阿良々木暦「時定高校?」 前編

238: 赤春巻き 2014/01/10(金) 22:40:58.42 ID:eS8/6wHB0
012

驚くほどあっという間に時間は過ぎていくものだ。

呆気なく、何もなく、平坦な時間がけが過ぎていく。

この研究所独特の空気とでも言えば良いのであろうか。

その独特の空気に流されて流されて、12:00という時間になってしまっていた。

深夜ではない、正午のほうである。

さすがに朝から深夜までをボーッと過ごせるヤツはドラえもん以外にいないだろう。

しかし正午ではあるがそれよりも前に昼食は済ませてしまった。

メニューに関しては言及する必要はないだろう。

相変わらず美味しい料理の数々であった。

戦場ヶ原に食べさせてやりたいぐらいだった。

きっと戦場ヶ原も感銘を受けて涙を流すと同時に言葉にならない感動を覚えることだろう。

涙は流さなかったとしても、

初めて食べた時は誰でも感動で体が動かなくなるだろう。

僕はその辺にある高級フレンチレストランのフルコースを食べるのより

なのちゃんの素朴で美味しい料理を食べる事を全力で推し進める。

そのくらい、美味しい昼食であった。


引用元: ・阿良々木暦「時定高校?」 




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239: 赤春巻き 2014/01/10(金) 22:45:41.57 ID:eS8/6wHB0
そんな美味しい昼食を食べ終えた僕は満腹、至福の一時を過ごしていたのだった。

昼食の後寝ると牛になるだとかいうことを噂で聞いたことをあるが、

そんなことはお構い無し。

僕は堂々と肘をついてテレビを見るのであった。

なんというグータラぶりであろうか・・・。

受験生のやる行為ではないよな・・・。

とは言っても勉強するための教材も何もないので勉強はできない。

という事を口実に僕はこうして堂々とテレビを見ているのであった。

240: 赤春巻き 2014/01/10(金) 22:52:45.22 ID:eS8/6wHB0
今テレビでは何が放送されているかというと、

ジャンルで言うとバラエティー番組が放送されている。しかも再放送である。

僕はバラエティー番組にはあまり興味はない。

だが、『埼玉県貧 問題』とかいうフレーズが聞こえたので

少し眺めているだけである。

僕に、『胸の話にしか興味がない変態』という

視線を向けられていないか不安であったが、

よく考えてみれば今この部屋にはなのちゃんもはかせもいないので

そんなことはないだろう。

241: 赤春巻き 2014/01/10(金) 23:04:10.04 ID:eS8/6wHB0
「阿良々木さーん?」

なのちゃんの元気な声が聞こえた。

番組の音声に集中していても生の人の声というものは耳に自然と入ってくるものだ。

「ん?なんだい、なのちゃん」

「今から相生さんと長野原さんと水上さんと会ってくるんですけど

阿良々木さんも行きます?」

まさかのなのちゃんからのお誘いじゃあないか。

さっき僕が何をしでかしたのか覚えていないのだろうか。

僕を再び女性の前に召喚するということは、どれ程のリスクがあるかわかないのであろうか。

いや、待て。

相生さん、長野原さん、水上さん、という三人の人物が女性とは限らないじゃないか。

なのちゃんとどういう関係なんだ?

「それって誰だ?」

三人をひとまとめにして『それ』とは何とも失礼極まりないきがしてならないのだが、

言ってしまった後に考えてもしかたがない。

「あぁ、相生さんと長野原さんと水上さんは私の友達ですよ。

同級生の」

なのちゃんの友達か。

ってことは多分女性だよなぁ。

なのちゃんが男三人と遊ぶことはないだろうし。

あ、内二人が男で残り一人が女子の可能性だってあるかもしれないな。

でもそれだと僕邪魔にならないか?

・・・まぁ、わざわざ誘ってくれるぐらいなんだから迷惑ではないのであろう。

なんとなくどのような容姿なのか気になるところでもあったので、

僕は

「うん、じゃあ行くよ」

と返事を返すのだった。

242: 赤春巻き 2014/01/10(金) 23:09:37.11 ID:eS8/6wHB0
「わかりました、じゃあ行きましょう」

「あぁ、そうだな」

幸い僕の今の格好はパジャマでありながら外に出ても恥ずかしくないような格好であるので

着替える手間が省けるし、それ以外に別に身支度するものは特にないので、

すぐに出発できそうだった。

「あ、その前に・・・」

「ん?なんだ?」

「寝癖、直しておいたほうがいいと思いますよ?」

「へ?」

・・・そうか、髪型が滅茶苦茶であったか。

思わぬところが乱れていたな。

243: 赤春巻き 2014/01/10(金) 23:16:40.94 ID:eS8/6wHB0
そんななのちゃんの忠告を受けてからしばらくして、

僕の頑固な寝癖は元通り、いつもの髪型へと戻された。

やっぱりこの髪型が一番しっくり来るなぁ。

これでこそって感じ。

・・・まぁ、その割にはついさっきまで髪の毛があらぶっていたことを

まったく知らなかった訳なんだけれども・・・。

僕にだって忘れてしまうことはあるさ!

忘れてしまってもこの髪型がしっくり来るんだ!

「準備できたぜ」

「あ、やっとですか、それじゃあ行きましょう」

やっとですか、というのは僕が寝癖直すのが遅いということを遠回しに言っているのであろうか。

なのちゃんは女子だからな。

そりゃ髪型に関しては勝てっこないでしょう。

ちなみに僕はパジャマではなくちゃんとした私服に着替えておいた。

いくら自然と言ってもパジャマはパジャマである。

パジャマは寝るときに着るもの。

外に出るに相応しくない格好。

改めて考えた結果そう思ったのである。

244: 赤春巻き 2014/01/10(金) 23:22:23.09 ID:eS8/6wHB0
僕は靴を履いてなのちゃんの後ろをついて行く。

改めて今年の夏は暑いと思った。

否・・・快適なエアコンが効いた部屋から出てきたからそう感じるだからかもしれないが。

でも、平年よりも暑いことは確かであろう。

コンクリートごと溶けてしまいそうだ・・・。

何か帽子か何かを被ってくれば良かったなと今さら公開するのだった。

とりあえず脱水症状には気をつけて歩いていこう。

幸い塩分が摂取できる飴は二、三個所持している。

水分と程よく舐めれば、脱水症状になることは恐らくないであろう。

245: 赤春巻き 2014/01/10(金) 23:27:54.09 ID:eS8/6wHB0
ちなみになのちゃんは僕とは違い、用意周到。

スポーツドリンクも持っているし麦わら帽子も被っている。

汗の渇きやすい通気性の良いワンピースを着ていて、

忍に似たような格好になっていた。

忍のワンピースと違うのは、背中の露出度合が少ないところである。

忍のワンピースなんかは後ろから手を突っ込んだら胸まで到達しそうな感じなのだが、

なのちゃんのワンピースはそんな隙を一切与えない程の隙間しかなかった。

もちろん隙間から手を入れて胸まで到達することはできないであろう。

・・・その辺も用意周到だなと思った。

246: 赤春巻き 2014/01/12(日) 21:23:01.17 ID:IdHR7o+o0
集合場所は公園だと言っているのは聞いたが、その公園は以外と近かった。

研究所から徒歩で数分くらいであった。

その間僕はおとなしくなのちゃんの後をついていっただけであった。

何故僕が会話を交わさなかったのかと聞かれれば特に理由もないのかもしれないけれど、

強いて言うのならばなのちゃんのお友達に会うという事で緊張しているせいかもしれない。

まぁ。そこまでガッチガチに緊張しているわけではないけれど。

ほんの少し心に余裕が無くなったというだけのことだ。

247: 赤春巻き 2014/01/12(日) 21:29:40.68 ID:IdHR7o+o0
その公園は浪白公園よりもずっと狭かった。

浪白公園の四分の一くらいの大きさであろうか・・・。

それでも十分に広い公園だと僕は思う。

何より、浪白公園が大きすぎるのだ。

東京ドームで表すほどの大きさではないけれど、そのくらい大袈裟に表現してもいいくらいに

広いしな。

それに比べてなんだかこの公園は住宅街の中にひっそりと佇む、

地域住民の憩いの場であって、子供たちの遊び場であって、老人たちの休憩スポットである。

そんな感じの雰囲気を感じる公園だ。

滑り台、砂場、ジャングルジム。

遊具も申し分ない。

朝から夜まで遊び尽くせるとまではいかないが、

ちょっと寄り道するくらいなら十分であろう。

248: 赤春巻き 2014/01/12(日) 21:35:37.14 ID:IdHR7o+o0
長々と説明してきたが、僕の目にはもう公園にいる三人の人影が見えている。

特になのちゃん程目立った特徴を感じることはなかった。

左から順番に、

茶髪のセミロングで半袖とジーンズを着用している女の子。

青い髪の毛で髪止めで髪を止めているワンピースの女の子。

黒髪のロングで眼鏡をかけた大きな帽子を被ってる女の子。

どれも至極普通の女子高校生であった。

ていうかやっぱりなのちゃんの友人は全員女の子だった。


249: 赤春巻き 2014/01/12(日) 21:41:13.44 ID:IdHR7o+o0
「おーなのちゃん!!スラマッパギー!!」

「なのちゃん、よく来たねー」

「弥勒菩薩像」

なんということだ。

挨拶一つで常識人が青い髪の毛の娘だと分かったかもしれない。

あくまでも推測だが。

もしかしたら全員変人、又は全員凡人かもしれないし。

「はい、皆さんお待たせしましたー」

「もうかれこれ5分は待ったよー!

いやいや、なんで地球って大きいのに太陽は私たちだけを照らすのかなー!」

「いや、太陽は私たちだけを照らしてるつもりはないと思うけど・・・」

茶髪の娘は天然、もしくは元気なおバカさん?

というとなんだか失礼なのでおバカさんは抜いて元気という言葉だけを残しておこう。

250: 赤春巻き 2014/01/12(日) 21:46:52.06 ID:IdHR7o+o0
「ところで・・・なのちゃん」

「ん?何ですか、相生さん」

「その・・・身長低めの男の人、誰?」

「!!!」

いきなり痛いとこ突いて来やがったこの娘!!

僕の身長があまり大きくないことを、そのことを僕が少々気にかけていることを、

突いてきやがった!!

エスパーなのだろうか!

この娘は僕の心を見透かせるのか!?

「・・・身長低めで悪かったな」

とりあえず絡まった様々な感情を抑え込んで、僕はその一言で済ましておくのだった。

「あ、なんかごめんなさい・・・」


251: 赤春巻き 2014/01/12(日) 21:52:09.88 ID:IdHR7o+o0
謝られてしまった。

ー否、謝らせてしまった。僕が。

なんだか申し訳ない気持ちになってこっちが謝りたくなったものだが、

とりあえずまず僕は僕が何なのかを言わなければならないだろう。

「あ、あのこの人はいろいろあっていま研究所に住んでいるお方です」

「へぇー、何か怪しいねぇなのちゃん?」

とんでもないことを言いやがる、茶髪。

男と女が同棲ってだけで怪しまれるとは。

「いやいや、何もありませんから・・・!!」

「そう?」

「あ、そうだ、自己紹介は自分でお願いしますね」

「あ、うん」


252: 赤春巻き 2014/01/12(日) 22:00:42.32 ID:IdHR7o+o0
とりあえず、僕のこの後の印象がどう崩れようと、どう壊れようと、

大切なのは第一印象だ。

第一印象が最悪だと立て直すのが難しい。

ここは出来るだけ自分自身をアピールするような自己紹介をしなければ。

「えっと・・・僕の名前は阿良々木暦だ。

いろいろな事情があっていまなのちゃんの研究所にお世話になっている。

高校三年生だ。

君たちが通っている高校とは違うとこに通っているよ」

世界も違うが。

「まぁ、まさかこうしてなのちゃんのお友達に会えるとは思えなかったから、

思いのほか感動しているよ。

そう長くは研究所にはいないだろうけど、数日間宜しくな」

「ちょ、ちょっといろいろ疑わしいんですが・・・」

と、青髪の女の子。

「なのちゃんの研究所に泊まっているとか、高校生三年生に見えないと言うか・・・」

「悪かったな!身長が低くて・・・」

「あ、すいませんね」

否定するのかと思ったらやっぱり身長かよ!

そんなに背が低いか!!

・・・低いな。

253: 赤春巻き 2014/01/12(日) 22:07:02.34 ID:IdHR7o+o0
「まぁ、よろしくー!

なんだっけ・・・あ、あららぎぎいさんでしたっけ」

「僕の名前をメソポタミア神話における上級の神々に支配された下級の神々を表す用語みたいな

名前で僕を呼ぶな!!僕の名前は阿良々木だ!」

「すいません、忘れてた・・・」

「いいや、わざとだ」

「数日間宜しくお願いしまーす!」

「いやそこは噛めよ!!」

「?」

「あ、いやなんでもない」

相手が噛んだら即このネタを使おうと思ったらこのざまである。

僕は

意味のないツッコミを意味のわからないタイミングで入れたかわいそうな少年になってしまった。

254: 赤春巻き 2014/01/12(日) 22:12:07.38 ID:IdHR7o+o0
「とりあえず宜しくお願いします!

私の名前は長野原みおです!高1です」

「水上麻衣・・・愛と純情の高校生1年生・・・

特技は弥勒菩薩像の生成」

「私は相生裕子!!ゆっこで呼んでね」

黒い瞳の奥から何かを感じる黒髪の女の子以外は意外と普通そうであった。

なんというか、麻衣ちゃんは未知なる何かを隠していそうであった。

255: 赤春巻き 2014/01/12(日) 22:16:25.80 ID:IdHR7o+o0
「あと、今更ですがいいですか?阿良々木さん」

「ん?なんだいなのちゃん」

「先程『ぎぎい』メソポタミア神話における上級の神々に支配された下級の神々を表す用語と

おっしゃっていましたけど、あれは『ぎぎい』ではなくて『イギギ』ですから」

「なのちゃんは何でも知ってるな」

「何でもは知りません、wikipediaに載ってることだけです」

「意外とネットを駆使している!?」

・・・たとえwikipediaだとしてもイギギを知ってるって何者なんだよ。

256: 赤春巻き 2014/01/12(日) 22:24:04.91 ID:IdHR7o+o0
ちなみに僕もイギギはたまたま検索してたらwikipediaで見つけた程度で、

メソポタミア神話における上級の神々に支配された下級の神々を表す用語というのも全て

wikipediaに載ってることであって、大してイギギに対してなんの知識も持ち合わせていない。

「ところで、裕子ちゃんはゆっこって呼ぶけどさ、

みおちゃんと麻衣ちゃんの事は何てよべばいいんだい?」

「うーんそうだなぁ、

まぁ私のことはそのままみおちゃんって呼んでくれればいいですよ」

「分かった、ちゃんみお」

「ちゃんみお!?何故その呼び名を知っている!?」

ふざけて適当に思い付いた言葉を言ったつもりだったが、

既にその呼び名はあったらしい。

まぁちゃんみおって呼びにくいし僕はみおちゃんってよべばいいか。

「麻衣ちゃんは何て呼べばいいかな?」

「私は・・・何でもいいよ」

「そうか、じゃあマイマイっていうのはどうだ?」

「・・・それは西尾維新著『化物語』に登場する八九寺真宵のパクり」

うおっ!?

メタネタを挟んできたぞこの娘!!

かなりネタに対応してくれそうだ!!

「そ、そうかじゃあ単純に麻衣ちゃんでいっか」

「・・・うん」


257: 赤春巻き 2014/01/12(日) 22:32:33.23 ID:IdHR7o+o0
なんだかこの娘の一言一言には重みがあるなぁ・・・。

深く吸い込まれそうな声というか・・・なんというか・・・。

癖になりそうと言えば癖になりそうであった。

麻衣ちゃんのドラマCDが出たらそれを聞きながらゆっくり眠れるであろう。

「ところで、ここに何しに集まったんだ皆は」

「あ、私の家で遊ぼうって事になったので皆さんに集まっていただいたんです。

阿良々木さんの自己紹介も兼ねて」

「あぁ、そうだったのか・・・

ってことは皆僕がここに来ることを知っていたのか!?」

「いや、阿良々木が来ることは知らなかったですけど、

なんだか男の人を連れてくるってことは聞いていました」

みおちゃんの他の二人もそのことを知っていたようだ。

258: 赤春巻き 2014/01/12(日) 22:35:51.15 ID:IdHR7o+o0
「でもここに集合するんじゃなくて、研究所の前に集合すればよかったんじゃないか?」

「私も今思いました・・・。

私が集合場所を公園って言ったばかりにこんな炎天下の中で待たせてしまったんです・・・」

「いやいや、別に大丈夫だよなのちゃん」

「そうだよ、みおちゃんの言う通りだ

誰も責めることはないさ」

「・・・そうですよね!

じゃあ研究所に向かいましょうか!」

259: 赤春巻き 2014/01/12(日) 22:44:57.49 ID:IdHR7o+o0
そんな具合で研究所へと向かうにであった。

向かうというよりは戻ると言った方が良いだろう。

研究所・・・即ち家とは、様々な世間の目をたった数人にまで減らすことが出来る。

そんな場所である。

世間の様々な目の前で目立った行動を起こすのは少々ためらいはあるものだが、

それが数人になればいとも簡単にできてしまうであろう。

そんな研究所に今僕は女子高生4人を連れていくのである。

・・・何もしないという方がおかしいだろう。

少なくとも僕はそう思う。

たった4人・・・いや、5人と一匹の視線なんて僕に対してはなんの障害でもない。

忍の視線はもう慣れているのでどうでもいい。

これで何もアクションを起こさないなんて、それはないであろう。

二日連続でこんなに堂々と女の子と戯れることが出来るのは、

この世界に来た恩恵とも言えよう。

262: 赤春巻き 2014/01/13(月) 17:28:00.42 ID:dN1/Bmjw0
013

再び研究所へと戻った所で僕は半分にやけかかってしまいそうになってしまった。

何か誤解を受けそうなので耐える他に道はないので耐えることにした。

「おじゃましまーす!」

「あ、ゆっこだ!」

「わーい!はかせ!」

「カブトムシー」

「いえーい!ピースピース!」

・・・すげぇ仲良いなこの二人。

なんというか歳の差を感じさせないなぁ。

ゆっこがはかせに合わせているのかそれとも、

ゆっこは合わせているつもりはないけど偶然フィーリングが合ったのか。

まぁ前者だろうな。

264: 赤春巻き 2014/01/13(月) 17:52:04.24 ID:dN1/Bmjw0

「はかせはゆっこのこと知ってるんだ」

「当然なんだけど」

「え、何回もきているのか君たちは。この研究所に」

「結構な頻度で来てるよ!

月に15回は来てるんじゃないかな?」

相変わらず元気な声で返答してくれるゆっこである。

それにしても仲が良いな本当に。

なんか呑み込まれてしまいそうなくらい固い結束で結ばれているような気がするよ。

「じゃあ皆さん上がって下さい」

「おう」

そういって僕と女子高生四人は研究所の床へと足を着ける。

玄関の扉が静かに閉ざされることによって、

この研究所は不完全だけれども密室になったのだ。

僕となのちゃんとみおちゃんと麻衣ちゃんとはかせと忍と阪本だけの空間だ。

世界でたったこれだけしかいない空間が今作られたのだ。

外からは見られてはいない。

音は漏れてしまうかもしれないが、

別に地域住民はどうとも思わないだろう。

265: 赤春巻き 2014/01/14(火) 00:14:39.50 ID:Lokw+LXw0
「じゃあお茶持ってきますねー」

「「「「はーい」」」」

四人全員が息の合った返事をした。

僕の低温の声がよく目立った返事だった。

それもあたりまえである。

今、僕はハーレム状態にあるのだから。

そういえばこの世界に来て会話を交わした男は阪本くらいかもしれないな。

このままだと僕、女の子としか会話ができなくなる病にかかってしまいそうだ。

・・・いや、もうかかってたか。

元の世界じゃもっぱら女の子としか話してないからな・・・。

僕の宿命なのかもしれない。

生涯女の子としか話さなくてはいけない宿命。

なんだか嫌な宿命である。

266: 赤春巻き 2014/01/14(火) 00:20:58.68 ID:Lokw+LXw0
「はいどうぞー」

なのちゃんが持ってきたお盆の上には人数分のお茶が入っているコップがのっていた。

ちゃっかり和菓子も人数分居座っていた。

「ありがとう、なのちゃん。

本当になのちゃんは優しいねー」

なんて僕は褒めてみる。

「いえいえ、そんなことはないですよー」

「いや、でも本当に優しいよ、気が利くし」

「えー・・・?そうですか?」

「そんななのちゃんだからこそ、今言うけど。

・・・胸もま」

「ダメです」

僕はなのちゃんの両手によって口を塞がれてしまった。

ということは意図的ではないとはいえ、僕はなのちゃんの手にキスをさせられているということである。

しているのではない。

この場合なのちゃんが両手を僕の口に押し付けてきたので僕はキスをさせられているのだ。

人によっては『それはキスに入らねぇよ』って人もいるかもしれないが、

僕にとってはこれもキスである。

267: 赤春巻き 2014/01/14(火) 00:26:53.47 ID:Lokw+LXw0
「あれ、なのちゃんと阿良々木さんってそんなに仲良いの?」

「いや、違うんですよ長野原さん、これは・・・」

「あのね、昨日は猫の格好してイチャイチャしてたんだけどー」

「「はかせ!!」」

なのちゃんと僕は別に意志疎通しているわけではないが、

あまりにも突然言うものだから反射的に同時にはかせの名を叫んでしまった。

「」

「あ、いや引かないで下さいよ!!

これには深い事情がありましてね!?」

「そ、そうだよみおちゃん!!

僕がそんなことする人間に見えるかい?」

「・・・見える・・・。

なんでだろう・・・さっきまでエリート高校生に見えたのに」

「独り言のように言われると傷つくんだけれども!!」

ともかく、僕の第一印象は会って10分もしないうちに崩壊した。

まぁ自業自得だが。

268: 赤春巻き 2014/01/14(火) 00:40:22.68 ID:Lokw+LXw0
「・・・というかこれいいネタになるなぁ」

「ん?なんだいみおちゃん」

「これは今度の漫画のいいネタになるぞ・・・」

何やら様子が可笑しいぞ・・・。

なんというか目を光らせている。

何やら邪気を感じるぞ。

「別の世界からの住民・・・。

それはまさかの超クールアンドビューティーアンドスマートアンドエリート!!

もうどこをつついても良いとこばかり!!

欠落しているところなんてない!!まさにミスターパーフェクトッ!!

そんな男を目にした通りすがりの女子高生は一発で惚れて、

男も女子高生を好きになり一瞬でGO TO HEAVEN!!!

両思いなので問題はない!!お互いにお互いを思っているのでノープロブレム!!

沸き上がる思い!!加速する鼓動!!脈打つ体!!

もー黙ってはいられない!!

そこで男がそっと女子高生を誘う!!家に!!

そして芋けんぴの友情を交わした二人は、

鹿児島産のサツマイモの色をしたシーツのベッドへと・・・・・・!!

これはたまらん!!これは・・・もう!!」

「ちゃんみおーー!!

現実!!現実を諦めないで!!」

「・・・はっ!!

・・・ゆっこ・・・今、私一体どうなってたの・・・?」

「・・・なんというか、もの凄い勢いで現実逃避してたような・・・」

「・・・良くわからない・・・」

きっと誰にも分からないだろう。

本人にも、僕にも、誰にも。

ていうか察するにこの娘・・・いわゆる腐女子か?

いっていることがそんな雰囲気をかもしだしていたような・・・。

生憎僕の近くに腐女子はいないから、

腐女子とは実際どのような人なのかはいまいち分からないので断定はできないが・・・。

269: 赤春巻き 2014/01/14(火) 00:48:28.91 ID:Lokw+LXw0
「・・・と、とりあえず落ち着こうぜ、

そんな展開、超次元サッカー出来るようになるくらいありえねーから・・・」

「ふぅ・・・落ち着きましょう・・・落ち着け・・・長野原みお・・・」

ん?これはいわゆる

賢者になっているのか?

「あ、一応言っておきますけど阿良々木さんとは怪しい関係じゃありませんからね!

大体まだ会って一日なんですから、そんな関係に発展するわけないじゃないですかー!」

「そりゃそうだよねー、

こりゃあ早とちりすぎましたな!私としたことが!!」

「・・・・・・交際3か月」

「だから違いますよー!!」

・・・麻衣ちゃんは黙ったかと思えば突拍子もないことを言う、というより呟いているな。

実はこの状況を一番楽しんでいるには彼女かもしれない。

270: 赤春巻き 2014/01/14(火) 00:59:29.59 ID:Lokw+LXw0
「皆さん、まぁ。

落ち着いて着席しましょう!」

あ、それもそうだな・・・。

気づいたら全員起立していた。

なんというか・・・焦ったり興奮したり怒ったりすると思わず立ち上がっちゃうよな。

僕も正座のままで怒号を発せられる自信はあまりないな。

でも今は座るときである。

全員は溜め息をつくかのように力を抜いてだらけるように畳の上に座った。

「はぁ・・・なんか汗かいちゃったよ・・・私」

「そりゃそうだよー・・・。あんなに叫んでるんだもん」

「そんなに叫んでた・・・?私」

記憶がないとか相当危ないだろ。

「サメくらい強そうな声だったんだけどー。

ちょっと怖かったんだけど・・・」

「あ・・・ごめんねはかせ・・・。

執事書いてあげるから許して?」

「ふーん!しらなーい」

「・・・じゃ、じゃあ騎手も書いてあげるよ」

「・・・興味ないんだけど!」

みおちゃんは一体はかせに何を求めているんだ。

はかせに執事とか騎手とかそんな高レベルの趣味があるわけないだろう。

「・・・はい」

麻衣ちゃんは突然紙を手渡した。

「ん?

・・・あ!!ホオジロザメだ!!かっくいー!」

麻衣ちゃんはニャッと笑った。

俗に言うドヤ顔である。

「てか、絵上手いな麻衣ちゃん」

「こんなの・・・朝飯抜き」

「いやいや、朝飯前だろ」

ボケるのが好きなのか?この娘。

にしては声のトーンとテンションの高さがボケたいっていうのを感じさせないのだけれど。

273: 赤春巻き 2014/01/14(火) 23:59:48.78 ID:Lokw+LXw0
「あ!そうだ!お絵かきしましょうよ皆さん」

なのちゃんは僕たちの様子を見ていきなり言い出した。

お絵かきか・・・、まぁ僕も絵心はないにしてもそこまで酷い絵ではないとは思うから

別にお絵かきでもいいかな。

もっとトランプとかツイスターゲームとかやりたかったんだが、

あまり贅沢は言わないようにしよう。

この状況が成り立っていること事態そもそもありえないのだから。

僕が見知らぬ女子高生と遊ぶって・・・。

まずあり得ないことだからな。

「おお、いいんじゃないか?

僕も最近はもっぱら勉強でしかペンは動かしていなくて疲れてきたところだし、

久々に勉強意外でもペンを動かすとするか!」

「はかせもそれがいいー!!」

「私もー!!」

「私もー!!」

「・・・私も」

「ちょっと待ってくれよ!!

三人が同じ台詞を言ったら誰が誰なのか分からないじゃないか!!」

「それはこれを見ている画面の向こう側の人ってこと?」

「そう。そういうことだゆっこ。

だからもう一回やり直してくれ!!」

「えー!めんどくさいなー!!」

と言いつつやってくれるのであった。

「相生裕子もー!!」

「長野原みおもー!!」

「・・・大動脈」

「・・・お、おう!!」

個性があって良いじゃないか!!

というか自分の名前を言っただけなんだけれども(一人を除く)

274: 赤春巻き 2014/01/15(水) 00:05:54.49 ID:o8wchHME0
「じゃあ

・・・お絵かきを始めましょう」

「その言い方はなんだか・・・」

戦場ヶ原が似たような台詞を言っていたような気がするな。

「ん?なんですか?」

「いや、何でもないよ、なのちゃん。

続けてくれ」

「はーい」

「・・・というかお絵かきっていっても何を描くんだ一体」

・・・裸婦はモデルがいないとかけないんだぞ、裸婦はモデルがいないとかけないんだぞ。

僕の眼差しは彼女、なのちゃんには届いたであろうか。

「サメー!!」

「USI!!」

「漢がいいかな」

「三十三間堂」

「バラバラじゃないか!!君たち!!」

てかもうみおちゃんは腐女子確定だろ!!なんだよ口を開けば男、漢って!

