみたよ……凄く辛い、悲しい……認めたくない」

魅音「だから……私も、詩音と同じように必死になって探すと思う」

詩音「…………」

魅音「けどね……いなくなったのが詩音だったとしても、私は……同じくらい必死になって探すと思うんだ」

魅音「だって、詩音は私の妹だから……私が『魅音』で、あんたが『詩音』だから……!」

592: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 22:29:38.92 ID:z+Xu4paAO
右京「人間は神ではありません……故に、全てのことを一人きりで成し遂げることも、抱え込むことも出来はしません」

右京「だからこそ、他人との繋がりを求める……自らが他者の助けとなり、そして他者から力を借りもする」

右京「我々人間は……ずっと、そのようにして生きてきたのでしょうねぇ。頼り、頼られ、力を合わせながら……」

詩音「…………」

右京「僕も皆さんと同じく……あなたにとって、そのような存在でありたいと心から思っていますよ」

詩音「…………」

593: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 22:34:05.59 ID:z+Xu4paAO
詩音「…………!」

声が、聞こえた気がする。

それは部活メンバーのものでも、ましてや杉下右京の発したものでもない。

とても神々しく、柔らかく……語りかけるかのような声。

他の誰にも聞こえない、詩音だけにしか聞こえない……少女の声。

『あなたは、本当に悟史のことを想っているのですね……』

『その想いは純粋で、真っ直ぐな……とても、美しい感情』

『でも……それと同じくらいに、あなたのことを大切に想う人間がいることを……』

『仲間がいることを、どうか……忘れないでください』

595: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 22:45:36.35 ID:z+Xu4paAO
詩音「……分かってるんですよ、そんなこと」

右京「…………」

詩音「途中で気付きました……監督の話を、みんなの話を、右京さんの話を聞いて……」

詩音「監督は悪くない……それどころか、悟史くんや沙都子のことを助けてくれてた人だって」

入江「詩音さん……」

詩音「でも、納得出来るはずがないじゃないですか……監督の話が全部本当だなんて……」

詩音「悟史くんに会えたのに……ずっとずっと探し続けて、やっと会えたのに!」

詩音「なのに、二度と目覚めないかもしれないだなんて……そんなの、受け止められるわけがないじゃないですか!」

梨花「…………」

残酷な事実を認められず、事実を嘘に変えようとしていた少女による悲痛な叫びだった。

その時

亀山「受け止めてるヤツがここにいるぞ!」

詩音「!」

沙都子「……銃を下ろしてくださいませ、詩音さん」

598: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 23:04:16.35 ID:z+Xu4paAO
梨花「さ、沙都子!」

詩音「ど、どうして……沙都子が?」

圭一「意識が戻ったのか!」

沙都子「ご心配をおかけしましたわね……私は、もう大丈夫ですわ」

そう言って沙都子は一呼吸置くと、言葉を選びながら

沙都子「……少し、夢を見ていました」

梨花「夢……?」

沙都子「それは、まるで走馬灯のような……過去から今までを辿る旅のようでございました」

沙都子「……それで私は、自らが向き合わなければならない現実を知りましたの」

沙都子「三年前……私が崖から両親を……落ちる瞬間……」

沙都子「両親の手が私の肩や腹部に触れて……恐ろしい笑みを浮かべながら……私も谷底へ引き込もうとして……」

梨花「沙都子! あれは……あれは不幸な事故よ! 思い出すことなんて……」

沙都子「いいんですの梨花……これは、私が背負わなければならない事実ですから……」

右京「…………」

601: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 23:15:42.13 ID:z+Xu4paAO
沙都子「そして、にーにーが突然いなくなったことも……そのにーにーが見つかって、その壁の向こうにいることも」

入江「沙都子ちゃん……まさか、全て聞いて……?」

沙都子「ええ……にーにーが二度と目を覚まさないかもしれないことも……私は、全部知ってるんですのよ?」

梨花「…………」

詩音「……それだけ知ったのに、受け入れられないようなことがたくさんあるのに!」

詩音「なのに……沙都子は受け止められるって言うの……?」

沙都子「…………」

沙都子「……一緒に、待っていてくださる人がいますもの」

詩音「え……?」

沙都子「詩音さん……にーにーが目を覚ますまで、どうか、私と一緒に……」

沙都子「『ねーねー』として……私と繋っていてください……!」

604: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 23:30:51.06 ID:z+Xu4paAO
詩音「沙都子……私のことを、こんな私のことを……『ねーねー』って呼んでくれるの?」

沙都子「詩音さんは……私にとっての、大切な姉ですわ」

詩音「っ!」

沙都子の言葉に、詩音は泣き続けるしかなかった。

駆け寄って来た沙都子を抱きとめ、そしてまたひたすらに二人で泣き続けた。

兄を、想い人を、共に待とうと……共に迎えてやろうと心に決めて。

605: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 23:40:54.94 ID:z+Xu4paAO
右京「…………」

右京「……壁の向こうにいる彼には、まったく意識がないのですか?」

入江「ええ……今は完全に眠っています、声も聞こえていないはずです」

右京「……では、偶然なのでしょうかねぇ」

入江「…………?」

亀山「分かりませんか? あれ」

右京「窓から見える彼の顔を……頬を濡らしている雫が、僕には見えるのですよ」

入江「!」

その瞬間、入江も確かに見た。意識のない北条悟史の目から流れる涙を。

入江「……奇跡です、意識があるはずがないのに……ましてやL5であるはずの悟史くんが涙を流すなんて」

右京「そうでしょうか?」

入江「…………?」

右京「彼女たちの想いを考えれば、あの涙は決して『奇跡』などではなく……『必然』であったのかもしれません」

入江「…………」

入江「……ええ、そうかもしれませんね」

607: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 23:50:53.05 ID:z+Xu4paAO
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右京「詩音さん、あなたのした行為は立派な犯罪です」

右京「銃刀法違反、傷害、脅迫……その辺りは、ご自分でも分かっていますね?」

詩音「分かってますよ、しっかり自覚してますから」

圭一「な、なぁ右京さん……」

右京「どうか、しましたか?」

圭一「詩音がやったことは確かにやりすぎだったけど……その、今回は見逃してもらうわけには……」

右京「気持ちは分かります……しかし残念ながら、僕は融通の効かない性格なのですよ」

圭一「…………」

詩音「優しいんですね圭ちゃん、でもいいんです。やったことの責任は、ちゃんと取らないといけませんから」

詩音「ですよね、右京さん」

右京「ええ……そうですねぇ」

609: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/18(日) 23:59:20.41 ID:z+Xu4paAO
入江「ちょっと待ってください……『傷害』? 『脅迫』? 一体、何の話ですか?」

右京「はい?」

入江「私は詩音さんに脅迫などされていませんし、傷害もされていませんよ?」

右京「では、その足のお怪我は?」

入江「転びました」

右京「転びましたか、そのような、まるで拳銃で撃たれたかのような傷の付く転び方で?」

入江「ええ、転びました」

亀山「…………」

入江の解答からすべてを察した表情を浮かべながら亀山は

亀山「じゃあ先生、診療所の壁についていた弾痕はどうするんです?」

入江「あれはああいう模様です、弾痕なんかじゃありませんよ」

亀山「へーえ、面白い模様っすね」

入江「誉め言葉と受け取っておきますよ」

614: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/19(月) 00:11:38.25 ID:Md9Ig9KAO
亀山「で、どうします?」

右京「どうしようにも……当事者が『傷害でない』『脅迫でない』と申告しているわけですからねぇ」

亀山「じゃあ仕方ないっすね、本人が違うって言ってるわけですから」

右京「ですがまだ『銃刀法違反』が残っています……どちらにせよ、署まで来ていただかなければなりませんねぇ」

入江「それについてですが、詩音さんは先ほど……『責任能力に欠けるほどの錯乱状態』だった可能性があります」

入江「銃を銃として認識していないレベルの、非常に強烈な錯乱です」

右京「おやおや、錯乱状態ですか?」

入江「ええ、医師である私が言うんですから間違いありません……何だったら証人になっても構いませんよ」

右京「なるほど……では入江医師、あなたもご同行を願えますか?」

右京「『事情聴取』で、色々と話していただけると有り難いのですが」

入江「勿論……いくらでも協力しますよ」

617: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/19(月) 00:20:21.88 ID:Md9Ig9KAO
詩音「か、監督……いいんですか!? 私、とんでもないことを……」

入江「いやぁびっくりしました、詩音さんが格好いいモデルガンが手に入ったなんて見せてきたものがまさか本物だったとは」

入江「それ以外は何もない普通の……いえ、とても良い一日でした」

詩音「…………」

亀山「そういうことだそうだ……お前らも心配すんな、詩音はまだ未成年なんだしどうとでもなるから、な?」

レナ「あはは……魅ぃちゃん、どうなの?」

魅音「どうかなー、私も詩音も何回お世話になったか分からないし……火炎瓶の時とか大変だったなぁ」

亀山「はっ!? か、火炎瓶!?」

圭一「ま、まあ……詩音! 大したことなさそうで良かったな!」

詩音「……ですね」

649: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 18:05:52.57 ID:0dfOHBjAO
亀山「じゃ、行きますか」

右京「その前に……僕たちは圭一くんたちに、お礼を言わなければいけません」

レナ「えっ……?」

右京「君たちのおかげで、誰も重傷を負うことなく、詩音さんを止めることが出来ました」

亀山「あれだけ興奮状態だった詩音を説得するのは、俺たちだけじゃ無理だったろうしな」

圭一「けど……そもそもの原因は俺たちが無理を言って捜査に協力しようとしたのが……!」

亀山「だから、お前らのせいじゃないっての! 上手いことまとまったんだから、これ以上気にすんな!」

右京「これからも……我々に協力してくれますか?」

圭一「…………!」

レナ「はい……約束します」

魅音「部長として黙ってるわけにもいかないからね!」

亀山「沙都子、お前も頼むな!」

沙都子「起きたばかりで事情はよく飲み込めておりませんが……私でお二人の力になれるのなら」

650: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 18:11:11.75 ID:0dfOHBjAO
右京「しかし……少しだけ引っ掛かります」

亀山「何がですか?」

右京「君のことですよ」

亀山「えっ! お、俺っすか!?」

右京「詩音さんが入江医師に銃を向けていた時、君は何かに気が付いてその場を離れましたね?」

右京「そしてしばらく経った後、沙都子さんと共に再び戻ってきた……」

右京「しかし、なぜ君は急に沙都子さんを呼びに向かったのですか?」

亀山「あっ……」

右京「沙都子さんは僕たちが診療所に到着した時点では、まだ目を覚ましていませんでした。当然、いつ意識が戻るかも分からない」

右京「にも関わらず……あの時の君の行動は全く迷いのないものでした、まるで彼女が目覚めることを知っていたかのように」

右京「そして結果として……君の連れてきた沙都子さんが詩音さんを説得するための、最後のキーパーソンとなった」

右京「この一連の流れが偶然とするには、少々出来過ぎていると思うのですがねぇ」

651: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 18:15:53.18 ID:0dfOHBjAO
亀山「あの、実を言うと……『声』が聞こえまして」

右京「はい?」

亀山「あの……なんていうか、頭に響いてくるような声で……」

『沙都子をここに……詩音を止めるためには、彼女の力が必要です……!』

『大丈夫……沙都子は、既に目覚めています……だから、早く!』

亀山「……って」

右京「…………」

右京「声……ですか」

亀山「……やっぱり、信じてくれないっすよね?」

654: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 18:33:19.99 ID:0dfOHBjAO
梨花「亀山……それは、女の子の声ではありませんでしたか?」

亀山「えっ?」

梨花「……僕たちと同じくらいの年齢の、女の子の声ではありませんでしたか?」

亀山「そ、そうそう! 梨花ちゃんも聞こえたのか!?」

梨花「…………」

梨花「亀山、それはきっと『オヤシロ様』の声なのですよ」

亀山「へっ? お、オヤシロ……?」

梨花「この雛見沢に伝わる神様なのです、古くから僕たちを守っていて……みんなから慕われている神様なのですよ」

亀山「じゃ、じゃあ……そのオヤシロ様が、俺にお告げを!?」

梨花「…………」

梨花(そう、いつも『期待しすぎるな』って言ってるあんたも……協力してくれるのね)

羽入『……僕は、この雛見沢の守り神ですから』

657: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 18:46:27.06 ID:0dfOHBjAO
亀山「けど……オヤシロ様の神のお告げなんてさすがになぁ」

梨花「みぃ、古手の巫女である僕が『オヤシロ様はいる』と言っているのですよ?」

亀山「またまたぁ、そんなこと言っちゃって……いっつもそうやって俺のことをからかうんだから、ねぇ右京さん?」

右京「…………」

亀山「……右京さん? どうしたんです?」

右京「……亀山くん、確かに君には聞こえたのですね? その『声』が」

亀山「まあ……聞こえたのは聞こえたんですけど……」

右京「…………」

右京「……やはり、僕には霊感がないのですかねぇ」

亀山「……何か、残念がってません?」

右京「気のせいです」

662: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 18:56:37.88 ID:0dfOHBjAO
右京「それと……梨花さん、是非あなたも興宮署まで来ていただけませんか?」

梨花「入江の話の立ち会い……としてですか?」

右京「それもありますが……もう一つ、あなたに会わせたい人が」

梨花「僕に……ですか?」

亀山「俺たちと同じ、東京から来た刑事だよ。昔、梨花に予言をしてもらって奥さんを救われたって」

梨花「!」

右京「彼は……今度はあなたを救いたい、そう言っていましたよ」

梨花「そ、その刑事の名前は……?」

右京「…………」

664: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 19:12:52.44 ID:0dfOHBjAO
---
興宮署、取り調べ室

大石「んっふっふ……これはこれは入江先生、わざわざ署まで来ていただいて」

入江「…………」

大石「それで杉下さん……件の診療所の先生を引っ張ってきて、何をなさるおつもりなんです?」

赤坂「……以前、僕が杉下さんに考えをお尋ねしたとき『人数が足りない』と言われましたね」

赤坂「なるほど……彼がその、足りない人でしたか」

右京「ええ……そして、もう一人」

赤坂「もう一人……ですか?」

右京「どうぞ、入ってきてください」

右京がそう呼びかけると、亀山が一人の少女と共に取り調べ室へと入ってきた。

梨花「…………」

赤坂「!」

梨花は赤坂の顔をじっと見つめていた、目の前にいる人物が、過去に自分が助けを求めた刑事に間違いないことを確かめるように。

赤坂も同様に、突然現れた予言者の少女を、自分の妻を救ってくれた少女から目を逸らさずに見つめていた。

数秒の沈黙の後

梨花「赤坂っ……!」

赤坂「久しぶりだね、梨花ちゃん……」

665: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 19:28:03.38 ID:0dfOHBjAO
梨花「遅いのです……最後の最後に現れて、こんな……!」

赤坂「ひどく遅刻をしてしまったようだね……でも、ここからは僕も君の力になる」

赤坂「僕に、あの時の恩返しをさせてほしい……!」

梨花「赤坂……赤坂……!」

大石「なるほど、もう一人とは古手家当主……古手梨花さんでしたか」

右京「……これで全員が揃いました、入江医師……お話をお願いできますか?」

入江「……どこから話しましょう、いえ……大石さんやその赤坂刑事は、一体どこまで知っているんですか?」

大石「んっふっふ……そうですなぁ、あなた方が診療所にかこつけて、何やらきな臭い研究をしているらしい、ということまでは」

右京「そして、背景に存在する『東京』と呼ばれる組織のことも……」

入江「と、『東京』のことまで知っているんですか……!」

亀山「そもそも赤坂さんが雛見沢に来た理由も、入江診療所に確かな疑いを持ったからなんですよ」

666: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 19:36:40.53 ID:0dfOHBjAO
梨花「入江……どうか、全てを話してほしいのです……あなたの知っていることを」

入江「…………」

梨花の言葉に、入江は少しだけ考えた。

雛見沢症候群のこと、入江機関のこと、そして『東京』の存在……ここにいる人間はそれら全てを知っている。

ならば、もはや全てが明らかになるのは時間の問題だろう……特に、この刑事たちの手に掛かれば。

入江「……分かりました、全てをお話します」

そして、入江は語り出した。

風土病でもある雛見沢症候群の詳細、今まで起こった鬼隠しの真実……それらで入江が知っていることの、全てを。

園崎が犯人と信じて疑わなかった大石は入江の言葉にひどく驚いていたが、対照的に冷静な赤坂に抑えられつつ何とか話を聞いていた。

677: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 20:29:10.29 ID:0dfOHBjAO
赤坂「なるほど、信じがたい話です……しかし、それならば私が調べていたこととも辻褄が合います」

赤坂「大石さん、入江医師の話は……十分にあり得ることだと思いますよ」

大石「雛見沢症候群……私ゃ、何か物語の筋書きみたいに思えますが……いや、しかし……!」

右京「そして……その雛見沢症候群の『女王感染者』が古手梨花さんなのですね?」

亀山「何か、梨花だけはその雛見沢症候群を発症したりはしないって聞いたんですけど」

入江「ニュアンスが少し異なっているようですが……確かに、梨花さんの雛見沢症候群は、他のそれとは一線を画すものです」

右京「あなたたち入江機関が梨花さんに『山狗』という部隊まで付けて護衛をしているのは、やはり梨花さんが女王感染者だから」

入江「そうです……私や鷹野さんの最重要任務の一つが、梨花さんを守ることですから」

679: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 20:55:47.52 ID:0dfOHBjAO
右京「では、あなたたち入江機関が梨花さんを傷つける可能性は……?」