腐女子以外の何者でもないじゃん!

275: 赤春巻き 2014/01/15(水) 00:12:27.51 ID:o8wchHME0
「というか自由でいいんじゃないか?

ルールとかテーマとかそういうの設けずに、描きたいものを描けばいいと思うよ僕は」

「・・・いいこといいますね!!阿良々木さん!!」

「へ?」

「それは漫画家に対してのエールのようにも思えます!!

『描きたいものを描け』それは漫画家にとって最も簡単で最も難しいこと・・・!!

出版社側の事情とか世間の目とかそのような壁なんか気にもせずに

自由に描きたいものを描けば自然といい作品ができる!!

そういうことですね・・・!

・・・なんだか励みになる一言ですね・・・!!」

いや・・・僕の発言にそんな思惑はなかったと思うんだが・・・。

「何?みおちゃんは漫画家なの?」

「・・・あ、すいません!つい語っちゃって。

一応漫画家志望です」

「へぇー・・・」

276: 赤春巻き 2014/01/15(水) 00:18:00.61 ID:o8wchHME0
漫画家を目指しているのか・・・。

どおりで絵が上手な訳だ。

単純に気になることは一般向けの漫画家か成人向けの漫画家になるのかというところだが、

そこまで問い詰めることはないだろう。

もしかしたら本人は一般向けと成人向けの間でさまよっている可能性もあるし。

僕の質問のせいで成人向け漫画家デビューなんてしたら大変なことだ!

できれば一般向けの漫画家でデビューしてほしいからな・・・。

「まぁ、そうですね・・・。

じゃあ自由に楽しく描きましょうか!!」

「りょーかーい!!」

皆、ペンやらボールペンやら鉛筆で描こうとしている中で、はかせだけクレヨンという

幼さが残る筆記用具をグーで持って描こうとしていた。

その辺りはまだ8歳。

グーで持っているというところが実に可愛らしい。

277: 赤春巻き 2014/01/15(水) 00:33:35.48 ID:o8wchHME0
ということで一人一人が思い思いに自由に描きたいものを描き始めた。

皆、集中して何かを書いている。

何を描いているかがよく見えないのが残念である。

何故隠すような姿勢で描くのだろうか・・・。

と言っている僕も自然とそのような姿勢になってしまっていた。

この姿勢は絵を見られるのが恥ずかしいからではなく、

とても絵を描くのにいい姿勢であるからこの姿勢になっているのである。

世界的にはこの姿勢が絵を描きやすい姿勢なのかどうかは知らないが、

少なくとも世界中で僕たち6人には絵を描きやすい姿勢であることは間違いない。

・・・しかし案外何か描こうと思って真っ白な紙と向き合ってみると

何も描けないものなのだな。

この真っ白な紙と向き合う前までは何か描きたいものがあったかもしれない。

しかし、この真っ白な紙を見るとどうも描こうと思っていたものが思い出せなくなってしまう。

あまりにも白すぎて何を描けばいいのかと戸惑うしかない。

・・・だけどこの悩みは僕だけのようだ。

皆、何かしら描いている。

必死で筆記用具を動かし続けている。

・・・僕はあまり頻繁に絵は書かないもんな。

絵を描こうと思って描こうとすることに慣れていないから、

僕からすれば『自由』というのは『不自由』に近いのかもしれない。

『自由』が『自由』すぎて何を描けばいいのか分からなくなる。

・・・まぁ何を隠そう、先程『描きたいものを描けばいい』なんて言ったのは僕なのだが。

自分で『自由に』とか言っておいて一番『自由に』描けていないのは

僕じゃないか!

・・・やっぱ何かお題を出してほしかったものである。

278: 赤春巻き 2014/01/15(水) 00:40:01.02 ID:o8wchHME0
僕が思っていたより何を描くのか悩んでいた時間は10秒。

たった10秒である。

僕にはこの白紙に10秒で何も描けなかったというのに。

一人の少女が

「出来たー!!」

などと大声をあげるのだった。

なんだ、サインでも書いただけかと思った。

大声をあげたのはゆっこである。

ゆっこの絵の実力がどんなものかは僕は知らないが、

流石に早すぎであろう。

それとも、

小説家に速筆がいるように画家にもそんな感じの人がいて、ゆっこはその素質を持っているということか?

いや・・・10秒で絵を描き終わるなんて画家はいないはずだ。

280: 赤春巻き 2014/01/15(水) 22:43:58.68 ID:o8wchHME0
「え、もう書きおわったのか・・・?ゆっこ」

「そりゃそうよー!

『私の腕にペンを持たせれば、神速の速さで白紙に芸術が生まれる』

って言うしね!!」

「なんだそりゃ」

早いのはいいことなんだが、問題は絵だ。

上手いか下手かは別に問わないが、

いわゆる『殴り書き』で書かれたような絵であった場合。

上手いか下手かすらも分からないので困る。

まぁ、本音を言うとそこまで豪語するのならできれば上手い絵であってほしいと願っている僕であった。

「私そんなの聞いたことないけどなぁ・・・」

友人のみおちゃんが言うのだからきっと間違いない。

『私の腕にペンを持たせれば、神速の速さで白紙に芸術が生まれる』なんて言葉は

自分自身に自信があったからこそ作った、もしくは作っていた言葉だ。

281: 赤春巻き 2014/01/15(水) 22:48:59.18 ID:o8wchHME0
「じゃあ、その絵を見せてもらおうか」

「お、おう」

その力作と呼ぶに相応しいかどうか分からないほどの製作時間で製作された

ゆっこの絵はクオリティが高いのかどうか。

それは誰にも・・・いや、みおちゃんやなのちゃんや麻衣ちゃんは知っているのかもしれないが。

僕にはわからないからな。

少し胸が踊るのであった。

282: 赤春巻き 2014/01/15(水) 23:02:55.02 ID:o8wchHME0
「これが私が描いた絵だよう!!」

胸を張って言う彼女。

忍とは違い胸はまぁまぁあるものなので、自信を持っているという雰囲気を感じることができた。

「・・・ん?」

なんだこれは・・・。

何を描いているんだ?

芸術的すぎて逆に下手に見えるってやつか?

「んーと・・・」

良いところをあげるとするのなら、

これだけの絵をよく十秒で描けたな、という所だ。

殴り書きにもなっていないのに十秒でそこそこの絵が描けてしまっている。

また、大きく描いてあって非常に見易いという点も非常に良いところだろう。

だが、しかし。

根本的に不自然である。

絵が描かれているのに絵が絵でない。

この世に存在すべき物質が描かれているかどうかも判別できない。

ストレートに言うと、

下手だ。

しかもかなり。

作画崩壊なんてもんじゃないぞ、これ。

頭と思われる所に謎の丸い物質を被っており、

水玉の模様が散りばめられている。

そしてこの絵の最も不気味なところは、

その被っているものと四足歩行をすると思われる体が繋がっているということだ。

つまり的確に表現するのならば被っているのではなく、その物質の体の一部なのだ。

そして尻尾を持っている。

なんだこれは・・・世紀末か。

283: 赤春巻き 2014/01/15(水) 23:10:35.58 ID:o8wchHME0
「・・・・・・も、申し訳ないけど・・・ゆっこちゃん・・・」

「ん?」

「こ・・・これは何だい?」

「えー?分かんない?

どうみてもカンガルーでしょー」

「え?」

これがカンガルーなの?

てか袋無い時点でカンガルーじゃないと思うんだけど・・・。

「え、え、え、え、

ゆっこ・・・これ本当にカンガルー?」

「そうだよ?みおちゃん」

「・・・前より酷くなってるような・・・」

みおちゃんも目の前に描かれているいるものがなんなのか

理解するのに苦しんでいる。

正常な人間の脳ならばこのものを理解するのに最低10秒は時間を費やすだろう。

そして理解したところでそれが何なのかは結局分からない。

ただの未確認物体。そうとしか言えない。

・・・しかし前より酷くなっているとはどういうことであろうか。

前は少しはマシだったという事か。

284: 赤春巻き 2014/01/18(土) 23:27:13.99 ID:1EEUSa9D0
「どう?結構力作なんだけどなー」

そんなに胸を張られて言われても困ってしまう。

そもそも10秒で描いたものが力作と言えるのだろうか・・・。

「待って!!ゆっこ!!」

「ん?」

「本当のカンガルーってのは・・・!!」

と言うと物凄い勢いでペンを動かし始める。

ペンの先を叩きつけるかのように紙に何かを描く、描く、描く。

ペンの先が折れるどころか粉々になりそうな勢いであったが、

それが折れるようなことはなく、勢いのわりには繊細な絵が描かれているような気がする。

「こういうのでしょ!!」

そう言って白紙であったはずの紙に描かれた、

見事に細部まで再現されたカンガルーを僕たちに見せつけた。

僕たち、というかゆっこに。

というか滅茶苦茶絵が上手いんだけど!!

なんだこれは・・・プロの漫画家を遥かに凌駕している気がする。

失礼だがこの絵よりプロでもっと下手な漫画家だっているぞ・・・。

もう漫画家じゃなくて画家にでもなったらいいんじゃないか?

この娘は。

しかし、ゆっこは冷静に

「がたいが良すぎだよー」

と否定するのだった。

・・・いや確かにちょっと筋肉質だけどカンガルーなんてこんなもんだろう。

てかあんたはカンガルーすら描いてないだろ!!

・・・みおちゃんもゆっこに否定されて心外だろうな・・・。

たまったもんじゃないだろう。




285: 赤春巻き 2014/01/22(水) 22:19:07.40 ID:7GVn3C6C0
「しかし、ゆっこも上手だがみおちゃんも上手だなぁ」

ここはあえてゆっこの絵も評価しつつ、みおちゃんの絵も誉めるという、

いわば一番安全な方法を僕はとることにした。

287: 赤春巻き 2014/01/23(木) 21:43:33.10 ID:koc47lPE0
「え?そうですか・・・?

いやいや、私はそんなに上手くはないですよ・・・!」

と遠慮しつつも、「ゆっこよりは上手いけど」と小声で付け足すのだった。

そうだな・・・もう少し持ち上げてみるとしよう。

「でも・・・このくらいの画力だったら漫画家にでもなれるんじゃないかなぁ?」

「あ、そうですか?

ちなみに漫画家目指してるんですけど・・・私」

「大丈夫だよみおちゃん。

プロでももっと下手な人いるし、ストーリーさえ練れば、漫画家になれると思うよ、僕は」

「え、えへへへ・・・。そうかな?」

「ちゃんみおが今までにないほど恍惚な顔になっている・・・!?」

ゆっこが驚くのも無理はないだろう。

僕だって、みおちゃんがこんなにうっとりしているのか理解できないからだ。

なんだかよくわからないが、みおちゃんは僕に異様になついている。

なついているというか・・・なんかちょっと気を許しているような気がする。

僕の勝手な思い込みかもしれないが・・・。

「そうだよ!

あ、でも声優ってのも良さげだなぁ」

「声優・・・ですか?」

「その特徴的でどこか胸打たれる声・・・

おそらく、声優の世界でも異様な存在感を放つことができるだろう。

そういうダミ声・・・嫌いじゃないな」

僕は、わざとらしく、それらしく、所謂『イケボ』でそう言った。

僕の声は以外といい質のものだと聞いている。

なんだっけ・・・神谷とか言う声優の人の声に似ているって誰かが言ってたっけなぁ。

なので、多少、ほんとに多少ではあるが声には自信があった。

だからみおちゃんの耳には僕の声が『イケボ』に聞こえてくれたらいいのだけれど・・・。

ちなみになぜ『イケボ』で話したのかと問われれば、

その方がみおちゃんが惚れると思ったからである。

別に惚れさせる気はないが、少し反応を見てみたい。好奇心が僕をそうさせたのだ。

「え・・・そ、そんなこと言われるの・・・初めてです・・・。

う・・・え・・・本当に?」

「あぁ、僕はそういう声の方が好きだなぁ・・・」

「あ・・・・・・う・・・・・・」

かっ、可愛い!!かなり可愛い!!

なんだ、腐女子もなかなか悪くないもんだなぁ。

そういえば先ほど、僕の周りに腐女子はいない。と言ったが、

神原がいた。神原は多分、腐女子の分類だろう。

これからは神原から腐女子について学ぶように心がけよう。

288: 赤春巻き 2014/01/23(木) 21:56:46.44 ID:koc47lPE0
まぁ、そんなことは後考えるとしよう。

「じゃあ・・・みおちゃん」

「ん?は、はい?」

さて・・・そろそろ。

僕が一番言いたかったこと・・・。僕が一番やりたいこと・・・。

僕が一番この世界に来てから考えていること・・・。

僕が、さっきなのちゃんにやろうとしたこと。

それらを言葉にして僕はみおちゃんにぶつけることにしよう。

今のみおちゃんのコンディションはこの行動をおこすのには最高と言える。

油断もスキもありまくりで、心ここにあらずという感じだ。

なのちゃんはさせてくれなかったが、みおちゃんならきっと・・・。

そんな望みをかけて僕は言う。

「・・・胸・・・揉ませてくれないかな?」

そう、僕が元の世界に帰ることよりも何よりも考えていること、したいこととは、

胸を揉むことである。

誰の胸でもいいということではない。

あくまで最終目標はなのちゃんの胸だ。

ただ、その為の予行練習というか・・・。

昨日、はかせの胸を揉みまくったのもそういうことだ。

なのちゃんの胸を揉む前に、いろんな人で練習をしておけば安心、ということだ。

ただ、練習といっても一人一人の胸をじっくり揉んでいくのが僕のモットーだ。

あくまで練習だけの為の胸ではない。

練習のための胸でもあるけど、じっくり揉むための胸でもある。

練習のためだけの胸なんて失礼じゃないか、胸に対して。

289: 赤春巻き 2014/01/23(木) 22:12:05.02 ID:koc47lPE0
と、そんな思惑で言った言葉の返答を待っていた・・・否、待つ暇もなく返答は来た。

「・・・・・・い、いいですよ?」

まさかのイエス。了承。許可が降りたのだった。

そう、もう今のみおちゃんは褒めちぎられて理性がない。

それと、『イケボ』のおかげだろうか。

すげぇな、『イケボ』って。恐ろしいな・・・。

そ、そんなことより、僕には許可がされたのだ。

みおちゃんの胸は完全に僕に対してオープンの状態なのだ。

本人の許可があればもう大丈夫。

なにも怖がるものはない。なにも恐れるものはない。

平然と胸へと手を置くことができる。

「え、え、?ちょっとみおちゃん??」

ゆっこには見てもらうしかない・・・。

揉んでもらいたいなら言えばいいのに。

ちなみになのちゃんはいつだか分からないが、トイレに行ったらしい。

夢中になりすぎて気づかなかった。

「ど・・・どうぞ・・・」

「あ・・・いくぞ・・・」

はかせの時はノリと勢いで胸を揉んでしまったが、

こういうゆっくり焦らす方が胸が高鳴るな。

「じゃあ・・・失礼」

僕がゆっくり手をみおちゃんの胸へと近づける。

お互いの息づかい・・・いや、ゆっこの息づかいも含めて

三人の息づかいがこの居間に響き渡る。

ゆっこの息づかいはドキドキ、というよりはハラハラ、と言ったところだが。

みおちゃんは僕を真っ直ぐ見つめてくる。

僕もみおちゃんを真っ直ぐに見つめて。

僕はみおちゃんの胸へと・・・手をつけた。

「・・・っあ・・・」

・・・うわっ・・・!!

ダミ声の●●声って・・・なんかいいな・・・。

●●い。

「みおちゃん・・・どう・・・?」

「・・・とっても・・・いい・・・・・・っあ」

僕はたえまなく胸を揉み続けた。

一定のリズムで、ゆっくりと。

「・・・あ、あららぎさん・・・も・・・もう・・・」

「・・・まだだ・・・まだ」

「何やってるんですか、阿良々木さん」

あ・・・・・・

なのちゃん・・・・・・。

293: 赤春巻き 2014/01/27(月) 23:29:43.65 ID:APawcjx80
「だ、駄目ですよ!!長野原さん!!

確かに阿良々木さんはいい声ですけど、騙されちゃだめですよ!!」

あ、あれぇ?

ついこないだ、詐欺師といろいろあった僕であるが、

まさかこんどは騙す側へと回るとはなぁ・・・。参った。

騙していたつもりは一切ないのだが・・・。

「んはっ!!

・・・ん?今何が・・・!?」

みおちゃん無意識だったのか。

これじゃあ本当に僕がみおちゃんを操作して騙したみたいじゃないか!

「大丈夫?みおちゃん。

なんか、すごーい魔法にかけられてたみたいだった・・・」

ゆっこは不思議そうな眼差しでこちらを見ている。

恐らく、『こんなみおちゃん見たことない!!』といった心境であろうか。

ちなみに、はかせはなに食わぬ顔で紙に何かを描いている。

子供とは、気楽なものだ。

「ん、ん・・・と、

あ!!分かった!!長野原みお、目が覚めた!!

声が笹原先輩みたいな声だったからつい目の前に笹原先輩がいるかのような錯覚に陥ったんだ!!

くっそー!!騙された!!」

「すまないな、その・・・笹原先輩とやらに似てて」

「いやぁ!!似てない!!似てないです!!

貴方が笹原先輩だというなら、全人類笹原先輩になっちゃいます!!

そのくらい似てない!!」

みおちゃんはダミ声で叫び散らす。

「そ・・・そうか?」

「貴方は声がいいだけ!!本当に声がいいだけの、変態だ!!

よーくわかりましたよ!!変態!!」

「まぁ、落ち着けよ、みおちゃん」

「落ち着けるくぁあああ!!

あの、ファーストタッチを!!ファーストタッチをこの見知らぬ男に奪われるとわああ!!

一生の不覚!!」

「と、とりあえず深呼吸しよう!!みおちゃん」

「そ、そうですよ!!とりあえず」

みおちゃんをゆっことなのちゃんが落ち着かせる。

みおちゃんってなんだか叫ぶとかなり迫力があるな・・・。

ちょっと圧倒されてしまった。

これは怒らせたら怖いタイプだ・・・。

少なくとも僕はそう思った。

294: 赤春巻き 2014/01/27(月) 23:35:00.42 ID:APawcjx80
「ふぅー・・・。ふぅー・・・・・・。

ふぅ、やっと落ち着いたよ・・・。

ちょっと言い過ぎました・・・」

「あ、いや、別にいいよ」

「でも、あなたの行動はそう言われるに相当する行動ですからね!!

もうぜっっったい騙されるものか!!」

「ご、ごめんね?

後で大福あげるからさ」

「許すっ!!」

・・・単純である。

295: 赤春巻き 2014/01/27(月) 23:39:06.70 ID:APawcjx80
何はともあれ、お絵かきは再開された。

まぁ、はかせは異常に集中力が高い状態にあるので、

再開されたかどうかすら気づいてもいないと思うが。

ただ、全く反省の姿勢がないような一言を言うようで悪いが、

先ほどみおちゃんの胸を触ったことで若干元気がでた。

訂正しよう。若干ではない、かなりだ。

女子高生とは思えない胸の発育の遅さ。

それはそれで良いものがそこにはあった。

なんて考えていると、考えているものそのものを紙に描いてしまいそうで怖いので、

この事を考えるのはやめることにしよう。

296: 赤春巻き 2014/01/27(月) 23:44:35.71 ID:APawcjx80
「出来たー!!」

と、元気な声を出したのははかせである。

しばらくぶりにはかせの声を聞いたので最初は誰の声だかわからなかったが、はかせの声であった。

「ねぇみてみてー」

満面の笑みで僕たちを見てくる・・・。

なんて幸せに満ち溢れた素晴らしい笑顔なんだろうか。希望しか感じ取れない。

「お、できたのー?

どれどれ・・・」

先陣きってはかせの絵を見に行ったのはゆっこである。

彼女は元気があっていいな。

と、ほぼ同時に僕もはかせの後ろから覗きこむように見に行った。

さっきの出来事もあってか、若干一名の鋭い視線を感じる・・・。

298: 赤春巻き 2014/01/27(月) 23:48:23.19 ID:APawcjx80
「ねぇゆっこどう?」

「どれどれ・・・」

その時にはもう全員がはかせの絵の周りに集まって、はかせの絵を見ていた。

・・・うーんどうなんだろうか。

僕が八歳の時はこんなにうまくは無かったが、

僕の経験上、女子の方が絵が上手いという気がするので男である僕と比べるのはあまりよくないだろう。

女子の八歳のなかでも上手い分類には入るのだろうか?

僕は上手いとは思ったが、どうなのだろう。

サメの形を実に子供らしく、女の子らしく描けているとは思うが・・・。

299: 赤春巻き 2014/01/27(月) 23:54:02.11 ID:APawcjx80
「上手いねーはかせー!!」

「そう!?でしょでしょ、そう思うでしょ!?ゆっこ!!」

うぉ・・・なんて純粋無垢な反応なんだろうか。

なんの汚れもない。

僕にもこんな幼少時代があったのだろうか・・・。考えられない。

「うん。僕も上手いと思うぜ」

「流石だねー、はかせ」

みおちゃんも怒りがすっかり収まってはかせを揉めたたえる・・・いや、褒め称える。

僕の頭はどうなってしまったのか・・・。こんないい間違いをするほど僕は末期なのか?

末期ではないと思いたいが・・・。

「で、でも」

そこでなのちゃんが声をあげる。

300: 赤春巻き 2014/01/28(火) 00:00:01.63 ID:x2eYLUJf0
「わ、私の絵も負けてませんよ?」

ここまで消極的な(投げやりとはいえ、台所で『まぁ、そんなに揉みたいって言うならば、

それなりの条件を提示してくださいね、私が喜ぶような』と言ったこと以外)なのちゃんが、

急に積極的になった。

「ふーん・・・。自信があるのか?」と、僕はそれらしく、偉そうに言ってみた。

「まぁ、多少はありますよ」

「そう言えばなのちゃんの絵って見たことないなぁ・・・」

ゆっこも見たことないのか・・・。

じゃあ恐らくここにいる人間は皆見たことないんだろうな。

阪本はこっそりみてるかもしれないけど。

301: 赤春巻き 2014/01/28(火) 00:02:59.19 ID:x2eYLUJf0
「じゃあ何か自由に描いてみてよ、何でもいいから」

みおちゃんがそう言うと、「はい!」となのちゃんは返す。

なのちゃんは黒いクレヨンを即座に手に持ち、描き始める。

一体何を描いてくれるのか、そしてどれ程の実力なのか。

期待しているところである。

302: 赤春巻き 2014/01/28(火) 00:10:22.86 ID:x2eYLUJf0
・・・と、なのちゃんが描き始めて20秒ほど経つのだが・・・。

何を描いているのかさっぱり分からない。

黒い曲線がクロスしてうねっているだけの図形にしかみえない。

いや、図形にもなっていない。

本人には悪いが、何を描いているのか分からない。

しかも本人はこれで完成、だと言っているのだ。

さぁ、推理の時間だ。この絵がなんなのか解き明かそう。

とは言っていないが、ゆっこもみおちゃんも麻衣ちゃんもはかせも僕も、

無言で推理しているような面持ちであった。

ただ単に衝撃で体が動かないだけかもしれないが。

303: 赤春巻き 2014/01/28(火) 00:14:52.43 ID:x2eYLUJf0
「こ、これは、な、なに?なのちゃん」

ゆっこが震えた声で、全員が気になっていたことをようやく言う。

「えー?見て分からないんですか?」

「いや・・・うーん、念のため確認しておこうかなぁーって思って」

出来る限りなのちゃんが気づつかないように、そういう言い方をしたのであろう。

要するに『見て分からない』と遠回しに言ったのだ。

「これは・・・阿良々木さんですよ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「「「「「え?」」」」」

304: 赤春巻き 2014/01/28(火) 00:19:09.81 ID:x2eYLUJf0
その言葉が出てきた時、僕たちは凍りついたかのように体が動かなくなった。

これは人間を描いていたのかと。

これは僕であったのかと。

様々な衝撃が折り重なって体が言うことを聞かない。

何よりも僕が一番衝撃的であったのは、

なのちゃんの見た目や態度からして、芸術的センスがものすごく良いというイメージを

持っていたのに・・・この絵、というところだ。

こっちが勝手に思ってただけで、これは完全に僕自身のせいなんだけど、

ショックであった。

310: 赤春巻き 2014/01/29(水) 00:23:39.76 ID:F2caUeH80
「あ、あ、そ、そそそうかー!!

ま、ま上手いね!!」

ゆっこは褒めてはいるが、誰がどう見ても嘘だというのはバレバレであった。

しかし、なのちゃんは素直に

「えー?そうですかー?」

と恥ずかしそうに照れる。

全員がなんとも言えない顔でその絵を見ているのに気づかないのであろうか。

「うーん、そう、

阿良々木さんの顔によく似せて描けていると思うよ!特に線と線が交差しているところがそれっぽい!」

「は!?」

線と線が交差している顔の人間って何者なんだよ。どんなファッションだそれは。

何を言っていいのか分からなかったがゆえに発言した言葉なのだろうが、

僕の顔が数学の図形のように交差している線のようだなんて、いくらなんでも酷すぎる、みおちゃん。

・・・と、まぁ。

思いの外なのちゃんの絵が下手で、何とも言えない空気が漂っている訳だが・・・。

自らの絵より上手いと言われ、この絵を見せられたはかせはまだ八歳。

遠慮なく、躊躇なく、言いたいことは言いたいだけ言う年頃。

僕たちは何も言えないままであったが、はかせは違かったようだ。

311: 赤春巻き 2014/01/29(水) 00:30:26.59 ID:F2caUeH80
「なにこれ」

はかせの第一声がこれだ。

ゆっこと僕、みおちゃんはこの言葉を聞いて、はかせはこれからなのちゃんの絵を貶すぞ!

ということを察していたが、止める余地もなく、はかせはいい続ける。

「はかせの方がうまいんだけど!!

なにこれ!!髪の毛にしか見えないんだけど!」

「ガーン・・・」

「というかなんでこんな所々角ばってるの?意味が分からないんだけど!!」

「ガーン!!」

「そもそもこれ絵になってないんだけど!!」

「ガーーーーーーンッ!!!」

なのちゃんは何かに吹き飛ばされたかのように大きく吹き飛ぶ・・・ような精神的な衝撃を受けたように見えた。

心はずたぼろにされ、踏みにじられた。

はかせに悪気は一切ないんだろうけども、酷いことを言うものだ。

・・・まぁ、あながち間違ってはいないというのが本音だが・・・。

312: 赤春巻き 2014/01/29(水) 00:41:27.33 ID:F2caUeH80
「こ、こらはかせー」

みおちゃんはやさしめに怒る。

何に怒ってるのかよく分からないような言い方ではあるが、

言っていいことと悪いことがあるだろう・・・ということを感じ取って欲しいのだろう。

「あれ、なのが固まっちゃったんだけど」

「ん、あ、本当だ」

僕が声をあげても全く動かない。

全身が石化したかのように動かない。

僕たちも先ほど陥っていた状況、『衝撃で体が言うことを聞かない』

になのちゃんも陥ってしまったのだろう。

「なのちゃんー。大丈夫ー?」

ゆっこも心配するが、全く動かない。

「・・・これは、阿良々木さんが何とかしてください」

「はっ!!何故僕が?ここは全員が力を合わせてなのちゃんを解凍しなくちゃならないだろう!」

「解凍・・・氷なの?これ」

みおちゃんの言うとおり・・・解凍という表現は相応しくないな。

「と、とりあえず、阿良々木さんがこの中で一番年上だから・・・変態だけど」

「余計な情報は添付しなくていい」

・・・でもそうか・・・、僕は高校三年生。

来年はもしかしたらキャンパスライフを送っているかもしれない。

もうほぼほぼ大人だ。

ここはらしくはないが、僕が責任をとって何とかしようか。

年上の義務として。

と、思ったが・・・。

その時、インターホンが鳴った。

「あ。来客だ!!来客!!対応対応!!」

「話そらすなー!!」

ナイスタイミング!!来客!

313: 赤春巻き 2014/01/29(水) 00:47:18.73 ID:F2caUeH80
僕はこの話を絶ちきるように玄関へと向かった。

というかあれはどうにかしろと言うものなのか?

自然ともとに戻ると僕は思うのだが・・・。

まぁ何にせよこの来客により、振りきれたのだ。

よかったよかった。

「はい、今いきますー」

僕はこの家に昔からいたかのような、ここに昔から住んでいるような雰囲気を出して返事をした。

314: 赤春巻き 2014/01/29(水) 00:56:29.73 ID:F2caUeH80
玄関の扉越しに来客のシルエットがうっすらと見える。

ロングヘアーであることははっきりと分かった。

ということは、ほぼ女性であることは確定しただろう。

姿勢もなかなかいい。

僕は玄関の戸にてをかけて言う。

「お待たせしました」と。

しかし、僕の夢のような一時は。僕の自由奔放なこの世界での生活は。

この瞬間に崩壊した。

こんな僕の行動を絶対に許さない。

というかそんなことが彼女の前で出来るわけがない。

文字通り"彼女"なのだから。

そう、何を隠そう来客とは。

「楽しそうじゃない、阿良々木君」

と微笑む僕の彼女、戦場ヶ原ひたぎなのであった。

318: 赤春巻き 2014/01/29(水) 22:27:47.54 ID:F2caUeH80
「何をしているのかしら?阿良々木君?」

「い、いや何でお前がここにいるんだよ!?」

それが不思議でならない。

戦場ヶ原も僕と同じ本に触れたのであろうか・・・?

しかし、その可能性は低いと考えたほうがいいだろう。

ということは、別の方法でここに来たのだろうか・・・。

いや、偶然だろうけど。

「私もよく分からないわ、昨日の夜、書店に行ったら不思議な本があってね」

え・・・、可能性は低いの見積もったが、戦場ヶ原もあの本に触れたのか・・・。

一応、どんな本だか確認することにしよう。

「それはどんな本だ?」

「真っ白な本だったわ。真っ白ということ以外、何にもないわ」

「やっぱり・・・」

「ん?何がやっぱりなのよ。そんなことはどうでもいいのよ」

いや、どうでもよくねぇだろ。

「あなたのものすごく楽しそうな声が耳に入ったから、私はここに来たのよ?

こんな見知らぬ世界で、あなたも気楽なものね」

「・・・」

一体どの辺から聞いていたのだろうか・・・。

「こんな場所で一体何をしているのかしら?聞くからにいるのはあなただけではないわよね?」

319: 赤春巻き 2014/01/29(水) 22:40:04.52 ID:F2caUeH80
「あ、あぁ・・・」

「ん?誰が来てるの?」

ゆっこが顔を出した。

「あら、こんにちは」

「あ、こ、こんにちわ」

戦場ヶ原は知らない高校生相手に優雅に挨拶を交わすのであった。

「ど・・・どちら様?」

「私は戦場ヶ原ひたぎ。

この男、阿良々木暦のー」

ま・・・まさか・・・ここで言うつもりか!?

僕との関係を!!

「阿良々木の・・・・・・

かーのーじょーでーすー」

なんという棒読み。どのような意図があってそのような言い方をしたのか僕には分からないが、

ともかく僕との関係が彼女たちに晒されてしまったのは確かである。

「・・・え!!?」

ゆっこは驚く。そりゃそうだ、こんな変態に彼女が・・・!?といったところか。

「みんなー!!阿良々木さんの彼女だって!!」

「お、おいゆっこ、そんなに叫ぶなって・・・」

「え!?阿良々木さんの彼女!?」

「え、なになにー?彼女ー?」

「彼女いるんですか!?」

みおちゃん、はかせ、凍りついていたはずのなのちゃん、の順番で叫んだ。

彼女、彼女、彼女と、やけに彼女を強調していた気がするが・・・。

「あら、沢山いるのね。あなたの好きな『幼女』までいるじゃない!

だから嬉しそうだったのね」

「僕をロリコンにすんな!!」

320: 赤春巻き 2014/01/29(水) 22:45:52.41 ID:F2caUeH80
「「「「彼女いたの・・・!?」」」」

ゆっことみおちゃんとなのちゃんとはかせは息ぴったりで僕に尋ねた。

なんだよ、そんなに僕に彼女がいることが珍しいのかよ!!

「・・・あぁ、見ての通り・・・僕、阿良々木暦には・・・彼女がいる」

「「「「おおーーー」」」」

「だからなんでそんな息ぴったりなんだよ」

「なんだか、もう随分と溶け込んでるわね。

しかも女の子ばっかり。ここに何日間滞在しているのかしら?」

「二日間だ」

厳密にいえばまだ24時間も経っていないのだが・・・。

昨日と今日をまたいでいるので、二日間という表現を使った。

321: 赤春巻き 2014/01/29(水) 22:50:48.82 ID:F2caUeH80
「まぁ、とりあえずあがってください」

なのちゃんが珍しいものを見るような目で戦場ヶ原を見ながら言う。

「お邪魔しちゃっていいのかしら?」

「はい、どうぞ」

「ありがとう、優しいのね」

「いえいえ」

本音をいえば、あまり入ってきてほしくなかったにだけれども、

そんな事を言ったらいくら更正中の彼女と言っても、ホッチキスで

ボッコボコになるであろう。

それは怖い。

なので僕もここは心をオープンにして、戦場ヶ原が家に入ることを許すのであった。

まぁ、僕の家ではないので許可をだすのは僕ではないのだけれど。

322: 赤春巻き 2014/01/29(水) 23:02:56.18 ID:F2caUeH80
014

「素敵なおうちね、住み心地が良さそうだわ」

僕らは居間に座った。戦場ヶ原はこの研究所を気に入ったようである。

「あの・・・本当に阿良々木さんの彼女なんですか・・・?」

「ええそうよ。もう私惚れまくりよ、彼に」

「へぇー!ラブラブなんですか」

なのちゃんは興味深そうな目で質問を投げ掛けていた。

「でも。なんで阿良々木君に彼女がいるのが意外なのかしら?」

「なんでって、さっきこの人私の・・・」

「あー!!待った待った!みおちゃん、そこまでだ!」

「私の胸揉んできましたからね」

「うわあああ!!」

ばれた!!僕の自業自得だけど、戦場ヶ原だけには知られたくなかった!!

「ふーん、そんなことする人に彼女がいるわけないと思ったということね」

「はい」

「まぁ、至極当然の考え方よねー。そんな人に彼女がいるとは普通考えもしないわよねー。

ねぇ?阿良々木君」

こっちを物凄い眼力で見る。

「・・・で、ですよねー」

「あなたも落ちぶれたわね、私以外の胸を揉むなんて。

揉みたいならいえばいいのに」

え!?いいの!?がはらさん!!

「何、『うわっ、僕の青春にやっと春が来ましたよ!神様!』みたいな顔してるのよ」

「どんな表情だよ」

「冗談よ、私の体はそんなに安くないわ、軽くみないでちょうだい」

323: 赤春巻き 2014/01/29(水) 23:06:51.00 ID:F2caUeH80
「そんなチープな体だと思ってないから、安心しろ」

「あ、でも・・・」

と前置きして戦場ヶ原は僕の耳元で囁く。

「本当の本当に耐えられないんだったら、いいわよ。いつでも」

「!?」

体温は急激に急上昇し、目は一気に充血した。

僕がドキッとしてしまうようなフレーズを何事もないかのようにさらっと言ってしまう。

僕が『あら、やだ、かっこいい』と言いたい気分であった。

324: 赤春巻き 2014/01/29(水) 23:11:59.26 ID:F2caUeH80
「な、なにを言うんだ!!僕はそんな事考えてないぞ!?」

とりあえずこの一言で落ち着くことにしよう。

「ふふっ、可愛いわね、またあなたのことがより好きになってしまいそうだわ」

どんどんと僕の心を責めてくるなぁ・・・。いい意味で心臓に悪い。

さすがです・・・。

「お二人とも、仲が『かなり』いいですねぇ」

妙な笑顔を浮かべてなのちゃんが言う。

「そうよ。私たちはニセコイでもなんでもなく、モノホンのカップルなのよ。

あなたたちも高校生なら、彼みたいな彼氏をつくりなさい」

「は、はぁ・・・」

「なんだ、その、僕みたいな彼氏はちょっと・・・みたいな反応」

325: 赤春巻き 2014/01/29(水) 23:16:00.37 ID:F2caUeH80
「ところで・・・」

戦場ヶ原は居間のこたつテーブルを指指して言う。

「さっきまで何をしていたのかしら?」

「あぁ、お絵かきをしていたんだ。皆で仲良くな」

「お絵かきから胸を揉むことができるなんて・・・あなた天才ね」

「・・・お褒めいただき光栄です」

やや投げ出したように僕は言った。

「お絵かきね・・・私も最近絵を描いていないわね・・・。

私も何か描いていいかしら?」

329: 赤春巻き 2014/02/01(土) 22:40:26.41 ID:XkJ7YRXI0
と言って戦場ヶ原は返事を聞くこともなく絵をかきはじめた。

なんだか雰囲気に圧倒されているなぁ、みんな。

形容しがたい独特の雰囲気に。

「絵をかくのは慣れていないけど、楽しいわね」

本人なりに楽しんでいるようだ。

なんだか言い方は単調なんだけど結構感情の波が激しいよな・・・戦場ヶ原って。

「できたわ」

そう言って戦場ヶ原はシャーペンを置いた。クレヨンがあったのに何故そちらで描かなかったのだろうか。

「どうかしら?」

「お、おお・・・」

なんというか・・・地味に上手い。

格段上手い訳ではないが、下手でもない。

要するに平均的な絵だ。僕の目にはそううつった。

「お上手ですね!」となのちゃんは言う。

「そうかしら?ありがとう」

330: 赤春巻き 2014/02/01(土) 22:49:00.61 ID:XkJ7YRXI0
「阿良々木君、何か言いなさいよ」

「え、あ、あぁ。上手いと思うぜ。

お前がそんなに絵が上手いとは思ってもなかった」

「どんだけ下手だと思っていたのよ、

私の絵なんてゴッホと比べたら米粒以下よ」

「比較する対象がでかすぎるだろ」

「私の絵をそこまで見下していた阿良々木君なのだから、さぞかし絵がお上手なんでしょうね」

「いや、見下してるつもりはねぇんだけど・・・」

「そういえば、阿良々木さんの絵だけ見てませんでしたねぇ」

なのちゃんは珍しく意地悪そうに言う・・・いや、まだ会って間もないので、実は意地悪な娘なのかもしれない。

そんなふうには見えないが・・・。

「そーだ!!ずるいんだけどー!!」

「そーだそーだー!!」

ゆっことはかせが息の合ったパフォーマンス。

点数をつけるのなら10点中9.5点と言ったところだろうか。

そのくらいの点数がつけられるほど息が合っていた。

減点の0.5点は何かといえば、その言葉が僕への非難というところであろうか。

・・・まぁ僕がずるいのは事実である。このまま逃れようとしていたのかもしれない。

331: 赤春巻き 2014/02/03(月) 21:09:48.80 ID:pYvdxOGk0
「じゃあしょうがない・・・見せてやるよ、僕の絵を」

ここまできたら描かざるをえないだろう。

こんな状況で断りなんかしたらノートの角で殴られてしまう。

いや、なんでノートの角なんだ。

しかし何を描けばいいのだろうか。できることなら鉛筆とかそんな簡単なやつを描きたいが・・・。

「何を黙っているのよ、あなたには問答無用で自分の顔をかいてもらうわ」

「なにそれ!?レベル高っ!」

332: 赤春巻き 2014/02/06(木) 23:28:01.04 ID:oxBkSYMS0
しょうがない・・・描いてやろう、僕の顔を。

僕は僕の顔を僕の目でじっくり見たことはないのだが、

なんとなくこんな感じだろう・・・と手探りで描くしかない。

なんとなくで、本当になんとなくで僕っぽさを白紙にかきだそうと頑張った。

僕なりに頑張ったー。

「・・・できた・・・」

やっと出来た・・・というほど時間はたっていなかったようだが、

僕の中での時間の経過する速さはとても速かったようだ。

ともかく、なかなかの力作だと思う。

人間の形は保ててるし、髪の毛が目にかかっているあたりも僕っぽいだろう、多分。

僕なりに頑張ったので、多少は何か称えてほしいと僕は思ったが・・・。

「ふーん、なんというか、下手でもなく上手でもないというか・・・。

なんともいえない、実に平均的で芸術的な何かも感じることができないわね・・・。

評価し難いわ」

「・・・」

それは反応し難いな・・・。戦場ヶ原・・・。

「確かに・・・、普通ですよ・・・ね?」

「いや聞かないでくれよなのちゃん」

「ん、うんうん、普通なんだけど・・・

あ、でも普通が一番っていうこともあるんだけど!」

8歳児に同情されてしまった。

と、そんな感じで、

僕の自信作(多分)は酷評された後、お絵かきの時間は終了するのであった。

333: 赤春巻き 2014/02/06(木) 23:37:56.05 ID:oxBkSYMS0
014

「さて、遅れたけれど、自己紹介をしましょう」

お絵かきが終わった数分後、戦場ヶ原は何の前振りもなくそう言い出すのであった。

「戦場ヶ原ひたぎ。高校3年生。阿良々木君の彼氏で、阿良々木君よりは賢いと自負しているわ」

僕をさりげなく僕を馬鹿みたいに言ってきたな!

「へぇー」

ただ単純に驚いただけなのか、僕より頭がいいことに納得したのか。

なのちゃんはどちらの意図でその言葉を発したのかは僕には分からなかったが・・・。

前者であってほしいと強く願う。

334: 赤春巻き 2014/02/06(木) 23:46:17.17 ID:oxBkSYMS0
「私の紹介はこんなものよ・・・。さて、

あなたたちの自己紹介も良ければやっていただけないかしら?

阿良々木君とも随分仲が良いようなのだから、私がプロフィールを知っておかない訳にはいかないわ」

なんだそりゃ。戦場ヶ原は僕と関わりのある女の子のプロフィールは全部把握したいのだろうか。

「えーと、私は相生裕子。『ゆっこ』って呼ばれています。高校生1年で、

駄洒落が大好きでーす!!」

「随分と元気ね、駄洒落・・・。何か言ってみてもらえないかしら」

「谷が喜んだ、やったにー!!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

沈黙。

335: 赤春巻き 2014/02/06(木) 23:53:11.09 ID:oxBkSYMS0
「あ、あぁ、えー・・・素晴らしい駄洒落だと思う・・・わ。

だ、だけど私はもっと面白い駄洒落を知っているわよ」

こんなに動揺している戦場ヶ原はなかなか見られない。

レアだ。目に深く焼き付けておこう。

「もっと面白い・・・駄洒落?教えてください」

「・・・・・・『Can you show me the prize?』よ。

どう、面白いでしょう」

「・・・・・・え?え?」

ゆっこは困惑した。まさかの英語だったからだろう。

しかし・・・どの辺が駄洒落だというんだ?

「これは、日本語にすると『私に賞をみせてもらえませんか?』という意味になるのよ。

つまり、英語にしても日本語にしても『ショウ』という発音の単語が違う意味で入っている、

というところが駄洒落ってことなのよ」

「へぇー・・・なんかすごい・・・」

それはもはや駄洒落ではないのでは?

336: 赤春巻き 2014/02/08(土) 19:48:39.23 ID:fa+72uQy0
その後も自己紹介が淡々と行われたが、そこにおいては特に記述する必要はないだろう。

しかし─戦場ヶ原はなのちゃんのネジに関しては触れることはなかったが、気にならなかったのだろうか。

それ以外は別に僕は疑問を抱くようなことはなかった。

337: 赤春巻き 2014/02/08(土) 19:57:07.00 ID:fa+72uQy0
お絵かきも終わったところで、

ようやくこの世界に来て一番にやらなければならなかったことを実行するための方法を探す話し合いが始まるのであった。

「それでは、そろそろ真面目な話をしましょうか」

そんな彼女の一声から始まった。

「真面目な話ってなんだよ」

この時、愚かにもこの世界に来て一番にやらなければならなかったことを忘れてしまっていたので、こんな愚かな質問をしてしまった。

当然のごとく、「何を言ってるのよ、この世界から抜け出すための手段について話し合うのよ」と返されるのであった。

「あぁ、そうだった・・・」

「ん?元の世界?どういうこと?」

「え?」

ゆっこが何を言ってるんだかわからない──あ、そうだ。

この娘達には僕が別の世界から来たってことを言ってなかったんだった!

僕は一応近くの高校生という『設定』なのに──嘘だということがばれてしまうではないか。

いや、ばれたとて、自業自得だが。

338: 赤春巻き 2014/02/08(土) 20:07:25.46 ID:fa+72uQy0
「あら、阿良々木君、まだ話していなかったの?」

「え?いや、なんつーかまだ話してな」

「なら、説明してあげるわ」

え、ちょっと、待てよ。

しかし、僕が戦場ヶ原を制止させる一言を発するよりも前に戦場ヶ原は話してしまう。

「私と阿良々木君は、こことは全く別の世界から来たらしいの」

「来た─『らしい』?」

「ん?どうしたのかしら?相生さん」

「どうして自分のことなのに他人事のように言ってるのかなぁ、と思って・・・」

「それはね、私たちにもどうしてこうなったのか分からないからよ。気づいたらここにいた─という感じかしら」

「へぇーそうなんだ・・・。
─ということは阿良々木さんは嘘を憑いていたってことですね・・・。失望しました」

「あ、あぁ・・・」

これに関しては本当に何も言い返せない。

339: 赤春巻き 2014/02/08(土) 20:21:15.10 ID:fa+72uQy0
「私も失望したわ、私の彼氏の愚かさに・・・」

そんなに責め立てることはないだろう。

嘘を憑いていたのは悪かったが、そんな集中放火しなくてもいいだろう。

「・・・冗談よ、そんな落ち込まないでちょうだい。あなたらしくないわ」

僕の顔が落ち込んでいるように見えたのか、戦場ヶ原は僕にそっと慰めの言葉を掛けた。

「ところでさっき本だかなんだかっていっていたけれど、阿良々木君もその、白くて何にもない本を見たのよね?」

そういえば戦場ヶ原がこの研究所に来たときそんな話をしていたなぁ。

だいぶ前の過去の話のように言っているが、つい先ほどの話である。

てか、戦場ヶ原さっきこのことを『そんなことはどうでもいいわ』とか言ってなかったっけ?

・・・まぁそれは『僕が女の子と戯れていることよりはどうでもいい』ということであったのだろう。

となると今はこのこと、つまり『白い本を目にして手に取ったことによってこの世界に来てしまったこと』が最重要事項なのだろう。

340: 赤春巻き 2014/02/08(土) 20:26:48.62 ID:fa+72uQy0
「あぁ、そうだよ。見たよ、白い本」

「そう、となるとやはりその白い本とやらに原因がありそうね」

というかそれ以外に理由は考えられないだろう。

「お前はどこでその本を見たんだ?」

「大型書店よ。私たちの町で唯一と言えるほど大きい、あの書店よ」

「同じ場所だ・・・。と、いつかお前があの書店に何の用事があったんだ?」

「なによ、気になるの?」

「ん、うん、まぁちょっと」

「阿良々木君が書店に行ったっていう情報を手に入れたからよ」

341: 赤春巻き 2014/02/08(土) 20:32:10.85 ID:fa+72uQy0
「えぇっ!何で知ってたんだよ!」

「阿良々木君の家に行ったら妹さんがでてきて─月火さんのほうだったかしら。その妹さんに教えてもらったわ」

僕は書店に行くことを月火以外には言ってないのに、あろうことかその月火にばれるとは・・・。

「あ、あのー」

「なんだいなのちゃん」

「仲良くしているところに申し訳ないんですけど」

いや、そんなかしこまらなくてもいいのに。

「私、それ、聞いたことあります」

342: 赤春巻き 2014/02/08(土) 20:37:33.54 ID:fa+72uQy0
「どういうことかしら」

戦場ヶ原は問う。

「確か─『怠書物』でしたっけ」

「なまけしょもつ?なんだそりゃ」

僕にはさっぱり分からなかった。

しかし、一つ可能性があるとするなら、

それは──

「──それは、怪異か?」

「あぁ・・・そんなんだった気がします」

「それ私も聞いたことがあるよ」

なのちゃんに続きみおちゃんまで知ってるとは。

これは、恐らく怪異譚の一つなのだろう。

しかし忍野からそんな怪異譚を聞いた覚えはないが・・・。

343: 赤春巻き 2014/02/08(土) 20:46:04.35 ID:fa+72uQy0
すると、みおちゃんは僕が何もいっていないのに急に語り始めた。

「─怠書物。

昔、というよりかは四、五十年前。

とある週刊誌があった。その週刊誌に連載していた人気の漫画があった。

しかし、その作者はかなりの頻度で休載をしては、家でゲームやら何やかんやをしていた。

その間に漫画の人気はじわじわと下がりはじめ、ついには打ち切りにまで追い込まれた。

それに絶望した作者は─自殺した。

完全なる自業自得だが、その念は今でも現代をさまよい続け、締め切りを守らなかった者、もしくはそれに関係している者の近くに本となり現れる。

その本に触れたものは、別の世界へと飛ばされる・・・」

344: 赤春巻き 2014/02/08(土) 20:52:47.09 ID:fa+72uQy0
「という話ですよ」

「結構怖い話だな・・・」

寒気がするよ。

しかし、となると原因は僕たちにあるというのだろうか?

僕、もしくは戦場ヶ原が締め切りを守らなかったのだろうか。

僕に見覚えはないし、戦場ヶ原が締め切りを守らないわけがない。

「阿良々木君、何を守らなかったの」

「僕が締め切りを守らなかった前提で話を進めてんだよ、他に原因があるはずだろ」

「ちなみに、結構大きい出来事の締め切りを守らなかった場合しかこの怠書物は現れないですよ。宿題やレポートじゃ現れないと思います」

ちゃんみおは助言する。

「そうなると─なんだ?」

345: 赤春巻き 2014/02/08(土) 20:56:05.79 ID:fa+72uQy0
「あ、そうだ」

「ん?何か思い出したか?戦場ヶ原」

「かなり私たちにとって『大きめの出来事』の締め切りを守ってなかったじゃない。」

ん?

「しかも、締め切りを守らなかったのは阿良々木君じゃないわ」

─────あっ!!














「─傷物語」

346: 赤春巻き 2014/02/08(土) 21:03:43.92 ID:fa+72uQy0
そうだ、僕たちの映画である傷物語の映画公開の締め切りを堂々と、破られていたじゃないか!

2012年公開とか予告映像には書いてあったのに。

僕だって、予告で体を張って首までとばしたのに。

忘れてしまっていた。

その映画に関係しているから、僕たちのもとに怠書物が現れたのか。

なんてことだ・・・。僕にも戦場ヶ原にも否は無かったという訳だ。

しかし、となると八九寺や神原もこの世界に来ているのではないか?

「うーん、そのハチクジさんだかカンバラさんとかは知らないですけど、怠書物は人を選ぶって言いますよ」

「そうなのか!?」

「いいように言えば、阿良々木さんは『選ばれた』んですよ、怠書物に」

そりゃ、いいように言えばそうだけど。

ちゃんみお、僕から言わせれば『選ばれてしまった』というのが妥当だろう。

352: 赤春巻き 2014/02/10(月) 21:36:02.24 ID:KWrh0x7/0
「何故選ばれてしまったのかはともかく、そんな怪異聞いたことないぞ」

僕が無知なだけなのかもしれないだけかもしれないが。

「私も聞いたことないわ。「怠書物」なんて怪異」

どうやら戦場ヶ原も知らないようだ。忍野の口からも聞いたことはない。

忍野が知らない怪異なんてあるのだろうか?それはないとは思うが・・・。

「あ、でもこんなことを聞いたことがあるわ」

戦場ヶ原は何かを思い出したように─否、思い出した。

「忍野さんが言ってたんだけど、

『僕たちが住んでいる世界だけが全てじゃない。僕たちが住んでいる世界の他にも世界は存在するんだよ。その世界の数だけ、怪異は存在する。だから、僕たちが住んでいる世界にいる怪異は僕たちが住んでいる世界でしか遭うことはないんだ』

って

つまり、ここは別の世界なんだから、その怪異を私たちが知らなくて当然ってことなんじゃないかしら?」

いつの間にそんな話を聞いたんだよ・・・。

「そういうことなのか?」

「今はそう考えるのが妥当でしょう」

353: 赤春巻き 2014/02/10(月) 21:46:17.90 ID:KWrh0x7/0
「んー」

ここではかせが長い沈黙を破った。

相当退屈だったのか相当話が長くて嫌だったのか、はかせは机に突っ伏せていた。

「怠書物だかなんだか知らないけどむずかしいんだけどー」

「発明品を作るほうがよっぽど難しくないか?」

「それとこれとはちょっとちがうんだけどー、てか話ながいー!」

「あ、あぁごめん」

確かにはかせにとっては僕や戦場ヶ原がどこからきたかとか、怠書物が怪異だとか、僕が変態だと疑われてしまっていることとか、

そんな事はどうでもいいのだろう。

ここまでの怪異に関する話、会話は全てはかせにとってはただ時間経過しているということ以外の何でもなかったのだ。

「そうね、ちょっと話しすぎちゃったかしら。

その博士のためにもこのことは後で考えましょう」

と言っても、夏休みがあと数日で終わってしまうので、ここでゆっくりしている時間もあまりないのだけれどね─と戦場ヶ原は付け加える。

354: 赤春巻き 2014/02/10(月) 22:01:18.49 ID:KWrh0x7/0
─戦場ヶ原の発言で思い出したが、僕が書店に行って怠書物に遭ったときは夏休み終了まであと5日だったので、

今日は夏休み終了まであと4日ということか。

ヤバい、宿題やってない。

なんならせめて宿題を持ってくれば良かった。

何をやっているんだ過去の自分!なに呑気にラノベなんか買いにきてんだよ!

「まぁ時間はないにせよ、怠書物が怪異ということ以外知らないんじゃ、何にも行動に移せないものね。 

下手に動かないほうがいいし─今日はゆっくりしていきましょうか。泊まらせてもらってもよろしいかしら?」

「はい!喜んで!」

なんだか聞き覚えのあるような、ないような言葉を発するなのちゃん─なんかで聞いたことあるんだよなぁ・・・なんだっけ?

そんなことより、戦場ヶ原はこの研究所に泊まることになったのだ。

どうなることやら・・・。

356: 赤春巻き 2014/02/10(月) 22:22:28.62 ID:KWrh0x7/0
─と、ここで一つの疑問を思い出した。

「そういえば、お前はいつからここにいるんだ?」

「昨日の夜からよ」

「昨日の夜!?じゃ、じゃあどこに泊まったんだよ」

もしかして、野宿か?

「なによ、私が野宿でもしたと思ったのかしら?」

「図星です」

「そんなことするわけないじゃないの。

ちゃんと安めのホテルに泊まっておいたわ。

一応お金は持ち合わせていたし。

でも、そのお金がなかったら野宿だったかもしれないわね」

「そりゃ、難を逃れたな」

「ところで─阿良々木君はなんで私を助けに来なかったのかしら?」

「へ?」

「あなたはきっと昨日からここにいるのでしょう?たった1日であんなに仲良くなれるわけないわよ」

「仲良くって─」

ま、まさか・・・。

「長野原さんと、イチャイチャしていたわよねぇ?」

「お前そっから見ていたのかよ!!」

「あなたは、この研究所が完全な密室で音も漏れないとでも思っていたのかもしれないけど、

以外と漏れていたわ。

あなたの楽しそうな声が」

ひぃぃぃ!!怖い!!この女怖い!!

「私を助けにこなかったこと。見知らぬ女子高生とイチャついていたこと。その全てをあなたは償わなければならないわね」

「─助けてくれ!!ちゃんみお!!」

「─私は被害者ですよ?」

笑顔でそう言った。鬼!鬼畜!

完全に自業自得だが、誰も助けの手を差し伸べてくれないとは─最も鬼らしい僕や、鬼そのものである忍よりも誰よりも、戦場ヶ原とみおちゃんは鬼だった。

あのなのちゃんでさえ、見放したような眼差しで、こちらをみている有り様。

─自分のしでかしたことの愚かさを思い知った。

「さて、何がいいかしら」

「ヶ原さん!止めて止めて!!」

「ふふっ」

なんなのその薄ら笑い!!

不気味で、何よりも怖い!