入江「な、何を言っているんですか!?」

右京「仮定の話です……そのようなことは起こりえませんか?」

入江「絶対にあり得ません、梨花さんを保護する立場である我々が、その梨花さんを傷付けるだなんて……!」

赤坂「……入江医師、今度は私たちの話を聞いていただけますか?」

入江「……何でしょう?」

赤坂「我々は……とある筋から、梨花さんが危機に陥っているとの情報を掴みました」

赤坂「このままでは……梨花さんは、綿流しの夜を終えた後に……殺されます」

入江「そんな……そんな馬鹿な……梨花さんが狙われているだなんて、私はまったく……!」

680: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 21:12:41.47 ID:0dfOHBjAO
右京「…………」

梨花「……右京、どうしたのですか?」

右京「少し、気になることが……入江医師」

入江「?」

右京「梨花さんが特殊な感染者であり、雛見沢症候群を研究するあなたたちにとって、非常に重要な存在であることは分かりました」

右京「ですが……本当にそれだけなのでしょうか」

入江「……どういうことですか?」

右京「聞けば山狗とは、相当に訓練を重ねている部隊であると聞きました」

亀山「ただの護衛っていうには、ずいぶんと派手な連中ですね」

右京「ええ……それほどの部隊が、万が一にも梨花さんが重傷を負わないように配慮をしている……」

右京「それほどに梨花さんが大切だと言われればそれまでですが……僕には、何か別の理由もあるのではと思いました」

大石「別の理由……ですか」

右京「例えば……『女王感染者』である梨花さんが命を落とした場合、取り返しの付かない不都合が発生してしまう」

入江「…………」

681: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 21:30:54.78 ID:0dfOHBjAO
亀山「なんでまた、そんなことが言えるんですか?」

右京「ずっと気になっていました、『女王感染者』というワードそのものが」

大石「ワードそのもの……?」

右京「確かに梨花さんは特別な感染者ではあります、しかし……なぜつけられている冠が『女王』なのか」

右京「単に特別な感染者であることを示すのならば、もっと別な呼称がいくらでもあったはずです」

右京「ならば、その『女王』というワードには……必ず何かの意味がある……」

赤坂「『女王感染者』……ですか」

右京「『女王感染者』、言い換えれば感染者の女王……感染者の上位に立つ存在」

右京「感染者における上位の存在の身に何かが起こったとすれば……果たして、どうなるのでしょうねぇ」

入江「…………!」

682: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 21:43:59.91 ID:0dfOHBjAO
右京「もっとも……専門の研究者ではない僕の推察など、何の価値もありません」

右京「入江医師、是非ともあなたからお聞きしたい……梨花さんが命を落としたという、仮定の話を」

入江「…………」

梨花「入江……入江が悪い人でないことは、私が一番よく知っている……」

梨花「沙都子を影からずっと守り続けたあなたの優しさに私は感謝しているし……そして、これからも忘れない」

梨花「右京も、それをよく分かっている……真っ直ぐに研究を進めていたあなただからこそ、右京は問い掛けているのよ」

梨花「だから……入江……!」

入江「…………」

入江「察しの通りです……仮に梨花ちゃんが死んでしまえば、それは……とても大変なことが起こります」

右京「…………」

689: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 23:37:44.84 ID:0dfOHBjAO
入江「女王感染者の死……それは、この村全体の死を意味します」

入江の口から語られた事実は衝撃的な内容だった。

女王感染者である古手梨花が死亡した場合、48時間以内に感染者全員が末期症状を起こすとされる。

つまり、村人全員が極度の精神不安定となり、殺し合う事態になることを意味する……

そして、緊急マニュアル34号、末期症状になった村人全員を殺害する終末作戦の存在……

入江「……そんな恐ろしい事態に決してならないよう、我々は研究を重ね、そして梨花さんを保護しているんです」

右京「…………」

赤坂「それが、あなたの言っていた『我々が古手梨花を殺すはずがない』との理由ですね?」

入江「そうです……私が話したことは全て真実です、誓って嘘は言っていません!」

亀山「なら、入江機関が梨花を狙う動機がないことになりますよね?」

右京「…………」

690: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 23:41:11.07 ID:0dfOHBjAO
その時、右京の胸元から電話のコール音が鳴り響き

右京「失礼……杉下です」

角田『ようやく見つけたよ、かなり古い記事だったけどな……何でも----』

右京「…………」

右京「……そうでしたか、どうもありがとう」

亀山「誰からだったんです?」

右京「角田課長からです……たった今、僕がしていた調査依頼の報告が届きました」

大石「何なんです、その報告というのは」

右京「入江さん……あなたたちがこの入江機関で行っている研究は、近々打ち切りになることが決まっているようですね?」

入江「……その通りです、私も鷹野さんも研究の打ち切りには断固として反対をしていたんですが」

赤坂「一研究員に過ぎないあなたたちの意見で大勢を変えることは不可能だった……」

入江「……はい」

右京「しかし……これで、入江機関が梨花さんを殺害する動機の部分が明らかとなりました」

亀山「えっ!?」

698: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 23:50:41.55 ID:0dfOHBjAO
右京「以前、赤坂警視から『東京』の話を聞いたとき」

赤坂『閣僚などにも構成員は多くいますが……組織内で派閥争いが起きたため、今は半ば分裂しかけていると』

右京「そう言っていましたね?」

赤坂「ええ、確かに」

亀山「それがどうかしたんですか……?」

大石「……権力闘争、そういうことですか」

右京は大石の呟きに小さく頷いて応えつつ

右京「仰る通り……入江機関の施設を見れば分かるように、雛見沢症候群の研究には決して少なくない研究費が掛けられているはずです」

右京「三年後の研究打ち切りも、おそらくはそれが原因でしょう」

亀山「つまり、自分が情熱を注いでいた研究が打ち切りになることは鷹野三四にとって許せることじゃなかった……」

梨花「まさか……それで鷹野は……!」

赤坂「梨花ちゃんの死に追いやり、入江所長の言っていた終末作戦を実施することで……自らの研究の正当性を確かなものにする」

入江「…………」

699: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/20(火) 23:53:46.92 ID:0dfOHBjAO
入江「私には信じられません……鷹野さんがそんな……第一、あなたたちが言っていることは全て空想じゃありませんか!」

右京「しかし、心当たりがないわけではない……もしかしたら、万が一の可能性は……あなたも、そうお考えなのではありませんか?」

入江「…………」

右京「……入江医師、最後に一つだけ」

入江「何でしょう?」

右京「雛見沢症候群……その末期症状を発症した場合、自らの身体を傷つける自傷行為は……確認されていますか?」

入江「……L5を発症した場合、狂気とも言える妄想に取り憑かれることが一番の特徴ですが」

入江「それと同時に……腋窩や頸部のリンパ管に非常に強い掻痒感を覚えます」

入江「それから逃れるために体内の血管が破れるまで自分の体を掻き毟り、そのまま命を落とすことも……」

亀山「う、右京さん……それって……」

右京「…………」

700: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 00:03:36.44 ID:25qM8wfAO
右京「入江さん……僕たちが今からする話は決して冗談ではなく、ましてやあなたを騙そうとするものでもありません」

入江「…………?」

右京「今年の綿流しの夜……富竹ジロウさんと鷹野三四さんが亡くなります」

入江「っ!?」

梨花「富竹は自らの喉をかきむしって……鷹野はドラム缶の中で焼き殺されて……」

入江「なっ……」

右京「そしてその後、古手梨花さんが殺される……我々はこれら三つの事件に、何か繋がりがあると考えています」

入江「あ、頭が混乱してきましたが……待ってください、仮にそれらの事件が起こったとしても、私は決して……」

赤坂「ご心配なく……あなたが犯人だとは思っていませんよ」

右京「疑わしき人物は……一人しかいません」

701: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 00:09:42.28 ID:25qM8wfAO
赤坂「それと……大石さん、ここからは……かなりヤバいヤマになってきます」

赤坂「この先へ踏み込むつもりならば……相当の覚悟が必要かと」

大石「……相当の覚悟、つまり……金も地位も、全てを捨てる覚悟があるかと、そういうことですか」

赤坂「ええ……大石さんは今年で定年、退職金だって入ってくる……とても重要な時期です」

赤坂「そんな時期に、これほどのヤマに手を出して……仮に手痛いしくじりをしてしまったら」

大石「…………」

赤坂「大石さん、お金は大切です……仮に今ここで事件から手を引いても、あなたを責める人は誰もいません」

大石「…………」

大石「…………」

705: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 00:31:30.40 ID:25qM8wfAO
大石「……くだらないことにお金を掛けてきました、そして私ゃ……借金を未来へ後回しにする、どうしようもない性格でしてね」

大石「博打や酒や煙草だの……そんなものに使う金が欲しくてね、もっと早くに金を返していれば利子の分、得を出来たのに」

赤坂「…………」

大石「デカいヤマ……上等じゃないですか、私ゃ今までずっと事件の真相を追い求めていたんですよ」

大石「それに……私は墓前で誓ったんです、おやっさんを殺した犯人を必ず挙げてやるって! 私の刑事魂にかけて!」

大石「その私が……その私が……懲戒免職が怖いって? 退職金がフイになるかもしれないのが怖いって? ……あぁ怖いですよ!」

大石「何千万って金が入ることをアテにした人生設計が全部吹っ飛ぶんですよ!?」

大石「北海道に住んで、社交ダンスを楽しんで、そしてゆっくりと遊んで……楽しい余生じゃありませんか」

大石「そんな自分の思い描いた余生が吹っ飛ぶことの、何が怖いっていうんですかねぇ!?」

右京「…………」

706: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 00:43:59.95 ID:25qM8wfAO
大石「この警察手帳を床へ叩き付けてやりゃいい! 退職金なんざいらねえって声高々に言えばいい!」

大石「たったそれだけのことが、何でできないんだ!!」

亀山「もういいですよ、大石さん!」

大石「あれだけ追い求めた事件の真相に辿り着けるかもしれない……今年起きるかもしれない惨劇も防げるかもしれない!」

大石「なのに私ゃ、最後の最後で怖じ気付いてる……私の刑事魂ってのは、そんなモンだったんですかね!?」

亀山「大石さん! アンタは何も悪くない、アンタは立派な刑事だ! そんなに自分を貶めるようなことを言わないでくれよ!」

右京「亀山くん」

亀山「だってそうでしょ! 定年も近いのに、今までずっと大石さんは事件の真相を暴こうと必死だった! 必死だったんですよ!」

亀山「その大石さんが葛藤するくらいに、退職金は重いってことじゃないですか!」

赤坂「…………」

亀山「退職金ってのは今まで働いてきた分の年月が蓄積された、自分自身の努力の結晶ですよ! 簡単に捨てられるものじゃない!」

亀山「必死に刑事として生きてきたからこそ! アンタは自分の努力の結晶である退職金が惜しいんだよ、大石さん!」

707: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 01:06:19.22 ID:25qM8wfAO
右京「亀山くん……それ以上は」

亀山「けど右京さん!」

右京「ここからは大石刑事自身の判断に任せるしかありません……」

右京「僕たちが気安く口出し出来るほど……彼の刑事人生は、軽いものではないはずです」

亀山「…………!」

右京「……大石刑事」

大石「…………?」

右京「先にも言ったように、僕たちはこれ以上の口出しをするつもりはありません……ただ」

右京「自らの積み重ねた刑事人生にそこまでの誇りを持っているあなたを……僕は心から尊敬します」

大石「…………」

大石「……少し、時間をくれませんか。『大石蔵人』という人間がどう変わるのか……」

大石「その選択をする時間を……踏み出す勇気を絞り出す時間を……私にくれませんか」

梨花「もちろんです……大石、あなたがいかなる選択をしたとしても……僕はあなたに敬意を表します」

梨花「どうか……迷いながらでもあなた自身の手で、決断を下してください」

708: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 01:14:47.40 ID:25qM8wfAO
その時、大石は確かに聞いた。

『あなたを、許しましょう』

大石「!」

それは、都合のいい妄想……あるいは空耳だったのかもしれない。

『自らの人生に誇りを持ち、それが故に迷い続ける……与えられた選択肢から目を背けずに迷えるのは、強さの証……』

それでも、自らに語り掛けるその声に

『そんな強い大石が決断に時間を必要とすることを、迷うことを……私は許しましょう』

自らの迷いを受け止めるその声に

大石「…………」

大石は

大石「……ありがとう」

心から、救われたように感じていた。

722: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 14:04:02.72 ID:25qM8wfAO
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入江の取り調べから解散し、数刻後

亀山「もうここまで来たらほぼ間違いないっすね、黒幕は鷹野三四と山狗部隊!」

右京「ええ……加えて、背後に控えている『東京』、その中で鷹野に手を貸している派閥も相手にしなければなりません」

右京「『東京』の組織に関しては公安である赤坂刑事がある程度カバーしてくれるでしょうが……」

亀山「雛見沢内で起きるであろう事件については、俺たちが……ってことですね!」

右京「そうなります……君も、相応の覚悟はしておくべきですよ?」

亀山「俺は大丈夫ですよ! 俺は大丈夫っすけど……やっぱり入江先生、さっきの話、完全には信じられないみたいでしたね」

右京「無理もありません、共に研究を行っていた鷹野三四が雛見沢そのものを消し去ろうとしているなど……」

右京「彼にとって、簡単に信じられることではないでしょう」

亀山「何か、決定的な証拠でもあれば……!」

724: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 14:19:49.44 ID:25qM8wfAO
右京「証拠がないのならば……探すしかありません」

亀山「そうですけど、一体どうやって探すんですか? 第一、何を証拠として提示すれば……」

右京「富竹ジロウを殺害するために用いるであろう凶器です」

亀山「富竹ジロウを……確か入江先生の話じゃ、雛見沢症候群がL5になると痒みから血管が破れるまでかきむしる……」

亀山「そして、富竹ジロウは自らの手で喉を切り裂いて死ぬ……!」

右京「つまり、富竹ジロウさんが自ら命を絶つとすれば、まず間違いなく雛見沢症候群の末期症状の発症が原因です」

右京「しかし、何の前触れもなくいきなり末期症状を起こすことなど……通常は考えられません、ならば」

亀山「富竹ジロウの末期症状は、何らかの薬物によって意図的に作られたもの……その薬物を押収出来れば!」

亀山「けど……どうやって……そんな危ない薬、鷹野が厳重に保管してるに決まってますよ!」

右京「…………」

725: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 14:28:23.47 ID:25qM8wfAO
右京「……見つかるかもしれませんよ?」

亀山「う、右京さん……心当たりがあるんですか!?」

右京「君は、覚えていませんか? 入江医師が口にしていた、鷹野三四の仕事内容を」

亀山「鷹野三四の仕事……」


入江『例えば、この診療所にある薬品の管理をしてくれているのも鷹野さんなんですよ?』


亀山「あっ……!」

右京「……入江医師に、もう少しだけ協力を仰ぐ必要があります」

亀山「すぐに呼んできます!」

右京「ああ、それと……もう一人、話を聞いておかなければならない人が」

726: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 14:33:59.16 ID:25qM8wfAO
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某所

富竹「急に呼び出されて驚きましたよ、杉下さん……それに、入江先生までお連れになって」

右京「時間を取らせてしまいすみません……どうしても、あなたにお聞きたいことが」

富竹「それは構いませんが……一体どんな話を……?」

右京「話を伺う前に一つ……僕たちはあなたに謝らなければならないことがあります」

富竹「?」

右京「以前、我々は観光客だと言いましたが……その際、職業を明らかにしていませんでした」

亀山「俺たち、こういう者なんですよ」

二人が胸元から取り出した黒い手帳を見て、富竹は驚いた。

手帳の表紙、そこには金色に輝く文字で

富竹「警視庁……?」

右京「改めて……警視庁特命係、杉下です」

亀山「同じく、亀山です」

富竹「…………」

727: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 14:40:24.50 ID:25qM8wfAO
富竹は突如として現れた特命係の二人に対して警戒心を抱いているようだった。

なぜ警視庁の人間が雛見沢に、なぜ自分にコンタクトを取ってきたか、それも入江所長を同伴して……

入江「富竹さん……この方たちは、雛見沢症候群の存在を既にご存知です」

富竹「!」

入江「加えて、入江機関の実態……僕や鷹野さんのこと、そして『東京』のことまで……」

富竹「まさか……!」

右京「誤解をしないでいただきたいのは……僕たちは、あなたを取り調べるために来たわけではありません」

亀山「さっきも言ったように、話を聞きにきただけです……そもそも俺たちの仕事は、単なる『祭りの警護』っすからね」

富竹「…………」

728: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 15:49:37.74 ID:25qM8wfAO
富竹「そこまで知っているのなら……当然、僕のこともご存知なんですね?」

右京「富竹ジロウさん……入江、鷹野の両名と同様に『東京』に所属している」

右京「ただし……その役割は研究ではなく、『入江機関』の監視……そうですね?」

富竹「…………」

入江「富竹さん……先ほども言いましたが、この方たちは全て分かっています」

入江「そして、決して悪い人ではありません……僕が保証します」

富竹「…………」

富竹「……僕に、どんなお話ですか?」

729: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 15:56:49.18 ID:25qM8wfAO
右京「単刀直入にお伺いします……最近、入江機関でおかしな動きはありませんでしたか?」

富竹「僕の知りうる範囲では……何も」

右京「何も、ありませんでしたか?」

富竹「……なぜ、そんなことを?」

右京「とある確かな筋から掴んだ情報なのですが……入江機関に対し、不自然な資金の流れが確認されています」

富竹「っ!?」

亀山「『東京』……何だか、最近は内部紛争が激しいって聞きましたよ?」

右京「今回の入江機関に対する資金流入も……背後にいる『東京』の思惑が絡んでいるとみて間違いないでしょう」

富竹「…………!」

右京「……あなたの思い描く範囲での、最悪の事態が今まさに起こっている可能性があります」

731: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 17:03:54.83 ID:25qM8wfAO
富竹「そんな……そんな馬鹿な……!」

右京「ええ、実に馬鹿げた話です……ですから、是非あなたにそれを調べていただきたいのですよ」

亀山「鷹野さんが妙なことで疑われてるなんて、いい気分がしないじゃないですか」

右京「疑うわけではありませんが……あなたは鷹野三四と親しい関係にあります」

右京「それゆえに……何か、些細な見落としがあったのかもしれない、どうしても我々はそう考えてしまうのですよ」

富竹「…………」

入江「富竹さん……僕も最初は信じられませんでした……正直、今でも信じきれていません」

入江「ですが……最近の鷹野さんを見ていると、どうにも……!」

富竹「…………」

富竹「……分かりました、僕は鷹野さんを信じたい。信じたいからこそ……彼女の潔白を証明します」

右京「ご理解をしていただき、感謝します……そして入江医師」

入江「何でしょう?」

右京「あなたにも……いえ、富竹さんも含むあなたたちに……僕から、頼みたいことがあります」

732: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 17:16:46.98 ID:25qM8wfAO
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富竹「……その策を、僕たちに実行しろと」

右京「最悪の有事に備えてです……この策も、決して万全ではありません。言わば非常に危険な賭けです」

右京「あなた方が拒否するならば……何か別の策を考えます」

富竹「…………」

富竹「……分かりました」

入江「き、危険すぎますよ! それで万が一のことが起きてしまえば、私は……!」

富竹「万が一が起こらなければいいんです……鷹野さんが、僕たちの想像するような存在でなければ……」

亀山「富竹さん……」

富竹「杉下さん、進言には従って鷹野さんの調査をしてみます……しかし、それでも僕は、彼女を信じていますよ」

右京「…………」

733: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 17:32:37.85 ID:25qM8wfAO
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学校・放課後

圭一「そろそろだよな……綿流しの日」

魅音「梨花ちゃん……右京さんたちは何だって?」

梨花「調査を進めているようです……ほぼ、犯人は絞り込んでいると」

レナ「入江機関に関わる人で……監督は犯人じゃない……それってつまり」

沙都子「私は……まだ信じられませんわ」

詩音「沙都子……」

圭一「……守り抜くんだ、俺たちで。誰かに頼るだけじゃなく」

734: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 17:53:53.11 ID:25qM8wfAO
その時、部活メンバーの背後から

右京「みなさん、こちらにいましたか」

亀山「よっ!」

魅音「……噂をすれば何とやら、だね」

レナ「大石さんまで……!」

大石「いやー、その……なっはっは……何かすいませんねぇ」

圭一「な、何かあったんですか!?」

右京「今のところは、何も」

魅音「そっか……とりあえずは安心したよ」

右京「もっとも……これから何かが起きるかもしれませんが」

レナ「えっ!?」

沙都子「そ、それはどういうことでございますの!? 梨花を狙う敵とやらが、綿流しの前に強襲を……」

亀山「いやいやいや、そういうことじゃなくってな」

魅音「じゃあ一体なんなのさ! これから起こる何かって!」

735: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 18:12:32.98 ID:25qM8wfAO
右京「事件に関することではありますが……皆さんが心配するようなことではありませんよ」

亀山「今、この雛見沢の走行ルートの確認をしてるんだけどな……」

魅音「……何も起こりようがないじゃん、大石さんの運転が荒くて事故でも起こすかもしれないって?」

大石「なっはっは、コイツは痛いところを突かれました……いやね、大体雛見沢は回ったんですけどね」

大石「どうしてもまだ、行ってないところがありまして……警察車両じゃちょーと行きにくいんですよ」

魅音「へ? どこよ、それ」

詩音「…………」

詩音「……ああ、あの鬼ばあさんがいる所ですか」

魅音「…………」

魅音「あっ……はいはい、うん、なるほど……うん、よく分かった」

大石「そうなんですよ……加えて、杉下さんが非常に細かい裏道までくまなくチェックするものですから」

圭一「魅音の家を周りをパトカーでウロウロするのは……確かに、何か起きるかもな」

梨花「挑発行為と見なされて、中から怖いこわい人が出てくるかもしれないのですよ」

梨花「警察車両を奪われ、護送中のついてない女囚人二名を巻き込んだ、警察内部の密通者を含む敵のヤクザと大混戦なのです」

沙都子「梨花は一体何の話をしているんでございますの?」

737: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 18:15:45.87 ID:25qM8wfAO
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某所

『いよいよ実行の日も間近ですな……Rも何か感づいているのか、ここ数日は妙な行動を』

『あら、それもオヤシロの巫女としての力かしら……面白いわね』

『それと……警察の連中も動いとるようです、以前お話した二名の他に、もう一人が公安からこの雛見沢へ』

『本庁が動いていると言っても所詮は数人……大した障害にはならないわ……計画は当初のまま実行よ』

『了解!』

『……ようやく、私は神になる……この雛見沢の神になれる!』

738: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 18:17:56.84 ID:25qM8wfAO
--そして、ついに

--綿流しの日を迎える

748: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 21:59:20.93 ID:25qM8wfAO
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車内

右京「…………」

亀山「……動いてきますかね」

右京「何らかのアクションは起こして来るとは思いますが……いつ、どのタイミングで仕掛けて来るかまでは予測がつきません」

亀山は車内に取り付けてあった無線を手に取り

亀山「赤坂さん、どうですかそっちは」

赤坂『少し離れた車両内から梨花ちゃんの演舞を目視していますが……怪しい人影は見当たりませんね』

大石『こちらも、特に不審な点は……綿流しの祭りで人が多いですが、古手梨花さんの周りはしっかりと前原さんたちが固めているので』

亀山「了解です、そのまま注意を払っててください」

右京「…………」

749: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 22:13:19.65 ID:25qM8wfAO
亀山「くそっ! 入江診療所、いや……鷹野三四に直接の監視を付けられれば……!」

右京「危険です……敵が、この村の住人全員を殺すことも容易な戦力を持っていると考えれば……」

右京「鷹野三四にも厳重なガードを張っている……!」

右京「そんなところへ深入りし、最悪の事態が起きてしまえば……それこそ、取り返しがつかないことになります」

右京「ここは警視庁の捜査範囲ではなく……味方の数が限られた、小さな村なのですから」

右京「一人たりとも……失うわけにはいきません」

亀山「極秘に動いている富竹さんに誰かが付いているわけにもいきませんし……!」

右京「富竹、鷹野の両名へ監視を付けることが不可能である以上……今の僕たちに出来るのは梨花さんの護衛をすることだけです」

右京「あとは……富竹さんを信じるしかありません」

亀山「頼みますよ、富竹さん……!」

751: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 22:21:55.08 ID:25qM8wfAO
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某所

富竹「…………!」

杉下右京の進言に従い調査をしてみれば……なんということだ……!

不自然な資金の流れ、資金の出所、東京の分裂……自然とすべてのパーツが組み上がり、一つの事実が浮かび上がっていく。

杉下右京は『思い描く範囲での最悪の事態』が起こっていると言っていたが……

富竹「思い描ける範囲なんてものじゃない……想像を遥かに超えるレベルの状況だ」

何故こんな初歩的な部分を見落としていた……浮かれていた結果がこの有り様か!

富竹「時間がない、杉下さんの言っていたように早く……」

その瞬間

鷹野「さすがねジロウさん……やっぱり、あなたは気が付いた」

富竹「!」

754: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 22:36:04.04 ID:25qM8wfAO
部屋の中に鷹野と共に山狗が侵入してくる。

数は、一、二……五人……狭い部屋であることを考えれば相当にキツい人数差だ。

富竹「……鷹野さん、これは一体どういうことだ!」

鷹野「ねえジロウさん、私のこと好き?」

富竹「話を逸らさないでくれ、君は一体何を企んでいるんだ!」

鷹野「ここじゃゆっくりとお話しも出来ないわ……とりあえず、入江診療所までドライブでもしましょう?」

小此木「失礼しますんね、富竹二尉」

富竹「っ!」

小此木の合図と同時に山狗が一斉に富竹へと飛びかかる。

富竹は決して弱くはない、有事に備えしっかりと体は鍛えている。

が……狭い室内であること、加えて敵との人数差を覆すことは出来ず

富竹「くそっ、離せ! 離さないか!」

数十秒後には、床へ組み伏せられていた。

758: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 22:47:01.72 ID:25qM8wfAO
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入江診療所

鷹野「どう? 診療所に近付いてきた人間はいた?」

雲雀8「各隊で分散して警戒していましたが、通行人が数名通った程度です」

鷹野「そう……意外ね、てっきり診療所に何人か張り付いてくるかと思ったけど……」

小此木「嗅ぎ回っている刑事が二、三人……のこのことやって来れば始末出来たんですが」

小此木「こちらが想定していたほど入江機関に疑いの目を向けていないのかもしれませんな」

鷹野「……それとも、私たちの罠を読んで、あえて診療所には誰も近付かないようにしたのか」

鷹野「どっちだと思う? ジロウさん」

富竹「…………」

鷹野「まあ、誰も来ていないのならばそれはそれで好都合ね……じゃあジロウさん、中でゆっくりとお話しましょう」

760: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 23:00:08.51 ID:25qM8wfAO
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診療所内

富竹「終末作戦の実行で……雛見沢そのものを消す!?」

鷹野「そう……終末作戦が実行されれば、必然的に雛見沢症候群の研究が再評価される……」

鷹野「そうなれば私たちの名前が歴史に残る……私は、神になることが出来るのよ」

富竹「鷹野さん……馬鹿な真似は止めてくれ、君が歩んでいるのは破滅への一本道だ」

富竹「君に力を貸した東京の連中は、君を利用して派閥争いを有利に進めようとしているに過ぎない!」

富竹「頭のいい君だったら、そんなことが分からないはずがないだろう!」

富竹「今ならまだ間に合う、こんなことは止めてくれ!」

富竹「これは君を監視する立場としての言葉じゃない、一人の人間としての……君の恋人としての言葉だ」

鷹野「…………」

761: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 23:07:11.54 ID:25qM8wfAO
鷹野「……もう無理よ、ジロウさん」

富竹「…………?」

鷹野「私はもう電車を押してしまったもの……地獄へと下り続ける、ブレーキのない電車のね」

富竹「鷹野さん……」

鷹野「これは私の全てなの……今までずっと私が願い続けた、雛見沢症候群の研究を、お祖父ちゃんの名前を歴史に残す……!」

富竹「……君のことは知っている、辛い過去があることも、三年後に研究が打ち切られてしまうことが決定して絶望したことも」

富竹「みんな……僕はちゃんと知っている」

鷹野「だったらお願い、ジロウさん……私の側に付いて……優秀なあなたがいてくれれば……」

鷹野「……いいえ、私にはあなたという人間が必要なの。もしもジロウさんが味方になってくれるのなら、私はどんな事だってする」

鷹野「心も体も、全てをあなたに捧げる……だから……お願い、ジロウさん……!」

富竹「…………」

762: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 23:11:41.20 ID:25qM8wfAO
それは、富竹が初めて見る鷹野の涙。

強く気高い女性だと思っていた、彼女もそう見せようと振る舞っていた……だが、実際は違った

一人きりで戦うことに身を削られ、それでいて誰かに頼ることも出来ず、故に道を踏み外してしまった。

自分がもっと鷹野の力になってやれていれば……富竹は心からそう思った。

だからこそ

富竹「僕は……君に協力出来ない……!」

763: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 23:18:26.12 ID:25qM8wfAO
鷹野「そう……でも、きっとあなたならそういうと思っていたわ」

涙を拭きながら鷹野は、厳重に管理された薬品棚を開けると、その一番奥から

鷹野「ジロウさん……これ、何だか分かる?」

富竹「……僕は、薬品に関する知識はあまりなくてね」

鷹野「そう……あなたは自分が何を注射されていたのかすら把握していなかったものね」

富竹「何だって……?」

鷹野「これは……『H-173』」

H-173……その薬品名は聞き覚えのあるものではあった。

だが

富竹「馬鹿な……そんなものがあるわけがない! 第一、それは既に全てが廃棄されていたはずだ!」

鷹野「そう、確かにあなたの言う通り……でも、世の中には常に例外があるものでしょ?」

764: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 23:37:01.50 ID:25qM8wfAO
鷹野「予防接種もまともに受けていないあなたなら、この薬もすぐに効果を発揮するでしょうね……」

富竹「予防接種を受けてない……? 何を言っているんだ、僕はちゃんと……!」

鷹野「言ったでしょ……あなたは自分が何を注射されているのかも知らないって」

富竹「……まさか、以前から君が僕に予防薬といって注射していたものは!」

鷹野「そう……雛見沢症候群の症状を少しずつ強める薬、今のジロウさんはL3といったところかしら」

鷹野「自分が注射されているものの中身くらい、ちゃんと把握しておかなきゃダメじゃない」

富竹「くっ……そうはさせ……!」

小此木「おっと……大人しくしてもらわないと困りますな、富竹二尉」

鷹野「薬を使って眠らせなさい……意識がある状態でL5になられたら、どうなるか分からないわ」

富竹「…………!」

山狗に数人掛かりで押さえつけられ、無理やり薬を嗅がされて意識が落ちる直前……

富竹「……くそ」

悔しさを絞り出すかのように、そう呟いた。

765: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 23:41:11.59 ID:25qM8wfAO
富竹「…………」

小此木「意識は完全に落ちましたな」

鷹野「山の中まで運んでから『H-173』を注射しなさい、そして意識を取り戻す前にその場を離れること」

小此木「了解……オイ、富竹二尉を運べ!」

山狗に運び出される富竹に

鷹野「……さようならね、ジロウさん。あなたのことは、嫌いじゃなかったわ」

767: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 23:49:11.80 ID:25qM8wfAO
鳳5「報告が!」

小此木「どうした、何かあったか?」

鳳5「この女が診療所内に侵入していました、金目の物を盗もうとしていたようです」

富竹と入れ替わるように中へと入ってきたのは

リナ「ちくしょう! 離せ! 何なんだいアンタたちは!」

鷹野「あらあら……」

鳳5「どうしましょうか?」

小此木「処分しろ、余計な会話を聞かれた可能性もある」

鳳5「はっ!」

鷹野「待ちなさい……用意していた『アレ』は、いつのものだったかしら?」

小此木「確か……昨日のものだったはずですが……」

鷹野「……それなら、こっちを使っても良さそうね」

769: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/21(水) 23:59:09.66 ID:25qM8wfAO
リナ「……? ……?」

間宮律子は、まるで状況が飲み込めていなかった。

金ヅルであった男には逃げられ、北条鉄平は逮捕され、園崎の上納金をかすめ取る策も失敗した……まるでついていなかった

そして、酒を飲みながらヤケになっていたところ……入り口が開け放たれている入江診療所を発見した。

入江院長は綿流しの祭りで、怪我人を手当てする救急所にいるはず……中には誰もいない。チャンスだと思った。

……そして、中へ入り金目の物を物色しようとした瞬間に突如として捕らえられた。

リナ「……どういうことなんだよ、これは! アンタら一体なんなんだよ!」

鷹野「…………」

鷹野「……むかーしむかし、ある所に悪戯好きで手癖の悪い子猫がいました」

鷹野「その子猫はいつもように悪戯をしようと、とある洞窟へと入っていきました……結果」

リナ「…………?」

鷹野「洞窟の主であった竜に……骨まで焼かれてしまいました……フフフ……」

771: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 00:04:58.68 ID:KWMwJnwAO
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数刻後、某所

梨花「みんな……今日は、どうもありがとうなのです」

圭一「いいって……しかし、本当に何事もなく綿流しは終わったな」

魅音「うん、普通だったね……怖いぐらいに普通だった」

レナ「右京さんたち……大丈夫かな?」

沙都子「離れたところから私たちを見ていると言われてましたけれど……」

詩音「……大丈夫みたいですよ」

そう言いつつ詩音が向かって左側を指差す。

見れば、二人の刑事がこちらに向かってきているのが確認出来た。

亀山「終わったな、綿流し!」

右京「全員、無事で何よりです」

梨花「みぃ、とてつもなく緊張感のある綿流しだったのですよ」

774: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 00:12:35.21 ID:KWMwJnwAO
圭一「それで、そっちはどうだったんですか? 黒幕に何か動きは……」