「冗談よ。ただ、一週間毎日早朝に10kmランニングくらいはしてもらいたいものね」

「冗談きついっすよ!ヶ原さん!」

359: 赤春巻き 2014/02/12(水) 20:37:53.38 ID:dz+thVjm0
015

みおちゃんもゆっこも麻衣ちゃんも帰り、暫く時が経ち、時計の針は5時を指していた。本当に時が過ぎるのは早いもので、今日があっという間に終わってしまう。

僕はもともといた世界で怪異やら何やらでのせいで、日々が過ぎていくのを早く感じていたのだが、

このように、ただの平凡な日常を過ごした結果、時間が経過するのを早く感じることもあるのだと知った。

前者より後者の方で時間が経過する方がよっぽど楽であろう。

─なんだか益々この世界が素晴らしく思えてきた。そして、益々僕のいた世界が平凡ではなかったと気づかされた。益々、帰りたくなくなってきた。

360: 赤春巻き 2014/02/12(水) 20:39:04.42 ID:dz+thVjm0
だが、この世界に僕がずっといるわけにもいかないだろう。

もともとその世界に居なかった人物がいることで、この世界のバランスが崩れてしまうかもしれない。

─例えるならば、既に書かれている脚本に、

入れる必要もない登場人物を追加するといったところだろうか。

そんな事をしてしまったら、話を変えることになってしまうだろう。

まぁ─全て僕の推測にすぎないのだが。

ともかく、僕はここに長く居てはいけない気がする。僕の意志に反して、そんな勘が働いたのだ。

361: 赤春巻き 2014/02/12(水) 20:39:48.38 ID:dz+thVjm0
でも、帰る方法が見つからない限り、ここにいるしかないんだよな・・・。

怠書物の正体もいまいち掴めていないし。

今頃僕たち、失踪扱いになっているんじゃないか、警察総動員で捜索中なんじゃないか!?

─と、心配するだけ無駄である。

僕の家族は僕が2、3日家を開けたところで心配するような家族ではないだろう。

362: 赤春巻き 2014/02/12(水) 20:41:02.72 ID:dz+thVjm0
まぁ、僕はともかく、戦場ヶ原はどうなのだろうか。

父は仕事でいないことが多いとは言っていたが、

ということは少なくともいるときもあるということだ。

もし丁度今、戦場ヶ原の父が家にいるとしたら・・・心配しているのではないのでたろうか?

昨日の夜からもともといた世界から消えているということだし。大丈夫なのだろうか?

363: 赤春巻き 2014/02/12(水) 20:42:07.79 ID:dz+thVjm0
「大丈夫よ、今お父さん忙しいから。
少なくとも3週間は帰ってこないわ」

戦場ヶ原はそう返答した。

それなら、安心だな。

─ところで、5時ということはそろそろ夕食を作る時間である。

昨日は僕にとってパラダイスのような
時間であったわけだが、今日はちょっと訳が違うだろう。

戦場ヶ原ひたぎという僕の彼女がいるかいないかで、僕の出来る行動は限られてくるのだ。

364: 赤春巻き 2014/02/12(水) 20:43:20.55 ID:dz+thVjm0
なのちゃんにコスプレさせることもできないだろう。

混浴も無理だろう。多分、僕のやりたいことの殆どは実行することが不可能だろう。

そんな台所や居間や風呂になんの楽しみもない─いや、あくまでセクハラではなく、

戦場ヶ原以外の女の子戯れることを楽しみにしている。誤解はしないでほしい。

戯れるイコールセクハラという声が聞こえてきそうだが、

そんな者はきっと心が淀んでいる。

淀みまくり。

戯れるとは単純にふざけあうことである。

 的な悪戯をするわけではない。

365: 赤春巻き 2014/02/12(水) 20:44:08.24 ID:dz+thVjm0
「じゃあそろそろ夕食作りましょうかね」

僕の予想通りなのちゃんが夕食作りの開始宣言をした。

流石に猫の格好ではなく、エプロンの姿であった。

─服の上に、エプロンを着用していた・・・。

何故だかよく分からないのだけれども、

僕はとても小さく溜め息を吐いてしまった。

366: 赤春巻き 2014/02/12(水) 20:45:02.39 ID:dz+thVjm0
「わーい!今日もオムライスがいいー!」

「いや、流石に二日連続オムライスは無理ですよ、はかせ。昨日で卵使い切ってしまいましたし・・・」

それはそうだろう。

昨日は僕、忍、なのちゃん、はかせの分の卵しか買ってこなかったのだから。

今日もオムライスを作るとしたら、

僕、忍、はかせ、戦場ヶ原、なのちゃんの分を今から買ってこなくてはならない。

「あら、オムライスを作りたいのかしら?なのちゃん」

なんか凄い溶け込んでんな、戦場ヶ原。

いつの間にか『ちゃん』の呼び名で呼ぶ仲になったんだ・・・?

一種のスキルとでもいえるのだろうか。

367: 赤春巻き 2014/02/12(水) 20:46:23.25 ID:dz+thVjm0
「は、はいそうですが・・・生憎卵不足でして」

「なら、心配ないわ」

といって、戦場ヶ原は持ってきたカバンの中から何かを取り出した。

何を取り出すのだろう─というより、何を出すのかは明確に分かっていた。

この流れで卵が出てこなかったら戦場ヶ原の思わせぶりな台詞の意味がなくなってしまうだろう。

実際、戦場ヶ原が取り出したのは卵だった。

量は2パックであった。

「おお!あ、有り難いです!頂いていいですか!?」

「頂いてもらうために出したのよ。あなたのオムライスを食べてみたいしね」

「ありかどうございます!よし、美味しいのつくりますよー!はかせ!」

「わーい!!」

きっと戦場ヶ原はなのちゃんのオムライスを食べた瞬間、涙が溢れて止まらないことであろう。

今までの人生で食べたきた全てのオムライスの味を凌駕する美味しさだからなぁ。

なのに、どこか懐かしい感じがして、

全くオムライスらしさを失っていない。

あれほど素晴らしいオムライスはない。

僕はこう断言できる。

368: 赤春巻き 2014/02/12(水) 20:47:13.23 ID:dz+thVjm0
「ところで、なんでお前卵持っているんだ?」

「ん?オムライスを作る人がいたらあげようと思っておいてかっておいたの」

「どんだけ用意周到なんだよ」

「ちなみに私は、道行く幼気な子供に手を出そうとする人がいたら、それを阻止するために存在しているのよ」 

「─なんだか、その人、親近感を感じるんだが」

「そうよ、私はあなたのためにいるのよ」

「お、おぉ・・・」

突然軽いプロポーズのようなものをされて軽くパニックだ。

何も・・・返答できない!

372: 赤春巻き 2014/02/13(木) 23:15:45.97 ID:1EAStP7Y0
「じゃあ、私はちょっとなのちゃんの手伝いをしてくるわね」

手伝い─と言えば、勿論料理の手伝いだろう。

僕は一つ不安なことがあったので忠告する。

「なぁ、戦場ヶ原」

「なによ」

「お、オムライスの味付けは、なのちゃんだけにやらせろよ?」

「分かっているわよ、私だってなのちゃんのオムライスが食べてみたいわけだし。私が手伝ってしまったら、それはなのちゃんのオムライスではなくなってしまうじゃない」

あぁ、分かっていたのか。ならいい。

「それとも─私の味付けがとても下手だからそもそも料理の手伝いすらやるなって遠まわしに言っているのかしら?」

「いやいや、そんなつもりはねぇよ!」

「あら、そう。じゃあ行ってくるわね。私が暫く居間に居ないからって、泣かないでよね」

「大丈夫だよ」

同じ家の中にいるのに、泣く奴がいるものか。

373: 赤春巻き 2014/02/13(木) 23:32:32.81 ID:1EAStP7Y0
そして、戦場ヶ原は台所へと去っていった。

なのちゃんと料理をすることで、もう少し性格が柔らかくなればいいのだけれどな・・・。

「ふぅ・・・」

「うぉっ!」

滅茶苦茶ビックリした!!

いつの間にか忍が僕の影の中から出てきていた。

しかも、さらに僕を驚かせたのは、忍が下着姿だということだ。大人の下着ではなく、子供がつけるような下着を着用していた。

「暑いわい暑いわい」

「いやいや。この部屋今エアコンガンガンに効いてるぞ?むしろ風邪ひくくらい寒いと思うんだが、そんな格好でいると」

「確かにここは涼しいがの、影の中がなんだか暑くてのぉ・・・。我が主さまがなにか興奮するようなことでもあったのかのう?なぁどうなのじゃ?」

「・・・まぁ」

─無いわけでは、ないよな。

「多少─あったな」

「本当に止めてほしいの・・・。何度もいうようじゃが、儂とおまえ様は精神的にペアリングしているのじゃ。

だから、興奮するなとは言わんが、極力押さえてほしいものじゃのう」

「あぁ、分かったよ。分かった分かった。

但し、そのかわりに教えてもらおう」

「?」

「今朝のドーナツ─あれはなんだ?」

374: 赤春巻き 2014/02/13(木) 23:50:17.67 ID:1EAStP7Y0
「なっ・・・!100レス以上前の出来事を持ってくるとは、しつこいぞ、我が主さまよ!」

「たとえ100スレ以上前だとしてもなぁ、僕にとっては今朝の出来事なんだよ。な?」

事情聴取の始まりである。

「まず、誰のお金であれを買ったんだ?」

「ん、それは・・・」

─おまえ様のお金じゃよ。

忍はそう言った。はっきりと。

そう、前述したとおり。僕はここで財布からお金が数百円消えたということを知るのであった。

数百円消えた─僕はその程度のものだと思っていた。

「いくらだ?」

「─5000円じゃ」

「え?」

─ご、ごごごご、ごせんえん?

なななな、ナンダッテ!?

「僕が財布に入れていた金額の半分じゃないか!!」

なんてことを!!

「─しょ、しょうがないじゃろ!!儂は!三日間とドーナツがない生活を送っていたのじゃぞ!?ならば三日分のドーナツを食べるというのが筋じゃろう!」

「三日で5000円分も食わねえだろ、いつも。少し盛りやがったな!?」

「─す、すまん!この通りじゃ!許して!」

忍はあられもない姿で土下座した。

あられもない姿とは、下着姿ということである。

僕は思うのだが、こんなに軽々しく土下座が使われて良いものなのか・・・。土下座をするということは、よっぽどの事なんじゃないのか?

─否、忍にとってはよっぽどの事なのだろう。

というか僕は何の罰を下すとも言っていないのになにを土下座しているのだろうか。僕が一体どんな罰を下すと思って土下座しているのだろうか。

375: 赤春巻き 2014/02/14(金) 00:00:29.12 ID:51FNsAzo0
でも、僕は広い心を持っている。

下着姿で土下座させられては、許さざるをえない。

でも、出来ることなら大人の下着を着用して欲しかったものだ。

まぁ、子供の下着は子供の下着で良いものがあるかもしれないが・・・。

「しょうがないな、そこまでされたら許ししかない」

「おおー」

「但し!!」

僕はかなり強調して言った。

「今日と明日は下着を着用せずに過ごせ!!」

「─え、ええ?なな、なんじゃと!?下着を着用するなと!?」

「そうだ。おまえ殆ど影の中にいるんだしいいだろ。しかもおまえ、ブラック羽川との戦闘の時確か、ノー  だったよな」

「─!!」

「だったら平気平気。いけるよ忍なら」

「どうしてそうなるのじゃ!あの時はちょっと涼しくなりたかったんじゃ!今はちゃんと下着着けとるわい!それに─恥ずかしいじゃろ!!二日間  ブラなんての!」

「誰が上だけと言った?」

「え?」

「上下とも着用はするな!!」

「ば、絆創膏は?」

「なし!」

「なんじゃとおおおお!?」

376: 赤春巻き 2014/02/14(金) 00:17:47.78 ID:51FNsAzo0
忍にきっつい罰を下すことができた、というか完全に僕の願望を叶えただけである。

ドーナツのこととなると言うこと聞いてくれることが分かった。

あの詐欺師の言葉を借りるのもなんだが─今回の件から僕が得るべき教訓は、忍に頼みごとがあるときはドーナツを関連付けて話せ。ということだな。

「く、苦しい・・・!」

? 誰かのうめき声にもよく似た声が聞こえる。

「死ぬ!死ぬって!」

誰の声だ!?かすれかかって本当に死にそうだが・・・。

─ってまさか。

「忍、ちょっと立ってみろ」

忍は体育座りの姿勢から起立した。

「ふぅー・・・死ぬかと思ったぜ」

忍が座っていたところに阪本がいた。

─ということは、阪本はずっと忍の尻の下にいたというわけだ。素肌と阪本との間を遮るものは下着だけ。もうほぼ素肌に触れているのと同等と言っても過言ではないであろう。

そんなところに、阪本がいた。声の主は阪本だった。

「こ、この猫・・・!お前!狙ってたろ!」

「はぁ!?なにいってんだよ阿良々木!そんなつもりはねぇよ!」

378: 赤春巻き 2014/02/15(土) 11:46:49.93 ID:ljtoTC/H0
くそっ!許せないぞ!この猫!

「そういえば、お前昼もはかせの白衣の中にいたよなぁ!

猫だからって、許されると思うなよ!そこは誰にも触れられることを許されない場所だって言うのに!」

「俺がすすんで尻の下に来たんじゃねぇよ!

俺が先にここに居て、後から忍が来たんだろう!」

─居たのか?こいつ。

僕が気づいて居なかっただけか─あるいは、阪本の嘘か。

今の僕はどうしても阪本が嘘を憑いているようにしか思えないのだけれど・・・。

「まあまあよいじゃろ、お前様よ。許してやるがよい。

─にしても可愛いのお!一生撫で回したいわ!」

と言って忍は阪本を抱きしめて撫で回した。

あるようでないような胸に押し付けて撫で回した。

何というか、阪本が忍の胸に顔を押し付けてられていることより、

女子の胸に顔を押し付けられているというその行為そのものが羨ましい。

僕だってそんなことされたことないというのに、

まさか1年くらいしか生きていない猫に先を越されるとは、全く思ってもいなかった。

「─さすが猫だ」

猫であることを最大限まで活用していろんな人と触れ合っている。

─と、考えると世界中の猫は全て(障り猫以外)、可愛いということを生かし、

女子と触れ合うことを生きがいといているのではないかと思う。

要するに変態。

─いっそ猫になりたかった。

379: 赤春巻き 2014/02/15(土) 11:48:41.85 ID:ljtoTC/H0
「ん”ぬぁ!息苦しいわ!!」

阪本は忍の胸から顔を離した。

自ら離した。

「あぁ、すまんのう」

「てか何で下着姿何だよ!」

阪本は疑問に思ったろう。

でも、むしろ下着姿で良かったとも思っていたんじゃないか?あるようでないような胸だとしても、胸は胸だ。

下着姿で押し付けられたらひとたまりもないだろう。

─というか、昨日こいつ忍に対して敬語だったけど、その設定はなくなったのかよ。

「それは少し暑かったからじゃ。

でも、やっぱり若干寒くなってきたのう。そろそろ服を着るとするかの─それとも、下着姿の方がよいか?」

薄ら笑いで言う忍─それは阪本と僕、どちらに対して発した言葉なのだろうか。

「─下着姿の方が興奮するのかのう?ロリコンじゃもんなぁ・・・。

子供の下着姿に興味津々じゃろ」

─明らかに僕に向けて発した言葉だ。しかもかなり悪意を感じることができる言葉である。

「いや・・・いいから服着ろ、服」

「なんじゃ、つまんないのぉ・・・。我が主さまは。

まぁ、うぬがそういうのなら着がえるわい。じゃ、ちょっと影の中に一旦戻ることにするかのー」

つまんないとはなんだ、つまんないとは。一体何を期待してたんだ。

380: 赤春巻き 2014/02/15(土) 11:49:48.77 ID:ljtoTC/H0
「あ、そう言えば」

「なんじゃ?儂の着がえでも覗く気か!?」

「いやいや、そうじゃなくて─ドーナツはもう食べたのか?」

僕のお金で買ったものなのだから、せめて2つくらい分けてほしいものだ。

贅沢を言うなれば、ポンデリングが食べたいな。

「そんなのとっくに食べ終わったわ」

「えぇ!?」

「早い者勝ちじゃ!食ったもん勝ちじゃ!」

と言って忍は再び影の中へと入っていった。逃げるように。

その顔はどこか勝ち誇ったようにも見えたが─勝ってねぇだろ。

もっと言えば負けてもいないからな!

382: 赤春巻き 2014/02/15(土) 16:02:38.62 ID:ljtoTC/H0
「そういえば・・・」

「ん?どうした?阪本」

「ガキはどこ行った?」

「ガキ?─あぁ、はかせのことか?それならさっきなのちゃんと台所に行っただろ」

「阿良々木。お前見ていなかったのか?

あいつは娘のいる方向に歩いてはいったものの、玄関から外に出ていったぞ?」

「─あ、そうなの!?」

「まぁ、気づかないのも無理はない。

きっと娘も気づいていないはずだ。勿論、お前のパートナーもな」

「どこいったんだろうな」

「─さぁな。まぁ、ガキだし、すぐ帰ってくるだろ」

383: 赤春巻き 2014/02/15(土) 16:03:46.91 ID:ljtoTC/H0
その時、微妙な静寂を突き破るかのような轟音

─否、轟音というほどではないが、大きな音が鳴り響いた。

玄関の方向からだった─

ということはこの音はきっと玄関の戸を勢いよく開けた音なのだろう。

突然来客が訪れたのかもしくは・・・

「なのー!!」

はかせが帰ってきたか。

その明るくて通った声は研究所の壁や床を伝って響いた。

おそらく、全員がその声に気づき、動くことをやめて玄関の方向を見た。

「あれ!?はかせ!外に行っていたんですか!?」

阪本の言うとおり、なのちゃんははかせが外に行っていたことに気づいていなかったようだ。

僕と阪本も早歩きで玄関へと向かう。

いや、僕は早歩きだったが、阪本は早歩きではなかったが。

384: 赤春巻き 2014/02/15(土) 16:04:57.81 ID:ljtoTC/H0
なのちゃんと戦場ヶ原も台所から出てきていた。

はかせはなのちゃんだけを呼んだのに、

この研究所にいる人間( 猫)が全員集まるとは思わなかっただろう。

─あ、ビスケット2号君は・・・来ていないけど。

「あ、あのね」

案の定、はかせは驚いた表情でこちらを見ている。

しかし、その反面、なにか嬉しいことがあったかのような喋り方である。

「な、なんですか?はかせ」

「あのね、中村捕まえた!」

「へ?」

─中村?中村って誰だ?

もしかして、もう一匹の猫か!?

猫に『阪本』と名付けるくらいだ。

はかせが名付け親ならば『中村』という猫がいても全く可笑しくない。

「中村・・・先生!?」

しかし、なのちゃんの反応を見るに、猫ではなさそうだ。

先生ってことは時定高校の教師か?それともはかせの師匠かなんかなのか?

─それを『捕まえた』ってどういうことだよ。

385: 赤春巻き 2014/02/15(土) 16:05:43.71 ID:ljtoTC/H0
「うん」

平然と返事をしたはかせ─その時、はかせは誰かの手を引っ張った。

そして、

その『中村先生』は全貌を表した。

「く・・・」

ショートの青い髪の毛に白衣を着用しており、結構若く見られた。

─20代だろうな、きっと。

「中村先生!!」

なのちゃんの反応からして、そこにいる中村先生が時定高校の教師であることは間違いないだろう。

「やべ!」

と、中村先生が姿を表した瞬間に阪本は僕の後ろに隠れた。

「どうした?阪本」

僕は小声で尋ねた。

「どうして隠れるんだ?」

「いろいろあるんだ!俺のことは黙っておいてくれ!」

「ああ、そうか・・・」

どんな事情があるかは知らないが、とりあえず黙っておこう。

386: 赤春巻き 2014/02/15(土) 16:07:03.97 ID:ljtoTC/H0
「か、数が増えている・・・!?」

中村先生は目を見開いて言った。

増えている、というのはきっと僕と戦場ヶ原を見て言ったのだろう。

ただ、『数が増えている』という表現から察するに、

僕と戦場ヶ原をロボットかなんかだと思ってるな?この人。

「あぁ、ええと、この人たちはですね・・・」

「ふぅー・・・」

なのちゃんが説明しようとしているところに、遮るかのように忍が声を出した。

ペアリングしているから、僕の心の動きを察して、

何かあったということを理解してくれていると思っていたが、そんなことはなかった。

全く状況を知らないまま、忍は華麗に僕の影から出てきた。

「─ひ、ひぃぃぃぃ・・・」

中村先生はその場に倒れ込んでしまった。

恐らく、この世で二度と見ることがないのではないかと思われる、

『影から少女が出てくる』というものを見て、気絶してしまったのだろう。

なんというバットタイミングでの登場。

否、忍にとってはグットタイミングのつもりだったのかもしれないが。

「ん?どうしたのじゃ?何故そこの女は気絶しているのじゃ?」

全く状況が飲み込めていないようだ。

でも、それは僕も同じなので、残念ながらこの状況を忍に説明することはできない。

「あれ、気絶しちゃったんだけど」

「中村先生ー!」

なのちゃんは駆け寄る。

─まぁ、死んではいないはずだ、大丈夫だろう。

387: 赤春巻き 2014/02/15(土) 16:08:29.55 ID:ljtoTC/H0
「その、影から出てくるのってどういう構造になってんだよ。説明してくれ」

阪本は今更ながらそんな問いを投げかけてきた。

─そう言えば僕はここにきて僕が人間もどきの吸血鬼であるということを言っていなかったな。

忍が吸血鬼であるということも。

なのに、忍が500歳だと言うことを平気で受け入れることができるのは凄いと思う。

ただ、ここで僕たちがそのようなものであるということを言うのも何なので、

ここでは軽く誤魔化すとしよう。

「ま、まぁ。ここの世界とは違うことが僕たちの世界にはあってだな、

忍は僕の影の中に住んでいるんだよ」

「そうなのか?」

「あ、あぁ!そうだ。ヤドカリが住処を借りるように、忍も僕の影を借りているんだ!」

また、この世界と僕たちの世界は違うという設定を上手く使うことができた。本当に便利だ。

「それより、今は中村さんの救出が先だ!先!」

僕はその話をこれ以上続けさせない為に、話を切り替えた。

「あ、それと忍!」

「なんじゃ?」

「頼むから、中村さんの前では影の出入りは止めてくれよ?

影の中にずっといるか、影の外にずっといるか。どっちかにしてくれ」

「下着不着用じゃが、良いのか?」

「えっ!もう脱いでんの!?」

「早めに越したことはないじゃろ?」

「ま、まぁ・・・」

「何も着用せずに直接床に座るのはやや抵抗があるが、

過去の儂は廃墟に直で座っていたからのう。今更どうこう言うこともないわい」

と、とりあえず、影の出入りをしなければいいや。

388: 赤春巻き 2014/02/15(土) 19:49:55.54 ID:ljtoTC/H0
「阿良々木さん!中村先生運ぶの手伝ってください!」

「お、おう」

─にしても何故、はかせはこの中村先生とやらを捕まえたのだろうか。

無理矢理連れてこられた感じは全くなかったし、

むしろ中村先生は研究所の中を興味津々そうな目で見ていて、捕まえられたらというよりかは捕まりにきた感じがするが・・・。

まぁ、そのあたりは本人に直接聞いてみることにしよう。

389: 赤春巻き 2014/02/15(土) 19:51:15.22 ID:ljtoTC/H0
016

「聞こえますかー」

数分後、居間へと運び込まれた。

中村先生を起こそうと、なのちゃんは必死に声を出した。

といっても、大声で叫ぶような感じではなく、優しく語りかけるような声を出していた。

中村先生の体を揺すりながら。

「─ん、んんっ?」

「あら、お目覚めのようね」

戦場ヶ原がそういうのを見て、中村先生は不思議そうな顔をしていた。

「─わ、私は、超常現象をこの目で確かに見た気が─気のせいか?」

「ゆ、夢ですよ、夢」

「─そ、そうかぁ・・・ってうおっ!?」

「ど、どうしました!?」

「わ、私が東雲と話しているということは、は、つ、つまり!ここは・・・」

「え、東雲研究所ですけど...」

「うわぁーー!!はまったー!!まんまと罠にかかったー!!」

「え?は、はい?」

僕はなのちゃんのように直接口には出さなかったが、混乱していた。

─罠にかかった、ってどういうこと?

そこでなのちゃんは、はかせを真っ先に疑い、「はかせ、どんな罠を仕掛けたんですか!?」と言う。

「え、はかせは、中村が研究所の周りうろうろしてたから中に入れようと思っただけなんだけど!」

「そうなんですか?中村先生」

「─まぁ、概ねそんな、感じだな」

それ、罠にかかったっていうより罠がそのものがないじゃん。

ただ家に入れさせてもらっただけじゃん。

390: 赤春巻き 2014/02/15(土) 19:52:59.10 ID:ljtoTC/H0
「なんだ、そうなんですか。なにか用でもあったんですか?」

「え、いやいやいやいや!別に別に!ただ、いい家だと見とれていただけだ!」

「へー・・・そうですかー」

明らかに嘘ついているでしょ、この人。

「んー、じゃあせっかくですから、夕食たべていけれますか?」

「いやいや、それは申し訳ない!」

すると僕の後ろに隠れていた阪本が口を開く。

「どうせ、家に帰ってもカップラーメンしか食べねぇんだから、食っていけよ」

「ん!?誰の声だ!?今の」

中村先生は姿なき人の声に驚愕した。

「そういうことですから、食べていって下さいよ」

「─ま、まぁそうだな、確かにカップラーメンしか食べていないもんな。

たまには美味しいものを頂くとしよう」

「はい!そうしましょう!」

「─しかし、私がカップラーメンばっかり食べていることは、私と大将くらいしか知らないと思うが・・・」

「ん?何か言いましたか?」

「あ、いやいや!何でもない。気にしないでくれ」

「じゃあ、もうできてるんで夕食運んできますねー」

え?あの短時間でオムライスを。

5人分─中村先生もいれて6人分のオムライスを作ったというのか?

しかも中村先生は急な来客。

そんな急な来客を見越して一つ余分にオムライスを作っていたとは思えない。

がしかし、

「一つ余分に作っておいて良かったわね」

と戦場ヶ原は言うのだった。

なんと、彼女達は一つ余分に作っておいていたらしい。

ということで、今日の夕食は昨日より人数の二人多い、賑やかな夕食になりそうな予感がする。

─否、なるな。

391: 赤春巻き 2014/02/16(日) 19:05:47.44 ID:QXGqXMQD0
017

昨日と同じく、素晴らしく美しく整った形のオムライスがこたつテーブルの上に並べられた。

「なのちゃん・・・本当に料理がお上手ね、こんなに綺麗なオムライスみたこと無いわ・・・。

ちょっと泣きそう」

「え、え!?そ、そんなにですか!?泣かないでくださいよー!」

「ふふっ」

「かと思ったら笑ってる!?どっちなんですか戦場ヶ原さんー!」

「面白いわね、あなた」

もうすっかりなのちゃんは戦場ヶ原のお気に入りになったようで、軽く遊ばれている。

しかしやはり凄いと思う。

レストランのメニューの料理の写真というのは、多少光などの加工を施しているということを聞くけれど、

なのちゃんのオムライスは、そのメニューの写真そのままの料理が出てきたというくらい綺麗だ。

それで味も言うこと無しなんだから、凄いよなぁ。

「あ、あの」

中村先生は控えめに言う。

「私は本当にここにいて良いのか?」

「はい、全然問題ないですよ」

「あぁ、そうか・・・」

もしかすると中村先生は、あまり一つのテーブルを囲んで、

大勢で食事を摂ったことが無いのではないのだろうか?

あまりこういう賑やかな雰囲気に慣れていないのだろうか。

だから少し動揺したのだろう、きっとその上での一言だ。

392: 赤春巻き 2014/02/16(日) 19:07:23.12 ID:QXGqXMQD0
「じゃあ皆さん頂きましょう!」

そして、僕と戦場ヶ原となのちゃんとはかせと忍─そして中村先生は言う。

「「「「「「いただきます」」」」」」

その言葉を言い終わった途端に、

昨日にも負けず劣らずといった勢いでオムライスにはかせはがっついた。おお、すげぇ。

さすがはかせだ。

はかせ程ではないが、なのちゃんや戦場ヶ原も腹が減っていたのか、

すぐにスプーンを手にとって、すぐなオムライスを食べ始めた。

それと同時に僕も食べ始める。

オムライスに夢中で気づいていない人も多いかもしれないが、

阪本も小魚を一生懸命食べていた。勿論、中村先生から見えない場所で。

全くオムライスに手を出さないのではないかと思っていた中村先生も、

皆より少し遅れてオムライスを食べ始めた。

さぁ、なのちゃん特製、見た目も味も絶品なオムライスを食べて、

戦場ヶ原がどんな反応をするか楽しみな僕だ。

早く何か反応見せてくれないか!