亀山「俺たちも、連中を完全には捕捉し切れてなかったからな」

右京「今は大石刑事たちが署に戻って、村で不審な人物がいなかったかを割り出しているところです」

梨花「富竹は……富竹は大丈夫なのですか?」

右京「…………」

その時、車の無線機から

大石『こちら大石! 杉下、亀山両名! 応答願います!』

亀山「!」

右京「どうか、しましたか?」

大石『山の中で、変死体が発見されてます……やられました!』

亀山「変死体!?」

右京「…………っ!」

776: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 00:20:19.25 ID:KWMwJnwAO
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山中

大石「こちらです、二人とも!」

右京「現場の状況と、被害者の情報を!」

赤坂「見ての通り……被害者はドラム缶の中で焼かれています、凄まじい死に方です」

赤坂「焼かれ方がひどく……身元の確認には時間が掛かるかと」

亀山「指紋とかゲソ痕は、残ってないんですか!?」

赤坂「鑑識が来るまでは何とも言えませんが……おそらくは、何も!」

亀山「くそっ!!」

右京「…………」

778: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 00:26:01.01 ID:KWMwJnwAO
右京「…………」

亀山「……どうしたんですか、右京さん? いつもの右京さんなら、あっちこっち調べて……」

右京「…………」

右京「……君は、この殺人をどう思いますか?」

亀山「どうって……そりゃ、鷹野三四を主犯とする連中の仕業に決まってるじゃないですか!」

亀山「まさか……右京さん、真犯人は別にいるなんて思ってるわけじゃ……!」

右京「梨花さんの予言に加え、ドラム缶で焼き殺すという派手で尚且つ手の込んだ殺害方法……現場には何も証拠を残していない」

右京「相応の準備をした上での犯行です……まず間違いなく、鷹野たちの仕業でしょう」

亀山「じゃあ……」

右京「僕が言っているのは……動機の部分ですよ」

786: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 00:35:36.98 ID:KWMwJnwAO
亀山「動機……ですか?」

右京「我々の対応が後手後手に回ってしまったことを差し引いても、これほどの殺人を速やかに行える相手です」

右京「当然……僕たちが疑いの目を向けていることにも気が付いていたでしょう」

亀山「疑われてることを知ってて、それでも殺人を行った……それほどにこの殺害は、連中にとって重要なものだったってことですかね?」

右京「そうかもしれません……しかし、僕にはもう一つの思惑が見て取れるのですよ」

亀山「何ですか、それ?」

右京「挑発です」

亀山「!」

右京「疑いの目を向けられている状況でも、それを全く意に介さずに予定通りの殺人をしてみせた」

右京「我々など、まるで眼中にない……殺す気になればいつでも殺せる……そう彼らは言いたいんですよ」

787: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 00:50:28.65 ID:KWMwJnwAO
亀山「舐めやがって……くそっ!!」

右京「勿論、深読みである可能性もあります」

右京「彼らにとってこの殺人は非常に重要なものであり、被害者を必ず殺さねばならなかった……」

亀山「それでも許せることじゃないですよ!」

右京「ええ……ですが、仮にそうではなく、敵が我々への挑戦も兼ねてこの殺人を実行したのだとすれば……」

右京「一人の人間の命を、まるで道端の石でも蹴り飛ばすかのように扱ったのだとすれば……」

右京「そのようなことは……絶対に、許されるものではありませんっ!」

亀山「必ずとっ捕まえてやりますよ……必ず!!」

789: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 00:57:15.80 ID:KWMwJnwAO
赤坂「……そして、さらに状況は悪い方向へと進んでいます」

亀山「…………?」

大石「先ほど、入江さんから連絡がありました……『鷹野三四が行方不明になった』と」

右京「『行方不明』……ですか」

亀山「やっぱり、動いて来やがったな……!」

赤坂「そして、もう一つ……『富竹ジロウと連絡が取れなくなっている』」

亀山「!」

赤坂「……そう、言っていました」

亀山「……右京さん」

右京「…………」

805: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 17:35:53.33 ID:KWMwJnwAO
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興宮署

赤坂「敵に先手を取られ続けていますね……はっきり言って、かなりヤバい状況です」

亀山「富竹さんの行方は!?」

赤坂「残念ながら、まだ何も……とあるホテルで富竹ジロウと思われる人物の宿泊記録は見つかりましたが、その後は……」

大石「当然、足取りを追ってはいます……しかし、まだ目撃者を洗っている段階です」

赤坂「何かを掴めるとしても……もう少し時間が掛かりますね」

亀山「なんてこった……!」

大石「それと、もう一つ報告なんですが……何やら、応援が来るそうですよ」

亀山「応援?」

赤坂「先ほど連絡がありまして、本庁の刑事が三人ほどここへ向かっていると……」

四人がそんなことを話しているとき、背後から聞き慣れた声で


「特命係の亀山ぁ~!」

811: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 17:44:20.37 ID:KWMwJnwAO
亀山「おまっ、なんでお前らがこんなところにいるんだよ!」

伊丹「うるせっ! なにもかも全部、お前のせいだ!」

右京「……どういうわけで、あなたたちが?」

三浦「警視庁の人間、つまりは警部殿たちが捜査をしていた村で殺しがあったんです」

芹沢「本庁としては形式的であっても、それなりの対処をしなきゃいけないってことみたいで……」

伊丹「お前がドン亀で殺人を防げなかったおかげで、わざわざこんな田舎村まで来なきゃならなかったんだ!」

伊丹「怪しい人物を張っておきながら殺しをされるなんて恥ずかしくねえのか! このバ亀!」

亀山「うるせえっ! 俺たち特命だけで村中を見張ることなんて出来るか!」

817: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 17:50:33.63 ID:KWMwJnwAO
伊丹「というわけで警部殿……この殺しは、応援にわざわざ駆け付けた俺たちが調べますので」

伊丹「捜査の邪魔にならないよう、お引き取り願えますか?」

右京「ええ、ではそのように……亀山くん、行きましょう」

亀山「はい! おう、しっかり調べろよ」

伊丹「…………?」

三浦「……珍しいなぁ」

芹沢「何かやけに素直ですね、あの人にしては」

820: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 17:54:15.43 ID:KWMwJnwAO
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亀山「ドラム缶の焼死体は連中に任せるとして……これからどうします?」

右京「富竹さんと連絡が取れない以上、最優先で行うべきなのは梨花さんの保護です」

亀山「一応、圭一たちがついてるって話でしたけど……」

右京「迎えに行きましょう……ここからは、彼らも我々と共に行動してもらったほうが都合がいいです」

亀山「子供ですけど、頼もしい連中ですからね……」

右京「おやおや……彼らと捜査協力をすると決まった時、不満げだった君はどこへ行ったのですかねぇ」

亀山「…………」

亀山「ははは……どこ行っちゃったんすかね?」

827: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 18:04:17.52 ID:KWMwJnwAO
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興宮署

梨花「右京……富竹と連絡が取れなくなっているというのは、本当なのですか?」

魅音「それと……警察はまだ秘匿捜査として扱ってるみたいだけど、焼死体が発見されたって……」

右京「どちらも、本当のことです」

圭一「…………」

レナ「圭一くん……どうかしたのかな? かな?」

圭一「いや……頭では理解してたつもりだったんだけど、実際に梨花ちゃんの言っていたように事件が起こったとなると……」

詩音「簡単に受け止めきれるものじゃありませんよね……殺され方も梨花ちゃまの予言通り、ドラム缶で焼き殺されるってものでしたし」

沙都子「夢じゃございませんのね……梨花の言っていたことが、現実に起きている……」

亀山「だから、俺たちの手で守ってやるんだ。梨花のことを……!」

828: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 18:28:38.25 ID:KWMwJnwAO
その時

大石「何ぃ!? 捜査の打ち切り!?」

電話で話していた大石の怒号が待合室にまで飛び込んできた。

大石「ちょっと待ってください! 今は聞き込みを行って、移動ルートの絞り込みもやってるところです!」

大石「第一、なんだってこの段階から県警が出張って……!」


亀山「……何か、あったんですかね?」

右京「…………」

830: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 18:57:46.56 ID:KWMwJnwAO
大石は受話器を叩き付けるように置きながら

大石「どうなってるんだ! くそっ!」

右京「何か、あったんですか?」

大石「行方不明になっている富竹ジロウの捜査権が県警本部に移りました!」

右京「!」

亀山「本部に移るって……じゃあ、俺たちの方ではもう捜査が出来ないってことですか!?」

大石「ふざけた話です! こんなことは今までに一度もなかった!」

右京「……亀山くん。大至急、梨花さんたちを連れて移動しましょう」

亀山「!」

右京「我々が重要参考人として行方を追い続けている富竹さんの捜査権が、このタイミングで移動した……」

亀山「出来すぎてますよね、やっぱり!」

右京「こちらの行動が完全に相手へ漏れています……この興宮署の中に、敵との内通者がいるということです」

831: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 19:12:59.24 ID:KWMwJnwAO
右京「大石刑事!」

大石「ええ、すぐに準備します!」

赤坂「私は、もうしばらくここに残ります……『警視庁公安』という立場から、何か出来ることがあるかもしれません」

右京「お願いします」

亀山「けど、一体どこへ行くって言うんです? 警察署ですら安全じゃないなら、他に行くところなんて……」

右京「園崎家です」

亀山「ああ、園崎……えっ!?」

魅音「ちょ、ちょっと待ってよ右京さん! 園崎って……ば、婆っちゃのところ!?」

詩音「いや……でも、いいかもしれませんよ! あそこなら人もいるし、組員も全員顔を知ってるから敵との内通者もいない!」

魅音「そうだけど! 右京さんも亀山さんも大石さんも! 全員が警察なんだよ!? 本家に行っても中に入れるわけが……」

詩音「大丈夫なんですよ、お姉……ちゃんと布石は打ってありますから。もっとも、右京さんが……ですけど」

魅音「布石って……あー、よく分かんないけど! どうなっても私は知らないからね!?」

834: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 19:36:16.36 ID:KWMwJnwAO
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園崎家

魅音「来ちゃったよ……本当に来ちゃったよ……」

右京「…………」

亀山「だ、大丈夫なんですか右京さん……俺たち、警察っすよ?」

大石「もう……私は何も言いません、引き返すわけにはいきませんからねえ……」

梨花「特に大石は、今まで園崎を疑ってましたですから余計に入りづらいのですよ」

大石「……あなた、本当に痛いところを突きますねぇ」

右京「行きましょう」

正門まで歩を進めると、中から一人の男が姿を現した。

黒服にサングラスを掛けた、『いかにも』という風貌の男に対して右京は

右京「また、お会いしましたね」

葛西「…………」

葛西「……中へどうぞ、園崎家頭首がお待ちになっています」

836: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 19:42:36.73 ID:KWMwJnwAO
右京「ご苦労さまです……では、行きましょう」

亀山「いやいやいやいや! ちょ、ちょっと待ってくださいよ右京さん!!」

右京「どうかしましたか?」

大石「どうもこうもじゃないでしょう!」

魅音「何で右京さん、『普通に』中へ招かれて『普通に』婆っちゃと会うことが出来るのさ!? まさか知り合いだっていうの!?」

右京「直接お会いしたことは、一度も」

魅音「だったら何で……」

詩音「少し前に、右京さんは個人的に私や葛西と会ってるんです……その時にちょっと」

魅音「……? ……? ……?」

841: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 20:00:16.83 ID:KWMwJnwAO
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茜「よく来たね……アンタが『杉下右京』かい?」

右京「警視庁特命係、杉下です……突然押し掛けてしまい、大変なご迷惑を」

茜「そうさねぇ……ひどく礼儀がなってないだけじゃない、警察関係者を三人も中へ入れるなんて前代未聞だよ」

茜「まあ……葛西曰わく、『園崎』はアンタに大きな借りがあるらしいからね……」

亀山「……右京さん、何やったんですか?」

右京「間宮律子の件で、少しお話をする機会があっただけです」

茜「そうそう……それで、葛西と詩音がアンタのことをひどく持ち上げるんだよ」

茜「二人して『杉下右京が面会に来たら、一度でいいから中へ通してやってほしい』なんて言うからさ」

葛西「……そういう機会を作ってくれとの、『頼み』でしたから」

842: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 20:18:24.00 ID:KWMwJnwAO
茜「それで……用件は何だい? 魅音たちも揃えて仲良くお茶しよう、なんて穏やかな話じゃないんだろう?」

茜「見たところ、令状はないみたいだから家宅捜索ってわけじゃなさそうだけど……」

右京「察しの通り、我々は園崎を調べに来たわけではありません」

茜「?」

右京「単刀直入にお話します……古手梨花さんの命が、何者かによって狙われています」

茜「…………」

茜「……それで、あたしたちに何を聞こうって? あたしらが、古手の巫女様を殺そうとしてるとでも?」

右京「そうではありません……村全体に幅を利かせているあなた方のことです、既に何らかの情報を掴んでいるのではありませんか?」

亀山「綿流しの日に、山の中で焼死体が見つかったんです……ご存知ないですか?」

茜「……ああ、知ってるよ。鬼隠し……所謂オヤシロ様の祟りとやらが、今年もまた起こっちまったってわけだ」

茜「ただはっきり言っとくよ……この件に、園崎は全く関与していないってね」

右京「ええ、あなたたち園崎は、鬼隠しの犯人などではありません」

茜「……何だって?」

右京「その鬼隠しを真に行った人物こそが……梨花さんを狙っているのですよ」

844: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 20:56:19.78 ID:KWMwJnwAO
茜「ちいとばかり物騒な話になってきたね……もう少し、詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか」

茜「第一、あれだけ園崎を疑っていた警察が『鬼隠しは園崎の犯行じゃない』だなんて……どういう風の吹き回しだい?」

大石「いやー……台風か竜巻でも起こったと言いましょうか、なっはっはっ……」

魅音「お母さん信じて! 梨花ちゃんが妙な連中に狙われてるのは本当なんだから!」

圭一「嘘じゃないんです! いきなり何を言ってるだって思うかもしれないですけど!」

茜「…………」

茜「……じゃあ聞かせとくれよ、雛見沢中から愛されている古手の巫女様が、誰に、どういう目的で狙われてるんだい?」

大石「いや……すいませんが、そいつは秘匿情報でして……」

845: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 21:19:56.84 ID:KWMwJnwAO
茜「……それで結局のところ、アンタたちはどうしたいんだい?」

右京「聡明なあなたのことです……言わずとも、僕たちの目的は分かっているのではありませんか?」

茜「…………」

茜「……古手の巫女様を守るために手を貸せと、そう言いたいのかい?」

右京「あなた方にしか、頼めないことです」

茜「…………」

茜「……正直、信用ならないね」

魅音「お母さん!」

茜「アンタは黙ってな! ……だってそうだろう刑事さん、あたしらは今までずっと『鬼隠し』の犯人だと疑われ続けていたんだ」

茜「いや……疑われているのは今も同じかもしれないね」

大石「…………」

茜「それだけ疑われてて……『今年に限っては』園崎は犯人じゃない? そいつらが古手の巫女様を狙ってる?」

茜「そんな訳の分からない話を信じられるほど、あたしは素直じゃないのさ」

846: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 21:35:59.93 ID:KWMwJnwAO
亀山『大石さんや俺たちが、まだどこかで園崎を疑ってるんじゃないかって思ってるみたいですね』

右京『そのようですねぇ……もっとも、先ほどのような話をいきなり信じろというのも無茶な注文です』

亀山『どうするんですか右京さん、まさか入江機関とか雛見沢症候群のことを全部話すわけはいかないっすよ!』

茜「こそこそと、何を話し合っているんだい? あたしは内緒話ってやつが嫌いでね」

右京「失礼……ですが、どうやらあなたが我々の言葉を少々誤解しているように思えまして」

茜「誤解……?」

右京「今の我々に、あなた方を疑う要素など何一つとしてないのですから……何しろ」

右京「『今年に限って』ではなく……園崎は『今までに一度も』、鬼隠しには関与していないのですから」

茜「…………?」

847: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 21:51:58.82 ID:KWMwJnwAO
茜「何だい……まさか、今まで園崎に掛けられていた『鬼隠し』に関する嫌疑が全部晴れたってのかい?」

右京「ええ、その通りです……以前、大石刑事と共にこの鬼隠し事件を洗い直してみたのですが……」

亀山『そんなこと、やったんですか?』

大石『記憶にないんですけどねぇ……まあ、やったってことにしておきましょう』

右京「その結果、一連の鬼隠しを園崎家によるものだとするには、いささか不自然な点が多いと分かりました」

茜「へえ……不自然な点、ね」

右京「そう……何より、動機の部分が不透明なのですよ」

圭一「動機が不透明って……園崎家が、鬼隠しを起こす理由がないってことですか?」

茜「前に、あたしはこう言われたけどね……『村で園崎に従わない勢力を排除して雛見沢全体を支配しようとしてる』って」

亀山『……そんなこと、言ったんですか?』

大石『いやはやこれは参った……恥ずかしながら、そっちはよーく覚えてます』

848: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 22:10:02.50 ID:KWMwJnwAO
右京「それです……僕が何よりも気になったのは」

魅音「気になったって……?

右京「この雛見沢村に存在する御三家……古手、公由、園崎……その中でも園崎は最も大きな力を持っていると聞きました」

右京「聞くところによれば……園崎は警察にも幅を利かせ、県会議員にまでその力は及んでいるとか」

茜「…………」

右京「そこで、僕の中にとある疑問が生じました……それほどの権力を既に手にしている園崎が、更なる権力を欲しようと考えるのかと」

右京「それも、毎年……一人を殺し一人を行方不明にするという大掛かりなことをしてまで」

圭一「……そっか、確かにそうだよな。園崎家はもう十分過ぎるほどの力を持ってる」

レナ「それを維持さえすればいいのに……殺人なんかして証拠が出ちゃったら、大きなダメージを負うことになるよね」

沙都子「ずいぶんと割に合いませんわね、ハイリスクスーパーローリターンでございますわ」

梨花「それを動機として園崎家を疑うのは無理があるのですよ、みぃ」

大石「…………」

この時、大石は思った……子供でもすぐに思い至るこの発想を、何故自分は出来なかったのかと。

851: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 22:18:40.53 ID:KWMwJnwAO
茜「じゃあ何かい……あんたたちは、園崎を疑っていないと、本気でそう言っているのかい?」

右京「少なくとも、僕は本気です」

茜「あたしらが何をやってるかくらい知ってるだろうに……アンタ、警察とは思えないね」

右京「実際にあなた方が何か犯罪をしているところを目撃したわけではありませんからねぇ」

茜「…………」

葛西「茜さん……この男は頭が良く油断のならない刑事ではありますが……少なくとも、嘘を付くような人間ではありません」

詩音「私達、本気で助けを求めてるんです! お母さん、お願い!」

圭一「頼みます! 梨花ちゃんのことを……俺たちの大切な仲間を守るために、力を貸してくれ!」

茜「…………」

854: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 22:55:05.91 ID:KWMwJnwAO
茜「……どうします? お母さん」

お魎「……どうもこうもなぁね、勝手に押し掛けてきて好き勝手抜かしよって」

右京「無理を言っていることは十分に承知しています、ですが……」

お魎「大体なんね……村の住人でもないよそ者が……」

右京「…………」

亀山『どうも、外から来た人間には厳しいみたいっすね』

右京『そのようです……彼女には、僕が何を言おうが無駄でしょう……あとは、彼らに任せるしかありません』

圭一「無茶を言ってるは百も分かってる! 納得しきれない部分があるのも分かる!」

圭一「けど! ここで俺たちが立ち上がらなかったら梨花ちゃんが、雛見沢の仲間が殺される!」

圭一「俺たちはそれを黙って見過ごすわけにはいかない! 仲間を助けたい! そのためには、アンタたちの力が必要なんだ!」

856: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 23:06:12.40 ID:KWMwJnwAO
圭一「俺はこの村に来てまだそう時間は経ってない、アンタから見ればまだまだ若僧だ!」

圭一「けど、俺みたいな若僧でも、雛見沢の結束力はよく分かってる! 一人のためにみんなが戦える! それがどんなに強大な相手でも!」

魅音「一人に石を投げられてたら二人で石を投げ返せ……」

沙都子「二人で石を投げられたら四人で石を……」

詩音「八人に棒で追われたら十六人で追い返せ……そして千人が敵ならば村全てで立ち向かえ」

レナ「一人が受けた虐めは全員が受けたものと思え……一人の村人のために全員が結束せよ」

梨花「それこそが盤石な死守同盟の結束なり……同盟の結束は岩よりも硬く、水を通さないダムすら通さない」

圭一「俺は雛見沢の、この同盟の誓いを見て感動したんだ! この村の一員になれて本当に良かったと思った!」

圭一「そんな強い信念を持つ村で、一番の力を持ってるアンタたちに! 俺は背中を向けてほしくないんだよ!」

お魎「…………」

858: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 23:27:10.21 ID:KWMwJnwAO
大石「ちょっと……いいですかね」

茜「…………?」

大石「いえね……外から杉下さんたちが園崎の嫌疑を晴らし、子供達があなた方に心からの言葉を投げかけている」

大石「それを見て……ひどく、私は自分って人間が恥ずかしくなりました」

茜「何だい、しおらしくなって……アンタらしくもないね」

大石「……分かっちゃいたんですよ、園崎を犯人だと考えれば不自然な点が浮かび上がることは」

大石「ですが……それでも私には時間がなかった、定年までに何とか、おやっさんの無念を晴らしてやりたいと焦ってたんです……」

大石「その焦りから……私は、ありもしない園崎の幻影に踊らされていたんですよ」

大石「きっと……私が毎年、墓前で花を手向ける度におやっさんは怒っていたんでしょうな」

859: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 23:36:18.52 ID:KWMwJnwAO
茜「墓に花を……まさか、あの花はアンタだったのかい?」

大石「…………?」

茜「私らが紫陽花とおはぎを供えに行くと、いつも墓は綺麗に掃除されてて必ず綺麗な花があったんだ……」

茜「なるほど……アンタだったんだね、あの花を手向けてたのは」

大石「…………!」

『紫陽花』、大石には見覚えがあった。

綿流しの日が終われば、自分は必ず花を手向けに現場監督の墓へと足を運んだ。

何度か足を運ぶと……いつしか、自分の供えた花の横に、綺麗な紫陽花が置いてあった。

それも毎年……おはぎと共に。

大石「あ、あなたたちだったんですか……しかし、何でまたおやっさんの墓に……園崎とダム工事現場監督は、犬猿の仲だったでしょうに」

茜「ああ、『犬』と『猿』だったさ……けど、争いに幕が引かれた後くらいはノーサイド……『人間』でありたいと、そう思ったのさ」

茜「それは……手向け用のおはぎを作っているお母さんも一緒だろうね」

お魎「…………」

860: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/22(木) 23:47:22.38 ID:KWMwJnwAO
右京「園崎と警察……戦い続けているように思われた両者も、見えない部分では……既に分かり合っていたのですねぇ」

亀山「それを一番よく理解していたのは……墓の中から二人を見ていた現場監督だった……!」

茜「……何だ、お互いを知るまでにひどく回り道をしちまったけど、結局あたしたちは敵なんかじゃなかったんだね」

大石「そういうことになりますな……」

茜「……新しい時代が、来ているのかもしれないね」

茜「過去を流して前に進まなきゃならない、『犬』や『猿』じゃなく、『人間』としてね」

大石「…………」

茜「…………」

茜「そのために……この村で最後の、雛見沢の仲間を守るための大立ち回り……やってやろうじゃないのさ」

梨花「!」

茜「いいでしょ、お母さん?」

お魎「…………」

お魎「……勝手にせんね、こんダホマ……」

864: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 00:11:12.54 ID:XLRnUfNAO
圭一「あ、ありがとうございます!」

魅音「お母さん! それにばっちゃも! あの、本当にありがとう!」

茜「礼なんていいよ、今日が新しく雛見沢の生まれ変わるきっかけになる日さ」

茜「新しくなるついでに、今まで溜め込んじまった交通の違反切符も真っ白に新しくしとくれよ!」

大石「いやいや、そいつはさすがに私には出来ませんなぁ……んっふっふっ」

亀山「…………」

亀山「……また、圭一たちに感謝っすね」

右京「ええ……彼女たちの説得は、僕たちだけでは到底不可能だったでしょうからねぇ」

梨花「しかし……右京、これからどうするのですか? 僕がここにいることも既に……」

右京「梨花さんの想像通り、僕たちの動きは敵に筒抜けになっています……また興宮署内にも、敵との内通者が存在する……」

右京「徹底された情報偵察……それを、逆手に取ります」

亀山「どうやって、ですか?」

右京「……梨花さんには、死んでいてもらうことにしましょう」

亀山「えっ!?」

右京「ここからが……売られた喧嘩と騙し合いの、最終決戦です」

887: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 22:36:35.69 ID:XLRnUfNAO
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興宮署

熊谷「赤坂さん、杉下警部から電話っすよ!」

赤坂「杉下警部から……?」

赤坂は違和感を覚えた、警察署内での捜査情報は相手に漏れていることは既に明白だ。

敵との内通者がいる、もしくは盗聴されている可能性が非常に高い。

そんな環境において不用意に、あの杉下右京が、電話をかけて来るだろうか……?

赤坂「替わりました……赤坂です」

右京『古手梨花さんが亡くなりました』

赤坂「っ!?」

一瞬、赤坂は何を言われているのか分からなかった。

梨花ちゃんが死んだ? なぜ? 杉下、亀山、大石三名の刑事がついていたはずだ。

当然、敵が全戦力を傾けて彼らに襲い掛かった可能性もあるだろう。

だが、それならば何故、杉下右京は無事なのか……

888: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 22:40:52.50 ID:XLRnUfNAO
赤坂「もう少し……詳しく説明していただけますか?」

右京「先ほど我々が犯人と思しき人物宅に立ち入って話を伺ったところ、『自分たちが古手梨花を殺害した』と自供したものですから」

赤坂「…………?」

違和感はさらに強くなっていく。

杉下右京たちが向かったのは園崎家であったはず……彼らが古手梨花を殺した?

そんなこと、到底考えられるはずがない……

赤坂「確かなのですか……それは」

右京「ええ……『古手梨花をドラム缶で焼き殺した』と」

赤坂「!」

ドラム缶で? 有り得ない……その時点で梨花ちゃんは間違いなく生きていた、現に数時間前にはこの興宮署にいたはず……!

第一、あれは鷹野らによる偽装工作の可能性が……

889: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 22:47:44.34 ID:XLRnUfNAO
赤坂「…………!」

違う……この電話の真意は別なところにある。

情報漏洩している興宮署への電話、不自然な園崎家の自供、有り得ない死亡時刻の古手梨花……

赤坂「…………」

終末作戦……女王感染者……48時間以内に……時間を……

赤坂「……なるほど、『分かりました』」

右京『では……そちらは、よろしくお願いします』

表面では最小限の情報しか伝えない、多分な含みのある電話だった。

しかし、赤坂は理解した……杉下右京たちの仕掛けた作戦を。

鷹野たちを相手に、勝負に出たということを。

赤坂「ならば……私も」

自らも行動しなければならない、『警視庁公安第7資料室』の刑事として。

890: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 23:08:39.56 ID:XLRnUfNAO
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伊丹「なるほど、ガイシャは女か……」

米沢「ええ、遺体がひどく焼けてしまっていることから身元の割り出しには時間が掛かりますが……」

米沢「骨格などから判断する限りでは女性、年齢もかなり若いと思われます」

三浦「しかしドラム缶で焼き殺すたぁ、ひでえことするもんだよ」

芹沢「犯人は相当な恨みがあったんですかね? こんなやり方で殺すなんて」

現場検証を行っていた捜査一課と鑑識の米沢だったが、未だに犯人に繋がる有効な証拠は得られずにいた。

その時、携帯の着信音が鳴り

伊丹「…………」

伊丹は発信者の名前を見た瞬間、顔をしかめながら

伊丹「捜査中に電話してくんじゃねえよ、この亀……何!? 殺害を自供した人間がいる!?」

891: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 23:19:34.44 ID:XLRnUfNAO
それとほぼ同時

米沢「おっと……もしもし? ああ、杉下警部……ええ、こちらの鑑識はもう既に……」

米沢「そちらも、相当捜査が進んでいるようで……何でも、犯行を自供した人間がいるとか……」

米沢「……ガイシャですか? ええ、若い女性であることは間違いありませんが……え? 小学生から中学生程度の子供……ですか?」

米沢「いや……それでは少しばかり若すぎるかと、私の見たところでは二十代の……」

米沢「…………」

米沢「…………」

米沢「……なるほど、詳しいことは分かりませんが『そういうこと』にしておく、ということですな」

米沢「…………」

米沢「了解しました……私一人でどれだけ押し通せるか分かりませんが、そのように話を進めてみます……」

米沢「杉下警部のことです、何かお考えがあるんでしょう……ええ、では……」

892: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 23:24:14.60 ID:XLRnUfNAO
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園崎家

亀山「どうでしたか?」

右京「伝わりました……さすがは、公安第7資料室の赤坂刑事といったところでしょう」

亀山「こっちも、一課の連中には連絡済みです! すぐにここへ来るかと!」

大石「しかし……なかなかに度胸のいる策ですね、鑑識への根回しも必要ですよ?」

右京「ご心配なく……そちらの対処も、先ほど済ませておきました」

大石「……んっふっふ、これは失礼。野暮なことを聞いてしまいましたか」

詩音「監督にも連絡を入れておきました……『これから綿流しを超えるお祭りがある』って」

魅音「よし、これで全員への連絡は終わった……こっからだね、総力戦になるよ……!」

梨花「…………」

893: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 23:28:46.74 ID:XLRnUfNAO
圭一「……どうした? 梨花ちゃん」

梨花「ごめんなさい圭一……でも、僕は怖いのです」

レナ「大丈夫、梨花ちゃんはレナたちがきっと……」

梨花「そうではないのですよ……もし、僕を守ろうとしてみんなが傷付いてしまったら……」

羽入『梨花……!』

梨花「多分、こんな世界はもう二度と来ない……ここでも、もし失敗してしまったら……!」

魅音「梨花ちゃん……」

梨花「そう思うと……覚悟を決めたつもりだったのに……なのに、震えが止まらない……!」

右京「…………」

895: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 23:38:46.62 ID:XLRnUfNAO
沙都子「やれやれ、でございますわね」

梨花「…………?」

沙都子「いつもの部活で見せる余裕はどこへやら……私、今の梨花が相手でしたら負ける気がこれっぽっちも致しませんわ」

梨花「沙都子……」

沙都子「世界がどうだの、もう二度と来ないだの……そんなことは私たちには何の関係もありませんのよ?」

沙都子「私たちは梨花の友達で、その友達が困っているから助けたい、ただそれだけですわ」

沙都子「……梨花が、私を助けようと必死で戦ってくれたように」

梨花「さ、沙都子……!」

圭一「大丈夫……俺たち全員、覚悟は出来てる!」

レナ「死ぬ覚悟なんかじゃないよ……みんなで、最後まで生き抜く覚悟がね!」

梨花「…………っ!」

899: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 23:45:32.01 ID:XLRnUfNAO
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某所

鷹野「Rが既に死んでいる!?」

小此木「そのような情報が流れとるようです、何でもドラム缶で焼き殺された遺体が古手梨花であると……」

鷹野「そんなはずないでしょ!? あの死体は私達が工作したもの……それ以前に、あの時点でRは生きていたじゃない!」

小此木「情報伝達に齟齬が発生したのかもしれません……ですが、警察はどうやらそのように動くようで」

鷹野「冗談じゃないわ! Rが既に死んでいるなんて認められたら、こっちの計画が……」

小此木「古手梨花が殺害されたと仮定して、終末作戦を実行してしまいますか?」

鷹野「何を言ってるの! 万が一、それでRが生きていたら私達は単なる大量殺人犯よ!」

鷹野「Rが死んで! 末期症状を引き起こして暴徒化した村人を沈静化するというプロセスが最重要!」

鷹野「確実なRの死亡が確認されなければ、この作戦は実行出来ないわ!」

900: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/23(金) 23:52:30.33 ID:XLRnUfNAO
鷹野「それ以前に、Rには山狗の監視を付けていたはずでしょう! そこからの報告は!」

小此木「友人数名と共に興宮署へ向かったようですが……そこから行方が分からなくなっていると」

鷹野「すぐに調べさせなさい! 真偽はともかく、古手梨花が死亡している可能性があるなんて情報が『東京』に漏れたら!」

予想外の事態に動揺する鷹野のもとへ

鳳3「失礼します! 『東京』の野村様から電話が入っております!」

鷹野「噂をすれば……どこで嗅ぎ付けてくるのよ……Rは間違いなく生きているわ! 何があっても、必ず探し出しなさい!」

小此木「この村はそう広くはありません、隠れられる場所もそうはない……すぐに見つかります」

鷹野「早く行きなさい! 私は野村の対応をしておくわ!」

901: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 00:05:34.51 ID:Ak1aP7UAO
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小此木「…………」

何かが引っ掛かる、これまでは完璧に自分たちの思い通りに事が進んでいたはずだ。

なのに、ここに来て急に計画に支障が生じている……だが、あれだけ綿密に練られた計画がこうも簡単に破綻するだろうか?