「うわ、美味しいわね、これ」

─・・・え、すげぇ普通の反応。

もっと

『やばい!うまい!死ぬ前に食べるのは絶対このオムライスにする!!』って叫びまくるかと思っていたら、冷淡な反応である。

『泣いちゃうかもしれない』と大袈裟なことを言っておきながら、戦場ヶ原はそんな反応だった。

─まぁ、よくよく考えてみれば、戦場ヶ原がそんな大声をあげて大袈裟な反応をすることなんて、めったにないもんな...。

こう見えて実は、このオムライスがとても美味しいということを、噛み締めているのかもしれない。

393: 赤春巻き 2014/02/16(日) 19:08:26.02 ID:QXGqXMQD0
「さすがなのちゃんだ。正直、ここまで美味しいものだとは思ってもいなかったわ」

「あ、ありがとうごさいます」

戦場ヶ原の予想を遥かに越えた味だったようだ。

初めて食べた時は物凄い衝撃をうけるだろう

─否、この味は何回食べても初めて食べたかのような衝撃をうける。

そう、オムライスを食べてみて、思った。

「確かに、うまいな。これ東雲が作ったのか?」

「は、はい、な、なんか照れますねー・・・」

「さすが─どのようなメカニズムなんだ・・・知りたい!知りたすぎる!」

「ん?何か言いました?」

「あ、いや、何でもない」

─独り言が多いな、この人。

「あ!そうだ、中村!」

「こら、はかせ!『先生』をつけて呼んでくださいよー!」

「いや、大丈夫だ、私は構わない。それで、何の用だ?博士」

「中村ー!はかせの発明品見る?」

「え!?いいのか!?」

中村先生は机に両手を叩きつけて立ち上がった。

大きく机が揺れて、お茶(緑茶)が少し零れた。

「おぉっと─すまん。え、本当にいいのか!」

「うん、いいよ」

「キター!! ─っあ、いや・・・でも罠かもしれない・・・」

「? じゃあ、ちょっと待っててー」

といってはかせはどこかへ走って言った。

「なぁ、おまえ様よ」

ここで忍が久々に発言した。

「何故、あの中村とかいうやつはあんなに興奮しておるのじゃ」

「─うーん、なんだろうな・・・、理科の先生か何かなんじゃないのか?白衣着ているし」

「なるほど」

久々の発言がそれかよ!知る必要もないことだし、第一僕に聞かれても困る!

394: 赤春巻き 2014/03/02(日) 19:44:19.79 ID:bDjWl4cZ0
「はーい!じゃあ、一つ目!」

はかせはなんの前触れもなく、突然発明品を持って現れた。

手に持っている『発明品』は、細長い形のもので、はかせの手でも握れるほどの大きさだ。

「これー!その名も、『カンキリーダー』!!」

「おぉー!」

歓声を上げたのは勿論中村先生である。今後もはかせの発明品に対して歓声を上げるのは中村先生だけと考えてもらっていい。

というか、名前から安易に使用方法が想像出来てしまうのだが─一応、聞いておこう。

「これはー!缶詰めの蓋を開けるときに使いまーす!だから、カンキリーダー!」

思っていたとおり、缶切りだった。

「只の缶切りと思ったら大間違いなんだけど!これは、缶詰めの蓋にカンキリーダーをくっつけるだけで、缶詰めの蓋が開いちゃーう!」

─あのちょっと平たくなっている部分にくっつけるのか。

「すごいな!手間がかからないじゃないか!」

395: 赤春巻き 2014/03/02(日) 19:45:56.61 ID:bDjWl4cZ0
─とまぁ、こんな具合で。

はかせの発明品の発表は続いた。

30分も。

発表した発明品はというと、『クサヌキスト』、『ヒヤシンスメーカー』、『サメチョコ入荷状況チェックフォン』などなど、

日常生活で割と役立ちそうなものから、はかせの願望を満たすものまで、幅広い発明品の数々であった。

その一つ一つに中村先生は過剰な反応をしていた─否、本人は過剰な反応をしているつもりはないのだろうけど。

相当はかせの発明品に興味があったようである。

中村先生以外はがはかせの発明品の発表を見るよりもオムライスを食べる方に集中していたことは、言うまでもない。

別に僕は発明品に興味が無かったわけではないけれど、それよりもオムライスを食べたいという気持ちが大きすぎて、

そういうことになってしまっていたのだ。

そして、夕食の時に談笑しようとしていた僕であったが、はかせの発明品発表が思いのほか長かったので、

談笑あまりする事ができず、夕食は終わりを告げてしまった。

もちろん全員で「ごちそうさま」と言って。

396: 赤春巻き 2014/03/02(日) 19:48:07.76 ID:bDjWl4cZ0
「うまかったぞ、東雲。なかなかのオムライスであった」

「あ、ありがとうごさいます!中村先生!」

「お前を深く調べたい...!」

「え!?え、ちょ、困ります」

「あ、なんでもない!ひ、独り言だ!」

─中村先生は神原と同じく、百合なのか?それとも、ロボマニアか?

科学者としての探求心からの発言か?

なににしろ、なのちゃんを欲しがっていることに間違いはないだろう。

「そ、それではお暇させてもらうぞっ!」

「え、もう帰るんですか、先生!」

「お前のオムライスが食えて良かった!ありがとう!感謝しよう!では、失礼する!」

中村先生は超早口で台詞を吐き捨てて、疾風のごとく玄関へと走っていく。

「あ、ちょ」

なのちゃんもあまりの撤退の早さに驚くしかない。さっきまでいたのに、

さっきまでいなかったかのように、姿を消した。

何故にそんなに早く撤退する必要があるのか...。

そもそも研究所の前で張り込みをしていた時点で可笑しいかったんだ。あの人は何者だったんだ。

これじゃあ、お金がないから人の家にお邪魔して勝手に飯を食べて逃げたみたいじゃないか─

いや、それとは違うか...。

そういえば、全くもって謎の登場、謎の退場をした、

目的が謎の中村先生が居なくなったことで、楽になった奴がこの部屋にいる。

姿を隠し続けていたものだから、すっかりその存在を忘れてしまっていた。

僕は彼に声をかける。

「阪本。もう中村先生って人帰ったらしいから、もう隠れるのは止めていいぞ」

「おぉ、そうか」

阪本は全身の力を抜いて、床に張り付くようにぐったりとした。

「お前、なんでそんな隠れてたんだ?訳が分からないんだが...

もしかして以前あの人に飼われていたとか?」

「!? いや、んなぁわけないだろ!」

「あ、そうか」

─だよな。そんなことあるわけないよな。どんな事情があるかは知らないが、

やはり触れないほうが良いだろう。

397: 赤春巻き 2014/03/02(日) 21:26:44.36 ID:bDjWl4cZ0
ところで今、東雲家の居間には僕となのちゃんとはかせと忍と戦場ヶ原と阪本がいるわけだ─つまり、

人間もどきとロボットと天才幼女と元怪異殺しと蟹がいるわけだが・・・。

まぁ、昨日と同じく。

ごく普通の家庭では有り得ない空間が広がっているわけだが...。

一番重要なのは忍と戦場ヶ原とが一緒の空間に居るというところだ。

一回この二人に喋ってほしいものだ。

少し興味深い。

しかし、忍といえば、僕以外の人間とはあまり話したがらない。だから戦場ヶ原とも自ら話そうとはしないだろうな...

戦場ヶ原もそれを察してかなんなのか、忍とは一言も言葉を交わしていない。

しょうがない、ここは僕の脳内で補うか。

今こそ、僕の妄想力が問われる時である。

398: 赤春巻き 2014/03/03(月) 17:00:14.43 ID:9BK2/RFP0
ではここからは僕の妄想劇。

『─なぁ、ツンデレ娘よ』

『何かしら、忍ちゃん』

『いやはや、こうしてうぬと話すのは初めてじゃな』

『そうね、常に身近(暦の影の中)に居たけれど、こうして面と向かって話すのは初めてね』

『─そうじゃな...我が主様はうぬの彼氏としてどうじゃ?』

『どうって─そりゃもう最高よ!阿良々木君は!『良い良い』って書くだけあって本当に善い彼氏よ!』

『ん?なんかキャラ崩れていないか?うぬ』

いや!だめだ!

僕の妄想力ではとてもじゃないけれどこの二人の会話は妄想出来ない!

まず忍と戦場ヶ原に共通点が見いだせず、万が一話す事になったとしてもなにを話し合うのか、それが解らない!

もういい、こんなことは時間の無駄─かもしれない!

399: 赤春巻き 2014/03/03(月) 17:06:47.30 ID:9BK2/RFP0
─さて、中村先生が東雲研究所を去ってから今の今までの文章、なんだか急いでいるようにも思える。

何故だろう。

─しかし、それは直ぐにわかった。これは意図的に何かしらに向けて急いでいる文章である。

それが何であるかは語らずとも理解できるであろう。

夕食の後の一大イベント。

1日の疲労を癒やす。

至福の時間。

そう、入浴である。

僕が無意識下で風呂に入りたいと思うが故に、今までの文章がなんだか急いでいるような文章になってしまっていたのだ。

昨日も言ったが、僕は1日の疲労を癒やしたいという欲求があるため、風呂に入りたい、風呂を欲しているのだ。

何が女の子の裸だ!

目の療養になるだけじゃないか!

─いや、今のは失言。

400: 赤春巻き 2014/03/03(月) 17:15:25.59 ID:9BK2/RFP0
それはともかく、今日は昨日のようにいこないんじゃないのか?

昨日は計4人で風呂に入ったが、今日はそこに戦場ヶ原を加えて5人である。

湯船に浸かるのは4人でもギリギリ─否、僕は追い出されたので3人でもギリギリだ。

だったのに、今日は僕が別に浸かるとしても、4人、しかも女子高生である戦場ヶ原は他の3人と比べ、体が大きい。

となると、湯船ははちきれてしまうのではないのだろうか。

それともはちきれても良いから浸かるのだろうか。

─いや、待てよ。そうなってくると一番最悪のパターンが考えられる。

僕が風呂に入らせてくれないということだ。

『1日くらい入らなくても阿良々木君は死なないわよね?』とか言われてそもそも脱衣所に行くことさえも許されないのではないのだろうか。

それは困るな。

確かに、1日くらい風呂に入らなかったといって、死ぬわけではない。が、今の季節は夏。

汗をかきまくって体中がベタベタする季節だ。

そんなのをほおっておいて風呂にも入らなかったら、痒くて痒くて仕方ない。

それに耐えながら寝る─なんてことはなってほしくないな...。

401: 赤春巻き 2014/03/03(月) 23:12:55.97 ID:9BK2/RFP0
とかいろんな思想を脳内で巡らしていたときに、皿を洗い終わったとみられるなのちゃんが居間に来て言った。

「じゃあ、そろそろお風呂入りましょうかねー」

ようやくお風呂というワードが口から出てきたところで嬉しい限りだが、『お風呂に入ろう』というお誘いは僕も含まれているのかどうか不安なところだ。

「あら、このお宅は夕食の後にお風呂なのね─私も入っていいかしら?」

戦場ヶ原はなんだか嬉しそうな、楽しそうな表情を浮かべてそう言った。

女同士の付き合い。

女同士でしか語れない一切合切のことや、女同士で触れ合おうとでも戦場ヶ原思っているのかもしれない。

残念ながら僕はお風呂に入りたい。

「はい、良いですよ!」

勿論、なのちゃんは戦場ヶ原の入浴を許可する。

「じゃあ、行くわよ、阿良々木君」

「─おう・・・ってえぇ!?」

まさかのガハラさんからのお誘いですか!?

ちょっと意外なんですけど...。

「い、いいのか?」

「何言っているのよ、彼氏と彼女の関係じゃない。これくらいのスキンシップ。当たり前のことよ」

「マジすか!」

多分今僕の顔は驚愕のあまり感嘆符をそのまま顔に描いたかのような顔になっていることだろう。

確かに仲のよいカップルは一緒に入浴するとは聞いたことはあるが、まさかそのお誘いを受けるとは...。

本当に意外である。


402: 赤春巻き 2014/03/03(月) 23:21:46.26 ID:9BK2/RFP0
「え!今日も阿良々木さん入るんですか!?」

一方なのちゃんは僕が入浴することを拒んでいるようだ。なんだよ、●エプロンと男子高校生の仲じゃないか。そのくらい許しておくれよ。

─なんてことはいえるわけがない。

「またバスタオル着けなきゃならないじゃないですかー」

「誰もバスタオルを着けろなんて言ってないよ?なのちゃん。バスタオルは強制じゃない。着けたくなければ、着けなくていいんだ」

「なに名台詞みたいに語っちゃってんですか。それ要約すれば『裸になれ!』って事ですからね」

「要約しちゃだめだ!!」

なんてことしてくれる!

「いいから、早く行くわよ」

そんな僕たちを見てか、戦場ヶ原は僕となのちゃんの会話を断ち切って、風呂に行くように催促する。

「じゃあいきますよー、はかせ、忍さん!」

「「はーい」」

何故か忍まで、さながら本物の幼女のような無邪気な返事をしている。そこははかせに合わせなくてもいいだろ。

404: 赤春巻き 2014/03/03(月) 23:44:39.96 ID:9BK2/RFP0
018

まぁ、何だかんだ言って。

多少の束縛があろうとも、(女の子と)風呂に入れるのには変わりはないのだ。
二日連続ハーレム入浴。

こればっかりは感謝しなければならない。

しかも束縛があると言ってもどうやら辛いことばかりではないようだ。

神は少なくとも僕を絶望させないように少し希望を与えてくれたようだ。

神に感謝しなければならない─同時に都合の良い時だけ神を信じるとは人間とは実に都合の良い生き物だとも思ったが。

何が希望なのかと言うと、昨日は先に僕が脱衣所に行かされて、先に服を脱いで、先に入浴していた。要するに女の子と一緒に脱衣所にいなかったわけだ。

だがしかし、今日は何をミスったのか解らないが、僕が、女の子と、共に、脱衣所に、居る。

これはいち男子高校生から言わせて頂くと、とても嬉しくて喜ばしいことなのである。

僕の個人的な考えではあるが、脱衣所というのは『異性の存在を忘れさせられる隔離された空間』なのだ。

男性は女性に、女性は男性に、いつもなら互いに見せない見せたくないという部分が必ずある。

そこから異性という存在を切り離してしまえば、どうだろうか。見せない見せたくないという気持ちは途端に消え、何でもかんでも全てをさらけ出す。

日常生活とは隔離された、法的に裸で居ることを許される、そんな場所だ。

そこになんとその『異性』がいるのだ。

これは不可侵条約を結んでいるのに思いっきり侵略していることと同等なくらい酷い行いだ。

まぁ、それは重々自覚している。

更に付け加えるとすると脱衣所の何が良いかって、裸になる過程が見れるところだ。

裸になっていきなり登場するより、全身服を着たまま登場するより、裸になる過程を見るほうが、僕は断然いいと思う─勿論これは異性の間にだけ成立することである。

それが楽しみでならないのだ。

─ん?いや、僕は疲労を回復するために風呂に来たのであって、こんな不審者スレスレの変態性を帯びた目的で風呂、あるいは脱衣所に来たんだっけ?

─まぁいいか。

409: 赤春巻き 2014/03/05(水) 22:10:21.02 ID:cATpo6si0
こんな長ったらしい文章をつらつらと並べ続けるのもどうかと思うので、ありのままの状況を述べるとしよう。

なのちゃん→下着

はかせ→下着

戦場ヶ原→下着

忍→困惑中

僕→下着ではない

つまり、そういうことだ。

忍を除く全ての女子が下着なのである。

なんだか僕だけ下着ではないなんて卑怯だと思ってしまうけれど、これは女子の皆さんが僕の下着を見たくないかもしれない可能性があるので、

それに配慮した結果なので、卑怯なんかではない。

恥ずかしいとかそういうのでもない。

ところで、忍が何故に『困惑中』であるかどうかは言わずともわかるであろう。

先程僕が忍に課した罰のせいである。

ワンピースの下が下着だと思ったら大間違いである。

「忍さん、ワンピース脱いだらどうですか」などとなのちゃんは言うが、彼女はワンピースの下が下着でないことなんて知らない。

言わば、忍にとっての今の下着はワンピースなのだろう。

410: 赤春巻き 2014/03/05(水) 22:14:47.48 ID:cATpo6si0
「阿良々木さん!」

「ん、なんだい?なのちゃん」

「私たち、今から脱ぐんで。呉々も見ないように!あっちみてて下さい」

「─言われなくても見ねぇよ。そんな覗きみたいなことしないよ、僕は」

「かなりその言葉を信頼していいのか疑わしいのですが...」

「大丈夫だよ、なのちゃん。この阿良々木暦という男子高校生、生涯に置いて一度たりとも嘘を吐いたことがない!」

「それがなによりの嘘じゃないですか─取りあえず、何が何でもあっち向いていて下さいね!」

「分かった分かった、見ないよ」


411: 赤春巻き 2014/03/05(水) 22:18:18.77 ID:cATpo6si0
「私は別に見られても構わないけれどね、むしろ見せつけようかしら」

「やめてくださいよー戦場ヶ原さん。そんなこと言ったら、阿良々木さんこっち見かねませんよ!」

なのちゃんはどんだけ僕を信用してないんだよ。

─あれ、忍は?

と思ったがいつの間にか、なのちゃんのほうに行っていた。

412: 赤春巻き 2014/03/05(水) 22:25:40.13 ID:cATpo6si0
ということで今の僕は、

同じ空間に居ながら、お互い似真反対の方向を見て、女子達がバスタオルを着用するまでのあらゆる状況を、僕は会話だけで判断しなければならないことになってしまった。

これもまた、僕の妄想力が問われるところだ。

だが、先程と大きく違うところは、会話の内容が想像なんかではなく、目の前で─否、僕の後ろで実際に行われている本物の会話なのだ。

僕は、彼女らがどのような体勢でいるか、とか。

彼女らがどのような格好なのか、とか。

それだけを妄想で補えばいい。

さっきのよりはだいぶ楽である。

413: 赤春巻き 2014/03/05(水) 22:34:27.70 ID:cATpo6si0
と、早速会話が始まった。

「え、忍さん、ワンピース一枚だったんですか!?い、いわゆる、ノー  ってやつじゃないですか!」

「ノー  だけではない。  ブラといったところかの」

─まぁ、厳密に言うと忍の着用していた下着は子供用なので、ブラジャーではないのだが。

「どうしてそんな破廉恥な格好で?」

「─言わずとも分かれ。この空間に儂を狙うような変態なんぞ、一人しかおらんじゃろ?」

「あ、そうですね、一人しかいませんね」

それは─僕 の こ と か い ?

「あぁ、我が主─阿良々木暦しかおらんわ」

勿論、僕のことだった。僕しか居なかった。

僕以外、有り得なかった。

何かツッコミを入れたかったところだが、

ここでツッコミを入れると、その勢いで後ろを向いてしまいそうなのでやめておこう。

─でもそれは事故ってことで許されないか?

いやいやいや、それは絶対ない。

414: 赤春巻き 2014/03/05(水) 22:43:31.51 ID:cATpo6si0
「一体全体どのような経緯でそのようなことになってしまったのですか!?」

「それ以上は触れんほうが良いぞ、うぬ。

それ以上は」

「 ? 」

確かに─それ以上触れられると、僕の尊厳が消え去ってしまう。それは嫌だ。

「というか今思ったのだけれども、バスタオルを着る必要はあるのかしら?」

戦場ヶ原はそう問う─一見、露出狂にも聞こえてしまう台詞であるな。

「ありますよ!バリバリありますよ!」

「何の為かしら?」

「変態から身を守るためです!」

「あぁ、そういうこと」

なんか、さっきから遠回しに僕が変態であることをネタにして、僕を貶していないか?

415: 赤春巻き 2014/03/05(水) 22:46:18.44 ID:cATpo6si0
─いやそれじゃ僕が変態であることを認めたみたいじゃないか!てか認める認めない以前に僕は変態じゃない!健全な男子高校生だ!

なのちゃんにはなにがどうなって変態だと思われてしまったのだろう。

─思い当たる節がありすぎて、きりがないな。

たった二日間で青少年から変態男子高校生にまで印象をガラッとかえる僕─すごいな。

417: 赤春巻き 2014/03/06(木) 20:47:16.40 ID:xukEWG+20
まぁ、バスタオルを着るだけのことなので、

すぐ終わった。

もうちょっと何か話してくれなかったのかとも思ったが、そこまで話すこともなかったのだろう。

会話を無料に要求することはない。

「阿良々木君、もういいわよ」

「おう、やっと終わったか」

─思っていることと全く反対の発言をしてしまった、長く待ってた感を出す必要性は無かったのだが...。

って。

「おおおいっ!」

なんで戦場ヶ原は裸なの!?

はたして僕の彼女は露出狂になってしまったのか!?

─否...脱衣所で裸でいて悪いことは何ひとつないが...。

だけどさ、バスタオル着てる前提で振り向かせておいてさ、着てないなんてさ、卑怯さ!

思わず顔をそらしてしまった。

「どうしたのかしら?ダーリン(。・∀・。)ノ」

「そこでなんで顔文字なんだよ、てか服─じゃない、バスタオル着ろ!バスタオル!」

「あら、阿良々木君ったら何を言っちゃってるのよ。私の裸なんぞ、見慣れてしまったものでしょう((((*゜▽゜*))))」

「なにウキウキしてんだよ!─というか、お前の裸は見慣れないというか、恥ずかしく思うというか」

「私にとって嬉しいことと捉えて良いのかしら、それは」

「─まぁ、いいんじゃないか...?」

「(○´∀`○)」

遂に顔文字しか出してこなくなったぞ...。

418: 赤春巻き 2014/03/06(木) 21:00:11.08 ID:xukEWG+20
019

やっとこさ、というほど時間は経っていないが
ようやく入浴だ。

相変わらずなのちゃんの裸は見応えがあるなぁ...。いや、バスタオル着用してるけど。

でも正直なところ言うと、戦場ヶ原のほうがスタイルは良い。

─自慢するわけではないが、訳あって僕は戦場ヶ原の裸を目にしてしまうことが結構あるので、戦場ヶ原の体はある程度記憶してしまっている(キモイとか言われたら言い返す言葉がない)

ただ、やはり記憶してしまっているのにも関わらず、何度見ても謎の恥ずかしさが心の奥底からこみ上げてきてしまう。何故だろうか。

─因みに省略したが、僕もちゃんとバスタオルを着用している─勿論素肌の上に。

「なんだか、昔懐かしいって感じのお風呂ね」

戦場ヶ原は淡々と言う。

「わーーい!!」

「あ、はかせ!こんな狭いところで走り回らないでくださいよ?!」

なんて元気なんだろうな、はかせは...。

脱衣所でこそ発言は皆無であったが、やはり子供である。無邪気、元気、陽気な感じがして、みていて気持ちがいい。─こっちまで幼気になりそうだ!

419: 赤春巻き 2014/03/07(金) 21:13:37.43 ID:0R4ASyik0
「さぁ、じゃあ、阿良々木君、先に洗って頂戴」

「─やっぱりそうなりますか...」

「私たちは取りあえず脱衣所で女子トークでもしてるから、ちゃっちゃと洗っちゃって」

─『ちゃっちゃと』って...そんなに時間はかからないけどさ。

まぁ完全にここまで来たら一緒に洗えるだろうなどという愚かな考えをした僕が悪いな。

「5分以内にね」

「ご、5分だと!?」

「じゃ、脱衣所から見えるシルエットを私たちは見てるから、見守ってるから、安心して」

いやそういう問題じゃねぇだろ...。

420: 赤春巻き 2014/03/08(土) 15:41:15.89 ID:dpZZ/lYs0
でも頼まれてしまってはしょうがない。

5分で洗いきってやろう。

─と思ってから5分が経ったところである。

ちょっと洗いきれてない感じがするが、これは女の子たちがいなくなってからまた洗えばいいから気にすることはないだろう。

「もういいぞ、入って」

僕はちゃっかり湯船に浸かってそう言う。

「ふぅ、ようやく風呂に入れるわね」

「いいだろ、お前の言うとおり5分以内に洗い終わったんだから」

「バスタオル一枚で寒かったのよ」

「悪かったな」

「そうだ、誰から洗うのかしら?」

昨日はなのちゃんとはかせと忍が互いを洗いっこしていたが、戦場ヶ原がその輪に加わるとは思えないな...。


421: 赤春巻き 2014/03/08(土) 15:47:33.74 ID:dpZZ/lYs0
「洗いっことかどうかしら?」

自分から提案した!?

結構スキンシップとりたがりか!

「昨日もそうでしたからねー、今日もやっぱりそれで行きますか」

「あら、なのちゃんはもしかして阿良々木君を洗ってたのかしら?」

「いや、なにをいうんですか!違いますよ、阿良々木さんだけ最初に洗わせていましたよ!」

「異世界に来てもそんな感じなのね、阿良々木君」

「どんな感じだよ!僕の元の世界での評判を落とそうとするな!」

「じゃあ、順番を決めましょうか」

─華麗にスルーされた...。

422: 赤春巻き 2014/03/08(土) 15:58:40.54 ID:dpZZ/lYs0
「あ、おねーちゃん」

「何かしら、『はかせちゃん』」

「─『はかせ』でいいよ」

「何かしら、『はかせ』」

「はかせは絶対なのに洗ってほしいんだけど!」

「ふーん、ですってなのちゃん」

なんかもっといい接し方はないのか─まぁ、子供が苦手だと自分で言うくらいだから、しょうがないか。

「なのちゃんははかせを洗うってことでいいわね?」

「はい、いいですよ、それがスタンダードですし」

「なのちゃんは誰に洗ってもらうのかしら?」

「昨日は─忍さんに洗ってもらいましたね」

「忍ちゃんにね、それでいいかしら、忍ちゃん」

と言っても忍は返答しなかった、というか頷いただけであった。

「─忍ちゃんってこんなに静かだったっけ、こよみん」

「─そう、じゃないか?」

嘘だ。

本来はおしゃべりだと─忍の口から言っていた。

この場合、僕以外の人間とあまり話そうとしない忍だから、ただ単に戦場ヶ原と話したくない─もしくはどう話して良いか分からないだけだろう。


423: 赤春巻き 2014/03/08(土) 16:18:05.68 ID:dpZZ/lYs0
─というかこいつちゃっかり『こよみん』って呼んだよな。

「ふーん、そうかしら。じゃあ、なのちゃんは忍ちゃんに洗ってもらうってことね─なら、残るは忍ちゃんが誰に洗ってもらうかということと、

私が誰に洗ってもらうかということね」

そういや、昨日は自分で洗っていたもんな、忍。

「じゃ、私が忍ちゃんを洗いましょう」

なんか戦場ヶ原積極的だな。異世界から何か影響を受けているのか?

まぁ、でもまさかの戦場ヶ原からの発言に忍が反応しないわけがなく─

「なんじゃと!?」

と、久しぶりに大きな声を挙げる。

「どうしたのかしら?忍ちゃん」

「言っておくがツンデレ娘。儂の髪はサラサラじゃぞ!?何故サラサラかって、儂が毎日欠かさずに行っている洗髪の効果なんじゃ!儂には儂の洗髪方があるのじゃ!それをあろうことか─」

「おしゃべりじゃないの、やっぱり」

「ぐぬぬ、と、とにかくのう、このサラサラは一日でも独自の洗髪方法をサボると保てないのじゃ─保てないはずじゃ!」

「何を言うのよ、私もあなたと同じ『髪の毛サラサラ系女子』よ」

なんだそのジャンルは。

「私だって髪の毛には人一倍気を使っているのよ、安心して、あなたの髪の毛を駄目にするような洗髪はしない」

「─分かった。うぬに任せるわい...」

─関係のないことではあるが、今の会話のおかげで僕が思い描いていた、『戦場ヶ原と忍の会話』が現実のものとなった。元の世界にいても見れるようなものではなかったろう。


424: 赤春巻き 2014/03/08(土) 16:24:21.15 ID:dpZZ/lYs0
「じゃ、決定ね。なのちゃんははかせを洗って、忍ちゃんはなのちゃんを洗って、私は忍ちゃんを洗って、阿良々木君は私を洗う。

体に関しては個人個人で洗ってもらうわ」

「え!?お前は僕が洗うのか?僕、人の髪の毛洗うの得意じゃないぞ」

「阿良々木君は私の体も洗うのよ」

「いや、本当積極的ですね、ガハラさん」

─さすがにはかせのいる目の前でそんな事はできまい。


425: 赤春巻き 2014/03/08(土) 16:44:13.94 ID:dpZZ/lYs0
ということで、洗いっこが始まった。

全員バスタオル着用が前提の洗いっこ。

僕は湯船に浸かった後なので若干寒いが、他の4人はそんなことはないだろう。

しかし改めて幸運に恵まれていると実感するなぁ。

女の子4人に囲まれる、男子高校生。

場所はお風呂、行為は洗いっこ。

まぁなんというか、妄想をそのまま現実に映し出したような光景が目の前には広がっていた。

そんな中で僕が一番気になっているのはもちろん戦場ヶ原と忍である。

おそらく洗いっこという親密になりそうな行為を行う際において、会話というのは欠かせない─というか、必然的にしてしまうだろう。

戦場ヶ原と忍の会話─それは非常に不思議で、なかなかお目にかかれない光景。

それが楽しみである。

426: 赤春巻き 2014/03/12(水) 15:16:12.89 ID:592sOqRi0
と、早速会話が開始されたようである。

「うぬ、なかなか良いの」

最初に開口したのは忍であった。やはり戦場ヶ原の洗髪は良かったようで、それに納得したようだった。

「分かってくれたようね、忍ちゃん」

「その言い方はなんだか納得できんが...まぁそうじゃな、我が主様よりはかなり良いのう」

「そうでしょ、阿良々木君とは比べものにならないわよね、現に今阿良々木君は私の頭を容赦なく乱暴に洗っているわ」

なんだよ─

「─乱暴だったなら言ってくれよ」

「何を言っているのじゃお前さまは!そんなことも察せないのでは、男として失格じゃぞ!」

「そうなのか!?僕はエスパーか何かにならなくてはならないのか!?」

「いえ、阿良々木君。あなたはエスパーどころか、エスパニョールにもなっていないのだから、エスパーなんて高みを目指す必要はないのよ」

「僕はスペイン人か何かか」

427: 赤春巻き 2014/03/15(土) 11:18:18.70 ID:EWuX1C0v0
「そうじゃ」

といって忍は話題を転換する。

「うぬ、ツンデレ娘はどれほどまで我が主様のことを知っておるのかの?」

「それはどういうことかしら、阿良々木君の暴露大会でも始めよー、ってことかしら?」

「いや、そんな思惑はないが...」

そんな思惑があっては困る。

「─でも楽しそうじゃの!それ。じゃあここからは我が主様の暴露大会へと移行しようかの!」

「は!?や、やめろよ、そんなことをして誰が得をするっていうんだよ!?」

動揺しすぎだろ、僕。

「勿論私、戦場ヶ原ひたぎ、他ならぬ阿良々木君の彼女である私が得するに決まっているじゃない。阿良々木君の多くを知ることで、私はあなたのことをもっと好きになれるはずだわ。」

「と、とはいってもだなぁ...」

「なんじゃ?なにか隠したいことでもあるのかのう?」

「・・・」

この研究所に来てからの女の子とのイチャイチャとか、この研究所に来てからの女の子とのイチャイチャとか、この研究所に来てからの女の子とのイチャイチャとか、この研究所に来てからの女の子とのイチャイチャとかだな...。

428: 赤春巻き 2014/03/15(土) 11:29:29.32 ID:EWuX1C0v0
「じゃあうぬからいってもらおうかの」

勿論僕の秘密なんてものを知っているのは、ここにいる人間の中で

戦場ヶ原と忍と僕くらいなので、自動的になのちゃんとはかせは聞き手にまわることになるのだった。

「じゃあ、早速」

一体なにを暴露しやがるのか...ということでビクビクしているのは恐らくこの空間で僕一人だろう。

「阿良々木君は二人の妹さんと週1のペースで歯ブラシプレイをしていまーす」

「ファッ!?」

なんてこというんだよ!?

僕が火憐と歯ブラシプレイをしたのは事実かもしれないけれども、月火とは一度もそんなことしたことないぞ!?

する予定もないし!

てか、戦場ヶ原は僕が火憐と歯ブラシプレイをしてことを知っていたのか?知っていたとしたらどこから情報が!?

「阿良々木君、目が泳いでいるわよ、かなり」

「え、いやいや、僕はそんなことしたことないからな!?」

「あ─でもよくよく考えると...そんなことをしていたような気もするのぉ...」

「阿良々木さん、越えてはいけない一線というものがあるのはご存知ですよね?

犯罪は駄目ですよ」

「なのちゃんまで!」

429: 赤春巻き 2014/03/15(土) 11:37:37.86 ID:EWuX1C0v0
「さて、次は儂か...」

「もういいもういい!ほ、ほら、湯船が冷めちゃうだろ!?ちゃっちゃと入ろうぜ!」

もう皆体洗い終わってるっぽいし、そこそこ時間が経過しているので、丁度良いタイミングかと思うが...。

「うーん、そうじゃのう、そろそろ浸かるとするかの」

「うん、それが一番いいと思うぜ、僕は」

「あ、勿論お前さまは浸かるでないぞ」

「やっぱりそうなるか・・・」

430: 赤春巻き 2014/03/15(土) 11:46:28.97 ID:EWuX1C0v0
ふう、これでようやく湯船に浸かることができる─僕以外が。

まぁ、僕としては一区切りついて謎の暴露大会が終了したので浸かれなくてもこの際良い。

大会っつても一瞬で終わったよな、戦場ヶ原しか暴露していないし、しかも嘘だし─否、半分嘘だし。

「なかなか浸かり心地の良いお風呂ね」

「ここに限らずきっとお風呂っていうのは、日本全国共通で浸かり心地はいいと思いますよ」

「そうね、なのちゃん。勿論、どの世界でも共通だと思うわ」

「そうですね」

例え私たちの世界でもあなたたちの世界でもね─と付け加えて戦場ヶ原は言った。

戦場ヶ原はこの研究所に来て半日も経っていないというのに、別れたくないという気持ちが強いようだった。なんだか懐かしいものを感じたのか、幸せな家庭を思い浮かべて悲しくなったのか─僕に解ることではない。



431: 赤春巻き 2014/03/15(土) 11:57:07.11 ID:EWuX1C0v0
そこからの時間が経つのは早かった。

早く思えた。

僕以外の湯船に浸かっている人々が逆上せるまで僕は湯船に浸かることなく、隣で見守っていた。

「じゃあ、そろそろあがりましょうか...」

「ちょっとのぼせたかもしれない...」

「儂もじゃ...」

ちょっと無理しすぎだろ、この三人。

「3人とも、ちょっといいかしら」

戦場ヶ原はその後こう言った。

「阿良々木君と二人きりにさせてくれないかしら」

432: 赤春巻き 2014/03/18(火) 14:02:24.77 ID:diODff6q0
019

─な、なんでだ。

せっかく出来上がっていたこの状態を、まさか戦場ヶ原に崩されてしまうとは...。

「ようやく二人きりになれたわね、阿良々木君」

「あ、あぁ。そ、そうだな」

「なによ、嫌?」

「嫌じゃないけど...」

「ふん、ならいいわ─じゃあそろそろ脱ぐわね」

「え!?いきなり何を言うんだ」

「そもそもバスタオルを着用して入浴するなんて、おかしいのよ。私たちはカップルなんだし、お互いに裸を見ることに何の恥じらいはないはずだわ」

「─ま、まぁ、そりゃそうだが、僕も脱げってことかよ!」

「強要はしないわ、だけど、私たちは容赦なく脱がせてもらうわよ、良いわね?」

「─あぁ、構わないよ」

「ありがとう」

といって戦場ヶ原はバスタオルを脱いだ。

相変わらずの良いスタイルである。

433: 赤春巻き 2014/03/18(火) 14:22:07.96 ID:diODff6q0
「何よ、じろじろ見て。変態ね。この様子じゃ、昨日なのちゃんに乱暴したのでしょう─もしくははかせにかしら?」

「よその家の風呂でそんなことはしないよ、それに僕は出会って間もない人に対して乱暴できるほどの人ではない」

「あー、成る程ね。だから妹さんたちに手をだすのね」

「そこまで残念な奴ではねぇよ─」

実際、そこまで残念な奴だから困る。

「というかお前、そんな変な噂をどこで聞いたんだよ」

「あら、あなたの妹さんの火憐ちゃんが誇らしげに語っていたわよ。『私の兄ちゃんはマジすげぇよ...あんなに歯磨きを使いこなす人間みたことねぇ!私をあんなに...!』的に」

妹!何やってんだ妹!

「まぁ、火憐ちゃんと直接話したわけではないから、聞き間違えってことにしておこうかしらね」

「直接話してないのか」

「えぇ、なにか独り言のように唱えていたわ」

「怖い!」

434: 赤春巻き 2014/03/18(火) 14:33:36.54 ID:diODff6q0
「まぁ、あなたが妹さんとどのような関係になろうと私は良いのよ、別に」

「良いのかよ!」

「その結果阿良々木君が逮捕されてしまったら、私もなんらかの手段を用いて、共に牢獄にぶち込まれて差し上げるわ」

「そんな領域までは手を出さねぇよ、さすがに」

「だいぶ話が逸れてしまったわね、要するに私はあなたが好きなのよ」

「あれ?そんな話してたっけ」

「─私は寂しかったのよ」

「へ?」

戦場ヶ原は裸の体を僕の肩に寄せてきた。

これまでの声色とは違く、なんだか真面目な空気が流れはじめていた。

435: 赤春巻き 2014/03/18(火) 14:58:27.57 ID:diODff6q0
「私は寂しかったのよ?あなたが消えた時」

僕が消えた時─というのは僕が元の世界から姿を眩ました時ということだろう。

「厳密に言うと、あなたがまさか私たちが元々居た世界から『消えた』だなんて思ってもいなかったのだけれども。あなたの携帯に何回も何十回もかけて出なかったときは、心配になってしまったわ」

「そんなにかけていたのか...」

「その後、あなたが書店に行ったという情報を手に入れて、夜な夜な私は書店に行った。そしてこの世界に来たときに、私は更なる孤独感を感じたわ。

取りあえずその日は小さな宿に泊まったけれど、とても寝れたものではなかったわ。

─だから、この世界であなたに会えたとき、私は不覚にも泣きそうになってしまった」

「─戦場ヶ原」

「ごめんなさいね、阿良々木君。なんだかしんみりさせてしまって」

「いや、いいよ」

「私はあなたといれて幸せよ」

「─あぁ、僕もだ」

改めて僕は実感した。戦場ヶ原が僕の彼女で良かったと。これ以上にない最高の彼女であると。

436: 赤春巻き 2014/03/18(火) 15:18:05.73 ID:diODff6q0
020

「さぁさぁ、みんなー!集まれー!」

僕と戦場ヶ原が風呂から上がって廊下に出た瞬間に、そんなはかせの声が聞こえた。威勢の良い元気な声が聞こえた。

「? 小さな科学者が一体なにかしら」

「僕にもわからないな」

取りあえず行ってみる他に何故呼ばれているのか知る術はなく、僕達ははかせの声が聞こえる居間の方向へと小走りで向かうことにした。

「そうだ、一つ気になることがあるんだが─お前髪切ったばっかなのにもうそんなに髪伸びたのか?」

「何を言っているのかしら、阿良々木君、これは─ウイッグよ」

「は?」

「ああ、この世界に来て、変装しようと思って着けていたのがそのままだったわね。いまから外すわ」

「─え、お前それで変装しているつもりだったのか」

「うるさい」

戦場ヶ原はそのウイッグを爽やかに取った。

ゴミ箱に入れた─

「─ゴミ箱に入れた!?夜見たら怖い感じの奴だ!」

ウイッグを取った戦場ヶ原の髪の毛はやはり短く、それはそれで綺麗なのであった。

ていうかウイッグの上から髪の毛洗っていたのか。

「大丈夫よ、このウイッグ安くて隙間が沢山あるから。ウイッグの上から洗っても下の髪の毛までちゃんと泡が届いちゃうのよ」

「そ、そうなのか...」

437: 赤春巻き 2014/03/23(日) 12:26:43.36 ID:MiPT+rSA0
「ほら、早く行くわよ」

そうして、僕と戦場ヶ原は居間へと向かった。

「あれ?戦場ヶ原さん。『ウイッグ』取ったんですか?」

「え、なのちゃん気づいてたの!?」

「えぇ、最初から。逆に阿良々木さんは気づかなかったんですか?あの髪の毛がウイッグだっていうことに」

「いゃあ...気づけなかったなぁ...」

「駄目ですねぇ、彼女さんの変化に気づけないようでは...。阿良々木さん以外は皆さん気づいていますよ、ね?はかせ」

「うん、だって違和感あったもん」

─僕が鈍いのか?僕が鈍くあってほしいが...。

「俺も気づいていたぜ、初っ端からな」

「阪本まで!?」

そもそも何故にウイッグなどを着用していたんだよ、戦場ヶ原は。

まるで、戦場ヶ原が作中で夏休み中に髪を切っていたことを後から思い出した筆者が、後からつけた強引な設定みたいじゃないか。

438: 赤春巻き 2014/03/23(日) 12:50:59.10 ID:MiPT+rSA0
「まぁ、そんな『阿良々木君以外は当然の如く気づいていたこと』は置いといて、大声で呼んでいたのは一体何故かしら?」

─そりゃ僕が気づかなかったことは悪いとは思うけれども、そんなにはっきり言われると少し傷つくな。

吸血鬼は回復するのが早いだけであって、痛み(物理的にも精神的にも)に強いわけではないんだ...。

「あのねー、お風呂上がりの定番と言えば、何だと思う?」

「んー、なんだろうな。僕の経験上コー」

「コーヒー牛乳でーす!アララギ、残念!」

「て、てめぇ」

いや、大人気ない。大人気ないぞ、阿良々木暦!

ここでキレるなんて大人気ないぞ!

「ということはコーヒー牛乳をここで飲もうということかのう?」

「ん、まぁそゆこと。だから人数分のコーヒー牛乳を用意しましたー!」

と言ってはかせは冷蔵庫からコーヒー牛乳を出した。

一、二、三、四、五、六。

良かった!全員分ちゃんと揃っているぞ!

「今日のためにリッチなコーヒー牛乳を用意しましたー!」

「リッチと言いましても、120円くらいなんですけどね...」

コーヒー牛乳の相場が分からないからなんとも言えない値段だな。


439: 赤春巻き 2014/03/23(日) 13:38:27.97 ID:MiPT+rSA0
「ちゃんと阪本の分もあるからね」

「あ、あぁ、すまないな」

僕達、要するに阪本以外は瓶にコーヒー牛乳が入っているのだが。

阪本はあれほど人間らしいが猫なので、よく犬や猫が水を飲む際に使用するような皿にコーヒー牛乳が注がれるのであった。

「これを一気飲みするのがまた良いんだけどー!」

「一気飲みか─」

─まぁ内容量は100ml程度なので、一気飲みできなくもないな。

「儂はこのようなことは経験したことはないが、これは日本で風呂上がりに行う当たり前のものなのかの?」

「当たり前じゃないと思うけど。どっちかというとやってみたいけどなかなかする機会がないって類のものだと思うぜ」

「ほぉ、そういうものなのかの」

取り敢えず儂はコーヒー牛乳が早く飲みたいのう─と、なんだか忍はうきうきしている様子であった。

440: 赤春巻き 2014/03/23(日) 13:52:03.72 ID:MiPT+rSA0
「じゃあ、皆さん。用意はよろしいでしょうか?コーヒー牛乳を持った手とは反対の手で腰を押さえてぐっと飲むんですよ」

「作法まで決まっているのか!なんじゃ?怪異を退治する為の儀式か何かか!これは!」

いや、それはないだろう。

「じゃあ、はかせが『せーの』って言ったら飲んでね」

「はかせ、早く早くしてください!」

「もうそんな急かさないでよー」

今思ったが、なのちゃんもはかせと同じくらいのテンションで楽しんでいるよな。というか、むしろはかせよりも楽しんでいるような。

しっかりしているとはいえ、子供らしい一面もあるのか...。

ゴクリ─いやゴクリじゃねぇよ!

何かに目覚めかけてるよ、僕...。



441: 赤春巻き 2014/03/23(日) 14:03:38.93 ID:MiPT+rSA0
「じゃあいくよー!

『せーの』」

はかせが合図を出した瞬間、全員が言われた通りの動作をきちんと行っていた。

阪本でさえも完璧とは言わずとも、なんとか一気飲みしようとしていた。

一気飲みということなので、数秒の静寂が流れた。全員コーヒー牛乳を喉に流し込んでいるので、その間は会話を交わすことが不可能であるからだ。

コーヒー牛乳の味は、はかせが言うにリッチというだけあって、結構濃い味で僕の好きな感じのコーヒー牛乳だ。

100mlと言わず、200mlくらい飲みたかったところだ。

442: 赤春巻き 2014/03/23(日) 14:14:33.44 ID:MiPT+rSA0
「ぷはぁー!美味しいー!」

その静寂を最初に破ったのはなのちゃんだ。

しかもなのちゃんらしからぬ、ビールを飲んだおじさんみたいな声を出して。

なのちゃんに続くように、他の人も次々と飲み終える。

「コーヒー牛乳はやはり美味しいのう!理由はよくわからないが、風呂上がりのコーヒー牛乳は爽快感が増すのう!」

「おお、分かりますか忍さん!それです!理由はよくわからないけど、爽快感があるんですよ!気持ちいいですよね!」

なんだかなのちゃん、テンションMAXって感じがビンビン伝わってくる...。

443: 赤春巻き 2014/03/23(日) 22:31:41.07 ID:MiPT+rSA0
「さて─」

と、戦場ヶ原。

「コーヒー牛乳も飲み終わったところで、ちょっと時計をみてもらえるかしら」

「ん?」

僕含め、全員が戦場ヶ原の指差す方向にある掛け時計を見た。

「見ての通り、午後9時15分よ。そろそろ寝ましょう」

「あぁ、そうだなぁ...。もうそんな時間なのか」

「私が寝るスペースは果たしてあるのかしら?」

「まぁあると思うぜ、そんなに狭い家じゃねぇし」

「─何を言っているのよ、そこは『僕と一緒の布団に寝ないか?』って誘うのが彼氏としての役目でしょう?」

「は!?何故にそんなこと!」

「私の口から一体なんて言葉を言わせようとしているのかしら、この男は。─もしかしてそういうプレイに発展させようと」

「してねぇよ!」

どんなプレイだ!

「あ、でも。この研究所には布団が三つしかありませんよ?」

「え、そうなのか?なのちゃん」

「はい」

内二つはなのちゃんとはかせが寝るとして、忍は僕の影の中に寝るとして、あと一つは僕の分。

だがしかし戦場ヶ原を畳に何もかけずに寝かせるというわけにはいかないな...。

ということはやはり─

「─戦場ヶ原と同じ布団で寝るしかないか」

「つまり、今日私と阿良々木君が一緒の布団で寝ることは、神によって運命づけられた出来事だったというわけね。生きていくうえで、避けては通れないイベントってことね」

「─そんな重大な、壮大なイベントなのか?」

まぁ戦場ヶ原と同じ布団に寝るということ自体、僕的にかなり怖いんだけど。

襲われそうで。

そういう意味では重大なイベントなのかも。

444: 赤春巻き 2014/03/23(日) 22:45:53.87 ID:MiPT+rSA0
「そうと決まればさっさと布団を敷いちゃいましょ、布団はどこにあるのかしら、そして布団はどこに敷けばいいのかしら、なのちゃん」

「あ、はい。布団はですね─」

早速行動に移しだしたな...。

今思うとこの家にある布団、高校生二人が入れるほど大きいとは思えないのだけれども。

どうすんの。

「なぁおまえ様」

「ん?」

「まさか、まさかとは思うがのう。布団の上で行為に及ぶなんてことはなかろうな?」

「な、なななな、それはない!」

─と思う。

「いや、場所が場所じゃろ。ここがいかがわしいホテルじゃとか阿良々木家とかじゃったら別に良いが...」

「いかがわしいホテルと阿良々木家を一緒にすんなよ」

「この研究所は音が筒抜けなうえに、純粋な幼女までおる。そんな場所で行為に及んでしまったら、あのはかせとやらに変な影響を与えかねんぞ」

「大丈夫だよ。僕も戦場ヶ原もそこまで非常識じゃねぇよ。他人の家で行為に及ぶとか、ちょっと頭おかしい奴のやることだと思うぜ?」

「─だから聞いたんじゃがのう」

「ん?」

いまさらっと酷いこと言いやがったな?こいつ。

445: 赤春巻き 2014/03/23(日) 22:57:54.81 ID:MiPT+rSA0
「─ちょっと常軌を逸しているような人間じゃから、聞いたんじゃがのう?」

「より悪く言い換えなくていいよ」

「カッカッ」

お、久しぶりに聞いたな。その笑い。

「─ところで、忍」

「? なんじゃ?儂は布団には入らんぞ!」

「いや、誘わねぇよ。

─そのパジャマどこで手に入れたのこと思って」

薄い黄色をベースに不規則に並べられたかわいい兎の柄。

上下共に半袖。

(パンツは未着用。)

僕が知らないだけかもしれないが、見たことのないパジャマだった。

ファイヤーシスターズから盗んだものでもなさそうだしな。

「これをどこで手に入れたか聞いてなんの特になる?」

「別に得にも損にもならないけど...」

「もしかして欲しいのか?これが」

「いや、そんな気は一ミリもない」

「じゃあ脱いでやるわい。全裸寝るというのも、たまにはいいかのう」

といって忍は上のパジャマを半分まで脱ぎかけた。

僕の指示により下着を着用していないので、下 が露わになりかけだが、僕は冷静に「いや、大丈夫!いらないから」と静止するのであった。

「なんじゃ、つまらんの」

「逆にどうなっていたら面白かったんだ」

「─あのツンデレ娘と儂とおまえ様とで入り混じり」

「そんな同人誌みたいな展開はやめろ!!」

「オールカラーじゃ」

「その補足情報いらないし!」

446: 赤春巻き 2014/03/23(日) 23:14:31.56 ID:MiPT+rSA0
そんなくだらない雑談の後、布団も敷き終わり、歯磨きも終えて、それぞれの寝床に就く。

「さぁ、いらっしゃい」

「なんかお前、酔ってんのか?今日風呂上がってからなんか可笑しいぞ?」

「あなたに酔いしれているのよ」

なのちゃんもはかせも寝ている部屋でなんてことを言うんだよ、コイツ...。

「まぁ、寝なさい」

「ああ」

僕は昨日この布団に一人で寝ていたので、やはり大きさをきちんと把握していなかったようで。

高校生が二人寝るには十分な大きさがあったようだ。

戦場ヶ原と僕が一緒に寝るのは酷ではないようだ...物理的には。

「阿良々木君、この研究所にいるのも十分楽しいけれど、早く帰らなくちゃいけないわね」

「あぁ、そうだな」

「でも方法が掴めないのではいけないわね...」

「怠書物、そいつを見つけない限りはダメだろうな」

「そうね...」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「なぁ、戦場ヶ原」

─っあ!寝てるし!ちょっとの間に寝ちゃってるし!

「─く、ん」

「ん、どうした?戦場ヶ原」

「く、ん」

「?」

「阿良々木君、好きよ」

─こ、こいつ。寝言だよな。

なんだかんだ言って可愛いな、戦場ヶ原は。

寝ていようと起きていようと、髪型がロングであろうとセミロングであろうとショートであろうと、笑っていようと怒っていようと。

どの戦場ヶ原も僕は好きだ。

「─僕も好きだよ」

「─ありがとう」

さて、僕も寝るとするか。

今日も昨日ほどじゃないけど、疲れちゃったし。

451: 赤春巻き 2014/03/25(火) 22:46:56.87 ID:tRw97bHX0
021

さて、研究所に来て2度目の朝だ。

1度目の朝とはかなり状況が違うと言えども、研究所で迎える朝は僕の部屋で迎える朝(妹たちに叩き起こされる)とは大きく違く、

とても心地よいものであった。

出来ればそっくりそのまま僕の家の隣にこの研究所を持ってきたい気持ちだが...

どれだけ頑張ってもそんなことは不可能だろうな。

「おはよう。心地よい朝ね、こよみん」

戦場ヶ原も僕が目を覚ましたことによって、目を覚ましてしまったようだ。そして偶然にも同じような事を考えている。

「─ってか常日頃からそんな呼び方じゃねぇだろ、お前。その呼び方は止めろ」

「何を言っているのよ、深い親睦を交わした仲じゃない」

「は─なにを言って─」

!!

「お、お前」

「何よ、実の彼女が朝、鳥が囀るシチュエーションの中で下着姿で彼氏と布団の中にいることに何の違和感があるこよ」

「違和感ありまくりだし、語尾にちゃっかり僕の名前のような何かをつけて喋るな!─しかもお前のそれは下着姿っていうか、ほぼ裸だろ...。

外れかかってるし」

「そりゃそうね、事後の朝だもの」

「え?」

「覚えていないのかしら、阿良々木君。あの、熱帯雨林のように暑い夜を」

「─何を言っているんだ?」

ま、まさかな。

「そう、何を隠そうあの後。私と阿良々木君は体を交わしました」

「え?よ、よく聞こえないなぁ」

「何度とでも言ってやりましょう。私と阿良々木君は体を交わしました」

え、ええええええええええええええっ!?

え、え、え?

「う、嘘だろ!?」

「嘘よ」

「嘘かよ!」


452: 赤春巻き 2014/03/25(火) 23:02:45.68 ID:tRw97bHX0
「嘘というか、冗談ね。そう、冗談冗談」

「冗談の域をゆうに越えているだろ!心臓に悪すぎる!」

しかし、冗談で良かった...。

これが冗談で無かった場合、僕たちはどうなっていたか...。

冗談で良かったとほっとしてしまうとは、僕自身がそういう行為に移りかねないということを無意識下で考えていたということかな。

まぁ理性崩壊した時の僕の行動パターンは、僕にも誰にも読めないところがあるからなぁ。

と、とりあえず─

「─風邪引くから、ちゃんと服着ろ」

「あら、優しいわね。まぁ、言われなくともそうするつもりだったわ」

「服着たら早く朝飯食いに来いよ、なのちゃんの朝飯もなかなかのものだからな」

「まさか、ご飯に味噌汁にお魚。なんて和の朝食のベタなメニューじゃないわよね。きっと一流シェフの彼女なら私たちが意図もしないようなメニューをついてくるでしょうね」

─昨日の朝食がかなりそれに近かったんだが...

「まぁ、期待していいとおもうぞ」

「えぇ、期待しておくわ、かなり」

「じゃあ先行っとくぞ」

「分かったわ、こよなし」


453: 赤春巻き 2014/03/25(火) 23:21:29.31 ID:tRw97bHX0
─朝からどキツい冗談を食らわせられたが...なんだろ。朝で意識が朦朧としているから別にそんなに怒る気にならないな。

仮に意識がはっきりしていても別に怒ったりはしないだろうけど。

「あ、阿良々木さん。おはようございます!」

「あぁ、おはよう」

朝日に負けることのない明るい笑顔である。これは一種のアンチエイジングになり得るな。

『東雲スマイルエイジング』─いいなぁいいなぁ、日本国民がなのちゃんの笑顔に、癒されて、平日の朝に活力が出るなぁ!