小此木「そういえば、警視庁から来た刑事が何人かうろちょろしていたな……」

ドラム缶殺人を受けて三人ほど招集されたようだが……それは置いておくとしよう。

小此木「…………」

古手梨花は興宮署から行方が分からなくなっている……つまり、こちらの隙をついて移動したということだ。

仮に、奴らが興宮署の諜報活動を看破し、監視にも感づいていたとすれば……相当の切れ者がいると見ていいだろう。

綿流しの夜に入江診療所へ刑事が寄り付かなかったのも、やはりこちらの罠を警戒していたのか……

小此木「……待て、三佐に電話が入ったのはさっきだったな?」

古手梨花の行方をこちらが掴みきれず、さらに死亡情報が流れ始めた段階での『東京』からの連絡……

小此木「…………!」

小此木「……しまった! やられた!」

902: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 00:16:53.65 ID:Ak1aP7UAO
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園崎家

右京「ご苦労さまです」

伊丹「殺人を自供した犯人は!?」

亀山「おう、遅いぞお前ら!」

伊丹「うるせっ! とっとと犯人しょっぴいて帰りてえんだから、さっさと身柄をこっちへ渡せ!」

亀山「いや、それがだ……さっきの自供は間違いで、やっぱ殺してないらしくてな」

伊丹「…………」

三浦「…………」

芹沢「…………」

三人『はあっ!?』

右京「どうやら、誤った情報が伝わってしまったようですねぇ」

芹沢「いやいやいや! そんなわけないでしょ!」

三浦「我々は確かに聞きましたよ、『古手梨花を殺したと犯人が自供した』と!」

三浦の言葉に右京は少し笑みを浮かべながら

右京「梨花さん……あなた、殺されてしまっているそうですよ?」

己の背後にいる少女に声を掛けた。

梨花「悪い冗談なのですよ、みぃ」

三浦「…………」

903: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 00:30:00.36 ID:Ak1aP7UAO
伊丹「やってられるか! オイ戻るぞ!」

右京「戻りますか」

伊丹「警部殿たち特命係とは違って、俺たちは暇じゃないんで! 早いところ、被疑者を……」

右京「犯人を確保したいと思うのなら……もうしばらく、ここにいるのが得策ですよ」

伊丹「…………?」

右京「……そろそろです」

伊丹を含むトリオに疑問符が浮かんだその時だった。

魅音「来たよっ! みんな準備して!!」

魅音のかけ声と同時、園崎家敷地内にいた全員が一斉に動き出す。

その瞬間

葛西「全員、伏せろっ!!」

敷地の外で凄まじい音量の射撃音が轟いた。

904: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 00:38:15.10 ID:Ak1aP7UAO
亀山「んの野郎ども! 警察を前に堂々と、お構いなしに打って来るんじゃねえ!」

魅音「強行突破する気だ! 園崎が梨花ちゃんを匿ってるって奴らは確信してる!」

詩音「けど、この強引なやり方……間違いなく敵は焦ってますよ!」

レナ「圭一くん」

圭一「ああ! 作戦通り、俺や梨花ちゃんは沙都子のトラップが仕掛けてある裏山へ逃げる!」

魅音「了解! ここも長く持たないかもしれない、状況次第では私らもそっちへ向かうよ!」

圭一「ああ、とにかく今は敵を分散するぞ!」


芹沢「えっ……えっ!?」

907: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 00:47:26.25 ID:Ak1aP7UAO
三浦「け、警部殿、これは一体どういうことですか!」

右京「詳しく説明をしている時間はありませんっ! 簡単に言えば、武装集団が古手梨花さんの命を狙っています!」

芹沢「ぶ、武装集団!?」

亀山「ああ、軍隊みたいな連中だよ! この雛見沢村を丸ごと消しちまえるような!」

芹沢「め、めちゃくちゃヤバい集団じゃないですか! 何だってそんな奴らがこんな小さい子供を……?」

右京「事情に複雑ですが、我々はこの子を何としても守らなければなりません! あなた方も、手を貸してください!」

芹沢「いや手を貸すって……そんな連中が相手なら本庁に連絡して応援を待ったほうが……!」

三浦「そうです! 下手に動いてはかえって……!」

右京「時間がありません、もはや一刻を争う状況です!」

912: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 00:54:51.02 ID:Ak1aP7UAO
伊丹「…………」

伊丹が脇に目をやると、そこでは二人の少女が互いに声を掛け合っていた。

沙都子「大丈夫ですわ梨花……きっと助かります」

梨花「沙都子……!」

状況はまるで飲み込めない、何が起きているのか分からない、一から十まで、何なら百まで説明を受けたい気分だ。

だが、少なくとも今の状況が緊急事態であり

梨花「沙都子……必ず、また会いましょうです……!」

そして、目の前の小さな子供たちが危機に陥っていることは明らかだった。

伊丹「…………!」

……ならば

伊丹「……俺たちはどう動けばいいんですか、警部殿」

芹沢「先輩!?」

伊丹「俺たち警察が! 目の前で犯罪が行われようとしてるのを、見過ごすわけにはいかねえだろ!」

右京「…………」

伊丹「やりますよ、俺たちは」

919: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 01:12:09.97 ID:Ak1aP7UAO
右京「敵の目標はただ一つ、『古手梨花の確保』です……我々は必然的に、守りながらの戦いを強いられています」

右京「加えて、敵の力は非常に強大……真正面からまともにぶつかり合えば、我々が負けることは火を見るよりも明らかです」

右京「ならば、我々が第一にすべきことは」

伊丹「敵の戦力の分散……!」

その言葉を聞いた右京は伊丹を指差しながら頷きつつ、地図を広げ

右京「そう! それです! よく見てください、我々が今いる地点、園崎家をA……迎撃用の罠が備えられている裏山をBで表しています」

芹沢「AとBに分かれて……ってことですか!」

右京「ええ……さらに、B地点の裏山には表道と裏道の二つの登頂ルートが存在します……」

三浦「A地点の園崎家、B地点の裏山にある表道、そしてその山の裏道の三手に別れる……そういうことですか!」

920: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 01:31:38.07 ID:Ak1aP7UAO
右京「Bの裏山にある表道はこの園崎家から比較的距離が近い……ですが、裏道は周囲を大きく半周しなければ辿り着く事が出来ません」

右京「また、裏道に仕掛けてある罠の位置は複雑であり、仕掛けた本人である沙都子さん以外は扱えないそうです」

亀山「沙都子は梨花と背丈が似てる! 雨具か何かで顔と服装を隠せば、遠目からじゃ判断がつかねえ!」

伊丹「なるほど……つまり『古手梨花』を乗せて逃亡していると相手に思わせて、その実は罠の場所へ誘導すりゃいいんだな?」

右京「その通りです……しかし、当然……武器を持った敵に追われることは避けられません」

右京「裏道へ向かうにはそれなりの距離を走る必要があり……その分、敵から狙撃を受ける可能性も高まります」

伊丹「…………」

亀山「もしもお前らがやりたくねえなら俺がやる! そしたら、お前らには何か別の仕事を……」

伊丹「必要ねえ……こんな大事な仕事、特命係に任せられるか!」

亀山「…………!」

伊丹「こっちは任せろ、俺たちで何としてもやりきってみせる」

922: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 01:39:55.64 ID:Ak1aP7UAO
沙都子「お話は終わりましたの? では早く! ナビゲーションは私が致しますわ!」

芹沢「何が何だか分からないですけど、もうやるしかないですよ!」

三浦「大丈夫かオイ……」

伊丹「ごちゃごちゃ言ってねえで行くぞ!」

亀山「死ぬんじゃねえぞ! 気を付けろ!」

伊丹「ああ、お前もな!」

右京「……亀山くん、僕たちも行きましょう」

亀山「了解!」

926: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 01:53:01.76 ID:Ak1aP7UAO
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雲雀10『こちら雲雀10! 園崎家の裏手より三台の車両が出て行くのを確認!』

小此木「どれかにRが乗っている可能性が高い! 車内の人物は確認できたか!?」

雲雀10「Rに近しい体格の人物を二車両に確認するも、どちらもRであるとの断定は出来ません!」 
小此木「なぜだ! 体格などではなく、顔をしっかり確認しろ!」

雲雀10「それが、両名とも雨具を着用しており顔や服装がまるで見えず……!」

雲雀8『こちら雲雀8、雲雀10と同じく車両内の人物は確定出来ず!』

小此木「ちっ……雨具とは考えたな……!」

雲雀10『こちら雲雀10! 三台の車両のうち、二台は裏山の表道へ! もう一台は別ルートへ向かっています!』

小此木「裏山で籠城するか……それとも更に遠くへ逃げようとしているのか……」

小此木「……やむを得ない、車両追跡部隊を二手に分けてどちらも追え! 絶対に逃がすな!」

933: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 13:51:27.85 ID:Ak1aP7UAO
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某所

鷹野「…………」

状況は最悪だった、こちらの立てた計画に不備が出ていることを嗅ぎつけた『東京』が騒ぎ出しているらしい。

自分が何度、古手梨花は生存していると主張しても、その身柄を拘束できていないことを理由に聞き流されてしまう。

もはや、一刻の遅れも許されない。

鷹野は、無線に叫ぶ。

鷹野「状況は!?」

小此木『目標は三手に分かれたようです、園崎家、裏山の表道、そしてその裏道に』

小此木『現在、それぞれのルートに追っ手を掛けています』

鷹野「まんまと隊を分断されているじゃないの! あなたたちは優秀な山狗でしょう!!」

小此木『少々の遅れを取っただけです、すぐにカタがつくでしょう』

鷹野「急ぎなさい! 私も現場に向かうわ!」

934: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 13:55:17.09 ID:Ak1aP7UAO
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裏山、表道

圭一「よし! ここで一旦散らばるぞ! 各々が自分のルートで登頂して、上で合流しよう!」

レナ「梨花ちゃんは右京さんたちと一緒に動いて!」

梨花「二人とも……どうか気を付けて……!」

圭一「おう、任せとけって!」

レナ「右京さん、亀山さん! 梨花ちゃんのこと、お願いしますね!」

亀山「おう! お前ら、絶対に怪我すんなよ!!」

右京「敵は数が多く、それぞれが銃火器を備えています! 木々や茂みで照準はぶれるでしょうが、十分すぎるほどに危険な相手です!」

右京「くれぐれも、無理をしないように!」

圭一「ああ、任せてくれ!」

935: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 14:03:03.36 ID:Ak1aP7UAO
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圭一「……って、言っときながらこれかよ!」

圭一の前には追っ手の、三人の山狗が立ちふさがっていた。

罠を使いながらそれなりの数を仕留めたと思ったが、裏に回り込んだのが三人も……しくじった……!

鳳5「動くな! 両手を挙げろ!」

圭一「くそ……!」

銃を向けられる、即座に発砲してこなかったのはラッキーだった。

理由はおそらく、古手梨花の居場所を聞き出すためだろう。

圭一「…………」

まだ希望はあった……敵の山狗たちが立っている位置、そこから後ろに数歩下がったところには沙都子のトラップが仕掛けてある。

糸を切れば、吊り下げられた多くの丸太が一気に落下してくる強力なものだ。

何とか……敵をその位置まで誘導できれば……!

936: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 14:12:38.08 ID:Ak1aP7UAO
鳳5「古手梨花の場所へ案内しろ……余計な動きを取れば、その瞬間に引き金が引かれると思え」

圭一「ああ……分かった……!」

鳳1「ずいぶんと手こずらせてくれやがって……それなりの人数が行動不能になった」

圭一「…………」

それなりの人数……おそらく、レナや右京たちも罠を使いながら敵を撒いているのだろう。

周りが奮闘しているのに自分だけ最初に捕まるとは……そう思いつつ、地団駄を踏みたい気持ちを必死に抑えた。

鳳2「古手梨花だったか……あんな可愛げのないガキのために、馬鹿な奴らだ」

圭一「…………」

鳳1「ああ……せめて、どこぞの姫だったら命を懸けて戦ってやってもいいんだがな」

その言葉に

圭一「こんの無礼者どもがァァァ!!」

圭一の、何かが切れた。

圭一「お前らは分かってない! 分かっていない! 梨花ちゃんという存在……ひいては『少女』という存在を!!」

939: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 14:23:40.40 ID:Ak1aP7UAO
圭一「いいかよく聞け猿ども! いつの世の中にも常にヒエラルキーが存在しているのは知っているな!
古代、中世においては目に見える制度として階級たるものが存在していたのは言うまでもないだろう。
だが、欧州の人権宣言を契機に自由・平等が謳われることとなった現代においても、暗黙の了解として階級制度は存在しているのだ!
では、その現代社会における階級ピラミッドにおいて一番上に来るものは何か! 答えてみろ!
……何? 経済を動かしている富裕層? 貴様らァ! それでも誇り高き大和男児か!!
分からないのなら教えてやる、『少女』こそが我々の属するヒエラルキーの頂点に立つ存在なのだ!
汚れを知らぬ純真無垢なその精神、白い絹の如きその柔肌、さらに様々な未来を想起させるボディ!
それら全てが至高かつ最強の存在なのだ!
その証拠に、神話では神々が美しい少女を恋をし、少女を妻として娶ることや、自らの子供を生ませることも珍しくない!
そこから生じたものが『少女=神』であるとする思想だな!
それ故に、八百万の神々を敬うべき大和男児たる我々は常に、少女たちの幸せを第一に考えて行動を取らなければならない!
少女が笑えば一緒になって笑い! 少女が涙を見せれば道化になって笑顔を作り出す!
少女のために生き! 少女のために何度でも死ぬ!
そうして彼女たちをひたすらに愛でなければならないのだ!
近年はその本質も分からぬ一部の暴徒が少女に乱暴をしたなどという話を聞くが、実に嘆かわしい!
全ての少女は人類の宝であり正義! 故に我々の愛は全少女に対して降り注がれるものでなければならない!」

944: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 14:31:01.08 ID:Ak1aP7UAO
圭一「そして、この理念は二次元においても当てはめられると俺は考える!
昨今なされている俺の嫁談義においては、自らのお気に入りのキャラクターを持ち上げ、他キャラを下げる行為が目立つな!
『○○より××のほうが可愛い』『△△とか□□の足元にも及ばない』などという不毛な言い争いだ!
なるほど確かに自らのお気に入りよりも他キャラが評価されているのを見るのは悔しいだろう!
血の滲むような思いがするだろう! その気持ちを痛いほどに俺は分かる!!
だが、しかし! それは決して他キャラを貶めていい理由にはならないのだ!
想像をしてみろ、顔も知らぬ第三者から罵声を浴びせられ貶められ、涙を流すキャラの姿を!
どうだ、身を引き裂かれるほどに辛い気持ちになるだろう! そんな少女がこの世にいてはならない!
男、いや漢ならば! 全ての少女を愛して受け止める、それくらいの気概を見せてみんかい!
あ、でも俺は灰原派なんだよな。最終的に蘭と結ばれることになろうと、俺は哀ちゃんを応援し続けようと思う。
おっと話がそれたな! とにかく、今は『少女』を敬うことを知らぬ、神への冒涜も同然の行為を平気でしてがす輩が増えすぎている!
それもこれも、全ては貴様のように少女を慕い敬うことをしない下衆の極みたる野郎どもが原因だ!
よって、ここに前原圭一の名を持って、貴様ら全員を矯正する! 歯ぁ食いしばれ!!
はいィィィィィ!! 指導指導指導指導指導指導指導指導指導指導ォォォォォォォ!!」

948: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 14:42:27.76 ID:Ak1aP7UAO
鳳2「な、何だ……何を言ってるんだコイツ!?」

鳳1「わ、分からない! 言っていることが意味不明だ!」

意味が分からない、分からないが故に人は恐怖する。

実態の掴めないものに対しては恐怖を覚えるのは生物として当然のことだろう。

未確認生物、幽霊などを人々が恐れるように、鳳1、2は圭一という未知の存在をひどく恐れた。

そして、残る一人は

鳳8「……現人神は、この世に存在したか」

威光にも似た何かを感じ、ただ感嘆の息を付くのみだった。

そうして、圭一に圧倒された三人は一歩、二歩と後退し……そして

罠を発動させ、意識を失った。

圭一「…………」

圭一は見た、最後に鳳8の見せた……悟りのような、清々しさを感じさせる、そんな笑顔を

圭一「……アンタとは、もっと別な場所で出会いたかった……!」

そう言い残し、圭一は走り去った。

951: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 14:54:08.66 ID:Ak1aP7UAO
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一方、沙都子を車に乗せ、山狗に追われながらひたすらに車で裏道へと走るトリオは

芹沢「ちょっとちょっとちょっと! もう少し安全運転出来ないんですか!?」

三浦「道交法違反もいいところだぞ!」

伊丹「武装した連中に後ろから追っ掛けられてる非常事態に道交法なんか守ってられるか!」

芹沢「てかあいつら、普通に撃ってきてますよ!? 俺たちが警察だって分かってるんですかね!?」

伊丹「あいつら絶対しょっぴいてやる……! こっちから発砲は出来ねえのか!」

三浦「無理だ! このスピードでハンドル左右に切りまくってるのに、当たるわけないだろ!」

芹沢「それに窓から顔なんて出したら、確実に狙撃されますよ!」

伊丹「くそっ! 逃げるしかねえのかよ!!」

沙都子「そこっ! 次の角を左ですわ!」

伊丹「っ! もっと早く言えっ!」

芹沢「うわわわわっ!?」

市街地でカーチェイスを繰り広げつつ、裏道へと進んでいた。

954: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 15:42:12.91 ID:Ak1aP7UAO
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園崎家

茜「さあアンタら、気合い入れな! ここが踏ん張り所だよ! 雛見沢の底力、見せてやろうじゃないか!!」

茜の鼓舞によって士気が上がった園崎は山狗を相手に互角以上の戦いを繰り広げていた。

勿論、山狗が分散され、本来の全力を出し切れていないことも大きな要因だが、それでも十分すぎる健闘と言える。

茜「いいねぇ、昔を思い出すよ! あたしも乗ってきた!」

魅音「うわー……絶好調だねぇ、お母さん」

詩音「昔はもっと凄かったみたいですけど……葛西がホの字になったくらいだし……」

茜「魅音! 詩音! ここはあたしらに任せて、アンタらは古手の巫女様のところに行ってやんな!」

魅音「うん……ここより裏山のほうが、あたしたちも動きやすいし……行くよ、詩音」

詩音「んー……もうちょっとお母さんの本気を見たいような……」

魅音「んなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

955: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 16:55:12.80 ID:Ak1aP7UAO
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裏山

雲雀1「…………」

雲雀2「…………」

二人の雲雀は最新の警戒を払いつつ山中を進んでいた。

予想以上に強力な敵の罠に多くの味方が犠牲となったからだ。

そして、いついかなる時にそれらの罠が自分たちへ襲いかかるか分からない恐怖……

雲雀2「くそっ……何でこんな山狩りなんてしなきゃならないんだ……」

雲雀1「集中しろ、古手梨花さえ見つけて確保すれば俺たちの勝ちなんだ………」

雲雀2「ああ、古手梨花さえ見つければ……」

そう呟いていた時、二人の目前に

梨花「みぃ?」

一人の少女が立っていた。

956: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 17:07:52.16 ID:Ak1aP7UAO
雲雀2「!」

両者の緊張の糸が途切れた瞬間だった。

見つけた、この罠が張り巡らされた敵のホームである山の中で、しかも対象が一人きりでいるタイミングで!

雲雀1「つ……捕まえろ!」

そう叫び、梨花へ向かって二人は走り出す。

対象を発見した喜びから彼らは完全に冷静さを失い、まるで気が付かなかった。

『敵のホームである山の中』で『対象が一人きり』でいることなど、あり得るはずがないということに。

亀山「そうはいかねえよ!」

雲雀1「っ!」

武器を完全に下ろしていた状態での背後からの強襲だった。

雲雀2「くっ……!」

反射的に武器へ手をかけた雲雀2だったが

右京「亀山くん!」

知能派とは思えない動きを見せる杉下右京に即座に組み伏せられ

亀山「こっちも大丈夫です!」

雲雀1も既に亀山に押さえつけられていた。

958: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 17:15:19.87 ID:Ak1aP7UAO
梨花「みぃ、僕を囮に使うなんて酷いひどいなのです」

右京「すみませんねぇ……彼らの目的はあなたの確保です、発見しても即座に発砲するはずがないという確信がありましたから」

亀山「大人しく繋がれてろ!」

雲雀1「くそっ……なんてことだ……!」

梨花「しかしどうするのですか? もう沙都子の仕掛けた罠も残り少なくなってきているのですよ……?」

右京「ええ……こちらの攻撃回数は限られています、ならば一度の攻撃で多くの敵を沈黙させなければなりません」

そういいながら右京は、手錠で繋がれている山狗の胸ポケットから無線を取り

右京「失礼……少々、お借りします」

960: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 17:25:42.93 ID:Ak1aP7UAO
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鷹野「小此木!」

小此木「三佐……そちらはどうでした?」

鷹野「どうもこうもないわ……このままだと、確実に私たちの計画は失敗する……!」

鷹野「早くRを捕まえなさい! もう時間がないの!」

小此木「…………」

鷹野の罵声が響く中、無線から

『古手梨花を発見! 繰り返す、古手梨花を発見した!』

小此木「場所を報告しろ!」

『山の頂上付近の表道! 山の頂上付近に古手梨花はいるぞ!』

雲雀13『こちら雲雀13、すぐにそちらへ向かう!』

鳳9『こちら鳳9、同じくそっちへ!』

鷹野「逃がすな! 絶対に生け捕りにして私のところへ連れて来るのよ!」

小此木「…………」

961: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 17:37:47.95 ID:Ak1aP7UAO
小此木「…………」

古手梨花が見つかった……いや、何もおかしいところはない。

これだけの人数で山狩りをすれば、そろそろ発見する者が出てきても不思議ではないだろう。

小此木「…………」

待て……さっき、古手梨花を発見したと言った山狗は自らの所属を宣言していたか?

訓練された山狗は無線を使用する際、常に自らの所属と番号を明らかにするよう刷り込まれている……

当然、古手梨花を発見して動揺していた可能性も考えられるが……

小此木「こちら小此木……先に無線で古手梨花を発見した山狗に告ぐ、速やかに自らの所属と番号を言え」

『…………』

小此木「貴様……一体何者だ!」

その時、他の無線から一斉に叫び声が聞こえてくる。

それを聞くや

『俺の所属は……警視庁特命係! 名前は亀山だ!!』

965: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 18:38:42.57 ID:Ak1aP7UAO
鷹野「どうした! 一体何が……」

小此木「無線をジャックされました……おそらく、今ので山狗をおびき寄せ……まとめて行動不能にしたものと」

鷹野「…………!」

使えない……なんと使えない連中だろうか、どれだけの金をかけて買収したと思っている!

鷹野「……もういい、私が自分でRを捕らえるわ!」

小此木「……三佐」

鷹野「何よ!」

小此木「失礼を承知であえて言わせていただきますが……もはや、時間内における古手梨花の確保は不可能かと」

鷹野「…………!」

小此木「山狩りをするのならそれなりの装備が必要です、時間さえあれば我々も体勢を立て直し、古手梨花捕獲に動くことができます」

鷹野「そんな時間があるわけないでしょう!」

小此木「ええ、そんな時間はない……ですから、もはや無理だと言っているんです」

966: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 19:01:28.50 ID:Ak1aP7UAO
鷹野「もういい……山狗には頼らない、私がこの手でRを殺すわ」

小此木「それが三佐のお望みなら……我々もそのように」

小此木「山を登るのであれば表道からがいいでしょう、このルートは既に多くの山狗が足を踏み入れています」

小此木「その分、敵の仕掛けた罠も少ないでしょう……私は、三佐のバックアップに努めます」

鷹野「…………」

鷹野は未だに諦めてはいなかった、その意思はもはや執念と言ってもいい。

その根底にあるのは、自らの研究を認めさせて祖父と自分の名を歴史に残す……

そんな、ただ一つの願いだった。

967: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 19:12:57.44 ID:Ak1aP7UAO
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一方、カーチェイスを繰り広げていたトリオは

伊丹「オイ! その裏道ってのにはまだ着かねえのか!?」

沙都子「刑事さんの運転が乱暴過ぎてまともにナビゲーション出来ませんのよ!」

三浦「お前、追われてるにしても限度ってもんがあるだろう! もう少し何とかならないのか?」

伊丹「何とかなるんならとっくにやってるってんだよ……!」

芹沢「先輩! 前! ハンドル切って!」

伊丹「っ! だからもっと早く言え!!」

力業で押し切ったドリフトカーブで市街地を駆け抜けるも、山狗の追跡は未だに撒けなかった。

……はずなのだが

三浦「ん……? オイ、追ってきてる車がいなくなったぞ?」

芹沢「えっ……まさか、上手く撒けたんですかね?」

伊丹「何でもいい! この隙に裏道へ急ぐぞ!」

969: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 19:19:14.72 ID:Ak1aP7UAO
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某所

「さすがですね二尉、あのスピードでチェイシングをしていた車を一発で狙撃するとは!」

「前を走っていた刑事さんたちのおかげかな……彼らの豪快なドリフトで、後続の山狗は一瞬スピードを緩めたからね」

「いえ……それでも、この離れた位置から狙撃をするのは……」

「お褒めの言葉は嬉しいけれど、僕はもう行かなくちゃいけない……鷹野さんのところへ」


富竹「彼女を、止めてあげなければいけない」

970: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 19:28:14.97 ID:Ak1aP7UAO
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裏山

鷹野「はっ……はっ……!」

そこまで入り組んだ山ではないが、麓から一気に頂上まで登るのはやはり体力がいる。

鷹野は息を切らしつつ、それでも前に、前に歩を進めていた。

対照的に、その後ろを付いて来る小此木は余裕といった表情を浮かべていた。

山狗の総指揮と務める男は頭が切れるだけではなく、やはり身体能力も優秀だった。

小此木「…………」

ふと、小此木が足を止める。

小此木「三佐……先へ行ってください」

鷹野「…………?」

小此木「……少しばかり、この男とやりあわなければならんようですから」

鷹野「…………!」

小此木の言葉を鷹野はすぐに理解し、一人で山頂を目指し進み始めた。

彼女は見たのだ、小此木の視線の先にいた……その男の姿を

赤坂「…………」

971: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 19:37:15.56 ID:Ak1aP7UAO
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赤坂「先に言っておく、もうお前たちの計画は全て潰した……これ以上の抵抗に意味はない」

小此木「分かってるさ、とっくにな……それが分かっていないのは三佐殿だけだ」

赤坂「なら……降伏するか?」

小此木「そういうわけにもいかないんでね……俺たち山狗は高い金で三佐に買われてる」

赤坂「……金か」

小此木「いや、三佐に対する矜持なんてもうどうでもいい……ただ、暇なだけなのかもしれないな」

赤坂「…………」

小此木「……話はこれくらいだ、お前も退屈だろう」

赤坂「…………」

無言で拳を握る赤坂に対して、小此木は一気に駆け出し

小此木「俺が山狗部隊総指揮総隊長! 小此木だ!」

赤坂「そりゃ良かったな……給料いくらだ?」

973: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 20:08:24.16 ID:Ak1aP7UAO
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山頂

鷹野「…………」

着いた……山頂だ……

鷹野「Rは……どこだ……!」

右京「古手梨花さんならば、ここですよ」

鷹野「!」

鷹野が振り返ると、そこには

梨花「…………」

古手梨花……その周りの囲うように立つ部活メンバー……そして

亀山「あんたの企みもここまでだ!」

右京「…………」

東京の警視庁からやってきた、二人の刑事の姿があった。

974: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 20:31:03.61 ID:Ak1aP7UAO
鷹野「そう……全て、あなたの計算通りだったと言うわけね」

右京「…………」

亀山「やっぱりアンタだったのかよ……なんで、なんでこんな馬鹿なことを考えたんだ!」

鷹野「…………」

鷹野「……馬鹿なこと?」

亀山「当たり前だ! アンタはこんな小さな子供を殺そうとして! 村そのものを消そうとまでしたんだぞ!」

鷹野「…………」

鷹野「……それが、私の全てだったからよ」

鷹野は喉から絞り出すように声を出しながら

鷹野「そして……それは今も変わらない」

懐から銃を取り出し、梨花へと向けた。

975: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 20:48:42.39 ID:Ak1aP7UAO
その動きを見るや、右京と亀山は梨花の前に立ち

亀山「止めろ! もうアンタの計画は終わってる! 今さら梨花を殺して何になるってんだ!」

鷹野「…………」

鷹野「終わって……終わってなんかいないわ、私の夢は……」

鷹野「私と……おじいちゃんの名前を歴史に残す……神になるっていう夢は……終わってなんか……!」

涙で顔を濡らし、嗚咽を漏らしながら、それでも鷹野は銃を構えていた。

……その時

富竹「そうだ……君は終わってなんかいない、でも……終わらせなきゃいけない、こんな悪い夢は」

977: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 21:28:57.99 ID:Ak1aP7UAO
鷹野「ジロウさん……どうして……!?」

驚愕などという言葉では言い表せない衝撃だった。

目の前にいる男は、決しているはずのない……この手で確かに……!

鷹野「有り得ないわ! あなたは間違いなく死んだはずよ! 生きているはずが……」

右京「生きているはずがない……間違いなく、雛見沢症候群を発症させる薬物を投与したはず……」

右京「あなたはきっと……そう仰りたいのでしょうねぇ」

鷹野「…………!」

鷹野「……山狗がH-173を投与する前に、意識を取り戻して逃げ出したのね!?」

右京「いいえ……富竹さんは間違いなく、あなた方に薬物を注射されたそうですよ?」

鷹野「だったら……」

右京「……あなたは、富竹さんにこんなことを言っていたようですね?」

鷹野『自分が注射されているものの中身くらい、ちゃんと把握しておかなきゃダメじゃない』

右京「中身を把握していなかったのは……あなたも同じだったと言うことです」

6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 22:06:57.90 ID:Ak1aP7UAO
鷹野「どういうことよ……一体、どこからがあなたの仕組んだことなの!?」

富竹「…………」

右京「鷹野さん……あなたは、富竹さんが自らの行動を調査していることに気が付きました」

右京「ただし、それほど動揺はしなかった……どういう形であれ、富竹さんはいずれ真実を知ることになる」

右京「それが早くなるか遅くなるかの違いだけ……あなたはあえて、富竹さんを泳がせて自らを調べさせた」

右京「富竹さんは非常に優秀な方です、全ての事実を知るまでにそう時間は掛からない……」

右京「そして、タイミングを見計らい……あなたはこう持ちかける」

鷹野『ジロウさん、あなたには私と一緒に生きてほしいの』

右京「有能かつ地位もある富竹さんを自分の側へと引き込めれば、あなたにとっては非常に都合がいい」

右京「富竹さんは少なからずの好意をあなたに対して持っており、尚かつあなたを信頼していましたからねぇ」

右京「場合によっては、上手く仲間に引き込めるのでは……そう考えたのでしょう」

鷹野「…………」

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 22:19:55.99 ID:Ak1aP7UAO
右京「しかし、富竹さんはあなたの側には付かなかった……当然、そうなるパターンもあなたは想定していたはずです」

右京「全ての真実を知り、尚かつ自らの味方にならないのであれば、富竹さんを生かしておくわけにはいきません」

右京「そこであなたは……H-173と言いましたか、雛見沢症候群の末期症状を引き起こす薬物を用いた殺害の準備を前もって行っていた」

鷹野「…………」

右京「しかし、一つだけ問題がありました……H-173は、既に存在しているはずのない薬物であったことです」

右京「処分されている薬物を所持していることが富竹さんに知られれば、予定より遥かに早い段階で自分に疑いの目を向けられてしまう」

右京「そのような薬物を自ら隠し持っているのは危険です……いつ、富竹さんの目に入るか分かりませんからねぇ」

右京「そこで、あなたは思い付いた……自分だけしか手を振れず、富竹さんは見向きもしないであろう、絶好の隠し場所を」

右京「それが……入江診療所の薬品棚です」

12: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 22:33:20.39 ID:Ak1aP7UAO
亀山「入江先生が言ってたんだよ、入江診療所にある全ての薬品を管理しているのはアンタだって!」

鷹野「…………!」

右京「忍の心得の一つには木陰の大事、すなわち『木を隠すのならば森の中』……というものがあるそうです」

右京「あなたは、それと同じことをしようと考えた……」

亀山「数え切れないくらいに並んでる薬品の中だったら、その薬物を紛れ込ませても目立つことはない!」

亀山「しかも薬品を管理しているのはアンタだ! 入江先生が全ての薬品をチェックするなんてことも有り得ない!」

亀山「アンタはそう考えたんだ!」

鷹野「…………!」

13: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 22:49:01.35 ID:Ak1aP7UAO
右京「しかし……あなたのその『準備行為』が、僕たちの付け入る隙にもなりました」

鷹野「何ですって……?」

右京「以前、僕は富竹さんと入江医師に自らが刑事であることを明かして会ったとき……二人に、ある頼み事をしました」

鷹野「…………」

右京「入江医師には……『入江機関にある全ての薬品を、もう一度調べてもらえないか』と」

鷹野「!」

右京「その結果……この世には既に存在しないはずの、あなたが隠し持っていたH-173が薬品棚から発見されました」

右京「その瞬間、あなたが薬物で何者かを殺害しようとしていると……我々は確信を得られたのですよ」

鷹野「……それで、ジロウさんには何を?」

右京「…………」

右京「『鷹野三四に薬物を注射された場合……効き目があったふりをしていただきたい』と」

14: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 23:01:02.20 ID:Ak1aP7UAO
鷹野「まさか……!」

右京「お察しの通り……入江医師は単にH-173を発見しただけではなく、中身の入れ替えも行っていたのですよ」

鷹野「じゃあ……私がジロウさんに投与したのは……!」

右京「H-173などではありません……ただの栄養剤です」

鷹野「…………!」

右京「富竹さんには、あなた方に『殺害に成功した』と思わせるためにしばらくは行動を控えてもらいました」

富竹「表立った活動をしなかった間に、僕は『番犬』部隊を呼んだ……あとは『番犬』が到着するまでの間、時間稼ぎをしてもらう……」

鷹野「…………」

鷹野「……園崎家に逃げ込んだのも、三手に分かれて逃走したのも、山で罠を使いながら山狗と戦闘したのも」

鷹野「全て……時間を稼ぐためだった……!」

右京「ええ……その通りです」

16: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 23:12:20.91 ID:Ak1aP7UAO
富竹「……もう君の負けだ、鷹野さん」

鷹野「…………」

鷹野「……認められるわけないでしょう、そんなの」

富竹「鷹野さん……!」

鷹野「私は雛見沢症候群の研究に人生のすべてを注いだ……理不尽な思いもたくさんした……」

鷹野「それでも私は耐えた……耐えて見せた……おじいちゃんとの研究が、いつか必ず評価されると信じて」

右京「…………」

鷹野「なのに現実は……雛見沢症候群の研究を三年後に打ち切る……『東京』の派閥争いなんてくだらない理由で!」

鷹野「ここまでやって来て、認められるわけがない……おじいちゃんとの研究を再評価させる……!」

鷹野「おじいちゃんと私の名前を歴史に残して……そして私たちが神になる……!」

鷹野「そのためは……古手梨花の命を奪って! 雛見沢村そのものを消し去ることがどうしても必要だったのに!」

右京「…………」

17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 23:22:33.41 ID:Ak1aP7UAO
右京「神になる……人間ならば、誰もが一度は考えることでしょう」