いやらしい話ビジネスにしたら相当稼げそうだ、書籍化とか。

─そんな大袈裟に言わなくてもいいか。

でも何故だか、

本人にそのような気はさらさらないのかもしれないけれども、凄い僕が居間に足を踏み入れることを歓迎されている気分だ。

なのちゃんの笑顔はそれほどまでに僕からしたら癒される。

なのちゃんの笑顔は素晴らしい。

454: 赤春巻き 2014/03/25(火) 23:40:08.99 ID:tRw97bHX0
─なんか宗教じみてきたな。

「あららぎ起きるのおそいんだけど」

「あれ、はかせもう起きていたのか!早いなぁ」

「早起きは三文の得なんだけど!」

「確かにそうだな...」

よく知ってるなぁ...しみじみただの八歳児ではないことを実感させられるよ。

「今日の朝ご飯はこんな感じです!」

あ、そうだ、僕は今日の朝食が和食のベタメニューでないことを願わなければいけないのだった。

今日の朝食が和食のベタメニューでないことを確認しなければならないのだった。

もう視界にはチラチラと入ってはいたけれど、はっきりとはみていないので、実際のところ和食なのか洋食なのか。

ベタなのか変化に富んだメニューなのか。

それすらも全く分からない。

僕は念仏でも唱えるかのように心中で、和食ベタメニューはなし、和食ベタメニューはなし。と願うことしかできないのであった。

そして、朝食の全貌が僕の視界に入ってくる。

─洋食だ。

─洋食だ!

─洋食の、ベタメニューだ!

スクランブルエッグにベーコンにソーセージだ!野菜がないぞ!これはベタメニューといっていいのか!

でも何となく米国ぽいからベタだろう。うん、ベタだろう。

取りあえず戦場ヶ原がなのちゃんの目の前で、言葉に出さずともがっかりしたような表情をするようなことはないだろう。

かなり期待させてしまったからなぁ。そこは期待はずれにならないような(といっても僕が勝手に戦場ヶ原の中でのなのちゃんの朝食のハードルをあげているだけだが)

朝食でないと...。

455: 赤春巻き 2014/03/27(木) 21:13:44.29 ID:DGNNZCdx0
「ん?どうかしましたか?阿良々木さん」

「い、いや、何でもない。美味しそうなだなぁ」

「ありがとうございます」

なんだか、朝方は腹があまり減らないほうだけれど、今日はとても腹が減ってきた。

早いところ、頂いちゃおう。

「あらためて、おはようさん。阿良々木君」

着替え終わった戦場ヶ原がパジャマで居間に入室して来た。

そういえば寝起きの戦場ヶ原って結構レアだよなぁ。なかなかお目にかかれないよ。

戦場ヶ原の髪型は若干寝癖がついていて、いつもの綺麗に整った髪の毛ではない、またそれがプライベート感が漂っていていいな。

「あぁ、おはよう」

「あら、もう朝食が用意されているのね、美味しそうな朝食ね。流石なのちゃんだわ」

ベタほめじゃん。てかやっぱこんな短期間でなのちゃんと仲良くなりすぎじゃね?こいつ。

ちょっと、嫉妬しちゃうじゃねぇか。

2日でなのちゃんと仲を深めることのできる戦場ヶ原と、2日でなのちゃんにたくさんスキンシップをとった結果忌避される阿良々木暦。

一体何が違うというのだろう。

差異のある部分が見当たらない。

「じゃあ全員揃ったことですし、食べましょうか」

「あら、阿良々木君の影に潜む住人の朝食は...」

「いや、普通に忍とでも言えよ。忍は基本夜行性だから。朝は起きねぇよ」

最近は昼夜逆転になりつつあるが。

「そういえばそうだったわね。すっかり忘れていたわ─じゃあいただきましょう」

「「「「いただきます」」」」

456: 赤春巻き 2014/03/27(木) 21:28:41.50 ID:DGNNZCdx0
「「「「ごちそうさまでした!」」」」

申し訳ない、割愛させてもらった。

朝食の時に何が起きたかは僕たちの秘密だ。

─といっても大したことは起きてはいないが。

「阿良々木君がなのちゃんの歯を磨いてあげたりしていたわよね」

「してねぇよ、事実を捏造すんな!」

こいつはいつまで僕の歯磨きプレイネタを引っ張るんだよ...。

「えー、あららぎって今でも歯磨きしてもらってるの?有り得ないんだけど」

「なんでそうなる!?」

「はかせは自分で磨けます!えっへん」

「僕だって磨けるよ!なんてたって高校三年生だからな!」

なに誇らしげに言ってるんだ僕。

「あなた、はかせに勝てるとでも─否、はかせになら勝てるとでも思っているの?発明品を作れているのよ。阿良々木君よりはかなり優れているわ」

「─う、うん」

そう面と向かって言われると、現実を直視させられてキツい。

─ん?

「はかせに『なら』勝てるとでもってどういうことだ。まるで今までの人生ではかせ以外に負け続けているような言い方を」

「そ、そうじゃないの!?」

「勝てる相手はいるよ!─あ、誰にとかは聞くな」

「ふーん。まぁ深くは問わないわよ」

「うん、それがいい」

457: 赤春巻き 2014/03/27(木) 21:55:14.74 ID:DGNNZCdx0
─ん?

「なんかこえ聞こえないか?」

僕は耳を澄ました訳ではないが玄関の方から、なにか、人間の声のような音が聞こえた。

聞こえたような気がした、ではない。今も聞こえ続けている。

それに気づいたのは僕だけではなかったようで、この研究所にいる全員が気づいたようだ。

「何か言ってないかしら」

戦場ヶ原がそう言うと耳を澄ました。

「─いや、これ玄関に直接行ったほうが早いだろ」

458: 赤春巻き 2014/03/27(木) 22:07:06.62 ID:DGNNZCdx0
022

「なのちゃん!なのちゃん!」

玄関の向こう側の人物ははっきりとそう言っている。なんだか叫んでいるかのような文章だけど、思いのほか小さい声だ。

「早く早く!」

てかシルエットといい、この声といい...。

─明らかにゆっこだ。

「どうしたんですか相生さん!」

といって戸を開ける。

てっきりゆっこだけかと思っていたが、そこに居たのはゆっことみおちゃんと麻衣ちゃんの三人衆。そして一人の男が倒れている。

─誰?

「なのちゃん!はかせ!それに阿良々木さん!戦場ヶ原さん!」

────────。

「怠書物、捕まえました!」

459: 赤春巻き 2014/03/29(土) 17:15:33.89 ID:Wfk43HjU0
─え?

怠書物って本じゃないのか?名前に書物って書いているぐらいだし。

─ってことは奥の男は...

「そうです!あの男が怠書物です!」

「やはりな...てかこの状況ではそれしか考えられないか」

─あいつが怠書物でなかったとしたらそれは不審者の類に入ってしまうし、ここにいる意味が無くなってしまうからな。

「─ねぇ、ゆっこちゃん」

ゆっこちゃん!?なんだよその呼び方!

そこはゆっこでいいだろ─と言いたいところではあったが、思えば戦場ヶ原とゆっこは戦場ヶ原となのちゃんほど多く接していなかったしなぁ。

ゆっこという呼び方に慣れていないんだろう。

これはみおちゃんにも麻衣ちゃんにも同様に言えることだろう。

ただみおちゃんとか麻衣ちゃんはもう既にちゃん付けが定着しているからなぁ。戦場ヶ原がそう呼ぼうと違和感は感じないけど。

ゆっこはゆっこちゃんなんて普通呼ばれないからな、そこに違和感を少し感じざるをえなかった。

でも思いのほか─ゆっこはゆっこちゃんというワードにあまり反応を示さないな。

460: 赤春巻き 2014/03/29(土) 17:25:49.53 ID:Wfk43HjU0
「? 何ですか戦場ヶ原さん」

「さっきから気になっていたんだけど、どうして小声なのかしら」

「怠書物が起きちゃうからです!」

「え、起きるとなにか都合が悪いの?」

「一応縛っちゃってはいるけど、もしかしたら、てか高確率でほどかれちゃいますよ、縄なんて」

「─うーん。私にはどーもそんな力を持っているようには見えないのだけれど...」

「でも、なんだっけ、ああいうの..」

「『怪異』ね」

「そう!怪異ですから!もしかしたら見た目によらず握力はめちゃ強いかもしれない!」

「まぁそうね、見た目で侮ってはいけないわね。握力が強いかもしれない、それは大変なことだものね」

何故握力に限定して言っているのかは置いといて、相手は怪異。人間のような見た目ではあるが人間ではない。書物と名乗っておいて本ではない。

この辺り一体を消し去る力を持っている可能性はなきにしもあらず。

─まぁ僕は女子高生に縄で縛られてしまうような怪異がそんなに強いとは思えないんだけれども。

461: 赤春巻き 2014/03/29(土) 17:32:18.69 ID:Wfk43HjU0
「とりあえず外に!はかせも来て!」

「えー、興味ないんだけど...」

「─な、なんとなくだけど怠書物さん、サメに似てるよ!」

「え!ほんと!何サメ!?」

「─え、んん...ホオジロザメかな?」

「わーい!」

はかせはサメに似ている人がいるということに興味を惹かれて外へ走って行った─というより、『サメ』っていう言葉を聞いて外へ走って行ったって感じだけどな。

「てかはかせ外に行く必要はあるのか?」

「いいから外出るわよ、阿良々木君」

「お、おう」

462: 赤春巻き 2014/03/29(土) 17:45:03.59 ID:Wfk43HjU0
ということで最初よくわからなかったが、元の世界に帰る糸口が掴めそうなので僕達は外にでた。

きっちり戸締まりをしてな。

と、外にでると同時に、僕は怠書物の全貌を目にすることになる。

青髪のスラッとした青少年。

背は恐らく僕より─否、日本人の平均身長を優に越えているだろう。

顔立ちもなかなか良くてテレビで見たことがあるような俳優に似ているような気がする。

─まぁ要するにイケメンである。

服は就活生のような立派なスーツを着ていて、革靴を履いている。

メガネ着用。

全体的に見る限り、只の真面目就活生にしか見えない。

─これ間違えて本当に只の真面目就活生を連れてきた訳じゃないよな?

もしこいつが真面目就活生だとしたら就職する会社までの距離にもよるが、面接に間に合わないかもしれないぞ。

「えー、ゆっこー」

「ん?何?」

「この人全然サメじゃなーい」

「え、あはは...そりゃそうだ」

─サメに似ている人間なんているのかとは思うが。

463: 赤春巻き 2014/03/29(土) 17:57:58.85 ID:Wfk43HjU0
「んん!?」

おおっ!?いきなり目を覚ましたぞこいつ!怠書物!

「なんだと!?この野郎!だれがサメフェイスだ!」

「うわぁーーん!こわーい!」

─な、なんだこいつ。やっぱ真面目就活生じゃねぇわ。柄の悪い現代の若者だわ。

てか子供相手にそんなに怒ってやるなよ。

ん?はかせの今の台詞に気づいたってこはこいつ起きていたのか?寝ていたフリをしていたのか?

でもいびきかきまくってたしな...。

あのいびきは演技だとは思えない。

「なんですかぁ!そんなに怒鳴らないで下さいよ!怠書物さん!」

「許すまじこの白衣女児!俺のことを貶すとはよくもやってくれたものだぁ!おかげで目が覚めちまったよ」

え?

「お前寝てたフリしてなかったの?」

「違う!俺に対する侮辱ととられる言動、行動、を聞いたり受けたりすると俺は起きてしまうんだよ!」

自分に対する攻撃で目が覚めるのは分かるが─自分に対する侮辱ととられる言動で目が覚めるとは僕にはよく理解できない。

僕が寝ているときにいくら何を言われても僕はきっと起きないだろうなあ。

「というかあなた。世間一般で言うところのナルシストなのかしら?自分が貶されただけで起きるなんてそうとしか思えないわ」

「んだとぉ!?ナルシスト!?そんな差別的な言い方をするなぁ!─自己愛に溺れたロマンチストと呼べ!」

うわぁ...こいつ生粋のナルシストだわ、絶対。

自己愛に溺れたロマンチストってどうしたら自己紹介でそのワードが出てくるんだよ。

464: 赤春巻き 2014/03/29(土) 18:08:35.24 ID:Wfk43HjU0
「ちょっとみおちゃん」

「なに、ゆっこ」

「この人相当ヤバいよ!ちょーナルシストだよ!なんか喋り方可笑しいし」

「うん。確かに美形男子ではあるんだけどさ、自分で自分を『カッコいい』とか『自己愛に溺れたロマンチスト』とか言っちゃうと、魅力が半減するよね」

「うんうん!なんていうかさ、自分で自分の魅力をアピールをし過ぎて自分の魅力をうしなっている残念なパターンだよ!」

「てか変態だよね、あの人」

「いや、人じゃないよ!『怪異』だよぉ!変態の人なら分かるけど、変態の怪異ともなるともう収拾がつかないよ!想像出来ないレベルだよきっと!」

「あ、その題材─いいかも」

「え?」

「おーーーい!!!」

8歳児に本気でキレるような怪異だ。小声で自分を叩かれては耐えられたものではないだろうな。

─いや、きっと小声でコソコソと自分が叩かれたら僕でも耐えられないだろうな。だから大声でいってもらった方が耐えられる。戦場ヶ原がまさにそれだ。

「小声で俺のことを話すなよ!!いや、大声であっても許さん!許さんぞ!」

465: 赤春巻き 2014/03/29(土) 18:16:21.85 ID:Wfk43HjU0
─こいつの法律では自身の侮辱は一切許可していないようだ。心が狭いなぁ。

「もういい!俺はそろそろ本気を出すときが来たようだ!いいや、本気なんて出さなくてもおまえ等なんて倒せるが、倒せるが!本気を出して倒さないと俺は気が済まないぃ!

この場でぶっ殺す!ここを即席死刑執行場としよう!おまえ等全員死刑だぁーっ!フハハハハハ!!」

覚悟しろ!─と言って怠書物は自らの拳を振り上げた。そして僕達、いや、この街ごと全て吹き飛んでいった。

─というのが彼の理想だったのだろうな、きっと。

「っなあんだとおおお!?くそぉ!体が縛られていただとっ!?」

「今気づいたのかよそれ!」

466: 赤春巻き 2014/03/29(土) 18:24:53.93 ID:Wfk43HjU0
「何てことだ!このやろう!こんな縄はほどくまでだ。そんな作業俺にとっては朝飯前!残念だったなおまえ等!こんな縄...ん″っ!くそ...おらっ...おらっ!ふん!ふん!

─はぁ、はぁ」

駄目じゃん。こいつ怪異の中でも相当弱い部類の怪異だ。

かつて、というかついさっき美少年と言っていた僕を殴りたくなるくらいのくしゃくしゃの顔になっていた。

その、表情から。こいつは全力を出していると思われるな。

「残念...強いと思ったのに」

「なんだと!?この黒髪のロング制服!」

それが罵倒しているつもりか!

麻衣ちゃんの見た目そのまんまじゃん!

「さぁさぁ、じゃあ。事情聴取と行きましょうか」

戦場ヶ原は哀れな目で怠書物と僕を見ていた。

ん?

「何故僕のことも同じ目で見る─?」

467: 赤春巻き 2014/03/30(日) 21:36:46.62 ID:5ZQz0hZe0
023

「事情聴取と言っても私─否、私たちはあなたのことを『異世界へと人を移動させてしまう怪異』とぐらいにしか理解していないわけだから。

事情どころか自己紹介から全てを語ってもらうことになるわね」

「あぁ、そうかよ。じゃあ言われる前に自己紹介くらいしてやるよ」

「意外と素直ね」

「いいや、ちゃっちゃと終わらせて怪異としての役割を果たさなきゃならない、てか果たさなきゃならねぇんだ。

そのためには大人しく言うことを聞いた方がいいかと思っただけだ」

「ふーん。じゃあ自己紹介、はい」

「・・・まぁ名前は怠書物。ってもこの名前はあくまで人間が勝手に呼んでいるだけで、本来の名前ではない。かといって本来の名前は知らない。俺も、誰も。

だからまぁ俺ぁ、世間が怠書物と呼ぶことに抵抗はしねぇんだけどよ。現にそれが俺の名前になってしまっているしな。

もし俺に名前があったら怠書物なんてダッセェ名前受け入れらんねーよ。

見た目の年齢は22くらいじゃねぇ?実年齢は65って爺さんだがな。性別男。

怪異としてはおまえ等が知っている通り、『俺が変化した物に触れた者を俺が飛ばしたい世界に飛ばせる』って怪異だぁ」

「長いわね、自己紹介」

「っせぇな。これでも最短で俺の魅力を最大限に伝えたつもりだ。俺なりにな」

「私なら一行でまとめられるわよ」

「じゃあやってみろよ」

「戦場ヶ原ひたぎ、xx」

「おめぇの魅力はxxって部分なのかよ!?」

「xxって結構需要高いのよ?あ、でもよくよく考えるともう阿良々木君と...」

「なんだよ、嘘じゃねぇか。んで、そのどれだ。カワハギっていうのは」

─カ、

「カワハギだと!?今まで聞いた噛み方の中で一番有り得ないような噛み方だよ!僕の名前は阿良々木だ!」

「なんだ、こいつ。うるさいな。戦場ヶ原ぁ。お前は阿良々木の彼氏だろ?」

「そうよ」

「どこに惹かれたんだ」

「●●」

「僕の価値は●●ってところにしかないのか!?」


468: 赤春巻き 2014/04/02(水) 23:49:16.75 ID:dmyhOttW0
「まぁ、そんな●●男の戯言は放っておいて、事情聴取を始めましょう」

「僕の魅力は●●っていうところなんですね!?そうなんですね!?─ってかガハラさん!あなたがxxじゃないなら僕も●●じゃないじゃないか!」

「あら。ってことはあなたの魅力は既に朽ち果てて、砕け散って、粉々になって、ぼろぼろになって、無くなったってことね。今のあなたに魅力はないのかしら」

「僕にだって一つくらい魅力はあるよ!」

「─いいわ、次に怠書物、あなたに問いたいことは『何故私達を飛ばしたのか』ということよ。私達以外にも飛ばせそうな人間なんてあの書店には腐るほど存在していたはずよ?」

「そうだな。まず最初に言っておくと俺はお前ら二人を意図的にこの世界に飛ばした。それは確実だな」

「だからなんでよ」

「なんでって、特に明確な理由があるわけじゃねぇが…。言うならばそのカワハギの胸ポケットの財布から戦場ヶ原の写真がはみ出てたからだろうな」

その呼び方で貫き通すんだなこいつは…。

いちいちツッコむのも疲れてしまうので、カワハギだろうとふぐだろうと今後こいつにはなんと呼ばれてもかまわないよ、もう。

「そこで60年の経験を積んでいる頭脳派の俺はピンと来た。これはカワハギの彼女の写真だな、と。こんなに大事に財布の中に入れているんだ、きっと彼女に違いないだろう。だから遊びの感覚でやったんだよ。彼氏と彼女が別の日に異世界へと飛ばされて、困惑するも、運命の再会を果たし、ハッピーエンド…。なんて最高にファンタジーでぶっ飛んでるストーリーが頭の中に浮かんできたわけだよ。頭の中に浮かんできた以上それを現実のものにしなければ気がすまないことで定評のあるこの俺だ。実行しないはずがない…。─後は言わなくても分かるだろ?」

「つまりあなたは私達を人生ゲームの駒かなんかかと思って異世界へと飛ばしたと言うわけね?」

「まぁ、そうだな。そういうことになる。それが丁度いい例えだな」

「そう、それがあなたの最後の言葉ね?─否、最後の言葉よ。ブッ倒してあげるわ」

戦場ヶ原は何かが─って言わなくても分かるだろうが、遊び感覚で僕達を飛ばしたということが癪に障って、ブッ倒すという結論に至ったのだろう。僕だって戦場ヶ原同様に、怠書物を許そうとは思えないし、ブッ倒したい。

なぜならば、残り少ない夏休みの日数で大量に残っている宿題。そののこりわずかな日数をこの怠書物のせいでつぶされてしまったのだ。

あれ?なんか具体的に考えてみると凄いむかついてきた。イラついてきた。目の前の怪異が憎くなってきた。

そして僕は、ついに閉口していた口を開くこととなる。

「どうせなら八九寺とかにしろよぉおおおお!」

「!?」

469: 赤春巻き 2014/04/03(木) 00:02:15.41 ID:q8pBqNYH0
僕が喉を壊す勢いで叫んだ声はなのちゃんやはかせやゆっこやみおちゃんや麻衣ちゃんや阪本や怠書物や戦場ヶ原の全身を伝って響き渡ったことだろう。

僕が心から望んでいたこと。

僕が心から待ち望んでいること。

それは他でもない。八九寺との同棲生活である。

思えば八九寺とは二人きりで話すことはあっても二人きりでお泊り会なんてものをしたことはない。

だから僕は兼ねてから八九寺と同棲─という表現はいくらなんでも大げさだとしても、

お泊り会がしたいと望んでいたのだ。

そう考えるとどうだろう。

この異世界へのワープは僕と八九寺がお泊り会をする絶好の機会ではなかったのではないのだろうか。

他との接触を遮断し、八九寺と僕だけの空間で僕と八九寺だけの時間を過ごすことができる。

─できたというのに、この怪異が!

財布からはみ出ていた戦場ヶ原の写真から戦場ヶ原が彼女だと特定できるくらいの能力を持ち合わせているのならば、僕の顔を一番最初に見たときに僕の心の内側を覗いて、『僕が八九寺とお泊り会をやりたいと思っていることくらい察しろよ!

そんなこともできないようでは怠書物の60年は全く持って無駄なものだ!

─という重い思いを全て練り固めて詰め込んだ渾身の叫びだったので、当たり前だ、響き渡らないわけがない。

「よし、戦場ヶ原、ブッ倒すぞ!」

「本当にあなたってロリコンね。八九寺ちゃんの家畜にでもなればいいのじゃないのかしら」

「それは高度過ぎないか」

470: 赤春巻き 2014/04/03(木) 00:12:35.98 ID:q8pBqNYH0
と、とりあえず、事情聴取の時間は終わりだ。

もう聞きたいことは聞きつくした。てかこれ以上聞く必要はないだろう。

こいつが怪異で、こいつが僕らの敵であることが認識できればそれだけで充分である。

「ブッ倒すって?どういうことだよ。怠書物ことこの俺は今ロープでグルグル縛られて身動きも取れないんだぜ?そのうえ相手が二人って…そりゃ不平等すぎるよなぁ?」

「確かにそうだな。こいつ弱いタイプの怪異だから縄ほどいても問題ないんじゃね?」

「そうね、弱いタイプの怪異だから縄ほどいても大丈夫ね」

「弱いタイプの怪異だから縄をほどくときもきっと安心感たっぷりなんだろうな」

「そうね、弱いタイプの怪異だからその安心感は計り知れないものでしょうね」

「うっせーなぁ!弱い弱い弱い弱いうるさいんだよ!俺は天地天命の神だ!某氏に嘘は憑かないと誓われたんだぞ!」

それは自慢していいのかどうか…。てか自慢しても心地よくないことだとは思うんだが…。

「いいから早くほどけ!お前らは早くもとの世界に戻りたいんだろ?なんなら俺をほどかないかぎり話は進まないぜ?対等な立場で交渉をしようぜ」

471: 赤春巻き 2014/04/03(木) 00:19:32.31 ID:q8pBqNYH0
まぁ、こんな縄もほどけない怪異だ。

きっとその弱さは怪異界ナンバーワン。忍野も認める雑魚怪異。

ちょっと言い過ぎかもしれないが、そこまで言い切っても問題はないだろう。

「じゃあじょうがないな、縄くらいはほどいてやるよ」

「ふ、俺の交渉術に陥り敗北したな」

「違う!」

そんな理由で縄はほどきたくない!

「私がほどくわ」

「え、マジ?」

「ええ、なのちゃんナイフ持ってきて」

「ナ、ナイフ!?」

「え、ああいう縄はナイフでほどくのが適切でしょう?違う?」

「ち、違うわけじゃないが…」

戦場ヶ原×ナイフってなんかヤバイ気がしてね…。

しょうがない。忍にきってもらおう。

「忍、忍」

472: 赤春巻き 2014/04/03(木) 00:36:24.00 ID:q8pBqNYH0
「なんじゃなんじゃあ」

忍は朝にも関わらず以外とすぐに反応してくれた。

呼ばれた理由がロープを切るという単純作業ということも知らずに…。

「今日は全然眠くないのう」

「そうなのか?」

「ここ最近の連続昼夜逆転生活の影響が顕著に現れとるのぉ…」

「そんなに昼夜逆転生活やっていたっけ」

じゃなくて、

「ちょっと手伝ってほしいことがあって読んだんだけどさ」

「ん?なんじゃ?大したことなかったらパンチ食らわすぞ?」

…めっちゃ言いにくい。

「えーと…」

そして、僕は怠書物の方を指差す。

「あのロープを切ってくれ!」

「─はぁあああ?なんじゃと!?この儂にそんな誰にでもできそうな仕事を押し付けるのか!?わが主様は!」

「すまん」

「大歓迎じゃ!」

…え?

「大歓迎じゃ!」

「え、さっきの発言とすっげー矛盾してるんだけど」

「いや、なんかの。いつもの儂なら絶対にやりたくはないのじゃが、下着不着用じゃから心も軽いからの!」

僕の罰ゲームがこんな効果を生み出すとは…。

でもこいつはいてない日のほうが多いよな、普段。

まぁ、細かいことは気にせずに。

仕事を引き受けてくれるのならばそれに越したことは無い。

「じゃあ、頑張れ!忍!」

「おう!じゃ!」

なんでこいつ寝起きでこんなテンション高いの?」

473: 赤春巻き 2014/04/03(木) 00:41:17.09 ID:q8pBqNYH0
「じゃあ行くぞ!」

忍は張り切ってジャンプでロープと怠書物の方向へと飛び込んで行った。

忍には到底いえないけどスカートの中身がたまに見えますよ、こちらから。

「なんだこの幼女!俺の体触んなよ!」

「うるさいのう、さっさとほどくからじっとしておけ」

忍はそんな調子で、ナイフで切るよりも手っ取り早くロープを切断して見せた。

474: 赤春巻き 2014/04/09(水) 19:10:18.89 ID:P2VHPHLF0
「忍ちゃんを使うことないじゃない、阿良々木君。そんなに私が信用ならないのかしら」

「いやいや、手間が省けると思っただけだ・・・」

忍にはとてもとても悪い気持ちだ・・・。

が、そんなことを微塵にも顔にださないのが阿良々木暦だ。

「なぁお前様よ。儂はもう戻ってよいかの?」

「あぁ、もういいよ」

このまま忍がここにいてもやることはないだろうしな。戻るのがいいだろう。

「いや、待て」

「ん?なんだよ」

「まぁ、とりあえず、礼はいっておこう。ありがとな」

律儀にも怠書物はお礼を言ってのけた。以外だな。

「ん?儂に言っておるのか?なら礼はもらっておくわい。…でもわが主様の指示とは言え、このような自己陶酔しているナルシストのド外道怪異をどうして儂は助けてしまったのかのう?自分が情けないわ」

「あぁ!?なに言ってるんだこの幼女の癖して!幼女なら許されるとでも思ってやがるのか!まずな、俺にお礼を言われることなんて滅多にないんだからな!?まだヒヨっこのお前に教えてやるがな、これは今後人生において一切経験しない出来事なんだからな!?」

確かにこんなにナルシストで感情的な怪異も珍しいだろうなぁ…。

「なにぬかしとるんじゃ。このたわけ」

「て、てめぇ…」

「『ヒヨっこ』のうぬに教えてやるわい。儂は幼女などではない。500年以上生きている、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。怪異の王にして最強の怪異。キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードじゃ」

「なんだその中二臭い名前」

「うぬも大概じゃろうが・・・。お前はまだ若い怪異なんじゃろう。だから儂のことも知らんのじゃろ。以後覚えておくとよい。儂はうぬのような『ヒヨっこ』なんかよりも偉大な怪異じゃからな?うぬなんて片手で握りつぶせるぞ?よいのか」

「ならやってみろよ」

「あぁ、やってやるわい。血の色に染め上げてやろう」

いやいや。忍から吹っかけた喧嘩だが、最終的に怠書物に挑発された結果忍の実力行使とでたか。

忍ならこんな怪異くらい本当に握りつぶしそうだな・・・。

「ふんっ」

ってもう構えてるし!!!