右京「全人類から敬愛の眼差しを向けられ、自らの意思一つで人々に幸福をもたらす……歴史に名を残すような、そんな神に」

鷹野「そう……だから、私は雛見沢を浄化して……この地の神のオヤシロ様として……!」

右京「いい加減に目を覚ましなさいっ!!」

鷹野「っ!」

右京「あなたの言う歴史に名を残す神がいるように……この世には、まったく別の神も存在しています……!」

右京「人々の命を容赦なく奪い取り、畏怖の対象となっている……『死神』という名の神が……!」


右京「あなたは自分の敬愛するお祖父さんをっ! 『死神』にするところだったのですよっ!!」

29: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 23:37:57.25 ID:Ak1aP7UAO
梨花「…………」

梨花は目の前にいる鷹野が、とても『小さく』見えた。

身体は大きく成長している鷹野ではあったが……根底の部分では自分と全く変わらない……

ただ一つの願いを成し遂げようと、強く思い続けていただけなのだ。

鷹野は既に大人だった、それゆえに願いを成し遂げるためには美しい方法ばかりでは不可能だと理解していた。

曲げられた方法を重ねていくうちに……きっと、取り返しがつかなくなってしまったのだろう。

梨花『こんなのってないわね……羽入』

羽入『…………』

梨花『あれだけ恐ろしいと思った鷹野は、私とほとんど違わない……唯一違うのは』

梨花『私には、頼れる仲間がいた……ただ、それだけ』

羽入『梨花……』

31: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 23:45:41.34 ID:Ak1aP7UAO
その時、山道を登ってきた二つの影が

魅音「梨花ちゃん! 圭ちゃん! みんな無事!?」

梨花「魅ぃ! それに詩ぃも!」

詩音「あらら……何だか、もう全部終わっちゃったみたいですよ?」

そして、その反対からは

沙都子「梨花! ご無事でしたか!」

梨花「沙都子!」

梨花に抱きつく沙都子の後ろから

伊丹「なーにが『ご無事でしたか』だ……俺らはご無事じゃないんですがねえ、お嬢さん!」

疲労困憊した三人が息を切らしながら現れた。

沙都子「あれだけ気を付けろと注意をしていましたのに、皆さんが悉く私の罠に引っかかるからですわ」

伊丹「っ……これだから子供は嫌いなんだ!」

37: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/24(土) 23:52:56.25 ID:Ak1aP7UAO
赤坂「……一足遅かったようですが、どうやら全員無事だったようですね」

梨花「赤坂!」

レナ「あはは……何か、みんな揃っちゃったね?」

圭一「そういや、大石さんはどうしてるんだろうな……」

魅音「さあ……何か裏で色々と動いてくれたみたいだけどね、県警本部の人とやり合ったり」


鷹野「…………」

鷹野「……何だ、そういうことね」

今、分かった……古手の巫女、生まれながらにして神の力を授かった彼女と自分の違いを。

彼女の周りには、あんなにたくさんの人がいる、笑顔の人がたくさんいるのに

自分は……一人きりだ。

38: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 00:02:17.39 ID:dVrvzM8AO
その時だった

大石「だから待ってって言ってるでしょうがっ! 被疑者は確保したも同然の……」

大高「県警本部の捜査指揮に口出しをする権利は君にはない!」

大石「だからってね! 一人の被疑者を捕まえるためにこんな武装してる戦力を引っ張ってくるなんておかしいでしょ!」

見れば、登頂への道を大石と……見慣れない警官、加えて十人ほどの機動隊のような集団が歩いてくる。

亀山「な、何だってんですかあれ……」

右京「…………」

鷹野「…………」

唯一、鷹野は理解していた。

『東京』の息のかかった県警本部の刑事、それが指揮する機動隊……

大高「全員、退避せよ! 鷹野三四は武装した凶悪犯であり、いつ我々を強襲するか分からない!」

亀山「はっ!? 待ってくれよ! 鷹野三四はもう武装解除してる! 今は……」

鷹野「…………」

役に立たなくなった私を、飛べなくなった雛を、始末するつもりなのだと。

39: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 00:07:01.04 ID:dVrvzM8AO
鷹野「フ……フフ……私にはお似合いの最期ね……」

右京「鷹野さん!」

鷹野「さあ、私はここよ! 雛見沢を壊滅させようとした鷹野三四は、ここにいるぞ!」

そう言いながら両手を広げ、全身を投げ出すような格好をする鷹野へ

大高「全員、構えっ!!」

伊丹「オイ! ちょっと待っ……!」

大高「撃てっ!」

県警刑事は、容赦なく発砲命令を下した。

40: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 00:15:12.18 ID:dVrvzM8AO
それは一瞬だった

右京が鷹野三四へ飛び込み、飛んでくる弾を避けさせ

圭一たちが咄嗟に銃の斜線上から移動し

亀山と赤坂が発砲部隊に突っ込み、鷹野への照準をずらした。

その一瞬の間だけ

まるで、『時が止まっている』かのように感じられた。

41: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 00:25:37.74 ID:dVrvzM8AO
伊丹は大高に掴みかかり

伊丹「てめぇこの野郎! 被疑者は非武装だぞ! なんで発砲命令を出しやがった!!」

大高「や、奴は凶悪犯だ! 万が一の危険を排除すべく、こちらから発砲命令を出せとの指示が上から……!」

亀山「上からの指示ぃ!? ふざけるな! 今の発砲命令で、何人の死人が出るところだと思ってんだ!」

赤坂「そして上とは……どうせ、あなたが裏で繋がっているきな臭い連中でしょう」

大高「っ」

伊丹「いいかよく聞け! お前なんざ刑事でもなんでもねぇ!」

亀山「ああ、テメェみたいなのがいるから警察組織が腐ってくんだよ!!」

激昂して大高に殴りかかろうとする二人を

芹沢「ちょっとちょっと! 二人とも、殴るのはダメですって!」

三浦「抑えろ!」

47: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 00:33:04.95 ID:dVrvzM8AO
右京は、自ら撃たれにいくような仕草をした鷹野に対して

鷹野「…………」

右京「鷹野さん! 今、あなたは何をしようとしたのですかっ!」

鷹野「…………」

鷹野「……どうせ、私の夢はもう終わり……だったら、私にこの世で生きる価値なんかない……!」

鷹野「犯罪者になって生き長らえるくらいなら……いっそ、死んだほうが……」

右京「生きなさいっ!! どんなに辛かろうと罪を償いっ! 亡くなったあなたのお祖父さんの分まで!!」

右京「精一杯、生きなさいっ!!」

54: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 00:41:52.64 ID:dVrvzM8AO
富竹「……君は一人じゃない、鷹野さん」

鷹野「!」

富竹「杉下さん……彼女をこんな道へ進ませてしまったのは、周りの環境のせいもあります」

富竹「僕が彼女の抱えているものに気付けていれば……僕が彼女の力にもっとなれていれば……!」

富竹「……鷹野さん、何も出来なかった僕のことを許してほしい」

鷹野「ジ……ジロウさん……!」

富竹「そして……願わくば、これからも君の側で……!」

鷹野「…………っ」

富竹の腕にすがって、鷹野は大声をあげて泣いた。泣き続けた。

今まで現れることのなかった、鷹野自身ですら求めようとしなかった理解者が

今は、すぐ側にいるのだから。

57: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 00:46:13.31 ID:dVrvzM8AO
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赤坂「大高はやはり、『東京』から指示を受けていたようです……まあ、本人に『東京』という組織の自覚はありませんでしたが」

赤坂「山狗も番犬が抑えました……全て、片が付いたと言っていいでしょう」

右京「ご苦労さまです、あなたには大変お世話になりました」

赤坂「こちらこそ……杉下警部」

右京「何でしょう」

赤坂「いえ……機会があったら、また……いずれ」

右京「ええ、いずれ……また」

58: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 00:55:18.42 ID:dVrvzM8AO
鷹野「…………」

鷹野は連行される直前

鷹野「ねえ……名前を聞かせてもらえないかしら?」

右京「名前、ですか?」

鷹野「考えてみれば……私、あなたから一度も自己紹介をされていないのよ? 最後くらいは、ね?」

右京「…………」

右京は胸元から警察手帳を取り出し

右京「警視庁特命係、杉下右京です」

亀山「同じく、亀山薫です」

鷹野「杉下右京……亀山薫……いい名前ね」

59: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 00:58:53.49 ID:dVrvzM8AO
鷹野「杉下右京さん……一つだけ、あなたの推理に間違っているところがあったわね」

右京「おや……それは、どこでしょう?」

鷹野「あなた……」

右京『有能かつ地位もある富竹さんを自分の側へと引き込めれば、あなたにとっては非常に都合がいい』

右京『場合によっては、上手く仲間に引き込めるのでは……そう考えたのでしょう』

鷹野「そう言ったわね?」

右京「ええ、間違いなくそのように」

鷹野「……私がジロウさんを仲間に引き入れたかったのは、彼が優秀だとか監視員だとか、そんな打算的な目的じゃなかったのよ?」

右京「…………?」

鷹野「ただ、『彼には、私の側にいてほしかった』……それだけの簡単な理由よ……」

62: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 01:01:23.19 ID:dVrvzM8AO
右京「…………」

亀山「……最後に、やられちゃいましたね?」

右京「…………」

右京「亀山くん」

亀山「何ですか?」

右京「…………」

右京「……女性の恋心とは、実に読めないものですねぇ」

亀山「……否定はしないっすよ」

65: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 01:09:05.55 ID:dVrvzM8AO
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魅音「えっ!? 右京さんたち、もう帰っちゃうの!?」

右京「元々、『綿流しの警備』が僕たちの仕事でした」

亀山「『綿流し』の後もこの村にいたからな、さすがに戻らないと……ねぇ、右京さん?」

右京「そうですねぇ……つまりは、そういうことです」

圭一「そっか……そうだよな……けど、また会えるよな!」

右京「ええ……いつか、必ず」

沙都子「あの……右京さん、亀山さん……私、その、まだちゃんとしたお礼を言えて……」

亀山「なーに言ってんだよ、馬鹿なことで悩むなっての」

69: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 01:19:25.35 ID:dVrvzM8AO
レナ「レナも……お父さんのこと……本当に……!」

右京「僕たちは、何か特別なことをしたわけではありません……単なるお節介に過ぎませんよ」

詩音「私も……悟史くんのことばかり考えちゃって暴走した時、二人のおかげで……!」

亀山「あれは俺たちより、圭一たちに感謝しろって言っただろうよ?」

詩音「それでも……本当に、ありがとうございました」

梨花「…………」

右京「…………」

右京「……長い、数日間が終わりましたね?」

梨花「……二人のおかげなのです、僕だけの力ではとても……」

右京「おやおや……これはまた、ずいぶんと不思議なことを言いますねぇ」

梨花「…………?」

亀山「自分で言ってただろ、『助け合えるのが仲間、友達』だって」

右京「ならば、助けるのは当たり前のことじゃありませんか……僕たちは、『友達』なのですから」

74: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 01:34:23.70 ID:dVrvzM8AO
亀山「なっ、お前もそう思うだろ! 沙都子!」

沙都子「ええ、友達は本当に良いものですわ……それをきっかけに、過去に自分のしてしまった罪も見つめ直すことも……」

沙都子「…………!」

詩音「沙都子……!」

右京「…………」

右京「……一つだけ」

沙都子「?」

右京「沙都子さんにとっては辛い記憶でしょうが……二年目の鬼隠しとされる、あなたのご両親が被害者となった事件」

右京「それについて、沙都子さんは」

沙都子『両親の手が私の肩や腹部に触れて……恐ろしい笑みを浮かべながら……私も谷底へ引き込もうとして……』

右京「そう言っていました……」

梨花「それが……どうかしたのですか?」

右京「これは何の根拠もない、僕の個人的な推察なのですが……」

右京「沙都子さんの両親は、沙都子さんを道連れにしようとしたのではなく……」

右京「彼女を……助けようとしたのではありませんか?」

75: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 01:47:55.00 ID:dVrvzM8AO
沙都子「私を……助けようと……?」

右京「ずっと気になっていました……何故、谷底へ落下する直前の人間が笑みを浮かべるのだろうと」

右京「また……肩や腰という体の根幹部分には手を触れているのです、引っ張る気になれば服だろうとなんだろうと掴むことは出来ます」

亀山「けど、沙都子は谷底へ落ちてないって事は……引っ張る意思がなかった?」

右京「我が子の体に触れ、笑みを浮かべ、それでいて道連れにしようとしたわけではない……これらを結び付けるには」

右京「自分たちと共に沙都子さんが谷底へ落下しないよう突き飛ばし……あなたの安全を確信した安堵感から、笑顔になった……」

右京「このように考えるのが、最も合理的だと僕には思えるのですがねぇ」

沙都子「……っ!」

右京「あなたのご両親は、谷へ落ちる最後の瞬間まで子供のことを考え続けた……本当に、素晴らしい方々だったのだと思いますよ?」

亀山「過去を見つめるのもいいけど、右京さんが言ったことも忘れないようにな」

76: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 01:51:09.45 ID:dVrvzM8AO
沙都子「…………」

沙都子「……お二人には、もう何も言えませんわね」

梨花「そうなのです……感謝という言葉だけでは、この気持ちを表すことは出来ないのですよ」

右京「…………」

梨花「……さよならは言わないわ、また……必ず会えるって信じてるから」

右京「では、僕たちもそのように……『また、会いましょう』」

亀山「『またな!』」

そう言って背中を向ける二人に、梨花は最後の……

どうしても聞きたかった問いを投げ掛ける。

77: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 01:54:05.80 ID:dVrvzM8AO
梨花「待って! どうしてあなたたちは……最後まで諦めずに戦い抜けたの……?」

右京「…………」

亀山「…………」

二人は

私の問いかけに小さく笑いながら

右京「僕はただ、真実が知りたかっただけです」

亀山「俺は、この人の相棒だからな」


そう言って……彼らは、雛見沢から去っていった。


梨花「……ありがとう」

81: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 02:02:30.53 ID:dVrvzM8AO
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警視庁、特命係

亀山「いや、なんていうか……濃い数日間でしたねー」

右京「ええ、僕も珍しく君と同感です」

亀山「何かこう、色々と不思議な体験もしましたよ! 頭の中に声が聞こえたり……なんて気のせいっすけどね!」

右京「君の神のお告げはともかく……不思議なことは、実際に起こり得るものなのですねぇ」

亀山「えっ、何か右京さんにもあったんですか? あの村で」

右京「時間跳躍です」

亀山「……はい?」

85: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 02:07:42.96 ID:dVrvzM8AO
亀山「時間跳躍って……な、何ですかそれ!?」

右京「君は少しも疑問に思いませんでしたか? あの村の様子を見て」

亀山「えっ?」

右京「僕たち以外、誰も携帯電話を持っていなかったじゃありませんか」

亀山「いや……田舎なんですから、携帯持ってないくらいで、なーにを言ってるんですか!」

右京「決定的なのは、鬼隠しがあった事件の日付です……君も資料は見たはずですよ?」

亀山「鬼隠しがあった日付……確か……」

『昭和54年6月24日……ダム工事現場の……』

亀山「えっ……えっ!?」

右京「君は、とっくに気が付いているものだとばかり思っていたのですが……」

87: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 02:10:46.33 ID:dVrvzM8AO
亀山「じゃ、じゃあなんですか? あの村は過去の村で……俺たちはタイムスリップでもしてたってことですか?」

右京「可能性は、十分に考えられると思いますよ?」

亀山「ははっ、まっさかそんなことあるわけないじゃないですかー! 資料の間違いとか、そんなんですって!」

亀山「第一、それが本当なら俺たちへ来た『綿流しの警備』って依頼は誰から来たって言うんです?」

亀山「何にしても! タイムスリップなんて有り得ないですって、このご時世!」

右京「君、夢がありませんねぇ……不思議なことの一つや二つ、あってもいいじゃありませんか」

亀山「……なんか右京さん、こういう話、好きですよね?」

91: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 02:17:15.56 ID:dVrvzM8AO
角田「よっ、お二人さん! 暇か?」

亀山「お久しぶりです、角田課長!」

角田「もうねーお前らがいないと仕事に身が入らねえんだよな、何でか知らないけど」

角田「って、そうじゃなかったな……あれだ、二人にお客さんだ」

亀山「客? 俺たちにですか?」

角田「そうそう、なんでも『大恩ある特命係の杉下さんと亀山さんにお礼が言いたい』って」

亀山「へー、どんな人ですか?」

角田「男が一人で他は女だったな。いやー女は綺麗な人ばっかりでさ、中には双子もいたんだよ」

亀山「……男一人で、あと女の子で、双子がいた? もしかして……6人組だったり、しないっすよね?」

角田「そうそう6人組! 二十代から三十代ってところかねぇ?」

亀山「…………」

亀山「……右京さん」

右京「行きましょう」

95: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/08/25(日) 02:26:14.88 ID:dVrvzM8AO
右京と亀山が待合室へ向かう、そこには見覚えのある六人がいた。

雰囲気こそ僅かに変わってはいたが、二人は確信できた。

彼らは間違いなく、自分たちの『友達』であると。

共に戦い抜いた、『仲間』であると。

二人は部屋に入り、そして彼らと顔を合わせる。

そして、右京は笑顔で語りかけた……

右京「『また、お会いしましたね』……以前と同じ、この時期に……そう」


右京「--ひぐらしのなく頃に」

fin