「やめろやめろやめろ、忍!たぶんあいつがいなくなったら僕たち帰れなくなってしまう!」

うざったいのは充分に理解、共感できるが…。

「止めるな!儂を止めるでない!この感情のやり場がみつからんのじゃ!」

「何がイヤだったんだ、お前のことを知らなかったところがイヤか?」

「そんな小さな女ではないわい…。もう影の中で聴いていた時からウズウズしておったわ!こいつの性格、ナルシストなあたりにの!それだけじゃない。もうなんかイライラするんじゃあ!」

「分かる!すげー分かるけども!とりあえず僕を殴れ!」

って反射的に言ってしまったけど、後々後悔した。

なんなら死なない程度に。さながらサンドバッグのようにぼこぼこに怠書物を殴ってくれたほうが良かったのかもしれない。

というか今更、僕は忍のパンチ力は半端じゃないっていうことを改めて思い出した。

一昨日、身を以って痛みを知ったというのに…。

なんてマヌケな男、阿良々木暦。

「吸血鬼パーーーンチ!!!」

「うおっ!」

顔面を抉るような鈍痛に声も手も足も出なかった。体の割りに力が強すぎる。さすが、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。怪異の王にして最強の怪異。キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードだ。分かっている、僕は吸血鬼としての治癒スキルを持っているからこんな衝撃なんかじゃ死なないし怪我も残らないこと。分かっている。

けど、痛いものは痛いのだ。

475: 赤春巻き 2014/04/09(水) 19:17:23.03 ID:P2VHPHLF0
「う、うぅ・・・」

僕は更に気付いたことがあった。

女子高生たちと僕の彼女に幼女に殴られてあっけなく倒れるという醜態を晒してしまったのだ。

ここまで辛うじて、多少のセクハラ行為があったが、彼女もちのクールな高校生という印象は一ミリメートルくらいは残されていただろう。

だがしかし、もう一ミリメートルも残っていないだろう。

クールな『阿良々木暦』消去され、最低最弱の男『阿良々木暦』が形成されたことだろう。

言葉では「大丈夫ですか!」などとは言うが、評価はがた落ちだろう。

あってなかったかのような評価はがた落ちだろう。

とりあえずぼくは「大丈夫だ…」とだけ返事しておくのだった。

大丈夫ですかと言われて一瞬、ほんの一瞬だけ。

僕の精神状態のほうを言っているのかと思ってビックリしたが、そうではなかったようで、一安心だ。

476: 赤春巻き 2014/04/09(水) 19:24:12.36 ID:P2VHPHLF0
「ほんと今日はなにかしら、厄日?髪の毛がぐしゃぐしゃになっちゃったじゃないの」

忍が僕を殴った際に相当な風が吹いたようで、戦場ヶ原の髪の毛は崩れてしまったようだった。

「戦闘はこんな穏やかで平凡な場所でやるべきではないでしょ?」

「まぁ、そうだなぁ」

かと言って今更移動するのもどうかと思うなぁ。

移動中不意を突かれて逃げ出されてしまうかもしれないし。

「おい!茶番は終わりだぞ!」

忍とのやりとりからの一連の流れを『茶番』の一言で纏めやがった、こいつ。

何もしていないこいつからしたら茶番なんだろうな、きっと。

でも茶番が終わりというのならば終わりなのだろう。

茶番だったつもりはないが…なにか動きを見せるのだろうか、怠書物は。

まぁあまり期待はしないでおこう。

477: 赤春巻き 2014/04/12(土) 16:42:00.16 ID:1rGEwWRD0
「ようやく自由になれたぜ...ありがとな、ロリ怪異」

「なんも分かっとらんの、こいつ。やはり身を持って痛感しないと─」

「や、やめろ」

「だっておまえ様だって、『躾に一番効くのは痛みだと思う』などといっておったではないか!」

「それは僕じゃない!」

「茶番は終わりつったろうが─とりあえず解放されたんだ、俺は。交渉しようぜ」

「あぁ、すまん」

交渉のこととか忘れず、ちゃんと手順を踏むあたり偉いほうだな、こいつは。

478: 赤春巻き 2014/04/19(土) 11:36:25.57 ID:kPvVUvTP0
ということで紆余曲折というほどでもなかろうが、かなり無駄な雑談や展開を踏んだうえで、ようやく交渉へと踏み出せる状況まできたようだ。

起床してから結構時間が経っているの思いきや、不思議なことに時計は僕が起床した25分後を指している。

なんというか、とても起床して25分後の状況とは思えないのは僕だけなのだろうか。

まぁ。僕がその辺りをどう思おうとどう考えようと全く今は関係の無いことで、最優先すべき『元の世界へと帰る』為の交渉の手順を、一つずつ、着実に進めていくべきだ。

―だがしかし。そう言われても僕にはこの自己愛の塊を説得できるような自信は無い。話術も持ち合わせていない。

もし八九寺だったのなら交渉どころかすぐ強行突破という残忍かつ最悪の手段を利用してその場を丸く収めることができるのだが・・・。

そうはいかないだろう。男に堂々とセクハラ行為をするほど僕は寂しい人間ではない。

となるとどうすると良いのだろうか…。まず開口一番に何を言えば交渉を有利に進めることができるのだろうか…。

交渉などというものをする機会が僕には殆どといっていいほど無いので、困ったものである。

嗚呼、交渉術でもきちんと学んでおくべきだったな、僕。

―書店に行ったら見知らぬ世界に飛ばされた挙句、怪異と交渉することを想定していれば…。

僕はあっさりこいつを説得出来たのかもしれない。

否、過去形というのはなんだかおかしいな。まだ両者ともに発言をしていないし、交渉はまだ始まったことにはなっていないだろう。

ただ―過去形にしろ現在形にしろ未来形にしろ、僕はこいつを説得できなさそうだ。

言い換えるのならば、『僕ひとりだけ』ではこいつを説得できなさそうだ。

479: 赤春巻き 2014/04/19(土) 11:43:13.25 ID:kPvVUvTP0
そう、戦場ヶ原やなのちゃんやはかせや阪本やゆっこやみおちゃんやマイマイ(麻衣麻衣)が僕にはついている。

戦力になるかどうかは分からないが、人数が多ければ多いほどその数に比例して多くの考えが出てくるはずだ。

要するに『赤信号 みんなでわたれば こわくない』みたいな。

集団で策を練ってしまえば相手を説得できるのではないだろうか。

あの怠書物がそこまで頭がキレてそうな感じはしないし、仮にそうだとしても七人(+一匹)の策に勝つことは出来ないであろう。

あくまで推測だが、僕は強い自信を持ってそう考えた。

―じゃあ、心の整理ができたところで…

「交渉をはじめようか、怠書物」

480: 赤春巻き 2014/04/19(土) 12:06:23.54 ID:kPvVUvTP0
024

「ふふっ、さっきまでいちゃいちゃやっていた割にはやる気充分って感じだな」

「あぁ、切り替えは早いほうだからな」

「交渉始まって早々で悪いが、質問してもいいか」

「ん?なんだよ」

「お前―戦闘の経験ってあるか?」

何でそんな質問をする?

交渉と関連してくるからその質問をしてきたのかあるいは、どうでもいい怠書物自体が気になっていることをただ単に緊張感を和らげる為に質問してきたのか。

この雰囲気からして、この流れからして、このタイミングで後者のような質問をしてくるとは到底思えないが、だとしてもこの質問の意図がさっぱり分からない。

斧乃木ちゃんのような筋肉フェチなのだろうか。真顔で無表情で僕の筋肉をそっと触ってくるのだろうか。

―ちょっと想像したくもない話である。斧乃木ちゃんならともかく。

どんな意図を含んだどのような意味をもった質問なのか。それが謎だから正直に答えるのも気がひけるが…。

下手に嘘を憑いてしまうのも問題があるのかもしれないのでここは正直に答えることとしようか。

「あぁ。あるよ。それも結構な」

―キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと、ブラック羽川と、レイニーデビルと、火憐と、影縫さんと。僕は戦った。

「ほう、そうなのかぁ。ひょろく見えるけどな」

「言うほど僕はひょろくはないぞ」

ひょろくはないけども、勝数は少ない。

―てか勝ったって自信をもって言えるのなくね?

「俺もお前の思っているよりひょろくはないぜ?お前よりは筋肉はあるだろうよ」

「なんで筋肉自慢に話が逸れそうになってるんだよ。話を戻そうぜ、話を本筋に」

「本筋ってどこの筋肉だよ」

「本筋は筋肉じゃねぇよ!?」

怪異相手に―思わずツッコんでしまった。

「え!そうなのか!知らなかったぜ…」

「いや、だから話を―元に戻すぞ!」

「―交渉、交渉ね」

「……」

なんか話し方がいちいちむかつくなこいつ…。

「ってかさぁ、お前」

「なんだ」

「もう一つ質問していいか?」

「なんだよ…」

交渉する気あるのかよこいつ…。

―と、僕が思考を巡らした瞬間。

「俺が―本当に交渉するとでも思ってるの?」

―なかったようだ。


481: 赤春巻き 2014/04/19(土) 12:14:21.59 ID:kPvVUvTP0
「―何言ってんだよ、交渉したいしたいって言っていたのは他の何者でもないお前だろうが」

「僕は最初から交渉する気なんてさらさらない。全ては縄を解き―俺を解き放つための嘘だ」

―嘘。嘘か。あの詐欺師が無意識に頭をよぎる。

「『俺を解き放つ』って―?」

「そんな疑念はもたなくてもいい、なぜならお前は、解き放たれた俺に殺されるからだ」

僕を殺す―?何を言っているんだこいつは。

JKに縄で縛られるくらい弱いのに?僕を殺すだと?

僕どころか戦場ヶ原も殺せないと思うが、こいつ。

484: 赤春巻き 2014/05/14(水) 23:08:50.83 ID:dIX6ZAoW0
そんなことを言えるのもここまで。僕はあいつの本気を見せつけられることになる─という前振りでもつけておこうか。

「はぁぁぁぁぁ...」

何をためているんだこいつは。ドラゴンボール的な雰囲気が若干しなくもないが...。

「おまえ様!」

「な、なんだ、忍」

「─なんだか只ならぬ気を感じるぞ...こやつから」

「只ならぬ気?」

僕には忍がなにをいっているのかがいまいち理解できずにいたが、忍が只ならぬ気を感じるというのならば、只ならぬ気を感じるのだろう。

「あいつ動くぞ!おまえ様よ」

すると怠書物は両手を天に向かって突き上げ、上を向いた。

─なんかダサいポーズだな、もっとなんかかっこいいポーズは無かったのかと僕は思うのだが...。

ただ、今はポーズについて指摘すべきタイミングではないだろう 

485: 赤春巻き 2014/05/14(水) 23:09:29.44 ID:dIX6ZAoW0
そんなことを言えるのもここまで。僕はあいつの本気を見せつけられることになる─という前振りでもつけておこうか。

「はぁぁぁぁぁ...」

何をためているんだこいつは。ドラゴンボール的な雰囲気が若干しなくもないが...。

「おまえ様!」

「な、なんだ、忍」

「─なんだか只ならぬ気を感じるぞ...こやつから」

「只ならぬ気?」

僕には忍がなにをいっているのかがいまいち理解できずにいたが、忍が只ならぬ気を感じるというのならば、只ならぬ気を感じるのだろう。

「あいつ動くぞ!おまえ様よ」

すると怠書物は両手を天に向かって突き上げ、上を向いた。

─なんかダサいポーズだな、もっとなんかかっこいいポーズは無かったのかと僕は思うのだが...。

ただ、今はポーズについて指摘すべきタイミングではないだろう 

486: 赤春巻き 2014/05/14(水) 23:09:55.45 ID:dIX6ZAoW0
そんなことを言えるのもここまで。僕はあいつの本気を見せつけられることになる─という前振りでもつけておこうか。

「はぁぁぁぁぁ...」

何をためているんだこいつは。ドラゴンボール的な雰囲気が若干しなくもないが...。

「おまえ様!」

「な、なんだ、忍」

「─なんだか只ならぬ気を感じるぞ...こやつから」

「只ならぬ気?」

僕には忍がなにをいっているのかがいまいち理解できずにいたが、忍が只ならぬ気を感じるというのならば、只ならぬ気を感じるのだろう。

「あいつ動くぞ!おまえ様よ」

すると怠書物は両手を天に向かって突き上げ、上を向いた。

─なんかダサいポーズだな、もっとなんかかっこいいポーズは無かったのかと僕は思うのだが...。

ただ、今はポーズについて指摘すべきタイミングではないだろう 

487: 赤春巻き 2014/05/14(水) 23:09:55.45 ID:dIX6ZAoW0
そんなことを言えるのもここまで。僕はあいつの本気を見せつけられることになる─という前振りでもつけておこうか。

「はぁぁぁぁぁ...」

何をためているんだこいつは。ドラゴンボール的な雰囲気が若干しなくもないが...。

「おまえ様!」

「な、なんだ、忍」

「─なんだか只ならぬ気を感じるぞ...こやつから」

「只ならぬ気?」

僕には忍がなにをいっているのかがいまいち理解できずにいたが、忍が只ならぬ気を感じるというのならば、只ならぬ気を感じるのだろう。

「あいつ動くぞ!おまえ様よ」

すると怠書物は両手を天に向かって突き上げ、上を向いた。

─なんかダサいポーズだな、もっとなんかかっこいいポーズは無かったのかと僕は思うのだが...。

ただ、今はポーズについて指摘すべきタイミングではないだろう 

488: 赤春巻き 2014/05/14(水) 23:09:55.45 ID:dIX6ZAoW0
そんなことを言えるのもここまで。僕はあいつの本気を見せつけられることになる─という前振りでもつけておこうか。

「はぁぁぁぁぁ...」

何をためているんだこいつは。ドラゴンボール的な雰囲気が若干しなくもないが...。

「おまえ様!」

「な、なんだ、忍」

「─なんだか只ならぬ気を感じるぞ...こやつから」

「只ならぬ気?」

僕には忍がなにをいっているのかがいまいち理解できずにいたが、忍が只ならぬ気を感じるというのならば、只ならぬ気を感じるのだろう。

「あいつ動くぞ!おまえ様よ」

すると怠書物は両手を天に向かって突き上げ、上を向いた。

─なんかダサいポーズだな、もっとなんかかっこいいポーズは無かったのかと僕は思うのだが...。

ただ、今はポーズについて指摘すべきタイミングではないだろう 

489: 赤春巻き 2014/05/14(水) 23:10:27.24 ID:dIX6ZAoW0
そんなことを言えるのもここまで。僕はあいつの本気を見せつけられることになる─という前振りでもつけておこうか。

「はぁぁぁぁぁ...」

何をためているんだこいつは。ドラゴンボール的な雰囲気が若干しなくもないが...。

「おまえ様!」

「な、なんだ、忍」

「─なんだか只ならぬ気を感じるぞ...こやつから」

「只ならぬ気?」

僕には忍がなにをいっているのかがいまいち理解できずにいたが、忍が只ならぬ気を感じるというのならば、只ならぬ気を感じるのだろう。

「あいつ動くぞ!おまえ様よ」

すると怠書物は両手を天に向かって突き上げ、上を向いた。

─なんかダサいポーズだな、もっとなんかかっこいいポーズは無かったのかと僕は思うのだが...。

ただ、今はポーズについて指摘すべきタイミングではないだろう 

493: 赤春巻き 2014/05/24(土) 23:21:26.90 ID:wSY4+XkI0
「俺の本気を見るがいい!!」

やけに自信ありげな、策ありげな、優越感ありげな、そんな表情で怠書物は笑う。

そしてその一言で、世界は凍り付いていった─氷河期が訪れたかのように。

時が静止したわけではない。僕達以外が静止したのだ。僕や戦場ヶ原の中では、時はきっちりかっちり動いている。ただ、それ以外のものは全くもって動くことはない。動いてはいない。ただその状態を保ったまま存在しているだけである。

勿論なにが起きてしまったのか、僕には文字に書き起こす事は出来ても、脳で判断できてはいない。

494: 赤春巻き 2014/05/24(土) 23:40:53.55 ID:wSY4+XkI0
と、言うのは全て虚実の妄想で僕の想像である。

実際はどうなったのかと言うと、なにも起こらなかった。否、なにも起こせなかったのだろうか。

実際、怠書物は茫然とした表情で何が起きてしまったのか理解していない感じである。僕達よりも理解しえていない感じだ。

「あ!あ、あれ?」

「なんじゃ。何も起こらんではないか。場をわざわざ引き立ててやったというのに」

あの『強い気を感じるぜ!』的な忍の発言はあえて、というかわざと意識して発言したものだったらしい。場の雰囲気作りとして。

忍としては盛り上げようと思っていたのかもしれないが、その盛り上がりが起こらなかった今、怠書物にとってはただただ恥じるしかないだろう。

495: 赤春巻き 2014/05/24(土) 23:41:41.94 ID:wSY4+XkI0
「─だ、だめだ!今回も成功しなかった」

「今回も!?」

僕は思わず声を荒げて叫んでしまった。

今日はたまたま、胃が痛いからとか風邪気味だとかそんな理由で運良く失敗してくれたものだろうと思っていたが、そんなわけでもなさそうである。

こいつは今回『も』失敗したらしい。

ん?ちょっと待って。

こいつにとっての『本気』というか最終手段も使い物にないってことは、こいつには今なんの威力もないってことか。

496: 赤春巻き 2014/05/24(土) 23:42:29.40 ID:wSY4+XkI0
そんなことを考えていたのか、なのちゃんを始め、女子が、

責めよる。

「怠書物さん。本気だとかはなんだか知らないですけど!ちゃんと!元の世界に戻してあげてください!」

歩み寄る。

「そうじゃ!そうじゃ!」

歩み寄る。

「早く戻してくれないと私が安心して阿良々木君と  チューができないじゃないの」

歩み寄る。

その理由はちょっと今の状況には似つかわしくないとは思うが...

497: 赤春巻き 2014/05/24(土) 23:43:22.55 ID:wSY4+XkI0
なにより。戦場ヶ原に忍になのちゃんに歩み歩み歩み寄られた怠書物はたまったものではないだろう。

女子に囲まれているから嬉しいとかそんな感情ではない。この三人に囲まれて、何をされるか分からないという不安感で心臓が満ちあふれているのである。

戦場ヶ原、忍は言わずもがな。なのちゃんも以外と怖いことやりそう言いそうな感じである。その視線は恐ろしいことだろう。

「─ご」

怠書物は何か言いかけた。僕にはこいつがなんていうかなんて大抵予想出来てはしまったが...。

「─ごめんなさい」

異世界へと移動させるというハイスペックな怪異ではあるが、実力が伴ってなかったのである。そもそも怪異に習ってつくような実力があるのか分からないけれど。

人間に謝罪した。降伏した。

こいつもまた、ヘタレだったのだろうか。声質からそんな雰囲気を感じさせる。

僕のように、ヘタレか。

498: 赤春巻き 2014/05/25(日) 00:16:28.21 ID:7WDFukiq0
025

後日談、というか今回のオチ。

結局その後怠書物は観念し、僕達をきっちり元の世界へと戻してくれるということになった。

交渉などと言っていたものの今はそんなこと関係なく、開口一番にこちらが何かを言う前に「元の世界に帰してやるから!」と許しを乞うかのように言ってきたのだった。

そして楽しい東雲研究所との別れの時である。

499: 赤春巻き 2014/05/25(日) 00:17:24.45 ID:7WDFukiq0
「これで僕達は元の世界に戻れるのか・・・」

「そうね、

これでようやくこよみんとのイチャラブサーマーバケーションデイズが最終日にして再始動する事ができるわね」

「なんだその横文字!そんなサーマーバケーションデイズを僕は暮らしていたっていうのか!?」

その表現技法を使用して僕の夏休みを言うのならば、ニセモノシスターズサマーバケーションデイズという感じであったと思うが。

500: 赤春巻き 2014/05/25(日) 00:18:14.39 ID:7WDFukiq0
「あれ?阿良々木君、あなた足のほうが砂ように散ってってるわよ?」

「ん?」

見ると、僕の下半身から徐々に金色の砂となって消え去っていっていた。風に吹かれてなびく砂粒は幻覚なんかでは無く、しっかりこの目で捉えることのできる、触れることのできる本物であった。

「って戦場ヶ原!お前も!」

「あら・・・何かしらコレ。私の膝から下が無くなっているじゃないの─だけど、全然痛くないわね」

「─そう言われれば」

となるとこの現象がなんなのかという僕の予想はただひとつ。

これは異世界へと転送されている途中なのではないだろうか。それならなんとなく分からなくもない。

501: 赤春巻き 2014/05/25(日) 00:19:07.45 ID:7WDFukiq0
「そっか─これでお別れか」

ちなみに僕が忘れたとでもお思いだろうか?僕がこの世界で達成したい目標。やり遂げたい行為。

勿論僕は覚えている。

なのちゃんの胸を揉むことである。

これ果たさずして死ぬわけにはいかない。そしてこの世界を去るわけにはいかないのだ。

「あぁ!阿良々木さん!どんどん消えてってますよ!」

「なのちゃん・・・」

「─なんですか?阿良々木さん」

「最後に一つ─」

「?」

僕は言うんだ。そのファンタジーに程近い憧れの存在を。僕が追い求めていた存在を。

「─胸、揉ませてくれないか」

よく聞いてほしい。この男は彼女の前で全く関係のない高校生に胸をもませろと、折り入って交渉しているのである。最低最悪の男である。

502: 赤春巻き 2014/05/25(日) 00:20:16.48 ID:7WDFukiq0
「─はい...最後ですし」

承知してくれた!!

「じゃ、じゃあ...」

そうして僕は戦場ヶ原の存在を忘却の彼方へと旅立たせて、なのちゃんの胸に手を差し伸べる。そしてなのちゃんの胸に触れた手のひらを、優しく、沈下させる。

「ん、んんっ...」

当たり前ではあるが、あまり慣れないようである。なのちゃんは小さく●●声をあげた。

僕はもっと─時が終わるまで抱いていたかったんだが...。

その時、僕の腕が消えたのである。

「ありがとう、なのちゃん」

「ふふっ、変態ですね阿良々木さん」

「じゃあね、またどこであえたら」

「はい、また会えますよ─」

なのちゃんの寂しそうな笑顔を、眺めながら。

「会えますよ─ね?」

僕は全身をその世界から消した。

508: 赤春巻き 2014/07/08(火) 00:57:30.31 ID:ZRs1YbDY0

気がつけば、僕らは書店にいた。

僕らが異世界へと連れ去られたきっかけとなった場所であり、怠書物に遭遇した場所でもある。

何事も無かったかのように、書店は通常営業していた。僕らが異世界に行っていたことなど見ず知らず。当たり前のように動いていた。

509: 赤春巻き 2014/07/08(火) 00:58:28.13 ID:ZRs1YbDY0
「どうやら、戻ってこれたようね」

「あぁ、そうだな...」

「私たちが異世界で過ごした分の日数はちゃんと過ぎているようね」

そう言って、戦場ヶ原はスマートフォンに表示されている日にちを見せてきた。

確かに、ちゃんと2日の時間が経過しているようである。

「なにはともあれ。戻ってこれてよかったな」

「そうね、一時はどうなるものかと思ったけれど」

と、窮地を乗り越えた時によくありがちなやり取りをしてみる。

「じゃあ、阿良々木君。帰りましょうか」

「あぁ」

僕はきっと忘れない。東雲研究所で過ごした2日間を。思い出の2日間を。

「その前に...」

「なんだよ、戦場ヶ原」

「あちらでのセクハラ行為について、謝罪してもらえないかしら?」

「許されてなかったのかよ!」

── 終 ──



※まだ後日談の後日談があります

511: 赤春巻き 2014/07/10(木) 19:23:43.33 ID:RmSFe7pK0
あの夏休みが過ぎ、秋も暮れ、あっという間に冬休みに入ろうとしていた。

時間が過ぎるのは本当に早いものであり、ぼーっとしていたら気づかないうちに流されていってしまっているものだ。

そうだ。

あの夏休みからはや4ヶ月。

つい最近のことだと思っていたけれど...

512: 赤春巻き 2014/07/10(木) 19:25:10.58 ID:RmSFe7pK0
私にとっての''あの夏休み''とはほかでもない。

遠まわしに表現するのならば、『異世界の住人』

直球で表現するのならば、『阿良々木暦』が私の前に姿を現し、私の前から姿を消したあの夏だ。

奇想天外でファンタジーなあの青年との出会いは私の人生を塗り替えた...わけではないが。

いつも通り何も変わらない平凡な日常を淡々と過ごしているし、いつも通りネジがついたまま学校には行っている。

あの出来事があろうとなかったことになろうと、この街や街に住む人、高校の皆になんの影響も与えはしないだろう。

きっと私の人生が劇的に変化するわけもない。

ただ、一つ言えることは。

断固として忘れることができない出来事だ、ということ。

忘れたくない。

人生やこの世界に何の結果も与えなかったあの出来事ではあるが、私の心には確かにある。

忘れたくない。

あの青年に恋した気持ちを、忘れたくない。

二度と来ないあの夏の日を思って、私は冬空を見上げていた。

513: 赤春巻き 2014/07/10(木) 19:25:53.52 ID:RmSFe7pK0
「なーのちゃん!」

「わぁあ!!」

私の名前を高らかに元気に歌い上げるのは、相生さん。

相生祐子さん。

そしてそれに続くように私の名前を呼ぶのは長野原さんと水上さん。

お決まりのメンバーである。

高校に入学してからというものの、殆どこのメンバーで遊んでいるような気がする。

514: 赤春巻き 2014/07/10(木) 19:26:38.41 ID:RmSFe7pK0
「じゃ、行こっかなのちゃん」

「はい!」

降りしきる雪の中、私たちが歩いてたどり着いたのは、とある書店である。

品揃えが大変良くて、私は専ら本を買うときはここに来るのだ。

私だけではなく、時定に住む人々はかなりの確率でこの書店を利用していると思う。

それだけあって、今この書店は少し混雑しているようだ。

日曜日だからしょうがない。

今日はここに文庫本を買いに来たのではない。

漫画本を買いに来たのだ。

長野原さんがおすすめの漫画があると聞いて誘われて、ここまで来たのだ。

515: 赤春巻き 2014/07/10(木) 19:27:26.15 ID:RmSFe7pK0
「ほらほら、これこれ」

早速長野原さんはその例の本を指さして言った。

『花園の《寒中水泳》貳』

まずその特徴的かつ斬新で独創的なタイトルに目がいった。

内容が容易には思いつかないような類のタイトルだ。

そして何よりもイラストが華やかである。

薔薇色...というか、なんというか...。

長野原さんだなぁ...。

516: 赤春巻き 2014/07/10(木) 19:28:44.25 ID:RmSFe7pK0
「ふふふっ」

「ん?どうしたのなのちゃん」

「いや、なんかあの...このキャラクター阿良々木さんに似てるなーって思っちゃいまして...」

黒髪の片目隠し、アホ毛に細マッチョの男。どう見ても阿良々木暦のヴィジュアルのキャラクターがそこにはあった。

「あー!確かに、似てるかもね、若干」

長野原さんもあの青年のことは覚えていたようだ。

そして間を空けて

「あ!でも、あの人ほど変態じゃないからね!このキャラクターは!」

と付け加えた。

まぁ、彼を越える変態はいないと思うますよ...長野原さん。

517: 赤春巻き 2014/07/10(木) 19:29:55.61 ID:RmSFe7pK0
「とりあえずちょっとパラっとめくって見てみなよ」

「は、はい」

いくら長野原さんの趣味趣向、一押しの漫画であっても、この手のものはどうしても読むのに抵抗がある。

ページを開く手が重い。

しかしながら、大切な友達の言うことである。

めくるしかない。

私はその重い手を動かし、ページを開いた。

パラっと。

その瞬間、私達の全視界は眩い光に遮られ、何も見えなくなってしまった。

遮られているだけではない。

不思議な浮翌遊感が漂っている。

意識が遠のくような気もしたが、気の所為か...気の所為でないか...

判断する時間を与えないほど一瞬で、私達は揃って意識を失ってしまった。

518: 赤春巻き 2014/07/10(木) 19:31:03.13 ID:RmSFe7pK0
「ん...ここは?」

目が覚めるとそこは書店だった。

しかし、さっきまでいた書店と違う書店であった。

店の壁紙、証明、商品の陳列の仕方。

何もかもが違っている。

異なっている。

不思議だ...こんな話、どっかで聞いたような。

「なのちゃん!?」

ふと、私は名前を呼ばれた。

519: 赤春巻き 2014/07/10(木) 19:32:51.26 ID:RmSFe7pK0
相生さんでも長野原さんでも水上さんでもない、

他の同級生でもないしそもそも女性でもないし、先生でもない。

時定の人間でもなければ、

そもそも私達の住まう世界の住人でもなんでもない。



そこにいたのは、




忘れる事なかれ、












あの青年だった。








──終──